銀河の竜を駆る少女 (Garbage)
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第1章 邂逅する少女たち
プロローグ


 

 

 目が覚めると、少女は自分の知らない世界にいた。空には満天の星が煌めきながら、何処か寂しくも美しい世界。それはさながら絵本の中でしか見られないような幻想的な世界だった。

 何故自分はこんなところにいる? 今まで暖かい布団の中にいたはずなのに。何がなんだかわからない少女は周囲を見回しながら必死に父と母、妹の名を呼ぶ。しかし、何処からも返事は無い。少女は見知らぬ世界に飛ばされた不安と孤独に怯え、やがて大声で泣き始めてしまった。そんな少女を見かねたのか、呆れ気味に少女の名を呼ぶ声が彼女の脳内に響き渡った。

 

 

―――泣くな、遊希(ゆうき)よ。

 

 

 遊希―――と呼ばれた少女が声のした方向を見上げる。すると満天の星空からは全身が青く輝いた巨大な生き物が彼女の目の前にゆっくりと降りてくた。光り輝く翼を持ったドラゴンのようなその存在は、そのまま地上に着地すると、巨大な体を器用に折り曲げては遊希の顔を覗き込む。一方の遊希は呆然とその巨大なドラゴンを見上げていた。

 

「ぐすん……あなたは、だあれ?」

―――私か? 私は……私は……

 

 遊希の問に返答に困った様子のドラゴン。遊希はそんなドラゴンの姿を見て首を傾げる。

 

「どうしたの?」

―――いや、このようなことを言っても信じて貰えるかどうかわからないからな。言うべきか言わざるべきか……まあ、自分自身で言うのもなんだが、私は“デュエルモンスターズの精霊”だ。

 

“デュエルモンスターズの精霊”。その言葉を聞いて遊希の眼の色が変わる。5歳の少女でも、その存在は知っていた。

 

「せいれい!? あなたせいれいさんなの!?」

 

 遊希は興奮して巨大なドラゴンの足元に縋りつく。ドラゴンもとい精霊は、遊希のその突拍子もない行動に少し戸惑いの様子を見せる。ドラゴンはこの少女には“疑う”という感情が存在しないのか、と思った。

 だが、この少女、両親の名を呼んでは大声で泣き喚くところから少女というよりも幼女と見るのが正しい。まだまだ精神的にも肉体的にも幼いため、目の前で起きている事態を把握出来ていないのだろう……と青いドラゴンは解釈した。

 

「ねえ、せいれいさん!」

―――ん、何だ?

「いっしょにあそぼ! わたしせいれいさんとおともだちになりたいの!」

―――おともだち、だと?

「うん!」

―――……お前たち人間にとって未知の存在たるこの私を前にして臆することなく“おともだち”か。面白い……いいだろう、今日から私とお前は友達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっんん……」

 

 少女は気だるそうな声を上げ、ゆっくりとベッドから起き上がった。あまり眠れなかった気がした。少女は大きくあくびをすると、枕元に置いてあったスマートフォンの画面を見た。真っ暗な部屋において唯一の光源となるその画面には「5」の数字が映し出される。寝る前にかけていたアラームが鳴る時間よりも1時間近く早く起きたことになる。

 

「なんで……なんであの時の夢を見たのかしら……忘れたくても忘れられない思い出だというのに」

 

 天宮 遊希(あまみや ゆうき)はスマートフォンの傍らに置いてある箱を手に取り、その箱を開けた。その箱の中には数十枚のカードが入っている。

 デュエルモンスターズ―――モンスター・魔法・罠の3種類のカードからなるそのカードゲームは今からはるか昔にインダストリアル・イリュージョン社(通称・I2社)初代社長の“ペガサス・J・クロフォード”によって製作され、瞬く間に世界的人気を誇るカードゲームとなった。

 そのカードの影響力は凄まじく、発売からかなりの時が経った今でもデュエルモンスターズで戦う者―――“デュエリスト”の世界一を決める大会も開かれるほどのものとなっている。

 そして遊希は日本デュエルモンスターズ協会の指導の下、そのデュエリストを育成する学校であるデュエルアカデミア・ジャパンの入学試験を今日受ける。最も一次の筆記試験はひと月ほど前に既に合格しており、今日は二次試験かつ最終試験でもあるデュエルの実技試験が行われるのだ。

 受験者は一次試験と二次試験の結果をもとに選定される。知識と実力、その二つを兼ね備えた者でなければ、栄えあるデュエルアカデミア・ジャパンの制服に袖を通すことは許されないのだ。

 

「……シャワーでも浴びてこようかな」

 

 遊希は手に持っていたデッキをケースに戻すと、ベッドから降りる。ケースの中のデッキの最初のカードには、かつて幼い時に遊希が夢で出逢った、あのドラゴンの姿が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ来ませんか。いったいどうしたと言うのでしょうか……」

 

 入学試験が行われる試験会場の前で一人の男性が困ったような表情を浮かべていた。彼は本年度からこの学校の校長に就任する星乃 竜司(ほしの りゅうじ)。デュエルアカデミアの校長職を打診されるまでは現役のプロデュエリストとして世界にその名を轟かせていた日本人デュエリストである。

 数年前に初老を迎えた竜司は年齢的にはまだまだ若く、一線から退くには早い方なのだが、彼がこの学校の校長という指導者の道を選んだのには色々と訳があった。

 

「校長、もう時間ギリギリです。これ以上遅らせると一日の行程に支障が出てしまいますよ」

「……やむを得ませんね。彼女のことは諦めて二次試験を開始しま……」

 

 竜司がそう決めた瞬間である、会場の前に何処からともなく現れた一台のタクシー。そのタクシーからは気だるそうな顔をした一人の少女が降りてきた。

 腰まである少し癖のついた黒髪、眠そうに開いた半目、ミニスカートからすらりと伸びた脚。他でもない天宮 遊希その人である。竜司は遊希が試験会場に来るのを今か今かと待ちわびていたのだ。

 

「天宮君!」

「……ああ、これは星乃さん。おはようございます」

 

 眠そうに目を擦る遊希、一方の竜司は慌てた様子で腕時計を見る。試験開始から既に20分も過ぎている。竜司は校長という立場にありながら、唯一会場に姿を見せていなかった遊希を待つため、試験開始時間をずらしていたのだった。

 

「なんでこんなに遅れたんだ……君のために皆が迷惑を掛けられて……」

「あら、私を待っていてくれたんですか? 私なんて待たずに始めてしまえば良かったのに」

「……私は君がこの学校を受験してくれると聞き、校長という職を受けたんだ。私が言うのもなんだが、君なら“また”日本を代表するデュエリストになれる。だから……」

 

 竜司が校長という職を引き受けるのにも訳があった。竜司のように世界大会で活躍する中堅~ベテランのプロデュエリストは数多く存在するものの、日本からは最近若手のプロデュエリストがあまり育っていなかった。

 国内大会レベルならば老若男女数多くのデュエリストがいる。しかし、世界となれば話は別。近年若手のデュエリストで結果を残すのは専らデュエルモンスターズの生まれた国であるアメリカや人口の多い中国が殆どであった。この事態を重く見た協会は竜司をはじめとした世界で結果を残すプロデュエリストを指導者として招聘し、若手デュエリストの育成に努めることとしたのだ。

 

「……正直、国や協会がどう思おうと私には無関係だと思うのですが……」

 

 遊希は何処か冷めた面持ちを浮かべる。竜司は幼い頃から遊希のことを知っているが、近年の彼女は表情の変化に乏しかった。彼女の笑顔はある事件の影響で失われていたのだから。

 

「でも星乃さん。あなたは……普通の人間じゃない私を受け入れてくれました。家族を失った私にとってあなたは親のような存在です。そんなあなたが喜んでくれるのであれば、私はこの学校に受かってみせます。これは私なりの恩返しです」

「天宮君……ほら、そんなことはどうでもいいから早く会場へ!」

「そんなことって……はい、わかりました」

 

 少しばかり口を尖らせながら会場へ歩いていく遊希。その後ろ姿を見届けた竜司は大きく溜息を付いた。

 

「校長、あの子が……」

「ああ、天宮 遊希。わずか7歳でプロデュエリストとしてデビューし、私に匹敵する実力を持ったデュエリスト。そして何より……この世界において“デュエルモンスターズの精霊”を従える唯一の存在だよ」

 

 

 

 

 

 

 



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入学試験

 

 

 

 デュエルアカデミアはデュエリストを養成することを第一に考えられた国公認の教育機関である。そのため、入学するための実技試験は受験番号順に受験生同士でデュエルを行うという実にシンプルなものだった。

 ただ、この選考結果に勝敗は関係ない。もちろん勝つことに越したことはないのだが、仮に負けたとしても、逆境においてどのように立ち回ることができるかということも試される。

 勝ち目がないからと言って自分からサレンダーすることや、勝ちが確定しているからと言って相手デュエリストを侮辱するようなプレイングをすると、それはマイナス評価が下されてしまう原因となってしまうのだ。

 

「……えーと。控室控室……あ、ここか」

 

 定刻より遅れて到着した遊希は、受付の人間に受験生は待ち時間まで控室で待つように、と指示されていた。受験票と共に送付されてきた試験会場の地図を見ながら遊希は控室までたどり着く。

 控室の中では自分の出番を今か今かと待つ他の受験生たちが指定された席で待っていた。受験生たちの中には緊張で凝り固まっている者もいれば、デッキ調整に心血を注いでいる者、そして早くも近くの席の者と仲良くなったのか、絶えず喋っている者もいた。受験生が待ち時間の間、思い思いの過ごし方をするのも、緊張を和らげるためであり、その内心は本来の自分通りのデュエルができるだろうか、という不安に染まっていた。

 そんな緊張に包まれた空気を破るが如く、遅刻してきた遊希はそれを詫びることなく堂々と控室に入る。遊希が控室に入ると同時に部屋中の視線が自分に集まるのを遊希は感じた。

 プロデュエリストとして多くの観衆の前でデュエルをしていたが、未だに大多数の視線が集まることにはどうにも慣れることはできない。それでも遊希はそんな視線など気にすることなく自分の受験番号である「62」の札が置いてある席へと座った。

 

「あれがあの天宮 遊希……」

「間違いなく本物だわ。プロ辞めてから消息不明って聞いていたけど……」

「凄い美人……ちょっと声かけてみようかな」

「やめとけって。ああいう人間は俺たちと住む世界が違うんだ」

 

 遊希が席に座った瞬間、周囲の受験生たちはひそひそと会話を始める。あの有名人を見ることができた、という好意的な意見も見られたが、大半の意見は遊希にとって聞き心地の良いものではなかった。

 

(……何よ、言いたいことがあるなら堂々と言えばいいじゃない。まあ、言われてることは大体合ってるけど)

 

 ただ、善悪はともかく彼女一人が部屋に入ってきただけで空気が変わるところは天宮 遊希という一人のデュエリストの影響力の強さを思い知らされる。既にプロの舞台から離れて数年は経っている彼女ではあるが、わずか7歳でプロとしてデビューし、10歳で引退するまでの間世界を相手に戦い続けた彼女の姿は未だに同世代の少年少女たちの記憶に色濃く残っていた。

 そんな周囲の雑音など気にも留めない様子の遊希はスマートフォンを開くと、数日前に送られてきたメールを再度確認する。そのメールには1枚の写真が添付されており、その写真には遊希と同年代の一人の少女が写っていた。遊希はきょろきょろと周囲を見回すが、この控室にその少女の姿はない。

 

(聞いた話ではこの子も今日二次試験を受けるはず……)

 

 遊希はその写真に写った少女を探していた。何故なら彼女にとってその少女は決して知らない存在ではなかったからだ。

 

(……ここにいない、ということは今試験中なのかな。ちょっと見に行っちゃおうっと)

 

 人と交わるのは好きではないが、人のデュエルを見るのは好き。そんな彼女は周囲の緊張などどこ吹く風。貴重品・受験票・デッキを上着のポケットにしまい込むと、そのまま控室を出た。鼻歌を歌いながら試験会場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希が控室を出た頃、試験会場では他の受験生たちによるデュエルが行われていた。イベント会場を借りて入学試験を行っているため、会場では一度に10人のデュエリストが同時にデュエルを行っていた。

 

(やってるやってる。さて、あの子は何処にいるのかしら)

 

 入場ゲートの隙間から覗き見るようにして試験の様子を見る遊希。しかし、なにぶん会場が広いため、全員のデュエルの様子をはっきりと確認できるわけではない。基本的に他人に無関心な遊希であり、デュエルからしばらく離れていた彼女であるが、自分と同世代の他のデュエリストがどのようなデュエルを行っているのか、ということに関しては興味があった。

 

(……いた。やっぱり目立つわね、あの子。でも……何がどうなってああなっちゃたのかしら)

 

 覗いていることがバレると後で色々と面倒なことになるかもしれない。入口の陰からそっと覗き見る遊希は、目当ての人物をすぐに見つけることができた。何故ならその少女は受験生の中では非常に目立つ出で立ちをしていたからだ。

 

「これで終わりよ!“混沌のマキシマム・バースト”!!」

 

 4月を迎える前であるため、受験生たちは皆まだ中学生である。中学生かつ日本人であるはずなのに、その少女はまるで欧米人のような金髪をしており、少し着崩された中学校の制服には大小多種多様なアクセサリーが取り付けられていた。素行や容姿が問われる普通の高等学校の受験であればまず間違いなく一次試験で落とされているに違いない。

 そんな所謂「不良」「ギャル」と例えられてもおかしくはない容姿の少女は、後ろに付き従えた巨大な青い龍の一撃によって対戦相手の受験生のライフを見事に0にする。デュエルモンスターズというゲームにデュエリストの外見や出自が問われることはない。実力さえあれば一様に称賛されるのがデュエリストというものなのだ。

 

「これにて試験を終了します。お疲れ様でした」

 

 試験官を務める人間がそう告げると、デュエルを終えた生徒たちはデュエル場を後にする。すると、試験官の一人が金髪の少女を呼び止めた。きっとその容姿を注意するのだろう、と他の受験生は思っていたが、その予想は見事に裏切られる。

 

「お見事でした。やはり血は争えないということですね」

「……どうも」

 

 まるで貴人に拝謁するかのように恭しく試験官は頭を下げたのだ。一方で金髪少女のリアクションは何処か素っ気ない。まるで相手がそのような対応をしてくるのを予期していたかのようだった。その様子を遠巻きに見ていた受験生は皆呆気に取られていたようだった。

 

(……まあ、大人ならあの子に対しては何も言えないわよね)

 

 もちろん、陰から覗き見ていた天宮 遊希を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やっぱりあの人もそうだった。みんなあたしを見ていない。みんな……を見てる)

 

 染められた金髪を揺らしながらその少女は薄暗い廊下を歩いていた。デュエルの内容は決して悪いものではなかった。使っているデッキ、自分の立場、傍から見れば十分すぎるほどの出来に見えるだろう。しかし、そんな結果を残してもなお少女の心には深い靄のようなものがかかっていた。

 

(セントラル校はデュエルアカデミア・ジャパンの中核って聞いてたけど、やっぱりこんなものなの? つまんないわね……)

 

 溜息交じりに歩く少女。だが、その落ち込んだ気持ちは一気に吹き飛んだ。自分の目の前に立つ一人の少女の存在に気付いたために。

 

「……正直、今のあなたの姿を見て驚いたわ。イメージチェンジにもほどがあるじゃない」

「天宮……遊希……」

 

 金髪の少女は絞り出すように遊希の名前を口に出す。呆然とその場に立ち尽くす少女を気に留めることなく、遊希は言葉を続けた。

 

「ニュースで見たわ。あなたのお父さんでこのセントラル校の新校長……星乃 竜司からあのカードを、あのデッキを受け継いだって。それを聞いて私は嬉しかったわ。あなたがそれほどまでのデュエリストになったって。私や竜司さんの“代わり”に日本を背負って立つデュエリストになってくれるって。でも、買いかぶりすぎていたようね、私」

「ッ……!!」

 

 次の瞬間、その場に立ち尽くしていたはずの少女は、憤怒の表情を浮かべながら遊希の胸倉を掴んでいた。遊希は一切動じることなく逆にその手を掴み取る。クールな黒髪の美少女と派手な金髪の美少女。二人の美少女が醸し出す険悪な雰囲気は既に他の何人たりともが立ち入れないものになっていた。

 

「……よくもいけしゃあしゃあとあたしの前に姿を現せたわね!! 虚飾っていうとんでもなくダサい服を着たプロデュエリストさん? あ、元でしたね?」

「ええ、そうよ。もうプロ辞めて5年も経ってるから元っていうの肩書が正解ね。で、いつからあなたは腕力で全てを解決するリアリストになったのかしら?」

「ふん、どこで何をしていたかは知らないけど……人をイラつかせる言葉遣いだけは上手くなってんじゃん。その大層な口ぶりだとデュエルもさぞ強いんでしょうね?」

「ええ、少なくともあなた程度なら軽くいなせるくらいの強さは持っているわ。これからそれを証明してあげるから」

「……あんたがプロ辞めてからデュエルモンスターズは大きく変わったのよ」

 

 金髪の少女が言うことは最なことであった。遊希がプロデュエリストだった頃はペンデュラム召喚が登場したばかりであり、今とはマスタールールも異なっている。そのためルールが改訂されたデュエルモンスターズを遊希は知らないも同然であったのだ。

 

「化石デュエリストさんが今のデュエルモンスターズにどれだけ通用するか……楽しみにしててあげるから」

 

 侮蔑するような笑みを見せた金髪少女はそう言ってその場を足早に立ち去っていった。遊希は彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、一人試験会場に向かって歩き始める。その顔には先程までの人を小馬鹿にした様子はない。今の遊希はかつて自分がプロデュエリストだった頃に見せていた勝負の世界に生きる者が見せる顔をしていた。

 

(ええ、楽しみにしていなさい。そしてあなたの鼻を明かしてあげるから、鈴)

 

 金髪の少女―――星乃 鈴(ほしの りん)。自分をここに招いた元プロデュエリスト、星乃 竜司の一人娘であり、遊希とはかつて同じ道を歩もうと誓った戦友だった存在。遊希にとってもはやこの試験は単なる入学試験ではなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あなたはそのデッキで何回くらいデュエルをしているの?」

 

 試験の時間を迎え、遊希は自分とデュエルをする対戦相手の受験生にそう尋ねた。遊希の相手となる少年デュエリストは間近で見る遊希の美貌に頬を赤らめていたが、その質問が出た途端に不可解そうな様子を見せる。

 

「えっ……15回くらい、かな」

「そう。教えてくれてありがとう。いいデュエルをしましょうね」

 

 遊希は微笑を浮かべ、デュエルスペースへと移動する。対戦相手に背を向けた今、遊希の顔からは今まで見せていた笑顔はとうに消え失せていた。

 

(……)

―――何故あのようなことを聞いた? デュエルには関係ないように思えるが。

 

 遊希の脳裏にはどこからともなく若い男性の声が響く。遊希は声を出さずにその声の主の疑問に答えた。

 

(関係なくなんかないわ。15回って……これから自分の人生を決めるデュエルを始めるのに、それしかデュエルをしていないデッキで臨むってどう思う?)

―――普通に考えれば、少なすぎるな。

(彼はきっとこの試験のために勝てるデッキを組んできたのでしょうね。今のデュエルモンスターズにおいて“勝てる”デッキはそう多くはない。でもその勝てるデッキは果たして15回程度のデュエルで使いこなせるようになるのかしら……)

―――あまり、虐めてやるなよ?

(ええ、虐めは嫌いだもの。だから……一撃で決めるだけよ)

 

 遊希は腰に付けたカードケースから1つのデッキを取り出し、試験用に配られたデュエルディスクにセットする。一度デュエルの世界から離れた遊希の時計の針が動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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銀河の姫君

 

 

 実技試験で行われるデュエルのルールは以下の通りである。

 

・初期ライフは互いに8000

・先攻を取ったプレイヤーは最初のターンにドローを行えない

・先攻のプレイヤーはバトルフェイズおよびメインフェイズ2を行えない

 

 ルールはマスタールール4。特に何の変哲もない通常のルールと同じだ。だが、試験という緊張感の高まる場において普段と同じようにデュエルができるかどうかも試される。ちなみにこのアカデミアにおいてはデュエルディスクがデュエル前にコンピューターでランダムでどちらのデュエリストが先攻後攻の決定権を得れるかを決める仕組みになっていた。

 一般的にはじゃんけんやコイントスが有名であるが、相手より先に先攻を宣言した者がそのまま先攻になるなどというローカルルールもあったため、国や地域ごとの混同を避けるためにこの仕組みに統一したそうだ。

 

「では、デュエルディスクのスイッチを押してもらおうか」

 

 二人にそう告げるのはこのデュエルの審判を務める“ミハエル・シュトラウス”。ドイツ人のプロデュエリストであり、星乃 竜司が新校長に就任するにあたって旧知の仲である彼の要請を受けて新年度から教頭を務めることになった者である。

 

「あなたが審判を務められるのですね。どうぞお手柔らかにお願いします」

「久しいな。“銀河の姫君”―――天宮 遊希」

 

 プロ時代の遊希は美しい黒髪と白い肌のコンストラクト、そして使用するカードからいつの間にかそんな異名が付いていた。小さい頃ならともかく、今その名を呼ばれるのはあまりいい気分はしない。

 

「……その呼び名は恥ずかしいんですが」

「君のデュエルを見るのはいつ振りになるだろうかね。これは勝敗ではなくデュエルの質およびデュエリストの技量を見る試験とはいえ、かつての君を知る私が落胆するようなデュエルだけはしないで貰いたいな」

 

 遊希を見出してプロの世界へと送り込んだ竜司と旧知の仲、ということはミハエルもまた遊希とは知らない仲ではないということになる。最も遊希は対戦相手に高圧的な態度を取りがちで、小言も多いミハエルのことはやや苦手に思っており、デュエル以外の場ではできれば関わり合いになりたくない相手であった。

 

「ところで天宮君。竜司……星乃先生から聞いたが君は試験の開始時間に遅刻したそうだな」

「ああ……まあそうなりますね。でもこうしてデュエル開始には間に合ったからいいじゃないですか」

「確かに試験も受ける事はできる。しかし、これから君は学生として皆と共同生活を送るのだ。共同生活において協調性が欠けているのは問題ではなかろうか?」

 

 プロ時代から協調性の欠片もない人に言われたくない、と遊希は内心で舌を出す。

 

「じゃあなんですか……罰でも与えようかと?」

「そういう訳ではない。ただ君は引退してだいぶ経つとはいえ、幼少の身で世界を相手取ったデュエリストだ。そんな君のデュエルを他の受験生にも見せてあげたいのだが」

 

 天宮 遊希という存在は遊希自身が思っている以上に大きな存在だ。わずか3年間とはいえ、10歳まで大人のプロデュエリスト相手に戦い抜いた彼女を同年代の少年少女デュエリストが知らないわけがなく、彼女に憧れたためにこの道を選んだデュエリストは数知れない。そんな彼らに対して遊希のこのデュエルを中継し、今後の経験として彼女のデュエルから学んでもらいたい。それが後進のデュエリストの育成を任せられた竜司ら教師陣の狙いだったのだ。

 

「なんだ、そういうことですか。私は別に構いませんが……」

 

 遊希はそう言って対戦相手の男子生徒の方を見る。男子生徒は最初は躊躇するような様子を見せたが、結果的にその申し出を了承した。

 

「おっと、話が途切れてしまったな。先攻後攻の決定権はどちらに渡った?」

 

 デュエルディスク内蔵のコンピューターによって選ばれた結果、先攻後攻の決定権は男子生徒に渡り、遊希は後攻となった。

 先攻はカードを最初のターンドローできず、バトルフェイズも行えないが、手札誘発系のカードを除けば相手を気にせずモンスターを展開することができる。特に先攻1ターン目に強力な効果を持つモンスターをフィールドに召喚できればそのまま勝負が決まることも多い。

 一方の後攻は相手のセットした魔法・罠に注意を配る必要があるが、ドローフェイズを行えるため、相手の様子を見ながらその後の作戦をじっくりと考える事ができるという利点がある。それでも初手に相手モンスターを退けられるモンスターが来なければ次のターン以降は相手に優位を築かれてしまうため、このゲームにおいては基本的に後攻が不利であると言わざるを得なかった。

 

「では、二人とも。準備はいいかね?」

「……はい、いつでも」

(相手はあの天宮 遊希。でもずっとデュエルの世界から離れていたのなら、今のデッキを知らないはず。相手がプロだろうがなんだろうが勝ってみせる!)

(……今日の夕食何にしようかな)

 

 デュエルに臨む2人はそれぞれ相手がどのようなことを考えているかなどわかるはずはない。しかし、気合を入れる男子生徒に対して遊希は何処吹く風といった様子なのは周囲の人間からも見て取れた。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:男子生徒

後攻:遊希

 

男子生徒 LP8000 手札:5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札:5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(男子生徒)

 

 

「俺のターン!」

(……これはいい手札だ。これなら押し切れる!)

 

 ドローした最初の手札を見た男子生徒の顔には笑みがこぼれる。それを見た遊希は彼の手札が理想的なものであることを即座に見抜いた。

 

「俺は手札から魔法カード《閃刀起動-エンゲージ》を発動!」

 

 

《閃刀起動-エンゲージ》

通常魔法

(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから「閃刀起動-エンゲージ」以外の「閃刀」カード1枚を手札に加える。その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、自分はデッキから1枚ドローできる。

 

 

(はい、やっぱり【閃刀姫】でした)

 

 【閃刀姫】は【閃刀】と名のついた多種多様な魔法カードを使い分けて戦っていくデッキであり、その大半がメインモンスターゾーンにモンスターが存在しないことを条件に指定している。メインモンスターゾーンを常に空けていくおくことが求められるが、属するモンスターとのシナジーから多くのデュエリストが結果を残すために使っている、まさに今“強い”デッキの代表格と言えた。

 

「俺はデッキから《閃刀機-ホーネットビット》を手札に加える! そしてホーネットビットを発動!」

 

 

《閃刀機-ホーネットビット》

速攻魔法(制限カード)

(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。

自分フィールドに「閃刀姫トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守0)1体を守備表示で特殊召喚する。このトークンはリリースできない。自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、そのトークンの攻撃力・守備力は1500になる。

 

 

「ホーネットビットの発動にチェーンして手札から《増殖するG》の効果を発動するわ」

 

 

《増殖するG》

効果モンスター

星2/地属性/昆虫族/攻500/守200

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。

(1):このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、以下の効果を適用する。●相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、自分はデッキから1枚ドローしなければならない。

 

 

チェーン2(遊希):増殖するG

チェーン1(男子生徒):閃刀機-ホーネットビット

 

「チェーンするカードはあるかしら。《灰流うらら》を使うなら今よ?」

「……チェーンするカードはない。増殖するGの効果が適用された後、チェーン1のホーネットビットの効果で俺のフィールドに閃刀姫トークン1体を守備表示で特殊召喚する!」

「モンスターが特殊召喚されたことで私はデッキからカードを1枚ドローするわ」

 

 増殖するGによるドローを最小限に留めるのであれば、これ以上の展開を控えるという選択肢もあるだろう。しかし、相手はあの天宮 遊希。少しでも守りに入ればきっと圧し潰される。それのリスクを鑑みれば、男子生徒にここで退くという決断は下せなかった。

 

「そして俺はこの閃刀姫トークン1体をリンクマーカーにセット!」

 

 男子生徒がそう宣言すると、デュエルフィールドの上空には周囲8か所に三角形のマークがついた正方形の物体が現れる。これが遊希がデュエルの世界から離れた後に登場した新しい召喚法―――“リンク召喚”であった。

 

「アローヘッド確認。召喚条件は《炎属性以外の閃刀姫と名のついたモンスター1体》。サーキットコンバイン! 出撃せよ! リンク1《閃刀姫-カガリ》!」

 

 

《閃刀姫-カガリ》

リンク・効果モンスター

リンク1/炎属性/機械族/攻1500

【リンクマーカー:左上】

炎属性以外の「閃刀姫」モンスター1体

自分は「閃刀姫-カガリ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「閃刀」魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の魔法カードの数×100アップする。

 

 

「なるほど……これがリンク召喚なのね。リンクマーカーを向いている方向にしかエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できないという。あ、デッキから1枚ドローするわね」

「特殊召喚に成功したカガリの効果を発動! 墓地の閃刀魔法カード、ホーネットビットを手札に加える」

(これが【閃刀姫】の定番コンボ、か。1ターンに1度の発動制限がないパワーカードを多数有するデッキ……厄介ね。I2社は何を考えてこんなカードを作ったのかしら?)

 

 改めて自分が相手取っているデッキの強さを噛み締める遊希。だが、そこに一切動揺は無かった。

 

「じゃあカガリの効果にチェーンして、私は手札から罠カードを発動。通常罠《無限泡影》」

 

 

《無限泡影》(むげんほうよう)

通常罠

自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードの発動は手札からもできる。

(1):相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

セットされていたこのカードを発動した場合、さらにこのターン、このカードと同じ縦列の他の魔法・罠カードの効果は無効化される。

 

 

「む、無限泡影……」

 

チェーン2(遊希):無限泡影→閃刀姫-カガリ

チェーン1(男子生徒):閃刀姫-カガリ

 

「無限泡影は自分フィールドにカードが存在しない場合、手札から発動できる。チェーン2の無限泡影の効果でカガリの効果は無効。よって墓地のホーネットビットを回収できない。制限カードを使いまわせないのは痛かったわね」

「……俺はカードを3枚セット。これでターンエンドだ」

(えっ?)

 

 ターン終了に伴って無限泡影の効果は切れる。これによって、カガリの2つ目の効果によってカガリの攻撃力が上昇する。

 

閃刀姫-カガリ ATK1500→1700

 

 

男子生徒 LP8000 手札:1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(閃刀姫-カガリ)魔法・罠:3 墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

遊希 LP8000 手札:5枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

男子生徒

 

 □伏伏伏□

 □□□□□場

  閃 □

場□□□□□

 □□□□□

 

遊希 

 

※凡例

閃:閃刀姫-カガリ

伏:セットカード

場:フィールド魔法ゾーン

 

 

(むぅ……)

―――どうした?

(増殖するGをこっちが発動していたとはいえ、なんでカガリをそのままにしたのか、と思っただけよ)

―――……確かに。狙ったのか、それともプレイングミスか。どちらにせよ気を緩めるなよ。

(勿論。このターンで決めるから)

 

 

☆TURN02(遊希)

 

 

「私のターン、ドローよ。メインモンスターゾーンにモンスターが存在しない状況を作ることが閃刀姫の常套戦術よね?」

「……だから何だよ」

「そのセットカード……セットするということは相手ターンでも発動な速攻魔法。汎用性を考えるに《閃刀機-ウィドウアンカー》辺りかしら?」

 

 遊希のその言葉に男子生徒は微かに焦りの色を見せる。デッキに投入される代表的なカードの名前を適当に言っただけであるが、彼の様子からそれは図星であったようだ。

 

「どのカードも面倒な効果を持っているわね。だけどそのカード……発動させてあげないから」

 

 次の瞬間、男子生徒のEXゾーンで戦闘態勢を取っていたカガリの姿が消える。その代わりに、彼のメインモンスターゾーンには巨大なロボットのようなモンスターが現れていた。

 

「私は閃刀姫-カガリをリリースして、あなたのフィールドに《壊星壊獣ジズキエル》を特殊召喚させて貰ったわ」

 

 

《壊星壊獣ジズキエル》

効果モンスター

星10/光属性/機械族/攻3300/守2600

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):カード1枚のみを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを3つ取り除いて発動できる。その効果を無効にし、フィールドのカード1枚を選んで破壊できる。

 

 

「か、【壊獣】……」

「【閃刀姫】の弱点は主に2つ。1つは魔法カードの発動を封じられること。《王宮の勅命》とか出された時はたまったものではないわ。最もそのカードは魔法・罠を除去できる効果を持ったモンスター……《トポロジック・トゥリスバエナ》とかで対処できるけど。そしてもう1つはメインモンスターゾーンにモンスターを召喚“させられる”こと。取り分け採用率の高い【壊獣】を出されるのは天敵と言っていいわね。さてあなたは……

 

 

 

 

 

 

―――狩られる準備はできているかしら?―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




劇中において「初登場した」カードについては《》でカード名を挟み、効果を記載します。また読みが難しいカードについてのみカード名の後に振り仮名を振ります。


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銀河と光子

 

「狩られる準備……?」

「ええ、そうよ。これから私は1ターンであなたのライフを0にする」

「……俺のフィールドにはジズキエルがいる。攻撃力は3300だ。仮にこいつを倒してもメインモンスターゾーンが空くから閃刀魔法カードの発動条件を満たす! そうなれば……」

「そうなれば、ね。まずは魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を発動するわ」

 

 天宮 遊希が世界でただ一人だけ持つカードの一つがこの【フォトン】と名のついたカードである。「フォトン」とは素粒子の一種であり、光を含む電磁波を量子として取り扱う場合の総称である。その由来から、光属性で統一されたこのテーマはやや扱い辛いモンスターが多いものの、遊希はそれをまるで自分の手足のように使いこなしていた。

 

《フォトン・サンクチュアリ》

通常魔法

このカードを発動するターン、自分は光属性モンスターしか召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

(1):自分フィールドに「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは攻撃できず、S素材にもできない。

 

「フォトントークン2体を守備表示で特殊召喚。本当なら《トレード・イン》の対象になる《怒炎壊獣ドゴラン》か《海亀壊獣ガメシエル》を使いたいところだけど、フォトン・サンクチュアリとは噛み合わないのよね。そしてフォトントークン1体を対象に手札の《フォトン・オービタル》の効果を発動」

 

《フォトン・オービタル》

効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻500/守2000

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに自分フィールドの「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を対象として発動できる。自分の手札・フィールドからこのモンスターを攻撃力500アップの装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。装備モンスターは戦闘では破壊されない。

(2):装備されているこのカードを墓地へ送って発動できる。デッキから「フォトン・オービタル」以外の「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を手札に加える。

 

「このカードを攻撃力500アップの装備カード扱いとしてモンスターに装備する」

 

フォトントークン ATK2000→2500

 

「そしてフォトン・オービタルの2つ目の効果を発動。このカードを墓地に送ることでデッキからフォトンもしくはギャラクシーと名のついたモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのは《銀河戦士》。そして手札の銀河戦士の効果を発動。光属性モンスター1体を墓地に送り、このカードを手札から表側守備表示で特殊召喚する」

 

《銀河戦士》(ギャラクシー・ソルジャー)

効果モンスター

星5/光属性/機械族/攻2000/守0

「銀河戦士」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカード以外の手札の光属性モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「ギャラクシー」モンスター1体を手札に加える。

 

「銀河戦士の特殊召喚に成功した時、2つ目の効果が発動。デッキからギャラクシーと名のついたモンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは《銀河騎士》よ」

 

 そして遊希が【フォトン】と共に使いこなすのが【ギャラクシー】と名のついたカードである。「銀河」をその名に冠するこのカードもフォトン同様に癖の強いカードが多いカテゴリーであることは否めない。最も遊希はフォトンとギャラクシーというこの2つのカード群を上手く調和させることで、絶妙なバランスでデッキを組みあげているのだ。

 

「そして銀河騎士は自分フィールドにフォトン・ギャラクシーモンスターが存在する場合、リリースなしで召喚できる」

 

《銀河騎士》(ギャラクシー・ナイト)

効果モンスター

星8/光属性/戦士族/攻2800/守2600

(1):自分フィールドに「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

(2):このカードの(1)の方法で召喚に成功した場合、自分の墓地の「銀河眼の光子竜」1体を対象として発動する。このカードの攻撃力はターン終了時まで1000ダウンし、対象のモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

「レベル8のモンスターをリリースなしで通常召喚!?」

「銀河騎士が妥協召喚に成功した場合、発動できる効果があるわ。自身の攻撃力をターン終了時まで1000下げることで、墓地のとあるモンスターを守備表示で特殊召喚する」

「とあるモンスター……? まさか……」

「その様子だとあなたは知っているようね。私のデッキに眠る“精霊”を。幸運ね、その姿を今見せてあげるわ!!」

 

 銀河騎士が手にした剣を天に掲げるのと同じように、遊希もまた左手を天高く掲げる。そしてその手には赤い十字架を象った物体が現れた。かつてプロデュエリストとして活躍していた頃の遊希は“精霊”の力が宿ったそのモンスターをデュエルで使用する際、その物体を天空へと放り投げていた。そのポーズは同年代の少年少女たちの間で流行になったほどである。もう二度と見ることのないそのポーズを見れることに対戦相手である男子生徒も喜びの色を隠せないようだった。

 

 

 

 

 

―――闇に輝く銀河よ。希望の光となりてこの世界に顕現せよ!―――

 

 

 

 

 

―――舞い降りよ。光の化身!!―――

 

 

 

 

 

―――《銀河眼の光子竜》!!―――

 

 

 

 天に放られたその物体を中心に周囲の粒子エネルギーが取り込まれていき、それはやがて1体の巨大な竜の姿を象る。青い光をその身に宿し、全てを照らす大いなる竜。これが遊希の持つ“精霊”と呼ばれる特別なモンスター―――《銀河眼の光子竜》だった。

 

《銀河眼の光子竜》(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)

効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

(1):このカードは自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに、その相手モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターとフィールドのこのカードを除外する。この効果で除外したモンスターはバトルフェイズ終了時にフィールドに戻り、この効果でXモンスターを除外した場合、このカードの攻撃力は、そのXモンスターを除外した時のX素材の数×500アップする。

 

 

―――……久しぶりのデュエルかと思えば、こんな形での登場になるとはな。

 

 先ほどから遊希の脳内で響いていた若い男性の声の主、銀河眼の光子竜が愚痴をこぼす。普通モンスターが動くのは戦闘時のみなのだが、光子竜はまるで生きているかのように首や翼を動かしている。

 それこそがカードに描かれているだけの普通のモンスターと精霊とされているカードの最大の違いであり、その様は対戦相手の男子生徒や審判のミハエル、そしてカメラを通してデュエルを見ている鈴ら他の受験生たちにも理解できた。最も遊希と光子竜のように脳内で意思疎通が取れる、ということは遊希当人以外は知らないことではあったが。

 

(はいはい、文句だったら後で好きなだけ聞いてあげるから)

―――まあいい、今は目の前のデュエルに集中しろ。お前は勝ちを確信しているようだが、油断は大敵だぞ?

 

銀河騎士 ATK2800→1800

 

「メインモンスターゾーンを全て埋め尽くした……」

「確かEXデッキから特殊召喚されるモンスターは皆EXゾーンに置かなくてはいけないののよね。つまりリンクモンスターを絡めないとEXデッキからモンスターは1体しか出すことができない」

(全くI2社は余計なルール改訂を……)

―――そういう規則なら従わざるを得ないだろうが。それにお前のデッキはそのルールに対応するだけの手段を持っているだろう?

「ま、リンク召喚で戦術の幅が広まったのは面白いわね。だったら私もそれを活用させてもらうわ! 私はフォトントークン2体をリンクマーカーにセット!!」

「リンク召喚!?」

 

 二つの光に変わったフォトントークンが天空に現れた周囲八方向に矢印のついた正方形のリングに吸い込まれていき、リングの左下と右下の部分に付けられた矢印が光り輝く。

 

「アローヘッド確認。召喚条件は攻撃力2000以上のモンスターを含む光属性モンスター2体。リンク召喚! 降臨せよ! 全てを照らす光の竜! リンク2《銀河眼の煌星竜》!!」

 

《銀河眼の煌星竜》(ギャラクシーアイズ・ソルフレア・ドラゴン)

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/ドラゴン族/攻2000

【リンクマーカー:左下/右下】

攻撃力2000以上のモンスターを含む光属性モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、自分の墓地の「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

(2):相手メインフェイズに、「フォトン」カードと「ギャラクシー」カードの2枚、または「銀河眼の光子竜」1体を手札から捨て、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

「銀河眼のリンクモンスター……そんなモンスターが存在しているなんて……」

「曲がりなりにも私は精霊に選ばれたデュエリストよ。カードをゼロから創造するくらいわけないわ」

―――最も、このカードがデュエルに使用できるのはI2社や海馬コーポレーションの旧知の社員に働きかけたからだがな。

(それを言わないで頂戴。ムードもへったくれも無くなるから)

「リンク召喚に成功した銀河眼の煌星竜の効果を発動。墓地の「フォトン」または「ギャラクシー」モンスターを手札に加える。私が手札に加えるのはフォトン・オービタル。そして手札から魔法カード《銀河遠征》を発動」

 

《銀河遠征》(ギャラクシー・エクスペディション)

通常魔法

「銀河遠征」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドにレベル5以上の、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合に発動できる。デッキからレベル5以上の、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「デッキからレベル5の銀河戦士を守備表示で特殊召喚する。さあ、これで準備完了よ。まずはレベル5の銀河戦士2体でオーバーレイ! 2体の機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!“機光の竜は時を経て新たな進化を遂げる。仲間の命をもってその力を解放せよ!” ランク5《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》!」

 

《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/機械族/攻2100/守1600

機械族レベル5モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。自分の墓地の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。

また、1ターンに1度、自分の手札・フィールド上の「サイバー・ドラゴン」1体を除外して発動できる。このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、2100ポイントアップする。この効果は相手ターンでも発動できる。

このカードが相手の効果によって墓地へ送られた場合、機械族の融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚できる。

 

「そしてサイバー・ドラゴン・ノヴァをエクシーズチェンジ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。エクシーズ・チェンジ!“機光竜の進化は留まらない。無限の命と力を得て飛翔せよ!”ランク6《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》!!」

 

《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/光属性/機械族/攻2100/守1600

機械族・光属性レベル6モンスター×3

「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」は1ターンに1度、自分フィールドの「サイバー・ドラゴン・ノヴァ」の上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×200アップする。

(2):1ターンに1度、フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをこのカードの下に重ねてX素材とする。

(3):1ターンに1度、カードの効果が発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

「サイバー・ドラゴン・インフィニティは1ターンに1度、カードの効果が発動した時、このカードのX素材を1つ取り除くことでその発動を無効にして破壊することができる。果たしてそのセットカードで私たちの攻撃を止めることができるかしら?」

―――遊希、まさか……

「そしてこれが私のとっておき! 私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

 

 遊希の手には古代文字のような刻印が刻まれた剣が現れる。銀河眼の光子竜を召喚する時に十字架のようなものを天空に投げる姿はよく見受けられたが、この剣のようなものを振るう姿を見た者は当の遊希以外は見たことがなかった。だが、それも当然のことである。何故ならプロデュエリストを引退し、デュエルから距離を置いていた時であっても遊希に宿る銀河眼の光子竜の力は増大を続けており、この力はその時に宿ったものなのだから。

 

 

 

 

 

―――“我が心中に燃える強き意志よ。希望をその身に宿し、光子の竜の真の力を解放せよ!!”―――

 

 

 

 

 

―――《No.62 銀河眼の光子竜皇》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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力の代償

 

 

 

(……《No.62 銀河眼の光子竜皇》? 何よ、それ……)

 

 遊希のデュエルを控室で見ていた鈴は複雑な気分でそのモンスターを見つめていた。自分の試験が全て終わった鈴は本当であれば既に帰宅してもよかったのだが、遊希と再会したこと、そしてその遊希のデュエルが控室にいる受験生に対して緊急中継されることを知り、その場で彼女のデュエルを見続けてきた。

 履いていたローファーを脱ぎ、両方の脚を組んではそれを机の上に乗せるというとても行儀の悪い振る舞いをしながらも、鈴はデュエルの経過を真剣な目で見つめていた。

 

(あいつは……天宮 遊希はデュエルを捨て、デュエルから逃げた臆病者。あたしとの誓いを破った。それなのに……)

 

 鈴の目には遊希に対する怒り、そしてそれとは相反するまた別の感情が複雑に入り混じっているように見えた。

 

(いつの間にかに戻ってきては、こんなデュエルをあたしたちに見せつけている。オヤジたちはあいつのことを“精霊に選ばれたデュエリスト”だとか“不世出の天才”だとか称してたけど、そんなものはまやかし……あたしはそう思っていた。でも、ソリッドビジョンのはずなのにまるで意志を持った生き物のように動く銀河眼の光子竜、この世界に存在しないはずの銀河眼リンクモンスターの煌星竜に、銀河眼の光子竜皇? デュエルからずっと離れていたはずなのに、なんでこんなに力を増しているのよ……マジで腹立つんだけど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《No.62 銀河眼の光子竜皇(ギャラクシーアイズ・プライムフォトン・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000

レベル8モンスター×2

(1):このカードが戦闘を行うダメージ計算時に1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、フィールドのXモンスターのランクの合計×200アップする。

(2):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っていないこのカードが相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

(3):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っているこのカードが相手の効果で破壊された場合に発動できる。発動後2回目の自分スタンバイフェイズにこのカードの攻撃力を倍にして特殊召喚する。

 

銀河眼の光子竜皇をX召喚した時、少しよろめいた遊希は目頭を抑えながらもその場に踏みとどまる。

 

(……結構来るものね。この疲労感は)

―――よもや突然光子竜皇の力を解放するとは思わなかったぞ。体調は大丈夫か?

(“今は”大丈夫よ。意識ははっきりしているから。それより、さっさと終わらせましょう)

 

 光子竜に煌星竜、そして光子竜皇。普通にデュエリストをしていては見ることのできないモンスターたちと遭遇してしまった男子生徒は呆気に取られた様子だった。しかし、まだデュエルは続いている。遊希は男子生徒にそれを伝えると、改めてデュエルを進行させる。

 

「私はサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動。あなたのフィールドに表側攻撃表示で存在する壊星壊獣ジズキエルをインフィニティのオーバーレイユニットに変換するわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3→4 ATK2100→2900

 

「さて、メインモンスターゾーンが空いたからあなたはそのセットカードを使えるけど、どうするのかしらね? あ、そうそう。フォトン・オービタルのサーチ効果は1ターンに1度しか使えないけど、装備カードにする効果は何回でも発動できるわ。光子竜皇に装備する」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000→4500

 

「待った! 俺はフォトン・オービタルを対象にセットカード《サイクロン》を発動する!」

 

《サイクロン》

(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「フォトン・オービタルを破壊する!」

「……」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4500→4000

 

(……なんでこのタイミングなのかしらね。普通だったらフォトントークンに装備した時に使うのがベストなのに)

―――デュエルを行うのは人間と人間だ。人間の思考は完璧なものではない。ミスを犯し、時にそのミスが勝負を分ける。だが、故にデュエルとは面白いのではないか?

(面白い……か。負けちゃ意味ないのに)

 

 遊希と光子竜が相手のミスについて考える中、そのミスに未だ気づいていない様子の相手は更にセットされていた2枚目の速攻魔法《閃刀機-ウィドウアンカー》を発動した。今のサイクロンによって、彼の墓地にある魔法カードはエンゲージ、ホーネットビットに加えて3枚目となったため、ウィドウアンカーの2つ目の効果を使用できるようになったのである。

 

《閃刀機-ウィドウアンカー》

速攻魔法

(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る事ができる。

 

「ウィドウアンカーの効果で銀河眼の光子竜皇の効果を無効にし、エンドフェイズにまでコントロールを得る!」

「……そんなことさせるわけないじゃない。ウィドウアンカーの発動にチェーンしてサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動」

 

チェーン2(遊希):サイバー・ドラゴン・インフィニティ→閃刀機-ウィドウアンカー

チェーン1(男子生徒):閃刀機-ウィドウアンカー→No.62 銀河眼の光子竜皇

 

「チェーン2のインフィニティの効果。X素材を1つ取り除いてウィドウアンカーの発動を無効にして破壊。インフィニティの攻撃力は200ポイント下がるけど、チェーン1のウィドウアンカーの発動が無効にされたことで光子竜皇に対する効果は消える」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4→3 ATK2900→2700

 

「バトル、まずは銀河眼の煌星竜でダイレクトアタック。“煌星のソルフレア・ストリーム”」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

男子生徒 LP8000→6000

 

「続いてサイバー・ドラゴン・インフィニティで攻撃。“エヴォリューション・インフィニティ・バースト”」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3 ATK2700

 

男子生徒 LP6000→3300

 

「これで最後。No.62 銀河眼の光子竜皇で攻撃」

 

 

 

 

 

―――“エタニティ・フォトン・ストリーム”―――

 

 

 

 

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000

 

 

男子生徒 LP3300→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の勝ちね。お疲れさま」

「まさか後攻ワンキルをくらうなんて……」

 

 デュエルを終えた後、遊希は男子生徒のもとに歩み寄って握手を交わす。遊希は足早にその場を立ち去ろうとしたが、そんな彼女を男子生徒が呼び止めた。

 

「あの、ちょっと聞いていいか?」

「……何かしら?」

「俺には何が足りなかった? 正直あんたほどのデュエリストに勝てるとは思ってなかったけど」

 

 遊希は「厳しいことを言うけど」と前置きした上で男子生徒の方を向き直る。遊希はあまり人当たりのいい方ではないが、デュエルに関して意見を求められた時は率直にアドバイスを送るようにしている。それがデュエリストの能力向上に繋がり、ひいては日本デュエル界の発展に繋がると知っているから。

 

「まずデュエルの前に私はあなたがそのデッキで何回デュエルをしたか聞いたわよね? あなたは15回くらいと答えたけど、はっきり言って大事なデュエルに臨むのならそれしか使ってないのでは不十分よ。もしあなたが普段から使い慣れているデッキを使ってデュエルに臨んでいたらこうはならなかったかもね」

 

 男子生徒がこの【閃刀姫】デッキを15回くらいしか使っていないのに対し、遊希はこの【フォトン】【ギャラクシー】デッキをその10倍、いや100倍以上は使っている。言わばデッキの中身をどれだけ把握していたか、が勝負を分けたのだ。自分のデッキの強みも弱点も知り尽くしているからこそ、遊希はカードパワーの劣るこのデッキで勝つデュエルができるのである。

 

「もし次あなたとデュエルできる機会があれば……あなたの一番使い慣れたデュエルでしたいものね、それじゃ」

 

 遊希はそう言い残して男子生徒相手に小さく手を振る。遊希ほどの美女にそうされてしまえば、同年代・思春期の男子ならば嬉しくないわけはないだろう。

 

「ミハエル教頭、審判を務めて頂きありがとうございます。試験は以上ですか?」

「ああ、あとは合格発表を待つのみになる。最も君ほどのデュエリストだ、結果はわかりきったものだろうな」

「そうですか。では……」

 

 一礼して試験会場を後にする遊希。ミハエルをはじめとした教師たちはもちろん、同時間帯にデュエルをしていた他の受験生までもが去っていく彼女の後ろ姿に釘付けとなっていた。

 

(プロの世界を去って数年……ブランクが気になったが、杞憂だったようだな。もし彼女が入学してくれれば……竜司、我々の願いが叶うだろうな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……我ながら臭いセリフよね、全く)

 

 同い年のデュエリスト相手に随分と上から目線で物を語ってしまったな、と密かに自戒する遊希。これでは自分があまり好いていないミハエルと一緒ではないか、と。なんだかんだ言って彼のことが苦手なのも一種の同族嫌悪というものなのだろうか。そう思いながら廊下を歩いていた彼女は、やがて近くの壁にもたれかかった。

 

―――遊希!

「……久々のデュエルは応えるわね」

―――まだ負担は大きいか?

「当たり前じゃない。特に光子竜皇……あんなん毎回のデュエルで使っていたらそれこそ病院沙汰よ」

 

 精霊を従えた上でデュエルができる遊希は確かに希有な存在だ。しかし、その代償は決して小さいものではない。精霊でない普通のモンスターを召喚する時は何も起こらないのだが、銀河眼の光子竜のような精霊およびそれに準ずる一部の所持モンスターを一度でもデュエルで召喚すると彼女の身体には得体の知れない疲労感が残る。

 勿論成長と共に遊希の身体にはある程度の抵抗力はついてきている。しかし、遊希が成長するのに比例して精霊の力も増していくため、結果彼女のかかる負担はどんどん増していくのだ。遊希がプロデュエリストをわずか3年で引退したのもこの負担が原因の一つであった。

 

―――遊希……

「……何心配そうな声出してるのよ。大丈夫よ、私は倒れない。こんなところで……倒れてなどなるもん……ですか」

 

 息苦しそうにその場に蹲る遊希。彼女の身体に宿り、そして彼女にしか認識のできない存在である銀河眼の光子竜はひたすら遊希の名を呼ぶことしかできなかった。

 

「ちょっとあなた!? どうしたの、大丈夫!?」

 

 そんな遊希のことを呼ぶ声がした。声の主である小柄な少女は、倒れている遊希の姿を見つけると、その小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか、と思えるような力を発揮しては、遊希を医務室へと運んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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或る春の日のこと

 

 

 

 

「……おとうさん? おかあさん?」

 

 息を切らし、駆けてきた少女がドアを開ける。薄暗く、簡素な仏壇のようなものが供えられた部屋に白いシートに覆われた二つの物体が置かれていた。少女が「おとうさん」「おかあさん」と呼んだそれに近づく。少女の眼に映ったのは彼女の両親―――だったものであった。

 

「あ……あああ……どうして……なんで……おとうさぁぁん……おかあさぁぁぁん!!」

 

 まるで天を裂きかねないほどの声を上げ、少女は涙を流す。終わりを迎えた二つの命を前に、一人の少女の心が壊れたのがその瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 遊希は飛び上がるようにして起き上がった。覚えている限りで彼女は試験会場の廊下を歩いており、先のデュエルで精霊の力を解放したことによる極度の疲労感と倦怠感に襲われ壁によりかかって―――そこまでは覚えていた。しかし、今の彼女は真っ白で柔らかいものに包まれている。誰かが倒れている遊希を見つけて医務室まで運んだのだ。

 

―――目覚めたか、遊希。ずいぶんと眠っていたな。

(……光子竜。あんた趣味が悪いわね。あんな悪夢を見せるなんて)

―――何のことだ。私は精霊だが、お前の夢に介入できるほどの力は持っていないぞ。

(冗談よ。いちいち真に受けないでちょうだい)

 

 それにしても、光子竜以外の何者かで夢を操るだけの力を持った者がいるとすれば、その者はとても歪んだ性根をしているものだ、と遊希は呆れる。少なくとも夢であっても二度と経験したくない過去を思い出させられるのは決していい気分ではない。最もそんな夢を見てしまうということは自分の脳や精神の状態が影響しており、自分の力ではどうにもならないものだ、と諦めることしかできないのだが。

 

(ところで私はどうやってここに来たのかしら)

―――倒れたお前を運んでくれた者がいたんだ。お前より年下のように見える小さな少女だったが、頑張ってここまで連れてきたんだぞ。もし再会する機会があれば礼を言うべきだな。

 

 さしずめ魔女の呪いが込められた林檎を食べてしまった白雪姫をキスによって救った白馬の王子様のような人間と出会えた、ということなのだろうか。とらしくなくロマンチックな例えは意図せずに浮かぶ。光子竜の話を聞く限りでは王子様というより森の小人かもしれないが。

 すると、遊希のいる医務室のドアが数回ノックされる。「失礼します!」と言いながら入ってきたのは身長が150cmにも満たないような小柄な少女であった。少し癖のついた茶色のボブカットに、全てを吸い込むような真っ黒な瞳。背が低いことを差し引いても、十分に美少女と呼んでも差し支えないような可憐な少女だった。

 

「あっ、目が覚めたのね! 良かったわ、廊下で倒れてたんだもの!」

 

 この場にいるということはきっと同学年なのだろう。しかし、もし彼女は同学年であるのなら、その平均を大きく下回る小ささだ。そんなことを考えていた遊希は思わずぷっ、と噴き出した。

 

「あなた……小学生?」

「もうっ! 小学生じゃないわ! あなたと同い年よ!!」

 

 小柄の身体をぴょんぴょんと跳ねさせて反論する少女。遊希ははいはい、と面倒くさそうに手を振る。初めは小馬鹿にしたような様子の遊希であったが、光子竜から聞いていた情報とこの少女の外見的特徴は見事に合致する。そうなれば彼女は遊希にとっては恩人にあたるのだ。そうなれば無碍にでもできない。

 

「ところで……あなたが私をここまで?」

「ええ、そうよ! あなたのあのデュエルを見て居ても経ってもいられなくなったからあなたを探しに行ったのよ! 天宮 遊希さん!」

 

 身体は小さいが、声はやたらに大きい。少なくとも医務室で出していい音量の声ではないが、その少女がとても快活で明るい性格であることはわかった。遊希とはスタイルから性格まで間違いなく真逆の存在だが、集団で中心人物になるのは決まってこういう人物なのだ。

 

「あら、私の事を知ってるの?」

「むしろデュエリストであなたを知らない人がいないと思うわ! ちなみに私は“日向 千春(ひなた ちはる)”! 使うデッキは【サイバー・ドラゴン】! とにかく高い攻撃力でガンガン攻めるのが大好き! 誕生日は4月2日で血液型はO型! 四人姉弟の長女よ! 私、あなたのデュエルを見て燃え上っちゃって……だからデュエルをあなたに申し込むわ!」

「ストップ、病み上がり相手には如何せん情報量が多すぎるわ。えっと……日向 千春さんね。私のことを助けてくれたことは感謝するわ。でもね……」

 

 千春は遊希に皆まで言うな、という感じで彼女を制する。デュエルを申し込む、というのは今すぐではなかった。そもそも遊希はあのデュエルの後体調を崩したからこそここにいるわけであり、そんな病み上がりの相手にすぐにデュエルを求めるほど千春は事の道理を知らない人間ではなかった。

 

「大丈夫! デュエルは今じゃなくてもできるわ。入学して、同級生になったら改めてデュエルをしましょうね!」

「……あなたが、受かってるとも限らないわよ」

「うっ……でもそんな冗談を言えるなら大丈夫ね! じゃあ約束よ!」

 

 そう言って小指を出す千春。やっぱりこの子は小学生なんじゃないか、と思いつつ遊希は彼女に合わせて指切りげんまんをしてあげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 いつものように朝起きた遊希は、壁にかかった新品のデュエルアカデミアの制服を何も言わず見つめていた。

 

「……しかし、面白みのない制服よね。普通制の高校と変わらないじゃない」

―――だが昔よりはだいぶマシになっているのではないか?

「まあね。昔はなんというか……身体の線が出る服装だったらしいしね」

 

 あの試験から二週間ほどが経ち、遊希の家には見事デュエルアカデミアの合格通知が届いた。筆記試験の出来は上々だったし、実技試験は言わずもがなの成績である。普通にやれば落ちるわけがない。それでもアカデミアには竜司やミハエルのようにかつての自分を知るデュエリストが多いため、色々とやり辛いことには変わりないのだが。

 

―――それにしてもお前を助けたあの少女……千春だったか。彼女は受かっているのだろうか?

「あれだけ息巻いて落ちてたら面白いんだけど」

―――そんなことを言ってやるな。お前とデュエルしたいと積極的に言ってくるデュエリストは久しぶりじゃないか?

「……他人事みたく言ってくれるわね。あんた使ってデュエルすると私に負担かかるんだけど」

―――もし厳しかったら他のデッキを作って使ってもいいんだが?

「精霊の癖に変な気を使ってるんじゃないわよ。私は望んであんたを使ってるんだから……」

 

 遊希はそう言ってベッドの横のライトスタンドの横に立ててあった銀河眼の光子竜のカードをデッキケースにしまう。そして寝間着を脱ぐと、白のワイシャツを纏い、その上からおろしたてのデュエルアカデミアの制服に袖を通す。

 今年から新設されるデュエルアカデミアジャパンの制服はエリート校の制服らしくシックな黒のブレザーに赤いネクタイ、チェックのスカートに紺色のソックス。実際着てみるとこのセンス自体は悪くはないな、と遊希は鏡の前でくるりと一回転してみる。最も自分のこの制服姿を本当に見てほしかった人たちはもうこの世にいないのだが。

 

「えーと、カバンに定期券にスマホに……ああ、これを忘れちゃダメよね」

 

 通学鞄と共にデッキおよびデッキ改造用のカードが入ったケースと折り畳み式の自前のデュエルディスク。例え入学式でもこれだけは絶対に忘れてはならないものだった。何故なら遊希は入学式に首席入学者として準主席入学の生徒とデュエルを行うからである。

 

「済まないね、突然押しかけてしまって」

 

 時は更に一週間ほど前に遡る。アカデミアの合格通知が届き、制服が送付されてきてからも相も変わらず部屋からほとんど出ない引きこもり同然の生活をしていた遊希。そんな彼女を竜司が尋ねて来たのは今日と同じ小春日和だった。

 

 基本的他人に対しては素っ気ない遊希であるが、恩人でもある竜司の前ではみっともない姿を見せたくない。そのため竜司を数十分まだ寒さの残る外で待たせてから部屋に入れた。寒さか花粉かどちらかはわからないが、竜司は子供のように鼻をじゅるじゅると啜っていた。

 

「で、なんです。元プロデュエリストともあろう者がアポイントも取らずに来るなんて」

「教職というのは大変なんだね、やることが多すぎて目が回りそうだよ」

「でも校長って実際に教壇に立ちましたっけ?」

「……デュエルの実技なら」

 

 そう言って遊希が出したお茶に口を付ける竜司。一口飲んでふぅと満足気に息を吐く。

 

「うむ、君が淹れるお茶はいいね」

「それはどうも。で、わざわざ私のお茶を飲むために来たわけじゃないですよね」

「……実は君に伝えたいことがあるんだ」

 

 この時竜司の口から遊希に伝えられたのは、彼女が首席で入学したということ。そして首席入学者である遊希がデュエルを行う準首席入学者がなんと二次試験の日に険悪な雰囲気のまま別れた竜司の娘・鈴であることを。

 遊希と鈴は先日の二次試験の試験会場で出会うまで数年間会っていなかった。ただ、遊希はかつて竜司から「娘が中学生なのに髪を染めて学校に呼び出しを食らった」「娘が最近一緒にご飯を食べてくれなくなった」といった相談を受けていたこともあり、彼女がここ数年間で遂げた変化については聞き及んでいた。

 遊希は「下着を分けて洗濯してと言われない限りは大丈夫です」と冗談半分で答えていたが、父親が校長となるデュエルアカデミア・ジャパンのセントラル校に入学したということは彼女も父同様デュエリストという道を歩むということになる。それでいてかつてプロ時代の竜司が使っていたデッキを受け継ぎ、そのデッキでアカデミアの入学を決めている。本当に父を嫌っているならデュエリストの道になど進むだろうか? 遊希がそう告げると、竜司は満足そうにしていた。

 

「それで……彼女が相手だから私が何かすることでもあるんですか? 言っておきますが、娘さんに花を持たせる気はありませんよ」

「ああ、それでいい。セントラル校の今後を担う君たちには全身全霊でデュエルに臨んでもらいたいからね。ただこのことを事前に鈴に伝えたら、何故だか凄く不機嫌そうな顔をしていたけど……何が不満だったのだろうか」

 

 何故なのだろう、と首を傾げる竜司であるが、この時ばかりは遊希は鈴に同情した。セントラル校の合格を伝えられ、喜びたい最中に自分があれだけ敵対視している遊希より成績で劣っていた、などと親の口から聞かされるのだ。この時の鈴の心中は穏やかならざるものだっただろう。

 

(……竜司さんはデュエルの腕は日本トップクラス。それでいてとても優しい人。でも、プロとして世界中を飛び回っていてほとんど鈴と過ごせなかったから彼女の心根を理解できていないのかもしれないけど)

「……わかりました。もし彼女に伝えられるのであればこう伝えてもらいますか?」

 

 

 

 

 

―――あの時の約束、果たしに来たよ、って―――

 

 

 

 

 

 それを聞いた竜司は「わかった」と微笑む。歳をとっても昔と変わらぬ笑み。遊希はその笑みに亡き父の姿を重ねていた。

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろ行きますか」

 

 暖かな日差しが差し込む入学式の朝。真新しい制服に身を包んだ遊希の新たなる生活が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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始まりのデュエル

 

 

 

 

 入学式当日は雲一つない快晴であった。青空の下、気持ちのいい春風が吹く中、デュエルアカデミア・ジャパン『セントラル校』の入学式は予定通り執り行われた。

 遊希は二次試験の時とは異なり、時間通り登校すると、生徒が座るために用意されたパイプイスに座っては入学式に臨む。それでも朝早くに起きたこともあって、遊希は来賓や教員の挨拶はほとんど寝ぼけ眼で聞いていた。

 一方、校長として初の入学式に臨む竜司は登壇してすぐに遊希の姿を見つけると、今にも寝そうになる彼女の姿に不安を覚えるが、同時に無事アカデミアに入学してくれた遊希の姿を見て安心したのか、慣れないスピーチを始める。

 しかし、一見ウトウトしながらも遊希は別のことにしっかりと頭を働かせていた。それはもちろんこの後行われる鈴とのデュエルのことだ。ほとんどのことに無関心な遊希であるが、自分の一番の強みであるデュエルに関しては他の追随を許さないほど集中力を発揮する。

 プロの世界からは既に退いているものの、彼女の頭の中ではあらゆる相手に対処できるようにカードプレイングおよびそこから紡がれる勝利への道筋を組み立てていた。それが精霊を持つデュエリストとして相応しくあるべく研鑽を積んだ遊希のデュエリストとしての姿なのだ。

 

「……それでは、長くなってしまう前に私のスピーチはここまでとしておきましょうか。では、ミハエル先生。進行をお願いします」

「はい、わかりました」

 

 よほど緊張したのか、ハンカチで汗をぬぐいながら竜司はマイクの前から離れる。十分長かったですよ、と遊希は心の中で彼にダメ出しをし、それを光子竜に窘められる。十年以上繰り返されてきた人間とそうでない生命体のやり取りはこの場においてもまるで漫才のように行われていた。

 

「さて、普通ならここで入学式は終わりにするが……ここで君たちには見て貰いたいものがある。天宮 遊希くん、立ちなさい」

 

 ミハエルが遊希の名を呼ぶと同時に会場が一気にざわめいた。遊希は自分の名を呼ばれたことに気が付くと、目を擦りながらゆっくりと立ち上がる。今の今まで居眠りしていたようであるが、自分が呼ばれたということは自分の出番が来たということ。その証拠に普段は眠たげな彼女の眼は鋭く輝いていた。

 

「今日は校長先生の計らいで二人の新入生代表にエキシビジョンマッチを行ってもらうこととなった。そのうちの一人が……皆も名前くらいは聞いたことがあるだろう。歴代最年少でプロデュエリストの世界に足を踏み入れた天宮 遊希。彼女だ」

 

 遊希は無言でぺこりと頭を下げる。当然それは自分に話を振ったミハエルにではなく、昔から自分の面倒を見てくれていた竜司に対してではあるが。

 

「彼女は入学試験において首席での入学を果した。言わば君たちの代表にあたるデュエリストと言っていいだろう。そんな彼女の相手は彼女に次ぐ成績を修めてこのアカデミアに入学を果した準主席の生徒となる。準首席入学者、星乃 鈴くん。立ちなさい」

 

 名前を呼ばれた鈴がゆっくりと立ち上がり、一礼の後に後方に座っていた遊希の方を振り返る。入学試験の時とは違い、制服は着崩さずにしっかりと着用しているが、派手な金髪はそのままに前会った時には無かったイヤリング、そして首からぶら下げられたシャトル付きのネックレスが輝いていた。

 そしてその苗字「星乃」の名に一部の生徒が反応する。鈴は言わずもがな、校長である竜司の娘であり、竜司から彼の使っていたカードの一部を引き継いだことで話題にもなったデュエリストだ。遊希と鈴が同い年ということもそうだが、かつて日本を代表するプロデュエリストだった竜司の娘と、そんな竜司が見出してプロの世界へと送り込んだ少女がデュエルアカデミア・ジャパンの生徒としてデュエルをする。偶然とはいえ、あまりに豪勢なマッチアップであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さて、思っている以上に大事になりそうだな。

(……そうね。だからと言って盛り上がりすぎだとは思うけど)

 

 入学式を行われていた講堂は生徒や来賓、保護者が座っていたイスが撤去され、代わりにデュエルフィールドがセットされていた。講堂は普段は朝礼などの集会や体育の授業で使われるのだが、こうして学校公式のデュエルが行われる時は専らこの講堂が使われる。

 普段講堂の床下には大型のデュエルフィールドが収納されており、ここでデュエルする者はこのデュエルフィールドを使わなくてはならない。このフィールドのデータは業務提携を結んでいる海馬コーポレーションが管理しているため、デュエルで使用できないカードなどを使うことはできない。よってデュエリストの真の実力が試されるフィールドとも言えるのだ。

 

「……あの時はごめんなさい。私も少し言い過ぎたと反省しているわ。今日はわだかまりのないデュエルをしましょう?」

 

 デュエルの前、遊希はそう言って鈴に手を差し出す。デュエリストは相手にリスペクトを持って接する。これも幼い頃に竜司から学んだことの一つだ。

 

―――本当にそう思ってるのか?

(まさか。喧嘩を売ってきたのはあっちなんだから、本来あっちから歩み寄るべきでしょう?)

―――……女という生き物は全く底が知れんな。

 

 しかし、鈴は遊希が差し出した手を握るどころか、その手を思い切り叩いた。ミハエルからその名を呼ばれた時はにこにこと笑っていた彼女であったが、今改めて遊希と相対している時はあの時以上に憎悪の感情に満ちた顔になっていた。

 

「……逃げないでここに出てきたことは褒めてあげる。でもあたしはあんたを認めていない。言っておくけど、あの程度の相手に勝ったくらいで図に乗るんじゃないわよ?」

「あの程度……というのは二次試験で私がデュエルした相手のことかしら?」

「そうよ。【閃刀姫】を使ってあの程度のデュエルしかできない相手に勝ったところで得意ぶらないで貰いたいものね。ま、いいわ。あんたのハリボテ……このデュエルで壊してあげるから。負けた時の言い訳でも考えておきなさい」

「……ご忠告どうも。そうね、あなたのものを参考にさせてもらうことにするわ」

 

 鈴はフン、と鼻で鳴らすとそのままデュエルフィールドへと歩いて行ってしまった。相変わらずの鈴であったが、遊希の中には不思議と「自分が」侮蔑されたことに対しての怒りは湧かなかった。

 

―――遊希、どうした?

(口が悪いのはわかっていたけれど……無関係の人間を馬鹿にするのは聞いていて気分のいいものじゃないわね。ねえ、光子竜)

―――なんだ?

(鈴……ぶっ潰すから。気合を入れて)

 

 光子竜は遊希の内面でメラメラと闘志の炎が燃えているのを感じ取った。やる気が出るのはいいことではあるが、憎悪の感情にデュエルが支配されてしまうことは避けたかった。遊希の期待に応えつつも、彼女が暴走しないように御さなければならない。デュエルに口出しすることはしない、と取り決めている遊希と光子竜であるが、光子竜は光子竜で別の戦いに臨むことが求められていた。

 

 エキシビジョンデュエルのルールは以下の通りである。

 

○初期ライフは8000

○マスタールール4

○先攻後攻の決定権はデュエルディスク内蔵のコンピューターによってランダムに決められ、決定権を得たデュエリストが先攻後攻を決める

 

 このデュエルのルールは普通のデュエルと何ら変わらない。公式大会でも用いられているルールである。しかし、世界基準のこのルールで戦うことができなければデュエリストとしての成功は無い。遊希と鈴がデュエルフィールドに立ち、デッキをセットするとコンピューターがデッキを読み込み、その後どちらのデュエリストに先攻後攻の決定権が与えられるかが決まる。

 

「決定権はあたしね。先攻を貰うわ」

(……また後攻か。なんか多くないかしら)

―――まあいいじゃないか。このデッキは先攻でも後攻でも動けるように調整を重ねたのだろう? 不利な局面でも動けるように実戦感覚を積めるいい機会と思え。

「さて……これより天宮 遊希対星乃 鈴によるデュエルを行う。両者正々堂々と戦い、持てる実力を出し切って悔いのないデュエルをすること、いいな!」

 

 遊希と光子竜のやり取りなどいざ知らず、審判として入ったミハエルが双方に確認を取る。遊希と鈴は共に無言で頷いた。一瞬の静寂が流れ、対峙した二人はその目を見開く。

 

 

 

 

 

―――「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 天宮 遊希と星乃 鈴。二人の少女にとって、新たなる始まりとなるデュエルの火蓋が切って落とされた。

 

 

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(鈴)

 

 

「あたしのターン。あたしは《マンジュ・ゴッド》を召喚」

 

《マンジュ・ゴッド》

効果モンスター

星4/光属性/天使族/攻1400/守1000

(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した時に発動できる。デッキから儀式モンスター1体または儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 

(……マンジュ・ゴッド。そしてデッキは青眼……となるとエースはやっぱりあのモンスターね)

「マンジュ・ゴッドの効果であたしはデッキから儀式魔法《高等儀式術》を手札に加えるわ。そして更に手札を1枚捨てて《ドラゴン・目覚めの旋律》を発動」

 

《ドラゴン・目覚めの旋律》

通常魔法

(1):手札を1枚捨てて発動できる。攻撃力3000以上で守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体までデッキから手札に加える。

 

「ドラゴン・目覚めの旋律の効果であたしは攻撃力3000以上で守備力2500以下のドラゴン族モンスター《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》と《青眼の亜白龍》を手札に加えるわ」

 

 星乃 鈴の使用デッキは【青眼の白龍】。かつて軍事企業であった海馬コーポレーションをアミューズメント事業に転換させた二代目社長で、自身もデュエリストとしてデュエルキング“武藤 遊戯(むとう ゆうぎ)”とその生涯をかけて幾度となく戦い続けたデュエリスト“海馬 瀬人(かいば せと)”が愛用したデッキである。

 かつて《青眼の白龍》は世界に4枚しか存在しないカードとされていたが、時代が進んだ今となっても世界に4枚しか存在していない―――ということはない。それであっても稀少なカードであることには変わりなく、今の時代において青眼は海馬コーポレーションに認められたデュエリストだけがデッキおよびその派生カードを使うことが許されているのであった。

 

(かつてプロデュエリストとして日本を代表する存在になった竜司さんは海馬コーポレーションから青眼の白龍を持つことを許されていた。そしてその娘である鈴も父譲りの才能を持っているからこそ特例で青眼を使うことを許されている。でも同じ青眼でも鈴の青眼は―――【儀式青眼】。一撃の重さなら……竜司さんの青眼デッキより上。さて……どうしたものかしらね)

「天宮 遊希……あたしの切り札を見せてあげる。あたしは手札から儀式魔法、高等儀式術を発動!」

 

《高等儀式術》(こうとうぎしきじゅつ)

儀式モンスターの降臨に必要。

(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、デッキから通常モンスターを墓地へ送り、手札から儀式モンスター1体を儀式召喚する。

 

「あたしはデッキのレベル8・通常モンスターの青眼の白龍を墓地に送り、手札の儀式モンスター1体を儀式召喚する!“光の力を持つ白き龍よ。闇へその身を落とし、極限の混沌より新たなる力を以て発現せよ!”儀式召喚!!―――ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン!!」

 

 鈴のフィールドに舞い降りたのは、白と称するには鈍すぎる銀色の身体を持ち、肩や翼に青いクリスタルのような装飾をあしらった禍々しくも美しいドラゴンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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強靭にして無敵

 

 

「儀式召喚! 混沌の扉を開きなさい!《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》!!」

 

《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》

儀式・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守0

「カオス・フォーム」により降臨。

このカードは儀式召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が越えた分の倍の数値だけ戦闘ダメージを与える。

 

「攻撃力4000……しかも儀式モンスターだからメインモンスターゾーンに特殊召喚できる」

 

 ルールの改訂によって、融合・シンクロ・エクシーズ・リンクのデュエル開始時にエクストラデッキに入れられるモンスターは、リンクモンスターによるリンクマーカーがメインモンスターゾーンに向けられていない場合はいずれもEXゾーンに特殊召喚しなければならなくなった。そのためリンクモンスターが存在しない場合は、当然リンクマーカーも存在しないため、融合・シンクロ・エクシーズモンスターを複数体並べることができなくなってしまったのだ。

 しかし、それらのモンスターと同じ特殊召喚モンスターでありながら、メインデッキに入れられるモンスターである儀式モンスターはメインモンスターゾーンに特殊召喚することが可能である。

 

「なるほど、それがあなたのエースモンスターというわけね。でも攻撃力4000のモンスター1体出してそれで満足はしないわよね?」

「当たり前じゃない。あたしは墓地の《グローアップ・バルブ》の効果を発動!」

 

《グローアップ・バルブ》

チューナー・効果モンスター

星1/地属性/植物族/攻100/守100

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在する場合に発動できる。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「デッキトップを墓地に送り、このカードを特殊召喚するわ!」

「ドラゴン・目覚めの旋律のコストか……油断も隙も無いわね」

「あたしはマンジュ・ゴッドとグローアップ・バルブをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 召喚条件はチューナー1体以上を含むモンスター2体! リンク召喚! 導きなさい! リンク2《水晶機巧-ハリファイバー》!」

 

《水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー》

リンク・効果モンスター

リンク2/水属性/機械族/攻1500

【リンクマーカー:左下/右下】

チューナー1体以上を含むモンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキからレベル3以下のチューナー1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない。

(2):相手のメインフェイズ及びバトルフェイズにフィールドのこのカードを除外して発動できる。EXデッキからSモンスターのチューナー1体をS召喚扱いで特殊召喚する。

 

「リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動! デッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を守備表示で特殊召喚するわ! 現れなさい、《ジェット・シンクロン》!」

 

《ジェット・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星1/炎属性/機械族/攻500/守0

「ジェット・シンクロン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 遊希から見て鈴のフィールドには右側のEXゾーンにハリファイバーが、ハリファイバーの左下方向、遊希から見て右端のゾーンにブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが、そして鈴のメインモンスターゾーンの左端にジェット・シンクロンが存在していいる。

 ハリファイバーのリンク先にブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが存在しているため、現状鈴がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できるのはハリファイバーの右下に向いたリンクマーカーの箇所のみになってしまう。だが、これが無計画の下に作り出されたフィールドでなどないことは対峙する遊希が最も理解していた。

 

「あたしは更にリンク2の水晶機巧-ハリファイバーとジェット・シンクロンをリンクマーカーにセット! 召喚条件はトークン以外の同じ種族のモンスター2体以上! サーキットコンバイン! 現れよ、新たなる命生み出しし魔女。リンク3!《サモン・ソーサレス》!」

 

《サモン・ソーサレス》

リンクモンスター

リンク3/闇属性/魔法使い族/攻2400

【リンクマーカー:上/左下/右下】

トークン以外の同じ種族のモンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札からモンスター1体を、このカードのリンク先となる相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードのリンク先の表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ種族のモンスター1体をデッキから選び、このカードのリンク先となる自分・相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

(現在登場しているリンクモンスターでデッキを選ばず採用されているハリファイバーにサモン・ソーサレス……思っていた以上に完成度が高いわね)

―――青眼の白龍は私と同じ最上級モンスターだ。サポートカードこそ多いが、フィールドに出すには他のカードの助力が必要になる。そういった意味では種族がある程度統一されたデッキにおいてレベルを選ばずモンスターを特殊召喚できるサモン・ソーサレスはうってつけのサポートモンスターと言えるな。

「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを対象にサモン・ソーサレスの2つ目の効果を発動するわ! デッキからそのモンスターと同じ種族のモンスター1体を効果を無効にし、守備表示で特殊召喚する! 特殊召喚するのはカオス・MAXと同じドラゴン族の《太古の白石》よ!」

 

《太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)》

チューナー・効果モンスター

星1/光属性/ドラゴン族/攻600/守500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「ブルーアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「ブルーアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「そしてこのカードは手札の青眼の白龍を見せることで、手札から特殊召喚できる。現れなさい!《青眼の亜白龍》!」

 

《青眼の亜白龍(ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)》

特殊召喚・効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。

手札の「青眼の白龍」1体を相手に見せた場合に特殊召喚できる。この方法による「青眼の亜白龍」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「青眼の白龍」として扱う。

(2):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

「青眼の亜白龍は自身の攻撃権を放棄する代わりに、相手モンスター1体を破壊することができる。けれど今は先攻1ターン目だからあまり意味ないわね」

「でもあなたのフィールドにはチューナーモンスターが存在しているわね」

「話が早いじゃない。あたしはレベル8の青眼の亜白龍に、レベル1のチューナーモンスター、太古の白石をチューニング!」

 

 太古の白石の身体が1本のリングへと変化し、天空に舞い上がった青眼の亜白龍がそれを潜り抜ける。それと同時に亜白龍の身体は8つの星へと変化し、新たな命へと生まれ変わる。チューナー以外のモンスターとチューナーモンスターのレベルを合計したレベルをエクストラデッキから特殊召喚することができるのが、シンクロ召喚である。

 

「“太古の世界において人々を守護せし白き龍よ。今一度精霊となりて光の力で闇を祓え!”シンクロ召喚! 降臨せよ!《青眼の精霊龍》!!」

 

《青眼の精霊龍(ブルーアイズ・スピリット・ドラゴン)》

シンクロ・効果モンスター

星9/光属性/ドラゴン族/攻2500/守3000

チューナー+チューナー以外の「ブルーアイズ」モンスター1体以上

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いに2体以上のモンスターを同時に特殊召喚できない。

(2):1ターンに1度、墓地のカードの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にする。

(3):S召喚したこのカードをリリースして発動できる。エクストラデッキから「青眼の精霊龍」以外のドラゴン族・光属性のSモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。そのモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

青眼の精霊龍 DEF3000

 

 暖かい光と共に天空から舞い降りるのは少し体が透けているように見せる1体の白い龍であった。

 

「青眼の精霊龍がフィールドに存在する限り、お互いに2体以上のモンスターを同時に特殊召喚することができなくなるわ。あたしはカードを1枚セット。これでターンエンドよ。そしてエンドフェイズに墓地に送られた太古の白石の効果を発動。デッキからブルーアイズモンスターとして扱う《白き霊龍》を特殊召喚するわ!」

 

《白き霊龍》

効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

このカードはルール上「ブルーアイズ」カードとしても扱う。

(1):このカードは手札・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

(3):相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードをリリースして発動できる。手札から「青眼の白龍」1体を特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「さて……この布陣をどう崩すのか。見せてもらおうじゃない」

 

 

鈴 LP8000 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:3(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の精霊龍、白き霊龍)EXゾーン:1(サモン・ソーサレス)魔法・罠:1 墓地:10 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

鈴 LP8000

 

□□伏□□

□霊精□M

 □ サ

□□□□□

□□□□□

 

遊希 LP8000

 

○凡例

M・・・ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン

精・・・青眼の精霊龍

霊・・・白き霊龍

サ・・・サモン・ソーサレス

伏・・・セットカード

 

 

☆TURN02(遊希)

 

 

「私のターン、ドローよ」

(さて、どうしたものかしらね……)

 

 鈴のフィールドには攻撃力4000で相手のカードの効果の対象にならず、カードの効果では破壊されないカオス・MAX・ドラゴン、守備力3000で2体以上のモンスターの特殊召喚を封じつつ、墓地発動の効果の発動を無効にしてくる精霊龍、そして攻撃力2500ながら、相手フィールドにモンスターが存在する場合に自身をリリースして手札から青眼の白龍を特殊召喚できる白き霊龍の3体の「ブルーアイズ」に属するモンスターが存在する。

 高火力かつ相手の動きを封じてくるモンスターが3体も先攻1ターン目に出されるというのはさすがの遊希でも予想外であった。

 

―――今の手札では、できることは少ないな。

(ええ、今の手札ではね)

「私は手札から魔法カード《トレード・イン》を発動」

 

《トレード・イン》

通常魔法

(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「手札のレベル8モンスター、銀河眼の光子竜を捨てることでデッキから2枚ドローするわ」

―――やはりコストか。

(文句言わない)

「……同じ手になってしまうけど、仕方ないわね。自分フィールドにカードが存在しないことにより手札から罠カード、無限泡影を発動。精霊龍の効果を無効にする」

「だったらその効果にチェーンして精霊龍の効果を発動するわ!」

 

チェーン2(鈴):青眼の精霊龍

チェーン1(遊希):無限泡影→青眼の精霊龍

 

「精霊龍をリリースし、エクストラデッキから光属性・ドラゴン族のSモンスター1体を特殊召喚するわ。私が特殊召喚するのは《閃こう竜 スターダスト》よ!」

 

《閃こう竜 スターダスト》

シンクロ・効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

(閃こう竜 スターダスト……またレアなカードを)

 

 この世界には一般に流通しておらず、指定の期間で優秀な成績を残したプロデュエリストや大会などを勝ち抜いたデュエリストにだけが手にすることができるカードが存在する。そのうちの1枚がこの閃こう竜 スターダストというモンスターである。鈴が特殊召喚したこのモンスターはかつて竜司が現役時代に月間MVPを獲得した時にI2社より贈られたカードであった。

 

「対象の精霊龍が存在しなくなったことにより、チェーン1の無限泡影は不発。精霊龍の効果で特殊召喚に成功したドラゴン族モンスターはターンの終了時に破壊されてしまう。でも……」

「閃こう竜 スターダストは自身の効果でその破壊を避けることができるわ。せっかくの無限泡影が仇になったわね!」

「あら……一概にそうとも言い切れないわよ。まずは手札のこのモンスターは特殊召喚するわ。現れなさい《フォトン・スラッシャー》」

 

 大剣を手に持った剣士のようなモンスターが空間を切り裂きながら現れた。遊希の持つフォトンモンスターにおいて、文字通り切り込み隊長的な役割を果たすモンスターがこのフォトン・スラッシャーである。

 

《フォトン・スラッシャー》

特殊召喚・効果モンスター

星4/光属性/戦士族/攻2100/守0

このカードは通常召喚できない。自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。

(1):自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在する場合、このカードは攻撃できない。

 

「更に手札のフォトン・オービタルをスラッシャーに装備。装備カードとなったオービタルを墓地に送り、デッキから《フォトン・バニッシャー》を手札に加えるわ。そしてフォトン・バニッシャーは自分フィールドにフォトンモンスターが存在する時、手札から特殊召喚できる」

 

《フォトン・バニッシャー》

特殊召喚・効果モンスター

星4/光属性/戦士族/攻2000/守0

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドに「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合に特殊召喚できる。

自分は「フォトン・バニッシャー」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「銀河眼の光子竜」1体を手札に加える。

(2):このカードは特殊召喚したターンには攻撃できない。

(3):フィールドのこのカードを素材としてX召喚したモンスターは以下の効果を得る。●このカードが戦闘で破壊したモンスターは墓地へは行かず除外される。

 

「フォトン・バニッシャーは特殊召喚に成功した場合にデッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加えることができる。2枚目の銀河眼の光子竜を手札に加えるわ。加えて通常魔法、フォトン・サンクチュアリ発動。フォトントークン2体を守備表示で特殊召喚する」

(……なるほど、精霊龍に無限泡影を撃ったのはフォトン・サンクチュアリを発動したかったからね)

 

 フォトン・サンクチュアリは一度のタイミングで2体のトークンを同時に特殊召喚するカード。そのため2体以上のモンスターの特殊召喚を封じる精霊龍が存在する限り、遊希は展開の軸となるこのカードを発動できなかったのだ。そのため遊希の手札に無限泡影が無ければこのターン自分が思い描くようなフィールドを作ることができなかったかもしれない。そしてその想定外に対応できるカードを引き入れられるのもまたプロにまで登り詰めたデュエリストだからこそできるのかもしれなかった。

 

(そう考えると、あの場面で無限泡影は是非とも手札に欲しかったカード。遊希は引き運からして他とは違う、天才級のデュエリストなのかもしれない)

「私はフォトントークン2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 現れなさい。リンク2、銀河眼の煌星竜。リンク召喚に成功した煌星竜の効果で私は墓地のフォトン・オービタルを回収。そして私はレベル4のフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーでオーバーレイ! 2体のフォトンモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れなさい、《輝光帝ギャラクシオン》。」

 

《輝光帝(きこうてい)ギャラクシオン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2100

「フォトン」と名のついたレベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つまで取り除いて発動できる。この効果を発動するために取り除いたエクシーズ素材の数によって以下の効果を適用する。

●1つ:手札から「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。

●2つ:デッキから「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。

 

輝光帝ギャラクシオン ORU:2 DEF2100

 

「輝光帝ギャラクシオンの効果を発動。X素材を2つ取り除き、デッキから銀河眼の光子竜1体を特殊召喚するわ。闇に輝く銀河よ。希望の光となりてこの世界に顕現せよ! 銀河眼の光子竜!」

 

 入学試験のデュエルと同じように、天空に十字架のような物体を放り投げ、銀河眼の光子竜をフィールドに降臨させる遊希。遊希のデッキに光子竜のカードは3枚入っているが、これによって後攻1ターン目で全ての光子竜が遊希のデッキから消えたことになる。それでもサポートカードの豊富さは通常モンスターのサポートも受けられる青眼の白龍に比べれば少ないものの、単体のモンスターからしてみれば多い部類に値する。鈴のデッキ同様に遊希のデッキもまたエースモンスターである光子竜の力を最大限に活かせるデッキとなっているのである。

 

「そして銀河騎士をリリースなしで通常召喚。この方法で召喚に成功した銀河騎士の効果を発動。自身の攻撃力をこのターンの終了時まで1000ポイント下げ、墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚するわ」

 

 先攻でカオス・MAX・ドラゴンを含む大型モンスターを4体並べた鈴に対し、遊希は後攻で銀河眼の光子竜を含むモンスターを6体並べてみせる。普通にデュエルをしていてはまず見ることのない圧巻の光景に最初は喋りながらデュエルを見ていた他の生徒たちはすっかりそのデュエルに見入ってしまっていた。彼らの脳裏には今や遊希と鈴、どちらがこのデュエルを制するのか、という考えしかなかった。

 

「最後に手札のフォトン・オービタルを煌星竜に装備させる。攻撃力を500アップさせるわ」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000→2500

 

「さて、みんなが望んでいるようだから早速派手なバトルといきましょうか。私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ!」

(……来る。あのモンスターが!)

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 我が心中に燃える強き意志よ。希望をその身に宿し、光子の竜の真の力を解放せよ! 降臨せよ! No.62 銀河眼の光子竜皇!!」

 

 遊希の切り札である銀河眼の光子竜皇はX素材を1つ取り除くことで、フィールドの全てのXモンスターのランクの合計×200ポイント自身の攻撃力を上昇させることができる。遊希のフィールドには光子竜皇のランクを含めて計12のランクが存在する。そのためこの効果を使えば、同じ攻撃力4000であるカオス・MAX・ドラゴンの攻撃力を一時的に上回ることができるのだ。

 

 

―――光子竜皇であればカオス・MAX・ドラゴンを倒せる。だが、あのセットカードは気になるな。

(……でも、だからと言って攻めないわけにはいかないわ。カオス・MAX・ドラゴンは残しておいていいモンスターではないから)

「バトルフェイズ! No.62 銀河眼の光子竜皇でブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを攻撃! エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

「ダメージ計算時に光子竜皇の効果を発動! 自分フィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントこのカードの攻撃力を上昇させる!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK4000→6400

 

「攻撃力……6400!?」

「カオス・MAX・ドラゴンの攻撃力をもってしても、この力の前には太刀打ちできないわ。消えなさい」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK6400 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

鈴 LP8000→5600

 

 光子竜皇の一撃がカオス・MAX・ドラゴンに直撃し、大爆発を起こした。カオス・MAX・ドラゴンは相手の効果の対象にならず、相手のカードの効果では破壊されることはない。しかし、戦闘破壊にまでは耐性を持っていないため、自身の攻撃力を上回られるか、表示形式を変更させられるかでなければ破壊することはできないモンスターである。

 

(……切り札のつもりで出したのかもしれないけど、他愛もないわね)

―――っ!? 遊希! まだだ、まだ終わっていない!

(えっ?)

 

 光子竜の言葉に遊希が反応した瞬間であった。煙を吹き飛ばす咆哮によって、光子竜皇が破壊されたのは。

 

「……いい機会だからあんたに教えてあげるわ。青眼はただのモンスターとはわけが違う! 強靭にして無敵! 最強のモンスターだってことをね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




7/18
感想を頂いた方からのご指摘により、一部デュエルの展開を変更しました。


変更前→《青眼の精霊龍》の効果によってドラゴン族・光属性のSモンスター《蒼眼の銀龍》を特殊召喚
変更後→《青眼の精霊龍》の効果によってドラゴン族・光属性のSモンスター《閃こう竜 スターダスト》を特殊召喚



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蘇る銀河

 

 

 

 

「光子竜皇が破壊された……なるほど、強靭にして無敵、最強ってそういうこと」

 

《強靭!無敵!最強!》

通常罠

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドの「ブルーアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、その表側表示モンスターは自身以外のカードの効果を受けず、戦闘では破壊されず、そのモンスターと戦闘を行ったモンスターはダメージステップ終了時に破壊される。

(2):このカードが墓地に存在し、自分が「青眼の白龍」の召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。 このカードを自分フィールドにセットする。この効果でセットしたこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。

 

「強靭!無敵!最強!」とはかつて海馬瀬人が青眼の白龍をそう称賛したとされる言葉であり、今やその後に続く「粉砕!玉砕!大喝采!」と共に後世のデュエリストたちからは名言であると同時に迷言としても記憶されている言葉である。光子竜皇とカオス・MAX・ドラゴンが戦闘を行う直前、鈴はこの名言と同名の罠カードを発動していたのだ。

 

「通常罠、強靭!無敵!最強!の効果でカオス・MAX・ドラゴンと戦闘を行った光子竜皇は破壊された。あんたの切り札って随分と貧弱なのね?」

「……まあ戦闘には強くても効果破壊には弱いということはどうしようもないわね。精霊と言えどそこまで万能の存在ではないから」

―――耳が痛いことだ。

「でもまだ私のバトルフェイズは終わっていないわ。銀河眼の光子竜でサモン・ソーサレスを攻撃。“破滅のフォトン・ストリーム”!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS サモン・ソーサレス ATK2400

 

鈴 LP5600→5000

 

「そして銀河眼の煌星竜で閃こう竜 スターダストを攻撃。攻撃力は同じ2500だけど、フォトン・オービタルを装備している煌星竜は戦闘では破壊されない。よって破壊されるのはスターダストのみよ」

「させないわ! 閃こう竜 スターダストの効果をスターダスト自身に対して発動! この効果の対象になったモンスターは1ターンに1度、破壊されなくなるわ!」

 

銀河眼の煌星竜(+フォトン・オービタル)ATK2500 VS 閃こう竜 スターダスト ATK2500

 

「互いに破壊されないモンスター同士の戦闘だから何も起きないわ。私はこれでバトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移るわ」

「待ちなさい、私は白き霊龍の効果を発動するわ! 相手フィールドにモンスターが存在する時、フィールドのこのカードをリリースし、手札から青眼の白龍を特殊召喚するわ! そして青眼の白龍の特殊召喚に成功した時、墓地の強靭!無敵!最強!の2つ目の効果が発動! 墓地のこのカードを私のフィールドにセットするわ!」

 

 遊希と鈴。二人のデュエルで最初のバトルフェイズは両者痛み分けという結果に終わったと評するのが妥当だった。遊希はこのバトルフェイズで鈴のライフを3000削るも、切り札である光子竜皇を破壊されてしまった。対する鈴は自身の切り札であるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを守ることができたが、代わりにライフを大きく失ってしまった。

 どちらのデッキも高火力のモンスターが多く入っており、そしてそれらのモンスターが破壊されるなりしてしまったとしても、蘇生させる手段も豊富。似通ったデッキを使う二人のデュエルの分岐点は如何に相手のプレイングの隙を突き、ライフを削り切れるかというところにかかっていた。

 

「メインフェイズ2に移るわ。私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」

「ターン終了時、精霊龍の効果で特殊召喚したモンスターは破壊される。できれば私のターンまで残したかったけど……」

 

 閃こう竜 スターダストの効果で破壊を防げるのは一度だけ。遊希は攻撃力が同じである銀河眼の煌星竜で敢えて攻撃することで、スターダストによる破壊を防ぐ効果を誘発させた。

 

 

鈴 LP5000 手札0枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の白龍)EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:11(0)

遊希 LP8000 手札1枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜、輝光帝ギャラクシオン ORU:0)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠:2(フォトン・オービタル→銀河眼の煌星竜)墓地:7 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

 

□□伏□□

□青□□M

 煌 □

輝□□光□

□□オ□伏

 

○凡例

青・・・青眼の白龍

 

光・・・銀河眼の光子竜

煌・・・銀河眼の煌星竜

輝・・・輝光帝ギャラクシオン

オ・・・フォトン・オービタル

伏・・・セットカード

 

 

☆TURN03(鈴)

 

「あたしのターン、ドローよ!」

 

 鈴のフィールドには攻撃力3000以上のモンスターが2体存在する。しかし、ライフ・フィールドともに遊希に現状アドバンテージがあると言っていい。そして攻撃力に劣る煌星竜にも効果がある。

 

「メインフェイズ1。あたしは手札から魔法カード《復活の福音》を発動するわ!」

 

《復活の福音》

通常魔法

(1):自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):自分フィールドのドラゴン族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「墓地の青眼の白龍を特殊召喚するわ!」

「待って。復活の福音の発動にチェーンして銀河眼の煌星竜の効果を発動するわ」

 

チェーン2(遊希):銀河眼の煌星竜→青眼の白龍

チェーン1(鈴):復活の福音→青眼の白龍

 

「チェーン2の煌星竜の効果で手札の銀河眼の光子竜1体を手札から捨てて、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを対象に発動。そのモンスター1体を破壊するわ。破壊するのはフィールドの青眼の白龍よ」

 

 煌星竜の力で発せられた太陽のような熱を浴びた光によって2体のうち1体の青眼の白龍が消滅する。思えば白き霊龍をこのターンまで維持し、この効果にチェーンして青眼の白龍を特殊召喚して煌星竜の効果をかわすことができたのだ。

 

「チェーン1の復活の福音の効果で墓地の青眼の白龍を特殊召喚する」

「復活の福音が墓地に送られるのはこのタイミング。よって破壊無効効果はこの時では使えない。効果の発動タイミングを間違えたようね。小さなミスだけど、そのミスが命取りになりかねないわよ?」

「うっさい! 余計なお世話よ! 仮に青眼を破壊したところであたしにはまだカオス・MAXがいるんだから! バトルフェイズに移るわ! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで守備表示の輝光帝ギャラクシオンを攻撃するわ! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが守備表示モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与え、そのダメージは倍になる! 混沌のマキシマム・バースト!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS 輝光帝ギャラクシオン ORU:0 DEF2100

 

「悪いけど、ギャラクシオンを破壊なんてさせてあげない。ギャラクシオンを対象にリバースカードオープン、通常罠《永遠なる銀河》を発動」

 

《永遠なる銀河(エターナル・ギャラクシー)》

通常罠

このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールドに「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。その自分のモンスターよりランクが4つ高い、「フォトン」Xモンスターまたは「ギャラクシー」Xモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。

 

「自分フィールドにフォトンもしくはギャラクシーモンスターが存在する場合、自分フィールドのXモンスター1体をランクが4つ高いフォトンまたはギャラクシーのXモンスター1体にランクアップさせるわ!」

「罠カードのランクアップ!?」

「ギャラクシオンのランクは4。よってランク8のXモンスターをエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する。“銀河の瞳を持つものよ。冷たき鎧をその身に纏い、抗う者に無慈悲なる鉄槌を下せ!”ランクアップ・エクシーズチェンジ!《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》!」

 

《ギャラクシーアイズ FA(フルアーマー)・フォトン・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3500

レベル8モンスター×3

このカードは「ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン」以外の自分フィールドの「ギャラクシーアイズ」Xモンスターの上にこのカードを重ねてX召喚する事もできる。

(1):1ターンに1度、このカードの装備カードを2枚まで対象として発動できる。そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。

(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「攻撃力4000!?」

「さて、攻撃対象モンスターが変わったことで戦闘の巻き戻しが発生するわ。カオス・MAXでどのモンスターを攻撃するのかしら?」

「……そんなん、決まってるじゃない! 攻撃対象を煌星竜に変更!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS 銀河眼の煌星竜(+フォトン・オービタル)ATK2500

 

「フォトン・オービタルを装備した煌星竜は戦闘では破壊されない」

「でもダメージは受けてもらうわ!」

 

遊希 LP8000→6500

 

「そして青眼の白龍で煌星竜を攻撃!“滅びの爆裂疾風弾”!」

 

青眼の白龍 ATK3000 VS 銀河眼の煌星竜(+フォトン・オービタル)ATK2500

 

遊希 LP6500→6000

 

「残念でした。本当なら2000程度じゃなくてもっと私のライフを削れたのに」

「……バトルフェイズを終了。あたしはこれでターンエンドよ」

 

 

鈴 LP5000 手札0枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の白龍)EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:14 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:11(0)

遊希 LP6000 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜、ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:1)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠:1(フォトン・オービタル→銀河眼の煌星竜)墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:11(0)

 

□□伏□□

青□□□M

 煌 □

F□□光□

□□オ□□

 

○凡例

F・・・ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに移るわ」

 

 今まで特に明言していなかったのにも関わらず、突然スタンバイフェイズの確認に移る遊希。そんな彼女は突然鈴に向けてまるで見せつけるかのように右手でVサインをしてみせた。まさか勝利のVサインのつもりなのだろうか、と鈴が思った中、遊希は中指を折る。今は人差し指だけを伸ばしている状態であった。

 

「……何のつもり?」

「深い意味はないわ。メインフェイズ1に移行。FA・フォトンのX素材を1つ取り除いて効果を発動。青眼の白龍を破壊するわ。“ギャラクシー・サイドワインダー”!」」

「そんなことさせない! あたしは墓地の復活の福音を除外して一度だけ青眼の白龍の破壊を無効にするわ!」

 

 FA・フォトンが鋼鉄の鎧に覆われた腕を振り上げて青眼の白龍を切り裂こうとするが、竜の加護を受けた青眼の白龍はその一撃を弾き返す。最も墓地の復活の福音を除外させることが遊希の狙いだったのだが。

 

(さて、あのセットカードは強靭!無敵!最強!。迂闊に攻めれば返り討ちに遭うだけ。だったらこうするまでよ)

「私はギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン1体でオーバーレイ!」

「更にエクシーズチェンジ!?」

―――遊希、まさかあの力まで使うのか?

「1体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズチェンジ!“銀河に漲る力が尽きる時、漆黒の闇が世界を覆う。銀河の竜の亡霊よ。全てを食らいつくせ!”現れなさい!“No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン”!!」

 

《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守0

レベル9モンスター×3

このカードは自分フィールドの「ギャラクシーアイズ」Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。このカードはX召喚の素材にできない。

(1):このカードがX召喚に成功した時、自分のデッキからドラゴン族モンスター3種類を1体ずつ墓地へ送って発動できる。相手はデッキからモンスター3体を除外する。

(2):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。

 

「No.95……光子竜皇以外にもNo.を!」

 

 No.は種類によってはそう易々と手に入れられるカードではない。中でも世界で遊希のみが持つ【ギャラクシーアイズ】に属するNo.はデュエルで見ることすら能わないカードであると言ってもいい。そんなカードが2度も出るのだから、このデュエルの特別さが伺える。

 

(っ、目が霞む……でも!)

―――遊希、身体をもっと労われ。お前が倒れてはどうにもならないのだぞ?

(大丈夫よ。あんたはデュエルに集中しなさい)

 

 光子竜皇をX召喚した時と同じように、遊希の身体には言いようのない負担が圧し掛かった。それでも倒れまいと遊希はぐっ、と足の力を入れた。

 

「X召喚に成功したダークマターの効果。デッキからドラゴン族モンスター3種類《混源龍レヴィオニア》《アークブレイブドラゴン》《銀河眼の雲篭》を墓地に送って発動。相手はデッキからモンスター3体を除外する。除外するモンスターを選びなさい」

「っ、面倒な効果を……あたしは2体目の亜白龍と太古の白石、そしてカオス・MAX・ドラゴンを除外するわ」

「ダークマターの2つ目の効果を発動。このカードのX素材を1つ取り除くことで、このカードは1度のバトルフェイズに2回まで攻撃できる。そして煌星竜に装備されているフォトン・オービタルを墓地に送り、私はデッキから《銀河の修道師》を手札に加える。そしてバトルよ! 銀河眼の煌星竜で青眼の白龍を攻撃!」

「はぁっ!? 攻撃力が上の青眼に攻撃?」

 

青眼の白龍 ATK3000 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

遊希 LP6000→5000

 

「続けてダークマターで青眼の白龍を攻撃!“絶滅のダークマター・ストリーム”!」

(ダークマターは自身の効果でこのターン2回までモンスターに攻撃できる……それで青眼の白龍とカオス・MAXを破壊してあたしのモンスターの一掃を狙うつもりね……でも大事なことを忘れてるわ!)

 

No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ORU:0 ATK4000 VS 青眼の白龍 ATK3000

 

「甘いわ遊希! リバースカードオープン! 青眼の白龍を対象に罠カード、強靭!無敵!最強!を発動! このターンこのカードの対象となったモンスターは戦闘およびカードの効果では破壊されず、このカードと戦闘を行ったモンスターはダメージステップ終了時に破壊される!」

 

鈴 LP5000→4000

 

「ダメージステップ終了後、強靭!無敵!最強!の効果でダークマターは破壊される」

「これであんたのフィールドからモンスターは消えた。何が狙いかはわからないけど、無駄なバトルフェイズだったわね」

「……あら、何を勘違いしてるのかしら?」

「は?」

「私のバトルフェイズはまだ終了していないわ。言っておくけど、私が何の考えも無しにこんな攻撃するわけないじゃない。手札から速攻魔法発動!《エクシーズ・ダブル・バック》!!」

 

《エクシーズ・ダブル・バック》

速攻魔法

自分フィールド上のエクシーズモンスターが破壊されたターン、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。自分の墓地から、そのターンに破壊されたエクシーズモンスター1体と、そのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

「エクシーズ・ダブル・バック……!?」

「エクシーズ・ダブル・バックは自分フィールド上のエクシーズモンスターが破壊されたターン、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できるわ。このターンに破壊されたエクシーズモンスター1体とそのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を特殊召喚する! 蘇りなさい、ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン!!」

 

 遊希のフィールドには攻撃力4000のダークマター、そしてその攻撃力以下=攻撃力4000以下であるギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンの2体の銀河眼が蘇る。2体の銀河眼は一度フィールドを離れており、まだバトルフェイズ中であるため、更なる攻撃が可能なのだ。

 

「ダークマターでカオス・MAX・ドラゴンを攻撃! 絶滅のダークマター・ストリーム!」

「ッ! 迎撃しなさい! カオス・MAX! 混沌のマキシマム・バーストッ!!」

 

No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ORU:0 ATK4000 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

 闇に落ちた2体の光の竜の力は全くの互角。同じ力はやはりぶつかり合って反発し、その力の源であった2体の竜を飲み込んで消えていった。

 

「相討ちね。でもあなたの切り札は消えた。もっとライフを削りたいところだったけど、光子竜で攻撃しても意味はないからここは止めさせてもらうわ。メインフェイズ2に移行。銀河の修道師を召喚」

 

《銀河の修道師(ギャラクシー・クレリック)》

効果モンスター

星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守600

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドの、「フォトン」Xモンスターまたは「ギャラクシー」Xモンスター1体を対象として発動できる。手札のこのカードをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「フォトン」カード及び「ギャラクシー」カードの中から合計5枚を対象として発動できる(同名カードは1枚まで)。そのカードをデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

「召喚に成功した銀河の修道師の効果を発動。墓地の銀河眼の煌星竜、銀河眼の光子竜、フォトン・バニッシャー、フォトン・サンクチュアリ、永遠なる銀河の5枚をデッキに戻し、シャッフル。そして2枚ドローするわ。そしてギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンと銀河の修道師をリンクマーカーにセット! 銀河眼の煌星竜をリンク召喚。墓地のフォトン・オービタルをサルベージし、煌星竜に装備。これでターンエンドよ」

(……まあまあ、といったところかしら?)

 

 

鈴 LP4000 手札0枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:1(青眼の白龍)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:14 Pゾーン:青/赤 除外:5 エクストラデッキ:11(0)

遊希 LP5000 手札2枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠:1(フォトン・オービタル→銀河眼の煌星竜)墓地:11 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:10(0)

 

□□□□□

青□□□□

 □ 煌

□□□光□

□□オ□□

 

 

 

 

 

 

 




7/18
前話「強靭にして無敵」の修正に伴い、こちらもデュエル展開に変更を加えさせて頂きました。


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決着の入学デュエル

 

 

 

 

 

(っ……こんな時にプレイングミスを続けちゃうとかありえないんだけど)

 

 鈴はここに来て自分の判断の甘さを悔いた。強靭!無敵!最強!をカオス・MAXに対して発動していれば、より攻撃力が高く、ライフを大きく削れるカオス・MAXを残すことができたのだ。

 

(本当に強いデュエリストならここで間違えない。間違えないはずのに……)

 

 悔いるのは後。まだデュエルは続いている。鈴は自分にそう言い聞かせ、自分を奮い立たせた。

 

 

☆TURN05(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!」

「スタンバイフェイズに前のターンに墓地に送られたアークブレイブドラゴンの効果を発動するわ」

 

《アークブレイブドラゴン》

効果モンスター

星7/光属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

(1):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの表側表示の魔法・罠カードを全て除外し、このカードの攻撃力・守備力は、この効果で除外したカードの数×200アップする。

(2):このカードが墓地へ送られた次のターンのスタンバイフェイズに、「アークブレイブドラゴン」以外の自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「墓地のレベル8・ドラゴン族の銀河眼の光子竜を特殊召喚するわ。今度はこっちが墓地から蘇らせる番よ」

「2体目の光子竜……メインフェイズ1に移るわ」

「さて、あなたのフィールドには青眼の白龍が1体で手札が1枚。それでいてこっちには同じ攻撃力の光子竜が2体存在している。その1枚の手札で何ができるかしら?」

 

 遊希の言う通り、状況は鈴が圧倒的不利と言っても差し支えないだろう。しかし、鈴はそんな中においても何処か楽しそうな面持ちでこのターンに臨んでいた。

 

「……確かにあたしの手札は1枚しかない。でも逆に考えてみなよ。まだ1枚あるってね。さて、あんたには少しゲームに挑んでもらおうかしらね」

 

《ビンゴマシーンGO!GO!》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキから以下のカードを合計3枚選んで相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選ぶ。そのカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードはデッキに戻す。

●「ブルーアイズ」モンスター

●「ビンゴマシーンGO!GO!」以外の、「青眼の白龍」または「青眼の究極竜」のカード名が記された魔法・罠カード

 

「ビンゴ、ビンゴ、楽しいビンゴ……ってね。あんたはあたしがデッキから選んだカード3枚のうちランダムに1枚を選ぶ。そのカード1枚をあたしの手札に加え、残りをデッキに戻すわ」

「……どこかの星の王子みたいな言い回しをするのね。強がっている割に実はヘタレなところはあなたそっくりね」

「はぁ? あたしはあんなツンツンしてないし! ヘタレなのはあんたじゃないの!?」

「馬鹿は休み休み言うことね。まあいいわ、で……私はどのカードを選べばいいの?」

「じゃあ……このカードから選んでもらおうかな」

 

 鈴が提示したのは3枚の魔法カードだった。

 

《カオス・フォーム》

《カオス・フォーム》

《カオス・フォーム》

 

「……全部同じカードにしか見えないんだけど」

「同名カードを選んじゃいけないって制約はないわ。さあ、選んでちょうだい」

「一番右のカードを」

―――どこを選んでも全部同じだがな。

(でもあのカードを確実に手札に加えるってことは……)

「選んだカードを手札に加えて、残りのカードはデッキに戻してシャッフルするわ。そして墓地の太古の白石の効果を発動! このカードをゲームから除外し、墓地のブルーアイズモンスターを手札に加える。あたしはカオス・MAXを手札に戻すわ! そして儀式魔法、カオス・フォームを発動!」

 

《カオス・フォーム》

儀式魔法

「カオス」儀式モンスターの降臨に必要。

(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリース、またはリリースの代わりに自分の墓地から「青眼の白龍」または「ブラック・マジシャン」を除外し、手札から「カオス」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

 

(カオス・フォームは墓地の青眼の白龍を除外して儀式のためのリリース代わりにすることができる……)

「墓地の青眼の白龍1体をゲームから除外し、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚するわ! あんたの頼みの綱の光子竜皇もFA・フォトンもダークマターも全部墓地にいる! このモンスターの攻撃を防げるかしら? バトルよ! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで銀河眼の光子竜を攻撃! 混沌のマキシマム・バースト!!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS 銀河眼の光子竜 ATK3000

 

「言っておくけど、カオス・MAXは相手の効果の対象にならない。つまり対象にできないということは光子竜の効果は発動することすらできない!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS 銀河眼の光子竜 ATK3000

 

―――ぐっ。

 

 カオス・MAXの攻撃を受けた光子竜は顔の前で両腕を交差させて防御の態勢を取るが、攻撃力の差は如何ともしがたく、破壊される。あまり戦闘で破壊されることのない光子竜の呻き声が遊希の脳裏に響いた。

 

(光子竜、大丈夫?)

―――流石に攻撃力4000のモンスターの攻撃は堪えるな。だが、墓地に送られるのは慣れている。お前はデュエルに集中しろ。

 

遊希 LP5000→4000

 

「続いて青眼の白龍で銀河眼の煌星竜を攻撃! 破滅の爆裂疾風弾!」

 

青眼の白龍 ATK3000 VS 銀河眼の煌星竜(+フォトン・オービタル)ATK2500

 

遊希 LP4000→3500

 

「煌星竜はフォトン・オービタルの効果で戦闘破壊されないけど、その前にカオス・MAXを倒せるモンスターを用意できなければ先にあんたのライフが尽きちゃうかもね。バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移るわ。でも手札は使い切ったし発動できるカードはない。あたしはこれでターンエンド」

 

 

鈴 LP4000 手札0枚

デッキ:21 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の白龍)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:14 Pゾーン:青/赤 除外:6 エクストラデッキ:11(0)

遊希 LP3500 手札2枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠:1(フォトン・オービタル→銀河眼の煌星竜)墓地:10 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:10(0)

 

□□□□□

□M□□□

 □ 煌

□□□光□

□□オ□□

 

 

―――遊希。認めたくはないが、このままでは圧し切られるのが関の山だ。

(……)

―――決めるのであればそろそろ決めてしまわなければならないが?

(光子竜、あんたもいい性格してるわよね。全部わかっているくせに。大丈夫よ、次のターンで終わらせるから!)

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「私のターン、ドロー」

 

 遊希はデッキからカードをドローすると、再び鈴に向かって右手を突き出す。そして立てた人差し指を折った。

 

「ねえ、さっきからなんのつもり? 言っとくけど今の状況わかってんの?」

「ええ。少なくとも今はボードアドバンテージ、ライフアドバンテージ共に私が不利ね」

「だったらそんな余裕ぶっこんでる暇ないんじゃないの?」

「……ねえ、鈴。あなたはさっき青眼を強靭にして無敵、そして最強って言ったわよね」

「……それがどうしたというの?」

「少なくとも私が共に歩む銀河眼はあなたの青眼のように強靭にして無敵、最強とは言えないかもしれない。でもね、銀河眼は例え倒れたとしても―――私からは決して離れないの。ずっと私と共にある存在なのよ!!」

 

 遊希がそう言い放った瞬間。彼女の背後の次元が歪み始め、そこに大きな穴が開く。そしてその穴からは強靭!無敵!最強!の効果で破壊されたはずの銀河眼の光子竜皇が現れたのだ。

 

「光子竜皇!? なんで……さっき破壊されたはずなのに!!」

「相手の“効果”で破壊された光子竜皇は破壊されたターンから2ターン後の自分スタンバイフェイズに特殊召喚されるの。私が単にあなたを挑発する目的で指を立てていたと思った? そんな訳ないじゃない。あれは光子竜皇が戻ってくるまでのカウントダウンだったのよ」

「っ……でも銀河眼の光子竜をX素材にしていない光子竜皇は攻撃力4000のバニラに過ぎないわ! カオス・MAXと相討ちしたところで……!」

「相討ち? カードの効果は最後まで読みなさいな」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:0 ATK8000

 

「攻撃力……8000!?」

「自身の効果で特殊召喚に成功した光子竜皇の攻撃力は元々の倍になる。更に墓地の銀河眼の雲篭の効果を発動!」

 

《銀河眼の雲篭(ギャラクシーアイズ・クラウドラゴン)》

効果モンスター

星1/光属性/ドラゴン族/攻300/守250

このカードをリリースして発動できる。自分の手札・墓地から「銀河眼の雲篭」以外の

「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。「銀河眼の雲篭」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、このカードが墓地に存在する場合、自分のメインフェイズ時に自分フィールド上の「ギャラクシーアイズ」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。墓地のこのカードを選択したモンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする。「銀河眼の雲篭」のこの効果はデュエル中に1度しか使用できない。

 

「銀河眼の雲篭を光子竜皇のX素材にする! これで光子竜皇は自身の効果を発動できるようになった! バトルよ! 光子竜皇でカオス・MAX・ドラゴンを攻撃! そして光子竜皇のX素材を1つ取り除いて効果を発動! このダメージステップの間だけ、このカードの攻撃力をフィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップさせる!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:0 ATK8000→9600

 

「消え去りなさい! カオス・MAX! エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:0 ATK9600 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

「銀河眼の光子竜をX素材に持っていない光子竜皇の与える戦闘ダメージは半分になる。でも十分よ!!」

 

 光子竜皇の放った光の一撃が、闇に染まった白龍を貫いた。迸る光に飲み込まれたカオス・MAX・ドラゴンは断末魔の叫びを上げて消えていった。

 

鈴 LP4000→1200

 

「きゃああっ!!」

「続けて1体目の銀河眼の光子竜で青眼の白龍を攻撃。自身の効果を発動して、光子竜と青眼をゲームから除外する。これで終わりよ。2体目の銀河眼の光子竜でダイレクトアタック」

「あはは……このデュエル、あたしの負けか……あんた、本当に強いのね。本当に、本当に……あたしなんかより、ずっと……」

 

 光子竜に最後の攻撃を指示しようとした遊希であったが、それを途中で取りやめた。彼女の瞳に映ったのは目を真っ赤にしながら、大粒の涙を零す鈴の姿だった。

 

 

 

「ねえ、遊希……どうして、約束を守ってくれなかったの? どうして、デュエルやめちゃったの? あんたがずっとあたしと一緒に頑張ってくれたら……あたしだってもっと……」

 

 

 

 敗北が嫌で流す涙であれば遊希は容赦しなかっただろう。しかし、鈴のこの涙はそんなことで流されたものではない。その見た目は大きく変わり、口調も接する態度も汚かった鈴であるが、この時の彼女はかつて遊希と―――“無二の親友”―――であった頃の彼女に戻っていた。

 

「……銀河眼の光子竜でダイレクトアタック!! 破滅のフォトン・ストリーム!!」

 

 しかし、そこで手心を加えてしまうのは真のデュエリストたり得ない。鈴を真のデュエリストとして認めているからこそ、最後まで全力を以て臨むのだ。

 

銀河眼の光子竜 ATK3000

 

鈴 LP1200→0

 

 

 

 

 

「―――っ!」

(しまっ……)

 

 光子竜の攻撃を受けてライフが0になった鈴の身体が大きく吹っ飛んだ。遊希は精霊である光子竜を10年以上もその身に宿しているため、精霊の力を制御することはできていた。しかし、鈴の見せた涙。鈴の言葉が彼女の心を最後の最後に乱した。

 その結果、光子竜を始めとしたギャラクシーモンスターと精霊を宿す遊希の力に強く共鳴したため、力が逆流し鈴に危害を加えてしまったのだ。

 

「鈴……!!」

―――大丈夫だ、遊希。吹き飛ばされたりはしたが、彼女に大きな怪我はない。

「そう……よかっ……た……」

―――遊希? 遊希!!

 

 ミハエルをはじめとした教職員が鈴の元に駆け寄っていく。彼女に大きな怪我がないことを光子竜から聞いた遊希は、安心したような笑みを浮かべながら、その場に力なく崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




7/18
感想を頂いた方からのご指摘により、一部デュエルの展開を修正しました。

修正前:相手のカード効果の対象にならないブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの攻撃に対して銀河眼の光子竜の(2)の効果を発動。対象に取れないため光子竜のみを除外。
修正後:相手のカード効果の対象にならないブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの攻撃に対して銀河眼の光子竜の(2)の効果は発動不可。そのため、戦闘破壊される。




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結び直された約束

 

 

 

 

 

「ねえ、ゆうちゃん……」

 

 暖かな木漏れ日が差し込む部屋では、二人の幼女が向かい合いながら横になっていた。ぽかぽかとした空間で眠っていたと思われる二人であるが、そのうちの一人がもう一人の名前を呼ぶ。呼ばれた「ゆうちゃん」という少女は重たそうな瞼をゆっくりと開く。

 

「……なぁに、りんちゃん」

「あのね、わたしゆうちゃんのようなデュエリストになりたいの。いまはまだつよくないけど、いつかゆうちゃんみたいにプロのせかいでかつやくできるデュエリストになりたいんだ」

「そうなんだ。うん、りんちゃんならなれるよ」

「……ほんとうに?」

「うん。だってりんちゃんはがんばりやさんだから」

「ありがとう……ねえ、ゆうちゃん。やくそくしてほしいの」

「やくそく?」

「うん。わたし、がんばってプロデュエリストをめざす。それでゆうちゃんとぜんりょくでデュエルができるデュエリストになる……だからゆうちゃんもまっててね」

「りんちゃん……うん、やくそくだよ」

 

 わずか7歳でプロの世界に飛び込んだ天宮 遊希はデュエルの才能こそ大人のデュエリストに引けを取らなかった。しかし、デュエルが強いだけで生きていけるほどプロの世界は甘くない。元々人見知りがちだった遊希は中々人の輪に馴染めなかったのである。

 そんな彼女のプロ生活を公私ともにサポートしたのが遊希をプロの世界へと誘った星乃 竜司と、彼の旧友かつライバルでミハエルら年長のプロデュエリストたちだった。取り分け自分にデュエルの楽しさを教えてくれた竜司のことを遊希はまるでもう一人の父親の如く慕い、そしてその延長線上で出会ったのが同い年である竜司の娘・鈴であった。

 はじめは鈴も遊希も気恥ずかしさから何処かよそよそしかったのだが、幾度か遊ぶうちに意気投合し、遊希が竜司の家に泊まる時は鈴とは食事や入浴を共にするのはもちろん、同じベッドで寝起きをするなどまるで本当の姉妹のような仲良しになっていた。そんな二人が結んだ約束が「二人でプロの舞台でデュエルをすること」。その約束があったからこそ、鈴はプロの道を前以上に志すようになったのである。

 

―――しかし、その約束は果たされることはなかった。

 

 けたたましいサイレンの音が響き渡る。漆黒の空を真っ赤な炎が照らしていた。まさに天をも貫かんと勢いよく燃える炎を消すために、防火服を身に纏った消防士がポンプ車からホースを伸ばして放水するも、焼け石に水であった。業火によって全てが無に帰したその日、少女は全てを喪った。

 それはその少女―――天宮 遊希がプロデュエリストとなり、世界中から注目を浴びて三年が経った頃だった。その炎により全てを喪った彼女はプロデュエリストの世界から姿を消す。

 しかし、当時最年少のプロデュエリストとして名を馳せたかの美少女の存在を世間や社会は忘れても、彼女の雄姿を知る当時のデュエリストたちは決して忘れることは無かった。そしてその少女の存在は未来のプロデュエリストを志す少年少女の間では伝説とまでなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希が目を開ける。視線の先には真っ白な天井。鼻をつく薬品の匂い。遊希はそこが病院或いは保健室の類であることを理解する。

 

―――遊希、気が付いたか?

(光子竜……あれ、私は……)

―――あのデュエルの後お前は倒れたのだ。光子竜皇にダークマター……その力を解放させた後一度もデュエルで使ったことのなかったモンスターをいきなりデュエルで使ったのだ。それが負担となった結果、力を使いすぎて倒れた。それで竜司をはじめとした教員たちがお前を此処まで運んだ。

 

 自分に原因があるとはいえ、随分と医務室や保健室の類とは縁がある、と呆れる遊希。倒れた遊希は軽く苦笑いするが、彼女の脳裏に響く精霊の声には一切の冗談はなかった。

 

―――遊希、お前を疲弊させる原因である私が言うのもなんだがな……もう少し自分の身体を労われ。こう何度も倒れられると流石にばつが悪い。それに、お前には心配している彼女のことも気遣う必要がある。

 

 光子竜のその言葉を聞いて遊希が横を向くと、枕元に顔を埋めて眠る少女の姿があった。鈴である。光子竜のダイレクトアタックを受け、ライフを全て失い敗れた彼女もまた、遊希同様にダメージを受けていたが、遊希のように気を失うほどのものではなかった。

 倒れたところをミハエルたち教師に助けられた彼女ではあるが、自分の身体よりも彼女は目の前で倒れた遊希を優先するように求めた。それは父である竜司と同じように。竜司やミハエルが協力して遊希を保健室まで運ぶ中、傷ついた彼女もそれに付き添った。そして彼らが動揺する他の学生たちをまとめている間、鈴は一人遊希の回復を願い、今の今まで枕元で遊希のことを見守り続けていたのである。

 

(……髪もメイクもケバくなった割に、寝顔はやっぱり昔のままよね。無垢で純粋で可愛くて)

 

 そう言って鈴の顔を覗き込む遊希。その時、鈴の目がぱちりと開く。彼女が目を開けるとさっきまで眠っていたはずの遊希の顔がすぐそばにあった。

 

「きゃあっ!?」

 

 今にも肌が触れそうな距離に遊希の顔があったため、鈴は驚きのあまり椅子から転げ落ちてしまう。遊希は転げ落ちた彼女のある部分を凝視していた。

 

「なっ、何してんのよ! てか起きてるなら起きてるって言いなさいよ!」

「言おうとしたらそっちが勝手に目覚めて勝手に転んだのよ。というか若い女の子がスカートなのにいつまでも大股開きしていていいのかしら?」

「……!?」

 

 めくれたスカートに向く遊希の視線に気づいた鈴が恥ずかしそうに立ち上がると、倒れた椅子を起こしてそこに腰かける。彼女は心配して損した、と膨れっ面をしていた。

 

「そんなギャルみたいな見た目でその柄を履く? 普通ならもっとセクシーなものにするんじゃない? その柄は漫画やアニメの中だけかと思ってたわ」

「ひ、人がどんなの履こうがそんなの人の勝手じゃない!」

「……ええ、まあそうなんだけど。でもそんなデリケートな問題を声を大にして言うのは女性としてどうかと思うわ」

「元はと言えばあんたのせいじゃないの!!」

 

 そう言って鈴はそっぽを向いて椅子に座り直す。しかし、それでも保健室から出ていかない辺り、鈴が遊希との会話を望んでいるのが見て取れた。ただ、デュエルの前まであれほど険悪な雰囲気を見せていた手前、中々会話のきっかけを作り出せないようで、椅子に座りながらも鈴は遊希の方をちらちらと見ながらもじもじしていた。

 

「あ、そう言えば……こいつに聞いたわ。ずっと私に付きっきりでいてくれたってね」

 

 そう言って遊希はデッキケースから銀河眼の光子竜のカードを出す。鈴は遊希が精霊をその身に宿すと言われていることは知っているが、正直に言ってしまえば半信半疑で完全には信用していなかった。しかし、遊希が平然とそう言ってのけるのを見て彼女が言っていることは真実なのではないか、と思い始めていた。

 

「……本当に精霊と意思疎通ができるのね」

「あら、信じてくれるの?」

「信じるも信じないもあんたは天才だし。あたしみたいな凡人とは元の出来が違うし」

「……その歳で青眼を使わせてもらえる鈴も十分天才の域に入ると思うけど?」

 

 遊希がそう言うと、鈴は首を力無く横に振った。かつて鈴は遊希が後に自分と共に日本のデュエル界を支えていく存在になると信じていた。遊希は自分と比べると比べようのない天才であることはわかっているが、そんな遊希親友兼ライバルでいてくれるからこそ頑張ることができたのだ。

 しかし、遊希が突然彼女の前から姿を消してからは、鈴を取り巻く環境は一変した。竜司や彼の周りの大人たちは遊希が居なくなった今、鈴が未来を背負う存在になると信じ、以前より一層彼女にデュエリストとしての英才教育を施したのである。

 鈴は鈴でそんな父たちの期待に応えようと必死に努力を重ね、遊希に匹敵するまでの才を身につけたのだが、それでも彼女は自分で自分を認めることができなかった。何故なら天宮 遊希という自分より遥かに上の位置にいる存在を知ってしまっていたから。

 

「……みんなが期待してくれているのはわかってたけど、あたしじゃ遊希の代わりは務まらない。だから髪もこんな明るくして、メイクやアクセサリーも派手にした。服装の乱れは心の乱れって言うじゃない? そうすればみんなあたしを見限ってくれるって思ってたから」

「でも竜司さんは……」

「オヤジは……パパはあたしを見捨ててくれなかった」

 

 今まで尖った言葉を使ってきたが、それは鈴の本心ではなかった。鈴は年頃の少女ではあるが、この年代の少女には珍しく、両親を尊敬していた。

 

「髪の色を変えて、反抗的な態度を取ってもパパは優しく接してくれた。パパはいつだってあたしの味方でいてくれた。でも……だから辛かったの。その優しさが」

「……」

「こんなに辛いのは誰のせい? 遊希がデュエルを辞めてしまったからじゃないか?……あたしは全部の罪を遊希に押し付けた。そうすれば楽になったから。最低よね? あたしって。自分のダメなところを全部遊希のせいにして……ほんと……ほんとに」

 

 数分間に及ぶ鈴の独白が終わった。いつの間にかすすり泣いていた彼女は涙で真っ赤になった目をこすり、鼻水を啜る。数時間前まで遊希のことを激しく罵っていた苛烈な少女はそこにはいない。今遊希の目の前にいるのは誰よりも真面目で、誰よりも頑張り屋な一人の少女であった。

 

(ねえ、光子竜)

―――なんだ?

(あのこと……話してもいいかしら?)

―――……お前が望むのであれば、私は口を挟まん。お前の意思を尊重する。

 

 ありがと、と遊希は光子竜に礼を言うと、遊希は鈴に何故自分がプロデュエリストを引退し、デュエルの世界から離れたのかを話すことにした。とは言っても当時世界的に有名な存在であった遊希の引退は世界中で報道されており、鈴もその報道を知っている。その時の論調は「心身の不調」というものが理由となっていたが、もちろん遊希の引退にはそのことも十分に絡んでいる。

 遊希の中に宿っていた銀河眼の光子竜という精霊の力。それはデュエルをする度に彼女の身体に見えない負担として圧し掛かってきた。精霊という存在ではあるが、デュエルを経験して遊希がデュエリストとして成長するように、光子竜もまた遊希の成長に比例するように力を増していく。そしてそれは10歳の少女が担えるものではなかった。

 

「……あのままデュエルを続けていれば、少なくとも私は今こうしてまともな生活を送れていたかしら? まあ別のデッキを使えと言われればその通りなんだけど。でも私がプロでいられたのはあくまで光子竜の力が宿ったこのデッキのおかげだと思ってるわ」

「……」

「でも、それは大した理由じゃないわ。鈴は知ってるわよね? 私の家族のこと」

 

 それは鈴でなくとも、当時は大きく報道されたので誰もが知っている。あの天宮 遊希の家族が亡くなったということを。

 

「……確かあの時は火事で亡くなったって」

「ええ、私はプロとして世界を駆けまわっていた最中……実家が火事で全焼。“表向き”は失火ということで片づけられたわ」

「表向き……ってどういうこと」

「最初は寝たばことかストーブの消し忘れとか……そういう偶然が原因かと思われていたわ。でも両親の亡骸を司法解剖に回したら、死因は銃で撃たれたことによるもの判明したのよ」

「えっ……それって……」

「これは後になって公安の人に聞いたことなんだけど、私は精霊をその身に宿しているってことでいわゆる裏社会の人たちに狙われていたらしいのよ。それで私の力をモノにしたかった奴らが家に押しかけて家族に手をかけたのよ」

 

 これも後にわかったことなのだが、遊希の両親を殺害したのは海外のマフィアであったという。遊希がプロの世界で結果を残し続けることで、その国のプロデュエリストが結果を残せなくなり、それがその国のデュエルにおける評価を下げることに繋がってしまった。

 それを危惧したのがその国の政府だった。その国の政府は自国内のマフィアを利用して遊希を誘拐、脅迫することで彼女を半ば強制的にプロの世界から文字通り消し去ることを企てたのだ。しかし、遊希はその幼さから竜司や国際警察によって守られていたため、迂闊に手を出すことはできない。そしてその矛先は遊希の家族に向けられた。

 

「もういい……」

「私は混乱を避けるために報道統制を敷いてもらうことにしたわ。でも一部の週刊誌が、そのことを部数目当てに記事にしたの。もちろんほとんどの人がその記事を飛ばしと鼻で笑ったけど、その記事を信じている人も少なくなかった。そういう人たちの中では、私が精霊をこの身体に宿しているからこの悲劇が起こった……そう認識していた人もいたわ」

「もういいってば!!」

 

 鈴は無理矢理遊希の話を遮った。精神的に追い詰められていた鈴であるが、自分にはまだ家族という拠り所があった。しかし、遊希にはそれすらないのだ。鈴は遊希に比べて自分はかなり恵まれていたということを改めて知った。自分は上手く行かない時は父や遊希たちのせいにすることで自分を守っていたが、遊希にはその弱音をぶつける相手すらいない。遊希はこの5年間の間、苦しみや悲しみを全て自分一人で噛み潰していたのに。

 

「……辛いこと思い出させてごめん。あたし本当に無神経だったわ」

「別に構わないわ。いつまでも自分の中で抱えているのも疲れるし」

「……強いんだね、遊希って。デュエリストとしても人としても」

「そんなことはないわよ。私だって鈴みたいに弱音を吐くことだっていっぱいあるし」

 

 その時、遊希の脳裏では光子竜のふふっ、という笑い声が響く。笑われた、と思った遊希は当然いい気分はしない。

 

(光子竜……何がおかしいの?)

―――いや、似ていると思っただけだ。

(似ている? 私と鈴が?)

―――ああ。話を聞いている限りではどちらもその凛とした外見とは似ても似つかぬほど不器用だ。自分の気持ちを素直に表せず、溜め込んでは涙を流す。これを不器用と言わずに何と言う?

「ふふっ」

「……どうしたの?」

「生意気にもこいつが言うのよ。私と鈴が似ているって。不器用で自分の気持ちを素直に表せないって……」

「ええ……酷い言われようね。でも合ってるかもね」

「えっ、合ってる?」

「合ってるって」

 

 まるで鏡を見るように互いの顔を見合った遊希と鈴であるが、鈴がぷっ、吹き出したのと同時に二人は声を上げて笑い出した。この時は裏には何もない、心からの笑いであった。

 

「ねえ、鈴。あの時のことだけど……」

「あの時?」

「ええ。昔、約束したことよ。もう破ってしまったけれど……今からでもやり直すことはできるかしら」

 

 当初遊希はこのセントラル校を受験したのはあくまでプロ時代に世話になった竜司が校長を務めるからであり、彼への義理立てでここの門を叩いて生徒になった。だが、竜司の顔に泥を塗らない程度に過ごそう、それが遊希の入学した時の思惑だったのだが、そんな彼女の気持ちを変えたのが、先の鈴とのデュエルであった。

 

「正直ブランクがかなりあるし、未だに精霊の力を完全に物にできたとは思っていない。昔のようなデュエルはできなくなっているでしょう。でも……鈴とのデュエルで久々に思えたの。このデュエルが楽しいって。だから……またあなたと一緒により高みを目指したいの」

「遊希……ゆうきぃ……」

 

 ポロポロと玉のような涙を流しながら遊希の名を呼ぶ鈴。かつて破れてしまった約束が、5年ぶりに結び直された瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 



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ルームメイトとお隣さん

 

 

 

「もう、いつまで泣いてるの」

「ごめん、遊希とまた一緒にデュエルできるって思うとつい嬉しくて……」

 

 遊希はまるで幼子のように泣きじゃくる鈴の頭をあやすように撫で続ける。彼女が意識を取り戻してから数十分ほど経っているというのもあるが、遊希はベッドから平然と半身を起こすことができるまでに回復していた。まだ完全に身体が適応していないというのもあるが、10歳と15歳では流石に成長の具合が違う。年齢を重ねて丈夫になった遊希はスタミナの回復力も以前までと比べて向上しているようだった。

 

「同学年とはいえ、早生まれの私にこうして貰ってるようじゃどうにもならないわよ。あなたにはしっかりしてもらいたいんだから」

「しっかり?」

「ええ。今回のデュエルでは私が勝ったとはいえ、追い込まれていたことも事実。次も勝てるかどうかわからないわけだし、きっと近いうちに再戦の時は来る。それまで鈴には私にとって一番のライバルでいてほしいのよ」

「遊希……もちろん、次はもっといいデュエルができるようにするつもりよ。だってあたしは星乃 竜司の娘、星乃 鈴なわけだし」

 

 鈴の決意が込められたに遊希はクスリと微笑み、そして二人は固い握手を交わす。そんな時、保健室のドアが開く音が聞こえた。保健の先生が戻ってきたのだろうか、と思っていると、遊希のいるベッドのところに現れたのは意外な人物だった。

 

「どうやら仲直りできたようだね。良かった」

「パっ、パパ!?」

 

 保健室に入ってきたのは他ならぬ竜司だった。突然の意外な訪問者に鈴は驚きの色を隠せない。一方の遊希は竜司に礼を言おうとベッドから出ようとしたが、竜司はそれを制し、ベッドに横になりながらで構わないと遊希を諭す。しかし、遊希は竜司にどうしても一言物申したいことがあったのだ。

 

「校長先生、まずは倒れた私を介抱してくれたようでその点については礼を申し上げます。ありがとうございました」

「う、うん……?」

 

 礼を言う、という割に何処か辛辣な口調の遊希に竜司は本能的に嫌な予感を感じ取る。しかし、娘が見ている手前父として、校長としての威厳を失うまいと毅然と振る舞おうとした。そんな彼の様子を見て遊希が悪い笑みを浮かべたのを光子竜は見逃さなかった。

 

―――遊希? 何を言いたいのか知らないが、あまり言いすぎるのは……

「ですがさっきのデュエル、最初に倒れたのはこちらの星乃 鈴さんでした。この学校の生徒である以上公平に扱わなければならないのは当然ですが、それでも彼女はあなたの娘。あの場において娘が一大事の時に真っ先に駆け寄らなければならないのは父親であるあなたなのではないでしょうか?」

 

 しかし、そんな竜司や光子竜の心情などどこ吹く風。遊希は敢えて辛辣な言葉で娘よりも他人を優先した竜司をまくしたてる。竜司自身に悪意はなく、彼の行為は責められるものではないのだが、鈴は自分がいない間ずっと苦しんでおり、竜司は十分に彼女の心のケアをすることができなかった。これも遊希なりの鈴に対する気遣いでもあった。

 

「身寄りのない私のことを色々と気遣ってくれるのは結構ですが、私ももう15歳です。成人してないとはいえ、自分の身の周りのことくらい自分でできます。なので……これ以上変に介入しないでください。そして今まで私に注いだ時間をこれからは娘さんや奥様に注いであげてください」

 

 そう言って遊希は再度横になって布団の中に潜ってしまった。竜司は遊希の言葉をハンカチで汗をぬぐいながら聞いていた。そして鈴は自分と同い年の少女に説教される父の姿を笑いを堪えながら見つめていた。

 

「さ、さて……天宮君も元気になったことだし、鈴、そろそろ彼女を部屋に連れて行ってあげてくれないか?」

 

 竜司のその言葉を聞いて遊希が布団から顔を出す。この時の彼女は何処か間の抜けた顔をしていた。

 

「部屋?」

「……寮の部屋のことだけど」

「えっ。私、寮生活するんですか? 実家のマンションから通うつもりでいましたが」

「……私が入学手続きについて話をしたとき、君には寮で暮らしてもらう、と言ったはずだったけど」

 

 遊希は入学手続きなど面倒なことについては全て竜司に任せっきりだったことを思い出した。デッキを改造することにに夢中で竜司が話していたデュエルアカデミア・ジャパンについての詳細な情報については完全に聞き流していまっていたのである。こうなってしまえば遊希の先ほどの言葉には何の説得力もない。そしてそんな遊希のミスに付け込まない鈴ではなかった。

 

「……あれあれ~? 自分の身の周りのことくらい自分でできるって言ったのは何処の誰だったっけ~?」

 

 先ほどまでとは打って変わって得意気にこっちを見つめる鈴。遊希は布団から顔の上半分だけが出るようにして朱に染まる頬を隠す。

 

「……あ、ありがとうございます」

―――全く、先が思いやられるな。

(うっさいわよ)

 

 遊希はデッキケースから光子竜のカードを取り出すと一撃、デコピンを食らわせた。光子竜の痛がる声が遊希の脳内に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、まさか私と鈴が同室だなんてね。竜司さんそれも狙ってたの?」

「まさか。部屋割りはくじ引きだったらしいわよ。それでも凄い偶然だけどね」

 

 竜司の指示で体調が戻った遊希を鈴が自分たちが三年間暮らす部屋へと連れて行く。まだ少しフラフラしているようではあるが、人の手を借りずに歩ける辺り、だいぶ遊希の体力は回復しているようだった。

 

「いい? 明日からはガイダンスに校内の施設紹介とか色々あるからね、忘れちゃダメだからね?」

「わかってるわよ。それで、なんであなたがいちいち私に説明しているの? 大好きなパパから直に仕事頼まれたからって浮かれてるのかしら?」

 

 だいぶ回復したとはいえ、まだ遊希の体調は安定しないのは事実だ。竜司は遊希とルームメイトになる女子生徒に彼女のことを説明しなければならない、と思っていたため遊希のことをよく知る鈴がルームメイトになったのは幸運だったと言える。

 

「ちっ、違うわよ! どこかの誰かさんが見た目とデュエル以外からっきしだから、私がわざわざこうして管理してあげてるの! それもこれもズボラな遊希が悪い!」

「……」

―――遊希、お前の負けだな。

(うるさい)

 

 鈴と痴話喧嘩ができるほどまで回復した遊希たちは自分たちの部屋の前に着いた。デュエルアカデミアに限った話ではないが、共学の学校において男女比はだいたい男性の方が比率が多いため、男子寮に比べて女子寮の方が規模は小さくなる。それでも一部屋に二人という部屋割りのため、色々と身の回りのものが必要になる少女たちにとっては決して広い部屋とは言えないだろう。

 

「……うん、まあ普通の部屋?」

「まあホテルみたいに豪華な部屋にしちゃうわけにもいかないよね……」

「でも寮という割には広い部類に入るかもしれないわ。一人だったら広すぎるくらいよ」

 

 部屋は2段ベッドと勉強机が二人分置かれた寝室、テーブルとテレビが設置されベランダに出れる窓のあるリビングの二つを中心にキッチン、トイレ、浴室と生活をするにあたって必要最低限のものは取り揃えられていた。もちろん空調やネット環境も完備られており、これ以上のものを求めるのはさすがに贅沢というものであろう。

 

「ところで遊希。あんたこっちに来るの知らなかったから荷物とか持ってきてないんじゃないの? 服とかどうするのよ」

「一応指定のジャージがあるからしばらくはそれで我慢するわ。あ、でも……」

 

 部屋をある程度調べてみて、歯ブラシやらタオルやらの日用品は用意されていたが、それでも足りないものがあった。

 

「うーん、確かに替えが無いのは衛生的に問題よね……なんだったらあたしの予備を貸そうか?」

「ありがとう、でも気持ちだけ受け取っておくわ。あとで寮の購買に買いに行くから」

 

 ここまで甘えていたら本当に鈴頼みになってしまうかもしれない。それに時間を見つけて取りに行けばいいだけの話でもあった。最も「サイズが合わない」という本当の理由については鈴のために触れないことにした。仮に触れたところで要らぬ彼女の怒りに触れるだけなのだから。

 そんな時、遊希と鈴の部屋のドアが三回ほどノックされる。この部屋の配置は寮の端っこであり、廊下側から見て右側に隣室がある形になっていた。

 

「誰かしら? こんなタイミングで」

「きっと隣の部屋の子じゃない? 挨拶に来てくれたのかも」

 

 どんな生徒が隣の部屋にいるのだろうか、とわくわくしながらドアを開ける遊希と鈴。そんな彼女たちの前に現れたのはとても小柄な少女だった。

 

「はじめまして、私は日向 千春! 使用するデッキはサイ……」

「ごめんなさい、ここは高等部。小等部の寮じゃないの」

「そうみたいね。誰か大人の人に聞きに行くといいわ」

 

 そう言って遊希と鈴はドアを閉めてしまった。もちろん千春はそんなコントに乗るような人間ではない。

 

「ま、待ちなさーい!!」

 

 自分の身長がただでさえ小さいことはコンプレックスだと言うのに、ここまで来て弄られるというのはさすがに堪えたようだった。

 

「同い年だから! 同学年だから!! ってかあんた受験の時会ったじゃない! 倒れていたあんたを助けてあげたじゃない! この恩知らず!」 

「わかってるわよ、そんなこと。ボケよボケ」

―――お前ボケとかするキャラだったか?

(……見ててイジりたくなるのよ。ああいうのって)

―――そういうものなのか?

「でもあなたたちが隣の部屋で良かったわ! だってさっきのデュエル見ててすっごくわくわくしたもん!」

 

 背格好こそ中学生はおろか小学生と間違われかねないほど小柄な千春であるが、デュエルに対する思いは遊希や鈴に負けないものを持っている。現に受験の時には皆が敬遠していた遊希に自分からデュエルを挑みに行こうとするなど、デュエリストとしての気概はかなりのものであると言えた。

 

「ねえねえ! デュエルしましょうよ! デュエル!」

「……あ、あの……日向さん、お二人はまだ体調が整っていないから……」

 

 何処からか聞こえるか細い声。遊希と鈴が声のした方を覗くと、隣の部屋のドアの陰からは一人の少女が顔を出していた。長い黒髪と垂れた眉から大人しそうな印象を与える少女。

 

「もしかしてあんたがこの子のルームメイト? あたしは星乃 鈴。知ってると思うけど、校長の星乃 竜司の娘よ」

「わ、私は織原 皐月(おりはら さつき)と申します……あ、あの。よろしくお願いします」

 

 何処か気弱そうな少女・皐月はそう言って同級生の鈴に恭しく頭を下げる。デュエル大好きな千春とは異なり、彼女はそれほど好戦的ではないようだった。デュエリストを育成するための学校ではあるが、ここの卒業生が皆デュエリストの道を選ぶかというとそうでもない。

 卒業生の中には海馬コーポレーションにエンジニアとして就職する者やI2社にカードデザイナーとして就職する者もいる。そのため、皐月のような闘争心に欠けていそうな生徒も決して少なくは無いのだ。

 

「えっとあたしは星乃 鈴。でこっちが天宮 遊希。さっきのデュエルを見ててくれたならあたしたちの素性はわかるわよね?」

「ええ、片や星乃 竜司の一人娘で片や伝説の元プロデュエリスト! デュエリストとしての闘志が昂ぶるわ!」

「……そんな、伝説なんて買いかぶりすぎよ」

「そしてあなたたち二人を超えてもーっとビックになるのがこの私よ!」

「……デュエリストとしての腕よりも先に身長を伸ばすべきよね」

―――言ってやるなそれを。

 

 光子竜の忠告も実らず、遊希のその言葉に「なにをーっ!」と声を上げて遊希と鈴に飛び掛かる千春。しかし、体格差がありかつ2対1とあってあっさりあしらわれてしまった。そんな光景を見て居た堪れなくなったのか、皐月は制服の胸ポケットから新入生の取るスケジュール帳を取り出した。

 

「……あ、あの! 今夜は新入生の懇談会がありますが」

「あらそうなの? あまり人混みは得意じゃないんだけど……」

「でもごちそうが出るみたいよ。パパが手配は大変だって言ってたわ」

 

 渋る遊希の肩を掴んで急かす鈴。ごちそう、と聞いて千春の眼がキラリと輝いた。

 

「じゃあ行かない選択肢はないわね! 今後のために顔を売っておくのは大事よ!」

「と言うと?」

「だってそこで友達をいっぱい作っておけば色んな人とデュエルできるじゃない! デュエリストたるものデュエルをしてナンボよ!」

(ごちそう目当てのくせに)

―――いや、彼女の言うことも一理ある。苦手かもしれないが、お前も参加したらどうだ? 互いを高め合う仲間は多いに越したことはないからな。

(……仲間かぁ)

 

 思えば遊希は物心ついた時から精霊の力をその身に宿し、7歳から10歳までの間プロとして戦い抜き、それ以降は他人との関わりを極力断ち切ってきた。そんな彼女は同年代の少年少女との関わりがほとんどなかったのである。

 社会、取り分け共同意識の強いこの日本において、その中に溶け込めるかどうかで今後自分の歩む道は変わってくるだろう。最もこの時出会った日向 千春と織原 皐月―――この二人の少女もまた、鈴と同様に遊希とはこれから長い間喜びや悲しみを共有する仲になるのだが、今の遊希はまだそれには気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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友がため

 

 

 

 デュエルアカデミア・ジャパンの敷地は存外広い。最も日本中から生徒を集めるのでそれくらいなければいけないのだが。新入生歓迎のセレモニーは遊希たちが寝泊まりする寮から少し離れた大広間で行われていた。

 その大広間は1年生のみならず全校生徒が余裕で入るくらいの広さを持っており、用途によって設備を変化させることも可能なのである。それはこのデュエルアカデミア・ジャパンに国家予算がつぎ込まれている証であり、それだけ竜司ら教員に課せられた使命も大きいのだ。

 

「わあーっ! ごっちそーうだぁー!!」

 

 大広間に足を踏み入れた途端、千春は食器を手に食べ物が置かれているコーナーに向かって一目散に駆けて行ってしまった。食事はビュッフェスタイル、いわゆる立食形式で行われているため、食べたいものを早めに確保しておきたいという気持ちはわからなくもないのだが。

 

「……やっぱりごちそう目当てだったのね」

「子供だもの、仕方ないわ」

「あ、あの……わかっているとは思いますが、日向さんは同い年ですからね?」

 

 そう言ってケラケラと笑う遊希と鈴に真面目に訂正を入れる皐月。ルームメイトの千春が活発で小柄なのに対して、皐月は見るからに大人しめで優等生と言った様相だ。遊希と鈴は所々似ているところはあったが、隣室の二人は何から何までが正反対のようだった。それでも真逆の性格や価値観の方が仲良くなれたりするのであるが。

 

「わかってるって。さて、遊希はまだ体調が万全じゃないでしょ? ご飯取ってきてあげるわ、何がいい?」

「じゃあ魚介類お願いするわ」

「オッケー。皐月は?」

「私は後で自分で取りに行きますので……先に天宮さんと星乃さんの分でいいですよ?」

 

 2人分の皿を器用に持って鈴は食べ物を取りに行った。まだ体調が万全でない遊希に皐月が付き添う形で大広間の端のベンチに座って待つことにした。

 

「ふぅ……」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 数分後に、鈴が取ってきた食事を腹に収めると、遊希は小さく溜息をついてベンチへと座る。やはり昼間のデュエルの影響が残っているのか、身体には倦怠感が残っており、いつも以上に食欲が沸かなかった。

 

「大丈夫よ、激しいデュエルの後はいつもこう。まあ今日みたいに倒れちゃうのはめったにないことだけどね。それよりあなたは? 私に気を使わず食べたいものを食べていいのよ?」

「わ、私はちょっとご飯を控えるようにしていて……」

 

 そう言って皐月は恥ずかしそうにお腹の周りを撫でる。皐月は性格的に千春とは真逆であると思っていた遊希であるが、二人の場合はプロポーションも対極に位置することに気が付いた。千春は背の低さに比例して身体つきも高校生のそれとは思えないほどのものであったが、皐月は皐月は千春と同じ高校生とは思えないくらいの発育の良さを感じられた。

 

「ああ……お腹周りは悩みどころよね。まあ今は成長期を迎えているから男女関係なくこの時期は肉が付くものなのよ」

「そうであってくれると嬉しいんですけどね……あと、騒がしいのも……」

「気持ちはわかるわ。ご飯は少人数で食べたいわよね。それこそ私たち四人だけでとか。あ、でも鈴と千春がいるから結局うるさいのは変わらないわね」

 

 遊希も遊希で騒がしいのが好きではない。しかし、そうやって喧騒を避けてきたからこそあまり人付き合いの得意でない今があるのではないか、と光子竜は溜息を付いた。

 

―――……遊希。それではいつまで経っても孤独のままだぞ?

「うっさい、あんたに言われたくないわ」

「ふぇっ!?」

 

 光子竜と話していた遊希は思わず声を出してしまい、隣に座っていた皐月をはじめ、数人の生徒が遊希の方を見る。遊希は周囲をきょろきょろと見回すと、恥ずかしそうに下を向いた。

 

「あ、あの……」

「ごめん。今のはね」

「もしかして精霊と?」

 

 遊希は無言で頷いた。昔はこんなことを言ってもだれも信じてくれはしなかった。大人は当然として、自分と同い年の子供であってもだ。最もそれらの人々はデュエリストとして遊希が成功した後にあっさりとその時の意見を翻してきたのだが。だからこの手の反応に慣れている遊希は皐月がこのことに懐疑的であっても特に気にはならなかった。

 

「……凄いです!」

「えっ?」

 

 しかし、皐月から返ってきた答えは遊希の予想だにしないものだった。

 

「精霊かぁ……羨ましいです」

「ちょっと待ってちょうだい。皐月は精霊なんて非科学的なものがあるって本当に思ってるわけ?」

 

 実際にその身に宿すお前が言うな、というツッコミを光子竜から受けるも、遊希は構わず話を続ける。精霊を持つ遊希が精霊という存在を疑わしく思う光景は傍から見れば変なものではあったが、皐月はそのようには感じていなかった。

 

「まあ私には見えないし聞こえないですけど……天宮さんがいるって言っているのであれば、いるんだと思います」

「……私を信じるの? まだ出会って一日も経ってない私を」

「直接見たことはないですが……でも、デュエルモンスターズを作ったペガサス・J・クロフォードは精霊の存在を明言してましたし、過去の名デュエリストたちは皆総じて精霊を従えていたとも聞きます」

「名デュエリストね……そうなれればいいんだけど」

「なれますよ、きっと。まあ私はデュエルはあんまり得意ではないのでよくわからないんですけど……」

「はぁ、まったく……」

 

 遊希はやれやれ、と言った様子で溜息を付く。それでも皐月のこの言葉は嬉しかった。遊希自身も言ったことなのだが、精霊という非科学的なものを信じている人間はまずいない。

 それこそ遊希本人や竜司ら遊希に一定の理解のあるデュエリストくらいだ。そのため白い眼で見られることに何ら抵抗は無いのだが、自分と同世代のデュエリストによるこの言葉は何より彼女の自信につながった。

 

「あのさ」

「はい?」

「……その、ありが」

 

 遊希がありがとう、と素直な気持ちを伝えようとした時である。「ガチャーン!」という何かが割れたかのような音が会場中に響いたのは。

 

「い、今の音は?」

「誰かが皿でも落としたとか?」

「……見てください。日向さんが!」

 

 皐月が指差した方に目をやると、なんと千春が数人の男子生徒相手に掴み掛っていた。

 

「てめえ、女子だと思って下手に出てれば付け上がりやがって!! ぶっ飛ばすぞ!!」

「やれるものならやってみなさいよ! そっちが謝るまであんたを許さないんだから!!」

「上等だ!」

 

 千春に掴み掛られた男子生徒の仲間二人が彼女を取り囲む。小柄な千春が腕力で男子相手に勝てるわけがない。ましては入学初日から暴力沙汰になっては、今後の学生生活にも悪影響が及んでしまう。

 

「……ったく!」

 

 遊希と皐月は取り皿をベンチに置くと、すぐに千春の下へと向かった。掴み掛った千春とそれにやり返そうとする男子生徒。

 

「ちょっと、落ち着きなさいよ千春!!」

 

 遊希たちより先に鈴が千春を羽交い絞めにする形で止めに入るも、千春は腕をぶんぶんと振り回しては「離して!」と叫びながらなお掴みかかろうとしていた。千春は背格好こそ小柄であるが、その腕力は見た目以上に強かったのである。

 

「千春!」

「あっ、遊希! 皐月! 千春止めるの手伝って! あたし一人じゃ無理!!」

 

 遊希と皐月が鈴の助勢に加わることでなんとか彼女を抑え込むことに成功した。しかし、ここで千春を大人しくさせることはできても千春に掴み掛られた男子たちの腹の虫は当然収まらない。

 

「……ん、お前らは噂の二人じゃないか」

「……噂?」

 

 千春が殴り掛かっていた男子生徒は遊希と鈴の姿を見てそう吐き捨てる。その言葉と態度には何故か強い悪意が感じられた。

 

「先に殴り掛かってきたのはこいつだぞ? お前らこいつの肩を持つのかよ」

「……私たちはこの場に居なかったわ。千春とあなたたちの間に何が起きたかは知らない。だから何が起きたのか聞く必要があるわね」

「聞くまでもねえな! 俺たちが楽しく駄弁ってたら、いきなりこのチビが突っかかってきたんだよ!」

「嘘よ! あんたたちは私の大事なものを侮辱したじゃない!」

「侮辱だぁ? 俺たちは事実を言ったまでじゃねーか!」

「そんなの事実じゃない! 訂正して!!」

 

 制止する鈴と皐月を振り切って、激高した千春が再度男子生徒に殴り掛かろうとする。そんな時である。騒ぎを聞きつけたミハエルら教師たちが現場に駆け付けたのは。

 

「お前たち、何をしている!」

 

 ミハエルの檄が飛び、千春と男子生徒三人が一歩下がる。いつにも増して冷たい瞳で二人を見るミハエルに、男子生徒の仲間たちがその時の状況を説明し始めた。

 当然その証言は揃って「喋っていたら突然千春が殴り掛かってきた」という旨のものだった。現場に居合わせただけあって信憑性は彼らの方がどうして高くなってしまう。ミハエルは彼らの証言を聞いた上で千春に状況の説明を求めた。

 

「さて、彼らは君が殴り掛かってきたと言っているが……」

「……殴りました。最初に殴ったのは私です」

「ほう、認めるのか」

「でも殴ったのには理由があるわ。あいつらは私の大事なものを侮辱しました」

「……侮辱とは、どういうことですか?」

 

 人混みをかき分けて来たのは竜司だった。いつものように穏やかな面持ちをしているが、その瞳には普段遊希や鈴に見せる笑みはなかった。

 

「あいつらは……あることないことを言いまくってました!」

「あることないこと?」

「……天宮 遊希はデュエルモンスターズの精霊を使って親を殺した。星乃 鈴は親の名前でセントラル校に合格した裏口入学だ……そう言っていたのよ!」

 

 千春のその言葉を聞いて竜司やミハエルら教師たちの顔が曇る。勿論遊希についても鈴についても全て事実無根であり、彼女たちは厳しい試験を突破した上で首席と準主席という成績を修めて入学した。だが、彼らが話していることは既に多くの生徒の間に広がってしまっていた。

 

「酷い……酷すぎます」

「なんだよ、俺らだって噂話を話していただけだ。責めるならその噂を流した奴を責めるんだな」

(噂……そういうことか)

 

 黙って話を聞いていた鈴は拳をぎゅっと力強く握りしめ、男子生徒たちを睨み付けていた。鈴個人としては千春同様に男子生徒たちに殴り掛かりたかったが、そんな彼女の腕を掴んで制止していたのは他ならぬ遊希だった。

 当然遊希もはらわたが煮えくり返る思いであったが、自分が陰口を言われること自体には慣れがあった。しかし、今回の件で遊希が何よりもショックだったのはやはり自分といることで、自身の過去とは無関係である鈴、千春、皐月の三人に風評被害が及んでしまうことがこのような形で実証されてしまったことだった。

 

「っ……なんということを」

「校長、お気持ちはわかります。ですが、今の我々はあくまで教育者です。全ての生徒に公平に対処しなければいけません」

「ええ。わかっています」

 

 竜司は今回の件について千春と主だった男子生徒たちに3日間のデュエルディスクの没収を言い渡した。各人の専用デュエルディスクを没収されてしまうため、当然ソリッドビジョンシステムを利用したデュエルをすることはできない。それでも暴力沙汰に発展したとはいえ、3日間という短い間のデュエル禁止は新入生である千春たちには十分に温情をかけられた処分と言えた。

 

「お前たち、今回の事件の罰として3日間の間デュエルは禁止する。ただデッキやカードはそのままにしておくからその謹慎期間で色々調整することはできるがな」

「……ただ、若きデュエリストにとって3日間とはいえ、デュエルができなくなるのは少々きついでしょう。そして、今回の件で色々と禍根が残るのは避けておきたい……そうだ、君たち。もし良ければこれから手打ちとしてデュエルを1戦行いませんか?」

 

 竜司の提案にミハエルはやや渋い顔をするが、校長の言う通りこれで生徒間の禍根が消えるのであれば、という理由でこれを承諾した。

 

「……デュエル? デュエルできるのね!」

 

 禁止前に一戦デュエルが行える。その温情に素直に喜びの表情を見せる千春であったが、それからすぐに落ち込んだ様子を見せる。あれだけデュエルを望んでいた彼女らしくないと遊希たちは思った。

 

「どうしたんですか? 元気が無いような……」

「あのね。確かにデュエルできるのは嬉しいんだけど、こんなことが起きたばかりだから……私楽しんでデュエルできるのかしら?」

 

 千春にとってデュエルは勝ち負けを競うものであると同時に、他人とのコミュニケーションツールでもあった。デュエルモンスターズというゲームにおいて性別、国籍、人種、年齢、思想信条、肌の色―――それらの個々人を形成する要素は何も問われることはない。あらゆる人間がただカードとプレイングによって勝敗を競う。それがデュエルモンスターズというものであり、世界的なゲームにまで成長した要因であった。

 そのため彼女は勝ち負け以前に楽しいデュエルができたかどうかを大事にしているのである。しかし、これから行われようとしているデュエルは、親友を侮辱した相手とのデュエル。果たしてそんな相手とするデュエルに素直に臨めるだろうか、という気持ちが千春の中にはあったのである。

 

「日向さん……」

「千春。デュエルをするのはあなたでしょう? だったら私たちのことなんて気にする必要はないわ。自分の素直な気持ちに従ってすればいんじゃないかしら?」

「そうよ! あたしたちにとってはあんたが楽しんでくれることが一番嬉しいんだし、気にせず自分の思いの丈をぶつけてきちゃいなさい!」

「遊希、鈴、皐月……わかったわ! だったらこのデュエル全力で楽しむことにするわ! まあ、デュエルの相手が遊希じゃないのが納得いかないけどね!」

 

 三人のその言葉に千春は太陽のような笑顔を取り戻すと、自室にデュエルディスクとデッキを取りに行った。デュエル開始は30分後。会場となる懇談会の会場は新入生のみではなく、話を聞きつけた上級生たちもデュエルの観覧に集まるなど、例年に増して盛り上がりを見せていた。

 そして時計の短針が9を指そうとしていた頃、千春と遊希たちを誹謗した男子生徒の一人のデュエルが始まろうとしていた。しかし、デュエルの直前になって遊希たちはあることに気付く。

 

「……ねえ、ところであの相手は誰なの?」

「そう言えば見慣れない顔よね」

「まあ今日出会ったばかりなので、名前が分からなくても仕方ないですよね……」

 

 相手に聞こえないように小声で話す遊希たち。だが千春はそんな三人の様子など気にも留めなかった。

 

「あら、相手の名前なんて覚えておく必要ないわよ」

「どうして?」

「だって私があんなやつすぐ倒しちゃうんだから! 名前を覚える必要なんて無いんだから!」

 

 そう言ってデュエルディスクを嵌めていない方の腕を勢いよくグルグルと回す千春。相手がどんなデッキを使うかも判らないのにこれだけポジティブにいられるのは短所でもあるがある意味で長所でもある。

 遊希は相手がどんなデッキで来るのか、どんな戦法を使うのか、ということに頭を取られ、楽しんでデュエルすることができているかというとそうでもない。現にデュエルに至るまでの経緯が経緯である。自分だったら例え空元気でもそこまで明るく振る舞うことはできなかっただろう。

 

「千春」

 

 遊希がデュエルフィールドに向かう千春を呼び止めた。

 

「何? デュエルだったらこの後受けるわよ」

「これはあなたのデュエル。私たちのことなんて気にせず、自分のために戦いなさい」

「……当然!」

 

 意気揚々とデュエルリングに向かう千春。対戦相手の男子生徒は無言で千春を見つめていた。男子生徒は先程まで遊希たちの悪口を言っていたとは思えないほど真剣な面持ちだった。

 

「来たか」

「来てやったわよ! ねえ、今謝ったら許してあげてもいいけど?」

「誰がそんなことするか。俺にだってメンツってもんがある。悪いがこのデュエル手加減しない!」

「いい心掛けね。じゃああんた……えーと、誰だっけ?」

「そういやまだ名乗ってなかったな。俺は火野 翔一(ひの しょういち)ってんだ。まあ覚えなくていい。負ける奴に名前を覚えてもらう必要なんてないんだからな」

「……そのセリフ、そっくりそのままお返ししてやるわ!」

 

 デュエル前に息巻く二人を制するかのようにミハエルがレフェリーとして姿を現す。教師陣としても因縁のある2人がデュエルを通して暴走しないかを見守る必要があった。

 

「怨恨はあるかもしれない、だが、デュエルにおいて競うのは互いのデュエルタクティクスのみだ! 今はただデュエルに集中すること! それでは……デュエル開始!」

「「デュエル!」」

 

 ミハエルがデュエル開始を宣言したことによって、デュエルディスクが作動。デュエルディスクの内臓コンピューターによって先攻後攻の決定権は翔一に与えられ、翔一は先攻を取った。

 

(……私相手に先攻を取ったわね? いいわ、私の【サイバー・ドラゴン】デッキで華麗に後攻ワンキルを決めてやるんだから!)

 

 

先攻:翔一

後攻:千春

 

翔一 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

千春 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

翔一

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 □□□□□

千春

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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炎王の猛襲

 

 

「先攻は俺だ。俺は手札から永続魔法《炎舞-「天キ」》を発動する!」

 

《炎舞(えんぶ)-「天キ」》

永続魔法

「炎舞-「天キ」」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える事ができる。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドの獣戦士族モンスターの攻撃力は100アップする。

 

(天キ……ということは獣戦士族を主体にするデッキかしら?)

「天キの発動時の効果処理として、デッキからレベル4の獣戦士族モンスター《炎王獣 ガネーシャ》を手札に加える。そしてそのガネーシャを召喚」

 

《炎王獣(えんおうじゅう)ガネーシャ》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがフィールドに存在し、モンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし、このカード以外の自分の手札・フィールドの炎属性モンスター1体を選んで破壊する。

(2):このカードが破壊され墓地へ送られた場合、「炎王獣 ガネーシャ」以外の自分の墓地の炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。その特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズ時に破壊される。

 

「天キの効果でガネーシャの攻撃力は100ポイントアップする」

 

炎王獣 ガネーシャ ATK1800→1900

 

「俺はカードを2枚セット。ターンエンドだ」

 

 

翔一 LP8000 手札2枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(炎王獣 ガネーシャ)EXゾーン:0 魔法・罠:3(炎舞-「天キ」)墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

千春 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

翔一

 □天伏伏□

 □□□ガ□□

  □ □

 □□□□□□

 □□□□□

千春

 

○凡例

ガ・・・炎王獣 ガネーシャ

天・・・炎舞-「天キ」

 

 

「なるほど、彼のデッキは【炎王】ね」

 

 【炎王】は炎属性の鳥獣族・獣戦士族・獣族を中心に構成されたテーマであり、主にカードの効果で破壊されることで真価を発揮することができるデッキである。

 

「炎王のモンスターはカードの効果で破壊されることで効果を発動できるモンスターが大半を占めています。なのであのセットカードはそういった類のものでしょうか……」

「あら、詳しいのね皐月!」

「デュエルはあまり強くありませんが……カードのことを知るのは好きなので……」

 

 皐月は自分で言うように、デュエルの実戦はあまり得意ではないらしい。しかし、彼女にはそれを補って有り余るカードに対する知識があった。

 遊希たちがこれを知るのはまた後のことなのだが、セントラル校の筆記試験において首席入学の遊希を抑え全新入生で1位を取ったのは他ならぬ皐月だったのである。二次試験では思うようなデュエルができなかった彼女がアカデミアの狭き門をくぐり抜けられたのもこのカードに対する知識が物を言ったのだ。

 

(確か千春は自分で【サイバー・ドラゴン】使いと言っていたわね)

―――ああ。サイバー・ドラゴンは彼女が自分で言っていたように高い攻撃力でのワンショットキルが狙えるデッキだ。彼女の手札次第ではこのまま後攻ワンショットキルを決めることも難しくない。

(でも……そう上手く行かないのがデュエルなのよね)

 

 

☆TURN02(千春)

 

「私のターン、ドローよ! 相手のフィールドにだけモンスターが存在して、私のフィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できるわ! 来なさい!《サイバー・ドラゴン》!」

 

 千春のフィールドには銀色の身体をした機械の竜が現れる。彼女のデッキの中核を成すモンスターであり、デュエルモンスターズの長い歴史において「特殊召喚できる上級モンスター」の先駆けとも言えるのがこの《サイバー・ドラゴン》であった。

 

《サイバー・ドラゴン》

効果モンスター

星5/光属性/機械族/攻2100/守1600

(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

(サイバー・ドラゴン……となるとあいつのデッキは【表サイバー】か? だが、サイバー・ドラゴンは色々なデッキに入る。これだけで決めつけるのはまずいよな)

「更に通常召喚!《サイバー・ドラゴン・コア》!」

 

《サイバー・ドラゴン・コア》

効果モンスター

星2/光属性/機械族/攻400/守1500

このカード名の(2)(3)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

(2):このカードが召喚に成功した場合に発動する。デッキから「サイバー」魔法・罠カードまたは「サイバネティック」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(3):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「サイバー・ドラゴン」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 翔一は千春のデッキを探るため様子を伺おうとしたが、すぐにその必要はなくなった。サイバー・ドラゴンのみであれば《キメラテック・メガフリート・ドラゴン》の融合素材やランク5のXモンスターのX素材など様々な用途に使えるため、一概に千春のデッキを【サイバー・ドラゴン】と決めつけるのは早計極まりないと言えるだろう。しかし、サイバー・ドラゴン・コアが召喚されたとなれば話は別だ。

 

「サイバー・ドラゴン・コアの召喚に成功したことで効果を発動! デッキからサイバーかサイバネティックと名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えるわ!」

「させるか! サイバー・ドラゴン・コアの効果にチェーンして炎王獣 ガネーシャの効果を発動する!」

 

チェーン2(翔一):炎王獣 ガネーシャ→サイバー・ドラゴン・コア

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・コア

 

「チェーン2の炎王獣 ガネーシャの効果でその効果の発動を無効にする!」

「んなっ!?……ま、まあそうよね! コアの効果が無効にされても全然痛くも痒くもないんだから!」

 

 人間が生きていくにあたって、素直で正直なことは悪いことではなく、むしろ美点であると言っていい。しかし、デュエリストとして生きていくにはそれは別だ。

 

「日向さん……」

「うん、バレバレよね。あれ」

「アホなだけならともかく、あそこまであからさまだとどうしようもないわね」

―――言うな、言ってやるな……

 

 何もかもが思うがままに行かないのもまたデュエルの醍醐味であり、相手は常にこちらの勝ち筋を様々なカードを駆使して潰してくる、と思っていい。そうやって相手は自分が有利になるように仕向けるのだ。だが、相手の思惑を更に上回るだけのプレイングができれば、自然とこちらに流れが傾くのも事実である。

 そのため、例え自分にとって不利な流れになっても、ポーカーフェイスを貫くことで相手の思考を疲れさせることもまたデュエリストには求められる才能の一つだろう。そして、そういったところが千春が不得意ことなのである。

 

(あの様子だと、コアの効果を止められるとまずいようだったな)

 

 現に千春の一瞬見せた動揺した様子は、翔一に彼女の思考を読ませるには十分すぎるほどであった。

 

「そしてこの効果で無効にした後でガネーシャ以外の手札・フィールドの炎属性かつ鳥獣族・獣族・獣戦士族のモンスター1体を破壊する。俺が破壊するのは手札の《炎王獣 バロン》だ。コアの効果を発動したかったようだが、さすがに迂闊だったな」

「ええ! ガネーシャの効果でコアを止められるのはきついわね。でも、ガネーシャの効果はただ“無効にする”だけ。それじゃ不十分よ! 私はサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コアの2体をリンクマーカーにセット!」

 

 しかし、道筋を一つ潰したからといった勝てるほどデュエルモンスターズは甘くない。ガネーシャの効果で発動を無効にされたが、千春のフィールドには必要なだけのモンスターが揃っていたのだ。

 

「アローヘッド確認! 召喚条件はサイバー・ドラゴンを含む機械族モンスター2体! “私が追い求めるのはただ一つ! それは絶対的な力! そしてパーフェクトな勝利!”リンク召喚! 起動しなさい! リンク2《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》!」

 

《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/機械族/攻2100

【リンクマーカー:左/下】

「サイバー・ドラゴン」を含む機械族モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

(2):このカードが攻撃宣言をしていない自分・相手のバトルフェイズに、自分フィールドの攻撃力2100以上の機械族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで2100アップする。この効果の発動後、ターン終了時までこのカードの戦闘によるお互いの戦闘ダメージは0になる。

 

「っ、リンク召喚に繋げられたか……」

(ズィーガーのリンク召喚は定石。でも彼のセットカードが炎王と相性のいいカードだったら……)

―――それをどのタイミングで発動するか、だな。

 

 遊希と光子竜はまるで自分がデュエルをしているかのように、翔一の次の一手を考察する。自分だったら相手のセットカードをどう見るか、そして相手の思惑をどのようにして上回るか。最も考えるだけ考えたところで、結局このデュエルは千春のデュエルのため自分が何をしようと何も変わらない、という結論に至るのだが。

 

(ズィーガーに反応しない、ということはあれは召喚反応じゃないわね!)

「このターンで終わらせてあげるわ! 私は手札から魔法カード《オーバーロード・フュージョン》を発動!」

 

《オーバーロード・フュージョン》

通常魔法

(1):自分のフィールド・墓地から、機械族・闇属性の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

「私は墓地のサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コアの2体をゲームから除外し融合!“絶対なる力を持った機械の竜よ! 目に映る全てを破壊しつくしなさい!”融合召喚! 《キメラテック・ランぺージ・ドラゴン》!」

 

《キメラテック・ランぺージ・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星5/闇属性/機械族/攻2100/守1600

「サイバー・ドラゴン」モンスター×2体以上

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):このカードが融合召喚に成功した時、このカードの融合素材としたモンスターの数までフィールドの魔法・罠カードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地へ送る。このターン、このカードは通常の攻撃に加えて、この効果で墓地へ送ったモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

「融合召喚に成功したキメラテック・ランページ・ドラゴンの効果を発動するわ! 融合素材にしたモンスターの数まで相手フィールドの魔法・罠カードを破壊する! あなたのフィールドにセットされた魔法・罠カード2枚を破壊させてもらうわ!」

「やっぱり融合召喚してきたか……発動タイミングを間違えなくてよかったぜ! キメラテック・ランぺージ・ドラゴンの融合召喚成功時にリバースカードオープン! 罠カード《激流葬》!」

 

《激流葬》

通常罠

(1):モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

チェーン2(翔一):激流葬

チェーン1(千春):キメラテック・ランぺージ・ドラゴン→翔一のセットカード×2

 

「チェーン2の激流葬の効果でフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

 千春のサイバー・ドラゴン・ズィーガーとキメラテック・ランぺージ・ドラゴン、そして翔一の炎王獣 ガネーシャの3体のモンスターが押し寄せる激流に飲み込まれて消えていく。カードの効果で破壊されることで真価を発揮する炎王デッキにおいて、自分のモンスターと相手のモンスターを共に破壊できる激流葬の相性は抜群であったのだ。

 

「あーっ!! 私のモンスターがーっ!!」

「……俺が言うのもなんだが、お前もう少し相手のカードを警戒した方がいいと思うぞ?」

「そんなの言われなくてもわかってるわよ! キメラテック・ランぺージ・ドラゴンは破壊されたけど、チェーン1の効果の効果は適用されるわ! 激流葬を含むセットカード2枚を破壊よ!」

 

 激流葬によって破壊される寸前にキメラテック・ランぺージ・ドラゴンが放った光弾が翔一のフィールドのセットカード2枚を撃ち抜いた。これで文字通り全てのカードが押し流される形になったのだが、翔一のデッキは炎王だ。激流葬というパワーカードすらもアドバンテージに変えてくる。

 

「破壊されて墓地に送られたガネーシャの効果を発動! 墓地の炎属性・獣戦士族モンスター、炎王獣 バロンを効果を無効にして特殊召喚する!」

 

《炎王獣 バロン》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守200

自分フィールド上に表側表示で存在する「炎王」と名のついたモンスターがカードの効果によって破壊された場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

また、このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時に発動する。デッキから「炎王獣 バロン」以外の「炎王」と名のついたカード1枚を手札に加える。

 

「そしてガネーシャの効果で特殊召喚されたモンスターはこのターンの終了時に破壊される」

「どっちにしても効果で破壊されるってことじゃない!」

「そうだ。まあ戦闘破壊できればバロンのサーチ効果は発動しないけどな」

「ぐぬぬ……私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ!」

「ターン終了時にガネーシャの効果で特殊召喚されたバロンは破壊される」

 

 

翔一 LP8000 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1(炎舞-「天キ」)墓地:4 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

千春 LP8000 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:13(0)

 

翔一

 □天□□□

 □□□□□□

  □ □

 □□□□□□

 □□伏□□

千春

 

 

☆TURN03(翔一)

 

「俺のターン、ドロー。このスタンバイフェイズに前のターン終了時に効果で破壊されたバロンの効果を発動。デッキからバロン以外の炎王と名のついたカード1枚を手札に加える。俺が手札に加えるのは《炎王神獣 ガルドニクス》だ。そして手札のレベル8モンスター、ガルドニクスをコストにトレード・インを発動。デッキからカードを2枚ドローする」

「中々のコンボね……やるじゃない! でもまだデュエルは始まったばかり! この私を燃えさせるようなプレイングを見せてちょうだい!!」

(こいつ……自分が置かれた状況を分かっているのか?)

 

 得意戦術を潰された千春に対して、翔一はサーチ効果を駆使してデッキを自由自在に回転させる。まだ3ターン目ではあるが、鈴と皐月にはデュエルの明暗が既にはっきりしているように思えて仕方がなかった。

 

「あー、もう見てらんない。雲泥の差ってやつよね、これ」

「正直厳しい流れですね……日向さん」

「ねえ、あんたもそう思うでしょ、遊希?」

「……どうかしら」

「えっ?」

「……デュエルを見ている限り、千春はアホとしか言いようがないわ。正直ここに受かったのが不思議なレベルで。でも、まだ諦めていない。どんなに頭が良くてデュエルの才能があったとしても、諦めた時点でそのデュエルは負けてしまう。あの子が諦めない限り、このデュエルは続くわ」

 

 居た堪れなくなって言葉を選ぶ鈴と皐月に対し、はっきりとした物言いをする遊希。しかし、辛辣な言葉の裏で遊希は千春のデュエルに臨む姿勢“は”買っていた。不利な状況にあっても自分を見失わない。それは一見簡単なようで難しいことだ。かつてプロの世界で戦ってきた遊希はそれをすることの難しさをよく知っていたのである。

 

「俺は《熱血獣士ウルフバーク》を召喚! 召喚に成功したことでウルフバークの効果を発動!」

 

《熱血獣士ウルフバーク》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1600/守1200

「熱血獣士ウルフバーク」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地の獣戦士族・炎属性・レベル4モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「墓地の獣戦士族・炎属性・レベル4のバロンを守備表示で特殊召喚する。そして俺はウルフバークとバロンでオーバーレイ! 2体の獣戦士族モンスターでオーバーレイネットワークで構築! エクシーズ召喚! 来い、ランク4! 義侠に燃える勇士の長!《魁炎星皇-ソウコ》!」

 

《魁炎星皇(かいえんせいおう)-ソウコ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/獣戦士族/攻2200/守1800

獣戦士族レベル4モンスター×2

このカードをエクシーズ召喚した時、デッキから「炎舞」と名のついた魔法・罠カード1枚をセットできる。

また、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、獣戦士族以外のフィールド上の全ての効果モンスターの効果を相手ターン終了時まで無効にする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分フィールド上の表側表示の「炎舞」と名のついた魔法・罠カード3枚を墓地へ送る事で、同じ攻撃力を持つレベル4以下の獣戦士族モンスター2体をデッキから守備表示で特殊召喚する。

 

「X召喚に成功したソウコの効果を発動! デッキから炎舞-「天キ」1枚をセット。そして2枚目の天キを発動し、俺は2体目のガネーシャを手札に加える! そして天キが2枚存在することにより、ソウコの攻撃力は200ポイントアップする!」

 

魁炎星皇-ソウコ ORU:2 ATK2200→2400

 

「俺はバトルフェイズに移る! ソウコでダイレクトアタック! “猛虎火炎拳”!」

 

魁炎星皇-ソウコ ORU:2 ATK2400

 

千春 LP8000→5600

 

「いたたた……いきなり2400のダメージは痛すぎるわよ……でもまだこれくらいなら……」

「悪いがまだ終わらない! 俺は手札からソウコを対象に速攻魔法を発動! ソウコを破壊!そしてその効果で俺の墓地に眠っている俺のデッキの切り札を呼び覚ます! 燃え上がれ―――炎王神獣 ガルドニクス!!」

 

 ソウコの立っていた場所には、真紅の翼を持った巨大な鳥のようなモンスターが噴き上がる炎とともに火山の噴火の如く激しい咆哮をあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《サイバネティック・オーバーフロー》の効果に誤認があったので、内容を一部修正しました。


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消えない火

 

 

 

 

《炎王神獣 ガルドニクス》

効果モンスター

星8/炎属性/鳥獣族/攻2700/守1700

このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。

また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の「炎王」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

 

「俺はソウコを対象に手札から速攻魔法《炎王炎環》を発動した」

 

《炎王炎環(えんおうえんかん)》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの炎属性モンスター1体と自分の墓地の炎属性モンスター1体を対象として発動できる。対象の自分フィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを特殊召喚する。

 

「ソウコを破壊し、トレード・インのコストで墓地に送られていたガルドニクスを特殊召喚した。そして今はまだ俺のバトルフェイズ中! ガルドニクスでダイレクトアタック!“炎王炎翼”!」

 

炎王神獣 ガルドニクス ATK2700

 

千春 LP5600→2900

 

「あっちちちっ……!」

「これでお前のライフは残り2900。そして俺の手札には天キの効果でサーチしたガネーシャがいる。次のターン、こいつを召喚すれば2枚の天キで強化されて総攻撃力は4700になるぜ。こいつらでのダイレクトアタックが決まれば……」

「でもそれは私がモンスターをフィールドに出せなかった時の話よね?」

「その残り1枚の手札で出せれば、な。俺はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2は何もせずにターンエンドだ」

 

 

翔一 LP8000 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(炎王神獣ガルドニクス)EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:13(0)

 

 

翔一

 □天天□□

 □□□ガ□□

  □ □

 □□□□□□

 □□伏□□

千春

 

○凡例

ガ・・・炎王神獣 ガルドニクス

 

 

☆TURN04(千春)

 

「私のターン、ドロー!……せっかくだから事前に教えておいてあげるわ!」

「あ?」

「私はこのターンでそのガルドニクスを無力化させてもらうわ! 私は《サイバー・ドラゴン・ドライ》を召喚!」

 

《サイバー・ドラゴン・ドライ》

効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻1800/守800

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

(2):このカードが召喚に成功した時に発動できる。自分フィールドの全ての「サイバー・ドラゴン」のレベルを5にする。この効果を発動するターン、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

(3):このカードが除外された場合、自分フィールドの「サイバー・ドラゴン」1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは戦闘・効果では破壊されない。

 

「サイバー・ドラゴン・ドライの召喚に成功したことで効果を発動! 自分フィールドのサイバー・ドラゴンのレベルを5にする! そしてその効果にチェーンして手札の《サイバー・ドラゴン・フィーア》の効果を発動!」

 

《サイバー・ドラゴン・フィーア》

効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻1100/守1600

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

(2):自分が「サイバー・ドラゴン」の召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの全ての「サイバー・ドラゴン」の攻撃力・守備力は500アップする。

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・フィーア

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ドライ

 

「チェーン2のフィーアの効果! サイバー・ドラゴンとして扱うドライの召喚に成功したことでフィーアを守備表示で特殊召喚するわ! フィーアが存在する限り、私の全てのサイバー・ドラゴンの攻守は500ポイントアップ!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ ATK1800/DEF800→ATK2300/DEF1300

サイバー・ドラゴン・フィーア ATK1100/DEF1600→ATK1600/DEF2100

 

「そしてドライの効果でフィールドのサイバー・ドラゴン2体のレベルを5にするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 星4→星5

サイバー・ドラゴン・フィーア 星4→星5

 

「レベル5・機械族……そういうことかよ」

「気付いたようね、ガルドニクスの弱点に! 私はレベル5・機械族モンスターのサイバー・ドラゴン・ドライとサイバー・ドラゴン・フィーアでオーバーレイ! 2体の機械族モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!“サイバー・ドラゴンの進化は止まらない! 新星のように煌めきなさい!”サイバー・ドラゴン・ノヴァ! そしてサイバー・ドラゴン・ノヴァでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! エクシーズ・チェンジ! “無限の力でこのデュエルの未来を切り拓きなさい!”サイバー・ドラゴン・インフィニティ!!」

 

 ガルドニクスに限らず、炎王に属するモンスターは効果で破壊され、墓地に送られることで発動できる効果を持っている。その対策の一つが「墓地に送らせない」ということであり、千春のデッキにおいてその解が相手のモンスターを自身のX素材にできるサイバー・ドラゴン・インフィニティであった。

 

「ガルドニクスを対象にサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動! そのモンスターをサイバー・ドラゴン・インフィニティのX素材にするわ!」

 

 サイバー・ドラゴン・インフィニティから放たれた光がガルドニクスを真紅の光球へと変えて吸収する。これでガルドニクスはインフィニティのX素材になり、インフィニティがフィールドを離れるか、X素材を消費するかしなければ翔一の墓地に戻ることは無い。

 

「そしてインフィニティの攻撃力はX素材の数×200ポイントアップするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK2100→2900

 

「これであなたのエースモンスターは封じさせてもらったわ! バトルよ! サイバー・ドラゴン・インフィニティでダイレクトアタック! “エヴォリューション・インフィニティ・バースト”!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK2900

 

翔一 LP8000→5100

 

「ちっ……こうも簡単にインフィニティ出すのかよ」

「元々サイバー・ドラゴンモンスターなんだから出せて当たり前よ! 私はバトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移るわ。とはいえ、手札はないし、もうできることはないわ。ターンエンドよ!」

 

 

翔一 LP5100 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4)魔法・罠:1 墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:11(0)

 

翔一

 □天天□□

 □□□□□□

  □ ∞

 □□□□□□

 □□伏□□

千春

 

○凡例

∞・・・サイバー・ドラゴン・インフィニティ

 

 

「やりましたね、戦況をひっくり返しました!」

「千春もなんだかんだ言ってやるじゃない、ねえ遊希」

「ええ、そうね」

―――ガルドニクスを墓地に送らせず、かつカードの発動を無効にする効果を持つサイバー・ドラゴン・インフィニティを維持できれば、千春がデュエルを優勢に進められるだろうな。

(でもガルドニクスをエースにしているということは、その弱点を知っているということでもあるわ。サイバー・ドラゴン・インフィニティのようなモンスターを出された時の対策手段もあるはず……火野君がその手段をどのようにして引き入れるか、ということが鍵となりそうね)

 

 

☆TURN05(翔一)

 

「俺のターン、ドロー!……今は我慢の時か。俺はモンスターをセット。これでターンエンドだ」

 

 

翔一 LP5100 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4)魔法・罠:1 墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:11(0)

 

翔一

 □天天□□

 □□モ□□□

  □ ∞

 □□□□□□

 □□伏□□

千春

 

凡例

モ・・・セットモンスター

 

 

☆TURN06(千春)

 

「私のターン、ドローよ! 守勢に回らざるを得ないようね! このまま行かせてもらうわ! バトル! サイバー・ドラゴン・インフィニティでセットモンスターを攻撃よ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK2900 VS 炎王獣 ガネーシャ DEF200

 

「破壊され、墓地に送られたガネーシャの効果を発動する。墓地のガネーシャ以外の炎王モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する!」

「そんな効果発動させるわけないじゃない! その効果にチェーンしてインフィニティの効果を発動よ!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・インフィニティ

チェーン1(翔一):炎王獣 ガネーシャ

 

「チェーン2のインフィニティの効果、X素材を1つ取り除き、その効果の発動を無効にして破壊するわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4→3 ATK2900→2700

 

「チェーン1のガネーシャの効果は無効化されるため発動できない」

「悪いけど、インフィニティの前で好き勝手させないわ。まあ私的にはあんまり好きなスタイルじゃないけど……バトルフェイズを終了。私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

 

翔一 LP5100 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3)魔法・罠:2 墓地:4 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:11(0)

 

翔一

 □天天□□

 □□□□□□

  □ ∞

 □□□□□□

 □□伏伏□

千春

 

 

☆TURN07(翔一)

 

「俺のターン、ドロー!……サイバー・ドラゴン・インフィニティ。俺のデッキにとっては天敵もいいところだな」

「……今更気づいたの? まあ天敵のいないデッキ、弱点のないデッキなんて存在しないわ。あなたにも私にもね」

「全くだな。そしてそのサイバー・ドラゴン・インフィニティにも弱点はある! こんなふうにな!」

 

 翔一が1枚のカードをデュエルディスクに置くと、千春のフィールドのサイバー・ドラゴン・インフィニティの姿が消える。そしてインフィニティがいたはずのその場所には灼熱の炎を纏った恐竜のようなモンスターが現れていた。

 

「……壊獣……っ!!」

「サイバー・ドラゴン・インフィニティをリリースし、お前のフィールドに《怒炎壊獣ドゴラン》を特殊召喚するぜ!」

 

《怒炎壊獣ドゴラン》

効果モンスター

星8/炎属性/恐竜族/攻3000/守1200

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):1ターンに1度、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを3つ取り除いて発動できる。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

「ドゴラン……なるほど、ガルドニクスの効果で破壊できないモンスターをこのカードでリリースして対処するってことね! それでいてレベル8で炎属性だからガルドニクスともある程度はサポートを共有できる。やるじゃない」

「お褒め頂いて光栄だが、そんな余裕はあるかな? 更に俺は手札から魔法カード《炎王の急襲》を発動!」

 

《炎王の急襲》

通常魔法

相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズ時に破壊される。

「炎王の急襲」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

「この効果で俺はデッキから2体目のガルドニクスを特殊召喚する! この効果で特殊召喚に成功したガルドニクスの効果は無効化され、このターンの終了時に破壊される。でも戦闘は行うことができる」

「……ガルドニクスの攻撃力は2700。対するドゴランの攻撃力は3000よ?」

 

 ガルドニクスは効果で破壊されることで、次のターンのスタンバイフェイズに自己蘇生しつつ自身以外のフィールドのモンスターを全て破壊する。炎王というデッキは主に効果で破壊することを狙ったデッキであるが、ガルドニクスは戦闘破壊されてもデッキから自身以外の炎王を特殊召喚することが可能なため、効果で破壊されなくても戦線を維持することはできる。最も炎王の急襲の効果で自壊することが決まっているのにも関わらず、ここでドゴラン相手に自爆特攻を仕掛けるメリットは万に一つもないのだ。

 

「ああ。このまま攻撃を仕掛けたら炎王の急襲でガルドニクスを出す意味がなくなっちまうからな。俺は《暗炎星-ユウシ》を召喚!」

 

《暗炎星-ユウシ》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1600/守1200

1ターンに1度、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、デッキから「炎舞」と名のついた魔法カード1枚を選んで自分フィールド上にセットできる。

また、1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する「炎舞」と名のついた魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

 

暗炎星-ユウシ ATK1600→1800

 

「暗炎星-ユウシは俺のフィールドの炎舞1枚を墓地に送ることでフィールドのモンスター1体を選択して破壊する」

 

 翔一のフィールドには既に発動している炎舞-「天キ」が2枚。この2枚のうち1枚をコストにしてドゴランを破壊すれば、千春のフィールドからモンスターが消える。しかし、それに気づかない千春ではない。

 

「ユウシ……そういうことね、させないわ! リバースカードオープン!」

「このタイミングでリバースカードだと!?」

「罠カード《サイバネティック・オーバーフロー》を発動するわ!」

 

《サイバネティック・オーバーフロー》

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・墓地及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、「サイバー・ドラゴン」を任意の数だけ選んで除外する(同じレベルは1体まで)。その後、除外した数だけ相手フィールドのカードを選んで破壊する。

(2):フィールドのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「サイバー」魔法・罠カードまたは「サイバネティック」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「墓地のレベル4、サイバー・ドラゴン・フィーアをゲームから除外する! そして除外した数だけ相手フィールドのカードを破壊するわ! 破壊するのはもちろんユウシよ!」

「ちっ……感付かれたか。まあいい、どっちにしてもインフィニティを突破した今お前に守る手段はあるかな? ターンエンドだ。この瞬間、炎王の急襲で特殊召喚したガルドニクスは破壊される」

 

 

翔一 LP5100 手札0枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:12 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(怒炎壊獣ドゴラン)EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:11(0)

 

翔一

 □天天□□

 □□□□□□

  □ □

 □□怒□□□

 □□伏□□

千春

 

凡例

怒・・・怒炎壊獣ドゴラン

 

 

☆TURN08(千春)

 

「私のターン、ドローよ!」

「このスタンバイフェイズに前のターンに効果で破壊され、墓地に送られたガルドニクスの効果を発動! 自身を特殊召喚し、自身以外のフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

 溶岩と共に舞い上がるガルドニクスは、同じ炎の力を操るドゴランすらもその炎で焼き尽くした。幸い千春のターンであるため、このターンでガルドニクスの攻撃を受けることはない。しかし、このターンで反撃の手段を用意しなければ、間違いなく押し切られてしまうだろう。

 

「私はモンスターをセット。ターンエンドよ」

 

 幸いにも壁となるモンスターを引くことができた千春は、そのモンスターをセットしてターンを終了する。遊希が以前に指摘したように、この時点ではやはり千春が劣勢となっている。しかし、彼女の瞳の中の炎はまだ消えてはいなかった。

 

 

翔一 LP5100 手札0枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:1(炎王神獣 ガルドニクス)EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:11(0)

 

翔一

 □天天□□

 □□□□□□

  □ □

 □□モ□□□

 □□伏□□

千春

 

 

 

 



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気持ちの闘い

 

 

 

 

☆TURN09(翔一)

 

「俺のターン、ドロー! バトルフェイズ!」

 

 ドローカードを確認すると同時に即座にバトルフェイズに移る翔一。これまでにない積極攻勢に彼が勝負を決めに来ていることがわかる。

 

「ガルドニクスでそのセットモンスターを攻撃! 炎王炎翼!」

 

 ガルドニクスの燃え盛る翼が千春のセットモンスターを焼き尽くす。千春のデッキはサイバー・ドラゴンデッキである以上、セットされているモンスターはサイバー・ドラゴン系列のモンスターであり、ただの壁モンスターでしかない―――しかし、ここで翔一は自分が勝ちに焦ったことを思い知らされる。何故ならセットされていたモンスターはサイバー・ドラゴン系列のモンスターではなかったからだ。

 

炎王神獣 ガルドニクス ATK2700 VS 超電磁タートル DEF1800

 

「《超電磁タートル》……」

 

《超電磁タートル》

効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻0/守1800

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。そのバトルフェイズを終了する。

 

「本当はランぺージの効果で墓地に送りたかったんだけどね。でもここで来てくれたのはラッキーだったわ!」

(ちっ、さすがに急ぎ過ぎたか。だが、超電磁タートルは早めに消費させるに限る!)

「俺は手札から速攻魔法、炎王炎環をフィールドのガルドニクスと墓地のガルドニクスを対象に発動! フィールドのガルドニクスを破壊し、墓地のガルドニクスを特殊召喚する!」

 

 ガルドニクスの身体を焼き尽くして新たなガルドニクスが墓地から蘇る。仮に千春のセットモンスターが超電磁タートルでなかったら、このターンで千夏の残りライフはわずか200にまで減らされていただろう。

 

「炎王炎環で特殊召喚されたガルドニクスでダイレクトアタック!」

「墓地の超電磁タートルの効果を発動するわ! このカードをゲームから除外して、バトルフェイズを強制終了させる!」

「そう、お前はそうせざるを得ない。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移る。運良く超電磁タートルでこのターンの攻撃を凌いだようだが、お前は今の状況を理解できているか?」

「……状況?」

「俺のフィールドにはガルドニクスが存在し、そして墓地には効果で破壊されたガルドニクスが存在する。次のターンのスタンバイフェイズに、このターン炎王炎環で破壊されたガルドニクスが蘇り、フィールドのガルドニクスを破壊するのさ」

 

 炎王デッキならではのコンボの一つが、フィールドに1体目のガルドニクスが存在し、墓地に効果で破壊された2体目のガルドニクスが存在する場合に成立するコンボである。効果で破壊された次のターンのスタンバイフェイズに、墓地の2体目のガルドニクスが自身の効果で特殊召喚され、フィールドの1体目のガルドニクスを破壊する。そして墓地には1体目のガルドニクスの蘇生効果時に効果で破壊された2体目のガルドニクスが存在する。その次のターンにはその2体目のガルドニクスが効果で墓地から蘇るのだ。

 

「……ガルドニクスが毎ターン蘇生するってことね」

「そうだ。つまり俺は毎ターン《ブラック・ホール》を撃てるってことだ」

 

 ブラック・ホールは今でこそ無制限カードであるが、かつては敵味方問わず全てのフィールドのモンスターを破壊することから禁止カードにも指定されていたほどのパワーカードである。千春はそのコンボを止める術を講じなければ、どれだけモンスターを展開したところでガルドニクスの前に焼き尽くされてしまうのだ。

 

「どうせなら1ターン目から決めたいコンボだったが、残りライフ2900のお前にトドメを刺すには十分なコンボだと思うぜ?」

「……そっか。じゃああなたのメインフェイズ2に私はリバースカードを発動させてもらうわ!」

「リバースカード? このタイミングで……?」

 

 千春のフィールドには彼女の最初のターンからセットされていたカードがあった。ずっと発動されないことから、翔一がブラフのカードだと判断してずっと放置していたカードだ。

 

「速攻魔法《サイバーロード・フュージョン》を発動!」

 

《サイバーロード・フュージョン》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールド及び除外されている自分のモンスターの中から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、「サイバー・ドラゴン」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。このターン、この効果で特殊召喚したモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

 

「サイバーロード・フュージョンは、自分のフィールドもしくは除外されているモンスターの中からサイバー・ドラゴンモンスターを融合素材にする融合モンスターをエクストラデッキから融合召喚するカードよ! 私はゲームから除外されているサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コア、そしてサイバー・ドラゴン・フィーアの3体をデッキに戻し、融合!!」

 

 次元の狭間から戻ってきたサイバー・ドラゴンを含む3体の機械族モンスターの身体が光の中へ消えていく。そして現れたのは、まるで東洋の龍の如く長い身体を持った神々しさを思わせるサイバー・ドラゴンだった。

 

「“その名に刻みしは永遠。守護の力を以て私たちに勝利をもたらしなさい!”融合召喚! 舞い降りなさい!《サイバー・エタニティ・ドラゴン》!!」

 

《サイバー・エタニティ・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星10/光属性/機械族/攻2800/守4000

「サイバー・ドラゴン」モンスター+機械族モンスター×2

(1):自分の墓地に機械族の融合モンスターが存在する場合、このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):融合召喚したこのカードが相手によって墓地へ送られた場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「サイバー・ドラゴン」1体を選んで特殊召喚する。

(3):墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの融合モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン DEF4000

 

「守備力4000だと……だが、どんなに高いステータスを持ったモンスターでもガルドニクスの前には灰になるだけだ! ターンエンド!」

 

 

翔一 LP5100 手札0枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(炎王神獣 ガルドニクス)EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(サイバー・エタニティ・ドラゴン)魔法・罠:0 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:10(0)

 

 

翔一

 □天天□□

□□□ガ□□

  □ エ

 □□□□□□

 □□□□□

千春

 

凡例

エ・・・サイバー・エタニティ・ドラゴン

 

 

☆TURN10(千春)

 

「私のターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズに墓地のガルドニクスは蘇る! そして自分以外の全てのモンスターを破壊する!」

 

 墓地から灼熱の炎と共にガルドニクスが蘇り、全てを炎で包み込む。翔一のフィールドに存在していたガルドニクスがその炎に飲み込まれて消えていく中、同じように炎に包まれたサイバー・エタニティ・ドラゴンはまるで眠る龍のようにとぐろを巻いたままその場に鎮座し続けていた。

 

「なっ……どうしてサイバー・エタニティ・ドラゴンは破壊されない!?」

「私の墓地に融合モンスターが存在する場合、サイバー・エタニティ・ドラゴンは相手のカードの効果の対象にならず、相手のカードの効果では破壊されないわ!」

 

 千春の墓地には後攻1ターン目に激流葬によって破壊されたキメラテック・ランぺージ・ドラゴンが存在する。そのためサイバー・エタニティ・ドラゴンは自身の効果によって相手の効果による破壊を免れるのだ。

 

「っ……」

「ねえ、私わかっちゃったわ。ガルドニクスの弱点。ガルドニクスをサイバー・ドラゴン・インフィニティのようなモンスターで墓地に送らせないのはそうだけど、ガルドニクスより攻撃力もしくは守備力が高く、効果で破壊されないモンスターを出されたら、どうするのかしら?」

 

 千春の指摘はまさにガルドニクスを主軸にする炎王デッキの弱点と言えた。ガルドニクスの強みは自身の特殊召喚効果と破壊効果で文字通りフィールドを焼け野原にするということ。仮に攻撃力で劣っていたとしても、自身の効果でそのモンスターを破壊し、そして毎ターン蘇生と破壊を繰り返すことで相手に大型モンスターを出させないことでデュエルの流れを自分のものにする。それが翔一の基本戦術なのだ。

 そのため、千春のサイバー・エタニティ・ドラゴンはもちろん、鈴が切り札として愛用しているブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンも効果で破壊されず、ガルドニクスを上回る攻撃力を持っているため、天敵と言える。その対策として彼はそれらのモンスターをリリースすることで間接的に除去できる怒炎壊獣ドゴランを採用しているのだ。

 

「もちろんさっきインフィニティをドゴランでリリースしたのと同じように、あなたが2体目のドゴランを引ければあなたの勝ちかもしれないわ。でも、どれほど強力なカードであっても手札に引き入れられなきゃ意味がないのよ!」

「ちっ、だったら引き入れられるまで耐えるだけだ!」

「そうね、その意気よ! デッキはデュエリストの闘志に応えてくれる。あなたの勝ちたいという想いが強ければ、強いほどデッキはそれに応えてくれるのよ! ここからは理屈じゃない。私とあなた、どっちの勝ちたいという気持ちが強いかの勝負よ! メインフェイズ1、私は手札から魔法カード《サイバー・レヴシステム》を発動!」

 

《サイバー・レヴシステム》

通常魔法

(1):自分の手札・墓地から「サイバー・ドラゴン」1体を選んで特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果では破壊されない。

 

「私は墓地のサイバー・ドラゴン・ズィーガーを特殊召喚!」

「リンクモンスターを蘇生したか……」

「そしてサイバー・エタニティ・ドラゴンを攻撃表示に変更してバトルよ! サイバー・エタニティ・ドラゴンで炎王神獣 ガルドニクスを攻撃!」

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン ATK2800 VS 炎王神獣 ガルドニクス ATK2700

 

「この瞬間、フィールドのサイバー・エタニティ・ドラゴンを対象にサイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果を発動! ターン終了時までそのモンスターの攻撃力・守備力を2100アップさせるわ!」

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン ATK2800/DEF4000→ATK4900/DEF6100

 

「攻撃力4900!?」

「不死鳥を撃ち落としなさい!“エタニティ・エヴォリューション・バースト”!!」

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン ATK4900 VS 炎王神獣 ガルドニクス ATK2700

 

翔一 LP5100→2200

 

「戦闘で破壊されて墓地に送られたガルドニクスの効果を発動! デッキからガルドニクス以外の炎王1体を特殊召喚する! 俺はガネーシャを守備表示で特殊召喚!」

「じゃあサイバー・ドラゴン・ズィーガーでガネーシャを攻撃!」

 

サイバー・ドラゴン・ズィーガー ATK2100 VS 炎王獣 ガネーシャ DEF200

 

「破壊され、墓地に送られたガネーシャの効果を発動! 戦闘で破壊された方のガルドニクスを特殊召喚する!」

「確かガネーシャの効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、このターンの終了時に破壊されるのよね?」

「そうだ。これで俺のフィールドにはガルドニクスが絶えることはない」

「バトルフェイズを終了。私はこれでターンエンドよ」

「ターン終了時にガネーシャの効果で特殊召喚されたガルドニクスは破壊される」

 

 

翔一 LP2200 手札0枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×2)墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2900 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(サイバー・ドラゴン・ズィーガー)EXゾーン:1(サイバー・エタニティ・ドラゴン)魔法・罠:0 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:10(0)

 

 

翔一

 □天天□□

□□□□□□

  □ エ

 □□□ズ□□

 □□□□□

千春

 

凡例

ズ・・・サイバー・ドラゴン・ズィーガー

 

 

「一気に目まぐるしく動くようになったわね……デュエルはどうなるのかしら?」

「火野さんの狙いはガルドニクスを壁として維持し続けてターンを稼ぎ、ドゴランを手札に引き入れるのを待つ、といったところでしょうか……」

「対する千春はその前に二の矢三の矢を用意して彼のライフを0にできるか、というところね」

(今有利なのは攻勢に入っている千春。だけど、最後まで油断は禁物よ。相手のライフが0になるまでは勝ちを確信してはいけない。それが……デュエルの鉄則)

 

 

☆TURN11(翔一)

 

「俺のターン、ドロー!……スタンバイフェイズに墓地のガルドニクスは復活! そしてフィールドのモンスターを全て破壊する!」

「サイバー・エタニティ・ドラゴンは墓地に融合モンスターが存在するので破壊されない! そしてサイバー・ドラゴン・ズィーガーもサイバー・レヴシステムによって墓地から特殊召喚されたため、効果では破壊されないわ!」

「墓地の2体目のガルドニクスの効果も発動! 自身を特殊召喚し、フィールドのモンスターを全て破壊! 先に特殊召喚されたガルドニクスを破壊する!」

「何度やっても一緒! エタニティもズィーガーも破壊されないわ!」

「ああ、確かに今のままじゃエタニティともズィーガーも倒せない。だからこうする。俺は手札から魔法カード《貪欲な壺》を発動!」

 

《貪欲な壺》

通常魔法

(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

「俺は墓地の炎王獣 バロン、炎王獣 ガネーシャ、熱血獣士ウルフバーク、暗炎星-ユウシ、魁炎星皇-ソウコの計5体のモンスターをデッキに戻し、シャッフル。そして2枚ドロー! 俺は2体目の熱血獣士ウルフバークを召喚!」

「ここで2体目のウルフバーク……まさか」

「そうだ! サイバー・エタニティ・ドラゴンとサイバー・レヴシステムで特殊召喚されたサイバー・ドラゴン・ズィーガーを突破する鍵はここにある! 俺はウルフバークの効果で墓地のガネーシャを特殊召喚! そしてこの2体でもう一度ランク4の魁炎星皇-ソウコをX召喚! X召喚に成功したことで俺は3枚目の炎舞-「天キ」をセット。そして発動し、デッキから炎王獣 バロンを手札に加える!」

 

魁炎星皇-ソウコ ORU:2 ATK2200→2500

 

「そしてソウコの効果を発動! X素材を1つ取り除くことで、次の相手ターン終了時まで獣戦士族モンスター以外のモンスターの効果を無効にする! この効果は対象を取る効果ではないため、サイバー・エタニティ・ドラゴンの効果をすり抜ける!!」

 

 ソウコの闘気は猛る虎を模した炎となってフィールドを覆いつくす。ソウコ以外のフィールドに存在するモンスターは全て獣戦士族モンスターではないため、この効果によってその効果を無効にされる。当然サイバー・エタニティ・ドラゴンの「相手のカードの対象にならず、相手のカードの効果では破壊されない」効果も無力化され、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの「バトルフェイズ時に攻撃力2100以上の機械族の攻撃力・守備力をターン終了時まで2100アップさせる効果」も発動不可能になってしまった。

 

「……さすがにそれは予想外だったわ。まさかこの2体をまとめて無力化されちゃうなんて」

「常に相手の予想を裏切るのがデュエルってものだろ? バトルフェイズだ! 炎王神獣 ガルドニクスでサイバー・ドラゴン・ズィーガーを攻撃! 炎王炎翼!」

 

炎王神獣 ガルドニクス ATK2700 VS サイバー・ドラゴン・ズィーガー ATK2100

 

千春 LP2900→2300

 

「俺はこれでバトルフェイズを終了。そして、ターンエンドだ」

 

 

翔一 LP2200 手札3枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(炎王神獣 ガルドニクス)EXゾーン:1(魁炎星皇-ソウコ ORU:1)魔法・罠:2(炎舞-「天キ」×3)墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

千春 LP2300 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(サイバー・エタニティ・ドラゴン)魔法・罠:0 墓地:10 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:10(0)

 

翔一

 □天天□□

□□□ガ□□

  魁 エ

 □□□□□□

 □□□□□

千春

 

 

☆TURN12(千春)

 

「私のターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズに墓地のガルドニクスが復活する!」

「だったらそのガルドニクスの効果にチェーンして手札から増殖するGの効果を発動よ! 相手が特殊召喚に成功するたびに私はデッキからカードを1枚ドローしなければいけないわ!」

「……互いにドローの運は強いようだな」

 

チェーン2(千春):増殖するG

チェーン1(翔一):炎王神獣 ガルドニクス

 

「チェーン2の増殖するGの効果が適用された後、チェーン1でガルドニクスを墓地から特殊召喚! そしてフィールドのガルドニクス以外のモンスターを全て破壊する! ソウコの効果でフィールドの獣戦士族モンスター以外の効果はこのターンの終了時まで無効になっているため、サイバー・エタニティ・ドラゴンも破壊される!!」

 

 灼熱の炎によって焼け落ちていくサイバー・エタニティ・ドラゴン。よもやこのモンスターが突破されるとは思っていなかった千春の顔にもさすがに焦りが浮かぶ。

 

「そしてフィールドから墓地に送られたソウコの効果も発動! フィールドの天キ3枚を墓地に送り、デッキから同じ攻撃力を持つレベル4以下の獣戦士族モンスター2体を表側守備表示で特殊召喚する! 来い、バロン! ガネーシャ!」

「ガルドニクスだけじゃなく2体のモンスターを展開した!? でもそのモンスターも……」

「ああ、2体目のガルドニクスの効果で破壊される……が、お前は増殖するGを発動しているからな。2体目のガルドニクスの効果は発動しない」

 

 増殖するGを発動したため、千春の手札は本来の数より1枚増えて2枚になっていた。厄介なエタニティを除去した今、状況は一転して翔一が有利な形になっていた。仮にここでガルドニクスを撃破されたところで残った2体の炎王獣でランク4のXモンスターをX召喚するなりすればいくらでも勝負を決めに行ける。そんな状況で更に特殊召喚して千春に逆転の芽を渡すわけにはいかなかった。

 

「……そうね、それが正しい判断かもしれないわね。でも、このデュエルは私の勝ちで終わりよ! 私は《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を召喚!」

 

《サイバー・ドラゴン・ネクステア》

効果モンスター

星1/光属性/機械族/攻200/守200

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

(2):手札からこのカード以外のモンスター1体を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(3):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、攻撃力または守備力が2100の、自分の墓地の機械族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「サイバー・ドラゴン・ネクステアの召喚に成功した場合、墓地の攻撃力または守備力が2100の機械族モンスター1体を特殊召喚できるわ! 対象は―――サイバー・ドラゴン・インフィニティ!」

「サイバー・ドラゴン・インフィニティ……っ、その効果は通させない! その効果にチェーンしてガネーシャの効果を発動!」

 

チェーン2(翔一):炎王獣 ガネーシャ

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ネクステア

 

「ネクステアの効果を無効にする! そして手札のバロンを破壊する!」

「……まあ、止めてくるわよね。インフィニティを蘇生させられたらたまったもんじゃないから。でも、そっちに効果を使ってくれてありがとね!」

「っ……まさかネクステアは囮!?」

「そのまさかよ! 私はフィールドと墓地から光属性・機械族のモンスターを全てゲームから除外し、《サイバー・エルタニン》を特殊召喚!!」

 

《サイバー・エルタニン》

特殊召喚・効果モンスター

星10/光属性/機械族/攻?/守?

このカードは通常召喚できない。自分の墓地及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、機械族・光属性モンスターを全て除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力・守備力は、このカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×500になる。

(2):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動する。このカード以外のフィールドの表側表示モンスターを全て墓地へ送る。

 

「サイバー・エルタニンの攻撃力はこのカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×500ポイントになるわ!」

 

 千春がサイバー・エルタニンの特殊召喚のためにゲームから除外したのはネクステア、ドライ、エタニティ、ズィーガー、ノヴァ、インフィニティのサイバー・ドラゴン系列のモンスター計6体。よってサイバー・エルタニンの攻撃力と守備力は3000にまで上昇する。

 

サイバー・エルタニン ATK?/DEF?→ATK3000/DEF3000

 

「そしてサイバー・エルタニンの特殊召喚に成功した場合に発動! このカード以外のフィールドの表側表示モンスターを全て墓地に送る! 光と共に消え去りなさい!“コンステイション・シージュ”!」

 

 エルタニンの放った光と共に天に昇っていった3体の炎王たちの魂が消える。それはまさに夜空に星が昇るかのように美しく、儚かった。

 

「……俺のモンスターが……」

「破壊じゃなくて墓地送り。これじゃ炎王の効果は発動できないわね。バトルよ! サイバー・エルタニンでダイレクトアタック!“ドラコニス・アセンション”!!」

 

サイバー・エルタニン ATK3000

 

翔一 LP2200→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったぁー! このデュエル、私の勝ちよ!!」

 

 サイバー・エルタニンの直接攻撃を受けたことにより、翔一のライフは0になった。このデュエルの勝者となった千春は子供のようにぴょんぴょんとジャンプして喜びを全身で表す。このデュエルには遊希と鈴の名誉がかかっていたのもあるが、やはりデュエルに勝つことはデュエリストなら当然嬉しかった。

 

「遊希! 鈴! 見ててくれた!?」

「見てたわよ。いいデュエルだったわ」

 

 デュエルフィールドから駆け下りた千春は傍らでデュエルの行く末を見守っていた遊希たちに飛びつくように抱き着いた。それだけ彼女も気張っていたのだろう。

 

「……おい」

 

 そんな時、敗れた翔一たち一行が遊希たちの下へやってきた。翔一はもちろん、彼の仲間達は皆複雑な表情をしていた。

 

「何? 言っておくけど遊希たちの悪口については……」

「さっきの態度、悪かった!」

 

 デュエルに勝って得意げになる千春に対し、翔一たちは一斉に頭を下げる。デュエルの前とは人が変わったかのような態度に千春は首を傾げた。

 

「あら、いやに素直ね」

「実はな……」

 

 翔一曰く遊希と鈴の噂は前々から彼らが主張していたように、他の学生たちの間から何処からか流れて来たものであったという。そして偶然その話をしていた時にそれを千春に聞かれ、しつこく問い質されたことで彼らのヒートアップし、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。

 

「つまり皆さんははその噂を初めから信じていなかった、ということですか?」

「ああ、てか信じるわけないだろ普通。まあそこのチ……日向があまりにも厳しく言うもんだから、つい頭に来ちまって……」

「ちょっと、今チビって言いかけたでしょ!? そこは聞き逃さないからね!」

「第一……入学式の時にあんなデュエル見せつける奴がコネとか裏口なわけがないよな」

 

 主義主張が違っても、同じデュエリストであればデュエルで通じ合える。遊希と鈴の激しいデュエルは、千春や皐月と同じように観客席にいた翔一たちにも伝わっていたのだ。

 

「なんにせよ、誤解が解けて良かったわ。処分が下された以上、しばらくデュエルはできなくなってしまうけど、あなたたちならそれくらいのブランクくらいどうってことならないかもね」

「……元プロデュエリストにそう言って貰えるとはな。それだけでこのデュエルを受けた甲斐があったってもんだ」

「ちょっと! 遊希も火野も無視しないでよおおお!」

 

 デュエルが終わった後のフィールドには疲れ知らずの千春の元気な声だけが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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リハビリ

 

 

「さあ、私の実力わかったでしょ! 遊希! 明日こそデュエルよ!」

 

 デュエルが終わった後、シャワーを浴びて汗を流した千春と皐月はパジャマに着替えては隣室の遊希と鈴のところにやってきていた。勝利に勢いづいたのか、パジャマに着替えてからも元気いっぱいの千春。その様はまるで旅行の夜に興奮して眠れない子供のようであるが、遊希や鈴はデッキを調整したり、寝る準備をしていたりと千春の言葉を真面目に聞いていなかった。

 

「残念、あんたはトラブル起こしたからデュエルディスクを取り上げられたでしょうが。しばらくデュエルは禁止よ」

「むーっ……じゃあ誰かディスク貸してよ」

「駄目ですよ。他人のディスクを使ったらそれこそもっと厳しい処分が……」

「あのねぇ、せっかくパパが大目に見てくれたんだからその気遣いを無下にしないの。本当はもっと長い謹慎期間だったかもしれないのに3日で処分解いてくれるんだから。それくらい我慢しなさい」

「でも3日もデュエルできないのはつらいわね……まあ私はやるだけじゃなくて見るのも好きだからあんたたちのデュエルを見るだけでも満足なんだけどね!」

 

 このデュエルバカ、と内心思いながら遊希はデッキをケースにしまう。シャワーで濡れた髪がほぼ乾いた頃、デュエルの疲れが今になって来たのかうつらうつらと舟をこぎ始めた千春を皐月が自分たちの部屋へと連れ帰る。やはりその様子は何処からどう見ても姉と妹にしか見えなかった。

 

「……やっと帰った」

「皐月も苦労しそうよねー、あれがルームメイトだと」

「でもあれくらい騒がしい方が彼女にとっては良いのかもしれないわね」

「どういうこと?」

「皐月は良い子なのは間違いないけど、ちょっと大人しすぎるところがあると思うわ。デュエルに自信がないって言っていたからそういうところを治すのには千春のような存在が必要になるはずよ」

 

 出会ってわずか数時間であるにも関わらず皐月の人となりと千春の良いところを絡めて話す遊希。この洞察力もまた彼女がプロの世界で成績を残した理由なのだろう。

 

(……やっぱり遊希はすごいなぁ。パパもそうだけど、プロデュエリストとして成功するために、あたしももっとがんばらないと!)

「さて、私たちもそろそろ寝ましょう。明日も早いんでしょう?」

 

 そう言って遊希は二段ベッドの梯子を登り始める。

 

「……ストップ」

「何?」

 

 眠そうに目をこする遊希を呼び止める鈴。この時彼女はどうしても見過ごせないことがあった。

 

「いやいやいや、何しれっと上で寝ようとしてるの遊希?」

「……今日の入学式の時のデュエルで勝ったのは私よね? だから上で寝るのは私」

「いやその理屈はおかしい。あの勝敗に二段ベッドの上下は関係ないでしょ?」

「それもそうね。じゃあ別の方法で決めましょう。例えば……胸の大きい方が上で寝るってことで。じゃあおやすみ、つるぺた鈴ちゃん」

「それなら文句ないわ。おやすみ……って待てーい!! 誰がまな板じゃー!!」

 

 鈴のお笑い芸人ばりのノリツッコミが炸裂したところで、「どちらが二段ベッドの上で寝るか」という実に子供っぽい理由で議論が始まる。この不毛な議論によって、二人の就寝時間が減ることが確定するのであった。

 

「ねえ」

「……何、これから寝るんだけど」

 

 どっちが二段ベッドの上で眠るか、という議論は当然まとまらなかったので、折衷案で今日は二人で一緒に上のベッドで眠ることになった。シングルかつ二段ベッドなので個人のスペースは当然狭い。そんな中、反対方向を向いていた鈴が眠ろうとした遊希に声をかけた。

 さすがに一日色々あって疲れていた遊希は不機嫌そうに振り返り、寝ぼけ眼を擦って目を開く。こちらを向き直って覗き込む鈴の顔は妙に真剣そのものであった。

 

「あんたさ、明日以降どうするの? 今日みたいにデュエルの度に倒れたりしたらさすがに厳しいんじゃない?」

「ああ、そこは身体に慣らしていくしかないわね……この学校に来るまでほとんどデュエルしてこなかったから昔に比べて精霊のカードに対する耐性が落ちているの。まあデュエルを繰り返せば自然となんとかなると思うけど」

「もしさ、あたしで良ければいつでも協力するよ」

 

 鈴の中には当然遊希の助けになりたいという気持ちもあった。しかし、何より自分自身一デュエリストとして負けたまま終われないという意地もあった。リハビリをすることに勝ち負けは関係ないよね、という一概の疑念を持ちながら。

 

「……もうとっくに消灯時間を過ぎているわね。消すわよ」

 

 そう言って遊希は布団の中に顔を埋める。だが、布団の中から目から上だけを出すと、心配そうに見つめる鈴に対して一言。「ありがとう」と不器用そうに言った。鈴は「どういたしまして」と言って悪戯っぽく笑うと、反対方向を向いて眠りについた。暗闇の中、鈴の小さな寝息だけが響く静寂の世界。瞼が次第に重くなる中、遊希の頭の中には光子竜の言葉が響く。

 

―――遊希。

(何よ、もう眠いんだけど)

―――……良い仲間に巡り会えたな。

(……そうかもね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日以降、千春のデュエル禁止令が解ける3日間はあっという間に過ぎて行ったように思えた。すぐに授業が始まるわけでもなく、オリエンテーションガイダンスや授業制度などについての説明がずっと続いたからだ。

 ちなみにデュエルアカデミアの授業は単位制になっており、高校というよりかはどちらかというと大学に近い制度となっている。そのため通常の高校に比べて取得単位の管理が大事になるのだ。

 

「さあ、遊希。デュエルをしましょう!」

 

 デュエル禁止令が解けた千春はガイダンス終了後に早速遊希にデュエルを申し込む。学校の仕組みを覚えるためにいっぱいいっぱいだった三人はデュエルどころではなかったため、正直に言えばデュエルに飢えていた、というのはあった。

 

「……唐突ね。まあ今日の分のガイダンスは終わって後は余暇だけど」

「他の学生の皆さんはこの時間はデュエル場でデュエルをしていますからね……空きがあるといいんですけど」

「もし空いて無かったら……あたしいい場所知ってるんだよね!」

 

 そう言って鈴に案内されたのはアカデミア校舎の屋上だった。屋上は許可を取らないと入ることは出来ないが、そこは校長の娘。入学試験の成績も良かったため教員たちにはなんら怪しまれず屋上の使用許可を取ってきたのだ。

 

「風が気持ちいいわね」

「ええ、絶好のデュエル日和ね!」

 

 そう言ってデュエルディスクを構える千春。彼女は既に臨戦態勢のようであった。遊希は結局千春のデュエルの相手は自分なのか、と溜息を付くが千春も綾香同様デュエルを通して自分のリハビリに協力してくれている。そう思うと悪い気はしなかった。

 最も千春自身は遊希のリハビリよりも自分自身が一人でも多くの強いデュエリストとデュエルしたいという気持ちが強かったのだが。

 

「そうかもしれないわね……じゃあそのデュエル日和に恥ずかしくないデュエルをするわ」

 

 デュエルディスク内蔵のコンピューターによって先攻後攻の選択権は遊希に与えられた。ここ最近自分に先攻後攻の決定権が与えられたことがなかったため、久々に自分の手で先攻か後攻か選べるのは少し嬉しかった。

 

―――良かったな、遊希。久しぶりに先攻でデュエルが始められそうだぞ。

「後攻を選ぶわ。先攻は千春でいいわよ」

「あら、いいの?」

―――遊希? お前後攻は嫌だったんじゃないのか?

(……先攻の方が好きに決まってるじゃない。でも相手は【サイバー・ドラゴン】よ?)

 

 サイバー・ドラゴンデッキを使う千春の得意戦術はサイバー・ドラゴン・ズィーガーとキメラテック・ランぺージ・ドラゴンによる後攻ワンショットキルである。先攻で制圧しようとしても、サイバー・ドラゴンデッキにはEXゾーンのモンスターを問答無用で融合素材にできる《キメラテック・メガフリート・ドラゴン》も存在しているため、こちらの布陣次第によってはあっさり崩されかねないのだ。

 もちろん千春もそれを理解しているため、先攻を取った時用の展開術も用意しているだろう。それでも高火力を出しやすいサイバー・ドラゴンに後攻で叩かれるのを遊希は避けたのだ。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:千春

後攻:遊希

 

千春 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(千春)

 

「ということで私の先攻よ! 私は手札のサイバー・ドラゴンを捨ててサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果を発動するわ! このカードを手札から特殊召喚! そして特殊召喚に成功したネクステアの効果で墓地の攻撃力2100の機械族モンスター、サイバー・ドラゴンを特殊召喚するわ!」

 

 本来は相手フィールドにのみモンスターが存在しなければ特殊召喚することのできないサイバー・ドラゴンを先1ターン目にも関わらず特殊召喚する。先攻で動きにくいというサイバー・ドラゴンの弱点を克服したネクステアの存在は千春にとってはやはり追い風と言えた。

 

(召喚権を使わずにリンク召喚の素材を揃えた……)

―――大言壮語するだけのことはあるようだな。

「そして手札から魔法カード《エマージェンシー・サイバー》を発動よ!」

 

《エマージェンシー・サイバー》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキから「サイバー・ドラゴン」モンスターまたは通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。

(2):相手によってこのカードの発動が無効になり、墓地へ送られた場合、手札を1枚捨てて発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

「デッキからサイバー・ドラゴン・フィーアを手札に加えるわ。そしてサイバー・ドラゴン・ドライを召喚するわ。召喚に成功したサイバー・ドラゴン・ドライの効果を発動、そしてそれにチェーンして手札のサイバー・ドラゴン・フィーアの効果を発動よ!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・フィーア

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ドライ

 

「チェーン2の効果でフィーアを特殊召喚! フィールドのサイバー・ドラゴンモンスターの攻撃力・守備力を500ポイントアップさせるわ!」

 

サイバー・ドラゴン ATK2100/DEF1600→ATK2600/DEF2100

サイバー・ドラゴン・フィーア ATK1100/DEF1600→ATK1600/DEF2100

サイバー・ドラゴン・ネクステア ATK200/DEF200→ATK700/DEF700

 

「そしてチェーン1のサイバー・ドラゴン・ドライの効果でフィールドのサイバー・ドラゴンモンスターのレベルを5にするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 星4→5

サイバー・ドラゴン・フィーア 星4→5

サイバー・ドラゴン・ネクステア 星1→5

 

「フィールドにレベル5のモンスターが4体……」

―――サイバー・ドラゴンでここまでの展開を行うとは。彼女の評価を上方修正する必要があるのではないか?

(あら、言うほど私は千春を見下してないわ?)

「私はサイバー・ドラゴンとネクステアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 今回もお願いね! サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」

 

 リンク2のサイバー・ドラゴン・ズィーガーは左と下にリンクマーカーが向いている。そのため、下方向のマーカーの先にEXデッキからモンスターを特殊召喚できるのだ。

 

「そしてレベル5となったドライとフィーアでオーバーレイ! 2体の機械族モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! サイバー・ドラゴン・ノヴァ! そしてノヴァをエクシーズ・チェンジ! 出番よ、サイバー・ドラゴン・インフィニティ!」

 

 サイバー・ドラゴンデッキで先攻を取った場合の基本戦術はパーミッション効果を持つサイバー・ドラゴン・インフィニティをフィールドに出すことだ。無効にできるのは1度だけではあるが、その1度の無効効果が物を言うのがデュエルである。

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3 ATK2100→2700

 

「私はこれでターンエンドよ!」

 

 

千春 LP8000 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3)EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・ズィーガー)魔法・罠:0 墓地:1 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

千春

 □□□□□

 □∞□□□□

  ズ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

☆TURN02(遊希)

 

(さて、機械族を強化できるズィーガーにパーミッション効果を持つインフィニティか……)

―――普段遊希もインフィニティを使うが、敵に回すとなれば厄介だな。

(正直あの布陣を突破できるとは思えない。相手が百戦錬磨のデュエリストならね)

「私は手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動するわ」

 

 フォトン・サンクチュアリは攻撃力2000のトークン2体を特殊召喚する魔法カード。リンク召喚の登場以降、トークンを生成できるカードの地位は大幅に向上し、《ダンディライオン》や《トーチ・ゴーレム》といったカードはデッキを選ばず採用されるようになった。それらのカードの例に漏れず、トークンを2体同時に特殊召喚できるフォトン・サンクチュアリのパワーも千春は知っていた。

 

「フォトン・サンクチュアリの発動にチェーンしてサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・インフィニティ

チェーン1(遊希):フォトン・サンクチュアリ

 

「X素材を1つ取り除き、フォトン・サンクチュアリの発動を無効にして破壊するわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3→2 ATK2700→2500

 

「ふーん、そこを無効にするのね」

「当然よ! 最初にフォトン・サンクチュアリを発動するってことはそれ以外に展開手段が無いってことなんでしょう?」

 

 遊希のデッキには特殊召喚モンスターであるフォトン・スラッシャーが入っている。特殊召喚の条件は緩いが、フィールドにモンスターが存在するだけで手札で腐ってしまうカードでもあるため、スラッシャーを特殊召喚してからフォトン・サンクチュアリを発動するのが定石の流れである。

 しかし、今遊希は最初にフォトン・サンクチュアリを発動した。それは手札にスラッシャーが存在しないことの証明でもあり、フォトン・サンクチュアリさえ止めてしまえば遊希はこのターン満足に動くことができない、と千春は踏んだのだ。

 

「なるほど……良い見立てね」

「でしょー! さすが最強のデュエリストになる女、日向 千春! あの天宮 遊希から白星を上げる瞬間が―――」

「私のフィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できるわ。手札からフォトン・スラッシャーを特殊召喚する」

 

 空間を大剣で切り裂いて現れるフォトン・スラッシャー。その姿を見た千春は目を白黒させる。

 

「ええっ、なんで!? なんでフォトン・スラッシャーが出てくるの!? 普通逆じゃないの?」

「まあ普通は逆よね。でも千春は私とデュエルをしたがっていた。だから私のカードや戦術を研究しているはず」

 

 デュエルが好きな千春は、デュエル好きを自称するだけあって誰よりもそれに情熱を注いでいる。遊希はそんな彼女の思いを利用したのだ。

 

「だからインフィニティの効果でフォトン・サンクチュアリを止めたんでしょう? 私が最初にスラッシャーを出さずにフォトン・サンクチュアリを発動した。フォトン・サンクチュアリ以外の展開手段を持っていない、これを止めれば私は動けない……ってあなたに思わせるためにね」

「むむむ……人の純粋な気持ちをよくも……」

「何がむむむよ。それがデュエルというものでしょう? さて、頭を使ったところ悪いけど、このデュエル―――早々に終わらせてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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皐月の秘密

 

 

 

「早々に終わらせる? まさかこのターンで私を倒すってこと?」

「まあ、そうなるわね」

「確かにインフィニティの効果はもう使っちゃったけど、ズィーガーの効果はまだ生きているわ。変に攻撃しようものなら返り討ちよ!」

 

 効果を発動したインフィニティは攻撃力2500のバニラモンスターに過ぎない。しかし、サイバー・ドラゴン・ズィーガーが存在する限り、インフィニティを倒そうにも効果で強化されてその攻撃力は4600にまで上昇する。そしてインフィニティをこのターンで撃破できなければ、次のターンで遊希のモンスターはX素材にされてしまうだろう。そうなれば巻き返すのは益々困難になってしまうのだ。

 

「そうね……ズィーガーの効果は厄介極まりない。でも発動はさせないから。まずはフォトン・バニッシャーを特殊召喚。バニッシャーの効果でデッキから銀河眼の光子竜を手札に加える。そして手札の光属性モンスター、光子竜を墓地に送って銀河戦士の効果を発動、このカードを特殊召喚。そして特殊召喚に成功した銀河戦士の効果でデッキから銀河騎士を手札に加えるわ」

 

 千春に負けず、召喚権を使わずに3体のモンスターをフィールドに展開する遊希。昨今のデュエルモンスターズは如何に召喚権を残した状態でモンスターを揃えるかも重要視されていた。

 

「私はフォトン・スラッシャーと銀河戦士をリンクマーカーにセット。リンク召喚! 現れなさい、銀河眼の煌星竜! リンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地の銀河戦士を手札に戻す。そしてフィールドにフォトンもしくはギャラクシーモンスターが存在することにより、銀河騎士をリリースなしで通常召喚。この効果で通常召喚に成功した銀河騎士の効果を発動。このカードの攻撃力を1000下げ、墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚するわ」

「リンク召喚だけじゃなくランク8のエクシーズ召喚まで……」

「確かに最終的な狙いはそこよ。でもその前に……あなたのインフィニティ、使わせてもらうわ! 手札から魔法カード《フォトン・ハンド》を発動!」

 

《フォトン・ハンド》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドに「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合、1000LPを払い、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターのコントロールを得る。発動時に自分フィールドに「銀河眼の光子竜」が存在しない場合には、Xモンスターしか対象にできない。

 

「自分フィールドにフォトンまたはギャラクシーモンスターが存在する場合、ライフを1000支払って発動」

 

遊希 LP8000→7000

 

「相手フィールドのモンスター1体のコントロールを得るわ。最も私のフィールドに光子竜がいない場合にはXモンスターしか対象にできないけどね」

「インフィニティを使わせてもらうってそういうこと!?」

「そういうこと。ということでインフィニティのコントロールを貰うわ」

 

 光り輝く波動がサイバー・ドラゴン・インフィニティを包み込むと、インフィニティはまるで花の香りに誘われる蝶や蜜蜂の如く誘引され、遊希のフィールドへと移動する。まさか自分のモンスターをこうも利用されてしまうとは思っていなかった千春は驚きのあまり言葉を失う。

 

「インフィニティの効果。相手フィールドの攻撃表示モンスター1体をX素材にさせてもらうわ。もちろん素材にするのはサイバー・ドラゴン・ズィーガーよ」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:2→3 ATK2500→2700

 

(やっぱりインフィニティは相手に使われるより自分で使った方が気分いいわね)

―――それはインフィニティに限った話ではないと思うが。

「そしてこれで最後。銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! No.62 銀河眼の光子竜皇をエクシーズ召喚するわ。そしてバトルよ! 銀河眼の煌星竜、サイバー・ドラゴン・インフィニティ、銀河眼の光子竜皇の順にダイレクトアタック!」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

千春 LP8000→6000

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3 ATK2700

 

千春 LP6000→3300

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000

 

千春 LP3300→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「はい、終わり。お疲れ様、ありがとね千春……って千春?」

「あー、燃え尽きてるわね」

 

 まさか自分のモンスターを利用された挙句、後攻ワンターンキルを食らうとは思っていなかった千春はこの敗北が余程ショックだったのか呆然としてその場を動けずにいた。

 

「ああ日向さん……真っ白な灰に……」

「大丈夫よ、ほっとけば直るでしょ。ところで遊希、身体の方に問題は?」

「そうね……ちょっと気だるい感じはするけど前ほど辛くは無いかな。デュエルが早めに終わったからってのもあるけど。でももう1戦くらいはできるかも」

「そっか、でも無理しすぎは良くないし、今日はもうこれくらいにして……」

「ちょっと待ったー!!」

 

 その場を引き払おうとした三人をさっきまで真っ白に燃え尽きていた千春が呼び止めた。素直なところだけではなく、立ち直るのが早いのも彼女の美点である。

 

「何よ千春。言っておくけどリターンマッチは明日以降でお願いするわね」

「大丈夫、私もその辺は考えてるわ。でも待ってちょうだい。この間鈴が負けて今日私が負けた。となると……まだ約一名デュエルしていない子がいるわよねぇ……」

「ああ……そう言えば……」

「あ、天宮さん! そろそろお時間が……」

 

 目をギラリと輝かせた鈴と千春が遊希を連れて屋上を出ようとしていた皐月を取り囲む。囲まれた皐月は「ひえぇ」と弱々しい声をあげて遊希の後ろに隠れるが、抵抗虚しく二人に腕を組まれて前面に引きずられてしまった。

 

「遊希、あんたもう一戦はできるって言ってたわね?」

「皐月! 私たちの敵を討ってちょうだい!」

「そんなぁ……私が天宮さんに勝てるわけないじゃないですかぁ……」

 

 抵抗空しく皐月は鈴と千春によって半ば無理矢理デュエルの態勢を取らされてしまった。本人は拒否しているが、デュエルをすることとなったらしょうがない、と遊希は皐月にやや同情しつつも二戦目の準備に移るのであった。

 

「も、もうこうなったら自棄です!」

 

 一方でなし崩し的に遊希とデュエルをすることになってしまった皐月。鈴と千春に引っ張られてきた時は半泣き状態であったが、後に引けないと察するや否や彼女の目にも力が宿る。彼女自身はデュエルは苦手だ、と言っていたがそれでもこの学校に入るための厳しい試験を突破してここまで来たいちデュエリスト。相当の腕前は持っていると見て間違いないだろう。

 

「しかし、私なんかが相手でいいのでしょうか……星乃さんや日向さんとデュエルをした後だと拍子抜けしてしまうのでは……」

「そんなことはないと思うわ。鈴はともかく千春は私に後攻ワンキル食らってるわけだし」

 

 千春が「うっ」という声を出して仰け反っているように見えたが、遊希は見なかったことにする。皐月に足りないのは実力ではなく自信であることはわかっていた。当然わざと負けて彼女に自信を付けさせる、などというつもりはない。それと勝敗は別。むしろ下手に手を抜いてしまえばそれこそ千春に「自分が弱いからわざと手を抜かせてしまった」と思われかねない。自意識過剰と言われればそれで終わってしまうが、優しそうな皐月がそう思わないという確信もなかった。

 

「言っておくけど手は抜かないわ。どんな相手にだって負けたくない、っていうのが私の信条だから。でも皐月、私はあなたに卑屈になってほしくないの」

「卑屈に……?」

「あなたはあまり自分の腕に自信を持っていないようね。何があったのかは知らないけど、あなたはこうしてデュエルアカデミアに入学することができた。自覚は無いかもしれないけど、それって普通に考えて凄いことなの。そして何の運命の因果か、今この天宮 遊希と対峙ししている。それは力のない人にはできないことよ?」

 

 皐月に自信をつけるため、とはいえ言っていて気恥ずかしくなってくる遊希。自画自賛という行為がこうも精神を削ってくるものだというのは流石の遊希でも想定の範囲外だったのだ。

 

(天宮さんはそこまで考えてこのデュエルに……体調も万全ではないはずなのに……だったら)

「あ、あの!」

 

 今まで人前で出したこともないような大きな声を出す皐月。その表情はいつになく真剣そのものだった。

 

「どうしたの?」

「ちょっと、待っていてもらっていいですか。二十分くらいしたら戻りますので!」

 

 そう言って屋上を後にする皐月。デュエルディスクもデッキも持ってきていたので、忘れ物をしたというのも考えにくい。そしてお手洗いだとしても屋上近くにトイレはあるし、混むような時間帯でもない。そのため二十分ほど待たなければいけない理由がわからなかった。

 

「もう、遊希が変なこと言うから!」

「えっ、私が悪いの……?」

「やっぱり無理矢理すぎたのかなぁ。本人が望んでいなかったわけだし……」

 

 今思えば遊希と皐月のデュエルは当人同士の了承を得ず、第三者にあたる鈴と千春が必要以上に盛り立ててしまったところはあった。この世界においてデュエルはもはやスポーツに匹敵するコミュニケーションツールになりつつある。しかし、運動が得意な者と苦手な者が存在するように、デュエルが得意な者と得意でない者だって存在する。アカデミアに入学するくらいなのだから、デュエルが嫌いということは無いにしても、望まない形のデュエルなどやりたくないと思われても仕方のないことであった。

 

「もしかしたら皐月を怒らせちゃったかもしれないわね。三人で謝りに行きましょう」

「そうね、デュエルは皐月のやりたい時にやるって形でもできるわけだし!」

「皐月どこに行っちゃったのかしら……」

 

 遊希たちが屋上を離れようとした瞬間であった。閑散とした屋上に何者かの高笑いが響いたのは。

 

 

 

 

 

―――ククク……フハハハハハッ!!―――

 

 

 

 

 

 突然の不審な高笑いに三人は足を止める。何が起きているのか、と三人が思っていた中、閉まっていた屋上のドアが勢いよく開けられる。そしてそれと同時に飛び込んできたのは軍服を派手にアレンジしたドレスのような衣装を纏った少女であった。左目に眼帯を付けた少女は皐月が置いていったデュエルディスクを装着すると、硬直する三人の前に立ちはだかる。

 

「フッフッフ……待たせたな! 我は戦乱に染まる世界に風穴を空ける者! さあ、我が弾丸の錆となる者よ!! 命が惜しくないのであれば、我と戦うがいい!!」

 

 そう言って夜の闇のように真っ黒なマントを勢いよくはためかせる少女。遊希たちは無表情でその少女を見つめていた。

 

(ねえ……もしかしなくてもあれって)

(どう見ても皐月ね。なんかすごいことになってるけど皐月ね)

(……)

―――おい、あれはどういうことだ? 私は状況が理解できないのだが。

(それはこっちの台詞よ)

 

 精霊である光子竜すら困惑させる皐月の変貌っぷりに三人は言葉を交わさずとも意志を同調させる。遊希たちが何のリアクションも取れずにいる中、決めポーズを取ってドヤ顔を決めていた皐月の眼がじわじわと潤み始めた。

 

「ううう……やっぱり……やっぱり、そうなりますよね……」

「わーっ! 違う、違うから!!」

「そうよ! ちょっと、ほんのちょっとだけびっくりしただけだから!!」

 

 両手で顔を覆いしゃがみ込む皐月を必死で宥める鈴と千春。一方遊希もその輪に参加したかったが、今下手に関わればきっと吹き出してしまうだろう、と思って敢えて遠巻きに見ていることにした。

 

―――遊希、よく考えなくても酷いなお前は。

 

 そしてデュエルディスクから取り出した光子竜のカードを3発、指で弾く。彼女の脳裏には光子竜のいつも以上に痛がる声が響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コスプレ?」

「はい……この衣装は私の好きなライトノベルのキャラクターのものなんです」

 

 皐月は学校という空間において違和感しか感じさせない衣装を着たまま屋上の地べたに体育座りをしていた。もしこの場面を他の誰かに見られたら間違いなく変な噂が立ってしまうだろう。そう言った意味ではこの屋上を半ば貸し切り状態で使えているのは幸運という他なかった。

 

「あ、あの。私は昔から自分に自信が持てなくて……いつも誰かの視線を伺って過ごしていました。そんな中、ふと立ち寄った書店で見つけた一冊のライトノベルが私を変えてくれました」

 

 その時皐月が手に取ったライトノベルこそ、今彼女が来ている衣装のキャラクターがヒロインを務める作品である。そのライトノベルの大まかなストーリーは以下のようなものとなっていた。

 

 

 

 主人公は一国の末姫。れっきとした王族の一員である彼女だが、幼い頃から気弱で人見知りだった彼女は両親や兄姉からあまり良い扱いを受けていなかった。そんな彼女が生まれ育った国は周囲に領土を持つ帝国に長い間圧迫されており、内情は不安になる一方だった。

 ある日、姫は城の敷地内で衛兵に追われていた謎の男を気まぐれで匿う。その男の正体はかつてこの世界の一角を支配していた竜であり、人間によって敗れた彼は人の姿をして生き延びていた。

 

「国を助けたいのか? ならばお前に力を授けよう」

 

 姫は竜によって魔力が込められた武器を与えられ、姫であると同時に王国を影ながら守る一人の戦士となった。誰からも理解されず、守っている家族や国民からも恐れられる存在になることを知りながら。

 

 

 

「自分で言うのも恥ずかしいのですが……私はこの主人公に強い憧れを抱きました。自分の弱さを受け入れつつもなお戦いに身を投じる姿が。だから思ったんです。せめて見た目だけでもそのキャラクターに肖れないか、と」

「なるほど、それでそのコスプレなわけね」

「はい。コスプレをしている時は、普段の自分を忘れられるんです。そうして自然になり切ることにのめり込んでしまって……夏と冬のあのイベントにも参加したことがあります」

「マジで!? それって凄いじゃない!」

「はい、SNSに写真をアップすると色々な人が評価をしてるようになりました。コスプレを披露して見てもらえることが力になるようになりました。だからこそ、遊希さんとのデュエルでは私が全力を惜しみなく出せるように一番お気に入りのキャラクターのコスチュームに着替えてきたんです!」

 

遊希がこのデュエルに全力で臨もうとしている。ならばそれに応えるため、皐月はわざわざ自分の一張羅に着替えてきたというのだ。それだけ皐月も本気で遊希とのデュエルをしたいということ。しかし、本当なら喜ばしいことでも、遊希は複雑な気分であった。

 

(人の趣味嗜好にケチをつけるつもりはない。でも、皐月は今のままでいいのかしら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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全てを撃ち抜く竜

 

「さて、デュエルディスクは……あっ、やっぱり」

 

 デュエルディスクによって先攻後攻の決定権は皐月に与えられる。千春とのデュエルでは遊希が先攻後攻の決定権を得たものの、流石に嫌われ過ぎなんじゃないか、と不満に思った。まあデュエルディスクが意思を持っているわけがない―――と精霊のカードを持つ遊希が思うのもおかしな話であるのだが。

 

「皐月、先攻後攻はどうするの?」

「あ、では私は先攻で……」

 

 先のデュエルを見ていればわかるように、デュエルモンスターズは絶対的に先攻を取ることが有利なゲームではない。しかし、相手の手札誘発以外の妨害を気にせずに展開できるというのは魅力的と言っていいだろう。

 

「じゃあ私は後攻になるわね」

―――つくづく運がないなお前は。

(うっさい、先攻だろうと後攻だろうと私のやることは変わらないわ)

 

 それでも先攻には先攻の戦い方があり、後攻には後攻の戦い方がある。どちらにおいても最大限の力が出せるようにデュエルをするのが天宮 遊希というデュエリストであった。

 

「デュエルよ!」

「デュ、デュエルです!」

 

 物々しい見た目ながら、口調は完全にいつもの皐月に戻ってしまっていた。その見た目でいつもの皐月と同じように振る舞われるのもそれはそれで調子が狂うので、遊希はこのデュエルの間だけでもいいからそのキャラになり切ってみては、と提案してみる。皐月はちょっと恥ずかしそうにしながらも「笑わないで下さいね」と一言念を押しては、モードチェンジをしてみせた。

 

「フッフッフ……ならばこの我が貴様と遊んでやろうではないか! こ、これでいいですか?」

「いいんじゃない」

―――おい、感情が籠ってないぞ。

 

 

先攻:皐月

後攻:遊希

 

皐月 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(皐月)

 

「我の先攻だ。我は手札からモンスターをセット。カードを2枚セットしてターンエンドだ!」

 

 

皐月 LP8000 手札2枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠:2 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

皐月

 □□伏伏□

 □□モ□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

(3伏せ……伏せカード、というか罠多めのデッキとなると【オルターガイスト】が思い浮かぶけど)

―――あのデッキはカード同士のシナジーがとても強く、相手取るとなるとかなり厄介なデッキ。だが、もし仮にそうなると皐月の言動と一致しないな。上手く使いこなせればデュエルが苦手とはならないはずだ。

(そうね。まあここは様子見と行きましょうか)

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドローよ。私は手札から魔法カード《増援》を発動」

 

《増援》

通常魔法(制限カード)

(1):デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。

 

「デッキからレベル4以下の戦士族モンスター、フォトン・スラッシャーを手札に加えるわ。そしてフォトン・スラッシャーを特殊召喚。フォトン・スラッシャーに手札からフォトン・オービタルを装備し、フォトン・オービタルを墓地に送ってデッキからフォトン・バニッシャーを手札に加えるわ」

 

 正直に言ってしまえば、遊希の手札5枚はあまり良い手札ではなかった。しかし、どのような手札からでも自分の目指す勝利という名のゴールへの道筋を導き出せるデュエリストが存在する。そういったデュエリストこそがデュエリストの中でも一際抜きん出た存在になり、多くのデュエリストの心にその名を残す。当然ながら遊希もそのうちの一人であると言えた。

 

(オルターガイストならすぐにでもセットされているカードを発動してくるはず。ここでの発動がないと考えるとその線は消してもよさそうね)

「フォトンモンスターが存在することにより、フォトン・バニッシャーを手札から特殊召喚。この方法で特殊召喚に成功したことにより、デッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加える。そして私は2体のフォトンモンスターでオーバーレイ! 輝光帝ギャラクシオンをエクシーズ召喚させてもらうわ。ギャラクシオンのX素材を2つ取り除いて効果を発動」

 

輝光帝ギャラクシオン ORU:2→0

 

「デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚するわ」

「ならばその特殊召喚のタイミングで我はリバースカードを発動する! 罠カード、激流葬だ!!」

「……召喚反応罠か。チェーンは無い、通すわ」

 

 千春とのデュエルでも“カードの効果で破壊される”ことで真価を発揮する炎王デッキを使っていた翔一も使用した、いわば罠版のブラック・ホールとも言える激流葬。汎用性の高いカードではあるが、このカードを使用するということは皐月のデッキもまた翔一の炎王同様に破壊されるデッキである可能性が遊希の中で高まった。

 

「フッフッフ……これで展開は終わりか? これで我に傷つけるには至らぬぞ?」

「まさか。この程度で終わるとは思わないでちょうだい」

 

 しかし、エースの光子竜も展開の一手段であるギャラクシオンも破壊されてしまった遊希であるが、彼女の攻勢はその程度では緩まない。

 

「私は手札のフォトンモンスター、銀河眼の光子竜を見せることで手札の《銀河剣聖》の効果を発動」

 

《銀河剣聖(ギャラクシー・ブレイバー)》

効果モンスター

星8/光属性/戦士族/攻0/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札の「フォトン」モンスター1体を相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。このカードのレベルは見せた「フォトン」モンスターのレベルと同じになる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「ギャラクシー」モンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力・守備力はそのモンスターのそれぞれの数値と同じになる。

 

「このカードを手札から特殊召喚するわ。ちなみにこのカードのレベルはこの時見せたモンスターのレベルと同じになるけど、光子竜のレベルは8だから剣聖のレベルも変わらないわね」

「まだモンスターを残していたか。だが、攻撃力0のモンスターを攻撃表示で特殊召喚するなど……」

「あら、攻撃力0ではないわよ。特殊召喚に成功した銀河剣聖の効果を発動。このカードの攻守を墓地のギャラクシーモンスター1体と同じにする。墓地の銀河眼の光子竜のステータスをコピーするわ」

 

銀河剣聖 ATK0/DEF0→ATK3000/DEF2500

 

「むっ、攻撃力3000だと……」

「バトルよ。銀河剣聖でダイレクトアタック!」

 

銀河剣聖 ATK3000

 

「その攻撃は通さん! リバースカードオープン! 速攻魔法《クイック・リボルブ》を発動する!」

「クイック・リボルブ……なるほど。デッキが掴めたわ」

 

《クイック・リボルブ》

速攻魔法

(1):デッキから「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される。

 

「我はデッキより《マグナヴァレット・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚する!」

(皐月のデッキは【ヴァレット】か。なるほど、激流葬が入るわけね)

 

 皐月のフィールドには銃弾のような姿をした小さなドラゴンが現れる。【ヴァレット】とは、闇属性・ドラゴン族で統一されたデッキであり、リンクモンスターの効果の対象になった時、そして破壊されて墓地に送られた時に発動できる効果を持ったモンスターが属している。銃弾のような見た目のモンスターをその見た目通りリンクモンスターによって撃ち出すことがコンセプトであった。

 

《マグナヴァレット・ドラゴン》

効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動できる。このカードを破壊する。その後、フィールドのモンスター1体を選んで墓地へ送る。

(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「マグナヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

銀河剣聖 ATK3000 VS マグナヴァレット・ドラゴン DEF1200

 

「ダメージは与えられず終いか……まあいいわ。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移るわ。私は手札から魔法カード《銀河遠征》を発動」

 

《銀河遠征(ギャラクシー・エクスペディション)》

通常魔法

「銀河遠征」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドにレベル5以上の、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合に発動できる。デッキからレベル5以上の、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「デッキから2体目の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚するわ。そして銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“銀河の瞳を与えられし高貴なるもの。その力で闇に染まる世界を切り拓き、未来への道筋を作らん”。現れなさい!《No.90 銀河眼の光子卿》!」

 

《No.90 銀河眼の光子卿(ギャラクシーアイズ・フォトン・ロード)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/戦士族/攻2500/守3000

レベル8モンスター×2

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「フォトン」カードをX素材としているこのカードは効果では破壊されない。

(2):相手モンスターの効果が発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その効果を無効にする。取り除いたX素材が「ギャラクシー」カードだった場合、さらにそのカードを破壊する。

(3):相手ターンに発動できる。デッキから「フォトン」カードまたは「ギャラクシー」カード1枚を選び、手札に加えるか、このカードの下に重ねてX素材とする。

 

No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2 DEF3000

 

「No.……」

「銀河眼の光子卿はフォトンカードをX素材にしている時、効果では破壊されない。そして1ターンに1度、X素材を1つ取り除き、相手のモンスター効果の発動を無効にする。そして相手ターン限定とはいえ、デッキからフォトンもしくはギャラクシーのカード1枚を選んで手札に加えるかこのカードのX素材にできるわ」

 

 ステータスこそ銀河眼の中では守備寄りであるが、攻撃に特化した効果の多い銀河眼において貴重な妨害および展開に繋げられる効果を持っている。それでいてフォトンカードである光子竜をX素材にしているため、効果で破壊されない守備力3000のモンスター。カタログスペック以上に突破するのは難しいモンスターであった。

 

「私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

「ではエンドフェイズに戦闘で破壊されたマグナヴァレット・ドラゴン、そして激流葬によって破壊された我のモンスター《アネスヴァレット・ドラゴン》の効果を発動させてもらおうか!」

 

《アネスヴァレット・ドラゴン》

効果モンスター

星1/闇属性/ドラゴン族/攻0/守2200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動できる。

このカードを破壊する。その後、フィールドの表側表示モンスター1体を選ぶ。そのモンスターは攻撃できず、効果は無効化される。

(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。

デッキから「アネスヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「チェーンの処理はチェーン2にマグナヴァレット、チェーン1にアネスヴァレットの順で行う」

「じゃあチェーン2のマグナヴァレット・ドラゴンの効果にチェーンして光子卿の効果を発動するわ」

 

チェーン3(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン2(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン

チェーン1(皐月):アネスヴァレット・ドラゴン

 

「チェーン3の光子卿の効果。X素材である銀河剣聖を1つ取り除いてマグナヴァレットの効果の発動を無効にして破壊するわ」

「だが、チェーンの関係上チェーン1のアネスヴァレットの効果は発動できる。デッキより2体目のマグナヴァレット・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚する」

 

 

皐月 LP8000 手札2枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1(マグナヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:4 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札2枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.90 銀河眼の光子卿 ORU:1)魔法・罠:1 墓地:7 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)

 

皐月

 □□□□□

 □□マ□□□

  □ 卿

□□□□□□

 □□伏□□

遊希

 

凡例

卿・・・No.90 銀河眼の光子卿

マ・・・マグナヴァレット・ドラゴン

 

 

☆TURN03(皐月)

 

 

「我のターン、ドロー。我は《悪王アフリマ》を手札から捨ててその効果を発動する」

 

《悪王アフリマ》

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「闇黒世界-シャドウ・ディストピア-」1枚を手札に加える。

(2):自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動するためにこのカード以外の闇属性モンスターをリリースした場合、ドローする代わりにデッキから守備力2000以上の闇属性モンスター1体を手札に加える事ができる。

 

(悪王アフリマ……!? 単なるヴァレットじゃないようね)

 

 ヴァレットと悪王アフリマは闇属性という繋がりはあるが、ヴァレットモンスターではないためシナジーはほとんどないと言っていいだろう。しかし、アフリマおよびその効果でサーチできる《闇黒世界-シャドウ・ディストピア-》が入っているということは、その効果とシナジーする《闇黒の魔王ディアボロス》が入っているということで間違いないだろう。遊希としてはディアボロスを出されるということ自体は防ぎたかった。

 

「デッキから闇黒世界-シャドウ・ディストピア-を手札に加える」

「その効果にチェーンして光子卿の2つ目の効果を発動するわ。そして更にその効果にチェーンする形で3つ目の効果を発動する」

 

チェーン3(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン2(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン1(皐月):悪王アフリマ

 

「チェーン3の光子卿の3つ目の効果でデッキからフォトン・サンクチュアリを手札に加える。そしてチェーン2の効果でアフリマの効果を無効にして破壊するわ!」

「チェーン1のアフリマの効果は無効にされたことで適用されない。だが、これでもう光子卿はこのターンに効果を使えまい! 我は手札から《メタルヴァレット・ドラゴン》を召喚!」

 

《メタルヴァレット・ドラゴン》

効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻1700/守1400

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動できる。このカードを破壊する。その後、このカードが存在していたゾーンと同じ縦列の相手のカードを全て破壊する。

(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「メタルヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「そして我はマグナヴァレット・ドラゴンとメタルヴァレット・ドラゴンをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認! 召喚条件はドラゴン族モンスター2体! サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れよ、リンク2!《天球の聖刻印》!」

 

《天球の聖刻印》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/ドラゴン族/攻0

【リンクマーカー:左下/右下】

ドラゴン族モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手ターンに1度、このカードがEXモンスターゾーンに存在する場合、自分の手札・フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。フィールドの表側表示のカード1枚を選んで持ち主の手札に戻す。

(2):このカードがリリースされた場合に発動する。手札・デッキからドラゴン族モンスター1体を選び、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

 

「天球の聖刻印はEXゾーンに存在する場合、自分のフィールド・手札のモンスター1体をリリースすることでフィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻す効果がある」

「だけど、その効果は相手ターンしか発動できない。このまま私にターンを回すつもり?」

「無論、このターンで光子卿には退場してもらう! 我は天球の聖刻印をリリースし、手札から《聖刻龍-シユウドラゴン》を特殊召喚する!」

 

《聖刻龍-シユウドラゴン》

効果モンスター

星6/光属性/ドラゴン族/攻2200/守1000

このカードは自分フィールド上の「聖刻」と名のついたモンスター1体をリリースして手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、このカード以外の自分の手札・フィールド上の「聖刻」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

このカードがリリースされた時、自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を選び、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

 

(ドラゴン族のデッキと相性のいい天球の聖刻印はわかるけど、まさか【聖刻】まで入れているとは思わなかったわ)

―――展開を【聖刻】で担い、戦線維持を【ヴァレット】で担う。そしてフィールドのモンスターの属性を闇に変化させるシャドウ・ディストピア……リリースされることで効果を発動できる聖刻を闇属性に変えることで、ディアボロスの召喚トリガーにしつつ、聖刻の効果を狙うということか。バランスは悪いかもしれないが、噛み合えば止まらないぞ。

「リリースされた天球の聖刻印の効果を発動! 我がデッキより《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を攻守を0にして特殊召喚する!」

 

《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》

効果モンスター(制限カード)

星10/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

(1):このカードは自分フィールドの表側表示のドラゴン族モンスター1体を除外し、手札から特殊召喚できる。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・墓地から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン ATK2800/DEF2400→ATK0/DEF0

 

「我はレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果を発動! 墓地の天球の聖刻印を蘇生させる! そして我はリンク2の天球の聖刻印、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、聖刻龍-シユウドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 出でよ、我に仕えし第一の魔竜! リンク4!―――《ヴァレルロード・ドラゴン》!!」

 

 赤と黒を基調とした機械的な竜が落雷のような咆哮を上げる。その竜の眼は全てを撃ち抜かん、とばかりに鋭く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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親友の声(修正予定)

 

 

 

《ヴァレルロード・ドラゴン》

リンク・効果モンスター

リンク4/闇属性/ドラゴン族/攻3000

【リンクマーカー:左/左下/右下/右】

効果モンスター3体以上

(1):このカードはモンスターの効果の対象にならない。

(2):1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする。この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3):このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップ開始時に発動できる。その相手モンスターをこのカードのリンク先に置いてコントロールを得る。そのモンスターは次のターンのエンドフェイズに墓地へ送られる。

 

「……厄介なモンスターが出てきたわね」

「このヴァレルロードこそ、我に仕えし魔竜なり! この弾丸からは何者も逃れることはできん!」

 

 皐月の台詞は登場人物になりきっているためにやや難解ではあるが、彼女の様子からこのヴァレルロードこそ彼女のエースモンスターであるのだろう。リンク4かつ効果モンスター3体以上という召喚条件があるため、リンク召喚がとても難しいモンスターではあるが、召喚条件の厳しさに見合っただけの強さを持っている。

 

「我はバトルフェイズに移る! ヴァレルロード・ドラゴンで銀河眼の光子卿を攻撃!」

 

ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000 VS No.90 銀河眼の光子卿 DEF3000

 

「ヴァレルロードが相手モンスターに攻撃をするダメージステップ開始時にヴァレルロードの第三の効果を発動! その相手モンスターのコントロールを奪う!“ストレンジ・トリガー”!!」

 

 ヴァレルロードの口内から放たれた一発の弾丸。その弾丸を受けた光子卿のコントロールは皐月の下へと移っていた。ヴァレルロードは相手のモンスター効果の対象にならないため、仮に光子卿がX素材を持っていたとしてもその無効効果を受け付けない。そのため、モンスターの効果だけに頼ったデュエルではヴァレルロードに太刀打ちすることもできないのだ。

 

「コントロールを得たモンスターの表示形式を変えることまではできない。故に我のバトルフェイズはこれで終了する。そしてメインフェイズ2……我のフィールドにヴァレルロード以外のモンスターがいれば、更なるリンク召喚に繋げられたのだが、そう上手くいかないのがデュエルとはよく言ったものだ。我はこれでターンエンドする」

 

 

皐月 LP8000 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(No.90 銀河眼の光子卿 ORU:0)EXゾーン:1(ヴァレルロード・ドラゴン)魔法・罠:0 墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)

遊希 LP8000 手札3枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)

 

皐月

 □□□□□

 □□卿□□□

  銃 □

□□□□□□

 □□伏□□

遊希

 

凡例

銃・・・ヴァレルロード・ドラゴン

 

「いいデュエルじゃない! でも相手が遊希だから厳しいかしら皐月も」

「でもヴァレルロード・ドラゴンは相当厄介なモンスターよ。遊希の手札次第ではこのまま押し切られるかもしれないわ」

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドローよ」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンはモンスターの効果の対象にならない。そのため戦闘以外の方法でこのカードを除去するには対象を取らないカードの効果を使うしかないが、遊希のデッキにそのような効果を持ったモンスターはいない。幸い戦闘に対する耐性は持ち合わせていないが、ヴァレルロードは対象のモンスターの攻守を500下げる効果を持っている。そのため、実質攻撃力3400のモンスターと扱うべきだろう。

 

(ヴァレルロードを戦闘で破壊するには最低でも攻撃力3500は必要。このターンで撃破したいけど、今の手札ではそれは不可能……ここは守りを固めるしかないわね)

「私は手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動! フォトン・トークン2体を守備表示で特殊召喚する!」

 

 遊希は普段フォトン・サンクチュアリをリンク2の銀河眼の煌星竜をリンク召喚するために使用している。リンク召喚の登場以降、トークンを生成できるカードはそれだけで価値が増した。取り分け1枚で2体のトークンを召喚できるフォトン・サンクチュアリは遊希のデッキになくてはならないカードである。

 

「私はフォトン・トークン2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 再び降臨せよ、銀河眼の煌星竜!」

「煌星竜は手札の銀河眼の光子竜1体をコストに相手の特殊召喚されたモンスターを破壊できる効果があるな。だが、ヴァレルロードには通用せん!」

「ええ、そんなことわかっているわ。リンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地のフォトン・オービタルを手札に戻す。そして煌星竜にオービタルを装備」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000→2500

 

「そしてフォトン・オービタルを墓地に送り、第2の効果を発動。デッキから《銀河の魔導師》を手札に加え、それを召喚!」

 

《銀河の魔導師(ギャラクシー・ウィザード)》

効果モンスター

星4/光属性/魔法使い族/攻0/守1800

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードのレベルをターン終了時まで4つ上げる。

(2):このカードをリリースして発動できる。デッキから「銀河の魔導師」以外の「ギャラクシー」カード1枚を手札に加える。

 

「銀河の魔導師をリリースし、2つ目の効果を発動。デッキから魔導師以外のギャラクシーカードを1枚を手札に加えるわ。私が手札に加えるのは魔法カード《銀河天翔》よ!」

「銀河天翔……?」

「リスクが大きいからあまり連発はしたくないカードだけど……勝つためならそれだって覚悟のうちよ! 魔法カード、銀河天翔を発動!」

 

《銀河天翔(ギャラクシー・トランサー)》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は「フォトン」モンスター及び「ギャラクシー」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。

(1):2000LPを払い、自分の墓地の「フォトン」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じレベルを持つデッキの「ギャラクシー」モンスター1体と対象の墓地のモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は2000になり、効果は無効化される。

 

「ライフ2000をコストに、自分の墓地のフォトンモンスター1体を対象として発動!」

 

遊希 LP8000→6000

 

「対象にするのは墓地の銀河眼の光子竜! そのレベルと同じレベルのギャラクシーモンスター1体をデッキから、そして墓地のフォトンモンスター、光子竜を効果を無効にし、攻撃力を2000にして特殊召喚! デッキからは2体目の銀河剣聖を特殊召喚するわ!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000→ATK2000

銀河剣聖 ATK0→ATK2000

 

「レベル8のモンスターが2体……まさか!」

「そのまさかよ! 私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! その身に光を、その光を力に! 現れなさい、No.62 銀河眼の光子竜皇!!」

 

 今の遊希の切り札とも呼んで差し支えない存在、銀河眼の光子竜皇が遊希のフィールドに降臨する。光子竜皇の元々の攻撃力は4000であり、ヴァレルロードの効果を発動されても攻撃力は3500。そして今フィールドには2体のXモンスターが存在しており、そのランクの合計は16。

 

「我はヴァレルロード・ドラゴンの効果を光子竜皇を対象に発動! 攻撃力・守備力を500ポイントダウンさせる!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000/DEF3000→ATK3500/DEF2500

 

「バトルよ! 銀河眼の光子竜皇でヴァレルロード・ドラゴンを攻撃! そして光子竜皇の効果、X素材を1つ取り除き、このカードの攻撃力をフィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップする!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2→1 ATK3500→ATK6800

 

「攻撃力……6800だと!?」

「エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK6800 VS ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000

 

皐月 LP8000→4200

 

「ぐっ……! ヴァレルロード……!」

「煌星竜の攻撃力は光子卿の守備力に及ばない。ダイレクトアタックは無理ね。バトルフェイズを終了」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK6800→3500

 

「メインフェイズ2に移らせてもらうわ」

 

 この時、遊希の中には一つの心配事があった。それはヴァレルロードというモンスターに対する皐月の考え方だ。ヴァレルロード・ドラゴンというモンスターは文字通りヴァレットモンスターを撃ち出す銃身であり、デッキの中核と呼べるモンスターだ。皐月にとってこのモンスターの有無がデュエルの行く末を決めると言っても過言ではない。

 

(皐月のことだからヴァレルロードが倒された時のアフターケアは用意してあるはず。仮に光子竜皇をそのまま残したとして、ヴァレルロードを蘇生もしくはそれと同等のモンスターを出してきた場合、光子竜皇が逆用される可能性も捨てきれないわね)

「……ちょっともったいないけど、こうするのが無難かしら? 私は光子竜皇でオーバーレイネットワークを再構築! エクシーズチェンジ! 現れなさい、No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン! そしてX召喚に成功したダークマターの効果を発動。デッキから銀河眼の雲篭、《巨神竜フェルグラント》、アークブレイブドラゴンの3体のドラゴン族を墓地に送ることで、相手のデッキからモンスター3体を除外するわ」

 

 鈴とのデュエルでも見せたダークマターを利用したコンボ。遊希はこの効果で墓地の光子竜を蘇生させつつ、皐月のデッキからモンスターを削るのだ。ヴァレットモンスターはその性質上デッキから次々と特殊召喚されるが、その分消費も早い。仮にデッキからヴァレットがいなくなってしまえば、被破壊時の効果は発動されなくなり、文字通り弾切れとなってしまう。

 

「……我は聖刻龍-シユウドラゴンと《聖刻龍-アセトドラゴン》、そして闇黒の魔王ディアボロスをゲームから除外する」

 

 もちろん皐月が除外するのはヴァレット以外のモンスターであることなど想定済みだ。それならそれで展開の起点となる聖刻とシャドウ・ディストピアとのコンボでこちらのモンスターを絶えずリリースしてくるディアボロスがいなくなることは遊希にとって都合がいい。

 

「私はこれでターンエンドよ。このターンの終了時に光子卿は私の墓地に送られる」

 

 

皐月 LP4200 手札0枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:13(0)

遊希 LP6000 手札2枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:1(No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ORU:2)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠:1 墓地:15 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:10(0)

 

皐月

 □□□□□

 □□□□□□

  □ 煌

□□□ダ□□

 □□伏□□

遊希

 

 

☆TURN05(皐月)

 

 

(っ……やはり、私などでは敵わない相手だったのでしょうか)

「わ、我のターン……」

 

 皐月はデッキからカードをドローする仕草を見せるが、デッキの上に手を置いたままカードをドローしようとしなかった。デュエリストがデッキの上に手を置く。それはサレンダーを意味し、このデュエルにおいて自ら敗北を認める行為となる。しかし、サレンダーは相手が認めて初めて成立するものであり、そのサレンダーを遊希が認めなければこのデュエルはどちらかのライフが0になるまで続けられるのだ。

 

「皐月、何のつもり?」

「……」

 

 遊希の問いかけに皐月は沈黙で返す。遊希は小さく溜息をついた。

 

「……まあサレンダーは決して恥ずかしい行為じゃない。私もプロ時代に何度かしたことはあるわ」

 

 遊希の脳裏にはかつて竜司を始めとした大人のプロデュエリスト相手に敗れた時の光景がフラッシュバックする。人間とは何故か嫌な思い出だけは瞬時に思い出せる脳をしているため、あれから数年経った今でもその時のことは鮮明に覚えているものだ。

 

「でもね、それをやるならまずそのデッキの上のカードをドローしてからやるべきよ。私もそう教わったから」

 

 遊希はデュエル中ということもあって真剣な表情をしているが、その声は何処か諭すように優しかった。かつて自分にそう言い聞かせてくれた竜司のそれと同じように。

 

「そうよ皐月! まだデュエルは終わってないんだから!」

「ええ、デュエルの結末はライフが0になるまでわからないわ! そのドローが逆転の一手にだってなるかもしれないんだから!」

 

 デュエルの行方を固唾を飲んで見守っている鈴と千春も皐月に対して声援を送る。二人は優しいのでこのデュエルに関しては双方の応援をしてくれているのだが、この時ばかりは二人とも皐月の方に情が寄っており、遊希はそれに何処か物寂しさを感じていた。

 

(なによ……私だってデュエルしてるのに)

―――ヤキモチか? それくらい大目に見てやれ。

(ふんっ、だ)

 

 そんな遊希の気持ちなどいざ知らず。遊希と鈴と千春、三人の友の声を受け皐月は弱気を振り払うために首をぶんぶんと横に振る。そして小さく息を吐いて呼吸を整えた。

 

「あ、ありがとうございます皆さん。私……最後まで頑張ってみます! ドローっ!」

 

 皐月の決意のドロー。もはやキャラクターになり切ることを忘れてしまっているが、それが気にならないほどの決意を彼女からは感じられた。

 

「このスタンバイフェイズに前のターン墓地に送られたアークブレイブドラゴンの効果を発動するわ! 墓地の銀河眼の光子竜1体を特殊召喚する!」

「ダークマターに光子竜……大型のドラゴンがずらずらと。ですが、私は最後まで諦めません! 手札から魔法カード《貪欲な壺》を発動します!」

 

《貪欲な壺》

通常魔法

(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

「私は墓地のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、天球の聖刻印、悪王アフリマ、聖刻龍-アセトドラゴン、アネスヴァレット・ドラゴンの5体をデッキに戻しシャッフル。そして2枚ドローします!」

 

 貪欲な壺によってメインデッキに戻ったモンスターは4体。墓地のモンスターをデッキに戻さなければならないためメインデッキの枚数が増えることになり、結果的に狙ったカードを引く確率は低くなる。しかし、エクストラデッキのモンスターを可能な限り戻すことで、メインデッキの枚数を増やさずにドローすることができるのだ。

 

「……デッキはデュエリストの声に応える、というのは本当のことなのかもしれませんね。私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動します!」

「死者蘇生……警戒しておいてよかったわ」

「墓地からヴァレルロード・ドラゴンを特殊召喚します! そして更に私は手札からフィールド魔法《リボルブート・セクター》を発動します!」

 

《リボルブート・セクター》

フィールド魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの「ヴァレット」モンスターの攻撃力・守備力は300アップする。

(2):自分メインフェイズに以下の効果から1つを選択して発動できる。

●手札から「ヴァレット」モンスターを2体まで守備表示で特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

●相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターよりも多い場合、その差の数まで自分の墓地から「ヴァレット」モンスターを選んで守備表示で特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

 

「リボルブート・セクター……ヴァレットのフィールド魔法ね」

「私はリボルブート・セクターの2つ目の効果を発動します! 相手フィールドのモンスターが自分フィールドのモンスターより多いため、墓地のヴァレットモンスターを2体まで守備表示で特殊召喚します! 私が蘇生するのは墓地のマグナヴァレット・ドラゴンとメタルヴァレット・ドラゴンです!」

 

 皐月のフィールドには貪欲な壺でデッキに戻らなかった2体のヴァレットモンスターが蘇る。リボルブート・セクターによって、2体のステータスはそれぞれ300上昇し、煌星竜の攻撃力を上回るが、守備表示で特殊召喚されたため攻撃に転ずることはできない。

 

マグナヴァレット・ドラゴン ATK1800/DEF1200→ATK2100/DEF1500

メタルヴァレット・ドラゴン ATK1700/DEF1400→ATK2000/DEF1700

 

「一気にモンスターを3体……銀河眼の煌星竜の効果を発動するわ! 手札の銀河眼の光子竜1体をコストに相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを破壊する! 破壊するのはメタルヴァレット・ドラゴンよ!」

「……感付かれましたか」

 

 メタルヴァレット・ドラゴンが特殊召喚されたのはちょうど真ん中のメインモンスターゾーンにあたり、メタルヴァレット・ドラゴンの正面にはダークマター・ドラゴンとセットカードが存在している。もしリンクモンスターの効果の対象になったメタルヴァレット・ドラゴンの効果が発動したらどうなるか。それがわからない遊希ではなかった。

 

「ですが、私のフィールドにはまだマグナヴァレット・ドラゴンが残っています! マグナヴァレット・ドラゴンを対象にヴァレルロード・ドラゴンの効果を発動します! そしてそれにチェーンする形でリンクモンスターの効果の対象になったマグナヴァレット・ドラゴンの効果を発動します!」

 

チェーン2(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン

チェーン1(皐月):ヴァレルロード・ドラゴン→マグナヴァレット・ドラゴン

 

「チェーン2のマグナヴァレット・ドラゴンの効果でマグナヴァレットは破壊されます。そして相手フィールドのモンスター1体を墓地に送ります。墓地に送るのは銀河眼の光子竜です!」

 

 破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンはそのままヴァレルロード・ドラゴンのシリンダー状の胴体へ弾丸となって収納される。そして身を低く屈め、砲身のように首を伸ばしたヴァレルロードの口から文字通り弾丸となったマグナヴァレットが発射され、光子竜を撃ち抜く。撃ち抜かれた光子竜はそのまま消えていった。

 

「光子竜!」

「チェーン1のヴァレルロードの効果は対象不在により適用されません。そしてバトルフェイズです! ヴァレルロード・ドラゴンでギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴンを攻撃します! そしてこの瞬間、ヴァレルロードの効果により、次のターンの終了時までダークマターのコントロールを奪います! そしてダークマターで銀河眼の煌星竜を攻撃です! えっと……絶滅のダークマター・ストリーム!……でいいんですよね?」

 

No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ATK4000 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

遊希 LP6000→4000

 

「まさか1ターンで3体のモンスターを全部消されるとはね……」

「バトルフェイズを終了し、私はこれでターンエンドです。そしてターン終了時に破壊されたマグナヴァレットおよびメタルヴァレットの効果でデッキから《シェルヴァレット・ドラゴン》とアネスヴァレット・ドラゴンの2体を守備表示で特殊召喚します」

 

《シェルヴァレット・ドラゴン》

効果モンスター

星2/闇属性/ドラゴン族/攻1100/守2000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動できる。このカードを破壊する。その後、このカードが存在していたゾーンと同じ縦列のモンスター1体を選んで破壊し、その隣のゾーンにモンスターが存在する場合、それらも破壊する。

(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「シェルヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

皐月 LP4200 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:4(ヴァレルロード・ドラゴン、No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ORU:2、シェルヴァレット・ドラゴン、アネスヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:1(リボルブート・セクター)墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:14(0)

遊希 LP4000 手札1枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:17 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:10(0)

 

皐月

 □□□□□

 アシ□銃ダリ

  □ □

□□□□□□

 □□伏□□

遊希

 

凡例

リ・・・リボルブート・セクター

シ・・・シェルヴァレット・ドラゴン

ア・・・アネスヴァレット・ドラゴン

 

 

 デュエルの前に皐月は言っていた。自分はデュエルが上手ではない、と。しかし、そう自称している皐月があの伝説のデュエリストであった遊希を追い詰めている。それがデュエルの怖いところであり、面白いところである。ただ、圧倒的不利にあって遊希のすることは変わらない。ライフが0になるその時まで、勝利への道を探し続けるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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固まる結束

 

 

 

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「私のターン、ドロー」

(……相手フィールドにはヴァレルロードに2体のヴァレット。ヴァレルロードのフリーチェーンの効果で皐月はいつでも2体のヴァレットモンスターの効果を発動できる)

 

 皐月のフィールドにはアネスヴァレット・ドラゴンとシェルヴァレット・ドラゴンの2体のヴァレットが存在する。マスタールールの変更によってEXゾーンが追加され、デュエルモンスターズにどこのモンスターゾーンにどのモンスターを召喚するか、というプレイングスキルも求められていた。

 

―――片方のEXゾーンの真正面にはシェルヴァレット・ドラゴンか。モンスターの召喚位置次第ではその効果でまとめて除去される恐れがあるな。

 

 シェルヴァレット・ドラゴンは散弾銃をモチーフにしたモンスターだ。その効果はこのカードが存在していたゾーンと同じ縦列に存在していたモンスター1体の破壊。そしてメインモンスターゾーンのモンスターを破壊した場合、その両隣のゾーンに存在するモンスターをも巻き込んで破壊するというものだ。そのためシェルヴァレットと対面する形になる左側おEXゾーンは封じられたも同然である。

 

(さらにアネスヴァレット・ドラゴンは相手フィールドのモンスター1体の効果を無効にし、攻撃をも封じる。この局面を覆すには、どちらか1つを敢えて発動させてヴァレルロードの効果を空撃ちにさせる必要がある)

 

 しかし、この時の遊希は冷静であった。何故ならこの時、彼女の手にはこの局面を覆すだけの力が揃っていたからだ。

 

(確かに懸念する材料は多い……けど、これで決まりよ)

「私は墓地の光属性モンスター、フォトン・スラッシャー、フォトン・バニッシャー、銀河眼の煌星竜の3体をゲームから除外し、手札から混源龍レヴィオニアを特殊召喚するわ!」

 

《混源龍レヴィオニア》

特殊召喚・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守0

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光・闇属性モンスターを合計3体除外した場合に特殊召喚できる。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):この方法でこのカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。その特殊召喚のために除外したモンスターの属性によって以下の効果を適用する。このターン、このカードは攻撃できない。

●光のみ:自分の墓地からモンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。

●闇のみ:相手の手札をランダムに1枚選んでデッキに戻す。

●光と闇:フィールドのカードを2枚まで選んで破壊する。

 

「光属性のモンスターのみを除外して特殊召喚に成功したレヴィオニアの効果を発動するわ! 私の墓地のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する!」

 

 このデッキにおいて、遊希がレヴィオニアの効果で狙うのは光属性のみのモンスターを除外して発動できるモンスター1体を蘇生する効果。レベル8の多いこのデッキではこのカードを特殊召喚するだけでランク8XモンスターのX召喚に繋ぐことができるのだ。もちろん遊希はそれを狙っている―――と皐月は踏んだ。いや、踏んだというより踏まされたというのが正しいのだろうか。

 

(……レヴィオニアの効果でランク8のX召喚を狙うというのですね。そうはさせません!)

「レヴィオニアの効果にチェーンしてヴァレルロードの効果を発動します! 対象はアネスヴァレット・ドラゴンです! そしてヴァレルロードの効果に対象になったアネスヴァレット・ドラゴンの効果を発動します!」

 

チェーン3(皐月):アネスヴァレット・ドラゴン

チェーン2(皐月):ヴァレルロード・ドラゴン→アネスヴァレット・ドラゴン

チェーン1(遊希):混源龍レヴィオニア

 

 ヴァレルロードの身体に弾丸となって装填されたアネスヴァレットがレヴィオニアに撃ち込まれる。レヴィオニアはまるで眠ったかのように力無く項垂れた。

 

「チェーン3のアネスヴァレット・ドラゴンの効果。リンクモンスターの効果の対象になったことで破壊されます! そしてフィールドのモンスター1体の効果を無効にし、そのモンスターは攻撃ができなくなります! 対象は混源龍レヴィオニアです!」

「チェーン2のヴァレルロードの効果は不発。チェーン1のレヴィオニアの効果はアネスヴァレットの効果で無効化されたため、発動できないわね……」

「これで天宮さんのフィールドには攻撃ができなくなったレヴィオニアが残りました。次のターンでダークマターと同じようにヴァレルロードの効果でコントロールを頂きます」

 

 遊希にとって乾坤一擲、逆転の一手であったレヴィオニアを無力化した皐月は安堵の様子を見せる。フィールドに残ったシェルヴァレットとヴァレルロードの効果で奪うモンスターでさらにリンク召喚に繋げれば、いくら遊希であっても容易には覆せない盤面を築き上げることができる。

 

「……見事ね、皐月。でも、これで私に勝った気になるのは早いわよ?」

「えっ……」

「あなたはさっき1枚のあるカードで戦況を覆した。だったら私もその1枚のカードで戦況を覆す! 手札から魔法カードを発動―――死者蘇生!!」

「死者蘇生!?」

 

 皐月は前のターン、死者蘇生によってエースであるヴァレルロードを蘇生した。召喚制限すら満たしていれば、ほとんどのモンスターを特殊召喚することができる死者蘇生はその強さが故に制限カードとなっている。もちろん1枚で流れを変えられる可能性の高いカードを遊希がデッキに入れないわけがない。

 

「私は墓地の巨神竜フェルグラントを特殊召喚する! そして墓地からの特殊召喚に成功したフェルグラントの効果を発動!」

 

《巨神竜フェルグラント》

効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2800

(1):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合、相手のフィールド・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外しこのカードの攻撃力・守備力は、除外したモンスターのレベルまたはランク×100アップする。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、「巨神竜フェルグラント」以外の自分または相手の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

「相手のフィールドまたは墓地のモンスター1体を除外し、このカードの攻撃力・守備力をそのモンスターのレベルまたはランク×100アップさせる。お誂え向けにあなたのフィールドには高ランクのXモンスターがいるわね」

「!? ダークマター・ドラゴン……!!」

「対象はもちろんダークマター・ドラゴン。フェルグラントによって除外されたダークマターのランクは9。よってフェルグラントの攻守は900ポイントアップする!」

 

巨神竜フェルグラント ATK2800/DEF2800→ATK3700/DEF3700

 

「これでヴァレルロードの攻撃力をフェルグラントが上回った。そしてもうヴァレルロードの攻守ダウンの効果は使えない! バトル! 巨神竜フェルグラントでヴァレルロード・ドラゴンを攻撃!“巨神竜猛撃(フェルグラント・クラッシュ)!”」

 

巨神竜フェルグラント ATK3700 VS ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000

 

皐月 LP4200→3600

 

 除外したダークマターの力を帯びて巨大化したフェルグラントの一撃がヴァレルロードの身体を貫いた。砕け散ったヴァレルロードの身体から発する光と共に、遊希の墓地からはフェルグラントの咆哮に呼応するかのように光子竜が舞い上がる。

 

「巨神竜フェルグラントが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、墓地のレベル7または8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。特殊召喚するのはレベル8でドラゴン族の銀河眼の光子竜! そして光子竜でシェルヴァレットを攻撃!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS シェルヴァレット・ドラゴン DEF2000

 

「この瞬間、銀河眼の光子竜の効果を発動。光子竜とシェルヴァレットをゲームから除外するわ!」

「シェルヴァレットを……今の効果に意味は……」

「リバースカードオープン。速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動!」

 

《異次元からの埋葬》

速攻魔法

(1):除外されている自分及び相手のモンスターの中から合計3体まで対象として発動できる。そのモンスターを墓地に戻す。

 

「異次元からの埋葬……? 何故このタイミングで?」

「除外されているモンスターを3体まで対象として発動。そのモンスターを墓地に戻すわ。私は自分のフォトン・バニッシャーと煌星竜を、皐月のシェルヴァレット・ドラゴンを墓地に戻すわ」

(どうしてシェルヴァレットを……あっ!!)

 

 カードの効果を熟知している皐月であるが、銀河眼の光子竜の効果についてどのように処理されるははっきりとはわからない。しかし、このタイミングで遊希が光子竜の効果によって“一時的に”除外されているシェルヴァレットを墓地に戻したということで彼女の狙いを知った。

 

「バトルフェイズ終了。このタイミングに光子竜の効果で除外されているモンスターはフィールドに戻る。私のフィールドには光子竜が戻ってくるわ」

 

 遊希のフィールドには自身の効果で除外されていた光子竜が戻ってきた。しかし、皐月のフィールドには同じように除外されているはずのシェルヴァレットは現れなかった。

 

「えっ? なんで皐月のシェルヴァレットは戻ってこないのよ!」

「光子竜の効果はバトルフェイズ終了時に除外されたモンスターをフィールドに戻す……シェルヴァレットは除外ゾーンにいない……!!」

「はい、鈴正解。光子竜の効果で除外されたモンスターは……除外されている間に除外ゾーンから消えた場合はフィールドに戻ってこれなくなるのよ。破壊されることで後続を呼ぶヴァレットはできるだけ破壊以外の方法で除去してしまいたいから」

 

 皐月のヴァレットは遊希の言うように、戦闘・効果問わず破壊されることでのみ後続のヴァレットを呼び出すため、破壊以外の方法による除去が弱点の一つだ。遊希からしてみれば、光子竜の効果とのコンボで異次元からの埋葬を入れていたのかもしれないが、そのカードを早々と引き当てては発動の機を伺っていたことに皐月は動揺を隠せなかった。

 

(……なんということ、まさかここまでのコンボが……)

「メインフェイズ2に移るわ。私はフェルグラントとレヴィオニアでオーバーレイ! 2体目の光子卿をエクシーズ召喚するわ。そしてこの光子卿を更にエクシーズチェンジ! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンをエクシーズ召喚」

 

 数日間期間を空けていたとはいえ、ダークマターやFA・フォトンといったモンスターをデュエルで使用することは間違いなく遊希の身体に負担はかけている。しかし、その負担にすら気づかないほど遊希はこのデュエルを、ここで経験したデュエルに熱中していた。一度は消えかけたデュエルに対する情熱が、眠っていた感情がふつふつと湧き上がってきていたのだ。

 

「X素材を1つ取り除いて効果を発動。リボルブート・セクターを破壊。これでターンエンドよ」

「エンドフェイズに破壊されたアネスヴァレットの効果を発動します! デッキから《オートヴァレット・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚します!」

 

《オートヴァレット・ドラゴン》

効果モンスター

星3/闇属性/ドラゴン族/攻1600/守1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを対象とするリンクモンスターの効果が発動した時に発動できる。このカードを破壊する。その後、フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送る。

(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「オートヴァレット・ドラゴン」以外の「ヴァレット」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

皐月 LP3600 手札0枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(オートヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:14(0)

遊希 LP4000 手札0枚

デッキ:21 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:1(ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:2)魔法・罠:0 墓地:16 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:8(0)

 

皐月

 

□□□□□

□オ□□□

 □ F

□□光□□□

 □□□□□

遊希

 

凡例

オ・・・オートヴァレット・ドラゴン

 

 

☆TURN07(皐月)

 

「私のターン、ドロー!……どうやら、ここまでのようですね。私はこのままターンエンドです」

 

 皐月はドローのみを行っては何もせずターンを終えた。この時点でこのデュエルの勝敗はもはや決まったものと言っていいだろう。しかし、皐月の顔には悔いは微塵も感じられなかった。

 

 

皐月 LP3600 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(オートヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:14(0)

遊希 LP4000 手札0枚

デッキ:21 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:1(ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:2)魔法・罠:0 墓地:16 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:8(0)

 

皐月

□□□□□

□オ□□□

 □ F

□□光□□□

 □□□□□

遊希

 

 

☆TURN08(遊希)

 

「私のターン、ドロー。皐月、私あなたとデュエルできて良かった。このデュエルは私の勝ちだけど、もし次同じようにデュエルする時はこうはいかないと思う。だから、二人で……いやみんなでデュエリストとして頑張りましょう?」

「天宮さん……はい」

「ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンの効果を発動。X素材を1つ取り除き、オートヴァレット・ドラゴンを破壊。そしてバトルフェイズ! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでダイレクトアタック。“壊滅のフォトン・ストリーム”!」

 

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:1 ATK4000

 

皐月 LP3600→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、負けてしまいました」

 

 自分でもある程度は予想できていたことではあるが、やはり負けることは喜ばしいことではない。その場にへたり込む皐月の元に鈴と千春が歩み寄った。この時二人は期待以上のデュエルを魅せてくれた皐月に対する喜びに溢れていた。

 

「何言ってんのよ! 皐月凄かったじゃない!」

「ええ。もしかしたら遊希の次に強いのは皐月かもしれないわね」

 

 鈴と千春に褒められた皐月は顔を紅潮させては両手で覆い隠す。あまり褒められ慣れていないのか、かなり恥ずかしそうだった。

 

「うう……そんなに褒めないでくださいぃぃ……恥ずかしいです」

(皐月にとっては褒め殺しってやつなのかしら)

―――それは生まれ持った本人の気性が関係しているからな。部外者の我々にどうこう出来る問題ではないだろう。

(でも、素晴らしいデュエリストを称賛することは悪いことではないわよね?)

―――無論だ。

 

「私、そんなにデュエルは得意ではないですが……少しだけ自信が付いたような気がします」

「ねえ、皐月。あなたは自分でデュエルが得意じゃないって言っているじゃない? それ、もうやめた方がいいわよ」

「えっ?」

「だってそうでしょう? 実技試験ではいい結果を残せなかったかもしれないけど、ここまでのデュエルができるデュエリストがデュエルが得意じゃないって……それを言ったらほとんどのデュエリストがデュエルが得意じゃなくなってしまうわ。もちろんそう言われてすぐに自信になるなんてことはないと思う。だから、これからゆっくりとでいいから自信を付けていきまし―――」

「天宮さん!?」

 

 遊希の優しい言葉に微かに目を潤める皐月。そんな中、皐月に微笑みかけていた遊希は彼女にもたれかかる。遊希自身は自覚していないようだが、二回連続の全力デュエルはブランクの長かった遊希にはやはり負荷が大きかったようだった。

 

「ご、ごめんなさい……ちょっと身体に力が入らなくて。重いでしょう?」

「そんなことありません。私に比べたら……その……」

「……」

「天宮さん?」

「皐月の身体ふわふわしていて気持ちいい……マシュマロボディってこういうことを言うのかしら? まるで人をダメにするソファって感じで」

「ふぇっ!?」

 

 皐月の胸に顔をうずめながらどこか気持ちよさそうな声を上げる遊希。思わず一時期インターネット上などで流行した家具に例えてしまうほどに、彼女の醸し出す包容力の虜になっていたのだ。さすがに衆目でこのようなことをされるのには抵抗のある皐月は、遊希を離すように鈴と千春に懇願する。しかし、残念ながらその願いは聞き届けられることはなかった。皐月の身体の左右から、飛びつくように鈴と千春も彼女を抱きしめたのである。

 

「あー、本当だ。皐月柔らかくて暖かい。お日様の匂いがするー」

「あ、あの、私は取り込んだばかりの布団ではないのですが」

「同い年なのにどうしてこうも差が出るのかしらねー……あー、私も皐月みたいなナイスバディに生まれ変わりたーい」

「日向さんまで! み、みなさん離れてくださーい!!」

 

 皐月の悲痛(?)な叫びが自分たち以外誰もいない屋上に木霊する。しかし、この一日で四人の結束がより深まったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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留学生

 

 

 

 遊希たちがデュエルアカデミアジャパン・セントラル校に入学してから早くも1か月が過ぎた。世間はゴールデンウィークの真っただ中であり、行楽シーズンに家族連れや普通の学生たちは束の間の休みを謳歌する。

 それでもデュエリストにとってはゴールデンウィークなど関係ない。もちろんアカデミア自体は普通の学校と同じように休みなのだが、家に帰らず寮で友人同士とひたすらデュエルを繰り返している生徒もそう少なくは無い。しかし、そんな休みの期間においてもいつも以上にアンニュイな顔をした人間が一人。

 

「はぁ……」

 

 他ならぬ遊希である。彼女は竜司からの所用を受けてセントラル校の最寄駅の前で一人溜息を付いていた。いつもの癖のかかった黒い長髪を後ろでまとめ、薄青のカーディガンに白いワイシャツ。黒のミニスカートに黒のニーソックスに黒のパンプスという遊希のスタイルをふんだんに生かしたコーディネートは男女問わず街行く人々の目を引く。最もこのコーディネートはファッションに無頓着な遊希を見かねた鈴がコーディネートしてあげたものなのだが。

 

―――溜息をつくと幸せが逃げると言うぞ。

 

 溜息を数秒間隔でつく遊希に光子竜が呆れたように忠告する。

 

(ゴールデンウィークにこんなところで人待ちしてる時点で幸せも何もあったもんじゃないでしょ)

 

 そんな光子竜に遊希は呆れたように返した。何の用もなく、遊希がこのようなところにいるわけもない。

 

―――仕方ないではないか。竜司との約束を果たさなければならないのだから。

(約束ね……まああれに関しては負けた私が悪いんだけど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は今から三日前に遡る。いつものように授業を終え、寮に戻ろうとした遊希を竜司が校内放送で呼び出したのだ。成績は優秀で授業態度もたまに上の空なことがあるだけでそれほど悪くない遊希が呼び出される理由は何なのか。学生たちの中では様々な噂が飛び交っていた。

 遊希からしてみれば、別に怒られるようなことはしていないわけであり、何も恐れることはない。一応竜司は校長であり、彼女にとっては恩人の一人でもあるので彼の顔を立てた上で学生生活を送っているのだが。

 

「……ったく校長室が最上階ってどういう構造よ。地震とかあった場合逃げ遅れるじゃない」

 

 そんな小言を言いながら遊希は校長室のドアをノックする。どうぞ、という声が聞こえたのでドアを開けて入る。校長室には高そうな椅子に座って書類作業に追われる竜司の姿があった。

 

「ああ、済まないね急に呼び出して」

「申し訳ないと言う気持ちがあるのなら事前に通告しておいてください。それで、私に何か御用ですか、校長先生?」

「実は君に大事な仕事を任せたいと思っていてね」

 

 仕事の内容。それはゴールデンウィーク明けからこの学校に編入する他国からの留学生を最寄駅まで迎えに行ってもらいたい、というものであった。話を聞く限りではそれほど難しい仕事ではない。

 遊希は幼い時から海外で活躍していたこともあって英語なら喋ることはできる。しかし、だからこそ彼女は逆に不信感を覚えた。留学生ということは外国人であり、その国を代表してこの日本にやってくるのである。そんな言わば大事な人間を出迎えるのだから、一介の生徒である自分なく、校長である竜司が出向くべきではないか、と。

 

「……そうはしたいんだが、校長とは何分忙しくてね」

「ゴールデンウィークで学校が休みなのに?」

「ああ。教員だから仕方ないさ。腑に落ちない、といった顔をしているね」

「まあ今の時点では」

 

 聞けばその留学生は日本語はある程度喋れるものの、やや方向音痴なところがあり、一人で学校まで来させるには不安な点がある。また娘である鈴ではどうも勤まらない仕事であると踏んだため、竜司は粘り強く説得を続ける。

 そんな中、あくまで依頼を渋る遊希に竜司が提案したのがデュエルであった。このデュエルに竜司が勝てば遊希にその仕事をしてもらう、遊希が勝てばその仕事は別の誰かにやってもらう、という条件付きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルフェイズ。ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンで校長先生にダイレクトアタック!“壊滅のフォトン・ストリーム”!!」

 

ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

 

竜司 LP4100→100

 

「ぐはっ……!」

「私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 遊希のフィールドにはオーバーレイ・ユニットが2つのギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンが1体のみ存在。そして今カードを1枚伏せたため手札は0になっていた。一方の竜司はFA・フォトンの効果でフィールドに存在していたモンスターを破壊されており、更に魔法・罠カードの類はなく、手札は1枚のみでライフは100。遊希の残りライフ2300と比べるとやはり不利な状況にあった。

 

「私のターン、ドロー」

 

 竜司のドロー。これがおそらく彼にとっての最後のドローとなる。ドローしたカードを手札に加えた竜司はいつものような穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン。初めて見た時は驚いたが、今では君はそのカードを完璧に使いこなしているね」

「……あなたの娘さんや親友たちの協力あってこそですよ」

「そうか……では私はそのモンスターを倒した上で勝利を手繰り寄せるよ」

「FA・フォトンを倒す?」

 

 攻撃力4000のFA・フォトンを倒すには相当のモンスターを用意しなければならない。ただ竜司のデッキは攻撃力に優れたモンスターが多く入っているため、それを成し遂げるのは決して難しいことではない。

 

「ああ、この2枚の手札でね。私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地のこのモンスターを特殊召喚する! 再び降臨せよ!《青眼の究極竜》!」

 

《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)》

融合モンスター

星12/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3800

「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」

 

 竜司が蘇らせたのは攻撃力4500の融合モンスター、青眼の究極竜。しかし、このカードは前のターンにFA・フォトンの除去効果によって破壊されていた。

 

「究極竜……確かにそのモンスターならFA・フォトンの攻撃力を上回りますね」

「しかし、FA・フォトンを撃破したところでここで私に勝ちはない」

「ええ、その通りです。そして私のライフにはまだ余裕があります。巻き返しは容易ですよ?」

 

 ギャラクシー同様青眼は光属性のテーマなので残り1枚の手札が《オネスト》という手もある。しかし、遊希の知る限り竜司はオネストをデッキには入れていない。

 

「ああ。だが、この残り1枚の手札が私を勝利に導いてくれる。私は……今蘇生した究極竜をリリース!」

「……究極竜をリリース!?」

「君にFA・フォトンがいるのならば、私にはこのカードがいる!“青き眼を持つ白龍は究極を超え、更なる進化を遂げる! 光を纏いて飛来せよ!《青眼の光龍》!!」

 

 究極竜の身体にヒビが入り、それがガラスのように砕け落ちた瞬間。究極竜の中から機械のような身体をした青眼の白龍に酷似した龍が飛び立つ。そのドラゴンが放つ輝きは遊希の持つ銀河眼の光子竜に匹敵するほどのパワーを感じさせていた。

 

「これが……進化した青眼!?」

 

《青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニング・ドラゴン)》

効果モンスター

星10/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在する「青眼の究極竜」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。

また、このカードを対象にする魔法・罠・モンスターの効果を無効にする事ができる。

 

「なるほど、かなりの力を感じる……ですが攻撃力は究極竜の時より下がっていますよ」

「しかし、光龍はそれを自身の効果で補うことができる。光龍の攻撃力は墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。私の墓地に眠るドラゴン族は今リリースした究極竜を含めて計11体。よってその攻撃力は……」

 

青眼の光龍 ATK3000→6300

 

「攻撃力……6300!?」

「光龍とFA・フォトンの攻撃力の差はちょうど2300か。君も確かに強くなったけど、私もまだまだ負けられないからね。では行かせてもらうよ、バトルフェイズ。青眼の光龍でギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンを攻撃!“シャイニング・バースト”!」

 

青眼の光龍 ATK6300 VS ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000 ORU:0

 

遊希 LP2300→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 遊希はあの時のデュエルを思い返していた。青眼の光龍という予想外のモンスターを出されたこともあるが、長い間デュエルから離れていた遊希は負けたことによって生じる悔しさ、という感情を忘れていた。しかし、その感情がここ数日は彼女の中から離れる事が無かったのだ。

 

―――そんなに悔しいのか、負けたのが。

(いやまあそういうわけじゃないんだけど……竜司さんには負けてる記憶しかないからさ……)

 

 光子竜にはそう言い繕った遊希は確認がてらにスマートフォンの画面を見る。留学生が到着する予定の時間まであと10分となっていた。

 

「そろそろね。まあまだ10分あるから何か飲み物でも買ってこよっと」

 

 そう言って遊希は待ち合わせの場所から離れてしまうのであった。既にその駅前には遊希が出迎える留学生が到着していたとも知らずに。

 

「私が編入するセントラル校から迎えが来ていると聞いていたが……誰もいないではないか、なんと無礼な。まあいい、自分で行ってやる」

 

 遊希が飲み物を買いに駅前を離れた直後、遊希がさっきまでいた場所には遊希に代わって一人の少女が立っていた。背中ほどまであるシルバーの髪に雪のような白い肌。肌と似た白のワンピースを着た少女は慣れないガイドブックを片手に何処か苛ついているようだった。

 

「はて、セントラル校行きのバスは……どこのバス停だ……」

 

 ややつたない日本語をぶつぶつと喋りながらページをめくる美少女の姿に周囲の通行人が思わず足を止める。しかし、そのような世間知らず感丸出しの少女に目をつけるのは決まって彼女に対して良からぬことを考える輩である。そして所謂「輩」という存在はデュエリストにも数多く存在する。真っ当なデュエリストたちはそれを否定できないのが辛いところでもあった。

 

「ねえお嬢ちゃん。何か困ってんの?」

 

 少女に声を掛けたのは浅黒い肌に金髪、両耳にピアスを2つずつ付けた男だった。そして少女に声を掛けた男の連れ二人は少女の左右に回り込み、彼女が逃げられないように取り囲む。彼らの悪意になど気が付かない少女は親切な日本人が困っている自分を助けてくれる、と思い込み困り顔で自分の現状を話してしまった。

 

「うむ、実は人と待ち合わせをしてるのだが、その人間が見つからないのだ」

「マジで? こんなかわいい子をほったらかすなんてよっぽど甲斐性のない男だね! じゃあ俺たちが代わりに案内してあげようか?」

「案内?……もしかして連れて行ってくれるのか!」

 

 少女はサファイアのような青の瞳をキラキラと輝かせる。男たちはあまりに純真すぎる少女の言動に微かに残された良心がチクリと痛む気がした。それでもこんな美少女が郊外のこの街のどこにいようか。獲物に狙いを付けた肉食動物の如く男たちは少女を油断させる。

 

「あ、ああ! どこでも連れて行ってやるよ!」

「……ハラショー。日本人は親切な人種と聞いていたが、噂通りのようだな!」

 

 尊大な物言いにであるにも関わらず、何処までも純粋な少女には声を掛けた男たちも逆に自分たちのペースを崩されるのであった。一方で出迎えに来た留学生がそのような事態に巻き込まれていることなど露知らぬ遊希は慌ててコンビニを飛び出した。

 

「まずいわね、雑誌を立ち読みしていたら予定の時間を20分も過ぎてしまったわ」

―――だから言っただろうが。

(あんただって次のページめくれめくれうるさかったじゃない)

―――世界各国のプロデュエリスト特集だからな。いちデュエリストなら目を通しておかなければいけないだろう。第一立ち読みするくらいなら買えばいいのに。

(雑誌って意外と高いのよ? 学生のお財布事情を知らないのかしら)

―――プロ時代の賞金がたんまり残っているくせに。

(やかましい。次言ったら水の中にカード落としてシワシワにしてやるんだから)

―――残念だったな、今のカードは水没した程度にダメになるほどヤワではないぞ?

 

 光子竜と口喧嘩をしながら待ち合わせ場所に戻った遊希。しかし、そこには当然留学生の姿は無かった。

 

(確か方向音痴な子って聞いていたから……一人であちこち出歩いてるかもしれないわね)

―――その留学生の特徴は?

(えーと……校長先生から聞いた話だと歳は私と同じ女子で身長も私と同じくらい。背中まで伸びた銀髪が特徴のロシア人よ)

―――ロシア人、そういえばさっきの雑誌に載ってたな。

(ええ。彼女の名前は“エヴァ・ジムリア”。私がデュエルの表舞台を去った後にプロデビューしたデュエリスト。その容姿からいつしかこう呼ばれ始めているそうよ。“銀色の戦乙女”と)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おい、いつごろやる?)

(頃合いを見つけて路地裏に連れ込むか?)

 

 男たちが遊希のいう“銀色の戦乙女”ことエヴァにいつごろその魔の手を伸ばそうか相談していた時、先を歩いていたエヴァが立ち止まる。

 

「おい」

「な、なんだいお嬢ちゃん」

「あそこに入ってみたいのだが構わないだろうか」

 

 エヴァが指差した先にあるのはカードショップだった。駅に一番近いカードショップであり、アカデミアの生徒も学校で手に入らないカードを探しに訪れることもあるそれなりに名の知れた店であった。

 

(おいどうするよ)

(いいんじゃね、それくらい)

 

 多少の出費くらいなんのその。男はエヴァの要望通りそのカードショップに入ることにした。カードショップにはデュエル用の机でデュエルをする少年デュエリストたちやストレージから欲しいカードを探すコレクターまで多数の利用者がいた。

 しかし、突然入ってきたロシア人の少女にその場にいた全ての人間が目を奪われた。どちらかというと男性の利用者の方が多いこの手のショップに、白人の、そして目の覚めるような美少女が入ってきたのだから無理もない。

 

「おお! カードがたくさんあるぞ!」

「なんか欲しいカードはあるかい?」

「欲しいカードか? あるにはあるのだが……」

「どんなカードか教えてほしいなぁー?」

「えっと、あれだ!」

 

 エヴァが指差したカードに男たちは硬直した。エヴァが指差したのはとあるテーマデッキの必須カードであり、レアリティは数十箱に1枚入っているいないかの封入率と言われるほど稀少なカードだった。男たちは気軽に欲しいカードを聞いてはみたものの、まさかあんな高額カードを欲しがるとは予想していなかったようで、互いに財布の中身を確認し合うのであった。

 

「本当に、どこに行ってしまったのかしら?」

 

 エヴァがレアカードに目を輝かせている頃、そのエヴァを探す遊希は未だに駅前を彷徨っていた。エヴァの顔は先程立ち読みした雑誌で覚えているし、何より白人なので嫌でも目立つはず。

 しかし、外国人が立ち寄りそうな店や駅前で野外デュエルをしているデュエリストたちの観覧者を探してはみたものの、エヴァの姿はそこには無かった。

 

「……本当にどこ行ったのかしら?」

―――もしかして一人でアカデミアに向かったのでは?

「かもしれないわね。でも迷子になっていたり悪い男に引っかかっている可能性も無きにしもあらず……そうだ。いいこと思いついた」

 

 そう言って遊希は上着のポケットからスマートフォンを取り出す。先程野外デュエルをしていたデュエリストの使用カードと同じことをすればいいのだ。

 

「魔法カード、増援。発動よ」

 

 遊希はそう言ってとある番号に電話を掛ける。電話の相手は2コールの後に電話に出た。

 

「もしもし、鈴?」

『ゆ、遊希? どうしたの?』

 

 電話の相手は鈴であった。ゴールデンウイーク前まで電話帳に竜司の名前しか無かった遊希であるが、今となっては鈴、千春、皐月の3人をはじめ数多くの名前がデータにはあった。

 もっとも鈴たちとは普段から顔を合わせており、彼女自身それほど電話を掛けないため、鈴からしてみれば遊希が急に電話を掛けてきたことに驚きを隠せないようだった。

 

「あんた今暇? 暇よね?」

『えっ? ま、まあ今学校のデュエル場で他の人のデュエル見てるところだけど……』

「そう。じゃあ今すぐ駅前に来て」

『駅前? ちょっといきな―――』

 

 説明もそこそこに遊希は電話を切る。鈴から遊希にはひっきりなしに電話が掛かって来るが、正直に理由を話せば鈴は来ないはず。そう考えた遊希は非道にもスマートフォンの電源を切ってしまった。

 

―――電話に出なくていいのか?

(理由を話したら来てくれると思う?)

―――遊希……嫌な奴だなお前は。

(褒め言葉として受け取っておくわ)

 

 私服に着替えた鈴が息を切らしながら遊希の待つ駅前に着いたのはそれから30分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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精霊の波動

 

 

 

 

「ったく、信じらんない!!」

 

 ゴールデンウィークの駅前に、鈴の怒号が響き渡る。遊希に突然呼びつけられた挙句、自分の不始末の尻拭いをさせられるのだから無理もないだろう。呼びつけた遊希は面倒くさそうに鈴を宥めるものの、事の発端が事の発端なので全く説得力が無く、逆に彼女の怒りは増すばかりであった。

 

「鈴、声が大きいわ。人様の迷惑よ」

「迷惑なのはどっちよ! 遊希がパパから頼まれた仕事ミスるのがいけないんじゃない!」

「ゴールデンウィークの間ずっと学校に引きこもっている辺り、どうせあんた暇だったでしょ? たまには外に出なさい。さすが5月、全てを忘れそうになるくらい気持ちいいわ」

「忘れた結果がこれじゃないの!!」

 

 開き直る遊希に呆れ、深いため息をつく鈴。デュエルをしている時の遊希は強く、勇ましく、美しく―――と同性であるにも関わらず魅了させられるほどなのに、何故デュエル以外となるとこうも適当になってしまうのか、と頭を抱えた。

 しかし、鈴が暇を持て余していたことも紛れもない事実である。現にゴールデンウィークの長期休暇を利用して千春と皐月は実家に帰っており、実家がセントラル校から近い以上、遊希の呼び出しに応じられる人間は鈴以外にいなかったのだ。

 

「それで、あんたが編入してくる留学生を見失ったと」

 

 だが、来てしまった以上このまま何もせずに帰るというのは癪に障る鈴は渋々遊希の手伝いをすることにした。最も今度遊希に駅前の人気店でスイーツを奢ってもらうという条件付きではあるが。

 

「ええ。なんでも有名な現役プロデュエリストの子みたいよ。確かエヴァ・ジムリアとかいう」

 

 エヴァ・ジムリア―――という名前を聞いて鈴の目の色が変わる。しばらくデュエルから離れていた遊希にとっては何とも思わないかもしれないが、ずっとデュエルに関わり続けてきた鈴にとっては違っていた。

 

「……エヴァ・ジムリア!? あのエヴァ・ジムリアがセントラル校に来るの?」

「何よその食いつきよう。そんなに凄いのその子? 雑誌ではやたら持ち上げられていたけど」

「凄いも何もプロの舞台では何回かパパにも勝ってるし、下手したら遊希より強いかもしれないわ」

「ふーん……そう」

 

 鈴の「遊希よりも強い」という言葉に遊希の中でのエヴァに対する興味が増していく。光子竜はそれを知ってもなお遊希に直接それを言うことはしなかった。遊希は自身がプロを引退してからデュエルをほぼ捨ててここまで過ごしてきた。そのため、彼女は自分が居なくなった後のプロリーグの情報をほとんど知らない。

 しかし、人間は自分の知らないことを知りたがる生き物であり、デュエリストならば自分より強いと評されるデュエリストの力がどれほどのものなのか知りたくなるものである。現にアカデミア入学を決めた前後から遊希のデュエルに対する情熱は少しずつではあるが高まってきている。

 光子竜としても、遊希の両親が命を落としたことの原因は自分にもあると日々感じていた。そのため彼は親のような立場で遊希がかつてのデュエルを楽しんでいたころの遊希に戻ってくれることを願っていたのだ。

 

(―――遊希)

「取りあえずもう一度周囲の人に聞いて回りましょう。ロシアの人だからきっと目立つはずよ!」

「ええ、そうね」

 

 エヴァの特徴を改めて共有し合うと、遊希と鈴は二手に分かれてエヴァの捜索に乗り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、当のエヴァは男たちと共にカードショップを後にしていた。彼女の手には男たち三人が割り勘することでなんとか手に入れられたあのレアカードがあった。まさか最新鋭のテーマではない往年のデッキに追加された新規カードがこのような高値で取引されているとは思わなかった男たちはエヴァのために手持ちの金銭の大半をつぎ込んでこのカードをプレゼントしたのである。

 

「すまないな、このカードの特殊レアリティは我が母国ではまだ出回っていなかったのだ」

「よ、喜んでもらって何よりだよ……」

 

 このままだと何をされるかわかったものではない。そう思った男たちはエヴァの後ろを歩きながら適当な裏路地を見つけた。ここならば人目にはつきにくい。男たちは互いに目線を送り合うと、計画を実行に移すことにした。

 

「な、なあ。俺たちも行きたいところがあるんだけどよぉ」

「なに、どこだ? さっきは私の行きたいところに連れて行って貰ったのだ。恩返しならばしてやるぞ」

「こっちだよ……」

 

 男たちの欲望に気付く様子のないエヴァが男たちに連れて行かれたのは人気のない薄暗い路地裏だった。

 

「うむ? ここはただの路地裏ではないか」

「いや、どっか建物に入りたいわけじゃないんだよ。俺たちさぁ……君と“タノシイ”ことしたかったんだよねぇ」

 

 男たち三人がジワジワとエヴァを取り囲むように近づいてくる。するとエヴァは手持ちの鞄からあるものを取り出し、それを自身の左腕につけた。彼女は一人の少女であると同時にデュエリストである。ならば彼女にとって“タノシイ”ことと言えばこれしかない。

 

「楽しいこと……そうか、デュエルだな!」

 

 デュエルディスクを装備してはドヤ顔をしてみせるエヴァの前に男たちはズッコケる。エヴァはプロとして早々と有名になってしまったため、馴染んだスタジアムではなく異国でのストリートデュエルに密かに憧れを持っていたのだ。

 

「違えよ! 俺たちがしたいことはな……」

 

 逸る男の一人をリーダー格の男が制止する。リーダー格の男もまたデュエルの腕には自信を持っていた。ことに及ぶのはデュエルの後でも遅くは無い、そう判断したのだろう。男はデュエルの条件にあることを付け加えた。それは男が勝てば「なんでもいうことを聞く」という条件であり、かなり怪しかったがエヴァは疑うことなく男の条件を受け入れた。

 

「……まあ待ってろ。俺が決めてやるからよ」

 

 男のリーダー格はそう言って仲間の男たちに自分の勝利を見届けるように言った。この後に及んで男の真意を理解していなかったエヴァはデュエルディスクの内蔵コンピューターを作動させた。そのデュエルディスクのコンピューターによって先攻後攻の決定権は男に委ねられ、男は先攻を取った。

 

「じゃあ行くぜお嬢ちゃん!」

「ああ、何処からでもかかってくるがいい!」

「「デュエル!」」

 

 

先攻:男

後攻:エヴァ

 

男 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □ 

□□□□□□

 □□□□□

エヴァ

 

 

☆TURN01(男)

 

「俺の先攻! 俺は手札から《天帝従騎イデア》を召喚!」

 

《天帝従騎イデア》

効果モンスター

星1/光属性/戦士族/攻800/守1000

「天帝従騎イデア」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「天帝従騎イデア」以外の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2):このカードが墓地へ送られた場合、除外されている自分の「帝王」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「天帝従騎イデア……お前のデッキは【帝】か」

「その通り、俺の一番のデッキだ。召喚に成功したイデアの効果で俺はデッキから《冥帝従騎エイドス》を守備表示で特殊召喚する!」

 

《冥帝従騎エイドス》

効果モンスター

星2/闇属性/魔法使い族/攻800/守1000

「冥帝従騎エイドス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにアドバンス召喚できる。

(2):墓地のこのカードを除外し、「冥帝従騎エイドス」以外の自分の墓地の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

 

「エイドスが特殊召喚に成功したことで、俺はこのターン通常召喚に加えて一度だけ俺のメインフェイズにアドバンス召喚できる。俺は永続魔法《帝王の開岩》を発動!」

 

《帝王の開岩》

永続魔法

「帝王の開岩」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2):自分が表側表示でモンスターのアドバンス召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。●そのモンスターとカード名が異なる攻撃力2400/守備力1000のモンスター1体をデッキから手札に加える。●そのモンスターとカード名が異なる攻撃力2800/守備力1000のモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

「そして俺はイデアとエイドスをリリースして《冥帝エレボス》をアドバンス召喚!」

 

《冥帝エレボス》

効果モンスター

星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守1000

このカードはアドバンス召喚したモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。

(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキから「帝王」魔法・罠カード2種類を墓地へ送り、相手の手札・フィールド・墓地の中からカード1枚を選んでデッキに戻す。

(2):このカードが墓地にある場合、1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに手札から「帝王」魔法・罠カード1枚を捨て、自分の墓地の攻撃力2400以上で守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「アドバンス召喚に成功したエレボス、そして帝王の開岩の効果を発動する!」

 

チェーン2(男):帝王の開岩

チェーン1(男):冥帝エレボス

 

「チェーン2の帝王の開岩で俺はデッキから《天帝アイテール》を手札に加える。そしてチェーン1のエレボスの効果で俺は《汎神の帝王》と《真源の帝王》を墓地に送り、相手の手札1枚をデッキに戻す!」

「……先攻ハンデスとは味な真似をするな」

「そして墓地の汎神の帝王をゲームから除外して効果を発動!」

 

《汎神の帝王》

通常魔法

「汎神の帝王」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札の「帝王」魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「帝王」魔法・罠カード3枚を相手に見せ、相手はその中から1枚選ぶ。そのカード1枚を自分の手札に加え、残りをデッキに戻す。

 

「俺はデッキから《深怨の帝王》《帝王の烈旋》《連撃の帝王》を見せる。そして相手はその中から1枚を選ぶ。そのカードを俺は手札に加える」

「では連撃の帝王を選ぶ」

「じゃあ俺は連撃の帝王を手札に加えて残りをデッキに戻す。俺はカード1枚をセットし、ターンエンドだ」

 

 

男 LP8000 手札3枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(冥帝エレボス)EXゾーン:0 魔法・罠:2(帝王の開岩)墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

エヴァ LP8000 手札4枚

デッキ:36 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□岩伏□

 □冥□□□□

  □ □ 

□□□□□□

 □□□□□

エヴァ

 

凡例

冥・・・冥帝エレボス

岩・・・帝王の開岩

 

 

☆TURN02(エヴァ)

 

「私のターン、ドローだ。なるほど、帝デッキの先攻にしては理想に近い動きだな」

「俺だって伊達にデュエリストしてないからな。次のターンで一気に決めてやるよ」

「そうか……だが、残念だ」

「何、どういう意味だ?」

「どういう意味も何も……貴様のターンはもう来ないからだ。私のフィールドにはモンスターは存在しない。よって私は手札の《BF-毒風のシムーン》の効果を発動する!」

 

《BF-毒風のシムーン》

効果モンスター

星6/闇属性/鳥獣族/攻1600/守2000

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札からこのカード以外の「BF」モンスター1体を除外して発動できる。デッキから「黒い旋風」1枚を自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。その後、手札のこのカードをリリースなしで召喚するか、墓地へ送る。この効果で置いた「黒い旋風」はエンドフェイズに墓地へ送られ、自分は1000ダメージを受ける。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

 現役のプロデュエリストであるエヴァが使うのは闇属性・鳥獣族で統一されたテーマ【BF(ブラックフェザー)】。シンクロ召喚黎明期に登場したこのテーマはかつてはプロの世界でも多くのデュエリストに好んで用いられたデッキの一つである。エクシーズ、ペンデュラム、リンクと新たな召喚法が次々と登場し、マスタールールが改訂された今となっては既に古豪に位置づけられているテーマではあるが、未だに愛用者は多い。

 

「手札の《BF-精鋭のゼピュロス》をゲームから除外して発動。デッキから永続魔法《黒い旋風》を表側表示で私の魔法&罠ゾーンへ置く。そしてその後手札のこのカードをリリースなしで召喚する」

 

《黒い旋風》

永続魔法

(1):自分フィールドに「BF」モンスターが召喚された時にこの効果を発動できる。そのモンスターより低い攻撃力を持つ「BF」モンスター1体をデッキから手札に加える。

 

「黒い旋風をデッキから発動しつつ召喚できるモンスターだって!?」

「そうだ。そして黒い旋風が存在している状態でBFモンスターの召喚に成功したことで黒い旋風の効果を発動。デッキから《BF-南風のアウステル》を手札に加える。そして今手札に加えたチューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚する」

 

《BF-南風のアウステル》

チューナー・効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守0

このカードは特殊召喚できない。

(1):このカードが召喚に成功した時、除外されている自分のレベル4以下の「BF」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分フィールドの「ブラックフェザー・ドラゴン」1体を選び、相手フィールドのカードの数だけ黒羽カウンターを置く。

●相手フィールドの表側表示モンスター全てに可能な限り楔カウンターを1つずつ置く(最大1つまで)。

 

「なっ……通常召喚だと! 俺のように召喚権を増やしたわけじゃないのに!」

「シムーンの通常召喚はシムーンの“効果”によって行われるものだ。よって召喚権を消費しない」

「召喚権を消費しない召喚だって!? インチキ効果もいい加減にしろ!」

「……インチキも何もこれはルールなのだからしょうがないだろう? まあいい、召喚に成功したアウステルの効果、そして黒い旋風の効果を発動する」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風の効果で私はデッキから《BF-そよ風のブリーズ》を手札に加える。そしてチェーン1のアウステルの効果で除外されているレベル4以下のBF-精鋭のゼピュロスを特殊召喚する!」

 

《BF-精鋭のゼピュロス》

効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1600/守1000

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、自分は400ダメージを受ける。

 

「そしてカードの効果で手札に加わったことでチューナーモンスター、BF-そよ風のブリーズは手札から特殊召喚できる」

 

《BF-そよ風のブリーズ》

チューナー(効果モンスター)

星3/闇属性/鳥獣族/攻1100/守300

このカードがカードの効果によって自分のデッキから手札に加わった場合、このカードを手札から特殊召喚できる。このカードをシンクロ素材とする場合、「BF」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 

「更にフィールドにBFモンスターが存在する時、これらのモンスターは特殊召喚できる。現れよ!《BF-黒槍のブラスト》」

 

《BF-黒槍のブラスト》

効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1700/守800

(1):自分フィールドに「BF-黒槍のブラスト」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「あっという間にフィールドをモンスターで埋め尽くした……エレボスの効果でハンデスしたというのに」

「そう言えば、この国には“三本の矢”という言葉があるようだな」

 

 三本の矢、とは戦国時代に中国地方で勢力を伸ばした毛利元就の教えである。一本ではあっさり折れてしまう弓矢であっても、それが三本重なれば折れにくいという意味で、彼は三人の息子たちに結束の重要さを説いたとされている。

 

「……そ、それがなんだってんだよ」

「これは兄弟たちの結束を重要視した話だそうだな。しかし、それはこのデュエルモンスターズにおいてもそれはあてはまる。では行かせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴と手分けしてエヴァを探す遊希であったが、鈴と別れて数十分経った今もまだエヴァを見つけられずにいた。そんな中、光子竜が何かを感じ取った。彼が感じ取ったのは、この世界において二つとないはずのもの。

 

―――なっ……まさか……

(どうしたの)

―――いや、勘違いかもしれないが……

(何よ、あんたが何か感じるってそうはないことよ)

―――この街のどこかで私と近いものの波動を感じた。デュエルモンスターズの―――精霊のものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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運命の出会い

 

 

 

 

「まず一の矢だ。私はゼピュロスとブラストをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認。召喚条件は闇属性モンスター2体。サーキットコンバイン! 現れよ!リンク2《見習い魔嬢》!」

 

《見習い魔嬢》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/魔法使い族/攻1400

【リンクマーカー:左下/右下】

闇属性モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの闇属性モンスターの攻撃力・守備力は500アップし、光属性モンスターの攻撃力・守備力は400ダウンする。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊された場合、自分の墓地の闇属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「見習い魔嬢が存在する限り、フィールドの闇属性モンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。そしてフィールドの光属性モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントダウンする。」

 

見習い魔嬢 ATK1900

BF-毒風のシムーン ATK1600/DEF2000→ATK2100/DEF2500

BF-南風のアウステル ATK1300/DEF0→ATK1800/DEF500

BF-そよ風のブリーズ ATK1100/DEF300→ATK1600/DEF800

 

冥帝エレボス ATK2800/DEF1000→ATK3300/DEF1500

 

「いくら自分のリンク先を増やすためとはいえ、エレボスまで強化するんじゃ世話ないな」

「まあそう焦るな。お楽しみはこれからだぞ? 墓地に存在するゼピュロスの効果を発動させてもらおうか。フィールドに表側表示で存在する黒い旋風を手札に戻し、このカードを墓地から特殊召喚する。その代償として私は400のダメージを受けるがな」

 

BF-精鋭のゼピュロス ATK1600/DEF1000→ATK2100/DEF1500

 

エヴァ LP8000→7600

 

 毒風のシムーンの効果で発動した黒い旋風はこのターンの終了時に墓地に送られ、エヴァは1000のダメージを受ける。しかし、ゼピュロスで一度手札に戻してしまえば黒い旋風を再発動してそのデメリットを打ち消すだけではなく、シムーンによるダメージも無くなる。

 これは手札にシムーン、アウステル、ゼピュロスの3枚が揃わなければできないコンボであるが、それらのカードを初手で揃えられるのもプロにまで登り詰められる彼女の強運が為せるものなのだろう。

 

「では、二の矢と行こう。私はレベル4のゼピュロスに、レベル3のチューナーモンスター、そよ風のブリーズをチューニング!“漆黒の翼、雷鳴渦巻く空に翻す。その刀を以て全てを断ちきれ!”シンクロ召喚! 現れよ! レベル7《A BF-驟雨のライキリ》!」

 

《A BF(アサルトブラックフェザー)-驟雨(しゅうう)のライキリ》

シンクロ・効果モンスター

星7/闇属性/鳥獣族/攻2600/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):「BF」モンスターを素材としてS召喚したこのカードはチューナーとして扱う。

(2):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドの「BF」モンスターの数まで、相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

A BF-驟雨のライキリ ATK2600/DEF2000→ATK3100/DEF2500

 

「攻撃力3100だと!?」

「BFモンスターを素材にS召喚されたライキリはチューナーとして扱う。そしてこれが三の矢だ! 私はレベル6の毒風のシムーンに、レベル4のチューナーモンスター、南風のアウステルをチューニング!“その名に宿すは完全にして至高。極光輝く天空を大いなる翼を以て制圧せよ!”シンクロ召喚!! 出でよ! レベル10―――《BF-フルアーマード・ウィング》!!」

 

《BF-フルアーマード・ウィング》

シンクロ・効果モンスター

星10/闇属性/鳥獣族/攻3000/守3000

「BF」チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードは他のカードの効果を受けない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターが効果を発動する度に、その相手の表側表示モンスターに楔カウンターを1つ置く(最大1つまで)。

(3):1ターンに1度、相手フィールドの楔カウンターが置かれたモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールを得る。

(4):自分エンドフェイズに発動できる。フィールドの楔カウンターが置かれたモンスターを全て破壊する。

 

「フルアーマード・ウィングは他のカードの効果を受け付けない。よって見習い魔嬢の効果による強化も受け付けない。私はライキリの効果を発動する。1ターンに1度、自分フィールドに存在するこのカード以外のBFと名のついたモンスターの数だけ相手フィールドのカードを対象として破壊する。破壊するのはそのセットカードだ!」

「だったらライキリのその効果にチェーンしてリバースカードオープン! 永続罠、連撃の帝王を発動する!」

 

《連撃の帝王》

永続罠

(1):1ターンに1度、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズにこの効果を発動できる。モンスター1体をアドバンス召喚する。

 

チェーン2(男):連撃の帝王

チェーン1(エヴァ):A BF-驟雨のライキリ

 

「チェーン2の連撃の帝王の効果で俺はアドバンス召喚を行う! 冥帝エレボスをリリースし、天帝アイテールをアドバンス召喚! このモンスターはアドバンス召喚されたモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚することができる!」

 

《天帝アイテール》

効果モンスター

星8/光属性/天使族/攻2800/守1000

このカードはアドバンス召喚したモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。

(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキから「帝王」魔法・罠カード2種類を墓地へ送り、デッキから攻撃力2400以上で守備力1000のモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主の手札に戻る。

(2):このカードが手札にある場合、相手メインフェイズに自分の墓地の「帝王」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。このカードをアドバンス召喚する。

 

「チェーン1のライキリの効果で対象となった連撃の帝王は破壊される。そして光属性のアイテールの攻撃力・守備力は見習い魔嬢の効果でダウンする」

 

天帝アイテール ATK2800/DEF1000→ATK2400/DEF600

 

「アドバンス召喚に成功したアイテールの効果を発動! デッキから帝王と名のついた魔法・罠カードを2種類を墓地に送り、デッキから攻撃力2400以上で守備力1000のモンスター1体を特殊召喚する! 俺は2枚目の汎神の帝王と《帝王の烈旋》を墓地に送り、《光帝クライス》を特殊召喚だ!」

 

《光帝クライス》

効果モンスター

星6/光属性/戦士族/攻2400/守1000

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。そのカードを破壊し、破壊されたカードのコントローラーは破壊された枚数分だけデッキからドローできる。

(2):このカードは召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない。

 

光帝クライス ATK2400/DEF1000→ATK2000/DEF600

 

「フルアーマード・ウィングの効果。効果を発動したモンスターに楔カウンターを置く」

 

天帝アイテール 楔カウンター:1

 

「特殊召喚に成功したクライスの効果を発動! フィールドのカードを2枚まで破壊する! 破壊するのはあんたの見習い魔嬢とライキリだ!」

 

光帝クライス 楔カウンター:1

 

 両手を高く掲げたクラウスによって振り下ろされた光がライキリと見習い魔嬢の2体を破壊する。2体破壊という効果は強力ではあるが、クライスのそれは使いどころ次第では毒にも薬にもなる。

 

「破壊されたカードのコントローラーはカードを2枚ドローするんだったな。そして破壊された見習い魔嬢の効果で私は墓地の闇属性モンスター1体を手札に戻す。戻すのはアウステルだ」

「見習い魔嬢が存在しなくなったことで光属性のアイテールとクライスの攻撃力は元に戻るぜ」

 

天帝アイテール ATK2400/DEF600→ATK2800/DEF1000

光帝クライス ATK2000/DEF600→ATK2400/DEF1000

 

(アイテールもクライスも攻撃力ではフルアーマード・ウィングには及ばない。だが、ここでモンスターを並べておけばこのターンでやられることは……)

「まさか貴様このターンでは負けない、とは思っていないだろうな?」

「なっ!?」

「クライスの効果で攻め手を減らしたつもりだろうが、私はそのおかげで2枚ドローに加えて墓地のゲイルまで回収することができた。このゲームに限らず、カードゲームとはハンドアドバンテージが物を言う。お前は自分に有利に動こうとしたつもりが、私にプレゼントをしてしまったというわけだ」

 

 最もエヴァは男が前のターンにサーチした連撃の帝王をセットしていることは見抜いていた。アドバンス召喚したエレボスをリリースしてアイテールをアドバンス召喚することも。

 

「私のフィールドにBFモンスターが存在することで、私は手札から2体目の疾風のゲイル、そして《BF-砂塵のハルマッタン》を特殊召喚する!」

 

《BF-砂塵のハルマッタン》

効果モンスター

星2/闇属性/鳥獣族/攻 800/守 800

「BF-砂塵のハルマッタン」の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):自分フィールドに「BF-砂塵のハルマッタン」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールドの「BF」モンスター1体を対象として発動できる。このカードのレベルをそのモンスターのレベル分だけ上げる。

 

(2体目のゲイル……まさかクライスの効果で……)

「砂塵のハルマッタンは特殊召喚に成功した時に自分のレベルをこのカード以外のBF1体のレベル分上げる効果を持つが、今回は発動しない。私はレベル2のハルマッタンにレベル3のゲイルをチューニング!“漆黒の翼よ。長き雨において飛び立つ同胞へと捧げし追風となれ!”シンクロ召喚!《A BF-五月雨のソハヤ》!」

 

《A BF-五月雨のソハヤ》

シンクロ・効果モンスター

星5/闇属性/鳥獣族/攻1500/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「A BF-五月雨のソハヤ」の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「BF」モンスターを素材としてS召喚したこのカードはチューナーとして扱う。

(2):このカードがS召喚に成功した時、自分の墓地の「A BF」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(3):このカードが墓地へ送られたターンの自分メインフェイズにこのカード以外の自分の墓地の「A BF-五月雨のソハヤ」1体を除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

「A BFであるソハヤもBFモンスターを素材にS召喚されたため、チューナーとして扱う。そしてS召喚に成功したソハヤの効果を発動! 墓地のA BFモンスター1体を特殊召喚する。特殊召喚するのはA BF-驟雨のライキリだ! そしてライキリの効果! 自身以外のBFモンスターの数だけ相手フィールドのカードを破壊する! 破壊するのはアイテールとクライスだ!」

 

 ライキリの除去効果は1ターンに1度までしか発動できないが、ライキリは一度フィールドを離れているため、再度その効果を発動できる。落雷を切り裂いたという伝説が残る刀と同じ名前を宿したライキリの剣が、2体の巨大な帝王を真っ二つに切り裂く。迸る雷光によって男のフィールドには塵一つ存在しない世界へと変貌した。

 

「これでお前のフィールドはがら空きになった。もう攻撃を止める手段はない」

「ちっ……だが、攻撃力の合計は7100! ライフが1でも残ってる限りデュエルってもんはわからねえぞ!」

「ああ、その通りだ。デュエルとはライフが1でも残っていれば、そこから奇跡的な逆転を決めることもできる。だからこそ、私はその希望を断つ。私はレベル7のライキリに、チューナーモンスターとなったレベル5のソハヤをチューニング!!」

「レ、レベル12のS召喚だと!?」

「“漆黒の翼よ。空に煌めく極光を切り裂き、遥かなる天より裁きの雷を下せ!”シンクロ召喚! 降臨せよ!《A BF-神立のオニマル》!!」

 

《A BF-神立(がんだち)のオニマル》

シンクロ・効果モンスター

星12/闇属性/鳥獣族/攻3000/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「A BF-神立のオニマル」の(3)の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):「BF」モンスターを素材としてS召喚したこのカードはチューナーとして扱う。

(2):このカードは効果では破壊されない。

(3):自分の墓地の「BF」モンスター1体を対象として発動できる。このカードのレベルはそのモンスターと同じになる。

(4):Sモンスターのみを素材としてS召喚したこのカードが攻撃する場合、ダメージステップの間このカードの攻撃力は3000アップする。

 

「オニマルもまたA BF。よってチューナーモンスターとして扱い、更にこのカードは効果では破壊されない」

「へっ、どんなモンスターが出てくるかと思えば……攻撃力3000。ダメージ合計は前より減ってるじゃねえか」

「確かに数値の上では減っているな。しかし、オニマルはSモンスターのみを素材としてS召喚した場合、ダメージステップの間このカードの攻撃力を3000上昇させる! これが何を意味するかわかるか?」

「……そういうことか、だがそうはさせねえ! 俺は墓地の連撃の帝王をゲームから除外し、真源の帝王の2つ目の効果を発動!」

 

《真源の帝王》

永続罠

「真源の帝王」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、自分の墓地の「帝王」魔法・罠カード2枚を対象として発動できる。そのカードをデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードが墓地に存在する場合、このカード以外の自分の墓地の「帝王」魔法・罠カード1枚を除外して発動できる。このカードは通常モンスター(天使族・光・星5・攻1000/守2400)となり、モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚する(罠カードとして扱わない)。

 

「このカードを墓地から守備力2400の通常モンスターとして守備表示で特殊召喚する! これで攻撃は通らないぜ!」

「なるほど、しぶといな。それとも往生際が悪いと言うべきか?」

「諦めの悪さには自信があるんでな……」

「そうか。だが、言っただろう。お前はこのターンで終わりだとな! 手札から魔法カード、死者蘇生を発動。三度墓地より蘇れ! ライキリ!」

「なっ……」

「お前のクライスのおかげで死者蘇生を引くことができた。感謝するぞ。ライキリの効果を発動! 真源の帝王を破壊する!! そしてバトルフェイズ。まずはフルアーマード・ウィングでダイレクトアタック!“ブラック・パーフェクト・ストーム”!」

 

BF-フルアーマード・ウィング ATK3000

 

男 LP8000→5000

 

「ぐおおおっ!!」

「そして神立のオニマルでダイレクトアタック!“サンダーボルト・フラップ”!!」

 

A BF-神立のオニマル ATK3000

 

「Sモンスターのみを使用してS召喚に成功したオニマルの攻撃力はダメージステップ時のみ3000アップする!」

 

A BF-神立のオニマル ATK3000→6000

 

男 LP5000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スパシーヴァ。まあ、ウォーミングアップ程度にはなったな」

 

 そう言って得意気な顔をするエヴァ。男もデュエルの腕には自信があったようだが、流石に相手が悪すぎたのかもしれない。一方で相手がプロデュエリストだと気づけるだけの余裕もない男は、取り巻きの二人にデュエルディスクを折り畳んでカバンにしまおうとするエヴァを取り囲ませた。

 

「……何のつもりだ?」

「お嬢ちゃんデュエル強いねー……お兄ちゃんたち驚いちゃったよ」

「ふん、当然だ」

「可愛くて強くて……俺たちももーっと楽しみたいんだよねぇ」

 

 負けた男ら三人は意地汚い笑みを浮かべながらエヴァを壁際まで追い込むと、エヴァの顔の近くに手を置いてエヴァに身動きを取れなくする。しかし、そんな状況においてもなおエヴァは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「おお、これは日本で流行った壁ドンというものだな。実は一度されてみたかったのだ」

「そうかい……じゃあその先に行ってみようか」

「その先か、いいだろう。じゃあ貴様を昇天させてしまおうかな?」

 

 男が彼女の言葉の真意を理解するより先に、エヴァはあるものを男の額に突き付ける。それは彼女の使うBFモンスターと同じように漆黒に輝く一丁の拳銃であった。

 

「えっ」

「私を無知な旅行者と思っていたようだが、残念だったな。このようなところに連れ込んで何を狙っているかを気づかない私だと思ったか? 生憎私には心に決めた人間がいる。故にその人間以外の男に触れられるわけにはいかない、というわけだ。おっと、下手な動きをするなよ。変に動けばこの男の眉間を……弾丸が貫くぞ?」

「こ、この国には銃刀法違反って法律が……」

「婦女子に暴行を企てようとした貴様らが法律に縋るとは片腹痛いな。そもそもか弱い女一人と屈強な男三人。どちらが被害者でどちらが加害者か、第三者に見せたらその者たちはどういう裁決を下すだろうかな?」

 

 エヴァは引き金に手を当てる。男は目の前が真っ白になるのを感じた。そんな男が悲鳴をあげるよりも早く、彼の頭部にはカン、という音と共に軽い衝撃が走った。男たちが周囲を見回すと、三人の足元には空き缶がコロコロと転がっている。そしてその空き缶を投げた主が表通りからゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 

「……見つけた。だいぶ探させてくれたわね」

 

 光子竜の導きによってこの場にたどり着いた遊希である。彼女は男たちがエヴァに手を出そうとするその瞬間にエヴァを見つけ、咄嗟に持っていた缶を投げつけたのだ。

 

「な、なんだお前は!」

「……何も知らない外国の女の子を路地裏に連れ込んで何をしようとしてるのかしら?」

 

 癖のかかった黒髪が風にたなびく様は美しい。しかし、そんな遊希の顔は怒りに染まっていた。

 

「初めまして、かしらね。そしてようこそ日本へ。私は星乃 竜司の使いであなたを迎えに来た―――セントラル校1年生の天宮 遊希よ」

 

 遊希が自分の名を名乗ると、男たちの表情が一変した。彼らも一角のデュエリストである以上、遊希の名前を知らないわけがない。そして遊希の出した竜司の名前も、デュエリストであれば知らないわけがない。

 

「お出迎え感謝する。私は本日付けであなたの同士となるエヴァ・ジムリアだ」

「あ、天宮って……あの天宮 遊希かよ!?」

「そんでこっちは現役プロデュエリストのエヴァ・ジムリア……クソッ、道理で馬鹿みたいに強いわけだ!」

 

 男たちは隙を見てエヴァから離れる。デュエルではまずこの二人に勝てるわけがない。それは男たちが一番理解していた。もちろん腕力でなら勝てるが、エヴァの手には拳銃が握られており、先ほどまでの彼女の様子を見て居れば下手に襲い掛かったところで返り討ちに遭うだけである。

 

「遊希! お巡りさん連れてきたよー!」

 

 一方で遊希と別れて探していた鈴は警察にエヴァ捜索の協力をしてもらっていた。自分がアカデミア校長の娘であり、また行方不明になった外国からの留学生を探している、とあらば地元警察も協力しないわけにはいかなかった。

 

「サツだと……クソッ、ずらかるぞ!!」

 

 男たちは路地の奥に向かって一目散に逃げ出した。鈴によって案内されてきた警察官たちは、男が逃げていく方向を見ると、二手に分かれて追いかけていった。これは後で聞いたことなのだが、最近子供や女性のデュエリストから恐喝まがいの手で金銭やカードを奪う輩がいるということであり、警察としても絶対に逮捕しなければならない存在だったという。どちらにせよエヴァが男たちの毒牙にかかる、という最悪の事態は未然に防ぐことができた。

 

「さて、怪我は……なさそうね」

「ふん、当然だ。私があのような下卑た者共に後れを取ると思うか?」

「……どうでもいいけど、そんなもの持ってると本当に逮捕されるわよ。現役のプロが銃刀法違反で逮捕なんて冗談でも笑えないから」

「ハハッ、冗談か!」

 

 そう言ってエヴァは上空に銃口を向けると、その引き金を引いた。パン、という乾いた音と共に飛び出すのは色とりどりの紙テープと紙吹雪。火薬の匂いがじんわりと漂う中、エヴァは「冗談は好きだぞ」と悪戯っぽく微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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遊希VSエヴァ

 

 

 

 

 

 

 本格的な拳銃型のクラッカーをしまい、ニッカリと笑うエヴァ。やんちゃな子どものような笑みではあるが、それでも愛らしさが勝るのは生来の美しさが影響しているのであろう。どちらにせよ掴みどころのない少女である、と遊希は思った。そして彼女の関心はエヴァに出会ってからずっと自分の後ろに隠れている鈴へと移る。

 

「で、あんたはいつまでそうしてるのよ」

「だ、だって……本物のエヴァちゃんよ。すごく可愛いじゃない……」

「?……誰だお前は」

 

 鈴を見つけてきょとん、とするエヴァ。その仕草に鈴の口からは「キュン」と変な声が出る。漫画でさえも効果音で済まされるものを自分の口で言う人間を遊希は初めて見た。

 

「この子は星乃 鈴っていうの。苗字で誰の娘さんだかわかるでしょう?」

「星乃……ああ、星乃 竜司の娘か! 彼には色々と良くしてもらったぞ!」

 

 覚えたての日本語に時折ロシア語を混ぜながら、目をキラキラさせて竜司との思い出を語るエヴァに対し、鈴は何故か頬を紅潮させながらそれを聞く。もちろん鈴自身が関わっているわけではないのだが。

 

「ちなみに彼はあなたがこれから通うアカデミアの校長であり、私たちはそこの生徒なのよ。それで学年は?」

「私か? 私はお前と同じ1年生だ」

「じゃああたしたちと同学年ってことね!」

「ああ、宜しく頼むぞ! 遊希、鈴!」

 

 そう言って満面の笑みを浮かべるエヴァを見て、鈴は奇声を上げては一人でもだえ苦しむのであった。そんな鈴を冷めた目で見つつ、二人はエヴァを案内する。駅前まで戻ってきた三人は、セントラル校校門前バス停が終点のバスに乗り込んだ。

 

「まさか直通のバスがあるとは思わなかった。随分と至れり尽くせりなのだな」

「まあ国公認の機関だから……ちゃんと待ち合わせ場所で会えていればこんな手がかかることはなかったのよ?」

 

 遊希の左隣の席に座る鈴からは「元はと言えばあんたのせいでしょ」とぼやきが聞こえてくる。遊希はそれを無視して続けた。

 

「さて、学校に着いたらまずは校長先生のところに案内するわ。さっきメールしたけど予定より早く用事が済んで戻っているそうだから」

「パパに会ってもらってどうするの?」

「一応初めての留学生だから、ってことで校長が色々と案内して回るらしいわ。まあ十中八九私たちも付き合わされるけどね」

 

 そんな話をしているうちにバスはアカデミア前のバス停に着いた。バスから降りたエヴァは、初めて見るデュエルアカデミアジャパン・セントラル校の校舎を前にただただ子供のように目をキラキラさせていた。

 自分たちは普段から見慣れている建物なので何も感じない遊希と鈴であったが、外国人からしてみればこの国の建造物の何もかもが新鮮に見えるのだろう。少し歩くわよ、と付け加えて遊希たちはエヴァを校長室へと案内する。校長室では少し焦った様子の竜司が落ち着かない様子で机の周りを歩き回っていた。手違いがあって合流に手間取った、という話は鈴から連絡を受けて聞いていたため、責任者かつ保護者でもある気が気でなかったのだった。

 

「ご無沙汰してます、星乃さん」

 

 竜司を前にしてエヴァの今までの尊大な口調は消える。プロの世界も何だかんだ言って上下関係は存在する。現役のプロでもある彼女はそこは弁えていた。

 

「ああ、エヴァくん、無事到着できたようで何よりだよ。天宮くんも鈴も連れてきてくれてありがとう」

「……まあ約束してしまいましたからね。なにより負けた私が悪いんですし」

 

 遊希の口から出た「負けた」という言葉に鈴が反応する。鈴は何故遊希がエヴァの出迎えに行ったのか理由を聞いていなかった。

 

「えっ、負けた?」

「言ってなかったかしら。最初は断るつもりだったけど校長先生とのデュエルに負けたから……だからこの役目を引き受けたの」

 

 鈴はここ数日遊希がどこか気が沈んでいるように見えた理由をようやく理解した。薄々感じ取ってはいたが本人に聞いても「何でもないよ」の一点張りだったため極力気に留めないようにはしていたのだが。

 遊希はそういうことに触れられるのは好きではなさそうとはいえ、唯一のルームメイトであるにも関わらず、それ気づくことができなかった自分はどうなのだろうか、と思った。

 

「鈴……鈴?」

(遊希にデュエルで勝つ……やっぱりパパはすごいなぁ。それに比べてあたしは……)

「鈴?」

「!? なっ、なに!?」

「もう。聞いてなかったの? これから校長がエヴァのために校内施設を案内するから私たちもついてくって」

「わ、わかった……ってちょっと待ってよ! 置いてかないでー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、竜司はエヴァにアカデミアの各施設を案内して回った。教室や体育館はもちろん、部活棟や食堂から生徒寮まで幅広く。ちなみにエヴァは遊希たちはとは違う新設されたばかりの留学生用の寮に入るとのことだった。最も生徒用施設の用途や使用感については遊希や鈴が主に説明していたのだが。

 

「ここの購買は凄いな! 駅前のカードショップに引けを取らないぞ!」

「一応デュエリストのための学校だからね」

「まあ最新パックは発売日に基本的売り切れだけどね……」

「さて、ここが最後。デュエル場だよ」

 

 最後に案内されたのがアカデミアのメインデュエル場である。授業中以外は学生用に開放されており、許可さえ取ればいつでもデュエルができる場所だ。海馬コーポレーションと業務提携して設営された最新型のデュエルリンクは日本にも数台しかないものであり、その設備の整い具合は海外からも注目されているものなのだ。

 

「素晴らしい! 私もここでデュエルをすることができるのだな!」

「ああ。まあ今はゴールデンウイークの真っ最中だから誰も使わないだろうけどね」

「そうか、では今は……?」

「今?」

「ああ。私は今ここでデュエルがしてみたいんだ」

 

 眼をキラキラと輝かせて懇願するエヴァ。困った感じの竜司と鈴の期待を込めた視線が遊希に向かう。遊希は正直今デュエルをしたい気分ではなかった。しかし、デュエリストである以上、挑まれたデュエルに背を向けるわけにはいかない。

 

「……わかったわよ。私なんかでよければ」

 

 渋々ではあるが、エヴァのデュエルの申し出を受ける遊希。かつてのプロデュエリストと現役プロデュエリスト。二人の一世を風靡した少女たちのデュエルがこの閑散としたセントラル校で始まろうとしていた。

 元プロと現プロ同士のデュエル。普通の日ならデュエルフィールドはそれを見たがる生徒たちで客席は超満員と化していただろう。しかし、日本に来たばかりのエヴァをそんな環境でデュエルさせるのはさすがに酷だろうと判断した竜司は敢えて自分と鈴の二人だけが見守る中でデュエルをしてもらうことにした。

 千春同様純粋にデュエル好き、という様相のエヴァはわくわくしながらデッキの確認をしている。一方の遊希はあまりデュエルに乗り気でないこともあってか、複雑な気持ちでデッキの確認をしていた。

 

(相手は現プロデュエリスト……あの雑誌で見掛けるまで彼女のことを何も知らなかったから使うデッキの詳細を知らない。ただ……)

―――遊希、どうした?

 

 遊希の心に少なからず動揺があることに気が付いた光子竜が声をかける。しかし、遊希は答えなかった。それはデュエルの前に竜司と鈴から聞いた話が原因だった。

 

「……特別なカード?」

「ああ。彼女とはかつて大会の決勝で当たったことがあってね」

「その大会に勝てばパパは特別なモンスターカードを手に入れることが出来るはずだったのよ」

「だった、ってことは」

「私は決勝で彼女に敗れたんだ。当時まだデビューしたてで彗星のごとく現れた彼女はとても強かったよ」

「……それを言ってどうしろ、と」

「べっ、別に! ただそのモンスターには気を付けてってことを言いたかったのよ!」

 

 その特別なモンスターがどんなモンスターかは敢えて聞かなかった。しかし、竜司に勝ってまで手に入れたそのカードがきっと強力なカードであることはわかる。その存在は遊希を少なからず警戒させた。

 

(特別なモンスターか。光子竜が彼女の居場所を感じ取った時に精霊の波動を感じ取ったと言っていたけどそのカードは……)

 

 デッキ調整が終わった遊希とエヴァがデュエルフィールドに立つ。いつも立っているはずのフィールドであるが、今までの時とは違った雰囲気を感じていた。

 

「遊希、デュエルの前に一つ聞いてもらいたいことがある」

「何かしら?」

「実はな……私はあなたに憧れてプロの道に進んだんだ」

 

 エヴァ・ジムリアという少女は旧貴族の家系に生まれたことを除けば、元々はどこにでもいる平凡な少女だった。ただ人よりデュエルが好きだった彼女はプロのデュエリストに憧れており、とりわけ自分と同い年でプロの世界で大人相手に戦う遊希に憧れ、自分も同じように強くなりたい、と願ってこれまで努力を続けてきたのだ。そしてその努力が実ったために今エヴァはここに立っている。

 

「同い年ながらプロの舞台で燦然と輝く遊希。残念ながら私がプロになったのと入れ替わりであなたはプロの世界を去ってしまったので同じプロとしてデュエルで相見えることはなかったが……」

「それでもこうして巡り合った。偶然って怖いわね」

「いや、これは偶然ではない。これはきっと運命的なものであると私は思っている。だからこそこのデュエル、私はいちデュエリストとしてあなたの胸を借りるつもりで挑ませてもらう!」

「……いいデュエル、できるといいわね」

「ああ!」

(……調子狂うわね)

 

 デュエルフィールドが起動し、先攻後攻の決定権を自動で委ねられる。今回はエヴァに先攻後攻の決定権が与えられた。

 

―――やっぱりな。

(やっぱりね)

「私が決めていいのだな? では先攻を貰うぞ」

「では私が後攻ね。まあ先攻だろうと後攻だろうと関係ないわ。私は私のデュエルをする。それだけよ」

「それでこそ天宮 遊希だ。では行くぞ!」

 

 

 

 

―――デュエル!!―――

 

 

 

 

先攻:エヴァ

後攻:遊希

 

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(エヴァ)

 

「私の先攻だ。私は手札から魔法カード《闇の誘惑》を発動する」

 

《闇の誘惑》

通常魔法

(1):自分はデッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。手札に闇属性モンスターが無い場合、手札を全て墓地へ送る。 

 

「デッキからカードを2枚ドロー。そして手札の闇属性モンスター《BF-大旆のヴァーユ》をゲームから除外する」

(ヴァーユ……デッキはBFか)

―――新しいデッキというわけではないが、油断は禁物だ。

「永続魔法、黒い旋風を発動。そして私は手札からチューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚! 召喚に成功したアウステルの効果、そしてBFモンスターの召喚に成功したことで黒い旋風の効果が発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風の効果で私はデッキからアウステルより攻撃力の低いBF-砂塵のハルマッタンを手札に加える。そしてチェーン1のアウステルの効果で私は除外されているヴァーユをフィールドに特殊召喚する!」

 

《BF-大旆(たいはい)のヴァーユ》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/鳥獣族/攻800/守0

(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、S素材にできない。

(2):このカードが墓地に存在する場合、チューナー以外の自分の墓地の「BF」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターとこのカードを墓地から除外し、その2体のレベルの合計と同じレベルを持つ「BF」Sモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「ヴァーユはチューナーモンスターでありながらS素材にできない。いくらアウステルの効果で特殊召喚したとしてもS召喚に繋げることはできないわ」

「その通りだ。だが、S素材にできないだけであって、それ以外の用途には使用できる。私のフィールドにBFモンスターが存在することにより、これらのモンスターは手札から特殊召喚できる。現れよ!《BF-残夜のクリス》、BF-黒槍のブラスト、BF-砂塵のハルマッタン!」

 

《BF-残夜のクリス》

効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1900/守300

「BF-残夜のクリス」の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):自分フィールドに「BF-残夜のクリス」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードは1ターンに1度だけ、魔法・罠カードの効果では破壊されない。

 

「そして特殊召喚に成功した砂塵のハルマッタンの効果を発動。アウステルのレベルを自身のレベルに加える!」

 

BF-砂塵のハルマッタン 星2→6

 

「……瞬く間にフィールドをモンスターで埋め尽くすか。とんでもないデッキね」

「それがこのデッキの強みであるからな。私は黒槍のブラストと大旆のヴァーユをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 現れよ! 水晶機巧-ハリファイバー!」

 

 ヴァーユはあくまで「S素材にできない」だけであり、それ以外の召喚法に使うことはできる。チューナーモンスターであるヴァーユはハリファイバーのリンク召喚のための素材としての条件を満たしているのだ。墓地に送ってしまえば、ヴァーユの真価を発揮する下準備が整う。

 

「リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動。デッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私が特殊召喚するのはレベル2の《ゾンビキャリア》だ」

 

《ゾンビキャリア》

チューナー・効果モンスター

星2/闇属性/アンデット族/攻400/守200

(1):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚デッキの一番上に戻して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「そして私はレベル4の残夜のクリスにレベル2のゾンビキャリアをチューニング!“夜空に瞬く無数の星に隠れし影の戦士よ。黒き翼を奮い暗躍せよ!”シンクロ召喚! 舞い上がれ《BF-星影のノートゥング》!」

 

《BF-星影のノートゥング》

シンクロ・効果モンスター

星6/闇属性/鳥獣族/攻2400/守1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「BF-星影のノートゥング」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動する。相手に800ダメージを与える。その後、相手の表側表示モンスター1体を選び、その攻撃力・守備力を800ダウンする。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「BF」モンスター1体を召喚できる。

 

「特殊召喚に成功した星影のノートゥングの効果発動! 相手ライフに800ポイントのダメージを与える!“舞い戻る剣(ホーミング・ソード)”!」

 

遊希 LP8000→7200

 

「ぐっ……!」

 

 ノートゥングが飛ばした刃が遊希に直撃する。遊希の身体を斬りつけた剣は、まるでブーメランのようにノートゥングの手に戻った。

 

「そして相手フィールドにモンスターが存在すればそのモンスターの攻撃力を800下げる。最も下げられるモンスターはいないがな」

「先攻で展開した挙句、バーンダメージまで与えてくるんだから隙が無いわね」

「言っておくが、これで終わりではないぞ? BFモンスターが存在することで、このモンスターも特殊召喚できる。現れよ!チューナーモンスター、《BF-突風のオロシ》!」

 

《BF-突風のオロシ》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/鳥獣族/攻400/守600

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):自分フィールドに「BF-突風のオロシ」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの表示形式を変更する。

 

「私はレベル6の星影のノートゥングに、レベル1の突風のオロシをチューニング!“風と心を通わせし漆黒の鷹匠よ。天空を舞い黒き戦士たちを誘う先駆けとなれ!”シンクロ召喚、誘え!《BF T-漆黒のホーク・ジョー》!!」

 

《BF T(ブラックフェザー テイマー)-漆黒のホーク・ジョー》

シンクロ・効果モンスター

星7/闇属性/戦士族/攻2600/守2000

「BF」チューナー+チューナー以外の「BF」モンスター1体以上

「BF T-漆黒のホーク・ジョー」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地のレベル5以上の鳥獣族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):このカードが相手の効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時、このカード以外の自分フィールドの「BF」モンスター1体を対象として発動できる。その対象を正しい対象となるそのモンスターに移し替える。

 

「漆黒のホーク・ジョーの効果を発動! 墓地のレベル5以上の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。特殊召喚するのはS素材として墓地に送ったノートゥングだ! そして私はレベル6となったハルマッタンにレベル4のアウステルをチューニング! その名に宿すは完全にして至高。極光輝く天空を大いなる翼を以て制圧せよ! シンクロ召喚! 出でよレベル10、BF-フルアーマード・ウィング!……さて、初手としてはこんなものかな? 私はこれでターンエンドだ」

 

 

エヴァ LP8000 手札0枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:3(BF-フルアーマード・ウィング、BF T-漆黒のホーク・ジョー、BF-星影のノートゥング)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠:1(黒い旋風)墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:11(0)

遊希 LP7200 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

エヴァ

 □□旋□□

 □星フ□漆□

  □ 水

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

フ・・・BF-フルアーマード・ウィング

漆・・・BF T-漆黒のホーク・ジョー

星・・・BF-星影のノートゥング

水・・・水晶機巧-ハリファイバー

旋・・・黒い旋風

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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反撃の時

 

 

 

―――さて、このデュエルどう見る?

(そうね。一言で言えばいきなりしんどいわ)

 

 エヴァが先手でフィールドに並べたのは戦闘以外では破壊されず、他のカードの効果を受け付けないフルアーマード・ウィングに、墓地の上級鳥獣族を蘇生させる漆黒のホーク・ジョー。そして特殊召喚に成功するたびに遊希のライフを削り、モンスターを弱体化させるノートゥングにもはや説明すら不要であるハリファイバー。いくら展開力に優れたデッキであるとはいえ、これだけのモンスターを並べるプレイングは認めざるを得ないだろう。

 

(ああしんどい。実にしんどい)

―――だが、相手のそんなフィールドを切り崩すのもデュエルの醍醐味だ。幸い相手の手札は0。このデッキが苦手とする《灰流うらら》や増殖するGといった手札誘発を心配する必要もない。

(そうね)

 

 光子竜の言う通り、エヴァが全て手札を使い切っていることは唯一の光明であるだろう。最も手札誘発が刺さらないデッキなど存在するのだろうか、と遊希は首を傾げるのだが。

 

(まあいい、反撃開始よ。私は負けるわけにはいかないんだから!)

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズを経てメインフェイズ1に移るわ」

「ではそのメインフェイズ1にハリファイバーの効果を発動する! このカードをゲームから除外し、私のEXデッキからSモンスターのチューナー1体をS召喚扱いで特殊召喚する! 特殊召喚するのはレベル2の《フォーミュラ・シンクロン》だ!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星2/光属性/機械族/攻200/守1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

(2):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

「S召喚に成功したフォーミュラ・シンクロンの効果を発動。デッキから1枚ドローする」

「手札を補充してきたか……私は手札から魔法カード《アクセル・ライト》を発動!」

 

《アクセル・ライト》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は通常召喚できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキからレベル4以下の、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない場合、通常召喚権を放棄する代わりにデッキからレベル4以下のギャラクシーモンスター1体を特殊召喚するわ」

「ではその効果にチェーンして2つ目のフォーミュラ・シンクロンの効果を発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):フォーミュラ・シンクロン

チェーン1(遊希):アクセル・ライト

 

「チェーン2のフォーミュラ・シンクロンの効果を発動! このカードを含む自分フィールドのモンスター1体をS素材としてS召喚を行う! 私はレベル6の星影のノートゥングにレベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!“数多なる次元を行き交う王よ。異能なる力を発揮し全てを己が意志として操れ!”シンクロ召喚! 現れよ!《PSYフレームロード・Ω》!」

 

《PSYフレームロード・Ω》

シンクロ・効果モンスター(制限カード)

星8/光属性/サイキック族/攻2800/守2200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに発動できる。相手の手札をランダムに1枚選び、そのカードと表側表示のこのカードを次の自分スタンバイフェイズまで表側表示で除外する。

(2):相手スタンバイフェイズに、除外されている自分または相手のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを墓地に戻す。

(3):このカードが墓地に存在する場合、このカード以外の自分または相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードと墓地のこのカードをデッキに戻す。

 

「チェーン1のアクセル・ライトの効果で私は銀河の魔導師を特殊召喚する! そして銀河の魔導師に手札のフォトン・オービタルを装備するわ!」

 

銀河の魔導師(+フォトン・オービタル) ATK0→ATK500

 

(……PSYフレームロード・Ω? 同じ条件ではより制圧力の高い《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》を出せたのにどうしてかしら?)

「銀河の魔導師に装備されたフォトン・オービタルの効果を発動する。このカードを墓地に送り、デッキからフォトンもしくはギャラクシーと名のついたモンスター1体を手札に加えるわ!」

「ではその効果にチェーンしてPSYフレームロード・Ωの1つ目の効果を発動する! 相手の手札1枚をランダムに選び、そのカードとフィールドのこのカードを次の私のスタンバイフェイズまで表側表示でゲームから除外する!」

 

チェーン2(エヴァ):PSYフレームロード・Ω

チェーン1(遊希):フォトン・オービタル

 

 チェーン2で発動されたPSYフレームロード・Ωの効果でΩ自身と遊希の手札の1枚、銀河剣聖がゲームから除外される。この時、遊希は何故エヴァがPSYフレームロード・ΩをS召喚したのかを理解した。PSYフレームロード・Ωは自身の効果で自在にフィールドから離れることができる。SモンスターであるPSYフレームロード・ΩはエクストラデッキからS召喚された場合はEXゾーンに特殊召喚しなければいけないが、一度フィールドを離れることにより、その制約が切れる。そのためエヴァは空いたEXゾーンにさらにエクストラデッキからモンスターを出すことができるのだ。

 そしてエヴァのフィールドにはレベル5以上の鳥獣族モンスターを蘇生できるホーク・ジョーが存在している。次のターンにホーク・ジョーの効果で墓地のノートゥングを蘇生して遊希のライフを削り、更にハリファイバーの効果で特殊召喚したゾンビキャリアを自身の効果で特殊召喚すれば更にレベル8のSモンスターを展開することができる。

 

(強力な耐性を持つフルアーマード・ウィングに蘇生効果のホーク・ジョー、そしてPSYフレームロード・Ωで私の手を削る。次のターンにはノートゥングとゾンビキャリアでクリスタルウィング……これを決められれば私に勝ちは無い。でも……今の私ならできる)

 

 一見すればほぼ完璧に近いエヴァの布陣。しかし、それを切り崩すだけの力が遊希にはある。そしてその力をいつでも使えるのもプロの世界で鎬を削ったデュエリストならではのことであった。

 

「私はチェーン1のフォトン・オービタルの効果でデッキからフォトン・バニッシャーを手札に加えるわ! そして自分フィールドにギャラクシーモンスターが存在することでフォトン・バニッシャーを守備表示で特殊召喚! 特殊召喚成功時の効果でデッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加える!」

「モンスターが効果を発動したことで、フルアーマード・ウィングの効果も発動する。そのモンスターに楔カウンターを乗せる」

 

フォトン・バニッシャー 楔カウンター:1

 

「銀河眼の光子竜……お前のエースモンスターを早々に手札に加えてきたか。だが、召喚権を失っている今光子竜のアドバンス召喚は不可能だ!」

「私は手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動。フィールドに攻撃力2000のフォトン・トークン2体を守備表示で特殊召喚。そしてこの攻撃力2000のフォトン・トークン2体をリリースしてこのモンスターを手札から特殊召喚する!」

 

 遊希の手には真紅の十字架が握られる。そして彼女は全身をバネにしてそれを天高く放り投げた。回転しながら飛んでいく十字架はやがて周囲の光を集め、その光は一体のドラゴンを形成し始める。エヴァはずっとこの光景をテレビやインターネットで見続けており、遊希と入れ違いでプロになった彼女はもう生でこの光景を見ることは叶わないのだろう、と諦めかけてもいた。そんな一人の少女の願いがこういった場面で叶えられるのだから、つくづく人と人との縁とは奇妙なものである。

 

「闇に輝く銀河よ。希望の光となりてこの世界へ現れろ! 旋風渦巻く戦場に舞い降りよ、光の化身! 銀河眼の光子竜!!」

 

 咆哮と共に、銀河の瞳を持つ光り輝く竜が現れる。光子竜は自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースすることで特殊召喚ができる。アクセル・ライトの効果で通常召喚権を放棄してもフィールドに出すことが可能なのだ。

 

「これが銀河眼の光子竜……だが、光子竜の効果はフルアーマード・ウィングには通用しない!」

「そうね。攻撃力も同じで相討ちにはなれるけど、それだとホーク・ジョーで蘇生させられるだけ。だから私はこのターンでフルアーマード・ウィングとホーク・ジョーの2体を撃破する!」

「この2体を1ターンでだと?」

「私は銀河の魔導師の1つ目の効果を発動。このカードのレベルを8にする」

 

銀河の魔導師 星4→8

 

「効果を発動した銀河の魔導師に楔カウンターを乗せる」

 

銀河の魔導師 楔カウンター:1

 

(フルアーマード・ウィングには楔カウンターが乗ったモンスターのコントロールを奪う効果と、楔カウンターが乗ったモンスターを破壊する効果がある。でも、無意味よ)

「私はレベル8の銀河眼の光子竜とレベル8となった銀河の魔導師でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 我が心中に燃える強き意志よ。希望をその身に宿し、光子の竜の真の力を解放せよ! 現れなさい! No.62 銀河眼の光子竜皇!!」

「銀河眼の光子竜皇……攻撃力4000だと!?」

「フルアーマード・ウィングは確かにあらゆる効果を受け付けない。しかし、戦闘破壊耐性は持たない以上、バトルで自身より高い攻撃力のモンスターを出されてはどうしようもない。バトルよ! 銀河眼の光子竜皇でフルアーマード・ウィングを攻撃!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000 VS BF-フルアーマード・ウィング ATK3000

 

「このダメージ計算時に光子竜皇のX素材を1つ取り除いて効果を発動。フィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントこのカードの攻撃力を上昇させる!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2→1 ATK4000→ATK5600 楔カウンター:1

 

「フルアーマード・ウィングを消し去りなさい!! エタニティ・フォトン・ストリーム!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK5600 VS BF-フルアーマード・ウィング ATK3000

 

エヴァ LP8000→5400

 

「ぐっ……!!」

「自身の効果で特殊召喚に成功したフォトン・バニッシャーはこのターン攻撃できない。そもそも守備表示だけど。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移るわ。私は光子竜皇1体でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築。エクシーズ・チェンジ! 現れなさい、ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン。そしてギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンの効果! X素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示カード1枚を破壊する。破壊するのはもちろんホーク・ジョーよ!」

「な、なんということだ……」

 

 流れるような遊希と銀河眼のコンボで2体のBFは瞬く間に破壊されてしまった。場持ちのいいPSYフレームロード・Ωが残っているとはいえ、こうもあっさり自分を守るモンスターが打ち倒されることにエヴァは驚きを隠せないようだった。

 

(天宮 遊希がプロを引退して5年は経つ。それなりにブランクはあったはずだが……まさかここまでとは)

「……これで十分、と言いたいところだけど、その黒い旋風は見過ごせないわ。私はギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでさらにオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!“その刃は触れたもの全てを裂く。破壊の力を宿し竜よ、全てを断ち切れ!”怒り狂え!《銀河眼の光波刃竜》!」

 

《銀河眼の光波刃竜(ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》)

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻3200/守2800

レベル9モンスター×3

このカードは自分フィールドのランク8の「ギャラクシーアイズ」Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。このカードはX召喚の素材にできない。

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):X召喚したこのカードが相手モンスターの攻撃または相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の「銀河眼の光波竜」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「FA・フォトン・ドラゴンを更にエクシーズ・チェンジさせるだと!?」

「光波刃竜もFA・フォトンと同じようにX素材を1つ取り除くことでフィールドのカード1枚を破壊することができる。破壊するのは当然黒い旋風。さて、現役の力を見せてもらおうかしら? 私はこれでターンエンドよ」

 

 

エヴァ LP5400 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:9(0)

遊希 LP7200 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(フォトン・バニッシャー)EXゾーン:1(銀河眼の光波刃竜 ORU:1)魔法・罠:0 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:12(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□□

  刃 □

□□バ□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

 

刃・・・銀河眼の光波刃竜

バ・・・フォトン・バニッシャー

 

 

☆TURN03(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!……なるほど、これが天宮 遊希のデュエルというものか」

「……私はいつものデュエルをしているだけ。そんな大仰なものじゃないわ」

「なるほど、その控えめなところも含めてお前のデュエルということなのだな? 素直に言ってしまえば、私は今凄く昂っている。ずっとこう相対してみたい相手と実際にデュエルをしているのだから無理もない。それでいてその強さに正直震えている」

「……怖いの?」

「ああ、怖い。だが、それ以上に楽しい。故にこの楽しいデュエルに勝ちたい! 心の底から私はそう思っている!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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複雑な感情

 

 

 

 

(怖いけど、それ以上に楽しい……か。思っている以上に純粋な子ね)

 

 遊希になくてエヴァにあるもの。それはデュエルを純粋に楽しもうという気持ちである。もちろん遊希もエヴァと同じようにデュエルは好きであるが、心の底から結果を度外視して楽しもうという気持ちは持ち合わせていなかった。鈴とのデュエルでも、千春とのデュエルでも、皐月とのデュエルでも彼女は勝利をもぎ取ってきた。それだけ遊希にとって“勝利”というものの為す意味は大きかった。

 

(私は結果を度外視しない。どれほど楽しかったとしても負けては意味がないから)

 

 同じ女性であり同じ年齢、そして同じプロの世界に生きたデュエリストである二人。それでも価値観には大きな差が生じている。だからこそ遊希はより一層エヴァに対して対抗心を燃やす。

 

「私のターン、ドロー!」

「さてフォーミュラ・シンクロンの効果と今のドローで得たその2枚の手札でどう返すか……見せてもらおうかしら」

「……お前もデュエリストならこんな言葉を聞いたことは無いか?“墓地は第二の手札”という言葉をな。私のスタンバイフェイズにゲームから除外されているPSYフレームロード・Ωは私のフィールドに、お前の銀河剣聖は手札に戻る」

 

 デュエルモンスターズの黎明期は墓地のモンスターを再利用できるカードは死者蘇生や《リビングデッドの呼び声》など数が少なかった。しかし、今となっては墓地で発動できる効果を持ったカードが数多く存在しており、墓地送りやデッキ破壊がメリットになるケースが多い。墓地は第二の手札、という言葉はまさに今のデュエルモンスターズの実情をよく表している言葉と言えた。そしてそれはエヴァのデッキにおいても十分に言えることであった。

 

「そして私は墓地のBF-大旆のヴァーユの効果を発動する! 墓地のこのカードとチューナー以外のBFモンスター1体をゲームから除外し、そのレベルの合計のBFのSモンスター1体をエクストラデッキから効果を無効にして特殊召喚する! 私が除外するのはレベル4の残夜のクリス。よってレベル5のBF1体を特殊召喚させてもらう! 特殊召喚するのはA BF-五月雨のソハヤだ!」

 

 BFモンスターをS素材としてS召喚されたA BF-五月雨のソハヤはその効果でチューナーモンスターとして扱われるが、ヴァーユによる特殊召喚はS召喚とは扱われない。そして効果も無効化されていることから、この時のソハヤはレベル5で効果のないモンスターに過ぎなかった。

 

「そして私は墓地のゾンビキャリアの効果を発動! 手札1枚をデッキトップに戻し、このカードを墓地から特殊召喚する!」

「これでレベル7のシンクロ召喚が可能になった……」

「私はレベル5の五月雨のソハヤに、レベル2のチューナーモンスター、ゾンビキャリアをチューニング!“冷たき雨が落ちる空に響くは悲壮なる雷鳴。漆黒の翼よ、朋友の志を力に敵を撃て!”シンクロ召喚! レベル7《A BF-涙雨のチドリ》!!」

 

《A BF-涙雨のチドリ》

シンクロ・効果モンスター

星7/闇属性/鳥獣族/攻2600/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):「BF」モンスターを素材としてS召喚したこのカードはチューナーとして扱う。

(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の「BF」モンスターの数×300アップする。

(3):このカードが破壊され墓地へ送られた時、「A BF-涙雨のチドリ」以外の自分の墓地の鳥獣族Sモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「BFを素材としてS召喚した涙雨のチドリはチューナーとして扱う。そしてこのカードの攻撃力は墓地のBFモンスターの数×300ポイントアップする!」

 

 エヴァの墓地に存在するBFは除外されたヴァーユとクリスを除けば8体。よってその攻撃力は2400ポイントアップする。

 

A BF-涙雨のチドリ ATK2600→5000

 

「攻撃力……5000」

「バトルだ! まずはPSYフレームロード・Ωで守備表示のフォトン・バニッシャーを攻撃!“PSY・ディメンションバースト”!」

 

PSYフレームロード・Ω ATK2800 VS フォトン・バニッシャー DEF0

 

「そして涙雨のチドリで銀河眼の光波刃竜を攻撃!“雷鳴の一撃 ライトニング・スラッシュ”!」

 

A BF-涙雨のチドリ ATK5000 VS 銀河眼の光波刃竜 ATK3200

 

 雷電を帯びた刀の一振りが、両腕を顔の前で交差させて守ろうとした光波刃竜をその両腕の刃ごと両断する。迸る雷の衝撃が遊希の身体を襲った。デュエルディスクの進化は以前とは比べ物にならないようで、デュエルの激しさによって痺れや熱などといった人体に怪我を及ぼさない程度の影響を及ぼすこともできるようになっていた。

 

遊希 LP7200→5400

 

「っ……! まさかそんな攻撃力のモンスターを出してくるとは」

―――耐性のフルアーマード・ウィング、攻撃力のチドリといったところか。チドリは耐性を持たないが、破壊され墓地に送られることで墓地の鳥獣族Sモンスターを特殊召喚できる。

(チドリを倒してもフルアーマード・ウィングが出てくるってこと。なら答えは簡単よ)

(……こっちには攻撃力5000のチドリがいる。なのに全く動揺する素振りを見せていない。まだ安心はできないか)

「私はこれでターンエンドだ!」

 

 

エヴァ LP5400 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(PSYフレームロード・Ω)EXゾーン:1(A BF-涙雨のチドリ)魔法・罠:0 墓地:10 Pゾーン:青/赤 除外:5 エクストラデッキ:7(0)

遊希 LP5400 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□Ω□□□

  □ 涙

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

涙・・・A BF-涙雨のチドリ

 

 

「すごい……」

 

 エヴァが盤石のフィールドを組み立て、ワンショットキルを狙えるだけのモンスターを揃えれば、残されたカードでその布陣を切り裂く遊希。そしてそんな遊希を墓地のカードを駆使して再度突き崩すエヴァ。そんな二人のデュエルを見て鈴は思わず感嘆の言葉を漏らす。

 

「鈴、よく見ておくんだ。これが、プロのデュエルだよ」

 

 竜司は教育者として、そして一人の父親として教え子であり娘である鈴に優しく語り掛ける。

 

「先行のエヴァくんは強固なモンスターを立て、PSYフレームロード・Ωを駆使して相手の展開を挫こうとした。だが、後攻の天宮くんはそれすらも乗り越えて激しく攻め立てた。二人は限られた手段において常に自分たちの考え得る中で最善の手を尽くしているんだ。彼女たちのことを考慮して静かな環境でデュエルをさせてあげようと思っていたが、これは生徒たち皆に見せてあげるべきだったかな」

「ねえパパ……それを見れるあたしってもしかして凄くツイてる?」

「ああ、そうかもしれないね」

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

「相手のスタンバイフェイズにPSYフレームロード・Ωの2つ目の効果を発動! 除外されているBF-大旆のヴァーユを私の墓地に戻す。そして相手メインフェイズにフィールドのPSYフレームロード・Ωの効果を発動! フィールドのこのカードをゲームから除外し、相手の手札をランダムに1枚除外する!」

 

 反撃に出たい遊希であるが、そんな彼女の妨害を執拗に行ってくるのがPSYフレームロード・Ωだ。かつて制限カードに指定される前は先攻で3体S召喚してはその効果で先攻ハンデスを行い、相手に何もさせずに勝利するという戦法が流行したほどである。自身の効果も相まって維持しやすいこのモンスターはレベル8のSモンスターを出せるデッキであれば制限カードとなった後でも多くのデュエリストに愛用されている。

 

(む、除外されたのはまた銀河剣聖か。わかっていない残り2枚が何かを知りたかったが)

「ラッキーだったわね。しかし、鬱陶しいったらないわねそいつは」

「そういう効果だからな。恨むのであればI2社のカードデザイナーを恨んでくれ」

「これで私の手札は残り2枚。この2枚では反撃は難しい……困ったわ。困ったからそんな時は魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドローする。戻すのはフォトン・バニッシャー、フォトン・オービタル、光子竜皇、FA・フォトン、光波刃竜の5体よ」

 

 メインデッキに魔導師とオービタルの2枚が、エクストラデッキには3体の銀河眼が戻る。ドロー効果もそうだが、遊希にとっては1枚しか存在していないエクストラデッキの銀河眼たちを再利用できる方が大きかった。

 

「私は手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動! フィールドにフォトン・トークン2体を守備表示で特殊召喚するわ。そして自分フィールドにフォトンモンスターが存在することにより、フォトン・バニッシャーを攻撃表示で特殊召喚!」

「そのカードは!」

「特殊召喚に成功したフォトン・バニッシャーの効果。デッキから2体目の銀河眼の光子竜を手札に加える。そして攻撃力2000のフォトン・トークン2体をリリースし、銀河眼の光子竜を特殊召喚! そしてバトルよ! 銀河眼の光子竜でA BF-涙雨のチドリを攻撃!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS A BF-涙雨のチドリ ATK5000

 

「銀河眼の光子竜の効果を発動! このカードと、このカードと戦闘を行う相手モンスター1体をバトルフェイズ終了時までゲームから除外する!」

「チドリ!……だが、そんなものは一時的な気休めにすぎん!」

「気休めね、確かに。でもこのカードを見てそんなことが言えるかしら? 手札から速攻魔法、異次元からの埋葬を発動!!」

 

 銀河眼の光子竜と異次元からの埋葬。このコンボは遊希が皐月とのデュエルで決めてみせたコンボであった。

 

「異次元からの埋葬の効果は知っているわね? 互いのゲームから除外されているモンスターを3体までコントローラーの墓地に戻すことができる」

「……まさか」

「そのまさかよ! 私が墓地に戻すのはあなたの涙雨のチドリ、PSYフレームロード・Ω、水晶機巧-ハリファイバーの3体。そして銀河眼の光子竜の効果で除外されたモンスターは除外ゾーンを離れてしまえばもう戻れない」

 

 PSYフレームロード・Ωは3つ目の効果で自身をエクストラデッキに戻すことができるが、破壊以外の方法で墓地に送られることになったチドリの効果は発動しない。随分と遠回りな方法ではあるが、エヴァは結果的にチドリの帰還とフルアーマード・ウィングの蘇生、そしてPSYフレームロード・Ωのハンデス効果をわずか2枚のカードで封じられる形になってしまった。

 

(なんと型破りな……だが、それでこそ世界を魅了した伝説のデュエリストといえるな)

「バトルフェイズを終了。除外されていた光子竜はフィールドに戻る。私はこれでターンエンドよ」

 

 

エヴァ LP5400 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:16 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:7(0)

遊希 LP5400 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜、フォトン・バニッシャー)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□バ光□

 □□□□□

遊希

 

 

(彼女の手札は1枚。そしてあのデッキトップは前のターンにゾンビキャリアの効果で戻された1枚。故に新しいドローカードを期待することはそうはできないはず。BFデッキだけあって展開力は普通のデッキの比ではないかもしれないけど、ここからの逆転はさすがに現実的ではない。PSYフレームロード・Ωの効果で墓地に戻された大旆のヴァーユは墓地シンクロはできるけど……それでも彼女のデッキに2枚目のソハヤがなければそれも不可能。そしてライフは同じでも、光子竜とバニッシャーで攻めれば残りライフはわずか400。このデュエル貰ったわ!)

 

 遊希は内心でこのデュエルの勝利を確信しつつあった。しかし、その一方で光子竜はそんな遊希の様子を不穏に思っていた。

 

(―――相手のライフはまだ5400も残っている。なのに何故勝ちを確信する?)

 

 かつて光子竜はプロ時代に遊希が竜司から言われたある言葉を思い出していた。過去に最強を誇ったとあるデュエリストは「勝利を確信した瞬間、その決闘者はすでに負けている」という言葉を残しており、竜司はこの言葉を常に胸に刻んでデュエルに臨んでいた。

 そんな彼の薫陶を受けてデュエルに臨んでいた遊希であったが、まだ幼かった彼女は今と違ってそういったミスを犯すことも少なくなく、掴みかけた勝利を取りこぼしては涙することも多かった。そしてそれを反省して今のような圧倒的なデュエルができるだけの実力をつけるに至ったのだ。

 しかし、遊希は何故かこの時ばかりは勝利を確信してしまっていた。普段最後の最後まで冷静なはずの遊希が。その理由は光子竜にもわからなかった。

 

(遊希……何故お前はそこまで勝ちに逸る?)

 

 逸る遊希に心配する光子竜。一方で対するエヴァの心中も穏やかなものではなかった。遊希のフィールドには攻撃力3000の銀河眼の光子竜がいる。自分のデッキにおいて素の攻撃力で光子竜の3000を上回るモンスターは存在しない。そのためこのターンで何としてもSモンスターの召喚に繋げる必要があった。

 彼女も10歳の時にプロデュエリストとして華々しくデビューしたが、それでもデュエリストということを除けばまだ15歳のうら若き少女なのである。流れ落ちる汗を拭う余裕すらなかった。

 

(ライフにはまだ余裕があると言っていいだろう。だが、このまま手を打てなければ負けるのは私だ。だが、勝つための道筋は私は描けている。描けてはいるが……)

 

 エヴァは自分のエクストラデッキに目線を落とす。通常エクストラデッキには15枚までカードを入れることができるのだが、エヴァはその15枚のうち数枚ほどデュエルでは使わないと決めていたカードがあった。

 

(……ここ数年で私もデュエリストとして成長したはずだ。もう“あの時”のようなことは起きないし、起こさせない。ならば、この力に縋るしかない!!)

 

 二人の少女の心の中には形こそ違えど、複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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目覚めし第二の精霊

 

 

 

 

☆TURN05(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー……このドローカードはゾンビキャリアの効果で戻されたもの。なので前まで私の手札にあったものだがな」

「そうね。ゾンビキャリアの効果は便利だけど、ドローロックがかけられてしまう。だから起死回生の手はそう簡単には引き入れられない」

「ああ、そうだな。だが……この手札がその起死回生のためのものだとしたら?」

 

 そう言ってエヴァは不敵に微笑む。いくら強力なカードでも発動条件を満たしていなければ腐るだけ。そこがカードゲームの難しいところであるが、逆を言ってしまえばその発動条件すら満たしていれば、挽回の一手になるということでもあった。

 

「行くぞ。まず私は墓地のPSYフレームロード・Ωの効果を発動。墓地のこのカードと私か相手の墓地のカード1枚をそれぞれ持ち主のデッキに戻す。私はPSYフレームロード・Ωと墓地のA BF-五月雨のソハヤをエクストラデッキに戻す」

 

 遊希は前のターン終了時にヴァーユの墓地シンクロは不可能である、と踏んでいたが、その時彼女はこのPSYフレームロード・Ωの3つ目の効果を失念してしまっていた。これでエヴァは再びA BF-五月雨のソハヤのS召喚が可能になる。

 

(そうだ。PSYフレームロード・Ωの効果が……)

「私は手札から魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。私が除外するのはBF-疾風のゲイルだ。そして更に私は手札のBF-毒風のシムーンの効果を発動!」

「毒風のシムーン……!!」

「自分のデッキから2枚目の黒い旋風を発動し、このカードを手札から召喚する! これは効果による召喚のため、召喚権を使わない。BFモンスターの召喚に成功したことで黒い旋風の効果が発動。デッキからシムーン以下の攻撃力のBFモンスター、南風のアウステルを手札に加える! そしてそのアウステルを召喚! 再び黒い旋風とアウステルの効果が発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):BF-南風のアウステル

チェーン1(エヴァ):黒い旋風

 

「黒い旋風の効果でデッキからアウステル以下の攻撃力を持つBF-砂塵のハルマッタンを手札に加え、アウステルの効果で除外されているゲイルを私のフィールドに特殊召喚する! そしてフィールドに同名以外のBFが存在することで、ハルマッタンを特殊召喚! 自身の効果でハルマッタンのレベルをゲイルのレベル分アップさせる!」

 

BF-砂塵のハルマッタン 星2→5

 

「疾風のゲイルの効果を発動。相手フィールドのモンスターの攻守の値を半分にする。対象は銀河眼の光子竜だ!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK1500/DEF1250

 

「……相変わらず面倒な効果ね。でも、光子竜は自身を除外することでステータスを元に戻すことができるわ。仮に光子竜を一時的のフィールドから退かすことで私のライフを削ってもそのBFたちではバニッシャーすら倒せない」

「確かにその通りだ。だが、これで終わりではない! 私は墓地の大旆のヴァーユの効果を発動! 墓地の黒槍のブラストと大旆のヴァーユをゲームから除外し、エクストラデッキからレベル5のA BF-五月雨のソハヤを特殊召喚する! さて、これで下準備は整った」

「下準備?」

 

 エヴァのフィールドにはメインモンスターゾーンにレベル6のシムーンとレベル4のアウステル、そしてレベル3のゲイルが存在し、EXゾーンにはレベル5のSモンスターであるソハヤが存在している。ここからエヴァが取れる展開先はレベル8か9の闇属性SモンスターのS召喚、そして闇属性モンスターのリンク召喚である。

 シムーンの効果を発動したターン、エヴァは闇属性以外のモンスターを特殊召喚できなくなるためだ。BFデッキは全モンスターが闇属性であるため純構築であればあまり困らない制約ではあるが、エクストラデッキにはPSYフレームロード・Ωやハリファイバーのように他の属性のモンスターも入っている。そのため汎用素材で召喚できるモンスターがエクストラデッキにある場合は決して軽視していいデメリットではなかった。

 

「……天宮 遊希よ」

「何かしら?」

「私は憧れのあなたとデュエルができて今とても幸せな気分だ。そしてこれから3年間同じ学校で共に学びあい、共に高めあうことができることに、とてもわくわくしている」

 

 このタイミングで何を言い出すのか、と遊希は少しむず痒くなりながらも素直にありがとう、と礼を言う。そんな彼女から礼を言われたことに嬉しくなってはにかんだエヴァは、すぐに決意を込めた眼差しを遊希に向けた。それは紛れもなくプロデュエリストたる少女のもの。

 

「きっとこの先あなたとはたくさんデュエルができると思う。そのきっかけになったこのデュエルを私はずっと忘れない。だからずっと忘れないであろうこのデュエル、私が貰う!」

 

 遊希の身体に悪寒が走る。ここからエヴァが出せる逆転の手段などそうないはずなのだが、デュエリストとしての直感が告げるのだ。ここでエヴァが出すモンスターこそこのデュエルの勝敗を決めかねない存在である、と。

 

「天宮 遊希、あなたはこのデュエルで光子竜はもちろんたくさんのモンスターを私に見せてくれた。ならば私も特別なモンスターを使ってその気持ちに応えたいと思う!」

「特別なモンスター?」

 

 その言葉を聞いて遊希はデュエルの前に竜司と鈴から聞いた話を思い出した。エヴァはかつて大会で竜司に勝ち優勝した時、この世に1枚しかないカードを手に入れていたということを。

 

「今からそのモンスターを見せてやろう! 私はレベル5のA BF-五月雨のソハヤに、レベル3のBF-疾風のゲイルをチューニング!」

 

 ソハヤが変化した5つの星と、ゲイルが変化した3つのリングが重なり合い、やがてその姿は巨大な竜へと姿を変える。その力はエヴァがこれまで召喚してきたモンスターとは明らかに異なる―――精霊である光子竜はそれを敏感に感じ取った。

 

(―――この波動はまさか……!!)

 

 

 

 

 

―――“黒き嵐吹き荒ぶ世界は紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”―――

 

 

 

 

 

―――シンクロ召喚!!―――

 

 

 

 

 

 灼熱の炎の中より現れたのは悪魔のような姿を持ちながら片方の角が折れ、全身に刻印のような傷を負った真紅のドラゴン。しかし、そのモンスターを見た時、この場で唯一そのモンスターのことを知っているはずの竜司は驚きを隠せなかった。何故ならそのモンスターはかつて自分がエヴァと競い合ってまで手に入れようとしていた希少なモンスター―――《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と似て否なるものだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――今こそ我が声に応えよ!! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

シンクロ・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「レッド・デーモンズ・ドラゴン」として扱う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカード以外の、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊する。その後、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……」

―――遊希!

 

 召喚されたドラゴンを見た瞬間、光子竜が遊希に呼びかける。その声にいつも沈着さはなかった。

 

(何よ、こんな時に!)

―――こいつだ……

(こいつ、ってこのモンスターが何だっていうのよ!)

―――彼女を……エヴァを探すときに私が感知した波動の正体だ。

(!?……なんですって。じゃあ)

―――あれは“デュエルモンスターズの精霊”だ。

 

 自分と同じ力を感じ取った光子竜がスカーライトを精霊と断定する。確かにこれまで現れたモンスターたちとは異なり、スカーライトは精霊である光子竜の存在を感じ取ったのかそれに呼応するかのように激しく咆哮している。

 しかし、遊希はまだスカーライトの言葉を理解することはできなかった。光子竜曰く向こうが心を開かないと、人間と精霊はおろか精霊同士でも言葉を交わすことすらできないという。

 

(この世界にデュエルモンスターズの精霊はあんただけじゃなかったの?)

―――そのはずだ。だが、何らかの形でこの世界に舞い降りたとしか言えん。

(……っ)

 

 光子竜の言葉を聞いて遊希の表情が曇る。だが、今の時点では精霊であるかないか、ということよりもまずは勝つことが最優先であった。光子竜の攻撃力はゲイルの効果で下げられてしまっているが、光子竜を除外してスカーライトを含めたモンスターの総攻撃を受けたとしても、遊希のライフはまだ残る。このターンの敗北は無い―――しかし、それが遊希の誤算であった。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果を発動!! このカードの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスターを破壊し、その数×500ポイントのダメージを相手ライフに与える!!」

「なっ……全体破壊!?」

「全てを焼き尽くせ!!―――“アブソリュート・パワーフレイム”!!」

 

 スカーライトがプロテクターのようなものがついた肥大した右腕で大地を殴りつけると、轟音と共に地中深くのマグマが噴出するかのように火柱が上がった。それが遊希のフィールドの光子竜とフォトン・バニッシャーを、そしてエヴァのフィールドのハルマッタンを飲み込んでいく。灼熱の炎に包まれた光子竜は為す術もなく、ただ断末魔の叫びをあげながら灰となって消えていってしまった。

 

―――ぐああっ! やはり……この力はっ……!!

「光子竜!!」

「破壊されたモンスターは3体。よって1500のダメージを受けてもらう!」

 

遊希 LP5400→3900

 

 スカーライトの効果により、遊希のフィールドのモンスターは全滅。一方でエヴァのフィールドにはスカーライトとシムーン、アウステルの3体が存在している。シムーンとアウステルは通常召喚されたモンスターであるため、スカーライトの効果で破壊されない。エヴァのフィールドに存在する3体のモンスターの総攻撃力の合計は―――6000。

 

「う……そ……」

 

 遊希はこの状況をすぐに受け入れることができなかった。自分を守るモンスターはなく、セットカードもない。この先に自分を待っているものは、デュエリストとして一番味わいたくないものであった。

 

「これで終わりだ、バトル! アウステルとシムーンでダイレクトアタック!」

 

BF-南風のアウステル ATK1400

 

BF-毒風のシムーン ATK1600

 

遊希 LP3900→900

 

「きゃあああああっ!!」

―――遊希!!

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック!“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

遊希 LP900→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!!」

 

 光子竜が精霊と睨むスカーライトの攻撃によってライフが0になった遊希の身体が大きく吹き飛ぶ。その攻撃はソリッドビジョンのはずなのだが、その様はまるで実際にダメージを受けたかのように見えた。

 

「遊希っ!!」

 

 それを見た鈴が倒れこんだ遊希の元に駆け寄る。地面に叩きつけられた遊希に奇跡的に大きな怪我はなく、意識もはっきりしているようだった。しかし、今の彼女は鈴が幾度となく呼びかけてもどこか放心状態という感じだった。

 

「……また、ダメだった」

 

 一方、デュエルの勝者であるエヴァも勝ったにも関わらず悲しげな顔を浮かべながらその場に座り込んでしまった。そちらには竜司が向かい、今の彼女の言葉の意図を確かめる。竜司の包み込むような穏やかな顔を見たエヴァは、竜司に、そして遊希と鈴にレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトがエヴァの元に現れた経緯を話し始めた。

 それは今から3年ほど前に遡る。プロデュエリストとしてエヴァが大会に備えて自宅でデッキ調整をしていた時のことだった。彼女が手に取り眺めていたレッド・デーモンズ・ドラゴンのカードが突如紅く激しい光を放ち出したのである。それは一瞬の出来事だった。その光が収まった後にエヴァがカードを見ると、レッド・デーモンズ・ドラゴンのカードは似て非なる存在であるレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトへと変化していたという。

 当然カードが突然書き換わる、といった類の話を周囲は信じてくれなかったが、エヴァがそのスカーライトを使って相手のデュエリストに攻撃をすると、意図せずに相手のデュエリストを負傷させてしまう事故が多発した。それからエヴァはスカーライトをデュエルで使うことを止めてしまっていたのである。

 

「そうか……だから君は公の場において一度もレッド・デーモンズ・ドラゴンを出さなかったんだね?」

「はい。でももうあれから3年も経ち、私は人としてもデュエリストとしても成長することができた。故にこのカードを使いこなせると思っていましたが……」

 

 エヴァの様子を見る限り、彼女はスカーライトが精霊だということには気づいていないようだった。最もスカーライトが精霊であると知っているのはこの場を除いても遊希と光子竜のみなのだが。

 

「そうか……何にせよ今日は二人とも疲れたろう? 私がエヴァくんを案内がてら寮の部屋へ連れていく。鈴は天宮くんのことを頼めるだろうか?」

「うん、わかったよパパ」

 

 鈴はどこか虚ろな眼をしている遊希に肩を貸すと、ゆっくり歩き始める。遊希の意識ははっきりしているのだが、遊希は一言も言葉を発することなく、虚ろな表情を浮かべたままずっと黙り込んでしまっていた。鈴は一体遊希に何があったのだろうか、と疑問に思いながら寮の部屋へ向かう。

 その途上、ポケットに入れていた鈴のスマートフォンが揺れた。竜司から無料通話アプリで連絡が来ていたのだ。鈴は遊希に見えないようにこっそりとスマートフォンを開いて目を通す。その画面には竜司からのこのようなメッセージが載せられていた。

 

 

「今日は遊希くんを見守ってあげてほしい。彼女は強く凛々しいが、同時にとても繊細でか弱い子だから」

 

 

 鈴はこの時、父の言葉の意味が理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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隠された少女の涙

 

 

 

 

 長期休暇中やゴールデンウイークといった長い休みの間はセントラル校全体が休みになるため、学内の施設はほとんどが休業する。それは学食も例外ではなく、その間学校に残る生徒は食事や入浴などは自分たちで済まなければならない。

 遊希と鈴は二人部屋のため、炊事洗濯といった日々の作業は交代制になっている。しかし、遊希は案の定それらの仕事に積極的ではないため、実際は鈴がそれを取り仕切っている状況にあった。

 

「遊希」

 

 鈴はまな板に乗せたニンジンを切りながら視線はそのままに後ろで戸棚から皿を取り出している遊希に声をかける。

 

「……何?」

「あんたはあっちで休んでいていいわよ。それか先にシャワー浴びちゃって。あんたどうせ大して手伝わないんだし。だったら先にやれることはやっておきたいの」

「……そう? じゃあ、お言葉に甘えることにするわ……」

 

 キッチンで盛り付け用の皿を並べていた遊希に、鈴はそう言って遊希を先に風呂に入れる。部屋に戻った後の遊希はやはりいつも以上に口数が少なく、何処か気が抜けてしまっているように思えて仕方がなかったのだ。そしてそんな彼女に変に手伝わさせたものなら、皿の1枚2枚平気で割ってしまう姿が思い浮かぶ。それなら自分一人で夕食くらい作ってしまえばいい―――最もそれは建前であり、鈴の頭の中にはさっき竜司から言われた言葉がぐるぐると回っていた。彼女なりに父の言葉について考えていたのである。

 

 

「彼女はとても強く凛々しいが、それと同時にとても繊細でか弱い子だから」

 

 

 竜司からのメッセージを字面のまま受け取れば、今のクールな遊希は仮の姿だったりするのだろうか。しかし、このひと月の間彼女と寝食を共にした鈴には到底それを信じることができなかった。

 遊希はデュエルは学年の誰よりも強く、勉強に運動と学科の成績も優秀。加えてその容姿はモデルや女優が裸足で逃げ出すレベルで美しく、髪は癖こそついてはいるが、大和撫子と呼ぶに差し支えない綺麗な黒髪だ。当然スタイルもセントラル校に入学するまでほぼ引きこもり同然の不摂生な生活を送っていたとは思えないほど均整の取れたものを保っている。ファッションなど年頃の女子が気にすることに全く気を留めないところは短所と言えるが、同性である鈴から見ても天宮 遊希という少女は魅力の塊と断言できる存在であった。

 

(おまけに……あたしと違って胸も大きいし。この間お風呂一緒に入った時に後ろから揉もうとしたら思い切り殴られたけど……って、何考えてんのよあたし。まあ結論から言うと遊希は女子力がないところを除けば完璧な美少女、よね……)

 

 それが鈴が遊希という人間を評価するにあたって出てきた言葉だ。しかし、よくよく考えてみると自分はまだ遊希のことをそんなに知らないことに気付く。竜司が家に連れてきた時は本当の姉妹のように仲良く振る舞っていたが、その時はまだ子どもだったこともあってそこまで深く意識はしていなかった。

 

(でも、遊希はこの間パパに負けて今日はエヴァちゃんに負けた。負け知らずのあの子がこうも立て続けに負ける……それで心が折れるくらいならプロになんかなれるわけないし)

 

 鈴が考えれば考えるほど遊希という人間がわからなくなる。あとで直接竜司に遊希のことについて話を聞きに行くべきだろうか、と悩んでいるうちにニンジンを切り終わる。今夜の夕食のメニューはカレーライスだ。すっかり日本の国民食となりつつあるこの料理を嫌いな者はそうはいない。美味しいカレーを作れば遊希もきっと元気になるはず。そう思いながら鈴はジャガイモの皮を剥き始めた。 

 そうして鈴がカレーライスを作り終わるころ、遊希がやや長めの風呂から出てきたので、交替で鈴が風呂に入ることになった。だが、シャワーで髪や身体を洗い流す時も、浴槽に浸かっている時も、髪を乾かす時も、ずっと鈴は竜司の言葉について考えていたため、いつもより少し長めの風呂になってしまっていた。

 

「……遅かったわね」

 

 入りすぎたかな、と思いながら鈴が風呂から出ると、既に二人分の食事の準備を済ませた遊希は座って鈴が出てくるのを待っていた。鈴が出てくるタイミングで皿に盛りつけてくれたのだろうか、カレーライスからは湯気と香ばしい香りが立ち込める。

 

「あら、先に食べててもよかったのに」

「……私がそんな千春みたいな真似するわけないでしょ」

 

 いないところで貶される千春は今頃クシャミが止まらないんだろうな、と思い鈴は苦笑いしながら席に座り、二人揃って夕食を取り始めた。

 

「ねえ遊希。この芸人面白くない? 最近の流行らしいわよ」

 

 カレーを食べながら、テレビのバラエティ番組を見る二人。いつもなら鈴がテレビ番組でネタをする芸人で笑い、その手の情報に疎い遊希は「何が面白いの、夏には消えてるわよそんな若手芸人」と毒を吐くのが日常の光景。

 スポーツ中継なら贔屓の野球チームが下位に沈み、応援する鈴がしょげている横で遊希がそのチームの弱点を延々と楽しそうに語る。それも彼女たちの日常。しかし、今日の遊希にはそれがない。

 

「……そうなのかしら? まあ、そうなのかもしれないわね」

 

 正直自分でも面白さがわからない音ネタ芸人のネタに面白いわね、と振ってみると遊希からは期待した答えが返ってこないのである。この瞬間、鈴は間違いなく遊希に何かがあった、もしくは何か悩みがあるということを確信する。そして、この後彼女は少々思い切った作戦を取ることにした。

 

「じゃあ、私もう寝るから」

 

 夕食を食べ終わった遊希は自分の分の食器を片付けると、すぐに寝る準備を始めた。元々遊希はやることがない時はさっさと寝てしまうなど早寝な方ではあるが、寝る前には結構な確率でどっちが二段ベッドの上で寝るか、ということで一揉めする。

 だが、今日は疲れているとはいえ、それすらせずになんとだいたい鈴が眠っている下のベッドに潜り込んでしまったのだ。当然ながら二人部屋のこの部屋においてここにいるのは遊希と鈴の二人だけ。そして、今日この夜の出来事を知ることも二人だけ。

 

「ねえ遊希」

「……何?」

「今日さ、一緒に寝ない?」

 

 鈴がそう言うと、遊希は布団を被ったまま「狭いから嫌よ」と突っぱねる。しかし、鈴はここで食い下がらず、無理やり遊希の布団を引っぺがそうとした。当然遊希も抵抗する。

 

「ほらほら良いじゃない、女の子同士なんだからさ!」

「ちょっ、いい加減にしなさい……親しき仲にも礼儀あり、って言うでしょう……」

「あら、スキンシップも大事! ほら、観念しなさい!」

「や……やめ……」

 

 数分の格闘のうち、抵抗虚しく被っていた布団を剥がされる遊希。そんな遊希に鈴はそっと優しく話しかけた。

 

「……見ないで」

「……ごめん、しつこかったかな。でもさ、そんな眼を真っ赤にして泣いてるあんたを見ると……放っておけないよ」

 

 布団の中に身を隠していた遊希の眼からは大粒の涙が絶えず流れていた。その影響で目の周りは早くも涙の跡がついている。鈴はさりげなく遊希の眠る下のベッドに身を乗せると、剥がした布団を被って無言でこっちを見ている彼女と向き合う形で横になった。

 

「ふふっ、暖かい。でさ、何があったの。あたしで良かったら話聞くよ? まあ話したくないなら無理に話さないでいいわ。ただ話せば少しは気が楽になるかもね」

 

 そう言って鈴が遊希の布団に潜り込んで数十分。その間二人は無言のままだった。鈴は遊希が話すまでじっと彼女の潤んだ瞳を見つめ、遊希は極力鈴と目を合わせないように視線を上下させる。

 

「あ、あのね……」

 

 やがて鈴に根負けした遊希が話しだした。涙交じりなので聞き取るのはやや難しかったが、鈴は必死に彼女の想いを自分の中に刻み込む。

 遊希の涙の原因は、やはりここ数日の自分の戦績にあった。先日はエヴァの出迎えに関して竜司とデュエルを行い、敗れ、今日はエヴァをあと一歩までのところに追い込みながらも自分の油断から慢心して逆転負けを許してしまった。戦績でいえばたくさんのデュエルのうちのわずか2敗。しかし、その2敗が彼女の心に大きな傷を残していた。

 

「前に……私の家族について……話したじゃない……」

 

 遊希の家族が悲惨な最期を迎えたことは誰もが知っている。しかし、その真実を知るのは少なくとも生徒では鈴一人。 

 

「私、今でもずっと思っているの……私がもっと強ければ、あんなことにはならなかったって……」

 

 遊希の家族が命を落とした真相について知っているのは、鈴を除けばこの学校では竜司をはじめとした数人の教員とのみである。もしこの涙の理由がただ負けが込んでいるだけ、ということだけだったのならば鈴は「私の方がもっと負けてるから気にしちゃダメ!」と喝を入れる形で励ましていただろう。

 しかし、鈴はその理由を知ってしまっている以上、強く遊希を励ますことができなかった。彼女の心に残るのは自責の念。プロを引退して今日この日まで自分をずっと責め続けていた。決して遊希のせいではなく、悪いのは遊希の両親に手をかけた人間である。彼女の家族の訃報を聞いた多くの人が彼女を哀れみ、慰めた。

 それでも彼女の心の中には絶えず渦巻いていたのは家族を守れなかった後悔。プロ引退後、デュエルから離れていた時は全てを捨て、ひっそりと生きては亡くなった家族を弔い続けてきた。やがて竜司ら多くの人間に支えられ、セントラル校に通い、デュエリストとして復帰して以降は勝ち続け、誰よりも強くあることを亡き両親に誓っていた。

 両親への罪悪感、周囲からの期待、敗北への恐怖―――今まではそれを必死で抑え込むことができていた。だが、その少女の心には限度が来ており、それが今日、崩れ落ちたのだ。

 

「みんな……私に期待してくれている……私はプロデュエリストだった……それにふさわしくなきゃいけないのに……」

「うん」

「……私は……強くなきゃいけないの……強くないと……みんなを悲しませちゃうから……お父さんと……お母さんと……妹のためにも……それ……なのに……!!」

 

 今まで必死に堪えながら言葉を発し続けてきた遊希だったが、家族のことを口にした途端、抑え続けてきた感情が涙となって堰を切った。そこにはいつもクールで美しい天宮 遊希というデュエリストの姿はない。顔を真っ赤にして泣きじゃくる一人の少女がいるだけであった。

 

「……ねえ、遊希」

「なに……りん」

 

 遊希の独白を全て聞き届けた鈴は、遊希が答える間もなく遊希をぎゅっ、と強く抱きしめた。遊希の顔が鈴の胸に埋まるような形になる。鈴は自分のスタイルにそれほど自信は無い。スレンダーではあるが、遊希のようにグラマラスではないからだ。そのため包容力というものはないかもしれない。それでも自分が幼い時に母にこうして抱きしめられた時、心が安らぐのを覚えていた。

 

「遊希。もしさ……また辛いこととかあったりしたら自分でため込んじゃダメよ? ここには千春もいれば皐月もいる。パパだっているし、エヴァちゃんだって同じプロなんだからあんたの悩みや苦しみを理解してくれるはずよ。それに、あたしもいる。だから……辛いときはもっと頼ってよね?」

 

 鈴はそう言うが、遊希は答えなかった。それと同時に彼女の胸の辺りがじわりと熱くなるのを感じた。遊希は声を押し殺してまた泣き始めていた。鈴は何も言わずそんな遊希の頭を優しく撫で続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝ちゃったか……まあ今日は色々と大変だったもんね」

 

 何十分か経った後、小さな寝息を立てて眠る遊希の頭を鈴はまるで子供をあやすように撫で続けていた。目の周りは真っ赤に腫れているが、眠りについた遊希は母親の腕で眠る乳児のように安らかなものだった。

 

(……さっきのパパからのメッセージ……今ならわかる気がするなぁ)

 

 

―――彼女はとても強く凛々しいが、それと同時にとても繊細でか弱い子だから。

 

 

(パパの言う通りだった。外面は美人でクールでカッコいいけど、本当は脆くて弱くて泣き虫で……それでいて不器用なんだから。本当にいじらしくて可愛い子)

 

 鈴は二段ベッドの上で眠ろうとしたが、自分の手を握り、寝言で何度も鈴の名を呼びながら眠る遊希の姿を見ると動くに動けなかった。そうしていつしか鈴も眠りに落ちていた。二人の寝息だけが響く静寂の世界。

 しかし、その二人だけの世界にはもう一人、いやもう一体いた。遊希の身体に宿る精霊・銀河眼の光子竜である。光子竜は遊希と鈴のやり取りに敢えて介入することなく過ごしていた。何故光子竜は遊希に言葉をかけることなく黙っていたのか。

 

―――デュエルモンスターズの精霊というものは神秘の存在だ。空を飛び、魔術の類を自在に操る。人間にできないことの大半が自分の力できるのだ。だが、精霊とは万能の存在ではない。自分の大切な存在が苦しんでいる時、悲しんでいる時……声をかけてやることはできても、その涙を拭い、親のように優しく抱きしめてやることはできない。

 

 彼は知っていたからだ、自分には遊希を助けてやることなどできないということを。傷ついた人間を助けられるのは同じ人間でしかないことを。

 

―――精霊とは、案外無力なものなのだな。

 

 その夜、眠りに落ちた鈴を呼ぶ声がした。鈴は寝ぼけながらもその声のことをよく覚えていた。少し低めの男性の声。もちろんその声の正体はわからない。しかし、声の主が何を伝えたいのかははっきりとわかっていた。

 

 

 

―――遊希を助けてくれてありがとう、と。

 

 

 

「……う、ううん……」

 

 翌日、どこかから漂ってくるいい匂いで目が覚めた鈴。眼をこすりながら横を見るとそこに遊希の姿はなかった。

 

「おはよう」

 

 ベッドから出て匂いのする方に向かった鈴を出迎えたのは長い髪を後ろに束ね、エプロンを付けて朝食を作る遊希だった。容姿端麗なだけあって、エプロン姿もよく似合っている。

 

「おはよう……ってあんた料理……」

「できないなんて一言も言ってないでしょ。二人分作るのが面倒だから嫌だっただけよ」

 

 遊希の作った味噌汁を試飲すると、味付けから具のバランスの良さまで明らかに自分より上手だった。それだけにその腕を面倒という理由だけで披露しない遊希のことがまたもよくわからなくなる。

 

「まあ一人暮らし長かったからね。それに自分から作るのは今回限りよ」

 

 鈴がなんで、と驚いたように尋ねると、遊希は顔を真っ赤にしてもじもじしながら言った。

 

 

「……昨日の……お礼がしたかったから」

 

 

 そんな遊希に鈴は素直にありがとう、と微笑み返し、彼女を抱きしめた。いつになく慌てながら拒絶する遊希に構わず、鈴は自分から離れるまで抱きしめ続けた。

 彼女の苦しみをすべて理解したわけではないし、自分が思う以上に遊希の心には重い影が存在するのかもしれない。それでも、鈴は自分の目の前に立つ愛らしいこの友と共に歩んでいくことを改めて誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             『銀河の竜を駆る少女』

 

 

                第一章 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話をもって『銀河の竜を駆る少女』の第一章が終わりとなります。
第一章では天宮 遊希という一人の少女がアカデミアに入学してから鈴や千春、皐月ら親友となるデュエリストたちとの交流、そして自身と同じ経歴を持つ留学生・エヴァの登場といった今後の章に繋がるキャラの登場、そして精霊を操る遊希がなぜプロを辞めてしまったのか、などといった彼女の心中を少しずつ描いていく、といった感じの章でした。
以下は第二章のあらすじとなります。



○第二章あらすじ
 学年の違う学生デュエリストたちの交流、並びに学内のレベルアップも兼ねたデュエル大会を開くことが竜司たちによって結成された。遊希たちはそれぞれ違うブロックに分かれて出場し、順調に勝ち星を重ねていく。
 デュエル大会が開かれ、嫌が応にも盛り上がるセントラル校だったが、そんなセントラル校を覆い尽くす黒い影が近づいていることに気が付くものは誰もいなかった。




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登場キャラクター紹介・1 メインキャラ編

こちらは登場キャラクターのうち、メインキャラである5人について紹介するページです。
第一章終了時点での情報が載っているため、未読の方はネタバレになってしまう恐れがありますので、第一章をお読みになった上でご覧頂くことをお勧めします。


 

 

○『銀河の竜を駆る少女』 登場キャラクター紹介・1 メインキャラ編

 

 

 

 

 

 

“銀河の姫君”

 

《天宮 遊希(あまみや ゆうき)》

性別:女

年齢:15歳

誕生日:3月20日(魚座)

血液型:AB

身長:164㎝

 

○容姿

 毛先にやや癖のついた長く美しい黒髪が特徴的な美少女。痩せ過ぎず、太過ぎず、必要な所に程よく肉がついた理想的なスタイルをしている。

 

○設定

『デュエルアカデミア・ジャパン・セントラル校』に在籍する高校一年生。本作品の主人公。5歳の時にデュエルモンスターズの精霊である《銀河眼の光子竜》と出会い、7歳でプロデュエリストとしてデビュー。

 後にとある事件のため10歳で引退するまでの間に、通算勝率7割とプロの世界でそのデュエリストとしての開花させ、同世代のデュエリストたちに多大な影響を与えた伝説のデュエリスト。セントラル校入学までの5年間では、プロ時代に稼いだ貯金で半分引きこもりの世捨て人生活を送っていたが、遊希をプロデュエリストの世界に導いた元プロデュエリスト・星乃 竜司の誘いを受けて彼が校長に就任したセントラル校に入学。デュエリストとして復帰する。入学直後は、元プロデュエリストとしての実力を如何なく発揮し、その実力は学年どころか学内でも随一とされている。

 あまり人当たりは良くなく、口調もやや攻撃的であることから、表向きの性格はクールかつ孤高と思われているが、本当は優しくそして気弱で泣き虫なところがある。アカデミアに入学した直後は心を許した人間以外にはあまり慣れ合うことはしなかったが、入学してからはその面はだいぶ改善されたようで、ルームメイトの鈴はもちろん隣室の千春、皐月とは仲良く過ごしている。

 

○使用デッキ

【光子銀河】(フォトンとギャラクシーの混合デッキ)

 銀河眼の光子竜が遊希の身体に宿ると同時にこの世界にもたらされた【フォトン】【ギャラクシー】と名のついたカードで構築されるデッキ。文字通り世界には遊希以外の所持者はおらず、実質彼女の専用デッキとなっている。

 エースモンスターである銀河眼の光子竜を軸に、X召喚とリンク召喚を主に駆使して戦っていくデッキ。近年登場したカードに比べてはカードパワーが劣る部分も見られているが、それを遊希のタクティクスでカバーしている。

 しかし、「ギャラクシーアイズ」と名のついたXモンスターの一部はデュエルで使用することで少なからず遊希の身体に負担を及ぼすようで、過度の使用はデュエル後に遊希の体力を奪うリスクがある。

 

《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》

 遊希に宿るデュエルモンスターズの精霊。遊希の身体に宿ってから十年以上共に在り、遊希とはデュエルの話から何気ない雑談までこなす彼女の心の支えの一つ。具体的に性別はないようだが、声色からして雄であると思われる。自分が何故精霊として遊希の身体に宿っているかの理由はわかっていない。

 

 

 

“青眼を継ぐ少女”

 

《星乃 鈴(ほしの りん)》

性別:女

年齢:15歳

誕生日:7月23日(獅子座)

血液型:A

身長:157㎝

 

○容姿

 派手な金髪が目を引くスレンダー体形。決してないわけではないのだが、遊希や皐月といったグラマラスな友人たちを前に自身のメリハリのないスタイルがややコンプレックスとなっている。

 

○設定

『デュエルアカデミア・ジャパン・セントラル校』に在籍する高校一年生。遊希とは幼馴染であり、かつては共にプロの世界でデュエリストとして戦おうと誓うなどまるで実の姉妹のようであった。名前からわかる通り、セントラル校の校長である竜司の一人娘であり、彼の使っていた【青眼の白龍】デッキを中学生にして受け継ぐなどそのデュエルの実力は決して低くはない(最も彼女の理想は竜司や遊希であったため、自分の実力に自信が持てていない節があるが)。

 プロデュエリストを引退した遊希とは数年間疎遠になっていたが、セントラル校入学に合わせて再会。当初は汚い言葉で罵り合うなど、険悪なムードが漂っていたが、入学後のデュエルで彼女とデュエルをして和解。ルームメイトとしてデュエル以外に無頓着なところの目立つ遊希を色々とサポートしている。

 金髪に派手なアクセサリーを多数身につけたりと一見ギャルめいたファッションをしているが、その性格は両親思いでよく気が付くなど真面目。そのファッションをしている理由も、自分に期待を寄せる両親に諦めて欲しいと思ってからしていたりと可愛らしいものであった。それでも優しく心の広い両親との仲は至って良好で、この年代の少女には珍しく両親を「パパ」「ママ」と呼ぶなど、両親を慕っている。

 可愛い物が好きという一面もあり、生で見たエヴァの一挙手一投足に悶絶するなど、その様に遊希が引くことも。

 

○使用デッキ

【青眼の白龍】(儀式型)

 海馬コーポレーションの許可を得た者しか使うことのできない《青眼の白龍》を採用したデッキ。竜司のデッキが《青眼の究極竜》など融合召喚のギミックを取り入れたものに対し、鈴のデッキは《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を中軸に添えた儀式召喚をメインにするタイプである。《青眼の混沌龍》とのコンボなどで相手に大ダメージを与える戦法を得意としている。

 

 

 

“小さなパワーファイター”

 

《日向 千春(ひなた ちはる)》

性別:女

年齢:16歳

誕生日:4月2日(牡羊座)

血液型:O

身長:145㎝

 

○容姿

 茶色のボブカットに真っ黒な瞳を持った少女。身長が低く、見た目だけでは小学生と間違えられてもおかしくないが、容貌自体は悪くない。しかし、小柄なことから異性からは恋愛対象と見られにくい。

 

○設定

『デュエルアカデミア・ジャパン・セントラル校』に在籍する高校一年生。遊希・鈴の隣の部屋に入寮しており、いついかなる時も真夏の太陽のように明るい少女。デュエルと食べることが大好きであり、授業が終わった後は常にアカデミア内のデュエル場に赴いては、学年問わずデュエル相手を探している。年齢に比べて身長がとても低く、本人もそれに触れられると顔を真っ赤にして怒るが、家事全般が得意であったりと五人の中で女子力の高さは随一。ちなみに下に弟二人妹一人がいる四人姉弟の長女であるが、既に身長では四人の中で一番低かったりもする。

 

○使用デッキ

【表サイバー】(サイバー・ドラゴン)

《サイバー・ドラゴン》およびその派生、進化形モンスターを多用したデッキ。《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》《パワー・ボンド》《リミッター解除》などのカードでサイバー・ドラゴンと名のついたモンスターを強化した上で圧倒的な火力でのワンショットキルを狙う。その性質上、主に後攻ワンキルを狙いに行くが、先攻を取った場合でも《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》のような制圧力の高いモンスターで相手を封殺したりと器用な立ち回りも見せる。

 

 

 

“心優しい優等生”

 

《織原 皐月(おりはら さつき)》

性別:女

年齢:15歳

誕生日:11月3日(さそり座)

血液型:A

身長:154㎝

 

○容姿

 黒髪ロングに垂れた眉と目から大人しく優しそうな印象を受ける。しかし、ルームメイトの千春とは対照的にとても発育の良い身体をしており、胸の大きさだけならば五人の中で一番。しかし、本人は腰回りや太腿の肉付きを気にしている。

 

○設定

『デュエルアカデミア・ジャパン・セントラル校』に在籍する高校一年生。千春のルームメイトであり、遊希・鈴の隣の部屋に入寮している。同級生相手でも敬語で接する礼儀正しい性格で、人見知りで仲良くなった相手以外とは上手くしゃべることができない。セントラル校に入学こそしたが、デュエルの実技にもあまり自信がない(最もデュエルに関しては実力の高さを覗かせつつある)。ちなみに運動も苦手であり、皐月本人が自称するほど太ってはいないのだが、筋肉が少ないために全体的にもちもちとした身体をしている。そのためよく同性からのハラスメントの対象となってしまう。

 また、アニメやライトノベルの類が大好きであり、その作品に登場するキャラクターのコスプレが趣味。夏と冬に行われるイベントにも参加した経験があり、コスプレをしている時に限ってはいつもの気弱なところは消えるという。

 

○使用デッキ

【ヴァレット】

リンクモンスターの効果の対象になった時、また破壊されて墓地に送られることで効果を発揮する【ヴァレット】と名のついた闇属性・ドラゴン族モンスターを中心に組まれたデッキ。エースモンスターである《ヴァレルロード・ドラゴン》のリンク召喚を狙い、それらのリンクモンスターの効果の対象にヴァレットモンスターを取ることでデュエルの主導権を握ることを狙うデッキ。ヴァレットモンスター以外にも《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》などドラゴン族とシナジーのあるカードも多数投入されている。

 

 

 

“銀色の戦乙女”

 

《エヴァ・ジムリア》

性別:女

年齢:15歳

誕生日:12月14日(射手座)

血液型:O

身長:161㎝

 

○容姿

 腰まで伸びた銀色の髪に雪のような真っ白の肌。身長こそ遊希とそれほど変わらないが、その愛らしさに鈴が悶絶するなど、年齢に比べてやや幼げな顔立ちをしている。

 

○設定

『デュエルアカデミア・ジャパン・セントラル校』に在籍する高校一年生。ロシア出身の現役プロデュエリストであり、プロ時代の縁で竜司の誘いを受けてセントラル校に留学生としてやってきた。遊希がプロを引退したのと入れ替わりで10歳でプロデュエリストの世界に飛び込み、15歳の現在はロシアを代表するプロデュエリストの一人となりつつある。その容貌から雪の妖精のように愛らしい可憐な印象を受けるが、生家が旧貴族の家系であり、所謂お嬢様であることから口調は尊大。それでも竜司のように明らかに目上の相手には敬語を話すことはできるが、近い年代の人間に対しては基本的にため口で話す。

 元々は人よりデュエルが好きな一人の少女に過ぎなかったが、同い年でありながらプロの世界で戦う遊希に憧れており、彼女の背中を追いかける形でプロの世界に足を踏み入れた。

 

 実は遊希と同じようにデュエルモンスターズの精霊である《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》をその身に宿した精霊使いのデュエリスト。しかし、遊希と違ってその精霊をコントロールできておらず、コミュニケーションを取ることもできない。そのため普段のデュエルでは極力スカーレットを召喚しないようにしている。

 

○使用デッキ

【BF(ブラック・フェザー)】

闇属性・鳥獣族で統一されたS召喚を中心に戦うテーマであり、S召喚黎明期に登場してしばらくは多くのデュエリストに愛用されていた古参のデッキ。やはり近年のカードに比べてカードパワーは劣るものの、遊希と同じようにその卓越した腕で渡り合っている。

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

エヴァに宿るデュエルモンスターズの精霊。竜司とのデュエルに勝って手に入れた《レッド・デーモンズ・ドラゴン》のカードが突然変化して誕生したカード。光子竜とは違ってコミュニケーションを取ることができていないため、なにを考えているのかもエヴァにはまだ理解できていない。

 

 

 

 

 

※この設定は第一章終了時のものであり、章が進むにつれて加筆修正されることがあります。

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにこの五人については以下の共通点があります。

○名前の由来が宇宙および天体形に共通
「天」宮 遊希→天体形・天空
「星」乃 鈴→星
「日」向 千春→日=太陽
織原 皐「月」→月
エヴァ・「ジムリア」→ジムリア=ズィムリア(ロシア語で地球を意味する)

○使用デッキは各遊戯王アニメ作品において主人公のライバルポジションのキャラが使うデッキ
遊希【光子銀河】→「ZEXAL」天城 カイト
鈴【青眼】→「DM」海馬 瀬人
千春【表サイバー】→「GX」丸藤 亮
皐月【ヴァレット】→「VRAINS」リボルバー/鴻上 了見
エヴァ【BF】および《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》→【5D's】クロウ・ホーガンおよびジャック・アトラス

※厳密に言うとエヴァは【ARC-V】のキャラにも該当しますが、ARC-Vのみ該当するキャラは“まだ”登場していません。



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第2章 戦いに臨む少女たち
嵐の予兆


 

 

 

 

 

 『デュエルモンスターズ』というゲームは今から遥か昔に一人の男によって作られた。その男の名は“ペガサス・J・クロフォード”。幼い頃からカートゥーンアニメを見て育った彼は、エジプトに旅行に行った際、そこで古代の石板に出会う。その石板には古代エジプトの王であるファラオがその王威を表わすため、石板に描いたモンスター同士を戦わせていた様子が描かれていた。

 そこからヒントを得た彼は『インダストリアル・イリュージョン社』(通称・I2社)を立ち上げ、モンスター・魔法・罠の3種類のカードからなるゲームを作り上げた。それが現在世界的ゲームとなっているデュエルモンスターズの源流だ。そんな初代社長となったペガサスの死後、その後継者たちはデュエルにさらなる戦略をもたらさんとよりたくさんの種類のカードを作り上げた。

 特に非チューナーモンスターとチューナーモンスターのレベルを合計したレベルのモンスターをエクストラデッキから特殊召喚するS召喚に、同じレベルのモンスター複数体を素材にしてエクストラデッキから特殊召喚するX召喚は瞬く間に広がり、デュエルの新たな形を生み出した。

 それに加えて魔法・罠ゾーンの左端と右端に魔法カードとしても扱えるペンデュラムモンスターによって繰り広げられるP召喚、指定のモンスター同士で召喚することでエクストラデッキから特殊召喚されるモンスターの数を増やすことのできるリンク召喚……デュエルの形は時代と共に常に変化を続けていた。

 そしてそれらの召喚方法を作り上げたI2社はさらに新しい形のデュエルをデュエリストたちに提供するため、日々研究と開発を続ける。それはいつ何時も止まることはなかった。

 

「……」

 

 アメリカにあるI2社本社は夜の闇に包まれていた。社員も研究者もデザイナーも誰もいない静かな会社。当直の警備員が巡回を続ける中、一人の人間が社内を彷徨っていた。その人間は黒いローブのようなものを纏い、顔には髑髏を思わせる仮面を付けている。背格好は当然ローブで隠され、性別すらも明らかにならない。見るからに“不審者”と言って差し支えない存在だ。しかし、その人物が社内を堂々と彷徨い歩いてもセキュリティソフトは全く作動しなかった。まるでその人物の周りだけ時が止まったかのように。

 

「……ここか」

 

 目的地にたどり着いた不審者はキーボード式のロックを瞬く間に開ける。ロックを解除した不審者は中に入ると、研究スペースに保管されたカードの束を手に取った。そのカードは未だ一般社会に流通していないカテゴリーのカード。元来のカードにはまず存在しないタイプのカードであり、駆使するにはデュエリストの力量が求められるカードであると言えた。

 

「……このカードか……まあいい」

 

 不審者はそう言いながらもそのカードの束を手に取ると、自らのローブに仕舞い込んむ。このカードも全く使えないわけではないのだが、不審者の目的は別にあった。不審者が本当に探しているカード―――そのカードを探し求めて部屋中を探索するうち、そのカードの雛形と思われるものを見つけた。まだイラストも効果も何も書いていないカードであるが、そのカード独特の色分けからそれは不審者の求めるタイプのカードであるようだった。

 

「これが……あれば……」

 

 不審者がそのカードを手に取ってその場を立ち去ろうとした瞬間である。I2社の社内にはけたたましいサイレンが鳴り響いた。今まで何らかの手を使ってセキュリティシステムにかからないように動いてきた不審者であったが、ついに防犯システムにその存在を感知されてしまったようだった。廊下中に響き渡る靴の音。コンピューターが指し示した部屋に当直の警備員が集結し、不審者を取り囲んだ。

 アメリカ人だけあって屈強な身体をした男性警備員たちが不審者を取り囲む。警備員たちは警棒を片手に英語でまくしたててきた。あまりに早口すぎて何を言っているのか不審者にはよくわからなかった。ただ一つ言えるのは今のままではまず捕まってしまうということ。

 それでも不審者は全く動揺する素振りを見せなかった。何故なら自分の、いやカードの持つ力でこのような状況などあっさり突破してしまうからだ。

 不審者は黒い枠のカードを掲げると、そのカードが激しく光り始めた。暗闇の中を走ってきた警備員たちはその光で目を眩まされる。光が消え、周囲に闇が戻ってきた時、そこに不審者の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロシア出身の現役プロデュエリスト、エヴァ・ジムリアの編入から早くも2か月が経った。日本国特有の気候である梅雨も佳境に入り、夏の香りが立ち込め始める。世間は夏の到来に盛り上がりを見せるが、この学校に季節はさほど関係ない。いつの季節もデュエリストたちは己を磨くために勉強とデュエルを繰り返すだけだった。

 当然、一年生の天宮 遊希(あまみや ゆうき)もそのうちの一人だ。彼女は講義が終わった後、図書館で講義の復習を行いながら今日の新聞に目を通していた。新聞の一面にはでかでかと「海馬コーポレーションの新型デュエルディスクが盗難に遭った」と書かれていた。

 なんでも盗まれたデュエルディスクというのが、I2社と極秘で共同開発していた新型のデュエルディスクであったという。遊希はその記事をはじめ、時事をさっと流し見すると、新聞を元の新聞置き場に戻しては図書館を出た。

 

「この時間になったら校長室に来てほしいと言われていたけど……何かしらね」

 

 彼女にとってもはやお馴染みとなった校長室への呼び出しタイム。ただ、遊希が悪い意味で呼び出されたことは一度もない。セントラル校の校長を務める星乃 竜司(ほしの りゅうじ)は遊希とは長い付き合いであり、教育者取り分け校長という職業に不慣れな彼は、時折遊希相手に弱音を吐きたくなる時がある。竜司を慕っている遊希はそんな彼の話し相手を務めているのだ。最もこれは竜司が天涯孤独な遊希を気遣っての行動でもあるのだが。

 

「失礼します」

 

 ノックの後に聞こえてきた入室を許可する竜司の声を聞いてから遊希は校長室に入る。校長室の応接用ソファに腰かけていたのは竜司と、一人の女性であった。

 

「久しぶりね、遊希ちゃん」

「あなたは……お久しぶりです、真莉愛さん」

 

 女性の名は海咲 真莉愛(みさき まりあ)。I2社のカード開発セクションの責任者であり、日本人かつ女性でありながらデュエルモンスターズのカード開発において重要な役職に位置する研究者だ。竜司同様遊希とは古い付き合いであったが、遊希がプロの世界から去った後は彼女の多忙もあって出会う機会を作れずにいたのだ。

 

「竜司さんから話を聞いていたけれど、デュエリストに戻ったのね。それでいて綺麗に育ってくれて嬉しいわ」

「そんな……真莉愛さんもお元気そうで何よりです。アメリカにいらっしゃったのではなかったんですか?」

「ええ、でもちょっと色々あって日本に帰ってきたのよ。遊希ちゃんも知っているわよね……海馬コーポレーションのこと」

 

 つい先ほどまで図書館で新聞の記事を読んでいた遊希にはとてもタイムリーな話題だった。海馬コーポレーションは伝説のデュエリストの一人である海馬 瀬人(かいば せと)が二代目社長に就任して以降は軍事企業だったものがアミューズメント企業に移行し、現在ではI2社などと組んではデュエルに使用されるデュエルディスク開発を一手に担っている世界的企業である。そんな企業から開発中の新型デュエルディスクが盗まれたということは、世界的なニュースになっていた。

 

「はい。もう新聞からテレビ、SNSまで大騒ぎです」

「やはりね……今やデュエルモンスターズは世界的なゲーム。デュエリストでなくても食いつくわ。でも海馬コーポレーションのこと“だけ”のようで何よりだわ」

「だけ?」

 

 この時、真莉愛は遊希にそっと耳打ちをした。海馬コーポレーションからデュエルディスクが盗まれる3日前、I2社のアメリカ本社からも開発中のカードが盗まれてしまったということを。

 

「……えっ」

「これはデュエルディスク以上に厄介な案件よ。だから各国のマスコミには報道統制を敷いて貰っているの。機密のカードが奪われたとなってはI2社の信頼も落ちてしまうから。それで……妙だと思わないかしら。I2社からは開発中のカードが、海馬コーポレーションからは製作中のデュエルディスクが盗まれたのよ? こんな近い間隔で」

 

 真莉愛は私見ではあるが、と前置きした上でカードとデュエルディスクを盗み出した犯人が同一犯もしくは目的を同じくする集団と推測した。デュエルモンスターズの世界においてI2社と海馬コーポレーションは2トップと言って差し支えない存在である。その二社からそれぞれの専門分野のものを奪うということはその重大性を知っていなければできないことであるからだ。

 

「カードだけではデュエルはできないし、デュエルディスクだけでもデュエルはできない。しかし、それが揃えば形になる。パズルのピースが揃うのよ。そしてI2社はアメリカ、海馬コーポレーションは日本にある……つまり犯人はこの日本国内に潜伏している可能性が高いわ」

「確かに……あり得ない話ではないですね。ですが、何故それを竜司さんや私に?」

「カードとデュエルディスクを使うのはデュエリスト。デュエリストを隠すなら……」

「デュエリストの中……それって」

 

 木を隠すなら森の中、という言葉がある。その法則に則れば答えは簡単だ。カードとデュエルディスクを奪うということはその価値を何よりも知る者、つまりデュエリストが犯人の最有力候補に挙がる。そんなデュエリストがこの日本国内で集まる場所と言えば。

 

「わかったようね。もしかしたら犯人が追っ手を逃れるためにここをはじめとしたアカデミアに身を潜める可能性があるということよ。生徒のデータは登録されていたとしても、それを書き変えて別の生徒になり切ることだってあり得るわ。なんと言ってもI2社や海馬コーポレーションのセキュリティをかいくぐって犯行に及ぶわけだから」

 

 真莉愛はI2社の一員として、そして竜司や遊希の古い友人としてこのアカデミアに危機が及ぶこともあり得る―――とあくまでも自分の予測であるが、それを伝えに来たのだ。カードやデュエルディスクを取り戻したいという気持ちと同じくらい、遊希たちが危険な目に遭うことのないように、と。

 真莉愛はそれだけ告げていくと、すぐに呼び出しがかかったようでそそくさとセントラル校を後にした。遊希は昔から彼女がフットワークの軽い人間であったとは思ってはいたが、年を取った今でもそれはあまり変わっていないということを認識した。

 

「嵐のようにやって来て嵐のように去っていきましたね」

「ああ……だけど、彼女の言っていることが荒唐無稽であるとむやみやたらに切り捨てられないのも事実だ。私としては校長として生徒を守る責任がある。だから君も用心しておいてくれないか? 元プロデュエリストである君の影響力はかなり大きいからね」

「……わかりました。用心します」

 

 そう言って遊希もまた校長室を後にした。日々の生活や授業のこと、そしてデュエルにおいてもエヴァの精霊のことなど考えなければならないことが山積みの中、更に増える問題に遊希は思わずため息を付く。

 

―――大変なことになりそうだな。

(……ええ。でも何処の誰が、どうしてそんなことをするのかしらね? 動機が全くつかめないわ)

―――真莉愛が言っていたように、I2社や海馬コーポレーションの警備を突破してまで事をやり遂げる相手だ。只者ではないだろう。

(それでも、何か危険なことを企んでいるのなら未然に防がなければいけないわ。私や……真莉愛さんのように傷つく人の姿はもう見たくないから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ遊希、ビックニュースがあるんだけど、聞きたい?」

 

 寮の自室に戻った遊希を待っていたのは遊希のルームメイトにして竜司の娘である星乃 鈴(ほしの りん)と隣の部屋の日向 千春(ひなた ちはる)と織原 皐月(おりはら さつき)の三人であった。

 

「……ニュース? 海馬コーポレーションの件かしら?」

「違うわよ! なんでも鈴が聞いた話なんだけどね……」

 

 鈴によると、竜司は違う学年の生徒同士の交流とデュエルタクティクスの向上を兼ねたイベントとして「学内対抗デュエル大会」を前々から計画しており、それを遂に職員会議で提案したという。

 

「あら、あの人らしい提案ね」

(このタイミングでまたなんてことを)

 

 かの事件が起きることは予想できないのは超能力者ではないのだから当たり前なのだが、何とも間の悪いことである。ただでさえデュエリストだらけの学校なのに、このタイミングで大会のようなものを開くことはそれこそ真莉愛の言うように、一連の事件の犯人を招き入れることになりかねないからだ。

 

「まあ実現するかはわからないけどね。パパってば優しいから校長先生のくせに教頭先生や他の先生の言うことへこへこ聞いちゃうんだもん」

「昔から人は良かったから……上に立つタイプではないんだろうけど、校長職を依頼されて断れなかったって言ってたわ」

「でも実現したら面白そうじゃない? だってめったに普段デュエルできない上級生とできるのよ!?」

「ですが、私たちで上級生の方に勝てるんでしょうか……」

 

 盛り上がる千春と対照的に皐月はそう言って少し不安そうな表情を浮かべる。確かにカリキュラムの消化、という点では1年生は2年生や3年生に比べて不利であり、1年生がこの大会で勝ち上がるのは非常に難しい。最も竜司は1年生や2年生が決勝に勝ち上がることは想定していなかった。彼は下級生には上級生とデュエルをすることで上級生のデュエルを生で体感し、それから学んでほしいと考えていたのだから。

 

「まあ、大方そんなこと考えてるんでしょうね」

「うん。だってあのパパだもん」

 

 そんな竜司の性格を熟知している遊希や鈴は彼の考えは理解していた。それだけに竜司の思惑通りに動きたくない、という感情も彼女たちの中には沸々と湧き上がってくる。

 

「だったらさ、私たち四人で勝ち進んでやりましょうよ!」

「……わ、私たちがですか?」

「面白そうね! だって私たち強いもの!!」

 

 鈴を中心に迫る大会に盛り上がる三人。しかし、遊希はその輪から少し離れたところにいた。彼女はゴールデンウイークのあの夜、鈴に自分の思いの全てを吐露した。だが、彼女の中には前までと同じように自分はデュエルをできるのか、という不安があった。あれ以降遊希は行った全てのデュエルで勝利を収めており、その成績はエヴァと並んで学年はおろか学内でもトップクラスと言える。それでも彼女の中には一度芽生えた迷いと恐怖が未だに残っており、心の内からデュエルを楽しめていなかった。

 

(私は……)

 

 一人俯き沈黙する遊希。その時、彼女の手を鈴がつかみ取る。そしてその手をぎゅっと握った。

 

「ねっ、遊希?」

「……り、鈴?」

「ほら、話聞いてなかったの? みんなで勝ち進むんだからねっ!」

「……う、うん」

 

 遊希はぎこちなく笑った。まだまだ笑顔に硬さは残るが、それが今の彼女に出来る精一杯の笑顔であった。それからというものの、最初は鈴の持ってきた情報であったが、それが何処からか漏れて噂好きの女子生徒から女子生徒、男子生徒から男子生徒、そして新聞部までもがその噂を記事にして取り上げるにまで至った。

 竜司はそれを最終決定後に生徒に伝える腹積もりでいたようだが「秘密ということは皆がそれを知っている」ととあるファンタジー小説の校長も言っているだけあって最早後には引けなくなってしまった。

 教頭のミハエルは最初はその計画に素直に首を縦に振らなかったが、ここまで生徒たちの間で噂になってしまった以上、それを取り潰すのは生徒の士気にも関わるのではないか、と判断し、正式にそのデュエル大会の開催を全校集会で発表した。そして公開されたルールは以下の通りである。

 

 

○予選は学年では分けず、1年生から3年生がそれぞれ4つのブロックに分かれて制限時間内にデュエルを行う。

○学生は大会開始時に学生番号と数字の書かれた1枚のカードを手渡され、そのカードを6枚集めることで決勝進出の資格を得る。

○ルールはマスタールール4。ライフは8000制で先攻後攻の決定権はコンピューターで決められる。

○引き分けた場合は手札を5枚引き直し、モンスター1体を召喚条件を無視して出してバトル。攻撃力の高いモンスターを出した方の勝ちとする。

 

 

 そして大会開催前日になって遊希たち生徒には学籍番号と氏名が書かれたカードが手渡される。そのカードには遊希たちはどのブロックに振り分けられたのかがわかるようになっていた。

 

「……私はAブロックか。みんなは?」

「私はBよ!」

「えっと、私はCです。星乃さんは?」

「えーと……Dね。じゃあみんなバラバラね!」

「つまりこの四人は決勝まで当たらないってことになるのかしら?」

「そうみたいね! まあ私たちの実力なら上級生だろうと同級生だろうとバッサバッサと倒して決勝一直線ね!」

「あんたは調子に乗っちゃダメ! そうやって何度足元を掬われてきたことか」

「うっ……こっ、今度は頑張るもん!」

 

 子供のように頬を膨らませる千春を弄りながら、少女たちの夜は更けていく。そして始まるのは―――果てしない戦いの日常であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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登場!アイドル(?)デュエリスト

 

 

 

 デュエル大会の開始時刻は午前10時。その時間を知らすチャイムが鳴ると同時に学生たちは事前に振り分けられたエリアでデュエルに挑まなければならない。遊希と鈴は早めに目を覚ますと、いつもより早めに朝食の準備を始める。今朝は隣室の千春と皐月も招いて四人で朝食を作った。ゴールデンウイークの時の出来事もあってか、自然と遊希も台所に立つことが多くなっていた。

 彼女は一人暮らしの期間が長かったため、塩分や糖分といったものの調整に気を使っており、それが結果的に不規則になりがちな10代の少女たちの栄養調整に役立っていたのである。

 

「しかし、遊希がこんな料理上手だったとはね! てっきり下手だから作りたがらないのかと思ったわ!」

「失礼ね、面倒だっただけよ。一人暮らしをなめないでちょうだい」

「ですが、こうして皆さんで一緒に作った料理は自分ひとりで作った料理より美味しく感じるのは何故でしょうか?」

「それだけ私たちが仲良くなった、ってことじゃない?」

 

 朝食を取りながら繰り広げられるガールズトーク。これから彼女たちは勝ち続けなければならない激しい戦いに赴くのである。その前くらいは他愛ない話でリラックスしたかったのだろう。取り分け、大舞台に立った経験のない遊希以外の三人は前の日から緊張が見て取れた。

 

―――肩の力を抜いてもらえればいいな。

(そうね。全員が全員決勝に行けるかはわからない。けど後悔しないでもらいたいわね。もちろん、私もだけど……)

―――そうだな。

 

 光子竜はそう言うが、光子竜も光子竜で遊希の中に未だに迷いを感じているのを理解していた。プロ経験のある彼女は鈴たちを気遣っているが、実のところ一番精神面に不安を抱えていたのは遊希だったのである。

 各人の様々な思惑が入り混じる中、時間は刻々と過ぎていき、時計の針は9時半を指していた。遊希たちは制服に着替え、部屋の外に出ると互いに手を繋ぎあって輪になった。

 

「いい! この大会、どこまで行けるかわからないけど、目指すはただ一つよ!」

「はい。私たちは……決勝まで行きます」

「色々なデュエリストと対峙するかもしれないけど……私たちに求められるもの、それは……」

「勝つ! 勝つ! 勝つ! それだけよ!!」

 

 円陣を組んで「オーッ!」と勢いよく四人は叫ぶ。そして遊希、鈴、千春、皐月の4人はそれぞれの戦場となる予選エリアへと向かった。四人は誰も振り返ることはなかった。次に会うのは決勝の舞台、そう心に決めていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セントラル校全体に大会開始を告げるチャイムが鳴り響く。Aブロックに振り分けられた遊希はエリア内を一人歩いていた。この間何人かのデュエリストと遭遇したが、皆遊希とデュエルすることはなかった。同級生はもちろんのこと、遊希の存在は上級生たちの間にも響き渡っており、初戦から遊希に当たりたくない、という生徒が大半だったのだ。

 

(ったく……これじゃいつまで経ってもカードを集められないじゃない)

―――変に有名すぎるのも困ったものだな。

(まあいいわ。みんな初戦に当たるのが嫌なだけでそのうち嫌でも向かってくるでしょう)

 

 その時、遊希の耳に何処からか明るいリズムの音楽が聞こえてきた。こんな時にどこの誰が何をしているのだろうか、と音楽のする方に向かっていく。そうして辿り着いたのは音楽準備室だった。

 誰かいるのだろうか、と思った遊希は準備室の部屋をノックしてみる。音楽は聞こえてくるのだが、反応はない。ドアノブを捻ってみると、鍵が開いていたので中を覗いてみた。すると音楽準備室の中には、制服とはまた違う、フリフリの衣装を着た少女が姿見の前で踊っていた。ラジカセから流れるのはテレビの歌番組で聞いたことのあるアイドルグループの曲であり、その少女は無我夢中で振りを確認しているようだった。

 

(……まさかのアイドル?)

―――……アイドルとは何だ?

(アイドルってのは歌を歌ったり踊ったりする可愛い女の子やイケメンの男の子がなる職業よ)

―――この学校にそんな職業の人間がいるのか?

(聞いたことないわね)

 

 遊希が光子竜の質問に答えていた時、人の気配を感じたのか、振り向いた少女と目が合った。

 

「あーっ!!」

 

 少女は嬉しそうな声を上げて遊希の元に近づいてきた。あまりに急に近づいてきたので遊希は思わず後ずさりする。

 

「あなた、天宮 遊希ちゃんだよね!? 」

 

 遊希はそのアイドル風の少女が上履きの色から上級生であることを察知する。なんだお前は、と言って突っぱねれば楽なのかもしれないが、一応上級生である。無下に扱うことはできないと敬語で応対することにした。

 

「え、ええ。そうですけど……」

「私ね、ずっとテレビであなたのこと応援してたんだよ! だからこの学校に入ってきてくれて本当に嬉しかったんだ! 握手して!」

「は、はい……」

 

 遊希はその少女のあまりの迫力にされるがままだった。すると少女は自分ばかりが一方的に喋ってしまっていることに気が付いたのかはっ、と手で口を抑える。

 

「ごめんごめん、私ばっかり喋っちゃったね。私は2年生の前島 友乃(まえじま ゆの)! アイドル研究会の部長をやってるんだよ!」

「アイドル……研究会?」

「うん! まあ部員は私一人なんだけどね……だからこの大会で成績を残して部員を勧誘するの! それでアイドルになって歌って踊れるデュエリストになるんだ!」

 

 このまま友乃のペースで喋られては気圧されたままになってしまう。これからデュエルをするかもしれない相手にデュエル前からペースを掴まれてしまうとやり辛いと感じた遊希は話をデュエルのことへと変えることにした。

 

「そうですか……前島先輩。先輩はもうデュエルは?」

「えーとね、ちょっと前に1回デュエルして勝ったよ! だから持っているカードは2枚!」

 

 遊希はその外見からまだデュエルはしていない、と思っていたが彼女は既にカードを2枚所有していた。見た目こそアイドルを志望するだけあって可憐な少女であるが、デュエルには普通に勝てるだけの腕前を持っているようだった。

 

「それで遊希ちゃんは?」

「……私は、まだ1戦も」

「だったらさ! 私とデュエルしよっ? 遊希ちゃんってすごく強いしプロの世界でも活躍していたんだよね! だったらそんな強い人とデュエルすれば私もアイドルに近づけるはず!」

 

 純粋かつキラキラとした笑顔を見せる友乃を前に、遊希自分とデュエルすることでアイドルになれるとは限らない、と言うことはできなかった。ただ、今まで自分を避けてきた他の学生とは違って遊希の実力を認めた上で遊希とデュエルをしたい、と言う友乃の気持ちは素直に嬉しかった。

 

「そ・れ・に……遊希ちゃんに勝ったらアイドル研究会の知名度が上がって入部志望の可愛い女の子が増えるはず!……にしし」

 

 良くも悪くも正直な人だな、と遊希は内心苦笑いした。何はともあれ、デュエルをするには準備室では狭すぎるため、デュエルができそうな場所に移動することにした。友乃はアイドル衣装のまま移動していたため、必要以上に他の学生の注目を集めてしまい、その結果二人のデュエルには大会中にも関わらず数人のギャラリーが集まる始末だった。

 

「じゃあデュエルディスクちゃんに先攻後攻の決定権を決めてもらおうね!」

 

 そう言ってディスクを起動する二人。互いのディスクが反応しあった結果、先攻後攻の決定権は友乃に委ねられた。

 

(あ、やっぱり)

―――遊希、お前は本当にその手の運がないな。

(うるさい。改めて言われると結構傷つくんだから)

「じゃあねぇ……友乃の先攻で!」

「わかりました。では私が後攻ですね」

「うん! じゃあ、前島 友乃のアイドルらしいデュエルで……みんなのハートを撃ち抜いちゃうんだからねっ!!」

「……じゃあ行きますか」

 

 アイドルを自称するだけあって、笑顔がやたら眩しい。遊希にとってはエヴァとはまた違った意味でやり辛い相手になりそうであった。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:友乃

後攻:遊希

 

友乃 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

友乃

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

☆TURN01(友乃)

 

「友乃ちゃんのターンだよ! まず私はモンスターをセットするよー!」

 

 友乃はまずモンスターをセットする。遊希は彼女がどんなデッキを使うのか後攻としてできるだけ早く見極めたかった。

 

(……アイドルとか言うくらいだから使うカードにも拘りがありそうね)

―――そういうものなのか?

(恐らくね。たぶんアイドルらしい可愛いカードを使うかもしれないわ。例えばファンシーな絵柄の【マドルチェ】とか【ナチュル】とか)

―――なるほど。だが、仮にマドルチェだとして初手でモンスターをセットするだろうか?

(もしかしたらリクルーターの可能性もあるかもしれないわ)

 

 しかし、そんな遊希の見立ては、友乃の発動したカードによってあっさり打ち砕かれる。

 

「そして友乃はこのカードを発動するよ! 永続魔法《機甲部隊の最前線》!」

 

《機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)》

永続魔法

機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「……えっ? 機甲部隊の最前線?」

「そしてもう1枚カードをセットしてターンエンドだよ!」

 

 

友乃 LP8000 手札3枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠:1(機甲部隊の最前線)墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

友乃

 □□機□□

 □□モ□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

モ・・・セットモンスター

機・・・機甲部隊の最前線

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドロー」

(機甲部隊の最前線。機甲部隊の最前線かぁ……)

 

 後攻の遊希がカードをドローする。友乃の発動したカードは機甲部隊の最前線。予想だにしなかったカードを発動されたことに遊希はやや動揺していた。

 

―――アイドルは可愛らしいカードを使うんじゃなかったのか?

(……わ、私だって見通しを誤ることくらいあるわよ。笑うなら後で笑いなさいな)

「私のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できます。現れなさい、フォトン・スラッシャー。そして自分フィールドにフォトンモンスターが存在することにより、手札より更にフォトン・バニッシャーを特殊召喚します」

 

 見立てが多少外れたくらいで慌てるのはまだ早い。遊希の手札には幸いにも初手からフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーの2体が揃っていた。

 

「特殊召喚に成功したバニッシャーの効果でデッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加えます。そして私はフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーでオーバーレイ! 2体のフォトンモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 来なさい、輝光帝ギャラクシオン! ギャラクシオンのX素材を2つ取り除き、効果を発動します。デッキから銀河眼の光子竜1体を特殊召喚!」

 

 ギャラクシオンの効果で1体目の光子竜がフィールドに舞い降りる。入学式の時以来に見る光子竜の輝きに対峙する友乃は純粋に「きれーい!!」と子供のような感想を述べていた。やはりこの調子で振る舞われると色々と調子を崩されかねないと遊希は改めて感じさせられる。

 

「バトルです。銀河眼の光子竜でセットモンスターを攻撃します! “破滅のフォトン・ストリーム”!」

「セットモンスターは《可変機獣 ガンナードラゴン》ちゃんだよ!」

 

《可変機獣 ガンナードラゴン》

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000

(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。

(2):このカードの(1)の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

「ガンナードラゴン!?」

「通常召喚、つまりリリースなしでセットしたガンナードラゴンちゃんのステータスは半分になっちゃうの」

 

可変機獣ガンナードラゴン ATK2800/DEF2000→ATK1400/DEF1000

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 可変機獣 ガンナードラゴン DEF1000

 

「ガンナードラゴンちゃんは破壊されちゃうけど、表側表示の機甲部隊の最前線の効果が発動するよ! ガンナードラゴンちゃんと同じ属性で攻撃力の低い機械族モンスター1体を特殊召喚しちゃいます! さあ、ワクワクドキドキのコンサートの始まりよ!《リボルバー・ドラゴン》ちゃん!!」

 

 友乃のフィールドには頭部と両腕が拳銃のような形をした機械の竜が特殊召喚される。その銃口は遊希を今にも撃ち抜かんと怪しく光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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友乃のポリシー

 

 

 

「リボルバー・ドラゴン!? また珍しいモンスターを……」

 

《リボルバー・ドラゴン》

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻2600/守2200

(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。

 

「確かにメジャーなモンスターちゃんじゃないけど、この子は私のポリシーに合っているんだよ!」

「前島先輩のポリシー?」

 

 アイドルデュエリストを目指す友乃は「ファンのハートを撃ち抜くアイドルになりたい」と常日頃から思っていた。リボルバー・ドラゴンを使うということは、相手のモンスターをその銃口で撃ち抜くのみではなく、対戦相手のデュエリストやそのデュエルを見ている多くの観衆のハートをも撃ち抜きたい、という彼女の誓いを表わしているのだ。

 

「そ・れ・に! この子の効果もとってもアイドルらしいんだよ!」

「……リボルバー・ドラゴンの効果はコイントスを3回行い2回以上表なら相手のモンスター1体を破壊する効果ですよね。それのどこがアイドルらしいんですか? かなりバイオレンスなんじゃ……」

「あのね、アイドルのデュエルは勝つことが一番じゃないの! アイドルのデュエルは見てくれるファンのみんなや相手のデュエリストも楽しませなきゃいけない。リボルバー・ドラゴンちゃんの効果が決まるにしても決まらないにしても、それが決まるかどうかでみんなをドキドキワクワクさせてあげられるんだよ! いわゆるエンターテインメントだね!」

 

 エンターテインメント、という言葉に遊希は何処か懐かしさを感じていた。彼女がプロだったころ、同じプロデュエリストに勝敗よりも観客を楽しませることを第一に考えてデュエルを行っていたデュエリストがいた。

 そのデュエリストは高い実力を持ちながらも、勝敗を度外視していたため、決して華々しい戦績を誇っていたわけではない。しかし、それでも毎回のように観客を楽しませるデュエルをしていたそのデュエリストに対するファンの信望はとても厚かったのだ。

 

(……でも結局勝たなければ楽しくないじゃない。何がエンターテインメントよ)

「遊希ちゃん、まだあなたのターンだよ! メインフェイズ2はどうするの?」

 

 遊希のフィールドにはまだギャラクシオンが残っている。しかし、攻撃力2000のギャラクシオンで攻撃力2600のリボルバー・ドラゴンは倒せない。

 

「……す、すいません。私はバトルフェイズを終えてメインフェイズ2に移行。私は銀河眼の光子竜と輝光帝ギャラクシオンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク2の銀河眼の煌星竜をリンク召喚! そしてカードを2枚セットしてターンエンドです」

 

 

友乃 LP8000 手札3枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(リボルバー・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:1(機甲部隊の最前線)墓地:1 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札3枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠:2 墓地:4 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)

 

友乃

 □□機□□

 □□□リ□□

  煌 □

□□□□□□

 □□伏伏□

遊希

 

○凡例

リ・・・リボルバー・ドラゴン

 

 

☆TURN03(友乃)

 

「友乃ちゃんのターン! ドローだよ!」

 

 友乃は一度のドローながらアイドルらしくキラキラと輝きながらドローする。確かにあれならばだいぶ見栄えはいいがそれを今やる意味はあるのか、と遊希は首をかしげる。

 

「それじゃあ、まずはアイドルのデュエルにピッタリな舞台を用意するね! フィールド魔法《エンタメデュエル》を発動!」

 

《エンタメデュエル》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、

お互いのプレイヤーは1ターン中に以下の条件をそれぞれ満たす度に、1つの条件につき1ターンに1度ずつデッキから2枚ドローする。

●レベルの異なるモンスター5体を同時に特殊召喚した。

●自身のモンスター1体が5回戦闘を行った。

●チェーン5以上でカードの効果を発動した。

●サイコロを振った回数及びコイントスの回数が合計5回になった。

●自身のLPが500以下になるダメージを受けた。

 

 

「それじゃあ早速煌星竜ちゃんを対象にリボルバー・ドラゴンちゃんの効果を発動しちゃうよー! コイントスを3回やって2回以上表なら対象のモンスターを破壊しちゃいまーす!」

「そんなことをさせると思ったんですか? その効果にチェーンして銀河眼の煌星竜の効果を発動!」

 

チェーン2(遊希):銀河眼の煌星竜

チェーン1(友乃):リボルバー・ドラゴン

 

「チェーン2の銀河眼の煌星竜の効果。手札の銀河眼の光子竜1体を墓地に送り、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を破壊します! 破壊するのはリボルバー・ドラゴンです!」

 

 煌星竜の放った灼熱の波動でリボルバー・ドラゴンの鋼鉄の身体がみるみるうちに溶けていき、やがて消滅してしまった。効果を発動するモンスターがフィールドから消えてしまったことで、当然コイントスの機会も失われる。

 

「あーっ! 私のリボルバー・ドラゴンちゃんが!」

「これで前島先輩のギャンブルタイムは無くなりました。ギャンブルなんてするものじゃないですね」

「……ふっふっふ。ところがそうはいかないんだよね!」

「えっ?」

「アイドルはへこたれない! 仲間が倒れた時はその仲間の分もカバーしてあげるのがアイドル! ということでお願い!《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》ちゃん!」

 

《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》

効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200

(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。コイントスを3回行う。表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

「デスペラード・リボルバー・ドラゴン……」

―――既に手札に来ていたとはな。

 

 デスペラード・リボルバー・ドラゴンはリボルバー・ドラゴンの進化形ともいえる位置づけのモンスターであり、自分フィールドの闇属性・機械族モンスターが破壊された場合に手札から特殊召喚できるモンスターだ。その攻撃力は2800と元のリボルバー・ドラゴンを上回る。

 

「そして《ツインバレル・ドラゴン》ちゃんを召喚!」

 

《ツインバレル・ドラゴン》

効果モンスター

星4/闇属性/機械族/攻1700/守200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。コイントスを2回行い、2回とも表だった場合、選択したカードを破壊する。

 

「召喚に成功したツインバレル・ドラゴンちゃんの効果! 相手フィールドに存在するカード1枚を対象に発動! コイントスを2回やって、2回とも表ならそのカードを破壊するよ! 対象はもちろん煌星竜ちゃん! コイントスはこの表に《ブラック・マジシャン・ガール》ちゃんが描かれたコインでやるね! じゃあ、いっくよー!」

 

 友乃の右手からコインが宙を舞う。右手の親指で跳ね上げたコインを、左手で蓋をする形で右手の手の甲で抑えるという、スポーツの先攻後攻を決めるコイントスと同じ形で行われる。

 

「1回目は、じゃーん!表!」

「……ですが、次も表でなければツインバレル・ドラゴンの効果は成功しません」

「2回目、いっくよー! それっ!」

 

 コインが再び宙を舞う。友乃の手の上でブラック・マジシャン・ガールがその愛らしい笑みを見せた瞬間、ツインバレル・ドラゴンの弾丸が煌星竜の心臓を貫いた。

 

「なっ……2回とも表!?」

「やったーっ! これがアイドル友乃ちゃんの運命力! ということでバトルだよ! ツインバレル・ドラゴンちゃんでダイレクトアタック!」

 

ツインバレル・ドラゴン ATK1700

 

「……させませんっ! リバースカードオープン! 通常罠《戦線復帰》を発動します!」

 

《戦線復帰》

通常罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

「墓地の銀河眼の光子竜1体を守備表示で特殊召喚します!」

「銀河眼の光子竜ちゃんを!? ツインバレル・ドラゴンちゃん、攻撃を止めてー!」

 

 銀河眼の光子竜の守備力は2500。攻撃力3000に隠れてしまっているが、その数値も最上級モンスターの守備力としては十分な数値と言える。

 

「でもデスペラード・リボルバー・ドラゴンちゃんの効果を忘れないでね! デスペラード・リボルバー・ドラゴンちゃんはバトルフェイズに3回コイントスをして、表の数だけフィールドの表側表示モンスターを破壊しちゃうの!」

「……1回でも表を出せば光子竜は破壊されてしまうということですか」

「そういうこと! じゃあ、いっくよー!」

 

 意気揚々とコイントスを行う友乃。しかし、ツインバレル・ドラゴンの効果で2回とも表を出した友乃であったが、デスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果で行った3回中最初の2回は裏が出てしまった。

 

「2回目も裏かぁ……そううまくはいかないね!」

「ですがまだ1回チャンスがあります」

「そう! チャンスがある限り諦めない! それがアイドル! ということで3回目は……表!!」

 

 デスペラード・リボルバー・ドラゴンの弾丸が、光子竜を撃ち抜いた。デスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果は全て表を出せばデッキからカードを1枚ドローできるボーナスがあるが、この状況で3回とも表を出してしまえば自身を含むフィールドのモンスターを全て破壊してしまうことになる。そのため、この状況においては遊希のフィールドの光子竜を破壊できる表1回が友乃にとっても最もベストな出目であると言えた。

 

「っ……!」

「そしてフィールド魔法、エンタメデュエルの効果が発動するね! このターン友乃ちゃんはコイントスを5回行いました! ということで観客のみんなをワクワクさせたご褒美にデッキからカードを2枚ドローしまーす!」

 

 観客と呼べるほどギャラリーがいるわけではないのだが、それでもエンタメデュエルの条件を満たした友乃は手札をも補充する。運こそ絡むが、その運を手繰り寄せさえすれば一気にデュエルの主導権を握ることができる。それが前島 友乃というアイドルを自称するデュエリストのデュエルであった。

 

「でもデスペラード・リボルバー・ドラゴンちゃんは効果を発動したターン攻撃できないんだよね。だから遊希ちゃんのライフは削れないの。ということでバトルフェイズを終わってメインフェイズ2! 私はカードを2枚セットしてターンエンドです!」

 

 

友乃 LP8000 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(デスペラード・リボルバー・ドラゴン、ツインバレル・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:4(エンタメデュエル、機甲部隊の最前線)墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)

 

友乃

 □伏機伏□

 □□ツデ□エ

  □ □

□□□□□□

 □伏□□□

遊希

 

○凡例

デ・・・デスペラード・リボルバー・ドラゴン

ツ・・・ツインバレル・ドラゴン

エ・・・エンタメデュエル

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドローです」

 

 デスペラード・リボルバー・ドラゴンはバトルフェイズにそのコイントス効果を発動できる。そのため除去するのであれば、メインフェイズ中に効果によった除去を狙いたかった。

 

(よし、これならいける)

「私は手札の銀河戦士の効果を発動します。手札の光属性モンスター、巨神竜フェルグラントを墓地に送り、このカードを手札から特殊召喚します。そして特殊召喚に成功した銀河戦士の効果でデッキから銀河戦士を手札に加えます。そして手札から魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地の巨神竜フェルグラントを特殊召喚します!」

「巨神竜フェルグラントちゃん……あっ!」

「気付いたようですね、前島先輩。墓地からの特殊召喚に成功した巨神竜フェルグラントの効果を発動! デスペラード・リボルバー・ドラゴンをゲームから除外し、このカードの攻撃力をそのモンスターのレベル×100上昇させます!」

 

巨神竜フェルグラント ATK2800→3600

 

「攻撃力3600!?」

「デスペラード・リボルバー・ドラゴンは墓地に送られることでデッキからコイントスを行う効果を持ったレベル7以下のモンスターを手札に加えることができるんですよね。でも除外されてしまえば話は別です! わたしのフィールドにギャラクシーモンスターが存在することにより、銀河騎士をリリースなしで召喚します! そしてこの方法で召喚に成功した銀河騎士の効果で自身の攻撃力をターン終了時まで1000ダウンさせ、墓地の銀河眼の光子竜1体を守備表示で特殊召喚します! 更に私は守備表示の銀河眼の光子竜と銀河戦士をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 現れなさい!《ハイパースター》!」

 

《ハイパースター》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/天使族/攻1400

【リンクマーカー:左下/右下】

光属性モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの光属性モンスターの攻撃力・守備力は500アップし、闇属性モンスターの攻撃力・守備力は400ダウンする。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊された場合、自分の墓地の光属性モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを手札に加える。

 

「ハイパースター!? アイドルの友乃ちゃんより輝くのはやめてー!」

「ハイパースターがフィールドに存在することで、フィールドの全ての光属性モンスターの攻守は500アップし、闇属性モンスターの攻守は400ポイントダウンします」

 

巨神竜フェルグラント ATK3600/DEF2800→ATK4100/DEF3300

銀河騎士 ATK1800/DEF2600→ATK2300/DEF3100

ハイパースター ATK1400→1900

 

ツインバレル・ドラゴン ATK1700/DEF200→ATK1300/DEF0

 

「ツインバレル・ドラゴンちゃんの攻撃力が!」

「バトルです! 巨神竜フェルグラントでツインバレル・ドラゴンを攻撃! 巨神竜猛撃!」

 

巨神竜フェルグラント ATK4100 VS ツインバレル・ドラゴン ATK1300

 

友乃 LP8000→5200

 

「戦闘で相手モンスターを破壊した場合に巨神竜フェルグラントの効果が発動します! 同名カード以外のレベル7か8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します! 特殊召喚するのは銀河眼の光子竜です!」

「だったら私も永続魔法機甲部隊の最前線の効果を発動するよ!」

 

チェーン2(友乃):機甲部隊の最前線

チェーン1(遊希):巨神竜フェルグラント

 

「チェーン2の機甲部隊の最前線の効果でツインバレル・ドラゴンちゃんより低い攻撃力で同じ属性の《BM-4ボムスパイダー》ちゃんを守備表示で特殊召喚するよ!」

 

《BM-4ボムスパイダー》

効果モンスター

星4/闇属性/機械族/攻1400/守2200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、自分フィールドの機械族・闇属性モンスター1体と相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、戦闘または自身の効果で相手フィールドのモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動できる。その破壊され墓地へ送られたモンスター1体の元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

 

BM-4ボムスパイダー DEF2200

 

「BM-4ボムスパイダーも闇属性のため、攻守が400下がります。そして光属性の銀河眼の光子竜の攻守は500アップです!」

 

BM-4ボムスパイダー ATK1400/DEF2200→ATK1000/DEF1800

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK3500/DEF3000

 

「いくら壁を作っても無駄です!」

 

 壁として特殊召喚したBM-4ボムスパイダーであるが、ハイパースターの効果で守備力がハイパースターの攻撃力を下回っている。そのため、このカードをハイパースターで突破すれば、光子竜と騎士の直接攻撃で友乃の残りライフを大きく削ることができるのだ。

 しかし、遊希は友乃がこれだけの攻撃で終わるデュエリストだとは全く思っていなかった。

 

 

 

 

 

 




機甲部隊の最前線の効果を挟むのを忘れていました;
追記という形になりましたが、修正させて頂きました。


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絆の力

 

 

 

 

 

「そんなモンスターなど、壁にすらなりません! ハイパースターでBM-4ボムスパイダーを攻撃します!」

 

ハイパースター ATK1900 VS BM-4ボムスパイダー DEF1800

 

「これで前島先輩のフィールドからモンスターは消えました。銀河眼の光子竜でダイレクトアタックです! 破滅のフォトン・ストリーム!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3500

 

 ハイパースターの効果で攻撃力をアップさせた光子竜が攻撃の態勢に移ろうとする。しかし、それを見た友乃は意気揚々とセットカードの発動を宣言した。

 

「これ以上の攻撃は通させないよ! リバースカードオープン! 墓地のリボルバー・ドラゴンちゃんを対象に永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動!」

 

《リビングデッドの呼び声》

永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

「そしてそのカードにチェーンしてもう1枚のリバースカードを発動しちゃいます!」

「リビングデッドにチェーン!?」

「罠カード《メタバース》!」

 

《メタバース》

通常罠

(1):デッキからフィールド魔法カード1枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。

 

チェーン2(友乃):メタバース

チェーン1(友乃):リビングデッドの呼び声

 

「チェーン2のメタバースの効果でデッキからフィールド魔法《鋼鉄の襲撃者》をエンタメデュエルと張り替える形で発動! アイドルのステージは、二つ目の舞台に移るよ!」

 

《鋼鉄の襲撃者(ヘビーメタル・レイダーズ)》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分の機械族・闇属性モンスターは、それぞれ1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、その戦闘で自分が戦闘ダメージを受けた場合、その数値分だけ攻撃力がアップする。

(2):1ターンに1度、自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、戦闘または自身の効果でフィールドのカードを破壊した場合に発動できる。手札から機械族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。

 

「……アイドルが歌うにはとても無骨なステージだと思いますが」

「どんなところでも自分のできる最大限のパフォーマンスをするのがアイドルだよ! チェーン1のリビングデッドの呼び声で墓地のリボルバー・ドラゴンちゃんを特殊召喚するね! ふっかーつ!」

 

リボルバー・ドラゴン ATK2600/DEF2200→ATK2200/DEF1800

 

「友乃ちゃんのフィールドにモンスターが増えたことで、バトルの巻き戻しが発生するよ! どうする?」

 

 リボルバー・ドラゴンの攻撃力はハイパースターの効果で400ポイントダウンしている。ハイパースターよりは上であるが、攻撃を残している光子竜と銀河騎士のそれを下回る。しかし、遊希にとって気掛かりなのはエンタメデュエルと張り替える形でデッキから発動されたフィールド魔法、鋼鉄の襲撃者の存在だった。

 

(鋼鉄の襲撃者は1ターンに一度だけ闇属性・機械族モンスターに戦闘破壊耐性を与え、そしてその戦闘で発生した戦闘ダメージ分そのモンスターの攻撃力をアップさせる。光子竜でリボルバー・ドラゴンを攻撃すればダメージこそ与えられるけどリボルバー・ドラゴンを強化してしまう。今後を見越してもそれは避けたい……だったら)

「光子竜の攻撃を中止します。バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移ります。私は銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れよ! No.90 銀河眼の光子卿!」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2 ATK2500/DEF3000→ATK3000/DEF3500

 

「光子卿は守備表示でX召喚します。私はこれでターンエンドです」

 

 

友乃 LP5200 手札1枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(リボルバー・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:3(鋼鉄の襲撃者、機甲部隊の最前線、リビングデッドの呼び声)墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札0枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(巨神竜フェルグラント、No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2)EXゾーン:1(ハイパースター)魔法・罠:1 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:11(0)

 

友乃

 □□機呼□

 □□リ□鋼

  ☆ □

□卿□□巨□

 □伏□□□

遊希

 

○凡例

リ・・・リボルバー・ドラゴン

鋼・・・鋼鉄の襲撃者

呼・・・リビングデッドの呼び声

☆・・・ハイパースター

 

 

☆TURN05(友乃)

 

「私のターン、ドロー! 手札から魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動するよ!」

 

《カップ・オブ・エース》

通常魔法

コイントスを1回行う。

表が出た場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

裏が出た場合、相手はデッキからカードを2枚ドローする。

 

「カップ・オブ・エース……コイントスの表裏によってどちらかのプレイヤーが2枚ドローできるカードですね」

「そうなの。でもどっちに転ぶかどうかわからないから面白いんだよ! じゃあコイントスするね! そーれっ!」

 

 無条件でデッキからカードを2枚ドローできる《強欲な壺》はそのシンプルかつ強力な効果から禁止カードに指定されている。それだけデュエルモンスターズというゲームでドローソースとなるカードの強さが認識されているということであり、遊希や鈴がよく使用するトレード・インはレベル8モンスター、エヴァが使用する闇の誘惑は闇属性モンスターというコストが必要になる。強力な力には決まって対価が求められるものであり、カップ・オブ・エースの場合はコインの出目次第で敵に塩を送ることになりかねない。それだけのリスクを恐れないものがこのカードを使いこなせるデュエリストたり得るのである。

 

「結果は……やった! 表! ということで友乃ちゃんがドローしちゃいまーす!」

(……前島先輩は定期的に宝くじを買った方がいいんじゃないかしら。それか当たりつきのアイスとか)

「行くよ! 私は手札から魔法カード、増援を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター《終末の騎士》ちゃんを手札に加えて、この子を召喚!」

 

《終末の騎士》

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1200

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。

 

「召喚に成功した終末の騎士の効果! デッキから闇属性モンスター1体を墓地に送るよ!」

(前島先輩のデッキで墓地に送るとなればやはりデスペラード・リボルバー・ドラゴン。光子卿の効果は取っておきたいけど……)

「……その効果にチェーンして銀河眼の光子卿の効果を発動します。X素材である銀河騎士を取り除き、その発動を無効にして破壊します!」

 

チェーン2(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン1(友乃):終末の騎士

 

「うん、終末の騎士ちゃんの効果は発動を無効にされた上に破壊されちゃうよ。これで遊希ちゃんはこのターンもう光子卿の効果を発動できないね!」

「……やはり囮でしたか」

「その効果は強いからね! でもこれで安心してこのカードの効果を発動できるよ! 手札から魔法カード、パワー・ボンドを発動!」

「パ、パワー・ボンド!?」

 

 パワー・ボンドは機械族モンスター専用の融合魔法であり、このカードで融合召喚したモンスターの攻撃力を元々の攻撃力分アップさせる効果を持っている。遊希はこのカードの強さを千春のおかげでよく知っていた。

 

「パワー・ボンドの効果で私はフィールドのリボルバー・ドラゴンちゃんと手札の《ブローバック・ドラゴン》ちゃんを融合!“友乃ちゃんのアイドルパワーは止まらない! みんなを蜂の巣にしちゃってー!”融合召喚! 出番だよ!《ガトリング・ドラゴン》ちゃん!」

 

《ガトリング・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻2600/守1200

「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」

コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

「パワー・ボンドの効果で融合召喚されたガトリング・ドラゴンちゃんの攻撃力は元々の倍になるよ!」

「ですが、その前にハイパースターによる弱体化が適用されます!」

 

ガトリング・ドラゴン ATK2600/DEF1200→ATK2200/DEF800

 

ガトリング・ドラゴン ATK2200→ATK4800

 

「でもこれでフェルグラントちゃんの攻撃力も上回ったよ! でもバトルに入る前にガトリング・ドラゴンちゃんの効果を発動! コイントスを3回やって、表が出た数だけフィールドのモンスターを破壊するよ!」

 

 ガトリング・ドラゴンの効果は対象を取らないため、対象を取る効果を受け付けないモンスターであっても構わず蜂の巣にしてしまう。ギャラクシーカードをX素材にしている光子卿は効果で破壊されないが、フェルグラントとハイパースターは破壊耐性を持ち合わせていない。その2体をこの効果で突破されてしまえばどうなるかがわからない遊希ではなかった。

 

「ではその効果にチェーンして光子卿のもう一つの効果を発動します!」

 

チェーン2(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン1(友乃):ガトリング・ドラゴン

 

「チェーン2の光子卿の効果で私はデッキからギャラクシーカードである魔法カード《銀河天翔》を手札に加えます!」

「チェーン1のガトリング・ドラゴンちゃんの効果! コイントスを3回行うよ!」

 

 デュエルにおいてデッキ構築やプレイングの上手下手はデュエリスト自身の経験と成長によって培われるものであると言っていいだろう。しかし、コインの表と裏を狙って出すというのは紛れもなく本人の運が大きく絡むと言っていいだろう。

 

(私が……本当のアイドルならここで理想的なコイントスができるはず!)

「行くよっ! まず1回目!」

 

 友乃の願いを込めた1度目のコイントス。空中に舞ったコインは弧を描き、そして表を向いて彼女の手の中に落ちた。友乃の手の中ではブラック・マジシャン・ガールが愛らしい笑みを浮かべていた。

 

「1回目のコイントスは表! そして2回目!」

 

 そして2度目のコイントス。コインを投げる友乃の手が緊張で震えていたのは対峙している遊希からも見て取れた。そしてその震えがコイントスの結果を左右した。

 

「2回目は……裏かぁ。でもまだあと1回のコイントスを残してるよ! 友乃ちゃんのアイドル力はこんなもんじゃないんだから! さあ行くよっ、最後の1回!」

 

 友乃の手から3度コインが舞い上がる。そのコインの出る目は友乃にも遊希にもわからない。それは神が決めることと言っていいだろう。そして、その神は友乃に微笑んだ。

 

「3回目は……表! よって破壊されるモンスターの数は2体!」

「まさか……なんて、強運」

「当然破壊しちゃうのは巨神竜フェルグラントちゃんとハイパースターちゃんの2体だよ! さあ、ガトリング・ドラゴンちゃん! 友乃ちゃんのアイドルスマイルを込めた弾丸でみんなを撃ち抜いちゃえ!!」

 

 光子竜、煌星竜に続いてフェルグラントとハイパースターまでもが全身を秒速で撃ち出される弾丸に撃ち抜かれて崩れ落ちる。もしデュエルに勝利の女神というものが存在しているとすれば―――その女神は間違いなく友乃の側に立っていると断言できた。

 

「破壊されて墓地に送られたハイパースターの効果を発動します。墓地の光属性モンスター1体を手札に戻します。戻すのは……フォトン・バニッシャーです」

「でもハイパースターちゃんがいなくなったことでガトリング・ドラゴンちゃんと光子卿ちゃんの攻撃力と守備力は元に戻るよ!」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ATK3000/DEF3500→ATK2500/DEF3000

 

ガトリング・ドラゴン ATK4800/DEF800→ATK5200/DEF1200

 

「これで遊希ちゃんを守るモンスターは光子卿ちゃん1体になった! じゃあバトルフェイズに移るね! ガトリング・ドラゴンちゃんで銀河眼の光子卿ちゃんを攻撃!“ガトリング・キャノンショット”!」

 

ガトリング・ドラゴン ATK5200 VS No.90 銀河眼の光子卿 DEF3000

 

 ガトリング・ドラゴンの頭部と両腕のガトリング砲から放たれた弾丸が光子卿の身体を盾の上から蜂の巣にする。守備表示のためダメージは受けないが、上昇した攻撃力はそのままであり、仮に攻撃力で上回ったとしても鋼鉄の襲撃者の効果で破壊を免れる。そのため遊希は効果でガトリング・ドラゴンの破壊を狙わなければならないのだ。

 

(まさか、わずか1ターンで全滅するなんて……!)

「ふっふっふ~! パワー・ボンドで強化されたガトリング・ドラゴンちゃんには隙が無いんだよ!」

 

 これが2年生、上級生のデュエルの実力ということなのか。これだけの力を持った上級生デュエリスト相手に1年生の自分は果たして勝つことができるのだろうか。

 

―――遊希。

 

 そんな中、弱気になる彼女の心に光子竜が呼びかけた。しばらく静観していた彼は敢えて黙っていることで遊希の心理状態を見極めようとしていた。やはり竜司とエヴァに敗れたことによる精神的ショックは今も癒えていないらしい。身体の傷は時と共に治るが、心の傷はその深さによってはいつまでも治らないこともあるのだ。

 

(……光子竜)

―――負けるのが怖いか?

(怖い。だってみんなと約束したのに。みんなで決勝に行くって)

 

 今遊希が持っているカードは1枚。もしこのデュエルに敗れてしまえば、カードを1枚も持たない遊希は参加資格を失う。つまり予選敗退ということになる。そうなれば朝部屋を出る時に皆で誓った約束を早々に破ることになってしまうのだ。その先に待っているのは多くの人々の失望。そしてその失望は再び遊希を孤独という深い闇に引きずり込むことになるだろう。

 

(私が負けたら……鈴、千春、皐月とした約束を破っちゃう。みんなをがっかりさせちゃう……また一人に戻っちゃう)

―――では聞くが……お前にとって彼女たちは何だ?

 

 光子竜のその言葉に一瞬ではあるが、返答に詰まる遊希。鈴はルームメイトなこともあって口喧嘩が絶えないが、最終的には隣に寄り添ってくれている。千春は遊希より頭脳もデュエルの実力も下であるが、自分にない太陽のような明るさで多くのものをもたらしてくれる。皐月はやはり自分に自信を持てないようだが、そんな自分の弱いところと向き合ったうえでそれを克服しようとする強さを持っている。

 遊希はそんな三人と共に過ごす日常が楽しかった。孤独に震えていた頃には得られなかったものを三人は与えてくれたのだ。少なくとも遊希は三人を“親友”として認識していた。

 

―――三人はお前にとっての親友。本当の親友ならば一度の失敗でお前を見捨てると思うか? いいか、遊希。恐れるな。前に進め。仮にお前の願う通りのことにならなくとも、強き意志を持って一歩一歩、前に進むのだ。進めば道は拓ける。諦めなければ光明は見出せる。

(光子竜……!!)

「遊希ちゃん? どうしたのさっきからぼうっとしちゃって」

「えっ、ああ、なんでもないです。ちょっと考え事を」

「そっか、じゃあデュエルを続けるね。ということでバトルフェイズ終了! 私はこれでターンエンドだよ!」

「……えっ」

 

 友乃がターンエンドを宣告した時、遊希は驚きながら彼女にあることを告げた。

 

「ま……前島先輩?」

「なーに? 遊希ちゃん。遊希ちゃんのターンだよ?」

「パワー・ボンドのデメリット効果は?」

 

 パワー・ボンドの効果で融合召喚をした場合、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。ガトリング・ドラゴンで遊希のフィールドのモンスターを一掃したことに舞い上がった友乃はその存在をすっかり忘れていた。

 

「ゑ?」

 

パワー・ボンドによるバーンダメージ 2600

 

綾那 LP5200→2600

 

「うわああん! 忘れてたああああ!」

「えーっ!?」

 

 ボン、という音と共に爆発が友乃を襲った。やはり強い力にはリスクが生じるのである。

 

 

友乃 LP2600 手札0枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(ガトリング・ドラゴン)魔法・罠:3(鋼鉄の襲撃者、機甲部隊の最前線、リビングデッドの呼び声)墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:14(0)

遊希 LP8000 手札2枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:11(0)

 

友乃

 □□機呼□

 □□□□□鋼

  □ ガ

□□□□□□

 □伏□□□

遊希

 

○凡例

ガ・・・ガトリング・ドラゴン

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「いたた……ふええ、普通にダメージ受けるならまだしもこんな形でライフを大きく削られちゃうのは恥ずかしいよぉー!」

「……うっ、くくくっ……!」

 

 遊希のターンであるが、遊希はデッキからカードをドローするどころではなかった。パワー・ボンドのバーンダメージで起きた爆発によって、まるでギャグマンガの登場人物のように顔に煤をつけた状態の友乃がツボに入ったのか、遊希は片手で口を抑えながら必死に笑いを堪えていた。

 

「ま、前島先輩……失礼ですが、お、面白すぎますっ……!」

「もーっ、ひどいよ遊希ちゃん! でも、やっと笑ってくれたね?」

 

 ふくれっ面を見せた後、少し安心したかのような笑みを見せる友乃。アイドルを目指すだけあって、彼女の笑顔の愛らしさというものは同性の遊希にも理解できた。

 

「遊希ちゃん、デュエル始めた時からずっと眉間に皺が寄っていたんだよ? 女の子なんだからそんなんじゃダメ! もーっと表情を和らげようよ、せっかく可愛い顔をしてるんだから!」

「か、可愛いって。先輩……」

「ほら、遊希ちゃんのターンなんだからドローして! まだデュエルは終わってないんだから!」

「は、はい。ではドローです」

 

 このターン、遊希がすべきことはガトリング・ドラゴンを効果で破壊できるモンスターをフィールドに出すこと。パワー・ボンドの効果で強化された攻撃力と鋼鉄の襲撃者がフィールドにあり続ける限り打点勝負は得策ではない。そして仮に壁となるモンスターを出したところでガトリング・ドラゴンの効果を発動されては元も子もない。暴発して自壊する可能性もあるが、友乃のこれまでのコイントスを見ている限りそのようなヘマはまず犯さないと考えるべきだろう。

 

(……あれ)

 

 光子竜の言葉と友乃の凡ミスで心がだいぶ落ち着いた遊希。そんな彼女はあることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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運命の英雄

 

 

 

(やだ、私ったら……なんでこんな焦ってたのかしら)

 

 熱くなっている頭脳をクールダウンさせ、冷静に状況を俯瞰してみる遊希。強化されたガトリング・ドラゴンを戦闘ではなく効果で破壊する、ということは居間の遊希の手札では決して難しいものではないし、それどころかそもそも破壊する必要すらなかったのだから。

 

―――遊希。

(何?)

―――お前はこのデュエルで多くのものを得たようだな。

(……そうなのかな。でもこのデュエルは楽しかった。終わらせるのが嫌になるくらいに……でも、負けるわけにはいかない! 鈴たちとの約束を守るために!)

「前島先輩」

 

 カードをドローしたままメインフェイズに移ってもアクションを起こさなかった遊希であるが、どこかすっきりした表情で対峙する友乃に話しかける。

 

「なーに? 遊希ちゃん」

「……あなたとデュエルできて良かったです。このデュエル、ずっと忘れません」

「えっ? そう面と向かって言われると照れちゃうよぉ……それにもうデュエルが終わっちゃうみたいな言い方しちゃダメだよ?」

「残念ながら、このデュエルはこれで終わりです。私は手札から魔法カード、銀河天翔を発動します! ライフ2000をコストに墓地の銀河眼の光子竜を対象に、デッキから同じレベルのギャラクシーモンスター1体と墓地の対象モンスター1体を効果を無効にし、攻撃力を2000にして守備表示で特殊召喚します!」

 

遊希 LP8000→6000

 

 銀河天翔の効果で遊希はデッキからレベル8の銀河剣聖を、墓地から同じレベルかつこのカードの対象に取った銀河眼の光子竜をそれぞれ特殊召喚する。

 

銀河眼の光子竜 ATK3000→ATK2000

銀河剣聖 ATK0→ATK2000

 

「ええっ!? 一気にモンスターを2体も!?」

「そして私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

 

 光り輝く銀河の渦より遊希のフィールドに舞い降りたのは、銀河眼の光子竜によく似たXモンスターだ。しかし、光子竜が青い光を放っているのに対し、そのモンスターは青を基調にオーロラのような様々な色の光を混ぜた光を放っている。その光は粒子と例えるよりかは波動に例えるのが適しているだろう。

 

「“闇に輝く銀河よ。我が道を照らし、未来を切り拓く力となれ!”現れなさい!《銀河眼の光波竜》!!」

 

《銀河眼の光波竜(ギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル8モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。

この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力は3000になり、カード名を「銀河眼の光波竜」として扱う。この効果の発動後、ターン終了時までこのカード以外の自分のモンスターは直接攻撃できない。

 

「X素材を1つ取り除き、銀河眼の光波竜の効果を発動! 相手フィールドの表側表示モンスター1体のコントロールを得ます! 対象はもちろんガトリング・ドラゴンです!」

「ガトリング・ドラゴンちゃんを!?」

「この効果でコントロールを得たモンスターの攻撃力の攻撃力は3000になり、カード名を銀河眼の光波竜として扱います!」

 

ガトリング・ドラゴン ATK5200→銀河眼の光波竜 ATK3000

 

 光にかどわかされたガトリング・ドラゴンは遊希のフィールドに移る。そしてその姿は光波竜の力によって同じ光波竜のそれへと変化する。この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、直接攻撃はできない。しかし、遊希からしてみれば友乃のモンスターを除去し、直接攻撃さえできる状況を作り出すことができればそれでよかったのだ。

 

「そんなぁ……やっぱり強いね、遊希ちゃん。友乃ちゃんも今日遊希ちゃんとデュエルできて楽しかったよ! さあ、来て!」

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行します。銀河眼の光波竜で前島先輩にダイレクトアタック! “殲滅のサイファー・ストリーム”!!」

 

銀河眼の光波竜 ATK3000

 

友乃 LP2600→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー! あと少しで勝てそうだったのに……でも綾那ちゃんは楽しめたからそれで満足だよ! はい、これカードだよ!」

「ありがとうございます。前島先輩もアイドルデュエリスト目指して頑張ってくださいね。前島先輩ならきっとデュエルと歌でみんなを笑顔にできると思います」

「へへっ、ありがとー! 遊希ちゃんも決勝目指して頑張ってね! もし遊希ちゃんが決勝に行ったら私が歌とダンスで応援してあげるからね!」

「……さすがにそれは少し恥ずかしいので勘弁してください」

 

 遊希と友乃はぎゅっと握手を交わす。学年やデュエルスタイル、価値観が180度異なる二人であったが、今この瞬間この二人には確かな絆が芽生えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Aブロックで遊希がデュエルを始める数時間前、Bブロックに分けられた千春は開始早々デュエルの相手を探し彷徨っていた。しかし、BブロックはBブロックで千春同様デュエル好きが集まったのか、皆がデュエルに没頭し逆に千春が誰かのデュエルを終わるのを待つ状態になっていた。そんな中、千春は熱狂する他の生徒の中で一人デュエルに講じず、廊下の端に机と椅子一式を用意してカードと水晶玉をじっと眺めている謎の男子生徒を見つけた。

 彼の名は“ジェラルド・フォーチュン”。3年生の男子生徒でイギリスからの留学生だ。水晶占いからタロットカードまで古今東西あらゆる占いに通じている学内一の占い師と評判の学生だった。

 

「おや、君は確か1年の日向 千春さんだね」

 

 ジェラルドは目を閉じたまま彼を怪訝そうに見る千春に声をかけた。目を閉じているのに何故自分がここにいるのを知っているのだろうか、と不安に思いながらも無視するわけにもいかなかなかった千春は彼の座る机の前に立つ。

 

「あら、私のこと知ってるのね! そうよ! 私が1年生で天宮 遊希、エヴァ・ジムリアに次ぐナンバー3の実力を持つ日向 千春よ! さすが私、入学してまだ2か月ちょっとなのにもう学内の有名人!」

「僕の占いにも出てるよ。なんでも小学生なのに飛び級で入ってきたとか」

「そうそう、私は本当は……ってそんなわけないでしょ! 正真正銘の高校1年生よ!」

 

 千春が慣れた様子でノリツッコミを決めたところでジェラルドはその目を開ける。彼の青い瞳は穏やかに輝いていた。

 

「冗談だ。ところで君はデュエルはしないのかい?」

「……できるならすぐにでもしたいわよ。でもみーんなデュエルしてて相手が見つからないのよ。すごくつまらないわ」

「そうか。じゃあ時間つぶしに君を占ってあげようか? お代ならまけておくよ」

 

 「お金取るんだ」と内心呆れる千夏であったが、ジェラルドの占いはよく当たると女子たちの間で評判であり、そんな彼の占いを安く受けれるのならば彼女にとっても悪い話ではなかった。

 

「そうねぇ……じゃあ私がこの大会で決勝に出れるか占ってほしいわ!」

「大会か。じゃあ今回はデュエルらしくこのカードで占ってあげよう」

 

 そういってジェラルドがデッキケースから取り出したのはタロットカードをモチーフにした【魔導書】というカード群だった。一つデッキを組める分のカードは揃っているが、ジェラルドによればこのカードは専ら占いに利用するカードでデュエルに使うものではないらしい。

 

「じゃあ占ってあげるよ……さて出たカードは《魔導剣士 シャリオ》の逆位置だね」

 

《魔導剣士 シャリオ》

効果モンスター

星4/風属性/魔法使い族/攻1800/守1300

1ターンに1度、手札から「魔導書」と名のついた魔法カードを1枚捨てて発動できる。自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を選択して手札に加える。

 

「あら、なんか勇ましそうなモンスターね! 私にぴったりじゃない!」

「このカードは大アルカナの7番目のカードで“戦車”を表わしている。ちなみに正位置の意味は“勝利”“行動力”などを指すよ」

「勝利? じゃあ私は決勝に行けるのね!」

 

 その意味を聞いて喜びを見せる千春であるが、彼女はまだそのカードの本当の意味を聞いていなかった。そんな千春を見て気の毒そうにジェラルドはため息をつく。

 

「正位置ならね。しかしこのカードは逆位置だ」

「逆位置? 逆位置の意味は?」

「暴走、失敗、焦り、挫折」

「ちょっと、悪いことばっかりじゃない!」

 

 基本ポジティブで前向きな千春であっても、当たると評判の占い師であるジェラルドのその言葉にさすがに不安を覚える。彼はそんな千春を気遣って「占いは100%当たるものではない」とフォローを入れるが、千春はそのカードの意味の通り、だいぶ落ち着きを無くしてしまっていた。

 

「そもそも占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦じゃない! 私はそんな占い信じないわ! そうだ、私とデュエルしなさいよ! あなたも大会参加者なんでしょ!?」

「……なんか急展開だね。まあデュエルなら受けるけど……しかし、カード通りさっそく暴走・焦りの目が出てるよ?」

「むむむ……そんな占いなんて私のデュエルでぶっ飛ばしてあげるんだから!」

 

 やがて二人のデュエルの準備が整い、デュエルディスク内蔵のコンピューターによって先攻後攻の決定権はジェラルドに委ねられた。彼は少し考えた後、先攻を取った。

 

「さあ、私の大会最初のデュエル! 行くわよ!」

「やれやれ、お手柔らかにね」

 

先攻:ジェラルド

後攻:千春

 

 

ジェラルド LP8000 手札5枚

デッキ:38 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

千春 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

ジェラルド

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

千春

 

 

☆TURN01(ジェラルド)

 

「では僕の先攻で行かせてもらうよ。僕は手札から《E・HERO ソリッドマン》を召喚」

 

《E・HERO ソリッドマン》

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1300/守1100

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下の「HERO」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードが魔法カードの効果でモンスターゾーンから墓地へ送られた場合、「E・HERO ソリッドマン」以外の自分の墓地の「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

「あなたのデッキは【HERO】なのね。なんかイメージと違うわ」

「イメージや性格でデッキを決めつけてしまうのは決していいことではないよ。穏やかな人ほど激しいデュエルを行い、熱い人ほど冷静沈着なデュエルを臨むものだからね」

 

 人とは自分に足りないものを持つ者に憧れ、惹かれるものである。故に似た者同士というものはよく喧嘩をするのだ。

 

「召喚に成功したソリッドマンのエフェクトで手札からレベル4以下のHEROモンスター1体を特殊召喚するよ。僕が特殊召喚するのは《V・HERO ヴァイオン》だ」

 

《V・HERO ヴァイオン》

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻1000/守1200

「V・HERO ヴァイオン」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「HERO」モンスター1体を墓地へ送る。

(2):1ターンに1度、自分の墓地から「HERO」モンスター1体を除外して発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。

 

「特殊召喚に成功したヴァイオンのエフェクト。デッキからHEROモンスター1体をセメタリーに送る。セメタリーに送るのは《D-HERO ディアボリックガイ》だ。そしてセメタリーのD-HERO ディアボリックガイのエフェクトも発動するよ」

 

《D-HERO ディアボリックガイ》

効果モンスター

星6/闇属性/戦士族/攻800/守800

(1):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「D-HERO ディアボリックガイ」1体を特殊召喚する。

 

(……セメタリーって何? 墓地のことでいいのよね?)

「ディアボリックガイをゲームから除外して、2体目のディアボリックガイをデッキから特殊召喚する」

 

 ジェラルドのデッキにはE、V、Dのそれぞれ異なるHEROモンスターが揃う。それぞれの理念は違えど、同じHEROに属することは変わりないためサポートカードのほとんどを共有することができるのだ。

 

「ねえ、あなたのデッキはE? V? それともD?」

「……残念ながらそう聞かれてすぐに答えるほど僕は性格良くないよ? でもすぐにわかるかもね。僕はソリッドマンとディアボリックガイをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 召喚条件は戦士族モンスター2体。リンク召喚。リンク2の《聖騎士の追想 イソルデ》をリンク召喚するよ」

 

《聖騎士の追想 イソルデ》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/戦士族/攻1600

【リンクマーカー:左下/右下】

戦士族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから戦士族モンスター1体を手札に加える。このターン、自分はこの効果で手札に加えたモンスター及びその同名モンスターを通常召喚・特殊召喚できず、そのモンスター効果も発動できない。

(2):デッキから装備魔法カードを任意の数だけ墓地へ送って発動できる(同名カードは1枚まで)。墓地へ送ったカードの数と同じレベルの戦士族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

「リンク召喚に成功したイソルデのエフェクト。僕はデッキから戦士族モンスターの《D-HERO Bloo-D》を手札に加えるよ」

 

 D-HERO Bloo-DはフィールドのD-HEROを含むモンスター3体をリリースする必要のあるモンスターだ。このカードを入れるということはジェラルドのデッキの方向性が自ずと明らかになる。彼のデッキは【D-HERO】を基軸としたHEROデッキ。E・HEROと比べて火力が低く、戦術の幅もやや狭くなるが、E・HEROやM・HEROにない独特な効果を持ったモンスターが特徴的と言える。

 

「そしてイソルデの2つ目のエフェクトを発動。デッキから装備魔法を任意の数だけセメタリーに送り、その数と同じレベルの戦士族モンスター1体をデッキから特殊召喚するよ。セメタリーに送るのは《神剣-フェニックス・ブレード》1枚。よってデッキからレベル1の《D-HERO ディスクガイ》を特殊召喚する」

 

《D-HERO ディスクガイ》

効果モンスター(準制限カード)

星1/闇属性/戦士族/攻300/守300

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。このカードは墓地へ送られたターンには墓地からの特殊召喚はできない。

(1):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「そしてイソルデのリンク素材として墓地に送られた2体目のディアボリックガイのエフェクト発動。3体目のディアボリックガイを特殊召喚する。そして手札のBloo-Dをコストに魔法カード《デステニー・ドロー》を発動」

 

《デステニー・ドロー》

通常魔法

(1):手札から「D-HERO」カード1枚を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「デッキからカードを2枚ドロー」

「ねえ……先攻1ターン目からどんだけ回すのよあなた」

「君が増殖するGや灰流うららのような手札誘発カードを持っていればここまでは行かなかったことだけどね。でもそれが無いようじゃ遠慮なく行かせてもらうよ? 僕は手札から魔法カード《オーバー・デステニー》を発動」

 

《オーバー・デステニー》

通常魔法

(1):自分の墓地の「D-HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルの半分以下のレベルを持つ「D-HERO」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。

 

「僕が対象にするのはレベル8のD-HERO Bloo-D。よってそのレベルの半分であるレベル4以下のD-HERO1体をデッキから特殊召喚するよ。そうだね……特殊召喚するのはレベル1の《D-HERO ドリームガイ》にしようか」

 

《D-HERO ドリームガイ》

効果モンスター

星1/闇属性/戦士族/攻0/守600

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在し、自分の「D-HERO」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、その自分のモンスターはその戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 ジェラルドのフィールドにはEXゾーンにリンク2のイソルデ、そしてメインモンスターゾーンには3体目のディアボリックガイ、ヴァイオン、ディスクガイ、ドリームガイの4体という計5体のモンスターが存在している。何れも戦闘能力は皆無に等しいとはいえ、この展開力にはさすがの千春も脱帽気味であった。

 

(リンク召喚をしたのに、まだメインモンスターゾーンには4体もモンスターが? D-HEROってそんな展開力のあるデッキだったの?)

 

 遊希もそうだが、千春も上級生である先輩デュエリストたちのタクティクスに圧倒されつつあった。しかし、年季の差こそあれど、千春もこのエリート揃いのアカデミアの門を潜り抜けただけの存在だ。

 

(面白いじゃない! だからこそデュエルのし甲斐があるってものよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




○備考
ジェラルド・フォーチュン 脳内CV:石田彰


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究極のD

 

 

 

「まだまだ行かせてもらうよ。僕はヴァイオンのエフェクトを発動。墓地のソリッドマンをゲームから除外してデッキから《融合》カード1枚を手札に加える。そしてそれを発動させてもらうよ」

 

《融合》

通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

「僕は2体のD-HERO、ディスクガイとドリームガイで融合。“宝札をもたらす英雄よ。夢想の英雄よ。今一つとなりて黄泉の世界に降臨せよ!”融合召喚! カモン!“D-HERO デッドリーガイ”!」

 

《D-HERO デッドリーガイ》

融合・効果モンスター

星6/闇属性/戦士族/攻2000/守2600

「D-HERO」モンスター+闇属性の効果モンスター

「D-HERO デッドリーガイ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札を1枚捨てて発動できる。手札・デッキから「D-HERO」モンスター1体を墓地へ送り、自分フィールドの全ての「D-HERO」モンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の「D-HERO」モンスターの数×200アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「デッドリーガイは手札コスト1枚を要する代わりにデッキからD-HEROモンスター1体を墓地に送り、自分フィールドのD-HEROの攻撃力をターン終了時まで墓地のD-HEROの数だけアップさせるエフェクトを持っている。僕は手札のD-HERO ドグマガイを墓地に送り、デッキから《D-HERO ディヴァインガイ》を墓地に送る。これで僕の墓地にはD-HEROが6体。よってデッドリーガイとディアボリックガイの攻撃力は1200ポイントアップする」

 

D-HERO デッドリーガイ ATK2000→ATK3200

D-HERO ディアボリックガイ ATK800→ATK2000

 

「最も先攻1ターン目だから攻撃力を上げたところでどうにもならないけどね。でもこれで僕のフィールドにはレベル6のモンスターが2体揃った」

「ランク6のエクシーズ召喚ね……」

「ご名答。僕はレベル6のデッドリーガイとディアボリックガイでオーバーレイ!“彼岸にて永遠の輝きを放つ淑女よ。神曲にて紡がれし世界に降臨せよ!”エクシーズ召喚! ランク6“永遠の淑女 ベアトリーチェ”!」

 

《永遠の淑女 ベアトリーチェ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/光属性/天使族/攻2500/守2800

レベル6モンスター×2

このカードは手札の「彼岸」モンスター1体を墓地へ送り、自分フィールドの「ダンテ」モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。この方法で特殊召喚したターン、このカードの(1)の効果は発動できない。

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキからカード1枚を選んで墓地へ送る。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。EXデッキから「彼岸」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

永遠の淑女 ベアトリーチェ ORU:2 DEF2800

 

「ベアトリーチェのX素材を1つ取り除いてエフェクト発動。デッキからカード1枚を墓地に送る。墓地に送るのはグローアップ・バルブにするよ。そして僕はリンク2のイソルデとヴァイオンをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 現れよ、リンク3《デコード・トーカー》!」

 

《デコード・トーカー》

リンク・効果モンスター

リンク3/闇属性/サイバース族/攻2300

【リンクマーカー:上/左下/右下】

効果モンスター2体以上

(1):このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの数×500アップする。

(2):自分フィールドのカードを対象とする相手の魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードのリンク先の自分のモンスター1体をリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

「デコード・トーカーの攻撃力はリンク先のモンスターの数×500ポイントアップするよ。そしてデコード・トーカーはリンク先のモンスターをリリースすることで僕のカードを対象とする君の魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時にその発動を無効にして破壊することができる。僕はカードを1枚セット。これでターンエンドだよ」

 

 

ジェラルド LP8000 手札0枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:1(永遠の淑女 ベアトリーチェ ORU:1)EXゾーン:1(デコード・トーカー)魔法・罠:2 墓地:12 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:11(0)

千春 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

ジェラルド

 □伏伏□□

 □□永□□□

  □ デ

□□□□□□

 □□□□□

千春

 

○凡例

デ・・・デコード・トーカー

永・・・永遠の淑女 ベアトリーチェ

 

 

☆TURN02(千春)

 

「私のターン、ドローよ!」

「ではこのスタンバイフェイズに僕はリバースカードを発動するよ。速攻魔法《大欲な壺》だ」

 

《大欲な壺》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):除外されている自分及び相手のモンスターの中から合計3体を対象として発動できる。そのモンスター3体を持ち主のデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「除外されている自分及び相手のモンスターの中から合計3体を対象として発動。そのモンスター3体を持ち主のデッキに戻し、僕はデッキから1枚カードをドローする。僕が戻すのはディアボリックガイ2体とソリッドマンだ」

「……単なるドローじゃないわね。ディアボリックガイ2体が戻ったことでその効果を再活用できる」

「そういうこと。ディアボリックガイのように、発動機会が限られているエフェクトを躊躇なく使い切れるということは、そのリカバリーのための方法も用意してあると見るべきだよ」

 

 最初の手札もしくはデステニー・ドローの時点でこの大欲な壺を引けていた、とあればディアボリックガイの効果を先攻1ターン目で使い切るのにも合点が行く。オーバーロード・フュージョンのように墓地のモンスターを除外する効果を持ったカードを使う千春にとってもそこは見習うべきところと言っていいだろう。

 ただ、それをデュエルの相手であるジェラルドに上から目線で語られるというのは千春にとって決していい気分ではなかった。最も彼は上級生であるため「教示」という意味でそれを言っているのであれば何もおかしなことではないのだが。

 

「一々言われなくてもわかってるわよそんなこと! 相手フィールドにのみモンスターが存在し、私のフィールドにモンスターが存在しない時! このカードは手札から特殊召喚できるわ! 来て、サイバー・ドラゴン!」

 

 そんな千春の思いに応える形で咆哮するサイバー・ドラゴン。サイバー・ドラゴン自体はデッキを選ばず投入されるモンスターなので、この時点でジェラルドは千春のデッキの全容を掴めてはいなかった。

 

「サイバー・ドラゴンが出てくるということは……やはりあのモンスターか」

「私はフィールドのサイバー・ドラゴン1体とあなたのEXゾーンのデコード・トーカーを墓地に送り、エクストラデッキからこのモンスターを融合召喚するわ!《キメラテック・メガフリート・ドラゴン》!」

 

《キメラテック・メガフリート・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星10/闇属性/機械族/攻0/守0

「サイバー・ドラゴン」モンスター+EXモンスターゾーンのモンスター1体以上

自分・相手フィールドの上記カードを墓地へ送った場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。このカードは融合素材にできない。

(1):このカードの元々の攻撃力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×1200になる。

 

「キメラテック・メガフリート・ドラゴンの攻撃力はこのカードの融合素材としたモンスターの数×1200になる。よって攻撃力は2400よ!」

 

キメラテック・メガフリート・ドラゴン ATK2400

 

「サイバー・ドラゴンさえいればEXゾーンのモンスターをあっさり除去できるのだから全く容赦のないことだね。でもメガフリートの攻撃力は2400。それではベアトリーチェを倒すことは不可能だよ」

「メガフリートの一番の売りはEXゾーンのモンスターを素材にできること。戦闘だったら他にもっと適したモンスターがいるわ! 私はサイバー・ドラゴン・コアを召喚! 召喚に成功した時の効果でデッキからサイバーとなのついた魔法カード、エマージェンシー・サイバーを手札に加えるわ!」

(君のデッキはサイバー・ドラゴンか、面白い組み合わせだね。まさに運命的と言っていいだろう)

 

 千春がBloo-Dを見てジェラルドのデッキが【D-HERO】と確信したのと同じように、ジェラルドもサイバー・ドラゴン・コアを見て千春のデッキが【サイバー・ドラゴン】であると確信する。

 このアカデミアには二人が入学するよりも遥か昔、サイバー・ドラゴンを自分の手足のように使いこなすことから『帝王(カイザー)』と呼ばれたデュエリストと、学生の身でありながらプロデュエリストとも活躍したD-HERO使いのデュエリストが在学していた。

 その二人は学年の関係で同時に在籍することはなかったが、プロデュエリストの舞台で常に鎬を削ってきたライバルとして後世でもその名は伝わっている。今回の千春とジェラルドのデュエルは、奇しくもそんな二人のライバルが使ってきたデッキ同士のデュエルとなっていたのだ。

 

(やれやれ、D-HERO使いとしてはますます負けられないね)

「あたしはキメラテック・メガフリート・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コアをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 起動しなさい! サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」

 

 サイバー・ドラゴン・ズィーガーはサイバー・ドラゴンを含む機械族モンスター2体でリンク召喚が行える。サイバー・ドラゴン・コアもサイバー・ドラゴンとして扱うため、その素材にできるのだ。

 

「サイバー・ドラゴン・ズィーガーか。また厄介なモンスターが出てきたね……」

「ズィーガーのリンクマーカーの2つのうち、1つは下に向いている。あなたはその意味が分かるかしら?」

 

 リンク2であるサイバー・ドラゴン・ズィーガーのリンクマーカーは左と下に向いている。EXゾーンに出せば下向きのマーカーしか利用できず、メインモンスターゾーンに出せば左向きのマーカーしか利用できない。そのため、何処に特殊召喚しても使えるリンクマーカーはわずか1つである。その理由としてはサイバー・レヴ・システムなどで蘇生しても使えるように、というのが現実的な回答であると思うが、千春はそれだけとは思っていなかった。

 

「それはね……ズィーガーの他にもう1体モンスターがいればそれだけで私はデュエルに勝てるってことよ!! 私は手札から魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動! デッキからサイバー・ドラゴンと名のついたモンスターか通常召喚できない光属性・機械族モンスター1体を手札に加える。私がデッキから手札に加えるのはサイバー・ドラゴン・ネクステア。そして手札のサイバー・ドラゴン・ヘルツを墓地に送り、このネクステアを特殊召喚! 墓地に送られたヘルツの効果と特殊召喚に成功したネクステアの効果が発動するわ!」

「だったらその効果にチェーンしてベアトリーチェの効果を発動するよ」

 

チェーン3(ジェラルド):永遠の淑女 ベアトリーチェ

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・ネクステア

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ヘルツ

 

「チェーン3のベアトリーチェのエフェクト。X素材を1つ取り除くことでデッキからカード1枚をセメタリーに送る。セメタリーに送るのは《ネクロ・ガードナー》にしようかな」

「……ネクロ・ガードナーか。チェーン2のネクステアの効果で私は墓地の攻撃力または守備力が2100のモンスター、サイバー・ドラゴンを特殊召喚するわ! そしてチェーン1のヘルツの効果でデッキからサイバー・ドラゴン・フィーアを手札に加える。そして手札から魔法カード、パワー・ボンドを発動! フィールドのサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・ネクステアを融合!“絶対なる力を持った機械の竜よ! 目に映る全てを破壊しつくしなさい!”融合召喚! キメラテック・ランぺージ・ドラゴン! パワー・ボンドの効果で融合召喚されたモンスターの攻撃力はそのモンスターの元々の攻撃力分アップするわ!」

 

キメラテック・ランぺージ・ドラゴン ATK2100→4200

 

「そして融合召喚に成功したキメラテック・ランぺージ・ドラゴンの効果を発動! 融合素材としたモンスターの数だけフィールドの魔法・罠カードを破壊するわ! そのセットカードを破壊!」

「ではそのエフェクトにチェーンして僕はリバースカードを発動する! 罠カード《死魂融合》!!」

 

《死魂融合(ネクロ・フュージョン)》

通常罠

(1):自分の墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを裏側表示で除外し、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

チェーン2(ジェラルド):死魂融合

チェーン1(千春):キメラテック・ランぺージ・ドラゴン

 

「罠カードの融合!?」

「狙っていたタイミングとは異なるけど、君に見せてあげよう。究極のDを! 僕は墓地のD-HERO ドグマガイとD-HERO Bloo-Dをゲームから裏側表示で除外して融合召喚を行う!」

 

 

 

 

 

―――“天より下されし教理の英雄よ。青き鮮血の英雄よ。今一つとなりて運命を司る究極の英雄となりて君臨せよ!” 融合召喚! カモン!!―――

 

 

 

 

 

―――究極のD! 《Dragoon D-END》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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運命を超えて

 

 

 

 

 

「カモン! 究極のD!《Dragoon D-END》!!」

 

《Dragoon D-END(ドラグーン ディー・エンド)》

融合・効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻3000/守3000

「D-HERO Bloo-D」+「D-HERO ドグマガイ」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを破壊し、表側表示モンスターを破壊した場合、その攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分スタンバイフェイズに自分の墓地の「D-HERO」カード1枚を除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

Dragoon D-END DEF3000

 

「Dragoon D-END……それがあなたのデッキの切り札というわけ」

「できればもっといい見せ場で召喚したかったんだけどね。でもこのカードを出させたのだから君はもっと誇っていいと思うよ?」

「どれだけ強いモンスターでもその程度のステータスじゃ私のランぺージ・ドラゴンの前では壁にすらならないわ! キメラテック・ランぺージ・ドラゴンのもう一つの効果! デッキから光属性・機械族のモンスターを2体まで墓地に送り、その分だけ攻撃回数を増やすことができるわ! デッキからサイバー・ドラゴン・ドライと《超電磁タートル》を墓地に送る! これでランぺージ・ドラゴンは3回まで攻撃可能よ! バトル! ランぺージ・ドラゴンで1回目の攻撃! ベアトリーチェを攻撃よ!“エヴォリューション・ランぺージ・バースト”第一打!」

 

キメラテック・ランぺージ・ドラゴン ATK4200 VS 永遠の淑女 ベアトリーチェ DEF2800

 

 強烈なエネルギー波がベアトリーチェを消滅させる。ベアトリーチェは相手によって墓地にられることで、エクストラデッキから「ダンテ」と名のついたモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚できるのだが、EXゾーンはD-ENDが既に使用しているため特殊召喚はできなかった。もっともジェラルドのエクストラデッキに「ダンテ」モンスターは投入されていないのだが。

 

「2回目の攻撃! 次はD-ENDよ! エヴォリューション・ランぺージ・バースト 第二打!」

 

キメラテック・ランぺージ・ドラゴン ATK4200 VS Dragoon D-END DEF3000

 

「究極にしてはあっけなかったわね。切り札であってもモンスターである以上、数値には勝てないのよ! キメラテック・ランぺージ・ドラゴンで3回目の攻撃! エヴォリューション・ランぺージ・バースト 第三打!!」

 

キメラテック・ランぺージ・ドラゴン ATK4200

 

「墓地のネクロ・ガードナーのエフェクトを発動!」

 

《ネクロ・ガードナー》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

「このカードをセメタリーから除外し、一度だけ相手モンスターの攻撃を無効にするよ」

「……結局ランぺージの攻撃を通すことができなかったわね。でもできるだけライフを削らせてもらうわ! サイバー・ドラゴン・ズィーガーでダイレクトアタック!“エヴォリューション・ズィーガー・バースト”!」

 

サイバー・ドラゴン・ズィーガー ATK2100

 

ジェラルド LP8000→5900

 

「ダメージを最小限に抑えられただけでも、有難いと思わなければね」

「飄々として捉えどころがないわねあなた。まあいいわ、メインフェイズ2に移行。手札から魔法カード《アイアンドロー》を発動」

 

《アイアンドロー》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみの場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。このカードの発動後、ターン終了時まで自分は1回しかモンスターを特殊召喚できない。

 

「私のフィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみの場合に発動できる。デッキからカードを2枚ドローするわ。その後私はモンスターを1回までしか特殊召喚できなくなるけど。そして私は永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を発動」

 

《未来融合-フューチャー・フュージョン》

永続魔法

(1):このカードの発動後1回目の自分スタンバイフェイズに発動する。自分のエクストラデッキの融合モンスター1体をお互いに確認し、そのモンスターによって決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。

(2):このカードの発動後2回目の自分スタンバイフェイズに発動する。このカードの(1)の効果で確認したモンスターと同名の融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

「次の私のスタンバイフェイズにエクストラデッキの融合モンスターを相手に見せることで、融合素材モンスターを墓地に送り、更にその次の私のスタンバイフェイズにその融合モンスターを融合召喚するわ。私はこれでターンエンドよ。そしてエンドフェイズ時に私はパワー・ボンドの効果で融合召喚したモンスターのアップした攻撃力分のダメージを受けるわ」

 

千春 LP8000→5900

 

 

ジェラルド LP5900 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:15 Pゾーン:青/赤 除外:3 エクストラデッキ:10(0)

千春 LP5900 手札2枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(キメラテック・ランぺージ・ドラゴン)EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・ズィーガー)魔法・罠:1(未来融合-フューチャー・フュージョン)墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

 

ジェラルド

 □□□□□

 □□□□□□

  □ ズ

□□□□ラ□

 □□未□□

千春

 

○凡例

ラ・・・キメラテック・ランぺージ・ドラゴン

未・・・未来融合-フューチャー・フュージョン

 

 

☆TURN03(ジェラルド)

 

「僕のターン、ドロー。このスタンバイフェイズに僕のセメタリーのD-ENDのエフェクトを発動。セメタリーのD-HERO ディバインガイをゲームから除外することで、D-ENDを特殊召喚する!“リバイブ・D”!!」

 

 地面を突き破って飛翔するDragoon D-END。D-ENDは他のD-HEROをゲームから除外することで自身を墓地から特殊召喚することができる。その方法は単に自身が墓地に存在するだけでいいため、融合召喚の条件に見合っただけの蘇生能力であると言えた。

 

「自己蘇生能力……だから私のターンに融合召喚して壁にしたのね」

「その通りだよ。攻撃力ではランぺージ・ドラゴンに劣るけど、D-ENDの強みは墓地にD-HEROが存在する限り毎ターン蘇ることができる。それこそが究極を名を持つ所以というわけだよ。僕は手札からV・HERO ヴァイオンを召喚。ヴァイオンの召喚成功時のエフェクトで僕はデッキから《E・HERO シャドー・ミスト》をセメタリーに送る。セメタリーに送られたシャドー・ミストのエフェクトを発動」

 

《E・HERO シャドー・ミスト》

効果モンスター(制限カード)

星4/闇属性/戦士族/攻1000/守1500

「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

「シャドー・ミストのエフェクトで僕は2体目のディバインガイを手札に加える。そしてヴァイオンのもう1つのエフェクト。セメタリーのシャドー・ミストを除外し、2枚目の融合を手札に加える。更に墓地のディアボリックガイのエフェクト発動。セメタリーの自身を除外し、2体目のディアボリックガイを特殊召喚する! 手札から魔法カード、融合を発動! 手札のディバインガイとフィールドのディアボリックガイで融合!“神聖なる英雄よ。残忍なる英雄よ。今一つとなりて暗黒の未来に君臨せよ!”融合召喚! カモン!《D-HERO ディストピアガイ》!!」

 

《D-HERO ディストピアガイ》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/戦士族/攻2800/守2400

「D-HERO」モンスター×2

「D-HERO ディストピアガイ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル4以下の「D-HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードの攻撃力が元々の攻撃力と異なる場合、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、このカードの攻撃力は元々の数値になる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「特殊召喚に成功したディストピアガイの効果を発動! 墓地のレベル4以下のD-HERO1体を対象に、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! 対象はレベル4のディバインガイだ!“スクイズ・パーム”!」

 

千春 LP5900→4300

 

「……さて、これで君の運命は決まった」

「私の運命?」

「ああ。僕の指し示したした占いの通り、ということだよ。君はここで僕に敗れてしまうという運命がね。Dragoon D-ENDのエフェクト発動! 相手フィールドに存在するモンスター1体を破壊し、それが表側表示モンスターだった場合、その攻撃力分のダメージを与える!」

「なんですって!?」

「対象はもちろんキメラテック・ランぺージ・ドラゴンだ! D-END、機械の竜をその魔弾で撃ち抜け!“インビンシブル・D”!!」

 

 D-ENDの竜の頭部を模した右腕から放たれた一撃が、ランぺージ・ドラゴンを撃ち抜いた。その一撃によってボディに風穴を開けられる形となったランぺージ・ドラゴンは大爆発を起こした後に四散した。

 

千春 LP4300→100

 

「きゃああっ!!」

 

 パワー・ボンドの効果で強化されていたランぺージ・ドラゴンの攻撃力は4200。一撃で勝負を決めるはずのランぺージ・ドラゴンの高い攻撃力がかえって仇となってしまった形であった。首の皮一枚で繋がる、というライフにまで追い込まれてしまった千春。まだバトルフェイズすら迎えていないのに、という感情が彼女の中に溢れるが、幸いにも完全に運命はまだ彼女を見放したようではなかったようだ。

 

「D-ENDのインビンシブル・Dを発動したターン、僕はバトルフェイズを行えない。でも残りライフ100でどうするのか。見せてもらいたいものだね。僕は墓地の神剣-フェニックスブレードのエフェクトを発動」

 

《神剣-フェニックスブレード》

装備魔法

戦士族モンスターにのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

自分のメインフェイズ時、自分の墓地に存在する戦士族モンスター2体をゲームから除外する事で、このカードを自分の墓地から手札に加える。

 

「墓地の戦士族モンスター2体を除外してこのカードを手札に戻す。除外するのはディバインガイとディスクガイだ。そしてこのカードをディストピアガイに装備」

 

D-HERO ディストピアガイ ATK2800→3100

 

「攻撃力が変動したことにより、ディストピアガイの2つ目のエフェクト発動。相手フィールドのカード1枚を破壊し、このカードの攻撃力を元に戻す。サイバー・ドラゴン・ズィーガーを破壊!“ノーブルジャスティス”!」

 

 ディストピアガイの両手から生じた渦のようなものに引き込まれたサイバー・ドラゴン・ズィーガーは、その渦ごとディストピアガイに握り潰されてしまった。サイバー・ドラゴン・ズィーガーはフィールドのサイバー・ドラゴンモンスターの攻撃力を自身の攻撃力分アップさせる効果を持っているため、仮に次のジェラルドのターンで戦闘に持ち込まれても返り討ちにすることができた。しかし、このように効果で処理されてしまえば元も子もない。千春を守るモンスターは全て消え失せてしまったのだ。

 

「さて、攻撃力の低いヴァイオンを残しておく意味はないね。僕はディストピアガイとヴァイオンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 見習い魔嬢! 見習い魔嬢のエフェクトでフィールドの闇属性モンスターの攻守は500ポイントアップし、光属性モンスターの攻守は400ポイントダウンする」

 

Dragoon D-END ATK3000/DEF3000→ATK3500/DEF3500

見習い魔嬢 ATK1400→1900

 

「僕はこれでターンエンドだ。さて、残された1ターンで君がどのくらいやれるのか見せてもらおうかな」

「っ……!!」

 

 

ジェラルド LP5900 手札1枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:1(Dragoon D-END)EXゾーン:1(見習い魔嬢)魔法・罠:0 墓地:15 Pゾーン:青/赤 除外:8 エクストラデッキ:9(0)

千春 LP100 手札2枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1(未来融合-フューチャー・フュージョン)墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

 

ジェラルド

 □□□□□

 □□D□□□

  見 □

□□□□□□

 □□未□□

千春

 

○凡例

D・・・Dragoon D-END

見・・・見習い魔嬢

 

 

☆TURN04(千春)

 

「私のライフは残り100……泣いても笑ってもこれが最後のドローになるわね」

「ああ。僕の描いたシナリオ通り、僕が作り上げた運命通りの結末になる」

「……運命か。でも、その運命を一手で覆すことができたなら……最高に面白くないかしら?」

(……どうしてだろうね。ここまで絶望的な状況でも何故笑っていられるのかな?)

 

 ジェラルドは、この時自分で思っている以上に熱くなっていた。何故ならば、極限まで追い込まれていてもなお、自分の指し示した運命という道を変えてしまおう、と強く願う人間が目の前に現れたからだ。

 日本人は世界で最も占いが好きな人種と言っていいほど日々占いを重視する。朝の星座占いや血液型占いでその日の身なりを変えたり、風水で家具の配置を変えたりするなど日常茶飯事のことだ。それが決して悪いことではないし、それを信じる当人がそれで救われるのであればより良いことでもある。

 自分が生まれ育った時から人とはそういうものなのだろう、と思ってきたジェラルドの目にはそれだけ千春の姿は新鮮で輝かしく見えた。そして同時に彼の中には自分でも気づかぬ間に「絶対にこの少女に勝ちたい」という気持ちが芽生えていたのだ。

 

(運命は揺るがない。揺るがせない! わずか1枚のカードで逆転など……)

「私のターン、ドロー!! このスタンバイフェイズに未来融合の1ターン目の効果を発動するわ! エクストラデッキのモンスター1体を互いに確認し、そのモンスターの融合素材となるモンスターを墓地に送る! 私が見せるのは―――《キメラテック・オーバー・ドラゴン》!!」

 

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星9/闇属性/機械族/攻?/守?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードが融合召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。このカードは融合素材としたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃できる。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴン……素材はサイバー・ドラゴンを含む機械族モンスター1体以上……まさか」

「気づいたようね。私はデッキからサイバー・ドラゴン1体を含む機械族モンスターを―――13体墓地に送る!」

 

 未来融合の効果で墓地に送られたのはサイバー・ドラゴン2体、サイバー・ドラゴン・コア2体、サイバー・ドラゴン・ヘルツ2体、サイバー・ドラゴン・ネクステア2体、サイバー・ドラゴン・フィーア1体、サイバー・ドラゴン・ドライ1体、壊星壊獣ジズキエル2体の計13体の機械族モンスターだ。千春のデッキからはこれで機械族モンスターは全て無くなってしまった。

 

「だが、未来融合の効果で融合召喚するならばまだあと1ターン待たなければならない。その手札のうち1枚はヘルツの効果でサーチしたサイバー・ドラゴン・フィーア。となると使えるのは残り2枚。その2枚で何ができるのかな?」

「運命をひっくり返すのに羽根、2枚もあれば十分なのよ! 私はサイバー・ドラゴン・フィーアを召喚! そしてフィールド、墓地の光属性・機械族モンスターを全て除外!!」

「墓地の光属性・機械族を全て除外……そうか、そのモンスターを引き当てていたのか」

「現れなさい!!《サイバー・エルタニン》!!」

 

《サイバー・エルタニン》

特殊召喚・効果モンスター

星10/光属性/機械族/攻?/守?

このカードは通常召喚できない。自分の墓地及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、機械族・光属性モンスターを全て除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力・守備力は、このカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×500になる。

(2):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動する。このカード以外のフィールドの表側表示モンスターを全て墓地へ送る。

 

「サイバー・エルタニンはフィールド・墓地の光属性・機械族モンスターを全て除外した場合のみ特殊召喚できる。そしてこのモンスターの攻守は特殊召喚のために除外したモンスターの数×500の数値になるわ!」

 

 千春が除外したモンスターは未来融合の効果で墓地に送られた13体に、元々墓地に存在していたサイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・コア、サイバー・ドラゴン・ヘルツ、サイバー・ドラゴン・ネクステア、サイバー・ドラゴン・ドライ、超電磁タートル、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの7体を合計した計20体。よってサイバー・エルタニンの攻守は20×500。

 

サイバー・エルタニン ATK?/DEF?→ATK10000/DEF10000

 

「攻撃力10000……」

「そしてサイバー・エルタニンの特殊召喚に成功した場合に発動! このカード以外のモンスターを全て墓地に送るわ! 星となりて消えなさい!!“コンステレイション・シージュ”!」

(まさか、本当に全てをひっくり返すとはね)

「バトルよ! サイバー・エルタニンでダイレクトアタック!!“ドラゴニス・アセンション”!!」

 

サイバー・エルタニン ATK10000

 

(デュエリストの魂は……運命をも乗り越える、か)

 

ジェラルド LP5900→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいデュエルだった。これが僕のパズルカードだよ。僕の分まで頑張ってくれよ?」

「ありがとう……ってあなたはこれで終わりなの?」

「ああ。今のが初デュエルだったからね。でも悔いはないさ。君のようなデュエリストに敗れたのならね」

 

 負けたにも関わらず清々しい微笑みを浮かべるジェラルド。千春はそんな彼の気持ちを斟酌してかしっかりと決意を秘めた眼でジェラルドからカードを受け取った。

 

「そうなんだ。でも心配しないで、私は絶対に決勝トーナメントに行ってやるんだから! もちろん、あなたの分も精一杯デュエルあげるわ!」

「期待しているよ。そうだ、せっかくだから君の今後の運勢を占わせてもらいたいんだけど」

「占いは……もういいかな。それよりも時間が惜しいわ、早速次のデュエル相手を探さないと! それじゃあね! またデュエルしましょう!」

 

 そう言ってエリアの奥に走っていく千春。ジェラルドは何も言わず占い用のデッキからカードを引いた。

 

「《魔導戦士 フォルス》の正位置か」

 

 

《魔導戦士 フォルス》

効果モンスター

星4/炎属性/魔法使い族/攻1500/守1400

1ターンに1度、自分の墓地の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚をデッキに戻し、フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力を500ポイントアップする。

 

 

「勇気・強固な意志・不撓不屈……彼女らしいな。今のまま、真っすぐにあれ。それを一デュエリストとして願っているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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綺麗な花には棘がある

 

 

 

 

「はぁ、流石に少し疲れました……」

 

 Cブロックに組み分けられた皐月であったが、彼女は元来人見知りな性格である。それが災いしてか中々自分からデュエルを仕掛けることができずにいた。しかし、同時間帯において相手から避けられまくっていた遊希や周りがデュエルに熱中して順番待ちになっていた千春とは異なり、彼女に対してデュエルを挑んできた生徒は少なからずいた。

 最もそれらの生徒は皆男子生徒である。社会情勢の変化によって女性が強くなった昨今、皐月のように良い意味で前時代的な女子は男子たちの眼にはある意味魅力的に見えたのかもしれない。だが、そんな男子たちにおいそれと負ける皐月ではなく、既に3戦して2勝1敗と1年生にしては中々の成績を収めていた。

 遊希たちとのデュエルを経て皐月はデッキを改造した。もちろん自分のデッキのエースであるヴァレルロード・ドラゴンとそれらのリンクモンスターを素早くリンク召喚できるようにだ。

 

「なんとかさっきの負けは取り返しましたが……このままでは勝ち抜くのは厳しいですね」

 

 パズルカードを維持しつつ規定枚数を集めるのは思っている以上に大変なことである。現に自分が倒した相手のパズルカードが0になり、目の前で予選落ちになっている。自分も決してそうならないとは限らないのだから。

 

(でも、ここでへこたれちゃダメですよね。私は約束したんです……みんなで決勝で会おうって)

 

 決意を露わにし、握りこぶしをぎゅっと作る皐月。そんな時、どこからか悲鳴が聞こえてきた。何事か、と思った皐月の足は自然と声のした方へと向かっていた。普段は気弱なところがある皐月であるが、そんな彼女にもやはりデュエリストとしての血が流れているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、私の勝ちよ」

 

 辿り着いた先ではデュエルに敗れたと思われる男子生徒3人組と彼ら3人を倒したと思われるデュエリストがいた。皐月は柱の陰からこっそりとその状況を覗き込む。

 

(……まさかあの人、3連勝したということなのでしょうか……)

「くっ……ここまでいいようにされちまうなんて……」

「しょうがないじゃない。だって私3年生だもの」

「だから言っただろ。3年の花沢先輩に挑むのは辞めとけって」

 

 皐月はその名前に聞き覚えがあった。1年生、とりわけ『男子生徒』の中で有名な生徒。吹奏楽部の部長である3年生の花沢 奏(はなざわ かなで)の名を。

 

(あの人が花沢先輩……初めて見ました)

 

 そんな有名人を見た皐月は目を丸くしていた。名前だけは知っていたため初めて見る奏はイメージとしていたものとはだいぶ違っていたからだ。美しいということは事前に聞いており、それは噂に違わぬことだったのだが。

 

(まさか……男の人だったなんて。私てっきり女の人かと思い込んでました)

 

 その姿形を見たことない人間は皆間違えることなのだが、花沢 奏は生物学的観点ではどう見ても“男性”である。しかし、男性でありながら彼は制服にフリルをつけてアレンジをしていたり、料理やメイキャップが得意などと女子以上に女子をしていた。

 そのため、男子生徒からは“ある意味”で危険人物扱いされており、2年生までの男子生徒、とりわけ顔とスタイルがいい男子生徒は彼の前に無防備な姿を晒してはいけない、という噂もまことしやかに囁かれるほどであった。

 

(それでいて3年生でも実力者の一人。さすがにあの人相手に私では……)

 

 もちろんデュエルの腕も学内では有数な方であり、遊希やエヴァクラスの1年生ならまだしも皐月のような普通の1年生では到底太刀打ちできないほどの相手なのだ。ここは引き下がろう、と思った皐月であったが、そんな時に限って緊張していたのか足がもつれてその場で思い切り転んでしまった。そして転んだ際に「きゃっ!」と悲鳴を上げたせいでその場にいたことが奏にバレてしまった。

 

「いたた……」

「あら? こんなところに可愛い子猫ちゃん」

 

 まるで少女漫画に出てくる王子様のように整った外見をした奏が皐月に手を差し伸べる。

 

「す、すいません……」

「いいのよ。ところで、貴女はこんなところで何をしていたのかしら?」

「えっ……わ、私は……」

「まあ大方今のデュエルを見ていたのね。盗み見はあまり褒められたものではないわよ?」

「ご、ごめんなさい」

 

 皐月が来た時には既にデュエルは終わっており、彼女は盗み見していたわけではない。しかし、律儀に頭を下げる皐月。しかし、愚直で誠実なところを奏はどこか気に入ったようだった。

 

「でもそれは盗み見したくなるようなデュエルができるようになったってことね。それなら私嬉しいわ。そう言えば貴女もデュエリストよね? パズルカードの集まり具合はどうかしら?」

 

 そう言われて皐月は素直に手持ちのパズルカード2枚を見せる。奏は1年生ながら2枚のパズルカードを集めた皐月の実力を素直に称賛した。このアカデミアにおいて学年の差というものは思っている以上に大きなものであり、1年生が上級生相手に勝ち星を上げられるということはそれだけで称賛に値すると言えるのだ。そして奏はそれだけの腕を持つ皐月とデュエルをしたい、とも告げた。

 

「わ、私とデュエルですか?」

「ええ、あなたは腕利きのデュエリスト。私の勘がそう告げているわ。少なくとも今戦ったあの子たちよりかは強いってね」

「そ、そんなの過大評価です……」

「じゃあ私のデュエリストとしての、女としての勘が合ってるか間違ってるか。それをデュエルで試してみましょう?」

(お、女としての勘って……)

 

 デュエルするしないは個人の決めることなので皐月はこの申し出を断ることもできた。しかし、彼女はこのデュエルを受けた。これが奏の言う“女としての勘”なのかどうかはわからないが、皐月の中でこのデュエルから逃げてはならない、という決意が芽生えて始めていたのである。

 デュエルディスクによって、このデュエルの先攻後攻決定権は奏に与えられた。彼は先攻を取り、皐月は後攻となった。皐月の改造したデッキはヴァレルロードを出すこともそうだが、全力を出すには時間のかかるデッキである。少なくとも相手の出方を伺った上で準備を整える必要があった。

 

「それじゃあ、お手柔らかにね♪」

「は、はい……では」

「デュエルよ♪」

「デュ、デュエルです」

 

 奏はイケメンの部類に入るのだが、それでもやはり女言葉には無理があるのではないか、と思わざるを得ない皐月であった。

 

 

先攻:奏

後攻:皐月

 

奏 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

皐月 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

皐月

 

 

☆TURN01(奏)

 

「私の先攻よ。私は《マスマティシャン》を召喚」

 

《マスマティシャン》

効果モンスター

星3/地属性/魔法使い族/攻1500/守500

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。

(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

(マスマティシャン……召喚成功時の効果でレベル4以下のモンスター1体を墓地に送ることができるモンスター。これだけでは花沢先輩のデッキはわかりませんが……)

「召喚に成功したマスマティシャンの効果を発動するわ。デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地に送る」

「その効果にチェーンして手札から灰流うららの効果を発動します」

 

《灰流うらら》

チューナー・効果モンスター(準制限カード)

星3/炎属性/アンデット族/攻0/守1800

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):以下のいずれかの効果を含む魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その効果を無効にする。

●デッキからカードを手札に加える効果

●デッキからモンスターを特殊召喚する効果

●デッキからカードを墓地へ送る効果

 

「そうね、私が貴方と同じ立場なら迷わず灰流うららを使うわ。でも対策済みよ。手札から速攻魔法《墓穴の指名者》を発動するわ」

 

《墓穴の指名者》

速攻魔法

(1):相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。次のターンの終了時まで、この効果で除外したモンスター及びそのモンスターと元々のカード名が同じモンスターの効果は無効化される。

 

チェーン3(奏):墓穴の指名者

チェーン2(皐月):灰流うらら

チェーン1(奏):マスマティシャン

 

「チェーン3の墓穴の指名者の効果であなたの墓地の灰流うららをゲームから除外するわ。そして除外された灰流うららの効果は次のターンの終了時まで無効化される」

「……やはり通りませんか。チェーン2の灰流うららの効果は無効化されたため、適用されません」

「チェーン逆順処理により、チェーン1のマスマティシャンの効果は発動するわ。私はデッキからレベル1の《オルフェゴール・カノーネ》を墓地に送るわ」

 

 【オルフェゴール】は闇属性・機械族で統一されたテーマであり、墓地から除外することで後続のオルフェゴールモンスターを特殊召喚し、それを素材に複数回のリンク召喚に繋げることを狙いとするデッキだ。その名前や見た目からオルゴールや楽器をモチーフにしているため、吹奏楽部の部長である奏が使うには相応しいデッキといえるだろう。

 

(オルフェゴールはリンク主体のデッキ……私のデッキとは相性は悪くありませんが……)

「そして墓地のオルフェゴール・カノーネの効果を発動」

 

《オルフェゴール・カノーネ》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/機械族/攻500/守1900

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から「オルフェゴール・カノーネ」以外の「オルフェゴール」モンスター1体を特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「墓地のカノーネを除外し、手札からオルフェゴールモンスター1体を特殊召喚するわ。特殊召喚するのは、レベル4の《オルフェゴール・ディヴェル》よ」

 

《オルフェゴール・ディヴェル》

効果モンスター

星4/闇属性/機械族/攻1700/守1400

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「オルフェゴール・ディヴェル」以外の「オルフェゴール」モンスター1体を特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「そして私はマスマティシャンとオルフェゴール・ディヴェルをリンクマーカーにセット。アローヘッド確認、召喚条件はオルフェゴールモンスターを含むモンスター2体よ。サーキットコンバイン。リンク召喚。現れなさい、リンク2《オルフェゴール・ガラテア》」

 

 奏のフィールドには何処か物悲しさを帯びた機械人形のようなモンスターが現れた。オルフェゴールというテーマにはストーリーがあり、そのストーリーの鍵を握る存在の一つがこのオルフェゴール・ガラテアというモンスターだ。

 

《オルフェゴール・ガラテア》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/機械族/攻1800

【リンクマーカー:右上/左下】

「オルフェゴール」モンスターを含む効果モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):リンク状態のこのカードは戦闘では破壊されない。

(2):除外されている自分の機械族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻す。その後、デッキから「オルフェゴール」魔法・罠カード1枚を自分フィールドにセットできる。

 

「ガラテアの2つ目の効果を発動するわね。除外されているオルフェゴール・カノーネをデッキに戻し、その後にデッキからオルフェゴールの魔法・罠カード1枚を私のフィールドにセットするわ。セットするのはフィールド魔法《オルフェゴール・バベル》。そしてセットしたオルフェゴール・バベルを発動よ」

 

 悲しくも美しい戯曲の舞台となる天を貫かんとする巨大な塔が奏のフィールドに顕現した。

 

《オルフェゴール・バベル》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、元々のカード名に「オルフェゴール」を含む、自分フィールドのリンクモンスター及び自分の墓地のモンスターが発動する効果は、相手ターンでも発動できる効果になる。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「オルフェゴール・バベルが存在する限り、オルフェゴールモンスターが発動する効果は相手ターンでも発動できるようになるわ。さてと……序奏の準備はこんなものかしらね」

 

 そう言って微笑む奏。その笑みは男性が見せるものとは思えないほど女性的な美しさを持っていたが、彼がそのような笑みを浮かべる時は決まっていた。それは自分の手の中に彼が思い浮かべる理想のステージが出来上がっている時なのである。

 

「では演奏開始よ。墓地のディヴェルをゲームから除外してデッキから《オルフェゴール・スケルツォン》をデッキから特殊召喚するわ」

 

《オルフェゴール・スケルツォン》

効果モンスター

星3/闇属性/機械族/攻1200/守1500

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):墓地のこのカードを除外し、「オルフェゴール・スケルツォン」以外の自分の墓地の「オルフェゴール」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「そして私はリンク2のオルフェゴール・ガラテアとオルフェゴール・スケルツォンをリンクマーカーにセット。リンク3のサモン・ソーサレスをリンク召喚するわ。そして墓地のスケルツォンの効果を発動。自身を除外して墓地のオルフェゴールモンスター1体を特殊召喚するわ。スケルツォンの効果はオルフェゴールであればどのモンスターでも蘇生することができるのよ。サモン・ソーサレスの左下のリンク先にガラテアを蘇生。そしてサモン・ソーサレスの効果で右下のリンク先にガラテアと同じ機械族モンスター1体を守備表示で特殊召喚するわ。特殊召喚するのは《星遺物-『星杖』》よ」

 

《星遺物-『星杖』》

効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻500/守2500

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):通常召喚したこのカードはEXデッキから特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されない。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。手札から「星遺物」モンスター1体を特殊召喚する。

(3):墓地のこのカードを除外し、除外されている自分の「オルフェゴール」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「そして私はリンク2のガラテアと星杖をリンクマーカーにセット。召喚条件はオルフェゴールモンスターを含む効果モンスター2体以上。サーキットコンバイン。悲壮な意思を込めて奏でなさい。リンク召喚。リンク3《オルフェゴール・ロンギルス》」

 

《オルフェゴール・ロンギルス》

リンク・効果モンスター

リンク3/闇属性/機械族/攻2500

【リンクマーカー:左上/上/右下】

「オルフェゴール」モンスターを含む効果モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):リンク状態のこのカードは効果では破壊されない。

(2):除外されている自分の機械族モンスター2体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻す。その後、リンク状態の相手モンスター1体を選んで墓地へ送る事ができる。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

「墓地の星遺物-『星杖』の効果。自身をゲームから除外し、除外されている私のオルフェゴールモンスター1体を対象として発動。そのモンスターをフィールドに特殊召喚するわ。特殊召喚するのは除外されているディヴェルを特殊召喚。第一楽章はこれで一段落と行きましょう。リンク3のサモン・ソーサレスとディヴェルをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。さぁ……あなたはこの子の前でどのような音を奏でてくれるのかしら? リンク召喚。リンク4《トポロジック・ボマー・ドラゴン》」

 

《トポロジック・ボマー・ドラゴン》

リンク・効果モンスター

リンク4/闇属性/サイバース族/攻3000

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

効果モンスター2体以上

(1):このカードがモンスターゾーンに存在し、フィールドのリンクモンスターのリンク先にこのカード以外のモンスターが特殊召喚された場合に発動する。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。このターン、このカード以外の自分のモンスターは攻撃できない。

(2):このカードが相手モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動する。その相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

「私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

 

 

奏 LP8000 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(オルフェゴール・ロンギルス)EXゾーン:1(トポロジック・ボマー・ドラゴン)魔法・罠:1(オルフェゴール・バベル)墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:11(0)

皐月 LP8000 手札4枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □□ギ□□バ

  ボ □

□□□□□□

 □□□□□

皐月

 

 

○凡例

ボ・・・トポロジック・ボマー・ドラゴン

ギ・・・オルフェゴール・ロンギルス

バ・・・オルフェゴール・バベル

 

 

 

 

 

 

 



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百戦錬磨の勘

 

 

 

 

 

☆TURN02(皐月)

 

「私のターンです、ドロー」

(……トポロジック・ボマー・ドラゴンにオルフェゴール・ロンギルス、ですか)

 

 トポロジック・ボマー・ドラゴンは自身のリンクマーカーが向いている先にモンスターが出されることで、メインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する効果を持っている。この効果にターン内の発動制限はなく、モンスターが何度でも発動可能だ。この効果とのコンボが危惧された結果《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》が禁止カードに指定されたほどのものである。この効果の強力さはデュエリストならば誰もが知っていた。

 

(オルフェゴール・バベルが存在することで花沢先輩は私のターンでもオルフェゴールモンスターの効果を発動できる。ディヴェルやスケルツォンといったオルフェゴールモンスターの効果でメインモンスターゾーンにオルフェゴールを特殊召喚するだけでトポロジック・ボマー・ドラゴンの起爆スイッチになる。そしてオルフェゴール・ロンギルスはリンク状態の時に効果で破壊されません……)

 

 もちろんトポロジック・ボマー・ドラゴンの破壊効果は皐月の【ヴァレット】にはメリットになり得るだろう。しかし、オルフェゴール・ロンギルスは除外されているモンスター2体をデッキに戻すことで自身のリンク先に存在するモンスター1体を墓地に送る効果を持っている。

 オルフェゴール・ロンギルスのリンクマーカーは空いているもうEXゾーンに向いており、皐月がもう片方のEXゾーンにエクストラデッキからモンスターを召喚すれば、ロンギルスの効果で除去に動くだろう。しかもこれは対象に取らない効果のため“モンスター効果の対象にならない”ヴァレルロード・ドラゴンであっても対処できないのが現状だ。

 

(……まずはトポロジック・ボマー・ドラゴンを処理します。反撃はそれからでも遅くはありません)

 

 今までの皐月であれば半ば諦めていたであろう制圧盤面。しかし、遊希たちと日々を過ごすことで成長した彼女は逆境においてもある程度ではあるが、冷静でいることができた。それこそ、コスプレをせずともデュエルで全力を出すようになれるまでには。

 

「メインフェイズ1、私はモンスターをセットします」

「そしてカードを2枚セットしてターンエンドです」

「ではそのエンドフェイズに墓地のディヴェルの効果を発動させてもらうわ。自身を除外し、デッキから2体目のスケルツォンをトポロジックのリンク先に特殊召喚。そして自身のリンク先にモンスターが現れたことでトポロジックの効果を発動。メインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊するわ。“フルオーバーラップ”」

 

 けたたましい咆哮と共に放たれたトポロジックのエネルギー波によって、メインモンスターゾーンのモンスターが破壊される。破壊されたのは皐月のセットしたアネスヴァレット・ドラゴンと奏のスケルツォンの2体。

 

「破壊されたアネスヴァレット・ドラゴンの効果を発動します」

「あら……貴女のデッキはヴァレットだったのね。少々迂闊だったかしら?」

「デッキからマグナヴァレット・ドラゴンを守備表示で特殊召喚します! これで本当にターンエンドですね」

 

 

奏 LP8000 手札2枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(オルフェゴール・ロンギルス)EXゾーン:1(トポロジック・ボマー・ドラゴン)魔法・罠:1(オルフェゴール・バベル)墓地:3 Pゾーン:青/赤 除外:4 エクストラデッキ:11(0)

皐月 LP8000 手札2枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(マグナヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:2 墓地:1 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □□ギ□□バ

  ボ □

□□□マ□□

 □伏伏□□

皐月

 

 

☆TURN03(奏)

 

「私のターン、ドローよ」

「ではこのドローフェイズにセットされていた速攻魔法、クイック・リボルブを発動します!」

(クイック・リボルブはデッキからヴァレットモンスターを特殊召喚する速攻魔法。でも私のターンで発動してどうするつもりなのかしら)

「そしてそのクイック・リボルブにチェーンしてもう1枚のセットカードを発動します。永続罠《破壊輪廻》です!」

 

《破壊輪廻》

永続罠

(1):このカードは魔法&罠ゾーンに存在する限り、カード名を「破壊輪」として扱う。

(2):1ターンに1度、フィールドのモンスターが効果で破壊された場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、お互いに500ダメージを受ける。

 

チェーン2(皐月):破壊輪廻

チェーン1(皐月):クイック・リボルブ

 

「破壊輪廻……なるほど、そういうことね」

「チェーン1のクイック・リボルブの効果でデッキからヴァレットモンスター1体を特殊召喚します! 特殊召喚するのはレベル3のオートヴァレット・ドラゴンです! 特殊召喚するのはトポロジック・ボマー・ドラゴンの正面のメインモンスターゾーンです!」

 

 トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果は強制効果。モンスターが自身のリンク先に特殊召喚される度に発動するのだ。トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果・フルオーバーラップによって、皐月のフィールドの2体のヴァレットモンスターが破壊される。だが、それが破壊輪廻の起爆スイッチとなった。

 

「フィールドのモンスターが効果で破壊されたことにより、破壊輪廻の効果が発動します! フィールドのモンスター1体を破壊し、互いに500のダメージを受けます! 破壊するのはもちろんトポロジック・ボマー・ドラゴンです!」

 

 ∞の形状の周りに手榴弾のようなものがついたリングがトポロジック・ボマー・ドラゴンの身体に巻きつけられる。トポロジック・ボマー・ドラゴンはそれを外そうと身体をくねらせるが、それより先に破壊輪廻に付けられた爆弾が発動。トポロジック・ボマー・ドラゴンの身体はその爆発に巻き込まれて爆発四散した。

 

皐月 LP8000→7500

奏 LP8000→7500

 

「トポロジック・ボマー・ドラゴンは攻撃的なモンスターではあるけど、防御態勢は持ち合わせていないのよね……でも今はまだ私のターンよ。ヴァレットモンスターの弱点は動きの遅さ。1体のモンスターを倒すのにフィールドをがら空きにしてしまうようではまだまだね」

「……それに関しては花沢先輩の仰る通りです」

「あら、素直なのね。でもそんな子は嫌いじゃないわ。メインフェイズ1、私は墓地のスケルツォンの効果を発動。このカードをゲームから除外して墓地のオルフェゴールモンスター1体を特殊召喚するわ。特殊召喚するのはリンクモンスターのオルフェゴール・ガラテアよ。そしてバトルフェイズに移らせてもらうわ。ガラテアでダイレクトアタックよ」

 

オルフェゴール・ガラテア ATK1800

 

皐月 LP7500→5700

 

「そしてロンギルスで追撃」

 

オルフェゴール・ロンギルス ATK2500

 

皐月 LP5700→3200

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移るわ。ガラテアの効果を発動。除外されているスケルツォン1体をデッキに戻し、デッキからオルフェゴール魔法・罠カード1枚を私のフィールドにセットする。セットするのは通常魔法の《オルフェゴール・プライム》よ。そしてセットされたプライムを発動」

 

《オルフェゴール・プライム》

通常魔法

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、「オルフェゴール」モンスターまたは「星遺物」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「フィールドのガラテアを墓地に送って2枚ドローするわ。私は手札からスケルツォンを召喚。そしてリンク3のロンギルスとスケルツォンをリンクマーカーにセット。召喚条件はオルフェゴールモンスターを含む効果モンスター2体。サーキットコンバイン。さあ、奏でなさい。哀愁の楽団の最終舞台。リンク4《オルフェゴール・オーケストリオン》」

 

《オルフェゴール・オーケストリオン》

リンク・効果モンスター

リンク4/闇属性/機械族/攻3000

【リンクマーカー:上/右上/左下/下】

「オルフェゴール」モンスターを含む効果モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):リンク状態のこのカードは戦闘・効果では破壊されない。

(2):除外されている自分の機械族モンスター3体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻す。相手フィールドにリンク状態の表側表示モンスターが存在する場合、それらのモンスターは、攻撃力・守備力が0になり、効果は無効化される。

 

「私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

「ではターン終了時にこのターン破壊されたマグナヴァレットとオートヴァレットの効果を発動します。デッキからメタルヴァレット・ドラゴンと2体目のマグナヴァレット・ドラゴンの2体を特殊召喚します!」

 

 

奏 LP7500 手札3枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(オルフェゴール・オーケストリオン)魔法・罠:2(オルフェゴール・バベル)墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:4 エクストラデッキ:10(0)

皐月 LP3200 手札2枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(メタルヴァレット・ドラゴン、シェルヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:1(破壊輪廻)墓地:4 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□伏□□

 □□□□□バ

  オ □

□□メ□マ□

 □□輪□□

皐月

 

○凡例

 

オ・・・オルフェゴール・オーケストリオン

輪・・・破壊輪廻

 

 

☆TURN04(皐月)

 

 

「私のターンです、ドロー!……私は手札からマスマティシャンを召喚します!」

「あら、あなたもそのカードを入れているのね。まあ汎用性の高いモンスターだししょうがないといえばしょうがないのかしら」

「マスマティシャンの効果で私は《ダンディライオン》を墓地に送ります。そして墓地に送られたダンディライオンの効果を発動します」

 

《ダンディライオン》

効果モンスター(制限カード)

星3/地属性/植物族/攻300/守300

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。自分フィールドに「綿毛トークン」(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。

 

「自分フィールドに綿毛トークン2体を守備表示で特殊召喚します」

「ではその効果にチェーンして私は墓地のスケルツォンの効果を発動するわ」

 

チェーン2(奏):オルフェゴール・スケルツォン

チェーン1(皐月):ダンディライオン

 

「墓地のスケルツォンを除外し、墓地のロンギルスを特殊召喚させてもらうわね」

「……ダンディライオンの効果で私のフィールドに綿毛トークン2体を特殊召喚します。そしてこの綿毛トークン2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚!《アロマセラフィ-ジャスミン》!」

 

《アロマセラフィ-ジャスミン》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/植物族/攻1800

【リンクマーカー:左下/右下】

植物族モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分のLPが相手より多い場合、このカード及びこのカードのリンク先の植物族モンスターは戦闘では破壊されない。

(2):このカードのリンク先の自分のモンスター1体をリリースして発動できる。デッキから植物族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

(3):1ターンに1度、自分のLPが回復した場合に発動する。デッキから植物族モンスター1体を手札に加える。

 

「アロマセラフィ-ジャスミンの効果を発動! このカードのリンク先に存在する自分のモンスター1体をリリースし、デッキから植物族モンスター1体を守備表示で特殊召喚します! マスマティシャンをリリース!」

「更なる展開に繋げるのが狙いのようだけど、それを見過ごせるほど私は甘くないの。その効果にチェーンしてオルフェゴール・ロンギルスの効果を発動するわ!」

 

チェーン2(奏):オルフェゴール・ロンギルス

チェーン1(皐月):アロマセラフィ-ジャスミン

 

「チェーン2のロンギルスの効果。除外されているスケルツォンとディヴェルの2体をデッキに戻すことでリンク状態の相手モンスター1体を墓地に送る。墓地に送るのはアロマセラフィ-ジャスミンよ」

 

 ロンギルスの手に持つ槍から放たれた負のオーラがジャスミンを飲み込んでは消えていく。この効果は対象を取らない効果であるため、ロンギルスの左上のリンクマーカーの先、つまり空いている方のEXゾーンに存在するモンスターの大半をこの効果で処理することができるのだ。

 

「ですがフィールドを離れているとはいえ、無効にされたわけではありません。ジャスミンの効果で私はデッキから《ローンファイア・ブロッサム》を特殊召喚します!」

 

《ローンファイア・ブロッサム》

効果モンスター(制限カード)

星3/炎属性/植物族/攻500/守1400

(1):1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の植物族モンスター1体をリリースして発動できる。デッキから植物族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「そしてローンファイア・ブロッサムをリリースし、デッキから植物族モンスター1体を特殊召喚します。特殊召喚するのは《捕食植物オフリス・スコーピオ》です!」

 

《捕食植物オフリス・スコーピオ》

効果モンスター(制限カード)

星3/闇属性/植物族/攻1200/守800

「捕食植物オフリス・スコーピオ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。デッキから「捕食植物オフリス・スコーピオ」以外の「捕食植物」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「特殊召喚に成功したオフリス・スコーピオの効果を発動。手札のモンスター1体をコストにデッキから同名カード以外の捕食植物1体を特殊召喚します。特殊召喚するのは《捕食植物ダーリング・コブラ》です!」

 

《捕食植物ダーリング・コブラ》

効果モンスター

星3/闇属性/植物族/攻1000/守1500

「捕食植物ダーリング・コブラ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):このカードが「捕食植物」モンスターの効果で特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」魔法カードまたは「フュージョン」魔法カード1枚を手札に加える。

 

「特殊召喚に成功したダーリング・コブラの効果を発動します! デッキから融合魔法カードもしくはフュージョン魔法カード1枚を手札に加えます! 手札に加えるのは《ブリリアント・フュージョン》です!」

(【ヴァレット】は動きの遅さが弱点と言えるデッキだけど……それを補うために【植物リンク】のギミックを取り入れたということかしら。これはひょっとするとひょっとするかもしれないわね……)

 

 奏は予感していた。自分で言うのはとてもおこがましいことではあるのだが、このセントラル校の学生デュエリストとして自分は百戦錬磨であるということを。そしてそんな百戦錬磨の自分だからこそわかることもある。彼のその直感が告げている。皐月の心の奥に秘められた、反撃の一発の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 



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代理戦争

 

 

 

 

 

「私はレベル3のオフリス・スコーピオとダーリング・コブラをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2の《アンダークロックテイカー》をリンク召喚します!」

 

《アンダークロックテイカー》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/サイバース族/攻1000

【リンクマーカー:左/下】

効果モンスター2体

(1):1ターンに1度、このカードのリンク先の表側表示モンスター1体と、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力はターン終了時まで、対象としたリンク先のモンスターの攻撃力分だけダウンする。

 

「アンダークロックテイカーの効果! このカードのリンク先に存在するモンスター1体と相手フィールドに存在するモンスター1体を対象に発動します! 対象はマグナヴァレットとロンギルスです!」

(……マグナヴァレット・ドラゴンの効果はリンクモンスターの効果の対象になった時に発動するもの。アンダークロックテイカーの対象になったことでこの効果は問題なく発動する)

「だったらその効果にチェーンしてオルフェゴール・オーケストリオンの効果を発動するわ」

「では効果にチェーンしてアンダークロックテイカーの対象になったマグナヴァレット・ドラゴンの効果を発動します!」

 

チェーン3(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン

チェーン2(奏):オルフェゴール・オーケストリオン

チェーン1(皐月):アンダークロックテイカー→マグナヴァレット・ドラゴン、オルフェゴール・ロンギルス

 

「チェーン3のマグナヴァレット・ドラゴンの効果! このカードを破壊し、フィールドのモンスター1体を墓地に送ります! 墓地に送るのはオルフェゴール・ロンギルスです!」

 

 一発の弾丸となったマグナヴァレット・ドラゴンは、ロンギルスを盾の上から撃ち抜く。オルフェゴール・ロンギルスはリンク状態の時は「効果では破壊されない」。しかし、マグナヴァレット・ドラゴンの効果は「墓地に送る」ため、ロンギルスの耐性を無視することができるのだ。

 

「チェーン2のオルフェゴール・オーケストリオンの効果。除外されている機械族モンスター3体をデッキに戻し、相手フィールドに存在するリンク状態のモンスターの効果を無効にし、攻守を0にするわ。今あなたのフィールドに存在するリンク状態のモンスターは私のオーケストリオンのリンク先に存在するメタルヴァレット・ドラゴン。その効果は全て無効化され、攻守は0になる」

 

メタルヴァレット・ドラゴン ATK1600/DEF1400→ATK0/DEF0

 

「チェーン1のアンダークロックテイカーの効果の対象になったロンギルスはフィールドに存在しません。よってアンダークロックテイカーの効果は不発に終わります」

「今のミスは手痛いわね。オーケストリオンを対象にしていれば、オーケストリオンの攻撃力を1800下げれていたのに」

「……手札から永続魔法、ブリリアント・フュージョンを発動します!」

 

《ブリリアント・フュージョン》

永続魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動時に、自分のデッキから「ジェムナイト」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を、攻撃力・守備力を0にしてEXデッキから融合召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

(2):1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を捨てて発動できる。このカードの効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで元々の数値分アップする。

 

「このカードの発動時に、私はデッキから《ジェムナイト・ラズリー》と光属性モンスターの《Emトリック・クラウン》の2体を墓地に送り、《ジェムナイト・セラフィ》を攻撃力・守備力を0にして融合召喚します!」

 

《ジェムナイト・セラフィ》

融合・効果モンスター

星5/地属性/天使族/攻2300/守1400

「ジェムナイト」モンスター+光属性モンスター

このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにモンスター1体を通常召喚できる。

 

ジェムナイト・セラフィ ATK2300/DEF1400→ATK0/DEF0

 

「そしてブリリアント・フュージョンの効果で墓地に送られたEmトリック・クラウンの効果を発動します!」

 

《Emトリック・クラウン》

効果モンスター

星4/光属性/魔法使い族/攻1600/守1200

「Emトリック・クラウン」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「Em」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。その後、自分は1000ダメージを受ける。

 

「Emモンスターである自身を対象に発動! トリック・クラウンを攻守を0にして墓地から特殊召喚します!」

 

Emトリック・クラウン ATK1600/DEF1200→ATK0/DEF0

 

皐月 LP3200→2200

 

「わずか1枚のカードでフィールドに4体ものモンスターを揃えるとはね。でもアンダークロックテイカーとリンクしているセラフィの効果はオーケストリオンによって無効化されている。よって通常召喚権を増やすことはできないわ」

「……十分です!! 私はリンク2のアンダークロックテイカーとジェムナイト・セラフィ、トリック・クラウンをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認。召喚条件は効果モンスター3体以上! サーキットコンバイン!!」

 

 リンク2のアンダークロックテイカーが2つの光へと分かれ、残りの2体はそれぞれ1つの光となって天空に現れたリンクマーカーへと吸い込まれていく。光ったリンクマーカーは上・左・左下・下の4か所。そして現れたのはヴァレルロード・ドラゴンに似たような姿をしながらも頭部の角が剣のように鋭く尖ったモンスターであった。

 

「現れよ! 私と共に歩む第二の竜!《ヴァレルソード・ドラゴン》!!」

 

《ヴァレルソード・ドラゴン》

リンク・効果モンスター

リンク4/闇属性/ドラゴン族/攻3000

【リンクマーカー:上/左/左下/下】

効果モンスター3体以上

(1):このカードは戦闘では破壊されない。

(2):1ターンに1度、攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示にする。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。この効果の発動に対して相手は効果を発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3):1ターンに1度、このカードが表側表示モンスターに攻撃宣言した時に発動できる。ターン終了時まで、このカードの攻撃力はそのモンスターの攻撃力の半分アップし、そのモンスターの攻撃力は半分になる。

 

「ヴァレルソード・ドラゴン……それがあなたのエースモンスターの1体ということね」

「はい! そして……バトルです! ヴァレルソード・ドラゴンでオルフェゴール・オーケストリオンを攻撃します! そしてこの瞬間、ヴァレルソードの2つ目の効果を発動します! フィールドの攻撃表示モンスター、メタルヴァレット・ドラゴンを守備表示に変更します」

 

メタルヴァレット・ドラゴン DEF0

 

「もちろんオーケストリオンとリンク状態のメタルヴァレットの効果は無効化されているため、リンクモンスターの効果の対象になっても破壊されません。ですが、それで構いません! ヴァレルソード・ドラゴンの3つ目の効果! 表側表示モンスターに対して攻撃宣言をした時、ターン終了時までヴァレルソード・ドラゴンの攻撃力はそのモンスターの攻撃力の半分アップし、そのモンスターの攻撃力を半分にします!!」

「……なるほど、そういうことをするのね」

 

ヴァレルソード・ドラゴン ATK3000→ATK4500

 

オルフェゴール・オーケストリオン ATK3000→ATK1500

 

「全てを切り裂きなさい!“電光のヴァレルソード・スラッシュ”!」

 

ヴァレルソード・ドラゴン ATK4500 VS オルフェゴール・オーケストリオン ATK1500

 

奏 LP7500→4500

 

「……まさか私のオルフェゴールたちがわずか1ターンで攻略されるとはね。流石に予想外だったわ。反撃の機会は残っている、と言いたいところだけどこのデュエルはこれで終わりのようね」

「花沢先輩は全てお判りのようですね……2つ目の効果を発動したターン、ヴァレルソード・ドラゴンは一度のバトルフェイズに二度攻撃できます!! 電光のヴァレルソード・スラッシュ 第二撃!!」

 

ヴァレルソード・ドラゴン ATK4500

 

(一年生にもこんな子がいるのなら……セントラル校も安泰ね)

 

奏 LP4500→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いデュエルだったわ。はい、これが私のパズルカードよ」

 

 奏から手渡されたパズルカードを渋々受け取る皐月。しかし、彼女はどこか申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「先輩……」

「あら、そんな気の毒そうな顔しないでちょうだい。貴女は私に勝ったんだしもっと胸を張りなさい。自分で言うのもなんだけど私結構デュエルの腕には自信があるのよ?」

「でも……」

「でもも桃もないの。それにそんな畏まった態度をとる必要ないわ。一度デュエルをすればデュエリストはみんな仲間なのよ。まあ、私はオカマなんだけど」

 

 彼のギャグに苦笑いしながらも、皐月は奏と固い握手を交わすのであった。

 

(この子はとても優しい子なのね。でもデュエリストとしてその優しさが仇になることもある。それに気付いてくれればいいんだけど。それにしても……)

「ところで……貴女これから時間あるかしら?」

「じ、時間ですか? なくはないですが、でもデュエルをしないと」

「何、大して時間は取らせないわ。貴女のような素朴な子を見つけるとね……私色に染めたくなっちゃうのよ」

 

 そう言って奏は腰につけていたポーチから化粧道具を取り出し不気味な笑みを浮かべる。女性よりも女性らしいことを臨む奏は、メイキャップの腕もプロに匹敵するほどのものも持ち合わせていたのだ。

 

「私色に染めるって……えええっ!?」

 

 皐月はさながら蛇に睨まれたカエルのごとく、その場から動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか貴女にここで会うとは……」

 

 Dブロックに組み分けられた鈴が相対するのは全く知らない相手ではなかった。鈴と対峙するのはカールした長い茶髪が特徴の所謂「お嬢様」といった様相の女子生徒だった。

 

「これも神のおぼしめしというものですわ。父親同士が宿敵、とあらばその娘同士もまた宿敵ということ。この藤堂 桜(とうどう さくら)、プロデュエリストたる父の名を守るため、今ここで貴女を倒しますわ!」

 

 星乃 竜司は現役時代から日本を代表するデュエリストであった。しかし、そんな彼とライバル関係であったのが、桜の父で日本を代表する財閥、藤堂財閥の社長でもある藤堂 雄一郎(とうどう ゆういちろう)なのでもある。それを受けてかこの2年生・藤堂 桜は竜司を校長として仰ぐと同時に竜司とその娘として今春入学してきた鈴を「自分が倒すべき相手」と認識していたのである。

 

「ここで会ったが百年目、という奴ですか。先輩」

 

 鈴にとって桜は一学年上の先輩ということになる。彼女は表面上は上級生に接するように礼儀を以て応対する。そんな中、彼女は桜の言っていることの矛盾点に気付いた。

 

(……あれ、藤堂 雄一郎ってパパの飲み友達じゃなかったっけ?)

 

 桜は竜司を自分の父の仇敵として認識している。しかし、鈴は竜司が雄一郎を家に呼んではちょくちょく宅飲みをしていたのを覚えている。ただ、それを知っていながらこう振る舞っているのか、それとも本当に知らないのか。どちらにせよここは桜に合わせるのが後輩として正しいと判断した。

 

「まさにその通り! ここで私は貴女を倒し、藤堂家の歴史に新たなる1ページを書き加えるのですわ!!」

 

 鈴と美咲。共にプロデュエリストを父に持つ2人はデュエルディスクを構える。そこには彼女たちの勝ち負けもそうだが、父親たちの代理戦争というものもあった。

 

「デュエル!」

「デュエルですわ!!」

 

 

先攻:桜

後攻:鈴

 

桜 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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力と可能性

 

 

 

 

 

☆TURN01(桜)

 

「それでは私の先攻で始めさせていただきますわ。見せて差し上げます、真の実力者による真のデュエルを」

 

 そう言って何処か得意気な笑みを浮かべる桜。鈴からしてみれば、彼女のこの言葉には竜司の功績によって【青眼】デッキを使うことが許されている鈴を揶揄する意味合いが含まれているように思えてならなかった。桜が使うデッキは鈴同様に父親である雄一郎が使うデッキと同じカードを使ったデッキである。しかし、親と同じデッキを使う者同士であったとしても、自分は鈴とは違う、ということを強調したかったのかもしれない。

 

「……御託はいいからさっさとデュエルを進めてくれませんか?」

 

 デュエルにおいて、対戦相手に対する過度な暴言はご法度である。しかし、少々の煽り言葉であれば許されるし、それは相手を動揺させる手段としては当たり前のように用いられている。ここで大事なのは、その言葉に乗らないこと。そう言った意味では鈴もまだまだ年頃の少女であった。

 

「あら、口が悪いですわね。貴女のような品のないデュエリストなど私のデッキで焼き尽くしてあげますわ。私は手札より魔法カード《レッドアイズ・インサイト》を発動しますわ」

 

《レッドアイズ・インサイト》

通常魔法

「レッドアイズ・インサイト」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札・デッキから「レッドアイズ」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。デッキから「レッドアイズ・インサイト」以外の「レッドアイズ」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

(やっぱり……デッキは【真紅眼】のままね)

 

 桜の父・雄一郎は【真紅眼】デッキを愛用しており、青眼を愛用している竜司とは日本人同士で同い年とまさにライバルと言っていい間柄だった。最も竜司がセントラル校の校長に就任するにあたってプロを引退しているため、そのライバル同士のデュエルをプロの舞台で見れる機会はまず訪れないのであるが。

 

「デッキよりレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを墓地に送り、デッキから《真紅眼融合》を手札に加えますわ。そして今手札に加えた真紅眼融合を発動します!」

 

《真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを召喚・特殊召喚できない。

(1):自分の手札・デッキ・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「レッドアイズ」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターのカード名は「真紅眼の黒竜」として扱う。

 

 真紅眼融合はレッドアイズを融合素材に指定する融合モンスター1体を融合召喚する専用の融合カードである。通常融合モンスターの融合素材は手札・フィールドから賄うのが一般的だが、このカード擁する真紅眼は発動条件無しにデッキのモンスターを融合素材にできるのだ。手札・フィールドの消費が激しい融合において、それらのリソースを一切失わずに融合モンスター1体を融合召喚できるというのは間違いなくこのデッキの強みである。

 

(真紅眼融合で融合召喚できるモンスターは5体。効果を持たない《メテオ・ブラック・ドラゴン》と《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》の2体は除くとして融合召喚できるのは3種類のモンスター。このうちどのモンスターを融合召喚するかでデッキの方向性がわかるはず……)

「私は《真紅眼の黒竜》と戦士族モンスター《バスター・ブレイダー》をデッキより墓地に送り、融合!“紅き眼を持つ黒竜よ。竜を斬る戦士よ。今一つとなりて全てを切り裂く漆黒の刃となりなさい!”融合召喚! 現れるのですわ!《真紅眼の黒刃竜》!!」

 

 現れたのは全身を漆黒の鎧で覆った竜。力で青眼に劣る真紅眼が持つ可能性の一つがこの姿であった。

 

《真紅眼の黒刃竜(レッドアイズ・スラッシュドラゴン)》

融合・効果モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

「真紅眼の黒竜」+戦士族モンスター

(1):「レッドアイズ」モンスターの攻撃宣言時に自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃力200アップの装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):自分フィールドのカードを対象とするカードの効果が発動した時、自分フィールドの装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードに装備されていたモンスターを自分の墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

「黒刃竜はレッドアイズモンスターの攻撃宣言時に自分の墓地の戦士族モンスター1体をこのカードに攻撃力200アップの装備カード扱いとして装備することができますわ。そしてこのカードが破壊された場合にこのカードに装備されていたモンスターを墓地から特殊召喚できます」

「でも装備できるタイミングは攻撃宣言時。先攻1ターン目ではあまり意味はないですよね?」

「ええ。なので攻撃力は2800のまま……なのでこのカードで補いますわ。手札の《黒鋼竜》の効果を発動」

 

《黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)》

効果モンスター

星1/闇属性/ドラゴン族/攻600/守600

(1):自分メインフェイズに自分フィールドの「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。自分の手札・フィールドからこのモンスターを攻撃力600アップの装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「レッドアイズ」カード1枚を手札に加える。

 

「このカードを装備カード扱いとして黒刃竜に装備。黒刃竜の攻撃力は600ポイントアップしますわ」

 

真紅眼の黒刃竜(+黒鋼竜)ATK2800→ATK3400

 

「そしてカードを1枚セット。ターンエンドですわ」

 

 

桜 LP8000 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(真紅眼の黒刃竜)魔法・罠:2(黒鋼竜)墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□鋼伏□

 □□□□□□

  刃 □

□□□□□□

 □□□□□

 

○凡例

刃・・・真紅眼の黒刃竜

鋼・・・黒鋼竜

 

 

☆TURN02(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー! あたしはマンジュ・ゴッドを召喚。召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果を発動! デッキから儀式モンスターか儀式魔法カード1枚を手札に加える! あたしはデッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加える。そしてその高等儀式術を発動! あたしはデッキの通常モンスター、青眼の白龍を墓地に送って儀式の生贄に捧げる。儀式召喚! 降臨せよ!《青眼の混沌龍》!」

 

《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》

儀式・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守0

「カオス・フォーム」により降臨。このカードは儀式召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):「青眼の白龍」を使用して儀式召喚したこのカードの攻撃宣言時に発動できる。相手フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する。この効果で表示形式を変更したモンスターの攻撃力・守備力は0になる。このターン、このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「カオス・MAX・ドラゴンではなく混沌龍ですか……全く、悪運が強いですわね」

 

 カオス・MAX・ドラゴンに比べて混沌龍は攻撃力が1000下で耐性も同じとカオス・MAX・ドラゴンと役割が被ることが多い。しかし、混沌龍はカオス・MAX・ドラゴンにはない攻撃宣言時の強制表示変更効果を持っており、貫通ダメージ倍化はないものの、相手の攻撃力・守備力を0にする効果で確実に3000のダメージを通すことができるようになるのだ。

 

「バトルよ! 青眼の混沌龍で真紅眼の黒刃竜を攻撃! そしてこの攻撃宣言時に混沌龍の効果を発動! 相手フィールドに存在するモンスターの表示形式を変更する。そしてこの効果で表示形式を変更したモンスターの攻撃力・守備力を0にするわ!“カオス・バースト・ストリーム”!」

 

真紅眼の黒刃竜 ATK/3400/DEF2400→ATK0/DEF0

 

青眼の混沌龍 ATK3000 VS 真紅眼の黒刃竜 DEF0

 

桜 LP8000→5000

 

「っ……まあいいですわ。私は上級生なのですから、このくらいのハンデは差し上げてあげないと!」

(うわー……こんな時でもお嬢様っぷりは崩さないんだ)

「フィールドから墓地に送られた黒鋼竜と破壊されて墓地に送られた黒刃竜の効果を発動しますわ!」

 

チェーン2(桜):黒鋼竜

チェーン1(鈴):真紅眼の黒刃竜

 

「チェーン2の黒鋼竜の効果でデッキからレッドアイズカード1枚を手札に加えますわ。手札に加えるのは《真紅眼の凱旋》。そしてチェーン1の黒刃竜の効果で黒刃竜に装備されていた黒鋼竜を攻撃表示で特殊召喚しますわ!」

 

 鈴のフィールドに存在するマンジュ・ゴッドの攻撃力は1400。対する蘇生された黒鋼竜の攻撃力は600。このまま攻撃すれば800のダメージを相手に与えることはできる。しかし、そのまま突っ込んでいいものか、という考えが鈴の中に浮かぶ。攻撃力で劣ることはわかっているはずなのに攻撃表示で特殊召喚。これはまず攻撃を誘っていると見ていいだろう。

 

(攻撃表示か、マンジュ・ゴッドで戦闘破壊できるけど黒鋼竜の効果にターン内の発動制限はない。ダメージは与えられるけどそれだとまたサーチ効果を使われる……)

「あたしはバトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移るわ」

「あら、撒き餌にはかかりませんか」

 

 桜はやや残念そうに「ふふん」と笑った。その態度からはやはりそれとなく見下した様子が伝わってきた。

 

「……あたしのこと攻撃力だけのバカと思わないで下さいね、セ・ン・パ・イ?」

「まあ……なんと可愛げのない先輩呼びでしょう。これだから庶民の出は」

「いやパパやママの育ちとか関係ないっしょ別に……メインフェイズ2。あたしはカードを2枚セットしてターンエンド」

「ではエンドフェイズにリバースカードを発動しますわ。罠カード《レッドアイズ・スピリッツ》ですわ」

 

《レッドアイズ・スピリッツ》

通常罠

(1):自分の墓地の「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「墓地のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚します」

「……っ」

 

 

桜 LP5000 手札2枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、黒鋼竜)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

鈴 LP8000 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:2(青眼の混沌龍、マンジュ・ゴッド)EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □□鋼ダ□□

  □ □

□□□混マ□

 □□伏伏□

 

○凡例

ダ・・・レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン

混・・・青眼の混沌龍

マ・・・マンジュ・ゴッド

 

 

☆TURN03(桜)

 

「私のターン、ドローですわ。ではレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果を発動します。墓地のドラゴン族モンスター、真紅眼の黒刃竜を特殊召喚します。一度正規の方法で融合召喚に成功しているため、墓地から特殊召喚できますわ。さて、先ほどのダメージのお返しをして差し上げますわ。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを対象に黒鋼竜の効果を発動。このカードの装備効果はフィールドからでも発動できますの」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(+黒鋼竜)ATK2800→ATK3400

 

「そしてバトルフェイズに移りますわ。真紅眼の黒刃竜で青眼の混沌龍を攻撃です! そしてレッドアイズモンスターの攻撃宣言時に黒刃竜の効果を発動! 墓地の戦士族モンスター1体を攻撃力200アップの装備カード扱いにして装備しますわ! 装備するのはバスター・ブレイダーですわ!」

 

真紅眼の黒刃竜(+バスター・ブレイダー)ATK2800→ATK3000

 

「でも攻撃力は混沌龍と同じ3000……まさか」

「構いませんわ!“ダーク・メガ・スラッシュ”!」

「っ、混沌のカオス・バースト!」

 

真紅眼の黒刃竜(+バスター・ブレイダー)ATK3000 VS 青眼の混沌龍 ATK3000

 

 黒刃竜の放った斬撃と混沌龍の放った闇の波動が相殺し合い、二体のドラゴンを巻き込んで大爆発を起こす。同じ攻撃力であるため、双方相討ちとなるのだが、このバトルはただの相討ちで終わらない。

 

「戦闘で破壊されて墓地に送られた真紅眼の黒刃竜の効果を発動しますわ! このカードに装備されていたモンスターを可能な限り特殊召喚しますわ! 装備されていたバスター・ブレイダーを特殊召喚します!」

 

《バスター・ブレイダー》

効果モンスター

星7/地属性/戦士族/攻2600/守2300

(1):このカードの攻撃力は、相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×500アップする。

 

「バスター・ブレイダーの攻撃力は相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×500ポイントアップします。貴女の墓地には2体のドラゴン族モンスターが存在するのでバスター・ブレイダーの攻撃力は1000ポイントアップしますわ!」

 

バスター・ブレイダー ATK2600→ATK3600

 

「攻撃力3600……!」

「まだバトルフェイズは終わっていませんわ。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンでマンジュ・ゴッドを攻撃!“ダークネス・メタル・フレア”!」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(+黒鋼竜)ATK3400 VS マンジュ・ゴッド ATK1400

 

鈴 LP8000→6000

 

「まだですわ! バスター・ブレイダーでダイレクトアタック!“破壊剣・一閃”!」

 

バスター・ブレイダー ATK3600

 

「それは通させない! リバースカードオープン!速攻魔法《銀龍の轟咆》を発動!」

 

《銀龍の轟咆》

速攻魔法

「銀龍の轟咆」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地のドラゴン族の通常モンスター1体を対象として発動できる。そのドラゴン族の通常モンスターを特殊召喚する。

 

「墓地の通常モンスター、青眼の白龍を守備表示で特殊召喚!」

「……間一髪でしたわね。まあいいでしょう。青眼と言えどバスター・ブレイダーの敵ではありませんわ!」

 

バスター・ブレイダー ATK3600 VS 青眼の白龍 DEF2500

 

 竜を狩る剣士の一振りは白き龍の身体を真っ二つに切り裂く。融合素材に戦士族を指定している黒刃竜を入れていることや、真紅眼の黒竜とバスター・ブレイダーの元々のレベルを考えても真紅眼と【バスター・ブレイダー】の相性は決して悪くはない。

 

(真紅眼だけなら青眼には攻撃力で勝てない。でもバスター・ブレイダーを入れることでその差を補っている。そしてバスター・ブレイダーがいるってことはまず間違いなく“あのモンスター”も入れられていると見るべき)

 

「メインフェイズ2。私はカードを1枚セットしてターンエンドですわ」

(あのモンスターを出されたらドラゴン族主体のあたしのデッキだと正攻法では勝ち目はない。だったらその前に潰す、それだけだよね……遊希?)

 

 

桜 LP5000 手札2枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(バスター・ブレイダー、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:2(黒鋼竜)墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

鈴 LP6000 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 □伏鋼□□

 □□バダ□□

  □ □

□□□□□□

 □□□伏□

 

○凡例

バ・・・バスター・ブレイダー

 

 

 

 

 

 

 

 



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竜を斬る者

 

 

 

「ねえ遊希。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 時は数日前に遡る。学内対抗デュエル大会が開かれることが決まり、生徒たちはそれぞれ自分のデッキの調整に勤しんでいた。そんな中、鈴は同室の遊希に思い切って聞くことにした。

 それは夕食を食べ終えて寝る準備を済ませた夜のことで、遊希と鈴はベッドの前で互いに背中合わせで座っては黙々と手持ちのカードをいじっていた。10代女子高生の行動としては一般的に見れば実に異様な光景であるが、デュエリストにとっては日常的な光景である。そしてその当たり前の時間はデュエリストにとっては誰にも介入されたくない大事な時間でもあった。

 

「……何? 今集中してたんだけど。用があるなら手短にお願いね」

 

 その大事な時間に横槍を入れられた遊希は眠さも相まってかややご機嫌斜めといった様子である。それでも彼女は鈴と背中合わせのまま話を聞いてくれるようだった。

 

「あたしと遊希はさ、デッキのエースがドラゴン族じゃない」

「うん」

「もしドラゴン族に強いデッキを使うデュエリストと当たったらさ、遊希だったらどうする?」

 

 デュエルモンスターズには様々なデッキがある。しかし、どのデッキにおいても数の多いドラゴン族や戦士族、魔法使い族といった種族のモンスターは自然と入るため、それらのモンスターを止めるためのメタカードを入れるデュエリストも少なくない。もちろん遊希に意見を求める前に、鈴は自分でその解決策を考えた。しかし、自分で納得の行く解答を得ることはできなかったのだ。

 

「さて遊希、ここで問題よ。ドラゴン族ばっかりの【青眼】でどうやってドラゴン族のメタを突破するか。答えは三つ。正しい解答をひとつだけ選びなさい」

「……なんで三択?」

「一つ、オシャレで美少女の鈴ちゃんは突如打開するためのアイデアがひらめく。二つ:遊希がアドバイスをくれる。三つ、どうにもならない。現実は非情である。さあ、どれでしょう」

 

 何処かで聞いたことのあるような質問の仕方であるが、恐らくこの手のネタに詳しい皐月あたりからネタを仕込んだのだろう、と遊希は推測した。

 

「四つ、ふざけてる鈴の質問をスルーして可愛い遊希ちゃんは寝る」

 

 真剣な表情でふざけたことを言われるのは真面目に聞こうとしたこっちがアホらしくなるというものだ。そう言って予備のカードをケースに戻して、二段ベッドの下の段に潜り込もうとする遊希。そんな彼女の腰に縋りつくかのように鈴が飛びついたのは言うまでもない。

 

「ごめん! 真面目にやるから! でも自分で可愛いとか言っちゃう遊希マジ可愛い!」

「五つ、褒め殺し作戦は成功しない。現実は非情である、と……そもそも私のデッキが何から何までドラゴン族のデッキかというとそれは違うわ? 機械族のサイバー・ドラゴン・インフィニティもいるし、同じ銀河眼でも銀河眼の光子卿は戦士族のモンスターよ」

「あっ、じゃあやっぱりデッキをある程度弄らなきゃいけないのかなぁ……」

「でも当たるかどうかわからないメタのためにデッキを下手に改造するのはハイリスク。メタを意識しすぎた結果デッキ本来のバランスが崩れて普通なら勝てる相手にも勝てなくなってしまうケースも決して少なくないから」

 

 遊希はプロ時代にデュエルをする相手から銀河眼に対するメタを数多く張られてきた。当然普通のデュエルをする時より苦戦を強いられることは多かったが、遊希はそれを様々なカードを駆使して突破してきた。

 光属性モンスターに対するメタカードである《閃光を吸い込むマジックミラー》や特殊召喚を封じる《虚無空間》など魔法・罠カードによるメタであれば《サイクロン》などの除去カードを使い、戦闘や効果をに対する耐性を持ったモンスターであれば【壊獣】によってリリース。

 デュエルモンスターズには多種多様なカードがあるが、完璧なカード、完璧なデッキなど存在しない。どんなカードにも弱点はある。特定のカードに対するメタカードであっても、そのカードに対する対処の方法があるのだ。

 

「だからもし私ならまずそのメタを相手にした場合はそのメタカードを引かれる前に倒す。どんなに強いカードでも使わせる前に叩いてしまえばそれはただのカードだから」

「……それは遊希だからできるんじゃないかな?」

 

 遊希のことだから最終的にレベルを上げて物理で殴る、的な脳筋丸出しな解答もあるのではないか。と思っていた鈴だったが、まさか真っ先にその答えが出てくるとは流石に思っていなかった。

 

「ううん、竜司さんやミハエル先生だって現役時代はそんな感じだった。やられる前にやれ、っていうのがプロの世界。でもそう上手く行かないのがデュエルモンスターズ。相手が先攻でそのメタを揃えてきた時、デュエリストにできる手段は自然と限られるわ。大事なのはそれに当たった時冷静に対処できるかどうか」

「冷静に……」

「こういう大会とかに不慣れだと焦る気持ちはわかるわ。私もそうだったから。でも焦ると何でもないことでも思っている以上に大きなものに見えてしまうもの。意外と落ち着いて考えてみれば、抜け道を見つけられるはず……ふわぁ」

 

 そう言って遊希は本当に下の段のベッドに潜り込んでしまった。入寮初日はどっちがベッドの上の段で寝るかどうかで長い時間揉めに揉めた二人であるが、いつの間にかに遊希は鈴が眠っている下のベッドで眠ることが多くなっていた。色々と気難しいところがありながらも、自然と擦り寄ってくる様は何処か猫のようだ。

 

(落ち着いて考える、か……色々と気負い過ぎてたのかな、あたし)

 

 鈴は小さくふぅ、と息を吐いた。遊希の言う通り、肩の力を抜き、穏やかな気持ちで現実を見つめてみれば見えることがあるのかもしれない。疲れていたのか、数分も経たぬうちにすやすやと愛らしい寝顔を見せる遊希を横目に、鈴はもうしばらくの間カードとにらめっこを続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あたしがすべきこと……相手がフィールドを完成させる前に叩く!)

 

 

☆TURN04(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 桜のフィールドにはバスター・ブレイダーと黒鋼竜を装備したレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンが存在している。バスター・ブレイダーは鈴のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数だけ攻撃力を上昇させ、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンは1ターンに1度、手札・墓地のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。そのため、鈴はこの2体をこのターンのうちにまとめて除去しなければならなかった。

 

(よし、これなら!)

「あたしは手札1枚をコストに魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! デッキから攻撃力3000・守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体まで手札に加えるわ! 手札に加えるのは青眼の亜白龍とブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンよ!」

「いくらドラゴンを手札に加えたところで同じこと。バスター・ブレイダーの前では無力ですわ!」

「本当にそうかしら? あたしは墓地の《伝説の白石》の効果を発動!」

 

《伝説の白石(ホワイト・オブ・レジェンド)》

チューナー・効果モンスター

星1/光属性/ドラゴン族/攻300/守250

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。デッキから「青眼の白龍」1体を手札に加える。

 

「デッキから青眼の白龍を手札に加える。そして手札の青眼の白龍を見せることで、青眼の亜白龍を特殊召喚するわ!」

 

バスター・ブレイダー ATK3600→ATK4600

 

「フィールド・墓地にドラゴン族が増えたことでバスター・ブレイダーの攻撃力は更に1000アップしますが……除去効果を持つ亜白龍ならばバスター・ブレイダーを効果で破壊できる。しかし、同じことですわ!」

 

 亜白龍は効果を発動したターンは攻撃することができない。そのため仮に亜白龍の効果でバスター・ブレイダーを破壊したところでダークネスメタルの効果で墓地の黒刃竜を蘇生すればすぐにバスター・ブレイダーを装備カードとして装備させる。そうすれば流れは前のターンと同じ。黒刃竜と亜白龍を相討ちさせ、バスター・ブレイダーを蘇生すればいいだけの話だ。

 

「いや、同じじゃないわ。あたしは手札の青眼の白龍をコストにトレード・インを発動。デッキからカードを2枚ドロー!」

 

バスター・ブレイダー ATK4600→5100

 

「そして更に儀式魔法、カオス・フォームを発動! 墓地の青眼の白龍1体をゲームから除外して儀式の生贄に捧げるわ!」

「カオス・フォーム!? まさか今のドローで……」

「こればっかりはあたしも自分の悪運の強さを感じるわね……でもそれだけあたしとこの子の絆が深いってことなのかもね。儀式召喚! 来て! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン!!」

 

 墓地から青眼の白龍1体が減った代わりに、フィールドにカオス・MAX・ドラゴンが儀式召喚されたため、バスター・ブレイダーの攻撃力は変わらず5100のまま。攻撃力だけで見れば《F・G・D》をも上回る。しかし、バスター・ブレイダーにあるのは攻撃力だけだ。

 

「バスター・ブレイダーを対象に青眼の亜白龍の効果を発動! このターン、亜白龍の攻撃権を放棄する代わりに、対象のモンスター1体を破壊するわ! 消えなさい! バスター・ブレイダー!!」

 

 亜白龍の一撃でバスター・ブレイダーが爆発と共に消滅する。力の象徴である青眼に搦手を以て対処されるというのは何とも変な感覚であった。

 

「っ……」

「あたしはまだ召喚権を使っていない。チューナーモンスター、太古の白石を召喚! あたしはレベル8の青眼の亜白龍に、レベル1のチューナーモンスター、太古の白石をチューニング!“太古の世界において人々を守護せし白き龍よ。今一度精霊となりて光の力で闇を祓え!”シンクロ召喚! 青眼の精霊龍!! そしてバトルフェイズ! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃! 混沌のマキシマム・バースト!!」

「その戦闘の前に、私はリバースカードを発動しますわ! 永続罠《真紅眼の鎧旋》!!」

 

《真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》

永続罠

「真紅眼の鎧旋」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「レッドアイズ」モンスターが存在する場合、自分の墓地の通常モンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):このカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「私は自分の墓地の通常モンスター《真紅眼の黒竜》を守備表示で特殊召喚しますわ!」

 

《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)》

通常モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

(守備表示……カオス・MAXの効果で貫通ダメージを与えられるとはいえ、ここでダークネスメタルを放置する意味はないわね)

「攻撃対象は変わらずダークネスメタルのままよ!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(+黒鋼竜)ATK3400

 

桜 LP5000→4400

 

「っ、ダークネスメタル……! ですが装備カードとして装備されていた墓地の黒鋼竜の効果を発動しますわ!」

「させない! あたしはその効果にチェーンして精霊龍の効果を発動!」

 

チェーン2(鈴):青眼の精霊龍

チェーン1(桜):黒鋼竜

 

「チェーン2の精霊龍の効果で墓地で発動する効果を無効にして破壊するわ! 黒鋼竜の効果は無効!」

「ええ、チェーン1の黒鋼竜の効果は無効になりますわ……」

「精霊龍で守備表示の真紅眼の黒竜を攻撃!“バースト・スピリット・ストリーム”!」

 

青眼の精霊龍 ATK2500 VS 真紅眼の黒竜 DEF2000

 

「よもや私のフィールドのモンスターをこうもあっさり全滅させてくるとは。青眼の白龍の名は伊達ではありませんわね」

「あたしだってこのデッキを使うことの意味はわかってるつもりよ。そこにどのくらいの覚悟が必要かってね。あたしはバトルフェイズを終了。これでターンエンド。そしてエンドフェイズに墓地に送られた太古の白石の効果で白き霊龍をデッキから守備表示で特殊召喚。特殊召喚に成功した霊龍の効果でその真紅眼の鎧旋をゲームから除外するわ」

 

 真紅眼の鎧旋は相手の“効果で破壊され墓地へ送られた場合”に二つ目の効果が発動する。しかし、白き霊龍によって除外されてしまった以上はその効果を発動できないのだ。

 

 

桜 LP4600 手札2枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

鈴 LP6000 手札0枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、白き霊龍)EXゾーン:1(青眼の精霊龍)魔法・罠:1 墓地:11 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:14(0)

 

 □□□□□

 □□□□□□

  精 □

□□霊□M□

 □□□伏□

 

 

☆TURN05(桜)

 

(カオス・MAX・ドラゴンが存在する限り、壁モンスターは恰好の獲物。かと言ってこのターンで防げるモンスターを出せなければ私の負けは必定となりますわ。彼女が前のターン、トレード・インの効果でカオス・フォームを引き当てられたのであれば……彼女より強い私にできないわけがありませんわ!)

「私のターン、ドローですわ!……私はこのカードに己の運命を懸けますわ! 魔法カード《紅玉の宝札》を発動します!」

 

《紅玉の宝札(こうぎょくのほうさつ)》

通常魔法

「紅玉の宝札」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札からレベル7の「レッドアイズ」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。その後、デッキからレベル7の「レッドアイズ」モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

「私は手札のレベル7の真紅眼の紅炎竜1体をコストとして墓地へ送り、2枚ドローします! そして更にデッキから2体目の紅炎竜を墓地に送りますわ!」

(ここで藤堂先輩もドローソースを引き当てるか。自分で言うのもなんだけど、なんともドラマチックなデュエルよね)

「……あなたにはとっておきのモンスターを見せて差し上げますわ。まず私はチューナーモンスター《破壊剣士の伴竜》を召喚します!」

 

《破壊剣士の伴竜(はかいけんしのばんりゅう)》

チューナー・効果モンスター

星1/光属性/ドラゴン族/攻400/守300

「破壊剣士の伴竜」の(2)(3)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「破壊剣士の伴竜」以外の「破壊剣」カード1枚を手札に加える。

(2):このカードをリリースして発動できる。自分の手札・墓地から「バスター・ブレイダー」1体を選んで特殊召喚する。

(3):このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「バスター・ブレイダー」が存在する場合、手札から「破壊剣」カード1枚を捨てて発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

 

「召喚に成功した破壊剣士の伴竜の効果で、デッキから破壊剣カード1枚を手札に加えますわ。《破壊剣士融合》を手札に。そしてこのカードをリリースして効果を発動。墓地のバスター・ブレイダー1体を特殊召喚しますわ! バスター・ブレイダーの攻撃力はあなたのフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×500ポイントアップします!」

 

 鈴のフィールドにはカオス・MAX、精霊龍、白き霊龍の3体。そして墓地には5体のドラゴンが存在する。よってその合計分バスター・ブレイダーの攻撃力はアップする。

 

バスター・ブレイダー ATK2600→ATK6600

 

「攻撃力6600……!?」

「驚いていらっしゃるようですが、自分で蒔いた種ですわよ? バトル! バスター・ブレイダーで青眼の精霊龍を攻撃しますわ!」

 

バスター・ブレイダー ATK6600 VS 青眼の精霊龍 ATK2500

 

(精霊龍を……?)

「青眼の精霊龍の効果を発動! このカードをリリースし、エクストラデッキから光属性・ドラゴン族のSモンスター1体を守備表示で特殊召喚するわ! あたしは《蒼眼の銀龍》を特殊召喚する!」

 

《蒼眼の銀龍(そうがんのぎんりゅう)》

シンクロ・効果モンスター

星9/光属性/ドラゴン族/攻2500/守3000

チューナー+チューナー以外の通常モンスター1体以上

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動する。自分フィールドのドラゴン族モンスターは次のターンの終了時まで、効果の対象にならず、効果では破壊されない。

(2):自分スタンバイフェイズ毎に自分の墓地の通常モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

バスター・ブレイダー ATK6600→ATK7100

 

「特殊召喚に成功した銀龍の効果。次のターンの終了時まであたしのドラゴン族モンスターは効果の対象にならなくなり、効果では破壊されない!」

「では銀龍を攻撃します! 破壊剣・一閃!」

 

バスター・ブレイダー ATK7100 VS 蒼眼の銀龍 DEF3000

 

「これで銀龍の効果でモンスターを蘇生させることはできませんわ」

「でも守備表示の銀龍を攻撃したところでダメージは与えられない。カオス・MAXを攻撃した方が良かったんじゃ?」

「……やれやれ、無知は恥ずかしいですわね」

「無知……?」

「私のバトルフェイズはまだ終わりませんわ! 手札から速攻魔法《破壊剣士融合》を発動!」

 

《破壊剣士融合(はかいけんしゆうごう)》

速攻魔法

「破壊剣士融合」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札及び自分・相手フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「バスター・ブレイダー」を融合素材とするその融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

「破壊剣士融合……さっきの破壊剣士の伴竜でサーチしたカードですか。でも先輩のフィールドにはバスター・ブレイダーしか……」

「破壊剣士融合の融合素材は相手フィールドのモンスターも使用できるのですわ! 私はバスター・ブレイダーとあなたの白き霊龍を融合!」

「私のフィールドのモンスターを!?」

「“竜を斬る剣士よ。白き精霊の龍よ。今一つとなりて、あらゆる竜を撃ち果たす戦士となれ!”融合召喚! 来なさい!《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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敗者の矜持

 

 

 

「……やっぱ出てきたか。竜破壊の剣士!」

 

《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》

融合・効果モンスター

星8/光属性/戦士族/攻2800/守2500

「バスター・ブレイダー」+ドラゴン族モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードは直接攻撃できない。

(2):このカードの攻撃力・守備力は、相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×1000アップする。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのドラゴン族モンスターは守備表示になり、相手はドラゴン族モンスターの効果を発動できない。

(4):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃力・守備力は相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×1000ポイントアップしますわ。あなたのフィールドにはブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが、墓地には7体のドラゴン族モンスターが存在します。よってバスター・ブレイダーの攻撃力・守備力は―――8000ポイントアップします!!」

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー ATK2800/DEF2500→ATK10800/DEF10500

 

「攻撃力10800……」

「更にこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、あなたはドラゴン族モンスターの効果を発動できず、ドラゴン族モンスターは守備表示になります」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン DEF0

 

「そしてこのカードはダイレクトアタックはできませんが、貫通効果を持っていますわ」

「ってことはこのまま攻撃が通ればあたしが受けるのは10800ダメージ……オーバーキルにもほどがあるんじゃないの!?」

「あなたのようなデュエリスト、二度と立ち上がれないようにして差し上げてますわ! バトル! その剣を以てブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを切り捨てなさい!“破壊剣・竜絶閃”!!」

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー ATK10800 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン DEF0

 

「これで―――!!」

 

 バスター・ブレイダーの剣の切っ先がカオス・MAXの身体に達しようとした瞬間である。攻めかかったバスター・ブレイダーの身体が強制的に守備態勢へと変わったのは。

 

「なっ!?」

「……危なかったわ。最初はカオス・MAXとのコンボ狙いで入れたつもりだったけど、温存しておいて」

 

 よく目を凝らしてみると、バスター・ブレイダーの身体にはコードのようなものが取り付けられており、その先にはテレビゲームのコントローラーを模した機械のようなものが浮かんでいた。

 

「速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動。1つ目の効果でバスター・ブレイダーを守備表示に変えたのよ」

 

《エネミーコントローラー》

速攻魔法

(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。

●相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その相手の表側表示モンスターの表示形式を変更する。

●自分フィールドのモンスター1体をリリースし、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その表側表示モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。

 

「まさかそんなカードを……」

 

 エネミーコントローラーはカオス・MAXの攻撃に合わせて使うタイミングはあったのだが、前のバトルフェイズで攻撃対象であったダークネスメタルはそれほど守備力が低いモンスターではなく、エネミーコントローラーで表示形式を変更して倍ダメージの貫通を通したところで与えるダメージはそれほど多くならない。それならば黒刃竜の融合素材として墓地に送ったバスター・ブレイダーの存在から桜のエクストラデッキにまず間違いなく投入されているであろう竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃に備える防御用のカードとしてしまおうと鈴は考えていたのだ。

 

「間一髪ってやつかしらねー」

「……ところであなたコマンドは入力いたしましたの?」

 

 コマンド、という聞き慣れない言葉に首を傾げる鈴。そんな彼女の顔を見た桜は実に意地悪そうな笑みを見せた。時に女性という存在は男性よりも野蛮な一面を見せるものであるが、それがまさにこの時であったのだろう。

 

「かつて青眼使いとして名を馳せた海馬 瀬人はエネミーコントローラーの効果を発動する際に指定のコマンドを入力したそうですわ。あなたはなさいませんの?」

「えっ? いや、そんなん入れなくても発動できるんだけど」

「なさいませんの~? 青眼を使うのに~? 海馬 瀬人もやったのに~?」

 

 海馬 瀬人に比べて実力も実績も劣る。勝っているところが何もない鈴のようなデュエリストがあの海馬 瀬人ですら入力したコマンドを入力せずにエネミーコントローラーを発動するというのは海馬 瀬人および青眼に対する冒とくではないか。もちろんこれはこじつけであり、桜の挑発であるが、それを笑って流せるほど鈴はまだ大人ではなかった。

 

「あんた……後で覚えときなさいよ! 上!左!下!右!A!!」

 

 元来の生真面目なところが出てしまった鈴は別にやらなくてもいいのにコマンド入力をする。もちろん今更入れたところで何かが変わるわけもないのだが。

 

「はい、よくできましたわ。私はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移りますが、これでターンエンドですわ。一時しのぎのカードで防いだところで気休めにもなりませんのに」

「っ……」

 

桜 LP4600 手札2枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:0(竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)

鈴 LP6000 手札0枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:1(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:14 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:13(0)

 

 □□□□□

 □□□□□□

  □ 竜

□□□□M□

 □□□□□

 

○凡例

竜・・・竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

 

 

☆TURN06(鈴)

 

(悔しいけど、藤堂先輩の言う通りだ。どっちにしてもこのターンでバスター・ブレイダーを倒せるカードを引かなきゃあたしに勝ち目はない)

 

 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーが存在する限り、あらゆるドラゴン族モンスターは強制的に守備表示に変更させられるため、鈴は常に大貫通ダメージの危機に晒されている状況だ。文字通りこのドローが命運を分けると言っていいだろう。

 

「あたしは負けない! あたしのデッキ、応えて! あたしのターン、ドロー!!」

「無駄ですわ! バスター・ブレイダーを倒せるドラゴンなど……!」

「あたしは魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地の銀龍、混沌龍、青眼の亜白龍、伝説の白石、白き霊龍の5体をデッキに戻してシャッフル。そして2枚ドローするわ!!」

 

 墓地が肥えたデュエル中盤以降に発動する機会が多いことから、一部のデュエリストからは「困った時の貪欲な壺」と揶揄される貪欲な壺。その異名が表す通り、今の鈴は藁にも縋る気持ちでこのカードを引き当て、そして発動した。

 

「……まさかこの2枚を引いちゃうなんてね。このデュエル、あたしの勝ちよ!」

「なっ……!?」

「まずは魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地の精霊龍を守備表示で特殊召喚するわ! そして墓地の太古の白石の効果を発動! このカードをゲームから除外して墓地の青眼カード1枚を手札に加える。青眼の白龍を手札に戻す。そして手札を1枚捨てて速攻魔法発動!―――《超融合》!!」

 

《超融合》

速攻魔法(制限カード、2018/10/01から準制限カード)

このカードの発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

(1):手札を1枚捨てて発動できる。自分・相手フィールドから融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

「超融合……まさか、精霊龍を蘇生させたのは!」

「そのまさかよ! あたしはドラゴン族のSモンスターである青眼の精霊龍とあんたのフィールドの戦士族モンスター、竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの2体を融合!!」

 

 鈴のフィールドの青眼の精霊龍と桜のフィールドの竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの2体が強大な力によって引き寄せられ、その命を一つのものへと変える。そして現れたのは人身竜面で槍を持った騎士であった。

 

「“伝説を受け継ぐ精霊の龍よ。竜を斬る破壊の剣士よ。今一つとなりて、波動の力操る竜騎士として生まれ変われ!!”融合召喚!! 来なさい!《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!!」

 

《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》

融合・効果モンスター

星10/風属性/ドラゴン族/攻3200/守2000

ドラゴン族シンクロモンスター+戦士族モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、墓地に存在するドラゴン族のシンクロモンスター1体をゲームから除外し、エンドフェイズ時までそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る事ができる。また、このカードがフィールド上に表側攻撃表示で存在する限り、相手のカードの効果によって発生する自分への効果ダメージは代わりに相手が受ける。

 

「ドラゴエクィテス……なぜそのようなモンスターを!!」

「それはもちろんバスター・ブレイダー対策よ。バスター・ブレイダーはドラゴンの天敵、ドラゴン族デッキを使うデュエリストとしては見過ごせない存在だもの。そして、そのモンスターに対する解答がこの超融合よ!」

 

 青眼は幸いにも精霊龍や銀龍といったドラゴン族のSモンスターが存在しており、そのモンスターと戦士族モンスターであるバスター・ブレイダーを融合させることでドラゴエクィテスの召喚条件を満たす。自分のフィールドに攻撃力3000を超えるモンスターを用意しつつ、相手フィールドのモンスターを融合素材にすることで間接的に除去できる超融合はまさにメタを打ち破る手段の一つとしてかなり的確なものであるといえたのだ。

 

「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを攻撃表示に変更。そしてバトル! 波動竜騎士 ドラゴエクィテスでダイレクトアタック!“スパイラル・ジャベリン”!!」

 

波動竜騎士 ドラゴエクィテス ATK3200

 

桜 LP4600→1400

 

「まさか……この私が敗れるというの?」

 

 信じられない、といった表情を浮かべる桜であるが、小さくため息をつくと同時に穏やかな表情に戻る。プロである父・雄一郎の教えにはこういう言葉があった。

 

―――デュエリストはライフが尽きるその瞬間までデュエリストとしての矜持を保て。

 

(……例え敗れたとしても、最後まで堂々としていろ。そういうことなのですね、お父様)

「今回は、今回は貴女に勝ちを譲ってあげますわ。ですが、誓いなさい」

「誓う?」

「私が倒すまで、誰にも負けないと!!」

「……わかった、尽力するわ」

「むぅ、ここはもっと強い言葉で言いなさいな」

「まあ、まだまだ未熟者ってことで。ということでこれで終わり! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでダイレクトアタック! 混沌のマキシマム・バースト!!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

桜 LP1400→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、まあ今回はあたしが勝ったけど……どっちに転んでもおかしくないデュエルでした。このデュエルを糧に今後とも切磋琢磨していきましょうね」

「私、馴れ合いは好きじゃありませんの」

 

 パズルカードを受け取った鈴はハンカチで悔し涙を拭う桜にそう告げるが、彼女の態度はなおも辛辣だった。

 

「……素直じゃないんだから。でもまあ、同じプロの娘って共通点があるんだし、相談くらいは乗ってあげますよ?」

「……ま、まあそっちが相談に乗ってほしいなら話を聞いてあげないこともありませんわよ」

 

 最後まで二人の向いている方向は逆だった。しかし、不格好ながら、この時二人にはまた普通とは違った形で絆が生まれたのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

「あ、ところで先輩」

 

 デュエルが終わり、二人はそれぞれ別の相手を探しに行こうとしていた時。鈴がふと桜を呼び止める。

 

「なんですの? 私はこの敗戦を補わなければいけませんのに」

「先輩にお手本を見せてほしいんですが、エネミーコントローラーの」

「エ、エネミーコントローラーのお手本?」

「ええ。やっぱりあたしまだコマンド入力が下手で……だから是非先輩にお手本を見せて貰いたいんです!」

 

 このデュエルに勝てたとはいえ、たまたま貪欲な壺をドローし、たまたま貪欲な壺の効果でドローしたカードに超融合と死者蘇生があったからこそこのデュエルに勝つことができた。それでは本当に自分の実力で勝ったことにはならない。鈴はそう思っていた。そのため、ここは上級生かつ自分と同じプロデュエリストを父親に持つ者同士として桜に教えを乞い、さらに自分を高める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――という気持ちは更々無かった。デュエル中に煽って平静さを失わせる目的とはいえ、やる必要のないエネミーコントローラーのコマンド入力をさせられたのだ。それならば同じ苦しみを、同じ恥ずかしさを桜に味合わせてやらなければ気が済まなかったのだ。

 

「い、いいですわ! 一度しかやりませんからね!」

(……あ、それでもやってくれちゃうんだ)

「行きますわよ……上!! 左!! 下!! 右!! A!!」

「ごめんなさ~い。ちょっと先輩の滑舌が悪くてよく聞き取れませんでした。もう一度、お願いできますか?」

「なっ!? ぐぬぬ……上!!! 左!!! 下!!! 右!!! A!!! どうですの!!」

「あ、すいませ~ん。パズルカード組んでて聞いてませんでした~ もう一度、お願いしまぁ~す」

「ほ、星乃 鈴!! あなたという方はぁぁぁ!!」

 

 その後、大会の予選中であるにも関わらず、掴み合い、取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまった二人は騒ぎを聞きつけたミハエルに捕まり、そのまま校長室で竜司とミハエルのありがたいお話を聞かされてしまったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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束の間の休息

 

 

 

 

 

 

 太陽が西の地平線に沈みゆくころ。セントラル校の校内にはチャイムの音が鳴り響いた。そのチャイムは大会初日終了の合図だった。

 このチャイムと共に大会の第一日程が終了し、生徒たちは自分たちの部屋に戻らなければならない。一度のデュエルであっても相当の体力を消費するため、それを複数回繰り返せば身体や精神の負担にもなり得る。そういった学生たちの健康を気遣うのもまた教育者たちには求められることなのだ。

 

「……終わりか。結局今日では決まらなかったな」

―――まあ早いことに越したことはないが、焦る必要はないだろう。身体を休めるのも重要なことだ。

「休めるも何もまだ4回しかデュエルしてないんだけどね」

 

 遊希は第一日程で4回デュエルを行った。初デュエルとなった友乃とのデュエル以降、彼女は積極的にデュエルに臨み続け、結果4戦全勝という元プロの名に恥じぬ成績を残した。

 最もそれがなくとも天宮 遊希の名は学内に響き渡っているのだから、同級生はもちろん上級生にもデュエルを避けられることの多かった彼女は、結局今日一日で決勝進出を果たすことはできなかった。もっとも今日一日で決勝進出を決めた学生は全学年を見渡してもいなかったのだが。

 

「取り敢えず部屋に戻りましょう。皆の結果も気になるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子寮に戻ってきた遊希は千春と皐月の部屋のドアをノックする。初日が終わった後は結果関係なく千春達の部屋に集合する運びとなっていた。

 

「はいはい、どちらさまー?」

 

 中からは鈴の声がした。遊希は「私よ」とドア越しに告げる。「今開けるわね」という音とともに鍵が開き、鈴が遊希を出迎えた。部屋に入ると先に戻っていた鈴と千春が二人で夕食の準備を進めていた。

 

「あら、色々準備させてしまってすまないわね」

「いいのよ、先に戻ったのは私たちだしね!」

「ええ。一応二人とも勝ち残ってるからさ」

「そう……鈴も千春も大丈夫だったのね」

 

 鈴と千春は共に6戦して4勝2敗という成績であり、パズルカードの所持数は3枚となっていた。一年生の中では腕利きと言える二人であってもさすがに上級生の前では膝を屈することもあったということだ。

 

「ねえところで一年生で全勝が二人いるって聞いたんだけど……」

「二人……」

 

 それを聞いて遊希の脳裏にエヴァの顔が浮かぶ。組み分けたブロックが違ったのか、遊希は今日はエヴァと出会うことはなかった。遊希はあの時以来エヴァとはデュエルを行っていない。しかし、いつデュエルすることがあってもいいように彼女のデッキや傾向は理解した上で自分のデッキを調整し続けていた。

 

(……いつ当たるのかしら。できれば決勝で当たりたいけど)

「プロの肩書は流石ってところかしらね! ところで皐月が中々戻ってこないんだけど知らない?」

「皐月? ブロックが違うからなんとも」

「もしかして予選落ちして帰るに帰れないとか無いでしょうね……」

「滅多なこと言わないでよ鈴! 皐月が負けるわけ……」

 

 そんな時、ドアをノックする音が聞こえた。ドアの一番近くにいた遊希が開けに行き、ノックの主が皐月であることを確認する。しかし、その時のやり取りで気づいたのだが、皐月の声は普段以上に何処か弱弱しく感じた。

 鈴の言ったことが現実になってしまったのだろうか。遊希はドキドキしながらドアを開ける。するとそこに立っていたのは皐月であって皐月とは思えないような煌びやかな美少女であった。

 

「……えっ?」

「あ、あの……これはですね……」

 

 その引っ込み試案な性格上、コスプレする時以外はあまりメイクをしない皐月であるが、今は奏の手によってプロ顔負けのメイクアップが為され、地味なストレートの黒髪もパーマがついていたりと良い意味で派手になっていた。

 遊希がそんな皐月の姿に驚き硬直していると、鈴と千春も部屋の奥からやってきては、まるで蛹から蝶に化けたような皐月の姿を見て目を丸くする。

 

「「誰!?」」

「……うう、やっぱり……私にこんな格好似合わないんですぅ……」

 

 冗談だってば、と笑いながら鈴と千春が告げ、皐月が泣き止むまで数十分ほどかかった。皐月は8戦して6勝2敗と一年生にしては上々の成績を残すことができていた。ただ、それも皐月の何処か大人しめな言動を受けて、彼女に見くびった男子生徒たちが自滅した形によるものなのだが。

 夕食の準備を整え、卓を囲む四人。祝賀会にはまだ早いかもしれないが、ジュースを入れたグラスを片手に四人は小さく乾杯をした。

 

「まあ取り敢えず全員予選落ちしなかった、ってことでオールオッケーってやつよね!」

「そうかもれないですね。私は次から次へとデュエルを挑まれてしまって少し疲れましたが……」

「でもあの花沢先輩とデュエルして勝つんだから凄いじゃない。そんなメイクしてもらうんだったらあたしもデュエル挑もうかなぁ……姿は見たことないけどきっと三年生らしい大人っぽい美人だと思うわ!」

 

 夢見心地に語る鈴であったが、そんな彼女に現実を告げる勇気は皐月には無かった。

 

「羨ましいわね。私なんて敬遠されっぱなし……まあ前島先輩みたいに誘ってくれる人もちらほらいたけど」

「前島先輩ってあのアイドル志望の二年生の?」

「ええ。アイドル……らしいデッキを使っていたわ」

―――まあ、エンターテインメントを追い求めていたのは間違いなかったな。

 

 あれをアイドルらしい、と言ってしまうのはさすがの遊希でも気が引けた。確かにアイドルらしく見ている人間を楽しませる、という意味では中々のデッキではあったが。

 

「それでいてデュエルの後にアイドル研究会にスカウトされた」

「えっ遊希、まさかの芸能界デビュー? それともスクールアイドルとして全国大会に出るの?」

「そんな訳ないじゃない。セントラル校は廃校の危機を迎えているわけじゃないんだし。第一柄じゃないしそれだったら鈴や皐月の方が向いてるもの。あなたたち可愛げがあるし」

 

 遊希のさらりと吐いたその言葉に「えっ」と言って赤面する鈴と皐月。もちろん、そこに唯一スルーされた千春が噛みついた。

 

「ちょっとなんで私を外すのよ!」

「いや、千春が入ると子供番組になっちゃうし……」

「それどういう意味よ!!」

 

 大会の最中でこそあるが、遊希の毒舌に突っかかる千春という光景に皆微かに日常を感じた。そんな中、鈴が明日以降のスケジュールに触れる。

 

「ところで明日以降のことなんだけど」

「そういえば2日間ほど空くんですよね。勝ち残った学生でまたブロックを再編成するとかで」

「その間身体を休めたりリフレッシュできるわね! みんなで何処か出かける? 最近駅前にショッピングモールができたけど」

 

 ここ数年アカデミアの活動が本格的になったのも相まって、最寄駅前は急速に発展を遂げていた。駅に併設されたデパートはもちろん、アウトレットや複合商業施設など女子学生が喜ぶものはもちろん、国内では入手困難なカードを扱う専門店も開店するなど、東京都西部のこの街もセントラル校のお膝元に相応しい街になりつつあったのだ。

 

「あっ、すいません。私この二日ほど実家に帰る予定でして……」

「ごめん。あたしもちょっと用事があるからパス」

「そうなんだ……じゃあ私と遊希でそこ見に行きましょうよ! あんたの服選びにも付き合ってあげないと!」

「はぁ? なんで私の服選びになるのよ」

「あんた相変わらず私や鈴の選んだ服しか着ないじゃないの! 遊希は美人なんだからそんなんじゃダメよ!」

 

 美人なんだからダメ、というのはどういう価値感なのだろうか。そう渋る遊希であったが、光子竜の「たまにはいいんじゃないか」という後押しを受けて、明日は千春と共にショッピングに出かけることになった。

 遊希としては休養に充てたい、という気持ちもあったが休みは二日間あるので、その分二日目を休養に充てればいいだけのことだった。

 この数か月デュエル三昧の生活をしてきたことが功を奏したのか「ギャラクシーアイズ」のカードを使うことに身体が慣れ、入学当初のようにデュエルの後に保健室を利用することはほとんどなくなっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こことかどうかしら」

 

 翌日、遊希と千春は有名なブランドを数多く取り扱う洋服屋へと来ていた。遊希は以前千春が選んだ初夏向けの白いノースリーブのフリルシャツに黒のパンツルックと彼女の持つスタイルの良さを活かした出で立ちをしており、遊希であることがバレて騒ぎにならないようにキャップとサングラスをカモフラージュ用として付けていた。

 一方の千春は水色のTシャツにデニムのハーフパンツとやや幼げなコーディネートだが、彼女の背の低さも相まってそれはそれでマッチしていた。最も街行く人々の大半からは二人は同級生の友人ではなく「歳の離れた美少女姉妹の買い物」という形で見られていたのだが。

 

「あら、結構いい値段するのね。まだカードの方が安いわ」

「カードと服を比べるのってどうなのよそれ。第一今日は私じゃなくてあんたが自分で服を選ぶんだから、真剣にね!」

「服選びに真剣って……まあいいわ。取り敢えず私の価値観に一致するものを見繕えばいいのよね?」

「まあ最初はそれでいいわ。その後私がアドバイスしてあげるから。店員さんに聞いてみるのもいいかもね!」

 

 そう言って店の中へと入っていく二人。レディースコーナーを回ってはまるでデッキに入れる汎用魔法・罠カードを選定するように服を見定めていく遊希。ただ彼女の好みなのか、白や黒などチョイスするものはどれもモノクロ系統のものが多かった。

 

「ぶっちゃけて言っちゃうと遊希はスタイルがいいからどんな服も似合うんだけど……」

「まああんたとは違うわね」

「一言余計よ! で、提案なんだけどもうちょっと明るい色とか着てみれば? これから夏なわけだし」

「……あまり派手派手したものは好きじゃないわ。目立つし」

「あんた本当に元プロだったの……? 確かにイメージできないかもしれないけど、チャレンジは大事よ」

 

 千春に促されて遊希は夏物の売場に足を運ぶ。そして姿見の前でシャツやスカートを当ててみては、まるで自分を少女向けの着せ替え人形に例えてイメージを膨らませていく。

 服を選ぶということではあまり想像力が働かなかったが、デッキを改造している、と考えると遊希の手は無意識に様々な服に伸びていった。どうすればもっと完成度を高められるか。どうすればより自分のしたいデュエルを実現できるようになるか。そう考えると服を選ぶという行為も段々楽しくなってくる。浮世離れしているとはいえ、遊希もやはり思春期の女子であった。

 

「これはどうかしら……」

 

 そう言いながら遊希は無意識に手を伸ばすと、近くにいた女性と同じものを取ろうとして手が重なってしまった。その女性は見たところ30代から40代といった女性であるが、それでも20代で通じるのではないか、と思えるほど若々しい風貌をした女性であった。

 

「あら、ごめんなさい」

「いえ、こちらこ……」

 

 女性の顔を見た遊希は、そのまま言葉に詰まる。何故ならその女性は遊希にとっては知らない女性ではなかったからだ。偶然とはいえ、この場で出会えるとは思っていなかった相手の一人。

 

「あ、あの!」

「?」

「……お久しぶりです。私のこと、覚えていますか?」

 

 そう言ってキャップとサングラスを外す遊希。その顔を見た女性もはっ、とした顔をして遊希の顔を見た。

 

「遊希ー! いい服見つかったー?」

 

 千春がぱたぱた、と遊希のところに駆け寄ろうとした瞬間である。遊希はその女性に飛びつくように抱き着いた。その様はまるで母親に甘える子供のようであり、とても初対面の人間に見せるような態度ではなかった。唖然と立ち尽くす千春を余所に遊希は目を潤ませながら女性に抱き着いていた。

 

「お久しぶりです。ごめんなさい、何の連絡もできなくて……」

「いいのよ。あの人や娘からあなたのことはいっぱい聞いていたから……遊希ちゃん、大きくなったわね。元気そうでおばさんも嬉しいわ」

「はい……でも、会えて良かったです。蘭(らん)さん」

 

 遊希がまるで母親のように甘える女性の名は星乃 蘭(ほしの らん)。星乃という苗字からわかる通り、竜司の妻であり、鈴の母親であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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誇りをかけた戦い

 

 

 

 

 

 

 服を選び終えた遊希と千春は同じ商業施設にあるフードコートへと足を運んでいた。買い物が終わった時間がちょうど昼時だったのもあってやや混雑していたが、なんとか三人掛けの席を選ぶことができた。何故三人掛けの席を選んだのかと言えば、そこには鈴の母親である蘭も一緒だったからだ。

 

「すいません、服だけじゃなくてランチまで奢ってもらって……」

「いいのよ。娘と買い物してるみたいで楽しかったわ」

 

 最初は遊希を親しげに話す蘭のことを知らなかった千春であるが、鈴の母親とわかった途端、彼女は一気に打ち解けた。いい意味で怖いもの知らずな千春は人と仲良くなるのが上手いようで、そこに年長年少の差は無い。コミュニケーションを物差しで能力として測れば、間違いなく四人の中で一番傑出しているのは千春であると言えた。

 

「ところで、学校での鈴はどうかしら? あの子は仲良しの友達がいっぱいできたと喜んでいたけれど、中学生くらいの時から髪の色も明るくし始めて……」

「そこは問題ないわ! あの子は見た目はちょっとケバいけどとってもいい子よ! 私が保証するわ!」

「あんたに保証されてもそんなに信ぴょう性ないけどね」

「何よ!」

「あらあら、仲良しなのね二人とも」

 

 そう言って首を小さく傾げてニッコリと笑う蘭。その笑顔は年齢を感じさせない愛らしさを含んでいた。もし遊希の家族が皆健在であったならば、自分も蘭のような母親と暖かい家庭で過ごすことができたのだろうか。母とこうして服を選んだりランチを食べたり。そして、もしデュエルを教えていれば家族でデュエルができたのだろうか。空っぽの遊希の心にはとっくの昔に忘れていた感情、思春期の少女が持つ情愛がぽつぽつとこみ上げてくる。

 

(……私も……お母さんと一緒に買い物とかしたかったな……)

「遊希?」

 

 考え込んでいたため、千春の何でもない言葉に酷く動揺する遊希。手に持ちかけていたフォークを床に落としてしまうほどだった。

 

「っ! な、何かしら?」

「早く食べないと冷めちゃうわよ? ほら、これ新しいフォークよ」

 

 動揺を悟られまいと食事を口に運ぶ遊希であったが、急にかき込んだため、喉につかえてしまった。そんな遊希の背を蘭は優しく撫ででは水を差しだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね、我が儘言っちゃって」

 

 ランチの後、遊希と千春は蘭を地元のカードショップに連れていくことにした。実は彼女も結婚・出産を経験するまではいちデュエリストであったのだが、育児と家事に追われるにつれて、デュエルから離れて久しい。そして歳を重ねるうちに街のカードショップに一人で足を運ぶのが少々恥ずかしくなってしまっていた。現状カードショップは主に若いデュエリストが使う場所であり、蘭のような40代の女性が一人で足を運ぶには確かに敷居が高い場所でもあったのだ。

 

「いえいえ、服にランチまで奢って頂いたんですからこちらとしても何かお返しがしたかったので」

「蘭さんはどんなデッキを使ってたの?」

「そうねぇ……あまり大声では言えないけどデュエルモンスターズの黎明期に出たカードのデッキでね……」

 

 二人が案内したのは街中にある一番規模の大きいカードショップであった。以前エヴァが不良たちにカードをせびったのもここであり、アカデミアの生徒から近所の子供たちまで幅広い世代のデュエリストが愛用している店でもある。

 

「わぁ……カードがたくさん」

「えっと。取り敢えず組んでみたいデッキに入るカードを選んでおいてください。私たちは他を見ていますので」

「わかったわ!!」

 

 カードが山のように並んでいる光景によほど興奮したのか、蘭はまるでおもちゃ売り場に連れてきてもらった子供のようにカードが並べてあるショーケースへと向かって行った。最近は過去に登場したカードのリメイクカードを多く登場させるなど、古参のデュエリストを呼び戻さんというI2社の販売戦略が見て取れる。

 

「さて、せっかくだし私もカードを探そうかしら」

「遊希も? 遊希のカードって一般に出回ってないんじゃないの?」

「【ギャラクシー】はね。でもギャラクシーモンスターと上手く組めるモンスターはあるわ。それにギャラクシーモンスターだけに頼らないデュエルもできるようになりたいのよ」

「じゃあ私も【サイバー・ドラゴン】と合うカードを探そうかしら? 遊希、ゴチになります!」

「は? あんたは自腹で買いなさい」

「遊希のケチ!」

 

 遊希と千春が子供のケンカのような言い争いをしていたころ。蘭はかつて組んでいた自分のデッキに関連するカードがあるかどうか店員に確認する。それらのカードはいずれも新規カードではあるが、今の若いデュエリストに蘭が使うデッキに入るようなカードは受けが悪かったのか、高レアリティのカードでも比較的値段は落ち着いていた。

 

「このカードを入れてこのカードを発動して……なんだか昔を思い出すわね」

 

 蘭は昔を思い出していた。学生時代、必死に集めたカードで組んだデッキで勝ち負け関係なく皆で楽しくデュエルが出来ていたそんな時代。そんな中、出会ったのが当時プロデュエリストを目指してデュエリストしての研鑽を重ねていた竜司であった。竜司の夢を当時恋人として必死に応援し、彼がその夢を叶えると、彼女はデュエルディスクを置き、公私ともに彼のサポートに回った。

 そして生まれた鈴もまた父や自分と同じデュエリストを志し、その夢に向かって一歩一歩進んでいる。その姿を見て、蘭はまたデュエルディスクを手に取れる日が来ることをずっと待ち望んでいた。遊希たちと偶然出会ったために訪れた機会であるのだが、もしかしたらそれが今日だったのかもしれない。

 

「よし、こんなところかな。店員さーん」

 

 購入するカードを選び終えた蘭がカウンターの店員を呼ぼうとすると、店員たちが店の入り口に固まっていた。彼女が目を凝らして見ると、カードショップの店員たちと三人の若い男性たちが何やら言い争いをしているようだった。

 

「なんで俺たちが出禁なんだよ!」

「君たちは小学生のデュエリストにシャークトレードを持ちかけたそうだね。そういう方の入店はお断りさせて貰います」

 

 シャークトレードとはレアリティの釣り合わないものを無理やり交換させることであり、デュエルモンスターズをはじめとしたトレーディングカードの世界ではタブーとされている行為である。

 

(シャークトレードかぁ。懐かしいわね。まだそんなことをやってる人いるのねぇ……)

「証拠はあるのかよ証拠は!」

「子供たちの証言に君たちの外見がぴたりと合う。一人は細身のパンクファッション、一人は恰幅のいい坊主頭、そしてリーダー格の一人は尖った髪型に両耳にピアスが2つずつ開いている」

「……映像や写真はねーのかよ。証言だけだったら明確な証拠にはなんねえだろ?」

 

 店側としてはこのような不良デュエリストを店に入れるわけにはいかないだろう。そのようなデュエリストが店の常連となってしまえば、きっと善良な他のデュエリストは不良のたまり場となるこのショップを敬遠して足を運ばなくなる。そうなってしまうとカードショップとしてのモラルを問われるのはもちろんのこと、経営面にも影響を及ぼしてしまう恐れがあったのだ。

 

「とにかく、俺たちがやったっていう明確な証拠を出してもらわなきゃ納得できねえよ」

「っ……だったら警察に……」

「サツを呼んだらそれこそサツに頼らなきゃなんもできねー店って評判が出回るぜ? ほら、できねーなら退けよ!」

 

 そう言ってピアスを開けたリーダー格の男が店員を突き飛ばして店に押し入ろうとする。そんな三人組の通り道に立ちはだかるように立ったのが他ならぬ蘭だった。

 今でこそ年齢を感じさせない柔和そうな笑顔を見せる彼女であるが、学生時代はクラス委員長を務めるなど、正義感の強い少女であった。やがて妻となり、母となり、歳を取り、一人の女性として落ち着いた蘭であるが、その頃抱いていた強い気持ちは当然消えてはいなかった。

 

「……なんだよババア。どけ」

「悪いけど素直にどくわけにはいかないわね。ここはみんなで楽しくデュエルをするところよ? あなたたちのように暴力を振るう人を入れるわけにはいかないわ」

「ったく、なんなんだよ今日は。言いがかりはつけられるは変なババアに絡まれるわ……」

 

 もしここで彼らが反省して自らの言動を改めれば蘭としては万々歳だっただろう。しかし、彼らは改めるどころかより汚い言葉を放ってきた。こうなれば大人として、デュエリストの端くれとして蘭も引き下がるわけにはいかない。

 

「ごめんなさいね、変なババアで。でも曲がりなりにも年上に対してそんな言葉遣いされると変なババアでもさすがに怒るし、あなたたちをここで見逃すのは癪というものよ?」

 

 そう言って蘭は持ってきた旧型のデュエルディスクを展開して構える。それを見た若者たちはぶっ、と噴き出した。

 

「なんだよアンタ! その年でデュエリストかよ!! 年齢考えろよ!!」

「あら、お年寄りのプロデュエリストだっているんだから年齢は関係ないわ。気持ちが若ければそれでいいのよ」

「口のよく回るババアだな……いいぜ、だったら俺がそのデュエル受けてやるよ。言っておくが俺は強いぞ?」

 

 若者たちのリーダー格の言葉は嘘ではなかった。この男のデッキの半分はアンティールールなどで他人から半ば強引に分捕ったカードで構成されてはいる。しかし、それでも彼らの存在がブラックリストに載っていない他の町のショップ大会では優勝を繰り返している。手段こそ非道であるが、その実力は本物なのだ。

 

「だったらその腕、このババアに見せて頂戴?」

「っ……おいお前らもデュエルの準備をしろ。こっちは三人で行かせてもらう」

 

 男たちは蘭が一人であると思い、三対一でデュエルをすれば確実に勝てると踏んでいた。実際問題今日デュエリストとして復帰をする蘭が三人を相手にして勝てる道理はないだろう。しかし、今日の彼女は一人ではなかった。

 

「蘭さん!」

「騒がしいから駆けつけてみたら……」

 

 そこにはデュエルの準備を済ませていた遊希と千春の姿があった。購入しようとしているカードで組んだデッキを試運転代わりに回すつもりであったが、蘭が絡まれているのを見て一目散に駆けつけたのであった。

 

「へっ、連れがいやがったか……だったら三人まとめて潰してやる!」

「何があったか知らないけれど、その言葉そのままそっちに返してやるわ」

「そうよ! 私の眼が黒いうちはあんたたちなんかに好き勝手させないんだから!!」

 

 このカードショップの屋上にはデュエル専用のスペースがある。そこで六人はデュエルをすることになった。突然の出来事にそのショップにいた誰もが屋上に駆けつけ、まるで大会が行われているような賑わいを見せることになった。

 蘭と遊希は事前に選んだカードを購入し、そのカードでデッキを調整するため、10分の猶予を与えられた。デッキ調整が終わった後、蘭は申し訳なさそうな顔をして遊希と千春を呼び出す。

 

「二人とも、ごめんなさい!」

 

 デュエルの前、蘭は遊希と千春に深々と頭を下げた。自分の勇み足で娘と同い歳の二人に迷惑をかけてしまったことが年長者として、一人の母親としてどうにも謝らずにはいられなかったのだ。

 ただし、蘭の中にある「デュエリストの誇りを傷つける」行為をしていた若者たちを許すことはできない、という気持ちは遊希と千春にもしっかりと伝わっていた。遊希たちは蘭に頭を上げるように促す。

 

「気にしないでください、蘭さんには恩があります」

「そうよ! 第一私もその場にいたら蘭さんと同じことをしていたわ! 取り敢えず今は私たちの正しさを証明するため、目の前のデュエルに勝ちましょう!!」

 

 遊希と千春、そして蘭は円陣を組んで勝ちを誓う。彼女たちの負けられないデュエル。遊希、千春、そして蘭。彼女たちの心に燃える、デュエリストとしての誇りを賭けたデュエルが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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昔からの相棒

 

 

 

 

「先攻後攻はあなたが決めていいわよ」

 

 蘭のデュエルディスクは旧型であるため、現行のデュエルディスクに付けられている先攻後攻を決めてくれる機能は備わっていない。そのため、彼女は敢えて対戦相手のリーダーに先攻を譲ることにした。デュエル自体は久方ぶりな蘭であるが、マスタールールの変更については新聞や愛読しているデュエル雑誌に掲載されていたため、かろうじて知っていたのである。

 

「いいのか? 先攻はドローできねーけど1ターンで相手の動けなくするような布陣を組み立てることも簡単なんだぜ?」

「その布陣を切り裂くのもまたデュエルの醍醐味? というものかしら」

「っ……面白え。ババア相手だろうが構わず全力で行くぜ!!」

(まさかまたあなたたちと一緒に戦えるなんてね。姿や名前は変わっても、私に力を貸してね、昔からの相棒さん?)

 

 蘭とリーダー格の男のデュエルの火蓋が切って落とされる。それと同時に男の配下である2人と遊希、千春のデュエルも始まった。

 

 

リーダー LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

蘭 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(リーダー)

 

「俺のターン、俺はモンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 リーダーの男は先攻1ターン目はモンスターと魔法・罠カードを1枚ずつセットしてターンエンドを宣言した。デュエル前には先攻の有利さを説いていた男であるが、手札が悪かったのかそれとも先攻から一気に場を制圧するデッキではないのだろうか。どちらにしても先攻を取った側の手としては悪くない。しかし、男の中には微かながら慢心があった。

 

(見たところデュエルに慣れていないババアが相手……軽くあしらってやるか)

 

 

リーダー LP8000 手札3枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

蘭 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

リーダー

 □□伏□□

 □□モ□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

 

 

☆TURN02(蘭)

 

「私のターンよ、ドロー!」

 

 後攻の蘭がデッキからカードをドローする。久しぶりながらデッキからカードをドローできる爽快感はやはり元デュエリストである彼女にはたまらないものだった。

 

「えーと……このカードを先に出した方がいいのかしら……」

「おいおい口に出てるぞ」

「あら、ごめんなさい。歳をとると独り言が多くなってね。控えることにするわ。じゃあ私はマンジュ・ゴッドを召喚するわね」

 

 蘭のフィールドにはマンジュ・ゴッドが召喚される。その効果は言うに及ばず、儀式モンスターを採用したデッキの必須カードである。

 

(マンジュ・ゴッド……儀式か。となると【影霊衣】あたりか? だとしたら……)

「私はデッキから儀式魔法《超戦士の萌芽》をサーチするわね」

「は? 超戦士?」

「そして手札からフィールド魔法《混沌の場》を発動するわね」

 

《混沌の場(カオス・フィールド)》

フィールド魔法

「混沌の場」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「カオス・ソルジャー」儀式モンスターまたは「暗黒騎士ガイア」モンスター1体を手札に加える。

(2):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、お互いの手札・フィールドからモンスターが墓地へ送られる度に、1体につき1つこのカードに魔力カウンターを置く(最大6つまで)。

(3):1ターンに1度、このカードの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。自分はデッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 

「このカードが発動した時、私はデッキから「カオス・ソルジャー」儀式モンスターか「暗黒騎士ガイア」モンスター1体手札に加えられるわ。私は儀式モンスター《超戦士カオス・ソルジャー》を手札に加えるわ」

「カオス・ソルジャー……って確かあの儀式モンスターのカオス・ソルジャーだよな?」

「ええ、そうよ」

 

 それを聞いたリーダー格の男は高笑いをあげる。デュエルモンスターズ草創期に登場したカードであるカオス・ソルジャーは攻撃力は3000と高く、リメイクカードも数多く登場している人気のモンスターであるが、儀式デッキのカテゴリーで言えば【影霊衣(ネクロス)】や【ヴェンデット】などカオス・ソルジャーより強力なパワーを持ったデッキは確かに存在する。デュエルにおいて攻撃力が絶対の時代は、やはりはるか昔のことであったのだ。

 

「へっ、そんなデッキで俺に挑もうとはな。俺も軽く見られたもんだぜ」

「……酷い言いぐさね、私の昔からの相棒なのに。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移るわ。マンジュ・ゴッドでセットモンスターを攻撃よ」

 

マンジュ・ゴッド ATK1400 VS シャドール・ヘッジホッグ DEF200

 

「リバースした《シャドール・ヘッジホッグ》の効果が発動するぜ!」

 

《シャドール・ヘッジホッグ》

リバース・効果モンスター

星3/闇属性/魔法使い族/攻800/守200

「シャドール・ヘッジホッグ」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。デッキから「シャドール」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「シャドール・ヘッジホッグ」以外の「シャドール」モンスター1体を手札に加える。

 

 シャドールはかつてはプロの世界でも多くのデュエリストに使われていた融合召喚を軸にしたテーマであるが、切り札である《エルシャドール・ネフィリム》が禁止カードに指定されて以降はカードパワーのインフレに押されてしまっていた。しかし、その禁止カードであったネフィリムは禁止指定が解除され、かつての強さを取り戻しつつあるデッキである。

 

「ヘッジホッグの効果でデッキから「シャドール」と名のついた魔法・罠カード《影依融合》を手札に加える。まあ守備力200だから破壊されちまうけどな」

「【シャドール】……聞いたことがあるわ。確か前はかなり強かったテーマなのよね」

「前じゃねえ、今だって強いデッキだ。そして強いだけじゃねえ、俺はこのデッキで多くのデュエリストにトラウマを植え付けてきた。次の獲物はあんただぜ、ババア」

「そうだ、フィールドからモンスターが墓地に送られたから混沌の場に魔力カウンターが1つ乗るわ」

 

混沌の場 魔力カウンター:0→1

 

「私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

 相手が強敵である、と聞かされたところでどこ吹く風といった様子の蘭は穏やかな表情を崩さずそのままターンエンドを迎えた。

 

 

リーダー LP8000 手札4枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:1 墓地:1 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

蘭 LP8000 手札4枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(マンジュ・ゴッド)EXゾーン:0 魔法・罠:2(混沌の場(カウンター:1))墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

リーダー

 □□伏□□

 □□□□□□

  □ □

混□□マ□□

 □伏□□□

 

 

○凡例

混・・・混沌の場

 

 

☆TURN03(リーダー)

 

「俺のターン、ドロー」

(このババア、やっぱり素人だな。攻撃力1400のマンジュ・ゴッドを棒立ちにさせてやがる)

 

 リーダー格の男が使うデッキは【シャドール】。リバース効果と融合召喚を多用するデッキであり、デッキパワーは蘭の【カオス・ソルジャー】デッキの比ではない。しかし、シャドールのキーカードの1つである影依融合は相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚していなければその本領を発揮できないという一面もあった。

 

(エクストラデッキはあるみたいだが、俺のデッキが【シャドール】ってバレた以上、シンクロやエクシーズは使ってこねえだろうな)

「ねえ」

「……なんだよ。今は俺のターンだぞ」

「わかっているわ。だからあなたのターンにリバースカードを発動するわ。永続罠《明と宵の逆転》発動よ」

 

《明と宵の逆転》

永続罠

以下の効果から1つを選択して発動できる。「明と宵の逆転」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

●手札から戦士族・光属性モンスター1体を墓地へ送る。その後、そのモンスターと同じレベルの戦士族・闇属性モンスター1体をデッキから手札に加える。

●手札から戦士族・闇属性モンスター1体を墓地へ送る。その後、そのモンスターと同じレベルの戦士族・光属性モンスター1体をデッキから手札に加える。 

 

「明と宵の逆転だと!?」

「私は手札から戦士族・闇属性でレベル4の《混沌の使者》を墓地に送り、同じレベルで戦士族・光属性の《開闢の騎士》を手札に加えるわね。そして今の効果で手札からカードが墓地に送られたから混沌の場の効果が発動。魔力カウンターを1つ乗せるわね」

 

混沌の場 魔力カウンター:1→2

 

「っ……俺は手札から影依融合を発動する!!」

 

《影依融合(シャドール・フュージョン)》

通常魔法

「影依融合」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる。

 

「俺は手札の《シャドール・ビースト》と《シャドール・リザード》を融合!“闇に蠢く影よ、今一つとなり己が求める真実を探し求めよ!”融合召喚!現れろ!《エルシャドール・ミドラーシュ》!!」

 

《エルシャドール・ミドラーシュ》

融合・効果モンスター

星5/闇属性/魔法使い族/攻2200/守800

「シャドール」モンスター+闇属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードは相手の効果では破壊されない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、その間はお互いに1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「エルシャドール・ミドラーシュは相手の効果では破壊されず、このカードがモンスターゾーンに存在する限りお互いにモンスターは1ターンに1度までしか特殊召喚できない!」

「レベル5なのになんて効果を持っているのかしら……最近のカードは凄いのね。あっ、今の融合召喚であなたの手札から2体のモンスターが墓地に送られたからその分魔力カウンターを混沌の場に乗せるわね」

 

混沌の場 魔力カウンター:2→4

 

「だが、融合素材となったビーストとリザードの効果も発動する!」

 

《シャドール・ビースト》

リバース・効果モンスター

星5/闇属性/魔法使い族/攻2200/守1700

「シャドール・ビースト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。その後、手札を1枚捨てる。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

《シャドール・リザード》

リバース・効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守1000

「シャドール・リザード」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「シャドール・リザード」以外の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

 

チェーン2(リーダー):シャドール・ビースト

チェーン1(リーダー):シャドール・リザード

 

「ビーストの効果で俺はデッキから1枚ドロー! そしてリザードの効果で俺はシャドールカード《影依の原核》を墓地に送る。そして効果で墓地に送られた影依の原核の効果も発動する!」

 

《影依の原核(シャドールーツ)》

永続罠

(1):このカードは発動後、効果モンスター(魔法使い族・闇・星9・攻1450/守1950)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、「シャドール」融合モンスターカードに記された属性の融合素材モンスターの代わりにできる。このカードは罠カードとしても扱う。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合、「影依の原核」以外の自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「俺は影依の原核以外のシャドールの魔法カード、影依融合を墓地から回収する」

「あら、またそのカードで融合召喚ができるようになるのね。上手いプレイングだわ」

「褒めてる場合じゃねえぜ! バトルフェイズ、エルシャドール・ミドラーシュでマンジュ・ゴッドを攻撃!“エルシャドール・ガスト”!!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ ATK2200 VS マンジュ・ゴッド ATK1400

 

蘭 LP8000→7200

 

「フィールドからモンスターが墓地に送られた時、混沌の場にさらに魔力カウンターが乗るわ」

 

混沌の場 魔力カウンター:4→5

 

(このターンで混沌の場に一気に魔力カウンターが5つも乗っちまったか……だが、儀式召喚をしようにもそのレベルを満たす素材が無ければ意味ねえな)

「俺はこれでターンエンドだ」

「……」

 

 リーダー格の男はターンエンドを宣言する。しかし、蘭は自分のデュエルの最中ながら両隣でデュエルをしている遊希と千春の方が気になっているようだった。

 

「おい! 今お前は俺とデュエルしてるんだろうが! こっちに集中しろ!!」

「あら、ごめんなさいね。でもあなたこそ大丈夫なの?」

「んだと? どういう意味……」

 

 蘭に促されて自分の両隣、仲間たちのデュエルに目を向けるリーダー格の男。次の瞬間、彼は目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を対象に手札の《雷源龍-サンダー・ドラゴン》の効果を発動」

 

《雷源龍-サンダー・ドラゴン》

効果モンスター

星1/光属性/雷族/攻0/守2000

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードを手札から捨て、自分フィールドの雷族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は500アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが除外された場合またはフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「雷源龍-サンダー・ドラゴン」1体を手札に加える。

 

「雷神龍-サンダー・ドラゴンの攻撃力を500ポイントアップする。そして雷族モンスターの効果が発動した時に雷神龍の効果を発動」

 

《雷神龍-サンダー・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星10/光属性/雷族/攻3200/守3200

「サンダー・ドラゴン」モンスター×3

このカードは融合召喚及び以下の方法でのみ特殊召喚できる。

●手札の雷族モンスター1体と、「雷神龍-サンダー・ドラゴン」以外の自分フィールドの雷族の融合モンスター1体を除外した場合にEXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):雷族モンスターの効果が手札で発動した時に発動できる(ダメージステップでも発動可能)。フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

(2):このカードが効果で破壊される場合、代わりに自分の墓地のカード2枚を除外できる。

 

「チェーン2の雷神龍の効果。《アポクリフォート・キラー》を破壊しなさい!」

 

 神の名を宿す雷龍の咆哮が、巨大な機械のようなモンスターを打ち砕く。アポクリフォート・キラーは自身のレベルより低いレベルのモンスターが発動した効果を受けないが、雷神龍のレベルはアポクリフォート・キラーと同じ10である。そのため雷神龍の効果を防ぐことができないのだ。

 

「なっ……!」

「チェーン1の雷源龍の効果で雷神龍の攻撃力は500ポイントアップする。厄介なアポクリフォート・キラーが消えたことで、私のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は元に戻るわ」

 

雷神龍-サンダー・ドラゴン ATK2700/DEF2700→ATK3700/DEF3200

常夏のカミナリサマー ATK1100→ATK1600

 

「そして墓地の光属性《雷鳥龍-サンダー・ドラゴン》と闇属性《雷電龍-サンダー・ドラゴン》をゲームから除外して手札から《雷劫龍-サンダー・ドラゴン》を特殊召喚」

 

《雷劫龍-サンダー・ドラゴン》

特殊召喚・効果モンスター

星8/闇属性/雷族/攻2800/守0

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。

(1):1ターンに1度、モンスターの効果が手札で発動した場合に発動する。このカードの攻撃力はターン終了時まで300アップする。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分の墓地からカード1枚を除外して発動できる。デッキから雷族モンスター1体を手札に加える。

(3):相手エンドフェイズに、除外されている自分のカード1枚を対象として発動できる。そのカードをデッキの一番上または一番下に戻す。

 

「除外された雷電龍の効果を発動。デッキから《雷獣龍-サンダー・ドラゴン》をサーチ。そしてモンスターで一斉攻撃」

 

雷神龍-サンダー・ドラゴン ATK3700

雷劫龍-サンダー・ドラゴン ATK2800

常夏のカミナリサマー ATK1600

 

「適当に組んだデッキだけど、思いの外動くものね。ギャラクシーからこっちに乗り換えようかしら」

―――それはそれで悲しくなるからやめてくれ。

 

男 LP7200→0

 

 遊希は先ほど購入した学外でのデュエルで使用する【サンダー・ドラゴン】のデッキで男の配下のライフをあっさり0にしてしまっていた。このデュエルで遊希が失ったライフはわずか1000。それも《簡易融合》のコストで支払ったのみなので、実質ノーダメージでの勝利と言えた。また、同じように千春のデュエルも決着がつこうとしていた。

 

「とどめよ、行きなさい!《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》!“サイバー・ダークネス・インパクト”!」

 

鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン ATK7000

 

男 LP6000→0

 

 遊希が勝ちを収めるとほぼ同時に千春も新たに組んだ【裏サイバー】デッキでこれまた苦も無く相手のライフを0にしていた。リーダー格の男をはじめ、この三人の実力はかなり高い方と言えるだろう。しかし、アカデミアの中核校であるセントラル校で学び、かつ1年生ながら上級生相手に全く引けを取らない遊希と千春が相手では、さすがに相手が悪すぎると言わざるをえなかった。

 

「馬鹿な……あいつらがこんなにあっさり……!」

「さあ、おばさんも早く終わらせちゃおうかな?」

 

 

リーダー LP8000 手札4枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(エルシャドール・ミドラーシュ)魔法・罠:1 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

蘭 LP7200 手札4枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:2(混沌の場(カウンター:5)、明と宵の逆転)墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

リーダー

 □□伏□□

 □□□□□□

  ミ □

混□□□□□

 □明□□□

 

○凡例

ミ・・・エルシャドール・ミドラーシュ

明・・・明と宵の逆転

 

 

 

 

 

 

 



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超戦士降臨

 

 

 

 

「遊希、ナイスデュエル!」

「そっちこそ」

 

 一足先にデュエルを終えた遊希と千春は互いの健闘を讃え合い、小さくハイタッチする。そうなると気になるのが蘭のデュエルであった。

 

「蘭さん、大丈夫かしら……」

「ブランクがあるのは否定できないし相手もシャドール……厳しいデュエルになるでしょうね」

(でも不思議と心配にならないのはなんでかしらね)

 

 心配する千春に対し、遊希は一デュエリストとしてあくまで客観的に物を見て言うが、何処となく不安な感じはしなかった。彼女のデュエルする姿がそれとなく、夫である竜司、そして娘である鈴と重なって見えたからだ。

 

 

 

☆TURN04(蘭)

 

「私のターン、ドローよ。ドローフェイズ、スタンバイフェイズを終えてメインフェイズ1に移行するわね。じゃあここで明と宵の逆転の効果を発動するわ。手札の戦士族・光属性・レベル8の《聖戦士カオス・ソルジャー》を墓地へ送り、デッキから戦士族・闇属性で同じレベルの《カオス・ソルジャー-宵闇の使者-》を手札に加えるわ」

 

 儀式モンスターの難しいところは手札に儀式モンスターと儀式魔法。儀式のための生贄が必要となる。そのため魔法カード1枚で召喚できる融合モンスターやモンスターのみで召喚できるSモンスターやXモンスターに比べて召喚難度が高いことは否めない。現にリーダー格の男は手札に儀式のための生贄が存在しなければ何の意味もない、と高を括っていた。

 

「墓地にカードが送られたことで混沌の場にカウンターが乗る。これで混沌の場のカウンターは上限の6つに達したわ」

 

混沌の場 魔力カウンター:5→6

 

「そして混沌の場の魔力カウンターを3つ取り除き、デッキから儀式魔法1枚を手札に加えるわ。2枚目の超戦士の萌芽を手札に」

 

混沌の場 魔力カウンター:6→3

 

「そして超戦士カオス・ソルジャーをコストに手札から魔法カード、トレード・インを発動。デッキからカードを2枚ドローするわ。それじゃあ反撃と行くわね。私は手札から儀式魔法、超戦士の萌芽を発動よ!」

 

《超戦士の萌芽》

儀式魔法

「カオス・ソルジャー」儀式モンスターの降臨に必要。

「超戦士の萌芽」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):レベルの合計が8になるように、以下のどちらかの組み合わせのモンスターを墓地へ送り、自分の手札・墓地から「カオス・ソルジャー」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

●手札の光属性モンスター1体とデッキの闇属性モンスター1体

●手札の闇属性モンスター1体とデッキの光属性モンスター1体

 

「私は手札の光属性モンスター、開闢の騎士とデッキの闇属性モンスター《宵闇の騎士》の2体を儀式の生贄に捧げて墓地からカオス・ソルジャー儀式モンスターをを儀式召喚するわ」

「デッキのモンスターを生贄にし、墓地から儀式召喚だと!?」

 

 白と黒の鎧を身に纏った少年騎士の魂が灯火揺らめく祭壇の中へと消えていく。そして現れたのは紺色と赤色が入り混じった鎧を纏った一人の誇り高き騎士のようなモンスターだった。

 

「“一つの魂は開闢を導き、一つの魂は宵闇をもたらす。目覚めるは大地を揺るがす超戦士!”儀式召喚。現れなさい!《超戦士カオス・ソルジャー》!」

 

《超戦士カオス・ソルジャー》

儀式・効果モンスター

星8/地属性/戦士族/攻3000/守2500

「超戦士の儀式」により降臨。

自分は「超戦士カオス・ソルジャー」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードが戦闘または相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「暗黒騎士ガイア」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

混沌の場 魔力カウンター:4→6

 

「儀式召喚なら一度の特殊召喚で儀式モンスターを出すことは容易いことよ? ちなみにこの超戦士カオス・ソルジャーは開闢の騎士と宵闇の騎士を生贄にしたからそれぞれのモンスターによって効果を付与されるわ」

 

《開闢の騎士》

効果モンスター

星4/光属性/戦士族/攻500/守2000

「開闢の騎士」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを使用して儀式召喚した「カオス・ソルジャー」モンスターは以下の効果を得る。

●1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。

●このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 

《宵闇の騎士》

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻500/守2000

「宵闇の騎士」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを使用して儀式召喚した「カオス・ソルジャー」モンスターは以下の効果を得る。

●1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。

●1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。相手の手札をランダムに1枚選び、次の相手エンドフェイズまで裏側表示で除外する。

(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。デッキから儀式モンスター1体を手札に加える。

 

「よってこの超戦士カオス・ソルジャーは開闢の騎士と宵闇の騎士の(1)の効果を2つ得て1ターンに2回まで相手モンスターを除外できる。そして開闢の騎士の連続攻撃効果と宵闇の騎士の手札除外効果も得たわ」

「なんだと!?」

「早速使わせてもらうわね。私は超戦士カオス・ソルジャーの効果であなたの手札をランダムに1枚選んで次のあなたのエンドフェイズまでゲームから除外するわ!」

 

 超戦士の剣から放たれた闇の力によってリーダー格の男の手札1枚がゲームから除外されてしまった。

 

(っ……回収した影依融合が……!)

「そしてバトルフェイズ。超戦士カオス・ソルジャーでエルシャドール・ミドラーシュを攻撃!“ハイパー・カオス・ブレード”!!」

 

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000 VS エルシャドール・ミドラーシュ ATK2200

 

「リバースカードオープン! 罠カード《堕ち影の蠢き》発動!」

 

《堕ち影の蠢き》

通常罠

(1):デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。その後、自分フィールドの裏側守備表示の「シャドール」モンスターを任意の数だけ選んで表側守備表示にできる。

 

「俺はデッキから2体目のシャドール・ビーストを墓地に送る! そしてビーストの効果で1枚ドローだ!」

 

リーダー LP8000→7200

 

「相手モンスターを破壊し、墓地に送ったことで超戦士カオス・ソルジャー本来の効果が発動。破壊したモンスターの攻撃力分のダメージをあなたのライフに与えるわ!」

「その効果にチェーンしてエルシャドール・ミドラーシュの効果を発動!」

 

チェーン2(リーダー):エルシャドール・ミドラーシュ

チェーン1(蘭):超戦士カオス・ソルジャー

 

「チェーン2のミドラーシュの効果で俺は墓地の影依の霊核を手札に加える」

「チェーン1の超戦士カオス・ソルジャーの効果でミドラーシュの攻撃力分のダメージを受けてもらうわ」

 

リーダー LP7200→5000

 

「さらに儀式の生贄にした開闢の騎士の効果。超戦士カオス・ソルジャーはさらにもう1回続けて攻撃ができるわ。“ハイパー・カオス・ダブルブレード”!!」

 

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000

 

リーダー LP5000→2000

 

「ぐっ!!……この野郎!!」

「あら、私は野郎じゃないわよ? 言葉は正しく使いなさい。バトルフェイズを終了。私はこれでターンエンドよ」

 

 

リーダー LP2000 手札6枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:7 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)

蘭 LP7200 手札3枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:1(超戦士カオス・ソルジャー)EXゾーン:0 魔法・罠:2(混沌の場(カウンター:6)、明と宵の逆転)墓地:9 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

リーダー

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

混□□超□□

 □明□□□

 

 

○凡例

超・・・超戦士カオス・ソルジャー

 

 

 相当のブランクがあったにも関わらず、わずか1ターンでリーダーのライフを6000も削ってみせた蘭。そのタクティクスの巧さに遊希と千春は思わず感嘆の言葉を漏らした。

 

「すごい……とてもブランクがあるとは思えないわ」

「ええ、元々凄腕のデュエリストだったんでしょうね。でもまだ決まったわけじゃない……」

 

 しかし、ライフが1でも残っている限りデュエルは続く。リーダーの手札はシャドール・ビーストの効果などで6枚に増えており、それだけの手札があればここからの逆転も十分に可能であったのだ。

 

 

☆TURN05(リーダー)

 

「ここまでコケにされてこのまま終われるかよ!! ドロー!!」

 

 このターンで超戦士カオス・ソルジャーをなんとかしなければリーダー格の男に次の自分のターンは回ってこない。さらに手札の影依融合をこのターンの終了時まで除外されてしまっているため、ここでの彼のドローが明暗を分けるといって差し支えなかった。

 

「俺は闇の誘惑を発動! デッキから2枚ドローし、手札の闇属性モンスター、終末の騎士をゲームから除外!……さて、前のターンのお返しをしてやるぜ」

 

 すると、リーダーの墓地に眠っているはずのモンスターの姿が浮かび上がる。戦闘で破壊されたはずのミドラーシュ、ヘッジホッグ。影依融合の素材となったビーストとリザード、堕ち影の蠢きの効果で墓地に送られた2体目のビースト。いずれもシャドールモンスターであり、闇属性のモンスター5体の姿だ。

 

「俺の墓地には闇属性モンスターはが5体存在し、かつ自分フィールドにモンスターはいない! よってこいつを特殊召喚できる! 来い!《ダーク・クリエイター》!」

 

《ダーク・クリエイター》

効果モンスター

星8/闇属性/雷族/攻2300/守3000

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、自分の墓地の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

「ダーク・クリエイター……確か闇属性デッキの強力なカードよね」

「そしてダーク・クリエイターの効果を発動! 墓地の闇属性モンスター1体を除外し、墓地の闇属性モンスター1体を特殊召喚する! 俺はシャドール・ビーストをゲームから除外し、エルシャドール・ミドラーシュを特殊召喚する!」

 

 エルシャドール・ミドラーシュが蘇生されたことで、リーダー格の男のフィールドには2体の闇属性モンスターが並ぶ。この瞬間、蘭は気づいた。リーダー格の男の墓地に存在する闇属性モンスターの数に。

 

「……まさか」

「気付いたようだな! 俺の墓地の闇属性モンスターは3体ちょうど! よってこいつを手札から特殊召喚できる! 壊しつくせ!《ダーク・アームド・ドラゴン》!!」

 

《ダーク・アームド・ドラゴン》

効果モンスター(制限カード)

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

このカードは通常召喚できない。自分の墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ特殊召喚できる。

自分のメインフェイズ時に自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 元々はLvモンスターとして登場したアームド・ドラゴンが所謂ダークモンスターとしてリメイクされたのがこのダーク・アームド・ドラゴンである。特殊召喚の条件は墓地の闇属性モンスターの数を3体ちょうどにしなければならないなど、工夫が必要なモンスターではあるが、特殊召喚に成功さえしてしまえば、ターン制限のない除去効果が襲い掛かる。

 

「……いい引きをしているのね。デュエリストとしての才能は申し分ないわ。でもその才能はこんなことに活かすためのものじゃないのに」

「なんとでも言いやがれ! 俺はダーク・アームド・ドラゴンの効果を発動! 墓地のシャドール・ヘッジホッグをゲームから除外して超戦士カオス・ソルジャーを破壊する! “ダーク・ジェノサイド・カッター”!!」

 

 ダーク・アームド・ドラゴンから放たれた漆黒の刃によって超戦士カオス・ソルジャーは無残にも破壊されてしまう。しかし、超戦士はその死においても未来を繋ぐ。

 

「超戦士カオス・ソルジャーが相手の効果で破壊されて墓地に送られた時、私はデッキ・手札・墓地から「暗黒騎士ガイア」モンスター1体を特殊召喚できるわ! 私はデッキから《覚醒の暗黒騎士ガイア》を特殊召喚よ」

 

《覚醒の暗黒騎士ガイア》

効果モンスター

星7/闇属性/戦士族/攻2300/守2100

「覚醒の暗黒騎士ガイア」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。自分の手札・墓地から「カオス・ソルジャー」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

(3):「カオス・ソルジャー」モンスターの儀式召喚を行う場合、必要なレベル分のモンスターの内の1体として、墓地のこのカードを除外できる。

 

「壁モンスターを出してきたか。だが無駄だ! ダーク・アームド・ドラゴンの効果は墓地に闇属性がいる限り発動できる! シャドール・リザードを除外し、覚醒の暗黒騎士ガイアも破壊!」

 

 しかし、超戦士の遺したガイアすらもダーク・アームド・ドラゴンの凶刃の前に斃れる。

 

「……ごめんなさい、ガイア」

「モンスターを気遣ってる場合じゃねえぜ! 俺は手札から《シャドール・ドラゴン》を召喚!」

 

《シャドール・ドラゴン》

リバース・効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1900/守0

「シャドール・ドラゴン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主の手札に戻す。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「バトルだ! まずはシャドール・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

シャドール・ドラゴン

 

蘭 LP7200→5300

 

「まだだ! エルシャドール・ミドラーシュでダイレクトアタック!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ ATK2200

 

蘭 LP5300→3100

 

「さらにダーク・クリエイターで追撃!!」

 

ダーク・クリエイター ATK2300

 

蘭 LP3100→800

 

「きゃあっ!!」

「これで終わりだ!! ダーク・アームド・ドラゴンでダイレクトアタック!! “ダーク・アームド・パニッシャー”!!」

 

ダーク・アームド・ドラゴン ATK2800

 

「蘭さん!!」

 

 蘭にダーク・アームド・ドラゴンの攻撃が迫る。千春が思わず蘭の名を呼んだ時。彼女の手札から金色の輝く小さな球体上のモンスターがぴょこん、と飛び出したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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母親の温もり

 

 

 

 

 

「蘭さん! 駄目っ!!」

 

 先にデュエルを終え、これまで静かに見守っていた千春が思わず蘭の名を叫ぶ。しかし、綾瀬はそんな千春に大丈夫よ、とばかりに笑顔で返した。

 

「私は手札の《クリボール》の効果を発動!」

 

《クリボール》

効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻300/守200

(1):相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。その攻撃モンスターを守備表示にする。

(2):儀式召喚を行う場合、必要なレベル分のモンスターの内の1体として、墓地のこのカードを除外できる。

 

「このカードを手札から墓地に送ることで、相手の攻撃モンスターを守備表示にするわ! ダーク・アームド・ドラゴンを守備表示に変更!」

 

ダーク・アームド・ドラゴン DEF1000

 

「ちっ……決めきれなかったか。メインフェイズ2、俺はカードを2枚セット。これでターンエンドだ!」

 

 そしてリーダー格の男のエンドフェイズに前のターン、宵闇の騎士の力を得た超戦士カオス・ソルジャーの効果で除外されていた手札が戻ってくる。このターンこそ何とか凌いだものの、蘭にとってはやはり正念場であることは変わりなかった。

 

 

リーダー LP2000 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:4(ダーク・アームド・ドラゴン、ダーク・クリエイター、エルシャドール・ミドラーシュ、シャドール・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:2 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:14(0)

蘭 LP800 手札2枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:2(混沌の場(カウンター:6)、明と宵の逆転)墓地:11 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

リーダー

 □□伏伏□

 □ミアクド

  □ □

混□□□□□

 □明□□□

 

○凡例

ア・・・ダーク・アームド・ドラゴン

ク・・・ダーク・クリエイター

ド・・・シャドール・ドラゴン

 

 

☆TURN06(蘭)

 

「私のターン、ドローよ」

 

 クリボールの効果でダーク・アームド・ドラゴンの攻撃を防いだことで間一髪敗北を免れた蘭。しかし、それはこのターンで逆転できなければ彼女の負けを意味する。

 遊希と千春は圧勝したものの、当事者でもある蘭が勝たなければ意味がない。ここは完全勝利を収めてこそ価値があると言えるデュエルだった。

 

「次、ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃を受けたら私のライフはゼロになるわ。そういった意味では私の方が不利……そう思うでしょう?」

「……どういう意味だ」

 

 リーダー格の男は蘭が何故そこまで平静でいられるのか、と首を傾げる。だが、彼がそう思うのも無理はない。彼のフィールドにはエルシャドール・ミドラーシュが存在する。

 このモンスターが存在する限り、互いに特殊召喚を1ターンに1回までしか行えないため、その1回の特殊召喚で3体のモンスターを攻略し、かつリーダー格の男のライフを0にしなければ蘭に勝ちはないのだ。歴戦のデュエリストですらそうやすやすと覆せないであろう状況ながら蘭はその顔にまだ笑みを含んでいた。

 

「どうもこうもないわ。あなたは前のターンで私のライフを0にしなければならなかったの。私は明と宵の逆転の効果を発動。手札の戦士族・闇属性モンスターのカオス・ソルジャー-宵闇の使者-を墓地に送り、私はデッキから戦士族・光属性モンスターのカオス・ソルジャー-開闢の使者-を手札に加えるわ! そして墓地の光属性モンスター、開闢の騎士と闇属性モンスター、宵闇の騎士をゲームから除外し―――《カオス・ソルジャー-開闢の使者-》を特殊召喚する!」

 

《カオス・ソルジャー-開闢の使者-》

特殊召喚・効果モンスター

星8/光属性/戦士族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。

このカードの(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(2):このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

 

「開闢……!?」

 

 蘭のフィールドにはカオス・ソルジャー-開闢の使者-が特殊召喚される。同じカオス・ソルジャー系列のカードながらこちらも比較的古いカードではある。しかし、かつては禁止カードに指定されていたカードであるため、このカードの強さはカオス・ソルジャーデッキを小馬鹿にしていたリーダー格の男も十分知っていた。

 

「へっ……開闢の使者を出したところでこのターンで俺のライフは削り切れない! そしてあんたはミドラーシュの効果でこのターンもう特殊召喚できないぜ!」

「あら、できるようになるわよ。ゲームから除外された墓地の開闢の騎士と宵闇の騎士の第2の効果が発動! この2体は墓地から除外されることでデッキから儀式魔法と儀式モンスターを手札に加えることができるのよ!」

「なんだと!?」

「私はデッキから儀式モンスター、2体目の超戦士カオス・ソルジャーと《超戦士の儀式》を手札に加えるわ。そしてカオス・ソルジャー-開闢の使者-の効果を発動! このターン、このカードは攻撃できなくなる代わりに相手フィールドのカード1枚をゲームから除外できるわ! 異世界に消えなさい、エルシャドール・ミドラーシュ!」

 

 開闢の使者の効果でエルシャドール・ミドラーシュが姿を他の次元に飛ばされていく。これで蘭を縛り付けていた特殊召喚制限が取り払われた。

 

「っ……だが儀式召喚には生贄が必要だ。その手札では……」

「確かに手札に儀式の生贄にできるモンスターはいないわ。でも墓地にそのためのモンスターはいるわ! 儀式魔法、超戦士の儀式を発動!!」

 

《超戦士の儀式》

儀式魔法

「カオス・ソルジャー」儀式モンスターの降臨に必要。

「超戦士の儀式」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が8になるようにモンスターをリリースし、手札から「カオス・ソルジャー」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):自分の墓地からこのカード及び光属性モンスター1体と闇属性モンスター1体を除外して発動できる。手札から「カオス・ソルジャー」儀式モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

 超戦士を呼び覚ますための空間に現れるのは前のターン墓地に送られた覚醒の暗黒騎士ガイアとクリボールの2体だった。蘇ったわけではないので、その姿はまるで幽霊のごとくうっすらとぼやけているように見える。蘭が発動した儀式に呼応して彼らの魂のみがその場に舞い降りる、そういった感じであった。

 

「ガイアとクリボール、墓地のこの2体はゲームから除外することで儀式のための生贄にできるのよ」

「まさか【儀式魔人】と同じ効果を……!!」

「“覚醒せし暗黒の騎士よ。光の速さで駆け抜けなさい! そしてその魂を超戦士へと昇華せよ!”儀式召喚! 再度舞い降りなさい! 超戦士カオス・ソルジャー!!」

 

 このターンの開始時にはフィールドには1体のモンスターも存在しなかった蘭。しかし、気づいてみれば彼女のフィールドには2体の“カオス・ソルジャー”が存在していた。

 

「ば、馬鹿な……」

「信じられないって顔をしてるわね? でもその信じられないことが起きるのがデュエルなのよ? バトル! 超戦士カオス・ソルジャーでダーク・アームド・ドラゴンを攻撃! “ハイパー・カオス・ブレード”!!」

 

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000 VS ダーク・アームド・ドラゴン DEF1000

 

 超戦士の剣が守備態勢を取るダーク・アームド・ドラゴンの身体を快刀乱麻を断つが如く両断した。元々のステータスは《アームド・ドラゴン Lv7》のものであるため、攻撃力に比べて守備力は心許ない。超戦士カオス・ソルジャーに貫通効果は無いため、戦闘ダメージは発生しないが、超戦士カオス・ソルジャーの効果があった。

 

「そして戦闘で相手モンスターを破壊した超戦士カオス・ソルジャーの効果。破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与えるわ! ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力2800ぶんのダメージを受けなさい!」

 

リーダー LP2000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、楽しかった」

 

 そう言ってデュエルディスクをしまう蘭。接戦、という形であったため歴戦のデュエリストですらも疲労困憊になるであろうシチュエーションながら彼女はにっこりと笑顔を浮かべていた。

 

「蘭さん、お疲れさまでした」

「凄いデュエルだったわ! 本当にブランクがあるのかしら?」

「あら、ディスクを付けるのも久々だったのよ?」

 

 互いにデュエルを讃えあう蘭たち。一方で敗れた不良デュエリストたちは信じられない、といった面持ちで何やら話し合っていた。

 

「さて、デュエル前にした約束だけど」

 

 蘭はデュエルの前にリーダー格の男と約束を交わしていた。それは男たちが負けた場合、これまでの行為を謝罪することに加え、無理矢理奪い取ったカードを元の持ち主に返還する、ということだった。リーダー格の男はまさかデュエルにブランクのある蘭に負けるわけがない、と慢心していたためその約束を二つ返事で受けてしまったのである。

 

「男に二言はない、そう言うでしょ? まあ今すぐ家に帰って取って来いとまでは言わないけど」

「まだだ……」

「えっ?」

「まだ俺には兄貴がいる! 兄貴は俺なんかよりよっぽど強いデュエリストだ! 兄貴を倒したらその約束を守る!!」

「ええー……」

 

 それを聞いて蘭たちは困惑した様子を浮かべた。正直彼らのデュエリストとしての実力は遊希や千春からしてみれば屁でもないレベルである。しかし、今のように延々とデュエルの相手を出されては骨が折れるというもの。現に大会の休息期間である今日でさえもデュエルをする予定が無かったため、これ以上のデュエルは身体的負担を減らすためにも避けたい、というのが彼女たちの本音であった。

 

「さっき兄貴に連絡した。もうすぐ兄貴が来るぜ……」

 

 リーダー格の男の男がそう言った瞬間、カードショップの自動ドアが開き、身長2メートル近くある筋骨隆々の大男が店内に入ってきた。この大男こそがリーダー格の男の実の兄にあたるデュエリストだった。

 

「兄貴! こいつらがさっき言った奴らだ! 兄貴なら余裕で捻りつぶせるよな!?」

「……」

「残念だけど、君たちは約束を守らなければならないね」

 

 リーダー格の男がそう問いかけるが大男は渋い表情をしたままそこを動かない。リーダー格の男がそんな兄の様子に首を傾げると、大男の後ろからスーツを着た初老の男性が前に歩み出てくる。その男性を見て千春が驚きの声を上げた。

 

「こ、校長先生!」

「校長……? ってまさかあんた……」

「ああ。デュエルアカデミアジャパン・セントラル校の校長にして元プロデュエリストの星乃 竜司だ。君のお兄さんとは先ほど私がデュエルをさせてもらったよ。筋はいいけどまだまだだね。私の敵ではなかったよ」

「そ、そんな……」

 

 そう言ってリーダー格の男はその場にへたり込んでしまった。彼としてもまさかあの星乃 竜司がそこに現れるとは思っていなかったため、そのショックは想像以上に大きなものだった。

 

「校長先生、どうしてここに?」

「実は私としてもアカデミアの校長として地域に貢献しなければならなくてね。街が発展するにあたってデュエリストが起こすトラブルの解決や仲裁に回る必要があるんだよ」

 

 そう言って小さくため息をつく竜司。教師ながら学外のことにも協力しなければならない、ということの大変さを思い知らされた形であった。

 

「まあ君たちがここにいてくれたおかげで事が上手く運んだよ、ありがとう。天宮君、日向君。それで……」

 

 遊希と千春に感謝の意を述べる竜司。そして彼の視線は遊希たちの傍でニコニコ笑っている蘭へと向く。

 

「なんで君がここにいるんだい、蘭。デュエリストはもう辞めたんじゃなかったのかい?」

「あら、いけなかったかしら?」

「いや、私は別に構わないんだけど……」

「ならいいじゃない? ね、あ・な・た?」

 

 そう言って竜司と腕を組む蘭。年齢を感じさせない若々しさを誇る美男美女の二人であったが、公衆の面前でこうもイチャイチャできるのはさすがにこの二人だけかもしれない。

 

「ということで! 私もデュエリスト復帰します! 今日みたいに暇な日はカードショップに繰り出すわよ!」

「うん。まあ私としては応援したいかな。ただ……」

「ただ?」

「彼女がご立腹のようで」

 

 竜司が指さした先には腕を組んでまさに怒髪天を衝く、といった表情の鈴の姿があった。鈴はこの日隣町のカードショップに一人で出掛け、足りないカードの調達やデッキ調整をこっそりと行うつもりでいた。しかし、竜司から鈴がカードショップで不良デュエリストたちに絡まれている、という連絡を受けて一目散に駆けつけたのであった。

 

「マ~マ~ぁ~……!!」

「り、鈴ちゃん? そんな怖い顔をしてると可愛い顔が台無しよー……」

「誰のせいだと思ってるのよ!! パパだけじゃなくて遊希や千春にまで迷惑かけて!!」

「ご、ごめんなさーい!!」

 

 まるで姉妹喧嘩のような娘のお説教が繰り広げられる傍らで、竜司は最後にしなければならないことがあった。それが不良デュエリストたちの処遇である。

 

「こんな奴ら粗びき肉団子にしちゃえばいいのよ」

「駄目よ遊希! こんな奴らで粗びき肉団子作っても美味しくもなんともないわ! ちゃんとした牛肉を使わないと!」

―――いや、ツッコミどころはそこじゃないと思うんだが。

「……君たちは無理に関わらなくてもいいよ」

 

 憮然とした表情の遊希と千春を後ろに下げると、竜司は不良たちと目線を同じにして話しかける。立場的には圧倒的に竜司の方が上なのだが、彼はあまり上から目線でものを語ることが好きではなく、それはかつて子供のころの遊希と接した時と変わらないスタンスであった。

 

「さて。君たちのしたことは許されない行為だ。それもデュエリストなら猶更のこと。しかし、ここで警察沙汰にしてしまえば君たちの未来を摘んでしまうことになるし、カードショップの方にも悪評がついて回ってしまう。それでは誰も報われない。だから私としては先ほど妻が約束した通り、君たちが無理やり奪い取ったカードは元の持ち主に返し、また迷惑をかけたカードショップの方にも謝罪をしてもらうことで収めようと思うんだ。そしてそれ以上のことは私は咎めはしない。後は君たちが今後どう臨むか……だけど」

 

 竜司は厳しく、かつ優しく諭すように不良一人一人に話していく。先ほどまで竜司を睨みつけていた不良たちはすっかり大人しくなり、中には竜司を目にして涙ぐんでいる者もいた。

 結局カードショップ側も竜司の出した提案を飲む形でまとまった。ただこの提案を言い出した者として竜司の仕事がここで全て終わったわけではない。今後彼らが更生するか、そしてカードを奪われた被害者のメンタルケアも行わなければならない。組織のトップに立つということは、自分のことだけではなく、こうした外部のトラブル解決に対しても飛び回らなければならないのだ。

 しかし、アカデミアの校長という職を引き受けた時から竜司は覚悟の上だった。その覚悟をもって日々を過ごしているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大甘ですね」

「そうかな?」

 

 カードショップからの帰り道、前を歩く竜司に対して呆れたように吐き捨てる遊希。そんな時、鈴のお説教から解放された蘭が遊希を後ろから抱きしめてきた。遊希は思わず「わっ」と声を出す。

 

「でも、私はこの人のそういうところが好きよ」

「ま、まあ……私も……ですけど」

「あらあら」

「……」

 

 抱きしめられて頬を仄かに赤く染める遊希。そんな彼女に蘭はそっと耳打ちする。

 

「遊希ちゃん、今日は本当にありがとね。久しぶりに会ったけど、あなたは昔よくうちに遊びに来ていた頃のあなたと何も変わっていなかったわ。昔の優しい遊希ちゃんのまんまだった」

「そ、そんな……恥ずかしいです」

「ねえ遊希ちゃん。もし、何か辛いことがあったら遠慮なく私は竜司さんを頼ってね? あなたは決して一人じゃないんだから」

 

 蘭のその言葉に対して遊希は何も言わなかった。ただ、彼女は感じていた。これが母親というものの温もりであり、自分が二度と取り戻せないであろうものであるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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精霊と精霊

 

 

 

 

 

 アカデミアの大会は第二日程となり、4つあったブロックは2つへと再編成された。そして、新規Aブロックには遊希と千春、新規Bブロックには鈴と皐月が振り分けられた。初日で多くの学生デュエリストが姿を消し、そのうちの半分以上は1年生だった。そのため第二日程において生き残っている遊希たちは必然的に1年生の中でも上位に位置する。

 それでも人数が減り、第一日程を勝ち抜けた強者と当たる確率も高くなっているため、この四人が確実に決勝に行けるという保証は持てない。さらに今回は初日のように4つに分かれたわけではないので、予選でルームメイト同士のデュエルがあるかもしれなかった。

 ただ、どうしてもデュエルをしなければならない、という場面になった時を除いて決勝までルームメイト同士ではデュエルはしない、と事前に取り決めをしていた。もちろんデッキの中身は各自把握しているため、仲間内のメタを立てることは容易であろう。しかし、そのメタが必ずしも通用するとは限らない。

 例えば、仮に遊希と当たった時のことを考えて光属性モンスターに対するメタカードを仕込んでいた場合。遊希相手に勝つことができても、他の属性のデッキを使うデュエリストとデュエルをする場合、そのメタカード完全に事故要因となってしまう。そのためあらゆるデッキに対応できるデッキを作ることがデュエリストたちには求められていた。

 

(この二日間、あたしは他の街のカードショップを回って色んな人とデュエルした。全部勝てたわけじゃないけど、自分のデッキの強みや弱点を理解することもできた。そこで学んだことを活かせるようにしないと……)

 

 Bブロックに振り分けられた鈴は皐月と別れると、早速デュエルの相手を探していた。恐らく相手はほとんどが上級生となるだろう。それでも負ける気はしないし負けるわけにもいかなかった。

 

(遊希……遊希に追いつかないと!)

「あ、あの……」

 

 左腕にはめたデュエルディスクをじっと見つめていた鈴に誰かが声をかける。声のした方向を向くと、少しおどおどした様子の少女がこちらを見つめていた。

 

「何かしら?」

「私と……デュエルをしてくれません……か?」

 

 声をかけてきたのは千春ほどではないにしても小柄で小動物のような印象を受ける少女だった。制服のリボンの色からみて1年生のようである。しかし、鈴はその少女を見て数点の疑問を覚えた。

 鈴はアカデミアに入学以降、上級生はともかく同級生とはそれなりに交流を結ぶようにしていた。校長の娘、ということもあって近づいてくる生徒は多かったし何より人付き合いが苦手な遊希のために仲介役も買うようにしていたため、女子生徒なら大半の生徒と面識がある。

 しかし、今自分の目の前にいるこの少女に関しては鈴は全く面識がないのだ。その弱々しい声に似つかぬきりっとした眼、毛先に癖のついた髪の色は銀よりの白髪、そして髪型はツーサイドアップ。遊希やエヴァ同様一度見たらまず忘れないような美少女だ。

 

(……うーん、どうしても思い出せないわね)

「あ、あの……」

「あっ、ごめんなさい。あたしで良ければデュエル、応じるわよ!」

 

 しかし、相手が誰であろうと構わない。今の自分に求められていることは一つだけ。それは勝つ、というだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はライフ2000をコストに魔法カード、銀河天翔を発動。墓地のフォトンモンスター1体とデッキの同じレベルのギャラクシーモンスター1体を特殊召喚します」

 

遊希 LP6800→LP4800

 

「させるか!《剣闘獣ヘラクレイノス》の効果を発動!」

 

《剣闘獣ヘラクレイノス》

融合・効果モンスター

星8/炎属性/獣戦士族/攻3000/守2800

「剣闘獣ラクエル」+「剣闘獣」と名のついたモンスター×2

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札を1枚捨てる事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

「手札を1枚捨てることでその発動を無効にして破壊する!」

「ヘラクレイノスの効果で止めてくることは予想できていましたよ。なのでその効果にチェーンして罠カード、無限泡影を発動します」

「無限泡影だと!?」

 

チェーン3(遊希):無限泡影

チェーン2(3年生男子):剣闘獣ヘラクレイノス

チェーン1(遊希):銀河天翔

 

「チェーン3の無限泡影の効果でチェーン2のヘラクレイノスの効果は無効になります。そしてチェーン1の銀河天翔の効果で墓地の銀河眼の光子竜1体とデッキから同じレベルの銀河剣聖を特殊召喚します!」

 

 一方、Aブロックに振り分けられた遊希はパズル完成まであとカード1枚を残すのみとなっていた。このデュエルに勝利すれば遊希は必要なだけのカードを揃えることができる。

 

「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れよ! No.62 銀河眼の光子竜皇!!」

 

 融合召喚ながら、融合カードを必要としない融合召喚を行う【剣闘獣】デッキを使う3年生男子は、手札コスト1枚で無効化効果を発動できるヘラクレイノスを軸に徹底的に遊希の行動を制限しようとした。しかし、相手のデッキが剣闘獣と見抜いた遊希は、それを更に上回るタクティクスで相手を圧倒していた。

 

「バトルです。銀河眼の光子竜皇で剣闘獣ヘラクレイノスを攻撃! そして光子竜皇のX素材を1つ取り除き、光子竜皇の効果を発動。このダメージステップ時のみ、自身の攻撃力をフィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップさせます!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2→1 ATK4000→ATK5600

 

「攻撃力5600だと!?」

「これで終わりです、先輩。エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK5600 VS 剣闘獣ヘラクレイノス ATK3000

 

3年生男子 LP2600→0

 

 この攻撃により、遊希の対戦相手である3年生男子の残りライフ2600が一気に0となり、遊希の勝利が確定した。遊希は6戦して全勝と元プロデュエリストの名に恥じない戦績を収めることができた。

 大会第一日程は友乃のような癖の強い上級生を相手にするなど、戸惑うことも多かった彼女であるが、個性溢れるライバルたちとのデュエルや、鈴の母である蘭との再会など様々なことを経験したことで入学当初と比べて確実にレベルアップしていたのだ。

 

「これでパズルカードは全て集まったわけだけど……どうすればいいのかしら」

―――パズルなのだろう? 重ねてみればいいではないか。

 

 遊希は対戦相手の3年生からパズルカードを受け取るとこれまで集めたカードを重ねてみた。6枚のカードを重ねると、それが1枚のカードとなった。そしてカードの中心部には専用の機械でのみ読み込むことができるバーコードが現れ、さらに決勝進出者は全てのパズルカードを集め終えた後にどこに行けばいいのか、という情報も明らかになった。

 

―――ほら、できたぞ。

(ありがと。でも得意気になるのはやめて。なんか腹立つから)

―――……で、遊希。我々はどこへ向かえばいいんだ?

「……場所は講堂ね。そう言えば封鎖されていたわ」

 

 決勝進出者が向かう場所。それはアカデミアの最上階にある講堂だった。普段は月一の朝礼くらいでしか使わない場所であるため、学生たちにはあまり馴染みのない場所であった。だが、それ故に決勝進出者のみが入れる場所、という意味では納得の選出であると言える。ここから階段をいくつも登らなければならないという欠点を除けば。

 

「ったく、疲れちゃうわね」

―――まあ、いい運動になるんじゃないか? お前は普段から出不精な訳だしな。

「……取り敢えずさっさと行って一休みしましょう」

 

 遊希はアカデミアの最上階へと向かう。光子竜の言う通り、確かに最近運動不足気味ということもあってか最上階に向かうまでに遊希はすっかりバテてしまっていた。それでも自分がアカデミア最強を決めるための大会の予選を勝ち抜き、決勝トーナメント進出を決めることができた、ということに彼女は久しぶりに充実感を感じていた。

 やはり元プロデュエリストの血が騒ぐのか、勝負事に勝つのは今の彼女においても至高の快感となっていたのである。最もそれだけで満足などしていないし、してはいけなかった。

 

「ここでいいのかしら……」

 

 辿り着いた行動の入口には奇妙な機械が取り付けられていた。その機械の中心部には駅やコンビニエンスストアのレジで見掛けるような長方形の精密機器。遊希はそこに完成したカードをかざしてみる。すると機械がそのカードに記された情報を読み取った。パズルが完成することで、コンピューターがそのデュエリストの情報を認識できるようになるのだ。

 

『……カードニンショウカンリョウ。オメデトウゴザイマス。アマミヤ ユウキサン。ケッショウシンシュツデス。ナカ二オハイリクダサイ』

 

 電子音声の案内によって講堂の扉の鍵が開いた。遊希は女子が一人で開けるには少し重い講堂の扉を押し開ける。昼下がりの講堂は電灯こそ点いていないものの、差し込む太陽の光でだいぶ明るい印象を受けた。周辺を見渡しながら一歩一歩講堂の中へと入っていく遊希。まだ誰もいないのだろうか、と一番乗りの快感を味わおうとした瞬間、何処からかこの国ものではない言語の歌が聞こえてきた。

 

「Ой, ты песня, песенка девичья,Ты лети за ясным солнцем вслед, И бойцу на дальнем пограничье От Катюши передай привет……」

「……」

―――あいにく、2番乗りだったようだな。

(そうね)

 

 光子竜と共に苦笑いした遊希は歌声を頼りに綺麗な声の主の元へと小走りで駆けていった。

 

「……あなたの方が早かったようね、エヴァ」

 

 遊希は窓から外を眺めながらロシア語の歌を歌っていたエヴァに声をかける。遠い日本で何不自由ない生活をしているようだったが、彼女も彼女で故国の土が恋しくなったのだろうか。そんなエヴァは遊希が来ていたことに気付いていなかったようで、遊希を見た瞬間、驚きのあまりその場に転んでしまった。

 

「いたた……」

「ほら、大丈夫?」

「私は大丈夫だ。ところで……今のは聞いていたか?」

 

 遊希の手を取って起き上がったエヴァは、そう言いながらこちらを見つめてきた。今のは、というのは間違いなく彼女が口ずさんでいた歌であろう。自分以外に誰もいないと思って歌を口ずさんでいたのを他人に聞かれてしまえば恥ずかしい、というのは万国共通なのだろう。

 

「えっと、その。歌、上手いのね」

「やはり聞いていたのだな!」

 

 遊希は傷つけないようにとその歌の上手さを褒めることにした。実際聞いてみてエヴァの歌声はとても綺麗なものだったのだから、これはお世辞ではない。しかし、歌の上手い下手という問題ではなく、聞かれていたという事実がエヴァにとっては恥ずかしいものだったようで、彼女は両手で顔を覆ってはその場にしゃがみこんでしまった。

 

「……ところでここに来たということはお前も決勝に行くのか?」

「ええ、一応ね」

「そうか! お前が来てくれるのであれば嬉しいぞ!」

 

 口調こそで尊大であるが、その表情は例えるならば万華鏡のように変化するエヴァ。恥ずかしがったと思ったらにっこりと太陽のような笑みを見せる。愛嬌たっぷりの彼女のファンが世界中に存在する理由がわかったような気がした遊希だった。

 

「私もよ。まあ、あなたなら勝ち進んでくると思っていたわ。戦績はどうだったの?」

「ふっ、私はエヴァ・ジムリアだぞ? そこいらのデュエリストと一緒にされては困る」

「あら、そこまで同じなのね」

「まさかお前も全勝なのか、流石だな。だが、着いたのは私の方が少しばかり早かったぞ! まあほんの5分の差なのだが……」

 

 エヴァは遊希同様同級生上級生関係なく全勝という形で1番乗りで決勝トーナメント進出を決めた。彼女が遊希より早くここに着いたことに関しては現役プロデュエリストならびに外国人の美少女とデュエルがしたい、と思った生徒たちが突貫してきたという理由があるが。

 

(……皐月といいこういうタイプの女子が受けるのかしら。うちじゃ)

―――人間の好みとはよくわからんな。

(そういうあんたはどうなのよ?)

―――……まあお前のような面倒な女は嫌だな。

(っ、なんかムカつくわね)

 

 遊希はデュエルディスクにセットされたデッキから光子竜のカードを取り出すと、一発強烈なデコピンを食らわせる。遊希の脳裏には痛がる光子竜のうめき声が響き渡った。

 

「どうしたんだ、突然カードを弾いたりして」

「別に。こいつがちょっとね……」

「……遊希は精霊とそんなコミュニケーションも取れるんだな。羨ましい限りだ」

 

 遊希とのデュエル以降、エヴァはレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを再封印した。精霊を宿す遊希だからあの程度で済んだことであり、もしほかの学生相手にコントロールできないスカーライトを出そうものならきっと大怪我を負わせてしまうだろう。

 ただ今日の今日まで何もしてこなかった彼女ではない。エクストラデッキから外しても、エヴァはスカーライトのカードを肌身離さず持ち続けていた。そうすれば精霊ときっと分かり合える、一縷の望みをそこに託して。

 

「エヴァ……」

「できればこの大会もスカーライトと一緒に戦いたかった。だが……それは叶わなかった。私になくてお前にあるものとは、なんなのだろうな」

「エヴァ。あなた……今デュエルはできるかしら?」

「デュエルだと? できなくはないが……」

 

 あのデュエル以降、遊希も遊希で何かエヴァのためにできないか考えていた。ただし遊希はデュエリストになる前から光子竜とコンタクトを取ることに成功していた。そればかりは生まれ持った才能の差であり、遊希やエヴァがいくら頑張っても変えられないこと。しかし、デュエルモンスターズの精霊に自分をマスターとして認めさせるならデュエルを通すほかない。

 

「こいつが……光子竜が言っていたの。人間と精霊を紡ぐことは難しくとも、精霊同士ならより確実にネットワークを作ることができるかもしれない、って」

「ええと、それは……どういうことだ?」

「要するに光子竜にスカーライトとコミュニケーションを取ってもらうのよ。そうすればエヴァの気持ちも少し回りくどいけど伝えることができるかもしれない、ってことよ」

 

 それを聞いてエヴァの不安そうな顔が少し綻ぶ。光子竜の提案でもあるが、それが確実にできるとは限らない。精霊の力に大きく依存することになるため、遊希にとってもエヴァにとっても大きな賭けとなるだろう。

 しかし、それが例え分の悪い賭けであったとしてもエヴァはそれに縋り付いた。どんな形であれ自分に宿った精霊とコミュニケーションを取ることができる。そして何よりスカーライトの力で周りの人間を傷つけずに済むのだから。

 

「本当は決勝トーナメントでやりたかったけど……私は改めて今ここであなたにデュエルを申し込むわ」

「ありがとう遊希。ならばその申し出、受けて立つ!!」

 

 エヴァは二つ返事でその申し出を受けた。エヴァにとってもそうだが、このデュエルは遊希にとっても重要なデュエルだった。このデュエルは過去の自分を、負けて鈴に泣きついたかつての自分を超えるためのデュエルでもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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真剣勝負

今回からデュエル情報の表示を変更します。

これまではフィールド魔法を魔法・罠の数をひとまとめにし、Pゾーンが独立していましたが、フィールド魔法は魔法・罠カードと別に表記し、Pゾーンを魔法・罠に加える形で表記しました。

○変更前
デュエリスト名 残ライフポイント 手札
デッキ残枚数 メインモンスターゾーン EXゾーン 魔法・罠 墓地 Pゾーン 除外 EXデッキ枚数(EXデッキの表側表示のカードの枚数)

○変更後
デュエリスト名 残ライフポイント 手札
デッキ残枚数 メインモンスターゾーン EXゾーン 魔法・罠(Pゾーン) フィールド魔法 墓地 除外 EXデッキ枚数(EXデッキの表側表示のカードの枚数)





 

 

 

 

 急遽行うことになったこのデュエルの目的は、エヴァがスカーライトと交信できるようにするというものである。しかし、遊希にとっては以前のデュエルの借りを返す、という目的もあった。

 過去の自分を超えると共に自分がこれまでどの程度成長したかということも彼女は自分で理解したかったのだ。そしてデュエルの直前に遊希はエヴァに一つだけ申し出る。それは「全力で倒しに来てほしい」というものであった。スカーライトを倒すだけなら手抜きのデュエルでもできるだろう。

 しかし、そんなデュエルで心を開いてくれるほど精霊は生易しいものではない。互い全力でデュエルを行い、精霊同士が牙を交える。そんなデュエルこそ精霊が望むものであると言えるのだ。

 

「だからエヴァ、すぐにスカーライトを出そうだなんて思っちゃダメよ?」

「ああ。その時々に応じてモンスターを出せと言うのだな」

「そう。だからスカーライトを出さずに終わってしまう可能性もある。本末転倒かもしれないけど、それが真剣勝負」

「真剣勝負……か。ならばスカーライトを召喚しつつお前を倒してみせるぞ!」

 

 デュエルディスクのコンピューターによって先攻後攻の決定権を得たのはエヴァだった。前回のデュエルでは遊希がその権利を得たため、今回はその時と真逆になる。エヴァは先攻を宣言した。エヴァのデッキは先攻でも後攻でも変わらぬ展開力を持つが、やはり先攻で展開できるに越したことは無かった。

 

「行かせてもらうぞ、遊希!」

「こちらこそ、胸を借りるつもりで行かせてもらうわ」

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:エヴァ

後攻:遊希

 

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EX:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EX:15(0)

 

 

☆TURN01(エヴァ)

 

「私のターン。私は手札から魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。私が除外するのはレベル4のBF-精鋭のゼピュロスだ」

 

 ゼピュロスは墓地に存在する場合、一度だけフィールドに表側表示で存在するカード1枚を手札に戻すことで特殊召喚できるモンスターだ。そのためBFの中ではデッキを選ばず採用できるカードの1枚であるのだが、墓地において真価を発揮するモンスターをエヴァは除外した。

 

(ゼピュロスを除外したってことは……)

―――あのカードが手札にあると見ていいだろうな。

「私は手札より永続魔法、黒い旋風を発動。そしてチューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚。召喚に成功したアウステルの効果、そして永続魔法である黒い旋風の効果が発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風の効果で私はデッキよりアウステルより攻撃力の低いBF1体を手札に加える。私が手札に加えるのは攻撃力1100のBF-そよ風のブリーズ。そしてチェーン1のアウステルの効果で私は除外されているBF1体をフィールドに特殊召喚する! 帰還せよ、ゼピュロス! そしてカードの効果で手札に加わったブリーズは特殊召喚できる!」

「相変わらずの展開力ね……」

 

 エヴァのフィールドには早くもチューナーモンスター2体を含むモンスター3体が現れる。黒い旋風の効果によるサーチ力の強さが売りのBFであるが、特殊召喚効果を持つBFも無しに1回の召喚権で3体のモンスターを並べるのはエヴァのタクティクスがあってのことと言っていいだろう。

 

「まだだ。私はゼピュロスとブリーズをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 現れよ! 水晶機巧-ハリファイバー! リンク召喚に成功したハリファイバーの効果で私はデッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚する。特殊召喚するのはレベル3の《BF-隠れ蓑のスチーム》だ!」

 

《BF-隠れ蓑のスチーム》

チューナー・効果モンスター(制限カード)

星3/闇属性/鳥獣族/攻800/守1200

「BF-隠れ蓑のスチーム」の(2)の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。自分フィールドに「スチーム・トークン」(水族・風・星1・攻/守100)1体を特殊召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードをS素材とする場合、他のS素材モンスターは全て「BF」モンスターでなければならない。

 

「そして墓地のゼピュロスの効果を発動! 黒い旋風を手札に戻し、墓地からゼピュロスを特殊召喚! そして私は400のダメージを受ける」

 

エヴァ LP8000→7600

 

「私のフィールドにBFモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。現れよ、BF-残夜のクリス、BF-砂塵のハルマッタン! 特殊召喚に成功したハルマッタンの効果を発動! このカードのレベルをゼピュロスのレベル分アップさせる!」

 

BF-砂塵のハルマッタン 星2→星6

 

「私はレベル4のゼピュロスにレベル3のチューナーモンスター、隠れ蓑のスチームをチューニング!“黒き疾風よ。光の速さで極光輝く世界を駆け抜けろ!”シンクロ召喚! スタートだ!《F.A.ライトニングマスター》!」

 

《F.A.ライトニングマスター》

シンクロ・効果モンスター

星7/光属性/機械族/攻0/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードの攻撃力はこのカードのレベル×300アップする。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3):「F.A.」魔法・罠カードの効果が発動した場合に発動できる(ダメージステップでも発動可能)。このカードのレベルを1つ上げる。

(4):1ターンに1度、相手が魔法・罠カードの効果を発動した時に発動できる。このカードのレベルを2つ下げ、その発動を無効にし破壊する。

 

「ライトニングマスターを守備表示でS召喚。ライトニングマスターの攻撃力はレベル×300の数値になる」

 

F.A.ライトニングマスター ATK0→ATK2100

 

「そしてS素材となったスチームの効果で私はスチームトークン1体を守備表示で特殊召喚。そしてレベル6となったハルマッタンに、レベル4のBFチューナー、アウステルをチューニング!“黒き疾風よ。極光煌めく空を究極の力を以て制圧せよ!”シンクロ召喚! 舞い上がれ! BF-フルアーマード・ウィング!!」

「ハリファイバーにフルアーマード・ウィング、そしてライトニングマスター……か」

 

 エヴァのフィールドには強力なモンスターが3体並ぶ。いずれも一筋縄で攻略できるモンスターとは言い難い3体であった。

 

―――フルアーマード・ウィングは効果に対する完全耐性、ライトニングマスターは自身のレベルを2つ下げることで魔法・罠の発動を無効にして破壊する効果を持っているな。

(そしてハリファイバーの効果は言わずもがな……真剣勝負とは言ったけど、ここまで真剣になられるとは思わなかったわ)

―――言っておくが、自分で蒔いた種だからな?

(わかってるわよ。そんなこと)

 

 後攻1ターン目から早くもこの3体の対応手段を求められることとなった遊希。遊希が自ら望んだ結果とはいえ、次の自分のターン次第ではワンショットキルを食らいかねない盤面であるため、何もできずに負けてしまえばエヴァのためにもならない。

 

(何かを考えこんでいる? まさか、精霊と話してでもいるのだろうか)

 

 一方のエヴァも考え込む遊希を見て、彼女が自分にないものを持っているということを改めて思い知らされる。デュエルとはタッグデュエルなど特別なルールを除いては基本的に一人で行うものであり、味方は存在しないと言っていい。

 しかし、精霊をその身に宿す遊希はルール違反に問われるアドバイス等は受けていないにしても、常に精霊が共にいる。同じ精霊をその身に宿す者として、こうしてコミュニケーションを取ることができるということは精霊をコントロールできないエヴァにとってはとても羨ましいことであった。

 

(……スカーライト。お前は私を認めてくれるだろうか)

「私はこれでターンエンドだ! お前の力を見せてみろ、天宮 遊希よ!」

 

 

エヴァ LP8000 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:4(BF-フルアーマード・ウィング、F.A.ライトニングマスター、BF-残夜のクリス、スチームトークン)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:6 除外:0 EX:12(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EX:15(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 F□フス残□

  水 □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

F・・・F.A.ライトニングマスター

残・・・BF-残夜のクリス

ス・・・スチームトークン

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドロー! 私は手札から魔法カード、増援を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加えるわ」

「増援か……では止めさせてもらう! 増援にチェーンして私はF.A.ライトニングマスターの効果を発動!」

 

チェーン2(エヴァ):F.A.ライトニングマスター

チェーン1(遊希):増援

 

「ライトニングマスターのレベルを2つ下げることで、魔法カードである増援の発動を無効にして破壊する!」

 

F.A.ライトニングマスター 星7→星5 ATK2100→ATK1500

 

「チェーン1の増援は無効。でもこれでこっちは心置きなく魔法カードを使うことができるわ」

「やはり増援は囮だったか」

「囮にするにしても、ターン1の効果を止めるためにこっちは制限カードを使わされるんだからたまったものではないんだけど。手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動。自分フィールドにフォトントークン2体を守備表示で特殊召喚。このカードを発動したターン、私は光属性モンスターしか特殊召喚できなくなる」

 

 しかし、遊希のメインデッキのモンスターは大半が光属性で構築されているため、フォトン・サンクチュアリのデメリットはデメリットたり得ない。むしろこのフォトン・サンクチュアリこそ止めるべきだったのではないか、とエヴァは自身の判断を悔いた。最も今更悔いたところでどうにかなるというものでもないのだが。

 

「私のフィールドにはフォトンモンスターであるフォトン・トークンが存在する。よってフォトン・バニッシャーを手札から特殊召喚。特殊召喚に成功したバニッシャーの効果でデッキから銀河眼の光子竜を手札に加える」

「フルアーマード・ウィングの効果を発動。フォトン・バニッシャーに楔カウンターを乗せる!」

 

フォトン・バニッシャー 楔カウンター:1

 

「サーチした光子竜をコストにトレード・インを発動。デッキからカードを2枚ドロー」

―――流れは悪くないな。トレード・インのコストで墓地に送られるのにも慣れてきたぞ。

(使っておいてなんだけど、それって慣れていいのかしら)

 

 それでデュエルに勝てるならば大丈夫だ、問題ない―――とどこかで聞いたような返しを光子竜がしてくるため、遊希は彼の言葉に甘えて特に気にしないことにした。エヴァは精霊とコミュニケーションができる遊希のことを羨ましがっていたが、精霊と自由にコミュニケーションできる遊希が真剣なデュエルの時にこんなふざけたやり取りをしていたと知ったらエヴァはどう思うのだろうか。

 

(いかんいかん、集中集中)

「手札のフォトン・オービタルをバニッシャーに装備。そしてオービタルを墓地に送り、デッキから同名カード以外のフォトンもしくはギャラクシーモンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは銀河騎士。そして銀河騎士をリリースなしで召喚。この方法で召喚に成功した銀河騎士の効果を発動。自身の攻撃力をターン終了時まで1000ダウンさせ、墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚するわ」

「ではその効果にチェーンして私はハリファイバーの効果を発動する」

 

チェーン2(エヴァ):水晶機巧-ハリファイバー

チェーン1(遊希):銀河騎士

 

「チェーン2のハリファイバーの効果。EXゾーンのハリファイバーをゲームから除外し、EXデッキからSモンスターのチューナー1体をシンクロ召喚扱いで特殊召喚する! 私が特殊召喚するのはレベル7のSチューナー《シューティング・ライザー・ドラゴン》だ!」

 

《シューティング・ライザー・ドラゴン》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星7/光属性/ドラゴン族/攻2100/守1700

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。フィールドのこのカードより低いレベルを持つモンスター1体をデッキから墓地へ送り、そのモンスターのレベル分だけこのカードのレベルを下げる。このターン、自分は墓地へ送ったそのモンスター及びその同名モンスターのモンスター効果を発動できない。

(2):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

「シューティング・ライザー・ドラゴンか……チェーン1の銀河騎士の効果で墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚するわ」

 

銀河騎士 ATK2800→ATK1800

 

「S召喚に成功したシューティング・ライザー・ドラゴンの効果を発動! デッキからレベル2のゾンビキャリアを墓地に送り、シューティング・ライザー・ドラゴンのレベルを墓地に送ったモンスターのレベル分下げる」

 

シューティング・ライザー・ドラゴン 星7→星5

 

(……レベル操作効果か。フィールドにはレベル4のクリスとレベル1のスチームトークンがいる、ということは……)

「私はフォトン・トークン2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク2の銀河眼の煌星竜をリンク召喚。リンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地のフォトン・オービタルを手札に加える」

「もちろんそのモンスターにも楔を打ち込むぞ!」

 

銀河眼の煌星竜 楔カウンター:1

 

「面倒ね、色々と……レベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“遥かなる銀河に漂う声なき光。その力は一つとなり、皇たる光の竜を呼び覚ます! 限界を超えし力を以て暗黒を貫け!”No.62 銀河眼の光子竜皇!」

「いきなり銀河眼の光子竜皇か……」

「あなたがフルアーマード・ウィングで来るならこっちもそれ相応の力で対峙させてもらう。それだけよ。手札のフォトン・オービタルを銀河眼の煌星竜に装備。煌星竜の攻撃力は500ポイントアップする」

 

銀河眼の煌星竜(+フォトン・オービタル)ATK2000→ATK2500

 

「そしてメインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移るわ」

「ではそのメインフェイズ1の終了時に私はシューティング・ライザー・ドラゴンの効果を発動! 相手メインフェイズ中にこのカードを素材にしてS召喚を行う!」

「やっぱりSチューナーだけあって相手ターンでのS召喚が可能ってことね」

「私はレベル4の残夜のクリスとレベル1のスチームトークンに、レベル5のSチューナー、シューティング・ライザー・ドラゴンをチューニング!“星の力を分け与えられし大地の獣よ。光と闇の勇士の思いを受け継ぎ咆哮せよ! シンクロ召喚! 立ち上がれ!《神樹の守護獣-牙王》!」

 

《神樹の守護獣-牙王》

シンクロ・効果モンスター

星10/地属性/獣族/攻3100/守1900

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードは、自分のメインフェイズ2以外では相手のカードの効果の対象にならない。

 

「……やっぱり牙王か」

 

 真剣勝負、と銘打つだけあってやはりそう一筋縄ではいかないようだった。最も一筋縄では行かないからこそ、真剣勝負は面白いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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反攻開始

 

 

 

―――相手フィールドには攻撃力3100の牙王と攻撃力3000のフルアーマード・ウィングが存在する。ライトニングマスターは煌星竜で破壊するとして、光子竜皇でどちらを攻撃するつもりだ?

 

 エヴァのメインフェイズ2以外では相手のカードの対象にならない牙王とあらゆる効果を受け付けず、楔カウンターを相手に打ち込んではそのモンスターを破壊するフルアーマード・ウィング。どちらも放置できない存在であるが、遊希の答えは決まっていた。

 

「バトルよ! 銀河眼の光子竜皇でフルアーマード・ウィングを攻撃!」

 

 遊希は迷わなかった。楔が打ち込まれたモンスターが存在する以上、それらのモンスターを破壊するフルアーマード・ウィングを残しておく理由はない。

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000 VS BF-フルアーマード・ウィング ATK3000

 

「光子竜皇が戦闘を行うダメージ計算時、このカードのX素材を1つ取り除いて光子竜皇の効果を発動! このカードの攻撃力をそのダメージ計算時のみフィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップさせるわ!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2→1 ATK4000→ATK5600

 

「攻撃力5600だと!?」

「フルアーマード・ウィングを撃ち落としなさい!“エタニティ・フォトン・ストリーム”!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK5600 VS BF-フルアーマード・ウィング ATK3000

 

エヴァ LP8000→LP6400

 

「……またしてもフルアーマード・ウィングがあっさりと」

「銀河眼の煌星竜で守備表示のライトニングマスターを攻撃」

 

銀河眼の煌星竜(+フォトン・オービタル)ATK2500 VS F.A.ライトニングマスター DEF2000

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移るわ」

 

 この時、遊希はここにきてフォトン・サンクチュアリのデメリットがひっかかった。光属性モンスターしか特殊召喚できないという縛りは攻撃できず、棒立ち状態のバニッシャーと煌星竜で更なるリンク召喚に繋げることができていた。最も遊希のデッキにリンク3のリンクモンスターは入っていなかったのだが。

 

(……増援じゃなくフォトン・サンクチュアリを囮にするべきだったかしらね)

―――過ぎたことを悔やんでもしょうがないだろう。さすがに牙王を予測しろというのは無理があるというものだ。

(それもそうね)

「私はカードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

エヴァ LP6400 手札2枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(神樹の守護獣-牙王)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:11 除外:1 EX:10(0)

遊希 LP8000 手札2枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1、フォトン・バニッシャー(楔))EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜(楔))魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(フォトン・オービタル)フィールド:0 墓地:5 除外:0 EX:13(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□□

  牙 煌

□バ□皇□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

牙・・・神樹の守護獣-牙王

 

 

☆TURN03(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!」

「牙王が存在するためあなたはEXゾーンを使えない。せっかくのモンスターだけど、お得意のS召喚を自分から封じてしまっては元も子もないわね」

「全くだな。ちょっと勿体ないことをしてしまったと反省しているよ。私は手札より永続魔法・黒い旋風を発動し、そしてチューナーモンスター《BF-極北のブリザード》を召喚」

 

《BF-極北のブリザード》

チューナー・効果モンスター

星2/闇属性/鳥獣族/攻1300/守0

このカードは特殊召喚できない。

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル4以下の「BF」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

「召喚に成功したブリザード、そして黒い旋風の効果を発動」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-極北のブリザード

 

「黒い旋風の効果で私はデッキより2体目のハルマッタンを手札に加え、そしてブリザードの効果で墓地の残夜のクリスを守備表示で特殊召喚する。そして自分フィールドにBFモンスターが存在する場合、ハルマッタンは手札から特殊召喚できる。特殊召喚に成功したハルマッタンの効果! 自身に他のBFモンスターのレベルを加える。対象はレベル4のクリスだ」

 

BF-砂塵のハルマッタン 星2→星6

 

 エヴァのメインモンスターゾーンにはレベル4のクリス、レベル4となったハルマッタンとレベル2のチューナーモンスターであるブリザードが存在する。黒い旋風1枚の存在で一度の召喚権から一気に3体ものモンスターを展開してみせるあたりは古豪であるBFデッキの底力と見ていいだろう。

 

「私は牙王とブリザードをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 2体目の水晶機巧-ハリファイバーをリンク召喚する! リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動! デッキよりレベル1のチューナーモンスター、BF-突風のオロシをデッキより特殊召喚!」

「まさか牙王をあっさりリンク素材にしちゃうとはね」

「そうでもしなければむざむざとやられるだけだからな。自分のミスもあるとはいえ、致し方のないことだ。私はレベル6となったハルマッタンに、レベル1のチューナーモンスター、突風のオロシをチューニング!“漆黒の翼、雷鳴渦巻く空に翻す。その刀を以て全てを断ちきれ!”シンクロ召喚! 現れよ! A BF-驟雨のライキリ!」

 

 BFモンスターのみでS召喚を行うことで、自身をチューナー化するのがA BF。そのうちの1体であるライキリが雷鳴と共にフィールドに舞い降りた。

 

「ライキリの効果を発動。自身以外のBFの数だけ相手フィールドのカードを破壊する! 光子竜皇を撃ち砕け!」

 

 天空より轟音と共に落ちた雷撃が光子竜皇を切り裂いた。戦闘においてはその高い攻撃力でほとんどのモンスターを破壊できる光子竜皇も、効果破壊となってはどうしようもない。

 

「……あんたもあっさりやられてんじゃないわよ」

(無茶言うな)

「そして私はリンク2のハリファイバーとクリスをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク3の《トポロジック・トゥリスバエナ》をリンク召喚!」

 

《トポロジック・トゥリスバエナ》

リンク・効果モンスター

リンク3/闇属性/サイバース族/攻2500

【リンクマーカー:上/左下/右下】

効果モンスター2体以上

(1):このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合に発動する。そのモンスター及びフィールドの魔法・罠カードを全て除外し、この効果で除外した相手のカードの数×500ダメージを相手に与える。

 

「トポロジック・トゥリスバエナは自身のリンク先にモンスターが特殊召喚された場合、そのモンスターおよびフィールドの魔法・罠カードを全て除外する。そしてこの効果で除外した相手の魔法・罠カードの数×500ポイントのダメージを相手に与える」

「なるほど、特殊召喚が比較的楽なBFでは効果を発動する機会が多いかもしれないわね。でもゼピュロスの効果はもう使用済みだからこのデュエルでは使えない。黒い旋風を戻しつつ、私の魔法・罠を除外してバーンダメージを、という腹積もりだったようだけど、それも崩れたわね」

「それはどうかな? 私は手札1枚をデッキトップに戻し、墓地のゾンビキャリアを特殊召喚する。特殊召喚するのはもちろんトゥリスバエナのリンク先だ」

(そう来たか)

 

 前のターン、シューティング・ライザー・ドラゴンの効果で墓地に送っていたゾンビキャリアが復活する。自己蘇生の容易なチューナーモンスターであるため、S召喚に繋げることが本来の目的であろうと思っていた遊希であったが、トゥリスバエナの発動トリガーとして使ってくるのは流石に想定外だった。最も効果を使った後のゾンビキャリアはフィールドを離れた場合に除外されてしまうため、除外されるトゥリスバエナとの効果は実際良好であった。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたトゥリスバエナの効果を発動! ゾンビキャリアおよびフィールドの魔法・罠カードを全てゲームから除外する。そして除外した相手の魔法・罠カードの数×500のダメージを受けてもらうぞ!“マイグレーション・フォース”!」

「その効果にチェーンしてリバースカードオープン! 罠カード、戦線復帰を発動!」

 

チェーン2(遊希):戦線復帰

チェーン1(エヴァ):トポロジック・トゥリスバエナ

 

「チェーン2の戦線復帰の効果で私は墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚するわ!」

「モンスターを増やしてきたか……まあいい。チェーン1のトゥリスバエナの効果で私のゾンビキャリアと黒い旋風、お前のフォトン・オービタルと戦線復帰を除外し、1000ポイントのダメージを受けてもらう!」

 

 トゥリスバエナの身体が変化し、両腕からは鋭い爪のようなものが伸びる。ゾンビキャリアと黒い旋風をその爪で切り裂いたトゥリスバエナは、返す刀で遊希のフィールドのフォトン・オービタルと戦線復帰を切り裂いた。遊希のデッキにおいてフォトン・オービタルはフォトン・ギャラクシー問わずサーチできる重要なカードであるため、このカードを除外されたのは決して無視できないことであった。

 

遊希 LP8000→7000

 

「フォトン・オービタルが除外されたことで煌星竜の攻撃力はダウンし、戦闘破壊耐性を失う……そうだよな?」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2500→ATK2000

 

「その通りよ」

「ではバトルだ! ライキリで煌星竜を攻撃!“黒翼雷鳴斬”!」

 

A BF-驟雨のライキリ ATK2600 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

遊希 LP7000→LP6400

 

「そしてトポロジック・トゥリスバエナでフォトン・バニッシャーを攻撃!“終焉のバルネラブル・コード”!」

 

トポロジック・トゥリスバエナ ATK2500 VS フォトン・バニッシャー ATK2000

 

遊希 LP6400→LP5900

 

「流石に……痛いわね」

「形勢逆転、と言いたいところだが光子竜を残されてしまったのは痛かったか……バトルフェイズを終了。私はこれでターンエンドだ」

 

 

エヴァ LP6400 手札0枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(A BF-驟雨のライキリ)EXゾーン:1(トポロジック・トゥリスバエナ)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:13 除外:3 EX:7(0)

遊希 LP5900 手札2枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:7 除外:2 EX:13(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□驟□□□

  ト □

□□□□銀□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

ト・・・トポロジック・トゥリスバエナ

驟・・・A BF-驟雨のライキリ

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー」

 

 攻撃力で勝り、疑似戦闘破壊耐性を持つ光子竜が存在するとはいえ、フィールドだけを見れば遊希が劣勢であることは否めない。しかし、以前のエヴァとのデュエルの時とは違っていてこの時の遊希は冷静沈着であった。負けることを必要以上に恐れていた少女はもういない。

 

「魔法カード、銀河遠征を発動。自分フィールドにレベル5以上のギャラクシーモンスターが存在する場合、デッキからレベル5以上のフォトンまたはギャラクシーモンスター1体を守備表示で特殊召喚するわ。2体目の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚よ。そして銀河の修道師を召喚。召喚成功時の修道師の効果で墓地のフォトン・ギャラクシーカードを5枚デッキに戻して2枚ドローするわ。デッキに戻すのは煌星竜、騎士、バニッシャー、フォトン・サンクチュアリ、今発動した銀河遠征の5枚よ」

(……光子竜皇を戻さない? 光子竜皇を戻しておけば再度X召喚をして私に大ダメージを与えられるはずだが……何か狙いが?)

「私はレベル8の光子竜2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“闇に輝く銀河よ。その命を光の波動とし、我が未来を切り拓く力となれ!”咆哮せよ! 銀河眼の光波竜!!」

 

 銀河眼の光波竜はX素材を1つ取り除くことで、相手フィールドのモンスター1体のコントロールを一時的に奪い、カード名を光波竜として扱う効果を持ったモンスターだ。しかし、そのデメリットとしてこのターン光波竜以外のモンスターは直接攻撃を封じられてしまう。そのため光波竜でコントロールを奪い、その光波竜を別のギャラクシーアイズにエクシーズチェンジした場合は追撃が行えなくなってしまうのだ。

 

(光波竜でコントロールを奪えば、与えるダメージは増える。でもどちらか一方がエヴァのところに残ってしまう。それじゃダメ。モンスターは……1体も残させない)

「私は光波竜でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築。エクシーズチェンジ! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンをX召喚するわ! そしてFA・フォトンの効果。X素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する! さっきのお返しよ。消えなさい、ライキリ。“ギャラクシー・サイドワインダー”!」

 

 FA・フォトンの一撃が刀で防御態勢を取ったライキリを刀ごと両断した。これで次のターン、ライキリの除去効果を使われることは現状なくなった。

 

「バトル! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでトポロジック・トゥリスバエナを攻撃!“壊滅のフォトン・ストリーム”!」

 

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000 VS トポロジック・トゥリスバエナ ATK2500

 

エヴァ LP6400→LP4900

 

「そして銀河の修道師でダイレクトアタック!」

 

銀河の修道師 ATK1500

 

エヴァ LP4900→LP3400

 

「ぐっ……追い詰められたか」

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移行するわ。私はギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでオーバーレイ!」

「更なるエクシーズチェンジだと!?」

「1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れよ! No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン! エクシーズチェンジに成功したダークマターの効果を発動。デッキよりドラゴン族3種類を墓地に送り、相手のデッキからカードを3枚除外する。私はデッキの巨神竜フェルグラント、アークブレイブドラゴン、《嵐征竜-テンペスト》を墓地に送る。あなたもデッキからカードを3枚除外しなさい、エヴァ」

 

 ダークマターの効果は相手のデッキを削る。しかし、この効果の本当の売りはその発動コストにある。同名カードは送れないとはいえ、デッキからドラゴン族モンスターを3種類まで墓地に送れるというのは墓地肥やし効果でも破格のものだ。デッキからモンスター1体を墓地に送れるおろかな埋葬が制限カードに指定されているため、このゲームでは如何に墓地を肥やしてアドバンテージを稼ぐかということも求められてくるのだ。

 

(嵐征竜-テンペストか……日本ではレギュレーションの変化によって再びデュエルで使用できるようになったんだったな。属性シナジーはないとはいえ、厄介なカードを)

「私はデッキよりBF-蒼炎のシュラ、BF-黒槍のブラスト、BF-疾風のゲイルをゲームから除外する」

 

 いずれもアウステルの効果で帰還ができるカードを選んだ。最も3枚投入されているとはいえ、残りのデッキからアウステルを引ける可能性ははっきり言ってそう高くはないのだが。それでもエヴァもまたこのデュエルに希望を持って臨んでいた。

 

「私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

 

 

エヴァ LP3400 手札0枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:15 除外:6 EX:7(0)

遊希 LP5900 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(銀河の修道師)EXゾーン:1(No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:8 除外:2 EX:12(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□□

  □ ダ

□□□修□□

 □□伏□□

遊希

 

○凡例

修・・・銀河の修道師

 

 

☆TURN05(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズに前のターンに墓地に送られたアークブレイブドラゴンの効果が発動。墓地の巨神竜フェルグラントを特殊召喚するわ。そして特殊召喚に成功したフェルグラントの効果。相手フィールド・墓地のモンスター1体を除外し、そのレベルまたはランクの数×100ポイント攻撃力・守備力をアップさせる。除外するのはあなたの墓地のフルアーマード・ウィングよ」

 

巨神竜フェルグラント ATK2800/DEF2800→ATK3800/DEF3800

 

「攻撃力3800……フルアーマード・ウィングを逆用されたか。私は手札より魔法カード、貪欲な壺を発動!」

 

 このドローでドローしたカードはゾンビキャリアの効果で手札からデッキトップに戻されたカードである。そのためエヴァのドローするカードは既に決まっていたに等しい。

 

「私は墓地のアウステル、ハルマッタン2体、オロシ、ハリファイバーの5体をデッキに戻しシャッフル。そして2枚ドローだ!!」

(このままでは私の負けだ。負け自体は勝負の世界で生きる者として仕方のないことだ。だが……このまま負けてはいつまでも私はスカーライトに認めてもらえない。スカーライトよ、私を主として認めれくれるのであれば……私に奇跡を!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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満身創痍の二人

 

 

 

 

 

「……お膳立ては成った。私はチューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚!」

「アウステル……ここで引けるとはね」

「召喚に成功したアウステルの効果を発動! 除外されているレベル4以下のBF1体を特殊召喚する。帰還せよ、BF-黒槍のブラスト!」

 

 アウステルの風の導きに乗って、除外されていたブラストがエヴァのフィールドに舞い戻る。このブラストは遊希のダークマターの効果によってゲームから除外されたものであり、奇しくも遊希がS召喚のアシストをする形になっていた。

 

「このデュエルは私とお前の真剣なものとはいえ、このカードを使わずに終わってしまえば後悔せざるを得なかっただろう。私はレベル4の黒槍のブラストにレベル4のチューナーモンスター、南風のアウステルをチューニング!」

 

 黒槍のブラストが漆黒の翼を広げ、天空へと舞い上がる。その後を追う形でアウステルの身体が4つのリングへと変化し、そのリングをくぐったブラストの身体が4つの星へと変化する。4つの星と4つのリング、二つの命からなる光が一つの命を生み出した。

 

「“黒き嵐吹き荒ぶ世界は今、紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!”シンクロ召喚!!」

 

 遊希とのあのデュエル以来、ずっと使うことができなかった。使うことを恐れてしまっていた。エヴァは今、自分で作り出していた壁を打ち砕いた。

 

「今一度、我と肩を並べよ! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!」

 

 フィールドに灼熱の炎を巻き上げ、天地を揺るがすかのような豪快な咆哮をあげて舞い降りるレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト。このモンスターをシンクロ召喚した瞬間、エヴァの顔が一瞬苦痛に歪むのを光子竜は見逃さなかった。

 

―――やはりエヴァはまだあのドラゴンをコントロール出来ていないな。精神的にも肉体的にも辛そうだ。

(だったら早く倒して楽にしてあげないとね)

―――ただそのためにはこちらがあのモンスターの攻撃に耐えなければならないがな。

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果は自身の攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500ポイントのダメージを相手のライフに与えるものだ。しかし、遊希のフィールドに存在する特殊召喚されたモンスター2体はいずれもスカーライトの攻撃力3000を上回っているため、その効果自体は発動すらできない。

 

(……つまりこういうことを言いたいの? 攻撃力で下回るのにスカーライトをS召喚したのには訳がある、と?)

―――残り1枚の手札。あれがこちらを追い詰めるものだろう。

 

 光子竜の読みは当たっていた。このカードを引いたからこそ、エヴァはスカーライトをS召喚したのである。

 

「私は手札より速攻魔法《イージーチューニング》を発動!」

 

《イージーチューニング》

速攻魔法

自分の墓地のチューナー1体をゲームから除外し、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択した自分のモンスターの攻撃力は、このカードを発動するために除外したチューナーの攻撃力分アップする。

 

「私は墓地のシューティング・ライザー・ドラゴンを除外し、スカーライトを対象に発動! スカーライトの攻撃力をシューティング・ライザー・ドラゴンの攻撃力分アップさせる!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000→ATK5100

 

「攻撃力5100……!?」

「これで……スカーライトの攻撃力が……ダークマターの攻撃力を上回った! スカーライトの効果を……発動! こ、このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスター全て破壊する!“アブソリュート・パワー・フレイム”!!」

 

 スカーライトの力によって地中から噴き出した灼熱の炎がダークマターとフェルグラントの2体の巨大な竜を焼き尽くす。強大な2体のドラゴンですらいともたやすく焼き尽くすスカーライトの力の一端が垣間見えた気がした。

 

遊希 LP5900→LP4900

 

「っ!」

 

 灼熱の炎は遊希の身体にも影響を及ぼす。スカーライトを使役するエヴァも苦しそうな顔を浮かべていることから、やはり今の彼女ではスカーライトを完全に御しきれていなかった。

 

「まだだ! バトル! スカーライトで銀河の修道師を攻撃!“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK5100 VS 銀河の修道師 ATK1500

 

遊希 LP4900→LP1400

 

「ぐはっ……!」

 

 全身に重い衝撃が走る。少女の細い身体が受ければ骨はおろか内蔵にすら損傷を及ぼしかねないような力と熱。ダイレクトアタックでないにも関わらず、それこそ精霊の加護がある遊希だからこそ耐えられるであろう一撃だった。

 

「遊希!!」

「大丈夫よ、このくらい。さあ、デュエルを続けましょう」

「バトルフェイズを終了……私はこれでターンエンドだ」

 

 

エヴァ LP3400 手札0枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:13 除外:6 EX:7(0)

遊希 LP1400 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:12 除外:2 EX:12(0)

 

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□□

  ス □

□□□□□□

 □□伏□□

遊希

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「私のターン、ドロー……やはり精霊の力は強力ね。知っている私だからこそ、その本当の強さがわかるのかもしれないわ。そしてエヴァ、あなたがどれだけ苦しんできたのかを」

「遊希……そうだな。この辛さを共有できるのは世界にお前と私だけなのかもしれないな。その苦しさを、そしてそこから起きうる悲劇をこれ以上広げないため。私はこのデュエルに勝ってみせる、いや、勝たなければならない!」

「この痛みは、あなたの感情の表れなのかもしれないわね。このデュエルに勝ち、スカーライトの力を自分の力にしてみせるという強い気持ちが伝わってくるわ。でも、このデュエルに勝つのは私よ!」

 

 遊希がデッキからカードをドローし、ドローフェイズからスタンバイフェイズに移行した瞬間である。遊希のフィールドには次元の壁と突き破ってライキリの効果で破壊されたはずの光子竜皇が舞い戻ったのは。

 

「なっ、光子竜皇だと!? 何故破壊したはずのモンスターが……」

「効果で破壊された光子竜皇は破壊されてから2ターン後のスタンバイフェイズにフィールドに特殊召喚されるのよ。一度正規の方法で召喚された光子竜皇はメインモンスターゾーンに特殊召喚される。そしてこの方法で特殊召喚された光子竜皇の攻撃力は元々の数値の倍になるわ!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:0 ATK4000→ATK8000

 

「攻撃力8000……イージーチューニングで強化されたスカーライトをも上回るだと!?」

「それでもこのカードは光子竜をX素材にしていないと相手に与えるダメージは半分になってしまう。仮に光子竜皇でスカーライトを攻撃しても与えられるダメージはその差2900を更に半分にした1450。これではいくら火力が高くても意味はない」

 

 最も、今の遊希の手札には確実に勝利へと繋がる道筋が描かれていた。

 

「でも、光子竜皇と同格のモンスターを複数体並べればどうかしら? 私は墓地の光属性モンスター、銀河の修道師、アークブレイブドラゴン、巨神竜フェルグラントの3体をゲームから除外し、手札から混源龍レヴィオニアを特殊召喚するわ! そして光属性3体を除外して特殊召喚に成功したレヴィオニアの効果! 墓地の光属性モンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 蘇りなさい、銀河眼の光子竜!」

「これでフィールドにはレベル8のモンスターが2体……」

 

 エヴァは今一度噛み締めた。自分に勝利の芽が残されていないという事実を。しかし、悔いはなかった。彼女はこのデュエルで今の自分が持てる力を奮えるだけ奮うことができたのだから。

 

「私は光子竜とレヴィオニアでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れなさい、No.90 銀河眼の光子卿! そしてこの光子卿をさらにオーバーレイ! 1体のギャラクシーアイズモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れなさい、銀河眼の光波刃竜! 光波刃竜の効果を発動。X素材を1つ取り除き、フィールドに存在するカード1枚を破壊する。対象はもちろんレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトよ!」

 

 光の刃で両断されるスカーライト。紅き悪魔の竜は断末魔の叫びを上げて消えていった。

 

「そしてバトル! 銀河眼の光波刃竜でダイレクトアタック!“斬滅のサイファー・ブレード・ストリーム”!」

 

銀河眼の光波刃竜 ATK3200

 

エヴァ LP3400→LP200

 

「ぐっ!!」

「これで本当に終わり。銀河眼の光子竜皇でダイレクトアタック! エタニティ・フォトン・ストリーム!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK8000

 

エヴァ LP200→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊を操るデュ エリスト同士である遊希とエヴァのデュエルが終わった。デュエルが終わった瞬間、エヴァはまるで糸の切れた操り人形のようにその場にパタリと崩れ落ちた。

 一方の遊希も完全制御されていないスカーライトの攻撃を受けたため、かなり疲弊していた。しかし、遊希は自分の身体の疲れなどいざ知らず、真っ先にエヴァの元に駆け寄った。まるで初めて自分とデュエルをして傷つきながらも倒れた遊希を気にかけたあの時の鈴のように。

 

「エヴァ!」

 

 遊希に抱きかかえられたエヴァは辛そうに微笑む。

 

「ふっ……だいぶ疲れてしまったぞ。どうしてだろうな」

「心配いらないわ。私にも経験がある。精霊と少しでも心が伝われば、身体が凄い疲労感に襲われるのよ」

「……つまり、私はこの子と、スカーライトと少し近づけたということなのだろうか……それなら、凄く嬉しいのだが」

 

 今まで感じた事のないような疲労感に襲われたエヴァはその場から動くことが出来ずにいた。そんなエヴァを遊希はお姫様抱っこの形で講堂の端、陽の光がよく当たるところへと運んでいく。

 

「お、おい。遊希!?」

「大丈夫よ、誰も見てないし」

「そ、そういう問題では……なくてだな……」

「それより。疲れているんでしょう? 膝を貸すわ。少し眠りなさい」

「いいのか?……それでは、その好意……甘えさせてもらう……」

 

 遊希に膝枕を貸してもらったエヴァは数分も経たないうちに眠りへと落ちていった。幼子のような小さな寝息を立てて眠るエヴァの頭をしばらく撫で続けていた遊希であるが、そんな彼女にもすぐに猛烈な睡魔が襲い掛かってきた。

 

(私も少し眠ろうかしら……光子竜)

―――ああ。わかっている。

(ここからは……あなたの仕事よ。任せたわ)

―――任された、お前は眠っていろ。

 

 やがて遊希も眠りに落ちていく。光子竜は遊希が眠りについたのを確認すると、空間と空間を繋ぐワームホールを開いた。普段は厳しくとも、あのような激しいデュエルの後ならば精霊の力で異なる世界と世界を繋ぐのは可能である。

 

―――あのデュエルが功を奏したな。さあ、精霊同士のご対面だ。

 

 光子竜は決意を秘めてワームホールへと飛び込んでいった。光子竜の働きが遊希、そしてエヴァの二人の今後を決めるといっても過言ではなかった。もちろん自分の世界から異なる精霊の世界に向かう、ということは決して容易なことではない。それでも光子竜のように宿主と日常的なコミュニケーションが取れる力の強い精霊ならばその限りではなかった。

 

―――エヴァが言っていたな。ただのカードが突如変化したと。それはつまりこの世界で精霊が生まれたということになる。精霊は普通精霊の世界で生を受けるものと思っていたが……

 

 自分が物を知らぬだけなのか。それともそのような例外が起こるような状況にあるのか。光子竜だけではその真実を見極めることは出来なかった。

 

―――さて、着いたか。

 

 光子竜がワームホールを抜けると、そこは溶岩が噴出する灼熱の世界だった。光子竜が遊希とコミュニケーションを交わす宇宙空間とは180度違う環境である。このような空間はあまり好きではない、と思いつつも彼は自分の使命を果たすためにこの世界の主の名を呼んだ。

 

―――我が名は銀河眼の光子竜! どういう訳か人間・天宮 遊希の身体に宿ったデュエルモンスターズの精霊だ! この世界に形成する者、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト! お前と話がしたい!

 

 光子竜が世界全体に伝わるように大声で叫ぶと、それに返すように何処からか声が聞こえた。それは遊希や鈴といった人間でいうと10代の若い少女が出すような若い声だった。

 

―――そんな大声で叫ばなくても聞こえているわよ! ったく、傷に響くんだからやめなさいよ!

―――……まさかそんな軽いノリで来るとはな。

 

 マグマの中から飛び立ったのは紛れもなく、先ほどまで遊希と対峙していたレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトそのものである。先ほどのデュエルで破壊されたのが響いているのか、飛ぶことすら辛そうだった。

 

―――そっちが固すぎんのよ。まあ他の奴がどんな口調や性格かなんてあたしには関係ないけど!

 

 外見こそ片方の角が欠け、全身が傷だらけの竜といった様相なスカーライトであるが、その声は甲高い少女の声そのものだった。人は見た目によらない、という言葉があるが、それは精霊にもあてはまるものなのだろうか。

 

―――どんな形にしても同じ精霊とこの世界で巡り合えたことは喜ばしいことだ。

―――まあね、それにこっちも聞きたい事色々あるし。

―――聞きたい事?

―――ねえ、どうしたらあたしはあの子と……エヴァと心を通わせられるの?

 

 スカーライトは同じ精霊の光子竜に自分の正直な気持ちを吐露した。この世に生を受けた時、自分はエヴァの元にいた。言うなればスカーライトにとってエヴァは育ての親のような存在であると言ってもいい。

 彼女は口調こそ尊大ながらも、優しいエヴァと心を通わせたかった。しかし、どうやっても自分の気持ちは伝わらないどころか自分を使うせいでエヴァもエヴァとデュエルをする人々も傷つけてしまう。それによって苦しむ彼女の姿を見るのは、スカーライトも苦しかったのだ。

 

―――あんたは、あんたの宿主の子とまるで親子や兄妹のように仲良くやってるじゃない? なんで? なんであんたにできてあたしとエヴァにはできないのよ!!

―――こればかりは私自身も何故かはわからない。そもそも私が何故この世界にいるのかもわからないし、何故遊希とコミュニケーションが取れるのかもはっきりとはわからない。ただ推測ではあるが、遊希は元々その才があったとは思うがな。

 

 遊希とエヴァ。生まれた月や国は違えど二人は天才デュエリストである。しかし、遊希は幼い時から目の前に現れた光子竜と難なくコミュニケーションを取ることができ、プロデビューからわずか数年間の活動で歴史に名を残した。

 対するエヴァは既にプロとして活躍していた同い年の遊希に憧れ、一生懸命努力しては遊希と入れ替わる形でプロの世界に飛び込み現在進行形で成功を収めている。生まれ持った才を持つ遊希と努力によって才を開花させたエヴァ。同じ天才でも二人のタイプはまるで違うのだ。

 

―――じゃあどうすればいいのよ! あたしもう傷つくあの子は見たくない!!

―――落ち着け。お前がそう感情的になるな。お前とエヴァの間には厚い壁があるかもしれないが、兆しはある。少なくともこのデュエルで私はそう感じた。これからも彼女と向き合い続けろ。エヴァはお前から逃げない。お前もそれに応えるんだ。

―――応える、かぁ。簡単そうに言ってくれちゃって……ねえ、あたしにそれができると思う?

―――曖昧な答えになるからあまり言いたくないが……できる。お前ができると思えばより確実に、な

 

 そう言われたスカーライトは少し黙って考え込む。そしてありがと、と何とも不器用に光子竜に礼を告げた。いつになるかはわからないが、きっとエヴァとスカーライトの間には強い絆が生まれることだろう。

 

(今の私にできるのはこれぐらいだろうか? ……遊希、お前もエヴァを支えてくれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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未知の敵

 

 

 

 

「……ふわぁ……」

 

 遊希が目覚めたのはデュエルが終わっておよそ1時間ほど後のことであった。目を擦りながら周囲を見回すと、自分が膝枕をしていたはずのエヴァの姿はそこには無かった。

 

「おはよう、遊希。よく眠れたか?」

 

 先に起きていたエヴァは近くの窓の手すりに身体を預けては外の風景を見つめていた。空高く昇っていた太陽は西の空に沈みかけており、講堂の窓からは奇麗な夕焼けを見ることが出来た。

 

「……もうこんな時間か」

「二人で結構な時間眠ってしまっていたようだったな。そう言えば遊希、私は夢を見たぞ」

「夢?」

「ああ。はっきりとは覚えていないのだが……」

 

 エヴァはおぼろげながら夢の内容を遊希に伝え始めた。ぼんやりとしているためはっきりと姿は見えなかったのだが、落ち着いた様子の男性のような声と幼げな少女のような声の主が会話をしていたという。

 姿もわからなければ会話の内容もわからないなど、何もかもわからないことばかりである。しかし、エヴァはそんな夢でも不安なところは全くなく、むしろ安心して眠ることが出来たという。エヴァのその言葉を聞いて遊希は心の中で光子竜に話しかけた。

 

(……光子竜?)

―――なんだ?

(ありがと)

―――どういたしまして。

 

 遊希は表情こそ表に出さなかったが、心の中で安堵の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 遊希とエヴァはその後、講堂の片隅に座って他の学生が来るのを待っていた。最初の数分はどんな学生が来るのか、上級生の実力はいかほどのものだろうか、などと今後について話に花を咲かせていた。

 しかし、二人がいくら待っても講堂には誰も姿を現さなかったのである。自分たち以外に誰も来る気配が感じられなかった二人は、顔を見合わせると何も言わず立ち上がった。この時遊希とエヴァの考えていたことは完全に一致していたのである。

 

「私は行く。エヴァは残っていてもいいけど……」

「私も行くぞ。遊希一人を行かせるわけにはいかない」

 

 二人は講堂を出ると、各ブロックに割り振られたエリアの捜索に出て回ることにした。その途中遊希はスマートフォンを取り出し、運営担当である竜司に電話をかけようとする。

 しかし、電話をいくらかけてみても竜司に繋がらないどころか圏外状態のままであり、SNSやインターネットすら使えない有様であった。セントラル校の校舎は大会スペースとして割り振られているものの、普段利用している時はスマートフォンが圏外になることなど昨今のネット社会ではまずあり得ないことなのである。

 遊希とエヴァは数時間前に遊希が勝ち抜いたAブロックのエリアを最初に捜索することにした。電話は繋がらず、さらにだいぶ日が傾き始めているのにAブロックのエリアは何処も電灯が消えたままだった。

 

「駄目、繋がらないわ」

「なんだと?」

「それにもう夕方なのに照明が点いてない。というか停電してる」

 

 遊希は壁のスイッチを入れたり切ったりをしているが電灯はうんともすんとも言わなかった。

 

「停電!? 変電施設に何かあったというのか?」

「まさか。前に校長先生から聞いたけどここの施設は日本有数よ。人為的に壊しでもしない限り……」

 

 遊希の脳裏にはこの状態が特定の誰かによって故意に引き起こされた、というシチュエーションが浮かぶ。

 

(大会中施設を管理しているのは先生たち……先生たちに何かあった??)

「遊希」

「……!? な、何かしら?」

「何か……聞こえないか?」

 

 エヴァに言われた通り遊希は耳をすませてみる。すると、微かではあるが、衝撃音がビリビリと壁を伝ってくるのがわかった。この衝撃音は知らないものではない。この音の出元で誰かがデュエルをしているのだ。

 

「取り敢えず音のする方に行ってみましょうか」

(光子竜、あなたも力を貸して)

―――ああ。やれるだけのことはする。

 

 エヴァの耳と光子竜の感覚を頼りに薄暗い廊下を進んでいく。進むたびに衝撃音や爆発音が段々と近づいてくるのがわかった。

 

「ここだな」

 

 そして辿り着いたのはデュエルの実技授業で使う中規模ホールだった。ここなら大勢のデュエリストが同時にデュエルをすることもできるし、異常に気付いた生徒が集まっている可能性もあった。遊希とエヴァはみんなここに集まっているだけなのかも、と楽観的になる。しかし、彼女たちがホールのドアを開けようとした瞬間である。光子竜が何かを察知したのは。

 

―――遊希! 気を付けろ!!

「えっ?」

 

 最初はゆっくりとドアを開けようとした遊希であったが、光子竜の言葉に驚き、思わず手にかけたホールのドアを思い切り開けてしまった。その瞬間、激しい爆発と轟音が二人を襲った。

 

「!?」

 

 突然の爆発に驚きながらも遊希とエヴァははホールの中に入っていく。そこで彼女たちが見たものは、辺り一面に倒れているアカデミアの学生たちの姿だった。そして爆発と共にデュエルをするスペースから一人の男子生徒が吹き飛ばされてくる。

 男子生徒はよほど激しい攻撃を受けたのか制服がボロボロに焼け焦げており、全身に擦り傷切り傷といった多数の傷を負っていた。また、デュエリストの必需品とも言えるデュエルディスクも破壊されてしまっていた。いくら大会の舞台で真剣勝負が求められるデュエルとは言えども、ここまでするのはもはや尋常ではない。

 

「……ちょっと、大丈夫!?」

「……あ、天宮……?」

 

 ボロボロの男子生徒は遊希の顔を見てその名前を呼ぶ。遊希はその男子生徒とは知らない仲ではなかった。

 

「あなた……火野くん?」

 

 遊希が介抱しようとした男子生徒。それは新入生歓迎パーティーで千夏と一触即発の事態になった同級生の火野 翔一であった。【炎王】デッキの使い手でもある彼は敗れはしたものの、千春を相当追い詰めるなど一年生の中でも実力者の一人であると言ってもいい。そんな翔一がここまでボロボロに負けてしまう、ということに遊希は驚きを隠せなかった。

 

「ねえ、どうしたの? いったい何があったの? ねえ!」

「遊希、あまり強く揺すってはいけない。そいつの怪我は見た目以上に深刻だ」

 

 普段の平静さを失った遊希をエヴァが思わずたしなめる。しかし、エヴァも翔一の惨状を見て動揺を隠せない様子であった。

 

「天宮……お前たちも早く……逃げろ……」

「……逃げる?」

「どういうことだ?」

「あいつは……普通じゃない……あいつは……」

 

 力なくデュエルスペースを指さす翔一。その先には倒れている学生たちの中で一人だけその場に立っている人間がいた。爆発によって生じた陽炎の中にいるその者の姿こそはっきりとは確認できなかったが、黒いフードがついたコートを纏っているのは確認できた。

 

―――遊希、あの者から邪な力を感じる。

(邪な力……?)

―――ああ、私とはまた違う力だ。

 

 光子竜が警戒をするよう注意をするが、遊希としてはその者が善人だろうが悪人だろうが関係ない。状況を鑑みるにその者が翔一をはじめとしたアカデミアの学生たちを襲撃した、という物的証拠が揃っているのだ。

 倒れている学生の中に鈴や千春、皐月らはいないようであるが、親友であろうとなかろうとこのようなことをする者は誰であろうといちデュエリストとして許すことはできなかった。

 

「……ねえ、これ……あなたがやったのよね?」

『……』

 

 遊希は不審な人物の元へと歩み寄って問いかける。不審者は黒いフードのついたロングコートの下にアカデミアの女子制服を身にまとっていた。恐らく何処かで女子の制服を手に入れて大会に乗じて紛れ込み、今回の蛮行に及んだのだろう。そんな不審者は遊希の問いかけには答えなかった。だが、かすかに見える口元は歪んでいた。倒れた学生たちを見てニタニタと笑っているのである。

 

「何笑っているのよ」

『フフフ……ダッテコイツラ、弱インダモン』

 

 不審者は遊希たちとそう歳の変わらない少女のようだった。しかし、声の高さは少女のものでもその声自体はまるで機械のようなエコーがかかっており、とても常人のものとは思えなかった。その外見から言動まで何から何までが翔一の言う通り普通ではないのである。

 

「だからと言ってここまでする必要はないはずよ!」

『ネエ、アナタハ……アナタハ……強イノ?』

 

 声を荒げる遊希に対し、不審者はあくまで自分の質問を押し通す。何とか言葉を交わすことはできるものの、それは平行線を辿ってばかりであった。

 

「……自分でいうのもなんだけど、それなりに腕には自信はあるわ」

『ソウナンダァ……ジャアサァ、アタシトデュエルシヨウヨォ……!!』

 

 そう言って不審者はデュエルディスクを構える。フードに隠れて口元しか見えないが、その口は白い歯を見せ、恍惚とばかりに弧を描いていた。

 

―――遊希……

(やるしかない……ようね)

―――気を付けろよ。あの者……ただ者ではないぞ!

(ええ。わかってるわ!)

『アハハ……デュエル! デュエル!! デュエルゥゥゥ!!』

 

 遊希と対峙する不審者は狂ったように笑う。まさに戦闘狂という言葉が命を持ったかのような存在であった。

 

 

先攻:不審者

後攻:遊希

 

不審者 LP8000 手札5枚

デッキ:55 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(不審者)

 

『アタシノ先攻ダヨォ!! アタシハ手札カラ魔法カード《隣の芝刈り》ヲ発動ゥゥゥ!!』

 

《隣の芝刈り》

通常魔法(準制限カード)

(1):自分のデッキの枚数が相手よりも多い場合に発動できる。デッキの枚数が相手と同じになるように、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。

 

 不審者が使っていたのはアカデミア生徒に配布されるアカデミア生徒だけが持つことのできる特製のデュエルディスク。そのため、先攻後攻の決定権を決めるコンピューターが搭載されており、コンピューターは不審者にそれを与える。不審者は迷うことなく先攻を選んだ。このデュエルディスクも罪のないセントラル校の生徒から奪ったものなのだろう、と考えると否が応でも遊希の怒りは増す。

 

『アタシハアンタトノデッキ枚数ノ差分ダケデッキノカードヲ墓地ヘ送ル! 20枚ノカードヲ墓地ヘッ! 墓地ニ送ラレタダンディライオンノ効果デフィールドニ綿毛トークン2体ヲ守備表示デ特殊召喚! ソシテソノトークンヲ素材ニリンク1ノリンクリボーヲリンク召喚!! モウ1体ノ綿毛トークンデリンク1ノ《リンク・スパイダー》ヲリンク召喚ダァ!』

 

《リンク・スパイダー》

リンク・効果モンスター

リンク1/地属性/サイバース族/攻1000

【リンクマーカー:下】

通常モンスター1体

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。手札からレベル4以下の通常モンスター1体をこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。

 

 デュエル開始直後に発動したため、20枚のカードが一気に墓地に送られる。その中に含まれていたダンディライオンの効果で不審者は早くも二度のリンク召喚を決めた。右側のEXゾーンにリンクリボーが、そのリンクマーカーの先にリンク・スパイダーがリンク召喚される。

 

「デッキ枚数60枚に隣の芝刈り……なるほど、大体掴めたわ」

『モウワカッタノ? 流石ダネェ……墓地ノ《インフェルノイド・シャイターン》ト《インフェルノイド・ベルゼルブ》ヲ除外シ、墓地カラ《インフェルノイド・ヴァエル》ヲ特殊召喚ダヨォ!』

 

 不審者のデッキは隣の芝刈りを採用したタイプの【インフェルノイド】。インフェルノイドはレベル1のチューナーモンスターである《インフェルノイド・デカトロン》を除いた全てのモンスターが通常召喚不可の特殊召喚モンスターであり、手札・墓地のインフェルノイドモンスターは指定の数だけ除外した場合に特殊召喚できる効果を持っている。

 その反面、自分フィールドの効果モンスターのレベル・ランクが8以下の場合ではないと特殊召喚できないなど、デメリットも多いが、墓地から特殊召喚できる上級以上のモンスターを隣の芝刈りという強力な墓地肥やしカードを駆使して墓地に送っていれば多少の劣勢は容易に傾けられる爆発力を秘めたデッキであった。

 

《インフェルノイド・ヴァエル》

特殊召喚・効果モンスター

星7/炎属性/悪魔族/攻2600/守0

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドの全ての効果モンスターのレベル・ランクの合計が8以下の時、自分の手札・墓地から「インフェルノイド」モンスター2体を除外した場合のみ手札・墓地から特殊召喚できる。

(1):このカードが相手モンスターを攻撃したバトルフェイズ終了時に発動できる。フィールドのカード1枚を選んで除外する。

(2):1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体をリリースし、相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

(インフェルノイド……確かに強いデッキだけど)

―――これだけのデュエリストを一方的に屠るだけのデュエルができるというのか?

『次ィ! アタシハ更ニ墓地ノ《インフェルノイド・ルキフグス》ト《インフェルノイド・アシュメダイ》ヲ除外シ、《インフェルノイド・ベルフェゴル》ヲ特殊召喚!』

 

《インフェルノイド・ベルフェゴル》

特殊召喚・効果モンスター

星6/炎属性/悪魔族/攻2400/守0

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの全ての効果モンスターのレベル・ランクの合計が8以下の時、

自分の手札・墓地から「インフェルノイド」モンスター2体を除外した場合のみ手札・墓地から特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃宣言時に発動できる。相手はエクストラデッキからモンスター1体を選んで除外する。

(2):1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体をリリースし、相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「リンクモンスター2体に上級インフェルノイド2体……か」

『マダダヨ!墓地ノグローアップ・バルブノ効果ヲ発動! デッキトップヲ墓地ヘ送リ、コノカードヲ墓地カラ特殊召喚! ソシテリンクリボートグローアップ・バルブデリンク2ノ水晶機巧-ハリファイバーヲリンク召喚! リンク召喚ニ成功シタハリファイバーノ効果デレベル1ノインフェルノイド・デカトロンヲ特殊召喚!』

 

《インフェルノイド・デカトロン》

チューナー・効果モンスター

星1/炎属性/悪魔族/攻500/守200

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「インフェルノイド・デカトロン」以外の「インフェルノイド」モンスター1体を墓地へ送る。このカードのレベルをそのモンスターのレベル分だけ上げ、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

『特殊召喚ニ成功シタデカトロンノ効果! デッキカラ《インフェルノイド・アドラメレク》ヲ墓地ヘ送リ、デカトロンノレベルヲアドラメレクノレベル分アップサセ、アドラメレクト同ジ効果ヲ得ルヨ!』

 

インフェルノイド・デカトロン 星1→星9

 

『ソシテアタシハリンク2ノハリファイバー、リンク1ノリンク・スパイダー、インフェルノイド・デカトロン、インフェルノイド・ベルフェゴルをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク4の鎖龍蛇-スカルデッド》をリンク召喚!』

 

《鎖龍蛇-スカルデッド》

リンク・効果モンスター

リンク4/地属性/ドラゴン族/攻2800

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

カード名が異なるモンスター2体以上

(1):このカードは、このカードのリンク素材としたモンスターの数によって以下の効果を得る。

●2体以上:このカードのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動する。そのモンスターの攻撃力・守備力は300アップする。

●3体以上:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。手札からモンスター1体を特殊召喚する。

●4体:このカードがリンク召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから4枚ドローし、その後手札を3枚選んで好きな順番でデッキの下に戻す。

 

『4体ノモンスターヲ素材ニリンク召喚シタスカルデッドノ効果! アタシハデッキカラ4枚ドローシ、ソノ後手札ヲ3枚選ンデ好キナ順番デデッキノ下ニ戻ス!』

 

 スカルデッドがリンク召喚されたのは左側のEXゾーンであり、ハリファイバーとは逆側のEXゾーンになる。そのリンク先には予め特殊召喚されていたヴァエルが存在していた。

 

(スカルデッドのリンク召喚にインフェルノイドが2体使われたことで、相手のフィールドに存在する効果モンスターのレベルの合計が8を下回った……)

『モウワカッテルト思ウケド、墓地ノベルフェゴルトデカトロンヲ除外シテアドラメレクヲ墓地カラ特殊召喚ダァ!』

 

《インフェルノイド・アドラメレク》

特殊召喚・効果モンスター

星8/炎属性/悪魔族/攻2800/守0

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの全ての効果モンスターのレベル・ランクの合計が8以下の時、自分の手札・墓地から「インフェルノイド」モンスター2体を除外した場合のみ手札・墓地から特殊召喚できる。

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

(2):1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体をリリースし、相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

『スカルデッドノリンク先ニアドラメレクヲ特殊召喚! ソシテスカルデッドノ効果デアドラメレクノ攻撃力・守備力ハ300ポイントアップスル!!』

 

インフェルノイド・アドラメレク ATK2800/DEF0→ATK3100/DEF300

 

「っ……」

―――リンク先のモンスターを強化するスカルデッドに、モンスターをリリースすることで墓地のカードを除外できるインフェルノイドが2体か。厄介な……

『アハハ! アンタタチ何思イ違イシテルノォ? アタシノデッキハ……マダマダ止マラナイヨォ!!』

 

 不審者のその言葉の後、光子竜は感じ取った。不審者の後ろに立つ未知なる強大な影の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 



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幻魔の覚醒

 

 

 

 

(―――な、なんだ……この力は?)

 

 遊希を変に不安にさせないためにも、光子竜は不審者の後ろに立つ力のことを口にはしなかった。精霊である光子竜は自身と同じ精霊、そしてそれに準ずるもの、比肩しえるものの力を感じ取ることができる。エヴァと初めて出会った時にスカーライトの存在に気付くことができたのもその力のおかげと言っていい。

 

(―――これは精霊、ではない。だが、精霊の力に匹敵する力であり、そして……あまりにも邪すぎる。こんな力を人間が制御できるとは思えないが……)

(ちょっと光子竜。あんたデュエルの最中に何考えてるの?)

―――!?

 

 しかし、ほんのわずかな動揺を遊希に悟られる。光子竜をその身に10年以上も宿している彼女からしてみれば、もはや彼は自身の一部のようなものなのだ。

 

―――……

(黙ってちゃわからないわ。あんたが素直に思ったことを教えて)

―――後悔するなよ。

(うん)

―――対峙して気付いたのだが、相手には精霊ではないが、それに準ずるものが宿っている。しかも邪極まりないもので、普通の人間ではまず扱い切れないような強大なものだ。そんなものを相手取ったらお前もただでは済まないぞ?

(……そっか。でもだからといって尻尾を撒いて逃げたくはない)

 

 遊希は周囲を見回した。翔一をはじめ、倒れた生徒の状態を一人一人エヴァが見て回っている。もし遊希一人だけであったら不審者に倒された生徒たちのことが気になってデュエルに集中できなかったかもしれないが、彼女がいてくれるおかげでそちらを任せることができた。

 

(私はあいつが許せない。どんな奴かなんて興味がないけど、デュエルをこんな形で悪用するあいつが。だから、光子竜……)

―――……皆まで言うな。私も同じ気持ちだ。ならばどこまでもお前と共に戦おうぞ。

 

 決意を新たにした遊希と光子竜が改めて不審者と対峙する。不審者は遊希を見て不気味な笑みを浮かべていた。

 

『相談タイムハオシマイ? 精霊ノデュエリストサン?』

(……あんたの存在まで感付いてるわよ)

―――そのようだな。ますますここで止めなくてはいけなくなった。

『ジャア再開スルヨォ! アタシハマダ召喚権ヲ残シテイル! 手札カラ《幻銃士》ヲ召喚!!』

 

《幻銃士》

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1100/守800

(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した時に発動できる。自分フィールドのモンスターの数まで、自分フィールドに「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する。

(2):自分スタンバイフェイズに発動できる。自分フィールドの「銃士」モンスターの数×300ダメージを相手に与える。この効果を発動するターン、自分の「銃士」モンスターは攻撃宣言できない。

 

『召喚ニ成功シタ幻銃士ノ効果ヲ発動! アタシノフィールドノモンスターノ数マデアタシノフィールドニ銃士トークンヲ特殊召喚! アタシノフィールドニハ幻銃士ヲ含メテ4体ノモンスターガイル! ヨッテ余ッテルモンスターゾーン全テニトークンヲ守備表示デ特殊召喚!!』

 

 不審者のフィールドにはEXゾーンのスカルデッドを含めて4体のモンスターが存在し、メインモンスターゾーンの空きは2つ。よって2体のトークンが特殊召喚される。

 

(フィールドを全て埋めた……? スカルデッドがいるのに更にリンク召喚を狙うというのかしら)

『アハハァ……コレデ準備ハ済ンダヨォ。アタシハ―――フィールドノ幻銃士トトークン2体ヲリリースシテ特殊召喚!!』

「3体のモンスターをリリース!?」

 

 幻銃士と2体の銃士トークンが闇へと消えていく。次の瞬間、遊希は光子竜が感じ取っていたであろう強大な力がフィールドに溢れ出ていることに気が付いた。全身に寒気が走り、頬には冷や汗がしたる。これが光子竜の感じ取った力の正体なのか、その事実に遊希は言葉を失った。

 

(何なの、この瘴気は……! こんなの、体感したことがない)

 

 

 

 

 

―――“天地ヲ蹂躙セシ魔ノ化身ヨ! ソノ力ヲ以テ万物ヲ闇ヘト還セ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――覚醒セヨ!!《幻魔皇ラビエル》!!―――

 

 

 

 

 

 

 現れたのは巨大な青い身体を持った悪魔のようなモンスターだった。遊希はその存在を授業で聞いたことがある。

 かつてアカデミアの理事長だった男がその力に取りつかれ、暴走したことを。かつてあらゆるカードから力を奪い取り、世界を破壊しつくさんとその力を奮ったことを。あまりに危険すぎるが故にそれらのカードは破棄され、そしてそのカードを実際に目にした者はもういないと思われていた―――しかし、ここにその【三幻魔】の一角が覚醒した。

 

 

《幻魔皇ラビエル》

特殊召喚・効果モンスター

星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの悪魔族モンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。

(1):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(2):相手がモンスターの召喚に成功した場合に発動する。自分フィールドに「幻魔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)1体を特殊召喚する。このトークンは攻撃宣言できない。

 

 

「幻魔皇ラビエル……!? そんな、現実にはもう存在しないはずじゃ」

『幻魔ノ力ハ不滅! 依代デアルカードガ破棄サレタ程度デ滅ビナイノサ!! スカルデッドノリンク先ニ特殊召喚サレタコトデ、ソノ攻撃力・守備力ハ300アップ!』

 

幻魔皇ラビエル ATK4000/DEF4000→ATK4300/DEF4300

 

『アタシハカードヲ1枚セット。ターンエンドダ』

 

 

不審者 LP8000 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:3(幻魔皇ラビエル、インフェルノイド・アドラメレク、インフェルノイド・ヴァエル)EXゾーン:1(鎖龍蛇-スカルデッド)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:19 除外:6 EXデッキ:10(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

不審者

 □□伏□□

 ヴ□□幻ア□

  □ 鎖

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

鎖・・・鎖龍蛇-スカルデッド

幻・・・幻魔皇ラビエル

ア・・・インフェルノイド・アドラメレク

ヴ・・・インフェルノ・ヴァエル

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

 

 不審者のフィールドには攻撃力4300かつ自身の効果でフィールドのモンスターをリリースして更に打点を上げられるラビエルが存在する。上級以上のインフェルノイドモンスターが墓地から自己蘇生できることを考えると、毎ターンのように攻撃力6000は軽く超えるモンスターが現れるのだ。もちろん最上級インフェルノイド2体にスカルデッドも当然厄介なモンスターであるが、まず最優先に対処すべきはラビエルであることは明白だった。

 

(手札が悪いわね……でも、あれだけの力を持ったモンスターをそのままにはしておけない!)

「私は手札から魔法カード、増援を発動! デッキからレベル4の戦士族、フォトン・スラッシャーを手札に加える。そして自分フィールドにモンスターが存在しない時、フォトン・スラッシャーは手札から特殊召喚できる!」

 

 手に持った大剣で空間を切り裂き現れるフォトン・スラッシャー。レベル4のモンスターとして破格の攻撃力を持つが、ラビエルには遠く及ばない。しかし、相手が圧倒的な個の力で臨むのであれば、こちらはモンスター同士の結束で臨むのだ。

 

「フィールドにフォトンモンスターが存在する時、このカードは手札から特殊召喚できる。フォトン・バニッシャーを特殊召喚。そして特殊召喚に成功したフォトン・バニッシャーの効果。デッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加える。そして私はレベル4のフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーでオーバーレイ!」

『エクシーズ……ネェ』

「2体の光属性モンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“銀河の中心より生まれるは光子を纏った戦士。その力を以て万物を鎮めよ!”ランク4《輝光子パラディオス》!」

 

《輝光子パラディオス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守1000

光属性レベル4モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にし、その効果を無効にする。

(2):フィールドのこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「ラビエルを対象にパラディオスの効果を発動! このカードのX素材を2つ取り除き、ラビエルの効果を無効にして攻撃力を0にする!」

 

幻魔皇ラビエル ATK4300→ATK0

 

『ヘェ……ヤルネェ』

「バトル! 輝光子パラディオスでラビエルを攻撃!“フォトン・ディバイディング”!」

 

輝光子パラディオス ORU:0 ATK2000 VS 幻魔皇ラビエル ATK0

 

不審者 LP8000→LP6000

 

 強大な力を持った幻魔であってもモンスターの1体であることには変わらない。そしてモンスターであるということはこうやって戦闘で破壊することができるということだ。

 

『アヒャヒャヒャヒャ! 普通ノデュエリストダッタララビエルヲ見テ戦意喪失シチャウノニネェ!!』

「……私をそんじょそこらのデュエリストと一緒にしないでちょうだい。メインフェイズ2。私はカードを2枚セットしてターンエンドよ」

 

 

不審者 LP6000 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(インフェルノイド・アドラメレク、インフェルノイド・ヴァエル)EXゾーン:1(鎖龍蛇-スカルデッド)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:19 除外:6 EXデッキ:10(0)

遊希 LP8000 手札3枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(輝光子パラディオス ORU:0)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:3 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

不審者

 □□伏□□

 ヴ□□□ア□

  パ 鎖

□□□□□□

 □□伏伏□

遊希

 

○凡例

パ・・・輝光子パラディオス

 

 

☆TURN03(不審者)

 

 

『アタシノターン、ドローォ! アタシハ手札カラ永続魔法《煉獄の消華》ヲ発動!!』

 

《煉獄の消華》

永続魔法

「煉獄の消華」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札を1枚捨ててこの効果を発動できる。デッキから「煉獄の消華」以外の「煉獄」魔法・罠カード1枚を手札に加える。このターン、自分は「インフェルノイド」モンスター以外のモンスターを召喚・特殊召喚できない。

(2):自分の「インフェルノイド」モンスターが相手モンスターと戦闘を行ったダメージ計算後に、魔法&罠ゾーンの表側表示のこのカードを墓地へ送って発動できる。その戦闘を行ったお互いのモンスターを除外する。

 

『手札1枚ヲ捨テテ1ツ目ノ効果ヲ発動! デッキカラ同名カード以外ノ煉獄魔法・罠カードヲ手札ニ加エルヨォ……アタシハ《煉獄ノ虚夢》ヲ手札ニ加エル アハハハハッ!!』

「一々喚かないで貰えるかしら。うるさくてしょうがないんだけど」

『ゴメンネェ……デモ、アタシ愉シクテショウガナインダァ! アンタトコウシテ命ノヤリトリガデキルナンテネェ!! アタシハ今手札ニ加エタ永続魔法《煉獄の虚夢》ヲ発動!』

 

《煉獄の虚夢》

永続魔法

(1):自分フィールドの元々のレベルが2以上の「インフェルノイド」モンスターは、レベルが1になり、相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

(2):表側表示のこのカードを墓地へ送って発動できる。自分の手札・フィールドから、「インフェルノイド」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドにのみ存在する場合、自分のデッキのモンスターも6体まで融合素材とする事ができる。

 

『煉獄の虚夢ガ存在スル限リ、アタシノレベルガ2以上ノインフェルノイドノレベルハ1ニナル!』

 

インフェルノイド・アドラメレク 星8→星1

インフェルノイド・ヴァエル 星7→星1

 

『コノカードガ存在スル限リ、インフェルノイドガアタエルダメージハ半分ニナル。デモ墓地カラモーットタクサンノインフェルノイドヲ呼ビ出セル!! アタシハ墓地ノ《インフェルノイド・リリス》トインフェルノイド・ルギフグスヲゲームカラ除外シ、2体目ノヴァエルヲスカルデッドノリンク先ニ特殊召喚! モチロンコノカードノレベルモ1ニナル!』

 

インフェルノイド・ヴァエル 星7→星1 ATK2600/DEF0→ATK2900/DEF300

 

『バトル! マズハスカルデッドデパラディオスヲ攻撃!“チェーン・ドラゴンズ・クラッシュ”!!』

 

鎖龍蛇-スカルデッド ATK2800 VS 輝光子パラディオス ATK2000

 

(パラディオスは相手によって破壊されることでデッキからカードを1枚ドローできる。ダメージを受けるのは仕方ないけれど、これで手札を充実させられる!)

 

遊希 LP8000→LP7200

 

「―――っ!?」

 

 8000ライフ制において800のダメージはデュエル開始直後であればまだそれほど痛くはないと言ってしまっていいだろう。時にはライフを犠牲にしなければ勝てないこともあるからだ。しかし、今回ばかりはそれは違った。何故ならスカルデッドの攻撃がパラディオスを破壊し、ライフを失った瞬間―――遊希の身体にはまるで刺すような痛みが走ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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猛威

 

 

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

 攻撃力2800の鎖龍蛇-スカルデッドの攻撃が攻撃力2000の輝光子パラディオスを破壊する。よってその攻撃力の差分800のダメージを遊希は受けたのだが、そのダメージを受けた遊希は思わず悲鳴を上げた。そんな遊希を見て普段の彼女を知っているエヴァはわずか800のダメージを受けたとは思えない遊希の悲鳴に驚きの様子を隠せないようだった。

 

「遊希?」

「な、なんでもないわ。ちょっと驚いただけよ」

 

 遊希から翔一たちの介抱を任されたエヴァは心配そうにデュエルをする遊希を見つめていた。そんな彼女に悟られまいと遊希は何事も無かったかのように気丈に振る舞おうとする。しかし、遊希の様子がおかしいことを外からは見抜けずとも、内からは筒抜けであった。

 

―――遊希。何があった?

(光子竜……あんたは何も感じなかったの?)

―――ああ。

(今スカルデッドの攻撃でダメージを受けた時、身体に物凄い痛みが走ったの……こんなの初めてだわ)

―――何だと?

 

 光子竜は自分たちと対峙するスカルデッド、そしてインフェルノイド2体に精霊の力で探りを入れてみる。しかし、あのモンスターたちは精霊でもなんでもないただのモンスターだった。恐らく精霊の力でなくとも相手にリアルダメージを与えられる仕掛けでも存在する―――というのは最も楽観的な見通しなのだろう。

 

(―――原因など調べるまでもない。幻魔皇ラビエル。破壊されて墓地に送られたところであれは手にするだけで使用者のみならず周囲の生命に影響を及ぼす代物だ)

―――ライフを削られるだけで痛みが生じるのであれば、下手にライフを奪われないようにすることだな。

(……ご忠告どうも。でも相手にはまだ2体の大型モンスターがいるんだけど)

―――耐える。それだけだ。

(うん、頼った私がバカだった)

 

 遊希は光子竜相手にはそう強がってみるものの、わずか800のダメージであれだけの痛みを感じるのであれば、モンスターのダイレクトアタックなどを受けてしまったらどれほどの衝撃が身体に走るのか。

 翔一をはじめ、ここに倒れている他の学生たちもこのデュエルで傷を負って皆倒れていってしまったのだろう。精霊をその身に宿す者として相手をデュエルで傷つけてしまわないかどうか遊希もエヴァも常に細心の注意を払ってきていた。しかし、今の目の前にいる不審者からは相手を傷つけてしまうことを恐れる、という様子が全く伝わってこない。むしろ遊希がダメージを受けて苦しむ姿を見てもなお歯を見せて笑っている有様だった。

 

(あいつは、私の手で止めなければならない)

「破壊され、墓地に送られたパラディオスの効果を発動! デッキからカードを1枚ドローするわ!」

『1枚ドローシタクライジャ何モ変ワラナイヨォ! インフェルノイド・アドラメレクデダイレクトアタック!“インフェルノ・ツイン・ブレス”!』

 

インフェルノイド・アドラメレク ATK3100

 

 不審者のフィールドには永続魔法、煉獄の虚無が存在しているため、インフェルノイドの攻撃で遊希が受けるダメージは半分になる。それでもスカルデッドの効果で強化されたアドラメレクから受けるダメージは3100÷2=1550。決して甘く見れる数字ではない。

 

「私は手札の《Emダメージ・ジャグラー》の効果を発動!」

 

《Emダメージ・ジャグラー》

効果モンスター(制限カード)

星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000

「Emダメージ・ジャグラー」の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分にダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(2):自分または相手のバトルフェイズにこのカードを手札から捨てて発動できる。このターン自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にする。

(3):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「Emダメージ・ジャグラー」以外の「Em」モンスター1体を手札に加える。

 

「自分または相手のバトルフェイズにこのカードを手札から捨てて発動。このターン、私が受ける戦闘ダメージを一度だけ0にするわ」

『ダメージ・ジャグラー……面倒ナモンスターヲ入レテルナァ。デモ残念! アタシノフィールドニハマダヴァエルガ2体モイルノォ! スカルデッドノリンク先ニイルヴァエルデダイレクトアタック!“インフェルノ・ストーム”!』

 

インフェルノイド・ヴァエル ATK2900

 

「その攻撃も通させない! リバースカードオープン! 墓地のパラディオスを対象に罠カード、戦線復帰を発動。対象のモンスターを守備表示で特殊召喚するわ!」

『ダッタラソノ効果ニチェーン! 攻撃シテナイ方ノヴァエルヲリリースシテ効果ヲ発動! パラディオスヲ除外ダァ!』

 

 上級以上のインフェルノイドは自身をリリースすることで、相手の墓地に存在するカード1枚をゲームから除外することができる。ヴァエルの効果で自身をリリースしてパラディオスを除外すれば、蘇生対象を失った戦線復帰の効果は無意味に終わる。

 

「させない! そのヴァエルの効果にチェーン! もう1枚の戦線復帰を発動! 対象はもちろんパラディオス!」

 

チェーン3(遊希):戦線復帰

チェーン2(不審者):インフェルノイド・ヴァエル

チェーン1(遊希):戦線復帰

 

『2枚目ノ戦線復帰!? アハハ! 手札事故ガ上手ク働クナンテネ! モウチェーンス効果ハナイヨ!』

 

 不審者はそれ以上チェーンを重ねることはしなかった。ここでアドラメレクをリリースしていれば、更に戦線復帰にチェーンすることができていたため、逆順処理でパラディオスはアドラメレクの効果でゲームから除外することができていた。不審者が何故それ以上チェーンを重ねなかったのか。疑問に思うこともあったが、ここは相手のプレイングミス(?)に感謝するほかなかった。

 

「チェーン3の戦線復帰の効果でパラディオスを守備表示で特殊召喚するわ! チェーン2のヴァエルの効果、そしてチェーン1の戦線復帰は共に対象不在のため空振りに終わる」

『ダッタラヴァエルデソノパラディオスヲ攻撃シテヤルヨ!』

 

インフェルノイド・ヴァエル ATK2900 VS 輝光子パラディオス DEF2100

 

「破壊されて墓地へ送られたパラディオスの効果! デッキからカードを1枚ドローするわ!」

『バトルフェイズ終了。メインフェイズ2ニ移ルケド……モウ何モデキナイネ、残念。ターンエンド』

 

 

不審者 LP6000 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(インフェルノイド・アドラメレク、インフェルノイド・ヴァエル)EXゾーン:1(鎖龍蛇-スカルデッド)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(煉獄の虚夢、煉獄の消華)フィールド:0 墓地:16 除外:8 EXデッキ:10(0)

遊希 LP7200 手札4枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:7 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

不審者

 □虚伏消□

 □□□ヴア□

  □ 鎖

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

消・・・煉獄の消華

虚・・・煉獄の虚夢

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー! 私は手札の銀河眼の光子竜をコストに魔法カード、トレード・インを発動! デッキからカードを2枚ドローするわ。そして魔法カード、アクセル・ライトを発動! 通常召喚権を放棄する代わりに、デッキからレベル4のギャラクシー1体を特殊召喚する!」

『銀河眼ヲ墓地ニ送ッタネェ? 送ッチャッタネェ! アタシハアクセル・ライトニチェーンシテインフェルノイド・ヴァエルノ効果ヲ発動! ヴァエルヲリリースシ、相手ノ墓地ノカード1枚ヲ除外スル! 墓地ノ光子竜ヲ除外スル!』

「っ……チェーンはないわ」

 

チェーン2(不審者):インフェルノイド・ヴァエル

チェーン1(遊希):アクセル・ライト

 

『チェーン2ノヴァエルノ効果デ光子竜ヲ除外! キャハハハハッ!! オマエノエース、消エチャッタ!!』

「チェーン1のアクセル・ライトの効果で私は銀河の魔導師を特殊召喚。そして手札のフォトン・オービタルを銀河の魔導師に装備する。そしてフォトン・オービタルを墓地に送り、もう一つの効果。デッキからフォトン・バニッシャーを手札に加えるわ」

『フォトン・バニッシャー……ナンダヨ、除外シタ意味ナイジャン』

 

 先程からハイになったりローになったりと色々と忙しい相手である。しかし、この無茶苦茶なテンションの相手から一つの事実を掴むことができた。それは相手が遊希のデッキのエースを銀河眼の光子竜であると知っているということだ。光子竜がエースである、ということを知っているということは、相手が遊希の存在を認識していることに繋がるのだ。

 

「フォトン・バニッシャーを特殊召喚。特殊召喚に成功したバニッシャーの効果でデッキから2体目の銀河眼の光子竜1体を手札に加える。そして私は銀河の魔導師とフォトン・バニッシャーでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“銀河の源より生まれるは光子の力を迸る竜。その力を以て閉ざされし道を切り拓きなさい!”《輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン》!!」

 

《輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/ドラゴン族/攻1800/守2500

レベル4モンスター×2

(1):このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。手札から「フォトン」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):X召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(3):相手ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、「銀河眼の光子竜」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「X召喚に成功したフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果を発動! 手札のフォトンモンスター、銀河眼の光子竜1体を特殊召喚するわ! そしてバトル! 銀河眼の光子竜で鎖龍蛇-スカルデッドを攻撃! “破滅のフォトン・ストリーム”!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 鎖龍蛇-スカルデッド ATK2800

 

不審者 LP6000→LP5800

 

『イイジャン!イイジャン! オマエ強イナ!』

「……バトルフェイズを終了してメインフェイズ2。私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

『デモ強イオマエトモソロソロバイバイノ時間ダ! リバースカードオープン! 永続罠、リビングデッドの呼び声ヲ発動! 墓地ノ《暗黒の召喚神》を特殊召喚スル!』

 

 

不審者 LP5800 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(インフェルノイド・アドラメレク、暗黒の召喚神)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(煉獄の虚夢、煉獄の消華、リビングデッドの呼び声)フィールド:0 墓地:18 除外:8 EXデッキ:10(0)

遊希 LP7200 手札2枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:1(輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:10 除外:1 EXデッキ:13(0)

 

不審者

 □虚リ消□

 □暗□ア□

  竜 □

□□□□銀□

 □□伏□□

遊希

 

○凡例

 

竜・・・輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン

暗・・・暗黒の召喚神

リ・・・リビングデッドの呼び声

 

 

☆TURN05(不審者)

 

『アタシノターン、ドロー! メインフェイズ1、フィールドノ暗黒の召喚神ノ効果ヲ発動! 自身ヲリリース!』

 

 特殊召喚モンスターであるインフェルノイドとリビングデッドの呼び声の相性はそういいわけではない。だが、隣の芝刈りで墓地に送られてしまった有用なモンスターを蘇生するにはうってつけのカードである。そんなカードで蘇生した暗黒の召喚神なるモンスターもさぞかし強力な効果を持っているのであろう。

 

(暗黒の召喚神……見たことも聞いたこともないモンスターだけど、どんな効果を持っているのかしら)

「その効果にチェーンして私はフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果を発動する!」

 

チェーン2(遊希):輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン

チェーン1(不審者):暗黒の召喚神 

 

「チェーン2のフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果。相手ターンに1度、X素材を1つ取り除き、除外されている銀河眼の光子竜1体を特殊召喚する!」

『除外シタ意味ガ無カッタネ……デモアタシノ優位ハカワラナイ! チェーン1ノ暗黒の召喚神ノ効果!!』

 

《暗黒の召喚神》

効果モンスター

星5/闇属性/悪魔族/攻0/守0

「暗黒の召喚神」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードをリリースして発動できる。「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札・デッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。このターン、自分のモンスターは攻撃できない。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札に加える。

 

『暗黒の召喚神ヲリリース……ソシテアタシノデッキカララビエル、《神炎皇ウリア》《降雷皇ハモン》ノウチ1体ヲ召喚条件ヲ無視シテ特殊召喚スル!!』

「神炎皇ウリアに降雷皇ハモン!? まさかそのデッキには……」

『当然! 残リ2体ノ幻魔ガイル!! アタシハコノモンスターヲ特殊召喚!!』

 

 不審者の手には赤い竜のような見た目をしたモンスターのカードがデッキより引き出される。その姿は神のカードとして伝わる【三幻神】の一柱《オシリスの天空竜》にも酷似しているが、オシリスが邪をその雷霆で打ち払う神であれば、そのモンスターは邪なる炎で全てを焼き払う似て非なる存在であると言えた。

 

 

 

 

 

―――“天地ヲ業火デ覆イシ魔ノ化身ヨ! ソノ力ヲ以テ万物ヲ灰燼ト帰セ!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――覚醒セヨ!《神炎皇ウリア》!!―――

 

 

 

 

 

《神炎皇ウリア》

特殊召喚・効果モンスター

星10/炎属性/炎族/攻0/守0

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドの表側表示の罠カード3枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の永続罠カードの数×1000アップする。

(2):1ターンに1度、相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。セットされたそのカードを破壊する。この効果の発動に対して魔法・罠カードは発動できない。

 

「神炎皇ウリア……」

―――やはり幻魔の1体だけあるな。恐ろしい力を感じる……

 

『神炎皇ウリアノ攻撃力ハアタシノ墓地ノ永続罠ノ数×1000アップスル! アタシノ墓地ニハ永続罠ガ……《バックファイア》《光の護封壁》リビングデッドの呼び声ノ3枚存在スル! ヨッテウリアノ攻撃力ハ3000ダ!!』

 

神炎皇ウリア ATK0→ATK3000

 

―――攻撃力が3000止まりだったのは不幸中の幸い、と言うべきか。

『ウリアノ効果! 相手フィールドニセットサレタ魔法・罠カード1枚ヲ対象トシテ発動! ソノカードヲ破壊スル!!』

「だったら破壊される前に……!!」

『無駄ダ! ウリアノ効果ニ対シテ魔法・罠カードハ発動デキナイ!!』

 

 ウリアの放った紅蓮の炎が遊希のフィールドにセットされていた罠カード、永遠なる銀河が破壊される。遊希としてはステータスの低いフォトン・ブラスト・ドラゴンをこのカードでランク8のモンスターに変化させることが狙いだったのだ。

 

「でも暗黒の召喚神の効果を発動したターン、あなたは攻撃できない」

『ソレハ知ッテルヨ。ダカラ場ヲ固メルカナァ……アタシハ手札ノ魔法カード、貪欲な壺ヲ発動。墓地ノ降雷皇ハモン、鎖龍蛇-スカルデッド、水晶機巧-ハリファイバー、リンク・スパイダー、ダンディライオンノ5体ヲデッキニ戻シテシャッフル。5枚ドロースルヨ! ソシテ墓地ノ暗黒の召喚神ノ効果ヲ発動。コノカードヲゲームカラ除外シ、デッキカラモンスター1体ヲサーチスルヨ。サーチスルノハモチロン……降雷皇ハモン!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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親友

 

 

 

 

 

(……降雷皇ハモン。最後の幻魔をこうも容易く手札に。でもハモンの特殊召喚には条件がある)

 

 このデュエルにおいて未だフィールドには出ていないハモンであるが、その存在はラビエル・ウリアと共にアカデミアの授業で習ったことがある。

 ウリアの特殊召喚の条件が、フィールドに表側表示で存在する永続罠3枚を墓地に送る必要があるのに対し、ハモンはフィールドに表側表示で存在する永続魔法3枚を墓地に送る必要がある。

 現在不審者のフィールドには永続魔法の煉獄の虚夢と煉獄の消華の2枚が存在している。ハモンを特殊召喚するためには、更に後1枚の永続魔法が必要なのだ。

 

『オマエガ今何ヲ考エテイルノカ当テテアゲヨウカ?』

 

 考え込んでいる遊希を見て、不審者は彼女が何を思っているのかを見通しているようだった。

 

『ズバリ、ハモンヲ特殊召喚スルタメノ永続魔法ガナイ! ソウ思ッテルンダロウ?』

「……」

『沈黙ハ肯定ッテ受ケ取ルヨ。アタシハ手札カラ永続魔法《王家の神殿》ヲ発動』

 

《王家の神殿》

永続魔法

「王家の神殿」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分は罠カード1枚をセットしたターンに発動できる。

(2):自分フィールドの表側表示の「聖獣セルケト」1体とこのカードを墓地へ送ってこの効果を発動できる。手札・デッキのモンスター1体またはエクストラデッキの融合モンスター1体を特殊召喚する。

 

「3枚目の……永続魔法!」

『トイウコトデ、アタシハフィールドノ永続魔法3枚ヲ墓地ニ送ル。出デヨ! 3体目ノ幻魔!!』

 

 雷鳴が轟く。三幻神において太陽の神とされる《ラーの翼神竜》に酷似したそのモンスターは無慈悲な雷をもって全てを打ち砕く神とは正反対の存在であると言えた。

 

 

 

 

 

 

―――“天地ヲ雷霆デ覆イシ魔ノ化身ヨ! ソノ力ヲ以テ万物ヲ穿テ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――覚醒セヨ! 《降雷皇ハモン》!!―――

 

 

 

 

 

 

《降雷皇ハモン》

特殊召喚・効果モンスター

星10/光属性/雷族/攻4000/守4000

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの表側表示の永続魔法カード3枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに守備表示で存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。相手に1000ダメージを与える。

 

「幻魔が2体……」

―――精霊でないにも関わらず、この力か……化け物め。

『永続魔法ノ煉獄の虚夢ガ墓地ニ送ラレタコトデ、アドラメレクノレベルハ元ニ戻ル』

 

インフェルノイド・アドラメレク 星1→星8

 

『ソレデコレハオマケ! 手札カラ魔法カード《マジック・プランター》ヲ発動!!』

 

《マジック・プランター》

通常魔法

(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

『リビングデッドの呼び声ヲ墓地ヘ送リ、2枚ドロー! 墓地ニ永続罠ガ1枚増エタコトデ、ウリアノ攻撃力ハ更ニアップ!』

 

神炎皇ウリア ATK3000→ATK4000

 

「攻撃力4000のモンスターが2体……」

『アタシハカードヲ1枚セット。コレデターンエンド!!』

 

 

 

不審者 LP5800 手札2枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:3(神炎皇ウリア、降雷皇ハモン、インフェルノイド・アドラメレク)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:18 除外:9 EXデッキ:13(0)

遊希 LP7200 手札2枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜×2)EXゾーン:1(輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン ORU:1)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:12 除外:0 EXデッキ:13(0)

 

 

不審者

 □□□伏□

 □炎雷ア□□

  竜 □

□□□□銀銀

 □□□□□

遊希

 

○凡例

炎・・・神炎皇ウリア

雷・・・降雷皇ハモン

 

 

☆TURN06(遊希)

 

(相手フィールドには攻撃力4000の幻魔が2体……か)

 

 暗黒の召喚神の効果を発動したため、不審者は攻撃することができない。ただ、戦闘を行わずとも相対しているだけで膝を無理やり屈せられそうなほどの圧を放っている幻魔。もし光子竜がいてくれなければ、遊希もここで倒れている学生たちと同じように為すすべなく倒されていただろう。

 

(……私のデッキは攻撃力では負けていない。正直言って4000くらいなら恐るるに足らない)

 

 だが、このデッキを相手取るにおいて大事なのは攻撃力ではない。相手はただのカードではないということを理解しなければならなかった。言ってしまえば、普通のデュエルであればデュエルをするモンスターはデータに過ぎず、攻撃を受けても破壊されてももう一度召喚すれば蘇る。現実に生きているわけではない、仮想の世界の住人だ。

 しかし“幻魔”は違う。人間によって生み出されたカードでありながら、生みの親である人間を自身の邪な力で取り込み、敵とみなしたものは容赦なく攻撃する。そしてその攻撃で生じたダメージは実際のダメージとなって人間に危害を及ぼす。人知を超えた力を持った存在であり、ここで止められなければまず間違いなく多くの人間がその力の犠牲になるだろう。

 

(絶対に止めなければならない。でも、私にそれができるの?)

―――遊希。

 

 心に生じた迷いを感じ取ったのか、光子竜が遊希の名を呼んだ。

 

(光子竜……)

―――怖いか?

 

 怖くなんてない。そう言おうとした遊希だったが、口から出たのは真逆の言葉。

 

(……うん)

―――そうか。ならば、それでいい。

(えっ?)

―――恐れるな、と言うのは簡単だ。だが、高い知能と意志を持った人間に恐怖を捨てることなどまず不可能だ。ならばいっそ自分に素直になれ。怖い時は怖い、辛い時は辛い、嬉しい時は嬉しい。正直でいた方が肩の力を抜ける。それに恐れていても問題はないだろう? お前には、この私がいる。

(大きく出たわね。じゃあその大船に乗らせてもらうわ)

「私のターン、ドロー!!」

 

 幻魔を恐れる心は受け入れる。しかし、遊希は孤独ではない。自分には精霊が、銀河眼の光子竜がいる。例え幻魔に力で劣っていたとしても、デュエリストを恐怖と力で支配する幻魔にはない絆がある。そしてその絆を信じた時、デッキはデュエリストに応えてくれるのだ。

 

「私はライフを1000ポイント支払い、魔法カード《フォトン・ハンド》を発動!!」

 

《フォトン・ハンド》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドに「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合、1000LPを払い、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールを得る。発動時に自分フィールドに「銀河眼の光子竜」が存在しない場合には、Xモンスターしか対象にできない。

 

遊希 LP7200→LP6200

 

『フォトン・ハンド!?』

「私のフィールドに銀河眼の光子竜が存在する場合、相手フィールドに存在するモンスター1体を対象に発動。そのモンスターのコントロールを得る! 対象は……降雷皇ハモン!!」

『ハモン……ノコントロールヲ奪ウダト!?』

「幻魔! その力、その命を私のために使いなさい!!」

 

 遊希の左手が光を放つと同時に、不審者を守るように立っていた降雷皇ハモンが遊希の側に移る。光子竜が間に入っているとはいえ、ハモンが遊希の側についた途端身体がグッと重くなるのを感じた。これが幻魔を使役するということなのだろう。

 

(っ……わかる。光子竜がいるから、私は幻魔を操っていても正気を保っていられるって。でも相手は精霊の類を持っていないのに幻魔3体を使っている……もしこのデュエルが終わったら相手の身体は? 心は? どうなってしまうの?)

『幻魔ヲ奪ッタトコロデ何ガデキル!! コッチニハ同ジ攻撃力ノウリアガイルンダゾ!!』

「そうね……自分で使ってみてわかったわ。こんな力、早々に潰さなきゃいけないって。フォトン・ブラスト・ドラゴンを攻撃表示に変更」

 

輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン ATK1800

 

「バトル! 降雷皇ハモンで神炎皇ウリアを攻撃!!“失楽の霹靂”!!」

 

降雷皇ハモン ATK4000 VS 神炎皇ウリア ATK4000

 

『チッ!! 迎撃セヨ、神炎皇ウリア!“ハイパーブレイズ”!!』

 

 雷の幻魔と炎の幻魔。二つの強大な力は互いの力の反発に巻き込まれて消えていった。ハモンとウリアが消えたことで、遊希の身体に圧し掛かっていた見えない力が消える。存在自体がデュエリストを苦しめる。そんな力であることを改めて実感した。

 

「幻魔は消えた。もうお前に勝ち目はない! 銀河眼の光子竜でインフェルノイド・アドラメレクを攻撃!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS インフェルノイド・アドラメレク ATK3100

 

「銀河眼の光子竜の効果を発動! バトルフェイズ終了時まで光子竜とアドラメレクをゲームから除外する! これであんたを守るモンスターは消えた!」

『ッ……!』

「輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴンでダイレクトアタック!“フォトン・ライト・バースト”!」

 

輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン ATK1800

 

不審者 LP5800→LP4000

 

「もう1体の銀河眼の光子竜でダイレクトアタック!“破滅のフォトン・ストリーム”!!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000

 

不審者 LP4000→LP1000

 

『グギャアアッ!!』

 

 迸る光の奔流が不審者を飲み込む。銀河眼の光子竜の直接攻撃を受けた不審者は大きく吹き飛んだ。フード付きのコートを身にまとっていたことから分かり辛かったのだが、不審者はかなり小柄であったため、この一撃は遊希以上に身体に響くようだった。

 

「……このターンで決めたかったけど仕方ないわね。バトルフェイズを終了。この瞬間、光子竜とアドラメレクはフィールドに戻る。ちなみに一度フィールドを離れたことでスカルデッドの効果は消える。アドラメレクの攻撃力は元に戻るわ」

 

インフェルノイド・アドラメレク ATK2800

 

「私はフォトン・ブラスト・ドラゴンと光子竜をリンクマーカーにセット! 銀河眼の煌星竜をリンク召喚。煌星竜の効果で墓地のフォトン・オービタルを手札に戻す。そしてオービタルを煌星竜に装備」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000→ATK2500

 

「そして装備されているオービタルの効果。このカードを墓地に送り、デッキからフォトンもしくはギャラクシーモンスター1体を手札に加える。銀河騎士を手札に加えるわ。そして自分フィールドにギャラクシーモンスターが存在する場合、銀河騎士をリリースなしで召喚。自身の効果で召喚に成功した銀河騎士はターン終了時まで攻撃力を1000下げ、墓地の銀河眼の光子竜1体を守備表示で特殊召喚する」

 

銀河騎士 ATK2800→ATK1800

 

銀河眼の光子竜 DEF2500

 

「そして銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! No.90 銀河眼の光子卿を守備表示でエクシーズ召喚。これでターンエンドよ」

 

 

不審者 LP1000 手札2枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(インフェルノイド・アドラメレク)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:20 除外:9 EXデッキ:13(0)

遊希 LP6200 手札2枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜、No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

 

不審者

 □□□伏□

 □□□ア□□

  煌 □

□卿□□銀□

 □□□□□

遊希

 

 

☆TURN07(不審者)

 

 このターンは相手のターンとなっているが、不審者は倒れたまま動かなかった。思えば不審者もこれまで数多くのデュエルを行ってきた影響か身体に疲労がたまり切っていたのだろう。精霊を持たない身でありながら、幻魔を使ったこともそれに拍車をかけていたようだった。

 

「……どうやらこのデュエルはここで終わりのようね。どうせならトドメを刺してやりたかったけど」

 

 そう言って遊希がデュエルを中断して不審者の元に歩み寄ろうとした瞬間、不審者は奇声を上げて飛び上がるようにして立ちあがった。

 

「何よ、驚かせて。まだデュエルできるんじゃない」

―――なっ……!

『デュエル……デュエルゥ……』

 

 上を見上げながら、うわ言のように繰り返す不審者。遊希が振り返って元の場所に戻ろうとすると不審者は戻ろうとする遊希に突如声をかけてきた。

 

 

 

 

 

『サスガダネ天宮 遊希……コレマデ戦ッテ来タ誰ヨリモ強クテ可憐デ美シイ……』

 

 

 

 

 

 

 デュエルの途中であるにも関わらず、急に遊希のことを褒めだす不審者。最もこのような卑劣なデュエリストに美辞麗句を並べられても何も嬉しくない。遊希は背を向けたままその言葉に答えることは無かった。

 

『コノ身体ノ元ノ持チ主ガオ前ニ勝チタイト強ク願ウワケモ分カルヨォ……』

 

 だが、この瞬間遊希の中に疑問が浮かぶ。それは不審者の発した「この身体の元の持ち主」という言葉である。これまで遊希はアカデミアのデュエルディスクや制服を何らかの方法で手に入れた外部の人間が侵入し、生徒を襲っているのだと思っていた。

 しかし、この不審者の言葉が真実であるならば、別の誰かが無関係の人間を操ってデュエルをさせていることになる。当然このようなことをする人間の言うことなど信用できないが、伝説上のカードとされている幻魔を持っていること、ダメージを受けた瞬間に実際に身体に痛みが感じることといい、このデュエルはいくらなんでも腑に落ちないことが多すぎる。それがその言葉の説得力を大きく増していた。

 

「ねえ、今の言葉どういうことかしら? この身体の元の持ち主って―――」

―――駄目だ、振り返るな! 遊希!!

 

 真実を確かめるべく振り返る遊希。次の瞬間、彼女は言葉を失った。光子竜は遊希に咄嗟に声をかけるが遅かった。

 

 

 

 

 

「えっ……なんで……どうして……」

 

 

 

 

 

 身体も心も限界を越えている。それでもなお気丈に振る舞っていた遊希であったが、この瞬間遊希の両方の目からは大粒の涙が堰を切ったかのように流れ出してきた。

 

 

 

 

 

 

「どうして?……どうして……どうして私はあんたとデュエルをしているの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、答えてよ。千春」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れた不審者が立ち上がった時、勢いをつけて立ち上がったために被っていたフードが取れていたのである。そして、そのフードの下から現れたのは間違いなく今朝共に予選を勝ち抜くことを誓ったはずの親友の顔であった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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死闘の果てに

 

 

 

 

 

 

 

「バカな……あいつは遊希や鈴の親友の……」

 

 エヴァと千春の直接の面識はほとんどなく、遊希や鈴から話に聞いていた程度である。それでも自分と同じ高校一年生にあたる年齢ながら、その見た目は小学生のように小さいというわかりやすい見た目の生徒はそういるものではなく、遠目で見掛けただけでも誰が千春かは一瞬でわかるといってよかった。

 

(何故彼女が? 何故……?)

 

 あまり面識のないエヴァですら動揺を隠せないのだから、親友と言ってもいい遊希はデュエルの途中であるにも関わらず酷く取り乱していた。

 

「千春……なんでなの!? ねえ、答えなさいよ! 千春!!」

―――遊希、落ち着け!! まだデュエルの最中だぞ!!

 

 普段は冷静な遊希であるが、仲間たちを襲って傷つけた犯人が千春だった―――ということに酷く動揺していた。そんな彼女を光子竜は必死にたしなめる。遊希をよく知っている光子竜は彼女を通して千春という人間を知っているが、千春がこのようなことをするわけがない、と光子竜は確信していた。

 

―――遊希、さっきの奴の言葉を思い出せ!

(奴の……言葉??)

 

 光子竜は遊希に先ほど千春が言った言葉を思い出すように促す。それは「この身体の元の持ち主」という言葉だ。仮にこの言葉が事実なら千春は何者かに操られているということがわかる。

 確かに入学から数か月間千春と過ごしてきた遊希ならわかることなのだが、千春が正気なら今自分がやっている行為には誰よりも怒りを露わにするであろう。直情的で無鉄砲なところはあるが、三度の飯よりもデュエルを愛する。それくらいデュエルが好き。それが日向 千春という少女なのだ。

 

「……一つ、いいかしら」

 

 光子竜の言葉を聞き、遊希は高ぶる感情を抑えながら千春に問いかけた。千春はニタリと笑いながら『イイヨォ』と返す。

 

「千春……その身体の元の持ち主に何をした」

『……別ニ何モシテナイヨォ? タダ目的ヲ果タスタメニ申シ分ナイ強サヲ持ッタデュエリストダッタカラ一ツ手駒ニサセテモラッタダケサァ』

「……手駒? 人の親友を捕まえて手駒呼ばわり?……ふざけるな」

 

 遊希は千春を指差す。そして怒りを露わにして告げた。

 

「何処の誰だか知らないけれど宣言するわ。私は……お前を叩き潰す! そして私の親友を侮辱したことを後悔させてやる」

 

 

 

 

 

―――懺悔の用意をしておきなさい!!―――

 

 

 

 

 

『オオコワイコワイ……オット、今ハアタシノターンダッタネ。ドロースルヨォ!!』

 

 千春がデッキからカードをドローする。その瞬間、遊希と光子竜の脳裏に何か小さく電撃のようなものが走った。

 

(光子竜、今のは……)

―――お前も感じたか。何やら強い力が……

『……ココマデアタシヲ追イコンダノハ褒メテアゲル。ダッタラ、面白イモノヲ見セテアゲル!! アタシハインフェルノイド・アドラメレクヲリリースシ、《モンスターゲート》ヲ発動!』

 

《モンスターゲート》

通常魔法

(1):自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキの上からカードをめくり、そのモンスターを特殊召喚する。残りのめくったカードは全て墓地へ送る。

 

『通常召喚可能ナモンスターガ出ルマデ、アタシハデッキノ上カラカードヲメクル―――アハハッ! 1枚目カラ出タヨォ!《ファントム・オブ・カオス》ヲ特殊召喚ッッ!!』

 

《ファントム・オブ・カオス》

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻0/守0

(1):1ターンに1度、自分の墓地の効果モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、このカードはエンドフェイズまで、そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ元々の攻撃力と効果を得る。

(2):このカードの戦闘で発生する相手への戦闘ダメージは0になる。

 

「ファントム・オブ・カオス……?」

『ソシテファントム・オブ・カオスノ特殊召喚ニ成功シタコトデコノカードノ発動条件ヲ満タシタ! リバースカードオープン! 速攻魔法《地獄の暴走召喚》!!』

 

《地獄の暴走召喚》

速攻魔法

(1):相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時に発動できる。その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

『ファントム・オブ・カオスノ攻撃力ハ0! ヨッテデッキカラファントム・オブ・カオス2体ヲ特殊召喚!!』

「私は銀河眼の光子竜を選ぶ。デッキから銀河眼の光子竜1体を特殊召喚するわ」

 

 遊希のフィールドには地獄の暴走召喚で特殊召喚された光子竜を含めて銀河眼が4体並ぶことになった。煌星竜の攻撃力は2000と心許ないが、攻撃力3000の光子竜2体と守備力3000で相手のモンスターの効果が発動を無効にする効果を持っている光子卿が存在しており、この布陣を突破するのは相当のプレイングが求められる。

 一方で千春のフィールドには黒い渦のような蠢く攻撃力0のモンスターが3体。地獄の暴走召喚で一気にフィールドに揃えられるとはいえ、ファントム・オブ・カオスの効果でコピーしたモンスターでは戦闘ダメージを与えられないため、遊希のモンスターを戦闘破壊できたとしてもデュエルを決めるにまでは至らないのだ。

 

(……ここでファントム・オブ・カオスを3体出してきた。となるとコピーするモンスターは)

『墓地ノラビエルヲ対象ニファントム・オブ・カオスノ効果ヲ発動! ラビエルヲ除外シテエンドフェイズマデコノカードヲラビエルトシテ扱イ、ソノ効果ト攻撃力ヲ得ル!』

(やっぱり幻魔!)

「ファントム・オブ・カオスの効果にチェーンして銀河眼の光子卿の効果を発動! X素材を1つ取り除いてその発動を無効にするわ!」

『ダッタラソノ効果ニ更ニチェーン! 光子卿ヲ対象ニ墓地ノ罠カード《ブレイクスルー・スキル》ノ効果ヲ発動!』

 

《ブレイクスルー・スキル》

通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「っ、隣の芝刈りの効果で墓地に……だったらそのブレイクスルー・スキルの効果にチェーンして光子卿のもう一つの効果を発動するわ!」

 

チェーン4(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン3(千春):ブレイクスルー・スキル

チェーン2(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン1(千春):ファントム・オブ・カオス

 

「チェーン4の光子卿の効果。相手ターンに1度、デッキからフォトンまたはギャラクシーカード1枚をこのカードのX素材にするか手札に加える!」

 

 光子卿の効果は相手ターンにしか発動できない、というものであるがフォトンおよびギャラクシーのカードであれば、種類問わずサーチすることができる。ここでどのカードを手札に加えるかもデュエルの今後を左右することであった。

 

(……ファントム・オブ・カオスの効果は確実に通されてしまう。ダメージを与えられないとはいえ、幻魔の攻撃力はいずれも4000には達するけど……何かしら、この胸騒ぎは)

 

「私は……デッキから《クリフォトン》を手札に加える」

『チェーン3ノブレイクスルー・スキルノ効果デ光子卿ノ効果ハ無効ニナル!』

「チェーン2の光子卿の効果はブレイクスルー・スキルの効果で無効になるわ」

『ソシテチェーン1ノファントム・オブ・カオスノ効果! ラビエルヲ除外シテターン終了時マデファントム・オブ・カオスハラビエルノ効果ト攻撃力、ソシテソノ名前ヲ得ル!!』

 

ファントム・オブ・カオスA→幻魔皇ラビエル ATK4000

 

『残リ2体ノファントム・オブ・カオスノ効果モ発動! ウリアトハモンヲ除外シ、ソノ名前ト攻撃力、効果ヲ得ル!』

 

ファントム・オブ・カオスB→降雷皇ハモン ATK4000

ファントム・オブ・カオスC→神炎王ウリア ATK0→ATK4000

 

 3体のファントム・オブ・カオスの姿がラビエル、ハモン、ウリアの三幻魔を模したものへと変わる。姿形こそ幻魔そのものだが、あくまでこれは普通のモンスターが幻魔の姿を写し取っただけに過ぎない。そのため、本物の幻魔と対峙した時ほどの緊張感は感じられなかった。

 

「幻魔をコピーしたところでそれは本物の幻魔ではない。攻撃力と名前を得ただけのハリボテで私を倒せると本気で思っているのかしら?」

『……ヤッパリ知ラナインダァ』

「……知らない?」

『オマエガ知ッテイルノハ幻魔ノ一側面ニ過ギナイッテコトサ!! アタシハ―――』

 

 

 

 

 

―――ラビエル、ハモン、ウリア。ソノ3体トシテ扱ウファントム・オブ・カオス3体ヲゲームカラ除外シ、融合スル!!―――

 

 

 

 

 

「3体の幻魔を除外して融合!?」

―――まさか……幻魔には更に上の存在があると言うのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“深キ地ニ眠リシ幻魔ノ魂ヨ。今ソノ真ナル力ヲ解キ放チ、世界ヲ闇ト無ノ世界ヘ誘エ”!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――目覚メヨ!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《混沌幻魔アーミタイル》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは、ハモンとラビエルの身体をベースに右腕から右手、下半身がウリア。そしてハモンの頭部の上に王冠の如くラビエルの頭部が乗せられた異形極まりないモンスター。むしろそれをモンスターと呼称していいものか。対峙する遊希と光子竜はそう思わざるを得なかった。

 

 

《混沌幻魔アーミタイル》

融合・効果モンスター

星12/闇属性/悪魔族/攻0/守0

「神炎皇ウリア」+「降雷皇ハモン」+「幻魔皇ラビエル」

自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):このカードの攻撃力は自分ターンの間10000アップする。

(2):このカードは戦闘では破壊されない。

 

 

「レベル12で攻撃力0……?」

 

 攻撃力0というものは数値だけで見ればモンスターの中では最底辺だ。しかし、攻撃力0のモンスターは得てしてその最低の攻撃力を補うだけの力を秘めているものだ。

 

『混沌幻魔アーミタイルノ攻撃力ハアタシノターンノ間……10000アップスル!!』

 

混沌幻魔アーミタイル ATK0→ATK10000

 

「……攻撃力……10000……!?」

『ソシテアーミタイルハ戦闘デハ破壊サレナイ。効果ニハ無力ダケド。デモソレハコノカードデ解決デキル! フィールド魔法《失楽園》ヲ発動!!』

 

《失楽園》

フィールド魔法

「失楽園」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分のモンスターゾーンの「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」「混沌幻魔アーミタイル」は相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):自分のモンスターゾーンに「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」「混沌幻魔アーミタイル」のいずれかが存在する場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

『失楽園ガ存在スル限リ、ウリア、ハモン、ラビエル、アーミタイルハ相手ノ効果ノ対象ニナラズ、相手ノ効果デ破壊サレナクナル! ソシテ幻魔ガ存在スル時、失楽園ノモウ一ツノ効果ヲ発動! デッキカラカードヲ2枚ドロースル!! バトル!!』

「攻撃力10000で効果の対象にならず、効果で破壊されないモンスター……そんなモンスターの攻撃など受けさせない!! 私は手札のクリフォトンの効果を発動!」

 

《クリフォトン》

効果モンスター

星1/光属性/悪魔族/攻300/守200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から墓地へ送り、2000LPを払って発動できる。このターン、自分が受ける全てのダメージは0になる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札から「クリフォトン」以外の「フォトン」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

 

「このカードを墓地に送り、ライフ2000を払って発動! このターン私が受ける全てのダメージは0になるわ!」

 

遊希 LP6200→LP4200

 

『構ウモノカ!! 混沌幻魔アーミタイルデ銀河眼の煌星竜ヲ攻撃!!』

「クリフォトンの効果は既に発動しているのよ!? いくら攻撃力10000のモンスターで攻撃してもダメージは与えられないわ!」

『……確カニデュエルノ上デノダメージハ0ダヨ? デモ……3体ノ幻魔ガ融合シタモンスターノ攻撃ハ……ソノ常識ヲ凌駕スル!! “全土滅殺 転生波”!!」

 

混沌幻魔アーミタイル ATK10000 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

 アーミタイルの放った邪悪な波動が、煌星竜の光を飲み込み、消滅させる。クリフォトンの効果が適用されているため、遊希のライフは減ることは無い。だが―――

 

 

 

 

 

 

「がああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 煌星竜を破壊された遊希の身体にはまるで言葉に表せないような衝撃が走った。彼女の身体には人間が生命活動を行うにあたって耐えられるであろう限界に近い衝撃を受けており、アーミタイルの攻撃を受けた遊希は声にならない悲鳴を上げてその場に崩れ落ちてしまった。

 デュエルにおいてライフが残っていたとしても、デュエリストがデュエルの最中に意識を失うなど身体の異常を訴えた場合は、ドクターストップといった形でそのデュエリストの敗北となってしまう。そのため遊希は千春を救うためにも決してここで倒れてはいけなかったのである。

 

―――遊希! おい、遊希!!

『……モシカシテイッチャッタァ? ツマンナイノ。アタシハコレデターンエンドダヨ』

 

 

不審者 LP1000 手札3枚

デッキ:19 メインモンスターゾーン:1(混沌幻魔アーミタイル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(失楽園)墓地:18 除外:13 EXデッキ:12(0)

遊希 LP4200 手札2枚

デッキ:21 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜×2、No.90 銀河眼の光子卿 ORU:1)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

不審者

 □□□□□

 □□□□□失

  □ 混

□卿銀□銀□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

混・・・混沌幻魔アーミタイル

失・・・失楽園

 

 

☆TURN08(遊希)

 

「遊希……遊希!!」

―――遊希! しっかりしろ! 遊希!!

『無駄無駄ァ!! アーミタイルノ攻撃ヲ受ケタ人間ハモウ二度ト立チ上ガレナインダカラネ!! アハハハッ!! 所詮精霊ノデュエリストナンテソノ程度ノ存在ナンダヨ!!』

 

 倒れてしまった遊希に光子竜とエヴァが必死に呼びかける。モンスター越しとはいえ、アーミタイルの攻撃を受けた遊希は気を失ったまま立ち上がろうとしなかった。倒れ込んだ遊希を見て高笑いをする千春をエヴァは憤怒の感情を込めて睨みつけた。

 

「貴様……よくも遊希を!!」

『オット、ソウ焦ラナイデヨ。次ハアンタデ遊ンデアゲルヨ、エヴァ・ジムリア』

「いいだろう……遊希の仇は私が討つ!!」

「……待って、エヴァ。勝手に殺さないでもらえるかしら」

 

 エヴァと千春の間に一触即発の空気が広がる中、吹けば消えそうなほど小さな声であるが、遊希の確かな言葉が響き渡った。

 

「遊希! 大丈夫なのか……」

『ナ……ナンダト……アーミタイルノ攻撃ヲ受ケタノニ……マダ生キテ?』

―――遊希、大丈夫か?

(あれ……私は……私は負けちゃったの?)

―――いや、クリフォトンの効果でダメージは受けていない。お前に意志がある限りまだ負けてはいない。

(そう……なんだ。ねえ、光子竜?)

―――なんだ?

(……このデュエル……私勝てるのかな?)

 

 確かに遊希はまだ負けていない。ライフが1でも残っている限りデュエルに終わりはないし、ここからの逆転も可能である。しかし、デュエリストも一人の人間であり、闘志の炎が消えてしまえば脆いものである。遊希は意識を取り戻したものの、その心は折れかけていた。幼いころは優しく泣き虫だった彼女である、デュエリストとして成長し信頼できる仲間ができて孤独ではなくなったとしても、まだ精神的には弱いところがあったのだ。

 

―――遊希、諦めたら全てが終わる。それにお前は約束したんじゃないのか?

(約束……)

―――鈴と、千春と、皐月。親友たちと決勝トーナメントで相見えるという約束だ! それを守るためにお前はここで立ち止まってはいけない、そうだろう?

 

 光子竜のその言葉を聞いて遊希の脳裏には鈴、皐月……そして千春。三人の親友でありライバルの顔が浮かぶ。

 

「みんな……そうだよね、私がここで諦めたらもうどうしようもない。私はまだ諦めない!」

 

 立ち上がった遊希の眼には前にも増して強い闘志が宿っていた。翔一をはじめ非道なデュエルによって倒れた仲間たちに報いるため、そして鈴・千春・皐月との約束を守るため。

 

『オノレェ……!!』

「ねえ。アーミタイルの攻撃力は“自分のターン”に10000ポイントアップする。そうよね?」

 

混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

「そして戦闘では破壊されず、失楽園の効果で対象を取る効果と効果破壊の耐性を得る」

『……』

「光子卿を攻撃表示に変更」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ORU:1 ATK2500

 

「どれだけ強固な耐性を持っていても、アーミタイルの攻撃力は0……ねえ、千春。私はあんたの前向きさとどんなに転んで決してへこたれない強さは凄いと思うし、尊敬してる。でもね、そんなあんたにも言っておきたいことがあるわ。あんたね……いつまで経っても、どんな時でも詰めが甘いのよ!!―――バトル!!」

 

 遊希の雷鳴の如く鋭い攻撃宣言がデュエルフィールドに響く。そしてそれに呼応するかのように2体の光子竜と光子卿が一斉に臨戦態勢を取った。まるでその様はモンスターたちが遊希の思いを汲み取り、遊希と同じように千春を残忍な手口で操った幻魔へと怒りを露わにしているかのようだった。

 

「私のモンスターたちよ!!―――罪深き幻魔を討ち滅せ!!」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ATK2500 VS 混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

 アーミタイルは戦闘では破壊されない。しかし、それは言ってしまえばどれだけ強い力を持ったモンスターの戦闘でも破壊されず、フィールドに残り続けることになる。そしてフィールドに存在する限り、攻撃の的になり続けるのだ。戦闘破壊―――という救いを一切得られずに。

 

千春 LP1000→0

 

 デュエルに敗北した千春の身体が大きく後ろに吹き飛ぶ。敗れた千春は幻魔を使用したこのデュエルのダメージがよほど大きかったのか、全身の至る所に切り傷擦り傷を負っており、所々に出血も見て取れた。

 

「……千春……ごめんね、千―――」

 

 そして勝利を見届けた遊希もまたその場に力なく崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊希……遊希!」

 

 次に遊希が目覚めたのは保健室のベッドの上だった。前にここを利用した時は鈴が傍で見守ってくれていたが、今回はエヴァと竜司とミハエルの三人が遊希が目を覚ますのを待っていた。竜司とミハエルをはじめとした教師たちは校長室と職員室でそれぞれ大会の進行に異常がないか見守っていたのだが、カメラで監視しているうちは何の異常も見受けられなかった。

 しかし、遊希が千春とデュエルをしていた時、同時間帯千春と同じように操られた学生たちが他の学生を襲っていたことが職員室に逃げ込んできた生徒によって発覚し、教師たちは遊希同様操られた生徒とデュエルをすることで、被害の拡大を最小限に抑えていたのだ。

 

「エ……ヴァ?」

「遊希くん! 無事だったか!!」

「目を覚ましてくれて良かった。君には色々と尋ねたい事がある」

 

 遊希と共に事の顛末を知るエヴァはともかく、その場にいなかった竜司とミハエルは色々と遊希に聞きたいことがあるようだった。しかし、そんな彼らよりも先に遊希は三人に問いかける。

 

「千春……千春は!!」

「日向くんは……命にこそ別状はないが意識はまだ戻っていない」

「エヴァ・ジムリアに聞いたのだが、他の生徒たちを襲って危害を加えたのが日向 千春、というのは事実なのか?」

「……」

 

 遊希は何も言わず頷いた。しかし、これは事実であって事実ではなかった。

 

「確証は無いんですが、あれは千春であって千春じゃなかった」

「……どういうことだ?」

「デュエルの最中に会話をしたのですが、千春は操られていました。そして本来では見るはずないのカードを使ってきました」

「見るはずのないカード?」

「ラビエル、ハモン、ウリア……いわゆる【三幻魔】です」

 

 千春が使ったカードのことを説明すると、竜司とミハエルは互いに顔を見合わせる。大会の数日前、I2社と海馬コーポレーションで開発中のカードとデュエルディスクが奪われるという事件があり、そのことはI2社の社員である海咲 真莉愛によって竜司と遊希に伝えられていた。

 ただ、実際に報道された時にはあくまで「カードとデュエルディスクが盗まれた」ということのみが報道されたため、果たしてどのようなカードが盗まれたのかということを知る者は少ない。だが、竜司とミハエルはその立場上、I2社から盗まれたカードのことについて詳しく聞いており、その盗まれたカードをまとめたリストの中に千春が使用した幻魔のカードの“コピー”が含まれていたのだ。

 

「日向くんを搬送した時、彼女のデュエルディスクから大半のカードを回収した。しかし、4枚だけ見当たらないカードがあった」

「……幻魔と、その融合体であるアーミタイル」

「ああ。そのカードはいくら周囲を捜索しても見つからなかったんだ」

「光子竜が……精霊が言っていたのですが、千春を操るにあたって最も大きな力を担っていたのがその幻魔であったそうです」

「精霊とはそこまでわかるものなのか?」

「はい。ですが幻魔は光子竜のような精霊じゃありませんでした。ただ幻魔、それもコピーのカードに一人の人間を操るだけの力を与える何かが別にいます。私でもエヴァでもない。“三人目の精霊使い”が……」

 

 遊希は今わかっていることをできる限り竜司とミハエルに伝える。その最中、遊希はとある違和感に気付いた。

 

「……校長先生」

「なんだい?」

「二人は……鈴と皐月は……?」

 

 目覚めたばかりで混乱していた、というのもあるが遊希は本来ならばエヴァと共にこの場にいるであろう鈴と皐月の姿が見えないことに気付いた。二人に言及された竜司の顔が硬直する。そんな彼にミハエルが助け舟を出す形で割って入った。

 

「……!!」

「校長、そろそろお時間です。ここは私が……」

「す、すみません。ではお任せします」

 

 遊希の問いに答える前に竜司はそそくさとこの場を後にする。保健室を出ていく竜司の顔はいつにもなく深刻なように思えた。

 

「……教頭先生?」

 

 竜司を追い出す形でその場に残ったミハエルもすぐには遊希の問いに答えようとはしなかった。だがそれには理由があり、彼は心の中でもう一人の自分とせめぎあっていた。

 

(……昔からこういう役回りは慣れていたが……このようなことを私の口から言わねばならぬとはな……神よ、この運命を恨むぞ)

「教頭先生……どうしたんですか??」

 

 横になりながら黙り込むミハエルを真剣な目で見つめる遊希。ミハエルは後ろを向き、独り言を言うかのようにつぶやき始めた。

 

「心を落ち着かせて聞いてほしい。今回の事件で多数の生徒が負傷し、大会は継続困難となった。数日中にも中止が言い渡されるだろう。そして我々と警察の調査により、負傷者はもちろん行方不明者の存在も確認された」

「行方不明者……」

「そして行方不明者は二人。その二人の名を言うぞ……行方不明者は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――星乃 鈴と織原 皐月だ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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仲間として

 

 

 

 

 

 

―――行方不明者は、星乃 鈴と織原 皐月だ。

 

 

 

 部屋に戻った遊希は食事をするどころか服すら着替えず、ずっと二段ベッドの下の段で両ひざを抱えたまま座っていた。料理や洗濯など普段自分たちが日常的にしていることですらできないほど彼女は混乱していたのだ。そんな彼女の脳裏では保健室のべッドの上でミハエルから聞いた言葉が幾度となく再生される。

 

 

 

―――行方不明者は二人、星乃 鈴と織原 皐月―――

 

 

 

―――行方不明者は二人、星乃 鈴と織原 皐月―――

 

 

 

―――行方不明者は二人、星乃 鈴と織原 皐月―――

 

 

 

「もう……やめて……」

 

 遊希は両手で耳を塞ぐ。それでもあの時言われた言葉が頭の中では鳴り止まない。鈴と皐月がいない。当然無事かどうかも分からないし、最悪の場合もう帰ってこないかもしれない。止めたくても、悪い考えが水泡のように浮かんでくる。

 

「やめてよ……やめて……!!」

 

 今の遊希には懇願するようにすすり泣くことしかできなかった。仲間たちを傷つけた非道の敵が千春だったということ、そんな千春を不可抗力とはいえ傷つけてしまったこと、そして鈴と皐月までもが行方知れずだということ。

 この突きつけられた三つの事実が少女の小さな心を破壊することは容易だった。遊希の心はすっかり砕かれてしまったのである。身体の痛みや病気ならいずれ治る。しかし、心の傷はいつまで経っても完治することはない。

 

「あれ、光子竜?……光子竜……どこ……?」

―――遊希? 私はここにいる! 遊希!!

 

 そしてこの壊れてしまった少女には精霊であっても干渉することができなくなってしまっていた。双方が共に互いのことを必死で呼びかけるも、その想いは行き違うばかりであった。

 

 

「あはは……だれもいなくなっちゃった……わたしは……また、また……ひとりぼっち」

―――遊希……くそっ!!

 

 

 誰よりも身近な存在のはずなのに。その声は届かない。傍に寄り添って彼女の心の安寧になりたいはずなのに。光子竜の声が聞こえなくなり、もはやそのまま消えてしまいそうな遊希。そんな時、誰もいないはずの部屋に別の人間の声が響いた。

 

「お前は……ひとりぼっちなんかじゃない」

 

 驚いた遊希が顔を上げると、目の前の暗がりにはパジャマを身に纏ったエヴァの姿があった。留学生の彼女は普段一人部屋で過ごしているのだが、状況が状況であるために一人だけで過ごすことに危機感を感じていたため、こうして遊希の部屋へとやってきた。最もそれは建前に過ぎず、本当は精神的に動揺しているであろう遊希を気遣っての行動だったのだが。

 

「なんで……」

「不用心極まりないぞ? 鍵もかけないで……学校と言えど安全ではないのだからな」

「……」

「隣、失礼するぞ」

 

 エヴァは遊希の隣に肩を寄せ合うように座る。もう体感することが出来ないのではないか、と思っていたもの、生きた人のぬくもりがじわりと遊希の肌に伝わる。

 

「全く、髪もぼさぼさで制服も皺が……遊希も一角のレディなのだからもっと身だしなみに興味を持つべきではないのか?」

「ご、ごめん……なさい」

「夕ご飯を食べては、いないな? ロシア料理だったらいつでも振る舞えるが、無理に食べると身体に悪い。だったらシャワーだけでも浴びよう」

「あ、あの……エヴァ?」

「なんだ?」

「どうして……どうしてこんなことを?」

 

 自分の代わりに色々としてくれるエヴァに対して遊希は困惑した様子で問いかけた。質問される形となったエヴァはきょとんとした様子で首を傾げる。

 

「どうしてもなにも、遊希は私の仲間だからに決まっているだろう?」

「なか……ま?」

「ああ。私がこの街に来て輩に絡まれていた時に助けてくれたのは遊希だったな。そしてこの学校で初めてデュエルをした相手も遊希だ」

 

 この国に来るまで、エヴァにとって遊希はまさしく憧れの存在に他ならなかった。そのため以前の自分に「日本でその憧れの存在と同じ学校で学ぶことになる」と言った場合きっと信じなかったかもしれない、とエヴァは自分で苦笑いする。

 

「そして何より……私とこの子を近づけてくれたのは遊希だ」

 

 そう言ってエヴァは手に持ったレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトのカードを見せた。スカーライトのカードは心なしか以前までよりもキラキラと輝いているように見えた。

 

「あのデュエルから少しだけこのカードの気持ちがわかるようになった、そんな気がするんだ。もし遊希と出会わなければ私は今もなおずっと苦しんでいただろう。遊希は……私の恩人と言ってもいい」

「そんな……」

「私に何ができるかはわからないが、遊希が辛い時、私はお前を助ける。お前が私を助けてくれたように……」

 

 そう言ってエヴァは両手を広げる。そしてにっこりと笑う。

 

「だから……私を仲間として、鈴や千春、皐月と同じように見てくれないか? もちろん、デュエルでは負けるつもりはないがな」

「……エヴァ……」

 

 遊希はエヴァの名を呟くように言うと、倒れるように彼女の胸にもたれかかった。暖かい。エヴァの胸が遊希の涙で濡れたのだ。声を殺して涙を流す遊希の姿を見て、エヴァの目からもふと涙がぽつぽつと零れ落ちていく。精霊を持つ者同士として繋がるところ、共感を感じるところがあるのか、遊希の辛い想いが自分の中にも流れ込んでくるように感じた。

 

(震えている……余程堪えたのだろうな。ダメだな……私は遊希を慰めなくてはならないのに……私までこんな……)

 

 宵闇に紛れて二人の少女は声も出さず涙を流し続ける。初夏の夜はこうして更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一晩遊希に付き添った私の私見ですが……今の彼女にデュエルは難しいと思う。身体も精神も疲弊しきっている」

 

 次の日の朝。エヴァは遊希が眠っているのを確認すると朝一番で校長室に向かった。校長室には竜司とミハエル。そして竜司から鈴が行方不明になった、と連絡を受けてアカデミアにやってきた蘭の姿があった。

 以前遊希たちが会った時はエネルギッシュだった蘭であったが、娘が行方不明になったこの時ばかりはかなり憔悴しきったようであった。最も蘭がここに来たのはそれだけではないのだが。

 

「……昨日の彼女は相当取り乱していたそうだね」

「はい。寝言でもしきりに一人になることを恐れている、といった様子でした」

「そうか……」

 

 竜司の脳裏に子供の頃の遊希の姿が走馬灯のように流れる。以前鈴にケアをさせた時もそうだが、彼は遊希の弱い少女としての一面を知っている。故に悲痛に暮れる彼女の姿は直接目に触れなくても容易に想像できてしまった。

 

「天宮 遊希が戦えない、というのは厳しいな。彼女は1年生はおろか3年生をも凌駕する実力を持っているのだが……」

「何、彼女が戦えないのであればその分私が動けばいいだけのこと。これでも曲りなりに現役のプロデュエストですから」

「……すまない。我々とて力になりたいのだが……」

 

 今回の事件について幸いまだ外には漏れていないため、大騒ぎにはなっていない。しかし、この状況をすぐに解決しなければ今アカデミアで何が起きているのかが明るみになるのも時間の問題である。

 本来生徒を守るべき立場にある竜司やミハエルたち教師陣は保護者対応などに追われる始末で手一杯であり、学生たちは基本外出を禁止、その中でもエヴァのような腕のある学生たちに自衛を要請する有様だった。

 

「思っていた以上に不自由なものだ、教師とは」

「私たちとしてはすぐに終わらせ、警察と協力して犯人捜索に入りたいのですが……」

 

 ミハエルは横目でずっと黙ったままの蘭を見る。蘭は何か言いたそうな顔をしていたが、緊迫したこの場の雰囲気に飲まれて言い出せないようだった。

 

(全く……昔と変わらないな)

 

 ミハエルは竜司と蘭の結婚前を思い出していた。二人で気持ちを寄せ合っているのにも関わらず、大事な場面に限って歩み寄ることができない。

 

「奥様、何か言いたそうな顔をしてますが?」

「……えっ? ええと……」

「蘭?」

「ごめんなさい、鈴がいなくなったって聞いて急いで駆けつけたんけど……私が思っている以上に事が大きくて……」

「……そうか。ありがとう蘭。君に気を遣わせてしまったようだね」

「あなた……でも私はあなたも心配なのよ! 確かにあなたは校長先生だから、学校で一番偉い人だから頑張らなきゃいけないけど……娘が、鈴が居なくなって辛いのはあなたも一緒なの! 遊希ちゃんだって蘭が居なくなったことに凄くショックを受けているんだからあなただって……」

 

 蘭が娘の安否と同じくらい気がかりだったこと。それは竜司自身のことであった。竜司は昔から誰に対しても優しくどんな時でも平静沈着な男であり、蘭は竜司のそんなところにも惹かれていた。しかし、その反面体調を崩した時などは周りに心配をかけまいと何事も無かったように振る舞おうとしていたため、彼自身の問題に気付くことが最初は中々できなかったのである。

 

「……本音を言ってしまえば私も辛いさ、娘が行方不明になったのだから。だけど校長という立場にある以上生徒をを守らなくてはならない。その先頭に立つ私が堂々としていなければなんとするか。でも……妻にそんな心配をさせているようじゃまだまだだね」

「あなた……」

「ゴホン!ゴホン!!」

 

 ミハエルが呆れた様子で咳ばらいをする。竜司と蘭はそそくさと自分の座っていた席に戻った。

 

「全く、緊張感の欠片もない……」

「も、申し訳ない」

「ですがそれでこそ星乃 竜司だ。昔となんら変わっていない。そんな竜司、いや校長だからこそ私は教頭の職を受けたのです」

「ミハエル教頭、ありがとうございます」

「……ところで天宮 遊希についてですが」

 

 ミハエルは遊希を一度病院に連れて行き、カウンセリングを受けさせることを提案した。プロの世界で長く生きてきたミハエルも遊希を幼いころから知っており、彼女を襲った悲劇の子細についても竜司同様理解している。

 今の状況で遊希に頼り切りになることも得策ではない、という点は竜司たちとは一致していた。しかし、だからと言っていつまでもそのままにしていては彼女にとっても良いことではない。そのため専門機関によるカウンセリングを受けさせることで遊希の心に巣食う過去の記憶に向き合えるようにするべきである、と考えたのである。

 ミハエルは若いころから一言多いタイプだったので正直遊希とはさほど反りは合わなかった。それでも遊希の実力は高く買っており、このままその才を埋もれさせたくは無かったのである。

 

「もちろん一朝一夕で治そうとは思っていません。ですが少しばかり彼女には安らぎを与える必要があるでしょう」

「教頭先生……わかりました。そうしましょう。エヴァくん、天宮くんのことを頼めるかな?」

「はい、わかりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊希、歩けるか?」

「……うん」

 

 遊希は服を着替えると、エヴァと蘭に連れられて心療内科へ向かうことになった。エヴァが一晩中隣に寄り添ったことで眠れはしたようだが、それでもなお遊希の顔からはいつもの気高さはまるで感じられなかった。

 

「あの……蘭さん。ごめんなさい……私がいながら……」

「そんな……遊希ちゃんは何も悪くないわ。だから気に病まないで」

「私が車で送っていく。教頭、その間留守を頼めますか?」

「もちろんです。ああ、何かあってはいけないから外まで送りましょう」

 

 竜司とミハエルが遊希たちを外まで連れて行こうとしたその瞬間である。誰もいないはずの朝の校舎内に悲鳴が響き渡ったのは。

 

「……!? 今のは……」

「校長、こちらです!」

「私たちも行くぞ!」

「ええ! 遊希ちゃん、大丈夫?」

 

 悲鳴のした方に一目散に駆けだした竜司とミハエルを遊希を連れたエヴァと蘭が追う。しかし、上手く歩けないでいる遊希を連れていた状態のため、エヴァと蘭が竜司とミハエルに追いついたのは数分ほど経った後だった。

 

「あなた! いったい何が……」

 

 竜司とミハエルの姿を見つけた蘭が声をかける。すると、しゃがんでいたミハエルの腕の中には一人の女子生徒の姿があった。恐らく昨日の翔一同様襲撃を受けたと思われるようで、やはりボロボロであった。

 

「ミハエルさん、いったい何が……!!」

 

 ミハエルに状況を確認しようとした蘭は言葉を失った。竜司が一人の男と対峙していたのである。

 

「……君は今香港にいると聞いていたが。何故ここにいる?」

 

 高級ブランドのスーツを纏い、立派な顎鬚を蓄えた男は見たところ竜司と同年代のようであった。それだけ見ればダンディな初老の男性、といった出で立ちであるがその左腕にはデュエルディスクが装着されている。そして一目見てわかるようにその男もまた昨日の千春同様正気ではないようだった。

 

「答えないか……ならば質問を変えようか」

 

 傍から見ればいつも通りの穏やかな口調で問いかける竜司だったが、蘭とミハエルは気づいていた。竜司の口調に強い怒気が混じっていることを。だが、それも無理もない。

 

 

 

「君は……お前は自分が何をしたかわかっているのか!! 雄一郎!!」

 

 

 

 竜司の目の前に立っている男の名は藤堂 雄一郎(とうどう ゆういちろう)。竜司同様若いころからプロデュエリストとして活躍し、竜司がプロを引退してセントラル校の校長になった今もなおライバルとして切磋琢磨する仲。そして倒れていた女子生徒・藤堂 桜の父である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激突! 青眼VS真紅眼

 

 

 

 星乃 竜司と藤堂 雄一郎―――この二人は何から何までが真逆の存在であった。この二人の縁は今から25年近く前、学生時代に遡る。

 竜司は一般庶民の家の出であり、何処にでもいる普通の少年だった。一方で雄一郎は日本で五本の指に入る財閥・藤堂家の跡取りという生まれ持っての富裕層である。誰にでも優しく大人しい竜司はインドア派。積極的に動き、常に皆を引っ張っていくリーダーシップを発揮する雄一郎はアウトドア派。

 親の意向で上流階級の子息が通う学校ではなく普通の私立高校に通わなければ出会うことの無かった二人であるが、そんな二人に唯一共通するところがあった。それが「デュエルが好き」ということである。

 

「おう、竜司。こっちだこっち」

「待たせてすまないね」

 

 数年後、共に日本を代表するプロデュエリストになった二人は海外のバーでいつものように酒を酌み交わしていた。デュエルの場においてはライバル同士の二人であるが、デュエルディスクを外せば親友の二人に戻る。そしてデュエルの後はこうしてバーや宿泊するホテルなどで酒を酌み交わすのはすっかり慣例となりつつあった。

 

「今日もお前に負けちまったぜ。本当に強いよな」

「いやデュエルは時の運だよ。今日はたまたまデッキの回りが良かっただけさ」

「おいおいもっと誇ってくれよな。それだと負けた俺の顔が立たないぜ?」

「そうか。じゃあ、勝ったのは俺がお前より強いから、だな」

「言ってくれるぜこの野郎」

 

 この二人が戦ったデュエルの戦績は49戦中竜司の27勝22敗という成績だった。デッキの主要モンスターの差があるとはいえ、現時点では竜司に軍配が上がっていた。

 

「まあお前相手なら負け越しても文句ないわ。それよりも……」

 

 酒がだいぶ進んだ雄一郎は首から下げたペンダントを開く。そこにはニッコリと笑いかける乳児の写真があった。

 

「どうよ、俺に似て器量よしだろ? 娘の可愛さなら負けてないぜ」

「桜ちゃん大きくなったね。この間1歳になったばかりだろう?」

「おうよ。職業柄一緒に過ごせねえけどこの写真を見たら元気百倍ってもんだ」

「それは良かった。だけど可愛さならうちの鈴も負けてないよ」

「鈴ちゃんはまだ生まれたてだろ? まあ子供ってのはいくつになっても可愛いけどな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて時は流れ、竜司はプロの世界から身を引き、教育者としてアカデミアの校長となり、雄一郎は財閥の当主兼現役のプロデュエリストとして今も世界を股にかけて戦い続けている。そんな二人の友情は今もなお続いていた。デュエリストとしても、父親としても。

 だが、そんな親友は代わり果てた姿で目の前に立っている。目に入れても痛くない、と言っていた最愛の娘を傷つけるという蛮行を行って。

 

「……俺ノ邪魔ヲスルナラバ、貴様モソノ小娘同様葬ルマデ」

 

 雄一郎はそう言ってデュエルディスクを構える。千春と同じように何者かに操られた彼にはもう竜司たちの言葉も届かない。

 

「雄一郎……」

「あの、校長先生……」

 

 そのデュエルに応じようとした竜司に遊希が声をかける。藤堂 雄一郎とは同じプロデュエリストだったミハエルはもちろん、蘭も遊希もエヴァも面識があった。故に明らかに雄一郎が正気でないことはその場にいる誰もが理解していた。

 

「藤堂さん……千春と同じように操られています」

「……そうか。なら良かった」

 

 竜司はそう言ってデュエルディスクを構える。この行動が雄一郎の本心ではない、ということが竜司を少し楽にした。

 

「正気でないのなら……躊躇なく喝を入れることができるからな!」

「「デュエル!!」

 

先攻:雄一郎

後攻:竜司

 

 

雄一郎 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

竜司 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(雄一郎)

 

「俺ノターン、俺ハ手札カラ魔法カード、紅玉の宝札ヲ発動」

 

 雄一郎のデッキは【真紅眼(レッドアイズ)】。娘である桜と同じデッキであるが、桜が【バスター・ブレイダー】の要素を取り入れているのに対し、彼のデッキはどちらかというと純要素の強いレッドアイズデッキであった。

 

(紅玉の宝札……デッキは昔と変わっていないのか)

「俺ハ手札カラレベル7ノ真紅眼の黒竜1体ヲ墓地ニ送リ、デッキカラ2枚ドロー。ソシテデッキカラレベル7ノ「レッドアイズ」モンスター《真紅眼の黒炎竜》ヲ墓地ニ送ル。ソシテ手札カラ《伝説の黒石》ヲ召喚スル』

 

《伝説の黒石》

効果モンスター

星1/闇属性/ドラゴン族/攻0/守0

「伝説の黒石」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードをリリースして発動できる。デッキからレベル7以下の「レッドアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地のレベル7以下の「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、墓地のこのカードを手札に加える。

 

「ソシテ伝説の黒石ノ効果ヲ発動。コノカードヲリリースシ、デッキカラレベル7以下ノ「レッドアイズ」モンスター1体ヲ特殊召喚スル」

「待った。その効果にチェーンして私は手札の増殖するGの効果を発動させてもらう」

 

チェーン2(竜司):増殖するG

チェーン1(雄一郎):伝説の黒石

 

「これで君が特殊召喚を成功させるたびに私はデッキからカードを1枚ドローしなければならない」

「チェーン1……俺ハ伝説の黒石ノ効果デデッキカラ真紅眼の黒竜ヲ特殊召喚スル」

「レッドアイズ……増殖するGの効果で1枚ドローする」

「ソシテ更ニ俺ハ手札カラ通常魔法、復活の福音ヲ発動。墓地ノレベル7ドラゴン族モンスター、真紅眼の黒炎竜ヲ特殊召喚スル」

 

《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》

デュアル・効果モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。

(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に発動できる。このカードの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。「真紅眼の黒炎竜」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「モンスターが特殊召喚されたことにより、1枚ドロー! だがこれでレベル7のモンスターが2体……」

「マダエクシーズハシナイ。マズハコノカードノ洗礼ヲ受ケテ貰ウ。通常魔法《黒炎弾》ダ」

 

《黒炎弾》

通常魔法

このカードを発動するターン、「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。

(1):自分のモンスターゾーンの「真紅眼の黒竜」1体を対象として発動できる。その「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

「フィールドノ真紅眼の黒竜ヲ対象トシテ発動。真紅眼ノ元々ノ攻撃力分ノダメージヲ与エル」

「バーンダメージ……いけない、校長先生、気を付けて!!」

「えっ?」

 

竜司 LP8000→5600

 

「ぐああっ……!!」

 

 黒炎弾によるダメージを受けた瞬間、竜司の身体には激痛が走った。今まで体感したことのないような痛みに思わず竜司が膝をつく。

 

(こ、この痛みは……! まさかこのような痛みを受けながら遊希くんたちは戦っていたというのか……!?)

「クックック……俺ノ真紅眼ノ炎ノ味ハドウダ? 俺ハレベル7ノ真紅眼の黒竜と真紅眼の黒炎竜デオーバーレイ! 2体ノモンスターデオーバーレイネットワークヲ構築! エクシーズ召喚!!」

 

 2体の真紅眼の命が一つになって生まれたのは鋼鉄の鱗を持った真紅眼であった。

 

「“真紅ノ瞳ヲ持チシ黒竜ヨ、鋼鉄ノ鎧ヲ纏イ、ソノ眼ニ映ルモノヲ灼熱ノ炎で焼キ払エ!”飛翔セヨ!《真紅眼の鋼炎竜》!!」

 

《真紅眼の鋼炎竜(レッドアイズ・フレアメタルドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

レベル7モンスター×2

(1):X素材を持ったこのカードは効果では破壊されない。

(2):X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動する度に相手に500ダメージを与える。

(3):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分の墓地の「レッドアイズ」通常モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「特殊召喚に成功したことにより、私はさらに1枚ドローする!」

「俺ハカードヲ1枚セットシテターンエンド」

 

 

雄一郎 LP8000 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(真紅眼の鋼炎竜 ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:5 除外:0 EXデッキ:14(0)

竜司 LP5600 手札7枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:1 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

雄一郎

 □□伏□□

 □□□□□□

  鋼 □

□□□□□□

 □□□□□

竜司

 

 

☆TURN02(竜司)

 

 

(ライフを削られることで身体に直接痛みが走る……これで多くの生徒が倒れていったのか)

 

 自分が校長を務めているから……というわけではないが、竜司は自分の生徒たちは皆優秀であると信じて疑わない。才能の有無はあるにしても、場末のデュエリストよりは遥かに強いからこそアカデミアへの入学が許される。そんな彼らが為す術もなく倒されていったのは、こういった身体そのものに直接ダメージが行く、という異質なデュエルが原因なのだろう。

 

(雄一郎のデッキは戦闘のみならずバーンダメージも使いこなす。ならば早めに対処しなければ……)

「私のターン、ドロー!」

 

 増殖するGの効果を発動していたため、竜司の手札は今のドローを合わせて計8枚になっていた。真紅眼の鋼炎竜は強力なモンスターだが、その鋼炎竜であっても無敵のモンスターではない。

 

(真紅眼の鋼炎竜は私がカードの効果を発動するたびに500のバーンダメージを与えてくる。まずはあいつを倒さなければならない)

「私は手札からレベル8モンスター、白き霊龍を墓地に送り、トレード・インを発動する!」

「コノ瞬間、X素材ヲ持ッタ鋼炎竜ノ効果ガ発動! 500ノダメージヲ受ケテ貰ウ!」

 

竜司 LP5600→5100

 

「この程度……痛いなどとは言ってられない。デッキから2枚ドロー! そして私は手札の青眼の白龍を見せることにより、このカードを特殊召喚する! 来い、青眼の亜白龍!!」

「攻撃力3000ノモンスターヲ手札カラ特殊召喚ダト!? 小癪ナ……」

「更に私は手札から《青き眼の乙女》を召喚!」

 

《青き眼の乙女》

チューナー(効果モンスター)

星1/光属性/魔法使い族/攻0/守0

このカードが攻撃対象に選択された時に発動できる。その攻撃を無効にし、このカードの表示形式を変更する。その後、自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚できる。

また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードがカードの効果の対象になった時に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚する。「青き眼の乙女」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「手札の青き眼の賢士を捨て、フィールドの青き眼の乙女を対象にその効果を発動!」

 

竜司 LP5100→4600

 

「そして賢士の効果にチェーンして乙女の効果も発動する!」

 

竜司 LP4600→4100

 

チェーン2(竜司):青き眼の乙女

チェーン1(竜司):青き眼の賢士

 

「青き眼の乙女がカードの効果の対象になった時、デッキ・手札・墓地から青眼の白龍1体を特殊召喚する! 来い、青眼の白龍!!」

 

 竜司のフィールドには乙女の祈りによって、青い瞳に白い美しい身体を持った龍、青眼の白龍が雄叫びを上げながら舞い降りる。さらに手札から捨てられた青き眼の賢士の効果もそれにチェーンを組まれて発動する。

 

「青き眼の賢士の効果により、乙女を墓地に送り、デッキからブルーアイズ1体を特殊召喚する! 来い、2体目の青眼の白龍!!」

 

 デュエルモンスターズにおいて力の象徴ともいえる青眼の白龍。そんな青眼が2体も並べば並大抵のモンスターでは防ぎきれないと言っていいだろう。操られている雄一郎も、竜司との過去のデュエルの記憶が呼び覚まされたのか、青眼を見て顔を顰めた。

 

「グッ……俺ハ鋼炎竜ノ効果ヲ発動! X素材ヲ1ツ取リ除キ、墓地ノレッドアイズ通常モンスター1体ヲ特殊召喚スル! 蘇レ、真紅眼の黒竜!!」

「防御を固めるか、いい判断だ。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行する。まずは青眼の亜白龍で真紅眼の黒炎竜を攻撃!“オルタナティブ・バースト・ストリーム”!!」

 

青眼の亜白龍 ATK3000 VS 真紅眼の鋼炎竜 ATK2800

 

「俺ハ墓地ノ復活の福音ノ効果ヲ発動! コノカードヲゲームカラ除外シ、ドラゴンノ戦闘破壊ヲ無効ニスル!」

「だが、その分の超過ダメージは受けてもらう!」

 

雄一郎 LP8000→7800

 

「最も、鋼炎竜は残さない。1体目の青眼の白龍で鋼炎竜に追撃!“滅びのバースト・ストリーム”!!」

 

青眼の白龍 ATK3000 VS 真紅眼の鋼炎竜 ATK2800

 

雄一郎 LP7800→7600

 

 その青い眼を怒りに染めた白龍の一撃が、鋼の黒竜を光と共に消し去る。

 

「グオオッ!?」

「……ダイレクトアタックは敵わずか。2体目の青眼の白龍で守備表示の真紅眼の黒竜を攻撃!」

 

青眼の白龍 ATK3000 VS 真紅眼の黒竜 DEF2000

 

 黒炎弾と真紅眼の鋼炎竜の効果でライフを早くも3900減らされてしまった竜司であるが、そのお返しとばかりに3体の青眼で雄一郎のフィールドを焼け野原へと変える。青眼と真紅眼。2体のドラゴンを擁する二人のデュエルはまだ始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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光の導き

 

 

 

 

 

「バトルフェイズを終え、メインフェイズ2に移行する。私はレベル8の青眼の白龍2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れよ、《神竜騎士フェルグラント》!」

 

《神竜騎士フェルグラント》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/戦士族/攻2800/守1800

レベル8モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このターン、対象のモンスターは効果が無効になり、このカード以外の効果を受けない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「フェルグラント……」

「私はカードを1枚セットしてターンを終了する」

 

雄一郎 LP7600 手札1枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:7 除外:1 EXデッキ:14(0)

竜司 LP4100 手札3枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(青眼の亜白龍)EXゾーン:1(神竜騎士フェルグラント ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:5 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

雄一郎

 □□伏□□

 □□□□□□

  □ 騎

□□□亜□□

 □□□□□

竜司

 

○凡例

騎・・・神竜騎士フェルグラント

亜・・・青眼の亜白龍

 

 

「やるな、1ターンで一気に戦況をひっくり返したぞ」

 

 デュエルを見ていたエヴァは素直に感嘆の気持ちを吐露する。エヴァからしてみればやはり幼いころからプロの世界で活躍していた竜司と雄一郎のデュエルは魅力的に感じていた。最もこんな形でデュエルが行われてしまっていることに不本意な様子ではあるが。

 

「校長と雄一郎はプロの舞台で戦うことは無くなったが、腕はプロ時代より衰えていないな。いいデュエルだ。だが、それだけに雄一郎を操ってデュエルをさせた者が私は憎らしい」

「でも……あの人は心のどこかで楽しんでいる、そう思います」

 

 二人を古くから知るミハエルと蘭も次々と感想を漏らす。しかしこの中でただ一人、遊希は疑問を感じえずにはいられなかった。

 

(……みんなどうして……鈴と皐月が居なくなったのよ。なのになんで平然とデュエルができるの……?)

―――それが、デュエリストとしての性なのかもしれないな。

(光子竜!?)

 

 遊希の脳裏には昨日の夜は聞こえなかった光子竜の声が響き渡った。一晩たって遊希が落ち着いたことでようやく向こうからコンタクトを取れるようになったのだろう。

 

―――私は人間ではないし家族などいないから人間の感情は正しくは理解できない。だが、一つ言えることがある。それは星乃 竜司も必死に耐えている、ということだ。

(校長先生が……?)

―――ああ。親元を離れ預かっている生徒を傷つけてしまい、かつ娘とその親友が行方知れず。さも平常のように振る舞っているが本人が思っている以上に身体も精神も限界に近いだろう。そしてデュエルの相手は昨日の遊希と同じように親友が相手……それでも立ち続けなければならない。その意志が彼を動かしている。

(……!!)

 

 遊希は打ちのめされるような思いだった。鈴と皐月が居なくなり、千春とあんな形でデュエルをしてしまった。今の今まではこの世界の誰よりも自分が一番辛い、と思っていた。だが、それはとんだ思い違いだった。

 

(みんな……みんな辛いんだ。校長も教頭も蘭さんもエヴァも……みんな……それなのに私は……)

 

 

☆TURN03(雄一郎)

 

「俺ノターン、ドロー」

 

 ライフアドバンテージこそあるものの、フィールドや手札において雄一郎は圧倒的に劣っている。だが、そんな彼もこのドローに口元がニヤリと歪む。

 

「いいカードを引いたようだな」

「アア。コノカードダ」

 

 そう言って雄一郎は今ドローしたカードを見せる。そのカードはまさに雄一郎の操る【真紅眼の黒竜】デッキの切り札を召喚するためのキーカードと言っていいカードだった。

 

「行クゾ。俺ハ手札カラ魔法カード、真紅眼融合ヲ発動! 真紅眼融合ハ1ターンニ1枚シカ発動デキズ、コノカードヲ発動スルターン、俺ハコノカード以外ノ効果デハモンスターヲ召喚・特殊召喚デキナクナル」

「だが、その代償としてデッキのモンスターも融合素材にできる」

「ソノ通リダ。俺ハデッキノ真紅眼の黒竜と《デーモンの召喚》ヲ融合素材トシテ墓地ニ送リ、コノモンスターヲ融合召喚スル! “真紅ノ眼ヲ持ツ竜ヨ。魔界ヲ統ベル迅雷ノ悪魔トソノ身ヲ一ツトシ、万物ヲソノ灼熱ノ炎デ焼キ尽クセ!” 融合召喚! 目覚メヨ!《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》!!」

 

 雄一郎のフィールドに現れたのはその名が示すように悪魔と竜が一つになったかのような巨大な禍々しいドラゴンだった。このモンスターこそ雄一郎の切り札の一つ、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンである。

 

《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星9/闇属性/ドラゴン族/攻3200/守2500

レベル6「デーモン」通常モンスター+「レッドアイズ」通常モンスター

自分は「悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

(2):融合召喚したこのカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、自分の墓地の「レッドアイズ」通常モンスター1体を対象として発動できる。墓地のそのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。その後、そのモンスターをデッキに戻す。

 

「現れたか……お前の切り札が」

「コノモンスターノ攻撃力ハ3200。貴様ノ青眼ヲモ上回ル」

「神竜騎士フェルグラントの効果発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールドのモンスター1体の効果を無効にし、このカード以外のカードの効果を受け付けなくする! 対象は悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンだ!」

「フン、アクマデダメージヲ最小限ニ抑エルツモリカ。バトルフェイズ、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンデ神竜騎士フェルグラントヲ攻撃!“ヘル・メテオ・フレア”!!」

 

悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン ATK3200 VS 神竜騎士フェルグラント ATK2800

 

竜司 LP4100→3700

 

「ぐっ……」

「俺ハコレデターンエンドダ」

 

 

雄一郎 LP7600 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:10 除外:1 EXデッキ:13(0)

竜司 LP3700 手札3枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(青眼の亜白龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:8 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

雄一郎

 □□伏□□

 □□□□□□

  悪 □

□□□亜□□

 □□□□□

竜司

 

○凡例

悪・・・悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン

 

 

☆TURN04(竜司)

 

「私のターン、ドロー! 雄一郎、お前は前のターンプレイングミスを犯した!」

「ホウ……」

「お前はフェルグラントによって悪魔竜の効果を無効化されることを嫌い、先にフェルグラントを破壊した。だが、お前が残した青眼の亜白龍は攻撃権を放棄する代わりに相手モンスター1体を破壊する効果を持っている! 攻撃力で勝っていると思って油断したな。私は青眼の亜白龍の効果を発動! 相手フィールドのモンスター1体を選択して破壊する!」

「ダッタラソノ効果ノ発動ヲ無効ニスルマデダ。リバースカードオープン、罠カード、無限泡影ヲ発動スル!」

 

 無限泡影の効果によって乾坤一擲の亜白龍の効果が無効化されてしまう。操られていたとしても雄一郎もプロデュエリスト。デュエルタクティクスは竜司に決して引けは取らない。むしろ彼の青眼と長年戦い続けてきたからこそ、彼の持つカードの特性を理解していたのであった。

 

「……私は亜白龍を守備表示に変更する。カードを1枚セット。これでターンエンドだ」

 

 

雄一郎 LP7600 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:10 除外:1 EXデッキ:13(0)

竜司 LP3700 手札3枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(青眼の亜白龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:8 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

雄一郎

 □□□□□

 □□□□□□

  悪 □

□□□亜□□

 □□□伏□

竜司

 

 

☆TURN05(雄一郎)

 

「俺ノターン、ドロー。フェルグラントノヨウニ悪魔竜ノ効果ヲ無効ニデキルモンスターハイナイ。悪魔竜ノ真ナル力ヲソノ身ニ受ケルガイイ! バトルフェイズ、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンデ青眼の亜白龍ヲ攻撃! “ヘル・メテオ・フレア”!!」

 

悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン ATK3200 VS 青眼の亜白龍 DEF2500

 

「守備表示ノタメ戦闘ダメージハ発生シナイ。俺ハバトルフェイズヲ終了スル。ダガ、バトルフェイズ終了時ニ戦闘ヲ行ッタコトデ悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンノ効果ガ発動! 墓地ノ「レッドアイズ」通常モンスター1体ノ元々ノ攻撃力分ノダメージヲ与エ、ソノカードヲデッキニ戻ス!」

「ぐっ……」

「真紅眼ノ攻撃力ハ2400! 悪魔竜ノ一撃ヲ受ケルガイイ!“黒炎魔竜弾”!!」

 

竜司 LP3700→1300

 

「ぐああっ!!」

「あなた!!」

 

 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンの効果によってダメージを受けた竜司の身体が大きく後ろに吹き飛んだ。蘭が思わず駆け寄ろうとするが、起き上がった竜司が無言でそれを制す。彼も曲りなりにもデュエリストだ。デュエルが続いている間は誰も彼に近寄ってはいけないのである。

 

「大丈夫……大丈夫だから」

「俺ハカードヲ1枚セットシテターンエンド。次ノターンデ悪魔竜ヲ倒サナケレバ貴様ノ負ケトナル。愛スル者ノ前デ果テルガイイ」

 

 

雄一郎 LP7600 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:9 除外:1 EXデッキ:13(0)

竜司 LP1300 手札3枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:8 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

雄一郎

 □□□□□

 □□□□□□

  悪 □

□□□□□□

 □□□伏□

竜司

 

 

☆TURN06(竜司)

 

 

(このターンで決めなければ私の負けか……もしこれが普通のデュエルなら雄一郎の勝利を素直に喜ぶことができるだろう。だが、こんな形で負けることなど私は許されない。私はあいつのライバルとして、友として……雄一郎を正気に戻す!)

「私のターン、ドロー!!」

 

 竜司の決意に彼のデッキは1枚のカードで応えた。

 

「私は手札から通常魔法《竜の霊廟》を発動!」

 

 

《竜の霊廟》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。この効果で墓地へ送られたモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、さらにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

「私はデッキから3体目の青眼の白龍を墓地に送る。そして通常モンスターを墓地に送ったことにより、さらに2枚目の白き霊龍を墓地に送る」

「今更墓地肥ヤシカ……万策尽キタヨウダナ」

「それはどうかな?」

「何?」

「私は手札からこのカードを発動する! 魔法カード《龍の鏡》!!」

 

《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》

通常魔法

(1):自分のフィールド・墓地から、ドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

「龍の鏡ダト……」

「私は墓地の青眼の白龍3体をゲームから除外し、融合素材とする! 現れよ! 青眼の究極竜!!」

 

 融合召喚扱いとして融合召喚された青眼の究極竜の攻撃力は4500。悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンの攻撃力を大きく上回っている。しかし、竜司と青眼の究極竜は更なる高みを目指す。

 

「まだだ! リバースカードオープン! 速攻魔法、異次元からの埋葬を発動! この効果で私は除外されている3体の青眼の白龍を墓地に戻す。そして私は青眼の究極竜をリリースし、手札からこのカードを特殊召喚する! 来い、青眼の光龍!」

 

 究極竜の身体に罅が入り、ガラスのように砕け散る。そしてその中からは鋼鉄のような鱗を持った青眼の最終進化形態とも言えるモンスター・青眼の光龍が現れ、天へと舞い上がる。光龍の素の攻撃力は3000と究極竜より低いものの、自身の効果により究極竜を上回るだけの攻撃力を得ることができる。竜司が異次元からの埋葬を発動したのは光龍の効果による攻撃力上昇を更に大きくする狙いがあったのだ。

 

「光龍……フハハハッ! 慢心シタナ! リバースカードオープン! カウンター罠《神の通告》ヲ発動!」

 

《神の通告》

カウンター罠

(1):1500LPを払って以下の効果を発動できる。

●モンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。

●自分または相手がモンスターを特殊召喚する際に発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

雄一郎 LP7600→6100

 

「ライフヲ1500支払イ、2ツ目ノ効果ヲ発動! モンスターノ特殊召喚ヲ無効ニシ、ソノモンスターヲ破壊スル! 消エロ、青眼の光龍!!」

「っ……!!」

 

 神の通告の効果によって竜司の起死回生のモンスターである光龍は無残にも破壊されてしまう。この瞬間、誰もが竜司の敗北を予見した。

 

「……まだ、まだです!」

 

 遊希と当事者である竜司を除いては。

 

「雄一郎……今のは悪手だぞ?」

「何?」

「このターンでデュエルは終わる! そしてこれがこのデュエルを終わらせる最後の一手だ! 手札から装備魔法《光の導き》を発動!!」

 

《光の導き》

装備魔法

(1):自分フィールドに他の「光の導き」が存在せず、自分の墓地に「ブルーアイズ」モンスターが3体以上存在する場合、その内の1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターの効果を無効にして特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターを除外する。

(2):装備モンスター以外の自分のモンスターは攻撃できず、自分の墓地に「ブルーアイズ」モンスターが存在する場合、装備モンスターはその数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

「光の導きダト!?」

「このカードは自分フィールドに他の光の導きが存在せず、墓地に「ブルーアイズ」が3体以上存在する場合に発動できる。墓地の「ブルーアイズ」1体を選択して特殊召喚し、このカードを装備させる! 私が特殊召喚するのは青眼の究極竜!!」

 

 再度竜司のフィールドには究極の輝きを持つドラゴンが舞い降りた。そして究極竜の背後には墓地に眠る他の青眼たちの姿がぼんやりと浮かび上がる。

 

「このカードを装備したモンスターの効果は無効化されるが効果を持たない究極竜ならば意味はない。そしてこのカードの真価。それはこのカードを装備したモンスターは自分の墓地に存在する「ブルーアイズ」と名のついたモンスターの数だけ攻撃が可能になるということだ!!」

「ナッ……貴様ノ墓地ニ存在スルブルーアイズノ数ダト……!!」

 

 竜司の墓地には青眼の白龍が3体、青眼の白龍として扱う青眼の亜白龍が1体、神の通告で特殊召喚を無効にされて破壊された青眼の光龍が1体、そして墓地では青眼の白龍としても扱う白き霊龍が2体。計7体のブルーアイズモンスターが存在する。

 

「マサカ……攻撃力4500ノ7回攻撃ダト!!」

「雄一郎、目を覚ませ!! バトルフェイズ、青眼の究極竜で悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンに攻撃!“アルティメット・バースト” 第一打!!」

 

青眼の究極竜 ATK4500 VS 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン ATK3200

 

雄一郎 LP6100→4800

 

 竜司の怒りと想いが込められた究極竜の一撃で悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンが光の中へと消えていく。

 

「グオオッ!!」

「青眼の究極竜2回目の攻撃!“アルティメット・バースト”第二打!!」

 

青眼の究極竜 ATK4500

 

雄一郎 LP4800→300

 

「ガアアアッッ―――!!」

「これで最後だ! 青眼の究極竜3回目の攻撃!“アルティメット・バースト”―――第三打っ!!」

 

青眼の究極竜 ATK4500

 

雄一郎 LP300→0

 

 

「許してくれ、雄一郎……」

 

 このデュエルは竜司の勝利に終わった。だが、このデュエルにおいても決して喜ばしい勝利とは言い難かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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立ち上がる時

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……ううう……」

 

 光の導きによる青眼の究極竜の連続攻撃。その衝撃は戦闘ダメージが実際に発生するデュエルにおいては凄まじいものであった。竜司とのデュエルに敗れて意識を失っていた雄一郎であったが、逆にそれがショック療法になったのだろうか、10分もしないうちに目を覚ました。

 

「気が付いたかい、雄一郎」

「竜……司……? はっ、桜! 桜は!!」

 

 自分自身も怪我をしているにも関わらず、思い切り起き上がって周囲を見回す雄一郎。そして自分と同じように横たわっている最愛の娘の姿を見つけた。

 

「桜! 誰だ、桜をやったのは誰だ!!」

「お前だ、馬鹿者」

 

 ミハエルのその言葉に雄一郎は信じられない、と言った顔をする。竜司は操られていた時の雄一郎の行動の顛末を事細かに話した。操られた自分が桜を手にかけてしまったこと、そして竜司とデュエルをして敗れたということも。

 

「なんてことだ……俺は娘を、桜を助けに来たのに……その俺がその桜を傷つけてどうすんだよ畜生!」

「まずは落ち着くんだ。桜ちゃんは幸い軽傷だ」

「傷の具合は問題じゃねえよ。親である俺が娘を傷つけたこと自体が許されねえことなのに……」

 

 雄一郎は握りこぶしを作ると、そのまま何度も地面を殴りつける。自他ともに認めるほど娘を、家族を大事にしている雄一郎にとって操られていようがいまいがそのようなことを娘にしてしまった、という事実が何よりも彼を傷つけていた。

 竜司も蘭も人の親であるし、雄一郎のことを古くから知るミハエルもそんな彼の気持ちは痛いほど理解しているため安易に雄一郎を慰めることもできなかった。そんな彼を止めたのは外でもない娘の桜であった。

 

「お父様……やめてください……」

「桜! お前……」

「私はこの程度……なんともありませ……きゃっ!」

 

 痛みをこらえて立ち上がった桜であるが、よろけて転びそうになったところを雄一郎に支えられる。

 

「すまねえな、ダメな親父でよ……」

「そんな、お父様は強くて優しくて私やお母さまのために一生懸命働いて……私はお父様の娘に生まれることができて幸せ者です」

「桜……ありがとな」

 

 このような事態に陥っても二人の絆は揺るがない。そんな時、ニコニコと微笑んでいた桜は不思議そうに首を傾げる。

 

「ところで……お父様はどうしてこちらに? この学校で起きていることは海外でも騒動になっているのですか?」

 

 桜のふとした疑問に当の雄一郎も首を傾げる。竜司とミハエルが尽力したおかげで現在アカデミアで起きている事件は公にはなっていないはずであり、海外はおろか国内でもこの一連の出来事を知っているのは少なくともセントラル校の関係者か警察の上層部だけのはずだった。

 

「どうして、って……お前昨日の夜電話くれたじゃねえか。“鈴ちゃんが行方不明になって大変なことが起きている”って。それで俺は商談を部下に任せて香港から飛んできて……」

「私は……お父様に連絡などしておりませんわ?」

「なっ……でも俺は確かにお前から……」

 

 ここで雄一郎と桜の話に食い違いが生じる。疑問に思った竜司は雄一郎がスマートフォンで連絡を受けたことを知ると、その着信履歴を確認した。電話の発信元は桜のスマートフォンではなく、学内の公衆電話からだった。

 今や日本人の9割はスマートフォンを持つ時代であり、桜も当然自分のスマートフォンを持っている。そして公衆電話を使う機会がめっきり減ったこのご時世、小銭はまだしもテレフォンカードなど所持していない。そして何よりスマートフォンを持っているのならばわざわざ公衆電話など利用しないだろう。

 

「まさか……」

「恐らく桜君のふりをして雄一郎に電話をした誰かがいる。そしてお前を呼び出し操って桜君を襲わせた……」

「朝になって私のスマートフォンにお父様からメールが入っていました。9時に学校に着くから迎えに来い、と。でもそのメールも……」

「……偽装されたものだろうな」

「雄一郎はどこまで覚えている? 怪しい人間の顔などは覚えてないかい?」

「いや、日本まで急ピッチで戻ってきて車で来て……ここの校門をくぐったところまでは覚えてんだが……」

 

 校内の公衆電話から桜を偽って雄一郎を呼び出し、かつセントラル校に到着した雄一郎を校門と校舎の間で雄一郎自身が気づかぬ間に襲った。この事から黒幕はこのセントラル校もしくはセントラル校近辺に潜伏していることは明らかであった。そしてその黒幕のもとに鈴とも皐月もいる可能性が高い。

 しかし、今わかっているのはこれだけであり、この一連の事件の黒幕が何を考え、何の目的でこのような事件を起こしたのか、この場にいる誰にもわからなかった。ただ、三幻魔のような力のある邪なカードを使役し、他の人間を操って襲わせることができる異能の力を持った存在である、ということ。

 そしてその黒幕は千春や雄一郎をはじめ多くの人間を操り、鈴や皐月の行方不明にも関わるなど竜司やミハエルはもちろん、遊希やエヴァに匹敵する実力者であるということだ。

 

「ねえあなた……遊希ちゃんを……」

 

 そんな中、蘭が口を開く。雄一郎とのデュエルもそうだが今日外出する本当の目的は遊希を病院に連れて行くことであった。竜司が病院に行こうと促すと、それまで黙っていた遊希はふと立ち上がる。竜司は驚きを隠せなかった。デュエルの前までは怯える子犬のような顔をしていた遊希にはいつもの力強さが戻っていたからだ。

 

「……皆さん、面倒をかけて申し訳ありません。でも……今の校長と藤堂さんのデュエルを見ていてわかったことがあります」

「わかったこと?」

「はい。さっきまでは私は私一人だけのことしか考えられませんでした。どうして自分ばかりこんな目に、と思っていた。だから塞ぎ込んでしまっていました」

 

 竜司と雄一郎のデュエルはそんな遊希に喝を入れるに十分なだけの力があった。竜司も雄一郎も父である前に一人のデュエリストとして戦い、ミハエルは教師として学校と生徒をどう守るか苦心し、蘭とエヴァは自分たちも危険であることも変わらないのに赤の他人である遊希のことを真剣に考えてくれていた。

 皆が皆戦っている。恐怖と、未知と、絶望と。それなのに自分一人だけが怯え震えている。いつまでもそうであっていいのか。そんな思いが遊希の中を駆け巡っていた。

 

「正直言ってしまえば私は気弱で臆病で泣き虫です。恥ずかしいけどそれは否定しません。だから……私はもう逃げません」

「遊希くん……」

「私は戦います。そして……鈴と皐月を助け出します」

 

 そこにいたのは恐怖をして怯える少女ではなかった。そこにいたのはかつて世界を席巻し、数多くの少年少女の憧れの的となった伝説のデュエリスト・天宮 遊希であった。

 

(―――遊希、よく立ち上がってくれた)

 

 そしてそんな彼女の姿を内に宿る光子竜は目を細めて眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希が決意を新たにしたのと同時刻。朝なのにも関わらずこの空間には一筋の光も差さない暗闇であった。

 

「天宮 遊希が立ち直った……日向 千春や藤堂 雄一郎を差し向けて心を圧し折ってやったと思ったのに」

 

 玉座のような椅子に腰掛ける何者かが少し悔しそうに言い放つ。

 

「まあいい。それならばより嬲り甲斐があるというもの……さて、次はお前に行ってもらおうかな」

 

 振り返った声の主が暗闇を指差す。千春が付けていたのと同じ黒のローブに髑髏の仮面で顔を隠した者がその場に跪いた。

 

「引き続きターゲットは天宮 遊希。この際手段は問わない。彼女を―――我が物とする」

「ハッ」

 

 指示を受けた髑髏の仮面はそのまま闇の中へと消えて行った。

 

「さて……次はどう足掻くのかな? 楽しみね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希は立ち直ることができた。それでもこのデュエルにおいて負傷した雄一郎と桜を診てもらうため、彼女は竜司と共に病院へと向かった。当然雄一郎と桜の怪我の具合は心配であるが、それよりも気になることがあった。

 遊希は同じ病院のとある病室の前に立つと、ドアを数回ノックする。返事こそ無かったが構わず部屋の中に入った。その部屋には千春が入院していた。千春は命にこそ別状はないものの相変わらず意識を取り戻す様子がなく、医師曰く「千春自身が目覚めようとしていない」という言葉を口にするほどだった。

 雄一郎が操られていた時の記憶がなかった以上、千春も遊希とデュエルをしたことは覚えていないのだろう。それでも操られた彼女がしたことはデュエリストとして許されない行為であり、その罪悪感が無意識に彼女が意識を取り戻すのを妨げていたのかもしれなかった。

 

「千春、ここ座るね」

 

 遊希は千春のベッドのそばにあった椅子に座る。椅子はほんのり暖かかった。恐らく千春の家族がついさっきまでいたのだろうか、行き違いになったのかもしれなかった。遊希は千春の家族とは面識がまだない。それでも千春が帰省した時に家族に遊希の話をたくさんした、と言っていたため向こうは遊希の存在を少なからず認識しているはずである。

 それ故に顔を合わせ辛かった。蘭は鈴が行方不明になったことに関して遊希を責めることはしなかったが、千春や皐月の家族が遊希に対してどのような感情を抱いているかは遊希はあまり考えたくなかった。

 

「……いつまで寝てるのよ。いい加減起きなさいよ……いつも誰よりも早起きで隣の部屋の私たちまで叩き起こしに来るくせに。お寝坊さんなんてあんたらしくないんだから」

 

 遊希は千春の小さな手を握る。昨日は子供のような小さなこの手でデュエルを行った。この手が多くの人々を傷つけるに至ったのが未だに受け入れ難かった。

 

「千春……」

 

 遊希は思いを込めて手を強く握りしめる。すると、遊希の手に少しばかりの圧を感じた。千春が遊希の手を握り返していたのである。遊希は千春の耳元でその名を繰り返し呼んだ。そして。

 

 

―――ゆ……う……き?

 

 

 閉じられていた千春の両の眼が小さく開いていくのを遊希は見逃さなかった。彼女の想いが通じたのである。

 

「千春……千春!」

「よかった……無事、だったんだ……」

「ええ。でもあなたが……」

「私は……いいの……ねえ遊希……」

「何?」

「お願い……あのね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日もお願いしていいかしら?」

「勿論だ。何故なら私たちは親友だからな」

 

 あっという間にその日は夜になり、その日も遊希はエヴァと行動を共にすることにした。いつ敵が襲ってくるかもわからないため、各個撃破される危険性を考慮して、というのもあるが二人とも年頃の少女である。一人ぼっちはやはり寂しかったのだ。

 

「ところで……千春が目覚めたそうだな」

 

 夕食の席、自分が作ったロシア料理を口に運びながらエヴァが切り出した。

 

「ええ、ひとまずは良かったわ。退院にはまだ時間がかかるようだけど」

「何か話を聞くことはできたか? きっと犯人について知っているはずだ」

「それは私も期待したんだけど……生憎千春は何も覚えていなかったわ」

「そうか……でもどんな者が敵でも私たちは負けない。そうだよな?」

 

 遊希は小さく頷いた。倒れた者たちのためにも、操られて傷ついた千春や雄一郎のためにも、遊希とエヴァは不退転の覚悟で事に望む。それだけだった。そしてそれから数時間後。夜中、草木も眠る丑三つ時。遊希の部屋には遊希でもエヴァでもない誰かの姿があった。

 

「天宮 遊希……」

 

 その誰か、とは黒いローブに髑髏を模した仮面を纏った正体不明の人物。左手にはやはり千春が付けていたのと同じデュエルディスクがあり、右手にはデュエリストが普通持ち得ないはずの果物ナイフが握られていた。

 

「我ガ主ノ命ダ。死ネ」

 

 髑髏の仮面は右手に握ったナイフを振りかざすと、膨らんだ布団の上から思い切り突き刺した。だが、ここで髑髏は気づく。こんもりと膨らんだ布団の中にあったのは付け狙っていた遊希ではなく、ただの抱き枕だったからだ。

 何故こんなところに抱き枕があるのか、まさか自分の襲撃を予想していたというのだろうか。それならば天宮 遊希はどこにいる? 髑髏が考えを巡らせている中、突然誰もいないはずの部屋の電気が点いた。

 

「ムッ……」

 

 驚いた髑髏が振り返ると、そこにはデュエルディスクを付けていつでもデュエルできるようにしていた遊希とエヴァの姿があった。遊希がエヴァと共に過ごしていたのは遊希たちの部屋ではなく“エヴァの部屋”だったのである。

 操られた状態で遊希たちに襲い掛かってきたのは千春と雄一郎。一見関係なさそうな二人であるが、二人には共通点がある。それはどちらも“遊希と顔見知りである”ということだ。この二人が操られた状態で遊希の前に現れる―――この事から遊希たちは一連の事件の黒幕が遊希を狙ってきている、と推測したのである。

 恐らく相手は遊希の行動や普段遊希がいる場所などをある程度予測している、と考えた遊希とエヴァは一計を打ち、普段は過ごさないエヴァの部屋で過ごすことで遊希を襲いに来た敵に逆に奇襲を仕掛けることにしたのだ。そしてそれは以外にもあっさり成功した。

 

「寝込みを襲う、ってことは予測していたけどまさかそんな手段で来るとはね……」

「その手にある物はなんだ? それはデュエリストが持つ物ではない。 デュエリストが戦いにおいて持つのは銃でも刃でもない。カードだ。それすらわからないとは、お前はそれでもデュエリストか?」

「リアリストダ。我ガ主カラ命ガ下ッタノダ……天宮 遊希、貴様ヲ倒シ我ガ主ニ差シ出ス。ソレガ私ニ与エラレタ使命」

「……あんたの主が誰だか知らないけど、そのナイフで私を刺したら刺したでダメなんじゃないの? 差し出すはずの私を殺してしまっては元も子もないはずよ」

「フッ、ソレモソウダナ」

 

 そう言って不審者は手にしたナイフの刃先を指で思い切り曲げる。ゴム製のナイフなので当然このようなものでは人の命は奪えない。

 

「……私モデュエルデ貴様ヲ倒シタイト思ッテイタ」

「そのなりで案外正直なのね。いいわ、だったらそのデュエル受けてあげるわ。ここだと手狭だから校内のデュエルフィールドでやりましょう」

「イイダロウ。アソコナラバ広イカラナ」

 

 遊希は疑問に思うことがあった。確かにセントラル校の近くに一連の事件の犯人たちが潜伏しているのかもしれないが、この髑髏はあっさり遊希たちの部屋を特定した。遊希と鈴の部屋は寮の端にあり、寮の入口から残念ながら一番遠い部屋である。もちろん災害時の非常口はすぐ傍にあるが、その非常口は平時には施錠されているため、鍵を壊さない限り侵入することはできなかった。そしてもう一つ。

 

(この髑髏……私が校内のデュエルフィールドでのデュエルを提案した時、そのデュエルフィールドのことを“広い”って知っていた……)

―――遊希。どうする?

(大丈夫よ。気持ちは揺らがない……でも、覚悟を決める必要があるかもしれないわね)

 

 一抹の不安を覚えながら、遊希たちはデュエルフィールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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神を制する神

 

 

 

 

 遊希とエヴァ、そして髑髏の仮面の三人は深夜のデュエル場へと移動した。デュエルでの勝負を受け入れた相手であるが、つい先ほどまで遊希の命を奪おうとしていた者である。デュエルの前に襲ってくる可能性もあったため、遊希とエヴァは移動中も後ろに目配せしながら警戒していたが、髑髏の仮面は何もしてこなかった。

 闇討ちという手段を取っておきながら、ゴムのナイフを用い、最終的にデュエルに応じたこともあって髑髏の仮面もデュエルで遊希を倒したかったのだろう。千春と違って仮面をつけているため、誰が操られているのかはまだわからないが、操られてもなおデュエリストとしての誇りは残っているのかもしれなかった。

 

「さて、ここでいいでしょう」

「アア」

 

 デュエル場は夜だけあってさすがに暗かったが、常夜灯がついており、また差し込む月明りによってデュエルをするには十分な明るさだった。それでもデュエルの相手は黒のローブに髑髏の仮面とだけあってまるで幽霊や死神とデュエルしているようで普通にデュエルをする以上に妙な恐ろしさがあった。

 

(……なんか不気味)

―――お前は昔からホラーは苦手だったな。恐れるなよ?

(それとこれとは話は別よ!)

「天宮 遊希、貴様ハ我ガ手デ仕留メル」

「悪いけどそう簡単に仕留められるわけには行かないわ。倒れた仲間のためにもあんたたちの黒幕を引きずり出してやるんだから」

 

 デュエルディスクによって先攻後攻の決定権は遊希に与えられる。近年このゲームは基本的に先攻有利となっていたが、遊希は後攻を選んだ。敢えて後攻を選ぶことで相手がどのようなカードを使ってくるか。それを確かめたいという思惑もあったのだ。

 

「自ラ後攻ヲ選ブ、カ。ソノ選択ニ後悔スルコトニナラナイトイイナ」

「そちらこそ。後攻ワンキルを食らった時の言い訳にしないでよね」

 

 やたら饒舌な髑髏の仮面であるが、遊希も負けてはいない。一見無意味なやり取りに見えるが、こうしたやり取りを行える、ということに一抹の希望を感じていた。会話ができるということはコミュニケーションが取れる。コミュニケーションが取れるということは話が通じるということ。

 もちろん相手は遊希を狙ってきている相手であり、恐らくではあるが正気ではなく黒幕に操られてしまっている。それならばデュエルを通してその洗脳から解き放つことができるのではないか。可能性は限りなく低いが、無駄な血を流さずに終えられるのであれば、それに越したことはないのだ。

 

(……千春)

 

 遊希は病床の千春から告げられたある言葉を胸に戦いに臨んだ。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:髑髏

後攻:遊希

 

 

髑髏 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(髑髏)

 

「私ノ先攻ダ。私ノフィールドニモンスターガ存在シナイ場合。コノカードハ手札カラ特殊召喚デキル。現レヨ《SRベイゴマックス》」

 

《SRベイゴマックス》

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻1200/守600

「SRベイゴマックス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「SRベイゴマックス」以外の「スピードロイド」モンスター1体を手札に加える。

 

(ベイゴマックス……相手のデッキは【SR】? でもエクシーズ召喚にもリンク召喚にも使えるモンスターだからこれだけでは相手のデッキはわからないわ)

 

「特殊召喚ニ成功シタベイゴマックスノ効果ヲ発動。デッキヨリ同名カード以外ノSRモンスター1体ヲ手札ニ加エル。私ハ《SRタケトンボーグ》ヲ手札ニ加エル。ソシテ自分フィールドニ風属性モンスターガ存在スル場合、タケトンボーグハ手札ヨリ特殊召喚デキル」

 

《SRタケトンボーグ》

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻600/守1200

自分は「SRタケトンボーグ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):自分フィールドに風属性モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードをリリースして発動できる。デッキから「スピードロイド」チューナー1体を特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は風属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「マダダ。私ノフィールドニコノカード以外ノレベル3モンスターガ存在スル場合。チューナーモンスター《サイコウィールダー》ハ手札カラ特殊召喚デキル」

 

《サイコウィールダー》

チューナー・効果モンスター

星3/地属性/サイキック族/攻600/守0

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「サイコウィールダー」以外のレベル3モンスターが存在する場合、このカードは手札から守備表示で特殊召喚できる。

(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合、このカードをS素材としたSモンスターより低い攻撃力を持つフィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

 髑髏の仮面のフィールドには下級ではあるが、モンスターが3体並ぶ。遊希は召喚権を一度も使わずにこれだけのモンスターを並べられるというのは敵ながら見事と思わざるを得なかった。

 

(これで相手ができるのはレベル6か9のシンクロ召喚、もしくはランク3のエクシーズ、そして水晶機巧-ハリファイバーなどのリンク召喚……やっぱり掴めない)

―――次の一手を待つしかないな。これで終わりではないはずだ。

「ソシテ私ハ……永続魔法《冥界の宝札》ヲ発動」

 

《冥界の宝札》

永続魔法

(1):自分がモンスター2体以上をリリースしたアドバンス召喚に成功した場合に発動する。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「冥界の宝札!?」

―――まさか、アドバンス召喚軸とはな……

「冥界の宝札ハ自分ガモンスター2体以上ヲリリースシテアドバンス召喚ニ成功シタ場合ニ、デッキカラカードヲ2枚ドロースルコトガデキルカード。貴様ハ運ガイイナ、天宮 遊希ヨ」

「……どういう意味?」

「ドウイウ意味モ何モ……私ガ従エル―――【邪神】ノ姿ヲスグニ拝メルノダカラナ! 私ハベイゴマックス、タケトンボーグ、サイコウィールダーノ3体ヲリリース!!」

 

 3体のモンスターが闇へと消えていき、強い力の生贄となる。そして現れたのは銅のような色をした身体を持った竜のような、蛇のようなモンスターであった。

 

「このモンスターは……!?」

―――三幻魔に匹敵する力を感じる……

 

 

 

 

 

―――“神ヲ制スルタメニ産ミ落トサレシ第一ノ邪神ヨ。全テノ命ヲ奪イ取レ。全テノ生キトシ生ケルモノニ死ノ宣告ヲ!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――降臨セヨ!《邪神イレイザー》!!―――

 

 

 

 

 

 

《邪神イレイザー》

効果モンスター

星10/闇属性/悪魔族/攻?/守?

このカードは特殊召喚できない。自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。

(1):このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールドのカードの数×1000になる。

(2):自分メインフェイズに発動できる。このカードを破壊する。

(3):このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。フィールドのカードを全て破壊する。

 

 

 

 

「邪神イレイザー……まさか、現存していたなんて」

―――邪神……あれからの幻魔同様邪な力を感じる。気を付けろ、遊希!

 

 遊希が千春が使用した【三幻魔】同様、失われた過去のカードという点で【三邪神】というカードについても授業で学んでいた。三体の邪神は、強すぎる力を持った【三幻神】を抑制するためにデュエルモンスターズの創始者であるペガサス・J・クロフォードが作り出した3枚のカードであるが、神を抑えるための邪神が強い力を持ち過ぎたということで往年のデュエルキングであった武藤 遊戯や海馬コーポレーションの2代目社長である海馬 瀬人によって破棄されたと聞いていた。

 

「モンスターヲ2体以上リリースシテアドバンス召喚ニ成功シタコトデ、冥界の宝札ガ発動。2枚ドロースル。邪神イレイザーノ攻撃力・守備力ハ相手フィールドノカードノ数×1000トナル。ヨッテ今ノイレイザーノ攻守ハ0ダ」

 

邪神イレイザー ATK0/DEF0

 

 邪神イレイザーは特殊召喚できず、モンスター3体をリリースしなければ召喚することができないなどまさに神にふさわしい召喚条件の重さを持っている。しかし、攻撃力は相手である遊希に依存しているため、その抜け道は多い。

 

(モンスター1体だけを出せばイレイザーの攻撃力は1000。下級モンスターの一撃で倒せる。モンスター1体だけならイレイザーの全体破壊効果も少ないリスクで回避することができるはず)

「私はカードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

髑髏 LP8000 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(邪神イレイザー)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(冥界の宝札)フィールド:0 墓地:3 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

髑髏

 □□冥伏□

 □□イ□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

イ・・・邪神イレイザー

冥・・・冥界の宝札

 

 

☆TURN02(遊希)

 

(邪神と言えどモンスターに過ぎない。モンスターなら倒すことができる……だったらイレイザーの攻撃力を上げられる前に倒すだけ!)

「私のターン、ドローよ!」

「デハコノスタンバイフェイズニリバースカードヲ発動サセテモラウ。罠カード《おジャマトリオ》ダ」

 

《おジャマトリオ》

通常罠

(1):相手フィールドに「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)3体を守備表示で特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない。

「おジャマトークン」が破壊された時にそのコントローラーは1体につき300ダメージを受ける。

 

「おジャマトリオですって!?」

「相手フィールドニおジャマトークン3体ヲ守備表示デ特殊召喚。コノトークンハアドバンス召喚ノタメニリリースデキズ、コノトークンガ破壊サレタ時、ソノコントローラーハトークン1体ニツキ、300ノダメージヲ受ケル」

 

 遊希のフィールドにはおジャマモンスターである《おジャマイエロー》《おじゃまブラック》《おジャマグリーン》の3体を模したトークンが現れる。お世辞にも綺麗な見た目をしたモンスターではない3体がニヤニヤと遊希の方を見つめている様は気色が悪くてたまらない。

 

(しまった、これではフォトン・スラッシャーが……)

「相手フィールドニハトークントハイエカードガ3枚増エタ。ヨッテイレイザーハ攻撃力・守備力ハ3000トナル」

 

邪神イレイザー ATK3000/DEF3000

 

 かつて海馬 瀬人はこの邪神イレイザーのことを「人頼みの神」「紛い物」と称していたという。後世の今でもその口の悪さが伝わる人間の言葉ではあるが、確かに邪神イレイザーの効果は相手依存ということは否めない。

 しかし、おジャマトリオのように相手フィールドに強制的にモンスターを増やすカードとコンボされれば話は別だ。そしてこのおジャマトークンはアドバンス召喚のリリースに使えないため、遊希は光子竜のような最上級モンスターを召喚することもできないのだ。

 

(どれだけ不甲斐なくても邪神は邪神ということかしら)

―――遊希、どうする?

(どうするも何も、邪神であれ打ち倒す以外他にないわ)

「私は手札の銀河眼の光子竜をコストにトレード・インを発動。デッキからカードを2枚ドローする」

 

 トレード・インでドローしたカードを見た遊希は一瞬ではあるが、渋い顔を浮かべる。髑髏はその一瞬を見逃さなかった。

 

「ドウヤラ逆転ノカードハ引ケナカッタヨウダナ。邪神ノ力ニ屈スルトイイ、天宮 遊希」

「……誰が屈するですって?」

「何……?」

「イレイザーとおジャマトリオのコンボは確かに強力で理にかなっているわ。でも、相手のデッキも把握した上でカードを選ぶべきだったわね。私は光属性のおジャマトークン2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 現れなさい、リンク2! ハイパースター!!」

 

 そう、おジャマトークンの属性は光。そのため光属性のモンスター2体を素材に要求するハイパースターの召喚条件を満たすのだ。ハイパースターはフィールドに存在する限り、光属性モンスターの攻撃力・守備力を500アップさせ、闇属性モンスターの攻撃力・守備力を400ダウンさせる。邪神イレイザーは闇属性であり、遊希のフィールドのカードはトークン含めて2枚。よって邪神イレイザーの攻撃力は2000となる。

 

邪神イレイザー ATK2000/DEF2000

 

「邪神イレイザーの攻守が変化した後、ハイパースターの効果が適用される」

 

ハイパースター ATK1900

 

おジャマトークン ATK500/DEF1500

 

邪神イレイザー ATK2000/DEF2000→ATK1600/DEF1600

 

「イレイザーノ攻撃力ガハイパースターヲ下回ッタカ……」

「バトル! ハイパースターで邪神イレイザーを攻撃!“ハイパー・スターライト”!」

 

ハイパースター ATK1900 VS 邪神イレイザー ATK1600

 

髑髏 LP8000→LP7700

 

「グッ……ダガ、邪神イレイザーハ一人デハ死ナナイ。死ナバ諸共。全テノカードヲ道連レニスル!!」

 

 煌びやかな星の光によって、邪神の身体が砕け散る。しかし、砕け散ったイレイザーの身体からは真っ黒なヘドロのような液体が流れ出し、遊希のフィールドのハイパースターとおジャマトークン、そして髑髏のフィールドの冥界の宝札をも飲み込んで消えていった。

 

「ソシテ破壊サレタおジャマトークンノ数×300ノダメージヲ受ケテモラウ!」

 

遊希 LP8000→LP7700

 

「っ!!」

―――遊希!

「……300くらい、どうってことないわ」

 

 千春の時と同じように、やはりこのデュエルでもダメージが現実のものとなっていた。しかし、千春とのデュエルでそれを体験した遊希はそのダメージが来ることを予測していたため、前ほどのショックは受けていないようだった。何事においても情報というものの大事さを改めて思い知らされる。

 

「破壊されて墓地に送られたハイパースターの効果を発動するわ! 墓地の光属性モンスター、銀河眼の光子竜を手札に戻す。これでバトルフェイズは終了。メインフェイズ2に移るわ」

 

 イレイザー=抹殺者の名が表す通り、フィールドのカードを全て破壊し尽くして邪神は消える。だが、フィールドからモンスターがいなくなったことで遊希は更に反撃の舞台を整えることができるようになっていた。

 

「私のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる! 現れなさい、フォトン・スラッシャー! そして手札の光属性モンスター1体を墓地に送り、銀河戦士の効果を発動! 光子竜を墓地に送り、銀河戦士を特殊召喚! 特殊召喚に成功した銀河戦士の効果でデッキから銀河騎士を手札に加える。そして銀河騎士をリリースなしで召喚! 召喚に成功した銀河騎士の効果、自身の攻撃力を1000下げて墓地の光子竜を守備表示で特殊召喚する!」

 

 遊希のフィールドにも一度の召喚権で4体のモンスターが揃う。千春とのデュエルは遊希にとっては決して楽しいものではなかったが、そのデュエルを乗り越えたことで彼女の決意はまさに刃のように鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「私はフォトン・スラッシャーと銀河戦士をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 銀河眼の煌星竜をリンク召喚! リンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地の銀河戦士を手札に戻す。そして銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! No.90 銀河眼の光子卿を守備表示でエクシーズ召喚! カードを1枚セットし、これでターンエンドよ」

 

 

髑髏 LP7700 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:6 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP7700 手札4枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:3 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

髑髏

 □□□□□

 □□□□□□

  煌 □

□卿□□□□

 □□伏□□

遊希

 

 

 

 

 

 

 

 



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恐怖を超えて(修正版)

修正前の同エピソードに重大かつ見過ごせない瑕疵が発見されたため、削除した上で加筆修正して投稿し直しました。


 

 

 

 

 

 

☆TURN03(髑髏)

 

「私ノターン、ドロー。私ハ手札カラ魔法カード《強欲で金満な壺》ヲ発動」

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

「EXデッキノカード6枚ヲランダムデゲームカラ除外シ、デッキカラカードヲ2枚ドロースル」

(EXデッキのカードを……と思ったけど邪神を軸にしたアドバンス召喚軸ならEXデッキのカードはほとんど使わないか)

「その効果にチェーンして光子卿の効果を発動するわ!」

 

チェーン2(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン1(髑髏):強欲で金満な壺

 

「チェーン2の光子卿の効果で私はデッキから2体目の銀河眼の光子竜を手札に加えるわ」

「チェーン1の強欲で金満な壺で2枚ドロースル。ソシテ相手フィールドノモンスター1体……銀河眼の光子卿ヲリリース。《海亀壊獣ガメシエル》ヲ相手フィールドニ特殊召喚」

 

《海亀壊獣ガメシエル》

効果モンスター

星8/水属性/水族/攻2200/守3000

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):相手が「海亀壊獣ガメシエル」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを2つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし除外する。

 

「壊獣……」

―――如何に強力な耐性を持っていたとしても、リリースされてしまうと元も子もないな。

 

 光子卿のサーチ効果を予め発動できただけまだ救いがあったと言うべきか。ただ相手のデッキに壊獣が投入されているということは、例え強力なモンスターを出しても即リリースで対処されてしまうということになる。EXデッキのモンスターも駆使する遊希にとってはなるべく敵に回したくないデッキであった。

 

「ソシテ相手フィールドニ壊獣ガ存在スル場合、《怒炎壊獣ドゴラン》ハ特殊召喚デキル」

 

《怒炎壊獣ドゴラン》

効果モンスター

星8/炎属性/恐竜族/攻3000/守1200

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):1ターンに1度、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを3つ取り除いて発動できる。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

「メインフェイズ1ヲ終了。バトルフェイズニ移行スル」

(邪神を出さないでバトルフェイズ?)

「ドゴランデ銀河眼の煌星竜ヲ攻撃」

 

怒炎壊獣ドゴラン ATK3000 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

遊希 LP7700→LP6700

 

「っ……! 邪神じゃなくてもダメージは少なからず発生するのね」

「バトルフェイズヲ終了。メインフェイズ2ニ移行スル。私ハ天帝従騎イデアヲ召喚。イデアノ効果デデッキカラ冥帝従騎エイドスヲ特殊召喚。特殊召喚ニ成功シタエイドスノ効果デ通常召喚ニ加エテ一度ダケアドバンス召喚デキル」

(メインフェイズ2に展開……そうか、煌星竜の効果を警戒して)

 

 遊希が光子卿の効果で2体目の光子竜を手札に加えたのも、煌星竜の効果を発動するためだ。煌星竜は相手ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を破壊することができるのだが、その効果の発動コストはフォトンおよびギャラクシーモンスター2体と重いが、銀河眼の光子竜をコストにすれば1体で賄える。もし相手が強力なモンスターを出してきた場合は、煌星竜の効果でそのモンスターを未然に処理するつもりであった。仮に相手がメインフェイズ1にイデアを召喚していれば、イデアの効果にチェーンして煌星竜の効果を発動し、イデアを破壊することで3体のリリースが必要な邪神のアドバンス召喚を阻害することができていた。

 

(邪神に操られているにも関わらず、邪神を確実に降臨させるための的確なプレイングができている……相手は相当のデュエリストなのかもしれないわね)

―――感心したくなる気持ちはわかるが、来るぞ!

「フフフ……私ハドゴラン、イデア、エイドスヲリリース」

 

 3体のモンスターの魂が邪神の生贄に捧げられる。地中に現れた黒い渦からは人型の巨大なモンスターが現れる。そのモンスターが現れると同時に、立っていることすら辛くなるような重圧が遊希に襲い掛かった。遊希はここで膝を屈してはならない、と自分の意志を強く持とうとするが、手足の震えを抑えることができなかった。

 

(何……これ……)

 

 

 

 

 

―――“神ヲ制スルタメニ産ミ落トサレシ第二ノ邪神ヨ。全テヲ恐怖デ包ミ込メ。全テノ生キトシ生ケルモノニ永久ノ恐怖ヲ!”―――

 

 

 

 

 

―――降臨セヨ!《邪神ドレッド・ルート》!!―――

 

 

 

 

 

《邪神ドレッド・ルート》

効果モンスター

星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000

このカードは特殊召喚できない。自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカード以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

「邪神ドレッド・ルートハ恐怖ノ象徴。コノモンスターガ存在スル限リ、ドレッド・ルート以外ノモンスターノ攻撃力・守備力ハ半分ニナル!」

「なんですって!?」

 

海亀壊獣ガメシエル ATK2200/DEF3000→ATK1100/DEF1500

 

「ドレッド・ルートの攻撃力4000を超えるには……攻撃力8000を超える必要がある、ということなの?」

「ソウダ。モットモ……効果デ破壊スレバイイノダガナ私ハコレデターンエンドダ」

 

 

髑髏 LP7700 手札0枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(邪神ドレッド・ルート)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:10 除外:6 EXデッキ:9(0)

遊希 LP6700 手札5枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(海亀壊獣ガメシエル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:7 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

髑髏

 □□□□□

 □□ド□□□

  □ □

□□□海□□

 □□伏□□

遊希

 

○凡例

ド・・・邪神ドレッド・ルート

海・・・海亀壊獣ガメシエル

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

 

 デッキからカードをドローする手の震えが止まらない。同じ邪神にも格差が存在するのか、イレイザーの時に感じていたものとドレッド・ルートのそれは明らかに違いがあった。恐怖の象徴、と髑髏が言ったように、対峙するだけで鳥肌が発生し、身体の震えが止まらない。思えば遊希の過去にはトラウマとなって今もなお彼女に影響を及ぼしている出来事は少なくない。

 

(ドレッド・ルートと対峙しているだけで、頭の中に嫌なことしか浮かばない……怖い、怖い)

―――遊希。恐れているのか?

(……こんな時に強がりを言ってもなんにもならないから正直に言うわね。うん、私はあいつを恐れている。怖いし、出来るならば逃げ出したいくらい)

―――そうか。ならば大丈夫だな。

 

 光子竜の言った言葉に遊希は思わずえっ、と言葉を漏らす。

 

(何が大丈夫なのよ)

―――人に限らず、知能のある生き物は恐怖心を素直に受け入れることを拒む。だが、本当に大事なのは恐れていることを自分で認識することだ。恐れている自分を素直に受け入れる。それが恐怖に打ち克つために必要な第一歩となるのだ。

(……論法が無理矢理過ぎないかしら)

―――無理矢理でもいい。お前を恐怖から解き放てるのであれば、私は適当な嘘だってついてやる。

 

 改めて自分の中に宿るデュエルモンスターズの精霊がわからなくなった遊希。合理的な考えをするのかと思えば普通の人間でもしないような適当さでこちらを惑わせてくる。しかし、この局面ではその適当さが助けになった。

 

「……ドレッド・ルートを正攻法で攻略するのは難しい。だからと言ってそう都合よく効果で破壊できるカードを引きこむことはできない。あんた、それをわかっていて効果で破壊すればいい、とか言ったのね」

「ダッタラドウダトイウノダ?」

「どうということもないわ。私は……目の前のそいつを倒すだけ。私は手札の銀河剣聖の効果を発動! 手札のフォトンモンスターである銀河眼の光子竜を相手に見せることで、このカードを特殊召喚する! そして剣聖の攻撃力は墓地のギャラクシーモンスター1体と同じになる。対象はもちろん銀河眼の光子竜よ!」

 

銀河剣聖 ATK3000

 

「ダガ、ソノ効果ノ後ニドレッド・ルートノ効果ガ適用サレル!」

 

銀河剣聖 ATK3000→ATK1500

 

「構わないわ。どっちにしてもドレッド・ルートを上回れないもの。私は手札の銀河戦士の効果を発動! 銀河眼の光子竜を墓地に送り、このカードを特殊召喚する!」

 

銀河戦士 ATK2000→ATK1000

 

「そして特殊召喚に成功した銀河戦士の効果でデッキから銀河の修道師を手札に加え、このカードを召喚!」

 

銀河の修道師 ATK1500/DEF600→ATK750/DEF300

 

「召喚に成功した修道師の効果を発動! 墓地の光子竜、煌星竜、光子卿、銀河騎士、フォトン・スラッシャーの5枚をデッキに戻しシャッフル。そして2枚ドロー! 自分フィールドにフォトンまたはギャラクシーモンスターが存在する時、フォトン・バニッシャーを手札から特殊召喚するわ!」

 

フォトン・バニッシャー ATK2000→ATK1000

 

「特殊召喚に成功したバニッシャーの効果で私はデッキから銀河眼の光子竜を手札に加える」

「随分トデッキヲ回スモノダナ。フィールドヲ全テ埋メタトコロデドレッド・ルートヲ倒スコトナド不可能デアルノニ……」

「本当に不可能かしらね?」

「何?」

「私は銀河戦士とフォトン・バニッシャーをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 銀河眼の煌星竜をリンク召喚!」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000→ATK1000

 

「リンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地の銀河戦士を手札に加える。そして手札から魔法カード、銀河遠征を発動! デッキから銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK1500/DEF1250

 

「そして銀河剣聖とガメシエルでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 再び現れなさい、No.90 銀河眼の光子卿!!」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2 ATK2500/DEF3000→ATK1250/DEF1500

 

「そして光子卿でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! エクシーズ・チェンジ! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン!!」

 

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:3 ATK4000/DEF3000→ATK2000/DEF1500

 

「ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン……ヨモヤ本当ニ除去効果持チノカードヲ出シテ来ルトハ」

「X素材を1つ取り除き、FA・フォトン・ドラゴンの効果を発動! 相手フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する! 消えなさい、恐怖! ドレッド・ルートを切り裂け!!」

 

 FA・フォトンの放った斬撃が、巨大な邪神の身体を両断する。断末魔の叫びと共に邪神は消え、フィールドを覆っていた恐怖の波動、そして遊希の身体に圧し掛かっていた圧倒的なプレッシャーも消える。

 

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK2000/DEF1500→ATK4000/DEF3000

銀河眼の光子竜 ATK1500/DEF1250→ATK3000/DEF2500

銀河眼の煌星竜 ATK1000→ATK2000

銀河の修道師 ATK750/DEF300→ATK1500/DEF600

 

「これで邪魔者は消えた。バトルフェイズに移るわ! 銀河の修道師でダイレクトアタック!」

 

銀河の修道師 ATK1500

 

髑髏 LP7700→LP6200

 

「続けて煌星竜でもダイレクトアタック!」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

髑髏 LP6200→LP4200

 

「グッ……!!」

「一気に追い込む! FA・フォトン・ドラゴンでダイレクトアタック!“壊滅のフォトン・ストリーム”!」

 

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

 

髑髏 LP4200→LP200

 

「グアアアッ!!―――」

 

 FA・フォトン・ドラゴンらモンスター3体の攻撃をもろに受ける形となった髑髏は後方に大きく吹き飛び、地面に顔面から叩きつけられる。総攻撃力7500のモンスターからのダイレクトアタックはかなりの衝撃のようであり、それは遊希を襲おうとした髑髏からしてみても同じようだった。

 身体を震わせながら立ち上がった髑髏であるが、叩きつけられた衝撃でその仮面の下半分が砕け、鼻から下が見えるようになっていた。輪郭から察するに髑髏もまた千春同様遊希と同年代の少女のものと推測できる。

 千春もそうだったが、自分と同年代かつ女性のデュエリストを操り人形として自分に差し向けてくる辺りに遊希は一連の事件の黒幕の底知れぬ性の悪さを感じた。この相手もまた黒幕の被害者。同情すべきところはあるが、今は相手を倒すことだけを考えなければならない。

 

「まだデュエルは終わっていないわ。立ち上がって、あんたにはこのデュエルの後で聞きたい事が山ほどあるんだから」

 

 遊希はこのデュエルに勝ち、一連の事件の黒幕の正体、そして鈴と皐月がどこへ行ってしまったのか聞き出さなくてはならない。少なくともここで情報を得るために負けてなどいられないのだ。しかし、聞きたいことの一つはすぐにわかった。いや、わかってしまった。

 

 

―――遊……希……さん。

 

 

 髑髏から遊希の名前を呼ぶ声がした。髑髏のエコーが掛かっていない素の声を聴いた瞬間、遊希は背中に冷たいものを感じた。千春の時と同じように、その声はやはり聞き覚えのあるものだったからだ。

 

―――遊希……

(……なんで、なんでこんな時に限ってあんたの言うことが当たるのよ、千春)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は今日の昼間に遡る。遊希が見舞っている最中に目を覚ました千春は遊希の手を持てる力を振り絞って握りながら、とある言葉を遊希に伝えた。

 

「千春っ……千春っ……!」

「遊……希……お願い……」

「何? どうしたの? 何でも言って?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――鈴と皐月を―――助けて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は千春のその言葉の意味を正確に理解することが出来なかった遊希。しかし、今こうして髑髏の仮面と対峙してその真意を知った。一度ひびが入った仮面の崩落は止まらず、やがて粉々に砕け散って髑髏の仮面の素顔が明らかになった。覚悟はしていた。しかし、心の何処かでそんな小説のような展開はまさか起こるまいと思っていた。それでも遊希はやはりショックを隠せなかった。

 

「遊希……さ……ん―――」

「そんな……あなたも、あなたもなの?―――ねえ、答えてよ。皐月」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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変貌の邪神

 

 

 

 

「彼女は、日向 千春と共に遊希の親友である織原 皐月……まさか彼女まで」

 

 遊希からは事前に「私が倒れされるまで介入しないで」と念を押されていたエヴァは後方で遊希と髑髏のデュエルを声すらも出さずに見守っていた。幻魔同様に失われていたと思われていた邪神のカードを使いこなす相手を持ち前のタクティクスで圧倒していた遊希に、彼女は改めてかつて自分が憧れに憧れたデュエリストの姿を見ていた。

 だが、前回遊希とデュエルをしたのが操られていた彼女の親友・千春であったのと同じように、またしても親友とこのような形で相見えなければならない、という運命の悪戯に、彼女は天を仰いだ。

 

(……もし、神というものがこの世にいるのであれば。なんと悪趣味なのだろうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊希……さ……ん―――」

「そんな……あなたも、あなたもなの?―――ねえ、答えてよ。皐月」

 

 遊希がこれまでデュエルをしていた相手―――それは紛れもなく皐月であった。遊希は千春に続いて皐月とも心身を削り合うデュエルをしていたこととなる。

 千春の告げた言葉の真意。それは自分と同じように捕らわれ、洗脳されてしまったため図らずもこのようなデュエルをさせられている皐月を助けてほしい、ということだったのだ。ただ遊希は皐月に再会できたことについては喜んでいたが、このようなシチュエーションでの再会など当然望んでいなかった。

 

「ごめんな……さい……私は……私は―――あっ、あああアアッ!!」

 

 涙を流しながら何かを訴えようとした皐月であるが、突如叫びながら頭を抑えて蹲ってしまった。三邪神のうち2体を破られたことで、洗脳が解けかけていたのだろう。それでも洗脳をかけたと思われる者の力か、それとも皐月を操っている三邪神の力か、何者かによって再度洗脳が施されそうとしていた。

 

「皐月!? 負けないで、皐月!」

「アアアアッ……天宮 遊希ィィ!! 貴様ヲ倒スッ!!」

「っ!」

 

 自分の中に巣食う敵と戦っていた皐月であったが、そんな彼女の意志はまたしても悪しき力に屈してしまった。いつもとは180度違う鬼気迫る表情の皐月に思わず遊希はたじろぐ。皐月はあまり積極的な性格ではないが、その根底には正しく清い心がある。その心が逆に彼女を強い洗脳状態へとさせてしまっていたのかもしれない。

 

「……メインフェイズ2に移行」

(千春の言葉は正しかった。でも本当に皐月だと思わなかった……)

―――だからと言って、手心を加えるなどと思ってはいけないぞ。

(光子竜?)

―――もしお前が千春から聞いたことを信じ、相手が皐月だと確信していたならば。このデュエルで傷つけることを恐れてはいけない。ここで邪神から彼女を解放するんだ。そうすれば、千春と同じように皐月を取り戻すことができる。

(……うん。そうだね。そうだけど……)

 

「私は守備表示のFA・フォトンでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! エクシーズチェンジ! No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン! エクシーズ召喚に成功したダークマターの効果を発動! デッキからドラゴン族3種類を墓地に送り、相手はデッキからモンスターを3体を除外する。私はデッキから巨神竜フェルグラント、アークブレイブドラゴン、嵐征竜-テンペストをゲームから除外するわ」

「……私ハデッキカラ《魔界発現世行きデスガイド》《スケープ・ゴースト》、灰流うららノ3枚ヲ除外スル」

「私はカードを2枚セット。ターンエンドよ」

 

 

皐月 LP700 手札1枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:12 除外:10 EXデッキ:9(0)

遊希 LP6700 手札3枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン ORU:3)EXゾーン:1(ヴァレルソード・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3 フィールド:0 墓地:11 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

 

皐月

 □□□□□

 □□□□□□

  ヴ □

□□ダ□□□

 □伏伏伏□

遊希

 

 

☆TURN05(皐月)

 

「私ノターン! ドロー!!」

「このスタンバイフェイズに墓地のアークブレイブドラゴンの効果を発動。巨神竜フェルグラントを墓地から特殊召喚する! そして墓地からの特殊召喚に成功したフェルグラントの効果を発動。皐月の墓地から邪神ドレッド・ルートを除外し、そのレベル分攻撃力・守備力をアップする!」

 

巨神竜フェルグラント ATK2800/DEF2800→ATK3800/DEF3800

 

 フェルグラントの力でドレッド・ルートが墓地からも消える。対峙していた遊希の身体が少しだけではあるが、軽くなったような気がした。仮に撃破しても、墓地にいるだけでこの有様なのだから、改めて邪神というカードの力を味あわされる。

 

(除外されたことで邪神の波動が弱まった気がするわ。これなら……)

「……ドウヤラコノデュエルハマダマダ終ワリソウニナイナ」

「なんですって?」

「私ハ手札ヨリ魔法カード、強欲で貪欲な壺を発動! デッキトップヲ10枚除外シ、2枚ドロースル! ソシテ魔法カードヲ発動! 全部壊レテシマエ!《妨げられた壊獣の眠り》!」 

 

《妨げられた壊獣の眠り》

通常魔法(制限カード)

「妨げられた壊獣の眠り」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):フィールドのモンスターを全て破壊する。その後、デッキからカード名が異なる「壊獣」モンスターを自分・相手のフィールドに1体ずつ攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは表示形式を変更できず、攻撃可能な場合は攻撃しなければならない。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「壊獣」モンスター1体を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

 遊希のフィールドのダークマター、フェルグラント、ヴァレルソードの3体は地中から噴出した水流と溶岩に飲み込まれて消えていく。そして遊希のフィールドには攻撃力2200のガメシエルが、皐月のフィールドには攻撃力3000のドゴランが入れ替わるように現れた。

 

「っ……私のモンスターたちが」

「フィールドノモンスターヲ全テ破壊シ、デッキカラカード名ガ異ナル壊獣モンスターヲ自分・相手ノフィールドニ1体ズツ攻撃表示デ特殊召喚スル。ソシテ墓地ノエイドスノ効果ヲ発動。コノカードをゲームカラ除外シ、墓地ノ攻撃力800・守備力1000ノモンスター1体ヲ守備表示デ特殊召喚スル! 私ハイデアヲ特殊召喚! 特殊召喚ニ成功シタイデアノ効果ヲ発動!」

「イデアの効果にチェーンしてリバースカードを発動! 罠カード、戦線復帰!」

 

チェーン2(遊希):戦線復帰

チェーン1(皐月):天帝従騎イデア

 

「墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚する」

「イデアノ効果デデッキカラ2体目ノエイドスヲ特殊召喚スル!」

 

 皐月のフィールドにはドゴランと2体の従騎が揃う。そして彼女はまだ召喚権を残している。妨げられた壊獣の眠りの効果で特殊召喚されたドゴランは攻撃可能な場合は攻撃をしなければならないという制約があるが、攻撃力3000のためそう易々と超えることはできない。だが、イデアとエイドスはアドバンス召喚を補助するために存在するモンスターと言っていい。そんなモンスターをフィールドに出すということは、皐月の狙いは一目瞭然であった。

 

(イデアとエイドスを出したということは……あの手札には)

「サア、最強ノ邪神ノ前ニ滅ビルガイイ! 私ハドゴラン、イデア、エイドスノ3体ヲリリース!!」

(来る……っ!?)

―――気を引き締めろ。やはり大トリとあってか、力が前の2体より強い!!

 

 3体のモンスターを闇に引きずり込んで生まれたモンスター。それは巨大な漆黒の球体状のモンスターだった。その様は例えるならば、漆黒に染まった太陽というべきか。三幻神の中で最も神格の高いラーの翼神竜を元に作られたモンスターがこの邪神であった。

 

 

 

 

 

―――“神ヲ制スルタメニ産ミ落トサレシ第三ノ邪神ヨ。全テヲ暗黒デ包ミ込メ。何人ヲモ触レルコトスラ許サヌ絶対的ナ力ヲ示セ!!”―――

 

 

 

 

 

―――降臨セヨ!《邪神アバター》!!―――

 

 

 

 

 

《邪神アバター》

効果モンスター

星10/闇属性/悪魔族/攻?/守?

このカードは特殊召喚できない。自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。相手ターンで数えて2ターンの間、相手は魔法・罠カードを発動できない。

(2):このカードの攻撃力・守備力は、「邪神アバター」以外のフィールドの攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力+100の数値になる。

 

 

 

 

 

「邪神アバター……存在は知っていたけど、本物の殺気は言葉で言い表せないわね」

「邪神アバターハ特定ノ姿ヲ持タナイ。ソシテソノ力ハフィールドノ攻撃力ガ最モ高イモンスターノ攻撃力ニ100ヲ加エタモノトナル」

 

 球体状の邪神アバターの姿が、光子竜のものへと変化していく。互いのフィールドで最も攻撃力の高いモンスターが攻撃力3000の銀河眼の光子竜であるため、その姿をアバターは写し取るのだ。

 

邪神アバター ATK3100/DEF3100

 

「攻撃力3100……」

「バトルダ。邪神アバターデ攻撃表示ノガメシエルヲ攻撃!“破滅のフォトン・ストリーム”!!」

 

邪神アバター ATK3100 VS 海亀壊獣ガメシエル ATK2200

 

遊希 LP6700→LP5800

 

「きゃあっ!」

 

 受けたダメージは900であり、現状のライフではあまり気にならない数値ではある。しかし、最も強い力を持つ邪神アバターの攻撃で生じる影響は900ダメージのそれではなかった。

 

「チナミニアバターガ召喚ニ成功シテカラ数エテ2ターンノ間、オマエハ魔法・罠カードヲ発動デキナイ。ソノ2枚ノセットカードガナンダカシラナイガ……ハタシテアバターヲ防ゲルカナ? カードヲ1枚セット。ターンエンドダ」

 

 

皐月 LP700 手札0枚

デッキ:11 メインモンスターゾーン:1(邪神アバター)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:12 除外:22 EXデッキ:9(0)

遊希 LP5800 手札3枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

皐月

 □□□伏□

 □□ア□□□

  □ □

□□□□銀□

 □□伏伏□

遊希

 

○凡例

ア・・・邪神アバター

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

 

 フィールドの最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力に100足した数値が攻撃力・守備力に変化するアバターは単純な攻撃力の差を比べ合う戦闘においてはまず負けることがない。しかし、他の邪神同様効果に対する耐性はないため、戦闘以外の方法での撃破は十分に見込めるのだ。

 

(でも、アバターが召喚に成功してから数えて2ターン……私は魔法・罠カードを発動できない。そして壁モンスターを出しても光子竜の攻撃力を加算したアバターを倒すことは……)

「私は、何もせずにターンを終了するわ」

 

 

皐月 LP700 手札0枚

デッキ:11 メインモンスターゾーン:1(邪神アバター)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:12 除外:22 EXデッキ:9(0)

遊希 LP5800 手札4枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

皐月

 □□□伏□

 □□ア□□□

  □ □

□□□□銀□

 □□伏伏□

遊希

 

 

☆TURN07(皐月)

 

「私ノターン、ドロー。私ハ墓地ノ妨げられた壊獣の眠りノ効果ヲ発動。墓地ノコノカードヲゲームカラ除外シ、デッキカラ壊獣モンスター1体ヲ手札ニ加エル。私ハ3体目ノガメシエルヲ手札ニ加エル。ソシテ銀河眼の光子竜ヲリリースシ、ガメシエルヲ貴様ノフィールドニ特殊召喚!!」

「っ……光子竜まで!!」

「フィールドノ最モ攻撃力ノ高イモンスターガガメシエルニ変化シタコトデ、アバターノ攻撃力モ変化スル」

 

邪神アバター ATK2300/DEF2300

 

「ソシテ私ハEXデッキノ残リノカード全テヲ裏側表示デ枚除外。《百万喰らいのグラットン》ヲ特殊召喚スル!」

 

《百万喰らいのグラットン》

特殊召喚・効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻?/守?

このカードは通常召喚できない。自分の手札・フィールド・エクストラデッキからカード5枚以上を裏側表示で除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力・守備力は、裏側表示で除外されているカードの数×100アップする。

(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、リリースできず、融合・S・X召喚の素材にもできない。

(3):1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。その相手モンスターを裏側表示で除外する。

 

「私ガ除外シタカードノ数ハ9枚。ヨッテ除外サレテイル私ノカードノ数ハ合計デ32枚。ヨッテグラットンノ攻撃力・守備力ハ3200トナル!」

 

百万喰らいのグラットン ATK3200/DEF3200

 

「更ニアバターノ能力モ変化スル!」

 

邪神アバター ATK3300/DEF3300

 

「攻撃力3300……」

「バトルダ! 百万喰らいのグラットンデガメシエルヲ攻撃!」

 

百万喰らいのグラットン ATK3200 VS 海亀壊獣ガメシエル ATK2200

 

「ダメージステップ時ニグラットンノ―――!!」

(グラットンは戦闘を行う相手モンスターを裏側表示で除外する……)

「効果……ハ……発動しない」

「えっ?」

 

遊希 LP5800→LP4800

 

 ここで遊希は皐月のプレイングに違和感を覚えた。グラットンノ効果デガメシエルを除外すれば、元々皐月のデッキのモンスターであるガメシエルは除外されることで皐月のカードとして除外される。そうすれば更にグラットンの攻撃力がが上昇し、それは同時にアバターの強化にも繋がるはずなのだ。

 

「邪神アバターで……ダイレクトアタック!“ディメンション・グラトニー”!!」

 

邪神アバター ATK3300

 

遊希 LP4800→LP1500

 

「があっ……!!」

 

 グラットンの姿を写し取ったアバターの牙が遊希に直撃する。直接ダメージが発生するデュエルであるため、まるで巨大な猛獣にでも噛まれたかのような激痛が走った。

 

―――遊希!

(……あはは、ちょっと視界が霞んできちゃった)

―――笑いごとではないだろうが!

(うん。わかってるよ。わかってるけどさ……)

「私はバトルフェイズを……終了。ターンエンドだ」

 

 

皐月 LP700 手札0枚

デッキ:10 メインモンスターゾーン:2(邪神アバター、百万喰らいのグラットン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:11 除外:32 EXデッキ:0(0)

遊希 LP1500 手札4枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

皐月

 □□□伏□

 □□ア百□□

  □ □

□□□□□□

 □□伏伏□

遊希

 

○凡例

百・・・百万喰らいのグラットン

 

 

 

 

 

 

 

 



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取り払われた壁

 

 

 

 

 

 

☆TURN08(遊希)

 

「私のターン、ドロー」

 

 邪神アバターは戦闘においてまず倒されることのないモンスターだ。しかし、このカードを生み出したペガサス・J・クロフォードは神の名を持つカードは作っても、決してこの世界に欠点の無い完璧なカードを作り出すことはなかった。この世界に完璧な人間が存在しないように、カードである以上何かしらの弱点を持っているのだ。

 

(邪神アバターは魔法・罠カード、そして効果破壊に対する耐性を持っていない。言ってしまえば魔法・罠カードの効果であっさり倒すことができる)

―――だが、お前はこのターンまで魔法・罠カードを発動できない。

 

 だが、三邪神の頂点に位置するアバターには弱点を補う術を持っている。その一つが自身の召喚成功から相手は2ターンの間、魔法・罠カードを発動することができないのだ。そのため魔法・罠カードが発動できるようになるまで待たなければならないのである。

 

(私に出せるモンスターはなく、そして魔法・罠カードは発動できない。ここまで……なの?)

 

 口から出るのは乾いた笑い。全てを諦めてしまったことによって出るものだった。

 

―――遊希……

(ねえ、光子竜。エヴァは、私の仇を討ってくれるよね?)

「私は……何もせずターンエンド」

 

 

皐月 LP700 手札0枚

デッキ:10 メインモンスターゾーン:2(邪神アバター、百万喰らいのグラットン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:11 除外:32 EXデッキ:0(0)

遊希 LP1500 手札5枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

 

皐月

 □□□伏□

 □□ア百□□

  □ □

□□□□□□

 □□伏伏□

遊希

 

 

 

「おい。何故お前は何もせずターンエンドをする? 答えろ、天宮 遊希!!」

「ごめん、エヴァ。私はここまで。あなたには申し訳ないけど……敵討ちは任せたよ?」

「ふざけるな、お前の……あなたの敵討ちなどしたくない! 私の中でのあなたは……どんなに不利でもライフが0になるまで決して諦めない強いデュエリストなんだ!!」

 

 エヴァの悲痛な叫びが木霊する。だが、そんな彼女の声に応える手段を遊希は持っていなかった。

 

 

☆TURN09(皐月)

 

「私のターン、ドロー」

(……アバターの攻撃力はグラットンに100を足した3300。私のライフを余裕で0にできる)

「……私は、何もせずにターンエンド」

「えっ?」

 

 

皐月 LP700 手札1枚

デッキ:9 メインモンスターゾーン:2(邪神アバター、百万喰らいのグラットン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:11 除外:32 EXデッキ:0(0)

遊希 LP1500 手札5枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

 

皐月

 □□□伏□

 □□ア百□□

  □ □

□□□□□□

 □□伏伏□

遊希

 

 

 

☆TURN10(遊希)

 

「わ、私のターン、ドロー」

 

 邪神アバターがフィールドに現れたから2ターンが経過した。これにより、遊希は魔法・罠カードを発動できるようになった。しかし、遊希はそもそも何故自分にターンが回ってきたのかがわからなかった。手札6枚いセットカード2枚を有しながら何もできずにいた遊希はもはや座して死を待つことしかできなかったはずなのに、何故皐月は遊希に攻撃を仕掛けなかったのか。

 

「皐月……どういうつもり……?」

「……遊希さん」

「!?」

 

 対峙する皐月は何処か悲しそうに微笑んだ。今自分と対峙しているのは邪神に支配されたデュエリストではない。遊希のよく知る織原 皐月その人であった。

 

「皐月、自我を取り戻したのね! よかった……」

「遊希さんたちのおかげです。と言いたいところですが……まだ完全ではないと思います」

「えっ?」

「今でこそ邪神の支配から一時的に逃れていますが、今のままでは完全に解放されることはないでしょう……邪神に侵食されているからこそ、わかってしまうんです」

 

 ではデュエルが終われば助かるか、その答えは当然ノーだ。サレンダーしたところでデュエルには勝っても、ライフを削り切って勝つ=邪神を倒したことにはならず、再度邪神に侵食された皐月とのデュエルが繰り返されるだけだろう。仮に再戦となったら今の傷ついた遊希に戦えるだけの力は残っていない。

 

「お願いします……私を、このターンでたおし……アッアアアア……』

「皐月!! わかった。このターンで! このデュエルを終わらせるわ!!」

―――遊希!

(お願い、光子竜!)

「私は手札の銀河戦士の効果を発動! 手札の光属性モンスター《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》を墓地へ送り、このカードを表側守備表示で特殊召喚するわ! そして特殊召喚に成功した銀河戦士と光波異邦臣の効果を発動!」

 

《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》

効果モンスター

星1/光属性/魔法使い族/攻0/守0

「光波異邦臣」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在する場合、自分フィールドの「サイファー」Xモンスター1体を対象として発動できる。このカードをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「サイファー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

チェーン2(遊希):光波異邦臣

チェーン1(遊希):銀河戦士

 

「チェーン2の光波異邦臣の効果で私はデッキから《RUM-光波昇華》を手札に加え、チェーン1の銀河戦士の効果で銀河騎士を手札に加える! そしてフィールドにギャラクシーモンスターが存在することで銀河騎士をリリースなしで通常召喚! 自身の効果で召喚に成功した銀河騎士の効果を発動! ターン終了時まで自身の攻撃力を1000下げることで、墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚する!」

 

銀河騎士 ATK2800→ATK1800

 

「そして私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“闇に輝く銀河よ。我が道を照らし、未来を切り拓く力となれ!”現れなさい、銀河眼の光波竜!!」

 

 光を粒子ではなく波動に変えて銀河眼の光波竜が舞い降りる。アバターは効果に耐性を持たないため、光波竜の効果でコントロールを奪うことができる。しかし、光波竜の効果でコントロールを奪取したモンスターは光波竜として扱われてしまい、攻撃力は3000になるため、アバターの効果が適用されず、光波竜を上回る攻撃力を得ているグラットンを倒すことはできない。また、グラットンのコントロールを奪ったとしても、アバターはフィールドの最も攻撃力高いモンスターの攻撃力に100を足した攻撃力となるため、光波竜およびグラットンで攻めかかったところで返り討ちに遭ってしまう。

 ただ、遊希はそれを理解していた。理解していたが故に、光波異邦臣を銀河戦士の特殊召喚のコストに利用したのである。

 

「私は手札から速攻魔法、RUM-光波昇華を発動!!」

 

《RUM-光波昇華(サイファー・アセンション)》

速攻魔法

(1):自分・相手のメインフェイズに、自分フィールドの「サイファー」Xモンスター1体を対象として発動できる。その自分のモンスターよりランクが1つ高い「サイファー」Xモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは以下の効果を得る。●このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル4以上のモンスターの数×500アップする。

 

「私は銀河眼の光波竜でオーバーレイ!!」

「光波竜をランクアップさせる……!?」

「1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ!!」

 

 光の波動は迸る激流となる。そして銀河の眼を持つ竜は更なる境地へと至った。

 

 

 

―――“闇に輝く銀河よ。永久に変わらぬ光を放ち、絶望を切り裂く道となれ!!”―――

 

 

 

 

 

―――現れなさい!!《超銀河眼の光波龍(ネオギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》!!」―――

 

 

 

 

 

《超銀河眼の光波龍(ネオギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000

レベル9モンスター×3

(1):このカードが「サイファー」カードをX素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材を3つまで取り除いて発動できる。取り除いた数だけ相手フィールドの表側表示モンスターを選び、そのコントロールをエンドフェイズまで得る。この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力は4500になり、カード名を「超銀河眼の光波龍」として扱う。

この効果の発動後、ターン終了時までこのカード以外の自分のモンスターは直接攻撃できない。

 

 

 

 

 

「超銀河眼の光波龍の効果を発動! このカードのオーバーレイユニットを2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスターを取り除いたオーバーレイユニットの数だけ選んでコントロールを得る! アバターとグラットンのコントロールを得るわ!」

 

 超光波龍の両翼から放たれた光の波動に導かれたアバターとグラットンの姿が遊希のフィールドへと移る。そしてその2体の姿は超光波龍のものへと変化した。超光波龍はランクアップ前の光波竜と同じように奪ったモンスターを自分と同じモンスターとして扱うことが可能であり、その攻撃力を4500にすることができる。もちろん進化前同様に直接攻撃はできなくなるが、今の遊希にとって大事なのはアバターとグラットンを同時にフィールドから退けてしまうことであった。

 

「そして光波昇華の効果で特殊召喚されたモンスターはフィールドのレベル4以上のモンスターの数×500ポイント攻撃力をアップさせる。銀河戦士のレベルは5。よって超光波龍の攻撃力は500アップ!」

 

超銀河眼の光波龍 ATK4500→ATK5000

 

「バトルよ! 超銀河眼の光波龍でダイレクトアタック! 消え去りなさい、邪神! 皐月から出ていけ!! “アルティメット・サイファー・ストリーム”!!」

 

超銀河眼の光波龍 ATK5000

 

 

皐月 LP700→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超銀河眼の光波龍の一撃によって髑髏の仮面―――皐月のライフがゼロになった。大きく後ろに吹き飛ばされる形となった皐月であったが、その顔に苦痛の色はほとんど見られなかった。

 もちろん彼女の身体にはそれ相応のダメージがあったことだろう。しかし、今の彼女には黒幕の洗脳から解き放たれたこと、そして何より遊希が自分を倒してくれたことでもうこのようなデュエルをしなくていい、ということから生まれる安心感が何より大きかったのかもしれない。

 

「皐月! 皐月!」

「皐月、しっかりしろ!」

 

 デュエルの後、倒れた皐月を必死に呼びかける遊希とエヴァ。皐月は少し苦しそうにしながらもなんとか両の瞼をこじ開ける。

 

「遊希さん……エヴァさん……助けてくれて……ありがとう……」

 

 言葉こそ途切れ途切れではあるものの、千春の時とは違い詩織の意識ははっきりしているようだった。千春の場合は遊希と戦う前に数十人の生徒を直接痛みが生じる形のデュエルで葬っていたため、身体にダメージが蓄積していたことが大きい。

 しかし、皐月に関しては遊希とのデュエルが初戦ということもあって遊希たちと意思疎通が取れるくらいの体力は残っていたのであった。もしここで万が一遊希やエヴァが皐月に敗れていたとしたら、彼女は間違いなく千春同様に多くの生徒を手にかけていただろう。例え邪神の力の副作用で自分の身体が壊れていったとしても。

 

「そんな、礼を言われる筋合いなんて……だって私はあなたを……あなたを……!」

「遊希、やはりあのモンスターのカードは見当たらない」

「っ……」

 

 エヴァは皐月の左腕につけられたデュエルディスクからデッキを外し、カードを調べてみるがやはりアバター、ドレッド・ルート、イレイザーの3枚の邪神カードはデュエルディスクから姿を消してしまっていた。皐月が敗北した瞬間、彼女を操っていた黒幕が何らかの力を行使して回収でもしたのだろう。三幻魔の時もそうだが、黒幕が対象を洗脳するにあたって最も重きを置いていたであろうカードを回収することが二次被害を防ぐ数少ない手立てでもあり、その黒幕を突き止めるためのヒントとなり得るカードだったのだ。

 

「ねえ、皐月。一つ聞いてもいいかしら?」

 

 皐月を抱きかかえながら遊希は問いかける。皐月は「あまり答えられることはないと思いますが」と前置きしながらも小さく頷いた。

 

「皐月、さっきのデュエルの記憶は?」

「正気だったころを除いては全く……ありません」

「そう……でも正気を取り戻していた時はあったのね? あなた、手抜いたでしょ」

「……ごめんなさい」

 

 皐月が目を背ける。遊希と光子竜が度々感じていた不可解なプレイング。それらの大半は皐月によって意図的に行われていたものだった。

 黒幕は三邪神のカードを通して不可思議な力で皐月を洗脳していたのだが、その洗脳は完全なものではなかったのである。デュエルの最中に少しの間だけ意識を取り戻すことができた彼女は、遊希にトドメを刺さずにターンを渡したりするなど意図的に遊希を勝たせようとしていたのである。

 遊希が自分を倒してくれることを、そして自分や千春を操っている黒幕に辿り着いてくれる、ということを信じて自らが負けるような、自らに危害が及ぶような危険な行動に出たのだった。

 

「本当のデュエルだったら……許されな……いこと……です……」

「そうね。これが真剣勝負だったら私は怒りを露わにしていた―――でもね?」

 

 皐月の顔にぽたりと熱いものがこぼれ落ちる。皐月が目を開くと、そこには宝石のように美しい瞳からぽろぽろと大粒の涙を流す遊希の姿があった。

 

「……そのおかげで、私はあなたを、皐月を……止めることができたのよ?」

「遊希……さん……」

「ごめんね、ごめんね……こんな、こんな辛いデュエルをさせちゃって……ごめんね」

「そんな……遊希さん……泣かないで……遊希さんが泣くと私も……私も涙がっ……!」

 

 遊希と皐月は互いに声を上げて泣いた。親友同士望まぬ形でのデュエル。身体を傷つけ、命を奪い合うようなデュエル。そのようなデュエルから解放された二人の感情が一気に爆発した。

 皐月は遊希は自分にない強さを持っており、それと同時に冷静沈着。自分とは違う世界の人間であると思っていた。一方で遊希は皐月は自分にない優しさと他者に対する思いやり、芯の強さを持ったやはり自分にないものをたくさん持っている人間だと思っていた。

 入学以降、両の隣部屋ということで勉強やデュエルにおいて親身に接してきた。鈴や千春同様に遊希にとって親友と言っても差しつかない関係になっていた。それでも遊希も皐月も互いに何処かで壁を感じていた。しかし、今日のこの瞬間。二人が双方に抱いていたイメージが音を立てて崩れ落ちたのである。

 遊希も皐月も、デュエリストである以前にどこにでもいる少女だったのだ。壁が取り払われたことで、彼女たちは本当の自分をそれぞれ目の前でさらけ出すことができるようになっていた。

 

(……遊希、皐月……わ、私がもらい泣きをしている場合じゃない。私は私のすべきことをしなくては……)

 

 嗚咽を上げながら涙を流し続ける二人を脇目にエヴァはすっと、と立ち上がる。

 

「遊希、私は校長先生たちを呼んで来る。救急車の手配も必要だ」

「えぐっ……ひぐっ……任せていいかしら?」

「ああ。二人はそこで休んでいろ」

 

 エヴァは流れ落ちそうになった涙を堪えるとその場を後にした。数分後、エヴァから報告を受けた竜司たちが到着し、皐月は救急車によって千春が入院している街で一番大きな病院へと搬送された。遊希は皐月に連れ添おうとしたが、エヴァと竜司に諭され結局学校に残ることになった。

 精神的に立ち直ったとはいえ、過酷なデュエルを2日連続で行ったことで遊希の体力も限界を迎えていたことを考慮するとエヴァは遊希を無理させたくは無かったのである。そしてこの夜も遊希はエヴァと同じベッドで眠りについた。

 

「すぅ……すぅ……」

(ふっ、よく寝ている。まるで赤ん坊のようだ)

 

 エヴァは自分が眠るまで隣で眠る遊希の頭を優しく撫で続けていた。遊希にはスカーライトの件もそうだが、たくさんの恩義がある。その恩義に報いるために、今は自分が騎士となって姫たる遊希を守らなければならない。

 

(……スカーライト。私はまだ遊希と光子竜のように意思疎通を取ることはできていない。だが、私の言葉が、意思がこうして伝わっているのならば……私に力を貸してくれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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あの日、あの時

 

 

 

 

 

 皐月とのデュエルから早くも2日が経った。あれ以来操られた誰かが遊希たちの前に現れる―――などということは無く、アカデミア内に厳戒態勢が敷かれていることを除けばまるでいつもと変わらない日であった。1日休んで体力も気力も元通りに回復した遊希は千春と皐月の見舞いに行くことにした。

 どうやら病院側の計らいで千春と皐月は同じ病室に入院しているらしく、事件についての話を聞くのはもちろん、親友同士水入らずの時間を過ごすことができるようになっていた。遊希は途中に立ち寄った商店街の八百屋で買ったフルーツの盛り合わせを片手に病院内を歩いていた。

 

―――どうした? さっきから何を考えている?

 

 光子竜が問いかける。遊希は今日は八百屋の店主や病室を教えてくれた看護師と何気ない会話を交わしはしたが、そのいずれにおいても何処か上の空というところがあった。

 

(昨日からずっと考えていたの。あの時皐月が正気に戻ってなかったら私はどうなっていたのかって)

 

 デュエルの最中途切れ途切れではあるが正気に戻っていた皐月が敢えてプレイングミスを行っていたことは既に聞いた。普通のデュエルでそのようなことをされたら遊希は烈火のごとく怒っていたかもしれない。それでも状況が状況だけに遊希は彼女を責める気にはなれなかった。責める気にはならないものの、彼女の心の中には心残りがあった。

 

(操られていて自分だって大変な状況なのに皐月は私のことを考えて行動してくれた……もし私が同じ立場にあったとしたらそれができたのかしら)

 

 遊希は皐月と出会った頃、実は彼女に対してはあまり好感を持っていなかった。鈴や千春のようにはっきりした性格でもなく、一歩引いたような、少しオドオドしていた皐月はどこかかつての自分を見ているようで好きになれなかったのだ。

 それでもそんな自分の弱さを認めた上でデュエリストとして自分を高めたいと強く望んでいるその姿を見てその認識はすっかり消え失せていた。それこそ皆の前では少しでも強く、堂々としていたいと虚飾を飾っていた自分を恥じるほどに。

 

―――難しい話だな。私には人間の気持ちというものはそう理解できないが……

(が?)

―――お前にあのようなデュエルはさせない。そのために私はいる。

(……光子竜)

―――何だ。

(あんたもたまにはまともなことを言うのね)

―――!? たっ、たまにはとはなんだ! 私はいつだって真剣に……!!

「あ、着いた着いた」

―――無視するな!!

 

 脳内で喚き散らす光子竜を尻目に、千春と皐月がいる病室に着いた遊希は入口の横に設置された消毒液で手を洗い、病室のドアを軽く三度ノックする。千春も皐月も意識こそ戻ったとはいえ疲労困憊の状態にあるはず。そんな見舞いのフルーツだけを置き二人の寝顔だけを見て帰ろうと思っていた。

 

 

「……?」

 

 そんなことを考えながらドアを開けた遊希は言葉を失う。病室であるはずのその空間はすっかりアカデミアにもあるデュエルスペースへと変貌していたからだ。

 

「私は《守護竜アガーペイン》の効果を発動します。2体以上のリンクモンスターのリンクマーカーの先になっているモンスターゾーンにEXデッキからヴァレルソード・ドラゴンを特殊召喚します!」

「ぎゃーっ! ヴァレルソードをそんなにあっさり出さないでー!!」

 

 病室ではなんと千春と皐月がデュエルを行っていた。入院中なのでデュエルディスクを使うことはできないでいたが、患者用のベッドについていた食事用の机にカードを敷き詰めて卓上デュエルという形でデュエルをしていたのである。

 最初から見ていなかったのでわからなかったのだが、状況から察するに皐月が先攻を取って【守護竜】リンクモンスターの効果で大型のドラゴン族を大量展開しているのだろう。戦闘破壊できず、フリーチェーンで表示形式を変更するヴァレルソードはサイバーモンスターからしてみれば高い攻撃力を活かしての攻撃を防ぐ厄介な存在である。千春が嘆くのもさもありなん、というものであった。

 

「な、なにしてんの……二人とも」

「遊希じゃない! おはよー!」

「遊希さん、お見舞いに来てくれたのですね。ありがとうございます」

 

 ドアのところで呆然と立ち尽くす遊希を笑顔で迎える千春と皐月。そんな二人に対して遊希は下を向いたままその場を動こうとしなかった。二人が心配そうに声をかけると、顔を上げた遊希は顔を真っ赤にしてはまたしても大粒の涙をぽろぽろと流していた。

 

「ゆ、遊希!?」

「どうされたんですか……涙なんて流して」

「あんたたち……なんで入院してまでデュエルなんかやってるのよ!! 無理して治るのが遅くなったらどうすんのよ!! ばかぁ! ばかぁ! ばかぁぁぁ!!」

 

 遊希は病み上がりの状態でデュエルをする二人を心配すると同時に、止むを得ずとはいえ自分が傷つけた二人が元気にデュエルをする姿を見て心が救われたような気がした。悲しみと怒りと喜び。3つの相反する感情が心の中でぶつかり合った結果がこの涙なのだ。

 

「はい遊希、お口開けて。ほら、あーん」

「あーん」

「美味しいですか?」

「うん……」

 

 そんな遊希が泣き止むまで数十分かかった。子供のように泣きじゃくる遊希に千春と皐月は遊希が持ってきたフルーツの皮を剥いて食べさせるなどしてなんとか泣き止ませた。傍からどちらが入院患者でどちらが見舞いに来た者かわからなくなる。そんな奇妙な光景であった。

 

「でもさ、私たちってデュエリストじゃない?」

「ええ……やっぱりデュエルをしている時が一番楽しくて……」

 

 苦笑いする二人に対して遊希は終始膨れっ面だった。

 

「……もっと、自分を労わってよ。入院には私も、一枚噛んでるんだし」

「もしかして遊希、自分が悪いって思ってる?」

「えっ? だって……」

「そんなこと思っちゃダメよ! あんたはやるべきことをやったんだから!」

「はい。遊希さんは何も悪くありません。もし私が同じ立場に置かれたらきっと遊希さんと同じことをしていたと思います」

「千春、皐月……ありがと。その言葉でだいぶ救われた感じがする」

 

 そう言って俯く遊希の頭をよしよしと代わりばんこに撫でる千春と皐月。この病室内で過ごした数十分で三人の仲がより深まったのは言うまでもない。

 

「……ところで。私、二人に聞きたい事があるの」

 

 すっかり落ち着いた遊希が尋ねたこと。それは二人の記憶がどこまで残っているか、ということであった。千春と皐月はこの一連の事件の黒幕に操られる、という形で遊希の前に現れた。

 朝に健闘を誓って別れた後、二人の身に何があったかを知ることで事件の真相に近づくことができる。遊希はそう踏んだ。最もこの手段には二人がどこまで覚えているか、ということが重要であり、その記憶の範囲で得られる情報は大きく変わってくる。そのため千春と皐月に事件の真相解明が掛かっていると言ってもいい。

 

「あのね……あたしはね……」

 

 数分の沈黙を最初に破ったのは千春だった。

 

「パズルカード完成まであと1枚、そんな時に私の前に現れたのよ」

 

 そう言いながら千春は誰もいないところを指差す。何も虚空を指差しているのではない。遊希と皐月は千春が誰のことを言いたいのかすぐに理解した。本来ならばこの場にいるべきはずであるにも関わらず、ここにいない四人目の少女の事を。

 

「鈴……ね」

 

 千春は何も言わず頷いた。千春は2日目に入ってからは絶好調だった。1日目で集めきれなかった分のパズルカードを集め、何も無ければ順当に決勝進出を決めていたはずだった。

 そんな千春の前に現れたのは千春とは違うブロックで戦っていたはずの鈴であった。千春は何故鈴がここにいるのか、と当然疑問に思ったが恐らく鈴も自分と同じように勝ち抜いたため、自由にブロック間を移動できるようになったのだろうと判断した。しかし、それは大きな間違いであった。この時既に鈴は何者かに洗脳されてしまっていたのである。

 

「それで鈴に一緒に行こうって誘ったの。でも鈴は何も答えなかった。それで……」

「デュエルを挑まれた」

「ええ。でもデュエルの内容はあんまり覚えていないわ」

 

 千春は鈴の誘いに応じ、デュエルを受けた。デュエルディスクを展開し、先攻を取ってサイバー・ドラゴン・インフィニティをX召喚したことまでは覚えている。しかし、次にはっきりとした記憶がある時は鈴のモンスターの総攻撃で自分のライフが尽きた瞬間だった。

 

「鈴のデッキは……千春も皐月も私とデュエルをした時は本来のデッキを使っていなかった」

「らしいわね。少なくとも【青眼】デッキじゃなかったのは確かよ。なんか見慣れないモンスターがババーッて出てきて……ドカーンってやられて……」

 

 千春の記憶が定かなら鈴の使用したデッキも千春の【三幻魔】や皐月の【三邪神】同様I2社から盗まれた危険なカードなのだろう。これまでのことを整理すれば黒幕は千春や皐月にやったように、鈴も同様の方法で洗脳した上で未知のカードを渡し、自らの操り人形としてその手を汚させたと思われる。

 

「でもなんで鈴や私たちなのかしら? 洗脳するならもっと役に立ちそうな人がいた気がするけど」

「……どういうことですか?」

「考えてもみなさいよ。確かに私たちは強いわよ?」

 

 そこは認めるんだ、と突っ込む遊希に千春は元気よく当然、と返す。この根拠のない自信を持っているのはいつもの千春である。

 

「でも私たちなんてまだ1年生じゃない。もし襲わせるんだったら2年生や3年生、先生たちのようにもっと実績も知識もあるデュエリストを操るはずよ」

「確かに……普通ならそうしますよね……?」

 

 難しい顔をして首を傾げる千春と皐月。そんな二人を前に遊希は自嘲気味に言った。

 

「……黒幕が誰だかわからないけど……そいつの狙いはきっと私」

「遊希さんが?」

「なんでよ?」

「これまで私の前に敵として現れたデュエリストの人選。千春、藤堂 雄一郎、皐月にまだ操られているかどうかは確定していないけど、操られていると仮定すれば鈴。この四人のデュエリスト以外の共通点。それはみんな私と懇意にしている人たちよ」

 

 鈴、千春、皐月は言うまでもなく遊希の親友であり、ルームメイトだ。藤堂 雄一郎に関しては一見何の関係も無さそうであるが、彼は竜司と古い付き合いであり、竜司を通じてプロデュエリストの世界に足を踏み入れた遊希とは親交があるのだ。

 現に中々プロの世界に馴染めないでいた遊希を優しく見守った竜司に対し、雄一郎は度々茶化したりするなどして遊希をよくからかっていた。始めは遊希は雄一郎のことが嫌で嫌で仕方なかったが、幼かった遊希が予断の許さないプロの世界で心を開いた数少ない人間の一人が雄一郎なのである。

 

「千春とデュエルしてたってことがわかった時、私は酷く傷ついた。それこそエヴァに泣きつくくらいにね」

「つまり相手は精神的に遊希を追い詰めようとしてたってこと!? エグいことするわね、本当に腹立つわ!」

「まあこればっかりは私の推測に過ぎないけどね。鈴を取り戻した上で黒幕を白日の下に引きずり出して問い詰める。それでやっと相手の真意がわかるはずよ」

 

 千春から一通り話を聞き終えた遊希は次は皐月から話を聞くことにした。皐月は千春さんがほとんど喋ってしまいました、と前置きした上で覚えていることを話し出した。皐月も千春と同じように鈴と出会っていた。最も彼女と鈴は同じブロックなので予選中に遭遇する可能性は十分にあった。

 

「私も千春さんと同様鈴さんに声をかけましたが、何も返してくれませんでした。そしてデュエルになって……」

「負けた、と」

「……はい。私の場合はヴァレルロードのような大型リンクモンスターを早々にリンク召喚できなかったため万全なフィールドを作れなかった、というのもあったのですが」

 

 やはり皐月も覚えていることは千春とほとんど一緒だった。先攻を取り、ターンを相手に渡したところで記憶が途絶え、次に覚えていたのは鈴の召喚したモンスターによってあっという間に自分の8000のライフが0にされる瞬間だった。

 

「……あっ、でも……」

「でも? 何でもいいから言って!」

「……私と鈴さんがデュエルを始めようとした時でした。鈴さんの後ろに誰かいたんです。そうですね……あまりはっきりと覚えていないのですが……女子生徒の方がまるで監視するかのように立っていました。とても珍しかったです。なにせ、髪の毛の色が銀色……でしたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞き終わった遊希は千春と皐月に安静にしておくようにときつく言い聞かせて病室を後にした。次に起きてデュエルなどしているものなら本当に拳骨を食らわせてやる、などと思うほどに。

 

―――案外多くのことを聞くことができたな。

(ええ。断片的なことではあるけど、為になる話は聞けたわ)

 

 遊希が特に気になっていたのは詩織の言っていた「銀髪の女子生徒」である。操られている鈴を監視するように立っていたというその少女―――この少女が黒幕の可能性が高い。最もこの少女も操られており、監視役を任務を押し付けられたという点も捨てがたいため、この時点で決めつけてしまうのは聊か早計であることは否めなかった。

 

(……銀髪の女子生徒……日本人で銀髪なんて染めでもしない限りいないわよね)

―――エヴァ・ジムリアは銀髪だが?

(まさかエヴァが黒幕とか思ってないでしょうね? 確かにあの子は精霊を持っているけどまだ自在にその力を使えないわ)

―――言っただけだ。ただ疑ってしかるべきと私は考えるが?

(っ……)

 

 遊希が光子竜のその言葉に渋い顔を浮かべた瞬間、ズボンのポケットに閉まっていたスマートフォンがブルブルと振動する。電話だとしたら竜司かエヴァだろう。千春と皐月の話を聞いているうちに初夏の空はすっかりオレンジ色に染まりかけていた。状況が状況だけに心配をかけてしまっていたかな、と思いながらスマートフォンを取り出し、画面を見る。

 次の瞬間、遊希は足を止めた。スマートフォンの画面にははっきりと「星乃 鈴」の名前が表示されていたからだ。

 

(えっ? えっ……?)

―――遊希、出ろ! もしかしたら……

(わかったわ!)

 

 病院内で堂々と電話をするわけにもいかないため、遊希は病室から離れた誰も通らないような場所に立ち寄ると、意を決してスマートフォンの通話ボタンをタップした。

 電話は無事繋がった。遊希が電話に出ると、彼女の耳には機械を通した音らしきものが虚しく響くだけだった。遊希は生唾を飲み込み「もしもし」と通話口に喋りかける。だが、それでも向こうからの反応は無かった。悪戯電話か、それとも何らかの拍子で誤って掛かってしまっただけだったのか。安心と不安が入り混じる微妙な気持ちになった遊希が電話を切ろうとした刹那。

 

 

 

『―――うふふっ』

 

 

 

 誰かの微笑らしき声が響いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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愛する人

 

 

 

 

 

 

「……鈴!? 鈴なの!? ねえっ!!」

『さあ、私は誰でしょう? わかりますか? うふふっ』

 

 その声を聴いた瞬間、遊希は電話の相手が鈴でないことを悟った。鈴の声は今時のギャルらしくキンキンとしているが、もう少し低いところがある。少なくとも電話口から聞こえる猫撫で声のようなものではなかった。

 

「……あなた、誰?」

『私の声……すっかり忘れてしまったのですね。あなたなら私が誰だかわかるはずなのに……』

 

 いまいち会話は噛み合わない。遊希はその声に心当たりは無かった。だが、それと同時に電話の相手が何者かを察する。

 

「……お前か」

『はい?』

「お前か。鈴を攫い、千春や皐月、雄一郎さんを操って非道なデュエルをさせたのは……!!」

『非道? 酷い言い方ですね、あんなに楽しそうなデュエルだったのに』

「っ……貴様!! 貴様は一体誰だ!! 私の何が目的だ!! 鈴を何処に連れ去った!!」

『……取り乱すのは辞めてください。あなたの美しい顔が台無しですよ、うふふっ』

 

 一言一言にありったけの怒気を込めて会話する遊希に対し、電話の相手はそんな遊希を軽くあしらう。電話の相手の癖なのか、言葉の最後に微笑を絡める様が逆に遊希の神経を逆撫でさせた。

 

「今すぐ出てこい。貴様を倒して鈴を助ける、そして償わせてやる! 皆のデュエリストの誇りを傷つけたその罪を!!」

『……はい、と言いたいところですがそうも行きませんよ。私はこれからやることがあるので。うふふっ』

「やること……」

『ええ。お節介になるかもしれませんが、あなたには私などより他に気にかけるべき人がいるんですよ? 例えば……あのロシア人の方、とか―――うふふっ』

 

 電話口の相手がそう言い残し、電話は切れてしまった。遊希の脳裏には瞬時にエヴァの顔が浮かぶ。

 

(―――エヴァ? エヴァが……狙われる!!)

―――遊希、すぐにアカデミアに戻るぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故お前がここにいる? お前は英国にいるのではなかったのか?」

 

 遊希が病院で謎の人物と電話をしていた時。学校で遊希の帰りを一人待っていたエヴァの前に一人の少年が現れた。その少年は高そうな白いスーツを身に纏ったエヴァと同じ西洋人だった。

 

「久しぶりだね、エヴァ。またこうして会えたことが嬉しいよ」

「ああ、私もだ。いつかまたお前に会いたいと思っていたよ。でも、その左腕についたデュエルディスクはどういうことだ?」

「おや、プロデュエリストの君ならこれが何を意味するかわかるだろう?」

 

 エヴァは無言でデュエルディスクを構える。それを見た瞬間、少年もまた同じようにデュエルディスクを構えた。少年は千春や皐月のように正体を隠しておらず、その声には特殊な加工は一切為されていなかった。しかし、エヴァはその少年が醸し出す雰囲気で少年が正気でないことを察した。

 

「さあ、デュエルだ。僕は君に勝つ。そして君を僕の下へと迎え入れる」

「……こんな形でデュエルなんてしたくはなかった。でも私は逃げないぞ、ジェームズ。私の―――愛する人よ」

 

 エヴァの前に現れた少年―――彼の名は“ジェームズ・アースランド”。《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》を手に入れたエヴァがかつて傷つけてしまった人間の一人であり、彼女の“婚約者(フィアンセ)”だった少年である。

 

 

先攻:ジェームズ

後攻:エヴァ

 

 

ジェームズ LP8000 手札5枚

デッキ:40 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(ジェームズ)

 

「僕の先攻だよ。僕は手札からフィールド魔法《チキンレース》を発動」

 

《チキンレース》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、相手よりLPが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージは0になる。

(2):お互いのプレイヤーは1ターンに1度、自分メインフェイズに1000LPを払って以下の効果から1つを選択して発動できる。この効果の発動に対して、お互いは魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

●デッキから1枚ドローする。

●このカードを破壊する。

●相手は1000LP回復する。

 

「チキンレース……だと?」

「僕はライフを1000支払い、チキンレースの効果を発動するよ」

 

ジェームズ LP8000→LP7000

 

「僕が発動するのはドロー効果。デッキから1枚ドロー。そして魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。墓地へ送るのはレベル1・植物族の《アマリリース》にしようかな」

(チキンレースにアマリリース……以前のジェームズのデッキには入っていなかったカードだ)

 

 かつてジェームズ・アースランドというデュエリストが使っていたのは闇属性のモンスターで統一されている【インフェルニティ】というデッキだった。手札が0枚の場合に効果を発動できるモンスターで構築されたそのデッキは所謂“ハンドレスコンボ”によって高い性能を秘めたデッキであり、そんな彼と出会っていたからこそエヴァがプロデュエリストになるまで鍛えられたと言っても過言ではない。

 しかし、インフェルニティデッキにはチキンレースのような汎用性の高いカードであっても入る余地はほとんどなく、アマリリースのように使いどころが限られるカードなどファンデッキでもインフェルニティでは採用されないはず。想定外のカードにエヴァがジェームズのデッキの内容が掴めずにいた。

 

「そして僕のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。SRベイゴマックスを特殊召喚」

「ベイゴマックスだと!?」

「特殊召喚に成功したベイゴマックスの効果を発動。僕はデッキからSRタケトンボーグを手札に加える。そして自分フィールドに風属性モンスターが存在することでタケトンボーグを手札から特殊召喚。永続魔法、冥界の宝札を発動。これで僕は2体以上のモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した場合にデッキからカードを2枚ドローできる」

「っ……一体何をアドバンス召喚するつもりだ」

「見せてあげるよ。僕の―――“神”をね。僕はベイゴマックスとタケトンボーグをリリースし、このモンスターを降臨させる!」

 

 ベイゴマックスとタケトンボーグの2体は黒い泥のようなものに飲み込まれていき、その泥からは巨石のようなものが不気味に現れた。巨石のように見えるそれはまるで何者かの心臓の如くドクン、ドクンと脈打っていた。

 

(っ、この嫌な感覚は……まさか、三幻魔や三邪神に匹敵するだけの力を!?)

 

 

 

 

 

―――“積年の恨み積もりし大地に眠る魂達よ!今こそ穢された大地より出でて、我に力を貸さん!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――降臨せよ!《地縛神 Chacu Challhua》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェームズのフィールドには巨大な鯱のようなモンスターが地面を突き破って現れる。虚空を大海の如く泳ぎ回るその姿はまさに全ての海を支配する王が如く雄大であった。

 

「地縛神(じばくしん)……!? なんだ、そのカードはっ!!」

「地縛神。それはナスカの地上絵に封印された邪神。I2社が地上絵をモチーフに作りだしたカードに僕の主が魂を与えたんだよ。設定どおり、邪神としての魂を……ね」

 

 

《地縛神 Chacu Challhua(チャクチャルア)》

効果モンスター

星10/闇属性/魚族/攻2900/守2400

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

また、1ターンに1度、このカードの守備力の半分のダメージを相手ライフに与える事ができる。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

このカードがフィールド上に表側守備表示で存在する限り、相手はバトルフェイズを行えない。

 

 

「2体以上のモンスターをリリースしたことで僕は冥界の宝札の効果で2枚ドロー。地縛神 Chacu Challhuaの効果を発動。このカードの攻撃権を放棄することでこのカードの守備力の半分のダメージを相手ライフに与える。“ダーク・ダイブ・アタック”!」

 

エヴァ LP8000→LP6800

 

「ぐっ!?」

 

 Chacu Challhuaの口からは海中で鯱や鯨のような海獣類がコミュニケーションをとる時に発せられるような超音波のような波動が放たれる。その波動を浴びたエヴァの身体にはまるで電撃が流されたかのような痛みが走った。

 

(この痛みは……遊希はこんな痛みを浴びながら戦っていたというのか……!?)

 

 これまでのデュエルにおいてエヴァはいずれも傍観者という立ち位置にあった。もし遊希が敗れた場合は自分がその後を引き継いで戦うと決めていたのだが、これまで戦いに臨んだ遊希や竜司といったデュエリストたちはいずれも勝利を収めていたためエヴァの出番はないに等しかった。

 ただ、遊希と竜司に共通していたのはいずれも“親しい者”とデュエルをしていたということである。このような痛みに耐えながら、親友たちと不本意な形でのデュエルを強いられていた痛みや悲しみをエヴァは改めて思い知らされる形となった。

 

(遊希……あなたがそこまで傷ついた理由がよくわかった。だからこそ、あなたにもうあのような苦しみは味合わせない!)

「僕はカードを3枚セット。これでターンエンドだ。さあ、エヴァ……かかっておいで。あの時のように僕を苦しめてみせるんだ」

 

 

ジェームズ LP7000 手札0枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1(地縛神 Chacu Challhua)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(冥界の宝札)フィールド:1(チキンレース)墓地:4 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP6800 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

ジェームズ

 □伏冥伏伏

チ□C□□□

  □ □

 □□□□□□

 □□□□□

エヴァ

 

 

○凡例

C・・・地縛神 Chacu Challhua

チ・・・チキンレース

冥・・・冥界の宝札

 

 

☆TURN02(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!!」

「ああ、言い忘れていたけれど……地縛神は相手の攻撃対象にならない。つまり地縛神のみがフィールドに存在する場合、君は攻撃することができないんだ。覚えておくといいよ」

「……助言に感謝する。どちらにせよその攻撃力のモンスターを突破するには戦闘では難しいからな。だが、お前は致命的な失策を犯した。私はライフを1000払い、チキンレースの効果を発動!」

 

エヴァ LP6800→LP5800

 

「私が適用するのは3つ目の効果、チキンレースを破壊する効果だ!」

 

 地縛神は直接攻撃が可能であり、そして相手モンスターの攻撃対象にならないという効果を持つ。存在するだけでモンスターによる一切の攻撃が封じられてしまうのはとても厄介な効果であった。しかし、強すぎる効果の裏側には確実にリスクが存在する。それがフィールド魔法が存在しなくなった時、自壊してしまうというものだ。もちろん地に縛られた神―――という設定で存在する地縛神である。依代となる地が存在しなくなってしまえば消えてしまう、というのは設定に忠実であると言えよう。

 

「いいよ。チキンレースは破壊しても。でも僕はそれにチェーンしてリバースカードの効果を発動する。Chacu Challhuaを対象に罠カード《デストラクト・ポーション》を発動」

 

《デストラクト・ポーション》

通常罠

自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。

 

チェーン2(ジェームズ):デストラクト・ポーション

チェーン1(エヴァ):チキンレース

 

「チェーン2のデストラクト・ポーションの効果でChacu Challhuaを破壊し、僕はその攻撃力分のライフを回復する。Chacu Challhuaの攻撃力は2900。よって2900のライフを回復だ」

 

ジェームズ LP7000→LP9900

 

「……チェーン1のチキンレースの効果。チキンレースを破壊する」

「致命的、どころか逆にライフを回復させてもらったよ。チキンレースをフィールド魔法として活用するデメリットを僕が考えていないと思ったのかい? 言っておくけど僕だって君に負けないようにデュエリストとしての研鑽は積んでいるんだよ。もちろん第一は会社の後を継ぐための経営者として成長することだけど」

 

 ジェームズ・アースランドは母国イギリスを代表するIT企業『アースランド・テクノロジー』の跡取り息子である。彼の祖父の代に創設されたこの会社はアメリカのI2社や日本の海馬コーポレーションと業務提携を結ぶことで、デュエルディスクの内蔵コンピューターなどデュエル関係の技術を立案・開発することで発展を遂げてきたのだ。

 

「なるほど、一筋縄ではいかないようだな。だが、お前が成長しているように私も日々プロデュエリストとして成長している。それを見せてやろう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決別の時

 

 

 

 

 

 

「私は手札から永続魔法、黒い旋風を発動。BFモンスターの召喚に成功することで私はデッキからそのBFモンスターの攻撃力以下のBFモンスター1体を手札に加えることができる」

「黒い旋風……相変わらずそのカードを初手に引き当てるね。君がそのカードを初手に引いた時に僕は勝てたことがあっただろうか?」

「何を言うか……お前は結構勝っていたじゃないか。私がプロになる前はだいぶ負け越していたぞ?」

 

 そう言って何処か懐かしい目をするエヴァ。エヴァとジェームズの出会いは10年以上前に遡る。エヴァはロシアの旧貴族の家に生まれ育ち、かつての栄華こそ失われていたものの、家族にも恵まれ何不自由なく育ってきた。そんな彼女の家に縁談が持ち掛けられたのはエヴァが4歳、ジェームズが7歳の時である。

 

「わたしがエヴァ・ジムリアだ! おまえがわたしのフィアンセか!」

「うん、僕はジェームズ・アースランド。宜しくね、エヴァちゃん」

 

 エヴァの家は歴史が古く、それこそロシア史の教科書に名前が載っていてもおかしくないほどの名家であるが、時の流れに飲み込まれその名声もそれほどの権威を持たなくなっていた。そういった意味でもジェームズのような有数の家の息子と婚姻関係を結べるとなれば、乗らないわけがない。エヴァの両親はエヴァに許可を取ることなく、その縁談に二つ返事で応じてしまった。

 

「おい、ジェームズ! 暗黒騎士ガイアごっこをするぞ! わたしがガイアだ、おまえはしたのうまをやれ!」

「いいよ。君を乗せて螺旋相殺を決めてみせよう」

 

 家同士が決めた婚約、というものはこの時代においても確かに存在している。小説やドラマでは親が決めた縁談に反発した娘が家を飛び出したり、意中の相手と恋に落ちたり、といったストーリーがよく見られるが、エヴァとジェームズの間にはそのような波乱は見られなかった。尊大な口調ながらも素直なエヴァと穏やかで落ち着いたジェームズは両家の親が思っていた以上に馬が合ったようで、彼ら二人もいつしか相思相愛の仲になっていたのだ。

 

「いつぶりだろうね、もう朧げだよ。僕たちは自分で言うのもなんだけど、とても仲が良かったね」

「ああ、互いに10歳にも満たないのに既に夫婦のようだとよく言われていたな」

「それでも……僕たちは一緒になることはできなかった」

 

 二人が仲良くなった理由の一つに共通の趣味があった。それがデュエルモンスターズである。エヴァは家族がそんな娘のために用意した【BF】デッキを、ジェームズは父の友人であったプロデュエリストから譲り受けたデッキである【インフェルニティ】デッキをそれぞれ使ってデュエルをしていた。

 後にエヴァは遊希に憧れ、彼女と入れ替わる形でプロの世界へと足を踏み入れ、その美しい容姿も相まって瞬く間にスターダムを駆けあがっていった。一方のジェームズは父の跡を継ぐため必死に経営やITテクノロジーについて勉強を重ねた。そして遠くからエヴァのことをずっと応援していた。

 そんな二人を引き裂いたのが1枚のカード。トーナメントの優勝賞品として入手した《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が突如変化し、精霊のカードとなった《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》であった。忙しい合間に設けられたたまの休みに再会した二人は普通にデュエルをしていたのだが、そのデュエルの最中にレッド・デーモンズ・ドラゴンは突如スカーライトへと変化。そしてそのスカーライトの力が暴走。ジェームズは負傷し、1年間の入院を余儀なくされてしまったのだ。

 跡取り息子に怪我を負わされたことに激怒したジェームズの家はエヴァの家に破談を申し入れた。もちろん愛し合っていたエヴァとジェームズは互いにそれを望まなかったが、事態は子供二人の言葉で解決できる状況を超えてしまっていた。そうして二人の願いも虚しく、取り交わされた婚約は水の泡と消えてしまったのである。

 

「改めて言うことではないかもしれないがな……私は今でもジェームズ、お前のことを愛している」

「うん。僕もだよ、エヴァ」

「それならば、何故私はお前とデュエルをしている? 何故……」

 

 周囲に認められているのにも関わらず、何故ジェームズはエヴァとこのようなデュエルをしているのか。まさかジェームズが敵として自分の前に立ちはだかることなど全く予想だにしていないことだった。

 

「僕はね、ずっと強くなりたかったんだ。夫として君を守るために。あの人はそんな僕に力をくれたんだよ」

 

 ジェームズの言う“あの人”が誰なのかをエヴァはまだ知らない。ただこの状況において彼に力を与えたのが何者なのかということはわかる。

 

「あの人……そのあの人が何をしているかお前は知っているのか!? そいつは私の大事な仲間を操って非道なデュエルをさせているのだぞ!!」

「その人が誰であろうと僕は構わないさ。君との愛を取り戻せるのならば!」

 

 互いに互いを想い合っていることは誰が見ても明らかであった。しかし、愛し合っていても二人は違う方向を向いていた。エヴァを愛するために必要なことである―――必死に自分の正当性を訴えるジェームズであるが、そんなジェームズに対してエヴァは怒りの中に悲痛な面持ちを浮かべた。

 

「……ジェームズ、前言撤回だ。今のお前を私は愛することができない! 私は《BF-上弦のピナーカ》を召喚!」

 

《BF-上弦のピナーカ》

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/鳥獣族/攻1200/守1000

「BF-上弦のピナーカ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードをS素材とする場合、「BF」モンスターのS召喚にしか使用できない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「BF-上弦のピナーカ」以外の「BF」モンスター1体を手札に加える。

 

「BFの召喚に成功したことで私は黒い旋風の効果を発動。デッキからピナーカの攻撃力1200以下のBFモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのは攻撃力800の《BF-白夜のグラディウス》。そしてグラディウスは自分フィールドに表側表示で存在するモンスターがBF1体の時、手札から特殊召喚できる!」

 

《BF-白夜のグラディウス》

効果モンスター

星3/闇属性/鳥獣族/攻800/守1500

(1):自分フィールドの表側表示モンスターが「BF-白夜のグラディウス」以外の「BF」モンスター1体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

 

「私はレベル3のBF-白夜のグラディウスに、レベル3のチューナーモンスター、BF-上弦のピナーカをチューニング!“夜空に瞬く無数の星に隠れし影の戦士よ。黒き翼を奮い暗躍せよ!”シンクロ召喚! 来い、BF-星影のノートゥング!」

 

 レベル6のSモンスターであるBF-星影のノートゥングがその黒い翼をはためかせてフィールドに舞い降りる。ノートゥングは特殊召喚に成功することで相手ライフに800のダメージを与えることができる。ノートゥングの手に握られた剣は黒い斬撃となってジェームズの身体を切り裂いた。

 

ジェームズ LP9900→LP9100

 

「っ……まあ、デストラクト・ポーションのおかげで大したダメージにはならないかな」

「ライフ9900というのはさすがに侮れないな。だが、私のデッキは多数の大型SモンスターをS召喚することに長けている。例えライフが数万に至ろうとも、削り切ってみせる! ノートゥングがモンスターゾーンに存在する時、私は通常召喚に加えて一度だけBFモンスターを召喚することができる。手札よりBF-精鋭のゼピュロスを召喚! 黒い旋風の効果を発動! 攻撃力1600以下のBFモンスター、BF-疾風のゲイルを手札に加える! そして開け! 黒き疾風の先に広がるサーキット!」

 

 エヴァが手を天に掲げると、リンクモンスターのカードイラストの枠に描かれた正方形の枠が現れる。エヴァがジェームズと一緒に遊んでいた頃はまだ存在すらしていなかったリンク召喚である。もちろん彼からしてみればエヴァがS召喚のみならずリンク召喚を使いこなせるだけのデュエリストであることはわかっていた。

 

「アローヘッド確認。召喚条件は闇属性モンスター2体。私はノートゥングとゼピュロスをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 来い、リンク2。見習い魔嬢!」

 

 見習い魔嬢は闇属性モンスターの攻守を500ポイントアップさせ、光属性モンスターの攻守を400ダウンさせる効果を持ったリンク2のリンクモンスターだ。リンクマーカーが左下と右下に向いていることから更に2体のモンスターをEXデッキから特殊召喚することができる。

 

見習い魔嬢 ATK1400→ATK1900

 

「私は墓地のゼピュロスの効果を発動! 自分フィールドの表側表示のカード1枚を手札に戻すことでこのカードを墓地から特殊召喚する! 最も私は400のダメージを受けるがな」

 

エヴァ LP5800→LP5400

 

BF-精鋭のゼピュロス ATK1600/DEF1000→ATK2100/DEF1500

 

「ゼピュロスの効果は1回のデュエルで1度しか使用できない。こんな序盤で使ってしまってよかったのかい?」

「序盤だからと言ってもったいぶれるような相手ではないからな。そして私のフィールドにBFが存在する時、疾風のゲイルとBF-突風のオロシは手札から特殊召喚することができる。私はレベル4のBF-精鋭のゼピュロスにレベル3のチューナーモンスター、BF-疾風のゲイルをチューニング!“風と心を通わせし漆黒の鷹匠よ。天空を舞い黒き戦士たちを誘う先駆けとなれ!”シンクロ召喚、誘え! BF T-漆黒のホーク・ジョー!!」

 

BF T-漆黒のホーク・ジョー ATK2600/DEF2000→ATK3100/DEF2500

 

 S召喚されたホーク・ジョーの導きによって、墓地に眠っていたノートゥングが再度飛翔した。テイマー(調教師)の名を持つ通り、BFの名を持ちながら、大型の鳥獣族を自在に操ることができるのがこのモンスターの最大の特徴であった。

 

「漆黒のホーク・ジョーの効果を発動! 墓地のレベル5以上の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。特殊召喚するのはレベル6のノートゥングだ。墓地から蘇生されたことで、リンク先でないメインモンスターゾーンに特殊召喚できる」

 

BF-星影のノートゥング ATK2400/DEF1600→ATK2900/DEF2100

 

「そしてレベル6のノートゥングにレベル1のチューナーモンスター、突風のオロシをチューニング!“漆黒の翼、雷鳴渦巻く空に翻す。その刀を以て全てを断ちきれ!”シンクロ召喚、現れよ! A BF-驟雨のライキリ!」

 

A BF-驟雨のライキリ ATK2600/DEF2000→ATK3100/DEF2500

 

「攻撃力3100のモンスターが2体……」

「このまま攻めることもできるが、まずはライキリの効果を発動する。1ターンに1度、ライキリ以外の自分フィールドのBFモンスターの数だけ相手フィールドのカードを破壊する。私のフィールドには漆黒のホーク・ジョーが存在するため、1枚を破壊することができる。対象は私から見て左側に存在するセットカードだ!」

「ただで破壊させるわけにはいかないよ。僕はライキリの効果にチェーンしてライキリの対象になったセットカードを発動。罠カード《メタバース》だ」

 

《メタバース》

通常罠

(1):デッキからフィールド魔法カード1枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。

 

チェーン2(ジェームズ):メタバース

チェーン1(エヴァ):A BF-驟雨のライキリ

 

「チェーン2のメタバースの効果。僕はデッキからフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピアを発動するよ」

「フィールド魔法を補充してきたか……チェーン1のライキリの効果でそのメタバースを破壊する。フィールド魔法が存在していることは大事だが、お前のフィールドにはそのフィールド魔法で縛る地縛神は存在しない。言わば無用の長物というやつだ」

 

 エヴァのフィールドに存在する3体のモンスター、ライキリ、ホーク・ジョー、見習い魔嬢の攻撃力の合計は8100。もしジェームズがデストラクト・ポーションを発動していなければこの3体の攻撃でデュエルは終わっていただろう。

 

「このターンでは終わらせられない。だが、勝負を決めに行くことはできる! 私はメインフェイズ1を終えて―――」

「ではこのメインフェイズ1終了前に僕はもう1枚のセットカードを発動させてもらうよ!」

「このタイミングでリバースカードを!?」

「罠カード、戦線復帰を発動。墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。地縛神はこの手のモンスターには珍しく、特殊召喚も可能なんだよ。僕は墓地に眠るChacu Challhuaを守備表示で特殊召喚する! 地縛神は全て闇属性。よって見習い魔嬢の効果を受ける」

 

地縛神 Chacu Challhua ATK2900/DEF2400→ATK3400/DEF2900

 

「そしてChacu Challhuaが守備表示で存在する限り、君はバトルフェイズを行うことができない」

「……どちらにせよ、地縛神のみしか存在しない限り、私は攻撃できないからな。私は……これでターンエンドだ」

 

 Chacu Challhuaが守備表示で存在することでエヴァはバトルフェイズに移行することができない。デュエルモンスターズのルールではバトルフェイズに入らなければメインフェイズ2に入ることができないため、Chacu Challhuaが守備表示で存在する限り、エヴァはバトルフェイズはおろかメインフェイズ2すら行うことができないのだ。

 

「エンドフェイズに墓地に送られた上弦のピナーカの効果を発動。デッキからピナーカ以外のBFモンスター1体を手札に加える。私はデッキからBF-南風のアウステルを手札に加える」

 

 

ジェームズ LP9100 手札0枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(地縛神 Chacu Challhua)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア)墓地:9 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP5400 手札4枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(A BF-驟雨のライキリ、BF T-漆黒のホーク・ジョー)EXゾーン:1(見習い魔嬢)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:6 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

 

ジェームズ

 □□冥□□

闇□C□□□

  □ 魔

 □□驟□ホ□

 □□□□□

エヴァ

 

○凡例

 

魔・・・見習い魔嬢

驟・・・A BF-驟雨のライキリ

ホ・・・BF T-漆黒のホーク・ジョー

 

闇・・・闇黒世界-シャドウ・ディストピア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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思いを一つに

 

 

 

 

 

☆TURN03(ジェームズ)

 

「僕のターン、ドロー。墓地から上級以上の鳥獣族モンスターを特殊召喚できる漆黒のホーク・ジョーに、フィールドのBFモンスターの数だけ相手フィールドのカードを破壊する驟雨のライキリか……」

 

 地縛神は《神縛りの塚》のようなレベル10以上のモンスターに耐性を与えるカードと併用しない限り、単体では効果破壊に対する耐性を持たない。除去効果を持つライキリのみを破壊しても、ホーク・ジョーが残っている限りその効果で蘇生させられる。そのため、ジェームズはこのターンでホーク・ジョーとライキリを同時に処理しなければならないのだ。

 

「では僕は強欲で金満な壺を発動。EXデッキのカードを裏側表示のまま6枚まで除外することで除外したカードの3枚につき1枚デッキからドローする。僕はEXデッキのカードを6枚除外して2枚ドローする」

「そのデッキではEXデッキのカードはほとんどお飾りということか……だが、2枚のドローでそう易々と望みのカードは引けはしない」

 

 この国には『言霊』という考えがある。それは言葉に宿る霊的な力であり、良いことを言葉にすれば良いことが、悪いことを言葉にすれば悪いことが起こるというものだ。これはあくまで思想であり、実際にそういうものが存在するかを実証する術はない。だが、デュエルモンスターズというゲームにおいてはそういうオカルトが度々起こり得る。

 

「そうだね、僕は君のフィールドのホーク・ジョーとライキリの2体をリリース」

「なっ……!?」

「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を君のフィールドに特殊召喚する」

 

 ライキリとホーク・ジョーの2体を飲み込むようにして現れたのは全身が燃え盛る溶岩でできた巨大なモンスターであった。高いステータスを持ちながら、その力で使役する者に呪いをもたらす。それは文字通り、悪魔と呼ぶべき存在であった。

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

特殊召喚・効果モンスター

星8/炎属性/悪魔族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。相手フィールドのモンスター2体をリリースした場合に相手フィールドに特殊召喚できる。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

(1):自分スタンバイフェイズに発動する。自分は1000ダメージを受ける。

 

「ラヴァ・ゴーレムはスタンバイフェイズごとに1000のダメージをコントロールするプレイヤーに与える。カードの持ち主は僕だけど、コントロールするプレイヤーは君だ」

「……本当に狡い真似をするようになったな。それもビジネスマンとしてのお前の姿勢なのか?」

「時には汚いことをしなければ、生き残れないのさ。それはビジネスマンもデュエリストも一緒だろう?」

 

 エヴァは反論しなかった。自分もプロデュエリストとして相手を騙すことはよくやってきた。プロの舞台ともなれば、表情はもちろん声色は指や瞼の動きで相手の意図を見抜けるだけのデュエリストがざらではないからだ。エヴァはプロデュエリストとして実戦を重ねるにつれてそういう心理的な駆け引きも身につけていた。いや、身につけざるを得なかった。

 

「さて、僕はChacu Challhuaを攻撃表示に変更」

 

地縛神 Chacu Challhua ATK3400

 

「地縛神は相手プレイヤーに直接攻撃ができる。君にもその力を味合わせてあげるよ、エヴァ。バトルフェイズ」

「っ!?」

「地縛神 Chacu Challhuaでダイレクトアタック。“カース・オブ・イーター”」

 

地縛神 Chacu Challhua ATK3400

 

 人間の数十倍、数百倍はあろうかという巨大なモンスターが大口を開けながらエヴァに迫る。ソリッドビジョンであれば、単にゲーム内のライフポイントが削られるだけであろう。しかし、これは普通のデュエルではないということをエヴァは理解していた。

 

 

「これが……僕が君のスカーライトによって味合わされた苦痛だ」

 

 

エヴァ LP5400→LP2000

 

 

「がっ……ああああっ!!」

 

 全身が、自分の身体が圧倒的な力によって無理矢理削り取られる。激痛、などという単語で言い表せないような痛みがエヴァの全身に走った。あまりの苦しみに呼吸もできず、立つこともできない。痙攣も止まないままエヴァは虚ろな目で天空を見上げていた。

 

「僕はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移るけど、できることはない。ターンエンドだ。そしてこのターン終了時に僕のフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピア-の効果が発動。僕のフィールドにシャドウ・トークンをこのターンにリリースされたモンスターの数だけシャドウ・トークン2体を守備表示で特殊召喚する」

 

シャドウ・トークン 星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守1000

 

 

ジェームズ LP9100 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:3(地縛神 Chacu Challhua、シャドウ・トークン×2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-)墓地:10 除外:6 EXデッキ:9(0)

エヴァ LP2000 手札4枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)EXゾーン:1(見習い魔嬢)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:8 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

 

ジェームズ

 □□冥□□

闇シCシ□□

  □ 魔

 □□溶□□□

 □□□□□

エヴァ

 

 

○凡例

溶・・・溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

シ・・・シャドウ・トークン

 

 

 

☆TURN04(エヴァ)

 

「うっ……ううう……」

 

 デュエルはまだ続いている。うめき声を上げながら起き上がろうとするエヴァであるが、脳から必死に起き上がれと指示が出ていても、身体がそれに応えなかった。最愛のフィアンセが敵として自分の前に現れたという事実、そして今まで感じたことのないデュエルによる痛みとそこから生じる本能的な恐怖が彼女の身体を麻痺させていた。

 

(そんな……どうして……何故……立てないんだ……)

「どうしたんだい、エヴァ? 次は君のターンだよ?」

 

 ジェームズはエヴァが立ち上がれないのを知った上で敢えて問いかけてくる。

 

「もしデュエル続行不可能ならばこのデュエルは僕の不戦勝となる。これで僕の願い、君を取り戻すことが叶うからね、できれば君のライフを0にして勝ちたかったけど……」

「く、来るな……」

 

 そう言いながらエヴァの元へと近づいてくるジェームズ。エヴァは残った力で彼の手を必死に振り払おうとするも、力及ばずやがて半身を起こす形でジェームズに抱きしめられた。自分とは道を違えてしまったジェームズであるが、エヴァを抱える彼の手は暖かい。朧げな視界に映る彼の顔は昔と変わらぬ優しさを秘めていた。

 

「デュエルとはいえ、君を傷つけてしまったこと……悪く思っている。だけど、これで僕たちは真の意味で結ばれる」

「ジェームズ……」

 

 遠くなりつつある意識の中、エヴァの中に燃え上がっていた闘志の炎がゆっくりと小さくなっていく。もはや抵抗しなくなったエヴァの右手を取り、デュエルディスクにセットされた彼女のデッキの上に置かせようとした。その瞬間である。

 

 

 

 

 

―――エヴァ!!―――

 

 

 

 

 

 

 二人の前に病院から戻った遊希が現れたのは。遊希は鈴のスマートフォンから電話をかけてきた黒幕により、エヴァの身に危険が迫っているのを知ると、ほんの数十分で病院からアカデミアまで走って戻ってきたのだった。遊希は肩で息をしながらエヴァの元に駆け寄ると、彼女の手をデッキの上に置かせようとしたジェームズの腕を強く握りしめて捻りあげる。

 

「痛いな、何のつもりだい? 暴力は反対だよ」

「あなたが誰だか知らないけれど、相手を無理やりサレンダーさせるのはルール違反よ」

「エヴァはもう立ち上がれない。ドローすることすらままならない以上、デュエルを続けさせるわけにはいかないのさ」

「それはあなたの勝手な判断でしょう? 私はこのデュエルにおいては所詮第三者。必要以上に深入りすることはできないわ」

「だったら……」

「それならなおさら当事者であるエヴァの意志が大事になる。彼女がデュエルをしたいと望む以上私は彼女にデュエルを続けさせる!」

 

 そう言ってジェームズからエヴァを奪い取った遊希。遊希はエヴァを抱き抱えると、そのまま彼女に問いかけた。

 

「エヴァ、遅れてごめんなさい」

「遊希……恥ずかしい姿を見せて……しまったな……私は、あなたを守りたかったのに……」

「気持ちはありがたいけど。いつまでも守られるだけってのは流石に嫌。それに親友同士なら危機に陥った時互いに守り合う。それこそが本当の意味の親友なんじゃないかしら?」

「親……友……」

「それでエヴァはどうするの、このデュエル……続ける?」

 

 エヴァは何も言わずこくりと頷く。消えかけてた闘志の炎が遊希の手によって再び燃え上がった。

 

「そっか……ねえ、じゃあ私もこのデュエルに混ぜてもらってもいいかしら」

 

 彼女の決断を見届けた遊希はジェームズに対してある提案をする。それはデュエルのプレイングをエヴァに任せ、ドローやカードをデュエルディスクに置く役割を遊希が代わりに務める、ということだった。

 遊希はこの数日間ずっとエヴァに支えてもらってきた。遊希にとって恩人であるエヴァの危機に際して、遊希は自ら彼女の手となり、足となり、口となり、目となることを望んだのだ。

 

「……つまり君が彼女の手になると?」

「ええ。これならエヴァもデュエルは続けられる」

「ふむ……」

(そう言えば、あの方が仰ってたな。彼女が天宮 遊希か……)

 

 この提案に関してジェームズからしてみればこれといったメリットはなかった。ただし、このデュエルに勝てばエヴァのみならず遊希も黒幕への手土産にすることが可能になる。そうすれば自分の目的も果たせ、自分に力を与えてくれた黒幕に対しても恩返しができる。

 いくら天宮 遊希ほどのデュエリストが加勢したところでこの状況をひっくり返すことはできないだろう。そうなるとジェームズにそれを断る理由はない。

 

「いいよ。それでもエヴァの残りライフは2000。次のターン、僕のChacu Challhuaで攻撃を仕掛ければ一巻の終わりだ」

「絶望的な状況。そこからひっくり返すのもまたデュエルの醍醐味。それを教えてあげるわ」

 

 遊希は一度エヴァを下ろすと、彼女のデュエルディスクを自分の腕に装着する。そして動けなくなってしまったエヴァを片腕で支える形でデュエルをすることになった。

 いくら遊希といえども、所詮は10代の非力な少女。自分より少し小柄とはいえ、白人のエヴァを支えながらデュエルするのは相当な負担である。そのため、この劣勢を覆しつつ、早期に決着をつけなければならなかった。

 

「準備は整ったようだね」

「ええ。それじゃあ行かせてもらう……私―――たちのターン! ドロー!!」

 

 エヴァの思いを受け継いで遊希がドローをする。

 

「スタンバイフェイズ、君たちはラヴァ・ゴーレムの効果で1000のダメージを受けてもらうよ!」

 

遊希・エヴァ LP2000→LP1000

 

「っ!?」

「ぐあっ!?」

 

 ラヴァ・ゴーレムの身体からはまるで雫が垂れるように、灼熱のマグマが流れ落ちる。もしこれがデュエルではなく本当のマグマであれば、二人の身体は一瞬で灰燼に帰していただろう。しかし、灼熱の責め苦が降り注いだとしても、二人の思いは灰にはならなかった。

 

「このカードは……エヴァ!」

「遊希、まずは手札のこのカードを……」

「わかったわ。私は永続魔法、黒い旋風を発動。そして手札から魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。私はBF-蒼炎のシュラを除外するわ!」

 

 エヴァは前のターン、S素材として墓地に送られた上弦のピナーカの効果でデッキからチューナーモンスターである南風のアウステルを手札に加えていた。そしてそのアウステルの効果と闇の誘惑の効果は見事に噛み合っていた。

 

「チューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚! 召喚に成功したアウステルの効果、そして黒い旋風の効果を発動!」

 

チェーン2(エヴァ&遊希):黒い旋風

チェーン1(エヴァ&遊希):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風の効果で私は……何を加えた方がいいと思う?」

「うーん、ここはお前に任せる。お前の直感に従うよ」

「ええ……」

 

 カードの種類は知っているが、遊希はこれまで【BF】デッキを実際に使ったことはない。だからこそ判断をエヴァに任せると言ってデュエルに参加したのだが。

 

―――彼女はお前を信じているんだ。ならばそれに応えてやれ。

(軽く言ってくれちゃって……わかったわよ)

「私は攻撃力400の突風のオロシを手札に加えるわ。そしてチェーン1のアウステルの効果で除外されているシュラを特殊召喚するわ!」

 

 エヴァのフィールドにはレベル4のモンスターとレベル4のチューナーモンスターがそれぞれ1体。ここまで来れば、二人がどのモンスターをS召喚するかなど言わずとも決まっていた。

 

「行くわよ、エヴァ!」

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

―――私たちはレベル4のBF-蒼炎のシュラに、レベル4のチューナーモンスター、BF-南風のアウステルをチューニング!!―――

 

 

 天空に舞い上がったシュラの身体は灼熱の赤い4つの星へと変化し、それを追う形でアウステルの身体は真紅の4つのリングへと変化する。そしてシュラが変化した星がリングを潜り抜けようとした瞬間。遊希の身体に光子竜とは違う精霊の力が入ってくるのを感じた。光子竜とは違う荒々しい力。これまで感じたことない精霊の力に遊希の足が少しおぼついてしまうが、ここで遊希までもが倒れるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

―――“黒き嵐吹き荒ぶ世界は、紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”―――

 

 

 

 

 

―――シンクロ召喚!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希とエヴァ。二人の思いが一つとなった瞬間。精霊―――レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが二人の下へと舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最強の地縛神

 

 

 

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトは闇属性のモンスターである。そのため、闇属性モンスターを総じて強化する見習い魔嬢の効果の恩恵を受ける。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000/DEF2000→ATK3500/DEF2500

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……その忌々しき姿! 今日この時まで一度たりとも忘れたことはない!」

 

 スカーライトの姿を見て初めてジェームズが声を荒げた。彼にとってはスカーライトは自分とエヴァの仲を引き裂いた張本人であり、この忌々しいデュエルモンスターズの精霊を倒すため、彼はデュエリストとして必死に修練を重ねてきたのだ。

 

「ジェームズ……」

「エヴァとあなたの間に何があったかは聞かないでおくけど、エヴァはスカーライトと必死に向き合おうとしてるわ。あなたが黒幕の手先になっているのとは大違いね」

「くっ、君に何がわかる! 僕はずっと苦悩を重ねてきたのだぞ!」

 

 激昂するジェームズに対し遊希は至って冷静だった。エヴァをここまで傷つけられたことに対して彼女は激しい怒りを覚えていたが、その怒りが振り切れたことで逆に冷静になっていた。

 

「苦悩、か……」

―――遊希、お前は私と共にいて苦悩したのか?

(当たり前じゃない。自分じゃない誰かが自分の中にいるんだから冷静でいられるわけないでしょう? でも、私の苦悩はこの子のそれとは比べるに値しない)

「エヴァの苦悩はわかるわ、私も同じ精霊使いだもの。この学校で一緒にその痛みを分かち合ったから」

 

 遊希も当然精霊の存在自体には困惑していた。しかし、エヴァに比べて先天的な才があったためか、他者を傷つけるような副作用に苛まされることはまずなかったと言っていい。そのため、遊希からしてみればエヴァと出会うまで精霊と共にあることで心に深い傷を負った者がどのような苦しみを味わってきたかを知る由はなかった。

 

「でも非道な手段に逃げたあなたのことなど知る価値もないわね」

 

 ただ、エヴァとジェームズの違いはその苦しみに対する向き合い方にあった。精霊と向き合い、精霊と意思疎通を図ろうとしたエヴァと精霊を憎み、甘言に乗ってエヴァを襲ったジェームズ。遊希からしてみれば、どちらに与するかなど聞くまでもない。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果発動! 1ターンに1度、自身の攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、破壊したカードの数×500ポイントのダメージを相手に与える。この効果で破壊されるモンスターの攻撃力は今のレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの攻撃力以下。つまり3500までよ!」

 

 互いのフィールドに存在するモンスターにおいて最も攻撃力が高いのはスカーライトの3500。地縛神Chacu Challhuaも闇属性であるが、元々の攻撃力がスカーライト以下であるため、見習い魔嬢の効果で強化されたところでスカーライトの効果から逃れることはできない。

 

「それでは僕のフィールドのモンスターは……」

「ふふっ、全滅ね。王たる竜の前に燃え尽きなさい!“アブソリュート・パワー・フレイム”!!」

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが肥大化したプロテクターに覆われた右腕を振り上げ、それを地面に思い切り叩きつけると、フィールドは瞬く間に炎の海に包まれた。全てを破壊しつくす灼熱の炎によって、ジェームズのフィールドに存在するChacu Challhuaと2体のシャドウ・トークン、そしてエヴァのフィールドに存在するラヴァ・ゴーレムと見習い魔嬢の計5体のモンスターが灼熱の炎によって消えていった。

 

「破壊されたモンスターは計5体。よって2500のダメージを受けてもらうわ!」

 

ジェームズ LP9100→LP6600

 

「ぐっ……」

「そして破壊された見習い魔嬢の効果を発動。墓地のゲイルを手札に戻す。これであなたのフィールドはがら空き。バトル! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック!“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

ジェームズ LP6500→3500

 

「ぐああああっ!!」

 

 スカーライトの炎を直に受けたジェームズの身体も先ほどのエヴァと同じように大きく後ろに吹き飛ぶ。自分のターンを迎えた時点で勝利、といった局面から一気に追い込まれる形となってしまったのだ。

 

「立ちなさい。エヴァの受けた痛みはこんなものじゃないわ」

「ゆ、遊希……」

「ごめん、このターンで決めれなかった」

「大丈夫……だ。だが、今の私たちの手札では……」

「わかってる。私たちはこれでターンエンドよ」

 

 

ジェームズ LP3500 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-)墓地:12 除外:6 EXデッキ:9(0)

エヴァ&遊希 LP1000 手札4枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒い旋風)フィールド:0 墓地:10 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

 

ジェームズ

 □□冥□□

闇□□□□□

  □ □

 □□□□レ□

 □□黒□□

エヴァ

 

 

☆TURN05(ジェームズ)

 

「僕のターン、ドロー……ふふふ」

 

 ドローしたカードを見たジェームズが不気味に笑う。このカードをドローした瞬間、前のターンまでと比べて明らかにジェームズの様子はおかしくなっていた。眼の白目の部分が漆黒に染まり、その眼の下からは血の涙のような青い線が首まで走る。その様子はまさに常人のそれとは大違いだった。

 

「……君たちは本当に強かったよ」

「強かった……なんで過去形なのかしら」

「君たちはこのターンで敗北するからさ。僕のフィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる。現れよ《カイザー・ブラッド・ヴォルス》」

 

《カイザー・ブラッド・ヴォルス》

効果モンスター

星5/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。このカードの攻撃力は500アップする。

(3):このカードが戦闘で破壊された場合に発動する。このカードを破壊したモンスターの攻撃力は500ダウンする。

 

「そして墓地のアマリリースの効果を発動」

 

《アマリリース》

効果モンスター

星1/地属性/植物族/攻100/守200

自分のメインフェイズ時、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。このターンに1度だけ、自分がモンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくする事ができる。

「アマリリース」の効果は1ターンに1度しか発動できない。

 

「墓地のこのカードを除外することで、僕はこのターン、モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくすることができる」

「つまり2体の生贄が必要なモンスターをアドバンス召喚する場合、1体にすることができるということね……」

―――あいつの手の内にはまたしても地縛神があるようだな……だが……

(光子竜?)

―――どうにも違和感を覚えるんだ。なんというか、まるで今までの邪神や幻魔とは違う……ものを。

 

 光子竜がそう感じるのも無理はない話であった。これまで登場した邪神や幻魔はそれらが持つ元々の能力を余すことなくカードとして再現されているからだ。黒幕の手が入っているとはいえ、そう言った意味ではそれらのカードはあるがままの姿であった。だが、今ジェームズの手の中にあるものからはそれが感じられないのだ。

 

「行くよ……コレガ最強ニシテ、最悪ノ地縛神ダァ!! 僕ハカイザー・ブラッド・ヴォルスヲリリース!』

 

 フィールドのカイザー・ブラッド・ヴォルスと墓地から除外されたアマリリースの2体が黒い汚泥に飲み込まれていく。天空には巨大な鳥の姿を描いた地上絵が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“今コソコノ世界ノ全テニ究極ノ破壊ヲ、終焉ヲ齎セ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――降臨せよ!《地縛神 Wiraqocha Rasca》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

《地縛神 Wiraqocha Rasca(ウィラコチャ ラスカ)》

効果モンスター

星10/闇属性/鳥獣族/攻100/守100

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(1):相手はこのカードを攻撃対象に選択できず、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(2):???

(3):???

 

 

 

 

 

「攻撃力……100?」

―――最強と銘打つ割には随分と非力だな。

「でも、高レベルで低い攻撃力を持つモンスター……侮ってかかってはいけないわ」

『ヨクワカッテイルジャナイカ! 元々Wiraqocha Rascaハ最強ノ地縛神トハ思エナイ効果ヲ持ッテイタ』

 

 ジェームズが言うには、Wiraqocha Rascaの効果は召喚成功時に自分フィールドのカードを3枚まで持ち主のデッキに戻し、戻したカードの数だけ相手の手札をハンデス。そしてハンデスしたカードの数×1000ポイントの攻撃力を加算するというものだったという。3枚のハンデスを決めれば攻撃力は3100となり、地縛神の中では最大の攻撃力を持つことができるのだが、如何せん不安定な効果と言わざるを得ない。

 

『ダカラ……コノカードノ効果ヲ書キ変エサセテモラッタノサ!! Wiraqocha Rascaノ2ツ目ノ効果ヲ発動!』

 

 

 

 

 

《地縛神 Wiraqocha Rasca(ウィラコチャ ラスカ)》

効果モンスター(オリジナルカード)

星10/闇属性/鳥獣族/攻100/守100

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(1):相手はこのカードを攻撃対象に選択できず、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(2):1ターンに1度、相手フィールドに表側表示で存在するモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にし、その攻撃力分このカードの攻撃力をアップする。

(3):このターン、相手のライフポイントが0にならなかった場合、ターン終了時に発動する。相手のライフポイントを1にする。

 

 

 

 

 

―――カードの効果を書き変える……不快感の正体はそこか。

 

 光子竜は珍しく憤怒の表情を露わにする。モンスターにとって効果やカードのテキストはそのモンスターの個性や特色を現したようなもので、人間でいう性格や価値観、個性に値する。それを弱いからと言って勝手に作り変えられるということはそのモンスターに対する最大の侮辱なのだ。相手は闇の力を持ったカードであったとしても、光子竜からしてみれば同じデュエルモンスターズのカード。同胞を弄ばれたことに彼は憤慨した。

 

(光子竜……今は辛いけど我慢して)

―――わかっている。お前たちこそ気を付けろ!

『相手フィールドニ存在スルモンスターノ攻撃力ヲ0ニシ、ソノ攻撃力分コノカードノ攻撃力をアップサセル!!』

「なんだと……」

『対象ハレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトダァ!!』

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000→ATK0

 

地縛神 Wiraqocha Rasca ATK100→ATK3100

 

「攻撃力3100……」

『バトル! Wiraqocha Rascaデダイレクトアタック!“デス・シンギュラリティ”!!』

 

地縛神 Wiraqocha Rasca ATK3100

 

「遊希!!」

「わかっているわ! 手札の《バトルフェーダー》の効果を発動!!」

 

《バトルフェーダー》

効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させるわ!」

『フン、運ノイイコトダ……ダガ、ドチラニセヨ。オ前タチハ終ワリダ。僕ハターンエンド。ソシテコノターンノ終了時、Wiraqocha Rascaノ第3ノ効果ガ発動!』

「第3の効果……だと……」

『コノターン、相手ノライフポイントガ0ニナラナカッタ場合、相手ノライフヲ1ニスル!!』

―――なっ……!?

「何よその効果!!」

『コレガ最強ノ地縛神ノ力ダ!! 受ケルガイイ。ソシテ後悔セヨ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“ポーラスター・オベイ”!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァ・遊希 LP1000→LP1

 

 

「きゃあああっ!!」

「がっ……!!」

 

 Wiraqocha Rascaの羽ばたきは一気に二人のライフを削り取った。遊希とエヴァはまるで大波に揺られる小舟のように力無く吹き飛ばされた。

 

『シャドウ・ディストピアノ効果ニヨリ、僕ノフィールドニシャドウ・トークン1体ヲ特殊召喚スル』

 

 

ジェームズ LP3500 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(地縛神 Wiraqocha Rasca、シャドウ・トークン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-)墓地:12 除外:7 EXデッキ:9(0)

エヴァ&遊希 LP1 手札3枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、バトルフェーダー)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒い旋風)フィールド:0 墓地:10 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

 

ジェームズ

 □□冥□□

闇□シ□W□

  □ □

 □バ□□レ□

 □□黒□□

エヴァ

 

○凡例

W・・・地縛神 Wiraqocha Rasca

バ・・・バトルフェーダー

 

 

☆TURN06(エヴァ&遊希)

 

 遊希とエヴァのターンが回ってくる。このターンでWiraqocha Rascaを撃破しなければ負けは確実。しかし、攻撃力を0にされたスカーライト、およびこの手札でどのようにして倒すのか。地縛神の弱点はフィールド魔法の破壊であるが、残り29枚のカードのうちからフィールド魔法を破壊できるカードを都合よく引き当てられる保証もない。

 

(……どうしよう。何も打つ手がない……)

 

 この時ばかりは流石の遊希も諦めつつあった。そんな遊希の心中を察したのか、エヴァが遊希の耳元で小声で囁く。

 

「遊希」

「……何?」

「遊希、ありがとう。後は私がやる。だから今すぐこの場を離れてくれ」

「っ!! 何を言って……」

「あなたまで巻き込みたくない。あなたが私と一緒に倒れたら誰が鈴を助けるんだ」

「そんな……だからと言ってあなたを見捨てたらどっちにしても後悔するわ!」

 

 遊希とエヴァは普段心に決めていたことを忘れてしまっていた。それは絶望的な状況においても、デッキからカードをドローするまで決して諦めない、という姿勢である。プロの時から心に刻み込んできたその精神すらも忘れさせてしまう。それだけこの状況の地縛神 Wiraqocha Rascaの存在は大きかったのだ。

 

「早く下がって……そして……私の仇を―――!!」

 

 エヴァがそう言いかけた瞬間である。遊希とエヴァの脳裏に何者かの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――バッカじゃないの!! 何諦めてんのよアンタたちは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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精霊の奇跡

 

 

 

 

 二人が諦めかけたそんな時、彼女たちの脳裏には若い少女の甲高い声が響いた。遊希とエヴァは脳裏に響く怒声に驚いて互いの顔を見合わせる。

 

「遊希? 今何か……」

「エヴァ、今の声が聞こえたの?」

「ああ。しっかりと」

「……! ねえ、目をつぶって精神を研ぎ澄ませてみて」

 

 こんな時に何を、と思いつつエヴァは目を閉じ、無心になろうとする。次の瞬間、エヴァの目の前には灼熱のマグマが溢れかえる世界が広がっていた。

 

(こ、ここは……一体……)

―――……こっちよ、こっちを向いて。 

(誰だ!!)

 

 戸惑うエヴァを呼びかける声。素直に声のした方に振り返ると、そこにはよく見知ったドラゴンの姿があった。傷を負った真紅の身体、折れた片方の角、プロテクターによって分厚く覆われた右腕。紛れもなく自分がずっと会いたいと思い続けていたドラゴンである。

 

(お、お前は……!)

―――まさか、こんな状況になって初めて会えるなんてね。あたしもビックリよ。もっとタイミングやムードってもんを理解してほしいわよね。

(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト! 私は……やっと精霊と……)

 

 目の前に悠然と立つスカーライトの姿を見たエヴァが嬉しさのあまり感涙しそうになる。今までどうやっても遊希と光子竜のようにコミュニケーションを取ることが敵わなかった存在。その精霊が目の前にいる、ということは自分も遊希と同じように精霊使いになれたということ。しかし、それについてはまだスカーライトは懐疑的な見方を示していた。

 

―――待った。あたしはまだあんたを正式にマスターとして認めたわけじゃないし。

(なっ、私ではダメなのか……?)

 

 スカーライトはエヴァをまだパートナーとして認めてはいない。そんな彼女の言葉に対し、エヴァの両目には涙が浮かぶ。そんなエヴァを見たスカーライトはいやいやいや、とそれを否定する。

 

―――い、いやそうじゃないんだけどさ。今は目の前の現実を直視しようよマジで。

 

 スカーライトの世界の空には精霊の世界においても強大な力を発揮し続けるWiraqocha Rascaの姿が映し出されていた。

 

―――あれ。どう思う?

(ど、どう思うと言われても……)

―――キモくない? なんかでっかくて真っ黒で!

(キ、キモい?)

 

 確かに地縛神の姿は異様そのものであり、決してそれが美しいかと言うとそうは言えない。だが、そんな邪なる神を捕まえて「キモい」とはっきり言ってしまうところにスカーライトの性格や価値観が現れていた。

 

―――あのキモい神をぶっ潰してあのキザ男に根性入れる。あたしたちがパートナーになるのはそ・れ・か・ら!

(そ、そうか……でもどうやってあのモンスターを倒すんだ?)

―――あんたが本当にあたしに相応しいデュエリストなら、次のドローカードでこの状況を覆すことができる! 今から元の世界に戻すから、ドローカードとエクストラデッキの一番上のカード。そのカードであいつぶっ倒してみなさい!

 

 エヴァが目を開いた。そして隣で見守る遊希の顔を見てニッコリと微笑んだ。遊希もエヴァが何を感じたか理解できたようだった。

 

「遊希。デッキトップのカードが……」

 

 眼を閉じる前まで何の変哲もないカードだったエヴァのデッキトップのカードが光り輝いていた。そしてデュエルディスク内のエクストラデッキを収納するスペースからも眩い光が溢れ出している。

 

『何ダ、コノ光ハ……不愉快ダ』

「エヴァ!」

「ああ!」

 

 エヴァは手を伸ばし、遊希と二人でデッキトップのカードを掴む。そして、二人の力でそのカードをデッキから引き抜いた。

 

 

 

 

 

―――私たちの……ターン、ドロー!!―――

 

 

 

 

 

 二人がドローしたカード。それは見たことも聞いたこともないカードであった。

 

「行くぞ、遊希! このカードを召喚してくれ!」

「わかったわ。私は手札からこのモンスターを召喚する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――チューナーモンスター! 《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希とエヴァのフィールドに現れたのは桃色の身体をした小さなドラゴンであった。そのモンスター自体の力は決して強いわけではないが、その内には誰もが知らない未知なる力を秘めていることが感じられた。

 

 

 

《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》

チューナー(効果モンスター)

星1/光属性/ドラゴン族/攻0/守0

このカードをシンクロ素材とする場合、「セイヴァー」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 

 

 

『救世竜……ダト!!』

「「私たちは、レベル8の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》としても扱うレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトとレベル1のバトルフェーダーに、レベル1のチューナーモンスター、救世竜 セイヴァー・ドラゴンをチューニング!!」」

 

 翼を広げたセイヴァー・ドラゴンは回転しながら天空に舞い上がり、光を発しながら巨大化する。そしてシンクロ素材となるスカーライトとバトルフェーダーの2体がセイヴァー・ドラゴンの身体に取り込まれていく。セイヴァー・ドラゴンとその命を一つとしたスカーライトの身体はそれまでの悪魔を模したものから四枚の翼にルビーの如く光り輝くものへと変化した。その光はまさに【救世】と名を持つに相応しい輝きであった。

 

 

 

 

 

―――“研磨されし孤高の光、真の覇者として大地を照らす!”光輝け!!―――

 

 

 

 

 

―――シンクロ召喚!!―――

 

 

 

 

 

―――大いなる魂!!《セイヴァー・デモン・ドラゴン》!!―――

 

 

 

 

 

《セイヴァー・デモン・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星10/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守3000

「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」+「レッド・デーモンズ・ドラゴン」+チューナー以外のモンスター1体

このカードはカードの効果では破壊されない。このカードが攻撃した場合、ダメージ計算後にフィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。

1ターンに1度、エンドフェイズ時まで、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択してその効果を無効にし、そのモンスターの攻撃力分このカードの攻撃力をアップできる。

エンドフェイズ時、このカードをエクストラデッキに戻し、自分の墓地の「レッド・デーモンズ・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。

 

 

『《セイヴァー・デモン・ドラゴン》!?……馬鹿ナ、レッドデーモンズ・ドラゴン・スカーライトガ更ニ進化シタダト……!?』

「「セイヴァー・デモン・ドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、エンドフェイズ時まで相手フィールドに表側表示で存在するモンスター1体を選択し、その効果を無効にする!!」」

『何ダト!?』

「「さらにこの効果で無効化したモンスターの攻撃力分このカードの攻撃力はアップする! 対象は当然Wiraqocha Rasca!大いなる光の前に屈しなさい!“パワー・ゲイン”!!」

 

 セイヴァー・デモン・ドラゴンの吐き出した煌めく炎を浴びたWiraqocha Rascaは真紅の宝珠に封印される形となってしまい、その力を失った。そしてその失った神たる力の分スカーライトの攻撃力が上昇する。

 

地縛神 Wiraqocha Rasca ATK3100→ATK100

 

セイヴァー・デモン・ドラゴン ATK4000→7100

 

『馬鹿ナ。我が神ガ、地縛神ノ力ガ……』

「「バトル! セイヴァー・デモン・ドラゴンで地縛神 Wiraqocha Rascaを攻撃!! 大地に還りなさい! 地に縛られし邪神よ!“アルティメット・パワー・フォース”!!」」

 

 

セイヴァー・デモン・ドラゴン ATK7100 VS 地縛神 Wiraqocha Rasca ATK100

 

 

ジェームズ LP3500→0

 

 

 

―――やった! 最っ高じゃない!……だいぶ遅くなっちゃったけど、これから宜しくね、エヴァ。世界にたった一人の……私のマスター。

 

 

 

 地縛神が破壊されたことにより、ジェームズの身体に憑いていた闇の力が失われる。正気に戻ったジェームズはその場に力なく倒れた。

 

「良かった、これで……ジェー……ムズ……は」

「エヴァ!?」

 

 一方で精霊の正式な所持者となり、かつセイヴァー・デモン・ドラゴンというスカーライトの新たな一面を引き出したエヴァも体力を使い果たして倒れてしまった。倒れたエヴァの介抱をしようとした時、遊希のポケットにしまってあったスマートフォンが振動する。画面には「星乃 鈴」の名前が表示されていた。

 

「うふふっ、凄いデュエルでしたね。私、感動してしまいました」

 

 電話に出ると、相手はやはり先ほどと同じ相手だった。あまりの白々しさに遊希は電話口から思い切り聞こえるように舌打ちをする。

 

「あら、舌打ちとは女性らしくないですね。やめた方がいいですよ?」

「……ねえ、こんなことして満足なの?」

「はい?」

「こんなデュエルを見続けて本当に楽しいのか、って聞いてるのよ」

「……愚問ですね。とても愉しいです。私はデュエルが大好きですから。でも……私が一番好きなのはあなたですよ、天宮 遊希さん。うふふっ」

 

 電話相手はまるで恋人に囁くかのような歯の浮いた言葉を投げかけてくる。それに対してあからさまな嫌悪感を浮かべる遊希。

 

「っ、気持ち悪い……そんなにデュエルが好きならあんた自身が出てきなさい。ぶっ倒して皆の前で惨めに謝罪させてやる」

「それには至りません。私のもとにはまだあと一人……戦力がいますから」

 

 電話相手の言う「最後の戦力」が誰を指すのかは言うまでも無かった。

 

「さすがに連戦でお疲れでしょう? なのでお時間をあげます。3日後の夜21時……一人でアカデミアの屋上デュエル場に来てください。そこであなたの親友が待っていますよ」

「……!!」

「それでは、さようなら。うふふっ」

 

 遊希は通話の切れたスマートフォンを握りしめ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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熱くも悲しき決戦

皐月「レダメ禁止で私はどうすればいいのでしょうか。【ヴァレット】+【守護竜】でお相手を底知れぬ絶望の淵に沈めたかったのに……」
千春「リボルバーのストラクが出るまで待ちなさいな。【転生炎獣】みたいに化けるかもしれないわよ?」


 

 

 

 

 

「……なるほど、犯人は確かにそう言ったんだね」

 

 エヴァとジェームズのデュエルが終わった後、遊希は竜司とミハエルに病院で千春と皐月から聞いたこと、そして鈴のスマートフォンを使って黒幕が連絡をしてきたことを事細かに伝えた。

 3日後の夜21時にアカデミアの屋上でデュエルを挑む、ということから最後の戦力をここで使う、ということ。そして黒幕がやたらと遊希に拘りを見せていることまで。

 

「犯人の言うことが真実なら、これが最後の戦いになると思います。そしてその相手は……」

「鈴、なんだね」

「はい。最もこんなことをする奴をそのまま信用していいかはわかりませんが」

 

 竜司はそうか、とだけ言って黙り込む。セントラル校を任される校長として、そして一人の父親として生徒であり娘である鈴を一刻も早く助けたい。自分の中で逸る気持ちをなんとか抑えこんでいる様子であった。竜司が口を閉ざしたタイミングを見計らって今までは時折頷くだけで沈黙を貫き通してきたミハエルが口を開く。

 

「……ところで電話の相手―――黒幕と思わしき人物について」

「はい」

「本当に知らない者なのか? よく思い出してみてほしいのだが」

「……正直見当もつきません。私はあの日家族を全て失いました。もう身寄りはないですから」

 

 遊希の脳裏には両親、そして3歳下だった妹の顔が朧げに浮かぶ。再会することはもはや叶わない。既に皆この世を去っているからだ。もちろん「実は生きていました」といった形で目の前に現れればこれほど嬉しいことはないのだが。

 

「ただ声の高さ、ボイスチェンジャーとかを使っていない地声と考えれば……私たちと同年代の少女。丁寧口調で会話の折々に微笑を挟む癖がある。それくらいしか」

「日向 千春と織原 皐月の証言にあった銀髪の女子生徒……やはり銀色の髪を持った女子生徒はエヴァ・ジムリア以外我が校にはいなかった」

「でもエヴァは黒幕により襲撃を受けた。完全に白です」

「……やはり直接叩くしかないですな。校長」

「ああ……」

 

 竜司は渋い顔をして立ち上がると、そのまま遊希に向かって深々と頭を下げた。突然の竜司の行動に遊希は言葉を失う。

 

「本当なら私が動きたい。だが……ここは君の力を貸して欲しい。娘を……鈴を、どうか助けてくれ」

 

 遊希は何も言わなかった。しかし、その眼には強い決意が秘められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――遊希。

「何?」

 

 遊希はシャワーを浴び、夕食を済ませるとすぐにパジャマに着替えてベッドに飛び込む。途中からとはいえセイヴァー・デモン・ドラゴンや地縛神といった強い力を持つモンスターが次々と召喚されるデュエルに関わったため、遊希の身体はすっかり疲れ切っていた。そんな彼女に光子竜が話しかける。光子竜はどこか申し訳なさそうにしていた。

 

―――怒らないのか?

「……エヴァを疑ってたってこと?」

―――ああ。結果的に白だったが疑ってしまった事実に変わりはないだろう?

「気にしてないわよ、そんなこと」

 

 あのデュエルの後、エヴァとジェームズは共に病院に運ばれた。二人とも意識を失っていたが、それほど重症というわけでもなく、千春や皐月と同じように数日間の入院で済むレベルの怪我であった。

 ジェームズに関してはいつものように企業の後継者となるべく研鑽を重ねるために回復次第イギリスへと戻ることになるだろう。そしてエヴァも数日後にはいつものあの愛らしくも尊大な素振りを見せてくれるだろう。

 

 

―――あの子には手出しなんかさせないよ。だってこのあたしがいるんだから!

 

 

 救急車に運ばれていく時、すっかりエヴァの精霊となったスカーライトはこう言っていた。エヴァの身は自分が守る、だから遊希は目の前の敵を撃て。それは彼女なりの遊希に対するエールだった。

 

「……それよりもさ」

―――ん?

「……黒幕はどうして私に拘るのかな? 精霊を使っているから?」

―――まあ、そうだろうな。あまり大きな声で言えることではないが。

「精霊を使うことで変な目で見られたり危険に巻き込まれそうになったことはたくさんあったけど……」

 

 

 

―――この時、遊希は嘘をついていた。彼女は黒幕に少なからず心当たりがあった。それでもその心当たりが見当違いである、という気持ちも強かった。犯人像として浮かんでいる人物が犯人であるはずがない。まずあり得ない人物のだから。

 

 

 

(……まさかね)

―――遊希?

「なんでもない。はぁ、今日は疲れちゃった。寝るわよ」

 

 遊希は頭まで布団を被ると小さく寝息をたて始める。今日は隣で眠る人はいない。それでも寂しくなんて無かった。この数日の出来事は遊希の意志を知らず知らずのうちに強く固いものへと鍛え上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日、と聞くと長いように感じるが実際はあっという間に過ぎていく。黒幕との決着をつけるその日を迎えたのだが、その時までアカデミアは至って平和だった。3日後に決着をつけよう、と約束したことを黒幕は守った形になる。

 平和なことは良いことなのだが、その間捕らわれているであろう鈴は無事なのかという気持ちがひたすら募るばかりだった。最も遊希はその焦りを周りに悟られまいと何食わぬ顔で過ごしていたのだが。

 

「さあ、行きましょう」

 

 時計の針は夜の20時30分を指していた。遊希はアカデミアの制服に袖を通すと、しばらく使われていない机に手を置く。持ち主のいなくなった机は少しだけ埃が被っていた。もし無事に戻ってこれたら掃除をしてあげよう。そんなことを思いながら遊希の眼には綺麗にまとめられたカードの束が映る。

 

(……)

 

 しばしの沈黙の後、遊希はその机の上に置かれていたカードの束を持って寮の自室を出る。部屋の前では竜司、蘭、ミハエルの三人が遊希が出てくるのを待っていた。

 

「皆さん……」

「僕たちもついて行っていいだろうか? もちろんデュエルには手を出さないよ」

「……ありがとうございます」

 

 遊希はぺこりと頭を下げた。正直一人では心細いところが少しはあったのだ。しかし、竜司たちの同行を許さない者がいた。他ならぬ黒幕である。屋上への道を歩いていた四人の前に立ちはだかったのはなんとアカデミアの生徒たちだったのである。そしてその生徒たちは千春や皐月に敗れ、負傷させられていた生徒たちばかりであった。デュエルに敗れた際に黒幕の瘴気を浴びていたのか、彼らもまた黒幕によって操られる対象となっていたのである。

 

「っ……これは……」

「どうやら素直に屋上へは行かせてはくれないようですな」

 

 竜司とミハエルはデュエルディスクを構える。生徒に手をあげる、ということをするのは教育者の彼らとしては心苦しいかもしれない。しかし、今はそんな彼らも自分たちの気持ちを必死に押し殺す。

 

「待って、二人だけじゃこの人数は……」

「確かに物量では圧倒的不利だ。だが、今はやるしかないだろう?」

 

 蘭が止めに入ろうとするも、竜司もミハエルも聞く耳を持たなかった。蘭はため息をつきながら二人と同じようにデュエルディスクを展開する。

 

「奥様」

「私もやるわよ。これならあなたもミハエルさんも少しは楽になるでしょう?」

 

 結局この場は竜司・蘭・ミハエルが引き受けることになった。三人ともデュエルの実力は高い。そのためすぐにやられる、などということは無いと思うが立ちはだかる生徒は五十人以上はいる。三人で全員の相手をするとなるとやはり物量の差で押し切られてしまうだろう。

 それを覚悟した上で遊希は立ちはだかる他の生徒たちのことを三人に託すと、振り返らず前を向いて走った。四人を取り囲んでいた生徒たちであるが、遊希が一人で屋上に向かうと知るやその囲いを一時的に解いて屋上への道を開ける。黒幕が望むのは遊希と鈴の一対一のデュエル、ということなのだろうか。

 

(……鈴! 今、助けてあげる!!)

 

 竜司から手渡された屋上へと繋がるドアの鍵を開ける。扉を開けてドアを開け放つと遊希の眼に映ったのは天空に広がる満天の星空、そしてそんな星々の輝きすら曇らせる美しい月だった。

 初夏の夜風が吹きつけるデュエルスペースに向かうと、そこには一人の少女が立っていた。千春の時のようにローブを纏っておらず、皐月の時のように仮面はつけていない。アカデミアの制服に背中まで伸びた金色の髪が月明りに照らされる。遊希がこの学園において最も信頼を置く女子生徒の姿がそこにはあった。

 

「待ってたわ、遊希」

「……久しぶり、鈴」

 

 遊希はそう言いながらデュエルディスクを起動させる。所定の時間より20分ほど早いが、決戦の時は来た。

 

「そう言えば前に約束したわよね。いつか二人で最高のデュエルをしよう、って。でも、こんな形でデュエルをしなきゃいけないなんて……」

「あら、最高の舞台だと思わない? お月様もお星様もあたしたちのデュエルを観たいがためにこんなにキラキラしてるのよ」

「最高じゃない。最低よ……今のあんたとは最高のデュエルなんか出来やしない」

 

 鈴は普通に喋ってこそいるが、やはり醸し出す雰囲気がいつもと違う。一番強い洗脳が施されているのだろうが、それが強すぎるがため、かえって自然体になってしまっていた。

 

「だったら……嫌でも最高のデュエルにしてあげる。そしてあの方にあんたをプレゼントしてあげるんだから」

「奇遇ね。私もあの方に用があるのよ。あんたをそんなんにしたあの方ってやつを……ぶっ倒すためにね」

 

 夏を思わせる湿った夜風が吹き付ける。一瞬の静寂の後、決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 

 満天の星々だけが見届ける熱くも悲しいデュエルの火蓋が。

 

 

 

先攻:鈴

後攻:遊希

 

 

 

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:55 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:45 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

 

☆TURN01(鈴)

 

(デッキ枚数60枚……)

「あたしの先攻。あたしは魔法カード、手札抹殺を発動。互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする。あたしは4枚捨てるから4枚ドローする」

「……5枚捨てて5枚ドローよ」

 

 カードをセットすることもせず、初手でいきなりの手札抹殺。当然デッキは普段使っている【儀式青眼】ではなかった。手札が悪かったのか、それとも何か明確な目的があってのプレイングなのだろうか。ただ、ちらりと見えたカードから見るに、鈴の真意は間違いなく後者であると言えた。

 

「あたしは《ゾンビ・マスター》を召喚」

 

《ゾンビ・マスター》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1800/守0

(1):1ターンに1度、手札からモンスター1体を墓地へ送り、自分または相手の墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのアンデット族モンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果はこのカードがモンスターゾーンに表側表示で存在する場合に発動と処理ができる。

 

「ゾンビ・マスター……やっぱりあんたのデッキは……」

「ゾンビ・マスターの効果を発動。手札の《馬頭鬼》をコストに墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールドに特殊召喚するよ。あたしは手札抹殺で墓地へ捨てた《ゴブリンゾンビ》を特殊召喚」

 

《ゴブリンゾンビ》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1100/守1050

(1):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。相手のデッキの一番上のカードを墓地へ送る。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。デッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。

 

「そして私はゾンビ・マスターとゴブリンゾンビをリンクマーカーにセット。召喚条件はアンデット族モンスター2体。サーキットコンバイン! 鮮血の宴を始めましょう? リンク2《ヴァンパイア・サッカー》」

 

《ヴァンパイア・サッカー》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/アンデット族/攻1600

【リンクマーカー:左下/右下】

アンデット族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。特殊召喚したそのモンスターはアンデット族になる。

(2):自分・相手の墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚された場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

(3):自分がモンスターをアドバンス召喚する場合、自分フィールドのモンスターの代わりに相手フィールドのアンデット族モンスターをリリースできる。

 

「墓地に送られたゴブリンゾンビの効果を発動。デッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。あたしが手札に加えるのは守備力800の《牛頭鬼》よ。そして墓地の馬頭鬼の効果を発動」

 

《馬頭鬼》

効果モンスター

星4/地属性/アンデット族/攻1700/守800

(1):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのアンデット族モンスターを特殊召喚する。

 

「このカードをゲームから除外し、墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。ゾンビ・マスターを特殊召喚。そして墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚されたことでヴァンパイア・サッカーの効果が発動。あたしはデッキからカードを1枚ドローする」

―――まずいな、墓地を肥やしつつ手札を順調に補っている。

(【アンデット族】の本領発揮ね……でも、本当にただのアンデット族デッキなのかしら)

「ゾンビ・マスターの効果を発動。手札の牛頭鬼をコストに、墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。この効果はコストにしたモンスターも蘇生できる。手札コストとして墓地に送った牛頭鬼を特殊召喚よ」

 

《牛頭鬼》

効果モンスター

星4/地属性/アンデット族/攻1700/守800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地へ送る。

(2):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地から「牛頭鬼」以外のアンデット族モンスター1体を除外して発動できる。手札からアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「牛頭鬼の効果を発動。デッキから2体目の馬頭鬼を墓地へ送る。そして私はゾンビ・マスターと牛頭鬼でオーバーレイ!」

「エクシーズ召喚……いったいどんなモンスターを……」

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!!“響き渡るは原初の鼓動。全ての祖たる者よ、今こそ目覚めよ”。」

 

 

 

 

 

 

―――《No.18 紋章祖プレイン・コート》―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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死と罪の紋章

 

 

 

 

 

「紋章……また珍しいカードを使うのね」

 

 遊希の言った紋章、とは【紋章獣】のことを指す。紋章獣はレベル4のモンスターで構築されたデッキであり、ランク4のX召喚を得意とするデッキだ。そんな紋章に属するXモンスターはいずれもNo.に属するモンスターであり、希少価値の高いデッキとなっている。

 

《No.18 紋章祖プレイン・コート》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/サイキック族/攻2200/守2200

レベル4モンスター×2

フィールド上に同名モンスターが2体以上存在する場合、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その同名モンスターの内の1体を選び、それ以外の同名モンスターを全て破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手はこの効果で選んだモンスターと同名のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

また、このカードが墓地へ送られた場合、デッキから「紋章獣」と名のついたモンスター2体を墓地へ送る事ができる。

 

「でも私の銀河眼はエクシーズキラーであることを忘れていないかしら?」

「忘れるわけないじゃない。だからこうさせてもらうの。私はリンク2のヴァンパイア・サッカーとプレイン・コートをリンクマーカーにセット!」

―――No.をリンク素材にするだと?

「召喚条件は“効果モンスター2体”。サーキットコンバイン! 現れなさい、アンダークロックテイカー」

 

 現れたのはリンク2のアンダークロックテイカー。リンク2のヴァンパイア・サッカーとランク4のプレイン・コートを素材にしてリンク召喚するほどのモンスターではないが、鈴の狙いは当然そこではない。

 

「墓地へ送られたプレイン・コートの効果を発動! デッキから紋章獣モンスター2体を墓地へ送ることができるわ。墓地へ送るのは《紋章獣レオ》と《紋章獣アバコーンウェイ》」

「紋章獣限定とはいえ、一気に2回分のおろかな埋葬ということね……」

 

 プレイン・コートの墓地肥やし効果の発動条件はあくまでプレイン・コートを墓地へ送るだけでいい。そのためリンク召喚のための素材にすることで、能動的にその効果を発動できるのだ。

 

「墓地へ送られた紋章獣レオの効果を発動する」

 

《紋章獣レオ》

効果モンスター

星4/地属性/獣族/攻2000/守1000

このカードを召喚したターンのエンドフェイズ時、このカードを破壊する。また、このカードが墓地へ送られた時、デッキから「紋章獣レオ」以外の「紋章獣」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

「紋章獣レオ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「墓地へ送られたレオの効果。デッキからレオ以外の紋章獣モンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは2体目のアバコーンウェイ」

―――なるほど、プレイン・コートを素材にするわけだ。レオの効果を自分のターンで発動するために。

(ええ。デッキはどうやら【紋章獣】と【アンデット族】の混合……言わば【紋章アンデット】のようね)

 

 ゾンビ・マスターを中心としたレベル4のアンデット族、そして同じくレベル4のモンスターで統一された紋章獣。この2種類のモンスターを使い分けてランク4もしくはリンク召喚に繋げていく。それがこのデッキの特色だろう。元々の鈴のデッキであるカオス・MAXを軸とした青眼とは大きく異なるデッキではあるが、戦法ががらりと変わることから今までの鈴と同じイメージで対峙していては苦戦必至と言えよう。

 

「墓地の馬頭鬼の効果を発動。このカードを除外し、墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。ゾンビ・マスターを特殊召喚。そしてゾンビ・マスターの効果を発動。手札のアバコーンウェイをコストに墓地のゴブリンゾンビを特殊召喚。そしてゾンビ・マスターとゴブリンゾンビをリンクマーカーにセット!」

「またリンク召喚を……」

「召喚条件は“カード名が異なるモンスター2体”。サーキットコンバイン! 現れよ、暴食の罪背負いし獣。リンク2《トロイメア・ケルベロス》」

 

《トロイメア・ケルベロス》

リンク・効果モンスター

リンク2/地属性/悪魔族/攻1600

【リンクマーカー:上/左】

カード名が異なるモンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、手札を1枚捨て、相手のメインモンスターゾーンの特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを破壊する。この効果の発動時にこのカードが相互リンク状態だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローできる。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの相互リンク状態のモンスターは効果では破壊されない。

 

「墓地へ送られたゴブリンゾンビの効果。3枚目の馬頭鬼を手札に加える。そして墓地のアバコーンウェイの効果を発動!」

 

《紋章獣アバコーンウェイ》

効果モンスター

星4/風属性/ドラゴン族/攻1800/守900

このカードが墓地に存在する場合、このカード以外の自分の墓地の「紋章獣アバコーンウェイ」1体をゲームから除外して発動できる。自分の墓地の「紋章獣」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。「紋章獣アバコーンウェイ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「墓地に存在する2枚目のアバコーンウェイをゲームから除外し、墓地の紋章獣1体を手札に加える。私はレオを手札に戻す」

「ゾンビ・マスター用の手札コストを補充するということかしら? でももうこれ以上の展開はできないはずよ?」

「それはどうかしら?……うん、この言葉って何回言ってもいいよね。昔アカデミアに在籍していたプロデュエリストが書いた本の中にそんなタイトルの本があったようだけど」

「そんな本もあったわね……読んだことないけど」

「読んでおくことを勧めるわ。名著かどうかはわからないけど、ということで手札から速攻魔法、異次元からの埋葬を発動」

「は?」

―――なっ……!?

「除外されているモンスターを3体まで墓地に戻す。戻すのは馬頭鬼2体とアバコーンウェイよ」

「……っ」

 

 馬頭鬼の効果にターン制限はない。そのため墓地に戻すことでこのターン、あと2回その効果を発動することができるということである。それが何を意味するかわからない遊希と光子竜ではなかった。

 

「ということで戻した1枚目の馬頭鬼を再度除外して効果を発動。ゾンビ・マスターを特殊召喚。ゾンビ・マスターの効果で3枚目の馬頭鬼をコストにゴブリンゾンビを特殊召喚。更に墓地の《紋章獣ユニコーン》の効果を発動」

 

《紋章獣ユニコーン》

効果モンスター

星4/光属性/獣族/攻1100/守1600

墓地のこのカードをゲームから除外し、自分の墓地のサイキック族エクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

「紋章獣ユニコーン」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「墓地のこのカードをゲームから除外し、サイキック族Xモンスター1体を特殊召喚する。プレイン・コートを特殊召喚。そしてプレイン・コートとゾンビ・マスターとゴブリンゾンビをリンクマーカーにセット。召喚条件は“カード名の異なるモンスター2体以上”。サーキットコンバイン! 現れなさい、憤怒の罪背負いし獣。《トロイメア・ユニコーン》」

 

《トロイメア・ユニコーン》

リンク・効果モンスター

リンク3/闇属性/悪魔族/攻2200

【リンクマーカー:左/右/下】

カード名が異なるモンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、

手札を1枚捨て、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主のデッキに戻す。この効果の発動時にこのカードが相互リンク状態だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローできる。

(2):自分ドローフェイズの通常のドローの枚数は、フィールドに相互リンク状態の「トロイメア」モンスターが存在する限り、その「トロイメア」モンスターの種類の数になる。

 

「墓地へ送られたゴブリンゾンビとプレイン・コートの効果を発動」

 

チェーン2(鈴):No.18 紋章祖プレイン・コート

チェーン1(鈴):ゴブリンゾンビ

 

「チェーン2のプレイン・コートの効果で2体目の紋章獣ユニコーンと《紋章獣ツインヘッド・イーグル》を墓地へ送る。チェーン1のゴブリンゾンビの効果で《屍界のバンシー》を手札に加える。そして2枚目の馬頭鬼を除外し、墓地のゾンビ・マスターを特殊召喚。そしてゾンビ・マスターの効果。屍界のバンシーをコストに墓地のゴブリンゾンビを特殊召喚。そしてゾンビ・マスターとゴブリンゾンビをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

 もう何度ゾンビ・マスターとゴブリンゾンビはリンク召喚のために墓地へ送られているのだろうか。アンデット族故生きながら死んでいるようなものであるが、ここまでフィールドと墓地をめざましく行ったり来たりしている様を見るのは遊希は初めてであった。最もこの状況で笑っていられるほど遊希のメンタルは強くない。

 

「現れなさい、怠惰の罪を背負いし怪鳥。《トロイメア・フェニックス》」

 

《トロイメア・フェニックス》

リンク・効果モンスター

リンク2/炎属性/悪魔族/攻1900

【リンクマーカー:上/右】

カード名が異なるモンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、手札を1枚捨て、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果の発動時にこのカードが相互リンク状態だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローできる。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの相互リンク状態のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

「トロイメア・フェニックス……まさかあんた」

―――遊希、鈴のフィールドは……

(ええ。改めてあの子の狙いがわかったわ)

「ゴブリンゾンビの効果でデッキから《グローアップ・ブルーム》を手札に加える。そして2体目の馬頭鬼の効果でゾンビ・マスターを特殊召喚。ゾンビ・マスターの効果で手札のグローアップ・ブルームをコストにゴブリンゾンビを特殊召喚。そしてリンク2のトロイメア・フェニックスとゾンビ・マスター、ゴブリンゾンビの3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 現れなさい、傲慢の罪を背負いし合成獣。リンク4《トロイメア・グリフォン》!」

 

《トロイメア・グリフォン》

リンク・効果モンスター

リンク4/光属性/悪魔族/攻2500

【リンクマーカー:上/左/右/下】

カード名が異なるモンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、手札を1枚捨て、自分の墓地の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分フィールドにセットする。そのカードはこのターン発動できない。この効果の発動時にこのカードが相互リンク状態だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローできる。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、フィールドの特殊召喚されたモンスターはリンク状態でなければ効果を発動できない。

 

「リンク召喚に成功したトロイメア・グリフォン、そして墓地へ送られたゴブリンゾンビの効果を発動」

 

チェーン2(鈴):トロイメア・グリフォン

チェーン1(鈴):ゴブリンゾンビ

 

「チェーン2のトロイメア・グリフォンの効果。手札1枚をコストに墓地の魔法・罠カード1枚をあたしのフィールドにセットする。セットするのは速攻魔法、異次元からの埋葬。そしてトロイメア・グリフォンが相互リンク状態だった場合、更に1枚ドロー。そしてチェーン1のゴブリンゾンビの効果で2体目のゾンビ・マスターを手札に加える」

「鈴の墓地にはまだ最後の馬頭鬼がいる……」

「条件は満たしているけど、先に屍界のバンシーの効果を発動するわ」

 

《屍界のバンシー》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1800/守200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、フィールドゾーンの「アンデットワールド」は効果の対象にならず、効果では破壊されない。

(2):フィールド・墓地のこのカードを除外して発動できる。手札・デッキから「アンデットワールド」1枚を選んで発動する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「墓地の屍界のバンシーをゲームから除外し、デッキからフィールド魔法《アンデットワールド》を発動」

 

《アンデットワールド》

フィールド魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター及び墓地のモンスターは全てアンデット族になる。

(2):お互いはアンデット族モンスターしかアドバンス召喚できない。

 

「これでフィールドのモンスターは全てアンデット族へと変化する。そして最後の馬頭鬼の効果! 墓地のグローアップ・ブルームを特殊召喚!」

 

《グローアップ・ブルーム》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/アンデット族/攻0/守0

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル5以上のアンデット族モンスター1体を手札に加える。フィールドゾーンに「アンデットワールド」が存在する場合、手札に加えず特殊召喚する事もできる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はアンデット族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「そしてこれが最後の一手。私はレベル1のグローアップ・ブルームをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 召喚条件は“レベル1モンスター1体”! 現れなさい、リンクリボー! 特殊召喚されるのはトロイメア・グリフォンの上のゾーンよ!」

「エクストラ・リンク……」

 

 

 

 リンクリボー    ←アンダークロックテイカー

   ↓             ↓

   ↑             ↑

 トロイメア  トロイメア  トロイメア

←  ・  →←  ・  →←  ・

 グリフォン  ユニコーン  ケルベロス

   ↓      ↓

 

 

 

 鈴のフィールドには右のEXゾーンにリンクマーカーが左と下に向いているアンダークロックテイカー、アンダークロックテイカーの下側のゾーンにリンクマーカーが上と左に向いているトロイメア・ケルベロス、ケルベロスの左側のゾーンにはリンクマーカーが左右と下の三か所に向いているトロイメア・ユニコーン、ユニコーンの左側のゾーンにはリンクマーカーが上下左右の四か所に向いているトロイメア・グリフォンが存在している。

 本来EXゾーンはそれぞれ1つしか使用できないのだが、双方のEXゾーンを繋げる形でリンクマーカーを繋げた場合、もう片方のEXゾーンを使用できる。そのゾーンに鈴はリンクマーカーが下に向いているリンクリボーをリンク召喚した。双方のEXゾーンを繋げること―――これを“エクストラ・リンク”と呼ぶのだ。

 

「これであんたはEXゾーンを使えない。墓地に送られたグローアップ・ブルームの効果を発動。このカードが墓地へ送られた場合、このカードをゲームから除外してデッキからレベル5以上のアンデット族モンスター1体を手札に加える。そしてフィールドゾーンにアンデットワールドが存在する場合、あたしはこのモンスターを手札に加えず特殊召喚できる。レベル8の《死霊王 ドーハスーラ》を特殊召喚。これであたしはターンエンドよ」

 

《死霊王 ドーハスーラ》

効果モンスター

星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守2000

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):「死霊王 ドーハスーラ」以外のアンデット族モンスターの効果が発動した時に発動できる。以下の効果から1つを選んで適用する。このターン、自分の「死霊王 ドーハスーラ」の効果で同じ効果を適用できない。

●その効果を無効にする。

●自分または相手の、フィールド・墓地のモンスター1体を選んで除外する。

(2):フィールドゾーンに表側表示でカードが存在する場合、自分・相手のスタンバイフェイズに発動できる。このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。

 

 

鈴 LP8000 手札4枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:4(死霊王 ドーハスーラ、トロイメア・グリフォン、トロイメア・ユニコーン、トロイメア・ケルベロス)EXゾーン:2(アンダークロックテイカー、リンクリボー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:1(アンデットワールド)墓地:13 除外:6 EXデッキ:8(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:40 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:5 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

 □□伏□□

ア死ケユグ□

  ク リ

 □□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

○凡例

ア・・・アンデットワールド

ク・・・アンダークロックテイカー

ケ・・・トロイメア・ケルベロス

ユ・・・トロイメア・ユニコーン

グ・・・トロイメア・グリフォン

リ・・・リンクリボー

死・・・死霊王 ドーハスーラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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逆転の一手

 

 

 

 

 

 

(エクストラ・リンクを決められたことで私はEXデッキからモンスターを特殊召喚できない。でも、私のデッキはEXデッキに頼らなくても戦うことはできる)

 

 遊希のエースである銀河眼の光子竜はそのステータスもさることながら、効果によって戦闘には強く、また特殊召喚の手段も豊富だ。そのため無理にXモンスターやリンクモンスターに頼らずとも十分戦うことはできる。

 

―――だが、問題はそこではないな。

(ええ。問題は……鈴のフィールドのモンスターたち)

 

 しかし、エクストラ・リンクを構築しているモンスターたちが遊希の悩みの種になっていた。リンクリボーは相手のバトルフェイズ時に自身をリリースすることで攻撃モンスター1体の攻撃力を0にすることができる。アンダークロックテイカーはリンク先のモンスターの攻撃力だけ相手モンスターの攻撃力を下げるため、遊希のモンスターの攻撃力はアンダークロックテイカーのリンク先に存在するトロイメア・ケルベロスの攻撃力分だけ下げられてしまうのだ。

 そしてエクストラ・リンクを構成するために作られたと言っても過言ではない【トロイメア】たちの効果は更に厄介だ。トロイメア・ケルベロスは相互リンク状態のモンスターの効果破壊を防ぎ、トロイメア・ユニコーンは通常ドローの枚数を相互リンク状態のトロイメアモンスターの種類の数にするため、次のターンの鈴のドローは3枚となる。そしてトロイメア・グリフォンが存在する限り、特殊召喚されたモンスターはリンク状態でない限り効果を発動することができない。当然リンクマーカーは遊希のフィールドに向いていないため、遊希のモンスターは通常召喚されたモンスターを除いて効果を発動することができないのである。

 

(そして一番面倒なのがフィールド魔法がある限り毎ターン蘇るドーハスーラ……)

―――アンデットワールドとのシナジーが恐ろしいな。彼奴も退けなければならない。絶望的だな。

(うん。でも……絶望過ぎる状態でも、その中に一縷の希望を見出す。そうだよね?)

―――ああ。希望を見出せるかどうかはお前次第だが、私がその手助けをしてやるぞ。

(光子竜……お願いね)

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドロー。エクストラ・リンクかぁ……1ターンで決めてくるとは驚いたわ。本当に強くなったのね、鈴」

「それはどうも。でもあんたのその態度……なんか不穏なんだよね。この布陣を恐れていない、というか」

「あら? 恐れていないと言えば嘘になるわ。手札やデッキ次第では何もできないわけだし。でも、生憎“あんたのデッキがいつもと違う”ってことで解決策を見出すことができた」

 

 普段の鈴のデッキであれば、エクストラ・リンクなどまずお目にかかれない。そもそも儀式召喚メインであればEXゾーンなど関係ないのだから。ただ、鈴のデッキがいつもの【儀式青眼】ではなく、どのようなデッキかわからないということは遊希に「どのようなデッキを使われても、対策できる手段を講じておくべき」という考えを抱くように至らせた。

 

「エクストラ・リンクは確かに強力。でも、対抗手段が無い訳じゃない。それを見せてあげる。まずは魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスター、銀河眼の光子竜をコストに2枚ドロー。そしてライフを1000支払い、速攻魔法《コズミック・サイクロン》を発動」

 

《コズミック・サイクロン》

速攻魔法

(1):1000LPを払い、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

 

遊希 LP8000→LP7000

 

「コズミック・サイクロンにチェーンしてリバースカードを発動! 速攻魔法、異次元からの埋葬! 除外されているモンスターを3体まで選んで墓地へ戻すわ」

 

チェーン2(鈴):異次元からの埋葬

チェーン1(遊希):コズミック・サイクロン

 

「チェーン2の異次元からの埋葬で除外されている馬頭鬼3体を墓地へ戻す」

「チェーン1のコズミック・サイクロンの効果でアンデットワールドを除外する。これでフィールドのモンスターは元々の種族に戻るわ」

 

 異次元からの埋葬によって墓地のアンデットを蘇生できる馬頭鬼を一気に3体墓地に戻した鈴。アンデットワールドをコズミック・サイクロンで除外されたことで拘束力こそ下がったものの未だに展開のための鍵は残っていると言えた。

 

「……ドーハスーラの適応範囲が一気に狭められたか。でもドーハスーラ1体を弱体化させたところで何になるっていうの?」

「これは逆転のための一手に過ぎないわ。本命はこっちよ! 手札を1枚捨てて速攻魔法を発動。この発動に対してカードの効果をチェーンすることはできない」

「そのテキスト……まさか」

「そのまさかよ! 速攻魔法、超融合を発動!」

 

 相手フィールドのモンスターを融合素材にできる融合魔法は今でこそ増えているが、その元祖ともいえるこのカードの力は未だに衰えを知らない。

 

「私はあんたのモンスターゾーンのリンクリボー、アンダークロックテイカー、トロイメア・グリフォンの3体を融合!!“闇に囚われし守護竜よ。積み上げられた想いによって邪を打ち払い、星守る竜として蘇れ!”融合召喚! 現れなさい!《星杯の守護竜アルマドゥーク》!!」

 

《星杯の守護竜アルマドゥーク》

融合・効果モンスター

星9/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2600

リンクモンスター×3

このカードは融合召喚及び以下の方法でのみEXデッキから特殊召喚できる。

●自分フィールドの上記カードをリリースした場合にEXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

(2):このカードが相手のリンクモンスターと戦闘を行う攻撃宣言時、その相手モンスターとリンクマーカーの数が同じリンクモンスターを自分のフィールド・墓地から1体除外して発動できる。その相手モンスターを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

「……まさかそんなカードを仕込んでくるなんて」

「次はこれ。手札から魔法カード、死者蘇生を発動。あんたの墓地のトロイメア・フェニックスを特殊召喚。そして手札の光属性モンスター、銀河眼の雲篭を墓地へ送り、手札から銀河戦士を守備表示で特殊召喚! 特殊召喚に成功した銀河戦士の効果! デッキからギャラクシーモンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは銀河騎士」

 

 このターン、遊希はトレード・インのコストで光子竜を既に墓地へ送っている。片方のEXゾーンにアルマドゥークが存在しているため、普通ならばEXデッキからモンスターを特殊召喚することはできないが、ここで死者蘇生で鈴の墓地から蘇らせたトロイメア・フェニックスが活きてくる。トロイメア・フェニックスのリンクマーカーは上と右に向いているため、遊希には1体だけEXデッキからモンスターを特殊召喚できるのだ。

 

「そして私のフィールドにギャラクシーモンスターが存在することで銀河騎士はリリースなしで召喚できる。自身の効果で召喚に成功した銀河騎士の効果を発動! ターン終了時までこのカードの攻撃力を1000下げることで、墓地の銀河眼の光子竜1体を守備表示で特殊召喚!」

 

銀河騎士 ATK2800→ATK1800

 

「そしてレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!“大いなる翼を持ちし竜は希望の銀河を往く。光輝く未来に続く道筋の魁となれ!” 目覚めなさい!《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》!!」

 

《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル8モンスター×2

(1):1ターンに1度、魔法カードの効果がフィールドで発動した時に発動できる。その効果を無効にし、そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。

(2):相手モンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。攻撃対象をこのカードに移し替えてダメージ計算を行う。

(3):自分フィールドのXモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターの攻撃力は、破壊されたそのモンスター1体の元々の攻撃力分アップする。

 

「バトル! アルマドゥークは相手フィールドの全てのモンスターに1度ずつ攻撃できる。アルマドゥークでドーハスーラを攻撃!“カリス・オブ・ドラグーン”!」

 

星杯の守護竜アルマドゥーク ATK3000 VS 死霊王 ドーハスーラ ATK2800

 

鈴 LP8000→LP7800

 

「次の攻撃対象はトロイメア・ユニコーン。粉砕しなさい!」

 

星杯の守護竜アルマドゥーク ATK3000 VS トロイメア・グリフォン ATK2300

 

鈴 LP7800→LP7100

 

「そして最後の攻撃対象はトロイメア・ケルベロス。だけどここでアルマドゥークの更なる効果を発動するわ! トロイメア・ケルベロスと同じリンクで私のフィールドに存在するトロイメア・フェニックスをゲームから除外し、トロイメア・ケルベロスを破壊! そしてその攻撃力分のダメージを与えるわ!」

 

鈴 LP7100→LP5500

 

「っ……!?」

「これであんたを守るモンスターは存在しない。タイタニック・ギャラクシーでダイレクトアタック!“破滅のタイタニック・バースト”!」

 

No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ATK3000

 

鈴 LP5500→LP2500

 

「きゃああっ!!」

「形勢逆転。エクストラ・リンクを決めてドヤ顔していたのが嘘のようね。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移るわ。私はアルマドゥークと銀河戦士をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 召喚条件は攻撃力2000以上のモンスターを含むモンスター2体。リンク召喚! 銀河眼の煌星竜をリンク召喚。リンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地のフォトン・オービタルを手札に戻す。そして煌星竜にオービタルを装備」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000→ATK2500

 

「オービタルを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップし、戦闘では破壊されない。私はこれでターンエンドよ」

 

 

鈴 LP2500 手札4枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:19 除外:6 EXデッキ:8(0)

遊希 LP7000 手札0枚

デッキ:36 メインモンスターゾーン:1(No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:2)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(フォトン・オービタル)フィールド:0 墓地:11 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

□□□□□□

  煌 □

 □□□魁□□

 □□オ□□

遊希

 

 

○凡例

魁・・・No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー

 

 

 

☆TURN03(鈴)

 

「っ、よくもやってくれたわね! 遊希!!」

「……悪い奴の手先になってもそうやって顔真っ赤にして威嚇できるのね。鈴はどこまで行っても鈴なのね」

 

 自我のない千春や皐月に比べればまだマシな扱いなのかもしれないが、それだけにこんな形でのデュエルなど当然遊希の望むところではなかった。

 

「悪いけど今の鈴に付き合ってあげる義理はない。次で終わらせるから」

「いいわ、だったらあたしはこのデュエルを次のターンでなんて終わらせてあげない! あたしのターン、ドローよ!」

「言っておくけど、タイタニック・ギャラクシーには1ターンに1度、魔法カードの発動を無効にして自身のオーバーレイユニットにする効果がある。ブラック・ホールとかじゃ解決策にはならないから」

「ご説明どうも。でも今のあたしにはブラック・ホールなんかよりもっといい策があるわ。今からそれを見せてあげる。このデッキの真の切り札をね。あたしは紋章獣レオを召喚! そして墓地の馬頭鬼の効果を発動! このカードをゲームから除外し、アンデット族のモンスター1体を特殊召喚する。あたしは馬頭鬼2体を除外し、牛頭鬼とゾンビ・マスターを特殊召喚!」

 

 これで鈴のフィールドにはレベル4のモンスターが3体。先ほどまで見せたデュエルであれば、ここから牛頭鬼の効果で墓地を肥やしたり、ゾンビ・マスターの効果で更に展開するといった動きがあるはずだ。しかし、鈴はそのいずれの戦法も取らなかった。

 

「あたしはレベル4のレオ、牛頭鬼、ゾンビ・マスターでオーバーレイ!!」

「牛頭鬼とゾンビ・マスターの効果を……発動しない?」

「ええ、だって発動する必要がないからよ。このモンスターがあんたに天罰を下すんだからね! 3体のレベル4モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“神の名を持ちし者よ。今我らに歯向かう愚か者に天罰を! そして解放しろ、その愚行に対する怒りを!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青眼の白龍でダイレクトアタック!“滅びの爆裂疾風弾”!!」

 

 遊希と鈴が激戦を繰り広げていた頃、屋上へと続く道では竜司たち三人が押し寄せる生徒たちとデュエルに明け暮れていた。元プロデュエリストが二人もいるだけあって、発展途上の学生デュエリストたちは三人の前に次々と膝を屈していく。しかし、波のように押し寄せる生徒たちの前にその身体に疲労が貯まっていく。こればかりは彼らの年齢ということを考慮してももうどうしようもないことなのだが。

 

「っ、キリがないわね……」

「だが、ここで我々が倒れるわけにはいかない。早く行かなければ遊希くんが……」

 

 そうこうしている間にも、奥に控えていた生徒たちがデュエルディスクを展開して押し寄せてくる。このままでは、と三人が感じた瞬間である。「ズドン!」という音が周囲に響き、操られた生徒たちの前で爆発が起きる。何事か、と思った竜司が振り返るとそこには頭部が銃口を模した機械のモンスターが機械的かつ生物的な咆哮を上げていた。

 

 

「みんなー!! アカデミアのアイドル、友乃ちゃんのライブ、はっじまるよーっ!!」

 

 

 状況に見合わぬフリフリの衣装を纏った女子生徒がマイクを片手に笑顔を見せていた。

 

「き、君は2年生の……!」

「はい! アイドル研究会唯一の部員! 前島 友乃ちゃんです!」

 

 ガトリング・ドラゴンを駆ってその場に現れたのは遊希と予選でデュエルをした友乃だった。彼女は幸運にも黒幕に洗脳されなかった生徒の一人である。

 

「学生たちには待機を言い渡していたはずだ! 何故君がここにいる!!」

「1年生の遊希ちゃんやエヴァちゃんが傷つきながら戦っているのに、上級生の私たちが黙って見ている……そんなのアイドルとして、人として、デュエリストとして失格です! だから私たちも戦います! そうだよね、みんな!」

「私たち……?」

 

 友乃の後ろからは無事だった生徒たちが続々と現れる。ミハエルによって無事だった生徒は皆自室での待機を言い渡されていたのだが、それを破って駆けつけたのである。

 

「僕のカード占いで出たのは《魔導書廊エトワール》の正位置。意味するのは“希望”。つまり僕たちが動くことで希望への道筋が開かれるんです。さあ行こうか、Dragoon D-END!」

「今こそ槍を奮う時よ《宵星の機神 ディンギルス》。 まあ占いの結果どうこうで私たちの決意は揺らがないわよ? セントラル校の生徒たちは仲間を大事にするの。もちろんオカマの私の仲間を思う気持ちは本物よ?」

「校長先生、娘さんは……星乃 鈴は屋上にいらっしゃるんですわね。お父様を救って頂いた恩返し、今こそ果たす時ですわ! ここは私たちに任せて行ってください!! 真紅眼の黒竜!“黒炎弾”で全てを焼き尽くしなさい!」

「藤堂くん……すまない。君たち、くれぐれも無茶だけはしてはいけないよ」

 

 友乃をはじめ、ジェラルド、奏、桜たち駆けつけた生徒たちにこの場を任せ、竜司たちは先へと進んだ。屋上で一人戦う遊希の下へ駆けつけるため。そして行方知れずだった娘を救うため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊希くん! 遅れてすまな―――!!」

 

 ようやく屋上に辿り着いた竜司たちが見たもの。それは天空に浮かび上がった紋章からゆっくりと降りてくる異様な外見のモンスターであった。

 

 

 

 

 

 

―――現れろ!《No.69 紋章神コート・オブ・アームズ》!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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全てを支配せしもの

 

 

 

「《No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ》?」

 

 三邪神や三幻魔はその存在は確認されているが、一般には出回っていない言わば伝承に伝わっているようなカードであり、地縛神に至ってはI2社によって開発中のカードでもある。そのため遊希にとっては「未知のカードと相対する」という気持ちが付きまとう。しかし、このカードの存在自体は遊希は知っていた。

 

(妙ね……コート・オブ・アームズは確かに【紋章獣】デッキの元締め的な存在ではあるけど、その素材に見合った強さのカードではない)

 

《No.69 紋章神(ゴッド・メダリオン) コート・オブ・アームズ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/サイキック族/攻2600/守1400

レベル4モンスター×3

このカードが特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上の全てのエクシーズモンスターの効果を無効にする。

また、自分のメインフェイズ時、このカード以外のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。エンドフェイズ時まで、このカードは選択したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

―――だが、タイタニック・ギャラクシーの効果を無効にされてしまうのは痛いな。

「でも、このモンスターはXモンスター特化。他の召喚法のモンスターでなら……」

「ねえ遊希。あんたなんか勘違いしてない?」

「えっ……」

 

 

 

 

 

―――コート・オブ・アームズがフィールドに存在する限り、このカード以外の全てのモンスターの効果は無効化される。そしてこのカードは無効になったモンスターの効果を全て得る!!

 

 

 

 

 

―――なっ……!!

「効果が違う!? どういうこと!!」

「あんたも見たはずよ。エヴァちゃんのデュエルで現れた地縛神 Wiracocha Rascaを! このコート・オブ・アームズはあんたの知るコート・オブ・アームズとは似て非なる存在なのよ!!」

 

 

 

《No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ》

エクシーズ・効果モンスター(オリジナルカード)

ランク4/光属性/サイキック族/攻2600/守1400

レベル4モンスター×3

(1):このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上に存在する全ての効果モンスターの効果は無効となり、このカードはその無効になったモンスター効果を全て得る。

(2):このカードはカードの効果では破壊されない。

(3):相手モンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材1つを取り除いて発動できる。相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 

 エヴァとのデュエルで黒幕に洗脳されたジェームズが召喚した地縛神 Wiracocha Rascaは本来の効果とは違う効果を持ったカードへと変貌させられていた。故に遊希とエヴァはあそこまでの苦戦を強いられたのである。その前例を鑑みれば、相手が既存のカードを書き変えてくることも容易に想像できたことだ。しかし、まさか鈴までもがそんなカードを手にしてしまうというのは完全に失念していた。

 

(カードの効果で破壊されないということは、煌星竜の効果でも倒せない。タイタニック・ギャラクシーなら攻撃力で上回っているけれど、それだと3つ目の効果で破壊される……何もできない?)

「バトル。コート・オブ・アームズで銀河眼の煌星竜を攻撃。フォトン・オービタルがいるから破壊はできないけど……ダメージは受けてもらうわよ。受けなさい」

 

 

 

 

 

―――“ゴッド・レイジ”―――

 

 

 

 

 

 

No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ ATK2600 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2500

 

遊希 LP7000→LP6900

 

「っ!!」

 

 受けるダメージはわずか100。しかし、遊希の身体に走る衝撃は100のそれではなかった。その10倍の1000、いや20倍の2000に比肩しうるだけの衝撃だった。

 

「あら、100のダメージでちょっとオーバーリアクションなんじゃないのー?」

「うっさい、黙ってデュエルをしなさいバカ」

「っ……バカって言った方がバカなのよ! あたしはバトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移行。カードを1枚セットしてターンエンドよ!」

 

鈴 LP2500 手札3枚

デッキ:36 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ ORU:3)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:15 除外:8 EXデッキ:7(0)

遊希 LP7000 手札0枚

デッキ:36 メインモンスターゾーン:1(No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:2)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(フォトン・オービタル)フィールド:0 墓地:11 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 伏□□□□

□□□□□□

  煌 コ

 □□□魁□□

 □□オ□□

遊希

 

 

○凡例

コ・・・No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー。私はフォトン・オービタルの効果を発動。装備状態のこのカードを墓地へ送り、デッキからフォトンまたはギャラクシーカード1枚を手札に加える。装備されているフォトン・オービタルは魔法カード扱い。よってコート・オブ・アームズの効果では無効化されない」

「何をサーチするつもりなのかしら。効果モンスターである以上、コート・オブ・アームズの前では無力よ?」

「私が手札に加えるのは2枚目の銀河眼の光子竜。そして攻撃力2000以上のモンスターであるタイタニック・ギャラクシーと銀河眼の煌星竜をリリースし、銀河眼の光子竜を特殊召喚するわ!」

 

 遊希のエースカード、銀河眼の光子竜がフィールドに現れる。銀河眼の光子竜はエクシーズキラーとして名高いモンスターであるが、戦闘時に自身を除外する効果はコート・オブ・アームズに奪われてしまっているため、発動することができない。しかし、タイタニック・ギャラクシーがフィールドを離れたため、魔法カードの発動を封じる効果は消えた。遊希にとってはこれが大きかった。

 

(これで魔法カードの発動ができるようになった)

―――最も発動できるカードは?

(ない)

―――だよな。

「でもコート・オブ・アームズを突破する手段はある。とはいえ、それは今じゃないけどね。私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

「コート・オブ・アームズを突破する……どんな手を使うかは知らないけど、その目論見は予め潰させてもらうわ。リバースカードオープン、罠カード《メタバース》を発動」

 

《メタバース》

通常罠

(1):デッキからフィールド魔法カード1枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。

 

「メタバース? 2枚目のアンデットワールドでも発動するつもり?」

「残念だけどアンデットワールドはピン挿し。だからデッキから直接発動するのはこのカード。《サベージ・コロシアム》よ!」

 

《サベージ・コロシアム》

フィールド魔法

フィールド上に存在するモンスターが攻撃を行った場合、そのモンスターのコントローラーはダメージステップ終了時に300ライフポイント回復する。このカードがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。エンドフェイズ時、ターンプレイヤーのフィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃宣言をしていないモンスターを全て破壊する。

 

「サベージ・コロシアム!?」

―――まずいぞ、このカードは……

「サベージ・コロシアムが発動しているエンドフェイズ時、ターンプレイヤーのフィールドに表側攻撃表示で存在する攻撃宣言をしていないモンスターは全て破壊される。銀河眼の光子竜には即退場してもらうわ!」

「っ!?」

 

 遊希のフィールドに存在する光子竜が消滅したことで、遊希はいたずらにモンスター3体を消費するだけになってしまった。

 

 

鈴 LP2500 手札3枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ ORU:3)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(サベージ・コロシアム)墓地:16 除外:8 EXデッキ:7(0)

遊希 LP7000 手札0枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

サ□□□□□

  □ コ

 □□□□□□

 □□伏□□

遊希

 

○凡例

サ・・・サベージ・コロシアム

 

 

 

☆TURN05(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー。あたしは手札の《紋章獣アンフィスバエナ》の効果を発動するわ!」

 

《紋章獣アンフィスバエナ》

効果モンスター

星4/風属性/ドラゴン族/攻1700/守1100

自分のメインフェイズ時、手札からこのカード以外の「紋章獣」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

また、1ターンに1度、手札から「紋章獣」と名のついたモンスター1体を捨てて発動できる。このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。

 

「手札の紋章獣ユニコーンを捨ててこのカードを手札から特殊召喚するわ。そして墓地のユニコーンの効果を発動。このカードを除外し、墓地のサイキック族Xモンスター1体を特殊召喚するわ! あたしはプレイン・コートを守備表示で特殊召喚」

 

 3体のモンスターで攻撃すれば、一気に遊希のライフを削り取ることができる。しかし、セットカードがミラー・フォースのような攻撃反応のカードというケースを警戒してか、鈴はプレイン・コートを敢えて守備表示で蘇生する。優位にありながらも警戒を怠らないあたりは彼女が冷静であることの証であった。

 

「バトルよ! アンフィスバエナでダイレクトアタック!」

 

紋章獣アンフィスバエナ ATK1700

 

遊希 LP7000→LP5300

 

「サベージ・コロシアムの効果であたしはライフを300回復する!」

 

鈴 LP2500→LP2800

 

(アンフィスバエナの攻撃にはカードを発動しなかった。となると攻撃反応罠の可能性は低いわね)

「そしてコート・オブ・アームズでダイレクトアタック! “ゴッド・レイジ”!」

 

No.69 紋章獣コート・オブ・アームズ ATK2600

 

遊希 LP5300→LP2700

 

「きゃああっ!!」

―――遊希!

「サベージ・コロシアムの効果、あたしのライフは更に300回復する」

 

鈴 LP2800→LP3100

 

「さてと、ライフまで逆転しちゃった。いよいよ年貢の納め時ね?」

「……鈴」

「あら、そんな目で見ても容赦なんてしてあげないから。あんたを完膚なきまで叩き潰す、これはもう決定事項なのよ。あたしはバトルフェイズを終了。ターンエンド。守備表示のプレイン・コートはサベージ・コロシアムの効果では破壊されないわ」

 

鈴 LP3100 手札2枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:2(No.18 紋章祖プレイン・コート ORU:0、紋章獣アンフィスバエナ)EXゾーン:1(No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ ORU:3)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(サベージ・コロシアム)墓地:16 除外:9 EXデッキ:7(0)

遊希 LP2700 手札0枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

サ□アプ□□

  □ コ

 □□□□□□

 □□伏□□

遊希

 

○凡例

プ・・・No.18 紋章祖プレイン・コート

ア・・・紋章獣アンフィスバエナ

 

 

「ねえ、あなた……このままだと遊希ちゃんが……」

「天宮 遊希のライフは残り2700。モンスターを全て失い、守りを固めようにもコート・オブ・アームズを含めた3体の布陣は厚く硬い。サベージ・コロシアムの効果で攻撃をしなければモンスターは破壊され、攻撃宣言をすればコート・オブ・アームズの効果で破壊される。厳しい状況ですな」

「ミハエル、蘭……デュエルの準備をしておいてくれ」

 

 竜司は遊希が負ける姿など当然見たくもない。しかし、ここから逆転できる手が限られているのもまた事実であった。一人の大人として、そして一人のデュエリストとして。最悪の展開を予測しなければならない。誰もが追い詰められていた。

 

 

 

 

 

 



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銀河より生まれし混沌(修正版)

先程投稿した第76話ですが、遊希のターンが丸々一つ抜けてしまっていたので、一度削除した上で再投稿させて頂きました。


 

 

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「私のターン……ドロー。私はカードを1枚セット。これで、ターンエンドよ」

 

 生きるか死ぬかの瀬戸際となった遊希のターン。しかし、彼女はドローしたカードをそのままセットするだけでこのターンを終えた。セットするということは罠カードか速攻魔法だろう。しかし、どのようなカードを伏せようと、このターンで戦局を一変させられなかったということは大きい。

 

鈴 LP3100 手札2枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:2(No.18 紋章祖プレイン・コート ORU:0、紋章獣アンフィスバエナ)EXゾーン:1(No.69 紋章神 コート・オブ・アームズ ORU:3)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(サベージ・コロシアム)墓地:16 除外:9 EXデッキ:7(0)

遊希 LP2700 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

サ□アプ□□

  □ コ

 □□□□□□

 □□伏伏□

遊希

 

 

☆TURN07(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー。ざまあないわね、遊希。せっかくのドローも目当てのカードじゃないようで。でもまあ、色々とお世話になった相手だし……一思いにやってあげる。あたしはプレイン・コートを攻撃表示に変更。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移るわ」

「待って。じゃあこのメインフェイズ1の終了時に私はリバースカードを発動する。永続罠、リビングデッドの呼び声。墓地の銀河眼の光子竜を攻撃表示で特殊召喚するわ」

 

 遊希がドローし、セットしたカードは永続罠のリビングデッドの呼び声。このカードの効果で遊希は再度銀河眼の光子竜をフィールドに呼び戻すが、コート・オブ・アームズが存在する以上、そのエクシーズキラーとしての効果は封じられたも同然。そしてコート・オブ・アームズは再びその光子竜の効果を得るのだ。

 

「蘇生カードを用意していたのね。でも発動タイミングを誤ったわね! もしあたしのモンスターが攻撃する時に発動していたらモンスターの攻撃を一度は止めることができたのに。バトルよ! コート・オブ・アームズで銀河眼の光子竜を攻撃!」

 

No.69 紋章神コート・オブ・アームズ ATK2600 VS 銀河眼の光子竜 ATK3000

 

「そしてコート・オブ・アームズの効果を発動! このカードとこのカードと戦闘を行う相手フィールドに存在するモンスター1体をバトルフェイズ終了時までゲームから除外する!」

 

 奪った光子竜の効果で異次元に消えるコート・オブ・アームズと光子竜。コート・オブ・アームズはオーバーレイユニットを失ってしまうが、それでも遊希を守るモンスターはいない。プレイン・コートとアンフィスバエナの攻撃で十分ライフを0にできる。このデュエルは鈴の勝ちで終わる―――誰もがそう思った。たった一人、そして一体の精霊を除いて。

 

 

 

「勝利を確信した時、それは敗北の始まりにもなる。あんたにはその意識が欠けているわ、鈴!」

 

 

 

「っ!?」

「リバースカードオープン! 罠カード《竜嵐還帰》発動!!」

 

《竜嵐還帰(りょうらんかんき)》

通常罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):除外されている自分または相手のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主の手札に戻る。

 

「竜嵐還帰……!」

「除外されているモンスター1体を対象として発動。そのモンスターを私のフィールドに特殊召喚するわ」

「っ、光子竜をそれで呼び戻すつもりね。これが狙いだったとは」

「……何言ってんのあんた? 特殊召喚するのは光子竜じゃない! あんたのコート・オブ・アームズよ!!」

 

 次元の壁を嵐と共に破って舞い戻ったコート・オブ・アームズは遊希のフィールドに現れる。オーバーレイユニットを持たないため、攻撃宣言時に相手のカードを破壊する効果こそ発動できないが、プレイン・コートやアンフィスバエナの攻撃力を上回っているこのモンスターに攻撃を仕掛けることもまた無意味にライフを減らすだけであった。

 

「あたしのコート・オブ・アームズを……」

「どうする? まだバトルを続けるつもりなのかしら?」

「サベージ・コロシアムの効果でライフを回復……と言いたいところだけど、バトルを行ったモンスターがフィールドに存在しない場合、ライフは回復しない。バトルフェイズを終了するわ」

「バトルフェイズ終了と同時に光子竜は私のフィールドに戻ってくる。一度フィールドを離れていることでリビングデッドとの繋がりも切れた。完全蘇生よ」

 

 本来ならばここで鈴は勝っていた。勝つビジョンしか見えていなかった。しかし、1枚のカードで全てが変わってしまった。遊希の言う「勝利を確信した時、それは敗北の始まりにもなる」というのはまさにこういうことなのだろう。

 

「あたしにできることは……ない。ターンエンドよ」

「じゃあサベージ・コロシアムの効果を発動。攻撃宣言をしていないプレイン・コートとアンフィスバエナを破壊する! そして竜嵐還帰で特殊召喚されたコート・オブ・アームズは持ち主の手札に戻る。最も、Xモンスターが戻るのはEXデッキだけど」

 

 モンスターの効果を奪い取り、カードの効果では破壊されない。しかし、抜け穴のないカードなど存在しない。それがこのデュエルモンスターズというゲームだ。遊希はコート・オブ・アームズの弱点である“破壊以外の除去”を竜嵐還帰のデメリット効果で突いたのだ。墓地へ送られると死者蘇生などのカードで再利用される恐れがあるため、EXデッキのモンスターに対する除去手段としてはデッキバウンスが最適。遊希は竜嵐還帰をドローしてからそれを狙い続けていたのである。

 

「墓地に送られたプレイン・コートの効果を発動! デッキから3枚目のアバコーンウェイとユニコーンを墓地へ送る!」

 

鈴 LP3100 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(サベージ・コロシアム)墓地:23 除外:9 EXデッキ:8(0)

遊希 LP2700 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(リビングデッドの呼び声)フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

サ□□□□□

  □ □

 □□光□□□

 □□□リ□

遊希

 

 

☆TURN08(遊希)

 

「私のターン、ドロー」

(このカードをここで引くか……でも、今欲しかったカードじゃない)

「バトル。銀河眼の光子竜でダイレクトアタック! “破滅のフォトン・ストリーム”!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000

 

鈴 LP3100→LP100

 

「っ……!!」

「残りライフ100。サベージ・コロシアムが無ければ終わっていただけに残念ね。でも、ライフが1でも残っている限り私は手を抜かない。サベージ・コロシアムの恩恵を受けさせてもらうわ」

 

遊希 LP2700→LP3000

 

「バトルフェイズを終了。ターンエンドよ」

 

鈴 LP100 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(サベージ・コロシアム)墓地:23 除外:9 EXデッキ:8(0)

遊希 LP3000 手札1枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(リビングデッドの呼び声)フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

サ□□□□□

  □ □

 □□光□□□

 □□□リ□

遊希

 

 

☆TURN09(鈴)

 

(残りライフ100……あたしは結局勝てないの? いや、そんなことはない! このドローに全てをかけてやる!)

「あたしのターン、ドロー。魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻して2枚ドローするわ。あたしは墓地のトロイメア・グリフォン、ユニコーン、フェニックス、ケルベロス、アンダークロックテイカーをEXデッキに戻して2枚ドロー!」

(EXデッキのモンスターで墓地が肥えているからメインデッキを増やさず2枚ドロー……これがあるから墓地が肥えるデッキは嫌なのよ)

―――お前も銀河の修道師を使っているだろう……というツッコミはやめておこう。

「……墓地の紋章獣ユニコーンの効果を発動。このカードをゲームから除外し、墓地のサイキック族Xモンスター1体を特殊召喚する。プレイン・コートを特殊召喚するわ」

「またプレイン・コート? 壁にしては随分頼りないわね」

「ええ、壁にするには脆すぎる。だからこうさせてもらうわ! 私は手札から魔法カード《RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース》を発動!!」

 

《RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース》

通常魔法

自分フィールド上のランク4のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

「RUM……!?」

「リミテッド・バリアンズ・フォースはランク4のXしかランクアップできないけど、種族や属性に関係なくCNo(カオス・ナンバーズ)にランクアップさせることができる! あたしはランク4のプレイン・コートでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ! カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

 プレイン・コートの身体が光の球体へと変わって天へと昇っていく。無機質ながら何処か神秘的なプレイン・コートはあまりにも禍々しい様相のモンスターとなって生まれ変わった。

 

 

 

 

 

―――“神の名を持ちし者よ。我に歯向かう愚か者に死の裁きを! そして解放しろ、封印されし究極の力を!!”―――

 

 

 

 

 

―――《CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ》!!―――

 

 

 

 

 

《CNo.69 紋章死神(デス・メダリオン)カオス・オブ・アームズ》

エクシーズ・効果モンスター(オリジナルカード)

ランク5/光属性/サイキック族/攻4000/守1800

レベル5モンスター×4

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。相手フィールド上のカードを全て破壊する。

(2):このカードが「No.69 紋章神コート・オブ・アームズ」をX素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。エンドフェイズ時まで、このカードの攻撃力は選択したモンスターの元々の攻撃力分アップし、このカードは選択したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 

 

 

「カオス・オブ・アームズ……コート・オブ・アームズが更に進化したということ!?」

「カオス・オブ・アームズの攻撃力は4000。銀河眼の光子竜を上回っているわ! バトルよ! カオス・オブ・アームズで銀河眼の光子竜を攻撃!“カオス・デス・ドゥーム”!」

 

CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ ORU:1 ATK4000 VS 銀河眼の光子竜 ATK3000

 

「っ、銀河眼の光子竜の効果を発動! このカードとこのカードと戦闘を行うモンスターをゲームから除外する!」

 

 攻撃力4000のモンスターを野放しにはできないし、ここで光子竜を失えばまず勝ち目はない。光子竜の効果で光子竜とカオス・オブ・アームズは異次元へと消えた。

 

「バトルフェイズを終了するわ。光子竜とカオス・オブ・アームズはフィールドに帰還する。一度フィールドを離れたことでカオス・オブ・アームズはEXゾーンからメインモンスターゾーンに移動するわ」

「Xモンスターを除外した光子竜の攻撃力は、そのオーバーレイユニットの数×500ポイントアップする」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000→ATK3500

 

「オーバーレイユニットを奪われるのは残念だけど、カオス・オブ・アームズはコート・オブ・アームズにあった効果で破壊されない効果を失っているからしょうがないわね。メインフェイズ2に移行。あたしはこれでターンエンドよ。あ……一つ教えてあげる」

「……何?」

「カオス・オブ・アームズは相手モンスターの攻撃宣言時に相手フィールドのカードを全て破壊する。あたしのフィールドにはサベージ・コロシアムがある。ここからどう巻き返すのか……見せて貰いたいわね。ターンエンド」

 

 

鈴 LP100 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ ORU:0)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(サベージ・コロシアム)墓地:18 除外:10 EXデッキ:12(0)

遊希 LP3000 手札1枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(リビングデッドの呼び声)フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

 □□□□□

サ□□カ□□

  □ □

 □□光□□□

 □□□リ□

遊希

 

○凡例

カ・・・CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ

 

 

☆TURN10(遊希)

 

「私のターン、ドロー。ねえ、鈴」

 

 ドローしたカードを見た遊希はまるで過日を懐かしむかのような優しい顔を見せた。真剣なデュエルの最中に彼女がこのような顔を見せるのはとても珍しいことである。

 

「……何よ?」

「あんたのそのデッキは自分で組んだものではないでしょう? まあ、当然よね。コート・オブ・アームズとかカオス・オブ・アームズとか……書き変えられたカードが入ってるんだから当然と言えば当然か」

「何が言いたいの? あたしを馬鹿にするつもり?」

「別にそんな意味はない。私はね、前まであなたが使っていた【儀式青眼】というデッキが好きだった。竜司さんの後を継ぎつつ、竜司さんとは違う方法で強くなろう、青眼を使いこなそうっていう意志が感じられたの」

「……」

「今こうしてあんたとデュエルをして思ったの。あんたにはあのデッキが一番似合ってる。だから、あのデッキの強さを改めて教えてあげるわ! 私は手札から―――マンジュ・ゴッドを召喚!」

「……は?」

 

 召喚されたのはマンジュ・ゴッド。召喚成功時にデッキから儀式モンスターもしくは儀式魔法1枚を手札に加える儀式召喚を駆使するデッキには必須といえるカードだ。

 

「マンジュ・ゴッド? なんで、あんたのデッキとはまるで噛み合いがないじゃない!」

「ええ、一応《光子竜の聖騎士》という儀式モンスターは存在するけど、使うなら特化しないといけないから普通は入らない。でも、普通のデッキじゃ今のあんたには勝てないだろうし、何よりあんたを取り戻すためにはこのカードは絶対に必要だった。マンジュ・ゴッドで私はデッキから儀式魔法、カオス・フォームを手札に加える」

「カオス・フォーム……!? まさか……」

「そのまさかよ。私は墓地の太古の白石の効果を発動。このカードをゲームから除外し、墓地のブルーアイズカード1枚を手札に加える。そして儀式魔法、カオス・フォーム発動! 私はフィールドのレベル8モンスター……銀河眼の光子竜をリリース!」

「光子竜を儀式の生贄に……」

 

 光子竜の魂を飲み込んだことで混沌の扉が開く。生贄を捧げられた目覚めたのは闇に落ちた光の竜。

 

 

 

 

 

―――“光子の力をその身にやつした竜よ。闇へその身を落とし、極限の混沌より新たなる力を以て発現せよ!”―――

 

 

 

 

 

―――儀式召喚!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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深愛白龍

 

 

 

 

 

 

 

「ブルーアイズ……カオス・MAX……ドラゴン……」

 

 鈴にとってはまさに想定外のことだっただろう。かつての相棒であり、エースモンスター。このデッキを手にした時に捨てたカードが、今こうして遊希の手によって自分の前に立ちはだかっているのだから。

 

「ねえ、何のつもり?」

「……何のつもり?」

「オウム返ししないでよ! なんであんたの【光子銀河】デッキにカオス・MAXが入ってるのよ! まるで噛み合いがないじゃない!!」

 

 一応ドラゴン族・レベル8という点で【青眼】と【銀河眼】にはシナジーが存在する。それでも遊希が普段使っているような純粋な【光子銀河】デッキにはまず青眼関連のカードは入らない。それこそドラゴン族のサポートカードを入れて共有できるようにしなければならないため、そのカードを入れる分他のカードを抜く必要があるのだ。

 

「ええ、確かに噛み合いはないし私のデッキからいくつかカードを抜いた。バランス……という意味では悪くなっているわ」

 

 それでも遊希は青眼関連のカードの投入は最小限に留めていた。故に最初のターンで鈴が発動した手札抹殺の効果でピン挿しのカオス・MAX、青眼の白龍、太古の白石がまとめて墓地へ送られてしまったことで太古の白石の効果を発動できなかったのだ。

 

「でも、あんたを正気に戻すという点ではこのカードが絶対に必要だった。このカードであんたを倒すと最初から決めていた!」

「っ……訳わかんないし」

「そう思われても仕方ないかもね。でも、今この状況ならカオス・MAXが一番適しているわ」

 

 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。そのためサベージ・コロシアムのデメリット効果でも破壊されず、カオス・オブ・アームズの相手フィールドのカードを全て破壊する効果も受け付けない。そして攻撃力はカオス・オブ・アームズと同じ4000。戦闘においても一方的に破壊されることがない。

 

「まさか……相討ち狙いで!?」

「そのまさかよ! バトル! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでCNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズを攻撃!! “混沌のマキシマム・バースト”!!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ ATK4000

 

「迎撃しなさい、カオス・オブ・アームズ!“カオス・デス・ドゥーム”!」

 

 混沌の龍と死神の攻撃は互いに相殺し合い、それぞれを打ち砕く。カオス・オブ・アームズは断末魔の悲鳴を上げながら消滅し、カオス・MAX・ドラゴンもまた鈴のことを何処か哀れんだ様子でその場に崩れ落ちていった。

 

「……せっかくのカオス・MAXを相討ちにするために使うなんて。本当に無駄なカードだったわね」

「無駄か……これを見てもそう言えるのかしら?」

「えっ……?」

 

 その時、鈴は明らかな違和感に気が付いた。戦闘で破壊されたカオス・オブ・アームズは跡形もなく消滅したのに対し、カオス・MAX・ドラゴンはまるでその場に実在するかのように残り続けていたのだ。

 

「な、なんでカオス・MAXは消滅しないの!? 戦闘で破壊されたはずなのに!! まさか、復活の福音が墓地にあったとか……」

「はずれ。カオス・MAXは確かに破壊されて息絶えた。でもカオス・MAXの犠牲は無駄なんかじゃない。カオス・MAXは新しい命に転生するのだから!!」

 

 倒れたカオス・MAXの身体にピシリ、と音を立ててひびが入った。立て続けに生じるひびはカオス・MAXの全身に広がり、やがてその身体が音を立てて崩れ落ちる。次の瞬間、まるで蛹から蝶が羽化するが如く、1体の青く美しい竜が羽根を広げて舞い上がった。その様は例えるならば―――深き愛を感じさせるもの。

 

「なっ……!?」

「自分フィールドに表側表示で存在する「ブルーアイズ」モンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時にこのカードの効果は発動できる。現れなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜司さん、お願いがあるのですが……」

 

 時は今から半月ほど前に遡る。まだ鈴はもちろん千春や皐月が行方不明になる前の話だ。その日の講義が全て終わった後、遊希は校長室の竜司の下を訪ねていた。竜司とは古い付き合いになるため、普段の彼女は竜司に対してもフランクに接しているのだが、この日ばかりは妙に改まっていた。

 

「何かな? 成績を工面してほしいとか以外だったら相談に乗るよ?」

「おかげ様で成績には問題ありません。デュエルの調子はまだちょっと、ですが……」

「そうか。じゃあどうしたんだい?」

「実は、鈴に誕生日のプレゼントを用意してあげたいんです」

 

 鈴の誕生日は7月23日とまだ2か月ほど先である。それなのにこんな時期からプレゼントの相談に来る、というのはあまり自然なことではない。

 

「鈴にプレゼント、か。どんなものをあげればいいのかということかな?」

「いえ。あげたいものは決まっているんですが……私の力では手に入らないもので」

 

 もしや高級なアクセサリーではなかろうか、と背中が冷たくなる竜司。もちろん目の中に入れても痛くない一人娘だ。高級なアクセサリーも絶対に似合うと信じている。しかし、だからといってそれを遊希に買わせるというのはどうなのだろうか。

 

「ええと……何をあげるつもりかな」

「実は……」

 

 アクセサリーやブランド品を想定していた竜司は、遊希から欲しいものを伝えられるとなんとも間の抜けた声を出してしまった。彼女がリクエストしてきたものはたった1枚のカードだったのだから。

 

「そのカードで、いいのかい?」

「はい。竜司さんだからこそ頼めることなので……」

「確かにこの国では僕がリクエストするのが一番近道かもしれないね。わかった、I2社と海馬コーポレーションへの根回しは僕の方でやっておこう。そうだね、2週間ほど待ってもらえないかな?」

 

 そして竜司にリクエストしたカードが遊希の下に届いたのが数日前のこと。鈴との決戦に臨む直前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(鈴、このカードが私からあなたへの想い! このカードの力であなたを助ける!!)

 

 

 

 

 

―――“無窮の時、その始原に秘められし白い力よ。鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ、蒼の深淵より出でよ!”―――

 

 

 

 

 

―――《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》!!―――

 

 

 

 

 

《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》

効果モンスター

星10/光属性/ドラゴン族/攻0/守0

(1):自分フィールドの表側表示の「ブルーアイズ」モンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、自分の墓地のドラゴン族モンスターの種類×600ダメージを相手に与える。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。このカードの攻撃力はそのモンスターの攻撃力と同じになる。

(3):フィールドのこのカードが効果で破壊された場合に発動する。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 

 

 

 

 

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン……!?」

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは自分フィールドの表側表示のブルーアイズモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時に特殊召喚できるモンスターよ」

「で、でも攻撃力は0! そんなモンスターで何が……」

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは特殊召喚成功時に2つの効果を発動できる。1つは墓地のドラゴン族モンスターの攻撃力をコピーする効果。そしてもう1つは……私の墓地のドラゴン族の数×600のダメージを相手に与える効果!!」

「墓地のドラゴン族の数……」

 

 ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンが鈴の音のように響き渡る咆哮を上げると同時に、その後ろには遊希の墓地に眠るドラゴン族の姿が浮かび上がる。遊希の墓地には2体の銀河眼の光子竜、銀河眼の煌星竜、タイタニック・ギャラクシー、星杯の守護竜アルマドゥーク、青眼の白龍、そしてブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの計7体。

 

「嘘、そんな……あたしは……こうまでしても……」

「全部、終わらせてあげる! ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果! 墓地のドラゴンたちの……青眼たちの悲しみを受けて!! そして……帰ってきて、鈴」

 

 ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの身体から激しい光が放たれる。そしてその光は鈴の身体を厳しくも、暖かく包み込んでいった。そんな時、同じように光に包まれていった遊希の脳裏にも見覚えのない光景が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どこへ行く。精霊界を去るということの意味を知らないはずの貴様ではないはずだ。

 

―――聞こえたのだ、人々の悲しみの声が。慟哭が。

 

―――だからと言って我々精霊が介入していいことにはならない。精霊の存在は、人間にとっては決していいことばかりではない!

 

―――それでも、私は行かなくてはならない。

 

―――ならば、私は貴様を止める。友として、同じ“眼”を持つ者として!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今のは、一体……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴 LP100→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝った! 遊希ちゃんが勝ったわ!!」

「ええ。これで星乃 鈴は、お二人のお子さんは解放される……」

「鈴! 遊希くん!」

 

 デュエルの終了を見届けた竜司たちは、駆け足で二人のところに駆け寄ろうとする。しかし、遊希は竜司たちに構うことなく走り出すと、倒れていた鈴の下に駆け寄り、彼女の身体をぎゅっと強く抱きしめた。

 

「鈴っ、鈴っ、りんっ、りん……!!」

 

 何度も何度も鈴の名を呼ぶ遊希。強く抱きしめすぎたのか、気を失っていた鈴は逆に意識を取り戻した。

 

「もうっ、痛いってば……」

「鈴!!」

「……勝てなかったかぁ……遊希、強いね。でも、ありがと……おかげで助かったよ……」

 

 遊希に抱きしめられる形だった鈴は手を伸ばし、顔を覗き込んでいる遊希の頬に手を当て優しく撫でる。緊張の糸が解れたのか、遊希の両目からは大粒の熱い涙がこぼれ落ちた。

 

「鈴……無事だったのね……」

「ママ、パパ、教頭先生……ごめん、私とんでもないことしちゃった……」

「いいんだ。鈴は悪くない。だから、気に病んではいけないよ?」

「うっ、うう……パパぁ、ママぁ……」

 

 遊希は動けない鈴を竜司と蘭に引き渡した。行方不明になってから早数日。蘭と鈴は人目も憚らず涙しながら無事の再会を喜んだ。竜司は敢えてその輪に加わらず、ただ上を見上げていた。

 月や星を見上げているわけではない。こうしていれば、こぼれることはないからだ。竜司は父親でもありこの学校を任された校長でもある。そのため生徒の前では涙を流すことは彼自身のプライドが許さなかったのだろう。ミハエルはそんな竜司の肩に手を置き、何かを告げるとそのままハンカチを差し出した。ハンカチで涙を拭うと、竜司は黙ってミハエルに深々と頭を下げる。

 

(さて……私もこうしているわけにはいかない)

 

 遊希もまたいつまでも泣いているわけにはいかなかった。ハンカチで涙をふき切ると、周囲を見回す。最後の刺客が敗れ去った。となると黒幕の下にもう動かせる者はいない。それならば黒幕が取る行動は一つ。

 

 

 

「どこにいるの……出てきなさい」

 

 

 

 遊希がそう言うと、電話口で聞いた「うふふ」という笑い声が風に乗って聞こえてきた。その声のした方向―――屋上入口の方を振り返ると、たった今竜司たちが入ってきた屋上入口の上に一人の少女が座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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変わらぬ友情(修正版)

誤って、修正前の原稿をアップしてしまっていたので再度上げ直しました。


 

 

 

 

 

 

 上空に吹く風の音だけが響く閑散とした屋上に響くのは黒幕が拍手をして起こるパチパチパチ、という音だけだった。夜の闇のように暗い色をした漆黒のローブを胸元で止め、その隙間から見えるのはアカデミア女子の制服。顔は皐月が付けていたものと同じ髑髏の仮面で覆われており、その脇から見えるのは銀色の髪。千春と皐月の証言にあった、エヴァ以外の銀髪の少女―――その少女こそが今回起きた一連の事件の黒幕だ。

 

「やっと、会えたわね」

 

 遊希は少しふらつきながら黒幕の少女が座っている屋上入口の前へと歩き出す。少女は座ったままその場を動こうとはしなかった。

 

「……あんたとはずっと会いたかった」

「あら? 嬉しいことを言って頂けるのですね。私も貴女の顔を直接この眼で見ておきたかったのです。うふふっ」

「奇遇ね。私も……その仮面を取っ払って素顔を拝みたくてしょうがないのよ」

 

 会話をする二人のテンションは傍から見れば至って普通のように見える。しかし、遊希からは言葉の節々から黒幕に対しての怒りと憎しみが感じ取れ、黒幕からは遊希の神経を何処か逆撫でするかのような意図が見て取れる。少なくともその場にいた鈴たちはそう感じていた。

 

「遊希……気を付けて……そいつは……!!」

「鈴、全部千春と皐月から聞いているわ。そこの仮面が、あんたを操って千春や皐月に酷いことをしたってね」

「違うの……そうじゃなくて……」

 

 鈴が止めるのも厭わず、遊希はデュエルディスクを再度構えると、そこに直接銀河眼の光子竜のカードをセッティングした。デュエル中ではないため、召喚条件を満たしていなくともモンスターはホログラムとして現れるようになっているのだ。

 屋上には全身を激しく光らせて光子竜が舞い降りる。光子竜もまた、遊希の感情の高ぶりと共鳴するかのようにけたたましい咆哮を上げて黒幕を威嚇する。

 

「銀河眼の光子竜……生で見るとその美しさは格別ですね。最も天宮 遊希、貴女の美しさの前ではそのドラゴンすらも霞みますが。うふふっ」

―――腹の立つ言い回しだな。

「……褒め言葉のつもりだろうけど、今の私には逆効果よ。むしろ火に油を注ぎたいのかしら?」

「なるほど、差し詰め貴女は火で私の言葉は油ですか。私の言葉で烈火のごとく燃え上がる貴女の顔もまた見てみたいですね。普段とは違う貴女の一面……ああ、想像するだけでゾクゾクする!!」

「貴様っ……ふざけるのも大概にしろ!! この外道!! 光子竜!!」

 

 遊希は光子竜に攻撃の指示を出す。光子竜は全身の光を口内に集中させて破滅のフォトン・ストリームを放った。もちろんこの光子竜の攻撃はホログラムなので普通ならば人体に影響は及ぼさない。

 しかし、光子竜は精霊であり、遊希はその精霊を操ることができる。そのため遊希の判断、遊希の力次第でそのダメージを実体化することも十分に可能なのである。

 

 

 

 

 

 

「―――デュエリストが、デュエル以外でダイレクトアタック、というのはどうなのでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 光子竜の攻撃が今まさに黒幕に直撃しようとした瞬間。黒幕は自分のデュエルディスクから1枚のカードを取り出す。そのカードはXモンスターの黒枠のみしか描かれていないカードだった。

 黒幕は小声で何か詠唱のようなものを唱えると、そのカードが光を放ち出す。そして光り輝くカードを黒幕がデュエルディスクにセッティングするや否や、主人を守るがごとく光を纏ったモンスターが現れたのである。

 光で覆われているため、そのモンスターの姿ははっきりとはわからない。しかし、角と翼と尾が生えていることからドラゴンであることはわかった。召喚されたドラゴンは瞬時にバリアのようなものを貼ると、光子竜の攻撃から黒幕を守ったのである。

 

「……っ!!」

―――私の攻撃を防ぐだと? まさか……!!

 

 遊希は絶句した。光子竜は精霊である。精霊の攻撃を単なるモンスターが完璧に受けきれるとは考えにくい。それならば答えはただ一つしかない。

 

「このドラゴン、可愛いでしょう?……この子こそ私が従える精霊ですよ、うふふっ」

 

 そう言って黒幕はドラゴンの足の部分を撫でる。普通ならホログラムのモンスターに触れることなどできないのだから、間違いなくそのモンスターは精霊。そして光子竜と並ぶだけの力を持っていることが見て取れた。

 

「つまりそいつが三幻魔や三邪神のカードに……」

「そういうことになるのでしょうね。それら普通のカードに力を与えたのはこの子。今回一連の事件において、一番の功労者と言えるでしょう」

「……聞いてもいいかしら? そのカード、その精霊とは何処で出会った?」

 

 髑髏の少女はうーん、と少し考える様子を見せると首を横に振る。

 

「残念ながらそれをお教えするわけにはいきません。ただ、敢えて言うならばそれは運命……なのかもしれませんね」

(運命……?)

「まあ、いずれわかることです。その時は今ではありませんが……」

 

 そう言うと、今まで座っていた黒幕は立ち上がり、なんと自分が呼び出したドラゴンの背中に飛び乗ったのである。遊希と言えども光子竜に直接触れるのはともかく、黒幕のように頭や背中に乗る、といった芸当は試したことこそあっても一度も成功しなかった。

 

「バカな……ソリッドビジョンのモンスターに乗るだと……」

「待ってくれ! 一つ教えて欲しい」

 

 唖然とする一同だったが、竜司が黒幕を呼び止めた。竜司としてはどうしても黒幕に聞いておきたいことがあったのである。黒幕は遊希と接する時と違って竜司には冷たい眼を向けた。黒幕の興味はあくまで遊希にしかないようだった。

 

「なんでしょうか。娘を、生徒を守れなかった非力な校長先生?」

「くっ……き、君の目的はなんだ。何故アカデミアを襲った?」

「愚問ですね。あなたに聞かれて目的を教えるわけはないでしょう」

「じゃあ、私が聞けば教えてくれるの」

 

 今まさに飛び立とうとするドラゴンの足元に詰め寄る遊希。ホログラムのはずのドラゴンからは仄かに熱が伝わってくる。まるで本当に生きているような、そんな感覚を感じる。

 

「……そうですね、以前も電話でお話ししたかもしれませんが……私の目的はあくまで……貴女なのですよ。天宮 遊希」

「なんですって?」

「貴女はこのような所にいるべきではない存在。故に私は貴女を求めた。心も身体も」

 

 遊希は黒幕の言っていることが全く理解できなかった。黒幕の目的は自分自身。だが、何故自分がここにいてはいけないのか、何故そうまでして黒幕は自分を求めるのか。

 聞けば聞くほど深まる謎に遊希は混乱し、その場を動けなくなる。それを見計らったかのように、黒幕は精霊に何やら指示を出す。精霊は小さく頷くと、矢じりのように尖った腕で虚空を切り裂いた。次の瞬間、その切り裂いた箇所にワームホールのようなものが出現したのである。

 

「今回は身を引きましょう。ですが、これだけは覚えておいてください。天宮 遊希―――私はいずれ貴女の前に現れる。そして貴女の心と身体を我が物にする」

「っ……!! 待て……!!」

 

 精霊は黒幕を乗せたまま、天空へと舞い上がるとそのままワームホールに吸い込まれるようにして消えて行った。光子竜は周囲を探ってみるものの、既にその周辺に精霊の力を感知することはできなかった。

 遊希は黒幕を撃退し、囚われていた鈴・千春・皐月の三人を助け出すことはできた。それでも黒幕は取り逃がしてしまったし、黒幕が何故自分を狙うのか、一番知りたかった情報を得ることができず、彼女の中にはもやもやしたものだけが残る形となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから月日は流れ、鈴が救出されてからはやくも2週間が経過した。最も長く黒幕に洗脳され、多くのデュエルを行ってきた鈴の負った傷が回復するまでそれだけの時間を要してしまった。

 結局大会は中止となり、来年に持ち越しとなってしまった。死者や重傷者が出なかったのがセントラル校にとって不幸中の幸いと言える。世間は既に夏休みモードに入っており、災厄が去ったこともあって本来の明るさを取り戻している生徒たちがほとんどであった。

 しかし、何事もなく無事に退院の日を迎えた鈴の心は未だに沈んだままであった。悪いのは鈴を操った黒幕であり、それを疑うところはない。だが、鈴自身がそうは思っていなかった。

 

「……私、このままセントラル校に戻っていいのかな」

 

 病院から帰る車の中で後部座席に一人座る鈴がぽつりと呟いた。あの時は操られていたとはいえ、自分は黒幕の代わりに親友を傷つけてしまった。客観的に見たら自分も黒幕の共犯者となってしまう。そんな自分が元通りの生活を送っていいのか。彼女の心にはすっかり暗い影が根付いてしまったのだ。 

 

「何言ってるのよ、鈴は何も悪くないんだから」

「そうだよ。鈴は今まで通り過ごせばいいだけだ」

 

 運転している竜司と助手席の蘭が即座にフォローを入れる。しかし、大好きな両親の言葉も彼女の心を融かすには至らなかった。下を向き俯く鈴に蘭は「みんなが待ってるわよ」と遊希たちが寮の部屋で待っていることを告げる。夏休みに入っているのにまだ遊希たちは学校にいるということなのだろうか。

 

(みんな……私に怒っている……)

 

 気が乗らない鈴だったが、竜司と蘭に促されるまま一人で寮の部屋に向かった。鈴は部屋のドアをノックするも返事はない。誰もいないのだろうか、と思ってドアノブを触ると鍵がかかっていないことに気付く。

 いくら事件が解決したとはいえ、鍵をかけないのはさすがに不用心すぎると思いながら鈴は部屋に入った。電気も点いておらず、人の気配もない。ならば何故部屋に呼んだのか。そんなことを考えながら彼女は自分が使っている部屋のドアを開けた。その瞬間である。部屋の電気が一斉に点き、クラッカーのけたたましい音が部屋中に鳴り響いた。

 

「きゃっ!? な、何……」

 

 明るくなった部屋の中には遊希と鈴より一足先に退院した千春、皐月、エヴァの姿があった。部屋の中心においてあるテーブルの上にはケーキやフライドチキンといった豪勢な食べ物やエヴァが用意したと思われるロシアの料理ががこれでもかと置いてあった。

 

「えっ? えっ……」

「みんないくわよ、せーの……」

 

 状況が飲み込めない鈴に遊希が照れくさそうに音頭を取った。

 

 

 

「「「「鈴(さん)! 退院おめでとう!!」」」」

 

 

 

 

 

 遊希は事前に竜司と蘭に鈴の退院予定日を聞いていた。それは鈴の退院を祝うサプライズパーティーを開くためだったのだ。

 鈴には内緒で遊希は千春、皐月、エヴァにこのパーティーの開催を持ちかけたところ、三人は二つ返事で協力を快諾した。料理の用意や竜司たちとの段取りは健康な遊希が、病み上がりの三人は部屋の飾りつけなどを主に担当し、無事この日を迎えられたのである。

 

「……」

「ほらほら、主役なんだから座って座って!」

 

 口を開けてポカン、としている鈴を千春が上座へと座らせる。状況を未だに飲み込めない様子の鈴は周囲を怯える子犬のように見回すことしかできないようだった。

 

「驚かせてしまったようで申し訳ありません……ですがいわゆるサプライズというものはお教えしてはいけないものなので……」

「それより私は腹が減ったぞ。昼飯を抜く、というのは結構きついものだな」

「全く、エヴァったら……千春、そろそろ取り分けるわよ。手伝って」

「はいはーい!」

 

 呆然とする鈴をよそにテーブルの上に並べられた食材を小皿に取り分ける遊希と千春。

 

「なんで……」

 

 そんな中、鈴は小声でうわ言のように何かを呟く。

 

「どうしたの? 何か言った?」

「なんでよ。なんで私にこんなことするの? 私は……みんなを傷つけたのよ!! あいつに操られて千春や皐月に危害を加えて……あいつの手先となって遊希にまで……!!」

「あんたは被害者よ。あくまで悪いのはあの黒幕。あんたは何も悪くないわ」

 

 声を荒げる鈴に遊希はあくまで冷静に答える。しかし、一見冷静そうに見える遊希も何かを我慢しているようだった。

 

「でも……どんな理由があっても私が悪いことには変わらない!! もうみんなとは前とは同じように付き合えないのよ!!」

「鈴っ!!」

 

 そう言い切った鈴の頬に痛みが走った。遊希は必死の形相で鈴の頬を叩いた右手を見つめていた。

 

「……鈴。確かにあんたのしたことはいけないことかもしれないし、きっとこのままあんたは罪悪感に苛まれ続けるかもしれない」

「そうよ。だから私は……!!」

 

 遊希は鈴の肩をがしっと掴み、対面同士で向き合うようになる。遊希の瞳に鈴の顔が、鈴の瞳に遊希の顔がそれぞれ映し出される。涙で潤った遊希の澄んだ瞳に映る自分の顔を見た鈴は驚いた。自分もまた遊希同様瞳に涙を溜めていたのである。鈴は自分が泣いていることに気付いていなかった。それどころか何故自分が涙を流しているのかがわからなかった。

 

「もし……あんたが一生この罪を背負い続けなければいけないと言うなら! 私も一緒にその十字架を背負う!」

「えっ……?」

「一人では重い十字架でも二人ならその重さは半分になるでしょう? 今回の事件で黒幕のあいつは私にはっきりと言ったのよ。本当の狙いは私だって。それならみんなは私のせいで巻き込まれたことになるわね」

 

 遊希の真剣な顔が映る鈴の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。この涙は、懺悔の涙などではない。この涙は、歓びの涙だった。遊希のこの決意が秘められた言葉が乾ききった鈴の心に染み渡った。そんな時、二人だけの世界に入りつつある遊希と鈴に千春が割って入ってきた。

 

「ちょっと待ちなさい! 何二人だけで盛り上がってるのよ!」

「そうですよ……鈴さん、私と千春さんも操られてしまい、結果的に多くの仲間を傷つけてしまいました。私たちにも罪はあります」

「だから二人だけに罪を背負わせなんかはしないわ! 私たちも罪を背負う!」

「これで重さは4分の1ですね」

 

 皐月のその言葉に鈴を除いた三人が「そうね」とクスクス笑う。未だ呆然とその様子を見ていただけの鈴に後ろから暖かいものが覆いかぶさった。今まで唯一話に関わっていなかったエヴァである。

 

「鈴……私が言うべきことかどうかはわからないが……私も含め多くの人間が今回の事件で傷ついた。鈴が罪悪感を感じるのもわかる。だが、鈴。お前は一人ではない。お前の周りには私がいて、千春がいて、皐月がいて、ご両親がいて、先生方がいて、他の学生たちがいて、そして遊希がいる。だから、一人で背負い込むなんてことはするな。私たちは、もう親友であり、仲間なのだから」

 

 エヴァの優しいその言葉に、今まで抑え込んできた鈴の感情が爆発した。両方の瞳から大粒の涙がとめどなくこぼれ始める。

 

「み、みんな……みんなぁぁぁ……!!」 

「鈴、あんたにそんな顔は似合わないわ。いつも通り明るい笑顔を見せてちょうだい。そして改めて言わせて欲しい―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――おかえり、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ううう……みんな、ありがとう……ありがとう……!!」

 

 堰を切ったかのように流れる涙。一人泣く鈴に釣られたのか、遊希も、千春も、皐月も、エヴァも。その場にいた少女たちは皆子供のように大声で泣き始めた。

 今回の事件では多くの人間が傷ついた。多感な少女たちの心には確実に傷を及ぼしたかもしれない。だが、彼女たちは一人ではない。走れなくとも共に肩を寄せ合い歩くことができる。それだけの力を秘めている。

 性格も生い立ちも過去もデュエルスタイルも、何もかもが異なる五人の少女であるが、これだけは言えるということが一つある。それは彼女たちの友情は、絆は紛い物ではないということ。そしてそれは本物であり、見えないながらも決して壊れない。それだけの固さを持っている。五人の少女は改めてそれを確かめ合ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               『銀河の竜を駆る少女』

 

                  第二章 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3章 青春を謳歌する少女たち
2通の手紙


 

 

 

 

 

 鈴が退院し、セントラル校に戻ってきてから早くも一月近く経った。セントラル校は何事もなかったかのように夏休みに入っていた。

 夏休みのセントラル校はほとんどの生徒が帰省し、残るのは完全に寮を実家としているわずかな生徒だけだった。入学の際に住んでいたマンションを引き払った遊希もそのうちの一人であり、同じくロシアから留学してきたため寮に住んでいるエヴァなどと一緒に過ごしているため決して人恋しさを感じるレベルではないのだが、それでも夏休みに入って遊希は暇を持て余しつつあった。

 

「私宛に郵便物、ですか?」

 

 セントラル校の寮に入寮している生徒に対する郵便物はセントラル校の管理室に届いており、何か重要な郵便物が届いた時はそこから各部屋に連絡が行くようになっている。

 当直の管理人から連絡を受けた遊希が郵便物を取りに行くと、2通の封筒が届いていた。片方は日本語で「天宮 遊希様」と印刷されている如何にも事務的な封筒。その一方でもう一通の封筒は日本語に慣れていない者が書いたのだろうか、かろうじて遊希の名前が読めるというレベルだった。

 遊希は宛名が印刷された封筒を机の上に無造作に放り投げると、もう片方の封筒の封を切った。手紙の主―――ジェームズ・アースランドはこの時故郷である英国に帰国していた。ジェームズは先の事件を受け、エヴァそして自分たちを救ってくれた遊希に対して一通の手紙を送っていた。

 

「……無理に日本語で書かなくてもいいのに」

 

 ミミズが這ったような日本語、それも全て平仮名で書かれた手紙は正直言ってとても読みにくい。それでもジェームズなりの気持ちが込められた手紙となっていた。

 ジェームズは退院後、母国である英国に帰った。そして実家にエヴァとの復縁を申し出た。もちろんあのような出来事があったため、彼らを納得させるのには相当な苦労をしたようであるが、竜司さんたちの後押しが良い方向に働いたのか、両家の関係は修復の傾向を見せているという。

 すっかり回復したジェームズは学業と並行して父の会社を継ぐための勉強をしていた。手紙の内容からその苦労が窺い知れる。それでも彼は充実しているようだった。

 

「……でも、なんだかんだ言って上手くいっているようで何よりか。さて、次はこっちね」

 

 ジェームズへの返信は図書館で英語辞典を引きながら書くとして、次は机の上に投げ置いたもう1通の封筒の封を切った。封筒の裏には「KC」の2文字が書かれており、その中から出てきたのは指定された日時および併設されたテーマパーク「カイバーランド・シー」の1日フリーパス券とホテルの無料宿泊券が5枚ずつ。

 遊希にとってはいつ来るかいつ来るか、と思っていた手紙であったが、案外来てしまうとそんなもんか、と思えてしまう。しかし、彼女にとってそんなもんか、と思った手紙が彼女の人生をまた左右するものでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて遊希って凄いわね……あのカイバーランドのフリーパス券貰えるなんて」

 

 5枚分のフリーパス券と宿泊券を鈴・千春・皐月・エヴァに渡した遊希は1泊2日のスケジュールを組むと、学校から遠く離れた海沿いの県にやってきていた。

 カイバーランドは元々軍事企業だった海馬コーポレーションをエンターテインメント主体の企業に転換させた2代目の社長が作りあげたテーマパークであり、その2代目社長が特に愛用していた「青眼の白龍」が各地にあしらわれていることで有名な遊園地である。

 今回遊希たちが招待されたカイバーランド・シーは通常のカイバーランドがジェットコースターや観覧車など普通の遊園地をモチーフにしているのに対し、ウォータースライダーや流れるプールなどのウォーターアトラクションをメインに設置している施設である。

 

「そこはさすが元プロデュエリスト、といったところですね……」

「カイバーランド・シーかぁ……最近できたばっかりでチケット買えないから行けるのはまだまだ先になると思ってたけど、こんなに早く行けるとはね。持つべきものは友ね!」

「カイバーランド……ロシアにはそんなものはなかったな」

 

 喜ぶ千春と皐月、そして何処か複雑な表情をしていたエヴァを尻目に遊希はずっと電車の窓の外から流れる景色を見ていた。電車の外では横を通る高速道路の上下線を多数の車が行き来している。この車は何処へ行き、何処へ向かうのだろうか。

 遊希がそんなことを考えているなど知らず、無表情で外を見ている彼女のことが鈴は気がかりでならなかった。単に遊びに行くだけなのに、遊希の顔にはあまり笑顔が見られないからだ。元々表情が硬い方なのかもしれないが、春に出会って今の今まで遊希はすっかり丸くなっていた。遊希も鈴たちを信頼しているからこそ、彼女たちの前で泣き、怒り、笑うことができるのだ。

 

「遊希?」

「……」

「遊希、ちょっと、遊希」

「っ!? どうしたの鈴?」

「あんたさっきから顔に生気がないわよ。何処か体調悪いとか無いわよね」

「……別に、大丈夫だけど。そもそも体調崩してたら今日こうして来てないわ」

「それもそうよね、大丈夫なら別にいいわ」

 

 遊希本人が大丈夫、というのならば大丈夫なのだろう―――と鈴は思えなかった。この数か月一緒に過ごしてみてそれとなく天宮 遊希という人間を理解していた鈴は遊希が何かを隠している、ということを察知していた。

 それでも無理に掘り出そうとすればへそを曲げてしまう。天宮 遊希とはそんな面倒な人間なのだ。頑なな彼女の心を溶かす方法。それは彼女の方から歩み寄ってきてもらう。遊希が弱っている時、受け入れてあげることが大事である。鈴はそれを理解していた。

 

(まあ、今は楽しむとしようかな)

 

 鈴はそう思い、千春や皐月とカイバーランド・シーについての談義に花を開かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイバーランド・シーは入場前からプールで遊びたい家族連れや団体客などで長蛇の列を作っていた。そんな人たちを横目に専用の入場口からフリーパスで入場するというのは聊か気恥ずかしい気がする。

 それでも入れてもらえるのだから、堂々と入ろうと思った5人はカイバーランド・シーの中に入ると、持参した水着に着替えることにした。遊希からカイバーランド・シーに行ける、ということを聞いた鈴と千春は、遊希とエヴァを連れて新しい水着を買いに行った。

 

「水着なんてただの布なんだし、なんでもいいじゃない」

「正直私もそれほど興味がないのだが……」

 

 容姿端麗でスタイルがいい割に水着に興味を示さない遊希とエヴァを鈴と千春が無理やり引っ張って行った水着ショップ。夏とだけあってビキニから競泳水着まで多くの水着が取り揃えてあった。そこで選んだ肝入りの水着を着た鈴が鏡の前に立つ。

 

「……うーん、こんなんでいいかな」

 

 鈴の水着は青と白のボーダー模様のビキニである。最初はもっと地味な色のものを選ぶ予定だったのだが、どの水着にしようか悩んでいた彼女に声をかけた女性店員のある言葉が決定打となった。

 鈴は自分のスタイルにそれほど自信があるわけではなかった。決して胸は小さくないし、ウエストも太くはない。ただ大きすぎるわけでもなければ小さすぎるわけでもなく、太すぎるわけでもなければ細すぎるわけでもない。つまり、メリハリのある身体ではないのである。

 そんな彼女に派手な水着を着せる決心を付けさせた店員の言葉。それは「ボーダーは膨張色ですよ」というもの。膨張色であるボーダー柄の水着を着用すれば普通サイズの胸もお尻も少しはメリハリが付くのではないだろうか。それを願った上でこの水着を買ったのである。

 

「……やっぱそんな変わんないや」

「どうしたのよ、そんな暗い顔して」

 

 落ち込む鈴の肩を叩いたのは千春だった。千春は上は水玉柄のタンクトップ、下はデニムのパンツという組み合わせだった。いわゆる「タンキニ」という着こなしであり、露出を極力少なくした上でおしゃれさと可愛さを出した水着であった。

 

「ううん、なんでもない」

「あら、その水着意外と似合ってるじゃない! 鈴らしくて可愛いと思うわ」

「……なんだろう、あんたに褒められてもそんな嬉しくない」

「何よそれ!! どういう意味!?」

「まあ、こんなところにまで来て喧嘩してちゃダメよね……あれ、遊希と皐月は?」

「あら、さっきまでそこにいたような……」

 

 鈴と千春が周囲を見回すと、着替えを入れるロッカーの陰から遊希が顔を出して同じようにキョロキョロと周囲を見回していた。何かを探しているのだろうか、と思った鈴と千春に気付いた遊希は何も言わずに「こっちこっち」と2人を手招きする。

 どうしたのかしら、などと言いながら遊希の元に向かった鈴と皐月は遊希の水着を見て「うっ」と変なうめき声を出した。遊希の水着は上下黒のビキニであり、その水着はシンプルな色合いながらスタイル抜群かつ白い遊希の肌に映えたものとなっていた。

 黒のビキニはそれこそ彩りこそ足らないものの、プロポーションが抜群な女性が着ればそのセクシーさは群を抜いている。遊希がまさにそれであり、5人の中で皐月に次いで豊満なバスト、ほどよく筋肉がつきながらかつ女性らしい柔らかさを残したウエスト、そして長くすらっとした脚を支える締まったヒップ。そのどれもが下手なグラビアアイドルが裸足で逃げ出すレベルのものであったのだ。

 

「あのね、皐月が……ってなんなのよあんたら。そんな死にそうな顔して」

 

 スタイル抜群のセクシー美少女を前にして鈴と千春は自分の身体を死んだ魚のような眼で見ていた。

 

「けっ、牛みたいな乳しやがって」

「けっ、馬みたいなケツしやがって」

「いまなんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだけどー」

「気のせいじゃないかしらー」

「ええそうよー、で、皐月がどうかしたの?」

「……ああ、皐月なんだけどね……」

 

 遊希に連れられていった先には脱衣所で一人苦悶の顔をしている皐月の姿があった。皐月は時間が合わなかったのもあるが2年前に買った水着があるから、と遊希たちと一緒に水着を買いに行かなかった。しかし、皐月の身体の成長具合は本人の予想を上回っていたようで、持参した水着がどうしても合わなかったのである。

 

「すいません、着るの手伝って貰ってもいいでしょうか……」

「すまない。私も手伝っているのだが……」

 

 顔を真っ赤にして必死に身体を水着に収めようとする皐月とそんな彼女を手伝っているエヴァ。当然のことながら、エヴァも遊希に負けず劣らずのプロポーションをしているのだが、そこは民族の違いということで割り切ることができた。できたのだが、遊希に対しては色々な感情が入り混じったがために衝動的にならざるを得なかった。

 

「ということで紐結ぶから持っててほしいんだけど……ってなんでそんな病んだ眼してるのよ」

「……このー! 大きいからって調子乗んなー!!」

 

 何故か半泣きの鈴は遊希の胸を思い切り両手で掴み上げる。突然の鈴の行動に遊希は唖然としたような呆然としたような顔を浮かべるだけで悲鳴すら上げることはなかった。

 あまりに行動が突然すぎたため、遊希は今自分が何をされているのかがしばらく理解できなかったのである。しかし、さすがにくすぐったくなってきた遊希は止めに入ろうとするも危ない目をしている鈴は中々やめようとしない。

 

「ちょっ……」

「遊希ばっかりずるいわ! 顔も可愛くて髪も綺麗で背も高くて性格は悪いけど脆いところがギャップで愛らしくておまけに胸まで大きくてー! このこのこの……もっと寄越せー!!」 

「っ……この変態! ちょっとは自重しなさい!!」

 

 変態呼ばわりされた挙句、遊希に拳骨を食らった鈴とそれを無表情で眺めていた千春は改めてこの世に神がいないこと、そして「天は二物を与えず」という言葉が大嘘であることを思い知らされるのであった。

 結局皐月はその水着を着れなかったため、レンタルのものを借りることにした。上下水色のビキニに、腰に薄手のパレオを巻いたものであり、それは皐月の包容力をまた別の形で表すものとなったため、鈴と千春はさらに打ちのめされるのであった。

 

「……鈴、皐月。ちょっとこっちへ」

 

 鈴となんとか水着を着れた皐月を遊希が鏡の前の洗面台に呼ぶ。遊希は長い髪を1本の三つ編みにまとめると、毛先を青い髪飾りで止める。その様はまるで龍の尻尾を思わせるようなものであった。千春のように短いならいざ知らず、髪の長い女性はプールやお風呂ではそれを結ぶのがいわゆるマナーなのであった。

 

「遊希できるの?」

「勿論。皐月はどんな結び方がいい? リクエストには可能な限り応えるけど」

「あ、ではお任せします」

「そうね……じゃあこれでいこう」

 

 遊希は鏡の前の椅子に腰かけた皐月の髪に手を入れて数回ほぐし、ヘアゴムで後ろに一つにまとめる。そのヘアゴムのゴムを緩めてできたヘアゴムと後頭部の間の穴にまとめた髪を上から入れ込んだ。

 その後、髪を全てそのゴムの中に通し、最後はヘアピンでその髪を固定する。遊希はこれで皐月の長い黒髪をあっさりまとめてしまった。

 

「こんな簡単にまとめて頂けるなんて……ありがとうございます。ところでこの髪型は?」

 

 髪型の詳細を問われた遊希であるが、テレビ番組でやっていたおしゃれな髪型、という特集を見ただけであって名前や詳細までははっきりとは覚えていなかった。アメリカ発祥の髪型、というのは聞いていたが。

 

「えっと……ギブ、ギブ……ギブアップとかそんな名前」

「もしかして、ギブソンタックってやつ?」

「そうそれ。確かそんな名前の髪型」

「あんたにこんな才能があったとは驚きね……私もやってー」

「鈴はそんな長くないから……髪を折り曲げてヘアピンで止めて……こんなんでいいでしょ」

「……上手くまとまったけど、なんか扱いがぞんざいじゃない?」

「そんなことないわよ」

 

 さっき色々と恥ずかしい目にあった復讐、とはさすがに思い浮かばなかったようだった。まあいいか、と思っていると1人ヘアアレンジをしてもらえなかった千春は不機嫌そうにそっぽを向いて膨れていた。

 

「むー……みんなばっかりずるい。私もヘアアレンジしたい」

「仕方ないでしょ、あんた髪短いんだから。もう少し伸ばしたらやってあげるから」

 

 子供のようにむくれる千春は、来年のその時まで髪を伸ばそうかどうかを検討するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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青き眼のアトラクション

 

 

 

 

 紆余曲折、色々あったが無事水着に着替えた遊希たちはカイバーランド・シーの誇る巨大プールエリアへと足を運ぶ。そこは予想していた通り、海馬コーポレーションの象徴でもある青眼の白龍があちこちにあしらわれたプールだった。

 ウォータースライダーはスライダーの入口が青眼の白龍の尻尾になっており、身体の中を通って口から出るという仕組み。波のプールは青眼の白龍を模したロボットが翼を羽ばたかせて波を起こすという形に、流れるプールは一見普通のプールであるが、プールの形を上から見ると青眼の白龍のフォルムにそって流れるものとなっているのだ。

 

「本当に青眼ばっかりねここは」

「なんでも有名な2代目社長が拘ったらしいわ。カイバーランドを作る時は必ず青眼の白龍をメインに添えろ、って」

「凄いですね……」

「確かその2代目社長の時は青眼の白龍のカードはまだ世界に4枚しかないカードだったそうよ。そのうちの3枚を所持していたとか」

 

 遊希たちからしてみれば遥か過去の人間であるその2代目社長であるが、今となってもその奇想天外なエピソードは伝説となっている。

 4枚目の青眼の白龍のカードを奪って破り捨てただの、デュエルに敗れそうになると断崖から身を投じようとするだの、弟と青眼の白龍を模した戦闘機を操縦しただの良い話も悪い話もたくさん残っている。もっともそれもまた有名税というものなのかもしれない。

 

「さあプールに突撃ー!」

「待ちなさい。今は夏よ、日焼けしてシミにでもなったらどうするの」

 

 外に出る前に互いに日焼け止めクリームを塗り合いっこする五人。スタイルのいい遊希と皐月が鈴と千春にセクハラ攻撃を受けたのは言うまでもないし、それに怒った遊希に反撃を受けたのもまたお馴染みの光景となりつつあった。

 

「……取り敢えず何から行きましょうか」

「プールと言えばまずはウォータースライダーでしょ! 滑るわよー!!」

「えええ……私ちょっと高いところは……ま、まずは準備運動からしましょうか」

 

 水着姿の少女たちは軽く準備体操をすると、青々とした水が煌めくプールへと駆けだした。

 

 

カイバーランド・シー アトラクションその①:ウォータースライダー「ブルーアイズ・スライダー」

 

 

 遊希たちが最初に足を運んだのはやはりウォーターテーマパークの代名詞的アトラクションであるウォータースライダーだ。「ブルーアイズ・スライダー」と名付けられたそのウォータースライダーはパンフレットの説明にもあったように、青眼の白龍の尻尾から入り、頭から多量の水と共に放出されるものとなっている。

 その長さは約30mほどとなっており、ウォータースライダーとしては平均的な長さであるものの、青眼の白龍の口から多量の水と共に吐き出される様はまさに青眼の白龍の必殺技「滅びの爆裂疾風弾」を上手く表現していると海外からも評判が高いのだ。

 

「うーん、意外と30mって高いのね」

「なんかお笑い芸人が目隠しされたまま連れて来られた30mの高さの飛び込み台から何分で飛び込めるか、みたいなクイズを見たことあるわ。あれってこんな気持ちなのかしら」

 

 入口から水が流れる様を見ている鈴と千春に対し、スタート地点の縁に掴まったまま震えているのは皐月。彼女は実は高いところが大の苦手、という弱点があった。

 

「皐月、大丈夫?」

「……大丈夫じゃないです。あ、あのやっぱり私は下で待ってますから皆さんで滑ってくれていいですからね」

「あら、デュエリストが勝負から逃げるの?」

 

 そう言って逃がすものか、とばかり皐月の腰を掴む千春。小柄だが意外と力の強い彼女にがっしりと掴まれてしまった皐月はその場から逃げることができなくなってしまっていた。

 皐月はうるうるとした目で遊希と鈴とエヴァに助けを求めるものの、三人にはどうすることもできず、千春に引きずられる形でウォータースライダーの入り口に座らされる。皐月は千春を前に抱える形になってしまったため、立つことも動くこともできない状況になってしまった。

 

「あうう……おしりが冷たいです」

「そりゃ水に濡れてるんだから当然よ! さーて、心の準備はいいわね、皐月!」

「い、嫌です! 私まだ生きたいです! 恋愛とかしてみたいです、綺麗なウエディングドレスの似合うお嫁さんになりたいです! お願いします、助けてください! なんでもしますからぁ~!!」

「ん、今なんでもするって言ったわよね?」

「え、ええ……」

「じゃあ今から私と一緒に滑りましょう! 係員さん、お願いしまーす!」

「嫌あああっ!!」

 

 係員の女性は苦笑いしながら皐月の背をゆっくりと押していく。ちなみにこのウォータースライダーを滑る時はとある掛け声をするのが恒例となっていた。

 

「それじゃあ、行ってらっしゃいませー、せーのっ!」

 

 

「滅びの爆裂疾風弾~!!」

 

 

 遊希が「どんな掛け声よ」とツッコミを入れる間もなく歓声と悲鳴を上げながら千春と皐月はスライダーへと飲み込まれていった。薄っすらと透けた青眼の白龍の身体の中を2人が歓声と悲鳴を上げながら滑っていくのが見える。

 

「私たちも行きましょ」

「ええ、ところで……」

「何?」

「あの掛け声、私も言わなくてはいけないのか?」

「ダメ♪」

「ですよねー……」

「それの方が嫌だぞ私は」

 

 それじゃあ行きますよ、という係員に乗せられて「滅びの爆裂疾風弾~!!」の掛け声と共に三人は水に乗ってウォータースライダーを下って行った。千春と皐月の後を追うように遊希は鈴とエヴァを前に乗せる形でブルーアイズ・スライダーを勢いよく滑っていく。

 ちなみに「滅びの爆裂疾風弾」という掛け声が表わすように、青眼の口から飛び出た時は流れてきた水とその勢いも相まって、本当に水面に爆発したかのように飛び込んだ。そのせいか、滑り終えた後に泣きながらこぼれ落ちそうな胸を両手で抑えながら泣いていた皐月のために四人がほどけた水着の上を探す羽目になってしまったのは言うまでもない。

 

 

 

カイバーランド・シー アトラクションその②:波の起きるプール「ブルーアイズ・ウェーブ」

 

 

「うう、もうお嫁に行けません……」

「まあ周りに男の人が居なかったのが不幸中の幸いよね」

 

 泣きながらさっきよりもきつく水着の上を結び直した皐月を連れて向かったのは波の起きるプールだった。ちなみに波の起きるプールは実際の海のように波がひとりでに起きているわけではない。

 プールの裏には巨大な造波装置、すなわち波を起こす機械が設置されており、それを稼働させることでプールに実際の海を彷彿とさせるような波を起こしているのだ。ちなみにここではその装置を隠した岸壁の上にこれまた巨大な青眼の白龍のロボットが置かれており、その青眼の白龍が翼を羽ばたかせることで波が発生する。

 大きな波が起きる時は翼を羽ばたかせるだけではなく咆哮もするため、大波に挑もうとする命知らずな客やそれから逃げようとする客にも大波が来るタイミングがわかるようになっている。

 

「よし、こんなんでいいか」

 

 ここに入るにあたって遊希たちは浮き輪2つに空気を入れる。これに掴まっていればよほど大きな波が来ない限り溺れる心配はない。身体の小さな千春とあまり運動が得意ではない皐月が浮き輪に身体を通し、遊希と鈴とエヴァがそれぞれ二人の浮き輪を支えながら泳ぐという形になった。

 

「さあ行くわよー」

「うおう、なんか本当に海に来たみたい!」

「これが人工物なのか……あ、水はしょっぱくないぞ」

「身体がぷかぷかと浮いて……クラゲになった気分です」

「だからと言って気を抜くとあっという間に岸まで流されちゃうから気を付けないといけないわね」

 

 波に合わせて押し流されないように、かつ沖まで連れていかれないように慎重にバランスを取りながら泳ぐ五人。波に揺られていると皐月のいったようにますますクラゲのようにぷかぷかと浮いているだけになり、何も考えず、何も喋らなくなる。五人の沈黙が続く中、ふと千春が口を開いた。

 

「ねえ」

「何?」

「クラゲって波に揺られてるとき何を考えてるのかしらねー」

「……えーと」

「あの、クラゲに脳はないんですよ」

「えっ、そうなの?」

「そうよ。単細胞生物だから大きいプランクトンみたいなものね。千春みたいな」

「そうなんだ、へー……」

 

 それから数十秒会話が途切れるが、遊希の言ったことの悪意に千春がようやく気付いた。

 

「って誰がプランクトンよ!!」

「ほら、今の私の悪口に気付くまでこんなに時間かかった。ゾウリムシやアメーバ並みよこれ」

「た、確かに私は勉強が苦手だけどだからといって言っていいことと悪いことがあるわよ!! もーっ!!」

「ちょっとこんなところまで来て喧嘩はやめなさいよ……」

 

 両手をぐるぐると回して怒る千春に対し、遊希は意地悪な笑みを浮かべてはコーヒーカップのように千春が入った浮き輪をぐるぐると回す。そんな最中、青眼の白龍のロボットが大きな咆哮を上げた。

 

「あ、あの……」

 

 しかしそれに気づいたのは皐月とエヴァだけであり、喧嘩する遊希と千春、それを止めようとする鈴は気づいていなかった。現に周囲を漂っていた女子供は沿岸に避難し、波に飲まれたい若い男たちは崖の上で吠える青眼の下へと向かっていく。

 青眼の白龍はまるで生きているかのようにガオオと吠えると、両の翼を思い切り羽ばたかせる。そしてプールの水が一気に引き潮になった途端、轟音と共に大波が獲物を狙う肉食動物のように押し寄せてきた。

 

「あっ、み、み、皆さん!!」

「何よ皐月さっきか……」

「あれは波が来る合図ではないのか?」

「えっ?……」

「うわあっ!! 来たあああっ!! 逃げ……!!」

 

 悲鳴を上げる間もなく、ドッパーンという音と共に五人は大波に飲み込まれた。そして岸に打ち上げられたクジラのようにプールから押し出されていた。

 

 

カイバーランド・シー アトラクションその③:流れるプール「ブルーアイズ・リバー」

 

 

「あー、飲まれた飲まれた」

 

 鈴が自嘲気味に笑う。波に飲まれた五人は浮き輪ごと押し流されてしまい、その様があまりにも派手だったため周囲の人からはクスクスと笑われる始末だった。

 ちなみに今回は皐月をはじめ誰かの水着が脱げてしまう、というアクシデントは起きなかった。それでも皐月の水着が取れてしまった時以上に注目を浴びてしまったのは言うまでもない。

 

「飲まれた飲まれたー、って笑ってる場合じゃないでしょ。というか遊希が悪いんだからね! あんたがあんなひどいこと言わなかったら……」

「私? まあ、今思うと言いすぎたわね。謝るわ、ごめん」

「や、やけに素直じゃない。あんたが悪いと思うんだったら許してあげなくもないんだからね!」

「プランクトンとか単細胞生物はさすがに人に言っていいことじゃなかったわね……そうね、ミジンコに訂正するわ」

「あんたやっぱりぶっ飛ばす!!」

 

 顔を真っ赤にして掴みかかろうとする千春であったが、やはり体格差からなるリーチの差は埋めがたく、遊希の左手で頭をしっかりと抑えられてしまった。遊希に近づけない千春は両腕をグルグルと回しているだけ、という関西のお笑い芸人がよくやる団体芸のようになってしまっていた。

 

「あ、あの……さすがにやめないと本当に悪目立ちしちゃいますから……」

「そういや例の2代目社長も口が悪かったらしいわね。その社長のライバルがあの伝説のデュエルキングで、そのデュエルキングの友達のことをさんざん酷いあだ名で罵っていたそうよ」

「さっきから聞いているとよくそれで社長が務まったな。ジェームズにはそういうことをしないように言っておこう」

 

 そのデュエルキングの友人は最初はデュエルの知識もなく、町内大会でベスト16くらいに入るのがやっとというレベルのデュエリストであった。最もギャンブルカードを使わせれば右に出る者はいないと言われた強運の持ち主であり、そんな彼も後世では名デュエリストの一人としてその名が残っている。

 しかし、これもまた有名税なのか、海馬コーポレーションの2代目社長がそのデュエリストに付けた「馬の骨」「凡骨」「実験ネズミ」というあだ名もまた一緒になって後世に残ってしまっていたのだ。

 最も《馬の骨の対価》や《凡骨の意地》といった通常モンスターメインのデッキには欠かせないそのカードのモチーフ元になったという話もあるため、言葉とは違ってそのデュエリストのことを2代目社長は決して低くは評価していないのかもしれない。

 

「遊希まさかその2代目社長の生まれ変わりなんじゃないの?」

「んなわけないでしょうが……だったら私も青眼使ってるわよ。それを言うなら竜司さんじゃないの? 使用者的な意味で」

「パッ、パパはそんな口悪くない!」

「そんなん私だって知ってるわよ……真面目に受け取るんじゃないのあんたは」

 

 そうこうしてやってきたのは屋外で最も大きなスペースを誇る流れるプール「ブルーアイズ・リバー」だった。

 

「……ここは普通の流れるプールよね。どこがブルーアイズなのかしら?」

「これを見て。案内板に航空写真があるわ」

 

 ブルーアイズ・リバーの案内板には流れるプールを利用する際の注意事項諸々とそのブルーアイズ・リバーを上から撮影した航空写真が掲載されていた。その航空写真を見てみると流れるプールのコースが青眼の白龍のカードイラストを象ったものとなっており、ドラゴンのイラストの縁取りに合わせてプールが作られているのである。

 

「ここまで来るとこの拘りも病気ね……」

「だからそれは言っちゃ駄目だって」

 

 そうは言うが、病気扱いしたくなるほどの拘りによって生まれたテーマパークで今遊希たちは楽しんでいる。いつの時代も、どんなジャンルにおいても病的なほど貫いた者に成功がもたらされるのかもしれない。

 流れるプールはこれまで行ったアトラクションの中でもっとも混雑していた。浮き輪に掴まって浮いているだけで流れていく平和な世界なので当然なのかもしれないが。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 五人はさっきと同じ組み合わせで浮き輪に掴まりながら何も考えずぷかぷかと浮いて流れていた。

 

「平和ねー」

「そうですね……」

 

 周囲を騒がしい子どもが水をかけながら泳いで行ったり、1つの浮き輪の穴に二人で抱き合いながら浮いているカップルが流れていくのも気に留めず、遊希たちは太陽と青空を見上げながら流れていく。

 

「あのさ」

「うん」

「私たち……この流れるプールのようにさ、これからもずっと何ごともなく友達でいたいわね」

「そうね。みんなずっと仲良くね」

「まるで学園ドラマみたいな台詞ですね……でも、私もそうありたいです」

「デュエルではライバル。しかし、人としては親友であり仲間。いい関係だと思うぞ」

「でもさ……この流れるプールのように何ごともないってのもそれはそれでつまらなくない?」

 

 千春のその一言を受けて遊希たちは流れるプールから出る。もちろん無病息災であることは大事なのだが、さすがに何もない人生というのは面白みに欠けるというものだ。

 

―――おもしろき こともなき世を おもしろく。

 

 とある偉人の辞世の句であり本来の意味とは違うのだが、生きている以上人間とは娯楽と刺激を求めるなんとも贅沢な生き物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新時代のデュエル

 

 

 

 

 遊びに遊びまくった五人であるが、いくらプールとはいえ真夏の真っただ中。さすがに暑さが堪えるようで、体力のない皐月は少し疲れ気味のようだった。そんな彼女を見かねた鈴、皐月、エヴァの三人は彼女のために飲み物を買いに行く。皐月を任された遊希は、座るのにちょうどいい日陰のベンチを見つけてそこに座った。疲労困憊、といった様子の皐月はベンチに座るやいなや遊希にもたれかかってきた。

 

「はぁ……少し運動不足でしょうか」

「運動不足というよりスタミナ不足ね。デュエリストにとっては大事な要素よ、今後なんとかしないとね」

「善処します……」

 

 遊希はそう言って皐月の背中をさすりながら、鈴たちが飲み物を買って戻ってくるのを待っていた。しかし、そんな二人の元にやってきたのは鈴でも千春でもエヴァでもなかった。

 

「ねえねえ、カーノジョッ!」

「……」

 

 声をかけてきたのは日に焼けた金髪の男性三人。俗に言う「チャラ男」だったり「ギャル男」と呼ばれる分類の男たちだった。遊希は男たちを一瞥するが、それにリアクションをすることなく無視を貫き通す。

 

「ちょっと無視しないでよぉ~」

「ひっ……」

 

 馴れ馴れしく肌に触れようとする男たちを見て皐月が小さな悲鳴を上げる。怯える皐月に触ろうとした男の手を遊希は思い切り叩き落とすと、痛がっている男を遊希は刺すような眼で睨みつける。その迫力に三人の男たちは一瞬たじろいだ様子を見せるものの、動揺を悟られまいとそれを隠して改まった。

 

「……何ですか? 私たち今疲れてるんであっち行ってください」

「遊希さん……」

「大丈夫、私がいる限りあんたには触れさせない」

 

 なんとか皐月を自分の後ろに隠す遊希であったが、遊希の肌に触れた皐月は気づいていた。遊希の身体も微かに震えているのを。

 この男たちなどデュエルなら遊希の敵になるような相手ではない、しかし腕力や筋力ではいくら遊希が鍛えているといっても男と女の差は歴然。無理やり連れていかれようものなら、遊希たちに抵抗する術はない。

 

(遊希さん……自分も怖いのを隠してまで……)

「カッコイイね、カノジョ~! でもそんな強気な女の子って実を言うと気弱な子が取り繕ってるだけだったりするんだよねぇ……」

「っ! 何を言って……!」

「あれ、もしかして図星~?」

「大丈夫、俺たち女の子には優しいから。だからいっしょに遊ぼうぜ……」

 

 男の一人が遊希の髪に手を触れようとした瞬間である。その手を何者かが思い切り捻りあげたのは。ぎゃあ、と悲鳴を上げて後ずさりする男たちの前に立ちはだかったのは180センチを超える長身に首ほどまで伸びた茶髪が特徴的な黒のラッシュガードを纏った男性だった。

 

「大丈夫ですか?」

「……は、はい」

 

 男性は振り向かずに遊希と皐月に怪我がないことを確認すると、両手を組んでは骨をポキポキと鳴らして男たちへと詰め寄っていく。

 

「出来れば引き下がってくれないか? 俺も手荒な真似はしたくない」

「なっ……なんだってんだよこの野郎!」

 

 激昂した男の一人が殴りかかろうとしたが、別の二人がそれを必死で止めた。男たちはその男性の顔を見て驚いた様子で男性を二度見する。

 

「お、お前まさか……蜂矢 真九郎(はちや しんくろう)じゃ」

「おっ、よく知っているね。その通り、俺は蜂矢 真九郎だけど?」

 

 蜂矢 真九郎、という名を聞いて遊希も驚いた様子を見せた。遊希にとってその名前は決して知らない名前ではなかったのである。

 

「マジかよ……なんでそんな有名人がここにいるんだよ」

「色々と仕事があってね。たまたまここで涼んでいたら嫌がるこの子たちにお前たちが絡むのが見えた、それだけだ」

「っ……くそっ、覚えてろ!!」

 

 典型的な捨て台詞を吐いて男たちはその場を立ち去っていった。真九郎は去っていく男たちを見ながら「1時間後には忘れてるけどね」と苦笑いする。思わず救いの手を差し伸べられた遊希と皐月は真九郎に対して感謝の言葉しか出なかった。

 何度も頭を下げて礼を言う二人に真九郎はこのくらい大したことじゃないよ、と言ってそのまま館内に戻ろうとする。だが、そんな彼を遊希がふと呼び止めた。

 

「あの、蜂矢さん」

「ん? まだなにか?」

「私……天宮 遊希と言います」

「天宮……そうか、君が。そうか、今日は宜しくお願いするよ」

「はい、こちらこそ」

 

 そう言って遊希は真九郎と握手を交わした。それを見た皐月は思わず首を傾げた。何故なら遊希は決して人当たりのいい方ではなく、まして初対面の男性相手ならば先ほどの男たちに対するように警戒心を丸出しにするはず。

 それなのにあの真九郎に対しては自分から名を名乗り、握手までしたのである。遊希がそこまでするほどあの蜂矢 真九郎という人物は著名もしくは偉大な人間だというのだろうか。

 

「遊希さん」

「ん、何?」

「今の方はいったい……?」

「あれ、あんた知らないの? 蜂矢 真九郎のこと」

「……すいません、存じ上げないです」

「そっか。あのね、後で言おう言おうと思っててずっと引き延ばしてたんだけど……今日ここに来たのは、こうしてプールで遊ぶためじゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がいいかしらね」

 

 その頃、鈴たちは自動販売機の前で何を買うか決めあぐねていた。こんなに迷うなら二人に何が欲しいか予め聞いておくべきだった、と自分の不明を悔やむ。

 

「皐月は炭酸飲めないわよ。だからお茶とかでいいんじゃない?」

「そうなの?」

「確かに皐月が炭酸飲料を飲んでいるイメージはないな。水分補給する、という点では炭酸は不向きだ。スポーツドリンクが無難だろう」

「じゃあ、二人ともスポドリでいっか」

 

 適当に選んだ飲み物を持って遊希たちの待つ場所へ戻ろうとする三人。その途上、屋外ステージに人だかりができているのを見つけた。そこではトークショーが行われており、先ほど遊希たちを男たちから助けた真九郎の姿があった。

 

「ねえ、あれって蜂矢 真九郎じゃない!?」

「蜂矢 真九郎……ああ、あの元アイドルの!」

「……有名人なのか?」

 

 蜂矢 真九郎は元々とあるアイドルグループのメンバーの一人として今から10年前にメジャーデビューした。グループ内で一二を争う人気メンバーだった彼が属するグループの出すシングルCDは常にCD売り上げランキングの上位に位置し、年末の歌合戦にも数多く出演するなど超が付くほどの有名人だった。

 しかし4年前、20歳を迎えた時に突然そのグループを脱退し、子供の時からの夢であったレーサーへと転身。ライブ会場でそれを聞いたファンの多くが卒倒して病院に運ばれるなど社会的ニュースとなった。

 レーサー転向後の彼は元々秘めていたその才能を開花させ、日本のレースはもちろん海外のレースでも多数の賞を獲得するなど、遊希とはまた違った分野で世界的な有名人だった。

 

「日本ではアイドルという文化があるとは聞いていたが、そこまで激しいものなのか」

「好きな人はほんと好きだからね……」

「でもまさか本物の蜂矢 真九郎がこんなところで見られるなんて……でもなんでこんなところに」

 

 鈴たちがそんなことを思っていると、ちょうど今からイベントが始まるようだった。インタビュアーが報道陣や観客に静粛にするように求めると、ステージの後ろにあるオーロラビジョンに映像が流れ始めた。

 その映像のオープニングにはデュエルモンスターズの制作会社であるI2社ことインダストリアル・イリュージョン社、そしてデュエルディスクの制作会社である海馬コーポレーションのロゴが現れると、次の瞬間画面に流れる映像に映ったのは2台のバイクのような乗り物が爆音を轟かせながらサーキットを駆けていく映像だった。そして徐々にそのバイクに乗っているライダーの手元がズームアップされていく。

 バイクのスピードメーターが設置されている部分に当たる箇所にはなんとデュエルディスクが取り付けられていたのである。そして二人のライダーがそれぞれデュエルディスクにカードを置くと、そこからは青眼の白龍とブラック・マジシャンの2体のモンスターが現れたのだ。間違いない、これはデュエルである。

 

 

『今、デュエルは新たな領域へ到達する―――これが新時代のデュエル! “ライディングデュエル”だ!!』

 

 

 映像内のナレーションでライディング・デュエルの名が明かされると、一斉に記者席からはカメラのフラッシュが焚かれ、観客からは歓声とどよめきが生まれる。

 

「ライディングデュエル……まさか、バイクに乗ったままデュエルをするってこと?」

「噂には聞いたことがあるが、そのような形でデュエルをするとはな」

「そんな無茶苦茶な……そんなのレーサーでもなきゃ無理……ねえ、蜂矢 真九郎って」

 

 鈴と千春は顔を見合わせる。蜂矢 真九郎がこの場に呼ばれた理由、それは彼が日本、いや世界初のライディングデュエル専門のプロデュエリストとしてデビューをするということだったのだ。

 彼は元レーサーという経歴を買われ、初のライディングデュエルのプロデュエリストとしてこのテーマパークの外に併設されているサーキット場でライディング・デュエルのエキシビジョンマッチを行うのである。

 

「そうだったんだ、だからあの人が……」

「でも待って。彼が初のプロライディングデュエリストなんでしょ? だったら誰が彼とデュエルをするの?」

「あっ、確かに……」

 

 三人が話しているうちにオーロラビジョンの映像はどんどんと進んでいき、そのデュエルが今日の夜7時から行われるということが明かされる。

 一応遊希がカイバーランド・シーのフリーパス券だけではなく、ホテルの無料宿泊券も貰っていたため、帰りの電車などを気にせず五人でそのデュエルを見ることができるのではないか、と三人の胸中にはデュエリスト特有のワクワクに似た感情が湧き上がってくる。しかし、すぐにその願いは叶わないことを知った。

 

 

『日本、いや世界初のプロライディングデュエリストとデュエルを行うのは―――』

 

 

 真九郎の対戦相手として映像に映し出されたのは鈴と千春、そしてエヴァにとって最も身近な人間の一人だった。

 

 

『―――あの伝説のプロデュエリスト―――天宮 遊希―――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どういうことか説明してもらおうかしら!!」

 

 真九郎とライディングデュエルをするのが他ならぬ遊希である、ということを知った三人は日陰のベンチで皐月に膝枕をしていた遊希を見つめるや否やすぐにそのことについて問いただした。

 遊希はばつの悪い顔をしながらベンチに座っている。その三方を腰に手を当てた鈴、腕を組んで仁王立ちする千春、何処か戸惑った様子のエヴァが取り囲む形となっていたため逃げるに逃げれない状況だった。

 

「……どうもこうも、私が蜂矢 真九郎とライディングデュエルをする。それだけよ」

「あんた免許は? 免許ないとああいうの乗っちゃダメでしょ」

「それなら問題ないわ。ライセンスなら取得済みよ」

 

 鈴は時折遊希が授業に出ていないことを思い出した。鈴たちはどうせ図書館かどこかで昼寝でもしてるんじゃないか、と思ってさほど気にも留めなかったが、セントラル校にいなかった時、遊希はライディングデュエルで使用するバイク『Dホイール』のライセンスを取得するための教習を受けに行っていたのだ。

 Dホイールの運転は見掛けほど難しくなく、試作品とだけあって最高速にはリミッターが掛けられている。またオートパイロットシステムを採用しているとあって、運転よりもバイクに乗ったままデュエルができるか、というデュエリストたちのバランス感覚が求められる代物なのだ。遊希は持ち前の知能と運動神経で学科・実技ともに1発で合格し、今日のこの日までにDホイールのライセンスを取得していたのである。

 

「だからその辺りは気にしてくれなくて大丈夫よ」

「ではどうしてそれを今まで教えてくれなかったんだ?」

「……みんなをびっくりさせたかったから、かな?」

 

 エヴァの疑問にそう言って小首を傾げながら笑う遊希。しかし、そんな遊希に食いついたのが鈴である。

 

「嘘」

「……えっ?」

「あんた嘘ついてるでしょ? あたしにはわかるよ」

「その根拠は?」

「あんた嘘ついたり動揺すると瞬きする回数が極端に多くなるの。気づいていなかった?」

 

 それを聞いた遊希の顔が硬直する。右手で右の眼を抑えてみるが、特に変わった様子はないようだった。

 

「まあ、それも嘘なんだけど。でもこれであんたが嘘ついてることが明らかになったわ」

「ハメたのね……騙すなんて酷い、鈴のばか、いじわる」

「なんて言ってくれても構わないわ。あんただって嘘つきじゃない。ねえ、なんで黙ってたの? あたしたち親友でしょ? 教えてよ……」

 

 そういって遊希の顔をじーっと見つめてくる鈴。しばしにらめっこのような体勢になったが、やがて彼女の視線に耐えられなくなった遊希が目を反らしながら真意を話し始めた。

 

「あのね……私セントラル校に入った後からずっと誘いを受けていたんだ。「もう一度、プロの世界に戻らないか」って」

 

 遊希がデュエリストとして再出発を迎えたという情報をI2社や海馬コーポレーションといった企業はすぐにキャッチしていた。アカデミアの学生として十分すぎるほどの成績を収めていた遊希はプロを引退した直後よりもさらに洗練されたデュエリストになっている。

 そんな彼女には未だ世界中に数多くのファンが存在する。そんなファンたちを喜ばせるためにも是非遊希には表舞台に立ってほしい、というのが彼らの希望だったのだ。

 

「まあ、そんなの綺麗事で裏では色々とお金が動いているみたいだけど。でもプロってそういうものだから。エヴァもわかるでしょ?」

 

 エヴァは何も言わずコクリと頷いた。確かにプロというものはそういうものかもしれない。それでも鈴が知りたかったのは周囲の人間の事情ではなく、あくまで天宮 遊希という一人の少女の気持ちだった。

 

「……遊希はどうなの?」

「私は……最初は突っぱねるつもりだった」

 

 遊希がプロを辞めた理由の最たるものが亡くした家族への贖罪の気持ちであった。自分がプロとして活躍して注目を浴びなければ家族四人で平穏な暮らしができていたかもしれない。自分が精霊使いのデュエリストとして脚光を浴びてしまったから両親、そして幼い妹は命を落とすことになってしまった―――そんなことはない、とわかっていても未だに遊希の中にはそんな気持ちが残っていたのだ。

 

「でもね、みんなと出会って思ったわ……辛いことも多かったけど、デュエルはやっぱり楽しいって」

 

 しかし、セントラル校に入学してから4か月経って遊希は様々なことを体験した。入学式で鈴とデュエルして倒れたこと、千春や皐月と親友になったこと、エヴァが編入してきたこと、謎の仮面の策略によって多くの友を傷つけられたこと。それらの思い出は全てが楽しいことだったわけではない。だが、今それらの思い出は遊希の心の中で宝石のようにキラキラと輝きを放っていた。

 

「だから一歩を踏み出そうと思ったの。みんなのために、そして自分のために」

「遊希……ごめん、あんたの気持ちも知らないでずかずかと」

「そんな、鈴たちがいてくれたから決心がついたのよ? だから、謝らないで……」

「遊希……!!」

 

 その言葉を聞いて、鈴たち四人が遊希に飛びつくように抱き着いた。突然抱き着かれた遊希は混乱した様子で周囲をきょろきょろと見回す。

 

「ちょっ、あんたたち! こんなところで……」

「……私、頑張って応援します!」

「そうよ、あんたは私の大事な親友なんだから! エキシビジョンマッチだろうがなんだろうが関係ない! ぶっぱなしちゃえ!」

「私もプロだが、プロの舞台で戦うあなたの姿をもう一度、見たかった」

「遊希、あたしたちはいつでもあんたの傍にいるよ。だから、一緒に歩こう?」

 

 四人の言葉を聞いた遊希は改めてその決意を固めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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ドラグーン

 

 

 

 

 プールを出た五人はシャワーを浴びて着替えると、昼食を取った後にライディングデュエルが行われるサーキットへと足を運んだ。

 そこはスタジアムのように四方を客席で囲まれており、その外周を楕円形のオンロードのコースが設けられている。レースゲームのコースのように複雑なカーブやバンクなどはなく、あくまでスタジアムの外周をぐるぐると回るだけのシンプルなコースのようだった。これならばよほどのことが起きない限り事故の心配はないだろう、とほっと遊希以外の四人は胸を撫で下ろす。最も遊希は「万が一が起こるのがデュエル」と用心しているようではあったが。

 サーキットを見学した五人は遊希に用意された控室へと入った。控室にはDホイールのキーとレーシングスーツ、そしてヘルメットが既に置かれていた。Dホイールもデュエルを行うためのものとはいえ、平たく言えばバイクである。安全および体調に最大限の考慮が必要になるのだ。

 

「へえ、これを着るのね……」

「ちょっと身体の線が出るから抵抗あるんだけど」

 

 鈴はレーシングスーツを身に纏った遊希の姿を想像した。眉目秀麗な遊希が着るのだからレーシングスーツも様にはなっているのだが、身体の線が出るそのスーツを身につけた姿を想像して何故か彼女の顔が赤くなったのは言うまでもない。

 

「ところで、ライディングデュエルと普通のデュエルにはバイクを運転する以外に違いがあったりするんですか?」

「普通のフィールド魔法とは違って別のフィールド魔法が常時発動するみたいよ。確か……ああ、これ。《スピード・ワールド》っていうフィールド魔法よ」

 

 遊希はDホイールのキーの下に置かれていたそのカードを四人に見せた。ライディングデュエルには専用のフィールド魔法が存在し、このカードが常に発動され続けるのだ。

 

 

《スピード・ワールド》

フィールド魔法(オリジナルカード)

(1):このカードはカードの効果では破壊されず、他のカードの効果によって墓地には送られない。

(2):お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く(最大8個まで)。 1ターンに1度、自分用スピードカウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用できる。

●2個:相手に300ポイントのダメージを与える。

●4個:自分のデッキからカードを1枚ドローし、その後手札を1枚デッキに戻す。

●6個:フィールドに存在するカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

●8個:相手のカードの効果の発動を無効にして破壊する。

 

 

「“スピードカウンター”?」

 

 聞き慣れない単語に千春は首を傾げる。だが、無理もない。スピード・ワールドおよびスピードカウンターについてはあくまでライディングデュエル専用のカードおよび効果なのだから。

 

「お互いのスタンバイフェイズごとにカウンターがそれぞれのスピード・ワールドに乗るの。そのカウンターを取り除くことで様々な効果が発動できるわ」

「手札交換に破壊にカード発動無効か。この効果、使いどころが大事そうだな」

「そうね。最後の効果を発動するためにはスピードカウンターを8個、つまりスタンバイフェイズを8回迎えないといけないわけだから……ちなみにこのカードは特殊なフィールド魔法でこのカード以外にも1枚だけフィールド魔法をいつものデュエルと同じように発動できるみたい。だから【ドラグニティ】とか【暗黒界】みたいなフィールド魔法に依存するデッキも問題なく使えるそうよ」

「そうしないと不公平ですからね……」

 

 今後I2社および海馬コーポレーションはこのスピード・ワールドやそれに付随したライディングデュエル専用のカードを展開していくという。最もまだライディングデュエルというデュエル自体始まっていないため、それが実現するのはいつになるのか、という次元の話なのだが。

 そんな時、遊希たちの詰める控え室のドアがノックされる。遊希が「どうぞ」と言うと中に入ってきたのは作業着姿の若い男性だった。

 

「天宮 遊希さんですね、今回あなたのDホイールを整備させて頂きますメカニックの宮下(みやした)と申します」

「ああ……これはご丁寧に。ちょうどこれからご挨拶に伺おうと思っていたところでした」

 

 宮下と名乗った若いメカニック男性はそう言って油か何かで黒ずんだキャップを取って頭を下げる。キャップを取ったことで露わになった彼の左右の頭髪はまるで蟹のハサミのようにぴょこん、と跳ね上がっていた。作業着中が真っ黒になっていたことから宮下はずっと遊希の乗るDホイールの点検をしていたのだろう。それこそ髪に癖がついてしまうほど熱心に。

 本当にそんな事情があったかどうかはわからないが、きっとそうなんだろうな、と思った遊希は恭しく頭を下げ返す。Dホイールは運転するドライバーもさることながら、整備を行うメカニックの腕およびドライバーとメカニックの信頼関係も大事になってくるのだ。

 

「あの人がDホイールを整備しているのね」

「まあマシンが調子悪いとどうしようもないですからね……事故の元にもなってしまいますし」

(あんな風に外面のいい遊希初めて見た……でも)

 

 顔見知りの前では比較的カラっとした様子の遊希であるが、目上の人間だったりお世話になっている人に対してはこうして礼儀正しく振る舞うことができる。そこは元プロデュエリストということも影響しており、幼い時から多種多様な大人たちに紛れて過ごしていたことの経験が活きている。

 それでもそんな彼女が素の自分を見せるのは鈴たち親友および心を許した竜司たち一部の大人だけ。そう思うと鈴はそれとなく嬉しかった。

 

「天宮さんの乗るDホイールのメンテナンスが終わりましたのでご報告にあがりました。もし宜しければ一度ピットに来て見てもらいたいのですが宜しいですか?」

「はい、わかりました。あの、もし可能であれば試乗もしたいのですが……」

「試乗ですか? それなら大丈夫ですよ、では試乗をしてもらった上で不備などありましたらまたこちらでメンテナンスをさせて貰いますね」

「お願いします。今からライダースーツに着替えるので、先に戻っていて貰ってもいいですか?」

「わかりました、ではお待ちしております」

 

 そう言って宮下は遊希たちの控え室を後にする。遊希は控え室の奥にある衣装棚に掛けられていたライダースーツを手に取った。

 そのライダースーツは青を基調にしたカラーリングになっており、まるで銀河眼の光子竜の身体を思わせるような鮮やかな輝きを放ったものだった。仮にこれを着てサーキットを走った場合、夜空を彩る月と星、さらにスタジアムの照明に照らされることとなり、遊希のその姿はまさにサファイアのような美しい輝きを放つだろう。

 

(……やっぱりちょっと派手よね)

 

 最もその派手さを遊希はあまり好んでいなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、こんなものかな」

 

 遊希はなんだかんだ言ってそのライダースーツを身に纏うと、長髪を耳の後ろで2つにまとめる。Dホイールに乗るにあたってヘルメットは当然被らなければならないのだが、長髪が風に揺れてぐちゃぐちゃになるのはできれば避けたかった。そのため少し子どもっぽいかもしれないが生まれて初めてツインテールという髪型を体験した。

 

「着替え終わったー?」

「うん」

 

 ライダースーツを着た遊希は四人の前でくるりと一回転してみる。青いスーツに白い肌、美しい黒髪のツインテールが風に棚引く。

 

「ツインテールも似合っていますよ」

「ちょっと子どもっぽいけど……仕方ないわ」

「しかしさぁ……ほんとデカいわねあんた」

「ジロジロ見ないでよ、もう」

 

 意味深な言葉を言いながらジロジロと見てくる鈴と千春にもう少し大きなサイズを着るべきだったか、と軽く後悔する遊希。しかし、ただでさえ慣れないライダースーツの着替えで時間をかけてしまったために宮下を待たせてしまっているため、そんなことを一々気に留めている場合ではなかった。

 遊希は自分のデッキが入ったポーチを腰につけると、Dホイールのキーとスピード・ワールドのカードを持って鈴たちと共に宮下の待つピットへと向かった。ピットでは宮下をはじめとした三人のメカニックが遊希の乗るDホイールの調整を行っている最中だった。

 

「浅沼(あさぬま)、こんな感じでどうだ?」

 

 宮下が浅沼というもう一人のメカニックにDホイールの状態を見せる。オレンジ色の髪をオールバックにしているその男性メカニックはエンジン部分を開くと手にしていたスパナでネジを締まりを確認する。

 

「ああ、これで大丈夫だな! しかし、こいつも幸せもんだよな? だって俺たちに整備してもらえるんだからよ!」

「当然だ、何故なら米国一のデザイナーであるこの俺が設計したのだからな! しかし、さすがに疲れたぞ、おいコーヒーを持ってこい! インスタントのではないぞ、1杯3000円のブルーアイズ・マウンテンだ!」

「何が米国一、だ! お前さっきからコーヒー飲んでばっかでなんもしてねーだろ! 少しはこっちに協力しやがれ!」

 

 金髪で長身の外国人に食って掛かる浅沼。それが彼らの日常の光景なのか、宮下はその二人の言い争いには全く関与しようとはしなかった。工具を片手に汗を拭っていた彼は遊希たちが来ていることに気が付く。

 

「ああ、天宮さん。こちらがあなたのDホイールですよ」

 

 宮下がメンテナンスの終わったばかりの遊希が乗るDホイールに手を向けた。そのDホイールは全身が白く塗られており、ライトやハンドルが設置されているフロント部分が横から見るとまるで竜の顔のように見える流線形の機体だった。

 前輪および後輪は竜の顎と尻尾に見える部分で守られている。また座席からマフラーにあたる部分は鱗と翼をモチーフにしたのか、足をかける部分から車体の後部まで斜めに長く伸びていた。

 

「これが……教習用のDホイールとはだいぶ異なるんですね」

「教習用のものはあくまで練習用のものでしかありませんからね、性能は控えめにセッティングされているんです。こちらは我々が海馬コーポレーションおよび星乃 竜司さんから依頼されて作り上げた特注品なので、性能は自分で言うのもなんですが、折り紙付きと言っていいでしょう」

 

 竜司はこんなところにまで手を回していたのか、と呆れつつも遊希は内心感謝をするのであった。しかし、外見やカタログスペックは凄いものなのかもしれないが、それだけでこの機体を値踏みするわけには行かない。

 数時間後には遊希はこのDホイールを駆ってライディングデュエルをするのだから、本当にこの機体が遊希の身体に合うのかどうかを直接確かめなければならない。そのためにこのピットまで足を運んだのだ。

 

「あの、早速試運転をしてみたいのですが……」

「はい。燃料も満タンにしてあるのでいつでも走れますよ。ああ、今ガレージを開けますね」

 

 宮下がガレージを開けると、陽の光とともにどこか潮の匂いがする風がピットに吹き込んでくる。遊希たちの眼前に広がったのは誰もいない客席と誰もいないサーキット場だった。

 後にここが世界で初めて行われる形式の全く新しいデュエル、ライディングデュエルの舞台となるのだ。嵐の前の静けさ、この空間が不気味なまでに静かに感じるのはやはりここがデュエルモンスターズの歴史を変える舞台になるということを知っているからなのかもしれない。

 遊希はヘルメットを被り、Dホイールのスタンドを足で蹴りあげた。そしてその機体をゆっくりとサーキットの方へと押していく。Dホイールといえども基本は普通のオートバイと同じであり、教習では押し方や倒れた時の起き上がらせ方を習っている。しかし、あちらは宮下も言っていた通り教習用のDホイールであり、性能が抑えられているどころか機体の重量も軽い。

 そのため女性の遊希でも教習用Dホイールなら無理なく自分の力で動かすことができた。しかし、これはレース用の本格Dホイールであり、あちらと比べると重量もかなり重く、そして性能も桁違い。そのため慎重に扱わなければ搭乗者に牙を剥く恐れもあったのだ。遊希は喉をゴクリ、と鳴らすとDホイールを外に出してはその機体に跨った。

 

「キーを刺す箇所はここです。ここに刺して右に回して下さい、エンジンが掛かりますので」

「はい」

 

 宮下に言われた箇所にキーを刺した遊希は一度深く深呼吸をすると、そのキーを右に回した。

 

 

 

「―――っ!!」

 

 

 

 その瞬間である、閑静なサーキットにまるで竜が雄叫びを上げたかのような轟音が響き渡ったのは。シートを通じて遊希の身体には生き物における心臓の鼓動にあたるDホイールのエンジンから生じる振動が伝わってくる。これが本物のDホイールの力。想像以上の力に戸惑う遊希であったが、彼女の心には戸惑いからなる焦りともう1つの感情が迸っていた。

 

(……すごい! 動かしたい……この子を……!!)

「天宮さん、アクセルとブレーキはここです。ここを適宜操作してくれれば問題なく起動します。最も今はデュエルモードではないので運転はマニュアルになります。そこはお気をつけて」

「……はい。では、行ってきます」

 

 遊希はハンドルをしっかりと握り、アクセルとなっているハンドルグリップを少しずつ回していく。Dホイールはそれに呼応して少しずつゆっくりと進んでいき、遊希がアクセルを奥に回せば回すほどスピードを上げていく。

 

「遊希!!」

「……すごいです」

「迫力たっぷりね……!」

「これがライディングデュエル……」

 

 鈴たちはピットから無人のサーキットをDホイールで駆ける遊希をじっと見つめていた。バイク特有の排気音を響かせながら楕円形のサーキットを周回する遊希の姿はそのDホイールの形状も相まって、まさに“竜を駆る姫騎士”と言わんばかりの独特な激しさと美しさをこれでもかと見せつけていた。

 コーナーの回り方やインの取り方、サーキットでのスピードの調整などを兼ねた遊希のドライブは10分ほどで終了した。しかし、見ている側および乗っていた遊希は時計を見ても10分しか経っていないとはとても思えなかった。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 戻ってきてDホイールから降りる遊希。ヘルメットを取った彼女の頭からは汗が滝のように流れ出ており、数分の試運転でもその身体にかかる負担は相当なものであることが伺われた。

 疲弊しきっている様子の遊希を見て心配に思った鈴が駆け寄ろうとするが、遊希はそれを何も言わず手で制した。鈴もまたそんな遊希の表情を見て彼女が何を感じているのかを悟った。

 遊希の顔はひどく紅潮しているものの、それは疲れや焦りによるものではない。本格的なDホイールを駆ってサーキットを駆け抜けたことによる興奮そして歓び。エンジンを掛けた時の振動が、Dホイールという生き物の鼓動が伝わったことによる恍惚からなるものだったのだ。

 

「天宮さん、お見事です。あなたのような方に運転してもらえてこいつも喜んでいるでしょう」

「宮下さん、こちらこそお礼を申し上げなければなりません。皆さんがメンテナンスをしてくれたからこそこの子……えーと」

「ふん、この二人もメンテナンスもさることながらこの俺。米国を代表するデザイナーである“スター・フィールド”が設計したDホイール“ドラグーン”だ、このくらいできて当然だ!」

「ドラグーン?」

 

 スター・フィールドと名乗ったアメリカ人が遊希の乗ったDホイールの設計者を自称する。自分の口では米国を代表するデザイナー、と大言壮語するものの実際のところはまだまだ駆け出しの若手デザイナーに過ぎないのだが。それでもその尊大さに見合った才能はあるようであり、実際遊希は彼が設計したこのDホイールに乗ってみてとても気持ちよく走ることができたのは言うまでもない。

 

「ドラグーン、とは龍騎兵。すなわり銃火器を持って戦場を駆ける騎士のことを指す。最も俺の言うドラグーンとはその意味ではない」

「じゃあどういう意味だってんだよ」

「お前にはわからぬのか!? 彼女がそのDホイールを駆って走る様、まさに竜を駆る姫と呼ぶに相応しいではないか!! 馬ではなく竜を駆る。故にドラグーンと名付けたのだ!」

 

 そんな大声で恥ずかしいこと言わないで、と思いつつも遊希はこのDホイールをドラグーンと名付けることにした。遊希の命運を分けるライディングデュエルのその時は刻一刻と迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ライディングデュエル・アクセラレーション!

 

 

 

 遊希が関係者に言って取ってもらった鈴たちの席はスタート地点から最も近いセクションの最前席だった。そのためオペラグラスなどを使わずとも肉眼で遊希のデュエルを観戦することが可能であり、もし仮にこの席を何の伝手もなく購入するとなれば数万円の出費が必要と思われる特等席であった。

 そんな彼女たちの周りには如何にも大企業の幹部といった出で立ちの中年男性や報道関係者と思われるカメラを構えた若い女性が腰掛ける。最も鈴たちの席は特別席とあって、周囲の座席三席分誰も座ることができないようにはなっているのだが。

 

「開始間近とはいえ、凄い熱気ですね……」

「まああの蜂矢 真九郎がデュエルするんだもん。昔のファンは駆けつけるでしょ」

 

 一般客が入る席を見ると自分たちと同年代の少女から母親世代の女性まで幅広い層の女性客が詰めかけていた。真九郎はレーサーとして人気もそうだが、元々はアイドルからここまでのし上がった人間である。その時からの根強い女性ファンは今もなお彼の出場するレースやイベントに駆けつけているのだ。

 

「遊希からしてみればアウェーだな」

「まあどっちのホームっていうわけじゃないからね、ホームもアウェーもないでしょ……あっ、そろそろ時間ね」

 

 時計はデュエル開始の時刻である午後6時を指す。その瞬間、サーキットおよびスタジアムの照明が落とされて周囲を闇が包み込む。スタジアムの中心部にあるオーロラビジョンに先ほどプールで鈴たちが見たライディングデュエルの宣伝映像が流れ、観客席からは大歓声が沸いた。

 その歓声に押されるような形でサーキットの中心に現れたのはラジオやテレビのスポーツ中継で人気の実況アナウンサーだった。その端正なルックスと恵まれた美声で俳優および声優としても活躍する彼がマイクを持ち、スタジアム中の観客を煽り始める。

 

「今、この瞬間! デュエルは新たな時代を迎える!! 今日ここに集った君たちはその歴史の目撃者となる!! そして……この歴史を紡ぐ2人の選ばれし決闘者をご覧に入れよう! 諸君、盛大な拍手と歓声で迎えるのだ!!」

 

 まず最初に映し出されたのは10代の時にアイドルとしてデビューした真九郎の若き日の映像。アイドルグループの一員としてCDセールスの売り上げ年間トップを達成し、数多の賞を獲得したかつての少年は長い時を経て一人のデュエリストとして戦場に立つ。

 蜂矢 真九郎の名がコールされると同時に真九郎は遊希とはまた別のピットから彼専用のDホイールを駆って飛び出した。真九郎のDホイールはその名前が表わす通り、敵を狙うスズメバチの如く鋭利なフォルムのDホイールであり、先端はまるで毒針を彷彿とさせるようなものとなっていた。歓声に応えながら真九郎はDホイールをスタート地点に停めると、手招きする実況アナウンサーの横に立つ。黄色い声援および女性の声での「真九郎!」コールが鳴り響く中、次にオーロラビジョンに映し出されたのはあどけない一人の少女だった。

 

「あれ……遊希?」

「流れ的にはそうでしょうね……プロデュエリストだったころですからまだ小学校中学年から高学年の頃の遊希さんでしょうか?」

 

 映し出された映像には一人の美少女がデュエルで自分よりひと周りふた周り年上のプロデュエリストを次から次へとなぎ倒していく光景だった。

 姿かたちこそ幼く、愛らしさを振りまくものの、デュエルの様子を見る限りやはり遊希のデュエルスタイルは変わっていない。世界で遊希のみが持つ【ギャラクシー】のカードたちで相手を圧倒しては鮮やかに勝利する。映像の中の少女はまさに銀河の竜を駆る少女、と言わんばかりにキラキラと輝いていた。

 

「突然の引退からはや5年……あの伝説の少女が帰ってきた! 天宮 遊希!!」

 

 白い竜を模したDホイール・ドラグーンを駆って遊希が姿を現わした。真九郎の時と比べてやはり歓声よりもどよめきの方が大きいがそんなことを今更気に留める様子もなく遊希はドラグーンをスタート地点に停めると、真九郎と同じように実況アナウンサーの脇に立った。遊希と真九郎、二人のデュエルの歴史の1ページに新たな1文字を加える2人が勢揃いした瞬間である。

 

「改めて紹介しよう! 今日この場に新たな歴史を築く二人のデュエリストを!」

 

 実況アナウンサーは最初に真九郎へとマイクを向ける。元芸能関係者ということもあって真九郎はアナウンサーの質問にひとつひとつ滞りなく答えていく。ファンに対する礼や感謝、サービスを欠かさず行い、一方でデュエルの相手である遊希に対しても「デュエルではあちらに一日の長があるが、ドライビングテクニックでは負けない」と敬意と自信を覗かせる。

 いくら勝負事と言っても、プロの試合は対戦相手に対してのリスペクトも求められるのだ。互いに互いに敬意を払った上で全力でぶつかり合うからこそ名勝負がそこに生まれる。

 

「さて、次はこちらに話を聞こう! 我々の前から姿を消して早5年、若き天才美少女が帰ってきた! 天宮 遊希!!」

 

 アナウンサーが遊希の名を呼んだ瞬間、会場からは真九郎には及ばないものの拍手と歓声が沸き上がった。入場してきた時はどよめきが起きていた会場内であるが、それは本当に白いDホイールを駆って出てきたのが遊希がどうかわからないというものがあった。

 しかし、真九郎と並んで立った彼女はヘルメットを取って顔を晒すや否や観客たちの疑念は確信へと変わった。当時の10代20代のデュエリストたちがこの人のようになりたい、と憧れた天宮 遊希その人がその場にいるのである。成長してあの頃とはだいぶ雰囲気が変わったものの、その美しさにはより磨きがかかっていると言えた。

 

「さて、天宮 遊希さん。これがあなたにとって公の場で行う久方ぶりのデュエルとなるわけだが」

「……」

 

 アナウンサーが遊希に問いかけるも、遊希は何も答えなかった。遊希はそれだけこのデュエルに集中しており、彼の声が耳に入っていなかったのである。しかし、このまま遊希に一言も喋らさずに終わらせてしまってはアナウンサーの恥である。そんな彼は何度か遊希の耳元でマイクがその音を拾わないようにそっと耳打ちをした。

 

「天宮さん、天宮さん」

「……っ!? は、はい!」

「このデュエルにおけるあなたの意気込みを聞かせてもらいたいのですが」

「あっ……ええと……その……がんばります」

 

 傍から見ればショーのようなものである今回のデュエルであるが、遊希にとってはこれほど大きなデュエルはないと言ってもいいだろう。一度自分から捨ててしまったプロデュエリストの地位を取り戻すチャンスであるといえるこのデュエルにおいて遊希は結果云々よりも無様なデュエルだけはしたくない。

 その気持ちが彼女を悪い意味で緊張させてしまっており、昔からマスコミ対応がそれほど上手くなく、竜司やミハエルといった年長のデュエリストにフォローしてもらっていた遊希はコメントを求められても意気揚々と返すどころか尻すぼみといったコメントになってしまった。

 

「あちゃー……」

「ああ見えて遊希さんって気の小さいところがありますからね……私が言えたことではないんですけど」

「あれ、でも待って」

 

 ため息をつく鈴たちであるが、そんな遊希に対して会場に詰めかけた観客からは歓声と拍手が送られていた。見た目クールな美少女である遊希から少し弱々しい姿を見れたことが逆にギャップとなって会場の心をつかんだのである。

 

「うう……」

「天宮さん、会場のみんなが応援してくれているよ。だから顔を上げようか」

 

 真九郎の助言を受けて遊希はしっかりと顔を上げる。声援を貰ったことがきっかけでどうやら振り切れたようだった。アナウンサーにマイクを向けてもらうと、自分の意思で自分の言葉で今思っていることを率直に伝えることにした。

 

「あの……こんな多くの人の前でデュエルするのは久しぶりで凄く緊張しています。でも、結果はどうであれ皆さんを喜ばせられるようなデュエルをします」

 

 そう言って深々と一礼する遊希。そんな彼女には会場から万雷の拍手と声援が送られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合前のインタビューが終わると、会場中にライディングデュエルの基本ルールが説明される。基本のデュエルであるスタンディングデュエルとは色々と異なる部分があるため、見る側もそれを理解しなければならないのだ。

 

・初期ライフは8000

・先攻ドロー不可

・先攻攻撃不可

 

 この辺りはスタンディングデュエルとは変わらない。以下の要素がライディングデュエルでは追加される。

 

・専用フィールド魔法であるスピード・ワールドは常時発動され、他のカードによって除去されたりフィールドを離れることはない。

・他の汎用フィールド魔法との重ね掛けは可能

・互いのスタンバイフェイズごとに双方のスピード・ワールドにスピードカウンターが1個乗せられる。

・スピードカウンターは相手によって取り除かれず、自身の効果発動によってのみ取り除かれる。

・スピードカウンターを取り除いて発動する効果のうち、ドローとカード効果発動無効の効果は相手ターンでも発動できる。

・スタート直後、コース最初のカーブを先に曲がったほうが先攻となる。同時に曲がった場合はインコースを走っていた方が先攻となる。

 

 ちなみにスピード・ワールドが発動している最中はDホイールはデュエルモードとなり、殆どの操縦は自動操縦となる。デュエリストに求められるのはせいぜいアクセルとブレーキの操作程度まで減らされるのだ。

 それでもスピード調整を誤ればクラッシュの恐れもあるため、決して操縦もおろそかにしてはいけない。最もDホイールには安全装置がデフォルトで付けられているため、よほど意図的な操縦をしなければ大事故の可能は限りなく低いと言っていいのだが。

 

―――遊希。

 

 あと数分でスタート、という時に光子竜が遊希に話しかける。事前に遊希から「着替えを覗かれたくないから出てこないで」と言われていたこともあったが、遊希が鈴たちと楽しんでいる時に出ていって混ざるような野暮な真似はしたくない、と思っていた光子竜は今日一日の遊希に関わらないようにしていた。

 

(どうしたの?)

―――リラックスして行けよ。緊張しすぎてもいい結果にはつながらないぞ。

(わかってるわよ、そんなこと。でも……ありがと)

「天宮さん」

 

 光子竜と話しながらドラグーンの最終調整を行っていた遊希の元に同じくDホイールの調整を終えた真九郎が声をかけてきた。若いころからアイドルとして大舞台を数多く経験してきた真九郎であるが、ライブのステージならともかく大舞台でのデュエルの経験は遊希以上に不慣れな彼もかなり緊張していたのである。

 

「俺はデュエルのことに関しては君には劣るかもしれない。だけど、Dホイールの操縦に関しては俺の方が一日の長がある」

「……はい」

「俺はデュエル、君は操縦。ライディングデュエルをするにあたって互いに完璧ではない、不完全な存在だ。しかし、不完全だからこそ見せられるものもある」

「不完全なりに今できる最高のデュエルをしよう、ということですね」

「分かりづらい例えだったかな? でも理解してくれて助かったよ。いいデュエルをしよう」

「……はい!」

 

 握手を交わす遊希と真九郎。互いにこのデュエルがデュエルの歴史を変えるものになると理解していた。それ故に互いに不安で仕方なかったのだ。これから刃を交える二人であるが、そんな二人の根底に流れるものは一緒なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュエリスト諸君! 時は来た、今この瞬間からデュエルの歴史を変えるであろう1戦が行われる!! 我々はその歴史の目撃者となる!! さあ、両デュエリストよ、スピード・ワールドを発動してくれ!」

 

 アナウンサーの指示により、遊希と真九郎はスピード・ワールドをDホイールにセッティングする。するとDホイールの画面には自分と相手のフィールド、そしてスピードカウンターの数を表示する箇所が表示された。 

 

「スピード・ワールドはライディングデュエルを行う者のみが立ち入れる聖域だ。そこでは我々は傍観者に過ぎない。ならば傍観者として我々ができることはなんだ? それは……彼らに全力の声援を送ることだ!!」

 

 アナウンサーの言葉に会場のボルテージは最高潮に達する。その声援に応えるが如く、二人の乗るDホイールは轟音を発し今か今かとスタートの時を待っていた。

 

「決闘の火蓋が切って落とされた時、我々は叫ばなければならない。ライディングデュエルの始まりを告げる言葉を! さあ、俺と共に叫べ! “ライディングデュエル・アクセラレーション”!!」

 

 スタジアムの観客誰もが「アクセラレーション!!」という言葉を合唱する。その瞬間、スタート地点に立っている係員がスタートのフラッグを勢いよく下した!

 

 

 

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

 

 

 

 

 

 



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幼き日のトラウマ

 

 

 

 

 

―――ライディングデュエル・アクセラレーション!

 

その言葉と共に2台のDホイールが爆音を上げて走り出す。それは世界初のライディングデュエルが行われた歴史的瞬間であった。先攻は最初のカーブを先に曲がったデュエリストに与えられる。スタートはほぼ同時であったが、カーブを先に曲がったのは真九郎のDホイールだった。

 やはりDホイールの操縦、という点に関しては元プロのレーサーである真九郎に軍配が上がったのである。それでも遊希は真九郎に負けてやるつもりなどない。運転では負けてしまったとしてもこれはレースではない、デュエルなのだから。

 

 

真九郎 LP8000 手札5枚 SC(スピードカウンター):0

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚 SC:0

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

真九郎(SC:0)

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希(SC:0)

 

 

☆TURN01(真九郎)

 

 

「先にカーブを曲がったことで、先攻は俺がもらう!」

 

真九郎 SC:0→1

遊希 SC:0→1

 

「俺は手札から魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。俺が墓地へ送るのは……《B・F-毒針のニードル》!」

「【B・F(ビー・フォース)】……」

 

 【B・F(ビー・フォース)】とは風属性・昆虫族で統一されたテーマであり、低レベルモンスター複数体を以て高レベルのSモンスターのS召喚を狙うデッキだ。そしてその名の通り、モチーフとなったのは蜂。名実ともに真九郎にはぴったりのテーマデッキであると言えるだろう。

 

―――新進気鋭のSテーマが相手か、相手にとって不足はないな。

(……)

―――遊希?

 

 光子竜の言葉に遊希は何も返さない。普段のデュエルならともかく、初めてのライディングデュエルであるため、緊張しているのだろう、と光子竜は思った。最も彼は何故遊希が大人しいのかを後に知ることになる。

 

「そして俺は手札から《B・F-早撃ちのアルバレスト》を召喚!」

 

《B・F-早撃ちのアルバレスト》

効果モンスター

星4/風属性/昆虫族/攻1800/守800

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下の昆虫族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードが相手によって破壊された場合に発動できる。手札・デッキから「B・F」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「召喚に成功した早撃ちのアルバレストの効果を発動! 墓地の毒針のニードルを守備表示で特殊召喚する!」

 

《B・F-毒針のニードル》

チューナー・効果モンスター

星2/風属性/昆虫族/攻400/守800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「B・F-毒針のニードル」以外の「B・F」モンスター1体を手札に加える。

(2):このカード以外の自分フィールドの昆虫族モンスター1体をリリースし、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「特殊召喚に成功した毒針のニードルの効果を発動! デッキからニードル以外のB・Fモンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは《B・F-連撃のツインボウ》。そして俺はアルバレストとニードルをリンクマーカーにセット!」

 

 SモンスターはEXゾーンに特殊召喚される。そのため一度S召喚を行うとそのままでは2体目以降のSモンスターをS召喚することができなくなるのだ。となれば真九郎のデッキも当然リンク召喚を頼ることになる。

 

「召喚条件はチューナーモンスターを含むモンスター2体! リンク召喚! 来い、水晶機巧-ハリファイバー!」

―――やはり来たか、ハリファイバー……

「リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動! デッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚する。俺は2体目のニードルを特殊召喚! そして連撃のツインボウの効果を発動。このカードを手札から特殊召喚する!」

 

《B・F-連撃のツインボウ》

効果モンスター

星3/風属性/昆虫族/攻1000/守500

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は昆虫族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

「ツインボウの特殊召喚効果を使った後、俺は昆虫族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できなくなる」

―――ツインボウの効果は発動後。つまり、ツインボウを出す前であれば昆虫族以外のモンスターを出すことができる、というわけか。

(……)

―――遊希、私は無視されることをした覚えはないのだが……

 

 デュエルに集中している、とはいえここまで返答がないことに流石の光子竜も焦りを覚える。遊希と共にある光子竜は彼女の体調の変化もある程度は感じ取ることができる。少なくとも今の時点で遊希の体調におかしなところはない。健康に問題がない、ということは原因は別にある。

 

「そして手札の《B・F-必中のピン》の効果を発動。自分フィールドに昆虫族モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚する!」

 

《B・F-必中のピン》

効果モンスター

星1/風属性/昆虫族/攻200/守300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに昆虫族モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドの「B・F-必中のピン」の数×200ダメージを相手に与える。

 

「そして俺はレベル3のツインボウに、レベル2のチューナーモンスター、ニードルをチューニング!“解き放たれしは神秘の一矢。目にする全てを射抜け!”シンクロ召喚! 来い、シンクロチューナー《B・F-霊弓のアズサ》!」

 

《B・F-霊弓のアズサ》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星5/風属性/昆虫族/攻2200/守1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカード以外の「B・F」モンスターの効果で相手がダメージを受けた時に発動できる(ダメージステップでも発動可能)。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードが墓地に存在する状態で、自分の「B・F」モンスターの戦闘でモンスターが破壊された時に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「必中のピンの効果を発動。俺のフィールドのピンの数×200のダメージを受けてもらおうか!」

 

 真九郎のフィールドに存在するピンは1体のみ。よって受けるダメージは最小値の200である。わずか200であるが、されど200。この200が響くのがデュエルモンスターズであった。

 

遊希 LP8000→LP7800

 

「きゃっ!」

「そしてアズサの効果。このカード以外のB・Fモンスターの効果で相手がダメージを受けた時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けてもらう!」

 

遊希 LP7800→LP7600

 

「そしてレベル1のピンに、レベル5のシンクロチューナー、アズサをチューニング!“その槍は何者をも恐れぬ一番槍。己が手で真実への道筋を切り拓け!”シンクロ召喚! 羽ばたけ!《B・F-突撃のヴォウジェ》!」

 

《B・F-突撃のヴォウジェ》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/昆虫族/攻2500/守 800

昆虫族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがこのカードの攻撃力以上の攻撃力を持つ相手モンスターに攻撃するダメージ計算時に1度、発動できる。その相手モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。

(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。自分フィールドの「B・F」モンスターの数×200ダメージを相手に与える。

 

「俺はカードを1枚セット。これでターンエンド。さあ、伝説のデュエリストの実力、見せてくれ!」

 

真九郎 LP8000 手札1枚 SC(スピードカウンター):1

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(B・F-突撃のヴォウジェ)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠(Pゾーン青/赤):1 墓地:7 除外:0 EXデッキ:12(0)

遊希 LP7600 手札5枚 SC:1

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

真九郎(SC:0)

 □伏□□□

 □□突□□□

  □ 水

□□□□□□

 □□□□□

遊希(SC:0)

 

○凡例

水・・・水晶機巧-ハリファイバー

突・・・B・F-突撃のヴォウジェ

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「わ、私のターン! ドローっ!」

 

遊希 SC:1→2

真九郎 SC:1→2

 

 B・Fの効果で先手を取られたとはいえ、まだまだデュエルが終わるレベルではない。しかし、後攻を迎えた遊希はやはりどこかぎこちなかった。

 

―――思い出したぞ、遊希。お前そう言えば幼い頃にスズメバチに追いかけ回されたことがあったな。

(!?)

 

 遊希の出身地は蜂に関する話が多い県だった。それはもちろん食用として蜂の子や蜂蜜を産出するという意味でのことなのだが、経験を積んだベテランは働き蜂に紐を括りつけて放し、巣を特定するという離れ業もやってのける者もいた。

 

―――あの時は大変だったな。逃げても逃げても追いかけ回されて……あわや刺されるところだったぞ。

(……笑いなさいよ。私が蜂を苦手だってこと)

―――笑うか、そんなことで。蜂が苦手な者は多いと思うぞ? 現に刺されて亡くなる者だっている訳だが。

(だからよ。だって、刺されたら痛いじゃない! 死んじゃうかもしれないじゃない! 怖がるなって方が無理よ!!)

 

 幼い頃に植え付けられてしまったトラウマというものは大人になってもそうは解消できるものではない。そのため蜂を模したモンスターである【B・F】のモンスターを見ると遊希の幼少期の恐怖が蘇るのだ。

 

―――そうだな。ならば、いっそ受け入れてしまえばどうだ?

(受け入れる?)

―――蜂を恐れる自分を卑下するな。蜂、いや虫など女は大抵怖がるものだ。みんなも怖いんだ、そう思ってしまえばいい。第一、あの時のお前は力のない子供だったが、今はどうだ? お前には私がいるし、何より……皆がいる。

 

 まるで父親の如く優しく遊希を悟す光子竜。長年かけて培われた恐怖心はそうは消えるものではない。しかし、光子竜の言葉―――今の遊希には光子竜がいるし、鈴がいて、千春がいて、皐月がいて、エヴァがいる。多くの人が味方になってくれる。孤独ではないのだ。気休めの言葉ではあるが、その気休めが遊希の身体からすーっと力を抜いてくれた。

 

(……ありがと、光子竜。蜂が怖いのは変わらないけど、だいぶ落ち着けた)

―――いいってことだ。それより、反撃の手立ては?

(もちろん、立っているわ!)

「私のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる! 来なさい、フォトン・スラッシャー!」

 

 空間を大剣で切り裂き、フォトン・スラッシャーが現れる。通常召喚できないが、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、という非常に緩い特殊召喚条件を持つフォトン・スラッシャーを初手に引き入れられたのは遊希にとって幸運なことであった。

 

「そして自分フィールドにフォトン・スラッシャーが存在することで、フォトン・バニッシャーは手札から特殊召喚! 特殊召喚に成功したフォトン・バニッシャーの効果でデッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加えます!」

「だったらその効果にチェーンしてハリファイバーの効果を発動する!」

 

チェーン2(真九郎):水晶機巧-ハリファイバー

チェーン1(遊希):フォトン・バニッシャー

 

「チェーン2のハリファイバーの効果で俺はEXデッキからレベル2のフォーミュラ・シンクロンをS召喚扱いで特殊召喚する!」

「チェーン1のフォトン・バニッシャーの効果で、デッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加えます」

「S召喚に成功したフォーミュラ・シンクロンの効果を発動。デッキからカードを1枚ドロー。早くもエースモンスターをサーチしてきたか……」

「光子竜をコストに魔法カード、トレード・インを発動。デッキから2枚ドローします」

「エースモンスターをコストに!?」

―――飽きるほど繰り返されてきたことだ……寂しいと言えば寂しいがな。

「大丈夫、すぐに戻してあげるから。墓地の光子竜を対象に装備魔法、銀河零式を発動。光子竜を特殊召喚し、このカードを装備します」

 

 銀河零式を装備したモンスターは攻撃も行えなければ効果を発動することもできなくなる。文字通り、装備したモンスターの力がゼロになる。しかし、各種召喚法の素材にすることは可能だ。

 

「私は銀河の魔導師を通常召喚。そして銀河の魔導師の効果を発動。このカードをリリースし、デッキから「ギャラクシー」カード1枚を手札に加えます。私が手札に加えるのは魔法カード、銀河遠征。そして銀河遠征を発動。デッキからレベル5の銀河戦士を守備表示で特殊召喚します! 特殊召喚に成功した銀河戦士の効果で、私は銀河剣聖を手札に加えます」

「フォトン・スラッシャーを起点にここまで回せるか……さすが伝説のデュエリスト」

「ありがとうございます。ですが、まだ終わりません! 私は銀河眼の光子竜と銀河戦士をリンクマーカーにセット! 召喚条件は攻撃力2000以上のモンスターを含むモンスター2体! サーキットコンバイン! 現れなさい、銀河眼の煌星竜!!」

 

 

 

 

 

 



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蜂起の時(修正版)

 

 

 

 

 

 

 空に輝く太陽の如く、燦然と煌星竜が遊希のフィールドに舞い降りる。そして煌星竜の光に包まれて彼女の墓地からは1枚のカードが手札に戻った。

 

「リンク召喚に成功した煌星竜の効果を発動! 墓地の銀河眼の光子竜を手札に戻します! そしてレベル4のフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーでオーバーレイ! 2体のフォトンモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れなさい、輝光帝ギャラクシオン!!」

 

 そして遊希は続けてレベル4のフォトンモンスター2体を素材に指定するXモンスター、輝光帝ギャラクシオンをX召喚した。これを見た千春は首を傾げる。

 

「ギャラクシオン? フォトン・ブラスト・ドラゴンじゃないの?」

「確かにギャラクシオンはフォトン・ブラスト・ドラゴンより攻撃力は上ですが、フォトン・ブラスト・ドラゴンには攻撃力2000以上のモンスターを相手の効果から守ることができますよね……」

 

 皐月の言う通り、フォトン・ブラスト・ドラゴンの攻撃力はギャラクシオンよりも低い。しかし、X召喚成功時に手札の光子竜を特殊召喚することが可能であり、また相手ターンであっても墓地または除外されている光子竜をフィールドに帰還させることができる。そして自分の攻撃力2000以上のモンスター全てを相手の効果の対象に取れなくし、相手の効果破壊から守ることもできる。自身は含まれないとはいえ、単純な汎用性ではフォトン・ブラスト・ドラゴンに軍配が上がる。

 

「いや、そこは時と場合による。遊希のフィールドには相手ターンにモンスターを破壊できる煌星竜が存在している。そしてその効果に必要なコストはフォトンまたはギャラクシーカード2枚、もしくは銀河眼の光子竜1体だ」

「光子竜をサルベージしたのは次のターンに備えて、ってことよね。それにさっき銀河戦士の効果で手札に加えたカードは銀河剣聖よ!」

 

 相手のデッキは【B・F】とわかっている。モンスター単体のステータスは低めとはいえ、新進気鋭のカードであることから他のシンクロテーマと比べると近年のカードに負けないように作られている。そう考えれば遊希に勝負を急ぐ理由はない。勝つことは大事だが、脇を見せることもまた遊希は避けたかったのである。

 

「ギャラクシオンの効果を発動! オーバーレイユニットを2つ取り除き、デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚します!」

「だったらその効果に俺はフォーミュラ・シンクロンをチェーン発動!」

 

チェーン2(真九郎):フォーミュラ・シンクロン

チェーン1(遊希):輝光帝ギャラクシオン

 

「そしてチェーン2のフォーミュラ・シンクロンの効果! 相手メインフェイズにフィールドのこのカードを素材にしてS召喚を行う! 俺はレベル6の突撃のヴォウジェに、レベル2のチューナーモンスター、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!“その一矢は邪を穿つ神秘の烈風。全てを射抜け!”シンクロ召喚!《B・F-降魔弓のハマ》!」

 

《B・F-降魔弓のハマ》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/昆虫族/攻2800/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):Sモンスターを素材としてS召喚したこのカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は1000ダウンする。

(3):相手が戦闘ダメージを受けなかった自分バトルフェイズの終了時に発動できる。自分の墓地の「B・F」モンスターの数×300ダメージを相手に与える。

 

「チェーン1のギャラクシオンの効果。現れなさい、銀河眼の光子竜!!」

 

 全身を青く輝かせながらサーキットに舞い降りる光子竜。天宮 遊希を象徴する伝説のモンスターをまたこの目で見れたということ、そして真九郎の相手ターンでのS召喚。観客たちのボルテージは後攻1ターン目にも関わらず、早くも最高潮に達していた。

 

「相手がモンスターの特殊召喚に成功したことで、俺はリバースカードを発動する!」

(このタイミングでリバースカード? 召喚反応罠かしら……)

「発動するのは速攻魔法《終焉の地》!」

 

《終焉の地》

速攻魔法

相手がモンスターの特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。自分のデッキからフィールド魔法カードを1枚選択して発動する。

 

「終焉の地の効果で俺はデッキから《G・ボール・パーク》を発動!」

 

《G・ボールパーク》

フィールド魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):ダメージ計算時に発動できる。その戦闘で発生するお互いの戦闘ダメージを0にし、自分のデッキからレベル4以下の昆虫族モンスター1体を墓地へ送る。この効果で通常モンスターが墓地へ送られた場合、さらにその同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から任意の数だけ選んで特殊召喚できる。

(2):自分フィールドのモンスターが相手の効果で墓地へ送られた場合に発動できる。自分の墓地から昆虫族の通常モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「G・ボール・パーク……私は手札の銀河剣聖の効果を発動します! 手札のフォトンモンスターである銀河眼の光子竜を見せることでこのカードを手札から特殊召喚します。そして召喚・特殊召喚に成功したこのカードのステータスは墓地のギャラクシーモンスター1体を同じ数値になります。銀河戦士のステータスをコピー!」

 

銀河剣聖 ATK0/DEF0→ATK2000/DEF0

 

「バトルよ! 銀河眼の光子竜でB・F-降魔弓のハマを攻撃!“破滅のフォトン・ストリーム”!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS B・F-降魔弓のハマ ATK2800

 

「ダメージ計算時にフィールド魔法、G・ボール・パークの効果を発動! その戦闘で発生するお互いへの戦闘ダメージを0にし、デッキからレベル4以下の昆虫族モンスター1体を墓地へ送る。俺が墓地へ送るのはレベル4の《キラー・ビー》。そしてこの効果で通常モンスターが墓地へ送られた場合、その同名モンスターをデッキ・手札・墓地から特殊召喚できる! デッキと墓地からキラー・ビー3体を守備表示で特殊召喚!」

 

《キラー・ビー》

通常モンスター

星4/風属性/昆虫族/攻1200/守1000

大きなハチ。意外に強い攻撃をする。群で襲われると大変。

 

「戦闘ダメージは0になるけれど、ハマは破壊されます。煌星竜、ギャラクシオン、銀河剣聖で3体のキラー・ビーを攻撃!」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000 VS キラー・ビー DEF1000

 

輝光帝ギャラクシオン ATK2000 VS キラー・ビー DEF1000

 

銀河剣聖 ATK2000 VS キラー・ビー DEF1000

 

 4体のモンスターで攻撃を仕掛けた遊希であるが、ハマこそ撃破したものの、ダメージを与えることができなかった。一方で真九郎のフィールドにはモンスターは0。上手く防がれた形の遊希となんとかしのぎ切った代わりにモンスターを残すことができなかった真九郎。互いの1ターン目は相反する形となっていた。

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移ります。レベル8の銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れなさい、No.90 銀河眼の光子卿!」

「……相手ターンにデッキからフォトンまたはギャラクシーカードをサーチできる効果とこちらのモンスター効果を無効にする効果を持ったモンスターか。中々手厳しいな」

「そうでもしないとやってられませんから。私はカードを1枚セット。これでターンエンドです」

 

 

真九郎 LP8000 手札2枚 SC(スピードカウンター):2

デッキ:27 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):1(G・ボール・パーク)墓地:14 除外:1 EXデッキ:11(0)

遊希 LP7600 手札3枚 SC:2

デッキ:28 メインモンスターゾーン:2(No.90 銀河眼の光子卿 ORU:2、輝光帝ギャラクシオン ORU:0)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン青/赤):1 墓地:7 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

真九郎(SC:2)

 □□□□□

 □□□□□G

  煌 □

□帝□卿□□

 □□□伏□

遊希(SC:2)

 

 

○凡例

 

帝・・・輝光帝ギャラクシオン

G・・・G・ボール・パーク

 

☆TURN03(真九郎)

 

「俺のターン、ドロー」

 

真九郎 SC:2→3

遊希 SC:2→3

 

「さて、せっかくの光子卿だけど、そのモンスターに仕事をさせるわけにはいかない。俺は君のフィールドの光子卿をリリース!」

「っ!?」

「手札から君のフィールドに《怪粉壊獣ガダーラ》を特殊召喚!」

 

《怪粉壊獣ガダーラ》

効果モンスター

星8/風属性/昆虫族/攻2700/守1600

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):1ターンに1度、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを3つ取り除いて発動できる。このカード以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力を半分にする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「そして手札から魔法カード《一斉蜂起》を発動!」

 

《一斉蜂起》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は昆虫族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(1):相手フィールドのモンスターの数まで、自分の墓地のレベル4以下の「B・F」モンスターを対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「このターン、俺はEXデッキから昆虫族モンスターしか特殊召喚できなくなる代わりに、相手フィールドのモンスターの数だけ墓地からレベル4以下のB・Fモンスターを特殊召喚できる! 一斉蜂起の効果で墓地から3体のB・Fを特殊召喚! 立ち上がれ、アルバレスト! ツインボウ! ニードル!」

(こんなにたくさん、うう……)

 

 真九郎のフィールドには一斉蜂起によって一気に3体のB・Fモンスターが舞い戻る。何処からともなく現れては、一気に群れを成すその有様はまさに蜂の集団と言っても過言ではない有様だ。遊希は内心で怯えながらも、必死に自分自身を奮い立たせる。

 

「特殊召喚に成功したニードルの効果を発動! デッキから同名カード以外のB・F1体を手札に加える!」

「ニードルの効果にチェーンして煌星竜の効果を発動!」

 

チェーン2(遊希):銀河眼の煌星竜

チェーン1(真九郎):B・F-毒針のニードル

 

「手札の光子竜を捨てることで、特殊召喚された相手モンスター1体を破壊します。ニードルを破壊です!」

「ニードルは破壊されるけど、効果が無効になったわけじゃない。チェーン1のニードルの効果で俺が手札に加えるのは2体目のツインボウ。フィールド魔法、G・ボール・パークのもう一つの効果を発動。俺のフィールドの昆虫族モンスターが相手の効果で墓地に送られた時、墓地の昆虫族通常モンスター1体を特殊召喚する。キラー・ビーを特殊召喚。そして2体目のツインボウを特殊召喚! 更に俺は1体目のツインボウとキラー・ビーの2体をリンクマーカーにセット。召喚条件は昆虫族モンスター2体! サーキットコンバイン! 来い!《甲虫装機ピコファレーナ》!」

 

《甲虫装機ピコファレーナ》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/昆虫族/攻1000

【リンクマーカー:左下/右下】

昆虫族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、手札を1枚捨て、このカード以外の自分フィールドの昆虫族モンスター1体を対象として発動できる。デッキから昆虫族モンスター1体を選び、攻撃力・守備力500アップの装備カード扱いとして対象のモンスターに装備する。

(2):自分の墓地の昆虫族モンスター3体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「リンク召喚に成功したピコファレーナの効果を発動! 手札1枚を墓地へ送り、ツインボウにデッキから昆虫族モンスター1体を選び、攻撃力・守備力500アップの装備カードを扱いとして装備する! 俺が装備するのは《応戦するG》だ!」

 

B・F-早撃ちのアルバレスト(+応戦するG) ATK1800/DEF800→ATK2300/DEF1300

 

「そしてピコファレーナのもう一つの効果を発動! 墓地の昆虫族モンスター3体をデッキに加えてシャッフル。そしてデッキから1枚ドローする! 墓地のキラー・ビー3体をデッキに戻して1枚ドロー!」

―――これでG・ボール・パークの効果で再度展開できるということか。

「……これは良いカードを引けた! 魔法カード《蘇生の蜂玉》を発動!」

 

《蘇生の蜂玉》

通常魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地の「B・F」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの昆虫族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターは次のターンの終了時まで、戦闘・効果では破壊されない。

 

「蘇生の蜂玉の効果で俺は墓地のアズサを特殊召喚!」

「っ、チューナーをまた……!」

「レベル3のツインボウに、レベル5のアズサをチューニング! 再び舞い降りろ! レベル8、B・F-降魔弓のハマ!」

 

 蜂特有の羽音を響かせながら、ハマが再度戦場へと舞い降りる。一度敵とみなした相手には容赦なく襲い掛かる。真九郎の【B・F】もとい昆虫族モンスターたちはしっかりと狙いを遊希に見定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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番外編:19年7月制限について遊希たちが語るようです




破滅竜ガンドラX「私も、あのデッキにいた《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》や《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》たちが戻ってくるまでお留守番を続けます。それが私に課せられた使命ですから」

KONMAI「ガンドラXさん……」

破滅竜ガンドラX「そうだ! 最後に言ってもらえませんか? デッキにお帰りって」

KONMAI「禁止にお行き?」

破滅竜ガンドラX「」



織原 皐月「いやいや、け○のフレンズの2期はまだ製作中ですから。未放映ですから。あの優しい世界が帰ってくるんですから」
星乃 鈴「皐月、気持ちはわかるわ……わかるけど……」


 

 

 

 

 

 

番外編:19年7月制限について遊希たちが語るようです

 

 

○禁止カード(2種)

 

《破滅竜ガンドラX》

効果モンスター(2019年7月1日から禁止カード)

星8/闇属性/ドラゴン族/攻0/守0

(1):このカードが手札からの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの内、攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。このカードの攻撃力は、この効果で相手に与えたダメージと同じ数値になる。

(2):自分エンドフェイズに発動する。自分のLPを半分にする。

 

 

エヴァ・ジムリア「いや、作者はイエ○ヌと重ねているが、あっちとちがってこっちは全然可哀想じゃないんだが」

日向 千春「やめろー!こんなのデュエルじゃない! を地で行ったカードなのよね……」

天宮 遊希「むしろよくここまで生き残ったと」

鈴「周囲を生贄に捧げて逃げ続けてきたのはなんとなく《ファイヤウォール・ドラゴン》を彷彿とさせるわね。あっちはあっちでアニメで不遇だったけど」

 

 

《トロイメア・マーメイド》

リンク・効果モンスター(2019年7月1日から禁止カード)

リンク1/水属性/悪魔族/攻1000

【リンクマーカー:下】

「トロイメア・マーメイド」以外の「トロイメア」モンスター1体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、手札を1枚捨てて発動できる。デッキから「トロイメア」モンスター1体を特殊召喚する。この効果の発動時にこのカードが相互リンク状態だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローできる。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、フィールドの相互リンク状態ではないモンスターの攻撃力・守備力は1000ダウンする。

 

 

皐月「【トロイメア】から2体目の禁止カードです。環境上位の【幻影オルフェゴール】での活躍が禁止の影響でしょうね」

遊希「遊戯王カードwikiでは詳しい展開ルートが載っているわね。オルフェゴール各種カードを展開しつつ《幻影霧剣》や《真竜皇V.F.D》で封殺盤面ができると」

鈴「これ決められると萎えるよね。なんか【幻影騎士団】があらゆるところで悪さしまくってるような……」

 

???「デュエルで、みんなに笑顔を……」

 

エヴァ「笑顔になれるのは自分だけだったな」

千春「まさに独りよがりのエンタメ」

 

 

○制限カード(5種)

 

《転生炎獣ガゼル》

効果モンスター(2019年7月1日から制限カード)

星3/炎属性/サイバース族/攻1500/守1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「転生炎獣ガゼル」以外の「サラマングレイト」モンスターが自分の墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「転生炎獣ガゼル」以外の「サラマングレイト」カード1枚を墓地へ送る。

 

《レディ・デバッガー》

効果モンスター(2019年7月1日から制限カード)

星4/光属性/サイバース族/攻1700/守1400

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル3以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

 

遊希「この2体は【転生炎獣】での動きが重く見られて制限カードとなったわ。特にガゼルは《転生炎獣スピニー》とのコンボが有名ね」

鈴「レディ・デバッガーはレベル3以下とはいえ、サイバース族ならなんでもサーチできる。あいにくガゼルがレベル3だったために……」

皐月「遅かれ早かれサーチ効果持ちはこうなるということですね」

 

 

《超雷龍-サンダー・ドラゴン》

融合・効果モンスター(2019年7月1日から制限カード)

星8/闇属性/雷族/攻2600/守2400

「サンダー・ドラゴン」+雷族モンスター

このカードは融合召喚及び以下の方法でのみ特殊召喚できる。

●雷族モンスターの効果が手札で発動したターン、融合モンスター以外の自分フィールドの雷族の効果モンスター1体をリリースした場合にEXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加える事ができない。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに自分の墓地の雷族モンスター1体を除外できる。

 

《雷鳥龍-サンダー・ドラゴン》

効果モンスター(2019年7月1日から制限カード)

星6/光属性/雷族/攻1800/守2200

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、「雷鳥龍-サンダー・ドラゴン」以外の「サンダー・ドラゴン」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

(2):このカードが除外された場合またはフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分の手札を任意の数だけデッキに戻してシャッフルする。その後、自分はデッキに戻した数だけデッキからドローする。

 

 

千春「この2体のモンスターはともに【サンダー・ドラゴン】のキーカードだったわね。ちなみに作者は海外の人と某プログラムでデュエルをした時【Danger!】【守護竜】と組んだ【サンダー・ドラゴン】にボコボコにされたそうよ」

エヴァ「《鎖竜蛇-スカルデッド》が1ターンに3回くらい出てきたな。最終的に超雷龍と《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》と《琰魔竜 レッド・デーモン・アビス》が並んだ」

皐月「それは泣きたくなる盤面ですが、ここで言うべきことでは……」

鈴「でも確かに超雷龍は2体並べられるときついよね。1体だけでもヤバかったのに」

遊希「これから《雷神龍-サンダー・ドラゴン》の素材にする場合は帰還できるカードとの組み合わせが必要になるかもしれないわね。サブデッキの内容どうしようかしら……」

 

 

《メタバース》

通常罠(2019年7月1日から制限カード)

(1):デッキからフィールド魔法カード1枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。

 

 

テラ・フォーミング「よう、随分と早かったな」

盆回し「まあお前は運が悪かったよな。どっちかというと“アイツ”が悪いというか」

メタバース「まあ“アイツ”も準制限になりましたからね。でも僕手札に加えるって選択肢があるから《灰流うらら》に止められるんですよ」

テラ・フォーミング「そこは俺と同じ流れということか。まあ、次は……だろうな」

盆回し「だな。次は……」

 

 

 

終焉の地「へっくしゅん! 風邪かな?」

 

 

 

○準制限カード(10種)

 

《ABC-ドラゴン・バスター》

《SPYRAL-ジーニアス》

《ダーク・アームド・ドラゴン》

《ダーク・グレファー》

《ダイナレスラー・パンクラトプス》

《TG ハイパー・ライブラリアン》

《デビル・フランケン》

《氷結界の龍 トリシューラ》

《影霊衣の反魂術》

《魔鐘洞》

 

遊希「準制限は数が多いのでまとめていくわよ。それにしてもトリシューラライブラリアンが準制限というのに時代の流れを感じざるを得ないわね」

エヴァ「マスタールール4というのもあるからな。まあ9月に来日すると思われる【Danger!】あたりで大量展開してからトリシューラ2連打というのもありそうだが」

鈴「ほとんどが緩和組の中、制限強化されたのはパンクラトプスとダーク・グレファー、そして魔鐘洞……」

千春「魔鐘洞はぶっちゃけ禁止でいいと思うんだけどなぁ」

皐月「それこそデュエルがデュエルじゃなくなってしまいますからね。メタバース制限と合わせて【魔鐘洞】デッキは弱体化を余儀なくされそうです」

 

 

○無制限カード(6種)

《E・HERO エアーマン》

《真竜拳士ダイナマイトK》

《餅ガエル》

《ルドラの魔導書》

《神の宣告》

《停戦協定》

 

鈴「エアーマンや神宣が3枚積める時代ってなんだよ(真顔)」

皐月「インフレに次ぐインフレですね。ドラゴ○ボールですか?」

千春「奇しくも同じ雑誌出身という」

エヴァ「作者が億万長者というのも共通しているな」

遊希「【HERO】は隙を見せるとすぐ台頭してくるから対策必須ね。《V・HERO ファリス》が出てきたし、【E-HERO】も少し毛色が違うとはいえかなりの強化が入ったわけだし」

 

 

 

 

 

 

遊希「ということで、7月からの制限を見てきたわけだけど……」

皐月「【守護竜】はリンクのどれか1体が禁止食らうと思っていました(よかったぁ……)」

エヴァ「EXから直接ドラゴン族を呼べる《守護竜アガーペイン》は今後の活躍次第では危ういかもしれないな。リボルバーのストラクチャーデッキやミザエルをイメージしたカードの影響で【ドラゴン族】がかなり強くなりそうだ」

鈴「ちなみにVジャンプの付録として登場する《ストライカー・ドラゴン》の影響で早くもリボルバーのストラクカードを使った先攻制圧盤面が研究されているようよ」

皐月「これは見つけた人凄いですよね。手札に《輝光竜セイファート》さえあればできてしまうんですから……」

鈴「妨害ばっかりね、最近の遊戯王って」

遊希「まあVRテーマでは【トリックスター】【剛鬼】【オルタ―ガイスト】【転生炎獣】と主要キャラのデッキがいずれも結果を残してきたのよね。リボルバーにも日の目を見せてやらなければ不遇すぎるわ。まあ【守護竜】規制で破綻するんだけど……」

 

 

 

 

 

 




※《輝光竜セイファート》搭載の【ヴァレット】はなんと手札にセイファート1枚さえあれば、最終的に《天威の龍鬼神》《ヴァレルロード・S・ドラゴン》(アガーペイン装備でカウンター2)《ヴァレルロード・F・ドラゴン》の3体が並び、更に《幻影霧剣》1枚をセットできるとのこと。
これは【ヴァレット】の活躍次第では【守護竜】が危ないでしょうね。第二のレダメコースに入っています。
ちなみに私は【ヴァレット】がようやくまともに戦えそうなデッキになって嬉しいです。銃+ドラゴンとか厨二感満載でワクワクしませんか?取り敢えずVジャンプは久々に買います。抹殺の時みたいに完売……はないですよね。ないと言ってくださいお願いします。


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熱気溢れしサーキット

 

 

 

 

「バトル、降魔弓のハマで怪粉壊獣ガダーラを攻撃!“破邪の刺弓”!」

 

B・F-降魔弓のハマ ATK2800 VS 怪粉壊獣ガダーラ ATK2700

 

 ハマの放った一矢がガダーラの羽根と身体を貫く。その様はまさに巣で待つ幼虫のために餌を集めるスズメバチの狩りの如く鋭いものだった。

 

遊希 LP7600→LP7500

 

「戦闘で相手モンスターを破壊したハマの効果を発動! 相手フィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力・守備力を1000ポイントダウンさせる!」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000→ATK1000

 

輝光帝ギャラクシオン ATK2000/DEF2100→ATK1000/DEF1100

 

「そしてSモンスターを素材にS召喚されたハマは一度のバトルフェイズに二回目の攻撃ができる。ハマで二度目の攻撃! その一矢で煌星竜を撃ち抜け!」

 

B・F-降魔弓のハマ ATK2800 VS 銀河眼の煌星竜 ATK1000

 

遊希 LP7500→LP5700

 

「きゃあっ!!」

「B・Fモンスターの戦闘でモンスターが破壊された時、墓地の霊弓のアズサの効果を発動。このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。そしてアルバレストでギャラクシオンを攻撃!」

 

B・F-早撃ちのアルバレスト(+応戦するG) ATK2300 VS 輝光帝ギャラクシオン ATK1000

 

遊希 LP5700→LP4400

 

「これで君のフィールドはがら空きだ。ピコファレーナでダイレクトアタック!」

 

甲虫装機ピコファレーナ ATK1000

 

遊希 LP4400→LP3400

 

「っ……!!」

「俺はバトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移る。俺はピコファレーナとアルバレストをリンクマーカーにセット。召喚条件はカード名が異なるモンスター2体以上。サーキットコンバイン! 羽ばたけ!《熾天蝶(セラフィム・パピヨン)》!」

 

《熾天蝶(セラフィム・パピヨン)》

リンク・効果モンスター

リンク3/風属性/昆虫族/攻2100

【リンクマーカー:上/左下/右下】

カード名が異なるモンスター2体以上

このカード名の(1)(3)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動する。このカードのリンク素材とした昆虫族モンスターの数だけこのカードにカウンターを置く。

(2):このカードの攻撃力は、このカードのカウンターの数×200アップする。

(3):このカードのカウンターを1つ取り除いて発動できる。自分の墓地からレベル4以下の昆虫族モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「リンク召喚に成功した熾天蝶、そしてアルバレストに装備されていた応戦するGの効果を発動!」

 

《応戦するG》

効果モンスター

星4/地属性/昆虫族/攻1400/守1400

(1):相手がモンスターを特殊召喚する効果を含む魔法カードを発動した時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードの(1)の効果で特殊召喚されたこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。

(3):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「応戦するG」以外の攻撃力1500以下の昆虫族・地属性モンスター1体を手札に加える。

 

チェーン2(真九郎):応戦するG

チェーン1(真九郎):熾天蝶

 

「チェーン2の応戦するGの効果で俺は攻撃力1500以下の地属性・昆虫族の増殖するGを手札に加える。そしてチェーン1の熾天蝶の効果。このカードのリンク素材にした昆虫族モンスターの数だけこのカードにカウンターを置く。素材にした昆虫族は2体だから、カウンターは2つだ」

 

熾天蝶 カウンター:2

 

「熾天蝶の攻撃力はカウンターの数×200アップする。よって攻撃力は2500」

 

熾天蝶 ATK2100→ATK2500

 

「うん、我ながら上々の1ターンだったかな? ついでに墓地の蘇生の蜂玉のもう一つの効果を発動。このカードをゲームから除外することで俺のフィールドの昆虫族モンスター1体を次のターンの終了時まで破壊から守る。対象は熾天蝶。これで俺はターンエンド」

 

真九郎 LP8000 手札1枚 SC(スピードカウンター):3

デッキ:25 メインモンスターゾーン:2(B・F-降魔弓のハマ、B・F-霊弓のアズサ)EXゾーン:1(熾天蝶)魔法・罠(Pゾーン青/赤):1(G・ボール・パーク)墓地:13 除外:2 EXデッキ:8(0)

遊希 LP3400 手札2枚 SC:3

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):1 墓地:13 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

真九郎(SC:3)

 □□□□□

 霊□□□降G

  □ 熾

□□□□□□

 □□□伏□

遊希(SC:3)

 

○凡例

 

熾・・・熾天蝶

降・・・B・F-降魔弓のハマ

霊・・・B・F-霊弓のアズサ

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

 

遊希 SC:3→4

真九郎 SC:3→4

 

―――遊希、これでスピードカウンターが4つになったが……

 

 このターンで二人のスピードカウンターは4になる。スピードカウンター4つを消費することで、デッキから1枚ドローし、その後手札1枚を戻すという手札交換の効果が発動可能になるのだ。

 

(……まだ、使わない)

「私は魔法カード、貪欲な壺を発動します。墓地のモンスター5体を選んでデッキに戻し、2枚ドローします! 私がデッキに戻すのは……銀河眼の煌星竜、銀河剣聖、銀河の魔導師、フォトン・スラッシャー、フォトン・バニッシャーの5枚。この5枚をデッキに戻し、2枚ドロー! そして手札から魔法カード、死者蘇生を発動します!」

「死者蘇生……じゃあそれにチェーンして増殖するGの効果を発動する! このターン、相手が特殊召喚を成功させる度に俺は1枚ドローしなければならない!」

 

 遊希ならば何かしらの手は打ってくるだろう。それを見越して真九郎はピコファレーナの効果で応戦するGを装備させ、増殖するGを手札に加えていた。仮にこのターンで全てをひっくり返されても手札さえ潤っていればいくらでも切り返すことができるのだから。だが、何もかも目論見通りに行かないのがデュエルである。

 

「増殖するGにチェーンして、手札から速攻魔法、墓穴の指名者を発動します! 墓地のモンスターを除外し、このターンそのモンスターの効果の発動を無効にします!」

 

チェーン3(遊希):墓穴の指名者

チェーン2(真九郎):増殖するG

チェーン1(遊希):死者蘇生

 

「チェーン3の墓穴の指名者の効果で墓地の増殖するGを除外します!」

「チェーン2の増殖するGは除外されたことで効果が無効化される。やるね……」

「ここでの1枚のドローの重みはよくわかっていますから。チェーン1の死者蘇生の効果で私は墓地のNo.90 銀河眼の光子卿を特殊召喚します! そして私はギャラクシーアイズXモンスターである光子卿でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築。エクシーズチェンジ! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン!!」

「攻撃力4000……」

「FA・フォトンの効果を発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を破壊します。対象はG・ボール・パークです!“ギャラクシー・サイドワインダー”!」

 

 FA・フォトンの効果によって、G・ボール・パークが破壊される。真九郎は前のターンにピコファレーナの効果で通常モンスターであるキラー・ビー3体をデッキに戻しているため、G・ボール・パークを残していれば再度キラー・ビー3体をデッキから特殊召喚することができるのだ。通常モンスターとはいえ、S素材やリンク素材に使われるとなれば、見過ごすことはできない。

 

「更にFA・フォトン・ドラゴンで再度オーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再々構築。ランクアップ・エクシーズチェンジ! 銀河眼の光波刃竜! 銀河眼の光波刃竜の効果。オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、フィールドのカード1枚を破壊します!」

「熾天蝶は蘇生の蜂玉の効果でこのターンの終了時まで破壊されない。ハマかアズサを狙うつもりかな?」

「……誰が、あなたのカードを破壊すると言いましたか? 破壊するのは光波刃竜自身です!」

 

 武士の自害、というわけではないが、両腕の刃を使って自身の身体を切り裂く光波刃竜。当然のことながら、ここでの自壊は遊希にとっては何のメリットもないことだ。あるカードを持っている場合を除いては。

 

「私のXモンスターが破壊された時、リバースカードを発動します! 速攻魔法《エクシーズ・ダブル・バック》!」

 

《エクシーズ・ダブル・バック》

速攻魔法

自分フィールド上のエクシーズモンスターが破壊されたターン、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。自分の墓地から、そのターンに破壊されたエクシーズモンスター1体と、そのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

「エクシーズ・ダブル・バック!?」

「エクシーズ・ダブル・バックは自分フィールドのXモンスターが破壊されたターン、私のフィールドにモンスターが存在しない場合に発動できるカードです。私の墓地からそのターンに破壊されたXモンスター1体とそのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を特殊召喚します。破壊された攻撃力3200の光波刃竜と光波刃竜の攻撃力3200以下のモンスター、攻撃力3000の銀河眼の光子竜を特殊召喚します!」

 

 墓地より舞い上がる2体の銀河眼。光を放ちながら咆哮する2体の銀河眼の姿を見た観客からは感嘆の声が漏れ、そしてその感嘆の声は歓声へと変わっていった。

 

「バトルです! 銀河眼の光波刃竜で降魔弓のハマを攻撃!“サイファー・スラッシュ・ストリーム”!」

 

銀河眼の光波刃竜 ATK3200 VS B・F-降魔弓のハマ ATK2800

 

真九郎 LP8000→LP7600

 

「銀河眼の光子竜で霊弓のアズサを攻撃!“破滅のフォトン・ストリーム”!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS B・F-霊弓のアズサ DEF1600

 

「っ、自身の効果で特殊召喚されたアズサはフィールドを離れた時点でゲームから除外される」

「バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移行します。蘇生の蜂玉の効果で熾天蝶は破壊することができません。ですが、破壊以外の方法で倒せばいい。手札から、速攻魔法《破滅のフォトン・ストリーム》を発動!」

 

《破滅のフォトン・ストリーム》

速攻魔法

自分フィールド上に「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。フィールド上のカード1枚を選択してゲームから除外する。自分フィールド上に「銀河眼の光子竜」が存在しない場合、このカードは自分のターンにしか発動できない。

 

「自分フィールドにギャラクシーアイズモンスターが存在する場合、フィールド上のカード1枚を選択してゲームから除外します。対象は熾天蝶です!」

「除外は蘇生の蜂玉の効果でも守れない……あくまでこちらのカードを殲滅してくるか。ただではやらせない! チェーンして熾天蝶の効果を発動!」

 

チェーン2(真九郎):熾天蝶

チェーン1(遊希):破滅のフォトン・ストリーム

 

「チェーン2の熾天蝶の効果! このカードのカウンターを1つ取り除き、墓地のレベル4以下の昆虫族モンスター1体を特殊召喚する! 毒針のニードルを特殊召喚!」

「チェーン1の破滅のフォトン・ストリームの効果。熾天蝶を除外します」

「だが、特殊召喚に成功したニードルの効果を発動! 2体目のアルバレストを手札に加える」

(……がら空きにはできなかったか)

―――だが、大型モンスター3体を除去することができた。ニードルを残されたのは厄介だがな。エクシーズ・ダブル・バックで特殊召喚されたモンスターはこのターンの終了時に破壊される。

「わかってる。私は光波刃竜と光子竜の2体をリンクマーカーにセット。銀河眼の煌星竜をリンク召喚! 効果で墓地の銀河眼の光子竜を手札に戻します。私はこれでターンエンドです」

 

 

真九郎 LP7600 手札1枚 SC(スピードカウンター):4

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(B・F-毒針のニードル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:14 除外:5 EXデッキ:8(0)

遊希 LP3400 手札2枚 SC:4

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:11 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

真九郎(SC:4)

 □□□□□

 □□毒□□□

  □ 煌

□□□□□□

 □□□□□

遊希(SC:4)

 

○凡例

 

毒・・・B・F-毒針のニードル

 

 

☆TURN05(真九郎)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

真九郎 SC:4→5

遊希 SC:4→5

 

「……せっかくだし、使わせてもらおうか。俺はスピードカウンターを4つ消費し、スピードワールドの効果を発動する!」

 

真九郎 SC:5→1

 

「デッキから1枚ドロー、そして手札を1枚デッキに戻す」

―――……手札を入れ替えてきたか。1枚はニードルの効果でサーチした早撃ちのアルバレストだったが……

(でも、手札にはサルベージした光子竜がある。迂闊には動けないはずよ)

「俺は早撃ちのアルバレストを召喚! 効果で墓地のツインボウを特殊召喚する!」

「アルバレストの効果にチェーンして煌星竜の効果を発動! 手札の光子竜1体を墓地へ送り、相手フィールドのモンスター1体を破壊します。対象はニードルです!」

「なら、更にチェーンしてニードルのもう一つの効果を発動する!」

 

チェーン3(真九郎):B・F-毒針のニードル

チェーン2(遊希):銀河眼の煌星竜

チェーン1(真九郎):B・F-早撃ちのアルバレスト

 

「ニードルのもう一つの効果……?」

「チェーン3のニードルの効果! このカード以外の昆虫族モンスター1体をリリースし、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる効果さ。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする! アルバレストをリリースして発動。対象はもちろん煌星竜だ!」

 

 ニードルの針に吸い込まれるようにして消えていったアルバレストはそのままニードルの尾の針から毒針となって射出される。小さな蜂の一刺しを受けた煌星竜は眠るようにしてガクリと項垂れてしまった。

 

「……チェーン2の煌星竜の効果は無効になったため発動しません。まさかそんな効果まで持っていたなんて」

「つくづく情報アドバンテージの偉大さを思い知らされるよ。チェーン1のアルバレストの効果でツインボウを特殊召喚。そしてレベル3のツインボウに、レベル2のニードルをチューニング! シンクロ召喚! 三度舞い降りよ、B・F-霊弓のアズサ!」

「また、アズサですか……ですが、アズサ1体では煌星竜を破壊するのがやっとのはずです」

「確かに。でも、蜂は群れてこその蜂。群れた蜂に勝てる生物はそうはいない。個々の力が弱くても、結束することで強大な壁を乗り越えることもできる。それを見せてあげるよ! 手札から蘇生の蜂玉を発動!」

「2枚目の……蘇生の蜂玉……」

「スピードカウンターを消費した甲斐があったね。俺は墓地の突撃のヴォウジェを特殊召喚! そしてバトル! 突撃のヴォウジェで銀河眼の煌星竜を攻撃!!」

「ねえ、これ遊希まずいんじゃ……!」

 

 突撃のヴォウジェの槍が煌星竜に迫る。ヴォウジェは相手に戦闘ダメージを与えた時、自分フィールドのB・Fの数×200のダメージを与える効果を持っている。煌星竜との攻撃力の差を考慮すると、この戦闘で遊希に与えるダメージは500+400で900。

 

「確かにヴォウジェの攻撃だけなら、大丈夫ですが……」

「しかし、蜂矢 真九郎のフィールドにはB・Fの効果ダメージに合わせてバーンダメージを与えるアズサがいる! ヴォウジェの攻撃力は2500……」

「遊希のライフの残りは3400……そんな。遊希、遊希!!」

「天宮 遊希さん、あなたとのデュエルはとても楽しかった。だけど、これで終わりだ!!」

 

 ヴォウジェの槍が、煌星竜の身体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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疾走の果てに

 

 

 

 迫り来るヴォウジェの槍が煌星竜の胴を貫いた。悲鳴のような断末魔を上げて消滅する煌星竜。光の竜だけあって、消える様もまさに星が爆発するかのように派手であった。ヴォウジェの攻撃が通った瞬間、ヴォウジェの効果、そしてアズサの効果が連鎖的に発動する。

 

「ヴォウジェが戦闘ダメージを与えた時……」

 

遊希 LP3400→LP1400

 

「なっ……ヴォウジェと煌星竜の攻撃力の差は500。どうしていきなり2000もライフが!?」

 

 驚く真九郎が遊希の方を確認すると、遊希のDホイール・ドラグーンの前には弾丸のような形をした目つきの悪い小さなモンスターが遊希を守るように浮いていた。

 

「あれは……《クリボー》?」

「似ていますが、違います。このモンスターは《クリフォトン》です!」

 

《クリフォトン》

効果モンスター

星1/光属性/悪魔族/攻300/守200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から墓地へ送り、2000LPを払って発動できる。このターン、自分が受ける全てのダメージは0になる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札から「クリフォトン」以外の「フォトン」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

「クリフォトンの効果は手札から墓地へ送り、2000LPを払って発動できる。このターン、私が受ける全てのダメージは0になります。ヴォウジェと煌星竜のバトルが行われる時、私はこのカードを墓地へ送り、このカードの効果を発動していました!」

「……2000のライフコストは大きい。だけど、その2000でヴォウジェとアズサのバーンダメージを防いだということか」

 

 ヴォウジェの効果とアズサの効果が全て通れば、遊希が受けるダメージは2900。戦闘ダメージを合計すれば3400に達する。もしクリフォトンを発動していなければ、このターンで遊希は確実に敗北していたのだ。

 

「これ以上のバトルも効果発動も無意味。じゃあバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移る。墓地の蘇生の蜂玉の効果。そうだね……対象はヴォウジェにしようか。俺はこれでターンエンド!」

 

真九郎 LP7600 手札0枚 SC(スピードカウンター):1

デッキ:23 メインモンスターゾーン:2(B・F-突撃のヴォウジェ、B・F-霊弓のアズサ)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:15 除外:6 EXデッキ:8(0)

遊希 LP1400 手札0枚 SC:4

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン青/赤):0 墓地:12 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

真九郎(SC:1)

 □□□□□

 □□突□□□

  霊 □

□□□□□□

 □□□□□

遊希(SC:4)

 

「なんとか凌げたかぁ……」

「しかし、遊希のライフは残り1400。手札も尽きた。次のターンが最後のターンになるだろう」

「私たちはこうして見ていることしかできないのでしょうか……」

「……信じよう。遊希を、遊希のデッキを」

 

自分たちは観客席で見守ることしかできない。それでも見守るだけで終わりたくはない。鈴たちは祈り続けた。祈ることが遊希の力になるように、と。

 

「我々が見届けるデュエルの歴史を変えるデュエル! 何という、何という激戦になっているのか! まだわずか5ターンしか経過していないということを忘れてしまいそうなデュエルだ!!」

 

 一方で実況のアナウンサーがマイク越しに絶叫する。彼のその名調子が会場中に響き渡り、嫌が応にも会場のボルテージは上がり続ける。そんな観客席においてデュエルを見守る鈴たちにできることはただ祈ることだけだった。サーキットという戦場をDホイールという騎馬を駆る戦士である遊希。観客席から祈ることしかできない鈴たちの思いはそんな彼女に届いているのか。それは誰にもわからない。

 

「まさに命を燃やし、体内熱き血駆け巡り、デュエリストの魂が燃え上がる! 蜂矢 真九郎と天宮 遊希、熱い二人のライディングデュエルとなっているぞ!!」

 

 

☆TURN06(遊希)

 

「……泣いても笑ってもこれが最後のターン、私は……どんな結果に終わっても、悔いなく終わりたい!」

―――遊希、ならば下を向くな! 最後まで前を向き続けよう!

「ええ。私のターン、ドロー!」

 

遊希 SC:5→6

真九郎 SC:1→2

 

「私は銀河の修道師を召喚! そして召喚に成功した修道師の効果を発動! 墓地のフォトンまたはギャラクシーカード5枚を選んでデッキに戻し、2枚ドローします! 私がデッキに戻すのは銀河零式、銀河遠征、破滅のフォトン・ストリーム、銀河眼の煌星竜、No.90 銀河眼の光子卿です!」

 

 言うなればフォトン・ギャラクシー版の貪欲な壺と言える銀河の修道師。しかし、このモンスターは召喚権こそ使うものの、魔法・罠カードも再利用できるという貪欲な壺にはない明確な強みがあった。

 

「修道師で2枚のドローか……強いデュエリストというのはどこまでもカードとデッキに愛されるんだね。俺もそれくらいのデュエリストになりたいものだよ」

「……今の蜂矢さんがそれ以上デッキとカードに愛されたら、この世界であなたに勝てなくなってしまいますよ? ですが、このデュエルは私の勝ちです! 私は墓地の光属性モンスター、銀河眼の光波刃竜、ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン、クリフォトンの3体をゲームから除外し、手札から混源龍レヴィオニアを特殊召喚します!」

 

 光と闇が渦巻く空間から現れたレヴィオニア。その咆哮に合わせて墓地から除外された3体の光属性モンスターの魂がレヴィオニアの中に吸い込まれていく。レヴィオニアは墓地の光・闇属性モンスターを合計3体除外することで特殊召喚できるモンスターであり、その属性のモンスターの数によって異なる効果を適用できるのだ。

 

「特殊召喚に成功したレヴィオニアの効果を発動! 光属性モンスター3体を除外して特殊召喚に成功したことで、墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚します! 特殊召喚するのは銀河眼の光子竜です!」

「光子竜を蘇生か。しかし、光子竜は守備表示でレヴィオニアは効果を発動したターンは攻撃できない。ランク8のXか!」

「そうです。私はレベル8の銀河眼の光子竜と混源龍レヴィオニアでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 光の世界より舞い降りよ! 銀河眼の光波竜!!」

 

 銀河眼の光波竜は相手モンスター1体のコントロールをターン終了時まで奪い、そのモンスターを銀河眼の光波竜として扱いつつ、攻撃力3000に変化させることができる。しかし、当然のことながらこれでは真九郎のライフを0にするにも攻撃力が足らない。

 

「光波竜で倒せないのであれば―――さらに上へと昇華するのみです」

「昇華?」

「そして、そのための鍵がここにあります! 手札から速攻魔法《RUM-光波昇華》を発動!!」

 

《RUM-光波昇華(サイファー・アセンション)》

速攻魔法

(1):自分・相手のメインフェイズに、自分フィールドの「サイファー」Xモンスター1体を対象として発動できる。その自分のモンスターよりランクが1つ高い「サイファー」Xモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは以下の効果を得る。●このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル4以上のモンスターの数×500アップする。

 

「RUM!? まさか、君のデッキにはそんなカードまで……!?」

「私だって、いつまでも今のままじゃいけないことはわかっています。私は、強くなきゃいけない。私自身のために、そして……私のことを信じてくれる人たちのために!! 私はフィールドの銀河眼の光波竜でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズチェンジ!!」

 

 光波竜の魂は光と変化し、更なる進化のために天へと昇っていく。そして舞い降りたのは左右の翼に鬼気迫る龍の顔を持った光の龍であった。

 

 

 

―――“闇に輝く銀河よ。永久に輝く光放ち、我が未来照らす誇り高き道標となれ!”―――

 

 

 

―――目覚めなさい!!《超銀河眼の光波龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》!!―――

 

 

 

 

 

《超銀河眼の光波龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000

レベル9モンスター×3

(1):このカードが「サイファー」カードをX素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材を3つまで取り除いて発動できる。取り除いた数だけ相手フィールドの表側表示モンスターを選び、そのコントロールをエンドフェイズまで得る。

この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力は4500になり、カード名を「超銀河眼の光波龍」として扱う。この効果の発動後、ターン終了時までこのカード以外の自分のモンスターは直接攻撃できない。

 

「超銀河眼の光波龍……」

「光波昇華の効果で特殊召喚に成功したモンスターの攻撃力はフィールドのレベル4以上のモンスターの数×500ポイントアップする。私のフィールドにはレベル4の銀河の修道師が存在するため、超光波龍の攻撃力は500アップします」

 

超銀河眼の光波龍 ATK4500→ATK5000

 

「そして超銀河眼の光波龍の効果を発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを3つまで取り除き、取り除いた数だけ相手フィールドの表側表示モンスターを選んでそのコントロールをエンドフェイズまで得ます! 私はオーバーレイユニットを1つ取り除き、突撃のヴォウジェのコントロールを得る! “サイファー・スーパー・プロジェクション”!」

 

 超光波龍の翼から放たれた光の波動を浴びたヴォウジェは誘蛾灯に導かれる羽虫の如く、遊希のフィールドへと移る。そしてヴォウジェの身体は2体目の超光波龍に変化した。

 

「そしてこの効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力は4500となり、カード名を超銀河眼の光波龍として扱います」

 

B・F-突撃のヴォウジェ→超銀河眼の光波龍 ATK4500

 

「ヴォウジェのコントロールを……蘇生の蜂玉で破壊耐性を与えたのが裏目に出たか……」

「最も、この効果の発動後、ターン終了時まで私のフィールドのモンスターは直接攻撃できなくなります。私はスピードワールドの効果を発動します!」

 

 もしこれが普通のスタンディングデュエルであったならば、このターンでの遊希の勝利は無かっただろう。真九郎にとってかつての本業に近い形のデュエルであるライディングデュエルが、彼に牙を剥くとは予想だにしていなかった。

 

「私はスピードカウンターを2つ取り除き、効果を発動!」

 

遊希 SC:6→2

 

「相手に300のダメージを与えます!」

 

真九郎 LP7600→LP7300

 

「俺のライフが……これでは防ぎきれない」

「バトルです! 超光波龍となったヴォウジェでアズサを攻撃します!“アルティメット・サイファー・ストリーム”!」

 

超銀河眼の光波龍(B・F-突撃のヴォウジェ)ATK4500 VS B・F-霊弓のアズサ ATK2100

 

真九郎 LP7300→LP4900

 

「ぐっ……!!」

「これであなたを守るモンスターはいない。超銀河眼の光波龍でダイレクトアタック!“アルティメット・サイファー・ストリーム”!!」

 

超銀河眼の光波龍 ATK5000

 

「……ははっ、やはり届かなかったか。でも、記念すべき最初のデュエルでこんなデュエルができたなら……俺は満足だよ!」

「蜂矢さん……はい、私もです!

 

真九郎 LP4900→LP0

 

 ライフが0になり、真九郎のDホイールのデュエルモードが解除される。超スピードから急激にスピードが下がるため、クラッシュの危険性もあったが、そこは彼の持ち前のドライビングテクニックでそれを防いだ。そんな彼の脇を遊希とドラグーンは轟音を上げて駆け抜けた。この瞬間、改めてこのデュエルの勝者の名が会場中に響き渡った。

 

「デュエル決着!! 勝者は―――天宮 遊希!!」

 

 世界初のライディングデュエルが終わりの時を迎えた。デュエルが終わり、ドラグーンを止めた遊希は勢いよく飛び降りると、ヘルメットを取って歓声に応えて手を振る。何処かぎこちない笑顔の彼女はドラグーンから降りると、周囲をきょろきょろと見回していた。

 

「遊希ー!!」

 

 何処かから探している人の声がした。遊希は声のした方を向いて、その探し人を見つけると、その方向に満面の笑みを浮かべながらVサインを送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激戦を終えた遊希たちは事前に用意されていた宿泊券を利用してカイバーランド・シーに併設されたホテルに泊まることになった。最初は普通の部屋かな、と思っていた鈴たちであるが蓋を開けてみればなんとホテル最上階のスイートルームへの宿泊となった。

 生まれて初めてスイートルームに泊まるとだけあってテンションの上がる鈴たちだが、そこに本来いるべき遊希の姿はなかった。遊希はこの後海馬コーポレーション主催のパーティーに参加しなければならなかったのだ。随分と規模の大きいパーティーとだけあって、フルメイクに専用のパーティードレスまで着なければいけないのだから、その手の分野に明るくない遊希からしてみればかなりの罰ゲームである。

 

「でもさあ……なーんか遊希が遠いところに行っちゃいそうよね」

 

 鈴たちはルームサービスとして運ばれてきた豪華なディナーに手を伸ばしていた。このディナーを遊希を含めた四人で食べたかった、というのが彼女たちの本音であったのは間違いない。

 

「ドレス姿の遊希さん、とても綺麗でしたね」

「ええ……シンデレラってああいう人のことを言うのかもね」

 

 鈴たちが部屋で夕食の時間までくつろいでいると、一度パーティードレスに身を包んだ遊希が戻ってきた。しかし、最初に部屋の覗き窓から外で待つ遊希を見た瞬間、鈴はそれが遊希だと初見で気づくことができなかった。その時の遊希は普段オシャレに気を遣わない彼女とはまるで別人だったのである。

 黒くて長い癖のある髪を上で束ね、首・肩・背中を大きく露出した黒のドレスに1個数百万は下らないジュエリーを数点身に付けた遊希はまさに王室のプリンセスと言っても相違ないほど美しかった。遊希本人はどこか窮屈がっていたが、鈴たちは同性ながらその美しさに息を飲むことしかできなかった。

 

「でもあの子大丈夫かしら」

 

 運ばれてきたステーキをナイフとフォークで切り分けながら鈴が不安そうにつぶやく。

 

「大丈夫というのは?」

「パパから聞いたことあるんだけど、パーティーって色んな人と喋らなきゃいけないの。コミュ障のあの子にそれができると思う?」

 

 遊希ももう子供ではないため、面識のない相手であってもそれなりに繕うことはできる。しかし、そういうことに気を遣うばかりに精神的に摩耗していまうのではないか、と危惧が鈴の中にはあったのだ。

 

「だが、遊希もプロデュエリストだった人だ。そのくらいの事には慣れがあるのではないか?」

「いやいやいや……だって考えてみてよ、あの遊希だよ?」

「今ごろへーこら言ってるかもね。もう帰りたい~って!」

「さすがにそんなことはないと思いますが……鈴さんがそう言うとなると不安になりますね……」

 

 

 

 

 

 



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ノンストップ・ガール

 

 

 

 

「もう帰りたい……助けて、鈴、千春、皐月、エヴァ……」

―――おいおい、本日の主役がそんなことでいいのか?

 

 その頃、パーティーに参加していた遊希は会場の隅っこで壁によりかかりながら窓から外を見ていた。窓の外にはカイバーランド・シー名物の夜のパレードが行われており、会場中を電飾で煌びやかに彩られた青眼の白龍が闊歩している。本当なら鈴たちとあのパレードを間近で見ていたはずなのに。

 

(うっさい、あんたは黙っててよ)

―――こっちは心配しているというのにひどい言いざまだ。

「どうやら、お疲れのようだね」

 

 小さくため息をついた彼女に話しかけてきたのは真九郎である。遊希同様今回のライディングデュエルを盛り上げた彼もまた高価なタキシードを着てパーティーに参加していた。

 

「どうも……やはりこの手の場所は苦手です」

「俺もだよ。アイドル時代からこの手の付き合いは多いけど未だに慣れない」

「でもタキシード似合ってますよ?」

「一応アイドルだったからね。芸能関係の世界にいた者として、これくらいは着こなせないと。それにそちらこそ、まるでシンデレラのようだ」

―――シンデレラ……か。性格的には意地悪な義理の姉に近いと思うが。

 

 後で光子竜のカードの上には重い荷物でも置いてやろう、と思った遊希は真九郎の褒め言葉に愛想笑いで返す。このパーティーの間、そう言った褒め言葉は嫌というほど聞いてきた。そしてそのほとんどに心が籠っていないということも彼女は知っていた。最もついさっきまで激しいデュエルを繰り広げた真九郎はこっちをリスペクトした上での発言であることはわかっていたが。

 

「お上手なこと、褒めても何も出ませんよ」

「ははは……ところで“プロデュエリスト復帰の件”については本当にあれで良かったのかい?」

 

 真九郎の言う「プロデュエリスト復帰の件」というのは今から数時間前に遡る。遊希はライディングデュエルが終わった後、勝利者インタビューを受けていたのだが、その折にアナウンサーから「プロ復帰について」という質問を受けていた。

 最初の予定ではこのデュエルの出来次第でプロ復帰云々という話だったのだが、遊希はその問いかけに対して現時点においてはプロ復帰は考えていない、とすぐにプロデュエリストとして復帰する考えはないと口にしたのである。

 何故遊希がそういう決断を下したのか、ということについてはマスコミの間では様々な噂が飛び交っていたが、遊希がその決断を下した理由は至ってシンプルなものであった。

 

「良かったもなにも、あのデュエルの出来に納得は行っていませんから。そんな状態でプロなんて笑わせます。もっとレベルアップをしないと、やっていけませんから」

 

 単純なことだ。不慣れなライディングデュエルとはいえ、デュエルにおいては初心者と言ってもいい真九郎に追い詰められてしまった。その程度の実力ではプロの世界に戻ったところで恥をかくだけ。彼女はそれを理解していたのだ。

 

「……そういうものなのかい?」

「そうですよ。第一これからこの激しいライディングデュエルを専門にする蜂矢さんも注意してくださいね?」

「これは手厳しい」

「言っておきますが、これは忠告ではなくエールですからね。後でもしマスコミに何を話していたのかとか聞かれたら応援してもらった、とかアドバイスをもらったとか言っておいてください。何処から火を付けられるかたまったもんじゃないですから」

「ではそう答えておくよ」

 

 そう言って苦笑いをする二人を余所にパーティー会場の中心部ではなにやら優雅な音楽が流れ始める。見るとパーティーの参加者たちがその音楽に合わせて踊り始めていた。 

 

「どうやら社交ダンスの時間になったようだね。昔社交ダンスを舞台にした映画がやっていたけど、本当にあんな感じで踊るんだね」

「ダンスは……苦手です」

―――そもそも踊るような相手がいないしな。

(いても今時の少年少女は社交ダンスなんて日常では踊らないから)

「俺で良ければお相手するけど? 曲がりなりにも元アイドル。ダンスに関してはお茶の子さいさいだよ」

「遠慮しときます。色々と喋ってもうくたくたなので……」

 

 真九郎のエスコートを丁重に断ると、遊希は周囲をきょろきょろと見回しては飲み物が大量に置かれているテーブルを見つけてそちらの方へと駆けていく。多くの人間と話をしたため喉がカラカラだった彼女は優雅なダンスよりもどこにでもある飲み物の方に価値を感じていたのだ。

 

(面白い子だな)

 

 真九郎はそんな遊希を不思議そうな眼で見つめていた。ドラグーンを駆る遊希は対戦相手の視線から見れば、まさに竜の如く猛々しいデュエリストだったのだが、デュエルディスクを外してDホイールから降りた彼女はまだに歳相応、いや年齢よりも幼く見えた。周囲の人間を魅了する美しさを持ちながら、その中身は純粋無垢な少女。そんな彼女の醸し出すギャップに真九郎はすっかり魅入られていたのかもしれない。

 

(そして何より、彼女がプロの世界で多くの人に愛された理由がよくわかる)

 

 視線の先の遊希はテーブルに置かれていたグラスを飲み干した。グラスの水を飲みほした遊希はふぅっ、と小さく息を吐く。そして次の瞬間、天を見上げたかと思えばまるで電池の切れた玩具のようにその場にぱたりと倒れてしまった。

 

「!? 天宮さん!?」

―――遊希!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、鈴たちの部屋に備え付けられている電話が鳴った。この電話は主にこちらがルームサービスを頼むときなどに使われるものであり、電話が掛かってくるのは精々オプションのモーニングコールの時くらいのはずだった。そんな場所に電話が掛けられるということは、何か不測の事態でも起きたのだろうか。

 

「はい、もしもし。そうですが……えっ、そんな……!!」

 

 訝しみながらも電話を取った皐月。フロントからの電話のようだったが、話を進めていくうちに皐月の顔色がみるみるうちに悪くなっていった。

 

「ちょっと、どうしたの皐月!?」

「遊希さんが……遊希さんが……パーティー会場で倒れられたって……」

「はぁ? なんで、遊希に何があったの!?」

「それが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな~、ただいまぁ~……天宮 遊希、かえってまいりました~! うぇっへへへぇ~」

 

 顔を真っ赤にした遊希がケラケラ笑いながら戻ってきたのはその電話から10分ほど経ってからだった。戻ってきた彼女の姿を見て鈴たちは一様にため息をつく。

 

「全く、突然倒れたって聞いて何かと思いきや」

「ぶどうジュースと赤ワイン間違えて飲んでぶっ倒れるってアホじゃないのあんた!? 皐月もそのくらいのことで騒ぎ過ぎ!」

「す、すいません……」

 

 パーティーに参加した遊希は真九郎と共に登壇してパーティー開始のスピーチおよび乾杯を行うなど、中々の重責を果たしたようだった。そんな慣れないパーティーで緊張した彼女は喉を潤そうとしてテーブルに置いてあった飲み物を飲もうとしたのだが、ぶどうジュースを飲んだつもりが誤って赤ワインを飲んでしまったという。

 日本の法律では未成年の遊希が酒類を飲むことは法律違反である。そのためアルコールの類を飲んだことがなく、またどうやら下戸であったらしい彼女は一気にアルコールを摂取してしまったことで卒倒してしまい、真九郎らに介抱されてパーティーを中座してきたのである。

 

「えへへぇ~、みんなー、あいたかったよぉ~」

 

 両手をぶらんぶらんと振って笑う遊希を見て鈴たち四人は顔を寄せ合う。目の前にいる酔っ払った少女は本当に遊希なのだろうか、ドッキリか何かじゃないだろうか、との疑念が絶えなかった。

 

「ねえ、あれ本当に遊希?」

「姿かたちはそうよね」

「誰かが化けているなんてこともないでしょうし……」

「そもそも化けてここに来る意味もないだろう」

「こころぴょんぴょん、からだもぴょんぴょーん」

 

 そんなことを話しているうちに遊希はキングサイズのベッドをトランポリン代わりにしてはぴょんぴょん跳ねて子供のように喜んでいた。その色々とシュールなその光景を見ていても飽きはしないが、いつまでもあのままにしておくわけにはいかない。そう思った四人を代表して皐月は冷蔵庫に入っていた備え付けのミネラルウォーターが入ったペットボトルを持ってきた。  

 

「遊希さん、何はともあれお疲れ様でした。あの、お水あるのでどうぞ……」

 

 電話を取って大騒ぎした皐月は迷惑をかけたその罪滅ぼしとばかりに遊希にミネラルウォーターを手渡した。ペットボトルの口を開けると、遊希はまるでのん兵衛がやるようなラッパ飲みで水を体内にかき込んでいく。あまりに勢いよく飲み過ぎたために口から水がぽたぽたと溢れ出るくらいだった。皐月から渡されたミネラルウォーターを飲んだ彼女は、それで体内のアルコール分を流そうとするものの、それでもまだほろ酔いといった様子だった。

 

「ぷはぁー……」

「まあなんていうか……今日は色々大変だったわね」

「でもすっごくカッコよかったわ! なんてったって初めてのライディングデュエルで勝ったんだから!!」

「改めて遊希さんの凄さを感じました。ですが……本当に良かったのですか? プロのことは」

 

 遊希がプロ復帰の誘いを受けていたことに断りを入れたことは鈴たちも気になっていた。デュエルの前はあんなに意気を上げていたにも関わらず、ここでプロ復帰を断る理由がどうにもわからなかったのである。

 

「んーとねー……まだ、すこしはやいかなっておもったんだー」

「早いとはどういうことだ?」

「うん。だってデュエルのないようじたいはよくなかったし、あんなんじゃぷろのせかいじゃやってけないとおもった。それに……ぷろになったら……みんなとあえなくなっちゃうんだもん」

 

 プロデュエリストになる、ということはデュエルをするために世界中を飛び回らなければならないということ。故にアカデミアの教員を引き受けた竜司とミハエルはプロを引退し、留学生として日本にやってきたエヴァはプロデュエリストとしての活動を一時的にではあるが休止している。

 これまで孤独な人生を過ごしてきた遊希。彼女はそんな自分の過去と決別するためにこのデュエルに臨んだのだが、このデュエルを通した上で改めて彼女の中には鈴をはじめとした多くの人間の存在が色濃く根付いていた。遊希は鈴たちと別れることに必死に耐えようと思っていたのだが、彼女の心はそれを抑え込むことができなかった。

 

「せっかくともだちになれたのに……またひとりにもどるのはいや! みんなとずっと、ずっといっしょにいたい! りん、ちはる、さつき、エヴァ……わたし……わたし……」

 

 アルコールによって呂律の回らない様子で泣きじゃくる遊希。涙で化粧がぐちゃぐちゃになるのも厭わず涙を流しながら自分の秘めた感情を吐き出し続ける遊希を鈴たちはぎゅっと抱きしめた。

 

「そっか……まあ遊希が決めたことだもんね」

「私たちは遊希がどんな道に進んでもずっと応援し続けるわ! だって親友だもの!」

「私たちの絆は例え卒業してからも永遠です。仮に離れ離れになっても何処までも繋がっていますから」

「今すぐに戻らなければいいということではない。プロの世界でのデュエルなど数年待てばできることだからな」

「みんな……ありがとう!」

 

 涙を拭った遊希はまるで純粋な子供のような笑顔を浮かべた。その笑顔の愛らしさに鈴たちはハートをピストルで撃ち抜かれたように感じた。

 

(か、可愛い!)

(もし私が男の子だったら絶対落ちてた)

(遊希さんももっと笑えばいいと思うのですが……)

(わ、私もああいう風にすればジェームズを喜ばせることができるのだろうか)

―――んー、ジェームズのことだからエヴァは今のままでいいと思うよ?

 

 三者三様ならぬ四者四様の考えがそれぞれの頭に渦巻く中、涙を拭った遊希の顔は化粧が崩れて変な色になってしまっていた。さすがにそのままでいさせるのは忍びない。

 

「あ、あの! まずはシャワーを浴びて化粧を落としませんか? 汚れが残ってしまいますよ?」

「ありがとうさつき! あのね、さつき……」

「な、なんですか?」

「わたしね、やさしいさつきがだーいすきっ!」

 

 その言葉に皐月はどこかくすぐったくなる。だが、そんな遊希の様子がおかしいことにすぐに気付いた。遊希の手が自然と皐月を囲むようにじわじわと伸びてきていたのだから。

 

「え、ええ……?」

「さつきはやさしくて、おだやかで、おんなのこっぽくて……それとむねがおおきてマシュマロみたいにやわらかいのがすき! おなかもプニプニしてて、だきまくらにしたい!」

「あの、えっと……それは褒められてもそんなに嬉しくないのですが」

「だからね、わたし。もっとさつきとなかよくなりたいんだ……」

「あ、あの……遊希さん……?」

 

 じわじわと及び腰の皐月に迫る遊希。後ずさりしながら逃げようと思っていた皐月だったが、やがてダブルベッドのところまで追い詰められてしまった。遊希は「どーん!」と言いながら皐月をベッドに押し倒すと、自身も皐月に覆いかぶさるように倒れかかったのだ。

 

「ちょっ……遊希さん!? な、なにしてるんですか……!!」

「えへへー……さつきだいすきー!」

 

 遊希の手が皐月の服に伸びる。部屋着ならぬ寝間着になっていたのが災いし、裾や袖の隙間からまるで蛇のようにうねりながら遊希の手が侵入してくる。

 

「あっ、そんなところ触らないで……り、鈴さん! 千春さん! エヴァさん! 助けて下さい!!」

 

 止めようにも止められない。何せ酔っていても遊希である。運動神経や反射神経は皐月より遥かに上だ。一人ではどうしようもない、と助けを懇願する皐月であったが、頼みの綱となり得る鈴・千春・エヴァの三人は無言で顔を見合わせると皐月に向けて深々と合掌するのであった。

 

「そ、そんな……きゃっ! や、やめ……」

 

 皐月のか細い悲鳴がスイートルームに響き渡った。数分後、色々と好き放題暴れまわった遊希がベッドからぴょこんと降りる。その脇ではシーツだけを纏った皐月があられもない恰好でしくしくと泣いていた。

 

「うう……汚されてしまいました。もうお嫁に行けません……」

「だいじょうぶだよ。そのときはわたしがせきにんとるからー……えーと、ちーはーるちゃーん」

 

 名前を呼ばれた千春はびくっ、とその身体を震わす。酔った遊希が皐月にしたことを自分もされるのか、と思えば当然のリアクションである。

 

「ちはるはねー、おりょうりがうまくておそうじとおせんたくがとくいでー、わたしすっごいとおもうのー」

「そ、それはどうも」

「だからね、ちはるももっとわたしとなかよくしよー?」

 

 フラフラとよろけながら千春に迫っていく遊希であったが、千春はその手を払い除けた。普段の遊希ならいざ知らず、アルコールで酩酊した遊希は千春からしてみても普段の遊希にない不気味さがあったのだ。

 

「ち、近寄らないでよ! 酔ったあんたなんかキモいんだけど!!」

「……キモい……そんなこと、そんなこといわないでよぉ……」

 

 しかし、酔っているとはいえ遊希は遊希である。信頼していた千春に酷い言葉を投げかけられたことで泣き出してしまった。泣いたり笑ったり色々と忙しいやつだ、などと思いながらも何も傷つけるつもりはなかったと弁明する千春。

 だが、その涙はさっきのような純粋なものではなかった。泣いている遊希に罪悪感を抱いた千春が手を差し伸べたところ、遊希はその手を思い切り握ると、千春の身体を持ちあげてお姫様抱っこの形にした。

 

「なーんちゃって」

「っ……だ、騙したわね!!」

「だまされるほうがわるいんだよー」

「ちょっ……離し……り、鈴!エヴァ! 助けてー!!」

 

 部屋の隅っこで鈴とエヴァは無表情で首を壊れたおもちゃのように横に振るだけだった。

 

「あ、あんた覚えてなさいよー!! ちょっ……遊希、お願いだから本当にやめ―――!!」

 

 第二の人柱が蹂躙された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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終わらない夏

 

 

 

 

 遊希に玩具にされ、目をグルグル回して気を失った千春をソファに寝かせた遊希は鈴とエヴァに狙いを定めた。鈴とエヴァは未だしくしくと泣いている皐月の横で子犬のように震えていた。

 

「りーんっ、エーヴァっ♪」

「……遊希、本当にやめて。いくら酔ってると言ってもさすがに限度が……」

「遊希。私にはジェームズという婚約者が……」

「かんけいないよー、わたしといっしょにあそぼうねー」

 

 関係なかった!と思わず叫びたくなるエヴァに名案が浮かぶ。遊希が聞く耳を持たないのであれば、遊希の中にいるもう一人ならぬもう一体に呼びかければいいのではないか、と。

 

「そうだ、スカーライト! 遊希の中にいる光子竜に呼びかけて遊希を止めるように言ってくれないか?」

―――えー、てかあたしを巻き込まないでよー……

 

 先程から繰り返される人間たちの乱痴気騒ぎにやや呆れていたスカーライトではあるが、このままではエヴァまでも遊希の魔の手にかかってしまうとなれば見過ごすわけにもいかない。ただ、あの遊希がここまで乱れるということは少なからず彼女と共にある光子竜にも何かしらの異変が起こっているはず。

 

―――もしもーし、光子竜ー

―――zzz……やめろ、遊希……私のカードに小麦粉を付けて鍋に入れるな……

―――あー、やっぱり。

 

 遊希が酒に酔っているということは、光子竜もまた同じようになっているということだ。日本神話においてスサノオノミコトはヤマタノオロチの八つの首に八塩折の酒を飲ませることで泥酔させ、酔いつぶれている間に首を切り落として退治した。竜の姿で描かれることの多いヤマタノオロチが酒によってその命を落としたように、竜の精霊である光子竜も同様に酒には弱かったのだ。最もそれは宿っている遊希の下戸が影響しているのだろうが。

 

―――エヴァ、ごめん! 光子竜も酔いつぶれてたわ。

「なっ!? それでは我々はどうなるんだ!」

―――そだねー……えーと、頑張って逃げて!

「逃げろってどこへ逃げればいいんだあああ!!」

「お願い、遊希……本当にやめて!」

 

 真剣な表情で訴えたエヴァの顔を見て、遊希の足が止まった。

 

「……鈴、エヴァ。私ね、本当にあなたたちに感謝してるの」

 

 遊希の声のトーンが変わったことに気付いた鈴とエヴァが遊希の方へと顔を向けると、遊希の雰囲気がいつものクールで凛々しい遊希に戻っていた。言葉遣いも元に戻っており、自分たちのよく知っている遊希であった。

 

「遊希、酔いが醒めたのね!」

―――えっ、マジで? あんな酔ってたのに?

「マジかどうかわからんが、そう信じる他ないだろう」

「……あのね、鈴、エヴァ。お酒の力を借りて普段言えない感謝の言葉を言わせてもらったわ。こんなことしちゃったけど、私はみんなが大好き。みんなのおかげで私は立ち直ることができた」

「遊希……」

「二人ともそんなに怯えないで。ああ……怖い思いをさせちゃったかしら。お詫びをしたいからこっちに来てもらえる?」

「そんな、お詫びなんて別に私は求めてないわよ」

「おい、鈴……迂闊に近づくと……」

 

 エヴァが止めるのも聞かず、立ち上がった鈴は遊希に「こっちこっち」と手招きされ、促されるままに遊希の前に立つ。遊希は何をするのだろうか、とばかりにきょとんとしている鈴の耳元でそっとつぶやいた。

 

「―――これは、そのおれいっ!」

「―――っ!!」

 

 何かを言いかけた鈴の唇を遊希の唇が塞いだ。突然の遊希の行動に動揺した鈴はなんとか離れようとするが、背中と腰に手を回した遊希によって動くに動けない状態になっていた。その衝撃の光景には泣いていた皐月も、先ほどまで目を回して倒れていた千春も唖然とするばかりであった。

 

―――うわー! エヴァ、なんかすごいことになってるよ!

「言わないでくれ……みなまでわかるから」

「や、やってしまいました……さすが遊希さん。私たちにできないことを平然とやってのけます。そこにシビれます、あこがれます!」

「あんたは何解説してるのよ……ねえ、あれディープよね?」

 

 息苦しくなった鈴が無理やり遊希の口を離す。二人の唇と唇の間には絡み合ったことにより、唾液で糸が引いていた。深々と接吻を交わした遊希の眼は怪しく輝いており、そして一方的にされるがままとなった鈴の眼からは光が消えていた。黒と金、相反する髪の色の美少女が乱れる様は妙に扇情的であり、見守るエヴァたち三人が思わず息を飲み込むほどのものとなっていた。これもある意味一種の芸術なのではないか―――とでも思わなければやってはいけない。

 

「えへへ……りんだーいすき。けっこんしよー……」

「ファーストキスが……ファーストキスが……舌まで入ってきた……」

 

 ファーストキスを想わぬ形で奪われ、すすり泣く鈴。一方で満足したのか、そのまま遊希はベッドに倒れ込んでは小さな寝息を立て始めた。嵐が去った後の部屋では遊希以外の四人がしばらく呆然としているだけだった。

 

「みんなだいすきー……ずっとともだちだよー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううーん……あれ、私は……」

 

 翌朝目覚めた遊希は既に起きていた鈴たち四人の眼の下に酷い隈ができているのに気付いた。その原因が自分であることなど露知らず。

 

「おはよう遊希。昨夜は好き放題してくれたわね」

「は?……話が見えないんだけど」

「皐月ー」

「はい♪」

 

 そう言って皐月は鞄から自分のスマートフォンを取り出した。遊希に色々とされてしまった皐月であるが、そこで折れる彼女ではなく、千春を襲った一部始終から眠りにつくまで遊希の醜態をしっかりと動画に収めていたのである。

 最初は興味津々にスマートフォンの動画を見る遊希であったが、みるみるうちに彼女の顔から血の気が引いていくのがわかった。遊希は眼をごしごしと擦ると、動画について色々と聞き始める。

 

「これ、私?」

―――遊希……お前……

 

 映像に映った自分の醜態が信じられない遊希は目を白黒とさせる。いくら酒の力とは言え、やっていいことをいけないことがあり、昨夜の自分は明らかに後者だった。酔いつぶれていた光子竜すらも引くレベルの出来事を全く覚えていない。そんな遊希を被害者となった鈴、千春、皐月の三人がじわりじわりと取り囲む。

 

「他に誰がいるとでも?」

「……皐月、あんたパソコン上手なのね。動画編集の技術もあるなんて」

「そんなことしていませんよ。第一設備がありませんから」

「往生際が悪いわよ、ゆーうーきー?」

 

 両手の指をぐねぐねと動かしながら迫りくるエヴァを除く三人。目の据わった三人に遊希は「ひっ」と小さく悲鳴を上げて逃げようとするも、昨夜とは逆に自分が追い詰められる形となってしまった。

 

「さーて、ファーストキスを奪った責任を取ってもらいましょうか」

「胸、脇、首筋、ふともも、足……くすぐりの刑よ」

「遊希さん、昨日はよくもやってくれましたね。さて、責任を取ってくれるんですよね?」

「ちょ、やめ……エ、エヴァ!!」

「遊希、素直に受け入れろ。お前を助けたい気持ちはわかるが、さすがにやりすぎた」

―――因果応報ってやつだね!

 

 神は死んだ。遊希は逃げようとするが、酒が残っているのか上手く動けない。ホラー映画においてゾンビに襲われる人間の如く、遊希の身体にはすばしっこい千春が飛びつき、皐月は全身を使って彼女を抑えつけた。

 

「ち、千春! あなたはとってもお淑やかで美人でスーパーモデルになれると思うわ!」

「へー、それはどうもー」

「そうだ。さ、皐月! 今私を助けてくれたら冬にやるイベントで一緒にコスプレしてあげてもいいわよ!」

「それはありがたいですが、それとこれとは話は別ですよ?」

「年貢の納め時よ遊希? 今のアンタは残りライフ1で手札0枚だから」

「り、鈴。私たち友達よね? 親友よね? 私にはプロの世界で活躍するのを待ってくれている多くのファンが……」

「関係ないわね! ファンのことを考える前にこれから自分がされることについて考えなさい!」

 

 関係なかった!―――鈴・千春・皐月から遊希への罰ゲームは数十分間続いた。その間高級ホテルの早朝のスイートルームには遊希の悲鳴と謝罪の言葉が延々と響いていた。

 

「は、はーっ!はっー……」

―――うん、自業自得だな。

「ひ、酷いわ光子竜……自分の主がこんな目に遭っているのに助けてくれないなんて……」

―――私にそんな力はない。これに懲りたらちゃんと謝るんだな?

 

 最も喧嘩したとしても全て吐き出せばすぐに元通りになれるのが本当の親友である。手段はどうであれ、普段秘めた感情を積極的に表に出そうとしない遊希が綾香たちに思っていることを聞けたことで五人の絆はより深いものとなったのは言うまでもない。

 

「ほら、遊希! 早く準備して! 2日目も夕方までプールで遊ぶんだから!!」

「わ、わかったわよ。だからそんな急かさないでよもう……」

 

 少女たちの熱く、楽しい夏はまだまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、思い返すだけで恥ずかしい。消えてしまいたい」

―――お前が消えると私まで消えるからやめてくれ。

 

 あのイベントから数日後、遊希は未だにあの時の自分の醜態、そして鈴たちによって受けた報復のことを思い出していた。ただ、寮の自室には自分一人。鈴の姿はそこにはなかった。

 夏休みのアカデミアはほとんどの生徒が帰省し、残るのは完全に寮を実家としているわずかな生徒だけだった。入学の際に住んでいたマンションを引き払った遊希もそのうちの一人であり、同じくロシアから留学してきたために住んでいるエヴァなどと一緒に過ごしているため、決して人恋しさを感じるレベルではないのだが、それでも夏休みに入って遊希は暇を持て余しつつあった。

 そんな彼女が竜司に呼び出されたのはうだるような暑さの真夏日だった。テレビの天気予報で気象予報士が熱中症に注意するように、と何度も繰り返し呼びかける日だったこともあって、遊希は白のノースリーブにデニムのショートパンツという非常にラフな格好で校長室へとやってきた。

 

「何ですか? 突然呼び出して……厄介ごとは勘弁願いたいんですけど」

「残念ながら厄介ごとに感じるかもしれないね。実はちょっと遊希君に協力して欲しいことがあるんだ」

 

 竜司が申し出た協力して欲しいこと、それは来週開かれるアカデミア主催の小中学生向けのデュエル講習だった。I2社や海馬コーポレーション、藤堂グループのような日本を代表する企業はもちろん、海外からも協賛者が出るなどそのイベントの反響は凄まじく、何より元プロデュエリストである竜司が参加するということだけあって結構な規模のイベントになると新聞記事やデュエル雑誌で遊希は目にしていた。

 

「で、私に何をしろと?」

「君にもいち講師として参加してほしいんだ」

「ええ……」

 

 竜司の依頼に目に見えて嫌そうな顔をする遊希。今でこそだいぶ打ち解けてはいるが、それも鈴たちのような同年代の少女たちだったり竜司のように幼少期から付き合いのある人物相手だからこそ気軽に喋れるのであって、出身も性格もバラバラの少年少女たち相手に遊希が普段通り振る舞える保証はない。

 

「頼む! 君の人気はあのライディングデュエル以降もの凄くてね……」

「つまり私は客寄せパンダ、というやつですか。そうですか。つまり竜司さんはそういうやつなんですね」

「何故私が蛾の標本を握りつぶしたみたいな言い方をされなければいけないのかはわからないけど、まあそうなるかな……」

 

 苦笑いしながらばつの悪そうな笑みを浮かべる竜司。遊希はそれには答えない代わりに敢えて大きくため息をついた。もし竜司が縁もゆかりもない人物ならこの申し出は突っぱねていただろう。

 

「……正直私一人では気が引けます。鈴たちに声をかけてみてもいいでしょうか? みんなが行くなら私も参加します」

 

 遊希は竜司にそう告げると、校長室を出てエヴァの部屋へと向かった。ロシア生まれのエヴァはやはり日本の暑さに慣れておらず、遊希同様ラフな格好をしながら部屋で暑さに苦しむ水族館のホッキョクグマのようにぐでーん、となっていた。

 もちろんそんな事態を予想していた遊希はエヴァの部屋に向かう途中にあった自動販売機でスポーツドリンクを買っていき、エヴァにプレゼントとして渡す。エヴァは「おお、神よ!」と満面の笑みを浮かべてそのスポーツドリンクを飲み、結果いつもの尊大ながら愛らしいエヴァに戻ることができた。

 

「しかし、日本の暑さは予想以上だな……私が前に来たときはここまで暑くなかったぞ?」

「首都圏は暑さに加えて湿気がある。だから熱中症に倒れる人が多いのよ。その分、山間部は暑さでは首都圏以上だけど、ジメジメしてなくてカラっとした暑さだからそんなに苦はないわ」

 

 遊希の故郷は所謂山間部にあたる。そのため、そこで育った遊希からしてみれば自分の故郷はまた過ごしやすい地域で合った。

 

「そうなのか? ならば今度連れて行ってくれ」

「……あら、それだったらいい話があるんだけど」

 

 遊希は校長室で竜司から話されたイベントの内容をエヴァに洗いざらい話した。そのイベントは日本で一番標高の高い山の周辺にある湖の畔にあるロッジ群で行われ、デュエルを学ぶと共に自然とも触れ合えるというのが売りであり、たった今エヴァが行ってみたいと希望した山間部での催しである。

 エヴァは時間ができたら日本観光がしたいと常々思っており、一度間近で見て見たかった景色が見れるということに喜びを隠せない様子であった。そして何よりプロデュエリストになるくらいデュエルが大好きな彼女は二つ返事で参加を了承した。

 

「よし、エヴァも参加、と。みんなはどうかしら?」

 

 エヴァのその様子を見た遊希は携帯電話の通信アプリのグループトークで鈴たちにも同じ内容のことを書いて送ったところ、5分もしないうちに全員から「出たい」という返信が来た。遊希はやっぱりね、と思いつつ竜司に対して自分も参加する旨を伝えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回より夏休み編第二部・林間学校編が始まります。
プール編と同じくカオスかつネタが溢れるシリーズとなりますので、その辺りは予めご了承ください。


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集う決闘者

 

 

 

 

 

「ヤッホー!!」

 

 湖の湖畔から望む日本一の霊峰の美しさは計り知れない。写真でしかその姿を見ることができなかったエヴァはまるで子供のようにはしゃいでいた。

 

「いやエヴァ。山彦はこんなところからじゃ帰ってこないから」

「知っている。だが、叫びたくないか? そこに山があるのだから」

「いや登るわけじゃないからね」

 

 目をキラキラさせながら山を指さすエヴァ。プロデュエリストとしてデュエルに臨む彼女のイメージをいい意味で崩す。そんな感覚だ。

 

「でも日本人である私たちもこんな間近で見ることはありませんでしたからね……エヴァさんの気持ちもわかります」

「さすが日本一の山、世界遺産! まるで私のようにビックな存在ね!」

「は?」

「……寝言は寝て言いなさい」

「ちょっとそれどういう意味よ!」

 

 ここまで来るのに遊希たちは電車を利用したのだが、朝早くの出発ということもあってまだまだ眠い中、テンションの上がった千春とエヴァが電車内で騒ぐため、遊希と鈴はあまり眠れず少々不機嫌な様子だった。最も電車内で眠ろうと画策する辺り、遊希と鈴もまるで明日の遠足を心待ちにし興奮して眠れなかった小学生のようなものなのであるが。

 

「ま、まあこんなところまで来て喧嘩はやめましょうよ」

「そうだぞ。もうすぐ子どもたちもやってくるのだからな」

 

 運営側の人間である遊希たちアカデミアの生徒はは少し早めに現地に集合するように言われている。もっとも宿泊用ロッジの手配は竜司たち大人の仕事であり、講師として参加する学生たちはもっぱらどんなデュエルを見せるか、とかデッキの調整などに追われていた。

 

「しかし、参加者かなり多いのによく全員が入るロッジがあったわね」

「なんでも複数人で一つのグループを組んで3日間共同生活するみたいね。そういうイベントができるからこの湖畔のロッジ村を場所にしたんだって」

「私たち五人でひとグループ、ということは指導する参加者も含めて最低10人は入れるくらいの場所じゃないといけないわね。まあ男子ならともかく私たちは女だからそんなに場所取らないだろうけど」

 

 そうこうしているうちにやがて続々と参加者が現地入りする。竜司の名前だけでもそれなりに注目されていたものの、そこに遊希とエヴァの名が加わるのである。参加希望者は予想以上に殺到し、本来行う予定の無かった抽選が行われる始末となっていた。

 厳正な抽選の結果参加できる小中学生は70~80人前後まで絞られたものの、とそれでもかなり多い。集合時間を迎え、目の前に整列した小中学生の数を見て遊希は思わず絶句するほどであった。

 

「えー、本日は遠路はるばるご足労頂きありがとうございます。今回のイベントの主催者兼責任者の星乃 竜司と申します」

 

 スピーチをする竜司の姿は中々様になっていた。思えば入学式のころは少し頬を紅潮させ、汗を拭いながら喋るなど見ている方が不安に思うようなレベルであったが、だいぶ喋り慣れたようで滞りなく開会式が進んでいく。

 竜司の挨拶が終わった後、協賛者として現地入りしている人々のスピーチが続く。その中には国外からの協賛者の姿もあり、一人の少女がマイクを握る。その少女はまるでファッションモデルのようにすらりとしたスタイルを持っており、その服装からいかにも良家のお嬢様といった印象を受ける。

 

「ボンジュール。私はフランスから来ました“ヴェート・オルレアン”と申します。この度はこんな素晴らしいイベントに協賛させて頂きありがとうございます。私はデュエルも好きですが、この豊かな自然も大好きです。普段皆さんは文明の利器に囲まれてあまり自然に触れる機会がないかもしれませんが、今回の催しを通して自然の中で人としてデュエリストとして成長できることを願っています。皆さんよろしくお願いします」

 

 ヴェートと名乗った少女はフランス人ながら日本語はとても達者であった。エヴァといい、近年の外国人の日本語力の高さはどこから来るのだろうかと思わざるを得なかった。

 

「それでは以上で開会式を終わります。参加者の皆様は係員から指示を受けて下さい」

 

 司会者の言葉で開会式が終わる。遊希たちは改めて今回のイベントのルール、ならびに段取りを確認する。

 

 

・イベントは2泊3日で執り行われる

・アカデミアの学生一人に原則一人の参加者がついてデュエルを学ぶ

・アカデミアの学生たちは三~五人程度の人数でグループを組み、ロッジ一棟に宿泊

・デュエルのライフは4000でシングルデュエル

・ルールはマスタールール4

・指導をするアカデミアの学生は年長者として小中学生の模範となるように振る舞う

 

 

「あら、ライフは4000制なのね」

「なんでも小中学生までは基本ライフ4000でやるらしいわ。それこそ遊希やエヴァちゃんのようにプロとして活躍する人なら別だけど」

「まあ小学生の子に8000制は少々きついかもしれませんからね……」

「どんな子が来るのかしら、楽しみね!」

「集合時間はどうする? 今は朝の9時だが」

「じゃあ12時に一旦私たちのロッジに集合ね。もしその時までに指導する子が決まってたら連れてくる感じで」

 

 そうして遊希たちは分かれて自分についてくれる参加者を探すことにした。さすがに100人もいるだけあって自分のところに誰も来ない、などということはないだろう。それに自分は曲がりなりにも元プロデュエリスト。きっと向こうから人が寄ってくるはず……と思っていた遊希。しかし、その見通しは甘かった。

 

(……誰からも話しかけらない)

―――そりゃそうだろう。お前は若手デュエリストの間では伝説と化している。そんな伝説的な存在に気軽に声をかけれる者がそういるわけがない。

(やっぱり自分から話しかけないとダメ?)

―――ああ。コミュニケーション障害のお前には難題だと思うが、これも自分を鍛えるためだ。がんばれ。

 

 事実とはいえ、随分とはっきりと物を言う光子竜。彼としてみては、遊希がこうして他の人間と交わることでより社交性に磨きをかけてくれれば御の字であった。それに世代の違うデュエリストと交流することで、彼女のデュエルタクティクスの向上も見込めるとなれば積極的にならない理由はない。

 

「全くもう、他人事だと思って……」

―――実際他人だしな。ああ、私は人ではないから……何と呼ぶのが適当か。

「どうでもいいわよ、まったく」

 

 遊希が光子竜に呆れていたその時。突然腰の辺りに「ドン」といった感じの衝撃が走る。何が起きたのか、と驚く遊希の横では薄いピンクのワンピースを着た少女が膝を抱えて蹲っていた。どうやら遊希にぶつかってきたこの少女はその時に転んで膝を擦りむいてしまったようである。

 

「ちょっと、あなた大丈夫?」

 

 遊希が声をかけると、目に涙を溜めた少女が遊希の顔を見る。シュシュで結った茶色のサイドアップに赤い瞳が特徴的な少女であった。

 

「ふええ……ひざ、いたいよぉ……」

(……かっ、可愛い)

 

 思わず本音が声に出そうになるが、今はそれどころではない。膝を擦りむいて動けない様子の少女を遊希はおんぶすると、運営本部が置かれている管理室へと向かった。自然の中で行われるイベントなので、転んだり虫に刺されたりなどして怪我をしてしまった者を治療するための設備がそこには設けられているのだ。遊希は痛々しく擦りむかれた少女の膝を庇うようにその場所へと向かった。

 

「あっ、あの……ありがとうございましゅ」

 

 患部を水で洗った後、同行していた保健教師の治療を受けた少女はすっかり一人で歩けるようになっていた。この年代の子供は外で走り回り、膝小僧を擦りむくのが当たり前と思っていた遊希であったが、この少女はそんな様子など全く見られない。それも時代の変化なのだろうか、と考えていると少女が遊希の方を見つめて小さな声でお礼の言葉を言っていることに気が付いた。

 

「えっ? いやいや……私もボーっとしてたから」

「おねえちゃんのようなやさしいひとにたすけてもらってうれしいでしゅ」

 

 顔を紅潮させながら必死に言葉を捻り出す少女。恥ずかしがり屋なのか、それとも対人関係を構築するのが苦手なのか、言葉の端々で噛んでしまっている。しかし、その様子がますます遊希の心をチクチクと突っついてきた。

 

「あうう……またかんじゃったよぉ……へんな子っておもわれちゃったらどうしよう……」

(何、この子。妖精? 天使?)

―――いや、何の変哲もない人間だぞ?

「ああ大丈夫よ、言いたいことはちゃんと伝わってるから。そう言えばここにいるってことはあなたも参加者なの?」

「はっ、はい。わたしは赤坂 未来(あかさか みらい)っていいましゅ! しょっ、小学2年生の7歳でしゅ!」

 

 少女こと赤坂 未来の年齢と学年を聞いた遊希は自分の7歳の時を思い出す。遊希はその年齢の頃には既にプロデュエリストとして活躍しており、大人たちに囲まれていた自分はもっと大人っぽく振る舞っていたのを覚えている。それならば自分と未来ではどれだけの差があるのか、と少し変な気分になる。最も彼女の風貌からして自分よりも裕福な家庭で育った人間であることは容易に想像できたのだが。

 

「あっ、あのぉ……おねえちゃんは?」

「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は天宮 遊希。アカデミアの1年生よ」

 

 遊希のその名前を聞いて未来は少し考え込む。そして驚いたような顔をして目を見開いた

 

「もしかして天宮 遊希って……!!」

「えっと、うん。元プロデュエリストの天宮 遊希よ?」

「わっ、わっ、わわ……あ、あにょ!」

「あら、何かしら?」

「おねえちゃん……わたし以外に教えている子はいますか? もしだれもいなかったら……わたし、遊希おねえちゃんにデュエルを教わりたいでしゅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なになに、何の騒ぎよ!」

 

 参加者同士が喧嘩をしている―――それを聞いて駆けつけた千春が見たのは自分と同じくらいの身長の少女が10センチ以上背の高い男子中学生三人相手に大立ち回りを見せている様だった。

 ゆるふわヘアーの茶髪に長袖のシャツを腰に巻いた様子の小柄な少女は男子相手にも一歩も引く様子はない。千春は少女に対して背が低いのに凄い、と思いつつもだからと言ってこのまま放っておくわけにはいかない。元々お節介焼きのきらいがある千春はその少女と男子中学生の間に割って入っていった。

 

「こらーっ! 喧嘩はやめなさい!!」

 

 突然大声で叱りつけられた少女と男子中学生はいったい誰が叱りつけたのか、と周囲を見渡す。千春が「ここよ!」と怒りを露わにして言ってようやく千春の存在に気付いたようである。

 

「ここはみんなの親睦を図る場所よ! 喧嘩だったら余所でやりなさいよ!」

「だ、だってこいつが……」

「こ・い・つ? ウチには浅黄 華(あさぎ はな)っちゅうオトンとオカンがつけてくれた名前があんねんぞ! その耳かっぽじってよく覚えとけやボケ!」

 

 その愛らしい見た目に反するきつめの関西弁が耳に残る華という少女がフン、と両手を腰に当てて自分の名を名乗る。千春は自分と同じくらいの背丈ながら男子中学生三人相手に全く引こうとしない華に何処か親近感を抱いた。それでも事の詳細次第ではこの華についても弾劾しなければならない。

 

「それでこの華って子がどうしたの?」

「俺たちは他の女の子に一緒にパートナーを探さないか、って声かけてただけだ。別に怒られるようなことなんて」

「いやいやいや、嘘つくなや。こいつらさっきからめっちゃしつこく絡んでたで。だから嫌そうにしてた子を助けようと思って割って入ったんや。そしたら手を出してくるはウチの背のことをバカにするわでホンマどうしようもない奴らやで!」

 

 当然ながら双方の言い分は食い違う。千春は周囲にいた他の参加者に話を聞いて回るも、双方の言い分ともアリバイが取れた。男子中学生たちが嫌がる少女に無理やり迫っていたのも事実であり、そんな少女を助けるために華が割って入ったのもまた事実であった。

 千春は華に男子中学生たちに絡まれていた少女のことを聞くと、四人にそこで待つように伝える。何をするかと思えば、少年たちが絡んでいた少女をその場に連れてきたのだ。

 

「こほん。えーと、そこの男の子たちはさっき絡んだこの女の子に謝って。そしてあなたは手を出したこの男の子たちに謝る! これ喧嘩両成敗!」

「えっ……」

 

 予想だにしなかった千春の行動に華も男子中学生たちも呆気にとられた様子であった。第三者である千春は双方に負があったため、どちらの味方もせず、あくまで双方に反省を促したのである。

 背丈こそ小さくとも、その大人顔負けの行動力の前に四人は素直に従わずにいられず、結局千春の言うがままに互いに自らの非を認めて謝罪をするのであった。これで全部丸く収まった、と満足気な千春の後を付いてくる者がいた。他ならぬ華である。

 

「なあ、ちょっと待ってくれへん?」

「あれ、さっきの子じゃない? どうしたの?」

「仲裁してくれてサンキューな。ウチちょっと周りが見えなくなることがあってな……地元の友達にもその辺気を付けるように言われてるんや」

「別に大丈夫よ。私だって後先考えず行動しちゃうことだってあるし。でも今日はそういう場所じゃないでしょ? みんなで楽しむ時なんだから」

「あんた偉いねんな……同じ中学生とは思えへんわ」

 

 華に褒められて気を良くした千春はエッヘン、と得意気になる。だが、すぐに違和感を覚えた。

 

「ちょっと! 私は高・校・生! アカデミアの生徒!!」

「えっ? だってそんなに背低いのに……」

「身長が低いことに関してあんたに言われたくないわよ!! あんただって私とそんな変わんないじゃない!」

「いや、ほら。ウチはまだ中1やし。まだまだ発展途上やし。きっと大きくなるわ。そうに決まってるわ」

「私だって発展途上よ! これからもーっと伸びるんだから!! ねえ、ところで今時間ある?」

 

 身長のことで弄られるのはともかく、高校生なのに中学生と間違えられるのは我慢ならない。千春は折りたたんでいたデュエルディスクを展開する。デュエリスト同士が互いを理解し合う方法としてもっとも手っ取り早い方法、それがデュエルなのだ。

 

「ええわ、相手になったる。もし高校生ならウチなんて楽勝で倒せるんやろ?」

「それはどうかしら? でも勝ち負けに関係なく私のプレイングを見せてあげる!」

 

 

 

 

 

 

 



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握手を交わした決闘者

 

 

 

 

 

「先攻はあなたでいいわよ!」

「おっ、ホンマ? じゃあ遠慮なく先攻で行かせてもらうで!」

 

 いくらデュエルとはいえ、相手はこういった交流イベントに参加する中学生。腕前は精々初心者に毛が生えた程度のものだろう。それならば身長だけではなく度量の大きさも見せてあげてこその大人というものだ、と千春は思っていた。

 

(ま、相手に見せ場を与えつつ勝つのが一番よね! ライフ4000だし、私の【サイバー・ドラゴン】ならあっさり削れるはずよ!)

「よし、準備完了や! 行くで、デュエル!」

「デュエル!」

 

 

先攻:華

後攻:千春

 

華 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

千春 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(華)

 

「よっしゃ、うちのターンや!」

(まあ、中学生だし……モンスターと魔法・罠2枚セットして終了とかそんな具合かしらね)

「ウチは手札のD-HERO ディアボリックガイを捨てて《V・HERO ファリス》の効果を発動するで!」

 

《V・HERO ファリス》

効果モンスター

星5/闇属性/戦士族/攻1600/守1800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札からこのカード以外の「HERO」モンスター1体を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「V・HERO ファリス」以外の「V・HERO」モンスター1体を選び、永続罠カード扱いで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「HERO」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「……ひょ?」

「ファリスを特殊召喚や! そして特殊召喚に成功したファリスの効果を発動! デッキから《V・HERO インクリース》を永続罠カード扱いでウチの魔法・罠ゾーンに表側表示で置かせてもらうで! そして魔法・罠ゾーンのインクリースの効果を発動や!」

 

《V・HERO インクリース》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻900/守1100

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる。墓地のこのカードを永続罠カード扱いで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。

(2):このカードが永続罠カード扱いの場合、お互いのメインフェイズに、自分フィールドの「HERO」モンスター1体をリリースして発動できる。このカードを特殊召喚する。

(3):このカードが魔法&罠ゾーンからの特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル4以下の「V・HERO」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「永続罠カードのインクリースはウチのフィールドのHERO1体をリリースして特殊召喚できるんや! ファリスをリリースしてインクリースを特殊召喚! そして魔法・罠ゾーンから特殊召喚に成功したインクリースの効果でウチはデッキからレベル4のV・HERO ヴァイオンを特殊召喚! 特殊召喚に成功したヴァイオンの効果でデッキからE・HERO シャドー・ミストを墓地へ送る! そして墓地へ送られたシャドー・ミストの効果でウチはデッキから《E・HERO ソリッドマン》を手札に加える!」

 

 先攻1ターン目から目まぐるしく変化する華のフィールド。彼女のデッキは【HERO】であることは間違いないようだが、以前千春がデュエルしたジェラルドのようなE・HERO、D・HERO、V・HEROと様々なタイプの【HERO】モンスターが投入されているデッキのようだ。

 

(あれ、これちょっとまずいんじゃ)

「ヴァイオンの効果を発動するで! 墓地のシャドー・ミストをゲームから除外し、デッキから融合を手札に加える。そしてウチはヴァイオンとインクリースをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認! 召喚条件は戦士族モンスター2体! サーキットコンバイン! 行くで!《X・HERO クロスガイ》!」

 

《X・HERO クロスガイ》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/戦士族/攻1600

【リンクマーカー:左下/右下】

戦士族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、このカードの効果を発動するターン、自分は「HERO」モンスターしか特殊召喚できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、自分の墓地の「D-HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):自分フィールドの「D-HERO」モンスター1体をリリースして発動できる。リリースしたモンスターとカード名が異なる「HERO」モンスター1体をデッキから手札に加える。

 

「リンク召喚に成功したクロスガイの効果! 墓地のD-HERO1体を特殊召喚するで! 戻ってこい、D-HERO ディアボリックガイ! そして手札からさっき手札に加えたソリッドマンを召喚や!」

 

 ソリッドマンは召喚成功時に他のHEROモンスターを手札から特殊召喚できるモンスターだ。先ほどのシャドー・ミストの効果でこのカードを手札に加えたということは、あのカードは予め手札にあるはず。そう考えた千春の予感は的中した。

 

「召喚に成功したソリッドマンの効果を発動! 手札からエアーマンを特殊召喚! 特殊召喚に成功したエアーマンの効果でデッキからD-HERO ディヴァインガイを手札に加える! そして融合発動や! フィールドのディアボリックガイと手札のディヴァインガイを融合! 頼んだで! D-HERO ディストピアガイ!」

 

 そして攻撃力2800のD-HERO ディストピアガイが融合召喚される。自身の効果や戦士族のデッキで多用される聖騎士の追憶イソルデと相性のいい神剣-フェニックス・ブレードが禁止カードに指定されたために若干使い勝手が悪くなったと言わざるを得ないが、それでも癖の強いD-HEROのモンスターの中では厄介な相手であることには変わりはない。

 

「特殊召喚に成功したディストピアガイの効果発動! 墓地のD-HERO1体の攻撃力分のダメージを与えるで! ウチが対象にするのはディヴァインガイや!」

 

千春 LP4000→2400

 

 ディヴァインガイの攻撃力は1600であるため、そのまま1600のバーンダメージが千春を襲う。8000ライフならともかく、4000ライフでの1600バーンは当然のことながら痛い一撃だ。

 

「っ、抜かりないわね。あんた」

「関西人はしっかりしとるねん、何ごともな。墓地のディアボリックガイの効果を発動! 墓地のディアボリックガイを除外し、デッキからもう1体のディアボリックガイを特殊召喚する! そしてディアボリックガイを対象に手札から速攻魔法《マスク・チェンジ》を発動!」

 

《マスク・チェンジ》

速攻魔法

(1):自分フィールドの「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを墓地へ送り、そのモンスターと同じ属性の「M・HERO」モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 

「マスク・チェンジの効果は当然知っとるやろな? ウチが墓地へ送ったのは闇属性のディアボリックガイや」

「ってことは出てくるのはあのモンスターよね……」

「ご明察や! 変身召喚! 頼むで《M・HERO ダーク・ロウ》!」

 

《M・HERO ダーク・ロウ》

融合・効果モンスター

星6/闇属性/戦士族/攻2400/守1800

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手の墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。

(2):1ターンに1度、相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

 

「さて、〆はこれや。ウチはリンク2のクロスガイ、エアーマン、ソリッドマンの3体をリンクマーカーにセット。アローヘッド確認。召喚条件はHEROモンスター2体以上、サーキットコンバイン! 悪を貫け!《X・HERO ドレッドバスター》!」

 

《X・HERO ドレッドバスター》

リンク・効果モンスター

リンク3/闇属性/戦士族/攻2500

【リンクマーカー:左下/下/右下】

「HERO」モンスター2体以上

(1):このカード及びこのカードのリンク先の「HERO」モンスターの攻撃力は、自分の墓地の「HERO」モンスターの種類×100アップする。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「ドレッドバスターおよびリンク先のディストピアガイ、ダーク・ロウの攻撃力はウチの墓地のHEROモンスターの種類×100ポイントアップする」

 

 華の墓地に存在するHEROモンスターはファリス、インクリース、ヴァイオンのV・HERO3種、エアーマン、ソリッドマンのE・HERO2種、ディアボリックガイ、ディヴァインガイのD-HERO2種、そしてクロスガイのX・HERO1種の合計8種類だ。

 

「よってウチのHEROたちの攻撃力は800ポイントアップするで!」

 

X・HERO ドレッドバスター ATK2500→ATK3300

D・HERO ディストピアガイ ATK2800→ATK3600

M・HERO ダーク・ロウ ATK2400→ATK3200

 

「ま、こんなもんやろな。ウチはこれでターンエンドや」

 

 

華 LP4000 手札1枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(D-HERO ディストピアガイ、M・HERO ダーク・ロウ)EXゾーン:1(X・HERO ドレッドバスター)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:10 除外:2 EXデッキ:11(0)

千春 LP2400 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

 □□□□□

 ダ□デ□□□

  ド □

□□□□□□

 □□□□□

千春

 

○凡例

ド・・・X・HERO ドレッドバスター

デ・・・D-HERO ディストピアガイ

ダ・・・M・HERO ダーク・ロウ

 

 

☆TURN02(千春)

 

「私のターン、ドロー! 中学生にしては中々やるじゃない! だったら本気で相手をしてあげるわ!」

 

 先輩らしく息巻く千春であるが、内心かなり焦っていたのは言うまでもない。

 

(いやいやいや、中学生よねこの子? どうしてアカデミアの学生でもない中学生が先攻1ターン目からこんな動きできるの? 関西ってみんなこんなレベル高いの?)

 

 しかし、焦ったところで何かが好転するわけでもない。相手が万全のフィールドを作り上げてきたのであれば、こちらはそれを破壊するだけのことだった。

 

(いやいや、落ち着くのよ日向 千春。今の手札なら……)

「私はあなたのフィールドのディストピアガイをリリース!」

「ウチのモンスターをリリース!?」

「手札から《壊星壊獣ジズキエル》を特殊召喚するで!」

 

《壊星壊獣ジズキエル》

効果モンスター

星10/光属性/機械族/攻3300/守2600

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):カード1枚のみを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを3つ取り除いて発動できる。その効果を無効にし、フィールドのカード1枚を選んで破壊できる。

 

「ディストピアガイの破壊効果は私のターンでも使えるのよね? だったら壊獣でリリースさせてもらうわ!」

「でもダーク・ロウは残ったままやで? ダーク・ロウがいる限り、あんたはサーチ効果を封じられたも同然や」

「サーチする必要はないわ。だってこのままで十分だもの。私のフィールドにモンスターが存在しない場合、サイバー・ドラゴンは手札から特殊召喚できるわ!」

「サイバー・ドラゴン……まさか!」

「私は魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動!」

 

《エヴォリューション・バースト》

通常魔法

自分フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が存在する場合に発動できる。相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。このカードを発動するターン、「サイバー・ドラゴン」は攻撃できない。

 

「サイバー・ドラゴンが存在する場合、相手フィールド上のカード1枚を破壊する! ダーク・ロウを破壊よ!」

「ダーク・ロウまで!!」

「これで私の墓地除外効果は無くなった! そして私はサイバー・ドラゴンとEXゾーンのドレッドバスターを墓地へ送り、キメラテック・メガフリート・ドラゴンを特殊召喚するわ! メガフリートの攻撃力は融合素材にしたモンスターの数×1200になる」

 

キメラテック・メガフリート・ドラゴン ATK2400

 

「私はサイバー・ドラゴン・ネクステアを召喚! 召喚に成功したネクステアの効果で墓地のサイバー・ドラゴンを特殊召喚! 更にサイバー・ドラゴン・ネクステアを対象に魔法カード《機械複製術》を発動!」

 

《機械複製術》

通常魔法

(1):自分フィールドの攻撃力500以下の機械族モンスター1体を対象として発動できる。デッキからその表側表示モンスターの同名モンスターを2体まで特殊召喚する。

 

「サイバー・ドラゴン・ネクステアはサイバー・ドラゴンとしても扱う。よってデッキからサイバー・ドラゴン2体を特殊召喚するわ! 私はサイバー・ドラゴンとしても扱うサイバー・ドラゴン・ネクステアとキメラテック・メガフリート・ドラゴンをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認。召喚条件はサイバー・ドラゴンモンスターを含む機械族モンスター2体! サーキットコンバイン! リンク召喚! 出撃よ! サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」

「サイバー・ドラゴン・ズィーガーのリンクマーカー……下に向いてるやん」

「私はレベル5のサイバー・ドラゴン2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! サイバー・ドラゴン・ノヴァ! そしてノヴァをエクシーズチェンジ! サイバー・ドラゴン・インフィニティ! サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動! あなたのフィールドのジズキエルをインフィニティのオーバーレイユニットにするわ! インフィニティの攻撃力はオーバーレイユニットの数×200アップするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK2100→ATK2900

 

「バトルよ! サイバー・ドラゴン・インフィニティでダイレクトアタック!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK2900

 

「サイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果を発動! 自分フィールドの攻撃力2100以上の機械族モンスターの攻撃力を2100アップする!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK2900→ATK5000

 

「攻撃力5000!?」

「“エヴォリューション・インフィニティ・バースト”!!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4 ATK5000

 

華 LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの盤面を覆されるとかありえへんでマジで」

 

 後攻ワンキルを食らい、ため息をつく華。そんな華の元に千春がやってきて手を差し出した。デュエル前はいがみ合っていたとしてもデュエルが終われば分かり合える。それは千春がアカデミアに入学してから4か月の間に学んだことの一つであった。

 

「いいデュエルだったわ。少なくとも私がジズキエルを引けていなかったら負けていた」

「そんな……でも今のデュエルでよーわかったわ。あんたが正真正銘アカデミアの学生ってことが。本当に強いデュエリストならドロー力も強いんやで」

「あら、私なんかで驚いてちゃダメよ? 私のルームメイトはみんな私より強いから!」

 

 それを聞いて「ええ……」と引いたような顔をする華。サイバー・ドラゴンをこれだけ使いこなすデュエリストよりもさらに強いデュエリストがいる、という現実に少しばかり気が遠くなるような気がした。

 

(嘘やろ……それだけ世界は広いってことなん?)

「ねえ?」

 

 ぼうっと青空を見上げていた華に千春が声をかける。

 

「はい?」

「あんたには今のところ指導してくれているアカデミアの学生っているの?」

「実を言うとまだ……」

「じゃあさ。私と組まない? 私あんたのこと気に入っちゃった! 私は日向 千春。セントラル校の1年生よ!」

「……ウチなんかでよければ、喜んで。改めてウチは浅黄 華。3日間お世話になるで!」

 

 千春と華、二人の決闘者は固い握手を交わした。二人の笑顔は何処か似ているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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決意を秘めた決闘者

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 切り株に一人の少女が座っていた。少女は黒のフリルが目立つ所謂ゴスロリ風のドレスにぬいぐるみのようなものを抱きかかえては一人でじっと他の参加者を見つめていた。そんな少女に対して声をかけようとする者は少なからずいたが、人見知りする性格が災いしたのか、話が続かずすぐに何処かへ行ってしまう者がほとんどだった。

 

「ねえねえ、そんなところでキミは何してるの?」

 

 少女が顔を上げると、そこにいたのは青色の髪をしたボーイッシュファッションが特徴的な美少女だった。両手を後ろ手で組んでフリフリドレスの少女の顔を覗き込むその顔はまさに興味津々、といった様相である。

 

「あ、あの……私は……」

「もしかしてまだ組む相手の人見つかってないとか? じゃあボクが一緒に探してあげるよ。あっ、ボクは藍沢 愛美(あいざわ まなみ)って言うんだ。宜しくね!」

「ボク?」

 

 少女は愛美と名乗った少女のその一人称に違和感を覚える。ボーイッシュなファッションをしているが、顔立ちや髪型を見る限り彼女はれっきとした女性である。それなら何故男性が用いる一人称を使うのだろうか。

 

「ああ、ボクが自分のことをボクって呼ぶこと? んーとね……なんでだろうね?」

「えっ」

「物心ついた時からボクはボクのことをボクって呼んでたんだ。でもボクはボクだからそんなに気にしてないよ?」

 

 「ボク」という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど並ぶ。愛美は少し変わっているところがあるかもしれないが、この人当たりの良さから集団で浮くことは無いのだろう。そう考えると今この場において他の人たちが楽しんでいるのを一人眺めているだけの自分とはまるで違う、と少女は思い知らされる。すると、愛美が突然フリフリドレスの少女の手を取った。

 

「えっ!?」

「ほら、そんなところにいつまでも座っていないでさ。一緒に探そうよ!」

「あっ、そんな引っ張らないで……」

 

 愛美が少女を連れて行こうとした時、少女が抱きしめていたぬいぐるみが地面にポトリと落ちる。愛美が「ごめんごめん」と謝りながらその人形を手に取ると、愛美は目をキラキラと輝かせてぬいぐるみを掲げた。

 そのぬいぐるみはリンクリボーをリアルに再現したぬいぐるみであった。このぬいぐるみは少女の母が自作したものなのであるが、裁縫上手ということもあり、既製品に勝るとも劣らない出来だったのである。

 

「このぬいぐるみ……」

「あ、あの……私、サイバース族のモンスターが大好きなんです」

 

 そうこの少女こと二宮 橙季(にのみや ゆずき)はその外見に見合わず“サイバース族”のモンスターが何よりも大好きなのだ。しかし、同年代の女子に人気なのは【マドルチェ】や【トリックスター】といったイラストが可愛らしいカードであり、どちらかと言えば機械的なモンスターの多いサイバース族のモンスターが好きという人間はそれほど多くなかった。そのため元々引っ込み思案な橙季が唯一の得意分野であるサイバース族のモンスターについて話せる相手がいないため、自然と集団から孤立してしまったのである。

 

「女の子なのに……変ですよね?」

 

 もじもじしながら訪ねる橙季に愛美が返した言葉は予想外のものだった。

 

「……凄い。こんなリアルなリンクリボーのぬいぐるみ初めて見たよ!」

「えっ、こういうの大丈夫なんですか?」

「うん。まあホラーは苦手なんだけどこの系統のものは大丈夫だよ? それにこんな大事そうに手入れされているのを見るとどれだけこのぬいぐるみが愛されているのかがわかるんだ」

「う、嬉しいです……今までそんなこと言われたことなかったから……」

 

 橙季が不器用な笑顔を見せる。愛美はそんな彼女に対して「やっと笑ってくれた」と満面の笑みで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ここにも中々参加者に声を掛けることができないでいる人物がいた。皐月である。皐月も遊希と同じように自分から一緒にやろう、と気さくに話しかけられるタイプではない。周囲をきょろきょろと見回しながら参加者を探すその姿は事情を知らない者からしてみれば、ただの挙動不審な少女であり、それは敬遠されるに十分な理由であった。

 

「あのー」

 

 しかし、そんな挙動不審な少女に声をかける者が一人。

 

「は、はいっ!」

 

 緊張で返事が裏返った皐月が見たのは、ニコニコと笑う愛美と少し不安気な表情を浮かべる橙季だった。二人がこの場で出会ったばかりなことを知らない皐月はぎゅっと手を繋いでいる二人を見て、彼女たちは親友同士なのだろうか、と思った。

 

「ボクたち一緒に組んでくれる人を探しているんですけど……アカデミアの人ですよね?」

(ボク……?)

 

 皐月もまた愛美の一人称である「ボク」に首を傾げる。いや、今大事なのはそこじゃないと自分に瞬時に言い聞かせた。

 

「は、はい。セントラル校1年生の織原 皐月と申します」

「そっか、よかったぁ。ボクは藍沢 愛美と言います。それでこの子は二宮 橙季ちゃん。実は橙季ちゃんがまだ組んでくれる人を見つけられていなかったんです。もし誰とも組む予定がないなら組んであげて欲しいんですけど……」

「わ、私なんかで良ければ……」

 

 まさか向こう側からきてくれるとは。地獄に仏、とばかりに皐月が了承すると、何故か橙季よりも斡旋した愛美の方が「やった!」と嬉しそうに声を上げる。友達思いのいい子なのだろう、と思った皐月であるが、ここで彼女はあることにひっかかった。

 

「それじゃあ、橙季ちゃんのこと。宜しくお願いします!」

「あ……ちょっと待ってください。あなたはもうお相手がいらっしゃるんですか?」

「えっと、ボクはまだですけど」

「それだとあなたと組んでくれる人が見つからないのでは? 他の方に紹介するのは構いませんが、結果的に自分が……まあ原則アカデミアの学生につける参加者の方は一人までとなっていますが……」

 

 それもそうだな、と考え込む愛美。何かを思いついた彼女は背中にしょっていたリュックからデュエルディスクとデッキを取り出した。

 

「じゃあデュエルで決めるっていうのはどうかな? 勝った方が織原さんと組むって感じで」

「えっ……わ、私は別に構いませんけど……」

 

 成り行きに任せるまま、愛美と橙季のデュエルが始まろうとしていた。

 

 

先攻:愛美

後攻:橙季

 

愛美 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

橙季 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(愛美)

 

「先攻はボクだね! ボクは手札から《トリックスター・キャンディナ》を召喚!」

 

《トリックスター・キャンディナ》

効果モンスター(準制限カード)

星4/光属性/天使族/攻1800/守400

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「トリックスター」カード1枚を手札に加える。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手が魔法・罠カードを発動する度に相手に200ダメージを与える。

 

(なるほど、藍沢さんは【トリックスター】デッキなんですね。トリックスター……あれ……?)

 

 このデュエルにおいて橙季が皐月とパートナーになるためには橙季が愛美に勝つ必要がある。しかし、先攻を取った愛美のデッキは【トリックスター】。天使族のモンスターで統一されたテーマであり、デッキコンセプトで言えばバーンダメージを多用する。

 

(これ、もう結果が見えてしまっているのでは……?)

「ボクは召喚に成功したキャンディナの効果でデッキからフィールド魔法の《トリックスター・ライトステージ》を手札に加える! そして今手札に加えたライトステージを発動!」

 

《トリックスター・ライトステージ》

フィールド魔法

(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「トリックスター」モンスター1体を手札に加える事ができる。

(2):1ターンに1度、相手の魔法&罠ゾーンにセットされたカード1枚を対象として発動できる。このカードがフィールドゾーンに存在する限り、セットされたそのカードはエンドフェイズまで発動できず、相手はエンドフェイズにそのカードを発動するか、墓地へ送らなければならない。

(3):自分フィールドの「トリックスター」モンスターが戦闘・効果で相手にダメージを与える度に、相手に200ダメージを与える。

 

「ライトステージの発動時の効果処理として、ボクはデッキから《トリックスター・リリーベル》を手札に加えるよ! ドロー以外の方法で手札に加わったリリーベルの効果を発動! この効果でリリーベルは特殊召喚できる!」

 

《トリックスター・リリーベル》

効果モンスター

星2/光属性/天使族/攻800/守2000

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがドロー以外の方法で手札に加わった場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードは直接攻撃できる。

(3):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、自分の墓地の「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「そしてボクは手札の《トリックスター・マンジュシカ》の効果を発動するよ!」

 

《トリックスター・マンジュシカ》

効果モンスター

星3/光属性/天使族/攻1600/守1200

(1):手札のこのカードを相手に見せ、「トリックスター・マンジュシカ」以外の自分フィールドの「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。このカードを特殊召喚し、対象のモンスターを持ち主の手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手の手札にカードが加わる度に、加えたカードの数×200ダメージを相手に与える。

 

「手札のこのカードを相手に見せて、マンジュシカ以外のトリックスターモンスター1体を対象として発動! マンジュシカを特殊召喚して、対象にしたリリーベルを手札に戻すよ! ボクはカードを3枚セットしてターンエンド!」

 

 

愛美 LP4000 手札1枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:2(トリックスター・キャンディナ、トリックスター・マンジュシカ)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(トリックスター・ライトステージ)墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

橙季 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

愛美

 □伏伏伏□

 □□キマ□ラ

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

橙季

 

○凡例

ラ・・・トリックスター・ライトステージ

キ・・・トリックスター・キャンディナ

マ・・・トリックスター・マンジュシカ

 

(トリックスターのキーカードといえば《トリックスター・リンカーネーション》ですが……あのカードは制限カードです。ライトステージの効果で手札に加えなかったということは、あのセットカードの中にあるのかそれとも……)

 

 

☆TURN02(橙季)

 

「私のターン、です! ドロー!」

「今ドローしたね? ということでマンジュシカの効果を発動! マンジュシカの効果でドロー1枚につき200のダメージを受けてもらうよ!」

 

橙季 LP4000→3800

 

「そしてトリックスターモンスターが戦闘・効果でダメージを与えたことでライトステージの効果を発動! さらに200のダメージを与える!」

 

橙季 LP3800→3600

 

「っ……私は手札から《レディ・デバッガー》を召喚します!」

 

《レディ・デバッガー》

効果モンスター(制限カード)

星4/光属性/サイバース族/攻1700/守1400

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル3以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「召喚に成功したレディ・デバッガーの効果を発動します! デッキからレベル3以下のサイバース族モンスター1体を手札に加えます!」

「ボクはその効果にチェーンしてリバースカードを発動するよ! 罠カード《トリックスター・リンカーネーション》!」

「!?」

 

《トリックスター・リンカーネーション》

通常罠(制限カード)

(1):相手の手札を全て除外し、その枚数分だけ相手はデッキからドローする。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「まだまだ! リンカーネーションにチェーンして罠カード《仕込みマシンガン》を発動! そして仕込みマシンガンにチェーンして速攻魔法《連鎖爆撃(チェーン・ストライク)》を発動!」

 

《仕込みマシンガン》

通常罠

(1):相手の手札・フィールドのカードの数×200ダメージを相手に与える。

 

《連鎖爆撃(チェーン・ストライク)》

速攻魔法(準制限カード)

チェーン2以降に発動できる。このカードの発動時に積まれているチェーンの数×400ポイントダメージを相手ライフに与える。同一チェーン上に複数回同名カードの効果が発動している場合、このカードは発動できない。

 

チェーン4(愛美):連鎖爆撃

チェーン3(愛美):仕込みマシンガン

チェーン2(愛美):トリックスター・リンカーネーション

チェーン1(橙季):レディ・デバッガー

 

「えっ? えっ? えっ?」

(こ、これは……えげつないです)

「チェーン4の連鎖爆撃の効果で、ボクはこのカードの発動時に積まれているチェーンの数×400のダメージを与える! チェーンは4だから1600のダメージ!」

 

橙季 LP3600→2000

 

「チェーン3の仕込みマシンガンの効果で橙季ちゃんの手札・フィールドのカードの数×200のダメージを与えるよ!」

 

橙季 LP2000→1000

 

「チェーン2のトリックスター・リンカーネーションの効果で橙季ちゃんの手札を全て除外して、その枚数分ドローしてもらうよ! 橙季ちゃんの手札は4枚だから、4枚ドローして!」

「チ、チェーン1のレディ・デバッガーの効果で私はレベル1の《マイクロ・コーダー》を手札に加えます……」

「マンジュシカの効果! リンカーネーションの効果でドローした4枚とレディ・デバッガーの効果で手札に加わったマイクロ・コーダーの合計分、5枚×200のダメージを受けてもらうよ!」

 

橙季 LP1000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったぁ! ボクの勝ちだよ!」

 

 ライフ4000ルールで猛威を振るう【チェーンバーン】の要素を取り入れた【トリックスター】デッキの本領を発揮したデュエル。橙季はただモンスター1体を召喚するだけでデュエルに敗れてしまったことになる。愛美のデュエルの戦術自体は見事なものだったが、このデュエルを見守っていた皐月には頭の痛くなる悩みがまた一つ増えてしまった。

 

「藍沢さん、お見事な勝利でした」

「はい、ありがとうございます!」

「……ただ……」

「ただ?」

「藍沢さんが勝ってしまうと二宮さんではなくあなたが私と組むことになってしまうのでは……?」

 

 皐月のその言葉を聞いた瞬間、愛美の顔が瞬く間に真っ青になる。ここでの初デュエルにテンションが上がった愛美はそのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

「ど、どうしよう……ボクすっかり舞い上がって……」

「あ、あの、織原さんと組むのは藍沢さんでいいから……」

「でもそれだと……ボク、ボク……」

 

 皐月は思わず天を仰いだ。このまま自分がどちらか一人を選び、選ばれなかった方にはさようならをすれば一応の解決にはなる。それでもそんな解決方法ではどちらも傷ついてしまうし、何より自分なんかに声をかけてくれた二人の少女を悲しませることで皐月自身も後悔するだろう。

 

「……二人とも、落ち着いてください」

「織原さん……」

「少し時間を頂けますか? 私が、なんとかしますから」

 

 泣きそうな愛美とそんな愛美を心配そうに見つめる橙季。そんな二人に皐月は心配はいらない、と優しく語り掛ける。そこには先ほどまで相手を見つけられずおどおどしていた少女の姿はない。二人を優しく見守れるだけの強さを秘めた表情の皐月がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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歩み始めた決闘者

 

 

 

 

 

 

 

 意を決して皐月が向かったのはイベント運営の本部だった。本部のドアの前に立った皐月は自分を落ち着かせるために数回深呼吸をする。

 竜司とは普段鈴を通してよく会っているため、決して知らない仲ではないのだが、それも古い付き合いである遊希や娘である鈴のような深い関係にある親友を通してのものであり、自分一人で対峙する、というのは初めてのことだった。

 よし、と決意を新たに皐月はドアをノックする。中からは竜司の声で「どうぞ」と返ってきたため、一拍置いて「失礼します」と運営本部に足を踏み入れた。

 

「おや、織原くん? どうしたんだい?」

 

 竜司は机に座ってコーヒーを片手に資料とにらめっこしている最中だった。そこには開会式の時に挨拶をしたベアトリスら他の協賛者もいたため、皐月の背中には緊張で嫌な汗が流れる。

 

「校長先生、お願いしたいことがあるんです」

「お願いしたいこと?」

 

 そう切り出した皐月は今回事前にアカデミアの学生たちに配られたイベント用のパンフレットを取り出すと、そこに書いてある規則のページを開いて見せた。

 

「ここにある“アカデミアの学生一人に原則一人の参加者がついてデュエルを学ぶ”というところなのですが……」

「ああ。ここは書いてある通りだね」

 

 このルールを定めたのは竜司たち教師陣である。いくらアカデミアの学生と言えども所詮は10代の高校生であり、教員たちのように指導に必要な技術や知識を十分に学んでいない。

 そんな状態で一人に何人もの参加者がついてしまえば、ろくに指導できずに参加者同士に格差が生まれてしまう。また、指導する学生側にも負担となってしまうケースも考えられる。これらのリスクを踏まえた上で竜司たちはこのルールを制定したのだ。

 

「実は……」

 

 皐月はこれまでの経緯を竜司に包み隠さず話した。内気で中々指導してくれる学生を見つけられない橙季のこと、橙季を皐月に紹介した愛美のこと、愛美と橙季のデュエルのこと、そして皐月が愛美と橙季の二人の面倒を”自分一人で見たい”ということを。

 

「そうか、確かにみんながみんな自分でパートナーを見つけられるとは限らないからね。誰か一人が浮いてしまうという事態も十分に起こり得ることだ。そこは我々の見通しが甘かったと言わざるを得ないね」

「それでは……」

 

 ほっ、と安堵の表情を見せかけた皐月に竜司はあくまで真剣な顔で返す。この時は娘に甘い父親ではなく、いち教育者としての顔を見せていた。

 

「しかし、問題は君だよ織原くん。君が一人で二人の中学生を見るとなると君にかかる負担は大きくなってしまうのではないだろうか?」

「それは認めます。正直私も中々パートナーを見つけられずにいましたから。でも、ここで彼女たちどちらか一人を切ることになってしまえば……私が一番後悔するんです」

 

 「お願いします!」という言葉と共に竜司に対して皐月は何と彼に対して深々と頭を下げたのだ。それを見ていたヴェートら他の運営関係者らは皆一様に驚いた様子を見せる。

 今日出会ったばかりの赤の他人である愛美と橙季のためにここまでできるものなのか。それだけこの織原 皐月という少女は強い覚悟をもって臨んでいるということなのか。そんな彼女の様を見たヴェートの中にはとある感情が浮かぶ。

 

(日本人は礼を重んじると聞きましたが……このイベントはそれだけの物なのでしょうか)

 

 頭を下げたままその場を動かない皐月に対して、やれやれといった様子の竜司は頭を上げるように促す。

 

「……わかった。その子たち二人は織原くん、君に任せるよ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。第一に“原則”だからね。例外もある。それに、君には鈴をはじめ頼れる仲間がいるだろう? 彼女たちは皆君のことを大事に想っている。辛い時や厳しい時は彼女たちに助けを求めていいんだからね?」

「はい……」

「ほら、その報告を今にも待っている子たちもそこにいるし」

 

 そう言われて振り返った皐月が見たものは入口のドアの隙間からこっそりとこちらを覗いている愛美と橙季の姿だった。バレてない、と思っていたのかドアを開けすぎたのが運の尽き。皐月が振り返った瞬間に足をもつれさせて転んでしまった。

 

「あ、あなたたち……もしかしてずっと見てたんですか?」

「ごめんなさい、ボクたちどうしても気になっちゃって」

「でも……全部見てました。私たちのためにそこまでしてくれるなんて……私、嬉しいです……」

「もう、待ってて下さいって言ったのに……恥ずかしいじゃないですか! でも、良かったです」

 

 皐月が手を差し伸べ、愛美と橙季がゆっくりと立ち上がる。そして満面の笑みを見せた二人は皐月の前にきちんと並んで整列する。

 

「じゃあ改めて自己紹介しますね。ボクは藍沢 愛美です! これで正式にパートナーですね!」

「わ、私は二宮 橙季です……サイバース族が好きな変わり者ですけど……宜しくお願いします!」

「お二人とも、ご丁寧にありがとうございます。私は織原 皐月と申します。これから3日間、一緒に頑張りましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最初出会った時は少々不安だったが……彼女も変わったものだ)

 

 竜司は春先のことを思い返していた。鈴が入学早々に親友となった千春と皐月のことを竜司に紹介したのである。遊希に関しては鈴と同じくらい竜司と過ごしているため問題ないものの、他の二人はやはり日本を代表するプロデュエリストだった竜司を前にして緊張の色を隠せないようだった。

 それでも千春はあの明るさがあるため、緊張しながらもすぐに竜司と打ち解けることはできた。しかし、皐月は千春とは性格が180度異なるため、最初は竜司の目を見て話すことすらできなかった。今でこそだいぶ慣れたとはいえ、少なからず対人能力に劣る点があるところは否めない。しかし、そんな彼女が意を決して竜司に自分の意志を訴えかけたのだ。

 

(織原くんのあの時の目からは強い決意が感じられた。こうやって生徒の成長を肌で感じられるとは、教育者冥利に尽きるというものだ)

 

 竜司が安心したような笑みを見せると、後ろの方で何やら言い争うような声が聞こえた。竜司が振り返るとヴェートと彼女の両親が何やら言い争いをしているようだった。

 

「……何かあったのですか?」

「ああ、星乃さん。星乃さんからもこの子に言ってあげてください」

 

 ヴェートの母が困った様子を見せる。その原因は先ほどの皐月であったのだ。

 

「私もこのイベントに参加したいんです! 今からでは遅いでしょうか?」

「い、今からですか?」

「はい、突然このようなことを申し出ることが非常識であることは理解しています。ですが、私も未熟ながらひとりのデュエリストです。異国のこの地で、フランスにはないこの環境で自分をより高めたいんです!」

 

 そう訴えかけるヴェートの目は真剣そのものだった。彼女は本来ゲストであり、参加者ではない。それでもデッキもデュエルディスクもフランスからしっかりと持参している以上、彼女もデュエリストである。同じデュエリストとして、竜司は彼女の向上心に水を差す真似はできなかった。

 

「私は別に構いませんが……」

「ほら! いいでしょう、お母さま!」

「ですが……」

 

 それでもなお渋るヴェートの母。中々結論が出ないとき、助け船を出したのはヴェートの父であった。

 

「わかった、ヴェート。お前はお前のやりたいようにしなさい」

「あなた!」

「“可愛い子には旅をさせよ”って言葉もあるだろう? このイベントで君が人として、デュエリストとして成長してくれることを願っているよ。ヴェート?」

「お父さま……!」

「ただし!」

「ただし?」

「怪我だけはしないように。あと他の人のことを考えて行動するんだぞ。それからそれから……」

 

 国籍に関係なく、父親は娘に甘いんだな、と自分を見つめなおす竜司であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに私のデュエリストとしての道が拓かれるのですね!」

 

 特別に参加者として名乗り出たヴェート。しかし、彼女の服装は朝あいさつした時のものとは大きく変わっていた。

 朝の時点ではまさに高家の娘、お嬢様といった様子のヴェートであったが、今の彼女は地方の農場で野良仕事をする農家の娘という出で立ちだった。フランスを代表する大農場・大牧場の娘であるヴェートは何よりも自然と共に生きてきた少女である。自分の立場上、立派な身なりをしなければならない、というのは理解しているが、やはり彼女は土を弄ったり花の手入れをする時に着るこの白のツナギが一番落ち着くのである。

 

「さて、まずはパートナーを見つけましょう」

 

 そう言って意気込むヴェートであるが、時すでに遅し。もうほとんどの学生と参加者がパートナーを組み、彼女が組める相手はほとんど残っていなかったのである。そう上手くいくことばかりではない、とヴェートは肩を落としながら、周囲の自然を散策する。嫌なことがあった時は自然に触れて慰める。それが彼女の気分転換の方法なのだ。事前に用意していたガイドブックによると、この湖の周辺には日本原産の貴重な花が群生している箇所があるという。

 

「あら?」

 

 しかし、そんな誰も知らなそうなスポットには先客がいた。しゃがんで花を眺めている銀髪の少女。花の美しさに見とれているのか、少女の銀髪がゆらゆらと揺れるばかりでヴェートには気づいていないようだった。

 

「……綺麗な花だ。花はいい……」

―――ちょっと、エヴァ。あんたいつまでそうしてるつもり? もうすぐお昼よ?

「だってみんな私と組んでくれないのだぞ? 何故だ、私のどこがいけなかったんだ?」

 

 遊希と同じ悩みをエヴァも抱えていた。彼女も遊希同様プロの世界で勇名を馳せたデュエリストであるが、既にプロを辞めている遊希とは違って学業に専念しているとはいえ、彼女はまだ現役のプロデュエリストなのだ。

 現役のプロデュエリストと組むというハードルは参加者の中ではとても高く、握手やサイン攻めには遭うものの、パートナーを組むまでには至らない。そんな有様だったのだ。

 

「ああ花よ花よ、どうしてお前は花なのだ?」

―――ダメだこの子……早くなんとかしないと……

「お花が好きなんですか?」

「ああ、そうなんだ……ってうわっ!?」

 

 花をぼーっと眺めていたエヴァは後ろから声をかけられたことに驚いて飛び上がる。振り返るとそこには自分と同じ異国の人間が不思議そうな顔をして立っていた。

 

「お前は……何処かで見たような」

―――この子あの子よ。朝挨拶してた女の子! いやー、服変わると全然印象違うね!

 

 スカーライトに言われてエヴァはヴェートのことを思い出した。開会式の時、エヴァは次々と登壇する偉い人たちの挨拶に退屈して今日がどんな日になるか楽しみで仕方がなく、開会式の時は上の空であった。

 

「思い出したぞ! 今回のイベントの協賛者の……」

「はい。ヴェート・オルレアンと申します。そういうあなたはエヴァ・ジムリアさんですね? プロデュエリストとしての日々の活躍、フランスでも大いに讃えられてますよ」

「……改めて言われるとこそばゆいな。ところでそのヴェートがどうしてこんなところに? 後何故よりによってそんな野良仕事のような服装を?」

 

 そう言ってヴェートの服装を指さすエヴァ。ヴェートは嬉しそうに腕を広げてくるりと一回転する。身長が高く、ファッションモデルとしても通用するレベルの美少女である彼女ならどんな服もそれなりに着こなせてしまうのだ。

 

「この服の方が落ち着くんです。実は私、星乃 竜司さんから許可を貰ってこのイベントに途中から参加することになったのですが……生憎組んでくれる相手が見つからなくて……」

「奇遇だな、私もだ。プロデュエリストだからって敬遠されてしまって……独りぼっちは寂しいもんな」

「そ、それでしたら私と組んで頂きませんか? 同じ外国人同士ですし、それに日本には“残り物には福がある”という言葉もあるようですよ」

「残り物……そんなあまり良い響きではないな」

 

 エヴァとヴェート。ここに超局地的ではあるが、歴史上に前例の少ない露仏同盟が成立した。

 

「ただ組むのはいいですが、少し知っておきたいことがある」

「なんでしょうか?」

「ここに来るということはお前もデュエリストだろう? それならデュエリストの一番の武器であるデッキ……それを知らないと教えようがない。なのでここでデュエルをしないか?」

「わ、私がですか? 構いませんが……実を言うとそんなにデュエルには自信がないんです……」

「このイベントはそんな人のために開かれたものだ。だから気にしないでいい。その代わり私も全力で行くがな?」

「えっ」

「アカデミアの生徒たるもの、デュエルにおいて手を抜くのは失礼にあたる。だから私も全力を出す。お前も今持てる全てを出して向かってこい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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誓いを立てた決闘者

 

 

 

 

先攻:ヴェート

後攻:エヴァ

 

ヴェート LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(ヴェート)

 

「本当に先攻は私でいいのですか?」

「ああ。好きにやってみろ」

―――敢えて先攻を与えることで、初期手札5枚でどれだけ動けるかってことを試すってことでしょ? 中々先輩らしいことすんじゃーん。

(まあ実際先輩だからな。身長は向こうの方が大きいが……)

 

 聞くところによるとヴェートの年齢は15歳の中学三年生とのこと。そのためエヴァとは学年で言えば一年しか違わないため、発育に違いがあまり出ないどころかむしろ向こうの方がいいというのは仕方ない。それでもデュエリストとしての経験は天と地の差があることは言うまでもない。

 

「私は手札より魔法カード《調律》を発動します」

 

《調律》

通常魔法

(1):デッキから「シンクロン」チューナー1体を手札に加えてデッキをシャッフルする。その後、自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送る。

 

「私はデッキから“シンクロン”チューナーである《クイック・シンクロン》を手札に加えます。そしてデッキをシャッフルし、デッキトップ1枚を墓地に送ります。墓地に送られたのは……ついてます。《ドッペル・ウォリアー》のようですね」

 

 調律もクイック・シンクロンもその性能からデッキを選ばずに活躍できるカードではあるが、調律の効果で墓地へ送られたドッペル・ウォリアーを見てエヴァはヴェートのデッキが所謂【ジャンクドッペル】であると確信した。採用されるモンスターはいずれも単体では活躍の見込みにくいモンスターばかりであるが、優秀なチューナーモンスターが多い【シンクロン】モンスターを駆使してS召喚を多用するデッキである。

 

(初心者と言っていたが……デッキの完成度は高いんじゃないだろうか)

―――相手にとって不足なしじゃない?

「そして手札の《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地へ送り、クイック・シンクロンを特殊召喚します」

 

《クイック・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星5/風属性/機械族/攻700/守1400

このカードは「シンクロン」チューナーの代わりとしてS素材にできる。このカードをS素材とする場合、「シンクロン」チューナーを素材とするSモンスターのS召喚にしか使用できない。

(1):このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。

 

「そして墓地のボルト・ヘッジホッグの効果を発動します」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》

効果モンスター

星2/地属性/機械族/攻800/守800

(1):自分メインフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果は自分フィールドにチューナーが存在する場合に発動と処理ができる。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「私のフィールドにチューナーモンスターが存在する場合、このカードは墓地から特殊召喚できます。そしてチューナーモンスター《ジャンク・シンクロン》を召喚」

 

《ジャンク・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻1300/守500

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「召喚に成功したジャンク・シンクロンの効果、私の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動します。私は墓地のレベル2、ドッペル・ウォリアーを効果を無効にし、守備表示で特殊召喚します」

 

《ドッペル・ウォリアー》

効果モンスター

星2/闇属性/戦士族/攻800/守800

(1):自分の墓地のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドに「ドッペル・トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

「一気にモンスターを4体も……やるな」

「お褒めに預かり光栄です。では参ります。私はチューナーモンスターのクイック・シンクロンとボルト・ヘッジホッグをリンクマーカーにセット。アローヘッド確認。召喚条件は……チューナーモンスターを含むモンスター2体ですね。サーキットコンバイン! 来てください、水晶機巧-ハリファイバー!」

 

 チューナーを採用するデッキならばほぼ確実に投入されていると言っても過言ではないリンクモンスター、水晶機巧-ハリファイバー。もちろんエヴァのデッキにも採用されているカードであるため、このカードの強さはエヴァも知っている。

 

「リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動します。デッキからレベル3以下のチューナーモンスターを特殊召喚します。私が特殊召喚するのはレベル3の《A・ジェネクス・バードマン》です」

 

《A・ジェネクス・バードマン》

チューナー・効果モンスター(制限カード)

星3/闇属性/機械族/攻1400/守400

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果を発動するために風属性モンスターを手札に戻した場合、このカードの攻撃力は500アップする。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「次は……S召喚ですね。私はレベル2のドッペル・ウォリアーにレベル3のチューナーモンスター、ジャンク・シンクロンをチューニング。“小さな星々が集う時。天に一つの大きな輝きが現れる。光となって舞い降りよ!”シンクロ召喚! お願いします!《ジャンク・ウォリアー》!」

 

《ジャンク・ウォリアー》

シンクロ・効果モンスター

星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動する。このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする。

 

「S召喚に成功したジャンク・ウォリアー、そしてS素材として墓地へ送られたドッペル・ウォリアーの効果を発動します」

 

チェーン2(ヴェート):ドッペル・ウォリアー

チェーン1(ヴェート):ジャンク・ウォリアー

 

「チェーン2のドッペル・ウォリアーの効果でフィールドにドッペル・トークン2体を特殊召喚します。そしてチェーン1のジャンク・ウォリアーの効果でレベル1のドッペル・トークン2体の攻撃力だけジャンク・ウォリアーの攻撃力が上がります。“パワー・オブ・フェローズ”」

 

ジャンク・ウォリアー ATK2300→ATK3100

 

「続けてレベル1のドッペル・トークン1体にレベル3のチューナーモンスター、A・ジェネクス・バードマンをチューニング。“天に四つの星が輝く時。無垢なる破壊者が目を覚ます。全てを打ち砕きなさい!”シンクロ召喚!《アームズ・エイド》!」

 

《アームズ・エイド》

シンクロ・効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻1800/守1200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとしてモンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚できる。この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。また、装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

「アームズ・エイド……」

「アームズ・エイドの効果を発動します。このカードを攻撃力1000アップの装備カード扱いとしてモンスターに装備することができます。アームズ・エイドをジャンク・ウォリアーに装備します」

 

ジャンク・ウォリアー(+アームズ・エイド)ATK3100→ATK4100

 

(ジャンク・ウォリアーを装備するだけではなく、ハリファイバーのリンク先すらも空けてきた……これでヴェートは更にEXデッキからモンスターを出すことができる)

―――ねえ、本当のあの子初心者なわけ? プレイングが初心者と思えないんだけど?

(デュエルの経験はなくともシミュレートは重ねてきたのだろう。そうでなければこのイベントに飛び入り参加しようだなんて思わないはずだ。だが……)

「私はレベル1のドッペル・トークンをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンクリボーをリンク召喚します。私はカードを1枚セット。これでターンエンドです」

 

 

ヴェート LP4000 手札1枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:2(ジャンク・ウォリアー、リンクリボー)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(アームズ・エイド)墓地:5 除外:1 EXデッキ:11(0)

エヴァ LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

ヴェート

 □□□ア伏

 リ□ジ□□□

  水 □

□□□□□□

 □□□□□

エヴァ

 

○凡例

水・・・水晶機巧-ハリファイバー

ジ・・・ジャンク・ウォリアー

ア・・・アームズ・エイド

 

 

☆TURN02(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!」

(攻撃力4100のジャンク・ウォリアーか。だが、出すタイミングが悪かったな)

 

 確かに攻撃力4100のジャンク・ウォリアーは脅威であり、アームズ・エイドを装備している以上壁モンスターでの防御もあまり意味がない。精霊であるレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトやBFのSモンスターの中で高い攻撃力と耐性を併せ持つフルアーマード・ウィングでさえも攻撃力3000であるため、真っ向から向かっていけば返り討ちに遭うだけ。ヴェートがそんなモンスターを戦闘が行える後攻で出せていたのであれば、エヴァはワンキルを受けていたかもしれなかった。

 

―――どんだけ高い攻撃力を持っていても、耐性がなければ意味がない。これは鉄板だよね!

「行くぞ。私は手札のBF-毒風のシムーンの効果を発動! 手札のBFモンスター、BF-上弦のピナーカをゲームから除外し、デッキから黒い旋風を私の魔法・罠ゾーンに表側表示で置く。そしてその後手札のこのカードをリリースなしで召喚する!」

「黒い旋風を展開しつつ、上級モンスターを召喚……」

「BFモンスターが召喚されたことで、黒い旋風の効果を発動。デッキからシムーン以下の攻撃力のBFモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのはBF-南風のアウステルだ」

「確かアウステルは除外されているBFモンスター1体を帰還させることができるカードでしたね。ですが、既に召喚権をシムーンに使ってしまっているのでしたら、特殊召喚効果を持つモンスターの方がよかったのでは?」

「残念だが、そうはいかない。シムーンのこの効果での召喚は効果による召喚であり、召喚権は失わない。よって私は更にBF1体を召喚できる。私は今黒い旋風で手札に加えたアウステルを召喚。召喚に成功したアウステル、そして黒い旋風の効果を発動!」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風で私はBF-突風のオロシを手札に加える。そしてチェーン1のアウステルの効果で除外されているピナーカを特殊召喚する。そして私はシムーンとピナーカをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認。召喚条件は……闇属性・鳥獣族モンスター2体! サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れよ!《RR-ワイズ・ストリクス》!」

 

《RR-ワイズ・ストリクス》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/鳥獣族/攻1400

【リンクマーカー:左下/右下】

鳥獣族・闇属性モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから鳥獣族・闇属性・レベル4モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはリンク素材にできず、効果は無効化される。

(2):自分の「RR」Xモンスターの効果が発動した場合に発動する。デッキから「RUM」魔法カード1枚を自分フィールドにセットする。速攻魔法カードをセットした場合、そのカードはセットしたターンでも発動できる。

 

「リンク召喚に成功したワイズ・ストリクスの効果を発動! デッキから鳥獣族・闇属性・レベル4モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私はBF-精鋭のゼピュロスを特殊召喚! そしてフィールドにBFモンスターが存在することで手札のオロシは特殊召喚できる! せっかくだから見せてやろう、ヴェートにこのモンスターを! 私はレベル4のBF-精鋭のゼピュロスにレベル4のチューナーモンスター、BF-南風のアウステルをチューニング!」

「チューニング……レベル8……まさか!」

「“黒き嵐吹き荒ぶ世界は、紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”シンクロ召喚! 吠えろ! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!」

 

 紅蓮の炎を噴き上げながら、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが漆黒の風が渦巻く世界へと舞い降りる。スカーライトの効果は特殊召喚されたスカーライト以下の攻撃力のモンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500のダメージを相手ライフに与えるというもの。現在フィールドに存在するモンスターの数はスカーライトを含めて6体、このまま効果を発動すれば4体のモンスターを破壊することができる。しかし、それでも削れるライフは2000であり、ヴェートのライフはまだ残る。それどころか次のターンにジャンク・ウォリアーにスカーライトを戦闘破壊されれば、アームズ・エイドの効果も合わさってエヴァのライフが0になってしまうのだ。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……まさかこの場で本物を見ることができるとは。ですが、今のこの場面をスカーライトでは……」

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果を発動! このカード以外のフィールドに特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500のダメージを相手ライフに与える! そしてこの効果にチェーンしてジャンク・ウォリアーを対象に手札から速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!」

 

《禁じられた聖槍》

速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

チェーン2(エヴァ):禁じられた聖槍

チェーン1(エヴァ):レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト

 

「ジャンク・ウォリアーの攻撃力は800ダウンする!」

「800ダウンさせてもジャンク・ウォリアーの攻撃力は3300です! スカーライトの効果では破壊され―――」

 

ジャンク・ウォリアー ATK4100→ATK2300

 

「えっ!?」

「禁じられた聖槍は対象となったモンスターがこのカード以外の魔法・罠カードの効果を受けなくなる。アームズ・エイドは装備カード扱い。つまり、モンスターではなく装備魔法だ」

「……禁じられた聖槍でアームズ・エイドの攻撃力アップの効果を受け付けなくするとは。お見事です」

「チェーン1のスカーライトの効果! 全てを破壊しろ!“クリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

 紅蓮の炎が全てを焼き尽くした。敵味方問わず力のないものを蹂躙し尽くすその力はまさに王に相応しいパワフルさと言えるだろう。エヴァのワイズ・ストリクスと突風のオロシ、ヴェートのハリファイバー、リンクリボー、そしてジャンク・ウォリアーを破壊したことで2500のダメージがヴェートを襲う。

 

ヴェート LP4000→LP1500

 

「バトルだ! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック! “アブソリュート・パワー・フレイム”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

ヴェート LP1500→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュエルありがとうございました。レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……やっぱりすごいカードですね」

「こちらこそ、いいデュエルだった。まあ私の相棒だからな。これくらい当然のことだ」

―――うへえ、ハードル高い。

「今回のデュエルでは私は負けてしまいました。ですが嬉しかったです。あのエヴァ・ジムリアが未熟な私とのデュエルでエースモンスターを出してくれたんですから。それだけこのデュエルに真摯に取り組んでくれたってことですよね?」

「……まああの場面ではスカーライトがベターなモンスターだったからな。だが、最後の最後まで私とスカーライトを相手に怯まず立ち続けたのはいいことだ。その姿勢があるならば、お前はきっとデュエリストとして成長できる。だから……」

 

 エヴァは済んだ青空のような愛らしい笑顔を浮かべてヴェートに手を差し出す。

 

「一緒に、強くなろう」

「……はいっ!」

 

 二人が固い握手を交わした瞬間、時計の鐘が鳴った。正午を知らせる鐘である。

 

「あっ、もう正午か。実は正午にロッジに集合する予定だったんだ」

「あらそれは大変ですね。急ぎましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、遅れてしまった! エヴァ・ジムリア、戻っ……」

 

 集合時間から遅れること10分。ヴェートを連れて集合場所のロッジへ戻ったエヴァは部屋に入るなり言葉を失った。

 

「エヴァさん? どうかしたの……」

 

 硬直したエヴァの後ろからヴェートが部屋の中を覗く。重い空気の漂う部屋の中では、ソファの上で体育座りをして一人落ち込んでいる鈴の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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涙を流した決闘者

 

 

 

「元気出しなさいよ鈴! 悔やんだところで過去は変わらないわよ!」

「鈴さん、誰にでも失敗はありますから……」

 

 ロッジのリビングに置いてある大きなソファの上で膝を立ててはそこに顔を押し付けている鈴。顔は見えないが、部屋の空気や千春と皐月の慰めの言葉から察するに鈴は何かしらのミスを犯してしまったようだった。

 

「おい、いったい鈴に何があったんだ?」

「あ、おかえりエヴァ。あのね……鈴が色々とやらかしちゃって」

「やらかした?」

「これ、やらかしで済むレベルかしら。鈴ったらデュエルした中学生の女の子たちを泣かしちゃったんだって」

 

 遊希曰く、鈴は開会式から正午までの間に四人の女子中学生デュエリストとデュエルをしたのだが、その四人を完膚なきまでに叩きのめし、全員を泣かしてしまったという。アカデミアの学生と小中学生たちの交流を図るイベントに参加しているのにも関わらず、その理念を真っ向から否定するその行動は鈴自身が誰よりも尊敬する父であり、デュエリストである竜司の顔に泥を塗るような行為であったのだ。

 

「だ、だが鈴は何の理由もなくそういうことをするとは思えないんだが……」

「……それについては聞いたんだけど、この子いっこうに話そうとはしないのよ」

「理由も何もないし。あたしがデュエルで気に入らない奴らを叩きのめしちゃった。それだけだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ、あたしみんなに避けられてる?)

 

 時はイベント開始直後に遡る。自分は遊希やエヴァほど有名人でもなければ、皐月のような引っ込み思案でも千春のようなゴリゴリに攻めていくタイプでもない。少なくともこの五人の中では一番とっつきやすいタイプである、と自己分析していた。しかし、その見通しはやはり甘かった。

 星乃 鈴という少女もまたあの星乃 竜司から【青眼】のカードおよびデッキを受け継いだ日本デュエリスト界でも期待の星の一つであり、遊希やエヴァほどの露出はなくとも十分にその名は知れ渡っていた。そして何より、自身のその派手な金髪が災いし、経歴と見た目のダブルパンチで他の参加者たちを敬遠させてしまっていたのだ。

 

「あれ、あそこでデュエルしてる」

 

 相手が寄ってこないのであれば、自分から探しに行くべきではないか。そう思った鈴は参加者同士のデュエルを見て、そこで自分とパートナーになってくれるデュエリストを探すことにした。参加者同士でデュエルしているのを見ることで、そのデュエリストの力量を測ることができる。ずぶの初心者を教えるのもそうだが、ある程度の実力や未来を感じさせるデュエリストに教えるのもまた教え甲斐があるというものだ。

 

「ん、あの子とか……どうかな?」

 

 野次馬の後ろからデュエルを覗き見る鈴。デュエルをしていたのは二人の少女デュエリストであったが、戦況は一方的だった。

 

「これで終わりです。《ブラック・マジシャン》でダイレクトアタック!」

 

 黒髪のストレートヘアーに青い瞳が特徴的な少女が操るブラック・マジシャンの直接攻撃が決まり、相手の少女のライフが0になる。あの少女は何者か、と思った鈴は近くにいた少年たちに話を聞くことにした。鈴の姿を見た少年たちは最初はかなり驚いた様子であったが、少女のデュエルを1戦目から見ていたこともあって、彼女のデュエルを事細かに教えてくれた。

 通常モンスターでありながらサポートカードの多い【ブラック・マジシャン】デッキを使っている少女は3戦して3勝と圧倒的な強さを見せており、取り分け《黒の魔導陣》や《永遠の魂》といったカードとのコンボで相手の戦略を崩しつつ、反撃の隙を与えなかったという。

 

(【ブラック・マジシャン】はあのデュエルキング・武藤 遊戯の忠実なるしもべ。古いカードだけど、サポートカードが豊富だから効果を持たない通常モンスターといってもかなりの強さを持っているのよね……なんでそんな実力のある子がこのイベントに参加しているのかしら)

 

 鈴が疑問に思っていると、徐々に彼女の周りが慌ただしくなっているのに気付いた。何だろうと思って周囲を見渡すと、それまで少女のデュエルを見ていた野次馬が一斉に鈴に気付いたのである。間近で見る鈴の姿に戸惑う者や目をキラキラと輝かせる者からひそひそ話をしている者までその反応は三者三様といった形だった。そんな時、それまでデュエルをしていたブラック・マジシャン使いの少女が鈴の元へと近づいてきた。

 

「あの……あなたは星乃 鈴さんですよね? あの星乃 竜司さんの娘の」

「ええ。そうだけど」

「そうですか……あなたが……」

 

 少女は顎に手を当てて考え込み、そして鈴の目をまっすぐに見つめて言った。

 

「星乃 鈴さん。私とデュエルをしてください」

「……あたしと?」

「はい。私はもっと自分を高めたいんです。ですが、ここにいるのはみんなそれほど力のないデュエリストばかり……あなたのような実力のあるデュエリストとデュエルをしてこそ本当に実力を確かめることができるんです」

 

 思わぬデュエルの申し出だが、デュエルを断る理由は鈴にはない。ただ、鈴はこの少女がどこか他者を見下したような目をしているのが気になった。

 

「うん。いいよ、あたしで良ければ。えっと……」

「私は青山 紫音(あおやま しおん)と言います。では、よろしくお願いします。星乃 鈴さん」

 

 

先攻:鈴

後攻:紫音

 

鈴 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(鈴)

 

「先攻はあたしだけど……本当にそれでいい?」

 

 デュエルディスク内蔵コンピューターによって、先攻後攻の決定権を得たのは鈴だった。最初は紫音に先攻を譲ろうとした鈴であったが、紫音がそれを断ったためこうしていつも自分たちがやっているような方法で先攻後攻を決める運びになった。

 

「構いませんよ。先攻であっても後攻であってもやるデュエルは変わりませんから」

「そっか。あたしは魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動!。手札1枚をコストにデッキから攻撃力3000以上守備力2500以下のドラゴン族モンスター2体を手札に加える。チェーンはある?」

「ありません。処理してください」

「わかった。じゃあ効果を処理するわ。手札の伝説の白石をコストにデッキからブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと闇黒の魔王ディアボロスを手札に加える。墓地に送られた伝説の白石の効果を発動。デッキから青眼の白龍1体を手札に加える。そしてディアボロスをコストにトレード・イン発動。デッキから2枚ドローする。そしてマンジュ・ゴッドを召喚! 召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果を発動するわ!」

 

 ドラゴン・目覚めの旋律に発動してチェーンするカードがなかったということは、サーチカード全般に作用する灰流うららは手札にないと思われる。それならばマンジュ・ゴッドの効果も問題なく発動していいだろう。そうとわかれば行けるところまで行くだけだ。

 

「マンジュ・ゴッドの効果であたしはデッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加えるわ。そして手札から高等儀式術を発動。デッキのレベル8・通常モンスターの青眼の白龍をリリースして手札からブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!」

 

 鈴のエースにして切り札でもあるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが早くも降臨する。守備力こそ0であるが、その攻撃力は4000。そして貫通効果および貫通ダメージ倍増の効果からライフ4000のこのルールでは守備力2000以下の壁モンスターを戦闘破壊するだけでデュエルが終わる。故に通常のデュエル以上に強力なモンスターである。

 

「まだまだ行くわよ! 手札からもう1枚儀式魔法、カオス・フォームを発動。墓地の青眼の白龍を除外して青眼の混沌龍を儀式召喚! あたしはカードを1枚セットしてターンエンド」

 

 

鈴 LP4000 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:3(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の混沌龍、マンジュ・ゴッド)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:6 除外:1 EXデッキ:15(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 □□□□伏

 □マM混□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

紫音

 

 

☆TURN02(紫音)

 

「私のターン、ドローです」

(よし、この手札なら……)

 

 紫音が鈴に挑みかかったのには理由がある。それは勝てるだけの自信があったからだ。何度もこのデッキでデュエルをし、様々な戦術パターンを脳内で組み立てた。自分のデュエルができれば負けることは無い。

 

「あ、スタンバイフェイズにリバースカードを発動するわ」

 

 しかし、自分のデュエルができれば負けることがないのは紫音に限った話ではない。そしてデュエルに勝つためには如何にして相手に自分のデュエルをさせないか、ということにあった。

 

「……えっ?」

「攻撃力3000の青眼の混沌龍をリリースし、罠カード《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動!」

 

《闇のデッキ破壊ウイルス》

通常罠

(1):自分フィールドの攻撃力2500以上の闇属性モンスター1体をリリースし、カードの種類(魔法・罠)を宣言して発動できる。相手フィールドの魔法・罠カード、相手の手札、相手ターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、その内の宣言した種類のカードを全て破壊する。

 

「えっ、闇の……デッキ破壊ウイルス? えっ……?」

「あたしは魔法カードを指定するわ。確認するから手札見せて」

「……」

 

 呆然とした紫音が見せたドローカードを含めた6枚の手札の内訳は《黒の魔導陣》《イリュージョン・マジック》《ルドラの魔導書》《テラ・フォーミング》の魔法カード4枚と《マジシャンズ・ナビゲート》の罠カード1枚、そして《幻想の見習い魔導師》のモンスター1体だった。

 本来【青眼】は光属性のデッキであるが、鈴がメインで使う儀式モンスターの青眼は2体とも高攻撃力の闇属性である。そのためウイルスカードとの相性は決して悪くはない。また、遊希・千春・皐月・エヴァの四人はそれぞれのデッキにキーカードとなる魔法カードが存在しているため、四人とのデュエルをした場合にそのカードを先攻で封じられるように、という思惑の下このカードを入れていたのだ。

 

「じゃあ手札の黒の魔導陣、イリュージョン・マジック、ルドラの魔導書、テラ・フォーミングを破壊するわ。そして闇属性モンスターがリリースされたことで墓地のディアボロスの効果を発動! このカードを墓地から特殊召喚する!」

「闇のデッキ破壊ウイルス……な、なんでそんなカードが……あっ、えっと……」

 

 想定外の動きだったのか、数秒前までの冷静さは失われた紫音は軽いパニック状態に陥ってしまっていた。今の彼女は猛獣の檻に入れられた子犬のように目を泳がせている。その様はとても弱々しく、対峙している鈴でさえも不安に思ってしまうほどだった。

 

「ねえ、あなた大丈夫?」

「だ、大丈夫です……えっと、手札1枚を墓地へ送って幻想の見習い魔導師を特殊召喚します」

 

《幻想の見習い魔導師》

効果モンスター

星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700

(1):このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ブラック・マジシャン」1体を手札に加える。

(3):このカード以外の自分の魔法使い族・闇属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その自分のモンスターの攻撃力・守備力はそのダメージ計算時のみ2000アップする。

 

「……特殊召喚に成功した幻想の見習い魔導師の効果を発動します。デッキから、ブラック・マジシャンを手札に加えます。私は……ターンエンドです……」

 

 紫音のデッキは通常モンスターであるブラック・マジシャンを様々な魔法・罠カードでサポートして戦うデッキだ。しかし、そのサポートを行うためのカードを失った以上もはや手足を捥がれたも同然だった。

 そして攻撃力2000の幻想の見習い魔導師を特殊召喚しておきながら、攻撃力1400のマンジュ・ゴッドに攻撃すら仕掛けない。それは紫音が戦意を失ってしまっていることの表れだった。

 

 

鈴 LP4000 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:3(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、闇黒の魔王ディアボロス、マンジュ・ゴッド)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:7 除外:1 EXデッキ:15(0)

紫音 LP4000 手札1枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(幻想の見習い魔導師)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:5 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □マM闇□□

  □ □

□□□幻□□

 □□□□□

紫音

 

○凡例

幻・・・幻想の見習い魔導師

 

 

☆TURN03(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー。悪いけど、これで終わりよ! バトル! 闇黒の魔王ディアボロスで幻想の見習い魔導師を攻撃!」

 

闇黒の魔王ディアボロス ATK3000 VS 幻想の見習い魔導師 ATK2000

 

紫音 LP4000→3000

 

「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでダイレクトアタック!“混沌のマキシマム・バースト”!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

紫音 LP3000→0

 

 

 

「えっと、あたしの勝ちね。デュエルをして色々とわかったんだけど……」

 

 デュエル終了後、鈴は紫音に手を差し伸べようとするが、紫音はその手を叩く。鈴が驚いた様子を見せると、紫音は目に涙を溜めながら、何も言わずに走り去ってしまった。

 

(……あたし、なんか酷いことしちゃったかしら)

 

 小さく首を傾げる鈴がデュエルディスクを収納して別の場所に行こうとした時、近くにいた少女たちがクスクスと意地の悪い笑みを浮かべているのに気が付いた。少女たちはいずれも紫音にデュエルで敗れた者たちである。はっきりとは聞こえなかったが、彼女たちは鈴に惨敗した紫音の悪口を言っていたように聞こえた。

 

(まさか……)

「ねえ、ちょっといい?」

 

 鈴は事情を知ると思われる少女たちに声をかけた。一度デュエルをしただけではあるが、何故か紫音のことが気になって仕方無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴が頑なに理由を話さない理由。それは紫音の存在があった。鈴は紫音とデュエルをした後、デュエルに敗れた結衣のことを陰で笑っていた3人の女子中学生を問い詰めた。彼女たちによると、彼女たちは紫音と同じ中学校なのだが、成績優秀・品行公正と教師からは好かれるいわゆる「優等生」であるという。しかし、彼女は自分が目下と判断した者を見下す傾向にあるようで、それはデュエルにおいても変わらず、容姿端麗ということもあって特に女子からはかなりの反発を受けていたようである。

 

「だってあの子いっつも私たちのことバカにするんだもん! いい気味よ!!」

 

 そして少女たちはまたしても紫音にデュエルに敗れ、怒りの矛先を向ける先を探していたところ、調子に乗っていた紫音が鈴に負けて泣きながらその場を立ち去るのを見て笑いを堪えることができなかったようだった。

 

「そうだったんだ……」

 

 鈴はその話が事実なら紫音の行動はとても褒められたものではないし、女子中学生たちの怒りももっともだ、と思った。しかし、自分が星乃 鈴と知りながらデュエルを真正面から挑んできた彼女のデュエリストとしての覚悟を冒涜する少女たちの言動を許すこともできなかった。

 

「ねえ、もし良かったらあなたたちもあたしとデュエルをしてくれない?」

「えっ……」

「あの子を笑うんだったらさ……実際にあたしとデュエルをして勝ってからにしてよね?」

 

 そして鈴は1のダメージも受けることなく、少女たちを叩きのめしてしまった。それが広まって遊希たちの耳に入ったのである。ここで遊希たちに事の顛末を話してしまえば遊希たちはきっと鈴を庇ってくれるだろう。それでも、決して他人には知られたくない姿を見られた紫音の名誉のためにも鈴はここで紫音のことを喋ってはいけない、と思っていた。悪者になるのは自分一人でいい、という覚悟を胸に秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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真意を告げた決闘者

 

 

 

 

 

 

「で、あんたどうするの?」

「どうするって?」

「……一緒に組む子よ。このまま一人で過ごすつもり?」

 

 予め集合時間に決めていた正午をとっくに過ぎてしまっている以上、今から相手を探しても誰も残っていないだろう。アカデミアの生徒と小中学生のデュエリストの交流を図るイベントで誰とも組まないなどそれこそ拷問に近いものになる恐れがあった。

 

「……遊希ぃ」

「泣き言言われてもどうしようもできないわ。自分の短慮さを恨みなさい」

「うぇぇ、遊希がいじめるぅ……」

「やめなさい本当に、気持ち悪いからそういうの」

 

 嫌がる遊希とその足に縋りつく鈴。決して笑いごとではないのだが、その滑稽な二人の行動に千春たちは思わずクスクスと笑い始めていた。なんだかんだ言ってよく見る二人の光景だったというのも大きいのかもしれない。しかし、そんな千春や皐月に付いてきた者たちはそうもいかないようだった。

 

「ねえねえ」

「ん?」

 

 愛美が隣で一連の出来事を無表情で見ていた華に耳打ちする。

 

「ボクたち凄いところに来ちゃったね」

(ボク?)

「……せやな」

 

 フフ、と悪戯っぽく笑う愛美に対して華の反応はそっけなかった。鼻はクールに受け流しているように見えるが、内心は心臓が自分でもわかるくらい早く鼓動していた。

 

(いやいやいや。凄いところに来ちゃったね、やあらへんやろ!)

 

 千春とのデュエルが終わった後、千春は華に対して「私の仲間たちはみんな自分より強い」と言っていた。華からしてみればここに来るまでは正直半信半疑だったが、今になって彼女は千春の言葉の意図することを完全に理解していた。

 戻ってきたロッジには自分たち10代のデュエリストの中ではもはや伝説と化しているデュエリスト・天宮 遊希がいて、そしてそんな遊希とじゃれあっている鈴はあの星乃 竜司の娘だ。

 それでいて今ロッジに戻ってきたのはロシアを代表する美少女デュエリストのエヴァ・ジムリアである。遊希とエヴァ、2人のサインを貰ってネットオークションに出したら何枚の万札が自分のところに転がり込むかわからないレベルの有名人だ。

 一方で千春と皐月に関しては一般的な知名度こそ他の三人に比べて皆無であると言っていいが、遊希やエヴァとこうして組んでイベントに参加しているところを見ると、彼女たちも認める実力者であることがわかる。

 

(思っていた以上にとんでもないイベントなんやないの、これ)

「ねえ、愛美ちゃん……」

「どうしたの橙季ちゃん?」

「いや、ロッジにいる参加者ってこの人たちで全員なのかなぁ……って」

「うーん……どうだろうね。ボクたちは指導してくれる皐月さんに付いてきただけだけど」

 

 そう言って首を傾げる愛美。すると、気まずい空気を察したのか不機嫌そうな遊希を不安そうに見つめていた未来が遊希のもとへとトコトコと歩み寄っていく。

 

「ゆ、遊希おねえちゃん……もう鈴おねえちゃんをおこらないであげて、かわいそうだよぉ」

「……そ、そうね」

 

 未来の一言を受けて一息つく遊希。見たところ唯一の小学生と思われる少女が遊希を一瞬で宥めるとはいったい何者なのだろうか。本人の知らないところで未来への関心が高まっていく中、音頭を取った千春の指示で遊希たちと参加者たちは対面するようにテーブルに座った。

 

   鈴 遊希 エヴァ 皐月 千春

 

   ―――――テーブル―――――

 

     未来 ヴェート 橙季 愛美 華

 

 最も、指定の時間までに相手を見つけられなかった鈴の前には誰も座っていなかったのだが。

 

「それじゃあ、まずは私たちアカデミアの方から自己紹介をさせてもらうわ! 私は日向 千春! 使うデッキは【サイバー・ドラゴン】よ! 宜しくね!」

「千春は身体は小さいけど、女子力は高くて面倒見はいいわよ?」

「そうそう。なんてったってこの中でいちばん誕生日が早いお姉さんなんだから……って身体が小さいって何よ!」

 

 すかさずノリツッコミを入れながら飛びかかろうとする千春を遊希は軽くあしらう。遊希は皐月に「気にせず進めて」つ促し、皐月もそれに応じた。

 

「ええと、織原 皐月と申します。使用するデッキは【ヴァレット】です。今回は訳あって目の前に座るお二人の指導を同時にさせて頂くことになりました。まだまだ至らないことばかりですが、どうぞよろしくお願い致します」

 

 皐月らしい謙虚な自己紹介の次にはエヴァの番が回ってきた。

 

「エヴァ・ジムリアだ。使用しているデッキは【BF】で、相棒はレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト。皆も知っているとは思うが、私はプロデュエリストであるがこの場においては一人のアカデミアの学生に過ぎないのでな、気軽の話しかけてくれていいぞ。では、宜しく」

 

 そう言ってレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトのカードを見せると、対面の参加者たちからは「おおっ」という声が漏れる。エヴァの脳裏にはスカーライトの「あんまり見世物にしないでよね!」という声が響くが全く気にしない。

 

「……」

「おい、次は遊希の番だぞ」

「わ、わかってるわよ。えっと……天宮 遊希です。デッキは【ギャラクシー】で、その宜しくお願いします」

―――どうした遊希? らしくないぞ。

(うっさいわね、こういうのそんなに得意じゃないのはわかってるでしょ)

「ちょっと遊希! あんたそんなんで自己紹介したつもり!? もっとバーッと行きなさいよー!」

 

 先程のお返しとばかりに煽ってくる千春。因果応報とはまさにこのことか、と思いつつも数度深呼吸をする。

 

「改めましてこんにちは、天宮 遊希です。あまり教えるのが得意じゃないし、口も悪いけど……これから3日間、宜しくね」

 

 しかし、デュエルで見せる苛烈な姿とこの緊張した姿のギャップが愛らしかったのか、目の前に座る未来をはじめとした参加者たちは一様に晴れたような表情で拍手をするのであった。

 

「じゃあ、最後は鈴で。相手が居なくてもちゃんとやりなさいよ?」

「わかってるわよ……もう」

 

 鈴はぶつぶつと不満を漏らしながら自己紹介を始めようとしたその瞬間である。ロッジの中にインターホンの音が鳴り響いたのは。

 

「……誰かしら?」

「あ、私が応対しますね」

 

 皐月が席を立って玄関へと向かう。恐らく運営関係者の誰かが当日の行程などについて確認に来たのだろう、と思っていたが違うようだった。

 

「鈴さん! ちょっと来ていただけますか?」

「私? わかったわ」

 

 玄関から皐月が鈴のことを呼ぶ。自分に用があるとは何事だろうか、と思って玄関に向かうとそこには目の周りを真っ赤に泣きはらした黒髪ロングの髪型に白いワンピースを着た美少女の姿があった。

 

「あなた……青山 紫音さん。よね?」

 

 鈴は尋ねると紫音は小さくこくりと頷いた。あのデュエルの後、鈴はしばらく紫音のことを探していたが結局再会できずに終わっていた。鈴としてはさすがに泣かせてしまったことはやりすぎたと思い、紫音を見つけ出して謝ろうとしていたのだ。最もそれが彼女が正午までに組む相手を見つけられなかった遠因でもあるのだが。

 

「あの……お聞きしたいことがあるのですが」

「……何かしら?」

「もう、お相手はいらっしゃいますよね?」

 

 お相手、というのは恐らく組む相手のことだろう。紫音の質問に彼女の意図を感じ取った皐月は助け船を出す。

 

「鈴さん、まだお相手いらっしゃらないんですよ?」

「ちょっと皐月……!」

「それでしたら……私と組んで頂けませんか! お願いします……私、もっと強くなりたいんです!!」

 

 そう言って頭を下げる紫音。もっと強くなりたい、と言った瞬間の紫音の表情は真剣そのものだった。皐月はこんなところで立ち話をするのもなんだから、と紫音をリビングへと案内する。リビングには突然の来訪者に驚く皆の姿があった。一方の紫音も鈴のみではなく遊希とエヴァまでいるのだから面食らった様子で少し小さくなって鈴の正面へと座った。

 

「もし……話し辛いことがあったら別の部屋でやってもいいのよ?」

「大丈夫です。ここで構いません……あの、噂で聞きました。私が行った後のこと……」

 

 あの星乃 鈴が女子中学生三人をデュエルで叩きのめしたことはすっかり広まっていたようだった。鈴はやってしまった、という顔を浮かべて後頭部を掻きむしる。

 

「正直驚きました……あの星乃 鈴がそんなことをするなんて。周りの子たちはけなしていましたけど……でも、私は……嬉しかったです」

「ちょっと待って、話が見えないんだけど。鈴が女の子たちを泣かしたってのは……」

 

 遊希が紫音に知っていることを話すように尋ねた。鈴に遊希たちに問い質されていたことを知らなかった紫音は鈴が必死に隠し通していた事実を洗いざらい話してしまった。

 

「鈴、あんた……」

 

 遊希はなんで話してくれなかったの、といった悔しい表情を見せる。できれば真実を早めに話してくれていればしたくもない詰問せずに済んだのに、と後悔している様子だった。

 

「もー、何で喋っちゃうの?」

「……ご、ごめんなさい。でもあのまま星乃 鈴さんに泥を被せたままというのは私も嫌なんです」

 

 そんな遊希の気持ちなどどこ吹く風。鈴は足を組んでふん、と不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。最も千春たちはそれが鈴の照れ隠しと知っていたのだが。

 

「まあいいわ。それで、なんであたしと組みたいって思ったの?」

「星乃さんは、私がデュエルの前に言ったこと覚えていますか? このイベントでどうしたいか、って」

 

 鈴はデュエルの前の紫音の言葉をはっきりと覚えていた。彼女は「もっと自分を高めたい」と言っており、その言葉から紫音が自分の現状に満足していないことは理解できた。

 

「ええ。覚えているわ。自分をもっと高めたい、でしょう?」

「はい。ですが……あれは本当の理由じゃないんです。今回のイベントの参加を勧めてくれたのは私の両親だったんです」

「ご両親……?」

 

 自嘲気味に笑う紫音だったが、鈴は真剣にその話を聞いていた。

 

「私の両親はデュエルが好きで、プロデュエリストを目指していました。結局その夢は叶いませんでしたが……だからその夢を私に託してくれたんです。自分で言うのもおこがましいことですが、デュエルの才能に恵まれた私はそんな両親の期待に応えたい、と思って……」

(……なんなの、これ)

 

 両親の期待に応えたい、その言葉に鈴は自分と紫音を重ね合わせた。竜司からの期待を一身に受けた鈴は父と同じ【青眼】デッキを使うことを許されている。歴史と実績のあるこのデッキを使うと決めた以上、結果を残すことが鈴には求められていた。

 しかし、自分に竜司ほどの才能がないことを鈴は理解しており、同世代には遊希やエヴァといったより才能のある天才たちがごまんといる。故に髪を金色に染めて不良のようなファッションをするようになったのだ。

 それでも遊希とデュエルをして、千春や皐月、エヴァと出会い幾つもの戦いを繰り広げてきた今、鈴は改めて一人のデュエリストとしてより高みに行きたいと思っているからこそここにいる。

 

「まさかあの星乃 鈴さんに会えるなんて思っていませんでした。きっとあの人に師事できれば、自分も変われるんじゃないかって……」

 

 自分の思いを率直に告げる紫音に対して、鈴は黙ったままだった。そんな鈴の姿を見て紫音ははっ、と我に返る。

 

「あっ、すいません。自分ばっかり喋ってしまって……ダメ、ですよね?」

「えっ……」

「こんな自分勝手な都合で星乃さんの手を煩わせてしまって……あの、もう帰りますね」

「あっ、ちょっと!」

 

 千春の制止を振り切って帰ろうとする紫音であったが、その手を鈴が掴んで引き留める。ぎゅっと掴んだその手を鈴は離そうとはしなかった。

 

「えっと、最初に言っておくね。あたしは青山さんが思っているほど凄いデュエリストでもないし、結構ザルなところがあるから上手く教えられないかもしれない。あなたがあたしにどんなイメージを持っているかはわからないけど、幻滅させちゃうかもしれないよ?」

 

 鈴のその言葉に、紫音は俯いたまま何も答えなかった。

 

「まあ、その、なんて言えばいいのかな。今あなたに出て行かれるとあたしだけ教える子がいないんだよね。だからね……えっと……あたしと組んでくれないかな?」

「えっ……? 今……」

「……っ、2回も言わせないで。結構恥ずかしいんだから。青山 紫音さん、お願い。あたしとパートナーになって」

 

 鈴の方を向き直った紫音が見たのは優しい笑みを含んだ鈴の姿だった。そんな彼女の笑顔を見た紫音は強張った顔を崩しては「はい!」と愛らしい笑みで応えた。

 

「……鈴。全員揃ったことだし、自己紹介の続きをしましょう!」

「そうね、じゃあ……」

 

 鈴は紫音を自分の目の前に座らせると、少し照れ臭そうにしながら自己紹介を行った。

 

「改めまして、こんにちは。あたしは星乃 鈴。星乃 竜司の娘で使用デッキは【青眼】! 思っていた以上にあたしの名が知れ渡っててびっくりしたけど、この3日間を全力で楽しみましょう! 宜しくね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ポンコツ揃いな決闘者

 

 

 

 

 

 鈴の自己紹介が終わり、次は参加者たる六人の自己紹介の番となった。席の並び順で千春から反時計回りに自己紹介が進んでいたため、次は来たばかりの紫音から自己紹介をする運びとなった。

 

「私からでいいんですよね……? では改めて、私は青山 紫音(あおやま しおん)と言います。中学1年生の13歳です。使っているデッキは【ブラック・マジシャン】です。宜しくお願いします」

 

 ブラック・マジシャン使い、というのを聞いて鈴以外の四人がおお、とリアクションを取る。中学生であのデュエルキングが愛用していたモンスターのデッキを使いこなすとなればそのリアクションも頷ける。

 ブラック・マジシャンというカードを知らないデュエリストは存在しないと言っていいが、やはりブラック・マジシャン自体が効果を持たない通常モンスターであり、攻撃力2500というのも最上級モンスターの中では低いため上手く使いこなすにはコツのいるデッキであったのだ。

 

「凄いじゃない、その歳でブラック・マジシャンを使いこなすなんて!」

「ですが、鈴さんには何もできずに負けてしまいました。闇のデッキ破壊ウイルスでサポートカードの大半を破壊されてしまって……」

「……あんたそんな戦法使ったの? もうちょっと考えなさいよ」

「は、反省してまーす……」

 

 遊希たちに勝つために取った戦法となるならば、それに劣る(であろう)中学生デュエリスト相手に使うにしてはやはり加減が必要だったようだった。

 

 

「わ、わたしはあかしゃかみらいでしゅ! しょうがっこう2ねんせいの7さいでしゅ! よろしくおねがいしまちゅ!!」

 

 

 遊希と組んだ赤坂 未来(あかさか みらい)が挨拶をした瞬間、ロッジ内にはなんとも言えない空気が広がった。

 

「あうう、またかんじゃった……やっぱりへんなこだっておもわれちゃうよぉ……」

「皆、この子を見てちょうだい。可愛い以外の感想が浮かぶかしら?」

 

 遊希の言葉にその場にいた全員が「浮かばない!」なり「異議なし!」といった言葉は舞い踊る。「ふぇっ!?」と驚いた様子の未来であるが、自分以外の全員が暖かい笑みを拍手で彼女を迎え入れた。

 安堵の表情を浮かべて椅子にもたれかかる未来。見ればわかる通り、今回遊希たちの元に集まった参加者の中で最も幼い小学2年生である。当然彼女の無垢な可愛らしさもそうだが、そんな幼さであるにも関わらず一人でこのイベントに参加したその勇気と度量は誰もが認めていたのだ。

 

「宜しくね、未来ちゃん。ところで未来ちゃんはどんなデッキを使うの?」

「わ、わたしはみゃだはじめたばかりで……デッキももってないでしゅ」

「そう。だからまずはデッキを組むところから始めるところよ」

 

 遊希のその言葉を聞いて鈴の顔が曇る。そもそも鈴たちは組む相手とデュエルをしたり話を聞くことで事前に彼女たちのデッキを把握していた。そうすればどうやって指導するかという計画も立てやすくなるからだ。

 しかし、未来にデッキを組むところから始めるとなると、わずか三日間という日程でこなせるだろうか。時間に余裕があるわけではないのに、集合時間である正午までの時間の間にデッキを組む準備ができていたのではないだろうか。鈴はそう思わずにいられなかった。

 

「ねえ、遊希。これからデッキを組むのよね? 時間足りる?」

「ええ、まあ色々あったのよ」

「ごめんなさい、わたしがわるいんでしゅ。遊希おねえちゃんにくんでもらうことがきまってからおねえちゃんにいろんなところにつれていってもらってあそんでもらっていたから……」

「あっ、未来ちゃん。それは私とあなただけの秘密……」

「へぇ……遊んでたんだぁ」

 

 さっきまで訝しむ様子でソファーに掛けていた鈴であったが、未来の話を聞いた途端にその顔に何やら黒い笑みが浮かび上がる。そして後ろに回って遊希の右肩に顔を乗せることで鈴が動けないようにした。

 

「あんた、あたしが色々悩んでる間に遊んでたんだぁ? 楽しかったぁ?」

「……さ、次に行きましょう」

―――遊希、素直に謝った方が被害は少ないぞ?

(うっさい)

 

 遊希のアイコンタクトに気が付いたのか、ヴェートがすっと立ち上がる。

 

「次は私ですね。ボンジュール、ヴェート・オルレアンと申します。フランス生まれで中学3年生の15歳です。この中では一番お姉さんですね。この度はエヴァ・ジムリアさんの下でお世話になります」

「改めて宜しく頼むぞ」

 

 お嬢様らしい丁寧な言葉遣いのヴェートに対し、エヴァは相変わらずの尊大な物言いだった。

 

「しかし、よくエヴァと組めたわね。プロなんだから倍率高かったでしょう?」

「いえ? エヴァさんも相手が見つからないとか言っていて……お花を眺めて現実逃避してました」

 

 エヴァに遊希たちから向けられる白い目。エヴァは口笛を吹いてやり過ごそうとするも「すぴー」と空気が口から抜けてもはや口笛にすらなっていなかった。

 

―――いやいやいや、口笛吹けてないから。

「と、と、ところでヴェートの使っているデッキは何だったかな?」

―――あ、逃げた。

「使っているデッキは大まかにいうと【シンクロ召喚】でしょうか?」

「……大まかにいうと、とは?」

「私のデッキはS召喚をメインにしていますが【シンクロン】【ジャンク】【ウォリアー】など様々なカードが入っています。それぞれ違うテーマのカードですが、異なる存在が手を取り合って一つの大きな力になる。このデッキのそんなところに魅力を感じています。日本人である皆さんとロシア人であるエヴァさん、そしてフランス人である私……生まれも育ちも違う私たちがこの機会で交わり合うことで互いに成長できると思っています」

 

 さすが参加者六人の中では最年長、とだけあって話す内容のスケールが大きい。そんなヴェートに関する興味はまた別のところに移る。

 

「そう言えば、ヴェートさんは協賛者の方でしたよね? どうしてこちらに?」

「私も初心者デュエリストの端くれでして……いち協賛者として運営側に回るべきだったんですけど、先ほどのあなたの行動を見て火が点いちゃって」

「先ほどの……あっ」

 

 ヴェートの言葉に心当たりのある皐月の顔がリンゴのように真っ赤になる。

 

「なになに、皐月何したの?」

「そちらの方……皐月さんがこちらのお二人の面倒を一人で見る、と星乃 竜司さんに掛け合ったんです。まさに年長者、そして教育者の鑑でした。その姿を見て私も参加したい、と思ったんです」

「へー、やるじゃない皐月ぃー?」

「流石、根は熱い女!」

「そんな、私は……あうぅ」

 

 鈴と千春にからかわれて頭から湯気を出しながら俯いてモジモジする皐月。あの時の皐月は愛美と橙季、二人のために必死だったため、自分がどれだけのことをしたのか、という意識に欠けていたのかもしれない。しかし、そんな皐月を庇うかのように愛美と橙季が立ち上がる。

 

「待ってください、元々は私たちのせいで……」

「皐月さんはボクたちの恩人です! 皆さんとボクたちを引き合わせてくれた運命の女神様なんです!」

「だからそんな大声で言いふらさないでくださいぃぃ!」

 

 しかし、愛美と橙季が皐月に対する恩義の言葉を重ねるにつれてますます他の四人に好奇の目で見られてしまうのであった。

 

「えっと、立ち上がったついでにボクたちも自己紹介しますね! ボクは藍沢 愛美(あいざわ まなみ)、中学2年生の14歳! 使うデッキは【トリックスター】です、宜しくお願いします!」

「愛美ちゃんと同じく、皐月さんにお世話になる二宮 橙季(にのみや ゆずき)です。中学1年生の13歳です。あの、ゆずきって名前は橙色に季節の季と書きます。使うデッキは【サイバース族】です。その、宜しくお願いします」

「二人とも宜しく。皐月一人で大変かもしれないけど、私たちもサポートするから。ところで二宮さん、その腕に抱えているのは……」

「えっと、これは……」

 

 遊希に指摘され、橙季はずっと抱えていたものを皆に見せるように出した。隠すように抱えていたリンクリボーのぬいぐるみを見た遊希と皐月、愛美と橙季以外の全員が目をキラキラと輝かせてそれを覗き込んだ。

 

「それはリンクリボーよね?」

「はい。私サイバース族が好きで、このぬいぐるみは母に作ってもらったんです」

「……よくできているな。作った人は相当の技術を持っていると言っていいだろう」

「まあサイバース族デッキを使うんだもんね! リンクリボーが好きでも悪いことじゃないわ!」

 

 理解が良くて助かった、とほっと胸を撫で下ろす皐月と愛美。仮に年頃の少女にしては変わった好みを持っていたとしても、橙季自身に罪があるわけではないのだから。

 

「えっと、次はうちでええんやな? うちは浅黄 華(あさぎ はな)。中学1年生の13歳で使うデッキは【HERO】や。ここに来たのは紫音と同じでデュエルの腕を磨きたかったからや。でもって目の前に座る千春さんにお世話になりますー。よろしく頼むで!」

「なるほど、ちびっ子コンビね」

「いやいやいや、うちはまだ千春さんと違って成長期やから」

「ちょっと! 私だってまだ伸びるんだけど!!」

「女の子は小学校から中学校にかけて背が伸びるそうですね。それこそその時期は男の子よりも大きくなる子もいるそうですし」

 

 先ほどからかわれた仕返し、とばかりに理論的なデータを千春に突き付ける皐月。「毎日牛乳飲んでるんだからね!」と返すも誰からも相手にされていなかったのは言うまでもない。

 

「まあ千春さんはちっちゃいし、今後背が伸びる気はせえへんけど」

「ちょっ……!」

「この人、器はとっても大きいんやで。なんせうちと他の参加者の間を取り持ってくれたんやから。ホンマアカンわな、うち熱入ると周りが見えなくなるところがあって……」

 

 華のその話を聞いて遊希、鈴、皐月の三人がクスクスと笑い出す。三人は春の入学式の日のことを思い出していた。あの時は入学式直後の懇親会、として催されたパーティーなのだが、真偽が定かではない噂を口走った翔一ら三人の男子生徒に千春が食って掛かり、あわや入学式初日から謹慎もあり得た事態になりかけたのだから。

 

「千春も成長したのね……あたしは嬉しいわ」

「そうですね、入学式当日に男子生徒の方に飛び掛かった千春さんが……」

「あの頃の血の気の多い千春がもう見れなくなるのは寂しいわね」

「ちょっ……!!」

「えっ、それどういうことなん? なんか面白そうなんで後で話聞かせてや!」

「華、あんた調子に乗るんじゃないわよ!!」

 

 喧嘩しながらも何とか全員の自己紹介が終わった。紫音を待っていたこともあってか、だいぶ時間が経ってしまっていた。腹が減っては戦は出来ぬ、というだけあってまずは昼食をみんなで作って食べることにした。同じ釜の飯を食うことで仲間意識を育てようという狙いであった。しかし、立ち上がろうとした遊希の肩を鈴が後ろから抑え込む。

 

「鈴、どういうつもりかしら? 私は今からみんなと昼食を作らなければいけないんだけど」

「そうね、じゃあ早速みんなで作り始めましょう。千春、皐月。指揮をお願い。あたしは遊希と大事な、だーいじな話があるから」

「……みんなに任せているだけじゃダメだと思うんだけど」

「いいから。あたしたちはあっちの部屋で大事なお話をしなきゃいけないから。出てくるまで誰も覗いちゃダ・メ・だ・よ?」

 

 鈴のなんともいえない笑みに全員がハイ、と返事をする。今の彼女に関わるととんでもないことになる、と生物の本能がそう告げていた。

 

「あっ、ちょっとみんな助けて……」

「はいはい、こっちに行きましょうねー。遊希おねぇちゃん?」

(光子竜、なんとかして!)

―――なんともならんな。しかし、お前に小児性愛の気があったとは……

(違うわよ!!)

 

 光子竜にも自業自得と見放された遊希は鈴に引きずられて隣の部屋へと連れ込まれていく。彼女に待っていたのは未来と遊んでいたにも関わらず鈴を詰問したことに対するきつい反撃であった。遊希と鈴が別の部屋に行った後、何事もなかったかのように千春たちが昼食を作る準備を始める中、未来を除く四人が顔を見合わせ、この自己紹介の時に感じた率直な感想を華が漏らした。

 

「あのな……うち思ったんやけど」

「何かな?」

「この人たち経歴や実力こそ凄いけど、結構なポンコツ揃いやな」

 

・元プロの娘だけど、加減ができず女子中学生四人を泣かす。そしてそれを黙っていて怒られる。

・みんなの憧れである伝説のデュエリストだけど、小さな女の子と遊んでばかりでやるべきことをし忘れて復讐される。

・喧嘩を止めに入るなど世話焼きだが、過去に自分も似たようなことをして罰を受けている。

・決意すると凄い行動力を発揮するけど、普段は引っ込み思案で恥ずかしがり屋。

・一国を代表するプロデュエリストだけど、組む相手が見つからなくて花を眺めて現実逃避。

 

「そうみたいですね……意外と言うかなんと言うか……」

「でも、そんな人たちだからこそ面白いというか、親しみやすいと思います」

「ボクもそう思う!」

「3日間、楽しくなりそうやな。互いに頑張ろーな!!」

 

 1つのロッジに揃ったのは生まれも育ちもデュエルスタイルも違う十一人の少女。彼女たちの夏が今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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心中燃える決闘者

 

 

 

 

 

 

「戻ったよー、あたしも手伝うね」

 

 遊希を連れて別室に消えた鈴が戻ってきたのは意外と早く、30分経つか経たないかというタイミングだった。本当はもっと長く責めてやりたかったのだが、さすがに飽きてしまったため、早めに切り上げることにした。それでも正座させて言葉責めにした甲斐もあってか、足が痺れて一歩たりとも動けなくなった遊希の足を踏んづけ、悶絶する様子を見て鈴は満足したようだった。

 

「あっ、鈴! ちょうどよかった。野菜を切るのを手伝って! 人数分切るの大変なのよ」

「鈴さぁん……ぐすっ」

 

 ピーラーで器用にジャガイモの皮を剥く千春の横では玉ねぎ相手に苦戦する皐月の姿があった。玉ねぎを切ろうとすると涙が出る、というのは玉ねぎに含まれたガスが発生し、人間の目や鼻の粘膜を刺激するためである。

 玉ねぎを調理する際に水に浸しながら切る、などといった対処法はあるものの、まさかここまで辛いと思っていなかった皐月は何も対策をせずに調理を始めてしまったのだ。

 

「ったく、代わって皐月。玉ねぎは私がやるから」

「はい……ありぎゃとうごじゃいます……」

 

 備え付けのティッシュで涙を拭いた皐月はニンジンの皮むきに移る。野菜の皮むきや調理に夢中になってキッチンはしばらく無言になる。三人はすっかり気心の知れた仲なので、この沈黙は苦痛にはなり得ない。ただ、そうなるとそうなるで沈黙が何処か寂しくなった千春がここにいない遊希のことに気付く。

 

「そういや遊希は? ずっと一緒だったんでしょ?」

「あっちで倒れてる。痺れた足を思いっきり踏んづけてやったからね」

「だからさっきから悲鳴が……」

 

 そう言ってニヤリと笑う鈴の顔はやはりかなりの邪気を纏っている感じだった。実際問題彼女自身もかなり根に持つタイプらしいが。

 

「しかし、遊希にあんな性癖があったとはね。今のうちに何とかしておかないと後々地下送りに……」

「もう、大概にしなさいよあんたたち」

 

 遊希に対してあることないことを言いふらす鈴に対し、千春はまるで姉妹喧嘩を適当にあしらう母親のように返す。ちなみにこの場にいないエヴァと参加者の面々は食事用テーブルの掃除や食器並べなどの作業を担当していた。それでも未来が手足をぷるぷると震わせながら皿を運ぼうとするなどしたため、最年長のヴェートが未来の面倒を見ているという。

 

「ねえねえ、カレーの味付けどうする?」

「小さな子もいますし、甘口でいいのではないでしょうか……?」

「一応甘口・中辛・辛口、と三種類のルーは揃っているわね。まあ甘口が無難よね」

「じゃあ切った野菜と肉を鍋に入れて茹でるわよ! 茹で上がるまでにルーを出しておきましょう。えーと、十一人分だから……1箱で四人前のルーだとだいたい2.5箱分ね」

「千春さんは本当に手際が良いですね……羨ましいです」

「まあお母さんの手伝いをよくやってたからね。何事も慣れよ」

「そうよね、誰だって最初は下手くそだけど経験を積んで上手くなる。デュエルも一緒だね」

 

 何故料理をデュエルに例えるのか、と思われるがこのイベントに参加している小中学生はほとんどが初心者である。初心者といってもルールがわからない完全なる初心者からデュエルの経験が少ない初心者までその幅はとても広い。

 しかし、それだけ幅広い初心者といっても全員に共通していることがある。それこそ「デュエルの経験が少ない」ということだ。今ここにいる誰もが最初はデュエルが弱かった。遊希やエヴァのように元々才能があった少女であっても、鈴や千春、皐月のように才能よりも努力でのし上がってきた少女であっても、デュエルと試行錯誤を重ねることで成長してきた。

 そしてそれらの成長は経験を積むことで初めてもたらされるものなのだ。遊希たちはデュエルの技術もそうだが、実践を通してパートナーの育成に繋げなければならなかった。

 

「あたしたちも頑張ろう? 自分たちが学んできたことを出来る限りあの子たちに教えてあげるんだから」

「そうね!」

「このイベントに参加したことをいい思い出にしてもらいたいですね」

 

 鈴たちが決意を新たにした時、足の痺れが取れた遊希がふらふらとキッチンに姿を現した。鈴は遊希の顔を見るや否やふん、と不機嫌そうに一瞥する。

 

「あら、戻ってくるのがだいぶ早いわねロリ宮さん」

「誰がロリよ。この国に存在しない苗字を勝手に作らないで」

「ほらほら喧嘩なら外でやりなさいよー」

 

 目には見えないが、バチバチと火花が散るのがわかる。こんなところでまで喧嘩されてはたまらない、と感じた千春はすぐに二人に釘を刺す。

 

「喧嘩じゃないし。本音をぶつけ合ってるだけだし」

「そうよ。私を未来ちゃんに取られた鈴が嫉妬してるだけなんじゃないかしら?」

「あはは……」

 

 喧嘩するほど仲がいい、という事例を実際に目の当たりにした皐月は苦笑い。するとあとはカレーのルーを入れるだけとなったため、千春が最後の仕上げを担当することとなり、遊希たちは居間でカレーが完成するまで待機することになった。

 居間では掃除を終えたエヴァがテーブルの上にカードを広げていた。やはり彼女もデュエリスト。頭の中は四六時中カードのことばかりである。

 

「あれ、他のみんなは?」

「紫音、華、愛美、橙季の四人は2階で自分たちの荷物を整理している。未来とヴェートはあっちで絵本を読んでいるぞ」

「絵本? ここってそんなものまで備え付けられてるの?」

 

 このロッジ村の管理人は老夫婦であるのだが、元々一部のロッジを家族向けに貸し出していた時期もあったという。親子連れ、取り分け幼い子供を連れて利用する家族が多く、そんな子供を対象とした絵本を設置した名残でまだ数冊残っているという。絵本の種類は新旧広く取り揃えられており、遊希たちの世代が子供の時に読んだことのあるものが多く見つかりそれを懐かしむ。

 

 

『はらぺこプチモス』……《プチモス》が葉っぱを食べ続けて《究極完全態グレート・モス》になるまでの過程を描いた仕掛け絵本

『ないたバーバリアン1号』……人と仲良くなりたい《バーバリアン1号》。そんな彼のために友達の《バーバリアン2号》があることをするという考えさせられる絵本

『ドリとラゴ』……2体の《ドリラゴ》のドリとラゴの日常を描いた絵本

『100万回召喚された金華猫』……デュエルで召喚され続ける《金華猫》を描いた哲学的な絵本

『ごんきつね火』……悪戯好きの《きつね火》「ごん」はある日村に住む若者の取った魚を盗んでしまう。小学校の教材にも用いられている物語。

『ゴブリンと白き霊龍』……金持ちのゴブリンの営む工場に現れた《白き霊龍》。ゴブリンはそんな白き霊龍を騙して働かせることに。

『スーホのサンダー・ユニコーン』……とある騎馬民族デュエリストが出会ったのは雷を宿した馬だった。こちらもごんきつね火同様に小学校の国語の教科書に載っていることが多い絵本。

『おおあらしのよるに』……全てを吹き飛ばす大嵐の夜に出会った2体のモンスターの友情を描く人気シリーズの絵本。

 

 

「さすが十一人宿泊できるロッジだけあるわね」

「それだけアカデミアも力を入れているということですね。もっと私たちも頑張らないと……」

「そう言えばこのロッジの間取りを確認していなかったな。いざという時の避難経路も確認しておく必要があるな」

「そういうことが起こらないように気を付けますが、念には念を入れておきたいですね。私も一緒に行きます」

 

 そう言って皐月とエヴァは2階へと上がっていった。2階には紫音たちの寝泊まりする部屋があるため、指導をする者として間取りを見ておきたいのだとか。やはり根が真面目な皐月のその姿勢には学ばされるものが多いと遊希と鈴は感じた。そんな中、広いリビングに二人きりになった遊希と鈴は互いに何も言わずソファに座る。

 二人は初めは互いに別の方向を向いていたが、しばらくして鈴の右手に遊希の左手が触れるのを感じた。鈴は少し驚いたが、特に声に出すことは無かった。その直後に遊希が口を開く。

 

「……あの」

「うん?」

「さっきは……ごめんなさい。必要以上に詰ってしまって」

「ああ……別にいいわよ。あたしが悪いんだから」

「でもあの時……ちゃんと話してくれてたら、あんなに怒らなかったわ。私だって……その場にいたらあなたと同じようなことしてたかもしれないし。でも、紫音を守るためとはいえ、私たちを信じて正直に話してほしかった」

 

 遊希の中には鈴が正直に事の経緯を話してくれなかったことに対するもどかしさもあった。もし全てを洗いざらい話してくれていれば、何かしら力になることができたかもしれない。親友でありルームメイトである自分を頼って欲しかったのだ。

 

「……こんなところにまで来て問題を起こして……パパの足引っ張ってばかりだよね、あたし」

「竜司さんはそんな風に思っていないわ。だからもっと自分を大事にしてね」

 

 遊希と鈴は互いに顔を合わせることなく、別の方を向いたまま喋っていた。しかし、顔を合わせずとも遊希の声色から彼女が悲しんでいることはわかった。

 

「……遊希」

「何?」

「その……これからは、気を付けるよ。だから笑って。さっきも言ったでしょ? あんたには怒った顔も悲しい顔も似合わない。笑った顔が一番魅力的なんだから。だから笑顔でいて」

「……なによそれ? 口説き文句?」

「へへっ、どうかな?」

 

 すると、キッチンから千春の遊希たちを呼ぶ声が聞こえた。カレーができ上がったため、盛り付けを頼みたいとのことである。遊希と鈴はキッチンへと向かい、降りてきた皐月とエヴァは2階の参加者たちに昼食ができた旨を伝えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何これ、超美味しいやん!」

 

 千春の作ったカレーを口に入れた華が率直な感想を述べる。所詮市販のものなので、本格的なカレー屋で出すものには到底及ばないのだが、料理の腕には自信のある千春である。用意された食材で自分のできる限り拘ったカレーを作り上げた。

 

「そう言ってもらえると作った私も嬉しいわ! もしなんだったら料理のコツを教えてあげてもいいのよ!」

「じゃあ夜にでも教わろうかなぁ……ボク、そんなに料理上手くないんだ」

「わ、私も教えて貰っていいですか?」

 

 カレーの味が気に入ったのは華だけではなく、紫音や愛美は千春に弟子入りを志願するほどであった。

 

「これで背が高かったら」

「これで胸が大きかったら」

「これでもう少しお淑やかでしたら……」

「そういえば冷蔵庫の中さっき覗いたら何に使うか分からなかったハバネロのソースがあったのよねー。せっかくだし遊希たちのカレーにそれ入れてあげよっかなぁー?」

「「「冗談です。あなたは女子力の塊です千春様」」」

「わかればいいのよ。わかれば」

 

 甘口で子供にも食べやすいカレーを口に運びながら、和気藹々と食事は進む。すると、そんな中話は自然とデュエルの話に移る。やはり同年代のデュエリストたちが集まっているため、誰が一番強いかということは気になるようだった。

 

「そんなんウチに決まっとるやん!」

「いや、ボクだと思うよ? だってボククラスで一番強いもん! 橙季ちゃんもそう思うよね?」

「えっ? えっと……まあライフ4000であんなデッキを使ったら強いと思うよ?」

 

 バーンダメージだけでライフを全て削り取られた橙季から愛美とのデュエルの内容を聞いた紫音と華は思わず真顔になる。ドローカードの運があったとはいえ、トリックスター・リンカーネーションとチェーンバーンのコンボを決められてしまえばしばらく立ち直れないくらいのショックを受けるというものだ。

 

「うわぁ……」

「えげつなっ!」

「へへっ、ボクにとっては褒め言葉だよ! けっきょくボクのデッキがつよくてすごいってことでいいかな?」

「……あの、愛美さん?」

 

 匙を投げた紫音と華のリアクションを受けて鼻高々といった様子の愛美。だが、デュエリストにとって避けるべきことの一つに慢心があり、その慢心が時にデュエリストの能力を下げてしまうことがある。それを気に留めたのが他でもない皐月であった。

 

「皐月さん?」

「この世界に最強のデッキは存在しないと思います。百戦百勝のデュエリストは存在しないのと同じように……」

「うー……じゃあ皐月さん、お昼食べ終わったらボクとデュエルしませんか? ボクのデッキは皆さん相手でも負けていませんから!」

「わかりました。そのデュエルお受けします」

 

 やがて昼食を食べ終わり、皆で自分が食べた分の食器を洗うと20分ほど食休みを挟んで全員がロッジの裏庭に出た。ロッジの中で実際にデュエルディスクを使ってデュエルをするのはさすがスペース的には厳しい。そのため湖を眺めながらデュエルのできるこの裏庭でデュエルをすることになった。ただ、このデュエルは勝ち負けではない。あくまで愛美が皐月を相手にしてどのくらいデュエルができるのか、というものを判断するためにするものであった。

 

「それじゃあデュエルを始めるけど、先攻後攻はどうする?」

「できれば先攻がいいですけど、普段皆さんがやっている決め方でやっていいですよ!」

「わかりました。ではディスクに内蔵しているコンピューターで決めますね」

 

 コンピューターによって決められた先攻後攻の決定権は皐月に与えられた。皐月は最初はどうしようか、と迷った様子であったが結果的に先攻を選択した。

 

(先攻取られちゃったか……まあ、皐月さんの【ヴァレット】は初動がそんなに早くないし、ボクのデッキなら後攻でも十分削り切れるから大丈夫!)

「それでは参ります!」

「お願いします!」

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:皐月【ヴァレット】

後攻:愛美【トリックスター】

 

 

皐月 LP4000 手札5枚

デッキ:39 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

愛美 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(皐月)

 

「では私の先攻で行きますね。私は手札から魔法カード《サイバネット・マイニング》を発動します」

 

《サイバネット・マイニング》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札を1枚墓地へ送って発動できる。デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「えっ、サイバネット・マイニング? ヴァレットって闇属性・ドラゴン族のテーマだよね?」

「手札1枚をコストに発動します。デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加えます。チェーンはありますか?」

「うーん……ありません」

 

 チェーンの有無はともかく、灰流うららのようなサーチ妨害のカードは愛美の手札にはなかったためこれを止めることはできない。チェーンが無いのを確認すると、サイバネット・マイニングの効果が適用される。

 

「サイバネット・マイニングを通しちゃったかー……」

「通しちゃったわねー」

「このデュエル、結果が見えてしまったな」

 

 そしてそれを見た鈴、千春、エヴァの三人は総じて皐月の勝利を確信した。

 

「なんでや! まだデュエルは始まったばかりやろ!」

「たった1枚のカードでデュエルが決まるとは思えませんが……」

「ねえあなたたち。今まで過ごしてみて皐月にどんな印象を抱いているのかしら?」

 

 遊希のその質問を受けて参加者たちからは「優しそう」「大人しそう」「理知的」といった如何にも皐月らしい用語が飛び交う。確かに皐月はそのいずれにも当てはまる、今時珍しいタイプの少女だ。だが、皐月と深い付き合いである遊希たち四人はそれ以外の印象を彼女に抱いている。

 

「確かに皐月は誰にでも優しくて、誰にでも丁寧に接する。とってもいい子よ。でもね……デッキが上手く回った時、私たちの中で一番えげつないデュエルをするのは彼女なのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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自重を忘れた決闘者

 

 

 

 

「私がサイバネット・マイニングの効果でサーチするのはレベル3・サイバース族の《ドラコネット》です。そしてサイバネット・マイニングの発動コストとして墓地へ送られた《アブソルーター・ドラゴン》の効果を発動します」

 

《アブソルーター・ドラゴン》

効果モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2800

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「ヴァレット」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「ヴァレット」モンスター1体を手札に加える。

 

「デッキから《ヴァレット・トレーサー》を手札に加えます。そしてドラコネットを召喚」

 

《ドラコネット》

効果モンスター

星3/闇属性/サイバース族/攻1400/守1200

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

「ドラコネットの効果を発動します。手札またはデッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚します。この効果にチェーンはありますか?」

「うーん、ないですね!」

「あ、終わった」

「終わったわね。灰流うららはともかくエフェクト・ヴェーラーや無限泡影すらないとなると……」

「なると?」

「ソリティアが始まる。まあ見ていろ、このターンは長いぞ」

 

 ソリティア、とはカードゲームにおいて片方が一人遊びのようにプレイを行い続けることの総称を指している。デュエルモンスターズにおいてもよく見られる光景であり、それを止めるためにデュエリストは手札誘発のカードを数多く搭載している。

 

「ドラコネットの効果でデッキからレベル2・通常モンスターのチューナーモンスター《守護竜ユスティア》を守備表示で特殊召喚します」

 

《守護竜ユスティア》

チューナー・通常モンスター

星2/水属性/ドラゴン族/攻0/守2100

星鍵は流れぬ涙を流し、天命は果たされる。神の門は嘶き崩れ、蛇は守人の夢幻を喰らう。其の魂は始まりの地に、彼の魂は終極の地に。――此処に神獄たる星は闢かれん。

 

「そしてレベル3のドラコネットに、レベル2のチューナーモンスター、守護竜ユスティアをチューニング。“竜の命をその身に宿した神子よ。星の力を以て全てを繋ぎとめよ!”シンクロ召喚! シンクロチューナー《星杯の神子イヴ》!」

 

《星杯の神子イヴ》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星5/水属性/魔法使い族/攻1800/守2100

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードをS召喚する場合、自分フィールドの「星杯」通常モンスター1体をチューナーとして扱う事ができる。このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「星遺物」カード1枚を手札に加える。

(2):S召喚したこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「星杯の神子イヴ」以外の「星杯」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「S召喚に成功したイヴの効果を発動します。デッキから星遺物カード1枚を手札に加えます。デッキから《星遺物の守護竜》を手札に加えます。さて、星遺物の守護竜を発動したいところですが……まずはこちらから行きます。私は墓地の闇属性モンスター、ドラコネットをゲームから除外し、手札の《輝白竜 ワイバースター》を特殊召喚します」

 

《輝白竜 ワイバースター》

特殊召喚・効果モンスター

星4/光属性/ドラゴン族/攻1700/守1800

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から闇属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。この方法による「輝白竜 ワイバースター」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「暗黒竜 コラプサーペント」1体を手札に加える。

 

「そしてチューナーモンスターであるイヴとワイバースターをリンクマーカーにセット。召喚条件はチューナーモンスターを含むモンスター2体。サーキットコンバイン! 水晶機巧-ハリファイバーをリンク召喚します。そしてリンク召喚に成功したハリファイバー、および墓地へ送られたイヴとワイバースターの効果を発動します」

 

チェーン3(皐月):輝白竜 ワイバースター

チェーン2(皐月):水晶機巧-ハリファイバー

チェーン1(皐月):星杯の神子イヴ

 

「チェーン3のワイバースターの効果でデッキから《暗黒竜 コラプサーペント》を手札に加えます。チェーン2のハリファイバーの効果でレベル3以下のチューナーモンスター《ヴァレット・シンクロン》を特殊召喚。そしてチェーン1のイヴの効果で《星杯の守護竜》を特殊召喚します」

 

《ヴァレット・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/ドラゴン族/攻0/守0

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル5以上のドラゴン族・闇属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

《星杯の守護竜》

効果モンスター

星1/風属性/ドラゴン族/攻400/守400

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのリンク状態のモンスターを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の通常モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに守備表示で特殊召喚する。

 

「そして星杯の守護竜をリンクマーカーにセット。召喚条件はレベル4以下のドラゴン族モンスター1体。サーキットコンバイン! リンク召喚! 全てを撃ち出してください!《ストライカー・ドラゴン》!」

 

《ストライカー・ドラゴン》

リンク・効果モンスター

リンク1/闇属性/ドラゴン族/攻1000

【リンクマーカー:左】

レベル4以下のドラゴン族モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「リボルブート・セクター」1枚を手札に加える。

(2):自分フィールドの表側表示モンスター1体と自分の墓地の「ヴァレット」モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを手札に加える。

 

「リンク召喚に成功したストライカー・ドラゴンの効果を発動します。デッキからリボルブート・セクター1枚を手札に加えます。そして光属性のワイバースターをゲームから除外し、暗黒竜 コラプサーペントを特殊召喚します」

 

《暗黒竜 コラプサーペント》

特殊召喚・効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1700

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。この方法による「暗黒竜 コラプサーペント」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「輝白竜 ワイバースター」1体を手札に加える。

 

「そしてハリファイバー、ストライカー・ドラゴン、ヴァレット・シンクロン、コラプサーペントをリンクマーカーにセット。召喚条件はカード名が異なるモンスター2体以上、サーキットコンバイン! リンク召喚!《鎖龍蛇-スカルデット》!」

 

《鎖龍蛇-スカルデット》

リンク・効果モンスター

リンク4/地属性/ドラゴン族/攻2800

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

カード名が異なるモンスター2体以上

(1):このカードは、このカードのリンク素材としたモンスターの数によって以下の効果を得る。

●2体以上:このカードのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動する。そのモンスターの攻撃力・守備力は300アップする。

●3体以上:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。手札からモンスター1体を特殊召喚する。

●4体:このカードがリンク召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから4枚ドローし、その後手札を3枚選んで好きな順番でデッキの下に戻す。

 

「4体のモンスターを素材にリンク召喚に成功したスカルデットの効果、そして墓地へ送られたコラプサーペントの効果を発動します」

 

チェーン2(皐月):暗黒竜 コラプサーペント

チェーン1(皐月):鎖龍蛇-スカルデット

 

「チェーン2のコラプサーペントで2枚目のワイバースターを、チェーン1のスカルデットの効果でデッキから4枚ドローし、手札3枚を選んで好きな順番でデッキの下に戻します」

 

 スカルデットをリンク召喚する前の皐月の手札は5枚。よってこのドローで手札は一時的とはいえ9枚となり、3枚戻したとしても6枚と元々の手札にさらに1枚手札を増やすことになる。

 

「スカルデットの効果を発動します。発動する効果は3体以上を素材にした時に得る手札からモンスター1体を特殊召喚する効果です。私は《エクリプス・ワイバーン》を特殊召喚します」

 

《エクリプス・ワイバーン》

効果モンスター

星4/光属性/ドラゴン族/攻1600/守1000

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。デッキから光属性または闇属性のドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体を除外する。

(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。このカードの(1)の効果で除外されているモンスターを手札に加える。

 

「そしてエクリプス・ワイバーンをリンクマーカーにセット。召喚条件はレベル4以下のドラゴン族モンスター1体。サーキットコンバイン! 現れなさい!《守護竜エルピィ》!」

 

《守護竜エルピィ》

リンク・効果モンスター

リンク1/闇属性/ドラゴン族/攻1000

【リンクマーカー:左】

レベル4以下のドラゴン族モンスター1体

自分は「守護竜エルピィ」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、その(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

(2):自分メインフェイズに発動できる。2体以上のリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに、手札・デッキからドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「リンク先にモンスターが召喚・特殊召喚されたスカルデットの効果、そして墓地へ送られたエクリプス・ワイバーンの効果を発動します」

 

チェーン2(皐月):鎖龍蛇-スカルデット

チェーン1(皐月):エクリプス・ワイバーン

 

「チェーン2のスカルデットの効果、スカルデッドのリンク先である右下のメインモンスターゾーンにリンク召喚されたエルピィの攻撃力は300アップ。そしてチェーン1のエクリプス・ワイバーンの効果でデッキからレベル7以上の光または闇属性のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外します。私は闇属性・レベル8・ドラゴン族の混源龍レヴィオニアをゲームから除外しますね」

 

守護竜エルピィ ATK1000→ATK1300

 

「墓地の星杯の守護竜の効果を発動。このカードをゲームから除外し、墓地のドラゴン族通常モンスター1体をリンクモンスターのリンク先に特殊召喚します。守護竜ユスティアをスカルデットのリンク先にリンク召喚。ユスティアの攻守は300ずつアップします」

 

守護竜ユスティア ATK0/DEF2100→ATK300/DEF2400

 

「そしてユスティアをリンクマーカーにセット。召喚条件はレベル4以下のドラゴン族モンスター1体。サーキットコンバイン! 現れなさい!《守護竜ピスティ》!」

 

《守護竜ピスティ》

リンク・効果モンスター

リンク1/闇属性/ドラゴン族/攻1000

【リンクマーカー:右】

レベル4以下のドラゴン族モンスター1体

自分は「守護竜ピスティ」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、その(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

(2):自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、ドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを、2体以上のリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。

 

「ピスティがリンク召喚されたのはスカルデットの左下のモンスターゾーン。よってピスティもスカルデットの効果で攻撃力が300アップします」

 

守護竜ピスティ ATK1000→ATK1300

 

「守護竜リンクモンスターの効果は……2体以上のモンスターのリンク先にドラゴン族を特殊召喚する効果……」

「そうですね。今エルピィとピスティはそれぞれスカルデットの右下と左下に存在しているため、その間のモンスターゾーンを挟んでいる形になります。よって効果を発動可能です。エルピィの効果を発動。2体以上のリンクモンスターのリンク先にデッキまたは手札からドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します。特殊召喚するのは……《嵐征竜-テンペスト》です」

 

《嵐征竜-テンペスト》

効果モンスター(制限カード)

星7/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200

このカード名の(1)~(4)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):手札からこのカードと風属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加える。

(2):ドラゴン族か風属性のモンスターを自分の手札・墓地から2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。

(3):このカードが特殊召喚されている場合、相手エンドフェイズに発動する。このカードを手札に戻す。

(4):このカードが除外された場合に発動できる。デッキからドラゴン族・風属性モンスター1体を手札に加える。

 

「エルピィとピスティに挟まれたメインモンスターゾーンはスカルデットのリンク先でもあります。よってテンペストの攻撃力・守備力は300アップ」

 

嵐征竜-テンペスト ATK2400/DEF2200→ATK2700/DEF2500

 

「そしてスカルデットとテンペストをリンクマーカーにセット。召喚条件はドラゴン族モンスター2体。サーキットコンバイン! リンク召喚! 目覚めなさい!《守護竜アガーペイン》!」

 

《守護竜アガーペイン》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/ドラゴン族/攻1500

【リンクマーカー:上/下】

ドラゴン族モンスター2体

自分は「守護竜アガーペイン」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、その(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

(2):自分メインフェイズに発動できる。2体以上のリンクモンスターのリンク先となるEXモンスターゾーンまたは自分フィールドに、EXデッキからドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「アガーペインを反対側、右側のEXゾーンにリンク召喚します。ピスティの効果を発動。墓地のヴァレット・シンクロンをこのカードのリンク先に特殊召喚。そして墓地のテンペストの効果を発動します。墓地のエクリプス・ワイバーンとアブソルーター・ドラゴンをゲームから除外し、このカードを墓地から特殊召喚します。除外されたエクリプス・ワイバーンの効果で、このカードの効果で除外されていたレヴィオニアを手札に加えます。私はレベル7の嵐征竜-テンペストに、レベル1のヴァレット・シンクロンをチューニング!“獰猛なる牙を秘めし白竜よ。なき同胞の力を纏い、世界を撃ち抜け!”シンクロ召喚! 起動せよ!《ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン》!」

 

《ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地からリンクモンスター1体を選び、装備カード扱いとしてこのカードに装備し、そのリンクマーカーの数だけこのカードにヴァレルカウンターを置く。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分アップする。

(3):相手の効果が発動した時、このカードのヴァレルカウンターを1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にする。

 

「S召喚に成功したヴァレルロード・S・ドラゴンの効果を発動します。私の墓地のリンクモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備し、そしてそのリンクマーカーの数だけこのカードにヴァレルカウンターを置きます。そしてS・ドラゴンの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分アップします。装備するのはスカルデット。よってカウンターは4つ置かれます」

 

ヴァレルロード・S・ドラゴン(+鎖龍蛇-スカルデット)ヴァレルカウンター:4 ATK3000→ATK4400

 

「攻撃力4400のヴァレルロード・S・ドラゴン!?」

「このモンスターだけでも十分ですが、まだ続きますよ? アガーペインの効果を発動します! 2体以上のリンク先になっているメインモンスターゾーンにEXデッキからドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します。私がEXデッキから特殊召喚するのは融合モンスター《竜魔人 キングドラグーン》です」

 

《竜魔人 キングドラグーン》

融合・効果モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守1100

「ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-」+「神竜 ラグナロク」

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手はドラゴン族モンスターを魔法・罠・モンスターの効果の対象にする事はできない。

1ターンに1度だけ、手札からドラゴン族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

「キングドラグーン? もっと強いモンスターがいるんじゃ……」

「確かにキングドラグーン自体は過去のカードですが、このカードならではの効果があります。キングドラグーンの効果、1ターンに1度、手札からドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します。私は《マテリアルドラゴン》を特殊召喚します」

「なーんだ、マテリアルドラゴンかぁ……マテリアルドラゴンっ!?」

 

《マテリアルドラゴン》

効果モンスター

星6/光属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、ライフポイントにダメージを与える効果は、ライフポイントを回復する効果になる。

また、「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、手札を1枚墓地へ送る事でその発動を無効にし破壊する。

 

「マテリアルドラゴンはライフポイントにダメージを与える効果は、ライフポイントを回復する効果になります」

「バーンを回復に、じゃあボクのトリックスターの効果は……」

「全て回復になります。リンカーネーションの手札を除外する効果は適用されてしまいますが、これであなたはバーンを封じられました」

 

 【トリックスター】の弱点はそもそも相手に先攻を取られること、そしてマテリアルドラゴンのようなバーンを無効化される効果を持ったカードの存在だ。これらの対策を立てなければ、バーンダメージだけで勝つことは難しい。愛美は「自分のデッキが最強」と言い張っていたが、皐月は敢えて普段使っていないキングドラグーンやマテリアルドラゴンといったカードを採用することで愛美に欠けていたものに気付いてほしかったのだ。

 

「ねえ……皐月はあたしのこと悪く言えないと思うんだけど」

「まあ今は、ね?」

「そもそも誘発を引けていればあんなに回らないけどね」

(アカン、この人たちやっぱレベルが違うわ)

 

 華が内心で遊希たちのレベルに慄く一方で、皐月のデュエルはまだまだ続いていく。

 

「私は守護竜リンクモンスター3体をリンクマーカーにセット。召喚条件は効果モンスター3体以上、サーキットコンバイン! ヴァレルロード・ドラゴンをリンク召喚します! 更に墓地の闇属性モンスター3体、アガーペイン、エルピィ、ピスティを除外して手札からレヴィオニアを特殊召喚します。闇属性3体を除外して特殊召喚に成功したレヴィオニアの効果で愛美さんの手札をランダムに1枚選んでデッキに……」

「あ、あの……」

「はい?」

「さ、サレンダーで……お願いします」

「ええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 



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六人六色な決闘者

 

 

 

 

 愛美は自分のデッキの上に手を置いた。このゲームにおいて、その行動はサレンダーと称されており、それはひとえに降参を意味する。もちろんサレンダーが成立するのは愛美から見て相手、つまり皐月がそれを認めなければいけない。

 皐月はまだ1ターン目なのに、とちょっぴりふくれっ面をしてみせるが、愛美の手札は2体のヴァレルモンスターに強固な耐性を与えるキングドラグーン、バーンダメージを無効化するマテリアルドラゴン、攻撃力3000のレヴィオニアの盤面を覆せるものではなかった。そして何よりそれを見かねた遊希たちが止めに入ったのも大きかった。

 

「おバカ! やりすぎよ!」

「そうよ! あたしが紫音相手にウイルスコンボ決めたのが可愛く思えるレベルよ!」

「ひぃん……ごめんなさい」

(どっちも可愛くないと思うがな……)

「取り敢えず、愛美に一言謝っておきましょう?」

 

 遊希に諭されて愛美の下へと歩み寄る皐月。愛美は下を向いて俯いたままだった。

 

「あの、藍沢さん……」

「……」

「あのですね、ちょっとやりすぎてしまったかもしれませんが……私としては無敵のデッキなんてないということをお教えしたくて……」

「すっごーい!」

「ふぇっ!?」

 

 顔を上げた愛美は目をキラキラと輝かせていた。あれだけ酷い負け方をした後とは思えないリアクションに皐月は思わず後ずさりをする。

 

「あんなデュエルができるなんて、さすが皐月さんだね! ボクもあんなデュエルができるデュエリストになってみたいよ!」

「そ、そうですか……」

「でもそれにはますますレベルアップする必要があるみたいですね! ボク、頑張ります!」

「は、はい。一緒に頑張りましょうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、3じになったらみんなでおやつをたべたいでしゅ……」

 

 未来のその要望を受けて3時からはおやつの時間と決まったため、今から2時間ほどそれぞれ別れて個別指導という形になった。皆ロッジのあちこちで自分が受け持つ参加者たちの指導にあたる。鈴は紫音をロッジのベランダにあたる箇所で屋外に設置されている椅子に座りながら彼女のデッキを確認する。

 

「なるほど……あたし【ブラック・マジシャン】デッキを使ったことはないけど、デッキはしっかりと練られているみたいね」

 

 鈴が見る限り、結衣のデッキに不備はなかった。エースモンスターであるブラック・マジシャンはもちろん、それをサポートできるカードは問題なく入っている。もちろん使ったことがない以上このデッキについては素人ではあるが、それでも気付いたことを素直に言ってみることにした。

 

「ブラック・マジシャンは効果を持たない通常モンスターだけど、サポートカードが豊富なのが売りだと思うんだよね。それこそデッキにはブラック・マジシャンを除けば、モンスターは幻想の見習い魔導師やマジシャンズ・ロッドしか入れないってケースも多いくらい」

「そうですか……」

「でも、ブラック・マジシャンのサポートカードだけ入れればいいってわけでもないと思うよ。例えば……相手の妨害を回避するためのカードとか入ってるといいかもね」

「わかりました、妨害用のカードとなるとどのようなカードがいいと思いますか?」

「さっきのあたしとのデュエル……キーはどこにあったと思う?」

 

 そう言われて紫音は先程の鈴とのデュエルを思い出す。全てが狂いだしたのはもちろん本来の【青眼】にはまず入らないであろうあのカードだ。

 

「闇のデッキ破壊ウイルス……」

「そう。あれは罠カードだからそれを止められるカードを入れるとかね。《レッド・リブート》とかどう?」

 

 レッド・リブートはライフを半分支払うことで手札から発動できるカウンター罠カードだ。相手の罠カードの発動を無効にし、それをセットさせる効果を持っている。また、このカードを発動したターン相手は罠カードを発動することができなくなる。罠カードを主戦力とする【オルタ―ガイスト】などに比較的有効なカードであった。

 

「なるほど……ですが、それを引き入れられなかった時は……」

「引けてなかったんなら、引いちゃえばいい。増殖するGとかでね」

 

 紫音は鈴から聞いたアドバイスを忘れないようにメモ帳に記入する。彼女はやはりその性格上、勉強熱心なようだった。しかし、しかし、問題は別のところにあることを鈴は気づいていた。

 

「まあ、デッキの内容はぶっちゃけどうでもいいんだけどね」

「どうでもいい、とは……」

「さっき紫音は自分で自分の弱点を言っていたじゃん。想定外の事態に弱くてパニックになってしまう、って。どれだけデッキの完成度が高くても、その域に達していないデュエリストが使ってしまえばただの紙束になっちゃうんだよね。あたしもまだ青眼を使いこなせてるとは思ってないしさ。だから、紫音がそのデッキを使いこなすためには、紫音自身が強くならなきゃいけないんだよ」

「……私自身が」

「そう。まあいきなり強くなれ、なんて言えないし無理だからさ。ここは、場数を踏んでいこ! 実践あるのみ、よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちの理想は、リンクモンスターである【X・HERO】も搦めてE、D、MのHEROを総並べして勝つことなんや!」

 

 様々なタイプの【HERO】を共存させるデッキの華は、自分のデュエルの理想を熱く千春相手に語る。勝つことも当然大事ではあるが、自分の考えたコンセプト通りにデッキを動かすこともまたデュエルの醍醐味の一つと思っていいだろう。

 

「あ、それわかるわ! 私もサイバー・ドラゴンが絡むモンスターをいっぱい並べたいって思ってるもの!」

「せやろ、せやろ! でも実現するのはともかく、並べてもなーんかひと押し足りへん気がするんねんな……ほら、HEROって全体的に打点低いやん?」

「確かにそうよね。《E・HERO オネスティ・ネオス》である程度は補うことはできるけど。あ、じゃああのカードは入れないの? 最近強化された……」

「……それって【E-HERO】のことやろ?」

 

 華の言うE-HERO(イービル・ヒーロー)とは、HEROの名を持ちながらEの文字がEvil(悪)を指すまさに悪のヒーローとも呼ぶべきモンスターである。HEROの名を持つため、HEROサポートカードの恩恵を受けることはできるが、種族が戦士族ではなく悪魔族であったりと色々と毛色の違うテーマであった。

 

「悪いけど、それはパスや。うちはE-HEROはHEROとして認めへん」

「なんでよ?」

「HEROは正義であるべきなんや。ほら、正義の象徴たる虎の野球チームに悪の象徴である兎の野球チームの選手入れたら違和感バリバリやん? それと同じや」

「何よその例え」

 

 例え話の意味はよくわからないが、どのような形であっても華には華のこだわりというものがあるのだろう。ならばそれを尊重するのもまた先輩としての役割だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……愛美さんのデッキですが、トリックスターのバーンダメージを更に強化したもののようです」

 

 皐月もまた愛美と橙季のデッキを確認していた。愛美のデッキは【トリックスター】だけあってバーンを重ねて相手にダメージを与え、トリックスター・リンカーネーションのハンデスで勝つことを意識したデッキとなっていた。必要なカードを早めに揃えることができれば、先ほどの橙季とのデュエルの時のように相手に何もさせずに勝つことだって可能なポテンシャルを秘めている。

 

「へへっ、褒められちゃった。さすがボク」

「しかし、そのデッキにも欠点はあります」

「さっきの皐月さんとのデュエルですね」

「はい。相手が先攻を取り、1ターン目に先程の私のようにバーンダメージ対策のカードを引き当ててターンを愛美さんに回します。そうなれば愛美さんのデッキはほぼ手詰まりと言っていいでしょう」

「確かに……」

 

 アカデミアでのデュエルや今回のイベントでは基本シングル制のデュエルだが、大会ではマッチ制を取り入れているところもたくさん存在する。その場合、1戦目で相手のデッキを見極め、2戦目以降でサイドデッキに入れてあるこのカードを入れて来ることが予想される。そうなった場合の対処カードを入れておかなければ愛美に勝ち目はまずないだろう。そう言った駆け引きの巧さもまたデュエリストには求められるスキルなのだ。

 

「そうだなぁ……じゃあいっそデッキ変えちゃったりした方がいいかな?」

「ええ……そ、そんなところで思い切りの良さを発揮しないでくださいね。えっと、次は橙季さんのデッキですが、サイバース族が好きとだけあってサイバース族のオンパレードですね」

 

 心はリンクリボーの人形を肌身離さず持つなど【サイバース族】がお気に入りなのは見て取れるが、彼女のEXデッキには《デコード・トーカー》のような【コード・トーカー】の名を持つリンクモンスターが数多く投入されていた。

 

「サイバース族は新進気鋭の種族とだけあってサポートカードは多く作られていますが……さすがにリンク召喚に特化され過ぎている印象を受けます。幻創竜ファンタズメイなどのカードで相手にアドバンテージを稼がれる可能性は高いですね」

「では、私のデッキはどうすれば……」

「もう少しEXデッキのモンスターの幅を広げてみましょうか。幸い勝ち筋は見えていますから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で皐月と同じくヴェートのデッキを見たエヴァは悩んでいた。ヴェートのデッキであるが、今回一緒にチームを組んだメンバーの中で最年長だけあってデッキの構築自体は問題ない。

 

(デッキはよくできている。だが、彼女が一生懸命考えて作ったデッキに赤の他人である私が手を加えていいのだろうか……)

 

 しかし、より高みを目指すには捨てなければならないものも存在する。それがデッキを組む時に作ったコンセプトだ。彼女のデッキは【ウォリアー】Sモンスターが多く、ジャンク・ウォリアーをはじめとしたSモンスターで戦うということが見て取れる。しかし、そのコンセプト通りのデュエルをしていればやがて限界は来るだろう。壁にぶち当たった時、改めてヴェートは選択を迫られるのだ。

 

「エヴァさん? どうしたんですか?」

「……いや、なんでもないぞ」

「もしかしたら私のデッキに問題があるんですか?」

「そ、そんなことはないぞ! すごく出来のいいデッキだ!」

―――エヴァ、そのギャグはつまんない。

(ギャグだと? 私は真剣だぞ!)

「……エヴァさん」

 

 ヴェートは無理やり笑顔を繕うエヴァのおでこをツンと突く。エヴァは奇妙な声を上げて驚いた。

 

「エヴァさんは優しいんですね。こんな私のことを気遣ってくれて……」

「ヴェート……私は酷いデュエリストだ。デュエリストの想いが込められているデッキにメスを入れようと思ってしまった」

「ですがエヴァさんは指導する立場なんですよ? もし私に至らない点があったら言ってください。エヴァさんの言葉には力がありますし、私はエヴァさんを信じていますから」

「……すまない、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、まずは基本からおさらいするわね? デッキは最低40枚、最大60枚のカードで作られる。そして1枚も入れられない禁止カード、1枚しか入れられない制限カード、2枚までしか入れられない準制限カードがあるの。それ以外のカードなら3枚まで入れられるわ。ここまでで、何かわからないところはある?」

「……いまは、うん。だいじょうぶでしゅ」

 

 遊希と未来の組はまだ自分のデッキを持っていない未来のために遊希が一からデッキの組み方を教えていた。時折表現の難解さや言葉の拙さを光子竜から指摘されつつも、根が真面目な未来は遊希の言ったことを一生懸命メモしていた。

 

「取り敢えず、未来ちゃんは40枚でデッキを組んでみましょうか」

「あの、どうして40まいなの? 60まいあったほうがいろんなカードさんをいれられるからいいとおもいましゅ」

「いい質問ね。これは……確率の問題になっちゃうからまだわからないかもしれないけど、デッキの枚数が多いことがいいとは限らないのよ」

 

 遊希はそう言って、自分の持ってきたカードを例に挙げて説明を始める。言葉よりも見ながらやってみた方がわかりやすそう、というのもあった。

 

「この《隣の芝刈り》っていうカードを入れる時とか【ライトロード】や【インフェルノイド】デッキを使う時は枚数が多くてもいいけど、数が多くなっちゃうと欲しいカードが引けない可能性が高くなってしまうの。1枚しか入れられないカードを40枚と60枚のデッキに入れた場合、60枚だと数が多いからそのカードを引けないデュエルが終わっちゃうの」

「そうなんだ……」

「あと数が多いと多いでデッキの内容がわからなくなっちゃうかもしれないしね。未来ちゃんはどんなデッキを組んでみたいか、っていう目標はあるかしら?」

―――さすがにまだわからないのではないか?

「難しい? 簡単でいいわよ?」

「えっと……このカードさんをつかいたいでしゅ! パパとママがかってくれたの!」

 

 そう言って未来は数枚のカードを遊希に見せる。初めて出会った時からその身なりから比較的裕福な家庭の生まれであると思われた未来の家はやはり経済力があるようで、彼女の両親はデュエルがやりたい、といった娘のために数枚のカードをプレゼントしたのだった。

 

「このカードは……未来ちゃんのお父さんとお母さんが未来ちゃんのことを大事に思っていることがよく伝わってくるわ。わかった、じゃあこのカードを上手く活かせるようなデッキを作りましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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希望を宿した決闘者

 

 

 

「鈴、おやつの前にお願いしたいことがあるんだけどいいかしら」

 

 午後3時まであと30分ほどとなった頃、遊希が未来を連れて鈴のところへやってきた。鈴は実践トレーニングと称して紫音とデュエルを繰り返しており、一戦一戦を通して彼女に何が足りていないのかを見つけていく方式を取っていた。

 

「あら、どうしたの遊希?」

「実は未来ちゃんのデッキが完成したんだけど」

「はやっ!?」

 

 未来はデッキも完成していなければ、ルールもはっきりと理解できていないなど(年齢を考えると仕方ないことなのだが)スタートラインにすら立てていない状態だった。それをわずか1時間程度でデュエルができる状態にまで上げてくるのだからそこは遊希の力量ということなのだろう。

 

「が、が、が、がんばりましゅ……」

 

 最も当の未来は緊張を隠しきれていないようだったが。

 

「未来ちゃん、緊張する必要はないわ。初めてのデュエルはリラックスして臨みましょう?」

「は、はい!」

「それで、聞いたところによると鈴と紫音は実戦経験を積むようにしているようね。だったら未来ちゃんの相手を紫音に任せたいんだけど……」

「あたしは別にいいけど、紫音はどうする?」

「……未来さんとのデュエルであっても、私にとっては新しい発見になるはずです。そのデュエル、お受けします」

 

 未来と紫音のデュエルが組まれたことを聞いた他のメンバーがぞろぞろと集まってくる。しかし、公平な立ち位置とは言えども人間とは弱い方に肩入れをする、所謂判官びいきをする生き物だ。

 そのため、まだデュエリストとしては生まれたての未来を応援する声が大きくなり、自然と紫音はアウェーに立たされていた。最もこれも鈴の狙いであり、応援が少なかったとしてもどれだけ自分のデュエルが貫けるかを鍛えるためのものであった。

 

「そうね……華、愛美。未来ちゃんのサポートを頼めるかしら。あなたたちも教える側に立ってみてわかることがあると思うわ」

「ボクたちでですね、わかりました!」

「よっしゃ! ウチらがしっかりサポートしたるさかい、大船に乗ったつもりでいてや!」

「華おねえちゃん、愛美おねえちゃん。よろしくおねがいしましゅ」

 

 もちろんどのカードを召喚したり、どの魔法・罠をどのタイミングで発動するかなどを決めるのは未来だ。華と愛美はドローフェイズからエンドフェイズまでの流れやチェーンがしっかりと組めているかなどを見る役を務めることになる。

 

「さて、未来さんが相手でも私は手を抜きません。全力で行かせてもらいますよ」

「おねがいしましゅ! わたしもほんきでいきましゅ!」

 

 噛み噛みながらもしっかりと力のこもった眼で紫音を見つめる未来。デュエリストに年齢は関係ない。例え幼くても、デッキを組み、デュエルディスクを手にしたその瞬間から一人のデュエリストとして戦場に立つ。今この瞬間、一人の幼い少女は間違いなくデュエリストとなっていた。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:未来【???】

後攻:紫音【ブラック・マジシャン】

 

 

未来 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:5(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(未来)

 

「えっと、わたしのターンでしゅ!」

「未来ちゃん、先攻はドローできへんから気を付けるんやで?」

「ドローフェイズからスタンバイフェイズを通して、メインフェイズ1に移行する。未来ちゃんはこのメインフェイズ1でモンスターを召喚できるんだよ」

「わかりみゃした……えっと、スタンバイフェイズからメインフェイズ1でしゅね。えっと、えっと……」

 

 初手5枚の手札をじっと見つめてどのカードから出すべきかを熟考する未来。その様はデュエルの相手である紫音も愛らしいと思ってしまうほどであった。

 

(可愛いですね……でも、私も手加減するわけにはいきません)

「えっと、このモンスターさんをしょうかんしましゅ! えっと、ガガガガガ……」

「未来ちゃん、ガが2個多いで」

「そうでした……えっと《ガガガシスター》ちゃんをしょうかーん!」

 

 噛み噛みになりながらも、未来が召喚したのは小さな魔法使いの姿をした女の子のようなモンスターだった。

 

《ガガガシスター》

効果モンスター

星2/闇属性/魔法使い族/攻200/守800

このカードが召喚に成功した時、デッキから「ガガガ」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。また、このカード以外の自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターとこのカードは、エンドフェイズ時までそれぞれのレベルを合計したレベルになる。「ガガガシスター」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「ガガガシスターは召喚に成功した時に発動できる効果があるね。じゃあ使ってみようか?」

「はい! ガガガシスターさんのこうかをはつどうしましゅ! わたしのデッキからガガガっていう魔法・罠カードさん1まいをてふだにくわえましゅ! デッキからえーと……えーと……《ガガガリベンジ》をてふだにくわえるね!」

「オッケー、そのカードでいいよ!」

「でも墓地にガガガモンスターはおらへんで?」

「まあすぐに使う必要はないしね。次のターン以降でいいんじゃない?」

「それもそうやな。さあ、未来ちゃん! いてこましたれ!」

「うん! えっと、わたしのフィールドに、ガガガモンスターがいるから、このモンスターさんはてふだからとくちゅしょうかんできます! おねがい、《ガガガキッド》くん!」

 

《ガガガキッド》

効果モンスター

星2/闇属性/魔法使い族/攻800/守1200

自分フィールド上に「ガガガキッド」以外の「ガガガ」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚に成功した時、自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスター1体を選択し、このカードのレベルを選択したモンスターと同じレベルにする事ができる。この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

 

「えっと、ガガガシスターちゃんのこうかをはつどうします! ガガガシスターちゃんとガガガキッドくんのレベルをたしざんします!」

「ガガガシスターとガガガキッドのレベルは同じ2や!」

「だから、2+2で4になるよ!」

 

ガガガシスター 星2→星4

ガガガキッド 星2→星4

 

「レベル4のモンスターが2体……X召喚ですね」

「レベル4になった、ガガガシスターちゃんと、ガガガキッドくんでおーばーれい!」

 

 ガガガシスターとガガガキッドはまるで未来と同年代の少年少女のように、にっこりと微笑みながらオーバーレイユニットとなって天空に昇っていく。2つの小さなモンスターの魂によって生まれたのは光の中から現れる白き希望の名を持った戦士。

 

「2たいのモンスターさんで、おーばーれいねっとわーくをこうちく! えくしーずしょうかん! えっと……“みんなをまもるやさしいちから!”」

 

 

 

 

 

―――おねがいしましゅ! 《No.39 希望皇ホープ》さん!!

 

 

 

 

 

《No.39 希望皇ホープ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000

レベル4モンスター×2

(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。

(2):このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードを破壊する。

 

「No.!? まさか、そんなレアカードを……」

 

 数あるXモンスターの中で【No.】の名前を持つモンスターは比較的稀少性の高いモンスターが多い。それこそ遊希のように実績のあるデュエリストもしくは裕福な者しか持っていないカードだ。未来の家は比較的裕福な家庭というのもあるが、目に入れても痛くない娘が「デュエルをやりたい」と言い出したことが嬉しかった両親は「希望」という言葉をその名に含むホープをプレゼントすることで、未来に「希望を持って育ってほしい」という思いを込めていたのだ。

 

(よし、X召喚はちゃんとこなせているわね)

―――まるで昔のお前みたいだな?

(あら、私はもっとハキハキとやっていたわよ?)

―――どうだが。しかし、ホープ1体でしのぎ切れるだろうか?

(……難しいかもしれないわね。でも、今はまずお父さんとお母さんから貰った大事なカードをデュエルで使うことができたことを喜ぶべきだと思うわ)

 

 遊希はまるで娘を見るような眼で未来を見ていた。その眼には単に可愛らしい未来を愛でること以外の理由も込められていた。

 

「えっと、わたしはカード1まいをセットして……ターンエンドです!」

 

 

未来 LP4000 手札3枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.39 希望皇ホープ ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:0 除外:0 EXデッキ:4(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

未来

 □□伏□□

 □□□□□□

  □ 希

□□□□□□

 □□□□□

紫音

 

●凡例

希・・・No.39 希望皇ホープ

 

 

☆TURN02(紫音)

 

(希望皇ホープはオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、モンスターの攻撃を無効にできる。恐らく私の攻撃を凌いで次のターンの反転攻勢に繋げたいのでしょう。未来さんがそう考えているかはわかりませんが……ですが、攻撃を止めるだけで勝てるほどデュエルは簡単なものじゃありません)

「私のターン、ドロー! 私はマジシャンズ・ロッドを召喚します!」

 

《マジシャンズ・ロッド》

効果モンスター

星3/闇属性/魔法使い族/攻1600/守100

「マジシャンズ・ロッド」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。「ブラック・マジシャン」のカード名が記された魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。

(2):このカードが墓地に存在する状態で、自分が相手ターンに魔法・罠カードの効果を発動した場合、自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースして発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

「召喚に成功したマジシャンズ・ロッドの効果を発動します。デッキからブラック・マジシャンのカード名が記された魔法・罠カード1枚を手札に加えます。チェーンはありますか?」

「ちぇ、ちぇーん? えっと……ないです」

「わかりました、では効果を処理します。マジシャンズ・ロッドの効果で私は黒の魔導陣を手札に加えます。そして永続魔法、黒の魔導陣を発動します」

 

《黒の魔導陣》

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカードを3枚確認する。その中に「ブラック・マジシャン」のカード名が記された魔法・罠カードまたは「ブラック・マジシャン」があった場合、その1枚を相手に見せて手札に加える事ができる。残りのカードは好きな順番でデッキの上に戻す。

(2):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が召喚・特殊召喚された場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

 

「黒の魔導陣の発動時の効果処理として、私はデッキの上からカードを3枚確認します。そしてその中にブラック・マジシャンのカード名が記された魔法・罠カードまたはブラック・マジシャンがあった場合、その1枚を相手に見せることで手札に加えることができます。私が手札に加えるのは罠カードの《マジシャンズ・ナビゲート》。そして私はカードを2枚セットして、ターンエンドです」

 

 

未来 LP4000 手札3枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.39 希望皇ホープ ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:0 除外:0 EXデッキ:4(0)

紫音 LP4000 手札4枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(マジシャンズ・ロッド)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(黒の魔導陣)墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

未来

 □□伏□□

 □□□□□□

  □ 希

□□□マ□□

 □伏黒伏□

紫音

 

●凡例

マ・・・マジシャンズ・ロッド

黒・・・黒の魔導陣

 

 

☆TURN03(未来)

 

「わ、わたしのたーんです!」

「未来ちゃん、このターンから未来ちゃんもドローできるよ」

「は、はい! えっと、どろー!」

「よし、こっからは未来ちゃんが自分でどのカードを使うか決めてみよか!」

「ふぇっ!?」

 

 獅子は我が子を千尋の谷へと叩き落とす―――などということはなく、ライオンは子供が谷底に落ちた場合ちゃんと助けに行くのだが、未来の成長を願った華と愛美は敢えて未来にプレイングを任せることにした。

 

「不安かな?」

「……だいじょうぶでしゅ! がんばりましゅ! わたしはてふだから魔法カード《ホープ・バスター》をはつどうしましゅ!」

 

《ホープ・バスター》

通常魔法

自分フィールド上に「希望皇ホープ」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。相手フィールド上の攻撃力が一番低いモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

「えっと、わたしのフィールドに希望皇ホープさんがいるとき、あいてのこうげきりょくがいちばんひくいモンスターさんをはかいします!」

「私のフィールドには攻撃力1600のマジシャンズ・ロッドしかいません。そしてマジシャンズ・ロッドの攻撃力分のバーンダメージを私に与えるんですね。ですが、それは私のフィールドにモンスターがいなければ成立しません。ホープ・バスターにチェーンしてリバースカードを発動します。マジシャンズ・ロッドをリリースして速攻魔法《イリュージョン・マジック》を発動します」

 

《イリュージョン・マジック》

速攻魔法

「イリュージョン・マジック」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースして発動できる。自分のデッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を2枚まで選んで手札に加える。

 

チェーン2(紫音):イリュージョン・マジック

チェーン1(未来):ホープ・バスター

 

「チェーン2のイリュージョン・マジックの効果でデッキからブラック・マジシャン2体を手札に加えます」

「え、えっと……」

「チェーン1のホープ・バスターはマジシャンズ・ロッドがいなくなったから不発やな」

「あうう、でもこれで紫音おねえちゃんのモンスターさんはいなくなりました! バトルで―――」

「メインフェイズ1の終了時にもう1枚のリバースカードを発動します。罠カード、マジシャンズ・ナビゲート!」

 

《マジシャンズ・ナビゲート》

通常罠

(1):手札から「ブラック・マジシャン」1体を特殊召喚する。その後、デッキからレベル7以下の魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合、墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「マジシャンズ・ナビゲートの効果で手札からブラック・マジシャン1体を特殊召喚します。来てください、ブラック・マジシャン!」

 

《ブラック・マジシャン》

通常モンスター

星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100

魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

 

「更にデッキからもレベル7以下の魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚します。3体目のブラック・マジシャンを特殊召喚します。そしてブラック・マジシャンが特殊召喚されたことで黒の魔導陣の効果が発動します!」

「黒の魔導陣のこうか……?」

「ブラック・マジシャンが特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスター1体をゲームから除外します。未来さんには悪いですが、ホープには消えてもらいます!」

 

 ブラック・マジシャンから放たれた闇の魔術によって、異次元へとホープは消えてしまった。自身の効果で比較的戦闘に強いホープであるが、効果に対する耐性がないのが弱点であった。

 

「あうう、ホープさん……バトルフェイズにはいったけど、モンスターさんがいないよぉ」

「攻撃できないのでバトルフェイズは無意味ですね」

「えっと、メインフェイズ2にうつりまちゅ。わたしはモンスターさんをセットして、ターンエンドでしゅ」

 

 

未来 LP4000 手札2枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:3 除外:1 EXデッキ:4(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(ブラック・マジシャン×2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒の魔導陣)墓地:3 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

未来

 □□伏□□

 □□□伏□□

  □ □

□□ブブ□□

 □□黒□□

紫音

 

 

●凡例

ブ・・・ブラック・マジシャン

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三時のおやつな決闘者

 

 

 

☆TURN04(紫音)

 

「私のターン、ドローです。私は手札からマジシャンズ・ロッドを召喚。効果を発動し、ブラック・マジシャンのカード名がテキストに記された永続罠《永遠の魂》を手札に加えます。そしてバトルです! マジシャンズ・ロッドでセットモンスターに攻撃!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600 VS ガガガマジシャン DEF1000

 

 マジシャンズ・ロッドの放った魔法攻撃によって、未来のセットモンスターである《ガガガマジシャン》が破壊される。これで未来を守るモンスターは無くなり、紫音のフィールドには攻撃力2500のブラック・マジシャンが2体存在している。

 

「あうう……」

「未来さん、悪く思わないで下さいね。これがデュエルですから。ブラック・マジシャン2体でダイレクトアタック!“ブラック・マジック”!」

 

ブラック・マジシャン×2 ATK2500×2

 

未来 LP4000→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あうう……まけちゃった」

「ごめんね、ボクたちがついていながら」

「ううん、華おねえちゃんも愛美おねえちゃんもいろいろおしえてくれてありがとね。わたしうれしかったよ?」

(あー、これはアカン。この可愛さはワールドクラスやん)

 

 そう言って首を小さく傾ける歩美を見て、華と愛美の心臓が「キュン」と音を立てる。ただ、デュエルに負けてしまってもなお、それを前向きに捉えることができる時点で未来にはデュエリストの素質があることが伺える。

 

―――お前の見る目は間違っていなかったようだな?

(ええ。自分で言うのもなんだけど、私があの年齢の頃は負けた後あんなに明るく振る舞えなかったわよ?)

―――お前は負けた後大泣きしてたからな。

(うっさい。さて、ここからは鈴の出番よ)

 

 ただ、遊希にとっては未来のことよりも紫音の方が気になっていた。確かに勝つことができたとはいえ、未来はまだまだデッキを組んだばかりの初心者であり、紫音のような経験者からしてみれば「勝てて当たり前」なのである。勝てて当たり前の試合に関しては敗者は学ぶことが多くても、勝った者が得るものを見つけ出すのは難しいのだ。

 

(そこに関しては鈴がどれだけ気づかせてあげられるか、ね。さてと……)

 

 遊希は未来を華や愛美たちに任せると、デュエル後の反省会を行っている様子の鈴と紫音のところへと歩いていく。遊希の思った通り、紫音はこのデュエルに満足していないようであった。一方で鈴はそんなデュエルであっても勝てたこと自体を喜ぼうと紫音を諭していた。

 

「どんな形であれ勝ったことは事実だし、次に未来ちゃんとデュエルする時は少なからず未来ちゃんも意識すると思うよ?」

「そうかもしれませんけど……」

「それに未来ちゃんについているのはあの遊希だしね。明日もしデュエルする機会があったら、びっくりするほど強くなってるかもしれないしね」

「そうですか……わかりました」

 

 ぺこりと頭を下げて紫音は鈴のもとを去っていった。自分一人で落ち着ける場所で考えることで冷静に振り返ろうとするのだろう。やり方はそれぞれ違えども、皆が皆それぞれのやり方で強くなろうという気持ちに満ち溢れていた。

 

「鈴」

「遊希! デュエルお疲れ様、未来ちゃんすっごいね!」

「……正直私もすぐX召喚に繋げられるとは思っていなかったわ。しかも単純にレベル4を2体並べるんじゃなくてレベルの違うモンスターを効果を使ってランク4のX召喚に繋げるんだから驚いたわ」

「またまた謙遜しちゃって。遊希の指導の賜物ってやつでしょ?」

「……それもそうかもしれないわね♪」

「さすが遊希。さっきはごめんね、その……ロリコン扱いしちゃって」

「……」

「遊希……っ!?」

「鈴、あなたを侮辱罪と名誉毀損罪で訴えるわ。理由はもちろんわかっているわよね?あんたが私をロリコン扱いして私のあることないことを言いふらしたからよ? 懺悔の用意をしておきなさい。近い内に訴えるから。裁判も起こすから。裁判所にも問答無用で来てもらうから。慰謝料の準備もしておいてちょうだい。あんたは犯罪者だから。少年院にぶち込まれる楽しみにしておきなさい。いいわね?」

 

 西日をバックによくわからないことを言い放つ遊希。戸惑う鈴であるが、そんな二人を千春とエヴァは冷めた目で見ていた。

 

「なーにやってんだかあの二人は……」

「おい、そろそろおやつの時間だぞ。おやつのメニューは予てからの希望通りホットケーキでいいか?」

「はい、材料はキッチンにあったのでそれを使いましょうね」

(遊希さん、そのネタは微妙に旬を過ぎています。ですが、そういうスラングを実際に使うシチュエーションを作り出すところ、私はあなたに敬意を表するッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3時はおやつの時間。10代の少女たちにとっては決して譲れない時間であると言ってもいい。最もおやつを食べたい、と言い出した未来は10代ですらないのだが。

 

「あ、あの……いいだしたのはわたしだからわたしがみんなのぶんのホットケーキをつくりりたいでしゅ」

 

 未来のその言葉を受けて、料理に一家言ある千春と華、そして未来を指導している遊希の四人でホットケーキ作りをすることとなった。

 

「じゃあ必要な材料を確認するわね。薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、卵、牛乳にサラダ油が必要よ。まずは薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖をボウルに入れて混ぜるわよ!」

 

 千春の指示を受けて三人はホットケーキを作り始めた。華は元々料理に自信があるのか、手際よく千春の指示を受けて生地を仕上げていく。一方で未来はまだ小さいため料理自体したことはないようだが、遊希が的確にアドバイスを送ることで無難にこなしていく、といった様子だった。

 

「千春さん、言われた通りボウルに入れた卵と牛乳を混ぜたで。次はどうすればいいんや?」

「じゃあ最初に混ぜたものと今混ぜた牛乳卵の2つをさらに混ぜて。泡立て機を使って粉っぽさが無くなるまで混ぜるのよ!」

「よっしゃ、いくでー!」

「うう、うまくまざらないよぉ……」

「大丈夫よ未来ちゃん。私が付いてるから」

「遊希おねえちゃん……うん、わたし、がんばる!」

 

 フライパンで焼こうにも、さすがにコンロが足りないため、備品としてあったホットプレートにも生地を流し込んで焼き上げる。キッチンには瞬く間にホットケーキの甘い香りが充満し、それがリビングの方にも流れていく。

 

「うん、良い香りだな」

「もうできてるのー?」

 

 ホットケーキとメイプルシロップの香りに釣られてやってきたエヴァと愛美に千春は焼きあがった分をリビングまで持っていくように言った。いつの間にかウエイトレスとなった二人によってどんどん運ばれていく。

 

「うーん、全員の分を待っていると冷めてしまうな。私たちはまだ後でいいから皆は先に食べているといい」

「えっ、いいんですか?」

「皆さん頭を使って疲れているでしょうからね」

「休憩の後もまだまだデュエルの練習をするから、甘いものでリフレッシュしておいてねー」

 

 一見優しい言葉のように聞こえるが、それは鈴たちによる厳しい修行の予告でもあった。鈴は自分自身がそうやって強くなったこともあってか、実戦を通して問題点や課題点を見つけ、それを修正した上でさらに実戦を重ねるといういわゆるスパルタ的な指導であった。

 それこそ幼い未来や国や文化の違いがあるヴェートではついてこれなかったかもしれないが、紫音は何分鈴に対して借りがあったため、そんな彼女の指導に必死に食らいついていた。

 

「わかりました、では先に頂きましょう。ヴェートさん、橙季さん。今二皿ありますがどうしますか?」

「でしたら私は後でいいですよ? 私なんて何事もエヴァさんに任せきりでしたから」

 

 ヴェートはそう言って二皿のホットケーキを紫音と橙季に譲った。彼女の言う通り、エヴァによるデッキ改造の提案を飲んだ彼女はエヴァとともに運営本部へと向かい、足りないカードを調達していたのである。

 参加者のデッキ改造ということも考えて竜司たちはショップや購買から多くのカードを取り寄せ、それを無料で提供していた。しかし、エヴァはカードこそ受け取ったものの、実際に改造するとなるとまた話は変わる。結局、計画を立てるだけに留まり、実際にデッキ改造には至っていなかったのである。

 

「鈴さん、せっかくですから私たちも手伝いませんか? さすがに全員分のホットケーキを四人で作るというのは酷な気がします」

「……それもそうね。キッチンにスペースがあったら手伝おっか」

 

 待つだけでは幾分暇だったのか、キッチンを覗く鈴と皐月。すると次々と出来上がっていくホットケーキを運ぶように千春に言いつけられた。さすがに六人も入れるほどロッジのキッチンは広くはないということか。

 

「ところで鈴さん、鈴さんは随分紫音さんとデュエルをされていたようですが」

 

 ホットケーキを一緒に運びながら皐月がそう尋ねてきた。皐月は実戦よりも座学の方が得意なタイプである。アカデミアで学んだ4か月、ならびにアカデミア入学まで独学で学んできた知識を元に愛美と橙季のデッキや戦法に助言を加えるやり方を取っていた。

 

「さすがにスパルタだったかな? でも紫音はもっと実戦を経験しなきゃといけないと思うわ」

「と言いますと?」

「あの子は自分でも言っていたけど、済ました顔をしているつもりで動揺がすぐ顔に出ちゃうの。知識はあるし、デッキの完成度は高いけど、不測の事態に対処できなければあのまま上に行くのは難しいと思うんだよね」

「なるほど……ですが、その弱点を克服できれば……」

「最低でも私たちと肩を並べられる存在になれる。あたしはそう思ってるよ」

「そうですか……! では私も負けないように頑張らないと」

 

 やり方や価値観は正反対と言える鈴と皐月であるが、根底に流れるものは変わらない。二人は自分のやり方が本当に正しいのか、という疑問を少なからず抱いていたがこの瞬間、その疑問はシャボン玉のようにふわふわと浮かんで消えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 最後に未来が食べ終わっておやつタイムは終了した。ホットケーキを作っていたため、食べ始めるが遅かった遊希と未来、千春と華以外のメンバーは先に片づけて練習の続きに移っていた。

 

「皿洗いはどうすればええんや? ウチやったらちゃちゃっとやってまうで?」

「いや、みんな自分の分は自分でやってくれたから私たちは自分たちの分を洗うだけで大丈夫よ」

「じゃあそれならすぐ練習に戻れるな、デュエル♪ デュエル♪」

 

 鼻歌を歌いながら自分の分の食器をキッチンへと運んでいく華。とにかくデュエルがしたい千春に最初は辟易していたが、そんな彼女の毒気にあてられたのか元々その素質があったのか。華もすっかりデュエルがしたくてたまらないようだった。

 

「あ、あの遊希おねえちゃん」

「どうしたの? 未来ちゃん」

「ホットケーキつくりではずっと未来おねえちゃんにてつだってもらってばっかりだったから……おさらあらいは私がやりましゅ」

「……いいの? 一人でできる?」

「できましゅ!」

 

 相変わらずカミカミの未来であったが、その表情があまりにも真剣だったため遊希は未来に食器の運搬と食器洗いを任せることにした。

 

「本当に大丈夫なの?」

「……何が?」

「未来ちゃんよ。見たところ家事に慣れていないようだから……」

「可愛い子には旅をさせよ、っていうでしょ? 大丈夫よ。あの子はお皿を割ったりとかはしないわ」

 

 遊希がそう言った瞬間である。ロッジ中に「パリーン!」という割れた音が響いたのは。

 

「あっ……」

「千春さーん! 未来ちゃんお皿割ってもうたでー!」

「遊希、箒とちり取り! 華、未来ちゃんにはお皿に触れないように言っといて!!」

「わかった、任せとき!」

―――……おい、物凄い早さでフラグを回収したぞ。

(でもお皿落としてあたふたする様、可愛いと思わないかしら?)

―――駄目だこいつ、早く何とかしないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロッジの中でそんな騒ぎが起こっているのを知ってか知らずか、ロッジの外では先に戻った鈴と紫音、皐月と愛美・橙季、エヴァとヴェートは変わらずデュエルおよびデッキ改造を行っていた。

 

「運営本部から足りない分のカードは頂いてきました。このカードでデッキを改造しましょう」

「わかりました。あの、皐月さん……」

 

 何かを決意したかのような表情の橙季は自分の正直な気持ちを伝える。ホットケーキを食べながら彼女はずっと自分のデッキのことについて考えていたのだ。

 

「どうしましたか、橙季さん?」

「実は……私も使いたいカードがあったんです」

「えっ? そんなカードがあったんですか? だったら早めに教えて頂ければ……」

「今の私に使いこなせるか不安だったので……このカードなんですが」

 

 橙季の言うカードを見た皐月は目を丸くして驚いた。そのカードはとても強いカードだったのだが、使いこなすのはおろか実際にデュエルで使うのにも高い難易度を誇る上級者向けのカードだったのだ。

 

「こんなカードを持っていたんですね……ですが、橙季さんのデッキでなら上手く活かせるカードです。わかりました、ではこのカードを使えるようにデッキを作り変えてみましょうね」

「はい……あの、宜しくお願いします!」

「ねえねえ、皐月さーん! ボクのデッキはー!」

「愛美さんのデッキは完成度が高いので、これらのカードをサイドデッキなり予備カードとして持っておくのが良いでしょうね」

 

 そう言って皐月が凛に差し出したのは数種類のモンスターであった。

 

「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》と《ヴォルカニック・クィーン》……それに【壊獣】? これって相手にモンスターを渡しちゃうカードじゃ……」

「確かにラヴァ・ゴーレムとヴォルカニック・クィーン、そして壊獣は相手フィールドに特殊召喚されるモンスターですね。特に前者は攻撃力3000もあります」

「それだと敵に塩を送ることになっちゃうんじゃ……」

「ですが、これらのモンスターには共通点があります。それは相手フィールドのモンスターをリリースして特殊召喚できるモンスターです。愛美さんのデッキは【トリックスター】カードによってバーンダメージを与えるデッキです。そんなデッキの弱点と言えば?」

「あっ、さっきのデュエル!」

「はい。私のマテリアルドラゴンやヴァレルロード・S・ドラゴンのようなモンスターもリリースしてしまえばいいんです。リリースしてしまえば効果を止められることもバーンダメージをライフ回復に利用されることもありませんからね」

 

 それ以外にも皐月が例に挙げたのは《ダーク・シムルグ》のような相手のセットを封じるカード。《魔封じの芳香》とのコンボが著名な【アロマダムルグ】のような相手であってもリリースという形で対応できるのだ。

 

「なるほど、これならライトステージとマンジュシカ、リンカーネーションのコンボが際立つんですね! ボクのデッキを益々強化することができます!」

「まあメインから入れるカードでもないので、サイドデッキに入れるくらいで留めておきましょう。さて、デッキ改造の目途も立ちましたし、これからは実際にデッキを回してやっていきましょう」

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 




全員のデッキが明らかになったので、ここでまとめておきます。

赤崎 未来【ガガガ】および【希望皇ホープ】
青山 紫音【ブラック・マジシャン】
浅黄 華【HERO】
ヴェート・オルレアン【ジャンクドッペル】および【ウォリアー】
二宮 橙季【サイバース族】
藍沢 愛美【トリックスター】

既にお気づきだとは思いますが、パートナーの組み合わせは各作品の主人公(ヒロイン)+ライバルキャラデッキとなっています。

未来(遊馬)-遊希(カイト)
紫音(遊戯)-鈴(海馬)
華(十代)-千春(亮)
ヴェート(遊星)-エヴァ(ジャック&クロウ)
橙季(遊作)愛美(葵)-皐月(リボルバー)

ちなみに、登場人物の名前に『虹に使用されている七色』という共通点もあったりします(※ヴェートはフランス語で「緑」)。


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解き放たれた決闘者

 

 

 

 

 

 

 

「行くわ、バトルよ! 青眼の混沌龍で《竜騎士ブラック・マジシャン》を攻撃!」

 

青眼の混沌龍 ATK3000 VS 竜騎士ブラック・マジシャン ATK3000

 

「青眼の白龍を素材に儀式召喚されている青眼の混沌龍の効果を発動するわ! このカードの攻撃宣言時に相手フィールドに存在する全てのモンスターの表示形式を変更する!」

 

竜騎士ブラック・マジシャン DEF2500

 

「そしてこの効果で表示形式を変更したモンスターの攻撃力・守備力は0になる。青眼の混沌龍は貫通効果を持っているわ!」

 

竜騎士ブラック・マジシャン DEF2500→DEF0

 

「っ……!!」

「“混沌のカオス・ストリーム”!」

 

青眼の混沌龍 ATK3000 VS 竜騎士ブラック・マジシャン DEF0

 

紫音 LP4000→1000

 

「永続罠《ディメンション・ガーディアン》の対象になっている竜騎士ブラック・マジシャンは戦闘では破壊されません……」

「だけど、サンドバッグよ。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで竜騎士ブラック・マジシャンを攻撃!“混沌のマキシマム・バースト”!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS 竜騎士ブラック・マジシャン DEF0

 

紫音 LP1000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、勝てませんでした……」

 

 がっくりと項垂れる紫音。最初に出会った時も含めて鈴とは5度のデュエルを行ったが何れも敗北してしまっていた。5度目となるこのデュエルでは先攻で竜騎士ブラック・マジシャンを融合召喚し、永続罠カード・永遠の魂とディメンション・ガーディアンで強固な布陣を築くことができた。それでも青眼の火力の前には太刀打ちできず、苦杯を舐めることになってしまった。

 

「手札には幻想の見習い魔導師があったので竜騎士ブラック・マジシャンの弱点である攻撃力の高い相手に対応できたのですが……」

「青眼の混沌龍の表示変更効果はコンバットトリックに強いからね。でも、それでも0になった守備力を2000にできたはずよ?」

「それでもカオス・MAXに攻撃されたらちょうど4000ダメージ……混沌龍の攻撃のタイミングで使っていたところで貫通ダメージを合わせても守り切れませんでした」

「ディメンション・ガーディアンの対戦闘破壊効果が裏目に働いちゃったパターンよね。もしそれが無かったら、永遠の魂で竜騎士ブラック・マジシャンのステータス変動をリセットして特殊召喚できたわけだし。でもこれでまた一つデュエルの流れが理解できたと思わない?」

 

 確かに結果としては敗北に終わっている。しかし、この5度の敗北から紫音は様々なことを学ぶことができていた。負けたことで見つけた反省点や課題を次に活かし、今後の糧にすること。それができるかできないかでデュエリストの成長度は大きく変わっていく。鈴はデュエルを通して紫音にそれを伝えたかったのだ。かつて自分が竜司や遊希相手にそうだったように。

 

「鈴ー! 夕食作るから早く戻ってきてー!」

「わかった、すぐ戻るねー!」

 

 千春に呼ばれてロッジへと戻る鈴と紫音。その途上、鈴は隣を歩く紫音の手を握った。驚いた様子を浮かべた紫音に対し、鈴は前を向いたまま話し始める。

 

「ねえ、今日デュエルしていて楽しかった? 結果はよくなかったけど……」

 

 少し申し訳なさげな鈴の顔を見て紫音は思わず吹き出した。

 

「いえ、気にしていません。むしろこっちこそお礼を言いたいくらいです」

「えっ?」

「確かに勝てはしませんでしたけど……一戦一戦のデュエルで色々なことを学ぶことができています。だから、今凄く楽しいんです、私!」

 

 そう言ってニッコリと微笑んだ紫音の顔は夏の夕焼けと流れ落ちる汗によって一段と美しく、かつキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、仕込みはOKのようね」

 

 千春が料理の確認をし、OKを出す。夕食を作ったのは未来以外の五人だった。特に関西出身ということで味にうるさく、料理のスキルもある華とフランス生まれのヴェートが他の三人をリードする形で夕食の仕込みは思っていた以上に問題なく終わった。

 

「当然や、だってうちがおるんやし」

「関西は名物料理が多いですからね……本場仕込みの料理楽しみです」

「ボクはヴェートさんのフランス料理も楽しみだな~」

「しかし、レストランとかで食べるようなものではないですよ? ポトフとかテリーヌのような料理です」

「それでもかなり美味しいと思いますよ?」

 

 すぐに食事に移るべきか、とも思ったが皆夏の暑い日差しの中デュエルの特訓やデッキ改造を繰り返して汗をかいていた。ベタついた肌のまま食事に移るのもなんだろう、と思った遊希たちは先に風呂に入ることを勧めた。このロッジの風呂は十代の少女たちならば五~六人は同時に入れるほど広くなっており、みんなで汗を流してから食事を摂ったほうがいいだろう、ということになった。

 

「じゃあパパっと汗流そうや」

「そうだね。紫音ちゃんとか汗だくだよ?」

「……匂ってませんか?」

「問題ないですよ? 私家族以外の人とお風呂に入るのは初めてなので楽しみです」

「ヴェートは日本の風呂に入ったことはあるん?」

「実は初めてなんです。日本はお風呂にも力を入れていると聞いていますからね。それに関しても楽しみです」

 

 そう言いながら部屋に着替えやバスタオルを取りに行く紫音・華・愛美・ヴェートの四人。しかし、キッチンにいた五人の中で唯一橙季はその場から動こうとはしなかった。

 

「どうしたの? お風呂入っちゃいなさいよ」

「あっ、いや……私はちょっと……」

「橙季ちゃんどうしたの? ボクたちと一緒にシャワー浴びちゃおうよ!」

 

 千春のその問いに何処か動揺した様子を見せた橙季であったが、付いてこないことを不審に思った愛美によって無理やり連れていかれてしまった。橙季は何故お風呂に入りたがらなかったのだろうか、と千春は少し疑問に思ったが、単に恥ずかしいだけなのかな、と特に気に留めることは無かった。

 

「未来ちゃんお風呂入れる? なんだったら私が一緒に付いて行ってあげてもいいのよ?」

「あう、だいじょうぶです……」

「本当? 本当に大丈夫?」

「さすがにしつこいわよあんた」

 

 一人で風呂に入れるのだろうか、と心配するあまり一緒に付いていこうとする遊希の首根っこを鈴が思い切り引っ張る。遊希の身体がぐん、つの字に曲がった。

 

「ちょっと、むち打ちになったらどうしてくれるの」

―――いや、今のはお前が悪いぞ?

「親友を犯罪者にしないためならむち打ちだろうが滅多打ちだろうがなんだってしてやるってーの」

「幼稚園児とかならともかく小学生ならお風呂くらい大丈夫なのではないでしょうか……?」

「遊希も案外過保護なところがあるのだな」

 

 夕食作りに参加していなかった未来の分の着替えは紫音と華が持ってきてくれたようで、それを知った未来は華やヴェートが呼ぶ声に誘われてぽてぽてと風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、愛美案外スタイルええんやな」

 

 華が服を脱いで一糸纏わぬ姿となった愛美の身体を見てまじまじと感想を述べる。愛美の身体は程よく締まりながらもその身体には女性らしい丸みもところどころで見られていた。紫音や華が中学1年生なのに対し、愛美はボーイッシュながらも中学2年生である。わずか1年ながらも思春期の少女はその1年の間に成長の違い思いのほかあるのかもしれない。

 

「そうかなぁ……ボク修学旅行の時によくお尻の形がいいとかみんなに色々と言われたんだけど……そんなに変かなぁ」

「別に変なことではないですよ。むしろ誇るべきことだと思います」

「愛美おねえちゃんいいなぁ……わたしもおっきくなったらきれいなおねえさんになれるかなぁ」

「大丈夫ですよ。未来ちゃんも私たちくらいの歳になったらきっと美しくなっていますから。ほら、手を上げて下さい。上を脱ぎましょうね」

 

 最年長のヴェートは未来が服を脱ぐのを手伝う。アジア人の中に一人だけいる欧州人だけあってスタイルや発育の良さに関しては彼女の右に出る者はいない。それこそ彼女のスタイルは遊希やエヴァに匹敵するほどのものであった。そんな中、一人だけ服を中々脱ごうとしない少女がいた。橙季である。そんな彼女を見かねて華と愛美が声をかけた。

 

「あれ、どうしたんや橙季? もしかして服脱ぐの難しいん?」

「あっ……その……」

「じゃあ手伝ってあげるよ! その服着るのも脱ぐのも難しそうだし!」

「いや、大丈夫だから……」

 

 一糸纏わぬ姿の愛美が橙季の服のボタンを次々と外していく。橙季は恥ずかしいのか顔を真っ赤にして抵抗するも、最早抵抗らしい抵抗にはなっていなかった。

 

(あれ……橙季ちゃんって意外と身体がしっかりしてるような……まあ、女の子でもガタイのいい子は多いよね!)

「ほらほら脱いだ脱いだー!」

「だ、ダメ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だってしょうがないじゃない。あんなに可愛らしい子がお風呂入るんだから覗く変質者とか出る危険性だってあると思わないかしら?」

「誰かが鏡を持ってない? 変質者予備軍が何か言ってる」

「誰が変質者予備軍よ」

「あんたよあんた」

 

 その頃、居間では遊希と鈴の痴話喧嘩が繰り広げられていた。最も今回の件については全面的に鈴が正しく、それをわかっていた千春・皐月・エヴァの三人はそんな二人に構うことなく食器の準備やテーブルの清掃、テレビを見ていたりしていた。

 

「私はこの隣の県出身だからわかるのよ。こんな田舎だからこそそういうのが出るって」

「それは田舎、というかこの県の県民に対する侮辱にあたるからやめなさいって」

 

 正義感と紙一重の欲望に熱くなる遊希とそれを受け流し続ける鈴。そんなに未来ちゃんと一緒がいいのか、と鈴が匙を投げかけた瞬間である。

 

 

 

 

 

―――きゃあああっっ!!

 

 

 

 

 

 紫音たちが使っている風呂場から悲鳴が聞こえたのは。

 

「ねえ今のって!!」

「お風呂からだぞ!」

「もしかして本当に変質者が……」

「ほら言わんこっちゃないじゃない、バカ鈴」

 

 バカとはなんだ、と鈴が返そうとした時、お風呂からはバスタオル1枚をまとったずぶ濡れの紫音・華・未来の三人が駆けだしてきた。

 

「うわー、マジでびっくりしたわー……」

「ありえない……ありえないです!!」

「紫音、華、どうしたの? もしかして本当に変質者でも」

「あのね、橙季おねえちゃんがお―――」

「アカーン!! 未来ちゃんはそんな言葉口にしちゃアカンでーっ!」

 

 咄嗟に未来の口を塞ぐ華。いったい何があったのか、と鈴と皐月が風呂場へと向かう。

 

「……校長先生に伝える?」

「そうしましょう! 本当に覗きだったら許せないんだから!」

 

 千春がロッジの電話を手に取ろうとした時である、またしても風呂場から悲鳴が聞こえてきた。それは鈴と皐月のものであった。もしかしたら本当に覗き魔でもいたのだろうか。そうなればこっちに来ていない愛美やヴェート、橙季たちの身にも危険が迫る。

 

「また!? いったいなにがどうなって……」

「あのね! あのね……橙季おねえちゃんが……」

 

 苦笑いする華と怒り心頭の紫音を尻目に未来は何かを必死に伝えようとしていた。

 

「橙季に何があったの? 教えて歩美ちゃん」

「……橙季おねえちゃんが……橙季おねえちゃんが―――」

 

 

 

 

 

―――橙季おにいちゃんだったの!!

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 遊希と千春とエヴァが未来のその言葉の意味を理解するの数秒の時を要した。まさか、と思いつつ風呂場に向かうと、そこにはがっくしと項垂れた鈴と両手で恥ずかしそうに顔を隠している皐月、そして泣きじゃくる橙季とそれを宥めるヴェートにバスタオルで前を隠したまま呆然と立ち尽くす愛美の姿があった。

 

「おい、何だか思っている以上にカオスな状況だぞ?」

「鈴、皐月……大丈夫?」

「ごめん。ちょっと失礼するわね!」

 

 遊希とエヴァが鈴と皐月を気遣おうとする中、千春は単身橙季の元へと向かうと、彼女が纏っていたバスタオルを少しめくり上げた。きゃっ、という小さな悲鳴を上げる橙季であったが、千春は構わず彼女の身体を確認する。

 

「千春? えっと……聞いていいことなのかしら」

「その……橙季は、未来の言う通りの人間なのか?」

 

 できれば未来の嘘であってほしい、と願った遊希とエヴァ。しかし、実際に橙季の身体を確認した皐月は無表情のまま二人の聞きたくない言葉を聞かされることになった。

 

 

 

「……うん、ついてる」

 

 

 

 橙季の身体には生物学的に、人間の女性に存在しない器官が確かに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二宮 橙季―――彼女、いや彼は男性だったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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秘密を打ち明けた決闘者

 

 

 

 

 

 二宮 橙季は男性だった―――その事実にロッジが(物理的ではないが)揺れた。取り敢えず一度水で身体を濡らしてしまった橙季以外の参加者たちは風邪をひいてはいけないため、先に風呂に入ることとなった。

 居間のソファーには服を着た橙季と彼を指導していた皐月、そして遊希・鈴・千春・エヴァの四人が向かい合うように座る。目の周りを泣き腫らして真っ赤にした橙季を慰めるかのように皐月は彼の頭を撫で続けていた。

 

「……えっと、さっきはごめんなさいね。色々と見ちゃって……」

 

 何処か申し訳なさそうに話す千春。彼女には弟が二人おり、長女として面倒を見てきたこともあってか遊希たちより異性の身体には耐性があった。だからといって脱衣所に乗り込んでタオルの下を覗いていい、なんてことはないのだが。

 

「いえ……私は……」

 

 気まずい雰囲気が流れる。詰問するためにこの場を設けたのではない、遊希たちは指導する立場にある人間として橙季がどうして少女の格好をしていたのかということを聞く必要があった。

 

「……取り敢えず何から聞いたらいいのだろうか」

「何から聞くって、やっぱりそれしかないでしょうね」

「このままでいても埒が明かないからさ、聞かせてもらうけど……君はどうして女の子の格好をしていたの?」

 

 鈴が意を決して尋ねる。少年であるはずの橙季がどうして少女の格好をしていたのか、というこの場にいる彼以外の誰もが気になることであった。

 

「あの……実は……」

 

 橙季は少し辛そうな様子を浮かべながら、自分の身の上話を話し始めた。彼は生まれてすぐ父親と死別し、母親が女手一つで育ててきた。いわゆるシングルマザーとなった彼の母はそんな一人息子に精一杯の愛情を与えて育ててきた。

 しかし、橙季の母はどうしても娘が欲しかった。再婚をしようとも、亡夫のことが忘れられなかった彼女の再婚話は上手くまとまらず、その結果辿り着いた答えが息子である彼を娘としても育てる、ということだった。元々色白で華奢、女顔ということもあって母の用意した少女向けの服がよく似合っており、事情を知らない人間は指摘されなければ橙季が少年だとは気づけないほどであった。

 だが、そんな彼も思春期を迎える。少女の服を身に纏っていたとしても、成長と共に彼の身体は少年のものとなっていき、精神も自我も少女のそれではなくなってくる。しかし、自分のことを女手一つでここまで育ててくれた母のため、橙季はその自我を押し殺して少女として振る舞ってきた。今でも男性用の服よりも女性用の服を着た方が落ち着くが、違和感は拭えない。それでもただ、彼は愛する母の喜ぶ顔が見たかった。それだけだった。

 

「……」

 

 その話を聞いた遊希たちは返答に困った。自分たちが思っていた以上に橙季が抱えている問題は大きかったのである。しかし、その裏で彼にやましい動機が無くて良かったという安堵の気持ちも生まれていた。

 

「あの、橙季……くん?」

 

 そう呼んでいいものか、と悩みながら遊希は橙季に尋ねる。

 

「はい……」

「もし君がなにかしらのやましい気持ちをもって来ている、というのなら私たちは悲しかった。でも少なくともそうじゃない、ということはわかったわ」

「最近よく話題になるわよね、そう言うのって」

「日本のみならず世界各国で今のような問題を抱えている子は多い。幸いにもそう言ったことに対する理解は広まっているがな」

「……まあ、驚いたけど、私たちは君を見捨てるようなことはしないからさ。安心してね」

 

 鈴のその言葉に橙季はほっと安心したような表情を浮かべる。彼を指導する立場にあった皐月もまたありがとうございます、と何度も四人に対して頭を下げて感謝の言葉を告げていた。

 

「でも安心するのはまだ早いわよ?」

「そうね……」

「一番大きな問題はこれからだ」

 

 遊希たちにはまだ大きな問題が残っていた。それは橙季のことを他の参加者たちにどう伝えるか、ということである。話してもわからない、というよりまだ幼く純粋な未来以外の四人なら事情は理解してもらえるだろう。

 しばらくして風呂から出てきた五人はやはり何処かよそよそしかった。夕食の担当は未来を除いた紫音たち五人である。しかし、橙季の性別が明らかになる前と後では目に見えて会話の数が減っていた。

 

「思っている以上にやばいわね、どうしよう」

「……取り敢えず食事の席で話すようにしましょうか」

 

 ヴェートの作ったフランス料理と橙季の作った関西の料理が机の上に並ぶ。料理にも精通している千春や遊希が手伝ったこともあって、夕食はとても豪華なものになっていた。

 

「これで全部?」

「そうみたいだな。うん、どれもいい出来だ」

「じゃあ遊希、挨拶宜しくー」

「は?」

 

 鈴から無茶ぶりを受けた遊希は渋々立ち上がる。食事前、しかもこんな時に自分に何を喋れというのか。鈴に対して内心で恨み節を言いながら遊希は言葉をまとめて話し始める。

 

「えっと……1日目、まずはお疲れさまでした。今日1日でそれぞれ指導を受けて教えられる側も教える側も様々なことを学ぶことができたんじゃないか、と思います。うーん……もう何喋ればいいのかわからいんで、私から言えることは以上です」

 

 中途半端なところで締めた遊希に「おいおい!」と茶々を入れる鈴と千春。やはり喋るのが苦手な様子な遊希を見て気まずい雰囲気だったロッジに笑いが生まれた。そう言った意味では彼女にスピーチを任せたのは正解だったのかもしれない。

 

「……じゃあ、いただきます」

 

 恥ずかしさに顔を真っ赤にした遊希がそう言うと、皆が食事に手を伸ばし始めた。遊希のキャラに似合わぬたどたどしい挨拶のおかげで場が和んだこともあってか、食事の場は先ほどと比べると和気藹々としていた。

 

「わっ、美味しい! ポトフって初めて食べたんだけどこんなに美味しい料理なのね!」

「喜んでいただけて何よりです。作り方を後でお教えますね」

「このお好み焼きも中々……」

「せやろせやろ! 天下の台所たる大阪の料理、たーんと味わってや!」

 

 作った料理を褒められて嬉しいのか華とヴェートは上機嫌といったところだった。また、口に食べかすを付けてしまっている未来の口を遊希が拭いてあげるなど、微笑ましい光景が流れたことで周囲の空気は一気に和んでいた。

 それでもそんな場において目に見えて様子がおかしい三人。当事者の橙季と風呂場から飛び出してきた時に顔を真っ赤にして怒っていた紫音、脱衣所で最初に橙季が男性であることに気が付いた愛美である。特に明るく朗らかな愛美が妙に大人しいのは今日1日彼女たちを見守ってきた皐月には不安で仕方なかった。

 

「遊希さん……」

「そろそろかしらね……ねえ、みんな。食べながらでいいから聞いてもらえる?」

 

 詩織に促されて遊希が切り出した。皆の視線が一斉に遊希に向けられる。未来以外の全員が遊希が何を言いたいかを理解しているようだった。

 

「みんなは私が何を言いたいか理解しているようね……あのね」

「あっ、あの!」

 

 遊希が言いかけた瞬間、橙季が手を上げて立ち上がった。皆が食事を取り始めてからもあまり食が進んでいないなど元気が無かった橙季であるが、これは自分の不始末から出た問題である。遊希の口からではなく、自分の口から皆に事情を説明しなければならない。彼はそう決意していた。

 

「……私から、言わせてください」

「……そう。わかったわ」

「あの、私の性別は男です。でも女の子の格好をしていたのには理由があります」

 

 橙季は先ほど遊希たちに話したことを改めて告げた。自分が何故少女の格好をしているのかということから、自分の生い立ちおよび家庭の事情まで。今回は遊希たちは予め事情を知った上で話を聞いてくれている。少なくともこんな自分を後押ししてくれる彼女たちのためにもここで思い切らなくてはいけないのではないか。心の心中には強い決意が生まれていたのである。

 

「……以上が、私が女の子の格好をしていた理由です。本当は最初に言わなきゃいけないことだったけれど……私がずっと黙っていたからこんなことになってしまいました。ごめんなさい」

 

 橙季が深々と頭を下げる中、ゆっくりと席を立つ者が一人。愛美である。彼女はトレーに自分の分のポトフとサラダ、お茶碗を載せていた。当然まだ食べ始めたばかりなので完食しているわけではない。

 

「愛美……ちゃん」

「……キミが言いたいことはそれだけ? 悪いけど、ボクは君と同じ部屋でご飯を食べたくないよ」

「……!!」

 

 そう言って踵を返した愛美は一人で他の部屋に行ってしまった。声のトーンは低く、無機質なように聞こえたが部屋を出ていく彼女の横顔は辛く、切なそうに見えた。

 

「愛美さん……あの、事情は分かりましたが私も二宮さんとは距離を取りたいです。だって……その……裸を見られたわけですから」

 

 そんな愛美の後を追うように顔を真っ赤に染めて紫音も自分の分の食器を持って部屋を出ていってしまった。紫音自身が怒っているのもそうだが、今の愛美を一人にしてはならない、と判断しての行動でもあった。

 

「まあどんな事情があったにしても、この歳で男と一緒にお風呂ってのはさすがのうちもきっついわ」

「……うん、わかっています」

「でも、橙季ちゃん……橙季くんって呼べばええんかな? うちは橙季くんが悪いやつじゃないってのは知っとるで」

 

 この時、華は昼間の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員がロッジに集合し、参加者である自分たちはロッジの二階に寝泊まりすることになった。昼食を取る前に部屋に荷物を置いたり着替えたりしていた時、自分のデュエルディスクを広げていた紫音が困惑していたことに気付いた。

 

「ん、どうしたん?」

「それが……私のデュエルディスクが上手く作動しないんです」

「デュエルディスクが?」

「はい。デュエル自体は行えそうなのですが、内蔵のコンピューターの調子が……」

「あの、ちょっと見せてもらってもいいですか?」

 

 慌てふためく紫音からデュエルディスクを受け取った橙季は手持ちの荷物から年頃の少女が持つものとは思えない無骨な箱を取り出す。その箱の中にはドライバーなどの工具が入っていた。

 

「ちょっと分解させてもらいますね?」

「分解?」

「はい。私、サイバース族が好きなんですが、その理由の一つが昔からパソコンが好きだったからなんです。電気街のお店に売っている部品を使ってパソコンを改造したりしてて……」

 

 サイバース族という種族は【星遺物】などの一部カードを除いて大半のカードがコンピューター用語やインターネット関連の言語をその名前に取り入れたカードが多い。ネット社会が発達した今だからこそ成立した種族であるとも言っていい。自分で言うようにパソコン関連に強い橙季からしてみればこれ以上にぴったりの種族はないと言っていいだろう。

 

「はい、これで大丈夫だと思います。試運転してみて下さい」

「えっと……あっ、直ってる」

「マジで!? 橙季凄いな!!」

「さすが橙季ちゃん! ボクが見込んだだけあるよ!」

 

 橙季の趣味は同年代の少女たちには理解されるものではなく、同じ話ができる相手はいなかった。もちろん同年代の少女である他の参加者たちはいずれもパソコンやネットに明るいわけではない。

 しかし、デュエリストにとって必需品であるデュエルディスクを直してくれた橙季は紫音にとってみれば恩人であり、もし自分たちのデュエルディスクに何らかの不備があった場合でも橙季が直してくれる。その事実が橙季が紫音たちにとって決して欠けてはいけない存在であり、この三日間を共に過ごす仲間であることの証明となっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、うちはパソコンとネットとかそんな明るくないんやけど……そういうのをしっかり直してくれるあたり、橙季くんはめっちゃええ人っちゅーことはわかるやん? まあ男だったってのは驚いたけど、そんな目くじら立てて拒絶しようとはうちは思わんかったで?」

 

 そう言ってケラケラと笑う華。関西人特有のノリの良さが際立つ彼女であるが、人の良いところを見抜くだけの鋭さは持ち合わせていた。

 

「あっ、あの……わたしは橙季おにいちゃんのことだいすきだよ? おとこのこだったのにはおどろいたけどやさしくしてくれたから……」

「私もです。むしろそのような悩みを抱えているのにも関わらず、気づいてあげられず申し訳ありませんでした」

「皆さん……」

 

 華、未来、ヴェートにとっては性別などさしたる問題ではなかったのかもしれない。しかし、この三人が橙季のことを受け入れたのに対して、部屋を出ていってしまった愛美と紫音のことがより気になってしまった。

 

(あの二人……どうにかしなきゃね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 食事を終えて後片付けをした後、参加者たちの洗濯物を洗濯機に掛けた遊希たちが入浴をしていた。シャワーでボディーソープを洗い流した遊希は浴槽に浸かり、ため息を漏らす。

 

「遊希ったら、おじさん臭いわよ」

「仕方ないじゃない。疲れたんだから……」

「まあ今日は色々とありましたからね」

「遊希、遊希」

 

 浴槽で音速ダックを模したのおもちゃを突っつく千春とお湯を手ですくい肩に掛ける皐月。この県は温泉が多いことでも有名であり、風呂のお湯は温泉を汲み上げて利用できるようになっていた。そんな時、湯水の中で腕を優しく撫でる遊希の肩をエヴァがツンツン、と突っついてくる。

 

「どうしたの、エヴァ?」

「日本のお風呂はまずはシャワーで頭と身体を洗ってから入るんでいいんだよな?」

「まあそれが一般的な入り方よ。エヴァはこういったタイプのお風呂は初めて?」

「ああ。欧州はだいたいがユニットバスだからな……んー、気持ちいい。ババンババンバンバ~ン」

 

 何処でそんな古い歌を覚えてきたのかは知らないが、浴槽に浸かったエヴァはまるでスライムのように蕩けて恍惚な表情を浮かべる。最後に身体を洗い終わった鈴も入ったことで許容量を超えたのか、風呂のお湯が溢れ出した。さすがに旅館の大浴場などと比べれば狭いが、それでも女子高生五人が入るには十分すぎるほどの浴槽であった。

 

「でさあ、橙季くんのことどうする?」

「……どうするもなにも、仲直りしてもらわなきゃ困るわ。特に二人で皐月に指導を受けている愛美とはね」

「そうですね……あのまま険悪だとろくに学ぶことができません」

「愛美ちゃんがなんで怒っているのか知る必要があるわね。まあ大方橙季くんに裸を見られちゃったのが嫌だったとかそんな理由だろうけど……」

 

 遊希たちはなんとかして愛美が怒っている理由を聞き出す必要があった。幸い華やヴェートを通じてその辺りの事情を聞くことはできる。

 ただし愛美の性格上、自分たちが場を作るのではなく橙季自身の言葉で、彼自らが謝ることの方が大事であるとは思えた。鈴もまたと愛美と共に食事を取り、橙季に対して嫌悪感を露わにしていた紫音について考えなくてはならない。

 

(……後で紫音にも話を聞かないとなぁ……)

 

 鈴が浴場のライトを見上げていると、目の前から「きゃっ」という小さな悲鳴が聞こえてくる。千春が自分の左側に座っていた皐月の胸を凝視していた。

 

「あのさ、詩織……あんたプールに行った時よりもおっきくなってない?」

「えっ……!? そ、そうでしょうか……」

 

 遊希が皐月を初めて見たのはルームメイトとして出会ったときであり、その時は制服を着用していた。制服を纏った詩織はややぽっちゃりしており、髪型やその振る舞いから穏やかそうな女性らしい少女という印象であったが、プールの時にも見たように彼女は思っている以上にグラマラスな身体をしていた。

 

「でも最近……またきつくなってきたな、とは思ってまして……甘い物や炭水化物を極力控えるようにはしていたのですが」

「だからといって太ったわけじゃなさそうよね……」

「ひっ!」

 

 千春に気を取られていた皐月は自分から見て左側に座っていた鈴の動きに気づかず、彼女に脇腹を触られる。皐月が奇声のような悲鳴と共に泣きそうな顔をして遊希に助けを求めるものの、遊希は諦めろ、と首を横に振った。

 

「んー、羨ましいわね。こっちなんておっきくしたくてもおっきくならないのに」

「というか、その体形で大丈夫なのか? その、コミケとかいうのに出るんだろう?」

「今年の夏はこのイベントに参加するのであっちは……諦めました。その代わり今日は新作のコスプレ衣装を持ってきてますからね? 今夜は皆さんでファッションショーと行きましょう」

「えー……気が乗らないなぁ」

「ねえ皐月、ちょっとでいいから肉を分けてくれない? 私もナイスバディになりたんだけどー!!」

「無理言わないで下さい……あっ、わ、私よりも遊希さんの方が詳しいと思いますよ!」

「ちょっ……皐月!」

 

 助けを求める友を見捨てたことによる因果応報というべきか。皐月のその言葉を受け、鈴と千春が獲物を狙う肉食獣の如く目をギラリとさせて遊希に迫る。遊希は後ろに下がろうとするも、浴槽の中なので当然逃げ切れるわけもなし。

 

「鈴……千春……あんたたちどうなるかわかってるんでしょうね?」

「さあどうなるのかしらね? 私知ってるわよ、遊希が意外とこの手の攻撃に弱いって」

「弱いも何も……こういうことに強い人間なんて聞いたことないわよ!」

「鈴、あんたは右から行って。私は左から襲い掛かるから!」

「ちょっ……やめっ―――!!」

 

 調子に乗って遊希の身体中をまさぐった鈴と千春の頭に大きなタンコブが作られたのは言うまでもない。だが、その時殴られたことが逆に鈴と千春にひらめきを与えた。

 

「ねえ、こんな作戦はどうかな……」

 

 皆に下されたのは橙季と愛美・紫音の仲直り作戦だった。

 

(……今のままの状態が続いちゃうとみんな不安だよね。星乃 鈴、動きます)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一計案じた決闘者

 

 

 

 

 

 

 消灯まであと1時間といった時、紫音は一人バルコニーでデッキ調整に明け暮れていた。明確な実力差があったとはいえ、鈴相手にデュエルで5戦5敗というのはデュエリストとしてさすがに受け入れがたいことであった。

 鈴から貸して貰ったカードケースからカードを取り出してはデッキに入れて一人で回し、抜くことの繰り返し。一見意味のない行動のように思えるが、それでも今日1日で紫音のデッキおよび彼女のタクティクスは見違えるほど上達していた。

 

(こんな感じかしら……いや、ここで妥協しちゃダメ。鈴さんみたいに、私は……)

「おつかれ」

 

 考え込む紫音の首筋に冷たいものが当てられる。ひゃっ、と変な声を上げて振り返ると、そこには湯上り姿の鈴がスポーツドリンクの缶を2つ持って立っていた。

 

「これ飲む?」

「あ、ありがとうございます……」

「頑張っているようだけど、無理をしちゃダメだからね」

「ですが……」

「ほら、よく言うじゃん……なんとかは一日で……」

「ローマは1日にしてならず、ですか?」

「そうそう、それそれ! 強いデッキもそう、長い時間をかけてやっとひとつのデッキが出来上がるの。少なくともあたしはそうやってきた」

 

 デュエルの時は元プロの娘らしく、とてもまじめな鈴であるが、今結衣を見ている彼女の眼はまるで妹を見る姉のように優しい顔をしていた。この瞬間の鈴も、デュエルの時の鈴も、美味しいものを食べて顔を綻ばせている鈴も。全てが星乃 鈴という一人の人間から醸し出されるものなのだ。

 

(鈴さん……こんなにも色んな表情をする人なんだ……)

「ねえ、紫音。ちょっと歩かない? 気分転換も必要だよ?」

 

 鈴は紫音をロッジの外へと連れ出した。ロッジから少し歩くと、湖の湖畔に出る。湖畔から望む湖の湖面には都会ではまず見れない月と満面の星空がまるで鏡のように映し出されていた。

 

「綺麗……」

「パパがこのイベントの場所をここにした理由がわかるなぁ。普段便利なものに囲まれた生活を送っているとどうしてもこういうものに触れる機会は減っちゃうし」

「まるでヴェートさんみたいなこと言いますね」

「イメージにそぐわなかった?」

「いーえ」

 

 そう言って悪戯っぽく舌を出して笑う紫音。彼女もこの1日でだいぶ表情が豊かになっており、これも成長の1つであった。

 

「ねえ」

「何ですか?」

「あの……橙季くんのことなんだけど」

 

 鈴の口から橙季の名前が出た瞬間、それまで朗らかだった紫音の顔が曇る。彼女もまた橙季のことを快く思っていない人物の一人だった。

 

「事情はわかっているんです。でも、それだったら自己紹介の時に言ってくれればいい話じゃないですか」

「まあ、そうよね……」

「自分から言えないなら皐月さんや愛美さんに言って話を切り出してもらうなりやりようはあったはずです! それなのに嘘をついて問題を大きくして……それに、私は生まれたままの姿まで見られたんですよ……」

 

 紫音の正論に次ぐ正論に鈴は言葉に詰まる。紫音の言うことは最もである、と危うく流されかけてしまうところだったが、ここで自分を見失ってはいけないと首をぶんぶんと横に振る。

 

「うん、確かに紫音の言うことが正しい。嘘をつくのはいけないことだよね」

「で、ですよね!」

「でもそれだったら……あたしも紫音に嫌われちゃうなー?」

「えっ」

「ねえ、紫音。あたしのこと、どう思う?」

 

 鈴の意図が読めない質問に困惑しながらも、紫音は今日1日で感じた鈴のことを1つ1つ言葉にして出す。そのほとんどが「強くてカッコいい」だの「明るくて優しい」だの「スレンダーで美人」といった鈴からしてみれば歯の浮くような褒め言葉であった。

 

「そう、あんたはそう思ってるんだ……でもね、それは間違いよ。あたしね、ずっと嘘をついていたんだ。紫音の言うように強くてカッコいいだなんて真っ赤な嘘だよ?」

「……どういうことですか?」

「よく言われることだけど、あたしは強くも無ければカッコよくなんてない。あたしが髪の毛を金色に染めている理由はね、パパやママの期待を受けたくなかったからなんだ。あの星乃 竜司の娘として【青眼】を使うことを許されているけど、パパみたいな凄いデュエリストになれるなんて思ってなかったし、バッシングを受けてパパたちの名誉に傷つけたくないから、不良みたいな髪の色をしてるんだよ? それのどこがカッコいいの? むしろダサいって思わない?」

「そんな、そんなことはありません! わ、私が今日1日感じた鈴さんは……鈴さんはぁ……」

 

 ちょっと意地悪な質問をしてしまっただろうか、と思いながら紫音の頭を撫でる鈴。撫でられた瞬間はまるで飼い主に懐いている子犬のようにうっとりとした表情を浮かべた紫音であったが、我に返った彼女には「撫でたら喜ぶと思わないで下さいっ」とその手を払われてしまった。

 

「ねえ紫音。確かにあんたは間違っていない……でもね、だからこそ橙季くんのことも考えてあげてほしいんだ。彼女、いや彼もずっと悩み苦しんできた。だからこそあたしたちが彼の気持ちを汲んであげなきゃ、って思わない?」

「……裸を見られたことは忘れません。ですが……いつまでも今のままでいるというのは非生産的です」

 

 言葉尻は強いが、彼女も今のままでいることを望まない。それを確認できた鈴はほっと一安心する。

 

「ありがと、紫音。それでちょっとあんたに聞きたい事があるんだ。愛美ちゃんについてなんだけど……一緒にご飯食べたよね? 何か橙季くんについて話していなかった?」

「愛美さんは……私以上に怒っていました」

 

 紫音と愛美は別の部屋で夕食を食べた時、ほとんど無言だった。やがて沈黙が苦になりつつあった紫音が橙季について切り出す。

 

「二宮さんについて、どう思います? 正直私は許せないです」

「……ボクは、橙季ちゃんのことを友達だと思ってた。橙季ちゃんには橙季ちゃんなりの苦しさがあったんだと思う。でも、それだけの悩みがあるならボクに相談してほしかった……せっかく友達になれたと思ったのに。ボクの思い違いだったの? 橙季ちゃんはボクのことを信頼してくれていなかったのかな……?」

 

 そう言ってすすり泣く愛美に紫音は暖かい言葉をかけることができなかった。もし自分が気の利いた言葉をかけてあげられれば愛美と橙季は仲直りできていたのではないか、と後悔の念が渦巻いていた。

 

「そう……辛いことさせちゃってごめんね」

「いえ、私こそ……」

「それでさ、さっきお風呂に入っていた時に私と千春でこんな作戦を思いついたんだけど……紫音、協力してくれない?」

 

 その計画を打ち明けられた紫音は思わず「ええーっ」と素っ頓狂な声を上げてしまった。最初はそんな作戦上手くいくわけない、と思った彼女だったが、鈴に説得される形でその計画に加担することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針は22時30分を指していた。中学生ならともかく小学生の未来はとっくに眠っている時間であった。未来と同室、ということも考えて同じ部屋で寝る四人は少し早めの消灯時間を設ける。

 

「ほら、もう時間だから早く寝なさい! 明日は今日学んだことを活かすためにみんなでデュエルをしてもらうから、しっかり身体を休めとくこと!」

「なんか千春さん先生みたいやな」

「まあ私は一番お姉さんだからね! みんなを統括する立場にある、いわばリーダーよ!」

「ま、背は一番低いやけどなー!」

「華ー? 寝れないんだったら私が寝かせてあげようか? 永遠に……」

「うち寝るわ!!」

 

 華が布団に飛び込んだのを見て紫音、愛美、ヴェートの三人も布団に入る。未来は既に眠っているのか深々と布団を被っており、橙季は自分から1階の別の部屋で睡眠を取ることを希望した。三人が布団に入ったことを確認した千春はおやすみ、と言って部屋の明かりを消した。

 千春が階段を下りていき、1階にある遊希たちが寝泊まりする部屋に入ったのを確認すると、暗闇の中、紫音・華・ヴェートの三人による作戦が始動した。

 

「ふっふっふ……さあ、うちらの夜はこれからやで」

「で、何をするつもりなんですか?」

「もしかして恋バナ? ボクみんながどんな恋してるのか興味あるかな」

「甘いわ愛美。今は夏、夏の夜といえば……怪談に限るやろ」

 

 布団の中にあらかじめ仕込んでおいた懐中電灯のスイッチを入れて顔を照らし出す華。その姿を見て愛美が少し慌てだす。鈴と千春が考えた作戦―――それは愛美に対して怖い話をすることだった。

 皐月が昼間の時に聞いていたのだが、愛美はホラー系統のものが大の苦手であり、ホラー映画など見ようものなら錯乱して大泣きしてしまうほどなのだとか。紫音は鈴を通じてその作戦を聞き、華・ヴェートと事前に打ち合わせをして怖い話をする。その話に怯えてしまった愛美を橙季が励ますことで、仲直りのきっかけにするというのが作戦の概要であった。

 

「ボ、ボク怖い話はちょっと……」

「おっ、いいリアクションしそうなのがおるな? だったら愛美を一番怖がらせた奴が勝ち、ってのはどうや?」

「ええっ!?」

「面白そうですね。勝負事なら負けるわけにはいきません」

「フランスの怖い話……今日は皆さんにそれを披露する時ですね」

「紫音やヴェートまで……怖すぎるのは無しだからね……」

 

 じゃんけんをして怪談を披露する順番は紫音→ヴェート→華の順番になった。愛美は無理やり審査員にされてしまい、布団から顔だけを出しながらも既にとても怯えているようだった。

 

「じゃあ私からですね。これは私の小学校時代の友人が体験した話です」

 

 

 

 皆さんは“金縛り”って聞いたことありますか? 寝ている時とかに身体の自由が利かなくなる現象なんですが、あれは本当は心霊現象でもなんでもないそうなんです。テレビで偉い専門家の方がそう仰っていました。私もそれを聞いて「なんだ、怖いものじゃないんだ」……と思っていました。この話を聞くまでは。

 これは私の小学生時代の友達が体験したことです。その友達は水泳を習っているんですが、水泳って全身の筋肉を使うから身体の疲労感がもの凄いんです。だから学校の授業とスイミングスクールで1日に2回も泳いだ日、とかはそれはもう疲れてしまったそうでお風呂に入って夕ご飯を食べたその友達はすぐ寝てしまったそうです。

 早く寝すぎてしまったのか、その友達は夜中の3時ごろでしょうか。目が覚めてしまって、まだ起きるには早すぎると思って二度寝しようとして目を閉じたんですが……なんと身体の自由が利かないんですよ。脳が手を動かそう、と判断しても手はピクリとも動かない。足を動かそう、と指示を出しても足はまるで強い磁石に引かれているように動かない。それでいて目もまるで接着剤でくっつけられたようにして開かないんです。

 これはおかしい!と思ったその友達は必死に身体を動かそうとするんですがまるで効果がない。全身からは汗が滝のように出てくる。混乱してお父さんやお母さんを呼ぶための声も出せない。助けて、助けて、と強く心の中で念じていたら、なんと息まで苦しくなってきたんです。首を絞められている……このままだと死んでしまう!と思った友達はもう全身全霊、全力の力をもって身体を動かし、金縛りから脱出したんです。

 助かった……と思ってその友達は目を開ける。すると、その友達が眠っている布団の上には真っ黒で2本の鋭く伸びた牙が特徴的な鬼のような生き物が跨っていて、「うがあああっ!!」とうなり声を上げながら鋭い爪で友達の顔をズパッ、と切り裂いて、血が噴水のように飛び出たんです。

 友達はそのまま気を失ってしました。ですが、次の日の朝、その友達は普通に目を覚ましました。目を覚まして友達は「なんだ夢か」と思ったそうなんです。悪い夢を見たな、と思って起き上がろうとした友達は布団の中が濡れているのに気づきました。汗をいっぱいかいたから? それとも怖い夢を見ておねしょをしていまったのかな? どちらにしても濡れたままでいるのは気持ち悪いので、起き上がって何が濡れているのが確認したんです。

 友達は悲鳴を上げました―――濡れたものの正体は汗でもおしっこでもありませんでした。それは―――真っ赤な血だったんです―――

 

 

 

「うわっ!うわあああん!!」

 

 最後まで話を聞いてしまった愛美は早速赤ん坊の如く喚き泣いていた。

 

「……中々やるな、紫音」

「こういうのはあまり得意じゃないんですが……自信がつきました」

「日本のホラーは欧米のものとは違って霊的現象があるからまた別の怖さがあるんですね。次は私の番ですね。怖い話、というのにはあまり明るくないので、フランスの歴史上の人物にまつわるお話を」

 

 

 

 皆さんは“ジャンヌ・ダルク”をご存知でしょうか? ジャンヌ・ダルクはフランスとイングランド、今のイギリスとの間で勃発していた百年戦争において「フランス領を奪還せよ」という神の言葉を受けてフランスの軍に従軍し、イングランドに奪われていたオルレアンという地を奪還させることに成功したフランス史に残る英雄です。今でもゲームや小説の題材としてよく取り上げられますね。

 さて、フランス軍を率いて戦争を有利に進めたジャンヌですが、最終的に彼女はイングランド軍によって火あぶりの刑にされてしまいます。ただ、そんな彼女がオルレアンを奪還するにあたって協力した貴族や騎士のことも忘れてはいけません。

 その中の一人に“ジル・ド・レ”という人物がいました。ジル・ド・レは貴族の身でありながら、軍人としても才覚を発揮し、ジャンヌ・ダルクと共にイングランドからオルレアンを奪還し、人々からは「救国の英雄」と讃えられたそうです。

 しかし、ジャンヌ・ダルクがイングランドによって処刑されると彼は精神を病んでしまい、戦争終結後に自分の領地に戻ったジル・ド・レは凶行に及びます。財産目当ての詐欺師に唆された彼は私財を投じて錬金術に傾倒し、その錬金術を成功させるために黒魔術を執り行うようになりました。

 そして……ジル・ド・レは錬金術成功のための生贄ならびに自分の性的欲求を満たすために、手下に命じて少年たちを拉致・虐殺しました。「救国の英雄」として讃えられた彼は少年に対する凌辱と虐殺に性的興奮を得るようになってしまい、結果ジル・ド・レの手によって150人から1500人の犠牲者が出たと言われています。最終的にジル・ド・レは逮捕され、絞首刑ならびに火あぶりの刑に処されました。

 ジル・ド・レが何故そうなってしまったのか……真相はわかりません。そういえば皆さんは彼が崇拝したジャンヌ・ダルクにはどのようなイメージを抱いていますか? 一般的には華奢な乙女のイメージがあるようですが、研究によると女性にしては大柄で男性のような外見をしていたという説もあります。更に女性であることを隠して男装をしてということもあって、ジル・ド・レは自分たちが凌辱・虐殺した少年たちにジャンヌ・ダルクの姿を重ねていたのではないでしょうか。

 ジル・ド・レが処刑される際に民衆たちは彼の魂が救われるように祈りを捧げたといいます。しかし、そのような許されざる凶行に走ったジル・ド・レを神は許すのでしょうか? 恐らく神による救済も得られぬまま、彼の霊は彷徨っているかもしれません。

 例えば―――愛美さんのようなジャンヌ・ダルクに似た明るい少年のような女の子を求めて―――地を越え、海を越えてきているかもしれません。そして彼は愛する者の名を叫ぶのです。

 

 

 

―――ジャャアアンヌゥゥゥ!!!―――とね。

 

 

 

「嫌、嫌、嫌ぁあああ!! 来ないで、ボクのところに来ないでえええっ!!」

「ジル・ド・レに関してはうちも聞いたことあるで。そんなんが実在した中世ヨーロッパってマジでアカンやろ」

「凄くリアルなお話でした。怪談とはまた少し異なりますが、真に迫るものがありました」

(どうしましょう。これフランスで放映されていた日本のアニメのネタなんですけど……あのアニメ凄かったですね。ジル・ド・レを目玉も飛び出した狂人のように描いて手)

 

 そんなヴェートのみが知る真実を知る由もない三人の怪談はいよいよ最後の話となる。

 

「よし、じゃあ大トリはうちやな。二人の話が面白かったから、負けてらんないで!」

 

 

 

 夕飯の時も言ったけどな、うち関西出身やねん。関西って江戸幕府ができるまで政治の中枢だったんやけど、政治の中枢ってことは色々と曰く付きの地なんや。例えば今家電量販店になっとる店は火災のあったデパートの跡地に立っててな? 今でもその影響で心霊現象が絶えないんや。まあ、近年のネタならともかく、関西で心霊の代名詞と言えば京都やねん。

 まず1つ目は「貴船神社」って神社のすぐ近くにある「深泥池(みどろがいけ)」っていう場所なんやけど、そこは京都のタクシー運転手さんなら誰でも知ってるスポットや。京都市内で女の人を乗せたタクシーが行き先を尋ねて深泥池って言うとな……その人は幽霊なんや。深泥池に着くと後ろに乗っていたはずの女の人はいなくなって、タクシーの座席はびっちょりになってるんや。ちなみにその池では近くにある精神病院の入院患者が何人も身投げしてるねん……あれ、そんなに怖くなかった? まあこれは比較的最近の話やから。じゃあリクエストに答えて2個目行くで。

 今となってはカップルのデートスポットになってる京都鴨川の「三条河原」ってところなんやけど……昔は戦争に負けた人とか罪人が処刑されて晒し首にされたのがその場所なんや。

 で、これはうちの親友のお姉さんから聞いた話なんやけど、ここで特に惨たらしく殺されたのがあの豊臣秀吉の甥っ子だった人なんや。元々は子どものいない秀吉の後継者だったらしいんやけど、秀吉に子どもが生まれてから次第に疎まれるようになってな、最終的に秀吉に罪をでっち上げられて切腹させられたんやと。だけど、その人たちの悲劇はそこで終わらなかったんや。

 秀吉はな……その甥っ子の一族郎党、男はもとより老人から子供までみんな皆殺しにしたんや。処刑は正午ごろから始まって最初に殺されたのは幼い子どもたちやった。50人近くの髭面の男たちが愛らしい子どもたちを犬をぶら下げるように扱って刺し殺したんや。抱きしめる母親から子供を奪い取ると胸を二突きにして殺してもうた。子どもたちが全て殺されるとやがて大人たちの処刑に及んで、泣きわめく人たちを処刑人たちは次から次へと殺した。処刑が終わるころには鴨川の水は処刑された人の血で真っ赤に染まってたって記録が残ってるんや。そして処刑された人の身体は一つ掘った大穴に次から次へと投げこまれて、全部埋めると、秀吉はそこに「畜生塚」と書かれた石碑を建てたんや。

 当時その処刑には地元の京都の人たちが見物に来てたんやけど「ここまで惨たらしい処刑と知っていれば見になど来なかった」とみんながそう言ったらしい。そして当時の京都の街にはこんな言葉も広まった。

 「秀吉、本当の畜生は貴様だ!」とな。まあ後にその人たちは後世の人たちによって供養されたんやけどね、今でもその恨みは残っていて、京都の人たちはそのことを忘れないようにしてるんやって。

 まあ、今の話でもあるように京都って世界でも有数の観光地なんやけど色々とまあ……ヤバい場所やねん。光あるところに影がある?みたいな。でも本当に気を付けなきゃいけないのはこっからや。怖い話をしていると幽霊が寄ってくる、というのはよくある話だけど、もしかしたら……今この部屋にもいるかもしれんな……例えば、畜生として惨たらしく殺された人が愛美の後ろから血で真っ赤に染まった手を振りかざして――――首を――――!!

 

 

 

「……」

「なーんてな、なんかヴェートのと被ってもうたわ」

「日本も日本でとっても怖いことしてるじゃないですか……」

「中世というのは色々と陰惨な時代でしたからね。あれ、愛美さんどうしたんですか?」

「うわああああん!! もうやだよおおお!!!」

 

 錯乱した愛美は暗い部屋の中を悲鳴を上げながら駆け回った。部屋から出たい、と思っているようだが混乱して何処かドアなのかすらもわかっていないようだった。さすがに騒ぎ過ぎたのか、階段をドスドスと駆け上がる足音が近づいてくる。華たちがやばっ、と思った瞬間、ドアが開くとそこは青筋を立てている千春の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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絆深める決闘者

 

 

 

 

「あんたたち!! もう消灯時間って言ったでしょうが!! 何騒いでるのよ!!」

 

 青筋立てて部屋に乗り込んできた千春はまさに鬼の形相と言える表情をしていた。しかし、如何せんこれが遊希やエヴァのような女性にしては長身ならいざ知らず、それが千春だったため、その迫力は小柄なことからだいぶ薄れていた。最も最初は半狂乱だった愛美も身長の低さからその人物が千春であることに気付く。

 

「千春さああん!!」

 

 愛美はまるで獲物に襲い掛かる獣の如く千春に飛びついた。自分より背が10センチ高い愛美が飛びついてきたため、支えきれなくなった千春はその場に尻もちをついて倒れる。愛美は千春が倒れるのにも構わず、彼女の胸に顔を押し付けて泣いていた。

 

「ちょっと、これどういうことよ!」

「いやー、怪談話をしてたら愛美がこの手の話ダメだったみたいでなぁ……」

「はぁ? あんたたちねぇ……」

 

 泣きじゃくる愛美をあやしながら、千春は彼女に見えないようにサムズアップをする。当然ながらこの怪談話をすることも千春には織り込み済みであった。

 紫音・華・ヴェートの三人が怖い話をしてそれに弱い愛美を怖がらせ、頃合いを見て千春が止めに入る。それが作戦の第1段階であった。最も愛美がここまで取り乱すとは思っていなかったため、作戦とは言えど千春は流石に罪悪感に苛まれた。

 

「ったく……いい加減寝なさいよ。未来ちゃんだって寝てるんだから起こしちゃダメよ?」

「はーい」

「それにしても愛美さんがこんなに怖がったのに未来さんは全然起きませんね」

「きっと疲れているのでしょうか……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんね、愛美ちゃ……えっ?」

 

 寝ている未来の顔を覗こうとして布団をめくったヴェートの顔が強張る。なんと今までそこで眠っていたと思われる未来の姿が布団の中に無かったのである。ヴェートが真っ青な顔をしてその場にいた全員を見るも、皆が首を横に振る。怖い話をするのはそうだが、未来が居なくなるということに関しては計画のうちにない。

 

「……まさか神隠しってやつ?」

「ひいっ!!」

 

 悲鳴を上げて愛美が紫音の布団に潜り込んだ。

 

「ま、愛美さん?」

「ううう……紫音んん……ボクひとりじゃこわいよぉ……」

 

 泣きじゃくりながら上目遣いをして紫音にすがる愛美。学年こそ1学年上であるが、怯え震える今の愛美は未来に負けず劣らず庇護欲を掻き立てる存在となっていた。

 

「……わかりました。今日は一緒の布団で寝ましょう? 二人なら怖くありませんよね」

「私もいますよ? 愛美さんを一人にはしませんから」

「あの、ほんまごめんな? まさかそんなに怖がるとは思わなかったから……あの、千春さん。未来ちゃんは……」

「神隠しなんて迷信よ! 未来ちゃんは私たちが何とかするからあんたたちは安心して寝なさいな」

 

 千春はそう言って勇ましくドアを閉める。皆の前では気丈に振る舞った彼女であったが、階段を下りるとすぐさま遊希たちのいる1階の寝室へと駆け込んだ。1階の寝室では鈴、皐月、エヴァの三人が千春が戻ってくるのを今か今かと待ちかねていた。しかし、唯一遊希だけは今日はもう疲れてしまったのか布団を被ってぐっすりと眠ってしまっているようだった。

 

「あっ、千春。計画は問題なくいけそう?」

「計画……は大丈夫だけどやばいことになったわ」

「やばいこと?」

「未来ちゃんがどこにもいないのよ。もうとっくに寝てると思ったら布団の中にいなくて……」

 

 未来が部屋にいない、ということに鈴たちは戸惑いを隠せないようだった。もし未来が本当にいなくなったとなれば愛美と橙季にドッキリを仕掛けて仲直り作戦などと言っている場合ではない。

 まだ幼い彼女は何かあったとしてもろくに抵抗することができないだろう。鈴たちは指導者として、アカデミアの学生として参加者である彼女たちの身の安全を守る使命がある。放っておくわけには行かない、と判断した四人はまず未来を探しに行くことにした。

 

「ちょっと遊希、起きて。寝てる場合じゃないわよ。未来ちゃんが……」

 

 そう言って遊希を布団の上から揺らす鈴。すると、布団の中からは揺れた衝撃で寝返りを打ったのか手がぱたりと出てきた。

 

「……なあ」

「どうしたんですか?」

「この手だが……遊希の手にしては小さくないか?」

「えっ」

 

 布団の中から出てきた手は明らかに遊希のものではなかった。その手はまるで小学生の女の子のもののように小さく可愛らしいものだったのだ。

 

(あっ)

 

 布団の中から微かに聴こえた声。鈴が思い切り布団をはいでみると、布団の中には目を見開いている遊希とそんな彼女の腕の中ですやすやと眠る未来の姿があった。遊希は鈴たちが仲直り作戦の計画を練っている間に眠そうだった未来をひそかに自分の布団に誘い込んでいたのであった。それを見た鈴や千春はもちろん、皐月やエヴァまでもが侮蔑および哀れみの眼を遊希に向ける。

 

―――だから辞めておけと……

「おはよっ、遊希♪」

 

 いつになく優しい声で遊希の耳元で囁く鈴。

 

「言っておくけど、これには理由があるの」

「遊希♪」

「愛美に対して怖い話をするのでしょう? だったら一番幼いこの子を巻き込むわけにはいかない。そうでしょう?」

「遊希♪」

「鈴、眉間にしわが寄っているわ。私は笑ってる鈴が好きの方が好きよ」

「遊希」

「……はい」

「正座」

「はい」

 

 それからしばらくして未来は皐月とエヴァの手で無事2階の布団に戻された。そしてその裏で鈴と千春によって遊希がみっちり絞られたのは言うまでもない。

 

―――理由を話せばわかってもらえたのではないか? 未来を連れ込んだ本当の理由を。

(……そんなこと、言えるわけがないじゃない。楽しい雰囲気が辛気臭くなるでしょう?)

―――お前という奴は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事未来が戻ってきて1時間ほど経った頃だろうか、紫音の布団の中で小さく寝息を立てていた愛美がふと目を開ける。紫音が隣で眠っていてくれていたため、ゆっくりと寝付くことができた愛美であるが、それでもまだ華たちの話した怪談のことが頭の中から中々抜けずにいた。

 

「……ねえ、紫音。紫音」

「んん……どうしたんですか? 愛美さん」

「ボクおトイレ……行きたいんだけど、ひとりだとちょっと……」

「はぁ、しょうがないですね」

 

 ため息をつきながら起き上がった紫音が付き添う形で愛美と紫音は1階にあるトイレへと向かった。実はこれも作戦のうちの1つであり、怪談話をする前に華は愛美に土産代わりに持ってきた京都のお茶を振る舞っていた。今日の夜はだいぶ蒸し暑く、これから怪談話をするなんて心にも思っていなかった愛美は華の出すお茶をついついお代わりしてしまっていたのである。

 廊下や階段の電気を点けながら降りると、1階は既に寝静まっているようだった。愛美が「そこで待っててね」と言いながらトイレに入ったのを皮切りに、紫音はパジャマのポケットからスマートフォンを取り出すと、鈴を通じて連絡ができるようになった遊希のスマートフォンに通話アプリで愛美と自分が今1階にいることを告げた。

 

「……紫音から連絡よ。愛美は今1階のトイレにいるって」

「よし、次は私たちの番よ。遊希、紫音に頃合いを見て2階に戻るように伝えて」

「了解」

 

 1階の寝室は寝静まっているように見せかけるため遊希たちは極力小さな声で会話をしていた。ここで自分たちが何をしようとしているのかがバレてしまえば、作戦は水の泡と化してしまう。

 作戦立案者かつリーダーの千春の指示のもと、鈴・皐月・エヴァが白いシーツを持っていつでも出れるように待機する。今度全員に限定スイーツを奢ることで許して貰った遊希は通信役として千春の言葉を的確に紫音に伝える。

 

「紫音ー、いるー?」

「いますよ」

「紫音ー?」

「いますってば」

「紫音ー?」

 

 用を足しながらもひたすら不安な愛美は絶えず外にいる紫音の名を呼ぶ。2回ほど呼んだ時は紫音は返答していたが、3回目以降になると呆れたのか紫音が返事をしなくなってしまった。

 さすがに参加者の中ではヴェートに次いで2番目に年長の自分のこの様に呆れてしまったのだろうか、と愛美も思ったため、早めに用を済ませて外に出ようとした。待たせてごめんね、と言いながら廊下に出た愛美であるが、さっきまでそこにいたはずの紫音の姿はそこには無かった。

 

「えっ……紫音? 紫音、どこにいるの? 紫音!!」

 

 薄暗い廊下を恐る恐る探してみる愛美であったが、どこにも紫音の姿はなかった。いなくなった未来が戻ってきたため、神隠しなどというものは完全に否定されていたが何分怖いものが大の苦手な愛美である。彼女の中では紫音はまさしく霊的な存在によって何処かへ連れ去られてしまった、という結論に至ってしまった。

 

「どうしよう……紫音が……紫音が……そうだ、華とヴェートに……!」

 

 恐怖のあまり錯乱状態に陥っていた愛美であるが、自分一人でどうにかできる問題ではないと判断して2階へと駆け上がろうとする。素早く戻れば、きっと大丈夫だろうし、華とヴェートの二人がかりなら霊も手を出せまいと踏んだのである。

 愛美は意を決して階段から2階へ上ろうとするも、さっき点けたままにしたはずの階段の電灯はいつの間にか消えていた。霊が電気を消してしまったのだろうか、と思いつつ廊下にある階段の電気をつけるためのスイッチに手を伸ばした。そして明かりを点けた彼女は絶句した。

 階段の登った先になんと白く大きな布が3枚、ふわふわと浮いていたのである。間違いない、こいつらが紫音を連れ去った張本人であると愛美の中の本能が察知した。

 

「っ……そうだ、皐月さんたちなら……」

 

 2階へ上がるのを諦めて皐月たちの眠る部屋へと行こうとした愛美であったが、次の瞬間である。皐月たちのいるはずの部屋のドアからも階段の上にいた霊と同じ姿をしたものが5つ、ゆっくりと出てくるのである。

 

「そんな……皐月さんたちまで……そんな……っ!!」

 

 もはやこのロッジで無事なのは自分だけなのだろうか、と思い絶望しかけた愛美。しかし、そんな時に彼女の脳裏に浮かんだのは橙季の顔であった。このままロッジの外に出てしまえば一人で逃げることはできる。だが、ここで橙季を置いて逃げてしまうという選択肢は無かった。

 正直あのようなことがあったのだから会話をするどころか顔を合わせることすらも今の時点では気が引ける。ただしここで彼を犠牲にして自分だけが助かろうということが許されるのだろうか。何より喧嘩したまま謝ることもできずに橙季と今生の別れを迎えてしまっていいのだろうか。少なくとも橙季だけは、橙季だけは助けたいという気持ちが愛美の中には芽生えていた。

 

「橙季ちゃん……!」

 

 愛美はゆっくりと後ずさりしながら橙季の眠る部屋へと向かった。霊たちはゆっくりと迫ってくる。自分が何処へ行こうとしているのかは彼らには筒抜けかもしれない。それでも向かわなければならないのだ。

 

(お願い……無事でいて。橙季ちゃん……)

 

 じりじりと下がっていった愛美は辿り着いた部屋の襖を開ける。橙季が眠っている部屋は畳張りの和室になっており、愛美は畳の感触を確かめ、自身が完全に部屋に入ったことを察するとゆっくりと音を立てないように襖を閉めた。

 振り返ると、和室の真ん中に丁寧に敷かれた布団で橙季が小さな寝息をたてていた。安らかな寝顔を浮かべている彼の顔を見た瞬間、愛美の中では気まずさよりも橙季が無事であったことの喜びが大きくなっていた。

 

「橙季ちゃん、橙季ちゃん……起きて……」

「んん……あれ……愛美……ちゃん?」

 

 愛美によって起こされた橙季はまるで良家のお嬢様が着用するようなピンクのフリフリの寝間着を着用していた。自身を男性と認識している橙季であったが、やはり幼少のころからずっと着てきた女性用の寝間着が一番落ち着くのであろうか。しかし、今はそんなことなど愛美にとってはどうでもいいことだった。愛美は橙季が無事だったことを確認すると、何も言わず泣きながら彼に抱き着いた。

 

「愛美ちゃん!?」

「橙季ちゃん……良かった……キミが無事で……!」

「どうしたの? いったい何が……」

「あのね……あのね……」

 

 愛美は橙季にこれまでの経緯を話した。そして紫音を連れ去ったと思われる霊が複数、自分を狙ってこの部屋へと近づいてきていることを伝えたのである。最初は半信半疑といった様子の橙季であったが、あまりにも彼女が真剣に話すため彼は愛美は嘘をついていないと判断した。取り敢えずこのまま部屋にいるのは好ましくない、と判断した橙季は布団が入っていた押し入れに避難することにした。

 押し入れの中には予備の布団以外にも衣装ケースが複数個入っており、それを積み重ねることで押し入れを外側から開けられないようにすることができる。それで日の出まで耐え忍べば幽霊に攫われることはない、というのが彼の狙いであった。橙季は愛美を守るために必死だった。火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、自分一人では重くてすぐには敷けなかった布団を持ち上げると、バリケードを作ってその中に愛美と一緒に逃げ込んだ。

 

「よし、これで……」

「……っ」

「橙季ちゃん……!?」

 

 これでしばらくは大丈夫のはず、と安堵の表情を浮かべた橙季の身体に暖かく柔らかい感触が当たる。愛美が突然彼の右腕に抱き着いてきたのである。狭い押し入れの中で二人の身体が密着するのだが、愛美の身体は恐怖に震えていた。

 

「愛美ちゃん……大丈夫。私がいるから……」

「ねえ、橙季ちゃん……」

「なぁに?」

「……どうして、ボクに教えてくれなかったの……? その……性別のこと……」

「っ……」

 

 愛美のその言葉に橙季は返答に詰まる。彼の右腕を抱きしめる愛美の力が少し強まったように感じた。

 

「ボク、キミの性別とかは正直そんなに気にしてない。女の子でも男の子でも橙季ちゃんは橙季ちゃんだから。でも、ずっと教えて貰えなかったのはすごく寂しかったんだよ?」

「ごめんなさい……最初会った時からずっと言おう、言おうとは思ってたけどタイミングを逃してしまって……言えずにここまで来ちゃった。男の子なのに女の子の格好をしてるってばれたら……嫌われると思ったから……」

「みんながどう思うかは知らないけど、ボクはそんなことでキミを嫌ったりしない! 実際に今日1日一緒に過ごしてみてわかったもん。キミはとってもいい子だって……だから……!」

「愛美ちゃん……ありがとう。ごめんね……」

 

 愛美は言葉では厳しい態度を取ってしまっていたが、それはあくまで真意の裏返しに過ぎなかった。彼女は誰よりも橙季と出会ったばかりの時のように仲直りしたかったのである。

 そして橙季もまた自分の嘘によって傷つけてしまった愛美に対して謝りたかった。そして元通りの関係になりたかった。二人の感情は同じ方向を向いていながらも、すれ違っていただけだったのだ。

 二人が改めて自分たちの間に生まれていた絆を再確認しあった時である。二人が隠れている押し入れの襖がガタガタと音を立てて揺れたのは。

 

「ひっ!」

「……嗅ぎつけられた?」

「どうしよう……」

 

 橙季の右腕に抱き着いて怯える愛美。できればこのまま朝までやり過ごせれば、と思っていた橙季であったが、ここを察知された以上襖1枚で持久戦などできるはずがない。彼は右腕にくっついた愛美の腕を剥がすと、いつでも外に出れるように身構えた。

 

「橙季……ちゃん?」

「愛美ちゃん。最後に仲直りできて良かったよ。これで……思い残すことはないかな」

「ちょっと待って……それって……」

「大丈夫。愛美ちゃんには指一本触れさせない。だから安心して……愛美ちゃんは……私が……いや、僕が……守るからっ!!」

 

 橙季は襖を内側から抑えていた衣装ケースを退かすと、1、2の3のタイミングで思い切って外に飛び出した。

 

 

 

―――この子には手を出させない! 僕が相手だ!! さあ、どこからでもかかって……!!

 

 

 

 橙季が外に飛び出して勇ましく叫んだその瞬間である。真っ暗だった和室に明かりが灯される。明るくなった部屋には白いシーツから顔を出す遊希たちの姿があった。

 

「えっ……」

「作戦……だ~いせ~いこ~う!!」

 

 千春がそう言うと、遊希は少し申訳なさそうな顔をしてスケッチブックに書かれた「ドッキリ大成功!」の文字を見せる。放心状態の愛美と橙季が遊希たちが何をしようとしていたのかを完全に理解するのに20分ほど時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しんっじられない! みんなでボクたちを騙していたなんてっ!!」

 

 真実を知ったまさに愛美は怒り心頭といった様子だった。よもや最初の怪談からずっと仕組まれたことだとは思っていなかったので、当然と言えば当然なのであるが。顔を真っ赤にし、膨れっ面を浮かべる愛美に対して紫音・華・ヴェートの仕掛け人三人はずっと平謝りを繰り返していた。

 

「ごめんごめん……まさか愛美がそこまで驚くとは思わんかったんや」

「つまり上で寝ている未来ちゃん以外の皆さん全員が仕掛け人だったってことですか……?」

「はい……お二人を仲直りさせるためとはいえ、このような作戦をしてしまい申し訳ありません」

「皐月さんまで加担していたなんて……ボクはいったい誰を信じればいいんですか!」

 

 愛美は悔しそうに地団駄を踏む。そしてそのまま隣に座っていた橙季の顔を疑念の表情を浮かべながら覗き込んだ。

 

「ねえ、もしかして橙季ちゃんがみんなにそうしてくれ、って頼んだりしてないよね……?」

「ええっ!?」

「安心しろ。橙季は本当に何も知らない」

「ええ、あたしと千春で作戦を考えてそれ紫音に伝えて紫音が華とヴェートに伝えて、って感じだから」

「そうよ。だから橙季くんは本当に関係ないわ」

 

 そうなんだ、と言って橙季の隣にへたり込む愛美。もしこの計画の発案者が橙季だったますます彼のことを嫌いになっていたかもしれない。そういう事態を避けられた、という意味では愛美は安心していた。

 その瞬間、リビングに掛けてある時計が午前1時を告げる音を鳴らす。古時計ということもあって「ゴーン」と鳴ったその音は状況も相まって臨場感抜群の音であった。

 

「もう1時か……明日に備えて寝ましょう」

「さすがにこの時間になると眠いわね……明日大丈夫かしら」

 

 明日の心配をするくらいなら初めからこんな大それたことをしなければいいのに、と心中でツッコミを入れる愛美。皆がぞろぞろと心の寝る和室を出ていこうとする中、愛美はしばらくその場を動こうとしなかった。

 

「愛美ちゃん? 愛美ちゃんは上に行かないの?」

「……いや、行くよ。でもちょっとみんなが出ていってから、ね」

 

 どうしてだろう、と思う橙季であったが、彼はすぐに愛美の真意を知ることとなった。

 

「あのね、橙季ちゃん」

「うん」

「ボクね……さっきね……とっても嬉しかったよ。橙季ちゃんがボクのこと守る、って言ってくれたこと……」

「あ、あれは……ね。ちょっとカッコつけすぎちゃったかな。私みたいなのが……」

「ううん、そんなことないよ。ボクには橙季ちゃんがとってもカッコよく、頼もしく見えた。橙季ちゃんが助けてくれなかったらボクは……だからね、これは……そのお礼っ!」

 

 

 

 お礼、ってなんだろうと橙季が思った瞬間である。彼の中で時間が止まった気がした。愛美の唇が橙季の左頬にそっと触れたのである。愛美の唇はとても柔らかかった。

 

 

 

「えっ……」

「じゃ、じゃあおやすみ! また明日ね!」

「えっ……えええっ……」

 

 かくして、愛美と橙季。二人の仲直り作戦は成功したのである。出会いとデュエルに明け暮れた激動の1日目はこうして終わったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、みんなおきてぇ~! もうあさの9じだよぉ~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、未来を除く夜更かしした十人は全員揃って寝坊し、よりによって最年少の未来に揃って起こされるというなんとも不甲斐ないことになったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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矛を交える決闘者・1

 

 

 

 

 昨夜の一件もあって、7時起きの予定が9時起きと2時間の寝坊であったが、炊事洗濯を皆で分担したおかげで10時半には全ての用事が済んだ。2日目の予定は、参加者同士のデュエルによる実戦である。

 1日目で指導を受けたことを実戦でどう生かせるか、というのが今日の課題である。もっともこの実戦に勝ち負けは関係なく、昨日1日で自分たちがどれくらい成長できたか、というものを参加者および指導するアカデミアの生徒たちが確認することが一番の狙いであった。

 

「というわけで、今から対戦する組み合わせを決めるよー!」

 

 鈴が取り出したのは青眼の究極竜らしきイラストが描かれた紙袋であった。昨日寝る前に試行錯誤しながら何かを描いていた鈴であったが、それはこのお世辞にも上手ではない青眼の究極竜のイラストを描くためだったのである。

 

「……何よそれ」

「いやね、遥か昔に海馬コーポレーションの初代社長が『バトルシティ』って大会を開いたそうなんだけど、その時に決勝トーナメントの組み合わせを決めるために用いられたのが究極竜をモチーフにしたビンゴマシーンなんだって」

「ああ、ビンゴマシーン GO!GO!のイラストのやつね」

「つまりそれに肖るということでしょうか?」

「そんなところかな。まあ一種の臨場感を演出するため、的な? えっと、この袋の中には1から6の数字が書かれた紙が入っているの。今からそれを引いてもらって、1の人は2の人、3の人は4の人、5の人は6の人とデュエルをしてもらうわ。全員のデュエルが終わったらこのくじを戻してまた引いて、その時に当たった相手をデュエルをするって仕組みよ」

 

 作りは安易なものであるが、くじならば誰とデュエルをするかはわからない。そのため身内メタのような対策を取るのも難しく、デュエリストのありのままの実力およびデッキの完成度を知ることができる手法であった。

 くじを引く順番であるが、年齢の若い順ということに決まり、未来からくじを引くこととなった。未来は緊張した面持ちで袋の中に手を入れ、取り出した紙を開く。その紙には堂々と「1」の数字が書かれていた。

 

「未来ちゃんは1番ね。いきなりのデュエルになるけど、リラックスしていってね」

「ひゃ、ひゃい! がんばりましゅ!」

 

 それから年齢および名前順にくじを引いていき、紫音が5番、橙季が3番、華が6番のくじを引いた。この時点で5番の紫音と6番の華がデュエルをすることが決まった。

 

「うちの相手は紫音かー……【ブラック・マジシャン】を相手にするのは初めてやからな。どんなデュエルをしてくるのか楽しみにしとるで~」

「私も1度華さんとは全力でデュエルをしてみたかったんです。こちらこそ宜しくお願いしますね?」

 

 紫音と華。まさに水と炎のような相反するタイプである二人の少女の間には早くも火花が散っていた。

 

「じゃあ次は愛美ちゃんの番よ」

「わかりました! えっとボクは……4番です!」

「4番ってことは橙季とのデュエルになるわね」

「橙季ちゃんとか……へへっ、宜しくね!」

「えっ……うん……」

 

 橙季の脳裏には昨日の夜の出来事がまだ残っていた。それ以降、愛美は出会ったとき以上にフレンドリーになってきたのだが、逆に彼が愛美の顔を直視できなくなるという事態が起こっていた。橙季は何故こんなことに、と自分の中に知らず知らずのうちに芽生えたとある感情を理解できずにいた。

 華が6番を引き、愛美が4番を引いたため、最後に引くことになっていたヴェートの番号が自ずと決まる。彼女の番号は残された2番ということになり、未来とのデュエルに臨むことになった。

 

「あの……ヴェートおねえちゃん……」

「はい、なんですか?」

「その……よろしくおねがいしまちゅ!」

「はい、宜しくお願いします。初心者同士のデュエルになりますが、皆さんに成長した私たちの姿を見せてあげましょうね?」

「はい!」

 

 組み合わせが決まると、一同はロッジの外に出る。他のロッジでも似たようにデュエルをしている光景が伺えるため、どこも2日目は実戦形式を取るようだった。

 ちなみに今回は実戦と銘打つだけあって、デュエルの時に指導する学生が後ろにつくということはない。自分で判断し、自分でカードをプレイする。デュエリストはデュエルの時はいつだって孤独な存在となるのだ。

 

「……ねえ」

「何?」

「未来ちゃんは大丈夫なの?」

 

 昨日の紫音とのデュエルを見た鈴はどうしてもルールブック片手にデュエルをしようとした未来のことが気がかりなようだった。しかし、遊希は小さく息を吐いては胸を張る。

 

「大丈夫よ。あの子なら心配いらないわ」

「……天宮 遊希なりに光るものを見出したってことかな?」

「まあそんなところ」

「遊希、鈴。二人のデュエルが始まるぞ」

 

 第1試合、未来とヴェートは互いに向き合って礼をすると、デュエルディスクを構えた。デュエルディスクのコンピューターが起動し、先攻後攻の決定権はヴェートへと与えられた。ヴェートはどうしようか少し悩んだ後、結局先攻を取った。

 

「それでは、行きますよ。未来ちゃん」

「は、はい! がんばりましゅ!」

「デュエル!」

「でゅえる!」

 

 

先攻:ヴェート【ジャンクドッペル】

後攻:未来【希望皇ホープ】+【ガガガ】

 

 

ヴェート LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

未来 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:6(0)

 

 

☆TURN01(ヴェート)

 

「私の先攻です。私のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できます。来てください《ジャンク・フォアード》」

 

《ジャンク・フォアード》

効果モンスター

星3/地属性/戦士族/攻900/守1500

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 

「そして手札から魔法カード、調律を発動します。デッキからシンクロンモンスター1体を手札に加え、その後デッキトップを墓地へ送ります。私はクイック・シンクロンを手札に加えます。デッキトップから墓地へ送られたのは……《水竜星-ビシキ》ですね」

 

 ヴェートのデッキは基本こそ【ジャンクドッペル】であるが、エヴァのアドバイスによって同じS召喚を基軸とする【竜星】のギミックを組み込んでいたのだ。

 

「竜星かぁ……なんとなく軸がわかってきたなぁ」

「まあ竜星にはあのSチューナーがいるからね」

「それはほとんど名指しのようなものではないか」

 

 水竜星-ビシキはレベル2の幻竜族モンスター。よってジャンク・シンクロンの効果で墓地から特殊召喚することができる。当然のことながら3積みにしてサーチカードも豊富なヴェートのデッキだ。

 

「魔法カード、増援を発動します。デッキからジャンク・シンクロンを手札に加えます」

「あうう……ヴェートおねえちゃんいっぱいカードつかっちゃってる……」

「ごめんなさいね、これもデュエルですので……手札の《地竜星-ヘイカン》を捨ててクイック・シンクロンを特殊召喚します。そしてジャンク・シンクロンを召喚し、墓地の水竜星-ビシキを特殊召喚します」

 

《水竜星-ビシキ》

効果モンスター

星2/水属性/幻竜族/攻0/守2000

「水竜星-ビシキ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「水竜星-ビシキ」以外の「竜星」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。

(2):1ターンに1度、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。自分フィールドの「竜星」モンスターのみをS素材としてS召喚する。

(3):このカードをS素材としたSモンスターは、罠カードの効果を受けない。

 

「では行きましょうか。私はジャンク・フォアードとクイック・シンクロンをリンクマーカーにセット。召喚条件はチューナーモンスターを含むモンスター2体。リンク召喚! 水晶機巧-ハリファイバー! リンク召喚に成功したハリファイバーの効果で私はデッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚します。私が特殊召喚するのは《幻影王ハイド・ライド》です!」

 

《幻影王ハイド・ライド》

チューナー(効果モンスター)

星3/闇属性/悪魔族/攻1500/守 300

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをシンクロ召喚に使用する場合、このカードをチューナー以外のモンスターとして扱う事ができる。

 

「幻影王ハイド・ライド? 珍しいモンスターを使うんだね」

「ハイド・ライドはチューナーやけどS召喚に使う場合はチューナー以外のモンスターとして使用できるモンスターや」

「S召喚デッキは自然とチューナーが多くなりますからね。1枚はあると助かるモンスターと言えます」

「さて、レベル2の水竜星-ビシキにレベル3のチューナーモンスター、ジャンク・シンクロンをチューニング。“水の力宿した竜の子よ。調和の力を受けて天に吠えよ!”シンクロ召喚! シンクロチューナー《源竜星-ボウテンコウ》!」

 

《源竜星-ボウテンコウ》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星5/光属性/幻竜族/攻0/守2800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分は「源竜星-ボウテンコウ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「竜星」カード1枚を手札に加える。

(2):1ターンに1度、デッキから幻竜族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードのレベルは、墓地へ送ったモンスターと同じになる。

(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動できる。デッキから「竜星」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「特殊召喚に成功したボウテンコウの効果を発動します。デッキから竜星カード1枚を手札に加えます。手札に加えるのは《竜星の九支》です。私はカードを1枚セット。ターンエンドです」

 

 

ヴェート LP4000 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(源竜星-ボウテンコウ、幻影王ハイド・ライド)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:5 除外:0 EXデッキ:14(0)

未来 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:6(0)

 

ヴェート

 □□□伏□

 □□源□ハ□

  水 □

□□□□□□

 □□□□□

未来

 

○凡例

源・・・源竜星-ボウテンコウ

ハ・・・幻影王ハイド・ライド

 

 

☆TURN02(未来)

 

「えっと、わたしのターン、ドローです! てふだから魔法カード《サンダー・ボルト》をはつどうします!」

 

《サンダー・ボルト》

通常魔法(制限カード)

(1):相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

「いきなり、サンダー・ボルトですか……使わざるを得ませんね。チェーンしてリバースカード、竜星の九支を発動します」

 

《竜星の九支》

カウンター罠

(1):自分フィールドに「竜星」カードが存在し、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし、そのカードを持ち主のデッキに戻す。

その後、このカード以外の自分フィールドの「竜星」カード1枚を選んで破壊する。

 

チェーン2(ヴェート):竜星の九支

チェーン1(未来):サンダー・ボルト

 

「竜星の九支の効果でサンダー・ボルトの発動を無効にし、未来ちゃんのデッキに戻します。その後竜星の九支以外の私の竜星カードを選んで破壊します。私のフィールドにはボウテンコウしかいませんが……」

 

 水竜星-ビシキを素材にS召喚されているボウテンコウは罠カードの効果を受けない。そのため竜星の九支の効果では破壊されない。いわばノーコストの万能カウンターとなっていた。もちろん、サンダー・ボルトが囮であることは誰の目にも明らかだった。

 

「サンダー・ボルトはデッキにもどります……つぎは魔法カード《オノマト連携》をはつどうしまちゅ!」

 

《オノマト連携》

通常魔法

手札を1枚墓地へ送って発動できる。デッキから以下のモンスターの内1体ずつ、合計2体までを手札に加える。「オノマト連携」は1ターンに1枚しか発動できない。

●「ズババ」と名のついたモンスター

●「ガガガ」と名のついたモンスター

●「ゴゴゴ」と名のついたモンスター

●「ドドド」と名のついたモンスター

 

「てふだのガガガマジシャンさんをぼちにおくって、デッキからズババ、ガガガ、ゴゴゴ、ドドドってなまえのモンスターさんを1体ずつ、ごうけい2体をてふだにくわえます! デッキから《ガガガマンサー》さんと、この4つのなまえのモンスターさんになれる《希望皇オノマトピア》さんをてふだにくわえましゅ! そして、希望皇オノマトピアさんを召喚!」

 

《希望皇オノマトピア》

効果モンスター

星4/光属性/戦士族/攻1500/守1500

このカード名はルール上「ズババ」、「ガガガ」、「ゴゴゴ」、「ドドド」カードとしても扱う。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。手札から「希望皇オノマトピア」以外の以下のモンスターをそれぞれ1体まで守備表示で特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はXモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

●「ズババ」モンスター

●「ガガガ」モンスター

●「ゴゴゴ」モンスター

●「ドドド」モンスター

 

「オノマトピアさんのこうかをはつどうします! てふだからオノマトピアさんいがいのズババ、ガガガ、ゴゴゴ、ドドドモンスターさんをそれぞれ1体まで守備表示で特殊召喚しましゅ!」

「ではオノマトピアの効果にチェーンしてハリファイバーの効果を発動します!」

 

チェーン2(ヴェート):水晶機巧-ハリファイバー

チェーン1(未来):希望皇オノマトピア

 

「チェーン2のハリファイバーの効果でハリファイバーを除外し、EXデッキからシンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をS召喚扱いで特殊召喚します!」

「えっと……チェーン1のオノマトピアさんのこうかで、手札からガガガマンサーさんと《ガガガヘッド》さんを守備表示で特殊召喚です!」

 

《ガガガマンサー》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻100/守100

(1):1ターンに1度、「ガガガマンサー」以外の自分の墓地の「ガガガ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「ガガガ」モンスターしか特殊召喚できない。

(2):X素材のこのカードがXモンスターの効果を発動するために取り除かれ墓地へ送られた場合、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで500アップする。

 

《ガガガヘッド》

効果モンスター

星6/闇属性/魔法使い族/攻2100/守2000

(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードはリリースなしでレベル4モンスターとして召喚できる。

(2):このカードが召喚に成功した時、「ガガガヘッド」以外の自分の墓地の「ガガガ」モンスターを2体まで対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。このターン自分は「ガガガ」モンスターのみを素材としたX召喚以外の特殊召喚ができない。

(3):フィールドのこのカードを素材としてX召喚したモンスターは以下の効果を得る。

●このX召喚に成功した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「S召喚に成功したフォーミュラ・シンクロンの効果を発動……したいところですが、フォーミュラ・シンクロンの1つ目の効果はタイミングを逃すんですよね。なので発動できません」

 

《フォーミュラ・シンクロン》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星2/光属性/機械族/攻200/守1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

(2):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

「あう、ヴェートおねえちゃんがあたらしいモンスターさんを……でも、このターンでデュエルをおわらせます!」

「……このターンで?」

「ガガガマンサーさんのこうかをはつどうします! 1ターンに1ど、ぼちのガガガモンスサーさん1体を特殊召喚できましゅ! ガガガマジシャンさんを特殊召喚! そして、レベル4のガガガマンサーさんとガガガマジシャンさんでオーバーレイ!」

 

 ガガガマンサーの効果を発動した後は、ターン終了時まで未来はガガガモンスターしか特殊召喚することができなくなる。そのため彼女のフェイバリットカードである希望皇ホープモンスターをX召喚できないのだ。しかし、希望皇ホープを使わずともこのターンでデュエルを終わらせるだけの自信があった。

 

「2体のモンスターさんでオーバーレイ! えっと“このモンスターさんにきれないものは……あんまりないです!”X召喚! おねがいします!《ガガガザムライ》さん!」

 

《ガガガザムライ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/地属性/戦士族/攻1900/守1600

レベル4モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分フィールドの「ガガガ」モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):このカード以外の自分フィールドのモンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。このカードを表側守備表示にし、攻撃対象をこのカードに移し替えてダメージ計算を行う。

 

「ガガガザムライさんのこうかをはつどうします! オーバーレイユニットを1つとりのぞいて、ガガガモンスターさんを2かい攻撃できるようにします! たいしょうはガガガザムライさんです!」

「そう来ましたか。ではガガガザムライの効果にチェーンしてフォーミュラ・シンクロンの効果を発動します」

 

チェーン2(ヴェート):フォーミュラ・シンクロン

チェーン1(未来):ガガガザムライ

 

「チェーン2のフォーミュラ・シンクロンの効果。相手メインフェイズにこのカードを含む私のモンスターを素材にS召喚を行うことができます。私はレベル3の幻影王ハイド・ライドに、レベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング!」

「わたしのターンに、S召喚!?」

「“くず鉄の鎧を纏いし戦士よ。閃光となりてその道を切り拓け!”S召喚! 駆け抜けよ!《ジャンク・スピーダー》!!」

 

《ジャンク・スピーダー》

シンクロ・効果モンスター

星5/風属性/戦士族/攻1800/守1000

「シンクロン」チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「シンクロン」チューナーを可能な限り守備表示で特殊召喚する(同じレベルは1体まで)。この効果を発動するターン、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2):このターンにS召喚したこのカードがモンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる。

 

「ガガガザムライさんのこうかで、ガガガザムライさんはこのターン2かいこうげきできます! そしてオーバーレイユニットとしてぼちにおくられたガガガマンサーさんのこうかでガガガザムライさんのこうげきりょくは500アップします!」

 

ガガガザムライ ORU:1 ATK1900→ATK2400

 

「2400の2回攻撃ですか。ですがボウテンコウの守備力は2800。ガガガザムライの攻撃力では届きませんね」

「……えっと、そうとはかぎらないよ?」

(やはり、何か秘策があるとみてよさそうですね。では私もちょっと本気を出しちゃいますね)

 

 最年長のヴェートと最年少の未来のデュエル。二人のデュエルでは年齢と国籍を超えた駆け引きが早くも行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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矛を交える決闘者・2

 

 

(未来ちゃんは何かを狙っている。それならば、その狙い通りにさせないのがデュエルモンスターズというものです)

「S召喚に成功したジャンク・スピーダーの効果を発動します! このカードのS召喚に成功した場合、デッキからシンクロンと名のついたチューナーモンスターを可能な限り守備表示で特殊召喚します! 私のメインモンスターゾーンの空きは4つ。よって4体のモンスターをデッキから特殊召喚です!」

 

 ヴェートのフィールドにはまるで流れ星が落ちるかのようにデッキから4体のモンスターが現れた。特殊召喚されたのはレベル5のクイック・シンクロン、レベル3の《スチーム・シンクロン》、レベル2の《フルール・シンクロン》、レベル1のジェット・シンクロン。一度に複数のモンスターを特殊召喚したが、全てのモンスターがチューナーモンスターであり、EXゾーンはジャンク・スピーダーが埋めているため、多段のSモンスターをS召喚できないというデメリットがあった。

 

「うわぁ、モンスターさんがいっぱい……でも、ガガガザムライさんでみんなたおします! てふだから魔法カード《ガガガタッグ》をはつどうしまちゅ!」

 

《ガガガタッグ》

通常魔法

自分フィールド上の全ての「ガガガ」と名のついたモンスターの攻撃力は、次の自分のスタンバイフェイズ時まで、自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスターの数×500ポイントアップする。「ガガガタッグ」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

「わたしのフィールドのガガガモンスターさんのこうげきりょくは、つぎのわたしのスタンバイフェイズまでガガガモンスターさんのかず×500ポイントアップします! わたしのフィールドにガガガモンスターさんは3体いるから、1500ポイントアップしまちゅ!」

 

ガガガザムライ ORU:1 ATK2400→ATK4900

ガガガヘッド ATK2100→ATK3600

希望皇オノマトピア ATK1500→ATK3000

 

「攻撃力3000以上のモンスターが3体……ですが、私のフィールドのモンスターはジャンク・スピーダーを除いて全て守備表示。ガガガヘッドも守備表示なのでこのターンではライフは0になりませんね」

「あっ……で、でもこれでヴェートおねえちゃんのライフはいっぱいけずれるよ!」

「確かに私が大きなダメージを受けるのは避けられませんね、このままでは。なので未来ちゃんには悪いですが、更に手を打たせて頂きます! 私はスチーム・シンクロンの効果を発動します!」

 

《スチーム・シンクロン》

チューナー(効果モンスター)

星3/水属性/機械族/攻600/守800

相手のメインフェイズ時、自分フィールド上のこのカードをシンクロ素材としてシンクロ召喚できる。

 

「スチーム・シンクロンの効果は、相手のメインフェイズ時に自分フィールドのこのカードを素材にS召喚を行うことができます。私はレベル5のジャンク・スピーダーに、レベル3のスチーム・シンクロン、レベル1のジェット・シンクロンをダブル・チューニング!!」

「チューナーモンスターさんを2体つかう……S召喚!?」

「“神速の戦士よ。二つの調和を以て次元の壁を突き破れ! 咆哮せよ、黄龍の力秘めし晶石!”アクセル……シンクロッ!!―――《水晶機巧-グリオンガンド》!!」

 

《水晶機巧-グリオンガンド》

シンクロ・効果モンスター

星9/水属性/機械族/攻3000/守3000

チューナー2体以上+チューナー以外のモンスター1体

(1):このカードがS召喚に成功した場合、そのS素材としたモンスターの数まで相手のフィールド・墓地のモンスターを対象として発動できる。そのモンスターを除外する。

(2):S召喚したこのカードが戦闘・効果で破壊された場合、このカード以外の除外されている自分または相手のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

「S召喚に成功したグリオンガンドの効果! このカードがS召喚に成功した場合、そのS素材となったモンスターの数まで相手のフィールド・墓地のモンスターを対象として発動します! そのモンスターを……ゲームから除外します」

「じょ、除外!?」

「対象はガガガザムライ、ガガガヘッド、希望皇オノマトピアの3体です!“グリオンズ・ロアー”!!」

 

 まさに四神を従える黄龍の如く力強い咆哮は響き渡り、未来の3体のモンスターを異次元へと消し飛ばす。バトルフェイズに移る前に全てのモンスターを失ってしまった未来にとって、このバトルフェイズは何の意味もなさない。

 

「あうう……モンスターさんがぁ……」

「ごめんなさい、ですが。これがデュエルモンスターズなんです」

「これがデュエルモンスターズ……えっと、わたしはターンエンド、です」

 

 

ヴェート LP4000 手札1枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:1(源竜星-ボウテンコウ、クイック・シンクロン、フルール・シンクロン)EXゾーン:1(水晶機巧-グリオンガンド)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:8 除外:1 EXデッキ:11(0)

未来 LP4000 手札1枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:3 除外:3 EXデッキ:5(0)

 

ヴェート

 □□□□□

 フ□源□ク□

  グ □

□□□□□□

 □□□□□

未来

 

○凡例

グ・・・水晶機巧-グリオンガンド

ク・・・クイック・シンクロン

フ・・・フルール・シンクロン

 

 

「遊希、このままだと未来ちゃんが……」

「これでいいのよ、これで」

「えっ?」

「あの子にとってまず必要なことは、スタートラインに立つこと。勝つことじゃないわ」

 

 

☆TURN03(ヴェート)

 

「私のターン、ドロー。私は《炎竜星-シュンゲイ》を召喚」

 

《炎竜星-シュンゲイ》

効果モンスター

星4/炎属性/幻竜族/攻1900/守 0

「炎竜星-シュンゲイ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「炎竜星-シュンゲイ」以外の「竜星」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

(2):1ターンに1度、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。自分フィールドの「竜星」モンスターのみをS素材としてS召喚する。

(3):このカードをS素材としたSモンスターは、攻撃力・守備力が500アップする。

 

 未来のフィールドにカードは存在せず、手札は残り1枚。文字通り手足を捥がれたも同然の彼女にこのモンスターたちの攻撃を防ぐ手段はない。

 

「未来ちゃん、今回は私が勝ちましたが次もこうなるとは限りません。だから、これからも一緒に頑張っていきましょうね?」

「ヴェートおねえちゃん……うん! わたしも、もっとがんばります! もっとがんばっておねえちゃんたちみたいにつよくなりたい!」

「その意気です。シュンゲイとグリオンガンドでダイレクトアタックです!」

 

炎竜星-シュンゲイ ATK1900

 

未来 LP4000→LP2100

 

水晶機巧-グリオンガンド ATK3000

 

未来 LP2100→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊希おねえちゃん……ごめんなさい、まけちゃった」

 

 デュエル終了後、完敗を喫した未来は遊希の下へとぼとぼと歩いていく。その様はまるで親に怒られている最中の子どものように弱々しいものだった。そんな彼女を見て遊希は何も言わずその頭を優しく撫でる。

 

「おねえちゃん……?」

「いいのよ、よく頑張ったわ」

「でも、わたしまけちゃった……」

「今の未来ちゃんの目標はまず一人のデュエリストとしてデュエルに臨むこと。確かにデュエルには負けてしまったけど、スタートラインに立つことができた。それができただけで未来ちゃんはとても立派なのよ」

「遊希おねえちゃん……」

「大丈夫、私も未来ちゃんくらいの時は強くなかったから。少しずつ、一歩ずつ頑張っていきましょう?」

「……うん! わたし、遊希おねえちゃんのためにもがんばります!」

 

 結果自体は思わしいものではなかったかもしれない。しかし、このデュエルには間違いなく一人の少女をデュエリストへと変えるだけの価値があった。

 

「未来ちゃん、将来きっと強くなると思います」

「そうだな。お前も先輩として、彼女の目標になれるように頑張るんだぞ?」

「はい。さて、次は……」

 

 ヴェートの視線の先で向かい合うのは橙季と愛美。昨日は橙季の性別のことで険悪な雰囲気になっていた二人であるが、一晩明けた今は互いに打ち解けたのかこれまで以上に友情を深めたようだった。

 

「ねえねえ、橙季ちゃん」

「何、愛美ちゃん?」

「もし橙季ちゃんに先攻後攻の決定権が行ったら……ボクに先攻を譲ってほしいな~なんて?」

「えっ……そ、それはちょっと……」

「だよね。うん、今のは忘れてね!」

「あうう……」

 

 例のドッキリの後に橙季と愛美に何が起きたかを知るのは当人同士のみ。そのため何故愛美の一挙一動に橙季が赤面しているのかを皆は知らなかった。

 

「えっと、先攻は私が貰います」

「やっぱりー……まあボクも後攻から立ち回りを勉強したかったからね!」

 

 ちなみに先攻後攻の決定権は橙季に渡り、彼は悩んだ挙句先攻を取った。愛美の【トリックスター】に先攻を渡せばどうなるかは昨日の時点で嫌というほど思い知らされていたからだ。

 

「愛美ちゃん、昨日の借りは返させてもらうよ!」

「望むところだよ! ボクのデッキで返り討ちにしてあげる!」

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:橙季【コード・トーカー】

後攻:愛美【トリックスター】

 

 

橙季 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

愛美 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(橙季)

 

「私の先攻です! 私は手札1枚をコストに魔法カード、サイバネット・マイニングを発動します! デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加えます。手札の《スタック・リバイバー》をコストに、デッキから《サイバース・ガジェット》を手札に加えます! そしてサイバース・ガジェットを召喚!」

 

《サイバース・ガジェット》

効果モンスター

星4/光属性/サイバース族/攻1400/守300

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドに「ガジェット・トークン」(サイバース族・光・星2・攻/守0)1体を特殊召喚する。

 

「召喚に成功したサイバース・ガジェットの効果を発動します! 墓地のレベル2以下のモンスター1体を効果を無効にして守備表示で特殊召喚します。特殊召喚するのはレベル2のスタック・リバイバーです!」

 

《スタック・リバイバー》

効果モンスター

星2/闇属性/サイバース族/攻100/守600

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):このカードを素材としてリンク召喚した場合、このカード以外の自分の墓地の、そのリンク召喚の素材としたレベル4以下のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

「上手いね、一気にリンク2のリンクモンスターをリンク召喚できるだけのモンスターを並べるなんて! でも1回のリンク召喚じゃボクのデッキは止められないよ!」

「……1回だけじゃないよ? 私はフィールドのサイバース・ガジェットと手札の《マイクロ・コーダー》をリンクマーカーにセット!」

「手札のモンスターをリンク素材に!?」

 

《マイクロ・コーダー》

効果モンスター

星1/闇属性/サイバース族/攻300/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのサイバース族モンスターを「コード・トーカー」モンスターのリンク素材とする場合、手札のこのカードもリンク素材にできる。

(2):このカードが「コード・トーカー」モンスターのリンク素材として手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「サイバネット」魔法・罠カード1枚を手札に加える。フィールドのこのカードを素材とした場合にはその1枚をサイバース族・レベル4モンスター1体にできる。

 

「マイクロ・コーダーは私のフィールドのサイバース族モンスターを「コード・トーカー」モンスターのリンク素材にする場合、手札のこのカードもリンク素材にできるんだ! アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体! サーキット・コンバイン! 出てきて!リンク2《コード・トーカー》!」

 

《コード・トーカー》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/サイバース族/攻1300

【リンクマーカー:上/下】

効果モンスター2体

(1):このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの数×500アップする。

(2):このカードのリンク先にモンスターが存在する限り、このカードは戦闘及び相手の効果では破壊されない。

 

「コード・トーカーモンスターのリンク素材になったマイクロ・コーダー、そしてフィールドから墓地へ送られたサイバース・ガジェットの効果を発動するよ!」

 

チェーン2(橙季):サイバース・ガジェット

チェーン1(橙季):マイクロ・コーダー

 

「チェーン2のサイバース・ガジェットの効果でガジェット・トークン1体を特殊召喚! そしてチェーン1のマイクロ・コーダーの効果で私は永続魔法《サイバネット・コーデック》を手札に加える! そしてサイバネット・コーデックを発動!」

 

《サイバネット・コーデック》

永続魔法

このカード名の効果は同一チェーン上では1度しか発動できない。

(1):「コード・トーカー」モンスターがEXデッキから自分フィールドに特殊召喚された場合、そのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ属性のサイバース族モンスター1体をデッキから手札に加える。このターン、同じ属性のモンスターを自分の「サイバネット・コーデック」の効果で手札に加える事はできない。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分はサイバース族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「そして私はガジェット・トークンをリンクマーカーにセット! 召喚条件はレベル4以下のサイバース族モンスター1体! リンク召喚! お願い!《転生炎獣ベイルリンクス》!」

 

《転生炎獣(サラマングレイト)ベイルリンクス》

リンク・効果モンスター

リンク1/炎属性/サイバース族/攻500

【リンクマーカー:下】

レベル4以下のサイバース族モンスター1体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「転生炎獣の聖域」1枚を手札に加える。

(2):自分フィールドの「サラマングレイト」カードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

「リンク召喚に成功したベイルリンクスの効果を発動! デッキから《転生炎獣の聖域(サラマングレイト・サンクチュアリ)》1枚を手札に加えるよ」

「【転生炎獣】まで……まあ同じサイバース族だからデッキには入るよね」

「でも、私のデッキはまだ止まらないよ! リンク2のコード・トーカーとリンク1のベイルリンクスをリンクマーカーにセット! 召喚条件は効果モンスター2体以上! サーキット・コンバイン!“雄大なる大地の力をもって、全てを満たせ!”リンク3《トランスコード・トーカー》!」

 

《トランスコード・トーカー》

リンク・効果モンスター

リンク3/地属性/サイバース族/攻2300

【リンクマーカー:上/右/下】

効果モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが相互リンク状態の場合、このカード及びこのカードの相互リンク先のモンスターの攻撃力は500アップし、相手の効果の対象にならない。

(2):「トランスコード・トーカー」以外の自分の墓地のリンク3以下のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

「コード・トーカーモンスターがEXデッキから特殊召喚されたことでサイバネット・コーデックの効果が発動するよ! デッキからトランスコード・トーカーと同じ地属性のサイバース族モンスター1体を手札に加えます。私が手札に加えるのは《コード・ジェネレーター》です!」

 

 サイバース族は登場時期も相まってリンク召喚を多用する種族であり、そのため見た目以上にカードを多く必要とするデッキであった。しかし、サイバネット・コーデックの登場以降カード消費の多さを補えるようになっているのだ。

 

「そしてトランスコード・トーカーの効果を発動! 墓地のコード・トーカーをこのカードのリンク先に特殊召喚します! 更に手札のコード・ジェネレーターはマイクロ・コーダーと同じように、コード・トーカーモンスターのリンク召喚に使用する場合、手札のこのカードもリンク召喚に使用できる!」

「1ターンに4回のリンク召喚……やるね!」

「私はコード・トーカーとマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体以上、サーキット・コンバイン!“何者にも囚われぬ風の力をもって、全てを封じよ!”リンク召喚《エクスコード・トーカー》!」

 

《エクスコード・トーカー》

リンク・効果モンスター

リンク3/風属性/サイバース族/攻2300

【リンクマーカー:上/左/右】

サイバース族モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した時、EXモンスターゾーンのモンスターの数だけ、使用していないメインモンスターゾーンを指定して発動できる。指定したゾーンはこのモンスターが表側表示で存在する間は使用できない。

(2):このカードのリンク先のモンスターは、攻撃力が500アップし、効果では破壊されない。

 

「リンク召喚に成功したエクスコード・トーカーとサイバネット・コーデック、リンク素材として墓地へ送られたコード・ジェネレーターの効果を発動!」

 

《コード・ジェネレーター》

効果モンスター

星3/地属性/サイバース族/攻1300/守500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのサイバース族モンスターを「コード・トーカー」モンスターのリンク素材とする場合、手札のこのカードもリンク素材にできる。

(2):このカードが「コード・トーカー」モンスターのリンク素材として手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから攻撃力1200以下のサイバース族モンスター1体を墓地へ送る。フィールドのこのカードを素材とした場合には墓地へ送らず手札に加える事もできる。

 

チェーン3(橙季):サイバネット・コーデック

チェーン2(橙季):エクスコード・トーカー

チェーン1(橙季):コード・ジェネレーター

 

「チェーン3のサイバネット・コーデックの効果でデッキから風属性のサイバース族モンスター《リンク・インフライヤー》を手札に加えます! そしてチェーン2のエクスコード・トーカーでEXモンスターゾーンのモンスターの数だけ使用していないメインモンスターゾーンを使用できないようにします! 対象は……トランスコード・トーカーの上方向のリンク先です!」

 

 トランスコード・トーカーは相互リンク状態のモンスターに攻撃力500アップと相手の効果の対象にならない効果を与える。しかし、その効果は愛美に上方向にリンクマーカーの向いたリンクモンスターをリンク召喚されることで逆に利用されるリスクも含んでいた。

 

「それをエクスコード・トーカーで封じるってことかぁ……橙季ちゃん、可愛い顔して嫌らしいことするんだね?」

「愛美ちゃんには言われたくないかなぁ……えっと、チェーン1のコード・ジェネレーターの効果で私は攻撃力1200以下のサイバース族モンスター《ドットスケーパー》を墓地へ送ります。そして墓地へ送られたドットスケーパーの効果を発動します!」

 

《ドットスケーパー》

効果モンスター

星1/地属性/サイバース族/攻0/守2100

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、それぞれデュエル中に1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2):このカードが除外された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

「墓地へ送られたドットスケーパーを特殊召喚します。トランスコード・トーカーとエクスコード・トーカーは互いに相互リンクしているから、よって2体のコード・トーカーは攻撃力が1000アップします!」

 

トランスコード・トーカー ATK2300→ATK3300

エクスコード・トーカー ATK2300→ATK3300

 

「そして2体のコード・トーカーは相手の効果にならず、相手の効果では破壊されません!」

 

 2体のコード・トーカーによる強固な布陣をあっさり築き上げる橙季。これが彼の決意の表われ。一人の少年、一人のデュエリストとしての。

 

 

 

 

 

 

 



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矛を交える決闘者・3

 

 

 

 

 

「橙季くんのデッキ、かなり回ってるね」

「はい。トランスコード・トーカーとエクスコード・トーカーの布陣はもちろんですが、彼のフィールドにはまだサイバース・ガジェットの効果で蘇生されたスタック・リバイバー、コード・ジェネレーターの効果で墓地へ送られ、墓地から特殊召喚されたドットスケーパー、そしてサイバネット・コーデックの効果で手札に加えられたリンク・インフライヤーがあります」

 

 橙季のフィールドは今の時点でも十分すぎるほど盤石であるが、彼の脳裏には昨日のトリックスターカードによるワンターンキルが焼き付いていた。可能な限り手は打っておいて損はないというものだ。

 

(ただ、コード・トーカーの布陣を作り上げたとしても、トリックスターのバーン効果に対処できるわけじゃない。何か秘策でもあるのかしら?)

「私は手札のリンク・インフライヤーをモンスターのリンク先に特殊召喚します!」

 

《リンク・インフライヤー》

効果モンスター

星2/風属性/サイバース族/攻0/守1800

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):このカードはフィールドのリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から特殊召喚できる。

 

「そしてスタック・リバイバー、リンク・インフライヤー、ドットスケーパーの3体をリンクマーカーにセット! 召喚条件はモンスター3体! サーキット・コンバイン!“猛き炎の力を以て全てを侵略せよ!”リンク召喚! 燃え上がれ!《パワーコード・トーカー》!」

 

《パワーコード・トーカー》

リンク・効果モンスター

リンク3/炎属性/サイバース族/攻2300

【リンクマーカー:左/右/左下】

モンスター3体

(1):1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、このカードのリンク先の自分のモンスター1体をリリースして発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、元々の攻撃力の倍になる。

 

「エクスコード・トーカーのリンク先にリンク召喚されたことで、パワーコード・トーカーの攻撃力は500アップします!」

 

パワーコード・トーカー ATK2300→ATK2800

 

「そしてコード・トーカーモンスターのリンク召喚に成功したことでサイバネット・コーデック、そしてリンク召喚の素材となって墓地へ送られたスタック・リバイバーの効果が発動!」

 

チェーン2(橙季):スタック・リバイバー

チェーン1(橙季):サイバネット・コーデック

 

「チェーン2のスタック・リバイバーの効果で、一緒にリンク素材になったレベル4以下のサイバース族モンスター1体を墓地から特殊召喚します! 特殊召喚するのはドットスケーパー! そしてサイバネット・コーデックの効果で僕は炎属性・サイバース族モンスターの《斬機アディオン》を手札に加えます!」

「【斬機】……新規サイバース族テーマもカバー済みなのね」

 

 斬機は最近登場したばかりのサイバース族の新テーマであり、炎属性のSモンスターと地属性のXモンスターを中心に戦っていくデッキだ。効率よくSもしくはX召喚に繋げるためにメインデッキの斬機モンスターは非情に緩い条件で特殊召喚することができる。

 

「そして私は手札の斬機アディオンの効果を発動します!」

 

《斬機アディオン》

効果モンスター

星4/炎属性/サイバース族/攻1000/守1000

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、対象のモンスターの攻撃力をターン終了時まで1000アップする。この効果で特殊召喚したターン、このカードは攻撃できない。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はサイバース族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「パワーコード・トーカーを対象に、このカードを手札から特殊召喚! そしてパワーコード・トーカーの攻撃力をターン終了時まで1000アップさせます!」

 

パワーコード・トーカー ATK2800→ATK3800

 

「そして斬機アディオンとドットスケーパーをリンクマーカーにセット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体! サーキット・コンバイン! リンク召喚!《コード・トーカー・インヴァート》!」

 

《コード・トーカー・インヴァート》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/サイバース族/攻1300

【リンクマーカー:左/右】

サイバース族モンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札からサイバース族モンスター1体をこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。

 

「リンク召喚に成功したインヴァートとサイバネット・コーデックの効果を発動します!」

 

チェーン2(橙季):サイバネット・コーデック

チェーン1(橙季):コード・トーカー・インヴァート

 

「チェーン2のサイバネット・コーデックの効果で光属性のサイバース族モンスター、レディ・デバッカーを手札に加えます! そしてチェーン1のコード・トーカー・インヴァートの効果で手札に加えたレディ・デバッカーを特殊召喚します!」

「ええやん! これで更にサイバース族モンスターを手札に加えられるで!」

「これで手札に加えるサイバース族モンスター次第では……」

「特殊召喚に成功したレディ・デバッカーの効果を発動するよ! デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター《サイバース・コンバーター》を手札に加えます! そして自分フィールドに存在するモンスターがサイバース族モンスターのみの場合、サイバース・コンバーターは手札から特殊召喚できます!」

 

《サイバース・コンバーター》

効果モンスター

星2/光属性/サイバース族/攻1000/守1000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):自分フィールドのモンスターがサイバース族モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚に成功した時、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの種族はターン終了時までサイバース族になる。

 

「コード・トーカー・インヴァートとサイバース・コンバーターをリンクマーカーにセット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体以上! サーキット・コンバイン!“流れる水の力を以て、全てを貫け!”リンク召喚!《シューティングコード・トーカー》!」

 

《シューティングコード・トーカー》

リンク・効果モンスター

リンク3/水属性/サイバース族/攻2300

【リンクマーカー:上/左/下】

サイバース族モンスター2体以上

(1):自分バトルフェイズ開始時に発動できる。このバトルフェイズ中、このカードはこのカードのリンク先のモンスターの数+1回まで相手モンスターに攻撃できる。このターン、相手フィールドのモンスターが1体のみの場合、そのモンスターと戦闘を行うこのカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ400ダウンする。

(2):自分・相手のバトルフェイズ終了時に発動できる。このターンにこのカードが戦闘で破壊したモンスターの数だけ自分はデッキからドローする。

 

「サイバネット・コーデックの効果を発動! デッキから水属性の《コード・ラジエーター》を手札に加えます!」

「コード・ラジエーターはマイクロ・コーダーやコード・ジェネレーターと同じ効果を持っています!」

「やはり橙季さんの狙いは……」

「私はレディ・デバッカーと手札のコード・ラジエーターの2体をリンクマーカーにセット! 2体目のコード・トーカーをもう片方のEXゾーンにリンク召喚!!」

「決まりや、エクストラ・リンク!!」

 

 橙季のフィールドには左側のEXゾーンにトランスコード・トーカー、その下にエクスコード・トーカー、真ん中のメインモンスターゾーンにパワーコード・トーカー、右側のEXゾーンにシューティング・コード・トーカー、そして右側のEXゾーンにコード・トーカー。計5体のコード・トーカーモンスターによるエクストラ・リンクが完成した。

 それでいてトランスコード・トーカーとエクスコード・トーカーは互いの効果で攻撃力アップと効果耐性を付与しあう。そのため愛美が仮に全体除去カードを引き当てたとしても、モンスター全滅の憂き目を避けることができるのだ。

 

「コード・トーカーの効果で自身の攻撃力は500アップするよ」

 

コード・トーカー ATK1300→ATK1800

 

「……私はカードを1枚セット。これでターンエンドです!」

 

パワーコード・トーカー ATK3800→ATK2800

 

 

橙季 LP4000 手札1枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:5(エクスコード・トーカー、パワーコード・トーカー、シューティング・コード・トーカー、コード・トーカー)EXゾーン:2(トランスコード・トーカー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(サイバネット・コーデック)墓地:11 除外:0 EXデッキ:8(0)

愛美 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

橙季

 □□サ□伏

 □シパエ□□

  コ ト

□□□□×□

 □□□□□

愛美

 

 

○凡例

ト・・・トランスコード・トーカー

エ・・・エクスコード・トーカー

パ・・・パワーコード・トーカー

シ・・・シューティング・コード・トーカー

コ・・・コード・トーカー

サ・・・サイバネット・コーデック

 

 

☆TURN02(愛美)

 

「ボクのターン、ドロー! やっと回ってきたよ……橙季ちゃん時間使い過ぎ!」

「あう。ご、ごめんなさい……」

「まあ昨日見れなかったキミの全力を見れてボク嬉しいよ! だから、ボクも全力で相手してあげる! ボクは手札から魔法カード、テラ・フォーミングを発動! デッキからフィールド魔法1枚を手札に加えるよ! チェーンはあるかな?」

「……ないよ」

「わかった! じゃあデッキからトリックスター・ライトステージを手札に加えるね!」

 

 この瞬間、橙季と対峙している愛美は橙季のフィールドに妨害のためのカードが存在しないことを悟った。彼の手札1枚はベイルリンクスの効果でデッキから手札に加えた転生炎獣の聖域。コード・トーカーメインの橙季のデッキではもはや手札コストにしかならないカードであり、愛美の動きを止められるのはセットカードしかない。

 そしてそのセットカードをテラ・フォーミングに合わせて発動せず、テラ・フォーミングを通した。トリックスター・ライトステージの強さは先のデュエルで理解しているのにも関わらず。

 

「エクストラ・リンクを決めてもコード・トーカーは相手の動きを妨害する効果を持っていないのよね?」

「ええ。だからあのセットカードが大切になる。最もあれが妨害用のカードじゃなかったら……」

「ボクはトリックスター・ライトステージを発動! デッキからトリックスター・キャンディナを手札に加える! そしてキャンディナを召喚! 召喚に成功したキャンディナの効果でデッキからトリックスター・リンカーネーションを手札に加える! ボクは手札のトリックスター・マンジュシカの効果を発動! マンジュシカを橙季ちゃんに見せて、特殊召喚! キャンディナを戻す! ボクはカードを3枚セットしてターンエンド!」

 

 

橙季 LP4000 手札1枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:5(エクスコード・トーカー、パワーコード・トーカー、シューティング・コード・トーカー、コード・トーカー)EXゾーン:2(トランスコード・トーカー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(サイバネット・コーデック)墓地:11 除外:0 EXデッキ:8(0)

愛美 LP4000 手札3枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(トリックスター・マンジュシカ)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(トリックスター・ライトステージ)墓地:1 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

橙季

 □□サ□伏

 □シパエ□□

  コ ト

ラ□マ□×□

 □伏伏伏□

愛美

 

 

☆TURN03(橙季)

 

「私のターンです、ドロー!」

「ドローをしたことでマンジュシカの効果が発動するよ! 橙季ちゃんに200ダメージ!」

 

橙季 LP4000→LP3800

 

「そしてトリックスターモンスターが戦闘・効果でダメージを与えたことでライトステージの効果を発動! さらに200のダメージを与えるよ!」

 

橙季 LP3800→LP3600

 

「私はメインフェイズ1に移行します。私は……魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動します! 愛美ちゃんの魔法・罠カードを全て破壊します!」

「羽根帚……!」

「あはっ♪ カードを発動してくれてありがとう! ボクは羽根帚にチェーンしてセットカードを全部発動するよ! 仕込みマシンガン、トリックスター・リンカーネーション、連鎖爆撃!」

「うわっ! 初手であんなん引き入れるってどんな引きの強さしてるのよ!」

 

 千春がそう驚くの無理はない。ライフ8000であっても大きく削り取るコンボをライフ4000ルールのデュエルで決めてくるのだ。マンジュシカとライトステージでジャブを食らわせつつ【チェーンバーン】デッキで用いられるような複数チェーンを組む。

 チェーン4の連鎖爆撃の効果で1600、チェーン3のリンカーネーションの効果で2枚ドロー、チェーン2の仕込みマシンガンの効果で橙季のフィールドのカード+手札のカードの合計×200である1600のダメージ。これだけで3200のダメージ。チェーン1の羽根帚の効果でライトステージが破壊されるにしても、マンジュシカの効果で400のダメージを受けるため、橙季のライフはどうしても0になる。

 

「エクストラ・リンクを決めたのは凄いと思うけど、ボクのデッキはそれを上回る! これで―――!!」

「私は連鎖爆撃に更にチェーン!!」

「えっ!?」

「手札1枚をコストに―――罠カード《レインボー・ライフ》を発動!!」

 

《レインボー・ライフ》

通常罠

手札を1枚捨てて発動できる。このターンのエンドフェイズ時まで、自分は戦闘及びカードの効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する。

 

「レインボー・ライフ!?」

「このターンの終了時まで私は戦闘およびカードの効果でダメージを受ける代わりにその数値分だけライフを回復する! これで全てのチェーンが組みあがった!!」

 

チェーン5(橙季):レインボー・ライフ

チェーン4(愛美):連鎖爆撃

チェーン3(愛美):トリックスター・リンカーネーション

チェーン2(愛美):仕込みマシンガン

チェーン1(橙季):ハーピィの羽根帚

 

「チェーン5のレインボー・ライフの効果が適用され、そこから連鎖爆撃以降のチェーンが処理される……」

「チェーン4の連鎖爆撃で受ける1600のダメージ分、私はライフを回復する!」

 

橙季 LP3600→LP5200

 

「チェーン3のトリックスター・リンカーネーションの効果。だけどレインボー・ライフの効果で残り1枚の手札をコストとして捨てている。よって1枚もドローしない。チェーン2の仕込みマシンガンで生じるダメージは1200! もちろんその1200分ライフを回復!」

 

橙季 LP5200→LP6400

 

「そしてチェーン1のハーピィの羽根帚で愛美ちゃんのフィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

「これでチェーン処理は終了……まさか、ボクのコンボを破るためだけにレインボー・ライフを入れてくるなんてね……」

「私は愛美ちゃんに勝ちたかった。昨日みたいなデュエルは、もうしたくなかったから」

「そうだったんだ……ははは……やっぱりバーンだけで勝てるほど甘くないよね、デュエルって。いいよ、橙季ちゃん。ボクは逃げも隠れもしない!」

「愛美ちゃん……バトル! トランスコード・トーカーでトリックスター・マンジュシカを攻撃!“トランスコード・フィニッシュ”!」

 

トランスコード・トーカー ATK3300 VS トリックスター・マンジュシカ ATK1600

 

「ボクは手札の《トリックスター・キャロベイン》の効果を発動!」

 

《トリックスター・キャロベイン》

効果モンスター

星5/光属性/天使族/攻2000/守1000

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドのモンスターが、存在しない場合または「トリックスター」モンスターのみの場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):自分の「トリックスター」モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前までに、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。その自分のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、その元々の攻撃力分アップする。

 

「マンジュシカの攻撃力をターン終了時まで元々の攻撃力分アップするよ!」

 

トリックスター・マンジュシカ ATK1600→ATK3200

 

「でも、トランスコードには届かない!」

「わかってる。せめてもの意地ってやつかな?」

 

愛美 LP4000→ATK3900

 

「エンコード・トーカーでダイレクトアタック!“エクスコード・クローズ”!」

 

エクスコード・トーカー ATK2800

 

愛美 LP3900→ATK1100

 

「これで最後! パワーコード・トーカーでダイレクトアタック!“パワーターミネーション・スマッシュ”!」

 

パワーコード・トーカー ATK2800

 

「今回はボクの負けだけど……次は絶対に勝つからね!!」

「うん、だから……次デュエルするときも全力でやろうね!」

 

愛美 LP1100→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、負けちゃったなぁ……まさかレインボー・ライフをメインから入れて来るなんて思わなかったよ」

「それだけ愛美ちゃんのデッキを警戒していたから……」

「なるほどね……」

「お二人とも、いいデュエルでしたね」

 

 デュエルを終えた愛美と橙季の元に皐月がやってきた。皐月は最初こそどんなデュエルになるのかハラハラしながら見ていたが、終わってみてその心配が杞憂であったことに安心したようだった。

 

「皐月さん!」

「どちらも互いのデッキの良さを最大限に生かしたデュエルをしていましたね。ですが、このデュエルからまた学べることはあったと思います。この1日でその学んだことを次に繋げられるように一緒に頑張りましょう。私もできる限りのサポートをしますから」

「「はい!」」

 

 そして舞台は第3試合へと移る。六人の中で最もデュエルに通じているであろう紫音と華のデュエルを迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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矛を交える決闘者・4

 

 

 

 

 

 迎える第3試合。クジで振り分けられた対戦カードは紫音と華だった。1戦目の未来対ヴェートは初心者同士のデュエル、2戦目の愛美対橙季のデュエルは六人の中でも特に仲の良い二人による中級者同士のデュエルとするならば、この二人のデュエルはまさにアカデミアの学生のレベルに最も近い、上級者同士のデュエルであると言えた。

 さらにこのデュエルには単に紫音と華のデュエル、という以外にも別の意味合いが含まれていた。それは彼女たちの指導者をする二人、紫音の指導者である鈴と華の指導者である千春にあった。

 この二人の指導方針は他の三人と違ってひたすら実戦を繰り返す方式を取るという厳しいものであるのだが、そんな彼女たちについた二人はもっと自分を高めたいという上昇志向の持ち主であったため、鈴と千春のその指導方針は意外と合っているといえた。

 指導法が肌が合っていることに加え、気性が合ったということもあって紫音と華はそれぞれ鈴と千春に深い恩義を感じており、それが「自分たちを指導してくれた鈴(千春)のためにも負けられない」という気持ちに繋がっていた。それは鈴と千春が知らないところで、紫音と華による代理戦争の意味合いも含んでいたのだ。

 

「なあ、ところでな。うちから提案があるんやけど……」

「……!? 私は大丈夫ですが、お二人が了解してくれるでしょうか?」

 

 デュエルの前に華が紫音に何やら耳打ちする。紫音は最初はおお、という顔をしたがすぐに不安そうな顔に変わる。二人は何を考えているのだろうか、と思った鈴と千春の元に紫苑と華は作り笑いを浮かべながらやってくる。

 

「あのー、ちょっとうちから提案があるんやけど」

「提案? 何かしら」

「自分で言うのもなんなんやけど、うちらってそれなりにデュエルの経験があるねん。4000ライフじゃなくて……8000ライフのデュエルに関しても」

 

 紫音と華の二人の提案は、このデュエルだけでいいのでライフを4000制ではなく8000制でさせてほしい、というものだった。あくまで高みを目指す二人である。4000制のデュエルでは互いに実力を出し切らないうちに終わってしまう可能性があったのだ。

 しかし、開会式の場で説明を受けたようにここでのデュエルは基本ライフは4000制を取っているため、8000制ライフのデュエルは規則違反と捉えられかねない恐れもあった。

 

「あっ、でもルール違反なら無理に変えなくてもええんやで。うちは決められたルールとかを破る、ってのはそんなに気が乗らへんねん」

「……どうでしょうか?」

 

 最もこの二人のこの申し出はダメ元で行ったものである。しかし、それを決める鈴と千春の反応は実にあっさりとしたものだった。

 

「いいんじゃない? 別に」

「そうよね。バレなきゃオッケーよ!」

 

 あまりに簡単にGOサインが出たため、紫音と華は頼んでおきながら唖然とする。

 

「えっ……いやいや、言い出しといてなんやけど、そんな簡単に決めちゃってええんか?」

「別に。バレたところでちょっと校長先生に怒られる程度よ」

「それは……まずいんじゃないんですか?」

「大丈夫よ。それならあたしがパパのケチ、パパ大っ嫌い!ってパパに言うから」

「ああ、そうすれば無罪放免よね!」

 

 いくら娘とはいえ、あの星乃 竜司にそんなことを平気で言ってのけるあたり、改めて鈴という人間の恐ろしさを知った紫音と華であった。そんなことを彼女たちが思っているのを知る由もない鈴と千春は遊希たちにこのデュエルのみ8000制で行うということを告げた。

 特に断る理由のない遊希たちも二つ返事で了承したが、そうなると愛美たちから不平不満の声も少しは出るだろう、と思っていた。しかし、彼女たちもむしろそのデュエルには歓迎といったムードであり、自分たちと同世代ながら8000制のライフでデュエルができる紫音と華の腕に期待の目線を送るほどだった。

 

「ありゃりゃ、思っていた以上に大事になりそうやね」

「ったく……もう少し考えて物を言ってください」

「悪い悪い。でも紫音もそれなりにノリ気だったやん?」

「それは……まあ、鈴さんに成長したところを見て貰って……その、褒めてもらいたいから」

 

 もごもごと口ごもる紫音を尻目に華はデュエルディスクを腕につけてデュエルの準備を始める。華はデュエルディスクにセットしてあったデッキを一度外すと、パラパラとデッキの上から数枚のカードをめくってみた。千春とのデュエル以降、どうすればより高みに達することができるのか。それをずっと考え続けてきた。

 

(……頼むで、うちのデッキ)

「華さん、私は準備できました」

「よっし。ほないくで!」

 

 デュエルディスクを起動させ、デュエルモードに移行する。先攻後攻の決定権はコンピューターによって紫音に与えられた。

 

「先攻後攻の決定権は私にありますね。では先攻を貰います」

「ま、そうやろな。じゃあうちは後攻で行かせてもらうで!」

(【ブラック・マジシャン】……注意すべきカードは当然ブラック・マジシャンに黒の魔導陣に永遠の魂……全部が全部対策できるわけはないからある程度割り切って……)

 

 先攻後攻が決まり、デュエルスペースに向かう二人。しかし、そこに向かうまで何もない場所でつまずいて転びそうになるなど、紫音は目に見えて緊張しているようだった。

 鈴は最初にデュエルした時点で紫音の弱点はデッキ構成やデュエルタクティクスではなく、想定外の事態に弱いところにあると指摘していた。メンタル面の弱点はすぐに治るものではないだろう。しかし、完治させることはできなくとも自身の意識次第でそれを抑えることができる。要は心の持ちようなのだ。

 ここは紫音自身で乗り越えなければならない、と思っている鈴であるが、非情になり切れなかった彼女は緊張した面持ちの紫音の下へ向かい、その肩をポンと叩いた。

 

「わっ、びっくりした……どうしたんですか、鈴さん」

「肩に力が入っているわよ。ほらほら、リラックス!リラックス!」

「す、すいません……」

「でも緊張することは悪いことじゃないと思うな。ぶっちゃけあたしだってデュエルの前はいつだって緊張してるし」

「私とのデュエルの時もですか?」

「ええ。紫音とは昨日5回デュエルしたけど、5回とも緊張してた。でも緊張するってことはそれだけそのデュエルにかける思いが強いってこと」

「思い……」

「まあ、気負いすぎないことだよ! 変に気負うといつも通りの動きができなくなっちゃうしね!」

 

 それだけ言い残すと鈴は先に待っていた千春の隣に座る。鈴の言葉はおおよそアバウトであったが、彼女が何を言いたいのかは紫音には伝わっていた。

 

(気負いすぎるな……そっか。そうだよね、このデュエルは鈴さんのためにするんじゃない。このデュエルは私のデュエルなんだから)

「紫音、準備はええか?」

「はい、いつでも」

「このデュエルは練習と言えば練習かもしれへん。だけど、うちはやれるだけのことをやるから」

「……私もです。練習とはいえ、負けてあげる道理はありません」

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:紫音 【ブラック・マジシャン】

後攻:華 【HERO】

 

 

紫音 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

華 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(紫音)

 

「私の先攻です。私は《竜魔導の守護者》を召喚します!」

 

《竜魔導の守護者》

効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、このカードの効果を発動するターン、自分は融合モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、手札を1枚捨てて発動できる。デッキから「融合」通常魔法カードまたは「フュージョン」通常魔法カード1枚を手札に加える。

(2):EXデッキの融合モンスター1体を相手に見せて発動できる。そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を自分の墓地から選んで裏側守備表示で特殊召喚する。

 

「召喚に成功した竜魔導の守護者の効果を発動します。手札1枚をコストにデッキから融合通常魔法かフュージョン通常魔法1枚を手札に加えます。私は手札のブラック・マジシャン1枚をコストに融合を手札に加えます。そして永続魔法、黒の魔導陣を発動します」

 

 【ブラック・マジシャン】デッキにおいて必要不可欠なカードの1枚である黒の魔導陣。このカードを初手で引き入れられたことは彼女にとっては幸運であった。

 

「初手で引くとかドロー運ええなぁ。羨ましいわ……」

「偶然ですよ、偶然。このカードの発動時、デッキトップから3枚カードを確認してその中にあるブラック・マジシャンもしくはブラック・マジシャンのカード名が記された魔法・罠カード1枚を手札に加えます。私が手札に加えるのは罠カード、マジシャンズ・ナビゲートです」

 

 マジシャンズ・ナビゲートは手札からブラック・マジシャン1体を特殊召喚し、レベル7以下の闇属性・魔法使い族モンスターをデッキから特殊召喚する罠カードだ。そのため手札にブラック・マジシャンがなければ発動できない。

 

(さっき紫音は竜魔導の守護者のコストでブラック・マジシャンを捨てた。あのカードを選ぶっつーことは手札にもう1枚ブラック・マジシャンがあるってことなんやろか……それとも他に加えられるカードがなかったんか?)

「竜魔導の守護者のもう1つの効果を発動します。EXデッキの竜騎士ブラック・マジシャンを見せることで、その融合素材であるブラック・マジシャンを墓地から裏側守備表示で特殊召喚します」

 

 S召喚やX召喚はフィールドのモンスターが表側表示でなければその素材に使用することはできない。しかし、手札のモンスターを素材にも使用できる融合召喚は素材のモンスターが裏側守備表示であっても融合素材に使用できる。

 

「私は手札から魔法カード、融合を発動! フィールドの裏守備状態のブラック・マジシャンとドラゴン族モンスターの竜魔導の守護者を融合!“古き偉大なる王に仕えし黒き魔術師よ。竜の力を得て全てを守護する騎士となれ!”融合召喚! 現れなさい、竜騎士ブラック・マジシャン!」

 

《竜騎士ブラック・マジシャン》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

「ブラック・マジシャン」+ドラゴン族モンスター

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「ブラック・マジシャン」として扱う。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの魔法・罠カードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

 

「出たな、ブラック・マジシャンデッキのエースモンスター!」

「このカードがモンスターゾーンに存在する限り、私の魔法・罠カードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されません。私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 

紫音 LP8000 手札2枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(竜騎士ブラック・マジシャン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(黒の魔導陣)墓地:3 除外:0 EXデッキ:14(0)

華 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

紫音

 □□黒伏□

 □□□□□□

  竜 □

□□□□□□

 □□□□□

 

○凡例

竜・・・竜騎士ブラック・マジシャン

 

 

☆TURN02(華)

 

「うちのターン、ドローや!」

(竜騎士ブラック・マジシャンの真価は永遠の魂と組み合わせた場合に発揮される。あのセットカードはきっと黒の魔導陣で手札に加えたマジシャンズ・ナビゲートのはずやから、永遠の魂を引かれる前に倒させてもらうで!)

「行くで! うちは手札から魔法カード《E-エマージェンシーコール》を発動や!」

 

《E-エマージェンシーコール》

通常魔法

(1):デッキから「E・HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

「うちはこの効果でデッキからE・HERO ソリッドマンを手札に加える! そしてソリッドマンを召喚! 召喚に成功したソリッドマンの効果で手札のレベル4以下のHERO1体を特殊召喚できるで! 頼むで、V・HERO ヴァイオン!」

 

 瞬く間に2体のHEROモンスターが華のフィールドに現れる。HEROの下級モンスターは有用な効果を持っているモンスターが多いため、ソリッドマンやヴァイオンのような展開の要となるモンスターを如何にして召喚・特殊召喚できるかが鍵となってくる。

 

「特殊召喚に成功したヴァイオンの効果を発動や! デッキからHEROモンスター1体を墓地へ送る! 墓地へ送るのはもちろんD-HERO ディアボリックガイや! そして墓地のディアボリックガイの効果を発動! このカードをゲームから除外し、2体目のディアボリックガイをデッキから特殊召喚するで! そしてディアボリックガイとソリッドマンの2体をリンクマーカーにセット! 召喚条件はHEROモンスター2体! サーキット・コンバイン! 行くで! X・HERO クロスガイ!」

 

 X・HERO クロスガイ。このカードの登場で【HERO】デッキは大幅に強化されたといえる。モンスターの名前こそ命名規則からD-HEROのサポートカードであり、効果もD-HEROとの併用が前提であるものの、E、D、VなどのHEROを併用する華のデッキにはこれ以上ないほどマッチするモンスターだ。

 

「リンク召喚に成功したクロスガイの効果を発動するで! 墓地のD-HEROモンスターを特殊召喚―――」

「クロスガイがHEROデッキの軸なのはわかっています! なのでクロスガイの効果にチェーンしてリバースカードを発動します! 永続罠、永遠の魂!!」

「んなあああっ!?」

 

チェーン2(紫音):永遠の魂

チェーン1(華):X・HERO クロスガイ

 

「チェーン2の永遠の魂の効果を発動します! 墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚です!」

「なんで永遠の魂を伏せとんねん! 紫音が黒の魔導陣で手札に加えたのはマジシャンズ・ナビゲートのはず……まさか!」

「そのまさかですよ。永遠の魂は最初から手札にあったんです。ですが、それをわかっているのは私だけ」

 

 華は黒の魔導陣でマジシャンズ・ナビゲートを手札に加えていることを知っているため、どうしても意識はそのカードに向いてしまう。それを逆手に取った紫音は敢えてカードを1枚だけセットすることで、華の注意を反らしたのだ。紫音の手札には永遠の魂はなく、セットしたカードは間違いなくマジシャンズ・ナビゲートである、と。

 

「見えている情報に気を取られ過ぎてしまいましたね。デュエルは駆け引きが大事なんです、それを私は鈴さんから教わりました」

「……うちをハメたってことか。ええやん、だったらその借りをこっから返させてもらうからな!!」

 

 

 

 

 

 

 



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矛を交える決闘者・5(3訂版)

 

 

 

 

 

 

「チェーン1のクロスガイの効果を発動や! 墓地のD-HERO1体を特殊召喚するで! 特殊召喚するのは2体目のディアボリックガイ!」

 

 ディアボリックガイは墓地の自身を除外することでデッキから同名カードを特殊召喚することができる。かつてはその効果の汎用性から準制限カードに指定されていたが、今は無制限カードであるためその力を最大限活用できるようになっている。だからこそ、HEROデッキを相手取るのであればこのカードに気を付けなければならない。

 

「ブラック・マジシャンの特殊召喚に成功したことで永続魔法、黒の魔導陣の効果を発動します! 相手フィールドのカード1枚をゲームから除外します! 除外するのはディアボリックガイです!」

「っ!?」

 

 ブラック・マジシャンの持つロッドの先から放たれた黒魔術によってディアボリックガイが異次元に消える。当然のことながら除外されてしまった場合、ディアボリックガイは異次元からの埋葬などのカードによって墓地に戻らない限りは効果を発動できないのだ。

 

「薄々感付いとったけど、やってくれるわぁ……」

「ディアボリックガイの強さはよくわかっていますから。クロスガイのもう一つの効果はフィールドのD-HERO1体を墓地へ送ることでデッキからHERO1体をサーチする効果。あなたのフィールドにいるヴァイオンはV・HERO。クロスガイの効果でリリースすることはできません!」

「……その通りや。だけど、みんな同じHEROであることには変わりないってことを教えたるわ! ヴァイオンの2つ目の効果を発動や! 墓地のソリッドマンをゲームから除外してデッキから融合1枚をサーチする。そしてうちは―――《E-HERO アダスター・ゴールド》の効果を発動する!!」

 

《E-HERO アダスター・ゴールド》

効果モンスター

星4/光属性/悪魔族/攻2100/守800

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。「E-HERO アダスター・ゴールド」以外の「ダーク・フュージョン」のカード名が記されたカードまたは「ダーク・フュージョン」1枚をデッキから手札に加える。

(2):自分フィールドに融合モンスターが存在しない場合、このカードは攻撃できない。

 

「い、E-HERO!?」

 

 E-HEROは【HERO】の名こそ持つが、種族は悪魔族で統一されているなどその名が示す通り、悪のHEROだ。千春のアドバイスを受けた時に華はE-HEROはHEROであってHEROにあらず、という価値観からデッキに入れることを拒んでおり、それを紫音たちも知っていた。知っていたからこそ、華の手札にこのカードがあることに驚きを隠せなかった。

 

「華さん、あなたはE-HEROは邪道って散々言っていたじゃないですか!!」

「確かにうちの価値観とは相容れないカードやった。だけど、いくら悪に染まったとしてもHEROの名を持つってことはHEROたる資格があるんじゃないか。昨日夜寝る時にそんなことを考えてたんや」

 

 華にとって英雄とは正義の象徴だ。しかし、ただ清いだけで世界を救うことはできない。綺麗ごとばかりでは済まされないこの世界、清濁併せ呑むだけの覚悟があるからこそ本当に正しい道を貫くことができるのではないか。そんな気持ちも多感な時期を迎えたこの少女の中には間違いなく芽生えていた。

 

「うちには正義も悪もない。全て受け止めたる! 全てを受け止めてこそ、うちのデッキは本当の力を発揮する! アダスター・ゴールドの効果でうちはデッキから《ダーク・コーリング》を手札に加える!」

 

 ダーク・コーリングはフィールド・墓地のモンスターを除外することで《ダーク・フュージョン》の効果で融合召喚できるモンスターを融合召喚する言わば【E-HERO】版《ミラクル・フュージョン》のような効果を持ったカードだ。このカードを発動する場合、墓地に必要なカードが揃っている必要がある。

 

「そして融合を発動! 手札の《D-HERO ダイナマイトガイ》と《E-HERO シニスター・ネクロム》を融合!“その身に全てを破壊する力を秘めた英雄よ。邪悪なる死霊術師と交わり神たる崇拝を集めし英雄となりて新生せよ!” 融合召喚! 《V・HERO アドレイション》!!」

 

《V・HERO アドレイション》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/戦士族/攻2800/守2100

「HERO」モンスター×2

(1):1ターンに1度、相手フィールドの表側表示モンスター1体と、このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、その自分のモンスターの攻撃力分ダウンする。

 

「アドレイションはHEROモンスターならなんでも融合素材にできるカードや。うちが墓地融合できるダーク・コーリングをサーチした理由がわかったやろ?」

「っ……」

「ということで、続けてダーク・コーリングを発動や!」

 

《ダーク・コーリング》

通常魔法

(1):自分の手札・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できるその融合モンスター1体を「ダーク・フュージョン」による融合召喚扱いとしてEXデッキから融合召喚する。

 

「うちは墓地のE-HEROモンスター、アダスター・ゴールドとレベル5以上のダイナマイトガイを除外して融合!“暗黒に染まりし黄金の反英雄よ。運命の力与えられし英雄と交わり邪悪なる力を奮って破滅をもたらせ!”融合召喚!《E-HERO マリシャス・ベイン》!!」

 

《E-HERO マリシャス・ベイン》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守3000

「E-HERO」モンスター+レベル5以上のモンスター

このカードは「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できる。このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードは戦闘・効果では破壊されない。

(2):自分メインフェイズに発動できる。このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールドのモンスターを全て破壊し、このカードの攻撃力は破壊したモンスターの数×200アップする。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「HERO」モンスターでしか攻撃宣言できない。

 

「まだや! うちはリンク2のクロスガイとヴァイオンをリンクマーカーにセット! 召喚条件はHEROモンスター2体以上! サーキットコンバイン! リンク3! X・HERO ドレッドバスター!」

 

 ドレッドバスターは自身およびリンク先に存在するHEROモンスターの攻撃力を墓地のHEROモンスターの数×100ポイントアップさせる効果を持っている。ヴァイオン、黒の魔導陣、そしてダーク・コーリングの効果で華の墓地からはHEROが4体除外されているものの、マリシャス・エッジ、クロスガイ、ヴァイオンの3体がまだ残っていた。

 

「墓地のHEROは3体! よってドレッドバスターとマリシャス・ベイン、アドレイションの攻撃力は300アップ!」

 

X・HERO ドレッドバスター ATK2500→ATK2800

E-HERO マリシャス・ベイン ATK3000→ATK3300

V・HERO アドレイション ATK2800→ATK3100

 

「マリシャス・エッジは全体除去効果を持っていましたね。ですが、永遠の魂が存在する限りブラック・マジシャンは効果では破壊されません!」

「そんなんわかっとる。でも、永遠の魂はもう使わせへんで! うちは墓地のシニスター・ネクロムの効果を発動!」

 

《E-HERO シニスター・ネクロム》

効果モンスター

星5/闇属性/悪魔族/攻1600/守1800

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):墓地のこのカードを除外して発動できる。手札・デッキから「E-HERO シニスター・ネクロム」以外の「E-HERO」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「墓地のこのカードを除外してデッキから同名カード以外のE-HERO1体を特殊召喚するで! うちが特殊召喚するのは《E-HERO ヘル・ゲイナー》や!」

 

《E-HERO ヘル・ゲイナー》

効果モンスター

星4/地属性/悪魔族/攻1600/守0

(1):自分メインフェイズ1にフィールドのこのカードを除外し、自分フィールドの悪魔族モンスター1体を対象として発動できる。その自分の悪魔族モンスターは、フィールドに表側表示で存在する限り、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):このカードが(1)の効果を発動するために除外された場合、2回目の自分スタンバイフェイズに発動する。このカードを攻撃表示で特殊召喚する。

 

「うちのフィールドの悪魔族モンスター、マリシャス・ベインを対象にヘル・ゲイナーの効果を発動! このカードをゲームから除外し、マリシャス・ベインに1度のバトルフェイズに2回の攻撃を可能にするで!」

「攻撃力3300の2回攻撃……っ!」

「永遠の魂を伏せていたことには驚いたわ。だけど、使うタイミングはしっかり見極めなきゃアカンで? ってことでバトルフェイズや! ドレッドバスターでブラック・マジシャンを攻撃!“ドレッドクロス・ストライク”!」

 

X・HERO ドレッドバスター ATK2800 VS ブラック・マジシャン ATK2500

 

紫音 LP8000→LP7700

 

「っ、ブラック・マジシャン……!」

「アドレイションで竜騎士ブラック・マジシャンを攻撃!“アンビション・サンクションズ”!」

 

V・HERO アドレイション ATK3100 VS 竜騎士ブラック・マジシャン ATK3000

 

紫音 LP7700→LP7600

 

「これであんたのフィールドはがら空きや! マリシャス・ベインで一度目のダイレクトアタックや!“マリシャス・ヘル・スラッシュ”!」

 

E-HERO マリシャス・ベイン ATK3300

 

紫音 LP7600→LP4300

 

「もういっちょ! マリシャス・ヘル・スラッシュ! そしてマリシャス・ベインを対象に手札の《E・HERO オネスティ・ネオス》の効果を発動や!」

 

《E・HERO オネスティ・ネオス》

効果モンスター

星7/光属性/戦士族/攻2500/守2000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。

(1):このカードを手札から捨て、フィールドの「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで2500アップする。

(2):手札から「HERO」モンスター1体を捨てて発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、捨てたモンスターの攻撃力分アップする。

 

「っ……!!」

「オネスティ・ネオスの効果でマリシャス・ベインの攻撃力をターン終了時まで2500アップするで!」

 

E-HERO マリシャス・ベイン ATK3300→ATK5800

 

「……華さん」

「なんや、紫音」

「次は、負けません」

「……ああ、その意気や。またデュエルすることを楽しみにしとるで? ほな!」

 

 

紫音 LP4300→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか後攻ワンキルとは……」

「華おねえちゃん、すごい……」

 

 自分たちとは倍のライフで始めたのにも関わらず、わずか2ターンで決着が付いた紫音と華のデュエル。その様にヴェートや未来はただただ圧倒されるばかりであった。

 

「ボクたちもあんなデュエルができるようになりたいね♪」

「えっ、う、うん!」

 

 しかし、このデュエルを見て尻込みするようであれば、そもそもこのイベントには参加しない。紫音と華のデュエルを見た未来たちはより一層の闘志を燃やすのであった。

 

「これは……8000ライフでのデュエルにして正解だったな」

「はい、皆さんもやはりデュエリストですからね。あのような刺激的なデュエルを目の前で見せられて燃えないはずがありません」

「そうね……あっ、そうだ。鈴、ちょっと」

 

 デュエルが終わった後、遊希は鈴にそっと耳打ちをする。鈴は右手の親指と人差し指の先を合わせて○を作ると、呆然と立ち尽くしている紫音のところへと駆け寄った。このデュエルを見た皆が盛り上がる中、後攻ワンターンキルを決められてしまった紫音の気持ちは如何許りか。

 

「紫音」

「鈴さん……あの、すいませんでした」

「どうして謝るの?」

「だって、私は……」

「デュエリストに勝ち負けはつきもの。一回の負けでしょげてたら身が持たないわよ? ほらほら、次!次!」

 

 鈴はそう言って明るく慰める。自分もそうだ、これまで何回の負けも経験してきた。しかし、その負けから学び、その負けを次に繋げてきたからこそ今がある。今勝てなくてもいい。最後に笑っていられるかどうかが大事なのだから。

 これで午前中に予定されていたデュエルはこれで全て終了した。ちょうど正午まであと1時間、といったところだったため皆は昼食作りに移る。そんな中、デュエルを見ていた遊希、皐月、エヴァの三人から鈴と千春にある提案がなされた。

 

「……面白そうね。じゃあ少し早いかもしれないけど、他の子たちにもやってもらう? ライフ8000制のデュエルを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェートおねえちゃん、おはしはこうやってもつんだよ?」

「んん……中々難しいですね。未来ちゃん、教えてくれてありがとうございます」

 

 2日目はまさに日本特有の真夏の暑さが襲ってきた、というレベルの気温となった。暑さで体力を奪われては元も子も無いということで昼食は日本の夏を代表する食べ物である素麺となった。

 しかし、箸を使い慣れていないヴェートが食べるのに一苦労していたため、隣に座っていた未来が手取り足取り箸の使い方をレクチャーしていたため、全く食べることができないわけではないようだった。そんな微笑ましい光景を尻目に遊希の口から出された衝撃の提案に愛美と橙季は驚きを隠せないようだった。

 

「ボクたちもライフ8000でデュエルするんですか!?」

「ええ。最初はずっと4000でやるつもりだったんだけど、あなたたち私たちが思っている以上に飲み込みもいいしデュエルのセンスもあるわ」

「だから午後は組み合わせを変えて8000ライフでデュエルをやってもらおうってことになったのよ。ほら、紫音と華にできるんだからあんたたちにだってできるでしょ?」

 

 千春のその言葉に紫音と華が凄いだけなんじゃ、と思う愛美と橙季であったが、二人はそれを後ろ向きではなく前向きに捉えることとした。逆を返せば「それだけ自分たちがデュエリストとしての才能に溢れている」ということになるのだから、喜ばない理由はない。

 

「でも組み合わせを変えるってことは橙季ちゃんにリベンジする機会が無くなっちゃうね」

「ま、まあ……さっきのデュエルの勝利は私がリベンジする側だったからね」

「うちらは別に構わへんけど、未来ちゃん大丈夫なん? 小学校低学年でライフ8000のデュエルはさすがにしんどいんやないの?」

 

 華の問いに遊希とエヴァが口を揃えて「私たちは小学生の頃から8000ライフのデュエルをしていた」と答えるが、デュエルを始めたばかりの未来をプロ二人人と同一視するのはさすがにどうなのか、と全員からツッコミが入る。

 

「でも一つだけ言えることがある。未来ちゃんは小学校2年生ながら皆とデュエルができているんだ。年齢を考えると、一番すごいことだと思わないか?」

「良かったですね、未来ちゃん。皆さんが褒めてくれていますよ?」

「ふぇっ!? あうう……そんなわたしすごくないよ……」

 

 照れる未来の愛らしさに場が和む中、素麺を流し込んだ一同は午前中のように鈴自作のクジで再度組み合わせの抽選会を行うことになった。しかし、その前に愛美から一つのリクエストが入る。

 

「あの、やっぱりボクは橙季ちゃんとデュエルがしたいんだけど……」

「また? まあ別に構わないと言えば構わないけど……」

「愛美ちゃん、どうして私と……?」

「それは、ヒ・ミ・ツ♪」

 

 そう言ってどこか悪戯っぽく笑う愛美。愛美と橙季のマッチアップが変わらない、ということは自然と残る二組の組み合わせも決まる。ライフ8000でのデュエルの組み合わせは以下のように決まった。

 

 

第一試合:未来 VS 華

第二試合:紫音 VS ヴェート

第三試合:愛美 VS 橙季

 

「じゃあ今から1時間後にデュエル開始よ。それまで食休みするなりデッキ調整するなり好きに過ごしてくれていいわ」

 

 遊希の指示を受けて全員がそれぞれ動き出すが、皆が皆デッキを取り出して一人で回してみたりデッキ改造に勤しんでいた。やはり遊希たちと一緒に過ごしたのが大きいのか、全員が第一にデュエルのことを考えるようになっていた。

 

「あ、あの……遊希おねえちゃん」

 

 その中で第二試合に華とデュエルをする未来は遊希の元にやってきていた。未来は昨日と比べて大幅に成長したといっていいが、さっきのデュエルを見て華の強さに少し及び腰でもあった。

 未来はデュエル初心者とはいえ、今の今までデュエルをして一回も勝つことができていない。イベントに参加して、遊希たちと出会って芽生えたデュエリストとしての自我が彼女に「勝ちたい」という思いを強く根付かせていたのだ。

 

「あのね、未来ちゃん。勝つことだけが全てじゃないのよ? 負けてそこから何を学べるかも大事なの」

「うん、それは……わかっているんだけど。でもわたしがかったら遊希おねえちゃんをもっとよろこばせてあげられるから……」

「未来ちゃん……」

 

 しかし、そう諭しながらも健気な未来の姿に遊希はその頭を優しく撫でる。

 

「……おねえちゃん嬉しいわ。わかった、じゃあ未来ちゃんに……このカードをあげる」

 

 遊希から手渡されたカード。それは間違いなく未来の行き着く希望を指し示すカードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




○修正箇所
アドレイションの融合素材をダイナマイトガイ+マリシャス・エッジからダイナマイトガイ+シニスター・ネクロムに変更
シニスター・ネクロムの効果でヘル・ゲイナーのSSし、マリシャス・ベインに2回攻撃を付与

もし効果の誤用がありましたら、改めてご指摘いただければ幸いです。


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激戦の決闘者・1

 

 

 

 

 

 

 デュエル開始の時間となり、外に出た一同は午前中のようにデュエルの態勢を整える。正午を過ぎて暑さがピークになりつつあるため、デュエルをする二人には予めスポーツドリンクが手渡された。デュエルの最中に熱中症で倒れた、などとなれば元も子もないのだから。

 

「未来ちゃん、宜しく頼むで!」

「あ、あの! 華おねえちゃん!」

 

 そう言ってデュエルスペースに向かおうとした華を未来が呼び止めた。

 

「なんや? どうしたん?」

「あのっ、未来おねえちゃんはとってもつよいけど……わたし、まけません。だからぜんりょくでデュエルしてください!」

「未来ちゃん……わかったで! うちも本気で行かせてもらうわ!」

 

 図らずも自分の教え子同士がデュエルをすることとなった遊希と千春は二人並んで座っては、デュエル前の未来と華の様子を見守っていた。

 

「未来ちゃん……目つきが昨日と違うわね。もうデュエリストの眼をしてるわ」

「そうね。愛らしさの中に強さがある、という感じかしら。うん、妹にしたい」

 

 真面目な顔でなんともふざけたことを言う遊希。千春は一々反応しても面倒なだけなので、ツッコむことを止めた。

 

「……でも華のデュエルを見たでしょ? あの子のデッキは様々なタイプのHEROを混在させて一気に決めに行くデッキよ。先攻ならダーク・ロウやディストピアガイで相手を妨害し、後攻ならマリシャス・ベインの効果で一気に攻める。HEROならではの多彩さが上手く生きているわ」

「そうね。でも、未来ちゃんにデュエルの指導をしたのは誰だと思っているの?―――天宮 遊希よ?」

 

 未来にご執心、といった様子の遊希はこの合宿中はどちらかというと普段のクールさは見る影もない。しかし、この時の遊希の眼はまさにデュエルの時に彼女が見せる伝説のデュエリスト・天宮 遊希の眼となっていた。

 

「よっしゃ、うちが先攻を貰うで!」

 

 先攻後攻の決定権は華に渡り、華は迷うことなく先攻を取った。相手が初心者の未来であろうとも、容赦することは無い。常に全力で行くことが未来に対しての礼でもあるからだ。「どっちも頑張れ!」という皆の声援が飛ぶ中、未来にとって未知の境地である8000ライフのデュエルが始まろうとしていた。

 

「デュエルや!」

「デュ、デュエルっ!」

 

 

先攻:華【HERO】

後攻:未来【希望皇ホープ】+【ガガガ】

 

 

華 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

未来 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

 

☆TURN01(華)

 

「うちの先攻やで! うちは手札のシャドー・ミストを墓地へ送ってV・HERO ファリスの効果を発動や! このカードを特殊召喚! そして特殊召喚に成功したファリスの効果と墓地に送られたシャドー・ミストの効果を発動するで!」

 

チェーン2(華):E・HERO シャドー・ミスト

チェーン1(華):V・HERO ファリス

 

 

「チェーン2のシャドー・ミストの効果でデッキからE-HERO アダスター・ゴールドを手札に加える。そしてチェーン1のファリスの効果ででデッキからV・HERO インクリースを永続罠カード扱いで魔法・罠ゾーンに置かせてもらうで! そしてインクリースの効果を発動や! ファリスを墓地へ送ってインクリースを魔法・罠ゾーンから特殊召喚や!」

 

 現時点でのHEROデッキにおいて定石の動きとも言えるファリスからのインクリースのコンボを鮮やかに決めてみせる華。それでいてファリスの特殊召喚コストに墓地に送られることで効果を発動できるシャドー・ミストを使うあたり彼女の抜け目なさはこのデュエルでも現れていた。

 

「特殊召喚に成功したインクリースの効果を発動! デッキからV・HERO ヴァイオンを特殊召喚するで! そして特殊召喚に成功したヴァイオンの効果でデッキからD-HERO ディアボリックガイを墓地へ送る。そして墓地のディアボリックガイの効果を発動や! 墓地のこのカードを除外してデッキから2枚目のディアボリックガイを特殊召喚する!」

「ふええ……」

 

 次々と現れるHEROモンスターを前に対峙する未来は動揺を隠せない。その様子からどうやら彼女の手札には増殖するGや灰流うららのような手札誘発カードはないようだ。それならば躊躇する必要はない。

 

(ええやん、全部が上手く行ってるで! こういう時は止まらず突っ走るだけや!)

「うちはファリスとディアボリックガイをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 頼むで、X・HERO クロスガイ! リンク召喚に成功したクロスガイの効果を発動! 墓地のディアボリックガイを特殊召喚する! そしてディアボリックガイをリリースしてクロスガイの2つ目の効果を使わせてもらうで。デッキからE-HERO シニスター・ネクロムを手札に加える。そしてヴァイオンの効果を発動! 墓地のシャドー・ミストを除外して、デッキから融合1枚を手札に加える! ついでに手札のアダスター・ゴールドの効果を発動して、デッキからダーク・コーリングを手札に加えるで!」

 

 ファリスの特殊召喚で3枚になっていたはずの華の手札は初期枚数を超える6枚まで回復していた。そして手札には墓地のモンスターを除外することで融合召喚が行えるダーク・コーリングがあるため、更なる展開が華は可能になっている。

 

「うちは手札から魔法カード、融合を発動! フィールドのヴァイオンと手札のシニスター・ネクロムを融合!“幻影の戦士よ。邪悪なる死霊術師と交わり神たる崇拝を集めし英雄となりて新生せよ!”融合召喚! V・HERO アドレイション!」

 

 アドレイションはHEROモンスター2体という非常に緩い条件で融合召喚ができる。相手フィールドにモンスターが存在しない場合は、攻撃力2800のバニラモンスター同然のモンスターであるが、あくまでこの融合召喚の狙いはシニスター・ネクロムを墓地へ送るためのものであった。

 

「2体目のディアボリックガイの効果を発動! 墓地のこのカードを除外して3体目のディアボリックガイを特殊召喚するで! そしてクロスガイと3体目のディアボリックガイをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! X・HERO ドレッドバスター!」

 

 現時点で華の墓地に存在するHEROの数はファリス、インクリース、3体目のディアボリックガイ、ヴァイオン、アダスター・ゴールド、シニスター・ネクロム、クロスガイの計7体。よってドレッドバスターの効果で自身とリンク先に存在するアドレイションの攻撃力は700アップする。

 

X・HERO ドレッドバスター ATK2500→ATK3200

V・HERO アドレイション ATK2800→ATK3500

 

「ま、墓地のモンスター減らしてまうからオマケ程度やけどな? うちは手札から魔法カード、ダーク・コーリングを発動! 墓地のディアボリックガイとアダスター・ゴールドを除外して融合!“暗黒に染まりし黄金の反英雄よ。運命の力与えられし英雄と交わり邪悪なる力を奮って破滅をもたらせ!”融合召喚! E-HERO マリシャス・ベイン!」

 

X・HERO ドレッドバスター ATK3200→ATK3000

V・HERO アドレイション ATK3500→ATK3300

E-HERO マリシャス・ベイン ATK3000→ATK3500

 

「……これにダーク・ロウがあれば完璧やったんやけどなぁ。うちは―――」

「は、華おねえちゃん!!」

「なんや? カードの効果を確認したいんやったら教えてあげるで?」

「あの、えっと! ごめんなさい!! わたしはてふだのこのカードのこうかをはつどうしまちゅ!」

 

 未来の手札から1体のモンスターが彼女のモンスターゾーンに置かれる。次の瞬間、天空から巨大な隕石のような物体が未来のフィールドに落下し、その衝撃で華のフィールドのモンスターが全て消滅してしまった。

 

「……ひょ?」

「えっと、あいてが5たいいじょうのモンスターさんの召喚・特殊召喚にせいこうしたターンのメインフェイズに《原始生命態ニビル》さんのこうかをはつどうしまちゅ!」

 

《原始生命態ニビル》

効果モンスター

星11/光属性/岩石族/攻3000/守600

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手が5体以上のモンスターの召喚・特殊召喚に成功したターンのメインフェイズに発動できる。自分・相手フィールドの表側表示モンスターを全てリリースし、このカードを手札から特殊召喚する。その後、相手フィールドに「原始生命態トークン」(岩石族・光・星11・攻/守?)1体を特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この効果でリリースしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値になる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「わたしと、あいてのフィールドのモンスターさんをみんなリリースすることでニビルさんを特殊召喚します!! えっと、攻撃表示でです!」

「な、な、なんやてぇぇぇー!!」

 

 華のターンの間、未来は常に焦った様子を浮かべていた。その様から華は未来に対応できるカードが無いと思っていたがそれは違った。彼女は原始生命態ニビルの効果を発動するタイミングをしっかりと見極めていたのだ。

 

「ちょっと、なんで未来ちゃんのデッキにあんなカードが入っているのよ!!」

「……さすが私が見込んだ子。すぐにあのカードの強さに気付けるなんて、プロ時代の伝手もバカにはならないわね」

「やっぱあんたかー!!」

 

 そう言って遊希に詰め寄る千春。しかし、遊希はそれを軽々いなすとまだデュエルの結果はわからない、と真剣な顔で告げる。

 

「まだわからないってどういうこと?」

「原始生命態ニビルは確かに強力なカードだけど、それだけの力には当然代償が伴うわ」

 

 モンスターが全滅したはずの華のフィールドにはニビルと同じ姿をしたトークンが現れていた。このトークンの攻守の値はニビルを特殊召喚するためにリリースされたモンスターの元々の攻守の合計になるため、大型モンスターを多数展開していた華のトークンの数値は相当の数値になっていた。

 

原始生命態トークン ATK8300/DEF5100

 

「攻撃力8300、守備力5100……」

「効果こそ持たなくても数値だけ見れば一度のダイレクトアタックでライフが吹っ飛ぶステータスよ。あのカードをどう対処できるか、というのも未来ちゃんのセンスが問われるわ」

 

 この二日間ではっきり言って遊希は過保護なほど未来のことを構っていると言っていいだろう。しかし、このデュエルにおいては彼女はデュエリストとしてより高みに上がるための試練を課している。未来がそれに応えることができるかどうか、というのも試されていた。

 

「……しゃーない。出されてしまった以上どうしようもないからな。うちはE・HERO エアーマンを召喚。効果でオネスティ・ネオスを手札に加える。これでターンエンドや」

 

華 LP8000 手札4枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:2(E・HERO エアーマン、原始生命態トークン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:8 除外:5 EXデッキ:11(0)

未来 LP8000 手札4枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1(原始生命態ニビル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

 

(何が狙いか、それともミスかどうかは知らんけど原始生命態トークンを攻撃表示で出してくれたのはありがたいもんやな。次のターン、オネスティ・ネオスと合わせて一気に……あれ?)

 

 華はターン移行の合間にあることに気が付いた。

 

(未来ちゃんのEXデッキ、多くなってへん?)

 

 

☆TURN02(未来)

 

「わ、わたしのターンです! ドロー!……あっ」

 

 ドローしたカードを未来は二度見する。どのようなカードをドローしたのか、と華が思っていると、未来はスカートのポケットからメモのようなものを取り出し始めた。

 

「えっと……“さいきょうデュエリストのドローはぜんぶひつぜん!!”」

「なんやねん! その芝居じみた台詞ぅ!!」

 

 そしてメモに書いてあったと思われることを素直に読み上げる未来。関西人の気質か、華は思わずツッコミを入れてしまった。

 

「あう、このカードをドローしたら遊希おねえちゃんからこういいなさい、っていわれてて……えっとドローしたカードを華おねえちゃんにみせることで、このカードはメインフェイズ1にはつどうできるんです! 魔法カード《シャイニング・ドロー》をみせます!」

「シャイニング・ドロー……? 聞いたことないカードな。それになんか変わった効果なんやね」

「えっと、まだはつどうはしないです。わたしはガガガシスターちゃんを召喚します! そしてわたしのフィールドにガガガモンスターさんがいるとき、ガガガキッドくんは特殊召喚できます! そしてガガガシスターちゃんのこうかでガガガシスターちゃんとガガガキッドくんのレベルをたしたかずにします!」

 

ガガガシスター 星2→星4

ガガガキッド 星2→星4

 

「レベル4のモンスターが2体……X召喚やね。でも希望皇ホープじゃどうしようもないで!」

「はい、希望皇ホープさんのちからじゃこのデュエルにかつことはできません……でも、ホープさんはすっごいたくさんのかのうせいをひめているんです! わたしはガガガシスターちゃんとガガガキッドくんでおーばーれい! 2たいのモンスターさんで、おーばーれい・ねっとわーくをこうちく! X召喚―――!」

 

 未来のフィールドに現れたのはNo.39 希望皇ホープ―――とは似て非なるモンスターだった。

 

「みんなのちからをひとつに! 《No.39 希望皇ホープ・ダブル》さん!!」

 

《No.39 希望皇ホープ・ダブル》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族/攻0/守2500

レベル4モンスター×2

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから「ダブル・アップ・チャンス」1枚を手札に加える。その後、「No.39 希望皇ホープ・ダブル」以外の「希望皇ホープ」Xモンスター1体を、自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は倍になり、直接攻撃できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「No.39 希望皇ホープ・ダブル……!? ホープであってホープでないモンスターっちゅうことか。でも攻撃力0のそのモンスターで何ができるんや!」

「ホープ・ダブルさんのXそざいを1つとりのぞいてこうかをはつどうします! デッキから《ダブル・アップ・チャンス》1まいをてふだにくわえます! そして、ホープ・ダブルさんいがいの“希望皇ホープ”Xモンスターさん1たいをホープ・ダブルさんのうえにかさねてX召喚あつかいでEXデッキから特殊召喚します!」

「更なるX召喚ができるってこと? なんやねんその効果は!」

「わたしはデッキからダブル・アップ・チャンスをてふだにくわえます! そしてNo.39 希望皇ホープ・ダブルさんでおーばーれい! 1たいのモンスターさんでおーばーれい・ねっとわーくをさいこうちく!―――ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

 希望皇ホープ・ダブルの身体には光から変化した鎧のようなものが装着されていく。白い鎧を纏ったホープは更に強大な戦士となる。それは、希望を超えた未来へと突き進むための力だった。

 

 

 

 

 

―――わたしのねがいにこたえてください!!―――

 

 

 

 

 

―――《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》さん!!―――

 

 

 

 

 

 

《No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/光属性/戦士族/攻3000/守2500

レベル6モンスター×2

このカードはルール上、「希望皇ホープ」と名のついたカードとしても扱う。

このカードがエクシーズ召喚に成功した時、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は0になる。

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して除外し、自分の墓地の「希望皇ホープ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。その後、自分は1250ライフポイント回復する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

「ホープ・ダブルさんのこうかでX召喚されたモンスターさんはちょくせつこうげきができなくなるかわりに、こうげきりょくがばいになります!」

 

No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ORU:2 ATK3000→ATK6000

 

「攻撃力6000……それでもうちのフィールドには―――!」

「X召喚に成功したビヨンド・ザ・ホープさんのこうかをはつどうします! 華おねえちゃんのフィールドのモンスターさんのこうげきりょくを0にします!」

「なっ……!?」

 

原始生命態トークン ATK8300→ATK0

E・HERO エアーマン ATK1800→ATK0

 

「うちのモンスターの攻撃力が0に……!」

「そしてビヨンド・ザ・ホープさんをたいしょうに、てふだから魔法カード、シャイニング・ドローをはつどうします!!」

 

《シャイニング・ドロー》

通常魔法

(1):自分ドローフェイズに通常のドローをしたこのカードを公開し続ける事で、そのターンのメインフェイズ1に、自分フィールドの「希望皇ホープ」Xモンスター1体を対象として、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●デッキ・EXデッキからカード名が異なる「ZW」モンスターを任意の数だけ選び、装備カード扱いとして対象のモンスターに装備する。

●対象の自分のモンスターとカード名が異なる「希望皇ホープ」Xモンスター1体を、そのモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。

 

「デッキまたはEXデッキからカードのなまえがちがう【ZW(ゼアル・ウエポン)】モンスターさんをにんいのかずだけえらんで装備カード扱いとしてビヨンド・ザ・ホープさんにそうびします! わたしはデッキから《ZW-風神雲龍剣》《ZW-雷神猛虎剣》の2まいを、EXデッキから《ZW-獣王獅子武装》をビヨンド・ザ・ホープさんにそうびします!」

「一気に3枚のモンスターを装備!?」

 

《ZW-風神雲龍剣(トルネード・ブリンガー)》

効果モンスター

星5/風属性/ドラゴン族/攻1300/守1800

自分のメインフェイズ時、手札または自分フィールド上のこのモンスターを、攻撃力1300ポイントアップの装備カード扱いとして自分フィールド上の「希望皇ホープ」と名のついたモンスターに装備できる。また、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、相手は装備モンスターをカードの効果の対象にできない。

装備モンスターが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。「ZW-風神雲龍剣」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

《ZW-雷神猛虎剣(ライトニング・ブレード)》

効果モンスター

星5/光属性/獣族/攻1200/守2000

自分のメインフェイズ時、手札または自分フィールド上のこのモンスターを、攻撃力1200ポイントアップの装備カード扱いとして自分フィールド上の「希望皇ホープ」と名のついたモンスターに装備できる。また、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、自分フィールド上の「ZW」と名のついたカードは相手のカードの効果では破壊されない。

装備モンスターがカードの効果によって破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。「ZW-雷神猛虎剣」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

《ZW-獣王獅子武装(ライオ・アームズ)》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/獣族/攻3000/守1200

レベル5モンスター×2

このカードは直接攻撃できない。

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、デッキから「ZW」と名のついたモンスター1体を手札に加える。また、フィールド上のこのモンスターを、攻撃力3000ポイントアップの装備カード扱いとして自分フィールド上の「希望皇ホープ」と名のついたモンスターに装備できる。

装備モンスターが攻撃したバトルフェイズ中に、装備されているこのカードを墓地へ送る事で、そのバトルフェイズ中、装備モンスターは相手モンスターにもう1度だけ攻撃できる。

 

「3たいのZWをそうびしたビヨンド・ザ・ホープさんのこうげきりょくは5500ポイントアップします!!」

 

No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ORU:2 ATK6000→ATK11500

 

「っ……マジかー……」

「バトルです!! No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープさんで、原始生命態トークンをこうげきします!!」

 

 

 

 

 

―――“ホープ剣・ビヨンド・スラッシュ”!!―――

 

 

 

 

No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ATK11500 VS 原始生命態トークン ATK0

 

 

 

 

華 LP8000→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦の決闘者・2

皐月「アガーペインとエクリプス・ワイバーンがいったい何をしたというのですかっっっ!!」
千春「は?」
鈴「いやいやいやいや」
エヴァ「言わせないぞそれは」
遊希「【真竜】が復権するのかしらね……」




 

 

 

 

 

「うそ……わたし、かっちゃった……?」

 

 劇的勝利を収めた未来は、デュエルが終わった後でもすぐに現実を理解することができなかった。今日までろくにデュエルをしてこなかった自分が8000ライフでのデュエル経験が豊富な華を撃破したのである。実感が湧かないのも無理はなかった。

 

「未来ちゃん、嘘じゃないわ。あなたはあなたの実力で勝ったのよ?」

「遊希おねえちゃん……」

「あなたのためにカードを渡してよかったわ。今日あげたカードは全部私からのプレゼントよ。大事に使ってあげてね?」

 

 遊希がデュエルの前に与えたEXデッキのホープモンスターたち、そして原始生命態ニビルのようなデッキに新たに投入されたカードはこのデュエルをもって未来のものになった。もちろんそんなに貰っていいのか、といった表情を見せる。

 

―――遊希、ホープたちはともかくニビルまであげてしまってよかったのか?

(原始生命態ニビル……そのカードならあと9枚は持ってるわ)

―――お前は海馬瀬人にでもなったつもりか? まあ、お前がそうしたいならそうすればいいんだが……それよりもあっちは大丈夫なのだろうか。

 

 光子竜が指し示す先では真っ白になって燃え尽きている華の姿があった。その様は往年のボクシング漫画を彷彿とさせるものであり、その元ネタを知らない光子竜は心配を隠せないようだった。

 

「燃えたで、燃え尽きた。真っ白にな……」

(大丈夫よ。あっちはあっちでなんとかなるから)

 

 遊希がそう言うと、燃え尽きている華にツッコミを入れる千春。関西人気質の華はツッコミをすぐに入れられたことで活気づいたのかすぐに復活した。

 

「おっ、ナイスツッコミ。千春さんもお笑いがわかってきた感じやね!」

「別にわかっても私にメリットないじゃないの」

「ないとは限らへんで~……ネクタイ外して身長と一緒や、的なネタができるで」

 

 さすがにそのネタは今の私たちの世代には通じないのでは、と言わざるを得なかった。未来は少し躊躇いながらも、華の下へと歩み寄る。

 

「は、華おねえちゃん……?」

「未来ちゃん、ええデュエルやったで! まさかワンキルくらうとは思わなかったわ……」

 

 そう言ってケラケラ笑いながら未来の頭を撫でる華。華は年長者らしく笑顔を見せてはいるが、その所々に悔しさがにじみ出していた。それでも、悔しいと感じるのは未来を一人のデュエリストとして認めている証拠でもある。

 

「未来ちゃん、今回はうちが負けてもうたけどな! 次はこうはいかへんで!」

「えっ、う、うん!」

「もしまたデュエルができる時があったなら……もっと強くなったうちを見せたる!」

「うん、わたしも……もっとつよくなる! 華おねえちゃんにまたかてるように!」

 

 笑顔で健闘をたたえ合う二人の様はまさに姉と妹と言って差し支えないものだった。二人の少女のデュエルの余韻が消えないまま、次のデュエルの火蓋が切って落とされようとしていた。

 

「ねえ、橙季くんっ」

「愛美ちゃん……?」

「このデュエルでもしボクが勝ったらさ……ボクのお願いを聞いてほしいんだけど、いいかな?」

 

 このタイミングでそのようなことを言ってくる愛美の真意を橙季は測りかねていた。自分を奮い立てるための方便なのか、それとも本当に何かを自分にしてもらいたいのか。どちらにせよ、自分のやることは変わらない。愛美にとっては先のデュエルのリベンジマッチとなる以上、前以上に力を込めて襲い掛かってくることは明白だ。

 

「ボクは先攻を貰うよ!」

 

 先攻後攻の決定権は愛美に与えられ、愛美は迷わず先攻を取った。彼女の【トリックスター】デッキなら先攻を取ることで一気に勝利に近づく。少なくともレインボー・ライフのような罠カードでは先攻バーンには間に合わない。

 

(先攻を取られた。でも、僕の、私のデッキなら……)

 

 それでも過去2度のデュエルで愛美のデッキはよく理解している。先攻を取られた場合、レインボー・ライフのような罠カードでは間に合わない。しかし、それでも対応できる手が橙季のデッキには入っている。経験に裏付けられた自信が橙季を後押ししていた。

 

「行くよ、橙季くん!」

「うん。私も負けない!!」

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:愛美【???】

後攻:橙季【コード・トーカー】

 

 

「……皐月?」

「橙季さんには……言っていないことがあります」

「言っていないこと?」

「はい……」

 

 

愛美 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

橙季 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(愛美)

 

「ボクの先攻だよ。橙季くん、キミには言っていなかったんだけどさ」

「えっ……?」

「ボクの【トリックスター】対策をしてきたかもしれないけど、それ……あんまり意味ないかもね」

 

 そう言って愛美は1体のモンスターを召喚する。悪戯っぽく笑った彼女が召喚したのは【トリックスター】とは別のモンスター。それはまるで海洋生物を思わせる姿をした愛らしい少女のようなモンスターだった。

 

「ボクは《海晶乙女(マリンセス)ブルータン》を召喚!」

 

《海晶乙女ブルータン》

効果モンスター

星4/水属性/サイバース族/攻1500/守1200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「海晶乙女ブルータン」以外の「マリンセス」モンスター1体を墓地へ送る。

(2):このカードが水属性リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られた場合に発動できる。自分のデッキの上からカードを3枚めくる。その中から「マリンセス」カード1枚を選んで手札に加える事ができる。残りのカードはデッキに戻す。

 

「【海晶乙女】……!?」

 

 【海晶乙女(マリンセス)】は水属性・サイバース族で統一された新興テーマであり、墓地発動効果やサルベージ効果を持ったモンスターが多いのが特徴だ。【トリックスター】デッキのバーンを対策された愛美は橙季に知られないように皐月に相談し、二人で組みかけだったこのデッキを完成させたのである。

 

「ボクがデッキを二つ持ってない、って思ってた? 残念、ボクだって色々と考えてるんだよ! 召喚に成功したブルータンの効果を発動! デッキから同名以外のマリンセスモンスター1体を墓地へ送るよ! ボクが墓地へ送るのは《海晶乙女シーホース》。そしてボクはブルータンをリンクマーカーにセット!」

 

 水を纏ったブルータンが水中を舞い踊る熱帯魚のように優雅にリンクマーカーにセットされる。

 

「アローヘッド確認! 召喚条件は“レベル4以下のマリンセスモンスター”1体! サーキットコンバイン!“清らかな海に舞い踊る蒼き乙女よ。鮮やかなる衣を纏って現れよ!”リンク召喚! 来て!《海晶乙女ブルースラッグ》!」

 

《海晶乙女ブルースラッグ》

リンク・効果モンスター

リンク1/水属性/サイバース族/攻1500

【リンクマーカー:下】

レベル4以下の「マリンセス」モンスター1体

自分は「海晶乙女ブルースラッグ」を1ターンに1度しかリンク召喚できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合、「海晶乙女ブルースラッグ」以外の自分の墓地の「マリンセス」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「リンク召喚に成功したブルースラッグの効果、そして水属性リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られたブルータンの効果を発動するよ!」

 

チェーン2(愛美):海晶乙女ブルータン

チェーン1(愛美):海晶乙女ブルースラッグ

 

「チェーン2のブルータンの効果でボクはデッキトップ3枚を確認する。そしてその中からマリンセスカード1枚を手札に加えることができる!」

 

 そう言ってデッキトップから3枚のカードを確認する愛美。3枚のカードの内訳は《鬼ガエル》、墓穴の指名者、《トラップ・トリック》の3枚だった。マリンセスカードがなかった場合はそのままデッキに戻す。運が絡む効果とはいえ、手の内が橙季にバレてしまったのは愛美にとっては痛かった。

 

「あらら、マリンセスカードはなしかー……チェーン1のブルースラッグの効果で墓地のマリンセスモンスター1体を手札に加える。ボクはシーホースを手札に加える! そして手札のシーホースは自分のマリンセスリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる! おいで、シーホース!」

 

《海晶乙女シーホース》

効果モンスター

星3/水属性/サイバース族/攻1400/守1000

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードは「マリンセス」リンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から特殊召喚できる。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から水属性モンスター1体を「マリンセス」リンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「まだまだ! ボクはブルースラッグとシーホースをリンクマーカーにセット! 召喚条件は“水属性モンスター2体”! サーキットコンバイン!“清らかな海に舞い踊る紅き乙女よ! 海を彩る華となれ!”リンク召喚!《海晶乙女コーラルアネモネ》!」

 

《海晶乙女コーラルアネモネ》

リンク・効果モンスター

リンク2/水属性/サイバース族/攻2000

【リンクマーカー:左/下】

水属性モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、「海晶乙女コーラルアネモネ」以外の自分の墓地の「マリンセス」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「リンク召喚に成功したコーラルアネモネの効果を発動! 墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター1体をこのカードのリンク先となるボクのフィールドに特殊召喚するよ! ボクは攻撃力1500のブルータンを特殊召喚!」

(手札消費1枚でもう2度目のリンク召喚……? なんて展開力……)

「ボクはブルータンをリンクマーカーにセット! 召喚条件は“レベル4以下のマリンセスモンスター1体”!サーキットコンバイン! “清らかな海に舞い踊る乙女よ! 愛らしき天使の姿をもって全てを魅了せよ!”リンク召喚!《海晶乙女シーエンジェル》!」

 

《海晶乙女シーエンジェル》

リンク・効果モンスター

リンク1/水属性/サイバース族/攻1000

【リンクマーカー:左】

レベル4以下の「マリンセス」モンスター1体

自分は「海晶乙女シーエンジェル」を1ターンに1度しかリンク召喚できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「マリンセス」魔法カード1枚を手札に加える。

 

「リンク召喚に成功したシーエンジェルの効果を発動! デッキからマリンセス魔法カード1枚を手札に加えるよ! ボクはフィールド魔法《海晶乙女の闘海(マリンセル・バトルオーシャン)》を手札に加える。そして今手札に加えた海晶乙女の闘海を発動!」

 

《海晶乙女の闘海》

フィールド魔法

(1):自分フィールドの「マリンセス」モンスターの攻撃力は200アップし、さらに装備している「マリンセス」カードの数×600アップする。

(2):「海晶乙女クリスタルハート」を素材としてリンク召喚したEXモンスターゾーンの自分のモンスターは相手の効果を受けない。

(3):自分がEXモンスターゾーンに「マリンセス」リンクモンスターをリンク召喚した時に発動できる。自分の墓地から「マリンセス」リンクモンスターを3体まで選び、そのリンク召喚したモンスターに装備カード扱いとして装備する(同名カードは1枚まで)。

 

「フィールドのマリンセスモンスターの攻撃力は200アップするよ!」

 

海晶乙女コーラルアネモネ ATK2000→ATK2200

海晶乙女シーエンジェル ATK1000→ATK1200

 

「そしてコーラルアネモネとシーエンジェルをリンクマーカーにセット! 召喚条件は“水属性モンスター2体以上”! サーキットコンバイン!“清らかな海に舞い踊る乙女よ! 美しきも勇ましきその威容をもって全てを圧倒せよ!”リンク召喚! 現れよ!《海晶乙女マーブル・ド・ロック》!」

 

《海晶乙女マーブル・ド・ロック》

リンク・効果モンスター

リンク3/水属性/サイバース族/攻2500

【リンクマーカー:左/右/下】

水属性モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):「海晶乙女マーブルド・ロック」以外の自分の墓地の「マリンセス」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

(2):相手モンスターの攻撃宣言時に、手札から「マリンセス」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。モンスターはその戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

海晶乙女マーブル・ド・ロック ATK2500→ATK2700

 

「マリンセスモンスターのリンク召喚に成功したことで、フィールド魔法・海晶乙女の闘海の効果、そしてフィールドから墓地に送られた海晶乙女コーラルアネモネの効果を発動するよ!」

 

チェーン2(愛美):海晶乙女コーラルアネモネ

チェーン1(愛美):海晶乙女の闘海

 

「チェーン2のコーラルアネモネの効果でボクは墓地のシーホースを手札に加える。そしてチェーン1の海晶乙女の闘海の効果で墓地のコーラルアネモネ、シーエンジェル、ブルータンの3体を装備カード扱いとして装備する! そして海晶乙女の闘海の効果で装備しているマリンセスカードの数×600ポイントマーブル・ド・ロックの攻撃力はアップする!」

 

海晶乙女マーブル・ド・ロック(マリンセスカード3枚装備)ATK2700→ATK4500

 

「攻撃力……4500!?」

「そしてマーブル・ド・ロックの効果を発動。ボクは墓地のブルータンを手札に加える。ボクはカードを1枚セット。これでターンエンドだよ!」

 

 

愛美 LP8000 手札5枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(海晶乙女マーブル・ド・ロック)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):5(海晶乙女の闘海、海晶乙女コーラルアネモネ、海晶乙女シーエンジェル、海晶乙女ブルースラッグ)墓地:0 除外:0 EXデッキ:12(0)

橙季 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

愛美

 □コエブ伏

 □□□□□闘

  マ □

□□□□□□

 □□□□□

橙季

 

○凡例

マ・・・海晶乙女マーブル・ド・ロック

コ・・・海晶乙女コーラルアネモネ

シ・・・海晶乙女シーエンジェル

ブ・・・海晶乙女ブルースラッグ

闘・・・海晶乙女の闘海

 

 

「すごい、前とは戦い方をがらりと変えてきたわ……」

「【トリックスター】のバーンを警戒させておいて全く戦い方の異なる【マリンセス】で臨む……戦略としては上々ね。それだけトリックスターのバーンがえげつない、ということだろうけど」

「それだけ愛美さんが橙季さんとのデュエルにかける思いが強いということですね。どうしてそれほどまでに思うのかはわかりませんが……」

 

 

☆TURN02(橙季)

 

(愛美ちゃんは本気だ……だったら、私も全力で応えるだけ!)

「私のターン、ドロー! 私は《バランサーロード》を召喚!」

 

《バランサーロード》

効果モンスター

星4/光属性/サイバース族/攻1700/守1200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、1000LPを払って発動できる。このターン自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにサイバース族モンスター1体を召喚できる。

(2):このカードが除外された場合に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

「ライフを1000ポイント支払ってバランサーロードの効果を発動!」

 

橙季 LP8000→LP7000

 

「私はこのターン、通常召喚に加えて1度だけ、自分のメインフェイズにサイバース族モンスター1体を召喚できます! 手札からチューナーモンスター《斬機シグマ》を召喚!」

 

《斬機シグマ》

チューナー・効果モンスター

星4/光属性/サイバース族/攻1000/守1500

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在し、EXモンスターゾーンに自分のモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はサイバース族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2):自分フィールドのこのカードを「斬機」SモンスターのS素材とする場合、このカードをチューナー以外のモンスターとして扱う事ができる。

 

「チューナー……でもレベル4のモンスターが2体……となると」

「私はレベル4のバランサーロードと斬機シグマでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!“二つの異なる演算子よ。四次元の世界にてその魂を重ね合わせよ!”ランク4!《塊斬機ダランベルシアン》!」

 

《塊斬機ダランベルシアン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/地属性/サイバース族/攻2000/守0

レベル4モンスター×2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがX召喚に成功した場合、このカードのX素材を以下の数だけ取り除き、その効果を発動できる。

●2つ:デッキから「斬機」カード1枚を手札に加える。

●3つ:デッキからレベル4モンスター1体を手札に加える。

●4つ:デッキから魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2):自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。自分の手札・墓地からレベル4の「斬機」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「X召喚に成功したダランベルシアンの効果を発動! オーバーレイユニットを2つ取り除いてデッキからレベル4のモンスター1体を手札に加える! 私は《斬機サブトラ》を手札に加える! そしてダランベルシアンの2つ目の効果! ダランベルシアン自身をリリースして手札からレベル4の斬機モンスター1体を特殊召喚します!《斬機ナブラ》を特殊召喚!」

 

《斬機ナブラ》

チューナー・効果モンスター

星4/闇属性/サイバース族/攻1000/守1500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのサイバース族モンスター1体をリリースして発動できる。デッキから「斬機」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードが墓地へ送られた場合、EXモンスターゾーンの自分のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。

 

「そして墓地の斬機シグマの効果を発動! 自分のEXゾーンにモンスターが存在しない場合、墓地からこのカードは特殊召喚できる! 更にマーブル・ド・ロックを対象に手札の斬機サブトラの効果を発動!」

 

《斬機サブトラ》

効果モンスター

星4/炎属性/サイバース族/攻1000/守1000

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、対象のモンスターの攻撃力をターン終了時まで1000ダウンする。この効果で特殊召喚したターン、このカードは攻撃できない。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はサイバース族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「マーブル・ド・ロックの攻撃力を1000下げてサブトラを特殊召喚します!」

 

海晶乙女マーブル・ド・ロック ATK4500→ATK3500

 

「マーブル・ド・ロックの攻撃力が……でも、それでもまだ攻撃力は3500! 並大抵のモンスターじゃどうにもならないよ!」

「うん。だからこそ、最大限の力をもって倒す! 私はレベル4の斬機サブトラ、チューナー以外のモンスターとしても扱える斬機シグマに、レベル4のチューナーモンスター、斬機ナブラをチューニング!!」

「3体のモンスターの合計レベルは……12!?」

「“紅蓮の刃携えし騎士よ。数多の力を一つとし、全てを断ち切れ!!”シンクロ召喚!! 来い!《炎斬機ファイナルシグマ》!!」

 

 海の力を宿した乙女の前に、灼熱の刃を持った炎の騎士が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦の決闘者・3

 

 

 

 

 

「《炎斬機ファイナルシグマ》……【斬機】の切り札だね」

 

《炎斬機ファイナルシグマ》

シンクロ・効果モンスター

星12/炎属性/サイバース族/攻3000/守0

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードはEXモンスターゾーンに存在する限り、「斬機」カード以外のカードの効果を受けない。

(2):EXモンスターゾーンのこのカードが相手モンスターとの戦闘で相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

(3):このカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「斬機」カード1枚を手札に加える。

 

「自身の効果で特殊召喚されたシグマはフィールドを離れた場合、ゲームから除外される。そしてファイナルシグマを対象に墓地へ送られたナブラの効果を発動! ファイナルシグマはこのターン、一度のバトルフェイズに2回攻撃ができます! 炎斬機ファイナルシグマはEXゾーンに存在する限り斬機以外のカードの効果を受けない。そしてEXゾーンのこのカードが相手モンスターとの戦闘で相手に与えるダメージは倍になる!」

 

 これにより、ファイナルシグマは2回攻撃+モンスターとの戦闘ダメージ倍という効果を得ることになった。しかし、それも攻撃力が相手モンスターを上回っていれば、の話だ。

 

「でも、ボクのマーブル・ド・ロックの攻撃力は3500。ファイナルシグマじゃ届かないよ!」

「私は手札から装備魔法《斬機刀ナユタ》を発動。サイバース族モンスターのファイナルシグマに装備!」

 

《斬機刀ナユタ》

装備魔法

サイバース族モンスターにのみ装備可能。このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、デッキから「斬機」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。装備モンスターの攻撃力はターン終了時まで、墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップする。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンから墓地へ送られた場合、「斬機刀ナユタ」以外の自分の墓地の「斬機」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「ナユタを装備したモンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、デッキから斬機モンスター1体を墓地へ送ることで装備モンスターの攻撃力をターン終了時まで墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップさせます!」

「そっか、それでマーブル・ド・ロックの攻撃力を……」

「そういうこと! バトル! ファイナルシグマでマーブル・ド・ロックを攻撃!」

 

 灼熱の剣を閃かせて躍りかかろうとするファイナルシグマ。しかし、そんなファイナルシグマとマーブル・ド・ロックの間に水の防壁が現れた。

 

「でも残念! 相手モンスターの攻撃宣言時にマーブル・ド・ロックの効果を発動! 手札のブルータンを墓地へ送ることで、ボクのモンスターは戦闘で破壊されず、受けるダメージは0になるよ!」

「……っ!?」

 

 戦闘破壊できないだけならばともかく、戦闘ダメージすら0にされてしまうというのは橙季にとっては痛いことであった。しかし、戦闘破壊できずともナユタの効果を発動しないわけにはいかない。

 

「ナユタの効果を発動! 装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、デッキから「斬機」モンスター1体を墓地へ送ることで装備モンスターの攻撃力をターン終了時まで墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップさせます! 私が墓地へ送るのは2体目のシグマです!」

 

炎斬機ファイナルシグマ ATK3000→ATK4000

 

「“ファイナル・フレア・ブレード”!」

 

炎斬機ファイナルシグマ ATK4000 VS 海晶乙女マーブル・ド・ロック ATK3500

 

「マーブル・ド・ロックは破壊されないし、ボクが受けるダメージは0だよ!」

「でもファイナルシグマはもう一度攻撃できます!“ファイナル・フレア・ブレード”!」

 

炎斬機ファイナル・シグマ ATK4000 VS 海晶乙女マーブル・ド・ロック ATK3500

 

「手札の《海晶乙女パスカルス》を墓地へ送って、マーブル・ド・ロックの効果をもう一度発動! この戦闘で発生するダメージは0になり、マーブル・ド・ロックは破壊されない!」

「シーホース以外に手札に海晶乙女があったんだね。うまく行けば2回目の攻撃でマーブル・ド・ロックを破壊できたのに……」

 

 海晶乙女の強みは、少ない手札消費で大型モンスターを展開できるところにある。攻撃力4500のマーブル・ド・ロックをリンク召喚するにあたっても、消費した手札はブルータンの1枚。そのため、他のデッキに加えて手札を温存しやすいためマーブル・ド・ロックの破壊無効およびダメージカットを発動しやすいのだ。

 

「……バトルフェイズを終了します。私はこれでターンエンドです」

 

愛美 LP8000 手札3枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(海晶乙女マーブル・ド・ロック)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):5(海晶乙女の闘海、海晶乙女コーラルアネモネ、海晶乙女シーエンジェル、海晶乙女ブルースラッグ)墓地:2 除外:0 EXデッキ:12(0)

橙季 LP7000 手札2枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(炎斬機ファイナルシグマ)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(斬機刀ナユタ)墓地:4 除外:1 EXデッキ:14(0)

 

愛美

 □コエブ伏

 □□□□□闘

  マ 炎

□□□□□□

 □□ナ□□

橙季

 

〇凡例

炎・・・炎斬機ファイナルシグマ

ナ・・・斬機刀ナユタ

 

 

☆TURN03(愛美)

 

「ボクのターン、ドロー!……せっかくのファイナルシグマだけど、ここで退場してもらうよ! ボクは橙季くんのファイナルシグマをリリース!」

「ファイナルシグマがっ……まさか!?」

「大当たり! ボクは手札から橙季くんのフィールドに《海亀壊獣ガメシエル》を特殊召喚するよ!」

 

《海亀壊獣ガメシエル》

効果モンスター

星8/水属性/水族/攻2200/守3000

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):相手が「海亀壊獣ガメシエル」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを2つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし除外する。

 

「フィールドから墓地へ送られた斬機刀ナユタの効果を発動! 私は墓地の斬機サブトラを手札に加えます!」

「まあそうするよね……でも、ファイナルシグマがいなくなったことでキミの守りは薄くなった! ボクは手札からシーホースをマーブル・ド・ロックのリンク先に特殊召喚するよ! そしてボクはマーブル・ド・ロックとシーホースをリンクマーカーにセット!」

 

 攻撃力4500かつ耐性を付与できるマーブル・ド・ロックを愛美はリンク素材に使用する。そんな強力なモンスターを手放してまでどのようなモンスターをリンク召喚するのだろうか。そう思っている橙季の前にはハートの形をした青い水晶のようなモンスターが現れた。

 

「“清らかな海に舞い踊る乙女よ! 秘めたる思いを結晶と変えて現れよ!”リンク召喚!《海晶乙女クリスタルハート》!」

 

《海晶乙女クリスタルハート》

リンク・効果モンスター

リンク2/水属性/サイバース族/攻0

【リンクマーカー:左下/右下】

水属性モンスター2体

(1):このカードがEXモンスターゾーンに存在する限り、このカードは相手モンスターの効果を受けない。

(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、その相手モンスターは自身以外のカードの効果を受けない。

(3):このカードまたはこのカードのリンク先の自分の「マリンセス」リンクモンスターが攻撃対象に選択された時、手札から「マリンセス」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。その自分のモンスターはその戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

「海晶乙女モンスターのリンク召喚に成功したことで海晶乙女の闘海の効果を発動するよ! クリスタルハートに墓地のマーブル・ド・ロック、コーラルアネモネ、ブルースラッグの3体を装備する! そしてクリスタルハートの攻撃力は海晶乙女の闘海の効果で2000アップするよ!」

 

海晶乙女クリスタルハート ATK0→ATK2000

 

「クリスタルハートはEXモンスターゾーンに存在する限り、相手モンスターの効果を受けない。そして相手モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、その相手モンスターは自身以外のカードの効果を受けないよ!」

「強力な効果だけど……マーブル・ド・ロックを素材にして出すようなモンスターじゃないような……」

「うん、確かにそうだね。でもこのクリスタルハートはもっと輝くことができるんだ! ボクは手札からブルータンを召喚! 召喚に成功したブルータンの効果でデッキから《海晶乙女マンダリン》を墓地へ送るよ! そして墓地の海晶乙女マンダリンの効果!」

 

《海晶乙女マンダリン》

効果モンスター

星1/水属性/サイバース族/攻100/守100

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドに「マリンセス」モンスターが2体以上存在する場合、自分フィールドの水属性リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのリンク先となる自分フィールドにこのカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「ボクのフィールドのマリンセスモンスターが2体以上存在する場合、ボクのフィールドの水属性リンクモンスター1体を対象として発動できる! そのモンスターのリンク先にマンダリンは特殊召喚できる! そしてリンク2のクリスタルハートと、ブルータン、マンダリンの3体をリンクマーカーにセット! 召喚条件は“水属性モンスター2体以上!”サーキットコンバイン!」

「リンク3……いや、リンク4の海晶乙女!?」

「“清らかな海に舞い踊る乙女よ! 内に秘めた想いを解き放ち、水面の如く煌めけ!”リンク召喚! これがボクの切り札!《海晶乙女ワンダーハート》!!」

 

《海晶乙女ワンダーハート》

リンク・効果モンスター

リンク4/水属性/サイバース族/攻2400

【リンクマーカー:左/右/左下/右下】

水属性モンスター2体以上

(1):このカードがモンスターと戦闘を行うダメージ計算時に1度、発動できる。このカードに装備された自分の「マリンセス」モンスターカード1枚を選んで特殊召喚する。このカードはその戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。この効果で特殊召喚したモンスターを、エンドフェイズに装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードが相手によって破壊された場合に発動できる。自分の墓地からリンク3以下の「マリンセス」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「リンク素材として墓地に送られたブルータン、フィールドから墓地へ送られたコーラルアネモネ、そして海晶乙女の闘海の効果を発動!」

 

チェーン3(愛美):海晶乙女ブルータン

チェーン2(愛美):海晶乙女コーラルアネモネ

チェーン1(愛美):海晶乙女の闘海

 

「チェーン3のブルータンの効果でデッキトップから3枚のカードを確認するよ! ボクはその中にあった海晶乙女カード……《海晶乙女波動》を手札に加える! チェーン2のコーラルアネモネの効果でボクは墓地のブルータンを手札に戻す! そしてチェーン1の海晶乙女の闘海の効果! 墓地のマーブル・ド・ロック、コーラルアネモネ、クリスタルハートの3体をワンダーハートに装備するよ!」

 

海晶乙女ワンダーハート ATK2400→ATK4400

 

「攻撃力4400……攻撃力だけならワンダーハートより下がっているけれど……」

「もちろん、意味はあるよ? 海晶乙女の闘海の効果で、クリスタルハートを素材にリンク召喚されたEXゾーンのマリンセスモンスターは相手の効果を受けないんだ! バトル、ボクはワンダーハートでガメシエルを攻撃!“マリンセス・ハート・シュトローム”!」

 

海晶乙女ワンダーハート ATK4400 VS 海亀壊獣ガメシエル ATK2200

 

「ワンダーハートがモンスターと戦闘を行うダメージ計算時に1度、ワンダーハートの効果を発動! このカードに装備されたマリンセスモンスター1体を特殊召喚する! 戻ってきて、マーブル・ド・ロック!」

 

海晶乙女ワンダーハート ATK4400→ATK3800

海晶乙女マーブル・ド・ロック ATK2500→ATK2700

 

 装備されているマーブル・ド・ロックが離れたことでワンダーハートの攻撃力は3800に下がる。しかし、結果的に愛美のフィールドには攻撃力2700のモンスターが増えたことになる。

 

橙季 LP7000→LP5400

 

「マーブル・ド・ロックでダイレクトアタック!“マリンセス・ブレイブ・ストリーム”!」

 

海晶乙女マーブル・ド・ロック ATK2700

 

橙季 LP5400→LP2700

 

「うわああっ!!」

「ボクはバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移行するよ。でも何もせずにターンエンド。そしてターンの終了時にワンダーハートの効果で特殊召喚されたマーブル・ド・ロックはもう一度ワンダーハートの装備カードになる!」

 

海晶乙女ワンダーハート ATK3800→ATK4400

 

 

愛美 LP8000 手札3枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(海晶乙女ワンダーハート)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):5(海晶乙女の闘海、海晶乙女マーブル・ド・ロック、海晶乙女コーラルアネモネ、海晶乙女クリスタルハート)墓地:3 除外:0 EXデッキ:10(0)

橙季 LP2700 手札3枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(海亀壊獣ガメシエル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:5 除外:1 EXデッキ:14(0)

 

愛美

 □コマク伏

 □□□□□闘

  ワ □

□□□□□□

 □□□□□

橙季

 

〇凡例

ワ・・・海晶乙女ワンダーハート

ク・・・海晶乙女クリスタルハート

 

 

「強いわね、愛美ちゃん」

「ええ。攻防一体、隙がありません」

「確かさっきブルータンの効果で手札に加えたカードは……」

「海晶乙女波動はリンク3以上のマリンセスがいる場合、手札からも発動できる。セットして発動する前に破壊されるリスクを回避できるわ」

「このままだと橙季は何もできずに負けてしまう。打開策はあるのだろうか……」

(打開策でしたら……あのカードなら……)

 

 

☆TURN04(橙季)

 

「私のターン―――ドロー!!」

 

 橙季はドローしたカードを確認する。そのカードを見た瞬間、彼の脳裏で複数のカードが光の道筋となって繋がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は愛美が皐月に海晶乙女デッキについてアドバイスを求めに行くよりも更に前に遡る。橙季もまた愛美と同じように自分のデッキについて皐月に相談しに行っていた。ただ、愛美がデッキそのものに関する相談事だったのに対し、橙季の相談事はまた別のことであった。

 

「皐月さん、実は……」

 

 そう言って橙季は1枚のカードを見せた。

 

「このカードは……強力なカードですが、使いこなすのは適切なプレイングと相当のタクティクスが求められます」

「私は、僕は……このカードを使いこなせるようになりたいんです。愛美ちゃんに、勝つため。認めてもらうために」

「……そうですか。わかりました、私も微力ながら手伝わせて頂きますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(このカードなら……)

 

 今ドローしたカードを使いこなせれば、橙季は“あのカード”にまで至ることができる。彼は一人のデュエリストとして、一人の人間として、自ら“強くなりたい”“勝ちたい”という本能に従い、そのカードをデュエルディスクにセットした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦の決闘者・4

 

 

 

 

 

 

 

「私は……いや、僕は! 永続魔法、サイバネット・コーデックを発動します!!」

 

 サイバネット・コーデックはコード・トーカーリンクモンスターのリンク召喚に成功する度にそのモンスターと同じ属性のサイバース族モンスター1体をサーチすることができる永続魔法だ。【コード・トーカー】モンスターを多く採用している橙季のデッキにおいては、必要不可欠なカードである。

 

「僕のEXゾーンにモンスターが存在しないことで、墓地のシグマは特殊召喚できる!」

「またダランベルシアンからのファイナルシグマ? でも同じ手は食わないよ!」

「違うよ。僕は《フレイム・バッファロー》を召喚!」

 

《フレイム・バッファロー》

効果モンスター

星3/炎属性/サイバース族/攻1400/守200

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動できる。手札からサイバース族モンスター1体を捨て、自分はデッキから2枚ドローする。

 

「僕はフレイム・バッファローとシグマとの2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! コード・トーカー! コード・トーカーモンスターのリンク召喚に成功したことでサイバネット・コーデックの効果、そしてフレイム・バッファローの効果を発動!」

 

チェーン2(橙季):サイバネット・コーデック

チェーン1(橙季):フレイム・バッファロー

 

「チェーン2のサイバネット・コーデックの効果。コード・トーカーは闇属性のため、同じ闇属性のマイクロ・コーダーを手札に加えます。そしてチェーン1のフレイム・バッファローの効果! 表側表示のこのカードがフィールドを離れた場合、手札のサイバース族1体を捨てることでデッキから2枚ドローする。僕は手札の《リンクスレイヤー》を捨てて2枚ドロー! 更に魔法カード、強欲で貪欲な壺を発動! デッキトップ10枚を除外して2枚ドロー!」

 

 このターン、一気に4枚のカードをドローする橙季。手札消費が荒いというサイバース族の欠点を、複数のドローカードで彼は補っていた。

 

「手札のマイクロ・コーダーはコード・トーカーモンスターのリンク素材に使用する場合、手札のこのカードを素材として使用できる。僕はリンク2のコード・トーカーと手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット!」

 

 ただ、愛美にとって橙季とのデュエルは初めてではない。そのため彼のデッキの主な動きはこの場にいる他の誰よりも把握している、という自負があった。

 

「リンク召喚! リンク3、トランスコード・トーカー! サイバネット・コーデックの効果とマイクロ・コーダーの効果を発動!」

 

チェーン2(橙季):マイクロ・コーダー

チェーン1(橙季):サイバネット・コーデック

 

「チェーン2のマイクロ・コーダーの効果で僕は永続魔法《サイバネット・フュージョン》を手札に加え、チェーン1のサイバネット・コーデックの効果で僕は地属性のコード・ジェネレーターを手札に加えます。そしてトランスコード・トーカーの効果を発動! 墓地のコード・トーカーモンスター1体をこのカードのリンク先に特殊召喚します!」

「させないよ! 僕はトランスコード・トーカーの効果にチェーンして手札から罠カード、海晶乙女波動を発動!」

 

《海晶乙女波動(マリンセス・ウェーブ)》

通常罠

自分フィールドにリンク3以上の「マリンセス」モンスターが存在する場合、このカードの発動は手札からもできる。

(1):自分フィールドに「マリンセス」リンクモンスターが存在する場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。自分フィールドにリンク2以上の「マリンセス」モンスターが存在する場合、さらに自分フィールドの全ての表側表示モンスターはターン終了時まで、相手の効果を受けない。

 

「手札から罠……!?」

「海晶乙女波動はリンク3以上のマリンセスモンスターが存在する場合、手札からも発動できるんだよ!」

 

チェーン2(愛美):海晶乙女波動

チェーン1(橙季):トランスコード・トーカー

 

「チェーン2の海晶乙女波動の効果! 相手フィールドの表側表示モンスター1体、トランスコード・トーカーを対象に発動! そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする」

「チェーン1のトランスコード・トーカーの効果は無効にされることで発動できない……」

「そしてボクのフィールドにリンク2以上のマリンセスモンスターが存在する場合、更にボクのフィールドの表側表示モンスターはターン終了時まで相手の効果を受けない。さあ、これでキミのコンボは崩れたよ!」

「まだだよ。僕は手札から魔法カード、死者蘇生を発動!」

「死者蘇生……運がいいね、全く」

 

 トランスコード・トーカーの効果で蘇生できないのであれば、別のカードで蘇生するまでのこと。橙季の手札に死者蘇生があったことが彼にとっては僥倖であった。

 

「墓地のコード・トーカーを特殊召喚! そしてコード・ジェネレーターもマイクロ・コーダーと同じくコード・トーカーモンスターのリンク召喚の素材にする場合、手札のこのカードを素材にできる! リンク2のコード・トーカーとコード・ジェネレーターをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、エクスコード・トーカー! リンク召喚に成功したエクスコード、サイバネット・コーデック、コード・ジェネレーターの効果を発動します!」

 

チェーン3(橙季):エクスコード・トーカー

チェーン2(橙季):サイバネット・コーデック

チェーン1(橙季):コード・ジェネレーター

 

「チェーン3のエクスコード・トーカーの効果で、僕はトランスコード・トーカーの正面のメインモンスターゾーンを使用不可にします。そしてチェーン2のサイバネット・コーデックの効果で僕は風属性・サイバース族の《コード・エクスポーター》を手札に加えます。チェーン1のコード・ジェネレーターの効果でドットスケーパーを墓地へ送ります。そして墓地へ送られたドットスケーパーの効果を発動! このカードを墓地から特殊召喚します!」

 

 トランスコード・トーカーとエクスコード・トーカーは現時点で相互リンク状態にあるため、それぞれの効果で攻撃力がアップする。しかし、それでもワンダーハートの攻撃力4400には届かない。

 

トランスコード・トーカー ATK2300→ATK3300

エクスコード・トーカー ATK2300→ATK2800

 

「僕はドットスケーパーと手札のコード・エクスポーターをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2、コード・トーカー・インヴァート! サイバネット・コーデック、コード・トーカー・インヴァート、コード・エクスポーターの効果を発動します!」

 

チェーン3(橙季):コード・エクスポーター

チェーン2(橙季):サイバネット・コーデック

チェーン1(橙季):コード・トーカー・インヴァート

 

「チェーン3のコード・エクスポーターの効果で僕はリンクスレイヤーを手札に加えます。そしてチェーン2のサイバネット・コーデックの効果で光属性・サイバース族のバックアップ・セクレタリーをデッキから手札に加えます。そしてチェーン1のコード・トーカー・インヴァートの効果で手札のサイバース族を特殊召喚します! 墓地から手札に戻したリンクスレイヤーを特殊召喚します!」

「さっきからいっぱいモンスターを出したり戻したり……目まぐるしすぎるよぉ!」

「ごめんなさい、でも……僕の“気持ち”を伝えるのには必要なことだから。あとちょっとだけ我慢してね? 僕は……トランスコード・トーカーとコード・トーカー・インヴァートをリンクマーカーにセット!」

「トランスコードをリンク素材に!?」

 

 コード・トーカーデッキの要とも言えるトランスコード・トーカーを橙季は敢えて手放した。ワンダーハートに攻撃力では及ばないとはいえ、彼のデッキの主戦力たるカードを素材にするという意味を愛美は理解できなかった。

 

「召喚条件は“サイバース族モンスター2体”! サーキットコンバイン! リンク召喚!“古の儀式を司る未来の魔女よ。その力を以て我が思いを示せ!”現れよ!《サイバース・ウィッチ》!」

 

《サイバース・ウィッチ》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/サイバース族/攻800

【リンクマーカー:左下/下】

サイバース族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合、自分の墓地の魔法カード1枚を除外して発動できる。デッキからサイバース族の儀式モンスター1体と「サイバネット・リチューアル」1枚を手札に加える。

(2):このカードの(1)の効果を発動したターンの自分メインフェイズに、自分の墓地のレベル4以下のサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「サイバース・ウィッチ……」

「僕は手札のバックアップ・セクレタリーをサイバース・ウィッチのリンク先に特殊召喚! そしてリンク先にモンスターが特殊召喚されたことでサイバース・ウィッチの効果を発動! 墓地の魔法カード、斬機刀ナユタを除外してデッキからサイバース族の儀式モンスター《嵐竜の聖騎士》と儀式魔法《サイバネット・リチューアル》を手札に加えます。そして一つ目の効果を発動したサイバース・ウィッチのもう一つの効果を発動! 墓地のレベル4以下のサイバース族モンスター1体を特殊召喚します! マイクロ・コーダーを特殊召喚! 更に手札から魔法カード、サイバネット・フュージョンを発動!」

 

《サイバネット・フュージョン》

通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、サイバース族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。EXモンスターゾーンに自分のモンスターが存在しない場合、自分の墓地のサイバース族リンクモンスター(1体まで)を除外して融合素材とする事もできる。

 

「僕はフィールドのバックアップ・セクレタリーと手札の嵐竜の聖騎士の2体を融合するよ! 融合召喚! 現れよ!《ダイプレクサ・キマイラ》!」

 

《ダイプレクサ・キマイラ》

融合・効果モンスター

星5/光属性/サイバース族/攻2000/守800

サイバース族モンスター×2

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、自分フィールドのサイバース族モンスター1体をリリースして発動できる。このターンのバトルフェイズ中にお互いは魔法・罠カードの効果を発動できない。

(2):融合召喚したこのカードが墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の、サイバース族モンスター1体と「サイバネット・フュージョン」1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「今度は融合召喚……一体何を狙って……」

「1つ目の効果を発動したサイバース・ウィッチの効果を発動。墓地のレベル4以下のサイバース族モンスター1体を特殊召喚するよ。マイクロ・コーダーを特殊召喚! そして手札の斬機サブトラの効果を発動! ダイプレクサ・キマイラの攻撃力を1000下げることでこのカードを手札から特殊召喚する!」

 

ダイプレクサ・キマイラ ATK2000→ATK1000

 

 これで橙季のフィールドにはEXゾーンにサイバース・ウィッチ、メインモンスターゾーンに左からマイクロ・コーダー、斬機サブトラ、ダイプレクサ・キマイラ、エクスコード・トーカー、リンクスレイヤーの計6体が存在することになった。もちろんどのモンスターも攻撃力ではワンダーハートには及ばない。しかし、この盤面を作り上げることが橙季の目的でないことは誰もが気づいていた。

 

(この布陣はやはり……)

「そして僕はリンクスレイヤーの効果を発動!」

 

《リンクスレイヤー》

効果モンスター

星5/地属性/サイバース族/攻2000/守600

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):1ターンに1度、手札を2枚まで捨て、捨てた数だけフィールドの魔法・罠カードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「手札のサイバネット・リチューアル1枚を捨てて、捨てた数だけフィールドの魔法・罠カードを対象として発動。そのカードを破壊する。対象はもちろん、海晶乙女の闘海!」

 

 リンクスレイヤーの刃が海晶乙女たちの闘う舞台と言えるフィールドを切り裂く。海晶乙女の強さの大半がこのカードに占められていると言ってもいいだけに、ここで海晶乙女の闘海を破壊されたことは愛美にとっては痛かった。

 

「くっ、海晶乙女の闘海が……!」

「海晶乙女の闘海が失われたことで、海晶乙女モンスターを強化する効果は失われる!」

 

海晶乙女ワンダーハート ATK4400→ATK2400

 

「更にクリスタルハートを素材にしてリンク召喚されたワンダーハートにモンスター効果を受けない耐性を与える効果もなくなる。これでワンダーハートに僕のモンスターの効果が通るようになった!」

「でも、それでもキミのモンスターはボクのワンダーハートを下回っているし、ワンダーハートには装備カードになっている海晶乙女1体を特殊召喚することで破壊を無効にして戦闘ダメージを0にすることだってできるんだよ!」

「愛美ちゃん」

「……な、何かな? 言っておくけど、サレンダーするんだったら早めに言ってね!」

「愛美ちゃん、言ったよね。このデュエルで愛美ちゃんが勝ったら、お願いを聞いてほしいって言ってたよね」

「う、うん」

「実は僕も愛美ちゃんにお願いしたいことがあるんだ。でも、デュエルの後じゃなくて……今言うよ。僕は……」

 

 

 

 

 

―――愛美ちゃん、君のことが好きです!!―――

 

 

 

 

 

「……へっ?」

「内気で馴染めずにいてくれた僕に声をかけてくれてから、君の優しさに触れて……それからずっと、僕は……」

「ま、ま、待って! 待ってってば! まだデュエル中だし、その……みんなの前だよ?」

 

 愛美に指摘されて一気に顔が真っ赤になる橙季。周囲でデュエルの様子を見守っていた遊希たちは一様に呆気に取られたような顔をしていた。一体自分たちの目の前で何が起きているのか、といった様子を浮かべる者もいれば、早くも順応して嬌声を上げる者もいた。

 

「皐月、知ってた?」

「ま、全く気づけませんでした……ですが、よく考えてみればフラグが立つ兆しはあったんですね。オタクなのに見抜けないとは……」

(それにオタクは関係あるのだろうか?)

「ヒューッ! やるやん橙季! 結納はいつになるんや!?」

「私たち、まだ法律で結婚できませんから」

「……あっ、えっと……僕の気持ちは変わらない。そして、僕は君を守り抜くだけの力を見せる。僕の決意が―――このモンスターです!! 僕はサイバース・ウィッチ、ダイプレクサ・キマイラ、リンクスレイヤー、マイクロコーダーの4体をリンクマーカーにセット!」

 

 エクスコード・トーカーを除いた4体のモンスターがリンクマーカーにセットされる。八方のリンクマーカーのうち、上・左・右・左下・右下に光が灯った。

 

「えっ、リンク5……!?」

「アローヘッド確認! 召喚条件は“効果モンスター3体以上”! サーキットコンバイン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“暗天より降りし光の雫よ。雄大なる大地に命の風を巻き起こし、決意の炎となって燃え上がれ!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これが、僕の意志! 僕の決意!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――現れよ、リンク5!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦の決闘者・5

 

 

 

 

 

 橙季のフィールドに現れたのは、禁止カードとなったためにデュエルで使用できない《ファイアウォール・ドラゴン》が更に進化したような、そんな姿をしたドラゴンだった。これこそが、橙季の切り札にして唯一のリンク5モンスター《ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード》である。

 

《ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード》

リンク・効果モンスター

リンク5/闇属性/サイバース族/攻3000

【リンクマーカー:上/左/右/左下/右下】

効果モンスター3体以上

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地のサイバース族モンスターの種類(儀式・融合・S・X)の数だけこのカードにカウンターを置く。

(2):このカードの攻撃力はバトルフェイズの間、このカードのカウンターの数×2500アップする。

(3):相手がモンスターの効果を発動した時、このカードのカウンターを1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にする。この効果をこのカードの攻撃宣言時からダメージステップ終了時までに発動した場合、このカードはもう1度続けて攻撃できる。

 

「ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード……!? それが、橙季くんの切り札……」

「リンク召喚に成功したダークフルードの効果を発動! 僕の墓地の儀式・融合・S・Xモンスターサイバース族の数だけダークフルードにカウンターを置く!」

 

 橙季の墓地にはサイバース族の儀式モンスターである嵐竜の聖騎士、融合モンスターであるダイプレクサ・キマイラ、Sモンスターである炎斬機ファイナルシグマ、Xモンスターである塊斬機ダランベルシアンが存在している。橙季はダークフルードの能力をフルに発揮するために、コード・トーカーとは異なるジャンルの斬機のカードをデッキに入れていたのだ。

 

ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード カウンター:4

 

「カウンターを乗せたところでなんだっていうの!? ボクのワンダーハートの効果を忘れたわけじゃないよね!」

 

 海晶乙女の闘海が存在しなくなったことでワンダーハートの攻撃力は元々の数値である2400にまでダウンしてしまっている。しかし、その効果までは無効になったわけではない。闇雲に攻めたところでワンダーハートの効果で防がれてしまうだけなのだ。

 それならばダークフルード単体で攻めるよりも、トランスコード・トーカーやエクスコード・トーカーら複数体のコード・トーカーたちを並べて攻めた方がまだ効率的ですらある。もちろん、それは橙季も理解していた。理解した上でダークフルードのリンク召喚を行ったのだ。

 

「忘れたわけじゃないし、忘れるわけがない。全部、僕の狙い通りだよ! バトル! ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードで海晶乙女ワンダーハートを攻撃!」

 

 ダークフルードの身体の緑色のラインが赤く変色し、ダークフルードは攻撃態勢に移る。その瞬間、ダークフルードの周囲にはリンク召喚成功時に乗せられた4つのカウンターが現れた。カウンターはそれぞれ紫、青、白、黒の4色に輝き、力を放ち始めた。カウンターの輝きに呼応する形でダークフルードの力が大きく上昇する。

 

ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード カウンター:4 ATK3000→ATK13000

 

「攻撃力……13000!? なんで、どうしてっ!」

「ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードはバトルフェイズの間、このカードに乗っているカウンターの数×2500ポイント攻撃力がアップする!」

(そっか、だから橙季くんは斬機のモンスターを絡めて……)

「でも、どんなに攻撃力が高くても! ワンダーハートの効果の前には意味がないよ!」

 

ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード カウンター4 ATK13000 VS 海晶乙女ワンダーハート ATK2400

 

「海晶乙女ワンダーハートの効果を発動! ワンダーハートに装備された海晶乙女モンスター1体を特殊召喚し、破壊を無効にして戦闘ダメージを0にする!」

「させない―――っ! ワンダーハートの効果にチェーンしてファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードの効果を発動!」

 

チェーン2(橙季):ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード

チェーン1(愛美):海晶乙女ワンダーハート

 

「チェーン2のダークフルードの効果! カウンターを1つ取り除き、相手のモンスター効果の発動を無効にする! “カルマ・ギア”!!」

「っ、ワンダーハートの効果が……!!」

「カウンターが1つ取り除かれたことで、ダークフルードの攻撃力は2500ダウンする」

 

ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード カウンター:3 ATK13000→ATK10500

 

「……それでもダークフルードとワンダーハートの攻撃力の差は……」

「8100。このデュエル、僕の勝ちだ」

 

ファイアウォール・ドラゴン・ダークフルード カウンター:3 ATK10500 VS 海晶乙女ワンダーハート ATK2400

 

愛美 LP8000→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛美ちゃん、その……さっきは気持ちを抑えられなかった。えっと、僕の気持ちはさっき言った通りです」

 

 デュエル自体は橙季の勝利に終わった。しかし、彼のデュエルはまだ続いている。思いを告げた橙季は、愛美の返答を聞かなければいけなかった。しかし、不意にかつ劇的な告白を受けた愛美は何処かご機嫌斜めな様子だった。

 

「むー……」

「愛美ちゃん?」

「デュエルには負けちゃうし、ボクの気持ちは上手く伝えられないし……散々だよ」

 

 

 

 

 

―――ほんとは、ボクの方から言いたかったのに。橙季くんに取られちゃったな―――

 

 

 

 

 

「えっ……」

「もうっ、鈍いよ橙季くん! ボクだって言うの結構勇気いるんだからね! ボクも、君のことが好きですっ!! そういうこと!」

「えっ……えっ……?」

「ほら、男の子なんだから! もっとしゃきっとする!」

「は、はい!」

 

 早くも恋人間の力関係が形成されつつある中、二人の若いカップルの誕生を周囲は暖かい目で見つめていた。まだ恋愛というものの意味がよくわかっていない未来はきょとんとしていたが、周りに釣られる形で拍手を送っていた。しかし、そんな暖かく優しい空間はいつまでも続かない。二人のカップルの愛が育まれた場所はすぐに元の戦場へと戻った。

 

「お二人の余韻を楽しみたいのは山々ですが……」

「二度も激しいデュエルを見せられて、こっちとしてもデュエルをしたいという気持ちが抑えきれません」

「はい。ならば皆さんに負けないような、そんなデュエルを私たちもやりましょう!」

「「デュエル!!」」

 

 間を置かずして、紫音とヴェートのデュエルの火蓋が切って落とされた。年長者にして実力者の華相手に大番狂わせを起こしてみせた未来、互いの想いと覚悟をぶつけ合った橙季と愛美、四人のデュエルに劣らないだけのデュエルを―――語らずとも二人の想いは共通したものとなっていた。

 

 

先攻:紫音【ブラック・マジシャン】

後攻:ヴェート【ジャンクドッペル】

 

 

紫音 LP8000 手札5枚

デッキ:40 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

ヴェート LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(紫音)

 

「先攻は私です。私はマジシャンズ・ロッドを召喚します!」

「マジシャンズ・ロッド……紫音さん、毎回のようにそのカードを初手に引いているような気がするのですが」

「運がいいだけです。でも、その運を結果に繋げることができていませんが……」

 

 召喚に成功したマジシャンズ・ロッドの効果で紫音はデッキのキーカードの1つ、黒の魔導陣を手札に加える。初手の動き自体は定型化されたものではあるが、定型化されているからこそ強いものと言えるのだ。

 

「永続魔法、黒の魔導陣を発動します。発動時の効果でデッキトップから3枚を確認し、その中にブラック・マジシャンもしくはブラック・マジシャンのカード名が記された魔法・罠カードがあればその中から1枚を選んで手札に加えることができます。私は魔法カード《黒魔術の秘儀》を手札に加えます」

(黒魔術の秘儀? 聞き慣れないカードですが、新しいカードでしょうか……)

「そして手札の《マジシャンズ・ソウルズ》の効果を発動します!」

 

《マジシャンズ・ソウルズ》

効果モンスター

星1/闇属性/魔法使い族/攻0/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札にある場合、デッキからレベル6以上の魔法使い族モンスター1体を墓地へ送り、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードを特殊召喚する。

●このカードを墓地へ送る。

その後、自分の墓地から「ブラック・マジシャン」または「ブラック・マジシャン・ガール」1体を選んで特殊召喚できる。

(2):自分の手札・フィールドから魔法・罠カードを2枚まで墓地へ送って発動できる。墓地へ送った数だけ自分はデッキからドローする。

 

「マジシャンズ・ソウルズ……?」

「デッキからレベル6以上の魔法使い族モンスター、ブラック・マジシャン1体を墓地へ送り、2つの効果から1つを選んで発動できます! 私はこのカードを特殊召喚します! そして墓地からブラック・マジシャンまたはブラック・マジシャン・ガールのいずれか1体を特殊召喚できます! 墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚です!」

「一気にモンスターを3体……」

「ヴェートさんのフィールドのカードが存在しないため、黒の魔導陣の効果は発動しません。私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 

紫音 LP8000 手札3枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:3(ブラック・マジシャン、マジシャンズ・ロッド、マジシャンズ・ソウルズ)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(黒の魔導陣)墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

ヴェート LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

紫音

 □□黒伏□

 □ブロソ□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

ヴェート

 

○凡例

ソ・・・マジシャンズ・ソウルズ

 

 

☆TURN02(ヴェート)

 

「私のターン、ドローです。私は手札から魔法カード、調律を発動します。デッキからシンクロンモンスター1体を手札に加え、その後デッキトップ1枚を墓地へ送ります」

「でしたら調律の発動にチェーンしてリバースカードを発動します! 速攻魔法、黒魔術の秘儀を発動します!」

 

《黒魔術の秘儀》

速攻魔法

(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。

●融合モンスターカードによって決められた、「ブラック・マジシャン」または「ブラック・マジシャン・ガール」を含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

●レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、「ブラック・マジシャン」または「ブラック・マジシャン・ガール」を含む自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、手札から儀式モンスター1体を儀式召喚する。

 

チェーン2(紫音):黒魔術の秘儀

チェーン1(ヴェート):調律

 

「チェーン2の黒魔術の秘儀の効果。2つの効果から1つを選択して発動します。私が選ぶのは……レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるようにブラック・マジシャンまたはブラック・マジシャン・ガールを含むモンスターをリリースして手札から儀式モンスターを儀式召喚する効果です!」

「儀式召喚が行える速攻魔法!? そんなカードが……」

 

 紫音のデッキからは先程から今までの彼女のデッキには入っていなかったカードが矢継ぎ早に飛び出す。遊希と同じように鈴もまた、勝てずに苦悩する紫音に新しい力を与えていたのだ。もちろんそんなカードをデッキに入れられていたとなれば、対峙するヴェートを指導するエヴァも心中穏やかではいられなかった。

 

「鈴、お前さっきからズルいぞ! あのカードはまだ流通前のものだろ!」

「えへへ♪」

「何がえへへだ!」

「まあそんな怒んないでエヴァちゃん。大丈夫、このイベントの間だけだからさ!」

「むー……」

―――みんな親バカだね~。

 

 エヴァの脳裏にスカーライトの茶化す言葉が響き渡る。今の彼女にできることは、やはりヴェートを信じることだけなのだから。

 

「私はフィールドのレベル7、ブラック・マジシャンとレベル1、マジシャンズ・ソウルズをリリース! 手札からこのモンスターを儀式召喚します!“我が生贄を儀式の糧とし、暗黒の混沌よりその姿を現わしなさい!”儀式召喚!《マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX》!!」

 

《マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX》

儀式・効果モンスター

星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

「カオス・フォーム」により降臨。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このターン、相手はモンスターの効果を発動できない。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分の墓地の魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX……チェーン1の調律の効果で私はデッキからクイック・シンクロンを手札に加え、デッキトップ1枚を墓地へ送ります。墓地に送られたのは、ついていますね。ジェット・シンクロンです」

「運がいいですね。ですがこのターン、ヴェートさんには何もさせません。儀式召喚に成功したマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXの効果を発動します! マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXは、特殊召喚に成功した場合、私のフィールドのモンスター1体をリリースすることでこのターン、相手はモンスターの効果を発動できなくなります!」

「っ……!」

「私はマジシャンズ・ロッドをリリース! ヴェートさんはモンスターの効果を発動できません」

 

 モンスター効果の発動を封じる効果が通ったことにより、ヴェートはモンスターを効果で展開することができなくなってしまった。彼女のデッキはチューナーとそれ以外のモンスターを複数体展開してS召喚を行うデッキ。それを封じられるとなるとできることは少なくなってしまうのだ。

 

「……私はモンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 

紫音 LP8000 手札3枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:1(マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒の魔導陣)墓地:4 除外:0 EXデッキ:15(0)

ヴェート LP8000 手札4枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:2 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

紫音

 □□黒□□

 □M□□□□

  □ □

□□□伏□□

 □□□伏□

ヴェート

 

○凡例

M・・・マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦の決闘者・6(修正版)

 

 

 

☆TURN03(紫音)

 

「私のターン、ドローです。二の矢を放ちにくいのが、このデッキの欠点でしょうか……」

 

 紫音の【ブラック・マジシャン】デッキはブラック・マジシャンをはじめ上級以上のモンスターが多く採用されている反面、下級モンスターの数に乏しいという点がある。下級の要であるマジシャンズ・ロッドはフィールドの魔法使い族1体を墓地へ送ることで自己蘇生が可能であるものの、それも永遠の魂などのブラック・マジシャンをサポートするカードとの併用が前提である。それらのカードがあってこそ、秘めている力を最大限に発揮できるのだ。

 

「バトルです。マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXでセットモンスターを攻撃。“マキシマム・デス・アルテマ”!」

 

マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX ATK2800 VS ドッペル・ウォリアー DEF800

 

「セットモンスター、ドッペル・ウォリアーは破壊されます」

「ではマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXの効果も発動します! マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXが戦闘でモンスターを破壊した時、墓地の魔法カード1枚を手札に加えることができます。とはいえ、墓地にある魔法カードは……黒魔術の秘儀だけですが」

「《混沌の黒魔術師》の効果を踏襲しているということですか……チェーン1のオライオンの効果で私のフィールドに幻獣機トークン1体を守備表示で特殊召喚します」

「バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移ります。私はカードを2枚セットしてターンエンドです」

 

紫音 LP8000 手札3枚

デッキ:36 メインモンスターゾーン:1(マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(黒の魔導陣)墓地:3 除外:0 EXデッキ:15(0)

ヴェート LP8000 手札4枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:3 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

紫音

 □□黒伏伏

 □M□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□伏□

ヴェート

 

 

☆TURN04(ヴェート)

 

「私のターン、ドローです。さて、そろそろこちらも反撃に移らせて頂きますね。まず私は手札から速攻魔法、サイクロンを発動します。黒の魔導陣を破壊しますね」

「っ……黒の魔導陣が……」

 

 黒の魔導陣はブラック・マジシャンの特殊召喚成功時に相手フィールドのカード1枚を除外することができる。そのカードが残っている以上、ヴェートは安心して展開することができないと言っていいだろう。

 

「手札のボルト・ヘッジホッグを捨ててチューナーモンスター、クイック・シンクロンを特殊召喚します。そして私のフィールドにチューナーモンスターが存在する場合、ボルト・ヘッジホッグは墓地から特殊召喚することができます」

 

 前のターンはマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXの効果によってモンスター効果を封じられてしまったヴェートであるが、それがなくなった以上彼女を止めるものはない。一度動き始め、そしてそれを止める手段がない場合。ヴェートのデッキは何処までも回り続けるのだ。

 

「私はボルト・ヘッジホッグとチューナーモンスターであるクイック・シンクロンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

「っ……やはり」

「ええ、もうお馴染みでしょうから説明は不要ですね。水晶機巧-ハリファイバーをリンク召喚します。そしてリンク召喚に成功したハリファイバーの効果でデッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚します」

 

 S召喚を主体とするデッキにおいて、水晶機巧-ハリファイバーはもはや欠かすことができないモンスターであると言っていい。しかし、多くのデュエリストにその存在が認知されてしまっているからこそ、真っ先に狙われる存在でもある。

 

「ハリファイバーの効果にチェーンしてリバースカードを発動します! 罠カード、マジシャンズ・ナビゲート!」

 

チェーン2(紫音):マジシャンズ・ナビゲート

チェーン1(ヴェート):水晶機巧-ハリファイバー

 

「チェーン2のマジシャンズ・ナビゲートの効果で手札からブラック・マジシャンを特殊召喚します! 更にデッキから《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》を守備表示で特殊召喚します!」

 

《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》

効果モンスター

星7/闇属性/魔法使い族/攻2100/守2500

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分が相手ターンに魔法・罠カードの効果を発動した場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、カード名を「ブラック・マジシャン」として扱う。

(3):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分が魔法・罠カードの効果を発動した場合に自分の墓地の「ブラック・マジシャン」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「守りを固めてきましたか。ハリファイバーの効果で私はデッキからレベル1のチューナーモンスター《天威龍-アーダラ》を特殊召喚します」

 

《天威龍-アーダラ》

チューナー・効果モンスター

星1/地属性/幻竜族/攻0/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに効果モンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):自分フィールドに効果モンスター以外の表側表示モンスターが存在する場合、手札・墓地のこのカードを除外し、このカード以外の除外されている自分の幻竜族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「更にジャンク・シンクロンを通常召喚します。召喚に成功したジャンク・シンクロンの効果で私は墓地のドッペル・ウォリアーを特殊召喚します。そして私はレベル2のジャンク・シンクロンに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!“小さな星々が集う時、地平を切り裂く旋風が吹き荒れる。光となって駆け抜けよ!”シンクロ召喚! 現れなさい、シンクロチューナー!《アクセル・シンクロン》!」

 

《アクセル・シンクロン》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星5/闇属性/機械族/攻500/守2100

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分は「アクセル・シンクロン」を1ターンに1度しかS召喚できない。

(1):1ターンに1度、デッキから「シンクロン」モンスター1体を墓地へ送り、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを上げる。

●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを下げる。

(2):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

「S素材として墓地へ送られたドッペル・ウォリアーの効果を発動します。私のフィールドにレベル1のドッペルトークン2体を特殊召喚します。そして、レベル1のドッペルトークンにレベル5のシンクロチューナー、アクセル・シンクロンをチューニング!“小さな星々が集う時、星屑の力宿した戦士が目を覚めす。光となって舞い降りよ!”シンクロ召喚! 現れなさい!《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 

《スターダスト・チャージ・ウォリアー》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/戦士族/攻2000/守1300

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「スターダスト・チャージ・ウォリアー」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

(2):このカードは特殊召喚された相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

 

「S召喚に成功したスターダスト・チャージ・ウォリアーの効果を発動します! デッキから1枚ドローです」

「なるほど、S召喚はその性質上、手札を多数消費しますからね。補充効果を持ったモンスターの存在は確かに重要です。しかし、いくら補充したところで私のモンスターの攻撃力を超えられなければ意味はありません!」

「……そうですね。ですが、私の頭の中には紫音さんのモンスターを全て突破できるだけの道筋が描かれています」

 

 紫音のフィールドに存在するモンスターは攻撃力2800のマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX、攻撃力2500のブラック・マジシャン、守備力2500のマジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンの3体。この3体を突破するには最低でも攻撃力2800以上のモンスターを用意する必要がある。

 

「私のモンスターを全て? 一体どうやって……」

「では、それを今からお見せしましょう。私はレベル1のドッペルトークンに、レベル1のチューナーモンスター、天威龍-アーダラをチューニング!“小さな星々が集う時、新たな力が世界を駆ける。未知なる世界を切り拓け!”シンクロ召喚! シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星2/光属性/機械族/攻200/守1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

(2):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

「フォーミュラ・シンクロンのS召喚に成功したことで効果を発動。デッキから1枚ドローします。私は永続魔法《シンクロ・チェイス》を発動します!」

 

《シンクロ・チェイス》

永続魔法

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分が「ウォリアー」、「シンクロン」、「スターダスト」SモンスターのS召喚に成功した場合、そのS召喚の素材とした自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、元々のカード名に「ウォリアー」、「シンクロン」、「スターダスト」の内、いずれかを含む自分のSモンスターの効果の発動に対して相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

 

「シンクロ・チェイス!? 聞いたことがないカードですが……」

「ええ、だってまだ公式販売されていないカードですから♪」

 

 そう言って愛らしくウインクをしてみせるヴェート。鈴が竜司のルートを通して未発売のカードを紫音に貸し与えることができるのであれば、現役のプロデュエリストであるエヴァもまた鈴と同じようなことができるということだ。

 

「ちょっとエヴァちゃん!」

「なんだ鈴? 言っておくがお前にどうこう言われる筋合いはないぞー?」

「もうっ、自分のことを棚に上げておいて……」

「えっと……ワタシニホンゴワカリマセーン☆」

「ちくしょう可愛いなちくしょう!」

―――なにやってんのさ二人とも……まだデュエル続いてるよー

 

 スカーライトにすら呆れられる人間同士のツッコミ合いが繰り広げられる中、ヴェートはただ一点を見据えていた。自分のデュエルが限界を超えた境地に達する瞬間だけを。

 

「さて、シンクロ・チェイスに驚かれたと思いますが、まだです。もっとびっくりさせちゃいますよ。私はレベル6のスターダスト・チャージ・ウォリアーに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!“小さな星々が集う時、星屑煌めく竜が目覚める。光さす道を描き飛翔せよ!”シンクロ召喚! 羽ばたけ!!《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

《スターダスト・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

「スターダスト・ドラゴン!? それは世界に数枚しか存在しないはずの超レアカード……」

「もちろん、それは私のものだ。プロとして勝ち取ったカードの1枚と言うべきかな?」

「まさかこのようなカードを使わせて頂けるとは……感無量です。さて、スターダストSモンスターのS召喚に成功したことで永続魔法、シンクロ・チェイスの効果が発動します。S召喚の素材となったモンスター1体を墓地から特殊召喚します。戻ってきてください、フォーミュラ・シンクロン!」

「なるほど、条件付きとはいえ連続のS召喚を可能にするカードですか。ですが、フォーミュラ・シンクロンを蘇生させたところで……」

「言いましたよね? もっとびっくりさせる、って。私は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――レベル8のSモンスター、スターダスト・ドラゴンに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“小さな星々が集う時、新たな世界を星が翔ける。流星よ、天を彩れ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――シンクロ召喚! 星屑よ、煌めけ!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《シューティング・スター・ドラゴン》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦の決闘者・7(4訂版)

 

 

 

 

 

 

 星屑の竜は白き流星となって軌跡を描く。スターダスト・ドラゴンとSモンスターのチューナーモンスターという二つの指定されたモンスターでなければS召喚できないSモンスター―――《シューティング・スター・ドラゴン》がヴェートのフィールドに舞い降りた。

 

《シューティング・スター・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星10/風属性/ドラゴン族/攻3300/守2500

Sモンスターのチューナー1体+「スターダスト・ドラゴン」

(1):1ターンに1度、発動できる。自分のデッキの上から5枚めくってデッキに戻す。このターンこのカードはめくった中のチューナーの数まで攻撃できる。

(2):1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。

(3):1ターンに1度、相手の攻撃宣言時に攻撃モンスターを対象として発動できる。フィールドのこのカードを除外し、その攻撃を無効にする。

(4):この(3)の効果で除外されたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを特殊召喚する。

 

「シューティング・スター・ドラゴン……まさか、そんなカードまで」

「こちらもエヴァさんにお借りしたカードです。とはいえ、まさかデュエルで実際に使用できるとは思っていませんでしたが……」

 

 エヴァとヴェートは同じ外国人であり、また名家の娘という共通点もあったことから性格や国籍こそ違えど妙に馬が合った。もちろん現役のプロデュエリストであるエヴァの指導は厳しかったが、ヴェートはその指導に何一つの不平を垂れることなくしっかりと着いてきていた。

 それを見込んだエヴァは使用デッキの関係上あまり使いこなすことができず持て余していたスターダスト・ドラゴンおよびシューティング・スター・ドラゴンをヴェートに貸し与えたのである。「このカードを、使いこなせるようなデュエリストになってみろ」。師匠であり、親友でもあるエヴァのその言葉に応えるために。

 

「さて、シューティング・スター・ドラゴンの目玉とも言えるこの効果についてはご存知ですよね。私のデッキの上から5枚をめくってデッキに戻します。そしてこのターン、シューティング・スター・ドラゴンはめくった5枚の中にあったチューナーモンスターの数だけ攻撃することができる」

 

 シューティング・スター・ドラゴンというモンスターを象徴するこの効果は、めくった5枚のカードが全てチューナーモンスターであれば、5回まで一度のバトルフェイズに攻撃することができる。一方で1枚もチューナーモンスターがなかった場合は攻撃することができないというデメリットがあるため確実性に欠ける効果と言わざるを得ない。しかし、それを差し引いても攻撃力3300のモンスターによる5回攻撃は魅力的なものであった。

 

「ではシューティング・スター・ドラゴンの効果を発動します! デッキトップ5枚のうち、チューナーモンスターは……!!」

 

 ヴェートが5枚のカードを確認した瞬間、シューティング・スター・ドラゴンの身体は4つに分裂する。彼女が確認した5枚のカードのうち、チューナーモンスターは幻獣機オライオン、エフェクト・ヴェーラー、幽鬼うさぎ、《サテライト・シンクロン》の4枚だった。よってシューティング・スター・ドラゴンはこのターン、4度までの攻撃が可能になった。

 

「よ、4回攻撃……」

「これは勝利の女神が私に微笑んでくれたようですね。バトル! シューティング・スター・ドラゴンでマジシャン・オブ・ブラックイリュージョンを攻撃!“スターダスト・ミラージュ”!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン ATK3300 VS マジシャン・オブ・ブラックイリュージョン DEF2500

 

 4つの分身のうち、真紅のオーラを纏ったシューティング・スター・ドラゴンがマジシャン・オブ・ブラックイリュージョンの影を切り裂いた。マジシャン・オブ・ブラックイリュージョンは守備表示であったためにダメージは発生しないものの、残りの2体の魔術師は攻撃表示であり、いずれもシューティング・スター・ドラゴンの攻撃力を下回っていた。

 

「次です。シューティング・スター・ドラゴンでブラック・マジシャンを攻撃!」

 

シューティング・スター・ドラゴン ATK3300 VS ブラック・マジシャン ATK2500

 

紫音 LP8000→LP7200

 

 青のオーラを纏った2体目のシューティング・スター・ドラゴンがブラック・マジシャンを蹴散らす。そして最後に残った3体目、黄色のオーラを纏ったシューティング・スター・ドラゴンはマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXに狙いを定めた。

 

「これで3回目! シューティング・スター・ドラゴンでマジシャン・オブ・ブラックカオス・MAXを攻撃です!」

 

シューティング・スター・ドラゴン ATK3300 VS マジシャン・オブ・ブラックカオス・MAX ATK2800

 

紫音 LP7200→LP6700

 

「4度目の攻撃! シューティング・スター・ドラゴンでダイレクトアタックです!」

 

シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

 

紫音 LP6700→LP3400

 

「シューティング・スター・ドラゴンの攻撃は全て終了です。ですが、私にはまだモンスターが残っています。ハリファイバーでダイレクトアタックです!」

 

水晶機巧-ハリファイバー ATK1500

 

「その攻撃は通させません! リバースカードオープン! 永続罠、リビングデッドの呼び声を発動します! 墓地のブラック・マジシャンを攻撃表示で特殊召喚します!」

「このタイミングでブラック・マジシャンを!?」

 

 このプレイングにはさすがのヴェートも驚きを隠せなかった。何故ならシューティング・スター・ドラゴンのダイレクトアタックの時にリビングデッドの効果でブラック・マジシャンを蘇生できていれば、ブラック・マジシャンを盾にすることで受けるダメージを大きく減らすことができていたのだから。

 

(……紫音さんのプレイングミス? ですが、紫音さんほどの方でしたら狙ってやっている可能性も捨てきれませんね)

 

「ハリファイバーの攻撃を中止します。私はシューティング・スター・ドラゴンを出すことができました。結果的には上々の1ターンだったのではないでしょうか。私はバトルフェイズを終了。このままターンエンドです」

 

紫音 LP3400 手札2枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1(ブラック・マジシャン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(リビングデッドの呼び声)墓地:7 除外:0 EXデッキ:15(0)

ヴェート LP8000 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(シューティング・スター・ドラゴン)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(シンクロ・チェイス)墓地:8 除外:1 EXデッキ:9(0)

 

紫音

 □□□□リ

 □□ブ□□□

  □ 水

□□□□□シ

 □□チ伏□

ヴェート

 

○凡例

シ・・・シューティング・スター・ドラゴン

チ・・・シンクロ・チェイス

 

 

☆TURN05(紫音)

 

「私のターン、ドロー!……手札から魔法カード、強欲で金満な壺を発動します! EXデッキのカード6枚を裏側表示で除外することで2枚ドローします!」

「ブラック・マジシャンデッキは以前と比べてEXデッキのカードを使うことが多くなっています。それでも使いますか……」

「確かに私のEXデッキにはこの局面を逆転できるカードが入っています。ですが、そのカードが除外されるリスクを恐れて負けるなら……リスクを覚悟で進んで負けた方がまだマシです! 2枚ドロー!」

 

 今までの紫音だったらこんな決断には至らなかっただろう。わずか2日間という短い時間であるが、その短い時間はまず間違いなく少女たちを前に進ませていた。

 

「私は―――手札1枚を捨てて速攻魔法、超融合を発動!」

「超融合……まさか」

「そのまさかです! 私はブラック・マジシャンとドラゴン族の効果モンスターであるシューティング・スター・ドラゴンを融合!」

 

 ブラック・マジシャンとシューティング・スター・ドラゴンの魂が一つとなり、生まれるのは漆黒の鎧を纏った黒き魔導騎士。真紅の瞳の輝くその姿は、ブラック・マジシャンと可能性をもたらす竜によって導き出された新しい姿だった。

 

 

 

 

 

―――“古代の王に仕えし忠実なる黒き魔術師よ。竜の力を得て魔導極めし騎士となりて新生せよ!”―――

 

 

 

 

 

――――融合召喚!《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》!!―――

 

 

 

 

 

《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/魔法使い族/攻3000/守2500

「ブラック・マジシャン」+「真紅眼の黒竜」またはドラゴン族の効果モンスター

(1):このカードは効果の対象にならず、効果では破壊されない。

(2):自分メインフェイズに発動できる。相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果は1ターン中に、このカードの融合素材とした通常モンスターの数まで使用できる。

(3):1ターンに1度、魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、手札を1枚捨てて発動できる。その発動を無効にして破壊し、このカードの攻撃力を1000アップする。

 

 

「超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ……!? ブラック・マジシャンの新しい融合形態ということですか……」

「その通りです! 超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズの効果を発動します! 相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与えます!」

「っ、水晶機巧-ハリファイバーの効果を発動します! このカードを除外してEXデッキからSモンスターのチューナーをS召喚扱いで特殊召喚します!」

「させません! ドラグーン・オブ・レッドアイズのもう一つの効果を発動します! 魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、手札1枚を捨てることでその発動を無効にして破壊し、このカードの攻撃力を1000ポイントアップします!」

 

チェーン3(紫音):超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ

チェーン2(ヴェート):水晶機巧-ハリファイバー

チェーン1(紫音):超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ

 

「チェーン3のドラグーン・オブ・レッドアイズの効果でチェーン2の水晶機巧-ハリファイバーの効果の発動を無効にして破壊します! そしてドラグーン・オブ・レッドアイズの攻撃力は1000ポイントアップします!」

 

超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ ATK3000→ATK4000

 

「破壊することができなかったので、チェーン1のドラグーン・オブ・レッドアイズの効果は不発に終わります」

「私のフィールドががら空きに……」

「そしてマジシャンズ・ロッドを召喚! 召喚に成功したマジシャンズ・ロッドの効果でデッキから罠カード、永遠の魂を手札に加えます。バトルです! マジシャンズ・ロッドでダイレクトアタック!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600

 

ヴェート LP8000→LP6400

 

「そしてドラグーン・オブ・レッドアイズでダイレクトアタックです!“黒・魔・導・黒・炎・弾(ダーク・メガ・ブラック・マジック)”!」

 

超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ ATK4000

 

ヴェート LP6400→LP2400

 

「きゃあっ!」

「これで形勢逆転ですね。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移行します。カードを1枚セットしてターンエンドです!」

 

紫音 LP3400 手札0枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(マジシャンズ・ロッド)EXゾーン:1(超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(リビングデッドの呼び声)墓地:10 除外:6 EXデッキ:9(0)

ヴェート LP2400 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(シンクロ・チェイス)墓地:10 除外:1 EXデッキ:9(0)

 

紫音

 □伏□□リ

 □□マ□□□

  超 □

□□□□□□

 □□チ伏□

ヴェート

 

○凡例

超・・・超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ

 

 

☆TURN06(ヴェート)

 

「私のターン、ドローです。ドラグーン・オブ・レッドアイズの無効効果は手札コストを要するんですよね?」

「……はい」

「そうですか、それなら安心しました。私は魔法カード、貪欲な壺を発動します。墓地のモンスター5体……ジャンク・シンクロン、クイック・シンクロン、水晶機巧-ハリファイバー、スターダスト・チャージ・ウォリアー、スターダスト・ドラゴンをデッキに戻してシャッフル。そして2枚ドローです! 私は2体目のジャンク・シンクロンを召喚します!」

 

 召喚されたジャンク・シンクロンは背中のレバーのようなものを引っ張り、エンジンを起動させては墓地より同胞を蘇らせた。舞い戻ったドッペル・ウォリアーは再び手に持った銃を構えて戦闘態勢を取る。

 

「召喚に成功したジャンク・シンクロンの効果を発動し、墓地のドッペル・ウォリアーを守備表示で特殊召喚します! 私はレベル2のドッペル・ウォリアーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!“小さな星々が集う時、疾風の戦士が駆け抜ける! 勝利への道を切り拓け!”シンクロ召喚! 現れなさい!《ジャンク・スピーダー》!」

 

《ジャンク・スピーダー》

シンクロ・効果モンスター

星5/風属性/戦士族/攻1800/守1000

「シンクロン」チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「シンクロン」チューナーを可能な限り守備表示で特殊召喚する(同じレベルは1体まで)。

この効果を発動するターン、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2):このターンにS召喚したこのカードがモンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる。

 

「S召喚に成功したジャンク・スピーダーの効果を発動します! デッキからシンクロンチューナーを可能な限り守備表示で特殊召喚します!」

「シンクロンチューナーを可能な限り……ジャンク・スピーダーの効果にチェーンしてリバースカードを発動します! 永続罠、永遠の魂を発動します」

 

チェーン2(紫音):永遠の魂

チェーン1(ヴェート):ジャンク・スピーダー

 

「チェーン2の永遠の魂の効果で墓地のブラック・マジシャンを攻撃表示で特殊召喚します!」

「……チェーン1のジャンク・スピーダーの効果! 私はレベル5のクイック・シンクロン、レベル4の《ロード・シンクロン》、レベル3の《スチーム・シンクロン》、レベル2の《サテライト・シンクロン》、レベル1の《サイバース・シンクロン》を特殊召喚!」

 

《ロード・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星4/光属性/機械族/攻1600/守800

(1):このカードを「ロード・ウォリアー」以外のSモンスターの素材とする場合、このカードのレベルを2つ下げたレベルとして扱う。

(2):このカードが攻撃した場合、そのダメージステップ終了時に発動する。このカードのレベルをターン終了時まで1つ上げる。

 

《スチーム・シンクロン》

チューナー(効果モンスター)

星3/水属性/機械族/攻600/守800

相手のメインフェイズ時、自分フィールド上のこのカードをシンクロ素材としてシンクロ召喚できる。

 

《サテライト・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星2/闇属性/機械族/攻700/守100

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地からモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):元々のカード名に「ウォリアー」、「シンクロン」、「スターダスト」の内、いずれかを含むSモンスターが自分のフィールド・墓地に存在する場合に発動できる。このカードのレベルはターン終了時まで4になる。

 

《サイバース・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/サイバース族/攻100/守100

このカード名の(2)の効果は1ターンに1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、自分フィールドのレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルをターン終了時まで、その元々のレベル分だけ上げる。

(2):EXモンスターゾーンの自分のモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

 

「一気に5体のシンクロンチューナーを……?」

「私はレベル5のジャンク・スピーダーに、レベル1のサイバース・シンクロンをチューニング! 再び現れなさい、スターダスト・チャージ・ウォリアー! S召喚に成功したスターダスト・チャージ・ウォリアーの効果で1枚ドローします。そしてサテライト・シンクロンの効果を発動します! 私のフィールド・墓地に元々のカード名がウォリアー、シンクロン、スターダストのいずれかを含むSモンスターが存在する場合、このカードのレベルをターン終了時まで4にします!」

 

サテライト・シンクロン 星2→星4

 

「そしてレベル6のSモンスター、スターダスト・チャージ・ウォリアーに、レベル4のチューナーモンスター、サテライト・シンクロンをチューニング!“小さな星々が集う時、生まれし魂は星を超えて舞い上がる。限りなく飛び上がれ!”シンクロ召喚! 限界を超えよ!《サテライト・ウォリアー》!!」

 

《サテライト・ウォリアー》

シンクロ・効果モンスター

星10/闇属性/戦士族/攻2500/守2000

チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合、自分の墓地のSモンスターの数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊し、このカードの攻撃力は破壊した数×1000アップする。

(2):S召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。自分の墓地からレベル8以下の「ウォリアー」、「シンクロン」、「スターダスト」Sモンスターを3体まで選んで特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。

 

「サテライト・ウォリアー……レベル10のSモンスターですか。ですが、攻撃力2500程度のモンスターではドラグーン・オブ・レッドアイズは倒せません!」

「確かに素の攻撃力は決して高くないでしょう。ですが、墓地に眠るモンスターたちがこのカードに力を与えてくれます! S召喚に成功したサテライト・ウォリアーの効果を、そしてシンクロ・チェイスの効果を発動します!」

 

チェーン2(ヴェート):シンクロ・チェイス

チェーン1(ヴェート):サテライト・ウォリアー

 

「チェーン2のシンクロ・チェイスの効果で私は墓地のスターダスト・チャージ・ウォリアーを守備表示で特殊召喚します! そしてサテライト・ウォリアーがS召喚に成功した場合、墓地のSモンスターの数まで相手フィールドのカードを破壊し、このカードの攻撃力は破壊したカードの数×1000ポイントアップします!」

 

 ヴェートの墓地に存在するSモンスターはアクセル・シンクロン、フォーミュラ・シンクロン、シューティング・スター・ドラゴン、ジャンク・スピーダーの4体。よって最大4枚までのカードを破壊できるのだ。

 

「ドラグーン・オブ・レッドアイズは相手の効果の対象にならず、効果では破壊されませんが……」

「他のカードは全部破壊することができます。よって、ブラック・マジシャン、マジシャンズ・ロッド、リビングデッドの呼び声、永遠の魂の4枚を破壊します!」

 

 サテライト・ウォリアーの4枚の翼から放たれた光がドラグーン・オブ・レッドアイズ以外のカードを悉く撃ち抜いた。撃ち抜かれたカードから発せられた命の輝きを吸収してサテライト・ウォリアーは自らの力へと変えていく。

 

サテライト・ウォリアー ATK2500→ATK6500

 

「攻撃力6500……」

「これでサテライト・ウォリアーの攻撃力がドラグーン・オブ・レッドアイズを上回りました! 更に私はレベル6のスターダスト・チャージ・ウォリアーに、レベル2として扱うロード・シンクロンをチューニング!」

 

 ロード・シンクロンは本来レベル4のチューナーモンスターであるが《ロード・ウォリアー》以外のSモンスターのS素材として使用する場合、レベルを2として扱う。一見デメリットとも取れる効果であるが、スターダスト・チャージ・ウォリアーのようなレベル6のモンスターと組み合わせることで強力なモンスターの多いレベル8のS召喚に繋げられるのだ。

 

「再び舞い戻りなさい、スターダスト・ドラゴン! そして、バトルです! サテライト・ウォリアーで超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズを攻撃!“サテライト・シュート”!」

 

サテライト・ウォリアー ATK6500 VS 超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ ATK4000

 

紫音 LP3400→LP1400

 

「っ、ドラグーン・オブ・レッドアイズが超えられるとは……」

「更にリバースカードを発動します! 罠カード《バスター・モード》!!」

 

《バスター・モード》

通常罠

(1):自分フィールドのSモンスター1体をリリースして発動できる。そのモンスターのカード名が含まれる「/バスター」モンスター1体をデッキから攻撃表示で特殊召喚する。

 

「バスター・モード……ずっとセットされていた罠カードの正体はそれでしたか……」

「スターダスト・ドラゴンをリリースし、デッキから《スターダスト・ドラゴン/バスター》を特殊召喚します!」

 

《スターダスト・ドラゴン/バスター》

効果モンスター

星10/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。「バスター・モード」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚する事ができる。

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

また、フィールド上に存在するこのカードが破壊された時、自分の墓地に存在する「スターダスト・ドラゴン」1体を特殊召喚する事ができる。

 

「これで最後です! スターダスト・ドラゴン/バスターでダイレクトアタック!“アサルト・ソニック・バーン”!!」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター ATK3000

 

紫音 LP1400→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決戦の決闘者・1(修正版)

 

 

 

 

 

 

「それで、それで! 式場はどこにするの? ハネムーンは何処に行くの!?」

 

 明日で2泊3日のイベントが終わりを迎える。「どうせなら夕食はみんなで楽しく食べれるものがいい」という皆の希望を受けて、2日目の夕食はバーベキューになった。肉と野菜が香ばしい匂いを立てて焼き上がる中、夕食の話題はやはり愛美と橙季が恋人になったことで埋め尽くされた。気の早い千春や華らは法律すら無視して話を飛躍させる。

 

「千春。日本では男性は18歳、女性は16歳にならないと結婚できないわよ?」

「そんなのわかってるわよ遊希! でも若いカップルの誕生を祝わないわけにはいかないでしょ!」

「しっかし、最近の日本人の若者はどうなってんや。色々進みすぎやろ!」

 

 もちろん周囲から「華もまだ若いでしょ」というツッコミが殺到する。皆の反応はそれぞれ違っていた。野次馬根性丸出しの千春と華、そんな二人をやれやれといった様子で制する遊希とエヴァ、純粋に二人を祝福する未来とヴェート。反応は違えど、二人の恋路を誰もが祝福し、応援していた。

 

「……それで、皐月さんはどうされたのですか?」

 

 そんな中、一人輪に加わらずにしゃがみ込んでいる皐月。どうしたのだろう、と思い彼女に声をかけたヴェートの目に映ったのはまるで潤いを失った野菜のように萎れた皐月だった。

 

「わ、私は……お二人と監督・指導する立場なのに……そこまで進んでいるのに気づけなかったなんて……」

「……まあ近くにいた私たちも気づけませんでしたからね。そんなに落ち込まないでください」

「ところで二人はいつ頃からお互いを意識し始めたの?」

「……あの、恥ずかしいんですけど。僕は一目見た時から……」

 

 初対面の時は女装をしていたため、愛美からは橙季が異性であると気づかれていなかった。しかし、女性の服を身に纏っていても橙季は男性であり、多感な年頃である彼の目には藍沢 愛美という少女は他の同年代の誰よりも魅力的に映ったのだろう。

 

「聞いたか!?」

「やっべーな!」

「やっべーな!」

「「イェーイ!」」

「おい、お前たちのテンションはさっきからなんなんだ」

―――ねえ、エヴァー。人間ってみんなこんなのばっかなの~?

(そんなわけないだろう。このチビ二人が異常なだけだ)

 

 アルコールの類は当然その場にはないはずなのに、二人の馴れ初めの初々しさから妙なテンションでハイタッチまでかわす千春と華。背の低さといい、このテンションといい、この二人はなんだかんだ言って似ているのかもしれない。

 

「あああ!! やっぱり私には指導の才能なんてないんですぅ……」

「皐月さん、どうか落ち着いて……」

「何よこのカオス。未来ちゃん、こんな大人にはなっちゃダメだからね?」

―――さすがにそれは酷すぎないか?

「……ねえ、遊希おねえちゃん。鈴おねえちゃんと紫音おねえちゃんはどこいっちゃったのかな……」

 

 愛美と橙季のことにかまけていた遊希であるが、未来の指摘を受けた遊希は確かにその場から鈴と紫音の姿が消えていたことに気づいた。バーベキューを始めたばかりのことは普通に料理に舌鼓を打っていたのだが。

 

「あら、本当ね」

(どこに行ったのかしら……)

―――二人なら数分前にデュエルディスクを持って湖の方へ行ったぞ。

 

 紫音はヴェートとのデュエルに敗れた後、鈴と何かを話し合っているようだった。あの二人に関しては自分はあくまで第三者でしかない。そのため遊希は極力二人のことには関わらないようにしてきた。それでも出会った経緯が経緯であるために遊希の頭の片隅には常に鈴と紫音が上手くやれているのだろうか、という不安が残っていた。

 

「遊希おねえちゃん……」

 

 しばらく決断を下せずにいた遊希の背中を押したのは他ならぬ未来であった。不安そうに自分の顔を見上げる未来を心配させたくないという気持ちで遊希は動き始めた。

 

―――遊希、どうするつもりだ?

(もし私の思っている通りなら、水を差したくはないけど。でも、未来ちゃんの成長に繋がるいい機会かもしれないわね)

「未来ちゃん、一緒に二人を探しに行きましょうか」

「……うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希と未来が鈴と紫音を探し始めた頃、当の鈴と紫音は二人で湖畔に立っていた。鈴と紫音は昨日も夜にこの場所を散歩しており、都会の喧騒から遠く離れている静かなこの場所が気に入ったようだった。

 

「やっぱりここはいい場所だよね。静かだし、湖からの風も気持ちいい」

「そうですね……都会と違って月も夜空も綺麗です。こんな下でできるなんて、やっぱり私は果報者ですね」

 

 湖からは涼しい風が吹き付ける。風に二人の髪が揺れる中、二人の少女もとい二人のデュエリストはデュエルディスクを構えた。誰の邪魔も入らない静かな場所で集中して臨みたい、と紫音は凛に最後のデュエルを申し出たのである。

 

「……ところで、本当に良かったの?」

 

 デュエルの前にあたって紫音は鈴から手渡された未流通の新カードを返却していた。確かにドラグーン・オブ・レッドアイズのような【ブラック・マジシャン】デッキに入る新しいカードの力は強力無比であり、それらのカードを上手く使いこなせば鈴に勝つことも夢ではない。

 しかし、あれらのカードはあくまで鈴より“貸し与えられた”カードであり、自分の力で手に入れたものではない。紫音は師である鈴を自分の力だけで超えたいという気持ちから鈴に返した上でデュエルに臨むことに決めたのだ。

 

「はい、どうせなら今ある力でデュエルに臨みたいと思いました。もちろん一般流通したらあのカードたちは自力で手に入れられるように頑張りますけど」

「隅に置けないわねあんたも」

「あんなカードをこっそり渡してくる鈴さんには言われたくありません」

「それもそっか!」

 

 そう言って二人はデュエルディスクを展開し、デッキをセットする。今まさにデュエルの火蓋が切って落とされようとした瞬間。鈴は一時的にそれを制した。

 

「ちょっと待って。その前に……そんなところに隠れてないで出てきたらー?」

 

 えっ、と思った紫音の目には近くの茂みからひょこっと顔を出す遊希と未来の姿が映る。二人を見つけた遊希たちは鈴と紫音のデュエルが始まろうとしていることに気づき、二人の邪魔をしてはならないと思ってこっそりと隠れながらデュエルを見ようと思っていたのだ。

 

「……よく気づいたわね」

「未来ちゃんの可愛らしいリボンがチラッと見えていたのよ」

「ふぇっ!?」

 

 そう言って髪につけているリボンを慌てて隠す未来。もちろん、もう手遅れなのだが。

 

「お二人はどうしてこちらに?」

「未来ちゃんが二人がいなくなったのを気にしていたのよ。それで探しに来たって訳。でもまあ、私の予想通りの展開になっていたわね」

「鈴おねえちゃんと紫音おねえちゃん……デュエルをするんだね。あの、わたしふたりのデュエルがみたいです! ふたりのデュエルをみてべんきょうして……もっとつよいデュエリストになりたいから!」

 

 華には勝つことができたものの、未来のデュエリストとしての実力はまだまだ発展途上と言っていい。彼女はそれを自覚していた。それ故に更なるレベルアップを望むのである。言葉こそ交わさずとも、遊希・鈴・紫音の三人は未来のこの意志を尊重したい、という気持ちで一致した。

 

(……この年齢でこの意欲。もしかしたら将来はいいデュエリストになれるかもしれないわね)

「そっか、じゃあ未来ちゃんのためになるようなデュエルにしないとね!」

「そうですね。どのような結果になろうとも、後悔のないデュエルをしたいです」

 

 そう言って起動した二人のデュエルディスク内蔵のコンピューターは先攻後攻の決定権を紫音に与えた。

 

「先攻後攻の決定権は紫苑にあるわ。どうする?」

「私は……先攻で行きます。鈴さん、私は昨日までの私ではありません。例えあなたであっても……私は越えてみせます!」

「……悪いけど、そう簡単に越えられるわけにはいかないから。全力で、かかってきなさい!」

 

 鈴がそう言い終えると、一拍置いて強い風が吹く。その風が、二人の最後のデュエルの始まりを告げた。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:紫音【ブラック・マジシャン】

後攻:鈴【青眼(儀式型)】

 

 

紫音 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0

EXデッキ:15(0)

 

 

 

☆TURN01(紫音)

 

 

「先攻は私です。私は魔法カード、強欲で金満な壺を発動します! EXデッキのカードを6枚除外することで2枚ドローします。チェーンはありますか?」

 

 通常のドロー以外によるドローになるため、この発動は灰流うららで止めることができる。もちろんそれを止められれば1枚のドローソースおよびEXデッキのモンスター6枚を無駄にすることにもなるため、紫音にとっては間違いなく大きな損失であると言える。

 

「……あたしはチェーンはしない。通して」

「わかりました。では2枚ドローします」

 

 しかし、鈴は強欲で金満な壺にチェーンをしなかった。彼女の手札に灰流うららはないのか、それとも別のカードに対して使ってくるのかはまだ判断できない状況にあった。

 

「私は永続魔法、黒の魔導陣を発動します。発動時の処理でデッキトップ3枚を確認し……ブラック・マジシャンを手札に加えます。そしてカード3枚をセットしてターンエンドです」

 

 

紫音 LP8000 手札3枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(黒の魔導陣)墓地:1 除外:6 EXデッキ:9(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0

EXデッキ:15(0)

 

紫音

 □伏黒伏伏

 □□□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

 

 

―――黒の魔導陣とセットカード3枚。そして手札3枚のうち1枚はブラック・マジシャン……

(セットカードの中にはブラック・マジシャンを特殊召喚できるカード、永遠の魂かマジシャンズ・ナビゲートあたりがありそうね)

―――だが、ブラック・マジシャンを特殊召喚し黒の魔導陣の2つ目の効果を発動できたとしても、火力ではやはり青眼に分がある。そこをどう切り抜けるかが紫音にとっては大事だな)

 

 

☆TURN02(鈴)

 

(3伏せか……厄介だなぁ。まあ悩んでも仕方ないよね!)

「あたしのターン、ドロー。手札から魔法カード、トレード・インを発動。レベル8の闇黒の魔王ディアボロスをコストに2枚ドローする。チェーンはある?」

「……ありません。通してください」

「じゃ、あたしも2枚ドローっと。更に手札1枚をコストに魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動。デッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体まで手札に加えるわ」

 

 紫音と同じように鈴もまた1ターン目から2度続けてサーチカードを多用する。鈴が紫音の強欲で金満な壺と黒の魔導陣を通したのと同じように、紫音もまたトレード・インとドラゴン・目覚めの旋律の効果にチェーンすることはなかった。お互いにチェーンできる手札誘発がなかった、というだけなのだが、そんなところまでもが被るというところは師弟らしいと言えば師弟らしい。

 

「あたしが手札に加えるのは青眼の亜白龍とブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの2体。そしてドラゴン・目覚めの旋律のコストになった伝説の白石の効果を発動! デッキから青眼の白龍1枚を手札に加えるわ」

「っ……無駄がないですね」

「ま、このデッキとの付き合いも結構長いからさ。それなりにあたしの意に従って動いてくれるような気がするんだよね。ってことであたしは手札の青眼の白龍を見せることで、青眼の亜白龍を特殊召喚!」

 

 青眼の亜白龍は自身の攻撃権を放棄する代わりに相手モンスター1体を破壊する効果を持っている。もちろんその効果は相手フィールドにモンスターが存在しなければ発動自体できないのだが、それを差し引いても特殊召喚が容易な攻撃力3000のモンスターという時点で破格の性能と言えるのだが。

 

「そしてマンジュ・ゴッドを召喚。召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果でデッキから儀式モンスターか儀式魔法1枚を手札に加えることができるわ」

「その効果にチェーンしてリバースカードを発動します! 罠カード、メタバース!」

 

チェーン2(紫音):メタバース

チェーン1(鈴):マンジュ・ゴッド

 

「メタバース? ブラック・マジシャンに入るフィールド魔法となると……デッキを選ばず使える《チキンレース》か種族シナジーも考えて《魔法族の里》あたり?」

「確かにそのカードも考えました。ですが、今発動するのはこのフィールド魔法です! 闇黒世界-シャドウ・ディストピア-!」

 

 メタバースの効果によってデッキから直接紫音のフィールドに発動されたのは闇黒世界-シャドウ・ディストピア-。このカードがフィールドに存在する限り、フィールドの全ての表側表示モンスターの属性を闇に変えてしまう効果を持っている。闇属性モンスターが主体の紫音のデッキであれば受ける影響は決して多くないと言える。だが、その属性変更が相手を利する可能性も考えなければならなかった。

 

「シャドウ・ディストピアか……でも、そのカードを使うことであたしにもメリットがあるってこと忘れてない? あたしは儀式魔法、カオス・フォームを発動! フィールドの青眼の亜白龍をリリースして手札からブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚するわ!」

 

 混沌の儀式によって鈴のデッキのエースモンスターにして、切り札とも言えるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが降臨した。4000という高い攻撃力に守備モンスターに対する戦闘ダメージ貫通+ダメージ倍化という効果は一撃で相手のライフを0にできるだけの火力を持っている。このカードを処理できなければ紫音に勝ちはないと言っていいだろう。

 

「そしてフィールドの闇属性モンスターとなっている青眼の亜白龍がリリースされたことで墓地の闇黒の魔王ディアボロスの効果を発動するわ! このカードを墓地から特殊召喚する!」

「……シャドウ・ディストピアを上手く使われてしまいましたか」

「そういうこと。今のは致命的なプレイングミスなんじゃないかな……? ま、それを勉強できただけでも実りのある合宿だったと思った方がいいかもね。じゃあ、バトルフェイズに移るよ!」

 

 鈴がバトルフェイズへの移行を宣言した瞬間である。カオス・MAXとマンジュ・ゴッドの2体の“闇属性”モンスターは激しい光に為すすべなく吸い込まれ、紫音のフィールドに禍々しい毒竜となって転生していたのは。

 

「っ……ごめん、訂正する。シャドウ・ディストピアの発動は、プレイングミスなんかじゃなかったね」

「はい、私の真の狙いはこれです。速攻魔法、超融合! 手札のブラック・マジシャンをコストに鈴さんのカオス・MAXとマンジュ・ゴッド……2体のフィールドの闇属性モンスターを融合することでスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを融合召喚しました」

 

 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンは高い攻撃力と貫通効果もそうだが、相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されないという効果も併せ持っている。そのため、破壊するには戦闘もしくは破壊以外の対象を取らない除去という手段しかない。戦闘破壊自体はカオス・MAXの攻撃力4000を上回ればいい話だが、そう簡単に攻撃力4000以上のモンスターを出せるデッキなど存在せず、紫音のデッキの除去カードともいえる黒の魔導陣は対象を取る効果ゆえにカオス・MAXには通用しないのだ。

 

「超融合はほとんどのモンスターを融合素材にできるし、前に紫音も使っていたから警戒するべきだったなー……まさかシャドウ・ディストピアまで入れてくるのは予想外だったけど」

「それだけ鈴さんのカオス・MAXに気を払わなければいけなかった、ということです。超融合ならウイルスカードのコストにもできませんしね。融合召喚に成功したスターヴ・ヴェノムの効果を発動します。相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体の攻撃力を自身の攻撃力に加算します」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン ATK2800→ATK5800

 

「……なんだかんだ言って、前のデュエルのことを考えてるんだ。やるじゃん。あたしはバトルフェイズは何もせずにメインフェイズ2に移行するよ。カードを2枚セット。これでターンエンド。そしてシャドウ・ディストピアの強制効果が発動。あたしは亜白龍をリリースしたから、シャドウ・ディストピアの効果でシャドウトークン1体を守備表示で特殊召喚するわ」

「ではその発動にチェーンしてリバースカードを発動します。永続罠、永遠の魂です!」

 

チェーン2(紫音):永遠の魂

チェーン1(鈴):闇黒世界-シャドウ・ディストピア-

 

「チェーン2の永遠の魂の効果を発動して、墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚します」

「チェーン1のシャドウ・ディストピアの効果でトークンを守備表示で特殊召喚」

「ブラック・マジシャンの特殊召喚に成功したことで黒の魔導陣の効果が発動します。フィールドのカード1枚を除外します。除外するのは……左側のセットカードです」

 

 

紫音 LP8000 手札2枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(ブラック・マジシャン)EXゾーン:1(スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-、黒の魔導陣、永遠の魂)墓地:3 除外:6 EXデッキ:8(0)

鈴 LP8000 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:2(闇黒の魔王ディアボロス、シャドウトークン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:6 除外:1

EXデッキ:15(0)

 

紫音

 □永黒□□

 □□□□ブ闇

  □ ヴ

□□□魔□シ

 □伏□□□

 

○凡例

ヴ・・・スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

闇・・・闇黒世界-シャドウ・ディストピア-

魔・・・闇黒の魔王ディアボロス

シ・・・シャドウトークン

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決戦の決闘者・2

ワイルドエリアたーのしー!(寝不足)


 

 

 

デュエルモンスターズには数多くのカードが存在する。そんな中、デュエルモンスターズの黎明期に登場し、かつては世界に4枚しか存在しなかったとされる青眼の白龍は一際特別な存在であり、未だに通常モンスターの攻撃力最高の地位を持っている。高い攻撃力で圧倒するのが青眼というデッキの最大の特徴だ。

 

(あたしのターンに動かれまくったのはきっついなぁ……さて、スターヴ・ヴェノムをどう対処しようか)

 

 しかし、効果を持たない青眼の白龍は攻撃力を自分の力だけで上げることはできない。そのため、一度相手に攻撃力で上回られてしまうと自慢の打点で押すことができなくなってしまうのだ。

 

(でも、今は悩むよりやることがあるよね。さて紫音……どう来るかな?)

 

そのため、青眼を使うデュエリストは火力でこちらを超えてくる相手にどのようにして対処するか、ということを考えていなければいけない。最も、それができるデュエリストだからこそ鈴は青眼を使うことが許されるのだが。

 

 

☆TURN03(紫音)

 

「私のターン、ドローです。一気に行きますよ、バトルです! ブラック・マジシャンでシャドウトークンを攻撃します!“黒・魔・導”!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500 VS シャドウトークン DEF1000

 

「シャドウトークン、撃破。そしてスターヴ・ヴェノムでディアボロスを攻撃!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン ATK5800 VS 闇黒の魔王ディアボロス ATK3000

 

鈴 LP8000→LP6200

 

「っ、いきなりデカいの貰っちゃった……でもモンスターを召喚したりはしないんだね」

「二の矢を放てないのが残念ですが、まあ仕方ないですね……バトルフェイズを終了します。私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

「ストップ、じゃあそのターンエンドの前にリバースカードを発動するよ。永続罠、リビングデッドの呼び声。墓地の青眼の亜白龍を攻撃表示で特殊召喚する」

「……亜白龍ですか」

 

 

紫音 LP8000 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(ブラック・マジシャン)EXゾーン:1(スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-、黒の魔導陣、永遠の魂)墓地:3 除外:6 EXデッキ:8(0)

鈴 LP6200 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(青眼の亜白龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(リビングデッドの呼び声)墓地:7 除外:1 EXデッキ:15(0)

 

 

紫音

 伏永黒□□

 □□□□ブ闇

  □ ヴ

□□□亜□□

 □リ□□□

 

 

―――リビングデッドの呼び声を伏せていたか。これでわからなくなったな。

(ええ、青眼の亜白龍はモンスターの除去効果を持っている。これでスターヴ・ヴェノムを破壊すればある程度覆すことはできるわね)

 

 遊希は光子竜と会話しつつ、隣でデュエルを見守っている未来の方を見た。未来は何も言わず、二人のデュエルに集中しているようだった。

 

「未来ちゃん、大丈夫? ついてこれてる?」

「ふぇっ!? う、うん! なんとか……」

「そう、もしわからないことがあったら遠慮しないで聞いてね?」

―――お前は相変わらず甘いな。もっと突き放すと思ったが。

(……そんなこと、できるわけないじゃない)

 

 

☆TURN04(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー。墓地の太古の白石の効果を発動。このカードをゲームから除外して墓地のブルーアイズ1体を手札に戻す。あたしはカオス・MAXを手札に戻すよ。そして青眼の亜白龍の効果を発動! このカードの攻撃権を放棄することで、相手フィールドのモンスター1体を破壊する! 対象はスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」

 

 青眼の亜白龍から放たれた光弾がスターヴ・ヴェノムを貫いた。如何に高い攻撃力を持っていようと、破壊耐性を持っていなければモンスターなどこうもあっさり除去されてしまう。しかし、スターヴ・ヴェノムはただで破壊されるモンスターではなかった。

 

「破壊されたスターヴ・ヴェノムの効果を発動します! 相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊します! 青眼の亜白龍も道連れです!」

 

 破壊されたスターヴ・ヴェノムは身体の触手を伸ばすと、青眼の亜白龍を飲み込み、ガブリと噛み砕いた。紫音は攻撃力5800と化したスターヴ・ヴェノムを失ったが、鈴もまた攻撃力3000の青眼の亜白龍を犠牲にする形となったのだ。しかし、復活の福音などのカードによる蘇生や太古の白石のようなサルベージ手段も豊富な亜白龍に対してブラック・マジシャンとのシナジーは闇属性であることくらいしかないスターヴ・ヴェノムと比べれてしまうとどちらの方が損失が大きいかといえばそれは比べるまでもない。

 

「ま、スターヴ・ヴェノムをなんとかできたのはおっきかったかな。じゃあ反撃開始、手札から魔法カード、トレード・インを発動するね。手札のレベル8、青眼の白龍をコストに2枚ドロー。そして儀式魔法、高等儀式術を発動! デッキの通常モンスターをリリースして手札から儀式モンスター1体を儀式召喚するよ!」

「……儀式魔法を素引きしていましたか」

「デッキの青眼の白龍をリリースし、手札からカオス・MAXを儀式召喚! そして、バトルだよ! カオス・MAXでブラック・マジシャンを攻撃!“混沌のマキシマム・バースト”!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS ブラック・マジシャン ATK2500

 

紫音 LP8000→LP6500

 

「っ……!」

「今度こそ、形勢完全逆転だね。まあ永遠の魂でブラック・マジシャンを蘇生することはできるけど……黒の魔導陣の除外効果は対象を取る効果。カオス・MAXは相手の効果の対象にならないからね。メインフェイズ2に移るよ。とはいえ、もうできることはないんだけど。ターンエンド」

「ではターン終了時に永遠の魂の効果を発動します。墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚します。黒の魔導陣の効果は発動したところでカオス・MAXを対象に取れないので発動はしません」

 

 

紫音 LP6500 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(ブラック・マジシャン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-、黒の魔導陣、永遠の魂)墓地:4 除外:6 EXデッキ:8(0)

鈴 LP6200 手札2枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:11 除外:2 EXデッキ:15(0)

 

紫音

 伏永黒□□

 □□□□ブ闇

  □ □

□□□M□□

 □□□□□

 

 

☆TURN05(紫音)

 

「私のターン、ドローです……!」

「あらら、良いカード引けたみたいだね」

「ええ!……ってそんなことはないですからね」

 

 癖というものは一朝一夕で直るものではない。真面目でしっかり者な紫音であるが、どうにも思っていることが顔に出てしまうようである。

 

「バトルです! ブラック・マジシャンでブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンに攻撃!」

「攻撃力が下のモンスターで攻撃……ってことはあのカードだね」

「私の魔法使い族・闇属性モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に手札の幻想の見習い魔導師を墓地へ送って発動します! 戦闘を行うそのモンスターの攻撃力・守備力はそのダメージ計算時だけ2000ポイントアップします!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100→ATK4500/DEF4100

 

「これでカオス・MAXの攻撃力を上回りました!“黒・魔・導”!」

 

ブラック・マジシャン ATK4500 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

鈴 LP6200→LP5700

 

「今度は真正面から超えられるとか……攻撃力4000でも安心できないよね」

「それも鈴さんが教えてくれたことですから」

「そうだったっけ……まあ、紫音がそう言うんだからそうなんだろうね。でも、ただでは転ばないのもまた強いデュエリストの証だよ。あたしのフィールドに表側表示で存在するブルーアイズモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時、手札のディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果を発動するわ!」

 

 ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン。本来は遊希から鈴への誕生日プレゼントとして贈られるはずだったカードである。初のお披露目となった時は遊希の手によって操られた鈴にとどめを刺すために用いられてしまったが、今では正式に遊希から鈴へと贈られた。遊希と鈴の絆を表わすカードである。

 

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン!?」

「手札からこのカードを特殊召喚し、墓地のドラゴン族の種類×600のダメージを相手に与える。あたしの墓地に存在するドラゴン族モンスターは青眼の白龍、亜白龍、ディアボロス、カオス・MAXの4種類。よって2400のダメージを受けてもらう!」

 

紫音 LP6500→LP4100

 

「っ!」

「そしてディープアイズの特殊召喚に成功した場合にも墓地のドラゴン1体を対象にして発動できる効果があるわ。このカードの攻撃力はその対象にしたモンスターの攻撃力と同じになる。対象はもちろんカオス・MAX!」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK0→ATK4000

 

「やっとカオス・MAXを撃破できたと思ったのに……」

「一応教える側としても、そう簡単に超えられてもらうわけにはいかないからね。まあカオス・MAXと違って効果耐性は持っていないからさ。そんなに悲観することはないんじゃないかな?」

「……バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移行します。私はこれでターンエンドです」

 

 

紫音 LP4100 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(ブラック・マジシャン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-、黒の魔導陣、永遠の魂)墓地:4 除外:6 EXデッキ:8(0)

鈴 LP6200 手札1枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:12 除外:2 EXデッキ:15(0)

 

紫音

 伏永黒□□

 □□□□ブ闇

  □ □

□□□デ□□

 □□□□□

 

○凡例

デ・・・ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン

 

 

☆TURN06(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー。太古の白石を召喚。そしてレベル1の太古の白石をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク1のリンクリボーをリンク召喚するよ! そしてバトルフェイズ! ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンでブラック・マジシャンを攻撃!“深愛のディープ・バースト・ストリーム”!」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK4000 VS ブラック・マジシャン ATK2500

 

紫音 LP4100→LP2600

 

「っ!」

「リンクリボーでダイレクトアタック!」

 

リンクリボー ATK300

 

「させません! 永続罠、永遠の魂の効果を発動して墓地からブラック・マジシャンを特殊召喚します! そしてブラック・マジシャンの特殊召喚に成功したことで永続魔法、黒の魔導陣の効果が発動! ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンをゲームから除外します!」

 

 漆黒の魔導陣に包まれて消滅するディープアイズ・ホワイト・ドラゴン。攻撃力4000ながら何の耐性も持ち合わせていないため、こうなることは仕方ないのであるが、遊希との友情のカードをこうもあっさり除去されてしまうことは鈴にとっては二重の意味で辛かった。

 

「むー……」

―――遊希、黒の魔導陣の効果から逃げられるモンスターの方が少ないのだからそうむくれるな。

(でも、それならサイクロンとか羽根帚で予め脅威を払っておくべきじゃない?)

―――それもそうだが……そう上手く行かないのがデュエルモンスターズだ。

 

 ちらりと横目で見た遊希はやはりムッとしていた。こうなると思いの外面倒なのが天宮 遊希という人間である。後でのフォローは骨が折れるとはいえ、今は目の前のデュエルに集中しなけれなならなかった。

 

「モンスターの数が変化したことで戦闘の巻き戻しが発生するよ。あたしはリンクリボーでの攻撃を中止。ターンエンドだよ。そしてエンドフェイズにリンクリボーのリンク素材となって墓地に送られた太古の白石の効果を発動。デッキから白き霊龍を攻撃表示で特殊召喚!」

「白き霊龍ですか……」

「特殊召喚に成功した白き霊龍の効果を発動! 永遠の魂をゲームから除外する!」

「……表側表示の永遠の魂がフィールドから離れた時、私のフィールドのモンスターは全て破壊されます……」

 

紫音 LP4100 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-、黒の魔導陣)墓地:5 除外:7 EXデッキ:8(0)

鈴 LP6200 手札1枚

デッキ:22 メインモンスターゾーン:1(白き霊龍)EXゾーン:1(リンクリボー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:3 EXデッキ:14(0)

 

紫音

 伏□黒□□

 □□□□□闇

  リ □

□□□霊□□

 □□□□□

 

○凡例

リ・・・リンクリボー

霊・・・白き霊龍

 

 

 

 

 

 



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決戦の決闘者・3

デュエル始める前はまだ発売前でしたけど、もう発売してるので使ってもいいですよね?
デュエル前に返したのはドラグーン・オブ・レッドアイズだけっていうことで勘弁してください(ガバガバ


 

 

 

 

☆TURN07(紫音)

 

(……永遠の魂を除去されてしまいましたか)

 

 永遠の魂は1ターンに1度、とはいえブラック・マジシャンを何度も蘇生させることができるカードだ。このカードがあるからこそ、効果を持たず他のカードを絡めなければフィールドに出すことが難しいブラック・マジシャンを各効果のコストやリンク素材などに充てることができるのだ。

 しかし、そのカードが除去されてしまえばブラック・マジシャンデッキは一気に動きづらくなる。そのため何を差し置いても永遠の魂を除去されることだけは防がなければならなかった。

 

(白き霊龍は私のフィールドにモンスターが存在する場合、自身をリリースすることで手札から青眼の白龍1体を特殊召喚できる。でも、手札の青眼の白龍を鈴さんは前のターンにトレード・インのコストにして墓地へ送っている……おそらく、白き霊龍の効果は発動できない)

 

 白き霊龍の攻撃力は青眼の白龍より500低い2500。差分はわずか500であるが、その500の差が大きい。500低いことで突破の難度は大きく変わるのだ。リンクリボーがいるため一度の攻撃は防がれるとはいえ、複数回の攻撃手段さえ用意できればボード・アドバンテージで優位に立つことができる。

 

(このドロー次第で……全てが変わる。お願い、私のデッキ!)

「私のターン、ドローです!……手札のマジシャンズ・ソウルズの効果を発動します!」

 

 マジシャンズ・ソウルズはデッキからレベル6以上の魔法使い族モンスター1体を墓地へ送ることで自身を特殊召喚するか、自身を墓地へ送り、墓地のブラック・マジシャンまたは《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚できる効果を持ったモンスターだ。自身の効果で展開できないブラック・マジシャンおよびブラック・マジシャン・ガールを容易に特殊召喚できるモンスターである。

 

「デッキからレベル6のブラック・マジシャン・ガールを墓地へ送り、このカードを墓地へ送ります! そして墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚します!」

「ブラック・マジシャン……!」

「ブラック・マジシャンの特殊召喚に成功したことで黒の魔導陣の効果を発動します! リンクリボーをゲームから除外します!」

 

 黒魔導の力がリンクリボーを次元の彼方へと消し飛ばす。これで鈴のフィールドに残ったのは攻撃力がブラック・マジシャンと互角の白き霊龍のみになってしまった。

 

「永遠の魂を除去できたから早々ブラック・マジシャンを出されることはないって思ってたんだけどなぁ……でも、ブラック・マジシャンと白き霊龍の攻撃力は同じ2500。相討ちでも狙うの?」

「……相討ちなど、そんな無駄なことはさせませんよ。私は、リバースカードを発動します!」

 

 ずっと伏せていた紫音のセットカード1枚が明らかになる。永遠の魂と黒の魔導陣に気を取られて鈴はそのカードのことをあまり気に留めていなかった。

 

「速攻魔法―――《魂のしもべ》!」

 

《魂のしもべ》

速攻魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・デッキ・墓地から、「魂のしもべ」以外の「ブラック・マジシャン」のカード名または「ブラック・マジシャン・ガール」のカード名が記されたカード、「ブラック・マジシャン」の内、いずれか1枚を選んでデッキの一番上に置く。

(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。お互いのフィールド・墓地の、「守護神官」モンスター、「ブラック・マジシャン」、「ブラック・マジシャン・ガール」の種類の数だけ自分はデッキからドローする。

 

「手札・デッキ・墓地から魂のしもべ以外のブラック・マジシャンのカード名またはブラック・マジシャン・ガールのカード名が記されたカードまたはブラック・マジシャンのうちいずれか1枚を選んでデッキの一番上に置くことができます。私がデッキトップに置くのは……ブラック・マジシャンのカード名が記された《守護神官マハード》です!」

「守護神官マハード……ドローすることで特殊召喚できるモンスターか。でも、そのコンボを決めるには1ターン待たなきゃいけないんじゃない?」

「1ターンも待たせません。墓地の魂のしもべの効果を発動します。このカードをゲームから除外し、お互いのフィールド・墓地の守護神官モンスター、ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガールの種類の数だけ私はデッキからドローすることができます!」

 

 紫音のフィールドにはブラック・マジシャンがおり、墓地にはブラック・マジシャン・ガールが存在する。よって紫音はカードを2枚ドローする。そして守護神官マハードの特殊召喚に必要なドローは通常のドローに限られていない。

 

「ドローされた守護神官マハードの効果を発動します。このカードを相手に見せることで、手札から特殊召喚します!」

 

《守護神官マハード》

効果モンスター

星7/光属性/魔法使い族/攻2500/守2100

(1):このカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードが闇属性モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、このカードの攻撃力は倍になる。

(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」1体を選んで特殊召喚する。

 

「そして……このカードが全てを終わらせる一枚です! 魔法カード発動!《円融魔術》(マジカライズ・フュージョン)!!」

 

《円融魔術》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分のフィールド・墓地から、魔法使い族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

「円融魔術……!」

「私は墓地のブラック・マジシャン・ガールと幻想の見習い魔導師をゲームから除外し、融合!“愛らしき魔術師の弟子よ。古の魔術師の弟子の力を受け継ぎ、超越なる力をその身に宿せ!”融合召喚!《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》!」

 

《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2300

「ブラック・マジシャン」または「ブラック・マジシャン・ガール」+魔法使い族モンスター

(1):1ターンに1度、魔法・罠カードの効果が発動した場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。そのドローしたカードが魔法・罠カードだった場合、自分フィールドにセットできる。速攻魔法・罠カードをセットした場合、そのカードはセットしたターンでも発動できる。

(2):このカードが破壊された場合に発動できる。「ブラック・マジシャン」「ブラック・マジシャン・ガール」を1体ずつ自分の手札・デッキ・墓地から選んで特殊召喚する。

 

「……まさか、0からモンスターを3体も出してくるなんてね。それにしても……布石はとっくに打たれてたのかー……」

 

 鈴の視線の先にはおどろおどろしい世界を作り上げるシャドウ・ディストピアがあった。最初はスターヴ・ヴェノムの融合召喚のために入れていた、とばかり思っていたが、このカードの力が活きる機会はそれ以外にも存在していた。

 

「バトルです! 守護神官マハードで白き霊龍を攻撃!“ガーディアン・オブ・ファラオ”!」

「白き霊龍とマハードの攻撃力は同じ……だけど」

「シャドウ・ディストピアが存在することで白き霊龍は闇属性です。そして、闇属性モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、守護神官マハードの攻撃力は倍になります!」

 

 古代の王に仕え、王を守護する神官の魂が具現化したモンスター・守護神官マハードは闇を祓う力を持っているのだ。闇黒の世界において、闇に染まった白き龍を神官の魔術が打ち破る。

 

守護神官マハード ATK2500→ATK5000 VS 白き霊龍 ATK2500

 

鈴 LP6200→LP3700

 

「っ!」

「続けて、超魔導師-ブラック・マジシャンズでダイレクトアタック!“ダブル・ブラック・マジック”!」

 

超魔導師-ブラック・マジシャンズ ATK2800

 

鈴 LP3700→LP900

 

 2体の魔導師の攻撃を受けて、鈴の残りライフはわずか900。対して紫音のフィールドにはまだ攻撃力2500のブラック・マジシャンが残っている。勝敗は火を見るよりも明らかだ。しかし、後一撃を決めれば勝てる、という場面であるにも関わらず、紫音は中々攻撃を宣言しなかった。

 

「……紫音? どうしたの?」

「……私はここに来てからずっと鈴さんの背中を追ってきました。鈴さんは私にとって憧れの人で、とても頼りになって……そんな人に土をつけるなんて……」

 

 今の自分が鈴に勝っていいものなのだろうか。紫音の自己評価の低さがここにきて迷いとなって現れてしまったのだ。そんな彼女を見て鈴は小さくため息を付く。

 

「ははは……ねえ、紫音。紫音はデュエリストだよね?」

「えっ、はっ、はい!」

「本当に強いデュエリストになりたいなら、こういう時に迷っちゃいけないんだよ。今のあたしとあんたは真剣勝負をしてるんだから」

 

 鈴の脳裏に浮かぶのは竜司や遊希ら自分が目標としているデュエリストたちの姿。鈴が憧れたデュエリストたちは、皆自分の信念に従い、勝つためには一切の迷いと容赦を捨てていた。

 

「ま、あんたの気持ちもわからなくはないけれさ……この場面で迷っちゃうようじゃ本当に強いデュエリストになんてなれない。だから今の自分を変えたい、デュエリストとしてもう一段階上に行きたいって思ってんなら……そんな甘い考えは捨てなさい!!」

 

 今まで見たこと無いようなすごい剣幕で怒鳴る鈴の姿を見て紫音の身体に震えが走る。しかし、鈴がそこまで怒りを露わにするのも無理はない、と紫音は自分で気づいた。何故なら今自分が持ち掛けたのは下手すれば故意の敗退行為に抵触しかねないもの。真剣勝負、という名目で今デュエルをしているのにそれを覚悟していた紫音は自分自身にすらも嘘をついてしまうことになる。

 

「……はぁ、ったく。まだまだ精神的には未熟だねあんたは、でも……」

 

 小さくため息をついた鈴の顔からは怒りが消える。そして浮かぶのは太陽のような眩しい笑顔だった。

 

「……そんなあたしもまだまだ未熟者なんだけどね、それでも紫音の想いは十分に受け止めてあげることはできる。だから……持てるもの、全部ぶつけてきて! あたしの可愛い、お弟子さん」

 

 鈴は例え負ける時であっても、最後の最後までデュエリストとして堂々とありたいと願う。そしてその願いは目の前で対峙する弟子に届いた。

 

「り、鈴さん……! ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!―――“黒・魔・導”!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500

 

 紫音の思いが、決意が乗り移ったかのような一撃が炸裂した。

 

鈴 LP900→LP0

 

 

 

 

 

 

「勝った……私が……鈴さんに……?」

 

 幾度かの苦杯を舐めた後の勝利。実感がいまいちわかず、その場にへたり込んでしまった鈴の元に遊希と未来が駆け寄ってきた。

 

「おめでとう、紫音。あなた勝ったのよ」

「紫音おねえちゃん、すごくかっこよかったよ!」

 

 二人にこの勝利を褒め称えられる紫音であったが、これは現実なのだろうか? 実は夢なんじゃないだろうか、と思って呆然としていた彼女はふと自分の頬を思い切りつねってみた。痛い、これは夢ではない。現実なのだ。

 

「紫音!」

 

 そんな彼女の元に歩み寄ってきた鈴がそっと手を差し伸べる。敗れた鈴であるが、その顔はとても爽やかだった。

 

「……さっきはきついことを言ってごめんね。でも、これだけは言わせて。そのデッキに使われる青山 紫音はもういない。今のあなたは、そのデッキを完璧に自分のものにした。だから、おめでとう。紫音」

「鈴さん……りんさぁぁん!!」

 

 鈴の胸に飛びつき、子供のように泣きじゃくる紫音。今まで張りつめていた緊張の糸が切れたのだろう。その涙は一点の澱みもない美しいものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、紫音の勝利を祝ってー! かんぱーい!」

 

 デュエルが終わった後、遊希から鈴と紫音のデュエルの経緯について聞いた千春の提案で、祝勝会が行われることになった。

 

「あ、ありがとうございます……」

「いや待って。なんであたしが負けたことでパーティーやってんのさ!」

「まあいいじゃないの。このイベントの主役はあくまで紫音たち小中学生よ。私たちはいわばケーキの上のイチゴ……付け合わせに過ぎないわ」

 

 その例えはどこかおかしいんじゃないのか、と思いつつも皆触れることはなかった。

 

「そういえばさっきから皐月と橙季くんの姿が見えないけど」

「ん、そういえば……どこへ行ったのだ?」

「まさか、皐月が橙季を略奪―――!」

「えっ、そんなぁ!」

 

 滅多なことを言うもんじゃない、と遊希・鈴・エヴァが千春に総ツッコミを入れる中、皐月が部屋に戻ってきた。この時の彼女はまさに仕上げを御覧じろといったような笑みを浮かべていた。

 

「お待たせしました。不肖、織原 皐月。一世一代の大仕事を成し遂げてきましたよ」

「一世一代の大仕事? なんだそれは」

「それを今からお見せします。ということで、どうぞ」

 

 皐月がそう言ってドアを開けると、そこから入ってきたのは少女漫画でヒロインが恋する王子様と言っても差し支えないような美少年の姿をした橙季であった。コスプレという隠れた趣味を持つ皐月は、橙季の性別が明らかになってからというものの、是非とも彼をメイクアップしたいという気持ちを抱いていた。

 そもそも女装姿が全く違和感のない橙季である。そんな彼に本気の男性用メイクとオシャレをさせればどうなるかなど容易に想像できることであった。

 

「と、橙季くん!?」

「うわぁ、それはアカンって……」

「橙季おにいちゃんかっこいい……」

「馬子にも衣裳、というものでしょうか」

「紫音さん、その日本語が的確ではないのはフランス人の私にもわかりますよ」

 

 あまり褒められ慣れていないのか、それともコスプレに緊張しているのか頬を僅かに紅潮させながら橙季は愛美に隣に座る。もちろんそんな橙季が隣に座ったことで愛美の体温も急上昇する。

 

「愛美ちゃん」

「な、何かな橙季くん……? そんなに見つめられるとボクおかしくなっちゃうよ」

「僕はまだ洋服に着られているし、立ち振る舞いも男としてはまだまだだけど……いつかきっと、君の恋人として、恥ずかしくない男になってみせる。だから、少しだけ待っててくれるかな?」

 

 そう言って手に取った愛美の手の甲にそっと口づけをした。その瞬間、茹蛸のように真っ赤になった愛美はその場にぱたりと倒れ込んでしまった。橙季は少なくともこのような行為を公衆の面前で行わないように、という最低限の常識を学ばなければならないようだった。

 

「あー、面白かったわー」

「何が面白かったよ。宥める方の気持ちも考えなさい。あと、皐月もなんて教育してるのよ」

「ご、ごめんなさい……」

 

 パーティーが終わり、寝室に戻った遊希たちは今日一日、そしてイベント最後の夜を懐かしんでいた。長いように思えた三日間のイベントも残すは明日の朝を迎えるのみ。終わり良ければ総て良し、という言葉があるように遊希たちは最後の瞬間まで指導者として相応しくあらなければいけないのだ。

 

「まあ良かったのではないか、雨降って地固まるという言葉もあるだろう? 紫音はデュエリストとして殻を破ることができて、橙季と愛美は無事カップルになれたのだから」

「そうよね! 未来ちゃんみたいに今後が楽しみな子も出てきたわけだし!」

「そうね……ふわぁ」

 

 さすがに色々あって疲れた様子の遊希は欠伸混じりに返答する。今までは教えられることはあっても教えることは初めてだっただけに神経を色々とすり減らしていたようだった。

 

―――普段他人とあまり交わらないようにしていたツケが来たようだな。

(うっさい、これでも改善された方でしょう?)

―――お前にしてはな。だが、人間はもっと交流を深める生き物だ。今のお前などまだまだ人間の平均値には程遠いぞ。

(人間でもないあんたが人間を語らないで頂戴。ほら、私もう寝るんだからあんたは黙ってて)

 

 そう言って布団に潜り込もうとする遊希。そんな時、遊希たちの部屋のドアが小さくノックされた。なんだろう、と思ってドアを開けてみると、そこに立っていたのは枕を持ったパジャマ姿の未来だった。

 

「未来ちゃん、どうしたの?」

「あ、あのね……ちょっとこわいゆめをみちゃって……だから、遊希おねえちゃん、いっしょにねてほしいな、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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別れの時を迎える決闘者

 

 

 

 

 

「……大丈夫、狭くない?」

「うん、だいじょうぶだよ。遊希おねえちゃん、あったかいね」

 

 最初は訝しむようで見てきた鈴たちであったが、昨日と違って未来の意志で遊希と一緒に眠りたいということであったため、一緒に寝ることを許してもらった。もちろん変なことはしない、という条件付きであるが。

 

「ねえ、怖い夢ってどんな夢だったの」

 

 何故尋ねてしまったのだろう、と聞いてから後悔する遊希。それでも未来は勇気を振り絞って悪夢のことを話してくれた。

 

「……えっとね、みんながいなくなっちゃったの。おとうさんも、おかあさんも、おとうとも……わたし、ひとりぼっちになっちゃって……」

「……そう。それは……怖かったわね」

 

 未来の見た悪夢の内容はオーソドックスでこそあれど、家族との別離という幼い少女を恐怖させるには十分すぎるものだった。彼女の夢のことを聞いた遊希は無意識のうちに未来の腰に手を回し、彼女をぎゅっと抱き寄せた。

 

「遊希おねえちゃん?」

「……未来ちゃん、今から“ある女の子”のお話をしてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女は一組の優しい夫婦の間に産まれた。父の名前と母の名前から一文字ずつ名前を貰ったその少女は両親からの愛をいっぱい貰って育ち、とても美しく可憐な少女として地元でも評判になっていた。

 しかし、その少女は昔から人見知りが激しく、同年代の友達が中々できずにいた。意を決して公園に行こうにも、同世代の少年たちからからかいの対象になり、可愛い洋服は砂で汚れ、いつも泣きながら家に逃げ帰っていた。

 

「おねえさまをなかしましたね……もうあやまってもゆるしませんよ!!」

 

 そんな少女をいつでも守っていたのは3歳下の妹だった。姉に匹敵する美少女であるその妹は、姉とは違って誰に対しても愛想よく振る舞い、とても利発的かつ勇敢な少女に育っていた。その証拠にわずか2歳にして姉をからかう2~3歳年上の少年たちを返り討ちにしているなど、今でもその姉妹を知る人々の間では武勇伝として残っている。

 

「おねえさま、わるいひとたちはおいはらいました。いっしょにすなのおしろをつくりましょう?」

「……ありがとう。ごめんね、だめなおねえちゃんで……」

「おねえさまはだめなんかじゃありません! わたしは、わたしはおねえさまがだいすきです! おねえさま、いつまでもいっしょになかよくいましょうね」

「……うん! わたしもだいすきだよ!」

 

 年齢を感じさせない語彙力の高さは両親をも舌を巻いた。この少女は将来どれほどまでの大物に育っていくのだろうか。誰もが彼女の今後に期待を寄せた。しかし、彼女の人生はわずか数年で幕を下ろす。今の未来と同じ年齢で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今でもその女の子は、妹さんのことを思い出すそうよ。どうしたら守れたのだろう、どうしたら……彼女はいなくならずに済んだのだろう、って……」

 

 布団の中に顔をうずめ、声を震わせる遊希。そんな遊希に対し、未来は何も言わず、今度は逆に遊希を抱きしめた。まだわずか7歳の未来ではあるが、感受性豊かで賢い彼女は遊希の話の意図をほとんど理解していた。

 

「遊希おねえちゃん……わたしはいもうとにはなれないけど……遊希おねえちゃんとできるだけいっしょにいてあげる。こうしたら、そのおんなのこもさみしくないかな?」

「……ええ、きっと。寂しくなんかないわ。とってもあったかいと思う」

 

 暖かな雫が遊希の頬を伝う。やがて二人はそのまま眠りに落ちていった。少なくとも今の二人を悪夢が襲うことはないだろう。

 

―――そういうことか。だから未来をここまで大事に……

 

 遊希と既に十年近く共に在る光子竜は、彼女の半生を知っており、家族を失ってからの彼女の人生を知っている。そんな彼だからこそわかるのだ。“ある女の子”が未来に最愛の妹の姿を重ねていたことを。

 

―――遊希、お前は何も悪くない。お前が気に病む必要などないというのに……それでもお前は、あの時守れなかったことに対する罪悪感を感じているのか。

 

 何の繋がりもなかった一人の少女をわずか3日間とはいえ、デュエリストとして立派に巣立てるように面倒を見る。それが妹に対して果たせなかった姉の責任だった。

 

―――遊希、お前という奴は本当に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、開会式が行われたのと同じ場所で閉会式が執り行われていた。竜司やヴェートの両親、そして参加者として飛び入り参加したヴェート自身の答辞が述べられ、滞りなくイベントは終わりの時を迎えた。

 2泊3日のイベントであったため、急激な成長こそ見られない。それでも参加した誰もの顔が以前と比べてより精悍と、より凛々しくなっていたのは言うまでもない。団体の参加者はそのグループがチャーターしたバスで、家族が送迎を担当した参加者は家族が、個人で参加した者は自分の足で帰ることになっている。

 学校のクラス単位で参加した紫音と愛美、家族が送迎をした未来と橙季、個人で参加した華、元々来賓だったヴェート。皆が皆それぞれの故郷へと帰っていく。遊希たちは寮から電車で来たため各自現地解散となり、お土産を買ったあとに特急列車で帰るため、ここで皆とは別れなければならなかった。

 

「忘れ物ないー?」

「大丈夫よ」

 

 閉会式の後、皆でロッジを掃除した遊希たちは忘れ物の有無を確認した後、鍵をかけて管理人にそれを返す。それは指導者である遊希たちの仕事であり、参加者たちはもう各自帰途についてもいいのだが、紫音たちは誰もまだ帰ろうとはしなかった。

 個人参加の華はともかく、他者の都合がある他の五人はいつまでもそこにいてはいけないのだが、と思っていると六人を代表して華が一歩歩み出た。

 

「えー、こういうのってうち的には柄じゃないんやけど……3日間? 2日間? 短い間とはいえ、うちらを指導してくれてありがとうございますー。最後なんで……お礼の言葉を言わせてもらえるやろか?」

 

 突然改まる華に千春が戸惑いの表情を浮かべる。

 

「……えっ、どうしたのよ急に」

「えーと、千春さん。最初会った時は、何やねんこのちびっ子とか思ったし、背の割にやたら態度デカいな、なんて思ってたんやけど……今となっては正直めっちゃ感謝してます」

 

 頭の後ろを掻きながら何処か恥ずかしそうに伝える華を見て千春がポケットからハンカチを取り出す。

 

「……華……やめてよ、泣いちゃうじゃない」

「うち、このイベントすっごく楽しめたし成長できたと思ってる。だからもし……またデュエルできる機会があったらリベンジマッチさせてください。みんなのデュエルを見て、燃えてきたんで」

「……わかったわ! いつでも受けてあげる! だから、それまでせいぜい頑張りなさいよ!!」

 

 千春と華はぎゅっと握手をした。背こそ小さいが快活な二人のコンビは中々好相性だったのではないだろうか。

 

「あ、もし関西来る時あったら連絡ちょうだい。うちが案内したるで。あっ、その時にはうちきっと背でっかくなってるんで驚かないでくださいよ?」

「ふんっ、その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ!」

 

 握手をする両者の手により力が入ったのは言うまでもない。次に前に出たのは愛美と橙季の二人だった。

 

「皐月さん、思えばボクたちは初日から皐月さんに迷惑ばっかりかけちゃってました」

「でもそんな僕たちを嫌な顔せず受け入れてくれて、あまつさえアカデミアの校長先生にまで頭を下げてまで頼み込んでくれた皐月さんには感謝の言葉しかありません」

 

 恥ずかしいことを思い出させないで、とばかりに皐月は頬を染める。

 

「僕たちの知らないカードのこともたくさん教えてくれて、デッキやデュエルのプレイングもいっぱい教えてくれた。だからこそ今の僕があるんだと思います」

「ボク、今日学んだことを今後も忘れません! 皐月さんに教わったことを活かしてボクならではのデュエルをしていきたいと思っています!」

「愛美さん……橙季さん……私こそ、まだまだデュエリストとしては半人前なのに、そんな私を頼ってくれてとても嬉しかったです。ありがとうございますぅ……」

 

 ニッコリ笑顔の愛美と橙季に対して、何故か感謝される側の皐月が涙ぐむ。「しょうがないなぁ」と言いながら愛美はハンカチを取り出して皐月の涙を拭ってあげた。

 元々アカデミアの学生およびデュエリストにしては珍しく積極性が欠けていたところのある皐月であったが、愛美と橙季、二人の指導をやり遂げたことで、彼女も人として成長できた。そんな3日間であった。

 

「あの、愛美さん橙季さん。いつまでも……仲良しでいてくださいね?」

「……はい!」

 

 笑顔を浮かべる三人はキラキラと輝いていた。次に歩み出たのはヴェートであった。彼女は初日に纏っていたツナギではなくまさしく資産家の娘に相応しいドレスを纏っており、その様はまるで童話に出て来るお姫様のごとく鮮やかなものであった。

 

「うん、よく似合っているぞ。ヴェート」

 

 エヴァは率直な感想を伝えると、ヴェートはにっこりと微笑み返した。

 

「ありがとうございます。ですが、私はこのドレスよりも美しいものを知っています」

 

 ヴェートの挙げたドレスより美しいもの、それはこの地の豊かな自然であり、皆で学んだこの3日間であり、そしてエヴァさんと固い絆を結べたこと、と少し照れ臭そうに言った。エヴァもエヴァで、異国の地で自分と同じ外国人の少女と共に過ごせた3日間が楽しかった。

 

「世界中で名の知れたエヴァさんのような方が教えてくれて、そして夜に同世代の方々とガールズトークができて、ワクワクが収まりませんでした。私はまだロシア語はわからないですが、勉強してお手紙を書きます」

「待ってるぞ。私もフランス語を勉強して返事を書こう」

 

 そう言ってハグとソフトなキスを交わすエヴァとヴェート。白人のうら若き美少女たちのその光景はまさにそこだけが童話やファンタジーの世界を彷彿とさせていた。

 

「未来ちゃん……私、未来ちゃんとはまだ離れたくない。まだ、私の教えたいことの半分も教えられていないのに……」

 

 自分の培ってきたものを伝えるためには3日間では少なすぎる。それが遊希の率直な感情だった。しかし、時間は有限であるからこそ、濃く実りのあるものとなるのだ。

 

「あ、あのね。遊希おねえちゃん。わたしはまだデュエルのことをかんぺきにりかいしたわけじゃないけど……でも遊希おねえちゃんたちのおかげでわたしいっぱいおべんきょうできたよ。だからね、わたしこのイベントでおべんきょうしたことをわすれない! それで、もっとつよくなって、遊希おねえちゃんたちをおどろかせてあげる!」

「未来ちゃん……わかったわ。もし未来ちゃんが私と同じくらい強くなったら、まだデュエルしましょう?」

「うんっ!」

 

 最後に少し照れながら紫音が鈴の前に立った。少しもじもじしていた彼女であったが、意を決して口を開いた。

 

「あの、昨日は勝てましたけど……それでもまだ1勝です。まだまだ何回も負け越してます」

「でも1勝は1勝だし、そこは胸を張っていいんじゃない?」

 

 鈴がそう言うと、紫音はでも、と言って顔を上げる。彼女の眼からは変わらず強い意志が感じられた。

 

「……それもそうですが、正直もっとたくさん一緒にいたいです。いっぱい学びたいです」

「うーん、まあ教えてあげることはできるんだけど、いつまでもあたしに頼ってばっかじゃダメだよ。自分でも学ばないと成長できないからさ」

「……鈴さんならそう言うと思ってました。だから、私デュエリストとしてもっと強くなります。それで……鈴さんがこれからどうするかはわからないですけど、私はプロデュエリストになります。そして、プロの舞台で強くなった私を見せたいです」

 

 鈴は紫音のその言葉に小首を傾げながらも、応えた。

 

「……その願い、叶うといいね。あたしも応援する!」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飲み物買ってきたよー、って……」

「しーっ」

 

 帰りの電車で飲み物を買ってきた鈴が見たのは肩を寄せ合って眠る千春・皐月・エヴァの三人だった。プレッシャーから解放されて緊張の糸が切れたのか、ぐっすりと眠り込んでいるようだった。

 

「まあ疲れてるもんね、しょうがないか」

 

 遊希はそうね、と相槌を打つと、小さく欠伸をする。鈴は肩でも貸そうか、と隣に座って遊希の座席よりに身を傾ける。すると遊希は隣に座った鈴の腕に深くもたれかかったのだ。頭のみではなく身体までも預け、腕まで絡めてきた。

 

「ちょっ、こんなところでなにやってんのさ!?」

「空いてるから大丈夫よ。私がこうしたいんだから……」

「あんたそんなに未来ちゃんと別れたくなかったの? 言っておくけどあたしじゃ未来ちゃんの代わりにはなれませんよー?」

「別に代わりになってくれなんて一言も言っていないわ。ただ、そばにいてほしいだけ」

 

 そう言って遊希は電車の揺れに身を任せゆっくりと眠りに落ちていった。鈴はそんな遊希に上着をかけてあげると、窓の外から流れていく景色を見続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青山 紫音はこのイベントが終わった後、クラスメートたちに頭を下げた。今まで見下すような言動を取ってしまって申し訳ないと。そして改めて伝えた。一緒にデュエルを通じて互いに高め合おう、と。

 

 赤坂 未来は引っ込み思案な自分を卒業した。クラスで浮いていた彼女も同級生たちとデュエルを通じて友達になったという。最も噛み癖は治らず、本人の意図しないところで人気が出てしまったのだが。

 

 浅黄 華は故郷に帰ると、早速デュエリストとしての武者修行に取り組み始めた。デュエリストとしても、女としても千春を超えるために。ただ、前以上に牛乳の消費量が増えたことで浅黄家の食費が跳ね上がることになるのは別の話。

 

 藍沢 愛美は変わらずクラスの中心で皆を引っ張り続けていた。しかし、イベントに参加する前よりもより可愛らしくなった、と周囲からは称されている。最も【マリンセス】【トリックスター】の二つのデッキを駆使する彼女のデュエルのスタイルは変わらずえげつないのだが。

 

 二宮 橙季は母に「大事な人ができた」と伝えた。母はそんな息子の告白を喜んだ。まだ慣れないが、少しずつ男性の格好をして自分に磨きをかけているという。離れたところに住んでいる恋人に恥ずかしくないように。

 

 ヴェート・オルレアンはフランスに帰国後、フランスの少年少女デュエリストを集めて今回のイベントのようなものをやりたい、と思っている。自然とデュエルに触れ、健全な少年少女の育成に携わりたいという。もちろん、自身のデュエルの腕を磨くのも忘れずに。そして日本語の勉強も重ねている。強くなってまたこの日本へとやってくるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏の終わり

 

 

 

 

 

 

 思えば遊希たちが過ごしたこの夏はとても慌ただしいものだった。自分たちより下の世代のデュエリストと交流するイベントに参加した遊希たちは、自分たちと全くタイプの違うデュエリストたちと交流した。

 デュエリストとしての才能を持ちながら、予想外の事態に対処できずにいた青山 紫音は鈴の元でその弱点を克服し、デュエリストとしての研鑽を積んでいる。ルールブック片手にデュエルを行っていた赤坂 未来は眠っていた才能を開花させた。より高みを目指した浅黄 華はこのイベントを通してより自身のデッキを理解しデュエリストとしての実力を確かなものとした。藍沢 愛美と二宮 橙季はデュエルの知識を磨き、より特別な絆を結ぶことができた。ヴェート・オルレアンは異国の地で自分ならではのデュエルを見つけ出した。

 当然彼女たちと交わったことは遊希たちのデュエルタクティクスから自身の精神まで多くのことを鍛え上げた。海馬コーポレーションに招待されてテーマパークに行ったこともあった。奇想天外なプールで遊んだ後、遊希なデュエルの歴史に新たな1ページを加えるデュエル、ライディングデュエルに臨んだ。

 元アイドル、元レーサーという華々しい経歴を持つ蜂矢 真九郎とは世界初のライディングデュエルを行い、激戦を繰り広げた。そのデュエル勝利した遊希であったが、彼女はプロへの復帰よりも今ある日常を選んだ。マスコミや関係者からは遊希のその決断に驚きの声が上がったが、彼女はその思いを真摯に訴えたことで逆に彼女を応援する声があちこちから送られた。

 こんな慌ただしかった夏休みもあと2週間ほどで終わりを告げる。海にはクラゲが大量発生し、外ではツクツクボウシが夏の終わりを告げようとところ構わず鳴きまくる。普通の学生なら宿題に追われ始めるのだが、遊希はその手の宿題は全て終わらせていたため、新学期までの残り短い時間は悠々自適に過ごすはずだった。

 遊希たちの暮らすアカデミアの女子寮の一室にはピピピ、と電子音が響く。電子音の発生源を遊希は脇から取り出して傍にいた千春に見せた。千春は小さくため息をついた。

 

「38.7℃。うん、完璧に風邪ね」

 

 夏休み様々なことがあったことに疲れてしまったのか、遊希は風邪をひいてしまった。おでこに熱さましのシートを貼った遊希はそのまま布団に横になる。

 

「しかし、こんな時によく風邪ひくわね……」

「いくら暑いからと言って布団1枚に半袖半ズボンで寝てたら流石にねぇ」

「……面目ない」

 

 そう言ってしょげる遊希。感染を防ぐため鈴はエヴァの部屋でしばらく過ごすこととなり、彼女たちは交替交替で遊希を看病することになった。

 

「まあ大人しくしていてくださいね。薬を飲んで眠っていれば案外簡単に治るものですから」

「ありがとう、皐月……」

「でももし治らないようでしたら病院に行きましょう。市販のものより薬は強いですから」

「最悪注射打ってもらえばいいわけだし。というか今から受けに行けばいいんじゃない? ね、あんたもそう思うでしょ? 遊……」

 

 鈴がそう言いかけた時、遊希は既に布団に潜ってしまっていた。

 

「遊希……まさかあんた注射……」

「そそそ……そんなもの必要ないわ。ほら、移っちゃうから」

「……そうね、移ったら困るもの。千春手伝って、病院に連れてって注射を打ってもらいましょう」

 

 それから数分の間病院に連れていきたくてしょうがない鈴と注射を打たれたくない遊希の応酬が続いた。遊希の病人とは思えない頑強な抵抗を受けて結局は鈴が折れる形になったのだが。

 

「ま、まあ誰にでも好き嫌いはありますからね……私も正直苦手ですし」

「皐月……あんたやっぱり天使、女神さまよ。どっかの誰かとは大違い」

「悪かったわね、悪魔で!」

 

 高熱があるようだが鈴と口喧嘩できるほど元気なら心配いらないんじゃないか、と思うが熱は夜にかけて上昇するものである。そのため今は少しばかり元気だったとしても、夜にかけて辛い時が遊希にやってくる可能性が高いのだ。千春は遊希に横になって大人しくするように促すと、指示通り横になった遊希の頭をポン、と軽く叩いた。

 

「治し方は人それぞれだしね。遊希の治し方があるならそれでいいと思うわ? んーまあ、風邪ひいちゃったもんはもうしょうがないし、ゆっくり治しなさいよ」

 

 熱で身体も心も弱っているためか、この時遊希は千春がまるで寝込んでいる自分を看病してくれる母親のように見えた。四人きょうだいの長女をしているだけあって、病人の看病も千春にとっては手慣れたものだったのである。

 そんな時、部屋のドアがノックされる。外からは「開けてくれないか?」とエヴァの声が聞こえた。鍵は開いているのだが、エヴァ曰く両手が塞がっているためドアを開けられないのだという。鈴が部屋のドアを開けると、ドアの前にはお盆を両手で持っているエヴァの姿があった。

 エヴァの持つお盆の上に液体が入ったビンとティーポット、そして蓋が被せられたお皿を載せられていた。彼女は遊希が病気と知るや否や、故国ロシアの風邪対策料理を手持ちの食材で作り上げたという。

 

「遊希、身体の様子は大丈夫か?」

「ありがと、エヴァ。おかげ様で今は落ち着いてるわ。まあ夜になったら悪化するかもだけど」

「そうか……だが、もう安心だ。そんな遊希のために、ロシアの風邪対策料理や飲み物を用意したぞ!」

 

 そう言ってお盆をテーブルの上に置いたエヴァは食器棚からグラスを取り出すと、ビンを開けてその中に入っていた透明の液体をグラスの中に注いでいく。水……にして大層立派なビンに入っていた。

 

「これはロシアならではの風邪対策だ」

 

 エヴァのその言葉を聞いた鈴と千春は嫌な予感がした。二人はエヴァにそのグラスを遊希に渡す前に自分たちに確認させてほしい、と申し出た。その液体は無臭ではあるものの、何やら普通の水とは違うようだった。

 

「ねえエヴァちゃん……ちょっと聞きたいんだけど」

「何だ?」

「これ……何?」

「おおっ、皆もこれに目を留めるとはお目が高いぞ! これはロシア人が風邪をひいたときに身体を温めるために飲むウォッカだ!」

 

 液体の正体を知った鈴・千春・皐月は顔を見合わせると、エヴァにすぐにそれを片づけさせるように言いつけた。エヴァはせっかく用意したのに、最初は反対したものの、三人の剣幕に押されてすごすごと引き下がってしまった。ウォッカはロシアなどの東欧やスウェーデンなどの北欧で主に飲まれている蒸留酒。つまり酒である。日本では当然未成年の遊希が飲むことは許されない代物だ。

 

「エヴァちゃん……日本だと20歳にならないとお酒飲めないのよ」

「そうなのか? ロシアは18歳から飲めるんだが?」

「どっちにしても飲めませんよそれじゃ……」

「バレなきゃいいだろ!」

「ダメったらダメーっ!!」

 

 エヴァはすっかり忘れていたようであるが、遊希にアルコールの類を与えた結果どうなったか。法律のこともそうだが、それを知っている以上遊希にはチョコレートであっても近づけたくなかった。

 

 

「ではこれならどうだろうか」

 

 そう言ってエヴァはティーポットに入っていた液体をティーカップに注ぐ。液体は綺麗な黄色をしており、ほんのりと甘酸っぱい香りが広がって皆の鼻腔をくすぐった。ロシアでは風邪をひいた時にまず飲むとは言われているのがレモンと蜂蜜を入れた紅茶なのである。

 

「これなら文句ないはずだ。さあ飲め」

「ん、ありがと……ぶふぉっ! って何これ!! 甘すぎるわ」

「む? やはり甘かったか……砂糖を入れすぎましただろうか?」

 

 ロシアンティーの付け合わせにラズベリージャムを大量に摂取するだけあり、ロシア人は基本甘党の人間が多いという。遊希は甘いものも決して嫌いではないのだが、さすがに甘すぎたようだった。遊希は熱も相まって少しばかりイライラが募り始めていたのだが、エヴァの行動に悪意が微塵も感じられないため怒るに怒れない状況であった。

 

「エヴァ、あんたの気持ちは嬉しいけど……」

「待て! 私に汚名挽回の機会をよこせ」

 

 汚名は挽回してはいけない、というツッコミを余所にエヴァが皿に被せられた蓋を取ると、蓋の下には小麦を牛乳に浸したシリアル料理らしきものがあった。これもロシアでは風邪をひいた時に食べられている料理であり、これで体調を整えるという。

 ウォッカや紅茶に比べるとこちらは随分口当たりのいい食べ物であり、熱で火照った身体を冷やすのにちょうどいい代物だった。食べ終えた遊希は小さくため息をつくと、そのまま横になった。

 汚名挽回ならぬ汚名返上を果たしたエヴァは満足した様子で部屋に戻って行った。不器用ながらも遊希を心配している気持ちが伝わってきたため、遊希はほっと胸を撫で下ろした。

 

「ふぅ……ちょっと横になるわね」

「それがいいわ。どんなに健康にいいもの食べても寝なきゃ治らないもの」

「少ししたら様子を見に来ますからね」

「しっかり休むのよ!」

「……うん。おやすみ」

 

 そう言うと遊希は横になり布団を被って小さな寝息を立て始めた。鈴たちはそんな遊希が寝静まったのを見届けると遊希を起こさないように静かに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……ここは……」

 

 遊希が目を開けると周囲は真っ暗だった。もう夜になってしまったのだろうか、と思っているが服は眠っている時に着ていたパジャマではなくいつも着慣れているアカデミアの制服である。

 それでも風邪は治っているようで、熱も喉の痛みもなく、咳も出ていない。だがまるで生きた心地がしないのは何故だろうか。そして何より違和感を感じるのが、普段呼びかけずとも話しかけてくる光子竜の存在を近くに感じないことだった。

 

「光子竜? ねえ、光子竜? どこにいるの!?」

 

 光子竜の名前を呼びながら周囲をいくつか歩いてみる遊希。光子竜からの返答はなく、どこまで言っても闇、闇、闇だった。

 そんな闇だらけの中、遠くに一筋の光を見つけた遊希はそちらの方へと歩いて行ってみる。するとそこには鈴・千春・皐月・エヴァの四人の姿があった。何やら笑顔で談笑している四人であるが、遊希に気付く様子は一向にない。

 

「鈴! 千春! 皐月! エヴァ!」

 

 遊希は四人の名を続けざまに呼んでみる。しかし、四人は変わらず遊希に気付くことは無かった。

 

「ちょっと……なんで? なんでよ! なんで行っちゃうのよ!!」

 

 走っても走っても皆の元に辿り着けない。むしろ走れば走るほど四人との距離が開いていく。遊希は息を絶やしながら彼女たちの名を呼ぶも、遊希の眼に映る四人の姿はやがて豆粒のごとく小さくなって消えていってしまった。

 

「そんな……やだ……やだ……ひとりにしないで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……夢? ったく、なんて夢)

 

 窓からは朝の日差しが差し込んでいた。小鳥のさえずりが小さく響く中、遊希は目を覚ました。光子竜はおろか鈴たち四人の親友も居なくなる、という悪夢を見せられた彼女の寝覚めは最悪であったと言ってもいいだろう。

 しかし、皐月に差し入れされた薬やエヴァのロシア料理が功を奏したのか熱はだいぶ下がっていて身体の気怠さも完全とは言えずとも取り除かれていた。そんな遊希の枕元には布団の類を何も羽織ることなく眠っている鈴の姿があった。

 夜に遊希の氷枕やおでこに貼る冷却シートを取り替えていた彼女はそうしているうちに看病に疲れてしまったのか、その場で眠りに落ちてしまっていたのである。

 

(もしかして……ずっといてくれたの?)

 

 遊希が鈴の寝顔を眺めていると、そんな鈴もううん、と声を出してゆっくりと目を開けた。

 

「いけない……あたしまで寝ちゃってたわ。おはよう遊希」

「うん、おはよう」

「熱はどんな感じ?」

 

 鈴は遊希のおでこに自分のおでこをコツン、と当てる。自分のおでこと比べるとまだほんのり熱かった。

 

「うーん、だいぶ下がったわね。昨日はもっと熱かったし……良かった」

 

 仄かに赤い遊希の頬を鈴が両手で包み込むように触れることで、ひんやりとした感触が遊希の肌に伝わってくる。遊希は目の前で安堵の表情を浮かべる鈴の顔を何も言わずただその双眸でじっと見つめていた。

 

「……」

「おっと、あたしも戻らないと。千春たちに心配かけちゃうとまずいし……まああんたも一人の方がゆっくりできるだろうしね。今日はもう1日大人しくしてなさいよ? 次は千春だったかしら、朝食のお粥を持ってきてくれるはずだから」

 

 そう言って立ち上がった鈴のパジャマの裾が何かに引っ張られる。彼女が後ろを振り返ると遊希がそっぽを向きながら鈴のパジャマの裾を左手で掴んでいた。遊希と鈴の間に数秒の間沈黙が流れる。そんな沈黙を遊希はどこか照れ臭そうにもじもじしながら破った。

 

 

 

「ま、まだ……少し熱っぽい気がするの。だから―――もう少し。もう少しだけ、そばにいて?」

 

 

 

 

 そう言いながらけほけほと遊希は咳を繰り返した。鈴はそんな遊希のうるうるとした瞳を見つめながらその場に座り込むと何処か仕方なさそうに微笑むのであった。

 

「ったく、手のかかる病人なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2日ほどして遊希の病状は一応の落ち着きを見せた。すっかり元気になった彼女であるが、そんな遊希を余所にまたしても部屋には無機質な電子体温計の音が響く。脇から取り出した体温計の画面には38.9℃と表示されていた。

 

「ゴホッゴホッ……うえー、つらいー」

「で、今度は鈴が風邪をひいたと? ったく……」

「しょうがないじゃない……ひいちゃったんだからぁ……」

 

 遊希が治るのと同時に風邪を移される形となった鈴が布団に力なく倒れ込む。鈴は回復した遊希を見つけると、子犬のようなうるうるとした瞳をしながらじっと彼女の顔を見つめる。

 

「ねー、遊希ー。看病してー」

 

 あれだけ自分が看病したのだから元気になった遊希は恩返しをしてくれるはず。そう思った鈴であったが、遊希の口からは予想だにしていない言葉が飛び出してきた。

 

「……自業自得ね」

「ひょ?」

 

 自業自得、というこの状況においてとても聞きたくない四字熟語を聞き、鈴はどこか間の抜けた相槌を打つことしかできなかった。

 

「看病してくれたことは感謝してるけど、何もかけずに枕元で寝落ちしたのはあんたのミスよね?」

「えっ、ちょっ」

「あんたも大人しく寝てなさいよ? 私は風邪ひいてる間やりたいこといっぱいあったからすぐに取り返さないといけないの。じゃ、そういうことで」

 

 そう言って遊希は部屋を出ていってしまった。あんなに親身になって看病したのに、とショックを受ける鈴はどうにも納得いかなかった。

 

「もーっ! 弱ってるときはあんなに可愛かったのにぃぃぃ!! あんまりよーっ!!」

「うっさい鈴! 静かに寝てなさい!!」

「遊希のばかー!! 大っ嫌いー!!」

 

 ドア越しに響く鈴の絶叫を聞きながら遊希はアカデミアにある図書館へと駆けていった。風邪をひいた時に効く料理のレシピ本を借りに行くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              『銀河の竜を駆る少女』

 

 

 

                  第三章 完



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第4章 過去と相対せし少女たち
謎の少女


 

 

 

 

 

 

 

 8月も終わり、9月に入るとセントラル校にはいつもの授業風景とは違う光景がちらほらと見受けられた。平日こそいつも通り、授業とデュエルが繰り広げられるのだが、授業の少ない土曜日や休みの日曜日は生徒以外の人間で溢れ返っていた。

 デュエルアカデミアも学校である。学校である以上、経営していくためには入学を希望する学生を募集しなければならない。そんな受験生たちにセントラル校のことを紹介するイベントがオープンキャンパスである。普通の高校や大学でも行われる一般的なイベントであり、セントラル校もその例に漏れず積極的にオープンキャンパスを開いていた。

 

「はいはーい、14時からのキャンパスツアーはこちらですよー」

 

 このオープンキャンパスを企画した竜司は悲鳴を上げていた。最もその悲鳴は苦しさから生まれるものではなく、いわゆる「嬉しい悲鳴」というものである。

 夏休み期間中に開かれたアカデミア学生と小中学生デュエリストたちの交流会、そして遊希が元アイドルかつ世界初のライディングデュエルのプロデュエリストである蜂矢 真九郎と行ったライディングデュエルはかなりの反響を呼んでおり、それに感銘を受けた多くの中学生および保護者がアカデミアを訪れていたのである。

 最初は教員のみでオープンキャンパスの案内を行う予定だったのだが、あまりにオープンキャンパスの参加者が多かったため、一部生徒たちにも協力を願い出る始末であった。校長の娘ということだけあって鈴は当然参加していた。そしてそんな鈴に引っ張られる形で遊希たちも運営側として参加しているのだが、人手が足りないとはいえ遊希とエヴァが参加したことは逆効果であると言えた。

 

「あのー、みなさーん」

 

 鈴がセントラル校の校章が描かれた旗を振りながら合図を出すも、参加者たる中学生たちにはその指示が届いていなかった。

 

「お前たち、これからツアーが始まるぞ! いい加減そっちに集中しろ!」

 

 この時間は鈴とエヴァがキャンパスツアーを先導する予定だった。しかし、参加者たちは中学生である前にいちデュエリストである。そんなデュエリストの前にあのエヴァ・ジムリアが現れたとなればパニックになるのは必至なのだ。

 

「エヴァさん、サインくださーい!」

「エヴァさん、こっち向いてー!」

「後でデュエルしてくださーい!」

 

 男女問わず大人気のエヴァがたまらず鈴に助けを求めるも、鈴は鈴で参加者たちが自分が先導しても見向きもしない現状に憂鬱になっていた。そんな状態の彼女にエヴァを助けることなどできるはずもない。

 エヴァはそんな鈴を見て咄嗟に「キャンパスツアーに行くぞ!」と提案する。やはり自身が有名人のエヴァと親が有名人であるだけの鈴では影響力ならびに説得力が違うのだった。

 

(あーあ、遊希がいてくれればなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしさ、本当に凄い人気よねあんた」

 

 鈴が遊希の顔を思い浮かべていたころ、当の遊希はセントラル校の食堂にいた。鈴とエヴァが午後のキャンパスツアーを担当しているのに対し、遊希・千春・皐月の三人は午前中のキャンパスツアーを担当していた。

 その時も当然参加者たちはツアーそっちのけで遊希に殺到し、遊希の手を焼いたのは言うまでもない。ただし、できる限り参加者の希望に応えてあげたい、と参加者一人一人に甲斐甲斐しく接するエヴァと違って遊希はあくまでクールな姿勢を貫き通した。

 

「サインでも写真でも何でも応じるからまずはツアーに集中しなさい」

 

 いつもの調子でそう言い放った遊希の迫力に押されて午前の部に参加した学生はその場限りは大人しくなった。しかし、何でも応じるからという言葉を口走ってしまったために約束を破るわけにはいかない遊希はツアー終了後に急遽サイン会を開き、百人近い参加者のノートなどの私物にサインをしなければならない羽目になった。そのため三人は遅めの昼食を取っているのである。

 

「……まあ、それがプロってものなのよ」

「遊希さんが言うと説得力がありますね。しかし……落ち着いて食べれないです」

 

 盛り蕎麦を啜る皐月は何処か落ち着かない様子だった。何故なら食堂で昼食を取っている遊希の姿を一目見ようと参加者たちが食堂に押しかけているため、無関係な千春と皐月またも好奇の目に晒されてしまっていたからだ。

 最も遊希はそんな視線など気にせずハンバーグ定食を頬張り、千春はカレーライスに舌鼓を打つ。慣れている遊希はまだしも、目立つのが好きというだけあって千春のメンタルの強さが羨ましい、と皐月は思うのだった。

 

「にしても、鈴たち大丈夫かしら?」

「エヴァがいるからねー……あの子あの言動の割に面倒見の良さが隠し切れないから」

「そこがエヴァさんの良いところでもあるんですけどね」

「……お昼食べ終わったら様子見に行った方がいいのかしら?」

「やめといた方がいいわよ。あんた行くとただでさえパニック状態なのが収拾つかなくなっちゃうから」

「それもそうね―――っ!?」

 

 そう言って手元のコップに注がれたお茶を飲もうとする遊希。遊希がコップに手を触れた瞬間、遊希の身体に突如悪寒が走った。まるで肉食動物が狙いを定めた獲物を捉えるかのような、説明し難い視線を遊希は身体で感じたのである。遊希はその視線を感じた方を振り返りながら勢いよく立ち上がった。

 

「ちょっ!? ど、どうしたの遊希!?」

「……今なんか悪寒が走ったんだけど」

「何処か体調が悪いのですか? また風邪をひかれたのであれば部屋で休んでいた方が……」

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだけど……んー……」

 

 単なる勘違いだったのだろう、と結論を出して遊希は席に座った。

 

(んー……)

―――どうした、遊希?

(いや、なんというか刺すような冷たい視線というのかしら? そんなものを感じたわ。

―――……私は何も感じなかったが?

(……じゃあ本当に気のせいなのね。それとも疲れから来る錯覚かしら?

―――だろうな。無理はするなよ?

 

 この時遊希はともかく、精霊である光子竜もその視線の正体に気付くことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方の4時をもって大盛況のオープンキャンパスは終わりを迎えた。午後の案内役を任させた鈴とエヴァはフル回転といった様子ですっかりへとへとだった。

 

「やっと終わった……」

「あー、もう疲れた。早く部屋に戻って寝てしまいたいぞ」

 

 そんな疲れ切った二人の下に同じく職務を終えた竜司がやってきた。案内こそ鈴たちに任せていたものの、竜司たち教師陣が何もしていなかったわけではない。彼らは総じて将来このアカデミアに入学を希望する子どもたちの保護者の対応にあたっていた。この学校は原則全寮制であるため、生徒たちは親元を離れることとなる。遊希のように身寄りがないならいざ知らず、大半の生徒には家庭という場所がある。

 保護者にとっては目に入れても痛くない大事な大事な子供を3年も預けることになるため、アカデミアというものを入学する当人より知っておきたいのだ。最もそれがモンスターペアレントなるクレーマーじみた親を生み出すことに繋がってしまうのだが、竜司も人の親である。彼ら保護者の気持ちはできる限り斟酌するつもりだった。

 

「我々はこれから机や椅子などを片付ける。鈴たちには悪いけれど、余った資料を空き教室に持って行ってくれないかな?」

 

 余った書類は小さな段ボールが3箱ほどだった。この大きさなら鈴たち女性でも持つことは難しくない。それでも2個以上同時に持つとなるときついため、無理せず一人1個で運ぶことにした。空き教室は3階にある小型のデュエル教室であり、普段は授業で使われるものの、オープンキャンパスの今使われることは少ないため、一時的に物置と化していた。

 

「うんしょ、うんしょ……エヴァちゃん大丈夫?」

「このくらいどうってことはない。しかし、今日1日やってみてわかったのだが、やはり遊希は凄いな。ファンの方の捌き方がプロだった」

「ちょっとちょっと、プロが何言ってんの」

「確かに私もプロだが、私は遊希に憧れてプロになったんだ。だから先輩である遊希の方が色々と優れているというのは事実だろう

 

 同じプロであるということはライバルでもあるのだが、エヴァはエヴァなりに自分の現状を客観的に見ることのできる少女である。デュエルでは遊希より劣っているということはないが、それ以外の点では彼女はまだまだ勉強中であり、遊希はライバルであると同時に彼女にとって学ぶべき存在でもあるのだ。

 

「えっ、そこ認めちゃうの!?」

「認めちゃうぞ。私はそういう人間だからな! まあデュエルで負けるつもりはこれっぽっちもないわけだが」

 

 ペロリと舌を出してウインクをしてみせるエヴァ。遊希が普段見せないこの愛嬌たっぷりの仕草を自然と見せれる彼女もまたある意味プロの才能に溢れているのかもしれない、と鈴は思った。

 そうこうしているうちに辿り着いた3階の教室のドアを開ける。夏以降使われていない教室は照明が付いておらず、窓から入る夕陽でほんのりとオレンジ色に染まっていた。竜司はしばらく使われないだろう、と言っていたが、もしかしたら明日以降デュエルの実技で使うかもしれない、と思われるため、部屋の隅っこに積んでおくことにした。

 

「こんな感じでいいわよね」

「そうだな。あと1個ですからささっと運んで終わらせて……」

 

 そう言いかけてエヴァが振り返った瞬間である。開けっ放しになっていたドアの前に一人の少女が立っているのに二人は気がついた。

 制服を纏ったその少女はどこか幼げであり、見たところ今回のオープンキャンパスに参加した中学生の一人ということはわかった。しかし、背格好こそ夏のイベントで出会った紫音や橙季に近いものの、その二人と比べると明らかに醸し出す雰囲気が異なっていた。その二人が歳相応の少年少女だとしたら、この少女は年齢にはいい意味で不相応の美しさを持っているのだ。

 少し癖のついた黒髪をツーサイドアップにした少女はその青い瞳で少女を不思議な目で見つめる鈴とエヴァをしっかりと見据えていた。例えるならばペルシャ猫やロシアンブルーといった海外の高級な猫のように気品あふれる蠱惑的な美しさを持っているその少女を前にして鈴とエヴァは数秒ほど言葉を発することができなかった。そんな美少女は鈴とエヴァに対して少しモジモジしながら話し出した。

 

「あ、あの! わ、私……エヴァさんのファンなんです。でもさっきは人が多くて全然声が掛けれなくて……」

「ああ、そういうことか」

 

 最初は少女の年齢に合わない魅力的な容姿に性別の壁を超えてあてられそうだったエヴァであるが、その少女の申し出にほっと胸を撫で下ろす。エヴァは快くサインに応じると、彼女の取り出した色紙にサインペンで自分の名前を書いた。

 

「えーと、アナタのお名前は」

「あっ、私……遊望(ゆみ)って言います。遊ぶの遊という字に希望の望という字です」

「……鈴」

「エヴァちゃん、こういう字だから」

 

 漢字の書きに不慣れなエヴァに漢字を教える鈴。日本に来てだいぶ経つとはいえ、まだまだ下手な部類なエヴァの漢字であるが、それはそれで何処か温かみを感じるものとなっていた。

 

「うわぁ……本物だぁ……」

 

 サイン色紙を抱きしめて満面の笑みを浮かべる遊望。見た目こそ大人っぽく美しいが、彼女も歳相応の少女だった。

 

「喜んでもらえただろうか?」

「はい! 一生大事にします! あ、あの……差し出がましいお願いだとはわかっているのですが……わ、私とデュエルしてくれませんか!」

 

 そんな中、遊望から突然申し出られたデュエル。エヴァと鈴にはまだやることがあったのだが、延々とキャンパスツアーをやっていたため身体が鈍ってしまっているというところもあった。

 

「分かった。ではそのデュエル、プロとしてお受けしよう」

 

 断ることもできたデュエルであったが、わざわざ勇気を出して声をかけてきてくれた遊望の気持ちに応えたい。何よりプロとして挑まれたデュエルから逃げる、ということをしたくなかったのだ。

 

 

先攻:エヴァ【BF】

後攻:遊望【???】

 

 

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

―――ねー、エヴァ。大丈夫なの? マジで中学生の子相手に本気出しちゃう系?

(プロはファンサービスも常に心掛けている。ファンサービスをしつつ勝ちはもらうつもりでいくぞ)

―――いや、それがどうかと思うんだけどなー……

 

 

☆TURN01(エヴァ)

 

「ところで、本当に先攻は私で良かったのか?」

 

 先攻後攻の決定権はエヴァが遊望に与えていたのだが、遊望は自ら後攻を選択した。

 

「はい。あのエヴァ・ジムリアの華麗なプレイングをじっくりと眺めてみたかったので……」

「そう言ってもらえると照れ臭いな。だが、容赦はしないぞ! 私は永続魔法、黒い旋風を発動。そして手札から《BF-蒼炎のシュラ》を召喚!」

 

《BF-蒼炎のシュラ》

効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1800/守1200

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。デッキから攻撃力1500以下の「BF」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「BFモンスターの召喚に成功したことで黒い旋風の効果を発動する。シュラの攻撃力1800以下の攻撃力のBF1体を手札に加えるが、チェーンはあるか?」

「ありません」

「そうか。では遠慮なく行かせてもらう。私は攻撃力1300のBF-疾風のゲイルを手札に加える。そしてゲイルは自分フィールド上にBFモンスターが存在する限り、手札から特殊召喚できる!」

 

 エヴァのフィールドには早くもチューナーとチューナー以外のモンスターのワンセットが揃う。これでエヴァはレベル7のS召喚が行えるが、エヴァが単にレベル7のSモンスターを出すだけで終わるようなデュエリストではないことは誰もがわかっていた。

 

「更にゲイルと同じ条件で手札のBF-残夜のクリス、BF-砂塵のハルマッタンは特殊召喚できる。特殊召喚に成功した砂塵のハルマッタンの効果を発動! このカードのレベルを他のBFのレベル分上げることができる。ゲイルのレベル分このカードのレベルを上げる!」

 

BF-砂塵のハルマッタン 星2→星5

 

「そして私はクリスとゲイルをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク2、水晶機巧-ハリファイバーをリンク召喚。リンク召喚に成功したハリファイバーの効果で私はデッキからレベル1のチューナーモンスター、ジェット・シンクロンを特殊召喚。レベル5となったハルマッタンに、レベル1のチューナーモンスター、ジェット・シンクロンをチューニング! “夜空に瞬く無数の星に隠れし影の戦士よ。黒き翼を奮い暗躍せよ!”シンクロ召喚! 舞い上がれ、BF-星影のノートゥング!」

 

 S召喚に成功した星影のノートゥングの効果が発動し、遊望のライフが800削られる。わずか800ではあるが、決して油断できない数字であった。

 

遊望 LP8000→LP7200

 

「きゃっ! さすが、抜け目ないですね」

「先攻1ターン目をどのように決めるかもまたプロデュエリストには求められることだ。このデュエルが君の参考になってくれれば嬉しいぞ」

 

 先を行くプロデュエリストとして、後進にどれだけの道を示すことができるか。その大切さをエヴァはこの夏に学んだ。遊望もまた彼女にとってはヴェートら自分たちの後を追ってくるデュエリストの一人なのだから。

 

「墓地のジェット・シンクロンの効果を発動。手札1枚を墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。そしてレベル6のノートゥングにレベル1のジェット・シンクロンをチューニング!“風と心を通わせし漆黒の鷹匠よ。天空を舞い黒き戦士たちを誘う先駆けとなれ!”シンクロ召喚、誘え! BF T-漆黒のホーク・ジョー! ホーク・ジョーの効果で墓地のレベル5以上の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。私は墓地のノートゥングを特殊召喚。私はこれでターンエンドだ」

 

 

エヴァ LP8000 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:3(BF T-漆黒のホーク・ジョー、BF-星影のノートゥング、BF-蒼炎のシュラ)EXゾーン:1(水晶機巧-ハリファイバー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒い旋風)墓地:5 除外:0 EXデッキ:12(0)

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

エヴァ

 □□旋□□

 漆□□星蒼□

  水 □

□□□□□□

 □□□□□

遊望

 

○凡例

蒼・・・BF-蒼炎のシュラ

 

 

 

 

 

 

 



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予期せぬ相手

 

 

 

 

 

☆TURN02(遊望)

 

「いきなり厳しい盤面にされてしまいました……ですが、エヴァさんとデュエル機会など一生に一度あるかないかですので、全力で行きます!」

「その意気だ。お前のその闘志にデッキは応えてくれるだろう!」

「エヴァさん……はい、私も自分のデッキを信じます! ドロー!」

 

 エヴァを前にしても恐れるどころかより内に秘めた闘志を燃やしてかかる遊望。少なくとも彼女がデュエリストに必要な勇気を持っていることは明らかだった。

 

(あの子みたいな子が将来入学してくるのかなぁ……あたしも頑張らないと!)

「私は手札より魔法カード、トレード・インを発動します。手札のレベル8モンスター1体を墓地へ送ることで2枚ドローします」

「手札交換か。ならば、トレード・インにチェーンして水晶機巧-ハリファイバーの効果を発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):水晶機巧-ハリファイバー

チェーン1(遊望):トレード・イン

 

「チェーン2のハリファイバーの効果、このカードをゲームから除外してEXデッキからSモンスターのチューナーモンスター1体をS召喚扱いで特殊召喚する。私はレベル7のSチューナー《シューティング・ライザー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

《シューティング・ライザー・ドラゴン》

シンクロ・チューナー・効果モンスター

星7/光属性/ドラゴン族/攻2100/守1700

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。フィールドのこのカードより低いレベルを持つモンスター1体をデッキから墓地へ送り、そのモンスターのレベル分だけこのカードのレベルを下げる。このターン、自分は墓地へ送ったそのモンスター及びその同名モンスターのモンスター効果を発動できない。

(2):相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

「チェーン1のトレード・インで私はレベル8の巨神竜フェルグラントをコストに2枚ドローします」

(巨神竜フェルグラント……彼女のデッキは最上級のドラゴン族デッキと見ていいだろう。火力は申し分ないが、私のデッキでなら押し切れるはずだ)

「S召喚に成功したシューティング・ライザー・ドラゴンの効果を発動する。フィールドのこのカードよりレベルの低いモンスター1体をデッキから墓地へ送り、そのモンスターのレベル分このカードのレベルを下げる。私はレベル3のBF-上弦のピナーカを墓地へ送り、このカードのレベルを4にする!」

 

シューティング・ライザー・ドラゴン 星7→星4

 

「シューティング・ライザー・ドラゴンのレベルを下げてきましたか……」

「ああ、これで私はシュラとライザー・ドラゴンでレベル8のSモンスターを君のターンにS召喚できる」

「エヴァさんのレベル8・Sモンスター……まさか、あのカードを生で見れるなんて! 私はなんと幸せ者なのでしょうか……」

 

 眼をキラキラとさせながらエヴァのデッキに眠るレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの雄姿を想像する遊望。精霊の力を制御できるようになったのはつい最近のため、その姿を公の場で明かしたことはほとんどないものの、エヴァを象徴するカードとしてスカーライトは一般的に認知されていたのだ。

 

―――えっ、あたしそんな有名な感じ?

(まあお前ほどのインパクトのあるカードなら当然だろう)

―――話が変わった、マジテンション上がってきたから頑張っちゃうよ!

「ならば、精霊を迎え撃つだけのフィールドを作り上げなければいけませんね! 私は墓地の光属性モンスター、巨神竜フェルグラントをゲームから除外し、暗黒竜コラプサーペントを特殊召喚します!」

(ん? フェルグラントを除外するのか)

 

 エヴァがスカーライトをS召喚する上で危惧していたのが墓地からフェルグラントを蘇生されることであった。フェルグラントの効果でスカーライトを除外されてしまうとBFモンスターで強化されたフェルグラントを止めることが難しく、負け筋となり得るものだった。しかし、遊望はその勝ち筋を自ら手放したのである。

 

「そしてコラプサーペントをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン、リンク1のストライカー・ドラゴンをリンク召喚します。リンク召喚に成功したストライカー・ドラゴンの効果でデッキからリボルブート・セクター1枚を手札に加えます」

「【巨神竜】かと思ったが、【ドラゴンリンク】か。そうなると話は別だな」

 

 下級のドラゴン族モンスターを大量展開し、リンク召喚を連発する【ドラゴンリンク】および【ヴァレット】は皐月の使用デッキだ。しかし、EXデッキからドラゴン族を特殊召喚できる《守護竜アガーペイン》は禁止カードに指定されているため、かつてほどの強さはない。それでも【守護竜】のリンクモンスターである《守護竜エルピィ》《守護竜ピスティ》は未だ健在であるため、 決して油断できない相手だ。

 

「墓地に送られたコラプサーペントの効果で、デッキから輝白竜ワイバースターを手札に加えます。そしてコラプサーペントを除外してワイバースターを特殊召喚します。更にストライカー・ドラゴンとワイバースターをリンクマーカーにセット。《ドラグニティナイト-ロムルス》をリンク召喚します!」

 

《ドラグニティナイト-ロムルス》

リンク・効果モンスター

リンク2/風属性/ドラゴン族/攻1200

【リンクマーカー:左下/右下】

トークン以外のドラゴン族・鳥獣族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドラグニティ」魔法・罠カードまたは「竜の渓谷」1枚を手札に加える。

(2):ドラゴン族モンスターがEXデッキからこのカードのリンク先に特殊召喚された場合に発動できる。手札からドラゴン族・鳥獣族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、効果が無効化され、リンク素材にできない。

 

「リンク召喚に成功したロムルスの効果を発動します。デッキから《竜の渓谷》1枚を手札に加えます。そして竜の渓谷を発動」

 

《竜の渓谷》

フィールド魔法

(1):1ターンに1度、手札を1枚捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●デッキからレベル4以下の「ドラグニティ」モンスター1体を手札に加える。

●デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

 

「竜の渓谷の効果、手札1枚……亡龍の戦慄-デストルドーをコストにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送ります」

「では竜の渓谷にチェーンしてシューティング・ライザー・ドラゴンの効果を発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):シューティング・ライザー・ドラゴン

チェーン1(遊望):竜の渓谷

 

「チェーン2のシューティング・ライザー・ドラゴンの効果で私は相手メインフェイズにレベル4のシュラとシューティング・ライザー・ドラゴンでS召喚を行う!“黒き嵐吹き荒ぶ世界は紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”シンクロ召喚! 現れよ、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!」

―――よっし! あたし、参上!

 

 王者の名を冠するに相応しい力を持ったスカーライトが気高く咆哮する。美しくも荒々しい業火の如く姿に遊望は圧倒される。しかし、彼女もエヴァに自らデュエルを挑んできたほどのデュエリストだ。ここで怯むようなタマではなかった。

 

「これがスカーライト……チェーン1の竜の渓谷の効果。デッキからアブソルーター・ドラゴンを墓地へ送ります。そして墓地へ送られたアブソルーター・ドラゴンの効果を発動します。デッキからヴァレット・トレーサーを手札に加えます」

(うん、皐月のよくやる【ドラゴンリンク】の王道展開だけど……なんだろう、胸騒ぎが……)

 

 ロムルスからのヴァレットモンスターを駆使した展開、というものは皐月のデュエルで幾度となく見た動きだ。しかし、皐月と同じ手法とはいえ、遊望から醸し出される雰囲気は皐月のそれとはまるで違うようにしか思えなかった。

 

「竜の渓谷をフィールド魔法、リボルブート・セクターに貼り換えます。そしてリボルブート・セクターの効果、手札からヴァレット・トレーサーを特殊召喚。そしてヴァレット・トレーサーを対象に墓地のデストルドーの効果を発動します。ライフ半分をコストにこのカードを墓地から特殊召喚、そしてデストルドーのレベルを4つ下げます」

 

亡龍の戦慄-デストルドー 星7→星3

 

遊望 LP7200→LP3600

 

「スカーライトを前に自らライフを削るか。まるでこのターンに全てを賭けているように思えるな」

「……そうでもしないと、エヴァさんには勝てませんから」

「私に勝つ、か。そのチャレンジ精神が本物か、プロとして見定めさせて貰おう!」

「参ります! 私はヴァレット・トレーサーをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 守護竜エルピィをリンク召喚。更にレベル3となったデストルドーをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 守護竜ピスティをリンク召喚です!」

 

 これでロムルスのリンク先に2体の守護竜がリンク召喚されたことになり、守護竜モンスターの効果が発動できるようになった。これまでであれば、ここから禁止カードである《エクリプス・ワイバーン》を絡めた更なる展開が可能になっていた。

 

「守護竜エルピィの効果を発動します。2体以上のリンクモンスターのリンク先にデッキからドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します! 私はデッキから嵐征竜-テンペストを特殊召喚します!」

「テンペスト……これでモンスターが4体か」

「私はロムルス、エルピィ、ピスティ、テンペストの4体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク4の鎖龍蛇-スカルデットをリンク召喚! そして4体以上のモンスターを素材にリンク召喚に成功したスカルデットの効果を発動します。デッキからカードを4枚ドローし、その後3枚を好きな順番でデッキの下に戻します」

(あれだけ展開して残り手札は5枚……つくづくとんでもない効果だ)

「ふふっ……いいカードが来てくれました」

 

 この時の遊望が見せた微笑。その微笑を見たエヴァと鈴の身体には冷たいものが走った。この一瞬だけではあるが、彼女はただの中学生デュエリストではなかったからだ。

 

(えっ……?)

(今のは、一体……)

―――エヴァ。

(スカーライト?)

―――あたし、なんか嫌な予感がするんだけど。あの子、ちょっと普通じゃないような。

(普通じゃないだと? それはどういう……)

「スカルデットの効果を発動します。手札のモンスター1体をこのカードのリンク先に特殊召喚しますわ。私は手札より―――このモンスターを特殊召喚します!!」

 

 スカルデットの鎖によって導かれ、遊望の手札から現れたモンスターを見たエヴァと鈴、スカーライトは言葉を失った。何故なら彼女の手札からは決して他のデュエリストの手からは現れるはずのないモンスターが現れたのだから。

 

 

 

 

 

―――“闇に輝く銀河よ。希望の光となりてこの世界に顕現せよ!”―――

 

 

 

 

 

 

――――――舞い降りよ。光の化身!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――銀河眼の光子竜!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴とエヴァ君? そこにある段ボールを3階の空き教室まで運んで行って貰っているよ」

 

 遊希たちはオープンキャンパスの片づけに追われている鈴たちを手伝おうと思って会場へと来たのだが、そこで竜司から鈴とエヴァには片づけを手伝って貰っていることを聞いた。しかし、いくら女子高生とはいえ、両手で抱えきれる大きさの段ボールを運ぶだけの仕事をはじめて10分ほど経っても戻ってこないということには竜司も疑念を抱いていた。

 

「サボってんじゃないの? こんな仕事やってられるかーって」

「遊希じゃないんだからそんなわけないでしょうに」

「あら酷い言い草」

「ただ、エヴァさんもいますからね。お二人でサボるというのはいまいち考えられないです」

 

 どちらにせよ疲れてへばってでもいるのだろう、と思った遊希は残り1つの段ボール箱を代わりに運ぶことにした。遊希たちはエヴァが今まさに得体も知れぬ美少女とデュエルをしているなど知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天空に現れた黒い竜を中心に周囲の粒子エネルギーが取り込まれていき、それはやがて1つの巨大な光となった。青い光をその身に宿し、全てを照らす大いなる竜。世界でただ一人、親友にしてライバルである遊希だけが持つはずのモンスター―――銀河眼の光子竜がそこにはいた。

 

「銀河眼の光子竜だと……!? 貴様、何故そのカードを持っている!!」

 

 そこにはついさっきまでのファンに優しく振る舞うエヴァの姿はない。今の彼女の眼は怒りと動揺に震えていた。

 

「あら? 私がこのカードを持っていることの何がおかしいのでしょうか」

「おかしいも何も……そのカードを持っているのは世界でただ一人。遊希だけよ!!」

「……そうですか。ではその情報は誤りということでしょう。だって、現に私も持っているのですから」

 

 違法カードやコピーカードであれば、そもそもデュエルディスクが反応しない。つまり遊望が使っている銀河眼の光子竜のカードは紛れもない本物ということになる。まさか彼女が遊希から奪ったとでもいうのだろうか。だが、遊希が襲われてカードを奪われたとなれば、すぐに自分たちの耳にも届くはず。

 

「さて、スカルデットのリンク先に特殊召喚されたモンスターの攻守は300アップします」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK3300/DEF2800

 

「スカーライトの攻撃力を超えてきたか……だが、仮にスカーライトを倒したところで私のライフを少し削るだけに過ぎない!」

「ふふっ、プロデュエリストというものも……案外短絡的なのですね」

「なんだと……!?」

「私がこのターンで終わらせられないわけがないではありませんか。相手フィールドに攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できます。現れなさい、《限界竜シュヴァルツシルト》」

 

 ∞の記号のような身体をした竜が遊望のフィールドに現れる。これで遊望のフィールドにはレベル8のモンスターが2体。ランク8のX召喚の準備が整った。

 

《限界竜シュヴァルツシルト》

効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻2000/守0

(1):相手フィールドに攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

(限界竜シュヴァルツシルト……? また見たことのないカードが……)

「そして私は! レベル8の銀河眼の光子竜と限界竜シュヴァルツシルトをオーバーレイ!! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!!」

 

 

 

 

 

―――“宇宙を彷徨う光と闇、その狭間に眠りし哀しき竜たちよ。今その命を集わせ、真の力となれ!”―――

 

 

 

 

 

―――No.62 銀河眼の光子竜皇!!―――

 

 

 

 

 

 

 エヴァと鈴は目の前で起こっていることを整理することができなかった。光子竜に加えて遊希の切り札の1枚でもあるNo.62 銀河眼の光子竜皇までが遊希以外のデュエリストが繰り出してくるという現状を理解できなかったのだ。

 

「銀河眼の光子竜皇……そんな、こんなことって……!」

「スカルデットのリンク先にX召喚されたため、光子竜皇の攻守も300アップします」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000/守DEF3000→ATK4300/DEF3300

 

「もちろん、これだけでは終わりません。手札の《星雲龍ネビュラ》の効果を発動」

 

《星雲龍ネビュラ》

効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻2000/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札のこのカードと手札のドラゴン族・レベル8モンスター1体を相手に見せて発動できる。その2体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は光・闇属性のドラゴン族モンスターしか召喚・特殊召喚できない。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の光・闇属性のドラゴン族・レベル4モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「手札のこのカードとレベル8・ドラゴン族モンスター1体……《螺旋竜バルジ》を相手に見せて発動。その2体を守備表示で特殊召喚します。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、この効果の発動後、ターン終了時まで私は光・闇属性のドラゴン族モンスターしか召喚・特殊召喚できなくなります」

「1枚のカードでランク8のX召喚が行えるだと!?」

「私は星雲龍ネビュラと螺旋竜バルジでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク8の銀河眼の光波竜をX召喚します。そして光波竜を素材にオーバーレイ・ネットワークを再構築。ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンをX召喚します」

 

 攻撃力4000のギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン。高い攻撃力はもちろん、表側表示のカードのみとはいえ破壊することができる効果は単純かつ強い。この効果には鈴もエヴァも幾度となく苦しめられてきた。しかし、まさかこのモンスターまでもが遊希以外のデュエリストに使われるとは想像もしていなかった。

 

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:3 ATK4000/DEF3500→ATK4300/DEF3800

 

「FA・フォトンの効果。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を対象として発動し、そのカードを破壊します。破壊するのは漆黒のホーク・ジョーです」

 

 FA・フォトンから放たれた光の斬撃がホーク・ジョーを両断する。もちろん、これだけで済ませてくれるわけはなかった。

 

「FA・フォトン・ドラゴンでオーバーレイ。1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。エクシーズチェンジ。ランク9の銀河眼の光波刃竜をX召喚」

 

銀河眼の光波刃竜 ORU:3 ATK3200/DEF2800→ATK3500/DEF3100

 

「光波刃竜の効果で、オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールドのカード1枚を破壊します。星影のノートゥングを破壊」

 

 二度目の斬撃によってノートゥングまでもが細切れにされる。これでエヴァを守るのはスカーライトのみとなり、対する遊望のフィールドにはスカーライトの攻撃力を上回る銀河眼が2体にスカルデット。さすがのエヴァも頭の中には自分とはかなり縁遠い言葉であるはずのある二文字の言葉を思い浮かべてしまっていた。

 

「っ……」

―――マジで……? なんなの、これ。

「バトルです。銀河眼の光子竜皇でレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを……攻撃!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4300 VS レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

「オーバーレイユニットを1つ取り除き、光子竜皇の効果を発動。このカードの攻撃力をフィールドのXモンスターのランク×200アップします。光子竜皇のランクは8、光波刃竜のランクは9。よって3400ポイントアップ」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK4300→ATK7700

 

「さあ、滅びの時です。“エタニティ・フォトン・ストリーム”!!」

―――エヴァっ……!!

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK7700 VS レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

 迸る光がレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを飲み込んでいく。スカーライトは身を挺してエヴァを守ろうとするも、その努力はむなしくエヴァごと光の中に消えていく。スカーライトが破壊され、エヴァのライフが削られた瞬間である。エヴァの身体には強い衝撃が走った。この衝撃には覚えがある。それは操られた恋人・ジェームズとのデュエルの時に味わったものと全く同じものだったのだ。

 

「スカーライト!!」

(……こ、この痛み……そんな、まさか……!!)

 

エヴァ LP8000→LP3300

 

「これであなたを守るカードはない。銀河眼の光波刃竜でダイレクトアタック」

 

銀河眼の光波刃竜 ORU:2 ATK3500

 

 光波刃竜の攻撃を受け、爆発と衝撃によって吹き飛ばされたエヴァは壁に激しく叩きつけられる。消えゆく意識の中、聞こえるのは鈴の悲鳴。しかし、今の彼女にできることは何もなかった。

 

(鈴……逃げろ……っ)

「……最期は華々しく散りなさい。エヴァ・ジムリア」

 

エヴァ LP3300→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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遊希の動揺、遊望の微笑

 

 

 

 

 

「エヴァちゃんっ! エヴァちゃん!!」

 

 壁に叩きつけられたエヴァに鈴は悲鳴にも近い声を上げて駆け寄った。エヴァは命に別状こそないものの、身体を強く打ちつけたショックで気を失っていた。とてもソリッドビジョンのものとは思えない強い衝撃を受けていたエヴァが無事だったことに安堵した鈴はエヴァの身体をぎゅっと抱きしめる。すると、エヴァの身体が微かに震えていることに気が付いた。

 彼女は気を失っているのだが、無意識のうちにエヴァの身体にはこのデュエルで今まで味わったことのない恐怖を植え付けられてしまっていたのである。それを間接的に悟った鈴の眼からは涙がぽとり、ぽとりと零れ落ちた。

 

「所詮、紛い物のデュエリストなどこの程度の力しか持てないということですか。不甲斐ないですね」

「!!」

 

 遊望のその言葉を聞いた鈴はエヴァをその場に優しく寝かせると、立ち上がりデュエルディスクを構えた。表情は一見落ち着いたように見えるが、その根底にはこれまで抱いたことのない怒りが噴き出していた。

 

「何のつもりですか? 私にデュエルを挑むとでも?」

「それ以外に……何があるっての!!」

「あなたと私では全てにおいて差があります。負けると分かっていても挑むのですか?」

 

 デュエルをする前から負けることを考えるデュエリストなどいない。それでも鈴はわかっていた。自分より遥かにデュエルが強いエヴァが一太刀も浴びせることなく敗れ去った相手である。遊希や竜司ですら勝てるかどうかわからない相手に自分が勝てる道理はないと言っていいだろう。

 

「ええ、ぶっちゃけあたしじゃ勝てないかもしれない。でも、あたしは―――友達が侮辱されたまま逃げるような臆病者じゃない!!」

「友達……ですか。いいでしょう、あなたとエヴァ・ジムリア。二人の首を持っていけば天宮 遊希も私と戦わずにはいられないでしょうからね」

(……こいつの目的は、やっぱり遊希! ダメ、こんな危険なやつを遊希のところに行かせるわけには行かない!!)

 

 勝算は限りなく低いかもしれない。それでも戦わなければいけない時はやってくる。決意を秘めた鈴のデュエルが今、始まろうとしていた。

 

 

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(鈴)

 

「無謀を承知で私に挑むのです。先攻はお譲りしますよ」

「……言ってくれるじゃない。じゃあ遠慮なく先攻を取らせてもらうわ」

 

 挑発されながらも先攻を取る鈴に対して遊望は情けない、と吐き捨てる。しかし、鈴からしてみればこのデュエルはエヴァの仇を討ち、遊希を守ることに繋がるデュエルでもある。そのため、恥や外聞を気にしているだけの余裕などなかった。

 

「先攻を取らせたことを後悔させてあげる。あたしのターン、あたしは手札1枚をコストに魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! デッキから攻撃力3000以下、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2枚まで手札に加える!」

「そう言えばあなたのデッキは【儀式青眼】でしたね。ならば私と同じカードが入っていてもなんらおかしいことはありません」

(初対面のはずなのに、あたしのデッキを知っている……ますます訳わかんないんだけど)

 

 一抹の不安を覚えながらも、鈴はデッキのキーカードであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと青眼の亜白龍を手札に加える。この2枚が手札にあるかないかで彼女のデッキの初動は大きく変わるといっても過言ではない。

 

「そしてドラゴン・目覚めの旋律の効果で墓地に送られたのはジェット・シンクロン。ジェット・シンクロンの効果を発動、手札1枚をコストにこのカードを墓地から特殊召喚する! そしてジェット・シンクロンの効果の発動コストで墓地へ送られたのは伝説の白石。伝説の白石の効果でデッキから青眼の白龍1枚を手札に加えるわ!」

「……なるほど、手札コストを上手く活用できていますね。ふふっ、少しは楽しませてくれるのでしょうか?」

「そのうち笑えなくなるよ、あんた。あたしはマンジュ・ゴッドを召喚! 召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果であたしはデッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加える。そして高等儀式術を発動! デッキの通常モンスター、青眼の白龍を儀式の生贄に捧げ、手札からレベル8の儀式モンスター、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!!」

 

 鈴のデッキのエースモンスター、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが雄叫びと共に降臨する。先攻1ターン目ではバトルフェイズが行えないため、その真価を発揮できるとは言い難いが、それでも4000の攻撃力と強力な耐性は消費の激しい儀式召喚に相応しいだけの力を持ったモンスターだ。

 

「そして手札の青眼の白龍を相手に見せることで、手札の青眼の亜白龍は特殊召喚できる! 更にレベル4のマンジュ・ゴッドに、レベル1のチューナーモンスター、ジェット・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 来て!《転生竜サンサーラ》!」

 

《転生竜サンサーラ》

シンクロ・効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻100/守2600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「転生竜サンサーラ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードが相手の効果で墓地へ送られた場合、または戦闘で破壊され墓地へ送られた場合、「転生竜サンサーラ」以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「転生竜サンサーラを守備表示でS召喚。このカードが相手の効果で墓地に送られた場合、または戦闘で破壊されて墓地へ送られた場合、サンサーラ以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を特殊召喚できるわ!」

「マンジュ・ゴッドをフィールドに残さず、次に繋げる効果を持ったモンスターをフィールドに……あの青眼を使うことを認められるだけはありますね」

「それはどうも。曲がりなりにもあたしはこのセントラル校のデュエリストで、星乃 竜司の娘。半端なデュエルはできないんだよ。あたしはカードを1枚セットして、ターンエンド!」

 

 

鈴 LP8000 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の亜白龍)EXゾーン:1(転生竜サンサーラ)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:5 除外:1 EXデッキ:14(0)

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 伏□□□□

 □□亜M□□

  転 □

□□□□□□

 □□□□□

遊望

 

○凡例

転・・・転生竜サンサーラ

 

 

☆TURN02(遊望)

 

「さて、それがあなたの先攻1ターン目なのですね、星乃 鈴」

「……だったらなんだっていうのよ」

「攻撃力4000のカオス・MAXに3000の亜白龍、そして守備力2600かつ墓地のモンスターを特殊召喚できるサンサーラ。なるほど、中々の布陣です。ですが……私を相手にするにも関わらず、この程度の布陣で満足されているようではとんだ期待外れですね」

「なんですって……? もう一度言ってみなさいよ!!」

「ええ、何度でも言いましょう。星乃 鈴、あなたではエヴァ・ジムリアの仇を討つどころか、天宮 遊希を守ることすらできやしない。何故なら、あなた程度のデュエリスト……私にとっては相手をする価値すらないのですから!!」

 

 遊望がそう叫ぶと同時に、何か得体の知れない重圧が鈴の身体に圧し掛かった。

 

(っ、何!? この気迫……押しつぶされる……!!)

「本当の力というものを見せてあげましょう。私のターン、ドロー。手札から魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスター、螺旋竜バルジをコストに2枚ドローします。そして魔法カード《精神操作》を発動します」

 

《精神操作》

通常魔法(2020年1月1日から準制限カード)

(1):相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。この効果でコントロールを得たモンスターは攻撃宣言できず、リリースできない。

 

「精神操作……!? でも、カオス・MAXは相手の効果の対象にはならないわ!」

「言われなくともわかっています。なので対象は転生竜サンサーラです。そして手札から《輝光竜セイファート》を召喚」

 

《輝光竜セイファート》

果モンスター

星4/光属性/ドラゴン族/攻1800/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、ドラゴン族モンスターを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。墓地へ送ったモンスターの元々のレベルの合計と同じレベルを持つドラゴン族モンスター1体をデッキから手札に加える。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の光・闇属性のドラゴン族・レベル8モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「セイファートの効果を発動します。手札のレベル8・ドラゴン族モンスターの銀河眼の光子竜を墓地へ送り、墓地へ送ったモンスターの元々のレベルの合計と同じレベルを持つドラゴン族モンスター1体をデッキから手札に加えます。私が手札に加えるのはレベル8の星雲龍ネビュラです。そして私は転生竜サンサーラと輝光竜セイファートをリンクマーカーにセット。アローヘッド確認、召喚条件はドラゴン族モンスター2体。サーキットコンバイン!“終わりなき銀河を衛りし竜よ。選ばれしものに眠りし力となれ!”リンク召喚! 現れよ!《銀河衛竜(ギャラクシー・サテライト・ドラゴン)!!」

 

《銀河衛竜》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/ドラゴン族/攻2000

【リンクマーカー:左下/右下】

ドラゴン族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分・相手のバトルフェイズに、フィールド・墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの元々の種族・属性がドラゴン族・光属性の「No.」Xモンスター1体を対象として発動できる。バトルフェイズ終了時まで、相手が受ける戦闘ダメージは半分になり、対象のモンスターの攻撃力は、そのモンスターの持つ「No.」の数値×100になる。

(2):相手エンドフェイズに発動できる。デッキからカード1枚を選んでデッキの一番上に置く。

 

「銀河衛竜……また見たことのないモンスターが……」

「このカードは私に眠る力を引き出してくれるカードです。さて、あなたは耐えられますか?」

「リバースカードオープン、永続罠、リビングデッドの呼び声を発動! 墓地の青眼の白龍を特殊召喚するわ!」

「あらあら、焦ってしまってみっともない……ですが、もうあなたの負けは決まりました。墓地のセイファートの効果を発動します。このカードをゲームから除外し、墓地の光または闇属性・レベル8のドラゴン族モンスター1体を手札に加えます。私が手札に加えるのは闇属性・レベル8の螺旋竜バルジ。そして手札の星雲龍ネビュラの効果を発動、このカードとバルジを特殊召喚します」

 

 遊望のフィールドには、これで再びレベル8のモンスターが2体。しかし、光子竜を素材にしていない光子竜皇は相手に与える戦闘ダメージが半分になるデメリットがある。いくら高い攻撃力を持っていようと、その真価を発揮することはできない。つまりそれは光子竜に頼らずともそれに比肩しうるだけのカードがある、ということでもあった。

 

「私はレベル8のネビュラとバルジでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!―――さあ、恐怖しなさい!! 星乃 鈴!!」

「っ!?」

 

 

 

 

 

―――これが、敗北の味です―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空き教室ってデュエルの実技用の部屋だったんですね」

「そうだよ、しばらく使う予定が無いからね。ところで遊希くん」

 

 竜司に呼びかけられた遊希が気怠そうに後ろを振り返る。竜司は段ボール箱を抱えながら階段を上っている最中だった。

 

「なんですか、校長先生?」

「何故私が段ボール箱を持たされてるんだい?」

「あら、女性に荷物を持たせるような男性だったんですね。失望しました、校長先生」

「ははは……」

 

 竜司に対しては相変わらずの遊希であったが、これが彼女なりの愛情表現であることを知っていると随分微笑ましいものであった。遊希と竜司の間に流れる独特な空気にすっかり慣れた皐月は階段を上った先の廊下で目的地である空き教室の案内板を指さす。

 

「あそこですか、校長先生?」

「ああ、あそこだ。鈴とエヴァくんはそこにいるはずだけど」

「もしかして鈴とエヴァのことだからデュエルしてたりして」

「その可能性はあるわね。でもエヴァと鈴じゃ結果は見えているようなものだけど」

「やっぱりねー……ほら、見てなさい。今にもドアが吹き飛ぶくらいどっかーん、って豪快に―――」

 

 千春がそう言いかけた瞬間である。爆音と爆風が二人のいるはずの空き教室のドアを思い切り吹き飛ばしたのは。耳を劈く音に驚いた四人はその場に咄嗟にしゃがみ込む。

 

「なっ……何が起きたんですか?」

「わかんない。でも嫌な予感がする!!」

 

 何が起きたのかはわからない、だが、これが決して安心できる事態ではないということはわかる。遊希たちはその部屋にいるであろう鈴とエヴァの無事を確かめるべく、急ぎその部屋へと駆けつけた。遊希たちが部屋の中に入ると、物が散乱し、土埃の舞う部屋で倒れている鈴とエヴァの姿があった。

 

「鈴!!」

「エヴァ!!」

「エヴァさん!!」

 

 竜司と千春・皐月がそれぞれ倒れている鈴とエヴァの下に駆け寄った。竜司に抱き抱えられた鈴はうめき声のような声をあげながらゆっくりと目を開く。気を失ってしまっているエヴァと違って鈴にはまだ意識があるようだった。

 

「あ……パ……パ……」

「鈴、どうした!? いったい何が……!!」

 

 竜司が鈴に何が起きたのか問いただそうとし、千春と皐月が倒れているエヴァに駆け寄っているその間―――遊希はただ一人教室の入り口で呆然と立ち尽くしていた。

 

「嘘……なんで……どうして……」

 

 両手で口を押える遊希の顔はまさに顔面蒼白という言葉が似合うほど青白くなっていた。彼女は目の前で起きている光景が受け入れられなかったのだ。そんな遊希を美しい双眸で見据えた遊望はにっこりと遊希に微笑みかける。傍からみれば一人の美少女の微笑みとして、とても美しいものだろう。しかし、遊希からしてみればその微笑みは何よりも彼女の心を乱すものとなっていた。

 

「ちょっと、遊希! どうしたのよ! そんなところに突っ立って……」

「ありえない……そんな……ありえない……だって……」

「ありえないって、いったい何がですか?」

 

 混乱する遊希を見た竜司が彼女の視線の先にあるものを確認する。すると遊望の顔を見た竜司もまた遊希と同じように信じられない、といった顔を浮かべる。そんな二人に構うことなく、遊望は変わらず笑みを見せていた。そして、遊希たちの混乱も収まらぬ彼女は耳を疑う言葉を口走った。

 

 

 

 

 

 

―――あれからもう5年になりますか。ますますお美しくなられましたね。私も誇らしいです。

 

 

 

 

 

 制服のスカートの裾を両手でつまみ、片方の膝を軽く曲げて背筋を伸ばしたまま少しばかり身を屈める。遊望はヨーロッパの伝統的な女性の挨拶であるカーテシーを鮮やかにしてみせた。その立ち居振る舞いは動揺して壊れたラジオのようにそんな、やなんで、などとぶつぶつとうわ言のように同じ言葉を繰り返す遊希とは正反対であった。

 

「5年……?」

「5年前って……確か……」

 

 千春と皐月は前に遊希から聞いた話を思い出していた。今から5年前に起きた遊希の人生を大きく変えたあの出来事のことを。そして遊望の顔をじっくりと見て彼女たちもまた、何故遊希が動揺しているのかを察した。本来起こり得ないはずのことを。

 

「ねえ遊希!? ま、まさかあの子って……!!」

 

 遊希は何も言わずに頷くと、小さく、消え入りそうな声で呟くように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――天宮 遊望(あまみや ゆみ)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――5年前に命を落とした、私の……妹―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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聖夜の悲劇

クリスマスにこんな話を更新していくスタイル。
ちなみに私のクリスマスプレゼントはメ◯カリで落札した銀河眼の残光竜×2でした。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は12月24日。世間的にはクリスマスイブにあたるこの日、少しばかり慌ただしいホテルのロビーで一人の少女が電話をかけていた。その少女は年齢にして10歳前後のまだ幼い少女である。彼女はとある理由で家族と別れ、一人遠く離れたヨーロッパの島国・イギリスへと来ていた。

 

「うん……クリスマスにはそっちに帰るから。うん、わかった。じゃあ待っててね? あっ、ケーキと七面鳥は残しておいてよね? うん。じゃあね」

 

 そう言って少女は電話を置いた。電話を置いた少女はふぅ、と小さくため息をつくと、両手で小さくガッツポーズを作る。そんな少女の頭をいつの間にか後ろに立っていた一人の男性がぶっきらぼうにぐしゃぐちゃと撫でまくった。

 少女はやめて、と連呼しながら振り返り、その男性の脛を思い切り蹴り飛ばす。そこは所謂“弁慶の泣き所”という場所であり、どのような豪傑でも脛を蹴られると思わず涙を流してしまう場所なのだ。男性はうめき声をあげながら、その場所を右手で摩っており、その様を少女は口をとがらせてみていた。

 

「いてて……思いきり蹴るなよ」

「雄一郎さんが悪いんですよ! もう、セットした髪の毛がぼさぼさに……」

「いいじゃねえか。これから日本に帰るんだろ? 飛行機の中で寝てるうちに寝癖になるって!」

「な・り・ま・せ・んー!」

 

 少女は顔を真っ赤にして怒るが、男性が口元でしーっ、と言うと両手で口を抑えて黙り込んだ。公共のスペースで大の大人と少女が喧嘩となると要らぬ注目を集めてしまうからだ。一部界隈では有名人である二人はそういうゴシップ誌の餌になる真似は避けたかった。

 

「悪い悪い。いや、お前が珍しく嬉しそうにしてるからちょいと気になってな」

「もう、私が嬉しそうにしちゃいけないんですか?」

 

 膨れっ面を浮かべる少女に対して、頭をペコペコと下げる男性。そんな彼らにまた別の男性二人が声をかけてきた。一人は少女や男性と同じ日本人の優しそうな男性であり、もう一人は背が高く細身の白人男性であった。

 

「雄一郎、あまり遊希ちゃんをからかっちゃ駄目だろう?」

「悪かったって。でも時折からかいたくならないかこいつ?」

「まあ気持ちはわかるけどね」

「竜司さんも納得しないで下さいよ……」

「どうでもいいだろうそのようなこと……ところで天宮くん、君はこれから日本へ帰るのか?」

「はい。もう今年のプロリーグの試合は終わりましたし、年末年始は家族と過ごしたいので……今から帰ればクリスマスには家に帰ることができそうです」

「そうか。それにしてもお前たちの母国である日本には神道というものがあるのにキリスト教の祭りであるクリスマスを祝うのだな」

「日本は良くも悪くも捉われない国でね。お正月には神社にお参りをし、法事はお寺で行い、秋にはハロウィンで仮装し、冬にはクリスマスを祝うものだよ」

「人によっちゃあ、きっちりラマダンまでやるし川で沐浴だってするぜ」

「凄い国だな日本は。まあそういう国だからこそ、お前たちのようなプロデュエリストが育つ土壌になるのかもな。星乃 竜司、藤堂 雄一郎……そして、天宮 遊希」

 

 白人の男性ことミハエル・クリストフは両腕を組んでは感心した様子で頷く。彼に面と向かって褒められた三人は何処か照れ臭いようで、一様に頭の後ろを掻いていた。そんな時、遊希は腕時計の時間を確認する。搭乗する飛行機のフライトの時間まであと2時間ほどであり、そろそろホテルを出て空港に向かわなければならなかった。

 天宮 遊希―――彼女はわずか7歳でプロデュエリストとしてデビューを果たすと、彼女だけが持つと言われる特別なデッキ【ギャラクシー】を駆使して瞬く間に世界的なプロデュエリストとなった。

 デュエルの時は勇ましくまた年齢に似合わぬ強さを誇る彼女も、デュエルディスクを置けばおっとりとした心優しいまだ10歳の少女である。竜司たちが保護者代わりになってくれているとはいえ、最愛の両親と自分を慕ってくれている妹ら家族三人と離れて暮らすというのは精神的に負担をかけるものとなっている。そのため、少しでもまとまった休みが取れれば日本へと帰り、家族との時間を過ごすようにしていた。

 

「あっ……もう行かないと」

「そうか、気をつけてな」

「道中の無事を祈る」

「お父さんお母さんに宜しく言っておいてね」

「はい! それでは……また!」

 

 少女は着替えや貴重品、デッキやデュエルディスクを入れたトランクを引いて元気よく駆けていった。ホテルの前に待たせてあった送迎の車に乗り込むと、すぐに日本に帰る飛行機の出る空港へと向かった。道中事故や事件などのアクシデントが無ければ遊希は明くる25日、すなわちクリスマスには日本の成田空港に到着する。

 空港に着く頃には両親が迎えの車を出してくれることになっており、その車で実家へ帰り、年末年始の微かな休みを家族と共に過ごすのだ。遊希は空港へ向かう車の中でその間何をして過ごすかの計画を立てていた。

 

「えーと……みんなとの話と、プレゼントとごちそうと……」

 

 帰ってからしたいことを指折り数える遊希。竜司や雄一郎、ミハエルらプロデュエリストの仲間との日常やプロリーグでの活躍など、離れていた間のよもやま話をするのはもちろんのこと、クリスマスツリーの飾りつけやサンタクロースから届いているであろうプレゼントを開封しては妹と仲良く遊ぶのだ。

 大晦日は家族で祖父母のお墓参りに行って、帰りにファミリーレストランで外食をする。夜には格闘技を見たがる父、歌合戦を見たがる母、バラエティを見たがる遊希、アニメを見たがる妹とチャンネル争いをしながら、年越しそばを食べる。去年は寝落ちしてできなかった年越しの瞬間を家族四人で過ごすことも忘れてはならない。

 今年はお年玉幾ら貰えるだろうか、初詣でおみくじを引いて大吉を引けるだろうか、おせち料理の伊達巻をお腹いっぱい食べれるかな、書初め上手になったかな―――考えれば考えるほどやりたいことが浮かんでくる。遊希は今、とても幸せだった。

 

 

 

 

 

―――そんな希望に満ち溢れた彼女が絶望に突き落とされるのはそれから約12時間後。成田空港に降り立った彼女を迎えに来ているはずの両親がいつになっても一向に現れないのだ。空港のロビーのソファに座りながら遊希は待ち続けた。そして彼女の下に飛び込んできたのは「両親の死」という10歳の少女にはあまりにも残酷すぎる報せだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜司、雄一郎、ミハエルは年明け間近までロンドンに滞在する予定だった。しかし、彼らは遊希からの連絡を受けてすぐに日本へと向かうことになった。

 遊希から話を聞いた当初は冗談を言うな、と電話越しに激怒した竜司であるが、そもそも遊希がそんな冗談を言う少女でないことは外ならぬ彼が一番理解していた。竜司は雄一郎に頼んで日本の警察に事の子細を教えて貰うように依頼した結果、遊希の言っていたことが事実であることがわかった。

 

「……それは本当か? 質の悪い冗談ではないのか!?」

 

 その話を二人から聞いたミハエルは椅子から飛び上がるようにして立ち上がった。ついこの間まで遊希が両親と電話で会話していたのを知っている。それが何故こんなことになるのか、と普段は平静な彼が珍しく取り乱していた。

 

「冗談じゃない。遊希ちゃんのご両親が……亡くなられた」

「そんでもって幼い妹さんは行方知れずだってよ。あいつは、遊希は今ひとりぼっちだ」

「……二人はすぐに日本に戻るのか?」

 

 竜司と雄一郎は何も言わずに頷いた。ミハエルはそうか、と一言だけ言うと彼も同行する意志を伝えた。竜司にも雄一郎にもミハエルにもそれぞれ家族がおり、夫として父親として戻るべき家がある。それでも彼らは遊希を支えることを選んだ。

 デュエリストとしての彼女は大人である自分たちも舌を巻くほどの実力を持ち、若干10歳でプロリーグという戦場を戦う彼女には常に敬意を持って接している。しかし、この三人が遊希を気遣うのにはそんな彼女の本性にあった。

 それは遊希がプロデュエリストとしてデビューしたばかりの頃である。竜司からとんでもない新人が出たよ、という話を聞いていた雄一郎とミハエルは遊希との初のデュエルで苦戦しながらもなんとか勝利を収めていた。その直後に竜司を介して四人で食事をする機会があり、宿泊しているホテルのレストランへ向かったのだが、雄一郎とミハエルは驚愕した。

 

「あ、あのっ……今日は、ありがとう……ございました」

 

 その時出会った遊希はデュエルの時に対峙した勇ましい少女ではなく、何処にでもいる普通の少女だったのだ。当時7歳ながらその美貌は10年経てばハリウッドスターやパリコレモデルに匹敵する可能性を秘めていたが、そんな美少女の素顔は他人と目を見て話すことができなかったり、事あるごとに緊張で声を上ずらせたり、出されたピーマンやニンジンが食べれなかったり、と見ていてハラハラして仕方のない少女だったのである。

 プロの世界ともなれば表舞台こそ華々しいものであるが、プロというものになる以上どうしても利権や金銭が飛び交うのが実情であり、彼女にはそんな大人の汚い世界には染まり切ってほしくなどなかった。それならばせめて可能な限り自分たちの手で遊希を守っていこう。三人は自然と彼女を気遣うようになっていた。

 最初は人見知りな性格もあって中々心を開かなかった遊希であったが、いつだって優しく暖かい竜司、まるで同年代の悪ガキのように接してくる雄一郎、厳しいながらも的確なアドバイスをくれるミハエルという三者三様の大人たちに囲まれた彼女はデュエルそして私生活を通して徐々に心を開いていったのだった。

 

「正直俺たちが彼女にできることは限られている。でも彼女を支えてあげるだけでも何かの支えになるはずだよ」

 

 竜司のその言葉にプロの世界で20年以上生きてきた三人は改めて結束を誓った。まず、何をするにも情報は大切である。そのためホテル、空港、機内と場所を移しながら彼らは集められるだけの情報を集めようと奔走た。

 幸い雄一郎が藤堂グループの社長も兼任しているということもあって各国のメディアや企業に顔が利く。それが功を奏して日本に着くまでに事件のことが次々と竜司たちの耳に入ってきた。竜司たちは今遊希が受けていると思われる目を覆いたくなるような事態に彼らは言葉を失った。

 日本の警察およびマスコミ各社からオフレコで伝わってきたのは天宮家の人々が雪の降るクリスマスイブに何者かの襲撃を受けたということである。前々から世界で遊希だけが持っている「デュエルモンスターズの精霊」という力を狙って世界中のマフィアが暗躍していることは裏で聞いていたが、竜司たちやプロリーグを統括する組織によって遊希に護衛がついていたこともあって、マフィアたちは彼女に手を出せないでいた。しかし、痺れを切らした一部のマフィアが遊希本人ではなく家族に手をかけるという凶行に走ったのである。

 

「一体どこの誰がこんなことを……」

 

 このことが明らかになるのはしばらく後のことなのだが、彼女の家族に狙いを付けたのは極東アジア地域に最大の縄張りを持つマフィアだった。マフィアたちは雪の降るクリスマスイブに都市部から離れた郊外にある遊希の家を襲っては遊希の両親を銃殺。タバコおよび料理による失火によって発生した火災が原因、と殺害を偽装したのである。

 ただ、警察の調査およびマスコミの報道によると死亡が確認されたのは遊希の両親だけであり、7歳になる彼女の妹・遊望は行方知れずだともわかった。遊希の両親は彼女だけでも助けようとして、事前に彼女だけを逃していた。そのため彼女だけはマフィアの襲撃を逃れられたと思われるが、それでも当時は雪の降る夜であり、7歳の少女が一人で外出したとなれば遭難してしまっているという恐れもある。いずれにしても無事を確認できていないのが現状だった。

 

(……遊希ちゃん、どうか気をしっかり……)

 

 竜司たちが遊希の待つ県へと着いたのは事件発生から四日後のことであった。最初は警察署に保護されていた遊希だったが、彼女は帰ってきてから何も口にしようとせず、疲労と栄養失調で倒れてしまい、地元の大学病院へ入院していた。

 病室を訪れた竜司たちが見たのはすっかり憔悴しきった遊希だった。美しい黒髪はぼさぼさになり、目の下には濃い隈が現れ、数日間泣き腫らした目はまるでホオズキのように真っ赤に染まっていた。

 

「遊希……ちゃん」

「……あ、竜司……さん……? りゅうじさん……!!」

 

 ベッドの上から窓に映る景色をぼーっと眺めているだけだった遊希であるが、竜司たちが来たとわかった瞬間、大粒の涙を流して竜司に抱き着き、狂ったように泣きじゃくった。その様を目の当たりにして普段は明るい雄一郎も、何ごとにおいても冷静なミハエルも遊希に慰めの言葉すらかけてあげることができなかった。

 年が明け、竜司たちが戻ってきてから少しずつであるが遊希の体調は回復の兆しを見せていた。しばらくは寝たきりが続いていた遊希だったが、病院内を散歩するくらいのことはできるようになった。幸い病院側がマスコミをシャットアウトしてくれていたため、遊希が直撃取材を受けるということはなかったものの、病院の周囲には取材陣が毎日のように陣取り、上空を報道ヘリがバラバラとローターの音を響かせる日々が続いた。

 

「……あいつらうっさいな。プライバシーってもんを知らねえのかよ」

「日本のマスメディアというものはだいぶ節度がないのだな」

「それが彼らの仕事だ、仕方ないよ。それよりも……事件の捜査は進んでいないのかい?」

 

 竜司たちはここのところ病院近くのホテルに連泊して遊希の面倒を見るようにしていたが、それでも彼らがここに滞在できる時間も残りわずかとなっていた。

 表向きには警察の捜査は進んでいると報道されているが、実はそう上手く行っていないのが現状だ。裏では犯人がそのマフィアであることを掴みつつあったのだが、そのマフィアは彼らの拠点がある国の政府に近づき、政府を通して圧力をかけてきているという。

 現在の政権与党はこの事件を受けてその圧力に屈してはならないという姿勢を取っているが、その政権を追い落としたい野党にそれに連なる市民団体と一部マスメディアが結託して遊希の名を出しては政府および警察の批判を行い始める始末であった。

 

「なるほど……これは推測だけど、恐らく裏で手を引いているのは諸外国の政府だろうね。僕や雄一郎、遊希ちゃんのようにプロデュエリストを多く輩出したことで危機感を感じているのかもしれないな」

 

 あくまで推測であるが、と付け足した竜司は表情を変えぬまま、空になったお茶の缶を強くテーブルに叩きつけた。もしその推測が事実であるとすれば、そんなくだらないことのために10歳の少女から家族という掛け替えのない存在を奪ったことになるのだから。

 やりきれない思いが三人を包み込む中、病院のロビーを一人の若い女性看護師がやってきた。病院にはお年寄りもいるのに走り回るのは危ないだろう、と思っていたがそんな看護師は息を切らし、肩で息を整えながら竜司たちに伝えた。

 

 

 

―――行方不明だった遊望が発見された、と。

 

 

 

 警察の捜索の結果、遊望は発見されたという。一瞬だけ良かった、と胸を撫で下ろす3人であったが、すぐに気付いてしまった。警察からの報告では発見された、とだけしかなく、その中に“無事”という言葉が無かったからだ。聞き違いもしくは伝え忘れであってくれ、と願ったがそれは最悪の結果となってしまった。

 母親の手で一人マフィアの魔の手から逃げ出せた遊望であったが、雪の降る中、闇に包まれる山を彷徨い歩いたと思われる彼女は寒さによってそこで力尽き、そのまま7年という短く儚い命を終えた。

 野生動物にその亡骸を食い散らかされなかったのは不幸中の幸いであり、警察の霊安室に運ばれた彼女の亡骸はまるで人形のように美しいままであった。血の色が消え、不気味なほど真っ白になったことを除いては。

 

「……ゆみ……? ゆみ……おねえちゃんだよ? ねえ、おきて。おきてよ……ゆみ!!」

 

 警察から遊望が発見されたことを聞いた遊希は病院を飛び出して警察署へと駆けつけた。遊希は何度も遊望の名を呼びながら、もう二度と応えてくれない、氷のように冷たくなった妹を抱きしめた。

 大人しくおっとりとした姉と明朗快活でいつでも元気いっぱいな妹。性格が真逆の二人であったが、姉妹仲はとても良く、七五三の時には美人姉妹として地方紙の一面を飾ったほどの美少女姉妹。嬉しい時は共に笑い、悔しい時は共に怒り、悲しい時は共に泣き、楽しい時は共に笑った。いつでも自分の後をついてくる妹に姉は精一杯の愛情を送り、そんな優しい姉を妹はいつだって尊敬していた。両親だけではなく、そんな妹までもが命を落としてしまったのである。10歳の少女の心を砕くには十分すぎるほどの衝撃であった。

 両親、そして遊望の死を受けて遊希はプロデュエリストを引退することを表明。表舞台からは姿を消し、彼女と関われるのは竜司たちだけとなってしまった。やがて遊希はそんな竜司たちとも接することを拒み始め、最後まで彼女を支えようとした竜司もまた遊希は自ら遠ざけたのだ。

 

「遊希ちゃん……」

「竜司さん。もう、来ないで下さい。私は……親と妹を殺した犯罪者ですから」

「そんな……!」

「みんな言っています。天宮 遊希が精霊を持っていたから。プロになって有名になったから両親と遊望は死んだ、って」

 

 この頃遊希を親殺し、妹殺しという根も葉もない噂が襲っていた。もちろんそれは真っ赤な嘘であるのだが、嘘も100回言われれば真実になるとはよく言ったもので、マスコミの報じることが真実、という誤った認識を持った人々の悪意が傷ついた彼女の心に止めを刺した。

 

「バカなことを言うな! 君は何も……!!」

「じゃあなんでお父さんとお母さんと遊望は死んでしまったんですか!! なんで……なんで……なんで……!!」

 

 泣きじゃくりながら竜司に縋りつき、彼の胸を叩き続ける遊希。竜司はそんな彼女をただ抱きしめてやることしかできなかった。

 

「……お願いします。もうそっとしておいてください。私と関わると……竜司さんや蘭さん、鈴ちゃんにまで迷惑をかけてしまうんです。おねがいします……」

 

 竜司は遊希の意を汲むことにした。それから直接会うことは無くなっても定期的に電話やメールなどで会話は続けており、やがて5年後に彼女をデュエルアカデミア・ジャパンへと迎え入れることとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで、なんで死んでしまったはずのあなたが生きているの? 遊望?」

「……」

 

 姉の問いかけに妹は何も答えなかった。遊希はさらに話を続ける。

 

「ごめん、今凄く混乱してる。でもね、2つだけ。言いたいことがあるの。まず1つ目、どんな形であってもあんたと再会できたこと、おねえちゃんとっても嬉しかった」

 

 普段の遊希がまず見せないような穏やかな微笑み。それはまさに愛しい妹を見る姉の顔だった。しかし、その顔はすぐに崩れ、やがて遊希の顔は怒りと戸惑いが混ざったような顔へと変わる。

 

「そして2つ目……あなた、鈴とエヴァに何をしたの?」

 

 実際そうではないのだが、常々自分のせいで死んでしまったと思っていた妹がどのような形であれ自分の前に現れたということは遊希にとっては喜ばしいことだった。それでも、そんな最愛の妹が自分の親友2人を傷つけたとあれば話は変わってくる。

 

「何をするも……ただデュエルをしただけですよ? 私も一応デュエリストです。デュエリストがデュエルをするのに理由が必要なのですか?」

「そうね。デュエリストに何故デュエルをする、と尋ねるほど無駄なことはない。でも私が聞きたいのはそこじゃない。どうしてそのデュエルで鈴とエヴァは傷ついているの?」

「……お姉さまもわかっているはずです。デュエルにおいてデュエリストの身体に直接ダメージが行く。その理由を」

 

 遊希の脳裏にはある二文字が浮かんだ。この世界において自分やエヴァ、そして以前綾香たちを操って手駒にした髑髏の仮面が持っていると思われるもの。

 

「“精霊”……」

「私にもその精霊の力が根付いております。一度命を落としたはずの私がここにいるのも、その精霊のおかげなのですから」

「……まさか、精霊の力で蘇ったとでもいうの!?」

「さすがお姉さま、理解が早いですね。ですが50点といったところです。私の思考、意志、記憶……それら精神的な面は元の天宮 遊望のものと言っていいでしょう。ですが……この身体および力は……天宮 遊望および人間のものではありません」

 

 そう言って遊望はツーサイドアップのヘアスタイルを形成していた頭のリボンを全て解いた。結ばれていた髪がストレートになる瞬間である、彼女の美しい黒髪は瞬く間に銀色の髪へと変化した。

 

「その髪は……」

「せっかくです。今の私の全てをお見せ致します」

 

 そう言うと遊望は胸の前で両手を合わせる。次の瞬間、彼女の身体は眩い光に包まれ、その姿を全く別のものへと変えた。銀色の髪と遊希に近い雰囲気の顔つきはそのままに、彼女の後ろからは紫色に輝く機械的な翼と尻尾が生えてきたのだ。

 

「―――今の私は人に非ず。私、天宮 遊望は人として死を迎えた後、デュエルモンスターズの精霊として新たな命を享けたのです。お姉さまの銀河眼の光子竜、エヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトと同じ、いやそれ以上の力を持つデュエルモンスターズの精霊となって―――」

「精霊……」

「そう。そして精霊となった私は……行動に移しました。その一例が、これです」

 

 遊望の手には光が集まり、あるものを形成する。それを見た遊希は言葉を失った。

 

 

 

 

 

「―――お姉さま、見覚えありますよね? この……髑髏の仮面」

 

 

 

 

 

 遊望はそう言いながら作り出した髑髏の仮面を顔に付けてみせた。銀色の髪に髑髏の仮面―――竜司と雄一郎、ならびに雄一郎と桜の親子の絆を、エヴァとジェームズの恋心を、遊希と鈴・千春・皐月の友情を。それらを汚く弄んだ、遊希にとって決して許すことのできない存在がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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姉として

鈴「そういえば、パパが使ってみたいカードがあるんだって」
遊希「そうなの? どんなカード?」
鈴「それがそのカードがどんなカードか忘れちゃったんだって」
遊希「カードの名前忘れるってどうなのそれ? 竜司さん大丈夫?」
鈴「色々聞いてみたんだけど思い出せないんだって」
遊希「じゃあその聞いてみたカードのことを教えてちょうだい? 一緒に考えてあげるから」
鈴「えっと……デッキ融合で簡単に出せるカードって言ってた」
遊希「《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》じゃない? その特徴は完璧にドラグーン・オブ・レッドアイズよね? すぐわかるわよそんなもの」
鈴「うん、あたしもそのカードだと思ったの。でも真紅眼融合と《ブラック・マジシャン》と《真紅眼の黒竜》を使わない【青眼】デッキで出せるカードなんだって」
遊希「じゃあ違うわね。ブラック・マジシャンと真紅眼の黒竜、そして真紅眼融合を使わないでドラグーン・オブ・レッドアイズは出せないわ。もうちょっと詳しく教えてくれるかしら?」
鈴「なんで《ドロドロゴン》で代用できるかもわからないんだって」
遊希「いやそれ完璧にドラグーン・オブ・レッドアイズよね? ドロドロゴンでブラック・マジシャン指定して《青眼の亜白龍》とか《太古の白石》を素材にすれば出せるわよね?」


なんで《真紅眼融合》も《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》も入れていない【魔術師】とかで出せるんですかねあのカード


 

 

 

 

 

 

 遊望の作り出した髑髏の仮面を見た遊希は言葉を失った。まるで掘りを泳ぐ鯉のように、口を開けたり閉めたりすることしかできなかった。鈴を、千春を、皐月を操った髑髏の仮面の正体が自分の妹である、という事実など到底受け入れられないし、受け入れたくなかったのである。

 

「信じられない、という顔をされていますね。ですが、全て事実なんです」

 

 それだけ言って遊望はこれまで自分が行ってきたことを事細かに話し始めた。とある強大な力を持ったデュエルモンスターズの精霊と融合し、精霊として生まれ変わった自分の身体が馴染むのに5年の時を要したため、すぐに行動に移すことはできなかった。

 しかし、精霊の持つ驚異的な力を完璧に自身のものにした遊望はまさにその精霊という生き物の本能がままに動いた。まず最初に彼女が取ったのは、両親を手にかけたマフィアたちへの復讐であった。

 マフィアたちは遊望の死をニュースで知っていただけに、死んだはずの遊望が目の前に現れたことはかなりの驚きようだったという。彼らは奇声を上げながら銃や刃物で遊望を襲ったのだが、精霊となった遊望にそんなものが通じるわけがない。

 彼女は精霊の持つ力を解放し、今と同じ姿になるとマフィアを一人、また一人とその爪で引き裂いていった。精霊となった遊望がマフィアたちを皆殺しにするまで1時間もかからなかった。事が事なので公にはならなかったものの、マフィアの一グループが丸々壊滅させられたことは世界中の裏社会に衝撃を与えたという。

 

「まあそんなことはどうでもいいことですね」

(どうでもいい……? 人の命を……奪うことが……?)

 

 遊望はもちろん遊希にとってもそのマフィアたちは家族の仇である。それでも大多数の人間を殺して回ったことをどうでもいいの一言で片づける遊望に千春と皐月は恐怖する。

 

「その後は……この髑髏の仮面を作ってアメリカにあるI2社にお邪魔しました」

「I2社……」

 

 髑髏の仮面と黒いローブで身を隠した遊望はアメリカにあるI2社の本社へと侵入、幾重にも張り巡らされた警備をすり抜けてカード保管室へとたどり着いた。そこで彼女は数枚カードを物色し持ち去った。

 鈴が使った【紋章獣】、千春を暴走させた【三幻魔】、皐月を弄んだ【三邪神】、エヴァの恋人・ジェームズを凶行に駆り立てた【地縛神】。本来世に出回っているはずのないそれらのカードを全て奪い取ったのは遊望だったのだ。

 

「私は奪い取ったカードに力を与えました。元々そうなる素養を秘めていたとはいえ、使用者にあれだけの力を与えるカードとは思っていませんでしたが」

 

 そう言って遊望は美しく、かつ不気味な微笑みを鈴、千春、皐月の三人に向けた。遊望はまずアカデミアの学生に化けて鈴をデュエルで倒し、精霊の力を植え付けた【紋章獣】デッキを渡して自らの手駒にした。

 そんな鈴は遊望の思うがまま動き、千春と皐月をデュエルで破った。二人にも同様に遊望は精霊の力を植え付けた【三幻魔】デッキと【三邪神】デッキを渡し、同じように自らの手駒にしたのである。

 

「……あんたが……あんたが私たちを……!!」

「どうでしたか? 私に操られるがまま学友を次々と手にかけた気持ちは?」

「っ!?……」

 

 千春と皐月に操られている当時の記憶はほとんどない。遊希から聞いた話だけでも罪悪感に苛まれていたため、首謀者である遊望の言葉に千春も皐月も返すことはできず、共に悔し涙を流すことしかできなかった。

 

「まあ、覚えていないでしょうからわからないでしょうね」

「どうして私たちを……」

「……私としてはお姉さまとあなたたちの仲を割くことが目的でした。私の望みを果たすためにはどうしてもお姉さまの周りには人が多すぎたので」

 

 遊望は何も酔狂でこういったことをしていたわけではない。それでも今彼女が何故このようなことをしたのか、を考えていられるほど遊希に余裕はなかった。遊希は遊望が話をしているのにも関わらず、立ち上がるとポケットサイズに折りたたまれていたデュエルディスクを展開し、腕につける。

 

「お姉さま……何のつもりですか?」

「……見てわからないの?」

「もしかして私とデュエルをするつもりですか? このようなことを言うのもなんですが、お姉さまが今の状態で冷静なデュエルができるとでも?」

 

 竜司は遊希をそうさせている張本人がどの口で言うのか、と思ったが実際問題今の遊希の心理状況はかなり逼迫していると言ってもいいだろう。彼女の中には遊望と会えた喜び、そんな遊望が全ての事件を裏で操っていた黒幕であるということを知った焦り、鈴たちを傷つけられた怒りなど様々な感情が混沌としていたのである。

 そんな心理状況ではいくら遊希ほどの腕を持つデュエリストであっても正常な判断を下せるわけがない。それを取り分け感じていたのは今、遊希に最も近い存在である光子竜であった。

 

―――遊希。

(……黙って)

―――今のお前に……いつものデュエルができるのか?

(黙れって言ってるのが聞こえないの!?)

―――……

(お願い。しばらく黙っていて)

 

 遊希の意志は固かった。光子竜は彼女に言われた通り、彼女に干渉することを控えることにした。

 

「遊望」

 

 遊希が遊望の名前を呼ぶ。先ほどまで微笑を浮かべていた遊望の顔からはその微笑みは消えていた。

 

「あんたは道を違えた。姉として、私はあんたを倒さなければいけない」

「倒す……そうですね。私もいずれこうなることは覚悟していました。私の手でお姉さまを手にかけなければいけないということを」

「……その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ。精霊になったかどうか知らないけど―――私の手であんたを地獄へ送り返す。それが、姉としてできる最期の優しさよ!!」

「地獄ですか。お姉さま知っています? 地獄って……そんなに悪いところじゃないみたいですよ? うふふっ」

 

 遊希と遊望。彼女たち姉妹がこのような形で対峙するとは誰が予想できたであろうか。精霊を宿す者同士のデュエルとあって、二人がデュエルディスクを構えた瞬間、閉め切られているにも関わらず部屋には何処からか風が吹き始める。

 光子竜は精霊そのものとなった遊望とはまた違った精霊の存在を感知していた。それでもその精霊の正体までは見極めることができずにいた。だが、光子竜はその精霊らしき存在から力以外にもまた別の波動を感じていた。

 

―――なんだ……なんだこの波動は。

 

 光子竜の心には得体のしれない波動に対する動揺が生まれていた。そんな彼の動揺を知る由もないまま、遊希と遊望のデュエルの火蓋が切って落とされた。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:遊望【ドラゴン族】

後攻:遊希【光子銀河】

 

 

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤)0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤)0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(遊望)

 

「さて、他の皆様には先攻を譲っても絶対に勝てるという自信はありましたが……お姉様相手にはそうさせるわけには行きません」

 

 先攻後攻の決定権を得た遊望は、躊躇することなく先攻を取った。ただ、遊希同様に大型のドラゴン族をデッキに多数採用している遊望のデッキも先攻が強い訳ではない。

 

「なんでもいいわ、とっとと始めなさい」

「ではそうさせて頂きます。私は手札より魔法カード、トレード・インを発動します。手札のレベル8モンスター1体をコストに2枚ドローします。螺旋竜バルジをコストに2枚ドローします」

 

 先攻は最初のターンはドローすることはできない。そんな先攻ドロー不可というルールの弱点を補うためのカードが遊望のデッキには大量に投入されている。レベル8のモンスターを多く採用している遊望のデッキはトレード・インは必須と言えるカードの1枚であった。

 

「さらに手札から魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動します。手札1枚をコストにデッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体まで手札に加えます。私が手札に加えるのは闇黒の魔王ディアボロスと―――銀河眼の光子竜です」

「銀河眼の光子竜ですって!?」

―――……遊希、落ち着け。確かに彼女の持つカードは私のカードだが、あれは所詮カード。中身のない抜け殻のようなものだ。

 

 確かに精霊・銀河眼の光子竜は遊希の下にしかおらず、遊望の持つ銀河眼の光子竜はあくまでカードでしかない。それでも自分と共にあり、数多の困難を乗り越えてきた光子竜が敵に回るというものは遊希にとってはやはり気分のいいものではなかった。

 

「どこで光子竜のカードを手に入れたかは知らないけど、私は銀河眼の光子竜というカードを知り尽くしている。そんなカードで挑んで勝てると思ってるの?」

 

 遊希はハッタリをかけてみる。遊望にそれが効くかどうかなど考えている場合ではなかった。そんな中、遊希を案ずる声が後方から届く。

 

「ゆ……うき……! ダメ、油断しないで!!」

「鈴!?」

「鈴、大丈夫か?」

「パパ……あの子は……あの子は……」

「大丈夫だから、鈴。仇は取るから横になっていて」

 

 竜司に介抱されていた鈴がゆっくりと起き上がる。デュエルに敗れたばかりの彼女は満足に動けないようであったが、エヴァが意識を失ってしまっている今、デュエルで何が起きたのか、そして遊望のデッキがどのようなものなのかを唯一知る人間であった。

 

(あの子のあの格好……やっぱりあれは遊望……)

「私は手札の星雲龍ネビュラの効果を発動します。このカードと手札の闇黒の魔王ディアボロスを相手に見せることで、その2体を守備表示で特殊召喚します。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、この効果の発動後、ターン終了時まで私は光・闇属性のドラゴン族モンスターしか召喚・特殊召喚できなくなります」

「重いデメリットが付くとはいえ、強い効果ね……」

「更に墓地の螺旋竜バルジの効果を発動します」

 

《螺旋竜バルジ》

効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2500

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドに光・闇属性のドラゴン族モンスターが2体以上存在する場合に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

(2):自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドの全てのモンスターのレベルはターン終了時まで8になる。

 

「このカードが手札・墓地に存在し、私のフィールドに光・闇属性のドラゴン族モンスターが2体以上存在する場合、このカードを守備表示で特殊召喚できます。この効果で特殊召喚に成功したこのカードはフィールドから離れた場合に除外されます」

「レベル8のモンスターが3体……」

「そして手札の輝光竜セイファートを召喚。私はネビュラとセイファートをリンクマーカーをセット。召喚条件はドラゴン族モンスター2体。サーキットコンバイン! 現れなさい《天球の聖刻印》」

 

《天球の聖刻印》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/ドラゴン族/攻0

【リンクマーカー:左下/右下】

ドラゴン族モンスター2体

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手ターンに1度、このカードがEXモンスターゾーンに存在する場合、自分の手札・フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。フィールドの表側表示のカード1枚を選んで持ち主の手札に戻す。

(2):このカードがリリースされた場合に発動する。手札・デッキからドラゴン族モンスター1体を選び、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

 

「そしてレベル8のディアボロスとバルジでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」

 

 

 

 

 

―――“闇に生まれし聖なる龍よ。神の影となりて、全てを導く鍵となれ”―――

 

 

 

 

 

―――《No.97 龍影神ドラッグラビオン》―――

 

 

 

 

 

《No.97 龍影神ドラッグラビオン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守3000

レベル8モンスター×2

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードは相手の効果の対象にならない。

(2):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。自分のEXデッキ・墓地から「No.97 龍影神ドラッグラビオン」以外のドラゴン族の「No.」モンスター2種類を選ぶ。その内の1体を特殊召喚し、もう1体をそのモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できず、この効果で特殊召喚したモンスターでしか攻撃宣言できない。

 

「No.……!?」

―――私のカードを持っているのだ。No.を持っていてもおかしくはない……

「ドラッグラビオンの効果を発動します。オーバーレイユニットを1つ取り除き、私のEXデッキから同名カード以外のドラゴン族Xモンスター2種類を選びます」

 

 ドラッグラビオンの咆哮と共に2枚のカードが浮かび上がる。いずれもNo.のカードであり、そのうちの1枚は遊希も所持しているカードだった。

 

「お姉様もこのカードの強さはよく知っているはずです。私はNo.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシーを特殊召喚し、もう1枚のカード《No.46 神影龍ドラッグルーオン》をタイタニック・ギャラクシーのオーバーレイユニットにします!」

「タイタニック・ギャラクシー……」

―――タイタニック・ギャラクシーは1ターンに1度、魔法カードの発動を無効にして自身のオーバーレイユニットに変える効果とオーバーレイユニットを1つ取り除くことで攻撃対象を自身へと変える効果を持っている……

「ドラッグラビオンの効果を発動後、私はモンスターを特殊召喚できず、この効果で特殊召喚したモンスターでしか攻撃宣言ができません。まあ、先攻なのでそう関係はありませんが……墓地のセイファートの効果を発動します。このカードをゲームから除外し、墓地の光・闇属性のドラゴン族モンスター1体を手札に戻します。ネビュラを手札に戻して……まあ、こんなものでしょうか? カードを1枚セットして、ターンエンドです♪」

 

 

遊望 LP8000 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:2、No.97 龍影神ドラッグラビオン ORU:1)EXゾーン:1(天球の聖刻印)魔法・罠(Pゾーン:青/赤)1 墓地:3 除外:1 EXデッキ:11(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤)0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

遊望

 □□□伏□

 魁□影□□□

  聖 □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

聖・・・天球の聖刻印

影・・・No.97 龍影神ドラッグラビオン

 

 

(タイタニック・ギャラクシーは言わずもがな、龍影神ドラッグラビオンは相手の効果の対象にならない。そして天球の聖刻印は相手ターンに自分の手札・フィールドのモンスターをリリースすることでフィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻すことができる……)

 

 攻守共に最高値は3000と遊希のデッキであれば上回ることは容易であり、また銀河眼の光子竜はその効果からXモンスターに強い。しかし、魔法カードによる全体除去を狙おうものならタイタニック・ギャラクシーで防がれ、大型モンスターを出そうものなら天球の聖刻印でバウンスされる。そして次のターンまでドラッグラビオンを残せば更に別のNo.モンスターをEXデッキから出されるリスクもあった。

 

(そして輝光竜セイファート……全部の効果は知らないけれど、1枚でランク8のX召喚ができる星雲龍ネビュラをサルベージされていて、遊望の手札の1枚はレベル8の光子竜)

―――遊希。

(……何よ)

―――頭は冷やせたか?

(……)

―――お前の気持ちはわかる、私も動揺を隠せない。だが、こんな時だからこそ落ち着いて事に臨むんだ。

(……うん。ごめんね、さっきはキツくあたって)

 

 妙にすんなり謝る遊希に光子竜はやはり違和感を感じていた。彼女の心理状況はやはりと言っていいか、安定はしていない。それならば自分が遊希を支えなければならないと光子竜は改めて誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『銀河の竜を駆る少女』2019年内の更新はこれで最後になります。本年中は大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願い致します。


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顕現する遊望の精霊


遊希(銀河眼の下級モンスターが来ますように)
鈴(青眼の下級モンスターが来ますように)
皐月(ヴァレットの使いやすいモンスターが来ますように)
エヴァ(スカーライト、およびレッド・デーモン系のS召喚がもっと楽に行えるカードが来ますように)

千春「サイドラの新規をくーださい! みんながドン引きするような~サイドラの新規をくーださい!」


新年あけましておめでとうございます(1月8日)。
今年も『銀河の竜を駆る少女』をよろしくお願いいたします。





 

 

 

 

 

 

☆TURN02(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

 

 遊希の手札6枚は後攻1ターン目としては必要なカードが十分揃っていた。しかし、それもタイタニック・ギャラクシーが存在しなければ、という前提であるが。

 

「手札から魔法カード《ライトニング・ストーム》を発動!」

 

《ライトニング・ストーム》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドに表側表示のカードが存在しない場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

●相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

「ふふっ、ライトニング・ストームですか」

「私は相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する効果を選択して発動するわ!」

 

 ライトニング・ストームは“自分フィールドに表側表示のカードが存在しない場合”に発動できるカードであり、重い縛りこそあれどサンダー・ボルトとハーピィの羽根帚の効果のどちらか1つを1枚で発動できるカードである。

 遊希のデッキは銀河眼の高い攻撃力での後攻ワンターンキルを狙いやすいため、先攻で場を固めた相手に撃ちこみやすいという点ではライトニング・ストームは彼女のデッキに合ったカードと言えるのだ。

 

(お姉様ほどのデュエリストならば、ライトニング・ストームすらも囮に過ぎないのでしょう。まあ、使わない理由はないですね)

「ライトニング・ストームにチェーンしてタイタニック・ギャラクシーの効果を発動します」

 

チェーン2(遊望):No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー

チェーン1(遊希):ライトニング・ストーム

 

「チェーン2のタイタニック・ギャラクシーの効果により、チェーン1のライトニング・ストームの発動を無効にし、ライトニング・ストームをタイタニック・ギャラクシーのオーバーレイユニットにします」

 

No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:3

 

「チェーン1のライトニング・ストームは無効。だけど、タイタニック・ギャラクシーの魔法無効効果はもう使えないわ」

「そうですね。ですが、私のフィールドにはまだドラッグラビオンと天球の聖刻印が存在しています。この2体の守りを超える方法が残り5枚の手札におありですか?」

「……魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動。フィールドにフォトン・トークン2体を守備表示で特殊召喚する。そして手札の銀河剣聖の効果を発動。手札のフォトンモンスター、フォトン・バニッシャーを相手に見せることでこのカードを手札から特殊召喚。そしてこの効果で特殊召喚に成功した銀河剣聖のレベルは見せたフォトンモンスターと同じレベルになる」

 

銀河剣聖 星8→星4

 

「そしてフィールドにフォトン、ギャラクシーモンスターが存在する場合、フォトン・バニッシャーは特殊召喚できる。特殊召喚に成功したフォトン・バニッシャーの効果を発動。デッキから銀河眼の光子竜1体を加えるわ。そして魔法カード、トレード・インを発動。レベル8の銀河騎士をコストに2枚ドロー」

「なるほど、タイタニック・ギャラクシーの効果を使わせないといけないわけですね。ライトニング・ストームさえなければこうはいかなかったものを」

「遊望は精霊の力を手に入れたようだけど、精霊なら私の方がずっと付き合いが長いのよ。甘く見ないでちょうだい」

―――だが、彼女が鈴やエヴァを倒したのは事実だ。油断は禁物だぞ。

 

 光子竜の言うように、今の遊望は鈴やエヴァを圧倒するだけの強さがあるのは疑いようもない事実だ。しかし、そもそも鈴を最初に操って手駒にできるだけの力を持っていることはわかっていること。それならば遊希は、例え可愛い妹であっても容赦する気などそうそうなかった。

 

「私はフォトントークン2体をリンクマーカーにセット! アローヘッド確認。召喚条件は“種族または属性が同じモンスター2体”! サーキットコンバイン! 現れなさい!《ユニオン・キャリアー》!」

 

《ユニオン・キャリアー》

リンク・効果モンスター

リンク2/光属性/機械族/攻1000

【リンクマーカー:右/下】

種族または属性が同じモンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードはリンク召喚されたターンにはリンク素材にできない。

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。元々の種族または元々の属性が対象のモンスターと同じモンスター1体を手札・デッキから選び、攻撃力1000アップの装備カード扱いとして対象のモンスターに装備する。この効果でデッキから装備した場合、ターン終了時まで自分はその装備したモンスターカード及びその同名モンスターを特殊召喚できない。

 

「ユニオン・キャリアー……厄介なモンスターをお持ちですね」

「ユニオン・キャリアー自身を対象にユニオン・キャリアーの効果を発動するわ。元々の種族または属性が対象のモンスターと同じモンスター1体を手札・デッキから選び、攻撃力1000アップの装備カード扱いとして対象のモンスターに装備するわ。私はユニオン・キャリアーと同じ種族、機械族のフォトン・オービタルを装備する!」

「ではユニオン・キャリアーのその効果にチェーンして天球の聖刻印の効果を発動します」

 

チェーン2(遊望):天球の聖刻印

チェーン1(遊希):ユニオン・キャリアー

 

「チェーン2の天球の聖刻印の効果。このカードがEXゾーンに存在する場合、私のフィールド・手札のモンスター1体をリリースすることでフィールドに表側表示で存在するカード1枚を選んで持ち主の手札に戻すことができます。私は天球の聖刻印をリリースし、ユニオン・キャリアーをお姉さまの手札に戻します」

 

 天球の聖刻印が放った眩しい光にかき消されるかのように、ユニオン・キャリアーの姿が消える。そして

力を使い果たした天球の聖刻印の姿もまたその場から消滅していた。

 

「チェーン1のユニオン・キャリアーの効果は対象不在によって不発に終わるわ」

「ではリリースされた天球の聖刻印の効果を発動します。デッキから銀河眼の光子竜を攻撃力・守備力を0にして守備表示で特殊召喚しますわ」

「っ、光子竜……」

 

 遊望のフィールドには慣れ親しんだ顔が現れる。普段は自分の相棒として、特殊召喚したりコストにしたりX召喚の素材にしたりしているカードが敵に回るというのはやはり不思議な気分だった。

 

―――時に自分自身が一番の壁、という言葉はよく聞くが……私でそれが実現してしまうというのはいい気分ではないな。

(そんな軽口を叩いていられる余裕があるなら、大丈夫のようね)

「私はレベル4のフォトン・バニッシャーと銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! ランク4、輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン! X召喚に成功したフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果を発動。手札の銀河眼の光子竜を特殊召喚する」

 

 遊希のフィールドにはフォトン・ブラスト・ドラゴンと銀河眼の光子竜が並ぶ。しかし、光子竜の攻撃力ではタイタニック・ギャラクシーもドラッグラビオンも撃破することはできない。光子竜の効果で戦闘時に除外しようにも、ドラッグラビオンは相手の効果の対象にならないため、光子竜の効果で除外することはできない。

 タイタニック・ギャラクシーはオーバーレイユニットを3つ持っているため、除外すれば光子竜の攻撃力を1500ポイント上昇させることはできるが、タイタニック・ギャラクシーを破壊することができないため、魔法カードの発動を無効にする効果を再度使われてしまう。そのため、この2体を揃えるだけでは根本的な解決には至らなかった。

 

「そしてフォトン・ブラスト・ドラゴンと光子竜をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 銀河眼の煌星竜をリンク召喚。そしてリンク召喚に成功した煌星竜の効果で墓地の銀河騎士を手札に戻すわ。そしてフィールドにフォトン、またはギャラクシーモンスターが存在する場合、銀河騎士はリリースなしで召喚できる! この方法で召喚に成功した銀河騎士の効果を発動。このカードの攻撃力を1000ポイント下げ、墓地の光子竜を守備表示で特殊召喚する!」

 

銀河騎士 ATK2800→ATK1800

 

銀河眼の光子竜 DEF2500

 

「レベル8のモンスターが2体……」

「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! “闇に輝く銀河よ。我が道を照らし、未来を切り拓く力となれ!”現れなさい、銀河眼の光波竜!」

「光子竜皇ではなく光波竜ですか、なるほど。全てのモンスターを除去されてしまいますね」

「私がこれから何をするかわかっているようね。だったらその通りにしてあげる。私は光波竜でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。エクシーズ・チェンジ! 現れなさい! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を破壊する。偽物の光子竜を切り刻みなさい!」

 

 FA・フォトン・ドラゴンから放たれた斬撃が遊望のフィールドの光子竜を切り刻む。

 

「偽物呼ばわりは酷いですね。お姉さま、すっかりやさぐれてしまって……」

「余計なお世話よ」

―――そうだ、遊希は元々こんな性格だ。

「あんたも後で覚えてなさい。FA・フォトン・ドラゴンで更にオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 全てを切り刻みなさい、銀河眼の光波刃竜! 銀河眼の光波刃竜の効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールドのカード1枚を破壊する。破壊するのはタイタニック・ギャラクシーよ!」

 

 そして、FA・フォトン・ドラゴンからランクアップした光波刃竜の舞い踊るような一撃でタイタニック・ギャラクシーを両断する。これで遊望に残されたモンスターはドラッグラビオンのみとなった。

 

「バトルよ! 銀河眼の光波刃竜で龍影神ドラッグラビオンを攻撃!“斬滅のサイファー・スラッシュ”!」

 

銀河眼の光波刃竜 ATK3200 VS No.97 龍影神ドラッグラビオン ATK3000

 

遊望 LP8000→LP7800

 

「そして銀河眼の煌星竜でダイレクトアタック!」

 

銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

遊望 LP7800→LP5800

 

「さすがお姉さま。そこに倒れている紛い物たちとは違って素晴らしい攻撃ですよ」

「……ありがと。でも、鈴とエヴァを侮辱するのは許さない。撤回しなさい」

「私が負けたらいくらでも」

「そう。じゃあ全力で打ち負かしてあげる。バトルフェイズを終了しメインフェイズ2に移る。カードを1枚セット、ターンエンドよ」

 

遊望 LP5800 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:10 除外:1 EXデッキ:11(0)

遊希 LP8000 手札0枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光波刃竜 ORU:2)EXゾーン:1(銀河眼の煌星竜)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:7 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

遊望

 □□□伏□

 □□□□□□

  □ 煌

□□□□□刃

 □□伏□□

遊希

 

 

☆TURN03(遊望)

 

「私のターン、ドロー……なるほど、どうやら私とお姉さまのデュエルをデッキも応援してくれているようですね」

「……どういうこと?」

「私とお姉さまのデュエルは強い運命によって導かれている、ということです。私は墓地の光属性モンスター、天球の聖刻印、神影龍ドラッグルーオン、タイタニック・ギャラクシーの3体をゲームから除外します」

「その効果は……!」

「混源龍レヴィオニアを特殊召喚します。そして特殊召喚に成功したレヴィオニアの効果で私は墓地から銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚します。更に手札の星雲龍ネビュラの効果を発動。手札のこのカードと銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚します」

 

 遊望のフィールドにはレベル8のドラゴン族モンスターが4体居並ぶ。ネビュラの効果で遊望は光・闇属性のドラゴン族モンスターしか特殊召喚できないものの、遊望のデッキにとってはそのような制約はデメリットにすらなり得ない。

 

「私は銀河眼の光子竜と星雲龍ネビュラをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。現れなさい、銀河衛竜」

 

 遊望がリンク召喚したのはドラゴン族モンスター2体をリンク素材に指定する銀河衛竜。もちろんこのカードもドラッグラビオン同様に遊希の知らないカードである。しかし、このカードはあくまで遊望の持つ力の一部に過ぎない。本丸は別にあった。

 

(……何、この力は)

―――遊希、来るぞ!

「私は……銀河眼の光子竜と混源龍レヴィオニアでオーバーレイ!! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!!」

 

 2体のドラゴンの魂は天に昇り、新たな命を紡ぎ出す。その力はこれまで遊望が召喚したどのモンスターよりも強く、激しいものであった。

 

(精霊……あれが遊望の……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“奪われた我が命蘇らせし精霊よ。今その魂を禍々しき竜に宿し、我が願いを、我が希望をその瞳で見据え顕現せよ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗黒の空にはまるですぐそこにあるように銀河が映し出され、その天空には赤と青の宝石のような装飾がちりばめられた黒い四角錐のような物体が現れる。しかし、それが精霊の真の姿ではない。その四角錐は轟音を上げ、天地を震わせながら展開。そしてやがて1体の竜の姿を象った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――目覚めよ、そして私に勝利を!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――No.107!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天空にはその後に続いた「107」という数字を模した光が浮かび上がる。そして現れたのはその数字が右の頬に刻印された機械のような身体を持った漆黒のドラゴンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《銀河眼の時空竜》(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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時の銀河竜

 

 

 

 

 

 

 

―――《No.107 銀河眼の時空竜》(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)!!―――

 

 

 

 

「銀河眼……光子竜以外の銀河眼ですって!?」

―――っ……!

 

 遊望がX召喚したモンスター、No.107 銀河眼の時空竜。No.であることはもちろん、この世界では遊希のみが所持する【ギャラクシーアイズ】の名を冠するモンスターを目の当たりにした遊希たちは動揺を隠せなかった。

 ギャラクシーアイズの名を持つモンスターは遊希が所持する精霊・光子竜およびその派生系統のみである―――遊希はもちろん鈴たちもそれを信じてやまなかったからだ。しかし、光子竜とは似て非なる姿をした銀河眼の時空竜は確実に目の前に存在している。嘘まやかしではない真実がそこにはあった。

 

《No.107 銀河眼の時空竜》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル8モンスター×2

(1):自分バトルフェイズ開始時に、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカード以外のフィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化され、その攻撃力・守備力は元々の数値になる。この効果を発動したターンのバトルフェイズ中に相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動する度に、このカードの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで1000アップし、このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

「うふふ、どうですかお姉さま? 私の精霊……いや、私の新しい姿は?」

「新しい姿……光子竜、それって」

―――……さっき言っていただろう。一度死んでしまったが、精霊として蘇ったと。彼女はもはや人ですらないということだ。

 

 光子竜はどこか苦しそうに、言葉を搾りだすようにして遊望の現状を話す。今の遊望は姿形こそ遊希の知る最愛の妹のものであるが、人としての天宮 遊望という存在はもういない。今の彼女は心と記憶は遊望であっても、その命を入れるための器が時空竜になっているのだ。

 

(光子竜、どうしたの?)

―――すまない、あの精霊……時空竜が現れてから頭が割れそうなほど痛いんだ。

(大丈夫なの……?)

―――気にするな、この戦いくらいは……乗り切ってやる。

 

 光子竜が苦しんでいる。自分が苦しんでいる時に光子竜は絶えずそばにいてくれたことでいくつも助けられたが、自分から光子竜に対してできることはほとんどない。唯一できることは光子竜のその言葉を信じてあげることだけだった。

 

「ごめん、遊望。悪いけど今のあんたを見て綺麗、とか可愛いなんて言葉は出てこないよ」

「そうですか……私はこんなにも気持ちいいのに」

 

 そんな遊望の言葉に呼応する形で時空竜は咆哮と共に翼を羽ばたかせる。遊望=時空竜という形式が成り立つならば、今二つの存在は確かに繋がっているということなのだろう。

 

「でも、この力を見ればお姉さまのその認識も少しは改まるのではないでしょうか? メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移ります」

「……そのままバトルフェイズ? 煌星竜はともかく、光波刃竜には攻撃力で劣っている。悪戯に攻めても無駄よ!」

「だめ……遊希、気を付けて!!」

「鈴!?」

 

 これまで何も言わず、虚ろな目でデュエルを見つめていた鈴が叫ぶ。彼女は身をもって味わっていたために知っていたのである。時空竜と銀河衛竜の2体の秘められた力を。

 

「ええ、わかっています。なのでバトルフェイズ開始時に時空竜の効果、そしてその効果にチェーンする形で銀河衛竜の効果を発動します!」

「時空竜と銀河衛竜の効果!?」

 

チェーン2(遊望):銀河衛竜

チェーン1(遊望):No.107 銀河眼の時空竜

 

「まずチェーン2の銀河衛竜の効果。フィールドもしくは墓地のこのカードをゲームから除外し、私のフィールドの元々の種族・属性がドラゴン族・光属性のNo.Xモンスター1体を対象として発動します。バトルフェイズ終了時までそのモンスターの攻撃力をそのモンスターの持つNo.の数字×100ポイントの数値に変更します」

「No.の数値……まさか……」

「はい、対象は時空竜。よってその攻撃力は……」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000→ATK10700

 

「攻撃力10700!? そんな、こんなことが……!!」

―――ちぃっ……!!

「あらあら……驚き、恐怖するお姉さまの顔も愛らしくて素敵ですわ。人間は心の底から恐怖した時に最も美しい顔を見せるというのもあながち間違いではないのかもしれませんね。最も、そこに倒れている星乃 鈴のそれはお姉さまに遠く及ばないですが」

 

 遊望の言っていることの意味ははっきり言って理解できないし理解したくなどはない。だが、この銀河衛竜の効果によって鈴が敗れたということは伝わってきた。攻撃力10700のモンスターを出されること自体そうはないことだろうが。

 

「そしてチェーン1の時空竜の効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールドに表側表示で存在する時空竜以外の全てのモンスターの効果を無効化します!“タキオン・トランス・ミグレイション”!!」

 

 時空竜の身体が召喚時に現れた黒い四角錐が戻った瞬間、そこから放たれた摩訶不思議なオーラが周囲を包み込む。遊希はまるで時の流れが逆行していくような妙な感覚に包まれた。

 そして、時空竜の身体が四角錐から竜の姿に戻った瞬間、光り輝いていた光波刃竜と煌星竜の身体が黒くくすんでしまっていることに気が付いた。時空竜の効果により、その効果を無効化された2体の銀河眼は何の効果も持たないモンスターへとされてしまったのである。

 

「光波刃竜、煌星竜!」

「これでお姉さまの銀河眼たちはただ滅ぼされるのを待つだけの惨めな存在に成り下がりました。銀河眼の時空竜で、銀河眼の光波刃竜を攻撃!!」

 

 攻撃力10700となった時空竜と攻撃力3200の光波刃竜の攻撃力差分は7500。遊希はまだライフダメージを受けていないためワンショットキルこそは免れるものの、精霊の攻撃によって一気に7500ものライフが削られるのだ。デュエルにおけるライフ以上の衝撃が襲い掛かってくるのは誰の目にも明らかだった。

 

「遊希!!」

「遊希さん……!!」

 

 

 

 

 

 

―――“殲滅のタキオン・スパイラル”!!―――

 

 

 

 

 

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK10700 VS 銀河眼の光波刃竜 ATK3200

 

「―――きゃあっ!!」

 

遊希 LP8000→LP4250

 

「……えっ?」

 

 時空竜の攻撃を受けた遊希は思わず周囲をきょろきょろと見回す。遊希のライフは7500ではなく、その半分の3750しか減っていなかった。

 

「ああ、そうそう。言い忘れましたが……銀河衛竜の効果を発動したターン、私のモンスターが与えるダメージは全て半分になってしまうんです。なのでお姉さまのライフはオネストのような戦闘補助のカードはない限りはどう頑張っても3750しか削れないんです」

「……」

「説明をしなかったことは謝ります。ですが、大ダメージを受けたと思って可愛らしい悲鳴を上げたお姉さまの姿はしっかりと脳に刻ませて頂きました♪」

 

 そう言って儲け者、といった微笑みを浮かべる遊望。昔から仲のいいことで有名な姉妹であったが、時折遊望は姉の色々な姿を見たいということで軽い悪戯をすることが多く、そのことが原因での姉妹喧嘩もまた少なくなかったのだ。精霊となっても根幹は変わっていない、ということの表われでもあるのだが、この状況でそのようなことをしてきた遊望に対し遊希は明確に怒りの感情を打ち出した。

 

「遊望……私は今真剣にこのデュエルに臨んでいるのよ! ふざけた真似をするなら本当に容赦しないわよ!!」

「あら、私だって真剣です。真剣だからこそ、このようなふるまいができると思わないのですか?」

「だったら、勝ってそんな態度を取ったことを反省させる。懺悔の準備をしておきなさい!」

―――……遊希落ち着け。熱くなりすぎると勝てるデュエルも勝てなくなるぞ!

(っ……)

 

 興奮する遊希を光子竜が苦しみながらも宥める。勝負事においては先に熱くなりすぎた方が負ける、というのは歴史が証明している。しかし、それがわかっていても実行できないのが心を持った生き物というものだ。

 

「さて、私はバトルフェイズを終了します。時空竜の攻撃力は元に戻りますわ」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK10700→ATK3000

 

「お姉さまも銀河眼を使っている以上、私がこのカードを使わない理由はないですよね? 私は銀河眼の時空竜でオーバーレイ・ネットワークを再構築。エクシーズ・チェンジ! ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンをX召喚します」

「FA・フォトン……」

「FA・フォトンの効果を発動します。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を対象として発動。そのカードを破壊します。対象はもちろん銀河眼の煌星竜です」

 

 煌星竜が破壊されたことで、今度は遊希のフィールドからモンスターが消滅してしまった。どちらも高い攻撃力のモンスターを多数擁しているデッキのため、如何にフィールドを空にしないかが重要になる。

 

「攻撃力を下げてしまうのは惜しいですが……そのセットカードを見過ごすわけにはいきません。私はFA・フォトン・ドラゴンでオーバーレイ・ネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! ランク9の銀河眼の光波刃竜をX召喚します」

「……どこまでも私の真似をするのね」

「取れる最善の手を取っているまでの事です。まあ、お姉さまとお揃いになれるなら真似呼ばわりでも一向に構いませんが。光波刃竜のオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果を発動。フィールドのカード1枚を破壊します。破壊するのはそのセットカードです」

 

 光波刃竜の効果によって遊希のフィールドに残された最後のカードが破壊された。

 

「速攻魔法・破滅のフォトン・ストリーム……光子竜がいない状態では自分のターンにしか発動できないカード。これは放っておいても良かったですね。私はこれでターンエンドです」

 

 

遊望 LP5800 手札0枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(銀河眼の光波刃竜 ORU:1)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:11 除外:5 EXデッキ:7(0)

遊希 LP4250 手札0枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:12 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

遊望

 □□□伏□

 □□□□□□

  刃 □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

(……ライフが心許ないけど、もう手は残されていない)

―――もうライフを気にしている場合ではない、ということだな。

「ええ。私はライフ2000を支払い、手札から魔法カード、銀河天翔を発動!」

 

遊希 LP4250→LP2250

 

「銀河天翔……コストこそ重いですが、1枚のカードでX召喚を行えるカードですか。今のお姉さまからしてみれば、喉から手が出るほど欲しかったカードと言っていいでしょう」

「私は墓地からフォトンモンスター、銀河眼の光子竜とデッキから同じレベルのギャラクシーモンスター、銀河剣聖の2体を効果を無効にし、攻撃力を2000にして守備表示で特殊召喚する!」

 

銀河眼の光子竜 ATK2000 効果無効

銀河剣聖 ATK2000 効果無効

 

「レベル8のモンスターが2体……」

「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!“我が心中に燃える強き意志よ。希望をその身に宿し、光子の竜の真の力を解放せよ!!” No.62 銀河眼の光子竜皇!」

 

 遊希のエースモンスター、銀河眼の光子竜皇が現れる。このカードまでもが遊望によって使われてしまっているということを遊希は知らなかったが、遊希のデッキにおいて勝負を決めるカードの1枚であることに変わりはない。

 

(セットカードは発動されない……なら!)

「バトル! 銀河眼の光子竜皇で銀河眼の光波刃竜を攻撃!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000 VS 銀河眼の光波刃竜 ATK3200

 

「ダメージ計算時に光子竜皇の効果を発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、このカードの攻撃力をそのダメージ計算時だけフィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップさせる! ランクの合計は17! よって攻撃力は3400アップする!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1 ATK4000→ATK7400

 

「攻撃力7400……!」

「全てを打ち砕きなさい!“エタニティ・フォトン・ストリーム”!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK7400 VS 銀河眼の光波刃竜 ATK3200

 

遊望 LP5800→LP1600

 

「……!! ふふっ、今の攻撃はさすがに効きましたよ? お姉さまの想いが込められているいい一撃でした」

「それはどうも。私はあんたの姉として、妹の犯した罪を償わせる義務がある。あんたをみんなの前で謝らせて、然るべき罪を負ってもらう」

「それがお姉さまなりの私に対する愛情というものなのですね……」

「……どうかしらね。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移行。私はこれでターンエンド」

 

 

遊望 LP1600 手札0枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:13 除外:5 EXデッキ:7(0)

遊希 LP2250 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:1)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:0 EXデッキ:9(0)

 

遊望

 □□□伏□

 □□□□□□

  □ 皇

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

「二人のライフが少なくなってきたわね……」

「ですが、遊希さんにはエースの光子竜皇がいます。加えて遊望さんの手札は0……仮に除去カードを引かれても、まだ返せます」

「そういえば、光子竜皇は効果破壊されると自己再生できる効果も……」

(確かにライフ、フィールドは遊希くんが有利だ。しかし、それにしては彼女……遊望くんの態度に余裕がありすぎる。あのセットカードといい、彼女は一体何を……?)

 

 このデュエルを見守る千春と皐月、竜司の認識は乖離していた。千春と皐月は親友である遊希の勝利を願い、遊希が勝つことを信じている。一方の竜司は遊希を応援しながらも、このデュエルがこのまま遊希の勝利で終えることができるのであろうかと疑っていた。

 

「遊希……気を付けて……あいつの力はまだ……」

 

 そして、鈴は恐れていた。遊望のデッキにおいて時空竜をも更に上回るものの存在を。

 

 

☆TURN05(遊望)

 

「私のターン、ドロー。あらあら……」

 

 ドローカードを見た遊望はにやりと微笑む。

 

「何よ、その顔は」

「お姉さまと私のこのデュエル……どうやら神はどこまでも面白く、ドラマティックなものにしたいようですね。まさかここにきてこのカードを引いてしまうとは……」

 

 そう言って遊望は1枚のカードを遊希に見せる。それは今彼女がドローしたカードだった。

 

「ちょっと、なんで相手にドローカードを見せて……」

「このカードは―――“ドローフェイズに通常のドローをしたカードを公開し続けることで、メインフェイズ1の開始時”に発動できるカード。私の―――銀河眼の時空竜の真の力をご覧に入れましょう!!」

 

 

 

 

 

―――“天に輝け、宿命込められし七つの星よ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《RUM-七皇の剣》(ザ・セブンス・ワン)!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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届かぬ言葉

 

 

 

 

 

 

「フィールドにモンスターがいないのに、RUMですって!?」

 

 RUMというカードは、フィールドのXモンスターをランクが1つ上のXモンスターにランクアップさせるために必要なカードである。しかし、今の遊望のフィールドにはXモンスターはおろかモンスターすら存在しない。そのため本来ならRUMというカードを遊望は発動することすらできないはずである。

 

「このカードを……七皇の剣を普通のRUMと同じと思わないでください。このカードが私の中に眠る真の力を目覚めさせるのです!」

 

《RUM-七皇の剣》

通常魔法

このカード名の効果はデュエル中に1度しか適用できない。

(1):自分のドローフェイズに通常のドローをしたこのカードを公開し続ける事で、そのターンのメインフェイズ1の開始時に発動できる。「CNo.」以外の「No.101」~「No.107」のいずれかをカード名に含むモンスター1体を、自分のEXデッキ・墓地から選んで特殊召喚し、そのモンスターと同じ「No.」の数字を持つ「CNo.」モンスター1体を、そのモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。

 

「このカードは自分のドローフェイズ時に通常のドローをしたこのカードを公開し続けることで、そのターンのメインフェイズ1の開始時に発動できます」

「……随分と面倒な発動条件ね」

「強い力にはいつでもリスクが伴うものです。このカードを発動することで、No.101から107までのいずれかをカード名を含むXモンスター1体をEXデッキまたは墓地から特殊召喚し、そのモンスターと同じCNo.(カオス・ナンバーズ)と名のついたXモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚します」

 

 遊望の口にした【CNo.(カオス・ナンバーズ)】とはNo.の中でも選ばれたモンスターのみが到達できる境地にある存在である。カオスの力をその身に受け入れることで、その力をさらに高いレベルに昇華させ、No.においては「進化」または「真の力を解放する」のだ。

 銀河眼の時空竜を含むオーバー・ハンドレッド・ナンバーズはNo.の姿は本来その身に秘めた力をセーブするための仮の姿であり、カオスの力を取り込んで解放したCNo.の姿こそが言わば真の姿なのである。

 

「今からお姉さまにお見せするのは私の、時空竜の真の姿です! 七皇の剣の効果で墓地のNo.107 銀河眼の時空竜を特殊召喚します!」

 

 天空に七つの赤い星が瞬いた瞬間、墓地より時空竜が蘇る。時空竜は金色のオーラを纏っており、その力は先ほど対峙した時より遥かに強いものとなっていた。

 

「時空竜よ―――七皇の力を得て己が真の姿を解放せよ!!」

 

 時空竜は劈くような咆哮をあげ、金色の光となって天へと昇っていく。天空には混沌が渦巻き、光と闇が合わさった力が大爆発を起こす。その力は精霊を宿す遊希、遊望、エヴァのみならず周囲にいた竜司、鈴、千春、皐月の四人にもはっきりとわかるほどのものとなっており、大気と大地がその力に怯えるが如く震撼を始めた。

 

「これは……地震?」

「違う。あのカードの力よ!」

 

 混沌渦巻く空に輝く7つの星が点と線となって繋がった。7つの星は1つとなり、天空に剣となってその姿を顕現させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“混沌の世界に七つの星輝く時。我に命与えし者、真の姿を解き放つ! 逆巻く銀河を貫きて、時の力溢れる世界より飛来せよ! 永遠を超える龍の星!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混沌から流れ落ちたのはひと粒の雫のような光。その光はやがて金色の剣のような物体へと姿を変え、その金色の剣は1体の龍へと姿を変えた。

 

 

 

(あのドラゴンは……私を倒した……)

 

 

 

 3つの頭に巨大な身体と6枚の翼。身体は鋭い刃のような鱗で覆われ、右胸には自身を現す「107」の刻印。そのドラゴンこそ、遊望が鈴を散々に打ち負かしたドラゴンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ランクアップ・カオス・エクシーズチェンジ!! 顕現せよ!! CNo.(カオス・ナンバーズ) 107!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《超銀河眼の時空龍》(ネオ・ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《CNo.107 超銀河眼の時空龍》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000

レベル9モンスター×3

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このターン相手はフィールドで発動する効果を発動できず、このカード以外のフィールドの全ての表側表示のカードの効果はターン終了時まで無効化される。

(2):このカードが「No.107 銀河眼の時空竜」をX素材としている場合、以下の効果を得る。●このカード以外の自分フィールドのモンスター2体をリリースして発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。

 

 

「超銀河眼の時空龍……!! だけど、光子竜皇の効果を発動すれば超時空龍の攻撃力を上回るわ!」

「あら、お姉さまらしくない。私が何の策もなく真の力を開放するわけないじゃないですか。私は超時空龍の効果を発動します! このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、このターンお姉さまはフィールドで発動する効果を発動できず、このカード以外のフィールドの全ての表側表示のカードの効果をターン終了時まで無効にします!」

「なっ……!?」

「時も、世界も……全てが私の思うがまま。すべからく支配せよ! “タイム・タイラント”!!」

 

 超時空龍から発せられた力によって遊希の中の時そのものが巻き戻るような不気味な感覚に襲われる。時空竜の効果である“タキオン・トランス・ミグレイション”はバトルフェイズの開始時のみに発動できる効果であり、フィールドに存在するモンスターの効果こそ無効にするが、魔法・罠カードの効果までは無効にできない。自身の効果で攻撃力上昇と2回攻撃が可能になる者の、次元幽閉やミラー・フォース系のような戦闘反応のカードは対処できないという弱点があった。

 しかし、超時空龍となって得た“タイム・タイラント”はカードの種類問わず全てのカードの効果を無効にし、かつ相手にカードの発動をさせないという効果がある。最もモンスターの効果を無効化できるのは発動ターンのみ、と永続的に無効化する進化前より短くなっているが、召喚反応の罠やカウンター罠に対処できないという点を除けばその制圧力の強さは火を見るよりも明らかなのだ。

 

「っ……!」

「これで光子竜皇の効果は無効になります。攻撃力を上昇させる効果は発動できません。全てを終わらせましょう、お姉さま?」

「何を言って……」

「お姉さま、私はお姉さまを本気でお慕いしております。故に何をするにも本気なんです。デュエルにおいても、お姉さまを愛し慕う気持ちでも―――CNo.107 超銀河眼の時空龍よ、お姉さまの光子竜皇を攻撃!!」

 

 超時空龍の3つの頭に膨大な力が集まっていく。それに対する光子竜皇も自身の持てる全てのエネルギーを収束させる。攻撃力では劣っているし、普通にぶつかれば破壊される。しかし、それを理解した上で光子竜皇はただでは破壊されてたまるかとばかりに迎撃態勢に移っていた。

 

「行きなさい!“アルティメット・タキオン・スパイラル”!」

 

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500 VS No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000

 

 超時空龍と光子竜皇。2体の銀河眼の攻撃は光と光となって強大な力をもって混じり合い、その力はまさに天地を震撼させるほどのものとなっていた。激しい揺れと衝撃に耐えながらもデュエルを続ける遊希と遊望。2体の龍はまさにそんな姉妹のこのデュエルにかける意志を感じさせるほど力強かった。

 その力の前にデュエルのために頑丈に作られた教室の壁にはヒビが入り、ガラスが音を立てて吹き飛ぶ。その衝撃はアカデミア全体へと生じ、アカデミア全体および街全体を強い地震が襲うこととなった。机に向かって書類作業に追われていたミハエルは地震を感じ、机の下へと避難するものの、手にしたスマートフォンには地震の情報は表示されていないことに疑問を持った。

 

(この揺れは……一体……?)

 

 ミハエルは無意識に職員室を飛び出した。彼も歴戦のデュエリストである、デュエリストとして過ごしたために培われた直感が彼を突き動かしていた。

 

「無駄な足掻きを。ですが、お姉さまの足掻く姿もまた美しい……ですが、この力の差は埋まらない!!」

 

 数十秒ほど拮抗した2体の竜の戦闘であるが、やがて素の攻撃力で勝る超時空龍の攻撃が光子竜皇の攻撃を圧倒し始めた。そして光子竜皇は断末魔の悲鳴と共に光の中へと消えていった。

 

「光子竜皇!!」

 

遊希 LP2250→LP1750

 

「きゃああっ!!」

―――遊希!!

 

 光子竜皇が破壊された衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされる遊希。数値の上ではわずか500のダメージであるが、その500のダメージは今までのデュエルで体験したことがないほどの衝撃だった。

 

―――大丈夫か、遊希!

(嘘、たった500のダメージでこんな……?)

―――幻魔や邪神が可愛く思えるレベルとはな。さすがに恐れいった。

「超時空龍の攻撃を受けた立ち続ける。さすがお姉さま、後ろで倒れている紛い物たちとはやはり違います」

「……遊望!! あんたは鈴やエヴァに勝ったのかもしれないけど、だからといって二人を侮辱することは許さない!」

「……お姉さま、どうしてあんな人たちのためにお姉さまが怒っているのですか? あんな人たち、ただの他人じゃないですか?」

「あんたにはわかんないでしょう。鈴やエヴァ、千春や皐月は―――私にとってはただの他人じゃないの。大事な親友であり、仲間なの。お父さんやお母さん、遊望がいなくなった私を支えてくれた。家族と同じくらい大事な存在。私は、そんな仲間たちのため、このデュエルに勝ってみせ―――」

 

 

 

 

 

―――はぁ、お姉さま……寝言は寝て言ってください。

 

 

 

 

 

 遊望のフィールドに君臨するように存在していた超時空龍の姿が消える。そして彼女のフィールドには墓地に存在するはずの、彼女の駆る銀河眼の光子竜が現れていた。

 

「……えっ……?」

「ずっと伏せていたカード、やっと使うことができました。罠カード《竜の転生》」

 

《竜の転生》

通常罠

(1):自分フィールドのドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。その自分のドラゴン族モンスターを除外し、自分の手札・墓地からドラゴン族モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「竜の……転生……?」

「私は超時空龍を除外することで、私の墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚しました。当然、まだ私のバトルフェイズは続いています。これが何を意味するかおわかりですよね?」

 

 遊希の残りライフは1750。対する銀河眼の光子竜の攻撃力は3000。これが意味することはその場にいる誰もが理解していた。

 

「そ、そんな……嘘……」

 

 遊希は必死に自分の目の前で起きている状況を飲み込もうとする。しかし、そこに普段の冷静沈着な彼女の姿はない。今まさに自分に襲い掛かろうとしている銀河眼の光子竜を前に、彼女はまるで蛇に睨まれたカエルのように動くことすらできなかった。

 

「お姉さま、これで―――これで全てが終わります。銀河眼の光子竜でお姉さまにダイレクトアタック」

「あ……ああ……」

―――遊希、逃げろ! 遊希ッ!!

 

 光子竜は必死に呼びかける。それでも遊希の頭の中は真っ白になっていて動くことも考えることすらもできずにいた。

 

 

 

 

 

―――“破滅のフォトン・ストリーム”―――

 

 

 

 

 

銀河眼の光子竜 ATK3000

 

 

―――遊希ッ!!……遊……!!

(光子竜……そんな、嫌っ……!!)

 

 迸る破滅の光が自分の身体を、意識を、心を飲み込んでいく。そんな感覚に襲われた彼女の耳に光子竜の言葉は届かない。それと同時に光子竜の存在を表わす波動も徐々に感じられなくなっていった。

 

 

 

 

 

遊希 LP1750→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光子竜の攻撃はまさに暴れ狂う竜が如く、教室中を包み込んだ。あまりにも激しい光に直視することはできなかったが、その場にいた誰もが感じていた。遊希がこのデュエルに敗れたという事実を。攻撃を受けた遊希の身体は大きく吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。あまりにも強い力だったのか、制服はところどころボロボロになり、遊希が愛用しているデュエルディスクは無残にも破壊され、中にセットされていた遊希のデッキのカードが周囲に散乱していた。

 

「遊希……遊希っ!!」

 

 敗れた遊希の眼からは一粒の涙がこぼれ落ちる。その眼に光はなく、まるで死んだ人間のそれのように虚ろになっていた。鈴は倒れたまま動かない遊希の元にふらふらになりながらも駆け寄ろうとしていた。

 

「鈴……駄目だ、戻れ……」

「えっ……」

 

 意識を取り戻したエヴァのその声に鈴が足を止めた瞬間である。彼女が進もうとした先に灼熱の炎が壁となって現れたのは。もしエヴァが止めていなかったらきっと今頃鈴の身体は灼熱の炎によって灰と化していただろう。目の前に起きていること、そして数歩足を進めていたら自分の命はなかったかもしれない。それを実感した鈴はその場に力無く座り込んでしまった。

 

「あっ……あああ……」

「それ以上近づくことは許しません。そもそもあなたには最初から興味ありませんから」

 

 怪しい笑みを浮かべながら、遊望は倒れて動かない遊希の身体を抱き上げた。気を失った遊希の腕がぶらりと垂れ下がる。

 

「遊希!?……遊希をどうするつもり!?」

「どうするも何も……私はお姉さまの妹ですよ? 私の家へと帰るのです」

「家……?」

「もう私の願いはほぼ叶いました。もう言ってしまってもいいでしょうね。私が皆さんを操り、お姉さまと私のデュエルにこぎつけた本当の理由……それはお姉さまを私のものにするため」

 

 遊望の眼からは涙がこぼれ始める。遊望は遊希たち家族と共にこれから長い時を共に過ごすはずだったが、彼女の命は理不尽な手によってわずか7年で幕を閉じてしまった。

 しかし、何の因果か精霊と融合して新たな命を得た彼女は、遊希を己が物へすべく精霊としての力を蓄え、計画を成就させるため、自らの願いを叶えるため、全てを実行に移した。I2社からカードを奪い、鈴たちを洗脳して操り、そして今日遊希たちの目の前に現れた遊望。それも全て遊希を自分のものにするためだったのである。

 

―――お姉さま、これからはずっといっしょ。もう誰にもお姉さまを渡しません。私たちの失われた姉妹の時間をこれから、取り戻しましょう?

 

 遊希を抱きかかえた遊望の姿が銀河眼の時空竜の姿へと変わる。そんな遊望を鈴が呼び止めた。ここで自分が動かなければいけない、確証はないが、彼女はそう感じてならなかった。

 

「待って! それは遊希が望んだことなの!?」

―――お姉さまは……望んでいないでしょうね。

「だったらそんな無理やりな方法を取る必要はないじゃない! もし生きてるんだったら、また昔のように暮らせばいいんじゃないの!?」

―――死んだことになっている人間を受け入れてくれる場所がこの世界にあると思うのですか? あなたは。今でこそだいぶ薄れたとはいえ、お姉さまはずっと一人で苦しんできた。親殺し、妹殺し―――謂れのない誹謗中傷をその身で受けてきたお姉さまの心の痛みが、苦しみが、貴様にわかるというのか!!

「っ!?」

―――精霊をその身に宿しもしないくせに、利いた風な口を利くな! 貴様のような力もないくせに綺麗事を言う人間など……反吐が出る。

 

 遊望が、時空竜が雄叫びを上げた瞬間である。天井に渦のようなものが生じ始めた。

 

「あれは……」

―――このワームホールは世界と世界を繋ぐもの。私のような選ばれた者だけが開くことのできるもの。最も、お姉さまの光子竜やエヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでも開けないことはないとは思いますが……では皆様、今までお姉さまと仲良くして頂いてありがとうございました。形だけの上っ面の絆だったとしても、お姉さまは幸せだったでしょう。ですがもう心配ありません。お姉さまは私と共に恒久の時を生きるのですから。

 

 このままだと遊希が連れていかれてしまう。絶対に止めなければいけない、とは思うものの鈴はその場から動くことができなかった。遊望に言われた「精霊をその身に宿しもしない」という言葉が彼女の心に深く刺さっていた。

 

(精霊を持たない私は……遊希の心の痛みを理解できていなかったの……?)

「鈴! 鈴ってば!!」

「千……春……」

「遊希さんが、遊希さんが!!」

「遊希を……連れてなどいかせない! スカーライト!!」

―――っ、待てってえの!!

 

 この中で唯一精霊を持つエヴァがスカーライトを召喚し、時空竜を止めようとする。しかし、傷つき、治癒が万全でないスカーライトと時空竜では力の差があまりにも大きすぎた。スカーライトの放った灼熱の炎は時空竜の作り出した光のバリアによって防がれ、弾き返されてしまう。

 

―――うふふっ、今の貴様の力では私に触れることすら不可能ですよ。

―――ねえ……時空竜。

―――……何でしょうか。

―――あんたは、こんなことをして、それで満足なの?

―――……ええ、とても。最高の気分です。

 

 時空竜はそれ以上スカーライトの言葉に応えることはなかった。そして遊希を連れたまま、時空竜の身体はそのままワームホールへと吸い込まれていく。

 

「嫌っ、待って! 待ってってば!!」

―――あら、涙だけじゃなくて鼻水まで……あまりに哀れで醜い存在なのでしょうか。あまりにも醜いので一つだけいいことを教えてあげましょう。私と見つけ出し、お姉さまを取り返したいのであれば、この世界のどこかにいる私を見つけ出してみせることですね。最も、私を見つけたいのであれば……あと光子竜、スカーライト以外に精霊が1体は必要になるでしょうが。

―――あたしと光子竜以外の精霊……そんなのいるわけ……!

 

 意味深な言葉を残し、消えていく時空竜。追いすがる鈴やエヴァたち、スカーライトを嘲笑うかのように彼女は姿を消した。これまでの喧騒が、激戦が嘘のように静寂が戻った。

 

「校長、こちらでしたか。いったい何が……?」

「そんな……嘘でしょ? 嘘だよね、嘘だって言ってよ……遊希、遊希ぃぃぃ!!」

 

 すっかり静かになった教室には鈴の泣き叫ぶ声だけが響き渡っていた。親友の、自分を呼ぶその声は―――遊希にはもう届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――うふふっ、お姉さま。これで私とお姉さまはずっと一緒。誰にも邪魔はさせません、これから姉妹の時を作り直しましょう?

 

 作り出されたワームホールの中を進む時空竜は遊希を優しく抱き抱える。意識を失い、虚ろな目をした遊希に時空竜の、遊望の言葉は届かない。

 

―――お姉さま……あなたは、私が守ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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白紙のカード

 

 

 

 

 

 

「鈴―――! 助けて―――! 鈴―――!!」

 

 鈴は暗闇の中にいた。ここはどこだろう、と考える前に何処からか自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。声の主はわかっている。

 

「遊希!? 遊希! どこなの、遊希!!」

「鈴……たすけ……り……!!」

 

 ずっと先に涙を流しながら助けを求める親友の姿があった。

 

「遊希!! 遊希―――!!」

 

 機会のような身体を持った巨大な竜によって連れ去られそうになっている遊希を助けようと鈴は必死に追いかける。もう何分全速力で走っただろうか、全く追いつくことができなかった。自分の目の前で遊希が、大好きな親友が助けを求めるのに自分には何もできないのか。

 

「あなたは……無力なんですよ」

「っ!」

「無力なあなたにお姉さまを守ることなどできない。お姉さまを守ることができるのは―――世界に一人。この私だけなんです」

「待って―――遊希! 遊希を返して―――!!」

 

 果ての見えぬ闇の向こうに遊希は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――遊希っ!!」 

 

 次の瞬間、鈴は思い切り起き上がった。しかし、あまりにも思い切り起き上がったため、二段ベッドの上に頭をぶつけてしまった。その痛みから今まで見ていた光景が夢であることに感づく。

 

「いてて……」

「鈴さん!? 大丈夫ですか?」

 

 傍に座っていた皐月が鈴が目覚めたことに気が付いて駆け寄ってきた。鈴はぶつけた頭を抑えながら大丈夫、と皐月を制する。鈴はずっとうなされていたようであり、皐月は鈴たちの部屋に留まることで彼女をずっと看病したのである。

 

「大丈夫……ってあれ私いつ寝たんだっけ……」

「……」

「ったく、嫌な夢見ちゃった。遊希がどっかに連れてかれちゃう夢とか……シャレになってないったらないわ。ねえ、遊希!」

 

 鈴はベッドから飛び降りると、そのまま二段ベッドの上を覗いた。遊希なら「変な夢見ないでよ、気持ち悪いわね」と毒を吐きながら苦笑いを浮かべるだろう。

 しかし、その場所に遊希の姿はなかった。前の日の朝に綺麗に畳まれた布団が置かれている。こういうところはしっかりしている遊希である、きっとずっと早く起きてもうとっくに朝食を取るなり出掛けているなりしているのだろう。

 

「えっと今は……げっ、もう朝の9時じゃん。寝坊しちゃったー……遊希はどこ行ったんだろう。皐月知ってる?」

「鈴さん……」

「あの子ああ見えて早起きなのよね、見た感じ朝苦手そうなのに。私も早く起きて着替えて食事にしよっと。遊希に怒られちゃう」

「鈴さん!!」

 

 珍しく声を荒げた皐月はベッドから降りようとする鈴の肩を抑える。鈴の眼に映る皐月の顔は今まで見たことのないほど切なく、苦しそうな顔をしていた。

 

「遊希さんは……いないんです。あれから……」

「……あっ、そっか……そうだったね」

 

 鈴は遊望によって遊希が連れ去られた直後、そのまま気を失って倒れてしまったのだ。精霊のデュエルによる精神・肉体の疲労に遊希が拉致されたというショックが追い打ちとなっていたようであり、今の今まで眠ったままであった。

 

「夢じゃなかったんだ。ははは……」

 

 夢の中で感じた無力感は決して夢ではない。自分にもっと力があれば遊希を救えたかもしれない。鈴の中にはまるで湧き水のように次から次へと後悔の念が噴き出してくる。自分の心の中にそれを留めようとした鈴であったが、無意識のうちにその思いは涙となって外へとこぼれ始めていた。

 

「ねえ、皐月……私にもっと力があれば……遊希を守れたのかな……」

「それは……」

「友達が助けを求めていたのに……助けてあげられなかった私は……いったいなんなんだろうね……」

 

 虚ろな眼をして後悔と無力感をかみしめる鈴。そんな鈴に気の利いた言葉の一つもかけることができない皐月自身もまた無力感に苛まられていた。

 

「……ところで千春は? あの子の姿が見えないようだけど……」

「千春さんはエヴァさんと一緒に校長室の方へと向かわれました」

「パパのところに? なんで?」

「エヴァさんが……いや正確に言うとレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでしょうか。遊希さんを助けられるかもしれない……と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴が目覚める10分ほど前。校長室には竜司、ミハエル、千春、エヴァの四人がいた。昨日の夜、エヴァが眠りにつく前にスカーライトが話していたことを実践するためである。スカーライトはこの中で唯一遊望、そして銀河眼の時空竜と対峙した“精霊”である。そんな彼女の脳裏には遊望の言い放ったある言葉が焼き付いていた。

 

―――このワームホールは世界と世界を繋ぐもの。私のような選ばれた者だけが開くことのできるもの。最も、お姉さまの光子竜やエヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでも開けないことはないとは思いますが……

 

 時空竜が遊希を連れ去る時に開いたワームホール。私のような選ばれた者だけが開くことができる、と遊望は言っていたが、それと同時に彼女は光子竜やスカーライトでも開けないことはない、とも言っていた。

 だからと言って自分1体だけではそのワームホールを開くことなどできるはずがない。しかし、時空竜ほどの力を持った精霊ではないとしても、それに比肩する力を精霊同士の共鳴で生み出せるのではないか、と考えたのである。

 

「ではスカーライト、頼めるだろうか」

―――うん、わかった!

 

 遊希の落としていった忘れ形見であるデッキおよび銀河眼の光子竜のカードをエヴァが握りしめて強い念を送る。エヴァは光子竜の正式な所持者ではないため、遊希ほどその力を出せるかどうかはわからない。

 それでも同じ精霊使いなのだから、自分の精霊を介しさえすれば他人の精霊である光子竜とコミュニケーションを取ることくらいならできるはず、と踏んだのだ。

 

「持ち主がいないのに精霊との交信などできるのか?」

「わからない……ですが、できるできないの話ではないでしょう」

「そうね。まずはやってみることが大事よ!」

 

 千春からのエールを受けてエヴァはその思いを無駄にしないために、とより集中力を増していく。そして自分の意識の半分がスカーライトに宿らせるかのごとく祈りを捧げた。

 

―――さーて、到着。

 

 そんなエヴァの思念を通じてスカーライトは光子竜の住まう精霊世界へと到達した。スカーライトの世界は灼熱のマグマが吹き荒れる炎の世界だったのに対し、光子竜の世界は満天の星空が輝く美しくも青い冷たい世界だった。

 銀河眼の名を持つということもあって、ある程度は予想のできていたスカーライトであったが、自分の住まう世界とは180度違う壮大な宇宙空間に度肝を抜かれるところだった。しかし、今自分がすべきことは光子竜の世界に心奪われることではない。まずはこの世界において光子竜を探し出すことだった。

 

―――光子竜! あたし、スカーライトだよ! どこにいるのよ、出てきなさいよー!

 

 スカーライトは初めて光子竜と出会った時のように彼の世界で光子竜の名前を呼んでみる。そんなに大声を出さなくともこの静寂の世界でなら聞こえるだろう、と言われても仕方のないレベルの大声を彼女は腹の底から出していた。

 それでもそんな光子竜から返答はない。ほのかに光子竜というか精霊が出す特有の微弱な力を感じるため、この世界にいないというはずはないのだけれど、と思ったスカーライトは空を飛んで周囲を散策してみる。数分ほど飛んだ頃であろうか、スカーライトは光子竜を発見した。

 

―――あっ、いた。おーい、光子……!?

 

 スカーライトは言葉を失った。光子竜は巨大な青い水晶の中に閉じ込められていたのである。生命反応は感じるため、死んでいるわけではないのだが、いつものような力強さがそのドラゴンにはない。

 光子竜は遊望、そして時空竜との戦いに敗れ、傷ついただけではなく、依代としていた遊希とも離れ離れになってしまった。そのため遊希から精霊として自立できるだけの力を得ることができなくなっていた。

 今その水晶の中で眠る彼は良く言えば休息、悪く言えばいつ目覚めるか分からない永久の眠りについてしまっていると言ってもいい状態なのである。スカーライトはその水晶体に対して炎を吐きつけてみたり、尻尾を叩きつけるなど多少乱暴ではあるが、自身のエネルギーをぶつけてみた。同じ精霊のエネルギーだけあってまったく効いていないというわけではないものの、光子竜を目覚めさせるには力不足は否めない、という状態であった。

 

―――あたしだけの力じゃ無理か……あーあ、せめてもう1体くらい、精霊がいてくれればなぁ……

 

 無力感に苛まれたスカーライトは「火つけたりぶったりしてごめんね」と眠っている光子竜に謝ると、光子竜の世界を後にした。目的こそ果たせなかったが、何の成果も無かったわけではない。ここからは人間たちの出番である。

 

―――戻ったよ、エヴァ。

「スカーライト! どうだった?」

 

 スカーライトのカードを右手に持ったエヴァがカードに話しかける。その様は事情を知らない者が目撃したらかなりシュールな光景であった。

 

―――ごめん、光子竜を見つけたことには見つけたんだけど……なんか力が足りないのか眠っちゃっててさ。あたしだけの力じゃ起こせなかったよ。

「そうか……ありがとう、スカーライト」

―――でもあたしわかったことがあるよ。

「わかったこと? それは一体?」

―――あたしだけの力じゃ無理だったけど、もう1体。もう1体だけ精霊の力があれば光子竜にパワーを分け与えることができるんじゃないかって思う。

「もう1体の精霊……」

 

 エヴァがスカーライトから聞いた話をそのまま千春、竜司、ミハエルに伝えた。その話を聞いた三人は思わず天を仰いだ。

 光子竜を目覚めさせることはできるかもしれないが、その前提条件があまりにも厳しすぎるのだ。精霊はこの世界の生き物のように簡単に誕生させることはできず、そもそも精霊は何のために、何処から来て何処へ行くのかということすらわかっていない謎多き存在である。

 精霊の存在を確認させられる神話こそ世界各地にあれど、精霊を生み出し人間がコントロールする術などが書かれた史料など見つかっておらず、それこそ精霊をその身に実際に宿す遊希やエヴァですらも精霊というものの正体をはっきりと掴めていないのだ。今ここから新たな精霊を見つけ出すということは例えていうならば、世界最大の砂漠であるサハラ砂漠の砂1粒1粒の中から小さなダイヤモンドを探し出すことより難しいことであろう。

 

「そんなぁ……じゃあ遊希はもう帰ってこないってことなの?」

「どうなんだ、スカーライト?」

―――言いたくないけど、最悪のケースではそうなるかもね。でもあたしだって精霊の端くれだよ。あたしも光子竜や時空竜みたく自分の力をより高めて精霊としても強くなってみせるよ。

「千春、スカーライトも頑張ると言っている。私たちが諦めてはいけないはずだ」

「エヴァ……そうよね! 私たちが諦めちゃったら台無しよね!」

 

 千春とエヴァが固く握手を交わす脇で、竜司とミハエルはそれぞれ電話とパソコンを手に取っていた。自分たちに精霊を操るだけの先天的な力はない。しかし、そんな自分たちであっても大人として、デュエリストとしてできることがある。

 

「校長、私はインターネットで情報を集めます」

「お願いできますか。私はI2社へと連絡を取ってみます。精霊の有無に限らず、何か怪しいカードを見掛けなかったかと聞いてみます」

 

 藁にも縋る、この表現がこれほど当てはまるケースはないだろう。そんな気持ちで竜司とミハエルは情報収集に努めた。

 

「星乃さん、ご無沙汰しております。実は普通とは違うカードを発見したのですが……」

「えっ?」

 

 I2社日本支社からそんな竜司に連絡が来たのは情報収集日から3日後だった。電話の主はI2社のカード開発セクションに属する海咲 真莉愛。以前遊望によるI2社米国本社からのカード盗難について遊希と竜司に伝えに来た人物であった。

 I2社は世界中に支社を持っており、海馬コーポレーションの本社がある日本支社はアメリカ本社に次いだ第2の規模を持つ支社である。I2社ではカードを制作する際、創設者であるペガサス・J・クロフォードのノウハウを受け継いだ優秀なデザイナーたちがカードをデザインし、そのイラストを元にカードの名前や効果、レベルや種族などを制定する。そして最終的にはI2社の技術の粋を集めた特殊なプリンターでカードを印刷するのだ。

 そんなI2社がいつものようにカードを制作するにあたり、そのプリンターに白紙のカードを通していたところ、1枚だけ印刷されないカードがあった。機械の故障か紙の質が悪いのか。企業担当者は何度もプリンターにそのカードを通してみたが、何度通してもその白紙のカードにはイラストや文字が印刷されなかったのである。

 

「何度プリンターを通しても印刷できないカードですか。確かに怪しいですな」

「ああ。賭けてみる価値はあると思う」

 

 ミハエルと相談するために一度電話を切った竜司が折り返し連絡を取ったところ。真莉愛は次の日にそのカードを持って現れた。彼女の立ち合いのもと、竜司たちはエヴァにそのカードを渡した。エヴァとスカーライトならそのカードが本物か紛い物かを見分けることはできるはずだ。しかし、そんな竜司たちの仄かな期待は裏切られる。

 

「スカーライト、どうだ?」

―――ごめん、あたしにはわかんないや。なんかモヤモヤするんだけど……

 

 頼みの綱のスカーライトでもわからないとなるとそのカードはただのエラーカードという可能性が一気に高まった。しかし、スカーライトの感じるモヤモヤ感が真実ならばそれをゴミとして処理するわけにはいかない。

 結局そのカードはしばらく竜司たちによって管理されることとなった。エヴァから話を聞いた鈴たちはそのカードを一目見たい、と校長室へとやってきた。ガラスケースに丁重に飾られた白紙のカードを少女たちはじっと見つめていた。

 

「これがそのカード?」

「ああ。何回プリンターを通しても印刷できないそうだ」

 

 そのカードの真偽はいざ知らず、カードをプリンターで印刷している、という事実に千春と皐月は驚くばかりだった。

 

「そういうプリンターを通すから傷つきにくかったり水に強かったりするのね」

「I2社の技術力は凄いですね……」

「でもそんな技術力をもってしても解明できないのが精霊というものだ」

 

 談笑する三人を余所に鈴はそのカードをじっと見つめていた。ずっと見ていても白紙のカードに絵が浮かぶ、などというわけはないのに何故か鈴はそのカードが気になって仕方なかった。

 

(……このカードが精霊のカードだったら……遊希を助けることができるのかな。でも私は何の力もないデュエリストにすぎないし……)

「鈴?」

「……」

「鈴!」

「ふぇっ!? な、なに?」

「じっとそのカードを見つめて……何か気になることでもあるのか?」

「……う、ううん。何も……ねえ、このカードがただのエラーカードだったらどうなっちゃうの?」

「恐らく廃棄されてしまうだろうな」

「そっかー……なんかもったいない気がするな」

 

 頭の後ろで手を組んで溜息をつく鈴。遊望や時空竜に言われた自分の無力さをますます感じてしまうのであった。

 

「ところでエヴァさん、ずっと気になっていたのですが……」

「どうした、皐月?」

「前に遊希さんから聞いたのですが、精霊とは普通に会話できるものなのでしょうか?」

 

 入学直後、皐月は遊希から精霊についての話を聞いたことがある。遊希によると、精霊は実際に近くにいるわけではないのだが、自分の脳内や心の中でテレパシーのように声が響くという。

 遊希と同じ精霊使いであるエヴァにおいてもそのようで、精神集中をするなどすれば精霊界に意識を飛ばして精霊の姿を見ることができるという。実際ジェームズとデュエルを行った際は遊希とエヴァはスカーライトの世界に飛んでスカーライトそのものとと会話をしている。

 

「へー、そんなこと本当にあるのね」

「おとぎ話みたいですよね」

「まあ、そうとしか扱えないものだからな」

―――そ、そんなもの扱いなんだ。なんか複雑だなー

 

 脳内で響き渡るスカーライトの声、当然それが聞こえるのは精霊使いだけだ。

 

「私も精霊使いだったらカードの精霊と会話できるのになぁ。サイバー・ドラゴンとかと会話してみたいもん」

「サイバー・ドラゴン……機械族のモンスターとはどんなコミュニケーションが取れるんでしょうかね。どちらにしても精霊の声が聞こえる人がいるといろいろと便利かもしれませんね」

「……!?」

 

 千春と皐月のその言葉に鈴の脳内に電撃が走った。それは遊希がエヴァにデュエルに敗れたあの夜のことだ。

 

 

 

 

 

―――遊希を助けてくれてありがとう。

 

 

 

 

 もうずっと前のことではあるものの、あの夜のことは未だにはっきりと覚えている。あの夜に鈴は遊希と二人だけで部屋にいた。そのためあの声の主として思い浮かぶ存在は一つしか思い当たらなかった。

 

(あの時……私が遊希のことを慰めてあげた時……私の脳内に男の人の声が聞こえた。あれは……光子竜の声? 私……精霊の声が聞こえた??)

 

 そんなことはあるものか、と首をぶんぶん振って鈴はもう1度白紙のカードを見た。

 

「あれ?」

 

 素っ頓狂な声をあげながら鈴は目をごしごしと擦ってみる。それでも彼女の眼に映るものは変わっていなかった。

 

「鈴?」

「ねえ、エヴァちゃんあのカードだけどさ……なんか、白紙じゃなくなってない?」

「えっ?」

 

 エヴァはそのカードを覗き込んでみるが、彼女の眼にはそのカードは白紙のまま映っていた。スカーライトもエヴァと同じようにそのカードを確認してみるが、やはり彼女でもそのカードからは何も感じることはできなかった。

 

「鈴、あんた何言って……」

「鈴さん、まさか……」

 

 鈴の眼にははっきりとそのカードに描かれたものが映っていた。カードの名前、イラスト、効果、攻守の値こそまだわからない。それでも他者の眼には白紙のカードにしか映らないそれの別の姿が彼女の眼には映っていた。

 

 

 

 

 

―――……このカード、ドラゴン族のモンスターでレベルは……8―――

 

 

 

 

 

 鈴の中では戸惑いの感情が渦巻くばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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青空の下で

 

 

 

 

 

「鈴、お前……」

「ね、ねえエヴァちゃん。あたしいったい……」

 

 何が何だか訳が分からないといった様子を見せて戸惑う鈴に対し、エヴァは子を見守る母親のような穏やかな笑みを見せ、彼女の肩に手を置く。鈴のその様子を見て彼女に何が見えているのかということをこの場において唯一理解できているのがエヴァだった。

 

「鈴……お前にも私や遊希と同じ力があったというのか」

「……へ?」

 

 自分も遊希やエヴァと同じ精霊使い。白紙のはずのカードに自分だけが見えるものがある。その事実を告げられた鈴は何とも気の抜けた声を出す。それだけでも十分訳が分からないというのに、エヴァのその言葉を受けて鈴の頭の中はますます混乱する。

 

「私にも、スカーライトにも、千春にも皐月にもこのカードはただの白紙のカードにしか見えていない。なのにお前だけがそのカードのことをわかる。これは精霊使いであることに他ならない!」

「……あたしが……なんで……」

 

 無力な存在に過ぎない、と自分でも他者からも断言されてばかりである。鈴はエヴァから告げられた言葉を素直に受け入れることができなかった。何故何の力もないはずの自分に精霊使いの力があるのか。

 遊希のように先天的な才能も無ければ、エヴァのように努力を重ねて開花させられるだけのものもない。強いて言うならばただ単に日本を代表するプロデュエリスト、星乃 竜司の娘であることでしかないはずなのに。

 

「鈴、精霊の声が聞こえたことはないか?」

「精霊の声……」

 

 鈴は遊希が心の中に秘めていた感情を吐露した夜のことを素直に話した。しかし、後にも先にも光子竜の声が聞こえたのはその時が最後である。

 

「つまり鈴さんは、光子竜と会話をしていたということですか?」

「凄いじゃない、あんた、やっぱり才能があるのよ!」

「……」

「鈴、このカードはまだ白紙であり精霊として覚醒していないカードだ。精霊のカードを覚醒させる方法は私にもわからないが、このカードはお前が持つべきだ。鈴がこのカードに命を吹き込むんだ!」

 

 そう言ってエヴァはガラスケースのカードを指差した。自分でも精霊を覚醒させる方法はわからないが、自分はどんな辛いことを経験してもスカーライトのカードを肌身離さず持ち続けており、それが今のスカーライトとの絆を結ぶことに繋がったことは否めない。

 精霊の可能性があるカードを精霊の力を目覚めさせることができそうなデュエリストが持ち続け、命を吹き込む。それが光子竜を目覚めさせ、ひいては遊希を助けることに繋がるのだ。

 

「そうとなったら校長先生を呼ぶわよ!」

「……だよ」

「鈴さん?」

 

 息巻く千春に引っ張られそうになりながら、皐月は鈴が何か小さな声で喋ったのに気が付いた。よく聞こえなかったので聞き返してみると、鈴は思いもよらぬ言葉を発した。

 

 

 

「無理……だよ。あたしなんかには……無理だ」

 

 

 

 普段の鈴を知っている三人からしてみれば鈴の口から発せられたその言葉は予想外のものだった。いつも元気で明るく、勝気で可愛らしい彼女。そんな鈴が今見せているのはいつもの鈴のそれではなかった。

 

「な、なに言ってんのよ鈴。あんたならきっと……」

「無理だよ! あたしが精霊使い? そんなわけないじゃない! あたしが本当に精霊使いだったなら、どうして遊希を守れなかったの!?」

「そ、それは……」

「親友一人だって守ることのできないあたしに……精霊なんて使えるわけないよ……!!」

 

 そう言って鈴は校長室から逃げるように飛び出していってしまった。ドアを思い切り開け放ち、飛び出した鈴は部屋に戻ろうとしていた竜司にぶつかった。竜司はいきなり自分の胸に飛び込んできた娘の顔を見て言葉を失った。鈴は両の眼を真っ赤に染め、大粒の涙をぽろぽろとこぼしていたのである。

 

「鈴?」

「……っ!」

 

 呼び止めようとした父の手を払い、鈴は何処かへと駆けていってしまった。いったい何があったのだろうか、と思いながら竜司が校長室に入ると、白紙のカードが入ったガラスケースの前で呆然と立ち尽くすエヴァ、千春、皐月の姿があった。

 

「君たち、鈴に一体何が……」

「実は……」

 

 エヴァは竜司に自分が思うありのままのことを伝えた。自分やスカーライトには白紙にしか見えなかったカードのレベルと種族を鈴が言い当てたこと。鈴が光子竜の声を聴き、会話をしたこと。そしてそれを伝えたところ、鈴が自分には無理だ、と言って校長室を出ていってしまったこと。それらの全てを正直に伝えた。

 その時の鈴の表情ははっきりとはわからなかったが、エヴァたちは鈴が涙を流していたということ、そしてそれが親友を守ることのできなかった後悔と無力感による涙であったことに気付いていた。

 鈴には精霊使いとしての力が目覚めつつある。白紙のカードの姿が見えかけていた鈴はそれに自分でも感付いていた。それゆえに遊希を守ることができなかった、ということに責任を感じていたのである。

 

「……鈴はああ見えて昔から責任感の強い子だ。それでいて頑固なところもある。私や蘭の言葉も聞き入れないほどに頑なになる。どうか……あの子の心を……」

 

 父と娘。娘は父に似るともいわれるように、竜司もこの事態において日本を代表するプロデュエリストでありながら何ら打開策を打ち出せておらず、娘のことに関してもエヴァのような若い少女たちに頼らなければならないことに自分の無力さを感じていた。

 そしてそんな竜司の心中をエヴァ、千春、皐月の三人は痛いほど理解していた。少女たちは竜司の言葉を聞き、強く心に誓った。ひとり孤独に震える親友に寄り添うこと、彼女の心の痛みを和らげてあげることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あたし……最低だ)

 

 鈴はアカデミアの屋上にいた。屋上の壁に寄りかかりながら一人座り込んでいた。彼女の頭の中では自己嫌悪に苛まれながら自分の言ってしまった酷い言葉が反響する。

 

(無責任だ。無責任すぎる……あたしが頑張らなきゃ、誰が遊希を助けてくれるっていうの? 遊希は千春や皐月と戦わされながら、ボロボロになりながら操られたあたしを助けてくれたのに……!)

 

 自分が遊望に操られていた時のことはほとんど覚えていない。それこそ遊希とデュエルをしたことくらいしか覚えておらず、それまでの過程は千春や皐月からまた聞きした程度の認識しかない。

 それでもその時の遊希は今の自分など比肩しないほどの重みを抱えて戦っていた。自分と同じように操られていたとはいえ同級生を何人も傷つけてしまった千春と皐月を正気に戻すため、涙を飲んで戦った。親友を助けるためとはいえ、千春や皐月を倒した後はそのことに心を痛めて毎晩のように涙を流していたという。

 

「あの時? あの時は辛かった、でも今となっては良い思い出よ」

 

 遊希は連れ去られる前、あの時のことをそう評していた。しかし、それは彼女なりの強がりであった。自らの意志ではないとはいえ、親友たちと刃を交えることが良い思い出でなどあるはずがない。

 不幸にも操られて主犯格とされてしまった鈴を傷つけないようにと気遣った遊希は気にしていないようではあるが、エヴァは三人が行方不明の間共に過ごした時の遊希の本当の気持ちを知っているし、千春と皐月は病院にお見舞いに訪れた遊希が病身にも関わらずデュエルをする二人を見て怒りながら大泣きしたということもこっそりと教えてくれた。

 もちろん遊希にとっては嫌な過去なので公にしてほしくない、と三人には言っていたが10代女子の口の堅さなどたかが知れている。クールで美しい遊希の想像だにしない姿であるが、三人よりも先に本当の遊希の触れた鈴はそれだけ遊希が自分のことを大事に思ってくれていることが嬉しくて仕方が無かった。

 

(遊希……ごめんね)

 

 体育座りをしたまま顔を膝に押しつける鈴。その暖かい涙で膝が濡れるのを感じた時、鈴の左隣に温もりが生じた。

 

「見つけたぞ、鈴」

「エヴァ……ちゃん」

「隣、失礼するぞ」

 

 エヴァが鈴に寄り添うように座る。空には過ぎ去ったはずの夏の雰囲気がまだいくつか残っていた。

 

「私はよくここの屋上に来ている。ここで空を眺めることが好きなんだ」

「……なんで?」

「空は繋がっている。この空を見上げると故郷のことを思い出せるんだ。もちろん日本にもロシアにも領空があるので自由に行き来はできないんだが……」

「もう、ムードぶち壊しじゃない」

「ふふっ、済まないな」

 

 悪戯っ子が見せるような笑みを浮かべるエヴァの姿を見て、鈴は呆れたように笑う。彼女が笑ったのを見てエヴァもまた同じようにくしゃっとした笑顔を浮かべた。

 

「やっと、笑ってくれたな」

「えっ?」

「鈴、遊希がいなくなってから、お前はずっと沈んだ顔をしていたな。鈴には笑顔でいてくれた方が私は嬉しいぞ?」

「そうよ! あんたの笑顔見てるとこっちも元気になるんだから!」

 

 振り返った鈴とエヴァの前には汗だくになった千春と皐月の姿があった。エヴァと三人に分かれて鈴を探していた千春と皐月であったが、エヴァに鈴を見つけたという連絡を貰い、急いでここまで駆けつけたのであった。

 

「千春、皐月……」

「ごめんなさい鈴さん。私たち、鈴さんの気持ちも考えずに……」

 

 息も絶え絶えに鈴に頭を下げる千春と皐月。二人は鈴が精霊使いとして覚醒し、精霊を自在に操れるようになれば遊希を助けることができる。そうして全ての物事がうまくいくことを確信しており、その願いは成就すると思っていた。

 しかし、遊希を助けることばかりを考えていたことが結果的に鈴を追い詰めてしまっていたことに気が付き、懸命にアカデミアの中を走り回っては鈴を探していたのである。

 

「そんな、謝らないでよ二人とも!」

「でも私たち……あんたが精霊を使えるかもって聞いて舞い上がっちゃって……」

「千春……」

「ねえ知ってる? ってあんたなら知ってるわよね。遊希もこの場所が好きだったってことを」

 

 普段は施錠されているため自由に出入りできない屋上であるが、その日の天候や気候によっては一般開放される時がある。その時遊希は授業の合間や食事の後に決まってここで空を眺めていることが多かった。遊希本人は風に当たりたい、という如何にもありがちな理由でここにやってきていたようだが、彼女もまたエヴァと同じように無性に空を眺めたくなることがあった。最もエヴァは故郷のことを思い浮かべるのに対し、遊希は澄み渡る蒼穹の果てに亡くした両親と遊望の顔を見ていた。

 アカデミアという外の環境に触れたことで遊希は以前と比べてだいぶ他人と接することができるようになっていた。7歳でプロになって以降、家を離れることが多かった遊希は家族とは離れて過ごすことが多く、元気な姿は専らテレビか新聞といった媒体を通して見せていた。

 そのため、こうして外に出て天国にいる両親と遊望に自分が元気でいることを見せるため、遊希は外に出ては空を見上げるのである。最も一番元気な姿を見せたかった妹が生きていて、攫われることになるとはこの時ばかりは思っていなかったようであるが。

 

「雲ひとつない青空……」

「夏の終わりから秋の始まりに移り変わる空……」

「……遊希がこの場にいたら、どんな顔をしているのだろうな」

 

 鈴の目の前には青空を見上げて儚くも美しい笑みを浮かべる遊希の姿が思い浮かぶ。

 

(遊希だったら……)

「鈴、私も千春も皐月も……みんな考えていることは鈴と同じだ」

「私と……?」

「五人で、またこんな綺麗な空を一緒に見上げたい…だろう?」

 

 五人で寄り添って座っては青い空と暖かな陽の光を浴びながら、風に吹かれる。ただの友達ではない、親友だからこそ築かれる空間がそこにはあるのだ。

 

「……遊希」

「鈴、これを」

 

 そう言ってエヴァが鈴に手渡したのはあの白紙のカードだった。竜司から許可を貰い、鈴に手渡すために預かってきたのである。

 

「このカードは……」

「鈴、お前は自分を無力だと思っているようだが、それなら私は鈴よりずっとダメな存在になってしまうぞ?」

「んなっ……なんでそうなるのよ!」

「私は鈴とは違い、スカーライトの力を自分の物にしていた。それでも、天宮 遊望には……銀河眼の時空竜には勝てなかった」

 

 不意を突かれた形ではあるものの、遊望の前に多くのデュエリストが膝を屈した。最初に洗脳された鈴はもちろん、鈴によって打ち負かされた千春や皐月も言ってしまえば遊望に負けているのである。

 

「遊希だってそうだ。私や鈴より精霊を使えるあいつですら敵わなかった相手だ。鈴一人だけが無力感を感じて責任を背負い込む必要なんて無いんだ」

「っ……!」

「鈴、弱い者が強い者に勝つには努力と鍛錬を重ねて精進しなければいけない。勝敗と共にあるデュエリストもそうだ。私だって、竜司さんだって、遊希だって……最初はみんな弱かった。でもたったひとつだけ―――勝ちたい。その思いを胸に秘めてずっと努力をしてきたんだ。そこに今の私たちがいる。だから……一緒に強くなりましょう、鈴」

「鈴」

「鈴さん」

 

 エヴァ、千春、皐月の三人が手を差し伸べる。エヴァの優しい笑み、千春の元気いっぱいの笑み、皐月の少し照れたような笑み。三者三様の笑顔が鈴を取り巻いていた。

 

「みんな―――」

 

 三人から差し伸べられたその手を取った鈴の顔には、彼女の決意に満ちた笑みを浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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白い竜との邂逅

 

 

 

 

 

「まだまだ行くわ、次の相手は誰!?」

 

 自分の中に眠る“精霊使い”としての素質。それと向き合うことを決めた鈴は竜司から託された白紙のカードの暫定的な所有者となった。しかし、いざ鈴に精霊使いの才能があったとして、その白紙のカードに命を吹き込むということについて明確な方法は誰も知らなかった。

 遊希は幼い時に夢の中で光子竜と出会って友となった。明くる朝枕元には光子竜をはじめ、今でも遊希が愛用している【ギャラクシー】のデッキ一式が置かれていたという。そのため遊希が光子竜を精霊として目覚めさせたというよりかは元々目覚めていた精霊が遊希の下になんらかの理由で来ただけということになり、遊希が精霊を覚醒させたということにはならない。

 またエヴァもプロとして出場して優勝した大会の賞品であった《レッド・デーモンズ・ドラゴン》のカードが突然《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》へと変貌したため、エヴァ自身が何か精霊のカードに手を加えたというわけでもない。そのため、鈴の下にもたらされた精霊と思わしき白紙のカード、というケースは精霊使いの先輩にあたる遊希やエヴァとは全く異なったものとなっていたのである。

 

「ちょっと鈴、大丈夫なの? もう休んだら?」

「大丈夫よ千春。遊希のことを考えたら休んでなんていられないわ」

 

 しかし、わからないならわからないで彼女たちに取れる方法は一つだけだ。デュエリストとカード、その二つを繋ぐのはデュエル。白紙のカードがまだ眠ったままであると考えるならば、所有者候補の鈴のデュエルを直接感じさせて目覚めさせるだけである。

 

「仕方ないわね……次は私が行くわ! ねえ鈴。このデュエルで私が勝ったら約束してちょうだい」

「約束?」

「あんた今日だけでももう10回以上連続でデュエルしてるじゃない。だから私が勝ったら今日のデュエルはこれでおしまい。いいわね?」

「……わかったわ」

 

 鈴はとにかくこなせるだけデュエルをすることにしていた。精霊のカードを持っているということを知っているのは鈴たちだけ一部の人間であったため、他の生徒たちは鈴が必死でデュエルに臨む姿を見て驚きを隠せないようだった。

 それでも父である竜司に追いつけ追い越せという精神で頑張っている、と考えれば他の生徒たちは快くデュエルに応じてくれた。それでも大半の生徒はたかが一度のデュエルに鬼気迫る表情で臨む鈴の様子に違和感を感じていたようであるが。ちなみに遊希については一般的にはプロの世界にいずれ復帰するため海外へ短期留学している、と発表されたため、遊希が遊望に拉致されたという事実は広まっていない。

 

「これで終わりよ! サイバー・ドラゴン・インフィニティで鈴にダイレクトアタック!“エヴォリューション・インフィニティ・バースト”!」

「っ!?」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:2 ATK2500

 

鈴 LP2100→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

「私の勝ちね。はい、今日のデュエルはおしまい」

「……わかったわよ」

 

 三度の飯よりデュエルが好きな千春が止めに入るほど鈴は疲弊していた。一度のデュエルにおいてもデュエリストは多くの知力と体力を使うため、見た目以上に当事者にかかる負担は大きい。

 今回のデュエルにおいては序盤こそ鈴が優勢に進めたものの、疲れから来る集中力と思考の欠如により、小さなプレイングミスを多々犯してしまったところを千春に突かれて逆転負けを許したのである。

 

「お疲れ様です、鈴さん」

 

 デュエルを終えた綾香に対し、汗ふきタオルとスポーツドリンクが入った水筒を差し出す皐月。その様はまるで運動部の女子マネージャーのようだった。

 そんな皐月に対して鈴は少し不満そうに礼を言いながら水筒を受け取る。水筒の蓋を開けると、ゴム製のストローがぴょん、と飛び出してくる。鈴はそれを吸ってスポーツドリンクを飲もうとするも、それを飲む力すらもだいぶ弱っていることに気が付いた。

 

「……はぁ」

「どうした? ため息などついて」

「遊希やエヴァちゃんは……いつもこんな思いをしてたの? デュエルの後に遊希が倒れてたのはこんなに力を使うから?」

 

 今でこそすっかり慣れていたようであるが、入学当初遊希は銀河眼モンスターを召喚するたびに体力をいたく消耗していた。精霊およびそれに付随するカードはどれもデュエリストの体力を奪うのである。

 

「そうだな。この疲労感に耐えれないと精霊を操ることは厳しいかもしれないだろう」

「そっか……」

 

 そう言って俯く鈴。エヴァは内心しまった、と後悔した。せっかく鈴が精霊を目覚めさせようと頑張っているのに、そのやる気を削ぐような発言をしてしまったのである。後悔先に立たず、口は災いの下―――と用法用例は別に最近覚えたばかりの日本語のことわざが頭の中をぐるぐると駆け巡り、エヴァの顔には滝のような汗が滴り始める。

 

「エヴァさん? 凄い汗ですよ?」

「ファッ!? ナナナナンデモナイゾー!」

「なんか片言になってるし! エヴァって意外と隠し事下手よね!」

「言うな! 結構気にしてるんだから!」

 

 張りつめた空気が少しではあるが、和んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、あなたは誰?」

 

 鈴が精霊使いの鍛錬を始めて2週間ほど経った頃だろうか。鈴は夢をよく見ていた。人間が夢を見るのはレム睡眠の時であると言われており、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す人間は目覚めた時にその記憶が残っていないことも多い。

 それでも夢のようで夢ではないものを毎晩のように見ていた。鈴がいたのは満点の星空が浮かび、青々とした草が涼しく優しい風に揺れる高原のような世界だった。最初のうちはここはどこだろう、と彷徨い歩くだけだったがそれが数日続いた後に彼女は1体のドラゴンと遭遇した。

 そのドラゴンは光子竜やスカーライトのような一般的なイメージされる西洋風の筋骨隆々なドラゴンとは異なり、どこか東洋の龍を思わせるような細い身体を持っている白い竜だった。流線形な身体と胸部についた青い宝石のような物体が儚くも美しいドラゴン。鈴は見たこともないそのドラゴンに懸命に話しかけてるようになっていた。

 しかし、そのドラゴンは鈴の存在にこそ気づいてはいるものの、警戒しているのかそれとも単に無口なだけなのか、鈴の問いかけには答えようとしなかった。

 それでもこのカードこそが白紙のカードに宿る精霊なのではないか、と思った鈴は根気強くそのドラゴンに話しかけては自分がそのドラゴンに敵意を持っていないことを伝えようとする。最もそのドラゴンはそんな鈴の気持ちなどどこ吹く風とばかりに清らかな風と光を纏っては天空へと去っていくのだが。

 

「……また、会いに来るからね」

 

 自分で意図しているわけではないのだが、朝を迎えて目覚めようとすることを鈴は本能的に理解していた。精霊の世界を去る時に誰もいない空に向かって別れの挨拶を欠かすことはなかった。

 

「鈴……どうやらお前は精霊の心を開きつつあるみたいだな」

 

 鈴はその夜に見た夢の内容をエヴァに逐次報告していた。エヴァはスカーライトと完全に繋がるまで夢でスカーライトと出会うなどということはなく、鈴の例は自分にも遊希にもない特殊なケースであると断言した。体験したことこそないが、鈴とそのドラゴンの絆はこの時点で相当深いものであることは彼女にもわかっていた。そして鈴がそのドラゴンをデュエルモンスターズの精霊として覚醒させる時も近いことを。

 

「そうなのかな……なんか話しかけても話しかけても喋ってくれないんだけど」

(どう思う、スカーライト?)

―――あたしとは違って人見知りなのかもね、そのドラゴンは。ん? 人見知り? ドラゴン見知りって言うのかな?

(そこは大事な所なのか?)

 

 妙なところに拘るスカーライトのことは置いておいて、エヴァはスカーライトの言葉を伝えた。エヴァもといスカーライト曰く、そのドラゴンの鈴に対する感触は話を聞く限りでは悪くはないようである。

 

「……だそうだ。なので心配はいらないと思うぞ」

「そっか。じゃあ今日もデュエルと行くわよ!」

「望むところだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、いや、こんばんはかな?」

 

 最早恒例となりつつあった精霊との交信。ドラゴンが返してくれなくても目覚めるまでの間鈴はそばにいることにした。鈴が近くに寄ってもそのドラゴンは威嚇など敵意を感じさせる行動はとらないことから鈴を敵視しているわけではないのがわかる。

 それでも完全に信用を得ていないのであれば、絆を結んだとは言えないため、鈴はその日あった出来事をわかるようにドラゴンに話すことで、そのドラゴンの心を開ければと思っていたのである。

 

「今日もいっぱいデュエルしたわ。いつかあなたと一緒にみんなとデュエルする時が来ることを待ってるけど……あたしが未熟なのかまだあなたのことを覚醒させてあげられないの。ごめんね」

―――……い。

「ん?」

―――そんなこと……ない。

 

 鈴の脳裏にはぼそぼそ喋る少女の声が響いた。この世界にいるのは鈴とそのドラゴンだけ。声の主は紛れもなく鈴の隣で横たわりながら空を見上げていたそのドラゴンであった。ドラゴンが応えてくれたことで鈴は太陽のような笑みを向ける。

 

「……やっと、喋ってくれたね。えーと、自己紹介がまだだったね。私は星乃 鈴っていうの。鈴って気軽に呼んで?」

―――……鈴。

「そう」

 

 ドラゴンは何処か照れ臭そうに鈴の名前を呼ぶとそのまま黙ってしまった。しばしの沈黙の後に何があったのだろうか、と不思議に思った鈴がドラゴンの顔を覗き込むとそのドラゴンは何処か戸惑った様子を浮かべていた。

 

「……どうしたの?」

―――あのね。

「……うん」

―――わたし……名前がわからないの。

「えっ?」

 

 このドラゴンはスカーライト同様人間界で生を受けたドラゴンである。このドラゴンには当然決められた名前があるようなのだが、人間界において顕現してまだ日が浅く、自分自身が何者であるかということもはっきりと理解していなかったのだ。

 最も鈴の話を聞いたことで自分がデュエルモンスターズの精霊であるということは理解しているのだが。それでも自分自身の名前がわからない以上、積極的に話しかけてくれる鈴に対してどう答えるべきかわからなかったのである。

 

―――わたしには名前がある。でも……その名前がわからない。だから鈴、あなたとは話せなかった。名前のないドラゴンなんて変だって思われて嫌われたくないから……

「……ふふっ」

 

 その見た目からは想像できない細やかな悩みを聞いた鈴は思わずぷっ、と噴き出した。それには言葉少な目だったドラゴンも珍しく感情を露わにした。

 

―――笑うなんて……ひどい。

「ごめんごめん、なんかあたしの友達を思い出してさ」

―――友達?

「うん。あなたと一緒で悩まなくてもいいことで悩んで不器用で……でも今その友達はいないんだ」

―――いない?……なんで?

「連れ去られちゃったの。あなたと同じデュエルモンスターズの精霊に。ねえ、ドラゴンさん……あたし、その子を助けたい。でも今のあたしの力だけじゃ到底助けることなんてできない……だからあなたの力を借りたいの!」

 

 鈴はドラゴンに対して攫われた遊希のこと、遊希の精霊である銀河眼の光子竜のこと、自分と同じ精霊使いであるエヴァのこと、エヴァに宿る精霊・スカーライトのこと、自分がどうしてそのドラゴンの世界にやってきたのか、ということまで自分の思っていること全てを告げた。ドラゴンは鈴が話すことに驚いていたようであるが、最終的にそのことを聞くドラゴンの顔は真剣そのものになっていた。

 

―――わたしに……そんな力が……

「遊希を助けるには銀河眼の光子竜って精霊の力が必要なの。そしてそんな光子竜を眠りから覚ますためにはあなたの力が必要になる。ごめん、一気に伝えすぎて混乱しちゃったかな?」

―――大丈夫……でもちょっと不安。わたしにそんな力があるのかな。

「あなたの力はわからない。でもあたしがあなたの持つ力を引き出してあげる」

―――鈴……あのね、私ずっとあなたのデュエルを見ていたの。正直……鈴のデュエルは細かいミスも多いしそれが負けに繋がることも多い。

 

 淡々とした口調で鈴のデュエルを評するドラゴン。少しばかり申し訳なさそうな顔をしながらそのくせ的確かつ少々毒舌なドラゴンの口ぶりに鈴は思わず天を仰ぐ。自分のデュエルが遊希やエヴァほど冴えわたったものではないにしても、ここまではっきりと、そして将来的に自分の相棒となる精霊に言われるとさすがに傷つくというものである。

 

―――でも……鈴のデュエルは見ててなんというか……頑張りが伝わってくる。応援したくなる……

「……む、無理に励まさなくていいよ」

―――無理……じゃない。わたし……鈴だったら一緒に戦っても……いい。でも……まだ力が足りない。

「力?」

―――わたしは……精霊として……鈴のところに行く力がほしい。鈴と……デュエルをしたい。鈴といっしょに……

 

 朝目覚めたとき、鈴は決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の授業が全て終わった後、鈴はエヴァにデュエルを挑むことにした。遊希が攫われて早くも2か月ほどの月日が経とうとしており、世間はハロウィンが近いこともあって若者が仮装したり、子どもがお菓子をせがんだりするなどにわかに慌ただしくなりつつあったが、鈴たちにハロウィンに興じている余裕などなかった。

 エヴァはこの2か月間3日に1回のペースでエヴァとデュエルをしていたが、今の今までエヴァには一度も勝っていない。エヴァのデッキやプレイングこそ鈴は直接デュエルをすることで学んでいたのだが、個別にメタを立てることなくそのままのデッキで、鈴本来のやり方で挑んでいたために勝つことはできていなかった。

 ただ鈴からしてみればエヴァに勝つ勝たないの問題ではない。変に着飾らないありのままの自分のデッキで、自分のデュエルでエヴァに挑むことで精霊に星乃 鈴という人間がどんな人間かを理解してもらいたかったのだ。

 

「エヴァちゃん。お願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「……あたし、このデュエルで精霊を目覚めさせる」

「……そうか」

「だから、絶対にスカーライトを召喚して。そして全力であたしたちを倒しに来て」

「……わかった。だが鈴」

「なに?」

「私はいつだって全力だ。何故なら鈴は精霊を駆るに相応しいデュエリストだからな」

 

 そう言って可愛らしいながらもどこか不敵な笑みを浮かべるエヴァ。かつて自分が遊希にスカーライトと絆を結ぶ手伝いをしてもらったときのように、今度は自分が鈴の手助けをする番である。いつ鈴の精霊が目覚めてもいいように、そのための覚悟は既に彼女の中でできていたから。

 デュエルディスクを起動し、デュエルモードへと移行する。コンピューターによって先攻後攻の決定権がどちらに与えられるかが決められ、鈴にその権限が与えられる。エヴァの【BF】デッキは速攻を得意とするデッキであり、先攻を渡せば制圧盤面を固められる恐れもあるため、鈴は先攻を選択した。

 

「鈴、遊希が連れ去られてから2か月も経ってしまったな。そしてお前が精霊使いの力を目覚めさせてからも同じくらい経った」

「うん」

「正直羨ましい。私はスカーライトと絆を結ぶまで何年もかかった。精霊には強い力がある分、そのリスクも大きい……なのでそれに耐えうる人になってもらいたい。だから……容赦はしないぞ!!」

「エヴァちゃん……わかったよ。あたしも、今持てる力を全部出していくわ!!」

 

 千春と皐月、そして竜司が真剣に見つめる中、鈴とエヴァのデュエルが始まった。

 

 

先攻:鈴【儀式青眼】

後攻:エヴァ【BF】

 

 

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

 

 

 

 

 



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変わる決意(修正版)

 

 

 

 

 

☆TURN01(鈴)

 

「先攻はあたし。ね、エヴァちゃん。先に言っておくけど、今までのあたしと思わない方がいいかもしれないわよ?」

「ほう? デッキに新しいカードでも入れたというのか?」

「ま、そんなとこかな。今からそれを見せてあげる! あたしは手札から魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動。手札1枚をコストにデッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2枚まで手札に加える」

 

 鈴の手元からはあの白紙のカードがコストとして墓地へ送られる。カードの種類を問わないコストであれば白紙のカードであっても問題なく使用できるようだった。

 

「あたしはデッキからブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと青眼の亜白龍の2枚を手札に加えるわ!」

「お決まりの2体か。しかし、手札に青眼の白龍がなければその2枚をサーチする意味はない」

「そう……今のあたしの手札には青眼の白龍はない。だけど、青眼の白龍をサーチしつつ、フィールドを固めることくらい簡単だよ! 更にあたしは手札から魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動。今サーチした亜白龍をコストにデッキからレベル1の伝説の白石を特殊召喚するわ!」

 

 普段の鈴であれば、先攻後攻問わずにエースモンスターであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの儀式召喚を狙うプレイングをする。しかし、このデュエルにおいてはカオス・MAXと共にデッキを支えるモンスターである亜白龍をサーチした直後に即ワン・フォー・ワンの発動コストに充てた。その時点で少なくとも今までの鈴のプレイングとは異なっていた。

 

「伝説の白石をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク1のリンクリボーをリンク召喚! フィールドから墓地に送られた伝説の白石の効果であたしはデッキから青眼の白龍1体を手札に加える。あたしはカードを1枚セット。そして、《宵星の騎士(ジャックナイツ・オルフェゴール)ギルス》を召喚!」

 

《宵星の騎士ギルス》

効果モンスター

星4/闇属性/機械族/攻1800/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「オルフェゴール」カードまたは「星遺物」カード1枚を墓地へ送る。このカードと同じ縦列に他のカードが2枚以上存在する場合、さらにこのターン、このカードをチューナーとして扱う。

(2):自分フィールドに他のモンスターが存在しない場合に発動できる。お互いのフィールドに「星遺物トークン」(機械族・闇・星1・攻/守0)を1体ずつ守備表示で特殊召喚する。

 

「宵星の騎士ギルスだと!? 青眼とのシナジーはないはずだが……」

「あるんだよね、これが。召喚に成功したギルスの効果を発動。デッキからオルフェゴールもしくは星遺物カード1枚を墓地に送るよ。あたしが墓地に送るのは《星遺物-「星杯」》。そしてこの効果を発動した場合、このカードと同じ縦列に他のカードが2枚以上存在する場合、このカードはこのターンチューナーとして扱うことができる」

 

 ギルスが召喚されたのはリンクリボーの真下のメインモンスターゾーンであり、更にその下にはセットしたカードが存在する。故にギルスはチューナーモンスターとしてこのターン扱うことができるのだ。しかし、ギルスと青眼デッキのコンボの真価はこの効果ではない。

 

「なるほど、わかったぞ。トークンの守備力は0、そしてお前のデッキには貫通ダメージを倍にするカオス・MAX……」

「さすがにバレちゃったか。ギルスの効果で特殊召喚できるトークンを処理できなかったら、エヴァちゃんをワンキルできるってこと! まあ先攻だしギルスの2つ目の効果は使えないんだけど……」

 

 ギルスのトークン生成効果は他にモンスターが存在する場合は発動できない。そのため、1つ目の効果と併用するにはリンクリボーを自ら除去する必要があり、2つの効果を同時に発動するのは現実的ではないと言える。しかし、先攻の場合は1つ目の効果を発動して先攻展開、後攻の場合は2つ目の効果を駆使して後攻ワンキルの手段を増やすことができるのだ。

 

「あたしはリンクリボーとチューナーモンスターとなったギルスをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、水晶機巧ハリファイバー!!」

「ハリファイバー……なるほど、それで」

「リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動よ! デッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚する! あたしはレベル3のチューナーモンスター《D・スコープン》を特殊召喚!」

 

《D・スコープン》

チューナー(効果モンスター)

星3/光属性/機械族/攻800/守1400

このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

●攻撃表示:1ターンに1度、手札から「D(ディフォーマー)」と名のついたレベル4モンスター1体を特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

●守備表示:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードのレベルは4になる。

 

「D・スコープンは表側守備表示で存在する限り、レベルは4になる」

 

D・スコープン 星3→星4

 

「そしてあたしはハリファイバーをリンクマーカーにセット! 召喚条件はリンク2以上のリンクモンスター1体! サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れなさい!《リンクロス》!」

 

《リンクロス》

リンク・効果モンスター

リンク1/光属性/サイバース族/攻900

【リンクマーカー:下】

リンク2以上のリンクモンスター1体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。そのリンク素材としたリンクモンスターのリンクマーカーの数まで、自分フィールドに「リンクトークン」(サイバース族・光・星1・攻/守0)を特殊召喚する。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「リンクトークン」をリンク素材にできない。

 

「リンク召喚に成功したリンクロスの効果を発動。素材にしたハリファイバーののリンクマーカーの数だけあたしのフィールドにレベル1のリンクトークン2体を特殊召喚するわ!」

「しかし、そのトークンはターン終了時までリンク素材にすることができない。そのためのD・スコープンか」

 

 ギルス同様にD・スコープンも種族やテーマで言えば青眼とは何のシナジーもない。しかし、D・スコープンはハリファイバーの効果で特殊召喚できるチューナーモンスターで唯一レベルを4にすることができるモンスターなのだ。ハリファイバーの効果で特殊召喚したチューナーモンスターは効果を発動することができないが、スコープンのレベル変動効果は発動する効果ではないため、問題なく適用される。

 

「そういうこと! あたしはリンクトークン1体に、レベル4となったチューナーモンスター、D・スコープンをチューニング!“悪略によって命失いし可憐なる乙女よ。守護の力を以て転生せよ!”S召喚! シンクロチューナー、星杯の神子イヴ! S召喚に成功したイヴの効果を発動! デッキから星遺物カード1枚を手札に加える。あたしが手札に加えるのは永続魔法、星遺物の守護竜! そしてもう1体のリンクトークンに、レベル5のイヴをチューニング!“沼地に潜みし竜よ。千変万化、全てを網羅せよ!”S召喚!《ドロドロゴン》!」

 

《ドロドロゴン》

シンクロ・効果モンスター

星6/闇属性/ドラゴン族/攻500/守2200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードは、融合モンスターカードにカード名が記された融合素材モンスター1体の代わりにできる。その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。

(2):このカードがS召喚されている場合、自分メインフェイズに発動できる。融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを自分フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

「墓地に送られたイヴの効果を発動よ! デッキから星杯の守護竜を特殊召喚するわ! そしてドロドロゴンは融合モンスターカードにカード名が記された融合素材モンスター1体の代わりにできて、S召喚されている場合あたしのメインフェイズに融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターをフィールドから墓地に送ることで、融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚できるわ!」

「代用効果を持ち、融合内蔵のモンスター。そしてイヴの効果で特殊召喚した星杯の守護竜……? っ、そういうことか!?」

「気づいちゃったみたいね! あたしはドロドロゴンの効果を発動し、ドロドロゴンと星杯の守護竜で融合!“2体の竜よ、今一つとなって魔導の力奮いし竜騎士となって再誕せよ!” 融合召喚! 現れなさい、超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ!!」

 

 ドロドロゴンは名称指定の融合素材の代用にすることができるため、ブラック・マジシャンを融合素材に指定する超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズの融合素材にすることができる。鈴のデッキはドラゴン族主体のデッキであるため、もう片方の融合素材であるドラゴン族の効果モンスターであっても容易に調達できるのだ。

 

「……青眼のデッキでよもや真紅眼のモンスターが出てくるとはな」

「ぶっちゃけ海馬 瀬人あたりにこのデュエルを見られたらマジ切れされるかもね。でも、青眼も真紅眼も関係ない。あたしは……遊希を助けるためだったらどんな誹りだって受けてやるんだから! あたしはさっきセットした魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のギルス、ドロドロゴン、ハリファイバー、イヴ、伝説の白石の5枚をデッキに戻してシャッフル。そして2枚ドロー! へへっ、ツイてる! 手札から儀式魔法、高等儀式術を発動!デッキの通常モンスター、青眼の白龍を儀式の生贄に捧げ、手札からブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚! カードを1枚セットして、ターンエンドだよ!」

 

 

鈴 LP8000 手札2枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ)EXゾーン:1(リンクロス)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:10 除外:0 EXデッキ:11(0)

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 □□□伏□

 □超M□□□

  ク □

□□□□□□

 □□□□□

エヴァ

 

○凡例

ク・・・リンクロス

超・・・超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ

 

 

☆TURN02(エヴァ)

 

(鈴の青眼デッキは先攻制圧が不得手と思っていたが……ドラグーン・オブ・レッドアイズが出てくるとは想定外だった……)

―――でも、対策はバッチリなんでしょ?

(あのカードを対策しないデュエリストなどいないからな)

 

 エヴァの言うように、超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズというモンスターは【ブラック・マジシャン】や【真紅眼】以外のデッキで採用されるケースが多くなっており、正規の方法や素材で融合召喚されていないため、除去効果は発動できないものの、パーミッション効果は問題なく発動できる。故に後攻からの切り返しはもちろん、先攻制圧すらも容易に成し遂げるパワーカードと化していた。

 

「私のターン、ドロー! せっかくのドラグーン・オブ・レッドアイズだが、お前の出番はもう終わりだ!」

 

 エヴァが手札のカードを発動した瞬間、鈴のフィールドのドラグーン・オブ・レッドアイズが消滅し、そこには黒い身体をした異星人のような姿のモンスターが現れていた。

 

「さすがエヴァちゃん……ちゃーんと手は打ってあったか」

「私は鈴のフィールドのドラグーン・オブ・レッドアイズをリリースし《多次元壊獣ラディアン》を特殊召喚する!」

 

《多次元壊獣ラディアン》

効果モンスター

星7/闇属性/悪魔族/攻2800/守2500

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):1ターンに1度、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを2つ取り除いて発動できる。自分フィールドに「ラディアントークン」(悪魔族・闇・星7・攻2800/守0)1体を特殊召喚する。このトークンはS素材にできない。

 

「さすがのドラグーン・オブ・レッドアイズも、強制リリースには勝てないよね……」

「無敵のカードなど存在しない、ということだ。私は手札のBF-毒風のシムーンの効果を発動する! 手札のBF-黒槍のブラストをゲームから除外し、デッキから永続魔法、黒い旋風を発動する。そしてその後、このカードの効果でシムーン自身を召喚! BFモンスターの召喚に成功したことで、黒い旋風の効果を発動。デッキからシムーン以下の攻撃力を持ったBF-南風のアウステルを手札に加える」

 

 対するエヴァの後攻1ターン目は得意とする毒風のシムーンから始まった。奇手を打ってきた鈴に対し、エヴァはあくまで得意とする戦法をそのまま使ってくるようだった。

 

「そしてチューナーモンスター、南風のアウステルを召喚。召喚に成功したアウステルの効果、そして黒い旋風の効果を発動」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風の効果で私はデッキからBF-砂塵のハルマッタンを手札に加え、チェーン1のアウステルの効果で私は除外されているブラストを特殊召喚する! 更に今手札に加えたハルマッタンも特殊召喚だ!」

 

 エヴァのフィールドには瞬く間に4体のBFモンスターが居並ぶ。彼女の主だった戦法の一つがリンクモンスター1体をリンク召喚し、更にシムーンとアウステルでレベル10の大型Sモンスター、BF-フルアーマード・ウィングのS召喚を狙うというものだ。しかし、フルアーマード・ウィングは元となったSモンスター、BF-アーマード・ウィングとは違って効果破壊耐性を持つものの、代わりに戦闘耐性を失っているためカオス・MAX相手には不利と言っていい。

 

(エヴァちゃんは4体のモンスターでどうやって……)

「行くぞ。私はシムーンとハルマッタンをリンクマーカーにセット! アローヘッド確認、召喚条件は“鳥獣族・闇属性モンスター2体”! サーキットコンバイン!“闇夜に潜みし猛禽よ。叡智の瞳で新たな未来を切り拓け!”リンク召喚!羽ばたけ!《RR-ワイズ・ストリクス》!!」

 

《RR-ワイズ・ストリクス》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/鳥獣族/攻1400

【リンクマーカー:左下/右下】

鳥獣族・闇属性モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。デッキから鳥獣族・闇属性・レベル4モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはリンク素材にできず、効果は無効化される。

(2):自分の「RR」Xモンスターの効果が発動した場合に発動する。デッキから「RUM」魔法カード1枚を自分フィールドにセットする。速攻魔法カードをセットした場合、そのカードはセットしたターンでも発動できる。

 

「RR!?」

 

 RR(レイド・ラプターズ)はBFと同じく闇属性・鳥獣族で統一されたカテゴリーであり、BFとは異なりXモンスターやRUMを駆使して展開するデッキであるものの、下級モンスター主体であることや種族・属性が共通していることから併用も十分可能なカードなのだ。

 

「……私も色々と変わらなければならない時に来ている。それをこの間のデュエルで思い知らされたよ」

―――エヴァ……

「そして新しくなったデッキの初陣相手が鈴、お前ということだ。悪いが、このデュエルおいそれと負けてやるわけには行かない!」

「エヴァちゃん……そうね、だったらその新しいデッキの全力、あたしに見せてちょうだい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4の精霊

 

 

 

 

「ならば望み通り、その全力を見せてやろう! リンク召喚に成功したワイズ・ストリクスの効果を発動。デッキから闇属性・レベル4・鳥獣族のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私はBF-精鋭のゼピュロスを特殊召喚!」

 

 ワイズ・ストリクスの効果で主に大半のモンスターが闇属性・レベル4・鳥獣族のRRモンスターを特殊召喚するために使われる。しかし、その条件であればBFも数多くのモンスターが該当しており、シムーンからの黒い旋風とコンボが狙える精鋭のゼピュロスをデッキから特殊召喚できる、というのは大きかった。

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、リンク召喚の素材にはできない。しかし、他の召喚には問題なく使うことができる。私はレベル4のブラストとゼピュロスでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。X召喚!“闇夜に潜みし猛禽よ。その眼光で大いなる翼を導き出せ!”ランク4!《RR-フォース・ストリクス》!」

 

《RR-フォース・ストリクス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/鳥獣族/攻100/守2000

レベル4モンスター×2

(1):このカードの攻撃力・守備力は、このカード以外の自分フィールドの鳥獣族モンスターの数×500アップする。

(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから鳥獣族・闇属性・レベル4モンスター1体を手札に加える。

 

「フォース・ストリクスの攻守はこのカード以外の私のフィールドに存在する鳥獣族モンスターの数×500アップする。私のフィールドにはワイズ・ストリクスとアウステルの2体の鳥獣族モンスターが存在するため、フォース・ストリクスの攻守はそれぞれ1000アップとなる」

 

RR-フォース・ストリクス ORU:2 ATK100/DEF2000→ATK1100/DEF3000

 

「更にフォース・ストリクスの効果を発動。このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、デッキから鳥獣族・闇属性・レベル4のモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのはBF-残夜のクリス。そしてRRのXモンスターが効果を発動したことで、ワイズ・ストリクスの効果も発動。デッキよりRUMを1枚セットする。そしてこの効果で速攻魔法のRUMをセットした場合、セットしたターンに発動できる」

 

 RRのRUMは通常魔法のRUMと速攻魔法のRUMの2種類が存在する。基本的に速攻魔法はセットしたターンは発動できないのがルールであるが、そのルールを例外的に捻じ曲げることができるのがワイズ・ストリクスの効果なのだ。

 

「私はデッキより《RUM-レイド・フォース》をセット。そして私のフィールドにアウステルが存在することにより、手札のクリスは特殊召喚できる。更に墓地のゼピュロスの効果を発動。デュエル中に一度だけしか発動できないが、フィールドに表側表示で存在するカード1枚を手札に戻すことで墓地から特殊召喚できる。私は黒い旋風を手札に戻し、ゼピュロスを特殊召喚。そしてその後400のダメージを受ける」

 

エヴァ LP8000→LP7600

 

「まだだ、まだこんなものではない! 私はリンク2のワイズ・ストリクスとゼピュロスをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!“戦場に斃れし漆黒の騎士よ。残されし力振り絞り、終の一撃を突き穿て!”リンク召喚!《幻影騎士団ラスティ・バルディッシュ》!」

 

《幻影騎士団ラスティ・バルディッシュ》

リンク・効果モンスター

リンク3/闇属性/戦士族/攻2100

【リンクマーカー:右/左下/右下】

闇属性モンスター2体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。このカードはリンク素材にできない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「幻影騎士団」モンスター1体を墓地へ送る。その後、デッキから「ファントム」魔法・罠カード1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットする。

(2):このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、このカードのリンク先に闇属性Xモンスターが特殊召喚された場合、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

「幻影騎士団(ファントム・ナイツ)まで!? エヴァちゃん、元のデッキの原形残ってるの?」

 

 【幻影騎士団(ファントム・ナイツ)】は闇属性・戦士族で統一されたテーマであり、属するモンスターは全て下級モンスターであるが、展開力に優れ、優秀な魔法・罠カードを駆使してX召喚を狙うテーマである。かつては同じ下級テーマの【SR(スピードロイド)】や【彼岸】と組み合わせることで高い勝率を誇っており、プロデュエリストにも愛用者の多いデッキだった。

 

「鈴、お前にだけは言われたくないぞ! お前だって真紅眼やらDやら無関係のカードを入れているじゃないか!」

「あっ、確かにそれもそうだよね……」

「まあいい。お互い様ということで水に流してくれ。ラスティ・バルディッシュの効果を発動。デッキから幻影騎士団モンスター1体を墓地へ送り、その後デッキからファントム魔法・罠カード1枚を選んで私の魔法&罠ゾーンにセットする。私は《幻影騎士団サイレントブーツ》を墓地へ送り、デッキから《幻影霧剣》をセットする。そして墓地のサイレントブーツの効果を発動!」

 

《幻影騎士団サイレントブーツ》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻200/守1200

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「幻影騎士団」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「ファントム」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「墓地のサイレントブーツを除外し、デッキからファントム魔法・罠カード1枚を手札に加える。私はデッキより《RUM-幻影騎士団ラウンチ》を手札に加える。そしてこのモンスターは手札のRUM1枚を捨てることで、自分フィールドのランク5以下のRRXモンスターをランクアップすることができる。私は手札の幻影騎士団ラウンチを捨て、ランク4のフォース・ストリクスをランクアップさせる! “闇夜に潜みし猛禽よ。大いなる隼となりて地上の全てを制圧せよ!”ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》!」

 

《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/闇属性/鳥獣族/攻2000/守3000

鳥獣族レベル6モンスター×3

このカードは手札の「RUM」魔法カード1枚を捨て、自分フィールドのランク5以下の「RR」Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードがX召喚に成功した場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。エクストラデッキから「RR-レヴォリューション・ファルコン」1体を特殊召喚し、このカードを下に重ねてX素材とする。

 

「X召喚に成功したレヴォリューション・ファルコン-エアレイドの効果を発動! 相手フィールドのモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える! 破壊するのは当然、ラディアンだ!」

 

 天空に舞い上がったレヴォリューション・ファルコン-エアレイドから放たれた爆弾がラディアンの身体を吹き飛ばす。ドラグーン・オブ・レッドアイズを処理するだけではなく、ここまで狙ってのラディアンと考えると、鈴が受けたダメージは数値以上に大きなものだった。

 

鈴 LP8000→LP5200

 

「いたたた……」

「このターンでカオス・MAXを突破することは難しいからな。ライフアドバンテージだけでも稼がせてもらう。リバースカードオープン、魔法カードRUM-レイド・フォースを発動!」

 

《RUM-レイド・フォース》

通常魔法

(1):自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが1つ高い「RR」モンスター1体を、対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードと手札の「RR」カード1枚を除外し、「RUM-レイド・フォース」以外の自分の墓地の「RUM」魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「ランク6のレヴォリューション・ファルコン-エアレイドを1つ上のRRモンスターにランクアップさせる。私はレヴォリューション・ファルコン-エアレイドでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! “誇り高き隼よ。革命の風に乗り、友を救う翼となれ!” ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 《RR-アーセナル・ファルコン》!」

 

《RR-アーセナル・ファルコン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/鳥獣族/攻2500/守2000

レベル7モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから鳥獣族・レベル4モンスター1体を特殊召喚する。

(2):「RR」モンスターをX素材として持っているこのカードは、その数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

(3):「RR」モンスターをX素材として持っているこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。エクストラデッキから「RR-アーセナル・ファルコン」以外の「RR」Xモンスター1体を特殊召喚し、墓地のこのカードをそのXモンスターの下に重ねてX素材とする。

 

「アーセナル・ファルコンの効果を発動。このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、デッキから鳥獣族・レベル4のモンスター1体を特殊召喚する。私は《RR-ミミクリー・レイニアス》を特殊召喚!」

 

《RR-ミミクリー・レイニアス》

効果モンスター

星4/闇属性/鳥獣族/攻1100/守1900

「RR-ミミクリー・レイニアス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功したターンの自分メインフェイズに1度だけ発動できる。自分フィールドの全ての「RR」モンスターのレベルを1つ上げる。

(2):このカードが墓地へ送られたターンの自分メインフェイズに、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「RR-ミミクリー・レイニアス」以外の「RR」カード1枚を手札に加える。

 

「行くぞ、私はレベル4のBF-残夜のクリスに、レベル4のチューナーモンスター、BF-南風のアウステルをチューニング!」

「ここでレベル8のS召喚ってことは……」

(待たせてしまって申し訳ない。お前の力を貸してくれ、スカーライト!)

―――オッケー! いつでもいいよ!

「“黒き嵐吹き荒ぶ世界は紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”シンクロ召喚! 現れよ、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!」

 

 精霊のカード、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが高らかに咆哮する。これまで精霊のカードと言えども普通のモンスターとの違いがあまりよくわかっていなかった鈴であったが、精霊と思わしきカードを手にした影響だろうか、スカーライトが他のモンスターとは明らかに違っていることがわかるようになっていた。

 

―――さあ、行くよ鈴!

「スカーライト……そんな声してたんだね。まるであたしたちと同年代みたい」

―――うん、生まれた時からこんな声だよ……って鈴あたしの声聞こえるの!?

「う、うん……」

―――マジで!?

「驚いたな……まさか鈴がそこまで精霊の力を掴めているとは。ならば、このデュエルでその精霊と心を通わせることもできるかもしれないな。最も、お前に下駄を履かせてやるつもりなど毛頭ないがな! スカーライトの効果を発動、スカーライト以外かつスカーライト以下の攻撃力を持つフィールドに特殊召喚された効果モンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500のダメージを相手に与える」

 

 鈴のフィールドに特殊召喚され、スカーライト以下の攻撃力を持つモンスターはリンクロス1体。一方エヴァのフィールドに存在する特殊召喚され、スカーライト以下の攻撃力を持つモンスターはラスティ・バルディッシュ、アーセナル・ファルコン、ミミクリー・レイニアスの3体だ。スカーライトの効果は自分のモンスターをも巻き込んでしまうため、無闇やたらに使っていい効果ではない。しかし、エヴァはスカーライトの効果を発動したその更に先を見据えていた。

 

「全てを破壊せよ!“アブソリュート・パワー・フレイム”!」

 

 スカーライトの放った灼熱の炎がフィールドの全てを包み込む。スカーライトの攻撃力を上回っているカオス・MAXはその炎の一撃を耐え抜いたものの、他のモンスターは全て消滅してしまった。しかし、燃え尽きたと思ったアーセナル・ファルコンの遺骸からはまた新たな命が芽生え出す。

 

鈴 LP5200→LP3200

 

「RRXモンスターを素材に持っているアーセナル・ファルコンが墓地へ送られた場合、EXデッキからRRXモンスター1体を特殊召喚し、アーセナル・ファルコンをそのモンスターのオーバーレイユニットにする。私はEXデッキより《RR-アルティメット・ファルコン》を特殊召喚する! 現れよ、RR-アルティメット・ファルコン!」

 

《RR-アルティメット・ファルコン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク10/闇属性/鳥獣族/攻3500/守2000

鳥獣族レベル10モンスター×3

(1):このカードは他のカードの効果を受けない。

(2):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このターン、相手フィールドのモンスターの攻撃力は1000ダウンし、相手はカードの効果を発動できない。

(3):このカードが「RR」モンスターをX素材としている場合、以下の効果を得る。●お互いのエンドフェイズ毎に発動できる。相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力は1000ダウンする。相手フィールドに表側表示モンスターが存在しない場合、相手に1000ダメージを与える。

 

「アルティメット・ファルコン……そんなのまで出してくるんだ」

「実際スカーライトとの相性は悪くないからな。BFが得意とする大量展開ができなくなるのだが……墓地のミミクリー・レイニアスの効果を発動。このカードを除外し、デッキからミミクリー・レイニアス以外のRRカード1枚を手札に加える。私は《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》を手札に加える。私はこれでターンエンドだ!」

(アルティメット・ファルコンはエンドフェイズにあたしのモンスターの攻撃力を下げてくる。その効果でカオス・MAXを弱体化されると……)

 

 カオス・MAXの素の攻撃力は4000。しかし、アルティメット・ファルコンの効果を1度受けるだけでその攻撃力はスカーライトと同じ3000にまで下がってしまう。相討ち覚悟でスカーライトを攻撃することはできるが、それをすると攻撃力3500のアルティメット・ファルコンと効果によるバーンが襲い掛かってくる。例えスカーライトを除去できたとしても、カオス・MAXだけは絶対に守り抜かなければならないのだ。

 

(さすがエヴァちゃん。新しいデッキでも確実にあたしを追い詰めてくる。どうすれば……)

―――……鈴。

 

 持てる知識を総動員してこの状況を打開するための手段を考える鈴。その時、打開策を打ち出せないでいた彼女の脳裏に響く声。今までデュエルしてきた時には聞こえなかった声が届いた。

 

(その声……)

―――どうしてだろう、私にもよくわからない……でも、悩んでいる鈴のために、私が何かできるだろう、って思っていたら……

(わかる、今ならこの子の力を活かしてあげられる!)

 

 鈴の決意と共に、彼女のデュエルディスクが輝き出す。墓地に送られたカードが収納される部分から眩い光が溢れ出していた。

 

「その輝きは……まさか!」

「ターンエンドの前に、あたしはリバースカードを発動する! 罠カード、戦線復帰! 墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚するわ! お願い、目覚めて! あたしの―――あたしたちの未来を変える力!!」

 

 戦線復帰によって、鈴の墓地から1体の美しい竜が舞い上がった。

 

 

 

 

 

―――これが、あたしの力! あたしの精霊!!―――

 

 

 

 

 

 

―――《深淵の青眼龍》(ディープ・オブ・ブルーアイズ)!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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深淵より飛び立つもの

 

 

 

 

 鈴のフィールドに舞い降りたのは1体の美しい竜。その姿に居合わせた誰もが息を飲んだ。デュエルモンスターズにおける“力の象徴”とも言える青眼の名を冠しながらも、通常の青眼とは一線を画すどこか妖艶な雰囲気を纏っていたからだ。

 

「《深淵の青眼龍》(ディープ・オブ・ブルーアイズ)……これが、鈴の精霊か……」

 

《深淵の青眼龍》(ディープ・オブ・ブルーアイズ)

効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2500

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、自分フィールドまたは自分の墓地に「青眼の白龍」が存在する場合にしか発動できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから儀式魔法カードまたは「融合」1枚を手札に加える。

(2):自分エンドフェイズに発動できる。デッキからレベル8以上のドラゴン族モンスター1体を手札に加える。

(3):墓地のこのカードを除外して発動できる。自分フィールドの全てのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力は1000アップする。

 

「あれが鈴の精霊……やった、これで……!遊希を助けられるのよね!?」

「まだなんとも言えませんが……でも、これは大きな一歩になるはずです!」

 

 皆の希望を一心に集められた深淵の青眼龍であるが、そんな彼女は召喚されてからかどこかもじもじと身体をくねらせていた。

 

「……青眼?」

―――……うう、なんか一斉に多くの人に見られてて……恥ずかしい……

―――あー、なんか気持ちわかるわー……今でこそ平然としていられるけど初めてデュエルで召喚された時はマジ違和感半端なかったもん。

 

 光子竜やスカーライトを見てわかるように、精霊には個々に自我がある。深淵の青眼龍は鈴との出会いの時といい、他の2体と比べて内気な性格のようだった。

 

「大丈夫だよ、青眼。これからはあたしと二人三脚で戦うんだから!」

―――鈴……うん、ありがとう。私、頑張るね。

「その意気だよ! 深淵の青眼龍はフィールドまたは墓地に青眼の白龍が存在する場合、1ターンに1度、発動できる3つの効果がある! あたしは1つ目の効果でデッキから儀式魔法もしくは融合1枚を手札に加える。デッキから儀式魔法、カオス・フォームを手札に加えるよ!」

「……儀式軸、融合軸どちらでも活用できるということか。いいだろう、ならばエンドフェイズにアルティメット・ファルコンの効果を発動する。RRモンスターをX素材として持っている場合、相手フィールドのモンスターの攻撃力を1000下げる!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000→ATK3000

深淵の青眼龍 ATK2500→ATK1500

 

「青眼たちの攻撃力が……」

「これで私はターンエンド。次のターン次第で全てが決まる。それをよく考えておくことだな」

 

 

鈴 LP3200 手札3枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、深淵の青眼龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:11 除外:0 EXデッキ:11(0)

エヴァ LP7600 手札5枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:1(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト)EXゾーン:1(RR-アルティメット・ファルコン ORU:1)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:12 除外:2 EXデッキ:8(0)

 

 □□□□□

 □深M□□□

  □ ア

□□□□レ□

 □□□□□

エヴァ

 

 

「互いの1ターン目なのに二人ともかなり動いたわね……」

「はい。そしてお二人とも1ターン目で互いの精霊を顕現させている……お二人の思いが伝わってきます」

「思い?」

「はい。このデュエルに勝って精霊との絆を深めたい、そして遊希さんを助けたいという思いが……」

 

 そう言いつつも皐月はぎゅっと拳を握りしめる。彼女の中には、精霊を持たない自分と千春が置いてきぼりにされているのではないか、という思いがあったからだ。

 

 

☆TURN03(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!」

―――鈴、このターンはどうするの……?

(……攻めなきゃいけないけど、エヴァちゃんのフィールドには幻影霧剣がセットされている)

 

《幻影霧剣》(ファントム・フォッグ・ブレード)

永続罠

フィールドの効果モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターは攻撃できず、攻撃対象にならず、効果は無効化される。そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「幻影騎士団」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

(あのカードを上手くすり抜けないと、何もできずに終わっちゃう可能性が高い。こうなったら……!)

―――こうなったら……?

(一か八かの賭けよ! 女は度胸!)

―――えええ……

「あたしは手札から魔法カード、トレード・インを発動! 手札のレベル8モンスター、青眼の白龍をコストにデッキからカードを2枚ドローするわ!」

「2枚目のトレード・インか。3積みしているとはいえ、さすがに悪運が強いな。どこまでも運に賭けるか」

「結局最後は神様頼りになっちゃうんだよね。まあいいや、ドロー!!」

 

 このドロー次第で全てが変わる。運を天に任せ、鈴は決意と共にカードをドローした。

 

「……都合よすぎるって言われないかな? まあ、運のおかげでも勝ちは勝ち、だよね? あたしは手札から速攻魔法、コズミック・サイクロンを発動! ライフ1000をコストに、エヴァちゃんのセットカードをゲームから除外する!」

「ここでそのカードを引くだと!?」

 

鈴 LP3200→LP2200

 

「っ……通常のサイクロンならいざ知らず、コズミック・サイクロンか。幻影騎士団の墓地効果をも使わせないとはな」

「そしてもう1枚のカード! マンジュ・ゴッドを召喚! 召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果であたしはデッキから儀式モンスターまたは儀式魔法1枚を手札に加える。あたしが手札に加えるのは儀式モンスター、青眼の混沌龍。そしてあたしは、深淵の青眼龍とマンジュ・ゴッドをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! お願い《クロシープ》!」

 

《クロシープ》

リンク・効果モンスター

リンク2/地属性/獣族/攻700

【リンクマーカー:左下/右下】

カード名が異なるモンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。

このカードのリンク先のモンスターの種類によって以下の効果を適用する。

●儀式:自分はデッキから2枚ドローし、その後手札を2枚選んで捨てる。

●融合:自分の墓地からレベル4以下のモンスター1体を選んで特殊召喚する。

●S:自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力は700アップする。

●X:相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力は700ダウンする。

 

「クロシープだと!?」

「そして手札から儀式魔法、カオス・フォームを発動! 墓地の青眼の白龍をゲームから除外し、手札の青眼の混沌龍を儀式召喚するわ!」

 

 墓地に眠る青眼の白龍の魂を糧として儀式召喚される青眼の混沌龍。鈴のフィールドには2体のカオスの名を持つ青眼が揃い踏みした。

 

「青眼の混沌龍……だが、青眼の混沌龍はアルティメット・ファルコンに攻撃力で劣っている。そのモンスターで何ができるというんだ!」

「リンク先に儀式モンスターが特殊召喚されたことでクロシープの効果が発動するわ。儀式モンスターが特殊召喚された場合、あたしはデッキからカードを2枚ドローし、手札を2枚選んで捨てる。そしてあたしは墓地の深淵の青眼龍の効果を発動! 墓地に青眼の白龍が存在する場合、このカードをゲームから除外することで、あたしのフィールドのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力は1000アップする!!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK3000→ATK4000

青眼の混沌龍 ATK3000→ATK4000

 

「なっ……!?」

―――あっちゃー……そう来るかぁ……

「バトル! 青眼の混沌龍でRR-アルティメット・ファルコンを攻撃! 青眼の白龍を生贄に儀式召喚されている青眼の混沌龍の攻撃宣言時に効果が発動! 相手フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する!」

「アルティメット・ファルコンは相手のカードの効果を受け付けない……だが」

「スカーライトにはその効果を受けてもらうよ! そして、スカーライトの守備力は0になる!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト DEF2000→DEF0

 

「青眼の混沌龍でアルティメット・ファルコンを攻撃!“混沌のカオス・ストリーム”!」

 

青眼の混沌龍 ATK4000 VS RR-アルティメット・ファルコン ATK3500

 

エヴァ LP7600→LP7100

 

「……見事だ、鈴。まさかここまで強くなるとはな。だが、次はこうはいかない! 次のデュエルではきっちりこの借りを返させてもらう!」

「……ありがとう、エヴァちゃん。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを攻撃!“混沌のマキシマム・バースト”!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト DEF0

 

「カオス・MAXの攻撃は貫通し、そのダメージは倍になる!!」

 

エヴァ LP7100→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った……? あたしが……エヴァちゃんに……??」

 

 鈴は自分の手の中に握られている深淵の青眼龍のカードを見つめる。このカードが自分の力。自分だけの力。

 

「へへ、これから、宜しくね―――」

 

 鈴は深淵の青眼龍のカードににっこりと微笑みかけると、ぱたりとその場に倒れてしまった。

 

―――鈴。

「……青眼?」

 

 眼が覚めた鈴は青眼の住まう世界にいた。デュエルが終わった後に鈴は意識を失って倒れてしまっていたのだ。それは入学式直後の遊希と鈴のデュエルの時と同じであり、当時デュエルのブランクがあった遊希はデュエルの後に精神と身体の過度な疲労により保健室に運ばれた。その時のことはそのデュエルの相手だった鈴もよく覚えており、その時看病したことがきっかけで遊希と鈴は無二の親友となったのである。

 

「あの時の遊希もこんな気持ちだったのかな……」

―――鈴……その遊希って子のこと大好きなんだね。

「はあっ!? べっ、別にそんな関係じゃないし……あっ、でも好きか嫌いかというと大好き……あああ」

 

 青眼の何でもない質問に勝手に紅潮しては勝手に混乱する鈴。その様を見て青眼は口元を手で押さえながらクスクスと笑う。しなやかながらも厳ついドラゴンの姿をしている青眼であるが、スカーライト同様人間の世界で生まれた精霊であることから所作の所々が何処か人間染みたものになっていた。

 

―――私は……まだその遊希という子に会ったことが無い。

「……そりゃあ、あの子が攫われてから目覚めたんだもの。あなたが知ってるはずないじゃない」

―――でも……鈴が好きってことは……凄くいい子なんだと思う。

 

 まだ見ぬ遊希のことを好意的に捉える青眼。自分のことについて喋っているわけでもないのに鈴は何故かくすぐったくなってくる。

 

―――だから……早く助けようね。

「青眼……うん」

 

 鈴が目覚めたのはエヴァとのデュエルが終わった翌日だった。あのデュエルの後丸一日を眠って過ごしたのである。起き抜けの身体はどうにも気怠く、起きてすぐに彼女は動くことができなかった。しかし、だからといっていつまでもベッドに横になっているわけにはいかない。身体の自由は完全に利くわけではないが、まるで寝たきりの病人がリハビリをするかのように少しずつ身体を慣らしていく。

 

「はぁ……遊希やエヴァちゃんも最初はこんな感じだったのかな……」

「エヴァはそんな様子見られなかったけど、遊希はどうだったのかしらね。子どものころから精霊と一緒にいたからだいぶ身体が慣れていたとか?」

「それでも気を失ったり目に見えて疲れていましたから……鈴さんも動けなくなるのは仕方ないことかと」

 

 千春や皐月はフォローしてくれたが、鈴自身はまだまだ納得がいっていなかった。確かに鈴は目覚めさせたその日にエヴァにデュエルで勝利するなど、遊希やエヴァにはない精霊使いの才能の一端をのぞかせたかもしれない。それでも、精霊を使うたびにこうして倒れてしまっては元も子もないため、遊希を助ける前にまずは自分が精霊使いとしてレベルアップしなければいけない、ということを実感させられることとなった。

 

「取り敢えず少しずつ身体を慣らしていきましょう。デュエルを通して耐性をつけられるなら私たちも協力しますので……」

「困ったことがあったら隠さずなんでも相談すること! いいわね! 親友なんだから!」

 

 改めてこの二人と親友になれてよかった、と鈴は心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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誓いの涙

 

 

 

 

 

 

 青眼の深淵竜が鈴の精霊として覚醒したのは10月末、いわゆるハロウィンの時期だった。そして街には徐々に12月、クリスマスや年の瀬の雰囲気が流れ始める時期となる。

 鈴の才能が本格的に目覚めたのか、それとも青眼の成長力が凄かったのか、11月の2週目ぐらいには鈴はすっかり精霊を駆使したデュエルを難なくこなせるようになっていた。それでも青眼の深淵竜とカオス・MAXらエースモンスターをコンボさせた場合はかなりの体力を持っていかれてしまうのだが。

 

「鈴、、準備は良いか?」

「うん。大丈夫だよ」

 

 鈴とエヴァは小さく息を吐くと、ぎゅっと手を繋ぐ。目の前の机には遊希が遺していった銀河眼の光子竜と遊希のデッキが置いてあった。

 

「精神を集中して……無心に……」

「うん……」

 

 遊希が攫われていった精霊界、そこへ向かう時がついに来たのである。千春や皐月、竜司たちが見守る中、その精霊界へ行くために必要な精霊の力を得るために鈴とエヴァは自らの意識をシンクロさせていく。鈴は少し気が遠くなるような、そんな奇妙な感覚に襲われるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが光子竜のいる世界……」

 

 鈴とエヴァの姿は精霊の住まう空間にあった。いくら精霊使いといえども精霊の住まう世界にいきなり踏み込めるなどそうは易しいものではない。そのため二人は事前にスカーライトの住む灼熱の世界や青眼の住む世界を互いに行き来することで精霊の存在する空間に対する耐性をつけるようにしていたのだ。

 

―――よし、じゃあ光子竜のところに案内するわよ。ついてきなさい!

 

 互いの精霊世界を行き来するうちの鈴はスカーライトとはすっかり仲良しになっていた。最初こそデュエルディスクもなしにスカーライトが目の前にいるのだから面食らってはいたが、いざ話してみると青眼同様その見た目にそぐわないスカーライト自身の性格も相まってすぐに仲良くなることができた。

 

「スカーライトは光子竜の世界には結構行ったり来たりしてるの?」

―――いや、そう毎日行ってるわけじゃないわ。でも時折覗いてるけど……あたしの力じゃやっぱり起きてくれないわ。

―――でも……今回は……

―――そっ、鈴と青眼がいるからね。ふたりにはいっぱい働いてもらうから!

―――うん……がんばる。

 

 そしてスカーライトと青眼はモンスターとしての性能や効果自体は相反するものであるが、共に人間世界で生まれ、同じドラゴン族モンスターということもあってすっかり打ち解けていた。

 明るく快活なスカーライトと無口で大人しい青眼であるが、性格が似ていないからこそ逆に仲良くなれたのかもしれない。鈴とエヴァはそんな青眼とスカーライトの背中にそれぞれ乗って光子竜の住まう精霊世界を飛んでいた。

 

「星が綺麗ね……こんなの私たちの世界で見られるのかしら」

「ロシアの星は綺麗だぞ。まあ寒いから乾燥していているというのもあるのだが」

「伊達に銀河眼の名前は名乗っていないってことなのかもね」

 

 ドラゴンの背中に乗って夜空を駆ける、という現実ではまず味わえない経験をしながら空を飛んでいた鈴とエヴァの目の前にはやがて巨大な水晶体のようなものが見えてきた。

 その水晶体こそ力を失った光子竜がその身体を閉じ込めているものであり、この水晶体から光子竜を解放しなければ鈴たちの目的は果たせない。何よりここから光子竜を解放するために鈴は青眼を精霊として覚醒させたのだから。

 

「これが……銀河眼の光子竜……」

 

 鈴は眠りにつく“本物の”銀河眼の光子竜の姿を見て言葉を失った。デュエルでは何度も見掛けている光子竜であるが、いざ自分の眼でカードから現れたモンスターではなく、精霊である光子竜を見ると普段とは違うオーラのようなものが感じ取れたからだった。今自分の目の前にいるのはカードに描かれたイラストではなく、自分と同じように呼吸をし、心臓が脈を打っている。まさに生きている銀河眼の光子竜そのものなのだ。

 

「鈴、手を」

「……うん」

 

 鈴とエヴァはぎゅっと互いの手を握った。こうしていれば精霊使いである二人の内に秘められた力が増幅するような気がしたから。

 

―――青眼、行くよ。

―――うん。

 

 鈴とエヴァが精神を統一するのに合わせて青眼とスカーライトの身体がそれぞれ赤と白にうっすらと輝き始める。そして彼女たちもまたその手を光子竜の眠る水晶体へとあてがった。

 青眼とスカーライト。2体の精霊の力を光子竜に送り込むことで、力を失った光子竜にエネルギーを送り、光子竜を目覚めさせる。それが今回この世界にやってきた目的である。以前試した時のように、スカーライトのみの力では光子竜に送るエネルギーが足りず、光子竜を目覚めさせるには至らなかった。

 しかし、そこに青眼が加わったことで状況は好転しつつあるのがわかった。何故なら2体の力を受けた光子竜の身体には青い光が灯り始めたからである。光子竜はデュエルの時もそうだが、力を失うと身体の輝きもそれに合わせて失われてしまい、黒くくすんだ身体になってしまう。そうなってしまうと光子竜は己が力を完全に発揮できているとは言えないのである。

 

「エヴァちゃん、これなら……」

「ああ、スカーライト! もう少しだ! 踏ん張れ!」

 

 もう少し、もう少しで……鈴がそこに希望を見出した瞬間である。バチィッ!という何かが弾ける音がした瞬間、青眼とスカーライトが光子竜の眠る水晶体から放たれた衝撃波によって弾き飛ばされてしまったのだ。

 

―――いたっ!

―――っ……

 

「スカーライト!?」

―――いてて……もう少しだったんだけどなぁ……

「どういうこと?」

―――あと……ほんの少しだけ……力が足りないみたい。

「そんな……」

 

 青眼とスカーライト、2体の精霊の力を合わせてもまだ光子竜を復活させるには至らなかった。光子竜は目覚めたばかりの青眼やスカーライトよりも長い年月を生きている精霊であるため、精霊としての個の力が2体より上であることが悪い方向で作用してしまっていた。

 突き付けられた現実にエヴァはがっくしと肩を落とす。このまま光子竜を復活させられなければもう一生遊希と会うことが叶わなくなってしまう。ならばこのまま諦めてしまっていいのか。鈴の出した答えは当然違う。

 

「こうなったら……!」

 

 綾香はデュエルディスクを装着すると、普段通りのデュエルをするかのようにデッキからカードを5枚ドローする。これは普通のデュエルではないため、特殊召喚モンスターであってもデュエルディスクに置くことでその姿を現出することはできる。鈴は深淵竜のほかにカオス・MAX、混沌龍、ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン、そして青眼の白龍の5体のモンスターを同時に出現させた。

 

―――鈴!?

「他の青眼たちは精霊のカードじゃないけど……このカードたちの力を深淵竜に集約さる!」

―――そんなことしたら……鈴の身体が……

「でも、他に手はない!!」

 

 鈴の思いに応えるように、4体の青眼たちは自分が持つ力を深淵竜に注いでいく。深淵竜は自分の身体の中に力がわいてくるのを感じたが、その大きな力を発生させた代償として、鈴が苦しむのも知っていた。

 

―――鈴……やっぱりあなたの身体が……

「うん、きつい……だけど! あたしが……手をこまねいている間……遊希は……遊希はもっと苦しんでいる! だからあたしがここで力を使わなきゃいけないの!! エヴァちゃん、もう一度……」

 

 決意を秘めた鈴の眼を見たエヴァは深く頷いた。

 

「わかった……頼んだぞ」

「青眼!!」

―――……うん!

 

 力が増大した青眼とスカーライトが共鳴した瞬間、鈴の身体には前と同じようにとてつもない疲労感が走る。意識は遠のき、今にも倒れてしまいたいと思えるほどのものだった。しかし、その弱い心を鈴はより強い心で律して踏ん張った。

 

(ダメ! ここであたしが倒れるわけには行かない!!)

「深淵竜!!」

「スカーライト!!」

―――次……こそは!!

 

 真の力を解放した青眼とスカーライトの2体が改めて光子竜へと力を送り込む。2体の力は共に共鳴し合い、さらなる相乗効果を生み出した。そしてその力は確実に光子竜の下へと届いていた。

 

「見ろ鈴、水晶にヒビが……!」

「もう少し! 頑張って、青眼!!」

「スカーライト! 耐えてくれ!!」

 

―――鈴……

―――エヴァがあんなに必死に頼ってんだもん。あたしたちがやってやんなきゃね!!

―――そうだね。私たち精霊と鈴たち人間の力……届け!!

 

 閑静な世界にピシッ、という音が響いたその次の瞬間、光子竜を閉じ込めていた水晶体が粉々に砕け散った。

 

「やった!!」

 

 解き放たれた光子竜の身体には青く美しい輝きが戻り、天に向かって高らかに雄叫びをあげた。光子竜を目覚めさせることができたことに喜んだ鈴とエヴァは笑顔でハイタッチをした。

 

「やった! やったな鈴!」

「うん! これで……これで遊希を助けられる!!」

 

 喜びにくれる二人だったが、その傍らに立つ青眼とスカーライトの2体はその身体を低くいつでも攻撃できるように身構えていた。彼女たちは気づいていたのである。目覚めた光子竜の様子がおかしかったのを。

 

―――グオオオッッッ!!

 

 目覚めた光子竜が牙と爪を閃かせて2体に襲い掛かったのはその直後であった。青眼とスカーライトは間一髪でその攻撃を回避して上空へと舞い上がる。

 

「っ!?」

―――やばい。光子竜のやつ、正気じゃない! なんか錯乱してるっぽいよ!!

 

 銀河眼の光子竜という名前を持つだけあって、普段の光子竜の眼には常に雄大な銀河を思わせる光が渦巻いていた。しかし、今の光子竜の眼は血のような赤に染まっており、文字通り周りが見えていない状態であった。

 面識のない青眼を敵と認識して攻撃するならいざ知らず、スカーライトにも同様に襲い掛かったのだからまず間違いなく正常ではないことがわかる。しかし、何故そのような状態に陥ってしまっているのかはスカーライトにはわからなかった。

 

―――ちょっと! あたし、スカーライトよ! わかるでしょ!? ダメだ! こいつ聞く耳持たない!! こうなったら一発……

「待って! 攻撃しちゃダメ!!」

 

 スカーライトはなんとか光子竜を正気に戻そうと呼びかけるも、光子竜は地鳴りのような咆哮をあげて殴りかかってくるだけであった。拳には拳、とばかりにスカーライトは殴り合いも辞さない態度に出ようとするが、それを鈴が止めに入った。確証こそないのだが、鈴は光子竜が正気を失っている理由がわかるような気がしていたのである。

 

「鈴……」

「青眼、協力して」

―――うん……でも、どうするの?

 

 青眼は暴れる光子竜をその力で包み込もうとする。北風と太陽、とはよく言ったものでスカーライトのように錯乱する光子竜を力で抑えつけるのではなく、支援向けの力を持つ青眼の力によって光子竜の心を宥めて平静を取り戻させようという試みであった。

 当然光子竜はそんな青眼を払い除けようと抵抗するも、他の青眼たちの力が注がれているため、そう易々とは突破されない。青眼は全身が傷だらけになりながらも、光子竜の動きを止めるためにその力を出し続ける。

 

(あたしは青眼ともスカーライトとも通じることができた……それなら光子竜とだって分かり合える。お願い、あたしの身体。遊希を助けるため……もう少しだけ頑張って)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴が眼を開けると、そこは光のない暗闇だった。まるで遊希が攫われた次の日に自分が見たあの悪夢と同じような。

 

―――遊希……すまない。私は……お前を……

「光子竜?」

―――お前は……鈴? 何故、鈴が私の心の中に?

 

 光子竜の言葉から鈴は光子竜の心の中に意識を通わせることに成功したようである。分の悪い賭けであったが、青眼やスカーライトたちの頑張りがそれを押し通したのだ。

 

「あたしはあなたを助けに来たの。あなたの力を借りたいから」

―――私の力だと……? すまないが、今の私はお前たちの力にはなれない……

「……どういうこと?」

―――私は敗れてしまった。同じ銀河眼という名を持つ銀河眼の時空竜に。そして……遊希を奪われた。私はあの時からあいつを守ると誓ったのに……!!

 

 光子竜の言う「あの時」とは恐らく遊希が家族を失った時だろう。あの時遊希は自ら他者との交流を断ったのだが、そんな時でも彼女の傍には光子竜がおり、光子竜が常に寄り添っていたからこそ遊希はデュエリストとして改めて止まっていた一歩を踏み出すことができた。

 そしてアカデミアで鈴と、千春と、皐月と、エヴァに出会ったのだ。言うなれば光子竜もまた遊希と自分たちを引き合わせてくれた、親友になるためのきっかけをくれた存在なのである。遊希をずっと支えると誓った。それだけに光子竜の嘆きは相当な重みを感じられた。

 

―――守ると誓ったものを守れずに何が精霊だ。馬鹿も休み休み言え!

 

 遊希を守れなかったのは自分が無力だからだ、自嘲の言葉をこれでもかと並べ立てる光子竜。しかし、そんな彼の言葉を鈴が遮った。

 

「……けないでよ」

―――?

「ふざけないでよ! 何よ、そんな図体して強い力も持ってるくせに一度の過ちでごちゃごちゃと……!! みっともないったらありゃしないわ!!」

―――なっ……!

 

 光子竜は目に見えて動揺していた。これまで出会ってきた、というか親密になった人間といえば遊希のように感情をさほど露わにしなかったり、エヴァのように尊大ながらも心の優しい人間ばかりであったが、鈴のように自身の感情を露わにしつつはっきりと物を言う人間は初めてだったのである。

 

「ねえ光子竜。今の遊希があなたを見たらなんて思う? きっと物凄く呆れて物凄く怒ると思うわ。らしくないわね、って馬鹿にされてもおかしくない! そのままでいいの!?」

―――……。

「そう嘆きたくなるのもわかるよ。だってあたしも遊希を守ることができなかったんだから……でもね、だからこそ1つでも解決の糸口に繋がる道が残されているのであれば……あたしはその道を進む。そして遊希を取り返す!! 光子竜、あなたは遊希を守ることができなかったことに罪の意識を感じているんでしょう!? だったらあなたの力をあたしたちに貸して。あたしたちの手で遊希を―――取り戻すんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたっ!」

 

 身体が強く打ち付けられるような感じの衝撃が鈴の身体に走った。光子竜の心に直接話しかけることで残っていた微かな体力を使い切った彼女はその場に大の字になって倒れていた。

 

「鈴!」

―――鈴。

「あっ……エヴァちゃん……青眼……ごめん。光子竜は……」

 

 覚えている限りでは光子竜を完全に説き伏せることはできていなかった。そのため光子竜の心に直接語り掛けるという作戦は失敗に終わってしまった―――と鈴は思っていた。

 エヴァは少しばかり嬉しそうな顔をして首を横に振る。どうしたのだろうか、と思った鈴はエヴァの助けを借りてゆっくりと起き上がると、そこには親指を立ててサムズアップをするスカーライトと穏やかな笑みを浮かべる青眼。そして銀河のように輝く眼から宝石のような涙をぼろぼろと流す光子竜の姿があった。

 

 

―――遊希……!! 辛い思いをさせてしまってすまない……すぐにでも……助けに行くぞ!!

 

 それは、欠けていたパズルの最後のピースが完全に埋まった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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20年4月制限、ルール改訂について

 

 

 

 

 

儀式魔人リリーサー「墓地リリーサー除外して《クラウソラスの影霊衣》を儀式召喚。そして《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》の効果でデッキから《真紅眼融合》を墓地へ送って発動。《ブラック・マジシャン》と《真紅眼の黒竜》で融合。《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》を融合召喚。これでエンドで」

 

 見て! 儀式魔人リリーサーと超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズで先攻封殺コンボだよ! エグいね!

 

儀式魔人リリーサー「」

 

 みんながこのコンボを多用するのでKONMAIがリリーサーを禁止カードにしてしまいました。お前らのせいですあ~あ

 

 

 

 

 

 

~2020年4月制限改訂について~

 

 

《禁止カード》(3種)

 

《儀式魔人リリーサー》

効果モンスター(2020年4月1日から禁止カード)

星3/闇属性/悪魔族/攻1200/守2000

(1):儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、墓地のこのカードを除外できる。

(2):このカードを使用して儀式召喚したプレイヤーから見て相手は、儀式召喚したそのモンスターがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、モンスターを特殊召喚できない。

 

星乃 鈴「まあ他の儀式魔人と比べて付加効果がエグいとは思ってたわ」

日向 千春「このカードを上手く活かせる他のカードの登場が追い討ちになった感じね!」

織原 皐月「ちなみに海外でも禁止カードに指定されているため、両方のルールでも使用不可のカードになってしまいました」

エヴァ・ジムリア「純粋な儀式デッキ使いの方のは相当の痛手だな……」

 

 

《星杯の神子イヴ》

シンクロ・チューナー・効果モンスター(2020年4月1日から禁止カード)

星5/水属性/魔法使い族/攻1800/守2100

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードをS召喚する場合、自分フィールドの「星杯」通常モンスター1体をチューナーとして扱う事ができる。

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「星遺物」カード1枚を手札に加える。

(2):S召喚したこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。自分のデッキ・墓地から「星杯の神子イヴ」以外の「星杯」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

 

星杯戦士ニンギルス、オルフェゴール・ロンギルス、宵星の騎士ギルス「じゃあなんすか、俺の妹が悪いんですか?」

 

千春「いや悪いでしょ」

エヴァ「ネットスラングを取り入れる姿勢はともかく、微妙にネタが古いぞ」

鈴「シンクロ・チューナーは定期的に凄いのが出るけど、このカードはまさにその集大成だったわよね。海外でも禁止なんだっけ?」

皐月「はい、海外ではこのカードと好相性の《水晶機巧-ハリファイバー》がまだ登場されていないにも関わらず禁止カードにされていました。本来のテーマである【星遺物】以外でも暴れまわったせいでしょうね」

 

 

《守護竜エルピィ》

リンク・効果モンスター(2020年4月1日から禁止カード)

リンク1/闇属性/ドラゴン族/攻1000

【リンクマーカー:左】

レベル4以下のドラゴン族モンスター1体

自分は「守護竜エルピィ」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、その(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。

(2):自分メインフェイズに発動できる。2体以上のリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに、手札・デッキからドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

皐月「……ですよね」(【ヴァレット】使い)

鈴「守護竜リンクモンスター(3種類)から2体目の禁止カードね。アガーペイン以上に展開の軸になるからしょうがないと言えばしょうがないんだけど」

エヴァ「デッキから特殊召喚できるモンスターは大抵とんでもないカードが多いからな……」

千春「後述する“あのカード”がエラッタされた影響があるんでしょうけどね」

 

 

 

制限カード(24枚)

《ABC-ドラゴン・バスター》

《オルフェゴール・ガラテア》

《オルフェゴール・ディヴェル》

《ジャンク・スピーダー》

《処刑人-マキュラ》→!?

《SPYRAL-ジーニアス》

《発条空母ゼンマイティ》

《ゼンマイマジシャン》

《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》

《TG ハイパー・ライブラリアン》

《デビル・フランケン》

《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》→!?

《簡易融合》

《氷結界の龍トリシューラ》

《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》

《捕食植物オフリス・スコーピオ》

《餅カエル》

《リンクロス》

《トリックスター・ライトステージ》

《ブリリアント・フュージョン》

《ユニオン格納庫》

《真紅眼融合》

《六武の門》

 

千春「多いわね!!」

皐月「ルール改訂でP以外のEXからの特殊召喚モンスターがメインモンスターゾーンに出せるようになりましたからね……」

エヴァ「大量展開されるとゲームバランスを崩しかねないカードが多く含まれているな(何枚かとばっちりで制限されているカードもあるような気がするが……)」

鈴「取り敢えず気になったカードを数枚取り上げて解説していきましょうか」

 

 

《処刑人-マキュラ》

【2020年4月以降の新テキスト】

効果モンスター(2020年4月1日から制限カード)

星4/闇属性/戦士族/攻1600/守1200

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンから墓地へ送られた場合に発動できる。このターンに1度だけ、自分は罠カードを手札から発動できる。

 

 

鈴「まさか帰ってくるとは思わなかったわ」

皐月「エラッタ前はターン1制限がなく、墓地に送られる箇所に制限がありませんでした。《おろかな埋葬》や手札コストでの墓地送りでも発動していました」

エヴァ「まあエラッタによってモンスターゾーンから墓地に送られた場合限定になったがな」

千春「さすがにエラッタ前は酷かったわよね。でもこれで現実的になったかしら。それでも罠主体のデッキには入れられそうだけど」

 

 

《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》

【2020年3月27日以降の新テキスト】

効果モンスター(禁止カード、2020年4月1日から制限カード)

星10/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードは自分フィールドの表側表示のドラゴン族モンスター1体を除外し、手札から特殊召喚できる。

(2):自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・墓地から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

 

鈴「おかえり」(嬉しい)

皐月「よく戻ってきてくれました」(嬉しい)

千春「どこが変わってるのかしら、って思ったら2の効果にターン1制限が付いてるわね」

エヴァ「これで《覇王眷竜スターヴ・ヴェノム》みたいなカードで名称をコピーして複数回発動ができなくなったな。弱体化はしてるが、十分強いと思うぞ」

 

 

準制限カード(5種)

《D-HEROディアボリックガイ》

《ドラコネット》

《未界域のジャッカロープ》

《未界域のネッシー》

《継承の印》

 

鈴「ぶっちゃけ禁止と制限が厚すぎて影薄いわよね……」

皐月「地味にマークされていた【未界域】、準制限に逆戻りしても違和感のないディアボリックガイ……」

千春「継承の印使ってる人見たことないんだけど」

エヴァ「エルピィの禁止によってドラコネットは緩和された感じか」

 

 

無制限カード(5種)

 

《トリックスター・キャンディナ》

《灰流うらら》

《ベビケラサウルス》

《ユニコールの影霊衣》

《レディ・デバッガー》

 

皐月「なんと灰流うららが帰ってきてしまいました」

鈴「2枚でも十分だと思うんですけどぉ!」

千春「再録されたから売りたいんじゃない? まあどこにも売ってないんだけど……」

エヴァ「いいからKONMAIはレアリティコレクションを再販するんだよあくしろよ」

 

 

 

 

鈴「というかこの作品ラッシュデュエルはどうするの?」

千春「そもそもラッシュデュエルがどうなるかわかんないし……」

皐月「現行のOCGとラッシュデュエルは別として展開するようなので、この作品ではラッシュデュエルはまず扱わないと思います」

千春「あいまいな表現ね」

エヴァ「まあ作者が別の作品で使わない使わない言ってリンク召喚ぶっこんだからな。アニメの出来次第になるんじゃないか?」

 

 

 

 

 

~11期移行によるルール改訂について~

 

 様々な理由(意味深)により、テキストによって適用される効果処理が変更となることがございます。その場合、適用日より新しい効果処理でデュエルを行って頂きますよう、お願い致します(テキストによって適用される効果処理のみの変更となります。テキストを読み替える変更ではございません)。

 

 

[2020.4.1適用]

 デッキに戻った、または、エクストラデッキに裏側表示で戻ったことによる、モンスター効果の発動について

 

 テキストに記載されているものを除き、デッキに戻ったモンスターの効果や、エクストラデッキに裏側表示で戻ったモンスターの効果を発動する事はできなくなります(必ず発動する効果も同様です)。

 

旧処理の例

《強制脱出装置》の効果が適用された《E・HERO アブソルートZero》の『このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する』効果は発動します。

 

新処理の例

《強制脱出装置》の効果が適用された《E・HERO アブソルートZero》の『このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する』効果は発動しません。

 

 

[2020.4.1適用]

 効果の発動前に、発動する場所に存在しなくなったカードの効果の発動についてテキストには、そのカードの効果が発動する条件と、その効果が発動する場所が記されています(例えば、自身が召喚に成功した場合に発動するモンスターの効果であればフィールド、自身が墓地へ送られた場合に発動する罠の効果であれば墓地でその効果が発動します)。

 効果の発動前に、発動する場所に存在しなくなった場合には、その効果を発動する事ができなくなります。(必ず発動する効果も同様です。)

 

旧処理の例

《クリッター》をコストとして発動した《死のデッキ破壊ウイルス》の発動にチェーンして、《D.D.クロウ》の効果が発動し、墓地から《クリッター》が除外された場合でも、《クリッター》の効果は一連のチェーン処理後に発動します(この場合でも、《クリッター》の効果は墓地で発動した扱いとなります)。

 

新処理の例

《クリッター》をコストとして発動した《死のデッキ破壊ウイルス》の発動にチェーンして、《D.D.クロウ》の効果が発動し、墓地から《クリッター》が除外された場合、《クリッター》の効果は一連のチェーン処理後に発動しません。

 

 

[2020.4.1適用]

 カードの効果を『発動するターン』に影響する、モンスターの召喚・特殊召喚について一部のカードには、『この効果を発動するターン、自分は●●●モンスターしか特殊召喚できない』や、『このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない』など、そのターンに行えるモンスターの召喚・特殊召喚が、効果の発動条件に影響するテキストがあります。

 このテキストは、記された内容のモンスターが召喚や特殊召喚に成功しているかどうかによって、その効果の発動が行えるかどうかが決まるものになります。

 

旧処理の例

 自分の《青き眼の乙女》の召喚が《神の宣告》で無効になったターンに、自分は《青き眼の激臨》を発動する事はできません。

 

新処理の例

 自分の《青き眼の乙女》の召喚が《神の宣告》で無効になったターンに、自分は《青き眼の激臨》を発動する事ができます。

 

 

[2020.4.1適用]

『1ターンに1度しか特殊召喚できない』モンスターの特殊召喚について

 一部のカードには、『自分は「●●●●」を1ターンに1度しか特殊召喚できない』など、その同名のモンスターの特殊召喚が1ターンに1度のみと指定するテキストがあります。

 このテキストは、記された内容のモンスターが特殊召喚に成功した回数を1度として数え、1ターンに1度のみ特殊召喚が行えるものになります。

 

旧処理の例

 自分の《HSRチャンバライダー》のシンクロ召喚が《神の宣告》で無効になったターンは、自分はこのターンに2体目の《HSRチャンバライダー》をシンクロ召喚や他のカードの効果で特殊召喚する事はできません。

 

新処理の例

 自分の《HSRチャンバライダー》のシンクロ召喚が《神の宣告》で無効になった場合、自分はこのターンに2体目の《HSRチャンバライダー》をシンクロ召喚や他のカードの効果で特殊召喚する事ができます。

 

 

[2020.4.1適用]

 発動後、モンスターゾーンに特殊召喚される効果を持つ永続罠カードについて

『このカードは発動後、通常モンスター(爬虫類族・地・星4・攻1600/守1800)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する。このカードは罠カードとしても扱う』効果を持つ《アポピスの化神》など、発動後モンスターゾーンに特殊召喚される永続罠カードは、その発動時の効果処理によって特殊召喚された際に、自身が置かれていた魔法&罠ゾーンが使用できるようになります。

 

旧処理の例

 自分の魔法&罠ゾーンに5枚のカードがセットされている状況で、自分はその中の1枚である《アポピスの化神》を発動し、モンスターゾーンに特殊召喚しました。この場合、その《アポピスの化神》が置かれていた魔法&罠ゾーンは使用できない状態となるため、自分は新たな魔法・罠カードを、魔法&罠ゾーンに発動したりセットしたりする事はできません。

 

新処理の例

 自分の魔法&罠ゾーンに5枚のカードがセットされている状況で、自分はその中の1枚である《アポピスの化神》を発動し、モンスターゾーンに特殊召喚しました。この場合、その《アポピスの化神》のカード自体はモンスターゾーンに置かれ、魔法&罠ゾーンが1ヵ所空いた状態となりますので、自分は新たな魔法・罠カードを、その魔法&罠ゾーンに発動したりセットしたりする事ができます。

 

 

鈴「……」

千春「……」

皐月「……」

 

鈴&千春「つまりどういうことだってばよ」

 

皐月「基本的なルールが変わるということです(適当)」

エヴァ「そんなカードが違う、的な説明はやめろ」

鈴「まあ……罠モンスターのケースとかはわかりやすいと思うわ」

千春「でもクリッターとD.D.クロウのケースがなんか判り辛くない?」

皐月「クリッターのケースでは、灰流うららをD.D.クロウで除外しても無効にならなかったりするんですよね。正直書いていて間違えると思うので、間違っていたらご指摘頂ければ幸いです」

エヴァ「取り敢えず四月以降の更新でこのルールは適用する予定だ」

千春「まあこの作品もうすぐ終わっちゃうけどね」

鈴&皐月&エヴァ「もうすぐっていつよ!(いつですか!)(いつだ!)」

 

 

 

銀河眼の光子竜(ところでいつになったら遊希を助けに行けるのだろうか……)

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト(まあどこにいるかもまだわかんないしね……)

深淵の青眼龍(えっと……次の話から……遊希を助けに行きます……待っててね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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希望へつながる道

 

 

 

 

 

 光子竜を目覚めさせたことで鈴たちの前に希望の道が拓かれる形となった。そしてさらなる吉報が彼女たちの下へともたらされたのはそれから2日後のことである。

 それは竜司の要請を受けてI2社と海馬コーポレーションのデュエルモンスターズ界における最大手2社が協力し、雄一郎が社長を勤める藤堂グループが資金を、ジェームズの実家であるアースランド・テクノロジーが技術を提供することで作り上げた特殊な装置が完成したという知らせだ。

 

「スカーライトと青眼は私たちの身体に宿る精霊だ。私たちが傍にいなければ本来の力は発揮できない」

 

 エヴァのその言葉を受けて、エヴァと鈴は遊希を助けに行くという決意を確固たるものとしていた。ただ、遊望がやったように精霊たちが力を合わせれば遊希のいる場所へと繋がる道が拓かれるかもしれない。

 そこで真価を発揮するのがこの特殊な装置である。この装置は精霊の持つ力を可視化し、精霊の謎を解明することで人間と精霊の結びつきを強めようという目的で作られたのだ。

 遊希が銀河眼の光子竜という精霊をその身に宿していることはデュエルに携わる者なら信じる信じないは別として誰もが知っていることだ。そこでその力を解き明かそうとしたI2社の科学者たちは遊希のデュエルのデータを密かに集め、それを利用して人間と精霊を繋ごう、と考えたのである。

 

「I2社ってそんなことをしてたんだ……で、遊希はそれを?」

「知っていたら受けると思うかい?」

「……確かに」

 

 ははは、と苦笑いをする鈴。最も遊希がプロの世界を引退してしまったため、計画はその時点では未完で終わる。それでも精霊の力を覚醒させたエヴァのデュエルや遊希のライディングデュエルからデータを取ることで開発は再開されていたのだが。

 

「で、その機械は未完成なんでしょ? ちゃんと機能するの?」

「出来自体は雄一郎やジェームズくんの会社の力を借りても70%と言ったところかな……」

―――だが、70%もできているのであれば話は別だ。私とスカーライト、青眼も力があれば補える。

 

 光子竜は置き去りにされた遊希のデッキと共に一時的に鈴が所持することになった。光子竜が2体の精霊の力を得てパワーアップしたのと、鈴の精霊使いとしてのポテンシャルが予想以上に高かったことで遊希と同じように鈴の意識も共有できるようになったのだ。

 

―――最も、私たちに無断でそのようなデータを取っていた、というのは気に食わんがな。

「……だってさ。パパ」

 

 そして光子竜ら精霊の言葉を鈴が間に入って伝える。これもまた鈴に任せられた大事な任務となっていた。

 

「うっ……それについては済まなかったと思っているよ」

―――だが、そのおかげで遊希を助けられるかもしれない。それに関しては……礼を言う。

「良かったねパパ。光子竜がありがとう、だってさ。ところでパパ……話したいことがあるんだ」

 

 一呼吸おいて真剣な顔になる鈴。遊希を助けに行くことについてであるが、相手はそれこそ天宮 遊望という少女の姿をしていたとしても、その小さな身体には精霊である銀河眼の時空竜の力が宿っている。その力の全貌こそ未知数と言えども、光子竜やスカーライトを擁する遊希やエヴァをも打ち破ったほどの強大なものだ。まともに相手取るならば、精霊の加護を受けているデュエリストでなければ不適格である。それは鈴とエヴァ、そして精霊たちが相談を重ねた上での総意だった。

 

「……つまり、私はミハエル教頭では足手纏いになりかねないということかな?」

「そ、そんな悪い言い方をするつもりは」

「いいんだ、それは私もわかっている。精霊を倒すには精霊をぶつけるしかない。それが遊希くんを助けるために必要なことだとすれば我々は受け入れよう」

 

 竜司もミハエルも現実を見れる大人である。彼らは何が正しくて何が間違いかを自分で把握できる。しかし、それができないであろう二人の顔が鈴の脳裏には浮かんでいた。

 

「パパ……千春と皐月なんだけど」

「わかった、彼女たちは関わらせない」

 

 もし遊希を助けに行く、となればまず間違いなく千春と皐月も乗ってくるだろう。しかし、いざ戦いとなれば精霊を持たない二人を守れるだけの保証がないのだ。仮に遊希を助けられたとしても、その途上で千春と皐月の身に危険が及んでしまっては元も子もないのだ。

 親友を裏切ることになりかねない決断を下すことは鈴にとってはとても厳しいことだった。それでも、鈴はこれ以上誰かが傷つく姿を見たくない。そんな想いがあったのだ。

 結局、竜司やミハエルら周囲の人間に協力してもらい、装置の存在については箝口令を敷いてもらうことでこのことをアカデミア内で知るのは竜司、ミハエル、鈴、エヴァの四人だけになっていた。

 

「友達を助けるために友達に嘘をつく……私、酷いね」

―――鈴……

―――お前は何も間違っていない。あの二人のデュエリストとしての腕は認めるが精霊が関わるとなると別の話だ。

 

 鈴は自分の中の罪悪感と戦いながら寮の部屋に戻った。秋も終わりが近づき、冬へと入るにつれて陽が落ちて闇に包まれる時間が早くなっていた。

 

「おかえり鈴、もうすぐ夕ご飯できるわよ!」

「もし良ければお風呂お先にどうぞ」

「うん……」

 

 一人になってから、隣室の千春と皐月は定期的に鈴の部屋に訪れては共に過ごすようになっていた。しかし、優しくして貰えば貰うほど、鈴の心はこの二人の親友を裏切らなければならない、という事実にちくちくと痛むのだ。アカデミアの地下室にI2社と海馬コーポレーションから装置が持ち込まれたのはそんな折のことだった。

 装置と聞くとどうにも仰々しいものを感じるが、いざ届けられた装置を見てみると大人一人ほどの大きさをした細長い機械だった。見た目こそコンパクトだが、時代が進むと共にパソコンや携帯電話が小さくなっていったようにこの手の機械も小型化が進んでいるのだろう。

 最も、大きい小さいに関係なく次元転送装置のような非現実的なものを作り上げること自体が普通では考えられないことなのかもしれないのだが。

 

「ジェームズ!」

「エヴァ。元気そうで何よりだよ」

 

 装置を運び込む際に同行したのは藤堂グループの社長で美咲の父、そして竜司の旧友である雄一郎とアースランド・テクノロジーの後継者でエヴァのフィアンセであるジェームズだった。一度は破綻した二人であるが、あの事件を契機によりを戻したことでこうして両親公然の恋仲となっている。

 

「おうおう、お熱いねぇ若者は」

「すまないな、雄一郎。忙しいのにわざわざ」

「どうってことねえよ。なにより事の重大さが重大さだしな」

 

 竜司はもとより雄一郎にとっては遊希も知らない仲ではない。彼女が拉致されてしまい、そしてその犯人がかつて自分を操っては娘に手を出させた相手となれば雄一郎としてもどうにか一矢報いてやりたい相手でもあるからだ。

 

「さて、すぐにでも装置を起動させたいところだが……生憎テスト運用もまだなんだよなぁこれが」

「今日ここに装置を持ってきたのは銀河眼の光子竜と鈴さんの深淵の青眼龍、エヴァのスカーライトとこの装置がどのくらい親和するかのテストです。光子竜によると装置の完成度が70%ほどなら精霊の力で十分に補えると聞きましたが、それもあくまで予測でしかない。なのでまずは実際に精霊の力を通してどのくらいこの装置が力を発揮できるかを確認します」

 

 ジェームズが装置のスイッチを押すと、カードを置くためのスペースが装置から引き出される。このスペースには海馬コーポレーションのデュエルディスクのノウハウが応用されており、ここにカードを置くことで実際のデュエル同様にモンスターの姿を投影できるようになっているのだ。

 3つあるスペースは三角形の頂点にあたる位置にあり、一番上の頂点に光子竜、左下に深淵の青眼龍、右下にスカーライトのカードを置く。するとデュエルでモンスターが召喚されたかのように3体のドラゴンのソリッドビジョンが現れた。だが、この装置に備わる機能はそれだけに留まらなかった。

 

「光子竜、どんな気分?」

「普通のデュエルディスクとなんら変わりないようだが……? ん、待て。今私の声が……」

「そうです。このソリッドビジョンは今の人類が実現できる最大限の技術を取り込んでいるので精霊使いでない僕たちも精霊の声を聞くことができるようになるんです」

 

 精霊使いでなくとも自分たち精霊とコミュニケーションが取れる。その事実に光子竜は腕を組み、感嘆の言葉を漏らす。

 

「人間の技術も侮りがたいな……精霊に勝るとも劣らない。ああ、自己紹介が遅れたな。改めて名乗らせてもらおうか、私は銀河眼の光子竜だ。天宮 遊希に宿る……いや、宿っていた精霊だ。皆、今まで遊希を支えてくれてありがとう。この通り感謝している」

 

 まるで人間のように言葉を発し、ぺこりと頭を下げる光子竜の姿に竜司やミハエルはもとより開発関係者である雄一郎やジェームズも驚きを隠せないようだった。最も光子竜本来の性格もあって立ち居振る舞いが何処か尊大に感じてしまうのは仕方のないことなのかもしれないが。

 

「マ、マジかよ」

「これが目の前で起きているのだからそうなのだろうな……」

「いや、こちらこそ……彼女が辛い時によく支えてくれたね、ありがとう」

 

 丁寧なあいさつを交わす光子竜の横でスカーライトは困惑していた。エヴァはともかく精霊使いではない他の人間とこうして話す機会がやってくるなど思ってもみなかったからだ。

 

「あー……これはあたしも自己紹介しなきゃいけない流れ? えっと、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトです。あの……エヴァの精霊やってます」

「スカーライト、なんか適当だな」

「しょうがないじゃん、思いつかなかったんだからさ!!」

 

 口喧嘩を始めるエヴァとスカーライトを宥めようとジェームズが仲裁に入るものの、スカーライトは「次エヴァを泣かしたら承知しないからね!」とジェームズにまで小言を言い始めてしまったためますます口論は飛び火した。その脇でどうしようとおろおろしている深淵の青眼龍に竜司が声をかけた。

 

「君が、深淵の青眼龍だね」

「あっ……はい。あなたが……鈴のお父さん」

「ああ、そうだよ。すまないね、この世界に目覚めたばかりなのにこのようなことに巻き込んでしまって……日々戸惑っているだろう?」

「えっと……正直に言えば……そうです。でも怖くとかはないです。だって鈴が傍にいてくれるから」

 

 青眼が精霊として目覚めてまだひと月も経っていない状況であるが、勝手の違う人間の世界においてこうして不自由なく過ごせているのには鈴の存在があった。

 鈴は青眼が精霊として目覚める前からたびたび心を通わせてくれたこともあり、彼女の人間に対する恐怖心や不信感はとっくに無くなっていたのである。精霊にしては内気な青眼が鈴以外の人間と普通に会話ができるのも一重に彼女の努力の賜物でもあった。

 

「それに……遊希は鈴の友達です。鈴の友達ということは……すごくいい子なんだと思います。だったら……鈴のためにもその友達を助ける力になりたい、そう……思っています」

 

 青眼のその言葉に竜司は安心したかのような微笑みを浮かべて頷く。その時の竜司の顔はどこか鈴に似ているように思えた。その後、光子竜、スカーライト、青眼の3体による出力調整が行われた。データを見ながらジェームズが精霊たちに力の出し具合について指示を出すが、何分慣れない機械に対する力を出すためそれについては光子竜たちも四苦八苦しているようだった。

 それでもある程度のデータが取れたジェームズは1週間後を目途に装置の最終調整を終わらせるという。デュエルについては自信のある鈴やエヴァであってもこの手の機械に対してはジェームズのような専門家に任せなければいけなかった。

 

「ジェームズ……さん。あなた一人で大丈夫なの?」

「呼び捨てでも構わないよ。そうだね、さすがに僕一人では厳しいから本社から腕利きのエンジニアを連れてきている」

「あまり無理をするのではないぞ……」

「わかっているよ。でも僕としても僕にできる形で遊希さんを助けたい。遊希さんが助けてくれたことで僕も救われたし僕とエヴァもやり直すことができたから……」

「ジェームズ……!!」

 

 目の前に自分がいるのに所構わずアツアツになれるあたり本当にこの二人は仲良しなんだろうなぁ、と鈴は小さくため息をついた。

 

―――いわゆるリア充ってやつ?

―――リア……なんだそれは。

―――えっと……人間界の言葉でリアル、つまり……生活が充実している人のことを指すらしいです。

―――そんな言葉があるのか……うむ、遊希には当てはまらないな。

―――あー、わかるわー。

 

 そして見た目が立派なドラゴンのものとは思えない会話が鈴の脳裏に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ふたりの想い

 

 

 

 鈴のスマートフォンにダウンロードしてある無料通話アプリにエヴァから連絡が入ったのは装置の調整を始めた5日後のことだった。ジェームズたちの調整が上手く行って明日にも装置を稼働させることができるという。鈴は千春と皐月が眠っている時間を狙ってエヴァに迎えに来てもらえないか、と送信すると、エヴァからは「了解した!」という元気のいい返事が届いた。日中や晩ではまず間違いなく悟られてしまうため、出発は深夜から早朝の間にしてしまうのが一番手っ取り早いと思われた。

 装置が届いてからというものの、鈴とエヴァは別段何ごともないように過ごしてきた。それこそ遊希を心配する気持ちは変わらず、デュエルを無理ない程度に繰り返して精霊を身体に馴染ませるといった感じで遊希を助けに行くその時を待つというように周囲には見せていた。

 千春と皐月もそんな二人の様子には何の疑いも持っていないようで、いつもと変わらず過ごしていた。もっとも今日のようには二人揃ってアカデミアにいない日もあったのだが。

 

「あんたたち何処行ってたのよ1日中」

「んー、ちょっとね」

「はい」

「……そっか。あっ、夕飯は私が作るわよ」

 

 千春はともかく真面目な皐月までもが授業をサボって1日中アカデミアにいないということに不信感を抱いた鈴であったが、それ以上の追及はしなかった。自分自身嘘をついているという後ろめたさというものがあったからだ。

 今日の夕食は鈴お手製のハヤシライスであり、遊希が連れ去られてからは鈴を気遣って隣室の千春や皐月と食事を共にすることも多くなっていた。ハヤシライスの出来は食べる側の千春と皐月からは好評であったが、鈴はそうは思わなかった。味の良し悪し以前に味そのものをさほど感じることができなかったのである。

 そうこうしているうちに時は過ぎ、寝る時間となった。遊希のいない夜に慣れつつあった三人であったが、眠りにつく前には遊希の寝るベッドの上を見てから寝るようにしている。いつ遊希が帰ってきても良いようにベッドは綺麗にしておく。遊希のことを常に胸に留めておくために。

 

(4時前起きだから今寝とかなきゃいけないんだけど眠れない)

―――鈴。少しは眠っていた方がいいよ?

(そうだけど……)

―――だいじょうぶ、私が起こしてあげるから……

(……うん)

 

 鈴はそう言って眠りへと落ちていった。夢の中に遊希が出てきたのは言うまでもない。夢の中でなら毎日のように会えるのだから。しかし、楽しい時間ほど短く終わってしまうものだ。

 

―――鈴、起きて。

 

 青眼の声が脳内に響く。鈴は思いの外すんなり起きることができた。

 

(おはよう)

―――おはよう。よく寝れた?

(どうだろう……でもそんなに疲労感はない感じ)

 

 鈴は壁に耳を当てて千春と皐月がまだ眠っているのを確認すると、なるべく音を立てないようにしてベッドから降りる。クローゼットのある部屋に行って制服に着替えると洗面所で顔を洗い、髪の毛をセットする。初冬の朝だけあって真っ暗な部屋であるが、普段使っている部屋だけあって多少暗くとも何処に何があるのかは理解できた。

 鈴は外出する準備を済ませると、スマートフォンの無料通話アプリでエヴァに準備が整った旨を送信する。エヴァからは1分もしないうちに迎えに行くという返信が来た。エヴァも鈴と同じようにスカーライトに起こしてもらったようであり、準備を整えた彼女は他の部屋の人間を起こさないようにゆっくりと鈴の部屋までやってきた。小さくドアがコンコンとノックされる。覗き穴から覗くとそこには準備を済ませたエヴァの姿があった。

 

「鈴、迎えに来たぞ」

「おはようエヴァちゃん、今開けるね」

 

 鈴は極力音を立てないようにして鍵を回してドアを開ける。どれほどの戦いになるかはわからないが、遊希を取り戻すとなればきっと長い戦いになることが予想された。そのため鈴とエヴァはデュエルディスクのみではなく二人分の食料や飲料を持った上での出発となる。傍から見れば遊びに行く普通の女子高生にしか見えないだろう。最もその先が普通ではないのだが。

 

「では……」

「行きましょ―――」

 

 エヴァの案内で部屋を出た鈴は抜き足差し足忍び足。若干の後ろめたさを感じながらも、千春たちの部屋の前を通り抜けていく。後で土下座でもなんでもする。そんな覚悟を決めた鈴の左腕が―――ぎゅっと強い力で掴まれた。鈴の身体にぞわっ、と寒気が走る。

 

 

 

「こんな時間にどこに行くんですか? 鈴さん??」

 

 

 

 鈴が恐る恐る振り返る。そこにはいつにもなく真面目な顔をした千春と皐月が二人を睨みつけていた。鈴とエヴァはまさに蛇に睨まれた蛙の如く、その場から動くことができなかった。

 

「千春、皐月……」

「あんたここのところずっと様子おかしかったわよ。だから気になっていたのよね、私たち」

 

 二人の部屋の電気が点く。明るくなったことで、千春と皐月の表情が鮮明になった。千春は怒りと呆れが入り混じったような顔をしており、皐月はただただ悲しそうな顔をしていた。しかし、悲しそうな顔を浮かべながらも、皐月の様子は千春とはまた違っていた。千春が寝癖のついたパジャマ姿といかにも寝起きであるのに対し、皐月は身支度を既に整えており、かつ左腕にデュエルディスクを装着していたからだ。

 

「鈴さん……私と、デュエルしてくれませんか?」

 

 今はすぐにでも遊希を助けに行きたい、と思っていた鈴であったが覚悟を決めた様子の皐月の迫力に圧される形でそのデュエルの申し出を受け入れることにした。もちろん振り切って逃げることもできたかもしれないが、ここで二人に何の説明もなく逃げおおせる確証はない。何より、ここで対応を間違えば、千春・皐月との友情にまでひびが入ってしまう。遊希を確実に助けられる保証もない以上、ここで二人との絆も失ってしまうことを避けたかったのだ。

 

―――鈴、今エヴァが喋れないからあたしが代わりに伝えるけど……地下室のジェームズたちには待っててもらうように連絡してくれるって。

(……ありがと、スカーライト)

―――鈴……

(大丈夫。私たちは負けないから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルフィールドは秋から冬にかけての季節であることからまだまだ夜の闇に包まれていた。東の空を桃色に染めながら太陽が徐々に昇ろうとする中、静寂に包まれたデュエルフィールドで鈴と皐月は対峙していた。

 

「ねえ皐月、あたしたち、本当に今デュエルをしなきゃいけないの?」

「……どうしても嫌なら断って頂いても構いません。最も……本当に強いデュエリストなら一度受けたデュエルを拒否するということはしないと思いますが?」

「っ!」

 

 皐月は口調こそ丁寧だったが、その穏やかな口調の裏からは何処か刺々しいものが感じられた。

 

―――あの様子……何処かから我々の計画が漏れていたと見るべきだな。

(やっぱり……)

 

 鈴の脳裏には光子竜の声が響く。デッキには入れていないものの、鈴は光子竜のカードを予備のカードホルダーに入れてあるため彼の声が聞こえるのだ。

 そして光子竜は千春と皐月は鈴とエヴァが精霊を使える二人だけで遊希を助けに行こうとしている、という計画に感づいていたのではないか、と推測する。二人に何も言わず行こうとしていたということについて彼女たちの怒りを買うのはもっともな話であり、鈴はそれについては何も言い返すことはできない。

 それでも目の前で対峙している皐月、そしてその様子を横で見守っている千春のどちらかからもその計画についての具体的な言葉が出てくることはなかった。

 

「……わかったわ。私だって星乃 竜司の娘で精霊使いの端くれ。このデュエルを抜け出すことなんてしない」

「それでこそ鈴さんです。ではデュエルディスクを起動し、互いに先攻後攻の決定権を決めましょうか」

 

 起動したデュエルディスクのコンピューターによって先攻後攻の決定権がランダムで決められる。今回のデュエルにおいて決定権を得たのは皐月であった。先攻後攻の決定権を得た皐月は少し考えた後に先攻を取った。

 皐月は鈴が精霊使いとして精進するために何度もデュエルを行っていたため、鈴のデッキの内容は知り尽くしている。鈴の青眼は高い火力で相手を圧倒するデッキであり、一度守勢に回ってしまえばブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの貫通効果で一気にライフを持っていかれる恐れがあった。

 しかし、デッキの内容を知り尽くしているということに関しては鈴にも言えることである。皐月がヴァレットモンスターの大量展開を狙い、高い攻撃力と強い効果を持ったヴァレルモンスターのリンク召喚に繋げるならば、それをされる前にライフを削りきる。互いが互いを知り尽くしているからこそ、より洗練されたタクティクスが求められるのである。

 

(……先攻を取られた。でも、皐月のデッキは“あのカード”がもう使えない。それならだいぶ動きは……)

―――でも、油断はできない。

(うん、今のあたしたちにできることをしよう)

 

 月明かりの照らす中、鈴と皐月。二人の秘めたる想いを賭けたデュエルの火蓋が切って落とされた。

 

 

先攻:皐月【ヴァレット】

後攻:鈴【青眼】

 

 

皐月 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(皐月)

 

「私の先攻です。私は手札から魔法カード、テラ・フォーミングを発動します。デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加えます」

 

 皐月の【ヴァレット】デッキに入るフィールド魔法は主に二つ。ヴァレットをサポートするリボルブート・セクターとドラゴン族をサポートする竜の渓谷だ。いずれも強力なフィールド魔法であり、一度通せば一気にデッキが回り出す。

 

「させないわ! テラ・フォーミングの発動にチェーンして手札の灰流うららの効果を発動!」

 

チェーン2(鈴):灰流うらら

チェーン1(皐月):テラ・フォーミング

 

「灰流うらら、持っていましたか」

「チェーンがないなら処理に移るわよ! チェーン2の灰流うららの効果でデッキからカードを加える効果、テラ・フォーミングは無効になるわ」

「チェーン1のテラ・フォーミングの効果は無効になります。墓穴の指名者や抹殺の指名者のようなカードを持っていなかったので防ぐことはできませんでしたが……私にはこのカードがあります! 手札から魔法カード《三戦の才》を発動します!」

 

《三戦の才》(さんせんのさい)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このターンの自分メインフェイズに相手がモンスターの効果を発動している場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分はデッキから2枚ドローする。

●相手フィールドのモンスター1体を選び、エンドフェイズまでコントロールを得る。

●相手の手札を確認し、その中からカード1枚を選んでデッキに戻す。

 

「三戦の才!?」

―――まだ……出たばかりのカード……

―――さすがに目聡いな。サーチを多用するデッキであるため、そのメタカードをいち早く取り入れてきたか。

「私は1つ目の効果を選択して発動します。デッキからカードを2枚ドローです」

 

 三戦の才は発動条件こそあるものの、禁止カードである《強欲な壺》《心変わり》《強引な番兵》の効果を有しており、皐月は強欲な壺と同じ2枚ドローの効果を選択した。これで不発に終わったテラ・フォーミングと三戦の才の2枚分の手札を補う形となった。

 

「フィールド魔法、竜の渓谷を発動。手札1枚をコストにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送ります。私はアブソルーター・ドラゴンを墓地へ送ります。そして、墓地に送られたアブソルーター・ドラゴンの効果を発動します。私はデッキからヴァレット・トレーサーを手札に加えます。更に墓地の闇属性モンスター、アブソルーター・ドラゴンをゲームから除外し、輝白竜ワイバースターを特殊召喚します!」

(ワイバースター……っ!!)

 

 最初から手札にあったのか、それとも三戦の才で引き当てたのか。皐月のデッキにおいて展開の始動役を担う輝白竜ワイバースターがフィールドに特殊召喚される。幾度となく皐月とデュエルをしているからこそ、ワイバースターの特殊召喚を許してしまったことが何を意味するかを理解していた。

 

 

 

 

 

 



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覚悟の1ターン目

 

 

 

 

「鈴さん、顔に出てますよ?」

 

 ワイバースターの特殊召喚を許してしまったことが響いていたのか、デュエルの相手である皐月から見ても鈴が動揺しているのがわかった。精霊使いとして成長を遂げたとしても、その人間の性格まではそうは変わらない。どちらかと言えば素直な方である鈴の悪いところが出てしまっていた。

 

「……その有様で遊希さんを助けることができるんですか?」

「皐月っ……!」

―――鈴、落ち着け。あれは挑発だ。

(わかってるけど……)

 

 光子竜が諫めるが、言葉とは裏腹に動揺を隠せない様子の鈴。そんな彼女の様子を見て、小さく息を吐いた皐月の目が鋭くなった。デュエルは精神の戦いでもある。相手の動揺に付け込むのは最早当たり前のことであった。

 

「私は輝白竜ワイバースターをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク1のストライカー・ドラゴンをリンク召喚します!」

 

 先日マスタールールの変更が適用され、これまではリンクモンスターが存在しなければメインモンスターゾーンに特殊召喚できなかった融合・S・Xモンスターはリンクモンスターがいなくてもメインモンスターゾーンに特殊召喚できるようになった。それでも、リンクモンスターはこれまでと変わらずEXゾーンに特殊召喚しなければならない。ストライカー・ドラゴンのリンクマーカーは左に向いているため、更にリンク召喚をする場合はストライカー・ドラゴンを素材にするか、除去しなければリンク召喚をすることができないのだ。

 

「リンク召喚に成功したストライカー・ドラゴン、フィールドから墓地に送られた輝白竜ワイバースターの効果を発動します」

 

チェーン2(皐月):輝白竜ワイバースター

チェーン1(皐月):ストライカー・ドラゴン

 

 しかし、皐月の【ヴァレット】は連続リンク召喚を行いやすいデッキである。そのため、新ルールの施行は逆風どころか追い風にもなっていた。

 

「チェーン2のワイバースターの効果で暗黒竜コラプサーペントを手札に加え、チェーン1のストライカー・ドラゴンの効果でフィールド魔法、リボルブート・セクターを手札に加えます。竜の渓谷からリボルブート・セクターにフィールド魔法を貼り換えます。そしてリボルブート・セクターの効果を発動します。手札のヴァレットモンスターを2体まで特殊召喚です。私はヴァレット・トレーサーとヴァレット・シンクロンの2体を特殊召喚します! 更に墓地の光属性モンスター、輝白竜ワイバースターを除外し、暗黒竜コラプサーペントを手札から特殊召喚」

 

 これで皐月のフィールドにはリンク1のストライカー・ドラゴンに加えて下級ドラゴン族3体が居並ぶ。そして、そのうち2体はチューナーモンスターだ。

 

「私はリンク1のストライカー・ドラゴンと、チューナーモンスターであるヴァレット・トレーサーをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れなさい、リンク2! 水晶機巧-ハリファイバー!」

「……やっぱり出てきたか」

「まあ、このカードを採用しないデッキの方が少ないですからね。リンク召喚に成功したハリファイバーの効果でデッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚します。私はジェット・シンクロンを特殊召喚します。そしてヴァレット・シンクロンをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 残されし最後の竜。守護竜ピスティ!」

 

 守護竜のリンクモンスターはピスティ以外にはアガーペインとエルピィが存在していたが、その2体は強力な効果も相まって禁止カードに指定されている。そのため守護竜というカテゴリーにおいて唯一残されたリンクモンスターがこのピスティなのだ。ただ、禁止指定から免れているとはいえ、その効果が決して弱いわけではない。

 

「ピスティが存在する間、私はドラゴン族モンスターしかリンク召喚できません。なのでリンク2のハリファイバーとジェット・シンクロンをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 現れなさい、スリーバーストショット・ドラゴン! これでピスティの効果を発動できるようになりましたね」

 

 スリーバーストショット・ドラゴンのリンクマーカーは上・左・下の三か所であり、ピスティはスリーバーストのいるEXゾーンの左下のメインモンスターゾーンに存在している。ピスティの効果を発動するには2体以上のリンクモンスターのリンク先になっているメインモンスターゾーンが必要になるため、リンクマーカーが右を向いているピスティの効果を発動することができるのだ。

 

「ピスティの効果を発動します。墓地またはゲームから除外されているドラゴン族モンスター1体を2体以上のリンク先になっているモンスターゾーンに特殊召喚します。私は、墓地からこのモンスターを特殊召喚します!!」

 

 ピスティの力によって蘇ったのは、鋼鉄の身体を持った黒き竜。かつてドラゴン族主体のデッキには確実に採用されていたモンスターだった。

 

「蘇りなさい!《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》!!」

 

《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》

効果モンスター(制限カード)

星10/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードは自分フィールドの表側表示のドラゴン族モンスター1体を除外し、手札から特殊召喚できる。

(2):自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・墓地から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「レッドアイズ……!! いつの間に墓地に……」

―――竜の渓谷の手札コストか……あの時既にピスティの効果で墓地から蘇生させる算段が立っていた、と。

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果を発動します! 墓地のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します。私はストライカー・ドラゴンを特殊召喚。そしてフィールドのピスティと墓地のヴァレット・トレーサーを対象にストライカー・ドラゴンの効果を発動します。ピスティを破壊し、トレーサーを手札に加えます。今手札に加えたトレーサーを通常召喚。ピスティがフィールドを離れたことで、私はドラゴン族モンスター以外を特殊召喚できるようになりました」

 

 灰流うらら以外の手札誘発はない。皐月はそれを確信した。特殊召喚を抑制する増殖するGもなければ、特殊召喚を多用する相手に対するメタカードとも言える原始生命態ニビルも持っている気配はない。それならば、先攻制圧盤面を作るまで。

 

「ヴァレット・トレーサーの効果を発動します! リボルブート・セクターを破壊し、デッキから同名カード以外のヴァレットモンスター1体を特殊召喚します。私はマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚です! 鈴さん……今の私の一番の力をあなたにお見せします!」

「皐月の一番の力……?」

―――……彼女の決意が、想いが伝わってくる……鈴、気を付けて……!

「私はスリーバーストショット・ドラゴン、ストライカー・ドラゴン、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの3体をリンクマーカーにセット!!」

 

 リンク3のスリーバーストショット・ドラゴンの魂が3つのリンクマーカーを埋め、ストライカー・ドラゴンとレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの魂が残り2つのリンクマーカーに光を与える。点灯されたリンクマーカーは上、左、左下、右下、右の5か所だった。

 

「これは……リンク5!?」

「アローヘッド確認。召喚条件は効果モンスター3体以上!! サーキットコンバイン! リンク召喚!」

 

 

 

 

 

―――“暗黒に閉ざされた世界を貫くは己が決意。銃よ、剣よ、盾よ! 三つの力を今一つとし、最終にして最強の竜となれ!!”―――

 

 

 

 

 現れたのはヴァレルロードでもヴァレルソードでもヴァレルガードでもない全く新しいヴァレル。他のヴァレルリンクモンスターよりもさらに巨大かつ強大なその竜は三つの頭と口内の銃口、そして六つの眼で対峙する鈴を撃ち抜かんとばかりに睨みつける。

 

「現れなさい! リンク5《ヴァレルエンド・ドラゴン》!!」

 

《ヴァレルエンド・ドラゴン》

リンク・効果モンスター

リンク5/闇属性/ドラゴン族/攻3500

【リンクマーカー:上/左/右/左下/右下】

効果モンスター3体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードは戦闘・効果では破壊されず、モンスターの効果の対象にならない。

(2):このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

(3):フィールドの効果モンスター1体と自分の墓地の「ヴァレット」モンスター1体を対象として発動できる。対象のフィールドのモンスターの効果を無効にし、対象の墓地のモンスターを特殊召喚する。この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「ヴァレルエンド・ドラゴン……これが、皐月の切り札……?」

「このモンスターの初お披露目の相手が鈴さんで良かったです。そうすれば、あなたに私の力を思い知らせることができますから。もちろん、これで終わらせるつもりはありません。私はレベル4の暗黒竜コラプサーペントに、レベル4のチューナーモンスター、ヴァレット・トレーサーをチューニング!“雄々しき竜よ。その獰猛なる牙を今、銃弾に変え撃ち抜け!”S召喚! ヴァレルロード・S・ドラゴン!! S召喚に成功したヴァレルロード・S・ドラゴンの効果を発動します。墓地のリンクモンスターを装備カード扱いとして装備し、そのリンクマーカーの数だけこのカードにヴァレルカウンターを置きます。対象はスリーバーストショット・ドラゴンです」

 

ヴァレルロード・S・ドラゴン ヴァレルカウンター:3 

 

「そして、S・ドラゴンの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分アップします。スリーバーストショット・ドラゴンの攻撃力は2400。よって1200アップです」

 

ヴァレルロード・S・ドラゴン ATK3000→ATK4200

 

「これで私はターンエンドです。さあ、鈴さん。あなたのターンですよ」

 

 

皐月 LP8000 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:2(ヴァレルロード・S・ドラゴン(ヴァレルカウンター:2)、マグナヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:1(ヴァレルエンド・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(スリーバーストショット・ドラゴン)墓地:11 除外:2 EXデッキ:9(0)

鈴 LP8000 手札4枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:1 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

皐月

 □□□□ス

 マ□S□□□

  □ エ

□□□□□□

 □□□□□

 

 

○凡例

エ・・・ヴァレルエンド・ドラゴン

S・・・ヴァレルロード・S・ドラゴン

マ・・・マグナヴァレット・ドラゴン

ス・・・スリーバーストショット・ドラゴン

 

 

(っ……!!)

―――破壊耐性持ちかつ全体攻撃が可能な攻撃力3500のモンスター、そして効果を2度まで無効にできる攻撃力4200のモンスター……相当厳しい布陣だな。

―――……突破、できるのかな……?

 

 精霊たちをもってしても苦心する皐月の布陣。これも彼女の覚悟が為せる技なのだろう。取り分け守備力を持たないために守備表示にならないヴァレルエンド・ドラゴンの存在はカオス・MAXによる貫通ダメージを主なダメージ源とする鈴にとっては目の上のタンコブと言っても差し支えない。

 

(光子竜、青眼……あたしね、突破できるできないじゃないと思うんだ)

―――鈴……?

(突破する。あたしたちにできるのは、それだけ!!)

 

 

☆TURN02(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!!」

 

 鈴はドローカードを見て、不思議なものを感じた。デッキが、カードがデュエリストの想いに応える、というのはあくまで真の強者のみが到達できる境地であると思っていた。

 

―――このカードは……!

―――これなら行けるぞ、鈴!

「うん!……ごめん、皐月。あんたの覚悟、このカードで打ち破ってみせる!」

「ヴァレルエンドとサベージの布陣を打ち破る? そんなカードなど……!」

「あるんだよ! あたしは手札の伝説の白石と深淵の青眼龍の2体を墓地に送り、速攻魔法《禁じられた一滴》を発動!」

 

《禁じられた一滴》(きんじられたひとしずく)

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外のカードを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。その数だけ相手フィールドの効果モンスターを選ぶ。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が半分になり、効果は無効化される。

このカードの発動に対して、相手はこのカードを発動するために墓地へ送ったカードと元々の種類(モンスター・魔法・罠)が同じカードの効果を発動できない。

 

「禁じられた一滴!?」

「禁じられた一滴は手札・フィールドのこのカード以外のカードを任意の数だけ墓地へ送って発動できるカード。発動のために墓地に送ったカードの数だけ相手フィールドの効果モンスターを選び、そのモンスターはターン終了時まで攻撃力が半分になる、そしてその効果は無効化される!」

「ヴァレルロード・S・ドラゴンの効果で無効、にはできない……んですよね?」

「うん。相手はこのカードの発動に対して、このカードを発動するために墓地へ送ったカードと元々の種類が同じカードの効果を発動できない。だから、ヴァレルロード・S・ドラゴンでも止められない」

 

ヴァレルエンド・ドラゴン(効果無効)ATK3500→ATK1750

ヴァレルロード・S・ドラゴン(効果無効)ATK4200→ATK1500

 

「これで心置きなくあたしはカードを使うことができる。まずは墓地へ送られた伝説の白石の効果でデッキから青眼の白龍1枚を手札に加える。そして、青眼をコストに魔法カード、トレード・インを発動。デッキからカードを2枚ドローする。手札から魔法カード、復活の福音を発動! 墓地のレベル8・ドラゴン族の深淵の青眼龍を特殊召喚するわ!」

―――鈴……! わたし、頑張る!

「墓地に青眼の白龍が存在する時に特殊召喚された深淵の青眼龍の効果を発動! デッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加える。そして儀式魔法、高等儀式術を発動! デッキの青眼の白龍を墓地へ送り、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!」

「カオス・MAX……出てきましたか」

「バトル! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでヴァレルエンド・ドラゴンを攻撃!“混沌のマキシマム・バースト!”」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK1750

 

皐月 LP8000→LP5750

 

「きゃあっ!!―――ヴァレルエンド……!」

「続けて深淵の青眼龍でヴァレルロード・S・ドラゴンを攻撃!“ディーブ・カオス・バースト”!」

 

深淵の青眼龍 ATK2500 VS ヴァレルロード・S・ドラゴン ATK1500

 

皐月 LP5750→4750

 

「……さすがですね。私が作り上げた盤面をこうも容易く」

「運が良かったから、って言っちゃうとそうかもしれないけど……あたしにだって皐月と同じくらい負けられない理由がある。今更だけど、手加減なんてしてあげないから」

「それはこっちの台詞ですよ。このターンでライフを削り切れなかったことを後悔させてあげますから」

「言うじゃん。じゃあやってみなよ。あたしはバトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移る。カードを1枚セット。そしてターン終了時に深淵の青眼龍の効果を発動。デッキからレベル8以上のドラゴン族1体を手札に加える。あたしが手札に加えるのはレベル10のディープアイズ・ホワイト・ドラゴン。これでターンエンドだよ」

 

 

皐月 LP4750 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(マグナヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:2 EXデッキ:9(0)

鈴 LP8000 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、深淵の青眼龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:8 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

皐月

 □□□□□

 マ□□□□□

  □ □

□□□M深□

 □伏□□□

 

 

○凡例

M・・・ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン

深・・・深淵の青眼龍

 

 

 

 

 

 

 



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降り注ぐ弾丸

 

 

 

 

 

☆TURN03(皐月)

 

「私のターン、ドローです」

 

 皐月の脳裏にチラつくのはターン終了時に深淵の青眼龍の効果でデッキからサーチしたディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの存在だ。レベル10の大型モンスターであるが、ブルーアイズモンスターの破壊をトリガーに特殊召喚できるモンスターであるため、迂闊に破壊しようものなら少なくとも攻撃力3000以上のモンスターが突然現れることになる。

 

(ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは厄介ですが……それを恐れていてはカオス・MAXに押し切られてしまいます。だったら!)

「私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動します! 墓地のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚します!」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン DEF2600

 

「げ、レダメ戻ってきた……」

―――とはいえ守備表示だから攻撃には参加できないがな。

―――でも……どうして守備表示なんだろう……?

 

 鈴のフィールドには守備表示モンスターに対する貫通ダメージを倍増させるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが存在している。そのため、守備力2600のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃すれば、その差分である1400×2=2800のダメージが皐月を襲うことになる。今の皐月のライフを鑑みても、この2800というダメージは致命傷としては十分だ。

 

(……カオス・MAXの効果を皐月は知らないわけがない。となるとレダメを守備表示にするってことは……)

 

 皐月の脳内ではカオス・MAXを処理するだけの算段がある、ということだ。

 

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果を発動します。手札・墓地からドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します!」

 

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの咆哮によって地面を突き破ってヴァレルエンド・ドラゴンが現れる。EXデッキから特殊召喚される大型モンスターは一様にして召喚制限がついていたりするのだが、ヴァレルエンド・ドラゴンにはそれらの召喚制限がない。そのため一度正規の方法でリンク召喚に成功していれば、蘇生・帰還が可能なのだ。

 

「ヴァレルエンド・ドラゴン……でも攻撃力じゃカオス・MAXには及ばないわ!」

「確かに攻撃力500の差はそう易々と埋められるものではありません。ですが、ヴァレルは銃口。銃口は銃弾を撃ち出すことでその真価を発揮します! マグナヴァレット・ドラゴンと墓地のヴァレット・トレーサーを対象に、ヴァレルエンド・ドラゴンの効果を発動します!」

 

 ヴァレルエンド・ドラゴンの効果の対象になったマグナヴァレット・ドラゴンは自身を文字通り弾丸に変え、ヴァレルエンドの身体に装填される。ヴァレットモンスターの共通効果の一つが“リンクモンスターの効果の対象になった時に自身を破壊し、各モンスターごとの固有効果を発動する”というものだ。

 

「ヴァレルエンドの効果はフィールドの効果モンスター1体と墓地のヴァレットモンスターを対象として発動します。その効果モンスターの効果を無効にし、墓地のヴァレットモンスターを特殊召喚する効果です。ですが、その効果にチェーンしてマグナヴァレットの効果が発動します」

 

チェーン2(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン

チェーン1(皐月):ヴァレルエンド・ドラゴン

 

「チェーン2のマグナヴァレット・ドラゴンの効果、マグナヴァレット・ドラゴンを破壊し、フィールドのモンスター1体を選んで墓地に送ります!」

「っ……!そういうことね!」

 

 マグナヴァレットを装填したヴァレルエンドの銃口がカオス・MAXを捉える。カオス・MAXは相手の効果の対象にならず、効果では破壊されないモンスターだ。しかし、マグナヴァレットの効果は対象を取る効果ではなく、そして“墓地に送る”効果であるためカオス・MAXの破壊耐性をすり抜けるのだ。

 

「ヴァレルエンド! カオス・MAXをその弾丸で撃ち抜きなさい!」

 

 放たれた一筋の弾丸が、カオス・MAXの心臓を撃ち抜いた。断末魔の咆哮と共に、カオス・MAXの身体がボロボロとガラスのように崩れ落ちていった。

 

「カオス・MAX!」

「そしてチェーン1のヴァレルエンドの効果……と言いたいところですが、マグナヴァレットの効果が無効になっていないので蘇生は行えません」

―――やられたな、破壊ではなく墓地送りだからディープアイズを特殊召喚できない。

―――相手のフィールドには、攻撃力3500のヴァレルエンド……

「ヴァレルエンドは相手フィールドの全てのモンスターに攻撃できます。最もモンスターがそもそも1体しか存在していないのであまり意味を成しませんが。バトルです! ヴァレルエンド・ドラゴンで深淵の青眼龍を攻撃します!“終幕のヴァレル・ストリーム”!」

 

ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500 VS 深淵の青眼龍 ATK2500

 

鈴 LP8000→LP7000

 

「きゃあっ! だけど、手札のディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果を発動するわ! ブルーアイズモンスターが破壊されたことでこのカードを手札から特殊召喚する! そして墓地のドラゴン族の数×600のダメージを与えるわ!」

 

 鈴の墓地のドラゴン族モンスターはカオス・MAX、深淵の青眼龍、青眼の白龍、伝説の白石の4種類。よって2400のダメージが閃光となって皐月に降り注いだ。

 

皐月 LP4750→LP2350

 

「……あっという間にライフが……」

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンのもう一つの効果。召喚・特殊召喚に成功した時、墓地のドラゴン族1体の攻撃力をコピーするわ。カオス・MAXの攻撃力4000を写し取って!」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK0→ATK4000

 

(ヴァレルエンドの攻撃力は超えれたけど……)

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移ります。とはいえ、私にできることはありません。ターンエンドです。そしてターン終了時に破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果を発動します。デッキから同名カード以外のヴァレット1体を特殊召喚します! 私が特殊召喚するのはアネスヴァレット・ドラゴンです!」

 

 

皐月 LP2350 手札1枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:3(ヴァレルエンド・ドラゴン、レッドアイズダークネスメタル・ドラゴン、アネスヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:2 EXデッキ:9(0)

鈴 LP7000 手札0枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:10 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

皐月

 □□□□□

 ア□ヴレ□□

  □ □

□□□デ□□

 □伏□□□

 

 

○凡例

デ・・・ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン

 

 

○TURN04(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 単純なライフの差だけ見れば、鈴が圧倒的に有利ではある。しかし、ボード・アドバンテージを念頭に入れると流れは皐月の方にある。ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは特殊召喚成功時に墓地のドラゴン族モンスターの攻撃力を得るのだが、それはあくまで効果で低い攻撃力を補っているからこそ成り立つのであって、その効果自体を無効化されてしまうと元も子もない。そして、ヴァレルエンド・ドラゴンの無効効果は相手ターンでも発動できる。そのため迂闊にディープアイズで攻めようものなら効果を無効にされた攻撃力0のモンスターを晒すだけになってしまうのだ。

 

(レダメくらいは倒しかったけど……)

「あたしはディープアイズを守備表示に変更。モンスターをセットしてターンエンド」

「そうするしかありません……よね? ですが、手は緩めません。エンドフェイズの前にヴァレルエンド・ドラゴンの効果を発動します。対象はディープアイズ・ホワイト・ドラゴンと墓地のヴァレット・トレーサーです」

 

 守りを固めようとした鈴であるが、その隙を逃す皐月ではない。ヴァレルエンドの効果によって、ディープアイズの効果は無効化され、皐月の墓地からはヴァレット・トレーサーが舞い戻る。効果を無効化されたことでディープアイズの攻撃力は0に戻されてしまった。

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK4000→ATK0

 

(これでディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは無力化できた。しかし、先ほどからセットしてあるあのカードは……)

 

 

皐月 LP2350 手札1枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:3(ヴァレルエンド・ドラゴン、レッドアイズダークネスメタル・ドラゴン、アネスヴァレット・ドラゴン、ヴァレット・トレーサー)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:2 EXデッキ:9(0)

鈴 LP7000 手札0枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:2(ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:10 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

皐月

 □□□□□

 ア□ヴレト□

  □ □

□□□デ伏□

 □伏□□□

 

 

○凡例

ト・・・ヴァレット・トレーサー

 

 

☆TURN05(皐月)

 

「私のターン、ドローです。ヴァレット・トレーサーの効果を発動します。フィールドのカード1枚を破壊し、デッキからヴァレットモンスター1体を特殊召喚します。アネスヴァレットを破壊し、シルバーヴァレット・ドラゴンを特殊召喚します!」

 

 アネスヴァレットの攻撃力は0(守備力は2100)と攻撃に向かないモンスターであるが、そのアネスヴァレットを破壊して現れたシルバーヴァレットは攻撃力1900と下級のヴァレットモンスターの中では最も高い攻撃力を持っている。

 

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃表示に変更」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン ATK2800

 

「更に私はレベル4のシルバーヴァレット・ドラゴンに、レベル4のチューナーモンスター、ヴァレット・トレーサーをチューニング! 再び出撃せよ! ヴァレルロード・S・ドラゴン! S召喚に成功したヴァレルロード・S・ドラゴンの効果を発動します。墓地のスリーバーストショット・ドラゴンを装備し、ヴァレルカウンターを3つ乗せます。そして攻撃力を1200上昇です!」

 

ヴァレルロード・S・ドラゴン ヴァレルカウンター:3 ATK3000→ATK4200

 

「更に私はレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果を発動。墓地のシルバーヴァレットを特殊召喚。そしてヴァレルエンドの効果でディープアイズの効果を無効にし、墓地のヴァレット・トレーサーを特殊召喚します!」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン 効果無効

 

 皐月のフィールドにはEXゾーンに攻撃力4200かつ1ターンに1度効果の発動を無効にできる効果を3度発動できるヴァレルロード・S・ドラゴン、メインモンスターゾーンには攻撃力3500で破壊耐性持ちかつ相手フィールドの全てのモンスターに攻撃できるヴァレルエンドをはじめとしたモンスター4体が並ぶ。その総攻撃力は14000に達しており、鈴の残りライフ7000の倍の数値に値する。

 

「ヴァレルエンドは相手フィールドの全てのモンスターに一度ずつ攻撃することができます。いくら壁モンスターを並べたところで無意味です」

「……」

「わずか4ターンで終わるのも忍びないですが、これもデュエルですので。バトルです! ヴァレルエンド・ドラゴンで守備表示のディープアイズ・ホワイト・ドラゴンを攻撃!“終幕のヴァレル・ストリーム”!」

 

ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500 VS ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン DEF0

 

「破壊されたディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果を発動するわ! 相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

「その効果にチェーンしてヴァレルロード・S・ドラゴンの効果を発動します!」

 

チェーン2(皐月):ヴァレルロード・S・ドラゴン

チェーン1(鈴):ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン

 

「チェーン2のヴァレルロード・S・ドラゴンの効果! 1ターンに1度、ヴァレルカウンターを1つ取り除くことで相手のカード効果の発動を無効にします! ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果は無効です!」

 

ヴァレルロード・S・ドラゴン ヴァレルカウンター:3→2

 

「ディープアイズの効果で起死回生、とは行きません。ヴァレルエンドでもう1体のセットモンスターも破壊します!」

 

ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500 VS 太古の白石 DEF500

 

「太古の白石でしたか。まあ上級主体の青眼デッキでセットできるモンスターはそれほど多くありませんからね。これであなたのフィールドのモンスターは0。一気に決めます! ヴァレルロード・S・ドラゴンでダイレクトアタック!“天雷のヴァレル・カノン”!」

 

ヴァレルロード・S・ドラゴン ATK4200

 

「……攻撃したわね?」

「えっ……?」

「皐月、あんた勝ちを急ぎ過ぎよ。普段のあんたならもっと慎重に行ったかもしれないのに」

「まさかそのセットカード……」

「リバースカードオープン! 罠カード《聖なるバリア-ミラーフォース-》!」

 

《聖なるバリア-ミラーフォース-》

通常罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

「せ、聖なるバリア-ミラーフォース-!? な、何故そのようなカードを……!」

「あら、リンクモンスターは守備力を持たないから守備表示にできない。カオス・MAXの効果が決めにくい以上そのメタカードをあたしが入れることはおかしなことじゃないと思うけど?」

 

 ヴァレルロード・S・ドラゴンの効果発動無効は1ターンに1度のみしか発動できない。ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの被破壊時効果こそ把握していた皐月であるが、まさか同様の効果を持ったカードを重ね掛けしてくるとは思っていなかった。天雷のヴァレル・カノンがミラーフォースによって跳ね返され、弾丸が皐月のフィールドに降り注ぐ。戦闘・効果で破壊されないヴァレルエンドはその攻撃を受け付けないが、攻撃を放ったヴァレルロード・S・ドラゴン、そしてレッドアイズ、シルバーヴァレット、ヴァレット・トレーサーの計4体は為す術もなく貫かれていった。

 

「底知れぬ絶望の淵に沈め!……なんてまぐれ当たりのカード使って言うのはなんか恥ずかしいわよね。でも、これであんたのモンスターはヴァレルエンドを除いて全滅。戦況は五分に戻ったわ!」

「……私もまだまだ未熟者、ということですね。わかりました。この有様を受け入れます。バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移ります。私はカードを1枚セット。ターンエンドです。ターン終了時に破壊されたシルバーヴァレットとアネスヴァレットの効果を発動します」

「だったらあたしもターン終了時にこのターン墓地へ送られた太古の白石の効果を発動するわ」

 

チェーン3(皐月):アネスヴァレット・ドラゴン

チェーン2(皐月):シルバーヴァレット・ドラゴン

チェーン1(鈴):太古の白石

 

「チェーン3のアネスヴァレットの効果で2体目のシルバーヴァレットを、シルバーヴァレットの効果で2体目のマグナヴァレットを特殊召喚します」

「結局増えるんだから、もう……太古の白石の効果であたしはデッキからブルーアイズモンスター1体を特殊召喚するわ。あたしは青眼の白龍を攻撃表示で特殊召喚! 効果を持たないモンスターなら、ヴァレルエンドの対象にできないのよね?」

「はい。これでターンエンドです」

 

 

皐月 LP2350 手札2枚

デッキ:21 メインモンスターゾーン:3(ヴァレルエンド・ドラゴン、シルバーヴァレット・ドラゴン、マグナヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:18 除外:2 EXデッキ:8(0)

鈴 LP7000 手札0枚

デッキ:26 メインモンスターゾーン:1(青眼の白龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

皐月

 □□□□□

 シ□ヴ□マ□

  □ □

□□青□□□

 □□□□□

 

 

 

 

 

 



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二人の真意

 

 

 

 

「うん、その調子よ皐月! 一気に畳みかけちゃいなさい!」

 

 鈴と皐月、二人がそれぞれの想いを秘めてデュエルを行っている中、千春は一人いつもと同じように振る舞っていた。三度の飯よりデュエル、という姿勢を地で行く彼女はそのデュエルが他人のものであろうとまるで自分のデュエルのように臨んでいた。

 

「千春……」

「何エヴァ? そんな辛気臭い顔しちゃって。あ、まさか皐月に勝ってほしくないんでしょ?」

「い、いやそういうわけでは……」

「まあ私としてはどっちが勝ってもいいんだけどね。仮に皐月が負けたら次は私がデュエルをするまでだけど」

(千春……)

―――うーん、あたしとしてはなんとなく千春の気持ちもわからなくないなぁ……

 

 

 

 

 

☆TURN06(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!!」

―――そのカードは……

 

 今鈴がドローしたカードはデッキ改造にあたって抜くか抜かないか迷っているカードの1枚だった。今までの鈴のデッキならいざ知らず、深淵の青眼龍が精霊として鈴のデッキに加わってからはアンチシナジーになるリスクのはらんだカードだったからだ。

 

―――鈴、わたしのことは、気にしないで……

(青眼……)

―――そのカードがあれば、このデュエルに……勝てる。

「わかったよ、青眼。あなたのため、あたしはこのデュエルに勝つ!」

「……このデュエルに勝つ? どのようなカードをドローしたかは知りませんが、勝ちを焦っているのは鈴さんも同じなのではないでしょうか?」

「勝ちを焦る、か。じゃああたしが焦っているかどうか、試させてあげる! 墓地の深淵の青眼龍の効果を発動! このカードをゲームから除外し、フィールドのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力を1000アップするわ!」

 

青眼の白龍 ATK3000→ATK4000

 

「青眼の攻撃力が、ヴァレルエンドを超えましたか……」

「青眼とマグナヴァレットの攻撃力の差は2200。これだけだとギリギリライフを0にできない。でーもー……」

 

 そう言ってニヤリと笑いながら手札のカードを見る鈴。青眼の白龍は光属性のモンスターであり、光属性のモンスターには属性用のサポートカードも数多く存在する。

 

(あんなあからさまに“あのカード”の存在を臭わせてくるなんて……きっとブラフです。ブラフのはずです……ですが、もし本当にあのカードだったなら……)

「マグナヴァレットと墓地のヴァレット・トレーサーを対象にヴァレルエンドの効果を発動します! そしてそれにチェーンしてリンクモンスターの効果の対象になったマグナヴァレットの効果を発動します!」

 

チェーン2(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン

チェーン1(皐月):ヴァレルエンド・ドラゴン

 

「チェーン2のマグナヴァレットの効果で、マグナヴァレット自身を破壊し、フィールドのモンスター1体を墓地へ送ります! マグナヴァレット……青眼の白龍を撃ち抜きなさい!」

 

 皐月の意志と決意を乗せたマグナヴァレットは自身の命を銃弾に変え、青眼の白龍の心臓を撃ち抜く。これで青眼の白龍を除去すれば、鈴の手札にあるであろう《オネスト》が活きる機会は失われる。そうすれば鈴に打つ手はずなどなく、次のターンにマグナヴァレットの効果で特殊召喚されたヴァレットモンスターを含めた3体の総攻撃で一気に鈴のライフを削れる。

 

「青眼……」

「これで鈴さんの青眼は3体とも墓地。その手札が墓地の青眼を除外して儀式の生贄に仕えるカオス・フォームならともかく、それはカオス・フォームではない……そうでしょう?」

「……さすがにバレちゃってたか」

「いくらなんでも私のことを甘く見過ぎです。私だって、千春さんだって……遊希さんや鈴さん、エヴァさんと同じように戦えます!」

 

 胸に手を当て、必死に訴える皐月。その姿はいつもの大人しく、控えめな彼女の姿はない。

 

「確かに私と千春さんにはデュエルモンスターズの精霊はありません。ありませんが! 私たちだってデュエリストです! 厳しいデュエルの世界に飛び込んだ人間です! 精霊がいないからと言って、足手纏いにされる謂れなどありません!!」

「皐月……」

「それに、私も千春さんも、あの時遊希さんに助けてもらいました!」

 

 あの時、という言葉を聞いて鈴は天を見上げる。鈴が、千春が、皐月が。三人が遊希に助けられたあの時。あの時のことを、鈴は忘れたことがない。

 

「あの時助けてくれた遊希さんが助けを求めているのなら、あの時助けられた私も遊希さんを助けたい。そう思うことは……おかしなことでしょうか?」

「ううん、おかしくない。おかしくないよ」

「でしょう。だからこそ、除け者にされたくはないんです。だから、私は鈴さんとエヴァさんに認めてもらうために、このデュエルに臨みました。私が鈴さんに勝てば、一緒に戦えるって……」

「皐月、わかったよ。あんたたちの気持ち。だけど、あたしはこのデュエルに勝つ。あんたたちの気持ちを踏みにじってでも、遊希を助けに行く! 手札から魔法カード、龍の鏡を発動!!」

「ド、龍の鏡!? オネストではなかった―――」

 

 鈴の手札をオネストと信じて疑わなかった皐月であるが、それはあくまで皐月の思い込みに過ぎなかった。

 

「そもそもさ、パパのデッキと違ってあたしのデッキは闇属性のカオス・MAX主軸のデッキなんだから光属性サポートのオネストが入ると思う? 普段の皐月ならそんな思い込みしないんじゃない?」

「っ……」

「慎重なことは大事だけど、慎重すぎるのもよくないってことで! あたしは墓地の青眼の白龍3体を除外融合!」

 

 墓地より舞い上がった3体の青眼の白龍の身体が次元の渦に吸い込まれていく。そして現れたのは三つの命が一つとなった新たなる究極竜。

 

「“歴戦の誇り高き白龍よ。今新たなる力を示し、絶対の勝利を齎せ!”融合召喚!!」

 

 

 

 

 

―――《真青眼の究極竜》!!―――

 

 

 

 

 

《真青眼の究極竜》(ネオ・ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)

融合・効果モンスター

星12/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3800

「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」

このカード名の(1)の効果は1ターンに2度まで使用できる。

(1):融合召喚したこのカードが攻撃したダメージステップ終了時、自分フィールドの表側表示のカードがこのカードのみの場合、EXデッキから「ブルーアイズ」融合モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードは続けて攻撃できる。

(2):自分フィールドの「ブルーアイズ」モンスターを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、墓地のこのカードを除外して発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

「真青眼の究極竜……!?」

「バトル! 真青眼の究極竜でヴァレルエンド・ドラゴンを攻撃!!」

「ヴァレルエンドを!? ヴァレルエンドは戦闘では破壊されません!!」

「わかってるわよ、そんなこと!“ネオ・アルティメット・バースト”!」

 

真青眼の究極竜 ATK4500 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500

 

皐月 LP2350→LP1350

 

「そして融合召喚したこのカードが攻撃したダメージステップ終了時、あたしのフィールドの表側表示のカードがこのカードのみの場合に発動できる効果があるわ! EXデッキからブルーアイズ融合モンスター1体を墓地に送ることで、このカードは連続攻撃ができる。そしてこの効果は1ターンに2回まで使用できる!!」

「なっ……!?」

「あたしはEXデッキの青眼の究極竜を墓地に送り、真青眼の究極竜でヴァレルエンド・ドラゴンに追加攻撃!“ネオ・アルティメット・バースト”第二打!!」

 

真青眼の究極竜 ATK4500 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500

 

皐月 LP1350→LP350

 

「きゃあああっ!!」

「これで終わり! EXデッキの青眼の双爆裂龍を墓地に送り、3度目の攻撃!“ネオ・アルティメット・バースト”第三打!!!」

 

真青眼の究極竜 ATK4500 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500

 

(そんな……届か―――なかった……)

 

 自身の破壊耐性効果によって身を挺して皐月を守り続けてきたヴァレルエンド・ドラゴンの身体が崩れ落ちる。ヴァレルエンドが倒れることは、皐月の決意が砕かれることを意味していた。

 

皐月 LP350→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……勝てた……」

―――よかったね、鈴。

 

 深いため息と共にいつの間にかにかいていた汗を拭う鈴。晩秋の朝とあって肌寒いはずなのにデュエルに集中していたこともあってか全身からは湯気が出かねないほどの熱気を発していたのである。

 このまま放置していては風邪をひいてしまう。一刻も早く遊希を助けに行きたいのに、風邪をひいて寝込んでいては元も子もないと思った鈴は皐月に話を聞く前にまずは汗を流してしまおうと部屋に戻ろうとした。

 

「すっかり汗かいちゃったわ。ねえ皐月……」

「うっ……ううう……」

 

 しかし、鈴は後方から聴こえてくる涙声に足を止めた。振り返るとデュエルに敗れた皐月は両の眼をウサギのように真っ赤に腫らしては大粒の涙を零していた。

 今まで皐月とは何回もデュエルをしてきたが、デュエルの後の彼女は感情を乱すことなく勝っても負けても優しげな笑みを浮かべては闘った相手を讃えるのが織原 皐月というデュエリストである。そのため敗れた後にこうも感情をむき出しにする彼女を見るのは親友の鈴も初めてだった。

 

「……皐月」

「私はこのデュエルで……私は絶対に勝たなければいけなかったのに……私は……」

 

 下を向いて涙を流す皐月の肩に千春が手を置く。皐月と違いこの時の千春は妙に落ち着いていた。彼女としては皐月同様に感情を爆発させたかったのかもしれないが、今は自分が皐月の代わりに自分たちの真意を鈴とエヴァに伝えなければならない、という使命を胸に秘めていた。

 

「千春……」

「あのね、最初にあんたとデュエルしたいって言いだしたのは皐月なのよ。鈴とエヴァが何か二人でこそこそしてるって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……最近鈴さんとエヴァさんが妙に余所余所しいような気がするのですが」

 

 それは今から数日前、千春と皐月が二人で一緒に授業を受けていた時のことである。いつものように隣同士になり、大型スクリーンに映し出されたパワーポイントに書いてあることを黙々とノートに写していると、隣に座っていた皐月がまるで独り言を言うかのように言い出した。

 優等生の皐月は普段なら授業中には滅多に私語を口にしない。口を開くにしても受けている授業のことくらいなのに、珍しく授業以外のことを話し出したのだから千春は驚いた様子で隣に座る少女の横顔を見た。

 

「どうしたのよ急に。まあ……精霊の力を使えるようになってからはエヴァや校長先生と一緒になることは多くなったようには思えるけど」

「……千春さん、これは私の思い過ごしかもしれないのですが……」

「うん」

「この間鈴さんとエヴァさんが精霊の力で遊希さんの精霊……銀河眼の光子竜を復活させました。そして彼女―――天宮 遊望さんはこう言っていましたよね」

 

―――このワームホールは世界と世界を繋ぐもの。私のような選ばれた者だけが開くことのできるもの。最も、お姉さまの光子竜やエヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでも開けないことはないとは思いますが……―――

 

「今私たちの下には銀河眼の光子竜、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、そして深淵の青眼龍の3体の精霊が存在しています」

「……遊望の言っていたワームホールを開くための条件が揃っている」

「はい。なのでこう思ってしまうのです……鈴さんとエヴァさんの二人だけで遊希さんを助けに行ってしまうのではないか、と」

 

 千春は聊か飛躍しすぎではないか、とも思ったがあり得ない話ではなかった。デュエルモンスターズの精霊を介したデュエルではゲーム上のライフだけではなく、デュエリストの身体や精神に影響を及ぼすケースも多く見られていた。デュエルモンスターズの歴史においても幾つか報告されていることであり、実際に千春と皐月は遊望によって洗脳されている。

 そのため精霊を持たない人間が行くことは危険極まりない話であり、万が一のことが起きてしまえば精霊の加護がある鈴やエヴァはともかく、自分や皐月の身の安全は保障できないのだ。

 

「……私はこのままでいいのでしょうか?」

「ま、まあ仮に遊希を助けに行くってなれば事前に教えてくれるでしょ? ほら授業中なんだから集中しないとね」

 

 無理やり話を切った千春であったが、それ以降入っていた授業の内容はほとんど頭の中には入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初は皐月が気にしすぎているだけかな、って思ってたわ。でも皐月って鋭いのね。私たち見ちゃったのよ、前にエヴァのフィアンセと科学者っぽい人たちがアカデミアに入っていくのをね」

「……」

 

 エヴァは天を仰いだ。ジェームズたちは他の生徒に見つからないようにと夜間にアカデミアに入るなど気を遣ってくれていたが、よりによって千春と皐月に見つかってしまったというのは誤算だった。

 

「あのね、女子高生って結構噂好きなのよ」

「まさかそれだけの情報で……」

「……はい。私たちは鈴さんとエヴァさんが何をしようとしているのかを大体掴みました」

―――あんたたちわかりやすいのね、やっぱり。

―――スカーライトが……それ言う?

―――ちょっ、それどういう意味よ!

 

 先ほどまで泣きじゃくっていた皐月は千春が話している間に落ち着きを取り戻したようだった。それでも涙で眼と眼の下が真っ赤になっている姿はなんとも珍しい光景であるが。

 

「あのね、皐月……」

「……わかっています。鈴さんとエヴァさんが何をしようとしていたかなんて」

「もう教えてしまってもいいだろうな」

 

 鈴とエヴァはI2社と海馬コーポレーション、雄一郎やジェームズの協力を得て遊希を助けに行くための装置を密かにアカデミアに地下に完成させたことを伝えた。千春と皐月はだいたいのことは掴んでいたようであるが、まさかそんな機械をアカデミアの地下に作っていたということまでは知らなかったようだった。

 

「道理で科学者のような見た目の方が……」

「黙っててごめん。でもね、あたしたちとしては二人を危険な目に遭わせたくなかったの」

 

 千春と皐月は決して聞かん坊の子供ではない。そのため鈴やエヴァの真意は十分に理解できていた。しかし、理解できていたからこそ鈴とエヴァの気遣いが痛ましかったのだ。

 

「鈴とエヴァが、私たちのことを考えていてくれたってのはわかる。でもさ、それだとあんたたち自身は誰が守るの?」

 

 千春と皐月が二人の気遣いを素直に受け入れられない理由。それは鈴とエヴァの中に自分たちは大丈夫、という気持ちが少なからずあったからだ。精霊使いと言えどもエヴァも遊希ほど長い時を精霊と共に過ごしたわけでもないし、鈴に至っては深淵の青眼龍についてわからないこともまだまだ多い。

 そんな付け焼刃の二人で遊希が勝てなかった遊望相手にデュエルが成立するのだろうか、遊希を助けるどころかミイラ取りがミイラになる事態すら考慮しなければならないのである。

 

「確かにあんたたちは私たちとは違う。精霊使いっていう特別な存在かもしれない。でもだからといって、あんたたちが無事に戻ってこれるって保証はないじゃない!」

「そ、それは……」

「……私が今回デュエルを挑んだ理由、そして鈴さんに何としても勝ちたかった理由、わかりますか? まあ、デュエルの時に言ったからわかっていますよね? デュエルにおいて鈴さんに勝つことで私のデュエリストとしての力を鈴さんに知ってもらいたかったんです」

 

 鈴とエヴァが自分たちを置いて遊希を助けに行くのは自分たちが精霊使いではない、という理由もあった。それを悟った二人はデュエルで自分たちが勝利すればその不安を払拭できると考えたのである。

 千春も皐月も過去遊希に助けられている。今度は自分たちが助ける番だ、という決意に溢れていた。精霊使いといっても百戦百勝というわけではなく、ここで自分たちがデュエルで鈴とエヴァの精霊使い組から勝利を収めることができれば、精霊の所持未所持という問題ではなく、自分たちの力を直接認めさせることができる。

 鈴やエヴァより自分たちの方が強いと認めさせれば連れてはいけない、ということにはならないはず。無理を通して道理を引っ込めさせるということではないが、こうすれば自分たちの望みは叶うと思ったから。

 

「だからこそ……だからこそ……負けたくなかったんです……」

「まだ諦めるのは早いわよ皐月。なんたってこの私がいるんだから! さあ、鈴でもエヴァでもどっちでもいいからデュエルしなさい!」

 

 皐月の次は自分だ、と言わんばかりにデュエルディスクを構える千春。致し方ないといった様子でデュエルディスクを構えるエヴァ。

 はっきり言ってしまえばエヴァと千春では鈴と皐月以上に実力の差があり、千春自身も普通にぶつかり合えば負けるのは自分であると理解しているだろう。それでも挑まなければならない、避けられない戦いがやってくる。

 

「千春、エヴァ……」

―――鈴。

 

 自分はどうするべきなのだろうか、と悩む鈴に光子竜が声をかけた。

 

(光子竜?)

―――今から地下室へ向かって貰えないだろうか? 千春と皐月も一緒にだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三竜結束

 

 

 

 

 

今まさにデュエルを始めようとした千春とエヴァの間に割って入る鈴。彼女は光子竜が千春と皐月の二人に話したいことがある、ということを伝えた。精霊である光子竜の言葉を直接聞き取ることができるのは精霊使いである鈴とエヴァだけであり、彼らの言葉を千春と皐月に伝えるには鈴かエヴァによる通訳を介さなければならない。

 しかし、それでは精霊である自分の真意は十分に伝わらないだろう、と考えた光子竜は地下室の装置を使って自分の意志を自分の言葉で伝えたいと思ったのである。

 

「おや、どうしたんだいこんな時間に……」

 

 地下室に行くと、どうやら装置のメンテナンスで完徹した様子のジェームズが四人を出迎えた。端正な顔立ちには疲れが見え、目の下には大きな隈ができている有様だった。しかし、アースランド・テクノロジーの将来の経営者となるジェームズ自らがこのような状態になるまで装置に手を加えていたのには理由があった。

 

「ジェームズ! どうしたんだその顔は!?」

「ははは、人間徹夜を繰り返すと本当に体調は悪くなるんだね……ナポレオンは1日に3時間しか寝なかった、とかいうけどそれは嘘だね。3時間しか寝ないで皇帝ができるものか。きっと彼はきっと裏で居眠りをしていたんだ……」

「ジェームズさん、どうしてあなたはそこまで……」

「これは予め受けていた依頼でね……遊希さんを助けるため、装置をアップデートさせていたんだ。僕も彼女に救われた者の一人として―――」

「ジェームズ、もう寝ろ! お前にまで倒れられたら私は……」

「ありがとう、エヴァ。ではお言葉に甘えさせてもらうよ……僕が社長になったら社員の定時退社を徹底させないと……」

 

 そう言ってジェームズと彼の部下である科学者たちはふらふらとおぼつかない足取りで地下室を出ていった。隣の部屋に仮眠室が設置されていたため、そこでしばし睡眠を取るのだろう。

 

「……いいリーダーになりそうですね」

「日本のブラック企業の社長にジェームズの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわね」

 

 フィアンセを褒められて悪い気がしないエヴァは照れ笑いを浮かべる。そんな彼女を尻目に鈴は装置のスイッチを入れる。まるでパソコンを立ち上げた時のように内部の基盤と熱がこもるのを防止するためのファンが起動し始めた。

 ジェームズの改良のおかげで装置の起動がだいぶ楽になったこともあって、鈴のように精密機械に強くない素人でも容易に操縦することが可能になっており、そこにもジェームズの気遣いと尽力が現れていた。

 

「千春、皐月。ここに立ってもらえるかしら」

「……ここでいいの?」

「ええ」

「いったい何が……」

 

 千春と皐月が装置の目の前に立ったのを見た鈴は装置の中心部に設置されていた小型のデュエルディスクに光子竜のカードを置いた。次の瞬間、実際のデュエルでモンスターを召喚するのと同じように光子竜の姿が映し出された。ぱっと見た限りではソリッドビジョンで映し出されるのと同じように見えるが、すぐに千春と皐月はそれが普通のソリッドビジョンでないことに気が付いた。

 

「千春、皐月。こうして直接会話をするのは初めてだな」

「……えっ? 今誰の声?」

「ま、まさか……」

「そのまさかだ。私は銀河眼の光子竜。天宮 遊希の精霊……だが当の精霊使いがいないから今こうしてこの機械を通してお前たちに直接喋りかけている」

 

 そう言って光子竜は翼や尻尾を動かしてみる。千春と皐月は唖然とした様子で互いの顔を見ると、無言で光子竜を見上げていているだけだった。

 

「さて、自己紹介している場合ではないな。だいたいお前たちが感付いていると思うから言ってしまうが、私たちはジェームズらが作り上げたこの機械を通して精霊の力を結集させ遊希がどこに囚われているかを探り当て救出に向かう。そしてそれには鈴とエヴァだけを行かせる。それを決めたのは私だ」

「えっ、じゃああんたが決めたの?」

「私たちでは……やはり駄目なのでしょうか?」

「……鈴やエヴァから聞いたと思うが、お前たちは精霊使いではない。精霊使いではない普通のデュエリストにこれからの戦いは厳しい」

 

 自分たちも遊希を助けたい、と懇願する千春と皐月であるが、精霊である光子竜に直接ここまで断言されてしまうと返す言葉も無くなってしまっているようだった。しかし、光子竜はそんな二人を見てため息をつくとやれやれと言った様子で続けた。

 

「……と思ってはいたが。先ほどのデュエルを見て考えを改める必要があると感じた」

「えっ? それは……」

「それもこれも。鈴、お前のデュエルの危うさだ」

 

 まるで格下の弱者を見下ろすような眼を浮かべる光子竜。鈴はよもや自分に飛び火するとは思っていなかった。

 

「精霊使いになったにも関わらずデュエルに粗っぽい。これではお前を安心して見れる日はいつ来るのかわからないぞ!」

「ちょっ、何よそれ! 私だって頑張って……というか光子竜は遊希のデュエルばかり見てきてるから目が肥えてるのよ!」

「それは認めよう。だが、それを差し引いてもまだお前を独り立ちさせるわけにはいかない。さて、どうしたものか……」

 

 光子竜は腕を組んで何やら考え込む。そして明後日の方向を見ながらつぶやくように言い放った。

 

「はぁ、何処かに鈴と同程度の実力を持ち、鈴と強い絆を結んだデュエリストはいないものか。うーん、一人では不安だから二人ほどいてくれるといいのだがな……」

「えっ」

「まあ……自分で言うのもおかしな話だが、私は精霊としての力はスカーライトや青眼よりも上だ。だから鈴に加え人間二人くらいなら……私の力で守ってやることもできる」

 

 最も庇護対象が増える、ということはそれだけ自分のために割ける力のリソースが減ってしまう、ということでもある。そう前置きしながらも、光子竜は心からの言葉を伝えた。

 

「だからな、千春、皐月。どうか……お前たちも鈴を支えてくれ。遊希を、助けるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……鈴さん」

 

 光子竜に同行の許可を貰った皐月はデュエルでかいてしまった汗を鈴と共に部屋の風呂で流していた。夏休みの交流会の時のように五人全員で入れるほど浴室は広くないため、実際にデュエルを行った二人だけで入ることにしたのである。

 せっかく二人だけなのだから、ということで健闘を讃え合う形で身体を洗い合った鈴と皐月は浴槽に向かい合って湯につかる。10代の女子二人といっても部屋のバスタブではさすがに狭いのだが、その狭さが逆に二人の距離を詰めるのに役立っていた。

 

「何、皐月?」

「以前私と千春さんが1日いなかったことありましたよね」

 

 数日前、千春と皐月は1日中寮にいない日があった。二人が揃って戻ってきたのは次の日の午前中だったこともあって、隣室である鈴も気にはなっていた。

 

「あの時、私たちは実家に帰っていたんです。その……両親に遊希さんを助けに行くことを伝えるために」

「ご両親に? 反対されたんじゃ……」

「はい、事の顛末を話したところ、はじめは猛反対されました。ですが、直接面識はないものの、遊希さんのことは両親にも話していたので……」

 

 皐月の両親は鈴や千春の両親と違ってそれほどデュエルには明るくなかった。それでも娘がデュエリストを志してアカデミアに進学してから親として娘の応援ができるように必死にデュエルのことを学んだという。

 

「私のデッキのカードの中には、両親からプレゼントしてもらったカードも入っています。離れていても、家族が私と共に戦ってくれる。その思いがあったから、今日ここまでやってこれたんです」

「……それで、ご両親の許可は……」

「最終的には納得してもらいました。千春さんも一緒です。まあ千春さんの場合はご両親もご兄弟も千春さんのような方なので」

 

 皐月のその言葉から千春の家族は皆千春と似たような性格をしている、ということはわかった。きっと自分が今の千春の立場に立った場合、同じ選択をしていたはずだ。故に千春の家族は戦いに臨む千春の背中を強く押す選択をした。

 

「だから……もう家族の許可は貰っているんです。私たちは」

「そうだったんだ……」

 

 鈴は千春と皐月の二人が自分たちと同じくらい、いやそれ以上にこの問題について考えていることを知った。危険極まりない場所に行く、ということについても全て話した上で説得するのだから彼女たちの意志は固いのだろう。そんな二人に黙って行こうとすれば皐月も闘志を剥き出しにして向かってくるわけだ。

 

「ありがと、あとごめんね」

「そんな……謝らないでください。私も頭に血が昇っていましたから」

「正直あのデュエルしてる時の皐月凄く怖かったよ。悪役キャラのコスプレしてる時よりもよっぽど」

「あう……そ、それに関しては……忘れてしまいたいです」

「黒歴史化決定って感じね。それじゃあ……」

 

 そう言って鈴は目の前に座る皐月の身体に手を伸ばす。交流イベントの時やプールに行った時から思っていたことなのだが、その性格に似つかわない皐月の体つきには同性ながら羨ましいと同時に悔しいと思っていた。

 

「りっ、鈴さん!?」

「忘れさせてあげよっかな~」

 

 両手をぐにぐにと動かして皐月の身体を弄る鈴。同性でなければまず間違いなく警察沙汰になるレベルの行動にされるがままであった皐月が悲鳴を上げた。もちろんその声を聞いて風呂場に駆け込んできた千春とエヴァから鈴がこんこんと説教されたのは言うまでもない。ただ、彼女たちはそんな束の間のことも楽しんでいた。これからはそういうスキンシップすら取れなくなるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴たちがつかの間の青春(?)を謳歌していた頃、竜司とミハエルの姿が地下室にあった。彼らをここに呼んだのは他ならぬ光子竜である。彼の指示を受けて鈴たちは光子竜、スカーライト、そして深淵の青眼龍のカードを装置に残したまま二人に来るように伝言を頼んでいたのだ。

 

「……なるほど、確かに最初は私たちだけで確かめておいた方がいいね」

「ああ、遊希がどこに捕らえられているか。まずは事の分別つくお前たちに確かめてもらいたい。鈴たちにやらせると、計画もなしに突っ込んでいく可能性があるからな……」

 

 光子竜の言葉に頷く竜司とミハエル。デュエリストとしての腕や格は鈴たちはおろか遊希をも上回る二人であるが、精霊を持たないこと、そしていざという時に鈴たちを助けられるように二人は敢えてバックアップおよびサポートに回る選択を取ったのだ。もちろん、大人として、教育者として子どもたちを危険な所に送り込むという現実を噛み締めながら。

 

「お前たち精霊三体の力で、遊希の捕らえられている場所がわかるというのか?」

「ああ、あの青年が……ジェームズが寝ずに取り組んでくれた。彼のおかげでこの装置を介せば私たちのような精霊の波動を捉えることができる」

「ただ、精度にはまだまだブレがあるかもしれないから、おおよその場所になっちゃうかもしれないけどね。でも、あたしたち3体の精霊が力を合わせれば、大きな誤差を起こすことはないんじゃないかな?」

「……1体では足りなくても、3体が手を取り合えば……可能性は広がる……」

「“三本の矢”か。この場合は“三体の竜”と称するのが正しいかもしれないね。ならば、私たちはその三体の竜の持つ力に頼らせてもらうよ」

 

 光子竜の指示を受け、アースランド・テクノロジーの研究員から予め手渡されていた装置の説明書に従って装置を本格的に起動させる竜司とミハエル。浮かび上がった3体の精霊の身体に光が灯り、彼らの持つデュエルモンスターズの精霊としての力が増幅されていく。

 

(……遊希、お前はどこにいる。一緒にいた時は鬱陶しくてたまらなかったお前の小言が、今では欲しくて欲しくてたまらない。届いてくれ、皆がお前の帰りを待っているんだ―――!!)

 

 光子竜が、スカーライトが、青眼が。ただ“遊希を助けたい”という想いを込めて咆哮し、力を発揮する。やがて装置には4つの光が現れた。4つの内3つの光が同じ位置に点在していることから、この3つは光子竜たち3体の精霊の力ということがわかる。ならば自然と残り1つの光が銀河眼の時空竜の放つ波動であり、そこに遊希がいるということになるのだ。

 

「見つけた、あそこに遊希くんがいる! ミハエル、あの位置の座標を割り出すことは―――」

「既にやっている! この場所は……!?」

 

 装置には世界的な検索エンジンを運営するサイトによる衛星写真が映し出される。人工衛星によって映し出された写真がコンピューターを介して成層圏の彼方から時空竜が潜み、遊希がいると思われる場所を割り出した。その場所を見た竜司とミハエルは息を呑んだ。

 

「何故このようなところに遊希が……?」

「わからない、けれど。目的地は決まったな」

「ああ、すぐに準備を整えよう。鈴たちにも伝えるんだ」

 

 二人は踵を返し、装置のある部屋を出る。装置にはでかでかと、I2社日本支部の写真が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉さま! 私お姉さまに似合いそうなドレスを縫ってみたのですが、どうですか?」 

 

 光子竜たちによって、遊希が囚われている場所が突き止められたころ。精霊・銀河眼の時空竜と一体化した遊望はI2社日本支部の高層ビルの中にある一室にいた。遊望はこの部屋を精霊の力で改変し、まるで生前の自分が遊希と共に幼少期を過ごした実家そっくりの空間へと作り変えていたのだ。

 

「……」

「……まだ、私の声には応えてくれないのですね。お姉さま……」

 

 しかし、遊望が手料理を振る舞ったり、手を針で傷つけながら作った洋服を見せても遊希は何も答えることはなかった。意識自体はあるようなのだが、その瞳にかつての光はない。光子竜を失い、鈴たちとも離れ離れになってしまったショックですっかり彼女は心を閉ざしてしまったのであった。

 

(……私のしたことは間違っていたのでしょうか? 死した私がお姉さまと共にあることは過ちなのでしょうか?)

 

 確固たる意志と理由を持って遊希を連れ去る、という行動に移した遊望であったが、ここにきて彼女は自分の決断に疑問を感じるばかりであった。

 

(いえ、そんなことはありません。私は何も間違っていない。私が……私が動かなければ……)

 

 理想と現実の間で揺らぐ一人の少女。そんな時、遊望は微かに大気が震えたのを感じ取った。光子竜たちによって遊希の居場所が追っ手に伝わったのと同時に、遊望もまたこの場所を突き止められたのに気づいたのだった。

 

「そうですか……こんなにも早く……来てしまいましたか。愚かな……自ら命を捨てに行くというのですね。お姉さま、私はこれからいずれ来るであろう来客を出迎えるための準備に入ります。邪魔者を追い払ったら今度こそ、姉妹の時間を過ごしましょう?」

 

 そう言って遊望は部屋を出る。部屋の前には三人の男女が立っていた。黒いスーツのようなものを纏った怜悧な眼差しをした長身の男性、白い長髪をポニーテールにまとめた中性的な少年とも少女とも取れる小柄な人物、赤と黄色のメッシュが入った紫色の髪とドレスが際立つ豊満な女性。三人は遊望の顔を見ると、何も言わずその場を後にした。

 

「さあ、あなたたちはどのようにして滅びへと向かうのでしょうか? うふふ、楽しみでなりませんね」

 

 漆黒の闇の中に、可憐な美少女の微笑みが怪しく浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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突入

 

 

「鈴、少し休んでおいた方がいいんじゃないか?」

 

 東の空からゆっくりと太陽が昇りつつある中、鈴・エヴァ・千春・皐月の四人を乗せた一台の乗用車が空いている高速道路を走っていた。光子竜たちによって遊望の潜伏場所が都心にあるI2社日本支部であることが突き止められた。遊望がいるということは、彼女に攫われた遊希もまたそこにいる可能性が高いのだ。

 それを竜司から知らされた鈴たちは、すぐに身支度を整えると竜司の運転の下そのままI2社へと向かうことにした。しかし、取るものも取り敢えず飛び出してきたこともあって、食事や睡眠もろくに取れていない有様だった。

 

「……ありがと、エヴァちゃん。でもデッキの調整もしておきたいからさ」

 

 エヴァとのデュエルや皐月とのデュエルを通して鈴はまだまだ自分とデッキに改善しなければならないところがあることを思い知らされた。そのため睡魔や空腹に耐えながらも到着するまでのこのわずかな時間をデッキ調整に充てたかったのだ。

 

「私はプロの舞台でデュエルに臨むことに心掛けていることがある。何だと思う?」

「……どうしたの、突然」

「いいから答えろ」

「む……どんな相手でも、自分のデュエルを貫けるようにする、とか?」

「半分正解、半分不正解だ。相手問わず自分のデュエルをするということは私も大事にしている。だが、その自分のデュエルをするために必要なのが、身体と心に休息を与えることだ」

 

 そう言ってエヴァはまじまじと鈴の顔を覗き込む。エヴァの白い肌と青い瞳が接近し、鈴は思わず喉を鳴らしてしまった。

 

「そんな寝ぼけた眼をしているデュエリストに自分のデュエルなどできやしない。思うところは色々あるかもしれないが、こんな時こそ休むんだ」

 

 自分が不眠不休でも活動し続けられる機械ならば、一切の休息などいらないだろう。しかし、鈴は機械やロボットではなく一人の命ある人間だ。意志もあれば知能もあり、感情もあれば疲労も感じる。疲労困憊、睡眠不足の状態でベストのデュエルができるわけがない。自分のデュエルで金銭が発生するプロだからこそ、エヴァは休息の重要さを知っているのだ。

 

「……ごめんね、エヴァちゃん」

「気にするな。私だって緊張しているし、正直後ろの二人が羨ましく思える」

 

 車内最後部の席では肩を寄せ合って寝息を立てる千春と皐月の姿があった。二人も疲れていたということもあるが、こんな状況でも眠っていられるあたり彼女たちは彼女たちでデュエルをするにあたって何が大事かを理解しているようだった。

 

「二人は二人で緊張感の欠片もないと思うけど……あれくらいが、ちょうどいい……のかなぁ……ふわぁ」

 

 すやすやと寝息を立てている二人を見て触発されたのか、小さく欠伸をする鈴。そしてそのまま眠りへと落ちていった。ずっと張りつめているといつか緊張の糸が切れてしまう。だからこそ、少し張った糸を緩める時が必要なのだ。

 

「……済まないね。娘が世話を焼かせて」

 

 運転席の竜司が振り返らずに言った。本来そういうことは父親である自分が言い聞かせるべきことなのに、と自嘲の意味も込めながら。

 

「気にしないでください。こういうことは血縁ではないからこそ言い合えることなのですから……んんっ」

「エヴァ君も眠っていていいよ。到着間際になったら起こすから」

「お気遣い、痛み入ります……」

 

 エヴァが眠ったことを確認した竜司は左耳につけたインカムのスイッチを入れる。このインカムはアースランド・テクノロジーが開発した通信機器であり、今回のためにとジェームズが特注したものだった。これを人数分用意することで、いつでもアカデミア本部で待機しているミハエルやジェームズと連絡を取ることができるのである。

 

「こちら星乃。ミハエル、ジェームズ君、聞こえているかい? どうぞ」

『こちらミハエル。大丈夫だ、通信状態に問題はない。オーバー』

「現時点での銀河眼の時空竜の反応位置を知りたいのだけど、変わったところはあるかな? どうぞ」

『ジェームズです。反応に変化はありません。対象はまだI2社日本支部内にあります。オーバー』

「わかった、ありがとう。もし何かあったら通信を貰えるだろうか。よろしくお願いするよ」

『了解。幸運を祈る』

 

 そう言って竜司は通信を切った。まさかアカデミアから高速道路を使って行ける距離に潜んでいるとは露知らず、灯台下暗しという諺を改めて思い知らされる。しかし、だからこそ気になることも数多くあった。

 

(I2社に潜んでいる、ということはI2社自体が彼女の手に既に落ちているということになる。しかし、遊希君が攫われた以降もI2社は我々に手を貸してくれた)

 

 鈴の精霊、深淵の青眼龍発見のきっかけになったのもI2社でカード開発を担当している真莉愛からの連絡あってのものだった。今日この時まで遊希救出計画を立てるのにI2社の果たした役割は非常に大きい。だからこそ、警戒しなければならない。真莉愛たちI2社の関係者が遊望の人質になっていることも十分にあり得るからだ。

 

(もしこのことが相手に漏れているのであれば、一筋縄ではいかないだろう。下手な手を打てば、真莉愛さんをはじめとしたI2社社員や技術者たちの命をも危険に晒すことになってしまう……それだけは、何としても避けなくては)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これ! 戦の前の腹ごしらえよ!」

 

 I2社日本支部の近くに到着した竜司は眠っている鈴たちを起こす。起きた鈴たちは予め持参していたミネラルウォーターのペットボトルを開け、その水で軽く顔を洗う。そして千春が作ってきたおにぎりを頬張った。睡眠も食事も取った。これで少しは脳が働いてくれることだろう。

 

「腹が減っては戦はできぬ、言い得て妙だな」

「厳密に言えば、腹が減ってはデュエルはできぬ、と言ったところでしょうか?」

「じゃあこれはデュエル飯って感じかしら?」

―――デュ、デュエル飯って。

―――あ……安直すぎる、ような……

―――鈴のセンスの無さは今更槍玉に上げるようなことではないだろう。

 

 脳内で精霊たちの小馬鹿にするような声が聞こえる。こういった軽いやり取りができるのは今が最後。そう思うとどんな悪口でも笑顔で受け止められるようになっていた。千春手製のおにぎりを平らげた四人に竜司から自分が付けているものと同じインカムが渡される。竜司はオペレーター役として残り、外から鈴たちに対して指示を送る役を務めるのだ。

 

「私はミハエルやジェームズ君から得た情報を元に君たちに指示を送る。何らかの罠が仕掛けられている危険性もあるからね」

「ありがとうございます……ですが、校長先生は建物内の仕組みはわかるんですか?」

「これでも一応元プロデュエリストだからね、I2社日本支部には何度も来たことがあるから構造はある程度わかっているつもりだよ。アースランド・テクノロジーからも地図のデータを提供してもらっているからどこに何があるか、ということくらいはわかるんだ」

「なるほど……星乃先生がバックに控えているなら私たちも安心して突入できるわね!」

「とはいえ、何があるかはわかったものではないからね。危険を感じたりしたらすぐに戻るんだ。君たちだけでどうにもならないのであれば、一度退いて人海戦術に移ることも考えている。遊希君を助けることも大事だけど、君たちの安全も……大事だから」

「パパ……」

「済まないね、本当は我々のような大人が先陣を切らなくてはいけないのに……鈴たちが行方不明になった時と同じように自分の役の立たなさを思い知らされたよ」

 

 そう言って辛そうな顔を浮かべる竜司。父親としては娘を、娘の仲間たちを危険地帯に送り込まなければならない歯がゆさを誰よりも噛み締めていた。

 

「ううん、大丈夫だよパパ! あたしたちはパパたちが背中を押してくれるから頑張れるの!」

「鈴……」

「鈴の言う通りです。私たちはあなたが背中を預けるに相応しい人だからこそ、こうして共に来て頂いているのです」

「確かに危険地帯に行くことは承知していますが……」

「それも私たちが望んで選んだことよ! だから、先生は大船に乗った状態で居てちょうだいね!」

 

 四人の言葉を聞いて竜司は思わず天を見上げる。プロデュエリストとしての活動もあったために父親として多感な時期を一緒に過ごしてやれなかった。それ故に親子の絆が拗れた時もあった。それなのに、鈴をはじめとした四人の少女は目の前で決意の籠った眼差しを浮かべている。

 

(ああ―――鈴は、この子たちは……なんと真っすぐ、心優しく育ってくれたのか―――)

「パパ?」

「……いや、なんでもない。ならば、私たちは日向君の言うように大船に乗らせてもらおうか。そして、遊希君も含めて六人で、アカデミアに帰ろう!」

「「「「はい!!」」」」

 

 遊希を助ける。その目的の下に五人のデュエリストと、彼女たちを守る3体の精霊が決意を新たにした。

 

「……ところで、この建物どうやって中に入るの?」

 

 I2社日本支部の正面玄関は都心の建物らしく自動ドアだ。しかし、誰もいないこの時間帯である、目の前に立つだけで開いてくれるほど自動ドアは優しくない。

 

「まさかガラスを突き破って強行突破―――」

「そんなことはしなくてもいいからね? 何かあった時用のカードキーがあるから」

 

 竜司のおかげで中に入ることができた鈴たち。誰もいないロビーに皆の足音が響く中、一時的ではあるが別れの時がやってきた。竜司はここから皆をナビゲートするのだ。

 

「さて、私はここまでだ。さっきも言ったけれど、危険を感じたならすぐに引き返すんだ。時には尻尾を巻いて逃げることも大事だからね」

「うん、わかったよパパ……じゃあ、行ってくるね!」

 

 決意を新たに四人の少女は歩み出す。かけがえのない友を助けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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立ちはだかるものたち

 

 

 

 

 

「……これ、なーんか罠臭いんだけど」

 

 竜司と別れた四人がやってきたのはエレベーターホールだった。遊希がどこに囚われているかはわからないものの、高層ビルを潜伏先に選んでいる以上、低層階に潜んでいるなどということはないだろう。そうなると、階層が高ければ高いほどそれだけそこに遊希がいる可能性は高くなる。

 

「この建物って何階建てだったっけ? エレベーターが一基動いているけど、20階どまりよ」

「この建物は……確か60階建てでしたね」

 

 この建物に限った話ではないが、高層ビルが立ち並ぶ都会のオフィスというものはたくさんの会社員が働いており、I2社のような世界的企業ならば支部といえども従業員は数千人規模に及んでいる。当然、そんな数の人間を一度に運びきれるエレベーターなどこの世界には存在しない。そのため、都心オフィスのエレベーターはセクションごとに数基に分けて稼働しており、ここの場合は20階までエレベーターに乗り、そこから更に上の階層に行くためのエレベーターに乗り換える形式になっているのだ。

 

「ってことはまずは20階まで行けばいいのね!」

「だが、この時間に一基だけ動いているエレベーターだぞ? 鈴の言うように罠の可能性が高い」

「だからと言って階段で一階ずつ上がっていってはこちらの体力が……いざ遊希さんを助けようにも疲れ切った状態ではまともにデュエルができません……」

 

 もし乗ってこれが罠ならば、エレベーターの中に閉じ込められるリスクがある。しかし、それを嫌って階段を使えば、遊希を見つけ出す頃にはヘトヘトだろう。自分たちはどう動くべきか。早くも袋小路に迷い込んだ鈴の下に竜司から通信が入った。

 

『鈴、聞こえているかい?』

「パパ! うん、聞こえてるよ!」

『それならよかった。さっきから鈴たちの反応がエレベーターホールから動いていないようだけど、何かあったのかい?』

「えっと、うん。今エレベーターホールの前にいるんだけど……」

 

 鈴は素直に今の自分たちが置かれている状況を話した。竜司はそれを最後まで聞き届けると、その場を動かず待つように、と残して一旦通信を切った。そして10分ほど待った後、竜司から返信がきた。

 

『鈴、待たせて済まなかった。そのエレベーターに罠は仕掛けられていないから安心して使って構わない』

「そうなの、パパ?」

『ああ。ジェームズ君の指示の下、アースランド・テクノロジーのエンジニアたちにI2社のコンピューターにハッキングを仕掛けて貰ったんだ』

「ハ、ハッキング……!?」

「さすがはジェームズ! 私の夫になるだけのことはあるな!」

『もしウイルスなどの類が仕掛けられていたなら、それこそエレベーターがそのまま牢屋になってしまうところだった。ただ、気を抜いてはいけないよ。エレベーターをそのまま使わせる、ということは鈴たちを誘い込んでもなお問題がない、ということだからね』

「……そっか。パパ、ありがと! 気を付けて行くからね!」

 

 竜司との通信を切り、四人は改めて顔を見合わせる。今度こそ本当に自分たちは戦いの舞台へ乗り込むことになる。友との絆を、自分のデッキを信じて前に進むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレベーターを乗り継いで一基、二基、三基。三基のエレベーターを乗り継いで鈴たちはI2社の50階まで辿り着いた。エレベーターは50階行きまでのものしかなく、そこからは自分の脚で登れということなのだろう。ちなみに竜司が事前に言っていたように、エレベーターを乗り継いでいる間は何事も起きなかった。しかし、何事も起きなかったからこそ不気味であった。

 

「……今まで何もない、ということは」

「ここから何かが起こる、ってことでいいのよね?」

「恐らく……」

「パパ、聞こえる? あたしたち50階まで着いたよ」

『ああ、聞こえる。こちらのレーダーによると、周囲に人の潜んでいる気配は感じない。それでも警戒は怠らないことだ。あくまで“人”の反応がないだけだから』

 

 暗闇に覆われた社内からは確かに人一人の気配も感じない。しかし、竜司の言うように今の自分たちには人がいないということしかわからない。つまりそれは人以外のものが潜んでいるということでもある。

 

―――人ならざる者……

―――あたしたちと同じ精霊が……?

―――おいでなすったようだな。

 

 光子竜の言葉が鈴の脳内に響き渡る。えっ、と振り返った鈴たちの目に映ったのはその場に似つかわしくない紫色のドレスを着た妖艶な美女の姿だった。

 

「あらあら、さすが“本物”の精霊ね。私たちの存在に気付くなんて」

「ちょっ、何よあんた!!」

「何、って……どこからどう見てもセクシーなお姉さんじゃない?」

「服装や身体付きの問題ではありません! あなたは誰ですか!!」

 

 千春や皐月が問い詰めるが、美女はとぼけた様子を崩さない。鈴もエヴァも、その問答が無意味だとわかっていた。

 

『鈴、そこに誰かいるのか? レーダーに反応はない』

 

 竜司の言葉を聞いて疑問が確信に変わる。今自分たちの後ろに立っていたその美女は“人間”ではない。

 

「あんた……遊望に遣わされた精霊なんでしょ?」

「精霊、と呼べるほど立派なものではないけどね。でも、天宮 遊望によって生を享け、こうして彼女の意に従って動いていることは事実よ。もちろん、あの子もね」

 

 紫色の美女がくすり、と微笑んだ先には何処からともなく現れた一人の少年とも少女とも見て取れる中性的な人間が立っていた。白く美しい長髪を後ろで一つにまとめた小柄な人間が鈴たちを挟むように立っていた。その少年、もとい少女は口をとがらせて不機嫌そうな顔を浮かべていた。

 

「ったく、なんでばらすんだよ! お前が気を引いている間に俺様がこっそりと仕留めてやろうと思ったのによぉ!」

「あら、そんなのアンフェアじゃない? 私もあなたも同じ“デュエルモンスターズの精霊”のようなものなのだから。戦いには然るべき儀礼があるでしょう?」

 

 そう言った女性の左腕にどこからか円盤状の物体が現れる。鈴たちが使っているものと形状が大きく異なるものの、それはまず間違いなくデュエルディスクと見ていいだろう。

 

「へっ、儀礼とかそんなん俺の知ったことじゃないけどよ、デュエルなら大歓迎だぜ!」

 

 美女に促されて中性的な人物もまた左腕にデュエルディスクのようなものを顕現させる。ここでのデュエルはやはり避けられない、ということか。それに相手がデュエルモンスターズの精霊となると、一筋縄ではいかない。精霊には精霊をぶつけよう、と身構える鈴とエヴァを制止したのは千春と皐月だった。

 

「ストップ。ここは私たちの出番のようね」

「千春……」

「私たちの狙いはあくまで遊希さんの奪還です。お二人はそちらを優先してください」

「だが、お前たちに精霊は……」

「確かに精霊の力で押されるときついけど……デュエルなら話は別よ!」

「相手がこちらの土俵で戦おうとしているなら、十分に勝機はありますから。ほら、早く。私たちに構わず先に行ってください!」

―――エヴァ!

―――……行こう、鈴

 

 青眼とスカーライトに促され、その場を後にする鈴とエヴァ。幸いにも二人の精霊は鈴とエヴァを追おうとはしなかった。二人の姿が暗闇に消えていくのを見届けてから、千春と皐月もデュエルディスクを展開した。

 

「一度言ってみたかったんですよね。ここは任せて先に行け、って」

「あんたの好きな漫画やラノベにもよく出てくる台詞よね。その気持ちはよくわかるわ。でも、今は漫画のような空想の世界じゃない。現実に私たちは敵と対峙している。気を抜かないようにするのよ!」

「……お互いに」

 

 そう言って互いの健闘を祈ると、千春は妖艶な美女の精霊と、皐月は中性的な精霊とそれぞれ対峙する。

 

「あらあら、友情とものなのかしら? 美しく綺麗なものね。でも、その友情を意識した結果あなたたちは私たちに倒されてしまうなんて……」

「身の程知らず、って言葉知ってるか? お前たち、後悔するぜ?」

「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるわよ!」

「一筋縄ではいかない、ということを教えて差し上げます」

「いい心がけね。ではこの“パープル”、全力であなたの相手を務めさせて貰うわ」

「そういや名乗って無かったな。俺は“ホワイト”ってんだ。ま、覚えなくていいぜ。どうせすぐにわからなくなるんだからよ」

 

 二人の精霊はそれぞれパープル、ホワイトと名乗った。見た目や服装、髪の色をそのまま名前に当てただけと思われるので本名ではないかもしれないが。しかし、今はそのようなことを気に掛けている場合ではない。人間と精霊、互いと互いの意地と使命をかけたデュエルの火蓋が切って落とされた。

 

 

―――デュエル!!―――

 

 

千春【サイバー・ドラゴン】VS パープル【???】

皐月【ヴァレット】VS ホワイト【???】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千春と皐月、大丈夫かな?」

「わからない。だが、今は彼女たちが時間を稼いでくれている間に遊希を見つけ出さなければ……」

 

 先に行った鈴とエヴァは上の階に通じる階段を見つけると、それをダッシュで駆けあがっていく。当然ながらかなりきつい運動にはなるが、デュエルアカデミアに入学してからというものの、厳しいデュエルに耐えるために日々トレーニングを重ねていたこともあってか、比較的体力を温存したまま移動することができていた。

 

「ここのフロアは防火扉が閉まってるか……」

「ここじゃないってことなのかな?」

『鈴、レーダーによると55階は施錠が為されていない。そのフロアに何かあるかもしれない』

「ありがと、パパ! じゃあその55階をまずは目指しましょう!」

 

 辿り着いた55階は確かに竜司の言うようにフロアに立ち入ることができた。51階から54階までが防火扉で施錠されていたことを考えると、この階には何かがあると言うことがわかる。もちろん、それが鈴たちを喜ばせるものという保証はない。

 

―――慎重に探索しよう。もしかしたら先のような迎撃担当がいるかもしれないからな。

「オッケー」

 

 光子竜の言葉を受けて慎重に周囲を見回しながら進んでいく鈴とエヴァ。暗闇であるために手探りの状態であることは変わらないのだが、ずっと暗闇の中を駆けずり回ってきたこともあってだいぶ目が慣れており、うっすらではあるが周囲に何があるのか見えるようになっていた。

 

「……他のフロアとは微妙に雰囲気が異なるような気がするが……ここは?」

『55階はカード開発のメインセクションなんだ。全世界から集められた伝説や伝承、民話を元にここでカードの製作が行われる。今皆が使っているカードも、新しいものはここで作られているんだ』

 

 デュエルモンスターズはI2社の創設者であるペガサス・J・クロフォードが自ら世界中を旅して回った時に得た着想を元にデザインし、カードゲームへと大成させた。デュエルモンスターズを代表するモンスターである青眼の白龍やブラック・マジシャンといったカードも元は古代エジプトに残る伝説から作られたものである。そんな創設者の理念を受け継いだI2社の人々は今もなお世界中の神話や伝説、民話を元に情報を集め、様々なカードを日夜作り上げているのだ。

 

「なんだか背筋が伸びちゃうよね」

「そうだな。私たちはここで働いている人々に対する感謝の念を忘れてはならない。だからこそ、この神聖な場所を根城にしている天宮 遊望を許すわけには行かない」

「うん……うん?」

 

 頷いた鈴の脳裏に何かが聞こえたような気がした。誰の声だろうか、鈴は首をひねった。そして誰に言われるまでもなく、その声のした方へと引き寄せられていく。

 

「鈴? どうした」

「……わかんない、わかんないけど……この先に行かなきゃいけない気がするの」

 

 ゆっくりとではあるが、一歩一歩確かに踏みしめていく。光子竜の言うように警戒を第一にしなければならないのに、鈴はただまっすぐ先の見えない闇の中へと歩いていった。鈴を一人にするわけにはいかない、とエヴァも鈴に離されないようについていく。すると、二人の視線の先には微かながら光が見えてきた。

 

「あの光は……まさか、あそこに遊希が!!」

「行ってみよう!」

 

 二人は一目散に光へ向かって走っていく。やがて、その光の下に辿り着いた二人は言葉を失った。

 

「なに……これ……?」

 

 鈴とエヴァの眼前に広がっているのは都心一等地のオフィスビルの内部とは思えないような空間だった。クリーム色の明るい照明が照らすのは暖かな雰囲気に覆われたリビングルーム。綺麗にまとめられたテーブルの上には花瓶が飾られており、そこでは色取り取りの花が生けられている。

 例えるならば、まるで幼稚園児から小学生くらいの女の子が遊ぶようなドールハウスのような、そんな空間。そんな中、エヴァが壁を指差す。エヴァが指差した先にかけられていたのはデュエルアカデミアの女子制服だった。新品同然に綺麗なその制服の内側には持ち主の名前がしっかりと刺繍されている。

 

「天宮 遊希……遊希の制服だ」

「じゃあここに遊希が……」

 

 攫われた遊希が捕らえられているのだから、と二人は牢獄のような場所を想像していたが、この場所にいたのであれば話は変わってくる。少なくとも劣悪な環境で過酷な生活を強いられているようではないのだろう。

 

―――ここには誰もいないようだな。きっと我々が来るとわかって移動したのだろう。

―――じゃあ長居は無用だね! 遊希を探しに行こー!

―――……鈴? どうしたの、鈴??

「……わかんない、わかんないんだけど。なんでだろう、どうしてなのかな……涙が止まらない」

 

 鈴、そしてエヴァの眼からは涙がポロポロと零れ落ちていた。取り立てて悲しい訳でもなければ、怖い訳でもない。頭では泣いている暇はないとわかっている。それなのに涙が止まらないのだ。

 

―――鈴、何か感じ取ったのか? 遊希のことか?

「ううん、たぶん遊希のことじゃない……ただ、誰のものかもわからない」

「……なんだろうな。この部屋からは、無念?というものなのだろうか。そんな悲しい気持ちが伝わってくるんだ」

 

 

 

―――当然だ。この部屋は我らが創造主の願いが込められているのだからな―――

 

 

 

 二人の脳裏に誰かの声が響く。青眼やスカーライトのものでなければ、光子竜のものでもない。部屋を飛び出た二人の前には黒い鎧のようなものを纏った騎士のような雰囲気の青年が立っていた。 

 

「!?」

「……あの二人だけではなかったか!」

「我が名は“ブラック”。二度目の生を享けるにあたり、この名を与えられし名も無きデュエルモンスターズの精霊。我が使命はお前たちを倒すこと。お前たちの求め人を取り戻したいならば……私を倒していくがいい!!」

「きゃっ!」

「鈴!」

 

 ブラックと名乗った精霊が手を振り下ろすと、鈴の周りを黒い槍のようなものが覆い、まるで鳥籠のように彼女を包み込んでしまった。千春や皐月がやったように、エヴァ一人に任せて鈴だけ一人遊希を探しに行く、という手段が封じられてしまった。

 

「……そう優しくはない、か。ならば、私が相手となろう!」

「エヴァ・ジムリア―――プロデュエリストとしての腕前を見せてもらおう」

「「デュエル!!」」

 

 

エヴァ【BF】VS ブラック【???】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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千春の決意・1(修正版)

 

☆TURN01(千春)

 

「あら? 先攻後攻の決定権は私にあるのね。なら先攻はお嬢ちゃんにあげるわ」

 

 先攻後攻の決定権を与えられたパープルはまるで幼い子供に話しかけるような優しい笑みを浮かべながら千春に先攻を譲った。確かに外見だけ見ればパープルは千春より年上のいわゆる妖艶な美女といった外見であるが、そもそも人間ではない彼女に子供扱いされることが納得いかなかった。

 

「ちょっと、子供扱いしないで! 確かに背は低いかもしれないけど、私の志はあんたなんかよりずーっと大きいんだからね!」

「あらそうなの? だったらその大きな志をお姉さんに見せてちょうだい?」

「うー……」

 

 悔しいが、まともにやりあえば口ではあちらの方が一枚も二枚も上手だ。そして相手が上手いのは口だけではない。千春の使う【サイバー・ドラゴン】デッキは高火力を駆使したワンターンキルが持ち味のデッキであり、そのデッキを使用するデュエリストは本来不利とされる後攻を好んで使うことが多いのだ。しかし、パープルが自ら先攻を千春に譲ったということは、千春はそのサイバー・ドラゴンお得意の戦法を封じられたことになる。彼女が千春のデッキを知っているかどうかは不明であるが、実戦の前から既に千春は自分がパープルの掌の上で転がされている感覚に包まれていた。

 

「まあいいわ、私を敵に回したことを後悔させてあげるから! 私は手札のサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果を発動! 手札のサイバー・ドラゴンを捨てることでこのカードを手札から特殊召喚するわ!」

「……あなたのデッキはサイバー・ドラゴンなのね。後攻を取って正解だったわ」

 

 パープルはほっと胸をなでおろすかのような仕草を見せる。どうやら千春のデッキ内容については遊望から知らされていないようであった。

 

(相手は私のデッキ内容を知らなかった……メタを張られている心配はなさそうね)

「そして特殊召喚に成功したネクステアの効果を発動するわ! 墓地の攻撃力または守備力が2100の機械族モンスター1体を特殊召喚する! 戻ってきて、サイバー・ドラゴン!」

 

 サイバー・ドラゴンは上級モンスターであるが、相手フィールドにモンスターが存在する場合に手札から特殊召喚できる半上級モンスターだ。そのため先攻では相手フィールドにモンスターが存在する可能性が極めて低いため、手札事故の原因になりかねない。そんなサイバー・ドラゴンデッキの弱点の一つをこのネクステアが補ってくれるのだ。

 

「手札から魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動! デッキからサイバー・ドラゴンモンスター、または通常召喚できない光属性・機械族モンスター1体を手札に加えるわ!」

「……先攻でも動けるように工夫しているのね。チェーンはないわ」

「なら、エマージェンシー・サイバーの効果で私はデッキからサイバー・ドラゴン・ドライを手札に加えるわ。そして今加えたドライを召喚! そしてドライの召喚成功時に発動する効果にチェーンして手札のサイバー・ドラゴン・フィーアの効果を発動!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・フィーア

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ドライ

 

「チェーン2のフィーアの効果、サイバー・ドラゴンの召喚に成功した時、自身を手札から特殊召喚するわ! そしてチェーン1のドライの効果でフィールドのサイバー・ドラゴンモンスター全てのレベルを5にするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 星4→星5

サイバー・ドラゴン・フィーア 星4→星5

サイバー・ドラゴン・ネクステア 星1→星5

 

 千春のフィールドにはサイバー・ドラゴン本体のみならず、サイバー・ドラゴンモンスターとしても扱うドライ、ネクステア、フィーアと計4体のサイバー・ドラゴンが存在している。1体1体のステータスは遊希たちのエースモンスターと比べて低いが、融合・X・リンクと幅広い召喚法を取れるのがサイバー・ドラゴンデッキの魅力だ。

 

(あまり時間は割きたくないけど……先攻でワンキルはこのデッキじゃ無理だから……こうするしかないか)

「私はサイバー・ドラゴン・フィーアとサイバー・ドラゴン・ネクステアをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」

 

 2体のサイバー・ドラゴンからリンク召喚されたのはサイバー・ドラゴン・ズィーガー。リンク2のサイバー・ドラゴンリンクモンスターであり、自身が攻撃宣言していない場合、自身の攻撃による戦闘ダメージと引き換えに攻撃力2100以上の機械族モンスターの攻撃力を2100アップさせる効果を持っている。素の火力が低めのサイバー・ドラゴンの火力を補える効果を持ったモンスターだ。

 

「そしてレベル5となったサイバー・ドラゴンとドライでオーバーレイ! 2体の光属性・機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 起動せよ! サイバー・ドラゴン・ノヴァ!」

「サイバー・ドラゴン・ノヴァ……でも、それで終わりじゃないのよね?」

「わかってるんだったら説明はいらないわね。でも、まずはこの効果よ! サイバー・ドラゴン・ノヴァの効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、墓地のサイバー・ドラゴン1体を特殊召喚するわ。私は墓地のフィーアを守備表示で特殊召喚! そしてフィーアが存在する限り、フィールドのサイバー・ドラゴンモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする!」

サイバー・ドラゴン・ズィーガー ATK2100→ATK2600

サイバー・ドラゴン・フィーア ATK1100/DEF1600→ATK1600/DEF2100

 

「そして、サイバー・ドラゴン・ノヴァでオーバーレイ・ネットワークを再構築! エクシーズ・チェンジ! ランク6のサイバー・ドラゴン・インフィニティをX召喚! サイバー・ドラゴン・インフィニティの攻撃力はオーバーレイ・ユニットの数×200アップするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:2 ATK2100/DEF1600→ATK2500/DEF2100

 

「ステータスの底上げされたサイバー・ドラゴンたちに万能カウンターのサイバー・ドラゴン・インフィニティ。なるほど、手ごわいわね」

「あんまり時間はかけたくないの。私は永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョンを発動。これでターンエンドよ!」

 

 

千春 LP8000 手札0枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:2(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:2、サイバー・ドラゴン・フィーア) EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・ズィーガー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(未来融合-フューチャー・フュージョン)墓地:3 除外:0 EXデッキ:12(0)

パープル LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN02(パープル)

 

「じゃあお姉さんのターンね、ドロー。はぁ」

 

 後攻のパープルはカードをドローした後に溜息を吐く。いいカードを引けなかったのだろうか、と千春が思っていると、彼女はその溜息の理由を話し始めた。

 

「あなたのデッキ、サイバー・ドラゴンなのに融合しないのね。せっかく同じ召喚法を駆使する相手とデュエルができると思ったのに。お姉さんがっかりしちゃった」

「っ……サイバー・ドラゴンが全部融合とは限らないわ! 状況に応じて的確なプレイングが必要なデッキなのよ!」

「まあ、そうなんだけどね。それでもお姉さんは融合にこだわりを持っているの。それを教えてあげる。私は手札からフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピア-を発動」

 

 闇黒世界-シャドウ・ディストピア-は存在するだけでフィールドのモンスターの属性を全て闇属性に変えてしまうフィールド魔法だ。その効果故に特定の属性であることを求められるデッキにはそれだけで刺さるメタカードと言える。

 

(シャドウ・ディストピア……わかった!)

「シャドウ・ディストピアの発動にチェーンして、サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・インフィニティ

チェーン1(パープル):闇黒世界-シャドウ・ディストピア-

 

「チェーン2のサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、シャドウ・ディストピアの発動を無効にして破壊するわ!」

「そうね、チェーン1のシャドウ・ディストピアは無効にされて破壊されるわ」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:1 ATK3000→ATK2800

 

「こんなに早くインフィニティの効果を使っちゃってよかったの?」

「だって、今しか使えないじゃない。超融合にはそもそもチェーンできないんだから」

 

 シャドウ・ディストピアで属性を闇に変更するメリットに超融合とのコンボが挙げられる。超融合は相手フィールドのモンスターを素材に融合召喚が行える速攻魔法であり、相手のチェーンを受け付けないことから非常に止めにくい魔法カードだ。

 このカードでフィールドの闇属性モンスター2体という召喚条件を持つ融合モンスター、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを融合召喚する―――という目論見を防ぐためにも千春はシャドウ・ディストピアの発動を許すわけにはいかなかったのだ。

 

「そこまで見抜かれていたようね。でも、残念ながらこの手札に超融合はないの。残念だったわね」

「なきゃないでそれでいいわ。結果的にサイバー・ドラゴンたちを守れたんだもの!」

「……どこまでも前向きなのね。じゃあお姉さんも好きにやらせてもらうわ。私は手札から魔法カード《捕食活動》を発動」

 

《捕食活動》(プレデター・プラクティス)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札から「捕食植物」モンスター1体を特殊召喚する。その後、デッキから「捕食活動」以外の「プレデター」カード1枚を手札に加える。このカードの発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

 パープルのデッキは【捕食植物】(プレデター・プランツ)。闇属性・植物族で統一されたカテゴリーであり、融合召喚および実質このカテゴリーの専用カウンターである捕食カウンターを駆使する効果を持つデッキだ。

 

「……超融合は崩しのためのカードじゃないようね。普通に戦術に組み込めるデッキだったってこと」

「そういうこと。捕食活動の効果で私は手札から捕食植物モンスター1体を特殊召喚するわ。《捕食植物スピノ・ディオネア》を特殊召喚」

 

《捕食植物スピノ・ディオネア》

効果モンスター

星4/闇属性/植物族/攻1800/守0

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターに捕食カウンターを1つ置く。捕食カウンターが置かれたレベル2以上のモンスターのレベルは1になる。

(2):このカードがこのカードのレベル以下のレベルを持つモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後に発動できる。デッキから「捕食植物スピノ・ディオネア」以外の「捕食植物」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「そして捕食活動の効果でデッキから捕食活動以外のプレデターカード1枚を手札に加える。私が手札に加えるのは《捕食植物バンクシアオーガ》。そして特殊召喚に成功したスピノ・ディオネアの効果でサイバー・ドラゴン・ズィーガーに捕食カウンターを1つ置く」

 

 サイバー・ドラゴン・ズィーガーの機械の身体に植物の種子のようなものが植え付けられる。このカウンターを活かしたデュエルもまた捕食植物というカテゴリーの特徴と言えた。

 

サイバー・ドラゴン・ズィーガー 捕食カウンター:1

 

「サイバー・ドラゴン・ズィーガーはレベルを持たない。捕食カウンターの意味はないわね!」

「ええ、そう。だけど更なるコンボには繋げられる。私はフィールドの捕食カウンターが置かれたモンスター1体……サイバー・ドラゴン・ズィーガーをリリースし、捕食植物バンクシアオーガを特殊召喚!」

 

 千春の言うように、レベルを持たないリンクモンスターやエクシーズモンスターは捕食カウンターによるレベル操作の影響は受けない。しかし、それ以外の効果によって利用されることはある。サイバー・ドラゴン・ズィーガーの身体を絡め取った植物はやがて身体にたくさんの口や目がついた不気味な果実のようなモンスターへと変貌した。

 

《捕食植物バンクシアオーガ》

チューナー・効果モンスター

星6/闇属性/植物族/攻2000/守100

(1):このカードは相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスター1体をリリースした場合に手札から特殊召喚できる。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。相手フィールドの表側表示モンスター全てに捕食カウンターを1つずつ置く。捕食カウンターが置かれたレベル2以上のモンスターのレベルは1になる。

 

「ズィーガーに捕食カウンターを乗せたのはこのためだったのね……!」

「さすがに攻撃力を2100も上げられたら手の打ちようがないもの。さて、このバンクシアオーガはチューナーモンスターであるわけだけど、捕食活動を発動したターン私は融合モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。だったら融合素材にするまでよね。魔法カード、融合を発動。スピノ・ディオネアとバンクシアオーガの2体を融合。“魅惑の香りで虫を誘う二輪の花よ。今一つに交わりて全てを食らう妖花となりて花開け!”融合召喚!《捕食植物キメラフレシア》!」

 

《捕食植物キメラフレシア》

融合・効果モンスター

星7/闇属性/植物族/攻2500/守2000

「捕食植物」モンスター+闇属性モンスター

(1):1ターンに1度、このカードのレベル以下のレベルを持つフィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。

(2):このカードが相手の表側表示モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。ターン終了時まで、その相手モンスターの攻撃力は1000ダウンし、このカードの攻撃力は1000アップする。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズに発動できる。デッキから「融合」魔法カードまたは「フュージョン」魔法カード1枚を手札に加える。

 

「キメラフレシア……また面倒なモンスターを!」

「効果も優秀でアフターケアも万全。お姉さん、こういう無駄のないモンスターは好きよ。でも、この子だけじゃない。フィールドから墓地に送られたバンクシアオーガの効果であなたのモンスター2体に捕食カウンターを乗せるわ」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ 捕食カウンター:1

サイバー・ドラゴン・フィーア 捕食カウンター:1

 

「でも……私にはまだ通常召喚権が残っている。《捕食植物サンデウ・キンジー》を召喚」

 

《捕食植物サンデウ・キンジー》

効果モンスター

星2/闇属性/植物族/攻600/守200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が融合素材とする捕食カウンターが置かれたモンスターの属性は闇属性として扱う。

(2):自分メインフェイズに発動できる。闇属性の融合モンスターカードによって決められた、フィールドのこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールド及び相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスターの中から選んで墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

「サンデウ・キンジーがモンスターゾーンに存在する限り、私が融合素材にする捕食カウンターが置かれたモンスターの属性は闇属性として扱うの。そして、サンデウ・キンジーの効果は……」

「捕食カウンターが置かれたモンスターを融合素材にできる……」

「そういうこと。私はサンデウ・キンジーの効果を発動! サンデウ・キンジー自身および捕食カウンターが置かれているサイバー・ドラゴン・インフィニティとサイバー・ドラゴン・フィーアを融合!!」

 

 サンデウ・キンジーの力によって千春のフィールドの2体のサイバー・ドラゴンが望まぬ融合素材として消えていく。そして現れたのは物々しい三つ首の竜のような姿をした植物であった。

 

「“魅惑の香りで虫を誘う一輪の花よ。全てを惑わし、闇に誘い一つに集え!”融合召喚!《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》!」

 

《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》

融合・効果モンスター

星9/闇属性/植物族/攻3000/守3000

フィールドの闇属性モンスター×3

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードの攻撃力は、このカード以外のフィールドの捕食カウンターが置かれたモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。

(2):このカードが融合召喚されている場合、相手がEXデッキからモンスターを特殊召喚する際に発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する。

(3):相手フィールドのモンスターに捕食カウンターが置かれている場合に発動できる。このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。

 

「トリフィオヴェルトゥムは融合召喚されている場合、1ターンに1度相手のEXデッキからのモンスターの特殊召喚を無効にして破壊することができる」

 

 もしこれが遊希や鈴であれば、EXデッキに依存せず高打点のモンスターを特殊召喚することができるため、トリフィオヴェルトゥムであろうとも容易に突破できただろう。図らずともメインデッキのモンスターが揃って攻撃力が低めな千春の弱点を突いた形になった。

 

「最も、融合召喚はトリフィオヴェルトゥムでは防げないわけだけど……未来融合が発動するまで、このデュエルが続いているのかしらね」

「……っ!」

「バトルよ。キメラフレシアでダイレクトアタック」

 

捕食植物キメラフレシア ATK2500

 

千春 LP8000→LP5500

 

「きゃっ!」

「まだまだ行くわよ、トリフィオヴェルトゥムでダイレクトアタック」

 

捕食植物トリフィオヴェルトゥム ATK3000

 

千春 LP5500→LP2500

 

「きゃあああっ!!」

 

 2体の捕食植物の攻撃が千春の小さな身体に襲い掛かる。

 

(鈴、エヴァ……!!)

 

 しかし、危機に晒されてもなお千春の決意は揺らぐことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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皐月の誓い・1

 

 

 

 

 

☆TURN01(ホワイト)

 

「先攻は俺だ! 俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札の《WW-アイス・ベル》の効果を発動! このカードを手札から特殊召喚するぜ!」

 

 ホワイトのフィールドに現れたのは寒色系統のローブを纏った魔女のようなモンスターだった。【WW(ウインド・ウィッチ)】は風属性・魔法使い族で統一されたモンスター群であり、下級モンスターによる連続シンクロを得意とするテーマだ。

 

《WW-アイス・ベル》

効果モンスター

星3/風属性/魔法使い族/攻1000/守1000

「WW-アイス・ベル」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、デッキから「WW」モンスター1体を特殊召喚できる。この効果でデッキから特殊召喚したモンスターはリリースできず、この効果を発動するターン、自分はレベル5以上の風属性モンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手に500ダメージを与える。

 

「WW……厄介なカードですね……」

「特殊召喚したアイス・ベルの効果で俺は更にデッキからWWモンスター1体を特殊召喚できる。来い、チューナーモンスター!《WW-グラス・ベル》!」

 

《WW-グラス・ベル》

チューナー・効果モンスター

星4/風属性/魔法使い族/攻1500/守1500

「WW-グラス・ベル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「WW-グラス・ベル」以外の「WW」モンスター1体を手札に加える。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は風属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「特殊召喚に成功したグラス・ベルの効果、そしてアイス・ベルの効果を発動!」

 

チェーン2(ホワイト):WW-アイス・ベル

チェーン1(ホワイト):WW-グラス・ベル

 

「チェーン2のアイス・ベルの効果で相手に500のダメージを与える! まずは先制パンチだ、食らいな!」

 

皐月 LP8000→LP7500

 

「っ!」

「そしてチェーン1のグラス・ベルの効果でデッキから同名カード以外のWWモンスター1体を手札に加える。俺は《WW-スノウ・ベル》を手札に加えるぜ」

 

 WWというテーマは属するカードはEXデッキのカードを含んでもモンスターがわずか5枚と非常に少ないテーマだ。しかし、少ないが故にそれぞれのカードが強力なシナジーを引き起こしているのだ。

 

「そしてスノウ・ベルは自分のフィールドに風属性モンスターが2体以上存在する場合、手札から特殊召喚できる! 出ろ、スノウ・ベル!」

 

《WW-スノウ・ベル》

チューナー・効果モンスター

星1/風属性/魔法使い族/攻100/守100

(1):自分フィールドに風属性モンスターが2体以上存在し、風属性以外のモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードをS素材として風属性SモンスターをS召喚した場合、そのSモンスターは相手の効果では破壊されない。

 

「俺はレベル3のアイス・ベルに、レベル4のグラス・ベルをチューニング!“冷たき世界に生まれ落ちた風の子よ。今風に乗り、何者にも捉われぬ音色となりて響き渡れ!”シンクロ召喚!《WW-ウィンター・ベル》!!」

 

《WW-ウィンター・ベル》

シンクロ・効果モンスター

星7/風属性/魔法使い族/攻2400/守2000

チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上

「WW-ウィンター・ベル」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地の「WW」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベル×200ダメージを相手に与える。

(2):自分・相手のバトルフェイズに自分フィールドの「WW」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベル以下のレベルを持つモンスター1体を手札から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

「ウィンター・ベルの効果! 俺の墓地のWWモンスター1体を対象として発動! そのモンスターのレベル×200のダメージを相手に与える。俺が対象とするのはレベル4のグラス・ベルだ!」

 

皐月 LP7500→LP6700

 

「スノウ・ベルをS素材にした風属性Sモンスターは相手の効果では破壊されなくなる……ここからあのカードのS召喚に繋げるのが狙いですね……」

「それもいい手だが、生憎俺様はそんな芸のないことはしない。どうせやるならもっとパーッと派手なことがしてえよな! 手札から魔法カード《超越融合》を発動!」

 

《超越融合》

通常魔法

このカードの発動に対してカードの効果は発動できない。

(1):2000LPを払って発動できる。融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスター2体を自分フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、このカードの効果で融合召喚したモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組を自分の墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は0になり、効果は無効化される。

 

ホワイト LP8000→LP6000

 

「俺はフィールドのWW-ウィンター・ベルとWW-スノウ・ベルを融合!“雪原を走り抜ける風の音よ。吹き荒ぶ嵐と一つになり美しく煌めけ!”融合召喚!《WW-クリスタル・ベル》!」

 

《WW-クリスタル・ベル》

融合・効果モンスター

星8/風属性/魔法使い族/攻2800/守2400

「WW-ウィンター・ベル」+「WW」モンスター

「WW-クリスタル・ベル」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。エンドフェイズまで、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の、「WW-ウィンター・ベル」1体とレベル4以下の「WW」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「更に超越融合のもう一つの効果! 墓地のこのカードを除外し、フィールドのクリスタル・ベルを対象として発動! クリスタル・ベルの融合素材となったモンスター2体を効果を無効にして特殊召喚する! 戻ってこい、ウィンター・ベル! スノウ・ベル!」

 

WW-ウィンター・ベル 効果無効 ATK0/DEF0

WW-スノウ・ベル 効果無効 ATK0/DEF0

 

「フィールドにはレベル7のSモンスターとレベル1のチューナーモンスター……」

「俺はレベル7のSモンスター、ウィンター・ベルにレベル1のチューナーモンスター、スノウ・ベルをチューニング!“天空に閃くは神聖なる輝き放ちし大いなる翼! 吠えろ、その眼に映りし無慈悲なる竜!”シンクロ召喚!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!!」

 

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、このカード以外のモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。この効果でモンスターを破壊した場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(2):このカードがレベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

「スノウ・ベルの効果は無効になっているから、本来スノウ・ベルの効果で付与される効果破壊耐性を得ることはできない。だが、俺のフィールドには攻撃力2800以上の大型モンスターが2体存在する。こいつらの布陣を突破できるのか……見ものだぜ! 俺はカードを1枚セット。これでターンエンドだ!」

 

 

ホワイト LP6000 手札2枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:2(クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン、WW-クリスタル・ベル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:4 除外:1 EXデッキ:12(0)

皐月 LP6700 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

ホワイト

 伏□□□□

□□□W□ク

  □ □

 □□□□□□

 □□□□□

皐月

 

○凡例

ク・・・クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン

W・・・WW-クリスタル・ベル

 

 

☆TURN02(皐月)

 

「私のターン、ドロー!!」

 

 相手フィールドにはモンスター効果の発動を無効にし、破壊することができる効果およびレベル5以上のモンスターとの戦闘時にその攻撃力を自身の攻撃力に加えることができる効果を持ったクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンが存在している。そのカードの存在は比較的メジャーとはいえ、属するモンスターの共通効果で展開を狙う【ヴァレット】には厳しい相手だ。

 

「私は手札から魔法カード、テラ・フォーミングを発動! デッキからフィールド魔法1枚を手札に加えます。私はリボルブート・セクターを手札に加えます!」

 

 もちろん厳しい相手であることには間違いない。しかし、決して倒せない相手でもないし何より、厳しいといって泣いている場合でもなかった。

 

「チェーンはないぜ。そのフィールド魔法を手札に加えな」

「では……遠慮なく。そして今手札に加えたリボルブート・セクターを発動します! 手札からヴァレットモンスター2体を守備表示で特殊召喚します! 私はマグナヴァレット・ドラゴンおよびシルバーヴァレット・ドラゴンを特殊召喚します! リボルブート・セクターの効果で2体のヴァレットは攻守がアップします!」

 

シルバーヴァレット・ドラゴン ATK1900/DEF100→ATK2200/DEF400

マグナヴァレット・ドラゴン ATK1800/DEF1200→ATK2100/DEF1500

 

「そして手札からチューナーモンスター、ヴァレット・トレーサーを召喚!」

 

ヴァレット・トレーサー ATK1600/DEF1000→ATK1900/DEF1300

 

「そしてヴァレット・トレーサーの効果を発動します! 私のフィールドの表側表示カード1枚を破壊し、デッキからヴァレットモンスター1体を特殊召喚します! 破壊するのはリボルブート・セクターです!」

「弱っちい弾丸がいくら増えたところで気にも留めねえが……増えたら増えたで厄介ってもんだよな。ヴァレット・トレーサーの効果にチェーンしてクリスタルウィングの効果を発動! その発動を無効にして破壊し、クリスタルウィングの攻撃力をヴァレット・トレーサーの元々の攻撃力分アップさせる!」

 

チェーン2(ホワイト):クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン

チェーン1(皐月):ヴァレット・トレーサー

 

「クリスタルウィングのその効果……待っていました! 私はそのクリスタルウィングの効果に更にチェーン! 手札から速攻魔法、スクイブ・ドローを発動します! フィールドのヴァレット1体を破壊し、デッキからカードを2枚ドローします!」

 

チェーン3(皐月):スクイブ・ドロー

チェーン2(ホワイト):クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン

チェーン1(皐月):ヴァレット・トレーサー

 

「チェーン3のスクイブ・ドローで私はヴァレット・トレーサーを破壊し、2枚ドローします!」

「転んでもただじゃ起きない、ってことか。チェーン2のクリスタルウィングの効果でヴァレット・トレーサーの効果は無効になり、破壊される。そしてクリスタルウィングの攻撃力はヴァレット・トレーサーの攻撃力分アップするぜ!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK3000→ATK4600

 

「チェーン1のトレーサーの効果は無効です。おかげでリボルブート・セクターを残すことができましたが……」

「だが、弾丸を撃ち出すリンクモンスターがいなけりゃちょっと火力の高い下級モンスターってだけだ。そういうの、無用の長物って言うんだぜ」

「……無用の長物とはまだ決まっていません! 私のフィールドにヴァレットモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できます! アブソルーター・ドラゴンを特殊召喚します! そして私はシルバーヴァレット・ドラゴンとアブソルーター・ドラゴンの2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、ソーンヴァレル・ドラゴン!」

 

 ヴァレットデッキに入るリンクモンスターはヴァレットモンスターのみをリンク素材に指定するリンクモンスターも多い中、ソーンヴァレル・ドラゴンはヴァレットモンスターを含むドラゴン族モンスター2体でリンク召喚が行える。そのため、ヴァレットモンスターではないアブソルーター・ドラゴンも問題なくリンク素材に使用することができるのだ。

 

「墓地に送られたアブソルーター・ドラゴンの効果を発動します! デッキからヴァレットモンスター1体を手札に加えます。私はヴァレット・リチャージャーを手札に加えます。そして、マグナヴァレット・ドラゴンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク1の守護竜ピスティをリンク召喚します!」

「守護竜ピスティ……唯一禁止指定されていない【守護竜】のリンクモンスターか。だが、今の状態じゃピスティの効果は発動できない!」

「手札より永続魔法、星遺物の守護竜を発動します! 発動時の効果処理で私は墓地のマグナヴァレット・ドラゴンを特殊召喚します! そして星遺物の守護竜のもう一つの効果でドラゴン族モンスター1体を別のモンスターゾーンに移します!」

 

 守護竜ピスティの位置がソーンヴァレル・ドラゴンの真下から左下に移動する。これでソーンヴァレル・ドラゴンの下向きのリンクマーカーと守護竜ピスティの右のリンクマーカーが1つのメインモンスターゾーンを指し示した。

 

「2つ以上のリンクマーカーが一か所のメインモンスターゾーンに向いているため、守護竜ピスティの効果を発動できるようになりました! ピスティの効果で墓地のヴァレット・トレーサーを特殊召喚します! そしてソーンヴァレル・ドラゴンの効果を発動! 手札のヴァレット・リチャージャーをコストにフィールドの表側表示モンスター1体を破壊します! 対象は……マグナヴァレット・ドラゴン! そしてリンクモンスターの効果の対象になったマグナヴァレット・ドラゴンの効果を発動します!」

 

チェーン2(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン

チェーン1(皐月):ソーンヴァレル・ドラゴン

 

「チェーン2のマグナヴァレット・ドラゴンの効果! 自身を破壊し、フィールドのモンスター1体を選んで墓地へ送ります。墓地へ送るのはWW-クリスタル・ベルです!」

 

 自身の命を弾丸に変えたマグナヴァレット・ドラゴンがクリスタル・ベルの身体を貫いた。クリスタル・ベルには相手によって破壊され墓地へ送られた場合、墓地のウィンター・ベルとレベル4以下のWWモンスター1体を特殊召喚できる効果がある。そのため、マグナヴァレット・ドラゴンの効果で“墓地に送られた”場合はその効果を発動できないのだ。

 

「いいのか? 倒すなら攻撃力の高いクリスタルウィングの方だったんじゃねえの?」

「ソーンヴァレル・ドラゴンの効果を発動したターン、私はリンク3以上のリンクモンスターしかリンク召喚できません。なので、リンク3以上のリンクモンスターでクリスタルウィングを倒すまでです! 私はリンク2のソーンヴァレル・ドラゴン、リンク1の守護竜ピスティ、ヴァレット・トレーサーの3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!“その剣は希望閉ざされし闇黒を切り裂く。一筋の弾丸よ、囚われし友を救う光となれ!”リンク召喚! ヴァレルソード・ドラゴン!!」

 

 皐月の切り札の1体、ヴァレルソード・ドラゴンが咆哮する。その咆哮にはまさに遊希を助ける、という皐月の誓いが乗り移っているかのようだった。

 

「ヴァレルソード・ドラゴンは戦闘では破壊されません。そしてレベルを持たないリンクモンスターのため、クリスタルウィングの2つ目の効果の発動条件も満たしません!」

「……クリスタルウィングの2つ目の効果は相手がレベル5以上である必要があるな。だが、そもそも元々の攻撃力が劣っている以上どうにもならないんじゃないか?」

「それはどうでしょうか! バトル、ヴァレルソード・ドラゴンでクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンを攻撃します! そして攻撃宣言時、ヴァレルソード・ドラゴンの3つ目の効果を発動します! ターン終了時までこのカードの攻撃対象となるモンスター1体の攻撃力を半分にし、ヴァレルソードの攻撃力に加算します! この効果で参照されるのは現時点での攻撃力です!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK4600→ATK2300

ヴァレルソード・ドラゴン ATK3000→ATK5300

 

「ヴァレルソード・ドラゴン、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンを切り裂―――!!」

「悪いが、そう簡単に切り裂かれてたまるかよ!! ヴァレルソード・ドラゴンの効果にチェーンしてリバースカードオープン、罠カード《迷い風》発動だ!!」

 

《迷い風》

通常罠

(1):特殊召喚された表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果は無効化され、元々の攻撃力は半分になる。

(2):このカードが墓地に存在し、相手のEXデッキからモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このカードを自分フィールドにセットする。この効果でセットしたこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。

 

チェーン2(ホワイト):迷い風

チェーン1(皐月):ヴァレルソード・ドラゴン

 

「ま、迷い風!?」

「迷い風の効果でヴァレルソード・ドラゴンの効果は無効化され、攻撃力は半分になる!」

 

ヴァレルソード・ドラゴン ATK5300→ATK1500

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK2300→ATK4600

 

「そしてお前は既に攻撃宣言済み、途中で止めることはできない。そしてヴァレルソードの効果は無効にされている! 返り討ちにしろ、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン!“烈風のクリスタロス・エッジ”!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK4600 VS ヴァレルソード・ドラゴン ATK1500

 

皐月 LP6700→LP3600

 

 クリスタルウィングの水晶の翼がヴァレルソードの身体を、剣を切り裂いた。襲い掛かる烈風が皐月の身体を大きく吹き飛ばす。

 

「きゃああああっ!!」

「クリスタル・ベルの効果を発動させずに処理したのは見事だったが、勝ちを逸ったな。まあいい、こんなんで倒れられても困るからさ……立ち上がれ、そして俺をもっと楽しませてみろ!」

「あなたを楽しませる気なんてありませんが……私は、私たちは―――諦めません!!」

 

 皐月の眼には光が、意志が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エヴァの魂・1

 

 

 

☆TURN01(エヴァ)

 

 先攻決定権を得たエヴァは迷わず先攻を取る。相手が尋常のデュエリストではないということ、相手のデッキがわからないことを考えるとじっくり様子を見ていられる余裕などない。鈴たちが捕らえられてしまっているということもあって、この時のエヴァは自分が思っている以上に焦っていた。

 

「先攻は私だ! 手札から魔法カード、闇の誘惑を発動! 手札の闇属性モンスター、BF-そよ風のブリーズをゲームから除外し、デッキからカードを2枚ドローする! 更に私は手札のBF-毒風のシムーンの効果を発動! 私のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札のBF-精鋭のゼピュロスをゲームから除外し、デッキから私の魔法・罠ゾーンに永続魔法、黒い旋風1枚を表側表示で置く!」

 

 BFのキーカード、黒い旋風を早くも展開するエヴァ。【BF】デッキの王道とも言える展開だが、相手を選ばず強いからこそ王道たり得る戦法なのだ。

 

「黒い旋風をデッキから直接……なるほど、言うだけのことはあるということか」

 

 しかし、エヴァと対峙するブラックという青年はそんなエヴァの戦法を見ても驚きこそしても怯みはしない。むしろそんなエヴァを見て感心している、という様相だった。

 

「随分と余裕だな。うかうかしていると、ライフなど1ターンで吹き飛ぶぞ! 黒い旋風を置いた後、シムーンはリリースなしで召喚するか墓地に送る。もちろん私はシムーンを召喚する! BFモンスターが召喚されたことで黒い旋風の効果が発動! シムーンの攻撃力1600以下のBFモンスター1体を手札に加える。私は攻撃力1400のBF-南風のアウステルを手札に加える。そして、今手札に加えたチューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚!」

 

 シムーンとアウステル、2体のBFがエヴァのフィールドに居並ぶ。その光景を見たブラックは不思議そうに首を傾げていた。

 

「一つ聞きたい……貴様は既に召喚権を使っているのではないのか?」

「シムーンの効果は効果による召喚。これでは召喚権は消費されない。まあ、これはかなり特殊なケースだがな」

―――まー、そこはわからなくてもしょうがないよね。

「ふん、そういうものがあるのか……」

 

 今やっているのは下手をすれば命のやり取りとも言えるデュエルだ。しかし、そんなデュエルにおいてもブラックからは緊迫感が感じられない。彼が意図してやっているのかどうかはわからないが、エヴァはどこか調子を狂わされているのではないか、と思わざるを得なかった。

 

(……あの様子だと、デュエルモンスターズというものをあまり知らないのだろうか。ならば、尚更負けられない!)

「召喚に成功したアウステル、そして黒い旋風の効果を発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):黒い旋風

チェーン1(エヴァ):BF-南風のアウステル

 

「チェーン2の黒い旋風でアウステル以下の攻撃力のBFモンスターを手札に加える。アウステルの攻撃力1400以下のBF-砂塵のハルマッタンを手札に加える。そしてチェーン1のアウステルの効果でゲームから除外されているBFモンスター1体を特殊召喚する! 戻ってこい、BF-精鋭のゼピュロス! そして砂塵のハルマッタンはフィールドにBFモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!」

 

エヴァのフィールドにはBFモンスターが4体。いずれもレベルこそバラバラであるが、チューナーモンスターであるアウステルがいる以上、レベル6、8、10のS召喚が可能だ(最もシムーンの効果を発動している以上、エヴァがEXデッキから特殊召喚できるのは闇属性モンスターに限られているが)。

 

―――うん、いいフィールド! じゃあいっちゃえ、エヴァ!!

「私はゼピュロスとハルマッタンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

「リンク召喚だと? デュエルモンスターズのルール改訂により、Sモンスターを展開するにあたっては必ずしもリンクモンスターが不要になったと聞くが」

「ああ、お陰様で今までより自由に動ける。しかし、だからといってリンクモンスターが不要になったわけでもない! 召喚条件は鳥獣族・闇属性のモンスター2体! リンク召喚! 現れよ、RR‐ワイズ・ストリクス!」

 

 エヴァは元々の【BF】デッキに加えて種族属性で共通している【RR】要素を取り入れている。RRはX召喚を主とするテーマではあるが、大半のモンスターがレベル4であることもあって、S召喚の非チューナー枠としても使えるのだ。

 

「リンク召喚に成功したワイズ・ストリクスの効果を発動! デッキから闇属性・鳥獣族・レベル4のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! BF-黒槍のブラストを特殊召喚! そして墓地のゼピュロスの効果を発動! 私のフィールドの黒い旋風を手札に戻し、墓地から特殊召喚する! その後、私は400のダメージを受けるがな」

 

エヴァ LP8000→LP7600

 

「そして私はレベル4のゼピュロスとブラストでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 飛翔せよ、RR-フォース・ストリクス! フォース・ストリクスの攻守の値は自身以外のRRの数×500アップする!」

 

RR-フォース・ストリクス ATK100/DEF2000→ATK600/DEF2500

 

「オーバーレイユニットを1つ取り除き、フォース・ストリクスの効果を発動。そしてフィールドのRRXモンスターの効果が発動したことで、更にワイズ・ストリクスの効果も発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):RR-ワイズ・ストリクス

チェーン1(エヴァ):RR-フォース・ストリクス

 

「チェーン2のワイズ・ストリクスの効果で私は《RUM-スキップ・フォース》をセット。そしてチェーン1のフォース・ストリクスの効果でデッキから鳥獣族・闇属性・レベル4のモンスター1体を手札に加える。私はBF-残夜のクリスを手札に加える。そしてレベル6の毒風のシムーンに、レベル4のチューナーモンスター、アウステルをチューニング!“その名に宿すは完全にして至高。極光輝く天空を大いなる翼を以て制圧せよ!”シンクロ召喚、現れよ! BF-フルアーマード・ウィング!! そしてセットしていたスキップ・フォースを発動!」

 

《RUM-スキップ・フォース》

通常魔法

(1):自分フィールドの「RR」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターよりランクが2つ高い「RR」モンスター1体を、対象の自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

(2):自分の墓地からこのカードと「RR」モンスター1体を除外し、自分の墓地の「RR」Xモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「ランク4のフォース・ストリクスを2つ上のランクを持ったRRXモンスターにランクアップさせる! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 現れよ!《RR-レヴォリューション・ファルコン》!!」

 

《RR-レヴォリューション・ファルコン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/闇属性/鳥獣族/攻2000/守3000

鳥獣族レベル6モンスター×3

(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このターン、このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

(2):このカードが特殊召喚された表側表示モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。そのモンスターの攻撃力・守備力を0にする。

(3):このカードが「RR」XモンスターをX素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える

 

「私は……これでターンエンドだ!」

―――このフィールド、覆せるものなら覆してみるといいわ!

 

エヴァ LP7600 手札4枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(BF-フルアーマード・ウィング、RR-レヴォリューション・ファルコン ORU:2)EXゾーン:1(RR-ワイズ・ストリクス)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:4 除外:1 EXデッキ:11(0)

ブラック LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□B□レ□

  □ ワ

□□□□□□

 □□□□□

ブラック

 

○凡例

ワ・・・RR-ワイズ・ストリクス

B・・・BF-フルアーマード・ウィング

レ・・・RR-レヴォリューション・ファルコン

 

 

「うん、エヴァちゃんの得意戦術が上手く決まったわね!」

―――……相手が妨害のためのカードを持っていなかったのが……大きい。でも、どうして手札に戻した黒い旋風やサーチした残夜のクリスを手札に……

―――シムーンの効果でエヴァはこのターン、闇属性のモンスターしかEXデッキから特殊召喚を行えない。恐らくあれ以上に出せるモンスターがいなかったのだろう。ワイズ・ストリクスを使って出せる闇属性・リンク3のモンスターは思いの外少ないからな。

「さすがエヴァちゃん……相手の動きを見て次のターンで切り返せるだけの手は残してるってことなのね」

―――それにレヴォリューション・ファルコンは特殊召喚された相手モンスターとの戦闘において、そのモンスターの攻撃力を0にできる。コントロール奪取効果と破壊効果を選んで使えるフルアーマード・ウィングと合わさって、中々強固な布陣を築くことができた。

 

 現役のプロデュエリストだけあって、エヴァはさすがに用心深かった。しかし、エヴァがそれだけ用心深い布陣を引かなければならないほど、目の前に立つブラックという精霊がそれだけ得体の知れない相手ということもであった。

 

 

☆TURN02(ブラック)

 

「私のターン、ドロー。なるほど、万全の布陣を敷いてきた、と見たいが……この世界に完璧なものなど存在しない。必ずどこかに綻びが生じるものだ」

「……何が言いたい」

「その綻び、我が槍で突いてくれよう。私は《幻影騎士団ダスティローブ》を召喚」

 

 ブラックのフィールドには薄汚れたローブのようなものを纏った幽霊のようなモンスターが現れる。彼のデッキは闇属性・戦士族の下級モンスターで統一された【幻影騎士団(ファントム・ナイツ)】。X召喚およびランクアップを多用するデッキだ。

 

《幻影騎士団ダスティローブ》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻800/守1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがフィールドに攻撃表示で存在する場合、フィールドの闇属性モンスター1体を対象として発動できる。このカードを守備表示にし、対象のモンスターの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで800アップする。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「幻影騎士団ダスティローブ」以外の「幻影騎士団」カード1枚を手札に加える。

 

「幻影騎士団ダスティローブの効果を発動。このカードを守備表示にすることで、フィールドの闇属性モンスター1体の攻守を相手ターン終了時まで800アップする。対象はレヴォリューション・ファルコンだ」

「なんだと?」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン ATK2000→ATK2600

 

「……ワイズ・ストリクスの攻撃力を上げてどうするつもりだ?」

「これは種を撒いただけにすぎない。芽吹く時を楽しみにしていろ」

「効果を発動したことにより、フルアーマード・ウィングの効果を発動! ダスティローブに楔カウンターを置く」

 

幻影騎士団ダスティローブ 楔カウンター:1

 

「楔を打ち込まれてしまったか。まあいい、私のフィールドに幻影騎士団モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。現れよ《幻影騎士団サイレントブーツ》」

 

《幻影騎士団サイレントブーツ》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻200/守1200

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「幻影騎士団」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「ファントム」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

「そして私は、レベル3のダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚。現れよ《幻影騎士団ブレイクソード》」

 

《幻影騎士団ブレイクソード》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/戦士族/攻2000/守1000

レベル3モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分及び相手フィールドのカードを1枚ずつ対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):X召喚されたこのカードが破壊された場合、自分の墓地の同じレベルの「幻影騎士団」モンスター2体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターのレベルは1つ上がる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

「幻影騎士団ブレイクソードの効果を発動。1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、自分及び相手フィールドのカードを1枚ずつ対象として発動できる。そのカードを破壊する。私が対象に取るのはブレイクソード自身と貴様のワイズ・ストリクスだ」

「ちっ……」

 

 ブレイクソードが大剣が振るい、ワイズ・ストリクスの身体を両断する。もちろんその代償は少なくなく、ワイズ・ストリクスを撃墜したブレイクソード自身もその命を捨てた。しかし、死してもなお戦場に舞い戻るのが【幻影騎士団】という戦士たちだった。

 

「破壊されたブレイクソードの効果を発動。X召喚されたこのカードが破壊された場合、墓地の同じレベルの幻影騎士団モンスター2体を特殊召喚し、その2体のレベルを1つ上げる。戻ってこい。ダスティローブ、サイレントブーツ」

 

幻影騎士団ダスティローブ 星3→星4

幻影騎士団サイレントブーツ 星3→星4

 

(幻影騎士団デッキの基本戦術の一つが、ブレイクソードの効果で墓地の幻影騎士団を呼び戻し、ランク4のX召喚に繋げるという動き……ここから主にX召喚されるのは……)

 

 エヴァの脳裏には1体の黒いドラゴンの姿が浮かび上がる。確かにあのカードならフルアーマード・ウィングを突破することも可能。しかし、ブラックがX召喚したのはエヴァの予想を超える、いやエヴァもまた知らないモンスターだった。

 

「私はレベル4となったダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れよ!」

 

 現れたのはエヴァの想像したモンスター―――《ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン》ではない、ブレイクソードに酷似した黒衣の騎士のようなモンスターだった。

 

「これぞ、我がデッキの新たなる力。反逆の騎士と隼を繋ぐ力。ランク4《レイダーズ・ナイト》!!」

 

《レイダーズ・ナイト》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/戦士族/攻2000/守0

闇属性レベル4モンスター×2

このカード名はルール上「幻影騎士団」カード、「RR」カードとしても扱う。

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードよりランクが1つ高い、またはランクが1つ低い「幻影騎士団」、「RR」、「エクシーズ・ドラゴン」Xモンスター1体を、自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは次の相手エンドフェイズに破壊される。

 

「レイダーズ・ナイト!? そんなモンスター聞いたことがないぞ!!」

「……まあ知らないのも当然だろうな。このカードはI2社で開発中のカードだ。近々【幻影騎士団】のカードが追加されるようでな。そのカードを拝借させてもらった」

―――そんなのあり!?

「非道かもしれないが、戦いとは勝った者が正義だ。手段を選んでいられるほど、こちらも悠長にはしていられない」

「……いいだろう、確かに勝たねばどうしようもないからな」

「感謝する。ではその力をご覧いただこう。レイダーズ・ナイトの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、このカードをランクが1つ高い、またはランクが1つ低い【幻影騎士団】【RR】【エクシーズ・ドラゴン】Xモンスターにランクアップおよびランクダウンさせることができる!!」

「……1体で3つのテーマのXモンスターに変化することができるだと!?」

―――インチキ効果もいい加減にしなさいよ!!

「これぞ、精霊の力の為せる技だ。私はレイダーズ・ナイトでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

 レイダーズ・ナイトの魂が天に昇り、現れるのは1体の黒き竜。その牙は愚鈍なる復讐の牙。その翼は数多なる朋友の想いを乗せた翼。

 

「現れよ!! ランク5!!」

 

 

 

 

 

―――《アークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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千春の決意・2(修正版)

 

 

 

 

 

「あらあら、お嬢ちゃんにはやり過ぎだったかしら?」

 

 2体の捕食植物の攻撃で一気にライフを5500も失ってしまった千春。もちろん、次の自分のターンでパープルへの壁となっているトリフィオヴェルトゥムとキメラフレシアをなんとかしなければ確実に負ける。

 

「……別に、こんなんどうってことないわ! ちょうどいいハンデよ!」

「そう。でも、空元気はいけないわ。隣で戦っているお友達をますます心配させちゃうから」

 

 パープルに指摘され、千春は自分と全く同じタイミングでデュエルを行っている皐月の方を横目でちらりと見る。自分とは違い、皐月なら精霊相手であっても楽勝―――ということはなかった。皐月の【ヴァレット】デッキのエースモンスターの1体であり、自分が幾度となく痛い目に遭わされてきたヴァレルソード・ドラゴンが、ホワイトのクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンに蹴散らされていたところだったのだ。

 皐月の顔に余裕はない。しかし、ここで千春に彼女を助けてあげられるだけの余裕もない。ならば千春がすべきことはなにか。

 

(皐月……ごめん、今の私には何もしてあげられない。こんな時は……祈るだけ)

「大丈夫よ、だって皐月は強いもの! もちろん、この私もね!」

 

 今の千春にできること。それは少しでも諦めるような素振りを見せないことだ。ここで自分が折れずに立ち向かっていれば。それが友への力となるのだ。

 

「……強いのね。さっきは侮るようなことを言ってごめんなさい。でも、このままだとあなた、負けちゃうわよ。バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移行。私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」

 

 

千春 LP2500 手札0枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(未来融合-フューチャー・フュージョン)墓地:8 除外:0 EXデッキ:12(0)

パープル LP8000 手札0枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:2(捕食植物トリフィオヴェルトゥム、捕食植物キメラフレシア)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:6 除外:0 EXデッキ:13(0)

 

千春

 □□未□□

 □□□□□□

  □ □

□□トキ□□

 □□□伏□

パープル

 

○凡例

未・・・未来融合-フューチャー・フュージョン

ト・・・捕食植物トリフィオヴェルトゥム

キ・・・捕食植物キメラフレシア

 

 

☆TURN03(千春)

 

「私のターン、ドロー!……スタンバイフェイズに未来融合の発動後1ターン目の効果が発動するわ!」

 

 未来融合-フューチャー・フュージョンは発動後1ターン目のスタンバイフェイズにEXデッキの融合モンスターを相手に見せることで、その融合素材をデッキから墓地に送ることができる。以前は発動と同時に融合素材を墓地へ送っていたのだが、その強力無比な墓地肥やし効果が祟って禁止カードに指定されてしまっていた。

 

「私が指定する融合モンスターはキメラテック・オーバー・ドラゴン! よってこのカードの融合素材となるサイバー・ドラゴン1体と機械族モンスターを任意の数まで墓地に送るわ! 私は―――サイバー・ドラゴン1体、サイバー・ドラゴン・コア2体、サイバー・ドラゴン・ヘルツ3体、サイバー・ドラゴン・ネクステア2体、サイバー・ドラゴン・フィーア2体、サイバー・ドラゴン・ドライ1体を墓地に送るわ!!」

 

 未来融合の効果で墓地に送られたモンスターは合計12体。次のターンになれば、12体のモンスターを融合素材にキメラテック・オーバー・ドラゴンが融合召喚される―――というのは大きな間違いだ。

 

「ねえ、キメラテック・オーバー・ドラゴンのために墓地肥やしをしたのはいいけれど……キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合召喚されると同時にフィールドの自分以外のカードを全て墓地に送ってしまうわ。未来融合がなくなるとキメラテック・オーバー・ドラゴンも破壊されてしまうんじゃない」

「ええ、そうよ。そんなの私が知らないわけがないじゃない」

「……そうよね。愚問だったわ」

 

 だが、皐月の今ドローしたカードによってはそれは問題にすらならない。墓地の機械族モンスターを除外することで闇属性・機械族モンスターを融合召喚できるオーバーロード・フュージョン。それさえあれば、未来融合のデメリットを気にせずにキメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚できるのだ。

 

「でも、残念なことにこのカードはオーバーロード・フュージョンじゃないのよね。もしこれが遊希とかエヴァだったらここでオーバーロード・フュージョンを引けたのかしら? そこも、まだまだ成長途中ってことよね。ということで、メインフェイズ1の開始時に魔法カード、強欲で金満な壺を発動! EXデッキの裏側表示のカードを3枚または6枚を裏側表示で除外し、除外したカード3枚につき1枚ドローするわ!」

 

 千春は強欲で金満な壺の効果でEXデッキのカードを6枚除外し2枚のカードをドローする。もちろん、強欲で金満な壺の発動条件によってキメラテック・オーバー・ドラゴンが除外されてしまえばオーバーロード・フュージョンを引いても元も子もない。そんな膨大なリスクを抱えてもなお、千春は強欲で金満な壺というハイリスクハイリターンのカードを切ったのだ。

 

「窮地だというのに……随分危ない橋を渡るのね」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、だったかしら。時には危険な橋を渡らなきゃいけないのよ! 私は!《サイバー・ヴァリー》を召喚!」

 

《サイバー・ヴァリー》

効果モンスター

星1/光属性/機械族/攻0/守0

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、このカードを除外して発動できる。デッキからカードを1枚ドローし、バトルフェイズを終了する。

●自分のメインフェイズ時に発動できる。このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

●自分のメインフェイズ時に、自分の墓地のカード1枚を選択して発動できる。このカードと手札1枚を除外し、その後選択したカードをデッキの一番上に戻す。

 

「サイバー・ヴァリー……遅延カードを引き当てるなんて、運がいいのね」

「遅延? 何言ってんの? このカードは反撃への、勝利への第一歩よ! 手札から―――魔法カード《精神操作》を発動するわ!」

 

《精神操作》

通常魔法(準制限カード)

(1):相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。この効果でコントロールを得たモンスターは攻撃宣言できず、リリースできない。

 

「精神操作!?」

「この効果で私はあんたのフィールドのトリフィオヴェルトゥムのコントロールをエンドフェイズまで得る。攻撃宣言もリリースもできないけど、サイバー・ヴァリーの効果には使えるわ! サイバー・ヴァリーの効果を発動! 私が選択するのは2つ目の効果よ!」

 

 サイバー・ヴァリーの力によって、サイバー・ヴァリー自身と千春にコントロールの移ったトリフィオヴェルトゥムが異次元へと消えていった。トリフィオヴェルトゥムは相手フィールドに捕食カウンターが置かれたモンスターが存在する場合、墓地から守備表示で特殊召喚できる効果を持っている。そのため、仮に破壊してもパープルが捕食カウンターを能動的に置ける手段を持っていれば、トリフィオヴェルトゥムはまさに刈り取っても刈り取っても生えてくる雑草のように蘇るのだ。

 

「サイバー・ヴァリーとトリフィオヴェルトゥムを除外したことで私はデッキからカードを―――2枚ドローする!!」

 

 強欲で金満な壺に反撃への命運を、サイバー・ヴァリーに勝利への階を。千春は全神経をデッキに伝え、カードを引いた。

 

「……自分の手札を補うだけではなく、私のエースモンスターの1体を封じるとはね。でも、手詰まりというものじゃないかしら?」

「……手詰まり?」

「私のフィールドにはまだキメラフレシアが残っている。それにキメラフレシアはその効果で攻撃力4500までのモンスターには一方的に破壊されないわ」

 

 【サイバー・ドラゴン】デッキの売りと言えば、やはり高い攻撃力を誇る機械族モンスターであるが、パワー・ボンドやキメラテック・オーバー・ドラゴンのようなカードを駆使しない限りはサイバー・エンド・ドラゴンの4000やサイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果で強化された4200が限界と言っていいだろう。

 一方でキメラフレシアは攻撃宣言時に相手モンスターの攻撃力を1000下げ、キメラフレシア自身の攻撃力を1000アップさせる効果を持っている。そのため、これらのモンスターではパープルのライフを削るどころか、キメラフレシアを戦闘破壊することすらも不可能なのだ。

 

「確かに、力攻めが通用しない、ってのは厳しいわね。でも、私たちが攻撃一辺倒だなんて思わないでほしいわね! 私は―――墓地の光属性・機械族モンスターを全て除外する!!」

 

 千春の墓地からは、サイバー・ドラゴン3体、サイバー・ドラゴン・ドライ2体、サイバー・ドラゴン・コア3体、サイバー・ドラゴン・ネクステア3体、サイバー・ドラゴン・ヘルツ3体、サイバー・ドラゴン・フィーア3体、サイバー・ドラゴン・ノヴァ、サイバー・ドラゴン・インフィニティ、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの計20体の光属性・機械族モンスターが除外される。そして巨大な竜の頭部を模したサイバーモンスターが天空より舞い降りた。

 

「さあ星満ちる天空より現れなさい、サイバー・エルタニン!!」

 

 サイバー・エルタニン。それは融合にも、Xにも、リンクにも頼らない【サイバー・ドラゴン】デッキの切り札の一つ。サイバー・ヴァリーの効果でこのカードを引き当てられた千春は、まさに勝利の女神に愛されていたと言っていいだろう。

 

「サイバー・エルタニン!?……ここでそんなカードまで!!」

「サイバー・エルタニンの攻撃力・守備力はこのカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×500ポイントの数値になるわ!」

 

サイバー・エルタニン ATK10000/DEF10000

 

「攻撃力10000!?」

「そしてエルタニンの特殊召喚に成功した場合に効果を発動! このカード以外の表側表示モンスターを全て墓地へ送るわ。消えなさい、キメラフレシア!“コンステレーション・シージュ”!!」

「その効果は通させないわ! カウンター罠発動! 神の通告!」

 

チェーン2(パープル):神の通告

チェーン1(千春):サイバー・エルタニン

 

パープル LP8000→LP6500

 

「神の通告……」

「チェーン2の神の通告によって、サイバー・エルタニンの効果は無効になり破壊されるわ!」

 

 天空から振り下ろされた神の力によってサイバー・エルタニンの身体が粉々に砕け散る。サイバー・エルタニンの効果を通せれば、攻撃力10000のダイレクトアタックが通っていただけにここでエルタニンを無力化されてしまったのは千春にとってはあまりにも痛すぎた。

 

「まさかサイバー・エルタニンまで仕込んでいたとは驚いたわ。でも、これで万事休すね。切り札を失ったあなたに勝ち目なんて……」

 

 そう言ってクスクスと笑うパープルであるが、すぐに彼女の顔から笑みが消える。パープルは勝利を確信するのが早すぎた。何故なら、千春の手の内にはまだ1枚、カードが残っていたのだから。

 

「悪いけど、あんたに次のターンは回ってこないわ! これが! 私の最後の一手!」

 

 

 

―――速攻魔法、発動!!―――

 

 

 

 

―――サイバーロード・フュージョン!!!―――

 

 

 

「サイバーロード・フュージョン!?」

「サイバー・ヴァリーの効果で引けた2枚がエルタニンとこのサイバーロード・フュージョン……どうやら、最後の最後で私も遊希並みの引きの強さを発揮できたみたいね!!」

 

 千春はわかっていた。この勝利が自分一人の力ではない、ということを。

 

「私はゲームから除外されているサイバー・ドラゴン1体を含む全ての機械族モンスターを墓地に戻し! 融合召喚! 吠えなさい、キメラテック・オーバー・ドラゴン!!」

 

 融合素材となったのは元々素材となっているサイバー・ドラゴンに加えてエルタニンの効果で除外された20体、そして自身の効果で除外されていたサイバー・ヴァリーの計22体。巨大な心臓のような身体からは計22本もの首が生えた、あまりにも異様な姿のキメラテック・オーバー・ドラゴンが咆哮した。

 

「特殊召喚されたキメラテック・オーバー・ドラゴンの効果。このカード以外のフィールドのカードを全て墓地へ送る。未来融合は墓地に送られてしまうけど、キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材にしたモンスターの数×800ポイントになる!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン ATK17600

 

「攻撃力、17600……!?」

「これが、私……いや私たちと遊希の絆! 私の決意の力!! キメラテック・オーバー・ドラゴンでキメラフレシアを攻撃!!」

「っ!……キメラフレシアの効果を発動! 相手モンスターの攻撃力を1000ダウンし、自身の攻撃力を1000アップするわ!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン ATK17600→ATK16600

捕食植物キメラフレシア ATK2500→ATK3500

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン ATK16600 vs 捕食植物キメラフレシア ATK3500

 

 キメラフレシアは自身の身体から蔦を伸ばし、キメラテック・オーバー・ドラゴンの身体を絡めとろうとするものの、あまりに力が違いすぎた。

 

(ダメ、止められない……!!)

 

 

 

 

―――“エヴォリューション・レザルト・バースト”!!―――

 

 

 

 

 

パープル LP6500→LP0

 

 

 

(これが……人の力……? 人が人を想う力……そう、なのね―――)

 

 

 

 迸るエネルギーの奔流の中に飲み込まれていくパープルの脳裏には一人の青年の姿が浮かんでいた。誰からも愛され、誰からも慕われたあの微笑みが。

 

 

 

 

(“我が君”―――いつか、私たちも―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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皐月の誓い・2

 

 

 クリスタルウィングの攻撃によってダメージを受け、吹き飛ばされた皐月は床に強く叩きつけられながらも、なんとか立ち上がる。彼女の眼にはトリフィオヴェルトゥムとキメラフレシアの2体の捕食植物の攻撃を受けてもなお立ち続けている千春の姿が映ったからだ。

 

(千春さん……! 千春さんも頑張っている、それなら、尚更私も諦められません!!)

「いいな、その眼。お前の眼からは光が消えていない。戦士の眼だ。だからこそ、倒し甲斐がある!」

「そう簡単に、倒されなどしません!! バトルフェイズを終了。私はカードを1枚セット。これでターンエンドです。そしてターン終了時にこのターン破壊されたマグナヴァレット・ドラゴンの効果を発動します! デッキからヴァレットモンスター1体を特殊召喚します! 私は2体目のシルバーヴァレット・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!」

 

シルバーヴァレット・ドラゴン ATK1900/DEF100→ATK2200/DEF400

 

「クリスタルウィングの攻撃力はターン終了によって元に戻る」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK4600→ATK3000

 

 ヴァレットモンスターは唯一最上級モンスターであるエクスプロード・ヴァレット・ドラゴンを除いて下級モンスターばかりだ。1体1体のステータスは低いものの、破壊されても後続を特殊召喚する効果で戦線維持能力は高い。

 

 

ホワイト LP6000 手札2枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:6 除外:1 EXデッキ:12(0)

皐月 LP3600 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(シルバーヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(リボルブート・セクター、星遺物の守護竜)墓地:10 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

ホワイト

 □□□□□

□□□□□ク

  □ □

 シ□□□□リ

 □□星伏□

皐月

 

 

○凡例

シ・・・シルバーヴァレット・ドラゴン

リ・・・リボルブート・セクター

星・・・星遺物の守護竜

 

 

☆TURN03(ホワイト)

 

「俺のターン、ドロー。俺は《SRバンブー・ホース》を召喚!」

 

《SRバンブー・ホース》

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻1100/守1100

「SRバンブー・ホース」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下の「スピードロイド」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから風属性モンスター1体を墓地へ送る。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

(やっぱり【SR(スピードロイド)】も入っていましたか……)

 

 SR(スピードロイド)は風属性・機械族で統一されたカテゴリーであり、WWとは属性およびS召喚を得意とする点でよく混ぜ合わせたデッキで用いられる(そもそもWWはメインデッキに入るモンスターが3種類しかいないため単独ではデッキなど到底組めないのだが)。

 

「召喚に成功したバンブー・ホースの効果を発動。手札からレベル4以下のSRモンスター1体を特殊召喚する。俺はレベル1のチューナーモンスター《SR赤目のダイス》を特殊召喚!」

 

《SR赤目のダイス》

チューナー・効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻100/守100

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、「SR赤目のダイス」以外の自分フィールドの「スピードロイド」モンスター1体を対象とし、1~6までの任意のレベルを宣言して発動できる。そのモンスターのレベルはターン終了時まで、宣言したレベルになる。

 

「赤目のダイスは召喚・特殊召喚成功時に他のSRモンスターのレベルを変える効果を発動できる、が……その効果は発動しない。俺はレベル4のSRバンブー・ホースに、レベル1のチューナーモンスター、SR赤目のダイスをチューニング!“純粋なる力宿し剣士よ。何者にも捉われず、縦横無尽に立ちまわれ!”シンクロ召喚! 《HSRチャンバライダー》!」

 

《HSRチャンバライダー》

シンクロ・効果モンスター

星5/風属性/機械族/攻2000/守1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分は「HSRチャンバライダー」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):このカードが戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。このカードの攻撃力は200アップする。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、除外されている自分の「スピードロイド」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「バトルだ! HSRチャンバライダーでシルバーヴァレット・ドラゴンを攻撃! そしてこのカードが戦闘を行うダメージステップ開始時にチャンバライダーの効果が発動! このカードの攻撃力は200アップする!」

 

HSRチャンバライダー ATK2000→ATK2200

 

HSRチャンバライダー ATK2200 VS シルバーヴァレット・ドラゴン DEF400

 

「チャンバライダーは1度のバトルフェイズ中に2回まで攻撃できる。そして攻撃力アップの効果は攻撃の度に発動する!」

「させません! リバースカードオープン、速攻魔法クイック・リボルブを発動です! デッキからヴァレットモンスター1体を特殊召喚します! 私はメタルヴァレット・ドラゴンを守備表示で特殊召喚します!」

 

メタルヴァレット・ドラゴン ATK1700/DEF1400→ATK2000/DEF1700

 

「ちっ、しぶといな。まあいい、そいつも切り裂いてやれ! チャンバライダーでメタルヴァレット・ドラゴンを攻撃!」

 

HSRチャンバライダー ATK2200→ATK2400

 

HSRチャンバライダー ATK2400 VS メタルヴァレット・ドラゴン DEF1700

 

「クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンでダイレクトアタック!“烈風のクリスタロス・エッジ”!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK3000

 

皐月 LP3600→LP600

 

「……!!」

「さて、そろそろ年貢の納め時かな? 最も、諦めろって言って諦めるタマじゃないってのはわかってるけどよ。俺はバトルフェイズを終了。これでターンエンドだ」

「ターン終了時に破壊されたシルバーヴァレット・ドラゴンとメタルヴァレット・ドラゴンの効果を発動します!」

「だったらその効果にチェーンしてクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンの効果を発動!」

 

チェーン3(ホワイト):クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン

チェーン2(皐月):メタルヴァレット・ドラゴン

チェーン1(皐月):シルバーヴァレット・ドラゴン

 

「チェーン3のクリスタルウィングの効果でメタルヴァレット・ドラゴンの効果の発動を無効にして破壊する! そしてクリスタルウィングの攻撃力はメタルヴァレットの攻撃力分アップする。まあ、すぐ元に戻っちまうけどな」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK3000→ATK4700

 

「チェーン2のメタルヴァレットの効果は無効になりますが、チェーンの関係上チェーン1のシルバーヴァレットの効果は通ります。2体目のマグナヴァレット・ドラゴンを守備表示で特殊召喚します!」

 

マグナヴァレット・ドラゴン ATK1800/DEF1600→ATK2100/DEF1900

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK4700→ATK3000

 

 

ホワイト LP6000 手札1枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:2(クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン、HSRチャンバライダー)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:8 除外:1 EXデッキ:11(0)

皐月 LP600 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(マグナヴァレット・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(リボルブート・セクター、星遺物の守護竜)墓地:13 除外:0 EXデッキ:12(0)

 

 

ホワイト

 □□□□□

□□□チ□ク

  □ □

 □□□マ□リ

 □□星□□

皐月

 

○凡例

チ・・・HSRチャンバライダー

 

 

☆TURN04(皐月)

 

「私のターン、ドロー!!」

 

 皐月の残りライフはわずか600。仮にクリスタルウィングとチャンバライダーを除去したところで下級モンスターのダイレクトアタックで0になるライフだ。前のターンのように、急場しのぎで終わらせるわけにはいかない。

 

「私は手札から魔法カード、貪欲な壺を発動します! 墓地のヴァレット・トレーサー、マグナヴァレット・ドラゴン、シルバーヴァレット・ドラゴン、ヴァレット・リチャージャー、メタルヴァレット・ドラゴンの5枚をデッキに戻して2枚ドローします!」

「ここで貪欲な壺を引くか……悪運が強えこった」

「……強いのは、悪運だけではありません! 私はリボルブート・セクターの効果を発動! 墓地のマグナヴァレット・ドラゴンを守備表示で特殊召喚します!」

 

マグナヴァレット・ドラゴン ATK1800/DEF1600→ATK2100/DEF1900

 

「私はマグナヴァレット・ドラゴン2体で、オーバーレイ!!」

「なっ……X召喚だと!?」

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!!“天翔ける雄々しき轟き。二つの雷鳴と交わりし時、十万億土の扉開き、その力を現わす!”咆哮せよ!《ヴァレルロード・X・ドラゴン》!!」

 

《ヴァレルロード・X・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

ドラゴン族・闇属性レベル4モンスター×2

(1):X召喚したこのカードは他のモンスターの効果の対象にならない。

(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力は600ダウンする。その後、自分の墓地から「ヴァレル」モンスター1体を選んで特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに除外される。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できず、直接攻撃できない。

 

「相手のEXデッキからモンスターが特殊召喚されたことで、墓地の迷い風の効果を発動。このカードをフィールドにセットする!」

「迷い風……ですが、そのカードを恐れません。更に手札から魔法カード、龍の鏡を発動!!」

「龍の鏡だと!!」

「私は墓地の闇属性・ドラゴン族モンスターであるソーンヴァレル・ドラゴンと守護竜ピスティを除外融合!“忌まわしき障壁に隔てられし絆よ。今、想いを弾丸に変えて遮るもの全てを撃ち抜け!”融合召喚!《ヴァレルロード・F・ドラゴン》!!」

 

《ヴァレルロード・F・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

ドラゴン族・闇属性モンスター×2

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドのモンスター1体と相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の闇属性リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない。

 

「手札1枚でヴァレルモンスター2体……だが、その2体でクリスタルウィングは―――」

「わかっています! だから、この2体の力を借りるんです!! 手札から速攻魔法《ベイオネット・パニッシャー》を発動!!」

 

《ベイオネット・パニッシャー》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分のフィールド・墓地の「ヴァレル」モンスターの種類によって、以下の効果を適用する。自分フィールドに攻撃力3000以上のモンスターが存在する場合、このカードの発動に対して相手は効果を発動できない。

●融合:相手フィールドのモンスター1体を選んで除外する。

●S:相手のEXデッキから裏側表示のカードをランダムに3枚除外する。

●X:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで除外する。

●リンク:相手の墓地からカードを3枚まで選んで除外する。

 

「ベイオネット・パニッシャーは私のフィールド・墓地のヴァレルモンスターの種類によって、複数の効果を適用できます! 私のフィールドには融合モンスターのF・ドラゴン、XモンスターのX・ドラゴン、そして墓地にリンクモンスターのヴァレルソードが存在します。よって4つのうち3つの効果を適用できる! そして私のフィールドに攻撃力3000以上のモンスターが存在する場合、このカードの発動に対して相手はあらゆる効果を発動できません!!」

「なっ……!?」

「融合モンスター存在時の効果は相手フィールドのモンスター1体をゲームから除外します。消えなさい、クリスタルウィング!!」

 

 F・ドラゴンの放った弾丸がクリスタルウィングを異次元へと葬り去った。魔法・罠効果に耐性のないクリスタルウィングにこの効果を防ぐ術はない。

 

「クリスタルウィング!!」

「Xモンスター存在時の効果はフィールドの魔法・罠カード1枚を選んで除外する効果です! セットされている迷い風を除外します! そしてリンクモンスター存在時の効果は墓地からカードを3枚まで選んで除外する効果です! 除外するのはクリスタルウィング、クリスタル・ベル、ウィンター・ベルの3枚です!!」

 

 X・ドラゴン、そして墓地に眠るヴァレルソードがホワイトのフィールドおよび墓地を荒らしていく。ホワイトのフィールドに残った攻撃力2400のチャンバライダーが1体のみとなってしまった。

 

「ヴァレルロード・F・ドラゴンの効果を発動します! 私のフィールドのモンスター1体と相手フィールドのカード1枚を破壊します! 破壊するのはチャンバライダーおよびヴァレルロード・F・ドラゴン自身です!」

 

 そして唯一ベイオネット・パニッシャーの脅威から逃れたチャンバライダーはF・ドラゴンの放った捨て身の一撃で破壊される。これでホワイトを守るモンスターは1体も存在しなくなってしまった。

 

「っ、散々やってくれたな……!」

「これはお返しです。墓地のヴァレルロード・F・ドラゴンの効果を発動します! このカードを除外することで、墓地の闇属性リンクモンスター1体を特殊召喚します! 戻ってきて、ヴァレルソード・ドラゴン!!」

「ヴァレルソード……!!」

「F・ドラゴンの効果で特殊召喚されたヴァレルソードはこのターン、効果を発動できません。最もX・ドラゴンはX召喚されている場合他のカードの効果の対象にならないため、ヴァレルソードの効果を受けませんが。それでも、攻撃力3000のモンスター2体がいることには変わりありません! バトルです! ヴァレルロード・X・ドラゴンでダイレクトアタック!“轟天のヴァレルキャノン”!!」

 

ヴァレルロード・X・ドラゴン ATK3000

 

ホワイト LP8000→LP5000

 

「ちいっ……!!」

「まだです! ヴァレルソード・ドラゴンでダイレクトアタック!“電光のヴァレルソード・スラッシュ”!!」

 

ヴァレルソード・ドラゴン ATK3000

 

ホワイト LP5000→LP2000

 

「ぐああああっ!!」

 

 先程のお返し、とばかりに2体のヴァレルモンスターの攻撃がホワイトを襲う。一気に6000ものダイレクトアタックを受けたことも相まって、ホワイトもまた皐月同様に大きく吹き飛ばされては地面に叩きつけられる。

 

「……よくも、やってくれたな……この借りは高くつくぜ!!」

「……そのようですね」

 

 一方で皐月は大きなダメージを与えたにも関わらず、浮かない顔をしていた。彼女の脳裏にはホワイトがSRデッキを使っているからこそ見える自分の負け筋が導き出されてしまっていたのだ。

 

(ベイオネット・パニッシャーの効果で私がクリスタルウィングやWWのEXデッキモンスターを除外したのは、死者蘇生などで蘇生させることを防ぐため、そしてチャンバライダーの効果によるサルベージを防ぐため。ですが、墓地にレベル変更が可能な赤目のダイスが残っている……)

「私はこれでターンエンド……です」

 

 

ホワイト LP6000 手札1枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:5 除外:5 EXデッキ:11(0)

皐月 LP600 手札0枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(ヴァレルソード・ドラゴン、ヴァレルロード・X・ドラゴン ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2(リボルブート・セクター、星遺物の守護竜)墓地:8 除外:2 EXデッキ:11(0)

 

 

ホワイト

 □□□□□

□□□□□□

  □ □

 □X□ヴ□リ

 □□星□□

皐月

 

○凡例

X・・・ヴァレルロード・X・ドラゴン

 

 

 

 

 

 

 



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エヴァの魂・2

 

 

 

 

 

(……ここまで、かもしれませんね。でも、私が負けても他の皆さんが成し遂げてくれるはずです)

 

 

☆TURN05(ホワイト)

 

「俺のターン、ドロー!! このデュエル、俺の勝ち筋は……《HSRカイドレイク》あたりをS召喚することかな?」

 

《HSRカイドレイク》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/機械族/攻3000/守2800

機械族・風属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカード以外のフィールドのカードを全て破壊する。

●相手フィールドの全ての表側表示のカードの効果を無効にする。

(2):このカードが相手によって墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「スピードロイド」モンスター1体を手札に加える。

 

「……はい。カイドレイクはS召喚成功時に自身以外のフィールドのカードを全て破壊する効果を持っています。その効果を通せれば、攻撃力3000のダイレクトアタックが可能ですので」

 

 ホワイトからしてみれば墓地に存在しているSRのチューナーモンスター、三つ目のダイスを特殊召喚できる《SRダブルヨーヨー》やSRモンスターのサーチが可能な《SRベイゴマックス》を特殊召喚してからの《SRタケトンボーグ》から2体目の三つ目のダイスに繋げればカイドレイクのS召喚にまで繋げられるのだ。

 

「ああ、だが……俺もここまでのようだ」

「えっ……?」

「何度も言わせんな、カイドレイクに繋げられるカードを引けなかったんだよ」

 

 そう言ってその場に胡坐をかいて座り込むホワイト。

 

「サレンダーはしない。俺は騎士だ、自分から死を選ぶくらいなら殺される方を選ぶ」

「……わかりました」

 

 何もせずにターンエンドを宣言したホワイト。そして皐月にターンが回り、ヴァレルソード・ドラゴンが攻撃態勢に移る。

 

「私は、今回自分の実力で勝ったとは思えません。もしまたいつかデュエルできる時が来たならば、今度こそ自分の力だけであなたを超えます」

「……俺もその時を楽しみにしてるぜ。そら、来い!!」

 

ヴァレルソード・ドラゴン ATK3000

 

ホワイト LP2500→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皐月!」

「千春さん!」

 

 ほぼ同じタイミングで勝利を収めた千春と皐月は駆け寄ってハイタッチを交わす。デュエルモンスターズの精霊、という未知の相手とのデュエルではあったが、こうして二人揃って勝利を収められたためにその喜びは一入と言えた。

 

「見事ね、あなたたち人間の力を認めましょう」

「上に行きな、最も……先に行った奴らがどうなってるかはわかんねーけどな」

「まさか、鈴とエヴァも私たちと同じようにデュエルを!!」

 

 こうしてはいられない、とばかりに駆け出す千春と皐月。しかし、皐月は一度立ち止まるとその場に立ったままのパープルとホワイトの方を振り返る。皐月はどうしてもこの後の二人がどうするかが気になってしまったのだ。

 

「……あの、あなた方はどうされるのですか?」

「俺たちはお前らとデュエルをするために蘇った。その役割はもう終わった以上、もう俺たちにやることはない」

「老兵は死なず、ただ消え去るのみ。そんな言葉があるようね、あなたたち人間の世界には。つまりはそういうことよ」

 

 パープルとホワイトはデュエルモンスターズの精霊でありながら、自身で人の姿を持ち、鈴たちを足止めするためにこうして彼女たちの前に立ちはだかった。彼女たちはそれを理解した上で戦ったのだ。役目を果たした後はこの世界から消えることも覚悟の上で。

 

「そんな……! ただデュエルをするために生まれたなんて……!」

「ほらほら、お仲間が待ってるぜ。お前は勝ったんだ、俺たちなんか気にせずとっとと行った行った!」

「……!」

 

 ホワイトに無理矢理促される形で先に行かされる皐月。なんで俺たちがあいつを励ましてんだろうな、と呆れたように笑うホワイト。皐月の姿が見えなくなると同時に、ホワイトはパープルの胸に身体を預けた。

 

「負けて悔しかった? 今なら泣いても誰にも見られないわよ?」

「……るせえ」

「そんな乱暴な言葉遣いしないの。強がってるけど、あなたも可憐な乙女なんだから」

(……私たちはここまで。ねえ、ブラック。もし私たちがこの時代に再度目覚める時が来たならば……“本当の力”を取り戻した上で戦いたいわね)

 

 先程まで千春と皐月が激戦を繰り広げていた場所には静寂が戻る。そこには2枚のカードが落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!? なんだ、そのモンスターは!!」

「これは【ダーク・リベリオン】の新たなる姿。そして私の精霊としての真名にもまた近しき黒竜だ」

 

《アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル5モンスター×3

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):X召喚したこのカードは効果では破壊されない。

(2):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力は、このカード以外のフィールドのモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。このカードが闇属性XモンスターをX素材としている場合、さらにこのカード以外のフィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化される。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はこのカードでしか攻撃宣言できない。

 

「X召喚されたアーク・リベリオンはカードの効果では破壊されない。よってレイダース・ナイトのデメリットもこのカードは受け付けない」

―――じゃあ自壊しないということ!? レイダース・ナイトとのコンボ前提で作られたカードなのね……

(天宮 遊望がI2社を根城にするわけだ。I2社で開発途中、まだ世に出回っていないカードを自由に使えるということなのだからな……)

「そしてアーク・リベリオンのもう一つの効果を発動。このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、このカード以外のフィールドのモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする!」

「なっ……!?」

 

 アーク・リベリオン以外にフィールドに存在しているのは攻撃力3000のフルアーマード・ウィングと攻撃力2000のレヴォリューション・ファルコン。よってアーク・リベリオンの攻撃力にその2体の攻撃力が加算されるのだ。

 

「っ、その効果にチェーンしてフルアーマード・ウィングの効果を発動する! アーク・リベリオンに楔カウンターを撃ち込む!」

 

チェーン2(エヴァ):BF-フルアーマード・ウィング

チェーン1(ブラック):アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 楔カウンター:1

 

アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK3000→ATK8000

 

「攻撃力……8000……!?」

「そして闇属性Xモンスターを素材にしている場合、このカード以外のフィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化される!」

 

 他のカードの効果を受け付けないフルアーマード・ウィングはアーク・リベリオンの効果から逃れられるものの、レヴォリューション・ファルコンの効果は永続的に無効にされてしまうのだ。レヴォリューション・ファルコンには特殊召喚された相手モンスターとバトルをする際、その攻撃力を0にできる効果を持っているためその効果を封じられてしまえば攻撃力2000の一介のモンスターに過ぎない。

 

「ふむ、楔カウンターを乗せられてしまったか。しかし、フルアーマード・ウィングを破壊してしまえばそのコントロール奪取効果は使えまい。バトル。アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでBF-フルアーマード・ウィングを攻撃!“反逆のライトニング・エアレイド”!!」

 

アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ORU:1 ATK8000 VS BF-フルアーマード・ウィング ATK3000

 

エヴァ LP7600→LP2600

 

「ぐあああっ!!」

―――エヴァ!!

 

 ワンショットキルこそ防げたものの、エヴァは一気に5000のライフを奪われてしまった。レヴォリューション・ファルコンは予め守備表示でX召喚していたため、アーク・リベリオンに貫通効果を付与するカードでも使われない限りはレヴォリューション・ファルコンを盾にできるものの、それでも凌げるのは1ターンのみであり、エヴァに残された時間は少ないと言っていいだろう。

 

「私は墓地のダスティローブの効果を発動。このカードをゲームから除外し、デッキから幻影と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える。私は《幻影霧剣》を手札に加える。そしてカードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

 

エヴァ LP2600 手札4枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(RR-レヴォリューション・ファルコン ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:6 除外:1 EXデッキ:11(0)

ブラック LP8000 手札3枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ORU:2 楔カウンター:1)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 墓地:2 除外:1 EXデッキ:12(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□レ□

  □ □

□□□ア□□

 □伏□伏□

ブラック

 

 

○凡例

ア・・・アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 

☆TURN03(エヴァ)

 

(あのセットカード2枚のうち、1枚は恐らく幻影霧剣)

 

《幻影霧剣》(ファントム・フォッグ・ブレード)

永続罠

フィールドの効果モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターは攻撃できず、攻撃対象にならず、効果は無効化される。そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「幻影騎士団」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

(仮にアーク・リベリオンを倒せるモンスターを出したところで、幻影霧剣で無力化されては元も子もない。わかっているとはいえ、対処の難しいカード……あれをどうすべきか)

「私のターン、ドロー! 手札から永続魔法、黒い旋風を発動! そして手札からBF-蒼炎のシュラを召喚! BFモンスターの召喚に成功したことで、黒い旋風の効果を発動。デッキからシュラの攻撃力1800以下のチューナーモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのはBF-疾風のゲイル。そしてゲイルは自分フィールドにBFモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!」

 

 ゲイルはBFというテーマのカードが登場した最初期から存在するカードであるが、その効果および特殊召喚効果で後発のカードが多数登場した今もなお最前線に位置するカードだ。逆境にあってもそのモンスターをフィールドに呼び込めるあたりエヴァは冷静だった。

 

「疾風のゲイルの効果を発動! 相手フィールドに存在するモンスター1体の攻守を半分にする!」

「アーク・リベリオンは効果破壊の耐性を持っているが、効果自体に耐性を持っていない。チェーンはしないでおこう」

(幻影霧剣はやはり温存か。まあ次のターンで攻撃力を戻そうと思えば戻せるからな)

 

アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ORU:1 ATK8000/DEF2500→ATK4000/DEF1250

 

―――……なんとか見れる数値にまで落ちてきたね。

(攻撃力4000が見れる数値という時点でいろいろとおかしいと思うがな。スカーライトの効果でもまだ倒せない以上安心するのは早い)

「私はレヴォリューション・ファルコンとチューナーモンスターである疾風のゲイルをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 現れよ、水晶機巧-ハリファイバー!」

 

 チューナーモンスターを含むモンスター2体でリンク召喚可能な水晶機巧-ハリファイバー。今や珍しくなくなったリンクモンスターを代表するパワーカードだ。エヴァに限らず、S召喚を多用するデュエリストならまず間違いなくEXデッキに忍ばせておくカードと言っていいだろう。

 

「リンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動する! デッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を守備表示で特殊召喚する!」

「……ハリファイバーの効果にチェーンしてリバースカードを発動する! 永続罠、幻影霧剣! 対象はもちろんハリファイバーだ」

(来たか)

 

チェーン2(ブラック):幻影霧剣

チェーン1(エヴァ):水晶機巧-ハリファイバー

 

「チェーン2の幻影霧剣の効果でハリファイバーの効果は無効になる」

「チェーン1のハリファイバーの効果は幻影霧剣の対象になったことで無効になる。さて、お前には礼を言わせてもらおう」

「……礼?」

「ハリファイバーにそのカードを使ってくれたことに対する礼だ! 私は墓地のRUM-スキップ・フォースの効果を発動! 墓地のこのカードとRRモンスターであるワイズ・ストリクスをゲームから除外し、墓地のRRXモンスター1体を特殊召喚する! 戻ってこい、レヴォリューション・ファルコン!」

 

 一度リンク素材として墓地に送られているレヴォリューション・ファルコンはアーク・リベリオンの無効効果から解き放たれている。よって戦闘時に自身の対特殊召喚モンスターの効果を発動できるのだ。

 

「……まんまと幻影霧剣を使わされたということか」

「そうだ。そしてBFモンスターであるシュラがフィールドに存在することで、手札の残夜のクリスは手札から特殊召喚できる。バトルだ! レヴォリューション・ファルコンでアーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを攻撃! そして特殊召喚された表側表示モンスターとバトルをするダメージステップ開始時にレヴォリューション・ファルコンの効果を発動! そのモンスターの攻守を0にする!!」

「……戦いにおいて、勝つ者に共通していることがある。勝つ者はいずれも、謀を幾重にも張り巡らせているということだ。リバースカードオープン、レヴォリューション・ファルコンに対して2枚目の幻影霧剣を発動!」

「2枚目だと……!?」

 

 翼と爪を閃かせて襲い掛かろうとするレヴォリューション・ファルコンが霧に包まれて身動きが取れなくなる。ブラックはダスティローブの効果でサーチしたものとはまた別に2枚目の幻影霧剣を素引きしていたのだ。モンスターの効果でサーチ可能とはいえ、非常に汎用性の高いカードである。【幻影騎士団】デッキであれば3積み必至とも言えるカードだった。

 

―――あちゃー……せっかくアーク・リベリオンを倒せたのに。

「だが、まだ手がない訳ではない。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移る。私はリンク2のハリファイバーとレヴォリューション・ファルコンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れよ、トロイメア・ユニコーン!」

―――そっか、その手があったわね!

「リンク召喚に成功したトロイメア・ユニコーンの効果を発動。手札を1枚墓地へ送り、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主のデッキに戻す! アーク・リベリオンは残させん!!」

「お前はライフアドバンテージを減らすチャンスを失い、私はエースモンスターを失う。双方痛み分けだな」

 

 ライフアドバンテージこそ埋まらなかったが、アーク・リベリオンという相手の主力モンスターの除去に成功したエヴァ。ブラックの言う通り、このターンはまさに痛み分けと称するのが妥当だろう。しかし、それはエヴァにもう打てる手がない場合の話である。

 

「痛み分け? そんなわけないだろう。私は墓地の《BF-大旆のヴァーユ》の効果を発動!」

 

《BF-大旆のヴァーユ》

チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/鳥獣族/攻800/守0

(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、S素材にできない。

(2):このカードが墓地に存在する場合、チューナー以外の自分の墓地の「BF」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターとこのカードを墓地から除外し、その2体のレベルの合計と同じレベルを持つ「BF」Sモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 大旆のヴァーユはチューナーモンスターでありながら、モンスターゾーンに存在する限りS素材にできない癖の強いモンスターだ。エヴァは手札で腐りかけていたこのカードをトロイメア・ユニコーンのコストに充てることで墓地でのシンクロに繋げたのだ。

 

「私は墓地のレベル6、毒風のシムーンとヴァーユを除外しシンクロ召喚を行う!“黒き旋風よ、天空を駆けあがる翼となれ!”シンクロ召喚! BF-アーマード・ウィング!」

 

 BF-アーマード・ウィングは通常であれば戦闘破壊耐性を持つが、ヴァーユの効果でS召喚されたモンスターは効果が無効になるため、エヴァは守備表示でアーマード・ウィングをシンクロ召喚する。

 

「まだだ。私はリンク3のトロイメア・ユニコーン、クリス、シュラの3体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、咆哮せよ! ヴァレルロード・ドラゴン! 私はこれでターンエンドだ!」

 

 

エヴァ LP2600 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(BF-アーマード・ウィング)EXゾーン:1(ヴァレルロード・ドラゴン)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒い旋風)墓地:12 除外:3 EXデッキ:8(0)

ブラック LP8000 手札3枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:6 除外:1 EXデッキ:12(0)

 

エヴァ

 □□黒□□

 □□□□ア□

  ヴ □

□□□□□□

 □□□□□

ブラック

 

○凡例

ヴ・・・ヴァレルロード・ドラゴン

ア・・・BF-アーマード・ウィング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エヴァの魂・3(修正版)

 

 

 

 

 

 

☆TURN04(ブラック)

 

「私のターン、ドロー」

 

 ブラックはライフアドバンテージこそ圧倒的であるが、ボードアドバンテージではエヴァに利がある。8000というライフは一見多いように見えて複数体の大型モンスターに直接攻撃を受ければあっさり削り取られる程度の数値でもある。そのため、ブラックからしてみればこのターンをどうできるかが大事であった。

 

「私は手札から強欲で貪欲な壺を発動。デッキトップ10枚をゲームから除外し、2枚ドローする。私は《魔界発現世行きデスガイド》を召喚」

 

《魔界発現世行きデスガイド》

効果モンスター(準制限カード)

星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守600

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキから悪魔族・レベル3モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果が無効化され、S素材にできない。

 

「召喚に成功した魔界発現世行きデスガイドの効果を発動。デッキから悪魔族・レベル3モンスターである《クリッター》を効果を無効にして特殊召喚する」

 

《クリッター》

効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守600

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。このターン、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果を発動できない。

 

「そして私はレベル3の魔界発現世行きデスガイドとクリッターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れよ、幻影騎士団ブレイクソード。ブレイクソードの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、お互いのフィールドのカード1枚を破壊する。破壊するのは黒い旋風とブレイクソード自身だ」

「黒い旋風を破壊したか。だが、お前の墓地に存在する幻影騎士団はサイレントブーツのみ。ブレイクソードの蘇生効果を発動することはできない!」

「ああ、わかっているさ。だが、抜かりはない。幻影騎士団モンスターが破壊されたことで、手札の《幻影騎士団フラジャイルアーマー》の効果を発動する!」

 

《幻影騎士団フラジャイルアーマー》

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻1000/守2000

「幻影騎士団フラジャイルアーマー」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドの表側表示の「幻影騎士団」モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、手札の「幻影騎士団」カードまたは「ファントム」魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「フラジャイルアーマーの効果。幻影騎士団モンスターが破壊されたことでこのカードを手札から特殊召喚する。そしてフラジャイルアーマーの特殊召喚に成功したことで手札の《幻影騎士団ステンドグリーブ》の効果を発動」

 

《幻影騎士団ステンドグリーブ》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻1200/守600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「幻影騎士団」モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。その後、このカードのレベルを1つ上げる事ができる。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から「幻影騎士団ステンドグリーブ」以外の「幻影騎士団」モンスター1体を特殊召喚する。その後、そのモンスターのレベルを1つ上げる事ができる。

 

「手札から幻影騎士団ステンドグリーブを特殊召喚。その後、ステンドグリーブのレベルを1つ上げる」

 

幻影騎士団ステンドグリーブ 星3→星4

 

「レベル4のモンスターが2体……」

「私はフラジャイルアーマーとステンドグリーブでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!! 現れよ!“漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!”《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

レベル4モンスター×2

(1):このカードのX素材を2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップする。

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンか。ヴァレルロードはモンスター効果の対象にならないモンスターだ。アーマード・ウィングの攻撃力を奪い、それでヴァレルロードを倒す。そういうことだろう?」

「……ヴァレルロードを倒す、ということは正解だ。だが、私が墓地にサイレントブーツを残していた理由はここにある。墓地のサイレントブーツをゲームから除外し、効果を発動。デッキからファントム魔法・罠カード1枚を手札に加える。私は―――《RUM-ファントム・フォース》を手札に加える!」

 

 【幻影騎士団】には既に《RUM-幻影騎士団ラウンチ》というRUMが存在し、そのカードは素材を持たない闇属性のXモンスターを1つ上のランクのXモンスターにランクアップさせる効果を持った速攻魔法だ。しかし、ブラックがアーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンやレイダース・ナイトなどの新しい力を手にした、ということはこのようにエヴァの知らないRUMが存在していても何らおかしなことではない、ということだ。

 

「ファントム・フォース……?」

「手札から速攻魔法《RUM-ファントム・フォース》を発動!」

 

《RUM-ファントム・フォース》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分・相手のメインフェイズに、自分の墓地から闇属性モンスターを任意の数だけ除外し、自分フィールドの闇属性Xモンスター1体を対象として発動できる。除外した数だけ、その自分のモンスターよりランクが高い、

「幻影騎士団」、「RR」、「エクシーズ・ドラゴン」Xモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。このカードの発動後、ターン終了時まで自分はXモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「私は墓地のブレイクソードをゲームから除外し、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを対象に発動! 除外したモンスターの数と同じだけダーク・リベリオンを幻影騎士団、RR、エクシーズ・ドラゴンモンスターのいずれかにランクアップさせる!」

―――墓地コストがいるとはいえ、ランクアップの範囲が決まっていないってこと!?

「私はランク4のダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!“煉獄の底より、いまだ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌!永久に響かせ現れよ!” 飛翔せよ、ランク5!《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

レベル5モンスター×3

(1):このカードが「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」をX素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にし、その元々の攻撃力分このカードの攻撃力をアップする。

●相手がモンスターの効果を発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。その後、自分の墓地のXモンスター1体を選んで特殊召喚できる。

 

「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体の攻撃力を0にし、その元々の攻撃力分このカードの攻撃力をアップする! 対象はもちろんBF-アーマード・ウィング! “レクイエム・サルベーション”!!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ORU:2 ATK3000→ATK5500

BF-アーマード・ウィング ATK2500→ATK0

 

「っ……!」

「バトルだ! ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンでヴァレルロード・ドラゴンを攻撃!!“鎮魂のディザスター・ディスオベイ!!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ATK5500 VS ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000

 

「私は、ただでは転ばない! ヴァレルロードの効果を発動! ダーク・レクイエムの攻撃力・守備力を500ダウンさせる!」

「ダーク・レクイエムには相手モンスター効果の発動を無効にして破壊し、その後墓地のXモンスターを特殊召喚する効果がある。ここでの効果発動など!!」

「できるものならやってみるがいい! ヴァレルロードのこの効果に対して発動できるのであればな!!」

「っ!?」

 

 ヴァレルロード・ドラゴンの弱体化効果は相手はそもそもチェーンすることができない。そのため、ダーク・レクイエムのオーバーレイユニットがいくら残っていようともヴァレルロードの弱体化効果を回避することはできないのだ。

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ATK5500/DEF2500→ATK5000/DEF2000

 

「だが、ダーク・レクイエムの敵ではない!“鎮魂のディザスター・ディスオベイ”!!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ATK5000 VS ヴァレルロード・ドラゴン ATK3000

 

 ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンは両方の翼をステンドグラスのように眩く輝かせながらその牙でヴァレルロード・ドラゴンの身体を切り裂いた。弱体化したとはいえ、その攻撃力の差は2000。残りライフ2600のエヴァにはその一撃が激流のように襲い掛かった。

 

「ぐあああっ!!」

 

エヴァ LP2600→LP600

 

「エヴァちゃん!!」

 

 迸るパワーに吹き飛ばされる形になったエヴァは壁に叩きつけられる。意識こそ保っているようだが、重い一撃を受けてしまったがために、身体の自由が利かないようだった。

 

「エヴァちゃん、エヴァちゃん!! っ……エヴァちゃんがこんなに激しく戦っているのに、なんにもできないなんて……!!」

―――鈴……

―――鈴。お前が辛く、悔しいのはわかる。私も同じ気持ちだ。だが、今我々にできるのはエヴァを信じ、エヴァに声援を送り続けることだ。

(光子竜……)

「エヴァちゃん、頑張って!!」

「り……ん……!」

 

 ふらつきながらもなんとかして立ち上がるエヴァ。頭を抑えながら立ち上がるその様はまさに満身創痍と言っていいだろう。そんな状態でも、彼女の眼には炎が宿っていた。

 

―――エヴァ!

「立ち上がるか。人間よ、お前は何故そこまで戦える?」

「私は……一人では戦っていない。その意味が、お前にわかるか? 鈴が、光子竜が、青眼が、私の勝利を願っている! 千春が、皐月が私を信じてくれている! そして―――遊希が私たちの助けを待っている!! 私には多くの友が、仲間がいる!! 私と共に歩んでくれる仲間がいる限り、私の心は折れない!! これが、私……デュエリスト、エヴァ・ジムリアだ!!」

 

 エヴァの決意とも取れる魂からの叫びに呼応して彼女の身体が赤く、そして熱く輝き始めた。エヴァの背後にはスカーライトの姿、そしてそのスカーライトの後ろには誰も見たことのない1体のドラゴンの姿がぼんやりと現れる。

 

「……なるほど、それがお前の決意。魂ということか。いいだろう、ならばその魂を私に見せてみるがいい。バトルフェイズを終了。ターンエンドだ」

 

 

エヴァ LP600 手札1枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(BF-アーマード・ウィング)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:3 EXデッキ:8(0)

ブラック LP8000 手札1枚

デッキ:19 メインモンスターゾーン:1(ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:10 除外:12 EXデッキ:9(0)

 

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□ア□

  □ □

□□□レ□□

 □□□□□

ブラック

 

○凡例

レ・・・ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン

 

 

☆TURN05(エヴァ)

 

(感じる。新しい力の鼓動が。お前もそうだろう? スカーライト)

―――……うん。正直得体知れないから気味悪いんだけどね。確実にあたしのことを強くしてくれる。そんな力な気がする。

(私たちの前には最後の壁がある。ならば、その壁を共に超えて行こう!!)

―――うん!!

「私のターン、ドロー!! 私は手札から魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のヴァレルロード・ドラゴン、トロイメア・ユニコーン、水晶機巧-ハリファイバー、BF-フルアーマード・ウィング、RR-レヴォリューション・ファルコンの5枚をデッキに戻し、2枚ドロー!!」

 

 貪欲な壺でデッキに戻したのは全てEXデッキのモンスターである。そのためエヴァは今残っている26枚のカードを増やさずにドローする形になった。

 

「……見えた。これが、勝利への道筋だ!! 私のフィールドにBFモンスターが存在することで、この2体は手札から特殊召喚できる! 現れよ、BF-疾風のゲイル! BF-突風のオロシ!」

「チューナー2体。だが、ゲイルの効果はダーク・レクイエムの効果で無効にできる。ダーク・レクイエムの攻撃力を下げようとしたところで無意味だ!」

「……確かに、それができたら苦労はしない。だが、私の狙いは別にある。私は2体目のオロシを通常召喚!」

「チューナーモンスターが3体!? リンク召喚?それともシンクロ召喚……」

「見せてやる。これが、私たちの力! 私と!」

―――このレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの絆の力よ!!

 

 

 

 

 

 

―――私はレベル7のSモンスター、BF-アーマード・ウィングに! レベル3の疾風のゲイル、レベル1の突風のオロシ2体を―――

 

 

 

 

 

―――トリプル・チューニング!!―――

 

 

 

 

 

 チューナーモンスターを2体以上使用するS召喚は《水晶機巧-グリオンガンド》や《ヴァイロン・オメガ》などの大型Sモンスターでも見られるものであり、決して珍しいことではない。しかし、チューナーモンスター3体をS召喚のための条件に持つモンスターが、この瞬間爆誕した。

 

「チューナーモンスター3体のS召喚だと!?」

 

 

 

 

 

―――“悪魔竜に秘められし力を解き放つは三つの力。紅き星は滅びず、ただ眼前の敵を滅するのみ! 荒ぶる我が魂よ、天地開闢の時を刻め!!”シンクロ召喚!! 吠えろ!!―――

 

 

 

 

 

 

―――《スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 超新星爆発が如く輝きと共に現れたのは深紅の身体を持った禍々しくも美しい竜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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悲しくも熱き決戦

 

 

 

 

 

 

 

「スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン……」

―――これが、スカーライトの力の最終到達点、そういうことか。

 

《スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星12/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守3000

チューナー3体+チューナー以外のSモンスター1体以上

このカードはS召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力は自分の墓地のチューナーの数×500アップする。

(2):フィールドのこのカードは相手の効果では破壊されない。

(3):1ターンに1度、相手モンスターの効果が発動した時、または相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。このカード及び相手フィールドのカードを全て除外する。

(4):このカードの(3)の効果で除外された場合、次の自分エンドフェイズに発動する。除外されているこのカードを特殊召喚する。

 

「スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの攻撃力は、私の墓地のチューナーモンスターの数×500ポイントアップする。私の墓地に眠るチューナーの数は―――」

 

 スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの周囲にはエヴァの墓地に眠るチューナーたちの魂が浮かび上がる。南風のアウステル、2体の疾風のゲイル、2体の突風のオロシという計5体のチューナーモンスターがスカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの力になる。

 

スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン ATK4000→ATK6500

 

「攻撃力6500……」

「バトルだ!! スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンでダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンを攻撃!!“バーニング・スーパー・ソウル・ノヴァ”!!」

 

スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン ATK6500 VS ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ATK5000

 

ブラック LP8000→LP6500

 

「ぐっ……!」

「ダーク・レクイエム、粉砕! 私とスカーライトの力は誰にも止められない! バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移行する。が、私にできることはない。ターンエンドだ!」

 

エヴァ LP600 手札0枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:(スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:3 EXデッキ:12(0)

ブラック LP6500 手札1枚

デッキ:19 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:12 EXデッキ:9(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□ス□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

ブラック

 

○凡例

ス・・・スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン

 

 

☆TURN06(ブラック)

 

「私のターン、ドロー! 私は墓地の幻影騎士団ステンドグリーブの効果を発動! このカードをゲームから除外し、手札から幻影騎士団モンスター1体を特殊召喚する。現れよ!《幻影騎士団ティアースケイル》!」

 

《幻影騎士団ティア―スケイル》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻600/守1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札を1枚捨てて発動できる。デッキから「幻影騎士団ティアースケイル」以外の「幻影騎士団」モンスター1体または「ファントム」魔法・罠カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが墓地に存在し、自分の墓地からこのカード以外の「幻影騎士団」モンスターまたは「ファントム」魔法・罠カードが除外された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「ステンドグリーブの効果で特殊召喚されたモンスターのレベルは1上がる」

 

幻影騎士団ステンドグリーブ 星3→星4

 

「そして幻影騎士団フラジャイルアーマーを召喚! 私は2体のモンスターでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 再び舞い戻れ! レイダーズ・ナイト!」

「レイダーズ・ナイト……」

「レイダーズ・ナイトの効果を発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、レイダーズ・ナイトより1つ上か下のランクのXモンスターをこのカードに重ねてX召喚扱いで特殊召喚する! 再び現れよ、アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!!」

 

 エヴァがあれだけ苦心して倒したアーク・リベリオンがまたしてもブラックのフィールドに現れた。このデッキのエースモンスターとも言うべきモンスターなのだから、2体目が存在しても何らおかしなことではないのだが。

 

「スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン……お前たちの培ってきた絆があったからこそ生まれた奇跡の存在なのだろう。しかし、時に強すぎる力は自らに牙を剥く! アーク・リベリオンの効果を発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、このカードの攻撃力をこのカード以外のフィールドのモンスターの攻撃力分アップさせる!」

「……スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの元々の攻撃力は4000」

「つまりアーク・リベリオンの攻撃力は7000にまで―――」

「無駄だ! アーク・リベリオンの効果にチェーンしてスカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの効果を発動!! 相手モンスターの効果が発動した時、このカードおよび相手フィールドのカードを全てゲームから除外する!!」

 

チェーン2(エヴァ):スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン

チェーン1(ブラック):アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

「なっ……!?」

「スーパーノヴァ・ドラゴン! 全てを次元の彼方へと消し去れ!!」

―――“スカーレッド・ビッグバン”!!―――

 

 まさに星が生誕する瞬間のような激しい光と共にフィールドから消え去るスカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンとアーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン。アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果はスカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンがフィールドを離れており、またアーク・リベリオン自身もフィールドを離れているため効果が適用されないのだ。

 

「っ……」

「矢尽き刀折れる、とはこういうことを言うのだろうな。ちなみにスーパーノヴァ・ドラゴン自身は次の私のターン終了時にフィールドに帰還する」

「私は……これでターンエンドだ」

 

エヴァ LP600 手札0枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:4 EXデッキ:12(0)

ブラック LP6500 手札0枚

デッキ:18 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:15 除外:14 EXデッキ:7(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

ブラック

 

 

☆TURN07(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!……私はカードを1枚セット。これでターンエンド。この瞬間、除外されているスーパーノヴァ・ドラゴンはフィールドに帰還する」

 

エヴァ LP600 手札0枚

デッキ:23 メインモンスターゾーン:1(スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:3 EXデッキ:12(0)

ブラック LP6500 手札0枚

デッキ:18 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:15 除外:14 EXデッキ:7(0)

 

エヴァ

 □□伏□□

 □ス□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

ブラック

 

 

☆TURN08(ブラック)

 

「私のターン、ドロー!……ふっ、力及ばずか」

「……サレンダーするのであれば、認めるぞ」

「サレンダー? 冗談を言うな。私は戦いの世界に生きる者。敵に頭を下げて生き延びるくらいならば死を選ぶ。どうせ倒れるのであれば、最期くらいは華々しく逝かせてくれ」

「……わかった。私も一人のデュエリスト―――戦士だ。強者には最大限の敬意を払おう」

「ありがとう、ターンエンドだ」

 

 そう言ってブラックは目を閉じる。何もしないまま次のターンに回り、エヴァのスーパーノヴァ・ドラゴンの炎が一人の孤高な黒き戦士を焼き尽くした。

 

 

スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン ATK6500

 

ブラック LP6500→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ、精霊と絆を結びし人間よ―――もし、次に相まみえることがあらば。敵でなく戦友として出会えることを望む。さらばだ」

 

 そう言ってブラックは光の粒子となって消えていった。彼が立っていた場所にはブラックがつけていたデュエルディスクとデッキ、そして《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》のカードが落ちていた。拘束の主であるブラックが消えたことで、囚われていた鈴が解放される。

 

「エヴァちゃん!!」

「鈴……」

 

 駆け寄った鈴を抱きしめようと手を広げたエヴァはそのままそこにへたり込んでしまった。ブラックとの激しいデュエル、そしてレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの中に眠るスカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの力を目覚めさせたことによる負担が疲労となってエヴァに圧し掛かったのだ。

 

「エヴァちゃん、大丈夫!?」

「ああ。ちょっと疲れただけだが……少し休みが欲しい。鈴、私に構わず先に行け」

「そんなエヴァちゃんを置いてなんて……」

「遊希はお前の助けを待っている。お前が行かなければ誰が行くと言うんだ!」

「っ……!」

 

 エヴァの鬼気迫る表情から彼女の真剣な気持ちを感じ取る鈴。それでもエヴァを置いていくわけには、と躊躇する鈴にエヴァは1枚のカードを差し出した。

 

「しょうがないな……スカーライト。お前が鈴に付いていけ」

―――エヴァ!?

「私がダメなら、スカーライトが行けばいい。お守り代わりにはなるだろう」

「ほんとに、いいの……?」

「光子竜と青眼を従えるお前なら、スカーライトを従わせられない道理はないだろう。スカーライト、お前は大丈夫だよな?」

―――うん、あたしも鈴ならオッケーだよ!

 

 スカーライトのカードを受け取った鈴は、自分の身体と心にスカーライトの力が流れ込んでくるのを感じた。エヴァの精霊であるスカーライトを預かる、ということはエヴァの想いもまた背負うことになるのだ。否応なく鈴の背筋が伸びる。

 

「エヴァちゃん、たぶん後から千春と皐月も来てくれるから。待ってて!!」

「ああ、頼んだぞ! 鈴!!」

 

 鈴はエヴァのことを振り返ることなく駆け出した。自分は一人ではない。エヴァの、千春の、皐月の、そして遊希の想いを背負った少女の足は止まらない。階段を幾つも駆け上がり、悲鳴を上げる身体に鞭を討ち、鈴は一心不乱に最上階のフロアの扉を開け放った。

 

 

 

―――まさか、本当にここまで来るとは思いませんでした。

 

 

 I2社日本支社オフィスビルの最上階は訪れたデュエリストや社員のためのデュエルスペースになっており、ガラス張りの天井からは昼間は暖かな太陽の光が、夜は美しい月の光が照らすようになっている。そんな場所に遊望は一人立っていた。銀河眼の時空竜を思わせる紫色のパーティードレスのようなものを纏っていた遊望は倒すべき敵でありながらも、息を呑むような美しさを誇っていた。

 

「天宮 遊望……!!」

「こんな時のために用意しておいた刺客を全て退けてきた、ことは認めましょう。ですが、あなたは私に触れることすらできない」

「そんなことないよ。あたしはここに来るまで出会ってきたみんなの想いを背負っている。助けてくれたパパたちや、あんたが差し向けてきた精霊のデュエリストたち、エヴァちゃん、千春、皐月……一緒にここまで仲間たちの想いを背負ってきた! あたしは一人じゃない。あたしは、みんなのためにあんたを倒して、遊希を助ける!!」

 

 デュエルディスクを起動し、遊望の下へと向かっていく鈴。ここで彼女を倒せば遊希を取り戻せる。そんな鈴のひたむきな想いを遮る者がいた。

 

「私がわざわざ裁きを下すまでもありません。そうですよね、お姉さま?」

「っ!?」

 

 鈴と遊望の間に割って入る者がいた。遊望が来ているドレスと同じようなデザインで、色だけが銀河眼の光子竜を思わせる青を基調としている。そのドレスを纏っている者の顔を見た鈴は安堵の表情に包まれる。連れ去られてずっと離れ離れだった友の姿がそこにあったからだ。

 

「遊希……!! よかった、無事だったのね!!」

―――待て、鈴!

―――様子が……おかしい……

 

 精霊たちに言われて立ち止まる鈴。喜びの表情を見せる鈴と違って、遊希はまるで汚らわしいものを見るような眼で鈴を睨みつけていたからだ。

 

「……あなた、誰?」

「なっ、何言ってんの遊希? あたしは―――」

「気安く名前を呼ばないで。どこの誰だが知らないけれど……遊望に手を出すなら、ここで―――殺しますよ?」

 

 鈴は強く歯を食いしばる。光子竜たちに言われるまでもなく、今の遊希が正気でないことがわかった。

 

「残念ですが、お姉さまはあなたのことなんて覚えていませんよ? 私の調きょ―――んんっ、私とお姉さまの姉妹の絆でお姉さまは無事お姉さまに戻って頂きました」

―――今何言いかけたの!?

「何も? まあお姉さまは私がいなければ生きていけない身体になってしまいましたが」

―――悪趣味な……

「まあ、あなたがお姉さまをデュエルで倒すことができれば……もしかしたらもあるかもしれませんけどね」

 

 遊希の腕には遊望が用意したデュエルディスクが付けられていた。遊望に拉致された際、遊希は使用している【ギャラクシー】も【サンダー・ドラゴン】のデッキも全てアカデミアに置いていってしまったのだが、どうやらブラックたちと同じようにI2社で新たなデッキを用意したのだろう。

 

―――鈴、操られているとはいえ相手は遊希だ。デュエルタクティクスは決して衰えてはいないだろう。

(……わかってる。気を抜くつもりなんてないよ。ねえ、光子竜)

―――なんだ?

(あの時の遊希も、こんな気持ちだったのかな?)

 

 あの時、というのはかつて鈴が遊望に操られて遊希と対峙した時のことだ。あの時の遊希は鈴とこんな形でデュエルをしなければならない、という悲しみを抱きつつも鈴を助けるために決死で立ち向かったのだ。

 

―――ああ。奇しくも今度は助ける側と助けられる側が逆になったようだな。

「それなら、ちょうどいい恩返しができそうね! 遊希、私があんたを助けてあげるから!!」

「お姉さま。あの女は私たちの絆を断とうとする悪人です。容赦なく、叩き潰してあげてください」

「わかった。お姉ちゃん、頑張るから!」

 

 

先攻 遊希【???】

後攻 鈴【青眼】

 

 

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(遊希)

 

「先攻は私」

 

 普段遊希がデュエルする時と比べて、操られていることが影響しているのか遊希に抑揚が感じられない。しかし、精密機械のような振る舞いをされればされるほど、より手が読みにくくなっていた。

 

―――鈴、重ねて言うが相手は遊希だ。決して手を抜くなよ。

(わかってる。でも、ギャラクシーでもサンダー・ドラゴンでもないデッキ……どんなデッキを使うのかしら)

「私は―――手札から魔法カードを発動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《極超の竜輝巧》(ドライトロン・ノヴァ)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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星連なる儀式

 

 

 

「【竜輝巧(ドライトロン)】……?」

―――やはり我々の知らないカードを使って来たか……

 

《極超の竜輝巧》(ドライトロン・ノヴァ)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

(1):デッキから「ドライトロン」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。

 

「極超の竜輝巧。このカードは1ターンに1枚しか発動できず、私はこのターン通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない」

「……通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない? 複雑なテキストね」

―――特殊召喚モンスターやEXデッキのモンスターは特殊召喚できる、ということじゃない?

―――だが、このカードの仕様で相手のデッキをある程度は推測できるな。

 

 光子竜の言うように、相手のデッキがわからない場合でもカードの効果からデッキタイプを推測することも不可能ではない。スカーライトの言ったように、モンスターの特殊召喚に制限がかかるのであれば、その制限をすり抜けられるモンスターで構築されていることだ。

 

「私はデッキから《竜輝巧-バンα》を特殊召喚」

 

《竜輝巧-バンα》

特殊召喚・効果モンスター

星1/光属性/機械族/攻2000/守0

このカードは通常召喚できず、「ドライトロン」カードの効果でのみ特殊召喚できる。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外の「ドライトロン」モンスターまたは儀式モンスター1体をリリースして発動できる。このカードを手札・墓地から守備表示で特殊召喚する。その後、デッキから儀式モンスター1体を手札に加える事ができる。この効果を発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

 

「やっぱり特殊召喚モンスターだったわ! でもレベル1ってことは厄介なモンスターそうね……」

「私はレベル1のバンαをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンクリボーをリンク召喚」

「リンクリボーを出すために特殊召喚……したわけじゃなさそうね」

「ええ、私は墓地のバンαの効果を発動! 手札のドライトロンモンスターもしくは儀式モンスター1体をリリースすることでこのカードを手札または墓地から特殊召喚するわ! 私は《竜輝巧-アルζ》をリリース。蘇りなさい、バンα!」

 

 地の底からまるで星のような光を放ちながら蘇るバンα。レベル1かつ守備表示で特殊召喚されるとはいえ、攻撃力2000の自己蘇生が可能なモンスターだ。決して侮れる相手ではない。

 

「自身の効果で特殊召喚に成功したバンαの効果を発動。デッキから儀式モンスター1体を手札に加える」

(……儀式デッキ)

 

 鈴のデッキもブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンをエースに添えた儀式型の【青眼】。鈴と遊希の望まない形でのデュエルは、奇しくも儀式召喚を駆使するデッキ同士のデュエルとなっていた。

 

「私はデッキから《サイバー・エンジェル-弁天》を手札に加える。そして墓地の竜輝巧-アルζの効果を発動。手札の儀式モンスター、サイバー・エンジェル-弁天をリリースしてこのカードを手札から特殊召喚する。そして自身の効果で特殊召喚したアルζ、リリースされたサイバー・エンジェル-弁天の効果を発動」

 

《竜輝巧-アルζ》

特殊召喚・効果モンスター

星1/光属性/機械族/攻2000/守0

このカードは通常召喚できず、「ドライトロン」カードの効果でのみ特殊召喚できる。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外の「ドライトロン」モンスターまたは儀式モンスター1体をリリースして発動できる。このカードを手札・墓地から守備表示で特殊召喚する。その後、デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。この効果を発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

 

《サイバー・エンジェル-弁天》

儀式・効果モンスター

星6/光属性/天使族/攻1800/守1500

「機械天使の儀式」により降臨。

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の守備力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。デッキから天使族・光属性モンスター1体を手札に加える。

 

チェーン2(遊希):サイバー・エンジェル-弁天

チェーン1(遊希):竜輝巧-アルζ

 

「チェーン2のサイバー・エンジェル-弁天の効果で私は2枚目の弁天を手札に加え、チェーン1のアルζの効果で儀式魔法《流星輝巧群》を手札に加える。そして手札から儀式魔法、流星輝巧群を発動!

 

《流星輝巧群》(メテオニス・ドライトロン)

儀式魔法

儀式モンスターの降臨に必要。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):攻撃力の合計が儀式召喚するモンスターの攻撃力以上になるように、自分の手札・フィールドの機械族モンスターをリリースし、自分の手札・墓地から儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの「ドライトロン」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を相手ターン終了時まで1000ダウンし、このカードを手札に加える。

 

「私は手札の竜儀巧-メテオニス=DRAをリリース!!」

「ぎ、儀式モンスターを儀式のリリースに!?」

「流星輝巧群は手札・フィールドの機械族モンスターをリリースし、手札・墓地から儀式モンスターを儀式召喚できるわ。“時の流れと共に失われし星の繋がりよ。星々集いし今竜の型となりて再臨せよ!”儀式召喚! 現れなさい!《竜儀巧-メテオニス=QUA》!!」

 

《竜儀巧-メテオニス=QUA》

儀式・効果モンスター

星12/光属性/機械族/攻4000/守4000

「流星輝巧群」により降臨。

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードは相手の魔法・罠カードの効果の対象にならない。

(2):このカードの儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

(3):儀式召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。自分の墓地から、攻撃力の合計が4000になるように「竜儀巧-メテオニス=QUA」以外の「ドライトロン」モンスターを任意の数だけ選んで特殊召喚する。

 

竜儀巧-メテオニス=QUA DEF4000

 

「レベル12、攻守4000の儀式モンスター……」

―――まさか、そんな高いステータスの儀式モンスターがいるなんて……

 

 鈴のデッキのエースモンスターであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの攻撃力は4000。しかも貫通ダメージを倍増させる効果を持っているのだが、それも相手の守備を貫けなければ意味がない。仮に遊希が洗脳されていたとしても、鈴とのデュエルの記憶が残っていたならば、その勝ち筋を潰せるデッキを組んでくるだろう。それが遊希が【ドライトロン】というデッキを組み上げた理由の一つなのかもしれない。

 

「メテオニス=QUAは相手の魔法・罠カードの効果の対象にならない。墓地の流星輝巧群の効果を発動。1ターンに1度、フィールドのドライトロンモンスター1体の攻撃力を次の相手ターン終了時まで1000下げることで、このカードを手札に加える。メテオニス=QUAの攻撃力を1000下げることで、サルベージ」

 

竜儀巧-メテオニス=QUA ATK4000→ATK3000

 

―――げっ、じゃあ1ターンに2回も儀式召喚できるってこと!?

―――しかし、遊希の手札に墓地のメテオニス=DRAの儀式召喚に充てられるだけのレベルのモンスターが複数体存在する必要がある。レベル12のモンスターを単に儀式のリリースにするために入れるものか?

―――あっ、それもそうだよね……

 

 鈴の脳裏では光子竜とスカーライトが話し合う。直接アドバイスを貰っているわけではないためルールの抵触するわけではないが、複数の精霊たちの会話を鈴は聞き逃さないようにしていた。そうしていたからこそ、引っかかることもある。

 

―――……鈴? どうしたの?

(光子竜たちの話を聞いて思ったの。儀式召喚はリリースするモンスターのレベルを同じまたは上回るようにしなきゃいけないんだけど……ドライトロンの儀式モンスターじゃないモンスターは今わかっているだけでもレベル1。レベル1のモンスターでどうやってレベル12のモンスターを儀式召喚するんだろう、って)

 

 もちろん“レベルを揃える”だけならドライトロン以外のモンスターを使えばいい話だ。しかし、メテオニス=QUAを儀式召喚する際に遊希は“手札・フィールドの機械族モンスター”をリリースすると言っていた。流星輝巧群の制約にリリースするモンスターの種族が指定されているならば、1体の儀式召喚のためだけにレベルが12以上になるようモンスターをリリースしなければならないのはどうしても割に合わないのである。

 

(やっぱりあのデッキ……新しいカードで組まれてるってことはあたしたちの考えが及ばない何かがある!)

「……メテオニス=QUAだけで十分かと思ったけど、そうじゃないようね」

 

 一方、鈴と対峙する遊希もまた鈴の鋭く、真剣な目つきを見て鈴が何を考え、何を見ているかを察知したようだった。少なくとも手を抜いて倒せる相手ではない、ということは心胆で理解した。

 

「お姉さま、何も遠慮することはありませんわ。持てる力の全てをお見せし、完膚なきまでに叩き潰して差し上げましょう」

「遊望……うん。お姉ちゃん、頑張るね。私はもう一度儀式魔法、流星輝巧群を発動! フィールドの機械族モンスターをリリースし、墓地の竜儀巧-メテオニス=DRAを儀式召喚するわ!」

「2体目の儀式モンスターを……でも、リリースできるモンスターなんてどこにも……」

「リリースできるモンスターならフィールドにいる。私は“攻撃力の合計”が儀式召喚する儀式モンスターの攻撃力以上になるようにモンスターをリリースするわ!!」

「攻撃力の合計……!?」

―――まさか、そんな儀式召喚があるというのか……!

 

 鈴はこれで合点がいった。【ドライトロン】とは、従来の儀式召喚とは異なり、リリースするモンスターのレベルではなく、攻撃力を参照するデッキなのだ。だからこそバンαやアルζといったドライトロンの非儀式モンスターはいずれも低レベルかつレベルの割に攻撃力が高いのだ。

 

「メテオニス=DRAの攻撃力は4000。よってフィールドの攻撃力2000のバンαとアルζをリリース!“竜の如く雄々しくも美しい星の繋がりよ。神々の果実守りし偉業の竜を象り再臨せよ!”儀式召喚! 竜儀巧-メテオニス=DRA!!」

 

《竜儀巧-メテオニス=DRA》

儀式・効果モンスター

星12/光属性/機械族/攻4000/守4000

「流星輝巧群」により降臨。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードは相手モンスターの効果の対象にならない。

(2):このカードの儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合、このカードは特殊召喚された相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

(3):相手ターンに、攻撃力の合計が2000または4000になるように自分の墓地からモンスターを除外し、その合計2000につき1枚、相手フィールドの表側表示のカードを対象として発動できる。そのカードを墓地へ送る。

 

竜儀巧-メテオニス=DRA DEF4000

 

「また守備表示で……」

―――サイバー・ドラゴン・インフィニティなどのモンスターを警戒してのことだろう。守備表示ならカオス・MAXで相討ちにすることもできなくなるから、次の自分のターンまで生存させることも容易だ。

「攻守のステータスが共に4000の竜儀巧2体。本当ならこれで十分、と言いたいところだけど……あなたは危険。私たち姉妹に災厄を招きかねない」

「遊希……」

「あなたに恨みはないし、興味もない。だけど、ここで徹底的に叩く。私は手札の《竜輝巧-エルγ》の効果を発動。サイバー・エンジェル-弁天をリリースし、このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。そして自身の効果で特殊召喚に成功したエルγの効果、そしてリリースされた弁天を発動するわ!」

 

《竜輝巧-エルγ》

特殊召喚・効果モンスター

星1/光属性/機械族/攻2000/守0

このカードは通常召喚できず、「ドライトロン」カードの効果でのみ特殊召喚できる。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外の「ドライトロン」モンスターまたは儀式モンスター1体をリリースして発動できる。このカードを手札・墓地から守備表示で特殊召喚する。その後、自分の墓地から「竜輝巧-エルγ」以外の攻撃力2000の「ドライトロン」モンスター1体を選んで特殊召喚できる。この効果を発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

 

チェーン2(遊希):サイバー・エンジェル-弁天

チェーン1(遊希):竜輝巧-エルγ

 

「チェーン2の弁天の効果でデッキから天使族・光属性の《宣告者の神巫》を手札に加える。そしてチェーン1のエルγの効果で墓地の攻撃力2000のドライトロンモンスター、バンαを特殊召喚する。そして今手札に加えたチューナーモンスター、宣告者の神巫を召喚」

 

《宣告者の神巫》(デクレアラー・ディヴァイナー)

チューナー・効果モンスター

星2/光属性/天使族/攻500/守300

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキ・EXデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る。このカードのレベルはターン終了時まで、そのモンスターのレベル分だけ上がる。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。手札・デッキから「宣告者の神巫」以外のレベル2以下の天使族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「召喚に成功した宣告者の神巫の効果を発動。EXデッキの天使族モンスター《虹光の宣告者》を墓地へ送り、このカードのレベルをそのモンスターのレベル分上げる。虹光の宣告者のレベルは4。よって宣告者の神巫のレベルは6になる」

 

宣告者の神巫 星2→星6

 

「そして墓地へ送られた虹光の宣告者の効果を発動」

 

《虹光の宣告者》(アーク・デクレアラー)

シンクロ・効果モンスター

星4/光属性/天使族/攻600/守1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いの手札・デッキから墓地へ送られるモンスターは墓地へは行かず除外される。

(2):モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから儀式モンスター1体または儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 

「デッキから儀式モンスター《古聖戴サウラヴィス》を手札に加える。そしてリンク1のリンクリボーとエルγをリンクマーカーにセット。召喚条件はカード名の異なるモンスター2体、リンク召喚。リンク2《クロシープ》を」

 

《クロシープ》

リンク・効果モンスター

リンク2/地属性/獣族/攻700

【リンクマーカー:左下/右下】

カード名が異なるモンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。

このカードのリンク先のモンスターの種類によって以下の効果を適用する。

●儀式:自分はデッキから2枚ドローし、その後手札を2枚選んで捨てる。

●融合:自分の墓地からレベル4以下のモンスター1体を選んで特殊召喚する。

●S:自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力は700アップする。

●X:相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力は700ダウンする。

 

―――ねえ、もしかしなくても、これってヤバいんじゃない……?

―――うん……

「そしてレベル1のバンαに、レベル6となったチューナーモンスター、宣告者の神巫をチューニング。“限界を打ち破る戦士たちよ。雷光となりて地平線の彼方まで駆け抜けよ。”シンクロ召喚! レベル7《F.A.ライトニングマスター》」

 

《F.A.ライトニングマスター》

シンクロ・効果モンスター

星7/光属性/機械族/攻0/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードの攻撃力はこのカードのレベル×300アップする。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3):「F.A.」魔法・罠カードの効果が発動した場合に発動できる(ダメージステップでも発動可能)。このカードのレベルを1つ上げる。

(4):1ターンに1度、相手が魔法・罠カードの効果を発動した時に発動できる。このカードのレベルを2つ下げ、その発動を無効にし破壊する。

 

「ライトニングマスターの攻撃力はレベル×300の数値になる。よって2100」

 

F.A.ライトニングマスター 星7 ATK2100

 

「そしてリンク先にモンスターが特殊召喚されたことでクロシープの効果が発動。Sモンスターが特殊召喚された時、フィールドの全てのモンスターの攻撃力を700アップするわ!」

 

竜儀巧-メテオニス=DRA ATK4000→ATK4700

竜儀巧-メテオニス=QUA ATK3000→ATK3700

F.A.ライトニングマスター ATK2100→ATK2800

クロシープ ATK700→ATK1400

 

「……これでターンエンド」

 

 

遊希 LP8000 手札1枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:3(竜儀巧-メテオニス=DRA、竜儀巧-メテオニス=QUA、F.A.ライトニングマスター)EXゾーン:1(クロシープ)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:11 除外:0 EXデッキ:11(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

遊希

 □□□□□

 QD□□F□

  □ ク

□□□□□□

 □□□□□

 

○凡例

D・・・竜儀巧-メテオニス=DRA

Q・・・竜儀巧-メテオニス=QUA

F・・・F.A.ライトニングマスター

ク・・・クロシープ

 

 

 

 



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裁きの雷霆

 

 

 

(一応……デュエルディスクでデータが見れるけど)

 

 鈴の後攻1ターン目であるが、彼女は遊希が先攻1ターン目で作り上げた布陣に頭を抱えていた。未知のカードとは言えども、デュエルディスク内蔵のコンピューターでカードの効果を確認することはできる。しかし、確認できるからこそますます悩ましいのであった。

 

―――メテオニス=DRAはモンスター効果の対象にならず、墓地のドライトロンモンスターを攻撃力の合計が4000になるようにゲームから除外することでその攻撃力2000につき相手フィールドのカード1枚を墓地に送ることができる。

―――メテオニス=QUAは儀式召喚のためにリリースされたのがレベル12のメテオニス=DRAだから魔法・罠カードの破壊効果は使えないけど、魔法・罠カードの対象にならなくて、儀式召喚されている場合、破壊された時に墓地のドライトロンモンスターを攻撃力の合計が4000になるように特殊召喚できる……でいいんだよね?

―――うん、ライトニングマスターは1ターンに1度……レベルを2つ下げることで魔法・罠カードの発動を無効にして破壊できる……

(でもって、手札にはフィールドのモンスターを対象とするモンスター・魔法・罠の効果が発動した時、手札から捨てることでその発動を無効にできる古聖戴サウラヴィス……)

 

 星乃 鈴は考えるのをやめた。あくまで、この時点では。

 

 

☆TURN02(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!……あたしには遊希みたいなデュエルはできない。できないけど、遊希にもあたしみたいなデュエルはできない!」

「……どうしたの、突然。八方塞がりだから発狂したくなる気持ちはわかるけれど」

「そんなわけないわ。どうせならオシャレで華麗にあんたのフィールドをぶっ壊したかったけど、もうやり方に拘っていられないってこと! まずは魔法カード、サンダー・ボルトを発動!」

 

 フィールドのモンスターを全て破壊するかつての禁止カード、サンダー・ボルト。対象を取るカードではないため、サウラヴィスに止められず、メテオニス=QUAであっても破壊できる。

 

「……なんだ、サンダー・ボルトか。その発動にチェーンしてF.A.ライトニングマスターの効果を発動!」

 

チェーン2(遊希):F.A.ライトニングマスター

チェーン1(鈴):サンダー・ボルト

 

「チェーン2のライトニングマスターの効果。レベルを2つ下げることで、サンダー・ボルトの発動を無効にして破壊する」

 

 F.A.ライトニングマスターは効果でレベルの数×300が攻撃力の数値となる。この効果の発動でレベルは5になり、クロシープの効果で受けている強化と合わせても2200まで下降した。

 

F.A.ライトニングマスター 星7→星5 ATK2800→ATK2200

 

「でも、これで魔法・罠カードを止める手段は無くなった。あたしは手札から魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! 手札1枚をコストにデッキから攻撃力3000以上守備力2500以下のドラゴン族モンスター2体を手札に加えるわ。あたしは伝説の白石をコストにデッキから条件を満たすブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと青眼の亜白龍を手札に加える。そして墓地に送られた伝説の白石の効果で青眼の白龍1体を手札に加えるわ!」

「……2枚の消費で3枚のカードをサーチ。中々やるのね」

「それはどうも。でも褒めてくれたって手加減なんてしてあげないんだから! 手札の青眼の白龍を見せることで、青眼の亜白龍は手札から特殊召喚できるわ! そして更に魔法カード、トレード・インを発動。レベル8のモンスターをコストにデッキから2枚ドロー! 更に手札から儀式魔法、カオス・フォームを発動! 手札のレベル8、青眼の白龍をリリースし、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!」

 

 鈴のフィールドには彼女のデッキのエースモンスターであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンおよび青眼の1体である青眼の亜白龍が並ぶ。どちらも遊希の竜儀巧2体の攻撃力を上回っていないが、他のモンスターを撃破するには十分だった。

 

「バトルよ!」

「待って。メインフェイズ1終了時にメテオニス=DRAの効果を発動するわ。墓地のドライトロンモンスターをゲームから除外することで相手フィールドの表側表示のカード1枚を墓地に送る。カオス・MAXは相手の効果を受けないけど、亜白龍はこれで対処させてもらうわ。私は墓地のアルζを除外し、亜白龍を墓地へ送る」

 

 天空から降り注いだ星の光が亜白龍を跡形もなく消し去る。亜白龍の消滅によって、鈴のフィールドに残ったのはカオス・MAXのみになってしまった。一応遊希の墓地リソースを割けたとはいえ、ここで攻め込むための駒を一つ失ったのは決して良いこととは言い切れない。

 

(……効果を発動してもサウラヴィスに止められていたし、ここは割り切るしかないわね)

「バトルよ! カオス・MAXでクロシープを攻撃!“混沌のマキシマム・バースト”!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS クロシープ ATK700

 

遊希 LP8000→LP4700

 

「クロシープがフィールドを離れたことで、クロシープの強化効果は失われるわ」

 

竜儀巧-メテオニス=DRA ATK4700→ATK4000

竜儀巧-メテオニス=QUA ATK3700→ATK3000

F.A.ライトニングマスター 星5 ATK2200→ATK1500

 

「あたしはバトルフェイズを終了。あたしにはまだ通常召喚権が残っている。あたしは太古の白石を通常召喚。そしてこのモンスターを素材にリンクリボーをリンク召喚! これでターンエンド。そしてターン終了時に墓地に送られた太古の白石の効果を発動! デッキから深淵の青眼龍を特殊召喚!」

 

深淵の青眼龍 DEF2500

 

「そして特殊召喚に成功した深淵の青眼龍の効果を発動するわ!」

 

 深淵の青眼龍は特殊召喚に成功した場合にデッキから融合カードおよび儀式魔法1枚を手札に加える効果が発動でき、そして自分のエンドフェイズにデッキからレベル8以上のドラゴン族モンスター1体を手札に加えることができる効果を持っている。太古の白石の効果で自分ターンのエンドフェイズに特殊召喚に成功したため、深淵の青眼龍の効果を二つ同時に発動できるのだ。

 

「あたしは特殊召喚成功時の効果でデッキから高等儀式術を手札に加える。そして自分エンドフェイズにもう一つの効果を発動! デッキから2体目のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを手札に加えるわ!」

―――うん、2体目のカオス・MAXを儀式召喚するための準備が整った。

―――次のターンの遊希の動きをよく見ておかないとね!

―――だが、油断は禁物だ。私たちのターンが終わったことで、メテオニス=QUAの攻撃力が元の4000に戻る。

 

竜儀巧-メテオニス=QUA ATK3000→ATK4000

 

 

遊希 LP4700 手札1枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:3(竜儀巧-メテオニス=DRA、竜儀巧-メテオニス=QUA、F.A.ライトニングマスター)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:11 除外:1 EXデッキ:11(0)

鈴 LP8000 手札3枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、深淵の青眼龍)EXゾーン:1(リンクリボー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:8 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

 

遊希

 □□□□□

 QD□□F□

  リ □

□深□M□□

 □□□□□

 

 

○凡例

M・・・ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン

深・・・深淵の青眼龍

 

 

☆TURN03(遊希)

 

「私のターン、ドロー。私は2体の竜儀巧を攻撃表示に変更」

 

竜儀巧-メテオニス=DRA ATK4000

竜儀巧-メテオニス=QUA ATK4000

 

(攻めてくる……!)

 

「バトル! 竜儀巧-メテオニス=QUAでブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを攻撃!!」

「させないわ、相手モンスターの攻撃宣言時にリンクリボーをリリースして効果を発動! そのモンスターの攻撃力をターン終了時まで0にする! メテオニス=QUAの攻撃力は0よ!」

 

竜儀巧-メテオニス=QUA ATK4000→ATK0

 

 儀式召喚されているメテオニス=QUAは破壊されることで墓地のドライトロンモンスターを攻撃力の合計が4000になるように任意の数だけ選んで特殊召喚することができる。もしここでメテオニス=QUAとカオス・MAXが相討ちになれば、墓地の下級ドライトロンモンスターを更に展開される恐れがあり、そのため鈴は敢えてリンクリボーの効果をメテオニス=QUAに使用したのだ。

 

「メテオニス=QUAの攻撃を中止するわ。でも、私にはまだ竜儀巧-メテオニス=DRAがいる。メテオニス=DRAでブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを攻撃!」

「迎撃して、カオス・MAX!!」

 

竜儀巧-メテオニス=DRA ATK4000 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

 同じ攻撃力のモンスター2体の戦闘によって、カオス・MAXとメテオニス=DRAは相討ちになる。残るライトニングマスターはそもそも守備表示のため攻撃できず、結果的に鈴のライフは1も削られることなく残すことができた。

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移るわ。私は墓地のエルγの効果を発動。フィールドの儀式モンスター、メテオニス=QUAをリリースし、このカードを墓地から守備表示で特殊召喚。そして自身の効果で特殊召喚に成功したエルγの効果で墓地のバンαを守備表示で特殊召喚するわ」

 

 これで遊希のフィールドには2体の下級ドライトロンとライトニングマスターの3体。大型モンスターが全て消滅したこともあって、陣容自体は決して見栄えのいいものではない。しかし、そんな状況においても決して手を緩めないのが天宮 遊希というデュエリストだ。

 

「私は墓地の流星輝巧群の効果を発動。フィールドのエルγの攻撃力を相手ターン終了時まで1000下げることでこのカードを手札に加える」

 

竜輝巧-エルγ ATK2000→ATK1000

 

―――エルγの攻撃力が1000になったことで、ドライトロン2体で墓地のメテオニス=DRAかQUAを儀式召喚することができなくなったか。

―――ライトニングマスターを含めれば4000を超えるけど……

―――汎用性の高いライトニングマスターを捨てるのはリスキーだよね。鈴の手札には2枚目のカオス・MAXと高等儀式術があるわけだし……

 

 少なくともこのターン、儀式召喚はもう行われない。そう思っていた鈴たちであったが。

 

「私は……レベル1のバンαとエルγでオーバーレイ!」

 

 彼女たちはある意味基本的なことを見落としていた。遊希はそもそもX召喚を最も得意とするデュエリストだということを。

 

「えっ……エクシーズ召喚!?」

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れなさい、ランク1《LL-アセンブリー・ナイチンゲール》!」

 

《LL-アセンブリー・ナイチンゲール》

エクシーズ・効果モンスター

ランク1/風属性/鳥獣族/攻0/守0

レベル1モンスター×2体以上

(1):このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×200アップする。

(2):このカードは直接攻撃でき、X素材を持ったこのカードは、その数まで1度のバトルフェイズに攻撃できる。

(3):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。ターン終了時まで、自分フィールドの「LL」モンスターは戦闘・効果では破壊されず、自分が受ける戦闘ダメージは0になる。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「アセンブリー・ナイチンゲールの攻撃力はオーバーレイユニットの数×200のアップ。よって攻撃力は400。まあ守備表示だからそんなに意味を為さないけど」

 

LL-アセンブリー・ナイチンゲール ORU:2 DEF0

 

「私はこれでターンエンド」

 

 

遊希 LP4700 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:2(F.A.ライトニングマスター、LL-アセンブリー・ナイチンゲール ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:11 除外:1 EXデッキ:10(0)

鈴 LP8000 手札3枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(深淵の青眼龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:10 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

遊希

 □□□□□

 □□ア□F□

  □ □

□深□□□□

 □□□□□

 

○凡例

ア・・・LL-アセンブリー・ナイチンゲール

 

 

☆TURN04(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!」

―――アセンブリー・ナイチンゲールを守備表示で……

―――効果で破壊と戦闘ダメージを防げるとはいえ、見え見えの罠ではあるな。

―――そのままだとカオス・MAXの餌だもんねー。

(……遊希のことだから何か狙っているのは間違いない。だけど、相手が何重にも作戦を考えているなら、あたしたちはそれを一つ一つ解していくだけ)

「深淵の青眼龍を攻撃表示に変更してバトル! F.A.ライトニングマスターを攻撃!“深淵のディープ・ストリーム”!」

 

深淵の青眼龍 ATK2500 VS F.A.ライトニングマスター DEF2000

 

「ライトニングマスター、撃破! これであたしの魔法・罠カードを止めることはできなくなったわ! メインフェイズ2に移行し、あたしは手札の高等儀式術を発動! デッキから青眼の白龍1体を墓地へ送り、手札のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!!」

「2体目のカオス・MAX……」

「あたしはこれでターンエンド。そしてターン終了時に深淵の青眼龍の効果を発動。デッキからレベル8以上、ドラゴン族モンスター、ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンを手札に加える」

―――ディープアイズか……

(うん。遊希があたしを助けてくれた時に使ってくれたカードだからね)

 

 

遊希 LP4700 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(LL-アセンブリー・ナイチンゲール ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:12 除外:1 EXデッキ:10(0)

鈴 LP8000 手札3枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、深淵の青眼龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

遊希

 □□□□□

 □□ア□□□

  □ □

□深□□M□

 □□□□□

 

 

☆TURN05(遊希)

 

「私のターン、ドロー。アセンブリー・ナイチンゲールを攻撃表示に変更し、バトル!」

―――いきなりバトル!?

―――……手札事故を起こしてるとか?

「アセンブリー・ナイチンゲールはオーバーレイユニットの数だけ相手にダイレクトアタックができる。よって2回の攻撃が可能」

 

LL-アセンブリー・ナイチンゲール ORU:2 ATK400×2

 

鈴 LP8000→7200

 

「……あなたは私に“直接攻撃”を許した。その重みがわかる?」

「……どういうこと?」

「教えてあげる。まずはランク1のアセンブリー・ナイチンゲールでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズチェンジ。ランク4の《ダウナード・マジシャン》をX召喚」

 

《ダウナード・マジシャン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/魔法使い族/攻2100/守200

魔法使い族レベル4モンスター×2

このカードは自分メインフェイズ2に、自分フィールドのランク3以下のXモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×200アップする。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(3):このカードが戦闘を行ったダメージ計算後に発動する。このカードのX素材を1つ取り除く。

 

「ダウナード・マジシャンは自分メインフェイズ2に私のフィールドのランク3以下のXモンスターの上に重ねてX召喚することもできる。そして攻撃力はオーバーレイユニットの数×200アップ」

 

ダウナード・マジシャン ORU:3 ATK2100→ATK2700

 

「そして―――このモンスターはXモンスターが戦闘を行ったターンに1度、自分フィールドのXモンスターに重ねてX召喚できる。ダウナード・マジシャンでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――現れなさい、最高神の名をその身に宿し戦機。ランク12《天霆號(ネガロギア)アーゼウス》!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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絆の龍(修正済み)

 

 

 

「ラ、ランク12のXモンスター!?」

 

《天霆號アーゼウス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク12/光属性/機械族/攻3000/守3000

レベル12モンスター×2

「天霆號アーゼウス」は、Xモンスターが戦闘を行ったターンに1度、自分フィールドのXモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。このカード以外のフィールドのカードを全て墓地へ送る。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。手札・デッキ・EXデッキからカードを1枚選び、このカードの下に重ねてX素材とする。

 

天霆號アーゼウス ORU:4 DEF3000

 

「私はこれでターンエンド。さて……このモンスターを前にあなたはどうするのかしら? 次のターンが楽しみね」

「っ……」

 

 

遊希 LP4700 手札3枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(天霆號アーゼウス ORU:4)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:12 除外:1 EXデッキ:8(0)

鈴 LP7200 手札3枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、深淵の青眼龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:13 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

遊希

 □□□□□

 □□天□□□

  □ □

□深□□M□

 □□□□□

 

○凡例

天・・・天霆號アーゼウス

 

 

☆TURN06(鈴)

 

―――鈴、あのモンスターはオーバーレイユニットを2つ消費することで自身以外のフィールドのカードを全て墓地へ送る効果を持っている。墓地へ送る効果だからカオス・MAXでも防げない。

―――でもって、その効果は相手ターンでも発動できるってマジヤバいじゃん……

―――……攻撃力が3000というのが唯一の救い……救いなのかなぁ……

 

 攻撃力が3000ということが救い、という青眼の言葉に少しだけ眩暈がしてくる鈴。それでも彼女の言う通り、残りライフが7200である以上アーゼウス“単体”の攻撃であれば2発は耐えられるということでもある。

 

(アーゼウスの効果は味方も巻き込む。遊希にとってはそう連発できないはず)

「あたしのターン、ドロー! あたしは伝説の白石を召喚!」

「……その召喚にチェーンして天霆號アーゼウスの効果を発動するわ! オーバーレイユニットを2つ取り除き、自身以外のフィールドの全てのカードを墓地へ送る! 神の雷霆の裁きを受けなさい!!」

 

天霆號アーゼウス ORU:4→2

 

 アーゼウスから放たれた雷霆が互いのフィールドを焦土へと変える。神の名を冠した雷の前にカオス・MAX、深淵の青眼龍、伝説の白石の3体は為す術もなく消滅させられてしまった。

 

(青眼、ごめんね……)

―――ううん、気にしないで鈴……

「墓地へ送られた伝説の白石の効果を発動するわ。デッキから3体目の青眼の白龍を手札に加える。あたしは……これでターンエンド」

 

 結局フィールドをがら空きにした状態でターンを回すことになってしまった鈴。しかし、彼女の眼に絶望はなかった。むしろ逆境にありながらも決して下を向かず、諦めを感じさせない様は遊希にわずかながらの動揺を呼び起こした。

 

(あの子……アーゼウスを恐れていない。あの手札の中にアーゼウスを攻略し、私を倒す算段があるとでもいうの?)

 

 遊希は微かに頭が痛むような感じがした。三蔵法師の読経によって金環が軋む孫悟空のような、締め付けるような痛みだ。遊希は目をつぶり、頭を数度振ると改めて鈴を見据えた。

 

(……何なの、このもやもやとした気持ち。どうして、私は……あの子を見て……)

 

 

遊希 LP4700 手札3枚

デッキ:27 メインモンスターゾーン:1(天霆號アーゼウス ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:1 EXデッキ:8(0)

鈴 LP7200 手札3枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

遊希

 □□□□□

 □□天□□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

 

 

☆TURN07(遊希)

 

「私のターン、ドロー。残念ね、結局何もできずに終わるなんて」

「……まだ終わるなんて決まってないよ。デュエルはライフが1でも残っている限り、最後の最後まで諦めないことが大事。それを、あたしはあんたから学んだんだよ、遊希」

「……気安いわね。まるで友達みたいにぺらぺらと歯の浮くような言葉を……だったら思い知らせてあげる。あなたの考えが間違っているということを! 私はフィールド魔法《竜輝巧-ファフニール》を発動!」

 

《竜輝巧-ファフニール》

フィールド魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「竜輝巧-ファフニール」以外の「ドライトロン」魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。

(2):儀式魔法カードの効果の発動及びその発動した効果は無効化されない。

(3):1ターンに1度、自分フィールドに「ドライトロン」モンスターが存在する状態で、モンスターが表側表示で召喚・特殊召喚された場合に発動できる。このターン、その表側表示モンスターのレベルは、その攻撃力1000につき1つ下がる(最小1まで)。

 

「ファフニール発動時の効果処理で、私はデッキから竜輝巧-ファフニール以外のドライトロン魔法・罠カード1枚を手札に加える。私は2枚目の流星輝巧群を手札に加えるわ。そして墓地のエルγの効果を発動! 手札の儀式モンスター、古聖戴サウラヴィスをリリースし、このカードを墓地から特殊召喚! そしてエルγの効果で墓地のバンαを特殊召喚!」

「2体のドライトロン……」

「儀式魔法、流星輝巧群を発動! フィールドの攻撃力2000のモンスター、バンαとエルγをリリースし、墓地から竜儀巧-メテオニス=DRAを儀式召喚!! 蘇りなさい、大いなる竜座の化身!」

 

 攻撃力4000の竜儀巧-メテオニス=DRAが冥府の底より舞い戻る。メテオニス=DRAが戻ると同時に遊希はアーゼウスを攻撃表示に変更した。

 

「バトル。思い知りなさい、あなたの、自分の無力さを!! アーゼウスでダイレクトアタック!“ゼロ・ケラウノス”!」

 

天霆號アーゼウス ATK3000

 

鈴 LP7200→LP4200

 

「っ……!!」

「まだよ! メテオニス=DRAでダイレクトアタック!“メテオニス・シューティングスター”!!」

 

竜儀巧-メテオニス=DRA ATK4000

 

鈴 LP4200→LP200

 

「きゃあああっ!!!」

 

 2体のモンスターの総攻撃によって、一気に鈴のライフ7000が消し飛ぶ。その余波はすさまじく、鈴はまるで大嵐に翻弄される木の葉のように吹き飛ばされては固い地面に叩きつけられる。

 

―――鈴!!

「……あれだけ粋がっていたのに、もう残りライフは200。不甲斐ないわね」

―――遊希……お前は……

 

 倒れた鈴を一瞥する遊希であるが、鈴はそれをもろともせずに立ち上がる。満身創痍といった状態の鈴であるが、立ち上がって所定の位置に戻る時でも余裕綽々といった様子を見せていた。

 

「不甲斐ない? それはどっちのことを言うのかしら?」

「……どういうつもり?」

「あたしのライフはまだ200も残ってる。その200のライフすら削り切れなかったあんたの方がよっぽど不甲斐ないと思わない? 少なくとも、いつもの遊希ならそんな詰めの甘いデュエルはしなかったわ!」

「っ……うるさいっ、うるさいっ! バトルフェイズを終了。私はこれで……ターンエンド!」

 

 鈴から手痛い言葉の一撃を受けた遊希は顔を真っ赤にして鈴を睨みつける。元来臆病な性格の遊希は感情表現があまり上手ではない。しかし、そのポーカーフェイスがデュエルにおいて活かされていた。だが、今の彼女からはそのポーカーフェイスすら失われている。その場にいた誰もがライフで勝っているはずの遊希が追い詰められているように感じていた。

 

(お姉さま、一体どうされたというのですか)

 

 そしてそれは遊希のデュエルを遊希の側から見守る遊望も同じだった。自分のところに連れてきてからというものの、一向に心を開こうとしない姉のの心を溶かすために、遊望はI2社で開発途中のカードを彼女に差し出した。遊望からしてみればあまり望ましいことではなかったが、天宮 遊希という少女の心を構築する最も大きなピースがデュエルモンスターズとなっていたのだ。

 背に腹は代えられない。そんな想いの下カードを差し出した。カードを見た遊希はまるで遊望のよく知る子供のころの遊希のような目の輝きを見せると、他のカードには目もくれず1時間足らずで【ドライトロン】デッキを組み上げ、自分のものにしたのだ。何故そのカードを選んだのか、ということには踏み入らなかった遊望であるが、このデュエルを見てその理由がわかったような気がした。

 

(……星乃 鈴は儀式青眼の使い手。お姉さまの心の中には、まだ星乃 鈴が残っていた……)

 

 

遊希 LP4700 手札2枚

デッキ:25 メインモンスターゾーン:2(竜儀巧-メテオニス=DRA、天霆號アーゼウス ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(竜輝巧-ファフニール)墓地:16 除外:1 EXデッキ:8(0)

鈴 LP200 手札3枚

デッキ:24 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:14(0)

 

遊希

 □□□□□

 D□天□□フ

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

 

○凡例

フ・・・竜輝巧-ファフニール

 

 

☆TURN08(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー!!……遊希、このデュエルあたしの勝ちよ!!」

「……っ、まだそんな世迷言を!!」

「世迷言なんかじゃない! あたしの頭の中にはこのデュエルに勝つための道筋が出来上がったわ! それを見せてあげる!! あたしは墓地の太古の白石の効果を発動! このカードをゲームから除外し、墓地のブルーアイズ1体を手札に戻す! あたしは青眼の亜白龍を手札に戻すわ。そして青眼の白龍を見せることで、青眼の亜白龍を特殊召喚!」

 

 青眼の亜白龍は自身の攻撃権を放棄する代わりに、相手フィールドのモンスター1体を破壊することができる。メテオニス=DRAは対象に取るモンスター効果に対して耐性を持つが、アーゼウスはそういった耐性を持ち併せていない。

 

「あたしは青眼の亜白龍の効果を発動、相手フィールドのモンスター1体を破壊するわ!」

「させない! 青眼の亜白龍の効果にチェーンしてメテオニス=DRAの効果を発動! 墓地の攻撃力2000モンスター、竜輝巧-エルγをゲームから除外し、相手フィールドのモンスター1体を墓地へ送る!」

 

チェーン2(遊希):竜儀巧-メテオニス=DRA

チェーン1(鈴):青眼の亜白龍

 

「でもその効果は効果の発動自体を無効にできない!」

 

 チェーン2のメテオニス=DRAの効果によって青眼の亜白龍はまたしても消滅させられる。しかし、今度はただ黙って破壊されることはない。亜白龍が死に際に放った一撃がアーゼウスを粉砕する。遊希にアーゼウスの効果を発動されなかった、ということは大きいが、彼女のフィールドに残ったのは戦闘面ではアーゼウスよりも強力なメテオニス=DRA。遊希を守るに立ちはだかるこのモンスターを超えなければ、鈴に勝ちはないのだ。

 

「……アーゼウスを倒したことは褒めてあげる。でも、メテオニス=DRAまでは超えられない」

「確かにモンスター単体の力だけじゃメテオニス=DRAを倒せない。でも、あたしのブルーアイズたちは強い絆で結ばれている。そして、その絆をより強くするのが―――あんたの残していったこのカードよ! 手札から魔法カード発動!」

 

 

 

 

 

―――フォトン・サンクチュアリ!!―――

 

 

 

 

「フォトン・サンクチュアリ……!?」

 

 フォトン・サンクチュアリは発動ターンに光属性以外のモンスターを特殊召喚できなくなる反面、フィールドに光属性のフォトン・トークン2体を特殊召喚することができるカードだ。遊希はこのカードを起点にデュエルを進めることが多く、間違いなく彼女にとって大切なカードの1枚であった。鈴はお守り代わりとして遊希が落としていったカード数枚をデッキに加えていたのだ。まるで遊希が鈴を助ける時にブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを自分のデッキに入れていた時のように。

 

「あたしのフィールドにフォトン・トークン2体を守備表示で特殊召喚! そしてこのフォトン・トークン2体をリリースし、青眼の白龍をアドバンス召喚!!」

 

 鈴のフィールドに降臨したのは青眼の白龍。デュエルモンスターズを代表するカードであるが、何の効果も持たない攻撃力3000のモンスター。遊希のフィールドに攻撃力で上回るメテオニス=DRAが存在する以上、このカードだけではこの状況を覆すことはできない。

 

「青眼の白龍……そんなモンスターをアドバンス召喚したからってどうだっていうの!」

「……そのそんなモンスターが、このデュエルを決めるのよ。あたしは墓地の深淵の青眼龍の効果を発動! このカードをゲームから除外することで、あたしのフィールドのブルーアイズモンスターの攻撃力を1000アップするわ!」

 

青眼の白龍 ATK3000→ATK4000

 

―――青眼の攻撃力がメテオニス=DRAに並んだ!

「メテオニス=DRAと相討ち狙い……あ、違う……」

 

 熱くなっている遊希であるが、それでも彼女は天才と言えるだけのデュエリストだ。故に彼女は覚えていた。鈴の手札には深淵の青眼龍の効果で手札に加えたあのカードが眠っていることを。

 

「バトル! 青眼の白龍で竜儀巧-メテオニス=DRAを攻撃!“滅びの爆裂疾風弾”!!」

「っ、迎撃しなさい、メテオニス=DRA!“メテオニス・シューティングスター”!!」

 

青眼の白龍 ATK4000 VS 竜儀巧-メテオニス=DRA ATK4000

 

 白龍と竜座の化身は猛烈な光に飲み込まれて消滅していく。そして斃れた白龍の亡骸からまるで新たな命が生まれるかのように1体のドラゴンが舞い上がった。ブルーアイズモンスターの破壊をトリガーに特殊召喚が可能なモンスター、ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンだ。

 

「あ、ああっ……」

「……あんたは、前にこのカードであたしのことを助けてくれた。今度はあたしがディープアイズであんたを助ける番よ! 特殊召喚に成功したディープアイズの効果を発動! 墓地のドラゴン族モンスターの種類×600ポイントのダメージを与える!」

 

 鈴の墓地に眠るドラゴン族モンスターは、青眼の白龍が3体、青眼の亜白龍が2体、伝説の白石が2体、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが2体、そしてトレード・インのコストで墓地に送ったレベル8のドラゴン族モンスター、白き霊龍の計10体。種類に変換すれば5種類だ。

 

「ディープアイズ、全部ぶつけて。悲しみでも怒りでもない―――あたしと遊希の絆の力を!!」

 

 墓地に眠るドラゴンたちの想いを一身に背負ったディープアイズの放った光が、遊希を飲み込んでいく。

 

遊希 LP4700→LP1700

 

「きゃああっ!!」

 

 遊希がディープアイズを使って鈴とのデュエルに終止符を打った時はこのバーンダメージだけでそのデュエルを終わらせていた。鈴はこの効果だけでデュエルを終わらせた遊希とそうでない自分の差を感じざるを得なかった。

 

(あたしは、遊希の足元にも及ばない―――でも!!)

「バトル! 特殊召喚に成功したディープアイズは墓地のドラゴンの力をその身に宿す! カオス・MAXの魂を受け継ぎなさい!!」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK4000

 

「攻撃力……4000……そんな、どうして、私が……負ける?」

「遊希、普段ならともかく、今のあんたじゃ私には勝てない。痛いかもしれないけど、我慢して。バトル、ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンでダイレクトアタック!!」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK4000

 

 

遊希 LP1700→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最後の決戦

 

 

 

 

 

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「……っ!!」

「―――遊希、これで最後。あんたを助けてあげる!!」

 

 ディープアイズの放った鮮烈にして美麗なる光が遊希を包み込んでいく。これはあの時の恩返し。そんな意味合いの込められたディープアイズの一撃が、この悲しきデュエルに幕を下ろした。

 

遊希 LP1700→0

 

 

 

「遊希!」

 

 ライフが0になり、敗れた遊希は気を失ってしまったのか、そのまま前に倒れそうになる。それに気がついた鈴は自分でも驚くような速さで彼女の下に駆け寄ると、崩れ落ちた彼女の身体をぎゅっと抱き抱えた。

 不本意なデュエルとはいえ、このデュエルは鈴の勝利に終わった。本来のデッキではないとはいえ、持てる力を互いに出しつくせたのだから両者ともに悔いはない。負けたとはいえ鈴といいデュエルができたことに満足がしたのか、充実した様子の遊希は実に穏やかな寝顔を見せていた。

 

(光子竜、遊希は……)

―――大丈夫だ、疲れが溜まっていたのだろう。眠っているだけだ。

 

 光子竜の言う通り、遊希は鈴の腕の中で小さく寝息を立てているため、デュエルに敗れたからといっていつ目覚めるかどうかわからない眠りに落ちる、ということはないだろう。その事実だけでも鈴たちにとっては救いだった。

 

「遊希、ゆっくりお休み。さてと……次はあなたの番だよ」

 

 そう言って鈴はその場に遊希を横たわらせる。そして遊希を守るかのように彼女の前に立つと、いよいよ本丸となる相手と対峙した。

 

「……まさか、あなたがお姉さまにデュエルで勝つなんて……」

 

 遊望はその表情こそ氷のように冷淡に見えるが、遊希が鈴に敗れたことに対して少なからず動揺しているようだった。

 

「あたしもそれだけ修練を積んだってことだよ。あんたに無力って言われたことが悔しかったからね」

「精霊を宿したのみならず、お姉さまやエヴァ・ジムリア……本来の宿主の下から離れた精霊とも心を通わせることができる。あなたも紛れもなく精霊使いなのでしょう。無力と言ったことは詫びます」

 

 そう言って遊望はペコリと頭を下げた。元々の性根が礼儀正しい彼女はその辺りの謝罪はできるのだろう。それを見て鈴は一縷の望みに賭けることにした。

 

「へへっ、あたしの力を認めてくれるんだ。じゃあさ……あたしたちと一緒に来ない?」

―――鈴!?

 

 鈴の脳裏に精霊たちの驚く声が響く。これまで遊望がしてきたことを考えると、とてもそんなことは言えたものではないからだ。

 

「……はい?」

 

 そして、そんな突拍子もない鈴の提案に驚いたのは遊望も一緒だった。しかし、鈴はこのような提案を何も思いつきで言っているわけではない。

 

「今のあんたは精霊になっているんけど、元々は人間だし人間としても過ごすことができるはずだよ。それに……遊希はずっと悲しんでいた。あんたやご両親を守れなかったことをずっと悔やんでいた。あたしとしては、そんなあの子の想いを汲んであげたいって思ってるんだ」

「そうですか……あなたはとても、優しいのですね」

 

 そう言って微笑んだ遊望の笑顔はたまに遊希が見せるそれと同じように愛らしいものだった。

 一度命を落としながらも精霊となって生まれ変わった彼女だが、元々は人間の少女である。精霊として新しい命を得たとしても、人の姿をしているのだから人間の世界でも暮らせないわけがない。仮に何か不都合が生じたとしても、遊希はもちろん自分たちだって遊望のことを守ることができるからだ。

 遊望の笑顔を見た鈴は彼女の心の奥に眠っていた人間だったころの優しい心が目覚めたのだと確信した。そしてその手を遊望に向けて差し出したのである。

 

「一緒に……行きましょう?」

「……はい」

 

 鈴の差しだした手を遊望が手に取ろうとした瞬間だった。

 

―――鈴、離れてっ!!

 

 青眼の叫びと同時に鈴はそして何が起きたかわからないまま遊望に差し出した手を引いた。鈴の眼に映ったのは片方の手に握られていた剣を振るう遊望の姿だった。

 時空竜を模した装飾がついたを剣を振るう遊望の眼はいつにもなく冷酷であり、そしていつにもなく憐れみを帯びていた。

 

「な、なにを……」

「うふふっ、あなたは本当に優しいのですね。優しくて……そして悲しいほど愚かです。精霊を使いこなせるのだから少しは成長したのかと思いきや、まさか前より頭が弱くなっているとは……」

 

 そう言って高笑いする遊望。鈴は遊望を説得すればこれ以上誰も傷つくこと帰ることができるのではないか、と思っていた。しかし、今の遊望を見てその考えがやはり甘かったということを思い知らされた。

 

「とてもお優しくて、とても愚かなあなたは私を受け入れられると本気で思っているのでしょうが、私は違います。そもそも私とお姉さまの世界に他の人間など必要ありません。私とお姉さまは二人で、失われた姉妹の時を取り戻すのです。このまま全てを丸く収めようなどと……反吐が出る!!」

 

 穏やかな笑みが一転、まるで燃え上る業火の如く苛烈な目つきでこちらを睨みつける遊望。どうやら鈴の提案は火に油を注ぐ形になってしまったようだ。

 

「うーん……まあ、そう上手くは行かないよね」

―――当たり前でしょ……もうっ!

 

 改めて遊望と距離を取った鈴は再度デュエルディスクを起動する。遊希とのデュエルが終わってからまだ10分も経っていないが、どちらにせよ遊望との連戦になることは覚悟の上で臨んでいた。擦り切れそうな神経を更に研ぎ澄まし、目の前の敵に集中する。

 

―――鈴。お前の身体は……精霊三体を同時に使役するというのは相当の負担なはずだ。

(うん、ぶっちゃけこのまま倒れてあったかい布団で寝たいレベルに疲れてる。でも、それでもあたしがやらなきゃいけない。あたしがやらなきゃ誰がやるっていうの?)

―――……愚問だったな。

(そうだよ。でも、単に宿られてるだけだと割に合わないからさ。青眼、スカーライト、光子竜。みんなもあたしに力を貸して!)

 

 精霊三体を従え、デュエルに臨もうとする鈴を見た遊望もまたデュエルディスクを顕現させると戦闘態勢を取る。先ほどの憤怒の表情を残しつつ、まるで弱者を見るような眼で彼女は鈴たちを見つめていた。

 

「……いいでしょう。ならばあなた諸共その精霊たちはデュエルで屠って差し上げます。それこそ二度と立ち上がれなくなるまでに!!」

「前までのあたしとは違う。それを教えてあげる」

 

 デュエルが始まるにあたって鈴は遊望に先攻後攻の決定権を譲った。デュエルモンスターズのルールではドローこそできないが、基本的には先攻有利のゲームである。

 しかし、以前先攻を取った結果鈴は遊望に後攻ワンキルを許す結果になってしまった。あの時は初見殺しということもあったのだが、先攻を取ったところであの時と同じ轍を意図せず踏んでしまえば元も子もない。

 それを警戒した彼女は敢えて遊望に先攻後攻の決定権を譲ったのである。遊望は少し意外そうに首を傾げながらも貰えたことに素直に喜んで先攻を取った。

 

「言っておきますが、先攻後攻の決定権を私に譲渡したのはあなたですからね? それを負けの言い訳にしないでくださいよ」

「……わかってるわよ、そんなこと」

 

 星乃 鈴と天都 遊望。二人のデュエリストによる、最後の決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

先攻:遊望【銀河眼の時空竜】

後攻:鈴【儀式青眼】

 

 

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:55 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

―――デッキ60枚!? 隣の芝刈りでも使うつもりなのかな??

―――わからないが、枚数が多いからと言って気を抜くなよ。枚数が多いということはそれだけ取れる手が多いということなのだからな。

 

 

☆TURN01(遊望)

 

「私のターン。私は手札から魔法カード《混沌領域》を発動」

 

《混沌領域》(カオス・テリトリー)

通常魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札から光属性または闇属性のモンスター1体を墓地へ送って発動できる。そのモンスターとは属性が異なり、レベル4~8の通常召喚できない光・闇属性モンスター1体をデッキから手札に加える。

(2):墓地のこのカードを除外し、除外されている自分の通常召喚できない光・闇属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキの一番下に戻す。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

 

「私は手札の闇属性モンスター《ドラゴンメイド・チェイム》を墓地へ送って1つ目の効果を発動します。デッキからそのモンスターとは属性が異なり、レベル4から8までの通常召喚できない光・闇属性モンスター1体を手札に加えます」

「いきなりサーチカード……混沌領域の発動にチェーンして手札から増殖するGの効果を発動!」

「やはり持っていましたか。ですが問題ありません。増殖するGの発動にチェーンしてこちらは灰流うららをチェーンします」

「っ……!」

 

チェーン3(遊望):灰流うらら

チェーン2(鈴):増殖するG

チェーン1(遊望):混沌領域

 

「チェーン3の灰流うららによってチェーン2の増殖するGの効果の発動は無効。いいですね?」

「……あたしの増殖するGの効果は無効になるわ」

「では、チェーン1の混沌領域の効果を適用します。私が手札に加えるのはレベル4・光属性の輝白竜ワイバースター。そして墓地の闇属性モンスター、ドラゴンメイド・チェイムを除外してワイバースターを特殊召喚します」

 

 遊望が取ってきた戦法は輝白竜ワイバースター、そして対となる効果を持った暗黒竜コラプサーペントを絡めてくるであろうコンボ。いわゆる【ドラゴンリンク】デッキが得意とする戦法である。

 しかし、皐月が自身のヴァレットデッキでこの戦法を使っていた頃と比べるとキーカードである守護竜アガーペイン、守護竜エルピィの2体のリンクモンスターが禁止指定されているために本来の力は発揮できなくなっていた。もちろんそれでも油断はならないものであり、特殊召喚を多用するこのデッキに刺さるものとして是が非でも増殖するGは通しておきたかった。

 

「ワイバースターをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク1のストライカー・ドラゴンをリンク召喚します。そしてリンク召喚に成功したストライカー・ドラゴンおよび墓地に送られたワイバースターの効果を発動します」

 

チェーン2(遊望):輝白竜ワイバースター

チェーン1(遊望):ストライカー・ドラゴン

 

「チェーン2のワイバースターの効果でデッキから暗黒竜コラプサーペントを手札に加え、チェーン1のストライカー・ドラゴンの効果でデッキからフィールド魔法、リボルブート・セクターを手札に加えます。そして墓地の光属性モンスター、ワイバースターをゲームから除外し、コラプサーペントを特殊召喚。私はストライカー・ドラゴンとコラプサーペントをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク2のドラグニティナイト-ロムルスをリンク召喚。墓地へ送られたコラプサーペントの効果、そしてリンク召喚に成功したロムルスの効果を発動します」

 

チェーン2(遊望):暗黒竜コラプサーペント

チェーン1(遊望):ドラグニティナイト-ロムルス

 

「チェーン2のコラプサーペントの効果で2枚目のワイバースターを手札に加えます。そしてチェーン1のロムルスの効果で更にドラグニティの神槍を手札に加えます。さて、ワイバースターおよびコラプサーペントの自身の効果による特殊召喚は1ターンに1度まで。なので墓地の混沌領域の2つ目の効果を発動します。墓地のこのカードを除外し、除外されている1枚目のワイバースターをデッキボトムに戻して1枚ドローです。そしてロムルスの効果で手札に加えた装備魔法、ドラグニティの神槍を発動」

 

《ドラグニティの神槍》

装備魔法

「ドラグニティ」モンスターにのみ装備可能。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):装備モンスターは、攻撃力が装備モンスターのレベル×100アップし、罠カードの効果を受けない。

(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキからドラゴン族の「ドラグニティ」チューナー1体を選び、このカードの装備モンスターに装備カード扱いとして装備する。

 

「ロムルスにこのカードを装備。そして2つ目の効果を発動。デッキからドラゴン族のドラグニティチューナー1体を選んでこのカードの装備モンスターに装備カード扱いとして装備します。私はデッキから《ドラグニティ-クーゼ》を装備します。そして装備されているドラグニティ-クーゼの効果を発動」

 

《ドラグニティ-クーゼ》

チューナー・効果モンスター

星2/風属性/ドラゴン族/攻1000/守200

このカードをS素材とする場合、「ドラグニティ」モンスターのS召喚にしか使用できない。

(1):フィールドのこのカードをS素材とする場合、このカードのレベルを4として扱う事ができる。

(2):このカードが装備カード扱いとして装備されている場合に発動できる。装備されているこのカードを特殊召喚する。

 

「装備カード扱いとして装備されているクーゼは特殊召喚できます。更に手札の《ドラグニティ-レムス》の効果を発動」

 

《ドラグニティ-レムス》

チューナー・効果モンスター

星2/風属性/ドラゴン族/攻800/守800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、

このカードをS素材とする場合、「ドラグニティ」モンスターのS召喚にしか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「竜の渓谷」1枚を手札に加える。

(2):自分フィールドに「ドラグニティ」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。このターン、自分はドラゴン族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

「このカードを手札から捨てて1つ目の効果を発動。デッキから竜の渓谷を手札に加えます。そして竜の渓谷を発動。手札1枚をコストに2つある効果のうち私はデッキからレベル4以下のドラグニティ1体を手札に加える効果を適用します。私はこの効果で《ドラグニティ-ドゥクス》を手札に。そして墓地のレムスのもう一つの効果を発動。墓地からこのカードを特殊召喚します」

 

 ドラグニティ-レムスの2つ目の効果を発動した場合、遊望はこのターンドラゴン族以外のモンスターをEXデッキから特殊召喚することができなくなる。最も彼女のデッキ内容から考えるとEXデッキのモンスターは全てドラゴン族で統一されていても何らおかしなことではないのだが。

 

「私はドラグニティ-クーゼをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。守護竜ピスティをリンク召喚。そしてリンク2のロムルスとレムスをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク3、スリーバーストショット・ドラゴン」

 

 涼し気でありながらも、至って無機質に、抑揚のない声で連続リンク召喚を決める遊望。自身の効果で除外されたレムスであるが、ピスティの効果を使えば呼び戻すことも容易。故にそのデメリット効果も全く気にせずに展開できるのだ。

 

「ピスティのリンクマーカーは右を向き、スリーバーストのリンクマーカーは真下を向いている。これでピスティの効果を発動できるようになりました。ピスティの効果で私は除外されているドラゴン族モンスター、ドラゴンメイド・チェイムを特殊召喚します」

 

《ドラゴンメイド・チェイム》

効果モンスター

星4/闇属性/ドラゴン族/攻500/守1800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドラゴンメイド」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2):自分・相手のバトルフェイズ開始時に発動できる。このカードを持ち主の手札に戻し、自分の手札・墓地からレベル7以上の「ドラゴンメイド」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「レムスじゃない……」

「もちろんレムスを戻して再展開、というのも狙えましたが……そもそもあなたを倒すのにレムスの効果を二度も発動させる必要性が薄いと感じられましたので。さて、特殊召喚に成功したチェイムの効果を発動します。デッキからドラゴンメイド魔法・罠カード1枚を手札に加えます。私が手札に加えるのは《ドラゴンメイドのお心づくし》です。さて、長々とやらせて貰っていますが、あなたもお気づきの通り私はまだモンスターを通常召喚していません。その意味……わかりますよね?」

 

 そう言ってクスクスを愛らしくも意地の悪い笑みを浮かべる遊望。遊希にデュエルで勝ったとはいえ、今の鈴を彼女はそう評価していない、ということがその面持ちから現れていた。しかし、それはただ意地悪に笑っているだけではない。それは圧倒的上位に立つ自分が目下の鈴をこれから全力で仕留めに行く。その笑顔にはそんな意味が込められており、鈴はそこから始まる遊望の全力を受け切らなければならない、ということに他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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精霊との絆

 

 

 

 

 

「……わかってるわよ、そんなこと。言っておくけど、今のあたしにあんたの展開を止める手段はないよ」

 

 本当ですか、と鈴の言葉に半信半疑な様子を見せる遊望。こういった駆け引きもデュエルモンスターズの醍醐味と言えば醍醐味なのだが、今の遊望からしてみれば仮に鈴のこの言葉が嘘か真かは関係のないことだった。仮に鈴の残り4枚の手札に妨害札があったとしても、勝利は自分にあると信じているのだから。

 

「そうですか。では遠慮せず行かせて頂きます。ドラグニティ-ドゥクスを召喚」

 

《ドラグニティ-ドゥクス》

効果モンスター

星4/風属性/鳥獣族/攻1500/守1000

(1):このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地のドラゴン族・レベル3以下の「ドラグニティ」モンスター1体を対象として発動できる。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、自分フィールドの「ドラグニティ」カードの数×200アップする。

 

ドラグニティ-ドゥクス ATK1500→ATK1700

 

「召喚に成功したドゥクスの効果を発動します。墓地のドラグニティ-クーゼをこのカードに装備」

 

ドラグニティ-ドゥクス ATK1700→ATK1900

 

「そしてクーゼを自身の効果で特殊召喚。レベル4のドゥクスに、レベル2のクーゼをチューニング。シンクロ召喚、レベル6《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》」

 

《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1200

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した時、自分の墓地のドラゴン族・レベル3以下の「ドラグニティ」モンスター1体を対象として発動できる。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):1ターンに1度、このカードに装備された自分フィールドの装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで倍になる。

 

「S召喚に成功したヴァジュランダの効果で再度クーゼをヴァジュランダに装備。そしてクーゼを自身の効果で特殊召喚。クーゼはS素材にする場合、そのレベルを4として扱うこともできます」

 

 レベル2もしくはレベル4として扱えるクーゼであるが、S召喚先はドラクニティSモンスターに限られる。そのため利便性で言えば同じドラグニティのチューナーでも扱いやすい《ドラグニティ-ファランクス》に軍配が上がる。それを知った上でクーゼをチューナーに選んだということは、彼女の狙いも自ずと絞られる。

 

「私はレベル6のドラグニティナイト-ヴァジュランダに、レベル4となったドラグニティ-クーゼをチューニング。“太陽神が持ちし炎の槍よ。その命を竜に変え、あらゆるものを滅殺せよ”。シンクロ召喚、《ドラグニティナイト-アラドヴァル》」

 

《ドラグニティナイト-アラドヴァル》

シンクロ・効果モンスター

星10/風属性/ドラゴン族/攻3300/守3200

「ドラグニティ」チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手がモンスターの効果を発動した時、自分の墓地から「ドラグニティ」モンスター1体を除外して発動できる。その発動を無効にし除外する。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したダメージ計算後に発動できる。その相手モンスターを除外する。

(3):S召喚したこのカードが相手によって破壊された場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

―――やはりアラドヴァルか。

「アラドヴァルは墓地のドラグニティモンスター1体を除外することでモンスター効果の発動を無効にして破壊することができます。モンスター効果はこのカードで防ぎます。最も私はアラドヴァルを立ててそれで満足するようなデュエリストではありません」

 

 アラドヴァルには魔法・罠に対する耐性がない。素の打点こそ高けれど、同じSモンスターならばヴァレルロード・S・ドラゴンやクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンの方が効果を含めてより高い制圧力を誇るからだ。

 

「私はリンク3のスリーバーストショット・ドラゴンとドラゴンメイド・チェイムをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク2の天球の聖刻印をリンク召喚します」

―――天球の聖刻印……EXゾーンに存在する時だけだけど、バウンスが可能なモンスター……

「まだまだこんなものではありませんよ? 手札より魔法カード、ドラゴンメイドのお心づくしを発動」

 

《ドラゴンメイドのお心づくし》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・墓地から「ドラゴンメイド」モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。その後、特殊召喚したモンスターと同じ属性でレベルが異なる「ドラゴンメイド」モンスター1体をデッキから墓地へ送る事ができる。

 

「墓地のドラゴンメイド・チェイムを特殊召喚。追加効果はチェイムに対応する闇属性のドラゴンメイドが存在しないので発動できません。守護竜ピスティとチェイムをリンクマーカーにセット。リンク2の銀河衛竜をリンク召喚します」

「銀河衛竜……」

―――銀河眼の時空竜のサポートカードではあるが、時空竜がいないからと言って気を抜くな。2つ目の効果は厄介極まりない。

 

 銀河衛竜の二つ目の効果は相手エンドフェイズ時に自分のデッキからカード1枚を選んでデッキトップに置く効果だ。好きなカードをドローできる、ということ以上に遊希とのデュエルで遊希に引導を渡したRUM-七皇の剣とのコンボが強力無比であり、それを許せばまず鈴に勝ち目はないと言っていいだろう。

 

「銀河衛竜で私が何を狙っているかわかったようですね。ですが、銀河衛竜のリンク召喚を許した時点であなたは遅きに失していた。手札より魔法カード、龍の鏡を発動」

「龍の鏡!?」

―――まさか、そのためのドラゴンメイドってこと!?

「その通り。私は墓地のドラゴンメイド・チェイムとレベル5以上のドラゴン族モンスター、ドラグニティナイト-ヴァジュランダをゲームから除外して融合。“可憐なる竜の乙女よ。相対する者に至高にして絶望のおもてなしを。”融合召喚!《ドラゴンメイド・シュトラール》」

 

《ドラゴンメイド・シュトラール》

融合・効果モンスター

星10/光属性/ドラゴン族/攻3500/守2000

「ドラゴンメイド」モンスター+レベル5以上のドラゴン族モンスター

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分・相手のスタンバイフェイズに発動できる。自分の手札・墓地からレベル9以下の「ドラゴンメイド」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

(2):相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。このカードを持ち主のEXデッキに戻し、EXデッキから「ドラゴンメイド・ハスキー」1体を特殊召喚する。

 

「ドラゴンメイド・シュトラールは魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、その発動を無効にして破壊することができます。アラドヴァルで対応できない魔法・罠はこれで抑える。まあ、こんなものでしょうか。私はこれでターンエンドです」

 

 

遊望 LP8000 手札2枚

デッキ:46 メインモンスターゾーン:3(ドラゴンメイド・シュトラール、ドラグニティナイト-アラドヴァル、銀河衛竜)EXゾーン:1(天球の聖刻印)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(竜の渓谷)墓地:10 除外:3 EXデッキ:6(0)

鈴 LP8000 手札4枚

デッキ:37 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:1 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

遊望

 □□□□□

渓□アシ□衛

  □ 天

 □□□□□□

 □□□□□

 

○凡例

シ・・・ドラゴンメイド・シュトラール

ア・・・ドラグニティナイト-アラドヴァル

衛・・・銀河衛竜

天・・・天球の聖刻印

渓・・・竜の渓谷

 

 

☆TURN02(鈴)

 

―――ねえ、これどうすんの? マジでヤバめの先攻制圧盤面じゃん!

―――落ち着け。本来の【ドラゴンリンク】ならあれにヴァレルロード・S・ドラゴンや鎖龍蛇-スカルデットが加わっていた。あれならまだ対処のしようはある。

―――……それ、何の慰めにも……

 

 鈴の頭の中では自分ではない三つの声が飛び交う。デュエルモンスターズの精霊たちでもどう対応するかの論争を繰り広げるレベルの盤面であることは鈴にもわかっていた。

 

(まあ落ち着いてよみんな。まだドローもする前から騒ぐのはよくないから)

 

 しかし、遊望の作り上げた先攻盤面の硬さがわかっているからこそ、逆に鈴は冷静になれていた。何故かは鈴自身もよくわかってはいなかったが、自分は一度敗れており、自分は挑む側のデュエリストであることが影響しているのかもしれない。

 

「あたしのターン、ドロー!……自分のデッキ、信じてみるものね!」

「……どういうことですか? まさかこの盤面を覆すカードを?」

「あたしは手札を3枚墓地へ送り、手札から速攻魔法《禁じられた一滴》を発動!!」

 

《禁じられた一滴》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外のカードを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。その数だけ相手フィールドの効果モンスターを選ぶ。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が半分になり、効果は無効化される。このカードの発動に対して、相手はこのカードを発動するために墓地へ送ったカードと元々の種類(モンスター・魔法・罠)が同じカードの効果を発動できない。

 

「あたしはドラゴンメイド・シュトラール、ドラグニティナイト-アラドヴァル、天球の聖刻印の3体を選ぶわ!」

「そういうことですか。墓地に送られた3枚はいずれもモンスターカード……これではシュトラールの効果も発動できない、と」

「そしてこのカードの効果であたしが選んだモンスターの攻撃力はこのターン終了時まで半分になり、効果が無効になるわ!」

 

ドラゴンメイド・シュトラール ATK3500→ATK1750(効果無効)

ドラグニティナイト-アラドヴァル ATK3300→ATK1650(効果無効)

天球の聖刻印 ATK0→ATK0(効果無効)

 

「禁じられた一滴の発動のために墓地へ送られた伝説の白石の効果を発動! デッキから青眼の白龍1体を手札に加えるわ。更に墓地の嵐征竜-テンペストの効果を発動! 墓地の伝説の白石と青眼の亜白龍、2体のドラゴン族モンスターをゲームから除外し、このカードを墓地から特殊召喚! そしてチューナーモンスター、太古の白石を召喚!」

 

 鈴のフィールドにはレベル7のテンペストとレベル1のチューナーモンスター、太古の白石が居並ぶ。

 

「レベルの合計は8、シンクロ召喚ですか。ですが青眼のシンクロモンスターはレベル9が主体のはずですが……」

「青眼のシンクロ召喚をするなんて誰が言ったのかしら? ねえ、お願い。あたしに力を貸して! スカーライト!!」

―――待ってましたっ!!

「レベル7の嵐征竜-テンペストに、レベル1のチューナーモンスター、太古の白石をチューニング!“朋友より託されし紅蓮の炎よ、今私の想いに応えて燃え上れ!!”シンクロ召喚、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!」

 

 スカーライトのS召喚に成功すると同時に鈴の身体に言葉にできないほどの重圧が圧し掛かる。遊希やエヴァと絆を紡いだこともあって光子竜やスカーライトは鈴のことを認めているものの、実際に使うとなれば話は別だ。鈴本来の精霊は深淵の青眼龍であるため、彼女以外の精霊を使役するということはそれなりのリスクが生じるのだ。

 

(うっ……でも、辛いなんて言ってられない!)

「スカーライトの効果を発動! このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500のダメージを相手ライフに与える!“アブソリュート・パワー・フレイム”!!」

 

 スカーライトの灼熱の炎が禁じられた一滴によって弱体化されたドラゴンメイド・シュトラール、ドラグニティナイト-アラドヴァル、天球の聖刻印、そして素の攻撃力でスカーライトを下回っている銀河衛竜の4体のドラゴンを焼き尽くした。そして4体のドラゴンを屠った炎はそのまま荒れ狂う力となって遊望を飲み込んでいった。

 

遊望 LP8000→6000

 

「バトル! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック! “灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

遊望 LP6000→LP3000

 

「……私のライフを後攻1ターン目で5000も削りますか。まあ、成長は認めましょう」

 

 モンスターを一掃し、大ダメージを与えたのにも関わらず遊望は平然とした様子だった。遊望からしてみれば、制圧盤面を崩されたところで別に痛くも痒くもないということなのだろう。実際スカーライトを通すまでに鈴は4枚の手札を消費させられており、スカーライトも受けに回ると効果を持たないバニラモンスター同様。手札次第でいくらでも切り返すことができるのだ。

 

「バトルフェイズを終了。あたしはこのままターンエンド。でもターン終了時にこのターン墓地に送られた太古の白石の効果を発動。デッキからブルーアイズモンスター1体を特殊召喚するわ。あたしは白き霊龍を守備表示で特殊召喚。特殊召喚に成功した白き霊龍の効果で魔法・罠カード1枚をゲームから除外するわ。その竜の渓谷は残させないから」

 

 

遊望 LP3000 手札2枚

デッキ:46 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:4 EXデッキ:6(0)

鈴 LP8000 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:2(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、白き霊龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:3 除外:2 EXデッキ:15(0)

 

遊望

 □□□□□

□□□□□□

  □ □

 □霊レ□□□

 □□□□□

 

 

○凡例

レ・・・レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト

霊・・・白き霊龍

 

 

☆TURN03(遊望)

 

「私のターン、ドロー。あのフィールドを一掃されるとはさすがに予想外でした。少なくとも私に惨めに敗れた時と比べると少しは成長しているようですね」

「それはどうも。女子三日会わなきゃナントカってやつよ」

「ですが、あなたはそのレッドデーモンズを出すだけで精一杯のようですね」

 

 鈴の手札は残り1枚、それも伝説の白石の効果で手札に加えた青眼の白龍だ。効果を持たない通常モンスターということも相まって単体ではまず動けないカードであるため、今の鈴の手札は0枚といっても差し支えない。

 

「私のライフをこんなに削ったその頑張りは認めましょう。ですが、あなたと私の間には決定的な差がある。それを思い知らせてあげます! 私は手札より魔法カード、強欲で貪欲な壺を発動。デッキトップから10枚を裏側表示で除外し、2枚ドローします」

「……デッキ枚数が多い分、その中にキーカードが混じるリスクも減るってことね」

「その分目当てのカードを引き当てにくくなる、という問題もあります。最も、そのような確率如きなど気にすることではありませんが。手札の星雲龍ネビュラの効果を発動。手札のネビュラとこのカード以外のドラゴン族・レベル8モンスター、螺旋竜バルジを見せ、この2体を守備表示で特殊召喚」

 

星雲龍ネビュラ DEF0

螺旋竜バルジ DEF2500

 

「この効果の発動後、私はこのターン終了時まで光属性または闇属性のモンスターしか召喚・特殊召喚できなくなります」

―――レベル8のモンスターが2体……

―――来るか……鈴、しっかりと身構えろ、恐れるな。

「私はレベル8のネビュラとバルジでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!““奪われた我が命蘇らせし精霊よ。今その魂を禍々しき竜に宿し、我が願いを、我が希望をその瞳で見据え顕現せよ!!”さあ、弱きものを蹂躙せよ! No.107 銀河眼の時空竜!!」

 

 天空に現れた四角錐型の物体が展開して銀河眼の時空竜へと変化する。かつてエヴァを、鈴を、遊希を打ち破った竜の姿を見て鈴の精神がより研ぎ澄まされる。この竜を超えなければ、遊希を助けられなどしないのだから。

 

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズ。墓地の銀河衛竜の効果を発動。このカードをゲームから除外し、自分フィールドの光属性・ドラゴン族のNo.モンスター1体を対象として発動します。バトルフェイズ終了時まで相手が受ける戦闘ダメージが半分になる代わりに、そのモンスターの攻撃力をNo.の数字×100にします」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000→ATK10700

 

「攻撃力10700……!」

「戦闘ダメージ半減のため、銀河眼の時空竜のこの攻撃であなたのライフを0にすることはできません。ですが……攻撃力10000を超えた精霊の一撃にあなたの弱った精神がどれほどまで耐えられるか……見ものですね。バトル。銀河眼の時空竜でレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを攻撃。“殲滅のタキオン・スパイラル”」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK10700 VS レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

鈴 LP8000→LP4150

 

「っ!!!!」

―――鈴!!

 

 銀河衛竜の効果で戦闘ダメージが半減されているとはいえ、本来ならば7700ものライフが一度に吹き飛んでいたこともあってその数値以上の衝撃が鈴の身体に走った。思わず意識が飛びそうになる中、両足にぐっと力を込めて踏みとどまる。

 

―――鈴、大丈夫……?

(あたしは……なんとかっ、スカーライトは?)

―――いたた……なんてバ火力よ、もう

 

 モンスターとして破壊されてしまってもスカーライトの精神自体は無事なようだった。精霊である彼女をしてこう言わせるのだから、時空竜の精霊としての力の強さがひしひしと伝わってくる。最も遊望のフィールドにはモンスターは時空竜しか存在していないため、これ以上の追撃は行われないということがほんの少しだけ鈴を楽にした。ライフが1でも残っていれば、いくらでも反撃の糸口をつかむことができるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 



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友の力

 

 

 

 

(あら、耐えきりましたか)

 

 デュエルは互いのライフを削り合う戦いである。そのためライフが0にならない限り、基本的に負けることはない。しかし、それ以外でも負けになってしまうケース自体は存在する。例えばデュエル中に体調不良を起こして倒れてしまう、などというケースがそれだ。その場合は倒れた相手の不戦勝となるが、そんなことはまず起きないのであくまで非常事態の時の対応策だ。

 

(3体の精霊、それも残り2体は自分のものではない精霊を従え、そして私の精霊による攻撃でライフを削られた。ここまで星乃 鈴がデュエルをしてこなかったとはいえ、これだけの攻撃が重なれば立っていることすら辛いはずですが)

 

 銀河衛竜の効果が適用されているため、遊望の与える戦闘ダメージは半分になる。それでも10000超えの攻撃力を得た精霊の一撃だけあって、数値以上のダメージが鈴に襲い掛かっていることになる。精霊を宿したデュエリストでなければこの一撃で戦闘不能になりかねないほどのものなのだが、鈴は踏みとどまっており、遊望はそれが俄かに信じられなかった。

 

(まあいいでしょう。遅かれ早かれ星乃 鈴は斃れる運命にある。そしてお姉さまと私を引き裂くものはいなくなるのですから)

「私はこれでターンエンドです。なにやら我慢しているようですが、我慢は身体に毒ですからね。時には苦しまずに膝をつくことも大事だということを、覚えておいてくださいね?」

 

 

遊望 LP3000 手札3枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(No.107 銀河眼の時空竜 ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:15 EXデッキ:5(0)

鈴 LP4100 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(白き霊龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:4 除外:2 EXデッキ:15(0)

 

 

遊望

 □□□□□

□□□時□□

  □ □

 □霊□□□□

 □□□□□

 

 

☆TURN04(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー! これなら……あたしは魔法カード、トレード・インを発動! 手札のレベル8、青眼の白龍をコストに2枚ドロー!」

「……あなたもドロー加速カードを引くとは。なんとも奇妙なデュエルですね」

「奇妙?」

「私も、あなたも少ない手札を補うカードをこのタイミングで引き当てる……私たちのデッキがこのデュエルを長引かせたいのではないか、と思ってしまいます。最も、そのトレード・インでいいカードを引けなければ意味がありませんが」

 

 遊望は強欲で貪欲な壺でドローした2枚のカードで、銀河眼の時空竜のX召喚に繋げてみせた。そのため鈴もこのドローで状況を打開できるカードを引かなければならなかった。

 

「……あたしは手札からチューナーモンスター、太古の白石を召喚! そしてレベル8の白き霊龍に、レベル1のチューナーモンスター、太古の白石をチューニング!」

「レベル9のS召喚……以前と比べて数こそ増えましたが、どのようなモンスターをS召喚するのでしょうね?」

 

 そう言う遊望の顔はどのモンスターをS召喚するかを完全に見抜いているように見えた。そもそも青眼におけるS召喚の選択肢はだいたい2体のSモンスターに絞られる。そしてそのうちの片方は非チューナーモンスターに通常モンスターを指定しているので、今のフィールドの状況ではそもそもS召喚自体が行えない。そうなると鈴がS召喚するモンスターは1体。

 

「S召喚! 現れなさい、青眼の精霊龍!」

 

 Sモンスター、青眼の精霊龍が鈴のフィールドに守備表示でS召喚される。通常の青眼の白龍の攻守が逆転したステータスであるため、守備表示にしておけば銀河衛竜などの攻撃力上昇カードがない限りは時空竜の攻撃から鈴を守る盾になれるのだ。

 

「……あたしはこれでターンエンド」

「壁モンスターを出すだけで精一杯ですか。やはり、不甲斐ないですね」

「それはどうかしら? 確かにあたしが出せたのは精霊龍だけだけど、本当の狙いはそこじゃないわ! ターン終了時に墓地に送られた太古の白石の効果を発動!」

 

 確かに壁モンスターとして精霊龍を出すこと自体は状況を好転させるだけのものではない。しかし、鈴の本当の狙いは精霊龍をS召喚するために使用したチューナーモンスター、太古の白石の効果を発動させることだった。太古の白石は墓地に送られたターン終了時にデッキから青眼モンスター1体を特殊召喚できる効果を持っている。

 

「あたしはデッキから深淵の青眼龍を守備表示で特殊召喚するわ!」

「深淵の青眼龍……それがあなたの精霊ですか。青眼にしてはずいぶんと貧弱なモンスターですね」

―――っ……!

 

 遊望の青眼を軽視する物言いに深淵の青眼龍は苦々しい表情を浮かべる。ステータス自体は白き霊龍などと同じ攻守2500と通常の青眼よりも一段階劣っているため、戦闘面ではその力を活かし辛いということは青眼龍自体がよく理解していた。

 

(青眼、気にしなくていいよ。あんな煽り真に受けちゃだめ)

―――鈴……うん、ありがとう

「貧弱だからなんだっていうの? 力だけでモンスターの価値を決めるのは間違ってるわ! ターン終了時に墓地に青眼の白龍が存在するため、深淵の青眼龍の効果を発動するわ!!」

「深淵の青眼龍の効果……?」

 

 深淵の青眼龍が特殊召喚された時の反応を見てわかったことではあるが、遊望は深淵の青眼龍の存在を把握していなかった。そのためこのモンスターの存在は彼女の計算を狂わせるのには十分な存在だった。

 

「深淵の青眼龍は墓地の青眼の白龍が存在する時に発動できる3つの効果を持っている! 1つ目の効果は特殊召喚成功時にデッキから儀式魔法もしくは融合カード1枚を手札に加える効果! あたしは儀式魔法、高等儀式術を手札に加える! そして2つ目の効果、自分ターンの終了時にデッキからレベル8以上のドラゴン族モンスター1体を手札に加える! あたしはレベル8のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを手札に加えるわ!」

「2つのサーチ効果を同時に発動するとは……」

 

 

遊望 LP3000 手札3枚

デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(No.107 銀河眼の時空竜 ORU:2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:14 除外:15 EXデッキ:5(0)

鈴 LP4100 手札3枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:2(青眼の精霊龍、深淵の青眼龍)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:8 除外:2 EXデッキ:14(0)

 

 

遊望

 □□□□□

□□□時□□

  □ □

 □精□深□□

 □□□□□

 

○凡例

 

精・・・青眼の精霊龍

 

 

☆TURN05(遊望)

 

「私のターン、ドロー。なるほど、ステータスだけでモンスターの価値を決めるのは早計でした」

 

 鈴のエースモンスターであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの攻撃力は4000。素の時空竜のままでは一方的に戦闘破壊されてしまう相手であり、そんなモンスターの儀式召喚の準備を1枚で整えることができるカードの存在はさすがに遊望にとっては予想外だった。

 

(カオス・MAX……いざ出されると実に厄介なモンスターですね)

「私は手札から魔法カード、貪欲な壺を発動します。墓地のモンスターカード5枚をデッキをデッキに戻して2枚ドローします。私は墓地のドラゴンメイド・シュトラール、ドラグニティナイト-アラドヴァル、ドラグニティナイト-ロムルス、天球の聖刻印、守護竜ピスティの5枚をデッキに戻して2枚をドローします」

 

 実質メインデッキの数を増やさずに2枚のドローを行う遊望。しかし、そのドローカードの中にはカオス・MAXの“儀式召喚”を止められるカードはなかった。

 

(……儀式召喚そのものを封じるカードはない。そうなれば私の取れる手は……)

 

 この時、遊望は自分が鈴の布陣をどう突破するかを考え込んでいた。以前デュエルをした時や、前のターンの終了時までは特に考えずともあるがままに対応できていた。しかし、今は違う。考えて行動しなければならない状況にさせられているのだ。

 

「っ、煩わしいですね……お姉さまならいざ知らずあなた程度が私に考える時間を取らせるとは……」

 

 遊望からしてみれば、格下と思っている相手を前にしてのことである。それが彼女を必要以上に苛立たせていた。

 

「あら、それもあたしがデュエリストとして成長したってことでいいのかな? ま、急かしたりはしないからじっくり考えていいからね?」

―――……鈴、なんか煽ってなーい?

(青眼龍を馬鹿にされたお返しだってば、べー)

―――鈴……

―――煽るのは構わないが、変に煽って手痛いしっぺ返しを食らうことは避けることだな。カオス・MAXの儀式召喚に成功していない以上、戦況はいいとは言い切れない。

 

 デュエルに限った話ではないが、頭を使うゲームやスポーツをしている場合、先に崩れ落ちるのは決まって冷静さを失った方だ。そう言った意味ではボードアドバンテージなどの要因を差し引いても流れは鈴に傾きつつあった。

 

「私は輝光竜セイファートを召喚。そして墓地の闇属性モンスター、ストライカー・ドラゴンをゲームから除外し、2体目の輝白竜ワイバースターを特殊召喚。セイファートとワイバースターをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 2体目の銀河衛竜をリンク召喚します」

「銀河衛竜……!!」

「墓地に送られたワイバースターの効果で2体目のコラプサーペントを手札に加えます。メインフェイズ1を終了し、バトルフェイズに―――」

―――鈴!

(オッケー!)

「待って、あたしはメインフェイズ1終了時に青眼の精霊龍の効果を発動するわ! S召喚された精霊龍をリリースし、EXデッキからドラゴン族・光属性のSモンスター1体を守備表示で特殊召喚する!」

 

 精霊龍が光の粒子となって消滅した場所には、光り輝く赤い薔薇のような翼を纏ったドラゴンが代わりに咲き誇っていた。

 

「さあ、月に向かって咲き誇りなさい! 《月華竜 ブラック・ローズ》!!」

 

《月華竜 ブラック・ローズ》

シンクロ・効果モンスター

星7/光属性/ドラゴン族/攻2400/守1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが特殊召喚に成功した時、または相手フィールド上にレベル5以上のモンスターが特殊召喚された時に発動する。相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。

「月華竜 ブラック・ローズ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「月華竜 ブラック・ローズ!? そんなレアカードをどうして……」

 

 遊望の言うように、月華竜 ブラック・ローズはとても稀少価値の高いカードであり、一般には流通していないカードの1枚だ。少なくとも手に入れるにはプロデュエリストが参戦するようなトーナメントに勝ち抜くだけの力が無ければならない。

 

 

 

―――……私が、鈴に渡した! スカーライトと共にな!!―――

 

 

 

「っ!?」

 

 目を見開いた遊望の視線の先には満身創痍になりながらも、鈴の後を追ってきたエヴァの姿があった。ダーク・リベリオンとのデュエルで疲弊しきった彼女であったが、同じように鈴の後を追ってきた千春と皐月の手を借りてここまでやってきたのである。

 

「月華竜 ブラック・ローズ……私がプロデュエリストとして手に入れたカードだったが、持て余し気味でな。だったら青眼の精霊龍の効果で特殊召喚できる鈴ならば使いこなせると思い渡しておいたのさ!」

「エヴァちゃん、千春、皐月!」

「待たせたわね、鈴! 私たちが来たからには百人力よ!」

「……とはいえ、私たちにできることは鈴さんをここから応援することくらいしかできませんが……」

「そんなことないよ。みんながいてくれるだけで、あたし頑張れるから! それよりも、遊希を守ってあげて!」

 

 エヴァたちは覚束ない足取りをしながらも、なんとか臥せっている遊希の下へと歩み寄る。遊望とのデュエルの真っ最中である鈴は、意識を失っている遊希までも守れるだけの余裕がなかったため、いざという時を任せられる三人の存在は大きかった。

 

「さあ、月華竜 ブラック・ローズの効果を発動するわ! このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されているモンスター1体を持ち主のデッキに戻すわ! 消えなさい、銀河眼の時空竜!!“退華の叙事歌”(ローズ・バラード)!!」

 

 月華竜の咆哮と共に舞い上がる薔薇の花びらに巻かれる形で時空竜が消えていく。これで遊望のフィールドはがら空きになり、攻撃できるモンスターはいなくなる―――はずだった。

 

「……生憎ですが、あなたのその一手は私には届かない!! 手札より速攻魔法発動!《RUM-クイック・カオス》!!」

 

《RUM-クイック・カオス》

速攻魔法

(1):「CNo.」モンスター以外の自分フィールドの「No.」Xモンスター1体を対象として発動できる。その自分のモンスターよりランクが1つ高く、同じ「No.」の数字を持つ「CNo.」モンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてエクストラデッキからX召喚する。

 

「クイック・カオス……速攻魔法のRUM!?」

―――これは、サクリファイス・エスケープか……

 

チェーン2(遊望):RUM-クイック・カオス

チェーン1(鈴):月華竜 ブラック・ローズ

 

「チェーン2のクイック・カオスの効果により、私はNo.である銀河眼の時空竜をランクが一つ上かつ同じ数字を持つCNo.へとランクアップさせる!! 私は、銀河眼の時空竜1体でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップ・カオス・エクシーズチェンジ!!」

 

 月華竜の舞い上がる花びらを振り払い、銀河眼の時空竜の魂が1つの光となって混沌の渦に飲まれていく。轟音と激しい地響きが周囲を包み込んだ。

 

「こ、これは……っ!!」

「なんなのよ、この揺れ!! 明らかに異常でしょ!!」

「まさか、これも精霊の力……?」

 

 以前相対した時よりも力を増している遊望の精霊の力。その力の源にして、かつて遊希を、エヴァを、鈴を打ち倒した金色の龍が遊望の下に舞い降りた。

 

 

 

―――さあ、目覚めよ! そして全てを破壊せよ! 我が力の化身!!―――

 

 

 

 

 

―――CNo.107 超銀河眼の時空龍!!―――

 

 

 

 

 

 黄金に光り輝く、美しくも禍々しい三つ首の竜が咆哮した。チェーン1の月華竜 ブラック・ローズの効果は対象不在により不発となる。最も鈴のフィールドの2体のモンスターはいずれも守備表示であるため鈴にはダメージは発生しない。それでも溢れんばかりの力の塊が激流となって鈴に襲い掛かろうとしていた。

 

「バトルです! 超銀河眼の時空龍で深淵の青眼龍を攻撃!!“アルティメット・タキオン・スパイラル”!!」

 

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500 VS 深淵の青眼龍 DEF2500

 

「きゃああっ!!」

―――きゃあああっ!!

「鈴!!」

 

 青眼龍を破壊された鈴、そして直接超時空龍の攻撃を受けて撃破されてしまった青眼龍の悲鳴が周囲に響き渡る。先の時空竜の攻撃でもそうだったが、貫通効果を持たないモンスターによる守備表示モンスターへの攻撃であるため、戦闘ダメージは本来生じないのだ。しかし、超時空龍をはじめとした遊望の精霊による攻撃はデュエルモンスターズというゲームの根本的なルールすら飛び越えて鈴の精神と身体に確かに傷を負わせていた。

 

「さて、このターンの間の命ではありますが、目障りなのでその雑草は刈り取っておきましょう。銀河衛竜で守備表示の月華竜 ブラック・ローズを攻撃」

 

銀河衛竜 ATK2000 VS 月華竜 ブラック・ローズ DEF1800

 

「ふふっ、残念でした。私の攻め手を挫くどころか逆に自分の首を絞める形になってしまいましたね」

「っ……このっ……!」

 

 息も絶え絶えに、満身創痍になりながらもなんとか立ち上がる鈴。このまま倒れてなるものか、という意地と絶対に遊希を助け出す、という意志が鈴を支えていた。

 

「バトルフェイズを終了。私はこれでターンエンドです。今ならまだ命だけは助けてあげますので、早めのサレンダーをお勧めしますよ。あなたがお姉さまを諦めれば、あなたもあなたもお友達もみんな無事にお家に帰ることができるのですから」

「……冗談! あたしたちだけで帰るつもりなら、はじめからここまでやってこないわ!!」

「……そうですか。まあ、不要な質問でしたね。では、あなたたちにはここで私とお姉さまの幸せのための人柱になってもらいましょう」

 

 

遊望 LP3000 手札2枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:1(CNo.107 超銀河眼の時空龍 ORU:3)EXゾーン:1(銀河衛竜)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:12 除外:16 EXデッキ:8(0)

鈴 LP4100 手札3枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:11 除外:2 EXデッキ:13(0)

 

 

遊望

 □□□□□

□□□C□□

  衛 □

 □□□□□□

 □□□□□

 

 

○凡例

C・・・CNo.107 超銀河眼の時空龍

 

 

☆TURN06(鈴)

 

 デュエルはライフが残っている限り負けることはない。しかし、それはデュエリストが心身ともに健康である場合である。そして、今の鈴はそのケースに当てはまるような状態ではなかった。

 

「鈴! しっかりしろ! ライフはまだ……!」

「うん……だいじょうぶ……あたしの……ター……」

 

 鈴は心配するエヴァたちに対して笑顔を見せて答えるが、その顔はもはや笑顔と呼べるものではなかった。デッキの一番上のカードをドローしようとするが、カードに手をかけるも引くことができない。本来自分の精霊ではない光子竜とスカーライトをその身に宿し、体力・精神力ともに摩耗していた中、超時空龍の攻撃がそれに追い討ちをかけた。

 

(あれ……カード……ひけない……めがかすむ…こえが……でな……)

―――鈴! おい、鈴!

―――鈴! ちょっと、ねえ、鈴!!

 

 光子竜やスカーライトが必死に鈴の名を呼び続ける。しかし、今の光子竜たちの言葉は鈴の耳には届いていなかった。ぐらりと大きく、鈴の身体が揺れる。ここで自分が倒れたら誰が遊希を助けるんだ。そんな想いを糧に燃えていた心の炎が今、消えようとしていた。

 

(あれ……まだ、まだ……デュエルは……おわってないのに……なん……)

「鈴!!」

「鈴さん!!」

(ごめん……ゆうき……わたし……もう……)

 

 

 鈴の身体が崩れ落ちようとしたその瞬間である。鈴の身体は優しくも暖かいものに抱き抱えられた。

 

(え……っ……)

「……無理し過ぎよ。あんた」

 

 潤んだその眼にぼやけて映るのは。ずっと、ずっと会いたかった友の、遊希の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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願い潰えし時

 

 

 

 

 

「……ゆう……き……」

「鈴。あんたのデュエル……熱く伝わってきた。あとは、私が引き受ける。だから、ゆっくり休んで?」

 

 遊希は鈴の身体を包み込むように優しく抱きしめると、彼女の腕からデュエルディスクを外し、自分の腕へと付け替えた。鈴のデュエルディスクを装着すると同時に、鈴に宿っていた光子竜たちとの意識がリンクする。

 

―――久しぶりだな。全く、こんなに長い間離れて……

(ええ、本当に。またあんたの憎まれ口を聞きながらデュエルしなきゃいけないなんて最悪よ)

―――……よかった。お前はいつもの遊希だ。

 

 虚空を見つめながらにっこりと、いつものような不敵な笑みを浮かべる遊希。目覚めた彼女の双眸は対峙する妹の姿を捉える。そこに立っているのは無惨に敗れ、恐れ震えていた少女ではない。紛れもなく一人のデュエリスト・天宮 遊希だった。

 

「遊望」

「何のつもりですか、お姉さま?」

「見ればわかるでしょう? 私がこのデュエルを引き継ぐ」

「……ご自分が何を仰られているかわかっているのですか?……デュエルを引き継ぐということは、今の星乃 鈴の状態を引き継ぐということ。ライフも、フィールドも、デッキもそのままということなのですよ?」

「ええ、わかってるわ。この状態からデュエルを再開する」

「……お姉さま、とんだ物好きですね。ですが、そんなところが愛おしくてたまらない。いいでしょう、お受けします」

 

 遊望の了解を得たことで、鈴に代わり遊希が鈴のそのままのデッキでデュエルをすることとなった。しかし、ライフが初期通りの8000かつ自分のデッキならともかくライフが削れ、遊望のフィールドには超時空龍と銀河衛竜が残っている状態で、他人のデッキを使ってデュエルをするということは決して簡単なことではない。

 

(光子竜、このデュエルに勝つ。勝つしかない)

―――ああ、だがここからどうする?

(……どうしましょうか)

―――……な、何も考えていないのか?

(うん。でも、勝てる)

―――確証は?

(ない)

―――……らしくないな。だが、面白い。ならば、このドローで決めてみせろ!

「私のターン、ドロー!!」

 

 遊希はデッキから“鈴が引くはずだった”カードをドローする。もしこの世界に本当に運命というものがあるならば、本当に不思議なことをする、と思わざるを得なかった。しかし、その不思議で不思議で仕方ない運命の悪戯が遊希の脳裏に広がる勝利というパズルの最後の空白を埋めた。

 

「私は―――手札から魔法カード、復活の福音を発動!」

「復活の福音……! まさか、ここにきて蘇生カードを……!」

「これは、鈴が私に繋いでくれた勝つためのドロー! 墓地のレベル7または8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する! 私に力を貸して、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!」

 

 遊希の手によってスカーライトが墓地から舞い戻る。しかし、スカーライトの攻撃力は青眼の白龍と同じ3000であり、その効果も攻撃力がスカーライトを上回る超時空龍がいる限りは意味を為さない。

 

―――遊希、久しぶり! 元気そうで良かったよ!

(……ついさっきまで倒れてた私を見て元気そうとかあなたも相変わらずね)

―――そっかな? でも、こんな状態でも一緒に戦えるのは嬉しいわ!

(そうね。スカーライト、このデュエルに勝つにはあなたの力が必要。私に、力を貸して)

―――もちろん!

 

 それでも、遊希の頭の中に描かれた勝利への道筋にスカーライトは欠かすことのできない存在だった。

 

「そして私は手札から儀式魔法、高等儀式術を発動! デッキから通常モンスター、青眼の白龍1体を墓地へ送り、レベル8のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!!」

 

 そしてデッキに眠る最後の青眼の魂が捧げられ、鈴のエースであるカオス・MAXが降臨する。ここでカオス・MAXの儀式召喚に繋げられたのも鈴の精霊である深淵の青眼龍の力が大きかった。

 

―――天宮 遊希……

(自己紹介が遅れてごめんなさい。深淵の青眼龍……あなたが鈴の精霊なのね)

―――うん……あの、お願い。鈴のためにも、このデュエル……絶対に、勝って。

(……任せて。あなたの力も無駄にしない)

「カオス・MAXにスカーライト……星乃 鈴とエヴァ・ジムリアのエースを並べたところで、超時空龍の前ではただのモンスターに過ぎません!」

 

 鈴の墓地に眠る深淵の青眼龍の効果を発動し、カオス・MAXの攻撃力を1000上げることで超時空龍を倒すことはできる。しかし、その超時空龍の傍らに控える銀河衛竜の効果を使われてしまえば超時空龍の攻撃力がまたしても10700にまで上昇するため、深淵の青眼龍の力があったとしても超時空龍を倒すことはできない。遊望の言うように、超時空龍の前ではカオス・MAXもスカーライトもただのモンスターに過ぎないのだ。

 

「……あんた、強くなったようだけどやっぱりまだまだ視野が狭いのね」

 

 しかし、遊希はそう思っていなかった。

 

「……どういう意味ですか?」

「カオス・MAXとスカーライトにはいくつも共通点がある。種族、属性、そして……レベル」

 

 カオス・MAXとスカーライトは共にレベル8のモンスターである。そして、そんな2体のドラゴンを従える遊希の最も得意とする召喚法は同じレベルのモンスター複数体必要とするX召喚だ。そうなれば次に遊希の取る手は明白だ。

 

「ランク8の……X召喚」

「そういうこと! 私はレベル8のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでオーバーレイ!!」

 

 深淵の青眼龍の力で儀式召喚に繋がったカオス・MAXとエヴァから鈴を経て遊希に従ったスカーライト。鈴とエヴァ、二人の精霊使いと共に歩むニ体の精霊が、今遊希の下で一つになった。それは遊希、鈴、エヴァの三人の精霊使いの想いが一つになった瞬間だった。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!! エクシーズ召喚!!“闇に輝く銀河よ。混沌と真紅の魂を受け継ぎ生まれし命の光、戦場に波動となりて降り注げ!!”現れなさい、銀河眼の光波竜!!」

「銀河眼のXモンスター!? 何故星乃 鈴のEXデッキに……」

 

 遊望が遊希をデュエルで倒し、彼女を連れ去った時。遊希だけを連れ去ったため、光子竜や彼女のデッキはそのまま置き去りにされていた。鈴は自分のデッキでも使えるカードは自分のEXデッキに組み込み、そして遊希を助け出した時にすぐに返せるように、彼女のカードを今この場所まで持ってきていたのだ。

 

「……鈴のファインプレーよね。あの子が自分のEXデッキを削ってまで私のカードを入れてくれていなかったら光波竜のX召喚はできなかった。銀河眼の光波竜の効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドに存在するモンスターのコントロールを私に移す!」

「まさか、私の精霊の力を……」

「遊望、あんたには……その力は似合わない!!“サイファー・プロフレクション”!!」

 

 翼を広げた光波竜から放たれた光の波動が超時空龍を包み込む。如何に強力な精霊であったとしても、デュエルモンスターズというルールの下ではいちモンスターに過ぎない。相手の効果に対する耐性を持たない超時空龍に光波竜の効果は防ぐ術などなかった。

 

「超時空龍はこのターン終了時まで銀河眼の光波竜として扱い、攻撃力は3000に変化。そしてそのコントロールはこのターン終了時まで私に移る!」

 

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500→銀河眼の光波竜 ATK3000

 

―――時空竜……

 

 遊望の力、いや遊望そのものの化身とも呼べる超銀河眼の時空龍が彼女に牙を剥く。その瞬間であった。光子竜の脳裏にこれまで時空竜が見てきたものが流れ込んできたのは。光子竜は何故自分が当時5歳と幼く、デュエリストにすらなっていなかった遊希の下に精霊として宿ったのか。彼がどのような経緯を辿ったのかを彼自身が忘れてしまっていたことが時空竜を通じて戻ってきたのだ。

 

―――そうだ、思い出したぞ……あれはほんの些細なすれ違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀河眼の光子竜と銀河眼の時空竜。2体のドラゴンは元々はこの世界に生まれ、この世界を影ながら見守っていた精霊だった。自分たちがいつどうやって生まれ、どのようにして出会ったのかもわからない2体のドラゴンはあくまでこの世界の一部として世界を見守っていた。自分たちは世界や人間に干渉することのない、ただの観測者として。

 

「貴様……それは本気か」

「ああ、これは嘘偽りのない私の本音。私はもうこれ以上、この世界を傍観し続けたるだけではありたくない」

 

 同じ銀河眼(ギャラクシーアイズ)の名を持つドラゴンということもあって妙に馬が合った。しかし、いくら同じ名を持つ銀河眼であっても何もかもが同じというわけではない。姿形もさほど似ておらず、性格も違えば抱く価値観も違う。

 

「我々精霊はあくまでこの世界の観測者に過ぎない。我らが動く時はこの世界に危機が迫った時。それがわからない貴様ではないはずだ」

「……我らは世界を見守り、守るだけの力を持つ。力があるからこそ、力無き無辜の命が失われていくのを見ているだけなのが苦しくてたまらない」

「……そうか、お前は優しいのだな。だが、その優しさを私は見過ごすつもりはない!!」

 

 望まない形で対峙する2体の銀河眼。全く同格である2体の銀河眼の攻撃は相殺し合い、相討ちになった。力尽きた2体のドラゴンはまるで燃え尽きた流星が消えていくかのように落ちて行く。そんな消滅の危機にあった光子竜が意図せず出会ったのが遊希だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうだ、私はこの戦いで傷つき、記憶を失い……そして遊希のところに……

 

 しかし、全てを理解する前に光子竜は現実へと引き戻される。超時空龍のコントロールを奪ったとはいえ、まだデュエル自体は終わっていない。ほんの少し気を緩めるだけで掴みかけた勝利が零れ落ちることもありえるのがデュエルというものであり、相手が遊望なら尚更である。

 

「っ……!! うあああっ……!」

―――遊希!?

 

 それでも、簡単に遊望は勝利を掴ませてはくれない。一時的なコントロール奪取とはいえ、4体目の精霊が遊希の側についたのだ。先のデュエルでの疲労蓄積も否めない今、その負担はまさに十字架の如く遊希に圧し掛かる。鈴と同じように、ここで遊希が倒れてデュエル続行不能となればそれこそ本当に完全敗北だ。

 

―――遊希、辛いだろう。苦しいだろう、だが……ここを乗り切れば我らの勝ちだ!!

「お姉さま、苦しいのでしょう? もういっそ全て諦めてしまってはどうですか? また作りましょう、私とお姉さま、二人だけの世界を!!」

 

 二つの声が遊希を引っ張り合う。もちろん遊望に与することは遊希にとって望ましいことではないのだが、頭ではわかっていても中々身体が応えてくれないのが現状であった。こんな状況になってもなお、遊希は姉として妹を想う心を完全に捨て去ることができていない。

 

「遊希!!」

「遊希さん!!」

「遊希、負けるな! 鈴の、私たちの想いを受け取ってくれ!!」

 

 そんな心と心のぶつかり合いを制したのは絆だった。鈴の、エヴァの、千春の、皐月の想いが、遊希に力を与えた。

 

「超時空龍、私に降りなさい!! 私は銀河眼の光波竜となった超銀河眼の時空龍でオーバーレイ!!」

「……超時空龍を素材にX召喚!?」

「このモンスターは、私のフィールドのサイファー・ドラゴンモンスター1体を素材にX召喚できる! 鈴、あんたが託してくれた想いを、このカードに込めて遊望を撃ち抜く!! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!! 現れなさい!《銀河眼の極光波竜》!!」

 

《銀河眼の極光波竜》(ギャラクシーアイズ・サイファー・エクス・ドラゴン)

エクシーズ・効果モンスター

ランク10/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000

レベル10モンスター×2

「銀河眼の極光波竜」は1ターンに1度、自分フィールドの「サイファー・ドラゴン」モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。自分フィールドの光属性モンスターは相手ターン終了時まで相手の効果の対象にならない。

(2):自分スタンバイフェイズに発動できる。自分の墓地のランク9以下のドラゴン族Xモンスター1体をEXデッキに戻す。その後、そのモンスターを自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚できる。

 

 精霊・時空龍の力は確かに強力無比であり、そのまま存在し続ければ確実に遊希の身も心も蝕んでいただろう。それを遊希は銀河眼の極光波竜にエクシーズチェンジさせることで上書きしたのだ。超時空龍の霊圧が薄れ、屈めていた身を立て直した遊希は小さく息を吐き、再度眼前の遊望を見据える。その眼にもはや迷いはなかった。

 

「銀河眼の光波竜の効果を発動したターン、私は銀河眼の光波竜以外のモンスターでは直接攻撃できない。でも、あんたのフィールドには銀河衛竜が残っている」

「っ……」

「バトルよ! 銀河眼の極光波竜で銀河衛竜を攻撃!“エクス・サイファー・ストリーム”!!」

 

銀河眼の極光波竜 ATK4000 VS 銀河衛竜 ATK2000

 

遊望 LP3000→LP1000

 

(そんな、嘘。嘘。嘘……どうして……っ)

「これで終わり。銀河眼の光波竜でダイレクトアタック!“殲滅のサイファー・ストリーム”!!」

 

銀河眼の光波竜 ATK3000

 

 押し寄せる光の奔流に飲み込まれていく遊望。遠くなる意識の中、遊望は必死に愛する姉へと手を伸ばす。しかし、その伸ばした手を遊希が取ることはなかった。

 

遊望 LP1000→0

 

 そしてそれが意味するもの、それは遊望の願いが潰えるということであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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真の目的、真の敵

 

 

 

 遊希のモンスター・銀河眼の光波竜の一撃により、遊望の残りライフが0になる。そしてそれと同時にソリッドビジョンとして現れていた2体の銀河眼の姿が消えた。それはデュエルの終了を示しており、それを見て遊希はやっとこのデュエルに勝利したということを実感した。

 

「終わった……終わったのね。全部」

 

 全てが終わった。それを理解した遊希はその場に力無くへたり込んでしまった。そんな遊希の背中を鈴が優しく抱きしめる。遊希の背中には鈴の少し早い心臓の鼓動が伝わり、改めて生きている人間の暖かみを感じた。

 

「鈴、あんたもう大丈夫なの……?」

「うーん、ぶっちゃけて言うとまだ色々と辛いかな……でも、いつまでも寝てられないし。それにしても、やっぱりすごいよ遊希は」

「私は何もしていないわ。鈴のおかげよ、鈴が……遊望と互角に戦ってくれたからこの勝ちがある」

 

 遊希と鈴は互いの健闘を讃え合う。彼女たちの言う通り、このデュエルに勝てたのは遊希だけの力でもなければ鈴だけの力でもない。

 遊希と鈴。どちらか一人でも欠けていたらこの勝利はなかった。鈴が遊望という強敵相手に敢然と挑み、善戦したことが遊希の復活へと繋がった。この勝利はまさに二人の力でもぎ取ったものなのである。

 

「遊希ー!!」

 

 そしてそんな二人に駆け寄るエヴァ、千春、皐月の三人。遊望と直接デュエルをしたのは遊希と鈴であるが、そもそも鈴をここまで導いたエヴァたち三人であり、もし彼女たちが遊望の差し向けた精霊のデュエリストに敗れていたならば、鈴は遊望のところまでたどり着けなかったかもしれない。そう言った意味では、彼女たちもまた遊希奪還の功労者と言っても過言ではない。

 

「エヴァ、千春、皐月……みんながいてくれたことも大きかった。本当に……ありがとう」

「そんな、私たちは当然のことをしたまでで……」

「帰ったら人気店のスイーツでも奢りなさいよね!」

「同じ立場でもこうも態度が違うのか……」

 

 先程までの激闘が嘘だったかのように和やかな空気に包まれる。ここに来て遊希たちは様々な人の助けを受けて自分たちがここに在るということを改めて噛み締めていた。

 

「ごめん、ちょっとだけ時間を貰えるかしら」

 

 後は遊希たちの帰りを待つ竜司の下へと帰還するだけ、という状態ではあったものの、遊希にはまだすべきことがあった。遊希は鈴たちに少し離れているように、と促すと仰向けに倒れたまま虚ろな目で空を見上げている遊望の下へと歩み寄った。

 

「遊望」

 

 敗れた彼女の眼に光はなく、一筋の涙が零れ落ちていた。皮肉にも1度目のデュエルで遊望が遊希を破った時、遊希が見せた眼と同じような眼を今は遊望がする形となっていた。

 遊望は遊希にとって大事な大事な妹である。それ故に今回のような凶行に走った彼女を許すつもりなど毛頭ない。それでも彼女はたった1人の妹である。遊希は自然と遊望に手を差し伸べていた。

 

「……こんな形になってしまったけれど、あなたは私の大事な妹であることには変わらないから」

「……同情ですか? そんなものはいりませんよ」

 

 倒れたまま生気のない乾いた笑みを浮かべる遊望。もちろん遊希の手を取ろうとはしない。

 

「私はお姉さまの大事な人を何人も傷つけ、お姉さま自身も傷つけました。お姉さま、私が憎いでしょう?」

「……」

「憎いですよね? ならばお姉さまが取るべき行動はただ一つ。私を殺してください。私を地獄に送ってください! それが、それが人として正しい行動なのです!!」

「遊望……」

 

 遊望の言うように、遊希が遊望を憎んでいないとは言い切れない。鈴を、千春を、皐月を操り、エヴァの恋心を弄び、遊希を拉致監禁した。彼女の余罪を挙げればいくつになるだろうか、即座に数えることはできない。

 

「……確かにあなたを許すつもりはない」

「そうでしょう? だから、早く私をころ―――」

「だけどっ!!」

 

 遊望が言い終えるよりも先に、遊希が遊望の身体に縋りついた。全てを諦めた様子の遊望であったが、遊希のこの行動までは予測できなかったのか、珍しく動揺を明らかにする。

 

「お、お姉さま!?」

「だけど……やっぱり、私はあなたを殺せない。だって、遊望は私のたった一人の妹だもの……」

「えっ……」

「遊望、あなたのしたことは到底許されることじゃない。だから、私も一緒にみんなに謝る。許してもらえないかもしれないけど、みんなにわかってもらえるまで一緒に謝る」

 

 そう言って遊希は地べたに膝を付けたまま、二人を後ろから見ていた鈴たちの方に向き直る。そこから遊希がどのような行動を取るのかということは鈴たちはもちろん遊望にも容易に想像できた。

 

「お姉さま、ダメです! そのようなことはしないでください!!」

 

 デュエルに敗れた、ということもあって遊望は全ての罪は自分にあると受け入れる腹積もりであった。しかし、遊希が自分を糾弾せず、共に罪を被ろう、共に頭を下げようという行動に走ることまでは思わなかったようで、今度は遊望が縋りついて遊希を止めようとした。

 

「……いくら遊希が頭を下げたところでじゃあいいよ、とはならないわ」

「ですが……」

「あれを見てしまうとな……」

 

 そんな二人の姿を見て胸が詰まる鈴たちであったが、変に取り繕うよりかは率直な気持ちを伝えた方がいいと判断した彼女はあるがままの言葉をぶつける。遊望がこれまでやってきたことを鑑みて、何もせずに許してあげられるほど聖人君子ではない。

 

「あのね、あたしたちここまで来るときに見ちゃったんだよね。あの部屋を」

 

 しかし、鈴たちには遊望を一方的に断罪できない理由もあった。それは鈴たちがここに来るまでに通ってきた遊希が囚われていたと思われるあの部屋の存在である。都心一等地の高層ビルの一室には似ても似つかぬ一般家庭の居間のような空間は異様なものではあったが、その部屋に込められていた想いを感じ取っていた。

 

「ねえ、遊希。あんたがいたあの部屋って……」

「正直驚いたわ。だってあの部屋、昔私たちが住んでいた家のリビングだもの」

 

 遊望が遊希を監禁していた部屋はかつて遊希と遊望が育った家のリビングを完璧に再現した物だった。取れるスペースから再現できたのはリビングや水回りだけであったが、それは遊希の記憶の中に残っていたかつての家族の絆に満ち溢れていた空間だった。

 

「……おかしな話ですよね? デュエルモンスターズの精霊と一つになり、人知を超えた力を手に入れたのにも関わらず、もう戻らない過去にいつまでも拘り続けているのですから。ですが……」

 

 遊望は満面の笑みを浮かべて立ち上がる。しかし、その無理矢理作った笑顔の反面、双眸からは大粒の涙が零れ落ちていた。

 

「私は、その過去が何よりも取り戻したかったのです」

「遊望……」

「ねえお姉さま、どうしてお父様とお母様は、どうして私はあの時死ななければならなかったのですか? どうして……」

 

 そう問いかける遊望に、誰も言葉を返すことができなかった。

 

「私も、お姉さまと同じように友達を作って遊びたかった。私も、お姉さまのようにお洒落な服を着てみたかった。私も、凄いデュエリストになってお姉さまとデュエルがしたかった。なのに、どうして……どうして……」

 

 すすり泣く彼女の身体を遊希が抱きしめる。丁重な言葉遣いや成長した身体からは捉え辛いが、遊望の享年は7歳。まだまだ両親や姉に甘えていたい年頃だった。遊希がプロデュエリストになってから遊望が亡くなるまでの3年間は一緒に過ごせる時間が大きく減っていたためにそれが一層顕著になっていたのである。

 

「……遊望、あなたはもう人としては死んでしまった。あなたもわかっているとは思うけど、私たちと同じ生活は送れない。でも、どんな形であれあなたはもう一度命を享けた。私は、あなたのその二度目の命を支える。だから―――一緒に生きましょう」

「お姉さま……」

 

 見つめ合った二人の少女は優しくその身を寄せ合う。拗れてしまった姉妹の絆が、改めて固く結び直された瞬間だった。

 

―――……引っかかるな。

 

 だが、そんな二人を余所に光子竜の頭の中は数々の疑問が渦巻いていた。遊望とのデュエルを通して自分が遊希の精霊になった顛末を何故知ることができたのか、そもそもどうして遊望が精霊となって二度目の命を享けたのか、そしてどうやって死んだはずの彼女となって今こうして自分たちの前に現れているのか。

 

―――ひっぐ、どうしたの光子竜ぅ……

―――おい、スカーライト。なんでお前はそんなに泣いているんだ。

―――だってぇ……

―――スカーライトはいい意味で精霊らしくないね。でも光子竜が難しい顔をしているのは本当。何か気になることがあるの?

 

 すっかりもらい泣きしてしまっているスカーライトと、感動しつつもまだ平静でいられている青眼に光子竜は自分が疑問に思っていることを率直に打ち明けた。

 

―――そっか、そう考えるとわかんないことばっかだよね。

―――うん……そもそも単に遊希と遊望が一緒に暮らしたいだけなら鈴たちを襲ったり遊希を連れ去ったりする理由がないはず。

―――……私の中では何故遊望が生き返ったか、ということに関しては仮説は立てている。しかし、このまま大団円としてしまっていいなどということは―――

 

 光子竜がそう言いかけた瞬間だった。三体の精霊の身体に雷撃を彷彿とさせるような、そんな衝撃が走ったのは。

 

―――!?

―――!?

―――なっ、何だ……!?

 

 光子竜はこれまで遊希と共に数多の敵と対峙し、それを打ち破ってきた。千春の幻魔、皐月の邪神、ジェームズの地縛神、鈴の紋章獣、そして遊望こと銀河眼の時空竜。それら過去のあらゆる敵たちを上回るほどの強大な力が今自分たちの傍にいるのだ。

 

―――遊希!! そこから離れろ!!

「光子竜……?」

「っ!? お姉さまっ!!」

 

 そしてそれを感じ取ったのは他にも一人。時空竜となった遊望は、抱きあっていた遊希を全身の力をもって突き飛ばした。その刹那。天空から降り注いだ一筋の稲妻が彼女を襲った。

 

「あああっ!!」

「遊望!!」

 

 雷撃を浴びたその場に崩れ落ちる。駆け寄ろうとした遊希、そしてその状況を理解することすらできていなかった鈴とエヴァも今改めて強大な力の存在に気がついた。

 

「エ、エヴァちゃん……」

「……言わなくてもわかる。この力は……」

 

 その場にいた誰もが息を呑む中、フロアに響くのはカツン、という甲高い音。ヒールの音を響かせながら現れたのは誰もが予想だにしない人物であった。

 

「……美しい姉妹愛、というものなのかしら。でも、それもこれで終わりよ」

「……真莉愛さん?」

 

 暗闇の中から現れた一人の若い女性。彼女のことを唯一知る遊希がその名を呼んだ。海咲 真莉愛―――I2社カード開発セクションの責任者であり、若くして世界的企業の重要ポジションを任された存在である。遊希たちが今いる場所はI2社の日本支部であるため、彼女がここにいることは何らおかしなことではない。

 

「久しぶりね、遊希ちゃん。会うのは……盗まれたカードの時以来かしら」

「は、はい。鈴たちを助けて、盗まれたカードのことをお伝えして以来だと思います……」

「そう。一度ならず二度までもあなたの力を借りることになってしまったわね」

 

 会うこと自体は久しぶりではあるが、遊希は彼女を特に嫌悪していない。むしろ竜司やミハエル同様辛かった時の自分を支えてくれた数少ない大人として彼女を慕っていた。かつて自分と同じような悲しみを経験している彼女だからこそ、遊希は信頼しているのかもしれない。

 

「でももう大丈夫よ。全ての事件の黒幕をあなたが倒してくれた。後は大人の私に任せてくれていいから」

 

 そう言って倒れている遊望に近づこうとする真莉愛を邪魔するかのように遊希が立ちはだかった。

 

「遊希ちゃん、どういうつもりかしら」

「……あの子は、遊望は私の妹なんです。彼女の犯した罪の大きさはわかっています。だからこそ、姉である私があの子を支えたいんです」

「そう……しばらく見ないうちに大人になったのね。遊希ちゃん。じゃあ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あなたにも、消えてもらおうかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷のように冷たい真莉愛の言葉が響いた後。彼女の後ろには巨大な竜を思わせる影が現れる。真紅の身体に天空を貫くかのように長い身体。一つの顔に口が二つ―――誰もがその名を知っている存在でありながら、この世界にはもう存在していないとされているものがそこにいた。

 

―――遊希!!

―――……させません!!!

 

 咆哮と共に遊希の前に現れる銀河眼の時空竜。雷撃を受けて倒れていた遊望であるが、今の彼女はデュエルモンスターズの精霊・銀河眼の時空竜そのものである。そのため自分の中に残っているわずかな力を解き放ち、銀河眼の時空竜の姿となって遊希を守るために立ち上がったのだ。

 

「……あら、あなたまだ精霊の力を使えるほどの体力が残っていたの。まあ“招雷弾”程度で倒れるほどの精霊ではないとは思っていたけれど」

―――……どうして、あなたがお姉さまを攻撃するのですか。あなたは、私に力を貸してくれたのではなかったのですか!!

「……遊望? これはどういう……」

―――申し訳ありません、お姉さま。私は、お姉さまにまだ隠し事をしていました。私を蘇らせてくれたのは、この人だったんです。この海咲 真莉愛さんが、私を現世に引き戻してくれたのです。

「えっ……」

 

 事態を飲み込めない遊希は目を白黒させる。真莉愛は小さくため息をつくと、全てを諦めたかのような虚無の眼を浮かべながら口を開いた。

 

「……そうよ。彼女を、銀河眼の時空竜として蘇らせたのはこの私。まさかI2社の人間としてカードを作る技術で死んだ人間をデュエルモンスターズの精霊として蘇らせることに成功するとは思わなかったけれど」

―――ですが、その成功が私に残された最後の希望なのです。もし、私と同じくらいの力を持った精霊がいれば、私だけじゃなく、お父様とお母様だって生き返らせることができるのではないか、と。

―――そういうことか。だからお前はあの時遊希を……

 

 銀河眼の時空竜および銀河眼の光子竜。2体の銀河眼の名を冠する強力な精霊の力を一つに結集させられれば、自分だけではなく同じく奪われた遊希と遊望の両親も人間として、人間としての蘇生が無理であれば最悪幽霊としてでも蘇らせることができるかもしれない。言ってしまえば荒唐無稽な計画であるが、その荒唐無稽な計画は遊望にとっては地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸であり、彼女はそれに縋りつきたかったのだ。

 

―――はい。私とお姉さま、そしてお姉さまに宿る銀河眼の光子竜……デュエルモンスターズの精霊の力を合わせれば、真莉愛さんの技術でお父様とお母様を、私たちの記憶の中にある二人を作り出すことだってできる。それが、皆さんを襲い、お姉さまを拉致した本当の目的です。最もあの時お姉さまと光子竜を引き剥がした状態で連れて行ってしまったのは失敗でした。

「そんな……いくら精霊の力があったって命をゼロから作り出すことなんてできるわけがないじゃない!!」

―――そんなことはありません! 何故なら私がこうしてデュエルモンスターズの精霊として生きている。それが何よりの証明です!

―――違う。お前が今こうして生きているのは……そのような技術の力ではない。

 

 力強く言い放つ遊望であるが、そんな彼女を諭すように光子竜は語り掛ける。

 

―――お前の、遊望の中にはお前が死ぬ前から時空竜が宿っていたのだ。

―――……!?

―――先のデュエルを通して私の失われた記憶が取り戻された。私は時空竜と戦い、相討ちになった。戦いで傷つき、消滅しかけたその時、偶然にも遊希の中に宿ることで生き永らえたのだが、その経緯を私以外に見ていた者がいた。それがお前だ。

 

 光子竜は自分が遊希に宿り、遊希と共存する関係になった経緯を見ていた者とデュエルで交わったからこそその時の記憶を得ることができた。光子竜との戦いで彼と同じように傷つき、消滅の憂き目に遭おうとした時空竜もまた自ら生き永らえるために本能的に身を隠した。そしてその身を隠した先が偶然にも遊望だった。

 

―――お前が人としての命を終えた時、お前の中に宿っていた時空竜が目覚め、時空竜として二度目の生を享けた。

―――そ、それならばどうして私にはお姉さまのように精霊が目覚めなかったのですか!

―――……今のお前は、時空竜の身体に天宮 遊望の魂が意志が宿っている。時空竜の意志が二度目の生にあたって失われているからそれを知るものはもう誰もいない。単に精霊使いとしての才覚が、遊希に劣っていたとしか考えられない。

―――……そんな、では私は……

 

 光子竜の言葉に動揺を隠せない様子の時空竜は疑念の目を真莉愛に向けた。もし光子竜の言葉が事実ならば、自分はどうして蘇ったのかと。そんな時空竜を見る真莉愛の眼は―――

 

「……精霊になっても、所詮は子供の思考なのね。人の手で命が作れると本気で思っているなんて」

―――っ!!!

「あなたは、精霊になって彷徨っていたのを私が仮初の身体を与えただけ。その経緯すらも覚えていないなんて……本当に滑稽な子」

 

 真莉愛の言葉に激昂した時空竜が憤怒の咆哮を上げる。今の遊望に先程までの平静さはない。完全に怒りに憑りつかれてしまった彼女にもはや遊希たちの言葉は届かなかった。

 

―――待て!! 彼女の後ろには―――!!

「あなたがいくら強力な精霊であろうとも……」

 

 

 

 

 

―――神の前には余りにも無力!!―――

 

 

 

 

 

―――葬り去れ!!―――

 

 

 

 

 

―――《オシリスの天空竜》!!―――

 

 

 

 

 

 かつてのデュエルキング、武藤 遊戯の駆る神として歴史にその名を刻んだもの。三幻神の一柱であるオシリスの天空竜が放った神の雷霆が時空竜を打ち据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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