この静かに暮らしたい殺人鬼に平穏を! (究極生命体になりかけた男)
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プロローグ 振り向いてはいけない小道のその先で
BREAK DOWN
この空前の吉良吉影ブーム()に乗っかってようやく執筆しました。
吉良吉影好きの私としては執筆欲が抑えられませんでした。
一話という名のプロローグです。どうぞ。
一九九九年、日本のM県S市杜王町は『奇妙』な夏を送った。
『スタンド使いは引かれ合う』
その法則に従うかのように杜王町でスタンド使いによる事件が巻き起こる。
杜王町に迫る危機にジョースター家の血統を受け継ぐ空条承太郎と東方仗助、杜王町の『黄金の精神』を持つ者達が立ち上がった。
気づかない内に奪われていた罪の無い命、音を立てる事なく崩れ去ってゆく平穏な日常。
そして、何年もの間杜王町の日常に平然と溶け込んでいた殺人鬼吉良吉影がその姿を現す。
吉良吉影はスタンド使いである。
表向きはただのサラリーマン、裏向きは凶悪な殺人鬼だ。
十七歳の時に起こした杉本鈴美殺人事件をきっかけに、四十八人もの女性を殺してきた。
消された目撃者の数を含めれば、それよりも多くの人々が殺されてきただろう。
人を殺さずにはいられないという殺人衝動と、女性の綺麗な手に異常な執着を持つ性癖を併せ持つ『
吉良吉影とのスタンドバトルは熾烈を極めた。
空条承太郎と広瀬康一は遠隔自動操作の爆弾スタンド【シアーハートアタック】との戦いを経て、吉良吉影を追い詰める。
しかし、吉良吉影を倒すまでには至らず、あとほんの僅かというところで逃げられてしまう。
顔も住所も変え、追跡はほぼ不可能となってしまった。
中身以外は全て赤の他人と入れ替わってしまった吉良吉影に気づく者は誰一人としていない。
だが、少年川尻早人だけは吉良吉影という殺人鬼の正体を知ってしまった。
自分の母親を守るために孤独に吉良吉影に挑む。
しかし、吉良吉影の【キラークイーン】第3の能力【バイツァダスト】を前に希望は儚く崩れ去る。
川尻早人は諦めなかった。
川尻早人が咄嗟に起こした勇気ある行動により無敵の能力【バイツァダスト】は破れ、再び東方仗助は吉良吉影を見つけ出した。
東方仗助は重傷を負いながらも決死の攻防を繰り広げた末に吉良吉影を追い詰める。
決戦は最終局面へと突入する。
極限状態となった吉良吉影は再び【バイツァダスト】を発動させ東方仗助を爆殺を謀った。
だが、その場に駆けつけた広瀬康一と空条承太郎の活躍によって【バイツァダスト】の発動を阻止する事に成功した。
そして、吉良吉影は非常事態に駆けつけた救急車に轢かれ、誰の手にもかかる事なく死亡した。
こうして杜王町に再び平穏がもたらされた。
♦︎
杜王町にあるとある小道にて。
その小道には振り向いてはいけない場所がある。
その場所で振り向いてしまったら最後、謎の無数の手にただひたすらに真っ暗な闇へと引きずり込まれてしまう。
その行方は振り向いた者にしか分からない。
そんな小道で吉良吉影は、幽霊の杉本鈴美とそのペットのアーノルドと対峙していた。
「私は…どこに…連れていかれるんだ……?あ…ああ」
振り返ってはならない場所で振り返ってしまった吉良吉影は謎の無数の手に強い力で引っ張られていく。
【キラークイーン】で抵抗するも、虚しく終わり吉良吉影は恐怖のあまりに声を上げる。
「さあ……?でも……『安心』なんて
杉本鈴美は残酷に、冷酷に返答する。
犠牲になった人々の代わりに吉良吉影に裁きを下す。
それが彼女の使命だった。
だが、吉良吉影が犯した罪は
「うわああああああああああ』
吉良吉影は断末魔を上げながら闇へと葬られていった。
これこそが何人もの人間を殺してきた吉良吉影が受ける報いなのだ。
勿論これで吉良吉影の犠牲になった者の全てが報われる訳ではない。
杜王町の人々が心に負った傷の痛みが現れるのは、これからなのだから。
吉良吉影はこの後本来ならば記憶を失い、幽霊でありながら殺し屋として『心の平穏』を求め現世に留まる(デッドマンズQ)のだが、そのルートと分岐して別の世界線の吉良吉影を描いていく。
なおここで挙げた別の世界線とは、一巡した世界や某大統領が行き来できるような世界を指すものではない。
♢
突然だが自己紹介させていただく。
私の名前は吉良吉影、三十三歳独身。
住所は杜王町浄禅寺一の…そこまで言う必要は無いな。
M県S市杜王町に住んでいてカメユーチェーンのデパートで
おっと、勘違いしないでくれたまえ。
私は会社をクビになった訳じゃあないし退職した訳でもない。
……私は
直接的な死因は救急車に轢かれたっていうのが原因な訳だが、そんな事はどうだっていい。
屈辱なのは、この私があのクソカス共によって追い詰められてしまった事、私の平穏な日々をかき乱されてしまった事だ。
ただ『植物の心』のような『平穏』な生活を送りたかっただけなのに………。
これは嘘なんかじゃあない、事実だ。
頭のイカれた野郎だなんて思ってくれるんじゃあないぞ。
そういう輩は【キラークイーン】で吹っ飛ばしてやるッ!
そうそう、振り向いてはいけないあの小道で私の【キラークイーン】は消滅したと思っていたが、何の支障も無く出す事ができた。
少々疑問に残るところだが、そんな事を気にしていてもしょうがない。
これは私の勝手な想像なのだが、死後の世界というのはただ真っ暗で意識や苦痛も無く延々と彷徨い続ける、そんな世界だと思っていた。
意識が無いのだから『喜び』は感じられないが、その代わりに『絶望』さえ無く平穏に過ごしていける。
仮に私の想像する通りの死後の世界があるのなら、その世界に存在するという事は果たして幸せな事なのだろうか、私の目指す平穏な日々を送っている事になるのだろうか。
いいや、そんなはずがない。
平穏というのは生きていてこその平穏、起こりうるトラブルを回避し静かに暮らす事こそが平穏なのだ。
闘争の無い世界での平穏など何の意味も価値も成さない。
私としては本末転倒だ。
…という風な死後の世界についての考えを持っていた訳だが、所詮は無意味な事だった。
私は気がつくと謎の空間にいた。
おそらく振り向いてはいけない小道の先が、今私がいる所なのだろう。
つまり死後の世界という事だ。
見たところ出口のような場所は無い。
おそらく元の場所にはもう戻れないのだろう。
引きずり込まれる時に感じていた恐怖や不安もすっかり消え失せていた。
元の世界に戻れないという絶望感はあるが、現状を受け止めるしかない。
そこは真っ暗で暗闇の奥は全く何も見えず、地面はモノクロのタイルが敷き詰められてあり、光がスポットライトのように一ヶ所に差しているだけの至ってシンプルな空間だった。
光が差している場所には、二脚の椅子が向かい合うような形で設置されている。
奥側の椅子に白髪で青い法衣を着た少女が座っていた。
その少女は清楚感漂う可愛らしい手つきをしている少女だった。(私好みの手ではない)
私はそんな彼女を警戒していた。
こんな訳の分からない空間で、平然と居座っているのだから怪しむなという方が無理な話だ。
もしかしたら彼女が新手のスタンド使いである可能性だって十分に考えられる。
「ようこそ、死後の世界へ。私のあなたを新たな道へと進める女神エリス。吉良吉影さん、お気の毒ですが不幸にもあなたは死んでしまったのです…」
女神エリスを名乗った少女は私に死を宣告した。
死を告げる彼女はどことなく悲しげな様子だった。
なんて怪しい小娘だ。
見ず知らずの人間の死を本気で悲しんでいるとは、ますます怪しい。
嫌いだった友人が死んでしまい、初めてその友人の大切さに気付きそれを悲しむというのならまだ分かる。
だが、彼女は赤の他人の私の死を悲しんでいる。
はっきり言って彼女はただ者ではない。
まず『女神』を自称している時点で怪しい臭いがしてくる。
「貴様今なんと言ったッ!!」
私は彼女が言った事に驚きのあまり目を大きく見開いた。
「ショックで現実をどうしても受け止めらないのは分かります。私はあなたのような人達を沢山見てきました。だから、お辛い気持ちはお察しします。ですが、あなたはもう亡くなってしまったのです」
「そんな事は分かっている!私が聞きたいのは
「へ、名前ですか!?吉良吉影さんとお呼びしましたが間違えていましたか?」
彼女は予想の斜めをいくであろう質問に取り乱す。
彼女自身今のような質問をされた事が無いはずだ。
今の私の姿は
鏡は無いが、顔の形や肉付きの触れた感覚からしてそう判断できた。
それにも拘らず、彼女は私の正体を知っていた。
私の正体を知っているという事は彼女は間違いなくスタンド使いだ。
今すぐに始末しなければならない。
【キラークイーン】で少女に触れようとする。
【キラークイーン】は『触った物を何でも爆弾に変える』事ができる。
彼女の場合、彼女自身を直接爆弾に変える。
しかし、私はそれをやめた。
心が痛むからとか、そんな人を想うような善良な心があったからではない。
彼女は【キラークイーン】を見るどころか、【キラークイーン】の存在に気づいてすらいなかったからだ。
私の【キラークイーン】が見えないという事は、つまり彼女はスタンド使いではないという事。
私が勝手に警戒し過ぎていただけなのか…?
だとするのなら、何故この吉良吉影の正体を知っている?
疑問は深まるばかりだ。
「いや、間違っている訳じゃあない。ただ何故私の名前を知っているのかが気になっただけだ」
「死んだ魂を導く女神として、死んだ方の名前を把握する事くらい当然です」
「死んだ魂を導く女神だと。これはたまげたなあ。……貴様!この吉良吉影を馬鹿にしているのかッ!私自身、自分がもう死んでいる事は理解している!だが貴様もあの杉本鈴美のように私をハメようとしているのは分かっているんだ!」
「お、落ち着いてください。あなたを馬鹿になんかしていませんし、あなたを陥れようだなんて考えていません」
怒鳴りつける私に対し彼女は真摯に答える。
威張るだけの能無し野郎には血反吐が出る程イラつくものだが、状況が状況なのだからそう言わずにはいられなかった。
杉本鈴美といい彼女といい、死んでも平穏を与えてはくれないとでもいうのか。
「ではその証拠を見せてもらおう。場合によっては【キラークイーン】の能力を使わざるを得ない」
【キラークイーン】を煙を上げるようにそっと出現させる。
少女には【キラークイーン】の存在に気づく様子はない。
「【キラークイーン】…?証拠にはならないかもしれませんが、信用してもらえればいいわけですね。いいでしょう」
彼女は目を瞑る。
そして、両手を膝に置いて立ち上がる。
「不幸な死の代わりにあなたには天国に行くか異世界へ転生する権利があります。前者か後者のどちらかを選んでください。死んだ魂を導く女神として、あなたを選んだ道へと導いて差し上げます。そもそも私があなたをここに呼び寄せたのは、それらの内どちらかへの道へと導くためだったのです」
やはり頭がお花畑のようにめでたいだけの少女のようだ。
だからといって、相手にしなければこの空間からは抜け出せないだろう。
おそらく彼女はこの空間から抜け出す方法を知っているはずだ。
その方法を聞き出すまで、適当に受け答えして我慢をするのだ。
「天国に行けるというのは魅力的だが、そもそも死んでしまっているのだから、平穏な暮らしは意味をなさない。トラブルを避けて静かに暮らしてこその平穏。その点転生するとなれば異世界とはいっても、生きていられるだから私の求める平穏な日々を送れるかもしれない」
「異世界へ転生する、その選択で良いという事ですね?」
私が胡散臭さを感じながらも異世界への転生を選択すると、彼女の表情は真剣なものになった。
もしかして、してはならない選択だったのか?
いきなりこんな選択を迫られたんだから仕方ないじゃあないか。
「私が導く異世界はあなたが生きていた世界に存在しえなかったドラゴンや魔獣、そして魔王という脅威が存在するという非常に危険な世界です」
ドラゴン、魔獣、魔王?
なんとも馬鹿げた話だ。
異世界に転生するって話だけでも嘘臭い話だというのに。
この吉良吉影を馬鹿にしているのか?
「ですので異世界に転生されるという方は転生しても記憶はそのままで、特典として一つだけ好きなものが何でも与えられます。大金から魔法、特別な能力まで何でも持っていく事ができるのです。お望みのものを何でもおっしゃってください。」
ファンタジーやメルヘンじゃああるまいし。
よくは分からなかったが、お伽話の世界にいけるとでも言いたいのか。
記憶もそのままで大金でも何でもただで恵んでやるだと。
随分と虫が良過ぎる話じゃあないか。
これじゃあ自分から嘘ですと言ってるようなレベルだ。
ここまでくると呆れを通り越してだんだん腹が立ってきた。
しかし、この空間から抜け出すために辛抱強く彼女の質問に答えるのだ。
ここで彼女を爆破してしまえば、この空間で永遠に彷徨い続ける事になるだろう。
「そんな特典はいらない。私はただ『植物の心』のような『平穏』な生活さえ送れればそれでいい。金や力が無くたって幸福にくらしていける」
「え…!?私の聞き間違えでしょうか?いらないと聞こえたのですが…」
「ああ、確かに私はいらないと言ったのだ。それとも私が望みを言わなかったらマズい事でもあるのか?」
「い、いえ決してそんな事は…。でも本当にそれでいいんですか?」
「それでいいと言っているのだ。あまりしつこいと逆に怪しまれるぞ」
「わ、分かりました。特典無しでの異世界転生という事でいいんですね?」
「しつこいぞ、何度もそう言っているだろう。言っておくが私はまだ君を信用した訳じゃあない。本当にそんな事が出来るのならさっさ異世界でもどこでも連れて行ってくれたまえ」
「それでは吉良吉影さん、あなたを異世界へと転生させます。私はここからあなたの幸運、いや平穏を願っています」
彼女が聖人のような台詞を言うと、私の足元からは青い光が溢れ始めその光に沿うように透明な壁が生成された。
私の体はたちまち宙へと浮かび上がった。
その壁はいくら拳で叩こうとも壊れる気配は無い。
細心の注意と警戒をしたつもりだったが迂闊だった。
「うおおおおおおお!何だこれは!私は最初から小娘の術中にハマっていたとでも言うのかッ!一か八かだ!【キラーク…」
♢
吉良吉影は【キラークイーン】で抵抗しようとするが、間に合わず謎の空間から消え失せてしまった。
少女は吉良吉影の幸運を祈るかのように手を合わせる。
その少女は正真正銘本当の女神だった。
吉良吉影はその事を知らないまま消えてしまった。
いや、異世界へと転生していったのだ。
しかし、ここで少女は自分がとんでもない失態を犯してしまっている事に気づく。
「………あ、あれ、嘘でしょ。異世界に転生させる人を間違えちゃってる…。先輩の代わりにきた天使の方の手伝いだっていうのに…。これじゃあ上に怒られるちゃうな………」
To Be Continued
第1話はプロローグということで次回から吉良吉影のこのすばの世界での冒険が始まります。
メルシーボーク お目通し恐縮のいたり………
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吉良吉影は静かに暮らしたい
吉良吉影は静かに暮らせない
そのついでに近場で売ってなかったOVER HEAVENを見つけることが出来てハッピーうれピーよろピクね―――――
※2019年2月27日0:02 文章を一人称視点に変更しました。
それに伴う誤字などがありましたらご報告してくださると助かります。
私は気がつくと、広大な草原のド真ん中に一人でポツリと立っていた。
目の前に広がるのは見知らぬ部屋などではなく、屋外、青々とした草原だった。
雲一つない晴天の空の下に広がる雄大な草原。
その草原の中に現代のものとは思えないほど古風で、頑丈そうな外壁を構える街が堂々とそびえたっていた。
ベタな表現だが、私は中世ヨーロッパの時代へとタイムスリップしたかのようか気分を味わった。
「どこなんだ…ここは…。一体私の身に何が起こっているというのだ………」
私は自分を取り巻く状況に驚き、そして戸惑いを感じていた。
自分の身に何が起きているのか、まるで理解できなかった。
振り向いてはならない小道で振り向いてしまった後、いつの間にか見知らぬ草原に放り出されているという始末。
あまりにも受け入れがたい状況に気分が動転しそうだ。
「まさかとは思うが……、いや…違うか…」
突如として私がここに飛ばされたのは、なんらかの『スタンド能力』によるものだと危惧した。
しかし、そうだとは思えない。
私は
だが、そう考えるにはどうしても拭いきれない
「死後の世界にしては随分とのどかな景色だ。はたして本当にここは死後の世界と考えても良いのか?仮にもそうだとして、どうしたものか」
幻覚の類(スタンド能力)だという可能性もまだ十分にある。
だが、理論的ではないが、私の『スタンド使い』としての勘がそうではないと囁いている。
私はこの状況をどう対処するべきなのか。
一番重要なのはそういう事だ。
「落ち着くのだ、『チャンス』というものは最悪な時にこそ訪れる。冷静な判断と対処をして『チャンス』をモノにするのだ」
私が学んだ過去からの教訓、それはどんな状況下に置かれようとも決して焦らず冷静な行動をする事。
その教訓こそが『平穏な生活』を送る一番の近道である事を私は知っている。
それと同時に、冷静さが欠けた行動とはつまり『平穏な生活』と相反する行為であり、自分の身を滅ぼす事になりかねない
私には【バイツァダスト】で完全なる勝利を約束されていたはずだった。
【バイツァダスト】は『無敵』だ、私はそう慢心していた。
しかし、その慢心が仇となって、東方仗助の目の前で自ら自分の正体を打ち明けてしまう。
その結果、私は追い詰められ、屈辱的な死を迎える事になってしまった。
ひとまず、深呼吸をしてこの焦燥感に駆られた心を落ち着けるところから始める。
次に周りの景色を冷静な判断力をもって観察し、状況を整理する。
「ウ〜ム…私が突然こんなところに飛ばされた事以外、不自然な事は見つからないか…」
周りの状況を把握し理解しない事には、適切な対処を取る事はできない。
何の知識も無い登山者が地図無しに登頂なんてできるだろうか。
私は無意識の内に自分の左胸に手を当てた。
その時、微かな違和感を感じ取った。
「こ…これは…ッ!」
手に感じたのは
ありえない…私は『死んだ』のだ、確かに『
だが、心臓の鼓動は私に確かな『生』を実感させる。
にわかには信じがたい矛盾した事実に、私は驚かずにはいられなかった。
「あの小娘は私を
私の脳裏に謎の空間での出来事がよぎる
それは幽霊にでも出会うなんかよりも奇怪な遭遇だった。
あれは夢ではなかったのか…。
謎の空間で少女が話した事は、あまりにも馬鹿馬鹿しく思える内容だった。
少女は自らの事を女神エリスと名乗っていた。
そして、私を異世界に転生させるとも言っていた。
あの少女は杉本鈴美のような番人だったのかもしれない。
私は異世界に転生したという事実を認めざるをえなかった。
鼓動する心臓と目の前に広がる光景がその事を物語っていた。
これは現実だ。
「『『安心』なんてない所』か…。こんなのが現実だとは………」
とてもじゃあないが、こんなのを現実として受け入れられる訳がない。
しかし、直面した現実には背中を向ける事はできない。
「逆に考えみればだが、こうやって異世界へと転生できたのだから元の世界に戻れる方法があるんじゃあないのか。フフフ…、元の世界へ戻る方法を見つけて再び『平穏な生活』を勝ち取ってやるッ!」
これは自分に対する慰めなどではない。
可能性のある世界線に動機が歯車が噛み合うように合致したのだ。
単純な発想で根拠の無い発想だが、それは私に勇気を与えてくれる。
踏みにじられたプライドは自分で取り戻さなければならない。
再び杜王町で『平穏な生活』を送ってみせる。
「だがこれからどうしたものか…。ひとまず向こうに見える街に行くとし…な、何だ…ッ!?」
突然地面が音を立てて揺れ始める。
ドシン、ドシン、と地面を揺らす重たい震動が私の足にまで響く。
徐々に地面の揺れは激しさを増している。
奇妙な事に震源が私の方に向かって移動してきている、近づいてきている。
震源の正体が何なのかなんて呑気に考えている暇など無い。
私は思わず後ろを振り返った。
「これはたまげた…。私に少しくらい気を休める暇を与えてくれたっていいだろう?…流石は異世界というだけはある、こんな化け物といきなり遭遇する事になるとは…………」
私の視界に映り込んだのはカエルの姿。
しかも、そのカエルはただのカエルではない。
像のような、常軌を逸するほど巨大な体をしたカエルだった。
驚くべき事に地面の揺れの正体はコイツのようだ。
規格外の大きさに私は一瞬言葉と語彙を喪失しかけた。
「コイツ、人間を食っているッ!なるほど…サイズも大きければ捕食するものも必然的に大きくなるっていう事なんだろうが、それでも私の常識ってヤツを疑いたくなる」
カエルの口からだらんと、だらしなく人間の足がはみ出している。
身の毛のよだつゾッとするような光景ではあるが、この世界ではこれが普通なのだろうか。
もしそうだとするなら、この世界での生活は一筋縄ではいかなさそうだ。
ただでさえ私の中の常識ってヤツが覆されつつあるというのに、この世界での常識に付き合わされる事になると思うとつくづく嫌になってくる。
もう少し心を落ち着けたいところだが、そんな猶予は与えてくれないらしい。
そのカエルは、私目掛けて真っ直ぐピョンピョンと飛び跳ねている。
どうやら私を餌として捕食対象に捉えているようだ。
「私を餌として喰らおうって訳か。私の趣味じゃあないが、始末するしかなさそうだな。異世界の化け物がどれだけ強力なものか確かめる為にも始末してやる…【キラークイーン】…」
私ははスタンド【キラークイーン】を出現させる。
振り向いてはいけない小道で失われたかに見えた【キラークイーン】。
当然か、それもと幸いか、とにかく問題無く出現させられた。
『しばばばばばば!しばッ!』
【キラークイーン】の拳のラッシュをカエルに浴びせる。
一発一発のパンチが人の体を、障子を破るよりも容易く貫く事のできる破壊力がある。
それはどんなに相手の体格が大きかろうと変わりのない話だ。
このカエルもコンクリートの道路の隅で行列をなすアリのように取るに足りない存在に過ぎない。
もっとも
そう思っていたが、現実は非情である。
「な、こ、これは…」
拳を包み込むのは、ゴムのように弾性のある感触。
【キラークイーン】の拳はカエルの腹によって包み込まれるように受け止められていた。
拳のラッシュの衝撃は、カエルの分厚い脂肪の前に吸収されてしまいダメージは無い。
「【キラークイーン】は
ラッシュが効かなくても、それは大した問題ではない。
何も殴ったり蹴ったりという単純な動作をするのだけがスタンドではないからだ。
スタンドには特殊な能力『スタンド能力』がある。
私の【キラークイーン】の場合『触れる』だけで良い。
「第一の爆弾ッ!」
【キラークイーン】の右手のスイッチを親指でカチッと押す。
すると、カエルはたちまち爆散して地上からその肉体ごと姿を消した。
吹き飛ばされた肉片は一欠片たりとも残らない。
カスの一つさえもこの世から例外なく全て消え失せる。
ただし、カエルに食われかけていた人物は、爆発に巻き込まれ黒焦げになって地面に放り出されていた。
【キラークイーン】のスタンド能力は『触れた物なんでも爆弾に変える能力』。
我ながら恐ろしく思う能力であり、その扱いには注意しなくてはならない。
でなければ、他ならぬスタンド本体である私が爆発の巻き添えを食らってしまう。
私はその能力によってカエルを爆弾に変えて爆発させた。
私は【キラークイーン】を引っ込める。
「うっうぐ…また粘液まみれされぢゃったよう…。しかも何が
カエルの口から放り出された人物は、口から黒い煙を吐きながらわんわん泣き始めた。
その人物は【キラークイーン】の爆弾の爆発に巻き込まれながらも生きていた。
超能力だとか体が丈夫だとかそんなものじゃ断じてないタフネスさだ。
粘液まみれで黒焦げになっていて、どんな顔をしているのかまでは判別できなかったものの、その声や見た目などから少女であろうという事だけは辛うじて認識できた。
「何だ
日本人を彷彿とさせる顔立ちの少年が
その少年は粘液まみれで黒焦げの少女の仲間と見て間違いなさそうだ。
少年がいた方向には粘液まみれで黒焦げの少女とは別に粘液まみれ赤い服の少女が倒れ込んでいる。
赤い服の少女もカエルにやられたのだろう。
だが、注意を向けるべきなのはこちらに駆け寄ってくる少年の方だ。
「あの二人、【キラークイーン】の爆発を認識している!異世界にもスタンド使いはいるのかッ!?」
スタンド使いにしか認識出来ないはずの【キラークイーン】の爆発に少年と黒焦げの少女は気付いていた。
もし、この二人が新手のスタンド使いだったらならば非常に厄介だ。
能力も分からない上にニ対一では形勢的に不利なのは一目瞭然。
そうでないにしろ、この状況を見られるのは色々とマズい。
「ま、マズいぞ…ッ!小娘はカエルの粘液まみれで黒焦げ…。間違い無く私の仕業だと勘違いされてしまう…ッ!!勘違いされるのは非常にマズいッ!!」
粘液まみれで黒焦げの倒れ込んだ少女がいて、その前には三十代の大人が立っている構図。
あまりにも限定され過ぎたこの状況。
こんな状況を見て勘違いしない者はおそらく一人もいない。
私だってそうする。
この状況を誰かに伝えれられようものなら、私は再び追い回される事になるだろう。
『平穏な生活』と正反対の『追われる者』として生活は、いかなる手を使ってでも避けなければならない。
私が持ちうる知恵や経験をフルに動員して、この危機から脱しようと思考を巡らせるが、もう目の前まで少年は来ている。
私に与えられた猶予はもはや無かった。
チッ、手荒な真似はしたくはなかったが始末するか。
私はそう決断すると歯をグッと噛み締めた。
「ううう…カズマさぁん…。あァァァんまりよォォオォ」
「良かった、無事のようだな。はあ…駄女神といいあのロリっ子といい全く。気苦労ばかりで鬱になりそうだぜ」
少女の無事を確認した少年は安堵のため息をつく。
その様子を見るに少年は、その少女にかなり手を焼いているように見える。
「しっかし、あのロリッ子が爆裂魔法を唱えた訳じゃないのに、何で爆発が起きたんだ…?」
少年は気怠そうに頭を掻きながら独り言を呟く。
そして、少女を担ぎ上げようとして顔を見上げようとする。
その時、少年と私の目が合ってしまった。
やはり、どう足掻こうとも接触は避けきれなかったか。
「うおっびっくりしたっ!あんた誰だよっ!もしかして…これ、あんたがやったのか!?」
少年はリアクション芸人さながら驚きっぷりで腰を抜かす。
初対面の年下の人間にため口をきかれるのは、どうしようもなく苛立ちを感じる事だが、今はそんな事を気に留めている場合ではない。
まだスタンド使いかも分からないの相手の反感を買って敵対する事にでもなったら最悪だ。
「私の名前は吉良吉影、三十三歳独身、仕事はカメユーのチェーンデパートで会社員をして…説明したところで何を言ってるか分かる訳がないか…。まあ…とりあえずこれをやったのは…、私だ」
几帳面に自己紹介をしているというのに、それを相手に理解してもらえないのは、キリも無く虚しい事だ。
しかし、異世界人に私の身元の理解を求めるのは野暮だと言える。
どうせ始末してしまうのだから、理解してもらおうと理解してもらわなかろうと同じ事か。
私は再び【キラークイーン】を出現させようと、相手に悟られぬよう軽く身構える。
少年が敵だと判断した瞬間、即時に仕留めてやる。
「あなたがこの馬鹿を助けてくれたんですか!どうもありがとうございますっ!」
予想外。
少年の口から真っ先に飛び出してきたのはお礼の言葉だった。
結果的に言えば、私はこの気持ちの悪い粘液に塗れた少女を助けた事にはなる。
だが、私としてはただ自己防衛の為だけにやった行為に過ぎない。
そもそも私は最悪のケースを想像して、スタンド使いとしての先入観だけで勝手に少年を敵視していただけの事。
少年が必ずしも敵とは限らなかった。
私はそっと胸を撫で下ろす。
最悪の事態だけは運良く避けられた。
上手く状況を理解してくれたのは幸運だ。
この様子だと、私がどんな手段で爆破を起こしてるのかなんて疑問に思っていないようにも見える。
ひとまず安心はしたが、少年がスタンド使いである可能性はゼロという訳ではない。
【キラークイーン】の爆弾の爆発に気づいているのだから。
「礼はいらない。自分の身を守る為にあの怪物をやっつけただけなのだからな」
「それでもありがとうございますっ!そして、うちの馬鹿が本当にすみませんでしたっ!」
(となると、爆発を起こした犯人はこの人って訳だ)
少年は深々と頭を下げて礼を述べる。
そして顔をゆっくりと上げながら、観察するかのように私の方をジロジロと見てきた。
この小僧、私の事を警戒しているのか…?
いや、異世界人にとってスーツ姿が珍しいというだけだろう、そうに違いない。
ここは怪しまれないように立ち振る舞うのだ。
「つかぬ事をお伺いしますが、さっきカメユーのチェーンデパートとおっしゃられていましたという事は、もしかして日本人じゃないでしょうか?」
(サラリーマン風の服装だし絶対転生者だろ)
今何と言った…?
異世界に来て初めて出会った人間が『日本人』だとッ!
私を試しているのか…?
本当の事を答えて相手の様子を伺うべきか…。
いざという時は【キラークイーン】で爆破するッ!
「なぜ君が日本を知っているのかは分からないが、君の言う通り私は日本人だ。もしかして君も
「え、日本人っていったら転生者じゃない」
私のいち早く質問に反応したのは、激しく泣きじゃくっていた少女だった。
さっきまで泣いていたようには見えない程の感情の切り替えの早さだ。
世の中には優れたスポーツ選手のみができるスイッチングウィンバックという精神回復の方法があるらしい。
それを激しく泣き喚く事で実践していたのか?
フーーースッとしたぜと言わんばかりに少女は立ち上がる。
「いやあ、俺も転生者なんですよ。武器も持ってないないところと服装を見たところ転生したばかりなんじゃないでしょうか?」
「察しが良くて助かるよ。自分でも信じられないが見ての通り右も左も分からないただの転生者だ」
私以外にも転生者がいるとは…。
そういえば女神エリスという小娘は死んだ魂を導くと言っていた。
つまり、まだこの世界にはまだ他に私と同じ日本人がいるという事になる。
私がかつて始末した者がこの世界に来ているとしたら非常に厄介だ。
「あの余計なお世話かもしれませんがお礼させてもらえないでしょうか?」
(何か怖え顔してるし機嫌損ねたら俺達まで爆破させられるかもしれねえ…。何より俺の危険感知センサーがビンビン反応している…)
フム…礼か。
やはり『チャンス』は訪れたのかもしれない。
普段であればそういったお礼は受け取るようなタチじゃあないが、今は状況が違う。
簡単にこの世界の情報について聞き出すだけでもしておくとしよう。
「お礼っていうんなら、この世界について詳しく教えて欲しいのだが…?」
「それくらいお安い御用ですっ!この俺に任せてくださいっ!」
「ところで君の名前を教えてくれないか?」
「俺の名前は佐藤和真ですっ!」
少年カズマは思い切り自分の胸に手を叩きつけた。
♦︎
駆け出し冒険者の街アクセル
そこは、多くの駆け出し冒険者が集まる魔王軍の侵略の手から最も遠い街、らしい。
冒険者やら魔王軍やら普段使わない単語を羅列されても理解不能だ。
そんな街にカズマの案内の下、私は訪れていた。
カズマ達もさっき巨大カエルと戦闘していたようで、体が巨大カエルの粘液のせいで汚れてしまったと言って、街の大衆浴場に行ってしまった。
何も無い私は冒険者ギルドとやらに置いてけぼりだ。
街の中を色々と散策してみたいところだが、私は生憎の無一文。
私はテーブル席に腰掛けて、カズマ達が来るのを待つしかなかった。
私はカズマ達を助けたつもりもなければ、恩を売るつもりも無かった。
あの化けガエルにやられたのはよく分かる。
とはいえ、結果的には命の恩人となってしまった私を待たせるとはどういう神経をしているのだ?
ここに来るまでにも粘液まみれの二人のせいで、街の人間のあらぬ疑念や誤解による注目を浴びる事にもなったし、この吉良吉影に恥をかかせたいのか?
あの小僧、私にペコペコする様子からしても本当に悪い奴じゃあないんだろうが、人を待たせるという神経はどうしても許せん。
私はやり場の無い苛立ちを感じていた。
アイツらは常識もロクに身に付いていない阿保共の集まりなのか?
それに加えてここは騒々しい。
盛況するのは結構だが、少しは静かにできないのか?
しかし、ここは酒場のようだし飛び交う声に文句を言うのはお門違いか。
「吉良さーん!待たせてしまってすみませーん!」
冒険者ギルドの入り口に二人の少女を連れたカズマの姿が見える。
ようやく戻ってきたか…。
私を何分待たせたと思っている…。
腕時計を確認しようと右腕を見るも、腕時計は破損していてまともに時間を確かめられるものではなかった。
川尻早人が【
(あの駄女神とロリっ子、吉良って男を待たせるのにどんだけ精神をすり減らしたと思ってんだ…。殺されるかと思ったぞ…)
「全然気にしてくれなくても構わない。お礼とはいえ君は私のお願いを受け入れてくれるのだからね」
冗談じゃあない。
なぜ私が周りの危険に警戒してこんな歳下の小僧に気を遣わなければならんのだ。
目の前の敵に怯えて暮らすのはまっぴらだ。
「ねえ、あなたってキラヨシカゲって言っていたわよね?良かったら私達のパーティに入ら…ふぐっ!?」
さっき【キラークイーン】の爆破に巻き込まれ黒焦げになっていた水色の髪をした少女が私に話しかけてくる。
いきなり私の名前を呼び捨てか…。
しかし、その様子を見ていたカズマが慌てて少女の口を手で強引に抑えその場を離れる。
少女を止めるカズマの表情は妙に必死に見えた。
「どうしたんだあの二人は…?」
「さあ…」
私は独り言をポツリと呟く。
帽子を被った赤い服の少女は私の独り言に答えた。
その場に何とも言い難い微妙な雰囲気が流れるのを感じる。
「ちょっと何すんのよこのヒキニート!」
「それはこっちのセリフだこの駄女神!何勝手にあの人をパーティに勧誘しようとしてんだ!」
「いいじゃない!あの人転生者よ!ジャイアントトードを木っ端微塵にぶっ飛ばしてたのよ!あの人がパーティに入ってくれれば百人引きよ!!魔王軍なんかチャチャっと倒して女神として返り咲いてやるんだからっ!!」
「そういう事を言ってるんじゃねえ!!見ろあの男の顔を!怒らせたら絶対にぶっ飛ばすって顔してるぞ!!」
「あんたがそう思う気持ちは分かるわ。確かにちょっと影の薄そうで怖い感じの見た目してるけどそれはヒキニートのあんたの偏見よ。私の見る限りあのキラヨシカゲって転生者、相当ヤバいチート転生特典を持っているわ。この手を逃す手は絶対ありえないんだから!!」
水色の髪の少女とカズマが口論を始める。
何を言っているのか聞こえはしないが、他人の迷惑を考慮せず身内だけで勝手に話を進められるのは、どうしても私の癪に触る。
口論をするのは個人の自由だ。
しかし、時と場合というモノをわきまえろ。
やはり、カズマとかいう小僧にホイホイとついて行くべきじゃなかった。
「おい!ちょっと待てよ!!」
私の苛立ちをよそに、水色の髪の少女がカズマが引き止めるのを振り切り私の下に再び駆け寄ってくる。
それをカズマが必死に止めようとするも間に合わない。
「どうしたんだい?何か不都合でも…?」
「いえ何でもないわ。あそこのヒキニートがあなたがパーティに入るのを反対してるとかそんな事じゃないわ。実はねあなたには私達のパーティに入ってもらいたいの」
「パーティ?」
「あ、パーティっていうのは私達のような冒険者が作る一つのチームの事よ。あなた異世界に来たばかりで何も分からないでしょ?そこで私達のパーティに入ってくれさえすれば住む所までは用意出来ないけどお給料はちゃんと出すわ」
つまりは、遠回りに私に冒険者とやらになれと言うのか。
そして、そのついでに私を仲間に引き入れる気でいると。
カズマと出会ってからの様子を見る限りでは、うんともすんとも言えない。
むしろ断ってやりたいところだ。
(あの駄女神、あの男をパーティに勧誘するだけじゃなく勝手に給料も出すなんて言いやがって…。何も気にしてないみたいだからいいが俺が吉良のパーティ入りを反対してるとまで…。後で絶対ぶん殴る………)
カズマは水色の髪の少女を怒りと苦悩が混じった視線で私をパーティに勧誘する様子を見る。
何を考えているのか依然分からない。
カズマは肥溜めで溺れた鼠みたいな絶望した表情をしている。
なぜかは知らないが、もう既に負け犬ムードだったようだ。
それはそうだとして、結局パーティの勧誘についてはどうしたものか。
冒険者とは常に命の危険と隣り合わせで、尚且つ給料が安定しない職業だという。
冒険者になる事とは、つまり私の求める『平穏な生活』とかけ離れる事になるかもしれない。
だが、その反面で元の世界に戻る手掛かりを見つけられる可能性だってある。
あの小僧も本当に転生者のようだし水色の小娘も何かしらの事情を知っているようだ。
彼らの挙動や言動からして嘘を言っているようには見えない。
「元の世界に戻る手伝いしてくれるというのなら君達のパーティに入っても良いだろう。ただし『
なぜ私がわざわざ『雇用』という条件を出したかというと、あまり深く彼らと関わり合いたくないからだ。
根も葉もない話だが、彼らと関わり合いになればロクな事が起こらない気がする。
「そのくらいの事ならするわ!するする!…今何してほしいって?」
「元の世界に戻る手伝いをしてほしいと言ったのだ。何かおかしな事でもあるのかい…?」
「い、いや別におかしいとは言わないけれどあなたって天国に行くんじゃなくて異世界に行くのを選んだじゃないの?」
異世界に転生する者は全員あの小娘との面会を経ているのか。
「ああ、もちろん異世界への転生を選んだ。しかし、それは『望んだ』のではない、『選んだ』のだ。死んだ自覚はあったが目の前に現れた少女が女神エリスと名乗っていたものだから私をコケにしているのだと思った。そこで転生させられるものならやってみろと言ってしまったのが間違いだった…」
「要するに本当に異世界に転生してしまうなんて思ってもいなかったって事ね」
「その通りだ」
「ふーん、それは何とも可哀そうな話ね。やっぱり女神はこのアクア様にしか務まらないわ」
「ん?」
何を言っているのだこの小娘は?
私を馬鹿にしているのか?
私を小馬鹿にするその態度が気に入らん。
「そういえば言い忘れていたわ。何を隠そう、私こそ偉大なる水の女神でありエリスは私の後輩よっ!」
「なるほど。気前だけは十分の、ただの思い込みの激しい少女って訳か。これならエリスって少女が女神っていう方がまだ説得力があるぞ。…この吉良吉影を馬鹿にするんじゃあないッ!!」
水色の髪の少女はキリッと決める。
自分の事を本気で女神だと思い込んでいるのか?
もしそうだとするならどうしようもないくらいの重症だ。
この世界にも病院があるのなら、今すぐにでも連れて行った方が良い。
「何であんな奴より私の方が女神として見られないのよおおおお!!」
「落ち着け、駄女神。もう反対しねえから泣くな。吉良さんは誠実ってだけなんだよ」
「誠実って何よ!誠実って!うわあああああん!!」
「とりあえず君達が私を手伝う代わりに私が君達のパーティに雇われる、そういう認識で構わないね?」
カズマは泣く少女を慰めながら無言で頷く。
私はこれ以上何も言わなかった。
冒険者としてこの小僧のパーティに入る事が吉と出るか、凶と出るのか。
それは私にも分からない。
ギルド内には少女の泣く声が響き渡るのであった。
『『安心』なんてない所』…。
私に植物のように平穏な心さえ与えてくれないって訳か………。
くそったれがッ!!
後書きは小ネタ的なものを基本的に書いていきたいと思います。
カズマ「ちょっと魔法試してみてもいいですか?」
吉良吉影「魔法?いいだろう」
カズマ「ありがとうございます。では遠慮なく…『スティール』!!」
シアーハートアタック「コッチヲ見ロォ」
カズマの手元に来るシアーハートアタック
カズマ「え?何だこれ?」
ボオン 爆発音
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吉良吉影!冒険者になる!
アニメだと急に出てきたんで誰?ってなりました。
ゆんゆんも同じ感じなんですかね?
同時進行でOVER HEAVENも読んでいてコイツ本当にDIOなのか…?って思いました。←お前が言うな
それはそれで楽しく読ませて頂いております。
※2019年3月3日13時56分 文章を一人称視点に変更しました。それに伴う誤字などがありましたらご報告してくださると助かります。
私の名前は吉良吉影、年齢三十三歳、結婚はしていない。
自分でも全く信じられないが、私はどうやら異世界へと転生してしまったらしい。
その異世界というのがまた奇妙で、お伽噺話に出てくるような魔法使いやドラゴンなんかが現実に存在しているという、なんともファンタジーでメルヘンな世界だった。
この世界こそが杉本鈴美が言っていた『『安心』なんてない所』とでもいうのだろうか。
もしそうだとするなら、とんでもない場所に私は寄越されたものだ。
あまり良い趣味だとは言えないな。
頭痛がする、は…吐き気もだ…。
な…なんてことだ…。
健康的な生活を送っているこの吉良吉影が気分が悪いだと?
こんな私の追い求める『平穏』とは大きくかけ離れた世界で、これから生活していかなければならないと思うと、気分が悪くて仕方がない。
仕事は毎日遅くとも夜八時までには帰宅して、夜十一時には床に就き朝七時に起きる。
そんな規則正しい生活を送り、常に健康面にしっかり気遣って生活している私は、体調不良とは全くの無縁だと思っていた。
その甲斐もあって健康診断では異常無しとも言われている。
しかし、暮らし慣れた環境と大きく異なる環境で暮らすという事が、ここまで身体面にも精神面にも悪影響を及ぼすものになるとは……。
川尻浩作に成り代わっていた時でさえ、こんな気分にはならなかった。
異世界に転生したというのなら、逆に元の世界に戻ることができるのではなかろうか。
何としてでも元の世界に戻らなければならない。
杜王町で離れて生活するのは私のプライドが許さない。
その為にもまだ完全な信用に至った訳ではないが、私と同じ転生者だという佐藤和真の冒険者のパーティに加入することにした。
厳密に言えば、『加入』ではなく『雇用』という形ではあるが。
歳下の、それもまだ青っちょろい小僧に雇われるというのは気に食わない。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない事は十分に理解している。
一人で元の世界に戻る手段を探しに行っても良いのだが、生憎私の【キラークイーン】も万能な訳ではない。
正直なところ、あの巨大カエルのような化け物がひしめく世界で一人で生き抜く自信は無い。
スタンドにも限界はある。
それに魔法使いやら何やらがいるというのなら、ソイツに頼ってみるのも一つの手になりうるだろう。
元の世界には無かった『魔法』という概念は、この世界での生活において重要なカギを握っているに違いない。
とにかく、冒険の過程の中で元の世界に戻る方法を見つけ出すのだ。
不本意ではあるが、これから長い時間を過ごしていくことになるであろうパーティーメンバーは転生者カズマを筆頭として、女神を自称している痛々しい水色の髪の小娘アクア、紅魔族とかいう物騒な名前の一族の小娘めぐみん(名付け親はふざけているのか?どこにでもそういう輩はいるものだ)、そして、この吉良吉影だ。
数が多いのは冒険するにあたっては有利な事なのかもしれないが、それだけ騒がしくなる事間違い無しだろうから私としては溜まったものじゃあない、そうなるのはごめんだ。
あくまでも
さて、話は変わるが私はパーティメンバーの同行の下、冒険者登録をしに行っていた。
簡単な言えば冒険者カードという免許証みたいな登録する訳だ。
既知の者が付いて来てくれるのは不安も無くありがたい事だが、何せ人数が多い、返って鬱陶しく感じる。
わざわざパーティメンバー全員で来ることはないだろう?
関係無いかもしれないが、カメユーに勤めていた時も女性社員からお昼の誘いをよく受けていたがほとんど断っている。
今思えば、当時の同僚は一番の理解者だったのかもしれない。
他の奴らと変わらない適当な人間だと思っていたが。
まあそれこそ本当に関係の無い話だな。
とりあえず私が言いたい事は、私は他人と関わり合いになりたくないという事だ。
だが、ここは我慢するのだ、我慢するしかない…。
この世界に来てまだ半日も経過していないが、我慢ばかり強いられている、我慢しかしていない。
『心の平穏』の為とはいえ、これでは元も子も無いのでは………。
気のせいかもしれないが、気が動転しすぎたせいでこの短い間で自分が自分でなくなった錯覚を感じるようにさえなってきた……。
これからもこんな状況下で暮らさなければらないと考えると嫌気が差してくる。
改めてとんでもない所に寄越されたと思う。
♦︎
「わざわざ登録手数料を出させてすまないな、カズマ君」
「いやあ同じパーティのメンバーなんですから当たり前ですよ。吉良さんのおかげで無事ジャイアントトードを討伐してさっきのクエストも達成した訳ですしその分の報酬と思ってください」
「ジャイアントトード…?ああ、さっきの化けカエルの事か」
カズマは私に笑顔を見せていたが、その表情はあからさまに引きつっていた。
私が余程不機嫌そうに見えたのだろう。
自分では至って平静な様子を装っているつもりだったが、隠しきれていなかったようだ。
その事については気をつけなくっちゃあな。
(や、やっぱ怖え……。大人の面目丸潰れって顔してるぞあれ。クソォ…あの駄女神、何て奴を仲間に引き込みやがった)
カズマに私が不機嫌そうに見えたであろう事は間違いではない。
文句を言える立場じゃあないが、これでは赤っ恥のこきっ恥ってヤツだ。
私はもう既に一度死んだしまったのだから生涯と言うのはおかしな事だが、とにかくこの生涯に歳下のしかもちっぽけそうな小僧に金を肩代わりさせる事になるとは……ッ!
(自分で言うのもあれだが、俺の危機感知センサーには寸分の狂いも無い。しかし、これで危機を回避できた試しがほとんどない。くそぉ…あの吉良吉影とかいう男も回避できない危機の一つなんだろう…。なんかエリートっぽい気品ある雰囲気がかえってヤバい感じがする…)
「では冒険者カードについてお話致しますね」
「よろしく頼むよ」
私はギルドの受付の女性に冒険者カードについて簡単な説明を受けた。
簡潔に要点だけをまとめるとこうだ。
冒険者には様々な種類の職業がある事、冒険者カードには討伐したモンスターの数が記録、それに応じた経験値がもらえ経験値が一定に達すればレベルが上がり身体能力などが急激に成長する事、レベルアップでスキルを覚える為のポイントが与えられカードを操作することでそのポイントを振り分けスキルを覚えられる事など。
元の世界では想像もつかないシステムだ。
初めて聞いた事ばかりだったので少々理解に苦しんだが何とか理解した。
「それではまずこちらの書類に身長や体重など身体的な特徴ご記入してください」
私は受け付けの女性の指示通り丁寧に書類に自分の特徴を記入していく。
身長一七五センチ前後、体重六五キロ前後、頭髪の色は黒。
書類を一通り書き終えるとその書類を受付の女性に手渡した。
受付の女性は書類を受け取ると記入された内容を確認する作業に入った。
「あのキラヨシカゲ様、頭髪の色が
記入された内容を確認し終えた受け付けの女性が私のミスを指摘する。
私は自分の耳を疑った。
私がその程度のミスを犯すはずがない。私の髪は黒で間違いは無い。
受付の女性の勘違いじゃあないのか?
百歩譲れば凡ミスをする可能性はあるだろう。
しかし、私は確実に自分の体である
…まさかとは思うが私の体は川尻浩作の体から
そうだするなら私の髪が金髪なのも頷ける。
死んだ魂になったのは川尻浩作ではなく、紛れも無い私自身のものなのだ。
転生した私の魂が再び元の体に宿ったという事なのか…?
壊れた腕時計といい、川尻浩作の体だった時の面影はあるものの見た目や容姿は元に戻っているようだ。
後で鏡を見て自分の姿を確認しておこう。
「ああすまない」
ちょっとしたハプニングだった。
事の事態を理解した私は、何事も無かったかのように落ち着いた手つきで再び書類を訂正して受け付けの女性に手渡す。
訂正した箇所以外に私と川尻浩作の身体的な特徴には大きな差異は無かったので、後はミスの指摘は無く次の手続きへと移行する。
「次はこちらの水晶に手をかざしてみてください」
受け付けの女性は不思議な構造が施された水晶の下に私専用と思われるカードを置いた。
「これでいいかな?」
「はい」
私は言われるがままに水晶に手をかざす。
すると水晶は青い光を放ち周りの歯車のような仕掛けが動き始めた。
水晶に付いた針からは一点に集中した光がカードに当たる。
その光が当たった箇所に印刷機がコピー用紙に文章を印刷するように文字が浮き出る。
こんな中世ヨーロッパの世界観の国にも印刷機みたいな技術があるとは驚きだ。
「これは…?」
「これはですね冒険者としてステータスを文字として写し出しているのです。これであなたの適正の職業を知ることが出来ます」
「ほう、便利な装置だ」
初めて見る異世界の技術に私は少しだけ胸が踊った。
当然の事だが元の世界にはこのような装置、技術は無かった。
その代わりに元の世界と比べ発展途上の文明レベルだが、その分元の世界では考えられないような魔法や技術が発達していると見える。
それを見る私の気持ちは夏にカブトムシを取りに行く小学生と同じだった。
「はい、ありがとうございます。えっとキラヨシカゲ様のステータスはですね…」
受け付けの女性は水晶のしたからカードを取り出すと私のステータス、つまりは身体能力を読み上げ始める。
(さてどんな凄いステータスなのかしら。あの爆発の力からして強力なものに違いないわ)
(ある程度強い奴ならいいんだけど強すぎたら俺の肩身が狭くなるから程々にしろよ)
水色の髪の少女アクアと赤い服の少女めぐみん、カズマが私を何を思っているのかで見てくる。
私のステータスにそんなに興味があるらしい。
当の私はスタンドがあるからどうでも良い。
【キラークイーン】のスタンドパワーは特殊能力を除いても生身の人間の力を大きく上回っている。
静かにその結果を待つだけだ。
「大体のステータスは普通ですが生命力と器用度、知力、そして幸運度が中々優れていますね。このステータスなら上級職以外なら何でも…ってあれ!?」
何か機械の不具合でもあったのか?
ただでさえ冒険者ギルドは居心地が悪いというのに、こんなところで足止めを食らうのはご免だ。
オロオロと受け付けの女性は戸惑う。
それを見たアクアは勝利を確信したとばかり笑みでニンマリと笑う。
(やっぱりヨシカゲはチート転生者で間違いないわ。これで魔王に勝ったも同然…ッ!)
「キラヨシカゲ様の適正職業はですね…ええっと、す、スタンド使い…?」
「な、何イ!スタンド使いだとオ!!」
『スタンド使い』という言葉を聞いて私は驚愕する。
カードにはこの世界の言語ではっきりと『スタンド使い』という言葉が印刷されている。
さっき受け付けの女性から聞いた話だと、冒険者としての職業にはソードマンやウィザードなどの多彩な種類があって、普通ならばその多彩な職業から自分に合った適正の職業を選ぶらしい。
カズマの職業は最も基本の職業とされる冒険者、アクアはプリーストの上級職アークプリースト、めぐみんはウィザードの上級職アークウィザードだという。
しかし、私は数多くある基本職や上級職のいずれにも当てはまらなかった。
それどころか、私の職業はよーーーく聞き覚えのある名前の職業だった。
「「スタンド使い?」」
カズマとめぐみんは首を傾げる。
「え、いかんぞ歯科医?」
「スタンド使いです」
アクアは耳の悪い老人のような聞き間違いをする。
カズマとめぐみんは普通そんな聞き間違いしないだろとじーっとアクアを見つめる。
一方で私はスタンド使いとはっきりと明記された事に危機感を抱いていた。
スタンド使いにとって自分がスタンド使いだと知られるのはデメリットでしかない。
猛獣ひしめくジャングルで無防備な裸で生活していくようなものだ。
「しかしスタンド使いなんて職業は初めて見ました。規定のものではないこんなイレギュラーな職業があるなんて聞いたことがありません」
さて、どうしたものか…。
これで私がスタンド使いである事が知られてしまった訳だ。
だが、幸いな事に反応からして彼らはスタンドを知らないようだ。
【キラークイーン】の爆弾の爆破に気付いていたのは引っかかるが、カズマ達はスタンド使いではないと考えても問題無いだろう…、しかし……。
「少しお願いがあるのだがよろしいかい?」
「は、はい何でしょう?」
「いないとは思うが、もしこれから私と同じようにスタンド使いの人間が現れたら私に報告してくれないか?後ソイツには私がスタンド使いである事は教えないようにね」
受け付けの女の戸惑うような態度から察してスタンド使い、つまり私を知る者はこの世界にはいない…のか?
「は、はあ…分かりました」
受け付けの女性は私の申し出の意図を理解できないだろう。
スタンド使いである事を周知されてしまったが、私は冷静になって確実に保険を打つ。
こんな世界でスタンドが認知されていない以上、この世界にスタンド使いがいる可能性は低いにしろ警戒するに越したことはない。
もはや隠し通す事は出来ないので下手にごまかさずに今の状況を受け止めた。
「ありがとう、助かるよ。まあ何はともあれスタンドについて教えておかなくなくっちゃあな」
「「「「スタンド?」」」」
「何か知っているんですか?」
「ああ、よく知っているよ」
私から
そのオーラは集まり次第に人のような形となった。
「何だありゃあ?」
「あの男から何か出てきたぞ」
「モ、モンスターか!?」
やはりか、存在自体は知らないみたいだがこの世界の人間にはスタンドが見えているな。
私を見ていた冒険者達が騒ぎ始める。
スタンド使いである事を知られてしまった以上私は、スタンドを他人に見られるのは時間の問題だと考える。
だから逆にスタンドを堂々と出してやった。
要は逆に考えるんだという事だ。
「直接見た方が理解しやすいだろう。百聞は一見にしかずってヤツさ。【キラークイーン】とコイツを名付けて呼んでいる。コイツのような存在の事を一般的という言い方はおかしいが一般的にはスタンドと言われている」
そして、現れたのは私のスタンド【キラークイーン】。
グロテスクな髑髏をあしらったシンボルと無機質な表情が不気味さをうかがわせる一方で紅い眼と雪のような白い素肌、筋肉隆々ながらもスマートさを感じさせる。
その堂々とした立ち姿は『
「直訳したら『殺しの女王』とか物騒でしかねえええ!!」
「スキルの習得無しでこんなのが出せるなんて当たりも当たり、大当たりだわ!!」
「何故でしょう?爆裂魔法の使い手として不思議と親しみを感じます」
一人は泥を見た、一人は星を見た。
【キラークイーン】の存在にカズマ一行は不安と期待が入り混じっているような声を上げる。
無論カズマ一行以外のギルドにいる冒険者達もざわめきは増す一方だ。
不本意にも注目の的となってしまった私は、若干のストレスを感じながらも必死こらえるの精一杯だった。
私は他人の注目を浴びるのが極端に嫌いだ。
だから私は、学生時代には学業成績やコンクールで一位を取れる実力を持っていながら故意的に三位位を取りにいっていた。
目立ちたくないのならもっと下の順位になれば良いと思うかもしれないが、それは他人から見下される事を意味する。
自分よりも実力の低い人間に見下されるのは屈辱だ。
しかし、そんな私でもこの世界ではイレギュラーなものと考えられるスタンド使いとして人々の注目をどうやっても避けられないだろう。
そうとはいえ『静かに暮らしたい』私にとって人の注目になってしまうのは癪に障る。
「キラヨシカゲ様ってまさかモンスターを召喚出来るのですか!?まだスキルも習得なされていないのにどうして…」
多くの駆け出し冒険者達の登録手続きに立ち会った受け付けの女性もただただ愕然としていた。
「オイオイオイオイ君、私の話を聞いていたのか?コイツはスタンドだ、モンスターなどではない。それとスタンドはスキルなんかじゃあなく才能だ」
ええい、ややこしい質問はしてくれるな。
しかし、スタンドについて知るのはこの場で私のみ。
質問するなという方が無理があるか。
「カズマ達も面倒だから一度しか話さないからしっかりと聞いておいてほしい。スタンドとは精神エネルギーだ。そしてスタンドはそれぞれ特殊能力を一体につき一つ持っている。あまり難しく考えず魔法みたいなものだと思ってくれたまえ」
「それじゃああの時の爆発はそのスタンド能力ってやつを使った訳ですか?」
「そういう事だ。【キラークイーン】のスタンド能力はいかなる物質だろうと爆弾に変える能力。スタンドについては話すべき事はそれくらいだけだ」
「爆弾ですか!私の爆裂魔法とどちらがすごいか楽しみですね!!」
「おいめぐみん、変な気を起こすんじゃないぞ」
カズマはめぐみんの肩をガッシリと掴む。
「嫌ですね、冗談に決まってるじゃないですか」
「本気で言ってるようにしか聞こえないからやめろ」
(スタンド?いかなる物質でも爆弾に変える能力?何その能力!怖すぎだろおおおお!!!)
「説明だけじゃあパッとしないんじゃあないのかね?どれ【キラークイーン】の能力を実際に使ってみせよう」
「大丈夫です、遠慮しときます」
(さっきのジャイアントトードが爆破された感じからしてめぐみんの爆裂魔法には遠く及ばない威力なんだろうが絶対やべえ奴だこれ)
「ふむ、そうか。それで手続きはまだあるのかい?」
私はスタンドをそっと戻し言った。
「あ、すみません、手続きは以上となります」
受け付けの女性は私に冒険者カードを手渡し、私は受け取ったカードを自分の財布に入れた。
その時カードに記された異世界の言語を難無く読めている自分に違和感を覚える。
この現象については後でカズマ達に聞いてみるとしよう。
他にも聞きたい事は山ほどある。
「よくは分かりませんがスタンド使いのキラヨシカゲ様、冒険者ギルドへようこそ。スタッフ一同、キラヨシカゲ様のご活躍をお祈りしています」
受け付けの女性は深々と頭を下げる。
手続きが終了しここに私という一人の冒険者誕生した。
激しい冒険のスリルや期待はいらない、求めるのは『平穏な生活』のみだ。
この後カズマの下にダクネスという女の騎士がパーティの加入の申し出に来たらしい。
本当はキャベツのとこまで書こうと思っていたのですが無理でした…。
尺を取りすぎちゃった。
全く関係ないですけどキャベツといったら某社長を思い出すばかりです。
めぐみん「フフフ…シアーハートアタックですか…。面白いですね」
カズマ「やめとけ!やめとけ!あいつは耐久力がヤバいんだ」
シアハ「コッチヲ見ロォ」
めぐみん「エクスプロージョン!!」
ドグオオオン!!
シアハ「今ノ爆発ハ私ノジャネェ」キュルキュル
めぐみん「ヤバいです…。動けません」
カズマ「やめとけって言っただろうがあああ」
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前話でアクアをアークウィザードだなんて表記した奴はどこのどいつだ?
俺はこのすばファンにとってのモンキーなんだよジョジョォォォォーーーーッ!!
このすばファンの方々ならばにアクシズ教徒の皆さん申し訳ございません。
誤認識でそう書いたのではなくただの凡ミスでそう書いたことをご理解して頂けると幸いです。
誠に申し訳ございませんでした。
「はぁ………」
逃げ場の無いため息が苦しそうに出る。
駆け出し冒険者こと俺、佐藤和真は憂鬱に思っていた。
その原因は自分のパーティにあった。
パーティの采配に恵まれすぎないのだ。
俺のパーティのメンバーはというと、回復魔法しか取り柄のない駄女神アクアと一日一回体力をフルに消費する爆裂魔法しか使えないロリっ子めぐみん、スタンドなるものを操る謎の転生者吉良吉影。
もうこの時点で嫌な予感しかしない。
アクアは回復魔法が使えるとはいえ戦力にならないしめぐみんも一回爆裂魔法を使えばそこで終わり…、吉良についてはまだよく分からん。
それに加えて何かヤバそうな雰囲気のダクネスという女騎士がパーティ加入の申し込みにきた。
彼女の場合はやんわりと断っておいたから問題無いはずだ。
おっとこれはフラグじゃないからな、絶対。
常識やステータスに欠陥ばかりあるメンバーだが、実のところ吉良吉影が一番ヤバい奴だと睨んでいる。
吉良は何というか、第一印象としてはプライドが高そうでどことなく気品漂う雰囲気をしていてアクア達みたいに軽くあしらえない、そんな感じの男。
俺が嫌いというか特に苦手なタイプの人間だ。
ダクネスとの会話には滅茶苦茶緊張したが、これもヒキニート生活をしていたが為の弊害か…。
だいぶ偏見が入り混じっているが、俺の危機感知センサーがビンビンしているから一概にその偏見が間違っているとも言えない。
めぐみんと同様にまだ出会ってそんなに経ってはいないから分からない。
吉良がパーティに加入するのは反対、というのが本音だ。
だが、あの駄女神ときたら「ヨシカゲはチート転生者よ」なんて嬉しそうにしながら勧誘しやがって。
まずチート転生者って喜ぶ前に疑うことを知れ。
ゲロ以下のにおいがプンプンしやがる…っていうのは言い過ぎか、それ以前にめっちゃ失礼だな。
とりあえずヤバい感じがする。
そう思いながら一日を終えた。
俺とアクアはいつも通りに馬小屋で寝たわけだが、吉良は冒険者の登録手続きの後に俺が分け合ったジャイアントトードの報酬の金で宿屋に泊まったそうな。
前の世界での生活水準いかに高かったかががうかがえる。
この世界じゃ金を稼ぐのは容易な事ではない、まさに命懸けなんだから後先考えてもらいたいものだ。
俺のパーティの収益はまだ安定しているとは言えないし。
家も無い馬小屋生活、言ってしまえばホームレス生活に等しい。
そして、また新しい朝が来て胃痛を抱えながら一日を過ごしていく訳だ。
ジャイアントトードと吉良吉影の件の翌日。
俺はこの日妙な疲労の為に昼近くまで寝てしまっていた。
半ば時間帯的にもう昼食となりかけている朝食をめぐみんと取っていた。
とある不安を抱えながら…。
「めぐみん、スキルってどんな風に覚えるんだ?」
「それはですね…」
食事をしながらひよっこ冒険者の俺は、めぐみんにスキルの習得方法を教えてもらっている訳だが、ここでも壁にブチ当たっていた。
吉良がギルド内にいないのだ。
昨日吉良と分かれる際に明日の昼くらいにギルドに待っててもらうよう頼んでいたのだが、ギルド内に吉良の姿は影も形も無かった。
凄く嫌な予感がして仕方がない。
俺があまりに遅いので怒ってどこかに行ってしまったのではないか。
次会った時にはどんな目に遭わされるかなんて想像もしたくない。
下手をすれば吉良のスタンド【キラークイーン】とやらで吹き飛ばされてしまうのか。
なんて事を現在進行形で不安に思っている。
「どうしたらいいんだ」
俺は小さく呟く。
俺の気持ちを分かってくれる奴なんていやしねえ。
アクアは論外、めぐみんはどうも思ってなさそうだ。
こんな『下痢腹抱えて公衆トイレ捜しているほうがズッと幸せ』って思いをしているのは俺くらいだろう。
他の転生者はチート特典を受け取って妄想膨らむハーレムライフを送っていることだろう。
いくら勢いだったとはいえ、何であんな駄女神を転生特典に選んでしまったのだろうか。
はあ…なんていうか他の転生者が羨ましく思える。
「あのカズマ、人の話をちゃんと聞いているんですか?」
「ああ、もちろんちゃんと聞いてるよ。誰かにスキル教えてもらってそれにポイントを振り当てるんだろ」
どうやらめぐみんには俺の目が虚ろに映っていたらしい。
でもやっぱり不安なものは不安なのだ。
こっちは身の安全がかかっている、かもしれないのだ。
今の所は偏見だが、吉良みたいなタイプの人間を怒らせたらただじゃすまないに決まってる。
ヤバそうな雰囲気だけはビンビンしている。
「…少し時間を頂いても良いだろうか?」
誰も俺に安泰の時間を与えてくれないらしい。
俺の話しかけてきたのは金髪の女騎士。
そう俺の危機感知センサーが警鐘を鳴らしていたダクネスだ。
「昨日は酒に酔っていたせいで話が曖昧に終わってしまったからな。昨日の話の続きをしよう。私をあなたのパーティに入れてもらえないだろうか?」
おい、今なんつった?
昨日の話の続きだと…?
やんわりと断っていたはずだが何も分かってねええええ!!
これで説明はフラグっていうのが証明された。
フラグは否定したところで意味がない。
説明した時点で因果は定まってしまうのだ。
嫌な教訓になっちまった。
ここははっきり断っておこう。
「お断りします」
少し罪悪感を感じるが仕方がない。
欠陥と不安だらけのパーティをこれ以上酷くしてはいけない。
「…っ!」
ダクネスは頬を赤くしてブルッと身を震わせた。
え…?喜んでいる…?
やっべぇ…この人危険だ。
あまりのヤバさに自分自身の表情が酷く歪んでしまっているのが分かる。
勘弁してくれよ、ただでさえ今吉良の怒りを買ってしまっているかもしれない不安に駆られているのによ…。
だが神は俺を見放してはいなかった。
言わずもがな、あの駄女神の事じゃないぞ。
「ダクネス、こんなに強引に迫っちゃあ相手を困らせちゃうでしょ」
ダクネスの肩をポンポンと軽く叩いて話しかけてきたのは右頬にある傷が特徴的な白髪の少女だ。
良かった、こっちの人はまともそうだ。
「私の名前はクリス、見ての通り盗賊よ。ダクネスとは友達って感じかな」
盗賊でダクネスの友達か。
結構可愛いし俺のパーティメンバーとは大違いだ。
アクアやめぐみんは可愛い部類には入るとは思うがそれを除けばはっきり言ってただのポンコツレベル。
吉良に限っては常識こそあれど男、しかもよく分からない転生者ときた。
別にハーレムパーティを築き上げたい訳じゃないが、これではパーティの利便性が悪すぎる。
「ねえ君、何かスキルを覚えたいんだって?それなら盗賊のスキルなんてどうかな?」
どこから俺とめぐみんの会話を聞いていたのかは知らないが、答えはもちろんイエスだ。
クリスの希望で授業料の代わりにクリムゾンビアというお酒を彼女の為に注文した。
これだけでスキルを教えてもらえるなんておいしい話だ。
俺とクリスとダクネスはギルドの外に出た。
どこにいるかさっぱり分からない吉良への不安からそっと目を逸らしながら。
♦︎
カズマがギルドに来る少し前の事。
あの小僧、大人を待たせるとはどんな神経をしているのだ?
昨日もそうだった。
どうせ寝坊でもこいているのだろう。
この吉良吉影、この世界に来てからストレスの連続だ。
昨日はゆっくりと寝られなかった。
普段だったら赤ん坊のようにすっかり熟睡していたはずだったのに。
巨大なカエルに襲われるわ、私がスタンド使いである事が他人に知られるはで安心なんてとてもできやしない。
赤っ恥のこきっ恥をかき公衆の面前で注目を浴びるという私が最も『嫌う』目に遭った。
何とも不幸な一日だった。
そのせいか爪が良くない伸び方をしている。
今のところ『平穏』のへの字も見えてこないが、『運命』は私に味方してくれている…はずだ。
忘れてはならないのは味方する『運命』に忠実であろうとする事。
そうすればこの世界でも『平穏』に暮らしていけるはずだ。
駆け出し冒険者の街アクセル、ここが異世界だという事を除けば住み心地は悪いはないだろう。
私は昨日襲われたジャイアントトードとやらの討伐クエストを受けていた。
何でも街の近くにまた新しい個体が現れたとの事。
小遣い稼ぎの傍らこの世界の社会の仕組みを軽く知る為に私はクエストを受ける事にした。
カズマを待つ間の暇つぶしの為にもな。
【キラークイーン】のスタンド能力があれば簡単に終わらせられるから問題無い。
だが、何事も経験が物を言う。
スタンドがあるにしろこの世界での生活にいち早く馴染まければならない。
川尻浩作に成り代わって川尻家に溶け込んだ時のように。
私は受け付けカウンターでクエストを引き受けると、いつものようにネクタイを締めた。
制服の方が安心するが服装を変えるべきか…?
「お一人で大丈夫でしょうか?」
「一人であろうと問題は無いさ。それに私は大勢でいるより一人でいる方が好きなのだ」
「そ…そうですか。もしもの時は無理をせずに安全な所に避難してくださいね」
ギルドの受け付けの女性とそんな会話を交わしたが余計なお世話だ。
私の冒険者としてレベルはまだ一らしい。
冒険者カードにそう書いてある。
随分と舐められたものだ。
クエストとは冒険者の仕事のようなもの、一連の流れは早い内に慣れておきたい。
この吉良吉影に不可能は無い。
『運命』は他ならぬこの私味方してくれているのだから。
私は街の外に出てジャイアントトードの討伐に向かった。
♢
街の外に出てしばらく歩いていると少し遠くの方にいくつか巨大な影が見えてきた。
ジャイアントトードだ。
相変わらずカエルらしくピョンピョンと飛び跳ねている。
巨大とはいっても所詮カエルはカエル、心配する必要は無い。
今回引き受けたクエストのノルマはジャイアントトード五匹の討伐。
私が視線を向けたその先には五匹ものジャイアントトードが集まっている。
カエルとはいえ人を喰らうような化け物が集まっている所に猪突猛進に突っ込んでいくのは、非常にリスキーな事だし馬鹿のやる事だ。
この状況においては【キラークイーン】『第二の爆弾』無敵の自動操縦【シアーハートアタック】こそヤツらを始末するにふさわしい。
私の『平穏な生活』への第一歩として始末させてもらう。
「【シアーハートアタック】ッ!」
『コッチヲ見ロッ!』
【キラークイーン】を側に出現させさらにその左手の甲から【シアーハートアタック】を射出する。
【シアーハートアタック】はキュルキュルと重厚な車輪の音を鳴らしながらジャイアントトード目掛けて凄まじい勢いで走り出す。
髑髏が付いた爆弾戦車が巨大なカエルに突っ込んでいく様子は中々絵になる。
だが、こんな光景は私の求める『平穏』じゃあない。
【シアーハートアタック】は【キラークイーン】のような近距離パワー型のスタンドと違って、自分の意識通りには動かす事はできないが射程距離に関係無くパワーを存分に発揮できる遠隔自動操縦型のスタンドだ。
温度の高い物を優先的に狙い人の体温に近い温度に達した瞬間爆発を起こす。
一匹のジャイアントトードは迫り来る【シアーハートアタック】に気づいたようで捕食体制に入ろうとする。
ま、【シアーハートアタック】を食らったところで無駄な事だが。
飲み込んだ瞬間、ボン!だ。
『コッチヲ見ロッ!』
【シアーハートアタック】が目と鼻の先まで近づいてくると、ジャイアントトードは反射的に長い舌を伸ばして【シアーハートアタック】を飲み込んだ。
空条承太郎の【スタープラチナ】を相手取っても壊れないほどの硬度を誇る【シアーハートアタック】を飲み込むなんて何を考えているのか。
案の定、【シアーハートアタック】を飲み込んだジャイアントトードは爆裂し辺りにはその肉片が散らばる。
「こんなものか…」
【シアーハートアタック】は牛よりも一回りも巨大な体躯のカエルを一発で吹き飛ばせた。
『ウニャン』
聞き覚えのあるような鳴き声がした気がする。
まさかな……、この世界に来て気が動転するような事態ばかりだったとはいえ幻聴まで聞こえてくるとは…。
『ウニャン』
こ、これは、幻聴………なんかじゃあないぞ!
鳴き声する場所、自身の足元を見下ろす。
そこにはまるで不気味な見た目の植物が生えていた。
私の足元に生えてこの植物、見え覚えがある。
いや私ははっきりよく知っている。
植物とは思えぬ猫のような見た目をしたそれは【
足元にいるのに少したりとも気付かなかったとは…。
いやそんな事はどうでもいい、何故【
『スタンド使いは引かれ合う』ってヤツか…。
全く見当が付かないが私と同じように死んでしまったのか?
「戻れ【シアーハートアタック】!そして【
『ウニャ、フガアアア―――ッ!!』
【シアーハートアタック】は【キラークイーン】の左手に戻り【
【キラークイーン】で『空気弾』に触れ『爆弾』に変えた。
射出された『空気弾』はジャイアントトードにゆっくりと近づく。
手で距離を計ってしっかりと距離を掴まなくっちゃあな。
ある程度の空気の歪みで位置は分かるが、『空気弾』は透明だから一度見失ったらどこで爆発させれば良いか分からなくなってしまう。
そうなってしまっては爆発は必殺にならない。
ジャイアントトードは『空気弾』に気付くことなくのんびりと飛び跳ねている。
群れの一匹が木っ端微塵に吹き飛んだというのに生物として危機管理能力が欠けているんじゃあないか?
まあ警戒されて群れが分散されるよりもこうしてカエルらしくケロっとしてもらっている方が都合が良いがね。
【シアーハートアタック】は遠隔自動操縦型でもパワフルに自動追尾出来るという利点があるが空気弾は離れた敵を『狙って』の爆撃が可能だ。
ジャイアントトードまで後三メートル、二メートル、残り四匹を一気に吹っ飛ばす。
よしこの位置だ、この位置なら四匹同時に吹っ飛ばせる。
「『着弾点火弾』、『点火』ッ!」
【キラークイーン】のスイッチを押す。
四匹のジャイアントトードは『着弾点火弾』によって爆裂した。
『爆発』と『空気』…これほどに相性の良いものは無い。
何の縁があってか【
後は街に戻ってクエスト完了の報告を済ませるだけだな。
報酬はえっと…五万エリスか、この世界の金銭感覚は大体日本とそう変わらない感じみたいだし一回でこの報酬はおいしいかもしれない。
いや、これは私にスタンドがあるからの話か。
どちらにせよ冒険者という職業は私の『平穏な生活』とはかけ離れている。
生活の基盤も全く出来上がっていないし多少の無理をしてでも安定した寝床が欲しい。
宿屋暮らしじゃあいつまでも持たん。
ああそうだ、そろそろカズマもギルドに来ているんだろうな…?
これでもしギルドに来ていなかったら社会の常識ってヤツをたっぷりと教えなくっちゃあいけん。
事あるごとに今みたいに待たされるのは日々のストレスとなってしまうからな。
♦︎
俺はダクネスの友達の盗賊クリスに相手が身に付けている物をランダムで奪い取る魔法【スティール】を教えてもらった。
この時のクリスとのやり取りは心に熱いものを感じたし自分が冒険者なのだと自覚させられた。
冒険者としての常識や魔法も習得出来たし満足している。
そしてギルドへと戻った。
ギルドに戻ってからの出来事はそれはもう酷かった。
俺はクリスに【スティール】を教えてもらう際に駆け引きをして【スティール】で彼女のぱんつを奪い取って人質ならぬぱんつ質を取ったのだがその事を公衆の面前で暴露された。
暴露された内容は間違い無いのだがその説明の仕方がストレートかつあらぬ誤解までかけられそうなものだった。
無論ギルド内の女性からの視線は冷ややかなものになり俺の評判がだだ下がり。
これだけなら良かったのだが…って断じて良くはないな。
丁度、アクアとめぐみんと合流していたのでちゃんとスキルを習得したのを証明しようとめぐみんに【スティール】を使ったのだがまたぱんつを奪い取ってしまったのだ。
結果、俺の評判はこの数秒でさらに下がる事になった。
だが俺への不幸はまだ終わっていなかった。
「サトウカズマ、随分と遅かったじゃあないか。まさかとは思うがそこの女の子と呑気に遊んでいたのかね?」
この声は…や、やべえ…すっかり忘れていた……。
クエストの受け付けカウンターから何やら謎の植物が植えられた植木を持って歩いてきたのは吉良だった。
吉良の声は明らかに不機嫌そうだった。
「じ、実はですね…」
「突然で申し訳ないがあなたは誰だろうか?」
半ば絶望している中ダクネスの声によって俺の声がかき消される。
吉良の注意は俺からダクネスへと移る。
不幸中の幸いというべきか不安要素であるダクネスに助けられる事になるとは。
世の中何があるか分からないものだ。
命が救われたような思いをした。
「おっとカズマの知り合いか…自己紹介しなくっちゃあな。私の名前は吉良吉影、カズマのパーティに雇われている冒険者だ。つい昨日カズマのパーティに雇われたばかりのまだまだひよっこの駆け出し冒険者さ。三十三歳で結婚はしていない。煙草は吸わない、酒はたしなむ程度で夜十一時に寝る…」
そこまで聞いていないのにやたら長ったらしい自己紹介が延々と続く。
あんたの生活習慣なんて知ったことじゃねえよ。
というか誰かツッコミを入れろよ。
そういえば一番最初自己紹介を聞いた時話を省略しているように見えたが今と同じような事を話そうとしていたのかもしれない。
まさか毎回こんな風に自己紹介をしているのか…?
何となく吉良吉影という男の素性が分かりかけてきたかもしれない。
「キラヨシカゲっていったらスタンド使いっていうあのキラヨシカゲか?」
ダクネスが興味津々な様子。
スタンド使い、かぁ…そんなんじゃなけりゃあ今の俺みたいに警戒する必要が無いんだが。
当の本人もかなり不本意そうだ。
「見ず知らずの人間にまで知られているとはたった一日で随分と有名になったものだ……」
「冒険者はこの話で盛り上がっていたからな」
(噂になってしまうのは多少覚悟していたがここまでとは……。もう少し考えてから話すべきだった…。この吉良吉影が最も嫌う事、それは目立つ事………)
吉良はかなり苦しそうな顔をしている。
あの人もあの人なりに苦労しているのか?
同情はするが、まだ信用できる人間か否かの話は別だ。
「ところでヨシカゲが持ってるその植木に生えた物は何かしら?動物のようにも見えるけど…」
とアクア。
気持ち的に余裕が無かったから全然気づかなかった。
吉良が持っていたのは、何かの動物のようにも見える不気味な植物だった。
あんな几帳面で真面目そうな人がでも珍しそうな物に興味を寄せるもんなんだな。
俺だったら不気味だからその植物を欲しいとは思わないが。
何でこんな物を持ってきた?
「コイツは【猫草】、【ストレイキャット】だ」
【
今にもニャーっと鳴きだしそうだ。
『ウニャン』
おいこの植物、マジで鳴いたぞ。
いきなりの事でビビった。
やっぱ異世界の植物っていうのは変わっているな。
「これってモンスターなんじゃないんですか?」
めぐみんは当然の質問を投げかける。
モンスターと言われればモンスターに見えなくもないこの植物。
この手のものは大体ロクなものでない事が多い。
この世界に来てからの経験で何となく分かる。
いや、流石にそれは考えすぎか…。
「そう見えるかもしれないがそれは違う。コイツはれっきとした猫だ。ただし半分植物ではあるがね。一応植物でもあるが匂いを嗅いだりボールを転がして遊んだり普通の猫と何ら変わりは無い」
植物だと思っていたそれは猫だった。
ちょっぴり衝撃的な事実だ。
半身植物の猫とか聞いたことない。
よく都市伝説であるような秘密結社が遺伝子操作で作り上げた動物かよ。
そんな考えもあって猫は可愛らしいイメージがあるが【
てか何でこんな植物を持ち帰ろうとしているのかが分からん。
「半分植物ってところが何かちょっと怖いですが可愛いじゃないですか」
「確かにそうね。他の猫と違って個性が出て可愛らしいじゃない」
猫草について感想を述べるめぐみんとそれに共感を示すアクア。
ダクネスやクリスもまんざらでもない様子。
俺の感覚がおかしいだけなのか?
自分で自分を疑ってしまった。
「しかし駆け出し冒険者ばかりのこの街でこんな猫でよく見つけられたね」
(つくづく私もそう思う。何たってコイツはこの世界の産物じゃあないんだからな)
クリスがごもっともな意見を言う。
確かに俺みたいな駆け出し冒険者達ばかりが集まる街でこんな珍しそうな猫を見つけられるようには思えない。
何か裏があるとまでは言わないが何かあったに違いない。
「私はそこのカズマが待ち合わせ場所のここに来るのがあまりにも遅いもので退屈していたのだ」
吉良の視線が再び俺へと移る。
【キラークイーン】を出した時みたいにゴゴゴ…と不穏な雰囲気が漂う。
助かったと思ったがそんな事を思っていた俺が柄にもなく甘かった。
「ここに来るまではヒキニートだったし二人の女の子のぱんつを剥ぎ取った上に人を待たせるなんて最低ね」
吉良の言葉を聞いてアクアを調子づいたようにおれを罵倒する。
色々とお前には言われたくねえ。
いつもならそう言ってやるところだが不機嫌そうな吉良の前では言えるわけがない。
何も言い返さない俺の様子を見てアクアはニヤリと笑う。
俺の弱みを見つけられたらしい。
これは未曾有の大ピンチかもしれない。
幸いこれ以上は追撃してこないようだが。
「勘違いしないでくれ。私は怒っているわけじゃあない………。決して怒っているわけじゃあないのだよ…」
いやいやいやめっちゃ怒ってるだろこれ。
声が全然穏やかじゃねえ。
辛うじてキレてはいないみたいだがここは大人しく話を聞いておこう。
「それでだ、私はその暇つぶしと冒険者としての常識を身に着ける為にクエストを受けてみた。昨日と同じジャイアントトードの討伐に行ったのだ」
「駆け出しの冒険者が一人でか!?」
「そうだが何か問題でも?」
「別にそういうわけじゃないが」
驚愕するダクネス。
本来なら俺もこうやってスペックの高さで驚かれるはず(予定)だったのだろうが俺は駄女神を転生特典に指定してしまったのだから仕方がない。
スタンドを使って楽々クエストを済ませたのだろう。
というか一人でクエストに行っていたのかよ。
「その時たまたま足元にコイツが生えているのを見つけてね、ここまで持ってきたという訳だ。守衛の人間にコイツがモンスターだと勘違いされたものだからその釈明をするのには骨が折れたものだ」
吉良はやれやれと【
「で、私の自己紹介とかさせてもらった訳だがそういう君達は誰なんだい?」
吉良はダクネスとクリスを見る。
ん?気のせいか…?この人、二人の手を見てないか?
顔を見るっていうなら分かるが手を見るって…。
何か危なげな感じがしているがこれと関係しているんじゃないか?
心のどこかにとどめておくとしよう。
「そういえばこの人って確か私達がお風呂に入っている間に面接に来たっていう人?」
「この方、クルセイダーではないですか」
アクアとめぐみんも気になっているようだ。
この二人には絶対に会わせたくなかった。
「立ったまま話すのもあれだから酒場のテーブル席で話をしようか」
さてどうしたものか…。
ため息ばかり出てくる異世界生活。
勇者と賞賛されたりパーティメンバーと恋が芽生えるような俺が望んでいた異世界生活はどこへやら。
正直この先不安でしかない。
またキャベツのとこまで書けなかった…
それはそうと満を持したわけじゃないけどシアーハートアタックが本文デビュー!!猫草もいるけど
まだこのすばキャラと吉良吉影との絡みが少ないのは許してください。
次話まで、次話までお待ち下さい!
次話になればきっとこのすばキャラと吉良吉影とのが絡みか書けるはずです!
もうしばらくお時間を…
シアーハートアタックに蝕まれつつある小ネタをどうぞ。
シアハ「コッチヲミロ」
ダクネス「何だこれはこっちに向かってくるぞ」
カズマ「避けろダクネス!」
シアハ「コッチヲ見ロッテ言ッテルンダゼ」
ボオン!!
ダクネス「激しい自己主張に加え高威力の爆発!!何て大胆なアプローチなんだ!!」
カズマ「全然違っげえええ!!」
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空飛ぶキャベツを収穫しよう!
誠に勝手ながらこの度題名を「この吉良吉影に平穏を!」から「この平穏に暮らしたい殺人鬼に平穏を!」に変更させて頂きました。
理由としては作者自身、題名がしっくりこないなあと思っていたからです。
このすば5巻目まで読破。
次に読者は「いつの間に」と言う(感想を書く際に)
5巻目の最後、カズマさん惚れてまうやろおおお(うろポル並感)
追記
てめー 頭脳がまぬけか?アクアをまたアークウィザードって…表記してるぜ!
こういうミスする癖ってどうにか直せませんかね。
もういっそのことこの作品のアクアはアークウィザードにしちゃおっかな(冗談)
何度もすみません
「クルセイダー…。凄いじゃないですか!断る理由なんてありませんよ!」
「そうよカズマ、クルセイダーっていったら上級職よ、防御面においちゃあトップクラスのエキスパート。上級職ばかりのパーティなんてそんじゃそこら探しても見つかるもんじゃないわ」
俺達はギルドの酒場のテーブル席に座って話していた。
クリスとダクネスは吉良に自己紹介を済ませめぐみんとアクアダクネスについて話題で盛り上がっている。
一方吉良は退屈そうに座っている。
早く帰りたいとでも考えているのだろう。
上級職クルセイダーがパーティ入りしてくれるのはこちらとしても大歓迎だがダクネスの場合は例外だ。
嫌な予感しかない。
これ以上俺のパーティを悪くするわけいかない。
とりあえず諦めてもらう為にこの手でいくか。
「実は俺達、魔王を討伐しようとしているんだ」
魔王…それはこの世界を蹂躙する最強の存在。
万人から恐れられ幾多の冒険者が目指す終着点。
おそらくチート転生者じゃない限り魔王を打ち負かすのは至難の業だろう。
アクアは魔王を倒す気満々で転生者吉良吉影を雇っているが現状からして俺はぶっちゃけ無理だと思っている。
魔王の名を聞くだけで恐怖のあまり震え上がる人だっている。
世界最強の魔王に喧嘩を売ろうしているなんて言えばダクネスも諦めてくれるだろう。
後ついでにめぐみんにも俺のパーティメンバーになるのは諦めてもらう。
「魔王…?フランツ・シューベルト作曲の魔王は聞いた事はあるがそんなおっかなそうな奴がいるのかね?」
予想に反して先に反応したのは吉良。
めぐみん達は何とも言えなそうな表情で吉良を見る。
忘れていた…吉良は魔王について何も知らないんだった……。
昨日の事だが俺はこの世界についてアクアと説明に奮闘していた。
この世界はゲームと同じような世界だなんて説明したら「私を馬鹿にしているのか?」と不機嫌そうに言われた。
まず吉良はゲーム経験が全く無くマリオやドラクエといった古典的な王道ゲームですら社会現象になったから名前だけ知っている程度だった。
引きこもりだった俺と違ってあのカメユーの会社員だったわけだしゲームについて詳しくないのも頷けるがいくらなんでも知識が無さすぎる。
そんな事もあってこの世界についての説明は骨が折れた。
吉良を転生させたという女神に多少の話を聞いていたようだが俺とアクアが説明するまでそれを完全には信用していなかったようだ。
…てか何でアクアは魔王を倒す気満々だってのに説明してねえんだ?
「魔王ってのはですね、この世界を牛耳るとっても強いヤツの事で俺達はソイツを倒そうとしているわけですよ」
「そういえば白髪の小娘が魔王と言っていたのを思い出したよ。とはいえそういった目的は先に話しておくっていうのが正しい順序じゃあないのかね?」
あの駄女神、魔王の事どころか魔王を倒すつもりでいる事さえ話していないのかよ。
魔王を倒して天界とやらに帰りたいなら話しておけよ。
吉良も吉良でかなり面倒臭そうなんだが…。
「フン、まあ良いだろう。その過程で元の世界に戻る方法を探せるからな。とりあえずお互いに目的としては一致しているというところかな」
「魔王を倒せば元の世界に戻れますよ」
「何ッ!?どういう事だ……!」
俺の言葉に驚愕する吉良。
自分でも何故かよく分からないが反射的に口走ってしまった。
吉良は疑心暗鬼ながらも俺の言った事に興味を示している。
俺は魔王討伐なんて無理だと思っているので吉良にはやる気になってもらいたくない。
「そうよヨシカゲ!魔王を討伐した暁には天界の者が何でも願いを叶えてくれるの!あなたの元の世界に帰りたいって願いもきっと叶えてもらえるわ!」
アクアは俺の言った事に燃料を投下する。
いくら自分がまいた種とはいえかなりのしくじりだ。
やる気なられては困る。
「………そうか。期待はしておこう」
テンション高めのアクアに対して吉良はどうでも良さそうな態度を取る。
胡散臭く感じたのだろう。
俺が言った事を吉良は信じているのか信じていないのかは分からなかったがアクアの事をただの痛い子として見ているのは確かなようだ。
憐れ、自称水の女神アクア。
「さっきから何を話しているか分からないのだが…」
ダクネスは不思議そうな表情をして言った。
俺と吉良の話に置いてけぼりにされていためぐみん、ダクネス、クリス。
転生者と自称なんとかにしか分からない話だからあまり気にしないでもらいたい。
何かもう色々と面倒だ…。
「いや、何でもない、話を続けてくれたまえ」
一応吉良は納得してくれたみたいだな。
気を取り直してダクネスとめぐみんに話の続きをするとしよう。
「ダクネス、聞いてくれ。さっき吉良さんに言ったように俺達はガチで魔王を倒そうとしているんだ」
うんうんとアクアは頷く。
魔王を倒すという事はそれだけ冒険の旅路も過酷になるというもの。
これで二人も諦めてくれるだろうと安心するしきっていた。
だがそんな俺の考えは甘かった。
「フム、そうか」
男勝りな態度でダクネスは答える。
全く怖がっていないようだ。
何とも心強そうな返答だが俺のパーティに入らせる訳にはいかない。
「女騎士のお前なんて魔王にナニをされるかは分からない、きっと酷い目に遭わされる役所だぞ」
「ああそうだな、確かに女騎士である私はそれはもうエロい目に遭わされる役所だろう。それだけでも行く価値はある!」
ダクネスは目を輝かせる。
…ってあれ?喜んでる……?
ダクネスの予想外の反応に吉良もギロリとこちらを見る。
結構落ち着いた様子の吉良も流石にドン引きしているようだ。
何とも言えなそうな表情をしていた。
くっ…、ダクネスは後回しだ。
「めぐみんも聞いてくれ。分かっているだろうが俺達が倒そうとしている魔王は世界最強の存在。そんなパーティにわざわざ残る必要なんて無いんだぜ?」
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の…『しばっ!』ぐふっ!?」
マントを翻して椅子の上に立ち足を机の上に置こうとしていためぐみんを突然吉良吉影の【キラークイーン】が現れ無理矢理に座らせた。
突然の事すぎて心臓に悪い。
「君達、マナーがどうこう以前に常識が無さすぎるじゃあないのかね?私は目立つことが嫌いだ。だから今みたいに目立つような行為は慎みたまえ」
ここで【キラークイーン】を出したい方が目立つだろうがとツッコミを入れようとしたが誰も注目していないみたいなので安心した。
やり方には問題があるが正論なので黙っておこう。
「す、すみません……」
めぐみんが若干涙目になっている。
吉良に怯えているというより突然現れた【キラークイーン】に怯えているようだ。
不意にあんなのが目の前に現れたのだから無理もない。
そんなめぐみんを横目にダクネスは初めて見る【キラークイーン】を目を再び輝かせながら見ている。
だがそれもすぐに消えダクネスは少しだけしょんぼりとする。
「では改めて言わせてもらいましょう……。我が名はめぐみん、紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者…。魔王など我が爆裂魔法で討ち滅ぼしてくれる………」
などと威勢の良い事を言ってはいるが震えた小声である。
折角の練りに練ったであろう厨二病的な台詞が台無しだ。
まあどうせ元からただ痛いだけの台詞だが。
しかしどうしたものか…。
魔王の名を出すことでパーティを諦めてもらおうとしたが寧ろ逆にいたい子二人はやる気になってしまった。
「緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急、正門まで集まってください!」
俺が頭を抱えていると突然ギルド内に必死そうな声のアナウンスがなった。
そのアナウンスを聞いた冒険者達はざわめきだす。
一瞬で事の深刻さだけは理解できた。
「もうあの季節が来ちまったか…!」
「嘘だろ!聞いてねえよ!」
「急いで女、子供を避難させろ!!」
緊急クエスト…?あの季節…?
いやいやいや、ここに来てそこそこ経つがそんなもん聞いたことねえぞ!
「何だね?その緊急クエストというのは。ギルド内がやけに騒がしいが」
俺が知る訳ねえだろ。
俺の方が教えてもらいたいくらいだ。
「俺にも分かりません。おいアクア、緊急クエストって何だよ!?こんな駆け出し冒険者の街にモンスターが襲撃にでも来たのか!?」
「とうとうやって来ましたね…、あの季節が…!!」
「ええそうね。私の力を見せてあげるわ!」
何事か分からないがアクア達は随分やる気のようだ。
アクア達がやる気だなんてまたまた嫌な予感しかしない。
っていうかこんなところでスルースキルを発揮するな。
もっとマシなところで使えよ。
「ほら!ボサッとしてないで行くわよカズマ!!」
アクア達はやる気満々で他の冒険者とギルドを飛び出した。
おい、あいつ、最後まで人の話を聞かないでいるつもりか。
よし、後で嫌がらせをしてやろう。
「だから何だって言ったんだよアクア!ったく…とりあえず行ってみましょう吉良さん」
「この吉良吉影、植物の心のような平穏な生活を目指しているというのに何故こんな訳の分からんいざこざにまきこまれねばならん……」
吉良は大きなため息をつく。
【キラークイーン】というチート持ちの転生者なのにこういったイベント事に首を突っ込もうとしないのかが不思議でならないが単に護身用に身に付けたチート能力なのかもしれない。
異世界の事について女神の話を信用していなかったというのにあんなチート転生特典を受け取っているのに少々矛盾を感じられるが元の世界に戻りたいという願望や今の平穏な生活を目指しているという発言、その落ち着いた態度からしてこの世界に来て間もない頃の俺のように異世界万歳なんて吉良はちっと思っていないらしい。
俺と吉良は状況が飲み込めないままギルドを飛び出し街の外まで駆け出した。
「体力の衰えを感じたよ………。ぶどうヶ丘にやっと出来たっていうジムに行く事を真剣に考えはしたが結局行ってなかったからな…」
吉良は崩れた自分の服装を整える。
街の大きな入り口となる門には屈強な男から華麗な女の冒険者が大勢集まっていた。
剣術に長けたソードマンから魔法を操るウィザードまで粒揃いだ。
かなり物騒な感じだがこれが緊急クエストの緊張感というものなんだろう。
流石駆け出しの冒険者が集まる街というだけある。
しかし未だに何故多くの冒険者達がここに収集されたかが分からない。
「み、見ろよあそこを!」
「遂に来やがったか!」
「今年は荒れるぞ…」
多くの冒険者達のざわめきは止む事なくなお大きくなり続けていた。
ただ事ではないこの雰囲気。
嵐の前の静けさというべきか。
本当に何が起こるっつうんだ…。
「おーいアクア!今から何があるんだよ!!いい加減に教えろよなー!!」
「あれ?言ってなかったかしら?大体この季節になるとキャベツが飛んでくるのよ。この世界のキャベツは飛ぶの。ほら!見て!あそこに大量のキャベツが飛んで来てるわ!」
アクアは険しい表情で遠くを指差す。
は?キャベツだと?あいつ、何を言って……。
街の向こう側から何やら竜巻のように群れを成す緑色の謎の物体が空を飛んで来ていた。
じっと目を凝らしてそれらを見ているとそれらは何と文字通り空飛ぶキャベツだった。
「一応聞くが俺達はそのキャベツをどうすれば良いんだ?」
「どうもこうも収穫するに決まってんじゃない!」
「冒険者の皆さん!今年もキャベツ収穫の時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く一玉の収穫につき一万エリスとなります!じゃんじゃん納めてくださいね!」
とても楽しそうに響くギルド職員によるアナウンス。
これって緊急クエストなんだよな…?
一般人には避難指示出していたし。
もう帰って寝ても良いかな?
「チッ、くだらん。私はご遠慮願おう」
向かい来るキャベツに果敢に立ち向かう冒険者達とは反対に吉良は街へと戻ろうとする。
俺も一緒に帰ろうかな。
はっきり言って俺も吉良と同じ気持ちだ。
何が悲しくて物凄い勢いで飛んでくるキャベツを収穫しないといけないのだ。
ぶつかったら死ぬくらいの勢いがあるぞ…。
わざわざ死の危険まで犯してキャベツ狩りなんて本当にごめんだ。
「カズマ、丁度良い機会だ。私のクルセイダーとしての戦いを見てもらおうか」
街に戻ろうと俺に対してダクネスは言った。
俺をこの場に引き止めようとしないでくれ。
頼むから俺を街に帰らせてください。
「ちょっ!吉良さん、待ってください!」
吉良は帰れなさそうなシチュエーションに陥った俺に構わず街へと帰っていく。
いくら俺が危険視している吉良でも帰らせる訳にはいかねえ。
相手が誰だろうと仲間なんだ。
仲間なんだから痛み分けの一つや二つをして当然だろう。
男カズマ、たとえ誰が相手であろうと省みない。
やる時はやる男なんだ!
「私はこの緊急クエストとやらごめんだ、宿の方に戻らせてもらう。……でもよく考えてみたら一応同じパーティのメンバーなんだからこのまま帰るのはちょいと冷淡すぎるかな?せめて君に【
「は?【
思わず何とも間抜けな声が出てしまう。
嘘だろこの人、自分のか弱そうなペットにこの場面を任せるつもりなのか。
結構な常識人だと思っていたけどそうじゃなかったのか。
「何を不思議そうな顔をしているんだ?あ、そういえば説明していなかったなあ。【
は?今何つった?この猫がスタンド使いだと…!?
俺には確かにそう聞こえた、そうとしか聞こえなかった。
いや、この人、確実に【
まず吉良がこんな見え見えの嘘をつくようには見えない。
「ちょっとその辺詳しく話してもらっていいですか?」
「君になら話して良いだろう。コイツは私がまだ一度
「今の言い方だと日本にいた時からスタンド使いだったみたいに聞こえるんですが。そもそもスタンドっていう転生特典なんてありましたっけ?」
俺は吉良の言った事を冗談だと思った。
本来なら今明かされる衝撃の真実となるところなんだろうが。
ハハハ…吉良も意外と冗談を言うもんだな。
ただ堅苦しいだけの人だと思っていたけどそうでもなかったみたいだ。
人は見かけによらずって言うし見た目や雰囲気だけじゃ判断するべきじゃなかった。
まず吉良とは出会ってまだ一日なんだし彼がどんな性格でどんな人柄であるかだなんて分かるはずがないんだ。
「転生特典…?君もあの女神のように私を馬鹿にしているのかね?」
前言撤回。
吉良は冗談などではなく本気で言っていたようだ。
「昨日も言ったろう?スタンドは『才能』だと。スタンドとは
低めの声で真面目な表情、やはり吉良は本気だ。
俺は吉良が言っている事をただの冗談だと思っていたので決まりが悪そうな顔をする。
吉良の謎に説得力のある言葉の前に俺は吉良の発言を信用せざるを得なかった。
日本にいた時からスタンドを持っていたというのは怪しいところではあるが。
「まずあの女神を自称する小娘も転生特典がどうだとか言っていたがそんな都合良く良い話がある訳ないじゃあないか。もちろん話は蹴ったさ。…………あるのか?」
多くの冒険者がキャベツの収穫に勤しむ中、俺と吉良との間に沈黙が流れる。
何とも言えないような微妙すぎる間だ。
その場に流れた空気も相まって吉良は戸惑った表情をしている。
「女神が言っていた事は本当です。ちなみに俺の転生特典はあそこにいるアクアです。ちっとも役に立ちませんが。それと吉良さんが会われたであろう人物は本当の女神で間違いありません」
俺は冷静に吉良の質問に答える。
異世界の事とかについて半信半疑の様子の吉良にとっては衝撃の真実だろう。
「どうやら嘘は言っていないようだね。異世界に転生してしまったっていう時点で信用すべき事柄だったんだろうがただの痛ましい妄言だと思っていたよ。何せこの世界に来たのもスタンド攻撃によるものだと思っていた節があるからな。これじゃあスタンド攻撃よりも質が悪いじゃあないか」
俺の真面目な表情を見て吉良はようやく昨日俺とアクアが言った事を信用したらしい。
というか今の今まで転生特典とかについて全く信用していなかったって頭が固すぎるだろ。
「私には【キラークイーン】がある事だし転生特典なんて無くとも何も問題じゃあない。それに借り物の力などただ情けないだけだ」
ちょっと待てよ…、吉良は転生特典について信用していなかったんだよな?
それじゃあ本当に吉良は転生特典を受け取っていない事になる。
つまり吉良はマジで日本にいた時からスタンドを持っていたのか…?
そういえば人類は忘れただけで魔法は使えていたってアクアが言っていた気が…。
その理論に当てはめるんなら元の世界にもスタンドという力があってもおかしくはない。
………だからといって日本にいた時からチート持ちとかセコすぎだろおおおお!!
「おいカズマ!ちゃんと見ているのか!」
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!!」
戦いながら俺に話しかけるダクネスの声がする。
その反対側ではめぐみんが自分の名前を高らかに宣言している。
吉良との話に夢中になってすっかり忘れていた。
ダクネスは俺にアピールがしたいんだろうがそんな事知るか。
絶対にパーティに入れたくない。
「カズマ、彼女を見てきた方がいいんじゃないのかね?」
はぁ……結局俺も参加しなきゃいけない流れかあ…。
とうとう俺もこのキャベツ狩りに参加することを決心した。
ああもう日本に帰りたい。
そして俺も吉良みたいにスタンド使いになりたい。
「何でただのキャベツの野菜炒めがこんなにもうまいんだ。納得いかねえ…」
キャベツとの死闘を終え俺達はギルドの酒場で食事をしていた。
酒場内は宴会ムードだ。
多くの冒険者が収穫したキャベツをふんだんに使った料理を堪能しながら盛り上がっている。
資金集めの為にも嫌々ながらキャベツ狩りに参加はしたが多額の報酬を受け取ったので良しとしよう。
「凄かったわダクネス!あなたの鉄壁の守りにはキャベツも攻めあぐねていたわ!流石はクルセイダーね!」
「いやそんな事はない。私はただ硬いだけの女だ。攻撃だってまともに当たっていなかったし…。その点、めぐみんの爆裂魔法は凄かった!あのキャベツ達が一瞬で吹っ飛ばされていたぞ!」
「当然です!我が爆裂魔法の前には何者であろうと無力!」
アクアとめぐみんはまだパーティに入っていないダクネスを交え会話に花を咲かせていた。
とても良い感じの雰囲気だ。
もう雰囲気的にこの後の展開に察しがつく。
「カズマの盗賊スキルも凄かったぞ!颯爽とキャベツを収穫していく姿に素晴らしいものを感じた!」
「何でその程度の事でえらく褒められるんだよ……」
キャベツを収穫しただけでこんなに褒められるのは複雑な気分だが少し照れくさくはあった。
キャベツ如きでこんなに称賛されることなんて日本ではまず無いだろう。
「しかし【
机の上に置かれた【
【
アクアを肯定するなんて心が広いんだな。
ウニャンと喉を鳴らしている。
「ああ、ちょむろう、可愛いですね」
「おいめぐみん、『ちょむろう』って【
「ええそうですが何か問題でも?」
「おおありだわ!まずコイツは吉良さんのペットなんだぞ!人様のペットに勝手に付ける奴がいるか!それにコイツにはお前が付けたの違って【
「【
超くだらない事でめぐみんと口論になる。
絶望的なネーミングセンスに加え人のペットに勝手に名前を付けるという始末。
紅魔族っていうのは知能が高いと聞くがその片鱗は影も形も見えない。
他の紅魔族もめぐみんと同じ感じなのか?
めぐみんの親の名前もとても人前では言い出せないような名前だったし。
「二人ともそんなくだらない事で喧嘩なんてせずに飲みましょうよ。あ、そういえばヨシカゲが見当たらないわね。キャベツの時もあまり見かけなかったし何処に行っちゃったのかしら?」
「吉良さんならもう宿屋に戻ってるぜ」
かなり面倒臭そうにしていた吉良は結局のところキャベツ狩りには参加していた。
あまり目立たないように隅らへんで戦っていたが。
平穏な生活が目標だというのはどうやらマジらしい。
勢いで異世界転生してしまったのは気の毒に思う。
「この場にヨシカゲがいないのは残念だが改めて自己紹介させていただこう。私はクルセイダーのダクネス。私は攻撃を全く当てることが出来ないので囮や盾代わりに使ってくれ。よろしく頼むぞ」
何だか嬉しそうに震えだすダクネス。
コイツ、ただのドMだ。
アクアとめぐみんがダクネスと意気投合した結果、仲間がまた一人増えてしまった。
普通のメンバーなら何も文句は無いのだがこれまた欠陥のありそうメンバーだからどうしようもない。
こうして俺のパーティメンバーは五人になった。
知力が極めて低く何の役にも立たないアークプリーストに、一日一回しか魔法が使えないウィザードと元からチート持ちの元会社員、そして攻撃が全く当たらないドMのクルセイダーという顔触れ。
「カズマ、あなたって幸運ね。パーティメンバーの半数以上が上級職のパーティなんてなかなかいないわ。おまけに規格外のスタンド使いときたわ。感謝なさいな」
満足そうに笑みを浮かべるアクア。
何が幸運じゃボケ。
パーティメンバーの半数以上が駄目すぎる欠陥だらけのパーティの間違いだろうが。
ああもう不安に胸がいっぱいだ。
アクア「あれ、これ何かしら?」
シアハ「…」
アクア「どうせカズマのガラクタでしょ。道具屋で売っぱらてやりましょう」
シアハ「コッチヲ見ロォ」
アクア「え!何よこれえええええ!!」
ボオン!!
カズマ「毎回爆発オチなんて最低だな」
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ゾンビ退治に行こう!
アニメ版ジョジョ五部PVが発表されテンション上がりまくりの作者でございます。
作画、声優云々の話は置いといて超楽しみ!!
それと同時に石塚運昇さんがお亡くなりになってとても悲しく思います。
ジョジョは関係無いですけどリーアム・ニーソンが演じる役の吹き替えが石塚運昇さんじゃなくなるのが非常に悔やまれる。
というかポケモンのオーキド博士は誰がやるんだよ!!
「清々しい朝だ。しかし覚悟はしていたがこんなのは私の求める平穏な生活ではない……」
私はベッドから起き上がりカーテンを明けると眩しい太陽の光を浴びた。
普通だったらもうこの時間帯には朝食を済ませ会社に出勤している時間だが今は会社員なんかやっていないので休日の時のようにのんびりしている。
その代わり冒険者というものをやっているがね。
冒険なんて私の趣味ではないしここでの冒険といったら化け物を薙ぎ倒し獣道を嗅ぎ分け突き進むというものであり遊び感覚で行うとは断じてない。
私は昨日キャベツの収穫に参加したのだがそれだけの作業にはかなり苦労させられた…。
何とこの世界のキャベツは空を飛び収穫しようとする者に襲いかかってくるのだ。
そしてそのキャベツにぶつかりでもすれば最低でも骨折程度の重症を負いかねない。
たかがキャベツの収穫でさえそれだけ命懸けの仕事なのだ。
キャベツ狩りの後に小耳に挟んだ話だがこの世界では秋刀魚は畑で採れるという。
早速もう訳が分からない…。
スタンドも月までブッ飛ぶような衝撃を受けた…。
「何故平穏な生活を送りたいだけのこの吉良吉影がこのような事態に巻き込まれなければならんのだ………」
おもわず愚痴をこぼしてしまう…。
精神衛生上では良くない事だが私は危険な冒険をしなければならない。
平穏な生活を求める私が何故こんな危険を冒して冒険者をするかというと杜王町に戻ってそこで平穏な生活を送りたいからだ。
冒険と私の願望に何の関係があるのか、それはこの異世界に君臨する魔王とやらを倒せばどんな願いでも叶えてもらえるらしいのだ。
日本にいた時の私ならば馬鹿げた話だと一蹴していただろうがスタンド能力のように魔王を倒す事がその願いを叶える為の
この理由だとまだこじつけ程度の理由にしかならないが
それが嘘だったとしても私はこうして異世界に来れたのだから元の世界に戻れてもおかしくはない、だから私は冒険者として冒険をする事を通しその方法を探し出せると考えている。
宛てがある訳ではないが……。
そんな事を気難しく考えながら
「まあ………行くか……」
洗顔や歯磨き、身支度を済ませ宿屋を後にした。
――――――――――
吉良吉影は冒険者ギルドの酒場のテーブル席の隅の方に居座っていた。
これといって特に用は無いのでとりあえず朝食を食べている。
昨日のキャベツの件で数十万エリスの報酬を得ていたのでしばらくお金に困る事は無いだろう。
あまりに乗り気ではなかったがキャベツ狩りではあったが【キラークイーン】のスタンド能力を上手く使って何気に結構な量のキャベツを収穫していた。
とはいっても吉良吉影は現在宿屋暮らしであるのでお金を長持ちさせる為にも金策を考えていかなければならない。
まあ定期的に討伐クエストをすればいいわけだし何より吉良吉影と同じ転生者佐藤和真にパーティメンバーとして雇われているのでその雇用料でどうにかなるだろう。
最低でも食費くらいならどうにでもなる。
最低の場合の話だが。
「な、何だこのサラダはッ!」
吉良吉影は朝食として注文した定食を食べていると突然、その定食のサラダの野菜が暴れ始めたのだ。
そのサラダには昨日
この世界の野菜は収穫されまいと必死に暴れるという常識は吉良吉影にとって嫌な教訓になった訳だが
「何処まで常識外れなんだこの野菜どもは!」
常識外れといってもこれがこの世界では常識なので諦めるしかない。
吉良吉影が食べようとしているサラダは採りたてほやほやの新鮮な野菜を使っていたので尚更、野菜の生命力は溢れていた。
「【キラークイーン】ッ!コイツらを止めろ!」
『しばばばばばばばっ!』
吉良吉影は大慌てで【キラークイーン】を出現させ野菜の暴走を止めようとする。
【キラークイーン】はフォークを器用かつ素早く突き刺し野菜の暴走を確実に止めていく。
吉良吉影の声に反応してギルドの職員や他の冒険者達は【キラークイーン】を物珍しそうに見ながらも苦笑いしていた。
中には吉良吉影の気も知れず「おぉあれが噂の【キラークイーン】か!すげえ!」と興奮している者もいた。
吉良吉影はそんな彼らをギラッと睨みつけると野菜をそのまま口の中に放り込むと気難しそうな顔をして【キラークイーン】を戻した。
「チッ、こんな事で【キラークイーン】を使う羽目になるとは………。やはりこの世界は『安心なんて無い所』なのだな……」
吉良吉影はポツリとそう呟くと後は何事も無く食事を終えた。
だがそれは顔には出ていないだけで吉良吉影は赤っ恥のこきっ恥をかいていた。
食事でさえ落ち着いて出来ないのかと諦めムードだ。
杜王町にいち早く帰りたいと思った出来事となった。
吉良吉影は食事という名の野菜との戦いを終えるとクエストカウンター側に向かった。
そこにある掲示板にはバイトの求人広告のようにクエストの依頼やパーティの募集の用紙が張り出されていた。
吉良吉影は張り出されているクエストの依頼の用紙をまじまじと眺めどのクエストを受けようかと悩んでいる。
「昨日は化けカエルを吹っ飛ばしたからなあ、何か別のクエストを受けてみたいものだ」
クエストなどという野蛮な事は吉良吉影に向いているとは言えないが受けるからには変化があるものが良い、単調なものばかりではつまらないというのが人間として当然の心理だと言えよう。
吉良吉影とて例外ではない。
一応報酬金などを目安として見れば分かるのだが吉良吉影は自分がどのクエストを受ければ丁度良いのか決めかねていた。
極端に難しいクエストであれば重大な怪我を負いかねないし簡単なクエストであればつまらない。
そんな事もあって吉良吉影はクエスト依頼の掲示板の前に立ち尽くしていた。
「誰かと思えばあなたはヨシカゲではないか」
「こんな所に居たのですか。同じパーティメンバーなのに顔も見せてくれないなんてあんまりではないですか」
吉良吉影に話し掛けてきた二人の少女。
二人の少女はそれぞれ吉良吉影と同じパーティのメンバーのダクネスとめぐみんだ。
正直言って吉良吉影は二人の事を好ましく思っていない。
出会ってまだ間もないが二人の振る舞いからして嫌な感じばかりしていた。
「ああすまない。ただの雇われ冒険者だから無理に関わるのは良くないと思ってね」
正しくは無理に関わりたくないというのが本音だが。
吉良吉影は人付き合いが嫌いではあるがだからといって嫌われるというのも嫌なのである。
だからあまりそういった嫌悪感を表情には出さない。
「雇われ冒険者でもパーティメンバーはパーティメンバーですよ。仲間です!」
「その通りだヨシカゲ。めぐみんの言う通り仲間なんだからそんな堅苦しくしなくても良いのだぞ」
「そうか…ありがとう……」
吉良吉影に仲間の友情は必要ない。
吉良吉影は孤高の存在なのだ。
彼にとって彼女達の心配は余計なお世話という言葉がよく当てはまる。
さらに言えば馴れ馴れしく話し掛けてくる二人が気にくわない。
だが決してその事は口には出さない。
あくまで平穏に暮らしたい訳であり余計な敵は増やすつもりは無い。
社会に溶け込むとはそういう事だ。
「で、ヨシカゲはここでクエストでも探しているのですか?もしクエストに行くなら一緒に行きましょう」
「私からも頼む。結局ヨシカゲのスタンドが戦っているところを見ていなかったのでな」
「そうですね。私も見てなかったので見てみたいです」
(コイツら、スタンドを何かの芸と勘違いしているんじゃあないのか……?)
めぐみんとダクネスは吉良吉影を期待の眼差しで見つめる。
スタンドでの戦いをねだられる吉良吉影は少し困った顔をする。
その能力や正体について明かしはしているもののスタンドを何度も見られるというのは気分の良い事ではない。
「雇われている身としてそのくらい見せるのも義務といったところか……。いいだろう、まだ行くクエストは決まった訳ではないし君達の好きなクエストに同行させてもらうとしようかな」
(後からスタンドでの戦いを見せてほしいと言われるのは面倒だから一度見せて満足してもらうしかないか……)
「ありがとう、感謝する。でも手頃なクエストが無いなあ…。やはりカズマに聞いてみるか」
「確かにしごたえの無いクエストばかりですね。思いっきり爆裂魔法を放てるヤツがいいのですが…」
(何だとオ…ッ!この小娘、昨日の爆発を起こすつもりでいるのか…ッ!?)
「一旦、カズマの下に戻るか」
「ええそうですね。ヨシカゲも行きましょう。あ、そうそうカズマがあなたを探していましたよ。ちょむろう…、いや【
吉良吉影は『ちょむろう』という単語に疑問をおぼえながらもギョッとする。
昨日のキャベツ狩りでは目の前で大規模な爆発を起こされたのだから無理も無い。
【キラークイーン】の爆弾も強力な爆発を巻き起こすがめぐみんの放つ爆裂魔法【エクスプロージョン】の威力の前ではその足元にも及ばない。
そんな事は吉良吉影自身も理解しきっている。
「…分かった」
めぐみんに若干引き気味になりながらも吉良吉影は二人についていく事にした。
二人についていくとそこにはギルド酒場のテーブル席に突っ伏せて泣くアクアと暴言を吐いているカズマの姿があった。
アクアの側には【
今さっきまでここで何があったかは知らないが知りたいとも思わない。
「二人とも何をしてるんですか。カズマは口撃力が高いですからね、あまり言い過ぎると大体の女の子は泣きますよ」
呆れた様子でめぐみんは言った。
「アクアの事は気にするな……吉良さんッ!?」
めぐみんと同じ様に呆れた様子で反省していなかったカズマの吉良吉影のいきなりの登場にはビビった。
「ねえヨシカゲ!このクソニート、私には回復魔法しか取り柄がないなんて暴言を言ってきたのよ!」
「ああコイツ!吉良さんが来たからって調子に乗りやがって!」
先ほどの落ち込みっぷりは何処へやら、吉良吉影が来た事に気づいたアクアは伏せていた顔を上げ勝ち誇ったような顔をして吉良吉影に泣きついた。
吉良吉影による制裁に期待したのだろう。
しかし吉良吉影は特に怒るような素振りを見せなかった。
「まあ同じパーティメンバーなんだ…。仲良くしような……」
意外な吉良吉影の対応にカズマは不意をつかれたように間の抜けた表情をする。
アクアは期待外れと言わんばかりに頰を膨らませる。
吉良吉影は冷静だとかそういう訳ではなくただ単に面倒臭く思っているだけのようだ。
「そうですよカズマ。いちいちこんな感じでいたらまともにパーティを組めたものではありませんよ」
「冒険者たる者、仲間を大切にするべきだ。それにだ、口汚く罵るなら仲間を守るクルセイダーである私に…」
(何て品の無い女なんだ…。これからこんな奴らと過ごしていかなければならんのか………。美しい顔と手をした女だが『彼女』にするのはこちらから願い下げだ………)
めぐみんは真面目にカズマを諭すがダクネスは諭すというよりも勝手な妄想をしてモゾモゾとしている。
めぐみんはともかくダクネスの様子を見て吉良吉影は今にでも【バイツァダスト】を発現させそうな気分になっていた。
「二人には色々と言われたくない。…そういえば吉良さん、昨日【
「そうか、了解した。それはそうと君達、これからクエストに行くつもりなんだろう?私も同行させてもらう」
アクアとめぐみんとダクネスの三人はカズマの方をじっと見る。
その視線は「もちろん承諾するよな?」と威圧をかけているようだった。
「そ、そうですね。せっかくですのでお、お願いします」
(出来れば吉良とのクエストは避けたかったがあの三人の視線が妙に気になる。断ったらアイツら面倒臭そうだしなあ…。いや俺は雇い主なんだ。雇い主は雇い主らしくドンと構えてればいいんだ)
上つった声でカズマは答える。
少しオドオドしながらも心の中で自分自身に言い聞かせている。
「クエストに行くならアンデット族のクエストにしないか?そのクエストなら攻撃の手段に乏しいプリーストでもアンデット族のモンスターならば回復魔法でダメージを与えられるからアクアのレベル上げにうってつけなんだ」
ダクネスが提案する。
「私は自分達に見合う難易度のものならば異論は無い」
「私も構いません」
「俺もそのクエストでいい。アクアのステータスも気になるしな」
アクア以外の全員がダクネスの意見に賛同する。
しかし肝心のアクアはそれに答えなかった。
だからといってそれに反対する声さえ上がらない。
不思議に思ってその場合の全員がアクアを見ると彼女はすでテーブルの上にすぴーっとうつ伏せで寝ていた。
満場一致で「お前は子供かよ!」でツッコミを入れたくなった。
そこは街の外れにある丘の上の共同墓地。
そろそろ夕方になろうとしている時に墓場でアンデッドモンスターの活動時間である夜を待つべくカズマ一行はキャンプをしていた。
今回カズマ一行が引き受けたクエストはゾンビを操る悪霊ゾンビメーカーの討伐。
初心者でもそんなに難しいクエストではないらしい。
アンデッドモンスターは言ってしまえば俗に言うゾンビではあるが
故に血管針による攻撃の心配は無い。
波紋呼吸法を利用した攻撃によるダメージの有無は変わらないであろう。
吉良吉影にとっては関係の無い事ではあるが。
ゾンビメーカーの出現まで時間があるとはいえ墓場でキャンプするのは異様な光景だが誰もそれにツッコもうとしない。
吉良吉影は「この世界ではこれが常識なのか?」と疑問に思っていた。
この世界に関しては疑念が深まるばかりである。
その一方で同じ世界的から来た【
「ヨシカゲも一緒に食べないのー?」
「この肉、結構イケますよー」
「遠慮しなくてもいいのだぞ」
「私は構わないでくれ。私はここで見張りをしているさ。いつ何処からモンスターが襲ってくるか分からないな」
(何とも鬱陶しい奴らだ…)
「お前ら、吉良さんが困っているだろが!」
木陰でのんびり【
それを慌てて止めるカズマ。
カズマ以外はまだ吉良吉影の気を知れていない。
「自分から進んで見張りをしようなんて冒険者の鏡だわ。何処かのヒキニートとは違ってね」
「誰がヒキニートだと!この駄女神!」
「ああ!一番言ってはならない事を言ってくれたわね!」
「二人ともそんな些細な事で喧嘩しないでください」
アクアは何か勘違いしているようだったが吉良吉影は気にしない。
勃発したアクアとカズマの口喧嘩に呆れるめぐみん。
そんな光景を見て吉良吉影は改めて心からこう思った。
静かに暮らしたい、と。
「念の為、敵の体温を感知し
カズマ一行が共同墓地に到着して数時間後、夕方はすっかり過ぎてしまい夜になっていた。
夜の墓場は昼間の墓場の雰囲気よりもより一層不気味さが引き立っている。
今にでも白い着物を着た女の幽霊でも出てきそうなそんな不気味さだった。
この世界では一般的に幽霊はごく普通な現れ出るものだが。
「吉良さん、もうそろそろ行きますよ」
カズマは吉良吉影に呼び掛ける。
しかし返ってくるのは沈黙のみで吉良吉影の返事は無かった。
少しして【
時刻は深夜、この暗い中での【
「まさか、モンスターに襲われているって訳じゃないんだろうな?」
カズマの心に不安がよぎる。
「どうしたのカズマ?」
「どうしたのじゃねえよアクア。【
「馬鹿ねえカズマ。チート特典持ちのヨシカゲがモンスターに襲われたとしても平気に決まってるじゃない」
「そうだろうけど吉良さんはチート特典なんか持ってない」
「心配し過ぎよ。…は?今なんて?」
カズマはアクアに吉良吉影のスタンドについて自身の考察を交えて話した。
スタンドは魔法と同様に人類がその存在を忘れている、もしく知らないだけで誰でも潜在的には使えるか可能性がある事など。
半分合ってて半分外れている考察であるがアクアを納得させるには十分な考察だった。
「だが断る」
「どういうやり取りしたら今の答えが出るんだよ!」
「いや、何か言ってみたかったの」
「…取り敢えずあそこの木陰まで吉良さんを呼んでくる」
カズマはせっせと木陰まで駆け寄る。
そこには木にもたれかかって眠っている吉良吉影の姿があった。
【
余計な心配をしていたカズマは心配して損したと溜め息をつく。
「吉良さん、起きて下さい。ゾンビメーカーの討伐に行きますよ」
(見張りをしてるんじゃなかったのかよ)
「おっとすまない。私としたことが眠ってしまっていたようだ」
吉良吉影にして珍しく申し訳無さそうに立ち上がると【
カズマ一行はさっきまでキャンプをしていた場所に集合するとすぐに墓場内へと向かった。
暗闇の中カズマの敵感知スキルを頼りに進んでいるとカズマが何かに気づいたのか急に立ち止まる。
「どうしたんだカズマ?」
「敵感知スキルに反応があった。墓場内にゾンビが三体、いや四体いるぞ…!」
カズマはとある違和感に気付く。
ゾンビメーカーを取り巻くゾンビは多くても三体というのが一般的なのだが今回カズマの敵感知スキルに引っかかったゾンビの数はそれを上回っていたのだ。
誤差の範囲内ではあるがカズマはこの状況をおかしく思った。
「あれがゾンビメーカーという奴か。人に請われて見せるものではないがここで君達に私のスタンドを見せて上げよう」
カズマ一行の視線の先には怪しげに青い光を放つ魔法陣があった。
その魔法陣の中央には黒いローブを着たゾンビメーカーと思しき姿がある。
カズマを除いて興味津々のメンバーを目の前にして吉良吉影が【キラークイーン】を出現させた。
【キラークイーン】は恐る恐るゾンビメーカーと思しき者に近づく。
「亜人の幽霊なんてここらへんじゃ珍しいですね。しかも見たことの無い種類の亜人だわ」
ゾンビメーカーと思しき者はボソボソと呟く。
【キラークイーン】はそれに構うことなくゾンビメーカーと思しき者を取り押さえる。
今回のクエストの目的はアクアのレベル上げ。
【キラークイーン】はゾンビメーカーを取り押さえるだけでこれ以上の事はしない。
後はアクアにトドメを刺させるだけだ。
「え!?これって幽霊じゃないの!?実体化してる!?」
ゾンビメーカーと思しき者は驚く。
スタンドとは場合によって『幽波紋』と書いて『スタンド』と読むことがある。
初めてスタンドを見た者はそれを悪霊や守護霊と勘違いされる。
あくまでスタンドとは精神エネルギーが形あるヴィジョンとして現れたものでありそれ以上でもそれ以下の存在でもない。
今回の場合、ゾンビメーカーと思しき者は【キラークイーン】をただの幽霊だと勘違いしたようだ。
「ああああああああ!!あれってゾンビメーカーなんかじゃなくてリッチーじゃない!!」
アクアが突然、大声を上げる。
そして一人で走り出す。
リッチーとはアンデットの中でも最上位に立つ存在。
ノーライフキングと呼ばれることもある。
そんな大物アンデットモンスターがカズマ一行の目の前に現れたのだ。
「リッチーなんてこの水の女神様が浄化してやるわ!!【ターンアンデッド】!!」
「痛い痛い!やめてええええ!!」
【キラークイーン】で拘束されたリッチーは抵抗出来ずアクアの浄化魔法【ターンアンデッド】を受ける。
浄化魔法を受けたリッチーは一溜りもない。
「待って!私は未だに成仏出来ない魂を天に還しているだけなのおおお!!」
「うるさいわね!!リッチーのくせにこの私に逆らう気!!アークプリーストの私としてはアンデッドの王を野放しにしておく訳にはいかないのよ!!」
「ちょっと待ってアクア!一旦落ち着け!」
リッチーは助けを請うがアクアは容赦無く浄化魔法をかけようとする。
そんなアクアを見てカズマは真っ直ぐにアクアを引き止めに行く。
吉良吉影も【キラークイーン】による拘束を解いた。
「やめてやれ!」
「あんたまでうるさいわね!邪魔立てする気!?」
この騒ぎにめぐみんとダクネスは急いで駆け寄る。
その後を吉良吉影は【
「おい、リッチーのあんた、大丈夫か?」
「私は大丈夫です。それよりも私を助けてくれてありがとうございます。…あ、名前はウィズです」
「礼なんて良いよ。ところであんた、こんな所で何をしてんたんだ?成仏出来ない魂を天に還しているとか言ってたけど」
「私は迷える魂の話を聞くことが出来るんです。ここの墓地に埋葬された多くの方々はお金が無いばかりにロクに葬式なんかを執り行なわれず成仏しきれなかった魂は夜な夜なここを彷徨っているのです。そこでアンデットの王として私は彷徨う魂を天へと還す御手伝いをさせて頂いているのです」
「あんた、滅茶苦茶良い奴じゃねえか」
カズマはリッチーのウィズの予想外の行いに感心する。
「そんな、とんでもないです。ただアクセルの街のプリーストは何と言いますか、お金の無い方々の葬式なんかは後回しにされちゃって…私がこうやって定期的にここに行かないと彷徨える魂で溢れかえってしまうんです」
その時だった。
吉良吉影は左手に違和感を感じる。
痛かったり痒かったりするわけではないがつっかえたようなものを感じた。
「しまった………」
【キラークイーン】の能力をリッチーに対して使わなかったので気付くのに遅れてしまった。
その違和感の正体は【シアーハートアタック】だ。
吉良吉影は夕方に【シアーハートアタック】を
『オイ、コッチヲ見ロォ』
くぐもってはいるが不気味な声と共にギャルギャルギャルと聞こえてくるキャタピラ音。
「ねえカズマ、何か聞こえない?」
「俺も聞こえた。なあウィズ、ゾンビってこんな不気味な物音を立てて動いたりするものなのか?」
「い、いえ…。リッチーの私でもこんな物音を立てるゾンビなんて見たことも聞いたこともありません」
ウィズの返答を聞いて一同は震え上がる。
間違い無くヤバい何かがいる、カズマ一行はそう思った。
吉良吉影は焦っている。
早く不気味な物音の正体、【シアーハートアタック】を回収しなければならない、と。
『コッチヲ見ロッテ言ッテルンダゼ!』
(非常にマズイ…ッ!まさかこの私が【シアーハートアタック】をそのまま回収し忘れてしまうとは………)
遠隔自動操縦型の爆弾スタンド【シアーハートアタック】。
その性質故に大雑把な位置は分かるがスタンドの本体にも細かい位置まで特定出来ない。
しかもスタンドの本体の思考通りではなく自律して動くので吉良吉影自身でも制御は出来ないのだ。
だからといってこのまま放置していてもカズマ達に危害を加えかねないので後で回収する訳にはいかない。
吉良吉影は自分のスタンドが災いするとは夢にも思わなかった。
「ここここ、こっちに向かって来てないか……?」
『コッチヲ見ロォ!!』
「お、お前ら逃げろおおおおおお!!」
カズマの叫び声を合図に一同は一目散に共同墓地から走り去る。
真夜中の墓場に響き渡る絶叫。
まさに阿鼻叫喚の光景だった。
どさくさに紛れて吉良吉影は【シアーハートアタック】を回収する為に辺りをウロウロとする。
(今だ!今、【シアーハートアタック】を回収するのだッ!)
「何をしているのだヨシカゲ!早く逃げろ!」
「私が得体の知れない何かを足止めするから君は逃げるんだ…」
(チッ…、面倒な奴だ…)
ダクネスがその場に残った吉良吉影を心配して引き返して来た。
何としてでも【シアーハートアタック】を誰にもバレることなく回収したい吉良吉影は【キラークイーン】に戦闘の体勢を取らせて不気味な物音に対しての戦意がある風に見せる。
「そんな事はクルセイダーである私の役目だ!」
「私に構うんじゃあないッ!」
「し、しかし…っ!」
「私は足止めすると言っているのだッ!!」
「あなたという者は何て仲間想いな人なんだ…。分かった!必ず戻って来るのだぞ!」
「ああ……」
(【シアーハートアタック】の細かな見た目などを誰にも見られずに済んだのは不幸中の幸いというべきか………)
引き返して来たダクネスを吉良吉影は逃げる時間を稼ぐふりをしてそのまま帰らせた。
吉良吉影はダクネスがいなくなるのを確認すると【シアーハートアタック】を無事回収し置いてけぼりにされた【
この一件で冒険者の間では殺人鬼でありながら吉良吉影は寡黙な男だが仲間想いの良い奴と認知される事になった。
元から誰にも打ち明けるつもりは無いとはいえますます不気味な物音の原因が全て自分にあるとは言えなくなっていた。
ちなみにクエストはノルマであるゾンビメーカーを討伐出来なかったので失敗である。
いやあ今回ゾンビメーカーは出ませんでしたがシアハがトラブルメーカーになりましたね←(何言ってんだ……………?…こいつ……)
ただ言いたい事が思いつかなかっただけです。
何でもはしないけど許してください。
アニメ版このすばのシーンが変わる時のアレ
カズマ アクア「こ」
めぐみん ダクネス「の」
キラークイーン『しばっ』
吉良吉影「このクソカスどもがァーッ!!」
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キラークイーンは戯れない
最近色々と忙しかったものでモチベが上がらなかったし…。
それはさておきジョジョ5部アニメ放送始まりましたね!!
何このクオリティ、今までで一番高い!!
そして最近オーバロードにハマったりして色々ヤバい。
という訳でモチベが上がって更新に繋がった訳ですね。
「この俺の城に毎日毎日爆裂魔法を打ち込んでくる頭のおかしい奴は何処のどいつだああああ!?」
アクセルの街の目の前にソイツは降り立った。
首無しの馬に跨る首無しの黒騎士。
その腕には自分自身のものと思わしき頭が抱え込まれている。
抱えられた頭に被せられた兜の隙間からは真っ赤な眼光が鮮烈に光刺す。
身の毛がよだつような禍々しさに圧倒的な強者の風格と言ってもいいような雰囲気が漂っている。
ソイツは死をも越え強大な力を振るう騎士のアンデッドモンスターのデュラハン。
世界最強の存在である魔王が率いる魔王軍の幹部の一人だ。
そんな恐ろしい魔王軍幹部の一人が激昂している姿にその場にいる者達に恐怖を与えた。
だがその発言のせいで滑稽にも思える。
言っている事が大した事じゃあないのにムカッ腹が立つがここは場をわきまえるとしよう。
「…激しい『喜び』はいらない。その代わり深い『絶望』も無い。そんな『植物の心』のように『平穏な生活』こそが私の目標だ……」
魔王軍幹部の出現に駆けつけた冒険者達が集まっている中私はその前に出ていた。
本来ならば奴を怒らせたあの小娘が先行するべきなんだろうがそんな事はもはや関係無い。
私の『平穏な生活』を追い求める性格には相反する行動だがコイツのせいで生活に支障をきたしているのは確かな事でありこの吉良吉影の『平穏な生活』を妨げる『害ある敵』は退治しなければならない。
「お前かあああ!俺の城にポンポン爆裂魔法を打ち込んでくる奴はあああああ!!俺が魔王軍幹部だからって嫌がらせな訳?正々堂々と向かってこいやあああ!!」
「残念ながら爆裂魔法を君の城に打ち込んでいるのは私ではない。そもそも私は魔法の一つすら使うことができないのだ」
「だったら何故出てきた?俺が用があるのは爆裂魔法の使い手なのだぞ」
「私は『平穏な生活』を目標としている。だから戦闘は好まないし冒険者という職業は不向きだと自覚している。しかし…君のせいで私の『平穏な生活』が脅かされているのも事実。ロクにクエストが受注できないし精神衛生的にも非常に悪い…。戦闘は嫌いな性格だが私の睡眠を妨げる『害ある敵』はどうしても取り除かなければならない……」
「ほう、だったらどうするというのだ?」
「…始末させてもらう」
「フハハハハハ!駆け出し冒険者の街の人間風情が中々面白い事を言うじゃないか!ならばこの俺をせいぜい楽しませてみるがいい!!」
完全に私の事を舐めきっているのだろう、デュラハンは余裕ある表情?をしている。
別に趣味という訳じゃあないがその余裕が絶望へと変わるのが少しだけ楽しみになってきた。
カズマは人混みの中からレベル差がどうだとか叫んでいるようだがどうでもいい。
私が闘争を避けるのは単に戦いを好まないだけのこと。
『平穏な生活』を妨げる者とはどうしても戦わなければならない。
…というかいつまで経っても前に出てこない頭と名前のおかしい小娘はいつ前に出てくるのだ?
数多くの冒険者が注目する中私とデュラハンは対峙する。
またこれで目立ってしまった。
この反省と後悔は戦いが終わってからするか。
こう言うのは間抜けかもしれないが敢えて言う、『どうしてこうなった』と…。
――――――――――
事の発端は数日前の事だ。
空飛ぶキャベツやリッチーのウィズの件を経て私はだんだんとこの世界の常識について理解を深めていった。
それでもなお分からない事だらけではあるが。
まあそんな事はこれから学んでいけば良い事だ。
今のところは収入も住む場所も安定しているし特に大きな問題は無い。
そう思えばここでの暮らしも楽しくできるのかもしれない。
静かに暮らせないという点に目を瞑ればの話だがね。
暮らしの方は何一つとして不自由は無い。
しかし不自由は無くとも不満は沢山ある。
…仕事仲間、つまりパーティメンバーにはロクな奴がいない。
…いつも一緒にいた『彼女』もいない。
…公衆の面前では赤っ恥のこきっ恥をかく。
…これは私自身に責任がある事だが異様に目立ってしまっている。
と挙げればキリが無い。
さて話を戻すとしよう。
魔王軍幹部が来る原因となった出来事についてだ。
例のキャベツの件のほとぼりも冷めこの世界でも一息つけるまでになっていた。
私はしばらくの間この世界での暮らしに慣れるが為に日課のようにクエストに行っていた。
「【キラークイーン】!!」
毎度毎度現れるジャイアントトードの討伐に雑用とまで思えるクエストまで何でも我慢してこなしていった。
わざわざスタンドを使ってまでだ。
この世界のクエストというものはそれだけ危険を伴うものである。
油断すればあの世へとまっしぐらする事間違いないだろう。
これは『平穏な生活』を送る為なのだ、仕方がない。
しかしある日突然私が受注できるようなクエストの数が軒並みに減っていった。
その事についてカズマ達も苦言を呈していた。
なんでもアクセルの街の近くに魔王軍の幹部の一人が住み着いたらしいのだ。
そうその魔王軍幹部こそが今回襲来してきたデュラハンだ。
魔王軍とは人類の脅威となる存在であると同時にジャイアントトードなどの下級指定のモンスターにとっても恐ろしい存在である。
魔王軍の登場の煽りを受けて下級のモンスターは何処かへ逃げ帰り私ではまだ受注が許されないような高難易度のクエスト以外はめっきり減ってしまったのだ。
つまり冒険者としての収入源が断たれてしまった事になる。
しばらくの間は何処か適当な店でも探してアルバイトでもするか。
「…この吉良吉影が
と心配していたがそんな事態に陥る事は無かった。
先日のキャベツ狩りで得た報酬という蓄えがあったのだ。
これでしばらくはのんびりとしていても大丈夫そうだ。
【
「やはりこの吉良吉影に運は味方している…」
クエストには行けないが蓄えはある。
思えば私は冒険者としての生活しか送れていないはずだ。
たまには冒険者以外の面でこの世界について調べておくか。
まだ早過ぎるとは思うがしばらくの間は冒険者稼業も休業だ。
私は魔王軍幹部による影響が無くなるまでじっくり待とうと思った。
こうして私は調査という名目でこの世界を満喫する事にした。
カズマ達の事は知らないが私は私でするべき事をしておけばいい。
しかしその考えがいけなかった。
鼓膜をつんざくとまではいかないが聞こえてくる大きな音。
ある日突然アクセルの街の外で激しい爆発音がした。
厳密にはそれより前にちょくちょく聞こえる事はあったのがその日を境に毎日聞こえるようになってきたのだ。
遠くから聞こえてくるのだがやはりうるさい。
これが日本なら騒音被害として警察に被害届を出してもいいくらいのものだ。
ボンボンと毎日のように聞こえてきてうるさいなんてもんじゃあない。
「クソッ!!一体誰の仕業なのだ!この爆発は!犯人を見つけたら【キラークイーン】で文字通り逆に爆発させてやるッ!!」
それは太陽がサンサンと刺すピクニック日和の日。
それは地面がぬかるんでジメジメとする雨の日。
それは風が草原をなびく穏やかな晴れの日。
爆発音はどんな天気だろうと関係なく響く。
迷惑を被っているのは私だけじゃあないはずなのに何故誰も何も文句を言わないのはどう考えてもおかしい。
もうこの爆発音が日常的なものと化していてもはや気に掛ける事ではないとでも思っているのか。
そう思ってしまえば楽なのかもしれないが『平穏な生活』を目標としている私としてはどうしても我慢できない。
「この吉良吉影、平穏を乱す者とだけはどうしても戦わなければならない…」
『平穏な生活』を妨げる爆発音に耐えかねた私は自分から動くことにした。
ある日の昼間に街の外に出る冒険者達を観察していた。
魔法使い、いやウィザードか、それを主な標的と絞って。
流石に私の【キラークイーン】であろうともあんなに音が響く規模の爆発を起こすことはできない。
しかし魔法ならばどうだろうか?
魔法を使えばそういう事も可能であろう。
そんな推測をしながら街の外を少し出た所で待ち伏せしていた。
魔王軍の幹部が近くに拠点とした事でほとんど冒険者が街の外に出ることが無かったので爆発を起こす犯人を絞るのも容易くなるだろう。
こうしてしばらく待ち伏せていると見覚えのある二人の男女が街の外に出るのが見えてきた。
男の方は頼りなさそうで気苦労が多そうな少年で女の方はとんがり帽子に片目に眼帯をした
「………【シアーハートアタック】……」
もう何も言わない………。
【キラークイーン】の左手から第二の爆弾【シアーハートアタック】を射出する。
【シアーハートアタック】は自己を主張するかのように『コッチヲ見ロォ』と言葉を発し街の外へと出ていく少年と少女、つまりカズマとめぐみん(つくづく思うがその名前は人を馬鹿にしているのか?)へと突撃していく。
私は呆れのあまり言葉を失いかけた。
爆発と言ったらあの頭のおかしい小娘しかいないじゃあないか。
何故その事に気付かなかったのか…。
灯台下暗しというやつだ。
いや、気付いてはいたがその事実から目を背けたかっただけなのかもしれない。
【シアーハートアタック】を射出するが勿論慈悲なんてものは無い。
相手が同じパーティの人間であろうとそんな事は関係が無い。
些細ではあるが小娘達は私の『平穏な生活』を乱したのだ。
性懲りも無くあの爆発を起こす小娘に非がある。
精神衛生上これくらいやらないと苛つきが治らん。
この数時間後に街の近くにある廃城へと至る道に二人の男女が黒焦げになった状態で見つかったらしい。
その二人が誰であるかは言うまでもあるまい。
これで私の『平穏な生活』は守られた。
しかしそれもすぐに否定される事となる。
「この俺の城に毎日毎日爆裂魔法を打ち込んでくる頭のおかしい奴は何処のどいつだああああ!?」
一息ついたのもつかの間の事だった。
それが今の魔王軍幹部デュラハンの襲来だ。
デュラハンは血走った眼光で街の門に集まった冒険者達を睨みつけている。
かなり怒っているようだがムカっ腹が立っているのはこちらだって同じ事だ。
そしてこのデュラハンがアクセルまでやってきた原因、それはあの頭のおかしい小娘にあるのだ。
何とも馬鹿馬鹿しい事だがあの小娘が毎日爆裂魔法を撃ち込んでいたという廃城が何とデュラハンが住んでいる城だったらしい。
自分の城に爆裂魔法を撃ち込まれた事が原因でデュラハンはキレているのだ。
全くこの世界は私に心の平穏すら与えてくれないというのか。
後で苛つきを抑える為にも小娘をなぶってやりたいところだが精々【シアーハートアタック】を射出する程度しかできないな。
……ん?何故この前小娘達は【シアーハートアタック】の爆破を喰らって平然としているのだ…!?
「…激しい『喜び』はいらない。その代わり深い『絶望』も無い。そんな『植物の心』のように平穏な生活こそが私の目標だ……」
「お前かあああ!俺の城にポンポンと爆裂魔法を打ち込んでくる奴はあああああ!!俺が魔王軍幹部だからって嫌がらせな訳?正々堂々と向かってこいやあああ!!」
「残念ながら爆裂魔法を君の城に打ち込んでいるのは私ではない。そもそも私は魔法の一つすら使うことができないのだ」
「だったら何故出てきた?俺が用があるのは爆裂魔法の使い手なのだぞ」
「私は『平穏な生活』を目標としている。だから戦闘は好まないし冒険者という職業は不向きだと自覚している。しかし…君のせいで私の『平穏な生活』が脅かされているのも事実。ロクなクエストを受注できないし精神衛生的にも非常に悪い…。戦闘は嫌いな性格だが私の睡眠を妨げる『害ある敵』はどうしても取り除かなければならない……」
「ほう、だったらどうするというのだ?」
「…始末させてもらう」
「フハハハハハ!駆け出し冒険者の街の人間風情が中々面白い事を言うじゃないか!ならばこの俺をせいぜい楽しませてみるがいい!!」
「【キラークイーン】!!」
『しばっ!!』
【キラークイーン】を出現させデュラハンにパンチを叩き込む。
デュラハンは首無しの馬から飛び降りてそれを避ける。
それなり高いスピードを持つ【キラークイーン】の動きの上を行くとは流石人々から恐れられる魔王軍の幹部というだけはある。
そして間髪入れずその手に持った大剣を【キラークイーン】に向け振り下ろす。
私は【キラークイーン】で大剣を難無く
大剣を振り下ろす力は並の人間、それも戦闘職の冒険者を大きく超えていると言ってもいい。
その力強さに【キラークイーン】の足が徐々に地面にめり込んでいく。
私の足の方にも凄まじい重圧がのし掛かる。
まるで広瀬康一のスタンド攻撃を受けているようだ。
「召喚魔法か?見たこともない亜人種だな。面白い。駆け出し冒険者の人間にしては中々やるではないか。少なからずこの俺に挑むに値する実力はあると認めよう」
「『挑む』のではない。『始末』するのだ。人々の安全などはどうでもいい。ただし私の『平穏な生活』を妨げるであれば何者であろうと始末しなくてはならない。…それが人々から恐れられる魔王軍の幹部であろうともね」
「参考程度に聞いておこう。貴様が使役しているその亜人は何というのだ?こちらとしても未確認の亜人種となれば知っておきたいからな」
「【キラークイーン】…とコイツを名付けて呼んでいる。それと亜人などではなくスタンドだ。……これを知ったところで無意味な事だがね。何故ならここで『始末』されてしまうのだから」
「スタンド、か。聞いた事の無い言葉だ。覚えておくとしよう。……見たところ貴様は冒険者と見受けられるが冒険者らしからぬ考え方をしているな。邪魔者であれば『始末』するとはまるで
「…『冒険者の資格は無い』か。随分と好き勝手言ってくれるじゃあないか。ま、私には冒険者として誇りなんて持っていないしどうでもいい事だ。元々私が冒険者になったのは『平穏な生活』を取り戻す為に過ぎない」
デュラハンは私の事を殺人者のようだ、冒険者の資格は無いと評するが私の知った事ではない。
冒険者として誇りがある訳でもなければ冒険者になりたいと思ったこともない。
むしろ逆に杜王町に戻る為に冒険者になったがそうする必要は無かったじゃあないのかと疑いを持ちつつある。
だが何も分からない以上必要な事だとしておくべきだろう。
この吉良吉影の目的はただ一つ、『静かに暮らしたい』。
言うなれば『植物の心』のような『平穏な生活』を送る事が私の誇りなのかもしれないな。
「誰がどんな思想を持とうが俺の知った事ではないが俺が気に食わないのは貴様に冒険者の誇りが無い事だ!その程度の半端な覚悟で冒険者をしている貴様が気に食わん!!」
白刃取りされていた大剣を引き抜くとデュラハンは大剣を構え直し再び【キラークイーン】に切りかかる。
先程のように白刃取りを試みる。
しかしデュラハンの振り下ろす大剣の方が速い。
白刃取りで受け止められるようなスピードではない。
「何!これは不味いッ!!」
『しばっ!!』
【キラークイーン】はバク転をして間一髪のところで回避してみせる。
危ない危ない…、もう少し避けるのが遅ければ一刀両断されていたかもしれない。
想像するだけでも身震いするようだ。
それだけでなくスタンドの本質(ダメージはスタンドとその本体が
まあ当たっていたらその時点でもう真っ二つで終わっていたがね。
油断は大敵だという事を思い知らされたよ。
「フン、どうやら紙一重で避けられてしまったようだな」
急に速くなった動きと力強くなった剣、さっきはまだ本気を出していなかったという訳か。
全く恐ろしい奴だ。
私を駆け出し冒険者の街の人間だと思って舐め腐っていたな。
だからさっきは内野ゴロのボールを捕球するみたいに簡単に白刃取りできた訳だ。
「フ〜〜〜〜実に危ないところだった。いやあ、まさに紙一重だったよ。やはり油断は大敵だな。危うく私の【キラークイーン】が真っ二つにされていたかもしれないなァ〜〜〜〜〜〜」
「何だ貴様のその余裕ある態度は…?」
【キラークイーン】は一度デュラハンの大剣を
もっと言えば【キラークイーン】はデュラハンの大剣に
そうそれは【キラークイーン】第一の爆弾はいつでも作動させられるという事。
「気づかなかったか?君は既に『始末』されてしまっているのだ。【キラークイーン】第一の爆弾、それは触れた物なんでも爆弾に…」
『【エクスプロージョン】!!』
『【セイクリッド・ターンアンデット】!!』
【キラークイーン】のスイッチを押そうとしたその瞬間だった。
「何ィィィイイイ!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
突然大規模な爆発と閃光が巻き起こる。
デュラハンと私はスタンド諸共吹っ飛ばされてしまう。
私の方は大したダメージを受けてはいないがデュラハンの方は『ぎゃー』と叫び声を上げて転げ回っている。
デュラハンの様子から今起きた爆発と閃光は大きな効果を上げたようだ。
それは良い…それは良いのだ、良しとしよう。
街の入り口の方に目をやるとそこには満足そうに腕を組む二人の小娘が立っていた。
今の爆発と閃光を巻き起こした張本人、アクアとめぐみん。
【キラークイーン】の第一の爆弾で十分に始末できていたというのにこのクソカスどもがああああああ!!
何も私を巻き込むことはないだろおおおおおおおお!!
もしかしたらデュラハンではなく私が死んでしまっていたかもしれないじゃあないかッ!
流石の私もこの事態にはプッツンした。
「横槍入れて来やがってえええ!!己らああああ!!」
倒れ込んだ私よりも速く立ち上がるデュラハン。
最初の時よりもさらに怒っている。
地団駄をして爆発魔法と何かの魔法を撃ち込んだめぐみんとアクアを指差しその怒りを訴えている。
「私の神聖魔法が効いていない…?」
「我が爆裂魔法を受けて立ち上がるとは流石魔王軍幹部…」
「お前ら吉良さん巻き込んでじゃねええええええええええ!!」
「心なしか私のクルセイダーとしての活躍の場面が奪われてしまった気が…」
私の機嫌を知らないのか街の入り口らへんで待機しているカズマ達は何やらブツブツと話している。
後で【キラークイーン】で小僧諸共吹っ飛ばしてやるッ!
「まあいい!俺が今回来たのは爆裂魔法を城に撃ち込むなという警告だ!!爆裂魔法を打ち込んできたのはそこのアークウィザードだろ!次俺の城に爆裂魔法を撃ち込もうものならただで済むと思うなよ!」
デュラハンはそう捨て台詞を吐くと足早に首無しの馬に跨りそしてその場から姿を消した。
何という事だ、意識が遠のいていく。
小娘の魔法で吹っ飛ばされた私の意識は失われてしまった。
【バイツァダスト】を作動させてやりたいところだ…。
やはりこの世界は『安心なんて無い所』だ。
改めてそう自覚させられた。
感想は結構モチベ維持に繋がるんでよろしくお願いしますッ!
誤字などの指摘もバシバシとよろしくお願いします。
間違いが無かった回なんて無かった…。
改稿待った無しイイイ!!
もしも吉良吉影がめぐみんに転生(憑依)したら
めぐみん「我が名はよしかげ!カメユーデパートの会社員を生業とし、最強のスタンド、キラークイーンを操る者……!」
カズマ「…………冷やかしにきたのか?」
めぐみん「会話ぐらいしてくれてもいいだろう?」
誰か吉良ココアじゃなく吉良めぐみんを作ってくれてもいいのよ?
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シアーハートアタックは砕けない
展開とかは考えついてるのに、その展開に至るまで工程というか道のりが中々思いつかない。
とはいえ、書いてたら一万字を超えちゃった。
だから、次回に分割してそれぞれ加筆だ!
文字数的には今の量で丁度良いですかね?
後、報告するまでの事じゃありませんが、少々表記を変えました。
一旦、読者の方にとってはどうでもいい話はそこらへんに置いときますね。
ジョジョのアニメのクオリティ、ヤバくね?(語彙力)
ここでアニメの感想を書いてしまうと、相当な量になりそうなので最新話の感想だけ言いますと、ギャングダンスがディモールト良しッ!
プライベートでの話なんですが、今自宅にリゼロ1〜9巻、オーバーロード1〜6巻、ジョジョリオン最新巻まであるのに、それぞれ読む時間が無い(これ書いてる暇があるなら読めというツッコミは無しで)…
…以上、前書きに何を書けばいいのか分からなくなってきた作者でした。
魔王軍幹部の襲来から早一週間が経った。
特に何のトラブルも無くのんびりと過ごしていた訳なのだが、一つだけ気懸りな事がある。
それは吉良についての事だ。
吉良は魔王軍の幹部のデュラハンとスタンドを巧みに操り戦っていた。
ポッと出の中ボスとは訳が違う魔王軍幹部なんて、俺たちのような駆け出し冒険者が手に負える敵じゃねえだろと思っていたが、吉良は魔王軍幹部のデュラハンとほんの短い時間だけとはいえ接戦を繰り広げた。
吉良は日本にいた時から、既に
それはともかくとして、めぐみんとアクアは吉良が戦っているのにも拘らず、遠慮無しに思い切り魔法を叩き込みやがった。
デュラハンには大ダメージを与えられたみたいだが、吉良は巻き込まれて敢え無く撃沈。
俺が最も恐れているような事態…以上の事が早くも起きてしまったのだ。
こうして、めぐみんとアクアの魔法が炸裂するとともに、俺の胃はとうとう終わりを迎えた。
「で、この前の事はどう説明してくれるのかね?」
「そ、それはですね………」
「思えば、この世界に来てからというもの、災難ばかりだ。平穏な生活を目指しているというのに、現状は真逆の事ばかり。くつろいで夜も熟睡できない。妙な敗北感まで覚えてきたよ」
俺と吉良はギルドにいた。
目の前にいるのは吉良吉影。
俺は今吉良の目の前で正座させられている。
小学生が先生から叱られるように、俺は吉良に説教的な事をされていふる。
吉良は愚痴をこぼし、俺はこの場を切り抜ける口実を考える。
っていうか、当事者のめぐみんとアクアがいないんだよ。
「す、すみません。めぐみんとアクアが…」
「言い訳はいらない。君はパーティのリーダーなんだろ?それならパーティメンバーをしっかりと管理するのが、リーダーの職務ってモンじゃあないのかね?」
「…ッ」
ぐうの音も出ない正論。
パーティメンバーを管理するのがリーダーの義務だとは認めるが、こういうのって連帯責任が妥当だよな?
なのに、ヘイトが向いているのは俺だけ。
何これ?理不尽過ぎて泣きたい。
「…別に怒っている訳じゃあない。確かにこの世界に来た時から、本当にロクな事しか起きていないとは感じてはいるがね」
そう言いつつ、【キラークイーン】がその手に持っていたペンをHBの鉛筆をへし折るように、ベキッと握力だけでへし折った。
これでビビるなという方が無理のある話だ。
俺だってこの世界に来てロクな事しか起きていないと感じている。
吉良に限った事ではない。
現にこの状況だってそうだ。
結局のところ、一番苦労しているのは間違いなく俺だ。
「……………」
ドドド…と漂うドス黒いというか、ブルッちまいそうな雰囲気。
うん、これ絶対怒ってるヤツだ。
本人は至って平常の態度を装っているんだろうが、怒りを全く隠しきれていない。
「おっと、ギルドのペンをへし折ってしまった。後で弁償しなくっちゃあな」
何というか、冷静さを保とうとしている態度が逆に怖い。
性格的に言えば、ネチネチと説教を垂れる教師よりも、タチが悪い感じじゃないんだろうか。
ただでさえこんななのに、スタンドという転生特典にも遅れを取らない、同等の能力を持っているのがさらに怖い。
『触れた物を爆弾に変える』能力。
それが【キラークイーン】の特殊能力。
なんとも殺意マシマシの能力だ。
正気の沙汰じゃない特殊能力をもっているからこそ(それだけではないが)、余計に吉良を怒らせたくなかった。
「カズマとヨシカゲ!こんなとこで何してんのよー?さっさと私のクエストを手伝って欲しいんですけどー」
その場の空気を読まず、俺と吉良がいるところに呑気にアクアが駆け寄ってくる。
「【キラークイーン】!!第一の爆弾ッ!!」
「へっ!?」
それは唐突な出来事だった。
ボン!と痛快に響く爆発音。
吉良は【キラークイーン】でアクアを吹っ飛ばした。
ちょっ、いくら何でも怖すぎだろ!!
呑気なアクアの様子を見て苛つきの臨界点を迎え、吉良はプッツンしたのであった。
流石に堪忍袋の尾が切れたらしい。
あの感じからしたら仕方が無い事だが、やっぱり人は怒らせるもんじゃないな。
特にこの男の場合は命取りになりかねない。
プシューと口から煙を吐きその場に倒れ込んだ黒焦げのアクア。
まさに因果応報というものだ。
自分がやった行いは、いずれ巡り巡って自分に返ってくるように世界ができているらしい。
「よく呑気に私の前に姿を現せたものだ。理解に困る」
「ど、どうして………プハッ…………」
「……一旦はこれで良しとしておくか」
吉良の気分は少しだけスッキリしたようだ。
それを見て何だか俺もスッキリした。
アクアは尊い犠牲になったのだ。
その反面、吉良は「何故【キラークイーン】の爆発を喰らってこの程度で済むのだ…」などと不服そうにブツブツ呟いていた。
本来だったらどうなるはずだったんだ…?
想像するだけでも恐ろしい。
アクアか倒れて黒焦げになっているのを、羨ましそうにダクネスが見ていたのは言うまであるまい。
「私にも今のしてくれないか?」
「だめだ」
♦
「いいからクエストを請けましょうよ!」
「「えー………」」
「私は元々君たちに雇われている身だから文句は無い」
「私も構わないのだが…」
クエストに行こうと提案するアクア。
それに対して、俺とめぐみんは不満の声を漏らし肩をすくめる。
吉良とダクネスは特に不満な様子は無い。
ダクネスは不満が無いというよりか、モジモジと興奮しているように見えるが。
モンスターに蹂躙される妄想でもしていたのだろう。
現状としては、魔王軍幹部の影響で掲示板に張り出されている受注可能なクエストは高難度のものに限られてくるし、懐が潤っている訳だからわざわざクエストを請ける必要が無い。
「カズマもめぐみんもお願いよおおお!もうバイト生活なんて嫌よおおお!!」
断ろうとしたところでアクアは食い下がりそうにない。
前に受けたゾンビメーカーの討伐も失敗に終わってしまい、収入源がバイトするくらいしか無かったのだ。
しかし、そんな事は俺の知った事ではない。
乗り気じゃない俺とめぐみんを見て、アクアは藁にも縋るような思いで泣きながらクエスト同行を請う。
「…ったく、しょうがねえなぁ。丁度良いくらいのレベルのクエストなら手伝ってやるよ」
アクアがあまりに泣き叫ぶので、俺はアクアのクエストを手伝ってやることにした。
この調子で駄々をこねられてはキリがない。
「このクエストはどうかしら?」
「それくらいなら簡単そうだし別にいいだろう」
アクアが掲示板から、『マンティコアとグリフォンの討伐』といういかにも物騒そうなクエストを持ってきたので、言うまでも無く一度は却下した。
選び直した結果、決定したクエストは『汚れた湖の浄化』。
前者と比べれば比較的に簡単そうなクエストだ。
浄化、水の女神がやりそうな事ではあるな。
そう考えれば、水の女神であるアクアうってつけのクエスト…なのかもしれない。
湖の浄化をするだけで、三十万エリス貰えるから割と美味しいクエストだと言える。
「…で、君が湖を浄化している間、私たちはそれを邪魔するモンスターから護衛していればいいんだね?えっと、確かブルータルアリゲーターと言っていたっけか?」
目的の湖にブルータルアリゲーターというモンスターが出現するとのこと。
それに加えて、パーティ内で浄化魔法を使えるのはアクア一人だけだ。
アクアが再起不能になればこのクエストは詰みである。
だから、アクアが湖を浄化している間は、アクアがモンスターに襲われないように護衛しなければならない。
湖の浄化は半日くらい掛かるらしいので意外とキツい。
「そういう事ね。ほんの一、二週間前までチート持ちとはいえ無知の素人だったというのに、随分と冒険者として様になってきたんじゃないかしら、ヨシカゲ」
「お前は人の事言ってられんだろーが」
謎の上から目線な態度のアクアに俺はツッコミを入れる。
まだ冒険者稼業でまともな生活を送れていない奴が、言える台詞じゃないと思うのだが。
「…余計なお世話だ。私のスタンドをチート呼ばわりするとは心外だ。チートというのはイカサマ、騙すという意味であって、私のスタンドとは違う。一緒にしないでくれたまえ」
(初めて出会ったときから思っていたが、コイツ、この吉良吉影を馬鹿にしているのか……ッ!)
アクアの言葉に眉をピクリと動かす吉良。
苛立ちを感じているようだ。
吉良さん、怒りを隠しきれていませんよ。
いつもアクアは俺をヒヤヒヤさせやがる。
チート呼ばわりされたくない気持ちは分かるが、そう呼ばれるのも仕方がない。
実際吉良がチート持ちである事は間違いではないし。
「…ところで、興味本位で聞きたいのだが、湖の浄化とはどのようにやるのかね?やはり魔法を使うのかね?」
「そうね。手で水に触れて浄化魔法をかけ続ければいいわ」
「日本とかだったら、浄水場や何やらで薬撒いたりとかして水を浄化してたんだろうが、魔法というのはつくづく便利なモノだ」
「これも私が高貴な水の女神アクアだからできる事よ!」
「…別に私は神とか信仰している訳じゃあないし、かと言って否定するつもりじゃあないが、女神を自称するのはやめた方が良いと思うのだが。カルト的な宗教信仰者がいたら、何をされるか分かったもんじゃないからな」
真剣に人を心配するように吉良はアクアを諭す。
誰にも女神として認知されていないアクアだが、日頃の態度や性格からして仕方のない事だ。
俺もアクアの事を女神と思った事無いし。
安全面から考えても吉良の考えは正しい。
「何よおおお!私は正真正銘、水の水の女神アクアよおおおお!」
「魔法か。覚えておくのも悪くなさそうだ」
「ちょ、ちょっとヨシカゲえええ!!」
「この世界でしか使えないものなのだから、覚えておきたいかもな」
アクアを鬱陶しく思ったのか、吉良は泣き喚くアクアをスルーして話題を逸らそうとする。
アクアのメンタルがやたらと豆腐みたいに柔らかく感じるのは、吉良の対応が冷た過ぎるから、そうなっているに他ならない。
この世界に来てメンタルを鍛えられた俺でもあんな感じで迫られるのは正直キツい。
多分、メンタルを根こそぎ抉られるだろう。
「魔法ですか!それなら爆裂魔法を覚えてみてはいかがでしょう!!」
「ん?」
吉良の言葉に激しく反応するめぐみん。
まるで獲物を目の前にした肉食獣のようだ。
かなり爆裂魔法に執着しているらしい。
「ヨシカゲの【キラークイーン】の能力も爆裂させる能力ですし、魔法でも爆裂を極めましょう!」
「…そうか」
「まず魔法に爆裂魔法以外の選択肢はありえません!そう、ありえませんとも!」
「…ああ」
「【キラークイーン】プラス【エクスプロージョン】!爆裂二刀流ッ!どう考えても絶対にカッコイイです!!」
「…そうだな」
「さあ共に爆裂道を歩もうじゃありませんか!!」
「……考えておこう」
爆裂系統の技が二個に増えたとしても無意味だろ。
無意味というより、たった一撃の爆裂魔法の為だけに、めぐみんのように力尽きても困るというのが本音だ。
まあ、これはめぐみんに限っての話だから、いらぬ心配だろう。
それに、爆裂二刀流って何だよ。
言葉の響きがカッコイイのは認める。
吉良はめぐみんの爆裂道への熱心な勧誘を適当に受け流す。
気のせいか、めぐみんの背後に妖刀を持った二刀流の銀騎士のヴィジョンが見えた気がした。
「取り敢えずだ。アクアが安全に湖の浄化をできるようにすればいい訳だろう?それなら俺に良い案がある」
「その案とは、本当に大丈夫なんだろうな?日頃の君たちを見ていると心配だ」
吉良の心配をよそに、俺たちは早速街の近くにある目的の湖に向かった。
♢
目的の湖は依頼にあった通りに濁り淀んでいた。
モンスターなんて現れそうに無い程の汚れっぷりだが、ブルータルアリゲーターには住み良い生息地らしい。
「あの…今の私、売られていく希少モンスターみたいな気分なんですけど……本当にこれでやるの………?」
「当たり前だろ。俺の考えた完璧な作戦に何の不満があるんだ?」
「不満しかないわ」
モンスターの運搬用のオリの中に入っているアクアが俺に話しかける。
オリは鋼鉄製で並みのモンスターが攻撃したところで、頑丈なので壊れる事はまずありえないだろう。
絵面的には酷いものではあるが、モンスターに襲われてもオリの中のアクアにまで攻撃は届く事無く、安全に湖の浄化ができる。
そういう訳で、アクアをオリに入れた状態で湖の深さの浅い所に投入した。
後は時間が経過するのを待つだけだ。
「…安全に作業を進める点では理にかなった作戦ではあるが、もっと別の方法は無かったのかね?」
「考えついた限りではこれが最善の策だと思います」
「……そうか」
何とも言えないような複雑な表情の吉良に俺はそう答えた。
♦︎
「ブルータルアリゲーター、現れませんね。このまま何事も無く終わってくれたら良いのですが」
「湖の浄化には半日掛かるとは聞いたが、こんなにも長いとは思いもしなかった…。……ブルータルアリゲーターとやらが現れていないだけマシだと思うべきか」
「そうですね」
めぐみんと吉良はフラグとしか思えない台詞を息を吸って吐くようにサラッと言う。
アクアをオリごと湖に投入して二時間が過ぎた。
俺たちはアクアが湖を浄化しているのをじっと見ていた。
「……何だ?奥の方に何か見えるが……」
「えっ?何処です?」
「あれって、もしかして…」
「噂をすれば何とやら…」
と、ダクネスが突如、湖に謎の物体が現れた事に気づく。
しかも、物体は少なくとも四、五個以上はある。
アクアがいる方へとゆっくりと迫ってくる物体、いや、あれは生物だ。
その生物は地球に存在しているワニと酷似した見た目を持つ、ブルータルアリゲーターだった。
「カ、カズマさん!なんか群れでやってきたんですけど!!」
姿を現したブルータルアリゲーターの群れを目の前にして、アクアはオリの中から凄まじい絶叫を上げた。
「群れでブルータルアリゲーターが現れたみたいだが.彼女は大丈夫なのかね……?」
「…………多分」
「まあ、私の知った事ではないし、どうでもいいがな」
吉良の問い掛けに対し、自信無さ気に答える。
まさか、ブルータルアリゲーターが群れで行動するモンスターだとはちっとも思ってもいなかった。
想定外の事態に少し不安になった。
♢
「【ピュリフィケーション】ッ!【ピュリフィケーション】ッ!!」
一心不乱に浄化魔法の【ピュリフィケーション】を唱えるアクアの声が響く。
上級職であるアークプリーストの冒険者とは、思えない程の喚きっぷりだ。
ブルータルアリゲーターの群れがオリを囲み、それを
オリからメキメキと金属音が響き、それがオリの中のアクアの恐怖心を煽る。
アクアが湖の浄化を始めて四時間近く経過していた。
「ちょっと今、メキッて変な音がしたんですけど!鳴っちゃいけない音が聞こえたんですけど!!」
アクアは泣き叫ぶが、モンスターにそんな事が分かるはずもなくオリを噛るのをやめない。
「本当にこれで大丈夫なのかね?」
「…ちょっとヤバいかも」
「最近、先の展開が何となくだが、分かる気がしてきた」
俺たちはその光景を見ているしかなかった。
精々できることといえば、湖からオリを引き上げてクエストをリタイアするくらいのことしかない。
しかし、アクアがクエストリタイアを選ぶ訳も無く…。
「【ピュリフィケーション】ッ!【ピュリフィケーション】ッ!」
ただただ浄化魔法を湖に掛けているだけだった。
「……ハァ…………」
「ため息なんか、ついてないでどうにかしてよ!!」
「やれやれだ…」
アクアを見かねた吉良は気怠そうにため息を吐くと、アクアは自分勝手な物言いで吉良に助けを求めた。
しかし、助けに行こうにも、ブルータルアリゲーターが群れでオリを襲っているところを、助け行くのは非常に無謀な行為だ。
魔法でブルータルアリゲーターに遠距離攻撃すれば、それはそれでよいのだが、生憎、俺のパーティでまともに攻撃魔法を使えるのはめぐみんしかいない。
ただし、湖諸共吹っ飛んでしまう事になるという条件付きであるが。
「……仕方がないな。その代わり文句は無しだ」
「何でもいいから早く助けてよ!!」
「よし、ゆけ【シアーハートアタック】」
『コッチヲ見ロォ』
【キラークイーン】がいつものように幽霊かの如く姿を現わす。
そして、左拳を握りしめ前に突き出す。
すると、その拳からギャルギャルとキャタピラ音を立て、禍々しい声を上げる不気味な見た目をした物体が射出された。
その物体は【シアーハートアタック】というらしい。
何かデジャヴを感じるが、今は気にしないでおこう。
「何です!あれは!?」
「【シアーハートアタック】。【キラークイーン】の左手から射出される追撃爆弾だ」
「追撃爆弾!?」
「随分と固そうだな」
めぐみんがヒーローやヒロインに憧れる子供のような眼差しで吉良を見る。
厨二病気質のあるめぐみんの心には、どストライクだったに違いない。
ダクネスの言い方は卑猥にしか感じられない。
追撃爆弾…相変わらず物騒な吉良のスタンド能力だ。
爆弾というくらいなのだから、ブルータルアリゲーターに近寄らずとも攻撃が可能…なのかもしれない。
「【キラークイーン】第二の爆弾【シアーハートアタック】は狙った標的は必ず仕留める」
(彼らの反応からして、墓場での出来事とかはバレていなかったみたいだな)
「おおっ!」
第二の爆弾…そういう事か。
吉良は【キラークイーン】のスタンド能力を使う時、毎度「第一の爆弾」と言っていた。
今回射出した【シアーハートアタック】が第二の爆弾だと言うのなら、『爆弾に変える』能力が第一の爆弾という事になるのだろう。
そう考えれば、つじつまが合う。
接近戦だけでなく、飛び道具を用いた遠距離戦も可能という何ともチートな性能だ。
『コッチヲ見ロォッ!!』
ブルータルアリゲーターの群れ目掛けて突撃する、正面に髑髏のついた青いボディの爆弾戦車【シアーハートアタック】。
【キラークイーン】といい、【シアーハートアタック】といい、ごく普通の元サラリーマンのおっさんが操るにはあまりに物騒な力だ。
「おお!ブルータルアリゲーターの群れに突っ込んでいきますよ!!」
「爆弾なんだから当たり前だろ」
爆弾は投げ込むものだと知らないのか?
でも、自らが爆弾として標的を自動追尾するっていうパターンは、珍しい気がする。
『コッチヲ見ロッテ言ッテルンダゼッ!!』
随分と自己主張の激しい声を上げながら、ブルータルアリゲーターとの至近距離まで突入する。
そして、パワフルな爆発。
爆発によって砂埃がモクモクと巻き上げられる。
めぐみんの爆裂魔法と比べたら大した事は無いが、それでも威力は十分だ。
「ちょっと嘘でしょ!!私も巻き込まれたらどうすんのよ!!」
「文句は無しだと言ったはずだ」
「そんなのありえないから!」
「少しの間だけだ。我慢したまえ」
【シアーハートアタック】の爆発を目の前にして、悲鳴と抗議の声を上げるアクア。
しかし、吉良はそれを躊躇する様子は全く無い。
仲間を助けるというよりも、日頃のこの世界に対する私怨を晴らしているようにしか見えない。
ただの八つ当たりだ。
これを我慢しろと言うのだから鬼だ。
「見てくださいカズマ!あの【シアーハートアタック】、爆発しましたよ!」
「言われなくても見りゃあ分かる」
「なんだかとても楽しそうだな」
「絶対に行くなよ」
「なっ、何を失礼な!」
「いや、止めなかったら行くだろ」
それぞれ別の意味で興奮するめぐみんとダクネス。
その原因となった吉良にも後始末をしてもらいたいものだ。
それが野暮な話だという事は十分理解している。
「後はのんびりと待つだけだ」
「え…待つだけですか?爆発し終わったのに?」
「【シアーハートアタック】の爆発は一度きりではなく。そう
「え…なにそれ!?」
巻き上がった砂埃が晴れると、そこには無傷の【シアーハートアタック】の姿があった。
おまけにブルータルアリゲーターが大きくダメージを受けている。
爆発程度では傷一つさえ付かない上に、何度でも高い威力で爆発するというトンデモ性能を兼ね備えている。
ダイヤモンドのように最高位の硬度を誇る代わりに、ハンマーで叩くだけで砕けるという事は無い。
「ヨシカゲ、【シアーハートアタック】とやらは爆発だけじゃなく、頑丈さにかけても凄そうだが、どれくらい硬いのだ?」
「…そうだな……私の知る限り、最も強い、『時を止める』能力を持つスタンド使いを相手取っても、破壊できない程には頑丈だ」
(…空条承太郎だ。私が最も警戒していたスタンド使い…。)
「『時を止める』能力だと…ッ!?そんな事ができるのか!?……時を止めてからのプレイも………。いや、でもその場合、体感が無いのでは……」
「………何か勘違いをしていないか?」
(アクアやめぐみんのように、特に問題を起こしているわけではないとはいえ、ここまで酷いと気が引ける…)
【シアーハートアタック】から『時を止める』能力に完全に興味を移し、ダクネスは一人で興奮している一方で、吉良はそんなダクネスにドン引きした。
『時を止める』能力って、そんな能力を持つ人間が日本にいたっていうのか!?
吉良の周りの人間はどうなってんだよ!
そして、どんな所に住んでたんだよ!!
吉良という男が俺の中でどんどんヤバそうな人間となりつつある。
というか、ダクネスの発想が非常に残念だ。
『今ノ爆発ハ人間ジャネェッ!!』
【シアハートアタック】の不気味な声が聞こえると、再び爆発が起こった。
ブルータルアリゲーターという標的を始末し終えるまで、爆発し続けるのであろう。
アクアがブルータルアリゲーターの群れに襲われるだけでも、悲惨な状況だったのに、【シアハートアタック】の乱入により、まさにカオスな状況になってしまった。
「よーし!これで万事解決だな!」
「これの何処が万事解決なのよおおお!!」
アクアは今まで一番大きな悲鳴を上げた。
感想の返信で次話でミツルギが登場するとキッパリ予告したばかり(一ヶ月前)なのに……スマンありゃウソだった
吉良「バイツァダスト…。爆殺させ時を巻き戻す能力…」
ダクネス「それだったら恥ずかしい事し放題だな」
カズマ「やっぱり発想が変態だ…」
吉良「このやりとり自体を無かった事にしておこう…。バイツァダスト!!」
???「ザ・ワールド・オーバーヘヴン」
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吉良吉影は転生者が嫌い
二週間前の話だけど暗殺チームのアニオリ凄かったなァ
ホルマジオが食事してるおっさんの横を通った瞬間、あ…(察し)ってなりましたw
リゾットの声がめちゃくちゃ想像通り過ぎてビビった
生ハム兄貴はかっこよかったです(小並感)
…後ジョジョのラストサバイバーはやめとけやめとけ!
私には不安しかないのだが…。
「なあアクア、いい加減機嫌直してオリの中から出てきてくれよ…」
アクアはどん底まで気分が落ち込み、オリの中で長い事体操座りをしている。
湖の浄化を開始して約五時間経って、ようやく湖の浄化が完了した。
しかし、アクアにとって今回の出来事が深刻なトラウマになってしまった様だ。
ブルータルアリゲーターの群れに襲われ、尚且つ【シアハートアタック】による連続の爆発を超至近距離で目撃したのだから無理もない。
ま、そんな事は俺にとってどうでもいい事だが。
ブルータルアリゲーターは【シアハートアタック】の爆破を連続して受け、浄化が完了する前に早々と湖の奥へと逃げ去っていった。
そのおかげで作業は多少楽になったのかもしれないが、その分アクアのトラウマが深くなった気がする。
恐るべし、【シアーハートアタック】。
「嫌。オリの中だけが私の聖域よ。外の世界なんて怖くて出ていけないわ………」
もうすでに街の中まで戻ってきているというのに、オリの中に引き篭もって
街中を馬車でオリに入れた状態のアクアを運んでいる訳なのだが、これを見られたら間違いなく悪い方向に勘違いされる。
現に町の人々の視線が集まっているのが分かる。
誤解を招かないためにも、早くオリの中から出てきて欲しいものだ。
「いつまで経ってもオリの外に出る気が無いんなら、いっその事オリの中に【シアハートアタック】放り込んでしまうか?」
「それは良い考えですね」
「それはやめといてください」
「………本気でそんな事をする訳ないじゃあないか」
「えぇ…やらないのか?」
吉良の言う事は少しも冗談に聞こえない。
完全に本気じゃなくて半ば本気で言っているだろ、これ。
俺の言葉に対して間を置いてから返事をするあたり、余計本気に聞こえる。
吉良も中々に鬼畜だが、それに賛同するめぐみんもかなり鬼畜だ。
ダクネスは「えぇ…」と残念そうにしているが、ただ自分が爆発を受けたいだけだろ。
…と、まあ今回はアクアに新たなトラウマが芽生えてしまっただけで、それ以外大した被害は無かったので良かったと妥協するか。
「あ、あなたは女神様じゃないですか!こんな所で何をされているんですか!」
突然、アクアが中に引き篭もっているオリの鉄格子を掴む謎の男。
ルックスはイケメンで後ろには二人の美少女を連れている。
男はオリの鉄格子を掴むや否や、いとも簡単に捻じ曲げてしまった。
【シアハートアタック】の爆破で多少ボロボロになっているとはいえ、ブルータルアリゲーターの強靭な顎をもってしても破壊できなかった、この鋼鉄製のオリの鉄格子を軽々と捻じ曲げるとは物凄い馬鹿力だ。
「は!?」
俺達はその様子を唖然として見ていた。
男は俺達に構うことなく、オリの中のアクアに手を差し伸べようとする。
「君、一体何者かね?いきなりこんな真似をしてくれるとは、どういう神経をしているか分かりかねる。誰がこのオリを弁償すると思っているのだ…?」
「そうだ。まず見ず知らずの人間が私の仲間に馴れ馴れしく触れてくれるな」
吉良とダクネスはいきなり現れた男を静止し嫌悪感を示す。
吉良はただ不快に思っているだけの様だが、ダクネスはクルセイダーとしての仲間想いから行いの様に見える。
ん?そういえばあの男、アクアを女神と言っていたが…。
「おいアクア。あの男、お前の事を女神と呼んでいたが知り合いか何かじゃないのか?それならどうにかしてくれよ」
「………………女神!そうよ、私は水の女神アクア!しょうがないわね!この女神アクアがどうにかしてあげるわ!」
長い沈黙を置いて、アクアは先程までの落ち込みぶりから嘘みたいに立ち直り、篭城と化していたオリの中から悠々とと出ていく。
さっきの反応の仕方からして、今まで自分が女神である事を忘れてたんじゃないだろうな。
「彼女に任せてしまっても大丈夫なのかね?」
「多分大丈夫だと思います。知り合いみたいですし…」
「彼女の知り合いだと言うのなら、尚更心配だ」
「た、確かに…」
吉良はいつもの様に気怠そうにため息を吐く。
吉良の気持ちも分からなくはない。
というか、むしろ痛いくらい理解できる。
「…あんた誰?」
大丈夫じゃなかった。
「誰って、あなたから魔剣グラムを頂いた
吉良が目つきをデュラハンと戦っていた時の様にギロリと鋭くする。
アクアはピンときていない様だが、吉良は男が何者であるかを理解したらしい。
男が口にした日本人っぽい名前からして察したのは男が日本人、つまり転生者だという事だ。
っていうかそれくらい女神なら気づけ。
「そ、そういえばそんな人もいたようないなかったような…」
アクアは自信なさげに男、もといミツルギキョウヤに返答する。
あやふやなアクアの返答にミツルギは苦笑いした。
なんて頼りない女神なんだ…。
「と、ところで、君たち!女神様をこんなオリの中に入れておいて何をしているんだ!?失礼だとは思わないのか!礼儀知らずにも程があるぞ!」
「それはだな…」
俺はミツルギに自分と吉良が転生者であり、俺が転生特典の代わりにアクアをこの世界に連れてきた事、そして、アクアをオリの中に入れるに至った経緯まで洗いざらい話した。
吉良は俺が自分達の事を話しているのを不満そうに見ていた。
(ベラベラと見ず知らずの小僧に自ら私たちの素性を明かして、何を考えているのだ…!同じ転生者だっていうんなら敵スタンド使いかもしれないって事じゃあないかッ!これだから余計なトラブルに巻き込まれるのだ…!)
「転生者二人してなんて事をしているんだ!転生特典で女神様を連れてくるだけでなく、オリの中に閉じ込めて湖に放置するだって!?失礼極まりない!」
「だからさっき…」
こちらの事情も知らないで、自分勝手に怒るミツルギが俺の胸ぐらを掴みかかろうとする。
「何をしているのかね?」
しかし、意外にも吉良が【キラークイーン】でミツルギの腕を掴み、それを引き止めた。
いつも「私はただの雇われの身だ」などと言っている吉良が俺を庇うとは、世の中何があるか分からない。
いや、でも庇ったというのはちょっと違う気がする。
俺を庇ったのではなく、ミツルギを警戒すべき敵として認識し警戒心を抱いている、そんな風に俺には見えた。
そうでなければ、ミツルギをわざわざ【キラークイーン】を出してまで制止する理由が無い。
「な、何だ!?この亜人は!」
「質問を質問で返すなと言いたいところだが、今はそんな事に興味は無い。コイツは【キラークイーン】。私のスタンドだ」
「君が召喚したモンスターかい?」
「厳密に言えば違うがそういう認識でも問題は無い。えェ〜〜っと、ミツルギ君だったか?君は今さっき『失礼極まりない』と言っていたが、それは実に大切な事だ。人が会話する上で『礼を重んじる』、つまり『
(だが、
吉良はミツルギを疑心暗鬼の目で見る。
言っている事は本心を話している様だが、それは真意ではない。
ミツルギに対して何か気になる事かあるみたいだ。
だが、それが何なのかさっぱり見当もつかないし、首を突っ込みたいとも思わない。
「しかし、今の君は『礼儀正しい』とは言えないな。私たちと君との間にある認識にズレがあるとはいえ、君はいきなり私の仲間に手を出そうとした。それこそ『失礼』というものじゃあないのかね?」
「………こちらにも非があることは認めよう。だが、女神様に対する扱いが余りにも不当だとは思わないのか?」
ミツルギは自分の発言がブーメランになっている事を認めはしたが、あくまでも自分の主張の正当性は曲げる気は無い様だ。
変える気のないミツルギの態度に、吉良の顔色に微かに苛立ちが見え始める。
「彼女をどんな扱いにするにしろ、神様扱いするには無理があるというものだ、というのが答えだな」
「ちょっとヨシカゲえええ!あんたねえ!」
「【シアーハート…」
「あははは、何でもないわ…」
吉良の発言にアクアが抗議の声を上げるが、吉良はそれを黙らせた。
大体女神として見られたいなら、女神らしい事を一つだけでもやってからにしろ。
「君は今の自分の立場を理解した上でその質問をしているのかね?理解しているのなら続けても構わないが」
『自分の今の立場』とは想像したくはないが、おそらく【キラークイーン】で触れた事を言っているのだろう。
ミツルギの場合、腕を掴まれた際に触られている。
【キラークイーン】の特殊能力は『触る』というのがトリガーとなって初めて発動する。
触られたら最後、爆弾な変えられてしまうのだ。
それが
こんなの究極の脅しだ。
もっとも【キラークイーン】の能力を
「何の事だ?」
「………違うな。私の思っていた者ではないらしい」
吉良はミツルギの腕を掴んでいる【キラークイーン】の手を離し、冷めた様に言い捨てる。
それと同時に吉良の警戒心漂う雰囲気が振り解けた様に見えた。
吉良は一体何を考えていたのか。
果たして何がどう『違う』と判断したのか。
俺にはさっぱり分からない。
『お前はバカ丸出しだッ!あの世でおまえが来るのを楽しみに待っててやるぞッ!』
『いい時計だな。だが時間が見れないようにたたっこわしてやるぜ…………。きさまの顔面の方をな…………』
『
(…どうやら心配し過ぎていたようだ。ちょいとカマをかけてみたが、この小僧は私を『追う者』ではない。【キラークイーン】のスタンド能力をまるで知らないようだし、何より『追う者』の目をしていない。そう…、この吉良吉影が最も苦手とする私を追い詰めた東方仗助たちのような、精神を持った男のする目ではない)
「一応聞いておくが君、スタンドを知ってるかね?」
「スタンドとは何なんだい?」
「…質問を質問で返すなと言ったはずだが?少しは人の話を聞く努力をしたまえ。とりあえずスタンドを知らないのならいいんだ」
「待て。君は何か解決したみたいだが女神様の事は…」
「君が言っている件については私は関係ない事だし、後は好きにやってくれたまえ」
「は…?すごい釈然としないのだが」
「…さっきカズマが説明したように私もいわゆる転生者の訳だが、あくまでカズマのパーティーに雇われているってだけなのでね。カズマが決めた方針に従っただけで、それでも大丈夫であるか確認もした」
「え、だから…どういう事……」
「私は関係ないという事を説明したのだよ」
吉良は物分かりの悪い子供をしつける様に話すが、ミツルギは納得いかない様子だ。
二人の話が噛み合わないまま終わってしまった。
そして、全ての責任が俺に押し付けられた。
元々は俺の行動が招いた状況ではあるが、この仕打ちはあんまりだ。
「しゃ、釈然しないがまあいい。君がさっき話した話では、こんなに綺麗な彼女たちを馬小屋で寝泊りさせているそうだね!」
何様かは知らないがミツルギは俺に説教を始める。
パーティーメンバーを差し置いて一名、宿屋暮らしの冒険者がいるんですが、それは…。
吉良はバツが悪そうにそっぽ向く。
「それだけじゃなく、優秀そうなパーティーメンバーを連れているっていうのに君は最弱職の冒険者そうじゃないか!」
おいおい、さっきから随分と好き勝手に言ってくれるじゃないか。
俺も好きで馬小屋暮らししてる訳じゃないし、冒険者という最弱職についている訳じゃない。
できる事なら俺だって家が欲しいし、ソードマスターやらアークウィザードやらの上級職の冒険者なりたい。
そもそも滅多な事じゃない限り、一般の冒険者には馬小屋から抜け出せる様な資金なんて無い。
特に俺達の様なパーティーは。
「何で馬小屋で寝泊まりしているだけで、こんなに文句を言われなくっちゃあいけないんだ?当たり前の事だろ」
「あのミツルギって奴、きっと私が転生特典として渡した魔剣グラムがあったおかげで、今まで何の苦労も無く生活してきたのよ」
俺が小声で文句を言うと、それにアクアが答えた。
なるほど、納得。
転生特典で何も苦労してないとか、無性に腹が立ってきた。
この世界に来て俺がどれだけ苦労したきたことか。
きさまには俺の心は永遠に分かるまいッ!
「転生の特典、ねぇ……。他人から受け取った、言わば借り物の力でここまで得意なれるとは…。恥ずかしいとは思わんのかな…。こんなちっぽけな小僧が私のような苦労を知らずに能天気に生活していると思うとムカッ腹が立つ………」
俺とアクアのコソコソ話が聞こえていたのか、吉良は愚痴を吐露する。
吉良も俺も同じ事を思っているらしい。
って、あんたは最初からチート持ちみたいなもんだろ。
苦労してるっていう点では何の変わりもないかもしれないが…。
「そうだ君たち、ソードマスターの僕と一緒に来ないかい?そうすれば生活は保障するし高級な装備品を買い揃えてあげよう。僕の仲間に加えてクルセイダー、アークウィザード、そしてアクア様。僕冒険者レベルは今や30を超える。こんな超一流パーティーは他には無い!」
こいつ、本気でそんな事言ってんのか?
俺は今まで感じたことのない様な寒気を感じるのとともに妙な鳥肌が立った。
ラノベの主人公でもこんな臭いセリフは言わねえ。
「自己評価と気取った態度だけは
俺もそうだが、サラっと自分が抜かされていた事がどうやら気に食わなかったらしい。
いつも『静かに暮らしたい』とか言っている割には、意外と自己顕示欲が強く見える。
【シアーハートアタック】が『コッチヲ見ロッ!』と言っているのは、隠しきれない自己顕示欲の高さの表れなのかもしれない。
「さあどうする?」
自己中心的なミツルギの提案ではあるが、俺のパーティーよりも待遇が良いのは事実。
「アメリカ方式。フランス方式。日本方式。イタリアナポリ方式。異世界のフィンガー『くたばりやがれ』よ」
「スカしたエリート顔だな。だがもう顔を拝めないように爆裂魔法を撃ち込んでやるぜ…………。あいつの顔面の方にな…………」
キレッキレにテレビだとモザイクがかかる指芸…じゃなく指のポーズを平然とやってのけるアクア。
別にそこにシビれないし、あこがれない。
女神が何て事してんだよ。
「わ…わたしがあなたのパーティーに入れば…わたしが加入すれば…ほ……ほんとに…わたしに『高級な装備品』…を…買い揃えてくれるのか?」
「ああ約束するよ。君たちの『メンバー』と引き換えのギブ アンド テイクだ。おいで…早くおいで!」
「だが断る」
「ナニッ!!」
思いの外、ミツルギが不評だったが何だかどうでもいい。
あんなナルシスト性格をしていれば、そうなるのも当然の事だし。
「って訳で、俺の仲間はあなたの仲間にはなりたくはないみたいなので、そろそろ行かせてもらいますね」
とんだ道草を食わされた訳だが、俺たちも暇ではない。
俺達はさっさクエスト達成の報告を冒険者ギルドに済ませねばならないのだ。
ミツルギをスルーし馬車でオリを引いて、そのままギルドに向かおうとした。
「…どいてくれます?」
しかし、俺達の前をミツルギが立ち塞がり行く手を阻んだ。
「悪いがそれはできない。君がアクア様をこの世界に連れてきた様だが、アクア様をこんな境遇に置いたままにしてはおけないからね。そこで一つ提案がある」
『よく見て!!』
『予知するのだッ!』
『数秒ほど後の…ミツルギの『提案』を!!』
言っておくが、俺は別に二重人格って訳じゃない。
「決闘か?」
「察しが良くて助かるよ。勝った方がアクア様を連れていく。これで異論は無いかい?」
「異論無しだ。それじゃあ行くぜ!!」
有無を言わさず先手必勝さ!
決闘という
予想通り過ぎる結果だったので、俺は先制攻撃を取る事に成功する。
と、本当だったらなるはずだった。
「【スティー…」
「【キラークイーン】ッ!!」
「えっ!?」
俺とミツルギとの間に【キラークイーン】という思わぬ乱入者が割って入る。
予想に反する展開に俺の繰り出そうとした【スティール】が不発に終わってしまう。
俺が魔剣持ちのチーターに正面から真っ向勝負を挑んでも勝てる訳がないからこそ、ミツルギの魔剣グラムを奪い取った上で一気にカタをつけてやろうかと思っていたのに…。
千載一遇と言っても過言ではないチャンスをみすみす逃してしまった。
なんてことしてくれたんだ吉良のおっさんよおおおお!!
「悪いがその勝負、待ってもらおうか」
「ど、どうされたんですか?」
せっかくのチャンスを水の泡にしてくれた吉良をグーパンしてやりたい気持ちは山々だが、どうせ【キラークイーン】で返り討ちにされるのは目に見えている。
どうしようもないので、ここは俺も大人になって怒りで声を震わせ引きつらせながら吉良に質問を投げかけた。
「カズマ、この勝負を私にやらせてくれないか?」
「か、構いませんよ」
「それは良かった。それでは遠慮無しにやらせてもらおうか」
またもや予想外の展開。
『チート特典』持ち転生者と『ただのチート』持ち転生者の対決。
まさに超展開である。
好戦的でもなければ喧嘩っ早い性格ではないはずの吉良が何故…。
とりあえずどうせなら、ここは吉良のスタンドが他のチート転生者とどれだけ引けを取っていないのかを見せてもらう事にしよう。
「この世界には決闘罪がある訳じゃあないから心置き無く叩きのめせるって訳だ。そう、正々堂々とね………!』
「面白い冗談だ。でも何も君一人で僕と戦う必要は無い。転生者同士、仲良く二人で掛かってきても構わないが?」
「大した自信だな。…それも魔剣グラムってヤツのおかげか?せっかくハンデだが私には必要ないな。私は戦ったとしても誰にも負けないし、この場合大切なのは
「ほう?」
「仮に私がカズマと組んで君に勝ったとしたら、君は『二対一だったから負けた』と言い訳できてしまう訳だろ?だが、私が一人で挑み勝ったというのなら話は別だ。君は実力の差で負けたと敗北の屈辱を味わざる終えなくなる」
「そうかもしれないね。だけどそれは君が勝ったらの話だ」
「では、そのお高くとまった鼻先をへし折ってやろうじゃあないか。………でないと、コケにされた私の気が治らんッ!!」
想像できてはいたが、吉良は相当ミツルギの態度が気に食わなかったらしい。
だから吉良はミツルギに挑む事にしたのだろう。
ただ単純な動機だった。
余程ミツルギの事が気に食わないのか、話をしている最中にも吉良の瞼がピクピクと動いていた。
「【キラークイーン】…」
【キラークイーン】が両拳を握りしめ、ファイティングポーズを取る。
構図的にはミツルギが正義の味方で吉良の【キラークイーン】が悪の怪人っぽくに見えるが、吉良に勝ってもらわなくては困る。
「あの二人、大丈夫なんでしょうか」
「ヨシカゲはデュラハンとまともに戦える程の実力があるから問題ないはずだ。それにめぐみんとアクアの魔法を同時に受けても気絶だけで済んだからな」
「「う、ダクネス……それは………」」
「二人ともまだ謝ってないのなら後でヨシカゲに謝っておいた方が良いんじゃないか?」
「そうですね…」
「と、とにかく!ミツルギっていう勘違い野郎には悪いけど、私の女神人生のためにもヨシカゲには勝ってもらって、さっさとギルドにクエスト完了を報告しに行きましょう!ちゃっちゃっとやっちゃいなさいヨシカゲ!」
「そうですよ!早く終わらせてカズマの奢りで一緒にご飯でも食べましょう!」
「魅力としては少々欠けるが、まあ良いだろう…」
「決まりね!」
「おい!勝手に俺が飯を奢る前提で話を進めるな!」
外野がうるさい。
真剣になっているのは俺だけか?
「さあ抜いてみせるんだ……その腰に付いた魔剣とやらを………! 」
吉良のミツルギの腰あたりに付いた鞘に収まったままの魔剣グラムを指差すと、ミツルギは転生特典である魔剣グラムを鞘からそっと抜く。
鞘から抜かれた剣は、禍々しいようで神聖な雰囲気を感じさせる、まさしく魔剣と呼ぶに相応しい代物だった。
チート転生特典、つまり神器はやはり他のアイテムよりも一線を画する程の力が秘められている様だ。
逆に吉良の【キラークイーン】はというと、神が授かった転生特典ではないが故に、神聖な雰囲気こそは感じられないものの魔剣グラムとは比較にならない程の狂気を放っていた。
「ちょっと嫌な感じがするんだが…」
――緊張の一瞬。
西部劇のガンマン風に言うと…『ぬきな!どっちが素早いか試してみようぜ』というやつだ………。
「【キラークイーン】ッ!!」
『しばッ!しばばばばばばば!!』
ミツルギの魔剣よりも先に【キラークイーン】の拳の
チート転生者相手に小細工なしに先制攻撃を仕掛けるとは、魔王軍幹部と張り合いを見せただけの実力はある。
残像が見える程の
「うおっ!?うぐっ!!」
「パワーとスピードにはそこそこ自信のある【キラークイーン】の動きに付いてくるとは、魔剣を操るって事だけはあるようだ」
「当然の事さ」
「所詮魔剣の力でしかないんだろうがね…」
耳に鋭く響く金属音。
【キラークイーン】の拳とミツルギの魔剣が熾烈にぶつかり合い火花が散る。
流石はチート特典持ち転生者、一筋縄ではいかない。
といっても、魔剣グラムが強いだけなんだろうが。
魔剣による能力補正を受けているからこそ軽く人間離れした動きができるのだろう。
どうして自分の力じゃないのにこんなに得意になれるかが俺には到底理解できない。
「もっとも私の【キラークイーン】の相手ではないがね……」
吉良の表情には依然変わりなく余裕が見える。
俺たちよりもレベルが一回りも二回りも高そうなミツルギ相手に防戦を強いるとは吉良も大したものだ。
レベル差とは一体…。
だが、ミツルギはこちらに手の内を明かしてはいない。
その点でいえば、吉良にも同じ事が言えるが安心はできない。
「言うじゃないか。これではどうかな?」
「何ッ!」
ミツルギは突然動きを変え、魔剣を大きく振るう。
【キラークイーン】の
そして、急な反撃によって足が一歩後ずさる。
戦闘経験についてはまだまだ浅いが、不意を突かれるのは非常に危険なのは確かである事は分かる。
「もらった!!」
この魔剣グラムの一撃が【キラークイーン】に入ったら一貫の終わりだ。
ボディから顎にかけてがら空きになった【キラークイーン】は、身ぐるみを剥がされたノーガード状態。
【キラークイーン】が無ければもう吉良には戦う手段は無い。
「ヨシカゲぇ!!」
「つくづく思うのだが『思い込む』って事を実に『恐ろしい』事だ……。特に自分の力を優れたモノだと過信している時はさらに始末が悪い。君の場合、そこが『弱点』なんだ。君自身ではなく、
吉良は魔剣が襲おうとしている絶体絶命の危機にも拘らず、不敵な笑みを浮かべる。
その笑みは勝利を確信した笑みだった。
【キラークイーン】が手を空高くかざし奇妙なポーズを取ると…。
「スイッチを押せっ!」
「えっ!?」
突如魔剣が爆発。
ミツルギは豆鉄砲を食った鳩の様に驚き戸惑う。
「当て身」
吉良にミツルギの攻撃が命中するかと思いきや、それよりも先に魔剣は木っ端微塵に吹き飛んでしまい跡形も無く消滅してしまった。
そして、呆気に取られたミツルギは吉良に直接首に手刀を浴び、気絶しそのままその場に倒れた。
事の幕切れは実にあっけないものであった。
「【キラークイーン】の特殊能力………『触れた物何でも爆弾に変えられる』」
勝負はかなり危うい様に見えたが、【キラークイーン】の
むやみやたらと【キラークイーン】で殴りつけていたのはただの舐めプだったのか…?
「借り物の力にしか頼ってこなかった怠惰さが君の敗因だ。…と説明したところで気絶しているのだから聞こえはせんだろうが」
余裕の勝利を味わう様に敗因を丁寧に説明する吉良。
チート転生者相手にこんな冷淡な振る舞い方をする吉良を見て謎の貫禄を感じた。
この世界に転生する前に住んでいた所にも自分と同じスタンド使いが存在していたというが、やはりマジの事らしい。
「君はこの魔剣のおかげで何の苦労も無くこの世界で暮らしてきたようだが、これでもう魔剣の力に頼る事ができなくなった。精々自分の力だけでどうにかしたまえ。後は……」
吉良はそう言うとズボンのポケットに手を突っ込んで、倒れているミツルギの顔を【キラークイーン】で踏みつけた。
そのままミツルギの顔をまるで煙草の火を消す時の様に、グリグリと踏みにじり続けたまま、吉良は静かな態度から一変して怒りの炎をプッツンと点火した。
「私を見習うんだよォーーーッ!!私がここでの生活にどれだけ苦労をしてきたか分かるかッ!私を見習って同じ苦しみに耐えたまえッ!!このちっぽけな小僧がッ!」
何というオーバーキル。
理不尽な暴力がミツルギを襲う。
決着はもう既についてしまったというのに、それでもなお吉良はミツルギに対し容赦する気なしだ。
徹底的に、完膚なきまでに叩き潰そうとしている。
養豚場の豚を見る様な目…とまではいかないが吉良はミツルギの事を見下す様に見ている。
吉良はアクアたちとは違って普通な人間だと思っていたが、結構異常なタイプの人間かもしれない。
「ヨシカゲ!それはやり過ぎだぞ!!決着はもうついたんだ!!」
「もうやめて!吉良さん!とっくにミツルギのライフはゼロよ!もう勝負はついたのよ!」
言わば死体蹴りとなった状況に俺とダクネスは吉良を止めに入る。
ミツルギがいくら気に食わないからといっても、これは流石にやり過ぎだ。
鼻に付く性格をしているミツルギではあったが、ダクネスもクルセイダーとしてそんな奴でも見過ごす事が出来なかったのだろう。
「苛つきが治らなくてね…。普段の感情の起伏が浅い分、苛つきが沸点に達したら抑制が効かなくなってしまう。災いを招く悪い癖だ」
(癖というよりは精神衛生の保守のために行っている心がけだな…)
吉良はミツルギの頭を踏みつけるのをやめ、【キラークイーン】を引っ込めた。
穏やかな表情に戻ったが、何処か異常な感じが抜けない。
チートに加え、几帳面でプライドが高いがあまり目立つ行為は好まない性格。
『平穏』な生活のためなら何でもしてしまう。
吉良吉影という男はますます掴み所の無い男だ。
「いくら癖だとしてもこれはやり過ぎだ」
「やり過ぎだと言われてもねえ…、決闘を申し込むのならこれくらい『覚悟』するのが筋ってもんじゃあないのかね?私はクルセイダーである君みたいに騎士道とか心得てはいないが、『覚悟』も無いのに決闘を挑むんじゃあ相手に払うべき敬意が足りないと思うのだよ。私だって『覚悟』したんだ…。文句は言われる覚えは無い」
(もっとも私が敗北する事などありえないから、『覚悟』なんて無かったがね。こんな小僧に払う敬意など無いということだ)
「確かにヨシカゲの言い分は一理ある。だが、ここまでやる必要は無かったはずだ」
「だからさっきから謝ってるじゃあないか。反省もしている」
「どんな理由があってもあそこまでやってはいけない。だけどストレスが溜まるのも分かる。…だ、だから気分がどうしても落ち着かない時は、是非とも代わりに私にあたってくれ!」
「前に言った覚えがあるのだがダクネス、君何か勘違いしてるんじゃあないのかね?」
珍しく騎士らしい事を言ったダクネスだったが、やっぱりただのドMだった。
冒険者としての礼儀を重んじるクルセイダーの鏡だと思っていたのは幻想に過ぎなかった。
お前に感心していた俺の気持ちを返せ。
「…で君たち、何をジロジロと見ているんだ?見世物じゃあないんだ。用が無いんならさっさと、ここに白目向いて倒れている憐れなソードマスター君を連れて去ってくれ。君たちの仲間なんだろ?」
空気と化していたミツルギの連れの美少女二人に吉良は話し掛ける。
苛ついた気分が沈静化して比較的穏やかな雰囲気に戻った吉良ではあるが、やっぱり冷淡で静かな雰囲気の抜けてなさがシリアスな恐怖感をもたらす。
「う、うるさいわね!どんな卑怯な手を使ったか知らないけど、正々堂々と戦えばキョウヤは負けないんだから!」
「そうよ!キョウヤがこんなに易々と負けるはずなんてないんだから!こんな勝負認めない!」
ミツルギは連れの美少女達からの信頼は厚いらしい。
少女たちは反抗的な目で吉良を睨みつける。
「ナアナアナアナアナアナア!君たち、目ン玉は飾りなのかァ~~~~?」
動じるどころか、グイグイとミツルギの連れの美少女に詰め寄る吉良。
ちょっと顔が近過ぎる。
少女達と吉良の年齢差も相まって、側からみたら事案が発生している様にしか見えない。
「私は正面から決闘に臨んだし、実力だけで勝負したんだ。それが見えなかったとでも言うのかね?」
「どうせキョウヤに勝てないからって小細工してたんでしょ!」
「そうよ!」
「ここまでくると見苦しい言い訳にしか聞こえないな…。私の【キラークイーン】の特殊能力を知らないからと言って、それを小細工扱いするっていうのはお門違いだ」
「「何ですって!?」」
「それに、私たちの身体能力とか魔法とかは、全てレベルに支配されている。勿論私もそれを実感している」
「何が言いたいのよ!」
「言いたい事があるなら、はっきり言ったらどうなの?」
「ソードマスター君のレベルは30程度だそうだね。それに対して私たちのレベルは10程度だ」
「だから何が言いたいのよ!」
「まだ分からないかね?卑怯っていうのは、歴然としたレベル差がありながら、私たちに決闘を挑んだソードマスター君の方じゃあないかと言っているのだよ!あァ〜〜〜〜?」
吉良は自分が卑怯者だと言われ、かなりムキになっている様だ。
レベル差があったのは確実なんだろうが、これはこれでやってる事が大人気ない気がするのは俺だけだろうか。
転生特典の魔剣をぶっ壊したりとか。
「まあまあ吉良さん、落ち着いてください。そんな事より早くギルドにクエスト完了の報告を済ませに行きましょうよ」
「……そうだなカズマ。こんなくだらん負け惜しみに付き合うべきではないな。無駄なストレスを溜めるのは良くない事だ」
すんなりと吉良が引き下がってくれた。
さっきみたいにまたブチ切れられたら面倒と思っていただけに安心した。
もうブチ切れてんじゃんというツッコミはしてはいけない。
「覚えてなさい!次は負けないんだから!」
「か、覚悟しておくことね!」
美少女二人はミツルギの代わりに捨て台詞を吐くと、気絶したミツルギを連れて去っていった。
吉良はその様子をつまらなさそうに見ていた。
「よーし!一件落着した事だし早くクエスト完了の報告を済ませるわよ!」
「そして、カズマの奢りでご飯を食べましょう!」
「次のクエストに向けて英気を養わなくてはな!」
「おい、誰が奢るって言った?」
「君が言ったじゃあないか。ま、私にはその必要は無いがね」
「言ってないです」
アクアに深いトラウマができてしまったり、転生者に絡まれたり、吉良がブチ切れたりと散々な一日だった。
吉良の【キラークイーン】の能力で唯一の転生特典である魔剣グラムを破壊されたミツルギは本当に気の毒だが、内心はざまあみやがれって感じだ。
こうして波乱万丈な一日がまた終わる…はずだった。
怒涛のジョジョネタラッシュ!!
「だが断る」をこの回を書く前に使ってしまったのは痛感のミスだったわ…。
ミツルギ君については気の毒としか言いようがない()
ドン底から這い上がって新たな力に目覚めるというのは別のお話(があるとは言ってない)
あれ?神器壊すとかさりげなくヤバい事やってね?
吉良めぐみんその②
めぐみん「アクア、ダクネス…、美しい手をした女だ」
カズマ アクア ダクネス「「「衛兵さん、コイツです」」」
めぐみん「フフフ…なんというか…その…ぼっ…」
カズマ「やめろおおおお!お前が言うと色々ヤバい!!」
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この吉良吉影に平穏を!
一応名前は伏せておきますが、誤字報告してくださる方には感謝しきれないです。
このすばの新しい映画が出るらしいですね!
「紅伝説」ってタイトルにあるけど5巻目内容をするんじゃないだろうな…ッ!?
ワガママだけどそれは3期で見たいな…。
5部のアニメはアバとジョルノとフーゴ、みんなカッコ良かったね(小並感)
次回はやっと生ハム兄貴だ(歓喜)
いるか分かんないけどジョジョ見てない人も次回だけは見てくれえええ!
え?来週はジョジョの特番?
ふざけんなああああああああああ
放送は土曜深夜一時(金曜二十五時半)ですッ!
…ジョジョの一番くじ、爆死しました。
フィギュア欲しい…。
このすばは引いてないです。ごめんなさい。
あ、最終回っぽい題名ですが全然そんな事ありません。
異論は認めないのでご了承ください。
これが俗に言うデジャヴというものであろうか。
私はまた同じ光景を見ている気がする。
「いい加減しろおおおお!!」
街の外には大勢の冒険者が集まり、いつにも増した緊張感を漂わせている。
冒険者達の視線の先に見えるのは見覚えのある首無しの黒馬に跨る黒騎士の姿。
そこには魔王軍の幹部デュラハンがいた。
何と言っているか分からないが、デュラハンは丁度一週間前に来た時のように怒鳴り散らしていた。
悪の手先だというのに地団駄でも踏んでいそうな怒り具合には、マヌケなイメージを覚える。
「わざわざ一週間前に忠告しにきてやったというのに、懲りずに俺の城に爆裂魔法を打ち込んできやがってえええ!!」
アクアに訳の分からんクエストに連れていかれ、転生者の小僧と決闘してストレスが溜まっているというのに、デュラハンはやってきた。
爆裂魔法がどうとか聞こえたが、まさか頭のおかしい小娘が馬鹿の一つ覚えのように爆裂魔法を打ちにいっていたというのか?
だとしたら、【キラークイーン】で吹っ飛ばしてやらねばならん。
「おい、めぐみん、お前また爆裂魔法を打ちにいってたのか?」
「欲求がどうしても抑えられなくて…」
「貴様か!紅魔族の娘!爆裂魔法をポンポンと撃ち込んできたのは!!」
「ええ、いかにも。あなたの城に爆裂魔法を放ったのは私です。我が名はめぐ…」
「この前の【キラークイーン】とかいう変な精霊みたいなのを操る男はどうした?」
「ちょっと待てい!私の自己紹介を聞け…って、確かにヨシカゲの姿が見えませんね」
私は門の上から双眼鏡を片手に、デュラハンとそこに駆けつけた冒険者達はじっと眺めている。
デュラハンが何を言っているのか分からなかったのは、そういう理由があるからだ。
怖いから指をくわえて陰から傍観している訳ではない。
「そういえば吉良さんがいない。アクア、吉良さんがどこにいるか知らないか?」
「私がそんな事知る訳ないじゃない。ダクネスはどうなの?」
「私も知らない。ついさっきまで一緒に行動していたはずだが…」
「何でこんな肝心な時に限っていないんだよ…」
カズマが落胆している様子がよく見える。
どうせいつもみたいに文句を垂れているのだろう。
「爆裂魔法の件のついでに、影の薄そうな男と途中邪魔が入って終わらなかった戦いの決着をつけてやろうと思っていたが、いないものはしょうがあるまい」
まだ戦闘が始まりそうにないが、こちらにとっては好都合だ。
私が人目に付かない門の上にいる理由は、ここからデュラハンを攻撃して
【キラークイーン】の射程距離は精々一、二メートル程度。
こんな離れた距離からデュラハンに攻撃が届くのかと思うかもしれないが、私には作戦がある。
「ウニャアアア!!」
私は宿屋の花壇でのんびり日光を浴びながら気持ち良さそう昼寝していた【
そのせいで【
良心の呵責というか、私には人の幸福を邪魔して喜ぶ趣味は無いので、【
安眠を妨害する事が何よりも愚かな行為だという事を私は知っている。
だが、
「【
【
「【キラークイーン】第一の爆弾…」
【
今回の場合は、触れれば爆発する【接触弾】に変えた。
私の考えた作戦とは、門の上から映画に出てくる
「そんな事よりも俺は爆裂魔法を撃ち込んできて調子に乗っている貴様ら人間が気に入らん!駆け出し冒険者の街だから手を出してこなかったが、一人残らず皆殺しにしてやる!!」
デュラハン目掛けてユラユラと飛んでいく【接触弾】。
デュラハンは相変わらず怒鳴っているが、それを待ってやるようなお人好しではない。
戦闘が始まらない事は、デュラハンが無防備な状態でいてくれるから好都合なのだ。
特に【接触弾】の場合は、対象に触れなければ爆発しないので、なおの事好都合だ。
【接触弾】は【着弾点火弾】のように爆発させるタイミングを選べない代わりに、接触して初めて爆発するのでより強い威力を期待できる。
「『我が名はベルディア』『我が軍の城の平穏のために!』『我が主人魔王様の覇業の成就のために』………『この俺が貴様らを地獄の底へブチ込んでやる』人間共…………」
針に糸を通すように精密に、メジャーリーガーのイチローがレーザービームで補殺するように的確に、デュラハンを狙いを定める。
手で大雑把な距離を図り取り、ブレのないように【接触弾】を操作する。
【接触弾】は着実にデュラハンに向かって近づいていく。
着弾まであと三十メートル、二十五メートル、二十メートル…。
「ベルディアッ!あんたの野望、私が打ち砕く!【ゴッドブ…」
「アンデッドナイト達!!出てきてこいつらにファンファーレという悲鳴を吹かしてみろッ!」
「「「WRYYYYYYYYY」」」
「ええええ!!なんかいっぱいで出てきたんですけどおおお!!」
チッ、何という事だ…。
地面からアンデッドが大量に現れるだと…ッ!
これじゃあデュラハンを狙いにくいじゃあないか!
「おれの名はペイジ」
「ジョーンズ」
「プラント」
「ボーンナム」
「「「「血管針攻撃!」」」」
「ふるえるわハート!燃えつきるほどヒート!!刻むわ血液のビート!【ゴッドレクイエム】!!」
「「「「タコス」」」」
「どんなもんよ!ってまだまだ全然いるんですけどおおおお!!」
アクアがアンデッドを数体まとめて倒すが、アンデッドの数がキリが無い程多い。
デュラハンの奴め、厄介な事をやってくれたものだ。
自分の立てた計画が上手くいかないのは実に腹立たしい。
いや、ここはアクアがアンデッドに強いアークプリーストだという事が不幸中の幸いと思っておくべきか。
「え、ちょっ、嘘でしょ!?」
「「「UREEEYAAAAAAAA!!」」」
「私のそばに近寄るなああーーーーーーーーーーッ!!」
アークプリーストだという事で期待していたアクアだったが、尻尾を巻いて逃げ出した。
問題ばかり起こして、少しは役に立てないのか。
「ちょっと何で私ばっかり追ってくるのよおおおおおお!?」
「「「KUAAAAAAA!!」」」
邪魔だったアンデッド達がアクアに吸い寄せられるかのように、アクアを追いかけ始めた。
少しも役に立たないというのは訂正しよう。
ちゃんと役に立ってくれた。
ただし、アンデッド達を誘導する
これで心置きなく【接触弾】をデュラハンに撃つ事ができる。
「おいめぐみん!あっちの丘で爆裂魔法を唱えて待機していろ!」
「爆裂魔法ですか!?任せてください!」
「俺が合図したらアンデット達に爆裂魔法を撃ち込むんだ!」
「分かりました!」
カズマがめぐみんに何か指示を出したようだ。
それを聞いためぐみんが丘の方に走り出した。
そして、何かブツブツと唱え始めた。
ま、まさか
「…紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者…」
頭がおかしい小娘の爆裂魔法を撃ち込まれたら、せっかく撃ち出した【接触弾】が風圧で弾け飛んで無駄になってしまう。
さっきはカズマ達に気を取られていたから良かったものの、今のデュラハンは完全に戦闘モードに入っている。
神経が研ぎ澄まされたデュラハンに【接触弾】を撃ち出す事は、容易な事ではない。
「だから何で私ばっかりいいいい!!」
「【キラークイーン】ッ!【接触弾】を戻…」
「今だ!めぐみん!!」
「【エクスプロージョン】!!」
「爆裂魔法だと!?しまっ…」
爆裂魔法が盛大に炸裂した。
門の上にいる私さえも吹き飛ばされそうな程の風圧が生まれ、視界が黒煙に覆われた。
「やったか!?」
「あの頭のおかしい小娘、やりやがった」
冒険者達がざわめき始める。
大方デュラハンを倒したという期待をしたものだろう。
私もデュラハンが
それなら【接触弾】がデュラハンに命中しなくても文句は無い。
そして、徐々に煙が晴れる。
「あ、あれは…」
「嘘…だろ」
期待に満ちていた冒険者の顔が一瞬にして絶望の色に染まる。
爆裂魔法によって出来たクレーターの上に立つ
「フハハハ!!今の爆裂魔法でこの俺が倒せると思っていたのか!残念だったな。俺の鎧は魔王様の加護を受けた特別製なのだよ!」
煙から現れたのはデュラハンだった。
予想はできていたがデュラハンは生きていた。
地面にクレーターを作る程の威力の爆裂魔法を受けたのにも拘らず、ほとんど無傷でピンピンとしているとは全く恐ろしい奴だ。
ただし、馬は綺麗さっぱり吹っ飛ばされてしまったようだ。
アンデッド達も吹き飛んでしまっている。
「あの小娘、どれだけ私の邪魔をすれば気が済むのだ…ッ!」
無傷のデュラハンに対し、【接触弾】は見る形も無く消し飛んでしまった。
つまり私の作戦は無駄になってしまったのだ。
「このクソカスどもがァーーーッ!!」
「ん?今何か聞こえなかったか?」
しまったッ!
私が門の上にいるのをデュラハンに見つかってしまったか…ッ!?
どちらにしろ、しばらく身を陰に潜めるしかないな。
「気のせいか…?まあいい。この俺に爆裂魔法を直撃させるとは対した奴だ」
「嘘だろ!?めぐみんの爆裂魔法をモロに喰らってこれってありえねえええ!!」
「わ、私の爆裂魔法が効いていないなんて…。あ、もう、体力が持ちません………」
「ワハハハ!!この紅魔の娘に免じて、この俺、ベルディアが直々に貴様らの相手をしてやろう!」
デュラハンの高らかな笑い声以外は何の音沙汰は無い。
どうやらバレていないようだ。
そうとなれば再び【接触弾】を撃ち出すとしよう。
「【接触弾】…ッ!!」
次こそは絶対にデュラハンに【接触弾】を当ててやる。
「魔王軍幹部を倒せば一攫千金だ!俺は行くぜ!」
「俺も行くぜ!独り占めにはさせねえ!」
「多勢に無勢だ!やっちまおうぜ!」
「「「おう!!」」」
何があったか分からないが、デュラハンは堂々とした立ち姿をしている。
自ら戦いに出る事という事か。
誰か知らない屈強な男が先陣を切り、大勢の冒険者が前線に出始めた。
ええい!これじゃあさっきと同じじゃあないかッ!
また【接触弾】が狙いにくくなってしまう!
「俺達も続くぞ!」
「行くぜオイ!」
前衛の冒険者に続く形で他の冒険者達も走り出す。
「数で攻めれば勝てると思っているんだろうがそれは甘い!」
…ま、呆気なく切り捨てられて終わるのがオチなんだろうが。
「この程度の意思の冒険者がこの俺に勝てると思うなよ!!」
「「「何!?」」」
デュラハンは腕に抱えた自分の頭を空高く投げ上げると、大剣を華麗に振り払った。
瞬き一つした時には、すでに剣で斬られ倒れた冒険者達の姿が見えた。
デュラハンは投げ上げた自分の頭をキャッチする。
邪魔にはなったが、【接触弾】をデュラハンの間合い近くまで飛ばすための時間稼ぎにはなってくれた。
「フフフ…苦労したがこれでデュラハンに【接触弾】を命中させられる。デュラハンまで残り十メートル。まだ気づく様子は無い…ッ!」
「つまらんな。さっきの爆裂魔法には感心したが、所詮は駆け出し冒険者の街の冒険者だな。さっさと終わりにしてやる」
「待て!次の相手は私だ!」
「貴様、クルセイダーだな?紅魔のアークウィザードといい、アンデッドナイト達に追いかけられていたアークプリーストといい、骨のある奴もいるようだな」
急に前へと飛び出すダクネス。
ダクネスの背後には【接触弾】が迫っている。
急に飛び出してくるんじゃあないッ!
少しヒヤリとさせられたが、今は
デュラハンはダクネスに気を取られ、目の前の【接触弾】に気づいていない。
これはチャンスだ…!
「面白い。かかってくるがいい!」
「行くぞ!はああああああ!」
堂々と構えるデュラハンにダクネスが果敢に斬りかかる。
その隙に【接触弾】をデュラハンの背後に旋回させて…。
「何だ?この
「は?何を言っているのだクルセイダー?」
デュラハンに立ち向かった思えば、急に立ち止まるダクネス。
「触ってみるか」
次の瞬間、
ダクネスは吹き飛ばされ、その勢いで宙を舞う。
「うおおおおおおおおおお!!」
「な、何が起きたのだ!?」
叫び声を上げるダクネスと戸惑うデュラハン。
それを見ている冒険者は何が起きたのか分からず混乱している。
ダクネスは倒れ気絶した。
デュラハンはあまりの出来事にまともなリアクションも取れず茫然している。
「ダクネスうううううう!!」
「何なのあの爆発!?訳が分からないんですけど!?」
「まさかあの爆発って吉良さんじゃ…」
「え?ヨシカゲの?」
カズマとアクアの驚く声が聞こえる。
ダクネスが【接触弾】に触れて自爆しただとおおお!!
これじゃあただのマヌケじゃあないかッ!
やや問題のある性格さえの除けばアクアやめぐみんよりも常識があると思っていたが、このクソカスがァ~~~~ッ!!
何を考えているのだ!!
『オイ、コッチヲ見ロオオオオ!!』
「次は何だ!?」
『コッチヲ見ロォォォオオオ!!』
「なあにいいいいいいい!!」
続けてもう一度爆発が起こり、デュラハンがその爆発に巻き込まれた。
爆風によって巻き上げられた砂埃が霧のように立ち込める。
「こ、この声と爆発って【シアーハートアタック】だ!」
「え、カズマ、どういう事よ!?」
「よくは分かりませんがヨシカゲはもうすでに近くに来ていたようですね」
不意を打つために【キラークイーン】第二の爆弾【シアーハートアタック】を射出しておいて正解だった。
【接触弾】が爆発する際に発生する熱を狙って【シアーハートアタック】を射出したのが表に出た。
「そこかああああ!!」
私の方に向かって何か飛んでくるぞ!?
あ、あれはデュラハンの大剣!!
「【キラークイーン】ッ!私を守れッ!!」
『しばッ!!』
私は反射的に【キラークイーン】を出してガードした。
しかし、デュラハンの大剣がここまで飛んできたという事は、デュラハンは
おまけに私がいる場所もバレた!
前線から遠く離れた門の上にいるというのに、だ。
「何なんだ今のは…?人間共が作り出した魔道具か?」
「狙った獲物を絶対に仕留めるという威力では、絶対的な信頼を感じている【シアーハートアタック】の爆破を喰らって生きているだと…ッ!」
【シアーハートアタック】の爆破を受けて多少のダメージで済むと奴は化け物か?
異常な程のタフさと私がいる場所に勘づいた事には恐れ入ったが、デュラハンもまた
「チャンスだ!あいつ、武器を捨てたぞ!」
「あ…」
「喰らえベルディア!!【リトルフィ…【クリエイト・ウォーター】AND【フリーズ】ッ!」
カズマが魔法で出現させた水をデュラハンに浴びせる。
デュラハン少しばかり大袈裟に水を避けようとするが避けられなかった。
しかし、ダメージは期待できない。
デモ鎮圧用の放水車くらいの水圧ならまだ威力に期待できるが、カズマが魔法で出した水は
「何っ!?」
カズマが魔法を唱えデュラハンの足ごとばら撒いた水を凍らせた。
魔法を二重に掛けてデュラハンの足止めをするとは、カズマも中々頭がキレるようだ。
三人の馬鹿がいるパーティーのリーダーをしているだけはある。
そういうところだけは敬意を表する。
「初級魔法を組み合わせて使うとは悪くない考えだ。戦いの参考にさせてもらうぞ。…だがまだ甘い!」
「クソ!」
「初級魔法でこのベルディアを縛ったままにしておけるかッ!」
動きを封じ込められたと思ったデュラハンは、凍った地面から軽々と自分の足を引き抜いた。
初級魔法ではどうにもできない。
これがレベル差というヤツか…。
『今ノ爆発ハ人間ジャネェ!』
「だから何なのだこいつは!?」
『コッチヲ見ロッ!』
「野郎おおおお!」
デュラハンが【シアーハートアタック】を殴りつけた。
それと同時に【シアーハートアタック】は爆発した。
しかし、先程同様デュラハンにはほとんどダメージは無い。
「痛ってえええ!どんだけ硬いんだこの魔道具!」
『痛デデデ…ッ』
「痛デデデってこいつには意思があるのか!?」
『今ノ爆発ハ人間ジャネェ…」
「当たり前だ!俺はデュラハンだ!ってか全然話が噛み合っていないですけど!」
『コッチヲ見ロッ』
「意思があるのか無いのかはっきりしろおおお!」
「間一髪で助かりはしたが打開策が見つけられない。どうすれば…」
あの派手な爆裂魔法も効かなければ、【シアーハートアタック】の爆破も効いてない程の不死身さを前に動揺するカズマ。
私自身、サクッと終わらせるつもりだったが、度重なるハプニングとデュラハンの耐久力には正直焦りを感じている。
このままでは泥沼の戦いも避けられないか…。
クソッ!【キラークイーン】第一の爆弾で始末するしかない!
「そういえば確かゲームではデュラハンの弱点は水だったはず…!」
「ハハハハ!もう何も打つ手無…」
『コッチヲ見ロッテ言ッテルンダゼッ』
「おい!落ち着けって!ちょ、やめろ!」
「戻れ!【シアーハート…、いやこのままでいいか」
ダメージは期待できなさそうだが、足止め程度には使えるから【シアーハートアタック】は戻さないでおくか。
デュラハンの妨害になるのならそれでいい。
「そうだとするならベルディアが【クリエイト・ウォーター】を大袈裟に避けようとしていたのも説明がつく」
『コッチヲ見ロッ!』
「もしかしてこいつ、俺の事が好きなのか?激し過ぎるアプローチも悪くは無いがお断りだああああ!」
「こいつただの遠隔自動操作なんだが…じゃなくて、皆!デュラハンの弱点は水だ!」
カズマが何か提案を思いついたのか、冒険者達に何か呼び掛ける。
あの二人が関わらないないなら安心だが、戦術には長けているモノがあるからとりあえず様子を見させてもらおう。
「水ですって!?」
「水だな!それなら【クリエイト・ウォーター】ッ!」
「私も!【クリエイト・ウォーター】!」
「「「【クリエイト・ウォーター】!!」」」
「「「【クリエイト・ウォーター】!【クリエイト・ウォーター】!クリエイト・ウォーター】!」」」
カズマの呼び掛けに応じるかのように、ウィザード達が一斉にさっきカズマが唱えた水の魔法を唱え始める。
確か【クリエイト・ウォーター】と言ったか?
どうやらカズマが思いついたのは【クリエイトウォーター】をデュラハンに撃つ事らしい。
だとするなら実につまらん策だ。
「うおっ!危なっ!」
デュラハンが【クリエイト・ウォーター】を焦って避ける。
さっき大袈裟に避けたのは気のせいではなかった。
まさかデュラハンの弱点は水なのか!?
カズマはそれに気づいて…。
そうと決まれば私も門の上から降りて援護に行くか。
もう居場所はバレてしまっている訳だしな。
「おいアクア!お前の出番だ!」
「え?何?あのデュラハン、水が弱点な訳?」
「そうだ!デュラハンの弱点は水だ」
「よし!それじゃあ行くわよ!」
アクアが冒険者達の前まで駆け出す。
マズい!アイツは絶対に何かしでかすッ!
奴を調子に乗らせてはならないッ!
「【シアーハートアタック】ッ!どうにか小娘を止めるんだッ!」
「水の女神、アクアが命ず…。【セイクリッド・クリエイト・ウォーター】ッ!!」
アクアが魔法を唱えると、何処からとも無く大量の水が出現した。
そして、大量の水はその周辺一帯を押し流してしまった。
「誰がそこまでしろと言ったああああ!!」
「いいや限界だ!押すね!【バイツァ…ゴボゴボ…」
目の前で起こっている事に絶望のあまり【キラークイーン】第三の爆弾【バイツァダスト】を発動させそうになるが、その前に門が崩れて私は大量の水に押し流されてしまった。
この後の惨状は凄まじかった。
守るはずの街は半壊状態、大量の水に流された冒険者達がそこらに倒れ込んでいる。
まるで大量破壊兵器によって攻撃された後のような光景だ。
何を勘違いしたらこうなるまで水を出せるのだッ!!
「よし!これでデュラハンはかなり弱っているはずよ!」
「この小娘がああああああ!!【キラークイーン】!!」
「吉良さん、落ち着いてくださいいい!!」
「え?何!?きゃああああああああ」
「あーあ、やっちゃったか…」
アクアは始末した。
黒焦げの状態で地べたに這いつくばっている。
後はデュラハンの息の根を止めるだけだ。
「お、お前はいつぞやの冒険者か!?」
「言い残すのはそれだけか?」
「言い残すだと?フ、あのアークプリーストを吹っ飛ばしたのは悪手だったな。いくら弱った俺でも貴様には倒せん!」
「【キラークイーン】ッ!!」
『しばッ!』
デュラハンは【キラークイーン】の拳を受け止める。
「貴様には俺を倒せんと言ったろう!」
「【キラークイーン】は『触れた物何でも爆弾に変える』能力がある。あのアークプリーストを吹っ飛ばしたのもそれだ」
「…ふ、触れた物を爆弾に…?冗談はよせよ………」
「【キラークイーン】!!第一の爆弾ッ!!」
「うおおおおおおおおお!!」
【キラークイーン】のスイッチを押す。
すると、デュラハンは跡形も無く爆発して消え去ってしまった。
「「「やったぞおおおおおおおおお!!」」」
「カズマとおっさん、やりやがった!」
「す、すげえ!」
「あのおっさんってこの前もデュラハンと戦ってた人じゃねえか!?」
「あのおっさんもカズマのパーティーメンバーだろ?」
「マジだ!あのおっさん、すげえよ」
冒険者達からの歓声が上がる。
私はデュラハンを倒した。
我々の勝利だ。
アクアが魔法で門を破壊した時にはどうなるかと思ったが、無事に終わった。
しかし、この戦い、いやアクアのせいで私が寝泊まりしている宿屋は
ようやくこの世界に来て住み慣れた宿屋だというのに…ッ!
あの小娘、絶対に許さんッ!!
気が治るまで【キラークイーン】で吹っ飛ばしてやるッ!!
こうして『『
『ニャン♪ニャン♪』
「?」
【
まだ使いたいジョジョネタあるけど延期。
「だが断る」みたいになりたくないから。
中の人ネタ
アクア「え?カズマがスタンド使い?」
カズマ「【リトルフィート】っていうんだが小さくなったり小さくしたりできる」
めぐみん「変態の能力ですね」
ダクネス「全くだ。小さくなってあんな事やこんな事したり…。くっころ」
カズマ「おい待てや。何も言ってないだろ」
吉良「新手のスタンド使いだとッ!始末せねば!」
カズマ「え!?」
???「私は上院議員なんだ!」
???「容赦せん!」
???「LUCK幸運を、PLUCK勇気を」
カズマ「誰だあんたら?」
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吉良吉影は冬を越したい
ジェントリー・ウィープスな冬 その①
楽しみにしてださった方には本当に申し訳無い。
もう一つお詫びしなければならないのが今回から分割して投稿しようとしている事です。
そうしないとモチベが持ちそうにないので…orz
でも書きたい。
ストーリーの進行がアニメの再放送にも抜かれるという始末。
本当にすみません。
投稿速度が伸びるといいなあ…。
ジョジョ五部、やっとボスが登場しましたね。
ヌメヌメ動いてビックリした。
それより最近杉本鈴美の声優がルナと同じと知ってビックリした。
…まただ、また爪が伸びる。
目に見える速さでグギギと不快な音を立てて伸びている。
ほんの数秒の間に一センチも伸びてしまった。
人は爪が伸びるのを自らの意思で抑えられないように、胸の内に秘めた『性』を隠したままにする事はできない。
急激に爪が伸びる時期とはそういう時期だ。
思えばこの世界に転生してからというもの、まだ一人として私の側には『彼女』ができていない。
【キラークイーン】で始末してやろうとした事はあったが、それでもまだ人を殺してはいない(厳密には【キラークイーン】で爆弾に変えても死なないというのが正しい。この世界の人間は不死身なのか)
私の目指す『植物の心』のような『平穏な生活』がこの世界には無い。
私の『性』は完全に鎖で縛られている。
つまり爪が伸びる時期というのは、精神的に追い詰められている時期という訳でもあるのだ。
「…すまない。何を言っているのか全く理解できないのだが…?」
私は今冒険者ギルドのクエストの受付カウンターにいる。
そこで申し訳なさそうな態度で私と話しているのはギルド職員の女だ。
彼女の名前はルナ、受付嬢をしている。
私が亀ユーに勤めていた頃の同僚なら「彼女の名前は『ルナ』。仕事は熱心にこなすし、可愛らしさただよう顔と物腰をしているため、男性冒険者にはもてるんだぜ」と自慢げに紹介している事だろう。
「大変申し上げにくいのですが、キラヨシカゲ様に八百万エリスが請求されています…」
「そんな事を言っているんじゃあないッ!!なぜ私が八百万エリスもの大金を払わなければならんのかと聞いているんだッ!!」
いきなり八百万エリスもの大金を払えと言われても、「はい分かりました」と答えられるはずが無いだろう。
八百万エリスという額は、はっきり言って今の私にとって払いきれない額だ。
そこまでの額の請求をされる覚えも無いし、ふざけているのか?
「それがですね、この前魔王軍幹部のデュラハンが襲来した時にアクア様が街の門を破壊されてしまったので、その修繕費としてアクア様が所属しているパーティーには合計四千万エリスが請求されているのです…」
融通が効かない女だ。
それだけに可愛らしい手と顔が勿体無い
私の下にくれば清い心になれるというのに、殺す事ができないのは辛い事だ。
今すぐにでも背後から忍び寄って、そのポキリと折れてしまいそうな首を絞めてやりたい。
だが、そんな事はしない。
彼女が居なくなるって事は、その分私達冒険者に支障を来たす事に成りかねないからね。
「私は正式にはあのパーティーには属していない。ただの雇われ冒険者だ、この請求は私には関係無い」
私に門の修繕費が請求するってのは、的外れな事だ。
寧ろデュラハン戦で一番貢献したのは私なのだから、特別報酬が出ても良いくらいじゃあないのか?
事実、デュラハンにトドメを刺したのは他ならぬ私だ。
「パーティーには属していなくても、クエスト中に出てしまった損害賠償は、その時のパーティーメンバーが連帯して負わなければならないという規則になっていますので…」
「待て待て待て待て。それじゃあ尚更私は関係無い。何せデュラハンが襲来してきた時のクエストは、私は単独で参加したのだからな」
「え?ですが、クエスト終了後に記入された書類には、アクア様のパーティーメンバーの欄にキラヨシカゲ様のお名前が…」
「は…?そんな話聞いていないぞ。…そういえば、デュラハンを倒した後にクエスト完了の報告をギルドにしてくると言っていた。あのくそったれ女神……やってくれたなッ!」
女神といっても疫病神が良いところだ。
いつも何か良くない事を巻き起こす。
今回に限ってはクエスト終了後の重要な書類に、人様の名前を勝手に書き込むという始末だ。
常識しても度が過ぎる。
そもそも文明的なレベルに差があるからか、この世界の法律は日本みたいに厳格な整備がなされておらず、かなりいい加減な所が多い。
本人確認ぐらいまともにしろ。
「どうかされましたか?」
「…いや何でも無い」
何を言っているんだ私はッ!
何でもあるんじゃあないかッ!
不当な借金を背負わされようとしているのだぞッ!
「そ、そうですか」
「何でも無いじゃなくてどうにかならないのか?」
「そう仰られましても規則だとしか言いようが…。正式な手続きが踏まれた上で、キラヨシカゲ様を含めたパーティーにデュラハン討伐の報酬が支払われてしまっていますので、取り返しがつかないと言うか何と言うか」
「何だとォ!?そんな話、聞いちゃあいないぞッ!私を蚊帳の外においてする事じゃあないだろ…ッ!!」
「そういう理由もあってパーティー登録及び賠償の取り消しは不可能になっていますね…」
この吉良吉影が多額の借金を背負わされるだと…ッ!
『平穏な生活』を目標している私が、どうして毎度毎度こんなにも酷い目に遭わなければならんのだ…ッ!
いつも通りならまだマシだが、今回の場合は生活そのものに直結する非常事態だ。
もはや『『安心』なんてない所』だとか、そういった尺度で計り知れる事ではない。
「あの小娘、今度こそ【キラークイーン】の能力で消し飛ばしてやるッ!!」
「キラヨシカゲ様、落ち着いてください!!」
こうして四面楚歌な世界で、借金という新たなトラブルを抱える事になってしまった。
今日は一段と爪の伸びが早い。
分割投稿という事は小ネタ集が増えるね!ヤッター(小並感)
ルナ「裁いてもらうがいいわッ!」
吉良吉影「わたしはいくら…払わされるんだ……?あ…ああ」
ルナ「さあ……?でも『安心』なんて
吉良吉影「うわああああああああああ」
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ジェントリー・ウィープスな冬 その②
急にお気に入りなどが増えてビックリ。
皆さん、ありがとうございますッ!!
このペースが続くといいなぁ。
最近北斗の拳を読み返したんだけど雑魚達が楽しそうだと思った。
世紀末って何でこんなにバイタリティに溢れてるんだろうか。
私には常日頃から強く願っている事がある。
それは『植物の心』のような『平穏な生活』を送る事。
この思想は子供の頃から変わらない不変の真理であり、これからも揺らぐ事は無い、絶対だ。
だから、私は空条承太郎達に追い詰められようとしていた時も杜王町から決して逃れる事は無かった。
この信念があったからこそ私は【キラークイーン】無敵の能力【バイツァダスト】を発動させる事ができた。
あの時感じた深い『絶望』が私を『成長』させてくれたのだ。
この世界に初めて来た時と同様、最悪な時にこそ『チャンス』は訪れる、私は自分に味方してくれる『運命』を信じている。
しかし、時として『運命』は非情である。
私の目の前にあるのは膨大な借金の山。
あろう事か、私は最低でも八百万エリスもの借金を抱える事態になってしまったのである。
私は抜き差しならない状況に途方に暮れていた。
この件に関してはもはや私の手だけに負える話ではない。
私はひとまず宿屋に戻って今後の方針について考えを整理しようとした。
しかし、信じているはずの『運命』は私にそんな事をする時間さえも与えてくれない。
私は有無を言うまでも無く宿屋から追い出されてしまった。
そして、挙げ句の果てに貯め込んでいた所持金もその大半が借金の返済へと持っていかれてしまった(【
あまりにも酷過ぎる仕打ちだ。
これだけでもかなり厳しい局面に突入しているというのに、季節はもう既に冬を迎えてしまっている。
この世界の冬はまつ毛が凍りつく程に寒いらしい。
杜王町と同じだ。
寝床が無い生活を送る事になれば最悪の場合、凍死してしまうかもしれない。
未曾有の危機だ。
「あの小娘、絶対に殺してやるッ!!」
それだけに私をこんな人生における深淵に陥れたアクアには、自分でも底の見えない怒りを感じている。
トラブルには巻き込まれ、借金まで背負わされるという始末。
『屈辱』を感じるし、深い『絶望』に落ち込んでいる。
私は今『運命』の『下り坂』に立たされているのかもしれない。
本当に私の人生には浮き沈みというものが多い。
多額の借金を抱える私は行く当ても無いので、腹わたを煮えくり返すくらいの苛つきを噛み締めながらも、ギルドへと足を運んだ。
「あ!ヨシカゲじゃない!」
そこで偶然居合わせたアクアが呑気に私の下まで駆け寄ってくる。
側にはいつもの三人がいる。
よくもまあ、能天気に私の側に駆け寄ってこれるものだ。
「【キラークイーン】…」
「へ!?」
アクアにかけてやる憐れみや慈悲なんてものは無い。
【キラークイーン】でアクアの顔面を鷲掴みにして爆破させてやった。
だが、相変わらず黒焦げになって倒れるだけで、木っ端微塵に吹き飛ぶ事は無いようだ。
言うまでもなく、これだけで私の気は治る事は無い。
できる事なら、じわじわとなぶり殺しにしてやりたい。
広瀬康一をなぶった時以上の苦痛を与えてから。
「このくそったれが!疫病神か貴様は!」
「どうして私が……」
養豚場の豚を見るような目でアクアを見下ろすと、アクアは口から黒煙を吐いてその場に倒れ込んだ。
「またですか。一体アクアは何をやらかしたんです?」
近くにいためぐみんがやれやれと呆れたようにため息を吐く。
他人事みたいに言うが、貴様も関係者なんだぞッ!
【接触弾】を爆裂魔法で掻き消されずデュラハンに命中させられれば、一撃必殺とまでいかなくても多少なりダメージになっていたはず。
そうしたら、アクアに
「出会い頭に爆破とは羨ましいぞ!いつもアクアばかりずるい!」
誕生日プレゼントを買い与えられた子供のようにダクネスは目を輝かせる。
罵ると逆に喜ぶから口には出さないでおくが、その被虐嗜好はどうにかならんのか?
おかげで得体の知れないものを見た時のような、不穏な身震いが止まらなくなるじゃあないか。
「ご褒美じゃねえんだから。しょうがねえなぁ〜〜〜ッ!…って吉良さん、またこのバカがどうしかしたんですか?」
カズマはダクネスに悠長にツッコミを入れた後に、恐る恐るといった様子で私の顔を見る。
わざわざ私の口から説明しないと分からないか?
いや、どうせアクアの事だから私にも借金が課せられてしまった事を話しちゃあいないんだろう。
「どうもこうも無い。この小娘のせいで一人八百万エリスも借金を背負わされているそうじゃあないか」
「ああ…その事ですね…」
「お陰で私は所持金の大半を持っていかれるは、宿屋を追い出されるはで大忙しだ」
「え………………」
カズマはまるで雷に打たれたみたいに絶句して、顔を俯かせる。
その表情は肥溜めに溺れかけたネズミなんかよりも絶望しきっている。
やはりカズマは私の借金の事をアクアから聞いていなかったようだ。
そして、大きく空気を吸い込むと大きく口を開いた。
「………アクアが本当にすみませんでしたああああああ!!」
カズマはドラムを叩くように顔面を何度も地面に叩きつけ土下座する。
最初はアクアに魔法の指示を出したカズマも吹っ飛ばしてやろうと思ったが、何だか気が引けてきた。
…アクアに対してはもう何も言う事は無い。
「デカい声を出すんじゃあない。変に視線を集めちまうじゃあないか。顔を上げたまえ」
どんな窮地に立たされようとも私の『平穏な生活』を求める気持ちは変わらない。
しかし、四千万エリス(一人八百万エリス)という膨大な借金の前では元も子も無い話だ。
「謝罪は要らない。重要なのは四千万エリスもの膨大な借金を返す手立てがあるのかという事だ」
「…無いです。地道にクエストをこなして、その報酬で返済するしかないです…」
カズマは土下座の体制のまま顔を上げる。
出血してはいないが、額は真っ赤になっている。
借金返済の為に命の危険と隣り合わせのクエストに行かなければならない。
果たしてこれが人類の脅威である魔王軍の幹部を倒した私達に対する正当な待遇なのだろうか。
私はただ『平穏な生活』を求めていただけなのに…。
アクアが唱えた魔法が原因で招いたこの現状だが、私達に何の救済処置も施そうとしない政府や法律もクソったれだ。
この街の領主にはクレームを入れてやる。
「……やはりひたすらクエストに行くしかないか…。四千万エリスなんてシャレにならん額だぞ………」
しかし、文句ばかり言ってはいられない。
こうなった以上、暗闇よりも深い闇に進むべき道を切り拓く『覚悟』をせねばなるまい。
『平穏な生活』のために借金という名の『試練』を乗り越える『覚悟』を持つのだ…ッ!
過程や方法などどうでも良い。
借金を完済するという『結果』のみが今の全てだ。
借金を返せれば良かろうなのだ。
「激しい『喜び』はいらない。その代わり深い『絶望』も無い。『植物の心』のような『平穏な生活』こそ私の目標だったのに………。このくそったれ共が…ッ!」
再び爪が伸びるのを感じる。
爪が伸びているというのに、絶好調どころか絶不調だ。
「…クエストへ行こう」
「え?今なんて…?」
「クエストへ行こうと言ったのだよ。アクアが蒔いた種を刈り取ってやろうと言っているのだ。…私が自らクエストに行く事を提案するのが意外だと思っていたのかね?」
「あ、まあ…確かにそうは思いましたけど…」
「あのマヌケが門を破壊なんてしなければ、こうは言わなかったがね…。…で、どうなんだ?クエストに行かないのか?」
「これから行こうとしてたんですけど、どのクエストに決めようか悩んでて…」
「白狼の群れの掃討に、一撃熊の討伐…。どれも物騒そうなものばかりだ」
クエスト掲示板に張り出されたクエストの依頼が書かれた用紙を一通り見る。
この冬という季節には、ジャイアントトードのような雑魚は冬眠に入ってしまい、受注可能なクエストはどうしても高難度のものに限られてしまう。
馬小屋生活がメジャーらしい冒険者にとって冬という季節は凍死してしまうリスクがある(どんなに生活が苦しくても馬小屋で寝泊まりするのは絶対にご免だ)。
冬の過酷さはモンスターとて例外ではない。
モンスターはモンスターで餌となる食物がメッキリと減ってしまい、モンスター同士の生存競争はさらに熾烈さを増すのだ。
そんな過酷な冬に生きるモンスターは血肉に飢えた獰猛なモンスターばかり。
それだけ冬のクエストは初級冒険者が受けるにはハードルが高い。
「…機動要塞デストロイヤーの偵察?」
私の視界にとある奇妙な内容のクエストが入り込む。
機動要塞デストロイヤー、子供が見るような怪獣映画にでも出てきそうな安っぽいネーミングのモンスターだ。
いや、でも要塞というくらいなのだからモンスターとは違うヤツなのか?
「カズマ、これは興味本位の質問だが、ここに貼られている機動要塞デストロイヤーという何なのだ?」
「分かりません。俺も初めて見ました」
「そうか」
「二人ともあの機動要塞デストロイヤーを知らないんですか?機動要塞デストロイヤーといったら、ワシャワシャと動いて全てを蹂躙する子供達に妙に人気があるヤツです」
「そうだ。それに加えて巨大で高速で移動する」
めぐみんとダクネスが、機動要塞デストロイヤーとやらについてガサツながらも教えてくれたが、正直イメージが湧かない。
カズマも私と同じ事を思っているようだ。
名前からして絶対に遭遇したくないような物騒なヤツだという事だけは確かだ。
もっともそんなヤツと遭遇する事なんて
「かなり有名なヤツっぽいな…」
「そうみたいですね」
「それは当然だ。なんたって機動要塞デストロイヤーなのだからな」
「話を戻すが、クエストはどうするのだ?」
「「「…」」」
何も考え付いていないのが、丸分かりなくらいに息詰まるカズマ一行。
「雪精なんてどうかしら!!」
ムクリと起き上がって、声を張り上げるのは先程の【キラークイーン】で爆破されたはずのアクア。
こいつはスタンドに対する何らかの耐性でも持っているとでも言うのか。
そう思うとなんだか段々と気が滅入ってくる。
「復活早っ!!」
カズマの声がこだました。
吉良めぐみんその③
めぐみん「第一の爆弾ッ!くっ…」倒れる
デュラハンの城 ドグオオオン
カズマ「今日の爆裂は80点かな」
めぐみん「よく分かってるじゃあないか」
カズマ「まあそれなりにはな」
めぐみん「しかしキラークイーンの能力一回だけで力尽きてしまうとは体力の無さを実感したよ」
カズマ「確かにそうだ」
めぐみん「今度スポーツジムで『体力』をつけなくっちゃあな。でもあーゆートコでは、一週間もフロに入ってないヤツがチン…」
カズマ「だからその見た目で言うなああああ!後世界観ンンン!」
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ジェントリー・ウィープスな冬 その③
ジョジョって意外と声優の再起用が多いよね。
山口勝平 フォーエバー(ストレングスのオランウータン)→重ちー
諏訪部順一 テレンスTダービー(弟の方)→アバッキオ
津田健次郎 ブラフォード→ティツァーノ
後トリッシュ役の千本木彩花は四部のモブやってたよ。
このすばの再放送も気づけば最終回ですね。
悲しいなあ。
でも2もあるっぽいから良き良き。
私にとっての土曜午前一時というゴールデンタイムは永遠に不滅というわけだあ!!
雪精、それは雪深い雪原に現れるという雪の精霊。
名前の通り、見た目から大きさまで雪そのものと同じだ。
ほとんど本物の雪と相違無しと言っても過言ではない。
ジャイアントトードのような他のモンスターみたく人を襲う事もなければ、何か特別に危険性がある訳でもないらしい。
大量に出現し、一匹を討伐するごとに春が半日早まると言われている。
それと因果関係があるかは知らないが、その貧弱な強さにも拘らず、一匹の討伐報酬が十万エリスと破格の額に設定されている。
「ヨシカゲったらあそこまでする必要無いじゃない!」
「いや、あの額は冒険者が何人か死んでもおかしくない額だ。この程度で済んだだけ、ありがたいと思うべきだ」
「だからって出会い頭にボンッは無いでしょう!ボンッは!」
さっきから私が【キラークイーン】の能力で吹っ飛ばした事に根を持って抗議の声を上げるが、文句を言いたいのはこちらの方だ。
こんな借金までするような『平穏』ではない生活を送る事になってしまった。
だがそれは、異世界転生を世迷い事として適当にあしらってしまったのが、そもそもの発端だったとはいえ、このような事態に巻き込まれてしまうと誰が想像できようか。
「やはりもう一度爆破させた方が良さそうだな。…【キラークイーン】」
「やめてえええ!私が悪かった!私が悪かったから!謝るから許して!」
「ヨシカゲ、やめてやらないか。アクアも反省してる様だし。それでも気が済まないというのなら、代わりに私が…!!」
「それは君が受けたいだけだろ。…もういい気が削がれた」
茶番のようなやり取りだが、本当に気が削がれる。
阿保の虹村億泰の【ザ・ハンド】で削り取られてしまったみたいだ。
いつもアクアやめぐみん達はトラブルを巻き起こすという形で私の『平穏』を掻き乱し、その尻拭いをしてもまた新たなトラブルを巻き起こすという始末。
だからといって制裁を加えやろうとすると、ダクネスが「代わりに私が」とそれを請い始める。
これじゃあストレスの発散すらマトモにできたもんじゃあない。
何の因果があってこうなってしまったのだ…。
「…ふゥ…流石に寒いな…」
「そうッスね…」
「この肌を刺すような寒さがまたたまらん」
「お前は黙ってろ」
私が何か言う度に、カズマ以外の誰かが私の癪に触るような発言ばかりする。
その発言に対してカズマがツッコミを入れるという終わりの見えない無限のループ。
他の奴らを黙らせるより私自身が黙っていた方が早い。
私はその事に今気付かされた。
雪が降り積もり世界が白銀に覆われる中、私達はアクセルの街から少し離れた平原地帯に来ていた。
不思議な事に街には雪は降ってなどいない。
これは雪精とやらの仕業なのだろう。
元々私が住んでいたM県S市杜王町も冬の時期になると、やませの影響で異常な程の寒さに見舞われるが、この世界の冬はそれよりもさらに厳しい。
私達はそんな厳しい冬の中、非情な事にクエストへ行く毎日を強いられる事になってしまったのだ。
これから私達は一体こんな日々をどれほど過ごせば良いのだろうか。
私は途方に暮れていた。
これも全てアクアが呼んだ禍いだ。
「ところでお前ら、そんな格好で大丈夫なのか?」
カズマがアクア達に問い掛ける。
それもそのはず、アクア達は防寒対策をしてるつもりなんだろうが、それにしては薄着に近い寒そうな服装をしている。
ダクネスはいつもの鎧はどうした?
…魔王軍幹部のデュラハンと戦った時に『接触弾』で破壊されたのか。
いや、それならなぜダクネス自体は怪我の一つすらしていないんだ…ッ!?
いくらなんでもタフ過ぎる。
何かのスタンド使いかと疑いたくなる。
それはそれとして、あんな格好のアクア達を見ているコッチの方が寒くなりそうだ。
「私は何の問題も無いが。むしろこの格好の方が寒さを感じられて良い」
「私も大丈夫よ」
「私もです」
私は手袋に厚手のコート、そしてフードを被っているので顔とかの肌が露出している部分を除けば、だいぶ暖かい。
コートの下はいつも通りスーツだ。
さらにスーツの下にも何枚か服を着込んでいる。
「それなら良いがアクア、お前のその格好は何だ?」
さっきから私も気になってしょうがなかったのがアクアの格好。
小瓶をいくつか引っ下げ、手には捕虫網を握っている。
夏にセミを取りに行く小学生かッ!と指摘してやりたいが、私はそういうキャラじゃあない。
カズマもアクアに対して同じ事ご気になっているのだろう。
そういう目をしている。
置かれている環境のせいか、私の性格も随分と緩くなってきた気がする。
「私もそう思っていたところだ。アクア、君はふざけているのか?それともツッコミでも待っているのかね?」
「どうもこうも寒いからこういう格好をしてるんでしょ」
「そういう事を聞いてるんじゃなくて、何で虫網なんか持って来てんだって聞いてんだよ」
「あ、それはね雪精を捕まえる為よ。雪精は自ら冷たさを発するから、一緒に冷やせばいつでもキンキンのネロイドが飲めるわ。小瓶に入れておけば保冷剤の代わりになるってわけ」
保冷剤の代わりになる、か。
冷蔵庫が無いこの世界では、私のような魔法を使えない者にとっては物を冷やすという極当たり前の行為でさえ簡単にできる事ではない。
そう思うと冷蔵庫を発明した先人は偉大な発明をしたものだ。
私も雪精を二、三匹くらい確保しておきたい。
だからといって、馬鹿みたいに捕まえるのは嫌なのでカズマ達には見られないようにコッソリ捕まえるか。
しかし、捕まえた後どうすれば良いんだ?
…【キラークイーン】の胴体に収納するのか?…【
♦︎
私達は雪が降り積もりゆく中雪に脚を取られながら歩き続けた。
そして、見えたのは雪のようにふわふわと綿毛のように空中を漂う雪精の姿。
「いたわ!雪精よ!」
我先にと先陣を切ったのはこのクエストを提案したアクア。
と言っても攻撃を仕掛けるのではなく縦横無尽に虫網を振り回しているだけだ。
一見遊んでいるようにしか見えないが、これでもアクアは大真面目だ。
「俺達も始めるか」
カズマは鞘から剣を抜き雪精目掛けて斬りかかった。
ダクネスとめぐみんもそれぞれ剣と杖を片手にカズマの後に続いた。
各々の思うがままに武器を振り回して雪精を討伐していく。
私が言うのもアレだがパーティとしてのまとまりがまるで感じられない。
街を襲撃してきた魔王軍幹部のデュラハンとの戦いでは特にそうだった。
あの時は連携もクソもヘッタクレも無い、目に余る状況だった。
馬鹿の一つ覚えというべきか。
「仕方ない…私もやるか」
あーだこーだ言っておきながら結局のところ私もカズマ達に続いて雪精の討伐を開始する事にした。
不本意だが雪精は捕まえずに後でアクアから買うか…。
幼稚な企みは無しだ。
「【キラークイーン】…」
私は【キラークイーン】の精密な動作で雪精一匹一匹を確実に潰してその討伐を着々と重ねていく。
「これだけで三十万か」
驚きの高額報酬だ。
私は今三匹の雪精を討伐した。
今までジャイアントトードの討伐クエストで金稼ぎをしていたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「カズマー、爆裂魔法打っちゃっても良いですかー?」
「そうだな。良いぞー!打ってやれー!」
「【エクスプロージョン】ッ!!」
私はめぐみんが魔法を唱えようした瞬間に手で耳を塞いだ。
こんな至近距離で爆裂魔法を打つヤツがあるか!!
もし爆裂魔法の地の果てまで轟くような爆裂音を直接聞いてしまったら耳がイカれてしまうだろう。
ボオンと私の【キラークイーン】の爆弾よりも激しい爆発音が駆け巡った。
「あ、今のでレベルが上がりました」
爆裂魔法を唱えためぐみんは力尽き降り積もった雪の上でぐったり倒れ込んだ。
豆粒のように小さな雪精を仕留めるのは手間がかかる。
【
だが、こんな雪の降る寒いの外に【
何せ彼は半分植物だからな。
ま、泣き言を言うつもりではないのだが。
「これで早くも十匹目か…」
雪精を十匹倒したので貰える報酬は百万エリスだ。
「百万エリスゥ!?」
「どうしたんすか!?」
「どったのー?」
「何事だ!?」
「どうかしましたかー?」
私が突然発した声を聞いてこちらに視線を集めるカズマ一行。
めぐみんは依然雪の上に倒れ込んだままだ。
雪にうつ伏せになっているので声がくぐもって聞こえる。
変人を見るような目で見るんじゃあないッ!!
このクエスト、どこかおかしいと思わんのか!?
私は疑問と驚きを感じざるを得なかった。
物事は単純明快だ。
レベルの低い冒険者でもいとも容易く倒せるようなヤツを十匹倒すだけで百万エリスが貰える。
「イヤイヤイヤこれだけのクエストで何十万、いや何百万エリスもの報酬が貰えるなんて普通に考えておかしいんじゃあないか!こんな美味しい話があるかッ!!」
スタンド攻撃かと錯覚するくらい露骨に報酬が高い。
むしろもうスタンド攻撃の方が楽な気がする。
ミラグロマンの都市伝説か何かか…?
縁起でも無い、悪い冗談はやめにしておこう。
「た、確かにそうですね」
「何何?二人ともこのクエストの事、何も知らない訳?」
私が言った事に同意を示すカズマ。
アクアはそれに当たり前だと言わんばかりに質問を投げかけた。
ダクネスとめぐみんも何も不思議に思ってはいないようだ。
「それはね、このクエストには冬将軍が…」
アクアが何かを言いかけたその時、急に激しい吹雪が吹き始める。
ホラー映画のワンシーンのように急に漂い始める不穏な雰囲気。
私はただならぬ気配を察知して、スタンド本体である私が戦う訳でも無いのに生物としての本能からか、自然に身構えた。
「な、何だ…」
吹き荒れる吹雪の中から二、三メートルは優に超える
オイオイオイオイこれってヤバいヤツなんじゃあないのか。
「出たわ!あれが
アクアが指を指したその先にいたのは魔王軍幹部のデュラハンに匹敵する程の風格を持つ存在。
私がデュラハンと相見えた時以上の威圧感がその場を支配した。
この回はその④で終わり。多分。
めぐみんVS吉良吉影
猫草「ウニャン」
めぐみん「あ〜可愛いですね、ちょむろう」
吉良吉影「それってもしかして
めぐみん「そうですよ」
吉良吉影「それ、本気で言っているのか?」
めぐみん「名前に文句があるならいってもらおうじゃないですか」
吉良吉影「ああ、大有りだ。人様のモノに名前を付けるのは百歩譲って許すとしてもその名前とネーミングセンスは絶対にありえない」
めぐみん「何ですか?パーティの中で最年長だからって自分が偉いと思っているんですか?側から見ればただのロリコンのおっさんにしか見えませんよ。ヨシカゲ、あなたはたった今紅魔族全員を敵に回しました」
吉良吉影「貴様ァ〜〜〜〜ッ!!」
めぐみん「喧嘩なら買いますよ」
吉良吉影「野郎ォォォ!キラークイーンッ!!」
めぐみん「エクスプロージョンッ!!」
吉良吉影「押してやる…バイツァダストを発動するんだ…」
めぐみん「てめーは私を怒らせた」
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ジェントリー・ウィープスな冬 その④
アニメ五部の感想。
ディアボロォォォオオオオ!!
絶頂☆死体
ポルナレフゥゥゥウウウウ!!
ジャーン☆ピエピエ☆ポールールー←ムカつくゥー!!
次の回のOPはキンクリか?
はたまた銀チャリのアレか?(それだったらどう表現するんだ?)
はたまた二、三話後にゴールドエクスペリエンスのアレを…。
このすばの再放送もジョジョのアニメも最終回が近い…。
終わったら何を生き甲斐して一週間一週間を生き抜けば良いんだ…?(空虚な人生)
デッドマンズQの吉良吉影がエリス様の神器回収を手伝う話を書きたいんだけど、時間軸とか考えたらどうしたら良いものか…。
番外(オリジナル)編で書いたら良いのかな…?
「冬将軍だとォ!?何だそれは!!」
私は動揺していた。
そして、自分の迂闊さと不用意さを恨んだ。
私とした事が何故アクアが持ち掛けたクエストだというのに何の警戒もしなかったのか。
雪精討伐の手軽さ故に油断しきっていた。
こんなクソッタレな世界に楽して稼げる美味い儲け話なんてあるはずが無いのだ。
「現れたわね、冬将軍…ッ!」
「だからその冬将軍とは何なのか聞いているのだッ!!」
激しい程の吹雪を吹かせて現れたのは白の武装甲冑。
陣羽織を羽織った荒々しく猛々しい武士の姿。
見た事が無くとも
コイツが冬将軍なのか…ッ!
冬将軍は腰に身に付けた刀を鞘から抜き、立てるように正面に構えた。
八双の構えというヤツだ。
ダクネスも鞘から剣を抜き身構えた。
そして、冬将軍はダクネスに斬りかかった。
「へっ!?」
キンッと綺麗なまでの金属音。
間抜けたダクネスの声も聞こえた一方で私達は衝撃を受けた。
「わ、私の剣が……!?」
冬将軍の刀を受けようとしたダクネスの剣があっさり真ん中から折れてしまったのだ。
折れた剣は勢い良く回転をしながら私の足下に突き刺さった。
ヒヤリと頰を伝う冷や汗。
よく洋画で拳銃の弾丸が頰を掠め取るシーンがあるが、あれとは比にならない程の戦慄が走った。
あのベルディアの時に感じた以上の威圧感というべきか、冬将軍からは凄まじいまでの圧迫感を感じる。
「【キラークイーン】私を守るんだッ!」
こういう時こそ平静を保つべきなんだろうが、そんな事を言ってはいられない。
冬将軍は油断すべき相手ではないのは直感だけで分かる。
それはどんなド素人冒険者であろうと自明だろう。
「ヤツは何なのだッ!冬将軍とやらについて教えろッ!!」
「冬将軍は冬将軍よ!テレビの天気予報とかで聞いた事あるでしょ?」
「はあ?異世界なのに何で武士なんだよ!?」
いつものようにカズマがツッコミを入れる。
「冬将軍には元々実体が無いの。出会った人々の思念を受けて、その姿となって実体化するの」
「はああああああ!?」
「多分どっかのハタ迷惑なチート転生者が『冬将軍って言ったらこれじゃね?』的なノリで考えてたに違いないわ」
「ふっざけんなよおおおお!!」
「冬将軍は討伐に懸賞金三億エリスもかけられている超大物よ」
「尚の事ふざけんじゃねえええええ!!」
「チッ…タンカスどもが……」
これだから能天気な
いつしか出会ったミツルギもそうだが、転生者というヤツは自分の匙加減でしか物事を図る事ができないのか?
猿の知能テストを受けるモンキーと同義だ。
それはそれとしてスタンドも月までぶっ飛ぶような冬将軍の討伐報酬。
冬将軍が如何に危険な存在であるかを示唆していた。
「カズマとヨシカゲッ!冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くして謝れば見逃してくれるわ!」
そう言うとアクアは雪の上に膝を付き額を擦り付けた。
現代日本においては相手の許しを請う為に行われる最たる恥辱とされるもの。
土下座だ。
その一方で爆裂魔法を撃ち放って力尽きためぐみんはそのまま死んだふりをしている。
戦意の欠片さえ見られない。
コイツらのプライドは濁り淀んだドブ川に捨てられる程安いものなのか。
「【キラークイーン】コレをヤツに投げろッ!!」
当然ながら私は違う。
私はアクアの忠告(これが忠告と言えるかは別として)を無視して【キラークイーン】で足下に突き刺さった剣の刃の部分を引っこ抜き、冬将軍に目掛け思い切り投げ飛ばした。
剣の刃は冬将軍目掛けて射られた矢のように鋭く向かっていく。
「何やってんのよヨシカゲ!!アンタ、死ぬ気ッ!?」
「五月蝿い黙っていろッ!!モンスター如きに脅えて逃れるのはまっぴらごめんだッ!私は決して逃げたりはしないッ!ましてや地に額を擦り付けるなどッ!!」
靴のムカデ屋で【シアーハートアタック】が敗北した時のようにプライドを投げ捨てた醜態を晒して目の前の敵から無様に逃げ出すのはしたくない事だ。
しかし、無慈悲と言うべきか、【キラークイーン】の腕力で投擲された刃は冬将軍にいとも容易く弾かれてしまった。
だが、そんな事は最初から分かり切っていた事、何も問題ではない。
剣の刃が冬将軍の間合いに
「第一の爆弾ッ!!」
弾かれてしまった刃は柔らかな雪の上に落ちる前に爆散した。
そして、刃が吹き飛んだのは冬将軍の間合いの中。
当然、強烈な爆破衝撃は冬将軍を襲う。
「吉良さんSUGEEEE!」
爆破の衝撃で吹っ飛ばされたのは冬将軍の片腕。
冬将軍の腕は肩ごと根こそぎえぐり取られるように消し飛んでいた。
これでヤツの脅威を半減させられた訳だ。
だが、まだ油断はできない。
冬将軍にはまだもう片方腕が残っている。
ヤツにかかれば並大抵の冒険者パーティなら軽く屠る事など造作無い事だろう。
「いや待てッ!!」
しかし、それでも冷静さに欠けるという事は救いようの無い程に愚かな事だ。
その場の感情や衝動に駆られるのはさらに始末が悪い。
自分の能力を過信するのと同じくらいに。
【キラークイーン】の爆弾を喰らった冬将軍の身体は崩れ去り吹雪へと帰した。
妙な感覚。
賞金三億エリスの化け物がこんなにも呆気なく終わってしまって良いのか…ッ!?
「何だとォ!?」
「だから冬将軍には実体が無いって言ったじゃない!」
アクアは降り積もった雪の上で膝を付きながら私を見た。
やはり忌々しい事に嫌な予感というものはどうにも外れないらしい。
「こ…これは……ッ!?」
吹雪が再び強く吹き荒れるとそこには冬将軍の姿が…。
しかも確かに【キラークイーン】の能力で吹き飛ばしてやった筈の片腕は、まるで何事無かったかのように元通りに治ってしまっている。
ダクネスの剣をあっさりとへし折るばかりか、私の【キラークイーン】の能力を受けてなお当たり前のように立っていられるとは…。
冬将軍というヤツはやはり化け物だ。
「クソッタレがッ!!【シアーハートアタック】ッ!」
精々私にできる事は冬将軍の足止めをする程度。
無敵の自動操縦といえど相手が悪過ぎる。
今は冬将軍から距離を取るための時間稼ぎに使う他無い。
逃げるのではない、あくまでも戦略的撤退だ。
しかし、その選択こそが冷静さに欠けたが故の最大の過ちだった。
『コッチヲ見ロォ!!』
「何ィィィイイイイ!?」
ギャルギャルとキャタピラを鳴らしながら、冬将軍ではなく私の方に顔面を見せる【シアーハートアタック】。
そして、自分自身のスタンドである筈の【シアーハートアタック】が私目掛けて突撃してきたッ!!
次の瞬間【シアーハートアタック】は爆発した。
「「「えっ」」」
死んだふりをしているめぐみん以外は予想外の出来事にそう反応する事しかできなかった。
♦
それはあまりにもマヌケな光景だった。
「………」
吉良は自らのスタンドによって自爆したのだ。
魔王軍幹部のベルディアとの戦いにおいても大いに貢献?した【シアーハートアタック】が何故自分自身の本体を狙ったのか。
スタンド使いでも何でもない俺には分からない事だが、それがもし冬将軍による影響だとしたら…。
【シアーハートアタック】自体は吉良が自ら自動操縦だと言っていたし何らかの原因で暴走してしまったのだろうか。
「はあああああああああああ!?」
「ええええええええええええ!?」
沈黙から一転、俺とアクアの叫び声が炸裂しためぐみんの爆裂魔法みたく響き渡る。
驚きの声しか出てこない。
「ねえ…カズマ…嘘でしょ嘘よね!?」
「嘘だろおおおおおおおおお!?」
予想外過ぎるこの状況に俺とアクアは、群れとしての統率を失ったモンスターのように騒ぎ立てた。
「落ち着けアクア、カズマ」
「こ、これが落ち着いていられるかああああ!!」
「カ、カ、カズマ…あれ………ッ!!」
アクアがガクガクと震えながら指を差す。
「え?あああああああああああああ!!」
何事かとアクアが指差した先には剣を振り降ろさんとする冬将軍が。
あ、完全に終わった…。
「カズマ!」
「カズマさあああああああん!!」
「うわあああああああああああああああああ!!」
次の瞬間には目の前が真っ暗になった。
♢
「…………ッ!」
ここまで不快な目覚めが今までにあっただろうか?
血液を大量に失った事による貧血感とそれに伴う頭を打ち付けるような激しい頭痛。
今までにこんなに気分を害するような目覚め方をした事は無かった。
…いや、この世界に来てからは割と珍しい事じゃあないな…。
「良かった、目覚めたみたいね」
目覚めるとすぐ目の前にアクアがいた。
本来であればあるはずの【シアーハートアタック】の爆発衝撃による怪我が無いのを見るに、アクアが私の怪我を魔法か何かで治療したのだろう。
魔法ってやつは何でもアリなのか…?
先程までの混乱を招いた元凶である冬将軍の姿はもうそこには無い。
ただ変わらない事と言えば相変わらず雪は降り積もり続いているという事だけだ。
後近くにカズマが倒れていた。
冬将軍にやられてしまったのだろう。
その近くの雪が血で真っ赤に染まっている。
ダクネスとめぐみんはカズマに寄り添い見守っていた。
「…気分はとても悪いがね……」
気分というのは精神衛生上という意味でもある。
そういう意味で今回は苦渋を舐める結末を迎える事になってしまった。
自分の能力を扱い切れずに破滅するくらい無様な事があろうか。
【シアーハートアタック】は遠隔自動操作であるという性質上、温度の高いものを優先して狙う。
しかし、冬将軍の体温は零度の世界、私達人間よりも極端に低い。
生物のみならずモンスターである以上、一定以上の体温を持たないのはありえないはずだが雪精や冬将軍はそれらを下回る。
だから、【シアーハートアタック】は本体である私目掛け突撃してきた。
それが私の推測だ。
現実的に考えると穴のある推測ではあるが、実体が存在しないというくらいなのだから至極当然と言えるかもしれない。
自暴自棄になって至った結論ではない事は断っておく。
だから、あの時冷静になって考えれば自爆する事など無かったのに、冬将軍に威圧され動揺してしまった。
反省しなくては………。
「…で私に何か言うことない?」
アクアが事を成し遂げたかのように胸を張る。
「君に何か言う事?」
「ええそうよ」
何か言う事だと…?
ああ…そうだな……そういう事なら腐る程ある。
「貴様!何故あんな化け物が出る事を黙っていたッ!?」
「ちょ!ええ!?」
私に治療を施したアクアへの感謝なんてモンじゃあない。
確かに【シアーハートアタック】の爆発で負った怪我は治っている。
だがそんな事は関係無い。
怒鳴り声を上げる私に涙目を見せるアクア。
恐らくアクアは賞賛の声を期待していたんだろうが、私にはその気なんて最初から無い。
今まで持ち込んできた厄介ごとに比べれば、ほんの些細な事だ。
そもそもアクアが街の正門を破壊しさえしなければ、背負い込む必要の無い面倒事だったのだから。
「【シアーハートアタック】ッ!この阿保を吹っ飛ばせッ!!」
『コッチヲミロ!!』
「なんで治療してあげた私がこんな目に遭うのよォ!!ただお礼を言ってもらいたかっただけなのにィ!!」
「なんて楽し……何をやっているのだヨシカゲ!!」
甲高く響くアクアの悲鳴。
ダクネスが【シアーハートアタック】を止めに入ったのは無視だ。
本体である私を止めようとしないのはワザとなのか…?
…考えるのはやめておこう。
無駄なストレスになってしまう…。
何故私がこんな目に遭わなければならないのか。
私はただ『心の平穏』を祈って生きているだけなのに………。
異世界かるてっと(一話冒頭)ネタ
アクア「どうして押しちゃいけないのよ!!良いじゃないちょっとぐらい!!」
カズマ「どう見ても怪しいだろこれ!!ひとまずバニルに見てもらった方が良い方が気がする!!」
吉良吉影「『キラークイーン』は既にスイッチに触っている………」
カズマ「えええええええ!?」
アクア「カズマーーッ!!」ドグオオオオン
吉良吉影「『第一の爆弾』」
カズマ「そっちかよ」
いせかるで吉良吉影書きたい。
それか誰か書いて。
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