腰の低いマスターと愉快なサーヴァント達 (70-90)
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◆藤丸立香

 

 ごく一般人の少年で17歳。大の歴史好きで、歴史書を読むために図書室に通い詰めることも。

 カルデアから数合わせの名目で採用されたため、魔術の心得は何一つない。しかし諦めが悪い、適切な指示を送るなど別の利点を評価されている。

 サーヴァントの大半は過去を生きた人物であるためか、人生の先輩として見なしており、敬語で話し真摯に接する。そのため、マスターにしては腰が低すぎると批評されるが、良さとしても認識されている。キャスターのクー・フーリンなどから魔術を教わっており、また普通の社会に戻るために数学などの勉強も欠かせない。

 ただし肌色の多い服装のサーヴァントに対しては奥手なところがあり、一度令呪を用いて接触を禁止したことも。

 

◆マシュ・キリエライト

 

 出生からカルデアで過ごしてきた少女。円卓の騎士の1人ギャラハッドと融合した、シールダーのデミ・サーヴァントでもある。

 当初は表情が乏しかったが藤丸との出会い、様々なサーヴァントとの遭遇で精神的に成長し、感情が豊かになった。

 藤丸を『先輩』と呼んで慕っており、彼もまた誇りある後輩として好意を抱いている。

 

◆リヨぐだ子

 

 ダ・ヴィンチの発明に巻き込まれた藤丸から生まれた分身。二頭身の大きさであり、何故か性別は女と反転している。

 また性格も反転しており、メタ発言をすることも。喋り方のイメージはまどか先輩を検索。欲望の塊でもあり、マシュなどスタイルのいい女性鯖が被害に遭っている。

 藤丸が星5サーヴァント―彼女がそう呼んでいる―を当てるとかなりキレる。

 

◆アーサー・ペンドラゴン

 

 セイバーのサーヴァントであり、アーサー王伝説の中心人物。

 王でありながら、まさに理想の王子を体現したかのような存在で藤丸から慕われている。

 円卓の騎士が来た際には個別に面談をするなど思慮深く、短期間で和解してみせた。しかし自身は別世界の存在として認識しており、近い将来来るであろう本来の騎士王にも触れ合うべきだと自覚している。

 食べることが好きだが、料理も得意。

 

◆織田信長

 

 アーチャーのサーヴァント。口癖は『是非もないよネ!』。

 生前は知らぬものもいない戦国大名。自らを第六天魔王を名乗るように、生前では戦国時代に名を轟かせ天下統一の一歩手前まで追い詰めてみせた。

 ――のはずだが、軍服を纏った少女として召喚されている。見た目は若々しいが年季の入った尊大な口調で話す。しかし、彼女が同じ場にいるとなぜかぐだぐだになる傾向があり、それが崩れてしまうことも。

 沖田総司とは―聖杯戦争で戦ったために―旧知の仲であり、漫才のような会話が欠かせない。新しいもの好き。



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プロローグ

<注意>
・独自設定あり
・独自解釈あり
・出てくる鯖は大体手持ち
・真名バレあり


 暗い大部屋。1人が入った瞬間、電気でパッと明転する。

 1人の少年、藤丸立香は1箱のダンボールを抱えていた。その中にあるのは、ボール大の石。虹色に輝く金平糖のようなもの。

 

「ついにこの時が来た…」

 

 藤丸は小声でひとりごちる。その表情はまるで、戦場を目の当たりにしたために緊張しているかのようだった。

 この石の名は聖晶石。サーヴァントを召喚する上で必要とする、カルデアが独自に開発した触媒。サーヴァントを使役するのはマスター、藤丸こそがマスター本人である。

 

***

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデア――人理、すなわち人類の未来を保障するために結成された組織。主に著名な魔術師達が関わっており、本来ならば彼らが行うべき役割であった。

 というのも、藤丸は魔術のマも知らないごく一般人。他にもほぼ同世代の魔術師が47人も集まっており、藤丸はただの数合わせでしかない。マスター候補でも最下位に位置しており、マスターになれる可能性は皆無。ところが、仕掛けられた爆発事故で瀕死の重傷を負い、残ったのは藤丸。突如、彼は世界を救う役目を与えられたのだ。

 当然不安でしかない。何せ突然の出来事だから。しかし、藤丸は覚悟を決めた。残っているマスターは自分しかいない、やるしかないのだと。

 

 それからというものの、藤丸は様々なサーヴァントと出会い、そして数多に存在する特異点を修復していった。

 しかし、藤丸は言う。挫折、歓喜、絶望、感動、様々な感情を覚えてきた彼は言う。俺じゃない、カルデアの人達やサーヴァントの方達がいたからやれたのだと。

 一方でサーヴァント達はいう。こんなマスターに出逢ったのは初めてだと。

 

――何より『腰が低すぎる』と。

 

***

 

 召喚装置――サーヴァントを召喚する上で必要不可欠な装置。電源をつけ、スタッフに教えられた方法で調整。必要となる聖晶石を注ぎ込み、口上を唱える。

 この日は1月1日――日本時間でいう元旦である。この時期になるとどういうわけか、強力なサーヴァントの気配を感知することが多いためだ。

 

「これは…!!」

 

 1つの取り出し口から、バチバチと火花が唸るカードが排出される。金色に輝くそれの裏にはクラスの象徴を示す絵が描かれているが、この時の彼には初見の模様であった。空から降臨する使者のような。

 召喚器から、1人の影が露わになる。立香よりも一回り小さい少女で、ブロンドの長い髪を靡かせている。自身のマスターを見つけると笑顔になり、駆けつけてきた。

 

「こんにちは! 私、アビゲイル――アビゲイル・ウィリアムズ。私がフォー…リナー…で、あなたがマスターなのかしら?」

 

 純粋無垢な少女は、アビゲイルと名乗った。フォーリナーという、新たに発見されたクラスの1人。

 アビゲイル・ウィリアムズ――亜種特異点の1つ、セイレムにて出会ったサーヴァント。

 

「アビーって呼んでくださいな! すぐお友達になれると思うわ!」

「よろしくですアビーさん。それと、明けましておめでとうございます」

 

 藤丸は一例して挨拶した。

 だが後者の挨拶は彼女の首をキョトンと傾げさせた。地域の文化とは何ら関わりがなかったからだろう。

 

「明けまして…? どういうことかしら?」

「今日、ちょうど新年に入ったところなんですよ。今のは僕の国でのご挨拶です」

「まあ! それはおめでたいわ、マスター!」

 

 新年を迎えたと知ると、アビゲイルはパッと笑顔になった。新たな年を迎え、そして祝うのは万国共通なのだろう。

 

「アメリカ…、っていうと当時は違うから…。でもとりあえず、2人で言いましょうか」

「そうね! まずはご挨拶だわ!」

「はい。では、せーの――」

 

――A HAPPY NEW YEAR!!

 

 これは、そんな藤丸とサーヴァント達の交流を描いたものである。




ちなみに同じ月で、後にジャンヌオルタさんやセミラミスさんを迎えることになるが、それはまた別の話。


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腰の低いマスターは騎士王を呼ぶ

去年のCBCから始めまして。

理由としては彼の存在が大きかったです。


 僕はある日夢を見た。

 荒廃した都市。よくテレビとかで見かける綺麗な街並みではない。鉄骨がむき出し、そして寂れかかっている。ガラスは無残に割れ、もう倒れるんじゃないかぐらいに傾いているビルもある。あんなところに人々は生きているというのだろうか。

 瞬きすると場面が変わった。前方には黒い猪。それにしても大きすぎる。見た感じ2階建ての家一軒ぐらいもあるんじゃないか。それが何匹もいる。見たらわかる、勝てるはずがない。もしかして、ああいうのがここを屯しているというのか。

 また場面が変わる。そんな猪達を立ち塞がるようにして、1人の青年が佇んでいた。フードを被っていたので、顔ははっきりと見えなかった。でも、青いマントに銀色の鎧を纏っていたので、騎士だったに違いない。

 まさか、あんな数を目の当たりにしても戦うというのか。

 僕の不安を他所に、騎士は黄金に輝く剣の柄を握りしめ――

 

***

 

 あの夢は何だったんだろうか。しかし、考える時間を僕には与えてくれない。

 僕がカルデアに衣食住を営むことになってからは、多忙の生活。サーヴァントの方々と種火周回、素材集め、QP稼ぎ…。

 加えてダ・ヴィンチさんなどからの魔術に関するレクチャー。これは僕の希望によるものだ。マスターとなった以上、『魔術なんてよく知らない』なんて言い訳なんか言ってられない。ダ・ヴィンチさんは「別に気にすることじゃないよ」とフォローしてくれたが、結局は強い希望で押し負けてもらった。

 

 ……なるほど。情報量がかなり多い!

 

 ファンタジー映画で見かける魔法よりも深く、そして複雑だ…。多くの魔術師はこれを勉強していたというのか…。

 強い意欲に惹かれたのか、教えるペースにスイッチがかかるダ・ヴィンチさん。待ってください、教えてくださいと確かに言いましたけど! 1つのカリキュラムでこの情報量の多さだというのに、一気に1年分注がれると修復前に頭がパンクしてしまうんですけど!

 結局の所、ロマンさんに止められ、不満げな顔を浮かべるダ・ヴィンチさん。あとで強化してもらう際、謝らないとね…。

 

***

 

 そして場所は召喚室。人理修復のために、もっと多くのサーヴァントに手を貸してもらおうと、僕とマシュは来ていた。

 

「でも、僕なんかのために来てくださるんだろうか…」

「大丈夫ですよ先輩。クー・フーリンさんやデオンさん、ランスロットさんも召喚に応じてくれましたし」

 

 クー・フーリンさん。青いローブを被った青髪の方は、ケルトの大英雄として讃えられている。冬木に来た際に助けてくださったキャスターだ。クーさん曰く、『本来ならランサーで召喚されてほしかったが』らしい。

 シュヴァリエ・デオンさん。セイバーのサーヴァントで、白百合の騎士と言われている。フランス出身の方だそうで、当時の王家に仕えていた。ちなみにその王家にはマリー・アントワネットさんもいたという。初めて会ったときは綺麗な方だと思い失礼ながら女性かと思ったが、ステータス上では性別不明だそうだ。

 そしてランスロットさん。同じくセイバーのサーヴァント。イギリスでは有名な『アーサー王伝説』に登場する円卓の騎士の1人で、湖の騎士とも評されていた。あの事件が起こるまでは…。

 ただこのときに共通することは、『謝ってしまった』ことにある。

 クーさんはランサーの適正が強いらしいので希望通りには行かず、デオンさんにも性別を間違える、そしてランスロットさんにもスキャンダルを無意識に突くという大失態を犯してしまった。

 

「いえ先輩、大失態ではないかと…」

「あれっ、マシュ。もしかして僕、独り言言ってた?」

「はい」

 

 マシュの返事を聞いて、僕は深くため息をついた。情けないなぁ…。

 

「でも彼らも困っていました。突然頭を下げられたからどうしたことかと。ランスロットさんはあれでしたけど…」

「まぁね、いくら使い魔だって言われても、過去に生きた偉人。言い換えると、人生の先輩みたいな大きな存在だし」

「なるほど。ですが先輩、2人とも先輩のサーヴァントとして契約してくれました。ですから私は、先輩が心配することはないと思います!」

「マシュ…」

 

 やばい、涙出てきそう。通っていた学校に、健気に接してくれる後輩なんていたんだっけ…。

 閑話休題。思い出せば、こんな僕のためにサーヴァントとして契約することを受け入れてくださった。この間のトレーニングや特異点修復の際も同行してくれたし。ネガティブにはなっていられないよね。

 

 聖晶石を供え、口上を唱えて召喚を行う。すると見たことのない反応を見せた。

 

――1輪の虹色に輝く輪が浮かび上がったのだ。

 

「せ、先輩…! これって…!」

「え、何!? 何が起こるの!? 何かすごいことが起きるの!?」

 

 なにせ初めて見る光景だから慌ててふためいていた。

 小さな取り出し口からカードが飛び出す。その裏面には剣士――セイバーが描かれていた。

 そして、召喚サークルに1人の影が現れる。その方を見て、僕は既視感を覚えた。

 

――青いフードに、銀色の鎧を纏う騎士だった。

 

「僕はセイバー。君を守り、世界を守る――サーヴァントだ」

 

 金髪碧眼の騎士は、僕を見て微笑んだ。ゆっくりとカードを裏返し、表を見た途端、僕は目を大きくしてしまった。

 

「先輩、あの人は…」

 

――アーサー・ペンドラゴン。まさかの『アーサー王伝説』の主人公だった。

 

 僕は咄嗟に、アーサーさんの前に駆けつけた。

 

「初めまして…! マスターの藤丸立香です! ま、まさかのアーサーさんが来てくれるなんて…!」

「そう肩苦しくならないでおくれ。今の僕は君の従者にしか過ぎないし、もっと砕けた態度でも構わないよ」

「いえ、それは、それだけは絶対ダメです! 僕にとってサーヴァントは尊敬すべき人生の先輩なんですから!」

「せ、先輩だなんて…。そう呼ばれるとちょっと恥ずかしいなぁ」

 

 アーサーさんはそう言い、照れ隠す素振りを見せる。騎士王と呼ばれた青年は、威厳さを打ち消すかのような表情を浮かべている。

 何より彼を見て、僕の心には1つの余裕感が生まれていた。

 

「よっしゃああああ!! アーサー王、ばんざい! ウォアアアアアア――――ッッ!!!」

「マスター!?」

「先輩! どこ行くんですか!? 先輩!!」

 

 この後、気を取り直した僕はアーサーさんに謝罪し、恥ずかしさのあまり部屋から出られなかった。




ちなみに騒ぐシーンは『王様の剣』のラストより。


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腰の低いマスターはぐだぐだになる

 僕がマスターになってから1週間も立たぬ内に、カルデアは未曾有の危機に襲われた。

 

――一言で言うなら、何もかもぐだぐだになっているのだ。

 

 まず、契約したサーヴァントにスタッフの方々が訳のわからないことになっている。男の娘好きが爆発したり、グルメになったり…、また名前が過去の日本の偉人っぽいのに変わってるし…。一大事なのか、ギャグなのか…。

 

 また、『ノッブ!』と鳴く二頭身のエネミー…。何これ、かわいい…。僕はああいうデフォルメ系のものには昔から弱いんだよなぁ…。ああ、かわいい…。持ち帰りたい、もふもふした――

 

――ああっ、いけない…! ぐだぐだ粒子を吸い込んだせいで…!!

 

 閑話休題。

 そこに救世主みたいな形で現れたのは、織田信長さんである。

 背丈は自分より小さな女の方で、赤と黒を貴重とした軍服を着ている。しかし、彼女こそが多くの戦国大名を下し、天下統一の一歩手前まで追い詰めてみせた織田信長さんであった。

 あのエネミーはどうやら信長さんの分身らしく、聖杯の暴走でぽこじゃかと増えてしまったらしい。また、何もかもぐだぐだになってしまったのも聖杯だと…。そしてダ・ヴィンチさんはぐだぐだ粒子を発見したそうだ…。

 何はともあれ、聖杯が関わっているならば放っておくことはできないだろう。今後の士気に関わってくるだろうし…。

 

 そして、もう1人の助っ人が突如現れた。沖田総司さん――新選組一番隊隊長を務め、最強の人斬りとして恐れられた()()。もう一度言う、()()なのだ。

 ピンクと赤の着物を着た、桃髪の沖田総司さん。信長さんとは因縁があるらしく、何かやらかしたと聞き付けてついてきたそうだ。

 信長さんに会えば漫才のような会話が繰り広げられ、一方で戦場に経てば素早い動きでエネミーを倒していった。なんと恐ろしい人なのか、アーサーさんも関心を持っていた。

 ところが、沖田さんには致命的な弱点がある。彼女は病弱であり、生前に若年で没している。戦闘中に喀血、信長さんとの漫才で感情が高ぶりすぎて喀血…。焦らないことなど一度もなかった。いやだって突然僕の前で血を吐いちゃうし、「いつものことですから」って…!?

 

 こうしてちびノブの一群を掻い潜ったり、途中で沖田さんとはぐれてしまったり、もはやぐだぐだな状況の中…。

 

***

 

「なんですか、その、本能寺ポイントって…」

「うむ、よくぞ聞いてくれたな!」

 

 僕は今、呆然と立ち尽くしている。

 目の前には屋台を開いて、素材を売りさばいている信長さん。そして背後には轟々と燃え盛る本能寺…。あまりにもカオスな光景だ…。

 あのエネミーにはそれが入っているらしく、貯めれば貯まるほど特典がつくそうだ…。…なにがどうなってるやら…。

 でも、1つ惹かれることがある。ポイントが特定点数を超えると信長さんが契約してくれるというのだ。

 

「信長さん、これって…」

「それか。儂は1つ試しておきたくてな」

「試し…、ですか?」

「そなた、儂らが築き上げた人理とやらを直すためにこの戦いに身を投じてきたのじゃろ?」

 

 急にシリアス調になってきた。これは聴く価値は大いにあるだろう。

 

「はい、そうですが…」

「折角の機会じゃ。このポイントを集めて、儂にその意気とやらを見せてみるがいい」

 

 前言撤回…。シリアスなのか、それとも…。

 こうして、本能寺ポイントを集めることになった。

 人理修復を始めたばかりの自分達には大変だ。しかし、貯めるごとに素材が手に入る。サーヴァント達の強化のためには集めておく必要はあるだろう。

 

***

 

 地道に貯めていった結果、10万ポイントが貯まった。それはつまり、信長さんの加入が確定となったということだ。

 新しい仲間が入るのは嬉しいことだ。報告しようと信長さんのもとに駆けつけて――

 

「信長さん、やりました! 僕やりまし――」

「阿呆ォォッッ!!」

「おぶっ…!?」

 

 突然、ひっぱたかれた。

 

「な、何するんですか!」

「よく見てみい、ワシの素材を!」

 

 信長さんは怒鳴りながら、1枚の紙を突付いている。

 

「悲しいことに…、それでしかワシは再臨できん」

「……はい?」

 

 再臨とは、サーヴァントが強くなる手段の1つで、完全になるには4回も必要になる。そのためにはピースやモニュメントを素材として集めなければならない。

 どうやら、信長さんはそれを必要としていない。必要とするのは髑髏だけ…。

 …待てよ…。髑髏だけ…? ピースはいらないの?

 

「……ピースは?」

「いらん」

「モニュメントも…?」

「いらん、ていうか髑髏だけなんじゃが…」

「ああ、意外と楽なんですね…。なら周回で――」

「阿呆! その髑髏は屋台に置かれてる、これらだけじゃ!」

 

 信長さんが怒りながら指を指す。屋台に置かれてる金色の髑髏4つ。交換アイテムが違う4つ。……えっ、ここでしか手に入らないの? いつもの訓練では落ちてこないの…?

 そして、僕はようやく事の重大さを思い知った。頭を抱えて打ちひしがれた。

 

「マジですかぁっ!? それを早く言ってくださいよぉぉっ!!」

「言われる前に自分で気づけ馬鹿マスタァァーーッッ!!」

「それ無理だからぁっ!?」

 

 ぐだぐだやないか。

 ポイントチェック表をよく見てみると、4人の信長さんの絵が描かれている。何故被っているのかと悩めば、後にそれが信長さんのステータスに大きく関わってくると知らされることになった。

 

***

 

「あ〜どうしよう…」

 

 ベッドに転がる自分。

 信長さんを中途半端なステータスにしないためには、ちびノブ―信長さんが命名した―からポイントや素材を集めなければならない。

 僕は申し訳なく思いながらも、サーヴァントの方々を結集して周回に集中してきた。でも、現状は厳しい。ダ・ヴィンチさんやロマンさんの分析によれば、ぐだぐだ粒子に惹かれやすいサーヴァントであるほど集まりやすいそうだ。分析の結果、信長さんやランサーのクーさん、弁慶さんがそうだったようで尽力を注いでくれているが、相性などの問題でなかなか厳しい。

 

――こうなったら、新たにサーヴァントを迎えるしかない。

 

 僅かな石を抱え、召喚室に向かう。

 石を放り込み、召喚を行う。

 

――すると、金色の輪が現れた。

 

 取り出し口から現れたカードの裏は――セイバーだった。

 

「新撰組一番隊隊長、沖田総司推参。貴方が私のマスターですか?」

 

 沖田さん…。沖田さんが来た…。

 

「おや、見たことあると思ったら藤丸さんじゃないですか! なるほど、今日から貴方がこの沖田さんのマスターというわけですね!」

「……うそ…」

「ま、マスター…? どうしたんです…?」

 

 沖田さんと再会できたという喜びはなくはない、むしろ強いものだ。

 だから、あの人に言っておかなければならない気がする。気づけば、僕は沖田さんと一緒に廊下を全速力で走っていた。

 

「マスター!? そんなに走ってどこに行くんです!?」

「信長さぁん! どこですか信長さあああん!!」

「えっ、ノッブもいるんですか!?」

「あった、あそこが信長さんの部屋です!」

 

 まさにドタバタ劇が現実になったかのような風景。

 後にマシュから聞いた話だが、やはり「何事か」と僕達のことを見ていたという。

 

「一体なんじゃ、騒がしい…」

「沖田さんが、沖田さんが来ました!」

「なんじゃ沖田かぁ…。……はぁあ!? マジで言っとるのか!?」

 

 だるそうに扉を開けて出てくる信長さん。しかし沖田さんが来たことを報告すると、一気にそのけだるさが吹き飛んでいった。

 

「ああっ、ノッブ先にいたんですね! やっぱり沖田さんがいないと駄目ですねぇ!」

「なんじゃと!? お前病弱クソステセイバーのくせに!」

「病弱クソステセイバー!?」

「コフッ…!? 人が気にしていることを…!」

「うわあああ沖田さああああん!?」

「大丈夫です、いつものことですから…!」

「いやいやいや! サンソンさん! サンソンさんどこですかあああ!!?」

 

 ぐだぐだやないか。

 

***

 

 2日後、沖田さんがもう1人召喚され、宝具が強化された。

 「配布鯖のワシを差し置いて宝具強化とかどういうことじゃあ!? さすがきたない! さすが壬生狼きたない!」と信長さんに沖田さんがドロップキックをかまされたのは別の話。

 

 そして、無事に信長さんの素材をすべて回収することに成功した。




ナポレオンさん来てほしいわ…。


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