顔芸しないと決めました (石音 富綱)
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プロローグ

 薄暗い部屋の中、楕円形のテーブルを囲む十個の椅子がある。

 それぞれの椅子には一つを除き人が座っており各々の作業を進めている。書類を書く者、携帯端末を操作する者、目を閉じ瞑想する者、微笑みを浮かべ周りを観察する者。

 作業の小さな音だけが室内に響き渡る……

 ややあって上座に座る人物が口を開いた。

 

「えっと、それじゃあ十傑会議を始めていいのかな?」

 

 その瞬間、重苦しかった部屋の中の空気が変わった。

 

「あぁぁぁぁぁ!? せっかく連勝がかかってたのに負けちゃったじゃんか! もー、司のせいだぞー!」

 

「え、ええと…ごめんね、でも俺は一応議長だし、会議始めないといけないんだ」

 

 先ほどまで携帯端末とにらめっこをしていた小林竜胆が十傑第一席の司瑛士に文句をいってのける。

 

「えー、どうせ今回も定期報告で終わりっしょ、もうこれ意味なくない? 別に変わったことなんて起こってないんだし解散で良くない? はい解散、解散」

 

「月に一度の定期集会は十傑の義務よ、できないというならやめた方が良いんじゃ無いかしら」

 

「はあぁぁぁぁぁ? 誰もできないとか行ってないですけどぉ、勝手に人の台詞作んないでくれないですかぁ」

 

「ふふふ……相変わらず二人とも仲が良いじゃないか! 仲良きことは美しきだね」

 

 馬鹿な発言をする久我照紀、そんな様子にいつも通り苦言を呈す紀ノ国寧々、それを見ながら見当違いな事をのたまう一色慧。

 

「……んん、もうちょっと角度が」

 

 ぷるぷると震えながらも必死に自撮り写真を撮ろうと苦心しているロリヶ久保先輩こと茜ヶ久保もも。

 

「む? 茶がなくなったな……」

 

「ふむ、どれ拙者が入れてこようか」

 

 高校生とは思えない貫禄と雰囲気を纏い、もはやここだけ任侠というべきか古臭いというべきか迷う女木島冬助と斉藤綜明。

 

 そして特に話しかけられることも無くぼっちと化している俺こと、叡山枝津也という人物。

 

 そう、あの人気グルメ漫画【食戟のソーマ】に出てくる愛され系かませ顔芸先輩こと叡山枝津也だ。

 俺という存在はいわゆる憑依系転生者というやつだ。

 何が原因でこうなったのかはまったくわからないが、気がついたときには俺は叡山枝津也としてこの世界に生まれてきていた。

 前の世界では下っ端料理人で少々オタク趣味だった程度の普通の青年の俺が、今世では素晴らしい才能の塊である叡山君に憑依し天才料理人である。

 俺がこの世界が【食戟のソーマ】だと気がついたのは憑依してから割とすぐだった。

 何せ遠月ブランドという名前に、一歳年下に神の舌が生まれたとかの話が嫌でも耳に入ってきたのだから。

 最初は自分が憑依したこの叡山枝津也というキャラのこともあり原作に関わっていくか悩んだところだが、別に創真陣営に敵対しなければよくねと思い入学したしだい。

 そして気がつけば流れるように十傑へと上り詰めてしまっっていた。原作補正ってすげー……

 いくら叡山の才能があるとはいえ中身は元小市民の俺だ、せいぜい原作キャラと絡めればいいかなーぐらいしか思ってなかったのにこれである。……補正のせいで敵対ルート直行とか無いよね?

 

 それはともかくとして、前世の社畜根性もありこうして真面目に十傑としての仕事も頑張っているのだが……

 

 

 わいわいがやがやと先ほどまでの緊迫した雰囲気はいったい何だったのか。弛緩しだらけっきった空気で、各自がしたいことをするだけという締まりの無い空気が流れる。

 残念な事に会議が一向に始まらないという先程までと何ら変わりない状況が続く。

 

 ふと時計を見ると仕事の約束の時間まで押しているということに気づく。今から会議を始めてぎりぎり間に合うかどうかだなこれ……

 室内にパンパンと手を叩く音が響く、まあその正体は俺なんだが。

 

「おいおい、司さんが会議やるって言ったんだから始めるぞ。この後の予定があるやつだっているだろうが」

 

「わぁ~、でたよ仕切りたがりの叡山くん」

 

「はっ、言ってろ。そんじゃあ司さん、さっさとやろうぜ。こっちも時間が押してるからな」

 

「助かるよ叡山、ほんとにお前だけが頼りだよ……」

 

 若干涙ぐみながら威厳の欠片も無いことを言っている司さん。

 もうちょっと覇気みたいなものを纏ってくれたらこっちも苦労しなくてすむんだけどな……

 

「それじゃあ早速会議を始めるよ。報告書は後で回収するから最重要案件だけ終わらせるとしよう」

 

 そう言えば、先日薙切えりなが十傑に入って来たって事はあれか……

 

「今度行われる高等部一年生の始業式の件だ。今年は珍しいことに編入生がいるらしいからね、その諸々の手続きを分配して……」

 

 いよいよ原作開始かー。

 はあー。楽しみな反面、不安も多いにある。主人公とは仲良くしておきたいんだけどな。

 司さんの話を聞きながらこれからの物語のながれついて考える。正直言ってもう何年も前に見た漫画の話だ、大筋はわかっても細かいところまでは覚えていないというのが現状。

 

「まあ、なるようになるか……」

 

 俺の名前は叡山枝津也、ひょんな事からこの世界に転生したけど毎日楽しく生きてます。

当面の目標はあれだよ...やっぱ顔芸しないことだな!

 

 

 




文字書くのは大変だなぁ以外と短くなってしまった...


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第一話

「いやー叡山が立候補してくれて助かったよ。俺ってこうやって表だって何かするのは苦手だからさ……」

 

 

 なんとも気の抜けた風な弱々しい雰囲気で語る十傑第一席の司瑛士。なんでこんなに自信が無いのだろうか。こういう所はもっと久我や竜胆先輩から学ぶべきだと思う……いやそんな司さん嫌だな、やっぱり今のままのあなたでいてください。

 

 現在俺たち二人は高等部入学式が行われている天幕の裏にいる。

 そう、二人なのだ。

 結局何時ものように誰もやろうとしない学校行事の運営を一任されて死にそうになっていた司さんに付き合って俺も色々と(主に司会を)手伝っているのだ。

 

「しかし珍しいね、叡山は基本多忙だからこういった行事にも当日参加するほど積極的じゃ無いのに……」

 

「はん、たまたま暇だったから受けただけですよ。それに新しく入ってくる転入生って奴も気になりますし……」

 

 

 口ではこう言っているものの、俺は内心わくわくしている。

 たしかこの始業式で爆弾発言をかまして主人公は学園内でアウェー状態に陥るはずだ。

 別に名シーンという程のものじゃ無いが、それでもなかなかにインパクトのあるイベントだろう……これを見逃す気は無い。

 ようするに半ば失いかけているオタクの性ってやつが息を吹き返して野次馬根性を爆発させているだけとも言う。

 

『諸君らの99%は1%を育てるための捨て石である...』

 

「おっと総帥様のありがたいお話もようやく終わりか、次がいよいよ例の転入生ですね」

 

「やっと終わる、もう早く帰りたい」

 

「……っとにこの人は」

 

 本当にどんだけやる気無いんだよこの人、これで社会に出てやっていけるのかね?

 

「さてと……」

 

 マイクを起動して口を開く、柄にも無く少し緊張しているのかじっとりと手が汗ばんでいる。

 

 気がつけば自然と口元がニヤリとした笑みを浮かべる。これが原作の始まりか……

 

『それでは最後に高等部から編入する生徒を紹介します』

 

 コツコツと壇上へと上がる足音が響く。

 ここからではしっかりと見えないが制服を着崩した少年の後ろ姿がちらりと見えた。

 そいつはマイクの前に立って少しだけ緊張した様子を見せながら話し出した……

 

『やー、なんか高いとこからすいませんねーへへ……所信表明でしたっけ、やんなきゃ駄目っすか?』

 

 ポリポリと頭を掻きながらふざけた態度で視線を集める。

 やっぱ主人公って精神力半端ねぇや、あの場所に立っていながらよく軽口叩けるよ。俺なら緊張して無理だね。

 

『じゃー手短に二言三言だけ……』

 

 そう言うと奴はへらへらとしながらもしっかりとした意思を持ってこう告げた。

 

『えっと、幸平創真っていいます。この学園のことは正直踏み台としか思ってないです……』

 

「へぇ、なかなか面白いこと言うね彼」

 

「なかなか生意気でいいじゃ無いですか。ま、実力が無ければそのうち消えるでしょうけどね」

 

 さっすが主人公だ! 俺たちに出来ないことを平然とやってのけるぅ!

 あ、でもこの隣にいる人畜無害なふりした天然ド畜生は無意識で言いそうだわ……

 

『……入ったからにはてっぺん取るんで。三年間よろしくお願いしまーす』

 

 転入生、幸平はぺこり礼をすると反対方向の天幕へと降りていく。

 数秒後、会場内では割れんばかりの怒号に合わせてぶっ殺すぞなどという物騒な言葉が飛び交い始めた。

 

「あわわわ、どうしよう叡山。閉会式が出来ないんだけど!」

 

「あ?ああ、音響設備が壊れたのか。たく缶なんぞ投げやがって、モラルってのが無いのかね」

 

「……叡山ってヤンキーみたいな見た目の割に意外と礼儀に厳しいよね」

 

「親が厳しかったんですよ! いいからさっさと終わらせるぞ!」

 

 反対側の天幕からはあの有名な薙切えりなが声を荒げているのが聞こえてくる。あいつがこんなに取り乱してるのなんて初めてだな……本当に見ていて飽きそうに無い奴だ。

 

「今年はいろいろ楽しみが出来たな……」

 

 とりあえず今はこの馬鹿騒ぎを止めるとしますか。

 放送機器が使えないので仕方なく俺が壇上に上がる。残念な事に司さんはパニックで使い物に成りそうもないので俺がでるしかない。

 

「おい、いい加減静まれ。時間が押してるんだ、文句が言いたいなら後で直接本人に言うんだな」

 

 場がシンと静まりかえる。いやそこまで静かにならなくても……ま、まあ都合が良いしオッケーってことにしよう!

 

「チッ成金野郎がデカい顔しやがって……」

 

 誰だいま言ったのぉ!? そんな事言われたらおじさん傷ついちゃうぞぉ!

 なんか知らんが嫌われてるんだよなぁ……やっぱりこのヤンキースタイルがいけないのか? でも他の髪型だとどうしても違和感があって嫌いなんだよ俺は。

 い、いいもんね! モブにいくら嫌われようとも十傑の皆と仲が良い俺はこの学園の中でも勝ち組に分類されるのさ、うらやましいだろバーカバーカ!

 

 はい、この始業式は終わり終わり! さっさと家に帰ってクソして寝てろ!!

 壇上からモブ達に指示を出して解散させる。

 あ、田所ちゃんがいる……目が合っただけでめっちゃビビられたんだが。そのせいか吉野ちゃんや榊ちゃんにまで睨まれる。俺がいったい何をしたというのか……

 

 この後、自室にて人知れず流した涙があったのは俺だけの秘密だ……

 



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第二話

 さてこうして原作が始まったのはいいものの、最初のうちはこれと言って絡みに行ったりする暇も予定も無い。

 しばらくの間は現状維持のままだろう、本格的に絡み始めるのは秋の選抜頃かな?

 それまではこのまま十傑の仕事をしつつ、個人の仕事もこなしていくという何時もの日常が……戻ってはいなかった。

 

 

「あの、茜ヶ久保先輩? 仕事が出来ないので退いてもらっていいですかね?」

 

「ダメ、枝津にゃんは今もものクッションなんだからおとなしくして」

 

 俺の膝の上にはロリヶ久保、じゃない茜ヶ久保先輩が座っている。

 執務をしていたら突然部屋に乱入してきて、いそいそと人の太ももに腰掛け携帯をいじり始めたのだ。

 

「……竜胆先輩」

 

「いいじゃんか叡山! 役得って奴だな!」

 

 茜ヶ久保先輩と同時に部屋に押し入ってきて勝手に人のお菓子を食べている竜胆先輩に対して訴えかけるもこれをスルー。

 

 いや確かに脚の上の柔らかい感触といい、お菓子作りが得意だからか頭がぼーっとするほど甘い匂いがするしでさ。こう男としてはうれしいし、できればずっとこうしていたいと思う程度には魅力的な時間ではあるんですけどね!

 

「あの、そろそろ総帥に頼まれた依頼の時間が……」

 

 それでも残念ながら総帥から十傑に当てられている依頼があり、その期限が迫っていることについ先日気がついた司さんに泣きつかれた俺が否応なしに受けたものがあるのだ

……

 他の十傑が受けたがらないような依頼で、普段ならこういう依頼を回されている一色も寮の歓迎会があると言い断ったものゆえ現状俺ぐらいしか出来ない依頼なのだ。

 

「その依頼なら司に投げつけてきたから気にしなくて良い」

 

「……ああ」

 

 脳裏に涙目の司さんが浮かんだ。ご愁傷様です……相変わらず凄い人のはずなのに、なぜか皆から無茶ぶりされてるなあの人は。

 しかしあの依頼が無くなったって事は俺に久しぶりの仕事の無いフリーの時間が訪れたということになる。

 あれ? ちょっと待ってくれよ、俺って一応学生だったよな、なんでこんな社畜レベルの生活してんの? おかしくない?

 

「枝津にゃん、座り心地が悪いからもう少し体を傾けて」

 

「……はい」

 

 いやいや、俺はリクライニングシートかなんかかよ。そう思いながらも男は可愛い女の子の頼みは断れないのである。是非も無いね!

 

「ん、なんか違う」

 

 そう言いながらベストなポジションでもを探しているのか、俺の上でもぞもぞ動く茜ヶ久保先輩。

 あーっ! 先輩! あーっ! 困ります先輩! あーっ!

 ロリ体系とはいえかなりの美少女が太ももの上で動いていると、余計な血液が股間に集まり俺のカリバーンがエクスっちゃう! 静まってJr.叡山、ここで宝具解放したらロリコンの汚名が張られちゃう! 次回叡山死す! ってか? やかましいわ。

 こんなのクール系キャラの叡山じゃ無い、静まれ俺のアイボォォォ!!

 え? 叡山はクールキャラでは無いって? 初登場時はクールだったろぉん!

 

「あのさ叡山、ももの事怒んないでやってくれよ?」

 

「突然なんですか竜胆先輩?」

 

 全然怒ってませんが? むしろ俺の数少ない癒やしですが?

 少し眉をひそめながら滅多にしない神妙な顔でこちらを見る竜胆先輩。普段からこのぐらいキリッとしといてくれれば俺や司さんも心労が減るんだけどなぁ……

 

「ももは心配してたんだよ叡山のこと。お前ここのところ全然休んでないだろ?」

 

「うぐっ」

 

 それ俺も思ってた所だ。正直プライベートな時間とか半年くらい無かった気がする。

だって十傑めっちゃ忙しいし……

 

「最近顔色も悪いし、一人で何でも出来るのはすごいけどもっと周りを頼れよ。こんなに頼れる先輩もいるしな!」

 

「竜胆先輩……」

 

 なんだろう不覚にもうるっときた、前世ではあまり心配とかしてもらえなかったからなぁ。

 むしろ出来ないのは甘えとか本気で言ってきてたから質悪いよな。先輩達の心遣いに感動しているとふと気がついた。

 

「……いや、そもそも他の十傑がさぼった仕事が俺と司さんに降りかかってるから忙しいんですが?」

 

「……」

 

 おいそこぉ! 露骨に目をそらすんじゃ無い!

 こっちを見ろぉ(ねっとりボイス)、その綺麗な顔を爆破してやろうか?今の爆発、人間じゃぁねぇぇぇぇ!

 

 

「まあ、それは置いとくとして」

 

「持っててください」

 

「置いといて、そういうわけで遊びに行こうぜ!」

 

 にかっと豪快に笑うと唐突になぞの提案をしてくる竜胆先輩。その手には何故か俺の名前が書かれた見知らぬ食戟の書類が握られている。

 

 

「……なんですかそれ?」

 

「さっきそこで受けてきた! サインは代わりにしといたからな!」

 

「おいぃ、人の食戟を勝手に受けるんじゃねぇよ! ていうかそれありなの、ダメだろそれは!?」

 

「ぶーぶー、良いじゃんか叡山ー! それとも負けるのが怖いのかー?」

 

「……はぁ」

 

 ほんとに自由すぎだろこの人、知ってたけどさぁ!

 目の前に掲げている食戟の内容を確認する。どうやら先週にもろもろの事象により俺が退学決定した奴がそれの取り消しを願っているらしい。

 あほくさ、やめたらこの学校。と思いながらも正式に書類になってしまえば十傑としての立場が食戟を断る事を許さないのが痛い……

 

 そんなこんなで俺は何故かノリノリな美少女二人に手を引かれながら、渋々会場へと歩いて行く。

 

「今後はこういうの止めてくださいよ先輩」

 

「……おう」

 

 絶対止めないぞこいつ。

 気を遣ってくれていという事は何となくわかるんだけど、どうもこの人に限らず皆が俺の実力を過剰評価してる節があるんだよなぁ……

 才能はあれど中身が伴ってないので食戟とかなるべくやりたくないんだけど……とりあえず詳しい内容を見てみるか。もしかしたら簡単な料理かもしれないし!

 

「……お題は精進料理で、相手は和食の所のボンボンか」

 

「これまた相手にとっておあつらえ向きの課題だな!」

 

「竜胆先輩が勝手に受けたんでしょうが!?」

 

「なはは、ごめん!」

 

「もういいですよ、はぁ……」

 

 精進料理とは仏教徒が食べるために生み出された料理形式で肉、魚、卵、乳製品、一部ネギ類などを使用しない料理。

 一部の国や地域では戒律によって許されるものもあるがここで言っているのは完全に使用を禁止したものなのだろう。

 竜胆先輩が言ったように和食の料亭の息子ならまさに自分の得意分野と言ったところだ……

 

「……大丈夫なの?」

 

 不意に袖を引かれれば上目遣いにこちらを見上げる茜ヶ久保先輩がいた、ああ^~心がぴょんぴょんするんじゃ^~

 一瞬天に召されかけたがなんとか平静を装う。この表情筋は気を抜けば仕事しようとしやがる、顔芸はしないっつてんだろ!

 

「問題ないですよ、所詮首になる程度の実力の持ち主だ。これでもハンデが足りないぐらいですね」

 

 などと格好つけて言って見たけどそんなことはありません。

 正直言ってレパートリー無いです。とりあえずベジタリアン向けの料理でも作ってれば大丈夫かなぁ……

 そんな知識量で大丈夫か? 大丈夫だ問題しか無い。

 某神が問いかけてきても、そうとしか返せないぐらいにはよろしくない状況だ。

 

「ひゅー、さっすが叡山。それじゃあお手並み拝見だ」

 

「頑張れ」

 

 気がつけば既に会場の入り口に到達していたようだ。って、え? 待って待って、もう始めるの?

 可笑しくない? 俺さっき課題を聞いたばっかりでレシピとか何も用意してないんですけど?

 なんなの世界は俺に死ねとでも言ってるの?

 

 ああはいはい、やりゃあいいんでしょやりゃあ!

 来いよモブ野郎、包丁なんて捨ててかかってこい! 野郎オブクラシャアァァァァァ!!

 

 

 

追記:なんとか勝てたので良かったです、もう食戟はこりごりや...




早速感想もらえてやる気が湧いたので更新、正直ネタ盛りすぎたかも...
だが後悔はしない。
次回は勘違いものに必須な他の人目線とかやってみようかな。


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裏話 第二席

 おらおらー、竜胆先輩だぞー!

 私はバーンと勢いよく無駄にこじゃれた作りの扉を開く。

 十傑それぞれに振り分けられる執務室、ここは各々の性格による個性が良く出ているものだ。

 

 例えば、私の後ろにいる茜ヶ久保ももならそこら中に可愛い意匠の施された部屋になるし、斉藤の部屋なんか和室に改装してあったりする。

 そしてこのドラマとかで出てきそうな社長室みたいな作りをした部屋、ここは私たちの後輩で十傑第七席に座る叡山枝津也の部屋だ。

 

「叡山ー! 竜胆先輩が遊びに来てやったぞー、菓子を寄こせー!」

 

「……は?」

 

 ポカンとした顔でこちらを見ている叡山、その目の前には書類仕事でもしていたのか机の上に大量の資料を重ねている。

 相変わらず仕事が好きな奴だなー……私にはよくわからん考えだ。なんであんなめんどくさいものを好き好んでやりたがるんだ?

 

 とりあえず確かここら辺の棚に……あったあった! これは前に一色がくれたお土産のお菓子か、結構おいしかった記憶があるしこれにするとしよう。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら包装紙をばりばりと破いて無駄にふかふかな来客用のソファに寝転ぶ。うん、美味い!

 

「……竜胆先輩」

 

 名前を呼ばれたのでそちらを見てみれば、なんと叡山の膝の上にももが座っているではないか!

 ほんとに、よくあの人見知りのももがあそこまで男に懐いたものだと思う。まあ見る限り恋愛観とかでは無くお気に入りのペットみたいな扱いだが……

 

「いいじゃんか叡山! 役得だな!」

 

 大丈夫大丈夫、嫌がった振りなんてしなくても喜んでるのは私知ってるから!

 叡山は女子からのスキンシップを受けると少し鼻の穴が広がるんだ、あれだムッツリて奴だな!

 そんなムッツリ山にとってはうれしい事だろうにそれでもそれを投げ出そうとする。

 

「あの、そろそろ総帥に頼まれた依頼の時間が……」

 

 はぁ、またこいつは自分より仕事を優先しようとする。悪い癖だぞ!

 別にそんなの叡山がやらなくたって誰かがしてくれるって、それこそ暇そうにお茶でもすすってる爺さん自身が行けばいい話だ。って言ったところでこいつは聞きはしないんだろうけど……

 

 そんな風に思っていると、ブスリとした声でももが話し始めた。

 

「その依頼なら司に投げつけてきたから気にしなくて良い」

 

 ……あっ、だからあの時に司がめそめそしてたのか。

 

 私が仕事を放り投げて暇になったので、司の所へからかいに行くために歩いていると司の執務室からももが飛び出してきたのだ。

 基本的に他の人に会いに行ったりしないコミュ障のももが珍しいと思って中を覗いてみると何やらブツブツと呟いている司がいた。心なしか部屋全体も暗くなっている気がする。

 触らぬ神もなんとやらだ、めんどくさい雰囲気を感じたためそのまま何時もより足取りの軽いももを追いかけることにした。こっちの方が面白そうだったしな!

 

 そして、若干不満そうになったももを押しのけてここにたどり着いたのだ。

 

「ん、なんか違う」

 

 ももがそう言うとお尻を動かしながら位置をずらしている。

 あーあーもう、叡山の鼻すっごいピクピクしてる。変にクールぶられるよりかはよっぽど好感持てるけどな。

 しかしももにも、もう少し警戒心持たせないとなぁ。叡山に関しては心配してないけど男との距離感が近すぎるんだよ。

 

 ……なんか竜胆だけには言われたくない! みたいな感じで睨まれたんだが、はて何故だろうか?

 

 しかしさすがの叡山も少し訝しんでるような感情を覗かせている。ももらしくない行動だもんな……

 

「あのさ叡山、ももの事怒んないでやってくれよ?」

 

「突然なんですか竜胆先輩?」

 

「ももは心配してたんだよ叡山のこと。お前ここのところ全然休んでないだろ?」

 

「うぐっ」

 

 図星をさされたような顔をしている。十傑になってからその性格も相まってか、大抵の仕事を安請け合いするし。人からの頼みを基本的に断らないため、今や個人の仕事も合わせれば司以上に働いているのだ。

 並大抵の大人でも悲鳴を上げる仕事量、もう今さら退学になったところで一生遊びほうけられるぐらいの資産は貯まっているだろうに……

 

「最近顔色も悪いし、一人で何でも出来るのはすごいけどもっと周りを頼れよ。こんなに頼れる先輩もいるしな!」

 

「竜胆先輩……」

 

 正直に言えば叡山の才能はすごいと思うし少しだけうらやましくもある、料理だけじゃ無く経営や生物学、栄養学と多くの分野への知識を持ち。それらを活用する技術も持っている。

 もちろんそれら込みでもまだ私たち3年生には勝てないだろうけど、近い将来にはどうなるかわからない。

 人に対する観察眼も優れているし……

 

「……いやそもそも他の十傑がさぼった仕事が俺と司さんに降りかかってるから忙しいんですが?」

 

「……」

 

 ……こうして気づかなくても良い余計なことに気がつく察しの良さもある。

 んー、竜胆先輩はお前が何言ってるのかよくわからんなぁ。

 

「まあ、それは置いとくとして」

 

「持っててください」

 

「置いといて、そういうわけで遊びに行こうぜ!」

 

そう言って先程この近くをうろついてたトランプスーツから奪い取った食戟の書類を掲げる。

 

「……なんですかそれ?」

 

「さっきそこで受けてきた! サインは代わりにしといたからな!」

 

「おいぃ、人の食戟を勝手に受けるんじゃねぇよ! ていうかそれありなの、ダメだろそれは!?」

 

 あ、素がでてる。表面上は繕ってはいるけどこうやって焦ったりするとタメ口になるんだよな叡山は……

 

 結局、嫌がる叡山を引っ張って食戟の会場にひっぱていく。

 色々と言ってはいるが、その様子からは相手に負ける気なんてさらさら無いと言った自信が見えている。

 実際に、十傑にもなれず選抜にすら出場もしたこと無い程度の2年生に叡山が負けるとは私も思わないが……

 

「……大丈夫なの?」

 

 しかし、ももはそうじゃなかったらしい。相手を下に見る癖のあるももっぽいと言えばぽいのだが、さすがに心配しすぎだろ。ほら叡山だって顔しかめてる……

 だが叡山のその顔を見た瞬間、背筋にぞわりとした感覚が走った。

 

「問題ないですよ、所詮首になる程度の実力の持ち主だ。これでもハンデが足りないぐらいですね」

 

 そう言ってのけた叡山の顔は時たま見せる鋭い龍を思わせるような雰囲気を纏う。

 こういうマジになった叡山は凄く良い、噂によれば非公式の食戟で元学園OBとも渡り合ったと聞く。

 私も戦りたいなぁ……

 ちらりと獰猛な感情がわき出てくる。だが今はまだタイミングじゃ無い、なに同じ十傑なんだからいずれは食戟する機会も訪れるだろう。

 

 ともかく今はこの困った後輩を応援してやることにしよう。かっこいいとこを見せてくれよな!

 

「ひゅー、さっすが叡山。それじゃあお手並み拝見だ」

 

「頑張れ」

 

 そう言って叡山を会場へ送り出す。そうだ、後で作った料理食わせて貰おう! いやー楽しみになってきた!




原作キャラの視点は難しいですね。
次回はようやく食戟のソーマらしく料理描写を入れたいと思います。
難産になりそうですが気長にお待ちください。


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第三話

はい、と言うわけで食戟という名の公開処刑が始まりますよっと。

 

 ろくな準備も無く立たされた会場内には既にやる気に満ちあふれている様子のモブ男くんがこちらを見据えていた。

 仁王立ちをしている彼は、俺に対してビシリと擬音がたちそうな程の勢いをもって指を向けてきた。

 

「叡山枝津也! 教師でも無いくせに十傑の権力を使って横暴を繰り返す遠月の面汚しめ。この勝負に俺が勝ったら十傑の座は降りて貰うからな!」

 

「……はぁ?」

 

 え、なんなのこの人? 書類にはそんなこと書いてなかったじゃん。お前が退学嫌だから勝ったら取り消してねって内容だったよね?

 

「そんなのは当然の事だ、わざわざ食戟の景品にするほどのものでも無いだろう? むしろ十傑のお前は負けたら今までの悪行を認めて自主退学をするべきじゃないのか?」

 

 ええ……何なんだよその超理論的な結論は……

 そもそも悪行ってなんのことだよ、こちとら真面目に十傑やってるわ。

 

 言っとくけど俺がいなくなったら困るのお前らだからね? 学校の行事とか俺が裏でどんだけ苦労してると思ってんの?

 

「ふん、事の重大さがわかったらだんまりか? 今回は食戟成立までの時間が短かったからお得意の裏工作は出来なかったんだろう? せいぜい人生最後の食戟を記憶に焼き付けておくんだな!」

 

 お前は何を言っているんだ? 裏工作ってなんだよ食戟でそんなの出来るわけ無いじゃん。

 ほらよく見ろよ、司会の人困ってんじゃん。明らかに書類と違うこと言ってるけどどうすんのこれってなってるじゃん。

 

 傍から見ればどんな雰囲気なのか俺にはわからないが、俺視点からするともうただ早く帰りたい。

 司さんはいつもこんな気分だったのかな……

 

「その食戟、待って貰う!」

 

 なんとも言えない空気が流れ出したと思えば、突然厳つい声が会場内に響いた。ってこの声は……

 

「此度の食戟、儂が取り持とう!」

 

 じじ……総帥、総帥じゃないか!

 いつの間に来ていたのか、三つある審査席のど真ん中に立っている和服を着た厳つい壮年の男性。

 そう彼こそがこの遠月茶寮学園のトップである食の魔王こと薙切仙左衛門なのだ!

 

 いやー、相変わらず顔の傷が厳ついなあの爺さんは……

 てか毎回思ってたんだけど、やっぱり暇なんじゃないのあの人? 基本的に飯食ってるかお茶飲んでるか筋トレしてるとこしか見たことないんだけど?

 なんなの学園の仕事とかしなくていいの? だったらただでさえ忙しい十傑に個人的な用事とか放り込んで欲しくないんですけど?

 

「は、ははは。あの食の魔王が直接審査してくれるなんて夢みたいだ……」

 

 そんでなんでこいつはこんなに感動してるの? ただの爺だからねこれ? 料理食べた後の反応が変態的なやばい爺だよ?

 

 会場内に居た観客達も「まさかあの薙切仙左衛門が……」とか「さすがの緊張感だ」とか言ってるんだけど、機会さえあれば自分の上半身をさらす半露出狂だよ?

 

「食戟の内容。お題は精進料理、賭けるものはお互いの退学で相違ないな?」

 

 相違しか無いんですが?

 さっきからあんたらどんだけ俺に疑問符使わせるつもりだ。老眼進みすぎて字が見えてないのかあんた、書類ちゃんと読んでくれ。

 

「ふふふ、これでお前も終わりだな叡山!」

 

 こいつのノリもよくわかんないよ、もう誰か助けて……

 ダメだ知り合いにド畜生とクソガキとロリっ子と毒舌と自由人となんちゃって侍と若頭と変態しかいねぇ! 十傑の奴はどいつもこいつも癖が強すぎなんだよ、もっと俺を見習え!

 そんな事を考えているといつの間にか審査員達はそろっており対戦相手も準備を終えていた。

 

「それでは調理開始!」

 

 えぇぇぇぇぇ!? 始まっちゃうのかよ! 俺はまだなんの用意もしてないんだけど!?

 ど、どうするオタク脳を振り絞れ! 精進料理、菜食主義者にふさわしい料理を前世の料理から探すんだ……ッ!

 

 よし決めた! となると材料は、豆腐を主軸にして数種類の野菜と果物……そしてこいつだ!

 俺は冷蔵庫から瓶に詰められた液体を取り出す。こいつこそが料理の要になる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理が完成しました、是非ご賞味ください!」

 

「先に完成したのは君か。おお...見事な懐石料理じゃ!」

 

「さすが料亭の息子と言った所、一つ一つの盛り方に品がある」

 

 先に料理を出したのはお相手のモブ男くん、こっからじゃよく見えないけどなかなか高評価を受けてる様子だ。

 あーあ、後から料理出すの嫌だな……頑張って作ったのは良いけど、所詮は昔のレシピをいじくった即席のばったもん、鼻で笑われちゃいそうだ。

 

「これはごま豆腐ですかな? おお、凄いごまの風味だ。上のソースも風味に負けずしっかりと味を主張してくる!」

 

「この若竹煮もよく味がしみておりますなぁ」

 

「うむ、精進料理は淡泊なものになりがちだが濃い味付けにすることで物足りなさを補ったと言うことか……」

 

 あれ? 爺が服脱がないのって初めて見たかも……観客が少ないから興奮しなかったのかな? 是非そのままでいて、俺も女の子のに興味はあっても爺の乳首には興味はないから。

 

 それにしても全員絶賛してるじゃんか、もう負ける気しかしねぇぜぇぇぇ……

 あーあ、退学は嫌だなぁ……実際運営側の不備みたいなものだし取り消せたりしないかなぁ……

 

 徐々に負の気持ちがわき上がってくる。気分はレベル3のヒトカゲ一匹でタケシに挑んだ時のようだ。

 俺の手持ちには戦えるレシピがいない! 叡山の目の前は真っ白になった……

 

「やっちゃえ、枝津にゃん!」

 

 ……りはしなかった。

 おうおうおう! ロリっ子(年上)に応援されてるってのに諦めてたら男が廃るってもんじゃないか。

 いいぜ見せてやるよ、これが今の俺の全力の料理じゃぁぁぁい!!

 

 無言で盛り付けを済ませると俺はそのまま審査員の前へと皿を出す。

 

「待たせたな! 俺の出す料理はチレス・エン・ノガータ改め、日の丸風菜食主義者だ」




お待たせしました!と言うわけでまず一言、料理描写無くてすいません。
いや頑張って書いてたんですけど完全に蛇足というか、グダリ過ぎというか...
今後も努力はしていきたいと思いますがこの小説では作者の技術不足により料理描写は最低限となりそうです。

それと遅くなりましたが感想、評価ありがとうございます!
先程ようやく返信機能というものに気がついたので随時していきたいと思います。

次回は再び裏話の予定。



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裏話 食の魔王

 静けさに満ちた部屋の中に緑茶を煎じる音が広がる。

 鳥の鳴き声と爽やかな風が室内に吹き込む。

 茶葉に湯を注ぎ一時待つ、ふわりとした甘い香りが漂い体に染み渡って行くのを感じる。

 

 儂の名は薙切仙左衛門、食の魔王だのなんだのと呼ばれてはおるが、実際にはただの年寄りにすぎん。

 今の楽しみは多くの才能ある若い芽達が切磋琢磨をくり替えし、やがて一握りの天才へと至るのを見ること。そしてこの遠月茶寮学園では若人達のそうした研鑽が日夜繰り広げられているのだ。

 

「玉の世代か……」

 

 幸平創真という最後のピースがはまった今年の一年生。彼らはきっとこの学園を良い方向にひっぱてくれるはずだ。

 

 入れ立てのお茶をすする。程よい暖かさが年甲斐も無く高ぶった精神を徐々に落ち着かせてくれる……

 

「総帥、失礼してもよろしいでしょうか」

 

「む、久尚か……よいぞ」

 

 人の接近に気がつかぬとは、少々気を抜きすぎたか……

 許可を出せば食戟管理局局長である、独特なトランプ柄のスーツに身を包んだ景浦久尚が入ってくる。

 ……しかし相も変わらず妙なスーツだ。

 

「先程のことですが、急遽食戟が決定しました。一応お耳に入れておこうかと……」

 

「随分と急な話だな、しかし無いわけではなかろう。食戟については一任しておるのだからわざわざ知らせずとも……」

 

「十傑の食戟です」

 

「ほう……」

 

 十傑の食戟も別に珍しいというわけでは無い。ただ暗黙の了解としておおよそ最低でも三日前までには申告をするようになっている。

 というのも、十傑の食戟は他の生徒への刺激ともなるし遠月の力を外部へと示す場ともなり得るため多くの観客を入れるのが通例。故に当日の急な食戟はここ数年行われていなかったのだが……

 

「……誰だ?」

 

「十傑第七席の叡山枝津也です」

 

「叡山枝津也か……」

 

 意外と言えば意外な名前があがったものだ。こういった突拍子も無いことをするのは小林竜胆あたりかと思っていたが……

 

 叡山枝津也は外見に似合わず仕事に対して真面目な生徒であり十傑でも学園への貢献はずば抜けて高い。

 遠月の中では珍しく一般の家庭の出自であり、得意な料理のジャンルが存在しない。ある種十傑の中ではいい意味でも悪い意味でも異端な存在だ。

 その異端さゆえか生まれた家に対するプライドを持つ生徒の多い学内での評価はあまり良いものとは言えずに度々話題に上がってきている。

 

「それで、相手は?」

 

「……無名の学生ですね。資料によれば和食の料亭のご子息だそうですが、先日叡山氏から退学の認定を受けています」

 

 どうもきな臭い……おそらくだが裏で何かあったな。

 

「ふむ、そうだな……その食戟、審査席は空いておるか?」

 

「は? 急なことでしたので学園の教師に声をかけている所でございますが……まさか!」

 

「であるなら儂がでよう、確かめておきたいこともある」

 

「か、かしこまりました! すぐに準備いたします!」

 

 慌てた様子で久尚は部屋を後にした。少々無茶を言ってしまったか?

 

 しかしそれとは関係ないが、彼の料理を食べるのは去年の秋の選抜以来か。あれからどれ程腕を上げたのか楽しみであるな。

 

「お待たせいたしました、車の準備が出来ましたのでこちらへ……」

 

「うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく会場につくと既に役者はそろっていたようで食戟前に口上を述べているようだ。

 

「……せいぜい人生最後の食戟を記憶に焼き付けておくんだな!」

 

 ……なんと、まさかただの一般生徒との食戟に自分の退学を賭けているというのか!?

 何故彼がそこまでのリスクを負ってこの食戟を急いだのかはわからんが、これはちょうど良いとも言える。

 叡山枝津也、君の真の思いを見極めさせて貰うとしよう!

 

「その食戟、待って貰う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは調理開始!」

 

 儂が火ぶたを切れば二人の料理人が動き出す。

 対戦相手の生徒はすぐに下ごしらえに入った。出す料理は決まっているのだろう、その動きに迷いは無い。

 一方で彼の方は調理台について考え事をしているのかブツブツと呟いている。

 

 何分たっただろうかしばらくそうした後にようやく動き出した。

 取り出した材料は数種類の野菜とフルーツ類、そして瓶に詰められた白い液体……

 

 会場内がザワザワと動揺する。

 

『おい、なんだあれ?』

 

『ミルクか?』

 

『ばっか、お題を忘れたのかよ。精進料理だぞ』

 

『じゃあ豆乳か?』

 

『にしては白くないか?』

 

 一見すると牛乳にしか見えないそれに次々と疑問の声が上がる。

 声が聞こえているのかいないのか、平然とした様子で三つほど用意した鍋とフライパンに材料を投入していく。

 

「料理が完成しました! 是非ご賞味ください!」

 

 突然の声に驚きながらも儂は動揺を隠し目線をやる。そこには既に料理を完成させているもう一人の料理人の姿があった。

 手には膳を持っておりそれは美しい懐石料理の様相を見せている。

 

「先に完成したのは君か。おお……見事な懐石料理じゃ!」

 

「さすが料亭の息子と言った所、一つ一つの盛り方に品がある」

 

 他の審査員達が見た目に対する評価を述べている。

 漆塗りされた五つのお椀にはそれぞれの料理が盛ってあり。料理の内容はそれぞれ翡翠飯、味噌汁、ごま豆腐、若竹煮、レンコンのはさみ揚げといったところか。

 まずは味噌汁を一口すする。広がってくる味噌の濃い風味と塩味、中にはそれを和らげるためか一つもちが入っている。がぶりと噛みつけば中からはどろりと甘い餡が溢れてきた。

 

 あん餅雑煮か……

 香川県で親しまれている郷土料理の一つで、独特のあまじょっぱい味はつい箸を進めたくなる魅力がある。この汁のものはそれよりもさらに味が濃く作られているようで、出汁も通常のものよりも香り高い。

 

「これはごま豆腐ですかな? おお、凄いごまの風味だ。上のソースも風味に負けずしっかりと味を主張してくる!」

 

「この若竹煮もよく味がしみておりますなぁ」

 

「うむ、精進料理は淡泊なものになりがちだが濃い味付けにすることで物足りなさを補ったと言うことか……」

 

 濃い味かつ一品一品にボリュームのある料理はとても精進料理とは思えない満腹感がある。

 しかし儂も現役とはいえ老いたものだ、数年前であればこのぐらいぺろりといけたものだが……

 

 少しばかり辟易としつつ箸を進めていると。

 

「待たせたな! 俺の出す料理はチレス・エン・ノガータ改め、日の丸風菜食主義者だ」

 

 いつの間に完成させていたのか料理を盛った皿をこちらに提供している叡山枝津也の姿があった。

 自信に満ちあふれた顔で目の前に出された皿には精進料理と言うには疑問を持たざるを得ない見た目をしていた。

 

「こ、これは……」

 

「赤ピーマンの肉詰め?」

 

 そう輪切りにしてある大型の唐辛子種に詰め物をして焼き上げたもの、その周りには純白の濃度のあるクリームのようなソースがかかっている。確かに見た目は日本の国旗を連想させる配色になっているが……

 

「はっ、どうやらお題を理解出来ていないようだな! それともそれがお得意の手の内なのか? 苦し紛れにも程があるぞ叡山! 皆様こんなもの食べる必要もありません、早く評価に移りましょう!」

 

『そうだそうだ!』

 

『とっとと辞めちまえこの野郎!』

 

 一部の生徒達がこれ幸いにと声を荒げ始める。まったく食戟は出した皿で全てが決まるというのに、つまらんヤジを飛ばして。お題に沿っているかいないかは我々審査員が決めることだ。

 

 活を入れるべきかと口を開きかけた所で意外な人物から声が上がった……

 

「やかましいッ! うっとおしいぜッ!! おまえらッ!」

 

 その声が会場内の空気を凪いだ。

 静まりかえった中で一人の声だけがこだまする。

 

「そんなに期待されたところでその中に肉類や乳製品なんざ一滴も入っちゃいねぇよ、残念だったな。」

 

 そう言った後も静まりかえる客席を一瞥しふんっと鼻を鳴らすと。

 

「さあ、冷める前に食べてくださいよ。味は保証します」

 

 ……まったく彼は、そういった態度が敵を多くしていると気づいているだろうに。

 まあよい、先程も言おうと思った通り食戟では出された皿こそが全て。いざ実食!

 

「く、くあぁぁぁぁぁぁ! なんという旨みじゃ、これで本当に肉を使っていないというのか!」

 

「しっかりとした味付けに旬のフルーツの甘みと酸味がマッチしている! それにこの香ばしさは!!」

 

「正体はこの白いソース、ナッツ類か...」

 

儂がそう指摘すればニヤリと愉しげに口をゆがめる。

 

「その通りだ、じ……総帥。そのソースはアーモンドミルクを主体にヘーゼルナッツやマカダミアナッツを裏ごししたものを混ぜている」

 

「あ、アーモンドミルク! 昨今の乳製品アレルギーの代替飲料として注目されているものか!」

 

 アーモンドミルクはアメリカで爆発的な人気の出た健康飲料の一種でアーモンドを水などと一緒に砕き液状にしたものだ。ミルクとは名ばかりでそこに動物性の成分は一切入っていない。まさにお題に沿った食品だろう。

 アーモンド特有の風味と旨み、さらりとした後味が特徴的な飲み物でダイエットにも適しているというこれが、この料理に必要な決定的な風味を付けている。

 

「今回はナッツの味を前面に押し出すために配合も水を少なめにしている、さらに柑橘類の果汁を入れることでより爽やかな味に仕上がっているはずだ」

 

「なるほど、だからこそこの香ばしさが生まれる訳か……だがこの旨みの正体はなんだ、とてもナッツ類だけでは説明が付かん。肉は入っていないはずだろう!?」

 

「そいつは……」

 

「高野豆腐か」

 

「……正解だ」

 

 高野豆腐を戻さないまま粗めに砕く。そのまま出汁、油、醤油、砂糖、酒、香辛料を使い炒めたものを代替え肉として使用しているのだ。

 

「この味が高野豆腐なのか!?」

 

「もともと大豆を肉のように加工することが出来るんだ、同じ原料ならこっちの方がより手早いと思った」

 

 否、それだけでは無い! 大豆を加工した場合、食感は本来の挽肉に比べ僅かに堅い。しかし高野豆腐を使うことによって挽肉本来の食感に近づけたのだ。

 

「いやぁ、しかしこうして食べると先程の料理は少々味が濃すぎでしたな。儂はこのくらいのシンプルな味の方が好きですぞ」

 

「なにを言っているのです?これほど色々な香辛料を使って複雑な味を出しているというのに……」

 

「……そうか、あの三つの鍋はそういうことだったか!」

 

審査員の数は三人、その数と同じだけの鍋。

つまりこれは……

 

「なんと! 我々審査員ごとに味付けを替えたというのか!」

 

「その通りだ、完全に把握しているわけでは無いが一度でも食戟の審査員にでた人間の好みは把握している。それに今日は先に味の濃い料理を食べていたからそれに併せて香辛料も選ばせて貰った」

 

 全てのものに美味しいと言って貰える料理、それこそが多くの料理人の持つ夢の一つだろう。

 しかし彼はその夢を一笑し食べる側に最大限配慮した料理を作ったのだ!

 

 

「ふ、ふざけるな! 審査員の好みによって味を変えるなんて、そんなの卑怯じゃ無いか! それにそんなものは精進料理じゃ無い!! 精進料理はもっと質素で洗練されたもので……」

 

「馬鹿かお前は」

 

「なっ!」

 

 賞賛を浴びる叡山を気に入らなかったのか、掴みかかる生徒に彼は短く返す。

 

「前置きしとくと宗教を否定している訳じゃあねえぜ。ただ美味いものを食うのは誰にだってある権利だ、モノを食べるときは……自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ」

 

「う、うるさい! そもそも食品を置き換えただけの料理なんて美味いわけが!」

 

 そういって生徒は彼の余分に作ってあった料理を奪い取るように食べる。

 

「あっ……」

 

 そう声を一つ漏らすと彼はそのまま動きを止めてしまう。

 ここまでのようだな……

 

「それでは審査を終了とする!」

 

 結果を出すまでも無いのはこの場にいる全ての者に伝わっているのだろう。会場内には今から出される名前を待つ緊張感は無い。

 そこには羨望と畏怖とが入り交じった異様な空気だけが広がっていた……

 

 一人一人に合わせた的確な調理、多くの材料を考えつかない組み合わせで繋いでいき魅了するその姿まさに錬金術師の名に恥じぬ!

 ああ、見える! ふんどしを巻いた男が一人、その小さな体に燃えさかる闘志を込めた日本男児の姿が。

 肉類のように恵まれた体格を持たないながらも凝縮された力のある野菜と果物の旨みが儂たちにぶつかってくる! このままでは吹き飛ばされてしまうぞ!!

 突っ込んできた小さな男児に儂も構えをとる、いざ勝負!!

 

 ……は、気づかぬうちにふんどし一丁になってしまったわ!

 これが叡山枝津也という料理人の力か、あっぱれなり!!

 

「勝者は、満場一致! 叡山枝津也!!」

 

 

 その宣言を当たり前のように背中に受けながら彼は会場を後にしたのだった。

 

 

 




おっしゃあ、なんとか文字数伸ばせました。
今後も努力していきたい...

しかし気がつけば評価バーが黄色に、これも私の実力不足が原因なのでしょう。
もしもこうした方が良いと意見ありましたら感想をください。

次回は顔芸先輩視点、少し遅くなるかもです。



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第四話

ああああああ!日刊ランキングに入ってる!
皆様本当にありがとうございます、初めて書いた二次小説をこんなに評価していただいて感謝しかありません。
つたない文ですが、これからも応援お願いいたします!!


 食戟を無事終えた俺は会場を後にしてよろよろと歩いていた。

 うえっぷ、吐きそう……完全に油断していたところにあの仕打ちである。

 

 俺があの有名ゴローちゃんの台詞をどや顔で語っていると、突然目の前の屈強な爺があろう事かふんどし一丁になりやがった。

 確かにあの料理は元々ある相撲作品をイメージして作った料理だけど、だからといって普通目の前で力士のように四股を踏み始める? なんなの、絶対夢にでるんだけどあれ。主に悪夢として……

 あの爺には今後、拘束具でもつけといた方が良いと思うよ。そのうちきっと全裸になるから。

 頭の中に焼き付いた映像を忘れる事に集中しながら先の通路へと向かう。曲がり角へとさしかかったその時、何か大きな影が目の前を塞いだ。

 

「おっと、叡山先輩かビックリしたぜ。食戟お疲れ様、相変わらず凄かったな」

 

 ……こっちのほうがビックリしたわ! 悪夢が現実まで浸食しだしたのかと思っちまったじゃねえか!

 目の前の曲がり角から急にのそっと姿を現したのは厳ついゴリラ。では無くゴリラのような体躯の遠月学園一年生、美作昴だ。

 原作にも登場していたキャラでその存在はすさまじく印象深い。

 大きな体に繊細な技術を持つというギャップあるキャラで「微に入り細をうがつ」という言葉を信条とする男。『キングオブストーカー』の異名を持つ粘着質なストーカーでもあり警察沙汰になっていないのが不思議なほどの遠月でも最上位に君臨するやべー奴である。

 

 そして原作の叡山枝津也が主人公達に差し向けた先鋭で叡山枝津也の顔芸伝説の最後の要因を作った奴でもある。

 俺としては創真君達と敵対する気は一切無いので出来れば関わりたくなかったのだが、何故か二年に上がってすぐにストーカーされたあげく食戟を挑まれた。

 その時は調子でも悪かったのか、俺の料理と全然違うモノを出して負けてくれたので助かったのだが。それ以降こうして何故かやたらと絡んでくるようになった。

 正直に言えば止めて欲しいのだが、俺は十傑武闘派衆(女木島先輩と斉藤先輩)と違って喧嘩の実力はクソ雑魚ナメクジなのでこいつに不評を買い殴られでもしたら死ぬ自信がある。俺は至極弱いぞぉ!!

 

「へへ、そう睨まないでくれよ。俺は純粋に褒めてるんだぜ」

 

「……なにか用でもあるのか?」

 

「用が無きゃ話しかけちゃダメか? つれない事言わないでくれよ……」

 

 なんでコイツはこんな幼なじみ系ヒロインみたいなこと言ってんの? 止めてくれない俺の精神に追い打ちかけるの。吐くよ、今この場で吐き散らかすよ?

 

「冗談さ、竜胆さんからの伝言だ『お前の部屋で待ってるからな!』だそうだ」

 

「……その地味に似てる物真似は止めろ、お前の図体でやられるとグロ画像だ」

 

「相変わらず手厳しいなぁ先輩は……」

 

 厳しいのはこの絵面だよ! ウィッグとかどこから出したんだお前、ほんと見た目以外は似てるのがやばいんだよ!

 なにげに仕草とかの真似も細かいし、一回だけ見た紀ノ国と茜ヶ久保先輩の物真似はマジできつかった。あれ本人達が見たらお前多分だが殺されると思うぞ。

 ……いや別に俺が心配する事でも無いか。とにかくこの場を誰かに見られて変な勘違いとか起こされる前にとっとと移動するとしよう。

 

「それだけか、なら俺は行くぞ。あの人を長く待たせたら何言われるかわかったもんじゃ無いからな」

 

 どうせ竜胆先輩の事だしあたしにもあの料理食わせろー! とか言ってくるんだろうな……若干めんどくさいけど、今はただひたすら可愛い女の子との癒やしが欲しいから超許す!

 

「……叡山先輩よぉ。うぬぼれてる気は無いが、俺はこの学園であんたの事を誰よりもわかっているつもりだ。だから他の奴らのことなんて気にしないでくれよ」

 

 ……はっ! えっと、あー俺もちょっと疲れすぎだなうん。いやー本当にしっかり休まないとダメかもしれない、

 こんな幻聴が聞こえてくるなんてな。まさかこんなゴリラに他の奴じゃ無くて俺の事をもっと見てくれなんて言われるはずが無いよな……

 

「あんたは俺にとっての光なんだ、つらそうな顔しないでくれ……」

 

 ……いや、いやいやいや! なんでお前相手に変なフラグがたっとるんじゃぁぁぁ!!

つらいのはこの現実なんですけど!? 受け止めきれない、俺には受け止めきれないよこの現実は!

 

 ってかなんなのお前ホモだったの!? 地味にヤンデレチックな事言ってるし、勘弁してくれ俺はノーマルなんだよ! 

 だいたいホモでヤンデレとかマジで需要無いから!!

 そもそもいったいなんなんだよ俺にとっての光って、お前は俺にとっての悪夢そのものだよ!!

 

 俺はこのやばい奴の脇を華麗なステップを駆使して通り過ぎる。このままでは俺のケツがピンチだ、ここは速やかに竜胆先輩達のいるところに避難しよう!

 

「ま、待ってくれ!俺はあんたに伝えたい事が……」

 

 結構です!! 今から告白します、みたいな雰囲気を作るのほんとやめて!

 伸ばされてきた手をぎりぎり振り払い難を逃れる。

 

 くっ、こんな化け物(ホモ)をやっつける策がはたしてあるのか! ああ……たった一つだけ残った策があるぜ。

……逃げるんだよォ! 叡山んんんんんんッ!!

 

 脇目も振らず全力ダッシュでその場を後にする。

 茜ヶ久保先輩助けて、俺の心を癒やしてくださいぃぃぃぃ!!

 

 勢いそのままに走ること数分。俺はようやく見えてきた愛しき自分の執務室へと駆け込む。俺がドアに対してタックルをすると、体はそのままの勢いで空中を回って床に大の字に叩きつけられた。

 そんな部屋の中には突然の出来事に固まる二人の美少女がいた。

 

「ど、どうした叡山! 敵襲か!? ……うおぉぉぉぉ、叡山の敵ぃぃぃ!!」

 

 なにを勘違いしたのか俺を乗り越えて部屋の外へ突撃していく竜胆先輩……ちなみに、別に何がとは言わないが黒だった。

 

「何かあったの、枝津にゃん?」

 

 とてとてと近寄ってくるマイエンジェル(心の癒やし)、近づくにつれて彼女特有の甘い香りが漂ってくる。

 茜ヶ久保先輩は俺の頭側にしゃがむとしばし首をかしげる……別に何がとは言わないが水色と白の縞々だった。

 そして彼女は何を思ったのかブッチーと呼んでいるぬいぐるみの手を使って優しくゆっくりと俺の頭をなで始めた。

 ……なんだろう、もう自分が情けなさ過ぎて涙出てきた。

 

 その後、なんとか落ち着きを取り戻し二人に料理を振る舞った。

 昼の出来事なんてものはなかったんだ、いいね?

 




お待たせいたしました、ちょっと洪水のせいでいろいろありまして...

今回の話は特に悩んで何度も書き直ししたので違和感があるかもしれません。
次回は美作視点にする予定です。


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裏話 キングオブストーカー

「勝者は、満場一致! 叡山枝津也!!」

 

 歓声は聞こえなかった。その勝利宣言をうけながら、まるで気にした様子も無く静かに退場口へと歩みを進める叡山先輩。だが俺にはその顔がどうしても何かをこらえているようなつらい顔に見えてしまうんだ……

 

 俺の名前は、美作昴。ある事件をきっかけに実家から追放された出来損ないの料理人だ。

 今でもオリジナリティーだとか自分だけの必殺料理(スペシャリテ)だとか、そんなモノはくだらないと思っている。なにせ俺からしたら真似してアレンジするだけで容易に超える事の出来る料理だ、そんなモノに固執してる奴らはそろって皆アホなんだよ。

 

 だが今の食戟に勝利していた叡山先輩だけは本物の天才なんだ!

 

 あれは数ヶ月前の事、進級前の春休みの時点で俺は既に食戟による料理人つぶしを繰り返していたんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝者、美作昴」

 

「そ、そんな。僕の料理がこんな簡単な手を加えただけの料理に負けるなんてッ!」

 

「くっくっくっ、俺から言わせればまだまだアレンジしたり無いぐらいだぜ。まあお前程度を倒すならこのくらいでも上等すぎるがな! それじゃあ約束通りにこいつはいただいていくぜ」

 

 通算49本目の包丁を奪い取る。

 楽勝過ぎて仕方が無い、もっと頑張って貰わなきゃ張り合いってもんを感じねぇな!

 

 

「クソ野郎が、お前なんて金トカゲに目をつけられれば良いんだ!」

 

 誰が言ったのか、もしかしたら今までに俺が倒したくだらない奴の負け惜しみかもしれない。

 

 しかし金トカゲか……

 これはある人物の蔑称の一つだ、その人物は多くの二つ名で呼ばれている。遠月の錬金術師、黄金龍(ファブニール)、成金王……

 全てが共通して『金』を持つその名前はこの学園で最も恐れられている遠月十傑の一人、叡山枝津也の事を示している。聞こえてくる噂はこの俺にしてもとても栄えある十傑の一人とは思えない評価だ。

 

 ……曰く、審査員に対して圧をかけ食戟に勝利したとか。 曰く、十傑の権力を持って気に入らない人間を退学に追い込むとか。 曰く、ロリコンの気があるだとか。

 いや最後のはなんか違うんじゃないか? なんにしてもこのように良い噂をとんと聞かない人物である事は間違いない。遠月では珍しく一般家庭の出自を持っているらしく、十傑の座も料理の腕じゃ無く金の力で奪い取ったという話だ。

 

 これら全てが事実だとするならば、俺が言うのもなんだが料理人としては終わってるな。

 だが、俺にとってはその方が都合が良いとも言える。十傑に挑むには流石に時期尚早かと思ったが、こいつになら勝てる見込みがある。記念すべき50本目なんだ、ここらで一つ大物を狙うのも良いだろう。

 と言っても油断をしたりすることは無い。『微に入り細をうがつ』が俺の心情、腐っても十傑なのだからやり合うと決めた以上トレースに余念を残す気は無い!早速準備をしなきゃいけないな……

 

 叡山枝津也の朝は早い。自宅には戻らず十傑個人に与えられた執務室で目覚める。時間は朝の五時過ぎ、軽くストレッチをした後におおよそ30分ほどかけて髪の毛をセットし軽い朝食を食べる。内容は栄養ドリンクとスティック型の携帯食料(メープル味)

 そうした後は本日のスケジュールの確認だ、一分単位で決められたスケジュール帳は走り書きが各所にされており几帳面な性格がでている。

 確認が終わり次第、十傑に与えられている書類を消化していく。これを始業20分前まで続ける。

 

 学校までの移動はバイクで行く、車種は最高峰ツアラーと名高いBMW R1200RTの2017年モデルだ。

 本人の二つ名の通りに金色が所々にあしらわれたバイクは見るものを威圧しながら学校へと到着する。

 始業を終えると再び移動する、今日は個人で行なっているフードコンサルティングの新規契約の案件があるらしい。

 その後も今後の学校行事のための打ち合わせや、各業者との契約の更新諸々を済ませる。

 学校の終業間際までそれらを行ない、再び教室へと戻り終業時の連絡事項を聞き執務室へと帰る。

 

 自室に帰ると次々と運び込まれる資料に目を通しながら印を押していき数時間かけて全ての資料を片づけるとおもむろに冷蔵庫からヨーグルトと冷凍フルーツを取り出し食べ始める。

 食事を終え軽い運動をした後、執務室に増設した簡易の風呂に入り体を洗う。風呂から上がった後タブレットを操作しながらソファーに横になる。そして深夜の1時にようやく就寝。

 

 基本的にはこれらのライフワークを過ごし一週間を終える。3日に一回ほど他の十傑の生徒が訪れ差し入れをしたり、たわいの無い世間話をしている事から仲は悪くない事がうかがえる。

 

 

 ……はっきり言わせて貰おう、なんだこいつは?

 いくら異端とは言え程があるだろう!? この一週間を通して料理のりょの字も無かったぞ! お前は敏腕秘書か何かか!

 よくこんな生活をしていて体を壊さないと感心する。望んで見ていたとはいえこの生活スタイルに付き合っていた俺の方が体調を崩しそうだ……

 

 しかし、これでわかったな。悪い噂が本当かどうかは定かでは無いが、こいつは料理人じゃ無い。

 強敵を打ち負かし屈辱を与えるという喜びを得られないのは残念に感じるが、次回の獲物はこいつに決定だ。

 そうと決まれば早速接触しよう。ここ一週間を通して既に食戟に引きずり出す材料はそろっている。

 

 

 

 バイクに乗り走る叡山に偶然を装い併走する。こちらをちらりと視認すると奴は道路の端にバイクを停める。俺もそれについて行き同じくバイクを停めた。

 

「よう、良い天気だな……」

 

「美作昴だな、ここのところやけに気持ち悪い視線を感じるとは思ってたんだ」

 

「へぇ、俺の事を知っているのか?」

 

「まあな、十傑の方にも各所から苦情をいただいているよ。もう少しおとなしくしてくれると助かるんだが……」

 

 なるほどな、おそらく負けた生徒や文句を言ってきていた審査員が告げ口したんだろう。くだらない、そんな事いうぐらいなら端から真似される程度の料理を作るんじゃねぇよ。まあ俺に真似をさせないなんてのは無理だろうけどなぁ!

 

「知っているなら話は早いぜ。あんた俺と食戟してくれよ」

 

「断る、俺になんのメリットがあるんだ? そもそも十傑はそんなに安いものじゃ……」

 

「いやいや勘違いしないでくれよ、別にそんな大層なものを賭けようってんじゃねぇんだ」

 

 べろりと舌なめずりをする、さあ食いつきな!!

 

「ただよぉ、こういう写真が出回ると先輩が困るんじゃ無いかと思ったんだよ俺は……」

 

 取り出したのは叡山が学園関係者に金を握らせているところだ。流石に俺も驚きを隠せないがまさか十傑にまで金を渡してるとはな。こんな写真が出回ればお前だけじゃ無く十傑の評価も地に落ちるだろうよ。仲間思いのあんたにそれは許容できないよなぁ!!

 

「……ッ!仕方ねぇ、受けてやるよ」

 

 ……ほうら食いついた。俺はお前の事はなんだってわかってるんだぜ叡山枝津也ぁ……

 

「くっ、あんな写真が出回ればただでさえ疑われてるのに完全にロリコン扱いされてしまう!」

 

「ん、なんかいったかぁ?」

 

「別に、でお題はどうするつもりだ?」

 

「かかか、そう焦るなよ。そうだなお題はあんたの好きに決めて良いぜ、日時は今からちょうど一週間後ってとこだな」

 

「わかった、そうだなお題はデザートにするか。この前茜ヶ久保先輩に今度作るって約束したしな」

 

「結構余裕なんだな? その顔がどう歪むのか今から楽しみだぜ……じゃあな、せ・ん・ぱ・い」

 

 そういって別れたのが一週間前、あれからずっと追跡していたにもかかわらず叡山はこの一週間試作を一度もしなかった。

 なるほど、俺の事を知っているというだけあって徹底した対策の仕方だ。こうされてしまえば流石の俺でもトレースは出来ない。

 

 ……とでも言うと思ったのか!

 

 少なくとも過去の食戟の内容や調理傾向さえわかればある程度の当たりは付けられる。俺のパーフェクトトレースはそう簡単に攻略できるようなものじゃ無いぜ!

 俺の予想では叡山の調理は季節のものを生かした料理が多い、また多国籍の材料や技術を合わせて何処にも無い独自の料理を作りあげている。

 そして2日前に買っていた材料からして今回作るのはベリーのミルフィーユとみた!つまりあいつを超えるためにはこうすれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた当日、やはり同時に出来上がった料理は同じベリーのミルフィーユだった。だが俺のものが月餅などの技術を応用した中華風ミルフィーユだったのに対して、奴が出してきたのは通常のミルフィーユをまるで砂時計のように中心が引っ込んだタワー型に見立てた10段ミルフィーユだった……

 

「何故だ、俺のトレースは完璧だったはずだ!? お前はこのミルフィーユを作るはずじゃ無いのか!?」

 

「何のことだ? 俺は最初っからこのデザート『クレイジーガール風エクスプロージョンミルフィーユ』を作るつもりだったぞ」

 

「う、嘘をつけ! そうか即席で内容を変えたんだな。ははは、そんな行き当たりばったりな料理で俺を倒せたと勘違いするんじゃ無いぜ。『微に入り細をうがつ』、料理ってのは準備し抜いた方が勝つんだよ!!」

 

 あいつが作るはずだった月餅風ミルフィーユはサクサク、ホロホロとした独特の食感を楽しむものだ。

 叡山はバターとラードを半々で使うつもりだったみたいだが、俺のはラード100%。独特の食感がさらに口当たり良くなっている。さらにベリー類を粉末にして練り込むだけの工程に一部ピューレをくわえ込む事で味にも補強をかけている。この作り込んだアレンジが負けるはずが無い……

 

 だからこそ聞こえてきた声に俺は驚きを隠せなかった。

 

「審査が終了しました。今回の勝者は……叡山枝津也!!」

 

「馬鹿な……そんな馬鹿な事があるか!?」

 

 見た目が少し奇抜なだけの即席の料理に俺の料理が負けるわけッ!!

 審査員席に残っているあいつの料理を口に入れる、その際名も知らぬおっさんが何か言っていたがそれどころじゃ無かった。

 

 それはまさしく味の爆発だった。

 上の段から徐々に配合を替えて作られたパイ生地は時にサクサクと時にホロホロと食感を変え、食べる層ごとに甘み、酸味、ぴりっとした辛みなど顔を変える。

 下の層に向かうにつれ徐々に味は強くなっていき、一番下の層を口に入れると全身が硬直するほどの衝撃が走った。

 これは間違いなく即席の料理なんかじゃ無い。緻密な味のバランス、歯触りの一つ一つにまでこだわったレシピ。そこにはまるで何十年もかけて作り上げたかのような完成度があった。

 

 ああ、見える。傍から見てとても愚かで救いようのない少女が一つの道を究めんとする姿が……

 どれだけ馬鹿にされようとも、人から認められずとも信念をもって突き進む姿。

 ……俺には持てなかった強さがそこにはあった。父親にいや誰かに認めて欲しかった俺の料理は、いつからか他者から嫌われ続けるものに成りはてていた。

 俺に彼女が見せる強さの一部でもあればもっと人を喜ばせる事が出来ていたのだろうか?

 最後の一口を食べればそんな迷いや葛藤も全てを吹き飛ばす爆発的な美味しさが放たれる。まさしく爆裂(エクスプロージョン)ミルフィーユだ!!

 

 

 

 

 

 気がつけば俺の頬に涙の跡がついていた。俺は今日、人生で初めて他人の料理に感動した。

 既に周りの人々は撤収したらしくここには自分と茜ヶ久保ももに先程のデザートを振る舞っている叡山先輩がいるだけだ。

 

「はは、完敗だ。流石に十傑ってことか、正直なめていたよ……」

 

「ふん、ご託は良いからさっさとネガを寄こせ。写真の処分はお前が責任を持ってしとけよ」

 

「わかってる、約束は守るさ」

 

 なんなんだろうかこの気持ちは、重荷を降ろしたような爽快感と初めての敗北に悔しさがあるような。そんななんとも言えない感情が湧いてくる。

 

「こんいう時は、どんな顔をしたらいいかわかんねえな……」

 

 自分自身への問いかけが意味も無いのに口から飛び出してしまった。

 だが普通ならそのまま虚空へと消えていく言葉を拾う物好きがこの場にいたんだ……

 

「……こういう時は、笑えば良いと思うぜ」

 

 笑え……か。

 

「ははは……」

 

 思えばいつから俺はちゃんと笑って無かったんだろう。ずっと誰かを蔑んで馬鹿にすることばかりを続けていた……

 

「あはははははは……ッ!」

 

 気がつけば笑いが止まらなくなっていた。楽しいわけじゃ無い、面白いわけじゃ無い、ただ清々しいんだ!

 背負っていた重圧が消えていく、抱え込んでいた鬱憤が晴れていく。

 

 ああ、そうか俺はまだ負けて悔しいと思えるんだ……

 料理なんてくだらないと考えていた、ただ勝負するための道具だと思い込んでいたんだ。……でも今なら言える、俺は料理が好きなんだ! 既存の料理を自分なりにアレンジして、それを誰かに美味しいと言って欲しいんだ!

 

 だが、既に俺の料理は歪んでしまった。今更このやり方を変えていく事なんてできない……ッ!

 

 ふと前を見ればこちらに背を向けて歩いて行く後ろ姿が見える。夕日を浴びながら遠ざかっていく姿を見て俺はつい問いかけてしまった。

 

「なあ! ……あんた、俺はまだ変われると思うか?」

 

 逆光に包まれていてその顔を見る事は出来なかった、でもわかる。きっとしょうがの無い奴だと呆れたようにほほえんでいるのだろう。 

 

「……生きるって事は、変わるってことさ」

 

 この時だろう、俺がこの人に惚れ込んだのは。

 もちろん恋愛感情なんて持っちゃいねぇ。ただその姿に、魂のあり方って奴に惚れちまったんだ。

 

 

 

 

 

 あれから幾日か過ぎ俺は徹底的に叡山先輩について調べた。しかしやはり出てくるのは黒い噂ばかりで……

 誰もわかっちゃいない! あの人は、こんな俺にも救いをくれたんだぞ!!

 

 やはり俺がやるしか無いか。

 表だって守るのは竜胆さんやももさんがしてくれる。ならば、俺みたいな日陰者は裏からあの人を守ろう!

 

「まだ俺は弱い、だからこそもっと強く変わるんだ。あの人のため、そして俺のためにも!!」




おまたせしました、美作君が関わる話ははなかなかの難産に成る予感……

という事で美作サイドです。皆様が感想でハードルを上げて行ってしまうので納得の出来になっているかドキドキします。

次回は少し時間を経過させます。宿泊研修編は都合上カットとなります、期待していた方がいたら申し訳ありません。


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第五話

「じゃあこれが竜胆先輩の分です、使いすぎないでくださいよ?」

 

「おう、任せておけって!」

 

「もう不安になってきた……」

 

 現在、遠月茶寮学園は学校運営の関係上ちょっとした連休にさしかかっている。が、それらは十傑には適応されない。むしろ今一番忙しいのは十傑と言えるぐらいだ……

 

 で、ちなみに俺が今何をしているのかというと、十傑の皆さんに予算の分配をしている所だ。

 なんせこの馬鹿どもは一部を除きあればあるだけ湯水のように予算を使う。そりゃあ生半可な事でつきる金の量じゃ無いとはいえ節度ってものがある。

 そこで俺は所謂お小遣い制度を導入したのだ! 実際はカード決済とかも使えるからほぼ意味の無い制度なんだけどね……まあこういうのはお金の大切さって奴を少しでも意識してもらえれば良いんだよ、ポジティブに行こう。

 

 あの、ところで茜ヶ久保先輩? 毎度も言ってるけど頼まれても金額は増やしませんよ? だってあなた一回だけ大量の現金持ち出して本物のお菓子の家作ろうとしてたでしょう。ダメですからね……あっまって、背中からよじ登って首を絞めないで! あんたがそういうこと気軽にするから俺はロリコン扱いされてるんですよ!?

 前にも正面からそれやってきた時ありましたけど、あれなんか傍から見れば完全にアウトですよ! ストーカーに写真をとられた前例があるんだから、もうちょっと自分が美少女だと言う事を自覚してください!!

 

 

 ちょっとしたハプニングはあったものの予算分配は終わり執務室に戻り書類をかたづける。

 よし、これで何とか前半期のイベントは乗り切ったな、いまからの方が忙しいんだけど……

 

 秋の選抜に文化祭、進級試験……それに薊政権についての打診か。こいつをいったいどうしたものか。

 つい先日の事だが、教師の一人から秘密裏に渡された書類に遠月十傑による総帥の入れ替え案とそれに付随する新政権の確立についての計画書が入っていた。

 実際にこれがなされた場合は日本の、ひいては世界の料理人事情が変わってくる。それくらいに多くの著名人や各財閥の賛同や出資を受けた計画だ。そのビックウェーブに乗るならこれを受ける以外に選択肢は無いのだが。

 ただなぁ、もうこの企画が転けるの知ってるし……泥船に乗る趣味は無いんだけど、断ったら断ったでいらん敵を作りそうなんだよ。なんでこんな書類を俺に渡すんですかね? それこそ直接、司さんにでも渡してくれれば俺の被害は少なかったのに!

 

 

 よしっ、これはまだ先の話の事だし置いとこう。他に締め切りの仕事がいっぱいあるからそっちをかたづけないとな! この件についてはきっと未来の俺が頑張ってくれるでしょう。

 

 とにもかくにも、この連休中の十傑は選抜メンバーの選考や個人の仕事が忙しい。竜胆先輩、茜ヶ久保先輩、斉藤先輩なんかは今日から国外に出張予定だ。

 しかし俺は逆にいつもより仕事量が減っている。なぜなら十傑としての仕事は秋の選抜に固定される。そして選抜の仕事はいかにサボり癖があろうとも余程の事が無い限り逃れられない仕事、つまり一人一人にかかる仕事量が分散されるのだ!

 

 個人の仕事量は変わってないし、この連休は久々にのんびり出来るだろう。実に良い事だ……

 

 

 

 

 でもなんか忘れてる気がするんだよなぁ。

 んー、選考会議はもうちょっとしてからだし。よく話す先輩達も出張に行っているし……なんだっけなぁ。

 

 あ、そうだ。確か前にコンサルティングした『もず屋』が先日ついに駅ナカに新店舗出したんだった。一応途中経過でも聞いておこうかな?

 

 

 

「あー、もしもし中百舌鳥さんですか? 叡山ですけど、もず屋さんの新店舗の方はどんな感じですか?」

 

『問題なしですわ!ほんま叡山さんに任せて正解ですわ、京都のこじんまりした店からこないな駅ナカにまでうちの店が出店出来るようになるとはねぇ……』

 

「ならいいんですが、何かあったら相談してくださいよ。市場の評価ってのは結構変わりやすいんで」

 

『お若いのに心配性ですなぁ。そんなんじゃ将来禿げまっせ!……強いて言うならなんや貧乏くさい商店街の奴らがなんかしようと企んどるみたいですが。まあ報告するほどでもあらしませんわ』

 

「……わかりました。それでは突然連絡してすいませんでした。今後とも、よろしくお願いします」

 

『こちらこそよろしゅうたのんますわ。一緒に日本中をもず屋の唐揚げで染め上げていきましょうや!』

 

 ピッと音をたてて通話を切る。貧乏くさい商店街ねぇ……やっぱなんか小骨がひっかっかったような違和感があるんだよなぁ……

 悩んでいるとおもむろに執務室の扉が開く、そこには部屋の中を覗くイケメンの姿があった。

 

「叡山、いったい何をやってるんだ? もう時間なんだから行くぞ」

 

「……一色か、今行く。」

 

 わからん事を悩んでも仕方ないか、さて仕事の時間だ。

 

「はぁ、しかしたまの休みくらいゆっくりさせて欲しいもんだ」

 

 いやほんとにね。十傑になるメリットはわかるんだけどもうちょっと学生らしくさせてくれないかな? こういうの教師の仕事だぜ?

 

 「ふ……仕方ないだろう、これも重要な責務なんだ」

 

 そう言ってネクタイを締め直す十傑第八席の一色慧、ちゃんとした服さえ着ればイケメンだよなこいつ。普段は露出狂だけど…

 なんでこう有能な奴は何処かしら可笑しい所があるんだろうか? 馬鹿と天才は紙一重と言うが、馬鹿で天才なのは勘弁して欲しい。

 

 会議室に着くと既に学園に残っている十傑が席に着いていた。

 

「よし、全員そろったね。それじゃあ選抜に向けての会議をするとしよう」

 

 司さんが音頭をとり会議が始まる、もう少しで主人公との邂逅か……そうやあ原作ではなんで創真君と叡山は敵対してたんだっけ?

 

 それを思い出すのは2日後の昼にかかってくる、もず屋からの電話を聞いてからだった……




ちょっと短いですがいったん切ります。次回は長く出来るとおもいます…
いよいよ主人公達との因縁が生まれますね、なかなか難しい所です。

次回は…どうしよう。叡山視点にすると思いますが、まだ未定です。



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第六話

『大変や、叡山はん! もず屋の売り上げが落ち始めとる!』

 

 俺がゆったりとした休日を楽しんでいると、そんな平和を叩き壊すような電話が突然はいってきたのだった。

 

「落ち着いてくだい中百舌鳥さん、なにか変わった事はありませんでしたか?」

 

『そうや、商店街の奴らや! あの貧乏人どもがなにか仕掛けてきおったんですわ!!』

 

「……わかりました、いまから直接現地に向かうので待っていてください」

 

『そんな場合あらへんよ! あのクソガキどもめ、一体なにをしたっちゅうんや!?』

 

「中百舌鳥さん? ……中百舌鳥さん!? ……くそ切りやがったな」

 

 一体全体なんだってまた急にそんな事に、あの駅周辺で商店街って言うと……これかすみれ通り商店街。

 なんだ? どっかで聞いた事があるような……っあぁ!!

 これ主人公の実家『ゆきひら』がある商店街じゃないか! なんで忘れてたんだ俺!? そうだよ、唐揚げのもず屋との対決の後が原作の叡山との初邂逅だったじゃん!

 

 やらかしたぁ……覚えていれば別の駅にしたのに……

 いや、やっちまったもんは仕方ない、とにかく今は早く現地に移動して立て直しを図らないとな……

 出来れば主人公とかち合う前に帰ってきたいが、どうなるかねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という事で遠月から車を出して貰い現地に到着。早速と駅ナカもず屋に行くも、やはり既に中百舌鳥さんは商店街に行ってしまったらしい。

 

「はぁ、待ってろって言ったのに……」

 

「す、すみません。店長も動揺してたみたいで……」

 

「いや、別にかまいませんよ。元々現場を見に行って貰うつもりではありましたし。ただ色々と確認をとっておきたかったんですがね……」

 

 こうなってしまった以上はスピード勝負になってくる。商店街に奪われかけた客の目をこちらに引き戻さなきゃいけない。

 

「仕方ないか……そこの人、今から店舗にこの告知を出してください」

 

「これは……え!? セールをするんですか! それにこの金額いくら何でも安すぎます!」

 

「幸い明日は土曜日、明日だけの限定セールで良いでしょう。理由は……まあ、お客様還元とでもしてください。先程も言ったようにこれはスピード勝負です! 話に聞く限り向こうが事を起こしたのは三日前、であればまだ知名度は薄い。ならその間に元々ある知名度を使って話題をかっさらいます! 中百舌鳥さんには後で俺から説明しますので、急いでお願いします」

 

「わ、わかりました!」

 

 広告も出しておかないとな、朝一だと遅すぎるから今日の夕刊に……厳しいか? いや確か近くに大手の増刷所があったな。

 

 急いで各種の手続きをとる。駅の広告も出さないとな……クソぅせっかくの休日が台無しだぁ!

 そんなこんなでバタバタとしていると、中百舌鳥さんが店舗へと戻ってきた。その姿はいつもの元気の良さがなく、トボトボと疲れ果てたように歩いている。

 

「あ、叡山はん。いやはや、ただの学生にしてやられてもうたよ。ほんま大口叩いとった良い大人が情けないわぁ……」

 

 うっわあ、思ったより重傷だこれ。原作だとその後、叡山にボコボコに言われてそうだったし若干同情する。

 ただ、今は慰めている場合ではないのでさっさと立ち直って貰わないとな。

 

「その学生との間に何があったかなんてのは聞きません。ただあなたは店長なんだ、あなたがそんな様子じゃ下の人たちも不安になります」

 

「ふふ、やさしいんやなぁ叡山はんは……でもええんよ、うちはもう負けてもうたんやから……」

 

 クッソめんどくせえへこみ方してんねお前!! 勘弁してくれよ、いくら俺が頑張ってもあんたがそんなんじゃダメなんだよ! 

 

「中百舌鳥さん、しっかりしてください。まだ完全に負けたわけじゃないでしょう! ここが踏ん張りどころなんです。電話で言ってたじゃないですか日本中をもず屋の唐揚げで染め上げるって……」

 

「もう無理なんよ、うちは理解したんや。しょせん私は関西止まりの女なんやて……叡山はんには申し訳ないけど、うちは関東からの撤退も視野に入れとる。ああ、コンサルト料はしっかり払うさかい心配せんでええよ」

 

 こ、こいつ人の話を聞きやがらねぇ……

 ほんとに主人公って怖いわぁ、あの腹黒くて金にうるさくてヤクザみたいに凄める中百舌鳥さんをここまでへこませるなんて……

 

 ただ、こっちも一度引き受けた以上は契約を守らないとスッキリしないんだよな。ちょいと荒療治になるが仕方ない。某悪魔的アメフト部主将のつもりになって……

 

「中百舌鳥きぬよぉ、てめぇ最初に契約するとき言ったよなぁ。日本で一番の唐揚げやになってガッポガッポ儲けるってよお……」

 

「な、なんや叡山はん。そりゃあ確かに言ったけどあんなもんはただの理想で……」

 

「ふざけんな!! 俺はそれを契約として受け止めてんだ、てめえが契約したのが一体誰だと思ってる。この俺だぞ! 俺が諦めてもねぇのにてめぇが勝手に諦めてんじゃねぇ!!」

 

「え、叡山はん?」

 

「俺がお前を日本一に引きずり上げる、だからてめぇはそこに突っ立ってるだけで良いんだ! 何が負けただ……まだ負けてねぇだろ! 相手に99点取られようが100点取れば勝つんだよ!」

 

「……ッ!」

 

「負け犬ってのは、やる前から『きっと出来ねえ』つって。やらねえ奴だけだ……あんたは負け犬か?」

 

 ふう、決まったぜ。ほんとはもっと言いたい名言があるんだけどあんまり言ってもあれだしな。

 

「は、はは……うちが負け犬か……」

 

 ん? あ、しまったこんなの完全に追い打ちかけてるじゃん俺!? ちょっと調子乗りすぎたか!

 

「ほんまに、ようゆうてくれるわ……そこまで言われたらうちが諦めるわけにはいかんやないか! しかし言ったからには責任とってうちを日本一にまでしてくれるんやろな、叡山はん!!」

 

 お、おう。なんか良い感じに解釈してくれたみたいだ……

 とにかく、やる気になったなら良かった。店舗と広告の手続きは引き継いでもらって、俺は新作メニューを作らないとな……

 明日には試食させたいし今晩は徹夜確定か……

 

 休日は俺が置いてきた。調整はしたがハッキリ言ってこの戦いについて来れそうもないんでな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、それから俺が試作を終えたのは既に日も昇りきっている頃だった。あ、寝る時間無いですねこれ!

 

 すぐに新商品を店頭に出し試食を行なう、なかなか評判はよさげだ。

 これなら最低限の利益は確保出来そうだ、もう主人公とやり合うなんて心臓と健康に悪い事は経験したくないな……

 

 ようやく駅ビルが閉店し晴れて自由の身となった。かみ殺していたあくびが勝手に出る。

 

「おつかれさんやなぁ叡山はん……」

 

「中百舌鳥さんですか、そちらこそお疲れ様です。だいぶん無理を言ってしまいすいませんでした」

 

「いやいや、なにを言うとるん! あんさんの方が無理しとるやん」

 

 カラカラと軽快そうに笑う中百舌鳥さん……

 まあ元気が出たようで良かったよ。やっぱ女の人は元気なのが良いさ! いやまて薄幸の美少女も捨てがたいな……いかんいかん、完全に深夜テンションだこれ! 早く帰って寝ないと(使命感)

 

「しかしほんまに凄い人や、もしかしたらうちは悪魔と契約してしまったかもしれんなぁ……」

 

「なんですかそれ? 失礼だなぁ……」

 

「安心しなせぇ、褒めとりますさかい!」

 

 悪魔は褒め言葉に入らないと思うんですが? あ、昼間に蛭間(ひるま)の物真似したからか……やばいなんかツボった、親父ギャグかよ!

 口角が上がりそうになるのを何とか押さえる。今笑い始めたら完全に変な人じゃん、耐えるんだマイボディ!

 

「……ほんまにありがとうな。あんたがおらんかったら、ここまで大きな店には出来んかったよ」

 

「そんな事はありませんよ、中百舌鳥さんの手腕です」

 

「よおゆうわ、昼間あんな事ゆうといて。それに過ぎたる謙遜は嫌みやで?」

 

 そういうもんか? じゃあまあ、有り難くお褒めの言葉を受け取っとこうかな。

 

「ま、うちはこれからも叡山はんの繁栄を神様にでも祈っとりますさかい。頑張ってくださいな!」

 

 ん? これはさっき言えなかった名言を使えるのでは? キタコレ!

 

「はっ、悪魔は神には頼らねえよ」

 

「……ッ! はは、ほんまに怖いお人や。叡山はんが味方で良かったですわ! もず屋のこれからも安泰ってもんですな」

 

 お、なんか知らんが褒められた。でも俺はこんなにも人畜無害なのに怖いとはこれいかに?

 ま、なんにせよお仕事終了だ! 今日は疲れた、帰って寝る!

 




お待たせしました、寝付けなかったのでこんな時間にひっそりと投稿。

本当は唐揚げの反応も入れようかと思いましたが、そちらは次回にまわす事にしました。

次回はいよいよ原作主人公の創真君視点、顔芸先輩が他人からどう見られているのか言及出来たらいいなと思っています!


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裏話 ソーマ 

「ふわぁぁぁあ……」

 

 寝ぼけ眼をゴシゴシと擦りながら自室のカーテンを開ける。窓からはちょうど朝日が差し込んでおり朦朧とした意識が一気に引き上げられた。

 

 いやぁ、昨日も忙しかったな……

 寂れかけたすみれ通り商店街を立て直すための唐揚げ対決。上手くいって何よりだぜ。

 ようやくとみた屋の若旦那も唐揚げ作りに慣れてきたし、倉瀨も協力してくれるみたいだし。これは予定通り今日中に帰っても大丈夫そうだな!

 そう判断して一つ大きな伸びをする。さあ、今日も頑張るとするか……

 

「そ、創真ちゃん! 大変なんだ!」

 

 まだ商店街のシャッター一つも開いていないこんな時間に聞き覚えのある大声が下から聞こえてくる。

 窓からのぞき込んで下を見るとやはりというべきか情けない雰囲気を纏ったとみた屋の若旦那が焦った様子で一枚のビラを掲げていた。

 

「創真ちゃん! 良かった、居たんだね……そうだ、これを見て欲しいんだよ!?」

 

 バッと目の前にビラを掲げるが、ぶっちゃけ遠すぎてよく見えない。唐揚げの写真が載っているようだが一体あれは……

 

「もず屋が、もず屋が懲りずにまた仕掛けてきたんだよ!」

 

「なんだって!?」

 

 もず屋の店主なら昨日俺たちの唐揚げを食べて意気消沈していたはずなのに、こんなに直ぐ仕掛けてくるとは予想外だ。

 直ぐに倉瀨と肉魅を呼び出して相談をする。急いで来てくれた肉魅は広告を確認すると直ぐさま忌々しそうに舌打ちをした。 

 

「ちっ、腐っても関西を制覇しただけの事はあるな。経営手腕もお手の物か……」

 

「え、えっと何かまずいのかな? 確かに安売りされると皆が買いに行くかもだけど、たった一日なら大丈夫なんじゃ……」

 

 肉魅と一緒に来た倉瀨がアワアワとしながら聞き返す。肉魅はそれに対して眉を潜めながらも簡単な説明を始める。

 

「いいか、事はそんな単純な話じゃない。アタシたちの唐揚げはまだ売り上げの軌道に乗れてないんだ、だからこそインパクトを強くして学生をメインに噂を広げていた……」

 

「あ……じゃ、じゃあもしかして!」

 

「そうだ、話が広がりきる前に学生の親。つまり主婦層の目を奪われた形になる……いくら学生がこっちを気に入ってくれても基本的な財政は親が握っているもんだ」

 

「で、でもたった一日だよ! 明日になれば直ぐにお客さんだって……」

 

「いや、相手さんもそう甘くは無いみたいだぜ……」

 

 広告を見ていると小さくある一文が掲載されていた。

 

「新商品の試食会だって!? まさか僕たちに対抗してそんな事までしてくるなんて!」

 

 若旦那が驚愕の声をだす。だが俺だって驚いている……

 もず屋の売りはなんと言ってもあの熟成されたタレだ、逆に言えばそれが無ければ普通の唐揚げと言える。一日足らずであのタレを改良なんて俺でも出来そうに無い。一体どういうことなんだ?

 

「新商品って、私たちみたいに食べ歩き出来るように小分けにしたりとかかな?」

 

「いや、それは無いと思うよ。駅ナカでそんな事したらゴミの処理が大変な事になる。現に商店街でも問題になっただろ?」

 

 あれは商店街で売り出し始めた初日、軽快に売り上げを伸ばしていく中で周りの店舗からうちに苦情が来たのだ。曰くあんたのとこの商品のパッケージが店前に捨てられていたと。

結局、その日の夜に売り上げの一部を使い商店街各地にゴミ箱を設置する事で事なきを得たが……確かに駅ナカであればその問題はもっと大事になるだろう事は予想に難くない。

 

「そ、そっかぁ……でもだったら一体どんな新作なんだろう?」

 

「うーん、アタシにも想像がつかん。そういってもこの唐揚げロールのクオリティは早々と超えられるものじゃ無いぜ?」

 

 俺もそこがわからないんだ、いくら知名度をかっ攫おうにも下手にインパクトの薄いものを作ったんじゃあ逆にお客は離れてしまう。

 いくら追い詰められたとしても、そんな一手を打ってくる奴が関西一を名乗れるはずが無いし……

 

「仕方ない、わからんなら直接行くか!」

 

「バッ、何言ってんだ幸平ァ! 完全に敵対した今、ほいほいと敵前に行って手の内さらしてくれるわけ無いだろ!?」

 

「そうかなぁ? 意外となんとかなんじゃねぇの?」

 

「そうやってヘラヘラしやがって、楽観視しすぎだろ……」

 

 肉魅は心配性だよな。別に取って食われるわけでもあるまいし、手の内見えればラッキーぐらいの感じで行こうぜ。

 

 結局、三対一で俺の案は採用となり昼頃にもず屋を訪れる事になった。

 もず屋は先日見たときよりも大人数の主婦たちが訪れており、流石の賑わいを見せている。

 

「うわわわ、すっごい人だかりだよ!」

 

「ぐぅ、もず屋の奴めぇ……」

 

 いや、驚いた……肉魅から有名な店だとは聞いていたがまさかここまでとは……

 おそらくだがこの付近に住んでいない人もわざわざ買いに来たのだと思う、それほどまでに見た事の無い人の数だった。

 

「お買い上げの方はこちらに並んでください、整理券をお配りしてます! 現在商品3時間待ちです!」

 

「お待たせいたしました、お会計5600円に成ります。お待ちのお客様、あちら側のレジでも対応していますので進んでください!」

 

「列はこちらになります! 通路をふさがないようお願いしています。ご協力お願いします!」

 

 あちらこちらから聞こえる大きな声は全てもず屋の店員たち。当然だがかなり忙しいようだ……

 

「やっぱり無駄足だったか、この様子じゃあ試食にもありつけそうにねぇな……」

 

「うーん、確かにこれは厳しそうだ……」

 

 意外と何とかならないもんなんだな……さて、これからどうしたものか。

 そうしてこの後の行動を決めかねている時、奥に見える扉から誰かが出てきた……

 

「ッ!」

 

 ビリッとした感覚が体の表面に走る。なんだこの圧力は! あの金髪の男が原因か!?

 

「そ、そんな……嘘だろ、もず屋ってあの野郎の顧客だったのかよ!?」

 

「肉魅、知ってるのか!」

 

 何かに気づいて恐れをなしている肉魅、一体何だって言うんだあの男は!

 

「お前知らないのか!? あいつは遠月でも有名な男、十傑の第七席『黄金龍』の叡山枝津也だよ!」

 

「十傑だって!?」

 

 あいつが一色先輩と同じ十傑の一人、しかも先輩より席次が上なのか!?

 

「叡山の野郎はコンサルティングの達人だ、手がけたコンサルティングの成功例は500を超えるらしい。そしてその手腕によって稼いだ金で十傑の席を買い取ったって言う噂がある」

 

「って事はなんだ? 料理の腕はたいしたことないのか?」

 

「いや、そうとは限らない。少し前の事だが、奴の食戟をこの目で見たんだ……少なくとも十傑にいるだけはあると認めざるを得ない料理だった」

 

 ……なるほど、つまり今回の戦いはもず屋とすみれ商店街を介した十傑との戦いって事か! へへ、面白くなってきたぜ!

 そしてあの叡山って先輩が持ってきたのはおそらくだが試食用の新作唐揚げか……食ってみてぇ!

 

 だが、現時点ではその願いは叶いそうも無い。試食用の唐揚げは次々とお客が取ってしまい、正しくあっという間に無くなった。

 

「仕方ない。今回は諦めようぜ幸平、いくら何でも相手が悪すぎる……」

 

「なに言ってるんだよ肉魅、らしくないじゃねえか」

 

「馬鹿、十傑だぞ! えりな様と同列にいる職人だ、私たちが敵うわけ……」

 

「そんなのやってみなきゃわかんねえだろ?」

 

 俺がそう言うと肉魅が黙り込む。本当にどうしちまったんだろうな? まあいいさ、肉魅がやらなくても俺はやるってだけの話だ。

 

 とにかく何とか叡山先輩と話したい、って言うか試食食べたい……

 早く次の試食を出せーと願っていると後ろから声が聞こえてきた。

 

「ありゃ、商店街のクソガキやあらへんの。なんやうちのもず屋の唐揚げが食べたくなったんかいな?」

 

「ああ、もず屋さんじゃないですか。昨日はどうも、いやーまさかこんなにすぐに対策してくるとは驚きましたよ」

 

「くっ! ふん、せいぜい負けたときの捨て台詞を考えておく事ですなぁ。貧乏商店街じゃあ新作唐揚げほどの味はだせますまい」

 

「よく言うぜ、他人が作った料理なのによ……」

 

「は、負け犬の遠吠えが聞こえてきますなぁ。ま、よくお似合いですわ!」

 

 昨日の様子とは裏腹に自信のある言動。俺たちの唐揚げを食べてここまでの自信があるって事は、よっぽど叡山先輩が作った唐揚げが美味いんだろうな……

 

「なんやその顔は? うちの唐揚げを恵んで欲しいんかクソガキ……」

 

「欲しいっすね!」

 

「……」

 

 ん? なんで皆そんな顔してるんだ? 食べたくないのか新作唐揚げ……

 

「はぁ、馬鹿にしたろ思っとりましたが随分しらけましたわ……ええよ、食べんさい」

 

「お、食わせてくれるってさ! 頼んでみるもんだな、やっぱ」

 

「幸平、お前って奴は……」

 

 ハァと後ろに行た三人がそろってため息をつく、なんだなんだ失礼な奴らだな?

 食わないならおまえらの分も俺が貰うぞ?

 

 パッケージを開けてみれば箱の中は三つに区切られていた。どうやら3種類の味があるようだ。よく見れば衣にうっすらと色が付いている、これはいったい……

 とりあえず右端の薄緑色の唐揚げを口に入れてみる。カリッと良く揚がった衣を噛むと……

 

 

 ブワリと濃厚な香りが広がる、そしてかすかに感じる苦み……抹茶か!?

 胸肉に染みこんだ甘辛いタレを少しの苦みが補強する。普通の衣ではくどい味もスッキリと食べられるようになっている。だが、少し苦すぎるようにも感じる。これが本当に十傑の料理なのか?

 

 続いて真ん中の唐揚げをつまむ、色は普通だが……一口食べる。

 ジュワッとしみ出る旨みに僅かな甘みが混じる。……これは餡子だ! 餡子を乾燥させたさらし餡を衣に混ぜているんだな!

 ほのかな甘みが唐揚げ全体を包み込み口の嫌みを取り除いていく、まさかこの料理は……!?

 

 俺の予想が正しければこれはつまり! 急いで最後の唐揚げを口に入れる。

 とたん、ぴりりとした刺激が口内にほとばしる! 最後の一つは山椒だ!

 甘い味に飽きてきた所で程よい刺激とジューシーなもも肉の味が染み渡る! 表面はカリカリで噛むたびに溢れる肉汁はこれだけだと重い味になるだろう。

 そこですかさず抹茶、続いて餡、もう一度山椒! 止まらない味のループが始まる。

 気がつけば全員がしっかりとした量のあった唐揚げを食べきってしまっていた。なんて料理だ! 

 それに味ごとに欠点を抱えているって事はそれごとに合わせる料理を食べやすいと言う事。

 例えば山椒ならビール、程よく聞いた香辛料と塩味は酒のつまみにぴったりだろう。

 抹茶味なら甘みのある炭水化物、米や小麦の甘みを引き立たせてくれる。

 小豆ならサラダなんかのさっぱりしたもの、酸味のあるドレッシングや漬け物と合わせて食べても良いだろう……

 

 俺たちとはまるで着眼点が違う。俺たちの唐揚げロールは一つの料理としての完成形、もず屋の唐揚げは中食として他のものと食べ合わせる事が前提の料理。

 違う分野である以上、同列では語れないがより多くの人に受け入れられる味はこちらの唐揚げだ!

 

 

「ほれ、これでわかりはりましたか? おたくらじゃこの味は超えられまへん、とっとと諦めて帰りなはれ。うちは忙しいんよ」

 

 そういって去って行くもず屋に俺は言葉をとっさに返す事が出来なかった……!

 

 脳裏に浮かぶのはマントを羽織った黒髪の女性、ぎらついた目をこちらに向ける。まるでそれは獲物を前にした獣のような目で……

 気がつくと数多もの銃口がこちらに向けられていた、次々に発射される弾丸。1発目を避けても次が、2発目を防いでも次が来る。

 その連激はまるでかの有名戦国武将が考案した作戦のように俺たちを追い詰める!!

 

 これが、魔王の三段撃ちかッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完敗だな……」

 

 そう肉魅がぼつりと呟く。

 ゆきひらに帰り着くまで誰一人として声を出さなかった。まるでお通夜のような雰囲気になってしまっている。

 

「すげぇな、あれが十傑の実力か……」

 

「だから言ったろ? まだアタシたちじゃ勝てる相手じゃないんだよ……」

 

「そ、創真ちゃん。大丈夫だよ! 学生の人気は依然こちらにあるんだし、ここまで盛り返しただけでも十分さ!」

 

「……いやまだだ、あの唐揚げにだって全てのお客を満足させる事は出来ない。今から試作を……」

 

「幸平、今からそんな時間はないって。明日中には学園に戻らねぇと……」

 

「そういやあ、そうだったな……」

 

 時間切れ、ね…… ふー、今回は負けか。

 クソ、次やるときはぜってぇ負けねー! ていうかやっぱ負けてねー! 学園でも試作は出来るし必ずあの味を超えてやるからな!

 

 あれがいずれ俺の目指す場所にいる男の料理か、俄然やる気が湧いてきたぜ! 目指すは打倒、叡山先輩だ! 帰ったら早速、一色先輩に話を聞いてみよう。きっと為になるはずだ……

 




結局眠れなかったので次話投稿。良い感じに眠気が来たので今から寝ます。
案外創真視点が長くなりそうなのでいったん切ります、後編に続く……

次回も引き続き創真視点

追記:上のように言いましたが、あれは嘘だ…思ったよりも筆が乗らないので創真視点は難しいかもです。
また各種の違和感があるというコメントありがとうございます。加筆修正しましたのでお納めください。


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幕間 夏の一幕、男の友情

 遠月茶寮学園は今、夏休みに入っている!

 

 そう、夏休みだ! 広い海、青い空に白い雲! 子供たちの憩い、大人たちが欲しているもの。それは約一ヶ月にも及ぶ大型連休のことである!

 そして、そんな大型連休は普段忙しい俺にも当然存在するのだ! いや夢とかじゃなくてね。ほんとにあるんだよ?

 

 去年は選抜の関係でこの時期はガッツリ試作祭りだったからな、今年はのんびりと過ごすと決めたんだ! 仕事も最低限しか入れてないし、遊んでやるからな! 

 

 ……そしてそう決意した数時間後、俺は何故か一色につれられ畑仕事を手伝わされていた。

 

「ざっけんなゴラァ!」

 

 流されるがままに持たされていた鍬を畑に突き刺す。ドズと鈍い音がして鍬の頭は完全に土に埋まってしまった。

 

「お、良い腰の使い方だよ叡山! やはり僕の見る目に間違いはなかった!」

 

「てめぇコラァ、珍しく話があるとか真面目な顔してるから付いてきてみたら。何で俺が土仕事なんぞやらにゃならんのだ、アア?」

 

「いや、なにこうして親友と肩を並べて畑仕事ってのを一度してみたくてね。これも青春さ!」

 

「青春さ! じゃねぇよ、ていうか誰がお前の親友だって?」

 

「君さ、去年はあんなにも熱く男の友情を確かめ合っただろう?」

 

「気持ち悪い言い方すんな! もしかしてあれか、クソ暑い日に腕相撲させられた時の事か? 毎晩毎晩、人の耳元にうるさく語りかけてまでやらせようとしたあれの事言ってんのか!?」

 

 十傑第八席、一色慧。それが今とぼけた言動をしているこの男の名前だ。

 実は去年まである関わりがあって、気がついたときには親友扱いされていた。

 正直この世界に転生してからボッチを拗らせていたので、原作キャラと仲良くなれそうな機会だったし気の置けない友人という関係がが嬉しくて俺もついつい乗ってしまったのが運の尽き。

 毎晩のように語りかけてくる一色、毎日のように遊びに来る一色、一色、一色、一色。

 ノイローゼになるわこんなもん!!

 

 別に嫌いって訳じゃないけど距離感の詰め方よ、よっぽど同年代の男友達にあこがれてたんだろうな……

 

「君もたまには寮に帰ってくれば良いのに。今年の一年生たちは皆いい子だよ!」

 

「……っは、馬鹿言え。そう言ってた去年の奴らは全員そろって寮を辞めただろうが」

 

 そしてそんな一色に俺は軽い罪悪感を持っている。

 俺が去年の春。原作キャラと絡みたいなんて安易な気持ちでこの寮に来なければ、ここはもっと賑やかで……こいつの望んだ青春が手に入っていたかもしれない。

 

「んー、良し。もう良い時間だしいったん中に入ろう! ふみ緒さんも待っているよ!」

 

「あ、おい馬鹿引っ張んなって!?」

 

 一つ大きな伸びをした一色は、俺の肩を掴んでグイグイと凄い力で寮の中へと連れて行く。畑仕事やってるだけあって掴む力が強く、俺の力じゃ碌な抵抗が出来そうにない……

 

 そして俺はクーラーの効いた極星寮の中に連れ込まれた。人が少ないためシンと静まりかえった懐かしい館内を進んでいく。

 リビングにつくと既に食事が用意されており、しわくちゃの婆さんが一人椅子に座っていた……

 

「お疲れさん一色、それと家出小僧」

 

「け、家出も何も退寮届けは渡しただろうが。もうここは俺の家じゃ……」

 

「そんなものを受け取った記憶はないねぇ……あんたの思い違いじゃないのかい?」

 

「……婆め」

 

 ほんとにお人好しな奴らだ……べ、別に泣いてなんかないんだからね!

 

 無駄に肉体労働させられただけあってお腹もすいているし。仕方ないから飯だけ食ってってやるか……

 ん? 何で四食分も用意されてんだ? ここに居るのは3人で夏休みだから一年生は実家に帰省してるはずじゃ……

 

 ガチャリと音がして後ろの扉が開く。いやそうだ! 一人だけ帰ってない奴が居たはずだ……ま、まさか!

 

「おはよう、創真君! 昨日も遅くまで試作お疲れ様、たっぷりご飯を食べて今日も元気に頑張ろう!」

 

「ふわぁーあ、相変わらず凄い元気の良さですね一色先輩……あれ、その人は?」

 

 は、はめやがったな一色ぃぃぃぃぃぃぃ!? オンドゥルルラギッタンディスカー!

 本人にはめたつもりはないのかもしれないが、やってくれやがったぁ!! 恐れてた事態が現実になってしまった……

 どうあがいてもこの時期に知り合ってしまうのか!? こ、これが原作補正の力なのか!? 

 

「そうだ、せっかくだし創真君にも紹介しよう! 彼が極星寮の隠れた住人、叡山枝津也さ!」

 

 終わった、さらば俺の平穏な日々……

 いや、まだだ。まだあわてるような時間じゃない! 原作とは違い、俺がもず屋と関係がある事はバレてないはずだ。落ち着いて対処すればまだ何とか……

 

「叡山先輩にはもず屋の件でお世話になりましたね、まあ先輩は知らないかもですけど……」

 

 オワタ。え、何でバレてんの? こんなの絶対おかしいよ……

 これもまた逃れられぬ運命(カルマ)だというのか?

 

「……えっと聞いてますか叡山先輩?」

 

「っ! あ、ああ」

 

 やっべテンパって全然聞いてなかった。悪い癖だよこれは……

 

「唐揚げ対決は時間の関係であんな感じになりましたけど、俺はまだ負けちゃいないですからね。次やるときは必ず勝ちに行きます」

 

「……そうかよ、出来るもんなら頑張れや」

 

 あー、ビックリした。まだ悪い雰囲気じゃないみたいだし何とかなるか? ってか対決って何のこと? もしかして俺が作った新作唐揚げの事か?

 あれはお客さんを逃がさないための苦肉の策だったしな……商店街の弱みを突いたような形の戦略だし。唐揚げロール食べてみたけど完成度はそっちの方が高かったよ、やっぱり主人公の料理って凄いって感心したんだぜ? だからそんな好戦的な目をするのやめようか、気分はライオンに目を付けられたハイエナだ……

 

 その後は、無事にゆっくりとした休日を過ごす事が出来た。

 原作主人公ともそれなりに仲良くなれたし良かった良かった! これでしばらくは安泰だな! 

 さて明日は何しようかな、久しぶりに映画でも見に……

 ん、電話? こんな時間にどうしましたんだ。……相手はもず屋さん?   

 

 はい、もしもし……トラブルが発生、すぐに京都まで来て欲しいって? 今からってもう夜の8時なんですけど……あ、はいすぐに行きます。

 

 ふぅぅぅぅぅ、とため息をついて空を見上げてみる。何処までも広がっている大きな空を。

 ああ星が綺麗だ……届かないからこそ、こんなにも尊いのか。俺の休みのように……

 

 キラリと一粒の流れ星が俺の頬を伝った。




お待たせしました。

書き直して再投稿。この作品はこのくらいの雰囲気の方が良いですね。

次回は秋の選抜編、誰の視点で行くかは未定です……

追記:修正を入れてみました、読みやすくなっていれば幸いです。


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第七話 秋の選抜予選①

 こうして俺の長くも、とてつもなく短い夏休みが終わった……

 

 短過ぎにも程があるわ! 結局、一週間も休めてないんだけど!

 なんでそんなに問題ばっかり起こすの? 何でおとなしく出来ないの? ねぇ竜胆先輩、あなたにも言ってるんですよ?

 獲物を追いかけてアマゾンの奥地で遭難って、アクティブにも程があるでしょ。しかも捜索隊派遣した矢先に自力で戻ってくるし……遭難はしてない? ちょっと2、3日連絡が取れなくなっただけだから、ですか。

 

 人はそれを遭難って言うんだよ!!

 

 

 

 

「いててて、何も殴る事はないだろー、暴力反対(はんたーい)!」

 

「ほう、反省の色が見えんな? 女木島先輩お願いします」

 

「……わかった」

 

「まてまてまて、女木島は洒落にならないって!?」

 

 無茶ぶりに乗ってくれた女木島先輩が立ち上がるのを見て、全力でバタバタと逃げ出す竜胆先輩。まったく、本当にあの人は……

 

「さて、叡山。そろそろ時間だし僕たちも行こうか」

 

「ん? もうそんな時間か、めんどくせぇなぁ……」

 

 一色に呼ばれて俺も控え室の席を立つ。

 今日は遠月でも注目度の高いイベントの一つである秋の選抜の予選日だ。百名に及ぶ生徒をA、Bのグループに分けてそれぞれ審査を行なっていく。その中で十傑には各役割が与えられる。

 俺と一色はそれぞれの予選会場の司会進行兼、来賓客の対応を担当している。

 

「Aブロックは、なつめさんか。きついなぁ、あの人苦手なんだが……代わってくれよ」

 

「ふふ、残念だけど今から変更は難しいかな? それに確か千俵さんたちを呼んだのは叡山だろ。責任取らないとね」

 

「テーマがカレー料理なら、と思って呼んだんだが……失敗だったか?」

 

 千俵なつめさんは双子の妹のおりえさんと並び『カレーの女王様』という、なんか女としてそれでいいのかと問いたくなる名前で呼ばれている人物だ。

 性格は女王様の称号通り非常にキツく、俺と相性が悪いのだ……

 

「仕方ないし覚悟決めるか。うし行くぞ!」

 

 と言ってから一色と別れ、会場に着き予選が始まったのはいいが……

 

 あいつ、来やがらねぇ! 

 

 件のなつめさんは予定時刻になっても現れなかった。おかげで審査員席のど真ん中が空いた状態になっている。

 最初こそ調理風景に気を取られていた観客だが、徐々に違和感を覚えたのかざわつき始めている。このまま来ないとか勘弁してくれよ……

 

 そんな風に思っていると、会場内に突然ドアを豪快に開けたような大きな音が響く。

 コツコツとハイヒールの音を響かせながら、ゆっくりと会場に現れたのはやはりというべきか千俵なつめさんだった。

 

 

「あー、お忙しい中ようこそ。……ところで、開始時刻は伝えていましたよね?」

 

「あのねぇ……遠月とはいえ、たかが学生の料理を私たちが見に来ただけ有り難いと思って欲しいわね。あなたの誘いだから来てあげたけど、楽しませてくれるんでしょうね?」

 

「……保証はしますよ、今年の一年は面白い奴がいますからね」

 

 どうせ言っても聞かないし、仕方ないと言いたい文句を飲み込んで会話する。

 やっぱ苦手だ、この人……

 ただカレーに対する姿勢は日本一と言って良いだろうし、この選抜に最も適した人なのは間違いないのだ。イベントを最高の形にするのも仕事の内だろう……俺個人の事はいったん忘れる。

 

 さて、こうしている間にも調理の様子は順調に進んでいるようだ。

 この会場にいる原作キャラクターは、幸平、丸井、伊武崎、榊、葉山、水戸、黒木場、美作といった所か……

 周りの観客たちは各々が何をしているのか把握してるらしいけど、俺にはさっぱりだ……

 良く匂いをかぎ分けられるよね。カレーの匂いしかしないから俺には何が何だかわからん。んー、でも確かに葉山の鍋の匂いはわかるな。流石チートキャラだ、香りの分野では司さんでも勝てないんじゃ無いか?

 えーと、なんだったっけ。あの珍しい香辛料……ゲームとかで出てきそうな感じの名前のあれ、確か……

 

「……ホーリーバジルか?」

 

 と、独り言を漏らしたとたん葉山がこちらを驚いたような目で見てくる。え、もしかして聞こえたの? 怖いわ!? こんだけ騒がしい会場内で、なんで独り言レベルの呟きが聞こえるんですかね……

 神の鼻って言うか閻魔の地獄耳かよ!? 人間やめすぎな可能性、ありますあります。

 

 

 いよいよ審査に入ると美味そうな料理を次々と平らげていく審査員の皆様。良くそんなに食えるね……

 序盤こそ相変わらずの女王様節により盛り上がりに欠けていたものの、原作組が出始めた辺りからバクバク食べてる。しかしくっそ腹減ってくるなこの立ち位置……

 今日の昼はカレーにしよう。

 

 そしていよいよ審査も終わりへと近づいたとき、葉山と幸平の審査で問題が起こった。

 

 

「あの芸術的な料理の良さがわからないとは、多角的視野を持たない者に美食を語る資格は無い!」

 

「香辛料選びだけが料理では無いでしょう! もう審査員やめたらどうかね!?」

 

「葉山君の料理はそこも優れていたわ! けして香辛料だけじゃ無い!」

 

「僕は幸平選手の料理の方がもう一度食べたくなると……」

 

「モブは黙りたまえ!」

 

 目の前でいい年した大人がこれである。小学校の学級会じゃ無いんだぞ……

 こんな事で時間使わないでくれよ。あと一人の審査も残ってるんだし、ただでさえちょっと時間押してるんだから……

 

 どう収拾を付けたものかと思案していると、残された最後の一人が審査員席に進み出てきた。

 

「いろいろと言ってるのは良いが、俺の料理を食べてからにしてくれるか?」

 

 のそっと現れたのは見覚えのある巨漢だった……

 

 最後は美作か……そう言えば、何だかんだ鉢合う事が多かったのにここ一月ちょっと見なくなっていたな、何してたんだ? あれか葉山とか幸平の料理をコピーしてたのかな?

 

「俺の作ったカレー料理はこれだ」

 

「……こ、これは!」

 

 しかしコトリと美作が出した料理は、俺の予想とはまったく違った料理だった。

 

 

 

 




お待たせしました。といっても話はあまり進んでいません……

そして次の更新は所用がありまして遅くなりそうです、よろしければ気長にお待ちください。


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