華人小娘と愉快な艦娘たち (マッコ)
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プロローグ

    今日も太陽が心地よい。

 

 

 こんな陽気だと、ついつい眠気が差すのも仕方のないことだと私は思う。

 

 私、紅美鈴(ホン・メイリン)が番をする紅魔館の正門は今日も平和だ……

 

 両手を上げて体を伸ばし、門柱にもたれ掛かると不思議と意識が遠のく……

 

美鈴「サボってなんかいませんよぅ……」

 

 両目を閉じてそうつぶやくと、なぜか意識が遠のいていく……

 

 まるで、眠りに落ちるように……

 

美鈴「zzz……」

 

 いつものお昼寝の時間、昼食後の至福のひとときを迎えるはずだった……

 

 恐らく数刻の時間が経過したころ、肌に感じる空気が変わり、目を覚ますと何だか見慣れぬ景色が見える。

 

 誰かのいたずらなのだろうか、私が居眠りしている間に知らない場所に連れて来られたのかもしれない。

 

    幻想郷ではよくあることだ……

 

美鈴「ここは、どこなのだろう……」

 

 私は、紅魔館の門番としてふだんはお屋敷から離れることはない。

 

 最近は、幻想郷にもいろいろな能力をもった妖怪や仙人、神様や鬼なんてゴロゴロいるらしい。

 

 よくお屋敷の図書館に侵入しようとしてくる自称魔法使いの人間や、新聞を押し付けてくる烏天狗なんかから良くそういう話を聞くから、そういった話は門の前にいても意外と入ってくる。

 

 恐らく、誰かがお昼休み中の私にいたずらをして、幻想郷のどこかに私を連れてきたか、転移したのだろう。

 

 私は、一応眠っていても誰かが近づいてきたら、気配で目を覚ませるつもりだったけれど、全然気が付かなかった。

 

 恐らく、そこらへんの妖精ではなく、ある程度以上の実力を持った者のいたずらだろうと思う。

 

 門に私がいないことが、メイド長の咲夜さんにバレたとしたら、多分今日の夕食を抜きにされてしまう。

 

    そうなると、私の胃袋の大ピンチだ。

 

 

 早くお屋敷に帰ろうといつものように空を飛ぼうとした。

 

美鈴「あれっ?」

 

 いつもなら自然と空を飛べるはずが、全く宙に浮けない。

 

美鈴「何だか、気が使えない……」

 

 空の飛び方は、人それぞれかもしれないが私の場合は身体に宿る『気』の力で空を飛ぶ舞空術という方法で空を飛んでいる。

 

 しかし、なぜだか全く気を練ることができない。

 

 それに、いつもならすぐに探知できるはずの他人の気を探ることもできない。

 

美鈴「いつもなら、遠くにいてもレミリアお嬢様たちの気を感じることが、できるはずなのに……」

 

 強大な力を持つ紅魔館当主レミリア・スカーレットや、その妹様のフランドール・スカーレットの巨大な気は、幻想郷の中にいるなら容易に探知できるはずだった。

 

 しかし、今はそういった気を感じ取ることができない。

 

 自分の身に何かが起きているのか、幻想郷の外に出てしまっているのか、理由はよくわからないが恐らくただ事ではなさそうだ。

 

 とりあえず、今の状況を確認しようと周りを見回すと、私がもたれかかっていた、紅魔館の門柱の代わりにレンガ造りの大きな建物の壁がある。

 

 一見すると立派な建物だが所々壊れていたり、崩れていたりしており廃虚とも思う有様だった。

 

美鈴「前にお嬢様たちが大げんかしたとき、お屋敷の壁がこんな感じになってたなぁ……」

 

    『レミリア』と『フランドール』 

 

 幻想郷内においても破格の力を持つ吸血鬼同士の大げんか。

 

 自分には、どうすることもできずに、メイド長の十六夜咲夜と一緒にお屋敷に務める妖精メイドたちを避難させるのが精一杯だった。

 

 お屋敷内にある大図書館の管理人、大魔法使いパチュリーの説得によって、私のプリンを仲良く姉妹で分けて食べるという大英断(今思うと私だけ損してないか?)で終結することができた、後に

    『スカーレット紛争』

と呼ばれた、吸血鬼姉妹の大げんかのときの惨状に似ていたが、あのときの紅魔館と違い、魔力による破壊というよりも硝煙の匂いが漂う殺伐とした雰囲気が感じられた。

 

美鈴「私が幻想郷に行く前に経験した、人間同士の戦争に似ているなぁ……」

 

 私は、建物の周りを確認してみたが、人がいる様子はなく、もう少し建物から離れてみることにした。

 

 よく耳を澄ませると、それほど離れた場所でないところから、幻想郷に来る前に聞いたことがある波の音が聞こえ、潮風の香りを感じた。

 

美鈴「もしかして、近くに海があるのかもしれない」

 

    幻想郷にはないはずの海……

 

 

 とにかく私は波の音が聞こえる方向へ足を進めた……



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第1話 華人小娘、海での出会い

 美鈴が艦娘や深海棲艦とファーストコンタクトする話です。

 戦闘シーンを、もっと上手く表現出来たら良いな・・・・・・って、思います。


美鈴「本当に海だ、ここは一体どこなんだろう……」

 

 海岸ついた美鈴は、眼前に広がる海を眺めながら一人つぶやく。

 

 幻想郷には存在しないはずの海、それは美鈴が完全に違う場所に来ていることを物語っていた。

 

美鈴「一体、誰が私をこんなところに連れてきたんだろう」

 

美鈴は、海岸でしばらく思考を巡らすが、当然心当たりはなく、状況を整理することはできなかった。

 

美鈴「こんなときは、少し体を動かして気持ちを切りかえようか」

 

美鈴は一度屈伸してから、宙に突きや蹴りを繰り出してみる。

 

美鈴「気はほとんど使えないようだけど、体に染み付いている技はそのままみたいね」

 

美鈴が長年独学で身につけていた拳法のキレは今も変わらないことを確認すると、砂浜を少し歩いてみることにした。

 

美鈴「やっぱり、土と違って砂浜は足を取られて進みにくいわね、いいトレーニングにはなりそう」

 

美鈴「お屋敷に帰れるか分からなくなってきたし、落ち着ける場所を見つけたらこのあたりで修行してみてもいいかも」

 

 何となく幻想郷ではない場所に来てしまって、紅魔館に帰れないかもしれないと悟った美鈴はこの場所で生きていくことを考え始めていた。

 

 

美鈴「急に私がいなくなって、咲夜さん心配してくれているかな……」

 

 ふだんはメイド長としてサボりぐせのある美鈴に厳しく当たることも多いが、何かと仲の良かった、同僚の十六夜咲夜のことを思い浮かべながら海岸を歩きながら、海であればいるであろう漁師や港を探していると、海から何かの異様な気配を感じた。

 

美鈴「はっきりわからないけど、何か近くにいる!?」

 

美鈴が海を確認すると、魚にしては大きい黒い影が近付いてくるのが見えた。

 

美鈴「あれは……、船?」

 

美鈴「いや、この感じ敵意を持った妖怪?」

 

美鈴は、この黒い影から何やら敵意とも怨念ともとれる気配を感じ身構える。

 

 黒い影は、段々と美鈴に近付いてきて、やがて水中からその姿を現した。

 

美鈴「あれは!?」

 

 巨大な魚とも、何かの機械ともとれる異形の存在に、美鈴は一歩後ずさる。

 

 

 

    ぐぉぉぉん

 

 異形の怪物は咆哮ともとれる声をあげ、口を大きく開き美鈴に飛びかかってくる、口の中から筒状の物が出てくる。

 

    ドゴォォォン

 

 怪物は、口の中から大砲のようなものを美鈴に向かって撃ってきた。

 

美鈴「弾幕!?」

 

 美鈴はとっさに砲撃をかわし、反撃に転じようと弾幕を打ち返そうとした。

 

美鈴「はぁ!!」

 

 美鈴は右手を突き出し、気弾を撃ち出そうとしたが、先ほどから気がうまく使えなくなっているため、不発に終わってしまう。

 

美鈴「くっ、気が使えない!」

 

美鈴「弾幕が使えないなら、接近戦で!」

 

 武術家としての魂がそうさせるのか、美鈴は異形のモノに飛び掛かり格闘戦を挑もうとするが異形のモノはさらに、1発、2発と砲撃を加えてくる。

 

 気もうまく使えず、舞空術も使えない美鈴は、ふだんであれば容易に回避できそうな敵の砲撃を間一髪で回避するが、水中や水上を自由に動き回る怪物は美鈴の接近を許さなかった。

 

美鈴「結構ピンチかも……」

 

 美鈴は、襲ってくる怪物の前に手を出せない状況であった。

 

 

 

    ドゴォォォン

 

 怪物は、美鈴の攻撃が届かない距離から砲撃を繰り返し、美鈴は動きづらい海岸で何とかその砲撃を回避するのであったが、はっきり言って手詰まりであった。

 

美鈴「この場は、一旦逃げた方がいいかも……」

 

 美鈴は少しずつ海岸から陸地に向かい距離をとっていくと、怪物は波打ち際から先には進んでこなかった。

 

美鈴「あいつは、陸上が苦手なのかな?」

 

 美鈴は、怪物から目を離さないように後ずさりながら、海岸から陸上に向かい距離を取っていった。

 

 

 

 怪物とある程度距離を取ると、怪物は砲撃を止めて再び海の中に消えていった。

 

美鈴「あれは、いったい何だったんだろう……」

 

 美鈴は、異形のモノが完全に姿を消したのを確認すると、一旦レンガ造りの廃虚がある場所に戻ることにした。

 

美鈴「何にしても、あの場所がこの近くで唯一建物がある場所だし、もしかしたら誰かいるかもしれない」

 

 美鈴は歩いてきた海岸からある程度陸上側を歩き、この世界に来たときに最初にいた廃虚のある地点に戻ると、敷地の中を詳しく確認することにした。

 

 

 

 美鈴が廃虚を詳しく調べてみると、瓦れきの中から『鎮守府』と書かれた焼け焦げた看板を発見した。

 

美鈴「鎮守府……、紅魔館みたいなお屋敷の名前かなぁ?」

 

 美鈴「この場所にあったお屋敷が、さっき戦った化け物みたいなのに襲われてこんなふうに壊されたのかもしれないわね」

 

 美鈴は聞き慣れない元海軍基地のを、紅魔館のような物と独自に解釈し、生き残りがいないか詳しく探し回ったが、残念ながら廃虚となって長く時間が経過しているようで、人の形跡を見つけることはできなかった。

 

 

 

美鈴「ふぅ、一体どうしたらいいのやら……」

 

 美鈴は空を見上げると、太陽が大分低くなってきており、間もなく夕方を迎えようとしていた。

 

    ぐぅ~

 

 美鈴のおなかが空腹を訴え始める。

 

美鈴「いつもならおやつの時間だなぁ……」

 

美鈴「咲夜さんの焼いたお菓子が食べたいなぁ……」

 

 いるはずもないの十六夜咲夜を思い出しながら、空腹を感じた美鈴は食べ物を探すことにした。

 

美鈴「近くに森もなさそうだし、海で魚を捕まえたり貝を探したりしようかなぁ」

 

 幻想郷に行く前の記憶を頼りに海での食料調達を考えた美鈴は、怪物に警戒しながら再び海岸へ向かうことにした。

 

 

 

    ドゴォォォン

 

 美鈴が海岸を訪れると、聞き覚えのある砲撃音が聞こえてきた

 

美鈴「さっきのヤツか!?」

 

 自分が砲撃されたと身構える美鈴、しかし砲弾は飛んでこない

 

美鈴「どういうこと?」

 

 美鈴が周囲を見回すと、先ほどの異形のモノとボブカットの少女が一人水上を駆け回り互いに砲撃をしているのが見えた。

 

美鈴「女の子が海の上で弾幕戦をしている?」

 

 何か機械のようなものを背負い、手に小さな大砲のようなものを持った少女が怪物と戦っているようだ。

 

美鈴「あの子は一体……」

 

 美鈴が海岸から少女の動きを目で追う。

 

 助けに行きたくても、気をうまく使えない状態の美鈴には水上で戦う少女の援護には迎えない。

 

 ただただ海岸で少女を見守ることしかできない美鈴を、戦闘中の少女の目にとどまる。

 

ボブカットの少女「あんなところに、誰かいる!?」

 

ボブカットの少女「早く、イ級をやっつけないとあの人が危ない!」

 

ボブカットの少女「当ったれぇ~い!!」

 

 少女が手に持った大砲を撃つと、イ級と呼ばれる怪物に直撃する。

 

ボブカットの少女「ざぁっとこんなもんだ!」

 

 少女は怪物を倒したと確信し美鈴に向かってガッツポーズを取る。

 

 しかし、怪物はまだ生きていた。

 

美鈴「危ない!!」

 

美鈴が叫ぶと、少女は怪物に目を向ける。

 

    ドゴォォォン

 

 怪物はちゅうちょなく、少女に向かって砲撃する。

 

ボブカットの少女「うわぁぁ!!」

 

 怪物の砲撃は少女に直撃し、少女の身体が宙を舞う。

 

    ドゴォォォン

 

    ドゴォォォン

 

 2発、3発と怪物は少女に砲撃を繰り返し、かわすことのできない少女は空中で怪物の砲撃を受け続けてしまう。

 

美鈴「あのままじゃあの子が死んじゃう!!」

 

 美鈴は思わず少女に向かって駆け出す、少女は怪物の砲撃を連続で受け続け波打ち際に落下する。

 

ボブカットの少女「や、やられたっ……」

 

 辛うじて息の合った少女に向かいトドメとばかりに怪物が飛びかかる。

 

ボブカットの少女「あ……、あぁ……」

 

 少女に飛びかかる怪物の銃口が少女に狙いを定める、ダメージで身体が動かない少女は声も出せずただただ目に涙を浮かべるだけである。

 

 

 

 

美鈴「くっそぉ、やらせるかぁぁ!!」

 

 走っていては間に合わないと判断した美鈴は、いちかばちか倒れている少女向かって大きく跳躍する。

 

 すると、今までうまく練れなくなっていたはずの『気』が身体の中で湧き上がるのを感じる。

 

美鈴「これなら!!」

 

 気の力で、ものすごい速度で少女の眼前に着地した美鈴は、右の拳に気をまとわせて怪物が放った砲撃に向けて正拳突きを繰り出す。

 

    バギィィ!

 

 何と美鈴は怪物の放った砲撃を拳で打ち返したのである。

 

    ガォォン……

 

 打ち返された砲撃は、美鈴の気を纏って怪物に向かって一直線に飛んでいき怪物に直撃し、イ級と呼ばれた怪物は爆散して海へ散っていった。

 

美鈴「へへっ、やった……」

 

 体中から力が抜けきってしまった美鈴は、その場に膝をついた。

 

 

 

 美鈴は、海で出会ったボブカットの少女を背負って『鎮守府』という名前の建物のあった廃虚に戻った。

 

 人がいた形跡のあるあの場所なら、少女の怪我を治せるかもしれないと考えたからである。

 

 少女は、美鈴がイ級と呼ばれる怪物を倒したのを見届けた時点で気を失っていたので、あの怪物が何者なのか、なぜ少女が海上であの怪物と戦っていたのかなどいろいろ聞きたいことはあったが、ひとまず少女の治療を優先することにしたのである。

 

美鈴「こんなときに気が使えたら、少しは怪我の治療もできるのになぁ……」

 

 美鈴は、廃虚の中で運良く見つけた救急箱の中にあった包帯で少女の傷口を止血し、廃虚の中で拾い集めた布や毛布で簡易的な布団を作り少女を寝かしつけてから、日が落ちる前に海岸で魚や貝集めてきて、廃虚の中で拾い集めた木でたき火をしながら、とりあえずの食事を作っていた。

 

美鈴「お嬢様と出会う前、結構こういうことをやっていたから意外と得意なんだよね~」

 

 美鈴は、貝殻や流木で作った簡易的な食器に晩御飯を用意すると、少女に声をかけた。

 

 

 

美鈴「怪我しているところ悪いけど、大丈夫?起きれる?」

 

ボブカットの少女「うぅん……、あれ?ここはどこ?」

 

 少女は目を覚まし、起き上がろうとする。

 

ボブカットの少女「痛っ!」

 

 怪我が治っていない少女は全身の痛みに思わず顔をゆがませる。

 

美鈴「無理しないで、横になったままでいいから」

 

ボブカットの少女「あのとき、海岸にいたお姉さん?」

 

美鈴「そうだよ、おなかは減ってない?」

 

 少女は焼き魚の香ばしい匂いに気が付き、横になったまま美鈴の用意した料理に目を移す。

 

    ぐぅぅ~

 

 空腹でおなかを鳴らしてしまった少女は、赤面しながら

 

ボブカットの少女「うぅ……、少し減ってるかも」

 

美鈴「小さくちぎってあげるから、ちょっとずつでも食べた方がいいよ」

 

ボブカットの少女「あ、ありがとう……」

 

美鈴は、少女が食べやすいように魚の身を小さくほぐしながら少女の口に運ぶと少女は顔を赤らめながら少しずつ美鈴の料理を食べていく。

 

美鈴「ごめんね、材料がないからただの塩焼きだけど……」

 

ボブカットの少女「うん……、おいしい……」

 

美鈴「私は紅美鈴、あなたの名前は?」

 

ボブカットの少女「深雪……、深雪だよ」

 

美鈴「深雪ちゃんか、よろしくね」

 

深雪「深雪だよ。よろしくな!」

 

 深雪の表情が明るくなり、笑顔を見せた。



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第2話 提督が鎮守府に着任しました!

    チュンチュンチュン

 

 

 小鳥のさえずりの声で、美鈴は目を覚ます。

 

 美鈴の目の前には、全身怪我だらけのはずだった深雪が、まだ寝息を立てて寝ている。

 

 気のせいか、昨夜と比べて大分傷口がふさがっている気がする。

 

美鈴「何だろう、一晩寝ただけで深雪ちゃんの怪我が大分良くなっている気がする」

 

 幻想郷でも、人間に比べて美鈴たちのような妖怪と呼ばれる種族は治癒能力が高い。

 

 水上を駆け巡り、弾幕戦のような戦闘をしていた深雪のことだ、きっと普通の人間ではなく妖怪のような存在なのかもしれない。

 

 そう考えると美鈴は、深雪の回復の早さに大した疑問も抱くことはなかった。

 

 紅魔館のように、時計台があるわけではないこの廃虚の中では正確な現在時刻がわからないが、太陽が昇っているので大体朝の6~7時くらいだろう。

 

 美鈴は、昨日の夕食の魚や貝を調達した海岸に行き、再び食料調達することにした。

 

 

 

 小一時間、浜辺で貝や魚を採ってきた美鈴は、浜辺に落ちていたバケツをひろうと海水と一緒に深雪が寝ている廃虚に戻ってきた。

 

 近くに落ちている草木を拾い集め、昨夜のように火をおこしてたき火をしながら、廃虚で拾ってきた鍋に海水と貝を入れて簡単な塩ゆでを作り、魚は木の枝に刺してたき火で丸焼きにするだけの代わり映えのない何ともサバイバルな食事だが、とりあえずの空腹からは逃れられそうだ。

 

 

 魚が焼け、貝がゆで上がるころ、美鈴は寝ている深雪に声をかけ起こすことにした。

 

美鈴「深雪ちゃん、ご飯だけど起きれるかな?」

 

 美鈴が深雪に声を掛けると、深雪は大きくあくびをしながら目を覚ました。

 

深雪「ふぁ~あ、もう朝か~、おはよ~」

 

 昨夜は、傷だらけで身体を起こすだけでも痛みを訴えていたのがうそのように立ち上がり、身体を伸ばす深雪を見て美鈴は

 

美鈴「深雪ちゃん、もう怪我は大丈夫なの?」

 

と尋ねると、深雪は美鈴が海岸から拾ってきた緑色のバケツを指さして

 

深雪「やっぱりバケツの効果は抜群だぜ~!」

 

と言って親指を立ててきた、何だか意味がわからない。

 

 

 

 すっかり傷が癒えた深雪に美鈴はいろいろなことを聞くことにした。

 

美鈴「ここは海があるけど、どこなのかな?珍しいよね」

 

深雪「ん?珍しいかな」

 

美鈴「私がいた場所は、近くに海がなかったから」

 

深雪「そうなんだ、この島は海軍基地があった日本近海の小島だけど、美鈴はこの島の人じゃないの?」

 

美鈴「う~ん、何というか事故みたいなもので急にここに来ちゃって……」

 

深雪「遭難?大変だな~」

 

美鈴「まぁ。遭難みたいなものだね、ははは……」

 

 美鈴は、自分が人間だった頃の記憶で日本を知っていた。

その頃の日本は、明治維新という革命が起きてそれまでの武士の時代が終わり、西洋式の文化を積極的に取り入れていると聞いたことがある。

深雪が来ている洋服も、西洋の国の水夫が着ている服に似ているのは、そういった経緯なのかと納得がいった気がする。

 

 

美鈴「ところで、昨日深雪ちゃんが戦っていたあの怪物って何者なの?」

 

深雪「ん?深海棲艦を知らないのか?」

 

美鈴「あはは、すごい山奥の田舎にいたものだから……」

 

 何となく、美鈴は幻想郷の話をすることを止めた、どう見てもここは幻想郷の外の世界であるからである。

 

深雪「今から、5年くらい前に急に現れた存在で、当時最初に接触した日本の艦隊じゃ歯が立たなくて完全に海域を奪われちゃったんだって聞いたよ」

 

美鈴「そんなことに、なっていたんだ知らなかったよ……」

 

深雪「ちなみに、昨日のやつは『イ級』と呼んでいて、深海棲艦の中じゃ一番下っ端で、一番数が多いヤツなんだよね~」

 

美鈴「もっと強いのがいるんだ……」

 

 深雪の話によると、最近では日本の他の国の近海にも出現していて、通常の兵器では歯が立たず、制海権のほとんどが深海棲艦に奪われてしまっているらしい。

 

 更に深雪は、深海棲艦が出現し人類から制海権を奪った頃に存在が確認された、『艦娘』と呼ばれる存在だという。

 『艦娘』とは、かつて人類間の戦争があった際に建造され戦争などで沈んだり、役目を終えて解体されたりした軍艦の魂を受け継いだ存在と言われている。

 

 また『艦娘』は、普通の人間よりも身体能力に優れており、艤装と呼ばれる装備を装着することで水上を移動することが可能で、深海棲艦を唯一対抗できる存在であるということであった。

 

 

 

美鈴「ここの瓦れきの中を調べていたら、『鎮守府』って書かれた看板を見つけたんだけど、『鎮守府』って何かの施設なの?」

 

深雪「確かに山奥には鎮守府はないからな~、鎮守府っていうのはもともとは海軍の司令所だったんだけど、今では深海棲艦と戦う艦娘が集まる基地って感じかな~」

 

美鈴「それじゃあ、深雪ちゃんもどこかの鎮守府にいるのかな?」

 

深雪「まだ鎮守府には所属していなくてさ~、一緒に戦ってくれる仲間や司令官を探しているだなよ~」

 

美鈴「だから、一人で深海棲艦と戦っていたんだね」

 

深雪「まっ、そうことかな~」

 

 美鈴がわかったこととして、ここは幻想郷ではなく外の世界であるが、美鈴が幻想郷に行く前とは世界の情勢が変わっているということは理解できた。

 

 

 最後に、美鈴は気になっていた、深雪の高い治癒能力について聞いてみることにした。

 

美鈴「深雪ちゃんは昨日すごい大怪我をしていたのに、一晩で大分回復したみたいだけど艦娘ってみんなこんなに回復力が高いの?」

 

深雪「普通の怪我なら人間並みに治るけど、深海棲艦から受けたダメージは入渠するか修復材を使わなきゃ治らないよ」

 

美鈴「入渠?」

 

深雪「特別な薬品が入ったお風呂に入るといえば、わかりやすいかな?」

 

美鈴「人間や動物が、温泉に入って療養する湯治みたいなものかな?」

 

深雪「そんなところだね、入渠以外にもちょっとした怪我なら治療できる特別な艦娘がいたり、工廠の妖精さんもある程度治療できるらしいけど」

 

美鈴「深雪ちゃんは、普通に止血して寝てただけなんだけどなぁ……」

 

深雪「美鈴の横にバケツがあるけど、そのバケツを使ってくれたんじゃないの?」

 

美鈴「バケツ?」

 

深雪「そのバケツに入っている『高速修復材』を艦娘の体にかけると怪我がすぐに治るんだよ、普通は入渠のときにお風呂のお湯に混ぜたりして使うことが多いけどね」

 

美鈴「このバケツって海岸に落ちていたから、魚や貝を持ち帰るのに拾ってきた空のバケツなんだけど……」

 

深雪「えっ、そうなの?じゃあ何でこんなに回復しているんだ??」

 

 深雪の話では、深海棲艦から受けたダメージは自然回復することがなく、『入渠』するなど治療しなければ治ることはないらしい。

 

深雪「まぁ、深雪さまだからきっと大丈夫だぜ~」

 

 深雪は細かいことを気にしない性格なのか、やんちゃな少年のように明るく笑っていた。

 

 

 

 美鈴と深雪が談笑していると、ふと美鈴は廃虚の中を動き回る小さな気配を感じた。

 

美鈴「前から何となく気配を感じるんだけど、ウサギとかリスでも近くにいるのかな?」

 

深雪「ここは鎮守府の跡地みたいだし、妖精さんがすみ着いているじゃないか?」

 

 

 美鈴がイメージする妖精とは、紅魔館の近くにあった霧の湖に住み着いている氷精や、その友人で緑色の髪をした子というような、人間の児童と同じくらいの大きさのイメージだった。

 

 この周辺に感じる小動物くらいの気配とは異なるのだが、深雪の話を聞く限りここはそもそも幻想郷とは概念が全く異なる世界のようだし、同じ『妖精』と言う名を持っていても姿かたちが異なっているのかもしれない。

 

深雪「妖精さんがいるなら、入渠ができない深雪さまを、妖精さんが治してくれたのかもな~」

 

 本当なら妖精さんってお医者さんみたいな存在なのだろうか……

 

 

 

 美鈴と深雪は、当面の住む場所を確保するため、廃虚の中で使えるのがないかを探し回っていると、たまにパチュリーに会いに来る、アリスという人形遣いが操っていた、人形くらいの大きさで、作業服のような服装をした小人が、美鈴と深雪の前に現れた

 

深雪「美鈴、この子がさっき話した妖精さんだぜ!」

 

美鈴「この子がこの世界の妖精なんだね」

 

美鈴「はじめまして、妖精さん」

 

 美鈴が妖精さんに声を掛けると、妖精さんは軍人の『敬礼』のポーズをとったので、美鈴もつられて妖精さんに敬礼を返す。

 

 美鈴の敬礼に妖精は何だか喜んだ様子で飛び跳ねたりしながら喜んでいる様子である。

 

 美鈴は幻想郷にいた頃から不思議と妖精に抱かれることが多く、この妖精さんも、美鈴をひと目見てなついてくれたのかもしれない。

 

 どうやら妖精さんは人間の言葉を話せないようだが、身振り手振り美鈴に話しかけてくれていることが理解できた。

 

 言葉の通じない犬や猫と人間がコミュニケーションがとれるように、妖精さんと美鈴も少しの時間で大分意思疎通ができるようになった気がする。

 

 

 

 妖精さんは美鈴に「ちょっと待ってて」と身振り手振りで伝えた後、鎮守府跡の瓦れきの中に走っていった。

 

 恐らく他にも仲間がいて、美鈴のことを教えに行ってくるといった雰囲気だったので、美鈴は深雪と妖精さんが戻ってくるのを待つことにした。

 

深雪「美鈴は艦娘じゃないのに妖精さんと仲が良いみたいだね」

 

美鈴「昔から妖精や子供には好かれていたから」

 

深雪「山にも妖精さんいるんだ」

 

美鈴「この辺はどうかわからないけど、私がいたところには近くに妖精が結構いたよ」

 

深雪「だから美鈴は人間なのに、妖精さん慣れしてるんだね~」

 

 

 

 美鈴と深雪が話をしている頃、先ほどの妖精さんは瓦れきの下で生き延びていた他の妖精さんたちに美鈴のことを話していた。

 

作業服の妖精さん「(みんな、あの赤い髪の人はいい人みたいだよ)」

 

調理服の妖精さん「(昨日、海岸で深海棲艦と戦っていた人だよね)」

 

ヘルメットをかぶった妖精さん「(やられそうになった艦娘の深雪を助けた人だよ)」

 

双眼鏡を持った妖精さん「(深雪が来る前にも一度深海棲艦と戦っていたよ)」

 

鉢巻きをした妖精さん「(もしかしたら新しい『提督』かな)」

 

ゴーグルをつけた妖精さん「(でも軍人さんじゃないみたいだよ)」

 

三つ編みの妖精さん「(優しそうな人だし『提督』になってくれたらうれしいな)」

 

帽子をかぶった妖精さん「(『提督』だ!『提督』だ!)」

 

セーラー服の妖精さん「(『提督』になって鎮守府を直してってみんなでお願いしようよ)」

 

マフラーをつけた妖精さん「(『提督』の帽子は保管していたから持ってこよう)」

 

 鎮守府跡の瓦れきの下で細々と生き延びていた妖精さんたちが次々に集まってきて、美鈴について話をする。

 

 

 

 しばらくすると、先ほどの作業服の妖精さんが美鈴のところに戻ってくるとに次々と妖精さんたちが出てきてが整列し始めた。

 

 10人以上の妖精さんが横一列に整列すると、一同に美鈴に『敬礼』をしてくる。

 

 いまいち状況が飲み込めない美鈴に対して、妖精さんたちの意図に気がついた深雪が美鈴に声を掛ける

 

深雪「もしかしたら、美鈴は妖精さんたちに提督と認められたのかもしれないぜ」

 

美鈴「提督って?」

 

深雪「鎮守府のリーダー、艦娘たちの司令官ってところかな?」

 

美鈴「私が司令官?」

 

深雪「ここの島は今は鎮守府がないみたいだし、妖精さんたちは美鈴に提督になってほしいんじゃないか~」

 

美鈴「えぇ……、そんな急に言われても……」

 

深雪「美鈴が司令官になってくれるなら、深雪さまは大歓迎だぜ!」

 

 美鈴が動揺していると、妖精さんの一人が白い軍帽を持ってきた。

 

深雪「提督がいないと鎮守府は再建できないし、鎮守府がないと妖精さんたちも安心して暮らせないからな~」

 

美鈴「でも、私なんかがそんな大役を……」

 

深雪「イ級にやられて大破したときに守ってくれた恩もあるし、この深雪さまがサポートするからさ~」

 

深雪「妖精さんたちもこれだけ言ってるんだしさ、提督になってくれよ美鈴!!」

 

 昔から頼まれると無下に断れない美鈴は、深雪や妖精さんたちの願いに答えることにした。

 

 

美鈴「私なんかじゃ力不足かもしれないけど……」

 

 美鈴は妖精さんから軍帽を受け取ると自分の帽子を脱いで軍帽をかぶった。

 

 軍帽をかぶった美鈴に対して、深雪と妖精さんたちが一同に敬礼をしてくる

 

深雪「提督が着任したぜ!これから一緒に頑張ろうな!!」

 

 

 

    今ここに新たな提督、紅美鈴提督が着任しました!




 今回は戦闘は無く、美鈴が艦これの世界観に慣れていくような回です。
 今後深く書くことがありますが、私の独自設定で美鈴は元人間だったという設定です。

 以前までの回はちょくちょく誤字や脱字に気がついたら直しているつもりです。
 稚拙な文章ですが今後もよろしくお願いします!


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第3話 華人小娘、奮戦する!

   カンカンカンカン

 

 

 木づちの音が静かな島中に響き渡る。

 

 新たな提督のために、妖精さんたちは鎮守府を建て直すと張り切っている。

 

 美鈴が提督を名乗ってから一週間が経過した。

 

 妖精さんたちは手際よく、美鈴たちがゆっくり休めるように小さな小屋を建設したのち、新しい鎮守府の建造に励んでいる。

 

 美鈴は、妖精さんたちがありあわせの資材で作成してくれた斧で島内の林で材木を調達し、新たな鎮守府建造予定地に運搬し妖精さんたちに渡す。

 

 妖精さんたちは、美鈴が調達した木材を加工し、鎮守府建設のための木材へと加工する。

 

 深雪は、島の周辺をパトロールし、度々出現する深海棲艦イ級を撃退したり、魚釣りをしたりして食料を調達する。

 

 

 人手は足りているとは言えないが、各々が自分のできることをやることでチームとしてはうまく機能していると感じる。

 

 美鈴は紅魔館の門番時代にも、お屋敷の妖精メイド数人を任されており、中庭の管理を任されたりもしていたので、実は少人数の統率を取ることに関しては素人ではなく、妖精さんたちも美鈴を信頼し作業の方針などよく打ち合わせし、直接言葉は通じないもののうまく美鈴の指揮に応じている。

 

 美鈴自体も、門番時代に紅魔館に強行突入してくる巫女や魔法使いがお屋敷の壁など壊してしまうことが多かったため、土木作業や補修作業は異常に手慣れていたため、妖精さんたちとともに人手不足ではあったが、割と手際よく鎮守府建築工事は進んでいた。

 

 

美鈴「この間、自生していた野菜を見つけたから鎮守府建築のめどが立ったら畑を作ろうと思っているんだ」

 

深雪「美鈴……、じゃなくって司令官って何だかいろいろと手慣れているな~」

 

美鈴「長年いろいろやってたからね」

 

深雪「生活力も高いし、いざとなったら深海棲艦を倒したり実はただ者じゃなかったりする?」

 

美鈴「ここに来る前はもっとすごい人ばかり周りにいたし、私なんかまだまだだよ」

 

深雪「司令官よりすごい人たちって、そんな人間がいるの!?」

 

 美鈴自体、なぜかこの島に来てから『気』の力を自由に使えなくなっているし、体力的にも人間並みに低下してしまっているので、実際には深雪のような艦娘には勝ち目はない。

 

 しかし、あの幻想郷で長年生き抜いていただけあり実戦経験は豊富であり、武闘家としての『技(スキル)』や『技術(テクニック)』は失っていなかったため、深雪から羨望のまなざしを受けることに事欠かない。

 

 最近では、美鈴が毎朝体操代わりに日課にしている太極拳にも興味を持ったようで、まねをするようになっている。

 

 妖精さんたちだけでなく、深雪もすっかり美鈴になついていると言っていいだろう。

 

 

 

 そんなある日の早朝、海岸からの砲撃音で美鈴と深雪は目を覚ました

 

深雪「また深海棲艦の攻撃か?」

 

美鈴「いつもとは雰囲気が違う気が……」

 

深雪「この近海じゃ大型の深海棲艦はでききていない、深雪さまに任せときな!」

 

 深雪は艤装を装着すると、一人で海岸に向かって駆けていく。

 

 深雪の話によると、いままで深雪の艤装の一部が整備不足で使用不可となっていた武装があったということだが、艤装修理が得意な妖精さんが深雪の艤装を整備してくれたおかげで使用が可能になったらしい。

 

 深雪は、その武装が使用できるようになったからか意気揚々と出撃していった。

 

 しかし、美鈴は深海棲艦の砲撃音に今までとは違う違和感を抱き深雪を追うことにした。

 

 

 

 

深雪「げっ、マジかよ~」

 

 海岸についた深雪の目に映ったモノは、いつものイ級1隻の他に、イ級よりもわずかに機影が大きく、女性の腕など上半身のようなモノが確認できる深海棲艦の姿があった。

 

深雪「軽巡ホ級……数だけでも1対2なのに、これってピンチじゃね?」

 

 深雪はとっさに岩陰に身を隠した。

 

 幸い深雪はまだ気づかれていないようだが、深雪の練度では手に余る相手であるのは間違いなかった。

 

深雪「せめてもう1人艦娘の仲間がいれば……」

 

 深雪には妖精さんに修理してもらった魚雷がある、イ級を足止めできる仲間がいれば、連携しつつホ級に突撃をして損傷覚悟で撃退できるかもしれない。

 

 しかし、こちらの戦力は深雪1人のみ、深雪には深海棲艦を打倒する案が思い浮かばなかった。

 

 そんなとき、深雪の後を追っていた美鈴が深雪に追いついた。

 

 

深雪「めい……、司令官、なぜここに?」

 

美鈴「何か嫌な感じがしてね……、あのイ級の隣にいるのも深海棲艦だよね?」

 

深雪「あれはホ級、イ級よりも強力な軽巡洋艦タイプの深海棲艦さ」

 

美鈴「深雪やイ級のような駆逐艦型の、隊長クラスの巡洋艦型ってやつだね、深雪が教えてくれた」

 

深雪「数も性能も負けてるんだ、まずいな~」

 

 焦る深雪に対して美鈴は笑顔で答えた

 

美鈴「でも、数ならこれで2対2だよ」

 

深雪「?」

 

深雪「まさか司令官、あんたが?」

 

美鈴「私でも、おとりくらいならできるでしょ?」

 

深雪「いやいやダメだって、艦娘じゃないんだから危ないって!」

 

美鈴「ある偉い人の言葉でこういうのがあるんだ……」

 

深雪「?」

 

美鈴「当たらなければ、どうということはない!!」

 

 美鈴はそう叫ぶと岩陰から飛び出し、深海棲艦に向かって駆け出した。

 

 

 美鈴の接近に気がついた、ホ級とイ級は美鈴に一斉に砲撃を仕掛けてくる。

 

美鈴「今よ、深雪!!」

 

 深海棲艦の砲撃をかわしながら、岩陰にいる深雪に合図する。

 

 深海棲艦たちは、深雪に気づいておらず、突っ込んで来る謎の人間である美鈴を撃墜するべく砲撃を続ける。

 

 美鈴は海上に上がってこない深海棲艦の動きを利用して巧みに砲撃を回避していく。

 

 幻想郷で幾度となく強敵たちと弾幕戦を繰り広げていたり、最強クラスの姉妹の弾幕げんかに巻き込まれたりしていた経験が、妖怪としての能力を失い、能力的にただの人間に戻ってしまっている状態でも活きている。

 

美鈴「もう少しなら、なんとかなりそうね」

 

 足場が悪く、どうしても派手に動き回らざるえないためスタミナの消耗は大きいが、まだスタミナに余裕はある……

 

と思った矢先に

 

美鈴「しまった……」

 

 踏み込んだ足の膝の力が抜け、砂に足を取られバランスを崩してしまった。

 

   ドゴォォォン

 

   ドゴォォォン

 

 美鈴の直近にホ級の砲撃が迫る

 

美鈴「くそ、背水の陣だ!」

 

 実際には美鈴の後方が陸上で、目の前が海なので『背水』ではないし、一人なので『陣』でもないのだが、今の状態で深海棲艦の砲撃を受けてしまうと、大けがどころではすまない美鈴にとって後がない状況ではあった。

 

 

 イ級もホ級に続いて美鈴に砲撃を加えようとしたそのとき、

 

深雪「ぃよーし!行っくぞぉー!」

 

 隙をついて海上に出ていた深雪が最大戦速で深海棲艦たちに突撃を仕掛ける。

 

深雪「くらえーっ!」

 

 右手に装着した連装砲を構え、肉薄したイ級に砲撃を加える。

 

   ぐぉぉぉん

 

 深雪の砲撃を受けたイ級が断末魔を上げながら沈んでいく。

 

美鈴「まだだ、まだ終わらんよ!」

 

 深雪がイ級を倒したことに歓喜しながらも、美鈴は追撃の指示を出す。

 

深雪「美鈴、見てな~」

 

 背後からの奇襲に混乱するホ級に向けて、深雪は魚雷を構える。

 

深雪「深雪スペシャル!いっけー!!」

 

 

   ドゴォォォン!!

 

 魚雷の直撃を受けたホ級は、魚雷の爆破による水柱とともに声を上げることもできずに沈んでいく。

 

 

   美鈴と深雪の完全勝利であった!!

 

 

 

深雪「やったぜー!! なぁ!深雪さまの活躍、見てくれた?」

 

 深海棲艦を撃退した興奮冷めやらない深雪は美鈴に抱きつく。

 

 美鈴が笑顔で祝福してくれる、そう思った瞬間、美鈴が膝から崩れ落ちる。

 

深雪「美鈴!? 美鈴!!」

 

 

 

   島内に深雪の悲鳴が響き渡った。




 なんだかんだで、第3話を迎えることが出来ました。
 依然として誤字や脱字が多いですが、確認出来次第直していますので生暖かく見守って欲しいです。
 当初の予定では、シリアス展開はあまり考えていませんでしたが、着任する鎮守府が廃墟になっている状態からのスタートになってしまっているので、序盤は色々と美鈴達に苦労をかけそうです。

 私のイメージでは、紅魔館での美鈴は、門番の他にも力仕事から庭の手入れなど色々とこき使われていそうなイメージがあるので私の話の中の美鈴も
  優しく(甘い) 何でも出来て(器用貧乏) 強い(普通の人よりは)
と言うイメージでキャラ設定がされています。
 また、東方非想天則で紅魔館当主のレミリアと漫画の貸し借りをしているセリフもあるので、たまにパロディ的なセリフを言わせることもあると思います 笑
 
 拙い話ですが、読んでいただいた方々ありがとうございます。


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第4話 華人小娘、仲間を探せ!

 海岸で倒れた美鈴を、深雪が鎮守府(仮)まで背負って帰ると妖精さん達がすぐに集まって来た。

 

深雪「くっそー、深雪さまがいながらこんなことに……」

 

 妖精さんが用意してくれた布団に、深雪が美鈴を静かに寝かせる。

 

深雪「深海棲艦をやっつけたら、急に美鈴が倒れたんだ」

 

深雪「目立った怪我はしてないみたいだけど、返事もしてくれないんだ」

 

 深雪が言うように、美鈴は多少の擦り傷等はあるが大きな負傷などは無かったが、意識を完全に失っていた。

 

深雪「息はあるみたいだし、良くなるよな?」

 

 深雪は特に医療知識があるわけでもなく、何故美鈴が倒れて意識を失っているのかもわからず、突然のことで混乱している様子であった。

 

 白衣を着た妖精さんが、心配そうに美鈴の様子を窺っている。

 

 この妖精さんは、これまでも戦闘で負傷した深雪を治療してくれたりしており、多少の医術の知識があるようなので深雪は美鈴の様子を尋ねた。

 

深雪「美鈴は大丈夫なのか?死んじゃったりしないよな?」

 

 青ざめた顔をしながら白衣の妖精さんを覗き込む深雪の言葉を理解している様子で、白衣の妖精さんが美鈴の呼吸や脈を確認し終わると身振り手振りで説明を始めた。

 

 

 

 

深雪「……つまり、美鈴は日頃の働きすぎや、戦闘で無理をしすぎて疲労がピークに達していたんだな」

 

 美鈴は毎日一人で木こり作業や運搬作業をしたり、みんなのために朝から夜遅くまで3食分の食事を用意したりなどしており、艦娘的に言うと赤疲労状態が続いていたにもかかわらず、深海棲艦との戦闘で苦戦している深雪のために自ら囮を買って出るなどの無理が続いていたのだ。

 

 深雪が深海棲艦を仕留めた時に、美鈴の精神的な緊張の糸が切れ、溜まっていた疲労が一気に出てしまい気を失ってしまったという訳であった。

 

深雪「とにかく、しばらく安静にしていれば美鈴は元気になるんだよな?」

 

 深雪が白衣の妖精さんに尋ねると、白衣の妖精さんは大きく頷いてくれた。

 

深雪「美鈴の負担を減らすのにもっと頑張らなきゃなー」

 

 深雪がそう呟くと、白衣の妖精さんが大きく身振り手振りで語りかけてくる。

 

深雪「一人で頑張りすぎるなって?」

 

深雪「……そうか、あまり頑張りすぎると美鈴と同じくなっちゃうってことだね」

 

 白衣の妖精さんは、深雪が責任を感じて無茶をしないように釘を刺してくれたようだった。

 

 

 

    ~翌日の朝~

 

 美鈴が目を覚ますと、深雪や妖精さんが覗き込んでいる顔が見えた。

 

深雪「おっ、やっと目を覚ましたな」

 

美鈴「どうしたの、みんな?」

 

 美鈴は身体を起こそうとすると、頭に少し痛みを感じた。

 

美鈴「痛っ」

 

 美鈴が頭を押さえると、深雪が笑顔で語りかけて来る。

 

深雪「美鈴は疲れすぎて昨日からずっと寝てたんだ、もう少し休んでな」

 

美鈴「そういえば、海岸で深海棲艦を倒したところまでは覚えているけど……」

 

深雪「そこで疲れすぎて倒れちゃったんだ」

 

美鈴「そうか、かっこ悪いなぁ」

 

 美鈴が恥ずかしそうに頭を掻くと、妖精さん達が料理を運んできた。

 

深雪「美鈴が起きたら食べてもらおうとみんなで作ったんだ」

 

 美鈴は妖精さん達が運んできてくれたスープを見ると、お腹が鳴った事に気がついた。

 

美鈴「ありがとう、いただきます」

 

 

こんなに食事が美味しく感じたのは久しぶりな気がする

 

 

 美鈴が食事を終えると、深雪が美鈴に対して美鈴が倒れた理由について話をしてきた。

 

深雪「美鈴が倒れた原因は働きすぎなんだ」

 

美鈴「そんな無理をしていたとは……」

 

 美鈴が否定しようとした時、この世界に来てから自分の能力が低下していた事を思い出す。

 

美鈴「(そうか、今の私は幻想郷にいたときと違ってただの人間だったんだ)」

 

 妖怪として人間とは比較にならないくらいの体力の持ち主であった頃と違い、今の自分は幻想郷に行く前と同じ普通の人間なのだと美鈴は自覚した。

 

美鈴「いや、みんなが頑張ってくれているのを見て、自分も頑張らなきゃって無茶しちゃってたかな?」

 

深雪「そうだぞ、美鈴は艦娘じゃないし、いくら運動神経が良くて、力持ちで、スタイルが良くて、料理が上手でもただの人間なんだから無茶はだめだ」

 

美鈴「そうだね、もう無茶はしないよ(すごく褒められてた気がするけど)」

 

深雪「ここまで運んでくるのも大変だったし、もう倒れるのは勘弁な~」

 

美鈴「でも、そうなるともう少し人手が欲しいなぁ」

 

深雪「確かに、深海棲艦ももっと本格的に来たら、いくら深雪さまでも厳しいなぁ~」

 

 今の修繕中の鎮守府は、提督の美鈴のほか、艦娘は深雪のみと10数名の妖精さんがいるのみで、鎮守府を再建するにも、深海棲艦と戦うにも人手が圧倒的に足りていなかった。

 

 

 

    『人手不足を解決したい』

 

 

 そう考えた美鈴は、深雪と共に島内を確認してまわると、数件の朽ち果てた民家らしき建物を見つけた。

 

 しかし、人が住んでいる様子は無く、せいぜい数匹の野良猫を見つけるのみであった。

 

 深雪の話によると、この島は確かに過去に鎮守府があった様ではあるが、深海棲艦との戦いで破壊されており鎮守府としての機能を果たせていない状態であった。

 

 深海棲艦の活動が始まってから、艦娘が深海棲艦を撃退しきれている地域以外では制海権を深海棲艦に奪われているため、人間が海の近くで生活出来ない状態であるとのことであった。

 

 ましてや、この島のように本土から隣接していない島だと、制海権や制空権が深海棲艦に奪われてしまうと本土からの補給を受けることも出来ないため、鎮守府が壊滅する前後にこの島で暮らしていた人たちも日本本土に避難したのでは無いかということであった。

 

 

美鈴「せめて、農家のおじいちゃんやおばあちゃんが残っていてくれれば、美味しい野菜をわけてもらえると思っていたんだけどなぁ~」

 

深雪「どうしておじいちゃん、おばあちゃん限定なの?」

 

美鈴「何となく、気前よく色々なものをくれそうなイメージがあったから……」

 

深雪「ずいぶん偏ったイメージだね」

 

美鈴「そういえば、深雪はどうしてこの島にいたの?」

 

深雪「こっちもどうして美鈴がこの島にいたのかが気になるところだけど……」

 

美鈴「私は、気がついたらこの島にいたという事しか自分でもわからないけど……」

 

深雪「そういえば何かの事故で急にここに来ていたって言ってたね」

 

美鈴「(さすがに気がついたら違う世界に来てたと言っても、訳がわからないよね……)」

 

深雪「私は、まだ鎮守府に配属が決まっていない状態だったんだけど、海に出てたらこの島を見つけて、休憩しようと思って立ち寄ろうとしたら深海棲艦に出くわして、その時に美鈴にも出会ったという訳さ」

 

美鈴「たった一人で海に出てたの?」

 

深雪「せっかく艦娘として生まれてきたんだ、みんなを守るために深海棲艦をさっさとやっつけたいだろ~」

 

美鈴「勇敢というか、無謀というか……」

 

深雪「生身の人間なのに深海棲艦と戦うあんたが言うなよ」

 

美鈴「ははは……、それもそうね」

 

 美鈴と深雪は談笑しながら鎮守府(仮)に戻ることにした。

 

 

 

 まだ日が暮れる前に美鈴達が鎮守府(仮)へ到着すると、数名の妖精さん達が美鈴達に駆け寄って来た。

 

美鈴「なに?ちょっと来てって言ってるみたいだけど」

 

深雪「何か見つけたか、作ったのかな?」

 

 妖精さん達は「はやく、はやく」と言わんばかりに以前鎮守府があった跡地へと駆け出して行く。

 

深雪「とにかく言ってみようぜー」

 

 深雪が妖精さんたちを追いかけて行くので美鈴も後を追って行った。

 

 

 

 妖精さんたちを追って、以前鎮守府があった跡地に到着すると、妖精さん達が懸命に瓦礫の撤去を行った。

 

 深雪が妖精さん達を手伝い瓦礫を撤去しながら妖精さん達と共に瓦礫の奥に進んでいく。

 

 瓦礫の隙間は狭く、小柄な深雪は入っていくことが出来たが、美鈴は入ることが出来ずに残っていた数名の妖精さんと懸命に瓦礫を避ける作業を進めていた。

 

 深雪が妖精さんと瓦礫の山の奥に入って行くと、物置を少し大きくしたようなレンガ造りの工場のような小さな建物が見えてきた。

 

深雪「まさか、これって!?」

 

 深雪が思わず声を上げると、瓦礫の外から美鈴が

 

美鈴「どうしたの、何があるの~?」

 

 と声をかけてくる。

 

深雪「美鈴、大発見だ!早く来てよ!!」

 

美鈴「狭くて入っていけないよ~」

 

深雪「あぁ、そうか美鈴は色々大きいからねぇ……」

 

美鈴「ふ、太ってなんか無いよ!」

 

深雪「この前、美鈴をおぶった時に大きくて柔らかいモノが……」

 

美鈴「な、何を言っているのっ!!」

 

深雪「良いじゃん、女同士だしさ」

 

美鈴「まぁ、それはいいとして狭くて中に入れないから、深雪も瓦礫を除けるの手伝って~」

 

深雪「はーい」

 

 深雪は一旦瓦礫の外へ出て、美鈴や妖精さんと一緒に瓦礫を撤去するとしていった。

 

 

 日が落ちかけたころ、ようやく美鈴は深雪が見たレンガ造りの建物の前にたどり着いた。

 

美鈴「なんだろう、この建物だけ無事だったみたいだけど」

 

深雪「これは、おそらく工廠だね」

 

美鈴「こしょう?調味料の貯蔵庫?」

 

深雪「工廠だよ、こ・う・しょ・う!」

 

美鈴「こうしょう?」

 

深雪「必要な資材を妖精さんに渡すと妖精さんが艦娘を生み出してくれるんだ!」

 

美鈴「えぇ!艦娘って妖精さんが作ってるの!?」

 

深雪「妖精さんが作ってるのか、どっかから連れてくるのか、魔法で召喚しているのか詳しくはわからないけどとにかくこれで仲間が増やせるんだよ!!」

 

美鈴「す、すごいね!! (よくパチュリー様が魔法陣でなんか変なものを召喚していたし、そんな感じなのかなぁ……)」

 

美鈴「それにしても、ほかの建物はほとんど壊されているのに、これだけよく無事だったねぇ」

 

深雪「すっごいラッキーだったな!」

 

 美鈴が工廠の中を確認しようとすると、急に工廠の扉が光りだした。

 

美鈴「うわっ、なに?」

 

深雪「まさか、建造されていた艦娘が取り残されていたのか?」

 

美鈴「そうなの?」

 

深雪「この感じ、多分そうだと思うよ!」

 

美鈴「でもどうして急に?」

 

深雪「建造された艦娘は、工廠に提督が迎えに来て初めて目を覚ますんだ!きっと美鈴が扉の前に来たからようやく目をさますことが出来たんだ」

 

 

 工廠の扉が光がおさまると、工廠の内側から扉が開き中から栗色のショートヘアの少女が出て来た。

 

 少女は美鈴に気がつくと、元気よく敬礼をして

 

少女「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です!」

 

 と大きな声で挨拶してきたので、美鈴もすかさず返事をする。

 

美鈴「はじめまして、雪風ちゃんね。私は紅美鈴、一応ここの今の提督だよ」

 

雪風「どうぞ、宜しくお願い致しますっ!」

 

 『雪風』と名乗る、とても元気で明るい艦娘が美鈴の眼の前に現れたのであった。




美鈴の鎮守府(名前はまだない)にもそろそろ仲間が必要な時期だと思いました。

まだ、鎮守府言っても美鈴達が寝泊まりする小屋があるくらいで、鎮守府は再建中なので表記は『鎮守府(仮)』です。
呼び方としては、『チンジュフカッコカリ』です。

そろそろ真面目に文章の勉強をしようかと考える今日このごろです。

プロローグ編の動画作成にあたって、作品全体の文章構成を少し見直して一新しました。


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第5話 華人小娘と小さなお風呂

    カーン カーン カーン

 

 島内に工廠の音が響き渡る。

 

 廃墟となっていた元鎮守府内で偶然発見した1棟の工廠。

 

 その工廠で、妖精さん達が装備を開発することが出来ると聞いた美鈴は、早速装備を開発してみることにした。

 

美鈴「私が装備できる物とか出来ないかな?」

 

深雪「美鈴は艦娘じゃないから、艤装は無理じゃないか?」

 

 そうこう話をしていると、装備開発作業を終えた妖精さんが工廠から出て来た。

 

雪風「幸運の女神のキスを感じちゃいます!」

 

深雪「おっ、何かいいもの出来たかな?」

 

 早速、美鈴達が工廠内を確認してみると、開発台の上に大きな緑色の筒状の物が置かれていた。

 

美鈴&深雪「こ、これは!?」

 

雪風「しれぇ、ドラム缶です!」

 

深雪「なんだよ、ドラム缶かぁ~」

 

美鈴「こういうのが欲しかったんだ!!」

 

 がっかりする深雪とは裏腹に、美鈴はドラム缶を見て目を輝かせていた。

 

美鈴「これは、私がもらっても良い?」

 

深雪「ドラム缶って艤装じゃ無いから美鈴でも持てると思うけど、輸送用だよ」

 

美鈴「もっと一杯、ドラム缶を作れないかな?」

 

雪風「絶対、大丈夫!」

 

深雪「酸素魚雷とか欲しいぜ~」

 

雪風「雪風は高角砲とか欲しいです!」

 

美鈴「ドラム缶がもっと欲しいよ~」

 

 美鈴達は、自分たちの希望を口々に言いながら、もう一度妖精さんに装備開発を依頼しようとした。

 

 しかし、妖精さんは手でバツの字を作って開発が出来ないと伝えて来る。

 

深雪「えっ、なんで?」

 

雪風「しれぇ、資材が無いです!」

 

美鈴「しざい?」

 

深雪「燃料や弾薬が少ないんだよ」

 

美鈴「どうすればいいの?」

 

深雪「近くの海域に出撃して拾い集めるか、遠征して集めてくるかだな」

 

美鈴「海には深海棲艦がいるよ、危険じゃない?」

 

深雪「今までは一人だったけど、今は雪風もいるから行けるぜ!」

 

雪風「しれぇ、頑張ります!」

 

 

 

 不安に思う美鈴とは打って変わってやる気に満ち溢れている深雪と雪風。

 

 美鈴は深雪を旗艦に指名し、この島の正面海域の調査を兼ねて深雪と雪風を出撃させることにした。

 

深雪「ぃよーし!行っくぞぉー!」

 

美鈴「危なくなったらすぐに戻ってくるんだよー!!」

 

雪風「しれぇ、行ってきます!!」

 

 海岸で出撃を見送る美鈴に、大きく手を降って答える深雪と雪風。

 

 海上を進むことが出来ない美鈴は、外見的に自分よりも幼い少女達を戦場に送り出すことしか出来ない自分に歯がゆさを覚えながらも、自分が彼女たちに出来ることをしようと心に決めたのであった。

 

 

 

 鎮守府の建造については、妖精さん達が頑張って進めてくれているが、鋼材が足りていないということもあり、作業が難航していた。

 

 壊れている鎮守府跡から使える物資を拾い集めて再利用している現状で、島内に鉱山でもあれば鋼材の収集が出来るのであろうが、さほど面積のないこの島では鉱山があるわけもなく美鈴もどうにもすることが出来ない。

 

 弾薬や燃料についても、美鈴には火器類の知識がそれほどあるわけでもなく弾薬を製造することも出来ないし、島内に油田や炭鉱があるわけでも無いのでこれらも美鈴にはどうする事もできない。

 

 それであれば、みんなのために自分に出来ることは何か?

 

 そう考えた美鈴は、

    『頑張ってるみんなに美味しいものを作ろう』

と考え、自生していた野菜の種から野菜を作るために、島内で開墾したり、海岸で魚釣りや貝を集めたりなど食料集めをすることとした。

 

 

 

 そしてもう一つ、美鈴が考えた事とはドラム缶を使ったドラム缶風呂だった。

 

美鈴「鎮守府が出来るまでお風呂が無いし、みんな喜んでくれるかなぁ~」

 

 妖精さんに協力してもらってドラム缶上部を綺麗に切り取り、旧鎮守府跡から手頃なサイズのレンガや石材を集めて土台を作り、ドラム缶の底に置くための『すのこ』を有り集めの木材で手際よく作った。

 

美鈴「あとは水を汲んでこよう」

 

 以前、美鈴が海岸で拾った高速修復材が入っていたバケツを片手に海岸とドラム缶風呂を何度も行き来し、ドラム缶に水を張って行った。

 

 

 

 美鈴が風呂の用意を終えた頃に深雪達が帰還してきた。

 

深雪「ざぁっとこんなもんだ!楽勝だなぁ!」

 

雪風「しれぇ、帰投しました!」

 

 若干被弾し、損傷してしまった深雪と無傷の雪風が美鈴の下に報告に来た。

 

 深海棲艦のイ級と交戦した後、軽巡ホ級がイ級数体を率いる小隊を発見したが戦力差が大きく戦いを挑むのは無謀と判断し撤退してきたとのことであったが、道中で回収した燃料と弾薬を僅かではあるが持ち帰ることに成功した。

 

深雪「チクショ~、流石に深雪さまもちょっと勝てそうに無かったぜ~」

 

美鈴「無闇に戦って大怪我したら大変だし、無事に帰ってくればいいよ」

 

 敵を目の前に撤退した事を悔やむ深雪を労った美鈴は、深雪達をドラム缶風呂に招待する。

 

 

深雪「おぉ、これ美鈴が作ったの!?」

 

雪風「しれぇ、すごいです!」

 

美鈴「みんな女の子だもんね、お風呂くらい入りたいよね」

 

深雪「さすが美鈴、気が利くぜ~」

 

雪風「入っても良いんですか?」

 

美鈴「ちょうど、お湯も沸いてるから二人で入っておくと良いよ」

 

雪風「しれぇ、ありがとうございます!」

 

美鈴「私は晩ごはんの準備しているから、ゆっくりしていてね」

 

深雪「サンキューな!美鈴!」

 

 美鈴は釣ってきた魚や以前収穫していた自生していた野菜や山菜で料理を作ることにした。

 

 妖精さんに包丁や中華鍋、コンロなど一通りの調理器具も作ってもらったので、以前のように魚を焼いただけのようなサバイバルな料理ではなく、少しは手の込んだ料理が出来るようになっていた。

 

 

雪風「深雪さんから先にお風呂どうぞです!」

 

深雪「おっ、いいのか」

 

雪風「今日は危ないところ、深雪さんに助けてもらったのでありがとうです!」

 

深雪「サンキュー、ははっ深雪さま一番乗りぃ!」

 

   ざぶーん

 

 深雪が勢いよくドラム缶風呂に入る。

 

深雪「う~ん、いい湯だぜ~」

 

雪風「しれぇも、深雪さんもいい人ばかりで雪風はうれしいです!」

 

深雪「そういえば、雪風にひとつ言いたいんだけどさ~」

 

雪風「なんですか?深雪さん」

 

深雪「同じ仲間同士だし、『深雪さん』じゃなくって『深雪』って呼んでくれよ~」

 

雪風「でも、深雪さんは雪風の先輩ですから」

 

深雪「先輩とか関係ないって、同じ駆逐艦だし仲間っていうか……、友達だろ」

 

雪風「友達!?」

 

深雪「そうそう友達になろうぜ!」

 

雪風「わかりました!友達です!深雪さ……じゃなかった、深雪!」

 

深雪「これからもよろしくな!雪風!」

 

 

 

 未だ再建中の鎮守府ではあるが、美鈴提督の気遣いによって団結力を増してゆく艦娘や妖精さん達。

 

 美鈴提督達の戦いは、まだまだ始まったばかりである




 雪風を仲間に加えた美鈴達でしたが、鎮守府は未だに再建中。
 入渠設備もない鎮守府のために用意した美鈴の気遣いの話です。

 東方原作での美鈴の能力は、『気』を使う程度の能力ですが、十分に気遣いも出来る子だと思います。


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第6話 オレの名は

    ジャブジャブ

 

 海岸で美鈴が釣りをしていると、船のような物が近付いてくる。

 

美鈴「なんだろう、何か船が近付いてくるけど」

 

 たまに深海棲艦が島の近くまで来ることがあるが、今回は何やら様子が違う。

 

美鈴「帆船のようだけど、誰か人が乗っているのかな?」

 

 美鈴は目を凝らして乗員を確認しようとするがよく見えない。

 

美鈴「難破しているようでも無いし、どんどんこっちに来るなぁ~」

 

 美鈴は念の為、深雪や雪風に確認をお願いしようとしたが、海岸に続々と妖精さん達が集まってきている事に気がついた。

 

美鈴「あれ、みんな集まってきてどうしたの?」

 

 よく見ると妖精さんたちは、みんな嬉しそうに島に近づいてくる帆船に手を振ったり、万歳をしたりしているものまでいる。

 

 美鈴は、妖精さん達の様子を見て島に近づいて来る帆船が敵対しているものでは無いことに気がつく。

 

美鈴「一体誰が乗っているんだろ?」

 

 どんどん島に近付いてくる帆船をよく目を凝らして見てみると、多くの妖精さん達が船の上から手を振って海岸にいる妖精さん達に答えている姿が見えた。

 

 

 

 帆船が島の海岸に着くと、船上から20人くらいの妖精さんが降りてくる。

 

 船長らしき妖精さんが、美鈴の鎮守府にいる妖精さんと少し会話をしている様子で、船に乗っていた他の妖精さん達は船から色々と物を降ろして来る。

 

美鈴「どこから来た妖精さんだろう?」

 

 美鈴は妖精さん達の様子を見ていると、船長らしき妖精さんが美鈴に敬礼をしてきた。

 

 美鈴は無意識に敬礼を返すと、船から荷降ろししていた他の妖精さん達も作業を止めて美鈴に敬礼をしてくる。

 

 元々美鈴の鎮守府にいた妖精さんから、身振り手振りで説明を受けたところ、この帆船の妖精さん達は元々この島の近くにあった他の島の鎮守府にいた妖精さん達らしい。

 

 その島の鎮守府も、今ではこの島と同じように深海棲艦の攻撃で壊滅しており、取り残された妖精さん達はこの島の妖精さん達と同様に鎮守府の瓦礫に隠れながら細々と生き延びていたらしい。

 

 深雪や雪風がその島の周辺で深海棲艦と戦っている様子を見た妖精さん達が、この島で美鈴が新たに提督となった事を知ってこの島の妖精さん達に連絡を取り合流してきたということらしい。

 

 美鈴も、人手不足の現状で妖精さん達が増えることは大歓迎であり、快く妖精さん達を迎えることにしたのであった。

 

 

雪風「しれぇ、妖精さん達が増えた気がします!」

 

深雪「気がするっていうか、3倍位に増えてないか?」

 

 島の周辺海域に出撃していた深雪と雪風が帰還するとすぐに妖精さん達が増えている事に気がついた。

 

 深雪の言う通り、元々10人位だった妖精さん達が20人位増えたのだから3倍位増えているのだから当然といったら当然の反応である。

 

美鈴「元々近くの島にいた妖精さん達が、この島の妖精さん達の話を聞いて仲間にして欲しいって来てくれたんだよ」

 

深雪「深雪さまの活躍を聞いて来てくれたんだな~」

 

雪風「雪風も頑張ってますってば~」

 

 仲間が増えて美鈴達の会話も弾み、和やかな空気が島内を包み込んでいた。

 

 

 

 更に嬉しい事に、多少ではあるが妖精さん達は自分たちの荷物の他に資材も持ってきてくれており、妖精さん達によると工廠で建造する事が出来るということであった。

 

深雪「敵も巡洋艦クラスをちょくちょく見かけるし、こっちも戦力が欲しいな!」

 

雪風「しれぇ、もう少し戦力が増えると嬉しいです!」

 

 最初と比べていくらか練度も高くなり、ホ級1隻くらいなら撃退出来るようになった深雪達ではあるが、やはりホ級が2体以上いたり、イ級が大量にいたりすると戦力的に厳しいものがあり、艦娘の増強も欠かせないのが実情であった。

 

美鈴「よし、贅沢は出来ないけど妖精さんに頼んで仲間を建造してもらおう!」

 

深雪「いーねー、早速お願いしようぜ~」

 

雪風「しれぇ!ありがとうございますっ!」

 

 

 美鈴達は、資材を工廠に運び工廠の妖精さんに建造を依頼する。

 

 妖精さんは受け取った資材を工廠内に持ち込んで建造を開始した。

 

美鈴「なんか、小一時間待って待ってってさー」

 

 工廠の入り口で妖精さんから建造時間の説明を受けた美鈴は、深雪達に建造の待ち時間を説明すると。

 

深雪「1時間?駆逐艦じゃないなぁ~」

 

雪風「しれぇ、軽巡洋艦です!」

 

美鈴「軽巡洋艦というと、みんなより大きい船ってことだよね」

 

雪風「きっと、強い人が来てくれます!」

 

深雪「深雪さまも負けてられないぜー!」

 

 もう少しで新しい仲間が増える期待感で盛り上がる美鈴達は、一旦昼食を取るために戻ることとした。

 

 

 

美鈴「新しく来る艦娘さんや、今朝来てくれた妖精さん達の歓迎会を今夜開くってどうかな?」

 

深雪「いいじゃん、それ」

 

雪風「雪風も賛成です!」

 

 美鈴達は、昼食を食べながら歓迎会の計画について話が盛り上がる。

 

 雪風が来た時は、まだ豪華な焼き魚くらいしか振る舞えなかったが、今は椅子や机を揃えた簡易的な食堂も完成したし、調理器具も揃ってきたので美鈴もご馳走を作ろうとやる気に満ちあふれている。

 

 最近は、ウニや蟹なども島の近くでとれる事がわかり、食材の種類も増えているので立派な歓迎会が出来ると心が躍っていた。

 

 

 

    ドゴォォォン! ドゴォォォン!

 

 そんな空気をかき消すように、島の南方から砲撃音が響いた。

 

雪風「しれぇ、敵襲です!」

 

深雪「この砲撃音はイ級だな、美鈴!行ってくるぜ!!」

 

美鈴「二人とも頼んだよ!!」

 

 今の深雪達なら、2~3体のイ級なら問題なく撃退できる。

 

 深海棲艦の撃退は艦娘達に任せるしか無い美鈴は、深雪と雪風に島の南方への出撃指示を出した。

 

 

 深雪達が島の南側に到着すると、沖でイ級3体が島に向かって砲撃して来るのを発見した。

 

深雪「あいつらだな!行くぞ、雪風!!」

 

雪風「はい!頑張ります!!」

 

 深雪が先頭となって縦一列の隊列を組んで深海棲艦に突撃する。

 

深雪「当ったれぇ~い!!」

 

 深雪が手前のイ級に向かい連装砲を発射する。

 

 深雪の砲撃は初弾から命中し、更に連続で砲弾を撃ち込んでいく。

 

    ぐぉぉぉん

 

 深雪の砲撃を受けたイ級は断末魔を上げながら沈んでいく。

 

雪風「しれぇが待っているから……、沈むわけにはいきませんっ!」

 

 深雪に続いて雪風も連装砲を連射する。

 

    ぐぉぉぉん

 

 深雪と同様に雪風もイ級を撃退する。

 

 残った1体のイ級は、仲間が撃退されて怯んだのか沖に向かって逃走する。

 

深雪「逃げるのか、待てーぃ!!」

 

 深雪は逃げるイ級を追撃する。

 

雪風「深雪!深追いはダメです!!」

 

 追撃する深雪を、雪風が制止しようとするが、眼の前のイ級を逃すまいと追撃する深雪には雪風の声は届かず、逃げるイ級を沖まで追いかけて行く。

 

雪風「深雪!! あまり沖まで行くと危険です!!」

 

 以前、島から離れたところで2体ホ級がイ級の大群を率いているのを目撃し、なんとか撤退した事を覚えている雪風は、どうにかして深雪が沖まで行くのを制止しようとするが深雪は止まらない。

 

 

    ドゴォォォン ドゴォォォン

 

 イ級を追撃していた深雪の側面から砲撃が加えられた。

 

深雪「うわぁ!!」

 

 直撃は免れたが、突然の砲撃で深雪はバランスを崩す。

 

雪風「深雪!下がってください!!」

 

 深雪を追ってきていた雪風が、深雪をカバーするように砲撃があった方角側に割って入り身構える。

 

 雪風の目の前に、ホ級2体とイ級2体が姿を現す。

 

深雪「げっ!軽巡2体は相手が悪いぞ!!」

 

雪風「ここはなんとか離脱しましょう!」

 

 雪風は後退してこの場からの撤退を深雪に進言する。

 

 しかし、増援に現れた2体のホ級に呼応するように深雪の追撃を受けて逃走していたイ級がUターンしてきて逃げ道を塞ぐ。

 

深雪「チクショー、囲まれたか……」

 

雪風「雪風が敵を引きつけるから、深雪は逃げて下さい!」

 

深雪「バカ、原因は深雪さまにあるんだ!逃げるなら雪風が逃げてくれ!!」

 

雪風「でも、旗艦は深雪です!逃げて下さい!!」

 

深雪「ははっ、さっきの攻撃で足をやっちゃってさ……、走れないんだ」

 

雪風「そ、そんなっ!!」

 

 雪風の目に、流血している深雪の左足が写った。

 

 

深雪「さっき建造した、軽巡がそろそろ出来てると思うんだ……」

 

深雪「雪風が美鈴のところに行って、その軽巡と助けに来てくれよ」

 

雪風「でも、深雪は……」

 

深雪「深雪さまは簡単には沈まないぜ……、友達が戻ってくるまでは耐えて見せるから、頼む雪風!!」

 

雪風「うぅ……、わかりまじだぁ!」

 

 深雪の意志は固いとわかった、泣きながら雪風は深雪の指示に従うことにした。

 

 現状では足を負傷して速力が出せない深雪よりも、万全である雪風が鎮守府に戻り援軍を連れて来るという深雪の意見は間違ってはいないと思うし、この状況を打開できるとしたらその方法しかないと思う。

 

 しかし、手負いの深雪が深海棲艦達の攻撃に耐えられる可能性はほぼ無いと言うことは容易に想像できる。

 

 それは深雪自身が一番わかっているはずで、深雪が自身の命をかけて友達である雪風を逃がそうとしていることもわかるのだ。

 

雪風「みゆぎぃ、ぜったいにじなないでくだざい!!」

 

 雪風は、大粒の涙を流しながら全速力で美鈴が待つ島に一直線に向かって駆けて行く。

 

深雪「……ありがとう、雪風……」

 

 雪風を追撃しようとするイ級に気づいた深雪は、即座に連装砲を放ち足止めする。

 

深雪「お前たちの相手は深雪さまだ!雪風のところには行かせないぜ!!」

 

 深雪は深海棲艦達に高らかに宣言し、負傷した左足を引きずりながら連装砲を向けて立ちふさがった。

 

 

 

雪風「(早く、早く司令に伝えないと……)」

 

 あふれでる涙を堪えながら雪風は、海上を駆け抜ける。

 

 雪風は涙をこらえるためにうつむいていたが、前方から誰かの気配を感じてとっさに顔をあげる。

 

 鎮守府の方角から人影が近付いてくるのが見える。

 

雪風「しれぇ?」

 

 一瞬その人影が美鈴とダブった雪風は、思わず声を漏らす。

 

 しかし、その人影は美鈴とは違い、黒い洋服を着ており黒色のショートヘアが風に舞っているのが見える。

 

 左手には刀のような物を持ち、艤装を装着している。

 

雪風「しれぇじゃない、艦娘だ」

 

 その艦娘も雪風に気がついた様子で、雪風に近付いてくる。

 

 近付いてくる艦娘は左目に眼帯のようなものをつけているのが見えた。

 

眼帯の艦娘「オレの名は天龍。お前も美鈴の仲間か?」

 

雪風「天龍さん?」

 

天龍「建造された途端に、提督の美鈴に頼まれて出撃して来たんだ」

 

雪風「じゃぁ、こっちに来て下さい!」

 

 雪風は天龍の手を引き、深雪が待つ海域に向かおうとする。

 

天龍「おいっ、チビどおしたっていうんだ!」

 

雪風「友達が……、みゆぎがぁ……」

 

 雪風の目から再び大粒の涙が溢れ出てくる。

 

 雪風の必死の様子を見た天龍は、雪風が伝えようとすることを察する

 

天龍「よくわからねぇけど、仲間がヤバイんだな」

 

 天龍の言葉に泣きながら雪風がうなずく。

 

天龍「よし、チビさっさと俺様をそこに案内しな!」

 

 

 

    ドゴォォォン

 

深雪「くそっ、これ以上くらったらもう持たないか……」

 

 左足を引きずりながら、深雪はなんとか深海棲艦の砲撃を回避する。

 

深雪「雪風はそろそろ島についた頃かな……」

 

 深雪はふらつきながら、ホ級に連装砲を撃つ

 

    ドボーン

 

 しかし、深雪の砲撃はホ級とは見当違いのところに着弾し、海面に水柱が虚しく立ち上る。

 

深雪「へへっ、砲塔も馬鹿になったし、頭もフラフラするぜ……」

 

 満身創痍の深雪にトドメとばかりにイ級が飛びかかって来る。

 

深雪「雪風……、美鈴……、ごめん……、帰れないや……」

 

 深雪の脳内には、短い間ではあったが楽しかった島での暮らしが走馬灯のように思い浮かぶ。

 

    ドォォォン

 

 深雪に飛びかかっていたイ級が、深雪の目の前で砲撃を受けて爆散する。

 

深雪「!?」

 

 一瞬のことに状況を飲み込めない深雪は砲撃があった方角に視線を移す。

 

 そこには、島に戻ったはずの雪風と、右手に単装砲を構えた黒い洋服を着た艦娘の姿があった。

 

天龍「天龍様の攻撃だ!行くぞ雪風!!」

 

雪風「みゆぎぃ……、よがったぁ……まにあっだぁ~」

 

深雪「雪風……」

 

 泣きじゃくる雪風の姿を見た深雪は、全身の力が抜けて崩れ落ちそうになる。

 

天龍「おっと、危ねぇ!」

 

 海上で崩れ落ちそうになる、深雪を天龍が左手で支える。

 

天龍「雪風、こいつは任せたぜ!!」

 

 天龍は、駆け寄ってくる雪風に深雪を預けると、雪風は両手で深雪を抱きしめる。

 

雪風「みゆぎぃ、みゆぎぃ……」

 

深雪「へへっ……、ゆきかぜ……」

 

 深雪は雪風の腕の中でやり遂げた表情を浮かべながら気を失う。

 

天龍「さぁて、天龍様の相手はどいつだぁ!」

 

 突然の増援に混乱する深海棲艦達、天龍は右腰に差した刀のようなものを左手で引き抜くと、狼狽えるホ級に突撃した。

 

天龍「怖くて声も出ねぇかァ?オラオラ!」

 

 天龍は、両手で刀を握りしめると、ホ級を一刀両断する。

 

 仲間が撃破された事に動揺した、残りのホ級とイ級は沖に向かって逃走していく。

 

天龍「ちっ、ビビってんじゃねぇぞ!」

 

 天龍は、深海棲艦が戦闘海域から離脱していくのを見届けると、刀を鞘に収めた。

 

 

 

 天龍と雪風に曳航されて島に帰還した深雪は、海岸で待っていた美鈴に背負われて鎮守府の仮小屋(チンジュフカッコカリ)に運ばれた。

 

 艤装を外され、身体を丁寧にふかれて左足の止血を受けてから布団に寝かされた深雪は申し訳なさそうに美鈴達に謝罪する。

 

深雪「みんな、本当にごめんなさい」

 

美鈴「とにかく無事で良かったよ、今日はゆっくり休んで傷を癒やして頂戴」

 

深雪「お説教は無いの?」

 

美鈴「言わなくても、十分思い知らされたでしょ?」

 

深雪「……はい」

 

美鈴「雪風には、明日しっかり謝るんだよ」

 

深雪「うん」

 

 今回の事態は、不用意に深雪が敵を追撃したことが原因だと深雪は痛いほど思い知らされた様なので、あえて言及しないことにした美鈴は深雪が眠りについた事を確認してから寝室を出た。

 

天龍「チビ達を見てると、あんたが良い奴だってよく分かったぜ」

 

 寝室を出ると、天龍が壁にもたれかかって腕組みをして美鈴を出迎えた。

 

天龍「もうひとりのチビも、ちゃんと寝かしつけておいたぜ」

 

美鈴「色々ありがとうね、天龍」

 

 美鈴の言葉に、照れているのか一瞬顔を赤く染めながら天龍は言葉を続ける。 

 

天龍「工廠から出た瞬間にすごい剣幕で出撃しろって言われた時は何事かと思ったけどな」

 

美鈴「敵の砲撃音が多くて、深雪や雪風がピンチだって思ったからつい気が動転しちゃって……」

 

天龍「それだけ、あのチビ達を思ってのことだろ」

 

美鈴「本当は、もっとご馳走を用意して歓迎しようと思ったんだけどね」

 

天龍「それは、深雪が良くなってからのお楽しみにしておくぜ」

 

美鈴「(天龍って、見た目はツッパってるけど性根はすごくいい子なんだなぁ)」

 

 一見、不良のような見た目と言動の天龍の奥底にある優しさを感じ取った美鈴は天龍の顔を見ながら思わず笑みが溢れる。

 

 

天龍「な……なに、人の顔見て笑ってやがる!!」

 

 美鈴の微笑みに気づいて、顔を真っ赤に染めながらそっぽを向く天龍に対し

 

美鈴「こういう顔なんですよ~」

 

天龍「嘘をつくなよ……、クソが」

 

 顔を真っ赤にしながら立ち去ろうとする、天龍に美鈴は声を掛ける。

 

美鈴「今日は天龍に助けられたよ、あの子達も強くてカッコよかったって言ってたよ」

 

 美鈴の言葉を受け、振り返った天龍は

 

天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

 

 と胸を張って答える。

 

 

 鎮守府(仮)に頼もしい仲間が加わったのである。




 そろそろ、本格的に鎮守府を再建して行こうとは思っています。

 まだ、鎮守府(仮)の仮小屋ぐらしですが、スーパー万能な妖精さん達のおかげで色々と生活用品は揃っているみたいです。

 我が家にも妖精さんがいたら良いなぁ……


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第7話 新たな来客

雪風「しれぇ、何か島に近付いてきます!」

 

 鎮守府(仮)の隣に作った見張り台の上で、見張りのため双眼鏡を覗き込んでいた雪風が大きな声で美鈴に呼びかける。

 

 この見張り台は、世界水準を軽く超えているらしい天龍のアドバイスで深海棲艦が島に近付いてきた時に早期発見出来るように建設した簡易的なものである。

 

 正直それほど高台にある訳でもなく、鎮守府正面の海岸を見回せる程度のものであるが、妖精さんや艦娘達が交代で見張っていてくれる。

 

 元門番だった美鈴も見張りをしようとするが、深雪や天龍に「働きすぎはダメだ」と言われて使わせてくれない。

 

雪風「しれぇ、なんだか船みたいです、深海棲艦じゃないです!」

 

美鈴「また船?何だろう?」

 

 雪風の報告を聞いた美鈴は、見張り台に登り確認する。

 

雪風「なんか、煙が上がってます」

 

美鈴「本当だ、蒸気船かな?」

 

雪風「甲板から火が上がってます!」

 

美鈴「本当!? ちょっと双眼鏡貸して!」

 

 美鈴は雪風の双眼鏡を借りて近付いてくる船を確認すると、何やら黒い物が船の周りを飛び回っており攻撃しているように見えた。

 

美鈴「黒くて変な形のものが船の周りを飛び回って攻撃しているみたいだ」

 

雪風「えっ!? ちょっと見せて下さい!」

 

 雪風は、美鈴からすばやく双眼鏡を受け取ると再び双眼鏡で船を確認する。

 

雪風「あれはっ!深海棲艦の艦載機です!」

 

美鈴「かんさいき?」

 

雪風「あの船は深海棲艦の攻撃を受けています!助けましょう!!」

 

美鈴「わかった、みんなを呼んでくるから雪風は先に出撃して!」

 

雪風「あの船をお守りします!」

 

 雪風は艤装をすばやく装着して海岸へ駆けて行く。

 

 美鈴は、天龍と深雪を呼びに天龍達が行っている工廠へ向かった。

 

 

 

   カーン カーン カーン

 

深雪「天龍、凄いのが出来たね」

 

天龍「これこれ!こういうの欲しかったんだよ!早くブッ放してぇなぁ」

 

 工廠で装備開発をしていた天龍が完成した『10 cm連装高角砲』を手に歓声をあげる。

 

美鈴「お~い!」

 

天龍「おっ美鈴!見てくれよ~、イカしてるだろぉ~」

 

 天龍は、走って工廠に来た美鈴に完成した『10 cm連装高角砲』を見せる。

 

美鈴「島の近くで深海棲艦の攻撃を受けている船がいるんだ」

 

深雪「なら助けに行こうぜぇ!」

 

天龍「そうだな、これは深雪が使いな」

 

 天龍は、『10 cm連装高角砲』を深雪に渡した。

 

深雪「えっ、いいの?」

 

天龍「まずは、チビ共に強くなってもらわなきゃな!」

 

深雪「サンキュー!天龍!ご機嫌だぜ~!」

 

美鈴「今は見張りをしていた雪風を出撃させているから、君たちも出撃お願いね!」

 

天龍「そう来なくっちゃなぁ、深雪!抜錨だっ!!」

 

深雪「ぃよーし!行っくぞぉー!」

 

 天龍と深雪は用意していた艤装をすばやく装着して海岸へ向かった。

 

美鈴「みんな、頼んだよー!!」

 

 海上には行けない美鈴は、見送ることしか出来ないことに少し不満を感じながら大切な仲間である艦娘達を見送った。

 

 

 

雪風「もう少し、船の皆さん頑張って下さい!」

 

 深海棲艦の攻撃を受けている船に全速力で向かう。

 

 敵艦載機は、まだ雪風の連装砲の射程に入らない。

 

 接近すると、攻撃を受けている船が日本の輸送船だと認識できた。

 

雪風「あれは輸送艦です、仲間でしょうか?」

 

 輸送艦は、雪風の接近に近づくと発光信号を送ってくる。

 

    『ワレ シンカイセイカン ト コウセンチュウ エンゴ ヲ モトム』

 

雪風「了解です!貴艦をお守りします!!」

 

 雪風は、輸送艦と敵艦載機の間に割って入り、連装砲で狙いを定める。

 

雪風「うぅ……、動きが速い……」

 

 敵艦載機は全部で3機のみであったが、対空装備を装備していない雪風にとっては戦いにくい相手であった。

 

 敵艦載機の1機が輸送艦に向かって爆撃をしてくる。

 

雪風「あっ!至近弾です!」

 

 敵艦載機が放った爆弾は、輸送艦に直撃はしなかったものの近くで爆発し輸送艦は大きく揺れる。

 

 雪風は、あわてて連装砲を発砲するが、敵艦載機は難なく雪風の攻撃を回避する。

 

雪風「て、手強いです……」

 

 雪風がもう一度照準を合わせようとすると、他の艦載機が放った機銃が輸送艦の前部甲板に直撃する。

 

雪風「あぁ……」

 

 輸送艦の前部甲板から火が上がり艦体が傾斜していく。

 

 輸送艦の乗組員が数名海上に落下していくのが見えた。

 

雪風「救助しなきゃ!」

 

 雪風が輸送艦に接舷しようとしたとき、輸送艦の甲板にセーラー服を着た少女の姿が見えた。

 

 

 

 

セーラー服の少女「私に出撃させて下さい!」

 

軍服の男「しかし、君の艤装はまだ整備が万全では……」

 

セーラー服の少女「しかし、このままではこの船が!」

 

 輸送艦の甲板で少女と軍人が言い争っているのが聞こえる。

 

雪風「あの子、なんか深雪に似ている……」

 

 甲板の様子に気づいた雪風は甲板にいる少女と目が合った。

 

セーラー服の少女「あの子は艦娘……」

 

 少女が雪風に気がついた時、白い軍服をきた女性が甲板に現れた。

 

軍服の女性「白雪、整備不足で悪いが準備は良いか?」

 

セーラー服の少女「はい、お任せ下さい」

 

 セーラー服の少女は軍服の女性に敬礼をしている。

 

軍服の女性「元帥よりあの島に新たに来たらしい提督に君を送り届ける予定だったが、まさかあんなところで深海棲艦の軽空母ヌ級と出くわすとわな……」

 

軍服の男性「中尉、我々の警戒不足でした!」

 

軍服の女性「最低限度の護衛での任務だったのだ、致し方ないさ」

 

軍服の女性「幸い、あの雪風は目的の提督の艦娘のようだ」

 

セーラー服の少女「そのようですね」

 

 セーラー服の少女は艤装を装着しながら、中尉と呼ばれる軍服の女性に答える

 

軍服の女性「我々のせいで、あの子に負担をかけさせるわけには行かない」

 

軍服の女性「準備はできたようだな、駆逐艦白雪!出撃せよ!!」

 

 

 

 その頃、天龍と深雪は輸送艦に向けて全速力で移動中であった。

 

天龍「くそっ、出遅れた輸送艦が傾いてるぞ!!」

 

深雪「雪風は無事か?」

 

天龍「わからねぇ、とにかく急ぐぞ!!」

 

 島から出撃した天龍達であったが、工廠から海岸に移動して出撃するのに時間がかかってしまい、いまだに雪風に合流できていなかった。

 

 

 

雪風「深雪達はまだなの?」

 

 敵艦載機に対し有効打を撃てないまま、苦戦が続いていた時、輸送艦の甲板から先程のセーラー服の少女が飛び降りたのが見えた。

 

雪風「まさか、船が沈むの?」

 

 状況がわからず、沈没する輸送船から少女が脱出のために飛び降りたのかと思った雪風の眼の前で、海中に沈むかと思った少女が海上に着地した。

 

雪風「あの子、艦娘?」

 

 驚く雪風の眼の前に、艤装を装着したセーラー服の少女が近付いて来た。

 

セーラー服の少女「特型駆逐艦2番艦、白雪です。今からあなたを援護します」

 

雪風「ゆ、雪風です!宜しくお願い致しますっ!」

 

 白雪と名乗る少女は、雪風に何かを手渡してくる

 

白雪「輸送艦の艦長がこれを雪風さんにって……」

 

雪風「ありがとうございます。……ってこれは?」

 

白雪「探照灯です、雪風さんなら上手く使えるって……」

 

雪風「よくわかりませんが……、絶対、大丈夫!って気がします」

 

白雪「とにかく、ご一緒にがんばりましょう」

 

 白雪は雪風に『探照灯』を渡すと、敵艦載機に攻撃を仕掛ける。

 

 白雪が放った連装砲の砲撃は、敵艦載機に寸前のところで回避されてしまうが、雪風は『探照灯』を手に何かを閃いた。

 

雪風「白雪さん、敵を雪風に引き付けます!」

 

白雪「えっ、どうやって?」

 

雪風「こうやってです!!」

 

 雪風は、急にダメージを負ったようにふらつきながら輸送艦から遠ざかる。

 

 敵艦載機達は、雪風が被弾しダメージを受けて撤退しようとしているものと勘違いした様子で一斉に雪風を仕留めようと襲いかかって来た。

 

白雪「雪風!?」

 

 白雪は状況がわからず、パニックに陥る。

 

 

 この様子を軍服の女性中尉は、輸送艦の甲板から見ていた。

 

軍服の女性「奇跡の駆逐艦、その実力を見せてくれ」

 

軍服の男性「中尉は何故、探照灯を渡したのですか?」

 

軍服の女性「曹長は勉強不足のようだな、少しは戦史を学んだらどうだ」

 

軍服の男性「……はぁ」

 

軍服の女性「まぁ見ておけ、太平洋戦争時に奇跡の駆逐艦と呼ばれた雪風の戦いをな」

 

 

白雪「まさか、雪風さんは被弾していたの?助けなきゃ!!」

 

 ふらつく雪風を見て、なんらかのトラブルがあったと考えた白雪は雪風の援護をしようと雪風が進む方向へ駆け出す。

 

雪風「もう少し……、もう少し引き付けて……」

 

 敵艦載機達は雪風に機銃の照準をあわせて突っ込んで来る。

 

雪風「今です!!」

 

 雪風は左肩に装着していた探照灯を敵艦載機に向けて最大光度で照射する。

 

 突然の強烈な光に目を眩まされた敵艦載機達は、一瞬動きを奪われる。

 

雪風「雪風は沈みませんっ!」

 

 この瞬間を狙っていた雪風は、敵艦載機に連装砲を連射する。

 

    ガァァン ガァァン ドガァァァァン!!

 

 この攻撃で、2機の敵艦載機を撃ち落とす事に成功した。

 

 

 

 生き残った1機の敵艦載機は、一気に高度を上げて雪風と間合いをとった後、美鈴の鎮守府(仮)がある方向に撤退中の輸送艦に進路を向ける。

 

雪風「あぁ……」

 

 敵艦載機を仕留め残った雪風は、急いで後を追おうとするが間に合いそうにない。

 

白雪「当たって下さい!!」

 

 雪風と輸送機の間に位置していた白雪は、必死に連装砲を連射するが高高度で飛行する敵艦載機を狙い撃つことが出来ずにすべての砲撃が外れてしまう。

 

 敵艦載機は輸送艦を射程に捉え、高度を落としながら航空魚雷の狙いを定める。

 

軍服の男性「中尉、危険です!」

 

軍服の女性「くっ、なんとか回避しろ!!」

 

 敵艦載機の接近に輸送艦内が慌ただしくなる。

 

 敵艦載機は高度を落として、航空魚雷を輸送艦に向けて発射する。

 

軍服の女性「白雪は無事に引き渡せた……、我らの任務は成功だ!総員退艦用意!!」

 

 輸送艦の乗組員たちが撃沈を覚悟したその時、輸送艦の前方から2本の航跡波が通り過ぎる。

 

軍服の女性「前方から魚雷……?……いや違うな」

 

 

 

天龍「そこの輸送艦!あとは任せな!!」

 

深雪「深雪さま参上だぁ!!」

 

 雪風に遅れて出撃していた天龍と深雪が最大速力で駆けつけた。

 

天龍「硝煙の匂いが最高だなぁオイ!」

 

 敵艦載機から放たれた航空魚雷を確認した天龍は、単装砲を構えて海面向けて連射する。

 

    ドォォォン

 

 天龍の砲撃が直撃した、航空魚雷は海中で爆発する。

 

輸送艦の乗員A「たっ、助かった」

 

輸送艦の乗員B「俺たち、生きてるぞぉ!」

 

 航空魚雷の脅威から解放された輸送艦の乗員達は一様に安堵したり、歓声をあげたりしている。

 

軍服の女性「まだよ、まだ敵艦載機が健在だ!!」

 

 中尉と呼ばれる軍服の女性が、乗組員達の気を引き締める。

 

 たしかに、放たれた航空魚雷は天龍が撃ち落としたが敵艦載機は機銃を向けて輸送艦の上空から狙いを定めている。

 

 

天龍「深雪!ちゃっちゃとやっちまえ!!」

 

深雪「よ~し、深雪スペシャル!いっけー!!」

 

 深雪は、新装備の『10 cm連装高角砲』で敵艦載機に照準を合わせて連射する。

 

    カァァン カァァン ドガァァァァン!

 

 深雪の放った対空射撃が何発か直撃し、敵艦載機は空中で爆散し海中に沈んでいった。

 

雪風「天龍さん!! 深雪ぃー!!」

 

 深雪の胸に雪風が飛び込んでくる。

 

深雪「遅れてゴメンな、雪風!」

 

雪風「2人が来てくれるの信じてまじだぁ~」

 

 感動のあまり、深雪に抱きついたまま泣き出す雪風。

 

天龍「ところで、そっちのチビは誰だ?」

 

 雪風を追ってゆっくり近付いてくる白雪に気づいた天龍は雪風に尋ねる。

 

雪風「白雪さんです!雪風を助けてくれました!!」

 

白雪「白雪です。よろしくお願いします」

 

 天龍にお辞儀をする白雪。

 

深雪「白雪って……、白雪姉さん!!」

 

雪風「深雪は、白雪さんを知っているのですか?」

 

白雪「深雪……、深雪ちゃんなの?」

 

天龍「おぅおぅ、姉妹の再開かぁ」

 

雪風「白雪さんは、深雪のお姉さんですか?」

 

白雪「そうなの、こんなところで再開できるなんて」

 

深雪「白雪姉さんはあの輸送艦の艦娘なのか?」

 

白雪「ううん、あの島に新たに着任したっていう提督さんのところに配属になったから輸送してもらっていたの」

 

深雪「へぇ~、この辺の島っていったら……」

 

 深雪は、白雪が指差す島の方向に目を向ける

 

深雪「えぇ!うちの島!?」

 

白雪「えっ?そうなの?」

 

天龍「新参者の登場かよ」

 

雪風「これから仲間ですね!」

 

 白雪を囲んで盛り上がる深雪達。

 

 

 その時輸送艦から発光信号が送られてくる。

 

    『ワレ ソンショウ ノ タメ タンカン デノ コウコウ フノウ』

    『シュウリ ノ タメ キカンラ ノ チンジュフ ヘノ タチヨリ ヲ モトム』

 

 発光信号を確認した天龍は、深雪と雪風に輸送艦の曳航を指示する。

 

 天龍も輸送艦に接舷し

 

天龍「こちら天龍型1番艦天龍、オレ達の島への立ち寄り了解した」

 

 と大声で甲板に告げると輸送艦の前方に移動して曳航を始める。

 

白雪「あの……、私は?」

 

天龍「白雪はまだ、艤装が万全じゃないみたいだし休んでな、無理すんなって」

 

白雪「でも、皆さん曳航してて私だけ……」

 

天龍「それなら、周囲の警戒を頼むぜ!」

 

白雪「はい、頑張ります」

 

 白雪は輸送艦の後方に向かい周囲の警戒を開始する。

 

天龍「……ったく、真面目なチビだな」

 

 天龍は嬉しそうにニヤつきながら白雪を見守っていた。

 

 

 

 

 その頃、海岸で様子を見ていた美鈴は戦闘が終わり、輸送艦が島に向かってくるのを見ていた。

 

美鈴「う~ん、やっぱりここからだとよく見えないなぁ~」

 

美鈴「でも、あの子達ならきっと大丈夫よね」

 

 海上を移動できない自分を恨みながらも、大切な仲間である艦娘を出迎える準備をするため、妖精さんの手伝いをしながらもうすぐ完成する鎮守府の建造作業に戻ったのである。




 いつも感じているのですが、書き始める前はこういう展開にって構想を立てているのですが、書いてるうちにどんどん話が変わって行くことってありませんか?
 私の場合はいつもです(笑)

 今回は、艦これの最初の任務で『はじめて建造』を建造をすると報酬でとある艦娘がもらえますよね?
 その話をしたかったのですが、なんだか出す予定の無かった軍人さん達もついでに出てきてしまいました(笑)


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第8話 華人小娘と海軍中尉

    ガラガラガラガラ

 

 島の海岸に輸送艦が停泊し、錨を降ろす。

 

美鈴「大きな船だなぁ~」

 

 美鈴は海岸で、輸送艦を眺めていた。

 

天龍「日本本土から、美鈴への補給物資を持ってきたみたいだぞ」

 

美鈴「えっ、どうして?」

 

天龍「これから、深海棲艦と戦う仲間だってことだろ?」

 

美鈴「私、日本人じゃないけど大丈夫かなぁ~」

 

天龍「今どき、国籍なんか気にしないんじゃないか?」

 

美鈴「私は、この時代のご時世がよくわからないからねぇ~」

 

天龍「まぁ、ここの提督としてドーンとかまえてりゃ良いんじゃないか」

 

美鈴「そんなガラじゃないんだけどなぁ~」

 

深雪「司令官っていうか『気前のいい姉ちゃん』って感じだよな」

 

雪風「雪風は、しれぇのこと好きですよ」

 

美鈴「ははは、みんなありがとう」

 

 輸送艦を曳航して帰投した天龍達は、海岸で待っていた美鈴に経緯を説明し、輸送艦の指揮官である女性中尉が美鈴に面会を求めている旨を説明していた。

 

 天龍達の説明を受けた美鈴は、輸送艦から女性中尉が降りてくるのを待ちながら雑談していると、輸送艦から白い軍服を着た女性が降りてきて、輸送艦の下で待機していた白雪と共に美鈴の下に歩いてきた。

 

軍服の女性「貴女がこの島の鎮守府の提督となって下さった方ね」

 

 軍服の女性が美鈴の前に立ち止まり敬礼をする。

 

美鈴「はい!紅美鈴と申します!」

 

 美鈴もいつもの『龍』と書かれた星型のワッペンのついた帽子では無く、正装のつもりで以前妖精さん達からもらった白い軍帽をかぶっており、軍服の女性に素早く敬礼を返した。

 

軍服の女性「ホン・メイリンさん……、華人の方かしら?」

 

美鈴「はい、生まれは上海ですが、母と共に台湾に渡り暮らしていました」

 

 美鈴は、軍服の女性の『華人』と言う言葉に感じるものがあり、幻想郷に行く前の人間だった頃の簡単な経緯を説明した。

 

軍服の女性「台湾から……、日本国民として感謝致します」

 

美鈴「田舎の出なので、世間知らずですがよろしくお願いします」

 

軍服の女性「深海棲艦による人類存続の危機である今、私個人としては出自は気にしません」

 

美鈴「(悪い人ではなさそうだなぁ)」

 

軍服の女性「申し遅れましたが、私は日本海軍中尉の町井田 可怜(まちいだ かれん)と申します」

 

美鈴「町井田中尉ですか、よろしくお願いします」

 

 町井田中尉は美鈴に右手を差し出して来たので、美鈴も町井田中尉に右手を差し出し握手を交わす。

 

 

    ウィィィィン ガガガガ

 

 町井田が乗艦していた輸送艦の修復作業が、島の海岸で行われている。

 

 再建中である美鈴の鎮守府(仮)には艦船の修理ドックが無いため、屋外での応急修理しか出来ない状態ではあったが、輸送艦の乗組員達によってテキパキと作業進んでいる様子であった。

 

美鈴「皆さん、手慣れていますねぇ」

 

町井田「日本は特に深海棲艦の被害が大きかったから、どうしてもこういう作業が手慣れてしまうのよ」

 

美鈴「あっ……、すみません。何も知らないもので」

 

 町井田の言葉に、美鈴は何か失礼なことを言ってしまった気がして思わず謝罪をしてしまった。

 

町井田「もしかして、貴女はこの世界や深海棲艦についてあまりご存じないのかしら?」

 

美鈴「実は……、はい……」

 

町井田「仕方がないことだわ、本来深海棲艦については民間レベルには知らされていなかった事案だものね」

 

美鈴「そうなんですか?」

 

町井田「今から5年前、アメリカのポーカー大統領や日本の宇野総理を中心に世界各国の首脳が一同に揃ったハワイサミットを知っている?」

 

美鈴「知らないです」

 

町井田「世界的に問題視された核廃棄物による水質汚染を議題とした会議が行われる予定だったの」

 

美鈴「ふむふむ(なんかよくわからない難しい話だなぁ)」

 

町井田「12月8日にサミットが開催される前日晩に、各国首脳が顔合わせのための食事会が開かれていたらしいの」

 

美鈴「(レミリアお嬢様も、よくお屋敷で幻想郷の大物を集めてパーティーを開いてたなぁ)」

 

町井田「その時、厳重な警護が行われていたはずのサミット開催地のオアフ島に正体不明の艦隊から一斉砲撃が行われたの」

 

美鈴「まさか、それが……」

 

町井田「そう、それがこの世界に初めて現れた人類の敵、突然海上にその姿を現した深海棲艦の大軍だったのよ」

 

美鈴「……」

 

町井田「この時、オアフ島周辺には当時世界最強と謳われていたアメリカの太平洋艦隊が警備にあたっていたのだけど、深海棲艦の一斉攻撃で1時間と持たずに壊滅」

 

町井田「オアフ島周辺は火の海になり、各国首脳のほとんどが犠牲になったの」

 

美鈴「そんな……」

 

町井田「この事態にいち早く気付いたのは、アメリカとの合同演習のためにハワイ沖に向かっていた日本の海上自衛隊だったの」

 

町井田「この時の海上自衛隊の八雲1等海佐は、救援に向かうためオアフ島に向かったのだけど、自衛隊の装備では深海棲艦に傷一つ出来ず自衛隊艦隊も大損害を受けたの」

 

美鈴「それじゃあ、その人達も……(八雲ってスキマ妖怪の関係者?)」

 

町井田「いえ、この時は八雲1等海佐の判断でオアフ島の救援を断念して撤退したの」

 

町井田「撤退した八雲艦隊が間もなく横須賀基地に帰投しようとした時、東京湾に正体不明の艦影が現れたの」

 

美鈴「……深海棲艦」

 

町井田「そう、現在戦艦ル級と呼んでいる大型の深海棲艦が東京湾に急遽出現し首都東京は壊滅の危機に直面したの」

 

町井田「八雲1等海佐からの報告を受けていた自衛隊は陸・海・空の総力をもってル級に総攻撃を仕掛けたのだけど、結果は傷一つ負わせることが出来ずに部隊は半壊してしまったの」

 

美鈴「それじゃあ、東京は……」

 

町井田「その時に、突如勇ましい声と共に最初の艦娘と呼ばれる戦艦『長門』が東京湾に現れたの」

 

美鈴「戦艦長門?」

 

町井田「かつて大日本帝国海軍の象徴と呼ばれた戦艦の魂を宿した艦娘よ」

 

美鈴「大日本帝国海軍……、聞き覚えがあるような……」

 

町井田「長門は、死闘の上でル級を撃破し東京は彼女に救われたの」

 

美鈴「よかった」

 

町井田「これが、未だに不明点が多い、深海棲艦と艦娘の歴史が幕開けた瞬間よ」

 

美鈴「なるほど!難しい話も多かったですがわかりました」

 

町井田「なんだか話が長くなってしまったわね」

 

 美鈴は町井田から深海棲艦や艦娘の聞き、この世界が置かれている現状が改めてわかった気がした。

 

 

 

 日没前に輸送艦の応急修理が終わり、再び静かになった海岸。

 

 夜の海は危険ということで、明日の夜明けに出港することになり、美鈴と艦娘たちは町井田中尉に招かれ輸送艦内の食堂への食事に招待された。

 

 

 この日は金曜日ということもあり、夕食のメニューは輸送艦特製のカレーライスであった。

 

深雪「やっぱりカレーだぜ!」

 

美鈴「このカレー、すごく美味しいです!」

 

雪風「しれぇ、美味しいですね!」

 

天龍「美鈴の料理も美味いけど、カレーはやっぱり良いなぁ!」

 

町井田「ははは、こんなに喜んでくれるとウチの調理担当も喜ぶわね」

 

 久しぶりのカレーに喜ぶ艦娘達。

 

白雪「私もこの島に来る間、ずっとこの食堂で食事を頂いてましたが調理担当の方々もみんな良い人達ですよ」

 

美鈴「島でも米やカレー粉を準備できたら良いなぁ」

 

町井田「置いていく補給物資の中に、備蓄しているカレー粉や米も入れておこうかしら?」

 

美鈴「良いんですか?」

 

町井田「物資もそうだけど、食料や調味料も置いていける分は置いていこう」

 

美鈴「ところで、町井田中尉はどうしてこの島に?」

 

町井田「最近、この島の周辺で度々深海棲艦と艦娘が交戦していると噂になっていて、日本海軍所属の艦娘たちが調査ていたのよ」

 

深雪「戦ってた艦娘たちって……」

 

雪風「きっと、深雪と雪風ですね!」

 

町井田「しかも、近隣の島から妖精さん達が集まっていると海軍の妖精さん達の間でも噂になっていて、美鈴殿が提督となっていてこの島の鎮守府を再建していると確認できたから八雲元帥の指示で、艦娘の白雪と補給物資を持って極秘裏にこの島に向かってきたの」

 

美鈴「その八雲元帥って、5年前の八雲1等海佐の関係者ですか?」

 

町井田「その八雲1等海佐よ」

 

町井田「海上自衛隊の艦隊じゃ深海棲艦に太刀打ち出来なくて、海上自衛隊が半壊した後で艦娘を主体とした日本海軍が新設された、その中心人物が八雲元帥なのよ」

 

美鈴「海上自衛隊と日本海軍って違うんですか?」

 

町井田「海上自衛隊は護衛艦による日本防衛を目的とした組織だけど、深海棲艦と戦うための組織として日本海軍が設立したの」

 

美鈴「別物なんですね」

 

町井田「本来は、海上自衛隊の組織に艦娘を投入していく予定だったのだけど、艦娘の中には空母や戦艦もいるから自衛隊として保有できない戦力だし、太平洋戦争時の軍艦の高潔な魂を引き継いだ艦娘たちを束ねるなら『海軍』が相応しいとなって今に至るのよ」

 

美鈴「護るための組織と、戦うための組織ですか……」

 

町井田「自衛隊は自衛隊として残ってはいるわ」

 

町井田「日本海軍とは言っても深海棲艦には人間の力じゃ対抗できないから、戦闘は艦娘たちに頼るしか無いから艦娘の援護専用部隊というところなのだけどね」

 

美鈴「どうして、人間とほとんど変わらない艦娘だけが深海棲艦と戦えるのでしょうか?」

 

町井田「難しい質問ね……、正直艦娘については未だに研究が進んでいないのが現状だし、一時期は艤装に特別な力があるのではないかと研究されたこともあったのだけど、実は艤装自体は通常兵器と対して変わらない事が判明しているわ」

 

美鈴「そうなんですか?」

 

町井田「艦娘が艤装を装着して初めて深海棲艦に打撃を与えることが出来る、おそらくは艦娘自体に人間にはない特別な能力があるみたいなの」

 

町井田「とは言っても、艦娘自体も艤装がないと身体能力に優れた人間と対して変わらないの」

 

町井田「唯一違うと言ったところは人間と比べて、成長や老化が遅いと言ったところかしら」

 

美鈴「寿命が長いというところですか?」

 

町井田「まぁ、まだ艦娘が現れて5年位しか経っていないから寿命については不明だけどね」

 

美鈴「そうですよね」

 

町井田「一人の女性としては、若さを長く保てるということは羨ましくてしょうがないのだけどね」

 

深雪「そうは言っても、こっちは速く美鈴や町井田中尉みたいな大人になりたいけどなぁ」

 

雪風「もっと大きくなりたいです!」

 

町井田「ははは、艦娘たちもみんな年頃の女の子と変わらないのよね」

 

美鈴「確かに、こんな女の子達ばかり危険な戦いをさせて自分は待っているだけというのがなんだか歯がゆくて……」

 

深雪「でも、美鈴は初めて会った時に不思議な力でイ級の砲撃を撃ち返してやっつけたじゃないか」

 

町井田「本当なの!?」

 

美鈴「あの時は必死で何が何だか……、って何を?」

 

 町井田は急に美鈴の身体を色々触って来た。

 

町井田「あっ……失礼……、貴女も人間だと思うけど、艦娘じゃないわよね」

 

美鈴「多分、艦娘じゃないです。海の上も走れないし」

 

町井田「何か特別な力があるとかは?」

 

美鈴「私はこの見た目なので、子供の頃に結構周りからイジメられていまして……」

 

 美鈴は長い赤髪を指差し幼少時代の事、『気』の事について町井田に説明をすることとした。

 

町井田「その綺麗な赤毛は地毛なのかしら」

 

美鈴「そうなんです、私の祖母がオランダの人なので、その遺伝で髪の毛と目の色が黒くないんですよ」

 

町井田「確かに、アジアでは珍しいわよね」

 

美鈴「この見た目が理由で、イジメられていた私を見かねた近所に住む老師さまが、私に拳法を教えてくれたんです」

 

美鈴「己を鍛えて強くなれば、周りに何と言われても大丈夫だって教えてくれて」

 

天龍「イジメたやつをやっつけろってことじゃないのか?」

 

美鈴「天龍、武術や力というのは本来そんなことのために使うものじゃないのよ」

 

天龍「まぁ、そうだよな」

 

美鈴「それで、武術を習ううちに『気』を使えるようになって、老師が亡くなってからも『気』の修行をずっと続けていました」

 

町井田「『気』というのは、『気功』と考えて良いのかしら?」

 

美鈴「まぁ、同じようなものですね」

 

深雪「でもあの時の美鈴は右手の周りが緑色に光っていたけど」

 

天龍「オーラってやつか?」

 

町井田「興味深いわね」

 

美鈴「こんな事を言って信じてもらえるかわかりませんが、『気』の力を使えば身体能力を高められたり、気弾として攻撃に使えたり、『気功』のように治癒に使えたり、空を飛べたりもするんです」

 

町井田「ファンタジーで言うところの魔法みたいなものね」

 

美鈴「でも、何故かここに来てから急に『気』が思うように使えなくなって……」

 

深雪「でも、あの時使った不思議な力は『気』なんだろ?」

 

美鈴「火事場のクソ力みたいな感じで、あの時だけ『気』が使えた感じだったの」

 

町井田「確かに、聞く人が聞けば嘘みたいな話ですが、貴女や深雪が嘘をついているようにも見えないし、とても興味深い話ね」

 

天龍「オレは『気』を見たこと無いけど、美鈴は嘘をつくようなやつじゃないぜ!」

 

雪風「雪風もしれぇの言うことは信じていいと思います!」

 

白雪「私も美鈴さんとはあったばかりですが、嘘をつくような人じゃないと思います」

 

町井田「私も貴女の言うことを信じたいと思う。それにしても短期間で艦娘たちの信頼を得られるのも凄いな貴女は」

 

 町井田は、美鈴が短期間で艦娘達からの信頼を勝ち取ったことについて素直に驚いていた。

 

町井田「貴女はもしかすると深海棲艦との戦いを終わらせるために、神がこの世に遣わせた英雄なのかもしれない」

 

美鈴「そ、そんな」

 

町井田「それからも頑張って」

 

美鈴「はい」

 

 

 

 町井田との夕食会を終えた美鈴達は、鎮守府(仮)に戻り休むことにした。

 

美鈴「妖精さん達が用意してくれたから、白雪ちゃんはそこの新しいベッドを使ってね」

 

白雪「はい、って司令官も同じ部屋なのですか?」

 

深雪「そうだぜ~、寝ぼけて美鈴のベッドに行っちゃダメだぞ~」

 

白雪「そんなことしないよ、深雪ちゃん!」

 

天龍「ははは、姉妹は仲良くて良いじゃねぇか!」

 

美鈴「まだ仮の宿舎だから狭くてごめんなさいね」

 

白雪「いえ、別に文句があるわけではありません」

 

深雪「美鈴は、私達のことみんな家族みたいだって言って同じ部屋で良いって言うんだよ」

 

雪風「しれぇは、雪風達のお姉ちゃんです!」

 

 

 美鈴達は談笑をした後、真っ先に深雪が寝てしまったので美鈴がそっとライトの火を消した、明日は輸送艦からの補給物資を受け入れる作業もあるので皆早めに就寝することとした。

 

 今日は輸送艦の隊員たちが夜間警戒をしてくれるとのことであったため、久しぶりに美鈴達はぐっすりと休むことが出来たのであった。




 今回は、いわゆるひとつの説明回です。

 自分なりの世界観を一度整理してみたのですが、なんかよくわからなかったらすみません。

 この世界は、太平洋戦争を終えた後、現在と少し異なる歴史を歩んできた現在という用な感じの設定でやってるつもりです。


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第9話 華人小娘の海上護衛作戦

美鈴「よいしょ、よいしょ」

 

天龍「美鈴、無理すんじゃねぇぞ~」

 

美鈴「ははっ、大丈夫、大丈夫!」

 

 美鈴達は、輸送艦から受け取った補給物資を海岸から荷揚げしていた。

 

町井田「紅美鈴提督は働き者みたいね」

 

美鈴「いやぁ、このくらい鍛錬だと思えば」

 

白雪「(司令官、艦娘である私以上の量の荷物を運んでいる気が……)」

 

町井田「殊勝な心がけだな、私の部下にも見習わせたい」

 

美鈴「深海棲艦との戦いでは、艦娘のみんなに危険な目に合わせているんですから、このくらいはやってあげないと」

 

町井田「たしかにな、私にも少し手伝わせてくれ」

 

美鈴「ありがとうございます」

 

 

 

 美鈴と町井田は荷物を手に持って鎮守府(仮)の物置に運んでいく。

 

美鈴「ここに元々あった鎮守府のことについて、町井田中尉は何かご存知ですか?」

 

町井田「詳しくはわからないけど、この島は深海棲艦との戦いの足掛かりする予定だったと聞いているわ」

 

美鈴「足掛かりですか?」

 

町井田「本土から外海に進行ための補給地点と言うべきかしらね」

 

美鈴「重要地点だったんですね」

 

町井田「まぁ、そうなる予定だったとしか言えないわね」

 

美鈴「予定だった?」

 

町井田「私が日本海軍に入る前の話だけど、戦艦『長門』以降も日本近海には複数の艦娘が現れ、日本本土に迫る深海棲艦を撃退してくれたの」

 

町井田「深海棲艦は太平洋を中心に侵攻を初めていて、このまま放置すれば島国の日本は完全に孤立してしまう状態だったの」

 

美鈴「今のウチの島みたいなものですね」

 

町井田「そう、日本は自前の資源も乏しい国家だから、孤立するという事は国家存亡の危機だったの」

 

美鈴「自給自足出来るものと出来ないものがありますからね」

 

町井田「最大の同盟国であったアメリカとは、完全に太平洋を隔ててしまっているから、太平洋を中心に活動している深海棲艦によって物資の輸送などは不可能な状態だったの」

 

町井田「それで日本は、アジアや東南アジアに直接資源を買い付けに行く必要があって、南西方面の海路を死守するために本土近郊の島への鎮守府増設計画を発動したの」

 

美鈴「なるほど」

 

町井田「でも、圧倒的な深海棲艦との戦力差もあり、現状の艦娘の人数では日本本土を護ることが精一杯だったから、鎮守府増設計画は破綻してしまったの」

 

美鈴「人手不足なんですね」

 

町井田「おそらく、この島も鎮守府は建設されたものの維持出来るだけの戦力が無くて放棄され、深海棲艦に破壊されてしまっていたのでしょうね」

 

美鈴「そうですか、私達も大丈夫かなぁ」

 

町井田「少なくとも、この近海にはまだ強力な深海棲艦の出没は確認されていないし、この島の艦娘や妖精さん達も貴女を慕ってよくやってくれているみたいだから、私は出来ると思うわ」

 

美鈴「そうですね、みんなのためにも私も頑張らないと!」

 

 

 

 美鈴達は、輸送艦から受け取った支援物資をすべて受領し終え、応急修理も終えた輸送艦は再び日本本土に戻ることとなった。

 

美鈴「また深海棲艦と遭遇しても困りますから、ウチから護衛をつけさせて下さい」

 

町井田「沖縄まで、迎えの艦娘達が来ているから問題ないわ」

 

天龍「なら輸送艦が迎えの艦隊と合流するまで見送らせてもらうぜ!」

 

町井田「この島の警備も必要でしょ、だから護衛は不要よ」

 

美鈴「わかりました、それでは町井田中尉もお気をつけて!」

 

 美鈴や天龍が申し出た護衛を町井田に断られると、美鈴はあっさりに町井田の指示に応じた。

 

 町井田や輸送艦の乗組員が艦橋に並び、海岸で見送る美鈴達に敬礼をしながら出港して行った。

 

深雪「美鈴、本当に輸送艦の護衛はいらないのか?」

 

雪風「しれぇ、ここから沖縄までなら距離もあります!」

 

天龍「船体だって万全じゃないんだぜ!」

 

美鈴「そうだね、みんなの言うとおりだ」

 

白雪「じゃあ、どうして護衛をつけないのですか?」

 

美鈴「護衛はね、中尉に断られたでしょ、だから付けないと言ったんだよ」

 

深雪「確かにそうだけどさぁ」

 

天龍「ちょっと冷たくないか?」

 

美鈴「だけどさ、こういう用事があるなら、今から後を追っても良いじゃないかと思ってね」

 

 美鈴は上着のポケットから封筒を取り出した。

 

深雪「美鈴、それは?」

 

美鈴「いやぁ~、今朝、町井田中尉にお礼の手紙を書いたんだけど、すっかり渡し忘れてさぁ~」

 

天龍「はぁ?」

 

美鈴「だからさぁ~、この手紙を君たちで届けてくれないかな?」

 

 美鈴は天龍に手紙を渡す。

 

天龍「……なるほどな!!」

 

美鈴「いいかな?みんなで届けに行ってちょうだいね」

 

白雪「護衛じゃなくて、手紙を渡すために輸送艦についていくんですね」

 

深雪「そういうことか!!」

 

雪風「お手紙を届けるための出撃です!」

 

美鈴「私は、海の上を走って行けないからみんなお願いね!」

 

天龍「そう来なくっちゃなぁ、抜錨だっ!」

 

深雪・雪風・白雪「おー!!」

 

 

 天龍を旗艦とした水雷戦隊は、美鈴の手紙を届ける為に水平線の向こうまで進んでいた輸送船を追いかけて行った。

 

 

 

 

    ペラペラペラ

 

 天龍達を送り出した美鈴は、補給物資の中に入っていた建造に関する資料に目を通していた。

 

美鈴「ふむふむ、建造する時に妖精さんに渡す資材の量によって、ある程度艦娘の艦種を予想できるのか」

 

美鈴「なになに、戦艦、巡洋艦、空母……」

 

美鈴「空母ってなんだろう?」

 

 美鈴は聞き慣れない『空母』という言葉に関心を持った。

 

美鈴「『空』は多分、青空とかの『空』だよなぁ……、じゃあ『母』で言うのは『お母さん』って言うこと?」

 

 資料の後半に、ちゃんと艦種の正式名称『航空母艦』と空母の説明が書いてあったのだが、ちゃんと目を通していなかった美鈴は色々と想像を膨らませた。

 

美鈴「まだ小さい子も多いし、『お母さん』必要だよなぁ……」

 

美鈴「きっと必要だよなぁ……」

 

美鈴「お母さんの料理、美味しいかなぁ……」

 

美鈴「美味しい料理が食べたいなぁ……」

 

美鈴「咲夜さんの料理が食べたいなぁ……」

 

美鈴「お嬢様たちも元気かなぁ……」

 

美鈴「たまに遊びに来ていた、湖の妖精たちも元気かなぁ……」

 

 美鈴は、『空母』と言う言葉から連想がどんどん広がって、幻想郷を思い出し少しだけホームシックになった気がした。

 

美鈴「資材も結構もらったし、『空母』建造してみようかなぁ~」

 

 

 

 

 美鈴から渡された手紙を届けるために、輸送艦を追いかけていた天龍達は沖縄の少し手前の海域で輸送艦に追いついた。

 

町井田「フフッ、来なくてもいいものを……」

 

天龍「まぁ、ウチの美鈴はそういうヤツなんだって!」

 

白雪「あと、これを中尉にと……」

 

 白雪は町井田に、美鈴から預かった手紙を渡した。

 

町井田「なになに……」

 

 町井田は、美鈴からの手紙に目を通し、クスリと笑ってから笑顔で天龍達に手紙の内容を見せた

 

    『カレーごちそうさまでした、おいしかったです』

 

天龍「ぷぷっ、何だこりゃ子供かよ!!」

 

深雪「カッコつけておいてこれかよ!!」

 

雪風「でも、本当にカレーは美味しかったです!!」

 

町井田「この手紙は、完全にあなた達に私を見送らせるための口実だったのね」

 

白雪「司令官の心遣いがありがたいです」

 

天龍「まぁ、この手紙のおかげでオレたちも堂々と輸送艦を追いかけられたんだしな!」

 

 この後も、天龍達は沖縄まで輸送艦を『見送る』という名目で護衛することとした。

 

 

 

 

 

美鈴「妖精さん、この資材で建造をお願いできるかな?」

 

 その頃美鈴は、『燃料』・『弾薬』・『鋼材』・『ボーキサイト』と呼ばれる資材を妖精さんに渡し、建造を依頼していた。

 

美鈴「資料に書かれていた通りの量を渡したけど、大丈夫かな?」

 

 美鈴から資材を受け取った工廠の妖精さん達は、資材を工廠内に運び終わった後、美鈴に身振り手振りで建造予想時間を知らせた。

 

美鈴「大体2時間ね、わかったわ」

 

 建造完了まで多少時間が出来た美鈴は、鎮守府を建造中の妖精さんの所に行って、建築作業の手伝いをすることとした。

 

美鈴「今度は、どんな艦娘に会えるかなぁ~」

 

 まだ見ぬ『空母』との邂逅を期待しながらも、新たな艦娘が増えても良いように少しでも速く鎮守府を建築しようと汗を流す美鈴であった。




 今回は9話ということで、東方的に⑨話としてチルノ回にしようかとも考えましたが(幻想郷の思い出とかの話にして)、急にそんな話をぶっこんでも意味不明なので止めましたとさ……


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第10話 華人小娘とはじまりの空母

    コンコンコンコン

 

 美鈴は、妖精さん達と鎮守府の建設作業を行っていた。

 

美鈴「だいぶ形になってきたねぇ」

 

 美鈴が一緒に作業をしていた妖精さん達に声をかけると、妖精さん達は一様に笑顔で美鈴に答える。

 

    カーン カーン

 

 その時、見張り台から鐘の音が聞こえてきた。

 

 艦娘達が不在の間、見張りを代行していた妖精さんからの合図の鐘だった。

 

美鈴「そろそろ天龍達が帰ってきたかな?」

 

 美鈴は作業の手を止め、見張り台へ駆けて行った。

 

 見張り台に登り、妖精さんが指差す方向に双眼鏡を向けると、隊列を揃えて帰還してくる天龍達の姿が見えた。

 

美鈴「誰も怪我とかしてなさそうだ」

 

 美鈴は、天龍達を出迎えるため海岸へ向かった。

 

 

 

深雪「それにしても出迎えの艦隊もすごかったなぁ~」

 

天龍「戦艦に重巡洋艦、正規空母までいたからなぁ!」

 

白雪「長門さん、妙高さん、翔鶴さん、日本海軍の主力艦隊でしたね」

 

雪風「皆さん強そうでした!」

 

 沖縄沖で、町井田の輸送艦を日本海軍の艦隊に引き継いだ時に見た主力艦隊の感想で盛り上がる天龍達。

 

 美鈴が待つ島まであともう一息と言うところで、艦隊の先頭にいた雪風が島の様子を双眼鏡で確認すると海岸で緑色の服に赤いロングヘアーの人影が見えた。

 

雪風「あっ、しれぇが海岸で待ってます!!」

 

天龍「美鈴のやつ、わざわざ出迎えかよ!」

 

深雪「そんな事を言う割には、嬉しそうじゃん」

 

天龍「わ、悪いかよ!」

 

白雪「司令官は優しい人ですよね」

 

深雪「みんなで美鈴のところまで競争だぜぇ~」

 

雪風「雪風は負けません!」

 

天龍「オレの速さが気になるか?世界水準軽く超えてるからなぁ~!」

 

白雪「頑張っていきましょう」

 

天龍「そう来なくっちゃなぁ、スタートだっ!」

 

 天龍の合図で4人は一斉に島に向かって駆け出して行った。

 

 

 

 海岸に迎えに来ていた美鈴は、天龍達が猛スピードで島に向かってくるのが見えた。

 

美鈴「あれ、みんなどうしたんだろ?」

 

 深雪を先頭に、白雪、雪風、天龍の順に大きな波しぶきを立てながら駆けてくる艦娘たち。

 

美鈴「……まさか、何か緊急事態か!?」

 

美鈴「深海棲艦が攻めて来るとか!?」

 

 美鈴が思わず身構えていると、艦娘たちが全員で美鈴に向かって手を振ってくる。

 

美鈴「あれ?なんか違うみたいだなぁ……、考え過ぎてたかな?」

 

 美鈴は艦娘たちに手を振り返すことにした。

 

 

 

深雪「おーい、めいりーん!!」

 

雪風「しれぇー、雪風帰投しましたー!!」

 

白雪「作戦終了しましたー!」

 

天龍「よっしゃぁっ!全員無事に戻ったぞー!!」

 

 海岸で手を振る美鈴に気が付いた艦娘たちは、更にスピードを上げる。

 

深雪「深雪さま一番乗りだぜ~!」

 

天龍「まだまだぁ!天龍様のお通りだぁ!!」

 

 先頭の深雪に対して、天龍が最後方から追い上げて来る。

 

雪風「負けるわけにはいきません!!」

 

白雪「ま、まだ……、や、やれます!!」

 

雪風と白雪も負けじと追いすがり、4人はほぼ横一線に並ぶ状態になっていた。

 

 

 

美鈴「もしかして、競争しているのかな?」

 

 艦娘たちの様子を見ていた美鈴は、天龍達が競争している事に気が付いた。

 

美鈴「こうして見ると、みんな結構早いなぁ~」

 

美鈴「艦娘って元々は軍艦だって言ってたけど、船の速度差とかってあるのかなぁ?」

 

 美鈴は、一人で色々考えながら競争している艦娘たちを見守っていた。

 

 

 

雪風「幸運の女神のキスを感じちゃいます!」

 

 艦娘たちのレースは雪風の勝利に終わった。

 

天龍「はぁ、はぁ、やるじゃねぇかチビ共も……」

 

深雪「途中で飛ばし過ぎた、失敗したぜ、チクショ~!」

 

 天龍と深雪はお互いにかなり早い位置スパートをかけ、お互いに抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げていたが、あまりにも激しく競い合っていたため、お互いにスタミナが切れてしまい失速してしまった。

 

白雪「うぅ、もう少しだったのですが……」

 

 天龍と深雪が失速した後、先頭に立ったのは白雪だったが、ゴール間際に突然の強風によりバランスを崩してしまい失速してしまったところを雪風に追い抜かれてしまった。

 

美鈴「運も実力のうちって言われるけど、いい勝負だったと思うよ」

 

雪風「しれぇ、ありがとうございます!」

 

 

 

 島の海岸で美鈴は、帰還した天龍達から町井田中尉の輸送艦が無事に迎えの艦隊と合流したと報告を受け、特に深海棲艦との戦闘もなく帰還できたという話を聞いていると、工廠の方角からラッパの音が聞こえてきた。

 

    パッパパッパ パッパッパ パーン

 

美鈴「妖精さんのラッパだ」

 

深雪「建造終了の合図だよな?」

 

美鈴「みんなが出かけている間に、妖精さんに建造をお願いしていたんだよ」

 

天龍「新参者の登場か、楽しみだな」

 

雪風「どんな人が来るでしょうか?」

 

美鈴「町井田中尉からもらった資料を見ながら、空母の艦娘を狙って見たんだけど」

 

白雪「中尉の輸送艦も、ここに来る途中で深海棲艦の空母から攻撃を受けましたし、今後は制空権という意味でも味方の空母が必要になりますしね」

 

天龍「さすが美鈴、良い所に目をつけたじゃないか!」

 

美鈴「ははは……、ま、まあね~(お母さんが必要と思って作ったことは黙っておこう。しかも、後でよく資料を確認したけど、空母ってお母さんってことじゃ無かったし)」

 

 美鈴達は、完成した艦娘を出迎える為に皆で工廠に向かうことにした。

 

 

 

 工廠に着くと、妖精さんが扉の前に立っていた。

 

美鈴「妖精さん、建造は終了したんだね」

 

 美鈴が妖精さんに声を掛けると、妖精さんは右手の親指を立てて「バッチリです」と言うような仕草をした。

 

美鈴「それでは、早速お出迎えしよう!」

 

 美鈴が工廠の扉の前に立つと、工廠の中から光が漏れてきて内側から扉が開く。

 

 光の中から、和服姿で後ろに束ねた黒髪の落ち着いた雰囲気の女性が現れた。

 

和服姿の女性「航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

 鳳翔と名乗った女性は、美鈴に向かってお辞儀をしてきた。

 

美鈴「ここの提督の紅美鈴です」

 

 美鈴も鳳翔に頭を下げる。

 

鳳翔「ご丁寧にありがとうございます」

 

美鈴「(小柄だけど、何か母性を感じる……、やっぱり空母はお母さんだったんだ)」

 

天龍「鳳翔さんか、美鈴この人は世界初の航空母艦と呼ばれた人だぞ」

 

美鈴「世界初の!? すごい人なんですね!!」

 

鳳翔「最初から空母として建造されたという意味では世界初と呼ばれています。小さな艦ですが、頑張りますね」

 

深雪「この鎮守府にとっても、初の空母だから頼りにしてるぜ」

 

白雪「これからは、艦載機の開発も必要ですね」

 

美鈴「かんさいき……、あぁ空母に搭載されている飛行機ってやつだね」

 

雪風「鳳翔さんは、どこに艦載機を積んでいるんですか?」

 

美鈴「確かに、どこにも持っていないですよね?」

 

鳳翔「ふふふ……、お見せしましょうか?」

 

美鈴「是非!!」

 

鳳翔「それでは、艤装を装着してからでよろしいでしょうか」

 

美鈴「それでいいです」

 

 

 

 美鈴達は海岸に移動し、艤装を装着中の鳳翔を待っていた。

 

鳳翔「提督、お待たせしました」

 

 左肩に板のようなものを装着し、背中に矢筒、手に弓を携えた鳳翔が美鈴に声をかける。

 

美鈴「弓矢ですか?」

 

鳳翔「演習ということで、あそこの岩に爆撃をしますね」

 

 鳳翔が指差す方向には、約500メートル先に小さな岩場が見えた。

 

美鈴「あんな遠いところですか」

 

天龍「空母にとっては近距離だぜ」

 

鳳翔「至近距離ですね」

 

 鳳翔は弓を構えると、岩場の方向に狙いを定め矢を放った。

 

鳳翔「風向き、よし。航空部隊、発艦!」

 

 真っ直ぐと飛んでいく矢が、数十メートル先で突然光り始めやがて灰色の航空機へと姿を変えた。

 

美鈴「矢が変身した!?」

 

鳳翔「これは、九九式艦上爆撃機と言う私がいま唯一搭載している艦載機です」

 

美鈴「これが艦載機……」

 

鳳翔「艦娘によっては、式神として艦載機を発艦する子もいますが、私は弓術を用いて発艦します」

 

美鈴「式神か……(幻想郷にも式神使いは何人もいたなぁ)」

 

 

 

    ヒューン ドガァァァァン

 

 美鈴達が話をしているうちに、九九艦爆が岩場に到着し爆撃を行った。

 

美鈴「あんな遠くに……、すごい!!」

 

鳳翔「命中ですね」

 

 爆撃を成功させた九九艦爆が鳳翔に向かって戻ってくると、鳳翔は左手を肩の高さまであげて板状のものを構える。

 

美鈴「鳳翔さん、その板みたいなものは盾ですか?」

 

鳳翔「ふふっ、これは盾ではなくて飛行甲板ですよ」

 

美鈴「飛行甲板?」

 

 鳳翔に接近して来た九九艦爆は、減速しながら飛行甲板に近づいてくる。

 

    キキキィーッ

 

 九九艦爆が鳳翔の飛行甲板に着艦し、操縦席に乗っていた妖精さんが美鈴に敬礼をしてくる。

 

美鈴「この飛行機は妖精さんが操縦していたの?」

 

鳳翔「はい、まだまだ訓練中ですが、訓練や実践で経験を積むとどんどん上達してくれます」

 

天龍「空母はなんと言っても攻撃の射程の長さが特徴だ、敵の射程に入る前に艦載機で先制攻撃をかけたりすることも出来るぜ」

 

鳳翔「艦載機を使って偵察をすることも出来ますよ」

 

美鈴「あるほどなぁ~」

 

 

 

 美鈴の鎮守府に新たに加わったのは、日本の航空母艦の母と呼ばれた『はじまりの空母』鳳翔であった。

 

 これまで航空機の運用をしたことが無いどころか、航空機の知識もほとんどない美鈴は鳳翔から航空機について色々と教わった。

 

 軍艦時代の特徴なのか艦娘鳳翔としての性格なのか、非常に教え上手であり生徒に学問を教える『教師』、あるいは子供に教える『母親』という雰囲気を鳳翔から感じた美鈴であった。




 今回着任する艦娘は、前回の美鈴の発言や建造時間で予想できた人は多いかも知れませんが、そのままあの『お艦』です!

 美鈴は、明治生まれ設定なので飛行機の知識が無いということにしていますが、後から調べたらライト兄弟がプロペラ機の初飛行に成功したのが明治36年だと後から気が付きました。
 まぁ、明治時代の後半だし、アメリカの話だし『いいや~』ってことにしています。


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第11話 華人小娘の鎮守府

    トントントントン

 

 朝、美鈴が目を覚ますと鎮守府(仮)の調理場から物音が聞こえてきた。

 

美鈴「朝か……、そろそろ朝ごはんを準備しないと」

 

 美鈴は起き上がると、同じ部屋で寝ている艦娘たちの様子を確認する。

 

美鈴「深雪と雪風はまだ寝ているか、天龍は今日も早朝トレーニングかな?」

 

美鈴「白雪も起きてるみたいだな……」

 

 美鈴が艦娘達の布団を確認していると、一つだけ丁寧に畳まれていた布団があった。

 

美鈴「あれは鳳翔さんのか、やっぱり見た目通りキチンとした人なんだなぁ~」

 

    トントントントン

 

 顔を洗いに行こうとした美鈴は、調理場から聞こえる物音に気が付いた。

 

美鈴「そういえば、さっきから何の音だろう?妖精さんが何か作っているのかな?」

 

 美鈴は、洗面台に向かうため調理場の方に歩いていくと調理場から何やら味噌や焼き魚のいい香りがすることに気が付いた。

 

美鈴「くんくん、この香りは?」

 

 美鈴は、香りにつられて調理場を覗き込むと割烹着を着た鳳翔が手慣れた手付きで料理をしている姿が見えた。

 

美鈴「あっ……、鳳翔さんだ……」

 

 美鈴のつぶやきに気が付いた鳳翔は、振り向いて美鈴を確認すると会釈をして微笑んできた。

 

鳳翔「提督、おはようございます」

 

美鈴「あっ、おはようございます」

 

鳳翔「もうすぐ朝食の用意ができますので、もうしばらくお待ち下さいね」

 

美鈴「あっ……、はい」

 

 美鈴は、鳳翔と会話をしているうちに、自分が寝巻き姿で、髪も寝癖のままだということに気が付いて洗面台に向かった。

 

美鈴「いつも朝ごはんは、私が作っていたけど……」

 

 美鈴は、自分が深海棲艦との戦闘に参加できないからと、艦娘たちの身の回りの世話は出来るだけしようと思い、食事や掃除は全て自分でやっていた。

 

美鈴「鳳翔さんを見ていると、何かお母さんって感じがするなぁ」

 

 鳳翔と美鈴の母親が似ていると言うわけでは無いのだが、どことなく鳳翔の雰囲気に母性を感じる美鈴であった。

 

 

 

 顔を洗って寝癖を直し着替えを終えた美鈴が、朝食の準備をしていた鳳翔の手伝いをしようと調理場へ向かうと、鳳翔はすでに朝食の配膳まで完了していた。

 

鳳翔「提督、朝食の準備ができましたよ」

 

 美鈴が食卓テーブルに目を移すと、そこには『卵焼き』、『味噌汁』、『焼き魚』、『ご飯』が並べられていた。

 

美鈴「これ、全部鳳翔さんが……」

 

鳳翔「何か、お嫌いなものとかありましたか?」

 

美鈴「いえ、凄いなぁと感心していただけです」

 

鳳翔「天龍さんや白雪ちゃんも、ジョギングから帰って来ましたし、まだ寝てる子たちを起こしてきますね」

 

美鈴「(鳳翔さん、『 妻』感半端ない……)」

 

 美鈴が、鳳翔の家庭的な面に感心していると、天龍と白雪がタオルで汗を拭いながら部屋に入ってきた。

 

天龍「ふぅ……、白雪もだいぶついてこれるようになったじゃないか」

 

白雪「ついていくのが、やっとでした……」

 

天龍「でも、朝から体力づくりなんて偉いじゃないか」

 

美鈴「ふたりとも、朝からお疲れさま」

 

天龍「おっ、美鈴!」

 

白雪「司令官、おはようございます」

 

 天龍と白雪が美鈴に挨拶すると、二人は朝食に気がつく。

 

天龍「おっ、今日は焼き魚に味噌汁か、朝から凄いじゃないか!」

 

白雪「今日は和食なんですね、司令官いつもありがとうございます」

 

美鈴「いやいや、作ったの私じゃないよ」

 

天龍「えっ、違うのか?」

 

美鈴「目を覚ましたら、鳳翔さんが作ってくれてた」

 

白雪「そういえば、私達が起きた時には鳳翔さんも起きてましたね」

 

 美鈴達が鳳翔の朝食について話をしていると、寝室から鳳翔に連れられて深雪と雪風も起きてきた。

 

 

 

深雪「これ、鳳翔さんが作ったの?」

 

雪風「すごく美味しそうです!」

 

 全員が食卓にあつまると、朝食に気が付いた深雪と雪風が鳳翔に感心する声を掛ける。

 

鳳翔「さぁ、冷めないうちに皆で食べましょう」

 

美鈴「そうですね、それじゃあ皆いただきます!」

 

艦娘一同「いただきます!」

 

 鳳翔の朝食は見た目の出来栄えもさることながら味も一級品であった。

 

美鈴「お……、美味しい!!」

 

深雪「美鈴の料理も美味しいけど、鳳翔さんの料理はなんかおふくろの味がする」

 

白雪「本当、なんか安心する味がする」

 

雪風「すごく美味しいです!!」

 

鳳翔「ふふっ、喜んでもらえたなら嬉しいです」

 

天龍「鳳翔さん、おかわりはある?」

 

 ガツガツと食べていた天龍が、恥ずかしそうにおかわりを確認すると、鳳翔がにこやかにおかわりを差し出す。

 

鳳翔「みんな育ち盛りでしょうから、いっぱいありますよ」

 

天龍「お……、おぅ!もらっとくぜ!」

 

 鳳翔からおかわりを受け取った天龍は、またガツガツとご飯を食べていた。

 

鳳翔「提督も、駆逐艦の子たちもまだまだおかわりはありますよ」

 

一同「おかわり!!」

 

 

 

 

 鳳翔の朝食を終え、白雪と雪風は鳳翔と一緒に食事の後片付けを手伝い、天龍と深雪は美鈴と一緒に鎮守府の建築作業を手伝うことにした。

 

 鎮守府は、妖精さんが工廠でどんどん製造してくれたレンガを使って建築したもので、20名程度が生活出来る小型の施設ではあるが、今の美鈴たちには十分すぎる規模であった。

 

美鈴「提督室に個室、食堂、お風呂、娯楽室……、色々作ったなぁ~」

 

天龍「美鈴と妖精さんたちで、よくこんな立派に作ったなぁ」

 

深雪「確かにたまに手伝ったけど、ほとんど美鈴達が作ってたよな」

 

美鈴「ほとんど妖精さん達がやってくれて、私はどういう風に作るか意見を求められてたくらいだよ」

 

 建物や、家具などもほとんど妖精さん達が作ってくれていて、美鈴達は鎮守府の顔となる看板を作ることとしていた。

 

天龍「美鈴、この板なんか看板に良くねぇか?」

 

美鈴「うん、いい雰囲気の板だね、木目も綺麗だし」

 

深雪「さっそく、この板に鎮守府の名前を入れて作っちゃおうぜ!」

 

天龍「おぅ、じゃあ美鈴!頼むぜ!!」

 

美鈴「うん!……あっ、どうしよう……」

 

天龍「どうしたんだ?」

 

美鈴「鎮守府の名前、決めてなかったよね……」

 

天龍・深雪「あっ……」

 

 

 

 

 

 美鈴は、鎮守府(仮)に戻り、艦娘を全員招集し緊急会議を開いた。

 

美鈴「皆に集まってもらったのは、この鎮守府の今後を左右する重要な話があるんだ……」

 

天龍「オレもこんな大事なことをすっかり忘れてしまっていたとはな……」

 

深雪「みんな真剣に聞いてくれよ」

 

 美鈴達は、鎮守府(仮)で後片付けをしていた鳳翔たちに神妙な面持ちで語りかける。

 

鳳翔「とても重要なお話みたいですね」

 

白雪「なっ……な、な、なんでしょうか……」

 

雪風「なんでしょう?」

 

 事のいきさつを知らない鳳翔達は、心配そうに美鈴達を見つめる。

 

天龍「ちっくしょう、オレがいながらなんでこんな大事な事を見落としていたんだ!」

 

深雪「みんな……、落ち着いて美鈴の話を聞いて欲しいんだ……」

 

    ゴクリ

 

 美鈴達の緊張感あふれる雰囲気に、鳳翔達は生唾を飲み込む。

 

美鈴「みんな……、本当にごめんなさい!」

 

美鈴「今まで、この鎮守府の名前を決めていなかった!!」

 

 美鈴の一言に、鳳翔と雪風は思わずズッコケそうになる。

 

雪風「もーっ、驚かせないで下さい!」

 

 しかし何故か白雪はガクガクと震えだした。

 

白雪「……あ、あわわわ……」

 

 変に緊張しすぎたのか、白雪はパニックに陥り取り乱す。

 

鳳翔「し、白雪ちゃん落ち着いて!」

 

白雪「名前が……、私の名前は?」

 

鳳翔「白雪ちゃん、貴女の名前は『白雪』よ、白雪姫の『白雪』よ!」

 

白雪「姫……?じゃあ貴女はかぐや姫?」

 

雪風「雪風は、雪風です!!」

 

白雪「じゃあ、貴方が王子様?」

 

深雪「白雪姉さん、落ち着いて私は深雪だよ!」

 

白雪「あ、あなたは伊達藤次郎藤原朝臣政宗?」

 

天龍「それって、独眼竜の伊達政宗のことか?」

 

天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

 

鳳翔「遊んでいる場合じゃないでしょう!白雪ちゃん正気になって~」

 

 

 

 

 数分後、白雪が正気に戻ると美鈴、天龍、深雪は鳳翔からお説教を受け、白雪に土下座で謝った。

 

 

 

鳳翔「しかし、鎮守府の名前が決まっていないというのも不便ですねぇ」

 

美鈴「今まで、この仮の鎮守府で暮らしていて名前を気にしたことがなくて……」

 

天龍「すっかり忘れていたんだ……、名前」

 

鳳翔「普通は地名とかをつけるのが通例ですが……」

 

美鈴「この島、名前が無いらしいんです」

 

鳳翔「困りましたねぇ……」

 

深雪「美鈴鎮守府とかじゃダメなの?」

 

美鈴「自分の名前はなんか嫌だ……」

 

雪風「しれぇの好きな物の名前とかにしたらどうでしょう?」

 

美鈴「好きなものかぁ……」

 

天龍「帽子についてる、龍って書いてある星とか好きなんじゃないか?」

 

美鈴「龍鎮守府……、星鎮守府……、う~ん、どうでしょう?」

 

 鎮守府の名前について一同話し合っていると、美鈴がふと閃いた。

 

美鈴「龍と星で、龍星ってどうかな?流星ともかけているんだけど」

 

天龍「龍星か、良いじゃないか?」

 

深雪「美鈴らしくて良いと思うぞ!」

 

白雪「何だか、綺麗な響きですね」

 

雪風「雪風も良いと思います!」

 

鳳翔「『龍星』……、国が栄えるという『隆盛』とも結びつきそうで縁起が良さそうですね」

 

美鈴「なるほど、そう考えると我ながら良いかなと」

 

 美鈴は、用意した板に筆で『龍星鎮守府』と書き込んだ。

 

 

 

 その日の夕方、完成した鎮守府の正面出入り口に用意した鎮守府の看板を取り付け、ついに紅美鈴率いる『龍星鎮守府』が完成したのであった。

 

 

 

 この日の晩は、美鈴が腕をふるった中華料理、鳳翔が皆のためにと作った海鮮ちらし寿司などご馳走が用意され、妖精さんも全員招待して食堂で鎮守府建造パーティーが行われた。

 

 艦娘達も、妖精さんもこの鎮守府では同じ仲間である。

 

 美鈴はこの光景を見て、幻想郷にいた頃に紅魔館でレミリアがお屋敷で働く妖精メイドも全員集めて開催した自分自身の誕生日パーティーを思い出した。

 

美鈴「この鎮守府の主は、私なんだ……。皆の笑顔は私が守らなきゃいけないんだ……」

 

 楽しく談笑したり、食事をしたり、言葉が通じなくても身振り手振りでコミュニケーションをとり笑顔になる艦娘と妖精さん達の表情を見て、美鈴は決意を新たにしたのであった。




 ついに鎮守府が完成しました!

 個人的な設定では、手作りのため艦娘が20人くらい住めるくらいの規模を想定していますが、多分そのうち手狭になっていくと思いますので、そのうちゲームのように『母港拡張』をしていくと思います。

 もちろん、手作りでね!

PS.ゲームの母校拡張は誰がやっているのでしょう?妖精さんでしょうかね。


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第12話 友軍部隊を救出せよ!!

    コンコン

 

鳳翔「提督、失礼します」

 

 鳳翔が、提督室のドアをノックする。

 

 左手には、湯呑みが載せられたお盆を持っている。

 

    コンコン

 

鳳翔「提督、いらっしゃいますか?」

 

 鳳翔がもう一度提督室のドアをノックするが、室内から返事がない。

 

鳳翔「失礼しますね」

 

 鳳翔が提督室のドアを開けて室内を確認するが、美鈴の姿はなかった。

 

鳳翔「あら、提督はどこに行ったのかしら?」

 

 鳳翔が、提督室で小首をかしげていると、すいたままのドアの外から通りがかりの白雪がのぞき込んできた。

 

鳳翔「白雪ちゃん、提督がどこにいらっしゃるか知らないかしら?」

 

白雪「少し前に、鎮守府の周りを走っていたときに正門の所にいましたよ」

 

鳳翔「あら、見回りかしら?」

 

白雪「司令官に御用事ですか?」

 

鳳翔「お茶が入ったからお持ちしたのよ」

 

白雪「おそらく、まだ正門の所にいると思いますよ」

 

鳳翔「ありがとう、行ってみるわ」

 

白雪「私も、お役に立てたようで何よりです」

 

 白雪がトレーニングの汗を流すために大浴場に向かっていくのを見送った鳳翔は、提督室のドアを閉めて鎮守府の正門へ向かうこととした。

 

 

 

 鳳翔が鎮守府の正門に着くと、正門の前で太極拳の型の練習をしている美鈴がいた。

 

鳳翔「提督、失礼します」

 

美鈴「あっ、鳳翔さんおはようございます」

 

鳳翔「少し、ぬるくなってしまったかも知れませんが、お茶を入れてまいりました」

 

美鈴「ありがとうございます、少し運動していたので、ぬるいくらいが有り難いです」

 

 美鈴は、鳳翔から湯呑み受け取るとお茶を飲み始めた。

 

鳳翔「さっきのは拳法ですか?」

 

美鈴「ちょっと、太極拳の型を練習していたんですよ」

 

鳳翔「大分慣れた動きに見えましたが」

 

美鈴「子供の頃から、拳法を習っていたし自己流でいろいろな流派の練習もしていましたから」

 

鳳翔「ふふっ、あれだけ料理がお上手でしたから、元料理人かと思っていました」

 

美鈴「職業としては、門番でしたけどね~」

 

鳳翔「門番ですか?」

 

美鈴「こことは違う国の大きなお屋敷で、長いこと門番として働いていたんですよ」

 

鳳翔「どこかの領主様とかのお屋敷ですか?」

 

美鈴「小さくてかわいらしいのに、ワガママで傲慢……、だけど思いやりもあって器の大きな方でしたよ」

 

鳳翔「ふふっ、私もいつかお会いしたいですですね」

 

美鈴「あの人なら、艦娘とか多分大好きだと思いますよ」

 

 美鈴は、紅魔館時代を思い出しながらレミリア・スカーレットの話を鳳翔に語った。

 

 いろいろと複雑すぎるので、幻想郷のことや、レミリアが吸血鬼だということは触れなかったが、自分の主について語っていた。

 

    ウゥゥゥゥー

 

 美鈴が、鳳翔と語り合っていると、突然サイレンの音が鎮守府内に響き渡った。

 

美鈴「これは!?」

 

鳳翔「提督、警報です!至急提督室へ戻りましょう!」

 

美鈴「わかりました!!」

 

 

 

 美鈴と鳳翔が提督室へ戻ると、既に天龍と白雪が待機していた。

 

天龍「美鈴!パトロール中の深雪と雪風が、敵艦隊を発見したらしいぞ!」

 

白雪「重巡や雷巡を含んだ深海棲艦と、他の鎮守府所属と思われる艦娘2名が、戦闘中とのことです」

 

美鈴「重巡は大型の巡洋艦で、雷巡は魚雷で重武装した巡洋艦だったっけ?」

 

鳳翔「そうです、駆逐艦の火力で重巡は厳しいですね」

 

美鈴「そうだね……、みんな!援軍に向かってもらって良い?」

 

天龍「たりめーだろ!」

 

白雪「はい、お任せください!」

 

鳳翔「実戦ですか……、致し方ありませんね」

 

 美鈴が援軍を出すと指示すると、天龍たちはすぐに艤装を装着し、出撃のために海へ向かった。

 

 

 

深雪「雪風、鎮守府に打電は送れた?」

 

雪風「はい、今から天龍さんたちが来てくれます!」

 

深雪「よーし、それじゃあ攻撃を仕掛けるよ!」

 

雪風「雪風、いつでも出撃できます!」

 

 鎮守府近海を、パトロール中だった深雪と雪風は、深海棲艦の重巡リ級率いる艦隊と交戦中の艦娘たちを発見した。

 

 深海棲艦と交戦中の艦娘は、二人ともセーラー服を着ており、一人は髪を一つ結びにした少女、もう一人は紺色の戦闘略帽をかぶった黒髪ロングヘアーの少女だった。

 

一つ結びの少女「うぅ……、今の私たちだけじゃあの敵と戦うのは……」

 

略帽の少女「な、なによ吹雪、重巡くらい……、あ、暁はへっちゃらだし……」

 

一つ結びの少女「でも暁ちゃんも、中破してるし無茶はダメだよぉ……」

 

略帽の少女「こ、このくらい……、一人前のレディーなら大丈夫だもん」

 

 お互いに、吹雪と暁と呼び合う少女たちは、艤装や衣服に損傷を負っている状態で、深海棲艦に包囲されている状態であった。

 

深雪「ん、もしかしてあそこで戦っているのは吹雪姉さん?」

 

雪風「深雪のお姉さんですか?」

 

深雪「あの服装に、あの髪型……、間違いないよ!!」

 

雪風「二人とも、結構やられてるみたいです、急ぎましょう!!」

 

 深雪と雪風は、連装砲を構えて吹雪たちを包囲している駆逐艦イ級に狙いを定める。

 

深雪「深雪スペシャル!!」

 

雪風「艦隊をお守りします!!」

 

    ドォォン ドォォン

 

 深雪と雪風は、同時に連装砲を別々のイ級めがけて撃ち込む。

 

    ぐぉぉぉん

 

 深雪と雪風の砲撃でイ級2体を撃破し、吹雪たちを包囲していた深海棲艦の陣形が崩れた。

 

雪風「そこの2人、退避してください!!」

 

深雪「深雪さまが来たから、もう大丈夫だぜ!!」

 

 深雪と雪風は、吹雪と暁の前方で立ち止まり退避を促した。

 

吹雪「あ、ありがとうございます!!」

 

暁「暁は、まだ戦えるわ!!」

 

深雪「特Ⅲ型の暁か、この場は先輩に任せて姉さんと一緒に下がってな」

 

吹雪「も、もしかして深雪ちゃん!?」

 

深雪「吹雪姉さん、もうすぐ白雪姉さんたちも来てくれるから、もう大丈夫だから」

 

吹雪「白雪ちゃんもいるのね、うん、わかったわ」

 

 吹雪は、暁の腕を取り撤退を促す。

 

暁「な、なによ吹雪逃げるつもりなの?」

 

吹雪「司令官は、無事に帰ってくるように言っていたよね」

 

暁「う……、わかったわ、レディーは約束は守るものよね……」

 

吹雪「ちょっとだけ、後方で休ませてもらおう」

 

暁「そうよ、逃げるんじゃなくて休憩よ、休憩!」

 

 吹雪は、中破している暁を説得し後退していく。

 

深雪「吹雪姉さんたちは、うまく後退したな」

 

雪風「後は、雪風たちにお任せください!!」

 

 深雪と雪風は、吹雪たちが後退していくのを確認すると、深海棲艦たちと再び対じする。

 

 

 

 援軍要請を受け出撃していた天龍たちは、雪風からの打電があった場所に向けて急行していた。

 

天龍「オレの電探によると、もうすぐ見えてくる頃だぜ」

 

鳳翔「索敵を兼ねて、艦載機を発艦させましょうか」

 

天龍「そうだな、鳳翔さん頼んだぜ!」

 

鳳翔「わかりました」

 

 鳳翔は、『九九式艦爆』と工廠で開発した『零式艦戦21型』を発艦させる。

 

白雪「深雪ちゃんたち、無事だと良いのですが……」

 

天龍「深雪も雪風も、練度は上がってるんだ信じてやりな」

 

白雪「はい、そうですよね」

 

 

 

    ドォォン ドォォン

 

 深雪と雪風は、連装砲の砲撃で深海棲艦艦隊のイ級を次々と撃墜し、残るは重巡リ級と雷巡チ級のみとなっていた。

 

深雪「巡洋艦クラスは、砲撃だけじゃ厳しいなぁ……」

 

雪風「魚雷の命中可能距離まで接近して、雷撃を仕掛けましょうか?」

 

深雪「向こうには、雷撃のスペシャリストの雷巡がいるからなぁ……」

 

雪風「重巡の雷撃も強力です……」

 

 深雪と雪風が手をこまねいていると、上空から航空機が近づく音が聞こえてきた。

 

深雪「あれは!?」

 

雪風「鳳翔さんの艦載機です!!」

 

 

 援護のため、戦闘区域に急行していた天龍たちのもとに、鳳翔の艦載機から打電が入った。

 

鳳翔「艦載機から打電あり!深雪、雪風と交戦中の敵艦隊発見!!」

 

天龍「鳳翔さん、方角と距離は!?」

 

鳳翔「南西方向、距離約15,000!」

 

天龍「よっしゃぁ、急行するぞぉ!!」

 

鳳翔「艦爆での支援爆撃、開始します!!」

 

白雪「鳳翔さん、お願いします!!」

 

 

 

    ダダダッ ダダダッ

 

    ヒューン ドガーン

 

 鳳翔が放った『零式艦戦21型』の小隊が、機銃で重巡リ級を牽制し、『九九式艦爆』の小隊が雷巡チ級に爆撃を仕掛ける。

 

    ぎゃぉぉぉん

 

 『九九式艦爆』小隊の爆撃を受けたチ級が、大破炎上している。

 

雪風「深雪、これでもう雷巡は魚雷を使えません!!」

 

深雪「雪風!重巡を仕留めるぞぉー!!」

 

雪風「雪風は沈みませんっ!」

 

 深雪と雪風は、リ級に雷撃を仕掛けるために接近する。

 

    ぐぉぉぉん

 

 リ級は、深雪に向かって雷撃を仕掛けてきた。

 

雪風「深雪!危ない!!」

 

 リ級に突進していた、深雪に魚雷が迫る。

 

深雪「来たなー!!」

 

 深雪は、海面でジャンプをしてリ級の魚雷を回避する。

 

雪風「すごい!!」

 

深雪「いつまでも、やられてばかりの深雪さまじゃないぞー!!」

 

 深雪は、海面に降り立ち雪風に接近する。

 

深雪「雪風!あれを使うぞぉー!」

 

雪風「はいっ!よろしくお願いします!!」

 

 深雪と雪風は、横一列に並んでリ級に迫る。

 

深雪「スーパー!」

 

雪風「雷撃!」

 

深雪・雪風「アターック!!」

 

 深雪の『61 cm三連装魚雷』と、雪風の『61 cm四連装魚雷』の、合わせて7本の魚雷が一斉にリ級に迫る。

 

    ぎゃぉぉぉん

 

 深雪たちの魚雷は全てリ級に直撃し、リ級は断末魔をあげながら海に沈んでいく。

 

深雪「やったぜー!!」

 

雪風「やったー!」

 

 深雪と雪風は、お互いにハイタッチをしながら喜びを分かち合う。

 

 大破していたチ級は、反撃できずに撤退して行った。

 

深雪「あっ、雷巡が逃げて行くぞ!」

 

雪風「深追いは危ないです!」

 

深雪「そうだったな、とにかく吹雪姉さんたちの救出には成功したんだ!」

 

雪風「作戦成功です!!」

 

 深雪と雪風が、撤退していくチ級を確認していると、後退していた吹雪と暁が近寄ってきた。

 

吹雪「深雪ちゃん、すごいよぉー!!」

 

暁「助けてくれて、ありがと。お礼はちゃんと言えるし」

 

深雪「うんうん、ちゃんとお礼ができて偉いなぁ~」

 

 上機嫌の深雪は、暁の頭をナデナデする。

 

暁「頭をなでなでしないでよ!もう子供じゃないのよ!」

 

雪風「でも、深雪の方が、暁ちゃんよりもお姉さんです!」

 

暁「お子様言うな!」

 

吹雪「あ、暁ちゃんは立派なレディーだよぉ」

 

暁「と、当然よ!」

 

 

 

 深雪たちは、勝利の余韻に浸っていた。

 

 しかし、その背後から巨大な艦影が迫って来ていることに、このとき4人は気が付いていなかったのである……




 今回は、友軍艦隊として新たな艦娘2名が登場しています。

 私の中の設定では、この世界では同じ艦娘が登場しないという設定なので、友軍として登場した艦娘たちは、建造などで美鈴のところには登場しません。

 まぁ、仲間にならないとは言いませんけどね~☆


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第13話 敵大型戦艦の脅威

美鈴「戦艦……、超弩級戦艦かぁ……、何だかカッコいい響きだなぁ~」

 

 深雪たちが重巡リ級と交戦していたころ、一人鎮守府で留守番中の美鈴は、町井田中尉からの補給物資に入っていた建造マニュアルを読んでいた。

 

美鈴「みんな、無事だろうか……、強力な大型艦の艦娘がいれば戦いも楽になるかなぁ……」

 

 美鈴は、鎮守府の資材の備蓄状況を確認しながら悩んでいた。

 

美鈴「戦艦狙いでの建造を試すのはできるけど、戦艦を運用するだけの余裕があるかなぁ……」

 

美鈴「空母もいいけど、ボーキサイトの消耗も気になるなぁ……」

 

美鈴「重巡洋艦も良さそうだし……」

 

 美鈴は、更に建造マニュアルを読み込む。

 

美鈴「とりあえず、戦艦狙いの資材を使ってみて、巡洋艦を狙うくらいの気持ちで良いかなぁ~」

 

 そう決めた美鈴は、工廠の妖精さんに資材を渡し、建造を依頼したのであった。

 

 

 

 美鈴が、新たな艦娘の建造を開始した頃、重巡リ級を撃破した深雪と雪風に天龍から通信が入る。

 

天龍「おい、聞こえるか!!」

 

雪風「こちら雪風、感度良好です!」

 

天龍「鳳翔さんの艦載機から、敵大型艦が接近中と連絡が入った!」

 

深雪「重巡ならさっきやっつけたよ」

 

天龍「ほかにも艦隊がいたんだ!とにかく後退してこっちと合流しろ!!」

 

     ドゴォォォン

 

 天龍と通信中、突然轟音が鳴り響き、上空から砲弾が迫ってきた。

 

暁「砲撃!来るわ!!」

 

吹雪「みんな、散開して!!」

 

 突然の砲撃は海面に落下し、誰にも直撃はしなかったものの、大きな水柱が立ち上る。

 

深雪「これって……」

 

吹雪「多分、戦艦クラスの砲撃だよ……」

 

雪風「天龍さん、敵艦隊に補足されました!多分戦艦クラスがいます!!」

 

天龍「くそっ、やっぱりそうか!すぐにそっちに行くから逃げ回れ!!」

 

雪風「はい、みんな沈むわけにはいきませんっ!」

 

 天龍との交信を終えた雪風は、双眼鏡で砲撃のあった方角を確認する。

 

雪風「敵艦隊、確認できました!!」

 

深雪「見えるか?」

 

雪風「大型の深海棲艦1、巡洋艦クラス2、駆逐艦クラス2です!」

 

吹雪「大型艦は、やっぱり戦艦?」

 

雪風「まだ、遠くてはっきりしませんが……」

 

深雪「やっぱり、さっきの重巡より大きいか?」

 

雪風「恐らくですが……、さっきの砲撃を考えると戦艦ル級かと……」

 

暁「ル級って……、あ、暁はへっちゃらだし……」

 

 強がる暁の声は、明らかに震えていた。

 

深雪「暁、今ウチの頼りになる増援が向かっているから、大丈夫だからな」

 

 おびえる暁に、深雪が優しく声を掛ける。

 

深雪「吹雪姉さんも、こっちの指示に従ってもらえるかな?」

 

吹雪「私も、暁ちゃんも被弾しているし、一緒に行っても良ければ」

 

雪風「もちろんです!困ったときはお互い様です!!」

 

深雪「当然だぜ!」

 

暁「……どうすればいいの?」

 

深雪「一旦、後退して天龍さんや鳳翔さんたちと合流するんだ!」

 

 

 

 深雪たちは、隊列を組んで後退を始めた。

 

 先頭は雪風が担当し、損傷が激しい暁が2列目、深雪と損傷が少なかった吹雪が後方で敵艦隊を警戒しながらの行軍であった。

 

 幸い航行速度が、敵艦隊よりも早かったため、大型艦からの砲撃数発程度の追撃ですんでいた。

 

 天龍たちと合流するため、戦闘区域から鎮守府方向へ進路をとっていた深雪たちに、再び天龍から通信が入った。

 

天龍「こちら天龍、聞こえるか?」

 

雪風「雪風です、大丈夫です!」

 

天龍「オレたちは今、お前たちの西方向800の位置にいる」

 

 天龍からの連絡を受けた雪風は、双眼鏡で西方向を確認する。

 

雪風「確認できました!」

 

天龍「これから、鳳翔さんの艦載機で深海棲艦に攻撃を仕掛ける」

 

天龍「その間に、こっちに合流できるか?」

 

深雪「天龍さん、了解!そっちに向かうよ!!」

 

天龍「けがしているヤツはいるか?」

 

深雪「吹雪姉さんが小破、暁が中破ってところかな?」

 

天龍「なら合流後は、その2人は鳳翔さんと後方待機で、元気なヤツらはオレと一緒に突撃をかけるぞ!!」

 

深雪「わかったよ!」

 

雪風「了解です!!」

 

暁「わ、私も行けるわ!!」

 

吹雪「暁ちゃん、ワガママ言っちゃダメだよぉ~」

 

暁「暁は、一人前のレディーだから大丈夫なのよ!」

 

 暁が、自分も突撃部隊に加わると主張するのに対し、深雪はそっと暁の頭をなでる。

 

深雪「空母を守るのも、大切な仕事だぜ」

 

暁「頭をなでなでしないでよ!」

 

深雪「ウチの鳳翔さんを、一人前のレディーに守ってもらいたいんだ」

 

暁「……そう言うことなら仕方ないわね」

 

吹雪「(何だか深雪ちゃんが、暁ちゃんの扱い方うまいよぉ)」

 

 

 

 鳳翔が、『九九式艦爆』と『零式艦戦21型』を発艦させて、深海棲艦艦隊に先制航空攻撃を仕掛ける。

 

鳳翔「艦載機より入電、敵大型艦は戦艦ル級と判明、他に雷巡チ級、軽巡ヘ級、駆逐イ級2隻の計5隻と判明!」

 

天龍「こっちも、深雪たちと合流して5人だ!!」

 

白雪「負傷してますが、友軍の吹雪姉さんと暁ちゃんもいます」

 

鳳翔「頭数では、負けていないですね」

 

天龍「鳳翔さん、航空支援は任せたぜ!」

 

鳳翔「皆さんも、無茶はしないでくださいね」

 

 鳳翔の航空部隊が、深海棲艦艦隊と交戦を始めた頃、深雪たちは天龍たちと合流した。

 

天龍「よぉし、来たなチビたち!!」

 

深雪「深雪さま合流だぜぇ!」

 

暁「チビですって、子供扱いしないでよ!!」

 

鳳翔「暁さん、よろしくお願いしますね」

 

暁「えっ?あ……はい。(この人、レディーだわ)」

 

白雪「吹雪ちゃんも、鳳翔さんをお願いします」

 

吹雪「白雪ちゃん!任せてよ!!」

 

 

 

    ヒュゥゥゥン ドガァァァン

 

 深海棲艦の部隊に対して、鳳翔の艦載機による爆撃が始まった。

 

 鳳翔の『九九式艦爆』は、深海棲艦の対空射撃をくぐり抜け、戦艦ル級へ爆撃を仕掛ける。

 

 回避が間に合わないル級に対し、雷巡チ級と駆逐イ級がル級の前方に出てきて爆撃を肩代わりする。

 

 航空爆撃は、鳳翔の狙い通りには行かずル級は無傷であったが、チ級が小破、イ級1隻が大破の損害を与えた。

 

天龍「よしっ!敵に休む暇を与えるな!天龍、水雷戦隊、突撃するぜぇ!!」 

 

 天龍の号令で、深海棲艦艦隊に天龍、深雪、雪風、白雪が突撃を仕掛ける。

 

天龍「天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」

 

 天龍が単装砲で、チ級に攻撃を仕掛ける。

 

    ぎゃぁぁぁ

 

 天龍の砲撃は、チ級に直撃しチ級は大破し黒煙を上げている。

 

雪風「艦隊をお守りします!」

 

 天龍に続いて雪風が、無傷のイ級に連装砲で攻撃をしかける。

 

    ぐぉぉぉん

 

 雪風の攻撃が直撃したイ級は、断末魔をあげながら海に沈んでいく。

 

    ごぉぉぉん

 

 仲間の撃沈に怒ったル級は、深雪に三連装砲で艦砲射撃をしかける。

 

深雪「右!? いや、正面か!」

 

 ル級の砲撃に、間一髪で回避行動をとった深雪であったが至近弾による爆風で損傷を受ける。

 

深雪「いっつつつつ……」

 

白雪「深雪ちゃん!よくもぉ!!」

 

 白雪が、連装砲でル級に攻撃をしかける。

 

    ガァァン ガァァン

 

 白雪の砲撃は、ル級に直撃したが、目に見えるダメージを与えられなかった。

 

白雪「くっ……」

 

天龍「駆逐艦の砲撃じゃ、ル級は無理だ!イ級を狙え!!」

 

深雪「よぉぉし、当ったれぇ~い!!」

 

 天龍の指示を受けた深雪は、大破しているイ級に砲撃をしかける。

 

    ぐぉぉぉん

 

 イ級に深雪の砲撃が直撃し、イ級は断末魔を上げながら沈んでいった。

 

 

 

鳳翔「今です、第二次攻撃を仕掛けます!!」

 

 天龍たちの善戦で半壊した深海棲艦艦隊に、再度航空攻撃を仕掛けようと、鳳翔が弓を引き絞り狙いを定める。

 

    ぎゃぉぉぉん

 

 今まさに、鳳翔が艦載機を発艦させようとしたそのとき、鳳翔の周辺に4隻のイ級が出現した。

 

鳳翔「深海棲艦の伏兵!?」

 

    ドゴォォォン

 

 イ級の1隻が鳳翔に砲撃をしかける。

 

鳳翔「ああっ!飛行甲板が!」

 

 イ級からの不意打ちを受けた鳳翔は、中破し飛行甲板と弓が破壊されてしまった。

 

吹雪「鳳翔さん!!」

 

暁「許さない……許さないんだから!」

 

 一人前のレディーと認めた鳳翔を目の前で傷つけられたことに激怒した暁は、連装砲でイ級に猛攻撃をしかける。

 

    ガァァン ガァァン

 

 暁の攻撃は、鳳翔を攻撃したイ級に直撃したが、中破して出力が低下している暁では仕留めることができず、イ級は小破にとどまった。

 

暁「そ、そんなぁ、直撃したのに……」

 

    ドゴォォォン ドゴォォォン

 

 仲間を損傷させた暁に、怒ったイ級に3隻が集中攻撃を仕掛けてくる。

 

鳳翔「くっ、目の前で仲間をやらせる訳には……」

 

 鳳翔は暁の正面に飛び込み、イ級にからの攻撃を肩代わりする。

 

暁「あっ……、鳳翔さん……」

 

鳳翔「大丈夫……、このまま沈む訳には参りません……」

 

 大破した鳳翔は、自力で立ち上がることもできず、徐々に海面に沈んでいきそうになっている。

 

吹雪「うわぁぁぁ、みんな逃げてください!!」

 

 吹雪は、単艦でイ級に砲撃を仕掛けてイ級を撃破しようとするが、イ級1隻を中破させるのが精一杯であった。

 

 

 ル級、チ級と対じしていた天龍は、鳳翔たちの異変に気がつく。

 

天龍「しまった!鳳翔さんたちが伏兵にやられてる!!」

 

雪風「でも、こっちも手一杯です!」

 

天龍「ちきしょう、さっさとこいつらをぶっ飛ばしてやるぞ!!」

 

 焦る天龍は、単艦でル級に突撃をしかける。

 

天龍「こいつはオレが押さえる、チビたちはチ級を仕留めろ!!」 

 

深雪「わかった!」

 

 深雪は、天龍の指示に従い連装砲でチ級に猛攻をしかける。

 

    ぎゃぁぁぁ

 

 深雪の攻撃は、チ級に直撃するがあと一歩で撃沈させることができない。

 

白雪「吹雪ちゃん!何とか耐えていて!!」

 

 深雪に続いて白雪が、連装砲でチ級を攻撃する。

 

    ぐぉぉぉん

 

 白雪の攻撃を受けたチ級は、断末魔をあげながら海に沈んでいった。

 

天龍「よくやった!天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」

 

 チ級の撃破を確認した天龍は、ル級に魚雷と単装砲の狙いを定めながら突撃していく。

 

 天龍の突撃に気が付いたル級は、近づけまいと三連装砲で天龍に狙いを定めて射撃体勢に入る。

 

天龍「こちとら相打ち上等だぁ!ビビってんじゃねぇぞ!!」

 

 天龍は、ル級の三連装砲に臆することなく単装砲と魚雷を発射する。

 

 ル級も、天龍に狙いを定めた三連装砲で迎え撃つ。

 

    ドゴオォォォン

 

天龍「ぐわぁぁぁ!」

 

 ル級の砲撃が直撃した天龍は、三連装砲の砲撃に耐えられずに宙に舞い水面にたたきつけられる。

 

    ごぉぉぉぉん

 

 天龍の決死の攻撃も、ル級に直撃したが損傷は少なく小破した程度であった。

 

天龍「このオレがここまで剥かれるとはな……、チビども逃げて鳳翔さんの所に行くんだ!!」

 

 大破し思うように動けなくなった天龍は、深雪たちに鳳翔隊の救援に行くように指示を出す。

 

深雪「天龍さんも逃げよう!!」

 

天龍「バカ野郎、オレも下がったらル級が追ってくるだろうが……」

 

雪風「なら、雪風が時間を稼ぎますから天龍さんも逃げてください!!」

 

天龍「鳳翔さんたちもヤバイんだ……、お前たちで早くイ級をぶっ飛ばしてこい!!」

 

白雪「でも、そしたら天龍さんが……」

 

天龍「オレは天龍……、世界水準軽く超えてるんだ……こんなところじゃ死なねぇよ」

 

深雪「くっ、白雪姉さんと雪風は鳳翔さんの援護を!天龍さんは深雪さまが連れて行く!!」

 

 深雪は、白雪と雪風に鳳翔隊の援護を指示し、天龍を肩で担いで曳航を始める。

 

雪風「……わかりました、白雪さん!行きましょう!!」

 

白雪「深雪ちゃん……、お願いね……」

 

 雪風と白雪は、天龍を深雪に託して鳳翔隊の援護に向かう。

 

天龍「深雪!離せ!! オレを戦線離脱させるな!!」

 

深雪「天龍さん、美鈴の下に帰らないつもりかよ……」

 

天龍「帰りてぇよ……、でもこのままじゃ、お前もやられちまうぞ……」

 

深雪「それは、やってみなくちゃ、わからないだろ……」

 

 深雪は、ル級を牽制しながら天龍を曳航し撤退を始めた。

 

 

吹雪「暁ちゃんも、鳳翔さんもやらせないんだから!!」

 

 吹雪は、イ級4隻を相手に砲撃を続けて大破した鳳翔からイ級を引き離そうとする。

 

 無傷のイ級2隻と小破したイ級1隻が、吹雪の誘いに応じて吹雪を追ってきたが、中破したイ級は鳳翔にトドメを刺そうと鳳翔に向かっていく。

 

吹雪「そんなっ! ダメですぅ!」

 

鳳翔「これが実践なのね……」

 

 イ級の接近に気づいた鳳翔は、立ち上がろうとするが身体に力が入らず海面に倒れ込んでしまう。

 

    がぉぉぉん

 

 中破したイ級は、口を開いて鳳翔へ砲撃しようと近づいてくる。

 

暁「やぁ!」

 

 鳳翔の影から暁が飛び出し、中破したイ級に連装砲を発砲する。

 

 不意をつかれたイ級は、暁の砲撃に対応できず直撃を受けて大破する。

 

暁「まだ、生きているの……」

 

 大破したイ級は、狙いを暁に切りかえて砲撃をしてくる。

 

暁「きゃあっ!」

 

 イ級の砲撃を回避できなかった暁は、大破し海面にたたきつけられてしまう。

 

 

 

吹雪「暁ちゃん!!」

 

 イ級を3隻に囲まれた吹雪は、鳳翔と暁の援護に向かうために、イ級の包囲を突破しようとするが、1対3ではなかなか状況を打破できなかった。

 

吹雪「うぅぅ、私の練度が足りないばかりに……」

 

    ドォォン ドォォン

 

 吹雪が手をこまねいていたとき、イ級に向かっての砲撃を確認した。

 

白雪「吹雪ちゃんは私が援護します、雪風ちゃんは鳳翔さんのところへ!!」

 

雪風「はい!絶対、大丈夫!」

 

 天龍隊から援護のため駆けつけた雪風と白雪が、吹雪の援護のためにイ級へ砲撃を仕掛けたのであった。

 

吹雪「白雪ちゃん!!」

 

白雪「吹雪ちゃん!今よ!!」

 

吹雪「そうだね、私がやっつけちゃうんだから!」

 

 援軍に戦意を取り戻した吹雪は、連装砲でイ級に狙いを定める。

 

吹雪「いっけぇ!」

 

 狙いを定めた吹雪の砲撃は、無傷のイ級を直撃し撃破に成功する。

 

白雪「吹雪ちゃんに続くわ。狙いよし、撃ち方はじめ……」

 

 吹雪に引き続き、白雪もイ級に砲撃を加え、直撃した小破していたイ級の撃破に成功した。

 

吹雪「あと1隻!」

 

白雪「特型駆逐艦の力、見せてあげましょう!」

 

吹雪・白雪「魚雷、一斉発射!!」

 

 白雪と吹雪が同時に、『61 cm三連装魚雷』を発射し、イ級をとらえる。

 

    ぐぉぉぉん

 

 魚雷の直撃を受けたイ級は、大爆発を起こして悲鳴を上げながら水底に沈んでいった。

 

雪風「雪風は沈みませんっ!」

 

 白雪たちが、イ級を全滅させたころ、鳳翔と暁のもとに駆けつけた雪風も大破していたイ級の撃破に成功し、鳳翔隊に奇襲を仕掛けてきた伏兵部隊の壊滅に成功した。

 

 

 

天龍「砲撃、正面だ!来るぞ!!」

 

深雪「絶対帰るんだぁ!!」

 

 天龍を曳航して撤退中の天龍と深雪は、ル級の追撃を受けていた。

 

天龍「右だ!右に回避しろ深雪!!」

 

深雪「くっそぉ、早く諦めてくれよぉ~」

 

 曳航される天龍は、的確に深雪に回避指示を出し、深雪も天龍の指示通りル級の砲撃を回避していく。

 

 単艦での航行速度なら、簡単に引き離すことができるル級ではあるが、天龍を曳航している深雪ではル級を引き離すことができず、逆に徐々に距離を詰められていた。

 

天龍「すまない、オレがル級にもっと損害を与えていれば……」

 

深雪「ル級が化け物すぎるんだ、魚雷だって直撃したのに……」

 

天龍「オレにもっと力があれば……」

 

そのとき、曳航されている天龍に雪風から通信が入る。

雪風「天龍さん、雪風です!」

 

天龍「あぁ、聞こえているぜ」

 

雪風「深海棲艦の伏兵部隊を全滅させましたが、鳳翔さんと暁さんが大破で航行不能です!」

 

天龍「雪風と白雪は無事か?」

 

雪風「はい!雪風も白雪さんも損傷軽微で、吹雪さんも小破ですが航行できます!」

 

天龍「なら、鳳翔さんを白雪と吹雪で曳航して、暁は雪風が曳航してやってくれ」

 

雪風「そちらには向かわなくて、大丈夫でしょうか?」

 

天龍「こっちには、深雪がいてくれている」

 

雪風「しかし、ル級はまだ健在です!」

 

深雪「ル級は、深雪さまが何とかする!雪風たちは、鳳翔さんたちを早く鎮守府へ!!」

 

雪風「深雪も、天龍さんも、絶対帰ってきてください!!」

 

天龍「たりめーだろ!オレは天龍様だぜ!!」

 

深雪「深雪さまが、どん亀の戦艦なんかに負けるかよ!」

 

白雪「負傷者を鎮守府まで曳航したら、助けに戻ってきます」

 

天龍「ははっ、逃げ切ってから待ってるぜ!」

 

雪風「それでは、また後で会いましょう!!」

 

 雪風たちは通信を終了すると、天龍の指示通り大破して単時航行不能な鳳翔と暁の曳航を始める。

 

 

 

鳳翔「私としたことが、無茶をしてしまい……、ダメですね」

 

吹雪「鳳翔さんのおかけで、暁ちゃんは何とか無事でした。ありがとうございます」

 

白雪「鳳翔さんは、怪我がひどいので私たち2人で曳航しますね」

 

鳳翔「両足をやられてしまいました……、迷惑をかけます」

 

 両足を負傷し、自力で立つことができない鳳翔は、白雪と吹雪に両脇を抱えられて曳航される。

 

雪風「暁さんは、雪風が曳航します!」

 

暁「エスコートされるのも、レディーのたしなみよね……」

 

雪風「暁さんは、立派に戦ったと思います!」

 

暁「と、当然よ!」

 

雪風「暁さんの勇気には、雪風も勇気づけられました!!」

 

暁「暁はレディーとして、当然のことをしたまでよ!」

 

 暁と雪風のやり取りを、鳳翔たちは後方から見守っていた。

 

鳳翔「ふふ、暁ちゃんが元気で何よりですね」

 

吹雪「あの子、変にプライドが高くて……」

 

白雪「それが、暁ちゃんの活力になっているのでしょうか?」

 

鳳翔「見た目は幼くても、立派なレディなのかしらね」

 

吹雪「それ、暁ちゃんが聞いたら喜びますよ」

 

 

 

天龍「ちぃ、また少し追いつかれてきたぜ!」

 

深雪「くっそぉ、深雪さまにもっと力があれば……」

 

天龍「すまねぇな、深雪。無理させちまってよ……」

 

深雪「前、天龍に助けてもらった恩もあるし、何とか鎮守府に連れて帰るから!」

 

天龍「くっ、また砲撃体制に入りやがった!」

 

深雪「くそー、当たるもんかぁ!!」

 

天龍「くるぞ、気をつけろ!!」

 

 

 戦艦ル級が健在の中、天龍と深雪の撤退作戦が始まるのであった。




 前回からの引き続きの話になっています。

 前回からのシーンは、本家『艦隊これくしょん』の1-3『製油所地帯沿岸 』で、初めて深海棲艦の重巡や戦艦と戦うことになる海域をイメージしたストーリーになっています。

 今回も戦闘メインなので、美鈴の出番があまりない……

 このままじゃ、ただの建造大好きお姉さんになってしまう気がしますが、美鈴の活躍はちゃんと構想には入っていますよ。

 ……予定は未定ですが(笑)


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第14話 瑞雲とぶ

    ドゴォォォン ドゴォォォン ドゴォォォン

 

 戦艦ル級の、執拗な追跡・砲撃が続いていた。

 

深雪「はぁ、はぁ、まだ来るのかよぉ~」

 

天龍「情けねぇ、オレがこんな状態じゃなければ……」

 

 大破し深雪に曳航されている天龍は、自分の現状を悔やんでいた。

 

深雪「雪風たちが鎮守府についたら、助けに戻ってくるからそれまでの辛抱だよ」

 

天龍「美鈴のことだ、きっとまた建造してるに違いないから、援軍も増えるはずだぜ」

 

 実際に、艦娘たちが出撃中に建造を始めたのは、鳳翔が建造されたときのみなのだが、出撃前に建造を始めて戦闘中に完成し、救援に駆けつけた天龍の印象が強いのか、天龍と深雪の中では美鈴は建造好きだというイメージが定着していた。

 ちなみに、この2人はまだ知らないが、本当に今回も美鈴は建造を行っているので、2人のイメージは間違いではない。

 

天龍「しかし、敵がル級1隻だけで良かったぜ、足の速い駆逐艦や巡洋艦クラスが生き残っていたら、オレたちだけじゃなく鳳翔さんたちも追撃を受けていたかもしれないからな」

 

深雪「ル級たちに遭遇する前、重巡の艦隊にいたチ級は大破して撤退したし、ル級の艦隊にいたチ級もイ級2隻もやっつけれたからな~」

 

 そのとき、天龍の顔が青ざめていた。

 

天龍「おい……、ル級の艦隊って、他にいたのチ級とイ級2隻だけだったか?」

 

深雪「えっ?雪風が目視したときも、鳳翔さんの艦載機からの連絡でも……」

 

 天龍の質問で、記憶を思い起こした深雪も一瞬言葉を失った。

 

天龍・深雪「軽巡のヘ級が生き残っている……」

 

 

 その頃、大破した鳳翔と暁を曳航中の、雪風たちは天龍たちから既に数キロ離れた地点を航行中であった。

 

白雪「この調子だと、想定より早く鎮守府へ帰還できそうですね」

 

鳳翔「私はこんな調子ですが、白雪さんと吹雪さんのおかげで順調に進めています」

 

吹雪「白雪ちゃんと私は姉妹ですから、身長差も体格差もないから曳航もスムーズです」

 

鳳翔「ただ……、何かしら、何か嫌な予感がするの……」

 

 ふと鳳翔が、不安を口にしたとき、暁を曳航して鳳翔たちに追従していた雪風から緊急連絡が入った。

 

雪風「大変です!後方から深海棲艦1隻が接近してきます!!」

 

暁「まさか、ル級なの?」

 

吹雪「そんなぁ、深雪ちゃんたちがやられちゃったの?」

 

雪風「ル級じゃないです!もっと早い!巡洋艦クラスです!!」

 

 雪風の報告を聞いた鳳翔は、一瞬で顔を青ざめた。

 

鳳翔「私としたことが、うかつでした……」

 

白雪「鳳翔さん?」

 

鳳翔「艦載機からの敵艦隊の報告では、ル級、チ級、へ級、イ級2隻の確認報告がありました」

 

白雪「私たちが撃退したのは、チ級とイ級2隻……」

 

暁「へ級をやっつけてないじゃない!!」

 

吹雪「そ、そんなっ!ダメですぅ!」

 

雪風「雪風も、双眼鏡で見てたはずなのに……」

 

鳳翔「爆撃と水雷戦の二段構えの攻撃で見落としていました……」

 

 通常時であれば、駆逐艦の艦娘たちは深海棲艦の軽巡に速力で劣ることはなく、へ級を振り切ることができたかもしれないが、大破艦2隻を曳航中であるため速力が出せない状態であり、軽巡ヘ級がみるみる近づいてきていた。

 

雪風「深海棲艦を視認!軽巡ヘ級です!!」

 

 

 雪風たちがヘ級の追撃を受けていたころ、龍星鎮守府の提督室で艦娘たちの帰りを待っていた美鈴のもとに建造完了の知らせが入った。

 

美鈴「そういえば、もう建造開始してから4時間位していたなぁ」

 

美鈴「みんなの帰りも遅くて心配だし、新しい艦娘さんに見に行ってもらおうかなぁ」

 

 戦場の様子が分からない美鈴は、とりあえず工廠に向かい建造された艦娘と会うことにした。

 

美鈴「そういえば、建造したときに建造予定時間を聞いてなかったし、今までこんなにかかったことなかったなぁ~」

 

 天龍が建造されたときは1時間、鳳翔が建造されたときは2時間と、完成する艦娘によって建造時間異なることはわかっていた。

 また、町井田からもらった建造の資料でも、大型の艦船になるほど建造時間がかかるというようなことが書かれていたので、今回のように4時間くらい建造に時間がかかったということは、かなりの艦娘が完成したのであろう。

 

美鈴「きっとウワサの、戦艦や正規空母って娘が来てくれたんだ!」

 

 美鈴は、意気揚々と工廠へと向かっていった。

 

 

    ドゴォォォン ドゴォォォン ドゴォォォン

 

深雪「くっそー、このままじゃル級に追いつかれちゃうぜ」

 

天龍「くっ……、そろそろ覚悟を決めるか……」

 

深雪「天龍さん、『オレを置いて逃げろ!』とかっていうのは無しだからな」

 

天龍「深雪……」

 

深雪「苦しいときも、つらいときも仲間がいれば乗り越えられるんだ、誰かが犠牲になって生き残るなんて無しだよ……」

 

天龍「くっ……、それはそうだけど……」

 

 天龍は、思わず天を仰いだそのとき、上空から複数のプロペラ音が聞こえた気がした。

 

天龍「ん……、空からなにか聞こえねぇか?」

 

深雪「えっ?」

 

 天龍の言葉に、深雪は上空を見上げる。

 

     ブゥゥゥゥン

 

 深雪が耳を澄ませていると、西方向から複数のプロペラ音が聞こえてきた。

 

深雪「これは……、鳳翔さんの艦載機?」

 

天龍「いや、ちょっと音が違う……、それに鎮守府からの方角じゃない」

 

深雪「まさか、新手の深海棲艦!?」

 

 深雪と天龍が、西方向の上空を 確認していると、緑色の機体にフロートのついた、鳳翔の艦載機とは違う形状の機体が見えてきた。

 

深雪「あの機体は?」

 

天龍「水上偵察機?いや、あれは!」

 

深雪「天龍さん、わかるのか?」

 

天龍「あれは、E16A『瑞雲』だ!」

 

 

 深雪たちが、瑞雲の小隊に気が付いたとき、天龍に通信が入った。

 

女性の声「どこの所属か知らないが、追われているようだな」

 

天龍「艦娘か?」

 

女性の声「私は、紅月(こうげつ)鎮守府所属の航空戦艦日向だ、遠征中にはぐれた駆逐艦2名を探している」

 

深雪「それって、吹雪姉さんと暁のことか?」

 

日向「2人を知っているのか?」

 

天龍「戦闘中に負傷して、オレの仲間と一緒にうちの鎮守府へ向かってる」

 

別の女性の声「2人を保護してくれているんだね、ありがとう!」

 

天龍「あの瑞雲は、アンタたちのか?」

 

別の女性の声「そうだよ、あれはボクと日向さんの艦載機さ」

 

別の女性の声「あっ、ボクは日向さんと同じ、紅月鎮守府所属の航空巡洋艦最上さ、よろしくね!」

 

日向「君たちも、随分やられているようだし、ル級に追われているのか……」

 

天龍「はは、見ての通りさ」

 

日向「これも、瑞雲が導いてくれた縁だ、吹雪たちも世話になったようだし、行くぞ最上!!」

 

最上「航空戦艦と航空巡洋艦の実力、見せてあげるよ!!」

 

 日向と最上からの通信が終わると、上空の瑞雲小隊がル級に向かって突撃していく。

 

    ドガァァァン ドガァァァン

 

 瑞雲小隊がル級に爆撃を行うと、西方向から2人の艦娘たちの姿が現れた。

 

日向「艦載機を放って突撃。これだ……」

 

最上「出るの!? そうこなくっちゃ!」

 

 日向と最上は、瑞雲の爆撃によって中破したル級めがけて、一斉射撃を行う。

 

    ぐぎゃぁぁぁ

 

 日向たちの砲撃を受けたル級は、大破し悲鳴を上げている。

 

深雪「あれでも、まだ生きているのか!?」

 

日向「航空戦艦の真の力、思い知れ!」

 

 砲撃のため、一旦退避していた瑞雲小隊が再度ル級に爆撃をしかける。

 

    ぐぉぉぉ

 

 再三の攻撃を受けたル級は、もがき苦しみながら海に沈んでいった。

 

 

深雪「ル級を倒したぞ!」

 

天龍「しかし、ヘ級の姿が見当たらない、鳳翔さんたちを追っているのか?」

 

 ル級の撃破を確認した日向と最上は、瑞雲を収容し深雪たちに近寄ってきた。

 

最上「うわぁ、君随分やられてるじゃないか……」

 

 大破して、深雪に曳航されている天龍をみた最上は、天龍を気遣った。

 

天龍「すまないな、オレたちは龍星鎮守府所属の軽巡洋艦天龍と」

 

深雪「駆逐艦の深雪さ」

 

日向「ふむ、天龍と深雪か、駆逐艦1隻で巡洋艦の曳航は大変だろう」

 

最上「ボクが手伝うよ!」

 

天龍「すまないな、助かる」

 

日向「しかし、龍星鎮守府……、聞いたことがないな……」

 

深雪「ついこの間、できたばかりだからなぁ~」

 

最上「もしかして、本土の輸送隊の町井田中尉を助けたっていう再建途中の鎮守府かな?」

 

天龍「あぁ、つい先日鎮守府が完成して龍星鎮守府と名乗ったんだ」

 

日向「そうか、吹雪たちとも合流したい、案内を頼めるかな?」

 

天龍「あぁ、それは大丈夫だが、ひとつ問題があってな」

 

最上「何だい?」

 

深雪「吹雪姉さんと、暁は大破した仲間たちと先行して鎮守府に帰還中なんだけど」

 

天龍「さっきのル級の小隊にいた、軽巡ヘ級が戦闘中にいなくなっているんだ」

 

最上「それって、追撃されてる可能性があるってことかい?」

 

日向「まずいな……、方角はわかるか?」

 

深雪「龍星鎮守府はあっちの方向、吹雪姉さんたちはそっち方向へ先行している」

 

 深雪は、現在地から北東にある鎮守府方向を指さした。

 

日向「私の瑞雲で偵察してみよう」

 

天龍「無事だと良いんだが……」

 

 日向は、艦載機である瑞雲1個小隊を発艦させ、鳳翔たちがいる方角の偵察に向かわせたのだった。




 第12話から続いている、本家『艦隊これくしょん』の1-3『製油所地帯沿岸 』をモチーフとした話もこれで3話目になりました。
 当初の予定では、2話で完結するつもりだった1-3ですが、なんだかんだで倍の4話を使ってしまいそうです(笑)

 題名を見て分かるとおり、先日よみうりランドで行われていた、鎮守府第二次瑞雲祭りでも大人気だったあの艦載機が登場します!!

 ボクは、瑞雲祭りに参加できませんでしたが、いつかは1/1のあの機体を見たいですねぇ~(pixiv投稿時の2018年6月9日のコメントです)


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第15話 バーニング・ラヴ

    ブゥゥゥン

 

 日向から発艦した瑞雲小隊が、北東の方向へ鳳翔たちの確認と、見失った軽巡ヘ級の捜索を実施していた。

 

日向「瑞雲の航続距離では、それほど遠くまでの捜索は厳しいな」

 

深雪「吹雪姉さんや、暁も龍星鎮守府へ向かっているし、そっちの方向に行こうぜ」

 

最上「ボクたちも捜索で燃料を消耗しているし、君たちの鎮守府へ行くと帰還が難しくてねぇ~」

 

天龍「ウチのめいり……、いや、ウチの提督なら、補給ぐらい文句も言わずにしてくれるはずだぜ」

 

日向「しかしな……」

 

深雪「なぁに、日向さんや最上さんは、恩人だしお礼くらいさせてくれよ」

 

最上「まぁ、大破している他の鎮守府の艦娘を、所属の鎮守府へ連れて行ってたと言えば、ウチの提督も納得してくれるよ」

 

日向「どっちにしろ、吹雪と暁を迎えに行く必要もあるし、龍星鎮守府へ向かうとしようか」

 

 深雪と天龍は、ヘ級が鳳翔たちを追跡している可能性を視野に入れつつ、日向、最上とともに龍星鎮守府のある北東方面へ進行を始めた。

 

 

 その頃、龍星鎮守府では……

 

美鈴「さて、新しく来てくれた艦娘はどんな娘かなぁ~」

 

 建造完了の報告を受けて、美鈴は工廠へとやってきていた。

 

 工廠の妖精さんに案内されて、工廠の扉の前に立ち扉に手を触れると、扉の奥から黄金色の光があふれてきた。

 

美鈴「うっ……、何だか天龍や鳳翔さんのときと雰囲気が違う気がする……」

 

 やがて、光の中から白い巫女服のような服を着た、栗色のロングヘアーの女性が現れた。

 

美鈴「巫女服に茶系の髪……、博麗の巫女!?」

 

 美鈴は、工廠から出てきた艦娘の特徴から、幻想郷で最強の呼び声も高い博麗霊夢を思い出したのだが、よく見ると霊夢よりも背が高く、体格も大人びており顔も別人であった。

 

巫女服の艦娘「英国で産まれた帰国子女の金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」

 

 金剛と名乗った女性は、左手を突き出して元気よく自己紹介をしてきた。

 

美鈴「私は、紅美鈴デース!この鎮守府で提督をしてマース!」

 

 美鈴は、思わず金剛の勢いに乗せられて、妙な口調で挨拶をしてしまった。

 

金剛「Wow!ノリの良い提督さんですネー!!」

 

美鈴「えっ、あぁ……、えへへ」

 

金剛「うーむ、Prettyな提督さんですネー!」

 

美鈴「あ、あの、金剛さんはもしかして外国の艦娘さんとかですか?」

 

金剛「私は、超弩級戦艦として建造技術導入を兼ねて英国ヴィッカース社で建造された帰国子女なのデース!」

 

金剛「生まれはイギリスでも、育ちも心も立派な日本人ですヨー、チョット英国なまりがあるかも知れませんが許してほしいデース!」

 

美鈴「ははは……(なまりというか語尾が何とも外国人な人だなぁ~)」

 

美鈴「それよりも、今さらっと超弩級戦艦って言いませんでした?」

 

金剛「Yes!英国生まれですが、日本初の超弩級戦艦として生まれ、私を参考に次々と日本で建造された超弩級戦艦の姉として頑張ったネー!」

 

美鈴「超弩級戦艦ってすごく強そうですよね~」

 

金剛「まぁ、後から建造された扶桑型や伊勢型、長門型には火力や装甲では負けてますが、高速力では負けてないネー!」

 

美鈴「パワーでは多少劣っても、スピードとテクニックでは負けないってやつですね」

 

金剛「Oh!提督は良いこと言うネー!!」

 

 金剛のノリと勢い、美鈴自身の『超弩級戦艦がやって来た』という興奮から、話が盛り上がっていたが、美鈴は出撃からまだ帰還していない艦娘たちのことを思い出す。

 

美鈴「来てくれたばかりのところ申し訳ないのですが……」

 

金剛「うーん、何デース?提督~」

 

美鈴「出撃中の艦娘たちが、もう大分たつのに帰ってこなくて心配なのです」

 

金剛「ふ~む、なるほどですネー」

 

 金剛は、艦娘のことを心配する美鈴の表情を見つめていた。

 

金剛「なるほど~、提督は優しい人のようですネー」

 

美鈴「えっ?」

 

金剛「提督の悩みは、金剛が解決するデース!」

 

 金剛は、美鈴に告げると艤装を装着して出撃の準備をし始める。

 

金剛「もう大丈夫ネー!私に任せるデース!!」

 

 

    ドォォン ドォォン

 

 鳳翔たちを、射程に捉えた軽巡ヘ級は暁を曳航している雪風を狙って砲撃を仕掛けて来る。

 

 雪風が航行していた場所に着弾した砲弾が、炸裂し爆煙と水柱が立ち上る。

 

鳳翔「雪風さん!暁さん!!」

 

 ヘ級の攻撃を確認していた鳳翔が、思わず悲鳴をあげる。

 

 爆煙がはれて、視界が広がると砲撃を回避していた雪風と暁の無事が確認できた。

 

雪風「雪風も、艦隊も沈みません!!」

 

暁「あ……、当たったかと思った……」

 

鳳翔「良かった……」

 

白雪「でも、このままじゃ……、すぐに追いつかれます」

 

吹雪「こ、このままじゃ……」

 

    カシャッ ズシュッッ

 

 ヘ級は、続けて雪風に魚雷を発射する。

 

暁「ぎょっ……、魚雷よ!!」

 

 ヘ級の魚雷を確認した暁は、雪風に魚雷が発射されたことを必死に伝えようとする。

 

 しかし、雪風は回避行動を取ることもせずに、直進を続ける。

 

暁「来るわよ!きゃぁぁ!!」

 

 魚雷の接近に慌てる暁をよそに、雪風は魚雷を一瞥もせずに前進を続ける。

 

雪風「暁さん、大丈夫!!」

 

 雪風が、自信にあふれた口調で暁に答えた瞬間、魚雷の複数の航跡が雪風と暁の両脇を通り過ぎていく。

 

暁「奇跡的に外れてくれたわ……」

 

雪風「奇跡じゃないですっ!」

 

 雪風と暁のやり取りを見ていた鳳翔は、雪風の動きに注目していた。

 

鳳翔「確かに、今のは奇跡じゃないですね……」

 

吹雪「どういうことですか?」

 

鳳翔「魚雷が発射された瞬間、雪風さんは普通に前進しているように見えるけど、かすかに右方向に軌道を変えていたわ……」

 

白雪「そうなのですか?」

 

鳳翔「恐らく魚雷の発射音と、推進音で魚雷の発射角度を読み切っていたんだわ……」

 

吹雪「そんな神業のようなことを!?」

 

鳳翔「さっきから、雪風さんは砲撃も雷撃も全て目で見ずに回避しているわ」

 

吹雪「さっきからそんな離れ業を!?」

 

白雪「確かに、今まで雪風ちゃんがまともに被弾したところは、見たことないですね……」

 

鳳翔「訓練のときにも感じたのですが、集中力が高まったときの雪風さんには、まるで敵の攻撃の軌道が見えているようなときがありますね」

 

吹雪「軌道が見える?」

 

白雪「私も雪風ちゃんと訓練しているとき、まるで最適な回避コースのラインが見えているのはないかと思うときがあります」

 

吹雪「ラインが見える?」

 

鳳翔「臆測ですが、そのくらい回避に関しては類い稀な才能を感じますね」

 

 暁を曳航しているにも関わらず、次々とヘ級の攻撃を最低限の動きで回避する雪風を見て鳳翔たちは感心していた。

 

 

暁「ゆ、雪風!もっと早く逃げれないの?」

 

雪風「速度はこれ以上無理ですが、当たりません!!」

 

暁「(そうか……、速度が出ないのは暁を曳航しているからだわ……。回避はできてるけど、このままじゃヘ級に捕まっちゃう)」

 

 暁が思うように、暁を曳航している雪風の速度では、ジリジリとヘ級に追いつかれてきており、いずれ追いつかれてしまうのは明確であった。

 

雪風「雪風が追いつかれても、捕まっても、暁さんは沈めません!」

 

暁「(ダメよ、これ以上暁のせいで雪風を危険な目に合わせる訳には……)」

 

    ドォォン ドォォン

 

雪風「雪風には、当たりません!!」

 

 雪風は、ヘ級の砲撃を失速しないように最低限の動きで回避する。

 

 しかし、ヘ級は既に目の前に迫っている。

 

暁「暁はもう良いから、雪風だけでも逃げて!!」

 

 たまらず、暁が雪風に叫ぶ。

 

雪風「目の前で、仲間を失いたくないです!暁さんは絶対に沈めさせません!!」

 

 ヘ級が、腕を伸ばして雪風に曳航された暁を捕まえようとする。

 

 雪風は、身体を入れ替えて暁をヘ級から遠ざけようとする。

 

雪風「暁さんは逃げてください!!」

 

暁「雪風!ダメぇぇ!!」

 

 雪風は、暁をかばうようにヘ級と暁の間に入り込む。

 

 ヘ級は目標を雪風に切りかえて、雪風につかみかかる。

 

    ドオォォン

 

 雪風がヘ級に捕まりそうになった瞬間、人影が飛び込んできてヘ級に体当たりをした。

 

吹雪「うわぁぁぁ!!」

 

 飛び込んできた人影の正体は、吹雪であった。

 

 砲撃すると、雪風に当たりかねないくらい、ヘ級が肉薄していた状況で、雪風を助けるべく全速力でヘ級に突っ込んできたのだ。

 

 突然の吹雪の体当たりに、不意をつかれたヘ級は後方に飛ばされ転倒している。

 

吹雪「今のうちに、みんな逃げて!!」

 

雪風「吹雪さんも、早く逃げてください!」

 

白雪「吹雪ちゃん!!」

 

 吹雪は突然、鳳翔を白雪に託して体当たりを敢行したしたため、白雪は鳳翔を支えるので精一杯で吹雪を援護することができないでいる。

 

 雪風も、倒れかけた暁と肩を組み直してヘ級から離脱するのが精一杯で、吹雪を支援することができない状態であった。

 

鳳翔「吹雪さん……」

 

 鳳翔は倒れかけるが、白雪が何とか一人で鳳翔の身体を支えて曳航することはできていた。

 

吹雪「私も、すぐに行くから……、みんな前に進んで!!」

 

雪風「はい、ありがとうございました!」

 

吹雪「倒せなくても、足止めくらいは……」

 

 吹雪は、倒れているヘ級に攻撃を仕掛けようとしたが、体当たりをしたときの衝撃で艤装が故障してしまったようで、連装砲も魚雷も撃てない状態だった。

 

吹雪「そんな……、こんなときに……」

 

 吹雪は、ヘ級への攻撃を諦めて、再び鳳翔を曳航するために白雪のもとに戻ろうとしたが、艤装が損傷してしまった影響で海上を進むことが出来なくなってしまい、その場で転倒してしまう。

 

    ぐおぉぉぉ

 

 吹雪の体当たりで転倒していたヘ級が立ち上がり、怒りながら吹雪に向かってくる。

 

吹雪「……う、動かない!?」

 

 迫りくる、ヘ級から逃れようとする吹雪であったが、故障した艤装から燃料が漏れ出ていることに気が付いた。

 

吹雪「まさか、燃料切れ!?」

 

 深雪たちと合流する前から、深海棲艦と戦闘を行っていた吹雪の燃料は少なくなっていた上、体当たりの際に壊れた艤装から燃料が漏れ出たことにより、吹雪の艤装の燃料が尽きてしまい、航行すらできなくなってしまった。

 

暁「来るわよ!吹雪、逃げて!!」

 

雪風「吹雪さん!!」

 

 雪風や暁が必死に吹雪に呼びかけるが、吹雪は海上で身動きが取れない。

 

吹雪「動けない……、ここで終わっちゃうの……」

 

 立ち尽くす吹雪に、砲塔を向けて狙いを定めるヘ級が近付いてくる。

 

 

    ドォォォォン

 

 ヘ級が吹雪に攻撃を仕掛けようとしたそのとき、へ級の至近距離に砲弾が着弾する。

 

    ぐぁぁぁぁ

 

 突然の砲撃に、ヘ級は思わず後退する。

 

    ドォォォォン ドォォォォン

 

 ヘ級に追い打ちをかけるように、更に砲撃が続く。

 

暁「支援射撃?どこから!?」

 

雪風「北東の方角から?」

 

鳳翔「龍星鎮守府の方からね」

 

白雪「ん?北東から接近する艦影ありです」

 

鳳翔「援軍なの?」

 

雪風「今の砲撃だと、35.6 cm砲?」

 

鳳翔「戦艦の大口径砲……」

 

白雪「接近してくる艦影、戦艦にしては早すぎます!約30ノット出ています!」

 

    ぐぉぉぉぉ

 

 砲撃に一旦は後退したヘ級が、再び吹雪に砲塔を向けようとしたそのとき……

 

女性の声「次こそ当てます!全砲門!Fire!!」

 

 接近してくる艦影からの声が響き渡る。

 

    ドォォォォン ドォォォォン

 

 ヘ級に向けて、再び砲弾が放たれる。

 

 

 その頃、深雪と天龍は日向たちとともに、鳳翔たちの元へ駆けつけようとしていた。

 

深雪「この砲撃は……」

 

日向「この音は、35.6 cm連装砲に違いない……」

 

最上「伊勢さんかな?」

 

日向「いや、伊勢は南西諸島へ遠征に向かってるはずだ……」

 

天龍「まさか、美鈴が戦艦を建造したのか?」

 

深雪「何か、そんな気がしてきた……」

 

日向「とにかく、戦闘が行われているのは間違いないな……、急ぐぞ!!」

 

最上「この音の方に向かえば良いんだ、みんな急ぐよ!!」

 

 深雪たちは、鳳翔たちがいるであろう砲撃音のする方へ急ぐのであった。

 

 

    ぐぉぉぉぉん

 

 吹雪に迫っていたヘ級に砲弾の1つが直撃し、ヘ級は大破炎上している。

 

吹雪「この砲撃は日向さん?……いや、この声は日向さんじゃない!?」

 

女性の声「これでFinish!? な訳無いでデショ!私は食らいついたら離さないワ!!」

 

    ドォォォォン ドォォォォン

 

 龍星鎮守府方向から近づいてくる艦娘は、へ級にとどめを刺すべく砲撃を続ける。

 

    ぐぎゃぁぁぁぁ

 

 さらなる砲撃は、大破して身動きが取れないヘ級に全弾命中し、ヘ級は悲鳴を上げながら海へ沈んでゆく。

 

白雪「深海棲艦、沈黙……」

 

暁「暁たちは、勝ったのね!!」

 

鳳翔「助けてくれた艦娘さんが、見えてきたわね」

 

 鳳翔が顔を向ける方向に、白い巫女服のような服装の艦娘が現れる。

 

 美鈴が建造した、超弩級戦艦の金剛である。

 

金剛「Hey、みんなー!迎えに来たヨー!」

 

 初対面であるはずの金剛は、鳳翔たちに大きく手を振ってくる。

 

 鳳翔たちと合流した金剛は、大破している鳳翔の曳航を白雪から引き継ぎ、白雪は燃料切れで航行不能になった吹雪を曳航し、龍星鎮守府へ帰投することにした。

 

 金剛や鳳翔たちは、帰投途中で深雪や天龍たちとも合流し、燃料の補給や修理のために吹雪や日向たちの紅月鎮守府の面々も、龍星鎮守府へ立ち寄ることとなった。




 いよいよ、本家『艦隊これくしょん』の1-3『製油所地帯沿岸 』をモチーフにした話も、一応の終わりを迎えます。

 今回の建造で、ついに龍星鎮守府にとって初の大型艦が建造されますが、一体誰なのでしょうか…?

 タイトルを見て、ピンと来た方も大勢いるでしょうが、あの方でしょうね(笑)

 前回のタイトルは、スーパーロボット大戦等でもおなじみの、某ロボットアニメの主題歌のオマージュで、今回は思いっきりそのまんまです。

 アニメの主題歌をタイトルにしまくるのは、ドリフターズのパクリっぽいので控えた方が良いかも知れませんねww


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第16話 華人小娘と紅月の艦娘

   パチパチパチパチ

 

 美鈴は、大浴場ですぐにお湯が使えるように大急ぎでまきの火を熾していた。

 

美鈴「金剛が、『1時間以内に帰るから、お風呂の準備お願いしますネー』って言ってたから、急いでまきを割ってお湯を沸かしてるけど……」

 

 美鈴は、汗だくになりながら火を熾すために、竹の筒で息を吹きかけながら火種に空気を送り込む。

 

美鈴「けがをしてる娘もいるかもしれないから、修復材の準備もしておいた方が良いかなぁ」

 

 通常の鎮守府では、艦娘用の浴場では入渠用の修復効果のある湯が使われているが、急造である龍星鎮守府では、蛇口をひねれば入渠用のお湯が出る新型の設備はまだ無く、通常の湯船に入浴剤のような物を入れて入渠用の浴槽を作るという、旧式の入渠設備であった。

 しかし、この大浴場には複数の湯船があるので、美鈴や深海棲艦からのダメージを受けていない艦娘が使用する通常の湯船と、入渠目的の艦娘が使用する湯船が用意できるので、今の所特に問題は無かった。

 

美鈴「やっぱり、今回も大きなけがをしちゃった娘もいるのかなぁ……」

 

 これまでも深海棲艦との戦闘で、深雪が重傷を負ったところを何度か見ており、心配は絶えない。

 ましてや、今回は帰還まで時間がかかっているため、激しい戦闘が予想されるので戦況がわからないというのも不安をかき立てるのである。

 

美鈴「艦娘同士が使っている、『無線機』ってやつを私も持っていたら戦闘中のみんなと会話ができるんだけどなぁ……」

 

 無線機自体の台数も2台と少ない龍星鎮守府では、今回はパトロールに出ていた深雪と雪風が1台持ち歩いており、壊れないように被弾率が極めて少ない雪風が装備していた。 もう一台は、増援部隊の旗艦である天龍が持ち出していたため、鎮守府にいる美鈴は戦況を把握できずいたのである。

 

美鈴「妖精さんに頼めば、無線機を作ったりできるのかなぁ……」

 

 鎮守府にある無線機は、以前町井田が置いていった補給物資の中にあったものであるが、脅威の技術力を持つ妖精さんたちなら、無線機を作れるかもしれないと思う美鈴であった。

 

 

 美鈴が大浴場のお湯を沸かし終えて、見張り台へ行き艦娘たちが帰還してこないか確認しようと双眼鏡をのぞき込むと、鳳翔に肩を貸して進む金剛、紺色の略帽の少女に肩を貸している雪風、深雪や白雪と同じセーラー服を着た少女に肩を貸している白雪の姿を見つけた。

 

美鈴「あっ!あそこに鳳翔さんや金剛たちが見えるわ!!」

 

 さらに、その後方を見てみると、深雪が腰に刀を差す白い和服の女性や、赤っぽいセーラー服の少女とともに、天龍を気遣いながら進んでいる様子が見えた。

 

美鈴「深雪や天龍も、一応無事みたいね」

 

 美鈴は、見慣れない艦娘と思われる少女や女性とともに、鎮守府へ帰還しようとしている艦娘たちの姿を確認し、安心する一方で負傷している艦娘の姿を見て申し訳ない気持ちで一杯になった。

 

美鈴「雪風と白雪が連れている娘たちは、きっと助けた艦娘たちだと思うけど、鳳翔さんと天龍はけががひどそうね……、助けた娘たちもけがしちゃってるし……」

 

 基本的に気の優しい美鈴にとって、仲間の傷ついた姿は心が痛むのである。

 

美鈴「私も、『気』が自由に使えるようになれば、少しはみんなと戦えるのに……」

 

 最近の美鈴は、教えを請う深雪や雪風に太極拳の型を教える傍らで、『気』を練る練習を行っている。

 この世界に来てから、通常の人間と同様になったことからか、『気』を自由に扱うことができなくなっているが、深雪と初めて出会ったとき、イ級の攻撃から深雪を救おうとした瞬間に『気』を扱えたので、完全に『気』を失ったわけでは無いと思うのであった。

 

 

 帰投する艦娘たちを出迎えるため、美鈴は海岸へ向かう。

 

 まずは、金剛、鳳翔、雪風、白雪が吹雪と暁を引き連れて海岸へ戻ってきた。

 

金剛「戦果Resultがあがったヨー!」

 

美鈴「えっ?旋回上手があがったよ?」

 

 金剛のネイティブすぎる英語に、美鈴は謎の単語を口走る。

 

鳳翔「いたた……、提督、何とか生還することが出来ました……」

 

美鈴「鳳翔さん!ひどいけがじゃないですか!!」

 

鳳翔「私よりも、この娘を早く入渠させてあげてください……」

 

 大破した鳳翔を気遣う美鈴に対し、鳳翔は暁を先に入渠させるように促す。

 

美鈴「この娘は、救助した艦娘ね……、ひどいけがじゃない……大丈夫?」

 

暁「暁はへっちゃらだから、レディーの鳳翔さんを先に……」

 

 大破しながらも、互いに気遣い先に入渠するように促し合う鳳翔と暁を見た美鈴は、2人に大浴場に入渠用の薬剤を入れて準備中だと説明する。

 

白雪「たくさん入れるから、吹雪ちゃんも入渠した方が良いよ」

 

吹雪「うん、艤装の修理もお願いします……」

 

美鈴「うわぁ、装備もボロボロ……」

 

 美鈴は、破損した吹雪の艤装を手に取り破損箇所を眺める。

 

 当然、美鈴は艤装の修理などできないので、修理は妖精さんにお願いすることになる。

 

 

 大破した鳳翔や暁たちの入渠したころ、海岸に天龍を曳航した深雪たちが帰還してきた。

 

深雪「帰ってきたぁー!」

 

最上「ここが君たちの鎮守府かー、そんなに大きくないけど良いところだね」

 

 深雪たちが海岸に上がると、鎮守府から美鈴と雪風が駆け寄ってきた。

 

美鈴「天龍!大丈夫?」

 

雪風「入渠の準備はできています!!」

 

天龍「オレ様がこんなざまじゃ、カッコつかねぇなぁ~」

 

 大破していた天龍は、深雪に肩で背負われながらも軽口をたたく。

 

美鈴「天龍も大破してるって聞いて心配してたけど、その様子なら大丈夫そうだね」

 

天龍「修理が終わったらまだ戦えるからな、オレを第一線から下げるなっての!」

 

 天龍が美鈴と話していると、日向が美鈴に近付いてきた。

 

日向「貴女がこの鎮守府の提督かな?」

 

美鈴「はい、そうですけど」

 

 急に声をかけられた、美鈴は思わず姿勢を正す。

 

美鈴「(この雰囲気、只者では無い気がするわ……)」

 

 緊張する美鈴に、日向は右手を差し出し握手を求める。

 

日向「このたびは、我が紅月鎮守府の吹雪と暁を救助していただき感謝する」

 

美鈴「こうげつ鎮守府?」

 

最上「日向さん、提督さんが緊張してるじゃないですか、まずは軽く自己紹介をしましょうよ」

 

 美鈴の微妙な警戒心を感じ取った最上が、日向に声を掛ける。

 

日向「あぁ、そう言えば名乗りもしていなかったな……」

 

日向「私は、紅月鎮守府の紅月麗美(こうげつ れみ)提督の秘書官で伊勢型戦艦2番艦の航空戦艦日向だ、お見知りおきを」

 

最上「ボクは、同じく紅月鎮守府所属の最上型重巡洋艦1番艦の航空巡洋艦最上さ、よろしくね!」

 

美鈴「私の名前は、紅美鈴!この鎮守府の提督です」

 

 美鈴と、日向たちは簡単に自己紹介と挨拶を交わした。

 

 

美鈴「ところで、『こうげつ』というのは、どういう字を書くんですか?」

 

最上「紅(くれない)に月で紅月さ、提督の名字なんだけど珍しいよね」

 

美鈴「紅い月……」

 

日向「紅い月か、紅月提督も同じ表現をするが、流行っているのか?」

 

美鈴「貴女の提督の名前は、『こうげつれみ』さんって言いましたよね……」

 

日向「そうだが、何か?」

 

美鈴「(紅い月のレミ……、まさかレミリアお嬢様が?……いや、考え過ぎかな?)」

 

最上「ウチの提督を知っているのかな?」

 

美鈴「あ、いえ……、何となく知り合いに似た名前の人がいたような気がしたもので……」

 

日向「紅月という名は珍しいと思ったが、流行っているのか?」

 

最上「日向さん、名字に流行りとかは無いと思うけど……」

 

最上「まぁ、ウチの提督って海軍内では『東洋のカリスマ』と呼ばれる人だから、聞いたことがあるのかもね」

 

美鈴「はは、何かすごそうな人ですね~」

 

 まだ見ぬ、紅月麗美提督の名前の雰囲気と、『東洋のカリスマ』という通り名から、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットを強く連想する美鈴であった。

 

 

日向「しかし、この島のには『いまだ目覚めぬ龍』が舞い降りたと聞いたが、貴女のことかな?」

 

美鈴「いまだ目覚めぬ龍?」

 

最上「日向さん、それを言ってるのはウチの提督だけだから……」

 

日向「そうなのか?」

 

最上「町井田中尉から、美鈴提督の話を聞いた麗美提督が勝手に名付けただけだから、真に受けちゃダメですって」

 

深雪「『いまだ目覚めぬ龍』か、いいなぁ美鈴、カッコいいぜぇ~」

 

天龍「『天翔ける龍』と『目覚めぬ龍』か、いいコンビになれそうじゃねぇか!」

 

美鈴「『天翔ける龍』って天龍のこと?」

 

深雪「おぉう、カッコいい……」

 

天龍「な、何だよ……、悪いかよ!!」

 

最上「麗美提督と、いい勝負のネーミングセンスだねぇ~」

 

 仲間を欠くこと無く、無事に全員生還した艦娘たちとともに、和やかな雰囲気と笑顔が島内にあふれていた。

 

 

 翌朝、無事に修理を終えた吹雪と暁は、美鈴の好意により日向たちとともに燃料・弾薬の補給を受けて紅月鎮守府へ帰還するため海岸に集まっていた。

 

美鈴「短い間だったけど、みんなに会えてよかったと思うわ」

 

日向「吹雪たちの修理だけでなく、我々にも十分な補給をしてくれたことに感謝する」

 

美鈴「助けてもらったのは、私たちも同じだし気にしないでください」

 

吹雪「艤装の修理もありがとうございました、これなら紅月鎮守府まで無事に帰れそうです!」

 

白雪「吹雪ちゃんは同型艦だから、私と深雪ちゃんの艤装の予備部品が使えたから、妖精さんもすぐに修理できたみたい」

 

深雪「吹雪姉さんも、深雪さまと一緒だと思って頑張れよな!」

 

暁「鳳翔さん、あのときはレディーとして暁を守ってくれてありがと……」

 

鳳翔「暁ちゃんも、私を守ってくれましたね。感謝しています」

 

暁「(鳳翔さん、やっぱり完璧なレディーだわ、暁もいつか鳳翔さんみたいな一人前のレディーになるんだから!)」

 

雪風「皆さん、どうかご無事で!また会いたいです!!」

 

最上「アハッ!今度は合同演習とかで会えるといいね!」

 

天龍「演習か……、そのときはオレを外すなよ!」

 

金剛「演習が終わったら、次は皆でTea Timeですネー!」

 

 龍星鎮守府の艦娘も全員集合で、日向たち紅月鎮守府の面々を見送る。

 

 愛すべき戦友たちの帰還していく姿が、水平線の彼方に消えるまで、大きく手を振る美鈴と艦娘たちであった。




 前回までの 、本家『艦隊これくしょん』の1-3『製油所地帯沿岸 』をモチーフにした話の後日談です。(時間的に、始まりは後日じゃなくて当日ですが…)

 本家には、いまだ実装されていない友軍システムですが、この作品の世界観では近隣鎮守府同士でイベント時の友軍艦隊みたいな支援攻撃や、演習が行われる感じでイメージしています。

 久しぶりの、非戦闘回なので美鈴が久しぶりに話に絡んできていますし、タイトルも『華人小娘と○○○』シリーズが復活しました!

 忘れている人(特に私自身)もいたかもしれませんが、このシリーズの主人公は華人小娘・紅美鈴ですよ!!


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第17話 華人小娘、輸送艦を出迎える

    ドォォォォン ドォォォォン

 

金剛「Hey!もっと弾道をよく見るデース!」

 

深雪「か……、間一髪……」

 

金剛「深海棲艦は、手加減はしてくれないですヨー!」

 

深雪「ええぃ、金剛さん!もういっちょ!!」

 

金剛「まだまだ行きますヨー!撃ちます!Fire~!」

 

 龍星鎮守府の艦娘たちは、今後も激化するであろう深海棲艦との戦いに備えて、訓練に励んでいた。

 

 今日も鎮守府前の海上で、唯一の大型艦(戦艦)である 金剛を訓練相手に、深雪が模擬戦を行っていた。

 

天龍「深雪のやつも、根性あるじゃねぇか」

 

美鈴「自分より大きな相手に挑むって、簡単なことじゃないのに頑張っているよね」

 

 美鈴たちは、模擬戦の様子を海岸から見守っていた。

 

鳳翔「金剛さんも、連日皆さんの訓練相手を務めてくださってますが、疲労はたまってないでしょうか?」

 

美鈴「金剛も、みんなの先生みたいに頑張ってくれてますからね」

 

天龍「オレも負けてられなぇな!」

 

 美鈴の『先生』という言葉を聞いて、天龍が急にライバル意識を燃やし始める。

 

白雪「天龍さんは水雷戦闘の教官で、金剛さんは大型艦との戦闘を教えてくれる教官という感じですね」

 

天龍「フフフ……、オレの水雷戦術は世界水準軽く超えてるからな……」

 

 白雪の言葉に、天龍はあからさまに気を良くしていた。

 

 

    カンカンカン カンカンカン

 

 美鈴たちが、海岸で模擬戦を視察していたとき、見張り台から合図の鐘の音が聞こえてきた。

 

美鈴「何だろう?」

 

鳳翔「今は、雪風さんが当番でしたね」

 

白雪「何かを発見したのでしょうか?」

 

美鈴「緊急の警報じゃないけど、行ってみよう」

 

鳳翔「私もお供しますね」

 

天龍「オレと、白雪はここで待機してるぜ」

 

白雪「司令官、何かあったらすぐに出撃できるよう準備しておきます」

 

美鈴「わかったわ、念のために待機しておいてね」

 

 美鈴は、天龍の意見を採用して天龍と白雪を海岸で待機させることとし、鳳翔とともに、見張り台の雪風のもとへ向かうこととした。

 

 

 美鈴と鳳翔が見張り台に着くと、雪風が見張り台の上から手を振ってきた。

 

雪風「しれぇー!」

 

美鈴「雪風、何かあったの?」

 

雪風「はい、今そちらに行きます」

 

 そう言うと雪風は、見張り台のはしごを下り、美鈴のもとに駆けてきた。

 

美鈴「どうしたの?」

 

雪風「本土の方角から、輸送艦が近づいてきています」

 

美鈴「輸送艦?町井田中尉かな?」

 

雪風「はい!雪風も町井田中尉の艦だと思います!!」

 

鳳翔「町井田中尉……、以前この鎮守府に白雪さんと補給物資を届けてくれたという方ですね」

 

美鈴「そうか、あのときはまだ鳳翔さんはいませんでしたね」

 

雪風「しれぇみたいに背が高くて、美人でかっこいい人です!」

 

鳳翔「背が高くて、美人でかっこいいって何だか凄いですね……」

 

美鈴「(私みたいにって、『背が高い』ってことだけかな?『美人でかっこいい』も含まれるのかな?)」

 

鳳翔「提督、お知り合いなら提督室から連絡をとってみては、いかがでしょう?」

 

美鈴「そうですね、もしかすると既に無線連絡が来てるかもしれませんし、鎮守府に戻りましょう」

 

雪風「雪風は見張り台で、また何かあったら連絡します!!」

 

美鈴「うん、よろしくね!」

 

 雪風は、再び見張り台のはしごを登って見張りに戻った。

 

 美鈴と鳳翔は、鎮守府内の提督室に向かった。

 

 

 美鈴と鳳翔が提督室に着くと、インカムを付けた妖精さんが待機していた。

 

美鈴「(あの頭に付けてるやつって、通信で使うやつだよなぁ……、妖精さんは喋れるのかな……)」

 

 美鈴が、妖精さんの姿にツッコミを入れるようなことを思っていると、妖精さんが鳳翔に何やら話しかけるように近づいてきた。

 

鳳翔「はい、何でしょうか?」

 

 鳳翔は、その場にかがみ込んで妖精さんに顔を近づけた。

 

鳳翔「はいはい、なるほど……、そうですか」

 

美鈴「妖精さんの声が聞こえるのですか?」

 

鳳翔「空母系の艦娘は、艦載機を操縦する妖精さんと対話することが多いので、通常の艦娘よりも妖精さんと会話をすることができるんですよ」

 

鳳翔「ところで、妖精さんの話だと先ほどから無線機で呼び出されているようですよ」

 

美鈴「ええっ!返事をしなきゃ!!」

 

鳳翔「とりあえず、妖精さんがモールス信号で返信してくれたみたいですが、こちらからも呼びかけてみましょう」

 

美鈴「そうですね、鳳翔さんよろしくお願いします!」

 

鳳翔「えっ?私がですか……」

 

美鈴「無線機の使い方がわからなくて……」

 

鳳翔「そうですか、『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ』とも言いますし、私がまずお手本を見せますね」

 

美鈴「はい!」

 

鳳翔「では、まず相手を呼び出して見ましょう。周波数はこのままで……」

 

 鳳翔は、無線機のマイクをつかむとスイッチのような物を操作した。

 

鳳翔「こちら、龍星鎮守府紅美鈴提督の秘書艦鳳翔です。輸送艦隊応答願います」

 

美鈴「秘書艦?」

 

鳳翔「便宜上、今はそう名乗らせていただきました」

 

無線機の声「こちら町井田輸送艦隊です、紅美鈴提督はいらっしゃいますか」

 

鳳翔「はい、提督も共におります」

 

無線機の声「了解、町井田中尉におつなぎします。しばらくお待ちください」

 

 無線に応答した男性は、町井田中尉を呼び出すため一旦通話を切った。

 

 通話が切れた間に、鳳翔は美鈴に無線機のマイクを手渡した。

 

鳳翔「提督、このマイクのスイッチを押せば、相手にこちらの声を送信できます、次は提督がやってみてください」

 

美鈴「そんなに難しくなさそうですね」

 

鳳翔「今回は、周波数などの操作は無かったので、そのまま通話ができますが、周波数を変えるなどがあった場合は、もう少し操作が必要ですね」

 

美鈴「そのときは、また教えてくださいね」

 

 鳳翔が、美鈴に無線機について簡単にレクチャーしていると、無線機から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

町井田「こちら輸送部隊隊長の町井田中尉だ、紅美鈴提督応答願う」

 

美鈴「町井田さんだ!えぇと……、このボタンだったよね」

 

 美鈴が、無線機の操作について鳳翔に再確認する。

 

鳳翔「そうです、そのスイッチを押して話せば相手に声が届きます」

 

 美鈴は、緊張しながら無線機の通話スイッチを押し、町井田に返事をする。

 

美鈴「こちら紅美鈴です。町井田中尉お久しぶりです!!」

 

町井田「紅美鈴提督か、元気そうね」

 

美鈴「今さっき、見張り台にいた雪風が町井田中尉の輸送艦を確認したと聞いて見に行っていたんですよ」

 

町井田「なるほど、だから司令室は不在で妖精さんしかいなかったのか」

 

美鈴「あ……、えぇ、そうなんですよ」

 

鳳翔「(本当は、みんなで模擬戦を観戦していたんですけどね……)」

 

町井田「先日、紅月鎮守府から貴女の鎮守府が完成したと聞いて、本土から補給物資と増員を連れて行くところなのよ」

 

美鈴「ありがとうございます!早速こちらから、護衛を向けますね!」

 

町井田「大丈夫だ、今回はどうしても貴女に会いたいという方や、艦娘たちがいて紅月鎮守府から護衛を出してもらっている」

 

美鈴「紅月鎮守府からの護衛ということは、吹雪や暁たちですか?」

 

町井田「そうね、特に暁は龍星鎮守府へ行くと聞いたら真っ先に名乗り出てくれたわ」

 

美鈴「なるほど、あの娘らしいですね」

 

 

美鈴「ところで、どうしても私に会いたいという方って誰ですか?」

 

町井田「紅月鎮守府の紅月提督よ」

 

美鈴「前に伊勢さんから聞いた、紅月麗美提督ですね」

 

町井田「そう、若いけど深海棲艦との戦闘で類い稀な戦果を上げて、『東洋のカリスマ』と呼ばれる方よ」

 

美鈴「そんな方が、なぜ私なんかに?」

 

町井田「深海棲艦の攻撃により壊滅した島に現れ、艦娘や妖精さんたちに慕われて近海の深海棲艦を撃退しながら鎮守府を再興した。……あなた自身は気づいていないでしょうけど、すごいことなのよ」

 

美鈴「確かに、そう言われるとなんかかっこいいですね……」

 

町井田「それに、大事な艦娘を救ってくれた鎮守府へのお礼も兼ねているのでしょうね」

 

美鈴「まぁ、ウチの娘たちも助けてもらってますから、私もお礼をしたかったところです」

 

町井田「艦娘たちを、兵器や配下としてではなく、大切な仲間として扱うという点では、貴女も紅月提督も共通しているところね」

 

美鈴「紅月提督は優しい人なのですね」

 

町井田「ただ優しいと言うだけでは無いでしょうけど、悪人ではないことは保証するわ」

 

美鈴「ただ優しいだけじゃない?」

 

町井田「会えば分かると思うけど、楽しみに待っていなさい」

 

美鈴「はぁ……」

 

町井田「それでは、一旦通信を終えるわね」

 

美鈴「わかりました」

 

 通信を終えると、美鈴は無線機のマイクを鳳翔に手渡した。

 

鳳翔「紅月提督は、どのような方なのでしょうね」

 

 鳳翔の問いかけに対し、美鈴はレミリア・スカーレットを思い浮かべながら答えた。

 

美鈴「ふだんはワガママで傲慢、だけど本当は優しい心の持ち主で、自分の身内や仲間が悩んでいたり困っていたりすると、一緒に悩んでくれたりそれとなく手助けをしてくれる……、そんな人な気がします」

 

鳳翔「何だか、以前話してくれた提督がお仕えしていたお屋敷の主様みたいですね」

 

美鈴「何か話を聞いてると、そんな気がするんですよね~」

 

 

金剛「Wow!大きな艦ですネー!!」

 

鳳翔「あれなら深海棲艦の攻撃を受けても、簡単には沈みませんね」

 

 美鈴の指示により、町井田の輸送艦を出迎えるべく海岸で待機していた一同であったが、島に近づいてくる輸送艦が目視できる距離に来ると、初めて見る金剛と鳳翔は船体の大きさに驚いていた。

 

天龍「まさか、また町井田中尉が来てくれるとわな!」

 

深雪「今回は、紅月鎮守府の連中も護衛についてるらしいし、知った顔がいそうで楽しみだぜ~」

 

雪風「はい、雪風も楽しみです!」

 

白雪「紅月鎮守府のみんなも、町井田中尉も私たちの恩人ばかりですね」

 

美鈴「今回は、深海棲艦の攻撃も受けていないようだし、みんなで出迎えよう!」

 

白雪「(そういえば、前回は八雲元帥の慢心で、艦娘の護衛なしで大変でした……)」

 

 

 輸送艦の甲板で、町井田は双眼鏡をのぞき込んでいた。

 

町井田「あれが、美鈴たちが造った新しい鎮守府か」

 

 町井田が、双眼鏡で龍星鎮守府の様子を確認していると、紅い軍服を着て、髪は青みがかった銀髪のセミロング、という姿の若い女性が近づいてきた。

 

紅い軍服の女性「あの島が、眠れる龍のいる島ね」

 

 声に気が付いた町井田は、双眼鏡を降ろして姿勢を正し紅い軍服の女性に敬礼をする。

 

町井田「これは、紅月麗美提督!」

 

紅い軍服の女性「町井田中尉、そんなかしこまらなくていいわ」

 

町井田「しかし、紅月提督は日本海軍准将でいらっしゃいます」

 

 紅い軍服を着た女性の名は『紅月麗美』、軍服の肩には准将の肩章がついている。

 

麗美「あなたは、私の友人で歳も上でしょ、『麗美』でいいと言っているじゃない」

 

町井田「しかし、部下も見ていますし……」

 

麗美「ほんと、あなたは真面目ねぇ、可怜……いや、町井田可怜中尉」

 

町井田「ところで、そろそろ龍星鎮守府が見えてきましたが、御覧になりますか?」

 

麗美「どれどれ、ウワサの『いまだ目覚めぬ龍』と呼ばれる紅美鈴提督を見てみようかしら」

 

町井田「(そう呼んでるのは、麗美だけだと思うけど……)」

 

麗美「ちょっと双眼鏡を貸してよ」

 

町井田「あっ、私のでよければお使いください」

 

 町井田は、麗美に双眼鏡を手渡す。

 

麗美「ふむふむ、海岸に何人か立っているわね」

 

町井田「恐らく、我々を出迎えしているのでしょう」

 

麗美「あの緑色の変わった服を着た人が、紅美鈴かしら?」

 

町井田「はい、香港生まれの台湾育ちということですから、中華風な服装ですね」

 

麗美「艦娘も、金剛に鳳翔、天龍、白雪、深雪、雪風か……」

 

町井田「以前来たときは、金剛と鳳翔はいませんでした」

 

麗美「あの娘たちには、先日ウチの娘たちが世話になっているから、日向や暁から話は聞いてるわ」

 

町井田「いつの間にか、戦艦に空母までそろえるとは、一人前の艦隊になってきました」

 

麗美「しかし、台湾出身の紅美鈴の所に雪風がいるとは……」

 

町井田「軍艦時代の歴史を考えると、何だか感慨深いものがありますね」

 

麗美「そうね……、これも運命ね」

 

 

 もう間もなく、『東洋のカリスマ』の異名を持つ紅月麗美が乗艦する輸送艦は、紅美鈴が待つ龍星鎮守府に到着するのであった……




 今回は、町井田中尉が再登場します!

 一応、龍星鎮守府に足りない『工廠』、『秘書』をサポートする人員を増員する予定です。

 昔のスパロボでアストナージが参戦したら、機体改造が5段階から10段階まで可能になるなどの効果を発揮させられればと思っています。
 (アストナージが参戦するわけじゃありません…)


PS.これまでは、pixivに投稿していた分を誤字訂正などしながら投稿してましたが、以後は通常ペース(1~2週間程度)での投稿になると思いますので、よろしくお願いします。


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第18話 華人小娘と紅い月

    ザザァァァン

 

美鈴「やっぱり大きいなぁ~」

 

金剛「まるで動く鎮守府デスネー」

 

白雪「私も、この船に乗ってこの島に来ましたが、すごく立派な船でしたよ」

 

金剛「Wow!白雪はこんなすごい船で着任したデスカー、Princessみたいネー!」

 

天龍「プリンセス白雪……、白雪姫か、いいじゃねぇか!」

 

白雪「そ、そんな大層な者じゃありません……」

 

 海岸まで出迎えに来ていた美鈴たちは、海岸に停泊した輸送艦を眺めながら談笑していた。

 

    ガラガラガラガラ

 

 輸送艦の錨が降ろされると、警護についていた艦娘数名が美鈴たちに気づいた様子で、こちらを見ていた。

 

雪風「あっ、あそこにいるのは暁ですよ!」

 

深雪「ホントだ!おぉ~い、暁ぃ~!!」

 

 暁を発見した、深雪と雪風は大きく手を振り暁の名前を呼ぶ。

 

 深雪たちに気がついた暁は、笑顔で手を振り返してきたが、すぐに手を下ろしてしまう。

 

暁「あ、あんなに大きく手を振るなんて子供みたいじゃない、暁はレディーなんだからあんな真似はしないんだから……」

 

最上「ん?どうしたんだい暁、友達が呼んでいるよ」

 

 最上に声をかけられた暁は、照れくさそうな表情をしている。

 

最上「ボクは、みんなに挨拶してくるよ」

 

 最上は、照れる暁を余所に大きく手を振って深雪たちに答える。

 

最上「おーい、みんな元気だったー?」

 

深雪「あっ、最上さーん!!」

 

雪風「最上さんも来てたんですねー!」

 

 最上は手を振りながら、深雪たちの所へ駆けていった。

 

暁「あっ……、し、仕方ないわねレディーたる者、挨拶も大事よね」

 

 暁は、最上の後をすました感じで歩いて追いかけていた。

 

 

 

 

 輸送艦から、町井田中尉と紅い軍服の女性が降り、美鈴の下へ歩いて来た。

 

町井田「久しぶりね、美鈴提督」

 

美鈴「町井田さん、お久しぶりです!」

 

 美鈴は、町井田に挨拶をした後、紅い軍服の女性に思わず目を奪われた。

 

 ウェーブのかかった青と銀の中間のようなセミロングの髪に、紅く大きな瞳、白く透き通るような肌、その容姿はまるでレミリア・スカーレットの様であった。

 

美鈴「(お嬢様?いや、お嬢様にしては背が大きいような……)」

 

 その女性は、見た感じ10代後半から20歳くらいで、美鈴と同年代くらいの様にも見えた。

 

町井田「紹介するわ、この方がさっき話した紅月麗美准将よ」

 

麗美「貴女が噂の、紅き龍ね……、なるほどいい目をしているわね」

 

美鈴「れ、レミリアお嬢様……?」

 

麗美「レミリアか……、懐かしい名を知っているのね」

 

町井田「レミリア?」

 

麗美「もしかして貴女、私の過去を知っているのかしら?」

 

美鈴「過去?」

 

麗美「そう、あれはこの世に深海棲艦が現れる前……」

 

麗美「私は、ヨーロッパへ留学していたのよ」

 

町井田「たしか、紅月准将の母方は東ヨーロッパの出身でしたね」

 

麗美「そう、過去にルーマニアのトランシルヴァニア地方を治めていた名家の出だと聞いているわ」

 

町井田「紅月准将がよく言っている、ドラキュラ伯爵の子孫というお話ですね」

 

麗美「可怜!公の場以外では麗美、もしくはレミィで良いって言ってるでしょ!!」

 

町井田「しかし、美鈴がいるし……」

 

麗美「女子トークなんだから、気楽にいきましょう」

 

町井田「わかったわよ……」

 

麗美「美鈴、ごめんね話が逸れたわね……」

 

美鈴「はぁ……」

 

麗美「ドラキュラ伯爵の血を色濃く受け継いでいたとされる、私の曾祖母の名がレミリアと言うのよ」

 

町井田「私は何度も聞かされた話ね……、しかし。なぜ美鈴は麗美の曾お婆ちゃんの名前を?」

 

美鈴「それは……」

 

 話の流れや、大人びた容姿から言って、麗美は美鈴が知るレミリア・スカーレットではなさそうだが、『ドラキュラ伯爵の末裔』、『曾祖母の名がレミリア』と言う話が真実であれば、何らかのつながりがありそうな気がした。

 

 

 

 

美鈴「以前、門番として働いていたお屋敷の主の名がレミリア様と言いまして、なんとなく見た目が似ていたもので……」

 

麗美「あら、奇遇ね……、私も昔飼っていた犬の名前がメイリンって言うのよ……」

 

美鈴「い、犬ですか?」

 

麗美「そう、チャウチャウっていう大きな犬で、赤毛で優しくて可愛らしい番犬だったのよ」

 

美鈴「赤毛の番犬って……」

 

麗美「門番だった、赤い髪の貴女に似てるわねぇ」

 

町井田「麗美、犬と一緒にしたら失礼でしょ!」

 

麗美「あっ、ごめんなさい、悪気は無いのよ……」

 

美鈴「いえ、私も犬は大好きですから!!」

 

麗美「そうなんだ、貴女の名前を聞いた時からメイリンの事を思い出してなんか嬉しくなっちゃって!!」

 

町井田「麗美は小さな頃から犬が大好きで、犬とばっかり遊んでいたおかげで、友達が少なかったらしいのよ……」

 

麗美「そして、この髪にこの目の色だから、子供の頃から外人だって言われたりして、周りから浮いていたのよ」

 

町井田「この国際化の時代に、ハーフやクォーターなんか当たり前なのにね」

 

麗美「可怜は、そう言うの気にしないでくれるから助かるわ」

 

美鈴「なんか、私も麗美さんと同じような経験あるから、わかります」

 

麗美「その話、可怜から聞いたわ……、貴女とは良い友達になれる気がするわね」

 

町井田「麗美は、同じような境遇にあったと言うことと、紅美鈴という名前を聞いた途端、興味を持ったみたいで、会いたい会いたいってうるさかったのよ」

 

麗美「それが、たまたま遠征中に艦隊からはぐれた、ウチの暁と吹雪を助けてくれた艦娘たちの提督だというのだからね……、全くよく出来た運命よ」

 

 

 

 

町井田「すっかり話は逸れてしまったが、今回ここに来た理由は麗美を連れてきた事では無いのよ」

 

麗美「あぁ、そうだったわね!」

 

美鈴「鎮守府の視察ですか?」

 

町井田「個人的にそれもあるけど、本土から龍星鎮守府への増員の艦娘を連れてきたのよ」

 

美鈴「白雪みたいな娘ですか?」

 

町井田「艦娘ではあるけど、白雪みたいな実戦要員じゃ無くて鎮守府の活動をサポートする艦娘たちね」

 

麗美「大本営に無理言って、優秀な娘たちを連れてきたわよ!」

 

美鈴「サポート要員ですか?」

 

麗美「貴女の鎮守府には足りなかった人材たちよ!」

 

 麗美はそう言うと、輸送艦から下りてきた2人の女性たちに手招きをする。

 

麗美「貴方たち、こっちに来なさい!」

 

 麗美が声をかけた女性たちは、2人ともセーラー服に袴のようなスカートという服装で、1人は黒いロングヘアーに緑色のヘアバンドを着け、眼鏡をかけた知的そうな女性と、もう1人は桃色のロングヘヤーを赤いリボンで束ねた活発そうな女性であった。

 

町井田「黒髪の艦娘が通信手の大淀、もう1人が整備士の明石だ」

 

 町井田の紹介を受けると、大淀と呼ばれた黒髪の艦娘が美鈴に頭を下げた。

 

大淀「軽巡大淀です、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 続けて、明石と呼ばれた桃色の髪の艦娘も美鈴に頭を下げた。

 

明石「工作艦の明石です、艤装の修理や艦娘のケアはお任せください!」

 

 大淀と明石の挨拶を受けた美鈴は、2人に握手を求めながら挨拶をする。

 

美鈴「私は紅美鈴です!大淀さん、明石さんよろしくお願いしますね!!」

 

 2人は順番に美鈴と握手をすると、なんだか安心した表情を見せた。

 

町井田「この2人は、艦娘だけど戦闘用の艤装の開発が間に合っていないから、戦闘には出せないが、サポートとしては一流だからと麗美が以前から目をかけていたんだ」

 

麗美「本当は、ウチで引き抜こうと思ったんだけど、この鎮守府こそ通信手や整備士が必要でしょ?」

 

美鈴「確かに、今までは妖精さんに頼りっぱなしでしたし……」

 

麗美「そうよ、来るときも可怜が無線を入れたのに返事も無くて、妖精さんからモールス信号で返信された時はビックリしたわよ!」

 

美鈴「あの時は、みんな出払ってて留守番をしてくれていた妖精さんが……」

 

町井田「今度からは、大淀がいるから大丈夫ね」

 

大淀「通信や艦隊運営は、お任せください」

 

 大淀は、あらためて美鈴に頭を下げる。

 

 

 

 

麗美「それと、暁たちから聞くと、ここの艦娘に練度が高いのに改装や改造されずに、実力が発揮出来ていない娘もいるらしいじゃない」

 

美鈴「改装?」

 

町井田「艤装を改装して精度を上げたり、練度が高まった艦娘の艤装に改造を施して能力の底上げをすることが出来るのよ」

 

美鈴「そんなことが出来るのですか?」

 

町井田「根本的に艤装を改造するから、使い勝手が変わって一時的に熟練度が下がるけど、基本性能が向上するから、使いこなせば艦娘の能力向上を図れるわ」

 

麗美「艦娘によっては、ウチの日向や最上みたいに航空戦艦や航空巡洋艦へクラスチェンジできる娘もいるのよ」

 

美鈴「そうなんですか!?」

 

明石「ちょっと、ここの娘を見てましたが、何人か改造できる練度になってそうな娘もいましたね~」

 

麗美「改造を有効に使えば、艦娘たちの潜在能力が上がって、眠っていた真の力を目覚めさせることが出来るのよ!!」

 

美鈴「なんか、格好いいですね!」

 

麗美「艦娘の眠りし真の力を解放させることが、この穢れし世界を救う鎮魂歌(レクイエム)となるのよ!」

 

町井田「(また、麗美の厨二病が出始めてきたわね……)」

 

 

 

 

 その日の晩、大淀と明石の歓迎会を兼ね、麗美と町井田、輸送艦の護衛についていた紅月鎮守府の艦娘を招いた夕食会が開かれた。

 

 輸送艦の護衛についていた艦娘は、紅月鎮守府の秘書艦である日向、すでに顔見知りである最上に暁、暁と同じ服装の少女が3名で、1人は銀色のロングヘアーの冷静そうな少女と、茶色のボブヘアーの活発そうな少女、薄茶色の髪を後ろでアップヘアーにして束ねた気弱そうな少女であった。

 

大淀「龍星鎮守府の艦娘の方々は、初めましてですね。私は軽巡洋艦の大淀です」

 

大淀「本日付で龍星鎮守府に着任し、艦隊運営や、本土との連絡等のサポートをさせていただきます。皆さん、よろしくお願いいたしますね」

 

天龍「オレと同じ軽巡か、ライバル登場だな」

 

美鈴「訳あって、大淀さんは艤装の開発が間に合っていないようなので、鎮守府のサポートをしてもらうことになったの」

 

鳳翔「そうなのですか、でも真面目そうな方で頼りになりそうですね」

 

白雪「大将タイプの天龍さんと違い、委員長タイプな感じですね」

 

明石「私は工作艦の明石です!艤装の整備や改装が得意よ。みんなよろしくね!」

 

金剛「Wow!整備が得意な艦娘なんて珍しいデスネー!」

 

町井田「彼女がいてくれれば、練度が上がった艦娘の艤装を改造することが出来るのよ」

 

天龍「それは凄いな!オレの世界水準を軽く超えた装備がさらにパワーアップできるのかよ!!」

 

白雪「(昔の世界水準を超えた艤装が、少しでも近代化改装出来たら良いですね……)」

 

 大淀と明石が自己紹介を終えると、続けて麗美が前に出てきた。

 

麗美「今日は、お招きいただいてありがとう。私は紅月鎮守府提督の紅月麗美よ」

 

深雪「あの人が、『東洋のカリスマ』紅月麗美提督か……」

 

雪風「綺麗な人ですね」

 

麗美「この鎮守府の皆には、すでにウチの娘たちが世話になっているから、町井田中尉の輸送艦の護衛を兼ねて、お礼を言うためにお邪魔させていただいたわ」

 

鳳翔「わざわざお礼に来るなんて、なんだか義理堅くて良い方みたいですね」

 

天龍「軍の幹部なのにわざわざ自分から出向いてくるとはな、気に入ったぜ!」

金剛「提督と同じくらいの歳なのに、将軍なんて凄いデスネー!」

 

麗美「今日は、感謝と友好の印に、艦娘に人気の間宮のスイーツと最高級の紅茶を準備しているから、食後にみんなでいただきましょう」

 

白雪「間宮さんのスイーツ!?」

 

金剛「最高級の紅茶!?」

 

 麗美の手土産に、白雪と金剛が食い気味に反応した。

 

 

 

 

 麗美の挨拶が終了した後、暁がまだ面識の無い艦娘3人を引き連れて美鈴たちの下にやってきた。

 

暁「美鈴提督、ごきげんようです!」

 

美鈴「暁ちゃんも元気そうで何よりだよ」

 

 美鈴は、思わず暁の頭をなでる。

 

暁「頭をなでなでしないでよ!もう子供じゃなくて一人前のレディーなのよ!!」

 

 暁が、顔を真っ赤にしながら美鈴にやめるように訴えるが、言葉とは裏腹に嫌そうな感じは無い。

 

鳳翔「暁さん、お久しぶりです。そちらの皆さんは暁さんのご姉妹ですか?」

 

暁「あっ、鳳翔さん……」

 

 鳳翔に声をかけられた暁は、更に顔を真っ赤にして動きが止まった。

 

銀髪の少女「暁型2番艦の響だよ、姉の暁がお世話になったみたいだね、スパスイーバ」

 

ボブヘアーの少女「暁型3番艦の雷よ、貴女が鳳翔さんね、暁がいつも自慢げに話してるわ!」

 

鳳翔「暁さんが?」

 

雷「最高のレディーがいるって、いつも鳳翔さんのこと話しているのよ!」

 

暁「雷!余計なこと言わないでよ!!」

 

 暁は、雷を黙らせようと詰め寄る。

 

アップヘアーの少女「暁ちゃん、雷ちゃん、喧嘩はダメなのですー!」

 

響「暁たちは響が止めるから、電はちゃんと挨拶をしなよ」

 

アップヘアーの少女「はわわっ、自己紹介がまだだったのですー」

 

アップヘアーの少女「暁型4番艦の電です、皆さんよろしくなのです!」

 

深雪「暁型ってことは、みんな特Ⅲ型か……妹みたいなものだな」

 

白雪「なんだかみんな、可愛いわね」

 

 

 美鈴が作った中華料理、鳳翔の和食、金剛が作った英国風カレーなどが振る舞われて、龍星鎮守府の食堂で和やかな歓迎会が始まった……

 




 最近、色々あって更新が遅れていましたがなんとか18話が完成しました。

 今回も、戦闘は無しで会話メインの話となっていますが、しばらくは戦闘は無いかもしれません。

 そろそろ過去編を書いて、美鈴が主体となるストーリーになっていく予定ですが、予定は未定なのでまだわかりませんね(笑)

 


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第19話 龍の鼓動

    ザザーン ザザーン

 

 夜の海岸に、波の音が響き渡る。

 

 歓迎会を終えた後、美鈴は1人で海岸を歩いていた。

 

美鈴「(紅月麗美さん……、レミリアお嬢様とは似ているようで違うような気もする……)」

 

 美鈴は、紅月鎮守府の提督である紅月麗美准将について考えていた。

 

麗美「あら、美鈴1人で散歩かしら?」

 

美鈴「!?」

 

 不意に声をかけられた美鈴は、驚き身構えたが声の主が紅月麗美だと気がついて構えを解いた。

 

美鈴「紅月准将、こんなところでどうしましたか?」

 

麗美「ふふっ、ちょっと酔いを覚ましに夜風に当たりに来ただけよ」

 

美鈴「そうでしたか……」

 

 歓迎会の席には、麗美が持ち込んだワインも振る舞われており、美鈴や麗美、町井田のほか一部の艦娘も飲酒をしていた。

 

 

 

 

麗美「そういえば、貴女も私のワインを飲んでいたわね、どうだったかしら?」

 

美鈴「お酒なんか久しぶりでなんか酔っちゃいましたよ、あの赤ワインは紅月准将のお気に入りですか?」

 

麗美「そうよ……、深く紅い色合いに、芳醇な葡萄の香り……」

 

麗美「あの血のように紅いワインには、生命のきらめきがあると思わないかしら?」

 

美鈴「生命のきらめきですか……、なんだか詩人みたいですね」

 

麗美「詩人か……、世が世ならそういう職業の選択肢もあったのかもしれないわね……」

 

美鈴「紅月准将?」

 

麗美「ふふっ、准将はお止めなさい……」

 

美鈴「えっ?」

 

麗美「共に盃を交わした仲じゃない……、私たちは友人よ」

 

美鈴「ええっ!?」

 

麗美「嫌かしら?」

 

美鈴「と、とんでもない!!」

 

麗美「歳も近いんだし、麗美もしくはレミィと呼んでちょうだい」

 

美鈴「レミィ……(パチュリー様がレミリアお嬢様を呼んでいた愛称と一緒じゃ無い?)」

 

麗美「あら、レミィって呼んでくれるの?」

 

美鈴「えっ、あっ……」

 

麗美「良いのよ良いのよ!レミィって呼んでちょうだいよ!!」

 

 麗美は、急に無邪気に笑いながら美鈴に抱きついてくる。

 

麗美「じゃあ、貴女のことはメーリンって呼ばせてもらうわね!」

 

美鈴「えっ、あ……、はい」

 

麗美「ふふっ、二十歳にもなって少しはしゃぎすぎたかな?」

 

美鈴「れ……レミィは、二十歳だったんですね」

 

麗美「そうよ、メーリンは?」

 

美鈴「私は……」

 

 美鈴は、自分の年齢を答えようとした時、自分が何歳であるかについて少し戸惑った。

 

 

 

 

 美鈴は、1864年に上海で中国人の父と、日本人とオランダ人のハーフである母親の間に生まれた、いわゆるクォーターである。

 

 1884年(明治17年)に、美鈴が住んでいた台湾が戦火に飲まれた時、武術の達人であった美鈴は女性ながらも兵に志願し戦場を転戦していた。

 

 そんなとある日の深夜、美鈴が所属する部隊の宿所が敵軍の夜襲を受けて大火事になった。

 

 この時、当番で夜警に出ていた美鈴は、難を逃れていたが仲間を救うべく宿舎へ急行していた。

 

 しかし、敵の夜襲部隊に鉢合わせてしまい、一斉銃撃を受けてしまう。

 

 薄れゆく意識の中、次に美鈴が目を覚ましたときには幻想郷であった。

 

 幻想郷に行ってからは、『気』が使える妖怪として100年以上暮らしていたが、妖怪となってからは、肉体的な成長や老化は特に無く、幻想郷に入った段階の20歳のままであった。

 

 このようなこともあり、実際の年齢は100歳を優に超えているのだが、人間としての年齢は幻想郷に入る前の20歳と言うべきなのだろうか?

 

 美鈴は、色々と考えを巡らせていたが、人間としての肉体の年齢である20歳であると答えた方が最良では無いかと結論に至った。

 

美鈴「私も、今は20歳ですよ」

 

麗美「あら、やっぱり同い年だったのね」

 

美鈴「そうですね」

 

麗美「軍務を離れた時は、同い年だし友達なんだから、もっとフランクに話してよ」

 

美鈴「ふふ、友達ですか……」

 

麗美「嫌だとは言わせないわよ」

 

美鈴「(軍の階級ではとても偉い人のはずなのに、こういう懐が広い所もお嬢様に似ているんだよなぁ……)」

 

 美鈴は、麗美にレミリアの姿を重ねていた。

 

美鈴「(麗美さんは、姿はお嬢様と違って成人した大人だけど、お嬢様が数百年経って成長したお姿は、きっとこんな感じなんだろうなぁ……)」

 

麗美「なに嬉しそうに、ニヤニヤしているのよ」

 

美鈴「あ、いや、友達って良いなぁって……」

 

麗美「そうね……、困ったことがあったらいつでも言ってよね」

 

 美鈴と麗美は、2人だけの海岸で固い握手を交わした。

 

 

 

 

 次の日、補給物資の搬入と確認が終わり、町井田の輸送艦が本土に帰還する事となり、海岸には輸送艦や護衛の紅月艦隊の面々を見送るため、美鈴や龍星鎮守府の艦娘たちが総出で海岸に集まっていた。

 

金剛「紅月提督!いただいた紅茶、すごく美味しかったデース!」

 

麗美「あなたは、紅茶に造詣が深かったわね。 今度、美鈴提督と一緒にウチの鎮守府へ遊びにいらっしゃい……、とっておきの紅茶を用意するわよ」

 

金剛「Wow!Tea Timeは大事にしないとネー!」

 

深雪「間宮のあんみつも、高そうなケーキも美味しかったぜぇ!」

 

白雪「深雪ちゃん、紅月准将はすごく偉い方だよ、友達みたいな話し方は失礼だよ」

 

麗美「ふふっ、良いのよ……私は美鈴提督の友達なのだから、公の場じゃ無いところでは気楽に話しかけなさい」

 

暁「ウチの司令官は、すっごく超一人前のレディーなのよ!心は海よりも広いんだから!」

 

雷「指揮は超一流で、交渉上手、しかも容姿端麗ときたものだから、暁には一生追いつけない本物のレディなんだから!」

 

響「暁の『一人前のレディー』とは違って、司令官の『東洋のカリスマ』の名は伊達じゃないんだよ」

 

暁「そうよ、ウチの司令官はとってもすごいんだから!って2人とも暁をバカにしたわね、許さないんだから!ぷんすか!!」

 

電「はわわわ、喧嘩はダメなのですー!」

 

美鈴「本当に君たちは、麗美提督も暁ちゃんの事も大好きなんだね」

 

 暁型四姉妹の掛け合いを見ていた美鈴は、思わず声をかける。

 

響「ダメな姉ほど可愛いものさ」

 

雷「司令官がしっかりしている分、暁はもーっと私に頼って良いのよ!」

 

電「ちょっぴり頼りないお姉ちゃんを助けたいって……、おかしいですか?」

 

暁「暁は一人前のレディーだし……、妹たちに、なに言われたってへっちゃらだし……」

 

鳳翔「暁さんは、良いお姉さんなのですね」

 

暁「鳳翔さん……」

 

 妹たちにいじられて、少し落ち込んでいた暁は、憧れの鳳翔に声をかけられて照れながら微笑んでいた。

 

 

 

 

    ウゥゥゥゥー

 

 突然、島内に警報が鳴り響いた。

 

美鈴「何が起こったの?」

 

大淀「提督!深海棲艦の艦載機と思われる機体が鎮守府に迫っています!!」

 

天龍「何だって!? おいっ!迎撃するぞ!!」

 

雪風「天龍さん、みんな艤装を装備していません!!」

 

天龍「ちぃ、急いで艤装を取りに行くんだ!!」

 

金剛「提督や皆さんは、避難してて欲しいデース!」

 

 龍星鎮守府の艦娘たちは、保管している艤装を取りに鎮守府へ駆けて行った。

 

麗美「龍星鎮守府の友人たちを守るわよ!迎撃できる子はいる?」

 

 麗美が紅月鎮守府の艦娘たちに指示を出すと、出航のためにすでに艤装の着装を済ませていた日向と、最上が手を上げて答えた。

 

日向「提督、私も最上も出撃可能だ」

 

最上「ボクたちの艦載機で迎撃に出るよ!」

 

麗美「敵の数はまだわからないけど、一機も龍星鎮守府へ近づけちゃダメよ!」

 

日向「了解!最上、瑞雲を発艦させるぞ!!」

 

最上「いっけー!」

 

 日向から14機、最上から11機の瑞雲が発艦し深海棲艦の航空部隊の迎撃に向かった。

 

 

 

 

 日向たちから発艦された瑞雲たちは、敵航空機が視認できる距離まで接近していた。

 

日向「瑞雲たちが敵と接触したようだ……」

 

日向「なにっ!敵機の数は80機以上だって!?」

 

麗美「80機以上ですって!? まさか、この近海にヲ級がいるとでもいうの!?」

 

美鈴「ヲ級?」

 

町井田「深海棲艦の正規空母よ、鳳翔の様な軽空母以上の艦載機を一気に運用できる大型艦……」

 

麗美「瑞雲はマルチロール機だけど、純粋な対空戦闘は得意としていないわ……」

 

日向「瑞雲たちだけじゃ、押さえ切れそうに無いな」

 

暁「第六駆逐隊、出撃準備出来たわ!」

 

最上「突破された敵機は海上に出て、ボクたちで迎撃しよう!」

 

日向「そうだな、三式弾は準備出来てるか?」

 

 日向が、大型艦用の対空装備である三式弾を装着しようと確認したが、見当たらない。

 

最上「持ってきた分は、龍星鎮守府にあげちゃったみたいだよ!」

 

日向「そうか、金剛が戻ってくるまでは通常弾でやるしか無いな……」

 

 紅月鎮守府の艦娘たちは、海岸を離れて海上で敵航空機を迎撃するために出撃した。

 

 

 

 

 美鈴たちは、敵航空機の空襲を避けるため、町井田の輸送艦に搭乗していた。

 

町井田「この新造輸送艦のミディアなら、多少の攻撃では沈まないわ」

 

麗美「この海域に、この規模の航空部隊がいたなんて……」

 

美鈴「ウチの娘たちも、もうすぐ戻ってくる頃だと思います、なんとか耐えましょう!」

 

麗美「ヲ級がいるとわかっていたなら、加賀を連れてくればよかった……」

 

美鈴「加賀?」

 

麗美「ウチの鎮守府の正規空母艦娘よ、あの子がいれば制空権を奪われることなんか無かったのに……、私のミスだわ……」

 

 美鈴たちが、甲板で戦況を見守っていると、日向たちの瑞雲を突破した敵航空機が、約70機接近してくるとの情報が、日向からの無線で入った。

 

麗美「70機ですって!瑞雲隊は大丈夫なの!?」

 

日向「瑞雲隊はほぼ壊滅、完全に制空権は奪われた……」

 

町井田「ミディアからも対空射撃の支援をする!一機でも多く敵機を撃ち落とすのよ!!」

 

最上「ボクたちが突破されたら、提督たちが危ない……」

 

雷「深海棲艦の航空機なんて、加賀さんの艦載機に比べればたいしたことないわ!」

 

電「電の本気を見るのです!」

 

響「不死鳥の名が伊達じゃ無いところを、見せてあげるよ!」

 

暁「来たわ!第六駆逐隊の力を見せてやるわよ!!」

 

 紅月鎮守府の艦娘たちは、海上で敵航空機の迎撃を始めた。

 

 

 

 

    ドォォン ドォォン ズダダダダダ

 

 紅月鎮守府の艦娘たちが、高角砲や機銃で敵航空機へ対空砲撃を行っている。

 

暁「落としても落としても、次々に来るわ!」

 

電「はわわ、このままじゃ突破されちゃうのです!」

 

日向「町井田中尉のミディアからの支援砲撃も来ている、まだ諦める時じゃ無い!」

 

最上「龍星鎮守府のみんなも、もうすぐ来てくれるはずだよ!」

 

雷「司令官には私がいるの、絶対に助けるわ!」

 

響「司令官の信頼に応えるためにも、やってやるさ!」

 

 龍星鎮守府を守るため、後方に控える麗美提督や仲間たちを守るため、敵航空機からの爆撃や雷撃に耐えながらも、必死に対空射撃を行う紅月艦隊。

 

 しかし、約70機の敵航空機をすべて仕留める事は出来ず、約30機が紅月艦隊の対空射撃を切り抜け突破してしまう。

 

町井田「やっと再建した龍星鎮守府を、こんなところで壊滅させるわけにはいかない!」

 

町井田「ミディアは戦闘艦では無いが、航空機程度なら落とすことは出来るはずだ!!」

 

町井田「全機銃、敵航空機をこれ以上近づけるな!撃てぇぇぇ!!」

 

 町井田の号令により、ミディアに装備された数十の機銃が一斉掃射される。

 

美鈴「すごい弾幕だ……」

 

麗美「でも、まだ落としきれないわ……」

 

 ミディアによる機銃の一斉掃射で、5機ほどの敵航空機を撃墜したが、まだ健在の敵航空機がミディアへ攻撃を仕掛けようとしてきた。

 

 

 

 

 その時、龍星鎮守府から4発の砲弾が敵航空機へ向けて飛翔してきた。

 

 敵航空機は、難なく砲弾を回避したかと思ったその時、突然砲弾が炸裂し敵航空機10機ほどが火に包まれた。

 

金剛「Burning Love!!」

 

 その砲弾は、艤装を装着し補給された新兵器である三式弾を、鎮守府の高台から放った金剛によるものだった。

 

金剛「さぁ、私たちの出番ネ!Follow me! 鳳翔、ついて来て下さいネー!」

 

鳳翔「鎮守府も提督たちも、やらせるわけにはいきません!」

 

 そう言うと、金剛の横にいた鳳翔が艤装の弓を引き絞り、一本の矢を放った。

 

 鳳翔から放たれた矢は、空中で青白く光った後灰色のプロペラ機へと姿を変える、鳳翔の艦載機である『零式艦戦21型』である。

 

 鳳翔から放たれた『零式艦戦21型』は11機であり、敵航空機は約15機、数では若干劣ってはいたが、幾たびの対空砲撃を受けてきた敵航空機に対し、鳳翔の艦載機は発艦したばかりである。

 

    ズガガガガ ズガガガガ

 

 『零式艦戦21型』の機銃が、的確に敵航空機を打ち抜き次々と敵航空機を撃墜していく。

 

金剛「さすが鳳翔の艦載機!Niceな戦果デース!」

 

 撃墜されていく敵航空機たちの爆煙を見た金剛は、鳳翔を褒め称える。

 

鳳翔「まだです!艦載機からの報告によると1機撃ち漏らしたみたいです!!」

 

金剛「Oh……!提督が危ないデース!!」

 

 

 

 

麗美「鳳翔の艦載機が全部やつけてくれたかしら?」

 

町井田「煙でよく見えないわね……」

 

 輸送艦の甲板で、戦闘の様子を見ていた美鈴たちは、敵艦載機の爆煙で視界が塞がっていた。

 

    ギュゥゥゥン

 

 美鈴が上空を見上げていると、プロペラ機とは違う独特の飛行音が聞こえてきた。

 

美鈴「敵の飛行機が来る!みんな早く船の中に逃げて!!」

 

 敵航空機の接近にいち早く気がついた美鈴は、麗美や町井田たちに避難するように叫んだ。

 

 上空の爆煙が薄くなった時、敵航空機の1機がミディアの直上に迫っていた。

 

麗美「何ですって、可怜!隠れるのよ!!」

 

町井田「麗美!近くの物陰に隠れて!!」

 

 敵航空機は、爆弾の投下用意をしながらミディアの直上から急降下してきた。

 

 

 

 

天龍「くそっ、まだここからじゃ届かねぇ!!」

 

深雪「輸送艦には美鈴たちがいるんだ!!」

 

白雪「あの爆撃機の爆弾が投下されてしまったら……」

 

雪風「しれぇぇー!!!」

 

 射程距離の関係で、金剛たちのように対空攻撃に参加出来なかった天龍たちは、艤装を装備してから海岸へ急行中であった。

 

 爆撃タイプの敵航空機がミディアの直上に急降下しているのを確認したが、未だに有効射撃距離には到達していなかった。

 

 

 

 

美鈴「あれは、爆弾?あんなのを落とされたら、甲板のみんなが死んじゃう……」

 

 敵航空機が投下準備している爆弾を見た美鈴は、瞬時に投下された時の被害が目に浮かんだ。

 

美鈴「町井田さんも、麗美さんも、私にとって大切な仲間なんだ!!」

 

美鈴「私は、あの頃の弱い私じゃ無い!! 目の前の大切なモノは守って見せるって、あの日に決めたんだ!!」

 

 美鈴は、なんとか爆弾から仲間を守ろうと、1人で駆け出した。

 

麗美「メーリン!?」

 

 麗美は、美鈴を見てとっさに後を追いかけようとする。

 

町井田「ダメ!麗美、危ないわよ!!」

 

麗美「でも、メーリンが!!」

 

町井田「美鈴!早くどこかに身を隠すんだ!!」  

 

 町井田は、麗美を抱き止めると、美鈴に向かって叫んだ。

 

 

 

 

美鈴「空を飛べたら、あんな爆弾を落とされる前になんとか出来るはずなのに……」

 

美鈴「それが出来ないなら、爆発される前に打ち返す!!」

 

美鈴「それも無理なら、私がみんなの盾になる!!」

 

美鈴「私は、紅魔の龍!! 門番の紅美鈴だぁぁ!!!」

 

 美鈴が叫んだ途端、美鈴の体の周りに色鮮やかな光が現れる。

 

美鈴「この一瞬で良い!私の力よ目を覚ませぇぇぇ!!!」

 

 光は徐々に大きくなり、美鈴の体全体を覆い尽くしていく。

 

 

町井田「あれが、噂の『気』の力なの?」

 

麗美「目覚めぬ龍が、目を覚まそうとしている……」

 

 美鈴の様子を見守っていた町井田と麗美も、美鈴の体を覆っている光に気がついていた。

 

 

 

 

 眠っていた『気』の力を目覚めさせた美鈴は、手を強く握り『気』を集中する。

 

 敵航空機は、急降下中に美鈴に危険を感じ、爆弾の投下目標を美鈴に定める。

 

美鈴「行くぞぉ!!」

 

 美鈴は、敵航空機に向かって大きく飛び出した。

 

 敵航空機は、爆弾を投下し方向転換しようとする。

 

美鈴「こんな爆弾、落とさせるか!!」

 

 美鈴は、両手で爆弾を受け止める。

 

 

金剛「て、提督が、空を飛んでマース!!」

 

鳳翔「一体何が起こっているのでしょう?」

 

 

深雪「あれは、初めて会った時に、美鈴がイ級をやっつけたときの力だ!」

 

天龍「な、なんだってんだ!!」

 

白雪「不思議な力……」

 

雪風「暖かさを感じます!」

 

 

日向「あの光は何だ?」

 

最上「あれって、美鈴提督だよね?」

 

響「ハラショー……、こいつは力を感じる」

 

雷「何が起こっているの!?」

 

電「はわわわ」

 

暁「すごいキラキラしてる……、あれがレディーなの?」

 

 

町井田「間違いない、これが美鈴の言っていた『気』の力だ!!」

 

麗美「虹色のオーラを纏った、紅い龍……」

 

 

 周囲の皆が、美鈴の一挙一動を見守っている。

 

美鈴「この爆弾は、持って帰ってちょうだい!!」

 

 美鈴は、撤退しようとする敵航空機に向かって爆弾を投げ返す。

 

    ドガァァン

 

 爆弾は、すでに100メートル以上離れた所へ撤退していた敵航空機と衝突して爆発した。

 

美鈴「よかった、みんな無事だ……」

 

 敵航空機部隊の全滅を確認した美鈴は、突然体を覆っていた『気』が消滅し、気を失って落下を始める。

 

麗美「メーリン!!」

 

 美鈴が落下を始める前に、何かを察したのか麗美が美鈴の落下する地点に向かって走り出していた。

 

町井田「海に落ちるぞ!救助隊、急ぐんだ!!」

 

 美鈴の落下方向から、海面に落ちると判断した町井田は、救助隊にボートの準備を急がせた。

 

 

 

 

天龍「あのままじゃ、美鈴が海面に叩き付けられるぞ!なんとか受け止めるんだ!!」

 

 鎮守府から駆けつけていた天龍たちは、海上まで来ており、美鈴の落下地点のすぐ近くまで到達していた。

 

白雪「あの高さから落ちてきたら、司令官が大怪我しちゃうわ」

 

深雪「今回は、深雪さまが助ける番だぁぁぁ!!」

 

雪風「雪風も、しれぇを助けます!!」

 

 天龍たちは、4人で距離をとりながら慎重に美鈴の落下地点を見定める。

 

天龍「来るぞ!深雪の近くだ!!」

 

深雪「美鈴!!」

 

 深雪は、美鈴が落下してくる地点に移動して身構える。

 

深雪「深雪さまが、受け止めてやるぜぇー!!」

 

 深雪は、美鈴に向かってジャンプして空中で美鈴を抱きかかえる。

 

深雪「よっしゃ!」

 

    ズボーン

 

 深雪は、そのままお尻から海面に落下する。

 

深雪「いっつつつつ……、美鈴は無事か?」

 

 深雪が美鈴をのぞき込むと、まだ意識は失ったままだが怪我はなさそうであった。

 

麗美「メーリン!メーリンは無事なの!?」

 

 深雪が海面に落下した直後に、麗美が泳いで近づいてきていた。

 

天龍「大丈夫だ、深雪が上手く受け止めてくれたから、落下による怪我は無いぜ」

 

天龍「ところで、紅月提督こそあの輸送艦から飛び込んできたのか?」

 

麗美「えっ?輸送艦?」

 

 麗美は、振り返り輸送艦を見上げると、海面から20メートル以上ある甲板から町井田がのぞき込んでいた。

 

麗美「うそっ、あんな高いところから私は飛び込んできたの? しかも私は、泳ぎは苦手なのよぉ~」

 

 美鈴の無事を確認して安心した麗美は、力が抜けるような声を出しながら急に溺れ始めた。

 

天龍「うおっ!なんで急に溺れてるんだよ!!」

 

 天龍は、麗美を抱きかかえると、美鈴を抱きかかえた深雪と一緒に海岸へ戻って行った。




 私の記憶が確かなら、前回の後書きで「しばらく戦闘は無いかもしれません」と言っていたにもかかわらず、深海棲艦の空襲という戦闘ありましたね……

 今回も、美鈴は『気』の力を一時的に目覚めさせていますが、空も飛んでいますし第1話の時以上に『気』を扱えている感じです。

 書いていて思ったのですが、気を失った成人女性が上空から落ちてくるのをキャッチして助けられるってあり得ないかとも思ったのですが、「艦娘ってすごいな」って事で、そこのところはよろしく頼みます(笑)


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第20話 眠れる龍の華人小娘

   コンコン

 

 龍星鎮守府内にある医務室のドアを誰かがノックする。

 

明石「どーぞ」

 

 医務室にいた明石が返事をすると、ガチャリと医務室のドアが開かれる。

 

明石「紅月提督でしたか、ウチの提督はまだ寝たままですよ」

 

 医務室のベットで横たわる美鈴の姿を見て、麗美は心配そうな表情をしている。

 

明石「まさか鎮守府に着任して早々の仕事が、提督の修理だとは思いませんでしたよ」

 

麗美「やっぱり怪我は酷いの?」

 

明石「怪我ですか?特に怪我は無いですよ」

 

 明石の飄々とした返事に、麗美は怪訝そうな表情を見せる。

 

麗美「では、提督の修理というのはどういうことなの?」

 

明石「あぁ、まだ皆さんに説明していませんでしたね」

 

 明石はそう言うと、ベットに横たわる美鈴に近寄る。

 

明石「紅月提督は、今まで何かスポーツとかをしたことはありますか?」

 

麗美「スポーツ?部活動とかで本格的にやったりしたことは無いけど……」

 

明石「そうですか……、では、普段あまり運動していないなら、急に運動したりして筋肉痛になったりしたことはありますか?」

 

麗美「それならあるわね、学生の頃に誘われてゴルフに行ったときに一日かけて18ホール回った時は、300以上も叩いちゃって全身筋肉痛よ……」

 

明石「300ですか!? コース平均16打以上?」

 

麗美「母の実家のゴルフ場を貸し切ったのよ……、私は、最後まで投げ出さずにやりきったのよ!」

 

明石「(紅月提督は運動苦手なのかなぁ?)」

 

麗美「一応最高スコアは65だけど、深海棲艦が現れてからはやっていないわねぇ……」

 

明石「65ってトッププロレベルでは?」

 

麗美「まぁ、ゴルフ歴は3ヶ月くらいだし……、って美鈴の話はどうなったのかしら?」

 

明石「あぁー、そうでした……」

 

 明石は、麗美の思わぬゴルフの話に夢中になりかけていたが、本題に戻ることにした。

 

明石「紅月提督も経験あるでしょうが、急に激しい運動をすると疲労が溜まったり、筋肉痛になったりしてしまいますよね」

 

麗美「それは聞いたわね」

 

明石「特に、自分の体の限界を超えるような運動をしてしまったりすると、しばらく動けなくなったりして大変ですよね」

 

麗美「それはそうね……」

 

 

 

 

明石「町井田中尉の輸送艦ミディアの直上で、深海棲艦の爆撃機が急降下爆撃を仕掛けようとしたとき、ウチの提督は『気』とかって言う不思議な力を使って紅月提督たちを救いましたよね」

 

麗美「『気』がどんなモノかよくわからないけど、町井田中尉や深雪は『気』の力だって言っていたわね」

 

明石「私の専門は人間じゃ無いので、正確なことはわからないですが、ウチの提督の『気』と言う力はものすごくエネルギー消費が多いんですよ」

 

麗美「『能力』と『器』のバランスが悪いというのかしら?」

 

明石「う~ん、まぁそういった所でしょうかね~」

 

麗美「艦娘で言うのなら、駆逐艦が戦艦の艤装を装備して46cm三連装砲を撃つみたいな感じかしら?」

 

明石「あぁ、それが的確な表現ですね!普通の人間の体には、あの『気』の力はオーバースペック過ぎるんです!」

 

麗美「美鈴には、これ以上『気』を使わせるべきでは無いわね……」

 

 麗美が、腕を組んで思案していると、明石が言葉を続ける。

 

明石「『気』の力自体は、昔から自然界にあるモノと考えられてましたし、特に人間に害する力でも無いんですけどねぇ~」

 

麗美「それはどういうことかしら?」

 

明石「ウチの提督が、『気』をもっと上手くコントロール出来るようになるか、何らかの道具を使って『気』を制御出来れば良いんだと思いますよ」

 

麗美「コントロール……、制御する道具……」

 

明石「後者に関しては、技術者としての意見で人間に当てはめるモノでは無いかもしれませんが……」

 

麗美「とにかく、美鈴は私の親友なのよ、無茶はさせないで欲しいわね……」

 

明石「私だって、ウチの提督のことはまだよく知りませんが、好意的には感じてますから早く元気になって欲しいですよ」

 

 医務室内で麗美と明石は、美鈴の『気』の力について自分たちなりの解釈を話していたが、美鈴が目を覚ますことは無かった。

 

 

 

 

 医務室の前では、龍星鎮守府の艦娘たちが美鈴を心配して集まっていた。

 

金剛「提督が心配デース!お見舞いくらいさせて欲しいデース!」

 

深雪「大きな怪我は無いんだろう?顔くらい見せてくれよ!」

 

 医務室のドアの前で制止する町井田に、艦娘たちが詰め寄っている。

 

町井田「美鈴は、命には別状は無い!今は麗美と明石がミディアの医療スタッフと容態を確認中だから面会は後からにするんだ!」

 

金剛「じゃあ、私も医療スタッフとして部屋に入りマース!」

 

町井田「ダメだ、空襲がさっきの一度だけとは限らないんだぞ!この鎮守府の主力のお前がいなくてどうするんだ!!」

 

金剛「うぅ~、でも、そうですよネ~」

 

天龍「確かにそうだけど、みんな美鈴が目を覚ましていないって聞いて心配しているんだ、どんな状況かだけでも教えてくれよ」

 

鳳翔「あんな不思議な力を使っていたんですから、相当お体に負担がかかっているのでは無いか心配なんです……」

 

町井田「心配なのはわかるが……、私だって心配だが……」

 

 艦娘たちに食い下がられて、町井田が困り始めた時、医務室のドアがガチャリと開き、麗美が出てきた。

 

麗美「貴方たち、もう少し静かに出来ないの?」

 

白雪「紅月准将、提督は大丈夫なのでしょうか?」

 

雪風「しれぇは目を覚ましましたか?」

 

 医務室から出てきた瞬間に、龍星鎮守府の艦娘たちから質問攻めにあった麗美は、どれだけ美鈴が艦娘たちに好かれているかが理解出来た。

 

麗美「安心しなさい、美鈴は疲れて寝ているだけよ」

 

深雪「本当かよ?」

 

麗美「私の言うことが信用出来ないかしら?」

 

金剛「No!紅月提督の目は嘘をついてる目じゃないデスネー」

 

麗美「信じてもらえるかしら?」

 

雪風「しれぇは、本当に寝ているだけですか?」

 

麗美「皆も見たでしょうけど、美鈴は怪我とかしていたかしら?」

 

鳳翔「深雪さんが海岸に運んできたときも、皆で医務室に運び込んだ時も、怪我は無さそうでしたね」

 

麗美「そうね、美鈴のただ私たちを助けるために目一杯頑張ってくれただけ、それで疲れ切って寝ているだけよ」

 

天龍「確かに、呼吸や脈も安定していたしなぁ……」

 

麗美「だから、こんなところで騒がしくして美鈴の睡眠の妨害をしちゃダメなのよ」

 

深雪「疲れて寝てるなら、ぐっすり休ませてあげないとな」

 

麗美「わかったなら、貴方たちも休めるときには休まないとダメよ、少し食堂で休憩するわよ」

 

 そう言うと、麗美は食堂へ向かって歩いて行く。

 

麗美「まだ、私の持ってきた甘味があるわ、お茶でも飲みながら食べるわよ」

 

 麗美は、龍星鎮守府の艦娘たちに声をかけると1人で食堂に向かって行くが、艦娘たちはどうして良いかわからずに立ち尽くしている。

 

金剛「(きっと、紅月提督は私たちを励ましてくれてマース)」

 

金剛「(ここは私も、お姉さんとして皆を元気づけなきゃダメな時デース)」

 

 麗美の気遣いに気がついた金剛は、麗美の言葉を信じて皆を鼓舞しようと考えた。

 

金剛「Wow!また間宮の甘味があったんデスネー!みなさーんTea Timeは大事にしないとネー!!」

 

 金剛は、明るく振る舞い麗美のお茶会に参加しようと龍星鎮守府の艦娘たちを引き連れて麗美についてきた。

 

麗美「(戦艦金剛……、明るくリーダシップをとれる彼女の存在は、この鎮守府にとって大きいわね)」

 

 

 

 

 麗美は、龍星鎮守府の艦娘たちを引き連れて食堂でのティータイムに興じていた。

 

金剛「う~ん、やっぱり紅月提督が持ってきた紅茶は、すごく美味しいデース!」

 

麗美「ふふっ、本当は帰りに飲む分の茶葉だったのだけど、このままじゃ帰れないし皆に飲んでもらおうと思ったのよ」

 

深雪「そうだったのか、ありがとうな」

 

 深雪は、ガツガツとあんみつを食べながら麗美にお礼を言う。

 

天龍「甘いものは、疲労回復に良いと言うしチビたちも嬉しそうに食べてるし、ありがたいな」

 

 深雪に負けじと、ガツガツとあんみつを食べながら天龍も麗美に声をかける。

 

雪風「ははは、天龍さんが一番嬉しそうに食べてます!」

 

天龍「何だって!お、オレはガキじゃねえんだからおやつに夢中になったりは……」

 

鳳翔「でも、間宮のあんみつは女子に人気と聞きますし、美味しいですね」

 

天龍「ま、まぁ、美味いものは美味いんだ!」

 

白雪「天龍さんは甘いものが好き……メモメモ」

 

天龍「白雪!へ、変なことをメモるな!!」

 

 麗美は、龍星鎮守府のやりとりを見ながら安心した表情で微笑んでいた。

 

麗美「(メーリンが目を覚まさなくて、ここの子たちの士気が心配だったけど、元気になったみたいだしなんとかなりそうね……)」

 

金剛「(みんなの士気の低下が心配でしたが、紅月提督の計らいでなんとか皆元気になってくれまシタ……、やっぱり紅月提督はやり手の指揮官デスネ)」

 

 金剛は、麗美のティーカップに紅茶を注ぎながら『東洋のカリスマ』紅月麗美を尊敬のまなざしで見ていた。

 

 

 

 

大淀「はい、こちら龍星鎮守府です」

 

 麗美たちが食堂で歓談している時、提督室に配備された無線機に通信が入った。

 

女性の声「こちらは紅月鎮守府の加賀よ、紅月提督はそちらにいらっしゃいますか」

 

大淀「はい、鎮守府内にはいらっしゃいますがお呼びしますか?」

 

加賀「そう、この時間だとお茶をしていると思うけど、緊急の連絡があるので頼めるかしら?」

 

大淀「呼び出ししてみますので、少しお待ちくださいね」

 

 大淀は、一旦通信を切ると麗美がいる食堂へ向かった。

 

 

 大淀が食堂に着くと、ちょうどティータイムを終えた一同が後片付けを行っていた。

 

大淀「紅月提督、よろしいでしょうか?」

 

麗美「あら、何かしら?」

 

大淀「紅月鎮守府の加賀さんから、紅月提督に連絡があると無線連絡がありました」

 

麗美「ふむ、今回の件に関することかしら……、すぐ行くわ」

 

大淀「ありがとうございます」

 

鳳翔「後は、私たちで片付けておきますね」

 

麗美「助かるわ、ありがとう」

 

 麗美は、食堂の後片付けを鳳翔たちに任せると、大淀に案内され提督室へ向かう。

 

麗美「(急なことで、特に指示は出せてなかったけど、あの子たちなら何か情報をキャッチしてくれているはず……)」

 

 

 

 

美鈴「うぅ……」

 

 医務室で寝ている美鈴が、呻くように声を漏らす。

 

明石「提督、気がついたのかしら」

 

美鈴「ダメだ……、また飛行機が攻めてくる……」

 

 美鈴は苦しそうに寝言を言っている。

 

明石「どうしよう、うなされているみたいだけど……」

 

美鈴「うぅ……、そっちからだけじゃない……、後ろからも……」

 

 美鈴は、寝汗が酷かったので、明石はタオルで体を拭き取ってあげることにした。

 

明石「大丈夫ですよー、紅月提督も残ってくれてますし、今は安心してお休みしてて下さいねー」

 

 明石は、うなされている美鈴の額の汗を拭き取りながら声をかける。

 

 しばらくすると、美鈴は再び静かに寝息を立てながら眠りについた。

 

明石「悪い夢でも見ているのか、何かの危険を察知しているのか……」

 

明石「一応、報告しておいた方が良いかも……」

 

 明石は、美鈴がうなされながら語った寝言について、医務室の外で待機していた町井田に報告することにした。

 

 

 

 

 その頃、麗美と大淀は龍星鎮守府の提督室にたどり着き、新しく配備された無線機で紅月鎮守府を呼び出した。

 

吹雪「こ、こちら紅月鎮守府です!」

 

麗美「吹雪ね、私よ」

 

吹雪「し、司令官!少々お待ちください加賀さんをお呼びします!」

 

麗美「頼んだわね」

 

 麗美が無線機の前で待っていると、少し呼吸を乱した加賀が無線に出た。

 

加賀「はぁはぁ、提督、すみませんお待たせしました」

 

麗美「どうしたの、あなたが息を乱しているなんて」

 

加賀「実は、遠征中の伊勢からヲ級数体を含む深海棲艦の空母機動部隊が接近しているとの報告があり、瑞鶴や龍壌へ鎮守府周辺の索敵を指示していたのですが……」

 

麗美「深海棲艦の空母機動部隊……」

 

加賀「紅月鎮守府はまだ無事ですが、周辺鎮守府で深海棲艦の航空部隊による攻撃を受けたとの情報が入っていました」

 

麗美「やはりね、この龍星鎮守府もヲ級よるものと思われる、深海棲艦の航空部隊約80機の空襲があったのよ」

 

加賀「なんですって、提督はご無事ですか?」

 

麗美「龍星鎮守府の紅美鈴提督のおかげで、大きな損害は無かったわ」

 

加賀「そうでしたか……」

 

麗美「大本営からは何か指示は来ているかしら?」

 

加賀「はい、この海域全体の鎮守府へこれより発布させる予定の指示として『敵空母部隊を撃沈せよ』とのことです」

 

麗美「なるほどね、私もそちらに戻る必要がありそうね……」

 

加賀「しかし、深海棲艦の空母機動部隊が複数確認されていますし、日向や最上はともかく訓練中の第六駆逐隊だけの戦力では、町井田中尉の輸送艦を護衛しながらの帰還は厳しいのでは?」

 

麗美「そうね、加賀の判断で第二艦隊を編成してこちらに派遣してもらえないかしら?」

 

加賀「航空部隊の運用が必要ですね……、急ぎ手配して救援に向かいます」

 

麗美「頼んだわね」

 

 麗美は、通信を終えると大淀に、町井田、日向、金剛、鳳翔の4名を提督室へ呼び出すように指示を出す。

 

麗美「さぁ、龍が目覚めるまでは私がここを守ってみせるわよ!!」




 今回から、本家『艦隊これくしょん』の1-4『南西諸島防衛線』をモチーフとしたストーリーが開始されそうな気がします。

 まぁ、イベントでも無いのに深海棲艦の空襲があるとかなかなかな展開ですが、友軍部隊もいるのでしょうから良いのでは無いかなと自己解決しています。

 本家『艦隊これくしょん』も予定では間もなくFlash版が終了しHTML5版の第二期がスタート予定であったり、友軍艦隊が実装されるとの噂もあったりと気になる状況ですね。

 私は現在『柱島泊地』所属ですが、『佐世保鎮守府』へ出した異動願はどうなるのかなぁと気になる毎日です(笑)


追記
 平成30年8月1日の人事異動で『佐世保鎮守府』へ異動となりました!!


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第21話 合同作戦

金剛「お呼びと言われてやって来ましター!」

 

鳳翔「お呼びでしょうか?」

 

町井田「この顔ぶれ……、作戦会議かしら?」

 

日向「……まぁ、そうなるな」

 

 龍星鎮守府の会議室に、麗美が招集を指示した町井田、日向、金剛、鳳翔が集まっていた。

 

麗美「皆、集まったようね……」

 

 会議室の奥には紅月麗美が椅子に座って待機していた。

 

金剛「紅月提督、ご用ですカ?」

 

麗美「皆に集まってもらったのは、他では無いわ」

 

 麗美はそう言うと立ち上がり、会議室の奥に進んで行く。

 

町井田「このタイミングでの招集となると、何らかの作戦会議でしょうか?」

 

鳳翔「皆さんお呼びしてきましょうか?」

 

麗美「ここに来てもらったメンバーは、私的に選抜させてもらったわ」

 

日向「部隊の隊長級と言うところかな?」

 

金剛「チームリーダーですカ」

 

 麗美は、会議室の最前まで進むと手を叩いた。

 

麗美「大淀、例のモノを持ってきて」

 

 麗美の合図と共に、大淀が会議室にホワイトボードを押しながら入ってくる。

 

大淀「はい、失礼します」

 

 大淀は、ホワイトボードを麗美の隣まで運んでくるとそのままホワイトボードの横で待機する。

 

 大淀が運んできたホワイトボードには、手書きで丁寧に書き込まれた龍星鎮守府周辺の海図が描かれていた。

 

麗美「時間が無くて、ちゃんとした図面を用意出来なくて大急ぎで描いたから、わかりにくかったらごめんなさいね」

 

 麗美は、ホワイトボードに描かれた手書きの海図について一言詫びると、招集したメンバーたちをホワイトボード前に集まるように促した。

 

金剛「これは、鎮守府周辺のMAPですネー」

 

鳳翔「すごい、こんなに正確な海図を手書きで描かれたのですか?」

 

 金剛と鳳翔は、麗美が描いた海図を見て感心していると、麗美は不思議そうに小首をかしげる。

 

町井田「紅月准将は、昔から海図を描くのが得意なんだ」

 

鳳翔「絵としてもお上手ですが、詳しい地形や海域も把握されているようで驚きました」

 

日向「ウチの提督は、伊達にこの若さで将軍になった訳じゃ無いのさ」

 

 

 

 

 麗美たちが、会議室で作戦会議を行っているころ、残りの龍星鎮守府の艦娘たちは明石の依頼で、鎮守府周辺に倉庫に保管されていた艦娘用の機銃や対空砲を設置していた。

 

明石「皆さん、手伝ってもらってありがとうございます!」

 

深雪「仲間だろ、お礼なんか良いって良いって!」

 

白雪「しかし、予備の艤装を並べてどうするのですか?」

 

明石「そ、それは……」

 

 白雪の質問に、明石が口籠もると、天龍が察した表情で口を挟んだ。

 

天龍「町井田中尉が言ってた、空襲に対する備えだろ?」

 

明石「う……、そうです」

 

雪風「備えなら、雪風たちが艤装を装備して、ずっと海上警備をしていればどうでしょうか?」

 

天龍「オレたちが警戒するのは当然だ!だけど明石がやっているのは万が一オレたちが突破された時の備えだろ?」

 

深雪「突破された時の備え?」

 

 天龍に話を振られると、明石は少し青ざめた表情をしながらうなずいた。

 

明石「はい……、私と大淀はメインの艤装がまだ整備中で海上には出れませんが、陸上で対空支援をするくらいなら出来ると思って用意しているんです」

 

天龍「地上で、固定砲台として鎮守府を防衛しようって言うことなんだな?」

 

明石「はい、私は戦闘向きの艦娘じゃ無いんで砲戦は苦手ですが……」

 

深雪「そっか、明石のためにも島の手前で敵航空部隊をやっつけないとな」

 

明石「あはは……、出来ればそれでお願いします」

 

白雪「機銃とか、町井田中尉のミディアに搭載して使ってもらったりは出来ないんですか?」

 

明石「使えることは使えるだろうけど、艦娘の艤装用だからサイズも小さいし、人間が使っても本来の性能は発揮出来ないんですよ」

 

天龍「聞いたかとがあるな、確か人間が使っても拳銃以下くらいの性能になって、深海棲艦には全然効果無いんだったな」

 

明石「はい、深海棲艦の艦載機相手なら通常兵器もある程度有効ですが、人間がわざわざ艦娘用の重い艤装を使うよりも、人間用のライフルでも使った方がよっぽど効率が良いんですよ」

 

雪風「しれぇも、前に艤装を試し打ちしてましたが、素手の方が強そうでした!」

 

明石「素手の方が強いって、何者ですか?」

 

深雪「美鈴は拳法の達人だから、鉄砲を撃つよりも格闘戦の方が強そうだな」

 

天龍「この前、剣術の訓練に付き合ってもらったときも、変わった動きだったけどなかなか強かったぜ!」

 

明石「人間の提督が、艦娘と一緒に剣の訓練ですか?」

 

鳳翔「私も前に弓術の訓練をしていたときに、提督が来られて参加してましたが、弓の腕前もなかなかでしたよ」

 

白雪「体力作りのランニングや、短距離走も一緒にやってくれますが、スタミナもスピードも本気を出されると勝てないですね」

 

明石「剣術も弓術も出来て、艦娘よりも身体能力の高い人間なんて……」

 

 明石は、艦娘たちから聞いた美鈴の話を聞いて驚きを隠せない様子であった。

 

深雪「確かに美鈴は凄いよな、スタイルも金剛さん並みに良いし、料理も鳳翔さん並みに上手いし!」

 

天龍「人間にしておくには惜しいってヤツだな!」

 

 天龍たちは、美鈴の回復を待ち望みながら空襲に備えた準備を続けていた。

 

 

 

 

金剛「そんな!深海棲艦がそんな大規模に動いているのですカ!?」

 

 会議室内に、金剛の悲鳴のような声が響き渡る。

 

麗美「一年前に日本海軍が行った大反攻作戦以降は、この海域にこれほどの規模の深海棲艦が出現した事は無かったのだけどね」

 

町井田「ヲ級からの空襲を受けた鎮守府も、この龍星鎮守府以外にもあると言うことか……」

 

麗美「ウチの鎮守府には、優秀な基地航空隊や空母艦娘たちがいるから今のところ被害は無いみたいだけど、本土の大本営もこの状況を無視出来ないみたいで、『敵航空部隊を撃沈せよ』との軍令が下される予定なのよ」

 

町井田「なるほど、私の所にはまだ詳しい指令は来ていないけど、将軍クラスには事前に通達されるんだな……」

 

鳳翔「しかし、正規空母のヲ級が10体以上、大型戦艦のル級も同程度予想される戦力なんて……」

 

麗美「この海域の各鎮守府の連携が重要になってくる作戦ね」

 

町井田「この海域を統括しているのは……」

 

麗美「そう、紅月鎮守府の紅月麗美なのよ……」

 

金剛「と言うことは、紅月提督は自分の鎮守府に帰らなければならないのですネ」

 

麗美「そう、周辺鎮守府の指揮を執るためにもうすぐ私は戻らなければならない……」

 

 麗美は、言葉を一度止めてホワイトボードに凸型の印を多数書き込む。

 

麗美「加賀からの情報だと、すでに龍星鎮守府周辺にも多数の深海棲艦の艦隊が確認されているの」

 

 麗美が書き込んだ深海棲艦の艦隊は、龍星鎮守府の北東側に展開されていた。

 

日向「これは、まるで我々が鎮守府に帰還するのを妨害するような位置に艦隊がいるな……」

 

麗美「そう、私たちが鎮守府に帰還するためにはこの艦隊を叩かなければならないの、敵の規模はおそらく、ヲ級やル級が4体以上、その他駆逐艦や巡洋艦クラスが約20体と言うところかしら」

 

日向「私と最上、それと第六駆逐隊だけではなかなか苦しいな……」

 

金剛「大丈夫!私たちも手伝いマース!」

 

 麗美たちのやりとりを聞いていた金剛は、率先して援軍を申し出る。

 

 

 

 

鳳翔「空襲の原因のヲ級がそこにいるなら、打って出て撃破することが鎮守府や休憩中の提督のためになるでしょうし、私も行くべきかと思います!」

 

麗美「たしかに、それは魅力的な提案ではあるけど、貴方たちには他にやってもらうことがあるわ」

 

 麗美は、そう言うとホワイトボードの中心に描かれた龍星鎮守府が所在する島の南西方向からの矢印を描いた。

 

町井田「これは!?」

 

麗美「今朝の空襲で、敵航空機が最初に発見されたのは南西方向……」

 

日向「我々が向かいたい、紅月鎮守府とは正反対の方角だな……」

 

鳳翔「風向きを考えたとしても、わざわざ島の反対側まで向かうというのも妙な話ですね……」

 

麗美「美鈴提督の気になる寝言について、町井田中尉が明石から報告を受けているのよ」

 

町井田「明石の報告によると、美鈴提督はうなされながら『ダメだ……、また飛行機が攻めてくる……、そっちからだけじゃない……、後ろからも……』と言っていたようだ」

 

金剛「提督が、私たちに何かを教えてくれているですカ?」

 

麗美「美鈴提督は、予言者やエスパーじゃないとは思うけど、今朝のあの力を見せられたら、信じてみたくならないかしら?」

 

 麗美は、そう言うとホワイトボードに描かれた龍星鎮守府の南東側に複数の凸型の印を描き込んだ。

 

麗美「深海棲艦たちは、以前と比べて計画的な行動をとることが多い気がするの」

 

町井田「陽動、伏兵、奇襲……、確かに戦略的な行動をとることが増えてきていますね」

 

麗美「今朝の空襲にしても、現時点で紅月鎮守府のある北東方向で大規模な部隊展開をしているのも、敵の戦略行動と見ると言うのが私の考えなのだけど、皆はどう思うかしら?」

 

町井田「確かに、紅月提督の言うとおり、今朝の空襲に失敗した敵が、今度は北東側に我々を引きつけ、龍星鎮守府へ第二次攻撃を仕掛けるというのが妥当な考えでしょうか?」

 

鳳翔「しかし、その作戦もある意味定石通りではないでしょうか?」

 

金剛「朝の空襲も、北東側の行動もフェイントかもしれないデス!」

 

日向「と、なると本命は一体何なんだ?」

 

 麗美の説明を聞いて、金剛や鳳翔は自分たちの考えを発言していくのを見ながら麗美は満足そうに微笑んでいる。

 

金剛「紅月提督、なんだかスマイルになってるけど、どうしましたカ?」

 

麗美「ふふふ、私の目に狂いは無かったわ……」

 

 金剛に声をかけられた麗美は、ニヤリと笑みを浮かべながら、赤と緑のマジックを取り出してホワイトボードに次々と凸型の印を描き込んでいく。

 

 

 

 

麗美「私も、鳳翔や金剛が考えているように敵は第三次攻撃まであると予想しているの」

 

町井田「ずいぶん用意周到だな……」

 

麗美「敵は、おそらく紅月鎮守府へ帰還しようとする私たちをおびき出すために大規模な艦隊を北東側に配置しているわ」

 

 麗美はそう言うと、龍星鎮守府の周りに描いた赤色の凸型を7個北東側の海域に進めるように矢印を引く。

 

麗美「まずは、日向を中心に最上、第六駆逐隊と町井田中尉のミディアは私たちが紅月鎮守府へ向かうように装って北東に向かって欲しいの」

 

町井田「紅月提督はミディアに同乗しないのですか?」

 

麗美「そうね、私はここに残るけど町井田中尉にはあたかもミディアに私が乗艦しているように装ってもらうことになるわ」

 

 麗美は龍星鎮守府の南西方向を中心に、緑色のマジックで半円を描く。

 

麗美「日向たちが出撃した後に、鳳翔にはこの方角に艦載機を飛ばして索敵してもらいたいの」

 

鳳翔「今朝、空襲を仕掛けてきたヲ級を探すのですね?」

 

麗美「そう、おそらくまだこの海域にいるはずだから、鳳翔が敵艦隊を発見したらすぐに金剛は天龍や駆逐隊と一緒にこの艦隊の殲滅に向かって欲しいの」

 

金剛「Wow!責任重大ですネー!!」

 

鳳翔「私は、鎮守府の防衛でしょうか?」

 

 麗美は更に、北東に向かった凸型のうち5個を龍星鎮守府方向へ矢印を引いて移動させる。

 

麗美「鳳翔には、鎮守府周辺の索敵と防衛をお願いするけど、敵の規模もわからないから、ここは町井田中尉と第六駆逐隊には、一度龍星鎮守府へ戻ってきてもらうわ」

 

町井田「大艦隊を、日向と最上だけで相手させるのですか!?」

 

麗美「大丈夫、すでに紅月鎮守府の加賀に援軍として第二艦隊を向けるように指示しているから、町井田中尉たちが転進するころには合流出来るはずよ」

 

鳳翔「金剛さんたちの部隊は、空母相手に航空戦力も無しに大丈夫でしょうか?」

 

麗美「そこは、私も気がかりなのだけど……」

 

金剛「見せていただいた資料によると、紅月鎮守府の前線航空基地というのが龍星鎮守府のそばにあったようナ……」

 

麗美「ふふふ、この短時間でよくそこまで気がついたわね……」

 

町井田「基地航空部隊の支援が可能なのか?」

 

麗美「そこには以前から、伊勢たちが航空基地建設を行っていて先日完成したばかりなのよ」

 

 麗美は、龍星鎮守府から北西側の地点に描かれた小島に赤い丸を描き込む。

 

麗美「新設の航空基地だけど、ここにはウチの優秀な航空隊長を配置しているのよ」

 

町井田「紅月鎮守府の航空隊長と言ったら、あの元航空自衛隊の女パイロットか?」

 

麗美「あの島からなら、龍星鎮守府も金剛隊も支援に迎えるわ!」

 

鳳翔「さすが、日本で五指に入ると言われる紅月鎮守府ですね」

 

金剛「紅月提督が仲間で良かったデース!!」

 

 金剛たちが麗美の隙の無い作戦に賛辞を送るが、麗美は表情を崩すこと無く横に首を振って呟く。

 

麗美「でも、戦場に絶対はないのよ……」

 

 麗美の重い言葉に、金剛たちの表情も硬くなる……

 

麗美「いつ、何が起こるかわからないのが戦場……、でもここにいる皆は冷静な状況判断と柔軟な指揮が執れると判断してここに招集したの」

 

 麗美は、一人一人に近寄って声をかけてゆく。

 

麗美「町井田中尉は、まだ訓練中の第六駆逐隊の4人を率いて鳳翔のサポートをして欲しい」

 

町井田「了解しました!」

 

 町井田は姿勢を正し、麗美に敬礼をする。

 

麗美「日向は、最上と2人で大変だと思うけど敵の艦隊を足止めして、増援が来たらできるだけ速やかに殲滅して龍星鎮守府の援護に回って欲しい」

 

日向「……まぁ、そうなるな」

 

 日向は、腕を組んだまま静かにうなずく。

 

麗美「金剛と鳳翔は、本来私に指揮権は無いと思うけど、私も友人の美鈴提督を守るために全力を尽くすから、なんとか力を貸して欲しい」

 

鳳翔「お任せ下さい!」

 

 鳳翔は、まっすぐに麗美を見つめてお辞儀をする。

 

金剛「ワタシは、一つだけ条件がありマース!」

 

 

 

 

 金剛の発言に、鳳翔は驚き金剛に近寄り小声で声をかける。

 

鳳翔「金剛さん、紅月提督の提案に文句があるのですか?」

 

金剛「ん?鳳翔は私たちの提督じゃ無い人の指示にそのまま従うですカ?」

 

鳳翔「紅月提督は、倒れた提督の代わりに指揮を執って下さるのよ」

 

金剛「それはわかりますけど、私の提督は美鈴提督だけデース」

 

鳳翔「気持ちはわかるけど、准将様が頭を下げて歩み寄って下さっているのよ」

 

金剛「階級は関係ないデース、私たちは命をかけた戦いに挑むのですヨ」

 

鳳翔「命をかけるのは、私たちも紅月提督も一緒でしょ」

 

金剛「鳳翔は一つ勘違いしてるネ」

 

鳳翔「えっ?」

 

金剛「ワタシは、協力しないとも指示に従わないとも言ってませんヨー」

 

 金剛は、麗美に歩み寄ると握手を求める仕草をしながら話しかける。

 

金剛「今、美鈴提督は起き上がれないくらいの状態ですが、この作戦が終わって皆無事に帰ってきたら、また皆で素敵なTea Timeがしたいデース、だからちゃんと皆が帰ってこられるように指揮を執ってくだサーイ!!」

 

 金剛の条件を聞いた麗美は、真剣な表情をした後に満面の笑みを見せて答える。

 

麗美「わかったわ!貴方たちも、ウチの艦娘たちも、ミディアの乗組員も全員で帰還して今は寝ているメーリンと一緒に素敵なパーティーを開くわよ!!」




 本家『艦隊これくしょん』のサーバー異動希望届を出していて、『柱島泊地』から『佐世保鎮守府』に転勤となりました。

 そして、間もなくFlash版からHTML5版へと移行して第二期となるブラウザゲーム版の『艦隊これくしょん』……って全然小説の話をしていません(笑)

 気がついたら、ついに今回主人公が全く出てこなくなっていますが、本来の予定では終盤で出てくる予定だったのですがねぇ~

 おそらく次話では元気に登場すると思うので全世界の紅美鈴ファンの皆様お許し下さい!!


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第22話 目覚めた華人小娘

麗美「全員、そろったかしら?」

 

町井田「点呼は……、とるまでも無いようですね」

 

 龍星鎮守府と紅月鎮守府の艦娘たちは、紅月麗美准将の指示を受けて海岸に集結していた。

 

天龍「龍星鎮守府所属の艦娘、全6名そろっているぜ!」

 

 そう申告する天龍の下には、金剛、鳳翔、深雪、雪風、白雪が並んでおり、非戦闘艦娘である、大淀と明石を除いた全艦娘がそろっていた。

 

日向「こちらも、全6名そろっている」

 

 同じく、申告する日向の下には、最上、暁、響、雷、電が並んでいた。

 

麗美「すでに聞いている者もいるだろうが、現在この海域周辺には多数の深海棲艦艦隊が確認されている」

 

 麗美がそう語ると、大淀と明石がホワイトボードを持ち上げて海岸にやって来た。

 

明石「はぁはぁ、紅月准将これを持ち運ぶのは重いですよぉ」

 

大淀「明石、文句はダメよ、私たちは戦闘に出られない分こういう所でお役に立たないと」

 

 重そうにホワイトボードを運ぶ二人のそばに、数人の艦娘たちが駆け寄ってきた。

 

金剛「二人でこれは大変ネー、ワタシも手伝いマース!」

 

 金剛が、明石の側に近づき手を差し伸べると、天龍、深雪、雪風もホワイトボードを取り囲んでいた。

 

天龍「ったく、このくらいで音を上げていたら、この鎮守府でやっていけねーぞ!」

 

深雪「美鈴は、一人で丸太とか担いで運んでるからな」

 

雪風「しれぇには、重い物の楽な持ち方とか教えてもらいました!」

 

 鎮守府建造時から、美鈴の下にいた天龍たちは美鈴と共に木材や石材の運搬などをやっていた事もあり、ホワイトボードを大淀と明石から奪い取るように受け取って手慣れた手つきで運んで行った。

 

大淀「あっ、これから戦闘に出るのにこんなことを手伝ってもらって……」

 

明石「あんな、小さな子たちなのに私たちより力持ちなの?」

 

金剛「Wow!仕事をとられちゃいましたネー!」

 

 申し訳なさそうな表情の大淀と、驚いた表情の明石を見た金剛は、笑いながら二人に声をかけた。

 

金剛「自分たちに出来ることをやろうとする気持ちは大事デスが、ワタシたちは仲間ですから、困ったときはいつでも声をかけて欲しいネー」

 

明石「ありがとうございます、助かります」

 

金剛「みんな得意不得意はありマース、あの娘たちはきっと、物を運ぶのが得意なFriend'sなんですネー!」

 

大淀「ふふっ、私たちは、良い友を持ったようですね」

 

 

 

 

 天龍たちが、麗美の隣にホワイトボードを設置すると、麗美は龍星鎮守府周辺に展開している深海棲艦の予想配置位置を黒マジックで凸型の印を描き込んでいった。

 

麗美「これが、紅月鎮守府で把握した深海棲艦の展開状況よ」

 

最上「北東に多数、南西にも展開中ってところだね」

 

天龍「印に大きいのや小さいのがあるけど、意味あるのか?」

 

麗美「大きいのは正規空母や戦艦クラス、中くらいのが軽空母や巡洋艦クラス、小さいのが駆逐艦クラスと考えてもらえばいいわ」

 

電「北東に、戦艦や正規空母が10体近くいると言うことですか?」

 

麗美「そういうことになるわ」

 

深雪「あのル級クラスが何体もいるって言うのか!?」

 

暁「そ、そのくらい一人前のレディーな司令官がいれば、へ、へっちゃらだもん」

 

響「たしかに司令官は、一人前のレディだね」

 

雷「暁はお子様でも、司令官はレディだわ!」

 

暁「な、なによ!響たちはル級と戦った事無いからわからないのよ!!」

 

 作戦説明の緊張感の中、第六駆逐隊の掛け合いで艦娘たちの緊張がほぐれたところで、麗美が更に説明を進めた。

 

天龍「なるほど、紅月艦隊は鎮守府へ帰還するために北東の部隊を叩かなきゃいけないわけで、オレたちは今朝空襲を仕掛けてきた南西の部隊を叩く必要があるってことだな!」

 

雪風「でも、雪風たちだけで戦艦や正規空母もいる南西の艦隊に勝てるでしょうか?」

 

深雪「こっちだって、戦艦の金剛さんや軽空母の鳳翔さんもいるから、きっと大丈夫さ!」

 

白雪「でも、日向さんたちがいくら強くったって、北東の艦隊の数が多すぎるよ」

 

深雪「暁たちも、まだ訓練中みたいだしヤバいかな……」

 

天龍「オレたちから援軍を出すか?」

 

 麗美の説明を聞いた天龍たちは、作戦内容について相談していると、麗美が続けて出撃部隊の説明を始めた。

 

 

 

 

 麗美は、ホワイトボードに赤マジックで多数の凸型の印を北東側に向かうように描き込んだ。

 

麗美「北東は、私たちの紅月鎮守府へ続く航路でもあるし、今後の作戦のために私も帰還しなければならないから、ここにいる紅月艦隊と町井田中尉のミディアで当たるわ」

 

日向「まぁ、そうなるな」

 

雷「司令官たちはミディアにいるのね、私が助けるわ!」

 

電「ちょっとこわいけど、頑張るのです!」

 

 更に、麗美は緑色のマジックで凸型の印を5個、南西側に向かうように描き込んだ。

 

麗美「南西側の部隊には、金剛たち龍星鎮守府の艦娘たちで対応してもらうわ」

 

深雪「印は5個しかないけど、ウチは6人出れるはずだよ」

 

麗美「そうね、でも鳳翔には鎮守府に残ってもらうわ」

 

白雪「敵には正規空母もいるんですよ?」

 

麗美「深海棲艦がこれだけ展開しているなら、未発見の部隊も予想されるわ、だから鳳翔には鎮守府の防衛と周辺の索敵をお願いしたいの」

 

天龍「なるほどな、鳳翔さんもいいか?」

 

鳳翔「かしこまりました、皆さんの帰る場所は私が守ります」

 

金剛「頼もしいですネ、ヨロシクオネガイシマース!」

 

 金剛はそう言って元気に鳳翔にお辞儀をし、鳳翔も丁寧にお辞儀を返した。

 

天龍「しかし、北東側は敵の規模が大きいみたいだけど、そっちの艦隊だけで大丈夫か?」

 

響「司令官のことだ、きっと手は打っているはずさ」

 

暁「そ、そうよ!きっと援軍とか呼んでるに違いないわ!!」

 

町井田「(ビビってるけど、こういう所の勘は鋭いな……)」

 

 暁の発言に対して、麗美は微笑みながら暁の頭を撫でた。

 

暁「司令官?」

 

麗美「この状況下で援軍がこれるかどうかわからないけど、私たちはここで敗れる運命では無いと思うわ……、きっとこの状況は乗り越えられるから信じてね」

 

暁「し、司令官!」

 

 麗美の優しい言葉に感動した暁は、思わず麗美に敬礼をしていた。

 

 

 

 

 麗美たちが、海岸で出撃準備をしている時、龍星鎮守府の医務室で寝ていた美鈴が目を覚ました。

 

美鈴「うぅ……、ここは?」

 

 美鈴はベッドから立ち上がろうとするが、全身が激しい筋肉痛のような痛みがあり体が動かない。

 

美鈴「くっ……、ここは鎮守府の医務室?」

 

 美鈴が目覚めた事に気がついた、白衣を着た妖精さんが近寄ってきた。

 

美鈴「あっ、妖精さん……」

 

 美鈴が、妖精さんに声をかけると、白衣を着た妖精さんは「動いちゃダメですよ」と身振り手振りで伝えてきて、心配そうに美鈴の顔をのぞき込んだ。

 

美鈴「ん、私どこか怪我でもしているの?」

 

 美鈴が首だけ持ち上げて手や足を確認したが、全身に痛みはあるが怪我をしている感じでは無かった。

 

美鈴「私はどうしてここにいるんだっけ?」

 

 美鈴は、一人で記憶をたどっていくと、今朝の空襲の記憶が蘇ってきた。

 

美鈴「そうだ、私はあの時、町井田中尉の輸送艦を守ろうとして……」

 

 美鈴は、自分自身が『気』の力を使って敵航空機と交戦した事を思い出したが、敵航空機に向かって飛び出した後の記憶をどうしても思い出すことが出来なかった。

 

美鈴「私は、みんなを助けられたのかな?」

 

 ふと、右手に『気』を集中させてみようとすると、微弱ながら『気』を集中出来ている実感があった。

 

美鈴「『気』を少し使えている?」

 

 美鈴が右手に『気』を溜めていると、少しずつ右手の痛みが消えていき右手の指が動かせる様になった。

 

美鈴「ふふっ、良い感じだよ」

 

 身動きがとれなかった美鈴が、少しずつ右手を動かしていく様子を見ていた白衣を着た妖精さんは慌てた様子で、美鈴に何かを伝えようとしてきた。

 

美鈴「えっ?何か言いたいのかな?」

 

 美鈴は、妖精さんの声を聞こうと意識を集中していくと、徐々に頭の中に妖精さんの声が響いてくる感覚があった。

 

白衣を着た妖精さん『……トク、マダソノチ……ヲ、ツカッチャ……メデス』

 

 何となく、妖精さんの言葉が伝わってくるが、完全では無い。

 

美鈴「『気』が使えるようになったら、妖精さんの声が聞こえてきた?」

 

白衣を着た妖精さん『テイトク、マダ……ソノチカラハ、カラ……ニフタンガ……』

 

 途切れ途切れに聞こえてくる、妖精さんの声であったが、慌てる様子と言葉の感じから何となく意味はわかった気がした。

 

美鈴「『気』を使うと、体に負担がかかるっていうことかな?」

 

 美鈴は、妖精さんに訪ねると、妖精さんは頷きながら心配そうに美鈴に近寄ってくる。

 

美鈴「わかったよ、きっと『気』を使いすぎて倒れちゃったんだね」

 

 美鈴はそう言いながら、少し動かせるようになった右手で妖精さんの頭を撫でた。

 

 

 

 

日向「紅月第一艦隊、出撃するぞ!」

 

町井田「輸送艦ミディア、出航!!」

 

金剛「龍星艦隊!Follow me!ワタシについて来て下さいネー!」

 

 麗美の作戦計画通りに出航していく艦娘たちと輸送艦ミディアを、見送りながら鳳翔、大淀、明石の3名は海岸でそれぞれ手を振っていた。

 

 出港した艦娘たちが、目視出来なくなる距離に達するころ、岩陰から麗美が姿を現して鳳翔の横に立った。

 

麗美「皆、出撃したわね」

 

鳳翔「紅月提督は、見送りしなくて良かったのですか?」

 

麗美「一応、私はミディアに乗艦していることになっているから……」

 

 麗美は、深海棲艦の狙いがある程度自分にある可能性があることを意識して輸送艦ミディアを囮にしていた。

 

麗美「このことを知っているのは、あの時に会議室に来てもらったメンバーと、今ここにいる明石くらいなものよ」

 

大淀「敵をある程度北西方向に集中させて、紅月艦隊と紅月鎮守府からの援軍部隊で殲滅でしたね」

 

鳳翔「もしも、作戦が見破られた時のために私がここにいるんですよね」

 

麗美「それもあるし、皆に言ったとおり索敵を継続して欲しいからね」

 

 麗美は、そう言うと鳳翔の右肩を軽く叩く。

 

麗美「昔のように一航戦が健在なら敵機動部隊なんか脅威にならなかったのだけど……」

 

鳳翔「一航戦?加賀さんの事でしょうか?」

 

麗美「加賀には昔、赤城という最高の相棒がいたのよ……」

 

明石「日本が誇る伝説の一航戦ですか……」

 

鳳翔「赤城……?」

 

 

 

 

麗美「2年前、一航戦の活躍で日本は一時的に深海棲艦の艦隊を押し返した時期があったの」

 

 麗美は、鳳翔に説明するように鳳翔の目を見ながら言葉を続けた

 

麗美「日本海軍は、深海棲艦の機動部隊が集結しているポイントを突き止めて、これを撃退すべく一斉攻撃を仕掛けることになったの」

 

 麗美は、空を見上げながら両手を広げる

 

麗美「先陣を切ったのは、飛龍と蒼龍の二航戦だったわ、二人の奇襲で敵部隊の大型戦艦を数体撃滅出来たのだけど、狙いの空母部隊は発見出来なかった」

 

鳳翔「第一次攻撃は失敗したと?」

 

麗美「もちろん、戦艦は十分に脅威対象であったから、これを撃滅出来たことは十分な戦果だったと思うわ、だけれどこれがきっかけで深海棲艦もこちらの動きに気づいて反撃をしてきたの」

 

大淀「戦史にのこる、一大決戦ですね」

 

麗美「過去の大戦の教訓もあり、日本海軍に慢心は無かった……、けど予想以上に敵勢力は手強かったの」

 

鳳翔「強大な敵……?」

 

麗美「敵機動部隊を率いていた深海棲艦は、我々が知っていたヲ級とは比べものにならない力を持っていた……、あの圧倒的な力はまさに『鬼』と呼ぶにふさわしいものであったわ……」

 

鳳翔「鬼……ですか?」

 

麗美「我々はあの深海棲艦を『空母棲鬼』と呼んだのだけど、この空母棲鬼の力は圧倒的で、日本海軍の機動部隊は次々に撃破されていたの」

 

明石「まさに鬼……」

 

麗美「二航戦や五航戦が撤退を余儀なくされ、壊滅した日本海軍の撤退を支援するために、世界最強と呼ばれた一航戦の赤城と加賀が追撃してくる空母棲鬼を必死に食い止めていたのだけど、疲れが見えた加賀の一瞬の隙を突いた空母棲鬼が一撃で加賀を大破炎上させたの」

 

鳳翔「正規空母を一撃で!?」

 

麗美「僚友の危機に気づいた赤城は、加賀を仕留めに来た空母棲鬼を止めるべく組み合いになったの」

 

鳳翔「赤城さんの気持ちは、私にもわかる気がしますね」

 

麗美「日本海軍ではエース的な存在であった赤城も、圧倒的な力を誇る空母棲鬼の前ではなすすべも無く、赤城の艤装は跡形も無く破壊されて赤城自身も大海原に投げ出されてしまった」

 

鳳翔「まさか……、轟沈?」

 

麗美「普通ならそうなっていたでしょうね……」

 

 麗美は、海岸に打ち上げられていた朽ち果てたドラム缶に近づいて言葉を続ける

 

麗美「しかし、彼女は沈まなかった……、日本海軍の絶対エースである一航戦を打ち破った事で空母棲鬼は深海棲艦を率いて引き上げて行ったのだけど、数日後にその海域を偵察に行った駆逐艦娘がドラム缶にしがみついて漂流していた女性を救助したの」

 

鳳翔「その女性が!?」

 

麗美「意識は混濁していたけど、赤城本人だったわ」

 

 麗美は、そう語ると下を向き呟くように言葉を続けた

 

麗美「でも、赤城は記憶と力を失ってしまっていたの……」

 

鳳翔「そ、そんな……」

 

麗美「最近は、少しずつ記憶を取り戻していると聞くし、艦娘として再起出来るように新造中の艤装のテストにも積極的に参加していると聞くけど、我々が知っている一航戦時代の赤城とはほど遠い状態だと聞くわ……」

 

鳳翔「でも、希望はまだあるのですよね?」

 

麗美「戦友でもあり、助けてもらった形になるウチの加賀は、熱心に赤城のリハビリに協力しているらしいからよく話は聞くけど、彼女には元気になって欲しいわね」

 

鳳翔「そうですね……」

 

 

 

 

 その頃、北東の海域に向かっていた、紅月艦隊と町井田は深海棲艦の艦隊を射程に捉えていた。

 

日向「これより、瑞雲にて敵艦隊に攻撃を仕掛ける!最上、準備は良いか?」

 

最上「了解だよ!航空巡洋艦最上、出撃するよ!!」

 

 こうして龍星鎮守府周辺海域における決戦が始まるのであった。




 本家『艦隊これくしょん』も第二期を迎え、大きくなった画面で綺麗になった艦娘のグラフィックを見ていて新たな魅力を感じている今日この頃です。

 第20話で倒れていたとある華人小娘が目を覚ましたり、過去の大戦に破れて力を失った某艦娘の話など出たりしましたが、多分後者の方は今後の伏線かもしれません。

 本家における某『敵空母を撃沈せよ!』任務にも関係している彼女は今後一体どうなるのでしょうか?


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第23話 走れ!華人小娘

 海上にて、艦娘たちが戦闘を開始しようとしているころ、医務室のベッドで横になっていた美鈴は寝付けずにいた。

 

美鈴「なんだか、嫌な予感がするんだよなぁ……」

 

 美鈴は、ベッドに横になったまま周囲を見渡すが、先ほどまで美鈴が起き上がったりしないように見張っていた白衣を着た妖精さんの姿が無い。

 

美鈴「妖精さんがいない……」

 

 美鈴は、体に倦怠感は感じるものの、『気』の影響か体中に感じていた痛みは大分無くなっており、起き上がることや歩くことも出来そうな感じがしていた。

 

美鈴「みんなに心配かけてるだろうし、顔でも見せに行かないと……」

 

 美鈴は、ベッドから抜け出して立ち上がると、自分の体をくまなく確認したが、特に怪我や異常は無く痛みも残っていなかった。

 

美鈴「うん、快調快調!少しお昼は過ぎたみたいだけど、食堂に誰かいるかな?」

 

 美鈴は、艦娘たちを探しながら、空腹を感じたため食堂へ向かうこととした。

 

 

 

 医務室から食堂へ向かう美鈴は、いつもなら聞こえてくるであろう艦娘たちの声が聞こえない事に気がついた。

 

美鈴「空襲もあったし、また戦闘に出ているのかなぁ?」

 

 そう考えた美鈴は、周囲をよく見てみると朝の時点では無かったはずの艦娘用の艤装が鎮守府周辺に設置されていることに気がついた。

 

美鈴「あれは?たしか倉庫にしまってあった予備の艤装じゃ?」

 

 明石たちが、対空用に設置していた艤装に気がついた美鈴は、対空砲に近づいて確認しようとしたが、突然誰かの気配を感じた。

 

 美鈴は、とっさに気配を感じた方向を確認すると、設置された艤装の確認をする明石がいた。

 

美鈴「この艤装はどうしたの?」

 

 美鈴は、ちょうど鎮守府の艦娘たちを探していた事もあり、真剣に艤装を確認していた明石に声をかける。

 

明石「どうしたのって……」

 

 明石は、艤装を確認しながら何気なく返事をしようとしたが、急に驚いた様子で美鈴が声をかけた方向に顔を向けた。

 

明石「て、提督!?」

 

 明石の驚いた表情を見て、先ほどまで寝たきりになっていた自分が急に現れたから、驚かしてしまったのだろうと考えた美鈴は、苦笑いを浮かべながら明石に軽く手を振った。

 

美鈴「迷惑かけていたと思うけど、私はもう大丈夫ですよ」

 

明石「えぇ!? 数日は安静にしていないといけない状態だったのに!!」

 

美鈴「ははは、昔から健康だけが取り柄なもので……」

 

明石「(まさか、『気』の力で治癒力が常人とは比べものにならないくらい高まっているのでしょうか?)」

 

美鈴「ん、どうしたの難しい顔して?」

 

 美鈴の急な回復に、『気』の影響があるのでは無いかと考え込んだ明石の顔を見て、美鈴は心配そうな表情を見せる。

 

 

 

 

 麗美と大淀は、本来の主が不在の龍星鎮守府提督室で、無線機で各艦隊の戦況を確認していた。

 

大淀「こちら大淀、金剛さん、戦況はいかがでしょうか?」

 

金剛「うーん、深海棲艦の軽巡や駆逐艦とは何度か戦闘をしてますが、まだ空母は発見出来て無いネー」

 

大淀「損傷はありませんか?」

 

天龍「大丈夫だ!チビたちも練度が上がってるし軽巡くらいなら問題ないぜ!」

 

 天龍の返事を聞いた麗美は、無線に入らないような小さな声で大淀に耳打ちする。

 

麗美「頼もしいわね、こちらも鳳翔が周辺海域の索敵を継続してくれているから何かわかったらまた連絡すると伝えてちょうだい」

 

 麗美の指示に頷いた大淀は、無線機での通信を続けた。

 

大淀「了解しました、金剛隊は周辺海域の索敵を継続して下さい、こちらも鳳翔さんが艦載機で周辺の索敵を継続していますので、何かあればすぐに連絡します」

 

金剛「了解デース!」

 

 金剛たちとの通信を終えた、麗美たちは町井田に通信を入れる。

 

大淀「町井田中尉、戦況を報告して下さい」

 

町井田「何度か深海棲艦の小隊と交戦しているが、まだ本隊とは遭遇していないようだ」

 

大淀「損傷はありませんか?」

 

町井田「今のところ駆逐艦や軽巡を中心とした小規模の艦隊としか交戦していない、日向と最上の瑞雲隊がほとんど撃退してくれているから、現状では目立った損傷は無いな」

 

 町井田の報告を聞いた麗美は、満足そうな表情をしながら小声で大淀に話しかける。

 

麗美「出撃前に日向からの要請で、瑞雲の搭載数を14機から25機に増設した甲斐があったわね」

 

大淀「最上さんの瑞雲と合わせて合計36機の瑞雲隊ですからね」

 

麗美「さすがにヲ級相手には分が悪いけど、ヌ級くらいなら制空権をとれるはずよ」

 

 自信に満ちた発言をしながらも、油断している様子の無い表情の麗美を見た大淀は、町井田への通信を続けた。

 

大淀「先ほど、紅月鎮守府から援軍に向かっている第二艦隊からの通信があり、間もなく中尉たちがいる海域に突入するとのことです」

 

町井田「紅月鎮守府自慢の機動部隊の到着と言うことだな」

 

 町井田の発言を聞いた麗美は、若干視線を落としながら小声で呟いた。

 

麗美「ウチの機動部隊は、まだあの頃の一航戦には遠く及ばないわ……」

 

 

 

 

 美鈴は、明石から現在の状況を聞き、鎮守府の周辺に展開している深海棲艦の艦隊を撃退するために艦娘たちが出撃中であることや、更なる鎮守府への空襲に備え、動力部の艤装が無くて海に出られない明石や大淀が陸上から対空射撃が出来るように対空砲や機銃を並べ、明石がそれを確認していたことを知った。

 

美鈴「それなら私にも良い考えがあるよ」

 

明石「良い考えですか?」

 

美鈴「とにかく人手が必要だということはわかりました!」

 

明石「なにかツテでもあるんですか?」

 

美鈴「工廠に行ってきますね!!」

 

 美鈴は、明石に告げると工廠に向かって走り出した。

 

明石「工廠?そうか!!」

 

 明石は、美鈴が工廠で建造を行おうとしていることに気がついて追いかけようとしたが、気がつくと美鈴はかなり前を走っており、明石の足では追いつけそうも無いスピードであった。

 

明石「さっきまで、動くことも出来ないくらい消耗していたのに、なんであんなに走れるの~!?」

 

 明石の悲鳴のような声が、島内に響き渡った。

 

 

 

鳳翔「……ん、今何か聞こえたような?」

 

 島の高台から艦載機を放ち索敵を行っていた鳳翔は、明石の声に反応した。

 

鳳翔「この声は、鎮守府内からですね……、明石さんでしょうか?」

 

 鳳翔は、鎮守府を一瞥すると再び意識を集中し索敵中の艦載機からの報告に耳を傾ける。

 

鳳翔「まだ、深海棲艦の機動部隊を発見出来ないですか……」

 

 艦載機からの報告を聞いた鳳翔は、思わずため息を漏らす。

 

鳳翔「早く、機動部隊を発見して金剛さんたちに連絡をしないといけないのに……」

 

 長時間、連続的に艦載機を飛ばし続けていた鳳翔は額から大量の汗を流していた。

 

鳳翔「甘えたことを言っている場合ではありませんが、さすがに疲れてきましたね……」

 

 鳳翔は、手ぬぐいで汗を拭いながら索敵を続けた。

 

 

 

 

 鎮守府の南西方面に出撃していた金剛たちは、新たな艦影を発見した。

 

天龍「前方、気をつけた方が良いぜ……と、オレの電探が言ってるな」

 

金剛「Oh!敵影ですカー?」

 

天龍「オレの装備は世界水準軽く超えてるからなぁ~」

 

白雪「ふふふ」

 

深雪「怖いな」

 

 白雪と深雪が、旧型装備ながら奮闘している天龍に敬意を表しながら天龍の決め台詞のパロディに興じていると、天龍が示す方向に双眼鏡を向けて観察していた雪風が敵影を視認する。

 

雪風「天龍さん、敵を確認しました!」

 

天龍「よし、空母はいるか?」

 

雪風「えぇと……、ル級と思われる大型艦が1、軽巡クラスが2、駆逐艦クラスが2と……」

 

金剛「と、何ですカー?」

 

雪風「もう1体いますが……、あれは?」

 

天龍「なんだ?ちょっと貸してみろ」

 

雪風「はい、お願いします!」

 

 雪風は、愛用の双眼鏡を天龍に手渡し観測を依頼する。

 

天龍「どれどれ……」

 

 天龍は、雪風の双眼鏡を覗き込むと、敵艦隊の状況を確認する。

 

天龍「あれは……、空母だ!!」

 

金剛「ヲ級ですカ!?」

 

天龍「いや、あれは軽空母のヌ級だ!!」

 

金剛「軽空母がいるということは、機動部隊が近くにいるかもしれないデス!」

 

白雪「大淀さんに連絡しましょう!!」

 

 

 

 

    ザザッ ザザザッ

 

 龍星鎮守府提督室の無線機に、雑音混じりの通信が入った。

 

金剛「鎮守府!鎮守府!大淀聞こえますカ?」

 

大淀「はい、少し雑音が混じってますが概ね良好です」

 

金剛「…っと見つ…たネ、け…空母…級がル…うと……」

 

 金剛からの無線の感度がだんだん悪くなっていく。

 

麗美「なに?空母を見つけたの?」

 

大淀「若干、感度が悪くて聞き取りづらいですが、空母とル級を見つけたと聞こえましたが……」

 

 大淀は、金剛に再度報告を求めることにした。

 

大淀「金剛さん、無線感度が悪くなっています、ヲ級を発見したのですか?」

 

金剛「えっ?……淀、なん…すか、聞こ…な…デース」

 

大淀「空母発見ですか?ヲ級ですか?」

 

天龍「おい……、大……、聞こえ……ぞ!」

 

大淀「天龍さん、感度不良です場所を変えられますか?」

 

天龍「うわ…、見つ……た、こ……り交戦……」

 

 金剛隊からの無線は、雑音に飲み込まれるように途切れてしまった。

 

麗美「聞こえにくかったけど、空母を発見し交戦しているみたいね……」

 

大淀「はい、おそらくル級も発見している様子ですがいかがしましょう?」

 

麗美「正確な情報が欲しいわね……、鳳翔に艦載機で偵察してもらうわ!」

 

大淀「わかりました、鳳翔さんに連絡を……」

 

 大淀が、鳳翔の無線機に連絡を入れようとした時、急に無線機に通信が入る。

 

町井田「鎮守府!龍星鎮守府!、聞こえるか」

 

大淀「はい、大淀です!」

 

町井田「敵の機動部隊に発見された!これより戦闘に入る!!」

 

大淀「そちらもですか、わかりました!」

 

町井田「そちらもということは、金剛たちも見つけたのか?」

 

大淀「先ほど不明瞭ながら空母発見の連絡がありました、そちらの規模はわかりますか?」

 

町井田「詳細は確認中だが、少なくともヲ級2のル級2、あとは軽空母クラスもいるようだ」

 

大淀「了解しました、援軍も間もなく合流出来るはずですので無理はされないようお願いします!」

 

町井田「了解!交信終了!」

 

 町井田からの通信が終了し、麗美が大淀に指示を出す。

 

麗美「ウチの艦隊は、援軍も来るし町井田中尉もいるから大丈夫よ。 それよりも、金剛隊の方が気になるわ、鳳翔に連絡を取って!」

 

大淀「はい、先ほどの偵察指示ですね」

 

 大淀は、鳳翔へ金剛隊がいる海域の偵察を指示するために鳳翔の無線機を呼び出した。

 

 

 

 

 その頃、美鈴は工廠に到着していた。

 

作業服の妖精さん『提督、お久しぶりです!』

 

美鈴「ふふ、こっちの妖精さんの声も何だかわかるようになってきたわ」

 

 美鈴は、声にはならないが工廠の妖精さんの声も頭の中で聞こえる実感があった。

 

美鈴「早速だけど、艦娘の建造をお願いしたいの」

 

作業服の妖精さん『資材はどうしますか?』

 

 美鈴は、金剛を建造した時と同じ資材数を妖精さんに提示した。

 

作業服の妖精さん『戦艦ねらいかな?頑張りますね!』

 

美鈴「ヨロシクオネガイシマース!」

 

 美鈴は金剛の真似をしながら、大型艦が出来るように願掛けをした。

 

 工廠の妖精さんたちが資材を工廠内に運搬中、美鈴の後を追って走っていた明石が工廠にたどり着いた。

 

明石「はぁはぁ、提督は足が速いですね……」

 

美鈴「あ、明石も追って来ていたんだね」

 

 明石は、妖精さんたちが工廠内に資材を運び込んでいる様子を見て、美鈴が早速建造を開始した事に気がついた。

 

明石「さっそく、建造を開始したんですね」

 

美鈴「前回と同じく戦艦狙いで資源を選択してみたんだけど」

 

明石「もう2艦目の戦艦狙いですか~、豪勢ですね」

 

美鈴「伊勢さんの航空戦艦とか強そうで憧れます!」

 

明石「(そういう提督は、空飛ぶ航空提督ですか?)」

 

 

 

 

 明石と会話中に、美鈴は工廠の建造ドックの横にあった、壊れたもう一つの扉が修繕されている事に気がついた。

 

美鈴「あれ?壊れていたこっちの扉が直っている!」

 

 美鈴の指摘を受けて、思い出したかのように明石が説明を始めた。

 

明石「あぁ、そうでした!着任してから工廠に来てみたら建造ドックが1個壊れていたので、メンテナンスしておきましたよ」

 

美鈴「直してくれたんですか?」

 

明石「このくらいの修理ならお任せ下さい!」

 

美鈴「ところで建造ドックが直ると、何か良いことがあるんですか?」

 

 美鈴の質問に、明石は一瞬ビックリしたような表情をしたが、美鈴が提督になって日が浅いことを思い出して、説明を始めた。

 

明石「建造ドックが増えると、同時に建造出来る艦娘の人数を増やせるんですよ」

 

美鈴「と言うことは、今まで一人ずつしか建造出来なかったけど、いっぺんに2人建造出来るって事ですか!?」

 

明石「はい、そうなりますね!」

 

美鈴「そ、それじゃぁ……」

 

 美鈴は、早速もう1人建造しようとしていたので、明石は忠告を入れる。

 

明石「戦艦ばかり作っちゃダメですよ!まだ鎮守府も小さいですしバランスを考えましょう!!」

 

美鈴「バランスですか、それじゃあ……」

 

 美鈴は、妖精さんに鳳翔を建造したときと同じ空母を狙う量の資材を提示した。

 

明石「(この鎮守府の規模で、これ以上戦艦や空母というのも大袈裟ですが、今は確かに空母が必要な状況ですね……)」

 

 美鈴は、妖精さんたちを手伝い建造ドックに資材を運び込むと、妖精さんが建造予定時間を告げてくれるのを待つのであった……




 本家の艦隊これくしょんが第二期になり、出撃海域も1-1から再スタートになり気持ち的に『強くてニューゲーム』な感じがする今日この頃です。

 何となく、この龍星鎮守府の様に深雪や雪風、天龍(すでに改二ですが)、白雪、鳳翔などを使って攻略していくと言う楽しみ方をしていますが、唯一のケッコンカッコカリ艦の金剛を使うとものすごく安定します! 格が違います(笑)


 話はこの『華人小娘と愉快な艦娘たち』に戻りますが、今回からようやく主人公(美鈴)が復活します!!

 そして、伝統の出撃中の建造も……


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第24話 艦隊のアイドル

天龍「くそっ!無線が途切れちまった!!」

 

 深海棲艦の艦隊を発見した金剛隊は、龍星鎮守府と交信中、突然無線機の電波状況が悪くなり交信不能になってしまった。

 

深雪「軽空母ヌ級に、戦艦ル級がいるんだぞ、支援要請が出来なくなったらヤバくないか?」

 

白雪「でも、ある程度は通じていましたよね?」

 

 無線がつながらなくなった事で、困惑する艦娘たち。

 

金剛「Not a problem!心配いらないネー!!」

 

 金剛は、あえて明るく艦娘たちに声をかける。

 

金剛「どうせ、戦闘になれば無線封鎖ですし、無線が途切れたとすれば鳳翔に偵察機を送らせるはずデース!」

 

天龍「たしかに、金剛の言うとおりだな」

 

雪風「大淀さんなら、きっと気づいてくれるはずです!」

 

深雪「そうだよな!!」

 

 金剛の一言によって、金剛隊の艦娘たちは冷静さを取り戻す。

 

金剛「敵はこっちに気づいていないネー、なら私がDecoyになるので、みんなでヌ級をやっつけるデース!」

 

 金剛は、自らを囮にして水雷部隊でヌ級に奇襲をかけるように提案する。

 

白雪「しかし、それでは金剛さんが危険では!?」

 

金剛「ふっふー、私は超弩級戦艦デース!簡単にはやられないネー!!」

 

 金剛は、自信たっぷりに白雪に宣言する。

 

天龍「大丈夫だ、白雪!金剛がやられる前にオレたちが敵を倒せば良いだけだぜ!」

 

 天龍の強気な台詞に、金剛はウインクしながら右手を突き出し親指を立てる。

 

金剛「YES!さすが天龍、冴えてるネー!」

 

天龍「ふっ、たりめーだろ!天龍様は世界水準軽く超えてるからな!!」

 

 

 

 

 そのころ美鈴と明石は、工廠の建造ドック前で妖精さんの報告を待っていた。

 

美鈴「たしか、妖精さんが教えてくれる建造時間で大体予想が出来るって聞いたけど、明石は詳しいですか?」

 

明石「一般的に言われるのは、1時間以内なら駆逐艦、1時間以上は巡洋艦、2時間以上で軽空母、4時間以上なら戦艦や正規空母と言われていますよー」

 

美鈴「なら二つとも、4時間以上なら大当たり?」

 

明石「戦艦や正規空母は確率が低いので、一つでも4時間以上なら超大当たりですよ!」

 

 美鈴と明石が、建造ドック前で話し込んでいると、作業服を着た妖精さんが美鈴の下にやって来た。

 

作業服の妖精さん『1番ドックが約4時間、2番ドックが約1時間で完成しま~す!』

 

 作業服を着た妖精さんの建造予定時間を聞いた美鈴と明石は、思わずハイタッチを交わす。

 

美鈴「4時間以上が出たよ!!」

 

明石「凄い、凄いですよ!本当に来ちゃいましたよ!!」

 

 更に明石は、興奮収まらない様子で美鈴に声をかける。

 

明石「しかも、もう1人も巡洋艦クラスです、人手不足の鎮守府には嬉しすぎる戦力ですよ!!」

 

美鈴「完成までまだ時間があります、みんなに連絡しに行きましょう!」

 

 そう言うと、美鈴は提督室の方向に走り出した。

 

明石「えっ、また走るんですか、げ、元気な人だなぁ~」

 

 明石は、走り出した美鈴の後を追いかけた。

 

 

 麗美からの指示で、鳳翔は金剛隊との通信が途絶えた地点の索敵を行っていた。

 

鳳翔「早く、金剛さんたちを見つけなければ……」

 

 鳳翔は、全身から汗を吹き出しながら懸命に索敵を行っていた。

 

鳳翔「ん?この感じは……」

 

 鳳翔は、北の方角から何かが近づいてくる気配のようなものを感じ、双眼鏡で北の方角を確認する。

 

鳳翔「……あれは、深海棲艦?」

 

 鳳翔は、北の方角に、深海棲艦の小隊らしい艦影を確認した。

 

鳳翔「艦載機は出し尽くしているから、北に索敵は出せませんが、嫌な予感がするわね、一応報告しておいた方が良いような気が……」

 

 

 

 

 その頃、龍星鎮守府の北東側海域で敵機動部隊と交戦に入った紅月艦隊と町井田は、日向と最上の奮闘も及ばず劣勢を強いられていた。

 

日向「さすがに、ヲ級とル級が複数いる状況は厳しいな……」

 

最上「おまけに、ヌ級と水雷戦隊までいるんだもん、冗談じゃないよ」

 

暁「日向さん、このままじゃやられちゃうわ!」

 

電「ここは、一旦引いた方が……」

 

 戦闘経験の少ない第六駆逐隊の面々は、だんだんと弱気になってくるのが目に見えた。

 

 なんとか耐えてはいたものの、制空権をとられた状況で、ヲ級2体とヌ級1体による艦載機の攻撃もだんだんと激しくなり、大きく損傷した艦娘はいないものの戦況は悪化していく一方であった。

 

 その時、紅月艦隊に突然一本の無線が入る……

 

女性の声「なんや?えらいピンチな状況ちゃう?」

 

別の女性の声「待たせたわね、アウトレンジから決めてあげるわ!!」

 

 無線の声を聞いた、第六駆逐隊の面々は歓喜の声を上げる。

 

暁「龍壌さんに、瑞鶴!来てくれたのね!!」

 

日向「ふっ、形勢逆転だな……」

 

 紅月鎮守府から出撃していた援軍の第二艦隊が戦場に到着したのであった。

 

 瑞鶴と龍壌の艦載機は、制空権を奪還すべくヲ級たちの艦載機と航空戦を繰り広げる。

 

 突然の援軍に混乱する、敵機動部隊に第二艦隊の艦娘4名が突撃をしかける。

 

お団子ヘアの少女「みんなぁ~、艦隊のアイドルの登場だよ~」

 

青いロングヘアの少女「いよいよ私たちの出番ですね!」

 

ツーサイドアップの少女「ふぁぁ、まだ昼だよぉ~」

 

緑のリボンの少女「姉さん、戦闘ですよ、しっかりして下さい……」

 

 先頭のお団子ヘアの少女が、次々と深海棲艦の水雷戦隊に攻撃を仕掛けていって、後ろに続く3名がバックアップして深海棲艦を倒していく。

 

響「あれは!?」

 

電「那珂さん、五月雨ちゃん、川内さん、神通さんなのです!」

 

雷「艦隊のアイドルと仲間たちね!」

 

暁「すごいわ……」

 

 第六駆逐隊の4名は、思わず歓声を上げながら那珂たちに手を振っていた。

 

那珂「みんな~、応援ありがと~」

 

 高速戦闘を繰り広げながら、第六駆逐隊の歓声に気がついた那珂は、笑顔で手を振り返す。

 

五月雨「那珂さん、危ない!!」

 

 那珂の正面から敵の軽巡へ級が砲撃を仕掛けてきた。

 

那珂「握手や写真はいいけどぉ……」

 

 那珂は、瞬時に身を翻してへ級の砲撃を回避する。

 

那珂「アイドルに攻撃は禁止なんだよ~」

 

 那珂が、へ級に向けて指を振ると、後ろから那珂を追い抜いた神通が、右手の連装砲でへ級を撃ち抜いていた。

 

神通「那珂ちゃん、戦闘中に油断は禁物ですよ」

 

那珂「きゃはっ、神通ちゃん、いつもありがとー!」

 

 

 

 

 到着した紅月第二艦隊を確認した町井田は、輸送艦ミディアの艦橋から戦況を確認していた。

 

町井田「瑞鶴と龍壌の艦載機で制空権は優勢と言ったところか、敵の水雷戦隊も川内型が壊滅させたようだし、そろそろ次の行動に移るべきか……」

 

 町井田は、事前の作戦会議で麗美に指示されていた、龍星鎮守府へ反転するタイミングを見計らっていた。

 

    ブー ブー ブー

 

 そのとき、龍星鎮守府から緊急連絡が入った。

 

麗美「龍星鎮守府周辺で戦闘中の各隊に緊急連絡よ!」

 

 深海棲艦をミディアに引きつけるために、龍星鎮守府で指揮を執っている事を隠していた麗美から全艦娘へ向けて緊急無線が入った。

 

雷「龍星鎮守府から?司令官はミディアに乗っていたんじゃ!?」

 

 麗美がミディアに乗艦していると勘違いしていた第六駆逐隊の面々は若干の混乱をしていた。

 

麗美「広域に及ぶ戦闘指揮のため、私は龍星鎮守府に残っていたの……」

 

 麗美は、雷の動揺した声に答えた後、要件を語り始めた。

 

麗美「目視による報告だけど、鳳翔が鎮守府北側に深海棲艦の小隊を発見したわ」

 

暁「北側ですって!?」

 

日向「龍星鎮守府への攻撃部隊か?」

 

麗美「まだ敵の規模も目的もわからないわ」

 

町井田「どうしますか?」

 

麗美「戦隊長クラスに事前の打ち合わせで示達した作戦を修正するわ!」

 

日向「こっちは、まだヲ級やル級が複数残っているから、戦力はそれほど割けそうにないが……」

 

麗美「承知しているわ、とりあえず日向と最上の2人はその海域に残って第二艦隊と合流し敵を押さえてもらうわ」

 

日向「了解だ」

 

麗美「そして、第二艦隊の那珂と五月雨、第六駆逐隊のうち1名を鎮守府北側の偵察に向けたいのだけど、誰かお願い出来るかしら」

 

雷「司令官のお願いなら、私が助けるわ!」

 

電「電も頑張るのです」

 

響「不死鳥に任せて欲しい」

 

 麗美の依頼に次々と名乗りを上げる3名、しかし暁のみは下を向いて何か思い悩んでいた。

 

 

 

 

麗美「それじゃあ、3人のウチの誰かに向かって欲しいのだけど……」

 

 麗美が3人のから誰かを選ぼうとしている時、突然暁が割り込んできた。

 

暁「司令官、来たの艦隊は規模も不明と言うことは、危険な任務になるかもしれないのよね?」

 

麗美「そうね、偵察が目的ではあるけど突発事態があれば危険なことは予想されるわ……」

 

 麗美が暁の問いに答えると、暁は言葉を続けた。

 

暁「レディーとして、いや姉として妹たちに危険な思いをさせる訳にはいかないわ、司令官!私が行くわ!!」

 

町井田「なるほど……、私も暁が良いと思います」

 

 いつになく真剣で決意に満ちた暁の目を見た町井田は、麗美に進言した。

 

雷「だめよ、私が司令官を助けるんだから!」

 

 突然割り込んできた暁の両肩をつかんで、雷が暁に文句を言う。

 

暁「雷の気持ちだってわかるけど、貴女たちには誰も傷ついて欲しくないのよ!」

 

 いつもは、少し弱気なところもあり、妹たちに振り回されがちな暁が一歩も引かずに雷に対峙する。

 

電「ふたりとも、ケンカはダメなのです……」

 

響「ところで司令官、残りの3人とミディアは何をするんだい?」

 

 互いに一歩も引かない暁と雷の様子を見た響は、麗美に問いかける。

 

麗美「ミディアは、龍星鎮守府へ帰還してもらって鎮守府の防衛を、残りの3人も鎮守府の防衛と、他の艦隊のバックアップをお願いしたいの」

 

響「なるほど……」

 

 麗美の返答を聞いた響は、暁に掴みかかる雷を制し、雷をたしなめる。

 

響「雷、司令官の指示を聞いたかい、司令官を助けるなら、司令官の側で助けたら良いんじゃないかな?」

 

雷「司令官の側で……」

 

 響の問いかけに雷は、掴んでいた暁の肩から手を離す。

 

雷「わかったわ、ここは暁に譲ってあげるからしっかりやって来るのよ!」

 

暁「ふふ、雷もしっかり司令官を守るのよ!」

 

 一触即発の状態だった2人は、即座に和解した。

 

 雷が軽く手を振り、暁から離れると響が急に暁に抱きついた。

 

暁「ひ、響!?」

 

響「少しはお姉さんらしいこと言うじゃないか、見直したよ」

 

暁「生意気でも大事な妹だからね……」

 

 そう言うと、暁も響を抱きしめかえす。

 

響「きっと暁は危険な所に行くと思うけど、不死鳥の加護が守ってくれるから必ず帰ってくるんだよ」

 

暁「私たちや、龍星鎮守府のみんなために鎮守府のことは頼んだわよ!」

 

 暁と響は、互いの背中を軽くたたき合うと互いに向き合って堅く手を取り合った。

 

 

 

 

 そのころ美鈴は、高台で索敵を続けている鳳翔を見つけた。

 

美鈴「あっ、鳳翔さーん!」

 

 駆け寄る美鈴に気がついた鳳翔は、ゆっくりと美鈴の方へ振り向いた。

 

鳳翔「て、提督!?」

 

美鈴「す、凄い汗じゃないですか!大丈夫ですか?」

 

鳳翔「提督こそ、お体はもう大丈夫なのですか?」

 

美鈴「私は休ませてもらいましたし、もう大丈夫ですよ!」

 

 笑顔で答える美鈴に、鳳翔は安堵した表情を見せる。

 

鳳翔「そうでしたか、実は今、少し厄介な事態になっていまして……」

 

美鈴「明石から少し聞きました、深海棲艦の艦隊ですよね」

 

鳳翔「はい、そして今、金剛さんたちが鎮守府の南西で戦闘中なのですが、無線が途絶えてしまって艦載機で捜索中なのですが見つからず、更に鎮守府の北方面に新たな艦隊を発見してしまいまして……」

 

美鈴「なんですって!みんなは無事なんですか?」

 

鳳翔「無事であると信じていますが……」

 

美鈴「くっ、私の『気』が万全なら少しはみんなの手助けが出来るのですが……」

 

 美鈴が自分の無力さを悔やんでいると、鳳翔の無線機に麗美からの通信が入った。

 

麗美「鳳翔、さっき報告を受けた北方面の艦隊は紅月艦隊で対応するわ」

 

鳳翔「はい、わかりました」

 

麗美「鳳翔は、金剛たちの捜索に集中してくれていいわ」

 

鳳翔「ありがとうございます、金剛隊の位置はまだ不明ですが、一つだけ良い報告が出来ました」

 

麗美「良い報告?」

 

鳳翔「はい、今から代わりますね」

 

 そう言うと、鳳翔は無線のマイクを美鈴に手渡す。

 

美鈴「紅月准将、紅美鈴復帰しました!」

 

麗美「えっ!めーりん!?」

 

 数日は寝たきりになるであろうと思っていた美鈴が、突然鳳翔の無線機から元気な声を聞かせてきたことに麗美は驚きを隠せない様子であった。




 夏も終わりを告げ、秋がやって来るといういうような気候になってきました。

 今回は、何かとお気に入りのあの軽巡姉妹が登場し何かとお気に入りのあの駆逐艦姉妹長女の心の成長を描いてみたつもりです。

 本家、『艦隊これくしょん』でのケッコンカッコカリ艦は金剛ですが、深雪も雪風も天龍……etc.
 何かとお気に入りの魅力的な艦娘が多いですねぇ……


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第25話 陽動作戦

 美鈴は、鳳翔から無線機を借りて麗美に通信を入れた後、麗美がいる提督室に向かおうとしたが、疲労の色が隠せない鳳翔の状態が気になっていた。

 

美鈴「鳳翔さん、だいぶお疲れのようですが本当に大丈夫ですか?」

 

鳳翔「ふふっ、出撃している皆さんのために、ここから索敵をしているのですが敵を見つけられなくて……」

 

 気丈に振る舞おうとする鳳翔ではあったが、その表情からは疲労や焦りが隠せない状態であった。

 

鳳翔「私は大丈夫ですから、提督は准将の下へ……」

 

 鳳翔は、美鈴を麗美の下に行くように促す途中で疲労からフラついてしまい、美鈴は咄嗟に鳳翔を抱きかかえる。

 

美鈴「鳳翔さん!」

 

 後ろから抱きしめるような形になった美鈴は、改めて鳳翔が息も絶え絶えな状態であることに気がつく。

 

美鈴「こんな状態なら、鳳翔さんが倒れてしまいますよ!」

 

 美鈴は、思わず鳳翔を抱く手に力がこもる。

 

鳳翔「もう何時間も索敵をしているのに、深海棲艦の艦隊を発見出来ないんです……、みんなが、みんなが戦場に出ているというのに……」

 

 鳳翔の艦載機は、本来戦闘用であり索敵に特化した機能が無いため、偵察機を使用した索敵に比べると格段にその難易度は上がっていた。

 

 その事は、麗美も鳳翔もわかっていた事ではあったが、麗美が想像していた以上に鳳翔が生真面目で仲間たちを想う気持ちが強すぎたため、通常の空母系艦娘では考えられないような長時間・広範囲で索敵を行い続けていたのである。

 

 それによって鳳翔は、自分の体力の限界を超えて艦載機を運用してしまっており、まだ動ける状態でないと聞かされていた、美鈴の元気な姿を見たことに安堵したことによって急に自身の疲労を自覚したのであった。

 

美鈴「鳳翔さん、私も休んで元気になったんです、鳳翔さんも少し休もう!」

 

鳳翔「しかし、仲間たちが今まさに深海棲艦と対峙しているんです、私が敵の正確な情報を掴んでみんなに報告しないと……」

 

美鈴「でも、ここで鳳翔さんが倒れたら!!」

 

鳳翔「私はまだ大丈夫です!それにもし出撃している誰かが、私が見つけられたはずの敵によって墜とされたりでもしたら……」

 

美鈴「くっ、それは……」

 

 仲間を想う気持ちが強い美鈴は、鳳翔の仲間を想う気持ちに押されてしまいそうになってしまう。

 

 しかし、ここでこのまま鳳翔に索敵を続けさせれば、確実に鳳翔が疲労で倒れてしまうのは明らかであった。

 

 

 

 

美鈴「まだ、完全じゃないから上手くいくかわからないけど……」

 

 美鈴は、手のひらに『気』を集めて鳳翔の体力を回復させるために自身の『気』を送ろうとするが、まだ上手く気を集中することが出来ない。

 

 しかし、以前に比べて確実に美鈴の体内に『気』が巡らされているのは事実であるため、『気』を鳳翔に分け与えること自体は可能であると美鈴は実感していた。

 

美鈴「これならどうだ!!」

 

 『気』を一点集中して送ることが出来ないと悟った美鈴は、自分の体全体を使って鳳翔に『気』を送ろうと考えた。

 

 このようなことをするのは、美鈴自身初めてであり鳳翔に自身の体を出来るだけ密着させて少しでも『気』を鳳翔に送ることだけを考えた。

 

 その結果、美鈴は鳳翔が抵抗出来ないほど力強く抱きしめる形となり、何の説明も受けていない鳳翔は突然の事に驚いてしまう。

 

鳳翔「て、提督!?」

 

 背後からとはいえ、鳳翔は美鈴のぬくもりや吐息を感じると、段々と恥じらいのようなものを感じてきて、鳳翔の顔はみるみる真っ赤に染まっていった。

 

美鈴「急にごめんなさい、上手く出来ないかもしれないけど、もう少しこのままで……」

 

 『気』を送ることに集中していた美鈴は、鳳翔の耳元で囁くように動かないように依頼すると、鳳翔はより一層顔を真っ赤にしてしまう。

 

鳳翔「て、提督、こんな場所では……」

 

 鳳翔は、恥ずかしさのあまり絞り出すように声を出す。

 

 その時、美鈴の全身から少しずつ鳳翔に『気』が送り込まれてきた。

 

美鈴「うん、もう少し、このままで……」

 

 美鈴の囁きに、鳳翔は返事も出来ないくらい恥ずかしがっていると、段々と体が暖まってくる感じがし、疲れが消えていくのを感じていた。

 

 

 

 

美鈴「よし、上手くいったみたいだね」

 

 『気』を鳳翔に送ることに成功した美鈴は、鳳翔から手を離して鳳翔の正面に移動する。

 

鳳翔「……こ、これは?」

 

 急に体力の回復を実感した鳳翔は、キョトンとした表情で美鈴の顔を見ている。

 

 疲労の消えた鳳翔の表情を確認した美鈴は、鳳翔に爽やかな笑顔を見せる。

 

美鈴「実は、私の『気』の力が少しずつ戻ってきたみたいで、鳳翔さんにも少し『気』を送ったんですよ」

 

鳳翔「な、なるほど……、そういう意味だったんですね、ありがとうございます」

 

 美鈴の言葉に、これまでの美鈴の行動の意味を理解した鳳翔は、気恥ずかしさを感じながら美鈴に頭を下げる。

 

美鈴「本当なら、手をかざすくらいで『気』を送れるんですが、まだ本調子じゃ無くて抱きついてしまうようなことして、申し訳ありません」

 

 気恥ずかしそうに謝る美鈴の様子を見た鳳翔は、自然と笑みがこぼれてきた。

 

 

 その時、物陰から2人の様子を見ている者がいた……

 

明石「どうしよう……、提督が鳳翔さんを抱きしめている所を見ちゃったよ」

 

 走って行く美鈴を追ってきていた明石であった。

 

明石「ま、まさか、提督と鳳翔さんがあんな関係だったなんて……」

 

 『気』を送るために、美鈴が鳳翔を抱くような格好になっていた時に、ようやく美鈴に追いついた明石は、咄嗟に物陰に隠れていたのである。

 

明石「でも、提督も鳳翔さんも女性だよね……、ああいうのって良くないよね……」

 

 完全に勘違いしてしまった、明石は動揺を隠せず美鈴たちに声をかけることが出来ず物陰から出て行くことが出来なくなってしまっていた。

 

 すると、そんな明石に気がついた美鈴が明石の下に近寄ってきた。

 

美鈴「あれ?明石はどうしてこんな所に隠れているの?」

 

明石「!!」

 

 不意に声をかけられた明石は、驚きのあまり一瞬声を失っていた。

 

鳳翔「あら、明石さんでしたか」

 

 美鈴に引き続き、鳳翔にも声をかけられた明石は気まずそうに物陰から出てきた。

 

明石「す、すみません!お二人がお楽しみ中だと気がつかずに……」

 

美鈴「お楽しみ中?」

 

明石「お二人があんなご関係だと知らなかったもので……」

 

 申し訳なさそうに謝罪する明石に、何を言っているのか理解していない美鈴と、顔を真っ赤にして恥ずかしがる鳳翔が対照的であった。

 

鳳翔「あ、明石さん、あれは提督が倒れそうだった私のためにですね……」

 

 あたふたと説明を始める鳳翔を余所に、美鈴は爽やかな笑顔で答える。

 

美鈴「そうそう、鳳翔さんが凄く疲れていたから私の『気』を送ってたんだよ」

 

明石「『気』ですか?」

 

美鈴「そうそう、『気』は攻撃だけじゃ無く回復にも応用出来るからね」

 

鳳翔「そうなんです、おかげですっかり元気を取り戻せました」

 

明石「抱き合っていたのは、その『気』を送るための儀式ですか!?」

 

鳳翔「だ、抱き合っていただなんて……」

 

 鳳翔は、更に顔を真っ赤にして下を向いてしまう。

 

美鈴「本当は、軽く手をかざすくらいでも『気』は送れるんだけど、私の『気』がまだ本調子じゃなくてね~」

 

 恥ずかしがる鳳翔と対照的に、爽やかな笑顔で語る美鈴を見た明石は、『気』を送って鳳翔を回復させていたと語る美鈴の言うことには嘘偽りが無い事は理解できたが。

 

明石「(意識しまくってる鳳翔さんとは別に、あんなアッケラカンとしている提督は、精神的に幼いだけか、天然のたらしかのどっちかだろうなぁ……)」

 

 などと、色々と思うところがある様子であった。

 

 

 

 

 そのころ、鎮守府と通信が途絶えてしまった金剛隊は、金剛の判断により部隊を天龍、深雪、雪風、白雪の4名による水雷戦隊と分け、深海棲艦の艦隊に対して陽動を行っていた。

 

金剛「先手必勝デース!撃ちます!Fire!!」

 

 金剛は、単独で深海棲艦の艦隊に突入し目立つように砲撃を仕掛ける。

 

    ぐぉぉぉん

 

 金剛の砲撃は軽巡ヘ級に直撃し、へ級1体を仕留める事に成功する。

 

金剛「Yes!幸先良いデスネー!」

 

 しかし、金剛の砲撃により金剛の存在に気がついた深海戦艦の艦隊は、反撃を仕掛けてくる。

 

金剛「ふふっ、敵は私に気がついたみたいネ!」

 

 軽空母ヌ級は、金剛の奇襲によって発艦に手間取っているのか艦載機を発艦出来ずにいる様子であり、残りの軽巡ホ級1体と駆逐艦ロ級2体の水雷戦隊が、金剛の方向に向かって来る。

 

金剛「敵の水雷戦隊が来たネ、ル級はまだ来ないですカ?」

 

 金剛は、ヌ級の側から動かないル級に第2射の照準を合わせる。

 

金剛「水雷戦隊だけで、私を仕留めるつもりですカ?金剛型をなめないで欲しいデース!」

 

 金剛は、敵の水雷戦隊から距離をとるために後退しながらも、ル級に向けて砲撃を仕掛ける。

 

    ドゴォォォン!

 

 金剛の砲撃は、ル級を捉えるも直撃とまではいかずに小破止まりであったが、この砲撃に怒ったのか、ル級も金剛に向かって航行を始めた。

 

金剛「ふっ、かかったですネ~、もっと私を追ってくるデース!」

 

 深海棲艦の水雷戦隊と戦艦ル級の追撃を確認した金剛は、反転し鎮守府方向へ移動を始める。

 

 金剛の動きに、撤退を開始したと判断したル級と水雷戦隊は、金剛が味方と合流する前に撃破しようと追撃を行ってきた。

 

 

 

 

雪風「ル級と敵水雷戦隊は金剛さんを追って、ヌ級から離れていきます!」

 

天龍「やるじゃねぇか!」

 

深雪「さすが戦艦ともなると、しっかり頭を使った作戦が出来るなぁ~」

 

白雪「私たちじゃ、ここまで上手く出来るかわからないね」

 

 金剛の指示により、深海棲艦の艦隊がいた南側のポイントに移動し待機していた天龍たちは、金剛が敵の陽動に成功し、軽空母ヌ級が孤立した状況を確認した。

 

天龍「よし、このくらい離れれば頃合いだな、天龍水雷戦隊、出撃するぜ!」 

 

深雪・雪風・白雪「了解!!」

 

 天龍の号令により、4人はヌ級に向けて最大戦速で突撃を仕掛ける。

 

    ぐぐっ

 

 天龍たちの突撃に気がついたヌ級は、大慌てで艦載機を発艦させようとしていた。

 

天龍「今頃気がついたか?おっせぇんだよ!!」

 

 天龍は、ヌ級の発艦を牽制するために機銃を連射する。

 

    ぐぉっ

 

 ヌ級は、天龍の機銃に動揺するも、数機の艦載機を発艦してきた。

 

白雪「数が少ないですね?」

 

深雪「天龍さんの機銃にビビって、発艦に失敗したんだ」

 

天龍「数は少ないけど、攻撃してくるぞ!油断するんじゃねぇぞ!!」

 

 天龍の警告と同時に10機程度の艦載機が、天龍たちに向かって突っ込んでくるが、味方の航空支援は無い状態なので、自分たちで撃ち落とさなければならない状況である。

 

深雪「高角砲の出番だぜ!」

 

 深雪は、対空用に装備していた『10cm連装高角砲』で対空射撃を行うが、高速移動する艦載機に命中させるのは難しく、なかなか撃墜することが出来ない。

 

雪風「深雪、援護します!」

 

 雪風は、夜戦用に装備していた『探照灯』を敵の艦載機に向けて照射し、目をくらます。

 

深雪「おっ、動きが鈍くなったな!」

 

 雪風の目くらましによって、敵艦載機の動きが鈍った一瞬を見逃さず、深雪が高角砲を連射する。

 

深雪「深雪スペシャルだぁー!」

 

 雪風と深雪の連携攻撃で、半数以上撃墜された敵艦載機は撤退していった。

 

 

 

 

天龍「ヌ級を叩くなら今だ!一気に仕留めるぞ!!」

 

 天龍は、左手で腰に差した刀を抜いて頭上に掲げ、勢いよくヌ級の方角へ振り下ろす。

 

天龍「遅れるんじゃねぇぞ!うっしゃぁっ!!」

 

 天龍の号令と共に、深雪、白雪、雪風の3名が天龍に続いて突撃を仕掛ける。

 

天龍「硝煙の匂いが最高だなぁ、オイ!」

 

深雪「当ったれぇ~い!!」

 

白雪「狙いよし、撃ち方始め!」

 

雪風「雪風は沈みませんっ!!」

 

 天龍たちは、構えた単装砲や連装砲で砲撃を仕掛けながら左右に分かれて行き、立て続けに砲撃を受けるヌ級は、逃れることが出来ないまま気がつくと天龍たちに包囲されていた。

 

天龍「もう逃げられないぜ……、フフフ、怖いか?」

 

深雪「行っくぞぉ~、もういっちょ!」

 

雪風「絶対、大丈夫!」

 

白雪「皆さん、獲物を前に舌なめずりは、三流のすることですよ!」

 

 天龍たちは、一斉に魚雷を発射して一気に散開する。

 

    ぐおぉぉぉぉん

 

 四方からの雷撃に逃げ場を失っていたヌ級は、天龍たちの雷撃の直撃を受け、断末魔をあげながら海に沈んでいった。

 

 

 

 

 天龍たちが、軽空母ヌ級を撃沈して勝ち鬨を上げていたころ、戦艦ル級や水雷戦隊の陽動を行っていた金剛は、敵の砲雷撃を巧みに回避しながら牽制砲撃を繰り返していた。

 

金剛「そろそろ天龍たちは、ヌ級をやっつけたでしょうカ……」

 

 金剛は、何度か天龍に無線連絡を試みたが、無線機が不調なのか応答が無い。

 

金剛「鎮守府との交信の際も調子が悪かったネ、帰ったら明石に整備してもらわないといけないデスネ」

 

 無線連絡は出来ないが、金剛の計算だとそろそろ天龍たちがヌ級を撃墜している頃合いであった事から、金剛は陽動をかけていた深海棲艦艦隊と交戦しつつ天龍たちとの合流を目指すことにした。

 

金剛「きっとあの娘たちなら、上手くやってくれたはずデース、さすがの私も1対4のままじゃ分が悪いシ、合流させてもらいマース!」

 

 金剛は大きくUターンしながら、事前に打ち合わせしていた天龍たちとの合流予定地点へ向かうことにした。

 

金剛「合流の前に、少しでも敵を倒しておきたいデース」

 

 金剛は、主砲の射程圏内にいる駆逐艦ロ級に照準を合わせる。

 

金剛「撃ちます!Fire~!!」

 

 金剛の放った砲撃は、見事にロ級を捉えて2体いたロ級のうち1体の撃墜に成功する。

 

    ピピッ ブーブーブー

 

 ロ級の撃墜を確認したときに、金剛の艤装から警告音が鳴り始める。

 

金剛「えっ、魚雷!?」

 

 金剛が慌てて周囲を見渡すと、右方向から数本の航跡波が見え始めた。

 

金剛「Shit!間に合わない!!」 




 本家『艦隊これくしょん』では、初秋イベントとしてまだ夏の雰囲気が残った艦娘たちがまだバカンスmodeな深海棲艦たちと熱い戦いを演じていますが、私のいる北海道はすっかり夏も終わり完全に秋となってしまっていて朝や晩が寒くなって来ています。

 美鈴たちのいる龍星鎮守府は日本の南方にある無名の小島という脳内設定なので、まだ暖かさが残っているのでしょうか?

 この物語の中での美鈴の『気』の扱いですが、私の脳内設定では基本的にドラゴンボールの『気』と同じような感じで考えています。

 ドラゴンボール世界で美鈴がどのくらいの戦闘力を持ているかは知りませんが、空も飛べるし、気功波も使える(はず)なので、少なくても無印版の悟空の仲間たちくらいの実力はあるのでしょうかねぇ~

 さすがに、スーパーサイヤ人とかクラスでは無いと思いますが……


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第26話 ダイヤモンドは砕けない

    ズダダダダダ  ズダダダダダ

 

 魚雷の航跡波はみるみる金剛に迫ってくるが、今の状況ではすべての魚雷を回避することは不可能と判断した金剛は、少しでも直撃を防ぐために咄嗟に機銃を魚雷に向けて連射していた。

 

金剛「少しでも魚雷を手前で爆発させれれば……」

 

 しかし、高速で向かってくる魚雷に対しての焦りもあり、魚雷を撃ち落とすことが出来ない。

 

    ドゴォォォン

 

金剛「あぁあっ!」

 

 2発の魚雷が金剛に命中し、咄嗟にとっていた防御態勢のおかげで体へのダメージは少なかったが、主砲を含めた艤装の一部が破損してしまった。

 

金剛「Shit!私の大切な装備が!」

 

 金剛は、魚雷が放たれた方向から魚雷を撃ったのが軽巡ホ級であると確認し、残っている主砲で反撃を試みようとした。

 

金剛「よくもやってくれたネ、倍返しデース!!」

 

 主砲を構えて射撃体勢に入った時、金剛の体は思わぬ方向に移動を始めてしまう。

 

金剛「えっ、前に進めない……」

 

 金剛の艤装のダメージは、主砲以外にも動力部にまで達しており、推力が低下してしまった上に舵がきかなくなっていたのである。

 

金剛「思うように動けない……、しかし敵に気づかれたらつけ込まれてしまいマス……」

 

 金剛はなんとか主砲の照準を取り直し、ホ級に向けて砲撃を行う。

 

金剛「残っている主砲2基4門……、全砲門!Fire!!」

 

 金剛の必死の砲撃は、逃げるホ級を捉えて大破炎上させることに成功する。

 

金剛「これで、ホ級は動けないネ……、でも舵がきかない私も天龍たちに合流出来そうにないデス……」

 

 舵がきかずに推力の低下した金剛は、この場に留まるわけにもいかず低速ながら東方向へと移動を開始する。

 

金剛「このまま進めば少しは鎮守府に近づけるけど、方角的に帰れないネ……」

 

 金剛は、戦艦ル級と駆逐艦ロ級の2体に追撃を受けながら鎮守府や美鈴の事を思い浮かべると共に、艦娘となる前に過去の大戦で共に戦った姉妹艦のことを思い出していた。

 

金剛「比叡、榛名、霧島……、この姿になってからは、まだ会えていなかったけど、貴女たちもこの世界のどこかにいるのですカ?」

 

 金剛は、自分と同じく艦娘として生まれ変わっているであろう姉妹艦たちの事を思い浮かべていた。

 

金剛「今の姿になった貴女たちに、一度で良いから会ってみたかったデス……」

 

 

 

 

 その頃、龍星鎮守府では、美鈴が提督室に到着していた。

 

麗美「めーりん、本当にもう大丈夫なの!?」

 

美鈴「はい、もうすっかり元気ですよ!」

 

麗美「よかったわ……、でも今の状況はあまり良いものではないわ……」

 

 麗美は、現在判明している戦況を美鈴に説明する。

 

美鈴「なるほど、准将は来たるべく反攻作戦に向けて紅月鎮守府へ帰還する必要があるんですね」

 

麗美「そうなの、まぁ紅月鎮守府への航路になる北東方面の深海棲艦たちは、日向やウチの鎮守府からの増援部隊で対応中だから問題は無いと思うの」

 

美鈴「しかし、鎮守府の北方面に詳細がまだわかっていない敵艦隊がいて、南西方面ではウチの艦娘たちが深海棲艦の機動部隊と交戦中と言うことですか……」

 

麗美「そうなの、しかも無線機の故障か電波妨害かわからないけど、無線機が通じなくなってしまっていて金剛や天龍に連絡が出来ないのよ……」

 

美鈴「無事だと良いんですが……」

 

麗美「鳳翔が頑張って艦載機で捜索してくれているけど、索敵機が無い状況ではなかなか厳しいし、疲れも溜まっているようだったから少し休むように言ったんだけどちゃんと休みを取っているかしら……」

 

美鈴「それについては、私が『気』を送って回復しているので、今は元気になっていますよ」

 

麗美「『気』で元気?ふふっ、なかなか上手いこと言うじゃない……」

 

 その時、提督室に一本の通信が入った。

 

 

 

 

大淀「はい、こちら司令室の大淀です」

 

 通信を入れてきたのは、索敵中の鳳翔であった。

 

鳳翔「こちら鳳翔です、艦載機たちが天龍さんたちを発見しました!」

 

大淀「本当ですか!皆さんご無事でしょうか?」

 

鳳翔「これより接触してみようと思いますが、一人、二人、三人……」

 

麗美「どうしたのかしら?」

 

鳳翔「金剛さんの姿が確認出来ません!!」

 

美鈴「どういうことなの?」

 

鳳翔「しかし天龍さんたちは、みんな元気な様子です、別行動でしょうか?」

 

大淀「確認出来ませんか?」

 

鳳翔「艦載機で接触を試みます!」

 

麗美「無線が無理なら、モールス信号とかでなんとか会話をしてみて」

 

鳳翔「わかりました、やってみます」

 

 そう答えると、鳳翔は交信を終了した。

 

麗美「金剛は気になるけど、とりあえずは朗報ね」

 

美鈴「はい、建造中の艦娘たちが完成したら増援も送れるでしょうし!」

 

麗美「そうね……、って建造中の艦娘!?」

 

 麗美は、美鈴が艦娘を建造中であると聞いて驚きを見せる。

 

美鈴「はい、明石が建造ドックを修理してくれていたみたいで、一気に2つのドックで建造してもらっています!」

 

 麗美は、美鈴の発言を聞いて驚きと喜びをあわせたような表情になる。

 

麗美「そうか、この鎮守府の提督である美鈴がいれば建造ドックを使用出来たわね……」

 

美鈴「えへへ、仲間が増えるのは嬉しいので、資材が溜まったらよく建造したりしています!」

 

麗美「建造予定時間とか聞いているかしら?」

 

美鈴「完成艦娘の予想ですね、明石にも聞きましたが4時間くらいと、1時間くらいだと工廠の妖精さんが教えてくれました!」

 

麗美「4時間と言うと戦艦か正規空母クラスだし、1時間だと巡洋艦クラスね!」

 

美鈴「戦艦狙いの方が4時間だったので、たぶん戦艦と巡洋艦の艦娘が来てくれるはずです!」

 

麗美「今は少しでも戦力が欲しいわね、早く完成させて来てくれないかしら」

 

美鈴「でもまだ、建造開始したばかりなので……」

 

 美鈴は、申し訳なさそうに麗美に答えた。

 

 

 

 

大淀「たしか、先日いただいた補給物資の中に、高速建造材が一つあったような……」

 

 美鈴と麗美の会話を聞いていた大淀が、美鈴に高速建造材の存在を指摘する。

 

美鈴「こうそくけんぞうざい?」

 

 美鈴は、初めて聞いた言葉に疑問を浮かべ、それに気がついた麗美は美鈴に説明を始める。

 

麗美「高速建造材とは、艦娘の建造時間を短縮して瞬時に建造完了に出来る道具ね」

 

美鈴「すぐに傷を治せる高速修復材みたいに、それを使えば建造時間も待たなくて良いのですか!?」

 

麗美「まぁ、そう言うことね」

 

 美鈴が、麗美の説明を理解して驚いている時、美鈴を追って走って来ていた明石がようやく提督室に到着しドアを開けて中に入ってきた。

 

明石「はぁはぁ、提督ったら足が速すぎですよ~」

 

 明石は、非戦闘系艦娘であるため他の艦娘に比べれば走力に劣るところがあるが、通常の人間には負けないくらいの走力は持っていた。

 しかし、元々駆逐艦クラスの艦娘にも負けないくらいの走力を持っている美鈴には、どうやっても追いつけないのであった。

 

大淀「大丈夫?水ならあるけど飲む?」

 

明石「はぁはぁ、ありがとう」

 

 明石は、大淀から手渡されたコップの水を一気に飲み干すと、ようやく一息ついた様子であった。

 

美鈴「あっ、明石、ちょうど良いところに……」

 

明石「げっ、またどこかに移動するんですか!?」

 

 明石は、美鈴に声をかけられると、また走らされると思い、思わず一歩後ずさりをする。

 

美鈴「建造についてなんだけど……」

 

明石「なんだ、私の得意分野の話ですね、何でしょう?」

 

美鈴「倉庫に高速建造材が一つあるみたいで、今建造中の艦娘の一人をすぐにでも完成させられるみたいなんだけど……」

 

明石「お~、高速建造材があったなら使えば良かったですね!」

 

美鈴「これから、取りに行って使いたいんだけど、一人じゃわからないから一緒に来てくれないかなぁ?」

 

明石「ぁぁぁ……、やっぱりまた走るんですね?」

 

 ガックリと頭を下げる明石に、申し訳なさそうに手を合わせる美鈴と、優しく背中を叩く大淀の姿を見ながら麗美は一人でこう思っていた。

 

麗美「(今度来るときには、明石にオートバイでも差し入れしてあげよう……)」

 

 

 

 

 ヌ級を撃退した天龍たちは、金剛との合流地点に向かっていた。

 

深雪「航空攻撃が無くなったから、後の脅威はル級だけだなぁ~」

 

雪風「でも、こっちにも正規空母ヲ級がいるという話でしたよね」

 

天龍「今戦ってる部隊以外にも、敵の艦隊がいる可能性は高いな……」

 

 天龍たちが話をしながら行軍していると、白雪が上空に何かを発見した。

 

白雪「北東方向から、接近する飛行物体があります!」

 

 白雪が指さす方向には、航空機の編隊らしきものが接近してくる状況であった。

 

雪風「敵の航空部隊ですか!?」

 

 雪風は、素早く主砲を航空部隊に向けて戦闘態勢をとる。

 

天龍「雪風、待ちな!」

 

 天龍は、雪風の前に出て右手を雪風の前に出して制止する。

 

天龍「聞こえるぜ……、このプロペラ音は零式艦上戦闘機だ!」

 

 天龍は、接近する航空機が『零式艦上戦闘機』だと指摘し、様子を見ることにすると、先頭の機体から発光信号があった。

 

    『ワレ ホウショウ キカンラ ノ ブジ ヲ カクニン シタ』

 

 天龍は、発光信号を読み取ると、雪風に返信を指示する。

 

天龍「雪風、鳳翔さんの零戦に返信してくれ」

 

雪風「了解しました!」

 

 雪風が、探照灯で発光信号を返すと、更に発光信号が送られてくる。

 

    『コンゴウ ノ カクニン ガ デキナイ ブジ カ』

 

天龍「金剛は、陽動中で今から合流地点に合流予定だと答えてくれ」

 

雪風「任せて下さい!」

 

 雪風が、再び発光信号で返信すると、更に返信があった。

 

    『リョウカイ コチラモ カクニン ニ ムカウ』

 

天龍「無線機が使えないからありがたいな!」

 

深雪「こっちの無事も連絡出来たし、とりあえず一安心か」

 

 鳳翔の艦載機たちは、1機を残して金剛の無事を確認するために東方向へ向かって行った。

 

白雪「零戦が1機残ってくれていますね」

 

天龍「通信役として鳳翔さんが残してくれたんだな!」

 

 

 

 

 美鈴と明石が、建造ドックで建造中の艦娘を倉庫にある『高速建造材』で完成させるために倉庫へと向かっている途中、麗美から明石の無線機に通信が入った。

 

明石「はい、こちら明石です!」

 

麗美「私よ、近くに美鈴提督はいるかしら?」

 

明石「あっ、はい今呼びます!」

 

 そう言うと、明石は大声で前を走る美鈴に声をかける

 

明石「てーとく、紅月准将から通信ですよー!!」

 

 明石の声に気がついた美鈴は、振り返ってものすごい早さで駆け戻ってくる。

 

明石「はい、無線機です」

 

 明石は携帯式の小型無線機を本体ごと美鈴に手渡し、美鈴は麗美との通信を開始する。

 

美鈴「はい美鈴です!」

 

麗美「めーりん、また明石を置き去りにして走っているんじゃ無いの?」

 

美鈴「あっ!さっきよりもゆっくりめに走ってたつもりだったのですが……」

 

 その台詞を聞いた明石は、思わずショックを受ける。

 

明石「(そんな、私は全力で追いかけていたのに……)」

 

 目の前で肩を落とす明石を見て、美鈴は自分の失言に気がつく。

 

麗美「あなたねぇ、そんなことを明石の聞こえるところで言ったらダメよ」

 

美鈴「あわわ、目の前にいた明石が落ち込んじゃいました……」

 

麗美「あちゃ~、あとでちゃんと謝りなさいよ」

 

美鈴「すいません」

 

麗美「それはともかく、鳳翔から天龍たちと接触出来たとの連絡があったわ」

 

美鈴「金剛はどうでしたか?」

 

麗美「敵の陽動を単艦で行っているらしいのだけど、とりあえず鳳翔の艦載機たちで確認に向かったらしいわ」

 

美鈴「そうでしたか、金剛も無事だと良いんですが」

 

麗美「そうね、そっちは援軍を出せるように高速建造の件、頼んだわよ!」

 

美鈴「わかりました、また何かわかったら教えて下さいね!」

 

 美鈴は麗美との通信し、無線機を明石に手渡す。

 

美鈴「倉庫までもう少し、みんなが心配だから急いで行こう!!」

 

 美鈴は、明石の肩を軽く叩くと再び走り始めた。

 

明石「今度、時間があったら電動自転車でも作らなきゃなぁ……」

 

 明石は泣きそうな声でそう呟きながら、走って行く美鈴の背中を追った。

 

 

 

 

 舵がきかなくなってしまった金剛は、低下した速力の中で追ってくる戦艦ル級と駆逐艦ロ級を巧みに牽制しつつなんとか攻撃をしのいでいる状態であった。

 

金剛「自力での帰還は絶望的……、でもきっと仲間が来てくれマス」

 

 通信も出来ず、天龍たちとの合流ポイントからもどんどん離れてしまっている状況ではあるが、金剛はまだ諦めていなかった。

 

金剛「可能性は低いかもしれませんガ、鳳翔も索敵をしてくれているなら運良く見つけてくれるかもしれないネ……」

 

    ズガガガガ

 

 近接してこようとするロ級に機銃を掃射し、足止めすると主砲をロ級に向ける。

 

金剛「日本語で言う金剛石は、ダイアモンドと言うと聞いたことがあるネ」

 

    ドゴォォォォォン

 

 ル級が主砲を放つと、金剛は減速しながら稼働可能な主砲を右方向に向ける

 

    ドゴォォォン

 

 主砲を放った反動で、金剛の体が強制的に左方向に移動する。

 

 金剛へ直撃コースで飛来していたル級の砲弾は、金剛の右後方へ着弾する。

 

金剛「ダイヤモンドは、世界で一番輝き一番硬い宝石ネ」

 

 金剛は、再び速力を上げてル級と距離をとろうとする。

 

金剛「私はそんな宝石の名をいただいて、太平洋戦域で活躍した金剛型一番艦ネ、まだまだこんなところで沈むわけにはいかないデース!!」

 

 顔を上げてル級とロ級の行動を見据える金剛、その目はまだまだ力を失っていなかった。




 今回の題名は、アニメ化や実写映画化もした某人気不思議な冒険漫画の第四部のサブタイトルと同じだと言うことは秘密なのですが、本当は前回のタイトルにしようとしたところ思ったよりも展開が進まず今回のタイトルになりました。

 金剛を出演させた段階でいつかは使おうと考えていたタイトルなのでやっと使う機会が来たというか、もう使っちゃったかというか不思議な感情です。



 あと、作中では描いていなかったですが、前話で美鈴に『気』をもらって元気になった鳳翔さんはキラ付けも完了したような絶好調状態まで回復している脳内設定があったりしています……(百合要素は全く考えていませんが)


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第27話 高速建造材

    ギィィィ……

 

 倉庫に到着した美鈴と明石は、倉庫の大扉を開いた。

 

美鈴「いつの間にか、倉庫の扉がこんな金属製の立派な物になっていたんだね~」

 

明石「これから、どんどんアイテムや保管する艤装が増えてくるでしょうから、私と妖精さんたちで作ったんですよ」

 

美鈴「これなら多少の攻撃でもビクともしないね!」

 

明石「一応、深海棲艦に攻め込まれても、ある程度耐えられるようには作っています」

 

美鈴「深海棲艦って陸上にあがれるの?」

 

明石「量産タイプのほとんどは上陸出来ないですが、人型に近い上位種には上陸可能な深海棲艦もいるみたいですよ」

 

美鈴「そ、そうなんだ……」

 

 美鈴と明石は、大淀が倉庫で見かけたという高速建造材を探し始める。

 

美鈴「う~ん、どこにあるのかなぁ~」

 

 美鈴は、長めのホースのような物がついた大型の消火器のような物を手に取りながら周りを見渡している。

 

明石「大淀のことだから、変なところにしまったりしていないはずですけどね~」

 

 美鈴と少し離れたところで手分けをして探している明石も、予備の艤装の周りを探し回っている。

 

美鈴「ところでさぁ~、明石」

 

明石「はい、何でしょう」

 

美鈴「この消火器は何で赤色じゃ無いのかなぁ?」

 

 美鈴は手に持った消火器のような物を持ち上げて、明石に見せようとする。

 

明石「消火器の色って、昔は消火器に関する法令で25パーセント以上赤くしなきゃいけないって決まっていたみたいですが、最近はその法令も変わって、家庭用の消火器なら赤じゃ無くても良くなったみたいですよ」

 

美鈴「へー、そーなのかー」

 

明石「でも、鎮守府って家庭じゃ無いから赤くないのって変ですね?」

 

 明石はそう言うと、美鈴の方へ振り向き美鈴が持ち上げている消火器のような物を確認する。

 

明石「あーーーーっ!!」

 

 明石は急に大声を出し、美鈴が持ち上げていた大型の消火器のような物を指さす。

 

明石「それですよ提督!それが高速建造材ですよぉ!!」

 

美鈴「えぇ~!?」

 

 そもそも高速建造材がどのような形の物なのか、どのように使用するのかがわからなくて明石に同行を求めていた美鈴であったが、思わぬ形で高速建造材を発見し、急いで工廠に向かうことにした。

 

 

 

 

    ブロロロロォォォ

 

 天龍たちとの接触に成功した鳳翔の零戦21型は、深海棲艦を陽動しているはずの金剛を捜索するため、天龍たちがいる海域の東方向を飛行中であった。

 

鳳翔「艦載機から逐次報告が来ますが、金剛さんの姿は無いですね……」

 

 鎮守府の高台から巧みに艦載機をコントロールする鳳翔は、冷静に10機の零戦を操っている。

 

鳳翔「金剛さんは複数の深海棲艦と交戦中のはず、発見出来れば援護の九九式艦爆を発艦させることも出来るのですが……」

 

 先ほどまでの鳳翔なら、仲間の発見を急ぐあまり焦る気持ちが前面に出ていたのだが、美鈴から『気』をもらい受けて体力が回復してからは、不思議とスッキリした気持ちになり体だけではなく頭も冴えている感覚があった。

 

鳳翔「提督の力を分けてもらってから、何だか調子が良くなってきた感じがしますね……」

 

 鳳翔の好調さは、捜索のため出撃中の零戦21型にも影響を与えているのか、パイロットである妖精さんたちの調子も上がってきていた。

 

鳳翔「報告をくれている妖精さんたちの士気も上がってきてくれているみたいですね」

 

 航空母艦である鳳翔は、艦載機のパイロットたちにとっての指揮官であり、艦娘にとっての提督と同様の存在である。

 

 提督と深い絆で結ばれた艦娘が能力以上の力を発揮出来るという報告があるが、まさに空母艦娘と艦載機を操縦する妖精さんも同様で、空母艦娘と妖精さんが互いに信頼しあえている状態であれば、艦載機を操縦する妖精さんたちも普段以上の実力を発揮出来るという報告もある。

 

鳳翔「何だか艦載機を操縦する妖精さんたちが、まるで熟練パイロットのような頼もしさを感じますね……、これなら必ず金剛さんを発見してくれるはずです」

 

 指揮官の指揮に安心して従えるパイロット、今の鳳翔と艦載機のパイロットである妖精さんたちは、まさにその域に達していた。

 

 

 

 

    ドゴォォォン  ドゴォォォォォン

 

 損傷して思うように動けない金剛は、陽動していた深海棲艦である戦艦ル級と駆逐艦ロ級と激しい砲撃戦を繰り広げていた。

 

金剛「もう少し、もう少し頑張れば、きっと仲間が来てくれマス……」

 

 いまだ稼働可能な主砲2基4門と機銃で、巧みに相手の接近を退けて後退を続ける金剛であったが、徐々にダメージが大きくなってきているのは明らかであった。

 

金剛「せめて、ロ級を墜としてル級との一騎打ちに持ち込めれば……」

 

 中破に近い損傷を受けている金剛にとっては、小破状態のル級とほとんど損傷の無いロ級を相手に1対2の戦いを続けるのは無謀であったが、未だに闘志が消えていない金剛はこの状況を打開する機会を探し続けていた。

 

金剛「少しでもいいデス、敵が隙を見せてくれれば……」

 

 金剛は、ル級とロ級の動きをジッと観察しながら後退を続ける。

 

 ル級もこの金剛の様子に、何かを企んでいるのでは無いかと勘ぐり無闇に接近をしてくる様子も無く、一進一退の状況が続いていた。

 

金剛「ル級も突っ込んで来ませんネ……、無能じゃなさそうデスが、私の損傷状況に気がついていないのなら優秀でもなさそうネ……」

 

 金剛がル級に注意を向けていると、急にロ級が加速して金剛に向かってきた。

 

金剛「またデスか、飽きないネー」

 

 金剛は機銃を掃射してロ級を牽制する。

 

     ズダダダダダ

 

 今までであれば、機銃の掃射に驚いたロ級は後退を繰り返していたのであるが、今回は被弾を覚悟で突っ込んで来たのである。

 

金剛「まさか、来るのですカ!」

 

 機銃を受けたロ級は小破するが、そのまま金剛に接近してくる。

 

     がぁぁぁぁ

 

 突っ込んでくるロ級は、口を大きく開いて魚雷を発射しようとしてくるのが見えた。

 

金剛「玉砕覚悟デスか!?」

 

 金剛は、慌てて主砲をロ級に向けようとするが、焦るせいか照準が定まらない。

 

金剛「Shit!間に合わない!!」

 

    ブロロロロォォォ

 

 その時、上空から航空機のエンジン音が聞こえてきた。

 

    ズダダダダ ズダダダダ

 

 航空機から放たれた機銃が、ロ級に数発直撃する。

 

    ぐぉぉぉぉ

 

 突然の攻撃に驚いたロ級は、魚雷の発射を取りやめて後退を開始する。

 

金剛「あの機影は……、零戦!?」

 

 金剛の視界に飛び込んできたのは、飴色がかった灰緑色の10機の零戦21型であった。

 

 

 

 

鳳翔「深海棲艦と交戦中の金剛を発見!敵はル級とロ級各1体、金剛は損傷しているも健在です!!」

 

 鳳翔からの、金剛発見の報が提督室の麗美や、工廠の美鈴にもたらされた。

 

鳳翔「金剛は援護の必要を認めます、艦爆の発艦許可を!」

 

 鳳翔は、すでに艤装の弓を構えて九九式艦爆の発艦準備に取りかかっていた。

 

美鈴「金剛は怪我をしているのですね、すぐに救援に向かって下さい!」

 

 美鈴の返答を確認した鳳翔は、素早く矢を放ち九九式艦爆8機を発艦させた。

 

鳳翔「艦載機の皆さん、頼みましたよ……」

 

 金剛のいる海域に向けて飛び出した九九式艦爆隊を見守る鳳翔は、祈るように見守っていた。

 

 

 工廠にいる美鈴は、目の前に立っている金剛と同じ巫女服の様な服装をした艦娘に声をかける。

 

美鈴「聞いたとおり、貴女のお姉さんがピンチなの、着任早々で悪いけど救援に向かってもらえるかな?」

 

金剛と同じ服装の艦娘「はい、金剛お姉様の危機と聞いてはいてもたってもいられません……、いざ、出撃します!」

 

 美鈴が鳳翔から金剛発見の報告を受けたのは、工廠に到着して高速建造材を工廠の妖精さんに託して建造中の艦娘を完成させ、自己紹介を終えたばかりのタイミングであった。

 

 金剛型であり金剛の妹にあたる彼女は、美鈴から無線機を受け取ると姉である金剛の救援に向かうべく海岸へと駆けだして行くのであった。

 

 

 

 

    チリリリリン チリリリリン

 

 提督室の事務机に設置された電話機が呼び鈴を鳴らす。

 

 近くにいた麗美は、受話器を取り応答する。

 

麗美「はい、こちら龍星鎮守府提督室……」

 

美鈴「わぁ、本当に麗美さんの声が聞こえる!?」

 

 受話器の向こうから、驚く美鈴の声が聞こえてくる。

 

明石「あぁ、すいません、提督が無線機を新造艦娘に渡しちゃったんで工廠の電話から連絡しています」

 

 驚く美鈴から受話器を奪い取った明石が、麗美に状況を報告する。

 

麗美「なるほどね、それで完成した艦娘はどうしたのかしら?」

 

美鈴「私に説明させて」

 

明石「はいはい、替わりますから引っ張らないで下さい」

 

 受話器の向こうで、美鈴と明石が子供のように引っ張り合う声が聞こえてくる。

 

麗美「……くっ、ははは」

 

 受話器の向こうから聞こえてくる、美鈴と明石の子供じみたやりとりに麗美は思わず吹き出してしまう。

 

大淀「どうされました?」

 

麗美「あぁ、工廠にいる美鈴たちからの電話よ」

 

 麗美の回答を聞いた大淀は、なぜ美鈴からの電話で急に麗美が笑いだしたのか理解出来ずに小首をかしげてしまう。

 

美鈴「完成して着任したのは、金剛の妹だったんですよ!」

 

麗美「なるほど、金剛型と言うことはあの二人は本土にいるからあの娘ね……」

 

美鈴「あの二人?」

 

麗美「金剛型は4隻いるのだけど、すでに艦娘となって本土に2人いるのよ、だから今回着任したのは最後の一人になる訳よ」

 

美鈴「なるほど、その最後の一人ですが、私の無線機を持たせて金剛の救援に向かってもらいました!」

 

麗美「そうね、金剛や天龍たちは無線機が不通になっているから、その娘に無線機を持たせたのは良い判断ね」

 

 

 

 

    ブロロロロォォォ

 

 鳳翔の艦載機である零戦21型10機は、金剛を天龍たちのところへ誘導し始めるが、金剛は首を横に振って追従してこない。

 

    『ワレ ホウショウ ユウグン ト ゴウリュウ サレタシ』

 

 零戦21型を操縦する妖精さんが発光信号で金剛に呼びかけるが、金剛は悲しそうな表情をして首を横に振る。

 

 金剛の損傷状態を確認する、零戦21型の妖精さんは金剛の足の艤装が破損していることに気がつき、深海棲艦に気づかれないように接触を試みてきた。

 

妖精さん『コンゴウサン、アシヲケガシテルノ?』

 

 巧みな操縦技術で、金剛の周囲を飛び回りながら零戦21型を操縦する妖精さんの一人が声をかけてきた。

 

金剛「はい、舵がきかなくなって思うように進めないデス……」

 

妖精さん『テンリュウタチガ、ムコウニイルケド、イケナインダネ』

 

金剛「そうデス……、鎮守府に帰還することも出来ないデス……」

 

妖精さん『ナカマガ、テンリュウノトコロニイルカラ、ツレテキテモラウヨ』

 

 妖精さんの声を聞いた金剛は、驚いたような表情を見せた。

 

金剛「本当デスか!?」

 

妖精さん『ウン、ダイジョウブダヨ、シンパイシナイデ』

 

金剛「Good jobデース!」

 

 金剛の声が段々と明るくなってくるのが感じられた。

 

妖精さん『ホウショウサンモ、カンバクヲ、ハッカンシテクレタミタイダカラ、ゼッタイニ、タスケテミセルカラネ』

 

 零戦21型の妖精さんは、金剛にそう告げると他の機体と合流し零戦21型10機で編隊を組んで深海棲艦を牽制し始めた。

 

金剛「艦上戦闘機の機銃じゃ、深海棲艦相手には分が悪いデス」

 

 金剛は、果敢にル級に牽制を仕掛ける零戦21型を見守りながら、主砲をロ級に向けて狙いを定める。

 

 ル級を守るように、対空攻撃を繰り返しているロ級は金剛が狙いを定めている事に気づいている様子は無く、必死に零戦21型を追い回している。

 

金剛「天龍がいる地点からはだいぶ離れてますし、鎮守府からの距離もまだ遠いデス……」

 

 金剛は目を凝らしながら、動き回るロ級に狙いを定め続けていく。

 

金剛「援軍が間に合うかはわからないけど、妖精さんは私に希望をくれたし、なりよりも深海棲艦の隙を作ってくれたデース」

 

 ル級とロ級が、零戦21型の牽制に気をとられた一瞬の隙を金剛は見逃さなかった。

 

 ル級と一対一の状況を作るため、ロ級を撃墜しようと考えていた金剛にとって千載一遇のチャンスが今訪れたのである。




 前回の投稿から半月以上経ってしまいました。

 すっかり風邪をひいてしまい、体調を崩してしまっていました。

 今回はついに高速建造材を発見し、新たな艦娘が登場しますね!!

 まぁ、今回は顔見せ程度で名前も明かされませんが、隠し事が苦手なもので結構バレバレなのでしょうね(笑)


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第28話 華人小娘と大和撫子

    - 鳳翔による、金剛発見の知らせのわずか前 -

 

明石「提督~、もう少しゆっくり走って下さいよぉ~」

 

 倉庫で高速建造材を見つけた美鈴と明石は、工廠に向かって走っていた。

 

 倉庫から工廠までは距離にして数百メートルと言うところであるが、大急ぎで走る美鈴に追いつくことが出来ない明石は、泣きそうな声で美鈴を呼んでいた。

 

美鈴「早く高速修復材で新しい艦娘を完成させなきゃいけないんだよ、明石も急いで~」

 

 両手に高速建造材を抱えながら走る美鈴は、数十メートル後ろから追いかけてくる明石を急かしながらも、走る速度を緩めて明石が追いつくのを待っていた。

 

明石「はぁはぁ、提督は何でそんなに早いんですか~」

 

美鈴「えっ、そう?普通だと思うけど?」

 

明石「両手で荷物を持ちながら走っているのに、艦娘より早いなんて普通じゃないですよ~」

 

美鈴「この状態なら、深雪や白雪には勝てないと思うよ~」

 

明石「比較基準が、航行速度38ノット級の駆逐艦ですか……」

 

 自身の足の速さについて、鎮守府でも1、2を争う吹雪型の二人を引き合いに出す美鈴に対して、明石は呆れながら言葉を返す。

 

 そうこうしているうちに、美鈴と明石は2名の艦娘を建造中の工廠へ到着した。

 

美鈴「よーし、工廠についたね!」

 

 美鈴が疲れて肩で息をしている明石に明るく声をかけていると、工廠の前から作業服を着た妖精さんが美鈴に気がつき歩み寄ってきた。

 

妖精さん『テイトク、カンセイニハ、モウスコシ、ジカンガカカルヨ』

 

明石「後どれくらいですか?」

 

妖精さん『1バンドックガ、3ジカンチョット、2バンドックガ、40フンクライ』

 

明石「建造開始から40分くらい経っていますから、2番ドックの建造時間は1時間20分くらいですか……」

 

美鈴「天龍の時より、少し時間がかかるねぇ」

 

明石「もしかしたら、2番ドックは重巡が出来るかもしれませんね!」

 

 明石は、2番工廠の建造時間から、完成する艦娘が重巡洋艦の可能性があることを美鈴に説明する。

 

美鈴「重巡かぁ、まだウチにはいない艦種だね」

 

明石「提督が知っているところでは、紅月鎮守府の最上が重巡クラスの艦娘ですね」

 

美鈴「と言うことは、男の子っぽい娘が来るのかな?」

 

明石「それは最上だけです!!」

 

 

 

 

美鈴「それはそうと、高速建造材はどうやって使えば良いのかなぁ?」

 

 美鈴は、手に持っていた高速建造材を見ながら明石に尋ねる。

 

明石「それは妖精さんに渡すと、工廠の中で一気に艦娘を完成させてくれますよ」

 

美鈴「そうなんだ、じゃあ妖精さんお願いします!」

 

 美鈴は高速建造材のホースを妖精さんに差し出すと、妖精さんは両手でホースを掴む。

 

妖精さん『ドッチノドックデ、ツカエバイイノ?』

 

美鈴「今回は、戦艦を作っている1番でお願いします!」

 

妖精さん『ソレジャア、タンクヲ1バンドックノマエニ、オイテネ』

 

美鈴「は~い」

 

 美鈴は妖精さんに言われたとおり、1番工廠の扉の前に高速建造材のタンクを置いた。

 

    トントン

 

 作業服の妖精さんが工廠のドアをノックすると、工廠のドアが開いて中からヘルメットをかぶった妖精さんが顔を出した。

 

 作業服の妖精さんが、高速建造材のホースを見せるとヘルメットの妖精さんが作業服の妖精さんを工廠内に招き入れ、作業服の妖精さんが工廠内で高速修復材のホースを構える。

 

    ごぉぉぉぉぉっ!!

 

 作業服の妖精さんが手に持った、高速建造材のホースから大きな炎が上がる。

 

美鈴「うわぁ!」

 

 突然吹き出した大きな炎に、美鈴は思わず大きな声を上げてしまう。

 

明石「初めて見る人には衝撃ですよね~」

 

 驚く美鈴とは対照的に、明石は終始落ち着いて様子を見ていた。

 

    ギィィィィ……

 

 作業服の妖精さんが高速修復材を使用し終えると、ヘルメットの妖精さんが再び工廠の扉を閉め、中から何やら機械が動くような音が聞こえてきた。

 

明石「もう少しで完成しますよ!」

 

 明石が美鈴に声をかけていると、作業服の妖精さんが美鈴へ扉の前まで来るように手招きしてきた。

 

美鈴「もう完成したんだね」

 

妖精さん『オマタセシマシタ!』

 

 

 

 

 美鈴は、工廠の扉の前に立ち右手で扉に触れると、扉の奥から黄金色の光があふれてきて、奥から金剛と同じ巫女服の様な服を着た、ロングヘアーでやや銀色に近い明るめの黒髪の女性が姿を現した。

 

金剛と同じ服装の艦娘「高速戦艦、榛名、着任しました」

 

 榛名と名乗る女性は、美鈴の顔を確認し、丁寧にお辞儀をしてくる。

 

 その立ち振る舞いは、明るく皆を引っ張って行く金剛とは少し異なり、大和撫子という言葉を絵に描いたような凜々しさが感じられた。

 

榛名「あなたが提督なのね?よろしくお願い致します」

 

美鈴「はい、私がこの鎮守府の提督の紅美鈴です」

 

 美鈴も、榛名につられてお辞儀をし自己紹介をする。

 

美鈴「金剛と同じ服装と言うことは、姉妹艦というやつですか?」

 

 美鈴の口から金剛と言うワードを聞いた榛名は、目を輝かせて美鈴を見つめる。

 

榛名「金剛……、金剛お姉様も艦娘として生まれ変わっているのですか!」

 

 榛名が感激した様子で美鈴に声をかけたその時、明石が持っていた無線機に急に通信が入った。

 

鳳翔「深海棲艦と交戦中の金剛を発見!敵はル級とロ級各1体、金剛は損傷しているも健在です!!」

 

 龍星鎮守府南西側の海域で、金剛を捜索していた鳳翔から緊急連絡が入った。

 

鳳翔「金剛は援護の必要を認めます、艦爆の発艦許可を!」

 

 深海棲艦に対して単艦で交戦し、損傷を負っているという金剛への援護の必要があるという報告を受けた美鈴は、すぐさま明石から無線機を受け取り鳳翔に返信する。

 

美鈴「金剛は怪我をしているのですね、すぐに救援に向かって下さい!」

 

 美鈴は、榛名が無線の内容を聞いて心配そうな表情をしている事に気がついた。

 

美鈴「(姉妹との再会はもっと落ち着いたところでさせてあげたいけど、今はそんなことを言っている場合じゃないかな……、でも榛名は金剛の妹だし動揺して出撃どころでは……)」 

 

 着任した榛名が金剛の妹であることを知った美鈴は、着任直後に姉である金剛の危機を知らせる報告を受けて榛名が動揺すると考えていた。

 

榛名「……」

 

 しかし、榛名は取り乱すことも無く、無言でジッと美鈴の目を見据えている。

 

 まるで、出撃命令を待っているかのように。

 

美鈴「(この娘の目は、私に何かを訴えかけている?出撃指示を待っているとでも言うの!?)」

 

 美鈴は榛名のまっすぐな瞳を見て、出撃指示を出すことに躊躇していた自分を恥じた。

 

美鈴「(自分の大切な人がピンチだと聞いたら、私だって黙っていられないもんね……、早くこの娘を出撃させてあげなくちゃダメだよね……)」

 

 美鈴は、自分にそう言い聞かせるように大きく深呼吸し、榛名に語りかける。

 

美鈴「聞いたとおり、貴女のお姉さんがピンチなの、着任早々で悪いけど救援に向かってもらえるかな?」

 

榛名「はい、金剛お姉様の危機と聞いてはいてもたってもいられません……、いざ、出撃します!」

 

 榛名は美鈴の言葉を受け、ビシッとした敬礼を見せると、美鈴から手渡された無線機を受け取り出撃準備を開始する。

 

明石「榛名さん、これを金剛さんたちに届けてもらえませんか?」

 

 明石は艤装を装着中の榛名に、背中に背負っていた風呂敷を手渡す。

 

榛名「これは……」

 

明石「私と大淀で準備していたおにぎりです、出撃しているみんなに食べてもらって下さい」

 

榛名「皆さんお優しいのですね、こんなにも気を遣ってくれて」

 

 榛名は、明石から受け取ったおにぎりを受け取ると、出撃のため海岸へ駆け出して行った。

 

 

 

 

 その頃、天龍たちと行動を共にしていた、鳳翔の零戦21型を操縦する妖精さんは、金剛を発見した零戦21型を操縦する妖精さんからの通信を受け、天龍たちに発光信号を送り始める。

 

天龍「ん?妖精さんが何かを言おうとしているな?」

 

 妖精さんの発光信号に気がついた天龍たちは、発光信号の解読を始めた。

 

    『コンゴウ ハッケン ワレニ ツヅケ』

 

    『コンゴウ フショウ ジリキ コウコウ コンナン』

 

 妖精さんは、天龍たちが発光信号に気がついたことを確認すると、自らの機体で誘導を行うかのように、零戦21型を金剛発見ポイントへ向けて移動させはじめる。

 

天龍「お前たち、妖精さんの機体について行くぞ!」

 

白雪「金剛さん、大丈夫でしょうか……」

 

深雪「自力航行困難ってヤバいんじゃねぇか?」

 

雪風「金剛さんは簡単にはやられないはずです、金剛さんを信じましょう!」

 

 天龍たちは、零戦21型を追いかけながら全速力で金剛がいる海域に向けて移動を開始する。

 

    『チンジュフカラ カンバクタイヲ ハッカン』

 

    『コウゴウ ケンザイナルモ ソンショウ カクダイ』

 

 妖精さんは、無線機が使えない天龍たちのために連絡を受けた内容を、逐次発光信号で天龍たちへ知らせてくれている。

 

白雪「金剛さんの損傷が拡大しているですって……」

 

深雪「でも、鳳翔さんも艦爆を向けてくれたみたいだ」

 

雪風「妖精さん、速度を維持しながら発光信号も送り続けてくれているんですね」

 

天龍「妖精さんも、仲間のために頑張ってくれているんだ、オレたちも負けてられねぇじゃねぇか!」

 

 天龍たちは、零戦21型の導くまま大海原を駆け抜けていくのであった。

 

 

 

 

    ズガガガ ズガガガ

 

 金剛を発見した零戦21型隊は、機銃のみの武装であるがなんとか友軍が到着するまで深海棲艦たちを引きつけようと、決死の牽制を続けていた。

 

 しかし、威力の低い機銃では戦艦ル級の装甲に傷をつけることも出来ず、ル級とロ級の対空攻撃は激しさを増す一方であった。

 

金剛「妖精さんたちが作ってくれたChance、逃すわけにはいかないデス……」

 

 金剛は、主砲36.5㎝連装砲の照準を、命中させれば確実に撃破出来るはずの駆逐艦ロ級に向けて慎重に狙いを定める。

 

 しかし、ロ級は零戦21型を追い回しているため、絶えず動き回っておりなかなか照準が合わせられない。

 

金剛「むぅぅ、なかなかLock On出来ないネ……」

 

 この機を逃せば、2体の深海棲艦にジリジリと追い詰められていくのは確実であり、確実にロ級を墜としておく必要があった金剛は、段々と焦りを感じていた。

 

 金剛の焦りに気がついたのか、先ほど金剛に声をかけてきた妖精さんは単機で隊列を離れてロ級を牽制し始めた。

 

金剛「あの機体は、さっき私に声をかけてくれた妖精さんの……?」

 

 ロ級の牽制を続けていた妖精さんは、ロ級の動きを止めようと機銃を乱射する。

 

    ズガガガ ズガガ ズガガ ズガ…… 

 

 しかし、途中で機銃が止まってしまう。

 

金剛「弾切れデスか!?」

 

 機銃の弾薬が切れてしまった零戦21型は、ロ級の対空砲火にさらされてしまう。

 

    ガツン

 

 ロ級の対空砲火が、零戦21型の右翼を撃ち抜き、機体は一気にバランスを失って墜落を開始してゆく。

 

 目障りな零戦21型を墜としたと、ロ級が気を抜いたその時

 

    ドゴォォォン

 

 金剛の放った36.5㎝連装砲の砲弾が、ロ級に直撃しロ級は海に沈んでいく。

 

 

 

 

    ドガァァァン

 

 金剛を救うために、単機で決死の覚悟でロ級を攻撃した零戦21型は、勢いよく海面に落下し爆散した。

 

金剛「ロ級を墜として、敵はル級だけになりましタ……」

 

 金剛は、零戦21型が墜落した海面に視線を落とし、目にはうっすらと涙を浮かべていた。

 

金剛「でも、ワタシが早くロ級を撃てなかったせいで、あの妖精さんは……」

 

 自分がもっと早くロ級を撃墜出来ていれば、ロ級を引きつけるために零戦21型1機が単独行動をとる必要もなく、撃墜されることも無かったと考え金剛は自責の念にかられていた。

 

    ポカン

 

 うつむく金剛の頭に、何かがぶつかった。

 

金剛「ん?」

 

 金剛は、咄嗟に右手で頭にぶつかったモノを受け止めると、それは小さなゴーグルであった。

 

金剛「これは?」

 

 金剛は思わず空を見上げると、そこにはパラシュートで落下してくる零戦21型の妖精さんの姿があった。

 

金剛「Oh!」

 

妖精さん『ダイジョウブ、チャント、イキテルヨ』

 

 妖精さんは、パラシュートで落下しながら金剛に手を振る。

 

妖精さん『キタイハ、ヤラレチャッタケド、チャント、イキテイルカラ、ダイジョウブ』

 

金剛「さすが妖精さんですネー」

 

 金剛は、笑顔で両手を伸ばして妖精さんを受け止め、艤装の上に妖精さんを乗せる。

 

金剛「さぁ、後はル級だけネ、皆が来るまでもう一暴れして見せマース!」

 

 金剛は、零戦21型の牽制を受けているル級に向かって右手を伸ばし、高らかに宣言したのであった。




 今回は前話で省略していた部分を、冒頭で少し遡っています。

 前話から艦載機に搭乗する妖精さんが、登場していますが、艦これの世界観では艦載機が撃墜された時の妖精さんってどうしているのでしょう?

 私的には、付近の艦娘に救助されて実際の船に救助されたときのように帰って来るか、戦闘が終わった後に鎮守府などから救助艇が出されて帰って来るとかそんな想像をしているので、この世界でもその方針でいます。

 でも、そうなると、航空戦で大量の艦載機がやられたら、雷や電が戦闘そっちのけで救助に回ってしまいそうですが、それはそれで個性と言うことでいいかなぁ……


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第29話 再会する姉妹

深雪「金剛さんの所には、まだ着かないのかよぉ~」

 

雪風「零戦の妖精さんを信じて、ついて行きましょう!」

 

白雪「金剛さん、どうかご無事で……」

 

天龍「オレたちが着くまで諦めるなよ!」

 

 龍星鎮守府の南西方面に出撃中の天龍たちは、金剛との合流のため先導する零戦21型の後を追っていた。

 

    『セントウキ ヒダン ツイラク』

 

 先導する零戦21型の妖精さんは、金剛を支援中の機体からの連絡を天龍たちに発光信号で知らせ続けている。

 

天龍「鳳翔さんの艦載機が墜とされた!?」

 

深雪「金剛さんは無事なのかよぉ」

 

白雪「うぅっ……」

 

 零戦21型が1機撃墜された報告を受け、天龍たちが戸惑う中、隊列の最後尾にいた雪風は西方面に何かの気配を感じた。

 

雪風「皆さん、西の方から何かが近づいてくるような気配がします……」

 

 雪風の報告に、天龍が電探を確認する。

 

天龍「ん?オレの電探には反応は無いぜ」

 

深雪「ん~、特に何も見えないなぁ」

 

 深雪も、目をこらしながら西方面の索敵を実施するが敵影などの発見には至らなかった。

 

白雪「海鳥でもいたのでしょうか?」

 

雪風「う~ん、はっきりはしませんがもっと大きなモノの気配がしたのですが……」

 

 雪風も双眼鏡で確認したが、西方面には特に何も発見することは出来なかった。

 

雪風「すみません、勘違いかもしれません」

 

深雪「雪風の勘の良さには助けられてるから、何かはありそうだね」

 

天龍「金剛の救出が最優先だけど、また何か気がついたら教えてくれよ」

 

雪風「はい!」

 

 深雪と天龍は、雪風の直感を信用しているものの、今は目の前の金剛救出が最優先であったため、これ以上の索敵をせずに金剛が戦闘中の海域へ急行することとした。

 

雪風「(敵影は見えませんが、何だか嫌な予感がします……)」

 

 雪風は、再度双眼鏡で西方面を確認した後、天龍たちの隊列に合流して金剛救出へと向かった。

 

 

 

 

    ズガガガ ズガガガ

 

 金剛を援護している零戦21型の小隊は、ル級の激しい対空砲火のため更に2機を撃墜されながらも、深海棲艦の戦艦ル級を牽制し続けていた。

 

金剛「妖精さんたち、この恩は忘れないネ……」

 

 中破状態の金剛は、小破程度のル級との決戦に挑むためル級の隙を狙っていた。

 

 思うように動くことが出来ない金剛にとって、装甲や火力で上回るル級と真正面からぶつかるのは無謀であることは明らかだからである。

 

 ル級近くの海面には、ル級に撃墜された零戦21型を操縦していた妖精さんが2人海面に漂っている。

 

金剛「何とかして、あの妖精さんたちも救助したいデス……」

 

 金剛が、海面の妖精さんたちの救助を考えていると、すでに金剛に救助されていた妖精さんが金剛に声をかけてきた。

 

妖精さん『コンゴウ ボートヲ カリテモ イイカナ』

 

金剛「ボート?救命ボートデスか?」

 

 元々軍艦である艦娘の艤装には、艦船時代の名残で妖精さんサイズの救命ボートや浮き輪が内蔵されていた。

 

金剛「でも今はまだ戦闘中、今救命ボートを出すのはDangerデス」

 

妖精さん『スグニ シュウヨウシテ モドルカラ』

 

 妖精さんは、すでに両脇に浮き輪を抱えており準備万端であった。

 

金剛「う~ん、確かにこのままにしておいたらあの妖精さんたちが溺れちゃいますシ、ワタシも妖精さんが気になって、思い切り戦えないかもしれないデスネ……」

 

 金剛は、条件付きで妖精さんの提案を許可することとした。

 

金剛「わかりましタ、ただし3分以内に救助して戻って下サイ」

 

 金剛の条件に、妖精さんは敬礼で答えると、すぐさま海面に救命ボートを投下した。

 

 

 

 

 美鈴と明石は龍星鎮守府の提督室に戻り、麗美や大淀と共に戦況を確認していた。

 

麗美「北東方面の艦隊は、日向や紅月鎮守府からの増援艦隊で概ね撃破したみたいね……」

 

大淀「あれだけの部隊をこの短時間で撃破するとは……」

 

明石「さすが東洋のカリスマの主力艦隊ですね……」

 

 日向からの報告で、北東海域の深海棲艦主力部隊の撃破に成功した事を確認した一同は、戦況を再確認する。

 

美鈴「あの~、状況がよく分からないのですが……」

 

 現在の戦況をいまいち把握出来ていない美鈴は、恥ずかしそうに状況を尋ねる。

 

大淀「紅月艦隊が交戦していた北東方面には、戦艦ル級と空母ヲ級がそれぞれ8体、その他巡洋艦クラス約20体、駆逐艦クラス約30体の主力艦隊を確認していました」

 

明石「その大艦隊を、日向と最上、増援の瑞鶴、龍壌、川内、神通の6人で壊滅させたって事ですね」   

 

美鈴「えぇっ!10倍の敵を打ち破ったのですか!?」

 

 美鈴は、大淀と明石の説明を聞いて驚愕する。

 

麗美「問題ないわ、ウチの主力は練度が違うからね」

 

明石「確かに川内型の全員と龍壌は改二になっていますし、瑞鶴は改二の上に甲装備ですもんね」

 

大淀「日向と最上も航空化して練度も極めて高いですから、ただの1個艦隊とは思えないほどの戦力ですね」

 

美鈴「改二?甲装備?」

 

 美鈴は聞き慣れない単語に戸惑っていたが、麗美たちはその後も美鈴の知識ではついて行けない会話を繰り広げていた。

 

 

 

 

那珂「提督ー!那珂ちゃんから重大発表だよー!!」

 

 突然、北方面の索敵を行っていた那珂から緊急の無線が入る。

 

麗美「那珂、何か発見したのかしら?」

 

那珂「先行していた五月雨ちゃんが、深海棲艦の艦隊を発見したよー!」

 

麗美「数はどのくらいいるか分かるかしら?」

 

 那珂の報告を受けた麗美は、深海棲艦の規模を確認する。

 

那珂「う~ん、はっきりした数は分からないんだけど、センターにはヲ級やヌ級の空母隊がいるみたいで龍星鎮守府に向かって来ているみたいだよ」

 

麗美「ウチの主力艦隊は、まだ北東方面の深海棲艦を討伐している最中だし、龍星鎮守府の艦隊も南西方面で戦闘中だから増援は厳しいわね……」

 

 麗美は、現状から那珂たちへの増援を検討するが龍星鎮守府周辺の艦隊は戦闘中の部隊以外には、鎮守府防衛のために帰還中の町井田中尉と響、雷、電のみである事を再確認した。

 

麗美「ここから見ての北方面に新設した基地航空隊に連絡をとれば、増援要請を出来るのだけど……」

 

美鈴「基地航空隊?」

 

 美鈴は、麗美が言う基地航空隊という言葉に反応した。

 

麗美「深海棲艦から奪還した無人島に新設した航空基地があるの、だけどまだ稼働までに時間がかかっているのよ」

 

美鈴「航空基地と言うことは、飛行機を飛ばせる施設があるんですか?」

 

麗美「そうね、メーリンにもわかりやすく言えば、空母の艦娘がいなくても艦載機を飛ばせると言えばいいかしら」

 

美鈴「それは便利ですね!」

 

麗美「航空基地の規模によっては、正規空母よりも多くの航空部隊を展開出来るのよ」

 

美鈴「ウチも欲しいですね~」

 

 美鈴は、麗美の話を聞くと、艦載機で索敵を行い疲労していた鳳翔を思い出し、航空基地があれば艦娘たちの負担を減らせるのでは無いかと考えていた。

 

 

 

 

 ル級と交戦中の金剛は、零戦21型7機の援護を受けながらボートに乗った妖精さんが海面に漂流中の妖精さんを救助する時間を稼ぐために注意を引きつけていた。

 

金剛「さぁ戦艦同士の一騎打ちデス、ワタシについてこれますカー」

 

    ドゴォォン

 

 金剛が主砲を発砲すると、零戦21型に気をとられていたル級は金剛の方に顔を向ける。

 

    ドボォォン ドボォォン

 

 金剛が放った36.5㎝連装砲の砲弾が、ル級の直近の海面に落ちて水しぶきを上げる。

 

金剛「さぁ、妖精さん今のうちに皆を助けるデース!」

 

 金剛は、ル級と目が合うとニヤリと笑みを見せながら主砲を構え直す。

 

    ズダダダ ズダダダ

 

 ル級が金剛に気をとられると、すかさず零戦21型7機が機銃を放つ。

 

    ぐぅぅぅぅ

 

 零戦21型の機銃では、ル級の装甲に傷を与えることは出来ないが、注意を引くことは十分に出来ている。

 

金剛「Good job!最高のAssistデース!」

 

 金剛は、この好機を逃すまいとル級に主砲と機銃の照準を合わせる。

 

金剛「仕留めます!全砲門!Fire!!」

 

    ドゴォォン ズダダダダダ

 

 金剛は、ル級に稼働可能な砲塔全てを集中し一斉砲火を仕掛けた。

 

    ぐぉぉぉぉん

 

 一斉砲火を受けたル級は、立ち上る黒煙の中で悲鳴をあげる。

 

金剛「Hitデース!」

 

 全弾命中の手応えを感じた金剛は、黒煙の中で倒れ込むル級の姿を確認した。

 

 

 

 

妖精さん『ヤッタネ コンゴウ』

 

 機体を撃墜されて海面を漂っていた妖精さんの救助を終えた妖精さんが、救命ボートに乗って金剛に近づいてくる。

 

金剛「妖精さん、今回収するネー」

 

 金剛はその場にしゃがみ込み、両手で妖精さんたちが乗る救命ボートを持ち上げる。

 

    ぐごぉぉぉ……

 

 その時、黒煙の中からうめき声が聞こえてきた。

 

金剛「まさか、まだ生きてたデスか!?」

 

 うめき声の正体がル級であると気がついた金剛は、慌てて救命ボートを腰部の艤装に乗せて黒煙に向けて主砲を構える。

 

金剛「仕留めたと思いましたガ、ワタシもダメージを受けてたから威力がダウンしてたのデスね……」   

 

 中破状態の金剛は、通常時に比べて攻撃力が低下していたため、ル級にトドメを刺すことが出来ていなかった。

 

 黒煙が晴れると、大破したル級が立ち上がっており、損傷した体を庇いながらも殺意に満ちた眼光を金剛に向けてきていた。

 

金剛「まさに手負いの猛獣ネ……、早く仕留めなけレバ……」

 

 金剛は再度主砲をル級に向け、とどめを刺すために照準を合わせた。

 

    カチャ カチャ

 

 金剛が36.5㎝連装砲を発射しようとしたとき、砲塔から砲弾が発射されず、艤装の動作音のみが響き渡った。

 

金剛「だ、弾薬切れデスか……」

 

 これまでの戦闘によって、金剛の燃料と弾薬は底をついてしまっていたのである。

 

 その事を知ってか知らずか、激怒したル級は金剛に向かって砲塔を向けてくる。

 

金剛「くっ、せめて妖精さんたちだけでも退避するデース!」

 

 金剛は、自身が離脱出来ないことを覚悟すると、救助していた妖精さんたちだけでも逃がそうと総員退避の指示を出す。

 

妖精さん『ソノ ヒツヨウハ ナイヨ』

 

 妖精さんは金剛の指示に、首を振りながら上空を指さす。

 

 

 

 

    ブロロロロォォォ

 

 龍星鎮守府の方角から、複数のエンジン音が近づいてくる。

 

金剛「この音は!!」

 

 エンジン音に気がついた金剛が上空を見上げると、雲の奥から8機の九九式艦爆が姿を現した。

 

金剛「あれは、鳳翔デスか!!」

 

 九九式艦爆隊は、高高度からル級に接近すると順番にル級に向かって降下する軌道を取り始めたが、ル級は目の前の金剛に気をとられていて九九式艦爆隊に気がつく様子は無かった。

 

    ブゥゥゥゥゥン ブゥゥゥゥゥン

 

 九九式艦爆隊はル級に接近すると、機体を海面から見て垂直に近い角度まで傾けて急降下を開始する。

 ル級は、その時初めて九九式艦爆隊の存在に気が付いた様子であった。

 

    ヒュゥゥゥゥン ヒュゥゥゥゥン

 

 しかし、その時にはすでに九九式艦爆隊が250kg爆弾を次々に投下していった。

 

    ぐぎゃぁぁぁ

 

 九九式艦爆隊の急降下爆撃を受けたル級は、上空に手を伸ばしてもがきながら海に沈んでいった。

 

金剛「か、勝ったデース……」

 

 ル級の撃沈を確認した金剛は、その場にへたり込むように両手をついて座り込む。

 

金剛「さすがにもう立てないネー」

 

 弾薬が切れた上、艤装の損傷によって自力航行が不能になってしまっている金剛は、その場から動くことも出来なくなってしまっていた。

 しかし、鳳翔の艦載機たちと合流していることもあり、じきに仲間が救援に来てくれるという安心感があった。

 

 零戦21型隊と九九式艦爆隊に護衛された金剛は、しばらく救助していた零戦21型の妖精さんと話をしていると、龍星鎮守府の方角から接近してくる艦娘の姿を発見した。

 

金剛「んー、鎮守府の方から誰か近づいて来るネー、鳳翔?いや、紅月鎮守府の艦娘でしょうカ?」

 

 近づいて来る艦娘は、まだ遠方にいるため金剛の肉眼では容姿がはっきり分からなかったが、海風に長い髪がなびいているのが見えた。

 

金剛「あのストレートのロングヘアーは、鳳翔でもないデスし、日向や最上でもないネ」

 

金剛「暁や響にしては、背が高いデスし……」

 

 金剛は、救援に来てくれたのであろう艦娘が誰なのか考えていたが、知っている艦娘たちは該当する者がいないことに気が付いた。

 

 

 

 

金剛「大人でロングヘアーといえバ……」

 

 金剛の脳内に1人の女性の顔が思い浮かぶ。

 

金剛「提督……?」

 

 段々と近づいて来る艦娘の姿を見ていると、その艦娘が黒髪であることが分かった。

 

金剛「うーん、提督は綺麗な赤い髪でしたシ、艦娘じゃ無いデスし……」

 

 金剛は、美鈴が舞空術を使って空を飛ぶ姿を見たことはあるが、人間が艦娘のように海上を航行出来るなどとは聞いたことが無い。

 

 金剛がそうこう考えているうちに、艦娘は声が届くぐらいの距離に近づいてきた。

 

 その艦娘は、金剛とほとんど同じ服装で、違いと言えばスカートの色が金剛の茶色と異なり赤色である位であった。

 

榛名「金剛お姉様ですね、私は榛名です」

 

 その艦娘は、榛名と名乗り立ち上がれなくなっていた金剛に手を差し伸べる。

 

金剛「榛名……、榛名デスか!そうネ、ワタシは金剛デース!!」

 

 金剛は、差し伸ばされた榛名の手を掴み笑顔で答える。

 

榛名「艦娘となり、またお姉様にお会いすることが出来るなんて、榛名、感激です!」

 

金剛「ワタシもデス、でもせっかくの再会なのにこんなカッコ悪いところを見せてしまって恥ずかしいデスねー」

 

 金剛は、中破した上、航行不能となっている自分の姿について苦笑いしていると、榛名は目にうっすらと涙を浮かべながら金剛に抱きついて来た。

 

榛名「提督や鳳翔さんからも、お姉様が立派に戦ったと聞いています、恥ずかしくなんてありません、金剛お姉様は榛名の自慢のお姉様です!」

 

 しばらくの間、抱きついて泣いていた榛名の頭を撫でていたが、ふとあることに気が付く。

 

金剛「ところで提督や鳳翔というと、榛名も龍星鎮守府に来たんですカ?」

 

榛名「はい、先ほど紅美鈴提督に建造していただきお姉様と同じく龍星鎮守府の艦娘として着任いたしました」

 

金剛「Wow! ワタシも榛名に会いたかったデスよー!!」

 

 金剛は、こらえていた涙を流しながら榛名を抱きしめ、姉妹の再会を心から喜んだ。




 私の住む北海道はすっかり気温も下がってきており、秋と言うよりはもうすぐ冬が始まると言うような感じがしています。

 先日、半纏を見かけて寒くなってきたし半纏を着ながら執筆というのも良いかなぁと思いついつい半纏を買ってしまい絶賛着用中ですが、艦娘たちも冬の日には半纏を着たりしている娘もいるのかなぁ~思う今日この頃です。


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第30話 新たなる脅威

    『コンゴウ テキカン ゲキハ』

 

 金剛の救援に向かう天龍たちを先導する零戦21型から、天龍たちに向けた発光信号が送られてきた。

 

深雪「金剛さん、1人で敵をやっつけたのか!?」

 

白雪「本当なのですか?」

 

 零戦からの発光信号に、天龍たちは驚きの声や歓声が沸き起こる。

 

天龍「さすが金剛だな、オレも負けていられないな」

 

 金剛が勝利したという報告に、一同は速度を緩めるが、雪風は最後方から速度を緩めずに進んでくる。

 

雪風「金剛さんは負傷しているんです、早く合流して鎮守府へ連れて行ってあげましょう!」

 

 若干気が緩んだ天龍たちは、雪風の声に気を引き締め直す。

 

天龍「雪風の言うとおりだ、金剛や撃墜された艦載機の妖精さんたちの救助に行くぜ!」

 

 天龍の指示により、深雪、白雪、雪風は隊列を組み直して零戦21型の後について行く。

 

 

    『キタイノ ネンリョウガ フソクシテキタ』

 

    『ワレワレハ イチド キトウスル』

 

 天龍たちを誘導する零戦21型から、機体の燃料が不足してきた事から鳳翔の下へ帰投するといった発光信号が入った。

 

白雪「零戦は帰投するみたいですね」

 

深雪「結構な時間飛行していたみたいだしな!」

 

   『コンゴウハ コノママ ヒガシノ チテン』

 

   『エングンノ カンムスニ エイコウサレ キカンチュウ』

 

 零戦21型は発光信号により、金剛が援軍の艦娘により鎮守府へ曳航されている事が知らせ、そのまま帰投するため鎮守府方向へ飛び去って行った。

 

天龍「援軍の艦娘って誰だ?紅月鎮守府の艦娘は北東方面に行ってるはずだし」

 

深雪「鎮守府にいて、航行出来る艦娘と言ったら鳳翔さんか?」

 

白雪「でも、鳳翔さんが来てるなら零戦は鎮守府じゃ無くて鳳翔さんのところに向かうはずよ」

 

雪風「一体誰なのでしょう?」

 

 無線機の不調で、榛名が建造されて金剛を曳航していることを知らない一同は、発光信号による数少ない情報で色々な想像をするのであった。

 

 

 

 

 榛名に肩を貸してもらう形で曳航されている金剛は、龍星鎮守府の目前まで来ていた。

 

榛名「金剛お姉さま、鎮守府が見えてきました」

 

金剛「ここまで来ればもう大丈夫ネ、榛名Thanksネー!」

 

 戦闘により中破している金剛は、痛みをこらえながらも榛名に笑顔を見せる。

 

金剛「すっかり榛名に頼ってしまいましたが、重くなかったデスか?」

 

榛名「はい、榛名は大丈夫です!」

 

 金剛は、懸命に曳航してくれた榛名に気遣うように声をかけると、榛名は笑顔で金剛に答えた。  

 

 金剛は榛名の頭を撫でると、榛名が所持していた無線機を借りて龍星鎮守府へ無線連絡を入れた。

 

金剛「Hey!提督ー、聞こえますカー?」

 

 少しの間を置いて、美鈴からの返事が聞こえてくる。

 

美鈴「こちら美鈴、金剛、無事なのね?」

 

金剛「Hi!だいぶボロボロにされたけど無事に帰ってきたネ!」

 

美鈴「もうすぐ鎮守府に着くのかしら?迎えに行くわね!」

 

金剛「Oh!到着したらワタシから会いに行くデース!!」

 

 美鈴の声を聞いて自然と笑みがこぼれる金剛の顔を見て、榛名も自然と表情が緩む。

 

金剛「ところで、まだ天龍たちとは連絡が取れないデスカ?」

 

美鈴「鳳翔さんの艦載機が天龍たちと別れてからは、まだ連絡がとれていないみたい」

 

 金剛は少し視線を落とすと、榛名の腰の艤装に風呂敷がくくりつけられていることに気が付いた。

 

金剛「ところで榛名、その風呂敷は何ですカ?」

 

榛名「ん……、あぁ明石さんから皆さんに差し入れと言われて渡されたおにぎりです」

 

金剛「Oh!にぎりデスか!!」

 

榛名「……おにぎりです、お姉さまの分も、天龍さんたちの分もありますよ」

 

 榛名は、風呂敷の中からおにぎりを1個取り出すと金剛に差し出し、金剛は両手でおにぎりを受け取った。

 

 

 

 

金剛「提督、ここまで来たらワタシは1人で鎮守府に帰れるネ、榛名にこのまま無線を持って行ってもらって、天龍たちと合流してもらうと良いと思うデース!」

 

美鈴「そうだね、さっき北方面に深海棲艦の艦隊を発見したという話もあるから、天龍たちとも連絡を取りたいし、榛名が問題なければお願いしたいわ」

 

 美鈴の無線を聞いた榛名は静かに頷き、金剛から無線機のマイクを受け取る。

 

榛名「はい、榛名は大丈夫です!」

 

美鈴「紅月准将の情報だと、そっちの方面にもヲ級っていう大型空母の深海棲艦がいる艦隊がいるらしいから油断しないでね」

 

榛名「敵空母……、鎮守府に近づけるわけにはいかないですね」

 

 空母と聞いた榛名が、一瞬表情をこわばらせながら答えるのを金剛は見逃さなかった。

 

金剛「さっき、戦った艦隊のヌ級とヲ級の誤認だとLuckyデスが、油断は出来ないネー」

 

美鈴「今朝の空襲は結構な規模だったから、ほぼ間違いなくヲ級がいると言うのが紅月准将の話だから、とにかく見つけたらすぐに連絡して欲しいわ」

 

榛名「はい、榛名、了解です!」

 

 美鈴との通信を終えると、榛名は無線機を艤装内に収納し金剛に顔を向ける。

 

榛名「本当は鎮守府までお送りしたかったのですが、榛名は天龍さんたちと合流するために西方面に向かいますね」

 

金剛「ここまで連れてきてくれなかったら、もう鎮守府に帰れないところだったデスが、榛名のおかげで助かったネ!」

 

 そう言うと、金剛は榛名から受け取ったおにぎりを手で半分に分けて、榛名に差し出す。

 

金剛「ワタシは鎮守府に戻って入渠するから、全部はいらないネ」

 

 榛名は、金剛に渡された半分になったおにぎりを受け取る。

 

金剛「榛名には、しばらくワタシの分も頑張ってもらうから食べれるうちに食べておいた方が良いネ!」

 

榛名「金剛お姉さまは優しいのですね、榛名にまで気を遣ってくれて」

 

金剛「それと、空母と戦うならこれが役に立つから、榛名に渡しておくネー」

 

 金剛は、艤装内に搭載していた三式弾を取り出して榛名に手渡す。

 

榛名「これは、三式弾ですね!」

 

金剛「それがあれば、榛名は敵の艦載機なんかに負けないはずデース!」

 

榛名「お姉さまも、どうかお気をつけて」

 

 榛名は、金剛から手渡された三式弾を受け取ると、天龍たちがいる南西方面へ向かった。

 

 

 

 

 そのころ、龍星鎮守府の北側海岸に町井田中尉の輸送艦ミディアと、響、雷、電が帰投していた。

 

町井田「こちら町井田、鎮守府北側の海岸に到着した」

 

 町井田が無線機で司令室に報告すると、大淀が応答する。

 

大淀「町井田中尉お疲れ様です、ミディアも響ちゃんたちも一度補給を受けて下さい」

 

町井田「了解した、艦娘たちには順次上陸許可を与えるが、ミディアはこの場で停泊する」

 

麗美「ミディアの乗組員も交代で休憩を取るのよ、これから忙しくなると思うから」

 

町井田「了解しました!」

 

 町井田は、ミディアの乗組員に三交代で休憩や軽食をとるように指示し、響たちにも交代で休憩を取るように指示を出した。

 

響「麗美司令官から、交代で休憩を取るように指示が出たみたいだね」

 

電「皆さんは、まだ戦っているのに私たちだけで休憩していて良いのかな……」

 

雷「私たちの仕事はこれからよ!司令官はそれまで休んでおけって言いたいのよ!!」

 

電「でも、暁ちゃんたちも、伊勢さんたちも、金剛さんたちだってまだ戦場で戦っているのです……」

 

 電は、仲間が戦場にいるのにも関わらず、自分たちだけが鎮守府で休憩を取ることに抵抗を感じていた。

 

 響はこの状況を町井田に相談すると、町井田は私物のスマートフォンでどこかに連絡を入れた後、電にスマートフォンを手渡した。

 

電「えっ、町井田さんのですか?」

 

町井田「えぇ、貴女にある人から電話が来ているわ」

 

 電は、町井田の言葉に頷くとスマートフォンを受け取った。

 

電「は、はい、どちら様でしょうか?」

 

 電が恐る恐る電話に応じると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

麗美「電、私よ怖がらなくてもいいわよ」

 

電「し、司令官!」

 

 

 

 

 町井田のスマートフォンから、聞こえてきた麗美の声に驚く電の様子を確認しながら、麗美は言葉を続けた。

 

麗美「皆が戦場にいるのに、自分が休憩していちゃ悪いと思って悩んでいるって聞いたわよ」

 

電「は、はい……」

 

麗美「それじゃあ、私の言うことも聞いてくれないのかしら……」

 

電「そ、そんなつもりじゃないのです」

 

 麗美の少し意地悪な質問に、電は泣きそうな声で答える。

 

麗美「ちょ、ちょっと泣かないで」

 

電「ちょっと意地悪なのです……」

 

麗美「それなら、私から別のお願いがあるのだけど良いかしら?」

 

電「別のお願いですか?」

 

 麗美の申し出に小首をかしげる電の横で、漏れ聞こえてくる麗美の声に興味津々といった様子で耳を傾ける雷がいた。

 

雷「司令官のお願いって何かしら?」

 

響「雷、人の話を盗み聞きなんて行儀が悪いよ」

 

 隣で聞き耳を立てる雷に気が付かない電は、そのまま麗美との会話を続けている。

 

麗美「今、この島の西方面から金剛が撤退してきているの」

 

電「龍星鎮守府の皆さんがやられたのです?」

 

麗美「金剛は仲間の被害を減らすために、自ら囮になって深海棲艦を引きつけてル級を含めた5体の深海棲艦をたった一人でやっつけたの」

 

電「本当ですか?確か金剛さんは、改二どころか改にもなっていないはず……、凄いのです!」

 

麗美「でも、その時の激戦で艤装を損傷してしまったうえ、弾薬も尽きてしまってボロボロになりながらたった一人でこの島へ向かっているわ」

 

電「龍星鎮守府の皆さんは、司令官にとっても電たちにとっても大切な仲間なのです、助けに行きたいのです!」

 

麗美「あら、それは助かるわ!でも、金剛は超弩級戦艦の艦娘だし、駆逐艦1人で曳航は厳しいのよね……」

 

 麗美と電との会話に聞き耳を立てていた雷は、電の肩に手をかける。

 

電「えっ、雷ちゃん?ビックリしたのです」

 

 急に肩を掴まれて驚く電に対し、雷は右手の親指を立てて笑顔を見せる。

 

雷「当然よね、助けるわ!」

 

電「わわっ、聞いていたのです?」

 

 麗美との電話に集中していた電は、不意に視界に雷が現れた事と、麗美との会話の内容を聞かれていたことに驚いていた。

 

 

 

 

美鈴「紅月准将、金剛を出迎えるためのご協力ありがとうございます」

 

 提督室で電との電話を終えた麗美に、美鈴が深々と頭を下げて感謝すると、麗美はさも当然といった表情で窓から屋外を見つめながら答える。

 

麗美「金剛はこの鎮守府での最大戦力よ、少しでも早く修理をして戦線に復帰してもらう必要があるのよ」

 

 麗美の少し冷たい感じの表情と言葉に、美鈴は若干の恐怖を感じながらも

 

美鈴「(戦争で人の上に立つと言うことは、こういうドライな決断力も必要なのかな……)」

 

 などと考えていると、麗美が美鈴の方に顔を向けながら表情を崩す。

 

麗美「と言うのはただの建前!金剛はそんなに高練度の娘でもないのにたった一人で頑張ったのよ!!」

 

 急に声のトーンが上がり、二人で談笑している時の声色になっていた。

 

麗美「鳳翔の援護があったとはいえ、戦艦も含めた5体の深海棲艦を負傷しながら倒したなんてヒーローじゃない!」

 

美鈴「確かにそうですね!」

 

麗美「そんなヒーローが足を引きずりながら帰って来るのよ、ちゃんと出迎えてあげるのが筋ってものじゃない!」

 

美鈴「私も迎えに行かなくちゃ!!」

 

 明石と大淀は、盛り上がる美鈴と麗美を見ながら小声で会話をする。

 

明石「金剛さんは女性だから、ヒーローとは言わないんじゃないかなぁ……」

 

大淀「戦果を考えると、英雄や勇者という意味では良いと思うけどね」

 

明石「でも、ヒーローって言うと男性の事を指すんじゃないかなぁ……」

 

大淀「それなら、暁ちゃんが言うところのレディーと言えば良いかしら?」

 

明石「レディーと言うのもちょっと……」

 

 戦闘が継続し、緊張感が漂っていた提督室の空気が、奮戦して戦果をあげた金剛が間もなく帰還するという安心感からか和んでいた。

 

    ブー ブー ブー

 

 その時、提督室の無線機に緊急連絡を告げる警報音が鳴り響く。

 

大淀「はい、こちら龍星鎮守府提督室の大淀です」

 

那珂「こちら那珂です、紅月提督に緊急連絡です!」

 

 

 

 

 無線の声は那珂であった、那珂の声は普段のアイドルらしい明るい声では無く真剣な様子であった。

 

那珂「偵察中の深海棲艦の艦隊が、龍星鎮守府に向けて艦載機を次々に発艦させているよ!!」

 

 那珂と五月雨、暁の3名は深海棲艦の艦隊と龍星鎮守府の間に展開し、龍星鎮守府へ向かう艦載機の迎撃を開始していた。

 

麗美「くっ、動きが速いわね……、艦隊の規模は分かるかしら?」

 

五月雨「偵察した感じなのですが、正規空母のヲ級2体、軽空母ヌ級3体、重巡を旗艦とした水雷部隊も複数発見しています!」

 

 先行し偵察を行っていた五月雨が、麗美におおよその敵艦隊の規模を報告する。

 

美鈴「榛名に連絡をとって、迎撃に向けましょう!」

 

麗美「そうね、大淀!連絡をとってくれるかしら」

 

大淀「はい、了解しました」

 

 美鈴と麗美の指示を受けた大淀は、無線で榛名を呼び出すが、何度呼び出しをしても榛名の応答は無かった。

 

美鈴「また無線機の故障ですか?」

 

麗美「いや、榛名が持っている無線機は、本来美鈴が使う指揮官用の無線機なのよ!普通の無線機よりも性能も耐久性も高いからそう簡単に壊れるものではないはすよ!」

 

大淀「榛名の予想地点は、ちょうど金剛や天龍たちと通信が途絶えたあたりですね」

 

美鈴「どういうこと?」

 

麗美「これは無線機の故障じゃ無くて、外的要因がある可能性があるわね……」

 

美鈴「まさか、深海棲艦が無線機を使えなくしていると?」

 

麗美「妨害電波の類いの可能性は考えられるわ……」

 

 麗美は、深海棲艦の組織的な行動に対して何か嫌な予感がしていた。

 

美鈴「とにかく、艦載機を迎撃する必要がありますね」

 

麗美「鳳翔とミディアに連絡をとって、迎撃の準備を!」

 

 麗美は大淀に指示を出しながら、迎撃プランを考えていた。

 

美鈴「敵の飛行機に狙われたら大変ですし、金剛の収容も急ぎましょう!」

 

 美鈴が麗美に声をかけた時、金剛から無線連絡が入った。

 

金剛「Oh!無線が入りますネー!」

 

美鈴「金剛!?」

 

金剛「雷と電が来てくれてEscortしてもらってるネ!2人のおかげでもうすぐ鎮守府に到着できマース!」

 

美鈴「無線機は直ったの?」

 

金剛「鎮守府に近づいたら急に電波が入るようになったヨ!」

 

麗美「ちょっと大変なことになりそうだから、早急に鎮守府に帰ってきて欲しいの、雷と電も聞こえるかしら?」

 

雷「司令官、聞こえてるわ!」

 

電「とにかく急いで戻るのです!」

 

 迫り来る深海棲艦の航空部隊の脅威に向けて、美鈴たちは迎撃するための作戦を大急ぎの立てることになったのである。




 色々あって投稿がだいぶ遅くなってしまいました……
 待っていてくれた方々には申し訳ありませんでした!

 私の住む北海道は、雪が降ったりして積もることもありもうすっかり冬の到来を迎えています。

 冬になるとマフラーを着用するのですが、その度に川内改二の様な感じでマフラーを巻いてみたくなるのですが、私の巻き方が悪いのか、マフラーの長さが足りないのかなかなか思ったように巻けないのです……


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第31話 銀色の従者

暁「ここで私が敵を食い止めないと……」

 

 暁は、龍星鎮守府へ向かう敵艦載機を撃墜しようと上空に向けて対空攻撃を繰り返していた。

 

那珂「暁ちゃん!敵の数は多いよ、突出したらダメだよ!!」

 

 那珂は暁が単独で飛び出していこうとするのを口頭で制する。

 

暁「でも、あの鎮守府には妹たちがいるのよ!私があの子たちを守らなきゃダメなのよ!」

 

 深海棲艦の大軍に焦る暁には、那珂の忠告は聞こえていなかった。

 

五月雨「那珂さん、暁ちゃんが敵航空機に向かって前進を続けています!」

 

那珂「仕方ないなぁ、私も駆け出しの頃はとにかく前へばっかりだったもんなぁ~」

 

五月雨「川内型の皆さんは、今でも前進しかしませんよね」

 

那珂「そ~かな?でも応援してくれる皆のためなら那珂ちゃんはどこまでも進んでいくからね~」

 

五月雨「それでこそ那珂さんです!」

 

 那珂と五月雨は、1人突出していく暁の後を追いかけ始めた。

 

 

暁「みんなを傷つける敵は、行かせない、行かせないんだから!!」

 

    ドォォン ドォォン

 

 暁は、高角砲で深海棲艦の艦載機に向けて発砲を繰り返す。

 

 すると、最初は暁の砲撃を無視して龍星鎮守府へ向かっていた敵艦載機の一部が、砲撃を繰り返してくる暁に向かって爆撃を仕掛けてきた。

 

    ヒューン ヒューン ヒューン

 

 暁は、自身に向かって投下された爆弾に驚き一瞬動きを止めてしまう。

 

暁「ウソ……、あんなのが当たったら……」

 

 落下してくる爆弾の一つが、暁に直撃する軌道を描いていたが、暁は恐怖でその事に気が付いていなかった。

 

暁「っ!! 私の真上に爆弾が……」

 

 爆弾が数十メートル上空まで迫った時、初めて暁は迫り来る爆弾に気が付いたが、回避のために足を動かすことが出来ない状態であった。

 

 

 

 

暁「響……、約束守れなくてゴメンね」

 

 迫り来る爆弾が直撃すれば無事ではすまないと直感的に感じた暁は、思わず響との約束を思い出して謝罪の言葉を発していた。

 

    ガギィィィン

 

    ドゴォォン

 

 その時、一発の砲弾が暁に迫っていた爆弾を弾き飛ばし、数十メートル離れた地点で爆発した。

 

那珂「どっかぁーん!」

 

 那珂の声に気が付いた暁が、砲弾が飛んできた方向に目を向けると、那珂と五月雨が近くまで来ていた事に気が付いた。

 

暁「那珂ちゃん……」

 

那珂「きゃはっ♪暁ちゃんも立ち止まってたら危ないよぉー」

 

 爆撃の中、笑顔で手を振る那珂を見た暁は、不思議と体の固さが消えていくのを感じていた。

 

暁「そ、そうね、このくらいの爆撃、一人前のレディーならへっちゃらよ!」

 

 そう言うと暁は、次々と来る爆撃を回避して見せた。

 

五月雨「すっごーい、暁ちゃんのステップまるで那珂さんみたいだったよ」

 

那珂「暁ちゃんも那珂ちゃんのユニットに入りたいのかな?そういうのは提督(プロデューサー)を通してね♪」

 

暁「あ、暁はアイドルじゃなくってレディーなのよ!」

 

 那珂たちは、持ち前の機動力を活かして敵艦載機の爆撃を全て回避したが、敵艦載機はそのまま龍星鎮守府の方角へ飛び去っていく。

 

暁「大変、深海棲艦の爆撃機を追いかけないと!」

 

 慌てて敵艦載機を追撃しようとする暁を、那珂は右手で制する。

 

那珂「艦載機を止める良い方法があるって、暁ちゃんは知ってるかなぁ~」

 

暁「何よ、邪魔しないで!追いかけないと!!」

 

五月雨「飛行機を追いかけたって追いつかないと思うなぁ」

 

暁「何か良い方法があるとでも言うの?」

 

那珂「それはねぇ~、空母ちゃんを倒せば良いんだよ♪」

 

 そう言うと、那珂と五月雨は深海棲艦の艦隊に突撃を仕掛けていく。

 

暁「えっ、ちょっと待ってよ、どういうこと!?」

 

 暁は慌てて那珂と五月雨の背中を追いかけ始めた。

 

 

 

 

    ウゥゥゥゥー

 

 龍星鎮守府全体に、敵艦載機の接近を知らせるサイレンが鳴り響く。

 

美鈴「このサイレンは!」

 

麗美「深海棲艦の爆撃機が接近してくるわね……」

 

大淀「電探に反応あり、100機を超える深海棲艦の艦載機が鎮守府に迫っています!」

 

麗美「ミディアと響に迎撃指示を!」

 

大淀「はい!」

 

 大淀は、海岸で停泊中のミディアと響に敵艦載機の迎撃指示を出す。

 

美鈴「鳳翔さんにもお願いしましょう!」

 

明石「任せて下さい!」

 

 明石も予備の無線機で艦載機の補給を行っていた鳳翔に迎撃を依頼する。

 

美鈴「わ、私にも出来ることは……」

 

 美鈴は、周りを見ながら何か出来ることが無いかを探してから、自分の両手を見て『気』を使いこなせば何とかならないか考え始める。

 

麗美「朝みたいに『気』を解放したらダメよ、まだ制御出来ていないでしょう」

 

 そんな美鈴の考えを読んだのか、麗美が『気』の力を使わないように釘を刺す。

 

美鈴「たしかに、また倒れたら皆に迷惑をかけてしまうか……」

 

 美鈴が麗美の忠告を聞き入れ、『気』の力を使うことを諦めた時、明石が何かを思い出したかのように美鈴に声をかける。

 

明石「提督、建造ドックに行きましょう!」

 

美鈴「建造ドック?あぁ、もうすぐ時間だね!」

 

 美鈴と明石の会話を聞いた麗美も、もう少しで建造中の艦娘が完成する時間であることに気が付く。

 

麗美「もうすぐ爆撃があるかもしれないけど、大丈夫なの?」

 

美鈴「金剛もまだ到着しませんし、いくら鳳翔さんの艦載機でも100機以上の敵は厳しいと思います……」

 

 美鈴は、心配する麗美の目を見て語り続ける。

 

美鈴「確かに、敵の飛行機が近づいて来る中で外に出るのは危険かもしれませんが、今は少しでも戦力が必要なんです!」

 

麗美「それはそうだけど……」

 

美鈴「それに完成した艦娘をドックから出してあげられるのは、この鎮守府の提督の私しかいないんです!!」

 

 美鈴の言葉を聞いて、麗美は小さく頷いた。

 

麗美「そうね、危険かもしれないけど頼めるかしら」

 

美鈴「はい!みんなは明石が特別頑丈に改造してくれたこの提督室で待っていて下さい!」

 

 そう言うと、美鈴は建造ドックへ向かって駆けだしていった。

 

 

 

 

鳳翔「艦載機の補充と燃料の補給は終わったわね……」

 

 明石から敵艦載機の迎撃依頼を受けていた鳳翔は、北側の海岸で発艦の準備を行っていた。

 

響「鳳翔さん、今回は海上に出るのかい?」

 

鳳翔「今回は偵察じゃ無くて戦闘ですもの、海上の方が何かとやりやすいのですよ」

 

響「たしかに、私たち艦娘は海でこそ実力を出せるからね」

 

鳳翔「敵は100機以上と聞きます、私の艦載機は全部で19機だけです」

 

 鳳翔は、自分の艦載機と敵艦載機の戦力差について響にを説明する。

 

響「5倍以上の差があるね、大丈夫なのかい?」

 

鳳翔「全部は落とせないでしょうから、援護お願いしますね」

 

響「了解さ、討ち漏らしがあれば任せて欲しい」

 

 響は鳳翔に軽く手を振ると、ゆっくりと沖合に向かって進んでいった。

 

鳳翔「金剛さんを援護した時に撃墜された零戦21型も予備機で補填しましたし、今回は九九式艦爆と九六式艦戦を換装した航空戦特化よ、鎮守府は必ず守ります!」

 

 鳳翔はそう言うとゆっくりと弓を引き、上空に向かって狙いを定める。

 

鳳翔「風向き、よし。航空部隊、発艦!」

 

 鳳翔の手から放たれた2本の矢は、真っ直ぐと上空に向かって飛んで行き、やがて11機の零戦21型と8機の九六式艦戦へと姿を変える。

 

鳳翔「皆さん、どうか鎮守府を、みんなを守って下さいね」

 

 鳳翔は、敵艦載機の迎撃のため飛び立った19機の艦載機を祈るように見守っていた。

 

 

 

 

 そのころ、龍星鎮守府西側の海岸に雷と電に曳航された金剛が到着していた。

 

雷「やっと着いたわ!」

 

電「これでもう大丈夫なのです」

 

 金剛を海岸に送り届けた雷と電は、達成感に満ちた言葉を口にしていた。

 

金剛「2人ともThanksデース、でも北から深海棲艦の艦載機が来ていマス、安心するのはまだ早いネー」

 

 金剛は、帰還中に無線で麗美から聞いていた敵艦載機接近の知らせについて心配していた。

 

雷「そのとおりね、私と電は北の海岸にいる響や町井田さんと合流するけど、金剛さんはまずは補給と修理をしっかりするのよ!」

 

電「雪風ちゃんや深雪ちゃんたちが戻ってくるまで、電たちはがんばるのです!」

 

金剛「ワタシも、燃料と弾薬をChargeしたらすぐに迎撃に向かうネー」

 

 金剛が雷と電にそう告げると、2人は金剛に対して怒り始める。

 

雷「ダメよ!怪我もしているし壊れた艤装じゃ力を発揮出来ないわ!」

 

電「ちゃんと怪我を治して来て欲しいのです!」

 

 自分のことを心配してくれている2人の言葉を聞いた金剛は、無理をしようとしていた事への反省すると共に、2人の優しさに感謝して笑みを見せる。

 

金剛「わかりました、それではしっかり修理してFull powerで戻ってくるネ!」

 

 金剛はそう言うと、北側海岸に向かう雷と電に手を振って見送っていた。

 

 

 

 

 龍星鎮守府の北側海上において、深海棲艦艦載機の大軍と鳳翔の艦載機が激しい航空戦を繰り広げていた。

 

鳳翔「くっ、練度では負けていないはずですが数が違いすぎる……」

 

 戦力差5倍以上という圧倒的不利な状況でありながら、鳳翔の艦載機たちは互いに連携を取りながら善戦していた。

 

町井田「鳳翔の艦載機たちを援護するんだ!!」

 

 町井田の号令でミディアの対空機銃が一斉に発射され、敵艦載機を迎撃する。

 

響「結局、町井田中尉たちも私も休憩は取れなかったけど、まだまだ戦えるさ」

 

 敵艦載機による爆撃を巧みに回避しながら、響も上空の敵機に狙いを定めて対空攻撃を続けている。

 

 町井田が指揮するミディアと、鳳翔、響の懸命な迎撃により未だ龍星鎮守府への直接の爆撃は避けていたが、物量に勝る深海棲艦の艦載機たちが防衛戦を突破するのは目前であった。

 

 

麗美「くっ、もう少し航空戦力があれば……」

 

 提督室のモニターから戦況を見守る麗美は、両手を強く握りながら打開策を考えていた。

 

大淀「北方向より新たな機影を確認!!」

 

麗美「まさか、まだ敵機が来るというの!?」

 

 大淀の一報を受けて、麗美は思わず大声を上げてしまう。

 

大淀「いえ、この信号は友軍……、紅月鎮守府所属隊の信号です!!」

 

麗美「北方向からの援軍と言うことは……、まさか!間に合ったのね!!」

 

 麗美が興奮した様子で声を上げると、紅月鎮守府が使用している周波数での無線が入る。

 

若い女性の声「紅月基地航空隊第1小隊、第2小隊、これより龍星鎮守府の援護に入る!」

 

 突然の無線に、大淀は驚いた表情で麗美の顔を見る。

 

麗美「我が紅月鎮守府前線基地から、基地航空隊の援軍よ!!」

 

大淀「今の声、妖精さんではなくて操縦士は人間ですか?」

 

麗美「そうよ!我が紅月鎮守府が誇る航空隊長、白銀の隼と呼ばれる伊在井咲樂(いざい さくら)よ!!」

 

大淀「しろがねのはやぶさ?」

 

麗美「咲樂が乗る零戦レプリカの塗色がライトグレーなことや、透き通るような銀色の髪と、その高い空戦能力から呼ばれるようになった通り名ね」

 

大淀「かなりの実力者のようですね」

 

麗美「見ていれば分かるわ」

 

 麗美は自信に満ちあふれた表情で、大淀にモニターを見るように促した。

 

 

 

 

 援軍に駆けつけた紅月基地航空隊は、伊在井咲樂の複座式の零戦レプリカを始め、妖精さんたちが操縦する零戦52型10機、零戦21型10機の総勢21機であった。

 

咲樂「整備が間に合わなくて訓練機ですが、実弾装備しているし問題ないわ」

 

 咲樂は、後部席の様子を一瞥すると再び正面に向き直る。

 

咲樂「気を失ってしまいましたか、まぁ五月蠅いよりはマシというところですね」

 

 咲樂の操縦席の後方の座席には、白と赤を基調とした作業服に黒いロングヘアーの女性が座っていたが、気を失っている様子であった。

 

 咲樂は零戦レプリカの主翼を振って後続に合図を送ると、敵艦載機の大軍に突入していく。

 

咲樂「確かに数は多いですが、お嬢様のところには行かせませんわ……」

 

咲樂「紅月航空隊、大掃除の時間よ!!」

 

 咲樂が搭乗する零戦レプリカのライトグレーの機体が、獲物を狙う猛禽の様に加速して行った。




 今回も新キャラが登場し、まだ更に登場人物が増えるフラグが出てきた今日この頃です(笑)

 まぁ、『艦これ』や『東方』自体、登場人物が数え切れない(100以上は数えられませんw)くらいいるので仕方が無いことだと思いますね~

 そんな中、ふと思ったのは自分自身でも登場人物を見失わないように『登場人物辞典』みたいなものを作ろうかと企んでおります!(需要は無いかもしれませんがw)


 それと先日、感想にて質問をいただきましたのでお答えしようと思います!

~質問~
 美鈴以外に幻想郷の住民は艦これの世界に来ないんですか?

~回答~
 はい、これに関してはまだ先になると思いますが考えていなくもないです!
 本編にも出てくるかもしれませんし、番外編的なものでの出演となるかもしれませんが、美鈴と関わりがありそうな人物は可能性があると思います。
 幻想郷の住人とは別に、『紅月麗美』や今回登場した『伊在井咲樂』といったなんか紅魔館の住人っぽい人物は、今後も登場する予定です。


 リクエストをいただきましたので、今後も『質問コーナー』的なものを設けてみようと思いますので、気軽に感想やメッセージで送っていただくと嬉しいです☆
(こういうものの受付に良いものがあるでしょうか?あれば教えて欲しいです!)


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第32話 金剛の帰還

    ズガガガ ズガガガ

 

 鳳翔の艦載機と、基地航空隊の零戦たちが深海棲艦の艦載機と交戦する様子を少し引いた位置で伊在井咲樂は眺めていた。

 

咲樂「あれが噂の『始まりの空母』の艦載機ですか、太平洋戦役時での実戦は少ないと聞きましたが多くの優秀なパイロットを輩出したと聞きますし、まずはお手並み拝見と行きましょうか」

 

 咲樂は、穏やかに語りながら後部席に座っている作業服姿の女性を確認する。

 

咲樂「まだ気を失っていますか……、機体に搭乗することは慣れていないとは言え何だか情けないものね」

 

 咲樂は、やれやれといった表情で正面に向き直ると、咲樂の機体に接近してくる5機の敵機を発見する。

 

咲樂「後ろでお客様がお休みになっているから、あまり無理はしたくないのですがね……」

 

 咲樂は、そう呟くと操縦桿を巧みに操り敵艦載機の攻撃を華麗に回避する。

 

咲樂「加賀の艦載機との訓練に比べると、イージー過ぎるわね」

 

    ズガガ ズガガ ズガガ

 

 咲樂の零戦レプリカは、敵艦載機の攻撃を回避すると一気に敵機の真後ろに回り込んで機銃を短く3度に分けて連射し、同時に3機を撃墜する。

 

咲樂「昔の瑞鶴でも、もっと上手だったわね……」

 

 

響「なんだい、あの零戦は?まるでレベルが違うじゃ無いか!!」

 

 咲樂機のマニューバを目撃した響は、驚きの声をあげる。

 

鳳翔「あの機体、サイズからいって妖精さんでは無くて人間が操縦しているのでは……」

 

響「あんなのまるで加賀さんの精鋭の艦載機と互角かそれ以上だよ」

 

鳳翔「加賀さんと互角って……、日本海軍一の実力を誇る一航戦と同レベルのパイロットですか!?」

 

 咲樂のことを知らない響と鳳翔は、驚きを隠せない様子で咲樂機の鮮やかな戦闘に目を奪われていた。

 

 

 

 

 龍星鎮守府の北側において、鳳翔や咲樂たちが深海棲艦の艦載機と交戦中、美鈴は工廠に向けて走っていた。

 

美鈴「戦闘の音が近くなってきているなぁ、早く新しい艦娘を出迎えないと」

 

 間もなく完成する艦娘を出迎えて、迎撃部隊の増援に向けたいと言う考えは美鈴も麗美も一緒であった。

 

 工廠へ急ぐ美鈴の視界に、足を引きずる様に歩く金剛の姿が見えてきた。

 

金剛「Oh!提督デスねー!!」

 

 美鈴の姿を見つけた金剛は、先ほどまでの痛々しい様子から一転して元気そうな声で美鈴を呼びながら大きく手を振っている。

 

美鈴「金剛!戻ってきたんだね、とにかく無事で良かったよ」

 

金剛「提督こそ無事だったんですネー、無線で声は聞いたけどまだ顔を見ていなかったから安心しましター」

 

 美鈴が向かっている工廠と、金剛が向かっているであろう入居施設は同じ方向にあったため、美鈴は金剛を入居施設まで送っていくことにした。

 

美鈴「今は緊急事態だからゆっくりおしゃべりはしていられないけど、一緒に行けば少しは話は出来るから一緒に行こうか」

 

金剛「提督も入渠ですカ?」

 

美鈴「私は近くの工廠に用事があるんだよ」

 

金剛「Oh!榛名以外にも艦娘を建造していたのですカ?」

 

美鈴「榛名には一つだけあった高速建造材を使ったんだけど、もう1人分の建造材が無かったから普通に建造していたんだよ」

 

金剛「そうでしたカ、さすが提督デース!」

 

 そう言うと、金剛は急に美鈴に抱きついてくる。

 

美鈴「(そうだ、鳳翔さんの時みたいに金剛にも『気』を送ってあげれば少しは傷が癒えるかも……)」

 

 そう考えた美鈴は、そのまま金剛を抱きしめて『気』を集中し始めた。

 

 

 

 

金剛「えっ、提督どうしたのデス?」

 

 友人的な感覚で美鈴に抱きついた金剛は、美鈴が優しく抱きしめ返して来ることが予想出来ておらず、若干困惑しながら美鈴に声をかける。

 

 しかし、美鈴は優しい笑みを返すのみで無言で集中している様子であった。

 

金剛「て、提督?」

 

 金剛は困惑しながらも美鈴のぬくもりを感じ、緊張の糸が緩んだのか出撃による肉体的な疲労と精神的な疲労が一気に襲ってくる感覚を抱いた。

 

金剛「なんだかポカポカしてきましタ……」

 

 金剛は強い眠気を感じてきて、意識が朦朧としてくる。

 

 幻想郷時代とは違い、『気』を自由に扱えない美鈴はゆっくりと時間をかけて全身から金剛に『気』を送り始める。

 

 鳳翔の時に一度『気』を送ることに成功していたおかげか、段々と美鈴の体全体が緑色の光に包まれ、金剛の体を包み込む。

 

 しかし、疲労していただけの鳳翔とは違い、戦闘で中破状態の金剛の傷を全て治すまでには至らず、見た目では多少の出血が治まる程度でしか無かった。

 

金剛「Zzz……」

 

 すっかり美鈴にもたれかかって寝息をたてている金剛の顔を見た美鈴は、金剛を背負って入渠施設に連れていこうとしたが、金剛の艤装が邪魔で上手く背負えないことに気が付く。

 

美鈴「う~ん、金剛の装備が邪魔で上手くおんぶが出来ないなぁ……」

 

 美鈴が困った表情で金剛の艤装をみていると、不意に聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。

 

明石「だいぶ壊れてますねー、急いで修理しておきますね」

 

 金剛の艤装に触れながら、艤装越しに明石が美鈴の顔を覗き込む。

 

美鈴「あ、明石!提督室で待っていなかったの?」

 

明石「金剛さんの艤装の修理もありますし、私は待機命令は受けていなかったですよ」

 

 明石は、驚く美鈴の表情をみながら笑顔で答える。

 

美鈴「でも、もうすぐ空襲が来るかもしれないのに……」

 

明石「空襲がきたら提督だって危ないですよ?」

 

美鈴「それは、工廠に新しい艦娘を迎えに行く必要があったから……」

 

明石「さっきまで散々引っ張り回しておいて、いざとなったら危ないから待っていろは無いですよ!」

 

 明石の言葉に言い返す言葉を失った美鈴は、静かに頷いて力強く明石の瞳を見つめる。

 

明石「と、とにかく金剛さんを連れて行くなら、艤装は私が運びますから!」

 

美鈴「ありがとう、明石……」

 

 美鈴は金剛を入渠施設へ、明石は金剛の艤装を修理するために工廠へ2人は歩みを進めて行った。

 

 

 

 

金剛「ていとくぅ~、紅茶が飲みたいネ~」

 

美鈴「こんなにハッキリした寝言を言う人も珍しいなぁ」

 

 美鈴は、背中に背負った金剛の寝言に思わず笑いがこみ上げ、金剛の顔を覗き込もうとすると、金剛の両肩に3人の妖精さんが乗っていることに気が付いた。

 

美鈴「あれっ、どうしてこんな所に妖精さんが?」  

 

明石「金剛さんの艤装の妖精さんたちでしょうか?」

 

 妖精さんたちは眠り込んだ金剛の様子を見ていたが、美鈴と明石が見ていることに気が付くと慌てて美鈴に敬礼をしてきた。

 

 よく見ると、妖精さんたちは緑色のパイロットスーツに茶色のマフラーを身につけており、頭にはゴーグルをつけていた。

 

明石「この妖精さんたち、艦載機のパイロットたちでは?」

 

美鈴「空母じゃない金剛にどうして飛行機のパイロットが?」

 

 不思議そうな表情の美鈴に対し、明石は何かを思い出したような表情であった。

 

美鈴「明石は何か知ってるの?」

 

明石「金剛さんの救援に行っていた鳳翔さんの零戦21型が3機撃墜されていると報告がありましたが、そのパイロットを金剛さんが救助していたのではないでしょうか!」

 

美鈴「そうなの?妖精さんたちにも聞いてみよう!」

 

 そう言うと、美鈴は妖精さんたちに向かって声をかける。

 

美鈴「あなたたちは、鳳翔さんのところの妖精さんなの?」

 

 その言葉に妖精さんたち3人は、そろって頷く。

 

妖精さん『ワタシタチハ コンゴウニ タスケテモラッタンダ』

 

 一番手前にいた妖精さんの声が美鈴に伝わってくる。

 

美鈴「そうなんだ、鳳翔さんは今出撃中だけど戻ってきたら会わせてあげるからね」

 

 美鈴の声に、後ろの2人の妖精さんたちは嬉しそうに手をあげているが、声をかけてきた手前の妖精さんは少し驚いた表情をしていた。

 

妖精さん『モシカシテ テイトクハ ワタシノ コエガ キコエテイルノ?』

 

美鈴「うん、耳で聞こえるというか、頭に直接伝わってくるよ!」

 

妖精さん『スゴイ! カンムスジャナイノニ ワタシタチノ コエガ キコエルナンテ!!』

 

 美鈴は、深雪や鳳翔から妖精さんの声が聞こえるのは基本的に艦娘だけで、人間では妖精さんの声が聞こえる者はほとんどいないと聞いた事を思い出した。

 

美鈴「私も、使えなくなっていた『気』を使えるようになるまでは、妖精さんとは身振り手振りでしかお話し出来なかったんだけどね」

 

妖精さん『サッキ コンゴウノ ケガヲナオシタ マホウノコト?』

 

美鈴「魔法とは少し違うかもしれないけど、大雑把に言うとそうなのかなぁ……」

 

妖精さん『スゴイ テイトクハ マホウショウジョ ダッタンダネ!』

 

明石「ぷっ、魔法少女って……」

 

 美鈴と妖精さんの会話を隣で聞いていた明石は、妖精さんの言葉に思わず吹き出してしまう。

 

 

 

 

 妖精さんたちと話をしているうちに、美鈴は目的の入渠施設へ到着した。

 

美鈴「ふぅ、ようやく到着した」

 

明石「では、金剛さんを起こして入渠してもらって下さいね、私は艤装の修理があるので先に工廠へ行ってますよ」

 

美鈴「うん、私も金剛が入渠したら工廠に行くよ」

 

 明石が金剛の艤装を抱えて工廠に向かっていく様子を確認した美鈴は、入渠施設に入り金剛に声をかける。

 

美鈴「金剛、そろそろ起きて」

 

 しかし、金剛は幸せそうに美鈴の背中に顔を埋めたまま寝息を立てている。

 

美鈴「私も紅魔館にいたころ、よく門の前で昼寝……、いや瞑想をしていたけど、今は緊急だから起きてもらわないと」

 

 そう言うと、美鈴は金剛を近くにあったベンチに座らせるように降ろし、金剛の両肩を軽く揺らす。

 

金剛「むふふ、紅茶が美味しいネー」

 

美鈴「紅茶の夢でも見ているのだろうけど、なかなか起きないなぁ……」

 

 美鈴は、更に強く金剛の肩を揺らし大きな声で金剛に声をかける。

 

美鈴「金剛、そろそろ起きてよ!」

 

金剛「ムニャムニャ……」

 

 金剛は何か言葉を発しながら、ゆっくりと目を開け、目の前にいた美鈴の顔を見ると驚いた様子で飛び起きた。

 

金剛「提督!?」

 

美鈴「おはよう、金剛」

 

金剛「はっ!もしかして寝ていたデース?」

 

美鈴「疲れていたみたいだからね、それよりも怪我を治すために入渠して欲しいんだけど」

 

金剛「そうデシタ……、ってワタシの装備が無いデース!」

 

 金剛は装着していたはずの艤装が無い事に気が付き、慌てた様子で周りを見渡す。

 

美鈴「壊れた艤装は、工廠で明石が修理してくれているよ」

 

金剛「Oh!そうでしたか、アリガトウゴザイマース!」

 

美鈴「私も、工廠に行って新しい艦娘を迎えに行くけど、金剛はゆっくり休んでいなよ」

 

金剛「高速修復材は使っちゃダメですカ?」

 

美鈴「良いけど、艤装の修理には時間がかかるみたいだし少し休憩していなよ」

 

金剛「そうですか、ではお言葉に甘えマース!」

 

 金剛が立ち上がると、ベンチに座っていた妖精さんたちも一緒に立ち上がる。

 

美鈴「妖精さんたちも一緒にお風呂に行ってきなよ」

 

 美鈴の言葉に妖精さんたちは喜びながら万歳をしていた。

 

 

 

 

 金剛を入渠させた美鈴は、近くにある工廠にやって来た。

 

美鈴「今も鳳翔さんたちが必死に敵の飛行機を食い止めてくれているんだ、早く新しい艦娘を連れて行かないと」

 

 美鈴は、工廠内で金剛の艤装の修理を行っている明石の様子を見ながら、艦娘を建造している2番工廠の扉の前にやって来ると、美鈴の姿に気が付いた作業服の妖精さんが近づいてきて状況を説明する。

 

作業服の妖精さん 『テイトク チョウドイイトコロニ! モウスグ カンセイスルカラ マッテイテネ』

 

 妖精さんの言葉を聞いた美鈴が扉の前で待機していると、近くで艤装の修理を行っていた明石が近寄ってくる。

 

明石「艤装の修理は妖精さんに頼んじゃいました、もうすぐ完成ですよね?」

 

美鈴「そうだね、妖精さんがもう少しだって言っていたよ」

 

 明石は、懐から懐中時計を取り出し時間を確認する。

 

明石「建造開始から大体1時間20分、巡洋艦クラスなのは間違いないですね!」

 

美鈴「一体どんな娘が来てくれるのかなぁ」

 

 2人が話をしていると、工廠の扉が一瞬輝き、ヘルメットをかぶった妖精さんと、作業服の妖精さんが万歳をしながら美鈴に完成を報告する。

 

明石「新しい艦娘が着任したみたいですね!」

 

美鈴「よし、それじゃあ早速出迎えよう!」

 

 そう言うと美鈴は、2番工廠の扉に近寄りドアを開けるために手を伸ばした。 




 今年中に何とかもう一話をと考えていたのですが、何とか間に合いました(笑)

 今まで使っていただいぶ古いパソコンのモニターから新しいモニターに買い換えたら、妙に本家艦隊これくしょんがヌルヌル動く様な不思議な感覚に陥っている今日この頃です!

 今回は、美鈴が久しぶりに動き回っている気がしますが、主人公なのですから今後はもっと動き回ることに期待したいです!(書いているのは自分ですが……)

 補足ですが、前回颯爽と登場した伊在井咲樂と美鈴はまだ接触していない(無線での会話もしていない)状態ですので、今後の接触に期待したいです!(書いているのは自分ですが……)


 前回募集した『質問コーナー』ですが、早速感想で質問をいただいたので回答をしたいと思います!

~質問~
 作者が好きな艦娘、深海棲艦、東方キャラを教えてください!!

~回答~
 好きな艦娘は、みんなです!!
 ……と言っては質問の答えになっていない気がするので一番好きな艦娘はゲーム内でも唯一ケッコンカッコカリをしている『金剛』でしょうね☆
 まぁ、最近はレベルを上げていなかった舞風を改装したときに聞いた「なんてね。」にやられ気味だったりして、まだまだあまり使っていなかった艦娘たちも多いので新たな魅力にあふれているかなぁ~と思います。

 深海棲艦は、初めて見た時の印象が強烈だったのは潜水艦カ級のなんか呪われそうな感じが妙に印象に残っています。(好きかどうかと言う回答にはなっていませんが)

 東方キャラについては、美鈴と咲夜さんは特に好きですし、レミリアお嬢様やパチュリー、妹様(フランドール)に小悪魔と言った紅魔館メンバーが特に好きですし、アリスや妖夢、永遠亭メンバーなどいっぱいいますが、いろんなRPGとかでキャラクターを作る系の場合、美鈴、咲夜さん、レミリアは外していないですね。(リーダー的な意味で勇者ポジがレミリア、武闘家系が美鈴、盗賊やアサシン系などのナイフ使いが咲夜さんみたいな感じで)



 今年から始めたばかりで、まだまだ力不足な小説ですが、来年も細々と続けていこうと思いますので、どうかよろしくお願いします!!


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第33話 華人小娘と兵装実験軽巡

 美鈴が2番工廠のドアに手をかけると、工廠の中から金色の光と共に1人の人影が見えてきた。

 

美鈴「どんな娘が来てくれたのかな?」

 

 工廠から出て来た艦娘を、美鈴が目を凝らしながら見ると、光の中から緑色の髪を大きな緑色のリボンで束ねたポニーテールの女性が姿を現した。

 

ポニーテールの艦娘「はーい、お待たせ?兵装実験軽巡、夕張、到着いたしました!」

 

 夕張と名乗る艦娘は、元気よく美鈴に敬礼をして挨拶する。

 

美鈴「初めまして、私が龍星鎮守府の提督をしている、紅美鈴です」

 

 美鈴は、夕張に敬礼を返すと右手を差し出して握手を求める。

 

夕張「女性の提督ですか、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 夕張は笑顔で美鈴の手を取り、握手に応じる。

 

明石「夕張と言ったら、小型艦に効率的に兵装を搭載する研究をしていた軽巡ですよね」

 

夕張「そう、3,000t級の船体だけど、5,500t級と同等の火力を持つ画期的な巡洋艦よ!」

 

明石「今度、艤装を見せて下さい!みんなの艤装を改造する時の参考になりそうです!!」

 

 船体や艤装の修理・改造を得意とする明石は、夕張が持つ実験艦としての艤装に興味津々な様子であった。

 

 

 

 

 美鈴たちが、新たに着任した夕張と会話をしていると、提督室の麗美から明石が携帯していた無線に通信が入る。

 

明石「はい、明石です」

 

麗美「美鈴提督はいるかしら」

 

 無線の声を聞いた美鈴は、明石から無線機を受け取ると麗美の呼びかけに答える。

 

美鈴「どうしました?」

 

麗美「そろそろ敵の航空機に突破されそうなの、新しい艦娘とは合流出来たかしら?」

 

美鈴「はい、なんとか実験軽巡とかいう夕張が着任しました!」

 

麗美「あの兵装実験艦の夕張!?」

 

明石「そうなんです、あの夕張が着任したんですよぉ!」

 

 興奮する麗美と明石の会話を聞きながら、美鈴は思い出したかのように口を挟む。

 

美鈴「わざわざ無線をくれたと言うことは、防衛線は厳しい状態なのでしょうか?」

 

麗美「そうだったわ、咲樂たちの援軍のおかげで敵航空機のほとんどの足止めに成功したのだけど、10機ほどの敵航空機がバラバラに防衛線を突破したらしいの」

 

明石「そ、そんな……」

 

麗美「今、大淀も明石が準備していた対空用の艤装で迎撃するために出て行ったわ、そちらからも応援に向かって欲しいの」

 

美鈴「はい、明石に夕張もいいかな?」

 

明石「は、はい……」

 

夕張「出撃ね!対空戦用の艤装のチェックもしっかりするからね!」

 

 美鈴の指示にやる気満々の夕張と、絶望に満ちあふれた明石の表情はまさに対極的であった。

 

夕張「軽巡夕張、出撃するわよ!」

 

 夕張は1人で海岸へ向かって高速で駆けだして行った。

 

 

 

 

町井田「くっ、何機か突破されたぞ、誰か追えないのか!?」

 

 輸送艦ミディアで防衛線の指揮を執っていた町井田は、悲鳴に近い声をあげていた。

 

響「こっちもまだまだ敵機が来る、追いかけるのは無理だよ」

 

雷「電が被弾したわ、突破した敵を追うのはこっちも無理よ!」

 

電「こんな時に申し訳ないのです……」

 

 対空砲撃を続けていたミディアと紅月鎮守府の響たちは、徐々にダメージが大きくなってきており、突破した敵航空機を追うことが出来ない状態であった。

 

鳳翔「基地航空隊の皆さんが来てくれましたが、やはり敵の数が多すぎる……、敵航空機を全て抑えることは無理なのでしょうか?」

 

 激しい戦闘の末、多数の艦載機の被害を出してしまった鳳翔もいつもの気丈さは無く、つい弱気を出してしまう。

 

 そんな中、咲樂の機体が防衛線を突破した10数機の敵航空機を単機で追いかけ始める。 

咲樂「龍星鎮守府の中には、お嬢様がいらっしゃる!お嬢様に害する者は全て駆除しなければ!!」

 

 今まで冷静に基地航空隊を指揮していた咲樂も、声に焦りがにじみ出ていた。

 

 

麗美「諦めてはダメよ!美鈴が建造した艦娘が援軍に向かっているわ!!」

 

 敵航空部隊に押され初めて士気が下がり始めていた防衛部隊に向けて、麗美が通信を送ってきた。

 

響・電・雷「司令官!」

 

咲樂「お嬢様!!」

 

 麗美の一言で、紅月鎮守府の面々は一気に士気を取り戻す。

 

町井田「麗美……、ふっ、さすがは良いタイミングで援軍を出してくれる、それに一言で挫けかけていた紅月鎮守府の面々の士気がもどったな」

 

 麗美の声を聞いた途端に、艦娘たちは喪失していた戦意を取り戻し、咲樂は冷静さを取り戻した様子を見て町井田は思わず感嘆する。

 

咲樂「戦闘中に冷静さを失うなんて、私もまだまだね……」

 

 咲樂は基地航空隊の中で、僚機を失って孤立していた零戦52型に自分に付いてくるように指示し即席の編隊を組むと、周囲を一瞥して瞬時に戦況を確認する。

 

咲樂「残存戦力は、基地航空隊が52型7機に21型6機と私を含めて14機、それに鳳翔隊が21型5機に九六式4機の9機、対して敵機は防衛線を突破した11機とその他が約40機……」

 

 当初の戦力差40対100と比較して、現状が28対約50と善戦しているもの基地航空隊と鳳翔隊は確実に気力・体力の消耗が見え始めていた。

 

咲樂「突破された敵艦載機は、私の編隊で相手をするとして、残りの戦力差は約1.5倍というところか……」

 

 咲樂はこの戦力差なら、自分の指揮が無くとも対応出来ると判断し、僚機とした零戦52型1機と共に防衛線を突破した敵航空隊の追撃を決断する。

 

咲樂「鳳翔さん、私は僚機と共に突破された敵機を追撃するわ、残りの基地航空隊の指揮権をお願いして良いかしら?」

 

鳳翔「分かりました、鎮守府には私たちの提督や仲間たちもいます、よろしくお願いしますね!」

 

 鳳翔は咲樂からの通信に即座に回答すると、鎮守府にいる美鈴や大淀、明石に入渠中であろう金剛の事を思い浮かべていた。

 

咲樂「伝説の一航戦さんがしっかりしていればこの程度の敵なんて鎧袖一触なのでしょうけど、ご迷惑をおかけしますわ」

 

 咲樂はそう呟くと、僚機を伴って龍星鎮守府方向に向かって行った。

 

鳳翔「一航戦?紅月鎮守府にいるという加賀さんの事でしょうか?」

 

 咲樂の呟きを聞いた鳳翔は、かつて大戦で艦娘としての力を失ったと聞く赤城と共に一航戦として数多くの深海棲艦を打ち破ってきた紅月鎮守府の秘書艦の1人である加賀を思い浮かべていた。 

 

 

 

 

明石「あれ?おかしいなぁ」

 

 美鈴と共に、増援に向かうため先行していった夕張の後を追いながら鎮守府方向へ向かっていた明石は、時折何も無い通路を見ながら不思議そうに首をかしげていた。

 

美鈴「さっきから何度も不思議がっているけど、何かあったのかな?」

 

 明石の様子に気が付いた美鈴は、何を気にしているのかを明石に尋ねる。

 

明石「確かこのあたりにも対空用の高角砲を置いていたはずなのですが、無くなっているんですよ」

 

美鈴「大淀が持って行ったか、事情を知らない妖精さんが片づけたのかな?」

 

    ウゥゥゥゥー ウゥゥゥゥー ウゥゥゥゥー

 

 その時、敵襲を告げるサイレンが連続で鳴り響いた。

 

美鈴「このサイレンは……?」

 

 サイレンを聞いた美鈴と明石は、咄嗟に上空を確認する。

 

明石「敵の航空機が鎮守府上空に襲来したみたいですね」

 

美鈴「どこか建物の中に避難しよう!」

 

 美鈴は明石の手を引き、提督室に向かって駆けだした。

 

 その瞬間、美鈴は後方から敵意のようなものを感じ、振り向き上空に視線を向けると、すでに目視出来る距離に敵航空機が接近している事に気が付く。

 

美鈴「もう、あんなところまで来ているなんて……」

 

明石「こっちに向かってきます、見つかったんじゃないですか!?」

 

 美鈴が見つけた敵航空機は、真っ直ぐに美鈴たちがいる方向に向けて飛行してくる。

 

美鈴「ダメだもう逃げられない、戦おう!」

 

明石「武器も無いのにどうやって上空の敵機と戦うんですかぁ」

 

美鈴「近くに何か無いの?」

 

明石「何も見当たりません、敵機は私が引きつけますから提督だけでも逃げて下さい!!」

 

 明石は美鈴の前に立ち、早く逃げるように美鈴に促す。

 

美鈴「それはダメ、逃げるなら明石も一緒だよ!」

 

 美鈴は、明石の手を引き一緒に来るように言うが、明石は素直に言うことを聞こうとしなかった。

 

 

 

 

明石「私は艦娘、深海棲艦と戦うために生まれてきた兵器です、今は戦うことが出来なくても提督を守ることくらいさせて下さい」

 

美鈴「兵器……?いや、それは違うよ!!」

 

 明石の発言に対して、美鈴は語気を強めながら否定する。

 

明石「私は多少壊れたって、入渠したら治りますが提督はそうも行かないですよね」

 

美鈴「だとしても、私はこの鎮守府の提督……、リーダーなんだ」

 

明石「リーダーだからこそ、ここは私を盾にしてでも逃げ延びて下さい!」

 

 明石はテコでも動かないという気迫で、自分を囮にして逃げるように美鈴に迫るが、美鈴も一歩も引こうとしない。

 

美鈴「どうしても言うことを聞かないなら、無理矢理でも聞いてもらうよ!」

 

 ここで口論している場合では無いと判断した美鈴は、両手で明石の腰を掴んで一気に持ち上げる。

 

明石「えぇぇ!!」

 

 突然の事に明石は素っ頓狂な声をあげる。

 

美鈴「今は時間が無いから、無理にでも連れて行くからね!!」

 

 美鈴は、明石を肩に担いで人攫いのように走り出す。

 

明石「わわわわ……、分かりました!一緒に逃げますから降ろして下さい~!!」

 

 

 

 

 龍星鎮守府上空に侵入した11機の敵航空機を追う咲樂は、敵機の位置を確認するために周囲の索敵を行っていた。

 

咲樂「敵はバラバラに動いているわね、せめてまとまってくれていればまとめて落とせるのですが……」

 

 ちりぢりになりながら防衛線を突破していた敵航空機たちは、統率出来るものがいないのかそれぞれ自分勝手に行動しているらしく、まとまりが無くバラバラに動いている状態であった。

 

 咲樂は、現時点で龍星鎮守府の各施設に大きな被害が出ていない事を確認すると、中央に所在する提督室兼司令室を目指した。

 

咲樂「麗美お嬢様はあそこにいらっしゃるはず、あの場所だけでも確実に死守する必要があるわ……」

 

 咲樂が、僚機である零戦52型の妖精さんに自分が操縦している零戦レプリカに追従するように指示をしていると、後部席で気を失っていた作業服の女性が目を覚ました様子であった。

 

咲樂「ようやくお目覚めかしら?」

 

作業服の女性「うぅ……」

 

咲樂「ちょっと戦闘に入っただけで気を失うなんて、情けないですわ」

 

作業服の女性「私は、貴女のようなパイロットではありませんし、あんな加速や旋回をされたら誰だってついて行けませんよ」

 

 抗議する作業服の女性の表情をミラーで確認しながら、咲樂は小さく微笑む。

 

作業服の女性「ところでここは?」

 

 作業服の女性は周囲を見渡し、初めて見る龍星鎮守府を目視していた。

 

咲樂「最近、新設されたという龍星鎮守府というところよ」

 

作業服の女性「あぁ、麗美さんが言っていた『紅き龍』が眠っているという鎮守府ですね」

 

咲樂「麗美さんとか、一航戦とはいえ馴れ馴れしいわね……」

 

 作業服の女性の発言に、咲樂は怪訝な表情を見せる。

 

作業服の女性「こ、怖い顔をしないで下さい、それに今の私はもう一航戦ではなく、ただの作業員ですよ」

 

咲樂「じゃあ、元一航戦様にお願いがあるのだけど、敵機の位置を確認出来るかしら?」

 

作業服の女性「あぁ、この鎮守府は深海棲艦の攻撃を受けているのですね、分かりました索敵はお任せ下さい」

 

咲樂「艦娘としての力を一度失ったとはいえ、最近はリハビリも好調と聞くし、私たちより目は良いのだから任せたわよ、一航戦!」

 

 咲樂の言葉に、作業服の女性は少し不満そうな顔をする。

 

作業服の女性「咲樂さん、私はもう一航戦ではありませんし、一航戦という名前でもありません」

 

咲樂「では、なんとお呼びすれば良いかしら?」

 

作業服の女性「今の私は、紅月麗美提督に『あかぎ』という名前をいただいています、出来ればその名前で呼んでいただけると嬉しいですね」

 

 咲樂は、自分の問いかけに対して笑顔で自分の意思を伝えてきたあかぎの表情をミラーで確認すると口元を緩ませながら小さく頷いた。

 

咲樂「わかったわ、あかぎさんよろしくお願いするわ」

 

あかぎ「はい、いまの私に昔の『赤城』としての力は無いですが、共に力を合わせて深海棲艦に打ち勝ちましょう!」

 

 

 

 

 敵航空機に発見された美鈴と明石は、機銃や爆撃によって破壊された建物の瓦礫に隠れながら様子をうかがっている。

 

明石「どこかで大淀が対空装備を使って敵機を迎撃しているはずです、無線で助けに来てもらいましょう」

 

美鈴「いや、大淀には麗美さんがいる提督室を守ってもらわなきゃ私たちの逃げ込む場所までやられてしまうよ」

 

 そう言うと美鈴は、足下に転がっていた大きめの石を拾い上げて20メートルくらい離れた場所にある破壊された小屋の窓に向かって投げつける。

 

    ガシャーン

 

 美鈴の投げた石は見事に窓ガラスに直撃し、ガラスは大きな音を立てて割れる。

 

明石「そんな音を立てたら見つかっちゃ……」

 

 突然の美鈴の行動に、思わず抗議する明石に美鈴は素早く左手で明石の口を塞ぐ。

 

美鈴「大きな声を出さないで」

 

 美鈴に制止された明石は、我に返り静かに頷く。

 

 ガラスが割れる音に気が付いた敵航空機は、その音につられるように美鈴が割った窓ガラスに近寄り機銃を斉射する。   

 

    ズガガガガガァァ

 

 近くに着弾する機銃の轟音に、思わず手で耳を塞ぎながら美鈴は明石に海岸方向へ向かうように目で指示を送る。

 

明石「ついて来いって、そっちは海岸の方角じゃ……」

 

 

 

 

 明石が美鈴が向かう方向に視線を向けると、大量の艤装を両手や背中に積んだ女性の姿があった。

 

夕張「あちこちに機銃や高角砲が置かれていたからって、ちょっといろいろ積みすぎたかしら」

 

 それほど大きくない体に、過積載と思えるほどの対空装備をした夕張であった。

 

明石「あれだけの艤装を全部装備したって言うの!?」

 

 空襲に備えて、鎮守府内のあちこちに明石が並べていた対空艤装がなくなった原因が目の前にあった。

 

 大量の艤装を装備した夕張の動きは明らかに重そうであったが、何故か満面の笑みを見せる夕張は、駆け寄ってくる美鈴や明石に気が付くと、その後ろから迫ってくる敵航空機の存在に気が付いた。

 

夕張「あれが提督の言っていた敵ね!」

 

 夕張は、両手に装備した大量の艤装の照準を敵航空機に向ける。

 

夕張「さっそく艤装のチェックが出来るわね!」

 

 全ての艤装の照準を敵航空機に向けた夕張は、一度大きく息を吸い込み、射程内に敵航空機が来るのを待つ。

 

美鈴「やっぱりここにいたのは夕張だったのね」

 

明石「提督はこっちに夕張がいることを知っていたんですか?」

 

美鈴「夕張かどうかはハッキリ分からなかったけど、艦娘の『気』を感じたからね」

 

 そう答えると美鈴は走りながら笑みを見せる。

 

夕張「あと少し、もうちょっとこっちに来るのよ……」

 

 金剛と比べると射程の短いうえ、海上と違い艤装による推進力を発揮出来ない夕張は、敵航空機が自分の射程に入ってくるのをじっくりと確認している。

 そして、美鈴と明石を追いかけて夕張に気づいていない敵艦載機が、夕張の射程に入った瞬間に夕張が敵艦載機に照準をあわせる。

 

夕張「来たわね、さぁ!色々試してみても、いいかしら?」




 なんとか1月中に今年の1作目を投稿出来ました。

 色々忙しかった様な気がしたり、艦これの2019年冬イベをやっていたりしているうちに気が付けば1月も後半になってしまいました。

 でもそのおかげか、艦これの冬イベは提督を初めて以来初の完全攻略となりました!

 今後は、もっと速いテンポで投稿出来るように頑張りたいと思います!


 さて、前回同様に今回も質問をいただいたので、回答したいと思います!

~質問~
 作者が艦これをプレイし始めた理由とこの小説を書こうと思った理由を教えてくださーい!

~回答~
 昔、とあるガンダムのネットゲームをやっていたのですが、そのゲームが2014年に終了してしまい、新しいゲームをと思ったときに候補にあがったのが、艦これで理由としてはそんな大層なモノでは無かったです(笑)
 元々ミリタリーにも興味がありましたが、太平洋戦争と言えば戦艦大和や零戦位しか知らないようなただのアニメや東方Projectが好きな程度の人間でした。
 しかし、艦これをプレイしたくて何度も何度も新規登録を試みましたが、その頃はすでに超人気ゲームになっていたため、着任出来たのは柱島泊地サーバーが出来た2015年の夏でした……(着任までの道のりは長かった……)

 次にこの小説を書いた理由としては、子供の頃から漫画を書きたいとか思っていたのですがどうにも絵の才能も無く、大人になってからも東方や艦これ系の動画など見るのが趣味になっていたので、自分も作りたいと思ったこともありましたが、動画を作る技量も無い事に気がつかされました。
 しかし、高校生の頃に漫画を書きたいけど話を作れないと言う友人と、書きたい話はあるけど絵が描けないと言う私が手を組んで漫画を作った事を思い出し、自分で何か物語を作れないかと考え、昔から好きだった東方Projectと、今まさにプレイしている艦隊これくしょんを参考にしていわゆる二次創作の話を書いてみたいと思ったのがきっかけですね~。



 ここだけの話、今回の話が遅れていたのは、前々から言っていた登場人物図鑑を作ろうとして難航していたのも大きな理由となっています。
 どういう形で作れば見やすくなるか考えながら作っていますので、そのうちこちらの方も公開出来ればなぁと思います。


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第34話 紅い月と白銀の隼

    ズドォォン ズドォォン ズダダダダ ズダダダダ

 

 美鈴たちを追う敵航空機に、夕張が高角砲や対空機銃で一斉砲撃を加える。

 

夕張「どーぉ、この攻撃はっ!」

 

 不意に一斉攻撃を受けた敵航空機は、夕張の攻撃を回避することも出来ずに空中で爆散していった。

 

夕張「まぁまぁね、もう少し調整すればもっと良くなると思うわ」

 

 夕張は、両腕に積み上げた艤装の一つ一つを動作確認しながらそう呟いた。

 

美鈴「すっごい! 夕張は艤装をたくさん積める艦娘なんだね!!」

 

明石「でもなんか過積載な感じがしますけど……」

 

 夕張の下に駆け寄ってきた美鈴たちは、口々に夕張に声をかけ、夕張は笑顔で2人の顔を見渡す。

 

夕張「何となくだけど、海上に出ないと艤装の本当の性能を発揮出来ない気がしたし、ぶっつけ本番だから過剰なくらいがちょうど良いかなぁ~って思ってね」

 

明石「確かに、元々艦船である我々艦娘の艤装は海上に出てこそ真の力を発揮出来るものだけど、着任したての夕張は何故その事に気が付いたの?」

 

夕張「何となく艤装を手に取った時にそれぞれの艤装の性能や、使い方が手に取るように分かるというかね、感覚的なものだけど……」

 

 目の前の敵航空機を撃墜していたことで、明石と夕張が安堵している中、美鈴は鎮守府周辺から感じる敵意の様なものを感じ取って上空を見渡す。

 

美鈴「(鎮守府の上空に敵が10機いる……、それ以外にも2つ、いや3つかな『気』を感じる……、この『気』は味方?)」

 

 今朝の空襲時に『気』を爆発させてから、美鈴の体内でゆっくりと『気』の力が回復しているのが実感出来ており、周囲の『気』をざっくりとではあるが感じ取れる様になっていた。

 

美鈴「(3つの『気』のひとつは妖精さんかな? もうひとつは微弱だけどたぶん艦娘だと思うけど…… もうひとつは人間? 何だろうこの人間から感じる『気』は知っているような感じだな……)」

 

 敵航空機と、それを追って龍星鎮守府上空に来ている咲樂やあかぎの『気』を美鈴は感じ取っていた。

 

 

 

 

あかぎ「咲樂さん、鎮守府西側に敵機を確認しました、宿舎らしい建物を爆撃しています!」

 

咲樂「宿舎で待機している艦娘たちがいたら大変ね、妖精さんお願い出来るかしら?」

 

 咲樂は僚機である零戦52型に、あかぎが発見した敵航空機の撃墜を指示する。

 

咲樂「さっき、爆音が聞こえた北側はどう?」

 

あかぎ「北側で敵航空機の爆発を確認しました、おそらく艦娘が敵航空機と交戦して撃墜したものかと思われます!」

 

咲樂「お嬢様が言っていた建造された艦娘かもしれないわね」

 

 周囲をくまなく索敵しているあかぎの報告を受け、咲樂は軽く笑みを見せる。

 

あかぎ「提督室の西側上空に敵機を確認、地上にいる艦娘らしき人が高角砲で応戦しています!」

 

咲樂「敵機の数は?」

 

あかぎ「2機だと思われます、地上の艦娘は苦戦している様子です」

 

咲樂「突破されると提督室のお嬢様が危険ですし、急行するわよ!」

 

あかぎ「む、無茶な旋回はやめて下さいよ、私もいるので……ぎゃぁー!!」

 

 あかぎの願いも虚しく、咲樂は零戦レプリカを空中で一回転させて提督室の西側上空へと転進するのであった。

 

 

 

 

麗美「大淀! 敵はどうなったの、貴女は無事なの!?」

 

 敵航空機の接近を確認し、高角砲を持って迎撃に向かった大淀からの無線が途絶えた事に動揺した麗美は必死に大淀を呼び続ける。

 

麗美「くっ、艦娘とはいえ艤装の用意も間に合っていない大淀では戦闘は厳しいことくらい、よく考えれば分かるはずだったのに……」

 

 空襲に備えて、明石と大淀が対空艤装を用意していたことも知っていたし、いざとなったら地上から敵航空機に立ち向かうという報告も受けていた。

 

 主機となる艤装を装備出来ている艦娘であれば、海上よりも戦力は半減するが人間を遙かに凌駕する戦闘力を発揮出来ることは実証されていたが、主機となる艤装が準備出来ていない大淀や明石では対空艤装の力を本来の性能よりも大きく減少してしまう上、艦娘本体の能力も一流アスリート並みとはいえ人間の域を超えない程度である。

 

麗美「完全に采配ミスだ……、このままでは大淀を死なせてしまうかもしれない……」

 

 麗美は震えながらも提督室のモニターを確認し、各部隊の現状を確認する。

 

麗美「大丈夫、通信は出来なくても大淀も明石もまだ反応はあるし、海上の艦娘たちも被弾している娘はいても大きく損傷した娘はいない……」

 

 麗美は、大淀や明石が提案してきた最終手段としての陸上からの対空砲による迎撃案を、許可してしまった自分の判断に対する後悔に押しつぶされそうになりながらも、必死に最善の策を考えようとしていた。

 

麗美「美鈴が戻るまでは私がここでしっかりしないと……、逃げちゃダメよ……、逃げちゃダメよ……、逃げちゃダメよ!!」

 

 麗美は自分に言い聞かせる様に、念じる様に、あえて自分の意思を言葉にしていた。

 

 

 

 

咲樂「これより敵機との戦闘に入るわ、地上で砲撃を行っている艦娘が誰だか分かるかしら?」

 

 咲樂は最大戦速の零戦レプリカの操縦桿を強く握りながら、後部席のあかぎに声をかける。

 

あかぎ「……」

 

 しかし、あかぎは咲樂の操縦について行くことが出来ずに再び気絶してしまっていた。

 

咲樂「……返事が無い、ただの屍のようだわ」

 

 優秀な索敵員であったあかぎを失った咲樂は、近くにいた敵航空機の背後を素早くとると短く機銃を連射し撃墜する。

 

咲樂「これであと9機、そしてもう一機も墜としますわ」

 

 咲樂に仲間を撃墜された敵航空機は、闇雲に零戦レプリカに突撃してくる。

 

咲樂「そんな攻撃、私には無駄よ!」

 

 咲樂は敵航空機の体当たりの様な突撃に対し、操縦桿を右一杯に切って機体を垂直にしながら回避し、そのまま機体をロールさせながら敵航空機の背後に回り込む。

 

 一瞬にして背後をとられた敵航空機は、完全に咲樂機を見失った様子でかすかに動きが止まる。

 

咲樂「そんな腕じゃ、私の相手にはならないわね……」

 

 そう言うと、咲樂は敵航空機に向けて機銃を連射する。

 

   ドガァァン

 

 咲樂機の機銃が直撃した敵航空機は、大きな音を立てながら爆散していった。

 

 

 

 

 格の違いを見せつけるように、咲樂の零戦レプリカが華麗に敵航空機を撃破する様子を、両手で高角砲を持った地上から一人の艦娘が驚くような表情で眺めていた。

 

大淀「たった1機で、2機の敵航空機を手玉にとるように撃墜するなんて……」

 

 その艦娘は、先ほどまで提督室で麗美の補佐を行っていた大淀であった。

 

咲樂「貴女は確か大淀といったわね、怪我はないかしら?」

 

 周囲に敵航空機がいないことを確認した咲樂は、無線機で大淀に声をかける。

 

大淀「あっ……はい、そうですが、零戦のパイロットの方ですか?」

 

咲樂「そう、私は紅月鎮守府基地航空隊の航空隊長伊在井咲樂、貴女のことはお嬢様……いや、紅月提督からよく聞いているわ」

 

 突然の無線に、困惑した様子で答える大淀に咲樂は少し申し訳なさそうに答える。

 

大淀「はい、紅月准将から白銀の隼と呼ばれるエースだとお聞きしています」

 

咲樂「エースだなんて恐れ多い、私はエースどころかキングでもクイーンでもない、いいとこジャックくらいの者ですわ」

 

大淀「紅月鎮守府の騎士ですか……」

 

 大淀が口にしたエースという言葉を、咲樂は流すように否定しトランプにたとえて答える。

 

大淀「遅れましたが、先ほどは助けていただきありがとうございました」

 

咲樂「ここには、お嬢……いや、紅月提督もいらっしゃるのですから、騎士として敵を討つのは当然のこと……」

 

大淀「それにしても、さっきの旋回は見事でした! 捻り込みの一種ですか?」

 

咲樂「それは、かの一航戦の操縦士たちが得意としていた左捻り込みのことかしら?」

 

大淀「はい、その捻り込みです」

 

咲樂「それはどうかしらね、師がいるわけもないし加賀や龍驤の艦載機のマニューバを参考に、私なりにアレンジしただけですから」

 

大淀「でも、一瞬で敵の背後に回り込むなんて、敵機からしたら急に機体が消えたような錯覚を与えたと思いますよ!」

 

 興奮した様子で語る大淀に、咲樂は冷静な口調で答える。

 

咲樂「敵機とすれ違ったと見せて、素早く急旋回して回り込む、単純なことですわよ」

 

大淀「あの速度から、一気に減速して背後をとられるなんて予想できる動きではないですよ!」

 

咲樂「加賀の艦載機はもっとすごいわ……、まぁ旋回性能に優れた零戦だからこそできる、単純なミスディレクションね」

 

 

 

 

麗美「……よど! 大淀! 聞こえるなら応答して!!」

 

 大淀が咲樂と会話をしていると、雑音交じりではあるが麗美からの無線が入る。

 

大淀「はい、大淀です! 紅月准将ですね」

 

麗美「よかった、無事だったのね……」

 

 大淀の返事を聞いた麗美の声から安堵の感情が感じられた。

 

大淀「敵航空機2機と交戦中でしたが、伊在井少尉が救援に来ていただいたおかげで撃破に成功しました」

 

麗美「咲樂が来てくれたならもう問題ないわね、大淀は提督室に戻って来て」

 

咲樂「お嬢様、遅ればせながら伊在井咲樂推参いたしました!」

 

 麗美の無線に気が付いた咲樂は、改まった感じで麗美に通信を送る。

 

麗美「そんなに畏まらないで、そしてお嬢様は止めてと言っているでしょ」

 

咲樂「はい、申し訳ありません紅月麗美お嬢様!」

 

麗美「またお嬢様って言ってるし……」

 

 麗美と咲樂の会話を聞いていた大淀は、思わずクスッと小さく笑ってしまう。

 

大淀「紅月准将は、名家のご息女なのですか?」

 

麗美「そんなことは無いわ、咲樂が勝手にお嬢様と言ってくるだけよ」

 

咲樂「それでは、姫とお呼びいたしましょうか?」

 

麗美「それはもっとやめて!!」

 

 腹心の部下ともいえる咲樂が来たからか、麗美の言葉には普段の明るさが戻っている様子だった。

 

 

 

 

    どごぉぉぉん

 

 突然、鎮守府内に轟音が響き渡った。

 

麗美「何があったの!?」

 

咲樂「南方向に敵機を複数確認、鎮守府施設に爆撃を行っています!」

 

 咲樂は素早く状況を確認すると、手短に麗美に報告する。

 

大淀「その方向には、入渠施設があります!!」

 

麗美「しまった、金剛が入渠中よ!!」

 

咲樂「入渠中の艦娘が危ないわね、急行しますわ」

 

 大淀の無線を聞いた咲樂は、即座に南方向に機体の向きを変える。

 

麗美「入渠中なら艤装を外しているし、戦艦といえども危ないわ……、頼んだわ! 咲樂!!」

 

 麗美の声を受けながら、咲樂の零戦レプリカは最大戦速で入渠施設へ向かっていった。

 

 

 

 

美鈴「今、何か聞こえたような?」

 

 鎮守府の北側にて敵航空機と交戦していた美鈴たちは、先ほど麗美たち聞いた轟音に気がついた。

 

夕張「鎮守府の南方向に複数の敵航空機が確認できました」

 

明石「南側と言ったら、入渠施設があるところですよ!!」

 

美鈴「入渠施設……、金剛が危ない!!」

 

 入渠施設と聞いた美鈴は、すぐに先ほど入渠させたばかりの金剛のことを思い出す。

 

明石「うわっ、こんな時に!!」

 

 金剛の救出のために入渠施設へ向かおうとした美鈴たちの目の前に、敵航空機が2機現れる。

 

夕張「ここは私たちに任せて、提督は行ってあげて下さい!」

 

明石「そうです、夕張さんがいますしここは私たちがなんとかしますので、提督は金剛さんのところへ!!」

 

 明石と夕張は、高角砲を手に敵航空機に向かっていく。

 

美鈴「夕張もいるし大丈夫だよね、わかった、ここは二人に任せたわよ!」

 

 美鈴は、目の前の敵航空機を明石と夕張に任せて金剛がいる入渠施設へ駆け出す。

 

 すると、美鈴に気がついたのか敵航空機の1機が、美鈴の後を追うような進路を取り始めた。

 

    ドォォォン

 

 その動きに気がついた明石は、素早く高角砲を敵艦載機に向けて放った。

 

明石「提督のところには行かせない、明石だって戦えるんだ……」

 

 明石の表情には、今まで口にしていた戦闘への恐怖心などは無く、その目には強い決意が感じられた。   




昨日(平成31年2月6日)の報道で、海底に眠るの比叡が発見されたと聞き、この作品にも比叡を登場させようと思いましたが、さすがに今回の話にぶち込むことができなかった作者のマッコです(笑)

先月は前話しか投稿できませんでしたが、今月は先月以上に投稿できるように頑張ろうと思います(目標が小さいw)

私の住む北海道は、明日から最大級の寒波が襲来するらしく、最高気温が-10℃とかなかなか寒い時代が来ますが、皆様も風邪など引かぬようお気をつけ下さい。
(私は先週思いっきり風邪ひいてましたがww)


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第35話 悲しみの彼方に

    ドォォォン ドォォォン

 

 明石は、美鈴を追おうとしている敵航空機に向かって高角砲を連射する。

 

    カァァン カァァン

 

 明石が放った高角砲の砲弾は敵航空機をかすめるが、やはり主機となる艤装が無い明石の砲撃では威力が10分の1以下となり大きなダメージを与えることが出来ない。

 

明石「2、3発当ててもダメなら、何十発でも当てて見せます!」

 

 そう言うと、明石は両手に高角砲を持って敵航空機が飛行している空を見上げている。

 

夕張「明石も気合いバッチリね!」

 

 真剣な表情で敵航空機に睨みをきかせている明石の横に、両手で複数の対空機銃を装着した夕張が肩を寄せてくる。

 

明石「戦うことは得意じゃないし、好きじゃ無い……、けどここは私の、私たちの鎮守府、深海棲艦なんかに好き勝手させるわけにはいかないって思って……」

 

夕張「ふ~ん、私はまだ来たばかりで提督と明石しか知らないけど、明石がそう言う位いい場所なんだね、私もいきなり家が無くなるとか勘弁して欲しいし頑張らないとダメみたいね!」

 

 明石の攻撃に、敵航空機が応戦する構えを見せ、明石と夕張は2機の敵航空機から挟撃を受ける形となった。

 

夕張「来たわね、いいデータをとってみせるわよ!」

 

明石「私の攻撃じゃ撃破できないけど、こっちの1機は牽制するからそっちの1機は任せます!」

 

 明石と夕張は、互いに背中を合わせて上空の敵航空機に向かって対空砲火を開始した。

 

 

 

 

    ズダダダ ズダダダ

 

 入居施設の上空で、咲樂は5機の敵航空機と激しい交戦を繰り広げていた。

 

咲樂「ちっ、一遍に戦うには敵の数が多いわね……」

 

 咲樂は、後部席にあかぎを乗せていることもあり、多少なりとも被弾しないように回避重視の戦闘を行っているからか、なかなか敵航空機を撃墜することが出来ない状況であった。

 

咲樂「個々の実力なんて、たかが知れているけど流石に1対5じゃ戦いにくいわ……」

 

 咲樂が敵航空機に照準を合わせようとすると、別の敵機が次々に咲樂の機体へ攻撃を仕掛けてくる。

 

咲樂「くっ、少しでもいいから敵機の注意を他に引くことが出来れば……」

 

 咲樂は本来であれば、このくらいの戦力差をモノともしない自信があったが、本来の愛機ではなく練習機での出撃である上、後部席ではあかぎが搭乗していて気を失っているという悪条件が重なっているため、思うような戦闘が出来ない状態であった。

 

咲樂「燃料も弾薬も少なくなって来ているわね、この敵を倒しきることが出来るかしら……」

 

 咲樂は、敵航空機の攻撃を紙一重で回避しながらも計器を確認し、冷静に戦況の把握に努めようとしていた。

 

 

 

 

美鈴「そんな……、金剛は無事なの?」

 

 金剛の下に向かう美鈴の目の前に、敵航空機の爆撃によって破壊され黒煙をあげる入渠施設が見えてきた。

 

 更に、自分たちで建設した施設が破壊されて、泣き出している妖精さんや、逃げ遅れて怪我をした妖精さんを懸命に運び出す妖精さん達の姿が次々と美鈴の目に映る。

 

美鈴「みんな、大丈夫? 怪我をした子は提督室に避難して!」

 

 美鈴は、目の前にいた入渠施設で働いていた妖精さん達に駆け寄って声をかけ続け、負傷していない妖精さん達は美鈴の指示に従い怪我をして身動きがとれない妖精さん達を救助し提督室へ運んでいく。

 

美鈴「金剛や、一緒にいたパイロットの妖精さん達の姿が無い、どこにいるんだろう……」  

 美鈴は、負傷者の救助を行っている妖精さん達と共に崩れた建物の瓦礫を撤去しながら、負傷した妖精さんや姿を確認出来ない金剛達の捜索を続ける。

 

美鈴「この近くから金剛の『気』を感じない、最悪の事態だけは……」

 

 美鈴は、焦る気持ちを懸命に抑えながら目の前の瓦礫を慎重に撤去しながらも、金剛の『気』を感じ取ろうと意識を集中していた。

 

妖精さん『テイトク コレハ……』

 

 美鈴と共に救助作業を行っていた妖精さんが、どこかで発見したらしい金色の金属片を拾って美鈴に手渡してきた。

 

美鈴「これは……、まさか……」

 

 それは爆風で折れ曲がり変形してしまってはいたが、金剛がいつも頭につけていた電探カチューシャによく似ていた。

 

美鈴「こ、これをどこで?」

 

 美鈴は、震えた声で妖精さんにこのカチューシャを発見した場所について尋ねる。

 

妖精さん『コッチ ツイテキテ』

 

 妖精さんは、涙目になりながら美鈴を案内する。

 

 

 

 

 妖精さんに案内された場所は、大浴場や脱衣場が建っていた場所であった。

 

美鈴「嘘……、そんなことって……」

 

 かつて大浴場があった場所は、敵航空機が投下した爆弾が直撃したらしく地面には大きな穴が開いており、そこにあったはずの浴室や脱衣場は跡形も無い状態であった。

 

 焼け落ちた柱や、真っ黒になって砕け散った石材が周囲に散らばっており、その場に人や妖精さんがいたとしても遺体を発見できるような状態では無かった。

 

美鈴「でも、まだここに金剛達が残っていたかなんてわからな……」

 

 美鈴は希望を捨てまいと、爆撃があった時にこの場所に金剛達がいたかどうかわからないと口にしようとした時、目の前に焼け焦げた布片を見つけた。

 

 その布片は白と赤の生地が特徴的な物で、見るからに金剛が着用していた巫女服風の衣服の生地であった。

 

美鈴「あぁっ……」

 

 その布片を見つけた瞬間、美鈴の脳裏に無防備な状態で爆発に飲み込まれてしまった金剛の姿が思い浮かんでしまい、言葉が止まってしまう。

 

 隣にいた妖精さんも、美鈴と同じく布片を見た瞬間に動きが止まり、言葉を失ってしまっていたが、だんだんと目には涙があふれてきて泣き始めてしまう。

 

 妖精さんが泣き出した瞬間、美鈴も膝から崩れ落ちその場にうずくまってしまう。

 

美鈴「うぅ……、私が休憩しておけなんて言ったばかりに……」

 

 美鈴は、高速修復材の使用確認をしてきた金剛の申し出を断り、艤装の修理が終わるまでゆっくり入浴しているように言った自分の指示を悔やんでいた。

 

美鈴「艤装はさておき、金剛たちだけでも高速修復材ですぐに回復させてあげるべきだった……」

 

 美鈴は、涙をこらえながら左手で金剛のカチューシャと衣服の布片を握りしめながら、右手を強く握って右拳を地面に振り落とす。

 

美鈴「うぅ……、こ、金剛……、取り返しのつかないことを、取り返しのつかないことをしてしまった……」

 

 

 

 

天龍「見えたぞ! もうドンパチ始まってるぞ!!」

 

深雪「鎮守府から煙が上がってる! みんな大丈夫なのか!?」

 

白雪「島の北側から更に敵の艦載機が近づいています!」

 

 龍星鎮守府南西側の海域にいるであろう敵空母部隊を捜索していた 天龍、深雪、雪風、白雪は途中で合流した榛名からの情報により、敵航空機の攻撃を受けている龍星鎮守府救援のために海域攻略を後回しにして急遽帰還中であった。

 

榛名「あぁ……鎮守府が燃えている……、あの日に守れなかった呉のように……」

 

 火の手が上がる鎮守府の光景を目の当たりにした榛名は、急に全身を震わせて声も震え顔からは血の気が引いていた。

 

雪風「榛名さん! 大丈夫ですか?」

 

 艦娘は艦船時代の記憶や経験を多かれ少なかれ持っており、その事が戦闘に役立ったりトラウマになってしまったりする場合があるという。

 榛名の場合、自身が大破着底した呉軍港空襲の記憶と、龍星鎮守府が現在受けている空襲の光景が重なってしまい強いトラウマ反応を引き起こしてしまったのである。

 

榛名「嫌です……、もうみんながいなくなるのは……、みんなが沈むのは……」

 

 榛名は声を荒らげながら、両手で頭を抱え込んでしゃがみ込んでしまう。

 

雪風「榛名さん! 榛名さん! しっかりして下さい!!」

 

深雪「どうしちゃったんだよ、榛名さん!」

 

白雪「鎮守府が攻撃を受けていることが、過去のトラウマを引き起こしてしまっているのでは無いでしょうか?」

 

天龍「くそっ、でも事態が事態だ……、雪風! 榛名さんを頼む! 深雪と白雪はオレと一緒に鎮守府の救援に向かうぞ!!」

 

 天龍は、雪風に榛名の護衛を指示し、深雪と白雪を引き連れて鎮守府の救援に向かう決断を下すのであった。

 

 

 

 

    ウゥゥゥゥー

 

響「このサイレンは何だい?」

 

 龍星鎮守府の北側海上で敵航空部隊の迎撃を行っていた鳳翔や響たちの下に、龍星鎮守府や輸送艦ミディアからの警報が聞こえてきた。

 

電「た、大変なのです!!」

 

 突然、電が北側上空を指さして大声を上げる。

 

雷「嘘でしょ、暁たちはどうしたのよ!!」

 

鳳翔「深海棲艦は、まだあれほどの戦力を残していたと言うのですか!?」

 

 電が指さす北側上空には、龍星鎮守府に向かってくる100機近い数の敵航空機があった。

 

町井田「くぅ……、何とか押し返せると思ったがここまでか……」

 

鳳翔「先ほどの敵の第二次攻撃でしょうか……」

 

町井田「このままでは全滅する、お前達だけでも龍星鎮守府へ逃げ延びろ!!」

 

雷「これ以上ここを突破されたら、司令官が危ないじゃない! それはダメよ!!」

 

町井田「日向達が来るまで、麗美や美鈴と一緒に鎮守府の防空壕に隠れているんだ!」

 

響「たしかに、中尉の言うとおりそれが最善策かも知れないね……」

 

電「でも、それでは中尉が……、そんなの嫌なのです!」

 

 麗美から現場の指揮を任されている町井田の指示に対して、雷と電は反対する構えを見せる。

 

響「やれやれ、わがままな妹達を持つと大変だな……、だけど私も最前線で戦っている暁を信じてここは絶対に守り抜くつもりだよ!」

 

 

 

 

    ズダダダ ズダダダ

 

咲樂「くぅ、流石に練習機でのこれほどの実戦は無理があったか……」

 

 敵航空機5機に囲まれながらも被弾せずに戦い抜いていた咲樂機であったが、ついに燃料が尽きかけてきて燃料計に警告灯が点灯し、激しい機動を繰り返してきたためか機体のあちこちが軋み始めて機動が怪しくなり始めてきた。

 

咲樂「不時着もやむなしでしょうけど、地上には人や妖精さんの姿も見える……」

 

 咲樂が敵航空機と交戦している下には、美鈴や妖精さんが敵航空機の爆撃で破壊された入渠施設で瓦礫の下敷きになった妖精さんや、行方不明の金剛の捜索を続けていたのである。

 

咲樂「ここで私が下がったら、この鎮守府の人たちに危険が及ぶ……、それではお嬢様を悲しませることになってしまうわ……」

 

 操縦桿を握る咲樂の握力は、これまでの激戦で無くなりかけていたが、咲樂は力を振り絞り操縦桿を強く握りふらつき始める機体を必死にコントロールする。

 

 

美鈴「みんなごめんね、私がもっとしっかり提督を出来ていたらこんなことにならなかったのに……」

 

 美鈴は、たとえまともな状態で無いとしても何とか金剛や一緒にいたはずの妖精さんたちを見つけ出そうと鬼気迫る形相で瓦礫を掘り起こし続けていた。

 

 そんな中、明石が対空用に入渠施設の横に設置していた機銃の艤装を発見する。

 

美鈴「これは艦娘用の艤装……、明石が設置していたやつかな……」

 

 美鈴は、ふと機銃の艤装に手を触れた時、上空で激闘を繰り広げている咲樂の零戦レプリカと敵航空機の存在に気がついた。

 

美鈴「誰かが深海棲艦の飛行機と戦っている……、深海棲艦の飛行機と……」

 

 咲樂機と敵航空機の戦闘を眺めていると、美鈴は体の奥底から『気』が湧き出てくる感覚を抱いた。

 

美鈴「あれが、あいつらが金剛やみんなをやったのか……」

 

 美鈴は機銃を両手に持つと、美鈴の体から湧き出ててきた虹色の『気』が艤装に伝わっていく感覚を抱いた。

 

美鈴「みんなの敵討ちだ! 深海棲艦の飛行機をたたき落としてやる!!」

 

 

 

 

    ズガガガガガ ズガガガガガ

 

 咲樂が必死に機体を立て直して敵航空機に照準を合わせようとした瞬間、地上から機銃の斉射が行われ敵航空機1機に直撃する。

 

    どごぉぉん

 

 機銃の斉射を受けた敵航空機はその場で爆散し、他の4機の敵航空機は突然の機銃斉射に混乱し始める。

 

咲樂「地上から艦娘の支援射撃か!?」

 

 咲樂はこの機を逃すまいと、ふらつく機体で機銃の照準を一番近くにいた敵航空機に合わせる。

 

咲樂「弾薬はまだ残っているんだ、あいつらを倒したら壊れてしまっても構わない! もう少し私に力を貸せぇぇぇ!!」

 

 咲樂の強い叫びに答えるように零戦レプリカは青白い光に包まれ、機体の軋みが無くなり機動が安定し始める。

 

 

美鈴「まだだ、まだ4機敵がいる!!」

 

 機銃斉射で敵航空機を撃墜した美鈴は、高揚しながら次の敵機に照準を合わせようとすると、咲樂機から発している青白い光に気がつき、『気』と通じる物を感じとる。

 

美鈴「この『気』……、この感覚は!!」

 

 美鈴は、幻想郷にいた頃の同僚であり親友でもあった人物を思い浮かべていた。

 

美鈴「あの味方の飛行機に乗っているのは……」

 

 上空を高速で飛行する零戦レプリカのコクピットにいる、銀髪の女性の顔が一瞬美鈴の瞳に映る。

 

美鈴「さ、咲夜さん!?」




な、なんとか2月中に完成しました……

本当はもっと早く投稿できる予定でしたが、色々あってギリギリになってしまいました。


今の構想では、今の話に一区切りがついたらこの、『華人小娘と愉快な艦娘たち』も第一部終了となる予定です。

とは言ってももう少し今の話も続くと思いますので、いきなり次話で第一部完となるわけではありませんよ~


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第36話 姉妹達の絆

    ズガガガ ズガガガ

 

雷「敵の艦載機は一体何機いるのよ!」

 

電「はぁ、はぁ、絶対に護るのです……」

 

 深海棲艦よる空襲の第二波である約100機の敵航空機が近づいてくる中、空襲の第一波を防ぐだけでもやっとの状態であり、輸送艦ミディアと鳳翔、響、雷、電といった艦娘たちは、必死の迎撃を続けながらも疲労の色を隠せなくなってきていた。

 

響「(負傷している電は雷がなんとかフォローしてくれていたけど、流石に二人の疲労が心配になってきたな……)」

 

 響はだんだんと動きが鈍くなっていく妹たちの状況を確認しながら、海面を駆け回り敵航空機への対空攻撃を続ける。

 

鳳翔「敵の増援が近づいてますか……、早く今の敵を撃退しなくてはなりませんね」

 

 鳳翔も徐々に少なくなっていく艦載機と、咲樂に委ねられた基地航空隊を巧みに指揮しながら敵航空機と交戦しているが、鳳翔も艦載機を操縦する妖精さん達も心身の疲労は隠しきれなくなっていた。

 

鳳翔「九六式艦戦隊の動きにキレが無くなって来ましたし、ふらつき始めていますね……」

 

 鳳翔は特に疲労が大きい九六式艦戦隊について、このまま戦闘を続けるよりも燃料や弾薬の補充も必要であるため、一度着艦させる必要があると判断していた。

 

 しかし、基地航空隊や鳳翔の零戦21型隊も敵航空部隊と比べて数的不利な状態であるため、着艦させる部隊を支援することが出来ない状況であった。

 

鳳翔「敵の増援も来ますし、九六式艦戦隊以外も順次着艦させて補給を行う必要があるのですが、響さん達も町井田中尉も手一杯の状況ですから着艦する航空隊の支援は厳しい状況ですね……」

 

 このままでは鳳翔の艦載機や援軍に来てくれた基地航空隊の零戦部隊が、敵航空機に撃墜される前に操縦士の疲労や、燃料弾薬切れで戦闘不能になってしまうと鳳翔が焦りを感じ始めていた。

 

    ガガガ…… ザザザ……

 

 その時、鳳翔が持っていた無線機にどこかからかの通信が入ったが、雑音がひどくて聞き取れなかった。

 

鳳翔「無線でしょうか? 一体どこから……」

 

 鳳翔は無線が気になってはいたが、雑音によって聞き取ることが出来なかった上、敵航空機との交戦で手を離すことが出来ず無線に応答することが出来なかった。

 

 

 

 

    ズガガガ ズガガガ ドォォォン

 

電「ふあーーっ!?」

 

 雷と電が相手をしている6機の敵航空機は、負傷し動きが鈍くなっている電に気がついたのか電に攻撃を集中し始める。

 

雷「こ、このままじゃ、電がやられちゃうわ……、雷が何とかしなきゃ」

 

 ダメージが蓄積し中破してしまった電を救うため、敵航空機を必死に撃墜しようとする雷も、これまでの戦闘による疲労と満足に攻撃を回避できない電への攻撃を、身を挺して防いだりしているために迎撃に集中しきれず苦戦を続けている。

 

響「雷や電も限界が近いみたいだ、でも私もこのままでは……」

 

 妹たちの支援に向かいたい響も、敵航空機4機からの攻撃を受けており支援に向かうことが出来ない状態であった。

 

電「雷ちゃん、電には構わず響ちゃんと合流して欲しいのです!」

 

雷「馬鹿なこと言わないで、そんなことしたら電がやられちゃうじゃない!!」

 

 自分が雷に負担をかけてしまっていると自覚している電は、雷に自分から離れるように依頼するが、雷は電の言葉を拒否する。

 

電「電のせいで、雷ちゃんが傷つくのを見たくないのです」

 

雷「雷だって、電も響も暁だって傷つくところは見たくないし、他のみんなだって傷ついて欲しくないわよ!」

 

電「でも、このままじゃ雷ちゃんだって……」

 

 電に攻撃が直撃しないように庇いながら戦闘を続ける雷を見ながら、電の目から涙があふれてくる。

 

雷「大丈夫よ電……、絶対にあなたを助けるわ……」

 

 

 

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 雷と電が最悪の事態を覚悟し始めたその時、南西の方角から敵航空機めがけて対空砲撃が行われた。

 

雷・電「!?」

 

 響も町井田のミディアもいない方角からの砲撃に、雷と電は状況が理解出来ずに一瞬言葉が止まる。

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 敵航空機への命中弾が無かったことから更に対空砲撃が続き、雷と電は南西方向に視線を向けると、10cm連装高角砲を上空の敵航空機に向けて対空砲撃を続ける白雪の姿があった。

 

電「あれは、龍星鎮守府の白雪さんなのです!」

 

雷「私たちを助けに来てくれたのね!!」

 

 援軍の到着に喜ぶ雷と電は、喜びのあまり敵航空機への警戒をおろそかにしてしまう。

 

    ズガガガ ズガガガ

 

 その隙を突いたのか、敵航空機が電に向けて機銃を斉射する。

 

電「きゃぁぁあ!」

 

 不意を突かれた電は、敵航空機の攻撃を受けて大破してしまう。

 

雷「しまった、逃げて! 電!!」

 

 大破した電に向けて3機の敵航空機が迫ってきており、完全に身動きがとれなくなってしまった電は、両手で頭上を護りながら目を向けることが出来なくなっていた。

 

 その瞬間、電の目の前に猛スピードで一人の艦娘が現れ、電を護るように仁王立ちする。

 

深雪「待たせたな、深雪さまが来たからもう大丈夫だぜ!」

 

 深雪は両手に持った10cm連装高角砲を瞬時に敵航空機に向ける。

 

深雪「深雪スペシャルだぁぁ! くらいやがれぇぇぇ!!」

 

    ドォォォン ドォォォン ドォォォン ドォォォン

 

 深雪は敵航空機に向かって、高角砲を乱射すると電に迫っていた3機の敵航空機を瞬く間に撃墜する。

 

白雪「私も深雪ちゃんに負けてられないですね!」

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 深雪に触発されたか、白雪も多少距離がある中、高角砲で敵航空機2機を狙撃して撃墜する。

 

雷「みんなやるわね、雷も負けてられないわ!」

 

 深雪と白雪の攻撃で残り1機となった敵航空機に、雷が12.7cm連装砲で狙いを定める。

 

雷「電もみんなも、絶対に助けるわ!!」

 

    ドォォォン

 

 雷の放った一撃は、敵航空機に直撃し敵航空機の撃墜に成功する。

 

電「はわわ、みんなすごいのです!」

 

 深雪たちの増援により、雷と電に攻撃を仕掛けていた敵航空機6機の撃墜に成功したのであった。

 

 

 

 

    ズガガガ ズガガガ

 

 1機の九六式艦戦が大きくふらつきながらも、必死に敵航空機の攻撃を回避する。

 

鳳翔「これ以上は無理です、九六式艦戦隊の着艦を急がなければ!」

 

 鳳翔は何度も九六式艦戦隊に帰還指示を出すが、敵航空機に食いつかれている状況では着艦体制に入ることが出来ず、九六式艦戦隊は鳳翔の甲板に帰投することが出来ずにいた。

 

鳳翔「くっ、どうにか敵機の注意を引いて、艦載機を収容できれば……」

 

    ガガッ…… ザザザ……

 

 先ほどから断続的に、誰かが鳳翔に無線を送っているようだが雑音がひどく声を聞き取ることが出来ない。

 

鳳翔「誰かが無線を入れてくれている様ですが……」

 

 鳳翔は無線に応答したくても、艦載機に指示を出すので精一杯の状況であり、無線機を操作する余裕は無く、周波数を操作するなどの調整をすることも出来ずにいた。

 

鳳翔「もうすぐ敵の増援が到着してしまう……、このままでは私たちの航空隊が全滅してしまう……」

 

 大きな戦力差があった中、鳳翔の艦載機たちは獅子奮迅の活躍を見せていたが、戦闘が長引くことで操縦する妖精さん達の疲労、艦載機の燃料や弾薬の消耗、機体のダメージの蓄積など様々な要因で、鳳翔の艦載機と基地航空隊の混成部隊である航空隊は壊滅の危機を迎えている。

 

 当初の戦力差を考えてみれば、大健闘と呼べる戦果ではあるのだが、責任感の強い鳳翔は今の状況をすべて自分の責任と考えてしまい、艦載機への冷静な指揮を執ることが出来なくなっていた。

 

鳳翔「1分、1分でいいですから艦載機を収容する時間を!」

 

 つい感情的になってしまった、鳳翔は天を仰ぎながら叫ぶように声を上げる。

 

    - 1分あればいいんだな -

 

 どこからともなく、声が聞こえてくる。

 

鳳翔「声が……、一体どこから?」

 

 突然聞こえてきた声に、鳳翔は呆気にとられる。

 

    - 1分と言わず、もっとゆっくりでもいいぜ -

 

 再び声が聞こえてきて、鳳翔は声が無線機から聞こえてきているものだと気がつく。

 

鳳翔「無線機から……、こ、この声は!?」

 

 無意識に鎮守府方向へ振り返る鳳翔の目の前には、作戦のため別方面へ出撃中であった仲間の姿があった。

 

 

 

 

天龍「天龍様の攻撃だ! うっしゃぁっ!」

 

 天龍は14cm単装砲と7.7mm機銃の砲塔を上空の敵航空機に向け、気合いを込めたかけ声と共に対空砲撃を開始する。

 

    ドゴォォン ズガガガガ

 

 天龍の対空砲撃は、鳳翔の九六式艦戦隊を追撃中の敵航空機に次々と命中し撃墜していく。

 

鳳翔「天龍さん!!」

 

天龍「早く艦載機を収容してやんな、あいつらもうフラフラじゃないか」

 

鳳翔「は、はい、ありがとうございます」

 

 お礼を言う鳳翔に対して天龍は無言で左手を挙げて答えながら、満身創痍の雷と電の状況を確認する。

 

天龍「鳳翔さんや紅月鎮守府のチビたちが、だいぶ世話になったみたいじゃないか……」

 

 天龍は今なお上空から攻撃を続けている敵航空部隊に視線を移して、強くにらみつける。

 

天龍「南西での戦いじゃ、金剛に良いとこ全部持って行かれちまったしなぁ……」

 

 天龍が左手で右腰に装着していた独特の形状の刀を引き抜くと、上空の敵航空部隊に切っ先を向ける。

 

天龍「深雪! 白雪! 1機も撃ち漏らすなよ!!」

 

 天龍が近くで対空戦闘中の深雪と白雪に指示を出すと、天龍の右舷と左舷に深雪と白雪がそれぞれ近づいてきて横一列の陣形を作る。

 

深雪「深雪さまの実力、見せてやるぜぃ!」

 

白雪「雷ちゃんは電ちゃんを連れて行ってあげて下さい!」

 

 対空戦闘に気合いを入れる深雪と、負傷した電の身を案じる白雪の様子を見た雷と電は素直に白雪の指示に従う。

 

電「皆さん、ありがとうなのです……」

 

雷「みんな……、電は雷が絶対に助けるわ!」

 

深雪「鎮守府もやられちゃってるけど、しっかり直して来いよな!」

 

 大破した電を雷が背負い、龍星鎮守府へ引き上げる。

 

電「みんなの前でおんぶされるなんて、恥ずかしいよぉ……」

 

雷「雷はお姉さんなんだから、もっと頼っていいのよ!」

 

 雷の言葉を聞いた電は、恥ずかしさを隠すように雷の背中に顔を埋める。

 

電「(雷ちゃんの背中、とても暖かいのです……)」

 

 

 

 

    ズガガガガガ ズガガガガガ

 

 4機となった敵航空機に、美鈴は咲樂と連携をとるように機銃斉射を続ける。

 

咲樂「あの艦娘、何故だか私の欲しいところに掩護射撃を入れてくれる……」

 

 人間では満足に性能を発揮させることが出来ないはずの艤装を、本来の性能に近い水準で操っている美鈴を咲樂は艦娘だと勘違いする。

 

美鈴「あの味方の飛行機、本当に咲夜さんが乗っているの?」

 

 十六夜咲夜と同じ銀色の髪、ゴーグル越しにもわかる整った顔立ちの咲樂を見た美鈴も、咲樂のことを十六夜咲夜だと勘違いしていた。

 

咲樂「しかし、あんなチャイナドレスの様な服装をした艦娘見たこと無いな……」

 

美鈴「でも、咲夜さんって飛行機なんか操縦できただろうか……」

 

 戦闘中で互いに無線連絡も出来ず、会話を交わすことが出来ない二人はお互いに疑問を持ちながらであったが戦闘を継続していた。

 

咲樂「たしかこの鎮守府には雪風がいると聞いたが、練度をあげて改良され台湾海軍の旗艦を務めた『丹陽』にでもなったのか?」

 

美鈴「まぁ咲夜さんなら器用だし、しれっと飛行機の操縦くらい出来たりしそうだな……」

 

咲樂「しかし、あの見た目は駆逐艦と言うか戦艦か重巡洋艦クラスだ、中国や台湾の艦が艦娘になったという話は聞いたこと無いぞ……」

 

 咲樂が美鈴がどんな艦娘なのか不思議がっていると、後部席で気を失っていたあかぎが目を覚ます。

 

    ズガガガガガ ズガガガガガ

 

 美鈴が放つ機銃の砲撃を見たあかぎは、驚きの声を上げる。

 

あかぎ「えっ、えぇっ! どういうこと? 何が起こっているのですか!?」

 

咲樂「寝ていたと思ったら急に騒ぎ出して、元気な人ですね……」

 

 目覚めた瞬間に大声を出すあかぎに、咲樂は呆れたように返事をする。

 

 

 

 

あかぎ「あの艤装を使っている人は誰ですか? 何者なんですか!?」

 

咲樂「この鎮守府の艦娘みたいですが、何という艦娘かわからないわ」

 

あかぎ「艦娘? とんでもないあの人は艦娘じゃないです、人間ですよ!!」

 

咲樂「人間が艦娘の艤装をあんなに使いこなせる訳無いじゃないですか、まだ寝ぼけてますか?」

 

 あかぎの言葉に対し咲樂は呆れたように答えるが、あかぎは負けじと言い返す。

 

あかぎ「私だって力はほとんど失っていますが艦娘です、同じ艦娘かどうかは貴女以上にわかるんですよ!」

 

咲樂「そう言われても……」

 

あかぎ「この機体のセンサーだって彼女を艦娘や深海棲艦だと認識していますか?」

 

 紅月鎮守府では、最新鋭の技術で製造された艦娘や深海棲艦を認識出来るセンサーが開発されており、訓練機である咲樂の零戦レプリカにもそのセンサーは装着されていた。

 

咲樂「!!」

 

 あかぎの言葉を聞いた咲樂はセンサーを確認したが、あかぎの言うとおり美鈴からは艦娘としての反応も、深海棲艦としての反応も無かった。

 

咲樂「彼女は人間だと言うのか?」

 

あかぎ「だから私は聞いているのです、あの人は誰ですかって!」

 

 その時、突然咲樂の機体に麗美からの通信が入る。

 

麗美「騒がしいわね、戦闘中にケンカかしら?」

 

咲樂「お嬢様?」

 

 突然の無線に咲樂が驚きの声を上げると、麗美は呆れた様に答える。

 

麗美「あかぎだと思うけど、興奮して無線のスイッチが入っているわよ……」

 

 麗美の言葉に、あかぎが手元を確認すると、力強く無線機の通話ボタンが握られていた。

 

あかぎ「あら……、む、無線機? 知らない子ですね……」

 

咲樂「嘘をつくな、元一航戦……」

 

 思わず無線機の通話ボタンを押していたことをごまかそうとするあかぎに、咲樂が思わず突っ込みを入れる。

 

麗美「ふふっ、いつの間にか仲良しになったのね貴女たち……」

 

咲樂「仲が良いというか何というか……」

 

 咲樂は戦闘に集中しながらも、美鈴の援護もあることから麗美やあかぎと会話をするくらいの余裕が出来ていた。

 

麗美「ところで、貴女たちが気になっているあの女性の正体なのだけど……」

 

あかぎ「ご存じなのですか?」

 

麗美「彼女こそが、『深き眠りより目覚めし紅き龍』ことこの鎮守府の提督である紅美鈴よ!!」




3月になり、北海道もだんだんと春の兆しが見えてくる季節となりました。

前話のラストで伊在井咲樂の事を十六夜咲夜だと美鈴が勘違いしていますが、絵も無くわかりにくいかと思いますが、咲樂は咲夜さんとヴィジュアル的には非常に似たキャラクターだと思ってください。

私に絵の才能があれば、挿絵の一つや二つ入れたいところですが、絵の才能が無いのでうまく表現できなくて申し訳ありません。

念のため、本編でうまく伝わっていないかも知れませんのでここでザックリ補足しておきますが……

紅月麗美 → 成長したらこうなるだろうと思うレミリア・スカーレット

伊在井咲樂 → 三つ編みが無い十六夜咲夜

町井田可怜 → 機動戦士ガンダムのマチルダさん

この作品に出てくるオリキャラたちは、こんな感じのヴィジュアルだと脳内再生していただければ幸いです。


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第37話 レディーになるために

榛名「燃えている……、鎮守府が……」

 

 未だ火の手が上がっている鎮守府を見つめながら、榛名はうわごとのように呟いていた。

 

雪風「榛名さん、正気に戻って下さい! 榛名さん!!」

 

 雪風は、トラウマにより自我を失っている榛名に声をかけ続けるが、榛名は生気を失った瞳で呆然と空を見上げている。

 

榛名「爆撃機が迫って来ます……、迎撃を……」

 

 榛名は何も無い方角を見上げて、虚空に手を上げる。

 

榛名「もう動くことは出来ませんか……、燃料が尽きてしまって……」

 

 榛名は、艦船時代の最期の戦いである呉軍港空襲での戦いの様子が脳裏に写っており、現状と過去の記憶が入り交じり錯乱に近い状況であった。

 

雪風「榛名さん! 榛名さん! 目を覚まして下さい!!」

 

 雪風は榛名を呼び続け、目を覚まさせようとするが、榛名の瞳は光を失っており生気を失っていた。

 

雪風「このままじゃ、榛名さんは戦闘どころじゃ無いです……」

 

 雪風は周囲を見回し、深海棲艦や敵航空機が接近してきていないか確認する。

 

雪風「今はまだ大丈夫……?」

 

 海上で頭を抱えながらうずくまる榛名の表情を、雪風は心配そうにのぞき込む。

 

榛名「爆撃機を……、早く……」

 

 トラウマに苦しむ榛名を見ながら、雪風は自分に言い聞かせるよう決意を口にし始める。

 

雪風「今、敵の攻撃を受けたら榛名さんを守れるのは雪風だけです……」

 

雪風「もう仲間を沈めさせないと、艦娘として生まれ変わってから雪風は決めました……」

 

雪風「あの戦争の時は、雪風もきっとつらく悲しい思いもいっぱいしたと思います……」

 

雪風「美鈴しれぇも深雪たちも、雪風にとって大事な仲間です……」

 

雪風「榛名さんとはまだ出会ったばかりですが、雪風にとって大事な仲間です……」

 

 雪風は何かを感じ取ったかのように、自分たちが後にしてきた南西方面を険しい目で見つめながら立ち上がった。

 

 

 

 

 龍星鎮守府の北方面の海域では、那珂、暁、五月雨の3人が深海棲艦の機動部隊に向けて必死の進撃を続けていた。

 

暁「なによ、一体敵はどれだけいるのよ!」

 

五月雨「那珂さんがいるから大丈夫って思っていましたが、こんなに護衛の水雷部隊がいるとは想定外でしたね」

 

 死に物狂いの暁に比べて、同じ駆逐艦であるはずの五月雨は汗一つかかずに涼しい表情で次々と深海棲艦の駆逐艦や巡洋艦を撃墜していく。

 

那珂「ヲ級ちゃんたちが、どんどん艦載機を発艦しちゃってるから、こっちもペース上げて行くよぉ~」

 

五月雨「はい、前衛はお任せ下さい!」

 

 暁が1体のイ級をやっとの思いで撃墜すると、すでに5体以上の駆逐艦級や巡洋艦級の深海棲艦を撃墜しているという那珂と五月雨の戦闘を見て、暁は二人との練度の差を強く実感させられた。

 

暁「那珂さんは軽巡だから仕方ないけど、五月雨は同じ駆逐艦だからレディーとして負けるわけにはいかないわ!」

 

 普段はお茶汲みをしたら転んでしまったり、書類をもって歩いていたら何かにぶつかって落としてしまったりなど、ドジっ子なイメージの強い五月雨の思わぬ活躍に暁は対抗心を燃やす。

 

暁「やぁ、やぁ!」

 

 暁は手当たり次第に12.7cm連装砲を目の前の駆逐艦ロ級に向けて連射するが、ロ級は軽快に暁の攻撃を回避する。

 

暁「ぐぬぅぅ、避けるんじゃ無いわよ!」

 

 攻撃を回避するロ級に対して暁が怒りをあらわにしていると、五月雨が暁に近寄ってきてそっと声をかけてくる。

 

五月雨「暁ちゃん、もっと肩の力を抜いて敵の動きをよく見て」

 

暁「敵の動き?」

 

五月雨「あのロ級は攻撃を避けるときに、右に回避するクセがあるみたいですよ」

 

暁「えっ?」

 

 五月雨に言われたとおり、交戦中のロ級は攻撃の多くを右方向に回避していることに暁は気がつく。

 

暁「ホントだ、右に避けると言うことは……」

 

 暁は再び連装砲を構えてロ級に向けて砲撃した後、続けざまにロ級の右方向に砲撃を行ってみた。

 

   ドォォォン

 

 すると、暁の初弾を回避したロ級に、暁の二射目の砲撃が直撃しクリティカルヒットとなった。

 

五月雨「わぁい、暁ちゃん凄いですね!」

 

暁「えっ、あぁ……」

 

 五月雨の助言を受けて試してみた砲撃でロ級を仕留めた暁のことを、大喜びしながら褒め称えてくる五月雨に対して暁は一瞬言葉が詰まる。

 

五月雨「敵の動きを読んで一撃で直撃させちゃうなんて、さすが暁型のみんなのお姉さんですね!」

 

暁「そ、そうね、レディーとしては当然よ!」

 

五月雨「私も暁ちゃんに負けないように、一生懸命がんばりますね!」

 

 そう言うと、五月雨は敵陣に突入して敵水雷戦隊と交戦を始める。

 

暁「敵の動きをよく見るか……、敵のクセなんて全然気がつかなかったわ……」

 

 暁は素直に五月雨の的確なアドバイスを振り返りながら、五月雨の戦いぶりを見る。

 

暁「那珂さんの様な派手さは無いけど、しっかりと敵の攻撃を避けて自分の攻撃を当ててる……、あれが麗美司令官の初期艦の実力なのね……」

 

 

 

 

    ズダダダ ズダダダ

 

 敵航空機に咲樂が操縦する零戦レプリカの機銃が命中し、敵航空機が爆散する。

 

あかぎ「お見事、星一つですね!」

 

咲樂「まだよ、まだ3機いるわ!」

 

 敵機撃墜に喜ぶあかぎと対照的に、咲樂は冷静に戦況を確認している。

 

咲樂「『紅き龍』の支援射撃があるとはいえ、もうこの機体の燃料や弾薬は残り少ない……」

 

あかぎ「えっ!?」

 

咲樂「気絶してばかりのお荷物を乗せてたから、燃料が足りませんわ……」

 

あかぎ「す、すみません! 私の責任ですよね……」

 

咲樂「冗談よ、まぁ、ピンチなのは本当ですが……」

 

 咲樂の機体は燃料弾薬不足もあるが、訓練用の機体にも関わらず激しい戦闘機動を続けてきたため、機体の強度が限界を迎えている状況であった。

 

咲樂「敵機の殲滅が先か、この機体の限界が先か、どのみち未来は明るくないわね……」

 

あかぎ「ふふっ、しかし天はまだ私たちを見捨ててはいないみたいですよ」

 

 咲樂の自虐を含ませた言葉に、あかぎは笑顔で答える。

 

    ザザッ…… トゥトゥートゥ トゥトゥトゥー ガガ……

 

 突然、咲樂機の無線機から雑音混じりの電子音が聞こえてくる。

 

咲樂「モールス信号!?」

 

 咲樂は、その電子音がモールス信号であることに気がつくと、今度は先ほどと同じ電子音が鮮明に聞こえてきた。

 

   『タイチョウ コレヨリ エンゴニ ハイリマス』

 

 

 

 

    ズダダダ ズダダダ 

 

 鎮守府上空西方向から、敵航空機めがけて機銃が斉射される。

 

咲樂「零戦52型か!」

 

 咲樂から、龍星鎮守府の宿舎を爆撃していた敵航空機の撃墜の指示を受けていた零戦52型が、敵機の撃墜に成功して咲樂の援護に駆けつけたのであった。

 

あかぎ「こちらに気がついて、急行してくれたみたいですね」

 

    『アトハ マカセテ サガッテ クダサイ』

 

咲樂「こちらの機体の限界に気がついているのか?」

 

あかぎ「妖精さんは優秀ですから……、貴女は妖精さんに好かれているのですね」

 

 妖精さんの零戦52型は、咲樂ほどではないが軽快な動きを見せて3機いる敵航空機と互角に対峙する。

 

咲樂「下がれと言ってくれるのはありがたいが、この機体の限界も近いですし目の前の敵機を排除してから空き地に不時着しましょう」

 

あかぎ「着陸できそうな場所は、こちらで探しておきますね」

 

咲樂「また気を失ってしまわないようにお願いしますね」

 

 不時着可能な場所の選定をあかぎに任せた咲樂は、操縦桿を握る力を更に強めて機体を加速させる。

 

咲樂「さっさと掃除を終わらせて、お嬢様のところに行かせてもらいますわ」

 

    ズダダダ

 

 咲樂は零戦レプリカの機体を軋ませながら的確に機銃を放ち、敵航空機に命中させる。

 

咲樂「さぁ、これで2対2……、一気に決める! 私についてきなさい!!」

 

 咲樂は自身も機体も限界を超えた状態であるにも関わらず、機体を加速させ敵航空機に向かっていく。

 

 

 

 

美鈴「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 『気』を込めながら機銃の艤装を連射していた美鈴は、激しい疲労に襲われていた。

 

美鈴「『気』を使いすぎてしまったか、まだ十分な力は戻っていないんだなぁ……」

 

 疲労により体はふらつき、強い目眩を感じた美鈴は再び気を失ってしまわないように攻撃の手を止める。

 

    ズダダダ ズダダダ

 

 咲樂の零戦レプリカと、零戦52型が敵航空機を追い込んで行く様子を見ながら、美鈴は地面に座り込む。

 

美鈴「金剛の仇は、咲夜さんがとってくれそうだ……」

 

 敵航空機の1機を追い詰め撃墜すると、最後の1機となった敵航空機は鎮守府の北方向へ逃走を図る。

 

美鈴「くっ、あいつらは金剛の仇だ……、逃がすわけにはいかないんだ……」

 

 美鈴は拳を再び強く握り、立ち上がろうとするがすでに体力が底をついてしまっており、立ち上がるための力が入らない。

 

美鈴「うっ、力が残っていないなんて、そんなの言い訳にして諦めるなんて嫌だ!」

 

 両足を震わせながら、美鈴は気力だけで立ち上がる。

 

    ドサァッ

 

 しかし、美鈴はそのまま前のめりに倒れ込んでしまう。

 

美鈴「ぐっ、くそぉ……」

 

 逃走を図る敵航空機を追うため、立ち上がろうとするが体力が底をつき倒れ込む美鈴は、悔しさから目に涙を浮かべている。

 

美鈴「仲間を守ることも、仇を討つことも出来ないなんて……」

 

 

 

 

那珂「どっかぁーん!」

 

 重巡リ級を撃破した那珂が、右手を大きく突き上げてポーズを決める。

 

五月雨「さすが那珂さん、綺麗に決めましたね!」

 

那珂「きゃは、あとは向こうにいる空母部隊だけだね!」

 

 那珂は、ポーズを決めながら視線を北方にいる正規空母ヲ級3体、軽空母ヌ級1体と護衛の駆逐艦ロ級2体の艦隊に視線を向ける。

 

五月雨「はい! 前衛はお任せください!!」

 

暁「(二人の早さについて行けない、本当に同じ艦娘なの?)」

 

 まだまだ修行中の暁と違い、紅月鎮守府において最高練度を誇る五月雨と、改二となっており高練度の那珂の戦闘に暁は圧倒されていた。

 

 那珂と五月雨は、そのままの勢いで敵陣に突入しヌ級を撃退する。

 

暁「は、早い……、でも響たちや司令官のためにも暁も行くわ!」

 

 暁は、先行している那珂たちの後を追って敵陣に突入しようとすると、周辺の海域がどんどんと暗くなっていることに気がついた。

 

暁「なに? どうなっているの!?」

 

 時刻的にはまだ昼過ぎであるにも関わらず、周囲が夜のように暗くなっていくことに動揺する暁に那珂と五月雨が近づいてきた。

 

五月雨「夜になる前に、敵の駆逐艦を倒しましょう!」

 

暁「よ、夜?」

 

那珂「暁ちゃんは夜戦は初めて? 後で説明してあげるから魚雷を構えてね」

 

暁「えっ、あ、はい……」

 

那珂「よーっし、深海棲艦のみんなに魚雷のファンサービスだよっ!」

 

 那珂の合図で、3人は一斉に敵艦隊に魚雷を発射し、放たれた魚雷が敵艦隊に向かっていく。

 

 深海棲艦側もロ級2体が那珂に向けて魚雷を撃ってきていたが、那珂は軽やかに魚雷を回避する。

 

那珂「握手や写真はいいけどぉ、贈り物は鎮守府を通してね♪」

 

 那珂たちが放った魚雷はロ級1体とヲ級1体に直撃し、それぞれ海に沈んでいった。

 

 

 

 

暁「あ、当たった、初めて魚雷が敵に当たった……」

 

 ロ級に直撃した魚雷は、那珂が単独で放ったものであったが、ヲ級を沈めた魚雷は五月雨と暁が同時に放ったものであり、二人で正規空母のヲ級を撃墜した形であった。

 

五月雨「わぁ、暁ちゃんの魚雷がヲ級を沈めましたね、大戦果ですよ!」

 

暁「えっ?」

 

那珂「うん、五月雨ちゃんの魚雷で大破したところに、暁ちゃんの魚雷が当たったから撃墜スコアは暁ちゃんのものだよ」

 

 暁は魚雷の扱いが苦手で、訓練でもまともに的に当てた事が無く、当然実践でも敵艦に魚雷を命中させたことは無かった。

 

暁「暁が空母を倒したの?」

 

五月雨「そうです、暁ちゃんは大型深海棲艦をやっつけたんですよ」

 

那珂「那珂ちゃんも、新人時代に大型艦を倒したこと無いのに、暁ちゃんはトップアイドルの素質あるかもしれないなぁ、未来のライバルになるかもね」 

 

 那珂と五月雨のべた褒めに、暁は若干動揺しながらも更に周囲が暗くなっていくことに気がつく。

 

暁「どんどん暗くなってくるわ、本当の夜みたいに」

 

五月雨「原理はまだ解明されていないのですが、深海棲艦は戦闘中に周囲を闇に覆うことが出来るみたいなんです」

 

暁「闇に覆う?」

 

五月雨「こちらに奇襲を仕掛けるためや、逃走の手段としてかはわかりませんが、何かの目的があるとは思います」

 

那珂「まるで夜みたいになっちゃうから、みんな夜って言ってるよね」

 

五月雨「夜になると、深海棲艦たちは戦闘能力が上がるから注意が必要です」

 

 五月雨の言葉に暁は大きく息をのみ、表情に緊張感が増してくる。

 

五月雨「でも、艦娘も夜間になると敵の不意をつく事も出来るので、夜戦が得意な人も多いですよ」

 

那珂「那珂ちゃんも、ナイトライブは大好きだよ!」

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 動揺する暁に、五月雨が色々と説明をしていると、突然巨大な砲撃の音が聞こえてきた。

 

暁「この砲撃音は!!」

 

五月雨「ル級が2体……、深海棲艦の増援みたいです」

 

那珂「みんな那珂ちゃんのナイトライブが見たいからって、ちょっと数が多くなっちゃった……」




3月中にもう1話と思っていましたが、気がついたらもう4月。

野球界の世界的スーパースターのイチローが引退したり、新年号が『令和』と発表されたりいろいろなビッグニュースが続いた、激動の数週間でしたね。

この第19話から続いている一連のお話も気がつけばもう20話になりそうな感じですが、もう少し美鈴たちの戦いが続くと思います。


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第38話 夜戦

    ドゴォォォォォォン ドゴォォォォォォン

 

 深海棲艦の増援の戦艦ル級は、龍星鎮守府の北西方向から現れ、ちょうど那珂たちが相手をしている正規空母ヲ級と反対方向からの増援であった。

 

五月雨「このままでは挟み撃ちにされてしまいますね……」

 

那珂「倒さなきゃいけないのは、麗美提督や暁ちゃんの妹たちがいる龍星鎮守府を攻撃しているヲ級ちゃんたちだけど……」

 

暁「でも、それじゃぁル級が後ろから撃ってくるんじゃ……」

 

 ヲ級の撃破に専念したいが、ル級に無防備な背中を晒す危険性のある状況で、3人は夜戦の戦い方について考え込む。

 

那珂「ヲ級ちゃんたち空母は、夜間は艦載機を飛ばせないから気をつけるのはロ級だけだし、那珂ちゃんがル級ちゃんたちの相手をすれば、2人はヲ級と戦えると思います!」

 

五月雨「でも、そうなると駆逐艦の私たちだけで、ロ級とヲ級2体と戦うことになりますね……」

 

暁「五月雨なら大丈夫だけど、暁1人じゃヲ級は倒せないわ……」

 

 暁は、いつものプライドの強さや強気の姿勢は影を潜めて、現実的な発言をしている。

 

那珂「暁ちゃんは、さっき魚雷でヲ級をやっつけたじゃない! 諦めたらそこでライブ終了ですよ!!」

 

五月雨「暁ちゃんは自分の練度が足りないから無理って思っているかも知れませんが……」

 

暁「……」

 

 五月雨の問いかけに、自信が無い暁は言葉が出てこない。

 

五月雨「麗美提督は、暁ちゃんにすごく期待しているんですよ!」

 

暁「司令官が……、暁に?」

 

那珂「たしかにー、提督は暁ちゃんのことを、昔の自分に似てるって言っていたね」

 

暁「暁が司令官に似てる?」

 

五月雨「私も提督が子供の頃は知りませんから、詳しくはわかりませんけど、きっと暁ちゃんも将来大人になったら提督のような素敵な大人になれるんですよ」

 

暁「あ、暁が……」

 

 暁は、尊敬し密かに目標としている麗美が、自分に期待してくれている事や、昔の自分に似ていると話してくれていた事に感動し、身を震わせていた。

 

 

 

 

 やがて、那珂たちの周辺がすっかり闇に覆われて、夜と同じように深海棲艦の姿も見えなくなる。

 

五月雨「そろそろ敵も仕掛けてくる頃ですね、いいですか第一目標は敵空母です!」

 

那珂「ちょっと危ないけどー、ル級ちゃんたちは後にしてヲ級ちゃんたちに素敵なライブを見せてあげるんだよ!」

 

暁「(2人がヲ級を倒せるように、暁が敵の駆逐艦を引きつけないと……)」

 

 真剣な表情の五月雨と、楽しそうな那珂、緊張した表情の暁と三者三様の3人は夜戦に突入した。

 

五月雨「暁ちゃんは夜戦は初めてみたいだけど、怖かったら私たちの後ろに隠れていても良いですからね」

 

 緊張している暁に気がついた五月雨は、暁に優しく言葉をかける。

 

暁「だ、大丈夫、暁は司令官みたいなレディーになるんだから……」

 

 暁は敬愛している麗美が、自分に期待してくれているという五月雨や那珂の言葉で自信をつけ、臆病な自分を克服しようとしていた。

 

那珂「暁ちゃんもトップアイドル目指して頑張っているんだね、那珂ちゃんも負けないからね!!」

 

暁「あ、暁はアイドルじゃ無くてトップレディーなんだから!」

 

 五月雨の思いやりと那珂の明るさで、緊張で凝り固まっていた暁の体や表情をほぐすことに成功していた。

 

 

 

 

    ザザー ザザザー

 

 暗闇の中から、海面をかき分ける音が聞こえてくる。

 

五月雨「敵が近づいてくる音が聞こえます……」

 

 艦娘も深海棲艦も、暗闇の中では視界が悪く互いに敵の位置を慎重に探り合う必要があった。

 

那珂「大体の場所がわかったら、照明弾が使えるねー」

 

 那珂は、夜戦装備の一つである照明弾を装備していた。

 

 照明弾は、砲弾に硫黄などで作った発光物質を打ち上げて落下傘でゆっくりと降下させることで周囲を明るくする事が出来る砲弾で、夜戦時に敵艦隊の後ろに回り込んで打ち上げることで友軍に敵艦隊への視界を確保することが出来るのである。

 

五月雨「波の音は一隻のみ……、おそらくロ級のものです」

 

那珂「照明弾は、ヲ級ちゃんにとっておいた方が良いよね」

 

五月雨「しかし照明弾を打ち上げることで、ル級にこちらの位置を知らせることになるので危険を伴いますね……」

 

暁「それじゃ、探照灯も危険だよね……」

 

 暁は装備していた探照灯を手に持ち、五月雨に確認する。

 

五月雨「そうですね、探照灯を使えばル級の的になってしまう可能性が高いですね……」

 

 五月雨は、冷静な表情で暁の質問に答える。

 

 その表情は、暁も知っている鎮守府で見せるあどけない少女のものでは無く、いくつもの戦火をくぐり抜けてきた暁が見たことの無い大人の女性のものであった。

 

暁「(あの五月雨が、一人前のレディーに見えるわ……)」

 

 

 

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 那珂たちの気配を感じたロ級が、砲撃を開始してきた。

 

暁「撃ってきた、見つかった!?」

 

五月雨「大丈夫、まだ視界には入っていないです、ただのめくら撃ちです!」

 

 見えないロ級のからの砲撃音に驚く暁と対照的に、冷静沈着な五月雨は動揺する暁を制する。

 

那珂「先に撃ってくれたおかげで、発砲した時の光と音でロ級ちゃんの位置がわかったね!」

 

五月雨「そうですね!」

 

暁「えっ、今の一瞬で……」

 

 敵の攻撃に対し、素早く反撃体制に入る那珂と五月雨の動きに暁は言葉を失う。

 

那珂「暗くったって、ロ級ちゃんの動きが……、見えているよぉ!!」

 

    ドォォォォン

 

 那珂は、暗闇の中で的確にロ級の位置を捉えて砲撃を加える。

 

    ぐぉぉぉん

 

 那珂の砲撃を受けたロ級が、爆発しながら海に沈んでいく。

 

暁「やったぁ、さすが那珂さん!!」

 

 那珂がロ級を仕留めたことに、喜ぶ暁とは対照的に五月雨は厳しい表情をしていた。

 

五月雨「ロ級の爆発が大きすぎます、敵の罠にはまったかも知れません……」

 

 

 

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 ロ級の爆発による光で、那珂たちの位置を特定した2体のル級が一斉に砲撃を仕掛けてきた。

 

五月雨「うわっ、やっぱりル級に見つかってしまいました!」

 

那珂「いくら那珂ちゃんたちのサインが欲しいからって、強引なのはダメなんだからね!!」

 

暁「ル級が来た……、どうしよう……」

 

 ル級の砲撃に、陣形を乱された那珂たちは素早い決断を求められていた。

 

五月雨「私がル級を引きつけます、那珂さんと暁ちゃんは近くにいるはずのヲ級をお願いします!」

 

那珂「那珂ちゃんのミスでル級に気がつかれたんだから、那珂ちゃんがル級を引きつけるよ!」

 

 囮役に名乗り出た五月雨を制して、那珂がル級への囮役を買って出ようとする。

 

五月雨「いえ、那珂さんはこの艦隊の旗艦です、旗艦を囮にすることなんて出来ません!」

 

那珂「ダメ、五月雨ちゃんを危険な目に遭わせる訳にはいかないよ!!」

 

 囮役について那珂と五月雨が口論していると、暁が探照灯をル級が砲撃してきた方角に向けて照射する。

 

五月雨「暁ちゃん!?」

 

暁「ル級は暁が引きつけておくから、2人はヲ級を倒してきて……」

 

 暁は、覚悟を決めた表情で那珂と五月雨に語りかける。

 

那珂「暁ちゃん……、貴女はきっとスーパーアイドルになれるよ……」

 

暁「ヲ級を倒さないと、妹たちが危ないの……、絶対倒してきてよね」

 

五月雨「……うん、わかったわ」

 

 

 

 

 ヲ級を仕留めるため、暗闇の中の索敵に向かった那珂と五月雨とは別行動をとることにした暁は、暗い海面を高速移動しながら探照灯をル級に向けて断続的に照射し、ル級の注意を引く。

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 2体のル級も、探照灯を照射する暁に狙いを定めて砲撃を繰り返してくる。

 

暁「響や雷、電のためにも、絶対生きて帰るんだから!!」

 

 暁はル級から繰り返し放たれる砲撃を、必死に避け続けていた。

 

    ドォォォォォォン

 

    ドォォォォォォン

 

    ドォォォォォォン

 

 ル級たちは、タイミングを少しずつずらしながら砲撃してきて、徐々に砲撃と砲撃の間隔が狭くなってくる。

 

暁「まさか、交代交代に撃ってきているの!?」

 

 砲撃の間隔が狭くなってくることで、足を止めること無く回避するしか出来なくなってしまった暁は、徐々にル級たちに追い詰められていく。

 

    ドォォォォォォン

 

 だんだんとバランスを崩してきた暁は、ル級からの至近弾により更にバランスを崩されて転倒してしまう。

 

    パリィン

 

 転倒した衝撃で暁の艤装から、何かが割れた音が聞こえた。

 

暁「うっ、探照灯が……」

 

 暁は転倒した際に探照灯を割ってしまい、更に利き足である右足の膝を負傷してしまう。

 

暁「痛っ、血が……」

 

 膝を負傷したことで、暁は踏ん張りがきかなくなってしまい、これまでのように高速で回避することが出来なくなってしまった。

 

    ドォォォォォォン

 

 追い打ちをかけるように放たれたル級の砲弾は暁の直近に着弾し、暁は着弾の衝撃で吹き飛ばされてしまい体を強く海面に叩き付けられる。

 

 その時、ル級の背後から探照灯を照射する者と、黒色の複葉機を発艦させる者がいた。

 

神通「探照灯照射……、姉さん準備は良いですね!」

 

川内「待ちに待った夜戦だー!!」

 

 

 

 

    カンカンカンカン トントントントン

 

 龍星鎮守府の工廠から、何かを修理している音が響き渡る。

 

工廠の妖精さん『モウスグ シュウリガ オワルカラネ』

 

 宿舎や入渠施設から離れた場所に建っていた工廠は、敵航空機の爆撃の被害を受けておらず、工廠の妖精さん達は激しく損傷していた艤装の修理を行っていた。

 

 工廠内の机には、バスローブ姿の艦娘が艤装の修理が終わるのを心待ちにして待っていた。

 

工廠の妖精さん『コワレタ シュホウノカワリニ テイサツキヲ ソウビシテ オイタカラネ』

 

 工廠の妖精さんは、バスローブ姿の艦娘に修復中の艤装について説明を行っていた。

 

バスローブの艦娘「でも、偵察機を操縦できる妖精さんなんて、いるのデスカ?」

 

パイロット姿の妖精さん『コウクウキノ ソウジュウナラ マカセテヨ』

 

 偵察機のパイロットを心配するバスローブ姿の艦娘の発言に対し、机の上に腰掛けていた3人の妖精さんたちのリーダーと思われるパイロット姿の妖精さんが答える。

 

バスローブの艦娘「Oh! でも、アナタたちは鳳翔さんの零戦のパイロットデース!」

 

パイロット姿の妖精さん『ホウショウサンニハ イロイロナ コウクウキノ クンレンヲ サセテモラッテ イタンダ』

 

バスローブの艦娘「水上偵察機も乗れるという事デスカー?」

 

パイロット姿の妖精さん『ダイジョウブダヨー』

 

 パイロット姿の妖精さんは、バスローブの艦娘に拳を突き出して笑みを見せる。

 

バスローブの艦娘「艤装は大丈夫そうデスガ、どこかに服はないですかネー、バスローブじゃ戦いにくいデース!」

 

 どこかで見たようなバスローブ姿の艦娘は、自分が着用できる着替えを探している様子であった。




北海道も徐々に気温が上がり、ようやく春の兆しが見えてきたところです。

今回は、待ちに待った夜戦回と言うことで、あの艦娘たちが久々の登場です!

そしてラストに登場した艦娘は一体誰なのか?

次回の展開に期待デース!(口調でなんとなくわかる方もいるでしょうけど……笑)


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第39話 川内と神通

    - 川内と神通が夜戦に突入した那珂隊の支援に到着する少し前 -

 

 龍星鎮守府の北西方面海域で、深海棲艦の大艦隊と交戦していた航空戦艦日向率いる紅月第一艦隊は、激戦の末に敵大艦隊の大半を撃退しており、あらかじめ麗美が指示をしていたタイミングで、機動力の高い軽巡洋艦である川内と神通を那珂隊の支援に向かわせていた。

 

神通「提督の想定では、あとわずかで那珂ちゃんたちと合流出来る地点のはずですが……」

 

川内「こんな昼間っから出撃出撃って大変だよねぇ~」

 

 実直で真面目な神通とは異なり、川内はどこか面倒くさそうな感じで索敵を続けていた。

 

神通「提督の話だと、そろそろ深海棲艦が周りを暗くし始めて、俗に言う夜になるはずだと言っていましたが……」

 

川内「夜? 夜戦!?」

 

 神通が口にした『夜』と言う言葉に、全く覇気が無かった川内の瞳に輝きが戻る。

 

川内「夜戦と言ったら私の出番だよねー、くんくん……、夜戦はどっちだ?」

 

神通「そんな鼻をきかせても……」

 

 急にテンションが跳ね上がり、先ほどまでとは別人のように周囲をキョロキョロと見渡しながら、嗅覚までも利用して夜戦となっているはずの戦闘海域を探し始める川内に神通は困惑の表情を見せる。

 

川内「夜戦は良いよねぇ、はやくー、やーせーんー!!」

 

神通「まだ、那珂ちゃんたちが夜戦に突入していると決まった訳では……」

 

 妙にハイテンションな川内と、その川内に少々困り気味の神通は那珂たちとの合流を目指していた。

 

 

 

 

神通「なんだか、辺りが暗くなって来ましたね……」

 

 那珂たちとの合流を目指して進軍中の、川内と神通は目指している海域付近が暗くなりかけてくることに気がつく。

 

川内「くんくん、夜戦が近づいているぞ……」

 

神通「川内姉さんは、匂いで夜戦がわかるのですか? 匂いがするわけでもないでしょうし……」

 

川内「ん? わかるよ!」

 

神通「えぇっ!?」

 

川内「正確には、匂いというか感覚でわかるんだよね、夜戦だーって」

 

 川内のハイテンションな口ぶりに、神通は少々困ったような表情を見せる。

 

神通「そんな科学的な根拠もなさそうな事を言われましても……」

 

川内「五感や第六感だって大事だよ、神通だって夜戦になったら体が熱くなったりしない?」

 

神通「体が火照ってくることはありますが……」

 

川内「そうだよ、その感覚だよ! 私もその感覚で夜戦を探しているんだ!!」

 

 困り顔の神通に、川内は力強く拳を握りガッツポーズを見せる。

 

川内「夜戦はこっちだよ、神通! 行くよ!!」

 

神通「この距離なら、まずは那珂ちゃんに無線を入れれば……、って姉さん、待って下さい!!」

 

 冷静に那珂に無線を入れようとする神通を無視して、川内が全力で駆け出してしまったため、神通は無線連絡を取りやめて慌てて川内を追いかけた。

 

 

 

 

 神通は川内を追いかけて海域を進んでいくと、たちまち周囲が真っ暗になってしまった。

 

川内「ふふふ、夜戦突入だね」

 

神通「確かに夜戦に突入ですが、この視界では那珂ちゃんたちがどこにいるかわかりません……」

 

 満面の笑みを見せる川内とは対照的に神通は困った表情を見せる。

 

川内「そうか、こう暗くちゃ音は聞こえても、確かに仲間か深海棲艦か見えないから困るよね」

 

神通「こうなっても、感覚で判断するんですか?」

 

川内「はは、仲間を信じて突撃しようか?」

 

神通「同士討ちになったらどうするんですか!!」

 

 感覚任せの川内の発言に、神通が忠告していると、那珂たちがいると思われる方角から探照灯が照射されているのが見えた。

 

川内「あっ、明かりが見えるよ!」

 

神通「これは艦娘の探照灯?」

 

 その探照灯は、深海棲艦に向けて照射されているようで、探照灯が照射されている方角には戦艦ル級2体の姿が見えた。

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 ル級たちが探照灯を照射している艦娘をめがけて主砲を撃ち返すと、小柄な艦娘が必死に回避行動をとっている様子が見える。

 

川内「あれは那珂じゃないな、五月雨かな?」

 

神通「いえ、那珂ちゃんも五月雨さんも探照灯を装備していませんでした」

 

川内「じゃあ、あの艦娘は?」

 

神通「おそらくは、那珂ちゃんと合流しているはずの第六駆逐隊の暁」

 

川内「暁と言ったら、あの『レディー』なお子様だよね」

 

神通「この状況だと、敵艦隊と交戦中にル級2体と遭遇して挟撃されているのでは?」

 

 神通は、作戦予定海域や暁とル級の位置関係から戦況を冷静に分析する。

 

 

 

 

    ドォォォォォォン

 

    ドォォォォォォン

 

    ドォォォォォォン    

 

 ル級たちが少しずつタイミングをずらしながら砲撃の間隔を狭めて、暁に波状攻撃を仕掛けてだんだんと暁を追い込んでいく。

 

川内「暁や第六駆逐隊の練度ってどのくらいだったっけ?」

 

神通「一番高い響でも13、暁も10にいったかどうかくらいです」

 

川内「なら、早く助けてあげないと大変だよね、神通! 突撃するよ!!」

 

 そう言うと、神通の返事を待たずに川内がル級に向けて全速力で駆け出す。

 

神通「川内姉さん!!」

 

 川内の無鉄砲な行動に、神通は驚くと同時に諦めたような嬉しいような微妙な感じの笑みを浮かべる。

 

神通「まぁ、これも川内姉さんの良いところでもあるのですがね……」

 

 神通は川内を追いかけながらも、自分の体が高揚するかのように熱を帯びてくる感覚を抱いた。

 

神通「ふふ姉さんの熱さにやられたか、体が火照って来ましたね……」

 

 川内と神通が全速力でル級に向かっていると、直撃こそはしていないはずであるが暁がバランスを崩すと共に探照灯が消灯してしまう。

 

川内「おつかれ、あとは私たちに任せておくれよ」

 

神通「暁さんの勇敢な行動に感動しました、あとは私たちが暁さんの想いを受け継ぎましょう!」

 

 ル級たちの背後から射程距離まで近づいたタイミングで、川内はル級たちに攻撃を仕掛けるために夜間偵察機である九八式水上偵察機を発艦させ、神通はル級たちの注意を暁から自分に向けるために装備していた探照灯をル級たちの方向へ照射する。

 

神通「探照灯照射……、姉さん準備は良いですね!」

 

川内「待ちに待った夜戦だー!!」

 

 

 

 

 海面に体を強く叩き付けられてまだ立ち上がれていなかった暁は、神通の探照灯の光に気がついた。

 

暁「仲間が……、来てくれたの!?」

 

 暁の目に、ル級に突撃する川内と神通の姿が飛び込んでくる。

 

 素早く左右にフェイントを入れながらル級に攻撃を仕掛ける川内と、あえて目立つように探照灯をル級に照射しつつ攻撃を引きつける神通の戦いは、バラバラに動き回っているようにも見えるが、ものすごく息の合った連携の様にも見えた。

 

暁「あれが、噂の川内さんと神通さんの夜間戦闘なの……」

 

 川内と神通は瞬く間に1体のル級を追い詰め、川内の放った魚雷がル級に直撃しル級が火に包まれながら海に沈んで行った。

 

 

神通「先ほどまでの戦いで、弾薬がもう残りわずかですか……」

 

 1体のル級を撃破したとはいえ、もう1体のル級を相手にしなければならない川内と神通ではあったが、日向たちと共に龍星鎮守府と紅月鎮守府の航路上において、深海棲艦の大艦隊との大戦後であったため、燃料はまだ余裕があったが弾薬の消耗が激しく弾薬切れまであとわずかという状況であることに神通は危惧していた。

 

川内「大丈夫、ここでル級を倒すだけの残りはあるし、残りは那珂たちに任せれば良いんだからね!」

 

 弾薬不足を危惧する神通とは対照的に、川内は自分たちの敵は目の前のル級のみと割り切って目の前のル級との戦いを楽しんでいた。

 

神通「残りわずかな弾薬で、ル級を倒せますか?」

 

川内「私はもう無いけど、神通は魚雷をまだ持っているじゃない」

 

神通「あら、よくご存じでしたね」

 

 感覚のみで動いているように見える川内が、自身の弾薬以外に僚艦である神通の残弾の把握をしていたことに、神通は驚いたような表情で答える。

 

川内「当然だよ、使わないならその魚雷貸しておくれよ」

 

神通「切り札は最後までとっておくモノですよ」

 

川内「でも温存したまま燃料が無くなって使えませんは、カッコ悪いって」

 

神通「それも一理ありますね……」

 

 

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 突然の敵の増援と不意打ちよって仲間を失ったル級は、慌てる様子で神通に向けて砲撃を繰り返してくる。

 

川内「来るよ、神通!」

 

神通「第二水雷戦隊旗艦を甘く見ないで欲しいですね……」

 

 肉薄した状況での砲撃のため、瞬時にル級の16インチ連装砲の砲弾が眼前に迫るが、神通はいともたやすくル級の砲撃をかいくぐる。

 

暁「すごい、私とは全然違う……」

 

 神通の神速とも思える回避に、暁は驚きの声を上げる。

 

川内「ん、立てるようになったら那珂たちのところに行ってあげてよ、ここは私たちが何とかするからさ」

 

 倒れていたはずの暁が、いつの間にか立ち上がってこちらを見ている事に気がついた川内は、那珂たちの支援に向かうように暁に声をかける。

 

暁「えっ、あ、ありがとう……」

 

 不意に声をかけられた暁ではあったが、川内の言葉を理解して救援に来てくれた事にお礼を言う。

 

神通「お礼をきちんと言える、良いことですね」

 

 暁のとっさに出たお礼の言葉に、ル級の攻撃を回避しながら神通が微笑みを見せる。

 

川内「生真面目な戦闘狂や自称アイドルな妹じゃなくて、ああいう素直な妹がいたら可愛いのにねぇ~」

 

神通「だ、誰が戦闘狂ですか!?」

 

 

 

 

    ズガガガガ ズガガガガ

 

天龍「オラオラ! ここから先に進みたかったらこの天龍様を倒してからだぜ!!」

 

 迫り来る深海棲艦の航空機に機銃を連射して、多数の敵航空機を撃墜しながら天龍が立ち塞がる。

 

    ドォォォン ドォォォン

 

深雪「いっけるいけるぅ!」

 

白雪「敵の動きが鈍くなって来た感じがします」

 

 天龍に続いて、深雪と白雪も高角砲で敵航空機を撃破していく。

 

鳳翔「今のうちです、基地航空隊の皆さんも順次着艦して下さい」

 

 九六式艦戦隊に引き続き、自身の艦載機である零式艦戦21型隊も収容し、弾薬を補給後に再発艦させた鳳翔は、咲樂から託されていた基地航空隊の航空機も補給のための着艦準備に入っていた。

 

 補給を終えた後の鳳翔の艦載機たちの戦果は目覚ましく、敵航空機を圧倒し始めていた。

 

響「敵航空機の動きが明らかに不安定になってきている……」

 

鳳翔「艦載機は母艦を失ったら、帰る場所を失うほかに指揮系統も遮断されてしまいます」

 

 動きが悪くなった敵航空機に対し、鳳翔は自身の考えを口にし始める。

 

鳳翔「恐らくですが、暁さんたちが敵航空機を発艦させた空母と交戦し、一部を撃破し始めているのではないでしょうか?」

 

町井田「私も同じ考えだ、北方面には那珂や麗美の秘蔵っ子である五月雨も向かっている、もうしばらくの辛抱だ!!」

 

 鳳翔や町井田の言葉に、絶望的なまでの数の敵航空機を迎え撃たなければならないはずの艦娘たちは、士気を盛り返していた。

 

 

 

 

榛名「うぅ……、雪風さん、ご迷惑おかけしました……」

 

 何とか自我を取り戻した榛名は、痛む頭を押さえながら隣で声をかけ続けてくれていた雪風に謝罪をする。

 

雪風「榛名さん、もう大丈夫ですか?」

 

榛名「まだ少し頭が痛みますが、榛名は大丈夫です」

 

 言葉とは裏腹に、榛名の体は未だ小刻みに震えており顔色も悪くどう見ても『大丈夫』な状況では無かった。

 

雪風「雪風が付き添いますから、榛名さんは一度鎮守府に戻って休みましょう」

 

榛名「いえ、まだ敵は来ますし、仲間も戦っています……、榛名も大丈夫です」

 

 榛名を気遣う雪風に対して、榛名は頭痛を堪えながらも雪風に優しい笑みを見せて自分は平気だと主張する。

 

雪風「確かに深海棲艦の航空機が大軍で攻め寄せていますが、何だか様子がおかしいです」

 

榛名「敵はあれで全部でしょうか?」

 

雪風「あの航空機が来ている北側海域には、紅月提督の艦隊のみんなが深海棲艦と戦ってくれているみたいです、きっと大丈夫です!」

 

榛名「今は頼れる仲間がいるみたいですね……」

 

雪風「はい、だから榛名さんは少し休んでても大丈夫です!」

 

 しかし、榛名は雪風の言葉に首を横に振り、苦しそうに南東方向に視線を向ける。

 

榛名「私たちが後にした海域から、何かを感じませんか?」

 

 何か予言めいた榛名の言葉に、雪風は背筋が凍る様な感覚を覚えながらも榛名に笑顔を見せる。

 

雪風「何も感じません! 榛名さんは休んでてもらっても大丈夫です!!」

 

雪風「(榛名さんも感じているのでしょうか、あの海域から感じる敵の気配を……)」




北海道もついに桜が開花し、春の兆しが見えてきた今日この頃です。

原作の艦隊これくしょんでは、私の嫁艦でもある金剛がついに更なる改装を遂げてスーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人ならぬ改二を超えた改二丙(Hey!)になりましたが、慢心していた私は改装設計図不足で未だ改二丙(Hey!)には出来ていません……(T-T)

先週末には風邪をこじらせてしまって、この話の投稿が遅れてしまいましたが、金剛改二丙の速報を聞いて回復したので、私は大丈夫です!

次話が『平成最後の投稿』になるか『令和最初の投稿』になるかわかりませんが、平成中にもう1話投稿できたら良いなと思います。

出来なかったら、これが『平成最後の投稿』になるので、皆様平成の間は大変お世話になりました!!


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第40話 金色の深海棲艦

    ズダダダ

 

 龍星鎮守府の入渠施設があった場所の上空で、咲樂の僚機である零戦52型が、最後の1機になっていた深海棲艦の艦載機を追い詰め、咲樂の零戦レプリカがとどめとばかりに機銃を放つ。

 

    ドォォン

 

 咲樂の放った機銃は敵航空機に直撃し、敵航空機は上空で爆散する。

 

あかぎ「お見事です!」

 

咲樂「今回は気絶しなかったのですね……」

 

あかぎ「このくらい、『元』一航戦の誇りにかけて問題ありません!」

 

 咲樂の操縦にだんだんと慣れてきたあかぎは、激しい戦闘機動においても気を失うこと無く咲樂の戦いを見守っていた。

 

   ガタガタン…… プシュー

 

 急に咲樂の零戦レプリカが、激しい振動と共にプロペラを停止し機体のあちこちから白煙を上げ始める。

 

咲樂「ふぅ、なんとかここまでもってくれたのね、感謝するわ……」

 

 咲樂は燃料も底をつき、機体自体も限界を超えていたはずの愛機が力尽き機能を停止した状況を確認すると、優しく愛機に声をかけた。

 

あかぎ「か、感動的なシーンだとは思いますが、まだ上空ですよ! 大丈夫ですか?」

 

咲樂「エンジンは停止しても、まだ主翼は大丈夫です、この子を最後に墜落させたりはしませんわ」

 

 咲樂は自信に満ちた表情で、機体をコントロールして滑空させながら降下させていく。

 

咲樂「どこか、着陸できそうな場所はあるでしょうか?」

 

あかぎ「あっ、それならあそこに見える工廠の近くが広そうですよ」

 

 咲樂は、あかぎが指し示す方角を視認して、工廠横の空き地が着陸に十分な広さがあることを確認した。

 

咲樂「あそこなら大丈夫ね、入渠施設は壊されたけど工廠は無事だった様ね……」

 

 

 

 

 龍星鎮守府北側の海域では、那珂と五月雨が龍星鎮守府に空襲を行っているヲ級を討伐するために夜戦に突入していた。

 

五月雨「空襲を止めるためにも、ここでヲ級を倒しましょう!」

 

那珂「那珂ちゃんたちのナイトライブ、これから開演するよー!!」

 

 追撃してくるル級を食い止めてくれている暁のためにも、龍星鎮守府近海で迫り来る敵航空機と戦っているはずの響たちや町井田と龍星鎮守府の艦娘たち、龍星鎮守府で指揮を執っている麗美のためにも負けられない戦いの火蓋が切って下ろされた。

 

五月雨「まずは私が敵の注意を引きますから、那珂さんはいつものようにお願いします!」

 

那珂「とびっきりの那珂ちゃんライブ、行っくよぉー」

 

 頑丈な正規空母を確実に叩くためには、確実に攻撃をヒットさせなければならず、その確実性をあげるためには、狙い通りに攻撃を当てられる距離に近づくことと、暗闇の中でも狙いを定められるように視界を確保する必要があった。

 

 その手段として、あえて敵艦に発砲させることで敵の艦砲から発する発火炎を目印にする方法や、暁や神通が使用していた探照灯などを敵艦隊に照射して敵影を確認する方法などがあるが、敵のヲ級は空母であるためほとんど艦砲射撃をしてくることは無く、那珂も五月雨も探照灯を装備してはいなかった。

 

那珂「どっかーん!!」

 

 那珂は、2体のヲ級の裏へ回り込むと、突然上空へ向けて砲撃を開始する。

 

    ドォォォォン パンパン……

 

 那珂が放った砲弾は上空で小さく破裂すると、強い輝きを放ちながらゆらゆらと降下していく。

 

五月雨「いつもながら、那珂さんの照明弾はタイミングや場所がバッチリですね」

 

 五月雨は、12.7cm連装砲と61cm四連装酸素魚雷の発射管の照準ヲ級に合わせて素早く構える。

 

五月雨「前衛はお任せ下さい!」

 

 五月雨は、上空の照明弾に注意をそらされているヲ級に向けて連装砲を発砲する。

 

    ドォォォン

 

 照明弾に気をとられていたヲ級(ヲ級A)は、完全に不意を突かれた形となり、無防備な状態で五月雨の砲撃が直撃すると思われたその時、もう一体のヲ級(ヲ級B)が五月雨の攻撃に気がついた様で無防備なヲ級Aを庇うかのように立ち塞がる。

 

ヲ級B「ヲヲォ……」

 

 ヲ級Aを庇ったヲ級Bは、中破状態ではあるが依然海面に立っており鋭い眼光で五月雨を睨み付ける。

 

五月雨「この感覚……、ただのヲ級じゃない?」

 

 ヲ級Bは、五月雨を睨み付けながら赤いオーラの様なモノを全身から放ち始める。

 

五月雨「ヲ級エリート……、どうしてヲ級の高位体がこんな海域に!?」

 

 

 

 

五月雨「こんなところにまでエリート級が出現するなんて……」

 

 ヲ級の強化型ともいえるヲ級エリートが鎮守府の近海に出現したことに、五月雨は若干の焦りを感じていた。

 

那珂「那珂ちゃんセンター、一番の見せ場です!」

 

 五月雨の焦りを振り払うかのように、那珂がヲ級エリートに突撃を仕掛けて急接近する。

 

ヲ級エリート「カ、カンムスドモガ……」

 

 ヲ級エリートの声が聞こえた、那珂は寂しそうな表情を見せながらもヲ級エリートに肉薄し連装砲を突きつける。

 

那珂「もし生まれ変わったら、一緒にアイドルになろうね……」

 

 那珂は、ヲ級エリートに連装砲を発砲すると、その反動を利用しながら右に旋回しつつ酸素魚雷を放つ。

 

ヲ級エリート「グヲヲォ……」

 

 那珂の連続攻撃を受けたヲ級エリートは、生き残ったヲ級Aに後を託すようにゆっくりと海に沈んでいく

 

ヲ級A「ヲヲォ……」

 

 ヲ級Aは、共に行軍していたヲ級エリートの轟沈を悲しむ様に見守りながら、沈みゆくヲ級エリートに向けて右手をかざす。

 

五月雨「深海棲艦も、仲間とか友達の意識はあるのでしょうね……」

 

 五月雨は、感傷に浸りながらもヲ級Aにとどめを刺すために、連装砲と酸素魚雷を向け狙いを定める。

 

 すると、ヲ級Aの体からも赤いオーラが放たれて来て、沈んで行くヲ級エリートからも赤いオーラの塊のような球体が出現し、ヲ級Aに向かって移動をし始める。

 

那珂「なに、何が起こっているの!?」

 

 歴戦の艦娘である那珂や五月雨は、今までの戦いで通常の深海棲艦の上位体であるエリート級との戦闘を何度も経験しているが、このような光景を見るのは初めてであった。

 

五月雨「沈んで行く深海棲艦の力が、生き残った深海棲艦に引き継がれていく?」

 

 五月雨は深海棲艦の能力を計測するような装備は持ち合わせていないが、戦士としての感なのかヲ級Aの戦闘能力が強大になっていくことに気がつく。

 

那珂「こ、この感じって……」

 

 ヲ級Aは強い悲しみや怒りの感情をむき出しにしながら、那珂や五月雨を睨み付けてヲ級エリートから放出されたオーラの塊を吸収していく。

 

ヲ級A「ユルサンゾ……、キサマタチ!!」

 

 ヲ級Aの目が金色に輝き出すと、全身から放たれていた赤いオーラが金色に変化していく。

 

那珂「うそ……、金色のオーラの深海棲艦って……」

 

五月雨「あれは……、あれが伝説のフラッグシップ級……」

 

 

 

 

    ドォォォォォォォン ドォォォォォォォン

 

 川内と神通に追い詰められたル級は、苦し紛れに川内に砲撃を仕掛ける。

 

川内「うかつな動きは、負けにつながるよ!」

 

 夜間のため視認しにくいはずのル級の砲撃を、川内は容易に回避すると手に装備している12.7cm連装高角砲を砲撃音がした方向に向けて撃ち返す。

 

ル級「ぐぉぉぉ……」

 

 川内の砲撃を受けてひるんだル級に、神通が至近距離から探照灯を照射する。

 

ル級「ぐぁぁぁ……」

 

神通「貴女の相手は、こっちですよ!」

 

    ドォォォォォォォン ドォォォォォォォン

 

 いつの間にか背後をとっていた神通に驚いたル級は、闇雲に砲撃を繰り返す。

 

    ドォォォォン ドォォォォン

 

ル級「ぐぉぉぉん……」

 

 ル級が神通に注意を向けた途端、川内が背後から連装高角砲を撃ってきて直撃する。

 

川内「こっちだよ! さあ、私と夜戦しよっ!」

 

神通「戦いは一瞬で決まります、迷いのある方が負けなのです……」

 

 ル級が川内に意識を向けた瞬間、今度はル級の真横から神通が声をかける。

 

神通「魚雷は次発装填済みです!」

 

 ル級が神通がいる方向に視線を向けた時には、神通が放った酸素魚雷が目の前にまで迫っており、ル級の機動力ではもう回避することは出来なかった。

 

    ドゴォォォォン

 

 神通の放った酸素魚雷が直撃したル級は、激しく爆発を繰り返しながら水底へと沈んで行った。

 

川内「やったぁー!」

 

神通「ここはやりました、しかし、まだ空母がいます」

 

 2体のル級を仕留めた事に喜ぶ川内の横で、神通は神妙な表情で那珂たちがヲ級と戦闘中の海域に視線を向ける。

 

川内「たしかに、なんか嫌な感じがするんだよね……」

 

神通「川内姉さんも感じますか……」

 

 

 

 

    ドォォォォン ドォォォォン

 

 フラグシップへと進化したヲ級に向けて、那珂が連装砲を打ち込む。

 

ヲ級フラッグシップ「……」

 

 那珂の砲撃は、フラッグシップとなったヲ級に命中するが、ほとんどダメージを受けている様子は無く、ヲ級は無言で那珂を睨み付ける。

 

那珂「うそ……、那珂ちゃんの砲撃が効いていない?」

 

五月雨「あのヲ級はフラッグシップ化したことによって、装甲や耐久力が格段に上がっているみたいです!」

 

那珂「砲撃がダメなら、距離を詰めて魚雷を当てないと!!」

 

 那珂は発射管に魚雷が装填済みなのを確認すると、まっすぐにヲ級に向かっていく。

 

那珂「パワーアップしたからって、夜の間は艦載機を飛ばせないはず!!」

 

五月雨「そうです、夜が明ける前にヲ級をやっつけないと、パワーアップした艦載機を発艦されてしまいます!!」

 

 川内の夜間偵察機の様な特例を除けば、空母は夜間に艦載機を発艦することは出来ないため、フラッグシップとなったヲ級を仕留めるのは夜戦中である今しかないと判断した五月雨も、那珂と共にヲ級に突撃を仕掛ける。

 

ヲ級フラッグシップ「ワレワレハ、クライカイテイデ、クラシテキタ……」

 

 那珂たちに向かってつぶやくように言葉を向けてくる。

 

ヲ級フラッグシップ「トモノカタキヲ、カンムスドモヲ、マッサツスルノダ……」

 

 ヲ級は右手を那珂たちに向け、艦載機を発艦する時のような姿勢をとる。

 

五月雨「あれは、まさか!?」

 

 五月雨は急停止し、那珂に向かって叫ぶ。

 

五月雨「那珂さん! 止まって下さい!!」

 

 那珂は五月雨の声に気がついたが、五月雨が何故止まる様に言っているのか理解が出来ず反応が遅れていた。

 

ヲ級フラッグシップ「ユケッ! カンサイキタチ!!」

 

 ヲ級の声と共に、これまでの深海棲艦の艦載機とは異なり、球体に近い形の艦載機が出現する。

 

五月雨「那珂さん! 逃げてぇぇぇ!!」

 

 

 

 

美鈴「う、うぅ……」

 

 いつの間にか気を失っていた美鈴は、気がつくとベッドの上にいた。

 

美鈴「こ、ここは?」

 

 美鈴が目を覚ましたことに気がついた、白と赤色の作業服を着た黒いロングヘアーの女性が、すぐさま美鈴に近づいてきて声をかける。

 

あかぎ「目を覚ましましたね、具合の悪いところはありませんか?」

 

 美鈴は、初対面のあかぎに不思議な感覚を抱きながらも、自分の体を確認しながら上体を起こす。

 

美鈴「はい、特に異常は無さそうですが……」

 

 美鈴の不思議そうな表情に気がついたあかぎは、まだ挨拶をすませていなかった事を思い出し美鈴に正対して敬礼をする。

 

あかぎ「失礼しました、私は紅月准将にお世話になっているあかぎと申します!」

 

美鈴「は、はい、私は紅美鈴です! 助けていただいたようでありがとうございます!!」

 

 あかぎの敬礼につられて、美鈴もあかぎに敬礼をしながら名乗り返す。

 

    ガチャ

 

 美鈴が横になっていた部屋のドアが開かれ、明石が部屋に入ってくる。

 

明石「提督、目を覚まされたんですね!!」

 

美鈴「あ、明石!」

 

 明石は不満そうに頬を膨らませながら、美鈴が横になっていたベッドに近づいてくる。

 

明石「あれほど、『気』を使いすぎたらダメだと言ったじゃないですか!」

 

美鈴「ご、ごめん……って、どうしてここに?」

 

明石「夕張と鎮守府上空の敵機を撃墜したら、紅月准将から気を失っている提督が保護されて、近くにあった工廠に運び込まれたと聞いたので、海に向かった夕張さんと別れてここに来たんですよ!」

 

美鈴「そ、そうか……、入渠中にやられた金剛の仇は明石と夕張で討ってくれたんだね……」

 

 そう言いながら下を向く美鈴に、明石とあかぎはキョトンとした表情をしながら首をかしげる。

 

明石「いや、入渠施設を破壊した敵機を倒してくれたのは伊在井少尉ですし……」

 

あかぎ「入渠施設は破壊されましたが、金剛さんは……」

 

    ドタドタドタ

 

 明石とあかぎが、美鈴に状況を説明しようとした時、部屋の外から誰かが走ってくるような足音が聞こえて来た。

 

    バターン!!

 

 美鈴たちがいる部屋のドアが勢いよく開かれると、バスローブを着ている栗色のロングヘアーの女性が美鈴に向かって駆け寄って来た。

 

金剛「テーイートークゥー!!」

 

 突然の出来事に目を丸くしている美鈴に、バスローブ姿の金剛が抱きついて来たのである。

 

美鈴「こ……、金剛!?」

 

金剛「提督ぅー、深海棲艦の航空機と戦いながら倒れたと聞いて心配していたヨー」

 

 深海棲艦の航空機の爆撃でやられてしまったと思っていた金剛が、元気に飛びついてきながら涙目になりながらも美鈴に抱きついて頬ずりして来ている今の状況について、美鈴はいまいち理解が出来ずにキョトンとしていた。




何とか間に合いました、これが正真正銘の平成最後の投稿になります!!

今日は、家に帰ってきてからテレビをつけると、ちょうど天皇陛下が退任する儀式がライブ中継されていたのを見て、31年続いた平成が終わるのを初めて実感したような気がします……

次は新年号である『令和』初の投稿になりますが、西暦が変わってもよろしくお願いいたします!!


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第41話 フラッグシップ

 深海棲艦の爆撃でやられてしまい、もう会うことが出来ないと思い込んでいた金剛との再会を果たした美鈴であったが、突然の出来事に状況を整理することが出来ずにいた。

 

美鈴「いったい、何がどうなっているの?」

 

 美鈴が素朴な疑問を投げかけると、金剛は涙目のまま答える。

 

金剛「入渠の前に提督は、私をハグしてくれましたよね」

 

美鈴「ハグ? あぁ、確かに回復の『気』を送ったなぁ……」

 

金剛「提督のBurningなLoveが、私の体の傷を癒やしてくれたのデース!」

 

美鈴「血が止まったくらいにしか見えなかったけど、結構回復していたのかな?」

 

 金剛と話をしながら、美鈴は金剛が帰投した際に金剛の疲労を少しでも和らげようと、『気』を送った時の状況を思い出していく。

 

金剛「中破して帰ってきたはずなのに、入渠したら傷がほとんど治っていて、小破くらいの傷しか無かったので、お風呂は汗や体の汚れを落とすくらいで大丈夫だったのデース!」

 

明石「たしかに、負傷した金剛さんや疲労困憊になった鳳翔さんは、提督が抱きしめたら元気になっていましたね……」

 

 美鈴と金剛の会話を聞いた明石は、思い出したかのようにニヤニヤした表情で会話に加わる。

 

あかぎ「は、破廉恥な……」

 

 明石の話を聞いたあかぎは、両手で自分の口を隠しながら顔を真っ赤にしていた。

 

美鈴「えっ? 私なにか変なことした!?」

 

 邪な気持ちは一切無く、『気』で鳳翔や金剛を回復させようとしていただけの美鈴は、明石やあかぎがどう言う考えでこのような事を言っているのかが理解できずにいた。

 

金剛「提督ぅー、そういうことは時間と場所をわきまえなきゃ、Noなんだからネ!」

 

 金剛は、美鈴に邪心は無く、自分や鳳翔を癒やしたり元気づけたりするために抱きつき『気』を送ってくれたと言うことを理解した上で悪戯っぽく美鈴に語りかけた。

 

 

 

 

暁「暗い、何も見えない……」

 

 那珂と五月雨がヲ級を戦えるようにル級2体を引きつけていた暁は、援軍に現れた川内と神通にル級との戦闘を任せて那珂たちとの合流を目指していた。

 

 しかし、周囲は真夜中のように漆黒の闇に包まれており移動はまさに手探りといったところであった。

 

暁「探照灯も壊れちゃったし、怪我もしちゃって足も痛い……」

 

 暁は、周囲に誰もいないと知った上で普段はあまり口にしない弱気な言葉を口にしていた。

 

暁「鎮守府ではドジばかりの五月雨が……、同じ駆逐艦の五月雨が私なんかよりもあんなに強くて、立派なレディーなのに暁なんて戦場ではみんなの足を引っ張ってばかり……」

 

 初めて一緒に戦ったことで、五月雨の実力を知り、暁に対しても的確なアドバイスを送ってくれた五月雨と、同じ駆逐艦である自分自身の実力不足を思い知らされた暁は、怪我をしてしまった事と、未だに那珂や五月雨と合流出来ないで1人になってしまっている状況から、心が弱気な気持ちに支配されつつあった。

 

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 暗闇の中、周囲からは砲撃音や爆発音が聞こえてくる。

 

暁「後ろから聞こえてくる爆発音は、神通さんたちがル級を倒した音かな?」

 

 振り返ると、激しい爆発の炎と沈んで行くル級と思われる巨大な影が見える。

 

暁「怖いところもあるけど、神通さんはレディーだから負けたりなんかしないわよね」

 

 紅月鎮守府の水雷戦隊でも群を抜いて神通の訓練が厳しく、神通の訓練に恐怖を抱くこともあったが、暁が訓練で怪我をしてしまった時に神通がすぐに暁の様子に気がついて、優しく手当てをしてくれた事があり、それ以来、暁は神通のことをレディーと認めて尊敬していたのである。

 

暁「神通さんが暁を助けてくれたように、暁も仲間を助けられるようなレディーになるんだ!!」

 

 うつむきがちであった暁が、意思を新たに顔を上げると、前方に那珂が打ち上げていた照明弾の光がうっすらと見え始めた。

 

暁「あの光、あそこに五月雨たちがいるはずだわ……」

 

 照明弾の光を見て、そこに那珂や五月雨がいるはずだと確信した暁は、足の痛みに耐えながらも速力を上げ始める。

 

暁「みんなと一緒にヲ級たちを倒して、空襲を食い止めてみせるわ!!」

 

 暁は、響や雷、電の顔を思い浮かべながら、那珂たちが交戦している海域に向けて加速していくのであった。

 

 

 

 

    シュダダダダダ シュダダダダダ

 

 フラッグシップ化したヲ級から発艦された球体型の艦載機は、ヲ級と同じく金色のオーラを放ちながら那珂に攻撃を仕掛けてくる。

 

那珂「なんでっ!? きゃあぁぁぁ!!」

 

 夜戦中であることから、空母は艦載機を発艦できないと思い込んでいた那珂は不意を突かれてしまい回避をすることも、防御をすることも出来ずに艦載機の猛烈な攻撃にさらされてしまう。

 

五月雨「那珂さん!!」

 

 艦載機の攻撃を受け続けてしまっている那珂を救うため、五月雨が那珂に近づこうとするが瞬く間にヲ級の艦載機が五月雨の周囲を取り囲んでいた。

 

五月雨「そ、そんな……」

 

 五月雨は瞬時に危険を察知して一旦後退して、自分を取り囲んでいる艦載機を確認する。

 

五月雨「敵機は10機……、しかも動きも早さも今までの敵機とは桁違いです……」

 

    シュダダダダダァ シュダダダダダァ

 

 五月雨を取り囲んでいた敵艦載機が一斉に攻撃を仕掛けてくるが、危険を察知していた五月雨は紙一重で攻撃を回避する。

 

五月雨「は、早い……」

 

 なんとか敵艦載機の攻撃を回避している五月雨は、どうにかして那珂を救出して一度後退する方法が無いかを必死に考えていた。

 

    ズダダダダダ ズダダダダダ

 

那珂「こんなになっても、那珂ちゃんは絶対、路線変更しないんだから!」

 

 その時、中破してしまっている那珂が急に大きな声を出しながら五月雨を狙う敵艦載機に機銃を撃って来た。

 

五月雨「な、那珂さん!」

 

那珂「敵の艦載機は那珂ちゃんが全部引き受けるから、五月雨ちゃんはヲ級をやっつけて!!」

 

 敵艦載機に囲まれ集中攻撃を受けていた那珂は、何とか体勢を立て直しながら自身の危険を覚悟で敵艦載機を引きつけようとする。

 

五月雨「そんな、このままじゃ那珂さんが……」

 

那珂「アイドルはファンのみんなの応援があるかぎり、絶対に負けたりしないの……」

 

 敵艦載機の攻撃を受けてボロボロになりながらも、那珂は五月雨にとびきりのスマイルを見せる。

 

那珂「五月雨ちゃんはいつも那珂ちゃんのライブを見てくれていたよね……、応援してくれてる気持ちは届いていたから!」

 

 

 

 

 那珂は右足を軽く上下させながらリズムを刻み始めると、だんだんと体全身を動かし始める。

 

    シュダダダダダァ シュダダダダダァ

 

 敵艦載機は攻撃の手を止めずに那珂に攻撃をし続けるが、那珂はダンスを踊るように敵艦載機の攻撃を回避し始める。

 

    シュダダダダダァ シュダダダダダァ

 

 五月雨を攻撃していた敵艦載機たちも那珂に向かって行き、攻撃を那珂に集中し始めるが、リズムを取り戻した那珂は五月雨にウインクしながら華麗に回避していく。

 

ヲ級フラッグシップ「アイドル ダト……、フザケルナ……、アノ ケイジュンカラ、サキニ、シズメルンダ」

 

 深手を負ったはずの那珂が、急に艦載機の攻撃を回避始めた事に腹を立てたヲ級は、発艦させていた艦載機を全て那珂に差し向けて、那珂を撃墜するように命令する。

 

那珂「きゃは、ヲ級ちゃんも那珂ちゃんのファンになっちゃったかな?」

 

 数十機の艦載機からの一斉攻撃に晒されている那珂は、徐々に被弾が増えていくが艦載機に攻撃命令を続けるヲ級に手を振ったり、ウインクしたりなどファンサービスの様な行動を繰り返す。

 

ヲ級フラッグシップ「ケイジュン フゼイガ、チョウシニ ノルナ!!」

 

 那珂の行動にヲ級は怒りをあらわにしており、五月雨のことを忘れた様子であった。

 

五月雨「(那珂さんは、決死の覚悟でヲ級の注意を引いてくれているみたいです……)」

 

 五月雨に攻撃するチャンスを与えるために、那珂がヲ級の注意を引いていると判断した五月雨は、ヲ級の背後に回り込んで攻撃をするための機会を狙っている。

 

五月雨「魚雷の残りは4本です、この一撃に全てを賭けます!!」

 

 五月雨は酸素魚雷を全弾装填すると、ヲ級に気がつかれないように背後に回り込むために静かに移動を開始する。

 

ヲ級フラッグシップ「ケイジュンメ、オチロ! オチロォォォ!!」

 

 頭に血が上ったヲ級の視界には、仲間であるヲ級エリートを撃墜した那珂の姿しか映っておらず、五月雨を警戒している様子は全く無かった。

 

那珂「貴女の攻撃、凄い気迫を感じるよ……、那珂ちゃんもアイドルとして全力で行くからね!!」

 

 那珂は、次々と襲いかかってくるヲ級の艦載機の攻撃を回避しつつ、機銃で迎撃して確実に数を減らしていくが、数十機の艦載機からの攻撃を全て回避することは出来ておらず、ダメージは徐々に増えている状況であった。

 

 

 

 

 五月雨は、ムキになって那珂への攻撃を続けているヲ級の隙を突いて背後へ回り込むと、連装砲と魚雷の発射管をヲ級に向けて攻撃の準備を整える。

 

五月雨「これで勝負を決めます……、全弾発射! たぁーっ!!」

 

    ドォォォン ドゴォォォォォォン

 

 五月雨の放った連装砲の砲撃や酸素魚雷はヲ級に全弾命中し、不意を突かれたヲ級は激しい爆発と共に炎上する。

 

ヲ級フラッグシップ「グヲヲ……、マダ……ダ、マダ……」

 

 五月雨の攻撃を受けたヲ級は、大破炎上しながらも鋭い眼光で五月雨を睨み付ける。

 

五月雨「そ、そんな……、全弾直撃したはずなのに……」

 

 フラッグシップ化したヲ級は、五月雨の残弾全てをかけた猛攻撃にも耐え、ふらつきながらもすでに発艦している艦載機を操り那珂への攻撃を続行する。

 

ヲ級フラッグシップ「ケイジュン……、キサマダケデモ……」

 

    シュダダダダダァ シュダダダダダァ 

 

 ヲ級の艦載機による攻撃は苛烈さを増しており、必死に回避・迎撃を行っていた那珂ではあったが損害が大きくなり、ついには艤装が大破して炎上を始めてしまう。

 

那珂「うっ……、みんなが待っているのに、もう動けないの?」

 

 自身も艤装も満身創痍となった那珂は、だんだんと身動きがとれなくなってしまう。

 

五月雨「このままじゃ、那珂さんが……」

 

 完全に弾薬を撃ち尽くしてしまった五月雨は、那珂の救出に向かおうとするがヲ級の艦載機の一部が五月雨を妨害してきて進むことが出来なくなってしまう。

 

 

 その時、那珂を攻撃する艦載機に向かって一筋の光が照らされる。

 

五月雨「この光は、探照灯?」

 

ヲ級フラッグシップ「カンムスカ!?」

 

 暗闇の中で突然探照灯の照らされた艦載機たちは、目をくらまされる形となって一瞬ではあったが動きが止まる。

 

    ドガッ ズガァン

 

 その一瞬の隙を突いて、何者かが艦載機数機を叩き落として那珂の前に飛び込んで来た。

 

 

 

 

那珂「えっ? あ、あぁ……」

 

 那珂の前に飛び込んできた者の顔を見た瞬間、轟沈を覚悟していた那珂は思わず目に涙を浮かべる。

 

川内「変わり者だとは思うけど、これでも大事な妹だからね、やらせはしないよ!」

 

 那珂の前に飛び込んできた川内は、素手や蹴りで動きが止まっていた艦載機を叩き落としながらも、身動きがとれなくなっていた那珂の救出するために、瞬時に那珂の左腕を肩で支えながら曳航を始める。

 

ヲ級フラッグシップ「ケイジュン、ニガサンゾ……」

 

 ヲ級は混乱し動きが止まっていた艦載機たちに、川内と那珂への攻撃を行うように再度指示を出す。

 

    シュバッ ズガァン

 

 ヲ級の命令を受けた艦載機たちが、川内と那珂に攻撃を仕掛けようとしたその時、探照灯を照射していた艦娘が、川内たちと艦載機の間に飛び込みながら腰の軍刀を抜刀して艦載機を切り伏せる。

 

神通「次に日向さんからお借りしたこの刀の錆となりたいのは誰ですか?」

 

 神通は引き抜いた軍刀を構えながら、ヲ級の艦載機を威圧する。

 

五月雨「川内さん! 神通さん!!」   

 

川内「まぁ、私たちも弾切れだけどさぁ、神通を怒らせると怖いよー」

 

神通「あれがフラッグシップ化したヲ級ですか……、那珂ちゃんがお世話になったみたいですね……」

 

 丁寧な言葉遣いとは裏腹に、神通は鋭い眼光でヲ級を見据える。

 

ヲ級フラッグシップ「タマギレノ カンムスナド、モノノカズデハナイ!」

 

神通「この日向さんの特別な大業物『瑞雲』の切れ味と、日本のサムライの恐ろしさを貴女の体に刻み込んであげましょう……」

 

 体勢を低く構えた神通は、両手で持った刀の切っ先を向けてヲ級に向かって真っ直ぐに駆け出す。

 

ヲ級フラッグシップ「コシャクナ……、キサマカラ、タタキツブス!!」

 

 ヲ級は発艦済みの全艦載機に対して神通を攻撃するように命じ、数十機の艦載機が一斉に神通に向かってきて次々と攻撃を仕掛けて行く。

 

 神通は迫り来る艦載機を刀で切り払いながらも、左足に装備している探照灯をヲ級の顔に向けて照射する。

 

ヲ級フラッグシップ「ウッ、ナニヲ……」

 

 ヲ級は突然顔に照射された探照灯の光に、軽く目をくらまされながらも神通を睨み付ける。

 

神通「ふっ、かかりましたね……」

 

川内「援軍は私たちだけじゃ無いのさ!」

 

 

 

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 神通と正対していたヲ級の側方から、突然砲撃が行われる。

 

ヲ級フラッグシップ「ナ、ナンダト……」

 

 ヲ級は砲弾が飛んできた方向に顔を向けると、小柄な艦娘が真っ直ぐに向かってきていることに気がつく。

 

暁「ここで敵を倒して、司令官やみんなを守るんだから! やぁー!!」

 

 ル級との戦闘で負傷した足の痛みに耐えながら、暁が必死な形相でヲ級に突撃を仕掛けてきていたのであった。

 

ヲ級フラッグシップ「クチクカンガ、マダイタノカ!」

 

 ヲ級は暁に魚雷の残弾があることに気がつくと、艦載機たちに暁を撃破するように命令を出す。

 

 しかし、ヲ級の艦載機は1機も暁に向かって行くことは無かった。

 

ヲ級フラッグシップ「ナニヲ……シテイル!」

 

 ヲ級は艦載機たちがいるはずの方向に視線を移すと、鋭い刀裁きを見せる神通、舞うような体術を見せる川内、手当たり次第に撃墜された艦載機の残骸を投げつけて応戦している五月雨、この3人の艦娘たちの抵抗を受けていて、ヲ級の艦載機たちは暁の撃退に向かうことが出来ない状態であった。

 

ヲ級フラッグシップ「ナ……、バカナ……」

 

 弾薬が切れて戦闘を継続できなくなっているはずの艦娘たちが、精鋭であるはずの艦載機たちを足止めしているという考えられない状況に、ヲ級は混乱状態に陥る。

 

暁「この距離なら、暁だって外さないんだから!!」

 

ヲ級フラッグシップ「コンナ、ガキニ……」

 

暁「お子様言うなぁ!!」

 

 ヲ級の至近距離まで接近して来た暁は、魚雷と連装砲をヲ級に向けて一斉発射する。

 

    ドゴォォォォン ドゴォォォォォォン

 

 暁の攻撃はヲ級に直撃し、ヲ級は激しく爆発を繰り返して体全身が巨大な炎に包まれていく。

 

 

ヲ級フラッグシップ「……ワタシモ、シズムノカ……」

 

 自身が力尽き沈んで行く状況を理解しながら、ヲ級は周りを見渡していた。

 

 自分にとどめの一撃を加えた暁と、自分に大打撃を加えた五月雨は抱き合いながら互いの無事を喜んでいる。

 

 突如現れて、自分の艦載機を次々と切り落としていった神通と、同じく徒手空拳で艦載機を落としていった川内は、自分が倒された事で行動不能となり海面に墜落した艦載機たちを神妙な表情で眺めている。

 

 そして、自分の仲間であるヲ級エリートを自分の目の前で沈めた憎き軽巡である那珂は、悲しげな表情で沈んで行く自分を見つめている。

 

那珂「さようなら……、今度生まれ変わったら友達に……、一緒にアイドルになれたらいいな……」

 

 

 友の敵であるはずの那珂に看取られながら、友の力を受け継ぎフラッグシップにまで進化したヲ級は力尽き、ゆっくりと暗い海に沈んで行った。




お待たせしました、新年号の『令和』初の投稿となります!

令和元年と省略表記で書くと『R1』となり、明治乳業の某ヨーグルトや、スパロボの某リュウセイの愛機を思い出す今日この頃ですが……
『明治』と『リュウセイ』……

美鈴のテーマ曲の一つでもある『明治十七年の上海アリス』と、この物語での美鈴の鎮守府である『龍星鎮守府』につながってくるぞ!!

……などと自分に都合の良い連想を繰り返す今日この頃なのです(笑)


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第42話 ひとときの勝利

 暁たちがヲ級フラッグシップと交戦していた頃、龍星鎮守府北側海上において迫り来る深海棲艦の航空部隊に対して、龍星鎮守府の天龍、深雪、白雪、鳳翔と、紅月鎮守府の響、町井田率いる輸送艦ミディアは防衛戦を繰り広げていた。

 

町井田「敵の動きは明らかに鈍くなってきているが、もうすぐ約100機の第二波が来るか……」

 

響「敵の動きが鈍くなっているのは、暁たちのおかげかな?」

 

町井田「そうだな、那珂や五月雨、暁たちが敵空母と交戦して戦果を上げているからに違いないだろうな」

 

響「暁たちが敵空母を撃破してくれたら、敵の艦載機は行動不能になるはずさ」

 

町井田「その通りだ、敵の数はまだまだ多いが、きっと友軍が敵空母を仕留めてくれる、それまでの辛抱だ!」

 

 町井田は、目前にまで迫っている敵航空機の大部隊に不安を感じているであろう輸送艦の乗組員や、対空戦闘を繰り広げている艦娘たちを励ますように声をかけた。

 

 

白雪「あの深海棲艦の航空部隊を食い止めれば、私たちは勝てるのでしょうか?」

 

天龍「町井田さんも暁たちが、敵の空母を倒したらあの航空部隊を追い返せるっていっていたしな」

 

深雪「鎮守府も少しはやられちゃったけど、これ以上はやらせないぞぉ」

 

鳳翔「鎮守府を攻撃していた敵航空機隊は、提督や伊在井少尉が撃破してくれたみたいですから、私たちは目の前の敵を通さない事に集中しましょう」

 

 激戦の影響か、鎮守府との無線連絡が取りづらい状況であったが、咲樂と行動を共にしていた零戦52型の妖精さんから鳳翔に鎮守府の状況の連絡が入ってきていた。

 

鳳翔「それに、提督が新たに建造した軽巡洋艦の夕張さんがこちらに増援として向かってきているようです」

 

天龍「夕張……、たしか兵装実験艦をしていた巡洋艦だったか」

 

白雪「小型の天龍型よりもコンパクトな約3000トンの船体で5500トンクラスの巡洋艦と同等の火力をもっていたという実験艦ですね」

 

深雪「天龍型が小型と言っても、ウチの天龍さんはもの凄いけどなぁ……(わがままボディ的な意味で)」

 

天龍「ふふふ、深雪はわかってるじゃねぇか、オレ様は世界水準軽く超えてるからなぁ……(完成当時の性能的な意味で)」

 

 

 

 

 深海棲艦の航空機約100機からなる第二派の攻撃部隊が龍星鎮守府北側の防衛線にまもなく到達しようとしていたその時、敵航空隊の動きが見るからに鈍くなっていく様子が確認された。

 

町井田「敵艦載機たちの動きが妙だな……」

 

鳳翔「あの様子、指揮系統の乱れのように思われますね」

 

天龍「指揮系統の乱れだぁ?」

 

響「暁たちが空母を倒したのかい?」

 

 町井田は双眼鏡で敵航空隊の様子を観察しながらも、無線で周囲の艦娘たちと交信を行っていた。

 

 敵航空隊は急に北方向へ引き返したり、突然力を失ったかのように海面に墜落したりなど明らかに異常な状態であった。

 

    ザザッ ザーザーザー

 

 その時、無線機に雑音混じりの交信が入ってきた。

 

町井田「ん? この声は麗美か?」

 

 町井田は、無線機の感度調整を行った。

 

麗美「みんな聞こえるかしら?」

 

町井田「麗美……いや紅月准将、雑音が入っていましたが、現在は良好です」

 

響「響だよ、司令官、こっちもよく聞こえているよ」

 

天龍「こちら天龍、しっかり聞こえているぜ」

 

 麗美の無線に町井田や艦娘たちが次々と応答すると、麗美はそのまま言葉を続けた。

 

麗美「たった今、北方海域に出撃中の五月雨から通信があったわ」

 

響「暁たちはどうなっているんだい?」

 

 麗美の言葉に食いつくように響が声を上げる。

 

麗美「那珂、五月雨、暁の3名は、龍星鎮守府の北方海域で多数の敵水雷戦隊を打ち破った後に、正規空母ヲ級3体、軽空母ヌ級1体からなる敵機動部隊と交戦し……」

 

 麗美からの無線が入っている間にも、敵航空隊は次々と墜落していき、一同は麗美の言葉の続きを確信していた。

 

麗美「敵機動部隊の撃滅に成功したわ!!」

 

 

 

 

深雪「やったぜ、オレたちは勝ったんだ!」

 

白雪「これで鎮守府への空襲も止まるのですね……」

 

鳳翔「これも、紅月鎮守府の皆さんや町井田中尉の輸送艦の皆さん、伊在井少尉たち基地航空隊の皆さんのおかげですね」

 

町井田「それと、鎮守府を守るために懸命に戦った龍星鎮守府のみんなの頑張りのおかげでもある、みんなよく戦い抜いてくれた」

 

天龍「よっしゃー、みんなで掴んだ勝利だぜぇー!!」

 

 目の前に迫っていた敵航空機を指揮する敵機動部隊の壊滅により、敵航空部隊も戦闘能力を失い壊滅したことで、防衛戦の勝利に沸く一同は拳を天に突き上げたり、万歳をしてみたり、拍手をしてみたりしながら喜びを表現していた。

 

響「ところで司令官、暁は無事かい? みんなの足をひっぱたりしていなかったのかい?」

 

 響は照れくさそうに、帽子を深くかぶり直しながら姉である暁が無事であるかどうか尋ねた。

 

麗美「そうね……、敵を打ち倒したものの、こちらも無傷とはいかなかったわね……」

 

響「暁は、暁は無事なのかい?」

 

 麗美の言葉に、響が慌てるように質問を続けると、麗美の無線機から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

雷「響は暁のことになったら心配性になるわね」

 

電「響ちゃんと暁ちゃんは、なんだかんだ言って仲良しさんなのです」

 

 麗美の無線機から、電の負傷により龍星鎮守府へ帰投していた雷と電の声が聞こえてくる。

 

響「ふたりとも、無事に龍星鎮守府に帰投できたんだね」

 

雷「司令官も電も、私が助けるわ!」

 

麗美「ふふ、頼もしいわね」

 

 雷の言葉に、麗美が嬉しそうに答えた。

 

 

 

 

麗美「五月雨からの報告だと、旗艦の那珂がヲ級との交戦により大破、暁も夜戦突入時に敵増援として現れたル級2体との交戦により中破していて、今は援軍に駆けつけた川内と神通の協力を受けて那珂を曳航して龍星鎮守府に向かっているわ」

 

響「暁も中破だって、大丈夫なのかい?」

 

深雪「怪我をしているならこっちからも応援に向かおうか?」

 

麗美「心配いらないわ、暁は自力航行可能とのだし五月雨もフォローしてるみたいだから問題は無いわ」

 

響「しかし、怪我をしているなら泣いているんじゃないかな?」

 

電「その心配は無いみたいなのです」

 

雷「私も、さっき五月雨の報告を聞いて驚いたけど、この戦いで暁は成長したみたいよ」

 

響「どういうことだい?」

 

 暁を心配する響は、雷と電の言葉に耳を傾ける。

 

雷「夜戦に突入したときに暁は、ヲ級を攻撃する那珂さんと五月雨を守るために、探照灯を照射してたった一人でル級2体に立ち向かったらしいの」

 

電「しかも、暁ちゃんはその探照灯で援軍に向かっていた川内さんと神通さんに味方の位置を知らせて、無事に援軍が到着したらしいのです」

 

麗美「暁の勇気ある行動が無ければ、那珂や五月雨もやられていたかもしれなかったと、五月雨はえらく感動していたわね」

 

響「あの暁が、そんなに勇敢で機転の利いた行動を……、少し話を盛っているんじゃないのかい?」

 

 響は、麗美たちの口から語られる暁の武勇伝に内心喜びながらも、脚色があるのでは無いかと確認する。

 

麗美「まぁ、感動屋の五月雨からの報告だから、多少褒めすぎなところもあるかもしれないけどね」

 

大淀「で、でもぉ……、仲間を守るだめにぃ、ひどりでむかっでいぐなんで……」

 

 麗美の無線機から、何故か泣き声大淀の声が聞こえてくる。

 

鳳翔「大淀さん、どうしたのですか?」

 

麗美「なんか、暁の話を聞いていたら急に泣き出しちゃって……」

 

電「大淀さんも感動屋さんみたいなのです……」

 

 

 

 

    コンコン

 

咲樂「失礼する……」

 

    ガチャリ

 

 故障した愛機の整備を行っていた咲樂は、工廠の美鈴が休憩している部屋のドアノックし室内に入ってくる。

 

美鈴「あっ……」

 

 聞き慣れた声に美鈴がドアの方向を見ると、そこには髪型こそ違うものの、声も容姿も十六夜咲夜とうり二つの伊在井咲樂の姿が飛び込んできた。

 

美鈴「さ、咲夜さん!!」

 

 美鈴は、勢いよくベットから飛び降り咲樂の元へ足を進める。

 

金剛「提督ちょっと違うネ、『さくや』さんじゃなくって『さくら』さんデース!」

 

咲樂「紅美鈴提督ですね、私は金剛の紹介の通り咲樂、紅月鎮守府基地航空隊隊長の伊在井咲樂です」

 

美鈴「えっ……、あ、あぁ……」

 

 美鈴は、目の前の咲樂が咲夜ではないと言われて少し困惑するが、麗美と出会った際にも大人になったレミリア・スカーレットのように感じた事を思い出し、咲夜と咲樂がうり二つの別人であると頭で理解しようとした。

 

美鈴「(麗美さんは、レミリアお嬢様と比べると背も高いし大人びた感じだから区別がつくけど、この人は見た目も雰囲気も咲夜さんそっくりだから混乱しちゃうなぁ……)」

 

 美鈴が自分の頭を整理しようと集中していると、咲樂が美鈴に近づいて来て片膝を折り曲げ姿勢を低くして頭を下げてくる。

 

咲樂「先ほどは、助けていただきありがとうございました」

 

美鈴「えっ……」

 

咲樂「機体が限界を迎えていたため、敵機の掃討に手間取ってしまいましたが、紅提督の援護射撃のおかげで窮地を脱する事が出来ました」

 

美鈴「いえ、こちらこそ助けに来ていただいて……」

 

 咲樂の丁寧な言葉遣いと、瀟洒な雰囲気を見て美鈴の頭の中はどんどん混乱していく。

 

美鈴「(声も雰囲気も咲夜さんそっくりで、訳がわかんないよぉ……)」

 

 

 

 

あかぎ「はい、えぇ……そうなんですね、了解しました、皆に伝えておきます」

 

 美鈴と咲樂が挨拶を交わしていた時、あかぎは大淀からの無線で龍星鎮守府の北方海域での戦闘に勝利し、出撃していた紅月鎮守府の艦娘たちが龍星鎮守府に帰投中であるとの報告を受けていた。

 

明石「あかぎさん、何の連絡ですか?」

 

あかぎ「大淀さんから泣き声での無線だったので少し驚いたのですが、北海域での戦闘に勝利して出撃していた那珂隊が帰還してくるとの連絡でした」

 

美鈴「良い知らせなのに、どうして大淀は泣き声だったの?」

 

明石「あの娘、見かけによらず感動しやすくて涙もろいんですよ……」

 

 明石がニヤニヤしながら、大淀が感動屋であることを暴露すると、一同に笑い声が上がった。

 

美鈴「麗美さんの艦隊が北方面の深海棲艦をやっつけてくれたと言うことは、もう空襲は無くなったと言うことかなぁ?」

 

咲樂「(麗美さん? お嬢様に馴れ馴れしいわね……)」

 

 美鈴の言葉に、一瞬ではあったが咲樂の眼光が鋭く美鈴を突き刺す。

 

金剛「ははは、もうすぐ私の艤装の修理が終わるからまた出撃しようと思ってましたが、必要なかったみたいネー」

 

明石「出撃するって、そんな格好でですか?」

 

金剛「替えの服が無いネ、誰か貸して欲しいデース……」

 

 明石がバスローブ姿の金剛を見ながら訪ねると、金剛は頬を赤らめながら服が無くて着替えられないと告げる。

 

美鈴「そういえば、壊された入渠施設でボロボロになった金剛の服を見つけたけど、金剛はどうやってここに避難できたの?」

 

金剛「Oh! 提督にはまだ言ってなかったネー」

 

 金剛は、よくぞ聞いてくれましたと言う感じで美鈴の顔に指を突きつける。

 

 

 

 

金剛「さっきも言いましたが、提督のBurningなLoveで私の怪我は少し治っていたネ」

 

美鈴「でも、完全回復じゃ無かったよね?」

 

金剛「中破していたはずの私は、提督のLoveで小破まで回復した状態で入渠したヨ」

 

あかぎ「小破と言っても、戦艦なら回復に数時間はかかると思いますが……」

 

金剛「Yes! あかぎの言う通り、普通なら1時間以上はかかる怪我だったのデスガ、提督のLove Powerのおかげで、入渠の効果がPower Upしていたみたいで、10分くらいで私の傷はPerfectに治りましタ」

 

 金剛は爽やかな笑顔を見せて、美鈴の顔を見つめる。

 

あかぎ「そんな事ってあるのですか?」

 

美鈴「思ったより『気』の力が効果あったみたいだね」

 

明石「ラブパワー万能説が実証されましたね……」

 

咲樂「(理屈はわからないけどなんかわかる気がするわ、私もお嬢様が微笑んでくれたら、怪我や疲れなんか吹っ飛んでしまう気がする……)」

 

 金剛の言葉に一同は色々と思うところはあったが、金剛はそのまま言葉を続ける。

 

金剛「怪我が治ったのに、いつまでもお風呂にいても仕方ないと思ったので、お風呂から上がったのですが、来ていた服がボロボロだったので、脱衣場にあったバスローブを借りて着替えを探していたのデス」

 

明石「そういえば、そのバスローブは紅月鎮守府からの補給物資に入っていたやつですね」

 

咲樂「たしかに、お嬢様が気に入っているブランドのバスローブですね」

 

金剛「先にお風呂から上がっていた、鳳翔さんの零戦パイロットの妖精さんたちも探すのを手伝ってくれたのですが、駆逐艦サイズの着替えはあっても私のサイズの着替えが無くて、近くにある工廠に行けば予備とかあると思って入渠施設から離れていたのデス」

 

美鈴「なるほど、だから入渠施設が爆撃された時には、金剛たちはもう浴場にはいなかったんだね」

 

 美鈴が状況を理解すると、金剛は下をうつむき悲しそうな表情を見せていた。

 

金剛「私やパイロットの妖精さん達は無事でしたが、入渠施設にはまだたくさんの妖精さん達がいましタ……」

 

美鈴「そうだね、怪我をしてしまった妖精さん達もいたけど無事だった妖精さん達がみんな提督室に避難させてくれたよ」

 

金剛「そうですか、みんな大変だったのですネ……」

 

 美鈴の言葉を聞いた金剛は、顔を上げて窓から空を見上げる。

 

金剛「私がちょうど工廠についたときに、入渠施設が爆撃を受けましタ、その後すぐに宿舎も爆撃を受けたと知ったデス、だから私は工廠の妖精さん達に私の艤装の修理を急いでもらって、深海棲艦の艦載機を倒そうと思ったネ……」

 

美鈴「金剛……」

 

金剛「でも、艦載機たちは提督や咲樂さんたちが倒してくれマシタシ、艤装の修理も間に合わないし、私の着替えも無かったデース」

 

 

 

 

明石「金剛さんに合うサイズの服だったら、提督の服を貸してあげれば良いんじゃないですか?」

 

金剛「!?」

 

美鈴「たしかに、私と金剛なら背格好も似てるし少しサイズが合わないかもしれないけど着れるかな?」

 

金剛「あ、あわわ……」

 

 美鈴の服を貸すという話になった途端、金剛は顔を真っ赤にしながらうろたえ始める。

 

美鈴「どうしたの? 私の服なんかじゃやっぱり嫌かな?」

 

金剛「No、嫌なんかじゃナイですが、私のために着ている服を脱いで着せてくれるなんて……」

 

咲樂「誰も着ている服を脱いで渡すとは言っていないのでは?」

 

金剛「た、確かにその通りデース……」

 

 咲樂の言葉を聞いた金剛は、謎の勘違いをしていた自分が気恥ずかしくなって顔を真っ赤にしている。

 

美鈴「確か、工廠で私用の新しい提督服を作ってくれていたはずだから……」

 

明石「新しい服を貸しちゃうんですか?」

 

美鈴「ボロになった服を貸すのも気が引けるし、どうせ提督服なんかあまり着ないだろうから金剛に使ってもらうよ」

 

金剛「Oh! 提督用の士官服ですネー、カッコいいデース!!」

 

あかぎ「そのような大事なものを艦娘に着せても良いのですか?」

 

美鈴「金剛は大事な仲間だからね、問題ないよ」

 

 美鈴はあかぎにそう答えると、金剛を連れ立って部屋を出て行った。

 

明石「ははは、相変わらずメチャクチャな人だなぁ……」

 

あかぎ「ふふ、でも艦娘想いの、良い提督さんみたいですね」

 

 

 

 

雪風「北方から来た敵の航空機たちが散り散りになっています」

 

榛名「無線の入りが悪くて状況が確認出来ませんが、北方面は深海棲艦に勝利したみたいですね」

 

 龍星鎮守府の西側海上にいた榛名と雪風は、北方から迫っていた深海棲艦の航空機の大軍が壊滅していく様子を遠目に確認していた。

 

雪風「どうにも鎮守府の西側の海域は無線の調子が悪いみたいですし、一旦鎮守府に戻ってみんなと合流しましょう」

 

榛名「そうですね、南西側の海域から感じる嫌な感じは気になりますが、ここは一度鎮守府に帰投して体勢を立て直した方が良さそうですね」

 

 まだ本調子では無い榛名は雪風の意見に賛成して、二人は龍星鎮守府方向へと向かいだした。

 

 

    コノママ カエレルト オモウナ……

 

 榛名と雪風は、南西方向から声のようなものが聞こえて来たため足を止めて南西方向を確認する。

 

榛名「今の声、聞こえましたよね……」

 

雪風「まるでうめき声のような重たい感じの声ですよね……」

 

榛名「やはり、南西海域にはまだ敵が潜んでいるみたいですね」

 

雪風「雪風が様子を見てきますので、榛名さんは鎮守府に応援要請をお願いします」

 

榛名「私の感では、敵は複数の深海棲艦による艦隊だと思います、この場は榛名に任せて足の速い雪風さんに応援要請をお願いします」

 

 榛名は規模のわからない敵艦隊に対して、駆逐艦である雪風が単体で向かうのは無謀だとして、自らが敵の相手をしている間に機動力の高い雪風が無線の届く地点まで急行して援軍要請をするように依頼をする。

 

雪風「でも、榛名さんは本調子じゃ無いみたいですし……」

 

榛名「これでも、榛名は金剛型高速戦艦の3番艦ですよ…… それに艦娘となって金剛お姉様に再会できたばかりで沈むつもりもありません」

 

 心配そうな表情の雪風に、榛名は優しく微笑むと凜とした表情を見せる。

 

榛名「榛名は大丈夫です、雪風さんは速く鎮守府へ報告をお願いします」

 

雪風「わかりました、榛名さんも気をつけて……」

 

 決意に満ちた榛名の表情を見た雪風は、それ以上榛名を引き留めることが出来ないと察して、いち早く鎮守府に援軍を要請して榛名を助けようと心に決めて、全速力で鎮守府へと向かうのであった。




お待たせしました、本家艦隊これくしょんの2019年春イベントの真っ最中に第42話を投稿させていただきました!

本当は、春イベ開始前に投稿する予定だったのですが、気がついたら遅れちゃっていました……

春イベ開始と共に、ついにみんな大好き赤城さんが『改二』、さらには『改二戊』が実装されましたね!!
私は、設計図不足でまだ赤城さんを改二に出来ていませんが、早く赤城改二をみたいですね☆

個人的には、赤城さんや加賀さんの『改二』が実装された暁には、ネームド艦載機や零式艦戦21型(熟練)とか九七式艦攻(熟練)が更にパワーアップした零式艦戦21型(一航戦)なんかが出るのでは無いかと勝手に妄想していましたが、出ませんでしたね(笑)

それにしても、この『華人小娘と愉快な艦娘たち』を書き始めてから、今回の赤城さんもそうですが、作中に登場する天龍の『改二』が実装されたり、金剛も『改二丙』となったりと偶然でしょうが作品に縁のある艦娘が次々にパワーアップしてる気がします。

このまま行くと、今年中には鳳翔改二や雪風改二なんかも登場しそうですね☆
(深雪改二が出たら何らかの力が働いていると勘ぐっちゃいますww)


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第43話 部屋と士官服とワタシ

金剛「Wow! こんな新品、本当にお借りして良いのですカ?」

 

美鈴「帽子は何度かかぶったけど、こういうカチッとした服はあまり好きじゃ無くて、作ってもらったけど、サイズ確認で着た位なんだよねぇ」

 

 美鈴は、提督として着任した当初に裁縫が得意な妖精さんに仕立ててもらった提督服を、着用できる衣服が無くなってしまった金剛に手渡す。

 

金剛「Oh! 丈もちょうど良さそうデス、早速着させていただきマース!」

 

美鈴「シャツとかも支給品の中から金剛に合いそうなサイズのものを、いくつか明石が持ってきてくれたから合うのがあったら使ってね」

 

 美鈴はそう告げると、金剛が着替えやすいように部屋から出て行く。

 

金剛「海軍士官用の真っ白な制服って、クールでカッコいいデース!」

 

 金剛は密かに憧れていた白色の海軍士官服を手に、嬉しそうに着替えを始める。

 

金剛「うーん、ズボンはちょうど良いSizeですが、上着は少し大きい気がするネー」

 

 金剛は、上着の胸元が少しだけ大きな事に気がつき、手でダボダボさせていた。

 

金剛「提督は活動的だから、こういう方が動きやすいのかもしれないデスネー」

 

 金剛は、鎮守府内でも艦娘たちと一緒に運動や肉体労働をしていることの多い美鈴の事を思い出し、上着の胸元のサイズが大きいことについて勝手に納得していた。

 

金剛「ふふふ、我ながらなかなか似合っているネー」

 

 着替えが終わった金剛は、室内の鏡で自分の姿を確認しながら色々とポーズを決めてみたりなど悦に入っていた。

 

美鈴「金剛、そろそろ大丈夫かな?」

 

 部屋の外から、美鈴が金剛に声をかけてきたため、金剛は慌てて姿勢を正して直立する。

 

金剛「だ、大丈夫なのデース!」

 

美鈴「入るよー」

 

    ガチャリ

 

 美鈴がドアを開けると、見事に士官服を着こなした金剛の姿があった。

 

美鈴「おぉ~、似合っている! 格好良いよ!!」

 

金剛「へへ……、そうですか、似合っていますか?」

 

美鈴「前の服装もそうだったけど、金剛は白い服装が似合っているし、その服装だと本当の提督みたいだよ」

 

 美鈴の褒め言葉に、金剛は頬を赤らめながら得意げな表情を見せた。

 

 

 

 

麗美「帰還中の五月雨から、戦闘の詳細な報告データが送られてきたわね……」

 

大淀「はい、ただいまモニターに表示しますね」

 

    カタカタカタ

 

 龍星鎮守府北方海域での戦闘結果について、大まかな内容の無線報告を受けていた麗美ではあったが、五月雨から戦闘結果の報告書が送られてきたため目を通し始める。

 

麗美「戦闘終了直後は疲れているでしょうし、緊急事態が起きていない限り、報告は帰還してからで良いと言っているのだけどね……」

 

大淀「データ受信完了、開きます」

 

 龍星鎮守府提督室のモニターに、五月雨から転送されてきた報告書の内容が表示される。

 

大淀「!?」

 

麗美「ふふ、これは暁ね……」

 

大淀「えぇっ!?」

 

 モニターの全面に、デフォルメされながらもキラキラとキラ付けされた暁のイラストが表示される。

 

大淀「こ、これは?」

 

麗美「この戦闘のMVPを暁にして欲しいということね」

 

大淀「MVPですか……」

 

麗美「五月雨ったら、暁のことを大分気に入ったみたいね」

 

 大淀が報告書のデータを下にスライドさせていくと、『戦闘結果に関する報告書』と明朝体で書かれた表紙と思わしきページが表示される。

 

大淀「急に真面目な感じになりましたね……」

 

麗美「五月雨は優秀な子よ」

 

 報告書には数ページにわたり、五月雨たちの戦闘内容が詳細に記録されていた。

 

大淀「各艦の戦果についても記載されていますね」

 

麗美「1番練度の低い暁が、歴戦の五月雨や那珂を上回る戦果を上げたというところを見せてもらおうかしら」

 

 

 

 

    トントン

 

 麗美と大淀が五月雨の報告書を閲覧していると、誰かが提督室のドアをノックする。

 

麗美「在室しているわよ」

 

 麗美がドアの外にいるであろう、ノックしてきた者に対して返事をすると、雷の声が聞こえてきた。

 

雷「司令官、お茶を持ってきたわ!」

 

麗美「あら、ありがとう、入って良いわよ」

 

    ガチャリ

 

雷「紅茶が切れてたから、冷蔵庫にあったウーロン茶をもらってきたわ」

 

 麗美の返事を聞いた雷は、元気よくドアを開けると笑顔で提督室に入ってきた。

 

麗美「ありがとう、いただくわ」

 

 麗美は、雷が持ってきたウーロン茶を受け取るため、モニターの正面から移動して机に向かうと、雷が机に人数分の紅茶用のソーサーとティーカップを並べていた。

 

麗美「あら、持ってきたのはウーロン茶じゃなかったの?」

 

大淀「准将が持ってきたティーセットですね」

 

雷「さっきの戦闘でガラスのコップとかが割れちゃったらしいんだけど、司令官のティーセットは高そうだからって妖精さん達が死守してくれたみたいなの」

 

麗美「何だかここの妖精さん達に、余計な気を遣わせちゃったみたいね……」

 

 雷から、ティーセットの話を聞いた麗美は申し訳なさそうな笑みを見せながらも、大淀や雷と共に雷が注いでくれたウーロン茶を飲み始めた。

 

 

 

 

麗美「ところで、電の様子はどうなの?」

 

雷「空襲で宿舎や入渠施設が壊されちゃっていたから、入渠は出来ていないわ」

 

大淀「そうですよね……」

 

 中破していた電は、雷と共に提督室に立ち寄った後、怪我の治療のために一度提督室を後にしていた。

 

雷「でも、ここの仮眠室で休ませてもらいながら、怪我をして避難してきた妖精さん達と一緒に無事だった妖精さん達が治療してくれているわ」

 

麗美「入渠施設が壊されたのは痛いわね、妖精さんがいれば簡単な治療は出来ても本格的な治療は無理だものね……」

 

大淀「明石も簡単な治療は出来ますが、中破以上の負傷となると入渠施設は不可欠ですからね……」

 

 深海棲艦による空襲によって龍星鎮守府には多数の被害が出ており、艦娘が休憩する宿舎の大半や入渠施設が全壊してしまっていた。

 

 特にこの度の戦いでは多数の艦娘が負傷ていることから、入渠施設が破壊されたことは大きな痛手となっていた。

 

雷「ところで司令官、さっき大淀さんと見ていたのはなんなの?」

 

 ウーロン茶を飲み干した雷は、自分が提督室に入って来たときに麗美と大淀がモニターで眺めていた戦闘報告書が気になるようであった。

 

麗美「そうね、五月雨から北方での戦闘結果についての報告書が届いたから見ていたんだけど、雷も一緒に見るかしら?」

 

雷「暁が活躍したっていう話だったわよね、気になるわ!」

 

大淀「それなら、もう一度最初のページから見てみましょうか」

 

 大淀は、途中までスクロールしていた報告書を最初のページまで戻し、雷も最初から報告書が見られるように配意した。

 

 

 

 

雷「こ、これは……!?」

 

 提督室のモニターに表示された、暁のイラストを見て雷は戦慄する。

 

大淀「准将の話だと、五月雨さんが暁さんを評価して書いたものだとか」

 

雷「わかってるわ、あ、あの暁が五月雨さんにここまで評価されてるなんて……」

 

麗美「姉でありライバルの暁の活躍、雷はどう見るかしら?」

 

雷「ま、まぁ暁だって雷たちのお姉ちゃんだから、やるときはやるはずよ……」

 

 麗美の質問に対し雷は、焦っているような喜んでいるような微妙な表情を見せていたが、だんだんと口元がにやけてくる様子がうかがわれた。

 

雷「暁はプライドばっかり高いのに、いまいち自信が無くて失敗が多いからみんなからは『頼り姉ぇ(たよりねぇ)』なんて呼ばれることが多いけど、私たち暁型のネームシップなんだからね」

 

麗美「ふふ、嬉しそうで何よりだわ……」

 

 いつもは口げんかが多い暁と雷であるが、心の中では暁を認めている雷の様子を微笑ましく感じながら麗美たちは、五月雨の報告書を確認していった。

 

 

    那珂   空母ヲ級 1体(エリート級) 重巡リ級 2体

         雷巡チ級 2体  軽巡ヘ級 4体

         駆逐ロ級 5体  駆逐イ級 12体

         合計  26体

 

    五月雨  軽空ヌ級 1体  重巡リ級 2体

         雷巡チ級 3体  軽巡へ級 5体

         駆逐ロ級 6体  駆逐イ級 11体

         合計  28体

 

    暁    空母ヲ級 2体(内1体はフラッグシップ級)

         駆逐ロ級 1体  駆逐イ級 2体

         合計   5体    

 

 五月雨の報告書によると、各艦の戦果はこのようになっており、数字上では那珂と五月雨の戦果が際立っていた。

 

大淀「練度の影響か、暁さんの戦果は他の二人と比べると5分の1程ですね」

 

雷「でもヲ級2体撃破って凄いわね……、ところでエリート級は聞いた事あるけど、このフラッグシップ級ってなんなの?」

 

麗美「エリート級は通常の深海棲艦の強化型なのは知っていると思うけど、フラッグシップ級はそれを超えた存在で目撃された例はほとんど無いわ……」

 

 麗美は、雷の質問に答えながら軽く天井を見上げる。

 

麗美「詳しいことをいうと色々違うのでしょうけど、わかりやすく艦娘に例えるなら、エリート級が『改』、フラッグシップ級は『改二』と言ったところかしらね」

 

雷「改二の正規空母!? そんな凄い深海棲艦を暁が倒したっていうの?」

 

 麗美の説明を受けた雷は、思わず大きな声を出して驚きの表情を見せた。

 

 

 

 

    コンコン

 

 麗美たちが五月雨の報告書を確認していると、提督室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

麗美「誰かしら?」

 

 麗美がノックに応えると、ドアの外から複数の人の気配がした。

 

   ガチャリ

 

美鈴「麗美さん、遅くなっちゃいましたが戻りました~」

 

咲樂「(また、お嬢様のことを『麗美さん』だなんて馴れ馴れしいわね……)」

 

 そこには、工廠から戻って来た美鈴たちの姿があった。

 

麗美「メーリンに咲樂、あかぎも一緒だったのね」

 

明石「私もいますし……」

 

 名前を呼ばれ無かった明石が、ドアの外から顔をのぞかせると、更にその横から白い士官服を着たすらりと背の高い女性が現れた。

 

大淀「もう一人の方は……」

 

士官服の女性「皆さん、ご挨拶が遅れました……」

 

 士官服の女性は礼儀正しく、深々と礼をしており顔を見ることが出来ない。

 

麗美「どうも、あなたどこかで……」

 

 麗美は士官服の女性に礼を返しながらも、知っている人物であると感じていた。

 

 士官服の女性は、ゆっくりと顔を上げると満面の笑みを見せた。

 

金剛「ははっ、気づきませんでしたカ? 金剛デース!!」

 

 金剛は大きな声で名乗ると、左手を突き出して得意のポーズを決める。

 

雷「え!? 金剛さんも司令官になったの?」

 

大淀「さすがにそれは無いでしょうけど、その服装はどうしたのですか?」

 

 いつもの服装と違い、美鈴の士官服を着ている金剛に驚く様子の大淀たちに、美鈴と金剛が事のいきさつを説明した。

 

 

 

 

麗美「なるほど、戦闘で汚れてしまった服の着替えを探してる内に入渠施設や宿舎が爆撃されて着替えが無くなってしまったから、美鈴が普段着ていない士官服を貸したという訳ね」

 

美鈴「せっかくサイズを合わせて作ってもらったんですが、どうもいつもの服の方が落ち着くというかで、ずっと仕舞いっぱなしにしていたもので……」

 

金剛「Sizeもほとんど一緒でしたし、胸回りも大きめに作られているから動きやすくて快適デース!」

 

大淀「(あぁ、金剛さんも大きい方なのに、提督はもっと大きいから……)」

 

咲樂「(お嬢様に馴れ馴れしい上に、戦艦よりも大きいなんてなんか腹立つわ……)」

 

 服の胸回りのサイズが大きいことについて、動きやすくて快適だと喜ぶ金剛に対して、スレンダー体型である大淀や咲樂は、なにか別の感情を抱いている様子であった。

 

明石「大淀、どうしたの? 提督の胸部装甲を睨み付けてるみたいだけど?」

 

大淀「な、何でもありません!!」

 

 空襲の脅威が無くなった事で、一安心していた一行は和やかな雰囲気で談笑をしていた。

 

 

    ガガッ…… ザザザ……

 

 しかしその時、提督室の無線機から感度が悪い状態の通信音が聞こえて来た。

 

美鈴「今のは、無線機ですか?」

 

麗美「誰からの通信かしら?」

 

 美鈴たちは、無線機から聞こえて来た雑音に反応し、大淀が無線機の通信感度を調整しながら交信を試みる。

 

大淀「こちら龍星鎮守府、感度が悪く聞き取れませんがどちらでしょうか?」

 

    ザザ…… こち…… ゆ……ぜ ……とうし……い

    ……ら ……かぜ おう…… ……ます

 

 雑音混じりではあるが、かすかに少女の声が聞こえてくる。

 

美鈴「この声は、雪風?」

 

麗美「雪風と榛名は、この鎮守府の西方面にいるはずだわ」

 

大淀「こちら大淀です、雪風さんですか? 応答願います!」

 

    ザ…… ザザ…… こち…… ゆきか……す ……よど……ん

 

 雑音混じりではあるが、だんだんと雪風の声が聞こえてくる。

 

大淀「だんだん聞こえて来ました、雪風さんも聞こえますか?」

 

雪風「はぁはぁ……、え、援軍を……、榛名さんが交戦中……」

 

 未だに無線の感度が悪くて詳細が判明しないが、息も絶え絶えになっている雪風から、突然交戦中との無線が入り美鈴たちに再び緊張が走った。




5月の後半から忙しくなってしまい、更新が遅れていました……

そして、本家『艦隊これくしょん』の2019年春イベントもまだ攻略できていない状態ですが、第43話を投稿いたします(笑)

今回の春イベのE5攻略ボーナスには前回ここで触れた艦載機の『一航戦』仕様というか、まさかまさかの烈風改二戊型(一航戦/熟練)があるようで、これで烈風も赤城さんに「知らない子」と言われなくなって良さそうですが、ボーナス入手の条件がE5を甲で攻略しなければならないので、ウチの鎮守府ではまだ手に入れられそうにありませんね……(泣)



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第44話 榛名の戦い

 雪風からの無線を受け、戦いに決着がついたものとリラックスムードになっていた美鈴たちは動揺の色を隠せなかった。

 

金剛「榛名は、榛名はたった一人で戦っているのデスか?」

 

 かすかに聞こえた榛名が交戦中のとの雪風の無線を聞き、真っ先に反応したのは榛名の姉である金剛であった。

 

雪風「えっ……、こん……さん……すか……」

 

 無線での金剛の呼びかけに、雪風は気がついている様子であったが、雑音がひどくなりはっきりとした交信は行えていない状態であった。

 

美鈴「と、とにかく、応援を向けた方が良いよね……」

 

 美鈴は動揺しながらも、榛名や雪風がいる龍星鎮守府西方面への援軍派遣の必要性を口にする。

 

金剛「提督、私に行かせて欲しいネ! 榛名は私にとって大事なSisterネ!!」

 

 金剛は、必死な表情をしながら両手で美鈴の両肩を掴んで揺すりながら懇願する。

 

麗美「今、鎮守府にいる艦娘は金剛、雷、電の3人、明石や大淀は非戦闘員だし、他の艦娘は北方面から帰投中の五月雨たちを迎えに行ってしまっているわね」

 

咲樂「雷と電は入渠中ですし、金剛も艤装の修理がまだ完全ではありませんね、せめて私の機体が発艦可能なら良かったのですが……」

 

 麗美と咲樂は冷静に龍星鎮守府の現状を確認し、満足に援軍に向かえる者がいないと頭を悩ませている。

 

金剛「私の艤装はもう少しでなおりマス! もし、多少壊れていたって動ければ何とかするデス!!」

 

 金剛自身、多少強引とはわかっていたが、なんとしてでも榛名を助けたいという一心で、必死に美鈴に懇願する。

 

美鈴「艤装が動くようになっても、あれだけ主砲が壊れていたら……」

 

 中破して帰投した際の金剛の姿を見ていた美鈴は、金剛の艤装に装着された4基8門の主砲のうち、2基4門が完全に壊れていて使用できない状態であったのを見ており、この短時間での修理が不可能であろうと直感的に察していた。

 

金剛「ふふっ、それについては工廠の妖精さんに違うWeaponに換装してもらったから、問題Nothingデース!!」

 

明石「違う装備ですか?」

 

 

 

 

    ズゥゥゥゥゥゥン ズゥゥゥゥゥゥン

 

 龍星鎮守府の南西側海域から、低い独特の飛行音を立てながら突如としてして深海棲艦の艦載機たちが近づいてくる。

 

榛名「あれは、深海棲艦の艦載機!?」

 

 気配は感じるが未だに正体を現さない敵を警戒していた榛名は、突然の敵襲にも関わらず素早く反応することが出来ていた。

 

榛名「あれは……爆撃機もいる? 鎮守府には向かわせません!!」

 

 榛名は、主砲を上空の艦載機たちに向け狙いを定めようとした時、ふと金剛の顔と言葉を思い出す。

 

    -空母と戦うならこれが役に立つから、榛名に渡しておくネー-

 

榛名「金剛お姉さまから頂いた三式弾……、使うときは今ですね!」

 

 榛名は、金剛から譲り受けていた三式弾を自分の艤装に装填すると、素早く主砲を上空に向ける。

 

榛名「金剛お姉様……、どうか榛名に力を貸して下さい!」

 

    -それがあれば、榛名は敵の艦載機なんかに負けないはずデース!-

 

 榛名は、金剛の言葉を思い出しながら、深海棲艦の艦載機たちを主砲の射程圏内で捉える。

 

榛名「勝手は!榛名が許しません!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 榛名の放った三式弾は、深海棲艦の艦載機たちの周囲で炸裂し、多くの艦載機たちを仕留め、討ち漏らした艦載機たちも大半の友軍を失って体勢を取り直すためか一度撤退を始める

 

榛名「やはり敵部隊には空母がいるみたいね、さっきから感じていた気配は深海棲艦の偵察機でしたか……」

 

 突然の出現した深海棲艦の艦載機に、近くに敵空母がいると判断した榛名は、龍星鎮守府南西の海域から鎮守府方面へ引き上げてくる際、雪風と共に何度か感じていた気配の正体が深海棲艦の偵察機によるものだと断定する。

 

 榛名は、深海棲艦の艦載機が飛んできた方角に視線を向けると、遠目ではあるが複数の深海棲艦の姿が確認出来た。   

 

榛名「敵は空母クラスが2体に、巡洋艦クラスが2体、それに駆逐艦クラスが2体といったところね……」

 

 はっきりとした艦種までは特定できなかったが、大まかな敵戦力を把握できた榛名は大きく息を吸い込み、気合いに満ちた表情を見せる。

 

榛名「恐らくあれがこの海域の主力部隊ですね、金剛お姉様や提督たちのためにも、ここを通すわけにはいきません!!」

 

 

 

 

 龍星鎮守府北方海域での戦いに勝利した五月雨たちを、真っ先に出迎えに行った天龍、深雪、響たちとは別に、白雪と鳳翔は途中で合流した夕張と共に五月雨たちの出迎える準備をするため、町井田のミディアに乗艦させてもらって龍星鎮守府へ戻る途中であった。

 

鳳翔「入渠施設が破壊されてしまった様ですし、久しぶりに提督が作ったドラム缶風呂の準備をしなくてはいけませんね」

 

夕張「ドラム缶風呂?」

 

白雪「着任したばかりの夕張さんは知らないでしょうけど、鎮守府の設備が整うまでは、漂流物のドラム缶を提督が加工してお風呂にしていたんですよ」

 

町井田「確かに以前来たときにも、美鈴は物資が少ない中で色々作っていたしサバイバル能力は高いのかもしれないな」

 

夕張「何だかキャンプみたいで楽しそうね」

 

 ミディアの甲板で町井田や鳳翔たちは、戦闘が全て終了したものと思いこんで、リラックスしながら話をしていた。 

 

 すると、慌てた様子で一人の若い男性乗組員が町井田の下に駆け寄ってきた。

 

若い乗組員「ま、町井田さん、大変です!」

 

 その乗組員は、うねりのあるくせ毛が特徴的なまだ少年とも言える位の年齢の気が弱そうな男性であった。

 

白雪「あっ、阿室(あむろ)曹長じゃありませんか、お久しぶりです!」

 

 もともと、ミディアに乗艦していたことのある白雪はこの少年兵のことを知っていた。

 

阿室「あぁ、君は白雪だったかな、久しぶりだね」

 

 白雪の丁寧なお辞儀に、阿室も照れくさそうに会釈を返す。

 

町井田「曹長、何かあったのか?」

 

阿室「は、はい! 隼人……、いえ、小林軍曹が、龍星鎮守府の紅月准将からの無線を受け、南東方面に深海棲艦の艦隊が出現したとの連絡があり、出撃可能な艦娘は至急援護に向かって欲しいとのことです」

 

町井田「なんだって? レーダーには反応は無かったはずでは無いのか!?」

 

阿室「ミディアのレーダーも、甲斐さん……、いえ甲斐軍曹が確認中ですが、敵影は確認出来ていないとのことです」

 

鳳翔「しかし、紅月准将が根拠の無い指示を出すとも思えませんし、援軍に向かった方が良さそうですね」

 

町井田「しかし、見えないところからの敵となると、また別方向からも敵の出現の可能性もあるかもしれない……」

 

 

 

 

美鈴「雪風、こっちの声は聞こえる?」

 

 龍星鎮守府提督室では、無線の感度が悪く満足な通信が出来ていない雪風との交信を美鈴が無線のマイクを奪い取るような形で行っていた。

 

雪風「……まり、よくは……えていま……ん……」

 

美鈴「よく聞こえていないのね、こっちもよく聞こえていないわ」

 

麗美「今、金剛が艤装を取りに行っているけど、雪風たちの位置が不明瞭だと援軍が到着するのに時間がかかりそうね……」

 

大淀「今、明石と雪風の無線の電波を逆探知して位置を特定しようとしていますが、感度が悪いので正確な位置が判明しません」

 

咲樂「私の機体が使えたら捜索に出たいのですが、交換が必要なパーツが多くて現状では修理不可能ですわ……」

 

美鈴「空からの捜索……」

 

 咲樂の言葉を聞いた美鈴は、ふとあることを思い浮かべる。

 

麗美「メーリン、貴女が飛んで捜索するというのはダメよ、『気』の使いすぎで今日二度の倒れているのだから!」

 

 美鈴の考えを察知した麗美は、すかさず美鈴の考えを却下する。

 

美鈴「そ、そんなぁ……、まだ何も言っていないのに……」

 

明石「提督はすぐ顔に出るからわかりやすいんですよ、良い意味で」

 

あかぎ「素直と言うことでしょうか?」

 

咲樂「単純という意味じゃ無いかしら」

 

 

 

 

麗美「レーダーや無線機は不調だし、航空機での索敵を行いたいところだけど、今の龍星鎮守府に飛べる機体があれば……」

 

咲樂「私と共に来てくれた零戦52型を、燃料補給のために帰還させてしまったことが悔やまれます……」

 

あかぎ「(皆さん航空戦力を必要としている……、私に以前のような正規空母としての力があれば……)」

 

 麗美や咲樂の言葉を聞いたあかぎは、過去の戦いで艤装を完全破壊され轟沈寸前まで追い込まれたことで艦娘としての能力を失ってしまった自分を、無言で責めて責任を感じていた。

 

美鈴「鳳翔さんなら、町井田さんの輸送艦にいるはずだし、お願いしてみたらどうでしょう?」

 

大淀「防衛戦で戦っていた、天龍、鳳翔、深雪、白雪、そして紅月鎮守府の響も皆、燃料弾薬が尽きかけていて、鳳翔さんもすぐに艦載機を出すことは出来ません……」

 

明石「(あれ、そういえば前工廠で何か色々と妖精さんが開発していたような……)」

 

 明石は、自身が管理を任せられていた艤装について何かを思い出そうとしていた。

 

 

美鈴「昔見た漫画のように、大きな凧に乗って誰かが空を飛ぶとか?」

 

明石「に、忍者ですか!?」

 

咲樂「それに、そんな凧を作っているうちに、榛名がやられてしまうのではなくて?(でも、本当に凧で飛べるなら私も飛んでみたいわ!!)」

 

麗美「咲樂、貴女少し飛んでみたいとか考えていない?」

 

咲樂「そ、そんな非常識なことは!!(忍者とかカッコいいじゃないですか!!)」

 

麗美「時々、川内と仲良く話してたりするけど、実は忍者とか好きなんじゃないかしら?」

 

美鈴「(何だか麗美さん楽しそうだなぁ……)」

 

 咲樂をからかう麗美の表情を見て、どことなく紅魔館でのレミリアと咲夜のやりとりを思い出して、美鈴が懐かしい気持ちになっていると、部屋の外から誰かが歩いてくる足音が聞こえて来た。

 

 

 

 

    ガチャリ

 

 提督室のドアを開けたのは、修理を終えた艤装を装着した金剛であった。

 

金剛「提督、ワタシは準備OKデース、今すぐ出撃の命令を!!」

 

 美鈴の提督服と、壊れた電探カチューシャの代わりに急造された電探提督帽をかぶった金剛が、榛名たちの救援のために自分を出撃させるように美鈴に進言する。

 

大淀「しかし、まだ榛名さんたちの位置が判明していません、闇雲に出撃させても救援が遅れる可能性も……」

 

美鈴「飛行機か何かで、榛名が戦っている場所を調べることが出来れば……」

 

 いち早く金剛を出撃させてあげたいという気持ちの美鈴は、榛名の現在地がわからないという事態を解決する手段がないか腕を組んで悩んでいると、金剛が自信満々の表情で美鈴に近づいてくる。

 

金剛「提督ぅ~、工廠の妖精さんたちが、新しく艤装に装着してくれたこの装備を見るデース!」

 

 金剛は、提督室にいた一同に、壊れた主砲の代わりに装着された『零式水上偵察機』を見せる。

 

美鈴「これは、なんか変わった形だけど飛行機?」

 

麗美「零水偵!? それがあれば!!」

 

 金剛の新装備である『零式水上偵察機』を見た麗美は、一瞬表情が明るくなったが、再び思い悩むような表情をする。

 

麗美「でも、あまり明確なポイントがわからない今、よほど熟練のパイロットがいないと零水偵とはいえ……」

 

 新設されたばかりの艦載機のパイロットでは、この索敵任務は難しいのでは無いかと麗美は考えていた。

 

明石「思い出しました、確かに零水偵の開発には成功していたのですが、まだ操縦できるパイロットの妖精さんを訓練できていなくて、操縦士不在のため運用できていなかったはずでしたが……」

 

咲樂「操縦士のいない偵察機……、せめて人間サイズのものがあれば私が出撃出来るのですが……」

 

 明石の説明で、『零式水上偵察機』の操縦士がいないと知らされ落胆する美鈴たちに、金剛はニヤリと笑みを見せる。

 

金剛「Pilotですか? 問題Nothing!!」

 

 そう言うと金剛は、自分の両肩にいる3人の妖精さんを紹介する。

 

金剛「ここに一流の航空機乗りたちがいるデース!!」

 

妖精さん『コンゴウノ テイサツキノ ソウジュウハ ボクタチニ マカセテ』

 

 金剛の右肩で腕を組んでいる妖精さんが、美鈴たちに自信にあふれた発言をすると、美鈴は金剛の右肩に顔を近づけ、妖精さんの顔をのぞき込む。

 

妖精さん『ウワァ ビックリシタ! ッテ ニンゲンノ テイトクジャ ボクタチノ コエハ キコエナイヨネ』

 

美鈴「いや、聞こえるよ、ちゃんと言葉は伝わってきているよ」

 

妖精さん『エッ!? テイトクハ ボクタチノ コエガ キコエルノ?』

 

美鈴「最初はわからなかったけど、『気』の力が戻って来てから妖精さんたちの声が耳で聞こえる訳じゃ無いけど、頭の中に伝わってくるようになったんだ」

 

咲樂「何の装備も無く、妖精さんと会話が出来るというの?」

 

 美鈴と妖精さんの会話を聞いた咲樂は、驚きの表情を見せる。

 

麗美「確かに、私たちじゃ特製のフェアリンガルを使わなきゃ、妖精さんの声は聞こえないものね」

 

咲樂「はい、モールス信号や身振り手振りでの会話は出来ても、人間の聴覚では妖精さんの声は聞こえないので、お嬢様が開発したフェアリンガルを装着するか、フェアリンガル内蔵の無線機を使わないと言葉での意思疎通は無理なはずです」

 

 麗美と咲樂は、かつて麗美が妖精さん達と会話をしたいという理由で設計し、海軍本部にいる麗美の友人に製造してもらった、妖精さんたちの言葉が聞こえる『フェアリンガル』と言う装備を開発しており、艦隊の運営や咲樂と基地航空隊の意思疎通のために役立てていた。

 

麗美「それが出来てしまうのが、メーリンが『紅き龍』と呼ばれる所以なのかしらね」

 

咲樂「そうですわね……(美鈴提督を『紅き龍』と呼んでるのは、お嬢様だけでは?)」

 

 

 

 

美鈴「君たちは、確か鳳翔さんの飛行機に乗っていた妖精さんたちだったよね」

 

妖精さん『エッ? ソンナコトモ ワカルノ?』

 

金剛「提督は人間も妖精さんも艦娘も、みんな同じ仲間だと思って接してくれている人デース」

 

妖精さん『ソウナンダ、ダカラ ホウショウサンモ テイトクノコトガ スキナンダネ』

 

美鈴「鳳翔さんのところにいた妖精さんたちなら、金剛の飛行機の操縦もバッチリだよね!」

 

金剛「ワタシも、この妖精さん達のとCommunicationとれてますし、いけるはずデース!」

 

妖精さん『コンゴウニハ ナカマノ イノチモ タスケテ モラッテイルシ、オカシモ イッショニ タベタシ イマデハ トモダチサ!』

 

 会話の中からも、金剛と妖精さんたちのコミュニケーションがバッチリである事がうかがえ、『零式水上偵察機』の運用には問題ないと思われた。

 

麗美「通常空母系の艦娘以外は、『改』以上の練度が無いとパイロット妖精さんと連携がとれないのだけれど、金剛とこの妖精さんたちは問題無さそうね」

 

美鈴「なら、まずは金剛の飛行機で榛名たちを見つけてもらって、そこに金剛を向ければ良いという事でしょうか?」

 

金剛「大体のPointはわかっていますから、出撃して偵察をしながら榛名たちがいるPointに向かうのはどうでショー?」

 

明石「榛名さんは、歴戦の戦艦でしたが、艦娘になってからの戦闘経験は無くて練度不足です、いち早く援軍を出すためにも私も金剛さんの案に賛成します!」

 

美鈴「確かに……、麗美さんどうでしょうか?」

 

 美鈴は、金剛の進言を採用すべきかどうかを麗美に確認する。

 

麗美「私はここの提督じゃないし、あくまでもアドバイスしか出来ないけど、金剛の進言は理にかなっているとは思うわ」

 

美鈴「それじゃあ、この作戦で行くのもありと言うことですね」

 

麗美「この鎮守府の提督の貴女が復帰した以上、私がこの鎮守府の艦娘に指示をすることは出来ないし、するつもりも無いわ……、紅月鎮守府の艦娘は出撃出来る状態じゃ無いから、ここからはメーリンが指揮を執るのよ」

 

美鈴「そうか、この鎮守府の提督は私……、いつまでも麗美さんに頼るわけにもいかないと言うことですね……」

 

 麗美の言葉に、美鈴はついつい麗美に頼りすぎていたと言うことに気づかされる。

 

大淀「提督、みんな提督の指示を待っていますよ」

 

美鈴「そうだよね、よし!金剛は榛名救援のために鎮守府南西方面に出撃して!」

 

金剛「提督、了解ネー!!」

 

美鈴「妖精さんたちも、榛名や雪風を助けるために、金剛や私に力を貸して!!」

 

妖精さん『マカセテヨ!!』

 

 美鈴の言葉に、金剛の両肩に乗っている3人の妖精さん達は一斉に美鈴に敬礼した。




 色々忙しく、忙しいから……と自分に甘えて執筆が遅れているうちに、前回の投稿から1ヶ月以上経過してしまい申し訳ありませんでした。

 『作者失踪』と言われかねない空白期間となってしまいましたが、この物語を途中で投げ出すつもりはありませんし、今後もポンポン投稿できないかもしれませんが、頑張っていこうと思います!!


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第45話 榛名の対空戦闘

雪風「うぅ……、ここまで来てもまだ鎮守府と満足に交信が出来ません」

 

 援軍を要請するため、榛名と別れて龍星鎮守府に近づきながら無線で呼びかけ続けていた雪風であったが、電波状態が悪く無線が上手く通じない事と、今まさに敵艦隊と交戦しているであろう榛名を心配する気持ちから来る焦りで徐々に冷静さを失いつつあった。

 

美鈴「ゆきか……、きこ……る?」

 

 そんな時、雪風の無線機に相変わらず不明瞭な状態ではあったが美鈴からの通信が入ってくる。

 

雪風「しれぇ、聞こえます!!」

 

 焦りと不安から冷静さを失いかけていた、雪風には途切れ途切れではあっても美鈴の声は暗闇を照らす一筋の光のように感じられた。

 

美鈴「いまか……、こんごうが、えんぐ……に……うわ」

 

雪風「金剛さん? 援軍に来てくれるんですか!!」

 

美鈴「はる……が、しんぱ……だ……ら、ゆ……かぜ……は……なと、ごうりゅ……して」

 

雪風「雪風は、榛名さんと合流、これでいいですか?」

 

美鈴「そう、は……なと、ご……りゅう……て」

 

雪風「はい! 雪風は榛名さんを沈めさせません!!」

 

 無線状態は不明瞭であったが、美鈴からの無線で雪風の援軍要請が伝わっており、龍星鎮守府から金剛が援軍に来てくれるという返信があったことは、雪風の崩れかけそうになっていた心にこの上ないほどの勇気を与えた。

 

 

 

 

明石「艤装の装着に問題ありません、金剛出撃可能です!」

 

 明石の手によって艤装の最終チェックを受けていた金剛は、出撃可能とのチェック結果を受けてゆっくりと立ち上がりながら明石に笑みを見せる。

 

金剛「明石、艤装の装着手伝ってもらってThank youネ!」

 

美鈴「今すぐに援軍に向かえるのは金剛しかいないけど、北方面に出ている娘たちも準備ができたら援軍に向かってもらうから、無理は禁物よ!」

 

金剛「妹や仲間がピンチなのデス、多少は無茶はしちゃうと思いマスが、必ずみんなで帰ってくると約束するデース」

 

美鈴「帰ってくるまでにお風呂や晩ご飯の準備はしておくから、必ず帰って来るのよ!」

 

 そう言うと、美鈴は右拳を金剛に向けて軽く突き出す。

 

金剛「ハイ、約束デス!」

 

 金剛も、右拳を美鈴に軽く突き返して美鈴の右拳をタッチするように答える。

 

麗美「今回は美鈴の服を借りているんだから、被弾は出来ないわね」

 

金剛「ふふっ、その通りデース!!」

 

 麗美の軽くプレッシャーをかける様な激励にも金剛は軽く笑みを見せて答える。

 

あかぎ「妖精さんたちも、偵察機へ搭乗完了したようです、金剛さんも妖精さんたちも、どうかご武運を!」

 

金剛「妖精さんたちも、一航戦の赤城に色々と手伝ってもらったから、恥ずかしいところは見せられないと気合い入ってるみたいデース」

 

あかぎ「今の私は一航戦の赤城では無く、ただの『あかぎ』ですよ……(一航戦時代の『赤城』としての能力があれば、もっとみんなの力になれるのですが……)」

 

 あかぎは、まだ水上機になれていない妖精さんたちの搭乗準備を手伝いながらも、自身にかつて日本海軍最強との呼び声もあった、一航戦時代の正規空母としての能力が残っていればと思い詰めていた。

 

咲樂「水上機での実戦経験が無いとは言え、あの熟練と見まごうほどの練度を誇った鳳翔航空隊の妖精さんたちです、きっと上手くやれるはずですわ」

 

金剛「紅月のSilver Falconと呼ばれる、Ace Pilotに認められて、妖精さんたちもやる気満々デース!!」

 

咲樂「シルバーファルコンじゃなくて、お嬢様が名付けて下さった二つ名は『白銀の隼』ですわ!」

 

 咲樂の激励に、零式水上偵察機に搭乗している妖精さんたちは敬礼で答える。

 

大淀「金剛さん、榛名さんは私にとっても艦船時代に共に最後まで戦った戦友です、どうか無事に一緒に帰ってきて下さい」

 

金剛「艦娘になって色々な戦史を見て榛名や大淀たちの最後の戦いを知りました、でも今は燃料も弾薬もありますし、大好きな提督や大淀たち仲間もいます、みんなのLove Powerが有る限り絶対に勝って帰って来るネー」

 

 金剛は仲間たちの期待を背負いながら、榛名と雪風の救援のために龍星鎮守府の海岸から出港していった。

 

 

 

 

 空母を擁する敵艦隊を相手に、主砲の射程距離外で対峙し続ける事は不利と判断した榛名は、敵艦隊に突入し戦闘を開始する決意を固めていた。

 

榛名「必ず雪風さんは援軍を連れて来てくれます、それまでに少しでも敵を叩きます!」

 

 榛名自身、艦娘になってからの戦闘は初めてであり、練度不足であるということは重々承知していたが、艦船時代に日本の戦艦として老朽艦と呼ばれながらも、太平洋戦争で最も活躍した戦艦と呼ばれた金剛型戦艦としての誇りなのか、人型の身を得て芽生えた榛名自身の大和魂から来る行動なのか、榛名は数的不利な状況にも関わらず勇敢に深海棲艦へ立ち向かう。

 

    ズゥゥゥゥゥゥン ズゥゥゥゥゥゥン

 

 深海棲艦の艦隊から、先ほどとほぼ同規模の艦載機が榛名を目掛けて向かって来る。

 

榛名「今度の狙いは、榛名ですね……」

 

 榛名は再び主砲に、金剛から譲り受けていた三式弾を装填し、敵艦載機に向けて狙いを定める。

 

榛名「あの時は、比叡お姉様と霧島は鉄底海峡で散り、金剛お姉様は本土に帰還中に台湾沖で散ってしまい、榛名は一人残されてしまいました……」

 

 榛名は、艦船時代の記憶で姉妹艦たちが沈んでいったと言う報告を受け、金剛型戦艦姉妹の最後の艦として呉の港に帰港した事を思い出す。

 

榛名「でも、今は艦娘として再び生を受け、金剛お姉様と再会する事が出来ました……」

 

 榛名は、迫り来る深海棲艦の艦載機が、主砲の射程圏内に入るのを狙いを定めながら待っている。

 

榛名「きっと、この海のどこかで比叡お姉様や霧島もいると思いますし、姉妹みんなが再会出来る日が来るまで、榛名は戦い抜きます!!」

 

 敵艦載機に狙いを定める榛名の目に一段と力がこもり、先ほどまで過去の記憶によるトラウマに悩まされていた榛名は、スポーツ選手が極限まで集中力が高まった時に体感する『ゾーン』と呼ばれるような状態に達していた。

 

榛名「榛名!全力で参ります!!」

 

    ズゥゥゥゥゥゥン ズゥゥゥゥゥゥン

 

 榛名に向かって来る敵艦載機の大軍を目の前に、榛名は狙いを定めながら大きく息を吸い込む。

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 榛名は、特に敵艦載機が密集している二つのポイントを目掛けて、三式弾2発を発砲し多くの敵艦載機が爆発に飲まれて行く。

 

 先ほど龍星鎮守府への爆撃のために発艦していた艦載機が、榛名に迎撃された反省を生かして、榛名への攻撃は部隊を大きく二手に分けていた深海棲艦の艦載機たちであったが、極限までに集中している榛名によって大半の艦載機を失った状況であった。

 

 

 

 

    スコシハ ヤルデハナイカ…… ダガ コレナラ ドウダ……

 

 対面する深海棲艦の艦隊の方から、再び声のようなものが聞こえてくる。

 

榛名「この声は、深海棲艦なの?」

 

 榛名が、声の方向に視線を向けると、敵艦隊の中央にいる正規空母ヲ級と目が合った気がした。

 

榛名「あのヲ級があの艦隊の旗艦!?」

 

 中央のヲ級は、榛名と視線が合った事を察すると、ニヤリと笑みを浮かべながら周囲に赤いオーラを放ち始める。

 

榛名「あの雰囲気、ただ者じゃ無さそう……」

 

 敵艦隊の中央にいるヲ級は、その全身に赤いオーラを纏いながら、榛名がいる方向に右手をかざし、周囲に赤いオーラを纏った球体型の艦載機を展開させ始める。

 

 このヲ級も、龍星鎮守府の北側海域で五月雨や那珂が戦ったヲ級の高位体である、ヲ級エリートであった。

 

ヲ級エリート「オアソビハ オワリダ……」

 

榛名「くっ、この雰囲気は……、あの深海棲艦は間違いなく強い……」

 

 ヲ級エリートの雰囲気に榛名は気圧されてしまい、極限まで高まっていた集中力が途切れ、心臓の鼓動がどんどん早くなる感覚を抱き、体中から汗がどんどんと吹き出てくる。

 

ヲ級エリート「ホンノウデ ワタシノチカラヲ ミヌイタカ……」

 

 ヲ級エリートは、左手に持った黒い杖のようなものを頭上に掲げた後、力強く榛名の方向に向けて振り下ろす。

 

ヲ級エリート「イカシテオクト アトアト ヤッカイニ ナリソウダ ココデ シズメ!」

 

 ヲ級エリートの号令で、赤いオーラを放った艦載機たちが榛名に向かって飛来してくる。

 

榛名「これは、さっきの艦載機と比較にならないくらい早い!?」

 

 ヲ級エリートの艦載機は、先ほどまでの通常の敵艦載機と比べて倍以上の速度で、機動の一つ一つにキレと力強さを感じた。

 

榛名「迎撃を! ま、間に合わない!?」

 

 ヲ級エリートの艦載機が、榛名の眼前に迫ろうとするその時、榛名の後方から高速で向かってくる何者かの気配を感じた。

 

 

 

 

    ドォォォン ドォォォン

 

雪風「榛名さん、伏せて下さい!!」

 

 榛名が感じた気配の正体は、敵艦載機に砲撃を行いながら全速力で駆けてくる雪風であった。

 

榛名「雪風さん!?」

 

 雪風の声を聞いた、榛名は雪風の指示通り身を伏せながら後方の雪風に視線を向ける。

 

雪風「沈むわけにはいきませんっ!!」

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 雪風は、両手で持った12.7cm連装砲をヲ級エリートの艦載機に向けて発砲する。

 

 雪風が放った砲弾は的確に敵艦載機を捉え、少数ではあったがヲ級エリートの艦載機を撃墜していく。

 

ヲ級エリート「クチクカンガ イッピキ フエタテイド ドウトイウコトハナイ…… ヤレッ!!」

 

 突然の雪風の増援にも、深海棲艦の艦隊を指揮するヲ級エリートは動じること無く、冷静な声で水雷部隊に攻撃を指示する。

 

 出鼻を挫いたことで、ヲ級エリートの艦載機による攻撃を回避する事に成功した榛名と雪風に、重巡リ級率いる水雷部隊が突撃を仕掛けてくる。

 

榛名「敵は、重巡と軽巡に駆逐艦が2体の4体、対するこちらは榛名と雪風さんの2人、戦力差は2対1ですか……」

 

雪風「軽巡と駆逐艦は任せて下さい! 榛名さんは重巡をお願いします!!」

 

榛名「雪風さん一人で、3体も!?」

 

雪風「しれぇに無線は通じました、必ず増援は来てくれます!」

 

榛名「無線は届いたんですね!!」

 

雪風「はい! 鎮守府から金剛さんも来てくれます!!」

 

榛名「お姉様が!?」

 

 雪風の口から金剛の名前を聞いた榛名は、先ほどボロボロな状態で榛名と合流し龍星鎮守府まで曳航していった時の金剛の姿を思い出す。

 

榛名「お姉様は、自力で航行できないほどボロボロだったのに大丈夫でしょうか……」

 

 榛名の言葉から、不安な気持ちを感じた雪風は、榛名を勇気づけるように声をかける。

 

雪風「艦娘の怪我は、提督が高速修復材を使ってくれたらあっという間に治っちゃいますし、艤装の修理だって優秀な整備妖精さんたちがすぐに修理してくれます!」

 

榛名「しかし……」

 

雪風「それに、雪風たちが知っている金剛さんは、賢くて、とても強くて、みんなに優しい頼れる大戦艦なんです!!」

 

榛名「お姉様が、皆さんにそんなにまで……」

 

雪風「はい、だからどんなにピンチだって絶対、大丈夫!!」

 

 そう言うと、雪風は軽巡ヘ級1体と駆逐ロ級2体の合計3体を自分に引きつけるため、向かってくる敵水雷戦隊に突撃していく。

 

 雪風の背中を見つめる榛名は、雪風が不安になっている自分を勇気づけようとしてくれていることに気がつき、自分の胸に右手をあてて軽く頭を下げる。

 

榛名「雪風さんは、優しいのですね……、お心遣い、ありがとうございます」

 

 

 

 

妖精さん『コンゴウ ムコウデ ダレカガ タタカッテイルヨ』

 

 零式水上偵察機で、榛名たちがいると思われる海域に向けて偵察中の妖精さんから金剛に報告が入る。

 

金剛「その方角なら榛名たちに間違いないデース、もっと近づいて確認して欲しいネ!」

 

妖精さん『リョウカイ マカセテヨ!』

 

 榛名たちがいる龍星鎮守府の南東側海域に向かっている金剛は、零式水上偵察機の妖精さんたちに戦闘中の艦娘たちについて詳しく偵察するように指示を出すと、龍星鎮守府に妖精さんたちからの報告について一報する。

 

金剛「Hey、提督ぅー、妖精さんたちが南西方面で戦闘を確認したデース!」

 

美鈴「本当!? 榛名たちは無事なの?」

 

金剛「今、妖精さんたちが詳しく見に行ってくれていマース!」

 

大淀「こちらにも、妖精さんからの戦闘発見地点のデータが転送されてきました、他の艦娘たちにも至急連絡します!」

 

金剛「他にもHelpに向かえる艦娘がいるデース?」

 

 大淀の無線から、他に援軍に向かえる艦娘がいると察した金剛は、大淀に質問する。

 

夕張「こちら夕張、私だけだけど南西海域に向かっているわ!」

 

 金剛の質問に対して、鎮守府北方面に出撃していたはずの夕張が名乗りをあげる。

 

金剛「ゆうばり……、たしか兵装実験をしていたあの夕張ですカ?」

 

 まだ着任した夕張と接点が無かった金剛は、突然の夕張からの無線に驚きながらも、過去の艦船時代の夕張を思い出す。

 

美鈴「金剛が入渠した後に建造が完了して、北方面の応援に向かっていたんだけど、到着した頃には北側での戦闘が終わっていたから、燃料や弾薬もまだ大丈夫だからってそのまま、そっちに応援に向かってくれているのよ!」

 

金剛「足の速い軽巡が向かってくれているのはありがたいネー!」

 

夕張「足の速い軽巡か、あはは……」

 

 夕張の巡航速度は、他の軽巡や駆逐艦と比較しても決して劣るものでは無いが、艦船時代に改装により兵装の重量が増加すると共に速力が低下してしまったこともあり、本人は自分が鈍足だと勘違いしているため、夕張は自虐的に笑うのであった。




今年は7月になっても30度を超えるような日が無く、何だか夏だという実感が無いなぁと油断していたら、急に30度越えを連発されて困っている今日この頃です。

今年に入って、近くの市民プールが平日の夜まで一般開放されていることを知り、避暑と運動不足解消を兼ねて何度か通っていましたが、昔地味に得意だった潜水で伊168や伊58みたいにスイスイ潜水してみようと思っていたのですが、思った以上に体力が低下していて前に進まないし息も持たないという散々な結果に現実を突きつけられています。

提督として泳ぎぐらい出来なければと、少し頑張ってみようかと思いますが、昔から息継ぎが出来ない人間なのでなんともなぁ……、誰かボクに泳ぎを教えてくれる艦娘はいないでしょうかねぇ(笑)

艦娘は、みんな元々軍艦だし、きっと泳ぎは上手なんでしょうね(まるゆを除く……)


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第46話 援軍到着

~これまでのあらすじ~
 深海棲艦による龍星鎮守府による空襲から始まった鎮守府防衛戦。

 たまたま訪問していた、日本海軍のトップ提督の一人でもある紅月鎮守府の紅月麗美との共同戦線で何とか敵機動部隊を撃破して窮地を脱したと思った矢先に、主力が出向いていた北方面とは異なる南西方面から突如出現した敵機動部隊の出現に、雪風と榛名の二人だけで対応しなければならない状況に追い込まれていた。

 何故か無線機が不通となってしまっているため、榛名が決死の覚悟で敵を食い止めている間に、機動力のある雪風が単艦で龍星鎮守府に向かい無線機が何とか通じるところまで行ったところで、龍星鎮守府の提督である美鈴に援軍要請を求めた。

 援軍要請を聞き入れた美鈴は、鎮守府で艤装の修理を終えたばかりの金剛と、北方面に出撃していた艦娘の中で燃料や弾薬の消耗が少なかった夕張の二名に榛名たちの援軍を依頼していた。

 しかし、無線や電探が謎の不調で榛名たちが深海棲艦と戦っている詳細な海域が判明せずに困惑していたが、金剛の零式水上偵察機が遠目ではあるが榛名や雪風が戦う戦闘海域を発見し、金剛と夕張は援軍のため急行するのであった……


    ドォォォン ドォォォン ドォォォン

 

 軽巡へ級1体と駆逐ロ級2体が、雪風に向かって一斉砲撃をしかけ、複数の砲弾が雪風目掛けて飛んでくる。

 

雪風「沈むわけにはいきませんっ!!」

 

 雪風は巧みに深海棲艦たちの攻撃を回避しながら、ヘ級に向けて主砲の照準を合わせようとする。

 

    ズダダダダ ズダダダダ

 

 しかし、その雪風に向かってヲ級から発艦していた深海棲艦の艦載機が機銃を斉射してくる。

 

雪風「くっ、空母も何とかしなきゃいけませんね……」

 

 とっさに敵艦載機からの攻撃を回避する雪風であったが、敵水雷部隊と敵艦載機からの攻撃により反撃の機会を奪われていた。

 

榛名「は、早く重巡を倒して雪風さんを援護しなければ!!」

 

 重巡リ級と対峙していた榛名も、リ級からの砲撃とヲ級エリートの艦載機からの攻撃にも晒されており、リ級に反撃することが出来ない状態であった。

 

雪風「思ったよりも、敵空母の対応が早いです……」

 

榛名「こ、このままでは……」

 

 何とか敵の攻撃を回避している榛名と雪風ではあったが、数的な不利と制空権を喪失している状況でじりじりと追い詰められていた。

 

 

 

 

金剛「榛名たちが心配デス、まだ戦闘海域には到着しませんカ?」

 

妖精さん『テキノ カンサイキガ オオクテ コノママジャ チカヅケナイヨ!』

 

 金剛の問いかけに対して、零式水上偵察機を操縦する妖精さんから、制空権を喪失している状況では偵察に向かえないという回答が返ってくる。

 

金剛「うーん、この距離ではまだ支援砲撃も出来なさそうですシ、ワタシの速度では戦闘海域に着くまでまだ時間がかかりマース……」

 

 金剛の位置からでは、まだ戦闘海域を目視することは出来ず、零式水上偵察機も接近できない状況では、仮に主砲の砲弾が届いたとしても、誤って友軍を攻撃してしまう危険性もあった。

 このように、むやみやたらに支援砲撃を仕掛けることも出来ないことから、金剛は頭を悩ませていた。

 

 

麗美「零水偵は偵察能力には優れているけど、戦闘能力は無いに等しい機体だから、ヲ級2体分の艦載機が飛び交う戦場にまともに突入することが出来なさそうね」

 

大淀「金剛さんも困っているようです、ここはなにか指示を送った方が良いかと……」

 

美鈴「武器も無く敵の大軍に突入……、そんなの妖精さん達に死にに行けというようなものだよ……」

 

咲樂「私ほどではないですが、鳳翔隊の妖精さんの練度は高いですから何か策があれば偵察は可能なはずですわ」

 

 咲樂の言葉に、美鈴はふと麗美に視線を向ける。

 

麗美「なにかアドバイスを求めているような顔ね、メーリンには何か考えは無いのかしら?」

 

美鈴「うっ……、一体どうすれば良いか指示を頂けないかと……」

 

麗美「ここの提督はメーリンだと言ったはずよ、何でもかんでも私が口出しするわけにはいかないわ」

 

 麗美には何か策がありそうではあったが、あえて口には出さず美鈴に一任するといった表情で美鈴から離れて行き、提督室の窓から戦闘が行われている南西方向を眺め始める。

 

咲樂「お嬢様は無能な者には大事を任せたりはしないわ、貴女ならきっと出来るはずだと信じているからこそ、この場は口を出さずに見守ろうとしているのですわ」

 

 戸惑う美鈴の肩に手を当てて、咲樂は優しげな表情で美鈴に小声で声をかける。

 

美鈴「私を見守ってくれている?」

 

咲樂「貴女はお嬢様に馴れ馴れしいし、いつの間にかお嬢様に気に入られていて少し気に入らないですが、お嬢様の人を見る目に間違いは無いですから、私も貴女のことを信じてみようと思うわ」

 

美鈴「咲樂さん……」

 

咲樂「私も貴女のことは何だか他人とは思えないですし、昔からの友人の様な感じすらするくらいですわ」

 

美鈴「えっ……?」

 

咲樂「貴女は不思議な人ね、艦娘の艤装を扱えたりすることもそうですが、お嬢様ほどではありませんが人を惹き付ける魅力があるのかもしれませんわ」

 

美鈴「あ、ありがとうございます……」

 

咲樂「私やお嬢様もいるのだから、貴女は自分が思うように戦えば良いと思うわ……」

 

 そう美鈴に小声で語りかけると、咲樂は麗美のいる窓際に歩いて行く。

 

美鈴「私の思うように戦うか……」

 

 

 

 

あかぎ「紅提督、まもなく夕張も金剛に近づきますが、このまま合流させますか?」

 

 提督室のモニターを見ていたあかぎが、美鈴に南西海域に向かっている金剛と夕張が近づいてきている事を報告する。

 

美鈴「遠くにいた夕張が金剛に追いついてきたと言うことは、夕張の方が金剛よりも移動速度が速いということか……」

 

明石「金剛さんの巡航速度は約30ノットに対して、夕張の巡航速度は約35ノットですから夕張の方が足は速いですね」

 

 夕張の話を聞いた美鈴は、何かを思いついたようにモニターに視線を向ける。

 

美鈴「金剛の飛行機を突入させるのに真正面からじゃダメだったら、フェイントを入れて敵の注意をよそに向けてみたらどうだろう」

 

大淀「陽動をかけると言うことですか?」

 

美鈴「夕張には敵の北側に回り込んでもらって、金剛の飛行機には東側から突入してもらえば敵の裏をかけるのではないかな」

 

明石「良いですね、夕張には暴れてもらって敵の注意を引き付けてもらいましょう!」

 

 

咲樂「紅提督は、せっかく揃いつつある戦力を分断するつもりでしょうか?」

 

麗美「でも、陽動自体は悪くは無いと思うわよ」

 

咲樂「お嬢様も同じ作戦をお立てになりますか?」

 

 咲樂は、給湯室から運んできた麗美のティーセットを机に並べお茶の準備を始める。

 

麗美「あら、紅茶は切れていたはずだけど、貴女もウーロン茶をもらってきたのかしら?」

 

咲樂「ウーロン茶ですか?」

 

 咲樂は麗美に笑みを見せながらティーカップにお茶を注ぐと、その香りに麗美は驚きの表情を見せる。

 

麗美「このベルガモットの香りは、アールグレイかしら?」

 

咲樂「出撃の際に、以前お嬢様にお褒めいただいたオリジナルブレンドをお持ちしました」

 

麗美「ちょうど、持ってきた茶葉が切れていたから助かったわ」

 

 麗美と咲樂は、提督室の片隅で休憩を始めて、以降の艦隊指揮はこの龍星鎮守府の提督である美鈴と艦娘たちに一任する構えであった。

 

 

 

 

夕張「えっ、金剛さんと合流せずに別行動をとるんですか?」

 

美鈴「金剛の飛行機が敵艦隊に突入出来るように、夕張は敵の注意を引いて欲しいんだよね」

 

夕張「金剛さんの飛行機?」

 

明石「あぁ、提督の説明だけじゃわかりづらいよね……」

 

大淀「再出撃した金剛さんは、零式水上偵察機を搭載していますが、その零式水上偵察機で敵艦隊や雪風と榛名さんの状況を把握したいのです」

 

夕張「なるほどぉ、こちらで把握している状況だと、金剛さんも主砲の射程ギリギリのところくらいまで来ているみたいだし、場合によっては援護射撃も可能だもんね!」

 

大淀「はい、しかし敵には空母ヲ級が2体いるようで、制空権は完全に奪われていますし、金剛さんの零式水上偵察機3機を突入させる事が出来ないのです!」

 

夕張「敵の注意を引いて、あわよくば敵の艦載機をこっちに引き付けちゃえば零水偵が突入出来て、敵の情報は丸裸に出来ちゃうという訳ね!」

 

 美鈴の指示を大淀が的確に夕張に伝え、夕張の理解力の高さで美鈴が考えていた以上の作戦へと昇華させていく。

 

美鈴「えっ……、なんか私が考えていた事より凄そうな事になっているけど、どういうことなの?」

 

あかぎ「金剛さんの現在地は、金剛さんが装備している35.6cm連装砲の射程を考えると、ちょうど榛名さんたちが深海棲艦と戦っている地点に届くか届かないかと言うくらいの距離なのです」

 

美鈴「おぉ! そんな絶好の位置だったんですね!!」

 

あかぎ「金剛さんが搭載している零式水上偵察機は、敵部隊を偵察する以外にも艦娘と連携をとることで、艦娘の肉眼では見ることが出来ない距離を詳しく見ることが出来るので、遠距離攻撃の時に艦娘の目の代わりとなって砲撃のずれを確認して、次の砲撃に向けて修正を促すことが出来るのです」

 

美鈴「よく見えない敵へ攻撃したときに、攻撃が外れても妖精さんが『もう少し前』とか『もう少し右』とか教えてくれるってこと?」

 

あかぎ「そういうことですね」

 

美鈴「すごい、それなら戦闘地点に到着する前でも、上手くいけば敵を攻撃することが出来るって事なんですね!!」

 

あかぎ「そうです、このような偵察機の弾着観測の支援を受けながらの砲撃を、『弾着観測射撃』と言い、紅月提督もよくお使いになる作戦ですね」

 

美鈴「知らなかったですが、艦娘と妖精さんの連係攻撃みたいで凄そうですね! 勉強になりました!!」

 

 美鈴は解説をしてくれたあかぎに対して、深々とお辞儀をしながらお礼の言葉をかける。

 

 

 

 

咲樂「わかっていて弾着観測射撃を狙っているのかと思いましたが、ただの偶然の様ですね……」

 

麗美「メーリン自身は、もっとシンプルに金剛を戦闘海域に突入させるために、夕張に別方向から陽動させようとしたのでしょうけど、金剛ははじめからこれを狙っていたでしょうし、大淀や夕張も美鈴の指示がこれを狙ってのものと勘違いしたのかもしれないわね」

 

咲樂「紅提督は、人徳はあるみたいですが司令官としては素人の様に見えますけど、私たちが指示を出さずに大丈夫でしょうか?」

 

 艦隊指揮についてはまだまだ素人である美鈴の姿を見て、不安に感じた咲樂とは対照的に、麗美は冷静でありながらもどこか嬉しそうに美鈴たちのやりとりを眺めている。

 

麗美「咲樂、提督みたいに、人の上に立つ者にとって本当に必要なものは何だかわかるかしら?」

 

咲樂「的確な状況判断や、優れた統率力でしょうか?」

 

麗美「たしかに、部隊を指揮するものとしてはその能力は必要だけど、貴女のように優れた参謀がいたらカバーできると思うわ」

 

咲樂「それでは、人を惹き付けることが出来るようなカリスマ性でしょうか?」

 

麗美「そうね、たしかに人を惹き付ける様な人物には優秀な人材が集まってくるでしょうし、そんな能力があればその組織をより強大なものにすることが出来るかもしれないわね……」

 

 麗美はそう言うと、一息入れるようにティーカップを手に取り、咲樂が淹れた紅茶を一口飲み、ティーカップをゆっくりとソーサーに戻しながら再び口を開く。

 

麗美「私が思うには、自分が偉いとふんぞり返って威張ったりせずに、常に思いやりを持って人と接する事が出来ると言うことが、人の上に立つ者が持つべき能力だと考えているわ」

 

咲樂「そ、そのようなシンプルなものなのでしょうか?」

 

麗美「確かに、その上で咲樂が言ったような状況判断が出来たり、統率力があったり、カリスマ性があったりすれば良いでしょうけど、人の根底は意外とシンプルなものだと思うわよ」

 

咲樂「なるほど才能よりも、人に好かれるような者の方が良いと言うことですね……」

 

麗美「私もそうだけど、貴女だって嫌いな上官に指示されるよりも、好きな上官に指示された方が頑張ろうと思うでしょ?」

 

咲樂「はい、それは間違いないですね」

 

麗美「それに、状況判断が抜群で、類い希な統率力があって、カリスマ性が抜群な完璧な人物なんてそうそういないわよね、その上誰からも好かれるような人なんかいるなら私も会ってみたいわ」

 

 麗美は、そう言うと悪戯っぽく笑みを見せる。

 

咲樂「そ、そうですわね……(私にとってお嬢様は、まさにその完璧な人物ですけどね)」

 

 

 

 

 美鈴の指示を受けた夕張は、大淀が指定したポイントに到着し、指示通りに敵の注意を引くように攻撃を開始し始める。

 

    ドォォォン ドォォォン

 

夕張「お待たせぇ、夕張さんが着たからにはもう大丈夫なんだからね!!」

 

 夕張は、防戦一方であった榛名や雪風に呼びかけながら、あえて目立つように派手に艦砲射撃を繰り返す。

 

榛名「夕張? 鎮守府からの援軍が着てくれたんですね!!」

 

雪風「榛名さんと同じように新たに着任した艦娘さんみたいです、夕張さんが着てくれたと言うことは、他の援軍ももうすぐ来てくれるはずです!!」

 

 敵の注意を引くために行った、派手な艦砲射撃や大声での呼びかけは、深海棲艦の注意を引き付けるのと同時に、深海棲艦の激しい攻勢を受けていた榛名と雪風の心に希望をもたらした。

 

ヲ級エリート「カンムスノ エングンカ、 オマエハ アノケイジュンヲ タタキオトセ!」

 

 ヲ級エリートの指示を受けたヲ級は、単艦で夕張がいる北方面に移動を開始し、ヲ級が発艦していた艦載機たちも全機夕張の方向に向かっていった。

 

雪風「夕張さんがヲ級を引き付けてくれたおかげで、敵の艦載機が半減しましたね」

 

榛名「はい、これならもう一度三式弾を撃つことが出来そうです!」

 

 今まで敵水雷部隊の相手をしながら、執拗に繰り返される敵艦載機の攻撃のため榛名は三式弾による対空射撃を行うことが出来なかったが、敵艦載機が半減した事によって出来た一瞬の隙を突いて、榛名は三式弾を主砲に再装填する。

 

榛名「金剛お姉様、もう一度榛名に力を!!」

 

    -榛名、準備はOK? 榛名の実力見せてあげるネー!!-

 

榛名「はいっ! 榛名! 全力で参ります!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

ヲ級エリート「クッ、 マタアノ サクレツダンカ!!」    

 

 2度に亘って艦載機に大打撃を与えた三式弾の砲撃を察知したヲ級エリートは、被害を減少させるために素早く自身の艦載機を散開させる。

 

榛名「逃がしはしません!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 散開する敵艦載機に向けて榛名は、連続で三式弾を撃ち続ける。

 

ヲ級エリート「シニゾコナイガ…… ヤムヲエン オマエタチハ イッタン サガレ!!」

 

 三式弾を警戒しているヲ級エリートは、艦載機たちを一度南方向に待避させ、水雷部隊に榛名への集中攻撃を命じた。




 先月、うちの近所で行われていた街の夏祭り海上で行われていたカラオケ大会で見知らぬ誰かが熱唱していたとある昭和の名曲を聞いて、何故かこの『華人小娘と愉快な艦娘たち』のネタに出来そうだと思いながらも、謎の多忙でなかなか執筆(筆では無くキーボードで書いてますがw)が進まなくてご迷惑おかけしています。



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第47話 飛行機乗りと元空母

 龍星鎮守府の南西海域に出現したヲ級エリート率いる深海棲艦の機動部隊と交戦中の榛名と雪風の援軍に向かっていた金剛と夕張は、美鈴からの指示により二手に分かれて援軍に向かうこととなった。

 金剛の零式水上偵察機を敵艦隊に突入させて、金剛の主砲で弾着観測射撃を狙うための作戦であったが、零式水上偵察機を突入させるために、戦闘海域の制空権をとっている深海棲艦の艦載機を一時的でも戦闘海域から引き離す必要があった。

 戦闘海域に到着した夕張による陽動により、ヲ級1体は自分の艦載機を全て引き連れて夕張のもとへ向かい、ヲ級エリートの艦載機は榛名の三式弾を警戒して大多数が戦闘海域から少し離れた空域に待避しようとしていた……


深雪「ちっくしょぉ、深海棲艦のやつらまだいたって言うのかよ」

 

天龍「南西方面の敵は、あの時やっつけた艦隊以外に発見できなかったから、もういないと勘違いしていたなんてな……」

 

 北方面の敵艦隊を倒した暁たちを出迎えるため、北方面に向かっていた天龍、深雪、響の3名は、その途中で龍星鎮守府の南西方面海域で榛名と雪風が、突如出現した深海棲艦の機動部隊と交戦中との無線を受けた。

 

 天龍と深雪は、暁たちの出迎えを響に託して、援軍に向かうために鎮守府の南西方面に急行していた。

 

町井田「お前たちは燃料も弾薬も補給が必要だ、一度ミディアに合流して補給を受けるんだ!」

 

天龍「悪いがそんな余裕は無いな、新しく着任した金剛さんの妹や、雪風が危ないんだろぉ、このオレたちが行ってやらないでどうするっつうんだ!」

 

深雪「鳳翔さんも艦載機の損傷がひどくてすぐに出られないなら、深雪さまと天龍さんが先行するしかないだろぉ?」

 

町井田「しかし、補給を受けなければお前たちも動けなくなるぞ!」

 

天龍「そんな事にビビっていたら、間に合うものも間に合わなくなるぜ!!」

 

深雪「それに燃料だったら、たまに海上に漂流してるドラム缶に入っている事もあるし、それで補給すれば問題ないぜぇ」

 

町井田「そんな都合良く見つけられるものじゃないだろ! くっ、無線を切られたか……」

 

 良くも悪くも仲間思いで一直線な天龍と深雪は、長時間の出撃で燃料を消耗している上、深海棲艦の艦載機との交戦で弾薬も消耗している状況であった。

 

 その二人に対して、輸送艦ミディアに一度帰投して補給を受けるように指示する町井田であったが、天龍も深雪も聞く耳を持たずといったところであった。

 

鳳翔「申し訳ありません、町井田中尉……」

 

町井田「いや、そもそも私は君たちの提督でも無いし、君たち艦娘に指示できる様な立場でもないのだからしかたがないさ」

 

鳳翔「とはいえ、お世話になっている中尉の言うことも聞けないなんて、帰ったら二人にはお説教が必要みたいですね」

 

白雪「妹の深雪がすみません……、しかし漂流しているドラム缶で燃料補給ですか……」

 

 そう言いながら、白雪はミディアに積まれている艦娘用の燃料や弾薬を確認する。

 

白雪「町井田中尉、あの二人に補給を受けてもらうための考えがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

町井田「ん? 何か良い方法があるなら教えて欲しい」

 

 町井田は、天龍と深雪に補給を受けさせるために、白雪が思いついたという案に耳を傾けるのであった。

 

 

 

 

大淀「提督、北方面にいる町井田中尉のミディア経由で、天龍たちにも無線連絡がついたとの報告がありました」

 

明石「でも、天龍や深雪はずっと出撃したままだから、燃料や弾薬の補給が必要なタイミングですよね」

 

あかぎ「一度輸送艦で補給を受けてからの再出撃となると、時間がかかりそうですね」

 

美鈴「そうなると、金剛や夕張に頑張ってもらうしかないかなぁ……」

 

 美鈴は、艦娘たちの意見を聞きながら榛名と雪風の救援についての作戦を考えていた。

 

 

咲樂「紅提督は、先ほどから艦娘たちの意見を聞いてばかりですわね」

 

麗美「戦いは指揮官一人で出来るものでは無いわ、人の意見を聞く事が出来ない様な独善的な指揮官より、メーリンみたいに人の意見を聞けると言うことは、良い指揮官の証しだと思うわ」

 

咲樂「おっしゃるとおり、独善的すぎる指揮官は独裁者になりかねませんが、紅提督は指揮官としてもっと部下を統率していく必要があると思いますわ」

 

麗美「まぁ、そういうことは経験も必要だから、これから経験を積んでいけば出来るようになると思うわ」

 

 麗美はそう言いながら、ふと窓の外に目を向ける。

 

麗美「戦闘が長引いているからか、空の様子が騒がしくなってきたわね」

 

咲樂「騒がしい? 確かに海鳥の数が増えてきているようですが……」

 

麗美「この島の近くは魚が豊富で、昔は良い漁場として有名だったのよ」

 

 麗美の話を聞いた咲樂は、感心した様子で麗美の横顔を見つめる。

 

咲樂「本当にお嬢様は博識でいらっしゃいますわね」

 

麗美「海を守ると言う仕事柄かしら、戦闘とは関係の無いことでも、色々と自然に海のことには詳しくなるのよ」

 

 麗美は空を見上げながら、紅茶をゆっくりと口にする。

 

麗美「魚が多いからか、この島の周辺には海鳥が多いわね……」

 

咲樂「飛行機乗りとしては遠目で視認した海鳥の群れを、敵機の編隊と誤認してしまうこともあるので、あまり海鳥が多いのはご遠慮いただきたいのですけどね」 

 

麗美「へぇ、そういうものなのね……」

 

 咲樂の話を聞いた麗美は、ティーカップをソーサーに置いて、美鈴たちと一緒に作戦を考えているあかぎに目を向ける。

 

麗美「戦闘機乗りの咲樂が誤認してしまうことがあるのなら、艦載機を運用する空母も誤認することはあるのかしら……」

 

 

 

 

町井田「白雪、本当にやるのか?」

 

白雪「あのまま深雪ちゃんや天龍さんが援軍に向かっても、途中で燃料や弾薬が切れてしまうのは確実です」

 

鳳翔「だからといって、武装を外してそんなものを2個も運ぶだなんて……」

 

白雪「仲間として、姉として、天龍さんと深雪ちゃんを危険な目に遭わせる訳にはいかないのです」

 

 白雪は、天龍と深雪に補給物資を運ぶため、艤装から主砲や魚雷といった武装を取り外して、その代わりに燃料と弾薬を満載したドラム缶を2個装備した状態で、ミディアから出撃しようとしていた。

 

鳳翔「まだ他にも深海棲艦が潜んでいるかも知れません、せめて私の艦載機の出撃準備が出来るようになるまで待って下さい」

 

白雪「心配して下さりありがとうございます、しかし、私の速度では今出撃しないと二人に接触することが出来ません」

 

町井田「確かに、あの二人が真っ直ぐに雪風たちがいる海域を目指すのであれば、このタイミングで白雪が西に向かえば接触できるタイミングだが……」

 

白雪「この機を逃せば、二人に追いつくことが出来ません! それに敵に遭遇しても逃げ回れば死にはしません!!」

 

 白雪は、町井田と鳳翔に敬礼すると、ミディアの甲板から飛び降りて緊急出撃する。

 

町井田「う~む、本当にこれで良かったのだろうか……」

 

鳳翔「これでは白雪も、中尉の指示を無視する形になってしまい、申し訳ありません」

 

町井田「いや、結局白雪に燃料と弾薬の入ったドラム缶を渡したのは私だ……」

 

 龍星鎮守府の艦娘の中では、非常に真面目であり物静かで控えめな印象が強い白雪が、町井田や鳳翔の引き止めを無視して自分の意思を押し通した事に、町井田と鳳翔は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

あかぎ「海鳥の群れと、敵航空機の編隊との誤認ですか?」

 

 麗美は、先ほどの咲樂との会話で出てきた海鳥と航空機を誤認してしまう件について、あかぎを呼び寄せて話を聞いていた。

 

あかぎ「平常時ならほぼあり得ませんが、とっさに視界に入ってきた場合や、交戦中などで情報が錯綜していて混乱状態の時などでしたら、十分にあり得る話ですね(紅月准将のお茶菓子美味しそう……)」

 

咲樂「あの一航戦の赤城でも、鳥と航空機の誤認はあるのですわね(この感じ、まさかお嬢様のお茶菓子を狙っている!?)」

 

あかぎ「加賀さんが瑞鶴に稽古をつけている時も、何度か瑞鶴が鳥の群れを敵襲と誤認して説教を受けていた事もありましたね(なんだか、お茶菓子を見ていたらお腹が減って……)」

 

麗美「そうかぁ、海鳥の群れと敵機の編隊の誤認というのは、空母や飛行機乗りなら『よくある話』といったところだったのね、勉強になったわ」

 

 そう言うと、麗美は咲樂が切り分けてお茶菓子として置いていた羊羹を数切れ小皿に移してあかぎに手渡す。

 

あかぎ「ん、これは……、いただけるのですか!?」

 

麗美「紅茶と和菓子が意外と合うなんて知らなかったけど、それを教えてくれたのはここにいる咲樂なの」

 

あかぎ「咲樂さんも、准将の為にいつも色々と研鑽されていますからね」

 

麗美「私にとっては自分以外の人はみんな師であると思うし、貴女からも咲樂からも学べるものは多いわね」

 

咲樂「もったいないお言葉です……」

 

 麗美の言葉を聞いた咲樂は、上品に深々と頭を下げる。

 

麗美「その羊羹はお裾分けよ、人数分あるからみんなで食べてちょうだいね」

 

あかぎ「えっ? あ、ははは……(確かに人数分ありますね、危うく全部一人で食べてしまうところでした……)」

 

 

 

 

雪風「夕張さんと榛名さんのおかげで、ヲ級の艦載機の攻撃が緩みました……、今が好機です!!」

 

 3体の深海棲艦と交戦中であった雪風は、敵艦載機からの攻撃もあり防戦一方であったが、夕張の陽動と榛名の三式弾による対空攻撃によって敵艦載機が周囲から姿を消したため、眼前の戦闘にようやく集中することが出来た。

 

雪風「敵水雷戦隊の要は目の前の軽巡ヘ級と、榛名さんが相手をしてくれている重巡リ級のはずです」

 

 雪風は、駆逐ロ級の砲撃を避けながら両手に持った連装砲の照準を軽巡へ級に向ける。

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 しかし、軽巡へ級を護衛している2体の駆逐ロ級の動きも良く、雪風はなかなかヘ級を攻撃することが出来ずにいた。

 

 

榛名「雪風さんが苦戦しています、早くリ級を倒して援護に向かわなければ……」

 

 重巡リ級を相手にしている榛名も、リ級の熟練された動きに翻弄され、苦戦を強いられていた。

 

 

夕張「これじゃあ、キリが無いわね……、でも私が空母を引き付けておかないとねっ!」

 

    ズダダダダダ ズダダダダダ

 

 ヲ級の陽動に成功した夕張は、ヲ級の艦載機によって激しい攻撃を受けながらも、もうすぐ金剛が到着することを信じて、満載している対空機銃を撃ち続けていた。

 

 

 

 

 麗美との会話を終えたあかぎは、麗美から受け取った羊羹を持って色々と作戦を考えている美鈴たちの下に歩いてきた。

 

美鈴「あかぎさん、麗美さんの要件は済んだんですか?」

 

あかぎ「あっ、えぇ……、これを皆さんへと」

 

明石「あっ、これは間宮の特製羊羹じゃないですか!」

 

 あかぎは、麗美から受け取っていた羊羹が入った小皿を提督机の片隅に置き、美鈴たちに食べるように促した。

 

美鈴「ありがたいですが、みんなが戦っている中で私だけお菓子を食べるなんて……」

 

 しかし美鈴は、鎮守府の南西方面で戦闘中の艦娘がいる中で、提督である自分が安全な提督室でお菓子を食べるなんて許されないという気持ちであった。

 

明石「でも、甘いものは脳の疲れに良いとも言いますし、せっかくですからいただきましょうよ」

 

あかぎ「そうですよ、さぁさぁ暖かいうちに食べて下さい」

 

美鈴・明石・大淀「(羊羹が暖かいうち?)」

 

 空腹のあかぎは、目の前の羊羹を早く食べたかったが、この龍星鎮守府の提督である美鈴が渋っている状況では一人で食べるわけにもいかず、思わず意味不明な事を口走ってしまった。

 

明石「紅月准将の用事って、お菓子の差し入れだったんですか?」

 

 羊羹を目の前にうろたえるあかぎの様子に、明石は少し呆れながらあかぎが麗美に呼ばれた理由について確認する。

 

あかぎ「いえ、元空母の艦娘として、鳥の群れと航空機の編隊を見誤ったりすることはあったかという質問を受けまして」

 

明石「もの凄く唐突な質問ですね~」

 

あかぎ「何やら准将が窓から外を見たときに、この島の周りにいる海鳥の数が増えていることが気になった様で……」

 

大淀「もともと、この島の周りには海鳥が多く生息していましたが、深海棲艦からの一連の攻撃で海鳥たちも慌ただしくなってしまっていますね」

 

美鈴「(かもめさんたちの住み処も、深海棲艦に荒らされているのかなぁ……)」

 

 あかぎたちの話を聞いて、美鈴は島の周りに生息しているかもめたちの心配をしていた。

 

 

 

 

明石「それで、実際に鳥の群れと航空機の編隊を見誤ると言うことはあるんですか?」

 

あかぎ「はい、普段ならほぼ無いですが、戦闘で混乱している状態や、必要以上に敵の攻撃を警戒して過敏になっている時には、そのような誤報が発生してしまう事がありますね」

 

大淀「確かに、敵襲を警戒しているときに遠くから鳥の大群が接近してくると、敵航空機の編隊と見誤る事はあり得そうですね」

 

あかぎ「はい、戦闘機乗りとして咲樂さんもこのような誤認があるという話をされていたようで、空母としての立場でも同じ様な事があり得るのかと言う確認だった様です」

 

 あかぎは、麗美や咲樂に呼ばれて質問されてきた事について、美鈴たちにも簡単に説明した。

 

美鈴「人や艦娘も場合によっては、空を飛ぶかもめさんの群れが飛行機と見間違えることがあると言うことは、深海棲艦も見間違える事があるのかなぁ?」

 

 あかぎたちの会話を聞いていた美鈴は、ふと思いついた疑問を何となく口に出してみた。

 

大淀「なるほど、提督の仰るとおり私たちも場合によっては鳥の群れと航空機の編隊を誤認することがあると言うことは、深海棲艦にも同じような事があり得るという事ですね!」

 

あかぎ「たしかに、そのように考えれば今の海鳥の数が増えてきている現状を上手く利用すれば、敵を出し抜くことが出来るかもしれませんね!」

 

 美鈴の何気ない一言を聞いた、あかぎと大淀は鎮守府の周辺に海鳥の数が増えてきている状況を利用して、深海棲艦に対して何らかの作戦を立てられるのではないかと考え始める。

 

あかぎ「どうにかして、海鳥たちの動きを制御することが出来れば、深海棲艦を混乱させて交戦中の艦娘たちを援護することが出来るかもしれません!」

 

大淀「あかぎさんの言う通り、海鳥の群れで深海棲艦の少しでも気を引くことが出来れば、隙を突いて金剛さんの零水偵を敵艦隊に突入させることが出来るかもしれません!!」

 

 あかぎと大淀は、海鳥たちをコントロールすることが出来れば……、との前提で深海棲艦と交戦中の艦娘たちを支援する作戦を考え始める。

 

大淀「しかし、私たちには海鳥と意思疎通をしたり出来るわけでもないですし、思い通りに海鳥の群れを動かすことが出来るかどうか……」

 

あかぎ「今から海鳥たちを餌付けしたりして、伝書鳩のように飼い慣らす時間もありませんし……」

 

 海鳥の群れを利用した作戦で盛り上がっていたあかぎと大淀は、大前提として海鳥たちとコミュニケーションをとることが出来ないという現実を前に落胆していると、突然明石が興味深い一言を口にする。

 

明石「たしか、妖精さんたちの噂では、島の周りのかもめとコミュニケーションがとれる者がこの島にいるとか聞いたことがありますよ」  




何とか8月中にもう1話と頑張っていたのですが、間に合わず8月中の投稿が前話の1話のみとなってしまい申し訳ありませんでした。

8月も終わり、北海道はだんだんと秋となり、私自身も『執筆の秋』となれるように頑張っていきたいと思います!!

……でも、提督の一人としては、まずは艦これ秋イベをちゃんとやらなきゃいけませんかね(笑)


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第48話 華人小娘とかもめの仲間

 金剛の零式水上偵察機の突入を援護する為の良い作戦は無いかと話し合う、美鈴、大淀、明石、あかぎたちであったが、麗美の会話がきっかけで『鳥の群れと敵機の機影を見間違える事がある』という航空機に携わるものにはよくあるという話をヒントに何か作戦が立てられないかと思案していた。

 そんな時、明石の口から出た「島の周りのかもめとコミュニケーションがとれる者がこの島にいる」と言う、興味深い話が出てきたのであった……


深雪「くそっぉー、こんなところでガス欠かよぉ~」

 

天龍「引っ張ってってやりたいが、オレももう燃料が……」

 

 雪風たちが交戦中である龍星鎮守府の南西方面に急行していた天龍と深雪は、町井田が言っていたとおり燃料切れとなってしまい、速度を維持できなくなっていた。

 

天龍「すないな深雪、オレが町井田中尉の指示を聞き入れて補給さえ受けていれば……」

 

 天龍は、町井田の指示を拒否してまで雪風たちの救援に向かうと判断し、燃料切れという現状に陥ってしまった事に対して深雪に謝罪する。

 

深雪「いやぁ、天龍さんが言わなくても深雪も同じ判断していたしさ……」

 

 いつになく落ち込みを見せる天龍に、深雪は気遣うように返事をする。

 

天龍「このままじゃ、雪風たちを助けに行くどころじゃないな、一体どうすれば……」

 

深雪「何でも良いから帆の代わりにでもして、航行を続けてみるとか?」

 

天龍「確かに、風も出てるし自力で泳ぎよりも、帆船になった方が良いかもな」

 

 深雪の何気ない一言に、天龍は何かを思い出したかのように顔を上げた。

 

深雪「んっ、天龍さん何か良い考えでもあるの?」

 

 天龍は艤装に装着されている収納ボックスから、大きな黒色の布地を取り出し首元に巻き付ける。

 

深雪「マント? 何だかカッコいい!!」

 

天龍「違うぜ、これは野営用に持っていたハンモックなんだけど、これを上手く使えば帆の代わりになるんじゃねぇかと思ってよ!」

 

深雪「おぉ凄い! さっすが天龍さんだぜぇ!!」

 

天龍「ふふふ、凄いか?」

 

 深雪の言葉に気を良くした天龍は、マントの様に首元に巻き付けたハンモックをたなびかせて格好つけた。

 

 

 

 

白雪「こちら白雪、ミディア応答できますか?」

 

 艤装から武装を取り除き、ロープで括り付けた補給物資の入ったドラム缶2個を牽引している白雪は、町井田がいる輸送艦ミディアに通信を入れる。

 

真面目そうな男性兵「こちらミディアです、白雪だね聞こえているよ」

 

白雪「小林軍曹ですね、天龍さんや深雪の現在位置はミディアで把握していますか?」

 

 白雪の無線に応答したのは、ミディアの通信室にいた小林隼人(こばやしはやと)軍曹であった。

 ミディアには、阿室令哉(あむろれいや)曹長、甲斐伝治(かいでんじ)軍曹、小林隼人軍曹の3名の乗組員がおり、本来は戦闘機のパイロットであるが、色々とあって今はそれぞれ整備士、航海士、通信士としてミディアの航行を担っていた。

 

隼人「あぁ、甲斐さんがちゃんとレーダーで確認しているよ、位置情報を送れば良いんですよね」

 

白雪「はい、ありがとうございます!」

 

隼人「僕たちは町井田さんからの特命で、白雪をサポートする様に言われているから、白雪は自分の仕事に集中してくれれば良いんだ」

 

白雪「えっ、半ば強引に出撃してしまったと言うのに、町井田中尉がそのようなご配慮を?」

 

 白雪が隼人と話していると、突然何者かが通信に割り込んできた。

 

軽そうな男性兵「よう、白雪かい? まったく、町井田さんも人が良いよな、俺たち何かが命令無視なんかしたら独房入りもんだっていうのによ」

 

白雪「甲斐軍曹ですね、本当に申し訳ありません……」

 

甲斐「って、まぁ白雪や天龍たちの件は町井田中尉の特命って事で片付けられているから気にすんなよ」

 

 軍として上官命令無視は、本来処罰の対象になるであろうが、町井田は白雪や天龍たちの行動を『特命』という形で麗美に報告していた。

 

白雪「町井田中尉は、そこまでご配慮をして下さっていたんですね……」

 

甲斐「天龍と深雪は、燃料が切れて白雪がいる場所から北西方向2kmの位置にいるから行くなら早く行ってやったほうがいいぜ」

 

 甲斐は、白雪に天龍たちがいる位置の情報を伝えると、無線機を隼人に返し再びレーダーを確認しに戻っていった。

 

隼人「まったく、甲斐さんも自分勝手だなぁ……、でも天龍たちの位置は甲斐さんが教えてくれた通りだからしっかり頼んだぞ!」

 

白雪「はいっ! 白雪、補給物資を持って天龍隊に合流します!!」

 

 

 

 

天龍「よっしゃぁ、良い風が来たぜ! 深雪、しっかり捕まってろよな!!」

 

深雪「深雪は帆船航行の経験なんて無かったけど、天龍さんは凄いなぁ!」

 

天龍「ふふふ、オレは世界水準を軽く超えてるからな、当然だぜっ!!」

 

 さすがにハンモックを首に巻いたままで帆の代わりに使用していては首が絞まってしまうので、腰部の艤装と手に持った刀の鞘の先端にハンモックを縛り付け、天龍は右手で刀を天に掲げる様に持って巧みに風を受けて目的の方向へ航行していた。

 

深雪「天龍さんの刀にはそういう使い方もあったんだぁ、こんど深雪も刀を作ってもらおう!」

 

 天龍の左手に捕まって曳航してもらっている深雪は、手慣れた手つきで操帆する天龍を、目を輝かせながら見つめていた。

 

天龍「龍星鎮守府が完成前は、ひでぇ資材不足だったからこういうのもいつか役に立つんじゃねぇかって練習していたからな!」

 

 深雪からの尊敬のまなざしに気がついた天龍は、格好良く見える角度を意識しながら深雪に笑みを見せる。

 

 

天龍「良い風が来てくれているおかげで、結構速度は維持できているな!」

 

深雪「戦闘に備えて。出来ればどこかに漂流しているドラム缶でも見つけて、燃料補給はしておきたいけどね」

 

天龍「金剛や夕張が向かっているとは言え、敵には正規空母が2体いるって話だから、確かに燃料は欲しいところだな……」

 

 全くの燃料切れでは戦闘に支障が出ると、天龍と深雪が相談していると、急に突風ともいえる強い風が目標である南東方向に吹き始める。

 

天龍「こ、こいつは凄い風だぜ、深雪しばらくオレの体にしがみついててくれないか?」

 

深雪「左手も使いたいんだね、わかった!!」

 

 あまりの強風に、右手一本では帆を支えられないと感じた天龍は、左手で曳航していた深雪を自身の正面まで引っ張り、体に抱きつく様に誘導する。

 

    ガタガタ ガタガタ

 

 深雪が天龍の胴体に抱きついたことを確認すると、天龍は両手で刀の柄を持ち力を込め、風で暴れているハンモックの帆を制御する。

 

天龍「こいつはすげぇな、すっげえ速度が出てるぜ」

 

 天龍の胴体に抱きついていた深雪は、天龍が両手で刀の柄を握ったことで、顔を胸に押しつけられる状態になったうえ、天龍が強風で揺れる帆を力一杯押さえつけようとするものだから、天龍の胸に顔が圧迫されていた。

 

深雪「す、すごい……(前から大きいとは思っていたけど、天龍さんのも提督と同じくらいかそれ以上だよ……)」

 

 

 

 

大淀「かもめと意思疎通が出来る人が、この島にいるですって?」

 

 明石の言葉に、大淀とあかぎが食いつく様に聞き入ると、明石はニヤリとした表情を見せて言葉を続ける。

 

明石「元々この島にいた妖精さんから聞いた話ですが、龍星鎮守府が発足する少し前、この島の近くで1羽のかもめが運悪く大きな鷲に捕らえられてしまいました」

 

あかぎ「猛禽類はかもめにとっての天敵、可哀想ですが弱肉強食の野生の世界ではよくある事でしょうね……」

 

明石「しかし、そのかもめの群れのボスらしき少し大きなかもめが必死にその鷲に抵抗して、捕まったかもめを救出しようとしました」

 

大淀「群れの仲間を助けようと勇敢に戦ったんですね……」

 

 涙もろい大淀は、すでに目に涙を浮かべながら、明石の話に聞き入っていた。

 

明石「鷲とかもめでは、力の差は歴然でしたが、鷲の出現におびえていた群れのかもめたちも、必死に戦うボスを見て、1羽、また1羽と加勢に来ました」

 

あかぎ「ボスかもめの勇敢な姿が、他のかもめたちに勇気を与えたんですね……」

 

明石「最終的には、群れのほぼ全てのかもめが鷲に抵抗し、鷲もさすがに敵わないと思ったのか捕まえた鷲を上空で放して逃げていきました」

 

 涙ながらに聞き入っていっていた大淀は、ウンウンと頷きながら明石の話に聞き入っている。

 

明石「鷲を追い払い、仲間を取り返すことが出来たとかもめたちでしたが、残念なことに鷲に捕まっていたかもめは自力で飛ぶことも出来なくなってしまっていて、そのまま海面に叩き付けられてしまい、勇敢に戦っていたかもめのボスも鷲との戦いで受けた傷の影響か捕まっていたかもめと一緒に海面に落下してしまいました」

 

大淀「そ、ぞんなぁ……」

 

明石「その時、たまたま海岸をランニングしていた一人の女性が海面に落下した2羽のかもめに気がついて、海に飛び込んでかもめたちの元に泳いで行きました」

 

あかぎ「えっ、それってまさか……」

 

明石「その女性に引き上げられた2羽のかもめたちは、大きな傷を負っていて、特に鷲に捕まっていたかもめは瀕死の状態でしたが、その女性や一緒に暮らしていた2人の少女の手厚い看護で一命を取り留める事が出来ました」

 

大淀「よがった、よかっだよぉ……」

 

 明石の話に聞き入っていた大淀は、あかぎに手渡されていたハンカチで涙を拭いながらも号泣していた。

 

 

 

 

あかぎ「明石さんその女性と2人の少女というのは、まさか……」

 

 あかぎが明石に女性たちの名を確認しようとしたその時、美鈴が明石たちに近寄ってきて声をかける。

 

美鈴「大淀が泣いてるからどうしたのかと思ったら、カモ吉とカモ美の話かな?」

 

あかぎ「カモ吉とカモ美?」

 

明石「あかぎさんも気づいていたいたでしょうけど、そのかもめを助けた女性と言うのは、この紅美鈴提督で、2人の少女と言うのは深雪と雪風のことなんです」

 

美鈴「明石が来る前の事なのに、よくそんな話を知っているね」

 

明石「提督が最初に気を失って寝ていた時に、一緒に看病していた妖精さんが教えてくれたんですよ、まだ飛ぶことが出来ないカモ美ちゃんも窓の外から提督のこと見に来てましたし」

 

美鈴「ははっ、カモ吉はすっかり元気になって飛び回っているけど、カモ美はまだ飛べなくて鎮守府の中で暮らしているからねぇ」

 

あかぎ「と言うことは、かもめとコミュニケーションをとることが出来る者というのは、紅美鈴提督のことですか?」

 

美鈴「コミュニケーションがとれるというか、魚がいる場所を教えてくれたり、釣った魚を一緒に食べたりするくらいはするけどね」

 

あかぎ「魚がいるポイントを教えてくれたりとはなかなかですが、こちらからかもめに何か頼んだりすることは出来ないのですか?」

 

美鈴「私はカモ吉やカモ美が何を伝えたいかは雰囲気でわかるけど、こっちから何か伝えたりは難しいかなぁ……」

 

あかぎ「そうですか……」

 

美鈴「でも、深雪と雪風はよくカモ吉たちと島の周りのパトロールをしていたりしていたから、何か分かるかもしれないよ」

 

 

 

 

天龍「よぉし、このまま最大戦速で雪風たちのところまで、かっ飛ばして行くぜぇ」

 

    ガタガタ ガタガタ

 

 依然として突風の様な強い風が吹いていたが、操帆になれてきた天龍はだんだんと調子に乗って、ハンモックを最大限に広げて目一杯風を受けていた。

 

    ガタガタ ガタガタ バサッ!!

 

天龍「なんだっ!?」

 

深雪「んんっー!」(顔が天龍の胸に圧迫されて声が出せていない)

 

 そんな中、天龍の艤装に縛り付けられていたハンモックの一部がほどけてしまい、天龍は大きくバランスを崩してしまう。

 

    バサバサッ!!

 

天龍「しまった、ハンモックが!!」

 

深雪「んんっ、んんんっー!!」

 

 ハンモックは一気にほどけてしまい、突風に乗って南東方向に飛ばされてしまったのである。

 

天龍「あぁー、オレのお気に入りのハンモックがぁー!!」

 

深雪「あぁ……、飛んで入っちゃった……」

 

 天龍と深雪は、風に乗ってもの凄い速度で飛んでいくハンモックを見つめながら、海面に立ち尽くしていた。

 

     くあー くあー くー くあー

 

 その時、頭上から聞き慣れたかもめの鳴き声が聞こえて来たことに気がついた深雪は、天龍に抱きついたまま上空を見上げる。

 

深雪「あれはカモ吉だ、どうしてこんなところに?」

 

 深雪たちの上空にいたのは、カモ吉が率いるかもめたちの群れであった。

 

天龍「カモ吉っていったら、深雪と雪風になついてるかもめの大将か?」

 

深雪「うん、怪我して海に落ちたカモ吉とそのお嫁さんのカモ美を美鈴が助けてきて、美鈴や雪風と一緒に世話していた事があってさ」

 

天龍「オレが着任する前の話だったか?」

 

深雪「今の龍星鎮守府を、深雪たち3人と、10人くらいの妖精さんたちだけで作っていた頃の話だからねぇ~」

 

天龍「オレが着た頃には、あのカモ吉はもう空を飛べる様になっていたからな」

 

深雪「カモ美はまだ飛べなくて、鎮守府に住み着いているけどね」

 

 

 

 

    くあー くあー くー くー   

 

白雪「深雪とよく一緒にいるカモ吉が『こっちに来い』と言う感じ呼びかけて来たからついてきたら、深雪のところに連れてきてくれたのね……」

 

 燃料と弾薬がそれぞれ入ったドラム缶を2本牽引していた白雪は、深雪たちを探しながら航行中、鎮守府方向から飛んできたかもめの一団と遭遇していた。

 

 元々、深雪の姉である白雪のことを分かっている様子のあったカモ吉は白雪に気がつくと、単体で白雪に近づき自分がカモ吉である事を気づかせると、『ついて来い』と言わんがばかりに白雪を誘導し、深雪たちと合流させてくれたのであった。

 

白雪「深雪ちゃーん、天龍さーん!!」

 

 燃料が尽きた上、ハンモックを失い立ち往生していた天龍たちを発見した白雪は、大きく手を振りながら呼びかける。

 

深雪「この声は、白雪姉さん?」

 

天龍「おぉ、白雪!!」

 

 天龍に抱きついたままだった深雪は、白雪の姿を見て大喜びで海面に降りて駆け出そうとしたが、艤装の燃料が切れてしまっているため上手く移動が出来ずに転んでしまう。

 

    くあー くあー

 

 そんなやりとりを見ていたカモ吉は、笑っているかの様に鳴きながら白雪が牽引していたドラム缶の上に降りてきた。

 

深雪「カモ吉、笑うなよぉ~」

 

白雪「まったく、あれほど町井田中尉が補給をして行けとと仰っていたのに、無視するから燃料切れなんか起こしちゃうのよ」

 

深雪・天龍「すみません……」

 

 白雪は深雪と天龍に説教をする様な言葉を掛けながらも、牽引してきた2本のドラム缶を2人の前に差し出す。

 

白雪「町井田中尉が配慮して下さって用意していただいた燃料と弾薬です、早く補給して雪風と榛名さんの救援に向かいますよ」

 

深雪・天龍「はい、ご迷惑おかけしました……」

 

 天龍と深雪は、白雪の説教に返す言葉も無く、素直に謝罪しながら艤装に燃料と弾薬を補給していく。

 

 

深雪「これから雪風のところに行くんだけど、大体の方向は分かるんだけど、カモ吉は雪風がいる場所を知っているかい?」

 

 深雪は燃料と弾薬を補給しながら、ドラム缶の上にいるカモ吉に声をかける。

 

    くあー くー くあー

 

 深雪の言葉に、カモ吉は『まかせろ、ついて来い』と言わんがばかりに力強く上空に飛び立ち、100羽を超える群れを率いて南東方向に飛び立って行く。

 

白雪「本当に深雪と雪風は、カモ吉と話が出来るみたいね」

 

天龍「言葉は交わせなくても、ペットの犬や猫みたいに気持ちは伝わっているんじゃねぇか?」

 

深雪「天龍さんの言う様な感じかな? まぁ、カモ吉はペットじゃ無くて友達だけどね!」

 

 

 

 

金剛「うぅ~、まだ深海棲艦を射程に捉えられないデス……」

 

 交戦中の榛名や雪風を援護するために、主砲による援護射撃を試みたい金剛ではあったが、有視界ではまだ正確に位置を捉えられずにいて、このまま主砲を撃つと誤って仲間に攻撃してしまう可能性が高くなかなか援護射撃を行えずにいた。

 

妖精さん『マダ キケンダケド、ボクタチガ トツニュウシテ コンゴウニ テキノイチヲ オシエルヨ』

 

金剛「確かに、今なら深海棲艦の艦載機が少し離れているから狙えるかもしれませんガ、まだ近くにいるからDangerデース」

 

妖精さん『ケド イマイカナイト、コンゴウノ ナカマタチガ アブナイヨ!!』

 

金剛「うぅ、その通りデース、Dangerですがお願い出来ますカ?」

 

妖精さん『マカセテヨ ゼンキ トツニュウ!!』

 

 妖精さんたちが操縦する、零式水上偵察機3機は、榛名と雪風が交戦しているエリアに向けて突入を開始する。

 

 

ヲ級エリート「ニシホウコウカラ、テキノ コウクウキガ セッキンダト?」

 

 自身の艦載機から、金剛の零式水上偵察機が接近してくる情報を聞いたヲ級エリートは、金剛がいる西方向に視線を向けて、3機の零式水上偵察機を発見する。

 

ヲ級エリート「タッタ 3キノ テイサツキカ、サッサト ゲイゲキ……」

 

 ヲ級エリートが自身の艦載機たちに、零式水上偵察機の迎撃命令を出そうとしたその時、夕張と交戦中であったヲ級から緊急連絡が入る。

 

ヲ級エリート「ナンダ、ナニッ ソレハ ホントウカ!?」

 

 ヲ級からの報告は、『北西方面より敵の航空部隊と思われる大軍の機影を確認』という内容のものであった。

 

ヲ級エリート「コシャクナ カンムスドモメ、コノブタイハ オトリダッタト イウコトカ……」

 

 ヲ級からの報告を受けたヲ級エリートは、目の前にいる榛名と雪風、ヲ級と交戦中の夕張、今こちらに向かってきている3機の零式水上偵察機の全てが自分たちの注意を引き付けるための囮であると考え、主力部隊と思われる大軍の航空部隊を迎撃するために自身の艦載機全機を差し向けることとした。




前回の投稿が9月1日で今回は10月8日、ついに1ヶ月以上かかってしまい申し訳ありません。

今回は、仕事や艦これの秋イベで忙しくなかなか思う様に執筆が進まなくて……
(ほぼ仕事で疲れ果てていたのが原因で、秋イベも滑り込みセーフと言う状況でした)

仕事は、先月中に頑張ったおかげで今月からは少し余裕が出来る、と良いなぁ……

まだ、第一部も終わっていないのに、第二部の構想を色々練っていてやる気はあるのですが、筆が遅いものでご迷惑おかけしております。


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第49話 かもめが翔んだ

夕張「~っ。やっぱ、ちょっといろいろ積みすぎたのかなぁ……」

 

 敵部隊と交戦中の榛名と雪風からヲ級を引き離すため、単艦で陽動を行っていた夕張であったが、ヲ級の艦載機による波状攻撃による損傷が積み重なってしまい、中破状態となってしまっていた。

 

夕張「でも、私が時間を稼いでいれば金剛さんの零式水上偵察機も突入出来るだろうし、北方面に行っていた天龍さんたちも援軍に駆けつけてくれるはずよね……」

 

 口元の出血を右手で拭いながらヲ級を見据える夕張の目は、悲壮さを感じさせるものは微塵も無かった。

 

夕張「この鎮守府じゃ私は新参者だし、鎮守府で会った明石や輸送艦で会った鳳翔さんと白雪以外の艦娘とは面識も無いけど、この3人や提督を見ているとここの仲間は信用できるって気持ちになっちゃうんだよねぇ」

 

 夕張は味方の援軍を信じながら、少しでもみんなの為になるようにと自身を奮い立たせ、ヲ級と対峙していたが、突然ヲ級が北西方面の上空に目を向けて動揺を見せ始める。

 

夕張「ん、ヲ級が何かを気にし始めている?」

 

 ヲ級の動揺を悟った夕張は、ヲ級が気にしている北西方面の上空に目を向けると、航空機の機影とも海鳥の群れともとれる影がうっすらと見えてきた。

 

夕張「(鳳翔さんの艦載機? いや、それにしては数が多すぎるし、提督からも町井田中尉からも特に連絡は来ていない……、ただの海鳥の可能性も……)」

 

 夕張は、上空の影が海鳥の群れの可能性が高いと判断していたが、ヲ級が動揺している様子を見ながら一つの策を思いついた。

 

夕張「どーぉ、ようやく本隊が到着したみたいよぉ! 無敵の一航戦の艦載機100機が貴女や仲間たちを一気にやっつけちゃうんだからっ!!」

 

 夕張は動揺しているヲ級にたたみかける様に、自信満々に宣言したのであった。

 

夕張「(あの影は多分海鳥のものだろうけど、相手が動揺している今なら信じ込ませることも出来ちゃうかも)」

 

 

 

 

ヲ級エリート「アラワレタ ゾウエンハ、アノ イッコウセンダト!?」

 

 夕張の口車に乗せられたヲ級からの報告を受けた、ヲ級エリートは体中から汗を吹き出しながら動揺し始める。

 

ヲ級エリート「アノ テイサツキヲ ウチオトスコトハ タヤスイガ、ゾウエンガ イッコウセン ダトイウノデアレバ、スグニデモ オウセンシナケレバ ゼンメツシテシマウ……」

 

 明らかに冷静さを欠き始めたヲ級エリートは、自身の艦載機全機に対して北西方面から近づいてくるという一航戦の艦載機を迎撃する様に命令を始める。

 

 

榛名「どういうことでしょう、深海棲艦の艦載機が北西方面に向かっていきます」

 

雪風「夕張さんが引き付けてくれたヲ級の艦載機も、北西方面に向かっているみたいです!」

 

 深海棲艦の水雷部隊と交戦しながらも、榛名と雪風は深海棲艦の艦載機の動きが異常であることに気がつき始めた。

 

夕張「榛名さん、雪風、こちら夕張よ聞こえるかしら?」

 

 その時、夕張からの無線が2人に入ってきた。

 

雪風「雪風です、夕張さんの声はしっかり聞こえています!」

 

榛名「はい、榛名も聞こえています!」

 

夕張「今、北西方面から海鳥の群れみたいなものが近づいてきたから、一航戦が助けに来たって言ってみたら、まんまと騙されてくれたみたいなの」

 

雪風「深海棲艦に嘘をついたんですか?」

 

夕張「最初から向こうが動揺してくれていたから、少しだけ大口を叩いてみたら本気にしちゃったんだけどね」

 

榛名「き、機転を利かせて下さったのですね……」

 

 

ヲ級エリート「イッコウセン……、アノ アカギハ ニネンマエ、クウボセイキサマガ シトメタハズダガ……」

 

 ヲ級エリートは狼狽えながらも、空母棲鬼によって日本海軍の空母機動部隊が大敗を喫した2年前の海戦の事を口にしていた。

 

ヲ級エリート「ソウナルト、アノ カガカ!?」

 

 一航戦として、赤城と共に深海棲艦たちにもその武名を轟かせていた加賀が増援に現れたと判断したヲ級エリートは、血の気が引く感覚を抱きながらも打開策が無いか思案を巡らせるが、動揺している状況では思考が働かない自身に怒りすら感じていた。

 

ヲ級エリート「クソッ! デキタテノ ジャクショウ チンジュフヲ ツブスダケノ、サクセン ダッタハズナノニ!!」

 

 夕張が思いつきで言った、一航戦が増援に来たと言う偽報は想像以上の効果を発揮し、深海棲艦艦隊を大混乱に陥れていた。

 

 

 

 

妖精さん『コンゴウ! テキノ カンサイキハ ナゼカ ミンナ イナクナッタヨ!!』

 

金剛「Why? でもこれはChanceデース! 一気に攻め込むネ!!」

 

 混乱したヲ級エリートは、全ての艦載機を夕張の偽報によって北方面に向けたため、護衛の艦載機すらなくなり、妖精さんたちの零式水上偵察機は一気にヲ級エリート率いる艦隊の上空に突入することが出来た。

 

妖精さん『コンゴウ! テキマデノキョリト、ハイチヲオクルヨ!!』

 

 偵察に成功した妖精さん達は、金剛から敵艦隊までの詳細な距離と、敵艦隊と榛名と雪風の位置などの詳細な情報を次々に送っていく。

 

金剛「Oh! これなら榛名たちを避けて敵に一斉砲撃が出来るネー!!」

 

 敵艦隊が、自分の36.5cm連装砲の射程圏内にあることを確認した金剛は、妖精さんたちと連携をとりながら主砲の照準を定める。

 

金剛「榛名、雪風、待たせてしまったネ……、今、助けに行くデース!!」

 

 

榛名「!! 金剛お姉様!?」

 

 声が聞こえた訳では無いが、榛名は直感的に金剛の気配を感じ取った。

 

雪風「上空に零式水上偵察機が見えます、きっと金剛さんが来てくれたんです!!」

 

 深海棲艦の水雷部隊を相手にしながら、雪風も金剛が来ている事を実感していた。

 

榛名「はい、これで形勢逆転出来ます!!」

 

 金剛の気配を感じ取り、榛名の士気は大きく上昇していたが、雪風には一抹の不安があった。

 

雪風「(まだ、深海棲艦の水雷戦隊がいますが、雪風の艤装の燃料がもう少しで無くなっちゃいます……)」

 

 戦闘機会が少なかったため、弾薬にはまだ余裕がある雪風ではあったが、天龍や深雪と共に長距離・長時間航行していたため艤装の燃料が底を尽きそうであった。

 

雪風「(金剛さんが来てくれれば、きっと深海棲艦を押し返すことが出来るのに、このままじゃ雪風がみんなの足を引っ張ることになっちゃいます……)」

 

 

 

 

金剛「あれが敵のBossデスネー! さぁ狙いはOKネ!!」

 

 金剛の2基4門の36.5cm連装砲は、ヲ級エリートに向けてその照準を合わせる。

 

金剛「全砲門!Fire!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 妖精さんたちが乗る零式水上偵察機からの観測情報により、目視よりも遙かに詳細な情報を得ていた金剛の正確な砲撃は、的確にヲ級エリートに向かって放物線を描いていた。

 

 

ヲ級エリート「!! コ、コノ ゴウオンハ、カンムスカラノ ホウゲキカ!?」

 

 金剛の36.5cm連装砲の砲撃音に気がついたヲ級エリートは、とっさに金剛が放った砲撃の方向に目を向ける。

 

ヲ級エリート「コレハ、センカンノ ホウゲキ!? マダ センカンノ カンムスガ イタノカ!!」

 

 混乱しているとはいえ、優秀な能力を持つヲ級エリートは予想だにしていなかった金剛の砲撃に対して瞬時に反応し、防御態勢をとる。

 

妖精さん『ダイイチゲキハ、テキニ フセガレタ ミタイダ!』

 

金剛「当たっているなら、たたみかけるデース!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 金剛は、砲撃を続けながら、速力を上げて戦闘海域に突入をかける。

 

ヲ級エリート「クッ! センカンガ クルノカ……」

 

 

榛名「金剛お姉様が来てくれました! 私たちも攻勢に出ましょう!!」

 

 金剛の接近を察知した榛名は、雪風に攻勢に出る様に声をかける。

 

雪風「は、はい!(燃料が無くなる前に、敵の水雷部隊を倒さないと……)」

 

 力強く返事をする雪風であったが、雪風の燃料は尽きる寸前であった。

 

 

 

 

夕張「ははは……、まさかこんなに敵が混乱してくれるとは……」

 

 思いつきで言ったデタラメによって、大混乱に陥ったヲ級見ている夕張は、中破状態であることから、慎重にヲ級との距離をとろうとしていた。

 

夕張「あの機影に見える影が、海鳥の群れだと気づかれないうちに、何とか次の手を打たないと……」

 

 夕張と対峙していたヲ級は、すっかり夕張のデタラメにより混乱しており、中破状態となった夕張のことを目にもとめていなかった。

 

夕張「……ん、もしかしてヲ級は私が目の前にいることを忘れちゃっている?」

 

 ジリジリと後退していた夕張であったが、自分に全く目をくれなくなったヲ級を見てとある考えが脳裏に浮かんだ。

 

夕張「(ダメージを受けているけど、まだ主砲も魚雷もあるわよね、今ならヲ級の艦載機もいないし攻撃できちゃうんじゃ?)」

 

 夕張は、ニヤリと口元に笑みを浮かべて主砲を構える。

 

 すると、夕張の気配に気がついたヲ級が思い出したかの様に夕張に目を向ける。

 

夕張「気づかれちゃった? でも反撃は出来ないわよね!!」

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 夕張は主砲をヲ級に放つと、ヲ級は慌てふためいた様子で回避行動をとるが、1発の砲撃が直撃する。

 

ヲ級「ヲヲォ!?」

 

 しかし、深海棲艦の中では耐久力のあるヲ級に対して、中破して火力が低下している夕張の砲撃1発では大したダメージを与えることは出来ず、ヲ級を小破させることも出来ないほど微々たるダメージを与えることしか出来なかった。

 

夕張「あっ、夕張さんピンチかも……」

 

 

 

 

 その頃、天龍、深雪、白雪の3名は、カモ吉率いるかもめの群れに誘導されながら、榛名や雪風たちがいる戦闘海域へと向かっていた。

 

天龍「なんかドンパチの音が聞こえてきたし、戦場はもうすぐだな!」

 

白雪「早く、皆さんと合流しないとですね」

 

 武装を全く装備せず、両手で燃料や弾薬の入った2本のドラム缶を牽引しながら追従してくる白雪に対して、深雪は心配そうな目を向けていた。

 

深雪「白雪姉さんは、武器を一つも持っていないんだから、一旦引き返した方が良いんじゃないか?」

 

白雪「大丈夫、雪風や榛名さんもそろそろ補給が必要でしょうし、深雪ちゃんたちみたいに動けなくなっていたら大変でしょ」

 

 深雪の心配をよそに白雪は、そろそろ補給が必要であろう雪風たちの為に補給物資を届けたいと言う意思を深雪に語る。

 

深雪「でも、敵には空母もいるみたいだし、艦載機の攻撃を受けたら避けきれないんじゃ無いかな?」

 

天龍「そうなったら、オレと深雪で片付ければいいじゃないか、オレは白雪が雪風たちに補給物資を運ぶという意見に賛成だぜ!」

 

深雪「天龍さんがそう言うなら、深雪は良いけど……」

 

    くー くあー くあー

 

 深雪たちが話をしていると、かもめの群れの数匹が何かに気がついた様に鳴き出した。

 

白雪「正面から敵航空部隊と思われる機影を確認!!」

 

天龍「敵もこっちに気づいたか、深雪!行くぞ!!」

 

 敵機の接近を確認した天龍は、深雪に迎撃の号令をかける。

 

カモ吉「くあー くあー」

 

 その時、群れを率いていたカモ吉が群れを大げさに散開させながら単独で敵機方向へ飛び出して行った。

 

深雪「カモ吉!そっちは危ない、逃げるんだ!!」

 

 深雪の叫び声に気がついたのか、カモ吉は大丈夫だとでも言うかの様に宙返りをして見せてスピードを上げていく。

 

カモ吉「くあー くあー」

 

 カモ吉は、大きな声で鳴きながら単独でヲ級の艦載機部隊に突入していった。

 

深雪「カモ吉……?」

 

白雪「もしかして、カモ吉は深海棲艦がかもめの群れを航空部隊だと勘違いする様に見せて、敵を陽動してくれていたんじゃ……」

 

天龍「そして、接近してきたところで、間違って仲間が撃たれない様に敵に自分たちはかもめだと気づかせて撤退させるつもりなのか?」

 

白雪「深雪ちゃんよりもずっと頭が良さそうね……」

 

深雪「カモ吉……」

 

 

 

 

ヲ級エリート「ナンダト、テキコウクウブタイノ ゾウエンハ カモメノ ミマチガイ ダッタダト……」

 

 カモ吉がヲ級の艦載機たちにあえて正体を明かした事により、一航戦の増援だと信じていたヲ級から誤報であった事の報告を受けたヲ級エリートは、自分たちの艦載機全機が戦闘海域外にいるという事実に気がつく。

 

ヲ級エリート「シマッタ、コレコソガ カンムスタチノ サクセン ダッタノカ!?」

 

 かもめの群れに気づいていた夕張の偽報に踊らされていたヲ級と、そのヲ級からの報告によって冷静な判断力を失っていたヲ級エリートは、自分たちの主戦力である艦載機が手元に無い状態で艦娘たちと対峙しなければならない状況であることに気がつき戦慄していた。

 

 

金剛「妖精さんたち、了解ネ! 一気に仕留めるデース、Fire!!」

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 零式水上偵察機の妖精さんから、ヲ級エリートの詳細な位置の報告を受けた金剛は、現在位置で一度停止し、妖精さんたちと連携しながら弾着ポイントを確認したうえで、主砲による一斉砲撃を仕掛ける。

 

ヲ級エリート「ナッ……、グァァァ!!」

 

 妖精さんと連携している金剛の弾着観測射撃が直撃したヲ級エリートは、激しく炎上しながら大破する。

 

 榛名たちと交戦していた深海棲艦の水雷部隊は、指揮艦であるヲ級エリートの窮地に気付いて重巡リ級を残してヲ級エリートに駆け寄って行く。

 

雪風「敵の注意が逸れた、今がチャンスです!!」

 

 その一瞬の隙に気がついた雪風は、軽巡ヘ級を追撃しようとしていた。

 

    ぷすぷす しゅぅぅぅぅ

 

 しかしその時、艤装の燃料が尽きてしまい、雪風は身動きがとれなくなってしまう。

 

雪風「しまった……」

 

 ヲ級エリートは、ダメージを負いながらも雪風の異変に気がつき、駆逐ロ級2体に素早く指示を出す。

 

ヲ級エリート「クチクカンノ ウゴキガ トマッタ、ヤツヲ トラエロ!!」

 

 ヲ級エリートの指示に反応したロ級2体は、素早く踵を返して雪風を攻撃するために突撃していく。

 

榛名「くっ、雪風さん!!」

 

 雪風の異変に気がついた榛名は、雪風に駆け寄ろうとするが、リ級が素早く進路を塞いで妨害してきた。

 

 

 

 

金剛「さぁ、敵の旗艦を叩くChanceネー、一気に行きマース!!」

 

 弾着観測射撃が成功した金剛は、気を良くしてそのまま遠距離砲撃を続けようとしたが、零式水上偵察機の妖精さんから報告が入る。

 

妖精さん『コンゴウ、ユキカゼガ ネンリョウギレデ ウゴケナク ナッテイル! コノママジャ テキニ カコマレル!!』

 

金剛「Shit! ここからじゃ旗艦以外の敵を狙い撃てないネ、こうなったら突っ込むしか無いデース!!」

 

 妖精さんから雪風が窮地に陥っている事を聞いた金剛は、瞬時に弾着観測による遠距離砲撃を取りやめ、戦闘海域に突入して仲間の救援に向かう決断をする。

 

妖精さん『ハルナモ テキニ ジャマサレテ、ユキカゼノトコロニ イケナイミタイ』

 

金剛「提督も、きっとこういうときは、仲間を助けに向かうはずデース! みんな、今すぐ向かうネ!!」

 

妖精さん『ワカッタ、コッチモ ナントカ ジカンヲ カセイデ オクカラ!!』

 

金剛「お願いしマース!!」

 

 金剛は、妖精さんとの交信を終えると、榛名や雪風がいる戦闘海域に向けて、最大戦速で航行を始めた。

 

 

 

 

夕張「敵の艦載機が引き返して来ちゃった、このままじゃ……」

 

 不意を突いて起死回生を狙った攻撃で、ヲ級に微々たるダメージしか与えられなかった夕張は、速力が低下している状況であり、撤退することもかなわない状態であった。

 

ヲ級「ヲヲォ……」

 

 目の前のヲ級は、『よくも騙したな!!』とでも言う様な感じで、夕張を睨み付けて怒りをあらわにしている。

 

夕張「あぁ、すごく怒ってるぅ……」

 

 夕張は、ヲ級の気迫に圧倒されてしまい、艦載機が戻って来たら確実に沈められてしまうと本能的に感じていた。

 

夕張「うぅ、でも時間を稼ぐことは出来たはずよね、私なりに頑張ったわよね……」

 

 夕張は、まもなく来るであろう猛攻から逃れる手段が無いことを悟りながら、美鈴や明石の顔を思い浮かべる。

 

夕張「提督、着任したばかりだったけど、もうお別れみたいです……」

 

    バサバサッ

 

 夕張は目に涙を浮かべながら、自分を沈めるであろうヲ級に視線を向けたとき、突然北方向から強い風が吹いて来て、何か大きな物がヲ級の顔に覆い被さってきた。

 

ヲ級「ヲ、ヲヲヲッ!!」

 

 ヲ級は、突然黒く大きな布の様なもので視界を塞がれたうえ、急に首や頭部に大きな衝撃を受け、首を捻った痛みと急に視界を失ったことで混乱している。

 

夕張「あれは何? 誰かの外套? それともハンモック!?」

 

 その大きな布の正体は、夕張が思わず口にしたハンモック、先ほど突風にあおられて飛ばされてしまっていた天龍のハンモックであった。

 

 

 

 

 カモ吉が敵の艦載機を引き付けている間に、天龍たちは夕張の戦闘海域付近まで来ていた。

 

深雪「天龍さん、あそこで誰か戦っているぞ!!」

 

白雪「あれは、新しく着任した夕張さんだわ!」

 

天龍「確か、雪風や榛名さんの救援に向かってくれていたって艦娘だな!」

 

深雪「でも、ダメージを受けているみたいだ!!」

 

白雪「敵と交戦して損傷しているようです、助けに行きましょう!!」

 

 深雪や白雪の言葉を受けた天龍は、すかさず左手で腰の刀を引き抜き突撃準備をとる。

 

天龍「ここにはまだ、雪風や榛名さんはいないか、深雪と白雪は先に進め!」

 

深雪「えっ!?」

 

 天龍の言葉に、深雪は疑問の声を上げる。

 

白雪「敵は1体だけのようだし、天龍さんは1人で夕張さんの救援に行くと言っているのよ!」

 

天龍「白雪の言う通りだ、きっとこの先で雪風たちが戦っているはずだから、お前たちは先に行くんだ!!」

 

深雪「わ、わかった!!」

 

 力強く返事をする深雪に対して、天龍は右手で拳を作って深雪の前にゆっくりと突き出す。

 

天龍「オレ様も、さっさと敵を倒して追いかけるが、雪風たちのことは、お前たちに任せたぜ!」

 

深雪「わかった、雪風たちの事は深雪たちに任せて!」

 

 深雪は、天龍に答える様に自身の右手の拳を突き返し、天龍の右手の拳にぶつけた。

 

 

 

 

榛名「くぅ、何とかして雪風さんに近づかないと……」

 

 榛名は、身動きがとれなくなった雪風を救助する為に駆け寄ろうとするが、重巡リ級が執拗に妨害してきて近づくことが出来ずにいた。

 

雪風「榛名さん、雪風のことは気にせず、リ級を倒して下さい!!」

 

榛名「雪風さん……」

 

 雪風の言葉を受け、榛名は一対一でリ級と交戦し、打ち破った上で雪風の救助に向かった方が良いのか考えたが、一度ヲ級エリートの方に向かっていた駆逐ロ級2体が戻って来た事に気がつき頭を悩ませる。

 

榛名「たしかに、榛名がすぐにこのリ級を倒せれば……、でもさっきから戦ってますが、今の榛名にはリ級を圧倒できる力も無いし……」

 

 榛名は、今まで雪風が軽巡ヘ級と駆逐ロ級2体の3体を引き付けて、自分がリ級と一対一で戦える様にしていてくれたにも関わらず、リ級に打ち勝つことが出来なかったと思い込み、焦りを感じていた。

 

榛名「ここにいるのが榛名じゃ無くて、金剛お姉様ならきっとこんな事態にはなっていないのに、榛名は……榛名は……」

 

 榛名は、リ級と交戦しながらも自分の力不足を責め、悔やみ、思い詰めていた。

 

    ドォォォォォン ドォォォォォン

 

 その時、東方向から36.5cm連装砲の砲撃音が聞こえ、2発の砲弾がリ級に直撃する。

 

榛名「えっ、この砲撃は!?」

 

 榛名と雪風が東方向に顔を向けると、そこには白い士官服を着た長髪の女性の姿があった。

 

雪風「しれぇ!?」

 

榛名「いえ、あれは金剛お姉様!?」

 

 美鈴から借りた士官服姿の金剛を見て、雪風と榛名が驚きの声を上げている事に気がついたか、金剛は大きく手を振り、2人に声をかけてくる。

 

金剛「ヘーイ、遅くなってSorryネ、助けに来たヨー!!」

 

    ぐっ ぐぉぉぉぉ

 

 金剛の砲撃を受けた、リ級は大破しながらも立ち上がってきた。

 

金剛「今デース! 榛名その重巡をやっつけるネ!!」

 

榛名「はっ、はい! 榛名は大丈夫です!!」

 

 焦りや不安から心が折れかけていた榛名であったが、金剛の出現に再び瞳に光が戻り、榛名は力強く金剛の声かけに答える。

 

 

 

 

深雪「遠くから砲撃音が聞こえるけど、雪風たちがいる海域はこっちでいいのか?」

 

白雪「まだ距離があって、はっきり分からないけど、とにかく音のする方に向かいましょう」

 

 天龍と別れて、雪風たちがいる海域に向かう深雪と白雪は、南方向から聞こえてくる砲撃音を頼りに進んでいた。

 

    くあー くあー くー くあー

 

 その時、上空から一羽のかもめの声が聞こえて来た。

 

深雪「カモ吉、無事だったんだね!」

 

 遭遇したヲ級の艦載機から、自分の群れの仲間たちを逃がすために、単独でヲ級の艦載機をひき付けていたカモ吉であったが、かもめだと気がついて追撃をやめたヲ級の艦載機たちを確認した上で、深雪のもとに戻って来たのであった。

 

カモ吉「くあー くあー くー くあー」

 

 カモ吉は、深雪と白雪に『こっちだ、ついて来い』と言う様に鳴くと、雪風たちがいる戦闘海域へと飛んでいく。

 

深雪「カモ吉が雪風の所に案内してくれるみたいだ、ついて行こうぜ!」

 

白雪「そうね、行きましょう!!」

 

 深雪と白雪は、カモ吉を追って大海原を南方向に進んで行った。

 

 

 

 

美鈴「全く無線が入らなくなっちゃったけど、みんなは無事でしょうか……」

 

明石「うーん、どうしても南西方面に行くと、みんなと無線連絡がとれなくなっちゃいますねぇ」

 

 美鈴は提督室の窓から、艦娘たちが戦っている南西方面を眺めていた。

 

麗美「この鎮守府付近には、まだ大きな電波塔が無いから、どうしても無線の圏外になってしまっているのね」

 

明石「なるほど、だから南西方面に行くと不思議と交信が出来なくなっているんですね!」

 

あかぎ「今後のことを考えると、この島にも電波塔の建設が必要ということですか」

 

咲樂「近くにいれば、無線機同士で交信することが出来ますが、鎮守府までの交信は出来ないから、どこかで中継するしか今のところ方法は無いですね」

 

 麗美たちの会話を聞きながら、美鈴は難しい表情を見せる。

 

美鈴「なんか難しくてよく分からないですが、無線で話をするためには塔を建てる必要があるんですね」

 

大淀「今までは、近くにある紅月鎮守府の航空基地の電波が届いていたので、私たちも無線を使えていましたが、南西側までは電波が届いていなかったという事ですよ」

 

美鈴「う~ん、なんだか電波とか中継とか工学的なことはよく分からないなぁ……」

 

    くー くー くあー

 

 不安げに外を見つめる美鈴に、窓の外から一羽のかもめが声をかけてくるように鳴いてきた。

 

美鈴「あっ、カモ美か、どうしたの?」

 

カモ美「くー くー くあー くあー」

 

美鈴「そうか、カモ吉がみんなのところに応援に行ってくれているんだ、だから大丈夫だって言うんだね」

 

カモ美「くー くあー」

 

 美鈴は、不思議とカモ美が何を言っているのか分かる気がして、提督室から鎮守府の南西方向を見つめるのであった。




前回の投稿から約3ヶ月が経過してしまい申し訳ありませんでした!!

いつも仕事の疲れか、家に帰ってきてこの話を書こうとすると寝落ちする病がひどくて、全然書き進められずにいました……

2019年中には、第一章を完結させて、2020年には第二章をスタートさせようとしていたのですが、全然間に合っていませんね……


最後に、遅れてしまいましたが
明けましておめでとうございます!
2020年もヨロシクお願いします!!


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第50話 軽巡たちの戦い

夕張「なんだかよく分からないけど、ヲ級が混乱している今が逃げるチャンスかしら?」

 

 急に飛んできたハンモックによって、混乱しているヲ級を見た夕張は、低下した速力の中で必死に撤退しようとしていた。

 

 司令塔であるはずの母艦が混乱状態であるため、ヲ級の艦載機たちも統制がとれておらず、逃げようとする夕張を追撃しようとするものはいなかった。

 

夕張「今のうちに、ヲ級から見えないところまで離れれば……」

 

 自分の役割はもう十分に果たせているはずと考えた夕張は、何としてでも鎮守府に帰投しようと、懸命にヲ級から離れ、戦闘海域から離脱しようとしていた。

 

 しかし、そんな夕張の想いとは裏腹に、ヲ級はハンモックを何とか振り払い、近くまで戻って来ていた艦載機たちに夕張の追撃を命じる。

 

    ギュゥゥゥン ギュゥゥゥン

 

 独特の飛行音を立てながら、次々と夕張にヲ級の艦載機たちが迫ってくる。

 

夕張「うそっ!? もう来たの! もう逃げられない!!」

 

 艦載機の接近に気付いた夕張は、悲鳴にも似た声を上げる。

 

    ズダダダダ ズダダダダ

 

 その時、北西方向から7.7mm機銃の射撃音が鳴り響く。

 

天龍「硝煙の匂いが最高だなぁオイ!」

 

 その射撃音の主は、夕張の救援に駆けつけた天龍だった。

 

夕張「え、援軍なの!?」

 

天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」   

 

 天龍は夕張に軽く視線を向けながらも、迫り来る敵艦載機に対して機銃を撃ち続けていた。

 

夕張「天龍っていったら日本初の近代型軽巡洋艦で、開発当初は世界をあっと言わせたっていうあの……」

 

天龍「フフッ、オレの装備は世界水準軽く超えてるからなぁ~」

 

 夕張の発言に気を良くした天龍は、7.7mm機銃で次々と敵艦載機を打ち落としていく。

 

夕張「す、すごい! (あんな旧型の装備で)敵の艦載機を圧倒しているなんて!」

 

 自分の艤装よりも旧型の装備で善戦する天龍を見た夕張は、何だか勇気がわいてきて体中の痛みをこらえながら、12.7mm機銃を構えて敵艦載機に照準を合わせる。

 

夕張「よぉし、私もやるわよ!!」

 

    ズダダダダ ズダダダダ

 

 夕張は、天龍に合わせる様に対空射撃を開始し、再び敵艦載機の迎撃を開始する。

 

 

 

 

天龍「んっ? 逃げ回っていたかと思ったが、やるじゃねぇか!!」

 

夕張「同じ軽巡なのに、(そんな旧式の装備で)こんなに戦える姿を見せられたら、私も負けられないって思っちゃいましてね」

 

天龍「そのやる気は買うが、そんな負傷してるなら、ここは下がっても良いんだぜ」

 

 中破状態でありながら、自分に合わせる様に対空射撃を行う夕張に対し、天龍は撤退を促す。

 

夕張「あはは、実は元々足が速いわけでもないのに、損傷でだいぶ速力が低下してて……」

 

天龍「なるほど、ならあのヲ級を仕留めるっきゃないな!!」

 

夕張「えっ!?」

 

 完全に不意を突いた奇襲で小破させることすら出来なかった、航空母艦ヲ級に対して自分よりも旧型装備である旧型軽巡洋艦の天龍が、自信満々の表情で「ヲ級を仕留める」と言ったことに対して、夕張は驚きの声を上げる。

 

天龍「この天龍さまが、ヲ級の至近距離まで到達できれば必ず戦闘継続不能にしてみせる! だから、それまで艦載機を何とかしてくれ!!」

 

夕張「えっ……、あっ、はいっ!」

 

天龍「頼んだぜ、夕張!!」

 

 天龍は左手に持っていた刀を両手でしっかりと握り直すと、一直線にヲ級に突撃していく。

 

夕張「天龍さん、熱くて真っ直ぐな人みたいね……、嫌いじゃ無いわ!」

 

 夕張は、体中の痛みをこらえながら使用可能な艤装を全て展開し、上空の敵艦載機に狙いを定める。

 

夕張「ろくな戦闘能力も無いのに、提督を守ろうと必死に敵艦載機に向かっていた明石、旧型の艤装しか持っていないのに恐れることなく敵に向かって行く天龍、まるで熱血スポ根アニメの展開じゃない……」

 

 美鈴や龍星鎮守府の艦娘たちと出会ってから、これまでの事を思い出しながらニヤけながらも心の奥底から湧き上がる熱いものを感じていた。

 

夕張「艦娘として生まれ変わった初日からこんなに熱い展開を味わえるなんて、絶対に死ぬわけにはいかないわよね!!」

 

 

 

 

    ズガガガ ズガガガ

 

 一直線に迫ってくる天龍に気がついたヲ級は、艦載機たちに天龍を撃墜する様に指示を出し、天龍の近くにいた艦載機たちは機銃で攻撃を仕掛けるが、天龍の素早い動きに命中させることが出来ない。

 

ヲ級「ヲ、ヲヲ! ヲヲヲッ!!」

 

 救援に現れた天龍に焦りをあらわにする、ヲ級は冷静な指示を出すことも出来ず、艦載機は各個に攻撃を繰り返すのみで、全く連携がとれていないため、これまでの戦闘や訓練で経験を積んでいる天龍にとっては回避は容易であった。

 

天龍「ふっ、こんな攻撃、鳳翔さんとの演習に比べたら目をつぶったって余裕だな!」

 

 しかし、ヲ級の戦闘可能な艦載機は未だに40機を超えており、連携がとれていないとはいえ、数で圧倒されれば天龍も長くは持たないという状況であると言うことも天龍は把握していた。

 

ヲ級「ヲヲッ、ヲヲヲッ!!」

 

 焦りにより、全くと言って良いほど指揮もとれず、周りの様子も見られなくなっているヲ級は、完全に夕張のことを忘れていた。

 

 

夕張「ヲ級の目には天龍さんしか見えていない様ね、天龍さんを援護する為にも、ここは私も頑張らなくっちゃね!!」

 

 天龍の後方にいた夕張は、体の痛みをこらえながらも前進を開始し、天龍に迫る敵艦載機に対空射撃を仕掛ける。

 

    ドォォン ドォォン

 

 不意を突かれたヲ級の艦載機たちは、夕張の対空射撃をもろに受ける形となり、10機ほどの艦載機が撃墜された。

 

ヲ級「ヲヲヲッ!?」

 

    ドォォン ドォォン

 

天龍「よそ見してると危ないぜ、天龍さまの攻撃だ!!」

 

ヲ級「ヲォ、ヲヲヲォ……」

 

 夕張に気をとられていたヲ級は、天龍の攻撃により小破したのであった。

 

 

 

 

町井田「こちらミディア、北方海域から帰投した那珂たちを収容した、これより龍星鎮守府に帰港する」

 

大淀「了解しました、皆さんお疲れ様です」

 

町井田「ところで、南西方面の状況はどうなっている? 白雪たちは無事か?」

 

麗美「こっちも無線が届かなくて詳細は分からないわ、モニターを見る限りだと天龍が夕張の救援に行って、白雪と深雪が榛名や雪風の救援に向かっている途中だわ」

 

鳳翔「私も再出撃の準備は出来ました、どうか出撃の許可を」

 

 町井田の隣で、通信を聞いていた鳳翔は、自身の艦載機の補給と修理が完了したことから再出撃の許可を求める。

 

美鈴「今は、南西側の状況が分からないから、鳳翔さんに出撃してもらって状況を確認してもらうのはどうでしょうか?」

 

あかぎ「良い考えだと思います、ただ、他方面警戒も必要な状況ですから、あまり鎮守府からは離れない様にしてもらう必要があると思います」

 

明石「修理が必要な電はまだ無理ですが、雷の艤装の整備も終わっています、紅月准将の協力をもらって雷にも警戒を頼んでみるのもありだと思います」

 

大淀「私も2人の意見には賛成です、良い考えだと思います」

 

 鳳翔からの進言を受けた美鈴が、あかぎ達と相談していると、モニターで戦況を確認していた麗美が、美鈴に歩み寄ってきて声をかける。

 

麗美「メーリン、今の話は聞こえたわよ。 雷の件は了解したわ、龍星鎮守府周辺の警戒や支援くらいなら問題ないわ」

 

美鈴「麗美さん……、いやレミィ、ありがとうございます」

 

咲樂「(ちっ、お嬢様のことを「レミィ」だなんて、本当に馴れ馴れしい人ね)」

 

 美鈴は、背後から咲樂の鋭い視線を感じ、思わずゾクッとする。

 

麗美「友好関係にある龍星鎮守府を支援するために、この付近の海域にいる紅月艦隊は更なる深海棲艦からの攻撃には全力をもって対応するから、この南西方面の戦い必ず勝つのよ、メーリン!!」

 

 麗美は腕を組みながら力強く美鈴に言葉をかけると、その麗美の表情から不意にレミリア・スカーレットの面影を感じた美鈴は、思わず跪いて両手を前に組み、三国志の武将の様な敬礼の姿勢をとる。

 

美鈴「は、はい! ありがとうございます! お嬢様!!」

 

麗美「えっ、お嬢様って……、咲樂の真似?」

 

咲樂「(そうよ、それでいいのよ、やれば出来るじゃない美鈴)」

 

 思わずとってしまった美鈴の最敬礼とそれに驚く麗美、その様子を後方から見ていた咲樂は何故か満足げであった。

 

 

 

 

ヲ級「ヲッヲ ヲヲヲッ……」

 

天龍「ふふっ、この戦いで、オレはまだ活躍してねぇからな…… ヲ級の1体くらい潰しておかなきゃ、紅月艦隊のチビ共にでかい顔されちまうしよぉ!」

 

 天龍は、北方海域での戦いで暁がヲ級2体を撃墜する殊勲を挙げていた事を聞いており、対抗心に燃えていると言うわけではないが、自分だって今までに金剛や鳳翔と演習を繰り返し、更には美鈴から人間としての体の使い方や戦い方を学んで来た事を思い出しながら、これまで巨大に感じていたヲ級が今は手の届く所にいると言う実感があった。

 

天龍「前までなら、ヲ級やル級なんて絶対に敵わないとビビっちまっていたが……」

 

    ヒュュュュン ヒュュュュン

 

 ヲ級の艦載機から、天龍に目掛けて爆弾が投下される。

 

夕張「危ないっ、天龍さん!!」

 

天龍「このくらい!!」

 

    ドォォン ドォォン

 

 天龍は、体を翻しながら素早く旋回しつつ、一瞬で投下された爆弾を狙撃する。

 

ヲ級「ヲォ!?」

 

天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

 

ヲ級「……テンリュウ?」

 

 天龍はヲ級の懐に飛び込むと、両手で握っていた刀をヲ級に向かって振り抜く。

 

ヲ級「ヲヲッ……」

 

 ヲ級はとっさに回避しようとしたが、頭部にある巨大な艦載機とも触手付きの帽子とも思える艤装を真っ二つに切り裂いた。

 

ヲ級「ヲ、ヲヲヲ……」

 

 透き通る様に白く長い髪と、雪の様に白い素顔を見せたヲ級は恐怖に怯えているようにも見えた。

 

天龍「怯えているのか……、ふんっ、降参してもう攻めてこないっていうんなら、見逃してやる!」

 

ヲ級「……コウサン?」

 

 天龍の言葉を聞いた、ヲ級は一瞬動きを止めたが、力のこもった瞳で天龍を睨み返す。

 

ヲ級「……シナイ!!」

 

 空母で言うところのカタパルトにあたる頭部艤装を破壊され、中破状態となったヲ級であったが、天龍の降伏勧告に対し強い拒絶を示した。

 

 

 

 

夕張「何だろう、だんだんあのヲ級が力強くなってくる様な感じが……」

 

天龍「何だ、最後の力を振り絞って抵抗してくる気か!?」

 

 頭部艤装を失ったヲ級ではあったが、すでに発艦している艦載機たちに指示を出すかの様に右手に持った杖の様な艤装を振り上げ、天龍を指す様に振り下ろす。

 

    ギュゥゥゥン ギュゥゥゥン

 

 するとヲ級の艦載機たちは、これまで統制がとれていなかったのが嘘の様に、編隊を組み直しながら一糸乱れぬ動きで天龍に向けて一斉攻撃を仕掛けてきた。

 

天龍「そう来なくっちゃなぁ!!」

 

 天龍は、上空の敵艦載機に向かって対空砲撃を行いながら、静かに夕張に目線で合図を送る。

 

夕張「えっ、アイコンタクト?」

 

 天龍が夕張に合図を送った先には、完全に天龍を仕留めることに集中し、夕張には目もくれていない中破状態のヲ級の姿があった。

 

夕張「そうか、天龍さんはこの隙を作るために、あんな目立つ行動を……」

 

 

    ズダダダ ズガガガガガ

 

 天龍の対空射撃によって、前線の艦載機を落とされてもなお突撃してくるヲ級の艦載機の猛攻によって、天龍も着実にダメージが増えてくる。

 

天龍「大丈夫だ、この隙に夕張が決めてくれるはずだと信じているぜ……」

 

 激戦の中で天龍が呟いた言葉は、夕張の耳には届いていなかったが、天龍の意図を汲んだ夕張は残っている魚雷3発をヲ級に向けて発射する。

 

 

     ドォォォォォォン

 

 夕張の放った魚雷は、吸い込まれる様に全弾ヲ級に命中し、ヲ級は大きな水柱を上げながら海に沈んで行った。

 

 指揮艦を失ったヲ級の艦載機たちも、次々と海面に墜落していった。

 

 

 

 静かになった海上には、ボロボロになった天龍と夕張がやりきった表情で互いにガッツポーズをとっていた。




前話を今年の初めに投稿して以来、約8ヶ月となってしまい申し訳ありません。

この間、世界では新型コロナウイルスの影響で皆さん色々と大変だったかと思いますが、私自身も引越しなど生活環境が大きく変わり、なかなか執筆時間がとれない状況が続いてしまい、こんなに遅くなってしまった事をまずはお詫びいたします。

気付けば、もう50話に到達した『華人小娘と愉快な艦娘たち』ですが、以前から言っていたかもしれませんが、現在の戦いに終止符がついた時点で第1部の終了と区切りをつけて、番外編などを挟みながら第2部に突入しようかと考えております。

番外編では、とある別の鎮守府に焦点を当てた話や、この世界観の過去の話なんかを考えております。

まぁ、その前にきっちりとこの第1部を完結させることが肝心だと思いますので、あと何話になるかは断言は出来ませんが、
気合い、入れて、行きます!!


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第51話 深海棲艦の抵抗

    ドォォォォォォン

 

ヲ級エリート「コノ バクハツハ? オイ、ドウナッテイルンダ!!」

 

 金剛の弾着観測射撃を受けて大破状態の、ヲ級エリートは夕張と交戦していたヲ級がいる方角での大爆発に気がつき、慌ててヲ級の安否を確認する。

 

 しかし、天龍と夕張により撃沈されたヲ級からの返信が来るわけは無く、ヲ級エリートはヲ級が撃墜された事を悟った。

 

ヲ級エリート「クソ、コウナレバ メノマエノ カンムスドモ ダケデモ……」

 

 まともに動けなくなったヲ級エリートではあったが、深海棲艦の残存数は大破した重巡リ級1体、未だに健在な軽巡へ級1体と駆逐ロ級2体に加え、敵の援軍と誤認し北西に向かわせていた艦載機約50機がこの海域に急行している。

 

 それに対して、目の前にいる艦娘は行動不能になった雪風と、リ級との戦いで消耗している榛名、そして何故か海軍士官の服装をしている金剛の3名であるが、実質脅威となるのは金剛、そして疲労している榛名のみである。

 

ヲ級エリート「アノ クチクカンヲ リヨウスレバ、ショウキハ アル!」

 

 自身も大破し、有力な友軍が撃沈という絶望的な状況下から、不思議と冷静さを取り戻し始めたヲ級エリートは、後方から広い視野で友軍に対して指揮を執り始める。

 

 

金剛「Shit! 深海棲艦の艦載機が戻って来たネ!!」

 

 ヲ級エリートの艦載機の接近に気がついた金剛は、大至急迎撃する必要があると判断し、榛名に指示を出す。

 

金剛「動きの速い軽巡と駆逐艦は、私に任せるネ! 榛名は三式弾で対空砲撃をお願いしマース!!」

 

榛名「は、はい! 対空射撃はお任せ下さい!!」

 

 リ級に攻撃を仕掛けようとしていた榛名であったが、大破しまともに動けなくなっているリ級よりも、数が多く通常の敵艦載機よりも強力なヲ級エリートの艦載機たちの方が脅威であると判断し、主砲の砲弾を三式弾に換装する。

 

 

 

 

    ズゥゥゥゥゥゥン ズゥゥゥゥゥゥン

 

 ヲ級エリートの艦載機たちが、上空を飛んで行く様子を、少し離れたところから深雪と白雪は確認していた。

 

深雪「敵の艦載機たちが南西側に向かって行く!!」

 

白雪「カモ吉が、引き付けてくれていた艦載機たちが戻っていくみたいね」

 

深雪「と言うことは、敵や雪風たちはあの先にいるということか!?」

 

白雪「きっとそうに違いないわ、でも凄い数の艦載機……」

 

 あらためて、敵艦載機の数が多い事に不安を感じる2人であったが、だからこそいち早く救援に向かう必要があると認識させられた。

 

深雪「雪風、榛名さん、もうすぐ行くから待っててくれよ!!」

 

白雪「特に雪風は、連戦が続いているから、燃料の消耗が心配だよね」

 

 白雪が雪風の燃料の心配をしていると、白雪が引っ張っているドラム缶の上で休憩していたカモ吉が、何かを言いたげにクチバシでドラム缶をコンコンとつついてみせる。

 

白雪「カモ吉が何かを伝えようとしている?」

 

深雪「雪風に燃料を届けてくれるって言っているのか?」

 

    くぁー

 

カモ吉は、深雪に『そうだ』と言う様にドラム缶の上で翼を広げて見せた。

 

 

 

 

 榛名と連携して、深海棲艦の水雷戦隊と艦載機を迎え撃とうとした金剛であったが、軽巡へ級と、駆逐ロ級2体はヲ級エリートの指示に従い、二手に分かれて雪風と榛名に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

金剛「Shit! このままでは味方に被害が出てしまうネ」

 

 燃料切れで身動きのとれない雪風と、敵艦載機の迎撃に集中している榛名を狙う敵水雷戦隊に対して、金剛はとっさに主砲を構える。

 

金剛「撃ちます! Fire~!」

 

 金剛は、榛名に向かっていた軽巡へ級を牽制するよう主砲を放つ。

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

金剛「ふふっ、Hey、Hey! ワタシはここデース、まとめてかかって来るネー!!」

 

 金剛は続けざまに、雪風に向かっていた駆逐ロ級2体に向けて機銃を放つ。

 

    ズガガガガ  ズガガガガ

 

金剛「ワタシは金剛型超弩級戦艦1番艦の金剛ネー、アナタ達程度の相手はワタシ1人で十分デース!!」

 

 金剛は、敵部隊で未だに健在であるヘ級1体とロ級2体の合計3体に対して、敢えて大きく立ち回りながら挑発する。

 

軽巡へ級「グゥゥゥ」

 

駆逐ロ級「シャァァ」

 

 ヘ級達は金剛の挑発にまんまとかかり、攻撃目標を金剛に変更した様子で向かって来た。

 

ヲ級エリート「バ、バカッ! オマエタチ ワタシノ サクセンニ シタガエ!!」

 

 

 

 

榛名「お姉様が敵を引き付けてくれている?」

 

 接近してくる敵艦載機に集中しながらも、敵水雷戦隊を引き付ける金剛の様子を確認する。

 

榛名「敵の艦載機が迫って来ている……、あの日と同じように……」

 

 自分たちを討つべく戦場に戻ってきているヲ級エリートの艦載機を見ながら、榛名の脳裏には艦船時代に経験した呉軍港空襲の光景が浮かんでいた。

 

 傷つき、燃料も底をついてまともに航行することが出来なくなった状態の友軍艦と共に、必死に対空射撃を繰り返すも、度重なる爆撃で次々と撃沈されていく友軍艦、そして榛名自身も行動不能となり、呉の軍港で大破着底したあの日の光景を……

 

金剛「Burning Looove!」

 

 榛名の後方から聞こえてくる、金剛の勇ましい声

 

 今の榛名の目には、『不安』、『恐怖』、『悲しみ』といった感情はなく、頭の痛みも混乱もなかった。

 

榛名「今の榛名は、自由に動くことも出来るし弾薬も十分にあります……」

 

金剛「榛名を攻撃させないネ! てぇぇぇぇい!!」

 

 榛名の後方からは、敵水雷戦隊と戦闘を繰り広げる金剛の声が聞こえてくる。

 

榛名「そして、あの時にはもういなかった金剛お姉様が、今はいて、榛名の背中を守ってくれているの……」

 

 もう少しで敵艦載機が三式弾の射程圏内に入るところで、榛名は大きく息を吸い込み、主砲の標準を敵艦載機の編隊に合わせる。

 

榛名「だから……」

 

 榛名は、上空の敵艦載機に向けて右手を力強く振り上げる。

 

榛名「榛名は!もう!大丈夫です!!」

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 榛名の主砲から放たれた三式弾は、敵艦載機編隊の先頭集団を撃ち落とすと、続けざまに機銃で対空射撃を行いながら、素早く主砲に三式弾を再装填する。

 

榛名「金剛お姉様が、榛名の背中を守ってくれている様に! 金剛お姉様の背中は、榛名がお守りします!!」

 

 

 

 

 そのころ龍星鎮守府では、見事にヲ級を撃破した天龍と夕張からの無線が届いていた。

 

天龍「ふぅー、やっと無線が届いたか」

 

大淀「通信設備を持つ町井田中尉のミディアが、電波の中継の為に、そちらの海域に向かって下さっているおかげで、少しずつ交信可能な距離が広がっています」

 

夕張「なるほど、確かにそうすれば電波の不感地帯が解消されますね」

 

美鈴「うーん、専門的なことはよく分からないけど、2人とも怪我は無い?」

 

 鎮守府のレーダーで、夕張がおびき出したヲ級1体を、天龍と夕張が撃墜したという簡単な状況はわかっていたが、詳しい戦況が不明だった事もあり、美鈴は2人の安否を心配していた。

 

天龍「んー、まぁオレはまだ行けっけど、夕張は中破してるし帰投する必要ありってところか」

 

夕張「いやいや、天龍さんも私のためにヲ級の艦載機を全機相手にしたせいで、中破してしまっているじゃないですか」

 

 天龍と夕張は中破していると報告を聞いた美鈴は、南西方面の状況を確認する。

 

美鈴「確か、まだ雪風や金剛たちとは連絡は取れないけど、深雪と白雪も向かってましたよね?」

 

明石「そうですね、いざとなればミディアから鳳翔さんも向かえます」

 

美鈴「なら、損傷した2人には一度戻って来てもらった方がいいですよね」

 

あかぎ「では、天龍と夕張は鎮守府に帰投するように連絡しましょう」

 

 美鈴たちのやりとりを、紅茶を飲みながら眺めていた麗美は、嬉しそうに微笑みながらテーブル越しに腰掛けている咲樂に声をかける。

 

麗美「あかぎも、何だか生き生きしているわね」

 

咲樂「艦娘として戦えなくなったことで、どこか塞ぎ込みがちなところがありましたが、お嬢様の仰るとおり、引っ張り出してきてよかったみたいですわ」

 

麗美「あかぎの知識や経験は、必要としているところでは活かすことができるのよ」

 

 麗美は、そう言いながらティーカップをそっとソーサーに置いた。

 

 

 

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

    ズダダダダ ズダダダダ ズダダダダ

 

 迫り来るヲ級エリートの艦載機を、榛名は懸命に迎撃し続けている。

 

榛名「ここから先へは、榛名が通しません!!」

 

 榛名の対空射撃によって、ヲ級エリートの艦載機の編隊は半壊し、完全に足止めを受けていた。

 

ヲ級エリート「ナ、ナンテコトダ……」

 

 健在だった軽巡ヘ級と駆逐ロ級も、完全に金剛の挑発に乗ってしまったうえ、ロ級2体が撃沈され、ヘ級1体が金剛と砲撃戦を繰り返している状況であった。

 

ヲ級エリート「クソォ、ワタシノ メイレイヲ ヤツラガ キイテイレバ……」

 

 金剛の弾着観測射撃により大破し、まともに体を動かす事の出来ないヲ級エリートは、悔しさで唇をかみしめながら、燃料切れのため行動不能となった雪風に視線を向ける。

 

ヲ級エリート「アイツヲ ツカマエテ ヒトジチニ デキテ イレバ……」

 

 ヲ級エリートは、雪風が行動不能になった時点で、雪風を人質にして金剛たちに武装解除を要求しようとしていたのだが、ヘ級とロ級にはその意図は伝わりきらず、作戦は失敗してしまっていた。

 

 ヲ級エリートは、榛名に足止めを受けている自身の艦載機たちに視線を移そうとしたその時、金剛や榛名からやや離れた海面でもがいている重巡リ級の姿が目にとまった。

 

ヲ級エリート「リキュウ!? マダウゴケルノカ?」

 

 ヲ級エリートの呼びかけに、痛々しく手を上げてリ級が答えた。

 

 

 

 

    ドォォォォォォン ドォォォォォォン

 

 金剛は、主砲を軽巡へ級に向けて主砲を放つが、ヘ級はしぶとく砲撃を回避する。

 

金剛「Shit! あの深海棲艦なかなかしぶといネ……」

 

 交戦していたロ級2体は撃沈したものの、最後の1体であるヘ級に苦戦している金剛は焦る気持ちで、ついつい深追いしてしまっていた。

 

妖精さん『コンゴウ タイヘンダ! ユキカゼノ トコロニ ハヤク!!』

 

金剛「あぁっ! 雪風に敵が迫ってマス!!」

 

 零式水上偵察機の妖精さんからの報告を受けた金剛は、視線を雪風に向けると、大破し身動きがとれなくなっていたはずの重巡リ級が低速ながらも迫っていた。

 

金剛「距離が離れすぎていて、ここからじゃ敵だけを狙い撃てないデス!!」

 

 

榛名「くっ、雪風さんの支援に……」

 

    ドォォォォォォン ズダダダダ

 

 雪風の窮地は榛名の耳にも届いていたが、榛名もヲ級エリートの艦載機を迎撃するので手一杯であり、支援に向かえる状況ではなかった。

 

 

雪風「て、敵が迫ってきます……、な、なんとか動いて……」

 

 リ級の接近に気付いた雪風は、必死に体を動かすが艤装の燃料切れのため、その場から移動する事が出来なかった。

 

 

ヲ級エリート「ウゴケナイ カンムスヲ ヒトジジニスレバ、 コノバヲ キリヌケル コトガ デキルハズ!!」

 

 炎上し身動きがとれないヲ級エリートは、同じく大破し満身創痍でありながらも懸命に動くリ級に必死に指示を出し、雪風を捉える様に指示する。

 

 金剛の挑発にのり金剛と戦闘を繰り広げていた軽巡へ級も、偶然ではあったが金剛を雪風から北西方向へ遠ざけており、ヲ級エリートがリ級に指示している作戦を理解して、金剛が雪風の支援に向かえない様に時間稼ぎをするように逃げ回ったり、榛名に攻撃を仕掛けるそぶりを見せたりしながら金剛を牽制していた。

 

 

 

 

妖精さん『コンゴウ! ホクトウホウコウカラ ナニカガ トンデクルヨ!!』

 

金剛「何かが飛んで来る? 艦載機ですカ!?」

 

 零式水上偵察機の妖精さんの報告を受けた金剛は、北東方向の上空に視線を向ける。

 

金剛「あれは!?」

 

 金剛の目には、クチバシで何かをくわえているやや大柄なカモメが、たった一羽でこちらに飛んで来る様子が映った。

 

金剛「こんな戦闘海域に、どうしてカモメが来るデース?」

 

 

 高速で飛来してくるカモメがいるという、金剛からの通信を聞いた雪風は、北西方向の上空に視線を向けると、見知ったカモメである事に気がついた。

 

雪風「あ、あれは! カモ吉!!」




 大変長らくお待たせいたしました。

 前回の投稿から5ヶ月も経ってしまいましたが、ようやく第51話が完成しました。


 pixivで2018年4月に、この『華人小娘と愉快な艦娘たち』を投稿しはじめてからまもなく3年が経過します。

 このペースだと、以前からお話ししている、この第1部の完結ですらいつになるんだというところですが、何とか書き進めていこうと思いますので、今後もよろしくお願いいたします!


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第52話 幸運艦

 高速で飛んできたカモ吉は、雪風に向かって高度を落としながら近づいてきた。

 

雪風「カモ吉が何かをくわえている?」

 

 カモ吉は、クチバシでくわえていたカプセルの様なものを雪風の上空から投下する。

 

    くぁー くぁー

 

雪風「あれは、雪風に?」

 

 移動する事が出来ない雪風は、懸命に手を伸ばしてカモ吉が落としていったカプセルの様な物体をキャッチする。

 

雪風「これは……、燃料のマークが書かれています」

 

 カモ吉が落とした物体は、フィルムケース位の大きさの緊急時用の携帯燃料缶であり、中身が入っている様子であった。

 

雪風「燃料なんて、どうしてカモ吉が?」

 

    ドォォォン

 

 カモ吉が運んできてくれた携帯燃料を雪風が見ていると、雪風に接近してきていた重巡リ級がフラフラになりながらも砲撃してきた。

 

雪風「あっ、危ないです! 早く燃料を……」

 

 リ級の砲撃は雪風には当たらなかったものの、近くに着弾したため波しぶきにより雪風の体はフラつかされていた。

 

 このままでは、逃げることも戦う事も出来ない雪風は、カモ吉を信じ急いで艤装に燃料を補給する。

 

雪風「これなら、少しだけですが、何とか動くことが出来そうです!」

 

 カモ吉が運んできてくれた燃料のおかげで、雪風の艤装に再度火が入った。

 しかし、ごくわずかな燃料のため完全な再稼働では無く、移動する程度の行動に限られていた。

 

 

 

 

ヲ級エリート「クッ! クチクカンガ ウゴキダシタダト!!」

 

 雪風が再稼働したことを確認したヲ級エリートは、大破状態の重巡リ級では雪風に追いつけないと判断し、榛名と交戦中の艦載機たちを確認する。

 

 50機ほどいたはずの艦載機は、榛名との交戦により半数以上撃墜されており20機ほどとなっていた。

 

ヲ級エリート「アノ センカンヲ シズメルコトハ デキナイカ……」

 

 金剛と合流したことで、士気の上がっている榛名は、再びゾーンに入った状態となっており、三式弾を駆使して次々とヲ級エリートの艦載機たちを撃墜していた。

 

ヲ級エリート「ダガ クチクカンヲ クイトメルニハ ヤツラニ ハタライテ モラワネバナ!」

 

 ヲ級エリートは、艦載機たちに指示を出し、半数を榛名の足止めに、残りの半数には雪風を攻撃する様に指示を出す。

 

 

 ヲ級エリートの艦載機と交戦中の榛名は、艦載機の半数が自分から離れて雪風がいる東方向へ向かい始めた事に気がつく。

 

榛名「まさか、雪風さんを狙う気じゃ!!」

 

 榛名は、とっさに雪風がいる方向へ移動を開始した艦載機に砲撃を仕掛けるも、距離が離れていたこともあって半数ほど撃ち漏らし、5機の艦載機が雪風に向かうことになってしまった。

 

榛名「しまった! 雪風さん、そちらに敵艦載機が!!」

 

 榛名はとっさに、無線で敵艦載機が雪風に向かった事を報告する。

 

 

金剛「くぅ! こっちからじゃ迎撃が間に合わないネ!!」

 

 榛名の無線を聞いた軽巡ヘ級と交戦中の金剛は、ヘ級に足止めされてしまっており雪風に向かって行った敵艦載機を追うことが出来ずにいた。

 

 

 

 

 重巡リ級に追われている雪風は、金剛や榛名がいる西方向に向かうことが出来ず、正反対となる東方向への移動を余儀なくされていた。

 

雪風「まだ、燃料が不足していて攻撃が出来ません! でも、何とか逃げてみます!!」

 

 雪風を追うリ級は、金剛の攻撃により大破しているため、動きに機敏さは無く、戦闘能力も低下しているが、駆逐艦の雪風にとって重巡の砲撃は脅威であった。

 

 カモ吉から受け取った燃料は微量であり、いつまで艤装を動かすことが出来るか分からない状況で雪風は懸命にリ級を振り切ろうとしていた。

 

雪風「金剛さんと榛名さんなら、残りの深海棲艦に負けるはずありません! だから、雪風が足を引っ張るわけにはいきません!」

 

 自分が無事に脱出することが出来れば、軽巡クラスのヘ級と大破状態のヲ級エリートとリ級が相手であれば、万全の状態の金剛と戦意高揚中の榛名が負けるはず無いと判断した雪風は、とにかくスピード差を活かしてリ級を振り切ろうとしていた。

 

    ギュゥゥゥン ギュゥゥゥン

 

雪風「この音は、まさか!?」

 

 雪風が音のする上空に目を向けると、榛名が討ち漏らしたヲ級エリートの艦載機が、独特の飛行音を立てながら雪風に迫って来ている事に気がついた。

 

雪風「そんな……、こんなときに……」

 

 敵艦載機の接近に気がついた雪風が、青ざめた表情で上空を見上げていると、カモ吉が雪風の上空で大きく旋回している事に気がついた。

 

雪風「カモ吉? 敵の艦載機が来ます、速く逃げて!!」

 

    くぁー くぁくぁー

 

 カモ吉は、自身がやってきた北東方向に向かって何かに呼びかける様に鳴き声を上げた。

 

 

 

 

 龍星鎮守府の司令室では、美鈴がモニターの前でソワソワと歩き回っていた。

 

麗美「南西方面の艦娘たちが心配なのかしら?」

 

 落ち着かない様子の美鈴を見かね、紅茶を飲み終えた麗美が美鈴に歩み寄って声をかける。

 

美鈴「えっ? えぇ、どうにも状況が分からないというのは……」

 

麗美「気持ちは分からなくも無いけど、落ち着きの無い指揮官は部下に不安を与えるわよ」

 

美鈴「た、たしかに……」

 

麗美「夕張の報告では、敵の規模はヲ級1体と巡洋艦2体に駆逐艦2体、対するこちらの戦力は金剛、榛名、雪風に、深雪と白雪が援軍に向かっている状況だったわよね」

 

美鈴「はい、白雪は武装無しの補給要員ですが、数ではほぼ互角でしょうか」

 

麗美「空母は確かに脅威だけど、夕張の報告だと大分かき乱している様だったわね」

 

美鈴「と言うことは、優勢だという事でしょうか?」

 

麗美「自分の部下を信頼し、任せる事ができるというのも優秀な指揮官の条件よ」

 

美鈴「部下を信じる……」

 

 美鈴は、麗美の言葉をかみしめながら目を閉じて、考え込む様に腕組みをしながら顎に右手を当てる。

 

美鈴「そうですね、でも……」

 

 美鈴は、ゆっくりと言葉を紡ぎながら右手を下ろし、真っ直ぐに麗美に視線を向けながら言葉を続ける。

 

美鈴「その言葉一つだけ訂正させてもらいますよ」

 

麗美「なにかしら?」

 

美鈴「あの娘たちは、私にとって部下なんかじゃありません……、大切な仲間です!」

 

 

 

 

    ギュゥゥゥン ギュゥゥゥン ズガガガガ

 

 雪風を追ってきた敵艦載機は、反撃することが出来ない雪風に向かって機銃を撃ってくる。

 

雪風「う、うわぁ、でも当たるわけには……」

 

 雪風は体を動かしながら懸命に敵艦載機の攻撃を回避する。

 

    くぁー くぁー

 

 雪風を狙う敵艦載機に対して、カモ吉は威嚇する様に鳴き声を上げる。

 

雪風「ダメ! カモ吉だけでも速く逃げて!!」

 

 カモメにとっても脅威であろうはずの深海棲艦の艦載機に対し、ひるむこと無く向かって行く姿勢を見せるカモ吉ではあるが、有効な攻撃手段があるわけでは無い。

 

    ブゥゥゥゥン

 

 その時、西方向からプロペラ音が聞こえたため、雪風は音が聞こえた西方向に目を向ける。

 

妖精さん『コンゴウタチガ クルマデノ ジカンヲ、 ボクタチデ カセグンダ!!』

 

 雪風の視線の先には、雪風を支援するために駆けつけてきた金剛の零式水上偵察機3機があった。

 

雪風「妖精さん!? でもその機体じゃ……」

 

 零式水上偵察機は零戦のような戦闘機ではなく、あくまでも偵察機であるため敵艦載機と戦闘を行える様な武装は装備されていない。

 それでも、妖精さんたちは軽巡へ級に足止めを受けている金剛や、残りの敵艦載機を迎撃中の榛名が現状を打破して雪風の救援に来ることを信じ、少しでも時間稼ぎをしようと雪風を狙う5機の敵艦載機を追ってきたのであった。

 

 

 

 

    ズガガガガ ズガガガガ

 

 カモ吉や零式水上偵察機の妨害を受けながらも、2機の敵艦載機たちは雪風へ執拗に攻撃を仕掛けてくる。

 

雪風「くぅ、このままじゃ、このままじゃ……」

 

 雪風の視線の先には、振り切れそうだったはずの重巡リ級がゆっくりではあるが迫って来る姿が映っていた。

 

妖精さん『コンゴウタチハ マダナノ? コノママジャ ヤラレチャウヨ!』

 

雪風「戦うことも、逃げることも出来ないなんて、雪風は、雪風は……」

 

 絶望的な状況で、自分が仲間たちの足を引っ張ってしまっていると思い詰める雪風は、泣き声になりながらも必死に上体を動かして敵艦載機の機銃を回避する。

 

    くぁー くぁくぁー

 

 カモ吉の警告する様な鳴き声に、雪風は視線を右方向に向ける。

 

 そこには、魚雷を装着した敵艦載機の2機が雪風に向かって接近して来る姿があった。

 

雪風「航空魚雷!? 避けられるの?」

 

 2機の敵艦載機は、雪風の右方から順番に航空魚雷を放ってくる。

 

雪風「絶対に避けないとっ!」

 

 航空魚雷が1発でも命中すると、駆逐艦である雪風にとって致命傷になりかねないこともあり、雪風は燃料の残量を気にする余裕もなくなり、艤装の機関を全開にしながら懸命に航空魚雷を回避した。

 

妖精さん『シマッタ! ユキカゼ ウエダ!!』

 

 航空魚雷を回避し終えたばかりの雪風に、零式水上偵察機の妖精さんの叫ぶ声が脳内に響き渡る。

 

雪風「妖精さんの声が…… 上?」

 

 妖精さんの声に気がついた雪風が上空に視線を移すと、そこには爆弾を装着した敵艦載機1機が高高度から雪風に向かって急降下していた。

 

雪風「あっ……」

 

 航空魚雷を回避したばかりの雪風を狙う様に、敵艦載機は急降下爆撃を仕掛けてきたのである。

 

 

 

 

    ドゴォォォォォォン

 

 何とかヲ級エリートの艦載機を撃退したばかりの榛名と、軽巡へ級によって足止めを受けている金剛のもとに雪風がいる方向からの爆音が聞こえて来た。

 

金剛「な、何の爆発デース!?」

 

榛名「あっちは、雪風さんが撤退していた方角です!!」

 

 慌てて爆音がした方角を確認する金剛と榛名は、距離が離れすぎていて詳しい状況を視認できずにいたが、黒い煙が上がっている様子だけは確認出来た。

 

榛名「まさか、雪風さんが……」

 

金剛「雪風が沈むわけ無い! 妖精さんたち状況を教えて欲しいデース!!」

 

 金剛は雪風のもとに向かっていた零式水上偵察機と通信を試みる。

 

     ザザザ…… ザザ……

 

 ノイズ混じりに、妖精さんの声が金剛の脳内に聞こえてくる。

 

妖精さん『ユキカゼ、シッカリスルンダ! ユキカゼ!!』

 

金剛「妖精さん、一体どうなっているデスか!? 状況を教えて下さい!!」

 

 ただならぬ様子の金剛を見た榛名は、最悪の状況を想像し血の気の引いた表情で金剛に声をかける。

 

榛名「お姉様、まさか雪風さんが……」

 

金剛「まだ分からないネ! でも良い状況では無さそうデスから、すぐにでも救援に向かうデース!!」

 

    ドォォォン ドォォォン

 

 金剛と榛名の慌てる様子に気付いたのか、つかず離れずの状況であった軽巡へ級が積極的に砲撃を仕掛けて来る。

 

金剛「くっ、あのEnemyを何とかしなければ、後ろから攻撃されてしまう」

 

 ヘ級の攻撃を回避した金剛は、右手で榛名の左手を掴んで自身に引き寄せる。

 

金剛「雪風を攻撃しているのは、さっき向かって行った艦載機のはずね、三式弾を持ってる榛名には今すぐ雪風の救援に向かって欲しいネ」

 

 真剣な表情の金剛の指示を聞いた榛名は、動揺を振り払いながら力のこもった瞳で金剛の顔を見る。

 

金剛「ワタシもすぐに敵を倒して後に続くから、まずは雪風と合流して雪風に何かあったのなら雪風を連れて鎮守府に撤退するネ、OK?」

 

榛名「はい、雪風さんは沈ませません!」

 

 

 

 

 敵艦載機の急降下爆撃を受けた雪風は、大破しボロボロになりながら海上に倒れ込んでいた。

 

雪風「うぅ、もう体が動きません……」

 

 倒れた雪風を心配する様に、カモ吉が雪風の顔をのぞき込んでいる。

 

雪風「まだ敵がいます、カモ吉は早く逃げて……」

 

 損傷によって身動きを取ることが出来なくなった雪風のもとに、重巡リ級がゆっくりと迫って来ており、敵艦載機たちは金剛の零式水上偵察機を撃破するために攻撃を仕掛けていた。

 

 

ヲ級エリート「ソウダ、アノクチクカンヲ イキタママ トラエテ ヒトジチニスルンダ!!」

 

 自身も大破し満足に身動きがとれなくなっているヲ級エリートは、金剛や雪風たちからやや離れたところから、自身の艦載機や金剛を足止めしている軽巡ヘ級、大破している重巡リ級に巧みに指示を出して最後の抵抗を見せていた。   




ちょうど3年前の2018年4月24日にpixivで投稿を始めたこの『華人小娘と愉快な艦娘たち』今日で4周年となってしましました。
本家の艦隊これくしょんが先日8周年を迎えたので、ちょうど半分という事になりましたが、この『華人小娘と愉快な艦娘たち』は最近更新が遅くて申し訳ありません。

第1部のクライマックスも迫って来ましたが、なんとか頑張っていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします!!


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