デート・ア・アストレア 世界を殺す10人の少女達 (暇人書店員)
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序幕あるいは間幕
とある民家にて。
髪色がアッシュブロンドの女性は一人、リビングのソファーに腰かけていた。彼女の前には彼女の膝下程しかないテーブルがあった。テーブルの上には幾つものノートが重ねられていた。彼女はノートを一つ手にとり、表紙を指で撫でていた。彼女の目には涙が貯まっていた。
「………ママ、どうしたのですか?泣いてますよ?」
廊下に続くドアを開けて白銀の髪をもつ少女が入って来ていた。彼女はそれを見ると、少女の前に立ち目線を合わせる為にしゃがんだ。少女の頭を撫でながら言った。
「ううん。何でも無いよ。」
そう言って彼女は、少女を抱きしめた。
「ママ、あのノートは何ですか?」
少女はテーブルの上のノートを指差していた。彼女はそれに気付くと少女を連れて同じソファーに向かい合って座った。
「このノートにはね、あなたの本当のパパとママの事が書いてあるの。俗に日記って言うものだよ。
…本当のパパとママに会いたいと思う?」
少女は驚いていた。自分がママだと信じていた人が違っていたからだ。
「会いたいです。でも………」
少女はそう言いながら、俯いていた。彼女は優しく少女の頭を撫で、言った。
「あなたのパパとママはあなたを愛していた。あなたは決して見捨てられた訳じゃない。これだけは信じてくれる?」
「…はいっ信じます!!」
少女は顔を上げてにこやかな顔でいった。
「ママとの最後の約束だよ。一つ目、ママはついていけない。絶対に追い付くからパパ達と一緒にいること。二つ目、困った時はこのノートをパパに見せること。いいね?」
「はいっ!!行って来ます、ママ!!」
彼女は名残惜しそうにもう一度少女を抱きしめた。そして少女がリビングから準備の為に出て行ったのを見送った。
「あなたは多くの人に愛されて生まれてきたのよ。
五年前
天宮市は現在、未曾有の大火災に見まわれていた。人は逃げ惑い、炎はすべてを焼き、灰にしていった。その中の一つの家の前にて、一人の白髪の少女が自分の家が燃えているのを見ていた。その少女は晴れやかな顔になった。その家から彼女の母親と父親と思われる男女と少女と同い年の少年が出てきたからだ。そんなひとときもつかの間、天使のような影とモザイクがかった何かが少女の家の上まで飛んできた。そして、暗かった空から光が少女の家を目掛けて降り注いだ。だが、その光は少女の家に降り注ぐ事はなく、突如として消えた。
「借りは、返したからね。崇矢さん。」
空からそんな声が聞こえてきた。ここまでが少女こと、鳶一折紙の記憶である。
鳶一折紙と精霊の物語の歯車はこの時、回り始めた。だが既に、もう運命の歯車は回っていたのかもしれない。けれども、誰にもこの物語の始まりは、気づいていなかった。ただひとりを除いて。
まだ、〈ラタトスク機関〉による精霊攻略が始まる一年前、一ノ瀬崇矢は、ボロアパートから出て、明日の入学式の入学式に買い物に出ていた。そこで、四年ぶりに折紙と再開したのだ。
折紙に会った時、折紙はあまり変わっていなかった。ただ、髪が長くなったぐらいか。あっちはあっちで俺を見た時驚いていたが。
「ええっと………、久しぶりですね……………崇矢くん。」
折紙は顔を赤くして、しきりに髪をかき上げていた。
「……………ああ、久しぶり、だな……折紙」
なんか俺は俺で照れているのか、頭をかいているし。
「ええっと………、どこかでお茶でもしませんか?……………良かったらですけど…………どうです?」
という事で折紙とお茶をする事に相成った。
カフェで折紙と昔話をしていた。そうすると、お互いの今の話になった。
「そういえば、義父さん達は元気にしているか?」
俺が気になっていた事を聞くと、折紙の顔が曇った。
「…………お父さんたちは…………三年前に……事故で……………。」
「そうか…………悪い事を聞いたな………………」
なんか、雰囲気が重くなった。…………そりゃあ重くもなるか。
「そういえば、崇矢くんは………………」
あれから一年が経った。折紙の勧めにより、同居する事になった。その上、折紙の叔母に挨拶するハメになるし。なにがなんなんだか。
「崇矢くーん、朝ですよー起きてくださーい。」
ところで折紙よ、もう少し寝させてくれないか?
「…………むぅ、おーきーてくーだーさいー!」
俺が寝返りを打つ振りをして折紙を見ると、折紙が制服のシャツの上からエプロンを着けて、お玉を握って腰に手をあて、怒っている振りをしていた。まるで、新婚夫婦のなかなか起きない旦那を怒っているような…………ってなんて事を考えていやがる俺。此処最近、折紙を相手にすると不埒な事が頭をよぎる。
「あっやっと起きました。………崇矢くん、顔赤いですけど風邪ですか?」
………口が裂けても折紙が新婚妻のようだったなんて言える訳がない。つーか、言う勇気なんてない。
「なんでもねぇよ。」
俺は照れながらも、素っ気なく返した。
「なんでも無いならいいですけど………」
折紙の方も引き下がってくれた。その後すぐに、不機嫌そうに早く降りて来いという事を言われ、俺の部屋から出ていった。出て行くときに「鈍感です……。」って言う意味深な言葉を残していたが。…………不機嫌なのとなんか関係でもあんのか?そんな事を思いながら、カレンダーを見ると、今日は四月十日だった。俺はこの時はまだ、このあとあんな事になるとは、一パーセントも考えてはいなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。コメント、感想頂けると嬉しいです。
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十香デットエンド
始業式
四月十日。今日は始業式。恐らく、〈ラタトスク機関〉が動き出すだろう日。そうなれば、俺達も動かなければならないだろう。そうすれば、……折紙を…………………まぁ、今考えるだけ無駄か。
「崇矢くん、早くしてください。学校行きますよー」
リビングから玄関を覗くと折紙が腕を組んで、頬を膨らませて待っていた。
「………………今行く。」
俺は愛用の改造ヘッドホンを首に掛け、一つの便箋をテーブルに置き、折紙の所に急いで行った。………………何時から一緒に行くようになったんだっけか………………?
来禅高校に折紙と一緒に到着した。そして、玄関まで行って、今年一年お世話になるクラスを確認した。
「あー、二年………四組………か。」
「私は……私も二年……四組……ですね。」
どうやら、今年一年折紙と一緒のようだ。玄関から離れて靴箱に行こうとすると、何気なく手を握ってきた。折紙の手は華奢で小さくて、壊れてしまいそうな手だった。とても、戦っている人間の手では無い気がした。
「おはよう。崇矢、折紙」
呼ばれて振り返ると、青髪の少年の五河士道が立っていた。
「……………おはよう。士道。」
「おはようございます。五河くん。」
俺達が士道に挨拶を返すと、士道の視線が一瞬だけ俺達の繋いでいる手に注がれた。
「………………なんか、失礼したな…崇矢。」
士道が頬を掻きながらそう言った時、折紙が急に頬を赤くして繋いでいた手を振り払った。………………そうやって振り払われるといくらなんでも傷つくぞ。まぁ、いいけど。振り払ってから折紙が名残惜しかったのか胸で手を重ねて俺を上目遣いで見てきた。
「……………えっと、崇矢くんは私と手をもうちょっと繋いでいたかったですか………………?」
………………
「熱いな、崇矢。」
「うるせぇ、士道。………………折紙……………うん、まぁ、もうちょっとだけ。」
俺が答えると、折紙が嬉々として手を握ってきた。それを見た士道は苦笑していた。
概ね始業式は進み、何事もなく終わった。
「崇矢くん、一緒にかえりましょう。」
帰るかと思っていると折紙から誘われた。
「ああ、そうだな。帰るか。」
折紙が何か思い出したようだった。
「……………崇矢くん、お昼は何を食べたいですか?」
お昼を何をたべるか話していると割って入って来た奴がいた。
「………………まさか、お前らど、同居しているのか?」
士道と話をしていた殿町宏人だった。
「同居つーても、兄妹だからなー。」
折紙が少し不機嫌になった。そんな他愛ない話をしてた。
ウゥゥゥゥゥゥ
空間震警報が鳴り響いた。
「マジかよ……………」
「崇矢くん達、避難してください!!」
遂に俺達の運命の歯車が回り始める。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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決意の砲火(上)
ウゥゥゥゥゥ
空間震警報が鳴り響いた。当たり前だが、空間震警報を聞いた生徒達は当然避難を始める。それに倣って避難する振りをしようとしていると、折紙に呼び止められた。
「崇矢くん!!」
俺が振り返って折紙を見ると、折紙は俯いていた。
「………………不安なんです。なんか、嫌な予感がするんです。」
折紙はかなり不安そうで、すこしでも不適切な発言をすれば折紙は壊れてしまいそうだった。そんな折紙を見ていると、過去からの罪悪感が起こさせた行動なのか気が付いたら近づいて折紙の頭を撫でていた。
「………大丈夫だ、折紙。心配するな。」
……………こんな事を平気な顔をして言えるなんてな。まるで、”あの男”みたいだな……………。
「崇矢くん、どうかしましたか?……………顔が怖いです。」
折紙が心配そうな顔をしていた。折紙に心配するなと言いながらも”あの男”を思い出して怖い顔をしていたとはな……………。
「……………心配すんな。」
嘘を吐いて、折紙を騙して、卑怯だな、俺は。
天宮市上空にて
「《アルテミス》、該当宙域に到着。総員、第一次戦闘配置。」
暗い艦橋に金髪の男の静かな声が響いた。
『配置を確認。
立体ホログラムの金髪の少女が淡々とした声で告げた。
「了解。〈クロケル〉〈マルコシアス〉発進。」
『お姉ちゃん達、死なないで……………』
立体ホログラムの少女が手をきつく握って祈っていた。
俺は誰もいない静かな街のビルの屋上に居た。首に掛けていた愛用のヘッドフォンを着けた。特に何かを聞く訳ではない。ただ、気分の問題である。
刹那、思わず耳を塞ぎたくなるような甲高い空間の軋む音の後、眩い光を放ち、凄まじい衝撃波が俺を襲ってきた。
そこには、目を見張る程の少女がすり鉢状に抉られた地面の上にたっていた。
誰もが目を向けるような圧倒的美貌、その上全てをねじ伏せる程の暴力。いつ会っても変わらないなぁ、俺も世界もアンタも。
『……迷った時は、自分の心を信じなさい。崇矢くん。』
………迷う、か……師匠、俺はもう迷いません。ただ、真っ直ぐと、ただ進みます。だから、見守っていてください。
「認証者、一ノ瀬崇矢。《ドレッドノート》機動。」
俺は愛用のヘッドホンの右側を頭頂部に付け、CRユニットを起動させた。起動させ、光が瞬いている所に行くと、アリス姉妹がASTとの戦端を開いていた。スピアーの先端を戦場に向けレーザーを乱射する。そうすると、何人かの
「……………崇矢、くん……………?」
俺が声がした方をみると、折紙がそこにいた。
追伸、やっぱり無理です。師匠。……折紙を討つことは。もしかして、俺って意思が弱い?
最後までお付き合いくださりありがとうございます。コメント、感想くださると嬉しいです。
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決意の砲火(下)
「…………崇矢、くん……………?」
声がした方を見ると、折紙がそこにいた。
「どきなさい!!折紙!!」
視界の端に一人の女性が〈ノーペイン〉を展開し、突っ込んでくるのが見えた。俺はスピアーを両手で持ち、先端から魔力刀を展開し、女性が突っ込んできた慣性力も乗せて振ってきた〈ノーペイン〉を防いだ。刹那、突っ込んできた女性が〈ノーペイン〉を持ってない手の方でレーザーカノンを向けてきた。
「……………なっ!」
背部の可変式スラスターに搭載されているビームマシンガンの銃口を女性の方に向け、乱射した。そうすると、俺を蹴り飛ばして距離を取った。ビームカノンを突きつけられた時は流石に焦ったわ。
「よく、やるようになりましたね…………………日下部遼子…………陸軍………三尉殿。」
「一尉なんだけどね…………。久し振りね。元教官殿?」
昔の教え子の話を聞き流しながら、俺はスピアーを構え直した。
鳶一折紙は戸惑っていた。何時も通りに任務をこなして帰るつもりだった。けれども今日ばかりは妙な胸騒ぎがしていた。そこで崇矢に甘えても『気にするな』の一点張りだった。いざ戦場に出てくると崇矢がいて自分の上司と殺し合っている。一年前、崇矢に街で会った時は心が踊った。その時心に誓ったのだ、彼をもう二度と手放さないと決めた。でも………だとしても、今の自分には、何も出来ない。
「……………くっ」
ASTの隊員の一人が振り下ろした〈ノーペイン〉を防ぎながら零宮アリスは思った。自分は近接戦闘が苦手である。元来、クロスレンジに相手を誘い込んで戦闘する事自体が苦手なのだ。それに、
「はぁっ」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
「………………ちっ」
日下部一尉(?)の振り下ろした〈ノーペイン〉を〈デファイアント〉で防ぐ。武器が長いお陰で力が伝わりにくくて鍔迫り合いがしにくい。日下部一尉を足で蹴り飛ばして距離をとると、レーザーカノンを俺に向けてきた、瞬間的に〈デファイアント〉を右手で持ち替え、右肩のウェポンプラットに搭載されている〈ノーペイン改〉を開いた手で引き抜いて投擲した。その〈ノーペイン改〉が、レーザーカノンの銃口に突き刺さり火花をあげてレーザーカノンが爆散した。
「なんで、なんで………なんでなの!?崇矢くん!?」
「仕方が無いことだろうが…………っ!」
レーザーカノンの爆煙の中から折紙が〈ノーペイン〉を構えて突っ込んで来た。それを〈デファイアント〉を構えて防ぐと、柄の部分が切り落とされた。……………マジか。
「はぁぁぁ」
爆煙の中をまた突っ込んで出て来て〈ノーペイン〉で切りかかって来た。その太刀筋を見切り、〈ノーペイン〉を蹴り飛ばした。そうすると、折紙は距離を取った。
「……なんで、なんでなの?崇矢、くん?」
折紙の顔はどこか寂しさを醸し出していた。そんな顔をするなよ。………でも、俺は知ってしまったんだよ、真実を。
「折紙!!この世界は善意だけで成り立っているんじゃあないんだよ!!!」
そう俺は吐き捨てた。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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戦う理由
「それって、どういう事ですか…………?」
折紙は戸惑っていた。けれども、俺は淡々と語ろうとしていると、《プリンセス》がロストしたとの連絡が来た。
「…………了解。」
俺が帰ろうとしていると折紙が声をかけて来た。
「崇矢くん………家で聞かせてもらいますからね。」
「……わかったよ……」
俺は〈アルテミス〉に帰投した。
お兄ちゃんが〈アルテミス〉に帰投してから、しきりに溜め息をついていて、かなり疲れていそうだった。うーん、お兄ちゃんの事は心配ですけど、もしかして今日、私は甘やかして貰えない?仕方無いですねぇ……。むむぅ。
兄さんが珍しくかなり疲れていた。シュミレーションでの想定と同じ数の部隊のはず。シュミレーションでは疲れなかった兄さんがあんなに疲れるなんて。どうしたのだろうか?
「どうかしたのですか?兄さん。」
「どうしたってどうしても無いのだが。」
どうやら、疲れているように見えているらしい。格納庫に備え付けのベンチに腰掛けて、壁にもたれ掛かるとヒンヤリとした感覚が背中から頭にかけて感じた。そうすると、アリスが片方のスポーツドリンクを渡してくれた。
「何時も以上に疲れているように見えます。」
「………そうかい。」
やっぱり、模擬戦と実戦では疲れ方が違うな。模擬戦で折紙に剣をむけられても、実戦では折紙に剣は向けられない。゙頭で理解していても、心では理解できない゙か………。
「鳶一折紙陸軍一曹の事ですか?」
………そんなにわかりやすいか?
「…」
「兄さんは分かりやすすぎですよ。そんなに躊躇うなら止めておけばいいものを………っ!」
「お前らにっ………お前らに何がっ……何が分かるっ!クローニングの……擬似姉妹しか持たないお前らにっ……なにが分かるんだよっ!!こっちは、思い出がっ……一緒にいた思い出があるんだよ!!そんなに簡単に割り切れるかよ!!」
気付いたら怒鳴り散らしていた。感情的になるだなんて俺らしくないな………。
「………すみません……兄さん……」
緊急装着デバイスを解除してスーツに着替えて艦長室に入った。部屋の中央にある机の椅子にジャケットを掛けて、腰掛けた。そうすると、机の上のタブレット端末の電源がついた。
『気分はどうですかー?えへへ、崇矢お兄ちゃん久しぶりですー!』
十六夜アリスは相変わらず明るかった。
「……………十六夜アリスか。どうした?」
十六夜アリスがクルリと一回りして、衣装の全体を見せてきた。
『崇矢お兄ちゃん、どうですー?似合っていますかー?』
十六夜アリスの衣装は、白を基調としたズボンルックスの軍服に特徴的な金髪は後ろで束ねられ、ポニーテールになっており、白を基調とした帽子を被っていた。
「…似合っているよ」
俺がそう言うと、十六夜アリスは嬉しがっている様子だった。
『……………あーあ、崇矢お兄ちゃんに褒めてもらえると嬉しいですね。』
「……でも、こんな話をしに来た訳じゃあないだろう。」
十六夜アリスは人差し指を立て、顎に当てて考えている振りをしていた。
『うーん、何て言ったらいいんでしょうかねぇ………崇矢お兄ちゃんが言った事にお姉ちゃん達、結構傷ついていましたよ。』
歩き回って頭が冷えたのか、冷静に振り返る事が出来た。
『うーん、お節介かもしれませんかもですけど、崇矢お兄ちゃんが戦う理由が今一歩よくわからないんですよねぇ………。』
俺の戦う理由か……。
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自分の心を信じて(上)
空に閃光が走る。紫の
『………迷った時は、自分の心を信じなさい。崇矢くん。』
………“自分の心を信じる”か。確かに、俺もあいつらも戦う理由なんて無いのかもしれない。だから、唯一信じて戦えるものなんて自分の心だけなのかもしれねぇな。そうなると、俺はどうするかな。俺が信じる物、か。俺は視界の端にあるものを捉えた瞬間、地面を蹴って空を飛んでいた。
遡ること一週間程前。
モニターにしか光源がない真っ暗な艦長室で俺は一人で考え事をしていた。十六夜アリスに戦う理由を問われた時、すぐに俺は答えることが出来なかった。為さなければ為らない事であるはずだったのに気がついたら何故なのかを忘れていた。何時から俺は戦う理由を失ってしまったのだろう?そんな事を考えていると、疲れからなのかごくごく自然に俺は眠りについていた。
『崇矢お兄ちゃん、起きてくださーい!!朝ですよー!!』
「……は?」
モニターに表示されている時刻を見ると、現在6時。いつもなら家の自分の部屋で起きていんだろう時間。おそらくは…………つーか、ただ考え事してたら寝落ちしただけじゃん。はぁ……折紙が心配しているだろうし、家にかえるか。
『でもですよ、帰るってどこに帰るのですか?任務が終わるまで帰らないっていう旨の手紙、折紙さんの家に置いてきましたよね?』
時が止まったような気がした。
俺はなんとか十六夜アリスをうまく丸め込んで折紙の家の前にいる。……結局、あんな事言っておいてうまく収まる訳で。いつか説明をしないといけない訳で。どう説明するか考えていない訳で………みたいな堂々巡りの思考をしながら鍵を開けた。
「…………?」
どこかおかしい。いつもなら、折紙が飛び付いてくるはず。だが、今は朝早く。だとしても、いくらなんでも静かすぎる。いつもなら、もう起きている時間だ。俺が、リビングのドアを開けると、ダイニングテーブルの近くに折紙が倒れていた。それを見た俺は、思わず折紙の名前を叫んで、折紙に駆け寄っていた。
時刻は少し遡って崇矢が《アルテミス》で睡眠についたであろう時間。
《アルテミス》艦内の休憩スペースに私はいた。私には、肉親と言える人はいない。唯一言えるのは、零宮姉さんだけ。といっても、血は繋がっていない。ただ、DNA 配列が同じだけの言ってみればただのクローン人間、デザインベイビー。私を表す言葉は幾らでもある。兄さんは私がこの事を言うと怒るけど。実際、私はただただ命を散らすだけの生命体。
ー“戦うだけの生命体”……か、悲しくないのか?そんなこと言ってて
ー必死に生きてりゃあなんかあんだろ、戦う以外にもさ。
昔、兄さんと初めて会ったときの会話が頭を過る。どんな人でも初めて私達姉妹に会うと、顔が似ていることに怯えて顔すら合わせてくれない。それどころか、私達姉妹を罵ることだってある。だから、兄さんは変わっていた。怯えもせず私達の顔を見て話をした。
ー顔は同じでも、性格までは一緒じゃあ無いだろう。お前ら姉妹は“性格の違い”が個性じゃあねぇの?
それどころか、私達姉妹を一人の人間として扱ってくれた。例えば、私達姉妹一人一人に名前をくれたり、どんな時も私達姉妹を気にしてくれたり、模擬戦で失敗しても罵らず、励ましてくれた。兄さんは、私達を想ってくれている。………あぁそうか、兄さんは同じように折紙さんを想っているんだ。おそらく、兄さんは無意識に私達より折紙さんを想っている、愛しているんだと思う。…………うらやましいなぁ、ちょっと嫉妬してしまいそうです。
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自分の心を信じて(下)
Qなぜ、お兄ちゃんは強いのか?
A知らない。
だって、お兄ちゃんの事だもん。知らないよ。でも、お兄ちゃんは決めた事は決して曲げない。あと、今日の戦闘を見ていてお兄ちゃんはかなり鳶一折紙さんの事を大切に想っているんだなぁって思った。だって、模擬戦の時は無慈悲に討っていたのに。やっぱり、義兄妹といえども、長い間一緒に過ごすと情が沸くんでそょうねぇ。お兄ちゃんは無意識でしょうけど、意外と鳶一折紙さんを愛しているのでしょうね。うらやましいなぁ。あーでも、私の髪色は銀色で鳶一折紙さんの髪色は白に近い銀色の髪色ですから私の髪色の方がお兄ちゃんのパーソナルカラーに近いんですよね。だから、私も以外と大切に想われていますかね?………自意識過剰乙?すみませんでした。………でも、鳶一折紙さんはお兄ちゃんにあんなに想われてうらやましいなぁ、ちょっと嫉妬してしまいそうです。
『お前らにっ………お前らに何がっ……何が分かるっ!クローニングの……擬似姉妹しか持たないお前らにっ……なにが分かるんだよっ!!こっちは、思い出がっ……一緒にいた思い出があるんだよ!!そんなに簡単に割り切れるかよ!!』
崇矢お兄ちゃんがあんな事を言うなんて思ってもいなかった。だから、崇矢お兄ちゃんがこんな事を思っていると知って、ちょっとだけ傷ついちゃた。決して、本心でなかったとしても。私は《アルテミス》の管制制御を行う
時間軸は再び戻り、四月十一日の朝。
結局、崇矢くんは帰って来なかった。昨日の戦闘の事を聞きたかったけど、それよりも崇矢くんがあんなところにいる事の理由が知りたかった。
『折紙、この世界は善意だけで成り立っているんじゃあないんだよ。』
この言葉がどうしても引っ掛かる。崇矢くんがこんなにも言わせる“何か”が多分、そうさせている。その“何か”は、何なんだろうか。
私がリビングに降りて、ダイニングテーブルを目の端に入れながらキッチンに入ろうとすると、そこには一つの便箋が置かれていました。
「………?」
気になったので手に取って見てみると崇矢くんの筆跡で私の名前が書いてありました。中を開けて中身を見てみると、突然今まで経験したことのない頭痛に見舞われて、その上立ちくらみがしてきました。そうして、意識を失って倒れてしまいました。
折紙が倒れているのを発見して、介抱してからすでに六時間が経とうとしていた。いつも俺は失ってから失った物が、大切な物だと気付く。あのときだって…………
二年ほど前までこの話は遡る事になる。
俺は師匠と一緒に教導隊として従事していた。イギリスでの任務の最終日。銀行で
『………え?』
『だめじゃない…………油断したら………』
ここから先の記憶は無い。聞いたところによると、無我夢中でリーダー格の女を切りつけていたらしい。
もう、昔のことだ。だからこそ、記憶に鮮明に残っている部分は残っている。
もしかすると、俺は折紙の事が………
各人ごそれぞれの思いを抱えて10日後を迎えようとしていた。
次回予告
零宮「今回から、次回予告が復活しましたよーお兄ちゃん!」
崇矢「ここを見てくれている人っているのか?……そもそもこの小説を読んでいる人っているのか?」
零宮「…………いると思います。たぶん?」
崇矢「疑問形かよ………まぁいいや。次回予告するぞアリス。」
零宮「次回は、ついにお兄ちゃんが覚醒しますー!あと、私達姉妹と鳶一折紙さんの最大級ライバルが登場ですー!燃えて来ましたよー!」
崇矢「………何に。」
次回、『銀の弾丸は復活する』
あとがき
こいつも今回から復活です。今年もあと少しですね。今年中に完結させたいですね。この章だけですが。こんなにもリメイクしているのに読んでいただけて嬉しい限りです。ありがとうございます。ここからは、お知らせなのですが、一話から順々に追加、修正をしていこうと思います。どこか不自然な部分があれば言って頂けると嬉しいです。最後になりますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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銀の弾丸は復活する
四月十一日の夕方頃
俺は折紙の看病をしていた。折紙の顔を見れば見る程自分の決意が揺らいでいく。折紙と一緒に居たからなのか?それとも………?
「俺はどうしたらいいんだよ…………?」
俺は一人、頭を抱えて毒づいていた。やはり折紙に剣を向けた時、躊躇いがあった。自分で決めた志が揺らぐ程であった。もしかして、俺は折紙のことが………
「ははっ…………そんなことあるかよ………。もしそうだとしてもこんな感情なんて要らないしな………。」
いちいち声に出していて、端から見ると変に見えるだろうが、こうしていないとやっていけないのだ。
「………崇矢くんのしたいようにしたらどうですか?」
折紙が目を覚ましていた。
「……そういうことでしたか。崇矢くんが意味もなくこんな事をするとは思えないですしね。」
折紙は顎に手を当て、考えこんでいた。
「でも、少しばかり信じられないですね。精霊の力を利用して世界を書き換えるなんて。」
「だろうな。俺も正直、信じられん。」
俺が答えると、折紙は笑顔で俺を見ていた。
「崇矢くんの顔から憑き物が落ちましたね。少し、明るくなった気がします。」
折紙は手を口に当てて、クスクスと笑っていた。一方で俺は顔が熱かったが。
「………でも、安心しました。ここ最近、思い詰めているような時が多かったですから。」
俺は折紙に言われてから折紙に心配を掛けていたことに初めて気がついた。
「折紙、ちょっと飲み物を取ってくる。」
そう言って俺が立ち上がって折紙に背を向けると。折紙が抱き着いてきた。
「本当に……本当に、心配したんですからね。帰ってこないって聞いた時はどうしようかと思いました。……お願いだから、私を……私を、一人にしないで………」
この言葉を聞いた時、折紙がどれだけ心細かったかを実感した。四年前に、両親を失った時も折紙一人だったからな………
「俺は……」
─折紙を一人にしないと言い切れるのか?誓えるのか?
折紙の言葉にどうしても、踏ん切りがつかない。
「崇矢……くん?大丈夫、ですか?」
─俺は、もう何も失わない程の守れる力を手に入れられたのだろうか?
「崇矢くん………?」
─でも、俺は………
─何を守るんだ…………?
「………崇矢くん!!」
折紙が大声で俺を呼んだ時、正気に戻った。
「やっぱり、崇矢くんはおかしいです!!」
折紙が俺の前に立ち、俺の肩に触れながら顔を覗きこんできた。その目には涙が溜まっていた。
「おかしいって、どこが?」
「ずっと、悩んでるじゃないですか!………私は、相談して欲しいんです。………私は、崇矢くんの事が
………好きだから。」
折紙を前にして迷って、目的を見失って、何もしないで、アリスに八つ当たりして、何をやっているんだろうな俺は。
『……迷った時は、自分の心を信じなさい。崇矢くん。』
あぁそうか、俺が戦う理由がわかった気がする。
「折紙、俺も好きだ。」
「………ふぇ?」
俺が告白した瞬間に折紙は理解できていなかったが、意味が解ってきたのか、次第に顔が赤くなってきた。そして、折紙が顔を俺の胸に埋めてきた。
「折紙、俺は折紙をもう一人になんかしない。俺は折紙と折紙のいる世界を守る為に戦う。」
声に出すと意外とすんなりと腑に落ちた気がした。
「………遅すぎます…………ばか。」
顔を埋めているせいか声がくぐもって聞こえた。
あれから、9日が経たった。今は、四月二十日の昼頃。
来禅高校の周りをASTの隊員達が囲んでいた。出動命令が出て、現場まで来たはものの、肝心の精霊は屋内にいる。
刹那、熱源反応があった。だが、その時にはすでに一人の隊員のフライトユニットが火をあげていた。レーダーと視界に映る熱源反応したであろう物の位置が違う。
噂程度であるが、かの“シルバーバレット”とかも同じ現象を起こせるらしい…………
─まさか
AST 隊員達は熱源反応したであろう物への迎撃準備を初めた。
これを見ていた
次回予告
九十三「結局、終わりませんでしたね。」
崇矢「どうやらそのようだな。」
九十三「しかも、私達の仲直りのシーンが書かれていませんし。」
崇矢「まぁ、この空間はパラレルだからな………」
九十三「そうなんですか…………」
崇矢「アリス、なんか伝えておきたい事はあるか?」
九十三「特には…………強いて言うなら…………兄さんが格好いいと思います………。」
崇矢「………」
次回『幽霊と王女』
あとがき
どーも、デアラ三期放送に興奮しまくってる作者です。気がついたら1月が終わってました。期待して待って下さった皆様、すみませんでした。最後までお付き合いくださりありがとうございました。やっぱり、折紙は可愛い
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幽霊と王女(上)
「撃てぇぇぇぇ!」
AST隊員達が一斉に各々の武装の引き金を引く。そうして一時的に周辺が火の海と化す。だが、そこには、一人の人影があった。
「………まさか、全部かわしたってこと…………?」
彼女達は、信じられなかったいや、信じたくなかった。もう一度、一斉に引き金が引かれ辺り一帯は火の海と化すがまだ、一人の人影があった。その人影は一直線にまるで弾丸のように突撃してきた。
俺が折紙に告白をした日の夜。俺は、〈アルテミス〉にいた。そこで、俺は艦内を歩き回りアリス達を探し回っていた。
「アリス達は、居るか?」
休憩室を覗いて見ると、銀髪と金髪の頭がこちらを向いた。金髪の方は顔が一瞬強張った気がしたが。
「どーしたんですかー?」
俺が入ると零宮アリスが向いてきた。
「あー、えっとなー」
俺がしどろもどろになりながら受け答えているとどこからか聞こえてきた。
『零宮お姉ちゃん、久しぶりにコーヒーを淹れてくださいな。』
零宮アリスは苦笑いしながら十六夜アリスの冗談に付き合ってコーヒーを淹れる為に部屋から出ていった。ということは、俺は十分に九十三アリスと話が出来るということだ。もしかすると、十六夜アリスは零宮アリスがいる中だと俺が話しずらいことを感じ取ったのだろうか、聡い子だな……………。そうしていると、九十三アリスが立ち上がり、俺に話しかけて来た。
「……………兄さん、あの時の事ですよね…………?」
九十三アリスから声をかけてきた。俺は少しばつが悪かった。
「………分かってますよ、兄さん。兄さんが本心で言っていないことぐらい。」
九十三アリスはそう言いながら俺の顔を覗き込んできた。刹那、俺の唇に柔らかい感覚があった。
「私を傷つけた罰です。………好きですよ………兄さん……………。」
十六夜アリスは顔を赤くして休憩室から走って出ていった。一方俺は、一瞬何が起きたか分からず唖然としてしまった。
「……………ああ、そういうことか。」
理解した時には誰も居らず、すでに時遅しといった所だった。おそらく、俺の顔はとても赤いだろう。少し頭を冷やしたくて外に出ると、零宮アリスが浮かない顔で顔をうつむかせ、壁にもたれ掛かり立っていた。
「あっ………ちょっと待ってください、お兄ちゃん。」
零宮アリスが俺を呼び止めていた。
「どうした?」
零宮アリスは少し気恥ずかしいのか、顔が赤かった。
「私もお兄ちゃんのことが大好きです。………折紙さんにも、九十三アリスちゃんにも負けない程、お兄ちゃんの事が大好きです!!」
いきなりで何かと思ったが、おそらく九十三アリスの告白を聞いていたのだろう。零宮アリスは告白をした後、、零宮アリスは全力で走ってどこか行ってしまった。……………今日は告白されることが多いな…………。
あれから9日が経ち、四月二十日の昼頃。
空間震警報が鳴り響いていた。王女の二度目の謁見である。
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