一般的異世界日帰り旅行 (地獄星バロー)
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あの時から、思うことがある。

 

俺はなんのために生まれたのだろうか。

 

生物的に言えば自分の命を次の世代に繋げることなのだろう。だが、それだけなら管理社会のアンドロイドみたいに決められたことをするだけでいい。

では、なぜここは何もかもが決められた世界ではないのか。

 

結論、俺はアンドロイドでもないし、ここは管理社会でもない。

息をしてても怒られる訳でもなければ、夢をもっていても到底辿り着く気がしない。

 

全く訳が分からない。

 

そう考えると頭が痛くなり、いつも今一生懸命頑張ってることがどうでもよくなる。だが、そんなことを考えてる先に、どう足掻いても俺はこの考えに辿り着く。

 

 

 

 

 

ここは本当に、普通の世界なのだろうか?

 

 

 

 

 

当然、普通という概念は人によって違うものだ。

 

だがここでの普通はアニメや特撮のような魔法や不思議がある世界で、自分はその騒動へ巻き込まれている、

ということが起こるはずもなく、ただ、何も知らずに自分が知っていることを常識と決めつけて生きていることだ。

 

それなら誰もが口を合わせていうだろう。『この世界は普通だ。』ってな。

 

だがそうなると一つ矛盾が生まれるのをご存知だろうか。

 

この世界では数々の伝説が残っているということ。

アダムやイブにキリストの伝説、三種の神器に平将門や菅原道真のハイパー呪いパワー等々。それらはつまり普通じゃない出来事が起きた証拠である。

 

昔の人の想像の話だよって現実主義者がそう言えば確かにそうなるのだが、ところがどっこい、現代にはUMAって奴が存在する。

それでも作り物だって言えば又々現実主義者達の生き甲斐になるのだろうか、それでも割とマジで宇宙人を探したがる学者やツチノコやカッパを有力な存在と叫ぶ学者いるし、かつて沖縄の幻の生物だったヤマピカリャーだって名前こそ違うが現に発見されているし、クラーケンだってとあるGPSでの目撃情報と大王イカの存在からして、ほぼ確定してこの世いるとみていいだろう。

これらの見解から俺は、この世界は普通じゃない世界だと断定している。

 

まぁ、周囲の人は俺がその話をしても非日常を受け入れたくないからなのか必ず否定するが。

 

だが、何がどうあろうと、これだけは言える。

 

俺は完全無欠、全くもって普通の世界がなんなのか知っている。

 

何故なら俺はその普通すぎる異世界・五次元に日帰りで転移したことがあるからだ。

 

そう、最初に言ったあの時だ。

 

 

 

 

 

あれは突然だったな。確か今から6年前くらい、かな?まだ魔法や超能力を信じるガキだった頃だな。今でも昨日ように鮮明に覚えている。(まぁ昨日の記憶の半分以上は脳が勝手に処理してるらしいが。)あの時、俺はGWかなんかの休みで家族と共に祖母の家に行った時だった。祖母の家に着き荷物をひと段落まとめたので久しぶりに家の周りをちょいと散歩しながら近くの店で買った飴を舐めていた。時刻は夕方くらいだったな。この田舎は相変わらず変わってないものだなぁ懐かしくと思って家に戻ろうと考えた次の瞬間、マジでくたばる程激しいノイズの音が身体中に響いた。いや、後から知ったことだがあれは正確には音ではないらしいな。何故って?俺は文系だ、知るもんか。次に俺はこれまで感じていた懐かしい田舎の臭いが麻痺した。ここで終わってくれれば本当に嬉しかったのだが、神様は慈悲を知らなかったようだ。今度は舐めていた飴の味がしなくなった。まるでガチガチに凍った味の抜けたトマトみたいだった。丁度この頃五感というものを習っていたので次に何が起こるかは想像がついていたが、身に持って五感がいかに大切なのかよぉく分かったよ。目が見えなくなって肌触りが消えた。今でもあれはガチのトラウマもんだよ。まるで死んだような感じだった。

 

気が付いたら俺はそれこそどこにでもあるような街の商店街の中で立っていた。どこなんだ、ここ。とりあえず分かることは都会のようだが俺の知ってる東京ではない。てか、あの死んだ時のような感覚からどのくらい経ったんだ。付近にはそれなりの人々がいて、みんな普通に店でなんか買っている。しばらくあたりを見回して、俺は今の段階から現状を整理した。ここがどこなのか最も有力な可能性はここが夢だということ、もしくは逆に俺が今まで夢を見ていたこと。しかし、一応どちらの可能性の確証を得る為の実験を行なったが、どちらもハズレだった。まぁ後者ではなくて本当に良かったよ。ではなんなんだろうね、ここは。じゃあ他に何があり得る。未来って感じの雰囲気じゃないし、大昔みたいな時代にも見えないし、昭和のような感じな繁華街ではない。こう一人で考えてても何も分からん、とりあえず近くの人に聞いてみよう。えぇと話しやすそうなの人は…おっ、自分と同い年で紫髪のショートの女子が1人で歩いている。この人なら話しやすそうだな。ん?紫?

「あのぉー。ちょっといいかな?」



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「え?私?まぁいいけど…」

 

と承諾を得たので若干戸惑っているこの人を商店街から連れて、人が少ない街のところに移動した。

 

「とりあえず…お前の名前は?」

 

「私の名前は1-33-43アムルだよ。」

 

は?なんだその名前は。ここはマイナンバーを苗字にしてるのか?てかアムルって…

 

「そ、それはニックネームかなんかだよな?俺は本名を聞いているのだが…」

 

「あのぉ、言っている意味がわからないんだけど…私の名前は本名だよ。あなただってそうでしょ?」

 

どういうことだ。俺はそんなニックネームはないし機械みたいに単純な名前の奴と出会ったことなんてない。アムルと言ったな、そもそもなんでこいつはなんで髪が紫なんだ。そういえば商店街にいた人達の髪もみんな青か紫だったような…

 

「あ、いや、俺…」

 

「そういえばなんで君の髪は黒色なの?普通じゃないわ。」

 

お前には言われたくない。だが、ここではこれが普通なんだろう。とりあえずでまかせでなんか言わなければ。

 

「実はだな、俺は色々と記憶をなくしてるんだ。だからこの世界のこと教えてくれよ」

 

最低だな。バレるのは時間の問題だ。

 

「…」

 

当然アムルは固まった。まぁ希望的に考えて迷っているということだろう。しばらくの沈黙が続き、そして破られた。

 

「分かった。でも、あなたの名前を教えて。そうじゃないと何も始まらないわ。まぁ覚えていたらの話だけど…」

 

「あ、ああ。えーと、きし…いや、きっしーだ。俺の名前はきっしー。そう呼んでくれ。」

 

恥ずかしながら俺の苗字と名前どちらも色々と普通じゃないので友達からのあだ名であるきっしーを採用した。念のため言うが決して本名ではない。

 

「じゃあきっしー、言うけどここはなんの変哲もない、どこにでもある普通の街だよ。」

 

「訳のわからない名前に青や紫の髪、これのどこが普通なんだ。」

 

これが俺達の当然の答えだろう。だが次の彼女の言葉で俺は戦慄を覚えた。

 

「普通って意味知ってる?いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであることだよ。他と特に異なる性質を持ってる人やモノはここにはあなた以外誰もいない。私達はみんな決められた番号で名前が決まるし、髪は青か紫。街だって世界中どこまで行っても同じだし。みんな全く同じ授業、全く同じ仕事をしている、何か恐ろしい事件が起きるわけもなく、面白い出来事も起きない。それが普通でしょ?」

 

確かに。決して間違ってはいない。だからといって普通という概念を徹底しすぎだろ。面白くない。面白くない世界は普通じゃないっていうのか?それに普通じゃないっていうのはもっと特撮的な感じのことじゃないのか。もう意味がわかんねぇ。えぇとつまりここは俺がいた場所とは違う五次元世界、普通を徹底しすぎたパラレルワールドってことでいいのか?そういえば五感はもうとっくのとうに治っていて、現在自分の身体は異常な状態ではない。じゃああの死にそうな感じだったのは、異世界転移された、みたいなことなのか?ではなぜ俺なんだ、誰が俺をここに転移したというのだ。

 

「…………る」

 

「…………いてる」

 

「…………聞いてる」

 

「きっしーぃぃ‼︎さっきからぼっーとしてぇ、ちょっと聞いてる⁉︎」

 

「あ、ああすまない。色々考えててな。」

 

「もう…きっしーが普通じゃない世界かなんかから来たことに関しては大体分かった。だからいかに普通が素晴らしいか教えてあげる。ついて来て!」

 

それは良いけど今アムル君は俺が嘘をついていて尚且つ異世界人ということをどうやって理解したんだろうね?

 

てなわけなのでアムルの後をついていったのだが、これまた普通な街並みで謎じみた場所はみじんもなかった。せめて東京タワーみたいなのはあるだろうとは思ったが、結局そんなものは存在しなかった。ああやっぱりここは俺がいた場所じゃないんだなぁと納得しつつも困惑していた自分がいたのであった。完!という訳にはいかず、俺はアムルの後をついていってようやくどこにでもある家に到着した。

 

「ここがお前の家なのか?」

 

「違う違う、ここは42-18.5-6の家。」

 

「え?なんて?日本語でお願い。」

 

「日本語?そんな言語はないよ?私達が使っているのは世界語だけだもん。まぁしいて言うなら、彼女の名前はレッカ。」

 

驚いた。まさか日本語というものまでないとは。どうやら日本語が世界唯一の共通語であり、それ以外は存在しない、ということだろう。これのどこが普通だが。だが世界がアホみたいな戦争をせずに1つになりゃ、そうなる可能性もあっただろう。しっかし、レッカねぇ…なんかポンコツ名前だな。てか日本語がメインなのになんで名前は海外風なんだよ。ツッコミどころは満載だが、これがこの世界の普通だというなら抗いようがない。

 

「そうか。で、レッカはどこに?」

 

「家の中だよ。じゃあ入ろう!」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ…」

 

こうして、レッカという女子の家にお邪魔した。アムルは適当にノックをして扉を開けて中に入った。どうやらアムルとレッカは親友らしく、アムルは前にも家に来たことがあるようだ。俺も後に続いた。中に入った先では、アムルとレッカと思われし女子がいた。青い髪にポニーテール。俺は趣味というわけではないがこういう髪型が好みだ。つまりレッカは好きな女子のタイプだ。

 

「レッカ、お久しぶり‼︎」

 

「お久しぶりです、アムル。今日はなんのようですか?ってそ、そそそそその隣の人はだっだだだ誰?」

 

前言撤回、こいつ大っ嫌いだ。新種のゴギブリを見たかのような反応をするな。

 

「この変な髪の色の人はきっしー。なんか普通じゃないところから来たみたい。」

 

「よ、よろしく…」

 

「あ、ああいや、あたっ、てってたよよよよよろしく……お願いしします……‼︎」

 

俺はハリウッド俳優じゃないぞ。普通に接してくれ。

 

「ああああのさ、なんでそっそのいや髪がくろっでななんとういかぶらっ、くくなんですか?」

 

そろそろ殴りたくなってきたな。こいつの方が普通じゃないだろ。

 

「俺、この世界の住人じゃないから髪の色が違うんだよ。あのさ、頼むから落ち着いて話してくれよ…」

 

「だってよ、レッカ。ようはきっしーって普通の人じゃないんだよ~」

 

「おいおい人聞きが悪いぞ。」

 

「だってそうじゃん!」

 

「なるほど…確かに普通じゃない、ですねぇ…」

 

「お前ら少しは話聞けよ…」

 

と俺が故意にそんな発言をしたその時!

レッカが何やら普通について語り始めた!

その内容は俺が生涯苦悩した演説シリーズトップ3に入るだろう。

コレのせいで俺は普通ということが嫌いになったんだ。以上!では詳細をどうぞ!

 

「きっしーさん、普通じゃないというのは良くないことです!それは、人をやめるようなことと同じです!だから、普通になってください!」

 

「はっ、はぁ?」

 

「いよ‼︎レッカ大先生のご講義、待ってました!」

 

お前は少し黙ってろ。

 

「いいですか?普通じゃないというのは実に良くないことなんです!どこにでもあるようなありふれたモノや人ではないというのは自分は化け物だ、と言ってるのと同じものなんですから、普通の存在になるべきなんです!」

 

「なぜだ。その理由や証拠はあるのか?」

 

「それは…それが私達この世界、いや宇宙中とでも言っていい、常識的に認知されていることだからなんです‼︎」

 

なんだよ、それ…そんな理屈でもなんでもないただ単純でクソみたいな考えで通るわけないだろう!

だが俺がそれを言いかけた瞬間、ふと頭を横切った。

 

俺達だって、理屈もないのに少し変わった奴をいじめて、ドッキリ番組で騙される哀れな芸人を面白いという単純なものであざ笑っている。

 

そういうことは誰もやっていることと認知しているだろう。

俺達と何も変わってないことに関してそれを全否定するなんて間違っているのではないか?

ああ、もうやだ。

こんな悪夢、夢なら早く覚めてくれ。

 

されども一向に覚める気はないらしい。やっぱ自分の力で起こすしかないのか…

 



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全く、史上最凶の嫌な1日だったよ。

 

だが今日の夕方に異世界転移した俺が日帰りするにはまだ時が掛かる。日帰りという意味が若干違うのは当時の俺が間違って使ってたからだ。だからタイトルに文句は言うな。

 

 

あの後、俺は何も言い返せないまま、その日は終わってしまった。レッカ大先生も大満足したようだし、アムルはいつもの謎テンションだしと決して間違っている訳ではない自称普通と名乗る五次元世界に対して俺の堪忍袋の尾が切れようとしたその時、1つの突破口が見つかった。まぁ単純な話だが、この世界から脱出して元いた場所に戻ることだ。誰、又は何が原因でここに来たかは分からないが、理由なく存在するものは何一つない。ならば、可能な限りそれを解き明かすことだろう。では何をすれば良いのか?全く分からない。あいにく俺は文系なので異世界転生についての科学的思考をすることはできない。ただ一つだけ思いついたことがある。アムルやレッカに普通という概念を破壊して、非常識な可能性の素晴らしさを感じさせることぐらいだろう。この世界の住人に何かイレギュラーな状態にさせればトリガーはきっと発動する。

 

それに、俺は心から教えたいと思った。俺がいた普通じゃなかった世界の可能性を、アムルとレッカに。

 

でもって現時刻深夜0時13分。帰る所がない俺はアムルの家に居候させてもらった。どうやらこの世界には親というものは存在しないらしい。どうやって生活してんだよ。しかし、アムルやレッカの家を見て気づいたのだが、2人とも家の造りや大きさ、インテリアやデザインまで一切変わっていない。やはり普通というものによって統一されてんだね。そしてそして、午後9.00に就寝時刻となった異世界に捕らわれた囚人、俺氏は寝てるふりをしてアムルも布団に入るのを待った。この時刻に布団に入ったことやこの後やることに関して一応いっておくが、この時はまだ思春期に入る前のガキだ。少しは見逃して欲しいね。この社会の人はどういうわけか、老若男女全員が深夜0時に寝るらしい。普通とはなんなのかそろそろ分かってきたよ。なんか基準を作って全人類が統一すりぁいいんだな。おっ、アムルが自分の部屋に入ったか、じゃあ行くか。俺はアムルの部屋に入った。アムルはベッドで今まさに眠りにつこうとしていた。

 

 

「ではおやすみにゃさ……」

 

「よう、邪魔するぜ。」俺は容赦なくベッドに座る。

 

「ふぇ!?!?!?ちょちょタンマ!!」

 

この後、俺がフルボッコにされたのはいうまでもない。

 

「………で、何の用なの。」

 

「痛たた…はぁ、お前強ぇよ… あのさぁ、お前、本当に普通が良いって思ってんの?」

 

「はぁ?あったりまえじゃない。」

 

「正直に言え。本当に楽しいか?普通って。」

 

「だからぁ、普通が1番良いんだよ~」

 

「俺はそうは思わない。俺だって普通が1番だって思ってた。非日常な世界に憧れつつ、そんな迷惑ごとには巻き込まれたくない。そう心から思ってた。でも、この世界に来てからわかったよ。普通って何もかもが同じで面白くも楽しくもない、みんな違うから面白くて楽しいんだ。」

 

 

「……」

 

「だから、俺は戻りたい。元にいた場所へ。普通じゃない非日常が待ってる世界へ。」

 

「 だからって…なんで私に…」

 

「お前に教えたいんだよ。どこにでもない、嘘が本当になる世界の可能性を。」

 

「え……」

 

「アムル、俺はお前に出会ってまだ少ししか経ってないが、沢山世話をかけたし、共にこの時間を過ごした、大切な友達だ。もちろんレッカだって。だから俺はお前と一緒に帰りたい。見せたい。俺のいた世界を。」

 

俺は思うままに伝えた。当然、しばらく沈黙の時間が続いた。どれだけたったのは分からないがアムルの溜息が聞こえて、ようやく返答が帰ってきた。

 

「はぁぁ…全く、きっしーは私がいないとダメな様だね。分かった、行くよ。きっしーがいた世界ってとこに。あ、決して非常識を認めたって訳じゃないからね!どれだけ普通じゃないのか拝ませてもらうだけだよ。」

 

後に知った言葉だがこれをツンデレというらしい。

まぁ鈍感な主人公属性を持っている俺には関係の無い話だね。

 

 

 

アムルの回答を聞いたあと視界が真っ暗になっていた。どうやら俺は疲れていた様だ。

 

「あっ…ちょっときっしー?」

 

眠いのを我慢して普段より長く起きていたからな。無理もない。

 

 

 

 

 

 

 

『全く、期待外れだったよ。日常しかない己の世界に1番飽き飽きしているお前ならば、このアバター世界で自らの世界を破壊し、本来の世界を復元する力を手にして我の計画が成功すると思ったのだが…お前を選んだのは失敗だった。元々いた自分の世界を気に入るとは。こうなればお前はもう捨て駒だ。貴様ごとこのアバター世界をシャットダウンさせてもらう。』

 

 

 

 

 

なんだ、今のは。

 

俺は辺りを見回した。

 

ベッドに横たわる俺。

 

床で寝てるアムル。

 

そうか、俺はベッドで寝ていたのか。

それも気絶(?)してそのまま。

 

多分アムルにベッドに運ばれたのだろうな。

 

おーい、アムル。もう朝だ。起きよう。と言ってカーテンを開けた。

 

 

 

 

そこには普通とは思えないような光景が広がっていた。

 

崩壊している。

 

何もかもがぐしゃぐしゃだ。

 

今まで1度も戦争や争いをしなかったというこの世界で一体何があったんだ。

まるで特撮のセットの中に迷い込んだ気分だ。

 

 

 

「ふぁー。おはようきっしぃ……え?」

 

アムルは驚愕していた。まぁ普通の世界の住人だし、当たり前だよなぁ?

 

「ウェ⁉︎…どうして…」

 

「分かんねぇ…朝起きたら、こうなってた…」

 

あとそれ以上滑舌を悪くするなよ。理由は聞くな。

 

「嘘だ…嘘だ…」

 

おいやめろっ頼むから。今からでも遅くない、早く冬の雪山に行ってくれ。

 

「ウゾダドンドコドーン!!」

 

オォイ…モアイ!(もういい!)今はそんなしょうもない作者の悪ふざけに付き合う場合ではない。

 

たまたまこの家の付近は被害はでてなかったみたいだが地図でこの場所を東京と見ると埼玉と神奈川と山梨と千葉、いわゆる東京の周りは全滅しているとアムルがスマホで開いていたニュースに書かれてあった。

ラッキーといえばラッキーだな。

だが辺りは青空ではなく真っ暗でブラックホールみたいなのがある。それで徐々に町々が吸い込まれて崩壊しているらしい。行方不明者は既に四桁を越えている。

 

ここがやられるのも時間の問題のようだ。

 

アムルはスマホの電源を消して言った。

 

俺も今のアムルの動作を見て言った。

 

「レッカを…探さねぇと。」

「レッカを…探さないと。」

 

あ、ハモった。

 

 



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どうやらこのブラックホールもどきは、俺が元の世界に戻れるの関係していると見ていいだろう。

 

このように普通じゃないことはこの普通の世界には起こることはない、

 

ならば、普通じゃない世界の住人である俺に関わってるんだろう。もしくは昨晩の作戦が成功したかなんかだ。

理由は分からんがこの事態はチャンスであり、ピンチでもある。

 

もしこのままこの世界に残れば確実に死ぬし、アムルもレッカも消えて無くなるだろう。

 

だから、もう選択肢は1つしかない。アムルとレッカ、3人で一緒に俺の世界に戻ってやろうじゃないか。

 

と、いうことなので現在アムルと一緒にレッカの家に向かってるなうってところだ。

 

「レッカァ!!」

 

レッカの家に着いた俺達は叫んだ。しかし、返事がない。なんでだよ…

 

「まさか、私達と同じ様にレッカもどっかに飛び出したんじゃ?」

 

とアムルは推測する。確証がないがあり得る。アムル、一応家の中に入って調べてくれ。

 

俺は付近を探してくる。レッカの家の玄関で待ち合わせよう。

 

「うん、分かった!ちゃんと戻ってきてよ!」

 

実は俺は宛がある…………

 

訳などなく、ただひたすら走りまくってレッカの名を叫んだ。あまりにも必死すぎて気が付いたらどこがどこだが分かんなくってた、が迷うことはなかった。

それは当然だ。俺達がこう時間を喰ってる間にもブラックホールもどきも活動してる訳で俺らがいる場所も吸い込まれ始めたのだ。だから今現在戦争に巻き込まれた街の様なザマで、おかげで辺り一面見渡せれるのだ。だからどこがどこだろうが大体把握出来る。

幸いにもレッカの家はまだ残っていたし、アムルもそこにいた。

SF映画の様な被害に巻き込まれた俺も危うく死にかけたがなんとか無事だ。

 

結局手掛かりを掴めなかった俺はもう吸い込まれたのか…という最悪な可能性も否定出来ずに家の玄関に戻ろうとした。

 

その時、俺は見つけた、

 

1人の少女が崩れた街の中に佇んで泣いているところを。

 

レッカだ。おい…何してんだ。

 

「きっしーさん…私、怖いんです…次から次へとおかしなことが起きて…私の中の価値観が壊れるのが…もう無理なんですぅ…いたっ」

 

俺は気が付いたらレッカを殴っていた。

 

「俺だってこの世界に来た時、最初はそうだった。苦しい、辛い、なにもかも違う…でもレッカのお陰で分かった。何万光年先は遠い未来じゃない。それは時間の単位じゃなくて、例え何もかもがバラバラな俺達でもきっと分かり合える時が来るって。レッカ大先生の演説のお陰で色々見方が変わったよ。ありがとな、だから生きよう。元の世界で俺は絶対お前と普通について口論したい…」

 

「元の…世界で……分かりました。さっきの嘆きは無しにしてください。どうやらきっしーさんはまだ普通の良さが分からないようですからね!」

 

レッカは自分に言い聞かせたように立ち上がった。

 

それでこそ俺が知ってるレッカだ。

 

そのすぐ後、アムルが俺とレッカの元に走って来た。どうやら説得していた俺を見つけたらしい。

 

やっと2人と心が通じた。

 

しかし、ブラックホールが目の前を立ち塞がる。ここまでか…

 

でも、後悔なんかしてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

俺はその時、赤、青、緑色に輝く巨大な光のような何かに助けられた気がした。

 

でもはっきりとは思い出せないし、もしかしたら今までの冒険は夢だったのかもしれない。

 

俺が目覚めた場所は俺が倒れた近くの総合病院だった。親によると散歩してた時に貧血で倒れて、一日中目を覚まさなかったらしい。

 

ただ、発見された時、同じ場所見知らぬ2人の少女も倒れていたという。

 

 

紫のショートと青のツインテールの女の子が。

 

 

その2人とはすぐに仲良くなった。

しかも偶然にも、GW明けに俺の小学校に転校するという。

 

え?名前はなんだって?はて、難しい漢字の名前だから忘れちまったな。

 

でもまた会えるし、その時にまた名前を聞けばいい。

 

 

こうしてよく分からないまま終わった日帰り異世界旅行だが、俺も今はだんだん忘れつつある。

 

もしかしたら本当はレッカやアムルじゃない名前だったかもしれないし、普通な世界じゃなかったかもしれない。

 

でも、病院で出会った2人も同じ夢を見ていたらしいし、今は転校前の街より面白いことや悲しいことが沢山起きて、前よりずっと楽しいと2人は言っている。

ひょっとして、それ転校前じゃなくて転生前じゃ、と俺は言うがその後いつも2人に「はい?」と見られるので深く考えないでいる。

 

だが、俺はあの出来事から1つ学んだことがある、誰になんと言われようと、俺が今いる世界は普通じゃない、非日常の塊だって。

 

そう考えた方が、前よりずっと楽しくいられる。だからあれから6年経った今の俺は精一杯非日常を楽しんでいる。

 

 

 

きっと全ての決着がつく時が来るだろう。その時に、俺の新しい冒険が始まるんだ。

 




この物語の続きはこちらです。
https://syosetu.org/novel/162351/

更にその続きです。
https://syosetu.org/novel/171046/


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