冒険英雄譚“ヒロイック・テイル” (犬2)
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第一章「始めての冒険」 一話目

貴方に告げる始まりの冒険。
精一杯生き足掻く彼と共に作者も頑張ります


 ガヤガヤガヤと騒がしい場所があった。

 

そこには、数十人の人間が居る。

座っている者と、忙しく動いている者。大別するとこうなる。

それらを言い換えれば、武装している者、していない者であった。

 

 此処は、冒険や英雄譚好きな店主が半道楽でやっている冒険者ギルド

通称「剣徒の寝座」と呼ばれる酒場宿兼仕事斡旋場である。

 

 

       ※   ※   ※

 

 

 アルコールの鼻を貫く様な匂い。血泥に数時間前まで塗れていた男達の異臭。

それらが混ざり合い一人の男の鼻をくすぐる。

 

 男の名は、ジーク。彼は首から下を覆うタイプの外套(マント)を羽織り

その下には上半身を覆うタイプの革鎧を着ていた。

随所に粗い加工が施され、片手での抜刀や鎧の脱着を可能にしている。

 

筋肉質なその体は、細身とは決して言えず、身長も高い。

顔のパーツ一つ一つは平凡だが、その瞳の鋭さは見た者にジークを忘れさせない強さを持っていた

 

そんな彼の机には元幅・・・・・・幅広の刀身のサーベルが置かれている。

鞘も古びており、刀身は僅かに削った箇所がある

抜刀の為に自分に合う様に弄っているのだ。

 

 ジークの周りの机は、不思議とポッカリ空いていた。

彼はこの酒場宿の古株である。実年齢を知っている者は誰も居ない。

数年前から年齢が変わらない事も有り、誰も予測出来なかった。

だが彼の腕が良い事は確かであり、逆らうモノも今この酒場には居ない。

 

 つまり、幾つかの独自のルールを持つジークの逆鱗に触れ

片腕を粉砕された者達とのイザコザも知っていたという事だ。

 

 

「・・・・・・はぁ・・・」

 

 

 そんなジークは静かに蒸留酒とツマミを・・・否。彼にとっては昼食を食べていた。

弱めの蒸留酒の喉を焼く感触を心地よく感じる彼を口に含んだ果物の風味のある酒がガツンッ!と殴る

くらりと、頭まで一本芯を打ち込まれた様な感触であった。

 

 口の中は洗浄されたのを感じながら、皿の上の大ぶりのパンチェッタ(生ベーコン)を、ブスリとナイフに突き刺し粗野に勢いよく喰らい付き・・・ブチィッと塊から引きちぎる!

口の中に入ったパンチェッタの強めの塩味ある脂が、蒸留酒で焼けた口内を撫でる。

 

良々良い子だ。と言うように肉の味わいがじわぁぁりと口の中へ広がっていくが・・・広がり過ぎる前に蒸留酒を一口。

甘ったれるな!と、またもや脳天までガツンッ!とアルコールが一瞬で登る。

・・・その味わいが心地よかった

 

「ふぅぅ・・・」

 

 昼間っから酒を飲んでいるジークは数日仕事に出ていない。休暇中だからだ。

冒険者ギルドに居る事から分かる通りジークはギルドに所属する冒険者であり・・・冒険者という事は冒険に出かける。

 

 時折勘違いする者がいるが冒険者とは何でも屋では無い。それは副職であり・・・

本来は、自費で前人未到の場所や、秘境に赴き探索する者達である。

ジークは数日前まで危険な動物・・・・・・魔力を蓄え異常発達した生物・・・通称魔物の生息する秘境の探索から帰ってきたのだ。

 

 数日前まで己以外敵しか居ない大自然に居たジークは英気を養っていた。

そこへ、ドスドスと大股で近づいて来る優男が居た。男は机に近づくと、ジークに声をかけた。

 

「おーい、ジークぅ。いつまでそんな事してるのさ」

 飄々としたその声と、態度。ジークはチラりと一目見る。知った顔であり長い付き合いだった。

 

「・・・どうした、店主。」

 店主と呼ばれた男は、ジークの机の空いた椅子に手を乗っける。 座っても?と言う店主に好きにしろとジークは返した。

 

「ジーク、回り込んで言うのも無駄だから言おう。仕事があるんだ」

 そう言った店主をジークは見つめる。僅かに眉を潜めて。

ジークと店主は長い付き合いだ。ジークの好みの仕事も知っている。逆に嫌いな仕事もだ。

 

 好みの仕事なら、適当に一声かけて終わるだろう。こんな風にわざわざ己の素を訪れない。

好みの仕事でも、重大な仕事・・・・・・他者に聞かれて困るならこんな所で話さない。

個室で話すだろう。

 

つまり、今この状況はジークが嫌で、だけど重要度の低い依頼。という事だろう。

 

「カス依頼は受けん」  即答であった。

 

 ジークは、ペッっと、唾を店主の顔に吐いてやろうかと一瞬思ったが、長い付き合いで友好な相手には流石に自重した。

詰まらない依頼も、退屈な仕事も、胸糞悪い仕事も御免だが、仲の良い男に喧嘩を売る程の事では無かったからだ。

ゴキュッゴキュッと喉へ流し込む蒸留酒の灼熱の香りが鼻からゆっくりと流れ出る。

 

「・・・うん・・・まぁ。その通りだし君がそう言う事も知ってる。」

 口篭る店主を、ジークはジィィっとその目で見つめた。

店主が態々ジークの罵倒を聞く為に来たとは思えない。自分を頷かせるカードがあると知っていた。

だから、口篭る店主を顎で指し、ジークは先を促す。

 

「とりあえず、依頼内容だけ話すね」

 一枚の紙を店主は取り出した。依頼書と呼ばれるソレは、ジークに馴染みあるモノである。

 

 依頼書はその難易度によって色が僅かに違う。染紙とは言っても捨値のモノだ。

そんな捨値でも、難易度が高くなる度に紙の値段は高くなるが・・・

見せられた紙は、最底辺の色紙である。

 

「依頼内容は、教導と護衛。この街から少し離れた所に子鬼(ゴブリン)の集団生活跡らしきモノを発見」

「その調査と、そこに住むのが敵性生物の場合、殺害・・・・・・を行う少年達の護衛と教導だ」

 

 ジークは、ゆっくり眉が心なし垂れ下がる。

無愛想なジークの顔に変化がある等、よっぽどであった。

 

「子供のお守りをしろと?」

「そうだ。ジーク。子供のお守りとオムツから、パンツに履き替えさせてやってくれ」

 

 この言葉にジークは目にみえて垂れ下がる・・・が途中で顰める。

ジークは考える。店主は気の良い奴だ。自分に害のある依頼を持っては来ない。

自分でなければ行けないか。自分が行く事で利益のある依頼だ。

 

更に言えば店主は冒険譚を好む。考えて考え抜いて・・・・・・

ジークは店主に顔を近づけ、周りに聞こえない様に呟いた

 

「・・・・・・暗殺依頼か?」

「違うそうじゃない!!!!!」

 

 ガチャァン!と勢いよく立ち上がる店主に周りの冒険者がビクゥッと飛び跳ねる。

依頼の話をされれば耳に入れたくなるのが冒険者の性だ。

周りでこっそり聞き耳を立てている奴らだろう。

 

すまないすまないと、驚かせた冒険者たちに店主は謝りつつ再度着席する。

 

「ジーク・・・これは、唯の初心者冒険者の護衛と教導ってだけだ。裏も何も無いんだ。」

 

 店主の言葉を聞き。ゆっくりと咀嚼する。

 

 自分で言うのも何だが初心者を任される様な人格者では無い。

気に食わない依頼人に依頼を達成した上で、追加納品として鉄剣を胃袋にご馳走した事もある。

大抵、自分の気に食わない相手は犯罪に何度も手を染めており厳重注意で現在は済んでいた。

 

「・・・店主。己は察しが悪い。どうして己に声が掛かったのか。言ってくれないか?」

 

ジークは、子守なんぞ・・・と思う心を沈めると店主の瞳を見つめ、問う。

一言、一言に店主への信頼があった。

名前も名乗らない。年齢も知らないが・・・・・・冒険を愛する同志だと思っていた。

 

 先程、食べる為にナイフを突き立てたパンチェッタを店主はどけた。

そして、ジークへ顔を近づける。先程ジークがした様に周りに聞こえない様に呟く

 

「場所が遺失遺跡なんだ」

 




という訳で第一話投降致します。


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第一章「始めての冒険」 二話目

二話目投降。

今回の依頼のあらましと、遺失遺跡というモノに関して。

店主さんは、珍しいジークの普通の友人です。
ほかは最悪殺し合いになる戦友達。


 遺失遺跡。それは大昔、この大陸を何度か蹂躙した大災害や大戦争により

遺失した技術が眠る遺跡である。

住居等は含まれず、技術研究所や、工場等をそう呼ぶ。

 

 過去に作られた現在では再現出来ない魔道具(アーティファクト)は冒険者の分かりやすい一攫千金の対象だ。

だが、大昔の廃墟である。大抵は既に暴かれており中に重要なモノ等残ってはいない。

だが、魔道具の優れた武器を好む冒険者は多い。ジークも幾つか魔道具を所有している。

現在は一つだけだが・・・

 

 遺失遺跡等あるなら、それで張り出せば良かろう。腕利きが大勢集まるぞ。

そう口を開こうとして・・・・・・口を閉じる。

そんなモノ、唯の冒険者の己より目の前の店主の方が分かりきっている。

 

 遺失遺跡を紹介し、冒険者の要らない魔道具を買取、高値で売買すれば膨大な利益になる。

魔道具とはそれだけ重要なモノだ。情報を国に売る。でも金になるだろう。

だが、遺失遺跡に行くというのに依頼は【ゴブリン退治に行く初心者冒険者の護衛】つまり・・・

 

「ジーク。なぁ、ジーク」

 

店主の目を見つめて話していたジークに対し、店主は見つめ返す。

 

「僕は、君の友人だと思ってる。そして、君の冒険のファンだ」

「だからこそ・・・君はもっと大きな事が出来ると思うし、して欲しいと思う」

 

 チラりと、視線を下げて・・・ジークの右手を見る。

食事中、一度も使っていなかった手を・・・包帯で古傷を隠し、壊れてしまった腕を見つめた。

ジークが、嘗ての冒険で傷つき、握力を失った嘗ての利き手であった。

 

 そして・・・遺失遺跡には、時折凄まじい効果を発揮する回復薬がある。

それこそ、無くした腕が生えてくる程のモノがだ。

あるか無いかは分からない・・・が、貴重な品であり市場に出回る事は絶対に無い。

国が買い取るからだ。

 

ならば傷ついたジークの手を治すには・・・

自力で遺跡に潜り、自分の力で遺失された薬を手に入れるしか無かった。

 

「・・・」

 

 ジークはそんな店主を見。目を閉じる。

店主の冒険者好きは相当なモノだ。だが、確かにジークは店主との間に奇妙な絆を感じていた。

戦友という絆しか知らないジークにとって異質の何かを。

 

今回の依頼は、店主から、友人であるジークへの贈り物であった。

遺失遺跡が見つかったから、早めに行っておいで、と言われなかったのは理由があるのだろう。

 

 この時店主は言わず、ジークは知らなかったが。依頼先の場所に遺失遺跡があるのではないか?

そんな噂が国の冒険者ギルドの組合で囁かれており、実際に調査隊を作る為に現地への立入禁止の動きがあった。

そこへ捩じ込むには「依頼があるから、その依頼だけは達成させて欲しい」という建前が必要だ

 

 何はともあれ、ジークは目を開け店主へ強く頷いた。

ジークにとって、店主の心遣いは嬉しいモノであった。

友人が、自分の快復を祈り、手を打ってくれた事が・・・だ。

 

ジークに友人は少ない。冒険の状況によっては殺し合いになる事も多い。

マトモな友人は、店主位だろう。だからこそ・・・ジークは不器用なりに応えた

 

「・・・詳細を教えろ。」

 

パぁぁっっとその言葉に笑顔で頷く店主。

その笑顔に、無愛想な顔で頷くジーク。

 

「3時間後に、護衛相手の子供達が来る。その前に軽く今回の依頼のあらましを説明するよ」

 

嬉しそうにニコニコしている店主に対して、チッと舌打ちした。

護衛相手が子供である点である。最近子供の冒険者が増えてきている事は知っていた。

そういう子供達は、冒険者というモノを勘違いして大抵死ぬか再起不能になる。

 

店主の心遣いは子供達へのモノもあるのだろう・・・

それは良いが、だからといって、子供に媚へつらうのはする気は無かった。

 

ジークにとって、子供とは弱き者であり、壊れやすい者であり、理解出来ない者である。

成金趣味の阿呆相手の様に煩いからと脳天を打ち抜くつもりも利き腕をぶち壊すつもりも無いが

子供から好かれる性分では無く、煩わしいのも苦手だと、自分の中では思っていた。

 

「大丈夫さ、ジーク!あの子達は僕が気に入った子達だからね。君も気に入るさ」

 

お前が気に入ったから、俺が気に入るとは限らんだろう。と無愛想に言いながらジークは

店主の言葉に耳を傾ける。

 

どうせ、暇だったのだ。暇潰し程度になれば良い。

腕が治ればもっと良い。もっと難しい冒険に出かけられるのだ。

 

そう思っていた。

 

 

 

 

事のあらましはこうだ。

冒険者ギルドには、国からの定期的な僻地への巡回依頼が来る。

これは、一定の街を練り歩き、その街の冒険者ギルドに道中の様子を説明する事だ。

 

オーソドックスな依頼であり、年に数回ある。

巡回する場所は冒険者の自由であり、危険な場所を見て回ればその分報酬も高くなる。

新人達はこの依頼を受け、街と街を繋ぐ旅路を歩き、旅の基礎を実際に学びながら金銭を得る。

 

数チームの証言を聞いて、最終的な判断は下され

有力だと判断されたチームには追加報酬が付く。

 

今回、遺跡のある森へ毎回巡回しにいく冒険者から報告があった。

数名の野営跡。汚らしい布やら血の探検等が落ちていた事から文明人には思えない。

野党か妖魔・・・・・・魔力持つ魔物の中でも下級の異形の存在だろうとの報告であった。

 

その冒険者の名前をジークは知っていた。

会話した事は無い。だが、堅実な仕事をし、何時もソロで動いている事が有名であった。

派手さは無いが、信用ある冒険者からの報告を受けて調査隊を・・・と話になった所で

 

森林近くの村から、ジーク達が今居る街に報告があった「ゴブリンがその森の中で発見された」と。

街の移行は、その報告で決定された。

 

「ってのが、今回国から冒険者ギルドに回された依頼だね。」

 

 地図を広げられ店主自らジークに話をしている。

大抵の冒険者はギルドの受付嬢から話を聴いたりするが、ジークは腕利きであり

この冒険者ギルドを超えて様々な場所で活躍し、自費で秘境を踏破した実績もある冒険者である。

周りに居る冒険者達も、当然。という顔をしており特別扱いには感じては居ない。

 

何より、店主は今日は半日仕事の様で、今は非番らしい。

 

「ゴブリンの調査、及び殲滅程度なら。新人で十分・・・だけど。今回の子達さ、結構な有望株なんだよ」

「将来は君程ではなくても一流の冒険者になれるって僕は思ってるんだ」

 

ほぉ・・・っと、ジークは唸った。この店主飄々としており優男然としているが人の見る目は良い。

店主に見込まれた冒険者の大抵は大成している。

ヒョロヒョロした外見の店主が冒険者という荒くれ者から舐められない理由の一つである。

 

「だけど・・・まぁ・・・最近の冒険者らしくてね」

 

言葉を濁す店主にジークは心当たりがあった。

最近では私服然とした服で冒険に出かけ、風邪を引いて動けなくなる・・・なんて笑い話にもならない

夢しか見ていない阿呆共が多いのだ。

 

野営準備も何も無しに、どう大自然を克服するつもりなのか分からないが・・・

人は浪曼の前では目を曇らせるのだろうと、ジークは心の中で思っていた。

 

「そんな中で、野営跡を見つけたっていう例の彼から話があってね。ロハで良いから同行するか?ってさ」

 

器が大きい物だ。ジークは素直に感心した。

だが、冒険者ギルドとしては、きちんと正規に依頼料を彼に支払うつもりの様だ。

報酬が無いという事は責務が無いという事だ。そこはしっかりすべきである。

 

「だけど彼も、そこまで【技術】は高くなくてね。」

「ソロだけど、狩人知識で誤魔化してやってるみたいでさ」

「だから、ジーク。今回君に頼みたいのは、将来ある子供達に技術を教えて欲しいって事だ。」

「種程度で良いんだ。芽吹かせるのは彼らが自分でやるべきだから」

 

この場合言われている【技術】とは密偵(スカウト)としての技術だろう。

罠の探索に解除、隠密行動、先陣を常に切り、危険を調べる重要な技術であり冒険には欠かせない。

 

同時に、その技術を学ぶ事は極めて難しい。当たり前だ。誰が「自分はスパイの技術がある」というのだ。

自分の持つ宝物を盗まれた時に真っ先に疑われるのだから当然である。

大抵は吹聴せず、冒険の中で先陣を切る事で無言の内にパーティに技術の有無を教えるモノだ。

 

そんなスカウト技術だが・・・出会ったパーティのスカウトから習うのは現実的ではない。

自分の手口を教えてしまえば自分の仕掛ける罠の性質もバレてしまうからだ。

だから大抵、引退した冒険者を知り合いから紹介して貰って、教えを乞うのが普通だが・・・・・・

密偵技術がある冒険者なんて1/5位しか満たないだろう。それくらい貴重な技術である。

 

「己はロハでやるつもりなんぞ無いぞ」

 

友人の作ってくれたチャンスは嬉しいが、自分の技術を安売りするつもりは無い。

分かってる。と店主は笑い値段を提示した。

ジークからすれば、駄賃でしか無いが、並程度の冒険者の依頼に比べ、桁が1つか2つ多い。

しかも、冒険とは言ってもゴブリン退治である。美味しすぎる・・・こんなモノをギルドが認める筈が無い。

 

「・・・はぁ・・・・・・」

 

目の前の、店主のポケットマネーだろう。

友人からの心遣いの上に、金まで出させる・・・・・・そんな事を粋と言える程金に困っては居ない。

 

「店sy「ジーク。言ったろ?僕は君のファンなんだ」・・・・・・」

 

ジークが、言い終わる前に店主が言葉を挟んだ。

店主は、続けて言う

 

「これは、君という一流の冒険者に、子供のお守りをさせるなんていう迷惑料と」

「君の腕を振るわせる。っていう技術料だ。むしろ君を雇うなら安い位だよ」

 

確かに安い。ジークはもう一桁あっても引くて数多の冒険者である。

辺境に赴き、魔物を仕留め剥製を作る為に死体を求められたり

危険な魔物の生態調査や秘境の状況調査等も良く指名され依頼される立場に居る。

 

そう言われ・・・・・・ジークは強い光を瞳に宿す。

ノリ気では無いが、そうまで言われ気遣われ。なおやる気を出さぬヘソ曲がりではなかった。

 

「己なりのやり方で教えるぞ」

「構わないよ。君に逆らえない様に。君に依頼の合否を決めてもらう」

「最悪ソイツらが冒険者をやめるかもしれん」

「構わないとも、君なら上手く出来ると信じている」

 

言葉に、即答で店主は返す。

ジークは、考え抜いた上で、疑問を口にした。本当に良いのだな?と

それに対する答えが、出たのだ。迷う必要は無い

 

「・・・・・・時間は少ないな。途中で街に1度より、森に入り野営するとして・・・三日か」

「技術は、出来る限り教えるが・・・それより意識開拓だ。スカウトの重要性を教え込む」

ジークは、何度も助けられた己のスカウトの技術を思いだし呟いた。

 

「任せたよ。ジーク」

店主は、間抜け面でそう微笑みを浮かべるばかりであった。

 

「・・・け持って来い」

 その顔を見つめ、ジークは呟く。ん?と聞き返す店主に対してジークはもう一度呟いた

 

「この店で一番高い酒を持って来い。ツマミもだ」

 友に貰う予定の金だが、友と酒を飲む為に使っては行けない。等という法律は無い。

そう言外に意味を込め、呟いた。気遣いは断れなくても自分なりの友好を示したかった。

 

「・・・」

 きょとんとした顔の店主は、数瞬後、ぱぁぁぁっと今日一番の顔で笑った。

 

「勿論さ!!!でも酔わないでよね、依頼の説明があるんだからさ」

 

そう言ってウェイトレスに注文をし始める店主を見ながら、ジークはため息混じりに呟いた

 

「酔って冒険を逃す男に見えるか?」

 

ケラケラ笑う店主と無愛想な冒険者のジーク。

凹凸コンビではあるが、不思議な事に彼らはいつもこうであった。

二人は、依頼の1時間前まで、酒盛りをし、残る1時間で酔いを冷ました。

酒の酒気を、尋常で無い速度で抜く事に、二人共慣れていたからである。

 

 




後書き

後で世界観の時代や歴史に関しても出したいと思いますが

この世界では何度か文明が吹っ飛ぶ程の大災害や大戦争が発生しております。

神代の大戦争:神々の戦いにより、最初期の文明が吹き飛ぶ

魔法文明時代の大災害:魔法(後で出てきますがあります)の研究の失敗により
大陸全てに悪影響が及び、バイオハザード状態。
病原菌に、新種の魔物に。酷い所によっては放射能汚染ならぬ魔法汚染で
マトモな人間は住めなくなっております。

魔工機文明時代の戦争:魔法を科学的に制御しようという試みが試された時代。
とは言っても、車やら何やらという複雑なモノは無い感じ。
クーラー代わりの魔道具やら、軽い電化製品。
武器で言えば地雷や火縄銃程度のモノは出来た。
だが、大陸を割る大戦争が勃発、最終的に決戦兵器である爆弾をお互いに投下。
勝者無き戦争に残った、荒廃した大地と荒事、面倒事。
そして、失われた技術による、文明の後退であった。←今ココ


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第一章「始めての冒険」 三話目

第三話投稿。
第一章の登場人物であり、基本的にジークと、この子視点で見ていく形になります。




青空の下、物語の舞台となる大陸には大国と呼ばれる3つの国と小さな国が無数に存在した。

そんな中、とある国があった。嘗て愚かな先王に対しクーデーターを成功させ

腐りきった国を改革し繁栄させた、人界きっての傑物。覇王率いる国

 

通称・・・・・・皇国である

 

 

  

       ※     ※     ※

 

 

 

皇国と呼ばれる大国の王都。その片隅の道をコツ、コツコツ・・・と

リズム良く歩く一人の凛々しい少年が居た。

太陽の光を反射する髪は金糸の様に滑らかで

キリリと締まった顔立ちと、柔らかい汚れのない肌を持つ少年である。

 

背は160cmに届かない程度、細身ではあるがバランスの整った体型をしている。

歩いて行くと、通り過ぎる者の何名かは思わず振り返る程の美しさを持っていた。

名前はノエル。今年14歳の若き冒険者である。

 

彼は、上半身を金属で覆うタイプの鎧を纏い

背中には子供にとっては、大剣と言って良い剣を背負っていた。

そして懐には、僅かな銀貨の入った巾着一つ。

 

鎧の下に着込んだ服は古着であり、身に纏うモノは汚れきっていた。

貴公子然とした彼と貧弱な装備。そんなアンバランスな姿には理由があった・・・

 

 

 

ノエルは、貴族の家系の生まれであった。

父も母も優しく、気高く。ノエルは貴族とはこうなのだと思っては居たが・・・

人には善もあれば悪もある。ノエルの家族は善の人間であっただけで

悪の人間も世の中には居るのだ。

 

父は常に清廉潔白であろうとし、腐敗を許さなかった。

だからこそ腐敗した者達に嵌められ、父は謂れの無い罪で獄中に入れられてしまった。

母は父の無罪を訴えたが、何の甲斐も無くある日体を弱め去年の冬に静かに息を引き取った。

 

家は断絶となり、貴族位は返上する事となった。

毎年の国に治める貴族位への税金を納められないからだ。

 

手元に残った僅かな銀貨を手にノエルは家も家族も何もかも無くした中で・・・旅に出た。

父の知り合い達はノエルを助けようとしてくれたが・・・

自分のせいで父の友人に面倒事を背負わせたくは無かった。

 

ノエルには、青い考えがあった。皇国では、冒険者は厚遇されているという政策である。

帝王が皇子であった際に、暗愚王と揶揄されていた先王に対するクーデターを仕掛けた際

雇われた冒険者が大いに活躍したからだと言われている。

 

噂では、騎士位を与えようとしたとまで言われる厚遇振りであったらしいが・・・あくまで噂だ。

だが、火の無い所に煙は立たないと言う。騎士位とまでは言わなくても素晴らしい報酬は得たのだろう。

ノエルは、そこに賭けるつもりだった。

 

従騎士として、どこかの貴族の家に転がりこんでも、出世できるのは10年、20年先・・・

下手したら出世なんて起きないかもしれない。

だが冒険者ならば、名声と実力さえあればすぐにでも、下手な貴族より権威ある存在となれる。

若きノエルは情熱に溢れ、夢を見るまだ子供であった。だからこんな甘い考えがあった。

 

自分は元貴族、高等教育を受けている。

知識は一般人より断然あるし、何より剣を納めている、同年代の者の中でも上位に入るだろう。

背中に背負った剣は、実家にあった中でも壁に飾られ大切にされていた一品。

そこらの武器屋の剣よりよっぽど良い剣という事だ。

 

だから自分は何の教育も無く、武器を振るうだけの冒険者等よりよっぽど役に立てる存在だ

そう自負していたし、冒険者ギルドに張り出されていた王都周辺に近づく害獣討伐でも上手くやっていた。

 

それが評価されたのだろう。ある日、ノエルが普段通っている冒険者ギルドから話があったのだ。

 

 

 

 ガヤガヤと騒がしい薄汚れた酒場。飲みすぎて誰か吐いたのだろう。

酒場特有のアルコールの混ざった異臭に、汚臭が溶け込んでいる。

ノエルは酒場の雰囲気が嫌いだった。下衆な目でジロジロ見られるからだ。

床に敷かれた木端屑も気に入らない・・・例え客が床に嘔吐した際に清掃しやすい為であったとしてもだ。

 

 清潔感から程遠い世界。ノエルは冒険者等ではないと言いたげな空間が嫌いだった。

だが、ノエルが通う冒険者ギルド「剣徒の寝座」と呼ばれる場所は店員が一番マシだから好んで行く。

国に幾つかある冒険者ギルドの中で一番丁寧で、自分を評価してくれるからだ。

 

 そんな場所で、いつもの害獣駆除の仕事を終えたある日・・・受付嬢から一つの提案を受けた。

何度か害獣駆除の依頼を受ける際にお世話になっている若い女性だ。

 

「ベテラン冒険者が同行する調査兼討伐依頼に同行しない?」

 

 荷物持ちか?と最初は思ったがそうではない。

初心者・・・未熟な冒険者をメインに僅かなベテランが後ろでサポートするので

ベテランから技術や長旅の仕方を習いながら推定ゴブリンの巣を潰してこい。という依頼だ。

 

 最初、それを聞いた時ノエルは眉を顰めた。上手い話過ぎる。

自分達が狩った手柄をベテランに奪われるのではないかと思うが・・・

ギルドの店員達が返した言葉は、自信に満ちていた。「ギルドが厳選した自立冒険者だから大丈夫だ」・・・と

その理由を聞いて驚いた

 

 【自立冒険者】 依頼を受け、秘境等に向かうのではなく自費で秘境等に赴き冒険する真の意味での冒険者

鎧も、剣も、薬草も何もかもを自費で揃え命を危険に晒す発狂者達

 

立入禁止区域や、貴重な生き物が生息する場所に入っても問題無い権力・実力・実績を持ち

一度毎の依頼の報酬が多額だという・・・ノエルの目指している存在だ。

 

「自立冒険者は、冒険を愛する者達なのだろう?こんな依頼を受けてくれるのか?」

 

ノエルは、当然の疑問を口にした。

 

「お金以外を求める人達だからこそ、彼ら自身の価値観に合えばロハでだって冒険するのよ」

 

そう言われ、口を閉じた。それ程の存在が詰まらない駄賃仕事に来る理由が思い浮かばない。

だが、同時に良く中堅冒険者の中で言われる事がある

 

自立冒険者(アイツラ)イカれてやがる」

 

自立冒険者は、彼ら自身のルールに則って行動する。報酬金額より自分の興味こそが一番なのだ。

何に興味を引かれ、木端依頼を受けるのかは知らないが・・・

イカれてると言えば、剣一本で権威を得ようとする自分も、同じ穴の狢だ。人の事は言えない。

むしろこの幸運を逃すのは余りに惜しいのではないか?とすら思えてくる。

 

そうして悩むノエルを前に、受付嬢はペラペラと説明する。

 

安いが前金はある。装備等は其方で揃えてもらう。移動方法は自由。

教官役の冒険者は極力手を出さない。新人達が死にかけたら命位は助けてくれる。

但し!一番大事な事として、教官達は長旅のやり方や工夫。冒険の知識を教えてくれる

 

教官達・・・教官は二人居るが、その二人が依頼の合否を決める。

失敗してもデメリットは無いから教官とソリが合わないなら途中で抜けて構わない

・・・逃すつもりは無く詳細を聞いてその場で依頼を受けた。

 

そんな事も過去を思い出しながら、晴天の空の下を歩く。

今日、受けた依頼の詳細と、パーティを組む相手との顔見せ

及び、自立冒険者と出会えるらしい・・・。

 

「自立冒険者と出会えるだけでお釣りが来るぞ・・・一つでも技術を覚えられればもっとだ」

 

ノエルは賢く、自分が冒険者ギルドのお気に入りになっている事は知っていた。

丁重な仕事を心がけてきた芽が出たのだ。そう内心喜んでいたし

正しい事をすれば報われるのだと、顔を緩めて微笑んだモノであった。

 

街の中を歩いていけば焼き立てのパンの香ばしい小麦の匂い。

楽しげに笑い合う少年少女。威勢の良い食物屋の掛け声が耳に飛び込んでくる

熱い日差しは確かに苦しいが、街の中は爽やかな風が吹いているかの様であった。

 

そうして歩いていく先にある冒険者ギルドに入るのだが・・・一瞬、違う場所に入ったのかとノエルは勘違いした。

余りにも静かすぎた。普段は叫び声に殴り合う音がそこら中で聞こえる酒場で

お行儀よく・・・は無いが普段の3割程の静けさで飲む冒険者達。

 

「(何だ?何があったんだ?)」

 

初めて見る酒場の雰囲気にドギマギしながら受付へと進んでいこうとするノエルに声が掛かる

 

「おぉ~い、ノエルくぅーん。こっちこっちー」

 

のんきな飄々とした声。ギルドマスターである店長の声だ。

今回の依頼を企画してくれた人でありノエルはこの人が不思議と好んだ。

男性とは思えない丁寧な態度や、暖かな目が父と母を思い起こすからだ。

 

「店長さん・・・!」

 

ぱたぱたと其方に向かおうとしたノエルは店長の隣に見慣れない存在が居るのに気づき・・・・・・

 

 

 

 

               心臓が止まった

 

 

 




今物書きでは極力地名は簡易な名前にしたいと思います

皇国・王国・共和国の3つの予定です。


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第一章「始めての冒険」 四話目

ジークが店主と酒を軽く飲み交わしている。

ツマミを何皿か食い酔いが回る前に、飲み方をセーブし始めた頃だった。

 

入口の扉が空く。そこに居たのは・・・・・・子供であった。

街人よりは少々上等な衣服を纏い、腰に巾着を付け背中に一振りの剣を持っていた。

俗に言うバスタードソード・・・片手振りと両手振り、双方共に出来る大剣と片手剣の合いの子だ

だが、子供が身につけている姿では、大剣にしか見えない。

 

 気品ある顔立ち、黄金の艶やかな髪・・・間違いなく、貴種の血を引く者であろう。

体格も細身だが引き締り、申し分ない。幼少より栄養あるモノを食べた者は体付きが違う。

そして、その姿に宿る確かな礼節と教育が見て取れた以上、それ以外に考えられない。

 

ジークに観察されている少年はキョロキョロと周囲を見渡し首を捻っている・・・隙だらけだ。

そんな幼く美しい顔立ちである少年に下卑た視線が酒場中から向けられた。

それを気味悪く思ったのか顔を顰め、コツコツと酒場を歩き始めた。

・・・下水を煮込んだ様な環境である冒険者ギルドを快く思っていないようだ。

 

そこまで推論し、まず間違いないとジークは疑って居なかった。

何故なら長い冒険生活の中で人を超える知覚を有するが・・・中でも第六感が鋭かったからだ。

ジークは人の視線、他者の言葉の真偽をある程度予測する事も出来る。

擬態した魔物を狩り続けた結果得た経験則と注意深さをジークは頼りにしていた。

 

「おぉ~い、ノエルくぅーん。こっちこっちー」

 

呑気で、僅かに赤らめた顔の店主がノエルと呼ばれた子供に手を振る。

子供は、店主に気づき近寄ろうとし・・・ジークの顔を見てビクゥッと飛び上がりかけた。

カチコチと顔を顰めて、前へ進んでいた足が止まる・・・がゆっくり歩き出す。

 

「どうも、店主さん。お世話になってます」

 

 ジークはノエルの瞳を見つめた。そこには、瞳を見つめるジークの姿が映る。

だが同時にノエルの瞳に強い恐怖と期待が篭っている事も見て取れた。

はて・・・この様な冒険野郎を見て、怖がりはすれど期待される事は・・・・・・

 

 そこまで思考して己の技術を学べると期待しているのか。そんな事が脳裏に浮かんだ。

密偵技術等、奇跡的な運か悪夢的な悪運が必要である。

なのに冒険には必須と言える技術なのだ・・・ノエルの瞳に映る期待の色をジークはそう解釈した。

 

「あの・・・それで此方の方がもしかして?」

 

「うん、そうだよ。君たちの教官さんさ!!」

 

「え・・・や、やっぱりそうなんですか?!」

 

ジークが考えている間にノエルと店主は話し続けていた。

脳裏にその声を入れながら何の意味も無い言葉は自然と記憶のそこへ沈んでいった。

 

「・・・・・・あ、あの。私、ノエルと言います・・・えっと・・・ジークさんですよね?」

 

思考の海から己への質問を向けられた事に気づき、ジークはノエルの目を見返した。

常に他者の目を見る癖が付いているからだが・・・人間、目を見つめられると驚き目を逸らす者だ。

ノエルも一瞬目を逸らすも、ゆっくりジークの目へと視線を戻した。

 

「そうだ。この度依頼に同行する事になる。依頼内容は他の同行者が揃ってからになるだろう」

「は、はいィ」

 

ジークが静かに淡々と話すとノエルは上ずった声で返事を返した。

思わず、出してしまった締まらない自分の声にみるみる内に顔を赤くするノエル。

それを見て、クスクスと笑う店主の姿にジークは困った。

 

自分自身、無遠慮で不器用な性格である自覚はある。

これが気安い性格ならば目の前の子供の緊張をジークは解せただろうが・・・

そんな事を出来る性格でも、見た目でも無い事をジーク自身が一番良く知っていた。

 

「ほら、座って座って、ミルクで良いかな?おつまみもあるよ」

 

店主は、ウェイトレスにミルクを2つ、そしてハーブ茶を一つ頼んだ。

子供と店主がミルク。己がハーブ茶なのだろう。

ジークはこの店の茶の香りと色合いの美しさを好んでいる事を店主は知っていた。

 

暫くの間店主とノエルは話していた。ジークは黙り込んで時折来る質問を答える。

暫くして子供がもう一人来、その後すぐに最後の子供がやってきた。

誰もが10歳から12歳程度の幼い子供であった。

 

一瞬で酒とツマミが置かれていた酒場の席はお子様に占拠され、苦味ある物酸味ある物は撤去された。

ジークの席にあるのはお茶が一杯だけである。

 

子供達はお互いに初対面なのだろう、余り話さずそれぞれが店主と話し込んでいた。

そう時間は掛からず一人のギルド職員が近づき、店主にゴニョゴニョと耳元で話した。

僅かに顔を曇らせた店主であったが、不思議そうな顔をする子供達にニパッと笑いかけこう言った

 

「本当はもう一人、付き添いの人が来る予定だったんだけど・・・」

「依頼帰りの馬車が遅れてて今日にはつかないみたいだ、今居るメンバーで話そうか。」

 

 この世界には魔物が、魔法が存在する。

それはつまり街から街への移動も命懸けであり・・・馬車が魔物等のせいで遅れる事も日常茶飯事だった。

故に全員が余り気にせず一旦体勢を整える。店主から一人一人自己紹介を頼まれている。

 

最初に声を出したのは、一番最初に来た気品ある少年だった。

 

「私の名前はノエル。先日冒険者になった。でも何度か害獣駆除の依頼を受けている」

「勿論、失敗した事は無い!」

 

 落ち着いた声で周りの人間を見ながら堂々とそう言ってのけたが・・・自分を大きく見させようとしてるのか

僅かに体を張って言う姿は威厳より滑稽さ・・・失礼な話、可愛らしさが先に来ていた。

紅潮した頬を見るにノエルにとっては会心の自己紹介だったのだろう。

 

「剣が得意だし、学も納めているからそっちでも頼って貰って良い。」

 

 チラリと目線をジークに向けフンスと鼻息を荒く言った。

自分は役にたつし、他の二人とは違うと言いたい様だ。

 

「はいはい、皆~此処に居るノエル君は君たち3人の中で唯一の接近主体の戦士だ」

「冒険者になりたい。って若い子の中でも礼儀正しいし思慮深い。何かあったら相談してね」

 

 店主が補足する様に呑気に言った。

ノエルは無表情を装っているが口元が吊り上がって得意げにしている。

礼儀正しいと言われた時にピクピクとしていたので、そこが嬉しかったのだろう。

 

 大抵、冒険者とは荒くれ者だ。泥にまみれ危険に飛び込む男等大抵ロクデナシだから仕方ない。

だから大抵礼儀正しさとは評価されない。実力が第一だからだ。

となると・・・必然的に態度を大きくする乱暴者が注目されやすい・・・この酒場では逆だが。

 

 何度かジークの力量を掴めなかったチンピラが自立冒険者として成功したジークに突っ掛り

酒場の真ん中で酷い目に合わされたからだ。

態度の大きい者は居る。乱暴者も居る。酒場で喧嘩も起きる・・・がジークの顔色を伺う程度だ。

 

 二人目の子供・・・・・・赤髪で、ゆったりしたマントを来た、肩程まで髪のある少年が次に言葉を発した。

肌が白く、ノエルの様な引き締まった細身ではなく純粋に脆弱なのが見て取れる。

 

「ボクの名前は、クリス。元は狩人だったので、石弓(クロスボウ)を少し撃てるよ。」

「罠とか・・・後は薬草の知識とかも一応・・・。唯、本業は創成魔法だね」

 

その言葉に、僅かにジークは目を見開いた。

 




という訳で四話目。余り進んでいませんがキリが良いので
次回はこの世界の魔法の設定を話そうと思います。


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第一章「始めての冒険」 五話目

魔法に対する説明回です。クリスの自己紹介はオマケ程度。
他二つも、今後説明しますが、創成魔法はファンタジーに良くある
ふんわりしたモノではありません。完全な学問です。

又、文明が何度か吹っ飛んだせいで、詠唱はほとんど遺失しています。
詠唱を間違えるととんでもない事が起きる事も多い為

自爆覚悟で新しい詠唱を試す研究者も居ません。


この世界にある魔法体系とは、大別すれば2種類。種類ごとに言えば3種類に分かれる。

沢山の流派がある為、そこまで入れると膨大な数になるが・・・

 

大別すれば【神代魔法】【契約魔法】の2つとなる。

だが、わかりやすく説明する場合良く用いられるのは種類別である。

すなわち【創成魔法】【神聖魔法】【契約魔法】の3種である。

 

その中でもメジャーな魔法である【創成魔法】とは、神々が世界を生み出した際の奇跡の模倣である。

神話として語り継がれるに、この世界のすべての存在は膨大に居る神々が作り上げたのだと言う。

 

火の神がこの世に[火]という概念を作った用に。

命の神がこの世に[生命体]という概念を作った用に。

水の神がこの世に[水]という概念を作った用に。

 

この世に、己の望むモノを生み出す極小の創造行為。

それが【創成魔法】の正体である。

 

又、そこには「世界のモノを操作する」事も含まれており

熟練した創成魔法使いは、限定的だが仮初の生を持つ者を生み出したり

五体無事な死者を蘇らせる事も可能としている為、疎んじられたり重宝されたりする事が多い。

 

そんな創成魔法を行使するに当たり必要なモノは【創成言語】【設定】【生命力】の3つである。

【創成言語】とは、神々の言語であり自身が発生させたい現象を言葉にする行為だ。

 

「世界在れ」と言う事で世界の全てを作り出した神々とは違い

現世の存在の知覚力が低すぎる為、詳細な言葉が必要になるのがたまに傷である。

 

 例えばだが相手に火をぶつけたくても[火]だけでは、自分が燃えるだけで終わる。

「[攻撃]をしたい。[火]よ[爆裂]し[殺害せよ]」 という言葉が必要になる。

 

だが、イントネーションや発音の僅かな差で発動しない事等良くある事であり

魔法使い達は必要な単語を抜き出し自分が望む結果を出せるギリギリの単語で発動するのが普通だ。

 

先程の例で言えば[“我、攻撃する”“火”“爆裂”“炎弾”]となる。

だが、此処で問題なのは。何処に飛んでいくか。という事である

 

[形状は弾丸状に飛んでいくのか。それとも狙った空間に発生するのか]

[弾丸だとして、何m程飛ぶ弾丸なのか。何発作るのか]

[術者から何度の方角に放たれるのか]等等、極めて膨大な情報が必要となる。

これらの情報を世界に伝える為に虚空に魔力で魔法陣を描く。これが【設定】である。

 

言葉にすれば簡単そうに聞こえるが・・・【設定】を一から一瞬で作る何て無理だ。

創成言語は極めて膨大な数に及ぶ為、どの言語の組み合わせが効率的か

自分が望む結果を出すにはどうするか。等一瞬では出来ない。

 

例えばだが魚を呼び出す魔法を発動したとして・・・

数え方や立方体に影響を及ぼすのか平面(すいめん)に影響を及ぼすのか細かな違いが出来るからだ。

 

 大抵の場合は流派毎に「この魔法の創成言語はこう。魔法陣はこう。」

「設定をする際は、魔法陣をこう書きなさい。違う表記だと発動しなかったりします」

という事を教える。その為、一朝一夕では魔法は覚えられない。

 

 熟練になれば[創成言語]は弄れなくても、設定をいじる事なら出来る。

とは言っても、[何発撃つか][何m飛ぶか]程度の、設定を1つか2ついじる程度である。

 

 そして最後に・・・【生命力】。この世界に済む者達は神々が作りし創造物であり

神々が[世界在れ]と言う事で世界を生み出した事で、神々の持つ力の一端を誰もが所有している。

それがいわゆる【生命力】である。これらは個人差が有るモノである。

 

優れた個体程高い【生命力】を持つ。というよりはこの世に生を受けた時点で

何処まで高い【生命力】を持つのか、決まってるというのが学者達の通説である。

 又、学者達は魔法を放つ為に必要な力なので【魔力】とも呼ぶ事がある。

 

そんな【生命力】を消費する事で、神々に比べカス以下の創成魔法が使える訳であるが・・・

その現象を起こす為に必須な生命力が必要とされ、消費される。

 

 その為、創成魔法の詠唱と魔法陣を完璧に行ったとしても未熟な魔法使いでは

死者の復活等の大魔法を使う事は出来ない。魔法が発動する前に、気絶するか死ぬのがオチである。

 

 余談であるが【生命力】を回復する為には、他の生き物の肉を喰らう事で回復する。

とは言っても、回復しやすい食物、回復しづらい食物は有り・・・

人間の肉の回復量ははほぼ0である。最悪自分を食べるという行為は何の意味も持たないのだ。

 

 逆に回復しやすい食物と言うと現在発見されている中では

一定の植物が最も人間の魔力を回復させやすいと言われており

それらを煮詰め飲みやすくし体内に溶け込み安くした薬品を【ポーション】と人は呼んだ。

 

 纏めれば、創成魔法を使うには

【遺失した神代の時代の言語を学び完璧な発音が可能で】

【術者から何mまでどういう形で発動するかを虚空に魔法陣として記述し】

【自らの命を削り現象を発現する】という工程が必要となる魔法である。

 

   

         ※    ※   ※

 

 

 魔法とは極めて複雑な工程であり、普通なら5年で見習い卒業。

戦場等で使うなら10年の修行が必要だが・・・目の前の少年。クリスは、それを使えるという。

 

ジークは店主をチラりと見ると、頷かれた。

成程、先程のノエルという貴種の血を引く者が冒険者等してるか分からんが・・・

栄養のある物をたらふく食べ豊かな肉体を持ち、知識人として一番大切な【学習の重要性】を理解している。

更に礼儀正しいから成長後も山賊崩れになる事はないだろう。

 

そして目の前の赤髪の少年は・・・純粋な天賦の才を持つ。

創成魔法を知らぬ者は、不思議な力で魔法を使っている・・・等と勘違いしているが実際は違う。

特に実践で使うとなれば、それは両手それぞれで別の絵を書きながら口頭で早口言葉を言い続ける様なモノだ。

 

 だがそんな使いづらい魔法であろうと、冒険者にとって魔法使いは無くてはならない存在である。

魔法で無ければ殺せぬ存在が居る。神代に作られし遺跡の碑文を読む為の言語能力が必要となる。

様々な要因が有り、魔法使いは冒険者に優遇されている。

 

「・・・・・・」

 

ジークはクリスを見る。頭の先から服の特徴などを・・・

僅かに猫背気味になっているのは勉学に励んだ証拠であり・・・

背中には虚空に魔法陣を描く為に使う、散歩杖モドキを持っていた。

 

成程、多少旅を豊かにする程度の魔法を使うモノかと思ったが・・・本業が創成魔法使いとなれば

価値が1つか2つ上がる。店主が死なせ無い様に己に技術を教えろと言う訳だ。

 

虚空に描く線幅は均等である事が望ましい為、魔法使いは自身の指や手等で描く事を好まない。

杖等を媒介に描くのが普通だ。

 

「あの・・・ボクの顔に何か?」

 

ジっと見つめていた為キョドるクリスに無表情でジークは答える。

 

「何でもない。何年程魔法を学んだのか気になっただけだ」

 

普通なら10年。だが12、13程度の小僧が2才から魔法を学んでいたとは思えない。

 

「あの・・・あんまり信じてもらえない話なんですけど・・・」

 

俯き気味に言う。才ある者なら5年程で実戦で魔法を使える様になるモノだが・・・

 

「3年前に・・・教わりました」

 

ほぅ・・・っとジークは小さく息を吐いた。

俯いているクリスは、ボソボソと言う

 

「でも。お父さんが考古学者で・・・子供時から創成言語は学んでたので、はい・・・」

「魔法を使う為の訓練に3年って形で、す」

 

3年。3年か・・・。内心でジークは驚いていた。がそれだけだ。

 

「様子を見るに、相当他の者に貶されたか」「はい」

「嘘つきと言われたか」「はい・・・」

 

どんどん声が小さくなるクリスを見。頭をガシっと掴むとジークは顔を無理に上げさせた。

 

「案ずるな、己は否定せん」

 

ジークは、クリスの目を見てそう言う・・・突然頭を掴まれクリスが動転しているのが見て取れた。

 

「己は、お前の人生も生き様も努力も知らん」

「お前の実力も、未来も今からする事も分からん」

「だから、俺が見るのは 今 お前が 何ができるか だけだ。」

 

ジークは、才ある者が好きだ。努力する者が好きだ。

自分と同じ様に冒険に出かける者が好きだ。

才ある者が、その才によって常識を疑われるのに我慢ならなかった。

 

自らの才を誇っても良いのだ。胸を張れ。そんな気持ちが溢れ出した。

小さな少年の目を見。その心を、言葉に込めて。そう言った。

 

頭を掴んでいた手を離すと、背中をバン!と張る。ビクン!と姿勢を正すクリス。

ジークは、顎で続きを促した。

 

「・・・ボクは冒険とか、見た事ないものが見たくて。冒険者をしています」

「だから・・・もっと、もっと強くなりたくて依頼を受けました」

「よろしくお願いします」

 

僅かに気弱そうな弛んだ顔が引き締り。テーブルに居る者達にクリスは頭を下げた。

全員が、それを静かに頷いた。クリスのその言葉を否定する者は居なかった。

頭をあげたクリスはジークを横目に見ながらボソボソとありがとうございます。と言って

 

また背中を張り倒されていた。

 




ちなみに創成魔法も神聖魔法も神様の行う行為の模倣です。

前者は才能を用いて行い
後者は、神に気に入られる or神に利益ある者に与えられる加護です。

魔法と言えるのは前者で
後者の神聖魔法は普通の小説では【スキル】とかって呼ばれる代物だと思います。

契約魔法は、名前の通り。人外と契約する魔法です。
契約魔法は次の章まで出てこない予定です。


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第一章「始めての冒険」 六話目

冒険に出る前の準備編・・・その前編です。
次話で冒険に出る為の道具を揃え、最後の一人と出会い

八話目から冒険が始まります。


最後の一人・・・茶髪の少年であった。

 

 肌は僅かに焦げ、クリクリした目には希望を溢れんばかりに湛えていた。

綺麗に整えられた髪は短い。動きやすい麻色の狩人服が良くにあっていた。

 

 革鎧に肩に鉄甲が施され背中には弓を。後ろ腰にはえびら(矢を入れる筒)を据えている。

床に置かれたボロボロの袋にはナイフやロープが入っているのだろう・・・僅かに膨らんでいた。

前者二人の様な育ちの良さや学は感じられないが一番冒険者らしい格好だと言えた。

 

 だが一番目を引くのは、頭に着いた猫耳である・・・獣人(ライカンスロープ)だ。

獣人は人より高い生命力と筋力と素早さを持つ。反面非本能的な行為に集中力に欠けるが・・・

優秀な冒険者になりやすい種族である。

 

 人に比べ数は少ないが100人集まれば一人は獣人である。程度には数は居る。

神話の扱いでは、人間の次に作られた別種族であるが・・・一定の地域を除き迫害等はない。

 

 人間からして余りの脆弱さに神々がお嘆きになり獣人を作った・・・と言われているからだ。

その獣人も本能的な行為には逆らえないので神々の失敗作扱いを受けている。

失敗作同士肩身を寄せ合い生きている悲しい種族。それが我らである。

 

「オレは、アッシュニャ!・・・・・・にゃあぁ」

 

 アッシュと名乗った獣人は元気よく挨拶をしようとし崩れ落ちた。

獣人の発声器官は獣に近い為気を抜くと獣の鳴き声の様になる。呻き声さえ猫の鳴き声になる程だ

店主は可愛い、と頷いている。生まれついた体の事なんだから流せ。とジークは小突いた。

 

「弓が得意で、一応お隣の王国のエルフ流派を納めてる。」

「でも、狩人知識ってのは持ってニャい。けどそういうの教えてくれるって聞いてきたんだ!」

「獣人だからそういうのも出来るって店主さん言ってたニャ?」

 

 猫の発生を抑えようとするも途中で諦め自然体で話している。

実際・・・・・・スカウトとしての適正は獣人はかなり高い。

身軽で器用。となると人間、土人(ドワーフ)竜人(ドラゴニカ)では難しいのだ。

 

 アッシュと名乗った子供は皆をキョロキョロしながら落ち着きなくしているが・・・

 

「・・・ジークさんの事は知ってるにゃ。変な事しニャいから怒らニャいで欲しい。」

ジークの目だけはビクッとして見ようとしない。過去の因果である。

 

「大丈夫大丈夫。ジークは気難しい所はあるけど良い漢だ。僕が保証するよ」

 

 店主がまぁまぁと言いながらアッシュの背中を摩る。

にゃぁにゃぁ言いながら店主の方へ体を寄せジークから離れるアッシュ。

その行動にジークには予想が着いた。

 

 獣人には危険察知本能が高い個体が多い・・・つまりお互いの実力差が良く分かっているのだ。

ジークなら此処に居る店主と子供3人等、素手でも5秒で殺せる。

機嫌を損なえたら謝罪する前に殺される事を把握しているから怯えているのだろう。

 

「・・・気に食わない事をしなければんな事はせん」

 

 本当?とアッシュがチラりと頷いたのを見、コクンと頷いた。

僅かに体勢を戻したアッシュは全員に頷いた。

 

「ゴブリンニャら故郷の村で戦った事もあるから、頑張るニャ!」

 

 はてさて・・・そうして三人の自己紹介が終わり、ジークの番が来た

ジークは、正直んな事しなくても良いだろ。と思ったが店主は違う意見の様だ。

目で早く。と言われ口を開く。

 

「ジーク、姓は無い。上位冒険者の一人だ。」

「道中、お前達に技術を教える、だが甘くはせん。」

「技術の全て等時間が足りなすぎる。だから己が教えるのは技術の元になる事だ」

 

ジークは一人一人の瞳を見ながら言う。

実際スカウト技術等毎日のように罠や鍵は更新され続ける以上

必要なのは、冒険の中でスカウト技術を自らで鍛える。その土台である

 

「罠の解除の仕方等、この世の中に居る罠職人全員の手口が分からなければ教えきれん」

「危険を察知する第六感等冒険の中で鍛え続けるしか無い」

「己がお前達に教えるのは、どういった態度で冒険に挑むか。どう技術を磨けば良いかだ」

 

そこまで言うと、ジークは店主に依頼の説明を求めた。

店主は一つ頷き話し始める。とは言ってもジークが既に聞いた内容と同じだ。

 

「という訳で、ジーク。いつ出発する?今日の夕方にはもう一人の教官役も来るだろうし・・・」

「今日は解散して明日出発で良いかい?」

 

 ジークは暫し考え・・・子供たちを見渡し首を横に振った。

 

「今日の内に冒険の準備をする。前金を寄越せ」

 

 ジークのその姿に店主は満足げに頷く。ッチっとジークは舌打ちした。

ジークが真面目に教官役をするか試した店主に対し、クソ野郎がと喉から僅かに漏れた。

チャリチャリと茶色い巾着が3つ机の上に置かれる・・・中には銀貨と銅貨が入っているのだろう。

 

「行くぞ、ノエル。クリス。アッシュ」

 

 子供達は、動こうとするも、動きが遅い。ジークはチラりと机の上を見た

・・・子供達の前にはまだ食事があるのを見。静かに上を向き

 

「食べたらな」

 

その言葉と共に一斉に子供達は一斉にかっこみ始めたのを大人二人は頬杖を付いて見つめていた。

 

 

 

 

          ※     ※     ※

 

 

 

食事を終えた子供達に対し、ジークが最初に言ったのは

冒険に出る為の道具を持って来い。という事であった。

それに対し子供達はこう言った

 

「今全部持ってきてる」と

 

ジークは眉を顰めた。

皺が寄りすぎて怒ってる様に見えたアッシュは飛び上がる様に驚くも

頭をポンと押さえつけられて椅子に戻された。

 

「行くぞ」

 

ジークは、手短にそう言うと。店主に頷き立ち上がった。

机の上にジャランジャランと適当に銀貨を放り、スタスタと歩き出す。

財布を出そうとする子供達を手で制すと、早く来いと扉を顎で指した。

 

食事代は・・・と困惑する子供達は、机の上に放られた銀貨の枚数を見て納得する。

奢ってくれるらしい。

実際には銀貨の枚数は全員の食事代の倍だったが・・・ジークは何ら気にしては居ない。

 

「美味かった。また来る。」

 

店から出る際に不思議と透き通る様に響く声でジークは厨房にお礼を言うと

客席から厨房が見えるタイプである厨房の中に居た3人が反応した。

中年の男性と、太り気味の女性・・・夫婦でコックをしている二人はニコニコと手を振ってくる。

その娘の、赤髪の少女・・・コック夫婦の娘もペコリとお辞儀した。

 

夫婦の作る食事を愛するジークにとって、倍の値段の銀貨こそが適正価格だったからだ。

 

 

       ※    ※    ※

 

 

 ジークは、子供たちを引き連れ冒険者ギルドを出・・・暫く歩き古い道具屋へと入っていった。

入口はボロボロで、軒先に吊るされたロープとランタンの看板で辛うじて道具屋分かる程古い。

 

 長屋二つ程の大きさで小さくは無いが、ジーク程の冒険者が使う道具屋とは思えない。

もっと大きくて奉公人が忙しく歩き回る様な、有名で綺麗な店を使っていると思っていたからだ。

 

 店の中は薄暗く、外からではほとんど中が伺い知れない。

だが不思議と埃が積もった特有の煙たさは感じられなかった。

代わりに油特有の野暮な匂いとインクの据えた匂い、そして薬草の苦味の様な匂いが鼻を揺する

 

「いつまでそこに立っている。入るぞ」

 

 困惑した顔をしていた子供達に、店内に入って行くジークはそう言う。

慌てて中に入った子供達は・・・

 

「わぁっ!?」

 

 っと思わず呟いてしまう。店内には見た事無い物、見覚えのある物で溢れていたからだ!

冒険道具、剣、短剣がところ狭しと並べられ

床に置かれた箱にある地図は、古びた物から新しい物まで百や二百で効かない程多い。

 

 ツルハシやら、ランタンやら・・・中古の様なモノから真新しいモノまで。

子供達3人には見た事の無いモノまで大量に溢れていた。

そしてジークは店舗の奥に顔を出すと大声で、奥にいるだろう人に話しかけている。

 

 どうやら、道具の調整等をする部屋を貸せ、と言っている様だ。

奥から老婆の「あいよ”ォお」というダミ声が聞こえると

ジークは子供達を先導し、一つの部屋に入る。

 

「適当に腰掛けろ。武器や道具を置け。己が一つ一つ見ていく。」

 

 中には鋸、ペンチ、砥石、糸織機、革鞣し道具等が大きさを変え各10個以上置かれ

どの道具も全て、良く手入れされているのが見て取れる

そんな室内である。まだ子供である3人の瞳には、まるで隠れ基地の様な素敵な場所に映った。

 

荷物を置いて行く子供達同様にジークもマントを置き・・・背中越しに子供達に一言呟いた。

 

「但し・・・店の道具を弄ればその手首を落とす」

 

 思わず、子供3人はビクゥ!!!!と跳ね飛んだ。明らかに本気だと分かる声音であり

僅かに後ろへ向けられた、自分達を見る目が余りにも冷たい色を浮かべていたからだ。

アッシュは、子供心をくすぐられる室内に喜び、鋸に触れようとしてたのだから、半泣きである。

 

 コクンコクンコクンと素直に何度も頷く子供達を見つめ

溜息を吐き、悪かった悪かったと、ジークは謝る。

大人気なかった、素直にそう思ったからであり・・・その目には、もう冷たさは浮かんでは居なかった。

 

「見せろ」

 

 荷物を置いたジークは、椅子に腰掛けそう言った。

素直にいそいそと子供達は道具をジークに渡し、ジークはソレを順繰りに見た。

 

 アッシュが持っていたのは、火打石と木端、古びたロープ、厚さも何も無い小さなナイフ。

そこに・・・松明と水袋・背負い袋・腰袋が追加で入っていた。

 

 装備品としては、鉄で補強された革鎧、ボロボロの革靴。えびら、中型の弓。矢は12本。

矢尻・箆(矢の棒部分)・矢羽・・・矢は嵩張る。だからバラバラにしただろうモノが12本程。

矢尻と矢羽はそれぞれ小袋に入れられ、箆は細い紐でグルグル巻きにされていた。

 

「どうですか・・・にゃ?」

 ジークがそれらを丁寧に確認していると・・・アッシュは呟いた

 

すると、ジークは、無言でアッシュの頭を乱暴にグリグリと撫でた。

目を白黒させたアッシュだが、僅かに喜色を帯びた瞬間にパチンッ!とデコピンされてまた驚く。

 

「最後に教えてやる。」

 

つまり、何か不味い所があったのだろう。

アッシュは首を捻るも思い当たらなかった。

 

ジークは、残る二人にも道具を見せる様に言った。

 

クリスは、アッシュと似たような小袋・水袋・背負い袋を見せた。

薬草採取や害獣退治等の依頼の納品物を入れる袋等だ。

その他に持っていた小道具は、羊皮紙が10枚程と使い古した羽ペンとインク。

 

装備品は、頑丈な布で出来たローブと、厚手のマント。

細い棒の様な杖・・・実際は【生命力】を杖に通しやすくする植物が使われている。

 

そして、数枚の薬草と、薬師道具類であった。

ジークはそれらを一つ一つ確認し・・・最後にとある一つに注目した。

筆記用具類だ。ジークはチラりとクリスを見た。クリスは慌ててこう言った

 

「あ、薬草とか、知らない魔物とか動物見た時にスケッチするのがっ、えっと・・・」

「ボ、ボクの趣味です・・・」

 

ゴニョゴニョと下を見たクリスをノエルはあっちゃぁと言う様な顔で見る。

趣味の道具なんて持ってきちゃ不味いだろう。そんな事を思ったのだろう。

それに対し・・・ジークは無言でアッシュにした様にグリグリと頭を乱暴に撫で回した。

 

「わっ、ちょ・・・あ、あの!?」

 

クリスは驚き目を白黒とさせ、ボサボサになった髪にも気にせずジークを見た。

怒られ、捨ててこいとでも言われると思ったからだ。

ジークは、クリスの驚きの声に静かにこう返した。

 

「己もそうだ。見た事無い魔物を見た際はスケッチし、後で図鑑や賢者に問いかける」

「魔物で言えば、体色の色、大きさ。足跡・・・それらが似たような魔物は多い」

「知らない魔物の致命的な能力に対応できる様に・・・その癖は大事にしろ。」

 

ジークは懐からボロボロの本を取り出すと子供達に見せた。

そこに書かれていたのは・・・ジークが冒険の最中に出会っただろう魔物や

子供達が見た事無い存在、御伽噺や噂にしか聞いた事の無い化物が描かれていた。

 

最後のページ付近に書かれている物の中には10m程の大きさの6本足の亀等もいる。

 

勿論魔物以外にも色々描かれていた。不思議な風景、摩訶不思議な魔法の様な存在。

危険な魔道具・・・天気の変化の前兆などだ。

それらをペラペラとゆっくり捲っていき、最後のページまで行くとジークは言った。

 

「紙は嵩張らないが、濡れると使い物にならん。乾かしてもくっついて無駄になる。」

「冒険途中は羊皮紙にしろ、帰ってから紙に書き直せ。良いな?」

 

コクンコクンとクリスは頷くが・・・最後にアッシュと同じ様にクリスにもデコピンをした。

痛がるクリスに対しジークは、最後に感想を言うと言って、最後にノエルの道具を見た。

 

ノエルは、おずおずと大剣を差し出した。

ジークは、大剣をまず確認し、鞘から引き抜くとチンチン!と軽く叩く。

柄を握ったり、鍔の銀細工を軽く触れたり、刃を指先でなぞったりしている。

 

「これは何処で?」

 

ジークが静かに問いかけるのを聞きノエルは自慢げだった。

分かる人には分かるのだ。素晴らしい名剣なのだろう。何せ貴族の家に飾られていた程の剣だ。

 

「自分の家にあったモノです。今でも愛用してますし、手入れは欠かしてません」

 

ノエルの持つ大剣は柄は美しい蔓の彫刻が描かれ

鍔は純銀で作られ、それが夕日に当たった際には黄金に輝くのだ。

まるで芸術品の様な美しさであり、この剣に劣らぬ剣士であろうと何度も誓って居た。

 

ジークは、無言で剣を返すと。他には?とノエルに聞いた。

ノエルは、唯「これだけです」そう言った。

 

さて、これで全員を見たのだ。ジークが一人一人の装備の評価をするのだろうと

自分の剣の評価はどうなのだろうかと、ノエルはドキドキした心境でジークを見た。

するとジークは、ノエルに手を伸ばした。頭でも前の二人みたいに撫でられるのかと思ったが・・・

 

       ゴ  ツ  ン  ッ  !  !

 

グラッ!と、脳天に火が叩き込まれた様な熱さをノエルは感じた!!!!

え、え・・・?と驚き、ジークの顔を見るノエル。ジークの顔に浮かんでいたのは・・・呆れでしか無かった。

 

「儀礼用の剣で何と戦うつもりだ貴様」

 

 

ノエルは目の前が真っ白になった。

 




人間と獣人について、神話上の極めて簡略された様子

人間を作り、そのスペックを確認する神様達困惑
  ↓
神々「こんな脆弱な種族が地上で生きられるのか・・・エロくて悪知恵働く以外長所ないぞ」
  ↓身体能力を上げた獣人を作る
神々「人間が獣を使役すれば良いだけの存在だわコレ・・・」
  ↓獣人作りを辞める。
神々「他の事しよう・・・その内何か補填してあげよう」
  ↓数万年後、そこには立派に繁栄した人間と獣人の姿が!!!!
神々「以外と人間と獣人いけるわ・・まぁ、加護でも英雄達に授ければ良いか」

大体こんな感じです。
ちなみに神々の最高傑作達はドラゴンやら、バンパイアやら天使やら。
人間側の最高クラスの英雄達でさえ勝てるか怪しい存在です。


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第一章「始めての冒険」 七話目

今回、普段の2倍程長くなりました。
次回から冒険が始まります。



儀礼用の剣。それは兵士や貴族が式典等の際に帯びる代物である。

煌びやかで細工職人達が手腕を発揮する代物であり、【刃は鈍い】

 

勿論、刃が無い模擬剣等ではない。式典の邪魔に入った者を切り倒す事もあるからだ。

だが、実践用の剣と比べれば雲泥の差だ・・・何故なら、整備の手間が掛かるからだ。

 

剣は放っておけばずっと形を保ち続ける訳では無い。

錆びない様に油を指し、刃を拭い定期的に研がなければ行けない。

だが、時折帯びる程度の飾りにそんな金等掛ける者は・・・少ない。それが普通だ。

 

ノエルの持っていたバスタードソードも同じである。

見た目は美しいが見る者が見れば儀礼用と丸分かりである。

 

1つ、鍔を銀で作る事など有り得ない。

銀は柔らかい。同質量のバスタードソードと鍔迫り合いになれば折れ、手を斬られるだろう

2つ、柄の蔓の模様。これも又見る者が見れば分かる。

剣士たる者戦場で振る剣を持って素振りを行うが・・・蔓細工程度すぐに潰れて見えなくなる。

つまり、日常的に振る事を想定されてないのだ。

3つ、刃自体鈍い。勿論わざと鈍くする事で強度を上げて殴り殺す事に特化した剣もあるが

バスタードソードに等そう言った加工はする事は無い。

 

以上3つから導き出した答えである。

 

 

「・・・・・・」

 

呆然とするノエルの瞳を見つめ、ジークは同時にこう思った。

 

「(この小僧・・・天稟がある)」

 

撲殺用でも無い剣で、魔物では無いとしても害獣をこの歳で殺す・・・剣技を納めていたとしても中々出来る事では無い。

先程は、バスタードソードとは違う事でも不満が有り手を出してしまったが・・・

何はともあれ、まずはノエルの事情を聞くべきだった。そうジークは悔いた。

 

そこまで思考しノエルへと視線を戻すと・・・・・・

 

「ぅ・・・ぇ・・・っ!ぅ、ぅう・・・・・・」

 

 ノエルは嗚咽を流し、その大きな瞳に涙粒がこれでもかと溜めていた。

ジークは困った。此処で気安い慰め等すればどうとでもなるだろうが、不誠実では有りたくは無かった。

クリスを見つめ・・・暫く考えたジークは、子供達と目線を同じくする為に膝を付き中腰になる。

 

「・・・・・・」

「一つ一つ説明していく。」

「現状、この中で冒険の準備が出来ている者は居ない」

 

 きっぱりと三人に言い放ったジークは一人一人の瞳を見つめながらゆっくりと話す。

 

「本当に最低限の荷物でも、クリス、アッシュの荷物を合わせて漸くだ。」

「だがそれでもまだまだ足りん。」

 

 鋭い瞳のジークに見据えられた子供は動けなくなった。泣きそうだったノエルもジークを見た。

その瞳も、声音も。ジークが強く絞り出した。自分達の為の物だと分かったからだ。

 

「真夜中に、灯も無く夜は越せん」

「興味本位で獣が寄ってくるかもしれん、要らぬ手間ばかり掛かるかもしれん」

「それでも、暗闇の中にいるよりは数倍マシだ。」

 

ノエル、クリス。と名前を呟く。暗闇の中、敵に囲まれた時はどうする?と

 

「ひ、昼間しか、うごいだごどな"い」

 

 ノエルは嗚咽を耐えながらそう言った。

野営の知識等、ノエルは持っていない。数日の旅路になると知っていても頭に無かった。

唯ゴブリンを倒し、知識が得られる事だけしか頭に無かった。

 

「そうか、お前は獣に食われ死ぬだろう。盲の剣士等壁にはならん。」

「脇を抜けられ、お前と共に居る二人もまた、食われる」

 

ジっとノエルを見つめ、そう呟いた。事実である。

剣士の役目とは、敵を引き寄せ妨害を行い、敵の目を惹きつける事だ。

見えぬ敵に剣を無闇矢鱈と振り回しどうにかなるモノでは無い。

 

「・・・魔法で・・・・・・」

 

続き、クリスはおずおずと呟き・・・途中で言葉を切った。

ジークがジっとクリスを見つめていたからだ。

クリスは、首を横に振った。本当は分かっていた。

 

「・・・魔法には・・・・・・使用回数が有るから。必要外で使うべきじゃない。」

「特に考えてない・・・誰かが用意してると思ってたんだ。」

 

実際、クリスはそう思っており、アッシュが用意はしていた。

 

「・・・言い訳にならないよね。ボクは甘く考えてた」

 

ジークは頷いた。甘い。甘すぎる。

誰かが用意してくれるだろう。確認して足りなければその時に買い足せば良い。

それは当然の考えであれど、灯りの用意等全員がしてなければ行けないモノだ。

 

「誰かが用意してるだろう。用意してなければその時に用意していれば良い」

「成程、冒険に出た事の無い者の考えだ」

 

ピシャリとそうジークは言い終わり・・・次にアッシュを見た。

 

「アッシュ、森の中や敵の拠点の確認。お前はどうやって調べるつもりだ?」

 

アッシュはビクっと耳を震わせた。

狩人知識は無いアッシュである。適当に歩いていれば見つかる。そしたら戦えば良い。そう思っていた。

 

「己らに地の利は無い。敵を見つける為には地形を把握しなければならん」

「森の中で迷い、さ迷い歩く事になるかもしれん。」

「拠点を見つけたとして、敵が逃げ道を作っているかもしれん」

「もし、運良く敵を見つけ、逃げられなかったとして・・・森から抜ける事に手間が掛かる」

 

「行くべき道も何も分からず、知る手段も無い等、盲目で歩いているのと変わらん」

「・・・・・・己らは冒険者だ。傭兵では無い。分かるな?」

 

戦場へ歩き、戦い勝つだけなら傭兵で十分だ。

見知らぬ場所で、調べ、考え、勇気を持って踏破してこそ冒険者である。

 

「何でも良い。気になった事はメモをしろ。脳味噌等宛にはならん。」

「忘れない等と思うな。忘れても良いようにしろ。」

 

そこまで言うと・・・ガシガシガシとジークは頭をかき、溜息を吐いた。

 

「・・・・・・・・・はぁぁ」

 

ノエルはまた泣きそうになる。クリスは俯いた。アッシュは耳が垂れ下がった。

見放された、そう思ったからだ。そして3人に対しジークは・・・

 

「・・・・・・その上で・・・謝罪する。すまない」

 

頭を下げた。ジークの声音は深い後悔の色が浮かんでいた。

 

「己はお前らの事を知らん」

「お前達に打破する技術があるのかもしれん」「己の言った通りにしても無駄かもしれん」

「知らない事を知らぬ者に、ああだこうだと言う等滑稽な事だ。」

 

「己が今の己の様に言われれば脳天をぶち抜いている。すまない」

 

 更に深く、頭を下げた。ジークは説教も正論も大嫌いだからだ。

相手がどう考えてるか、どうしたいか。それも分からず、否定する事は嫌いだった。

だが、それでも、これは・・・言わなければ行けない事であった。

 

「ノエル、クリス、アッシュ・・・その上で聞いてくれ」

 

3人は言葉を忘れ、ジークを見た。ジークも見つめ返した。

ジークは、一度言葉を切り、考え。ゆっくりと話し始めた。

薄暗い室内で、ジークの声だけが響いた。

 

「己が教える技術・・・密偵(スカウト)は、これをすれば絶対間違い無い。等と言う物は無い」

「自分で鍛え続けるしか無い。鍛えるだけでも駄目だ。鍛えたモノを応用しなければ行けない」

 

「ダンジョンの罠を見たらその場でどう解除するか考えなければいけない。予め学ぶ事は出来ん」

「暗闇の中、迫り来る暗殺者を察知するには五感を鋭し、違和感を放置してはいけない」

 

「考えて、足りない物が無いか考えろ」「分からない事があれば本職に聞け。」

「旅に必要なモノは行商人が知っている。」「山に登るなら登山家に聞けば良い」

「知らぬ場所に行くなら、近隣の者に何があるか、何が起こりかねないか聞け。」

 

「そして・・・便利なモノは迷わず使え。邪道であろうと自分の為になるならそれは正道だ」

 

ジークは、精一杯考えながら話した。

言葉を話す事は苦手だった。でも、今3人に必要な事を精一杯心から捻り出した。

どうか、忘れないで欲しい・・・と。言葉に乗せて話した。

 

「アッシュは、旅路の中で最低限のモノはある。」

「だが、ボロボロの靴は駄目だ。靴擦れを起すと走れん。高い場所に登った時に踏み外す」

「弓を張るのもいかん。弦も弓も痛む」

 

「クリスとノエルは、他の冒険者でも何でも良い。もっと真似をしろ。」

「道具の活用方法が分からなければ道具屋で聞け。」

「分からない事が分からないなら、体験した事ある者に何度も何度も聞き続けろ」

 

「金を払って道具を揃えれば、命が長らえる。そうすればもっと難しい冒険にも出かけられる」

「【備えろ】。密偵(スカウト)も、冒険者もその一言に尽きる」

 

 此処まで一息に言い終えて・・・・・・ジークは深く深く溜息を吐いた。

言葉を沢山話したくは無い。言葉を話せば話す程、本心は薄っぺらくなる気がするからだ。

でも、言わなければ伝わらない事がある。たった三日で密偵(スカウト)技術を教える等不可能だ。

なら自分達で鍛えられる様にするしか無い。鍛えられるコツを教えるしか無い。

 

「・・・・・・ノエル、先程は済まなかった。拳骨を落とす事は無かった」

 

改めて、ジークはノエルに頭を下げた。

 

「何の道具も持たない。それを知り、何処か、誰かの・・・」

「冒険者と言う名のピクニック気分で依頼を受ける軟弱者達を思いだし手が出た」

「己は気に食わないなら手が出る。最悪殺す。だがお前と関係ない事で手を出すべきでは無い」

 

「許せ、ノエル。お前がその剣を携える訳を聞くべきだった」

 

ジークの謝罪に対し、許すか、許さないか・・・そんな言葉では無く。

ノエルは自分でも知らぬ間に。心の奥からポロリと全く違う返答が出た。

 

「・・・ジークさん。剣を振る事しか出来ない僕でも・・・凄い冒険者になれますか?」

 

その言葉に・・・ジークは誠実にそして、不器用に応えた。

 

「分からん。己が教えようと、次の日お前は死ぬかもしれん」

「何故なら教えた己が、お前達でも出来る事にしくじり、死ぬかもしれないからだ」

「・・・己にはお前の未来も何も分からん」

 

「だが、己が出来るだけの事はしてやる。それが己が受けた依頼内容だからだ」

 

 そしてジークを・・・子供達はジっと見つめた。

同時に・・・・・・子供達はジークの言葉全てを決して忘れないと決めた。

彼から教わったとして、全てが全て上手く行く筈が無い・・・その事に今気づき

教わった事を、これから伸ばさなければ行けないと知ったからだ。

その時、3人は、ジークが考えた通り【備える事】を覚えようとしていた。

 

 ノエルは、唯。教えてください。と小さく呟いた。許すも許さないも無かった。

ジークは頭を上げ、頷き立ち上がった。

 

「・・・此処の老婆は、冒険者の夫を持っていた方だ」

「ビタ一文まけないし、夫を一番の冒険者だと思ってるから男に厳しい」

「だが、腕は良い。業突く張りだがな・・・」

 

 道具を袋に戻すと、入ってきた扉を開ける・・・・・・そこには今話していた老婆が居た。

老婆は背筋が伸びており富裕層特有の肌の張りは無く皺だらけだ。

優しい目等では無い。クワっと吊り上がった目は老婆が一癖ある事を物語っていた。

 

「ジー坊。子供連れてるとは・・・弟子かい?趣旨がえかね?」

「違う、依頼だ」

 

ピシャリと老婆に言うと、老婆に溜息を吐かれた。

 

「偏屈な野郎だよ、お前さんは」

 

ジロジロと老婆は子供達を見つめ

 

「半熟どころか、未熟じゃないか。ったく、ちょっとおいで」

 

 老婆はそう言いながら、アッシュの持っていた袋をパシッ!とひったくる。

中をポイポイ出しながらブツブツつぶやき始める。勿論アッシュの許可等無い

 

「ロープの結びが綻んでる、ダメだねこりゃ。松明は5本程かね・・・ああこりゃ湿気ってる。2本捨てな。何ボサっとしてるんだい!!!その邪魔な靴をさっさと捨てな!!!!あぁ、ヤダヤダ・・・羊皮紙も毛布も持ってないよこの子は。マントも厚手・・・雪山にでも行くのかい?マントは日差しを遮るのと夜風を防ぐモノだよ!!!裁断して毛布にするからそこに起きな!それと、着替えも持っておきな、水に落ちたら凍死するよ。食料は・・・?無い!?自殺にでも行くのかね!もう!!!!!!!それとチョークも持っておきな。迷わなくて済むよ。糸と、針は服に縫い付けときな。大事なもんさ。方位磁石も必要さね。」

 

一瞬の出来事だった。老婆は凄まじい勢いでああだこうだと言いながら

ダメなモノはポイポイと後ろに放り出す。必要なモノをポイポイ袋に入れ、アッシュの体型にあわせる。

小袋にそれぞれ分け、様々な色の紐で種類別に分ける。

 

「羊皮紙10枚、インク、羽ペン2本。松明追加5本・ロープ・クサビと金槌も持たず崖やら木を登るつもりかえ?追加だよ。靴はあっち、大きさは・・・?後マントは毛布に変えるから半値だよ。新しいマントを持ちな。棚はそこ、着替えも同じ棚。どうせ殺し合って破けるんだ。安物で良いんだよ!食料は干し肉、干し果物、硬パン、後は栄養偏るから丸薬持っときな。その他諸々小道具を入れて・・・」

 

「さて・・・・金は幾ら出せる?今までので銀貨20枚だよ」

 

 チラっとアッシュが前金の巾着を開くと・・・銀貨が30枚程入っていた。

銀貨5枚で食事全部有り、風呂有り、洗濯有りの個室の宿屋を一日借りられる。

ちなみに害獣駆除で大型猪一匹殺すのに10枚、熊一匹で20枚・・・熊等は子供達では殺せない。

小型の猪一匹で銀貨2枚。これが普通の子供達の害獣駆除の報酬である。

 

そんな訳でまさか、30枚も入ってるとは思わずビックリした子供達である。

何でこんなに入っているのか、そんな顔をしているが・・・・・・ジークはボソっと呟いた

 

「ゴブリン退治・・・調査も含めての前金なら妥当だな。確か成功報酬は銀貨100枚だったか?」

 

 そう、調査も含まれているからだ。

動物が居る。殺して来い。半日で終わる、安全な雑魚を殺すだけとは違い

旅路の中でゴブリンとは比べ物にならない大物に出会うかもしれない。

探索しづらい場所に拠点があるかもしれない以上、唯の退治依頼の数倍になるのは当然と言えた

 

「で、幾ら出せるんだい!!!!」

 

ッカ~ッペ!と今すぐにでもジークに唾を吐き捨てそうな老婆に、ジークはアッシュを顎で指した。

自分で決めろと言いたいらしい。アッシュは老婆の勢いにタジタジだが・・・少し考え言った。

 

「ニャ、ニャぁ・・・前金が残り銀貨10枚・・・それとは別に銀貨5枚は出せますにゃぁ」

 

そこまで言うと・・・・・・アッシュは片耳をペタリと垂れさせ少し考えた。

先程のジークの言葉を思い出したのだ。

 

「・・・ゴブリン退治で・・・2日位旅をして、森に入って調査するニャら・・・何が必要ニャ?」

 

その言葉を聞くと、老婆はちょっと待ってなと言い、アッシュの体をペタペタ触る。

ゾクゾクゾクゾクと足元から耳まで何時怒鳴られるかと悪寒を走らせるアッシュだが・・・

 

「射手かい、弓矢ねぇ・・・そういえば武器他に持ってないのかい」

「深い森の中じゃ、弓じゃ撃ちづらい場所もあるもんだよ」

 

溜息混じりに武器が置かれた場所へと老婆は歩き・・・一つの短剣をアッシュに渡した。

 

諸刃短剣(ダガー)だね。2本持っておきな。銀貨5枚だよ。」

「弓が壊れたら投げな。戦士が死んだら、それで自分の身を守って撤退。分かったかい?」

 

コクンコクンと頷くアッシュ。

 

「それと、良い剣帯が入ってね、投げやすい工夫がされてるんだけど、どうだい?」

 

見ると・・・銀貨1枚である。高いが中々面白い工夫がされている。

アッシュは面白がり、それを買った。

 

「残り銀貨9枚かい・・・武器が壊れたり、薬が必要になるかもしれないからね。残しときな」

 

そうして、次はクリスの番になったが・・・

さて、それなりに道具を持っていたアッシュでさえあの騒ぎである。

クリスはどうなったか・・・・・・・・・

 

 

「ぁぁ”ぁ”ぁ”ぁ!!!!!もおぉぉぉおおおおおおおお!!!!!なーに考えてるのさ!馬鹿じゃないかえ!?!?!?薬知識持ってるなら、それ相応に持っておきな!!!!傷用の薬草はコレ!!!精神安定用のポーションはこっち!!!毒用の薬草だよ!5枚重なってるけど重ねたまんまにしときな!どれか一つが効果出すのを祈るんだよ。ダメだったらだって?祈りな!!!!魔法使いだからって、武器の一つ位持たないでどうするのさ!!それどころかナイフも無く森に入るつもりなのかい!ピクニックどころか、近所に散歩にでも行くつもりなのかえこの子は!?松明も無い!?はぁああああ?!?!?!?!杖と体だけで行くつもりかえ!!!本当馬鹿!ジーク坊が漸く一人前になったと思ったけどダメダメだよ!教導が依頼だってなら・・・ん?もうその事は言った!?何度でも言わなきゃダメだろう!!依頼舐めるんじゃないよジー坊!んで、こっちのガキは唯の馬鹿だね!!!!冒険者名乗るならその脳みそに刻み込んどきな」

 

ばたばたと、道具等が渡されていき・・・・・・ノエルは冒険者らしい格好となっていった。

とは言っても、大体はアッシュと同じである。逆に言えばそれが最低限全員持つべき装備なのだ。

革鎧を着ているか、否か。薬草とポーションを腰に吊っているか否かの違いである。

 

まるで嵐が起きた様な大騒ぎと、罵詈雑言が飛び交う中。時折入るジークへの罵倒。

冒険者の酒場でこんな事を言われれば、その相手の片腕は切りさばいて持っていくが・・・

老婆は何一つ間違えた事を言わず、何より今回は自分(というか子供達)が悪い以上、黙っていた。

 

だが騒ぎも一段落する・・・ジークは頭を抑えていた。余りの大声に頭痛がしてきたのだ。

アッシュは耳をパタンと畳み、手で耳を抑えていた。獣人には余りに辛い環境であった。

そこへ前金の全てをほとんど使い果たし、半泣きとなったクリスがフラフラとやってきた。

 

ジークに俯いて近づき、その右足にぽふんと抱きついた。頼りになる誰かの温もりが欲しかったのだろう。

ジークは、心に傷を負ったクリスの頭をグリグリと撫でた。自分の初心者時代を思いだし、哀れに思ったのだ。

 

 

 

           だが、此処で一番の主役の出番となる。

          

 

 

           何の道具も持ってこなかったノエルである。

 

 

 

 

 

 

「   ~  ~  ~  ~  ~  ~  ~  ~  !  !  !  」

 

 

 

 

 

 

 

              喝   ッ   ッ   !   !

 

 

 

 

 

 

                ※      ※      ※

 

 

結果ジークの足に抱きつくのが二人に増えた。

ジークは動きづらそうにしていたが、流石にくっついている子供を蹴り飛ばす訳に行かない。

 

そして、まだノエルの買い物は終わっていない。説教が終わっただけであった。これからである。

 

「・・・・・・ノエル。少し先程の話をするぞ」

 

目を真っ赤に腫らしくっついているノエルはいそいそと離れ、話を聞く体勢を取る。

バスタードソードをどうするかについてだ。

思い入れがあるなり、どうしてもバスタードソードを使うなら色々考えてやる必要がある。

 

だが困った事に、ノエルの所持金は少なかった。残る二人と大して変わらないが

最低限持っていたアッシュとクリスと違い、全て買わなければ行けないのだ。

前金30枚では足りない。更に他に剣を買うなら・・・追加で30枚は必要である。

 

「にゃぁ・・・にゃぁのでよかったら・・・」「うん、ボクも・・・仲間になるんだし・・・」

 

アッシュとクリスがそう言って巾着を取り出そうとするのをジークは止めた。

これからずっと共にやる相手だとしても金の貸し借りはするべきではない。

何より今回のみの臨時パーティで等。許すつもりはなかった。

 

そして、仲間から金を借りなければ行けない冒険者等下の下である。

 

「・・・・・・ジークさん・・・これ、高く売れますか?」

 

ノエルは・・・ジークが何か言う前にバスタードソードを差し出した。

ジークは目を細める。最悪、老婆と交渉合戦をしようと思っていたからだ。

 

「・・・良いのか?」

 

ジークは、しっかり手入れされていたこの剣が大切にされていると知っていた。

だからこそ、何かノエルとの間に因果があるのだと思っていたのだ。

 

「家族の思い出の物です・・・・・・でも、今は良いんです」

「私には、もっと必要なモノがありますから」

 

そう言ったノエルの瞳の光は強かった。そう・・・確かに今、ノエルは子供ではなかった。

その瞳を見たジークは・・・・・・一度頷く

 

「バスタードソードなら・・・一振り銀貨55枚程だ。」

「だがこの大剣は新しく、細工が美しい。老婆。65枚程の価値があると思うが如何か?」

 

ジークは嘘偽り無く、そう言った。

 

「老婆って呼ぶんじゃないよ、若造。・・・・・・んー・・・私なら70枚で店で売るね」

「買取なら40枚って所かねぇ・・・」

 

老婆の目利きは確かである。儀礼用等店で売らないだろうが・・・価値は苑くらいなのだろう。

ジークは頷き、考えると巾着から銀貨より一周り大きな・・・大銀貨を取り出した。

大銀貨とは、銀貨100枚分の価値がある代物である。

 

「・・・己が買い取る。70枚だな?」

 

ノエルが、ぁっと小さな声を出すと同時に、一振りの大剣。そして前金の巾着をジークは取った。

ノエルが大剣を持っていた手に、大銀貨を一枚、ポンと渡した。

 

「・・・・・・」

 

むすっとし、黙りこくる顔のジークを目を真ん丸にしてクリスは見た。

良いの?と言葉には出ず、唇だけが動いた。

 

「・・・・・・剣士には剣士の一分がある」

 

真っ直ぐな目をした剣士が、己の大切な剣を手放そうとするなら。

それが、必要だとしても・・・・・・、子供が漢へと道を歩もうとするのなら

 

「・・・・・・唯の気まぐれだ。」

 

珍しい気まぐれ位、起こしても良い・・・そうジークは思った。

面白そうに見ていた老婆は、ノエルに声をかけた。

 

「おいで、金はマケないけど体に合う剣を見てな。ほら、他のチビっ子も見てやるんだよ!!!」

 

武器の戸棚に、グイグイと子供達を押しやった老婆は、子供達を放りジークの所へ戻ってきた。

 

「アンタも買うものあるんだろう?冷やかしなら塩まくよ」

 

本当に撒きかねない老婆に対し、ジークは、依頼された森への皇国からの地図を見せた

 

「此処を通る。最近何か面倒はあったか?」

 

ジークがそう言うと、老婆は面倒臭そうに地図を見て

 

「ウチは道具屋だよ、噂話が聞きたいなら他所に行きな。」

 

ピシャリとジークに言う。ジークは気にせず、保存食を三日分頼んだ。

すると、あいよ。と老婆は手短に言って袋に詰める。すると老婆は呟いた

 

「途中の街で何やら病気が流行ってるらしいねぇ・・・蝋病だとか・・・怖い怖い」

 

蝋病に関して、ジークは知っているし、対処の仕方も知っていた・・・が

蝋病だと知らなければ対処しようが無い厄介な病気だとも知っていた。

 

「そうそう、栄養が着く丸薬の味の良いのができてねぇ「1袋寄越せ。」毎度有り。銀貨5枚だよ」

 

チャランチャランと先程受け取ったノエルの前金から銀貨を支払う。

すると、老婆がまた口を開いた。

 

「そういや、詳しくは知らないけど最近行方不明者が多くなってるだとか・・・」

 

消毒酒、瓶で。と老婆の言葉が途切れた瞬間にジークは呟いた。

 

「腰に付けられる様に革製にしときな。・・・さてねぇ、色々噂が溢れてるもんでねぇ」

「ゴブリンだって言う噂もあるし、昔に死んだ奴が歩いてたって噂もある」

「他にも沢山噂が溢れてるよ。実際に近くの街に行った時に聞いた方が良いんじゃないかねぇ」

 

ジークは、暫く考え、頷き買い物を続行した。

 

「ピッキングツール。3つだ。」

 

そう言われた老婆は呆れた顔をした。

 

「そんなの道具屋には無いよ、一昨日行きな。・・・子供達の為なら、菓子でも買ってやりな」

 

そう言った老婆は、1袋銀貨1枚だと・・・・・・菓子の相場の100倍程の値段を言った。

ジークは文句一つ言わず支払う。渡された布袋3つは・・・チャリチャリと金属の音がした。

 

「何本菓子は入っている?」

 

「アンタが普段買う奴の半分だよ、加工しやすいから気に入られる様にアンタが作ってやりな」

 

どうでも良い話だが・・・ジークのマントには幾つかの曲がった針金やらペンチやらが入っている。

全部で16本有り・・・ジークが菓子袋を指でいじると8本の細長い何かが入っていた。

 

「・・・・・・練習用の道具が欲しい」

「怪我しない様にした方が良いね、ほら。持ってきな」

 

ジークの言葉に対し、仕掛け木箱を3つポイポイと老婆は手渡してきた。

ジークが僅かに箱を開けると、中にはワイヤーが仕掛けられているのを見つけた。

 

「・・・確かに」

 

銀貨5枚だよ。そう言われ15枚支払うジークであるが・・・そこに子供達がわいわい帰ってくる。

だがどういう訳か、剣も武器も持ってはなかった。

 

「あの・・・私の剣なんですけど・・・・・・ジークさん。選んでくれますか?」

 

魔術師と射手であるクリスとアッシュは専門外。

ノエルも、剣術は納めていたが・・・冒険に好まれる剣等知らなかった。

 

「分かった、少し見せろ」

 

ジークが、武器の棚を見る・・・。折角剣術が使えるならメイスや槍等より剣術の方が良いだろう。

 

「小振りの短剣は人間や小型の獣には有効だ。だが大型の獣、魔物には今のお前では力不足だ」

「が・・・・・・投擲用の短剣程度二振りは持っておけ。」

 

大振りのダガーを老婆に渡す。マントにでも刺繍しておけと言いながら次の武器を見ていく

 

「大剣等は洞窟や深い森の中じゃ振り回せん。突きしか出来ん大剣なんぞゴブリンでも捌ける」

「・・・となれば・・・・・・」

 

ジークは、一振りの剣を取った。

ジークの持つサーベルとほぼ同等の刃幅を持つが・・・柄はサーベルの2倍程の長さであった。

オーソドックスな長剣(ロングソード)である。

 

「特徴が無い細長剣だな・・・が、まずはコレで覚えろ。」

「ゴブリン程度の敵なら、腕ならしになる。今までの癖を抜きながらこの剣で覚えろ」

 

ノエルに持たせ、基本の構え方をさせる。

僅かに上体がブれるのを見。ジークは違うロングソードを持たせた。

柄が僅かに太く、切っ先が僅かに広がっている。鞘は少し幅広い形をしている。

 

構えると・・・・・・ピタりと全くブれずに構えられた。

バスタードソードの方が圧倒的に重いが・・・構えた際に柄の重さが丁度良い様だ。

 

「銀貨40枚だよ。他の小道具一式全部で70枚。」

 

老婆が背後でそう言った。ノエルはその言葉を聞きジークに頷いた

 

「・・・これで良いです・・・んん・・・私はこれが良いです」

 

 

その言葉を聞き、満足げに老婆は頷き

テントと、調理器具等のPT全体で使うモノ等、老婆から提案されたり

使い終わった後は誰が引き取るかを相談し・・・全ての買い物は終わった。

 

 

 

 

 

       ※     ※     ※

 

 

 

 

夕暮れが皇国を染め上げる中、小さな影と大きな影は並んで歩いていた。・・・が

大きな影は大股で歩く為、小さな影達はパタパタ急ぎ足でついて行く。

大きな影は気づいて居ないのか、ドンドン前へ進んでいき・・・

 

「・・・・・・ん?」

 

大きな影の持ち主。ジークは後ろを歩くノエル・クリス・アッシュに気づき僅かに歩幅を緩めた。

本当に僅かだが・・・それでも子供達は追いつき、ジークの横を歩く。

子供達はお互いにキャッキャと装備品を見比べたり、ガラスに映る自分の姿に喜んでいる。

 

まるで一人前の冒険者になれたかの様な気がしたからだ。

ジークは無愛想な顔でそれを見、子供達が遅れたらその分歩幅を緩めた。

 

そうして、酒場へと戻る中・・・ピタりと子供達は脚を止めた。

 

「ジークさん、あれ」

 

 子供達はとある馬車を指差した。どうやら今から皇都の外に出かける馬車の様で・・・

護衛には洒落た私服の少年少女・・・剣をもっただけの少年。

杖だけを握るローブの少女、格闘家なのだろうか?篭手を右手にしているだけの私服の少女。

それどころか、廃材だけ握り締めてるだけの少女さえ居た。

 

「あの馬車は商業ギルドの乗合馬車だ。」

「共に居るのは護衛依頼を受けた他の冒険者ギルドの冒険者だろう」

 

 ランタンも、松明も、毛布も・・・それどころかマントさえ持っていないのが見て分かる!!!

腰に付けられた僅かな保存食以外無い・・・魔力を回復するポーションや毒消し等も無い様だ。

 

「・・・大丈夫なのかニャァ・・・」

 

 護衛依頼を本当に受けたのか・・・?疑問が沸く程無警戒で馬車と共に歩く少年少女達の姿があった。

ふと気付く。少年少女の武器だけは、共に歩くノエル達よりワンランク上の代物だ・・・

つまり、武器にだけ金を掛け、それ以外に金は掛けていないのだろう。

 

「・・・・・・」

ジークは鼻を鳴らした。気に食わなかった。

 

 ジークにとって、冒険とは男の世界だ。そして女は家を守り男を待つ者だ。

古臭い考えだと知っては居てもそう思ってしまうのは頭が硬い証拠だろう。

最近、目の前の護衛の冒険者の様な存在が大量に増えているのは知っていた。

 

 一々突っかかったりはしない。

何より、自身が認めている女冒険者も居るのだ。

だがそれは女である以上に【冒険者だから】である。

 

そこまで考えジークは首を横に振る。

・・・あの者達にも自分が知らない覚悟があるかもしれない。自分より技術が上かもしれない。

名前も事情も何もかも知らない相手を馬鹿に出来る程ジークの観察眼は鋭くは無かった。

 

「・・・・・・知らん。上手く行くなら帰ってくるし、帰ってこないなら死んだのだろう」

 

少年一人に、女性3人。女性達は少年の横の位置を奪い合い。馬車の事は見ていない。

そんな馬車から目を背け、ジークと子供達3人は冒険者ギルド“剣徒の寝座”への道のりに戻った。

 

 

 

そんな4人・・・否。ジークを見つめる一人の男性が居た。

 

 

「・・・・・・彼が・・・」

「“神々の誉(トップ・プライド)”“未踏打破(ダンジョンホルダー)”・・・冒険者ジーク」

「成程・・・竜が人に化けてる。そう言われた方が納得出来るな」

 

全身金属鎧を着、背中には一振りのブロードソード。腰にはランタン、各種薬草が有り

背中の背嚢には様々な冒険道具が詰められていた。

 

「始めてのパーティで、最上級冒険者と共になるとは・・・神の思し召しなのだろうか・・・」

 

名前を・・・レイフォー。今回の依頼の発端である謎の野営箇所を見つけた冒険者であり・・・

最後の冒険の仲間となる人物である




誰かに何かを教える。という事が無いジーク。
頭を悩ませ、どうすれば良いのか苦しんでいる所を書いてみたかったです。

大変不器用なので、偏見はしてはいけないと知っては居ても
頭の中で泡の様に偏見が浮かび上がる姿はこれからもあるかもしれませんが
致命的に他者を馬鹿にする事が無い様に頑張りたいと思います


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第一章「始めての冒険」 八話目

という訳で、冒険の始まりです。今回は二話投稿します。
今回は馬車で行くか徒歩で行くか決める回ですね。

ジークはレイフォーの冒険譚等を酒場で聞いて少し意識してます。



ジーク達が冒険者ギルドに着き、最後の一人が着くまで飯でも食うか・・・としていると

遅れていた冒険者・・・レイフォーが漸くやってきた。

 

「遅れてすまない。自分がレイフォー・・・。見ての通りの中級冒険者だ」

 

子供達がわいわいと挨拶している中、レイフォーの姿をジークは観察していた。

 

全身金属鎧と帷子。冒険者にしては重装備だ。長旅や身軽な事が売りの冒険者が・・・である

やはり密偵(スカウト)ではなく知恵者として有能なのだろう。

それに避ける隙間も無い程の制圧力を持つ敵も居る。ソロ冒険者に金属鎧は悪い判断ではない。

 

見れば腰には、自分よりは下で子供達のよりは上等な薬草の束。

ダガーが2本後ろ腰に添えられ、布と紐で拳程の石を飛ばす投石器(スリング)がマントに縫われている。

背中のブロードソードは片手用だ。もう片手に何かを持つのかもしれない。

 

中級冒険者と自称する様に、装備は一揃い持っており、各所に工夫が施されている。

ジーク自身、噂に聞くレイフォーの堅実な活躍は嫌いではなかった。

同じソロだ。意識してる部分もる・・・そこまで考えると、レイフォーがジークへ目線を向けた

 

「よろしく頼む、ジークさん。・・・まさか貴方とともに冒険する事になるとはな」

 

甲冑兜(サーリット)をしたままのレイフォーの顔が分からないが、冒険者はヤクザ者である。

面倒事を抱え込む事が多い以上、顔を隠す奴は一定数居る。ジークも気にせず頷いた。

 

「己とレイフォーで教導役になる訳だが・・・其方は何か考えている事はあるか?」

「此方は、練習用の箱と鍵を用意した。」

 

 先程老婆の道具屋で買ったピッキングツールと、練習用の罠の事である。

 

「後は、森で追跡術(トラッキング)地図作成(マッピング)の基本を教えるつもりだ」

 

それを聞き、レイフォーは強く頷いた。

彼もまた、三日程度の時間で様々な技術を教え切れる筈が無いと思っていたからだ。

 

「あぁ、分かってる。自分も教えられる事があれば教えるが、惑わせては行けない」

「必要な時に、ミスや考え違いを訂正する程度に止めておく。それで良いか?」

 

自分はジークの下に付き補佐を行う。言外の言葉にジークはレイフォーの評価を1段階上げた。

ソロ冒険者とは自分のやり方がある物だ。他者とは違うやり方に誇りと自信がある物だ。

ソロ冒険者の優位点で有り欠点であるソレをレイフォーは柔軟に受け止めていた。

 

そうしてレイフォーとジークは、打ち合わせを始めた。

通る道のルートの確認、襲撃される可能性のある場所の予測。

途中で一度街に寄り、森の手前で野宿する際の位置確認等・・・。

 

それらが一段落終わった後も話し込む。

地図を広げ、金貨や銀貨を駒に見立て大人たちが頭を悩ませているのに子供達は気づいた

 

「ジークさん、レイフォーさん。何で悩んでるんですか?」

 

ノエルが首を傾げそう聞いた。旅のルートはどうやら決まり

注意する場所も決まった。なのに何を悩んでいるのか知りたかったのだ。

ジークはチラりとレイフォーへ視線をやる。レイフォーは無言で頷いた。了承である。

 

「・・・己らだけで話していても無駄か。」

「今話しているのは、旅の足についてだ。金があるなら乗合馬車で行ける。無いなら徒歩だ」

 

子供達にジークはそう言うと、ノエルは 少しでも教えて貰える時間が増えるんだし徒歩が良い。そう思っていた。

そんなノエルの脳裏を知ってか知らずか、ジークは続ける。

 

「徒歩で行くか馬車で行くかの差だが、徒歩なら森まで三日。その後調査を開始する形になる。」

「利点は金が掛からない事、徒歩の行軍の教導に制約が出ない事だ」

 

「馬車で行けば、森まで二日・・・その分森をじっくり探索出来るし森の歩き方も教えてやれる」

「利点は森の中で色々教えてやれる事。そして、護衛依頼の動き方等を教えてやれる事だ」

 

馬車で行くなら自分達の好き勝手な行動等出来ん。ジークとレイフォーの意見は一致していた。

そして一人銀貨3枚掛かる。それも不利益な点だった。

 

「金なら持ってるニャ!」「ボクも、そこまで沢山じゃないけど、馬車位なら」

ノエルもクリスもアッシュも、乗合馬車に乗れる位の金はある。出すつもりもあるが・・・話はそういう事ではない様だ。

 

「金の問題じゃない。何を教えるかについてだ」

 

馬車で行くなら、護衛依頼での動き方、森での動き方も余裕を持って教えられる

徒歩で行くなら、金銭は掛からず徒歩での旅の動き方を教えられる。

その代わり森の中で教える時間は減る。

 

「何より護衛依頼は難所だ。素人は居ない方がマシ・・・となれば今教えるべきかもしれん」

 

「あー・・・ジークさん。どっちかが外れという訳でもないんだ。好きに選ばせるのはどうだ?」

 

レイフォーのその言葉に特にジークは一度考え、頷いた。

 

「徒歩での遠征の仕方を教わるのと、馬車で行き護衛依頼を教わる事。どちらが良い?」

 

レイフォーとジークは子供達を見る。

子供達はお互いにチラりと顔を見合わせ相談を開始した。

 

「徒歩の冒険の方が良いんじゃない?馬車で行けない場所もあるんだし」

「ボクは徒歩の冒険も大事だけど森の中で探索する方法教わるのも大事だと思うんだ」

「ん~にゃァ・・・護衛依頼は難しいって話だけど美味しい依頼なのかどうなのか聞きたいニャ」

 

アッシュはそう言うと、ジークとレイフォーに聞いた。

レイフォーは暫く考え口を開く。

堅実な冒険家であるレイフォーの意見をジークも聞きたかった。

 

「護衛対象という不確定要素が着く以上、普通の依頼より不安定な代物ではある。」

「依頼人と共に行く冒険は総じて面倒だが・・・」

「だが、徒歩では遠すぎる場所の冒険に行く際、共に受ければ小遣い稼ぎになる」

 

「何より危険な区域に行く馬車の値段は総じて高い。下手したら報酬の半分が無くなる程に」

 

なら、護衛側に回る方が良い。かと言ってやり方が分からない素人護衛等邪魔なだけだ。

そう言ったレイフォーの言葉にジークも頷いた。

実際、戦闘中前に出過ぎたり、逆に前に出る際に護衛対象を気にして前に出ない奴は居る。

そうなると穴が空く。空いた穴から次々に戦線が崩壊していく。

 

「んーニャぁ・・・・・・」

 

子供達は改めて相談を開始した。

話が決まったのは、ノエルの一言だった。

 

「この街から離れない様にしてお金を稼ぐのはどうかな?」

「ずっとこの街で活動するって事かい?ノエル」「ソレは嫌だニャぁ」

 

ノエルは苦笑いしながら首を横に振った。

 

「違う違う、ジークさんが言ってたじゃないか。教えてもらえば良いんだよ」

「近場の依頼をこなしてお金を貯めて、ギルドに依頼して私達も護衛依頼に連れてって貰うんだ」

 

その一言で、今回の旅の足は決まる事になった。

 




次回、冒険の始まりと、一日目の昼に起きる事件。その解決まで。
次回は少し長くなると思います。

一日目旅路:九話目
二日目旅路+野営:十話目
三日目森林に到着+???:十一話目
四日目森林探索~:十二話目

が今のところの予定です。十五話+αで第一章完結予定


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第一章「始めての冒険」 九話目

という訳で、冒険初日です。
次回は今回と同じ位長くなります。


 早朝、皇国と皇都を囲う城壁でまだ太陽は見えないが・・・そろそろ夜明けだろう。

曙色の空は幻想的で美しく、夏上旬にしては涼しい風を世界へ流していた。

 

 農家はともかく皇都たるこの都で起きてる人間は少ない。

職人が手仕事で作る灯を灯すだけの簡易的な魔法道具が道を照らす以上暗くは感じなかった。

そんな中、ジーク達一行は城壁の前に立っていた。

 

 マントを羽織り武装と食料、道具を携えた彼らは道具の点検を行っていた。

それらが終わり。ジークは最後に全員の顔を見ながら言った。

 

「もうじき城壁が開く。開くと同時に我らは依頼場所近くの街まで行く。」

「皇都に比べれば小さいがそれなりに大きな街だ。そこで一泊する」

「魔物の遭遇は控える。遭遇時は己かレイフォーが判断。お前達が戦うか己らが戦うか決める」

 

 異論は認めんと言う。だが全員が頷いた。

 

「ノエル、最前列。クリス左斜め後ろに。アッシュはクリスの右斜め後ろだ。」

 

 弓なりになる様に歩けとジークは指示を出す。冒険者が良く使う旅の中の陣形である。

 

「全員異変があればすぐに言うように。」

「良いか。通常山賊、盗賊の初撃は基本背後か横からだ。正面から来る事は少ない」

「正面から来るって事は初心者か腕自慢かだ。」

 

「ノエルは正面を警戒。アッシュ、クリスは左右互いに一方を警戒。10分毎に方向を交代」

「己は真ん中。フォーレイは最後尾」

 

 そこまで話、お互いに顔色や休憩時間などを話していると・・・

 

「 開 も ぉ ぉ ん! ! ! 」

 

 ビリビリと響く程の大声が響く・・・。叫び声だが確かに聞こえるその声は指揮官級の者だろう。

戦場で良く響く声とは才能の一つだからだ。

同時にギギギギギギギと城門がゆっくり開いていく。朝焼けの空に光が差し込んでいく

 

「さぁ・・・・・・冒険の始まりだ」

 

 商人が急げ急げと馬車を急かし、旅人が別れ惜しげに皇城を振り返り

旅路を巡回する兵士が規則正しく歩き出す。

 

そんな中を、冒険者一行は歩き出した。

 

 

 

 

        ※    ※    ※     

 

 

 

 

「疲れる前に休め。自分の体力は自分でしか分からん」

 

 ジーク達一行は、ちょくちょく旅の中で忠告を挟みながら進む。

 

「目が疲れたら果物を食べろ。」

「どれだけ熱くてもマントは脱ぐな。背後からの弓矢の狙いを外す事が出来る。」

「休憩するときは、交代でやれ。一人は絶対に立ち周囲を見張れ。」

 

 ある時は、平原の中。草むらから出てきたであろう野生動物の足跡を指差し全員に話した。

子供達は輪になるように足跡を囲みジークからの説明を受けながら首を傾げたり納得している。

 

「獣の足跡は見ろ。地面が乾いてるか乾いていないか。何時頃付けられた足跡か気づけ」

「草食動物の足跡だから大丈夫・・・等と思うな。大型の魔物に追われて逃げているのかもしれん」

「方位磁石と地図の確認を忘れるな。感覚を信じるべき時と信じるべきでない時を見極めろ」

 

 他にも、旅路の中見つけた人間の足跡でも同じ事をした。

本格的な教えは森の中に入ってだが旅路の中で教えられる事は教えるつもりだが

旅路の中でも冒険者の腕は磨ける以上、磨く方法は教えていた。

 

「全員、この人間の足跡を見ろ。どう思う?・・・・・・よし、己の考えを話そう。」

「後ろ脚が深く沈むのは背中に重い荷物を背負う証だ。そして足跡の崩れていない。金属靴だろう」

「恐らく兵士か騎士のモノに見えるが・・・一つしか足跡が無い。冒険者か傭兵だと思われる」

 

「追跡術とは、過去に何があったかを考える事だ。想定しろ。知識を蓄えろ」

「何時、誰が、何を、何故、何処に向かうか。考えろ。それが追跡術だ・・・経験で覚えていく。」

「旅の中で磨け。見つけた足跡の持ち主が居たら答え合わせになる。」

 

 子供達は、メモをしたり。あたふたと言われた行動をしながらお互いに相談しながら歩く。

自分じゃ出来そうに無い、変わって欲しい。その言葉は大事だとジークもレイフォーも言った。

出来ない事は出来ない。出来る奴にやらせる方が良い。出来ない事は後で覚えれば良い、と。

 

 

 何度かの休憩を挟み、今も休憩の最中で木陰で休んでいる。

現在はレイフォーが見張りを行っている所だった。

 

 時刻は太陽が一行の真上へと登る頃合である。

上を見上げれば空は青空だ。筋を引く真っ白な雲が青空に映えて美しさを際立たせる。

そうしてさらさらと穏やかな風がジークの頬を優しく撫でマントがはためいた。

 

 ジークは腰に着いた保存食の袋から干し苺の蜂蜜漬けを取り出し、飴の様に舐める。

甘い物より塩っぱい物が好きなジークだが、旅の中では両方取る。

 

「・・・・・・」

 

 見れば、レイフォーも空を見上げている。

美しい天気が広がる中で、地図上では遠くにある山が不思議と近くに見えた。

 

「・・・」

 

 子供達はワイワイと話し、普段より冒険らしい冒険が出来てると喜んでいる。

お互いにメモを見せ合い。装備の点検を行う姿は微笑ましい。

道中で合った獣の糞は何の獣だったのか、等。良く話題が尽きないモノだとジークは感心した。

 

 そうした時間の中、レイフォーがジークに近づき、小声で相談を持ちかけた。

 

「なぁ・・・ジークさ・・・「一度痛い目見たほうが早い」・・・そうかもしれんな」

 

 だがジークは首を横に振った。

今、二人だけが気づいている異変に子供達が気づくのか。気づかないのか。

自分が全て教えては危機感が薄れる。人から教わるより自分で気づき学んだ事の方が身につく。

そう思っていた。

 

だが、此処で熟練冒険者達の思惑は外れた・・・否。良い方向に進む。

 

 

 

「にしても良い天気だな。見てくれよ。カエルが川岸で鳴き声が良く響いてる・・・良い音だ。」

 

 ノエルがそう呟くと、アッシュは流れる風を浴びて気持ちよさそうに目を瞑って居る。

 

「本当・・・こんな良い天気に冒険出れてよかったニャぁ」

 

 天気は良い。雲を子供達は指さしたり、風の心地よさを話し合う。

そして・・・話し合う度にクリスは眉を潜めていく。

 

「・・・クリス?」

 

 アッシュとノエルはそんなクリスが気分を悪くしたのかと思った様で水や食べ物を提案する

・・・が、クリスは首を横に振った。

 

「ノエル、アッシュ。朝からずっと絹雲だったっけ?」

 

 クリスの真剣な顔にノエルとアッシュは顔を見合わせる。

 

「ん・・・?そういえばそうだったっけ。あんまり見てなかったな」

 

 ノエルはそういうと首を傾げる・・・がアッシュは頷いた。

 

「ニャぁぁ・・・多分そうだと思うニャ。」

 

 アッシュがそう言うと、クリスは幾つかの質問を始めた。

 

「二人はこの当たりを歩いた事はある?」

 

 アッシュは無いにゃぁと言うが、ノエルは有る。と応えた。

過去に害獣駆除の依頼で近くに来た事があるらしい。

 

「その時もこの近くの木陰で休んだっけ」

 

 そう言ったノエルにクリスは、良く思い出してね?と前置きを置いて

クリスはここら一体で一番大きい山を指差した。

 

「あの大きい山、その時はどう見えた?今より遠くに見えなかったかい?」

 

 色々聴き込むクリスの様子にノエルもただ事では無いと思ったのか真剣に考える。

 

「ん?んー・・・・・・そうだったかも。何だか今日は大きい・・・ってか近くに見えるね」

 

 次にクリスは立ち上がり。二人に言った。

 

「さっき鳴いてたカエルの種類を確認したいから、ちょっと捕まえてくる。」

 

 そう言って立ち上がったクリスに、アッシュとノエルも立ち上がった。

 

「どうかしたのかニャ?クリス。話して欲しいニャ」

 

 アッシュの言葉にクリスは困った様な顔をして・・・暫く考えて言った。

 

「まだ、予測に過ぎないけど・・・」

 

 その言葉は、ジークとレイフォーが気づき、黙っている事にした事実であった。

 

 

「多分、夕方位に雨になる。確認した方が良い」

 

 

 ジークは、その様子を遠目に見て。驚いていた。

天気が崩れて、それから悪天候がどれだけ危険か。どう対処するか教えようと考えていたからだ。

良く気づいたモノだ。旅路に慣れたジーク達はともかく子供達が気付くとは思わなかった。

 

 今のままの歩行速度では間に合わず、今日泊まる予定の街に着く前に雨が降り始める。

そして身を以て天気の確認の重要性を教えようと思っていた訳だが・・・

そうジークが考えていると子供達がやってきた。

 

「ジークさん、レイフォーさん。今後の事なんですが・・・雨が降ると思います」

 

 クリスの言葉に、ジークは頷いた。レイフォーがジークに話しても良いか?と問うた。

それに対してもジークは頷いた。

 

「良く気づいたなお前ら。言う通り、5時間後から7時間後位に雨が降るだろう。」

「そこらへんは狩人の知識だ。な・・・」

「雲の形とかで判断しやすいモンだが・・・生き物の中には雨を感知する奴も居る。覚えておけ」

 

クリスは頷いた。ノエルは成程と呟きアッシュは急ぎせっせと羊皮紙へと書いていく。

 

「それは狩人さんに聞けば教えてくれるニャ?」

 

書き込んでいるアッシュが問いかける。それに対しジークが応えた。

 

「それでも良いが主観毎に違うからな・・・海辺や森、場合によっては国毎に天気の特徴は違う」

「街の冒険者ギルド毎に近隣の天気の特徴や前触れを乗っけた本が有料で借りられる」

「それを借りた方が確実だ」

 

 とは言うも、ソレは狩人や土地着きの農民に聞けば分かる事だからだ。

魔物の知識や、冒険の中での工夫等と言った直接命に関わる事はギルドは本にしない。

万が一、例外が起こり冒険者ギルドのせいにされては困るからである。

 

「寝てる最中に雨が降るなら木陰にテントを設置し、上に大きな布を斜めに張れば雨は防げる。」

「己の予想ではそこまで長引く雨ではない。明日の旅路に影響は無いだろう」

「・・・今回は急ぎ街に向かう事にする。」

 

 そう言うと、そろそろ行くぞとジークは立ち上がった。

木陰から、道へと歩く。その中でクリス達3人のの頭をグリグリと乱暴に撫でた。

 

「良く気づき、良く相談した。」

「良い冒険者になれ。ノエル。クリス。アッシュ」

 

その言葉に、嬉しそうな顔で頷く3人の瞳は・・・強く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

        ※    ※    ※

 

 

 

 

 夕暮れ前、遠目に街の城壁が見えてきた。

皇城に比べれば低く頼り無い城壁だが、それでも魔物程度の攻撃ではビクともしないモノだ。

近づく度に人が増えていき・・・門へ入る為の列が見えてきた。

 

 商人に依頼を終えた冒険者。旅人に巡回を終えた兵士・・・etcだ。

ジーク達も同じ様に並ぶ。誰も疲れた様子はなかった。

 

「今までは半分も進んだら疲れてたのに今回は疲れニャかったニャ」

 

 そう言いながらアッシュはジークのマントをパンパンと払っている。

5人とも旅の中の汚れが目立つ。街の中に入る前にパンパンと手でお互いに叩き合うのだ。

ジークは力が強く、叩かれたノエルは少し痛そうにしていた。

 

「一度疲れると、頭が覚える。疲れる前に休んだ方が長く、早く歩けるモノだ」

 

 ジークは冒険生活の中、一度も歩くだけで疲れた事が無い。それが密かな自慢である。

今回も上手く進めた事に内心喜んでいた。

そして列は程なくして進みジーク達の番になった。

 

「む・・・冒険者か。一人一人右腕を見せろ・・・良し」

「犯罪歴は無いな?街での市民登録は?・・・無いか。一人大銅貨5枚だ」

 

 犯罪者は右腕に深く刺青を押される。皮が剥がれてるなら入れては貰えない。

ちなみに大銅貨とは銀貨の十分の一の価値であり・・・以外と安い値段である。

これが荷馬車等あれば更に跳ね上がるが身軽な冒険者には関係ない話だ。

 

 にしても、見事な衛兵である。流石規律と秩序の国と言われる皇国の、皇都近くの衛兵だ。

もっと田舎だと露骨に賄賂を要求されるがそう言った事は無いし

卑しい目もせず、装備に綻びは無い。

 

 子供達が支払いフォーレイも銅貨を支払う。ジークは一つの勲章を見せた。

兵士がギョッ!?と勲章を見た。目が大きく開き固まる。だが体は自然とジークを門へ通した。

 

「・・・?」

「後ろが詰まってる、止まるな。行くぞ」

 

 子供達は戸惑った顔をしているが、レイフォーは気にせずに子供達を急かした

ジークも又気にせず門をくぐり抜け様として・・・ガシっと何かに掴まれかけた。

背後から伸ばされた手が掴む瞬間にジークがするりと抜け出たせいで

掴もうとした誰かは、つんのめって派手に転んだ。

 

その人物は転びながらジークに叫ぶ。

 

「ッ・・・!待て!アンタ!大銅貨5枚だ。」

 

 ジークは不愉快そうに眉を顰め、自分を掴もうとし、転んだ存在を見る。

見れば先程の衛兵では無いもっと若い・・・15歳か16歳位の若い衛兵であった。

 

「証を立てた。衛兵は通した。何が問題だ」

 

 衛兵は転んだ事が恥ずかしいのか、何の感慨も無く話すジークに苛立ったのか

顔が赤くなっていく。次に叫んだ言葉は明らかに言いがかりであった。

 

「・・・ッ!!隊長に見せた薄汚い勲章を見せろ!」

「魔道具の疑いがある、検査させて貰おう!」

 

 顔を真っ赤にして立ち上がった、若い衛兵は見習いを示す腕章がされている。

そしてもう一度ジークににじり寄り・・・握った勲章を強引に奪おうと手を伸ばした。

余りに乱暴な手つきは、少なくとも職務上必要なモノには見えない。

 

突然衛兵に声をかけられ叫ばれた事に子供達は、驚き口をポカンと開けた。

レイフォーは、急ぎ言葉を発しようとした。

ジークは・・・一言だけ呟いた。

 

「殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

         ス   パ   ァ   ン   !   !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣閃が輝き、次の瞬間・・・ストンと若い衛兵の首が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな光景を周囲に居る全員が幻視した。

何も起きては居ない。唯全員の動きが止まっていた。

ジークの声は決して大きく無い。むしろ呟きと言える。

だが、衛兵達にも、列に並ぶ者にも、仲間達の耳にも全員の耳に響いた。

 

 若い衛兵だけがコテンと尻餅を着いた。そしてジワリ・・・と股の間にシミが広がっていく。

次第にプルプルと若い衛兵は恐怖で震え出す。

そこへ、先程勲章を見せた衛兵がハッとして飛び込んできた

 

「失礼しましたッ!!!教育の程が足りず申し訳ありません!」

 

 そう言って、ドカッ!と若い衛兵の頭を小突きく。

何事か!と怒鳴ると門にある衛兵駐屯所に放り込んだ。彼が若い衛兵が言っていた隊長だろう。

扉を閉めた、衛兵隊長はジークへ振り返り剣に手を置き、僅かに腰を落としていた

 

「・・・」

 

 ジークは喋らない。此処で適当に暴言の謝罪を行えば、それで終わりだと知っていても。

誤魔化せば。器用に生きれば良い。知っては居ても

心の奥から溢れる怒りを誤魔化すつもりは無かった。

 

それ程までにジークにとってこの勲章はかげがえの無いモノで有り、

何よりジークは不器用だった。

 

 衛兵隊長とジークはお互いの瞳を見た。

そして・・・衛兵隊長は目を逸らし、深々と頭を下げた。

衛兵という、立場ある者がする事ではない。だが此処でしなければ行けないと

彼は強く思い、即座に実行した。

 

 ジークは、ソレを望んでいなかった。望みは先程の若き衛兵に対してだ。

だが・・・・・・ふと思う。

後ろに居る子供達を教える立場に居る自分が、同じ事になったならどうしただろうか。

 

 仕事を忠実に果たそうとし、問題を起こした子供を、怒る冒険者の前に引き渡すだろうか。

否。自らの頭を下げ、それでも相手が子供の命か傷を欲するなら自分が引き受けるだろう。

許せぬ事は許せぬ。だが頭を下げてまで誠意を見せた上役の姿に、怒りは引いていった。

 

「怒りはある。だが、最も許せぬ事は未然に防げた」

「門前で騒ぎを起こした。許していただきたい。お互い非があるならお互い様としたい。如何か」

 

 ジークは、衛兵の頭を上げさせると、次に自分の起こした騒ぎに関して軽く頭を下げた。

衛兵もその姿に一度頷く。ジークは頷かれた姿を見つめ、改めて門へと背中を向けた

 

「行くぞ」

 

 パクパクと口を開けては閉じる子供達の背中を小突く。

そしてレイフォーに目線を送り街の中へと改めて入った。

周りで見ていた街人達がジーク達に道を開ける中を進んでいった。

 

 

 

 

 

          ※    ※    ※ 

 

 

 

 

「ビックリしたニャァ!!!」

 

 半泣きになり迫るアッシュに、纏わりつくなと頭を抑え遠ざけるジーク。

場所はこの街の宿付きの冒険者ギルドである。

何度かこの街に来た事のあるジークは迷わず進み、ギルド員に宿を頼み夕食とした。

 

そこまですれば緊張の糸も解れ子供達はピーピーと騒ぎ出した。

 

「衛兵と喧嘩しちゃダメだニャぁ!」

 

 うぐぐぐと正論を言うアッシュ。ポリポリとジークは頬をかいた。

嘘をつくつもりが無い以上。素直に本心を言った。

 

「己一人ならともかく、お前達に迷惑を掛けるつもりは無かった。」

「しないかはともかく留意はしよう」

 

 冒険者等、ちっぽけなプライドの為に戦うロクでなしである。

だからと言って、仲間を一瞬忘れた事は自分が悪かった。ジークは反省した。

だが衛兵に対しての行為には一切反省が無いのが本心である。

 

「・・・・・・あれ、何だったの?」

 

 クリスはジークに問うた。あの時見せた勲章である。

本来、街に市民登録し日々の税金を支払う事を義務とする事で門の通過料は無税となる。

だがジークが皇都を拠点にしているのは有名な話である。

これが領地貴族の土地であれば貴族のコネかと思うが、皇帝の直轄領にそんなモノは無い。

 

 教えられるなら・・・とクリスは上目遣いでジークを見た。

ジークは暫く考え、迷惑を掛けた者に言わないのは不義理か。と机の上に置いた。

置かれた勲章は皇国の国旗たる龍を背部に、剣と翼が交差された代物であり

剣の柄部分には赤い宝石が嵌められ、それら全ては精巧なる銀細工で出来ていた。

 

「・・・・・・綺麗」

 

 机に座る全員が机に置かれた勲章を囲み、見た。

思わずボソっと呟いたのは誰か。高い声である以上子供の誰かだろう。

魂を無くした様に見惚れる程、美しい勲章であった。

 

「・・・唯の銀では無いな」

 

ジッと見つめていたレイフォーは呟き、ジークは頷いた。

 

魔法銀(ミスリル)だ」

 

 ミスリル。偉大なる神々が生み出した真なる銀。

宝石と同じ価値があると言われる偉大なる魔法鉱石である。

とは言っても・・・一流の冒険者ならミスリルの装備位は持っている・・・が

 

「あの硬度の鉱物を・・・?」

 

 そう、武器ならともかく・・・

宝物庫に入っていても違和感無い程美しい装飾品に出来る程柔らかな代物では無い。

 

「・・・」

 

 そしてノエルはその勲章をジっと見つめた。

ノエルは元貴族である。貴族の教育の一環として紋章の暗記等もある。

分からなければ顔の知らない貴族と出会った際にどう対応すればよいかわからなくなるからだ。

 

 ノエルは幼いにしては大変賢く紋章に関しても詳しかった。

そして所持すれば特別扱いを受ける程の勲章を知っては居るが・・・目の前の勲章では無い。

気になるが、後で調べれば良い。そう思い何も言わずに居た。

 

「謝られたんだ。これ以上は気にしないさ。ジークさん、明日はどうする?」

 

 レイフォーは切り替えたのか食事の机にバサバサと地図を広げた。

雨が降るならルートの変更が無いか確認はした方が良いと言いながら話し出す。

子供達もその話し合いに混ざろうとするが・・・・・・ジークはこう言った。

 

「お前達は、情報収集の練習だ。ノエル、クリス、アッシュ」

「冒険者ギルドで情報収集してみろ。早めに戻ってこい。己が裏を取る」

 

その言葉にニャ?とアッシュが首を傾げた。

 

「他の冒険者に話を聞けば良いのかニャ?」

 

 頷きながらもジークは幾つかを提示した。

ギルド員に聞いても良い。冒険者に聞いても良い。

此処一帯の出没する魔物や、周辺で起きた事件について聞き込みや調査をしてみろ。と

 

「魔物はともかく・・・事件?」

 

「事件とは言っても、本物の殺人、強盗事件では無い。面倒事が無いか・・・だ」

「依頼書を見ても良い。既に己らの依頼の調査は始まってる」

 

 3人で相談しながら調査してみろ。その言葉に子供達は頷いた。

今までジークやレイフォーが着いていたが今回は自分達だけでやるのだ。

失敗無く、やり遂げて・・・・・・先輩たる二人に褒められる様な情報を見つけてみたいと思った様だ。

 

 子供達は食事を終え、調査を始めた様だ。

イカつい顔の冒険者にたじたじになったり、冒険者ギルド員に聞いてみたり

依頼書を確認しに行く姿を横目に見ながら、ジークとレイフォーは明日の打ち合わせをする。

 

3人だけで、とは言っても冒険者という荒くれ者が紳士的に接するとは思っていなかったからだ。

 

 

 暫くして3人が帰ってきた。面倒事は特に無かった様だ。

馬鹿にされたりもしていた様だが、上手くスルーしたり端金を支払い、情報を手に戻ってきた。

 

3人が見つけた情報はジークが道具屋の老婆から聞いた話とほぼ同じである。

だが病気が流行ってる事に関し詳しくは分からなかった様だ。

そして・・・ジークが知りたかった情報が分かった。

 

「最近、行方不明者が増えてるって話ですが・・・どうやら盗賊団が居るみたいです」

 

 クリスは小さな地図を広げた。そこには冒険者ギルド員から聞いた、行方不明の予想地点が書かれていた。

 

「どれも、此処ら一帯で起きてますが・・・何人かが盗賊に襲われたって証言してるみたいです」

「近々騎士達の討伐隊が出るみたいですが、今の時点で倒せば報奨金が出るみたいです」

 

 そこまで言うと補足としてアッシュが付け足した。

 

「他の冒険者が言うには、子鬼狩りは定期的にやるからこの辺じゃあんまり見かけニャいって。」

「レイフォーさんがいうようニャ複数匹居るニャら、森の奥に拠点あるかもー・・・て?」

 

冒険書の依頼には、確かに定期的なゴブリン退治のお知らせがあったらしい。

過去の依頼書を見せてもらったが結構な人数が参加している様だ。

 

「ふむ・・・良く調べてある。疑問があるなら追求している。不足は無いだろう」

 

 ジークは、3人が聞いてきた情報を紙に書くと、3人を褒める。

褒められた3人の目が嬉しげに輝いた。

仕事をやり遂げこう言った反応を返す姿にまだ子供なのだとジークは思い返した。

調べてきた情報は確かである以上、それを指摘する事は無かった。

 

情報の中に強力な魔物を見た。というモノもあったが・・・

 

「でも、私はソレは嘘だと思う。此処一帯、その魔物が生きられる環境じゃない」

 

 ノエルがそう言って魔物の生態の根拠を話した。

それに対しジークも同意見である。

話を聞くに端金を要求されたらしい。恐らくソレ目当ての木端冒険者だろう。

 

「良く調べ上げた。後は己が裏を取る。少し待ってろ」

 

ジークは頷き、酒屋のメニューを子供達に押し付けると立ち上がり調査を始める。

とは言っても、やる事は子供達がやったことと大して変わらない。

違う点は、情報通だろう冒険者への目利きが適切な点、

そしてギルド員の態度がジークに対してはまるで違う事だ。

 

子供達の半分程の時間で裏取りは終わる。

間違いは無い様だ。となれば打つ手もまた変わってくる。

 

「問題無い、一度部屋へ行く。3人はついて来い。レイフォー、どうする?」

 

鍵と練習用の罠をやらせようと思いそう言うと・・・レイフォーはボーっとして答えなかった。

金属鎧の兜のせいで分からないが、恐らく焦点ははっきりしていないだろう。

 

「レイフォー」

 

もう一度ジークが言うとレイフォーはハッとして振り返った

 

「・・・スマン、少し酒気がキツい様だ・・・休ませてくれ」

 

子供達は大丈夫ですか?支えますか?と心配しているが、レイフォーは軽く手を振り

自室へと上がっていった。

 

その姿を見ていたジークは・・・腰に差した軍刀がカタカタと鳴った気がした。

 

 

改めて、子供達の自室に行ったジークはピッキングツールを子供達に渡す。

中に派針金各種、ペンチ、ワイヤーカッター、鑢等が入っている。

中を見た子供達はドン引きである・・・明らかに後ろ暗い輩が持つ代物だからだ。

 

密偵(スカウト)を覚えるとはそういう事だ。冒険の必須技術の一つだ・・・死ぬ気で覚えろ」

 

ポイポイと老婆から買った練習用の罠の箱を投げ渡すジーク。

一応昨日の内にジークは箱を確認した。何か聞かれた時に答えられる様にだ。

 

「その箱の奥に薬草が一枚入っている。それを取り出す事が目的だ」

「失敗すると箱の隙間から墨が・・・・・・」

 

アッシュという能天気な子供はブシャッと説明が終わる前に両手を指で汚した。

話を聞く間に好奇心が抑えきれず、無遠慮に開けようとしたらしい。

 

「墨が出てくる。出た場合はお前らは死んだモノとする」

「ふぎゃっ!?」

 

ゴツン!と拳骨を叩き込んだ。

ふにゃぁと涙目になったのを見るに結構力を入れたらしい。

アッシュは頭をさすりながら真面目に聞く事にした様だ

 

「回数は3回まで。お互いのやり方は見るな。」

「仕掛けが違うから解除出来たら交代する・・・道具の使い方が分からないなら、己に聞け。」

「まずは箱をどう開けるか・・・どう仕掛けがあるのか見て、その後解除を試みろ」

 

アッシュが発動させた仕掛け箱には、箱底から蓋にワイヤーが伸びており引っ張られると

水鉄砲の要領で墨が出る・・・という代物である。

勿論、ワイヤーを切れば良い。というだけの代物では無い。

ワイヤーを切ると墨壺の内部圧が変動し、それはそれで墨が飛び出すのだ。

 

ジークが昨日解除した際は以下の手法で行った。

 

ワイヤーの中程に横に引くワイヤーを付け足す。トの形になる様にだ。

そして引っ張りを固定した上で付け足したワイヤーの上を切る。すると【「】の形になる

横に引っ張られ固定された仕掛けが動かないのを確認した後・・・

 

今切った部分に、ワイヤーを付け足し伸ばす

蓋を開いた上で固定出来るまでワイヤーを長くしたら改めて横に付け足したワイヤーを切る。

 

それで始めて箱をしっかり開ける事が出来る。

更に鍵が掛かっている為、針金で解除する必要がある訳だが・・・・・・

 

「フ―ッ!フ―ッ!!!」

「えぇ・・・いやらしすぎない?」

「ぅぅ・・・ぅぅぅ」

 

獣の様に威嚇しながら悪戦苦闘するアッシュ。

一つ目の仕掛けを解除するも二つ目の仕掛けに気づかず失敗するノエル。

小さな、小さな針一本を通る作業に手間取り手をプルプルさせるクリス。

 

「・・・・・・」

 

ジークは、長くなりそうだ・・・。内心そう思いながら子供達の罠解除を見守り続ける事にした

 

夜は更けていく・・・・・・

 




面倒事を起こすジーク。
普通なら勲章を渡し、それで終わり・・・ですが
絶対に許したく無い事は許さないからこそ自立冒険者“イカレ野郎”
と呼ばれるまで成功できたのだと思います。

賛否両論あるとは思いますが、これからもこう言った性格のまま進みます。
癖のある主人公ですがよろしくお願いします


少し訂正しました。


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第一章「始めての冒険」 十話目

仕事が忙しすぎて、書き溜めはしていても中々添削が出来ず
漸く落ち着いたので投稿再開します


しとしとと雨が外で降っているのを感じる・・・

ジークはまどろみの中で天から来る恵みの音に包まれながら眠っていた。

 

暫く雨音へ耳を傾けていると

夢・・・なのだろう。気づくとジークは暗闇の中に居た。

足元にはガラクタが広がっている。

 

動物の体の一部や壊れた剣。黄金の指輪や首の無い死体等等・・・

それら全てがなんなのかをジークは知っていた。自分の宝物達だ

 

「これは王国に居た頃の・・・此方は己の剣か」

 

一つ一つが冒険を思い出す彼にとってのトロフィーであった。

ジークは暗闇の中を歩いていく。

歩けば歩く程道具は近しい冒険の思いでの品となっていく。

 

「この道の先には・・・何があるのだろうか」

 

呟いた言葉は誰の声も帰ってこずそれでもジークは歩き続ける

不意に、遠くで白い光が見えた。

それは歩くジークへと迫り・・・そして――

 

 

【ジーク、ジークよ。汝こそ我が剣】

【歩む道の先に剣士の誉れが待ち受けているだろう】

 

 

張りのある高いソプラノの声が暗闇の世界に広がり、ジークは意識を失った。

 

 

 

 

 

        ※     ※     ※

 

 

 ハッと気付く。思わず寝てしまっていた様だ。

ジークは眠るつもりは無く、そう言った時にはまず熟睡する事は無い。

熟睡せずとも体力を快復程度にしか疲れていないからだ。

 

窓から差し込む光が雨が止んだのだとジークに教えてくれた。

外は雲一つ無い鮮やかな青空の美しさが広がっている

これなら暫くは雨が降らないだろう・・・チラりと外を見ても地面は湿っているだけで水溜りは無い。

 

 ジークはシャツと麻のズボンだけという軽装の姿でベットから起き上がると

枕元に置かれていたサーベルへ体を相対させた。

両膝を付き、恭しくサーベルを両手で掲げた。

 

 鞘には偉大なる神々の中でも若い神である剣神を称える装飾がされている。

ジークは神々を敬うが中でも一番剣神への信仰が厚かった。

 

「・・・・・・」

 

 掲げた剣へ頭を垂れ、祈った。

今日を生きる感謝でも無く、何かを欲するでも無く。

 

 偉大なる神々へ頭を垂れてその偉大さへと深々と頭を垂れた。

手を合わせはしない。剣神を前にして神任せ等不敬であると思った。

それは戦えぬ弱者の祈りである。教会ではそうは言わない。だがジークはそう思っていた。

 

 心のままに祈った。無性に祈りたかった。

あの夢は剣神が見せてくださったのだろうか、己の勘違いだろうか。

分からない。分からないが・・・無性に祈りたかった。

 

 

下へ降りると下に居るのはクリスとノエルだけの様だ。

二人はミルクを飲みながら話し合っている。

今日の冒険は何があるだろうか、雨が止んで良かった。そんな他愛無い話である

 

「あっ、ジークさんおはようございます!お早いですね!」

 

酒場にはバラバラと冒険者達が居るがまだ大半は上の自室のベットで寝ているだろう。

酒を飲み交わす冒険者は街の中ではだらしない者である。

今酒場に降りてきているのは今日も冒険する者達だろう。

 

ノエルがその隣の椅子を引いてくれたのでそこに座る。

どうやら自分達を待ってまだ食事していなかった様だ。

 

「己にしては寝坊した所だが・・・まあ良い。好きなのを頼め」

 

朝位は巾着を気にせず食え。そう言ってメニューも見ずに近くに居たウェイトレスを呼び止める。

シチューとパン。肉を適当に。とジークは適当に頼む。

子供達もメニューを見ながら適当なモノを頼んでいった。

 

頼み終わった所で、ジークはすんすんと鼻を鳴らした。

ノエルから僅かに汗の匂いがした。

夏とは言え涼しかった昨日の夜にこうも汗をかく事は無い。

 

「鍛錬でもしていたのか?」

 

ノエルを見れば僅かに頬が紅潮している。成程朝に鍛錬をしていた様だ。

 

「え、あっ。はい。さっきまで軽く柔軟して剣降ってました」

 

剣士で鍛錬する者はそれなりにいる。それをジークは悪いとは思わなかった。

だが、冒険中肝心な時に疲労が出る事等許される事では無い。

ある程度強くなった冒険者は鍛錬が不要になる程戦い続ける事で鍛えるモノである。

 

何せ装備が重い。10kgで軽装。20kgで普通。30kgで重装位の扱いである。

それを全身に装備し、崖を登り足場の悪い山道を踏破し時に川を横断する。

だが、それで鍛錬が要らないのは実戦の勘が着いた熟練者のみだ。

 

まだ若く経験の浅いノエルには鍛錬は必須であろう。

 

「鍛錬は何を?」

 

ジークは暫く考え、言葉を出した。

ノエルは間違いなく自分と剣筋が違う。なら相談にのる事等出来ないが

旅路の中での事なら相談できた。

 

「素振りを100回を3回繰り返してました」

 

白い綺麗なシャツと黒いズボンを吐いたノエルは貴族の庶子にでも見える佇まいだが・・・

話を聞くに今の格好で斬り突き払いの3つを練習していたようだ。

クリスも見学していた様でキャッキャとその様子を無邪気に話している。

 

「剣の口出しはせん。が・・・もし疲労を残る訳に行かない旅の中でも鍛錬をしたいなら」

「装備を整えた上でゆっくり、全身の呼吸や筋肉を確かめながらやると良い」

「疲れは溜まる、だがどんな装備を持ち、どう戦うか分からないのが冒険者だ」

 

「下手に軽装や重装に慣れると逆の状況になった時に剣速に戸惑う」

 

話しながらジークはまだ若い頃を思い出した。

まだ初心者冒険者だった頃、一心不乱に素振りをし、戦いとなった時に全く役立てなかった時がある。

あれほど惨めな事も無い。鍛えた技を振るうべき時に振るえないのだから。

 

「は、はい!!」

 

コクコクと頷くノエルに、お前が一番良いと思う方法で鍛えろと言っていると

3人が頼んでいた料理が運び込まれてきた。ソレを食べているとアッシュとレイフォーも上から降りてくる。

全員揃えばやはりするのは今日の予定である。

 

「恐らく今日は野営となる。此処まで来ればそう遠くは無い。今日は早めに休み焚き火等の準備を行う」

「本日の野営先まではそう難所は無い。歩き続けるだけだ。その分周囲に気を配れ」

 

そう言いながらパンをシチューに浸しているジークは広げられた地図の先・・・

目的地である赤マルが着いた森と自分達が滞在している街から2/3程の場所に印を付けた

 

「今日は此処まで歩くとする。隊列を少し変えよう」

「ニャぁ・・・誰がどう並ぶのかニャ?」

 

アッシュがリスの様に頬に食事を詰め込みモグモグ食べているのを見ながらジークは僅かに考え・・・

 

「どうせ一通り経験させるつもりだ。お前たちで好きにしろ」

「それで良いか?レイフォー・・・・・・レイフォー?」

 

ぼぉーっと宙を見ながら、ベーコンにフォークを差し込んだまま固まっているレイフォーに声をかける。

名前を再度呼ぶとハッとする

 

「すまない、体調が悪い訳ではないのだが・・・寝ぼけていたのだろうか。」

 

心此処に非ずであったレイフォーはそう言うと改めてジークは説明する。

特に反対意見は無い様で子供達に任せる事となった。

 

 

 

        ※     ※     ※

 

 

 

街を出る際、衛兵達と一波乱あるかと身構えてみるも何の事も無く街の外へ行く事が出来た。

心地よい風が一行の旅路を涼やかに祝福する。

蒼天の空の下緑の道を進んでいく事となる。

 

子供達は昨日教えてもらった事のメモを見たり、お互いに声を掛け合いながらジークの忠告を実行する。

口には出さないが、ジークは

 

「(この子供達は成長が早い・・・運さえ良ければ大成するだろう)」

 

と内心思っていた。

レイフォーも朝食後は気をしっかり持ちジークの忠告の補足や気づいた事を話す。

旅路の中で予定外が起きたのは10時頃の話であった。

 

ジーク達は両端が背の高い雑草で覆われた道を歩いていた。

こう言った所は不意打ち、罠に適している為警戒する様に言い含める。

 

一時間程掛かるだろう道のりの中で30分程掛かった時だろうか。

不意にジークはピクンッ!と肩を揺らした。声が聞こえたのだ。

荒く苦しげな声である前方からだろう。人間では聞こえる音量ではないが風に乗ってジークの耳には呻き声が聞こえた

 

続き、数瞬置きレイフォーも気づいた。

お互いに目配せし、子供達と距離を縮める。何時でも庇える様に。

ジークは子供達の最前列に飛び出せる様に。レイフォーは周囲に目を光らせた。

 

熟練者二人は足音も無く近づいたモノだから子供達は気づいていない。

そこへアッシュが耳をピクピクと震えさせ大声を出した

 

「・・・!誰かのうめき声が聞こえたにゃ!」

 

一瞬の事であった。

アッシュはそう叫ぶと右斜め前方の草むらへと駆けて行こうとした。

善性からの行動だろう、その瞬間周囲への警戒は完全に無かった。

残る二人がアッシュの叫びに反応する前に、何かがアッシュの後頭部を引っぱたいた

 

パッーン!と聞こえの良い音が旅路の広がる。ジークがアッシュを引っぱたいたのだ。

同時に首根っこを掴み。背後の仲間達の元へと一足で跳ぶ。

 

「ノエル、クリス。警戒。ノエルと己が前衛。クリスは半身になり右を警戒しろ。左はレイフォーがやる」

 

アッシュを米俵運びする様に肩に担ぎなおす。

アッシュは目を白黒させてパチパチと何度か瞬きしてされるがままとなっていた。

突然の背後からの奇襲に気持ちがついて行って無いのだ。

 

「は、はい!!!」「ノエル!剣を!」

 

前方に飛び出しジークに並ぶノエル。

同時に無手で飛び出したノエルに抜刀を促しながら配置に着くクリス。

レイフォーはその数歩後ろで背後と左方を確認する。

 

ジークは一度手で全員を制し、周囲を確認する・・・が何も起きない。

 

「にゃ・・・」

 

少し落ち着き、漸くふぅと息を吐いた子供達。

アッシュも驚きから漸く復帰し小さく声を出した。

 

「アッシュ」

 

ジークはアッシュを地面にゴロンと転がし、立たせた。

獣耳をペタンとさせたアッシュだが、ジークはグリグリとその耳を撫でた。

 

「・・・?」

 

怒られると思っていたアッシュは首を傾げる

 

「良く気づき、飛び出そうとした。」

「冒険者としては三流の行動だ」

 

ジークは全員への制しを辞め、ハンドサインで前進を伝える。

アッシュをクリスとノエルの中間に行く様に伝え。背中越しにアッシュへ呟いた

 

「だが漢としては一流の行動だ。」

「その心は、冒険者として二流程度になってからにしろ」

 

仲間を危険に晒すな。そう言ってジークは進む。

アッシュはその後ろ姿に小さく頷き、進んだ。

不思議と痛みを嫌だと思わない感覚に戸惑いながら・・・

 

 

果たして、草を掻き分け進んだ先に居たのは・・・・・・見覚えのある顔であった。

二日前、装備を整え酒場へ変える前に出会った冒険者達だ。

あの時見た馬車は居ない。道に馬車の車輪跡が無かった以上自主的かどうかは知らないが別れたのだろう。

 

4人の中で黒一点だった少年は半裸となっており一番近場に居た

共に居た少女達が外で泥まみれで仰向けに倒れている

周囲を見れば、少年が少女達にかけたのだろう服がある。成程・・・

 

「・・・・・・天気の変化に気づかず、街の外に出かけ野営したか」

 

周囲を見渡せば、放り投げられ土砂に塗れた道具一式が置かれている。

 

ジークは状況を把握した。

天気が崩れる事も知らず、街を出て野営した後に雨が降りだしたのだろう。

テントどころかマントも羽織っていないのだ。一溜まりもあるまい。

 

更に言えば此処らは一面草畑だ。木陰で雨宿りも出来ない。街に戻るにしても方位磁石も何も無い。

数時間の間歩かなければならない。闇の中方位も分からず戻る事もできまい。

そのまま歩き迷い、草原の中に入れば雨に打たれ体温は低下し・・・今死にかけている。そんな所だろう。

 

「・・・・・・」

 

アッシュも、ノエルもクリスも目を見開き、次にジークを見た。

助けたい、といった目では無い。どうすれば良いのか問いかけているのだ。

ジークは僅かに考え、こう言った

 

「コイツらは風邪を引き、今死にかけている」

「毒消しの薬草湿布には風邪に効能があるモノもある・・・・・・が」

「それでどうなる?」

 

ゆっくり子供達に振り返る。全員の顔色はどんどん暗くなっていった。

このご時世だ。理不尽に死んだ知り合いもいるだろう。もしかしたら害獣駆除の時に死んだ存在もいるかもしれない。

だが、目の前にいる4人はまだ息がある様だ。善性の質である子供達には辛かろう。

 

「コイツらだけで歩けるまで回復出来るか?出来なかろう」

「ならお前達が世話を見てやるのか?死にかけた奴を4人守りながら?」

「成程、神々の慈愛の末魔物に出会わなければ、今夜は明かせるかもしれん。」

 

「で、体力が持つと思うか?経験則から言おう。」

「お前達がテントを貸し、食料を明け渡し丁寧に看病したとしてだ・・・」

 

「無理だろう。半数は起き上がれる様になる前に、途中で死ぬ」

 

「その半数とて、魔物に見つからなければだ。魔物に見つかれば助けようとしたお前達は死ぬだろう」

 

そこまで一息に言って全員を見渡す。

 

「・・・・・・さて、次に見捨てた事を話そうか」

「見捨てれば、この先面倒な事をせずに済む。それだけだが・・・・・・それは大きい」

「どうせコイツらは放っておけば死ぬのだ。何が悪い」

 

子供達が俯く。事実であり、口酸っぱく教えて来た事だ。

備えろ。リスクを考えろ。考えのない行動をするな。

仲間を危険に晒すなと

 

「さて・・・・・・どうする?」

 

ジークは真っ直ぐ見据え、呟き・・・最初に震えながらアッシュが応えた。

 

「・・・助けたいけど・・・・・・にゃぁ達にそんな事出来ない・・・にゃあ」

 

その言葉を聞きながら射抜く様にジークは残る二人を見る。

ビクリと肩を跳ねさせて、クリスが続いた

 

「街道に置くのはどうでしょうか・・・?もしかしたら誰かが助けてくれるかもしれません」

 

短い時間で、己の良心と出来る事から妥協案を考える。

クリスは中々優れた冒険者になりそうだが・・・今回は分が悪い

 

「それが出来れば良いが、ここいらは己の見立てでは夜は街道であっても魔物が出かねん」

「辞めておけ。そうするなら此処に放っておいた方がマシだ」

 

別に責めている訳ではなくジークの周辺の状況からの推測である・・・が十中八九正しい事ではあった。

その一言と共にクリスは顔を伏せた。

ノエルはどうすれば良いか、戸惑っているのが顔に浮かんでいる。

 

「・・・・・・む、りです」

 

顔を横に振るクリス。

 

「・・・リスクが多すぎます。・・・私達じゃ助けられません」

 

この時、クリスは憤っていた。

英雄を志す自分が何と無力なのかと。射抜く様な目線で見つめるジークの眼力も有り恐怖も有ったが・・・

その悔しさと、確かに今見捨てるという選択肢を3人が選んだのが真意だとジークは見抜いた。

そして一言頷き

 

「それで良い。」 「それが分かってるなら・・・」

 

 

 

 

 

「・・・助けるぞ。このバカ共を」

 

 

 

 

えっ と呟いて顔をあげた子供達にレイフォーが背後で言った

 

「目覚めが良いってのは・・・大事だという事だ」

 

そう言って、レイフォーは子供達を追い抜き少年に肩を貸し起き上がらせる。

ジークは、少女達の脈を一人一人取りながら呟いた

 

「・・・己達は冒険者だ。冒険の途中で自分の我侭で仲間を危険に晒す冒険者はクズだ」

「でもな・・・辛そうにしてる仲間の為に命も晴れん・・・詰まらん奴らになる事は無い」

「お前達をそんな奴にさせるつもりもない」

 

まず死亡者が居ない事を確認したジークは、僧侶の少女を米俵の様に担ぐ

 

「・・・苦い思いをしたなら強くなれ」「唯それだけが・・・我侭を言える方法だ」

 

分かったな?

言外のジークの言葉と共に、子供達が一斉に救助の為に動き出した




本当なら野営までやる予定でしたが、野営の事をもう少し細かく書きたいとおもい2つに分けました。


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