進撃の巨人~自衛隊巨人相手に戦えり~ (gfyama)
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序章

2015年元旦。

新年も早々の明け方にそれはおこった。

幕開けは10分以上にわたる異常な地震だった。地震といっても数年前の大震災の様な大規模なものではなく、歩いていれば気がつかないような極わずかなものだった。しかし、気象庁の設置した地震計から届いたリストは北は北海道、南は沖縄県、はては対馬や硫黄島までが一律に震度1を示していた。

更に、地震の際には必ず確認される初期微動が観測されず、何よりも震源地が無いという異常事態だった。

 

夜が明けて、人々が朝のニュースを見る時間になっても変化は無かった。しかし、徐々にだが地震の続報が入り始めたのだった。

まず、海外との通信が一切不通になったこと、日本在住の外国人が忽然と姿を消し、一人として連絡が取れないこと、なにより大使館をはじめとする在外公館、在日米軍の基地の人間たちまでもが一斉に消えたことが挙げられる。

 

それらを受けて政府も正月返上のフル回転、なによりも国外との通信回復を最優先とした。

しかし、3日経ち、5日経ち、1週間経っても状況は変わらず、それどころか気象庁、防衛省の衛星から信じられない画像が送られて来るにつれて認識を全く改めざるを得ない事態となった。

曰く、日本国以外の海岸線の不一致。

日本はどこか別の世界へと飛ばされてしまったのだった。

 

その後の調査では。複数の新大陸が発見され、主に衛星写真、海上自衛隊のP-1哨戒機、航空自衛隊のAWACS、RF-4EJなどの偵察活動を通して一番広大かつ資源の見込める東側の大陸へと日本は歩みを向けた。

 

それから5年後、福田和樹三等陸尉は新大陸への第一歩を踏みしめていた。当時、高校生だった彼は転移後の混乱期も進学した大学で耐えた。

なにせ日本は資源を輸入に頼っている。幸いにも国内の原発は無事だったから早々に電力問題は解決した。主食の米も一定量生産されていたし、過去数年分の大量の古米があった。タンパク源も地球の海とは違う魚だったが、汚染が少ないのか大量に獲れた。

それでも、圧倒的に抑制される生活になったことは言うまでもなく、希望と資源、食料その他を求めて日本は東の新大陸へと進出した。

そこで新たな脅威、巨人と遭遇したのだった。

当初、民間主導で行われた活動では壊滅に近い被害が出たものの、即時投入された陸・海・空の三自衛隊の活躍で日本は新大陸への足掛かりを確たるものにしていた。

毎日のように流れる自衛隊のニュース映像を漠然と見ていただけだったが、彼は自衛隊の幹部候補生を受験。

苦しい学生生活を送っていたからか、新大陸で何か新しく自分を見つけて変わりたいという密かな願いもあったからだろうか。

そして見事合格し、訓練期間を経て派遣部隊へ配属となった。

 



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初めての朝

福田和樹三等陸尉は今23歳だ。

同級生の中には未だに大学で遊びほうけているモノもいるというのに一体なぜ自分はこんなところで冷たい夜風に吹かれているのだろうか。

 

「あ~・・・考えるだけむなしい」

 

彼がいるのは新大陸。日本が3年前に確保した一帯の東端、すなわち土塁の上に設けられた吹きさらしの観測所だった。

日本が新大陸に上陸した直後、いや、偵察活動の段階においてから樹木などとくらべても圧倒的に大きい巨人の存在が確認されていた。

しかし、上陸した先遣隊500名の内、帰国できた者はわずか十数人。

彼らは等しく巨人の腹に消えていったのだった。

まさかの結末にあわてた時の木谷首相は救助と銘打ち三自衛隊からなる大規模な部隊を展開させた。

当初は驚異的な身体再生能力を持つ巨人に劣勢であった自衛隊だが、空自の空爆、陸自野戦特火の曳火射撃を受け、ミサイルによるピンポイント攻撃を受ける様になると形勢は逆転。

身体が再生するより速くミンチにされていった。

おかげで半径20キロに渡る安全エリアを確保でき、後方に強力な控えがいるからこそ簡素な土塁と地雷原、鉄条網ですんでいるのだった。

 

「レーダーもあんのになあ」

 

巨人の接近を知らせる対人レーダーもあるが、新人は観測所で暗視スコープ付けて一夜を過ごすのがこの部隊の習わしらしい。

彼が配属されたのは西部方面隊第四師団だった。

そして、第40普通科連隊の偵察小隊にいる。

残念な事に小隊内では彼が一番年下。苦労すること間違いなしである。

配属5日目にして早くも胃が痛くなりそうだった。

 

あと少しで夜明け、という頃だった。

ウトウトしていた福田は無線機のコールで飛び起きた。

 

『こちら本部!巨人三体が接近中、視認できるか!?』

 

慌てて双眼鏡を手に左右に見る。

 

『こっ、こちら警戒5班、正面2000です!!』

 

運の悪いことに自分の正面から迫っていた。

 

『了解。戦果確認されたし。以上』

 

はっとするのも束の間、明け方の空に証明弾が打ち上がった。

120ミリ迫撃砲から撃たれた1万カンデラの光がパラシュートに吊るされゆらゆらとおりてくる。

その下に黒い人影。辺りの木々と対比して圧倒的に大きな存在。

福田が初めて目にする本物の巨人だった。

巨体を左右に揺らしながら大股に近づいてくるのがはっきり分かる。

近付くにつれてドスンドスン!!と足音が聞こえてくる。

 

「まっすぐ来る!!」

 

ひいっ、声をあげた刹那、巨人の身体が弾け飛んだ。

遅れて轟音と爆風が福田を襲う。後方配置の99式自走155ミリ榴弾砲の猛烈な一斉射撃だ。

砲弾は空中で炸裂し容赦なく巨人の身体を切り刻む。

それでも威力は衰えず、大地を耕し木々を薙ぎ倒す。

たちまち地面は掘り返された様になり見る影もなくなった巨人の骸が白煙をあげる。

脅威は排除されたのだ。

 

『聞こえないのか?福田三尉!?』

 

無線から女性の声が自分を呼んでいることに気がつき我に返る。

まったく今日何度目だ!

自分に呆れながらトークスイッチを押す。

 

『こちら福田!戦果十分。巨人排除確認』

 

『了解。交代の人員を送るから引き継ぎをせよ、以上』

 

声の主はそれだけ告げると切ってしまった。

はて、どこかで聞いたことのある声だったような・・・疑問に思いつつ観測所に散らばる私物を急いでバックに入れはじめた。

 

遠くからは交代の人員を乗せた高機動車が砂埃をあげて走ってくるのが見える。

もうすっかり夜は明けていた。

 



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命令は唐突に

「つっ・・・・」

 

福田和樹は何かにぶつけた痛みで目を覚ました。

 

「どこだここ?」

 

見上げれば見知らぬ天上。ぬぼーとするのもわずか、窓を震わす砲声で覚醒した。

そうだった。ここは自分の隊舎だ。見知らぬ天上も正しくは見慣れぬ天上だ。

朝方、観測所での勤務を終えて目をこすりながら報告書を提出しベッドに潜り込んだのが8時頃。

枕元の時計は午後3時すぎを指している。

そして軽快なリズムでアラームがなった。

どうやら設定時間よりも一足早く起きたようだ。

まだ寝たりないがしかたない、今から師団長直々に命令を聞きに行かなければならないのだ。

新人一年間の訓練のおかげで身支度は早い。

テーブルにあったクラッカーをかじりながら制服に袖を通し、鏡の前で確認してから部屋を出た。

 

 

 

 

午後4時 師団長執務室

 

「ふむ。福田和樹三等陸尉、新人成績はトップ。人柄も問題は無しか・・・」

 

ペラペラと紙をめくりながら目の前に座る人物はつぶやく。

鍛えた体躯もたくましくその肩には光る二つの金星。

森屋建治陸将補。われらが師団長だ。

鋭い眼光に思わず背を伸ばす。

 

「・・・さすがだな。推薦されるだけはある」

 

再びにらまれる。蛇に睨まれたカエルの気持ちが分かる。

背筋を汗がつたっていく。

 

「福田三尉。配属早々悪いが転属だ。君には調査隊の一員になってもらう」

 

言い終わるやいなや、傍らの副官が書類の束とビニールに包まれた新品のパッチを強引に渡す。

 

「では行きたまえ」

 

森屋陸将補は話は終わりだとばかりに書類を置き、新しいファイルを手に取る。

副官にも退室を促されてあわてて敬礼。

 

「拝命いたします!!」

 

とだけ告げて暴れる心臓を押さえて早々に退室した。

ドアを閉めると、どこから現れたのか、待っていましたとばかりにそこには長身の男が立っていた。

短く刈り上げた頭に日に焼けた肌。雑誌のタレントのように迷彩服が似合っている。

 

「福田三尉ですね?ご案内役を仰せつかった新藤二曹と申します」

 

言葉遣いもだがあまりの美男子に驚きが隠せない。

よく自衛隊にはいったももだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

はっと我に返りあわてて居住まいを正す。来てからというもの驚いてばかりだ。

二曹ということは部下にあたるのだろう。

 

「ああ。宜しく頼むよ」

 

「では、参りましょう」

 

新藤はすたすたと歩いていき、その後をオロオロついて行った。

向かった先は飛行場のある方向、軽装甲機動車(LAV)に乗せられいくつかの建物を抜け案内されたのは格納庫に併設する建物だった。

玄関には真新しい木札に“新大陸調査隊”と筆で書かれていた。

 



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命令は唐突に2

軽装甲機動車が完全に止まったところで二人一緒に降りる。

思えば軽装甲機動車に乗るのは初めてだった。

まだ建てられて日が浅いらしくコンクリートの無機質な白さが目立つ。

夕日に照らされオレンジ色に輝いている。

予想外の建物の大きさに見とれている間に、新藤は勝手知ったる様子でドアを開けてさっさと入ってしまう。

続いて入るが、二枚目にある重々しいドアを見て唖然とした。

「なにこれ?」

自然とそんな言葉が漏れたが新藤は気にせず。

「部外者は完全に入れませんから」

と笑顔で懐に手を入れ、小さいカードを取り出してペタリと壁の機械に当てた。

ランプが赤から緑になるのと機械下のふたを開けてテンキーでいくつかの数字を入力する。

すると、軽い電子音と共にドアのロックがはずれて自然とドアが開いた。

新藤はドアノブに手を掛け、閉まらないようにしながら

「荷物に入館パスがあると思うのでそこにかざしてください。パスワードは必要ないですので」

さきほど副司令からわたされた荷物をいったん床におろす。

すると一番上に茶封筒があった。

封を開けて中身を出すと、無地のカードが出てきたのでもう一度荷物を持ち、機械にかざす。

赤ランプが緑になるのを確認してから離して胸ポケットに入れた。

「あ、でもそれ一度きりの使い捨てなので後でシュレッダーかけて捨ててくださいね」

どうやら思っていた以上に重要な施設らしい。

これが転移前なら通信傍受かなんかの施設ではと疑うところだが、あいにく現在はそんな相手もいないのでここまで警戒を厳重にする必要が思い浮かばない。

(もしややばいトコなんじゃあ・・・・)

とたんに不安になってきた。

「さあ、行きましょうか」

新藤の弾んだ声で現実へと引き戻される。

文句のひとつも言えないまま、腕を引っ張られ引き入れられた。

新藤は二歩進むと、回れ右をして綺麗に敬礼をきめた。

「新大陸調査隊第5班へようこそ、新隊長」

「えっ・・・・・・・えええええええええええええ!!!!!!」

そんな。まさか嘘だろ?新隊員1年目のペーペーの自分が隊長?

「いやいやいやいやいや」

盛大に驚いてかぶりを振るが新藤は意にも介さず。

「事実です。ホラ」

決まり顔の笑顔でどこからか取り出した紙をペラリと見せる。

さながら最後通牒のごとく。

そこにはしっかりと自分の名前と命令文が書かれている。

「そんな・・・嘘だ。誰か嘘だと言ってくれぇ」

「いつまで駄々こねてもしょうがないぞ福田よ」

ん?なんか聞いたことのある声だと思い声の主を捜す。

そこには片手をあげて笑う偉丈夫。

新隊員訓練課程での鬼軍曹こと神代1曹がいた。

「げっっっっっ教官!?なぜここに!?」

「久しぶりだというのにずいぶんだな。おまえは人一倍手塩にかけたつもりなのに」

「あっ、いえその、その節はお世話になりました」

ブンと風を切る勢いで90度頭を下げる。

神代1曹は鷹揚にうなずくと

「まあこれからはお前さんの部下だ。そうかたくなるな」

「はっはい」

反射的に背筋を伸ばして返事をしてしまう。

ハハハと笑うと。

「宜しく頼む」

かしこまって敬礼した。

鬼教官がまさか部下とは・・・・・

「ああ・・・・胃に穴が開くかも」

一人でつぶやいた。

 



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