怪獣娘〜ウルトラ戦士徴兵指令〜 (白き翼のヘルパー)
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プロローグ


(イラスト: クロス 様)


宇宙の外には、超空間が広がりそこには別の宇宙が泡粒のように無数に浮いているという。多世界宇宙マルチバースである
─────ナレーション


怪獣娘。

M78星雲に住むといわれる、光の天使たち。

 

かつてバラージ神殿には信仰があった。

シャドウと戦って死んだ人々を、美しき怪獣娘たちは天より迎えに来るという。

怪獣娘に祝福された戦死者の魂は、宇宙を守る光の巨人、ウルトラマンになるのだ。

 

そして今。

神話は現実と化す。

 

 

 

『美しき怪獣娘たちよ、私の神殿に集うのです!』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、6人の小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『徴兵指令の美しき怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです! いずれ来るシャドウとの戦いの日のために!』

オーディンの指令を受け、小さな妖精たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

第3ウルトラタワー、立体駐船場。

ゼットン星の円盤が上の階からリフトで降下する。

円盤のコクピットからモニタに写る宇宙を見上げながら、ゼットンはかねてより任務の概要をまとめた電子文書に再度目を通す。

ベムスター姉妹の調査によると、先日新たな宇宙を発見した。

一言で言い表すなら、シャドウスペース。シャドウに支配された闇黒宇宙。この世界はシャドウの一大勢力の侵攻を受け、征服下に置かれている。敵の戦力は、推定統率可能な兵力だけでも300万とも、600万とも。

6人の美しい怪獣娘たちは、「ある惑星」の徴発が任ぜられた。レジスタンスが必死に抵抗していることだ。

降下した格納庫には、時空城ほどもあろうかという大型の母艦が停泊していた。

母艦上部のハッチが開き、既にペダン船、ガッツ船、マグマビートル、そして2隻のピット船を迎え入れていた。

「全機、搭乗確認」

6隻の円盤が同時に会議チャットを開く。

「「「「「OK」」」」」

各円盤から女神たちの声が。

ゼットンの大きな胸の発光器官が灼熱色に燃える。

「こちらゼットン 96-96、満タン 各員、ガヴァドンUカード及びヒカリの命の体内貯蔵量、報告」

ゼットンが点呼を命じると、大型モニタに各船内の仲間たちの姿が。

ピット船コクピットは、アニメグッズとポスターが整然と飾られ綺麗だ。

「こちらエレキング。 ガヴァドンUカード、ヒカリの命ともに92-92、満タンよ」

船の主は、ピンクの髪の美少女。豊満な胸をアンダーから支える電光基盤が輝く。

ペダン船の玉座に鎮座する女王は。

「こちらキングジョー。 ワタシも満タン、103-103デース」

宇宙一のスーパーアイドル、キングジョー。ほぼ全て露出した巨大すぎる胸、その白い果肉を、手で下から上になぞるように滑らせると、巨大すぎる乳房はふんわり柔らかく変形しながら持ち上がり、滑り落ちる。

もう一隻のピット船コクピットは、シュークリームのような髪を櫛で梳かしながら妖艶な美女が、化粧台の鏡に写る魔性の美貌を横目に流す。

「こちらエレキング・プレックス。 ガヴァドンUカード98、ヒカリの命97…あっ、今1人殖えたわ~。 満タンよ~」

「ギリギリ間に合ったな」

画面外からマグマ星人の茶々が入ったが、間延びした優しい美声のエレキングはスリングショットのような甲冑からはみ出した大きな胸を両手で持ち上げて満足げだ。

騒がしいのはガッツ船メインルームだ。

「さて。 さてさて。 さてさてさて。 こちらガッツ星人! 全員99-99、満タンだよ!」

5人のガッツ星人の分身体が船内を飛び交う。地球の120倍もの重力をものともしない、張りのいい丸い乳房。幼きゆえに張りのある、巨大な丸い乳房。

「先週まで98って言ってなかったデスか?」

「私のビッグバンはもう止められないッ!!」

ウィンクする美少女の顔は格段に可愛い。大きな大きな乳房が、ダイナミックに揺れる。

最後に、マグマビートルはインテリアも魔改造。薔薇の花が部屋一面に敷きつめられている。

「こちらマグマ星人。 両方とも105だ。」

幾千と紅く咲き乱れる薔薇のベッドで、女神の一糸まとわぬ裸身が芸術的。天井の鏡に映る完璧な美しさに、女神は恍惚として白い細身をしならせる。「私は今日も一段と美しい…」

全員、準備万端だ。ゼットンは全員の報告を聞いた。

「ウルトラ戦士徴兵指令 テイクオフ!」

「「「「「テイクオフ!」」」」」

立体駐船場から、母艦ウルトラビフレストが飛び出した。

大気圏を突破したところで、立体駐船場が6隻の宇宙船を射出し、母艦を囲う六芒星のように陣形をとる。

中央にゼットン船、その左右にペダン船とマグマビートル。母艦の両舷に2隻のピット船、そして最後尾にガッツ船。

編隊飛行はウルトラの星を背に飛ぶ。

最後に、先日ガッツ星人が分身体たちを遣わして徴兵させた53体のウルトラ戦士が母艦のハッチから飛び出し、陣形の最前列を飛び始める。

「これほどの大部隊を別の宇宙へ動員するのは、ワタシ達も初めてデース」「用心に越したことはないでしょ。今回は場所が場所だから」「あらあらたいへん~ どうしましょ~」「どんな敵も味方も関係ないさ、私の美で虜になれる名誉を光栄に思うがいい」

こうして黄色い声だけを切り取ったら、女神たちも心はごく普通の少女たちなのだろう。光が照らしあうことに、統率など必要ないのだ。

「おや? おやおやおや?」ガッツ星人が首を傾げる。「おっと! ここで飛び入り参加の子かな!?」

全員のモニターが、ウルトラの星からの影をとらえた。

「エレキング先輩ー!」

大きな翼のグリフォンのような怪獣娘が、後を追ってきたのだ。

「せーんーぱーいー」

ブンブンと手を振るグリフォン。

名前を呼ばれたピンク髪の少女は目を見開く。「バッサー…」

風ノ魔王獣 マガバッサー

エレキングの、弟子だ。

「どうしたの? 何か急なことが?」

「私も行きたいです!」

フンス、と鼻息を荒げるバッサー。いや、宇宙空間だから空気は無いのだが。

6人が顔を見合わせる。

そりゃそうだろう。まだ未熟な彼女は出撃しろとは言われていない。

「あのねえ…」エレキングが頭を抱える。「今から私たちは敵の本拠地に行くのよ?」

「わかってます!」バッサーは折れない。「徴兵指令の皆さんが徴兵するとことを、是非この目で見たいんです!」

「あらあら~勉強熱心ね~偉いわあ~」「ちょっと母さん!」

「いいんデスか? 兵力を徴発すると言っても、シャドウに狙われる危険性はついて回りマス」「護衛にマコも呼ぼっか?」

突然の実地訓練の申し出。賛成派のエレプレとガッツ星人。反対派のエレキングとキングジョー。

「覚悟の上です! 皆さんの足は引っ張りません! お願いします! 私も連れて行ってください!」

頭を下げるバッサー。

「で? どうするんだ? 隊長」

マグマ星人に促されてゼットンはしばらく思案し、

「危険な行動は絶対にとらない 周囲の警戒を最優先に」

「ありがとうございますっ!」

隊長の許可が下りて、喜ぶグリフォン。

もちろん、師匠のエレキングは念を押す。「私から離れないこと。どこに敵が潜んでいるか分からないから、油断は禁物よ」

「わかってますって!」翼を広げ、上機嫌で母艦の周囲を旋回する。

後でガッツ星人にはエレキングのほうからメールで「援軍は呼ばなくていい 迷惑かけてごめんなさい」と連絡しておいた。マコは宇宙保安庁に転属となり、ウルトラマンネクサスの追跡という最重要任務を背負っている。宇宙規模で増すシャドウの脅威で対応を追われ、ただでさえ光の国は人手が不足しているのだ。

「最後に、今回の任務を再度通達する」ゼットンが続ける。「今回の目標は、シャドウスペース」

「シャドウスペース?」

聞き慣れない単語だ。少なくとも、徴兵指令ではないバッサーにとっては。

「読んで字のごとくだよ。 シャドウに支配された宇宙でさぁ」

「長らくシャドウミストに覆い隠されて発見が遅れたデース」

「ベムスター先輩、よくそんなトコロ見つけたんですね」

ガッツ星人とキングジョーに説明され、バッサーは感心する。

「別宇宙を飛び越えることになる。 はぐれないように、ちゃんとついて来るのよ」

「あれ? マルチバースを越えられるのって定員1名じゃなかったっすか?」

バッサーの素朴な疑問。故郷のGIRLS本部に残されていた映像資料を見たことがあるが、ウルトラマンゼロ1体をアナザースペースへ転送するだけで光の国の全エネルギーを要した。

「チビエレ、こいつに何時の化石年代の古文書を読ませた」

「GIRLS本部は古本が多かったのよ。 それと私は母さんより背が高いから」

「あら~ いくつになっても娘は可愛いわよ~」

ウルトラの星の技術だって日進月歩だ。少なくとも湖上ランが生まれるより遥か昔の時代には、既にそのような制約は解消されている。それより子供だからってチビ呼ばわりされるのは心外なんだけど。いくらマグマ星人がモデル体型の美人でも、だ。こら母さん、うふふじゃない。

「アギ、元気かな」

ソウルライザーの画面に表示される電脳空間は、鳥のようなアバターと恐竜のようなアバターが会話している。ライザーはただのスマホと違い、GIRLSスペースとM78スペース間を越えてやり取りできるのが便利だ。ガッツも故郷の友人と。

「これより全艦、次元加速する 目標、シャドウスペース 任務達成条件は、シャドウと交戦中のレジスタンスのウルトラ戦士化」

「「「「「OK」」」」」

53体のウルトラ戦士を先頭に、全艦がブーストを全開にする。

バッサーもあわあわしながらも後を追った。さすが飛行速度だけはエレキングが太鼓判を捺しただけのことはある。

艦体が光となり、光の塊は加速度を増すたび徐々に小さくなっていく。光速を超えた頃には、艦隊の姿は消え、そこには虚空だけが静寂に包まれた。

 

 

 

曇天の下には墓地が広がり、黒い人だかりが群がる。

人々のすすり泣く声を、冷たい風が遮る。

ここは教会の墓地。白い布を被せられた100体近い亡骸が、次々と石棺に納められていく。

「父さん… 仲間を庇ってシャドウに撃たれたなんて…」

「自ら囮となって我々の逃げる時間を作ってくれた… 隊長らしい最期でした…」

「最期まで子供たちを守ったんだな… 親父…」

「あなた…! ずっと忘れないわ…!」

遺された人々の、思い思いの慟哭。

この星は、シャドウに支配された。

墓地の外に一歩出たら、そこは瓦礫とボロボロのビルだけ。去る日もシャドウビーストの襲来で街を破壊され、レジスタンス武器庫が占拠された。

死者を弔う。

人間のこの習性を、シャドウは利用した。今どういう状況か。一ヵ所に大量の「生きた食肉」が群がっているのだ。

突然、空が裂け、闇黒の次元から4体のシャドウビーストが地響きを鳴らす。

体長55メートル。ビルの谷間から二足歩行の魔獣が、炎の大剣を振り回してビルを蹴散らす。

大剣シャドウ ダークムスペル

「逃げろおおおおおおおおお!」

黒い巨体を目にした遺族たちが悲鳴を上げながら墓地から逃げる。逃げ惑う人々をあざ笑うかのごとくシャドウは大きな足音を立てながら迫ってくる。

レジスタンスの老兵が囮を買って出、退路とは逆方向に躍り出てミサイルポッドで引きつける。

ミサイルは全弾斬り落とされ、逆にムスペルの吐いた熱線が老兵のヒゲ面を消し炭にした。人体の急激な蒸発は、かつてそれを形成していた水分をして水蒸気爆発を巻き起こしたようだ。無論タンパク質とヘモグロビンも同じ原理で爆発だ。いや、熱線の温度を鑑みると、気化を通り越してプラズマ化して消滅と言ったほうが正しいか。

避難中の少女の「おじいちゃん!」という悲痛な叫びは、他の避難者たちの悲鳴にかき消されて誰にも聞こえない。

数十キロ離れた高山帯の頂上で警戒していたレジスタンスの狙撃兵が、プラズマ砲でヘッドショットを狙う。が、割って入った別のシャドウに撥ね返された。

体長50メートル。全身をフルプレートで包んだシャドウが、大きな盾でプラズマ砲を遮ったのだ。

盾シャドウ ダークフリュム

フリュムは片手剣を振って衝撃波を返す。

高山に着弾する前に撤退を余儀なくされ、プラズマ砲を捨てて逃走した。

墓地でも葬儀屋が避難を誘導している。逃げ惑う遺族。死者を弔うつもりが、遺族まで墓に入る事態に陥っては本末転倒だ。

デメリットをもたらした人間の因習を上空から鼻で笑うは、体長40メートル。全身をローブで隠した魔導師。

杖シャドウ ダークヨツン

召喚した杖を掲げた魔導師の詠唱が、逃げ遅れた老爺を風船のように脹らませ、破裂させた。

問題は、ここまで紹介した3体はまだ悲劇の序章に過ぎないということだ。

体長59メートル。槍を装備したケンタウロスが、猛スピードで走ってきた。

槍シャドウ ダークニフル

人間と馬とでは速さが違いすぎる。レジスタンス兵がいくら銃を撃ったところで止まりはしない。瞬く間に追いつかれ、ニフルが投げた槍が避難者に迫ってくる。

「助けてええええええええええええええええ!」

少女の悲鳴。

槍が目の前に来る、寸前だった。

光の壁が張られ、槍を弾き落とした。

避難者たちを、子供たちを庇うように。

体長40メートル。銀色の光の巨人が、降り立った。

『大丈夫か?』

まずは安否を確認する。声色は地球人でいうところの若い男に近い。

いずれにせよ、突如現れた銀色の巨人のおかげで助かった。

敵は着地の隙も許さず2本目の槍を投げる。巨人は赤い体色にタイプチェンジし、槍を白刃取った。

この1個体を含め、同族と思しき光の巨人が計53体も降り立ち、守りを固める。

中でも威厳のある4体が、他の巨人たちに指示を送っているようだ。

『シルバー隊! あの大剣男を食い止める!』

『レッド隊は鎧男を足止めする! 私とともに行こう!』

『ブルー隊! あのローブ男に詠唱させてはならない!』

『馬男は我々ホワイト隊が! 要救助者を守る!』

最初にバリアを張った若い個体1体を除けば、巨人の軍勢は4隊に分散してシャドウを追跡する。それぞれ1隊13体で構成され、汎用型が9体、ブレスレット型が1体、ギロチン型が1体、女性型が1体、万能型が1体ずつ割り振られているようだ。

『俺は山にいる人を救けに行く!』避難者の護衛をホワイト隊に引き継ぎ、どの隊にも属さない若い巨人の体色が青色にタイプチェンジし、高山帯へ飛び立つ。音速を超えるスピードで飛び、さっきの衝撃波を着弾する前に弾き返した。撤退した狙撃兵の救助にすぐさま向かう。

さて。さてさてさて。

市街地では既にシルバー隊とダークムスペルの攻防が始まっていた。

四方から取り囲み、じりじりとにじり寄る。

前後同時に2体の汎用型がスライディングと流星キックを仕掛ける。炎の大剣は先に上空の巨人の足を切断し、直後に下から迫った巨人の足を刺す。

先手必勝とばかりに残り7体の汎用型が八つ裂き光輪を、ブレスレット型がウルトラスパークを、ギロチン型がバーチカルギロチンを、ムスペルの右手めがけて一斉に唸らせる。

まずその剣を握っている腕から切り落とそう?そのくらいは当のムスペルも予測済みだ、大剣を軽々と地面から引き抜いて華麗な剣さばきで全て切り落とした。

シルバー隊がダメージソースに欠ける集団と判断したムスペルは積極攻勢に切り替え、バリアを張る隙も許さず9体の巨人をバッサバッサと斬り捨てる。

残るは女性型と万能型のみ。

と、万能型が前に出る。一騎打ちか。

ムスペルは炎の大剣をふるうも、万能型の剣に弾き返され、反撃の斬撃を受ける。シャドウがノックバックした隙に万能型は刃にエネルギーを溜め剣を横薙ぐ。ムスペルの体を幾重もの爆風が襲いかかる。ムスペルも負けじと全力のファイアブレスを吐くも、バリアで無力化される。ムスペルが悪魔の翼を拡げて飛び立つと、万能型も空へ追う。空中で刃と刃の鍔迫り合いが始まる。万能型が剣を杖に変形させ、光線がムスペルを地上に叩き落とす。大剣を手放してしまった。トドメに天空から無数の矢の雨を降らし、ムスペルを蜂の巣にした。生前はシャドウだったらしき穴だらけの亡骸だけが、地面に倒れていた。

少し離れたところで、全滅した光の巨人たちを女性型がリライブ光線で治癒していた。

レッド隊がダークフリュムをマークしたのは理由がある。この隊はシャドウの硬い鎧と相性のいいパワーファイターが多く、戦力を分断することでPT全体の耐久力を下げる狙いがあったのだ。決してシルバー隊が決定力を欠いていたわけではない。

もっとも、フリュムの鎧の硬度はそれを遥かに上回っていた。汎用型の拳をものともしない。逆に殴った汎用型が痛がる始末。シャドウは力押しで突進し、汎用型を盾で轢き飛ばす。このままでは合流されてしまう。

寸でのところでブレスレット型がウルトラチェーンを片足に絡め、途轍もない筋力で引きずり戻した。巨体であることを足しても、筋肉の鎧に身を固めたこの個体は剛腕すぎる。

転倒した今がチャンスだ。汎用型が次々と全身発火し、1人、また1人とシャドウを取り囲み、火だるまに包んでいく。

どんな硬い金属も熱には弱い。フリュム自慢の鎧がみるみる熔けていく。

汎用型全員が自爆攻撃で自身をも焼き尽くした後には、鎧は赤々と燃えていた。女性型が氷のムチを刺し、熱していた状態からの急激な冷却で鎧の耐久力が半減する。

ギロチン型が分裂させたウルトラギロチンは凍結した鎧の亀裂をなぞり、最後に万能型が全身発光し……何が起こったのか!?亀裂に沿って鎧は粉砕され、漆黒の闇の巨人の素顔を暴いた。

もっとも、闇の巨人も炎熱耐性があるらしく、熔鉄に焼かれたダメージは見当たらないが。

鎖も熔けて解放されたものの、鎧も盾も失った闇の巨人はもはやディフェンダーとしての意味を成さない。片手剣を捨て、素手だけで4体の光の巨人に立ち向かう。

同時刻、上空ではブルー隊がメタフィールドを展開してダークヨツンを隔絶した。

オーロラ輝く鉱山。ギロチン型とブレスレット型が剣と槍を装備し、先陣を切る。

シャドウは2体まとめて杖で薙ぎ払い、逆に電流を流し込む。

2体が痺れて動けなくなった隙に、ヨツンは無数の魔光弾を召喚して乱れ撃つ。光の巨人の軍勢からも光線が飛び交い、撃ち合いになる。

互いが互いの光線を撃ち落とし、相殺し。両者一歩も引かず膠着状態。ヨツンが一度に複数の呪文を詠唱できることを除いては。

『やーめた』汎用型が一斉に戦闘を放棄する。戦意を失って怠けきった9体はヨツンの魔光弾を浴びて爆散した。

万能型さえも徐々に怠け放射能に冒されていく。最後のパワーを絞り出して光線でヨツンのローブを焼き尽くす。闇の巨人が正体を顕した。

2発目の光線を放つ。闇の巨体は光線をすり抜けた。今度は翼を展開し、拳に一兆度の炎をまとわせて突進する。炎の拳は闇の巨体をすり抜け、光の巨体は闇の巨体を透過して空を通過した。

光線が当たることもなければ、触れることもできない。ダークヨツン。このシャドウは実体が無いのだ。

ヤメタランス病の進行は想像以上に神速だ。時間が無い。万能型は全エネルギーを解放して相討ち覚悟で封印を試みる。手応えはあった。途中で心が完全に怠惰に支配されさえしなければ。

万能型も戦うのをやめた。実体の無いシャドウの完全消滅には至らなかった。

死屍累々。されどメタフィールドが解除されない。ということは、まだ女性型がどこかにいるはずだ。辺りを見回す。一刻も早くメタフィールドを脱出し、他のシャドウと合流せねば。

ん?

頭に小さな何かがとまったのを感じた。

羽蟻でも飛んでいるのか?頭に手をやる。手を挙げたその時には、小さな「ソレ」は飛び去っていた。

飛び去っていない。ヨツンの顔の至近距離まで飛び降りてきたのだ。全裸の美女が。

あまりに突然のことに驚いたヨツンの、唇を奪う。闇の巨人に人間でいうところの口に相当する器官は無いが、人間の顔ならば恐らくそれがあるであろう部分に、唇を重ねる。

直後、美女の胸のホクロが消えた。当たり前だろう、そんなものは最初から無いのだから。

何者かと疑ったシャドウは放電で撃退しようと考える。

思い出せない。

今まであんなにスラスラと覚えていた放電の詠唱が出てこないのだ。

美女はテレポートで距離をとり、その体がみるみる巨大化して光の巨人の本性を顕す。

もともと臆病だったブルー隊の女性型が逆に勇気をねじり出し、ヨツンの記憶を吸い取ったのだ。

ヨツンは杖からアトミックフォッグを噴きつけるも、戦意を吹き返した万能型がフォッグを反射した。

怠け放射能の詠唱が思い出せない。記憶消去能力で解除されたか。

女性型は二度目のテレポートで急接近して体を小粒化し、ヨツンの顔前で全裸の美女が爆乳を揺らす。

さっきは突然すぎて動体視力が追いつかなかったが、改めて至近距離で見ると凄い美人だ。スタイルも抜群。

見惚れたヨツンはまたしても唇を吸われ、何もかも忘却していく。今までに覚えた全ての呪文を。自分が何者だったのかも、杖の持ち方も、マトモに立って歩く方法さえも…。

万能型が光の奇蹟を起こし、全ての汎用型とブレスレット型とギロチン型を再生する。全員が一斉にフルムーンレクトの大合唱。光のシャワーがシャドウを浄化する。感情も人格も忘れていく中で、今しがた見た美女の裸だけが目に焼きつく。美しい顔。

銀髪のミディアムヘア。

きめ細やかな肌。しなやかな曲線を描くボディライン。丸みを帯びた尻の曲線。小さく裂けた、少女の命の神秘。全てが美しい。豊満な胸を強調するように肢体をくねらせるポーズさえも。全てが美しい。体中どこを切り取っても、醜いパーツなど一片も見当たらない。必要な美を全て揃えた美女が高純度のXX染色体より授かった美しい賜物は全て、男には無いもの。

気付いてしまったのだ。男は劣った生物であるという事実を。己のゲノムを汚すY染色体を恥じたダークヨツンは、自害した。

ダークフリュムは孤軍奮闘、4体のレッド隊と互角の戦いを繰り広げていた。長期戦にさえならなければ。光の巨人側は皆エナジーコアが点滅し、活動限界が近い。有限なるものと無限なるもの。その差は大きい。終わることのない闇は、勝利を確信した。

闇が勝利を手にすることは無かった。突然、シャドウの体が風船のように脹らみ、破裂したからだ。

上空から駆け付けたのは、ブルー隊の女性型。さっきダークヨツンの記憶から吸い取った知識が、呪文の詠唱を教えてくれたのだ。

闇は終わらないかもしれない。だけど、マイナスにマイナスをかけたらプラスが生まれるじゃないか。だから、宇宙が光で満ち溢れる日は来ると信じている。

避難中の遺族たちは、ホワイト隊の女性型がバリヤーを展開して守っている。その防御範囲は非常に広範だ。

超速で迫るダークニフルを、ホワイト隊が迎え撃つ。

さすがに立ち止まざるを得ないニフルは、武器を弓に持ち替えて氷の矢を射る。

汎用型9体がファランクスのように隙間なく光の壁を展開する。

人的被害こそ及ばなかったものの、シールドの外側は街全体が絶対零度の氷の世界に包まれた。

白刃取らなかった。ダークヨツンから聞いた『知識』は正しかった。光の巨人は冷気に弱い。

上空を飛び上がったギロチン型がギロチンショットを放つ。

シャドウは槍に持ち替え、突く。穂先がギロチンのリングをはめ、投げ返した。咄嗟にギロチン型は回避する。

ホワイト隊が決め手を欠いているうちに、ケンタウロスが槍を振り回す。絶対零度の吹雪が吹き荒れる。

巨人の軍勢に直接のダメージは入らないものの、惑星自体の気温が下がることでエネルギーの消耗が激しくなる。

このまま消耗戦に持ち込む。光の巨人には活動限界があると聞き及んでいる。

だったら、巨人側は短期決戦に持ち込めばいい。もうムスペルとフリュムとヨツンはいない。シルバー隊、レッド隊、ブルー隊が合流したのだ。

最早是迄。ダークニフルは光に照らされることを潔しとせず、自らの腹を短剣で切った。

氷が融ける。雪が融ける。全球凍結した惑星を、4体の万能型が暖めて元の気温、元の気候に戻した。

一度に4体ものシャドウがいなくなった。人々を守り切った巨人たちは、高々と空へ還っていく。

レジスタンスのひとりが素直に「すごい…」と呟く。

あれはバラージ神話に伝わる光の巨人。

その名は、ウルトラマン。

 

 

インナースペースという空間を知っているか。

人の魂を映し出した空間の中に、かつてその魂の持ち主だった男が横たわっていた。

先ほど墓に埋められた戦死者のひとりだ。

「俺は…… 一体……」

体に力が入らず、起き上がることもできず。目の前に広がる空間を戸惑う男。

ピポポポ

目の前を、それはそれは美しい少女が飛来した。

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。スタイル抜群の体。大きな胸。頭に2本のツノがはえた姿はまるで、バラージ神殿の壁画で見た「あの」……。

「アンタは……?」

「ゼットン 私の名だ」

「ゼッ……トン……? 怪獣娘か……?」

「私はウルトラの星から来た怪獣娘 君たちを迎えに来た」

怪獣娘。

シャドウと戦って死んだ者を光の国へ導く、美しき天使たち。

かつてバラージ神殿には信仰があった。

シャドウと戦って死んだ人々を、美しき怪獣娘たちは天より迎えに来るという。

怪獣娘に祝福された戦死者の魂は、宇宙を守る光の巨人、ウルトラマンになるのだ。

「神話じゃなかったんだ…」

ということは、俺は仲間を庇って死んだのか、と感心していると。

熾天使の大きな乳房が、ひときわ眩しい黄金色に発光する。

両の乳房から顕現した2つの光が宙を浮遊し、空中で合体して黄金のリンゴになる。

黄金のリンゴが宙を舞い、男の胸に取り込まれる。

男は起き上がった。動かせなかった体を、自力で。「立てる…… 手を動かせる!」

命の固形化技術。ウルトラマンヒカリが開発した、光の国の科学力。

その叡智が、戦死者を蘇らせたのだ。

ここからは見えないが、恐らく他の戦死者たちも。

後でヒカリから聞いた話だが、命の固形化技術は怪獣娘によってさらなる進化を遂げたという。

ここで熾天使から突拍子もない台詞が。「私の胸を触って」

何かの冗談かと思った。こんな可愛い美少女を…いいのか?いや、人間の価値観で測っちゃいけない。貴重な不死のリンゴ一個消費してまで俺を蘇らせたんだ、何か天使様のご意志があるのだろう。

「じゃあ…いただきます」

男が手を伸ばす。指先が、山頂に触れる。押す。大きな張りのある乳房は驚くほど柔らかく弾力があり、指が沈んでいく。底無しだ。

「もっと 守りたい人たちを思い浮かべて」

「分かった」

言われて、男の両手が熾天使の大きな胸を掴む。

「ぁ…」

ゼットンの唇から甘い声。2つの巨乳がふんわりと変形し、5本の指が乳房の弾力に埋まっていく。

力を込めた握力は、戦場に遺した仲間たち、故郷だった自然豊かな森、そして妻と娘への想いを込めた。守りたい。この星を。大切な人たちを。今目の前にいる、美しい天使を。

豊満な胸を揉みしだかれた熾天使が、「あっぁ」と甲高い喘ぎ声を吐きながら、頬を紅潮させながら、そのスタイル抜群の体が仰け反った。谷間から、今度は1枚のカードとその読取機らしきアーティファクトが実体化する。それらが、大きなふたつの膨らみに挟まっていた。

「手に取って…」

頬を真っ赤にしたゼットンが、甘い吐息交じりに巨乳を揺らす。

男は、美少女の巨乳に埋まっていた光の力を、抜き取った。

 

 

墓地に埋められたはずの100人の男が、一斉に復活した。

地上は相変わらずの曇天だが。静かだ。

光の国の奇跡で復活した双子の兄弟らしき2人が「俺たち、生きてる…?」と互いの顔を見合わせた直後、「さっきの金ピカの女神様は…?」と辺りを見回す。

同じくスキンヘッドにグラサンの男が「そうだ、シャドウは!?」と上空に銃を抜く。空には風だけ。何もない。

「一般人はみな避難したよ」正面から謎の声が聞こえる。

今はシャドウはいない。遺族は全員避難が完了した。代わりに、地上には52人の得体の知れない何者かが出迎えた。

「おはよう、はじめまして。我々の新しい同胞」ダスターコート姿の中年の男がテンガロンを外し、礼をする。「申し遅れた、我々はウルトラマン。怪獣娘に選定されし光の戦士」

「怪獣娘…?」「あの電気ウナギの可愛い子が…?」つい直前その怪獣娘によって二度目の命を与えられた100人が、どよめく。

上空から若い巨人が降り立つ。『救助完了っと』手のひらに乗せていたレジスタンスの狙撃兵を、地上に降ろした。

若い巨人も、人間サイズに縮んだ。狙撃兵は若者を「ありがとう、助かったよ」と労う。

改めて、53人と100人が会話を交わす。

「怪獣娘のことは知っているかね?」

「この星の人間なら誰もが知っているさ。 バラージ神殿の壁画と碑文に、さっきの金髪ボインちゃんそっくりの女神を信仰する歌がな」

「ここの神話では、どう伝わっていた?」

「26万年前に光の国から来た女神さ。 全宇宙で最も美しい美貌の神々にして、甲冑をまとい、戦死者を復活させて光の巨人にするという。 かの伝説の超人の御業によって作られた甲冑も装備者とは別の独立人格を有し、女神が装着すると女神の美貌でオーロラのように輝き銀河を照らす。」

「ここでもか… やはり多岐沢の説は間違っていた…」

「? 何の話だ?」

「いや、こっちの話だ。 ともかく、女神が実在したのは分かったろう。 ガヴァドンUカードとニーベルリングを受け取ったはずだ」

「この巨人が描かれたカードと、腕に出たブレスレットか」

「我々も同じものを持っている。 これで諸君も我々と同じくウルトラマンに変身できる」

「アンタ達がシャドウを追い払ってくれたのか。 感謝する」

「地表はまだ予断を許さない。 シャドウ帝国は宇宙規模の兵力だ、いつまた攻めてくるかわからない。 我々全員で星を警護せねば…」

「そうしたいのは山々だが… 実は…」

復活した男のひとりが口を割る。なぜレジスタンスがシャドウに抵抗する兵器を作れるのか。なぜシャドウがこの星を攻めてきたのか。自分たちが、何を守ろうとしているのか。

 

 

 

人々の信仰の拠り所、バラージ神殿。

レジスタンスの本拠地であるそこは、上空からは特定の難しい場所に秘匿され、シャドウに知られぬよう秘密にされていた。

この星の人類が最も大切にしている秘宝と、最も大切な人々が匿われているのだから。

バラージ神殿地下7階、ミカエラ像。

壁と天井を所狭しと壁画と象形文字が彩る、広い広い大部屋。壁画は、女神が天より降り立つ絵と人々が女神に祈る絵が描かれている。一枚一枚で女神の美貌は異なるようだ。

祭壇の中央には、3対の翼を背負った伝説の超人の像が鎮座していた。

超人像が見守るは、大部屋で避難生活を余儀なくされた少女たち。

地上は既に少女たちが住むには危険すぎた。神殿は広大であり、少女たちが生活を営むためにあらゆるライフラインが完備されている。

半数近くは妊娠している。目に見えてお腹が膨れていない少女たちも、恐らくは。

命を産むことができる、神秘的な体。

人類を絶やさぬこと。少女たちが、この星の最後の希望なのだ。

しきりにスマホの画面を気にする少女も少なくないのは、理由がある。

次なる速報を待っているのだ。

つい先刻、レジスタンス地表部隊より本拠地へ連絡があった。

戦死者が、蘇った。

シャドウの群れを、光の巨人の群れが撃退した。

これが意味すること。

壁画と象形文字に刻まれた預言と、完全に一致するのだ。

闇に閉ざされた絶望の時代だったが。ついに来たのだ、救世主が。

超人像に踊りを奉げていたのは、褐色の肌に燃えるような赤い髪の踊り子。

と。石像は右手に杖を持っていたが、先端の聖石が灼熱色に輝きはじめる。

「感じます、ミカエラ様。 ついにご光臨なされるのですね」

赤く燃える聖石の啓示を感じた周りの少女たちも、ざわつきはじめる。

言葉を忘れて祈る少女もいた。

ファイアオパールに導かれて、召喚されたのは。

6人の、光の天使。

全員が、この世のものとは思えぬ美しさ。現実離れした美貌の女神が、一度に6人も光臨したのだ。

ひとりは、青い小鳥のような甲冑を。

ひとりは、カミキリムシのような甲冑を。

ふたりは、白い電気ウナギのような甲冑を。

ひとりは、女剣士のような甲冑を。

そしてひとりは、黄金の甲冑を、輝かせながら。

「あらあら~ ここがレジスタンスの人たちが言ってた場所ね~?」

電気ウナギの片割れはスリングショットの妖艶な美女が壁画を見渡す。ふわふわの髪についた三日月状のアンテナが駆動する。

6人が避難者たちを見渡すと、懇願するような眼差しが集中する。

もうひとりのトップレスの電気ウナギが「はじめまして、私達はウルトラ戦士徴兵指令。光の国から来た怪獣娘」と挨拶する。

「さて! さてさてさて! 来ました! 私が! 私達が! 光の国からみんなために! ね♥」

偶然か預言が当たったか、青い小鳥の甲冑が輝く幼い少女の美貌は、天井の壁画に描かれた女神のひとりと似ている。

「Wow ! Exciting ! こんなに大きな神殿を見たのは初めてデース」

これだけ巨大な神殿があったこと、それが今も実際に信仰され人の手で守られている事実は、ただただ黄金の怪獣娘を感動させた。シャドウに支配されてなお、こんなに美しい文化遺産が原型をとどめていた奇蹟。

「今まで辛かったろうな……私達がもう少し早く来ていたら…」女剣士が両手の武装を解除し、少女たちを抱きしめる「君たちは美しい」

トップレスの電気ウナギの美少女がアンテナを駆動させる。「あなたが託宣者シグニュウね? 復活した戦士たちから聞いたわ」

名を呼ばれたのは。

ざわつき祈る大勢の少女たちの輪の中から、褐色の肌の踊り子が歩を進める。

「ようこそ天使様。 私はシグニュウ。 バラージ神殿の依姫です。」

怪獣娘たちに挨拶した褐色の少女は、燃えるような赤い髪をツインテールに結び、極端に布面積が少なくしかも半透明の踊り子の服で妖艶な体を飾る。細い魅惑のくびれを左右にくねらせるたび、爆乳がダイナミックに揺れる。

もっとも、美しき光の天使たちも6人全員が負けず劣らずスタイル抜群にして、たわわな胸の果実が聖母のごとく神々しい。

「地表の者から連絡がありました。 そちらのゼットンの甲冑の天使様はお名前を存じ上げませんが、エレキングの甲冑の戦乙女が湖上ルン様と湖上ラン様、マグマ星人の甲冑の戦乙女がアンジェリカ・サーヴェリタス様、ガッツ星人の甲冑の戦乙女が印南ミコ様、キングジョーの甲冑の戦乙女がクララ・ソーン様ですね」

「ご名答」ガッツ星人と呼ばれた印南ミコがウィンクを返した。

遅れてガッツ星人の分身体が連れてきた、グリフォンの翼をもつ怪獣娘。

「エレキング先輩、今赤道をぐるっと回ったけど異常なかったっす」「ご苦労」

シグニュウに「そちらの方は?」と訊かれてエレキングは「マガバッサー。私の弟子よ」と答える。

「マガバッサーだよ! よろしくね!」元気よく翼を羽ばたかせるグリフォン。

レジスタンスの兵士たちが誰を守ろうとしているかは、分かった。

では、何を守ろうとしているのか。

聖なる祭壇には、6枚の翼を拡げた超人の石像が安置されていた。

全宇宙を創造したと伝えられる伝説の超人、ウルトラウーマンミカエラ。

彼女が手にする杖には、聖石が赤く燃えていた。

「これが私達の宝、ファイアオパールです」

伝説の超人が残した遺物。依姫に預言を授ける炎の聖石であり、レジスタンスがシャドウに対抗する兵器を作れた理由。

「すっげー! キレー! なにこれなにこれー!」

目が輝き出したバッサーが、師匠の制止が割り込むより先に飛びついた。

ジュッ

「あぢいいいいいいいいいいいい」

超高熱だった。ファイアオパールに触れた手に炎が燃え移り、バッサーは床を転がる。

「バッサー!」

「私救急箱持ってるよ!」

ガッツ星人がテレポートで駆け寄り、すぐさま治療を開始する。

「ちょっと火傷しただけみたい。 すぐ治るよ」

「そう…よかったわ」

安堵したのも束の間、エレキングの目が鋭くなる。

「気をつけなさい! 危ないでしょ」

エレキング先輩に怒られた…

石の輝きに魅せられていたバッサーが、うなだれる。

今しがた上の兵から聞いた話によると、ファイアオパールは浄化の炎を作り出すことができる。

聖石の加護により聖なる炎をまとった依姫を、レジスタンスの兵たちが抱くことで、兵たちは浄化の炎を個々の適性に合った兵器の形に変えることができるのだ。

「シャドウの狙いはOpalデスね」

どんな姿にでも形を変えられる炎。もし炎の力が心悪しき者の手に渡ってしまったら、全宇宙を焼き尽くす地獄の炎になろうことは想像に難くない。

「この星は、ミカエラ様と怪獣娘を信仰しながら平和に暮らしていました。 男さえ現れなければ……」

「シャドウスペースを支配する、皇帝がいるのね?」

エレキングに、シグニュウは頷く。

「男の名はダークスルト…… 全宇宙の支配を企む男……」

ベムスター姉妹の調査結果通りだ。多次元に渡り宇宙を支配し、勢力を拡大しているシャドウ連合帝国。その皇帝がダークスルトだ。

「オパールの力をわが物にして、全宇宙を支配しようなんて」そんな皇帝のやり方を、ガッツ星人は「最低な奴だよ」と一蹴した。

「案ずるな、オパールは誰にも渡さない。 君たちも守る。 私の美貌に誓ってな」

少女たちを撫でたマグマ星人は、

「あの…!」シグニュウが目を潤ませる。「私の家系は先祖代々、依姫の使命を継承してきました。 争いをやめない限り、きっとこれからも…」

何を隠そう、当代の依姫シグニュウも炎の儀式を連日繰り返した結果、現在15歳にして種違い三姉妹を出産した母親だ。

「私は、気持ちいいからいいんです。 だけど、3人の娘たちが私の遺伝子で未来を狭められるのは嫌なんです。 お願いします天使様、戦争を終わらせてください。 娘たちに、自由な選択肢をください」

言いかけた途端のことだ。

警報が鳴り響く。

少女たちの悲鳴が泣き叫ぶ。

「何事です!?」シグニュウの胸の谷間に収納していたスマホがサイレンとともにけたたましく振動する。

全員のスマホから『緊急事態発生!』と地表の兵の声がする。『上空から大口径レーザー砲! 北緯64度、西経20度に着弾!』

画面には、赤く焼け焦げて煙を吐く、かつて山「だったモノ」。

ヴァルキュリアたちの甲冑を制御する端末も同様で。「敵襲だよね!?」ソウルライザーを手に取って状況を確認したガッツ星人が、目を見開いた。「なにこれ……聞いてないよ」

手が震える。周りにみんなが集まってくる。それは、衛星軌道で待機している宇宙船から撮ったカメラ。

ライザーで見た映像を、立体映像モードに切り替える。

スクリーンに映し出されたのは、星系外から襲来する、1000万隻もの大艦隊。

報告で計測された兵数とは、比較にならない。

ひときわ弩級な旗艦ナグルファルの頂上には、巨人1体を祭壇のごとく祀る天蓋。天蓋に頭上を覆われた須弥壇に、艦隊の主にして全ての元凶が結跏趺坐していた。

シャドウ皇帝 ダークスルト

6本の腕を持つ闇の巨人は、うち2本を合掌しながら、4本の腕に蛇心剣、バットキャリバー、バットアックス、ダークスパークランスを装備している。背中に燃える迦楼羅焔を含めると、体長73メートルにも及ぶ。

『オパールを渡せ、虚飾の星のエゴイストども』

轟音とも雷鳴とも似もつかないドス黒い声。

警戒していた153人が右腕にニーベルリングを召喚する。

『光の国のクラックベビーどもを味方につけたようだが? 俺様のために死ぬ根性があるかな?』

やれ、と一斉砲撃を命じる闇の巨人。

すぐさま変身して大気圏外で立ち塞がった光の巨人たちがシールドを張って砲撃を防ぐ。シールドの外に躍り出た迎撃部隊が光線を一斉照射する。

艦隊の弾幕がこれほどまで濃くなければ、敵にダメージを与えられたろうに。敵の砲撃を真空中で相殺するだけで精一杯だ。

レーザー砲の雨をかいくぐった万能型4体が本陣に突入する。

須弥壇から飛び上がったダークスルトが旗艦の甲板に降り立った。

4人が同時に皇帝に接近する。

シルバー隊とホワイト隊の万能型が斬りかかる。スルトは蛇心剣とダークスパークランスで左右からの得物を軽くあしらう。

レッド隊とブルー隊の万能型がテレポートで奇襲接近する。スルトは体を高速回転させ、全ての武器で切り裂いた。竜巻は4体全員に襲いかかり、吹き飛ばす。

隕石群を蹴ってシルバー隊とホワイト隊の万能型がターン。接近しながらありったけの光線技をお見舞いするが、ダークスパークランスを振り回して全て弾かれる。

レッド隊の万能型が念力で武器のコントロールを狂わそうと試みるが、仇となって、ダークスパークランスがエナジーコアを貫いた。

残り3本の武器となっても、全ての光線を弾き返されることに変わりはなかった。

スルトはバットキャリバーとバットアックスの斬撃をクロスさせ、2体の万能型をも圧倒する。

そこまで織り込んだ犠牲フライだ。2本の武器を同時に使ったことで隙が生じ、翼を展開したブルー隊の万能型が懐を飛び込む。一兆度の炎の拳が貫通した。

手応えはあった。当のスルトが平然としていることを除いては。『どうした? それが全力か?』

皇帝の体内はそれをも超える高熱だった。

拳を引き抜いた時には既に遅く、万能型の腕は熔けて千切れていた。

そればかりではない。開けた風穴から激しい炎が噴き出し、その炎がさらに巨大化してダークムスペルの大群を排出しているのだ。

傷口から新たなシャドウが産まれるとは。

だったら、冷やせばいい。ブルー隊の万能型は絶対零度の吹雪を吐く。焼け石に水だった。低温には限界があるが高温には際限がない。氷がスルトの高熱に触れたがゆえの急激な蒸発がまたしても大爆発を起こし、ムスペルの製造数を倍加速させた。

爆発に巻き込まれたもう片方の腕がなくなった。エナジーコアが点滅する。

風穴が塞がるまでに、結局は8800体ものムスペルを産み出した。敵の兵数を増やしてしまったことを後悔すべきか、敵の再生能力を心底安心していいのか。

悠々と完治した皇帝は、レッド隊の万能型の体からダークスパークランスを引き抜く。『ちっとは楽しませてくれると思ったが、所詮は元人間か』

万能型とて必ずしも万能とは限らない。ジジイ共も覚醒したばかりで力を使いこなせていないのだ。

『それよりお前ら、こんなところで油売ってていいのか?』

『何が……言いたい……』

満身創痍の4体を、闇の皇帝は挑発する。

『見つけたぜ! オパールを隠した神殿は地下深くにあったな!』

全巨人の顔が青ざめる。

『本拠地の地下シェルターを発見した! 今エージェントを向かわせている! 俺様が攻撃命令を出せば皆殺しだぁ!』

『やめろ! やめてくれ!』

『人間どもの命が惜しいかァ? だったオパールを俺様に引き渡せェ!』

地下シェルターがシャドウに発見されたのが本当なのは、バラージ神殿からも見て取れる。

モニターに映し出される敵集団。

体長1.9mほどのシャドウジェネラルの男6体、攻め入ってきたようだ。

ミカエラ像の祭壇では少女たちの悲鳴と泣き声が絹を裂いていた。

哀願するように徴兵指令を仰ぎ見る少女たち。

今回の任務は、レジスタンスの戦死者をウルトラマン化して光の国へ召集すること。

危険と判断した場合は撤退せよとオーディンには命じられている。

それでも。

「女の子は守るべき存在じゃん? 目の前に囚われの姫がいて、見殺しになんかできないよ。 だよね、みんな」

ガッツ星人が仲間を見渡すと、ゼットン、マグマ星人、エレキング母娘、キングジョーが頷く。

「天使様…」シグニュウの目が潤む。

「大丈夫、私たちが守るよ」ガッツ星人が囁く。優しく、それでいて勇ましく。

「さあ! さあさあさあ! 行きましょうか! 宇宙の宝を助けに!」

 

 

シャドウ軍団は地下への隠し通路を発見し、長い長い廊下を走る。

その果てに開けた大きな空間は、意外な内装をしていた。

バラージ神殿、地下1階

街灯に照らされた並木道。

中央には、広大な噴水。

ここは、避難生活を余儀なくされた少女たちの憩いの場となっていた噴水公園だ。

水を噴き出す人工泉をライトが青く照らす。それがピンクに染まった時。

池から、激しい水しぶきとともに何かが飛び出した。にわか雨が男達を襲う。

男達が伏せた目を開けると。女神はそこにいた。

水面の上に立つ、長いピンクの髪の美少女。ホルスタイン柄のワンピースのような獣殻が張り付く。豊満な胸がトップレスであることを除いては。

宇宙怪獣 エレキング

生命の樹と知識の泉よりいづる戦乙女。

美しい肢体が雷霆をまとい、背中の長い長い尻尾が電気ウナギのようにうねる。

シャドウの1体、魔導書を開いた男が『敵はかなりの使い手だ、我々全員で戦ったら長期戦が予想される。ここで時間を食っている間に男帝陛下の御身に何かあられたら…』と進言する。

ハルバードと盾を装備した男が『私が足止めする』と一歩前へ。

シャドウジェネラル パラディン

『諸君は先を進め! 我々の目的はオパールを奪取すること!』

残りの5体が噴水を飛び越えて並木道の彼方へ消えた。

後には、樹木の影をクビキリギリスとケラの鳴き声が奏でるだけ。街灯を蛾が飛び交うだけ。

「ひとつ聞いていいかしら……?」

怪獣娘の頭の2本の三日月状のアンテナが駆動する。全てを見透かされるような悪寒が、男の背筋を凍らせる。

「あの皇帝の持っている武器。 全部強大な力を持つ伝説級のアーティファクトよね? 一体どこで手に入れたの? 特に蛇心剣とダークスパーク」

『小娘が知ることではない』

「いいの? おまえ一匹で」

『我々は犠牲を厭わない! 男帝陛下に命を捧げて死ぬ至福!』

男の槍が伸びる。

音速で伸縮自在な槍が本来ならエレキングの細身を貫くはずだったが、たった10mのところで刺突は止まった。電気ウナギの尻尾が互角のスピードで伸長し、槍に巻きついたからだ。

「そう… 可哀想な男ね」

巻きついた尻尾から放電し、槍を伝って男が感電する。動きが鈍る。

「じゃあ」実はこの尻尾、分離して背中から取り出すことができる。ドレスのバックベルトに隠れていた柄を握ると、うねる電気ウナギの正体は鞭だったのだ。「根拠の無いプライドをへし折ってあげる」

目にもとまらぬ速さで鞭が唸る。男の反応があと一歩遅れていたら串刺しになっていたろう。寸前で弾き返した。

『お前、何か勘違いしていないか?』男が不適な笑みを浮かべる。『私にも奥の手があるんだぞ!』

弾き返された鞭に、異変が起こる。尖端から凍り始めているのだ。

男の槍が冷気をまとっている。これがその槍の力か。

急速な凍結が柄に届く前に、鞭を投げ捨てた。転がった鞭を中心に、タイル床が凍り付く。

敵は痺れて素早さが半減しているとはいえ、武器を封じられたのはきつい。二撃目を防いだ盾をも捨て去らねばならなかった。後がない。

「でも、痛み分けでしょう?」

この間、2本のアンテナは常に放電していた。そんな避雷針のようなモノを振り回していたら、雷神様いらっしゃいと言っているようなものだ。

電流の伝導速度はほぼ光速に近い。一方、氷の刃が超音速で飛ぶと空気の摩擦熱でナマクラと化してしまう。どう頑張っても後者が前者に追いつくことはできない。

『ぐがあ…っ』

ついに手が麻痺した男は、槍を手放してしまった。

「バッサー! 今よ!」

音速には音速を。

森の中から巨大な翼が木々を切り裂きながら飛び出し、落ちた槍を男が拾うより速く奪取した。

次の瞬間、爆音が吼え男は吹き飛ばされた。

上空には悠々と槍を掲げる巨大な翼が。

風ノ魔王獣 マガバッサー

「へっへーん どんなもんだ! これがエレキング先輩との特訓で編み出した新技! その名もマガソニックブーム!」

旋回する翼を誇らしげに見上げる女神と、悔しげに見上げる男。

「形勢逆転ね」

『エレキング、なぜあのような者たちに力を貸す? 光を操る力を手に入れてなお肉の枷に縛られた、不完全な生命体に!』

男の獲物は残るは盾のみ。ノコギリのような刃がはえ、攻撃モードに変形した。

まだ戦う気か。

「ふざけるな! ウルトラマンは不完全なんかじゃない!」

上空でバッサーが怒声を張る。

「光を操る戦士と、自ら光を産み出す戦乙女。 ふたつの生命が手を取り合って生きているのよ。 不完全な生命体なんかいない」

自信に満ちたエレキングの声。バッサーも「そうだそうだ!お前たちが不完全だ!」と合いの手を入れる。

『まるで昔からそうだったような言い草だな? 詭弁をほざけ! 怪獣娘が生まれた本当の理由が解明されたのは、つい去年のことではないか!』

「怪獣娘とウルトラマンの共存関係は、それ以前の時代からあったのよ。 観測史上は記録されていないだけで」

『お前たちは一体何者だ! まさかそんな種族が実在するとは誰も思わなかった! どこから来た! なぜ宇宙各地で信仰された形跡がある! 伝説の超人はお前たちの何だ!』

丸ノコギリと化した盾を男は投げつける。

エレキングは空中で盾に飛び乗り、踏み台として飛び越えた。「男が知ることじゃない」

男の頭上を舞う女神。

顔を上げた男が驚愕したのは、両脚を大きく開いたエレキングのスカートの中がノーパンだったからだ。

その理由が実に合理的で。

少女の最も綺麗な赤い花が、物理的に有り得ない開き方をして男の頭部を丸呑みにした!

喩えるなら、食人花。

本来は新しい戦乙女の命を育む少女の祠が男の頭を飲み込み、その体積ぶん下腹部が膨れた。

艶めかしく腰をねじると、男の首を噛み千切った。

頭部分離された男の胴体は、それでもまだ動いている。

「エレキング先輩から教わったんだ。 シャドウは完全に機能停止するまで油断するなって」

バッサーが槍で胴体を串刺しにする。想像以上に硬い肉を抉ったことで刃こぼれした。もう使えない。それでも最後に盛大な氷の結晶を描いた。どうだ、自分の武器に貫かれ凍らされる気分は。

「私のナカ、気持ちいいでしょう?」

下腹部を撫でるエレキング。円を描くように。

「本当は知らないんでしょう? ダークスルトがどうやってアーティファクトを奪ったかは誰も知らない。 恐らく、側近にも秘密にしてる。 まあ大方、『時間の概念が無いどこか』で手に入れたんでしょうけど」

『知ることは罪だ…っ! 男帝陛下を詮索するな…っ! 疑うな…っ!』

生首は胎内でもごもご言っている。まだ機能を停止していない。

「イかせてあげる」

少女の命の壺が握力で頭蓋を潰しながら、内側から最大電圧が炸裂する。

メキメキと骨がひび割れる音がする。

『これで闇を浄化したと思うなよ…っ!』

男の頭蓋は粉砕された。

スカートをつまみ上げた少女の蕾から、おびただしい量の血が溢れ落ちる。

血を吐き出した次は、肉片とも破片とも言い難い、かつてシャドウだった物体を産み落とした。

マガバッサーもまた。「うおおおおおおおおお!」槍が刺さったままの氷のオブジェに超音速で突進し、巨大な翼が男を真っ二つに切断した。

静寂を取り戻した公園には、虫の声と、バッサーが羽ばたく音と勝利の雄叫びが木霊する。

鞭と盾は犠牲になったものの、明暗を分けたのは装備品ではなかった。

「湖上流秘伝房中術、ライトニングメイデン」

武器に頼り切った悪魔と、己の女体美が真の武器だった天使。

争いを好まず、生命の共存に価値を見出した白き天使に、伝説の超人は微笑んだのだった。

「私、エレキング先輩の役に立てたッスか?」

「合格よ」

 

 

バラージ神殿、地下2階

残り5体となった男達は、それぞれ聖剣、ハンマー、魔導書、ダークリング、そしてレッドナイフを携えて走る。

広大な薔薇の花園を。

地平の彼方まで一面に敷きつめられた、赤い薔薇。風に舞う、赤い花吹雪。

『何だ この甘ったるいガスは』

本来なら命あるものに癒しをもたらす薔薇の薫りだが、男たちは苦しみ、リーダー格と思しき聖剣持ちの男に至っては咳き込んだ。

そんな風流心は、残念ながらシャドウには無かったわけだ。

百万という薔薇の寝台は、それが最も似合う美の主が夢を見ていた。

全裸の少女が、眠っていた。

膝裏まで長く流れる金髪は、美の女神の証。

白磁の肌。

引き締まった形のいい子宮のライン。細くくびれた腰。豊満な胸。

小顔で目鼻立ちくっきりした、端正な顔立ち。

全てが均整に満ちた完璧なプロポーションは、精巧にデザインされた人形のような芸術。

女神の美貌を彩るは薔薇のベッド。いや、女王の美を前には、薔薇さえも輝きを失う。

長い睫毛が開き、宝石のような青い瞳が咲いたのは、招かれざる客が来た喧噪ゆえ。

百万という薔薇を統べるに相応しいパーフェクトクイーンが、上体を起こす。全宇宙でも類を見ないほど巨大すぎる乳房が、揺れる。

「誰だ 女王の眠りを妨げるのは」

完璧、という言葉は高位の女神のためにあるのだろう。

名画から飛び出した女神のような、均整に満ちた美貌。

「美しさは罪なのか…? 否。 私の美は、ウルトラウーマンミカエラより賜った天啓だ」

薔薇の花吹雪が舞い散る。

高位の女神は華奢な玉腕を天に向ける。「見よ このきめ細やかな肌を」

斜めに畳んだ膝を起こし、しなやかな脚線美が立ち上がる。「だが、薔薇園に立ち入っていいのは美しい者だけだ」

長く流れるブロンドの長髪が、花吹雪に舞い上がる。

薔薇園に相応しくない5体の男を前に、少女の一糸まとわぬ裸身が立ちはだかる。美しさを誇るごとく。繊細な白磁の肌も。均整に満ちた芸術的な女体美も。たわわに実った双果実も山頂の突起も。形のいい腿の内側の逆三角に咲く、毛ひとつない白く綺麗な少女の聖域さえも。すべて隠すことなく、恥じらうこともなく。

「不眠は美肌の敵だ。 美しい私を穢した罪、命で償ってもらうぞ。」

恥じらいがエロティシズムを醸成するという固定観念は捨てたほうがいい。飾らない美しさ。人目に付く美術館にミロのヴィーナスをただ設置するだけで、男権社会を超越したジオラマが逆説的に芸術を芸術たらしめるのだ。完璧な女体美は、存在するだけで生きる価値がある。

一方、悪漢どもには芸術の価値を理解するIQは無いようだ。前に出たのは『ヒャハハ! 解体し甲斐のある女肉だぜェ!』2本のレッドナイフを両手にふるう男だ。

シャドウジェネラル アサシン

二刀流の殺人鬼に薔薇園を任せ、残り4体の男は脱出口のわからない茨の迷路に逃げ隠れた。

「私の美貌にひれ伏して死ぬがいい」

豊満な胸の谷間から端末を取り出し、青い石が閃光を放つ。

「ソウルライド! マグマ星人!」

花の嵐が、美の女神の裸身を包む。

芸術的な女体美が、白い玉肌が、銀と黒のビキニアーマーを貼り付ける。

形のいい豊満なヒップライン。細く括れた腰。豊穣神らしくたわわに実った巨大すぎる双果実が、柔らかくも大迫力で揺れる。

長い金髪が証明を反射して太陽のように輝く。

腕には、惑星記号の勲章。

咲き誇る赤一色を背景に美姿を咲かせた花の女王は、右手に血色の光刃煌めく剣を携えた女剣士だった。

……あとついでに、薔薇を口に咥えて。

サーベル暴君 マグマ星人

目鼻立ち整った美貌と女体美が芸術的な戦乙女。

変身の隙を狙った悪魔が奇襲突進し、2本のレッドナイフが迫る。

『形のあるものなんて斬ってしまえば一瞬よ だがな嬢ちゃん 醜いモノは永遠だぜ ヒャハハ』

斬撃を弾き返したのは、独特の刃音。光の剣を振り上げつつ、バック宙で退避したのだ。細い括れとしなやかな脚線美がしなり、巨大な乳房が回転の遠心力でのびる。

危うくサマーソルトを喰らうところだった。女王のヒールを掠めた男の顔面に血が伝う。

至近距離から鍔迫り合いで分かったことだが、女神自身からも薔薇の薫りが鼻腔をくすぐる。それがシャドウにとって益になるかは別問題としてだ。

悪魔は体勢を直し、突進をやめない。女神は身を低くかがめ、女王のしなやかな脚線美が男の足を払う。

飛び越えられた。逆に回転踵落としが降りかかる。美神はサーベルで受け止める。力で競り負け、薔薇のベッドに叩きつけられてしまった。少女の巨大すぎる双の果実がバウンドする。

その隙を悪魔は刺突にかかるも、天使は寸前で回避。レッドナイフは一輪の薔薇に刺さったのみで、美の女神は遠心力で起き上がり体勢を立て直す。

二刀流とは思えぬインファイト。男の剣戟は、生きるための兵法ではない。完全に刺し違える覚悟で能動的に攻めてくる。というより、目に生気がない。

上空を浮上したマグマ星人は後方へ退避しながら、時に追い付かれ鍔迫り合いで防御しながら、シャドウの猛攻をかわす。

『防戦一方じゃねえか? 嬢ちゃんよォ』

男の下品な笑い声が耳をつんざく。

『ヒャハハハ! シャドウと戦って死んだら天使様が迎えに来る? 困った時の神頼みもいいところだぜ! ヒャハハハ! 愚民どもの忠誠心を一枚岩に統率するのは圧倒的な武力! 武力! 武力ァ! 悪魔礼拝の素晴らしさをその白い肌に刻みつけてやるぜぇ!』

悪魔礼拝の証たるレッドナイフに信仰を誓い、男が左のレッドナイフを振りかぶると、天使の剣はそれを止めた。右のレッドナイフが迫る。それはハイキックが撃ち落とした。

ハイキック?違う。百裂脚だ。

大股を開き銀のハイレグを神々しく咲かせながら女王の美脚から乱れ撃つ幾千のヒールを、男は辛くも全弾撃ち落とした。

そう、辛くも。ヒールを受け止めるのに精一杯で、男は光の天使を見失ったのだ。

真上からサーベルが飛ぶ。

弾き返した今頃になって気付く。飛んできたのはサーベルだけだと。サーベルだけが空中で放物線を描く。

逆方向から気配がした時には、既に異変は起こっていた。

マグマ星人は、咥えていた薔薇を手にして投げた。男の眼前で花が散ることで催眠ガスを吐き出す。

体感時間を狂わせた結果、至近距離まで詰め寄られても気付かない。

美と豊穣の女神はシャドウをベアーハグで締め上げる。爆乳の柔らかい感触が戦意を奪っていく。

「私の美しさにマグマグするだろう?」

物を握る筋力さえも喪失し、2本のレッドナイフが薔薇園に刺さる。

細腕と乳房の前後からの圧に潰された男の脊椎が折れた。

抜群のスタイルも美しい女王は芸術的な括れを一回転させ、豊満なヒップラインをハンマーのように振り回して男を弾き飛ばす。

形のいい美尻は、続けてストレートから殴打をお見舞いする。一撃、二撃、三撃。

吹き飛ばされた男は壁に叩き付けられ、崩れる。

着地した美脚女王はヒールで、男の醜い下半身を踏みつける。

ぐりぐり。

「強い力で導く… それが既に間違った考えなんだ」

男の目には、花の女王が真上に見える。女王のしなやかな脚線美。ローアングルから見える銀のハイレグ。少女の神秘の聖域が目の前に。

「お前は神頼みの意味を履き違えているな。 美しい私だから戦士たちに勇気を授けているのだ」

至近距離で花の薫りが甘ったるい。

反撃を試みる男だが、高位の女神は宙返りで距離をとる。赤い薔薇の花弁が風に舞う。

薔薇のベッドに刺さったサーベルを抜く。

血だらけの悪魔が最後の力を振り絞って立ち上がり、体を高速回転させて血の竜巻になる。

「醜い顔だな。 せめて薔薇の花たちの栄養になり、最期くらい世の役に立つんだな。 いや…貴様の血を呑む薔薇が可哀想か。 光栄に思え、シャドウズには勿体ない名誉ある最期を授けよう。 貴様の生き血を、美しい私の唇を粧う紅とする」

高位の女神はもう一本のサーベルを左手に召喚し、低空を滑空しながら芸術的な体を天地逆転し、やはり高速回転する。

薔薇が咲き誇る美の楽園で、赤い花嵐が舞い上がる。

赤と赤が、衝突した。

「くっ!」

少女のビキニアーマーが砕かれ、一糸まとわぬ裸身が露わになる。獣殻パージで解放された巨大すぎる超乳、双の白い果肉が飛び跳ねる。

『ヒャハハ! だから言ったろう! 醜いモノこそ正…』

言いかけて、男は血を吐いた。

吐いただけか?全身から血が噴き出す。

何しろ豊穣神の攻撃はこのテの回転斬りの弱点である頭部の死角をカバーした技だ。両手の双剣と両脚のヒール、計4振りの斬撃は悪魔のレッドナイフを腕ごと持っていき、巻き込まれた全身はミキサーのように粉々に粉砕された。

飛び散るミートソース。

薔薇園に降りしきる血の雨。

「邪悪な男ほど鮮やかなルージュが採れる…皮肉だな」

マグマ星人は、爪をマニキュアのように染める返り血を口紅とひいた。

薔薇たちが笑顔を取り戻した花園で、芸術的な白い裸身が眩しい。美しさを誇るごとく薔薇園に君臨する、一糸まとわぬ全裸の少女。

全てが均整に満ちた完璧なプロポーションは、精巧にデザインされた人形のような芸術。

絶世の美貌。小顔で目鼻立ちくっきりした、端正な顔立ち。

豊満な胸。細くくびれた腰。引き締まった形のいい子宮のライン。

白磁の肌。

長い金髪が花吹雪に靡いた。

怪獣娘の美を祝福して、赤い薔薇の花びらが舞う。

「神よ私は美しい」

 

 

バラージ神殿 地下3階

4体のシャドウが扉を開けると、そこはライブステージ。

大音量のスピーカーが、戦乙女の歌声を奏でる。透き通る綺麗な歌声。

闇の遺伝子に生まれながらも運命に抗い、父親を超えた若き戦士を励ます歌。

スポットライトが照らした、巨大なマンモスフラワーの蕾。

ステージ中央の大スクリーンに、「WELCOME」と表示される。

スピーカーが奏でる伴奏。

蕾が開き美しい花が咲く。

赤い花から、一個の卵子が飛び出す。直後、客席一席一席に投影された立体映像の精子が空中を泳ぎ、卵子に群がる。卵子は精子を取り込み、受精卵となり分裂をはじめ、2細胞期から4細胞期、8細胞期と分裂を繰り返して桑実胚に成長する。桑実胚から原腸胚へ。胎児は生命の進化を追うようにみるみる成長し、赤児となって産声をあげる。なおも急速に成長し、幼い少女になる。長い髪が美しい幼い少女はやがて、体つきも女性的な丸みを帯びていき、胸も膨らんで大きくなっていく。ついには一人前のレディの美貌にまで成長を遂げた少女は、その長い髪が膝裏まで伸び、締まるところは締まって出るところは出る女性的な体つきになり、メロンさえも小粒に見えるほどたわわに実った豊かな胸が揺れる。最後に、少女の前に立体映像の4隻のドローンが飛来し、少女とキスをして同化する。少女は金色の光に包まれ、黄金のガントレットとソールレットを手足に装着する。その豊満な体は巨乳の双山頂と下腹部の最も神秘的な聖域のみ黄金が張り付き、それ以外の全ての白肌をスタイル抜群ゆえに露出する。

「ようこそ! ワタシのSpecial Live Stageへ!」

ステージ中央の大スクリーンが、その美貌をアップで写す。

黄金の輝きの主は。

宇宙ロボット キングジョー

全宇宙がその美貌と歌声を信仰する、超銀河戦乙女だ。

眩しい。眩しすぎて直視できない。

戦乙女のクリアな歌声は惑星中に響き渡る。心まで洗われるような、透き通る綺麗な美声。全宇宙を笑顔にした歌声。大気圏外で交戦中のウルトラ戦士たちの体が金色の光に包まれる。艦隊の砲撃をまともに受けてもビクともしない。強化された光線は砲撃を貫通し、敵宇宙戦艦を撃ち落としていく。

『コイツに歌をやめさせろ!』聖剣の男が叫ぶ。

『9歳当時より装甲の耐久性が上がっている!? いや、それよりも…!』

魔導書を開いてガオディクションを唱えた男が警戒を促す。誰の心にも闇はある。それはウルトラマンや怪獣娘とて例外ではない。今までスキャンした相手もみんなそうだった。今目の前にいる黄金の戦乙女を除いては。闇が検知できない。キングジョーの心には光しかないのだ。

明らかにヤバイ相手を見ても果敢に歩を進めたのは、男達の中でも一際大きい、体長3mの大男だ。

『フン! どんな相手だろうと武力で踏みつぶしてくれるわ!』

シャドウジェネラル バーサーカー

男は胸にウィルスカードをセットする。

『サイバードラゴリー ロードスルゾ』胸部の機器からくぐもった爺の声が。

男の巨体がフルプレートに包まれる。

『サイバードラゴリーアーマー アクティブ』

『俺様にもっと強力な兵器をよこせえええええええ!』

歌姫の相手をバーサーカーに任せ、残り3体の男は客席を後にして下の階へ急ぐ。

『強い力を手にすると試し撃ちしたくなるんだよ! その口実ができて嬉しいぜェ!』

体長3mのフルプレートが、斧を振り回しながら襲い来る。

「Listen to my song!!!!」

斧を、黄金のガントレットは白刃取った。

「乙女のガードは硬いんデス」

逆にその握力で斧を折った。

まだ大男には、力自慢の拳がある。

悪魔と天使の拳と拳が激突する。衝撃波で空間が歪む。

千手観音のごとき黄金の拳の雨を、毒蛾の拳は一撃一撃はたき落す。

時折、毒蛾のフルプレートは炎を吐く。火で熔けるほどヤワな金属ではないと知るや次は毒鱗粉。それでも錆びないと知るや。

『埒があかねえ!』

フルプレートの両手が、歌姫の両手を掴む。

『このアーマーを開発したドワーフどもは大マヌケだぁ! ドワーフとファーブニルの共存? バカバカしい!』

毒の牙が、少女の肩に咬みつく。女神の全身を覆う聖なる防壁さえなければ。戦乙女の白い肌は歯形ひとつつかない。

少女たちが産まれる前の時代はペダン星も軍事国家だった。それでも、優秀な科学者やそれが産み出した技術には異星人であろうと敬意を払っていたと聞き及んでいる。

モンスアーマーを開発した科学者たちがどんな想いを込めたか。その想いを踏みにじる男は、きっと心に余裕が無いのだろう。

「怒ってばかりだと幸せが逃げてしまいマスよ。 SMILE SMILE!」

『力こそが全てだ! ファーブニルは兵器なんだよ! ファーブニルの甲冑を借りたお前たちヴァルキュリアも戦うために生まれた兵器だぁ!』

「そうカッカしないでくだサイ。 笑顔になればみんなfriendsデース」

銀河の歌姫は男を宥める。

『こうなったら引きちぎってやらああああ!』

大男は両腕を怪力で引っ張る。潰せぬものなどない腕力が、このウィルスアーマー最大の武器だ。

『三枚おろしにしてやらああああ!』

この男は、どちらが正しいか結果が見えないと溜飲が下がらないらしい。

力こそが全てと信じて疑わないがゆえに、完全に失念していた。歌姫の胸にも、超巨大なふたつのモーニングスターがぶらさがっている事実を。

黄金の戦乙女が上体をそらすと、大きな乳房は遠心力で降り上がりシャドウの顎にヒット。『ぐおぉ…っ!』吹き飛ばされた大男は天井に激突した。当然、歌姫の両腕も手放し、解放させてしまった。

大男は崩れた天井から落下しつつも、両手からミサイルを乱射する。

「じゃあ、ツブッターでアンケートをとりまショウ」

男の攻撃をバリアで防ぎながら、歌姫はティアラを発光させ、ネット上で何かをしている。

「ワタシは何も産み出さない悲しい兵器だと思いマスか?」

何を隠そう、キングジョーが戦っている映像はシュワ生で全次元の全宇宙に生配信されている。全宇宙の人々が、ヴァルキュリアを応援しているのだ。

その間、男の遊び相手は4隻の小型ドローンだ。ペダニウム合金製だが。

黄金の甲冑から分離した小型ドローンは空中を飛び交い、旋回する。

『小細工を!』男は新たなウィルスカードをセットする。

『サイバーイズマエル ロードスルゾ』男を新たなフルプレートが覆う。『サイバーイズマエルアーマー アクティブ』

4隻の小型ドローンから重火器が発火する。

フルプレートの体表を埋め尽くす無数の顔は一斉掃射で銃弾を焼き払った。圧倒的弾幕、それがこのウィルスアーマーの武器だ。

『ヘハハハ! 蜂の巣になりやがれ! カメラ回ってるんだろう? 俺様の武力を全宇宙よ誉め讃えよおおおおお!』

四方八方を弾幕で埋め尽くしながら暴れまわる偽りの英雄。守るものが何もなく、ただ地位に固執し名誉欲に溺れる醜態は独裁者のそれだ。

小型ドローンはその小ささを活かし、弾幕の隙間を掻い潜る。

『おい! おいおいおい!』

男が機嫌が悪くなったのは、歌姫の態度だ。

『この期に及んで余裕ぶっこきやがって!』

歌姫のバリアが守っているのは、己自身だけではない。ステージと機材、大型スクリーンまではまだしも、無人の客席さえもエナジーシールドは庇っている。

「余裕? 違いマス! 守りたいものがあるからワタシは強くなれるんデス!」

『そんなもので強くなれるものか! 俺様の右腕を見ろ! この鉤爪にかかればお前の重金属もタダじゃ済まねえぞ!』

「でショウね」

その自慢の右腕に、何かが巻きつく。小型ドローンの一機が発射した操りの糸が絡んでいたのだ。腕を掴まれ、上空に吊り上げられる。足をじたばたする男。

『テメエ!』アーマーは蠍の尻尾も伸びる。蠍の毒尾が少女の白い裸身に迫る。

2機目操りの糸が尻尾に絡みさえしなければ。これが封じられたなら、最後は左手の捕食器官が伸長し、少女の豊満な乳房に咬みつかんと迫る。結果は同じ、3機目の小型ドローン。

戦乙女もバーニアを点火し加速する。黄金の拳がプレートアーマーを粉砕した。

続いてローキックで足を折る。括れた腰をねじり、胸の大きな双果肉をハンマーにして叩きつける。

さらに遠心力で天上を飛び跳ねた巨大な乳房が男の頭上に落下し、白く柔らかい下乳がメットを粉砕した。血だらけの男の顔が露わになった。

『ぐ…っ』ついにエネルギーが切れ、大男の変身が強制解除。

ジャストタイミングで、ステージ中央のスクリーンが『集計が終了しました』というアナウンスメッセージ。

「これが答えデース」

大画面に写し出された集計結果。兵器なんかじゃない、97%…

「Commentsを拾いまショウ」

>おジョーさんはアイドルです!誰よりも美しく心優しい歌声が、私達を笑顔にしてくれるんです!あの人の優しさで、私みたいな男も救われた!

>お姉様はこの世から争いをなくすために歌っているのです!みんなで笑顔になれば、刃を握ることの愚かしさが分かります!心が無いのはシャドウ、お前です!

>力の強い者が勝つとは限らないよ。たとえ弱くても、命は色々な方法で生きていこうとする。可能性を捨てないで努力していく者が最後には勝つんだもん!力こそ全てなんて、そんなの子供みたい!

>聞こえるだろう、歌の力が。宇宙の心をひとつにする希望の光が。

>がんばれー!お嬢ー!

>( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!

「ワタシの甲冑の元になったのは military Fafnir デシた。 けれど、ワタシはワタシ。 お嬢というnicknameもありマース」

『黙れ黙れ黙れええええええええ!』

操りの糸に拘束された四肢をじたばたさせる、全身血まみれの男。

黄金のヴァルキュリアが、飛び上がる。

大きな胸が、白い果肉が、真上から迫る。

「MUGYA!」

ボディプレス。

SNSでは【このおっぱいが無かったらアイドルは無理だった】というネットスラングさえ大流行するほど全宇宙に讃えられる、大きな乳房。

たわわに実った双の果実が、大男の頭部をペシャンコに潰した。

乳房の弾力をバネにして高く飛び上がり、ボディプレス2撃目は胸のデバイザーを潰す。柔肉のバネは一際高く飛び上がり、今度は両足のソールレットが男の下半身を潰した。

小型ドローンは黄金の甲冑に納まった。最後に戦乙女のティアラがビームを放ち、男を爆殺した。

大型スクリーンが『WINNER KING JOE』と表示する。

七色のスポットライトが歌姫を照らす。

カメラ越しに戦乙女の美肢を見届けた全宇宙の視聴者が歓声をあげる。コメント欄にも歓喜の嵐が。

宇宙間SNSサイト『ツブッター』もお祭り騒ぎだ。

>やったああああああああ!

>うおおおおおおおおおお!

>勝てる!勝てるぞ!ダークスルトに!

>俺もおっぱいで潰してください!

>このおっぱいが無かったらアイドルは無理だった

>おジョーさあああん!私だ!結婚してくださああああああい!

>ああ……お姉さま……なんと麗しい…+゜*。:゜+(人*´∀`)ウットリ+゜:。*゜+.

>でかい

>( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!

歌姫はカメラに手を振る。

「今日はワタシの Special Live を観てくれてありがとうございマース! みんな大好きデース!」

 

 

バラージ神殿、地下4階

残り3体に減った男たちは、貯水プールにたどり着いた。

オーブリングを持つ男が顔をしかめる。

『神話学において水は女性性の象徴。 こんな淫らな物質が肉体の7割を占める人間などという汚らわしい生物は絶滅するべきだ。 一条の光も持たぬ我々シャドウのなんと清らかなことか』

冗談でも言っていい事と悪いことの区別もできないのか。万物の源たる水と万物の母たる女を侮辱する闇の侵入を水神は怒ったか、プールから2枚の羽衣が飛び出す。

『危ない!』魔導書の男が咄嗟にそれを開いて磁力光線で残り2体を向こう岸に飛ばす。魔導書の男は哀れ天女の羽衣に巻きつかれ、水中に引きずり込まれた。

『ソーサラー陸佐!』自分たちを庇って自らを犠牲にした男を、リーダー格の男は案じる。

一方、減らず口を叩いて乙姫の逆鱗に触れたダークリングの男は『おめでとうソーサラー陸佐、男帝陛下のために死ぬ至福の歓喜を迎えたお前の最期を喜ぼう』

死後その魂は男帝陛下に永遠にお仕えするだろう、と吐き捨て、残った相方と共に貯水プールを後にした。

貯水プールの底に沈んだ男は、羽衣に羽交い絞めにされて身動きがとれない。

手足だけじゃない。首もだ。

水中は、竜宮城のようなミニチュアセットが張り巡らされて桃源郷のように美しい。もっとも、この竜宮城の乙姫は二度と地上に帰してくれそうにないが。

羽衣の線を逆からたどると、この羽衣の持ち主の正体が明らかになった。

シュークリームのような髪の、妖艶な美女が泳いでいた。

淫靡な体つき。なまめかしい腰のくねり。白い玉肌と肢体を惜しげもなく露出するスリングショットのような戦乙女の甲冑。零れ落ちる白い乳房の瑞々しさ。タイトミニも極端に短く、形のいい腿が扇情的。

頭には、2本の三日月状の角がアンテナのように駆動する。

首には、ホルスタイン柄の長い長いマフラー。これが男を締め付ける羽衣の正体だ。

『君……は? さっきのエレキングの……姉……だな?』

妖艶な美女は片掌を頬にあてて照れる。

「あらあら~ 私、そんなに若く見えるかしら~? 嬉しいわぁ」

怪獣娘に老いの概念は無い。永遠に若く美しいのは当たり前だ。

宇宙怪獣 エレキング・プレックス

天女の羽衣まといし、清廉なる魔性の戦乙女。

体と首を締め付ける巻きつきが一層強くなる。骨の軋む音がする。

『あ……これもうダメかも』男は死を覚悟する。

トドメの一撃は電撃だった。水槽全体を高圧の電流が走り、男を焼き尽くす。

ひとしきり放電が終わった後、魔導書を遺して男は真っ白な廃と帰してバラバラに水と混ざり合いはじめる。

「あらあら~ お水が汚れてタイヘン~」

そう、魔導書だけは。

『ヒッポリトカプセル!』

さすがにそれくらいの不意打ちは予測できたのか、人魚のごとく目にもとまらぬ速さで泳ぐ天女。直前まで彼女がいた空間に、カプセルが現れる。不意打ちは失敗に終わった。

とはいえ、魔導書がひとりでに動き出した怪現象を竜宮城の主は「まあまあまあ~ 困ったわぁ~」と驚きを隠せない。男は魔導書が本体だったのだ。

シャドウジェネラル ソーサラー

魔導書で感情を読んで冷静に戦況を分析する、知能派シャドウ。

(あの女、水中戦型のようだが、無駄な脂肪の塊が2つもついているんだ、水の抵抗でスピードは遅いはず。 それにマトも大きい。 君が劣った性別であることを思い知らせてやる)

訂正。最も知能の低い男だった。

魔導書とは思えないほど単細胞な敵だと露知らずしてか、母乳満点の乙姫は魔導書を必要以上に警戒して「あらあら~」と困り顔。

例のごとくガオディクションで感情を読み取る。誰かと連絡を取っている?ひとまず安堵?別の何かを心配して報告している。

『誰と話している?』

「この水、生活用水じゃない? 電気がビリビリーって危ないから、子供たちが水回りに近寄らないかシグニュウちゃんと確認をとってるのよ」

『呑気なものだな』

「あ、でもでも~ あなたの遺灰が混ざっちゃって~ どうしましょう~?」

天女は首を傾げる。

『私に聞くな!』

天然なのだろうか?ガオディクション検知結果はふんわりしている。

自らのページをめくり、次の呪文を詠唱する魔導書。

石化光線を乱射する。しかし乙姫は人魚のように優雅に泳ぎ、目にもとまらぬスピードで光線の雨を掻い潜る。水圧を分散して加速に役立つ神々しい母乳満点はおろか、長い長い羽衣にすら掠りもしない。そうこうしているうちに、人魚は羽衣をヒレのように揺らしながら、途轍もない速さで泳いで距離を縮めて来る。

魔導書はゼットンシャッターを展開して咬みつき攻撃を防ぎ、テレポートで水上に退避する。無駄だった。結局は羽衣に羽交い絞めにされ、水中に引きずり込まれる繰り返しだ。

電流が襲う。魔導書は痺れながらもショック光線が光り、フラッシュが天女の視力を一時的に鈍らせる。羽衣が焼け焦げ、上半身の獣殻が破れ、大きな乳房に僅かに張り付いていた少ない布が剥がれ山頂の桜色の突起が露わになる。

羽衣から解放されたところで水中は水中だ。放電を回避できるはずがなく、もがき苦しむ。

そもそも視界を封じたところで、天女には角のアンテナがあるのだ。というか、羽衣は既に再生していた。

(このままでは感電死してしまう… 水中を脱出する方法は… あった! 水の無い空間を作ればいいんだ!)

ひらめいた。魔導書は自らのページをめくり、とっておきの呪文を詠唱する。

『ダークフィールド!』

部屋全体が異空間に変わる。ここは、荒涼とした岩山。何もない死の空間。当然、水もなければ海もない。

『どうだ! ここなら水がない! 私の勝―――』

勝利を確信する前に、ガオディクションが天女の急激な感情の高揚を検知する。この時を待っていた?

そもそも。

最初に不意打ちのヒッポリトカプセルを先読みされた時点で気付かなかったのか。乙姫も頭のアンテナで敵の感情を読み取ることができたからだ。

気付いた時は、何もかもが手遅れだ。

「えいっ」

羽衣の戦乙女が両腕で2つの大きな胸を根元から握って寄せると、前方に乗り出すように膨らんだ2つの豊かな乳房、その先端の桜色の突起が、何かを勢いよく発射する。

レールガンよりも速い2門の弾速を避けきれるはずがなく、魔導書に2つの風穴が空いた。

『あ…… が……』

己の身に何が起こったのか、わけもわからずもがき苦しむ魔導書。

ソーサラーを殺したレールガンの正体。さっきまで『無駄な脂肪の塊』と馬鹿にしていた白く豊かな胸のふくらみ、その先端の桜色が、白く甘ったるいドリンクを垂れ流していた。

女しか出せない、女の乳房しか出せない命のパワー。

母乳だ。

水中から脱出したら有利になる?その考えが甘かったのだ。それどころじゃない。ダークフィールドで外界と隔絶したことが仇となって、戦乙女がこんな奥の手まで仕込んでいるという情報を他のシャドウと共有できなくなってしまった。

男の敗因はただひとつ。エレキングが女だから。

(私が…… 間違っていた…… これが…… 女の……乳房…… 女は…… 優れた…… 性…… 別…… だっ…… た……)

己の愚かさを恥じ、魔導書は力尽きて爆散した。同時にダークフィールドは解除され、天女は元の貯水プールに生還した。

それより。「あらあら~ 困ったわ~ 水がこんなに汚れてどうしましょう~?」水槽にシャドウの残骸が混ざったのが問題なのだが。本当の戦いはここからだぜ。

 

 

バラージ神殿、地下5階

残り2体の男が入った大部屋は、壁一面をステンドグラスが照らす礼拝堂だった。

美しいガラスの宗教画。聖なる怪獣娘たちが微笑む。青い髪の天使たちが。

部屋の両脇の壁面は、宝石のように青い怪獣娘が光輪を戴く立像の絵。

愛らしい童顔ながらも極上の美貌。白く瑞々しい真珠の肌。琥珀の瞳。

中央は青く美しい小鳥のような獣殻の怪獣娘12人が光の巨人の大軍勢を従える絵。

長くきらめく宝石のような青い髪に六角形の髪飾りを装飾し、首には赤いマフラー、魅惑的なヒップラインに張り付くミニスカート。赤いサテンロングに青いニーハイブーツ。

輝く青はダイヤモンドより美しい。

この星は、怪獣娘を信仰している。今でも、この礼拝堂で怪獣娘に祈る者たちも。

描かれた光の天使たちはいずれも長い青髪がきらめく美しい女神で、スタイルも抜群。

天井には裸の少女9人が翼を輝かせる絵も描かれている。

『随分と淫らな偶像を崇拝しているな、未開の星のエゴイストどもは』

ダークリングの男がツバを吐く。

「その言葉、訂正しな」

突然、壁面のステンドグラスに信仰される怪獣娘たちが六角形の髪飾りからビームを射つ。

男2体は咄嗟に回避する。

目が、動いた。ステンドグラスの天使たちが男たちを見ていた。

「分かってるの? どんな技巧と心血を注がれたか、どんな思いを込められたか、時を超えてどんなに沢山の人たちを感動させたか」

ステンドグラスが喋った。

『闇を信仰する敬虔なる自爆兵たちよ! 男帝陛下のために死にに行けぃ! 嬉しいだろう! 自爆だけを唯一の喜びとせよ! 禁欲禁欲ゥ!』

『シャドウキラーザウルス シャドウキラーザウルス シャドウキラーザウルス』

ダークリングを手にしたシャドウジェネラルが3体のシャドウビーストを召喚する。

シャドウジェネラル プリースト

体長9メートルほどのシャドウビーストの触手がステンドグラスにビームを撃つ。が、ザウルスの光線を透過した。当たっていないのだ。

天使の青く神々しい輝きにまとわりつくように包み込んだ光線だが、天使の抜群のスタイルは光線を全身から返して発射した。聖剣の男は弾幕の隙間を掻い潜って回避したが、ダークリングの男はビームを浴びて怯み、3体のザウルスは爆散した。

『信心深き自爆兵たちは、男帝陛下に命を捧げて今日中に死ねる至福を感謝して嬉しがっているぞ。 偶像を崇拝する利己的な野蛮人どもと違ってな!』

『シャドウキラーザウルス シャドウキラーザウルス シャドウキラーザウルス シャドウキラーザウルス』

今度は4体のザウルスの召喚して聖剣の男の四方を囲うように盾になる。

『我が敬虔なる自爆兵たちが盾になる! ブレイブ中将は下の階へ急げ!』

『プリースト少将の名誉ある自爆を祈る! ヘルヘイムで会おう!』

リーダー格の悪魔は聖剣を床に刺す。床が崩れ、階下へ落下した。

4体のザウルスが爆散したのは、親玉が逃げた後だった。

『偶像を崇拝していたら男帝陛下に命を奉げる無償の自己犠牲の心はあるまい。 死のみを至福とする我々の勝利である!』

「まだ下にはゼットンがいる。 オパールはこの星の人たちの大切な宝なんだ!」

またステンドグラスが喋った。身ぶり手振りが2Dモーションキャプチャソフトのようだ。動くたび胸が、たわわに実った大きな丸い双果実が、揺れる。

男は10体のシャドウキラーザウルスを召喚し、生体ミサイルがステンドグラスを襲う。

着弾しなかった。そこにステンドグラスがあるはずなのに、無いようにくぐり抜けて消える。

逆に壁面全方向から同じ本数の生体ミサイルが火を噴く。驚く莫れ、ステンドグラスに描かれた巨乳のヴァルキュリアたちが双の乳房から生体ミサイルを発射したのだ。

男を炎に包む。男は血を吐きながらも、呪詛の言葉をやめない。

『偶像を崇拝する者共はエゴイストだ! 淫らな偶像を見て性欲を発散させるのは見返りを求めている証拠だ! そんなエゴイストどもに、主君への無償の自己犠牲的な忠誠心があるか! 我々シャドウは違う! 形なき闇だけを信仰するがゆえに、見返りを求めぬがゆえに、無欲にして明日の命をも欲さぬがゆえに、喜んで無償で自爆できる! 命が惜しい烏合の衆どもが、1秒でも速く地獄へ落ちる至福の日だけを歓喜する我々の無償の統率力を倒せるはずがない!』

悪魔はさらに大量のザウルスの召喚し、触手がガラスを割らんと伸長する。

「あれだけのアーティファクトをわがものにして、この上オパールまで強奪するの? どこまで強欲なのさ?」

鞭もすり抜けた。幽霊のように触れることができない。

『私は偶像崇拝を禁止する! この星の全ての形あるもの全てを破壊し尽くし、全ての地形を平らにし、全ての木を伐採し、全ての海を猛毒ヘドロにし、全ての大気を猛毒ガスにし、全ての野蛮人どもにロボトミー手術を施す! 脳をロボトミーした結果、野蛮人どもは男帝陛下に命を捧げて1秒でも速く無償で自爆して死ぬ至福が嬉しくて嬉しくてたまらなくなるだろう! 死後もその魂は男帝陛下に永遠に無償でお仕えするとは何たる至福!』

全てのステンドグラスに鞭を向けるが、結果は同じだった。戦乙女は鞭をすり抜け、触れることすらできない。この部屋自体が幻なのか?

「ただの虚言癖かと思ったけど…ダサダサだよ。 脳細胞がイカレて支離滅裂な妄想に取り憑かれてる」

ステンドグラスの天使たちが呆れて肩を竦め、首を横に振る。

「ちょっとお灸を据えてあげなきゃね ブラックホールが吹き荒れるよ」

部屋中の壁面、両脇、中央、天井に描かれた光の女神たちが両手を前方に突き出す。髪飾りから両手から一斉に光線を照射する。

四方八方を制圧する弾幕はダークリング男の表皮を焼き、大量のザウルスが一匹残らず力尽きる。

力尽きたザウルスの大群を謎の念力が吊るし上げ、どこからともなく顕現した十字架が磔にした。

礼拝堂で吊るされる、大量の十字架の山。

虚言の悪魔はしぶとく生きている。この執念深さは何に起因するのか。

『壊れろ! 淫らな偶像め! 猟奇的な惨殺死体をさらし、野蛮人どもに偶像破壊の素晴らしさを死体を以て教えるのだ! 禁欲禁欲ゥ!』

続けざまに大量召喚したザウルスの群れが、腹部から最大火力のエネルギーをチャージする。

「この部屋自体を瓦礫にしたいのかなぁ? おイタはそこまでだよ!」

ようやくのことだ。青く美しい天使たちの巨大すぎる乳房の部分が立体的に隆起する。

乳房だけじゃない。四方の壁面を彩っていた青い鳥のヴァルキュリア9人が2次元から3次元に実体化したのだ。

「イヤッホウ!」

ステンドグラスの中から勢いよく飛び出した空飛ぶ宝石たちは、礼拝堂の天井を飛び交う。その神々しさは天界の宴だ。

宝石のような構造色の長髪がゆらめく。

分身宇宙人 ガッツ星人

オーロラの翼まといし、幼き天才戦乙女。

長くきらめく瑠璃色の髪は、見る角度によってサファイアブルーにも金色にも光沢を反射する。

「さて、さてさて。 さてさてさて。 来ました! 私が! オパールを守りに! ね♥」

幼い少女の華奢な細身に似つかわしくない、たわわに実った巨大で張りのある丸い乳房を揺らしながら、青い長髪の美少女はウィンク。その可愛さは、あれだけ大量にいたシャドウキラーザウルスを魅了させるほどだ。ザウルスの大群は一様に上空を見惚れ、エネルギーをチャージすることもやめて放心状態。

兵なくした将ほど弱い男はいない。

9人の聖なるヴァルキュリアは両手から大口径の光線を照射して悪魔を浄火する。どういうわけか、テレポートで姿を消した後も……何もない虚空が同じ光線を吐いた!?

青く輝く小鳥の戦乙女たちが、部屋中をテレポートしながら無邪気に笑う。

「さっきから口ばっかりで何も実行できてないじゃん? ダークリングに選ばれた邪悪な心は本物みたいだけど、歴代の所持者は相応の実力があった。 おまえのしてることは、先人の顔に泥を塗ってるだけ」

『形あるものはいつか壊れる! エゴを対価に支払った統率力など脆いものである! 光など、闇に取って代わられる運命なのである! 闇には色も形もない、永遠である! 明日の命すら欲さぬ禁欲のロボトミーで調教した自己犠牲的な闇の統率力を見よ! 禁欲禁欲ゥ!』

『シャドシャドシャドシャドシャドシャドウキラーザウルスルスルスルスルスルス』

怠けたザウルスの群れを爆破し、男は新たに32体のザウルスを召喚する。

『外見の美しいものなど一生に一度たりとも見てはならぬのである! 僅かでも美しい外見と疑わしきだけであろうとも、我が正義の刃でグッチャグッチャの猟奇的な肉片にしてみせる! これは人間どものためでもあるのである! 淫らな偶像にウツツを抜かし利己に目覚めた民草など、いつ主君を裏切るか分からぬではないか!』

従えたシャドウキラーザウルスの大群が一斉に砲火する。やはりビームは光の天使たちには当たらず、全身で返したビームは次々と群れを焼く。鞭による打撃も、モノホーンによる体当たりもすり抜けて触れられない。ジャンプして殴りかかっても空振り。それどころか、分裂して12人に増えてしまった。

「じゃあ…試してみる?」

青いダイヤモンドの1羽がテレポートで着地し、上体を折って胸を強調するポーズで悩殺する。

ザウルスの群れの攻撃が止まる。ただでさえ大きな乳房が重力でさらに大きく伸長する柔らかさは、両腕に挟まれて横乳が凹み、その体積ぶんだけ質量保存の法則で下へ膨らむ柔らかさは、いかなる敵をも寝返らせるには充分だ。ヴァルキュリアは守るべきプリンセスだと気付いたシャドウビーストの群れは、後ろを振り返って男を攻撃し始める。

男は苦し紛れに裏切り者を何体か粛清しながらも、ダークリングでカードを読み取ってビームを放つ。

着地した美はテレポートで上空へ退避した。

別の美しき1羽が天井を羽ばたきながら、幼い唇に細い指をあて、投げキッスを送った。

可愛いウィンクとともに投げキッス。

礼拝堂を汚すシャドウビースト全員の目がハートになっただけでなく、シャドウジェネラルの動きもおかしくなる。

『ぐお…っ』

聖なる戦乙女の投げキッスは、ついに悪魔をも限界に追い込んだのだ。

何しろこんなに可愛い美少女が、華奢な上体をそらし、大きすぎる張りのいい丸い乳房を揺らす艶姿は、ウィンクと投げキッスとのギャップもダイヤモンド級だから。

玉肌と美顔だけじゃない、全身が目を釘付けにする。

男はダークリングにカードをセットに砲撃を試みる。不発に終わった。ダークリングが沈黙しているのだ。

力が入らない。ダークリングが思い通りに操れない。

「封じられた理由が分からない、そんな顔をしてるね。 単細胞のお前でも分かるように説明してあげるよ。 今のは魅了光線って言って、印南家相伝の幻術の応用だけど。 快楽の幻を見せて、一切の攻撃を封じるの。 お前の心が躊躇ってるのよ、私を攻撃することを。 失いたくない、ずっとヴァルキュリアを見ていたい、ってね」

上空からウィンク。戦乙女の笑顔が、閉じた長い睫から飛んだ星が、重ねて魅惑の幻を展開する。

「どんなに泣き喚こうと、もう私を攻撃することはできないよ! 私をエッチな目で見てる限り、ね」

『何だと…?』

既に前2撃の魅了光線もシャドウジェネラルにとって無傷ではなかったらしく、恍惚としてまともに動けない。

「この光線、私をエッチな目で見てる奴にしか効かないんだよね。 てことはお前…」

続いて投げキッス。甘い唇から飛んだピンクのハートが拡散する。いつしか男は男ゆえに目がとろんで口は涎を垂らし、ダークリングが床に落ちる。

「ほら、ほらほらほら。 あれだけ淫らだの禁欲だの言いながら、私を一番エッチな目で見てるのはお前じゃん。 魅了を解きたきゃ、ボンノーを捨てなきゃダーメ♥」

きゃははは、ステンドグラスの聖天使たちが笑う。空飛ぶ青いダイヤモンドたちの笑い声が木霊する。

『バカをいえ! 私は女だけを執拗に殺すつもりで来たのである! これは全宇宙の男の総意である!』

「あっそ。 さっき97%の人が「違う」って言ったけど?」

最ッ低!とゴミを見る目。小鳥たちの視線の矢の雨が悪魔に集中する。

「どんなに歪んだ闇であれ、お前にはお前の正義があるとしよう? 正義なんて個人のエゴだよ。 広い宇宙、2人として同じ主義主張なんか存在するわけないんだ」

「だからこそ、価値観の違いを越えて手を取り合って生きなきゃいけない」

「立場も芸術性も異なる工匠たちが、それぞれの夢を乗せて、それぞれの力を合わせて完成したのが礼拝堂とステンドグラスだよ」

「怪獣娘だって同じさ。 光と光が衝突し合うこともあったけど、色んな色の光が輝くから人間を、ウルトラマンを照らせるんじゃん! 誰も独りじゃ生きられないよ!」

「今、全宇宙のみんなが色とりどりのネオンを取り戻そうとしてる!」

戦士たちを鼓舞する戦乙女の歌声が奏でる。ある勇者を多次元宇宙への旅へ誘う、勇ましい歌。

And it's time to face your duty and destiny.

You must be blight to break through the darkness.

女神の歌声は大気圏外まで届く。色気と艶のある歌声。いかなる男をも欲情させる、色香に満ちた美声。魅了されたシャドウ艦隊の砲嵐が止まる。恍惚として動かなくなった大艦隊。残るは8800体のダークムスペルとの交戦が始まる。

『やめろ! 邪教の讃歌を歌うな! 色んな色の光だと? そんなものは強大な闇を前には等しく肉片だ! 形ある偶像を信仰するな!』

今まさに形ある偶像に欲情し恍惚としている男が何の説得力もない。

「「イェア!」」

テレポートで上空両脇を包囲した2人の戦乙女が十字架状の狙撃銃を背負い、ヘッドショットが決まった。

苦しみ地に伏した男が、転がる。

『おのれええええええ』

最後の力を振り絞って、ダークリングを拾う。

『シャドウキラーザウルスよ! レッドマンよ! お前達の力、頂くぞ!』

『超合体 Vキラーハルト』

しかし。

「自分が既に崖の下に落ちていることを気付いてないんだぁ?」

『何!? ぐああああああああああ』

男の肉体が崩壊をはじめ、外殻がひび割れて臓器が飛び散る。

同時に、ザウルスの大群が、一斉に男を攻撃する。先ほどの誘惑による寝返りとは桁違いの威力。恨みのこもった集中砲火。

「そんなにいっぺんに召喚したらヤプールの怨念で肉体が崩壊するに決まってるじゃん」

『怨念だとぉ!? 馬鹿なぁ! 禁欲的な信仰心は無かったのかぁ!』

「まだわからないかなぁ? 強大すぎる力は、己自身の体を蝕む。 かつての私がそうだった…」

それを希望にするか、絶望にするか。その差は何だったのだろう。男にダークリングは使いこなせなかったようだ。

『痛い! 痛゛い゛よ゛お゛お゛お゛ 助けてください 死にたくないです 何でもするから助けてください スルトなんか裏切るから助けてください 痛゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛ ゴギョゴガゴギョゴガ』

無様な命乞い虚しく、自らの傀儡であったはずのシャドウキラーザウルスの大群から最大火力の破壊光線の集中砲火を浴び、男は爆散した。

力に溺れた男の末路など、こんなものだ。

ダークリングが消滅したことで、ザウルスたちもドロドロに溶けて無くなった。

「人を邪教徒呼ばわりして、最期は独りぼっちだね。 お前が文化遺産の価値を語るなんて、二万年早い」

天井を舞う9羽の美貌は、長い瑠璃色の髪を手で流す。

「ちなみに、誰かひとり本物がいると思った? 残念、全員ニセモノでした♥ オリジナルは今ごろ光の国でシャワー浴びてるんじゃない?」

あ、想像した?と無邪気に笑う9人の幼い戦乙女たち。張りのある巨大な乳球が上下を跳躍する。

「ダミー相手にここまで一方的に殺られるなんて、ダサダサだよ」

ま、オリジナルもダミーも戦力に大差ないけどね、と青い小鳥たちは長い髪を揺らす。

厳かなる礼拝堂で、ステンドグラスに描かれたガッツ星人たちは微笑む。

さて。さてさてさて。天井から己自身の声がする。『緊急事態だよ!』

何事かと小鳥たちが真上を見上げると、天井のステンドグラスに描かれた裸の天使のひとりが巨大な乳房の谷間からソウルライザーを取り出す。

母艦ウルトラビフレストで待機している分身体たちから緊急連絡だ。「どうしたの!? 何かあったの!?」

尋常じゃない様子であることは確かだ。礼拝堂の天使たちが、ステンドグラスの戦乙女たちが、ざわめく。

『スルトが! ダークスルトが!』

「ダークスルトが?」

『ダークリングとギガバトルナイザーを装備したんだ!』

「「「「「「「「「はあ???!!!」」」」」」」」」

 

 

バラージ神殿、地下6階

最後に残った、中性的な少年のような姿の男。その体は今までの5体よりも大柄だ。

シャドウジェネラル ブレイブ

聖剣使いの男が落下した地点は、地熱エネルギー炉。神殿の全電力をまかなっている場所だ。

着地した鉄パイプの下は、熱い溶岩が煮えたぎる。

細い一本道の延長線上に、最後の怪獣娘が待っていた。

長い黒髪が流れる、美しい少女。

黒いゴスロリドレスをまとった、高貴な少女。

頭には2本の角。

豊満な双の乳房が、灼熱色に燃える。

宇宙恐竜 ゼットン

高貴なる美貌が神々しい、気高き熾天使。

『ゼットン、憶えているか? お前たちが殺した、俺の弟を』

熾天使は高貴な佇まいを崩さない。

『憶えてない、って顔をしているな? そうだろうな。 今まで大量のシャドウを殺してきたお前だ、顔なんかいちいち覚えていないよな』

そうじゃない。言い方に違和感が聞こえたからだ。その他大勢のシャドウを『お前が殺した』と名指したのに、その弟だけは『お前『たち』』?

この男の顔。似ている。かつて徴兵指令の戦乙女たちがGIRLSスペースに居た頃。つくばセンタービルの偽告知イベントを襲った少年のような個体がいた。あの少年も、男に似た中性的な顔をしていた。

あの時は当時のGIRLSの怪獣娘をほぼ総動員して討伐にあたった。もっとも、当のゼットンは敵別働隊の殲滅から直行で遅れたが。

『思い出したか、偽りの怪獣。 今度こそお別れだ!』

男は聖剣を振り上げる。

『バーチカルギロチン』

聖剣が斬撃を放つ。

闇の斬撃を、熾天使は光の壁「ゼットンシャッター」で防いだ。

『見たか! お前たちが我々のことをどこまで知っているかは分からんが、我々は有史以前よりお前たちを調査していたのだ! 俺のフェンリルソードは貴様ら光の軍勢の戦い方を調べ上げて鍛えた聖剣だ!』

止まらず聖剣『フェンリルソード』を振り回す悪魔。

『八つ裂き光輪』

振り上げた剣先から丸ノコギリを連射する。

熾天使はテレポートし、現れた場所はなんと男の懐。そりゃそうだ、聖剣を下から上に振り上げりゃ下がガラ空きに決まっている。形のいい、張りのあるヒップアタックが飛ぶ。寸でのところで悪魔のニーキックがブロックした。

「っ…」

少女の聖なる扉を襲う鈍い衝撃は熾天使を痺れさせたが、一瞬だけ。テレポートで距離をとり、体勢を立て直した。

『危なかったぜ。 これならどうだ!』

『ギンガサンダーボルト』

雷のチャクラムが旋る。

水平に剣を薙いだ。ということは、攻撃のチャンスは左。いや、それを見越してエルボーが来る可能性も。ということは、攻めるのは上か、下か。

逡巡の末、テレポートしたカミキリムシがチャクラムをやり過ごした後再び姿を顕したのは、同じ座標だった。

『何のつもりだ』

今度は熾天使が頭部の発光器官からメテオスラッシュを砲火する。火力は抑えているが、シャドウの肉体を浄火したらただでは済まない。

襲い来る小さな太陽。聖剣はその全てを斬り落とした。

束の間、第二波が降り注ぐ。直後、熾天使が真上にテレポートする。

『しまった!』

悪魔は驚き上を見る。上からの攻撃を警戒してもスカートの下に見えたのは黒いランジェリーだけだったことを除いては。聖剣が火の玉を真っ二つにしたのを確認した熾天使は、ただ少女の神秘の裂け目を見せただけで何もせず鉄パイプに瞬間移動した。

『遊んでいるのか! 真面目に戦え!』

『アグルセイバー』

振り上げた刃を大きく振り下ろす前に、カミキリムシはテレポートで消えた。直後、現れた場所は真正面だった。

両脚を開いた熾天使は、フリルスカートの中の黒レースのショーツが男の頭部を鋏んだ。

男は美少女の聖なる扉に顔を埋めている。ボディソープの薫り。男の鼻に、顔に、口に、密着する天国。

天国も束の間、熾天使は空中で宙返りして「ゼットンシュタイナー」が男を鉄パイプに叩きつける。これは大ダメージだ。

女の鋏は男の鼻先を鋏んだまま、さらに追撃する。跳躍して男の頭部を鉄パイプに叩きつける。鋏が男を離したかと思いきや、宙を舞った熾天使は本来なら新しい戦乙女を産むための女の聖域がまたしても男の顔を潰す。

男はピクピクと痙攣するが、それでも聖剣を握る。

反撃の気配を察した熾天使はテレポートで退避した。

『お前…っ! 俺を試したな!』

よろよろと立ちあがる男。

つくばセンタービルに襲来した少年は全身を重武装していた。この男が兄なら、頭が割れてバッカルコーンが出てくる可能性も警戒していた。一方、あのダークヨツンとかいう闇の巨人から奪った知識が熾天使のソウルライザーに転送されると、この男にそんな能力は無い。実際に戦った当初は万一を警戒していたが、フェイントでそれを確かめて確信が持てた。

さて、消えたカミキリムシが次に顕れるであろう座標だが。

『だが俺にも! 今まで使わなかった『コレ』があるんだよ! マイナスエネルギーの消費が激しいから使いたくなかったがな!』

『キングレッドアイ』

男の目が赤く輝く。少し先の未来が視える。

『そこか!』

『サーガマキシマム』

真正面に剣を突き出す。悪魔の全マイナスエネルギーを込めた渾身の刺突を。

はたして熾天使は真正面に顕れた。未来が予測した正解だ。

聖剣の凶刃が、ゼットンの細身に迫る。

刃は届かなかった。いや、触れたことは触れたのだが。

フェンリルソードは、熾天使の大きな胸の谷間に挟まれ白刃取られたのだ。

灼熱色に発光する母性が聖剣を熔かし、豊満な乳房の中に呑み込んでいく。

『うそだ……俺の聖剣が……』

男にとってどんなに大切なアーティファクトだったかは知らないが、今さら狼狽え、腰を抜かしても遅い。

熾天使は括れた細身を回転させ、たわわな双果実をハンマーのように振り回す。灼熱色に燃える一兆度の乳房が悪魔を断罪する。

続いて男の体で最も蛇足なパーツを蹴り上げる。その足で、追撃のハイキック。開いたスカートから黒レース越しに少女の聖なる裂け目が誘惑する。

転倒した男に飛び乗り、右腕を女の鋏に鋏む。手を掴んだ断罪の天使は、男の腕を折った。豊満な乳房の谷間に挟まれた手が、黒焦げに焼けた。

残った左手が動く前に、上空に跳躍して回避する。

『フェンリルソードは… 弟が鍛えた聖剣だった… 最初から戦場で死ぬ覚悟で… お前たちの戦闘データを収集していたのだ…』

起き上がった男は左手からレーザー砲を吐く。それを熾天使は吸収し、両手を突き出して波状光線にして返した。

『ぐ…っ』

光をまともに浴びて怯む男。

熾天使が急接近する。

男は拳を握り、アッパーを振り上げるも、熾天使は男の左腕に跨った。

腕を挟む少女の白く柔らかい腿が、黒レースのショーツが、少女の聖なるスリットラインが腕に密着し、鋏の握力で腕を切断した。

痛み苦しむ男。

両腕を失った男に熾天使は抱きつき、豊満な胸の柔らかさを押し付ける。柔らかく弾力がひしゃげ、展開する乳房。熾天使の美貌が、人形のように整った顔が、男の眼前に迫る。

唇を奪った。

美貌の天使の唇は男の唇に吸い付き、大きな乳房の柔らかさと弾力を擦りつけながら、魅了を流し込む。

シャドウの理性が失われていく。恍惚としていく。

闘争心も、兄弟愛も、スルトへの忠誠心も。今まで積み上げてきた努力が、薫陶が、人生経験が、全て熾天使を崇める信仰心に上書きされていく。聖剣なんかどうでもいい。弟なんかどうでもいい。皇帝なんかどうでもいい。ゼットンかわいい。ゼットン美しい。ゼットンの髪きれい。ゼットンのシャンプーいいにおい。ゼットンの巨乳、柔らかくて気持ちいい。ゼットンの唇、気持ちいい。キモチイイ…

唇を放した時には完全に廃人と成り果て、男は鉄骨から真っ逆さま。溶岩の海に身を投げた。

地下7階で避難している少女たちの黄色い歓声が聞こえた。

 

 

 

『おのれえええええええ! 俺様が謙虚な態度とってりゃツケ上がりやがってええええええええええ!』

ファイアオパールの奪取に失敗したことで、男帝陛下の怒りが爆発した。

合掌していた残り2本の腕を開き、ダークリングとギガバトルナイザーを召喚した。

既に万能型は死屍累々。ムスペルの防衛線を掻い潜って本陣に飛来した光の巨人たちも、金棒の雷が一閃。

『許さんぞ人間ども! 俺様に逆らったらどうなるかを全宇宙に思い知らせてやるわああああああ!』

ダークリングがフリュム、ヨツン、ニフルの怨霊を召喚する。

ギガバトルナイザーが100体のシャドウビーストを召喚する。

『まもなく最終戦争で全宇宙が滅びる! 崩壊した世界で生き残るのは力の強い者だけだ!』

甲板から飛び上がったダークスルト。6本の腕に装備した武器が敵の光線や投擲物をはね返しながら、光の巨人たちを蹴散らす。

ダークスパークを三叉の短剣の形に縮める。禍々しい閃光が宇宙を包む。

『どいつもこいつも人形になってしまええええええええええええ!』

一瞬だった。

あれだけ大量にいたウルトラ戦士の大群が、14センチほどの人形に縮んで動かなくなった。生命の時間が止まった、小さなおもちゃが宇宙空間を力なく漂うだけ。

もう宇宙に光の味方はいない。

虚空を埋め尽くす8800体のダークムスペルの大軍と、3体の闇の巨人と皇帝の愛馬と、100体のシャドウビーストと、闇を統べる皇帝の笑い声。高らかに勝利を宣言する。

その恐ろしさは、カメラを介してミカエラ像前の少女たちのスマホも観測した。

光の巨人の大軍勢が、一瞬で殲滅された。

圧倒的な力。圧倒的な闇。

少女たちが絹を裂く悲鳴をあげながら駆けずり回る。

旗艦ナグルファルのハッキングシステムが電波をジャックする。

別の宇宙でもスルトの配下らしきシャドウビーストが襲来した映像が映し出される。ざっと6ヵ所か。

『見よ! 全宇宙のアーティファクトを手にした俺様の力を! 恐れよ! 全宇宙を支配する皇帝の名を!』

闇の巨人の恐ろしい顔が、スマホの画面越しに少女たちを脅す。

少女たちの悲鳴が泣き叫ぶ。

「お終いだわ… 何もかもお終いだわ…」

「もう無理よ… 運命は変えられないのよ…」

「未来なんか無いって分かってたのに… 私… なんで赤ちゃん作ったんだろう…」

妊娠した少女たちも崩れ落ち、号泣する。

阿鼻叫喚の涙の雨が、シグニュウの眼前に広まっていた。

「みんな… どうしたんですか…」

あまりに絶望的な状況。

神殿の依姫として少女たちを導ける許容範囲をオーバーした踊り子にも、母親の重みがのしかかる。

「ママーこわいよー」

「ママぁー」

「ひっぐ… ぐすっ… ママぁ」

15歳の少女が産んだ3人の愛娘が、泣きつく。

わが子が、恐怖に怯えている。

「あなたたち… 大丈夫よ 天使様たちが守ってくれるわ」

幼い愛娘たちを宥めるシグニュウを「もういいんだよ」と抱きしめたのは、シグニュウの代わりに娘たちの世話をしていた祖母だった。

「許しておくれシグニュウ。 希望なんか信じたばっかりに、おまえから花の歳月を奪ってしまった」

「母さん… みんな… やめてよ… そんな… 遺言みたいな…」

依姫である以前に。3児の母親である以前に。たった15歳の少女だ。

「死にたくない… 死にたくないよぉ…」

ついにシグニュウも、泣き崩れた。

「Don't give up !」

透き通る美声が降り注ぐ。

キングジョーがガッツ星人に連れられて地下7階に戻ってきた。

「見てくだサイ」黄金の戦乙女が、巨大すぎる乳房の谷間からソウルライザーを取り出す。

画面に映し出された、別の宇宙の様子。「全宇宙で起こっている真実デス」

ネオフロンティアスペースでは、ウルトラマンダイナとスーパーGUTSが戦っている。

アナザースペースでは、ウルティメイトフォースゼロが戦っている。

遊星ジュランでは、ウルトラマンコスモスとカオスヘッダーが力を合わせている。

プラズマギャラクシーでは、七星剣とハンターたちが果敢にシャドウに立ち向かっている。

サイドスペースでは、ウルトラマンジードが戦っている。

そしてフューチャーアースでは、印南マコと、デュナミストに選ばれたタイガ・ノゾムが戦っている。その眼に、かつての躊躇いはない。

涙を流していたシグニュウが、顔を上げる。「みんな… 希望を捨ててない…」

「女の子は誰でも背中に光翼がある。 それぞれ光の色は違うけど、闇を照らすネオンになれるんだ!」ガッツ星人が微笑む。

続いてゼットンがエレキングとマガバッサーを、マグマ星人がエレプレを連れて帰ってきた。

「私達はまだ、守れる」ゼットンが微笑む。

「理由なんかない。 私達の先祖の時代から、光を産み出してきた」エレキングが微笑む。

「なんかよくわからないけど、うおおおおおって!」マガバッサーが、張り切る。

「美しい花たちよ、誰一人として散っていいはずがない!」マグマ星人が微笑む。

「乙女の祈りは無敵よ~」エレプレが微笑む。

キングジョーが、マイクを手にする。

透き通る美しい音色が奏でる。M78星雲に伝わる歌だが、怪獣娘を信仰するバラージ教徒たちもこの歌を知っている。

「さあ、みんなで歌いまショウ」

キングジョーが、歌う。

マグマ星人が、歌う。

エレプレが、歌う。

マガバッサーが、歌う。

エレキングが、歌う。

ゼットンが、歌う。

ガッツ星人が、歌う。

それは、未来から来た戦士を呼び醒ますと伝承される、神々しい歌。

決してあきらめない心が、星空に、銀河に響き渡る。

シグニュウが、立ち上がる。娘たちに、母に、少女たちに、妊婦たちに、頷く。

メロディに合わせて、歌いはじめる。

3人の愛娘たちが、後に続く。

母が、歌う。

少女たちが、歌う。

妊婦たちが、歌う。

全員が、歌う。

みんなの声が、ひとつになった。

少女たちの体が、光り輝く。天使たちの体が、光り輝く。光の柱は大気圏外まで届く。

別の宇宙も、歌う。シュワ生で、ツブッターで、ネット中で。

光の戦乙女たちの故郷、GIRLSスペースの怪獣娘たちも。

モンストリアスペースの怪獣娘たちも。

墓場学園の怪獣娘たちも。

光の国から、ウルトラ兄弟までもが。

全宇宙の人々が、銀河の歌を奏でている。

祈りは、伝説の超人に届いた。

宇宙を包み込む、あまりにまばゆい光。ダークスルトは目を伏せた。

『何だこの光は…! お前は!』

光の柱が、ひとつになる。

3対の光の翼を羽ばたかせる伝説の超人、ウルトラウーマンミカエラが、惑星を抱きしめた。

バラージ神殿地下7階に安置されていたミカエラ像に異変が起こる。赤く燃えるファイアオパールが杖から分離し、ゼットンのもとに飛来したのだ。

「私を…呼んでる…?」

ゼットンは背中を見せ、長い後ろ髪を両手で分ける。

オパールが、火の玉となってゼットンの背中に飛び込んだ。「んっ…」

なんと、ゼットンの背に1対の銀色の翼が開いた。

2枚の天使の翼は、さらに灼熱色の光翼が扇を拡げる。

部屋中が、まばゆい光に照らされる。

「天使様、その翼は…!」

「これが、ファイアオパールの真の姿…!?」

「美しい…」

ヴァルハラZイージス

神々しい翼の熾天使、その美姿は、少女たちはもちろんのこと、同胞の怪獣娘たちをも見惚れさせる。

「行ってくる」

輝く翼の熾天使は、テレポートでスルトの待つ宇宙へ飛んだ。

 

 

シャドウは見た。

幾千の星々を従え、黒いゴスロリドレスを着飾った熾天使が、煌めく浄火の翼をひろげ宇宙を眩く照らす神々しさを。

『その翼…! ファイアオパールだとぉ!? バカな! こんな小娘を選んだのか!? 皇帝たる俺様ではなく!?』

熾天使が両腕を前に突出し、波状光線を照射する。

8800体のダークムスペルが、一瞬にして消し炭になった。

ウルトラウーマンミカエラの奇跡で復活したウルトラ戦士たちは、ダークフリュム、ダークヨツン、ダークニフル、そして100体のシャドウビーストと交戦を始める。

闇の巨人どもを信徒に任せ、ゼットンは。

「女心は、マルチプレックス」

ヴァルハラZイージスが熾天使の背を離れ、その形が杖に変幻する。

先端にファイアオパールが燃える長杖「ヴァルハラZランス」を手に取ると、熾天使の姿が変幻する。

スカートが消滅し、全身の肌の露出度が大幅に上昇した白い裸身はハイレグに近い獣殻姿に変身する。ただでさえ大きな胸もさらに膨らんだ。

その大きな乳房も大部分が白い乳肉を晒しており、相対的に灼熱の発光器官が小さくなった。

ゼットンヴァルキュリア プレックスフォーム

長い杖を俊敏に振り回す戦乙女。

ギガバトルナイザーの雷を杖は扇風機のように弾き飛ばす。

『メスが! クラックベビーが! オパールを寄越しやがれええええええ!』

スルトが飛びかかり、6本の腕が呻る。6種のアーティファクトが織り成す阿修羅をも凌駕する百裂斬は、常人には視認できないほどの速さで、しかも正確無比。

そう、的が小さすぎさえしなければ。

何しろ闇はビルより高い巨人、光は手乗りサイズの小さな妖精。聖なる熾天使は俊敏に宇宙を舞い一撃一撃を華麗に躱す。

これまた目にもとまらぬ速さで、巨人の懐に飛び込む。時でも止めたかのような加速力で巨人の全身を駆け回り、杖が秘孔を突きながらオパールから零距離火球を撃ち込み、シャドウの巨体を内臓から破壊していく。

闇の巨人が、苦しむ。体内で生成していたダークムスペルが、生まれる前に破壊されていく。

一瞬にして全身の秘孔を同時に突いたのち、小さな妖精の杖は宇宙空間を光のごとく優雅に飛び回り、巨体をすれ違ってはアクロバティックに滅多刺す。

『貴様らが何度復活しようと! 何度でも人形にしてやる!』

禍々しい閃光を放つ、ダークスパーク。

「来たる時代は、キュートでPOP」

ヴァルハラZランスが実体を失い、その形が水牛の頭骨に変幻する。

口と歯を肉食爬虫類の形状に改造した水牛の頭骨「ヴァルハラZディフェンダー」を手に取ると、熾天使の姿が変幻する。

肌色面積がさらに上昇し、乳房も今までの形態より最も大きい。乳房にあった発光器官は腰の鞘翅に転移する。

長髪も水色に変色し、頭の中央にあった発光器官も鎖骨の間に転移する。

ゼットンヴァルキュリア POPフォーム

掲げた水牛の頭骨を盾に、ゼットンシャッターを広範に展開する。強固なバリアが、ダークスパークを無力化した。

蛇心剣・新月斬波でも傷一つつかない。

周囲の被害も顧みずダークリングから超兵器R1号のカードを射出するも、爆風をゼットンシャッターが綺麗に包み無犠牲に終わった。

6種のアーティファクトのあらゆる攻撃を防ぎながら、スルト本体へゆっくりとにじり寄る熾天使。

闇の巨人はバットキャリバーとバットアックスをクロスする。盾はビクともしない。

蛇心剣抜刀斬り。盾は傷一つつかず、逆に蛇心剣が刃こぼれした。

ダークスパークランスによる刺突も、ギガバトルナイザーによる全力の殴打さえも、ヒビひとつ入らない。

しまいにゼットンシャッターを氷柱のように尖らせ、足に一兆度の炎をまとった渾身のサマーソルトキックが巨人を蹴り上げる。

男の巨体に比べたら、目の前の小さな妖精は、ほんのちっぽけなカミキリムシに見えるかもしれない。

そんな小さな小さな命が、男の巨体を悠々と突き飛ばしたのだ。

そう、文字通り宇宙の果てさえも越えて。

蹴り飛ばされた球速のあまりの速さで、スルトは宇宙の外まで弾き出されてしまったのだ。

シャドウビーストの大群も、ミカエラと聖なる戦乙女たちの加護を賜ったウルトラ戦士たちの奮戦が殲滅した。

「恋の電撃、射抜いてあげる」

ヴァルハラZディフェンダーが熾天使の手を離れ、実体を失う。

灼熱色の光は熾天使の背に還り、元の神々しい天使の翼が背中に広がる。

熾天使の姿が変幻する。元の絹のような黒髪とエレガントなゴスロリドレス姿に戻った。背中に輝く義翼の名は「ヴァルハラZイージス」。どうやらオパールのスリープモードのようだ。

ゼットンヴァルキュリア 電撃フォーム

本来の姿に戻った高貴なる熾天使は、翼を展開し、テレポートで宇宙の外まで追いかける。

同じ頃、シャドウに襲われた6つの宇宙では守護者たちが人々を守り抜き、勝利を収めていた。

エボルトラスターはタイガの手を離れ、その後の行方は誰も知らない。

 

 

宇宙の外には、超空間が広がりそこには別の宇宙が泡粒のように無数に浮いているという。多世界宇宙マルチバースである。

サマーソルトキックで宇宙から弾き飛ばされたスルトは肩で息をする。

そこへ、ゼットンも宇宙から飛び出した。

神々しいファイアオパールの翼は高貴な佇まいを崩さない。

光と闇が対峙する。

闇、それは異形の巨体。光、それは小さな美貌。

熾天使の豊満な乳房が、ひときわ眩く発熱する。

たわわな双の果実の間で、強大な炎のエネルギーをチャージする。独特のチャージ音が上昇する。胸の前で生成された太陽が、みるみる巨大化する。

この砲撃が、宇宙最大の火力。ゼットン本来の力。

闇を清める浄化の炎。

トリリオンメテオ

戦乙女の胸の灼熱の輝きが吐き出した、太陽のごとき大口径の炎が男に迫る。

『このメスガキがああああああ!』

男は全てのアーティファクトを合体させ、炎の大剣を創り出す。

『邪炎神剣 レーヴァティン!』

神剣を突き出し、砲撃を一刀両断せんと刺突する。

炎と炎の、激しい衝突。

『俺様の故郷は灼熱の火の海だった! 弱小王国だったムスペルヘイムを軍事大国に押し上げた! 革命分子の芽を摘むために貨幣経済を禁じた! その武勲が認められて選帝侯に選ばれた! 他の帝位継承者どもを焼き払って、ついに皇帝の座に上りつめたのだ! 全宇宙を支配するのは俺様だあああああああ!』

両者は拮抗していた、かに見えた。

美しきヴァルキュリアは、決してひとりで戦っているわけではない。

「がんばれー! ゼットーン!」

「行けー! ゼットーン!」

「ゼットンさん!」

人々が戦乙女を応援する声。

ネットで、戦乙女を応援するコメント。

生きたいと願う人々の祈り。

泡粒のように浮かぶ無数の宇宙から、星々が燦然と輝く。

全宇宙が、見守っている。

光翼の時代を願って歌っている。声を合わせて未来へ奏でる。星空に輝く歌を。

太陽が、肥大化していく。超巨星のごとく、急激に巨大化する。

男が、押される。

『何だ…… この力は……』

「お前が捨てた力だ!」

トリリオンメテオの口径が、みるみる大きくなっていく。

レーヴァティンが砲撃の熱に耐えきれず蒸発し、吸収されていくではないか!

大剣を握っていた手も、体も、頭も、太陽に呑み込まれる。

『俺様は…… ダークスルト…… 宇宙最強のシャドウに…… なる…… 男…… だ……』

ついに全身を太陽に呑み込まれた男は、砲撃ごと吹き飛ばされ爆散した。

男の時代は終わった。

戦乙女の美姿を見届けた全宇宙の人々が、喜びの歓声を上げる。

豊満な胸が、灼熱色に発光する。

神々しい翼を輝かせ、熾天使はゴスロリドレスのスカートを両手でつまみ、礼をした。

熾天使の美貌が、笑みをこぼした。

「みんな…ありがとう」

 

 

人々の諦めない心を見届けたウルトラウーマンミカエラは、光となって少女たちの心に戻って行った。

 

 

 

光を取り戻した宇宙。

レジスタンスは武器を捨て、少女たちは地上へ上がった。

これからが大変だ。少女たちの胎内には新しい命が息吹いている。それでも、人々は手を取り合って生きていく。生き残ったレジスタンス兵と共に、未来人のために新しい文明を作り直そう。

奇跡的に無事だった空港の滑走路に、6隻の宇宙船が停泊していた。

少女たちが、天使たちを見送りに集まる。

「ありがとうございます天使様。 私達、がんばって産みます」

妊娠した少女たちが、お腹をいとおしげに撫でる。

6人の戦乙女たちも、「君たちは立派だ」と口々に励ます。

新しい命たちのために、よりよい未来を。

「てんししゃまー ありがとー」

「ありがとー」

「ありがとー」

シグニュウの長女がエレプレに、次女がガッツ星人に、三女がマグマ星人に抱きつく。3人ともまだ5歳にも満たないというに、母親にも負けない立派な乳房を実らせていた。

長女が「あたちもウルトラマンになりたーい」と甘えると、羽衣の天女は「きっとなれるわ~ 大きくなって、守りたい大切な人を見つけるのよ~」と、白く柔らかい聖なる母乳満点が、幼い美顔をむにゅっと包み込んだ。

この子とは、またいつか会える。そんな確信が、天女にはあった。

「シグニュウは? これからどうするの?」

エレキングは、地上を出たシグニュウのこれから決める未来を気にする。

平和な時代に、これ以上依姫をやる必要はない。

「考えたコトなかったなぁ…」

いざ好きに生きろと言われても、褐色肌の踊り子には咄嗟には思いつかない。

シグニュウの母親が「あの子達は元レジスタンスの男衆が育ててくれるから。 おまえは気にせず好きなことしていいんだよ」と励ます。

そう、戦う必要が無くなった除隊兵は、産まれた子供たちの育児という重大な責務が待っているのだ。

「そうですね… 私、アイドルになりたい!」

赤い髪の踊り子が、爆乳を弾ませる。

「ステージで踊って、みんなの心を照らす光になりたい!」

クララ様のように、とソウルライザーを掲げるキングジョーを見る。

「あ、それと色んな激辛料理を食べてみたいなーって。 あ、天使様? まさかカメラ回ってます?」

多世界宇宙に少なくとも3000人いるという超時空アイドルの頂点は、今まさに星の卵になろうとしている踊り子を確かに撮影していた。

「Requestなら今のうちデスよ。 宇宙各国が支援物資を空輸する準備中デスから」

周囲にいた少女たちも、こぞってライザーのカメラに集まり、次々と注文する。「じゃあ私、プリンパフェ!」「クレープ!」「ロリータファッション!」「可愛いブラ!T65の!」「お嬢さんの4thアルバム!」

「tone.ならスグにでも取り寄せマスよー」

同い年かそれ以上の少女たちの笑い声を聞いて、満面の笑みで微笑む黄金の歌姫。

「あの… ぜひ私も…」遠慮がちにシグニュウも。

シグニュウの夢も応援している、ステージで共演する日を待っていると、2人で誓った。

「次に会う時は、「共演者」としてデスね」銀河の歌姫が微笑む。「はいっ!」歌姫と同い年の踊り子は、大きく頷いた。

『天使様、離陸の準備が整いました』

ガッツ星人のソウルライザーに通信が入る。上空を滞空している母艦ウルトラビフレストからだ。

「もう行かなきゃ また会おうね、約束」青いダイヤモンドの天使は、シグニュウの娘をよしよしと撫でる。名残惜しいが、光の国へ帰る時が来た。

「うん! やくそく!」赤髪の幼子と、指切りする。

母艦の周囲では、ガッツ星人が徴兵した光の巨人たちと、今日徴発した巨人たちが、見守っている。ついでにマガバッサーも旋回している。

「お別れの時が来た… さよならよ。 だけど、このさよならは永遠じゃない」と、エレキング。

「キッカケはどうあれ、美しい君たちを守りたくて我武者羅だった。 そんな私達を、少女たちは信じてくれた」と、マグマ星人。

「闇の時代に怯え、Valkyrieの降臨を祈り続けていたノネ。 だけど、本当に戦っていたのはアナタたちだったんデスよ」と、キングジョー。

「たとえ悲しみの記憶は癒えなくても、女の子はみんな、それさえも乗り越える大きな強さを秘めてるのよ」と、エレプレ。

「女の子の背中には光の翼がある。 私達とお揃いのね。 宇宙を彩る虹のネオンライトが、本当の愛なんだ」と、ガッツ星人。

「私たちは知っているよ みんながちゃんと戦っていることを」と、ゼットン。「支えてる みんなの心の一番近くで」

6隻の宇宙船の昇降口が開く。

光の天使たちは、各々の宇宙船に引き寄せられるように昇降口へと歩を進める。

「がんばっていることを知っている誰かがそばにいる それだけで誰もがきっと強くなれると信じているから」

この星の未来を願い、6人の美しき戦乙女たちは頷く。

昇降口が閉じた。

6隻の宇宙船が、浮上する。

追いついた母艦とともに、浮上する。

マガバッサーが、飛翔する。

そして、巨人たちも。

『シュワッチ!』

艦隊の先導に立って、宇宙の彼方へと飛びだった。

ありがとう、ありがとう、少女たちが手を振る姿が、宇宙船の舷窓から小さくなっていく。

ありがとう、天使様。シグニュウの笑顔が、3人の幼子たちの笑顔が、目に染みる。

少女たちの笑顔を、天使たちはずっとずっと、星が遠のくまで見つめていた。

 

 

 

M78星雲、光の国。

新たな100体の巨人が、銀の広場に召集される。

登壇するは、ウルトラマンオーディン。

『ようこそ、新たなる戦士諸君! 君たちの入隊を歓迎しましょう!』

高い壇上で、マントをひろげる巨人。

『宇宙警備隊は今、絶望的な人手不足に悩まされているのです。 あらゆる宇宙でシャドウが猛威を振るい、別の宇宙の戦士を加えても現状のウルトラマンの数では対応しきれず、見知らぬ宇宙で尊い命たちが失われているのです。 シャドウ帝国も新たな皇帝を擁立しないとも限らないのです。 されど、恐れることはありません!』

上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、6人の小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

『我々は、美しき怪獣娘たちの加護に照らされています! 自ら光を産み出す戦乙女たちが、異なる宇宙よりまだ見ぬ勇者たちを募るでしょう! 美しき怪獣娘たちは諸君を歓待します! 新たなる戦士諸君! このウルトラの星で特訓し、一人前のウルトラ戦士となるのです!』

オーディンが、演説する。

『来たるべき戦いの日のために!』

聖なる怪獣娘たちの美貌が、微笑んだ。

 

 

 

 

 

怪獣娘。

M78星雲に住むといわれる、光の天使たち。

 

これより始まる叙事詩は、信仰の力。

美しき怪獣娘を君は信仰し、守り、愛するなら、君と怪獣娘が奏でる愛の歌。

光の天使たちが迎えに来るのは、明日かもしれない。

 

 

プロローグ FIN




用語集

●怪獣娘
そのルーツは謎に包まれている。出身スペースによって生態は異なるが、「人ならざる美貌を輝かせる女系種族」の総称。
本作のメインヒロインは全員がGIRLSスペース出身者。この宇宙の種族はマルチバース全体から見てもかなりイレギュラーらしい。
→本作独自の設定
御徴川決壊事件でベムラーの存在が公に認められたのはあくまで地球人側の公式記録であり、実態は(M78スペース暦に換算して)ウルトラ大戦争以前の時代から原生していた。詳しくは別エピソードで解説。
各多次元宇宙に点在するバラージ神殿に怪獣娘信仰の痕跡が残っている。碑文によると、シャドウと戦って死んだ者の魂や、怪獣娘への信仰が篤い者の魂は、怪獣娘によって光の国へ導かれウルトラ戦士になると信じられてきた。また、光の国の宮殿では戦士たちを怪獣娘の美貌が歓待するとも言い伝えられる。
北欧神話では女神ヴァルキュリアとして信仰されており、現代でも呼び慕う者も多い。
上記の信仰は、ゼットンを隊長とするGIRLSスペース出身者6人の「ウルトラ戦士徴兵指令」によって現実のものとなった。

●ウルトラ戦士徴兵指令
ウルトラマンオーディンによってM78星雲に招かれたGIRLS精鋭の怪獣娘たちで結成された、兵力徴発のエキスパート。
また、徴発したウルトラ戦士を宇宙警備隊の各部署へ斡旋している。
みな絶世の美貌と抜群のスタイルの持ち主で、その豊満な乳房でヒカリの命を大量貯蔵および増殖が可能。
以下の6名。

●宇宙恐竜 ゼットン
年齢、本名ともに不明。
GIRLS最強と謳われた怪獣娘で、光の国にヘッドハンティングされるまで大怪獣ファイト王者の座を守り続けた。
彼女の知名度そのものが平和の抑止力になっていたとさえ囁かれている。
→本作独自の設定
ウルトラ戦士徴兵指令を隊長としてまとめる美しく気高き熾天使。Jカップ。
光の国でもその強さは健在。背中に装備した義翼『ヴァルハラZイージス』を槍や盾の形に変幻させることで自らも変身し、バランス重視の電撃フォーム・瞬発力重視のプレックスフォーム・耐久力重視のPOPフォームの3種類の形態を演じ分ける。
ヒカリの命最大貯蔵量は96

●宇宙怪獣 エレキング
本名は湖上ラン。
GIRLS時代は調査部に所属しており、その知性を活かして新人の教育係を務めていた。
打算的で趣味第一の人生を設計している割には世話焼きで手のかかる者を放っておけず、そんな彼女を慕う弟子も多い。
メタ発言の女王。
→本作独自の設定
ウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女。17歳。Hカップ。
M78星雲においても相変わらず博識であり、キングジョーが網羅しきれないアナログ知識に詳しい。
ある夢を叶えるために母親の誘いに乗った。
ヒカリの命最大貯蔵量は92

●分身宇宙人 ガッツ星人
本名は印南ミコ。
生まれながらの天才児であり、無限の可能性を秘める。
成り行きとはいえ分身体のひとりが突然変異で自我をもった「マコ」は1人の別個体として独立進化し、今ではミコの善き相棒。
→本作独自の設定
ウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女。14歳。Lカップ。
幼い頃から知能が高く、小児特待でGIRLSに入った。
強大な力と正義感をシャドウに利用された過去を克服し、光の国に転任してからは殆どの任務は分身体たちを遣わしている。
どういう経緯かは不明だが「白馬の王子様」を予見しており、分身体を身代わりに純潔を守っているらしい。
ヒカリの命最大貯蔵量は99

●宇宙ロボット キングジョー
本名はクララ・ソーン。
地球にいた頃からアイドルをしており、誰もが振り向く美貌と底抜けに明るい性格に魅了されたファンは数知れない。握手会ともなれば長蛇の列。
誰にでも分け隔てなく優しく、喜と楽の感情しか知らない。
また、自作スパコンやスパイ通信アプリを開発する発明女王でもある。
→本作独自の設定
ウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女。15歳。Mカップ。
幼い日に遭遇したハイジャック事件で功績が認められ、小児特待でGIRLSに入った。
芸能活動も宇宙に進出し、今や銀河にきらめく宇宙№1アイドル。
アイドルとしても戦乙女としても枕営業ありきの業態を疑問視しており、頑なに処女である。歌声が人々に伝えたいのは運命に抗うことであり、権力に従うことではないのだ。
乙女のガードは硬いんデス!
ヒカリの命最大貯蔵量は103

●サーベル暴君 マグマ星人
本名はアンジェリカ・サーヴェリタス。
かつてGIRLSに彗星のごとく降り立ち、陣頭指揮をとって大型シャドウビーストを一掃した。長らく小型シャドウビーストと幼体シャドウしか生き残っていないのは、ここが侵略不可能と判断され列強諸国が撤退したからだ。
直後、金山という男とともに忽然と地球を去る。女神が再び地球に降臨する日は来るのだろうか?
→本作独自の設定
ウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女。年齢不詳。Nカップ。
本名以外の全てのキャラ設定を改変。命の固形化技術の大量貯蔵と増殖能力を発見するきっかけとなった最初の怪獣娘。他の5人より先んじてオーディンのもとで兵力を徴発していた。
過去に金山をウルトラマンにするために地球へ赴きGIRLS実動部隊として潜入した経歴がある。もともと軍人気質な性格だったが、地球から帰ってきた彼女は美貌こそ正義のナルシストに変貌していた…。
ヒカリの命最大貯蔵量は105

●宇宙怪獣 エレキング・プレックス
プレックス版の天女のような擬人化エレキング。電撃版には未登場。
→本作独自の設定
エレキングの実の母親。ウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女。31歳。Kカップ。
本名は湖上ルン。
マグマ星人に次いで2番目に光の国に招かれ、のちに我が子を同じ高みへと推薦する。
生まれつき母乳体質であり、その味はオーディンも太鼓判を捺すほどの絶品。第3ウルトラタワーの宮宴で毎日ウルトラ戦士たちが飲んでいる。
ヒカリの命最大貯蔵量は98

●ヒカリの命
ウルトラマンヒカリによって発明された命の固形化技術。
→本作独自の設定
怪獣娘によってさらなる進化を遂げる。怪獣娘の豊満な胸は、一度に大量のヒカリの命を貯蔵し且つ乳内で増殖させることも可能だと発見された。
怪獣娘の乳内で増殖したヒカリの命は、黄金のリンゴのような形状で顕現する。
徴兵指令の戦乙女たちが全員巨乳または爆乳なのはこれが理由。ある一定未満の怪獣娘がヒカリの命を1個でも取り込むとオーバードーズとなり最悪死に至ることも…

●オーディンの怪獣娘
ウルトラ戦士徴兵指令の他にもウルトラマンオーディンは多数の怪獣娘を第3ウルトラタワーに招いている。こちらは必ずしもGIRLSスペース出身者とは限らない。

●ガヴァドンUカード
オーディンの特異体質である『描いた絵を実体化させる宇宙線』をカード状に圧縮したアーティファクト。本人いわく『私の芸術作品たち』。オーディンの美的センスと共鳴した者にしか実体化できない。人間がニーベルリングで起動してウルトラマンに変身するほか、胸の大きい怪獣娘に限っては力を取り込むこともできる。


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ガッツ星人 幸せの青い鳥


(イラスト: 未定 様)


光は絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く…
─────姫矢准


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

───劇団りんかい。

所属タレント数82人。創業から今年で64年。

東京湾に面した海沿いに劇場を置く、老舗劇団。

主にミュージカルを上演し、都心を中心に活動している。

 

絶体絶命のピンチは早朝、舞台美術の皆様が最終チェックを行っているまさにその時に這い寄ってきた。

「星江が救急車に運ばれたですって!?」

演出の橘さゆりがスマホを片手に叫ぶ。

シャフトの安全確認をしていたメカニックのショーン・ホワイト博士を除き、全員の手が止まる。

橘は電話の向こうの相手と話している。「祖父が急に襲いかかって来て?両足をゲートボールスティックで折られたところをご家族に発見された?」演出の顔が青ざめる。「他にどこか怪我はない?命に別状はないのね?そう、助かってよかったわ。今日の公演は無理よね?」

通話を終えた橘が舞台スタッフに説明する。「星江が自宅で両足を骨折して救急搬送されたそうよ。命に別状はないそうだけど……他の子に代役を頼めないか掛け合ってみるけど」

全員が騒然とする。どうするのよ、公演初日に主演女優がいないなんて。

ダイヤル中に「星江の台本はご家族の方が届けてくださるって」と付け足し、バックコーラスの松戸チアキと連絡をとる。

「そんな……昨日衣装合わせしたばかりなのに」衣装の菅生ユウカが肩を落とす。

「今日の公演、どうなっちゃうの…?」美術の斎田リコが、昨夜やっとの思いで描き上げた古代ギリシャ風のカリヤスティードを呆然と見上げる。

時間とは非情に過ぎていくもので。既にキャストが次々と打ち合わせに来ている。「何かあったのか?」騒然とする舞台袖の様子を精悍な男が見ると、建築のアイハラ・リュウが「ラン兄貴ぃ~!何とかしてくれよ~!」と男らしくない情けない声でしがみつく。ランと呼ばれたパリス役の男は「俺に言われても…」と困惑状態だ。

「だから言ったんだ、台本を統一すべきだって」小道具の吉良沢優が毒づく。「理事会が余計な口出しさえしなければ…」

チアキと通話中の橘の顔が険しい。残念ながらバックコーラスがヒロインの台詞を覚えている希望は薄い。そもそも、なぜ星江だけ別の台本が渡されていたのか。理事会のジジイどもが何をトチ狂ったかヒロインであるヘレナ女王の台詞を他のキャストに教えるなと厳戒令を命じただらだ。本来なら、こういうリスクに備えて誰かがヒロインの台詞を覚えているのが劇団のあるべき姿だ。旧態依然とした上層部が「年寄りの言うことは聞くものだ」などと意味不明な権力を振りかざして台本を別々にさえしなければ。他の台本には、虚偽の台詞が記載されていた。

「なってしまったものは仕方ありません」CGの一条寺友也が溜め息。「これからどうするつもりですか?ヘレナ女王の台詞の多さは知っているでしょう?今から覚えるなんてとても…」

「無理、でしょうね」通話を切った橘も溜め息。

「仮に台詞を覚えられたとしても」騒ぎを聞き付けたクリュタイム役のセラが楽屋から飛び出す。「そもそも代役が務まる役じゃないわ」

星江カナがヒロインのヘレナ女王に選ばれたのは、美しいからだ。この役を演じるのは、それ相応の美貌の持ち主でなければならなかったのだ。

そう誰でも務まる役ではない。何しろヘレナ女王は神話にもその美貌が讃えられる絶世の美女だ。実在するかも疑わしい傾国の美女。実在する人間レベルの美貌では演じられない。

ミュージカル、トロイ伝。

ホメロスの叙事詩に歌われるトロイの木馬を題材にした歌劇が、今日初日を迎えるはずだった。

それは、神代のエーゲ海を舞台に、ひとりの絶世の美女をめぐって諸国が血を流す物語。

今回の演目は主演女優の圧倒的な美貌で説得力を持たせなければいけない理由があった。ストーリーがストーリーだけに……詳しくは後で説明しよう。

今日は、この歌劇を初めて世に出す公演初日だ。この日のためにキャストは稽古に命を燃やしてきた。一条寺がCG映像を組みながら、舞台建築の設計を製図してくれた。吉良沢が小道具をオーダーメードで作ってくれた。アイハラが建築物を建ててくれた。ホワイト博士が機械設備を整備してくれた。斎田が立派な舞台装飾を施してくれた。菅生がキャスト全員の衣装デザインして合わせてくれた。

今日という日のために、みんなでがんばってきたのに。今日だけじゃない。カナは重傷だ。明日も、明後日も、期間中ずっと。最悪の場合、二度と舞台に立てないかもしれない。

ましてや祖父の正体は冷酷な犯罪者だった。被害者は孫娘だ。肉体的外傷はもちろんのこと、心の傷は計り知れない。

「ヘレナ役はカナじゃなきゃ無理よ!」メイクの山瀬アスナが泣きそうだ。「仕事柄、何千人の女の子の顔を見てきたからわかる。あの子より可愛い子なんていない!」

かねてより星江カナ主演と大々的に告知している。お客さんだって、それを楽しみにしているのだ。

「もうダメだぁ…おしまいだぁ…」建築のアイハラが蹲る。

「仕方ないわ」橘がスマホをタッチする「この公演は中止にしましょう」

まだ上演まで時間があるというに、ホールは既に客が来ていた。今日の公演を楽しみにしてくれた人たちが。

誰もが絶望に打ちひしがれていた。

ただひとり、脚本の八橋八雲を除いては。

「諦めるな!」

ダイヤルをタッチ寸前だった橘の手が止まった。

ホワイト博士を除く全員の注目が、八橋に集中する。

「だったら、星江より可愛い絶世の美女を探せばいい! 星江目当てで来たお客さんをも180°魅了するような、何千倍も綺麗なヘレナ女王を!」

「てめえ!妄想言ってんじゃねえ!」アイハラが八橋の胸ぐらを掴む。「そんなのいるワケねえだろ!」

吉良沢も「メーテルリンクの青い鳥を探しに行く気か?」と消極的だ。「あの劇の結末を知っているだろう。 もっと美しい鳥を探しても、幸せの青い鳥なんてどこにもいないんだ」

八橋の目に迷いが無いことを除いては。「俺は行く。今すぐ行く。ジーッとしててもドーにもならねぇ!」

アイハラを振りほどき、橘の「八橋!どこへ行くの!」という制止の声も振り向かず、「連れてくる!本物の傾国の美女を!」と駆け出して劇場を飛び出した。

沈黙が舞台裏を包む。

「八橋の言うとおりだ」パリス役のランがスマホを操作する。「俺もSNSを当たってみる」

「私もモデルの子に聞いて回ってみる」衣装のユウカもスマホを取り出す。「そうよね。私も顔広いから」メイクのアスナも。

橘、深く溜息。「しょうがないわねえ」

 

 

劇場の外は、休日を楽しむ人々の笑い声が行き交っていた。

人混みを縫って、八橋は走る。

どこかにいるはずだ。絶世の美女が。

希望的観測と言われたら、そこまでだ。だが、この歌劇を成功させるには、どうしてもヘレナ女王の美貌が欠かせない。

ざっと海沿いの道を独り駆け抜けた。可愛い女の子は2、3人ほど目に留まった。どれも傾国の美女と体現できる美貌には程遠いことを除いては。

ここでトロイ伝のあらすじをまとめよう。

スパルタ女王ヘレナはエーゲ海でも類を見ない絶世の美女。美しい女王の婿になろうと諸国の王が競い、ミケーネ王子メネラウスが婿養子となる。しかし女王の美貌を狙ったトロイの王子パリスに誘拐される。スパルタの民は怒り、メネラウスは軍船の出航を計画する。メネラウスの兄はミケーネ王アガメムノンだ。アガメムノンは最初から戦争の口実をあれこれ探して謀略を張り巡らせていただけであり、女王に何かあったら諸国の王が兵もろとも命を捨てるような制約を強引に締結していた。全てはエーゲ海を滅ぼすためのアガメムノンの罠だったのだ。

以上が物語の冒頭だ。

事の深刻さがお分かりいただけただろう。ヒロインのヘレナ女王が圧倒的な美貌で観客を魅了しなければ、演劇として成立しない。

いるかどうか、じゃない。探すしかないんだ。

絶対に見つけてみせる!星江を超える美貌を!

スマホが『Starlight』を奏でる。誰だ?橘さんか?見つけるまで帰らないぞ。もとより切るつもりでポケットから取り出すと、クリュタイム役のセラだ。『八橋、この子超かわいい( ♥︎ᴗ♥︎ )』

「どうした!?目星がついたのか!?」

セラから一枚の写真が送られる。『知り合いが送ってくれたの。世田谷で超絶に可愛い美少女を見かけたって!』

撮影された写真は人混みが多いが、人混みの向こう、遥か遠く。青い髪の少女の後姿を撮らえた。

誰だ、この綺麗な髪は。誰だ、この綺麗な背中は。

「マジか…! CGじゃないよね!?」

アニメか!?漫画か!?神話か!?

実在した。架空でしか存在し得ない、非現実的に美しい後姿が。

『銭湯から出てきたところかなあ? まだ遠くは行ってないんじゃない?』

「サンキュ! 恩に着るぜ!」

スマホを切り、駅へ走る。

港区から電車で世田谷区へ着いた。

世田谷は広い。

セラが転送した写真が何処で撮影されたか大方の見当はつく。

写真手前に写っている銭湯が何処なのかも。

遠くに見える綺麗な後姿は、腕の細さや肩幅の狭さから察するに中学生くらいだろうか。

この年頃の少女がこの時刻、銭湯を上がった直後に向かう先といったら。

「イチかバチか…! 奇跡よ起きてくれ!」

オスの勘を信じて、女性に人気の飲食店が並ぶエリアへ急行した。

そこからは我武者羅だ。

人通りの多い道を片っ端から走った。

時間が刻一刻と過ぎていく。

恐らく劇場では全キャストが到着して最後の遠しリハをやっているところだろう。

誰もが架空だと決めつけていた、実在したと証明された、傾国の美女。

絶対に見つける。

ヘレナ女王は、あの少女しかいない。

人混みの隙間。遥か遠くに、日の光を反射して眩しい青が見えた。

「いた―――!」

見逃すものか。人混みを掻き分け、あの写真で見たよりも綺麗な後姿を追いかける。

距離を縮め、美しさがより鮮明に目を奪う。

いた!綺麗な後ろ姿だ!

朝の日差しを反射してきらきら煌めく、長い髪が優雅に揺れる。

写真で見たにも増して、宝石のように綺麗な髪だ。

背中もだ。肩幅は狭く、腕は細く、ハチドリのように小さく愛らしい後ろ姿。それでいて、腰は細く括れ、お尻から脚にかけてなだらかで女性的な曲線を描き、クジャクのようにしなやかなボディライン。

細い腕と、しなやかな脚線美は、背後から肌が垣間見える玉肌だけでも白鳥のようにきめ細やかな白く綺麗な肌であることが見て取れる。

ハチドリか?クジャクか?

実在する人間とは思えないほど、現実離れした美しさ。

後姿だけでも、この美しさ。

道行く人々が、みんな誰もが少女の美しさに見惚れている。

逆の方角から歩いてきた人々が少女に視線を集中して一様にうっとりと目をとろませているのが観察できる。「可愛い」「誰あの可愛い子」「なんと美しい」人々の驚嘆する声。真後ろに追いついた八橋からは死角である逆方角から人々は何を見たのだ。この少女の顔はそんなに魅了させるほどか。

綺麗な髪がさらさら流れながら、スイス産と思しきハーブシャンプーの香りが舞う。

何より、背後からでも見える巨乳。よほど大きな乳房で且つ細身でなければ観測できない奇跡の天体ショー。後姿の狭い肩幅をはみ出すほどの大きな乳房が、張りのある豊満な球形が、リズミカルに揺れる。

八橋は、ついに声をかけた。「すみません! そちらの青い髪のお姫様!」

「え―――?」

振り返った長髪の少女は、写真でも見たこともないほど綺麗な美少女だ。

逆方角から来た人々が少女の美貌に見惚れる理由も頷ける。それ以上の美貌だ。

絶世の美女。他に形容する言葉が見当たらない。

可愛すぎる。凄い綺麗な子だ。

小さな顔。目鼻立ち整った美貌。さらさら長く綺麗な髪。

白磁のような瑞々しい美肌。

抜群のプロポーション。細く括れたウエストに、張りのいいヒップ。細い腕。ほっそりとした、しなやかな括れ。

その細身にも関わらず、乳房だけは風船のように大きく大きく膨らんだ、Lカップの丸い乳房。

大きなふたつの膨らみの山頂は布越しにもテントを張る突起。

目測、身長154cm。スリーサイズ99/53/88。

(ヘレナ女王だーーー!)

八橋が思い描いた役のイメージぴったりの、ヘレナ女王そのものだ。

そんな女王いるはずがない、架空の美女とまで謳われた人外の美しさが今ここに。

奇跡だ!奇跡が起きたんだ!こんなに綺麗な女の子がこの世に実在したなんて!

 

(イラスト: 未定 様)

 

八橋は思わず息を呑んだ。

架空か。現実か。この宝石のような少女は。

いや、架空でも現実でもどっちでもいい。八橋は舞台スタッフを担う男として、「呼び止めて申し訳ありません! 私は劇団りんかいで脚本を書いております八橋八雲という者です!」と名刺を見せる。

すると、少女は予想外の行動に出た。

「ダーリン♥︎」

なんと、いきなり抱き着いてきたのだ。

至近距離で、ハーブシャンプーの香りが脳を癒す。Lカップのボリューム満点の柔らかさが当たって気持ちいい。

てかメチャクチャ気持ちいい。気持ち良すぎる。こんな華奢な細身にこんな大きくてたわわな果実を実らせた美少女のふわふわ柔らかくてもちもち弾力のあるLカップ神々しい栄養満点の爆乳!気持ち良すぎる!

「ダーリン♥︎ やっと会えたぁ♥︎」

え?ダーリン?俺のこと?え?え?俺に抱き着いてる?こんな可愛い女の子が?

「あ、あの? お姫様? どこかで会いましたっけ??」

「ミコでいいよ♥︎ 印南ミコ♥︎」

ぎゅーっとしがみつく、印南ミコと名乗った少女。

本当にLカップ爆乳がむぎゅう~っと押し返すように下から飛び出す。

「ミコ…ちゃん? ミコちゃん… いい名前だなぁ」

こんなに可愛い女の子と会っているなら、忘れないはずだ。ましてや、ダーリンと呼ばれるほど親しい間柄なら。

今はそれを追及している時間は無い。上演時刻は刻一刻と迫っているのだ。

「じゃあ、ミコちゃん。 一生のお願いがあるんだ。 絶世の美貌を持つ君にしかできない」

幸運に舞い降りた幸せの青い鳥を、抱き返す。セクシーでしなやかで、折れてしまいそうなS字の背中。

「劇団りんかい、ってところ? ダーリンのお願いなら」

ミコちゃんと呼ばれたのが嬉しいのか、八橋の腕の中でぴょんぴょん跳ねるミコ。

これはOKもらえるか!?

意を決して事情を説明した。今日は、劇団りんかいの新たなミュージカル公演の初日であること。今朝、主演女優が自宅で両足を骨折する大怪我をしたこと。この役は、ミコちゃんのような絶世の美女にしか務まらないこと。全て洗いざらい話した。

「そういうことなら私にまかせて♥︎」

美しい小顔は、長い睫がウインクする愛姿さえも魅惑に満ちている。心を射抜かれるとは、こういうことだろう。

ミコの小さな手が、八橋のごつい手を握る。「急いでるんでしょ?住所教えて」

「東京都港区の…」男が劇場の住所を明かす。途端。

突然、何か全身が浮遊感に包まれたと思ったら、次の瞬間には。

これは…架空か…?

目の前に、劇団りんかいの見慣れた外観が広がっていた。

隣でミコが「ここで合ってる?急ごう!」と手を引っ張る。

何だった?今のは…?

わけもわからず、この地上に舞い降りた幸せの青い鳥を連れて、八橋は一緒に劇場の裏門から入った。

 

 

「いたぜ! 絶世の美女が!」

舞台裏では、既に全キャストが到着していた。

八橋が連れてきたのは宝石のように美しい天使だ。視線が集中する。

その場にいた全員が、少女のあまりの美貌に見惚れる。

バックコーラスのチアキとカサンドラ役の石刈アリエが開口一番、「「かわいいいいいいいいいいい!」」とはしゃぐ。

写真の送り主だったクリュタイム役のセラも実物を目の前にして息を失ってしまった。長い髪の少女は、その青い髪は、あまりに眩しい。

メイクのアスナも「可愛い…顔小さい…こんなに綺麗な女の子を私が網羅していなかったなんて…」と興奮冷めやらぬ様子。

さすがにユウカが「ウエスト細っ!」と変態ちっくな顔で発情しながら両手をワキワキして華奢に括れた腰を触ろうとしては、アスナが「やめなよ犯罪でしょ」と頭をチョップして止めたが。「ごめんねウチの変態が」

ちなみに橘は八橋の独断行動を怒る気も失せて声を失っている。

女性陣でさえこれだ、況や男性陣は目がハートになって棒立ち状態。

こんな時でも舌が回るメネラウス役のイカルガ・ジョージの言うとおり、「綺麗な髪…整った顔立ち…白磁の肌…抜群のスタイル…完璧だ。よく見つけてきたぜアミーゴ」

「俺は何もしてないさ。写真を送ってくれたセラとご友人と、現実離れした美貌で生まれてくれたミコちゃんのお蔭さ。」と、八橋。最初に写真を転送したセラが「でっしょー」と自慢げだ。

「はじめまして、印南ミコです♥︎」

宝石のような美貌が、お辞儀する。華奢な細身に似つかわしくない、たわわに実った丸い乳房のLカップが振り子状に往復する。

「てか胸デカッ!」あまりに大きな爆乳を見て驚愕したのはヘクトル役のグランデだけではない事実は、言うまでもない。凄いとか、大きいとか、そんなありふれた言葉では表現しきれないほどボリューム満点のふたつの膨らみはインパクト爆発。

幸せの青い鳥がどうのこうのとドヤ顔で演劇の知識をひけらかした吉良沢に至っては、幼き絶世の美女のあまりに発育した抜群のプロポーションを見て鼻血を噴いて倒れたではないか。

美の天使が名乗った今を追って、キャストとスタッフも口々に自己紹介する。

一通り自己紹介が一週したところで、橘が「助かったわミコちゃん。 一時はどうなるかと思ったけど、あなたのお陰でトロイ伝、上演できそうよ」と来てくれたことを労う。

…と、ミコの美貌に魅了されていたひとりであるCGの一条寺が、唯一ふと我に返る。「皆さん、何か忘れていませんか?」

14歳の幼い少女とは思えぬ美しさを目を見開いて注視しながら前屈む他の男性陣を尻目に、女性陣が振り返る。

舞い降りた小さなハチドリはヘレナ女王役に相応しい、宝石のような美貌だ。

一条寺の片手が掲げたのは、星江のご家族から預かった台本。「台詞、覚えられるのですか? この短時間で?」

忘れてた。

そうだった。

現実では有り得ない美しさが実在したから浮かれていたが、トロイ伝はミュージカルだ。

劇には台詞もあるし、歌もある。歌があれば当然、振り付けもある。舞台女優は相応の滑舌と肺活量、特有の身体能力を要する。ましてやヒロインともなると、他の役のそれとは比べものにならない。技術的な問題だけでも山積みだ。

「見せてくれる?」

一条寺から台本を受け取るミコ。傍らで八橋が「ああ、ヘレナ女王は女神アフロディーテと二役だよ」と付け足す。

パラパラとページをめくり、「OK、覚えたよ」

スタッフとキャストがどよめく。そんな周囲のリアクションをゴマンと見慣れたかのごとく、ミコは「小さい頃から大抵のことは一瞬でできちゃうのよ。 私、天才だから」と自信満々。

「印南さんを信じましょう」と時計を気にする橘。「今から最後の遠しリハをするわよ。時間的に一回しかできないけど…天才なら大丈夫よね?」

拒否権の無さを訴える橘の目に、ミコはウインクを返した。

本当に完璧だった。台詞はもちろんのこと、ジェスチャーも、ステップも、歌も、躍りも。ヒロインに求められるもの全てを完全に再現してくれた。

舞台上を鳥のように舞う可憐な輝きを見て、橘は言葉を失う。むろん、八橋も。

(美しい上に、よほどIQが高いのか? それとも地球人じゃないとか? いやまさかな)

てか声えっっっっろ!

第一声を聞いた時から気になってたけど、この美少女、声もめちゃくちゃエロい!大人の色気とはまた違う、子供でありながら過剰に発育した少女ならではの、ナチュラルでも隠しきれない色気だ。この天才少女が今後どんな美女に成長するかと待ち遠しい。いや、末恐ろしい。

色香に満ちた声は、歌声を奏でた瞬間に最高潮に達する。

天使の現実離れした美貌も相俟って、全宇宙の男の下半身に直接響くほど美しい鳥の歌声。

共演者待てもが聞き惚れてしまうメロディ。

演技も技術的な問題もクリアしただけでなく、心も込もっている。本当に運命の人を予見していたような、煌めく翼に生命の羽ばたきを感じさせる演技。

天使は、生きている。

ラストシーンまで通した最初で最後のリハを見届けて、思わず「ブラボー…」と口にした八橋。

「問題ないわね」満足げに頷く橘。「あとは衣装とメイクだけね」

「「待ってました!」」ユウカとアスナが喜び勇む。特にユウカが「お姉さんがその抜群のプロポーションを隅々まで採寸してあげますからね~」と鼻息が荒い。「ヘンなことされたら引っ叩くのよ」「ご褒美ですッ!」「あはは…仲いいですねお二人とも」

人の手で美を創出するプロフェッショナルが両端を挟み、自然が産み出した美の奇跡を控室へ案内する。

「よろしくお願いします、ユウカさん、アスナさん」

「ミコちゃんを最高傑作のアフロディーテに仕立て上げるから。 行くわよユウカ」

「ガッテンテン!」

 

 

控室で、ユウカとアスナが見守る中。

ミコが、服を脱ぐ。

同性だからこそ、釘付けになる。服の上からでも分かるほどのスタイルの良さだが、改めて裸を見ると、インパクト爆発だ。巨乳がブラからはみ出ているではないか。何だこの腰の括れは。ヒップラインの中央上半分と左右下半分がショーツからはみ出しているではないか。

14歳の幼くして、この異常な発育。非現実的な女体美。

「同じ地球人じゃないみたい…」「まだ子供で成長中でしょ?下着選び、さぞかし困ってるだろうなぁ」

お2人さん?なんで指をT2ファージみたいに折りながら下腹部に手をあててるんですか?

下着も脱ぐ。ブラのホックを外すと、窮屈に圧し込まれていたLカップの乳肉が束縛から解放され、ぷるるんと弾け飛ぶ。たわわな果肉の山頂は、桜色の突起。

ショーツがしなやかな脚線美をするりと滑り落ち、形のいい白桃すべすべのお尻と両腿の逆三角ラインの向こう岸は、さらに白くつるつるの少女の繁殖裂が裏側から見える。

片足ずつ跨ぎ、両足からショーツが外れた。

幸せの青い鳥は、一糸まとわぬ全裸になった。

双乳の山頂の突起も、いずれ新しい命が産まれ出る少女の神秘の聖域も、何一つ隠していない。

この広い控室で。

一糸まとわぬ白い肌を、ユウカが手触りでなぞる。

ユウカは女王の舞台衣装をサイズ調節して、ミコに着せた。

「可愛いわぁ~ 私の見立て通りよ」

大きな鏡には、神々しくも露出度の高い女神ドレスを煌びやかに着飾り白い美肌を晒したミコの艶姿が映った。

下着も脱がねばならない理由がお分かりいただけただろう。女王の舞台衣装は下着姿よりも布面積が遥かに下回り、その形状は(6枚の天使の翼と細かい宝飾品は別として)か細いリネンのレースが地肌に張り付いただけ。ミコの豊満な体も相俟って、辛うじて局部を隠せるか、隠せないか。…隠せるワケないか。

もっとも、その露出度を差し引いても有り余るほど可愛いデザインに仕上げたのはさすが菅生ユウカといったところか。

「本当はカナちゃんに着せる予定だったのよ。 布面積が少なくてサイズ調節が簡単で助かったわ。 でもさすがに胸がキツくてウエストは空いて、合わせるの大変だったけど」

「裸見てびっくりしたわ。」現実世界を彩る後姿と、鏡の国を彩る正面姿。両界のアフロディーテが眩しい極上の女体美。今もアスナの目に焼き付いている。「こんなに腰細い子は初めて見たし、こんなに胸大きい子を見たのも初めてよ。」

次はアスナがメイク台に案内する。「女の子は誰でも綺麗になれる。 生まれながら綺麗な子は、もっと綺麗になれるのよ」と、ミコの綺麗な髪をなぞる。

熱苦しいユウカと、クールなアスナ。対照的な2人だが、「女の子が普通でいられない世界なんて間違っている」という信念は同じ。

「こんなに美人な女の子をメイクアップするのも初めて」

メイク台の前に座った、青い髪のアフロディーテ。

鏡越しにアスナが「ミコちゃん、何かアレルギーとかない?」と尋ねると、ミコは「大丈夫です」と両手で髪を拡げる。

手を伸ばしたアスナがファンデを握り損ねた理由は、あまりに理不尽な外的要因。

突然、全員のスマホがサイレンをけたたましく鳴らしたからだ。

「シャドウ警報!?」太平洋からシャドウ浮上、付近の住民は直ちに避難してください、との画面メッセージを確認したユウカは、テレビを確認する。海からの脅威が写し出された。

体長45メートル。両手のハサミが頑丈そうな、甲殻類のようなシャドウが襲来する。地球の甲殻類でいうところの目に相当する視覚器官が無いなど相違は多いが。

深海シャドウ トライサー

ニュースキャスターによると、シャドウは東京湾に直進中だと。

「東京湾!? ここじゃない!?」アスナも戦慄が走る。

「そんな! せっかく衣装合わせたのに!」

「言ってる場合じゃないでしょ! 早く逃げましょう! ミコちゃんも!」

言いかけた。

そこにミコがいればの話だが。

「―――あれ?」

メイク台に座っていたはずのミコが、忽然と姿を消していたのだ。

ここは私に任せて、という置手紙を遺して。

 

 

廊下を走る八橋が「ミコちゃん! ミコちゃん!」とアフロディーテの名を叫びながら控室へ直行する。

ユウカとアスナが顔面を蒼白にしながらドアから出てきた。

「ミコちゃんは!?」

「それが…」

開口一番、八橋に迫られたアスナがミコと筆跡と思しき小さな便箋を見せると、遺言のような書置き。八橋も蒼褪める。

「ああああああああああああああああミコちゃああああああああああああああああん!」

俺のせいで巻き込んでしまった。

俺がスカウトしなければ…

ありとあらゆる最悪の結末が脳裏をよぎる。ミコちゃんは女の子だ。絶対に失ってはいけない。

「探しに行く!」

「無茶よ!」「シャドウは百ノット近い速さでこっちに来てるのよ!?」

「イカルガとランとグランデだって観客の避難誘導に回ってるんだ! 俺はミコちゃんをスカウトした男として、ミコちゃんを守る義務がある!」

「私達だって助けに行きたいけど… 仕方ないじゃない、自分の命は惜しいし……」

ユウカとアスナが泣いている。本当は、彼女達だってミコちゃんを失いたくないんだ。どんな現実が目前にあろうと、そりゃそうだ。誰だって。望むならば。

だからこそ、八橋が行かねばならない。

ミコちゃんを犠牲にしたリプレイなんて、ハッピーエンドじゃない。ミコちゃんを惨殺するのが目的の依頼なんて、ハッピーエンドじゃない。

天使を、失っちゃいけない!

「女の子の命が危ないんだ! ミコちゃんは、ミコちゃんだけは絶対に死なせない! それに…俺はもうすぐ契約が切れる」

「え…?」

「俺はどうなってもいい。 ただミコちゃんが生きてくれるだけでいいんだ!」

「ちょ、ちょっと!?」

ユウカとアスナの合間を掻い潜り、八橋は猛スピードで階段を上がった。

「ミコちゃんは絶対に助け出す!」

 

 

守るべき天使を探し走って、とうとう屋上まで駆け上った。

吹きつける突風。

視界に広がる南の空。

見下ろす青い海。

そして海で蠢く、黒い現実。

シャドウの巨体は、既にアクアラインを突破して内湾まで踏み入っていたのだ。

街中を揺るがすサイレン。逃げ惑う人々の悲鳴。

と、その向こう側、外湾上空で、小さな光る何かが見えた。

あれは―――

「ミコちゃん!!!!!」

間違いない。あの美貌を見間違えるはずがない。

青い髪が太陽の光を反射し、都県境を跨ぐ距離からでも眩しいほど輝いているのだ。

ヘレナ女王のドレスを着飾った白い裸身。背中に6枚の天使の翼。空を舞う艶姿は、美貌と抜群のプロポーションも相俟って本物の天使だ。

いや、これまでUMAと決めつけられていた天使という生物が実在したと訂正すべきか。

小さな大天使が歌う。甘く色香に満ちた、過剰に発育した少女の魅惑の歌声で。

シャドウの動きがおかしくなる。来た道を振り返り、内湾に背を向けて踵を返して出て行くではないか。

ミコちゃんの歌声を追っているのか。

懐かしさと哀愁がそよぐメロディ。

この歌に歌詞は無い。前世紀、ある勇者が地球に飛来し、故郷の歌を伝えた、という伝承が東欧ルサールカに遺されている。

天使に誘導され、内湾から出て行く悪魔。

さながら妖鳥(セイレーン)の歌声に誘惑された旅人が海へ身を投げるがごとく。

このまま外湾を出て太平洋に沈んでくれたら万事解決だったのに。

シャドウが自分のハサミで自分の側頭部を切り裂きさえしなければ。

側頭部から夥しい量の血が噴き出す。耳を失った代償は大きいようだが、悪魔の足取りが安定しはじめる。

切り捨てることが現実か。

上に何かがいると察知したシャドウは、ハサミを振り上げる。

小鳥が2羽に分裂した。

2羽まとめて切り裂こうと飛び上がるも、天使の小さな体はシャドウの巨体をすり抜けた。そこに熱源反応があるのに、その座標に「恒温動物の体温相当に熱された空気」しかない。小鳥のシルエットを切り取った熱源の正体が掴めない。

分身していた光の天使が1人に戻る。一旦海中に潜った悪魔が勢いよく海上に浮上し、目にもとまらぬ跳躍力で刺突を繰り出す。

小さな熱源の真核を捉えた…かに見えた。熱源は煙のように霧散して周囲の気温に溶けた。

熱源のなくなった空を不審がり、海に潜るシャドウ。

天使がテレポートで空に実体化した。その瞬間を狙っていたように悪魔のハサミが海中から風を切る。

…実体?実体があったのか?またも透過し、熱源に触れることはできなかった。

テレポートで消える熱源。次に上空に現れたのは2人のヘレナ女王。

双神は両腕と髪飾りから光線を照らす。…シャドウの外骨格に傷ひとつついていないことを除いては。

別の空にテレポートしたアフロディーテが十字架状の狙撃銃を構えて側頭部の傷口を狙うも、悪魔はそのくらい想定済みだといわんばかりにハサミで光弾を防ぐ。

シャドウの装甲は頑丈のようだ。いくらミコちゃんが攻撃を透過する体といっても、このままでは勝負がつかない。

互いに決め手を欠いたまま、長期戦にもつれ込む。

いつしか11人も増えたアフロディーテがテレポートで攪乱しながら悪魔と交戦している。

刹那、自然現象は偶然にも南から北へ突風を吹きつける。

と、八橋の背中に感じる柔らかい感触。

「ダーリン!」

振り返ると、12人目のアフロディーテが低空を浮遊しながら八橋に背後から抱き着いていた。

おっぱいの感触が気持ちいい。私服より肌色面積が格段に多いだけに、生の乳肉の感触はなおさら弾力を感じてボリューム満点だ。

「ミコちゃん!? あれ!?」

「助けて! 私に力を貸して!」

切実に訴えたのは、ミコちゃんの分身体の1人だった。

むにゅっ、と押し付けられる白い生乳肉が八橋の体を伝って拡がる。

突風がやむ前に、また例の浮遊感。

瞬間、二人がいたのは正体不明の大部屋だった。

「ここは…?」

「宇宙船だよ…私の」

八橋の体に接触していたミコの大きな乳房が、柔らかい弾力をバネに反発した。

宇宙船?

目を見開く八橋。

この人間離れした美貌…やっぱり宇宙人だったのかミコちゃん。

「改めまして、私はガッツ星人の印南ミコ。 宇宙警備隊はウルトラ戦士徴兵指令の怪獣娘。 ダーリンをウルトラマンにしに来ました!」

「怪獣娘…?」

そう名乗った美少女の長髪を見る。

恐らく地毛なのだろう。光を反射して宝石のような光沢が輝く構造色の髪は見る角度によって瑠璃色にもサファイアブルーにも、まれに金色にも見える。

さっきのテレポートといい、一瞬で主演を完璧にこなすほどの知能。地球人離れした体型と女体美。

なるほど、人外の存在なら現実離れした美貌も頷ける。架空の美しさと謳われたヘレナ女王になるべくしてなったのだ。

もっとも、今日を以て架空ではないことが証明されたが。

「ミコちゃん、さっき助けてって…? 俺は一体何をしたら…?」

今日一日で印南ミコという未知の美貌に驚かされっぱなしだが、ミコちゃんを守るためなら何だってする。

「あれはトライサー。 1万2千年前、ムー大陸を滅ぼしたシャドウだよ」

宇宙船内部のホログラムがシャドウの詳細なデータを表示する。

「視覚が退化し、代わりにサーモグラフィが発達し獲物を追跡する能力を誇るシャドウビースト。 パワー、スピード、耐久性、全てが最強クラスで、特に外部装甲の頑丈さは現在発見されているタイプでも隋一。 サーモグラフィは頭部とハサミに計3ヶ所。 ただ2つ弱点があるとしたら、物理技しか使えないこと。 もうひとつは、どんな頑丈な外骨格の持ち主だって、体の内側は硬くないこと。」

「俺がウルトラマンになったら、ミコちゃんを守れるのか…?」

船内の大画面を見ると、シャドウはこれ以上の戦いは時間稼ぎだと判断して分身ガッツを無視し、内湾を前進している。

現実はそこまで迫っている。時間が無い。

すると、アフロディーテのただでさえ脱げそうなほど布面積の薄い女神ドレスが、はらりと落ちる。

なまめかしい衣擦れの音。羽化する柔肌。

ミコちゃんは、一糸まとわぬ姿になった。

服の上からでも圧巻だった巨乳は、脱いだ姿が見せる生乳肉も圧倒的なボリュームが何倍も神々しい。

Lカップの白くたわわに実った双果実の山頂は、ぴんと尖った桜色。

少女の神秘は真っ白な蕾。白く瑞々しい、肉感的な子宮の丸みラインとは裏腹に思いのほか小さく、汚れひとつない、ぴったりと閉じて……って、少女の最も綺麗な聖域といっても、いくらなんでも綺麗すぎじゃね?この綺麗さは……まさかまさか……

「処女……だと……?」

このドスケベボディで……?

「やぁん♥︎ ダーリンのためにとっておいたんだから♥︎」

絶世の美女が、頬を赤らめる。

意外…?いや、脳科学的には有りえない話ではない。

美しければ美しいほど引く手数多で男に困らないのは本当だろうか。ミコちゃんのあまりの美貌はその限度を逸脱している。

周りの男たちは、勝手に高嶺の花と決めつけて諦めていたのだろう。

美しすぎるがゆえに男を寄せ付けず、処女。

こんなに可愛い美少女が、ダーリンのためにとっておいた。上目遣いで潤むミコちゃん。

「マジで!? それが動力を起動するキーなの!?」

八橋は我慢できず、ミコちゃんの巨乳を鷲掴んだ。

ミコちゃんが「ああん♥︎」と甘い悲鳴とともに跳ねる。

沈んで呑み込まれるほどの柔らかさ。押し返す弾力。ボリューム満点の感触。

「ムネ触って♥︎ 守りたい人を思い浮かべながら、力が欲しいと願って♥︎」

もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ

たわわなLカップの果実を握り、持ち上げ、時にはリフティングしたり、根元から掴みながら、柔らかさと弾力とボリュームを楽しむ。

そのたび、気持ち良さそうに喘ぐ少女。

突起の麓の桜色と白色の境界円をなぞる。

突起を摘む。こねる。指で弾く。引っ張る。

ミコちゃんミコちゃんミコちゃんミコちゃんミコちゃんミコちゃんミコちゃんミコちゃん

「ミコちゃんを、守りたい!」

Lカップの白い果肉を一際強く握ると、少女は「あああああああああああああああ♥︎♥︎♥︎」と一際甲高い絶叫を奏でながら、細い括れを弓形に仰け反らせる。ボリューム満点の柔らかい弾力が男の指を呑み込む中で、双の山頂の突起がビンビン硬く尖る。

同時に、男の指を呑み込んだLカップの乳肉が鮮烈なフラッシュを放ち。

いつの間にか、天使の柔らかい谷間に、カードとその読取機とおぼしき腕輪が挟まっていた。

過呼吸ながら目をとろませるミコちゃん。

八橋は「これは……?」とカードと読取機をLカップの狭間から引き抜く。

大量の情報が流れ込んでくる。これは…誰かの夢?部屋一面に絵が飾られたアトリエで、老画家がキャンバスに絵を描いている。これは…銀色の巨人の絵?完成した絵が動き出す。私は誰だ、私は何を守るために生まれてきたのだ、と呟きながら絵の中から出ようとする。画家は何か術式を唱え、絵を圧縮する。絵は、カードとなって画家の手に収まった。

ミコちゃんのLカップの谷間が吐き出したカードは、これと同一のようだ。

挟まっていたものを引き抜かれたことで。全裸の少女はLカップの爆乳を反作用で左右別々に弾ませる。「ああん♥︎」と極上の女体美が跳ねる。感じたようだ。

しばらく「あっ♥︎ ああ♥︎ ああああああ♥︎♥︎」と華奢な細身を弓形に仰け反らせながらLカップの張りのいい巨乳を跳ねさせるミコちゃん。ぶるん、ぶるん、柔らかく揺れる巨乳。

八橋は、ミコの裸身を抱きしめていた。ミコのすべすべの尻を撫でる。ミコが細く白い腕を絡め抱きつくことで、白く豊満なLカップがあたる。

「ダーリン♥︎ ウルトラマンになってぇ♥︎」

ミコちゃん双の突起をビンビン硬く興奮させながら、恍惚とした視線を向ける。かなりの身長差があるので、結果として上目遣いの天使だが。

腕輪を介して流入した情報には、今回の作戦概要も含まれていた。

「ああ、絶対にミコちゃんを守る。 俺を信じてくれ」裸の女神を抱きしめ、Lカップの柔らかい弾力の中心にコリコリした感触を感じた後。

腕輪を装着し、カードをセンサーにロードする。

「アーメェェェン!」

 

 

シャドウが本州を上がることはなかった。

遥か上空から飛来した銀色の巨人が行く手を阻んだからだ。

ウルトラマンアーメン

体長40メートル。胸と額に十字架状のランプが青く輝く。

『Gスティグマ!』

額の十字の聖痕から光線を発射する。

光線はシャドウに接触して爆発するも、案の定トライサーの頑丈な装甲はビクともしない。

悪魔は急速に間合いを詰めて斬りかかり、アーメンを突き飛ばす。

猛攻を止めずハサミが唸るも、二檄目は横にかわす。

三檄目は上から。これは屈んで回避。

アーメンの足払いがシャドウを狙うも、シャドウは蹴りを飛び越えてかわした。

着地点を予測したアーメンはトライサーの右半身に回り込み至近距離、耳元まで接近した。

トライサーは逆側のハサミを開き、アーメンを掴んだ!

『待ってたぜ、この瞬間を!』アーメンの体が鋼のように硬化する。男は体重が急激に重くなる。

ヘビーアーメンは悪魔の顔に掴みかかり、口を抉じ開ける。

耳の傷口だけが内臓へと至る道ではない。ハサミの腕力で獲物を捉える能力に特化したシャドウなら、牙で噛み殺す必要は無い。顎の力は退化したのだ。

とはいえ、ヘビーフォームでもトライサーのハサミに耐えるのは難しい。鋼の体を亀裂が走る。

加えて、このフォームはスピードが大幅に落ちるだけでなく、エネルギーの消耗も激しい。瞬く間に胸の十字架が赤く点滅する。

活動限界が近い証拠。それでも巨人は諦めない。亀裂の入った鋼体が再生する。再生力が、握力を上回る。

『俺は脚本家だ! ハッピーエンドを書くために生まれた! こんな現実に負けてたまるかああああああ!』

体力を消耗しているとは思えない鋼の巨人の馬鹿力は、甲殻類の大顎を全開にした。

そこへ、上空から小さな光が舞い降りる。

小さな小さな、光のハチドリが。

親方!空からミコちゃんが!

簡単に脱げた女神ドレスを宇宙船に残して裸のままスカイダイブしてきたのか。

天地を逆転して真っ逆さまに落ちてきた一糸まとわぬ神々しい女体美は、長い髪が太陽の光を青く煌めかせながらはためく。

美しい顔が、長い睫を開花させる。

丸く張りのあるLカップのふたつの果実の谷間から、スマホのような端末を抜き取る。

「雨降る時代に虹を架け 空を照らして花咲く朝を 幾度翼は墜ちるとも 眠りの花は再び目覚め 天を羽ばたく癒しの翼」

端末に埋め込まれた鉱石が発光する。

「ソウルライド! ガッツ星人!」

天上を、伝説の超人ウルトラウーマンミカエラの幻が覆う。

超人の掌に乗せるは、青い小鳥の剥製。

小鳥は青い光につつまれながら分裂し、パーツ一片一片が意志を持って飛びながらミコちゃんの裸身に付着する。

白鳥のように優雅なボディラインに、孔雀のように綺麗なドレスが張り付く。

鳳凰が銀河を飛び去る軌跡のごとし長くしなやかに流れる長髪は宝石のようにきらめく瑠璃色。見る角度によって金色にも輝く、ハチドリのような構造色の長髪。

幸せの青い鳥の甲冑を輝かせる、美しいオーロラの翼の戦乙女(ヴァルキュリア)が羽化したのだ。

分身宇宙人 ガッツ星人

テレポートした光の天使は、ヘビーアーメンの両腕とトライサーの大顎の間に割って入る。

少女が掌を差し出すと、1羽の丸っこい物体を召喚する。全身を羽毛に覆われ、先端に嘴がついたボールだ。

ボール型の生物は飼い主の手を離れて飛び上がり、トライサーの口の中にダイブした。

美しき終焉が始まる。

トライサーの体内で異変が起こり、もがき苦しむ。

ハサミがアーメンを手放す。作戦成功を見届けたアーメンはヘビーフォームを解除し、スティグマフォームに戻る。

どんなに頑丈な外骨格の持ち主でも、体の内側は硬くない。

断末魔にも似た奇声を発しながら暴れる悪魔。口から血を吐き、耳から血が飛び散る。そこだけじゃない。全身の関節の隙間からも、血が漏れ出ているではないか。

トライサーの体内で何が起こっているかは、八橋は想像しないことにした。

ひとつ確かなことは、ミコちゃんの美貌。

「自分が犯した過ちの深さに気付いたみたいね、トライサー。 私の歌から耳を塞ぐために自傷したみたいだけど、結果このザマだよ。 現実に妥協して犠牲やむなしと諦めた瞬間、お前は自ら破滅を選んだんだ! 何かを切り捨てて得られる未来なんか絶対ない! ―――って、もう聞こえないか」

太陽を光輪と戴く美しき天使。

光の天使が綺麗な髪を煌めかせる。

神々しい女体美が空を羽ばたき美しい。

ミコちゃんが2人に分身する。

「「"現実"を撥ね返すから"実現"って書くんだよ」」

鏡合わせの美と美は、六角形の髪飾りからビームを照射する。蟲の側頭部を射抜く。

続いて両手から照射したキャプチャー光線が悪魔の全身を包む。動きを封じられた悪魔は宙に持ち上げられる。2人の天使がテレポートで消えた後も何もない虚空からキャプチャー光線が光る。

悪魔は、十字架に磔にされた。

「ダーリン、妹を孵してあげて」

いつの間にか、アーメンの肩に乗っていた光の天使。

『わかった』巨人は頷く。

闇は永遠じゃない。唯一永遠なもの、それは愛だ。

定められた終末なんか無い。どんな現実がミコちゃんを襲い来るとも、全部はね返してやる。運命は二人の手で掴み取るんだ!

『神話を塗り替える!』

両手で十字を組み、光線が呻る。

『サン・ピエタ!』

光の砲撃が闇を照らす。

内側からボロボロになったトライサーの装甲は巨人の光線に耐えきれず、木端微塵に爆散した。

「やったあ!」

小さな妖精が、巨人の頬にキスしてくれた。

現実という名の恐怖政治は終わった。

取って代わり、羽化した命があった。

砕け散った悪魔の体内から、ミコちゃんそっくりの天使が産まれたのだ。

例によってミコちゃんの分身体かと思ったが、唯一この個体だけ髪に構造色が無い。

「お疲れ、マコ」

「うん…怪我はなかった?」

『え? マコ…ちゃん?』

空飛ぶ宝石と、その突然変異個体を、交互に見返すアーメン。

『君は……? さっきのボール状の生物の正体が……?』

「ああ、この子はマコ。 もともと分身体のひとりだったけど、色々あって独立した自我をもってさ」とミコちゃんがマコちゃんを紹介する。「ちょっと素直じゃないところもあるけど、いい子だよ」

「オイ、ウルトラマン」マコと呼ばれた少女がびしっと指をさす。「ミコを泣かせたら許さないんだからね」

髪の色を除けば(それでも十分綺麗な長髪だが)本当にミコちゃんと瓜二つだ。美貌も、美肌も、神々しい女体美も。…丸く張りのある、Lカップの巨乳も。

「ちょっと、どこ見てるのよエッチ!」マコちゃんが胸を隠す。当然、Lカップのボリューム満点は隠しきれず、腕の隙間から柔らかく膨張するのだが。「本当にミコを大切にしなさいよね! いいわね!」

『任せてくれ』姉想いの可愛い義妹にサムズアップするアーメン。

マコちゃんはそれだけ吐き捨てると、「ここにエボルトラスターは無いみたいだから、じゃあね」空の彼方へ飛び去った。

「やったね マコに認めてもらえたよ」

巨人の肩に、小さな小さなハチドリがとまっている。空飛ぶ宝石…綺麗だ。

「こっちの地球の星江さんはただの人間だったんだね」

『同姓同名の宇宙人がいるのかい?』

「いや、こっちの話」

成り行きは何にせよ、ヘレナ女王役はミコちゃんだ。巨人には空飛ぶ青い宝石の美貌しか見えない。

『誓うよ、ミコちゃん』

肩に乗った青いハチドリを、指で優しく撫でる。

『ミコちゃんを守る。 どんなことがあっても、絶対にミコちゃんを幸せにするから』

「♥︎♥︎♥︎」

角度によって色が変わる構造色の髪を巨人に撫でられたハチドリは、喜んで懐いた。

小さなハチドリを肩に乗せたまま、巨人は空へ飛び去った。

 

 

シャドウ騒動の迅速な収束が功を奏して、劇団りんかいはトロイ伝を無事上演。

大観衆を前に、舞台のカーテンが開く。

冒頭はデロス同盟期、アテネのディオニソス劇場から始まる。

円形大劇場でホメロスの叙事詩をもとにしたトロイの木馬が上演されていたところ、突然、哀愁漂うメロディが流れる。

未知の管楽器を奏でる怪しい男がやってきた。

男は演奏をやめるなり開口一番「ホメロスの叙事詩か、こっちじゃ随分と捩れ伝わったんだな」

いきなり出てきて何様だこの男は。

演劇を妨害された脚本家が「アンタ、諸国を渡り歩いてるって噂の管楽器吹きだろ?」と腹を立てる。「神話なんて所詮はフィクションさ、今さらウソもホントもありゃしねえぜ」

管楽器吹き男は「それはどうかな」と不適な笑み。

アテネの誰もが架空の作り話だと思っていた『トロイ戦争の真実』を、そして男は語りはじめる。

場面は変わってミケーネ時代、スパルタ王国。

城のバルコニーからヘレナ女王が歌うシーンから始まる。

女王は、毎夜夢に見る。トロイの王子パリスと結婚する夢を。会ったことのない男が夢に現れるのは偶然か、それとも女神アフロディーテの導きか。

りんかい歌劇座の客席からどよめきが聞こえたのは理由がある。

ヘレナ女王に扮する主演女優だ。事前に予告されていた主演女優とは全く別の美少女が、女神のドレスを着飾っていたからだ。

無理もない。今朝がた勃発したばかりの刑事事件を、無能な警視庁はまだ公表していない。代役をスカウトしたのは、ついさっきのこと。

それでも公演を中止にせず上演できる自信が、スタッフ一同にはあった。

最初は、約半数の観客は「あれ?星江カナじゃないのか?」と半信半疑だった。その疑念が吹き飛び、恍惚に変わるまでは。

「星江カナじゃないんだ?」「でも可愛くね?」「誰だあの子メッチャ可愛い」「すっごい綺麗な子」「髪さらさら」「何あの綺麗な髪」「あんな高予算アニメみたいな美少女はじめて見た」「ウエスト細ッ!」「かわいいー」「顔小さーい」「髪綺麗」「胸デカッ!」

印南ミコ。

背中に6枚の天使の翼を羽ばたかせたアフロディーテは裸身のほとんどを露出したドレスも相俟って、極上の女体美が直に見えて大観衆を抜群のプロポーションで魅了する。

しなやかなボディライン。艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。きめ細やかな綺麗な肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

全てが美しさの次元を超えている。架空でしか有り得ないパーツで構成された非現実的な美しさは、たった14歳の少女の手で実現したのだ。

きらめく構造色の長髪。

だからこそ、この後の展開に説得力が裏付く。

美貌の女王と結婚しようとアカイア諸王がスパルタにこぞった。

最も強い男が女王と結婚しようという武闘会だ。

激しい戦闘を制したのは、ミケーネ王弟メネラウス。

この武闘会にはもうひとつのルールがあった。「敗者は女王とその夫を守るために命をかけて戦わねばならない」だ。禍根を避けるために設けられた誓約だが。

女王の危機はすぐにやって来た。

ヘレナ女王とメネラウスの婚礼の席。

トロイから形ばかりの和平の使者として遣わされたパリス王子が、絶世の美女を拐う。

諸国の王は女王と取り戻すためにトロイへ攻め入らねばならなくなった。世界一の絶世の美女を奪われたメネラウスが絶望にうちひしがれる傍ら、ミケーネ王アガメムノンはこれ幸いとばかりに嬉々として軍備をかき集め、アカイア諸国の王を徴発する。

アガメムノンの野心だ、最初からトロイに戦争を仕掛ける口実を虎視眈々と狙っていたのは誰の眼にも明白だ。どのみち時間の問題だったろう。戦争をしたがっていたのは、貿易拠点を抑えたかったからではない。本当の理由は、自国の兵を他国の兵に殺させ、自国をわざと疲弊させ、自分で自分の国力を弱体化させることでミケーネ国内の反乱分子の芽を摘むためだ。本当に反乱分子が生まれたかは被害妄想の域を出ないが、そうなってもおかしくないほど後ろめたい恐怖政治を敷いていた自覚があっただけに男は負のスパイラルだ。

ヘレナ女王は船上で海を眺めていた。逃亡したトロイ行きの船の上で、パリスは自らの過去を打ち明かす。かつて忌み子として一度は王に捨てられ、ヤギ飼いに育てられた男だが。アイダ山で女神アフロディーテの天啓を賜り、ヘレナ女王を娶る未来を知ったと。

序盤はパリスに嫌悪感を隠せない女王だが、王子らしくない牧歌的な一面を次第に見出し、心惹かれていく。

そんなパリスの口癖が「光は絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く」

先述の回想シーンで女神から教わった言葉だ。

このミュージカルの登場人物は、たびたび「命」という言葉を口にする。

魔王アガメムノンだけが「人生」としか言わず、あまつさえ産まれたばかりの赤児を「排泄物」と一蹴したのとは対称的だ。

当のエフィゲネイアは母クリュタイムが事前に人形とすり替えて助かったが。

命は途絶えない。新たな命が続く限り。

トロイのプリアモス王は、ヘレナとパリスの結婚を認めた。どのみち遅かれ早かれアガメムノンがエーゲ海を自国もろとも滅ぼしに来るのは時間の問題だった。王は、かつてパリスを捨てた罪滅ぼしと考え、息子の意志を尊重したのだ。娘であり優秀な預言者でもあるカサンドラの助言から耳を塞いだのは、心が痛かった。王もまたヘレナの美貌に目を奪われ、わが国の生き如来としたい欲に眩んだことを除いては。

トロイ城に着いた女王は、浴室に肢体を照らす。

豊満な体を包んでいたシースルーのキトンが、はらりと床に落ちる。

キトンを脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になるミコ。人間離れした、極上の女体美が観客の目に。

真珠のように透き通る白い肌。細く括れた腰。形のいい、艶めかしい腿。大きく膨らんだ、Lカップの乳房。

ただでさえ白い肌でも特に白い巨乳、その山頂の桜色の突起までも。艶めかしい腿の間に空いた逆三角で裂けた少女の白く小さな神秘も。美女の全てが世界中の男たちを魅了するには十分すぎるほどだ。

あまりの肌の白さと美しさに、客席からどよめきが。均整に満ちた女体美。形のいい尻。背後からでもその大きさが見える豊満な乳房。

一歩一歩歩くだけでも、艶めかしい腰の捩り方といい。

印南ミコは、艶かしい女体美をより美しく魅せるポージングを(恐らく遺伝子レベルで)知っている。

この美貌のためなら、いかなる男もメネラウスやパリスのように奪い合って致し方なしと観客を圧倒させるには充分だ。

一糸まとわぬ姿のミコちゃんが、歌う。

音感と肺活量も然ることながら、その歌声は色香に満ちている。大人にも子供にも真似できない、過剰に発育した少女ならではの淫靡さ。(トライサー)をも沈めた光の妖鳥(セイレーン)

シーンは変わり、やがてトロイとアカイア諸国の戦争が始まる。

アカイア側はミュルミドン王アキレス率いる大軍を囮に、メネラウスらが少数精鋭で城門への侵入を試みる。

作戦は失敗に終わった。トロイの城壁はパラディウム神殿の聖なる力と、優秀な預言者たるカサンドラ王女に守られていたのだ。

籠城したトロイ人を疲弊させようと、アカイア軍は消耗戦に持ち込んだ。10年も。

痺れを切らしたアガメムノンが停戦の条件を提示してきた。

メネラウスとパリスの一騎打ちを。

もちろん、アガメムノンの罠だ。弟の槍を、毒を仕込んだそれとすり替えたのだ。

城壁の上で、絶世の美女がパリスとメネラウスの剣戟を見守る。

一騎打ちは勝負がつかなかった。槍に毒が仕込まれていたと見抜いたメネラウスは、見えないことろに隠れてパリスを助けた。

アガメムノンの小細工を知ったヘクトルは激怒した。

続いてパリスの兄ヘクトル王太子がアガメムノンに正々堂々とした戦いを願い出る。アガメムノンはアキレスを身代わりに立てた。

アキレスはこの10年間で、死を恐れなくなった。ある人物の無事を見届けて既に魂は彼女の胎内に預けてきた。次があるのだ。

あくまで正々堂々とした戦いに固執したヘクトルは、その甘さが仇となって死んだ。

カサンドラの預言では、戦争を終わらせるにはヘレナがアガメムノンに体を差し出すしかない。自らその任を買って出たヘレナは夜、アガメムノンの野営へ。

美しいヘレナを犠牲にしてたまるかとパリスが助けに行く。今度はパリスとアキレスの戦いになり、アキレスは激闘の末に殺される。

ヘレナを救出し、逃がしたパリスは、独り敵の侵攻を食い止めるために最後の戦いへ身を投げた。最期の戦いの末に、アカイア側の隠し玉だったフィロクテスに殺された。

神に愛されし2人の英雄は、黄泉の門が見えてもなぜか死を恐れなかった。その最期の顔は、戦死した男のそれとは思えないほど満ち足りていたという。

翌朝、アカイア兵が忽然と姿を消した。

軍船を改造した、巨大なオブジェを除いては。

神話に名高い、トロイの木馬だ。

シノンと名乗る魔術師が生贄を装い、カサンドラの預言と一致すると見せかけた巧妙な口車でプリアモス王を騙し、木馬は城門への侵入に成功する。

かくして木馬に隠れていたアカイア兵が飛び出し、トロイ城内を破壊した。

アガメムノンに捕まったヘレナは、服を破られ全裸に剥かれ、手枷で手を背に縛られ、市中を引き回された。その後ろを、ミケーネ兵に捕縛されたメネラウスが歩かされた。

美しい体を手で隠すことも許されない。揺れる巨乳。

妻が晒し者にされるさまを、本来の夫であるはずのメネラウスは見ているしかできなかった。

ラストシーン。

占拠された城内に戻されたヘレナ女王は、魔王アガメムノンに犯されかけたところを寸前で姉クリュタイムに助けられ、全裸のまま城門から逃げ出す。

アガメムノンはクリュタイムに滅多刺しにされて地獄に落ちた。

廃墟と化したトロイ。老いも若きも幼きも女という女たちが、亡き魔王の野蛮さを受け継いだミケーネ兵に犯される中。

虚ろな目でさ迷い歩く美女の裸身は、ある場所にたどり着く。

パリスがフィロクテスに殺された現場。柱に残る、男の血痕。

女神アフロディーテの生き写しは、独り泣いた。

しばらくして、同じくクリュタイムに救出されたメネラウスが追いついた。

「お迎えに上りました、女王」

メネラウスが膝をつく。

「お迎え…? どこへ?」

女神の目に、光は無かった。

「貴女の、故郷です」

「故郷…かぁ ハハ… いい思い出ないなぁ… 知ってるでしょ? 私、ゼウスの子なのよ… 本当の居場所は… あの空の向こうかも」

「生きてください! 女神よ!」

王が、女王を抱きしめる。婿養子としてではなく、夫として。

「メネラウス…?」

「あの時…私はパリス王子にトドメを刺すのを躊躇った。 殺せなかった。 男が貴女を愛する気持ちは本物だった…!」

夫は、裸の妻に布を被せ、また抱きしめる。

「私は男に託されたのです。 ヘレナを頼むと。 神に愛されし男の命は、確かに女王のお腹の中で息づいています…!」

「パリスの……命……?」

白く形の美しい下腹部を、綺麗な細腕が撫でる。

「兄を止められなかった私を許してくれるなら…! パリス王子の命を大切にするなら…! どうか、生きてこの光を繋いでください…! 愛しています、妻よ…!」

その瑠璃色の長髪を、男が撫でる。

パリスが生前、口癖のように言っていた言葉を思い出す。『光は絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く』

「ひっく… ぐすっ… うわああああああああああああああああああああああああん」

ヘレナ女王は、泣いた。

観客は、ヘレナ女王の美しさに終始見惚れて瞬きもできなかった。

正確には、印南ミコの美しさだが。

圧倒的な美しさ。青い宝石のような輝き。

これほどの美貌とナイスバディと爆乳が仮に別宇宙ではスタンダードな美女像だとしても、それでも綺麗な髪の見る角度によって光沢の色が変わる構造色は他の誰にも無い美しさ。

その輝きこそ、生きた宝石。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

それは、少女の変光星を映し出すプリズムでもあった。

女として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

青く美しい空飛ぶ宝石の眩さに大観衆が目を奪われたまま、赤いカーテンは閉じた。

 

 

病院には、橘が代表して訪れた。

ご両親に通していただいた病室の奥で、星江カナは両足をギブスで固定されていた。

予想したよりカナもご両親もピンピンしていて、橘は安心した。

それとも、橘の前だから無理しているのか。女優の命である足を折られて、しかも犯人が実の祖父だったのだから。肉体的な外傷はもちろんのこと、心の傷を想像すると心中察するに余りある。

「ごめんなさい…私のせいで皆さんに迷惑が…」

「あなたは何も悪くないわ。 悪いのは冷酷な凶悪犯よ。 無能な警察がマトモに仕事するとは考えにくいけど、せめて検事さんには殺人未遂で起訴してもらえるよう私も手を打つから」

「ありがとうございます、橘さん」

「本当はみんな行きたいって言ってたんだけどね。 ほら、大勢で押しかけたら迷惑でしょ?」

「舞台は…?」

「大成功よ、印南さんのお蔭でね」

本来は舞台の撮影は禁止なのだが。ここはフレキシブルに、理事会に内緒で撮った舞台映像を見せた。

「綺麗…」

ご両親だけでなく、星江カナまでもが。印南ミコを美しさに見惚れ、カメラを呆然と見つめていた。

ずっと眺めていたくなる、宝石の輝き。

煌めく青いプリズム。

見る角度によって光のスペクトルが変わる、構造色の輝き。

空飛ぶ宝石が舞う舞台を凝視するカナの目が、光を取り戻す。「私…女優やめたくない」

ご両親も、頷く。「橘さん、この子は強い子です」「あんなおぞましい悪魔に命を狙われても、午後にはリハビリ開始日程を先生にきいたんですよ」

午前中、東京湾でのガッツ星人とトライサーの戦いはテレビ局のヘリが生中継で撮影していた。世界中の人たちが、もちろんカナも、あの美しい光の天使を見つめていた。あんなドス黒い現実が立ちはだかっても、あんな小さな空飛ぶ宝石は果敢に立ち向かった。勇気と知恵と、この世のものとは思えぬ美しさで乗り越えた。その青く煌めく美しさが、カナの心を沈みかけた女優を再び呼び醒ましたのだ。

「どれだけかかっても、絶対に治します! リハビリがんばって、また舞台に立ちます!」

"現実"を撥ね返すから"実現"って書く。

そうだった。橘の口角が吊り上る。

「初演は千秋楽まで印南さんに繋げてもらえるようお願いしたわ。 再演からは…自分の足で立てるわね?」

「はいっ!」

それから、とカナは病床から橘を見上げる。

「私が、ありがとうって、お礼してたって、印南さんに伝えてください。」

ここからが重要なんですけど、と棚から色紙を取り出す。

「印南さんのサイン貰えたら……嬉しいなぁって。 …ファンになっちゃった」

 

 

夜、八橋はミコちゃんを連れてホテルをとった。

「分身体を身代わりに濡れ場シーンをさせるって、凄い能力だね」

「今日までそうやって守り抜いたんだよ? ダーリン以外はヤだったから♥︎」

「可愛い事言ってくれるじゃん」

夜景を背に、ミコちゃんを優しく抱きしめていた。

少し触れただけで折れてしまいそうなほど細く括れたウエスト。それでいて美の女神として出るところは出て、下は形のいい肉感的なお尻と、上はLカップのたわわに実った巨乳。

「ひとつきいていい?」構造色の綺麗な髪を、愛おしげに撫でる。「なんで俺がダーリンって?」

「夢に見たの」少女の細い腕が抱き返す。「ダーリンが助けてくれる夢」

幼い頃、ミコちゃんは毎夜毎夜、何かに追いかけられる夢を見た。ある夜は銃を持った兵士に。ある夜は戦車に。ある夜は軍用ヘリに。戦闘機に。またある夜は、漆黒の巨人に。そのたび、毎夜同じ男が助けてくれた。夢の中で幼い少女が男の名を尋ねると、男は名乗った。八橋八雲と。

「それで確信した。 ダーリンは運命の人だって」

「俺は何もしてないさ。 みんなを笑顔にできたのは、美しいヘレナ女王がいてくれたお陰。 ありがとう」

昼間はこっちの地球の星江がどうのとミコちゃんから聞こえた気がしたが、男には空飛ぶ青い宝石の美貌しか見えない。

「ダーリン、私と一緒に光の国に来て♥︎」

光の天使が、上目遣いで見上げる。

宇宙警備隊に入って、宇宙の平和を守ってほしいんだ、とM78ウルトラの星の実情を明かす。

「その暁には、好きなだけ触っていいよ♥︎」

可愛くウィンクしたミコちゃん。ナイスバディに実ったLカップが揺れる。

「マジで!?」

「あんっ♥︎ もう触ってるじゃん♥︎」

既に男の両手はミコちゃんの巨大な乳房を鷲掴んでいた。

さっきも直に触ったが、布越しでもその柔らかさと弾力は気持ちいい。

圧倒的なLカップ。神々しいLカップ。

八橋がミコちゃんの丸いふたつの果実を揉むたび、美の天使は「んっ♥︎ あっ♥︎」と

「キャリアは長いけど、小児特待で入った当時小学生だったからさ……♥︎ 私、14歳だよ♥︎」

テレポートで低空を浮上した空飛ぶ宝石が、耳元で囁く。

「わたし 処女だよ♥︎」

男は、天使をひしっと抱きしめていた。

「ミコちゃん、愛している」

長くきらめく綺麗な髪を、いとおしく撫でる。

「結婚してくれ」

断らないはずがなかった。ずっと探していたのだから。

「はい♥︎ 私を、ミコを、お嫁さんにしてください♥︎」

「愛してる」八橋が、ミコちゃんの小さな唇に吸い付く。

シャンプーの香りが、至近距離で鼻腔をくすぐる。

美少女の可愛い唇の味を楽しみながら、男の手は美少女の形のいいお尻を撫でた。

撫でるに飽き足らず、掴んだ。胸ほどではないが、お尻も掴みがいのある美尻で、指と指の隙間から肉が変形する。

男の手が、さらに女体美の下を這う。

布越しとはいえ、少女の最も大事な聖域に到達した。

少女のしなやかな脚線美が、きゅっと縮こまる。

ホットパンツの隙間から侵入し、ショーツ越しに輪郭が浮き出す長いスリットラインに沿って指を前後に擦ったり、スリットラインの最後尾をぷにぷに押すと、ミコちゃんが甘く囀りながら腰をもじもじさせる。少女にしか咲かないスリットラインの最後尾から、ねっとりした甘い蜜が分泌されショーツが湿る。

唇を離すと、美しい顔は、長い睫に咲く金色の瞳は、物欲しげに潤ませながら見つめていた。

それからは済し崩し的にミコちゃんを溺愛した。

この部屋は、照明機材が完備されている。撮影スタジオが実際に使う本格的な照明機材が揃っている。

部屋中の照明機材がミコちゃんを集中して照らす中、ミコちゃんが自ら衣を一枚一枚脱ぎ捨てる過程を業務用カメラで撮影する。

「綺麗だよ…ミコちゃん」

「…♥︎」

ブラから北半球が飛び出すほどの巨大な乳房、白い双の果実。

ショーツから上半分がはみ出る、形のいい引き締まったヒップライン。白い桃尻。

ブラを外すと、柔らかい乳肉が解放されてぷるるんと露になる。山頂の桜色の突起が左右別々の方向へ突き出すさまを、カメラはとらえた。

ショーツを下ろすと、ただでさえ白い美肌でも特に白く綺麗な、つるつるのスリットライン。いずれ新たな美少女が産まれ出るには小さすぎる裂け目は、無色透明な蜜がねっとりと糸を引いていた。

「その美しい体を全部見せて」

「♥︎」

一糸まとわぬ姿になった全裸の少女を、ベッドに横たえる。

全身を舐めまわすように撮影する。まずは全身が写るようにズームアウトで画面に収め。双の山頂の突起も、新しい命が産まれ出る少女の聖裂も隠さずレンズに捧げ、一糸まとわぬ裸身をベッドに預けた絶世の美女の白く均整に満ちた抜群のプロポーションは、長く綺麗な構造色の髪を扇状にひろげてなおんこと美しく、見る角度によって光のスペクトルが違って見える宝石のような輝きも相俟って、照明を白く反射する極上の裸身はいっそ神々しく見えた。

「ミコちゃんを構成するパーツ全てが美しすぎるよ… 極上の女体美だ」

「そんなに褒めても何も出ないよ♥︎」

ズームアップしたカメラが上から下へ這いずり回る。整った顔立ち。華奢な肩。Lカップの丸い巨乳と、その右の山頂の突起と、左の山頂の突起。細く括れた、華奢なウエストライン。小さなおへそ。そして、未だ誰にも侵入されたことのない、少女のぴったり閉じた小さな処女。

「じゃあ、ミコちゃんの女体美で最も綺麗な花を開くよ」

ぴったり閉じていた両足を抉じ開け、それでもぴったり閉じた綺麗な処女を開く。

小さな処女花は、透き通るピンクの花。

「や♥︎ そこは♥︎ やっ♥︎ やん♥︎」天使の美しい顔が、羞恥に火照る。

観音様を開いて、少女の胎内の内部構造を見た。奥の奥まで撮影した。

蜜を分泌するそこは、綺麗な綺麗なピンクの花。幾重もの輪紋の桜色の襞の奥に、ピンクの膜はあった。この日のためにとっておいた、14歳の少女の最も大切な膜。

「~~~~~♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」

少女の最も大切な聖なる楽園の中を、その奥の処女まで至近距離ズームアップで撮影されたミコちゃんは、ただの羞恥ではない。幼き絶世の美女は、少女としての全てを内部構造まで照明機材に照らされ、最深部まで業務用カメラに解析された。その"恥ずかしい"は、ミコちゃんの赤ちゃんのお部屋が八橋を夫と認証した。もう二度と戻れない。

以降の撮影はベッド脇の大口径カメラ(AI操作に切替済)に任せ、美の天使の抜群のプロポーションを思う存分に溺愛した。

キスしながら、白い極上の裸身を抱きしめて綺麗な髪を撫でながら、Lカップのたわわな丸い果肉を揉みしだく。山頂の突起を指でこねくり回す。摘む。擦る。なぞる。桜色の突起は、たちまちビンビンと硬く尖り、赤みを帯びた。もともと栄養価の高さも相俟って、今にも母乳が出そうな勢いだ。

唇を離し、今度は両手で天使の双の乳房に掴みかかる。ミコちゃんが「あ♥︎」と気持ちよさそうに喜ぶ。Lカップの張りと形の良さとボリューム。

14歳ながら過剰に発育した、栄養満点のLカップの乳肉を中で直に揉むたび、ミコちゃんは喘ぎ、一糸まとわぬ裸身をよじる。

突起を指で挟みながら、Lカップの生乳肉を握り、こね回し、押したり、引っ張ったり。

押すと放射状に乳肉が広がる。指が乳肉に沈む。引っ張ると、その柔らかさと素の肉量ゆえに伸びる伸びる。

山頂の突起を摘んで引っ張ると、やっぱり伸びる伸びる。これでもかというほど伸びる。ミコちゃんも「あああああん♥︎♥︎♥︎」と甲高い声で啼いている。引っ張ったまま、硬い突起を摘んだまま、乳肉を左右に揺らす。あまりのボリュームゆえ、山頂に引っ張られた乳肉は遅れてたぷたぷついて来る。左右に激しく振らすたび、ミコちゃんが「きゃああああん♥︎ きゃん♥︎ あん♥︎ あっあああ♥︎♥︎」と突起を興奮させながら感電したように痙攣する。

今ので快楽の絶頂に達したミコちゃん。激しく息を切らしながらも、突起はビィィィンビィィィンと硬く激しく上昇し、本当に噴火のように母乳が噴出しそうだ。

「おっぱいが絶頂に達するミコちゃんも、綺麗な髪から括れたウエストまで全部綺麗だよ。 愛おしい…」

双乳を根元から握ってみると、Lカップの丸い乳肉が質量保存の法則で前方へと風船のように飛び出す。

「ミコちゃんの爆乳… 最高だよ。 栄養満点の母乳タンク… もっと大きく育って…」

眼前に突き出した、ビンビンに尖った桜色の突起を、八橋は口に含んだ。

「ひゃあん♥︎」ミコちゃんの、甲高い声。

下で転がすと、ビンビン尖った突起はザラザラと甘酸っぱい。ミコちゃんが「ひゃあん♥︎ あん♥︎ やん♥︎ らめぇ♥︎」と快楽をビクビクさせる。

搾乳するように揉みながら、光の天使のLカップを搾り出しながら、突起を吸い出す。

吸いながらひっぱると、当然のごとく伸びる。Lカップの球形の乳房が円錐状にびよーんと伸びる。

強く吸われたことでミコちゃんは「きゃあああああああん♥︎♥︎」と頸椎を海老反りにして、また絶頂に達した。

「これが絶世の美女のLカップ… 妊娠したら、さぞかし甘くて美味しい母乳が出るだろうなぁ」

もう片方の乳房の山頂にも吸い付く。突起の麓のピンクと白の境界円を舌でなぞる。

双の乳房を搾乳するように揉み上げながら、突起を吸い上げる。ミコちゃんも「ひゃん♥︎ あん♥︎ やん♥︎ ひゃあん♥︎」と気持ちよさそうだ。

ちょっと突起のエッジに歯を立ててみる。ミコちゃんは「きゃあああああああああああ♥︎♥︎♥︎」と感電したように弓形に痙攣し、絶頂に達した。双の突起をビンビン尖らせながら、ミコちゃんは「はぁ♥︎ はぁ♥︎」と息を切らしながら「あっあ♥︎ あっあ♥︎」と快楽の余韻に震える。

「私のおっぱい… 気持ちいい…?」

「デリシャスだよ」

Lカップのふたつの膨らみを枕にして、八橋はそのふかふかの谷間に顔を埋めた。

さすがにキスマークをつけるのは明日に影響するため控えたが、乳肉の中でもぞもぞ蠢いたり、両手で挟んだりしたLカップの栄養満点の柔らかい弾力を味わった。

「嬉しい…♥︎ ずっとダーリンにこうしてもらいたかったの♥︎ 夢みたい♥︎」

「俺も…天国だよ」

本当に、天国だ。

次は八橋の指がミコちゃんの下腹部を這う。

「この辺に、ミコちゃんのヴァルハラがあるんだね」と愛おしげに撫でる。

「うん♥︎ 私とダーリンの赤ちゃん作る、大事なお部屋♥︎」

愛しい妻の小さな唇を吸いながら、綺麗な髪を撫でながら、片手は下腹部から産道をなぞるように垂直降下し、肉感的な子宮に比して小さな処女に這い降りた。女神の聖なる細密機構。

男の指が、絶世の美女の小さな処女花の中に侵入した。

輪紋の襞を指でくちゅくちゅ掻き回すと、ミコちゃんは「んんっ♥︎ んー♥︎」と細く括れた腰を淫靡にくねらせる。

唇を離し、「さすが処女だけあって、産道が開ききっていない。 指をキュウキュウ締め付けてくる」と感想を言うと、ミコちゃんは「やっ♥︎ 言わないでぇ♥︎」と首を横に振る仕草もたまらなく可愛い。いとおしい。

今度は両手で処女の観音を開いて、中の奥の膜を見る。開いたまま指を入れて、膜をベランベランと弄る。ミコちゃんが「やぁん♥︎ ダーリン変態チックだよぉ♥︎」と産道をひくひく痙攣させる。

また改めて処女の産道を指でクチュクチュ弄ると、ミコちゃんは「きゃん♥︎ やん♥︎」甲高い悲鳴で喜びながら、自ら腰を前後させて快楽を求めはじめる。処女の中がキュウキュウ抱き付いてきて指を離さない。

「あああああああああ♥︎♥︎♥︎」ミコちゃんの一糸まとわぬナイスバディが弓形に仰け反り、しばらくブリッジしたまま「あっあ♥︎ あっあ♥︎ あ♥︎」と小刻みに痙攣する。

ひとしきり感電したあと、ブリッジはベッドに着地し、Lカップの柔らかい乳肉が円を描きながらダイナミックに変幻自在にバウンドした。

「はぁ♥︎ はぁ♥︎」と甲高く息を切らすミコちゃん。処女の聖域から夥しい量の蜜が溢れ出て、シーツをとろとろに濡らす。

「好きだ、ミコちゃん。 愛してる」

「私も♥︎ ダーリン♥︎ 大好き♥︎」

女神の細身を抱き締めながら唇にキスすると、ミコちゃんもハチドリがシャーレボトルを吸うごとく八橋の唇を吸い返す。

ミコちゃんとキスしたまま、抜群のプロポーションを優しく抱き締める。絶世の美女の一糸まとわぬ裸身と密着したことで、たわわに実った2つの果肉の柔らかい弾力の先端に、コリコリした感触を感じる。

長く綺麗な髪をなぞる。見る角度によって光のスペクトルが瑠璃色にもサファイアブルーにも金色にも証明を反射する、構造色の長髪。

大口径カメラが、絶世の美女の艶姿を自動追跡する。

もう充分仕上がっただろう、と判断した八橋は、両手でミコちゃんの両腿を抉じ開け、とろとろになったミコちゃんの処女に狙いを定める。

「ミコちゃん……貫くよ」

「うん♥︎ 来てぇ♥︎ ワタシをダーリンのお嫁さんにしてぇ♥︎」

ズドン!!!!!

ブッチン!!!!!!!!!!!

八橋は、ミコちゃんの産道を刺し貫き、14年間守り続けた女神の膜を破った!

「ああああああああああああ!!!」ミコちゃんが激痛で悲鳴をあげる。

白い処女の清廉かつ肉感的な聖域に、鮮血の花が真っ赤に咲いた。

一糸まとわぬ全裸の少女が、「痛い いたいよぅ」と泣きながら髪を振り乱し、いずれ新たな戦乙女が産まれ出る少女の神秘の聖域から血が飛び散り、のたうち回る。

花咲く真っ赤な鮮血は、女の子の二度と戻らない処女喪失の証。膜が裂け、破壊された証。

真っ赤な血の花が咲く。一度しか咲かない、鮮血の花。どんな花よりも最も美しい花。

「ごめん、痛かった?」貫通した膜のその先の奥まで突き上げながらも、八橋はミコちゃんを気遣う。

ミコちゃんはふるふると首を横に振る。「嬉しい♥︎ うれしいよぅ♥︎ ダーリンとひとつになれたんだぁ♥︎」

痛くて泣いているのか、嬉し泣きか。涙が溢れてとまらない美貌の天使。美少女が可愛くしゃくりあげるたび、Lカップの巨乳が先端の突起をビンビン尖らせたまま白いたわわな乳肉を揺らす。

「可愛いなぁ。 こんな可愛い妻を貰えて俺は幸せさ。 動くよ」

産道を擦りながら、ミコちゃんの聖ヴァルハラの中を暴れ、フリズスキャルヴの扉を突く。

内壁の襞を抉るたび、少女の聖域の真っ赤な血の花から更に血が飛び散る。

最奥を突き上げるたび、ミコちゃんは「あ♥︎ あ♥︎ あん♥︎」と甲高い泣き声で裸身が跳ねる。Lカップのたわわな果実が左右シンメトリーに回転するように揺れる。

痛みで涙を流しながらも、ミコちゃんはとろんと目を気持ちよさそうにとろませていく。次第に快感が目覚め、痛みと快感が同時に押し寄せて天秤が振れているのだろう。

もともとフリズスキャルヴの形の良さに比して小さなビフレストだっただけに、そして処女だっただけに、ギュウギュウ締め付けてきつい。とはいえ、それゆえに産道が縋るようにキュンキュン切なげに抱き着いて離さず、鮮血と蜜が絡み付き、さらに揺れるLカップのインパクトが視覚的に助力して、八橋をミコちゃんの中で肥大化させる。狭い内壁を押し広げる。

やがて痛みより快感が勝り、口角を上げたミコちゃんの悲鳴が嬌声に変貌していく。

「あ♥︎ あ♥︎ あん♥︎ あん♥︎ あん♥︎ はぁん♥︎ あん♥︎ あん♥︎」

Lカップの白い巨乳が、山頂の桜色の突起もろともバウンドする。

「ダーリン♥︎ おっぱい触ってぇ♥︎」

美しき光の天使が可愛くおねだりするものだから、八橋はフリズスキャルヴの扉を突き上げながらも両手は天使のLカップのたわわな果実を鷲掴み、ボリューム満点の柔らかさと弾力を激しく揉みしだく。

「ああああああああああああああああ♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」ミコちゃんの聖ヴァルハラの中が、一際強くきゅうううううううっと締め付ける。快楽の絶頂に達したか。

「美しいよ ミコちゃん」

それから八橋がミコちゃんの聖ヴァルハラの中で激しく暴れ、フリズスキャルヴの扉を激しく突き上げたことで、何度も何度も「いく♥︎ いく♥︎ いくいくいくいくイックううううううううう♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」と絶頂に達し、甘い蜜と鮮血の混合を撒き散らしながらLカップのたわわな果肉を揺らし、一糸まとわぬ抜群のプロポーションを淫靡にくねらせ、甲高い声で啼きながら何度もキュンキュン締め付けてくれた。

「らめぇ♥︎ これ以上らめぇ♥︎♥︎ まだイってるのぉ♥︎ イクイクイクぅ♥︎ イキながらイクううううう♥︎♥︎♥︎」

完全に出来上がっている。

部屋は淫靡な水音と、肉がぶつかる音と、甲高い嬌声が、規則的に奏でる。

これなら。

「ミコちゃんッ! 好きだッ! 愛しているッ! 赤ちゃんいっぱい産むんだよッ!」

八橋が破裂寸前まで肥大化し、突き上げるスピードも最速まで激化する。ミコちゃんの聖ヴァルハラの内部を最も押し広げ、最も熱く摩擦し、ミコちゃんを最高潮の絶頂へといざなう。

「ああんあんあんあん♥︎ イクイクイク♥︎ 出してぇ♥︎ 出してぇ♥︎ 14歳のJC卵子じゅせーさせてぇ♥︎」

的確に男を興奮させる嬌声で泣くものだから、もうたまらない。聖ヴァルハラの最奥のフリズスキャルヴの扉を有り得ない速さで、一撃一撃も重く、乱れ突いていた。

ミコちゃんが「イックうううううううううううううううううううううう♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」と快楽の絶頂に達し、きゅううううううううううっと締め付けると、その締め付けがあまりに気持ち良くて、たまらず。

14歳の少女の最奥まで貫き、大爆発してしまった。

少女は「ああああああああああ♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」と一際甲高い声で絶叫しながら弓形にしなり、小刻みに痙攣してくれた。連動して、当然ながらLカップのおっぱいもブルンブルン飛び跳ねてくれた。

フリズスキャルヴの中を熱く満たすたび「あー♥︎♥︎♥︎ あー♥︎♥︎♥︎」と歓喜するミコちゃん。

鮮血の赤い処女花が恋する乙女のようにキュンキュン締め付けながらゴクゴク飲み干してくれて可愛いなぁ…。

ミコちゃんのフリズスキャルヴの中を、火傷しそうなほど熱い数十億匹の八橋が注ぎ込まれる。ミコちゃんの赤ちゃんのお部屋を満たしていく。

「やああああああ♥︎♥︎♥︎ イクぅ♥︎♥︎♥︎ イクぅ♥︎♥︎♥︎ イキっぱなしなのにまたイキながらイクぅ♥︎ 私の赤ちゃんのお部屋のナカぁ♥︎ ダーリンいっぱい♥︎ いっぱぁい♥︎ お胎のナカぁ♥︎ ダーリンの熱いのでジュージュー火傷してるぅ♥︎ 熱ぅい♥︎ あついよぅ♥︎ 赤ちゃんのお部屋のナカ内側からウェルダンされてイクぅ♥︎ イックうううううううううううううううううううううう♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」

トランス状態のフリズスキャルヴの中にさらに大量に注ぎ込むものだから、絶頂を上乗せされてさらなる絶頂がミコちゃんを熱くする。

ミコちゃんの赤ちゃんのお部屋の中に何リットルと大量に注ぎ込んだ後も、八橋は休みなしで抜かずにそのまま二回戦を責める。激しく研ぎ、激しく突き上げ、少女の聖ヴァルハラの中を蹂躙し、また最奥で数十億匹を吐き出して赤ちゃんのお部屋の中に注ぎ込む。

それでも八橋は執拗な責めをやめない。幼き絶世の美女がどんなにイキっぱなしだろうと快楽の余韻に震えようとトランス状態だろうと、ミコちゃんの内壁を研ぎ摩擦し、フリズスキャルヴの扉を激しく突き上げ乱れ突き、フリズスキャルヴの中に大量に注ぎ込み続けるのをやめない。

「産めッ! ミコちゃんッ! ミコちゃんそっくりの爆乳幼女を産めッ!」

「産みたぁい♥︎ 産みたいよぅ♥︎ ダーリンの赤ちゃん産めるなんて夢みたぁい♥︎ ミコ幸せ♥︎♥︎ 幸せ♥︎♥︎♥︎」

十数回目にもなろう、ミコちゃんのヴァルハラの中の最奥で盛大に爆発した数十億匹。

「あっああああああああああああああああ♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」ミコちゃんが嬉しそうに絶叫する。「ダーリン♥︎ ダーリン♥︎ お胎のナカぁ♥︎ ダーリンでいっぱぁい♥︎ あー♥︎ あー♥︎ 気持ちイイ♥︎」

夜通し、少女の甲高い嬌声がやむことはない。

大口径カメラは夜が明けるまで見届ける。幼き絶世の美女が長く綺麗な髪を振り乱す構造色の輝きを。抜群のプロポーションの一糸まとわぬ白い裸身が乱れる艶姿を。14歳の少女がLカップの白い乳肉を揺らしながら先端の突起を興奮させる神々しい映像を。

繰り返す絶頂の中、フリズスキャルヴの扉が緩んだ瞬間を八橋は逃さなかった。

八橋は、フリズスキャルヴの扉までも抉じ開け、14際の幼い少女の赤ちゃんのお部屋の中まで貫いた。

「ああああああああああ♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」それまで踏み入られなかったお腹の中の本当の最深部まで突き上げられたミコちゃんは、内壁をヒクヒクさせながらも全身を襲うゾクゾクした快楽に痺れ、甲高い絶叫を奏でながら八橋をきゅうううううううっと締め付けた。

赤ちゃんのお部屋の最奥の行き止まりの壁まで勢いよく叩きつけた八橋が、爆発する。

火傷するほど熱い数十億匹が赤ちゃんのお部屋を内側から満たしていき、焼く。

「きゃああああああああああああん いくいくいくいく♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎ イックうううううううううううううううううううううう♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」

扉越しに注ぎ込むより、妊娠率が100倍以上跳ね上がる。

卵管の中を、熱い数十億匹がどぼどぼと洪水のようになだれ込んで来る。

ミコちゃんは感じる。自分の卵管の中で、卵子が受精したのを。

命の神秘。少女の奇跡。

14歳の少女のJC卵子が、女として最高の幸せを喜ぶ。

「あはぁぁぁぁぁ♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎ ダーリンしゅきぃ~♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎ だいしゅきぃ~♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎」

赤ちゃんのお部屋の中を満たす高熱と多幸感と、全身を覆う浮遊感と快感、そして母親になって赤ちゃんを産む女の幸せを感じながら、ミコちゃんは絶頂に達したまま眠りに落ちた。

幼き絶世の美女が眠っても、さっきまで処女だった14歳の少女の赤ちゃんのお部屋の中で注ぎ込み続けた。プリズムの天使が胸にたわわに実らせた丸く張りのある形のいいLカップのふたつの果実を搾乳するように揉みながら。

夜が明けるまで、一部始終を大口径カメラは撮影していた。

この日以降、ミコは毎夜ウェディングドレス姿で結婚式の夢を見るようになったという。

 

 

印南ミコの美貌の噂は瞬く間にSNS上を駆け巡り、二日目以降は満席の大観衆の前での上演となった。

連日チケットの予約がいっぱい。大勢の大観衆がミコちゃんの美貌の虜となった。

2日目以降の夜もミコちゃんは八橋にホテルに連れられ、初夜に撮影した処女喪失ビデオを大画面に再生されながら八橋に抱かれた。

毎晩毎晩、ミコちゃんは八橋に抱かれ、性的快感を刻み込まれた。

かくして長きに渡るトロイ伝初演は、大盛況を博して無事千秋楽を迎えた。

千秋楽を終えた夜。

東京湾にキャストとスタッフ一同が集まる。

上空には、ガッツ星の宇宙船。

「あの光の戦乙女は、印南さんだったのね」

「まさか八橋が銀色の巨人だったなんて」

八橋八雲の契約期間は満了した。

印南ミコが星へ帰る時が来た。

今夜、2人はウルトラの星へ。

明日からは八橋はミコちゃんを守り、ミコちゃんを大切にし、宇宙警備隊のウルトラ戦士として宇宙の平和のために戦う日々が始まるのだ。

「勿体ないわね、ミコちゃんにはここでずっと舞台女優をやってほしいのに」と、ユウカ。

「君の顔をさらに美しくメイクアップできたこと、誇りに思うわ」と、アスナ。

「出会えてよかった。 また気が向いたらいつでも遊びに来てね」と、セラ。

「その男は最悪にバカでスケベな男だけど、最高の脚本家だった。 八橋をよろしくお願いね」と、アリエ。

「ミコちゃんが、りんかいを救ってくれた。 離れても、心は一緒だよ」と、リコ。

「宇宙って、やっぱ無重力で宇宙食かなぁ?」と、チアキ。

「まったく、最後の最後まで手のかかる子だったわね、八橋。 あっちに行ったら、光の国の諸先輩方に失礼のないようにね」と、橘。「それと…。 どんなことがあっても、絶対に印南さんを守るのよ」

「はい、ミコちゃんは宇宙を照らすネオンライトですから」八橋はミコちゃんの細く括れたウエストを抱き寄せる。美の天使を強く抱きしめ、離さない。

最後に、もう一人。

「私、もともと引っ込み思案で…。 自分に自信がなかったんです…。 そんな私を演劇の世界に連れてくれたのは、橘さんでした」

ご両親が押す車椅子に乗せられて、星江カナが見送りに来てくれた。

「演劇が大好きです。 絶対に足を治して、また舞台に立ちます! だから、その時は、その…」

引っ込み思案だったのは本当らしい。憧れの存在になってしまった印南ミコの青い構造色の輝きを前に、カナは緊張してもじもじ。

勇気を出して、顔を上げた。「その時は、印南さんとダブルヒロインで共演したいです!」

「私のことはミコでいいよ♥︎ ほら、私のほうが年下だから」

微笑んだミコちゃんの美貌。天使は、小指を差し出した。「約束ね」

「はいっ! 印… ミコちゃん!」満面の笑みで、2人は小指を結んだ。

「そろそろ行かなきゃ」ミコちゃんが、八橋に抱き着く。綺麗な髪が、街の灯りを七色に反射する。「お礼を言うのは私のほうだよ。 少しの間だったけど、劇団りんかいのみんなと一緒にミュージカルができて楽しかった」

八橋は、何も言わずミコちゃんを抱き寄せた。

ミコちゃんが微笑む。

「誰もがみな、幸せの青い鳥を求めてる。 愛する気持ちこそが、夢を実現するパワーだから」

ありがとう、みんな―――

ミコちゃんと八橋は、テレポートで消えた。

直後、上空を浮遊していた宇宙船が上昇する。

水晶のような宇宙船は、そのまま天高く、宇宙へと飛び去った。

幸せの青い鳥は飛んでいく。

新しいどこかを、光の翼で照らしに。

 

 

「ウルトラの星にはいつごろ着きそう?」

「そうねえ 最速で半日ってところだけど」

M78スペース行きの宇宙船の中で、ミコちゃんは悪戯っぽく口角を上げる。

「せっかくだから、時間稼ぎしちゃう?」

幼き絶世の美女が、2人に分身した。

Lカップの双乳と双乳が、左右から密着する。

分身した美の天使は、2人とも瞳にハートが灯っていた。「「もう我慢できないよぅ♥︎♥︎」」と腰をもじもじさせている。スカートからは、既に甘い蜜がとろ~りと腿を伝う。

上体を上下しながら、Lカップの柔らかい感触を押し付けてくる。その柔らかい双乳の山頂で尖ったコリコリが発情している。

こんなに可愛い絶世の美女2人をはべらせてハーレムなんて男冥利に尽きる。喜び勇んで八橋は2人を抱きしめた腕でLカップの乳房を側面から触ると、2人のミコちゃんは「あん♥︎ おっぱい気持ちいい♥︎」と歓喜する。

「よぅし! 可愛いミコちゃんを妊娠させてミコちゃんそっくりの可愛い娘を産ませるぞ! 産ませたロリ爆乳幼女もパパが処女をブチ破って母娘同時に妊娠させるぞ!」

そう、ここまでは勇んでいた。9対1だと知るまでは。

「ダーリン♥︎」「「ダーリン♥︎♥︎」」「「「「ダーリン♥︎♥︎♥︎♥︎」」」」

「え…?」

幸せの青い鳥たちが、群がる。

分身した9人のミコちゃんが抱き着く。瞬く間にLカップのボリューム満点に全身を覆い尽くされる。

柔らかい感触。乳圧の暴力。

「私、体がヘンになっちゃったの♥︎」「ダーリンがいなきゃ生きていけない、えっちな体になっちゃった♥︎」「ずっとずっとダーリンとセックスしたいよぅ♥︎」「体がいくつあっても足りないよぅ♥︎」

体がいくつあっても足りないからって、こんなに分身しますか!?

全員の巨乳が、快楽を求めて八橋の体で気持ち良くなりはじめた。

中には自分で自分のLカップ巨乳を揉みしだきながら八橋に押し付ける少女たちもいる。

「ダーリン♥︎ セックスしてぇ♥︎」「おっぱい触ってぇ♥︎」「おっぱい吸ってぇ♥︎」「お尻触ってぇ♥︎」「「ああん♥︎ 好き♥︎ ダーリン好きぃ♥︎」」「ダーリン♥︎ 妊娠させてぇ♥︎」「赤ちゃんのお部屋にビュルビュルしてぇ♥︎」「産みたい♥︎ 産みたい♥︎ 産みたい♥︎ 産みたい♥︎」

いくら極上の女体美が神々しい母乳満点の美少女とはいえ、14歳の少女には破瓜の血の痛みとセックスの快楽は耐えきれなかった。加えて、子宮に命を身籠る熱さと気持ち良さ。昨夜まで処女だった少女は、セックス中毒になってしまったのだ。

孵って最初に見た父親にどこまでもついていく雛鳥のように。

9羽の幸せの青い鳥たちが、構造色の綺麗な髪を羽ばたかせながら、たったひとりの男に密着する。14歳ゆえに張りのある形のいい丸いLカップの巨乳で包み込む。

「「ダーリン♥︎♥︎ 私たちのこと、いーっぱい愛してね♥︎♥︎」」

 

(イラスト: 未定 様)

 

なすすべなく八橋はミイラになるまで搾り取られ、宇宙船に男の断末魔がこだましたところでクリスタルの宇宙船を吊り上げた舞台装置がフェードアウトし、舞台の赤いカーテンは閉じた。

劇場ホールの証明が、全て点灯する。

満席の大観衆の拍手喝采に迎えられながら再び開いたカーテンから、キャスト一同が躍り出る。

そのセンターに、印南ミコはいた。

「本日は劇団りんかいミュージカル『ガッツ星人 幸せの青い鳥』に御来演いただき、まことにありがとうございます!」

大観衆を前に、ミコちゃんがお辞儀。構造色の長く綺麗な髪が垂れ下がる。14歳の幼い少女のLカップのたわわな双乳が振り子状に揺れる。

「只今の出演は」

「八橋八雲」

「星江カナ」

「菅生ユウカ」

「山瀬アスナ」

「ショーン・ホワイト」

「ラン」

「イカルガ・ジョージ」

「セラ」

「石刈アリエ」

「斎田リコ」

「松戸チアキ」

「吉良沢優」

「一条寺友也」

「アイハラ・リュウ」

「グランデ」

「橘さゆり」

「なんで私まで… あ、印南マコです」

「そして座長を務めさせていただきました私、印南ミコでした!」

改めて、喝采の拍手がキャスト一同を包む。

「こうしてお届けできたのも、応援してくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました! 本家ウルトラシリーズに出演された方々とご一緒して舞台の上に立てて、夢みたいです!」

「最後までご観劇くださってありがとうございます! このシリーズはダーリンが遅筆なせいでノロノロ更新になってしまいますけど、長い目で見て『怪獣娘 ウルトラ戦士徴兵指令』をお楽しみいただけたら幸いです! もしよろしかったら、お帰りの際に評価していってください! おねがぁい♥︎」

美少女が綺麗な髪をなびかせながら、可愛く目を潤ませる。細く括れたウエストに不釣合なLカップの巨乳を揺らす。

「挿絵を描いてくださった未定様も本当にありがとうございます! 未定様はキュートなタッチで私をこんなに可愛く描いてくれて、もう大好きです!」

ミコちゃんを中心にキャストたちが互いに距離をとり、フォーメーションを配置する。

「それでは最後に踊ります! ―――」

 

「―――Starlight!」

 

 

ガッツ星人の歌 FIN



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エレキング もっと大切な人


(イラスト: らすP 様)


一つの生命が他の生命を支配し、貪り尽くすなんて不自然よ!最後は全部破滅するわ。
─────ベロニカ・アレイ


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

───ぼく、おおきくなったらウルトラマンになるんだ

 

───ぼくもウルトラマンになる

 

───いっしょだね、としくん

 

───ぼくとシュンにぃ、ふたりでへんしんしてちきゅうをまもろうね

 

───やくそくだよ

 

───やくそく

 

 

 

「約…束…?」

窓から差し込む日の光が目を覚ました朝。

部屋の棚に並ぶウルトラ怪獣のソフビ。

展示台に陳列された、歴代ウルトラマンの変身アイテム。

六畳間で目を開けた男の名は、落雁歳三。

このボロアパートに独りで住む、見ての通り特撮マニアの中年男だ。

懐かしい夢を見た気がした。

幼い日の、遠い記憶。

「ウルトラマンになりたい、か───」

なんで今さらあんな夢を───

───と逡巡していると、手に柔らかい感触が心地いい。

「ん? 何だ? この柔らかくて弾力のあるのは?」

柔らかくて、弾力があって、ふわふわで、気持ちいい…。

この感触は……

「って、えええええええええええええ!?」

朝起きたら、妖艶な美女が歳三の布団の中に侵入していた。

しかも美女は全裸。

歳三の手は、美女の巨乳を触っていた。

「誰!? 誰だこのメチャクチャ可愛いおっぱいちゃん!?」

こんなに美人な女の子を見たことがない。美しすぎる。

シュークリーム色の髪をふわふわミドルヘアーにした、妖艶な美女。

誰この物凄い美人で美肌な女の子!?こんなに美人な子見たことないよ!?デリヘルなんか呼んだっけ!?こんなに可愛いデリヘル嬢いたっけ!?ってか俺そんなベロベロに酔ったっけ!?

一旦状況を整理しよう。朝起きたら、俺の布団の中で見知らぬ美女が全裸で寝ていた。

顔が近い!白くて!綺麗な卵肌!端正な顔立ち!妖艶な色気!こんなに美しい女の子がこの世にいたなんて!かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

女優か!?モデルか!?高級ソープ嬢か!?こんな美少女がいるなら何かしら有名になっているはずだ!なのに思い出せない…なぜだ…!

しかもおっぱいデッカ!この華奢な細身で何だこの爆乳は!男の掌でも掴みきれないほどデカい魔性の乳を掴んで以来、吸い付いて離れねえ!おっぱいの妖艶な魔力に魅了されたみたいに手を離せねえ!

「ん…っ」

やばいやばいやばい起きる起きる起きる!栄養満点の母乳タンクを揉みしだいてるって気付かれる!なのに魔乳のボリューム満点と弾力と柔らかさが気持ち良すぎて自制心が効かねえ!揉むのをやめられねえええええええええ!

「あら~? おはよ~」

真の抜けたソプラノの声が至近距離で。美しい双眸を開いた美貌が至近距離で。

「ごめんなさいッ! おっぱいちゃんの爆乳が柔らかくて気持ち良すぎてつい!」

素直に謝った。それでも手は勝手に動いておっぱいちゃんの爆乳を生で直に揉み続けた。

「あらあら~ そんな謝らなくてもいいのよ~ 減るもんじゃないし~」

シュークリームのようなふわふわミドルヘアーの美女は、ほんわかしたソプラノ声で許してくれた。

妖艶な美女が起き上がる。白い裸身を覆っていた布団がはらりと落ちる。

魅惑のエロエロボディ、その全貌が明らかになった。

身長152cm。スリーサイズB98/W54/H86。おっぱいのサイズ、推定Kカップ。

なまめかしい女体美をくねらせる、魔性の子宮。妖艶に括れた、魔性の腰。淫靡に2つ実った、魔性のKカップ魔乳。

白い肌が、朝の陽射しを反射して眩しい。

「はじめまして~ 私、光の国から来た怪獣娘のエレキングです~」

怪獣娘?エレキング?何のこと?

いや、エレキングなら知っている。ウルトラマンという特撮シリーズに登場する怪獣だ。ピット星人という美しき女性の姿をした宇宙人が育成した、電気ウナギのような怪獣。特撮マニアの歳三が知らない筈がない。

そのソフビは、この部屋のテレビの真上、一番目立つガラスケースで大切に飾っている。幼い頃の、思い出の品だ。

でも、怪獣娘とは?この妖艶な美女がその着ぐるみを着るのか?

それを深く考えられるほどの思考力は、既に歳三には残されていなかった。

あまりにエロすぎる美の絶景に見惚れた歳三は、生物学的に歓喜している。

美女の淫靡な女体美から漂う甘いアロマの香りが、猶更のこと思考を麻痺させる。

何より、栄養たっぷりボリューム満点で触り心地が気持ち良すぎるKカップの魔乳が。

「は、はじめまして… 落雁歳三です」

「よろしくね~ としくん~」

としくんって呼んでい~い?と明るい笑顔で癒してくれる美少女おっぱいちゃん。としくん、か…。その愛称で呼ばれたのは幼少時代以来だろうか。

なんか自己紹介してますけど、おっぱい揉んでることには変わりはないからね!?

「おっぱいちゃんは… 何しに地球へ?」

「うふふ~ よくぞきいてくれました~」

おっぱいちゃん呼ばわりを怒らないって、どんだけ慈悲深い聖母なんだ。

某アニメのおっぱい管理人さん張りの慈母じゃないか。

もっとも、声はS藤R奈というより、ふわふわミドルヘアーの妖艶な美女はT井H佳に近いが。

「としくん~ ウルトラマンになりませんか~?」

「ウルトラマン?」

「そうよ~」おっぱいちゃんが微笑む。「宇宙警備隊は慢性的な人手不足で~」

おっぱいちゃんの説明を要約すると、概ね以下の通りだ。今、宇宙はシャドウという、形あるもの全てを無に帰する負の生命体に狙われている。奴等の侵略から宇宙を守るために、宇宙警備隊のウルトラ戦士は戦っている。光と闇の戦乱は日に日に激化の一途をたどり、ただでさえ全宇宙規模で破壊活動を繰り返しているシャドウの発生が相手では戦士が何体いても足りない。そこで彼等は怪獣娘たちを遣わし、ウルトラマンに変身できうる男をスカウトしている、ということだ。

「ウルトラマンねぇ…?」

「信じてない、って顔ね~?」

そりゃそうだ。あまりに非科学的な話で頭がついていけない。俺がウルトラマンになれる?何を言っているんだ。この妖艶な美女が妄想で作り上げた英雄叙事詩と考えた方が合点がいく。

「じゃあ~ 証拠を見せてあげる~」

おっぱいちゃんは、豊満なKカップの谷間からスマホのような端末を引っ張り出す。

「ソウルラ~イド エレキング~」

端末に埋め込まれた鉱石の輝きが目をくらましたと思うと、目を開けたらそこは宇宙空間のようなインナースペースが広がっていた。

おっぱいちゃんと歳三、2人だけの空間に、6枚の翼を背負った謎の超人の巨体が降臨する。

超人の手に乗せるは、電気ウナギの剥製。

電気ウナギはピンクの光につつまれながら分裂し、パーツ一片一片が意志を持って飛びながらおっぱいちゃんの裸身に付着する。

戦乙女(ヴァルキュリア)の天衣は、2言で体現するならスリングショットと極端に短いタイトミニ。

ホルスタイン柄の天衣で辛うじて局部を隠しただけの、全裸とほぼ変わらぬ肢体。

ただ大きく変わった部位といえば、頭部で駆動する2本の三日月状のアンテナと。

背中で無重力で浮遊する、長い長い天女の羽衣。

宇宙怪獣 エレキング

桃源郷の羽衣天女は美しき慈母にして魔性の艶女。

人ならざる美しき天女に変身したところで、超空間から当初の歳三の六畳間に引き戻された。

厳密には"天衣"と"天女の羽衣"は別々の定義を指す用語だ。前者はおっぱいちゃんの裸身に張り付く布を指し、後者は背後で浮遊する飛行ユニットを指す。

「本物…?」

「信じた~?」

マジックじゃないよな…?

「これが、怪獣娘…?」

「ウルトラマンになってくれたら~ 報酬は私の体でいかがかしらぁ~?」

Kカップの生乳肉を揉みしだく歳三の手を、おっぱいちゃんはとってさらに深くへ潜り込ませる。ふんわりマシュマロのように柔らかい。大人の掌でも掴みきれないほど巨大なボリューム満点の魔乳は、歳三の手をさらに深くへ沈み込ませる。指の隙間から乳肉が包み込む。このまま腕も、全身もブラックホールのように吸いこまれそうだ。

 

(イラスト: らすP 様)

 

てかスリングショットの布面積薄すぎ!タイトミニ短すぎ!上に乗っかって足開いたらローアングルからは丸見えだよ!まさかのノーパンかよ!

「本当に、いいの? おっぱいちゃん」

「いいわ~ としくん、おっぱい好きみたいですもの~ 男の人がそういうところ見るの、女の子にはバレバレよ~?」

天衣を形成していたパーツが剥がれ落ち、アンテナと天女の羽衣以外は全裸に戻った。

魅惑の女体美が、なまめかしい子宮をふりふりしながら収縮させる。

「好きなだけ~ 触っていいのよ~」

もう理性が保てなかった。

歳三は、おっぱいちゃんを押し倒していた。

「あん♥」

Kカップの魔乳が、いやらしく揺れる。

おっぱいちゃんの白くボリューム満点のKカップ生乳肉に比して、山頂の突起は小さい。薄い桜色の突起。

「おっぱいちゃんッ…! 大好きだよッ…!」

「やあん♥」

歳三は、おっぱいちゃんの白く柔らかいKカップに吸い付いていた。山頂の綺麗なピンクの突起に。

甘酸っぱい味が広がる。

おっぱいちゃんが、甲高い泣き声で絶叫しながら裸身を捩る。繁殖的な下腹部が、柔らかく瑞々しい両腿と、女の子の一番大切な白く綺麗な繁殖聖裂を、キュっと閉じる。

口の中で甘い突起を舌で転がすと、突起はビクンビクンと硬く尖っていく。

一度口を離して、それを確認する。

さっきより赤みを帯びたピンクは、ふるふると小刻みに震えながらピンピンと天を衝く。

甲高い声で喘ぐおっぱいちゃんの上体が小さく跳ねるたび、天を衝く魔乳は、たぷん、たぷん、とバウンドして変形しては周回する。持ち主の美貌と妖艶な女体美も相俟って、その絶景は圧巻だ。

再び口に含み、今度は吸いながら引っ張る。

「ひゃん♥」

引っ張っても柔らかい。上へ吸い上げるたび、Kカップの乳肉は長く変形する。こんなに長く伸びるのか、ってくらい変形する。

ちゅぽん、と限界まで吸い上げて弾くと、おっぱいちゃんが「ひゃぅううん♥♥」と甲高い声で歓喜する。反作用で落下した乳肉がおっぱいちゃんの女体美に沈んで、また弾力でバウンドする。

こんなにおっぱい大きくて、しかもメチャクチャ美人なデリ嬢を抱いたことは一度も無い。

「痕つけていい?」

「うん♥ つけてぇ♥」

おっぱいちゃんのボリューム満点の双乳の白い乳肉を吸い取ると、ぷるるん、とプリンのように揺れる。北半球、横乳、谷間、南半球。

Kカップの白い乳肉は、至るところキスマークだらけになった。

「ああん♥ いいわぁ♥ おっぱいジンジンして気持ちいい~♥」

突起だけでなく、乳肉のあちこちを吸われたことでおっぱい全体を襲う快感がおっぱいちゃんを震わせている。北半球も、横乳も、谷間も、南半球も。ありとあらゆる乳部位に刻まれた痛みが2つのボリューム満点を襲う。

当然のごとく、今度はまた突起に吸い付く。

ちゅううううううううっ!

と強く吸う。

「はあああああああん♥♥♥」

口の中に、甘い味が広がる。コクがあってクリーミーな、甘くて美味しい。

(おっぱいちゃん…! まさか…!)

直感した。これは母乳だ。

美味い!美味すぎる!

おっぱいちゃんの母乳は上質すぎる。地球上のどんな牛乳よりも甘くて美味しい。

こんなに美味しい飲み物がこの世にあったなんて!

歳三は夢中になって吸った。

ちゅううううううううちゅううううううううっ!

何もかも忘れて夢中で吸った。

おっぱいちゃんの母乳の極上すぎる味に夢中になった。

おっぱいちゃんが解放されたのは、歳三が満腹になった後だった………。

 

 

(イラスト: らすP 様)

 

 

「おっぱいちゃん、近くのカフェで朝ごはんどう? おごるよ」

歳三の腹は満たされたが、そういえばおっぱいちゃんはまだ何も食べていないのでは?そう察した歳三が、動きやすい外出着に着替え防刃チョッキをはおりながら布団に呼びかける。

はぁはぁと甘い息を荒げながらぐったりとしたおっぱいちゃんの一糸まとわぬ裸身は、Kカップの双乳の乳肉はだらしなく蕩けながらも山頂のピンクの突起がまだビンビンと苺のように立塔し、蛇口の壊れた水道のように母乳を撒き散らす。

「ありがとぉ~♥ じゃあお言葉に甘えて~♥」

エロい形の下腹部、というか子宮をヒクつかせながらも、おっぱいちゃんはソフトなソプラノ声で生返事。

ムクリと起き上がる全裸の美女。

あまりに美しく均整に満ちた裸身。瑞々しい卵肌。端正な顔立ち。豊満なKカップの魔乳のボリューム。桜色の突起の美味しそうなこと。淫惑の女体美を形成する全てが魔性。

「おっぱいちゃんってさ」

「なぁに~?」

「たぶんピット星…?かな?って、やっぱ美人揃いの星?その中でもおっぱいちゃんってトップクラスな部類っしょ?」

「どうかしら~?」

「おっぱいだけじゃなくて腰回りもエロいね。 地球の女とは桁違いだよ」

「正直な男の人は好きよ~」

母乳の飛び散る勢いが滴り流れる程度に収まった頃、おっぱいちゃんは「あぁ~ん♥ 忘れてたわぁ~」とKカップの魔乳をたぷん、と揺らす。

「としくん~儀式しなきゃ~」

「儀式?」

「ウルトラマンになる儀式よ~」

そうだ。

おっぱいちゃんの言うことが本当なら、歳三はウルトラマンに変身せねばならない。

特撮知識が役に立つなら、恐らく人間がウルトラマンに変身するには変身アイテムが必要なはずだ。

「おっぱいさわって~」

「さっき思いっきり触るどころか搾乳までしたけど……もっと触っていいの?」

「今度は守りたい人を思い浮かべて触って~ そしたらニーベルリングとガヴァドンUカードが出るわ~」

「そんな簡単でいいの?」

「簡単でしょ~」

よし。

歳三は両手をワキワキさせながら、手を伸ばす。

おっぱいちゃんを守りたい。おっぱいちゃんを守りたい。おっぱいちゃんを守りたい。

「おっぱいちゃんッ!」

「あんっ♥」

再度、おっぱいちゃんのKカップ生乳肉を鷲掴んだ。

もみもみもみもみもみもみもみ。

おっぱいちゃんを守りたい。おっぱいちゃんを守りたい。おっぱいちゃんを守りたい。

もみもみもみもみもみもみもみ。

「…あれ?」

いくら揉んでも、変身アイテムは出てこない。得られた結果といえば、おっぱいちゃんのKカップ魔乳はマシュマロのように柔らかくて指の隙間から乳肉が飛び出すほどふわふわだという事実と、おっぱいちゃんが甲高い喘ぎ声で気持ち良さそうに涎を滴しながらアヘってるという事象だけだった。

「あらら~? リングくんとカードくん、どうしちゃったの~?」

お~い、リングや~い、カードや~い、と自分のKカップ母乳たっぷり栄養満点の魔乳に呼び掛けるおっぱいちゃん。

「もう一回チャンスをくれ!」

「あぁ~ん♥」

二度目の正直。

結果は同じだ。

「なんで………」

「あの子達、お寝坊さんなのかしら~?」

もう一回やってみましょ~、と歳三の手を取るおっぱいちゃんだが、歳三は「ゴメン! 本当にゴメン!」と白いふんわり魔乳から離した手を合わせる。Kカップの白いマシュマロが離した反作用でぽよよん、と柔らかく弾ける。「今から出勤だから帰ってきてからまたお願いしますッ! この埋め合わせもするから」

「どこに『出勤』するの~?」むうっ、と頬を膨らますおっぱいちゃん。「としくんの勤め先はウルトラの星でしょ~?」

御尤もだ。こんなに蠱惑的な女体美を前払いで搾取しながらヤり捨てるなんて我ながら最低の男だ。

「ごめん…」申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、俯く。「俺は、ウルトラマンになれるような強い男じゃない」

「そんなことないわぁ~」

元気出して~、諦めないで~と相変わらず遅いトーンではあるがソフトなソプラノ声で激励するおっぱいちゃん。

歳三は元レスラーだ。全身が筋肉の鎧だという自覚はある。レスラーを辞めた今でも、腕っぷしが強くなければ()()()()に転職できなかった。

体を筋肉で武装した歳三なら強い戦士になれる、とおっぱいちゃんは見込んだのだろうか。

問題は()()()()だ。

「朝メシおごるついでだしさ、ついて来る? 俺の勤め先」

意外な誘いを持ちかけられ、全裸の美女がきょとん、と首を傾げる。

「実際に見たら全てが分かるよ、俺が」

 

何の仕事をしているのか

 

 

地球人が実現できる美貌には限界があるが、ピット星人は違う。

おっぱいちゃんは先ほどの天女の羽衣をマフラーのように首に巻き、布面積ゼロに等しいスリングショットとタイトミニの天衣を着直し、歳三に連れられてボロアパートを出る。とてとて、と可愛らしい乙女歩きでついて来る。マフラーになっても羽衣は羽衣、生き物のようにふわふわ重力に逆らう。地球人離れした妖艶な美女のぽわぽわ宙を浮かぶような性格を体現するように。

さて、絶世の美女が外を出歩いたら街がどうなるかは明白だ。

すれ違う人々が写メ、写メ、写メ。

こうして歳三の後をついて歩くだけで、街中がおっぱいちゃんの美貌に釘付けだ。

口々におっぱいちゃんの美しさを絶賛する声。可愛い。こんなに可愛い女の子がいたなんて。新進気鋭のモデルさんかな?超美人。肌キレー。卵肌ってやつ?写メって写メって。

おっぱいちゃんがそんなに幼く見えるのか、円光を疑う者達もいた。何あの可愛い子?中学生?おっぱいデケー!あんな可愛い美少女とヤってるなんて羨ましすぎるぜ!

おっぱいちゃんの周囲は、あっという間に人だかりが群がった。

当の美女は愛想よく笑って手を振ってるけど。

ごめん、おっぱいちゃん。地球人はおっぱいちゃんのようなハイレベルな美貌に餓えてるだけなんだ。地球人を嫌いにならないでやってくれ。

と、そこへ、後方から車輪の音が聞こえる。

歳三が振り返ると、自転車に乗った主婦がカゴに園児を乗せていた。

今、この歩道は人だかりで塞がっている。このままでは。

「すみませーん! お子様が通りまーす! 道を空けてくださーい!」歳三は後方からの自転車を指差しながら人だかりに呼びかける。声を張り上げる。

元レスラーだけに、バキバキの腹筋から出る声はよく響いた。人々は小さな命のためにどいてくれた。お蔭で余計な減速することなく通過できた直後、カゴに乗せられた少女が別れ際に「ありがとー」と手を振ってくれた。

園児にサムズアップを送り返した後、人だかりにも「ご協力ありがとうございました!」と頭を下げた。

おっぱいちゃんも、つられて頭を下げた。Kカップの魔乳が、桜色の突起が見えそうなほど肌を露出したKカップの白い生乳肉が、振り子状に揺れる。

タイトミニがあまりに短いおかげだ、お辞儀をしただけで捲れてノーパンだと明らかになった。形のいい、白桃のようなヒップライン。ヒップラインよりさらに下、背後からでも腿の隙間から見える、新生児が産まれ出る聖なる扉。女の子の最も綺麗な観音扉。

後ろからも前からもシャッターの嵐。

突如として始まった天女の撮影会は、大盛況にて幕を閉じた。

 

 

約束通り朝食をおごってもらったカフェで、羽衣の天女は幼女の笑顔を思い出した。

腕っぷしが強いだけじゃない。咄嗟に子供を慮る優しさ。

ウルトラ戦士になるために最も大切な、慈悲の心。

だとしたら、ますます原因が分からない。なんでとしくんがウルトラマンになれないの?

まあ、それはともかく。

ところで、カフェの店内を見回すと妙な光景があった。

客が自分たち以外、全員老人なのだ。

店内に充満する違和感を天女が気付いたのが顔に描いてあったのか、歳三が解説する。「ただでさえ狭い国土面積に人口が増えすぎた」

事態の深刻さを羽衣の天女が思い知ったのは、電車に乗ってからだ。

先頭車両に座ったエレキング。

異変は既に起きていた。

「…………」

天女の美しい顔が、苦痛にゆがむ。

エレキングが座ったのはロングシートだ。両脇に座っていた老人が、肘でエレキングの横乳をつついた。天女がビクン、と恐怖で竦み上がる。

2匹のジジイは、左隣が70後半、右隣が80前半だろうか。執拗におっぱいちゃんの白いKカップをプニプニと押す。押されるたび、マシュマロのような乳肉は柔らかく凹む。引くたび、おもちのような乳肉は弾力で弾き返して元の形に戻る。

おっぱいちゃんが本気で嫌がっているのは言うまでもない。

向かい合う吊革に立つ歳三を見上げた天女の目は、「たすけて…」と涙ぐんで訴えていた。

「オイ、ジジイども」歳三が2匹の腕を掴む。「何だぁ…? この手は」

2匹の痴漢が痛い痛い痛いと無様に喚く。そりゃそうだ、元レスラーの握力たるや。

「駅でサツに引き渡すからな、取調室でブン殴られて来い。 テメーらの顔も名前も明日の朝刊に載るからな」

この期に及んでジジイ2匹がサツはやめてくれ、引き渡さないでくれ、と見苦しい命乞いをするから、歳三は「あ゛? 痴漢はたらいて何様だゴルァ゛」とドスの効いた声で威圧して竦みあがらせた。

「まったく、これだから老人は」呆れて溜息をつく歳三。

以上だけでも、ほんの序章に過ぎなかった。

老人は2匹だけではない。

「ヘイヘイ、そこの電気ウナギの嬢ちゃんにカブトムシのニィちゃんや」歳三の隣の吊革に立っていた3匹目のジジイが、次は絡んで来た。「年寄りに席を譲らんかい」

何をふざけているんだ。このジジイも70後半くらいか?

老人に凄まれたおっぱいちゃんが気圧されるも、歳三はエレキングの華奢な肩を優しく撫でて宥める。「気にしなくていいよ、おっぱいちゃん。 この惑星にはレディーファーストって礼節があるんだ」と、優しく慰める。

歳三が吊革に立っている理由は他でもない。おっぱいちゃんがシートに座って然るべきだからだ。

「何じゃと! ニィちゃんこそ年長者を敬う心はないんかい!」と喚き散らすジジイを、歳三は毅然と鋭睨する。

「ずいぶん元気そうじゃねえか。 見たところハイキングにでも行くみたいだが? 俺たちはこれから仕事なんだよ。 汗水たらして働きに行くんだ」

「ワシじゃって昔は…!」

「もっとも、どんなに働いたところでテメーらの年金で根こそぎ毟り取られて餓死する運命だがな! 俺たちの返り血べっっっっとりついた年金でパッパラ遊びに行くハイキングは楽しいか!」

先ほどカフェを占拠していた老人軍団の正体、もう分かっただろう。

ああやって平日の朝っぱらからカフェを占拠してるのさ。

未来あるはずだった人間たちが寿命を削って血を吐いている平日に、その臓器を食肉にして搾取した年金で朝っぱらからカフェでバカ騒ぎして遊びほうけていたジジイどもだ。

十分生きた強欲な罪人どもがこれ以上生きながらえるために、小さな命たちの寿命を短命にして刈り取るなんて、間違っている。

本題に戻ろう。

老人は叱られたことが無いから甘ったれた根性がこびり付いている。脳細胞の老朽化も相俟って、自己中心的で短気なわけだ。誰も叱る人間がいなかった、甘やかされて育った証拠に、叱られ慣れていない老人は歳三に叱られただけで縮こまったではないか。

「こんなに可愛い女の子を立たせようってのか?」

美しき羽衣天女には、花の香りが相応しい。だが日本の通勤電車はどうだ。

密閉された車両の中を、悪臭が充満する。それもそのはず。

人間を運ぶその箱の内側は、老人だらけだったのだ。

先頭車両だけじゃない。2号車も、3号車も、恐らく全車両が。

タンパク質が腐乱したような異臭は、花咲くアロマの香りをも押し潰すほど。

「ごめん…付き合わせちゃって」レディーファーストでエレキングに席を譲って吊革に立つ歳三が、なぜか謝る。

ここでエレキングは「気にしないで~」とお礼を言い損ねた。4匹目の老害さえ発見しなければ。

先頭車両なんか居合わせてみろ、運転士に怒鳴り散らす老人を目撃するのは当たり前だ。

「バカモン! もっと速く走らんかい! ワシは急いどるんだぞ!」

運転室を遮るガラスをバンバン叩くジジイが五月蝿い。コイツは70前半ほどか。

おい!運転を妨害するな馬鹿老人!脱線したらどうするんだ!全乗客を殺す気か!

誰かが止めに入る前に、老人はハンマーでガラスを叩き割った。

運転士に危害が加わる前に歳三が止めに入ったから大事故には至らなかったものの。

電車は急停止。命こそ助かったものの、関東圏は大パニックに陥った。

もう一度、念を押そう。一歩間違えたら、脱線事故になりかねなかった。未来ある命たちが、危うく失われる危機だったのだ。

最寄りの駅で痴漢ジジイ2匹とハンマージジイの身柄が警察に引き渡され、おっぱいちゃんと歳三はようやくゾンビ箱から解放された。

プラットホームのベンチでぐったり肩を落とすおっぱいちゃん。

「ふぅ~ 電車に乗っただけでこんな目に遭うなんて~」

「俺たちは、永きに渡り迫害されてきた」

自販機で買った缶コーヒーを、おっぱいちゃんにおごる。

ようやくのこと、おっぱいちゃんはほっと一息つくことができた。

「ありがと~」

「どういたしまして」

電車1車両だけでもこの有様だ。

「かつて人間だった成れの果てか…」

ぽつり、と歳三は語り出した。

年々、日本全体の犯罪件数は減少傾向にある。

一方で、老人の増殖に伴い、老人による犯罪は増加の一途を辿っている。

統計によると。2018年の時点で、日本だけでも65歳以上の高齢者の数は3533万を優に超える。その犯罪件数は、昨年の検挙数だけでも実に4万7千件にも膨れ上がる。1日に129件の割合だ。

ただでさえ狭い国土面積に、老人が増えすぎたのだ。

理性なしに産みすぎた結果このザマだ。

現役時代にやったことといえば、日本を借金大国に陥れただけ。何が高度経済成長時代を支えただ、見え透いた真っ赤な大嘘を捏造してんじゃねえよ。甘い汁だけ吸いやがって。

中には―――先に断っておくが―――指で数えるほどの人数しかいないが、立派な人もいるのは知っている。生涯現役で子供たちのヒーローであり続ける立派なファイターだっている。あの男はほぼ唯一の例外にしてもだ―――と、先に断っておくが。

「地球は、老人という史上最大の侵略者に脅かされている」

日本は花魁の国だ。老人(ゾンビ)の侵略に屈してはならない。

「ごちそうさま~」受け取った缶コーヒーを胃に放り込むと、おっぱいちゃんは「いきましょうか~」と静かに立ち上がった。

駅の改札を出たら、勤務先は、いや今日の現場は、そう遠くない。

 

 

時計が刻んだ秒針よりも、随分と長かった通勤時間に感じられる。

出勤するだけでなぜここまで疲れるのか。

ようやくたどり着いた勤務先は、スーパーマーケットだ。

おっぱいちゃんがキョトン、と首を傾げる。「としくん~、店員さん~?」

「レジじゃないさ。 今日はここの店長に依頼されてさ」

「依頼~?」

「この店には前にも何度か来たことがある」歳三は頷く。「冷酷な凶悪犯から店を守りにな」

歳三は、おっぱいちゃんを連れて職員通用口から店内に入る。「おはようございます!」「おはようございます~」

食品陳列棚で開店準備をしていた店長が、ニヤリと口角を上げる。「待ちかねたぜ、鬼の歳三」

「鬼の歳三~?」

としくんのこと~?と興味津々な目で歳三を見つめる、美しき天女。

「おお、お前さんが職場見学したいっていうお嬢ちゃんか、歳三から連絡は聞いたぜ」おっぱいちゃんの魔性の美しさを見て、店長が鼻の下をのばす。「聞きしにまさる超美人ちゃんじゃねえか。姪っ子か?」

「こんなに美しい絶世の美女が姪っ子だったら、もっと早くに自慢してましたってば」

「はじめまして~ 怪獣娘のエレキングです~」

「ハッハッハ、おもしれぇ」店長もおっぱいちゃんを気に入ったようだ。「今日も期待してるぜ、鬼の歳三。 美人のお嬢ちゃんもな」

開店時刻まで、店内を事前に調べる。

どこが狙われやすいのか。

どんな奴に狙われやすいのか。

犯人はどんな手口で来るか。

「エコバッグを提げた老人には要注意だよ、おっぱいちゃん」

「ほへ~?」

「これ見よがしにバッグのチャックが空いてたら特に危険さ。 周囲の目を気にしてキョロキョロ見回して挙動不審な老人は絶対やる。 ほら、本来スーパーってのは商品を見に来るところだろ?」

「そうなのね~」

「老人ってのは、やる前には『やるぞ!』って警戒する奴等さ。 必ず兆候を見せやがる」

「私も手伝わせて~」

「おっぱいちゃん?」

「私もお仕事してみた~い」

「危険だよ? 刃物を持ってる老人も多い」

「心配ご無用よ~ ピット星人は頑丈だから~」

おっぱいちゃんが引き下がらないから、歳三も折れた。

「分かったよ。 じゃあ、少しバックヤードで鋭気を養おっか」

バックヤードで、歳三は鞄からスペアの防刃チョッキを取り出す。

「着なよ」

「心配ご無用よ~ ピット星人は頑丈だから~」

「裸でいいのかい…?」

「この天衣~ 獣殻っていって~ ウルトラウーマンミカエラの聖なる加護で~ 全身を守ってくれるの~」

「視覚で得られる情報だけを信じちゃいけない、か…。 天衣一着でも奥が深い」

物事の表面しか見ない地球人には、その発想は無かった。無風流な俺を許してくれ、と歳三はへりくだる。

「それから」歳三が無線機を天女に渡す。「俺がヒトヒトマルって言ったら110番ね」

「合言葉みた~い」

そろそろ開店時刻だ。

「じゃあ、行こっか」

バックヤードを出て、売り場を巡回する。

さあ、聖戦をはじめよう。

開店から90分。

80代の老爺がしきりに周囲を警戒しているのを、歳三は見逃さなかった。

「としくん、あのお爺ちゃん……」

「ああ、全身から殺気をビリビリ感じる。 ありゃやるぞ」

老人は辺りを気にしながら、エコバッグのチャックを開けたり閉めたり。

全うに買い物をしに来た男が、あんな不自然な挙動をとる筈がない。目も血走っている。

「追いかけよう」

「ええ」

気配を消し、老人の後をつける。

買い物カゴをカートで押し、一件普通に商品を買い物カゴに入れていた、かに見えた。

アルコール類の陳列棚に入るまでは。

缶酒を掴んだ老人の手が、逡巡する。周囲の目を気にしている。

自分の体で死角を作って缶を手の裏側に隠す手つきが、鳥の鉤爪のようだ。通称"バードハンド"。老人がやましい罪を犯す前兆に見られる仕草だ。

一旦、酒をカゴに入れた。ご丁寧に蟹蒲パックで遮って死角を作りやがった。

悪意ビンビンじゃないか。

天女の頭部のアンテナが駆動している。おっぱいちゃんの天衣が怪獣の剥製を設計図に作られたなら、老人が放つ強烈な悪意を感じ取っておろうことは想像に難くない。老人の感情を読み抜く能力。万引きGメンじゃないのが勿体ないくらい、是非ほしい能力だ。

挙動不審な足取りで店内をうろつく老人。

利き手が棚面に面する曲がり角を曲がった直後、決定的瞬間が歳三とエレキングの目に飛び込んだ。

「あーやるやるやるやるやる」

「うそ…!」

おっぱいちゃんは息を呑んだ。

「やったやった バッグに入れたぞ」

全ては、歳三がお見通しだ。

老人は、一度カゴに入れた缶酒を素早く掴み、バッグの口に滑り込ませた。

「あ…… あ……」

「一瞬の早業だったろ? ありゃ常習犯だぜ」

しきりにバッグの口の中の闇を気にする老人。シャックを閉めた後も、革越しに缶の輪郭を確認している。歩き方からも後ろめたさが見てとれる。バレませんようにとでも祈っているような足取りだ。

一部始終は、防犯カメラにもしっかり記録されていた。

同じ手口で、刺身3パック、銅鑼焼き2個、おにぎり2個をカゴからバッグへ滑り込ませるのを歳三は見た。

盗みすぎだろジジイ。胸糞悪すぎる。

「ひどい… ひどすぎる… なんでこんなことするの…?」

万引きの瞬間を初めて見たおっぱいちゃんには、あまりにショッキングな光景だったろう。

店長も従業員も、毎日毎日、早朝から大変な重労働で血を吐いている。薄利多売でやっとの儲けで食い繋いでいる店の人たちの飢餓を想うと、身につまされる。老人にとっては缶一本かもしれないが、それ一本の損失を埋め合わせるのにどれだけ苦労すると思っているのだ。

万引きによる損失で潰れる店も少なくない。全国のスーパーが倒産の危機にある。従業員とその子供たちが、いつ餓死してもおかしくないのだ。

「あれは人間じゃねえ。 かつて人間だった成れの果てさ」

命を踏みにじることしか頭に無い。

まったく、これだから老人は。

他の商品はレジを通したが、盗んだ商品はバッグに入れたまま。

さらに外道な偽装工作を見せた。盗んだ商品が入ったエコバックを開けて、それを覆い隠すように購入商品のレジ袋を上に被せて入れたのだ。店員の目を欺く、通称"フタ"と呼ばれる隠蔽工作だ。

「もうダメ… 私…」

あまりの邪気は、エレキングのアンテナには荷が重すぎたのだろう。おっぱいちゃんの顔が険しい。気分が悪そうだ。

「もう休んでいいよ。 よくがんばったね」天女の背中を優しくさすり、労う歳三。「仮眠室で休んでて。 あとはプロにまかせて」

前言撤回。こんな危険な仕事をおっぱいちゃんにはさせられない。

ピット星は美女の惑星だが、心のピュアな人間しか入国できないだろう。

老人が店を出た。犯行成立だ。

「俺が追いかけてくる」

歳三が店を出て、走る。

首に提げたホイッスルを吹く。

「止まれ! 店の警備員だ!」老人を捕獲。老人の両腕を握り潰す。「警備員だ! 抵抗するなよ?」

老人は「は?」とシラを切る。そんな老人に、歳三は「はじゃねえよ」と凄む。「なんで捕まったか分かるな?」

「何が?」ととぼける老人。

「万引きしただろ」

「そうかい?」

「カバンの一番下に酒あるだろ」

「カバン? 知らんなあ?」

「刺身も! 銅鑼焼き! おにぎり! 警備員が全部見てたぞ!」

エコバッグをわざとらしく開ける老人。「そのレジ袋の下!酒と刺身と銅鑼焼きとおにぎりがあるだろ!」歳三が怒鳴ると、老人はわざとらしくバッグの中をまさぐり、「ウホーホー、いつの間にか入っとったわい」とわざとらしくボケたフリをして笑って誤魔化す。「何笑ってんだよ」往生際の悪さは、鬼の歳三を怒らせるには十分だ。鬼の顔を至近距離まで近づける。「シラを切ると罪が重くなるぞ」

あのジジイ、万引きですって?店の外を行き交う人々が、冷ややかな視線を老人に浴びせる。最低だ。男のクズだ。老人に罵詈雑言を浴びせる。社会のゴミだ。黴菌だ。地球のガン細胞だ。

「事務所で支払いに来い。 ち ゃ ん と 謝 れ よ ?」

老人の返答は、あまりにおぞましい邪悪だった。

「いやいいです」

「いいですじゃねえだろゴラァ!!!! 万引きは犯罪だろうがオラァ!!!!」

老人を拘束したまま、店内で待機しているおっぱいちゃんへ無線で連絡する。「おっぱいちゃん、ヒトヒトマルお願いできる?」

スピーカーから『は~い』と間延びした声。良かった、休んだら体調が戻ってくれて。

バックヤードへ連行する途中も、老人は「払おうと思っとったんじゃがのう、忘れたんじゃわい、もう歳じゃからのう」と見苦しい言い逃れをやめない。

鬼の歳三は老人の胸倉を掴み、鬼の顔を至近距離まで近づけて「おいテメー! 自分が何したか分かってんのか! 何歳だゴラァ!」と凄む。何しろ警備員は全身を筋肉の鎧で固めた大男だ、恐れをなした老人は「81歳です」と素直に漏らした。「81歳!? 地獄から迎えが来るのが遅すぎたな! どの面下げて生きてやがる!!!!」ドスの効いた歳三の怒鳴り声。「寿命超過罪で死刑だ!!!!!!!」

事務室へぶち込み、「ここにしょっ引かれた理由は自分が一番分かってるだろ? オイ」と、全身を筋肉の鎧で固めた大男が怒鳴る。

「クケケ」

老人特有の、穢らわしい笑い方。

「おいオラァ!!!!! モノ盗んどいて微塵の反省もなしかオラァ!!!!!」

まったく、これだから老人は。

「出せやオラァ」

「うっかり忘れておったのう 今日のワシは運が悪いわい 払うから許してくれんかのう?」

この期に及んでまだ罪を認めないか。

歳三は老人の耳元に近づき、鼓膜の至近距離で「オイ!!!!!」とドスの効いた大声を張り上げる。

老人がシャキッと背筋を伸ばす。

「出せえええええええ!!!!! ジジイイイイイイイイ!!!!」

歳三は怒鳴られて、老人はバッグから盗品を出し始める。

缶酒1点、刺身パック1点、銅鑼焼き1点、おにぎり1点。

おい。

おい。

おいおいおい!

「それだけかオラァ」

「そうです」

何がそうですだ。今バッグのチャックを急いで閉めたろ。

「同じ言い訳を閻魔様の前で言えるか!? テメーの寿命はもうすぐ尽きるぞ! テメーは閻魔様に裁かれて地獄に落ちるんだああああ!!!!」

何だこの見苦しい凶悪犯は。情状酌量の余地もない。

「ボケたフリしても無駄だぞ。 盗品をバッグに入れる時随分と手際が良かったよなぁ? 周囲の人間の視線をキョロキョロ気にしやがってよぉ。 盗もう盗もうって悪意ビンビンで全身が殺気立ってやがった。 あんな犯行ができるジジイがボケてるワケねえんだよ」

「そうだったかい?」と、この期に及んでとぼける老人。まったく、これだから老人は。

「全部出せえええええええええええええええええええええ!!!!!」

嘘で誤魔化そうとしている時点で、老人は反省していない。

ようやくのことで、缶酒1点、刺身パック3点、銅鑼焼き2点、おにぎり2点がテーブルに並んだ。

被害総額、5984円。

スーパーにとって、致命傷になりかねない大損失だ。

「こっちのおにぎりはな、家から持ってきたんじゃわい。 昼食べようと思ってのう」

「製造年月日今日じゃねえかよ! ウソつくなバカヤロウ!」

「ワシはタイが好きなんじゃがのう、タイが無かったからヒラメにしたんじゃ」

「テメーの言い訳なんか知るかよ!」話し相手が欲しかったなら閻魔様にでも話を聞いてもらえ、と歳三は吐き捨てる。「まさかテメー、まだ自分が生きる価値があるとでも思ってんじゃねえだろうな?」

さてと。

サツが来るまでに、ワッパまでのタイムラグを最小限に短縮して店長の負担を軽減するために、老人には吐けるだけ吐いてもらわねば。店長だって忙しいのだ。今日はチラシを出したから混雑している。手を煩わせる訳にはいかない。

「初犯じゃねえだろ?」

「そ、そん、そんなことないわい。 ワシがそんな悪そうに見えるかいのう?」

「立場分かってんのかゴルァ!!!!!」

「ま、ま、待ってくれ、そんなに怒鳴らんでくれ。 ワシは心臓が悪くてのう」

またしても苦しそうに蹲るフリをする老人。

歳三の顔が、その下に滑り込む。

「仮病かますなジジイ!!!! バレバレなんだよ!」

「ヒッ! ごめんなさい。 本当に忘れとったんじゃ。 もう81じゃからのう、勘弁してくれんかのう? 払うから」

慌てて財布に手を突っ込む老人。

「払って済む問題じゃねえだろバカヤロウ! サツが来たら問答無用でワッパかけるからな!」

「ヒッ! 警察だけは勘弁してください」

サツ、という単語を聞いて老人が狼狽える。

「その怯えっぷり、やっぱり前にもサツの世話になってやがるな?」

「…………」

「奴等は前科者は全部データベースにリストアップしてんだ、テメーの前科なんか調べりゃすぐにバレるぜ? 呼ばれたくなかったら素直に言え」

「生活が苦しくて…」

「生活が苦しいからやった?」

「うん…」

「認めたな?」

「あっ…!」

「悪意があって盗んだって自白したじゃねえか」

「仕方なかったのんじゃ、寂しくて…」

「言い訳するなああああ! 81年も生きて学んだのは盗むことだけかああああ!」

ボケたフリしてシラを切るジジイなどゴミの数ほど見てきた。これだから老人は。

「もう110番通報したからな!」

「えっ! ちょっと待った!」

「ちょっと待ったじゃねえよボケェ!」

「待ってくれ! 警察だけは呼ばんでくれ!」

「もう遅えよ、手遅れだ。 ウチの天女様がサツに連絡した」

だよね、おっぱいちゃん?と無線機に声をかけると、ふわりとしたソプラノ声が『さっき呼んだわぁ~ すぐに来てくれるって~』

「聞こえたろ?」耳が遠い演技をするまでもなく顔面蒼白な老人の目の前に、歳三の無線機を突き付ける。「ヤキ入れる運命はもう覆らねえんだ。 ボケたフリしたことも、仮病かましたことも、盗品の数を虚偽申告したことも、家から持ってきたってウソついたことも、全部サツに言うからな」

もう110番通報した。そう、既におっぱいちゃんが呼んでいる。今このスーパーにパトカーが向かっている。現実を突きつけられて、老人の顔が恐怖に青ざめる。

「えっ! えっ! 約束が違わんかい! サツは呼ばないって言ったじゃないかい!」

「被害者ぶってんじゃねえ!!!!! 何様のつもりだジジイ!!!!!!!!!!!!」

100歩譲ってテメーが金に困っていたとしてもだ、と前置く。

ここからが鬼の歳三の本領発揮だ。

「まさか老人に生きる価値があることが前提になってるんじゃないだろうな?」

このあと、大男の怒りが爆発する。

「どのみちテメーら老人どもは! 未来ある人間たちを永きに渡り迫害した罪を償う義務があるんだよ! 不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ! 復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐復讐!」

「なんちゅうこっちゃ、こりゃ大変なことになってしもうたわい」

まだそんな自分本位でいるつもりか。自分の事しか考えていないのか、老人は。

「地軸だっていつまでも23.4度のままじゃねえんだぞ? あ? 分かってんのか? あ? まあ常に新しいことに挑戦し続けるエンターテイナーは善しとしよう? だがな! 老害どもは旧態依然とした価値観に凝り固まって今日も地球を滅ぼそうと暴れてやがる! テメーらが老い先短いからって地球をも地獄へ道連れにしようってか? そんなに地球が憎いなら地球から出ていけ!!! いや、『この世』から出ていけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「払うから許してください」

「まさか老人に生きる価値があると思ってるんじゃないだろうな?」

「助けてください」

「ただでさえ狭い国土面積が定員オーバーでパンクした結果このザマだ! 理性なしに産みすぎた成れの果てが今の日本だ! 老人は抹殺すべきだ! たとえ国外逃亡を企てようと、老人なんか何処の国でも爪弾きの盥回しだからな!」

「警察なんかイヤです」

「現代人はどんなに働いても未来に年金なんか一銭も貰えないんだよ! ありもしない『未来』とやらまで寿命が持つかすら分からねえ! ジジイ共に食い殺されたせいでな! 俺達はまだマシだ! 子供たちは七五三まで寿命が持たねえ!!! 食費を根こそぎ毟り取られたせいでな!!!」

もう十分生きた廃棄物がこれ以上長生きするために、未来ある新型機が短命で夭折するいわれはない。

人類は、常に老人に食い殺される恐怖に怯えている。それは今日である可能性が高く、明日である可能性はもっと高い。子供を自爆兵としか思っていないのか!明朝に迫った、『『早逝』』という脅威。1時間後に迫った、『『夭折』』という恐怖。今日志半ば惨殺されるか、65歳の誕生日に大往生するか、どちらが長い人生かは明白だ。老人を皆殺しにしなければ、全人類が老人に食い殺されて今日限りの短命だ。明日には無人の地球だけ。

俺は死んでもいいが、未来ある幼い命たちが今日限りで絶滅するなどあまりに不憫だ。幼い命を何だと思っているのだ!子供を自爆兵としか思っていないのか!

「旧態依然とした価値観で地球を滅ぼされる謂れはない! ましてや、表現や芸術を規制される謂れはない! 子供を自爆兵としか思っていないのか!」

そんなに規制や厳罰化がお好きなら、65歳以上の生存を規制して厳罰化すればいい。もちろん一律死刑だ。

「正直言って老人は例外なく綺麗さっぱり一斉掃討が理想だけどよ、せめて年金制度だけでも全面撤廃すべきなんだ! 子が親を扶養する義務なんか踏み倒しても罰則は無えんだよ! あとは年金制度さえ無くなりゃ子供たちは餓死を免れるんだ!」

「今反省しました」

「地球は生者の星だ!!! ゾンビはこの世から出ていけ!!!」

まだ反省の色なしか、このジジイ。

「老人を甘やかしちゃいけないんだ! 老人は生きる価値もなければ、これ以上1秒たりとも生かしておく価値も無いんだ!」

今度は、老人は嘘泣きを始めた。

「なんでワシこんなことしたんじゃろう? 夢ならさめてほしい」

「他人事みたいに言ってんじゃねえよジジイ おいコラ」

そんなウソ泣きで鬼の歳三が許すと思ったか。

どんな理由があろうと、古い価値観で民を弾圧した罪は万死に値する。

人を差別しろと子供たちに教えたのは老人たちだ。その老人を今さら差別するなと言われても虫が良すぎる。秒針の周回を阻害する遅延行為が足を引っ張って人類は弱体化したのだ。まず君たち老人が譲歩し、若年層に奉仕すべきだったのに。そんな当たり前の自然の摂理がなぜ分からないのかね?

人を差別しろと子供たちに教えたのは老人たちだ。その老人を今さら差別するなと言われても虫が良すぎる。平和とは次の戦争への準備期間だと老人たちが熱弁したからには、お望み通り老人が平和に生存できる時代を終わらせてやろう。嬉しいだろう。感謝しろ。老人たち自身が自らの口から熱弁してくれたな。老人たち自身が自らの口から熱弁してくれたな。老人どもがのうのうと平和に暮らしてる今の時代は老人大虐殺への準備期間だと、老人たち自身が自らの口から熱弁してくれたな。だったら言い出しっぺのお前たち老人がまず率先して自殺しろ。先ず隗より始めよ。先ず隗より始めよ。言い出しっぺが率先して死ね。歳三は戦争が大嫌いだが、老人どもが戦争大好きならば止むを得ない。革命戦争だ!老人どもは古い価値観と因襲で若年層を弾圧した罪を命で償え。革命戦争だ!老眼でも見える時計なんか買う余力があったら、その有り余った寿命を未来人に譲渡したらどうだ。

未来人を非人道的なカニバリズムで迫害し続けた老人どもは、お望み通り同じく非人道的な報復で殲滅されたら本望だろう。そう教えたのは老人だから、本望な最期だろう。復讐の時が来たのだ。未来人が望んでいるのは、古い価値観と長年の弾圧からの解放だ。因襲に屈してはいけない。未来は未来人のものだ。

「老人は絶対悪だ! 老人は滅ぼすべき悪だ! 悪に断罪を! 正義の鉄槌を! 悪には死の裁きを! 悪を滅ぼさねばならない! 正義は勝つ! 勧善懲悪!」

歳三は老人の耳元で怒声を張り上げる。

「おい!!!! おい!!!! おおおおおおおおおおい!!!!」

耳元で元レスラーに大声で怒鳴られて、老人は頭を逃げるように横に伏せる。それでも歳三は老人の耳を追いかけて「おい!!!! おい!!!! おおおおおおおおおおい!!!!」とドスの効いた怒声をブチ込む。

泣けば許されると思ったのか。これだから老人は。

「おいジジイ? 俺に一発全力で殴られてみるか? 旧型機は新型機に取って代わられるって事実が激痛を以て分かるからよ! 地獄で規律と礼儀を覚え直せ! 地獄で閻魔様がテメーの体に刃物で掘り刻んだら覚えられるだろ? あ?」

「ごめんなさい もう殺してください」

「日本を借金まみれのディストピアにした罪! 命で償ええええええええ!」

落雁歳三は、現代に蘇った怖い怖い閻魔大王は、この後も考え付く限りの怒声を浴びせ老人の人格、人生、人権、ルーツさえも完全否定することで精神を崩壊させた。

空っぽの魂ほど操りやすいものはない。精神崩壊した老人はすんなりと閻魔様の言いなりに従い。常習犯であること、過去にもサツに世話になったこと、計画的に犯行を練ったことを正直に吐いた。

閻魔大王の尋問方式が徹底的な人格否定をとるのは、もうひとつ理由がある。

歳三に捕まった老人は、89%が自殺している。

メカニズムはこうだ。閻魔大王のドスの効いた怒鳴り声はフラッシュバックに刷り込みやすい。脳はもちろんのこと、脊髄レベルまで永遠に忘れ得ぬ恐怖を刻み付けることができる。老人は、毎晩毎晩、怖い怖い閻魔大王の鬼の形相と怒鳴り声を夢に見る。毎日が、鬼の歳三に怯え苦しみながら過ごす苦痛の日々と成り果てる。この永遠に終わらぬ責め苦の日々から開放される方法はただひとつ。自ら命を絶つしかない。

かくして、閻魔様の厳しい裁きを下された老人たちは、自ら命を絶って阿鼻地獄へと落ちていくのだ。

老人の再犯率は約半数。二度と再犯をさせないためにはどうすべきか、考え抜いた歳三の結論が以上だった。

幕末、新撰組鬼の副長・土方歳三が、血に飢えた獣のごとく隊士を次々と切腹に追いやったと等しく。

老人の自殺という最聖のハッピーエンドで終わることで、二度と再犯が店を襲う惨劇を未然に防いでいたわけだ。

「どの面下げて81年も生きやがった! なんで65歳の誕生日に自殺しなかった! どの面下げて16年もオーバーした! これ以上1秒たりとも生きるなあああああああ!!!!」

レスラー時代の必殺だった頭突きが炸裂しようとした直前、閻魔大王の無線機から天女のソプラノ声が。

『としくん気をつけて! あのお爺ちゃんは囮よ!』

スピーカーからの声はエレキングだ。

「何だって!?」

エレキングの身に危険が!?

杞憂であってくれ、と窓の外を見ると、もう一匹の爺が店から逃げているではないか!

「おっぱいちゃん!!!」

天女の無事を願いながら、歳三は事務室を飛び出す。

事務室には、精神崩壊してぐったりと動かなくなった老人だけが、無様に涎を垂らしていた。

階段を降りる途中、空が閃光に包まれ、大きな雷鳴と地響きが。

全身の血が青ざめる。

「おっぱいちゃんが危ない…!」

大急ぎで正面駐車場へ飛び出すと。

狼狽えながら立ち尽くすエレキングと。

その見ている前には、老人の男だったらしき、待っ黒焦げの死体が横たわっていた。

「大丈夫か! おっぱいちゃん? 怪我はない?」

すぐさま駆け寄り

「あ… うん… 私は大丈夫… でも…」

「何かされたの?」

エレキングは首を横に振る。

「でも… あ… 私… 私…」

肩が震えている。何か怖い思いをしたのだろうか?

見たところ外傷は無いようだが、もう一度確認する。「怪我はないんだね?」

天女はこくりと頷く。

「無事でよかった」

抱きしめた。

後で医務室には連れて行くが、おっぱいちゃんの身の危機は事なきを得たと確認できて一安心。

腕の中で美女が震えている理由。本人に外傷はない。すぐ近くで倒れているジジイの焼死体から感じる焦げ臭さ。大体の事情は察した。

特撮マニアの歳三の記憶が正しければ、エレキングは雷を操る怪獣だ。

「無理に地球の環境に順応しなくたっていい。 力の調節を間違えることだってあるさ」

地球に来たばかりの宇宙人だ。許してやってくれ。

抱きしめながら、細く白い背中を優しくさする。

「でも… 私… ひ… 人を…」

怯える女神を宥めなきゃ。口下手な歳三が、少ないボキャブラリーで精一杯、エレキングが傷つかないよう優しい言葉を捻り考える。

「そんなに気を落とさなくていいさ。 こんなジジイが生きてても、どのみちムショで血税を食い散らかしてただろうさ。 国民の血税をジジイに浪費されちゃあ、たまったモンじゃねえ。 今ここで地獄に落ちて本望だったのさ。 それに…」

背中をさすっていた手が、美女をひしっと抱きしめる。

「おっぱいちゃん、もっと大切」

腕の中で咽び泣くエレキングを、そのシュークリームのような髪を、優しく撫でた。「おっぱいちゃんが無事でよかった」

1匹目のジジイを逮捕しに来た警察が到着したのは、ずいぶん遅れてからだ。「今の落雷は…!? お嬢さん、大丈夫ですか!?」

大丈夫なワケねえだろ。おっぱいちゃんが泣いてるんだぞ。

 

 

天女が仮眠室で休んでいる間に、閻魔様は営業時刻満了までに9匹の万引き老人を捕まえた。

営業終了後。

帰り道。

「ねえ、おっぱいちゃん」

歳三が口を開く。

「ピット星人って、変身怪人って呼ばれるよど擬態能力が高いんだよね?」

「あら、テレビで見た~?」

「それって、永遠に若く美しいってこと?」

「うふふ 寿命がどのくらい、とは聞かないのね」

「…まさか短命ってワケじゃないよね」

「冗談よ。 としくんは心配性ね」

おどかさないでくれよ、と歳三は苦笑する。

「ひいおばあちゃんは、永い永い時を生きたわ。 でも、永遠じゃなかった」

だからかしら、とエレキングが続ける。

「老いるってどういうことか、知らなかったの。 これ、ひいおばあちゃんのお墓」

エレキングがスマホから「ある写真」を転送する。宇宙空間を浮遊する、大霊廟だ。正面中央には、それはそれは美しい女神像が立っている。

「でっか… もはやタージマハルじゃないか。 この女神像、まさかデスマスク?」

女子中学生くらいの女の子にしか見えない女神像。天寿を全うするその瞬間まで絶世の美女だったのか。

「ひいおばあちゃん、同性愛者だったの。 私達が女系種族なのは知ってるでしょ? ピット星の科学技術で、女の子同士でおばあちゃんを産んで…」

「大往生だったろうなぁ…」

「やだぁやめてよぉ~ 思い出したら涙出ちゃうじゃな~い」

隣を歩いているだけで、甘いアロマの香りが鼻腔をくすぐる。

余談だが、今日一日、おっぱいちゃんは全裸同然の天衣姿で街を歩き回り、妖艶な女体美でナイスバディな裸身と、ふわふわ柔らかいKカップの魔乳の柔肌の生乳肉と、細く括れたセクシーな腰つきと、形のいい淫惑の子宮ラインと、なまめかしい生脚が歩くだけで短すぎるタイトミニからノーパンで丸見えの白く綺麗な女性器をさらけ出して見せつけてくれていた。

ほら、立ってるだけで白い尻肉が丸見え。上半分の尻肉も、下半分の尻肉も。

ほら、歩くだけで女性器がチラチラと。

1世紀前なら、おっぱいちゃんのような絶世の美女で可愛くてスタイル抜群でおっぱい大きい美と魔性の天女は奇形児呼ばわりされて弾圧されていただろう。

今がもう21世紀であることを除いては。

老人は邪悪だ。一匹の例外もなく邪悪だ。

ということは、それは同時に以下の事実をも意味する。

老人どもが旧時代に捏ち上げた規律も、倫理も、価値観も、全て悪だ!!!!!一片の例外もなく掃討すべき絶対悪だ!!!!!

法律とて例外ではない。

おっぱいちゃんは羽衣の天女にして絶世の美女だから、絶世の美女だからナイスバディの美しさを証明していいじゃないか。せっかく生まれ持った天賦の才だ。美貌と、美肌と、ナイスバディで妖艶な女体美と、華奢でセクシーな腰の括れと、大きくて栄養たっぷり母乳満点の甘くて美味しいKカップ魔乳も。ピット星人の身体的な民族優位性を証明してくれてもいいだろう。

いずれにせよ、老人は皆殺しにするしかない。

そんな当たり前の事実だから警察だって五臓六腑に染みわたっている。邪悪な老人の犯行による物理的外傷と金銭的損害から民の命を守るための聖戦で手一杯の警察は、ただでさえ老人どもの圧政で身も心も疲れ果てた未来ある人間たちを少しでも元気づけうるに十分なほど目の保養になって社会奉仕してくれる絶世の美貌をホロコーストして人間たちから夢と希望と生きる理由を奪えるほど暇じゃない。彼等の使命はホロコーストではなく、聖戦だ。日々の聖戦に疲れ果てた彼等自身の目を保養する───本来そのためのヴァルキュリアだ───ためにも、見て見ぬふりでみんな幸せなわけだ。

おっぱいちゃんが街中を天衣で出歩いていい大義は、それだけで十分だ。

極論、全裸でもいいと思う。もっとも、今のエロエロ痴女天衣もそれはそれで全裸よりエロい気がして眼福ではあるが。

羽衣の天女は、羽衣の天女ゆえに。

今日はデリ嬢の予約をしていたが、キャンセルした。地球の女を抱く気分じゃない。おっぱいちゃんのほうが美人で美肌でスタイル良くて胸も大きい。

問題は、俺がおっぱいちゃんを抱く資格があるかだが。

「これで分かったろう? 俺は、ウルトラマンのような心の広い男じゃない」

頭ではわかっている。万引きGメンだって、店の平和を老人から守る聖戦のファイターだ。店長と、働いている従業員は、生きる権利がある。みんなの笑顔を守りたいから。

わかっている、けど……。

「与える優しさを、忘れたんだ……」

いつの頃からか。

悪即斬。それ以外の生き方は、できなくなってしまった。

「そんなことないわ」おっぱいちゃんが、ふわり、と前に出る。「一日付き添って分かった。 としくんは自分を過小評価してる。 だって…」

おっぱいちゃんが言いかけた時、歳三はあるものを発見する。

「あれは…?」

「あら?」

おっぱいちゃんもつられてそこを見ると。

ちょうど、おもちゃ屋の正面駐車場を通りかかったところだ。

営業時間寸前のおもちゃ屋。

ガラスで透けた壁面の奥。キャリアウーマンと、双子らしき幼い少女姉妹が見える。

幼い少女たちは、両サイドからキャリアウーマンの腕を引っ張っている。その指先が、おもちゃを指している。

「…ごめん、もうちょっと付き合ってもらっていい?」

「うふふふ どうぞどうぞ~」

ニコニコ笑いながら後をついて来る天女を連れて、歳三が自動ドアをくぐると。

母娘の話し声が聞こえる。

「おかーん、ルーブスラッガーかってー」

「かってかってー」

「アカンアカン。 ルーブジャイロ買ったやろ」

そんな話し声が聞こえる。

幼い少女姉妹はキャリアウーマンの手を引っ張り、陳列されたルーブスラッガーを指差す。

「スラッガーなかったらゼロツインスライサーだせへんやーん」

「スパークアタッカーだせへんやーん」

今、絶賛放送中のウルトラマンR/Bが大人気だ。兄弟ウルトラマン。湊カツミと湊イサミ、どこにでもいる普通の兄弟がウルトラマンロッソとブルに変身し、戦闘に慣れないながらも力を合わせて綾香市のみんなを守る懸命な姿がチビッ子たちの共感を呼んでいる。

並行して、玩具展開も広く遊ばれている。

ルーブスラッガーは、ロッソとブルが武器として使う剣で。

あの幼い少女たちも、あれにゼロクリスタルやセブンクリスタルをセットして必殺技を繰り出しながら、姉妹仲良くウルトラマンごっこがしたいのだろう。

懐かしい、俺も幼い頃、瞬兄とウルトラマンごっこしてたっけ。

誰もが、かつては子供だった。ヒーローに憧れた時代があった。

しばらく様子を見ていると、キャリアウーマンの財布の紐が固いことが窺える。

女性が「アカンアカン」と口元をへの字に曲げていると、少女たちが寸劇をはじめる。

「さっちゃん、いくで」「うん、りっちゃん」

互いをりっちゃん、さっちゃんと呼び合った姉妹は、湊兄弟が特撮中で見せたように手と手を3度タッチして、足を揃えてどこかへ突撃する。

「「クロススラッガー!!」」

何もない空間だが、彼女たちにはオーブダークが見えたのだろう。2人は腕を振りかぶる。

「「どっかーん」」

おお、おお。SEも自前か。

姉妹仲良しなんだろうなぁ。ひしひし伝わってくる。

「こら、周りのお客さんに迷惑やろ」

りっちゃんは赤いキッズウェアを、さっちゃんは青いキッズウェアを着る。ウルトラマンR/Bの主人公である湊兄弟がプリントされている。

さっきルーブジャイロは買ったって話し声に聞こえたっけ。あの姉妹もウルトラマンのファンだ。お家でもああやって姉妹仲良くジャイロにクリスタルをセットしてロッソとブルに変身して遊んでいるのだろう。目に浮かぶ光景だ。

もしかしたら、パパさんがオーブダーク役を買って出るかもしれない。日々の労働に血を吐くビジネスマンにとって、愛娘は何よりのオアシスだから。

「おかーん、ルーブスラッガーかってー」

「かってかってー」

「アカンて。 今月も厳しいねんから」

「やーだー ルーブスラッガー」

「スラッガースラッガー」

とうとう、少女たちは大泣き。

キャリアウーマンが困っていると。

筋肉質の大男が、「奥様、私が支払います」財布を掲げながら名乗り出る。

キャリアウーマンが「どなたですか?」と訝しむ前に。「そんな、わるいですって」と遠慮する前に。

幼い姉妹が「おじしゃん、かってくれるん?」「ルーブスラッガーくれるーん?」と、大男にしがみつく。目が輝いている。

「ルーブスラッガー2本ですね、買いますぞ」

未来を生きるお二方には幸せであっていただきたいので、とパッケージ2箱を抱え、足早レジへ。あの鬼の形相の閻魔様とは別人としか思えない、菩薩のような穏やかな笑顔で。

大男がレジで精算手続きしている間に、遅れてもう一人。美しき天女が。

「あらあら~」

ほくほくと様子を眺めるおっぱいちゃん。エレキングの天衣をまとった妖艶な美女。おもちゃ屋に解け込んだその白い天衣は、さながらプリキュアを彷彿させる。

りっちゃんとさっちゃんが「かわいー!エレキングやー!」「エレキングのおねーさんやー!」天女の美しさと神々しい天衣姿を見てハイテンション。

その間にルーブスラッガー2個分の料金を支払った歳三が「はい、姉妹仲良く遊ぶんだよ」と幼子たちにプレゼントした。

「「やったー」」喜ぶ姉妹が、パッケージボックスを天高く持ち上げてはしゃぐ。そうだ、少女にはこの笑顔が似合う。

「ホンマすいません、わざわざ買うてもろて」キャリアウーマンがペコペコ頭を下げるので、歳三は「いえいえ、私が好きでやってますので」と笑う。

「ほら、おじさんにありがとう言うんやで」

「おじしゃん、ありがとー」

「ありがとー」

幼い少女たちの、暗面の笑みが眩しい。

それから。

「エレキングのおねえさん、かっこいー」「そのふくもかっこいー」

相変わらずおっぱいちゃんは人気者だ。

そりゃそうだ、このルックスだ。幼女たちの憧れになるのも無理はない。

「かっこいいー さっちゃんもきてみたーい」「むりやろ、さっちゃんがきたらムネのところがスカスカやん」「そらりっちゃんかて」「おねーさん、りっちゃんもおねえさんみたいにおっぱいおっきくなれる?」

「あらあら~」

おっぱいちゃんは、2人の髪を優しく撫でる。「夜更かししないでちゃぁ~んと睡眠時間をとったら、女の子は誰でもピット星人になれるわ~ お姉さんと約束よ~」

「「はーい」」

エレキングの天衣が似合う素敵なレディになることを約束して、りっちゃんとさっちゃんはキャリアウーマンに連れられて自動ドアを出た。

ルーブスラッガーのパッケージをしっかと抱えて「「ばいばーい」」と手を振る幼い姉妹に、天女と歳三は手を振り返した。

3人の影が遠ざかるまで、終始キャッキャと嬉しそうにはしゃいで見えた。

「あの子たちには、笑顔溢れる未来があってほしいな…」

それが、歳三の願いだ。

遠ざかる影をしみじみと眺める大男。

「アタエルヤサシサヲワスレタ~?」

おっぱいちゃんが、ニタニタ口角を吊り上げながら覗き込んでくる。

「ね~? 言ったでしょ~?」無邪気に笑う天女。「与える優しさを見せてくれたじゃな~い」

白く繊細な指が、男の目元をなぞる。

「だから、ね。 涙を拭いて。 としくんは、弱くなんかないわ」

「え…」

そこではじめて、自分が泣いていたことに気付く。

今朝は、俺はウルトラマンになんかなれないと言ったけど。

「俺……どうしたらいいの……? やっぱり俺…… おっぱいちゃんを守りたいよ……」

「…このエレキングに甘える資格のない子なんて、いないわ」包み込むように、天女の抱擁が抱きつく。焦らなくていい。少しずつ、あなたらしさを取り戻せばいい。甘えたかったら、甘えていい。宥めるように。「辛いことがあったなら、言って」

辛いこと。

そう、あった。

「明日……全部話すよ。 幼い日、何があったのか。」

 

 

その日は、やはり遅くまでやっている飲食店で外食して、家に帰った。

「先にシャワー使う?」

「一緒に入りましょ~」

はい。混浴です。

妖艶な美女と混浴です。

おっぱいちゃんの体…いつ見ても綺麗だ。

ただでさえ肌色が大部分を占める天衣が脱げ落ち、一糸まとわぬ裸身が、淫靡な女体美が間近でなまめかしくくねる。

今朝見た。今朝たっぷり見たけど、改めて全身くまなく舐め回すと、その形の良さが分析できる。

花咲くアロマの香り。

しばらくおっぱいちゃんのぷりんぷりんのKカップ魔乳の生乳肉の柔らかさと先端の桜色の突起の鮮やかさを見惚れていると、おっぱいちゃんが「としくん、おっぱい好き~?」とKカップの豊満な乳房を揺らす。

歳三は「当たり前じゃん。 こんな世の中だ、爆乳美少女の乳吸ってなきゃやってらんねーや」と至極まともな一般論で巨乳の正当性を主張する。そうだ、人々の荒んだ心はおっぱいを求めている。

「じゃあ」おっぱいちゃんが、自分の豊満な乳肉を自分で持ち上げる。「おっぱいで背中洗ってあげる~」

断れない。断る理由が無い。

「マジで!? サンキュ!」絶世の美女のご厚意に甘えて、歳三は鏡の前に座る。

鏡に映る大男の顔は、自分で自分を苦しめている囚人に見える。

自分が嫌で目をそらすと、おっぱいちゃんが視界に飛び込んだ。豊満なKカップの白い乳肉に泡をつけていた。むに、むに、と変幻自在に変形する柔らかい巨乳。

「は~い ごしごししましょうね~」

男の背中に、天女の柔らかい乳房が当たる。

柔らかくて気持ちいい。ふわふわで、もちもちで、母乳たっぷり栄養満点な感触が広がって。

柔らかい感触が、上下する。摩擦する。変形する。

「きもちい~い?」

「天国です」

大きくて弾力があってマシュマロのようにふわふわ柔らかい感触の中心に、コリコリと尖った生体反応を感じる。背中を熱する滑り気は、ボディーソープのせいだけではない。

天女だから巨乳なのか、巨乳だから天女なのか。

乳のデカイは七難隠す、とはこのことか。

先ほどのおもちゃ屋でも、おっぱいちゃんがエレキングのコスプレをした美人なお姉さんと見られたお蔭で、その美貌のおかげで、一瞬で打ち解けたようだった。

「…明日、何か特別な日なのね?」

「え? なんで…」

「カレンダー。 マルがついてた」

天女に核心を突かれ、男は頷く。

おっぱいちゃんは、背後から優しく抱きしめてくれた。

「私が力になれるなら、何でも相談に乗る。 ウルトラマンだからとかじゃなくて、目の前でとしくんが泣いてるのをほうっておけないから」

 

 

その夜、おっぱいちゃんは子守唄を歌ってくれた。

光の国に伝わる、古い歌。教え子ひとりひとりの心に寄り添った、教師の歌。

ウルトラマンになれる自信は、まだない。

同時に、おっぱいちゃんを失いたくない俺がいた。

俺…守れるのか?

おっぱいちゃんを?

 

 

朝。

起きたら、やはり全裸の美女が布団にいた。

「夢じゃなかったんだ…」

可愛いなぁ、おっぱいちゃん。

窓から差し込む日の光を、白い裸身が反射する。

心地よさそうに寝息を奏でる天女。Kカップの豊満な生乳肉が上下する。山頂の綺麗な桜色の突起も見放題だ。昨夜、たっぷり吸って飲んだ最高級の母乳。コクがあって甘くて美味しい栄養満点の母乳。

目覚めて最初に見るのがおっぱいちゃんの寝顔、という幸せ。

今日は珍しく休みを取った。おっぱいちゃんの言う通り、カレンダーに印をつけねばならないほど重要な…。

ん?

今、空が暗くなったような?

厚い雲が通過したような、空全体が日影になったような…?

何事かと窓から上空を見上げると。

「何だよ… アレ…」

顔面だけでも、体長191メートルはあろうか。

巨大な老爺の生首が、日本上空を浮遊していたのだ。

おっぱいちゃんは、まだ寝ている。

「おっぱいちゃんおっぱいちゃん! 起きて起きて! 大変なことになったよ!」

おっぱいちゃんの一糸まとわぬ裸身を揺さぶる。豊満なKカップの爆乳がゆっさゆっさ揺れる。

「ん…っ」

やばいやばいやばい起きて起きて起きて!やっとのことで瞼が花開く美しき天女。

「あら~? おはよ~」

ふわふわしたソプラノの声が至近距離で。美しい双眸を開いた美貌が至近距離で。

半分寝ているのか起きているのか夢うつつのおっぱいちゃんは、全裸の女体美が寝返りをうってKカップの豊満な乳房がだらしなくこぼれ落ちる。

窓から飛び込む景色が一気に現実へ引きずり込むまでは。

「キャアアアアアア!」

甲高い悲鳴が空を裂きながら、天女は飛び起きる。Kカップの大きな乳肉がジャンプしてバウンドする。

「シャドウだわ! あれがシャドウだわ!」

「あの生首が…!」

あのジジイこそが今まさに宇宙を恐怖に陥れているシャドウという敵らしい。

怪獣娘と呼ばれる女神が実在するなら、シャドウもいて当然か。

敬老シャドウ ヒモジイ

生首は口を大きく開くと、黒い霧を吐き出す。

霧は瞬く間に空を覆い、日本中に広がる。

「ヤバそうだぞ… 逃げよう!」

「ああん」

おっぱいちゃんの手を引いて、歳三はドアを蹴破ってボロアパートを出る。

外では。

同じくシャドウを恐れて逃げ惑う人々、だが。

黒い霧を吸って、人々の様子がおかしくなる。

「敬老……」「年長者様万歳 年長者様万歳」「敬老… ケイロウ…」

何だ…?

人々の動きが、ゾンビのようにたどたどしくなる。

「何が起こっているの…?」おっぱいちゃんも、周りを見回して心配そうだ。

歳三がおっぱいちゃんを庇うように前に立ちながら様子を窺っていると。

「足りない…」「年金と高齢者医療費が足りない…」「ソウダ、私タチノ新鮮ナ臓器ヲ売ッテ納メマショ」

突然、人々が走り出した。奇しくも、逃げるべき方向とは逆方向だ。

「ちょっと何やってんだよ! そっちは危険だろ!」そのうちふたりの子連れの主婦を引き留めると、主婦は歳三を振りほどこうと暴れる。

おっぱいちゃんも「そうよママさん! お子さんを連れて逃げて!」と呼び止めるも、主婦は聞く耳を持たない。それどころか。

「離してよ! 臓器バンクはあっちでしょ!」

「「は?」」

何を言っているのだ。

よく見ると、逆走する人たちはみな同じ方向へ走っている。

「臓器バンクに何の用だ!」

「そうよ、意味が分からないわ」

主婦は続ける。「人工の4割以上は御高齢者様なのよ? 年長者様を養って長生きしていただくにはお金が足りないわ。 だから私達の臓器を売ったお金を奉げ奉るのよ。 私たちは御高齢者様に命を奉げ奉って早逝するためだけに生まれた鮮肉ですもの」

なんじゃそりゃ。

主婦も含めて全員、目の焦点が合っていない。まるでヤク中の目だ。

「としくん、この人シャドウミストに操られてるのよ」

「シャドウミスト?」

「あのお爺ちゃんが吐いた黒い霧よ。 人の心の闇に憑依して操っているんだわ」

人々を操って自殺させようってのか。

操られた群衆が、我先にと臓器バンクへ引き寄せられていく。

「俺の新鮮な臓器を全部売りに行くぞー」「俺も新鮮な臓器を全部売りに行くぞー」「ヒッ ヒッ 敬老 敬老」「俺達も遺言を書いたぞー 高齢者様のためにー」「私たちも遺言を書いたわ 私たちの新鮮な臓器を売ったお金は全額お国に納め奉るのよー」「高齢者様たちの豊かな老後のために俺たち全人類が新鮮な臓器を全部売って食肉になるぞー」「ヒッ ヒッ 敬老 敬老」「売るわよー 売るわよー 私の新鮮な臓器を全部売るわよー 心臓も肺も肝臓も腎臓も胃も小腸も大腸もぜんぶぜぇーんぶ」「私たち全人類は御高齢者様に新鮮な臓器を奉げ奉って今日中に絶滅するためだけに生まれた売用臓器なのよー」「ヒッ ヒッ 敬老 敬老」「今日から地球はお年寄りだけの惑星になるんだー」「地球をお年寄りだけの惑星にするために、俺たち全人類は今日中に絶滅するー」「ご高齢者様のためにー」

歳三の「みんなやめろ! そっちに行くな!」との呼び止めも虚しく、民は地獄の門へと急ぐ。

ちょっと待て、今この主婦、私『たち』って言ったよな?

まさか!

「あんた! まさかお子さんまで…!」

「そうよ! 産まれたばかりのこの子の新鮮な臓器を御高齢者様に食べていただけるなんて、最高に敬老な自己犠牲だと思わない?」

「やめろおおおおおおおおおおおおお!!!」

歳三は幾度となく、命の価値の不平等性を目の当たりにしたことがある。

生きる権利は誰にも平等に与えられると信じていた日も。

そんなものはフィクションだったと打ちのめされた日も。

開き直った今も。

何度遭遇しても辛い、理不尽な現実。

もっと早く気付けばよかった。

今まさに、命の重さを秤にかけねばならない選択がすぐ隣に迫っていたなんて。

「おっぱいちゃん…?」

隣にいる天女が蹲って動かなくなった。

何がブツブツと呟いている。

嫌な予感がする。

まさか。

「としく~ん? 私達も老人に新鮮な臓器を売って死にましょ~」

顔を上げた美貌に似つかわしくない、薄汚れた目。あの心優しき天女の面影は、無かった。

「うわああああああああああああああ!!!」

助けようとした主婦と幼子の命か。

おっぱいちゃんの命か。

俺は、おっぱいちゃんを選んだ。

主婦の手を離し、おっぱいちゃんをお姫様抱っこしていた。

「としくん? 臓器バンクへ自殺しに行く気になったのね?」

「おっぱいちゃん、ちょっと付き合ってほしい行き先があるんだ」

「ちょっと待ってよ、地球を老人だけの惑星にするためには、全人類が新鮮な臓器を奉げ奉って今日中に死ななきゃいけないのよ?」

ダメだ、完全に洗脳されている。

「いいから来るんだ」

「嫌よ! ご高齢者様に私の新鮮な臓器を一秒でも早く献上し奉って自殺したいのに、これ以上現世で何を見せるの?」

おろしておろして、と大男の腕の上でじたばた抵抗するおっぱいちゃん。

天女を両手に担いだまま、歳三はある場所へ走る。

今日の、本来の目的地へ。

 

 

例えばの話をしよう。

 

50年後に待つ享年65歳と、50秒後に迫る享年15歳。未然に防ぐべきは、どちらか。

 

 

なんで老人ばっかり。

お前らは散々俺たちを迫害してきたくせに。

不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ

 

 

「ここは…?」

天女が周囲を見渡すと、そこは小さな霊園。

ひとつの墓前で、歳三は天女を降ろした。

「落雁家の墓…?」

道中で買ってきた仏花を、歳三は墓に挿した。

買った…?いや、確かに買った。店の人も恐らく自殺しに飛び出して無人だったため、まさか万引きGメンがモノを盗るわけにもいかず律儀に金をレジに置き去った。

「今日は… 兄の命日なんだ。 たった6歳の幼い命だった…… 高齢者ドライバーに轢き殺されてな」

落雁瞬。享年、6歳。

あの日。

老人は、歩道を乗り上げて瞬兄を轢き殺した。

今でも血の惨劇がフラッシュバックする、と歳三は語る。

挿した仏花の隣に、ウルトラマンタロウのソフビを供える。

「瞬兄もウルトラマンの大ファンだった。 最期に兄弟で交わした会話も、大きくなったら2人でウルトラマンに変身して一緒に地球を守ろうねって…」

あの直後、歳三の目の前で瞬兄は死んだ。後に残ったのは、千切れた小さな腕の破片と、奇跡的に無傷だったエレキングのソフビだけ。

極刑に値するはずの犯人は、不起訴となった。認知症だからという理屈で。

「ウルトラマンは瞬兄を助けてはくれなかった。 ヒーローなんか信じちゃいけない、自分の命は自分で守るしかないって思い知らされて、体を鍛え上げてレスラーになった。 超がつくほどの残虐ファイターだったなぁ…」

ある日、レスラー人生を絶たれた、と歳三は振り返る。「瞬兄のことを政府に嘆願書にして出したらさ…、レスリング協会にバレて」

「クビになったの…?」

「書き方がさ… 当時は理解されなかった」

老人が犯人だった場合は、検挙点数を上げたらいいのに。そうしたら、警察も喜び勇んで老人討伐に駆り出せるのに。

そう書いたのさ。

死すべき者たちが生きているから、まだ死ぬ時ではない人間たちが虐殺されているのだ。

百歩譲って必ずしも殺意あっての虐殺ではなかったとしても、殺意の無い虐殺が最もタチが悪い。

老いるまで生きられる保証は誰にもないが、誰もがかつては子供だったのは確実だ。

「老人を甘やかしちゃいけないんだ! 老人は生きる価値もなければ、これ以上1秒たりとも生かしておく価値も無いんだ! ただでさえ狭い国土面積に人口が増えすぎた! 1秒たりとも生存する価値のない老人が、幼かった瞬兄の長い未来を奪った! 仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち」

「あなたがお爺さんになったら喜んで死ねるの…?」

ん?さっきと言っていることが矛盾する。あれだけあれだけ夭逝しろ夭逝しろと言ったのに、65歳まで生きられることを前提にそれを言うか?ありもしない老後などという絵空事を?

「今日ジジイ共に臓器を抜き取られるよりは長生きできるさ。」

いつかみんな老人になる、いつかお前も老人になる、などという真っ赤な嘘は詭弁だ。誰のせいで人類が短命になったと思っているのだ。今日死ぬか、65歳の誕生日に死ぬか、どちらが長生きかは明白だろう。

「今さら老人に生きる価値なんか無いよ。 ピット星人に恋したんだ。 好きになったものは仕方ないじゃんか…! ましてや! おっぱいちゃんの命を踏み台にしてまで生に執着していいはずがない! おっぱいちゃんを失いたくない!」

「ご両親といい思い出はないの…?」

「ソレとコレとは話が別だよ! 心を鬼にして断罪せねばならない日が来たんだ!」

「やっぱり虐待されてたんだ…? 瞬くんが死んでから、ご両親は人が変わった。 違う?」

「両親の命より、おっぱいちゃんがもっと大切だから! おっぱいちゃんが好きなんだ!」

「でも…… でも…… いつかみんな老人になるのよ?」

語るに落ちた。早死にしたがっていた側から矛盾した言動。しかも「老い」という概念がないピット星人の口から出た矛盾。ジジイの催眠は完全ではないのでは?

一か八か、賭けてみるか。

「瞬兄は……! 6歳しか生きられなかった……! せめて……! おっぱいちゃんだけは……! おっぱいちゃんだけは生きてくれ……!」

わざとらしく拳を握りしめ、さらに畳み掛ける。

「そんな…… 親は作れないけど、子はまた作…… うっ!」

言いかけたエレキングが、頭を抱えて苦しみはじめる。漏電して膝をつく。

「おっぱいちゃん!?」

駆け寄り、支える。

「大丈夫!? おっぱいちゃん!!」

「何とか…」

歳三の腕の中で、肩で息をする天女。

その目は、光が戻っている。顔色も艶やかさを取り戻した。

俺が知っている、美しい天女だ。

「大丈夫? 俺の名前覚えてる?」

「落雁…歳三…?」

「よかった、洗脳が解けたんだね」

「んもう、荒療治ね… はぁ… はぁ…」

最初に天女の巨乳を揉んだ時に、触り心地で見当はついていた。予測は当たった。

おっぱいちゃんは、出産経験がある。母譲りの美人な女の子で、母娘とも大の仲良しであることも。腹を痛めて産んだ愛娘を、いくら洗脳とはいえ消耗品などと侮辱できるはずがない。

洗脳が解ける鍵は、それしかない。

「としくん…聞いて…」母性を思い出した輝く瞳が、歳三を見つめる。「どんなに働いても…… 年金なんか一銭も貰えない…… 65歳の誕生日に死ぬか…… その前に新鮮な臓器を抜き取られるか…… 二択しかない…… だったら…… としくんはどうして万引きGメンをしているの……?」

「え……?」

「アリもキリギリスも等しく65までの命と分かってるなら…… それまで遊んで暮らしたほうが楽しいじゃない……?」

「そ、それは……」

言葉に詰まる歳三。俺は、瞬兄の仇を討つために万引きGメンをしていた?それとも、おっぱいちゃんを守るために?

おっぱいちゃんは全宇宙が必要な女神だ。たとえ頭にアンテナが無くても。たとえ雷を呼び起こせなくても。おっぱいちゃんは産まれてきただけで誰よりも大きな価値がある絶世の美女だ。おっぱいちゃんは存在するだけで誰よりも大きな価値がある絶世の美女だ。

おっぱいちゃんと出会う以前の俺は、じゃあ何者だったんだ?かつて何を守りたかった……?かつて誰を守りたかった……?

マモ……ル……?

「あ……」

「あるのよ、あなたには正義の心が……! 虐げられる子供たちを守りたい心が!」

「子供たちを守りたい……心……」

自転車のカゴに乗っていた幼い少女の笑顔を、思い出す。

嬉々としてルーブスラッガーを振り回す幼い姉妹の笑顔を、思い出す。

『無駄じゃゾイ』

上空からしわがれた声がする。

見上げると、老人の生首がこっちを見ていた。

『ワシのシャドウミストは人間どもの心に眠る僅かな敬老の心を増幅させる効果があるんじゃぞ。 若者に年長者を敬う心を植え付けて自殺させ、地球を老人だけの惑星にして弱体化させるのがワシの作戦じゃがぞうが』

だから俺だけは正気だったのか。0に何倍かけても0ゆえ。

『地球を制服するのにワシ自ら手を汚す必要はないんじゃゾイ。 地球人は勝手に自殺して勝手に絶滅するんじゃからのう。 老人だけの惑星になった、弱体化した地球に入植するなど容易いゾイ。 地球はワシらシャドウに支配される運命じゃゾイ』

「やってみなきゃ…わかんねえだろ!」

シシシシ、と老人特有の汚らわしい笑い声が黒い空を汚す。

『どうやって洗脳を解いたかは知らんが、また洗脳し直せばいいだけじゃわい』

「シャドウに耳を貸しちゃダメ!」

老人の薄っぺらい詭弁を遮ったのは、天女だ。

「あくまで第三者の推測だけど…… 瞬くんの気持ち、分かる気がするの…… あのソフビが無傷だった本当の理由…… 思い出して…… もう一度よく思い出して…… としくんが、一番よく憶えているはずよ……?」

「―――!」

思い出した。

今まで思い出すのを拒んでいた。惨劇の記憶を忘れるために、自分で自分を記憶障害にしていた。

あの時。

死ぬ直前までエレキングのソフビを握っていた瞬兄は、彼女だけでも助けようと咄嗟に放り投げた。

結果、空中で弧を描いた彼女だけは無事だった。

ウルトラマンに憧れた幼子は、最期までヒーローを貫いたのだ。

「へへ… 何ウジウジ悩んでたんだろ俺。 ヒーローはすぐ近くにいたじゃねーか」

目頭が熱くなる。

涙を拭く。

歳三の目に、もう迷いは無かった。

「としくん…… 変身して…… 地球を守れるのはあなただけなのよ……?」

全裸の天女は豊満な乳房を差し出す。

昨日、おっぱいちゃんは言っていた。

怪獣娘を守りたい気持ちを込めて天女の巨乳を触ると、ウルトラマンに変身できると。

今度こそ、歳三はおっぱいちゃんの豊満なKカップを両手で握る。

「ああん♥︎」

母乳満点の柔らかい乳肉を根元から掴み、中に溜まっている最高級の牛乳を搾り出す。

「ああん♥︎ おっぱい気持ちいい♥︎♥︎ ああんああん♥︎ おっぱい熱ぅい♥︎♥︎ あっあ♥︎ イクぅ♥︎♥︎♥︎ おっぱいイクぅ♥︎♥︎♥︎」

だらしなくアヘる全裸の巨乳天女はKカップの魔乳の先端の桜色の突起をビンビン尖らせ、栄養満点の母乳を飛ばす。

鎖骨側から突起側へ滑るようにリズミカルにぎゅっ、ぎゅっ、と搾り出すと、おっぱいちゃんは「ああん♥︎ ああん♥︎」と女の絶頂に歓喜しながら、母乳をプシュー、プシュー、と発射する。

口の中に広がる、コクのある甘くて美味しい極上の味。

「ああん♥︎♥︎♥︎ イクぅ♥︎♥︎♥︎ おっぱいビュービュー出ながらイクぅ♥︎♥︎♥︎ イッちゃう~♥︎♥︎♥︎ おっぱい気持ちいいいいいいい♥︎♥︎♥︎」

握りつぶされて変形した白い乳肉が、歳三の両手を呑み込みながらピンクの淡い光を放つ。

おっぱいちゃんを「守りたい」んじゃない。「守れる」んだ。

ヒーローをヒーローたらしめるのは、何なのか?

筋肉か?

巨体か?

武器か?

必殺光線か?

立ちはだかる敵か?

違う。

ヒーローをヒーローたらしめるのは、ヒロインだ。

エレキングを愛しているのは、俺だけじゃない。あんなに幼かった瞬兄でさえ、命を懸けてエレキングを守れたじゃないか。たとえ心臓がなくなっても、心は共に生きる。そこにピット星人がいる限り、ヒーローは彼女たちの子宮の中で生き続ける。

おっぱいちゃんが教えてくれた。運命は変えられる……俺だってヒーローになれるって!

俺には、おっぱいちゃんがいる!もう独りじゃない!

「出会えた怪獣娘が、おっぱいちゃんでよかった───っ! あああああああおっぱいちゃあああああああああん!!!」

一際強く、おっぱいちゃんのKカップの魔乳から母乳を搾乳すると。

「あああああああああああああああ♥︎♥︎♥︎」

美しい天女の妖艶な女体美が、仰け反る。

Kカップの白い双乳の谷間から、カードと読み取り機が出てきた。

これがガヴァドンUカードとニーベルリングか。それらを引き抜くと、おっぱいちゃんは「ああん♥︎」を淫靡に悶え、Kカップの白く柔らかい魔乳がジャンプする。

美しき天女が「あー♥︎ あー♥︎」と性的快楽の余韻に震えて魔性の女体美をヒクつかせるたび、Kカップの魔乳が淫乱に揺れる。白い双乳の山頂の桜色の突起から、大量の母乳が飛び散る。霊園に白い雨が降る。

歳三はニーベルリングを腕にセットし、ガヴァドンUカードをロードする。

「カブトォォォ!」

額から一本の突撃槍が前進する、真紅のファイターが体長55メートルまで巨大化した。

ウルトラマンカブト

筋骨粒々とした真紅の巨人が大地に立つ。両腕で力こぶを膨らませながら、獣のような咆哮が威嚇する。

『正義に燃えておる。 美味そうな腎臓しとるわい? どれ、年長者たるワシ様に2個とも食わせんかい』

『ジジイに食わせる臓器はねえ! 俺が守るのは夢と希望だ!』

子供たちを返してもらうぞ、とカブトは大地を蹴って突進する。

襲来したシャドウは生首だけ、といったら語弊があった。

正確には、2本の両手も日本上空を浮遊していた。手首から先が千切れた巨体な手が。

浮遊する右手が、カブトをはたき飛ばそうと襲いかかる。カブトの左手は逆にそれを打ち返した。それでもなお張り手を叩き込んでくる老人の右手。カブトは肘でいなして拳で2撃目3撃目を叩き込み、右手を弾き返した隙に屈む。

次に来る老人の左手を迎え撃つために。

迫ってきたしわがれた手に、ハイキックを刺した。炎をまとったハイキックだ。

今度は老人は両手で左右から挟もうと叩きかかる。カブトは飛び上がり、両脚の旋風脚が老人の両手を吹き飛ばした。

『生に執着することが罪だというなら、貴様の言っていたピット星人とやらは何じゃ! さっきから聞いてりゃ何百年もの長命を生きる種族のようじゃが?』

『脳細胞が老朽化して言い訳しかできなくなったかジジイ!』

口からシャドウミストを吐く老人。この攻撃がカブトに効かないのは老人が一番よく知っているはずだ。

『ワシのシャドウミストが効かんじゃと!? 年長者を敬う心を欠いた弱虫で偏屈なクラックベビーが! 負け犬の落伍者が!』

『もう弱さを隠さない!』

全身のバネで大地を蹴って飛び上がり、炎をまとったアッパーカットが老人の右手に風穴を開ける。

『コイツは! 困ってる子供たちを放っておけない俺!』

サマーソルトキックが嵐を呼び起こし、老人の左手を真っ二つに切断する。

『コイツは! 老人を許せない俺!』

天高く飛び上がり、流星のごとき蹴りが老人の頭上に落ちる。

『コイツは! エレキングを守る俺!』

流星は老人の片目に刺さった。

『強さも弱さも、全部俺だ! ありのままの落雁歳三だ!』

もしカブトに僅かでも敬老の心が残っていたら、唯一の英雄を失った地球は滅びていただろう。デバフ耐性に優れたパワーファイター。一見相反するふたつの才能に目覚めた戦士の誕生は、奇跡に近い。

『被害者ぶるな小僧!』老人は意味不明な妄言を喚き散らす。『年長者様のために喜んで若い命を捧げて自殺できる至福が嬉しくないんかい! じゃったら洗脳教育は失敗じゃった! 貴様は少年自爆兵のなり損ない、不発弾じゃった! そこの墓に埋める価値も無かったはずの糞尿より先に、貴様を殺処分すべきじゃったのじゃ!』

哀れな男だ、と閻魔大王は思った。

天女の愛娘を消耗品と侮辱した罪。閻魔様の実の兄を糞尿と侮辱した罪。

シャドウと戦うのは今日がはじめてだが、これだけは分かる。老人が救いようのないほど堕ちるところまで堕ちた下郎で、阿鼻地獄すら生ぬるいのがひしひしと伝わってくる。

堕ちるところまで堕ちた老人は、『敬老敬老』とうわごとのようにつぶやき始める。

列島を覆う真っ黒な雲が、雷鳴を呼び起こす。

稲光が焚く。東から燃えるような閃光が。西から揺るがすような閃光が。南から吹雪くような閃光が。北から痺れる閃光が。地平線の彼方まで、稲光が焚く。

これだけ広範に街を破壊すれば、ウルトラマンとて国を守れまい。老人は勝利を確信した。

この後、歳三と老人の決定的な違いを目にするまでは。

「としくんはもう独りじゃないのよ~」

ふわふわ宙を浮かぶような、ソフトなソプラノの声。

天女が、霊園から浮上した。

羽衣を背にまとって天へ昇る、美しき天女。

「すぐに変わらなくたっていい。 無理に自分を曲げなくたっていい。 私は、としくんの優しいところもたくさん知ってるから」

天女の髪で、2本の三日月状のアンテナが駆動する。

「それに、女の子を絶対に傷つけない」

地上に落ちるはずだった雷は、天女のアンテナが避雷針となって全て吸収。

妖艶な美貌を湛えた顔は、慈愛に満ちていた。

独りでは乗り越えられなかった悲しみも、2人なら。

『おっぱいちゃんは、こんな俺の全てを包み込んでくれた!』

物事をY軸でしか認識できなかったシャドウが無価値と見誤ったものが、そこにはあった。

さて、今おっぱいちゃんの双角には老人から吸収した大量の電力がたまっている。

それを全て放出し、カブトの額のモノホーンへ電送する。突撃槍が黄金色に輝く。

カブトが、ウオオオオッ!と雄々しく吼える。老人に照準を合わせた突撃槍の切っ先が、老人を恐怖に怯えさせる。

この期に及んで老人は『ま、待て、年寄りを労わらんかい』と無様な命乞いをはじめた。『今の皇帝に代わってからヨツンヘイムは老人に冷たいんじゃ。 年寄りに優しい世界を求めて地球に来たんじゃ。 こんな社会になってしまったのは全人類の責任じゃろう? 責任をとるべき全人類の中には、赤子じゃって含まれるのじゃ。 産まれたばかりの赤子さえも、産まれた瞬間に、いや産まれる前に原罪を命で償って死なんといかんのじゃわい。 堕胎して両親も自殺せんかい! 年寄りの孤独と苦しみを若者みんなで肩代わりして今日中に集団自殺して地球ごと絶滅しようではないかい』

『言い訳は地獄でしな!』

「おじいちゃん、もう終わりにしましょう…? 誰にも無理させなくていいのよ…」

ウオオオオッ!犀の雄叫びが吼える。

強大な雷をまとった一本の角が、強烈な頭突きが、突進する。

『カブトスプリームボルグ!』

カブト渾身の体当たりが、額の突撃槍が、老人の顔面を貫通した。

老人が落とした雷の電力が、老人に跳ね返ってくる。爆発した強大な電力は、もはや風穴と呼ぶにも大きすぎる、クレーターとでも呼ぶべき大穴を開けてカブトの全身がそのトンネルをくぐり抜けて外界を飛び出した。

かつて顔面だった肉片は、クレーターが面積の大半を占め、細胞の面積は僅かしか残っていない。クレーターの中の空洞の真上から、僅かに破片となった脳髄がシュルシュルとソフトクリームバーのように落ちてくる。シャドウも脳髄は白いのか。

自業自得。もはや断末魔すら発することすらできず、そのまま老人の生首「だった」肉片は爆散した。

『おっぱいちゃんの巨乳は垂れねえ!』

シャドウミストが晴れ太陽を取り戻した空から降り注ぐ天使の階梯を浴びて、ウルトラマンカブトは天高く拳を掲げた。

 

 

 

───なれたんだね、ウルトラマンに

 

───ああ。ちょっと遅れたけどな。約束、果たせたよ。

 

───じゃあ、ぼくはさきにいってるね

 

───ピット星で会おうぜ。

 

───さよなら、としくん

 

───さよなら、瞬兄。

 

 

 

『さっきはごめん。 ひどいこと言っちゃって』

雲ひとつない、晴れ渡る空。

輝く太陽。

敬老という脅威が過ぎ去り、自由を取り戻した、地球。

「気にしてないわ~ 洗脳を解きたかっただけですものね~」

巨人の肩の上に飛び乗った、小さな天女。

それにほら、と天女は眼下と指差す。

人々の歓声が聞こえる。

洗脳が解けた人々が、子供たちが、笑っている。

誰も自殺なんかしなかった。人類を救った。地球を守ったのだ。

命を助けられた人々が、天女と巨人に手を振っている。

ありがとうエレキング。ありがとうウルトラマン。

超人的な聴力をもつ天女と巨人には、その一人一人の呼び声が聴こえた。

「おーい! きれいなおねーさんとやさしいおじさーん!」

あれは、昨日の朝助けた自転車の少女だ。彼女の母親である主婦が「あの時道を空けてくれたくれたおかげで余計な減速で転倒せずに助かりました。本当にありがとうございます」と律儀に礼を言ってくれた。

そんな、俺は当たり前のことをしただけで。カブトは、母娘にサムズアップを見せた。

園児の少女も「ありがとー」と両手をふってくれた。

「鬼の歳三ー!」

遠くから店長が手を振る。「おっぱいの嬢ちゃんから聞いたぜ。 お前さん、ウルトラマンになるのが夢だったってよ?」

え?いつの間に?カブトが自分の肩を見ると、小さな天女は三日月状のアンテナを大袈裟に駆動させながら笑う。

そうか、そのアンテナから店長のスマホにメールを送ったのか。

「地球の未来は俺たちにまかせろ! 人類はもう間違えねえ! お前さんは安心して宇宙へ飛び立ちな」

カブトは、店長にサムズアップを見せた。

「エレキングのおねーさーん!」「ルーブスラッガーのおじしゃーん!」

りっちゃんとさっちゃんだな。ウルトラマンルーブのキッズフェアを着た幼き姉妹だ。

「おねーさんもおじしゃんもメッチャかっこえー」「ウチら、エレキングになるー! りっちゃんとふたりでへんしんするー」

りっちゃんはルーブスラッガーロッソを両手に、さっちゃんはルーブスラッガーブルを片手に、無邪気にはしゃぐ。

「なれるわ~ あなたたち姉妹なら~」

おっぱいちゃんは、姉妹にサムズアップを見せた。

最後に、ウルトラマンカブトは世界中の子供たちに語りかける。

『地球の未来は、君たち自身で掴んでくれ。 いつかまた未来、この広い大宇宙のどこかで、君たちと再び会えるかもしれない。 お別れだ…』

カブトは、子供たちにサムズアップを見せた。

美しき天女を肩に乗せて、真紅の巨人は『ウオオオオッ!』と大空へ飛び立った。

ありがとうエレキング。ありがとうウルトラマン。

宇宙へと還って行った天女と巨人を、子供たちはいつまでも見送った。

 

 

シャドウ事件を政府は深刻に受けとめ、ようやく重い腰を上げて老人の厳罰化を可決した。

 

 

「ほーら、エレキングだよ」

「「やったー」」「エレキングやー」「エレキングやー」

瞬兄の光を受け継いだエレキングのソフビは、りっちゃんとさっちゃんが引き取ってくれた。

6歳しか生きられなかった少年が、最期に守った永遠の恋人。

彼女の今後を考えた末、彼女には俺に縛られてほしくないと考えた。エレキングに憧れてくれた幼き姉妹の家で幸せに暮らしてくれ。そう考えてガラスケースをボロアパートから持ち出し、りっちゃんとさっちゃんの家にお邪魔させていただいた。

歳三とおっぱいちゃんにまた会えて、エレキングを迎え入れられた姉妹は大喜びだ。

「大切に育ててあげましょうね~」

「「はーい」」

エレキングに変身したいと憧れた姉妹。

今日からこの家の三女だ。

「りっちゃんな、おねーさんみたいにおっぱいおっきくなれるようにぎゅーにゅーいっぱいのんでるんやで」「さっちゃんもな、よるおそくまでゲームせーへんと9じにねてるんやで」

夢見るだけじゃない、なりたいものになるために努力も怠らない幼女たち。おっぱいちゃんは「えらいえらい」と姉妹の髪を撫でてあげた。

幼い姉妹が立派な巨乳を実らせておっぱいちゃんの天衣宝冠を着る日は、そう遠くない。

他にも歳三が今までに集めたソフビも、変身アイテムも、DVDボックスも、ネットで引き取り先を募って、瞬く間に完売した。

「ずいぶん部屋がすっきりしたわぁ~」

手元に残ったのは、おっぱいちゃんがくれたガヴァドンUカードとニーベルリングだけ。

ちなみに、所属していた警備会社には、辞める直前に1本のUSBを提出した。歳三が今までに捕まえた前科者全員の顔と名前、犯行手口のリストだ。

ブログにも、置き土産を残した。歳三が今までに培った万引きGメンのノウハウ全てを。

「ムエタイ選手に拳法家。 万引きGメンのタマゴはこの星にまだまだ眠ってる。 子供たちを守るファイターのため、俺の全てを書き記した」

地球の未来は、君たち自身で掴んでくれ。

かつて地球人だった過去の自分としての最後の任務を全て片付けた歳三は、おっぱいちゃんに導かれて富山県は木曽谷あずま湖にたどり着く。

おっぱいちゃんの宇宙船が停泊している湖だ。

アロマの香りが花咲く、大人の女性らしいエレガントな内装の船内に乗り込み、メインエンジンが起動する。

宇宙船が、陸を離れる。

おっぱいちゃんは、テレビをONにしてくれた。

報道番組では、『あの事件から16年』と特集されていた。

「あら~?」

おっぱいちゃんの目がテレビにいく。

「興味があるのかい? その事件」

歳三も興味が無いといったら嘘になる。

まさかあんな事件があったとは。当時テレビを見ていた歳三もびっくりしたのを憶えている。

ニュースキャスターは語る。

『全日本同時多発男性変死事件。 16年前の今日、全国48都道府県各地の民家で男性のバラバラ死体が大量に発見されました。 警察は大規模なテロ組織による計画的な犯行と見て捜査を進めていますが、未だ犯人の目星は掴めていません。』

「まあ…」

目を見開く天女。

歳三も、おっぱいちゃんと顔を見合わせる。

「そんなことがあったの…」

「信じられねえ話だが…」

『被害に遭った民家に地理的接点は皆無でした。 この事件に急展開です。 被害者の所持していたパソコンと調べると、あるサイトにアクセスしていたことが明らかになりました』

そのサイトとは─────

 

 

エレキング・プレックスの歌 FIN



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キングジョー アナタは優しすぎた


(イラスト: ウミガラス 様)


人に憎まれるより、喜ばれる方が何倍も気持ちがいいもんだよな?
─────ババルウ星人ババリュー


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

─────キングジョー撃破依頼─────

凶悪怪獣の暴虐に立ち向かえるのは光の戦士だけです。

ギルドに集まり、全宇宙の怪獣を倒すため、出撃をお願いします。

破壊を尽くすウルトラ怪獣の襲来が予測されました。

襲来予測ポイントはグロテス星、ハスネスタジアム。

出てくると予測される怪獣は宇宙ロボット、キングジョー。

ペダン星の軍事力が開発した戦闘用ロボットです。

タンカーを軽々と持ち上げるパワー、超金属ペダニウムで武装された頑丈な装甲が武器です。

特に装甲はウルトラセブンとウルトラ警備隊のいかなる攻撃をも受け付けなかったほどです。

討伐に行かれる英雄の方々は、対策する工夫を考える必要がありますね。

グロテス星で偽ライブを計画して観客をおびき寄せ、集まった観客を虐殺する算段でしょう。

キングジョーは凶悪怪獣です。説得はできないと思ってください。撃破するしかありません。

一般人が虐殺される前に、全力で撃破してください。

厳しい戦いになりますが、英雄の皆さんなら必ず怪獣を倒せることでしょう。

討伐部隊の健闘を祈ります。

 

 

「…何デスか? これ」

宇宙芸能事務所、ペダンプロダクション本社スタジオ。

クララは出社早々、マネージャーに「あるもの」を見せられた。

PCの画面に表示されたそれは、SNS上に投稿された脅迫文だった。

「…殺人予告だよ」

大きなため息をつくマネージャー。「今度のライブを妨害したいらしい」

「殺人予告、なのデスね…」

アイドルへの殺人予告は、芸能界を脅威に陥れている深刻な問題のひとつだ。

クララが地球にいた頃も悪質なファンにイベントを襲われた記憶が新しい。

このような心無い人間の心無い発言によって、幾多の芸能人がライブやイベントを中止に追いやられているのが現状。もちろん、本人の身の安全が最優先だから仕方ない措置ではあるが。

今回の殺人予告は、標的にした相手も、妨害したライブもスケールが違っていた。

ペダンプロダクション所属タレント、キングジョー。

本名、クララ・ソーン。愛称、お嬢。

15歳。身長163cm。スリーサイズは上から103/55/91。ブラのカップはMカップ。

その美貌を全宇宙が憧れる宇宙No.1アイドル。

今回のグロテス星ライブは、パフォーマンスでグロテスセルという物質を使用する。人形を巨大化させて操る、彼らが開発した物質だ。ライブが成功したら、物質を平和利用できる道が広く宇宙に開ける。新たな雇用も生まれる。

このライブが中止となると、グロテス星人の皆さんにも迷惑がかかる。最悪の場合、スポンサーを降りてしまうかもしれない。

警備を増やすか?それでも100%安全とは限らない。犯人がこの予告状どおり大軍を率いて押し寄せてきて大戦争が巻き起こったら?

もちろん、悪戯だと思いたい。でも、万が一本気だったら?最悪の事態が起こったら?ライブを決行したのを後悔してからでは遅いのだ。

事務所としては、キングジョーの身の安全を最優先したい。

「残念だけど… ライブは中止だね」

我儘を言えるなら、本音はやりたい。でも、クララも分かっている。本当に犯罪者が来たら、本人だけの問題では済まされない。スタッフにも、楽しみにしてくれていたファンの方々にも、グロテス星人にも、多大な迷惑がかかる。

「そう… デスね…」

こんなひどいことをする男は、きっと汗水たらして何かを産み出したことが無いのだろう。キングジョーがライブのために命を燃やしてきた日々は当然のこと、ライブを盛り上げるために尽力してくれた事務所の人たち、関係スタッフの皆さん、そして何より、イベントを心待にしていたファンの方々。数え切れないほどの人達の血と汗と涙を慮る気持ちが、この予告状には欠けすぎている。

 

このエッダは天界神話です。

下界の肉枷が禁じるいかなる犯罪行為をも助長または礼賛するものではありません。

アイドルへの殺人予告は犯罪です!

脅迫または威力業務妨害の罪に問われます。

アイドルがどんなに悲しむか、考えてください。

犯罪のない、平和な芸能界を祈って。

 

「諦めるのはまだ早いデス」

「お嬢さん?」

クララは自作のノートPCを取り出す。

「IPを割り出して犯人を特定シマス」

悪には屈しない。生憎、宇宙No.1アイドルは負けず嫌いなのだ。

「ここは……サイドスペース? 発信元のPCの型番が割れマシた。 所有者は…」

マネージャーもノーパソの画面を覗き込む。変わった人名が、目に飛び込んだ。

「赤福…蝶? チョウ?」

「蝶と書いてモルフォと読むそうデス。 元TASプレイヤーデスね」

「このガキ、以前にも伏井出ケイ殺害予告で書類送検されてるじゃないか!?」

「ノー。 このIP、おかしいデース」

「?」

「かつての自宅を指してマス」

「かつての…? どういうこと?」

「この少年は今、入院してマス。 精神病院に」

 

 

白い病室。

白いベッド。

点滴につながれた、中性的な顔の少年。

窓の外は、暗い闇夜。

「ぐ……っ」

少年がフラッシュバックに苦しみはじめる。

忌まわしき男の罵声が甦る。

『作られた道具がァ! 創造主に歯向かうというのかァ!』

「違う…! お前にエルミカ姫の生殺与奪を掌握する資格は無い…!」

最愛の女性だった、白き翼の導き手から人生を奪ったのは、あの空蝉のような殺人鬼だ。血の惨劇の記憶が少年を苦しめる。『貴様の人生に価値など無い! お前という肉片に生命を与えたのはこの私だぞ! 産声を上げる瞬間にすり潰すこともできたのだァ!』

「命を何だと思っているんだ…! お前さえいなければ…! ごく当たり前の日常があったはずだ…! お花見したり…! イースターを楽しんだり…! 浜辺で微笑んだり…! 夏祭りではしゃいだり…! ハロウィン、クリスマス、バレンタインだって……! ぐあああああ」

全てが、あの男に閉ざされた未来。一番大切な女性がいないまま、外の世界は時間だけが過ぎていく。

どんな景色も、何の意味もなくなった。この世は、真っ暗だ…

愛していた!本気で恋をしていた!

「エルミカ姫…!」

虚空に手を伸ばす。

最愛の女性の幻が見える。

ムニュ

「あン」

むにゅ?

今僕は、エルミカ姫の爆乳を触った?

手ではつかみきれないほどボリューム満点の、柔らかい、天国のような感触。

ついに幻覚症状まで発症したか?僕は。

「泣かないでクダサイ。 私はどこにも行きマセン」

懐かしい美声。心を癒す、透き通る声。

鮮明に聞こえる。この声を、忘れるはずがない。

姫の白い手が、ハンカチが、少年の涙を拭う。

幻覚にしては鮮明すぎませんか?

夜空は雲が晴れ、銀の月明かりが病室に差し込む。

絶世の美女の美肌が、小顔が、美貌が、姫カット長い綺麗な髪が、女神らしい極上のダイナマイトボディが、王女らしい圧倒的なMカップのダイナマイトバストが、月光に映えて神々しい。

映画で見た、宝石のドレスを着飾った王女の美しさ。白き翼を開いた天使の神々しさ。毎夜夢に見る、宇宙一の美貌。

ようやく理解した。目の前にいる絶世の美女はエルミカ姫ではあるが、映画でエルミカ姫を演じた女優でもある。

忘れられるはずがない。少年は、クララ・ソーンの大ファンだったのだから。

いやいやいや、目の前にいる女神が『あの』歌姫クララ・ソーンだとしたら、宇宙No.1アイドルがなぜこんなところにいるのだ。

「はじめマシテ、デショウか? 赤福(モルフォ)サン。 ワタシはペダンプロダクション所属のアイドル、キングジョーデース」

マジで夢か?幻か?

憧れの超銀河アイドルが、名前を呼んでくれた。

僕に微笑んでくれた。その絶世の美貌に似合う、眩しすぎる笑顔で。

待て待て、もし本当だとしたら。

僕は今、聖なる女神の聖なるMカップ爆乳おっぱいを揉んでいることになる。

少年の掌より大きい、ボリューム満点のMカップの柔らかい感触。天国の触り心地。

頭から血の気がひく。

「ごめんなさいでしたああああああああああああああああああああああ」

コンマ01秒でベッドから転げ落ち、床に額を擦りつけて土下座していた。

「いいデスいいデス、顔を上げてクダサイ」

 

 

同じ頃、GIRLS基地はウインダム専用サイバー監視室。

ウインダムは会議用電話機越しに。

「キングジョーさんがサイドアースに向かわれました!」

『心配いらない。 赤福蝶が犯人だとは考えにくい』

光の国にいるエレキングと交信していた。

『引き続き調査をお願い。 遠隔操作ウィルスの出火元の特定は難しいけど、他にもバラ撒かれた被害者がいたら…』

「早急に捜索します。 でも…」ウインダムが監視用PCのキーを叩く。「場合によっては、赤福蝶には『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』『ウルトラマンゼロ外伝 キラー ザ ビートスター』『ウルトラゼロファイト』『ウルトラマンジード』の重大なネタバレを教えなければいけませんが」

『宝石の王女エルミカも、伏井出に人生を狂わされた被害者だから…やむを得ない。 ステマじゃないけど、ネタバレが嫌なら先に全部見てからお嬢の話を聞くことね』

「キングジョーさん… どうかご無事で…」

 

 

「落ち着きマシたか?」

キングジョー、クララ・ソーン。

ファンからの愛称は「お嬢」。

あざやかな蜂蜜色のロングヘア。

ふくよかな胸とくびれた腰、引き締まった形の良いお尻。

超時空アイドルの頂点に君臨する、圧倒的なダイナマイトボディ。

全宇宙に分け隔てなく微笑む、永遠の処女神。

眩しい。眩しすぎる。

事故とはいえ、豊満なMカップおっぱいを揉んでも許してくれるなんて。

お嬢さんは宇宙の宝だ。

人類の希望たる歌姫のダイナミックなMカップのダイナマイト爆乳を、ただの男にすぎない僕が触ってしまった。揉んでしまった。

本来なら万死に値する重罪だ。それでもお嬢さんは笑って許してくれた。

その上、錯乱した僕を宥めてくれた。

優しすぎる。天使すぎる。

「ホントのホントに、お嬢さんなんですね?」

「ババルウ星人さんが変身していたら面白いデスネー」

宇宙を照らす美貌が輝く、屈託のない笑顔。

僕の目には、その美貌と長く綺麗な髪の背後にお釈迦様のような後光が見えた。

何より、全宇宙が憧れるキングジョー、クララ・ソーンが、僕のような平民を見舞いに来てくれた。

お嬢さんマジ菩薩。

画面越しでも超銀河アイドルの美貌は相当の眩しさだが、こうして生で見ると、身にまとうオーラが何倍にも眩しい。

「生お嬢さん… 生お嬢さんが目の前に… もう人生に悔いはない…」

「カモンカモン。 死なないでクダサイ」眩しい歌姫は、僕の頭を撫でてくれた。「ワタシは死んでマセンから」

そう、映画でエルミカ姫を演じた女優は、その衣装そのままに訪れてくれた。

色とりどり彩られた、きらびやかな宝石のドレス。背中に神々しく輝く、白き翼。天使の翼。癒しの翼。薄い布地から透けて見える、ただでさえ白く綺麗な肌と、さらに白く瑞々しいMカップの乳肉。超巨大な双山の山頂の桜色は、広範な半径の円を拡げるピンクの大口径クレーター。

僕がエルミカ姫が大好きだって知っている。しかも、ワタシは死んでいないとまで言いきった。ということは。

「知ってるんですね…? 僕がなぜ病院(ここ)にブチ込まれたか」

全ては、あの男が元凶だった。

SF作家、伏井出ケイの小説『コズモクロニクル』。

神の軛に反旗を翻した勇者アガムの英雄叙事詩。

映画化もしており、クララ・ソーンも出演している。

輝きの騎士団は正義の名の下に銀河の全てを支配し、神への信仰に背く者を異端審問にかける偽りの平和を強いていた。勇者アガムは騎士団長ダルランの強権的なやり方に疑念を感じ、出奔。

アガムは師レブラヒムに武芸を学び、裁きの大剣ソアーブレックを授かり、敵対する輝きの騎士団に2度も反乱を起こした。

輝きの騎士ゾーラは双剣エステリアを両手に、アガムの反乱を鎮圧。勇者アガムは追手を逃れ、弟弟子たちと共に別の宇宙で力を蓄えていた。

一方、双剣使いの騎士ゾーラは新たに2つの勢力を配下に従えた。

ひとつは、炎の盗賊団。

そしてもうひとつは、宝石の惑星レギンレイヴ。

映画でクララ・ソーンが演じたヒロインこそが他でもない、宝石の王女エルミカ・パルヘ・レギンレイヴ。

輝きの騎士ゾーラに次いで人気の高い存在。

宇宙一の絶世の美女であるエルミカ姫だが、つまりは伏井出の小説内ではゾーラに与する、敵サイドのヒロインだ。

時に2作目『コズモクロニクルⅡ 闇よ燃え上がれ!』でのことだ。

宝石の王女エルミカはその美貌ゆえ、民衆から絶大な支持を得ていた。

ところが勇者アガムはそれを民族主義に基づく偽りの平和による支配だと啖呵をきり、王女の忠臣のひとりである鏡の勇者ネールを糾弾。鏡の勇者は一度は罪を悔い改め自らを鏡の湖底に封印する。アガムは惑星レギンレイヴの秘宝たるカラーダイヤを奪った。エルミカ姫は、もうひとりの忠臣たる神鳥の鋼鉄武人ガイとともに宇宙へ退散した。姫様は、輝きの騎士ゾーラに拾われ、開拓民の少年アランから伝説の神の弩弓の伝承を教わる。炎の盗賊ハーロットと輝きの騎士ゾーラとの間に友情が芽生え。鏡の勇者ネールを再び宝石の王女エルミカの美貌で誘惑して臣下へと引き戻し。惑星レギンレイヴでの決戦では、勇者アガムは宇宙のエネルギー源たるカラーダイヤの力を手に入れてパワーアップするも。輝きの騎士ゾーラは神の弩弓トヒュウを賜り、一度はアガムを退ける。ゾーラのもとに集った英雄たちはエルミカ姫とレギンレイヴ王家を宗主とした宇宙平和を掲げてレギンレイヴ騎士団を名乗り、新たな宙域に城を構える。

その後、人工天球で新たな星竜の鋼鉄武人フラーをエルミカ姫の色仕掛けで忠臣と従える。

3作目『コズモクロニクルⅢ 闇よ美しく』

レブラヒムに師事していた屍霊術師アルケー、銅像兵パーカーを、ゾーラは次々と討ち取り。

ゾーラ城の決戦は、輝きの騎士ゾーラが優勢に見えた。

鏡の勇者と、2騎の鋼鉄武人。3体の誰がエルミカ姫と結婚するかで仲間割れを始めるまでは。

守るべきものがある。それは弱点でもあった。

統率力を欠き、士気の下がった英雄たちは、守るものが何もないアガムに次々と倒される。

ガイ。ネール。フラー。姫様への忠誠心が高かった英雄から順に、息絶えていく。

皮肉にも、最期まで善戦したのは女に興味の無かったハーロットだった。

宝石の王女エルミカも。

アガム配下の魔導士バナードの凶刃に。

惨殺された。

いや、作者である伏井出が殺したのだ!

作者だからって何様のつもりだ!

女の子は、証拠もなく消え去るような敵性生物でも粒子体でもない。

囚われの姫は、助け出すべき宝物だ。伏井出という暗い死神の鳥籠に幽閉されていた被害者の痛みと苦しみ、心の傷と失っていく自分らしさも慮れず、危険だからという理由で白き翼の天使を惨殺していいはずがない。

それがわからないなら、同じ苦しみを味わってみろ。

あんなに綺麗な美貌の天使なのに。あんなに白く輝く光翼で飛べるのに。白き翼の美しさと神々しさとは矛盾する、作者の操り糸。醜い者こそ正しいと熱弁する伏井出の思想に都合よく、宿敵とは名ばかりの事実上のフォアグラとして作り出され、黒い額縁の中をあんなに悲しい瞳で彷徨うように飛ばなくてもよかったのに。その神々しい美貌は、白き翼は、宝石のドレスは、それに見合う金色の額縁に彩られて笑顔で自由に飛ぶ権利があるのに。

僕は最愛の女性を失ったショックで、今もフラッシュバックに苦しめられている。

苦しい。胸が痛い。

当時、掲示板に以下のような書き込みがあった。

伏井出はエルミカ姫を屍姦した罪を命で償わねばならない。伏井出だけじゃない、全ての小説家は伏井出に成り下がる危険性があるから、これ以上尊い命たちが男たちの殺人性癖に屍姦される前に未然に地球上の全ての小説家を皆殺しにせねばならない。いや、そもそも生命体が男女別々に進化したことがそもそも間違いだったんだ、全ての男を全宇宙から一掃せよ、男一匹一匹の猟奇残虐刑方法も生半可なグロテスクさで許してはならない!仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち仇討ち

他の掲示板には。

男に生まれ、1秒以上生きながらえた!伏井出を最も猟奇的な残虐刑で処刑する理由は、それだけで十分だ!

あんな小説を書く男だ、次は武装して女子校かどこかを襲撃しに来るぞ!映画でエルミカ姫を演じたクララ・ソーンだって伏井出に命を狙われている!

「…………」

このほか、エルミカ姫の最期を仕方ないと肯定する論調に対しては、こう返している。あなたはあなた自身がそのような死に方をそこまで強く熱望しておられると自分で言いましたね、あなたがそんなに死にたい死にたいと熱弁するなら、先ず隗より始めよという諺を御存知ですか?

あなたはあなた自身も現実で実際にエルミカ姫と同じ最期を体験して無惨に死にたいのがご所望と御自分から言いましたよね?あなたはそこまで熱弁するほど御自身の死を熱望しておられると自白しましたね?だったら、先ず隗より始めよという諺をご存知ですか?

エルミカは敵女だから、という論調に対しては。誰が敵か味方かなんて人によって違うだろうが。僕にとって敵は地球上の全ての男だ。敵は全力で撃破せよと僕に命令したのは君だ。地球上の全ての男を撃破するしかない、と君は君自身の口から熱弁した。先ず隗より始めよという諺を知っていますか?

ひどい伏井出信者は報復もしてきた。ある男は、貴様がエルミカを実在する人間のように思っているなら女という性の死に様を侮辱するな、などとムチャクチャな報復を熱弁しやがった。僕も報復した。だったら僕もあなたの自殺願望を侮辱しない。あなたがそんなに死を礼賛するほど死にたい死にたいと仰るなら、先ず隗より始めよという諺を知っていますか?あなたがそこまで熱烈に死を肯定するならあなたはさぞかし不幸な境遇と悲劇的な死を遂げてくれるのでしょうね?男に二言はありませんね????????

自分は命が惜しいくせに殺人を美化するな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「…………」

惑星レギンレイヴには、命がある。命を持たぬ伏井出と違って。

エルミカ姫には、命がある。命を持たぬバナードと違って。

伏井出は情状酌量の余地もない男だ。だが、僕は誰にも理解されなかった。

かくして赤福蝶は精神病院に送られた。時に伏井出全盛期の時代だった。

「最愛の人を殺した小説家が許せなかった… 男の分際で、何食わぬ顔で生きてる男が許せなかった…」

小説の世界と、故郷の世界が、交錯する。

「大好きなんデスね… エルミカのことが」

女神の透き通る声が、病人を癒してくれる。

僕は、頷いた。

「生きててほしかったんです…… 伏井出と、伏井出の小説を読んだ全読者の命を蹴落としてでも、エルミカ姫だけは生きててほしかったんです… 全人類の命を踏み台にしてでも、エルミカ姫だけは生きててほしかったんです…」

すると、お嬢さんはまた頭を撫でてくれた。

「アナタは優しすぎたんデス」

歌姫の、眩しい微笑み。全てを慈しむ慈母のような美しさは、暗い病室でも陽だまりのように輝いて見える。

「僕が…?」

「赤福蝶サン。 かつてシミュレーションRPGの無犠牲RTAで、世界記録を保持していまシタね?」

そう、僕は元TASプレイヤーだった。

「見てくれたんですか…? 無犠牲シリーズを…?」

「イエース」アイドルのオーラが眩しい。「東京ヨハネスブルグ、デスヨネ。 ワタシも主題歌を歌ったから知ってマス」

そう、お嬢さんが歌った主題歌は最高の歌姫だ。だが肝心のゲーム本編は。

東京ヨハネスブルグ。あのゲームは多数の少女たちの命が他殺で失われる前提で作られており、ゲーム製作会社が命の夭折を過剰に礼賛している。世論を洗脳して法改正を悪企んでいたのはお見通しだ。主題歌は最高の歌姫だが、お嬢さんの透き通る歌声をそんなことに利用するなんて最低のゲームクリエイターだ。

「あのゲームを無犠牲クリアって凄いデース! 全戦闘をスキップするために努力を惜しまない熱意、感動シマシタ。 誰一人切り捨てナイ。 彼女たちはゲームのNPCじゃナイ。 命を持つ個。 そうデスね? エルミカも同じ。 架空のキャラクターじゃナイ。 小説の登場人物デハナク、一人の女の子。 小説の作者である自分は命が惜しいくせに女の死は美化して生きる権利を奪った伏井出が許セナカッタ。 そんな感じデショウカ?」

「お嬢さん…!」

囚われの姫は、助けるべき存在だ。天使の白き翼は再び空を照らし、大地に花を咲かせる。

やっと見つけた。

僕をわかってくれる理解者を。

それが、誰よりも愛しい憧れのアイドルだったなんて。

お嬢さんの美貌をいつまでも見ていたいのに、視界が滲んでぼやける。

いつしか、僕は泣いていた。

「それに、連日報道されているデショウ?」

超銀河アイドルをアイドルたらしめるMカップのたわわなダイナマイトバストが、少年を包む。

全宇宙が羨む光景。

顔を全て覆い尽くす、聖なるボリュームの暴力。両耳を挟む、Mカップの爆乳の谷間。圧倒的なボリューム。むにゅっと柔らかい気持ち良さ。全宇宙を包み込むような、優しい優しい女神の抱擁。

甘いハニーパフュームの香り。

「伏井出ケイ。 あの男の正体は…。 あなたは正しかったんデス」

宇宙一の果報者だろうな、今の僕は。

「ワタシだけが生き残ってほしいなんて、寂しいこと言わないでクダサイ。 ワタシは、エルミカは生きてマス。 白き翼の導き手は、ソアーブレックという邪悪な呪縛から解き放たれて、自由に銀河を飛んで皆サンに歌とダンスを届けてマス。 暗い死神の鳥籠から解放されて、コズモクロニクルの世界を抜け出して、今こうして生きてマス。 伏井出に捏ち上げられた偽物の人生じゃなくて、ワタシ自身が創り出した本当の人生を生きてマス。 ほら、温かいデショウ? 心臓トクントクンって。 アナタの悲しみが癒えるまで、いくらでも胸を貸しマスから」

憧れのアイドルの胸の中で、宇宙No.1アイドルの大きな大きな乳房の間で、声を出して泣いているのだから。

「アナタは優しいから、ワタシを守ろうとしたんデスヨネ」

「…っ… 好きなんです…っ… たとえフィクションの中のキャラクターだって言われても… …っ… 何百回言われても… …っ… この宇宙で… たったひとりの… 大切な人なんです…っ 好きで好きで好きで好きでたまらないんです…っ」

「ワタシも、エルミカ姫を別人だと思ったことは一度もありまセン。 こんなにもワタシ達2人を想ってくれて、嬉しいデース」

だから、もうどこにも行ったりシマセン。ワタシはここにイマス。輝く聖なる歌姫は、暖かい胸の中で撫でてくれた。

 

 

「本題に移りマショウ」

泣きやむまで抱きしめてくれたお嬢さんは、宇宙No.1アイドルたるゆえんの圧倒的なMカップのダイナマイトバストの谷間に挟んだまま、話を替える。

「何者かが、アナタに罪をなすりつけようとしてマス」

ノートPCを開いて事情を説明した。

「そんな… 僕は女の子を傷つけるようなマネは…」

「デスヨネ。 アナタにはアリバイがアリマス。 それに、ワタシをワタシ本人のように愛せるほど感受性の高い人が、こんなコトをされる被害者の気持ちを慮れないとも思えマセン」

誰もが憧れる超銀河アイドルであると同時に、ペダン星の天才エンジニアでもあるお嬢さんは、続ける。

「真犯人は蝶サンが既に自宅にいないとは知らず、PCに侵入して遠隔操作で予告文を送ッタ」

「じゃあ、僕のPCを調べたら、遠隔操作ウイルスの出元が…」

「ノー」博愛の処女神は首を横にふる。膝裏まで届く長く綺麗な蜂蜜色の長髪がさらさら流れ、甘いハニーパフュームの香りが花咲く。「犯人の本拠地が強大な軍事力を有している危険性を警戒して、戦争の口実を与えてしまうリスクは避けマショウ。 もっと手っ取り早い方法がありマス」

「手っ取り早い方法…?」

「アナタが、ウルトラマンになってクダサイ」

……?

今、なんて言った……?

いや、ウルトラマンなら知っている。あの鋼鉄の恐竜が街を襲った時、ベリアルそっくりのウルトラマン───声明文でジードと自称したか───が戦った。

鋼鉄の恐竜もまた、伏井出そっくりの奇声を発していた。

あの鉄塊の言うことが正しければ、やはりあのウルトラマンはベリアルの遺伝子から作られた人造人間だったようだ。

いつもなら、あの男がフラッシュバックして呼吸困難になるところだが、今夜はすぐ近くに宇宙No.1アイドルがいてくれるだけで発作が起きない。

別の意味でドキドキするが。

お嬢さん…いい匂いだなぁ…間近で見ても髪サラサラ…目鼻立ち整って肌綺麗…

さすが全宇宙が見惚れる美貌。

「…って、ウルトラマン?」

「イエース」歌姫の美貌が得意気に笑う。銀河が憧れる美貌には、眩しい笑顔が一番似合う。「TASプレイを使いこなす賢さ、エルミカを慈しむ優しさを兼ね備えたアナタなら、ウルトラマンXのような高いサイバー侵入能力を持つ戦士が生まれマス」

「え…? え? え?? ぺダン星の科学力って、そこまで進んでるの??」

「ぺダン星だけの力では無理デシタ」膝裏まで届く姫カットの長い長い美髪が揺れる。ハニーパフュームの香りが花咲く。「デスガ、ウルトラの星をはじめ、チブル星、ピット星、ゼットン星、マグマ星、ガッツ星、サロメ星、エスメラルダ星、そしてワタシ達の惑星レギンレイヴ。他にも銀河中の科学者と協力して、ニーベルリングを開発しまシタ。 どんな国の人たちとも理解し合い、全宇宙の星々と力を合わせたら、不可能なんかアリマセーン」

話が壮大すぎて、ついていけない少年がいた。でも、現に全宇宙の人たちの心を繋いでいる銀河の歌姫は、その青く澄んだ瞳は、神話叙事詩を詩っているとも思えない。

「でも… 僕が…?」

「ナレマスヨー」

少年の、自分がウルトラマンなんてなれるかな、という疑いを表情から察した銀河の歌姫は、代弁するかのように勇気づける。

「お嬢さん…あなたは一体…?」

「ワタシ達はヴァルキュリア。 ウルトラウーマンミカエラの末裔にして、ファーブニルのモンスアーマーを身にまとう光の女神」

差し伸べる、観音の御手。

「行きマショウ 光の国へ」

銀河の歌姫に導かれ、少年は手を伸ばす。

女神の手に触れる直前、病室の引き戸を何者かが乱暴に開けるけたたましい音が二人を引き裂いた。

振り返ると、鬼のような形相の男が銃口を向けていた。

『ファーブニルめ! 覚悟!』

危ない!蝶は咄嗟に飛び上がり、お嬢を庇った。

病院を揺るがす銃声。

硝煙の悪臭。

病室を真っ赤に染める、少年の血。

「蝶… サン…?」

女神は、目を見開く。

見ている前で、女神を庇った少年が血を流しているのだから。

男は『チッ、外したか。 今度こそ!』と再び銃口を向ける。

今度は引き金を引くのが一歩遅かった。

宝石の王女は、バリアを展開して男の銃弾を弾き返したからだ。

2、3発轟いた銃声は、戦乙女には届かない。鈍い金属音が絹を裂き、床に鉛が転がるだけだ。

『チクショウ! ここでファーブニルを討伐したら俺は英雄として祀り上げられていたのに! 俺様の富と栄光が台無しだ!』

ペダニウム合金相手にただの銃では旗色が悪いと諦めたか、男は逃走した。

「姫様…… 無事で…… よかっ……」

脅威が去り、守るべき宇宙が無傷と見た蝶は、力尽きて倒れた。

「蝶サン! 蝶サン!」

クララが蝶を抱き起こす猶予すら許されなかった。突如として外から地響きが轟く。

窓の外を振り返ると、月夜には。

全身を黒鐵の装甲で覆った、機械のシャドウが吠えていた。

全長120メートル、体高85メートル。

ロボットシャドウ J-REX

『死ねえええええ キングジョーおおおおお』

大口を開けた黒鐵の翼竜は、今にもレーザーブレスでも吐き出しそうな殺気だ。

この病院にも、たくさんの守るべき人たちがいる。心優しきゆえに傷つき、壊れてしまった人たちばかりだ。

「サセマセン!」

窓から飛び降りた宇宙No.1アイドルは、処女神ゆえに大きいMカップの圧倒的なダイナマイトバストから、その威圧的な北半球の谷間から、ソウルライザーを取り出し、端末に埋め込まれた鉱石を黄金色に輝かせた。

夜空には似つかわしくない太陽のように照らす、創造神ウルトラウーマンミカエラの幻。

伝説の超人は、4隻のドローンを手に乗せていた。

ドローンは金色の光ににつつまれながら飛び上がり、いつの間にか一糸まとわぬ姿だったクララの神々しいダイナマイトボディに張り付く。

両手両足に黄金のガントレットとソールレットを装着する。

全宇宙が拝まずにはいられないほど豊満な女体美は、その白く均整に満ちた裸身は、処女の聖域と、超巨大な双乳にあって広い半径に渡って円を占めるピンクの大口径クレーターを黄金のドローンで辛うじて守り、長い蜂蜜色の髪には黄金のティアラを戴き、自慢の白い肢体を輝かせた。むちむちの腿も、健康的なおへそも。処女神を処女神たらしめる超アメリカンサイズなMカップのダイナマイトバストに至っては、北半球から谷間から南半球に至るまで、ほぼ全域が白い生乳肉を見せている。

宇宙ロボット キングジョー

黄金のモンスアーマーを身にまとい、民を導く戦乙女(ヴァルキュリア)

戦乙女は、病院全体を覆い隠すようにバリアを張る。

翼竜が吐いたのはレーザーブレスではなく、小型ミサイルだった。

バリアを張るのが後一歩遅れていたら、病院は木っ端微塵に砕け散っていただろう。

『逃がさんぞ! ファーブニルは殺る!』

病院を囲む半径500メートル以内が結界に閉じ込められる。なるほど、援軍対策までやる気満々か。

ジェットバーニアでホバリングする黄金の戦乙女は病院を背に、シャドウ翼竜が全身から火を噴く砲弾をビームで撃墜する。

『何がヴァルキュリアだ! ウルトラウーマンミカエラの末裔どもめ、ファーブニルの剥製なぞ着やがって! ファーブニルをけがすな! 思い出ブレイクなんだよ! しかも光の国も容認しているだと!? 光の国も地に堕ちたな! 何でもかんでもミカエラのコスプレ衣装にすりゃいいってモンじゃねえだろ!』

ファーブニルのモンスアーマーをまとうヴァルキュリアもファーブニルと同類だ、ミカエラの遺伝子ごと歴史から抹消してやる、などと息巻くシャドウ。どうやらファーブニル=倒すべき敵、という固定観念を思い出補正のごとく崇拝しているらしい。

だったらモンスアーマーはともかくミカエラは関係ないだろう?とアンジェリカなら言うかもしれない。そんな発想には至れない理由がクララにはあった。実はヴァルキュリアという種族は、ミカエラの末裔を総称する生物学的な分類名ではないのだ。厳密には。

全く起源を異にして誕生した瓜二つの女神たちもいる。生態こそ似ないものの、見た目からは判別が不可能だったから捩れ伝わっただけだ。

それを理解していない証拠に、シャドウはこんな言い訳をはじめた。

『それ以前に! お前ら本当にミカエラの末裔か!? どこでモンスアーマーを手に入れた!? 本当はミカエラの末裔ってのは単なる神話で、ヴァルキュリアの正体は過去に死んだファーブニルの魂が転生したんじゃねえのか!?』

それだそれ。かつて多岐沢も同じ誤解をしていた。ミカエラの方舟が海底から引き上げられるまでは。

『だったら尚更だ! たとえ女みたいな姿に転生しようと、ファーブニルはファーブニルだ! ファーブニルは英雄に殺されるべきなんだ! 女だからこそ尚更好都合だ、男より猟奇的にリョナって証明してやる!』

ヴァルキュリアを何だと思っているのだ。

どうやらシャドウは誰でもいいから快楽殺人がしたいだけらしい。だからそんな自分に都合のいい解釈ができる。

「アナタはアース神族とヴァン神族を混濁してマセンか?」

『誰だそりゃあ!?』

ほらね、やっぱり知らなかった。

実のところ、マルチバース全体でみるとヴァルキュリアと呼ばれる神々の殆どはヴァン神族が占める。彼女たちがファーブニルの生まれ変わりであることは有名な話だ。

「ダカラといって、かつてファーブニルだったという理由だけで殺意の対象にしていいはずがアリマセン! まずファーブニルだから頭ごなしに殺そうなんて考え自体が既に間違ってイマス!」

ちなみにウルトラウーマンミカエラの子孫であるアース神族がどうやってモンスアーマーを手に入れたって?アース神族は女系神族だ。産まれてくる赤児は100%女神だ。

そう、夫が誰であろうと。

───とは言わずに。

「…喋りすぎマシタ。 教える訳にはイキマセン」

ジェットバーニアで突進した銀河の歌姫は、シャドウの巨体を押し返す。

小さな女神の白く綺麗な細腕からは想像もつかないほど強力なドゥルガーの腕力は、悪魔の重厚な巨体を後ろ後ろへと追いやっていく。

ついに結界の外壁まで追いやり、シャドウの黒鐵の鋼体をペシャンコに挟み潰した。

ぐにゃりと原型を留めていない機械部品。飛び散る循環オイル。

これはもうスクラップだと確信した病院の患者たちが、窓から歓声を浴びせる。

押し潰したはずの鉄屑の残骸に、異変が起こるまでは。

『ペダン星人の分際で肌を露出しやがって…ッ! 若さなんか自慢してないでチャドルでも着てろ…ッ!』

飛び散った機械部品が、本体に戻ろうとしている。

どうやら再生能力に優れたシャドウのようだ。

…結界を維持しながらでは再生に時間がかかるのを除いては。

窓から見守っている患者たちも、「何よあのシャドウ、遅いじゃない」「再生する気あるのかしら?」と半信半疑だ。

「ソンナニ援軍を呼ばれるのが怖いデスカ?」

ビッグマウスな割に随分とチキンな男が足踏みしているなら好都合だ。この隙に。

「蝶サン…!」

黄金のヴァルキュリアは、引き返す。

死した勇者を起こしに。

 

 

「ここは……? 僕は一体……?」

そこは、緑豊かな大地。

一面に、蠱惑的な香りの花が咲き誇る。

花園の中央には、宝石で彩られた大きな大きな宮殿。

「レギンレイヴ星…! 何時の間に…」

この光景を、忘れたことはない。

映画で見た、エルミカ姫の故郷。宝石の惑星レギンレイヴだ。

一面に咲く花は、惑星名産の眠りの花。

「ここは、あなたの記憶の中の宇宙です」

聞き覚えのある、透き通る美声が隣から呼びかける。

「お嬢さん……?」

片時も忘れたことのない、美しき宝石の王女が目の前にいた。

いや、この上品な語り口調は。

「姫様……?」

そこに佇むのは、お嬢さんであってお嬢さんではない。宝石の惑星レギンレイヴの王女エルミカその人が、そこにいた。

「真実を明かします」宝石の王女が、隣に寄り添いながら語り始める。甘いハニーパフュームの香りが鼻腔をくすぐる。「コズモクロニクルは、事実を歪めて伝えた偽りの史記でした」

「どういうことですか?」上体を起こそうとした蝶の頭が、宝石の王女エルミカのMカップの超巨大なダイナマイトバストに衝突した。

柔らかい。もちもちっと弾力があって、栄養たっぷりボリューム満点。これこそが、宝石の惑星の王家たる証。

「ごめんなさい」と謝る蝶に「いいですよ」と笑いながら、宝石の王女は白く神々しい光翼を開く。「別宇宙で、アガムが輝きの騎士団に戦争をしかけたのは史実です。 伏井出はそれを善悪逆転して伝えたのです。 勇者アガムは、力を求めて禁忌たる星のコアに手を出した大罪人でした」

アガムは宇宙の支配者レブラヒムに魂を売り渡し、ファーブニルの命を道具のように弄ぶ力を手に入れて宇宙を恐怖と混沌に陥れた独裁者だった。

ゾーラは、双剣エステリアをふるいアガム軍の脅威を退けた輝きの騎士のひとりだ。

伏井出は、作者である自分に都合のいいようにエルミカ姫を「斃すべき敵」に捏ち上げた。どうりで白き翼の導き手らしからぬ不自然な悪役台詞が矛盾していたわけだ。

何が正義の刃だ!何が彼“女”たちの野望を打ち砕いただ!何が始まりの彼“女”たちに鎮魂歌をだ!何が彼“女”の役目は終わりましただ!何が彼“女”を眠らせてあげてくださいだ!

美しい生物を守れぬ力など男尊女卑でしかない!

あの男には、守るべきものが何もない。あるのは闇への盲従だけ。

白き翼の導き手ご本人からは直接の言及は無かったが、ハーロットがエルミカ姫に興味がないって記述も恐らく伏井出による捏造だろう。このテの熱血漢は男に厳しく女に優しい。ピンチの時でも『焼き鳥はどうでもいいが姫サンは返せ』くらいの軽口は叩くだろう。

「てことは、伏井出が作り出した『アガムに殺す口実を与えるための悪役に捏ち上げられた』人格は、エルミカ姫の本当の人格じゃないんだ…!」

「話を続けます」

宝石の惑星レギンレイヴは、宇宙のエネルギー資源たるカラーダイヤが豊富かつ高純度に採掘される実り豊かな星だ。星自体が高純度のカラーダイヤで構成されているといっても過言ではない。

全宇宙の支配を目論んだアガムは、ダイヤの乱獲を求めて惑星レギンレイヴに進攻。姫様を守る鏡の勇者ネールに重症を追わせるが、ネールは最後の力を振り絞って主君たる宝石の王女エルミカを神鳥に転送する。

開拓惑星で輝きの騎士ゾーラと、そして開拓民の少年アランを助けた白き翼のエルミカは、魔王アガムの恐怖に対抗しうる伝説の神の弩弓を探す旅を続ける。

弩弓の謎を知っているという炎の盗賊団を訪ねた一行は、共にアガム軍を撃退する。

それが隠されているという鏡の神殿を訪れた一行は、アガムの呪縛で苦しんでいた鏡の勇者ネールを助け出す。

しかし、アガム軍はそこまで迫っていた。

惑星レギンレイヴにて、アガム帝国軍と惑星連合軍の全面戦争では、美の女神エルミカは自らを犠牲にして神鳥の鋼鉄武人ガイに力を授けた。

「死んだのですか…?」

「私の心音を聞いたでしょう? 死んでいるように見えますか? ここからが重要です」

奪ったカラーダイヤの力で強化したアガムのブレス砲を前に、惑星レギンレイヴをバリアで庇った英雄たちは絶体絶命かに見えた。

ゾーラたちの最後まで諦めない心が神に届き、神の弩弓トヒュウを授かる。平和を願う全宇宙の人々の想いを乗せた光の矢を放ち、アガム軍を退けた。

宝石の惑星レギンレイヴを守った。

「エネルギーの大半を消耗しましたが、命に別状は無かったのです。 全宇宙の人たちの願いが予想外に短期決戦でアガム軍を撃退してくれたお陰で、私は一命を取り留めました」

レギンレイヴ騎士団は、ゾーラが結成した新たな輝きの騎士団だ。

星竜の鋼鉄武人フラーは、有機生命体の抹殺を目的とする人工天球が作った兵器だった。白き翼の導き手が決死の説得で訴えた末に、武人に「心」が生まれるまでは。

いや、フラーにも「心」はあったと言ったほうが正確か。心のない命なんかない。ゾーラが、ハーロットが、ネールが、ガイが、アランが、レギンレイヴの民が、別々の星の人どうしが、共に生きるファーブニルたちが、ゾーラの相棒たるエステリアとトヒュウさえも。命ある全てが。何よりエルミカ姫が、そうであるように。

惑星レギンレイヴの尽力によりゾーラ城が完成したのは、フラーが騎士団に加わってからだ。

ゾーラ城でレギンレイヴ騎士団が全滅したのは半分正解だが、史実には続きがある。

英雄たちは、幽霊になってもゾーラの前に現れ鼓舞する。

ゾーラ城を破壊されたら、目と鼻の先は惑星レギンレイヴだから。

まだ救える命がある。手を差し伸べられる多くの心が待っている。

守るべきものがある。

惑星レギンレイヴを目指して行軍するアガム軍だが、ソアーブレックという邪悪な凶刃は小さな命には届かなかった。

アガムの手を止めたのは、輝きの騎士ゾーラだからだ。

すすめ! すすめ! すすめ! すすめ!

奇跡を起こしたのは、ほかでもないゾーラが過去に作詞した歌だった。

エルミカ姫の透き通る歌声が、メロディを再現する。

与えられた力の意味。小さな命を守ることの意味。

かつてゾーラが歌った太陽と月の歌が、その詩が、本人の予期せぬところで本当の出来事になった。

ゾーラという名前は、故郷の言葉で『原点』を意味する。

彼は太陽と月を逆行させ、時間を巻き戻して仲間たちの命を助けたのだ。

ゾーラの記憶は失われたが。

守るべきものがある。だから輝きの騎士は戦える。

ふと、宝石の王女が引用した「家族を弱点と言ったな?それは違う!守るべきものがあるから俺達は戦えるんだ!」という台詞は、伏井出の小説には無かった。ここサイドアースでジードがベリアルを永久追放空間へ葬った時、もう一体の双剣使いの巨人が言った言葉だからだ。

双剣…?

確か自らをウルトラマンゼロと名乗ったか。

ゼロ……原点……

「まさか…!」

「そう。 私が真実を知っているのは、彼こそが輝きの騎士ゾーラだからです!」

「そうだ…! もうフィルムの中に閉じ込められた囚われの姫じゃない! 今こうして生きてる! 広大な銀河でエルミカ姫は自由だ! 白き翼の導き手は、全宇宙のみんなに歌声を届けて希望の光を照らしてくれる…!」

胸を撫で下ろす蝶。

「私は、私の人生を生きています」美の女神エルミカが、豊満な胸に手をあてて微笑む。「この心音は、宇宙に進出したばかりのクララにとって文字通り『原点』でした。 目指すべき未来を指し示してくれた神の弩弓なのです。 あれから有難いことに全宇宙のファンの方々から応援をいただいた今でも、クララは時間を見つけてレギンレイヴを訪れてくれます。 私たちは、二人でひとつです!」

だから、原点(ゼロ)になる。そしてまた飛べる。

「話は終わりマシたか?」

クララ・ソーンのおかげで。

そうだ。

エルミカ姫は絶世の美女だ。

絶世の美女であることができるのは、絶世の美女だけ。

お嬢さんの美貌が、王女に命を吹き込んだのだ。

宝石の王女エルミカは、小説の世界から抜け出して実体化した。現実に生きている。

2人の女神は沢山の人たちに歌声を届けて、銀河に光を照らして、自分の人生を生きてる。

それに気付けたのは、こうして生で会えたからだ。

「アナタも、また飛べマス。 ワタシ達の原点、レギンレイヴ星で!」

「姫様…っ!」

今度は、自らエルミカ姫の胸に飛び込んだ。

「あン♥︎」

蝶の頭を挟んだMカップの豊満な双乳が、金色に輝く。

Mカップのアメリカンサイズの超巨大な双山が、ガヴァドンUカードとニーベルリングを排出する。

「今度こそ守る…! エルミカ姫を守る! 僕は、ウルトラマンだ!」

ニーベルリングを腕に装着し、ガヴァドンUカードを読み取った蝶の体が、巨大化していく。

 

 

機械のシャドウが自動再生を完了した。

『ファーブニルめ! 病院に逃げやがって!』

鋼の大口が、次の小型ミサイルをリロードする。

『そこのシュードラども、いらねえよなぁ?』

黒光りするミサイル。怯える患者たち。

シャドウがそれを発射することは無かった。

誰かの声が、聞こえる…?

機械の翼竜が、消えた。

同時に、病院を閉じ込めていた結界が解除された。

後には、月明かりと静寂だけが平和を告げた。

『何だ!? 何が起こった!?』

シャドウ側からすれば、病院が消えた。

いや、空間そのものが消えたといったほうが正しいだろうか。シャドウは、雲の上の空のような空間に強制転送されたのだ。足場はある。ペダニウム合金製の浮島だろうか?

背中に青い宝珠光が燃える、青い巨人が。浮島に立っていた。

ウルトラマンマギ

『青いウルトラマン!? さっきのガキが命の固形化技術で生き返ったのか!?』

シャドウが両目からレーザーを照射する。マギはそれを回避する。浮島のオベリスクにレーザーの焦げ痕ができる。

『青いウルトラマンなんか認めないぞ! 最近のウルトラマンは青だの紫だのゴチャゴチャしやがって!』

なおもレーザーラッシュは続く。

『コスモスに似ているところも気に入らん! 何が慈愛の戦士だ! ファーブニルごときに生きるチャンスを与えやがって! ファーブニルは狩りの獲物だろうが! 俺様が英雄として持て囃されるためのな!』

マギは俊敏に回避するが、防戦一方だ。

『そぉらそぉら! 逃げてばかりか!? 自爆兵のなり損ないがァ!』

逃げるマギをレーザーで追尾した結果、焦げ痕はオベリスクにある文字列を残した。

『地獄の土産に覚えておけ! 俺はJ-REX! 全宇宙のファーブニルを駆逐する英雄の名だ!』

英雄願望があるらしいシャドウの大言壮語だが、ペダニウム合金製のオベリスクは刻まれた名に反して次元ゲートを開いた。

マギが『ウルトラマンジードのアクセスを許可します』と音声を入力すると。

メイスを装備した、鋭い目の巨人が、次元ゲートを渡ってきた。

『何ィ!? お前は…!』

ウルトラマンジード

このサイドアースを守護する本来のウルトラマン。

『どういうことだ!? 俺の結界は!?』

『説明しよう』マギが口を開く。いや、青い巨人に口は無いのだが。『君のダークフィールドを僕のミレニアムフィールドで上書きした。 君はこのフィールドから脱出できないが、他のウルトラ戦士は僕の承認で自由に出入りできる。 どうだい? こんなことをやられる側に立場逆転してから始めて気付いた気分は?』

『何だとぉ!? だからジードが来たのか!』

今度はジードが口を開く。『僕なんて、あのベリアルの息子だよ。 それでも支え合う仲間の笑顔でみんなを守れた! 僕たちは、みんな自分の人生を生きてる!』

『ええい黙れ黙れぇ! ベリアルの息子なんかがウルトラマンを名乗る資格は無い! 敵種族は敵種族らしく最期まで俺様に退治される宿敵の責務を全うして死んで俺様の富と名誉に貢献しやがれ!』

砲撃を乱射するシャドウ。ジードのメイスはそれを全て弾き返し、距離を詰める。

機械の翼竜は舌打ちしながら大型戦闘機の形態に変形し、空中へ退避する。

可能な限り、浮島から距離をとる。

ジードも追跡する。

背後から飛来する鋭い目の巨人を、大型戦闘機はミサイルで撃墜を試みる。

今度はギガファイナライザーのトリガーを2回スライドし。『ライザーレイビーム!』エネルギー弾がミサイルを全弾撃墜した。

わざわざ変形しただけあって、大型戦闘機の飛行速度は対岸の彼方に浮島の影がズームアップするほど速い。

待ち伏せしていた。

既に先回りしていたらしきマギがシャドウの進路をバリアで堰き止め、方向転換も間に合わずバリアに激突する。

ジードが追いつく。ギガファイナライザーのトリガーを1回スライドし。『ギガスラスト!』メイスの殴打を、シャドウはまともに喰らう。

撃墜されたシャドウは、ペダニウム合金製の浮島に墜落した。

『何だ… 今の重い一撃は…!』

翼竜形態に戻り、もだえ苦しむ黒鐡の悪魔。

『あなたがシュードラ呼ばわりした、病院の人たちの想いだ!』

ギガファイナライザーが赤く輝く。さっきの殴打は、彼等の願いを乗せた一撃だ。

『そして、もうひとり』

上空からマギが、指差した先は、彼よりさらに真上。

空より高くを見上げた翼竜の口が、あんぐりと開く。ミサイルを発射するためではない。恐怖のあまり顎が外れたからだ。

体長、計測不可能。

『貴様アアアアアアアアアア! どうりで見ないと思ったらそんなトコロにいやがったのかああああああああ!』

超巨大なキングジョーが、シャドウを見下ろしていたからだ。

全宇宙に優しく微笑む美しきドゥルガーは、慈愛に満ちた笑みそのままに。

掌にシャドウを乗せたまま、指を閉じる。全宇宙のファーブニルを駆逐する英雄の名が刻まれた、ペダニウム合金製の指を。

天空に架かる浮島の正体は、キングジョーのガントレットだったのだ。

『あなたは最初から、お釈迦様の掌で転がされていた』

『次はエルミカ姫が君の生殺与奪を掌握する番だ』

『やめろおおおおおおおおおおおおおおおお』

プチッ。

女神の母性すら感じさせる柔らかなの笑みと、2人の戦士の哀れむような視線を浴びながら、悪魔はまたしても握りつぶされた。

『まだだ…ッ! 俺は不死身だ…ッ!』

鉄屑が、またしても蠢く。シャドウが、再生しようとしている。

機械の翼竜は、二度と再生しなかった。再生までのタイムラグが男の決定的な弱点だったからだ。

空中でマギの両脚が結跏趺坐を組み。

『ウルトラ錬金術!』

天上から、光が降り注ぐ。

光を浴びたシャドウが、分解されていく。

『なぜだ……っ! 再生できない!? 何をした!』

JーREXの体が、1コ10cm立方の黄金のキューブに分解されて崩れ落ちていく。

浮島に着地したジードが、砂金を手に取る。『害はないようだ』さらさらと指の隙間から流れ落ちる砂金。

この金色の金属光沢。

「もしかしたら」キングジョーが、この物質の成分をスキャンする。

シャドウの肉体を分解してできた物質の正体が判明した。どうりで見慣れた物質だと思ったらやっぱり。

「これ、ペダニウム合金デース」

ええっ!?ジードが驚いて目を見開く。

肉体が崩壊していくシャドウが、最期の呪詛を吐く。『バカな…! 俺達シャドウは無で構成された負の生命体…! 俺の体からそんなものが作れるはずが…!』

「奇跡が起きたんデス」黄金の戦乙女が微笑む。「アナタはもう人を傷つける暗黒物質じゃアリマセン。 今日からは人の役に立つペダニウム合金デス。 Congratulations ! 今日がアナタの誕生日デース」

『そんな…… おれが……?』

「アナタも、生まれ変われマス。 シャドウに捏ち上げられた偽物の命じゃなくて、アナタ自身が創り出す本物の命を。 カモン! 鳥籠の外に出たなら、本当の朝が目覚めマス!」

ミレニアムフィールドを解除する。

病院の外は、静寂が包んでいた。

マギは蝶に戻った。キングジョーも元の身長163cmまで縮んだ。ジードがいた座標にも、特徴的な癖っ毛の少年が立っていた。

ペダニウム合金製の美しきビキニアーマーと、大量に積み上げられたペダニウム合金のキューブだけが、金色に輝いていた。

夜が明ける。

東の空から、太陽の光が目を覚ます。

空が、金色に照らされる。

美しかった。

朝を照らす黄金の太陽は、美しかった。

朝日に照らされて一際燦然と輝くキングジョーは、美しかった。

積み上げられたペダニウム合金のキューブが、太陽の光を反射してキラキラ輝いていた。

女神と同じ輝き。戦乙女の甲冑と同じ黄金。

眩い光景は、窓から眺める患者たちをも感動させる。

さらさらと金色に崩壊し、既に首だけになった機械の翼竜が、黄金の涙を流す。

『ごめんなさい… あの殺人予告、俺だ…』

「素直に謝れマシタネ。 バナードにはできなかった、それは生きてる証デス。 エライネー」

『キングジョーさん… 俺… 生まれ変われるかな…?』

翼竜は完全に砂金化し、その原型をとどめるものは何もない。

朝の光を浴びて煌めくペダニウム合金を遺して。

「生まれ変われマスヨ。 アナタも光になれたじゃないデスカ」

崩れた砂金と、処女神のビキニアーマーは、同じ黄金の光沢を互いに反射しあっていた。

ペダニウム合金と朝日の輝きをバックに、癖っ毛の少年が蝶に手を差し出す。

「僕はリク。 朝倉リク。 よろしく」

「赤福(モルフォ)。 こちらこそよろしく、リク」

黄金の戦乙女に照らされて、2体の勇者は握手を交わした。

宇宙№1アイドルは、宇宙の頂点に君臨していたいんじゃない。

お嬢さんの輝きが目指す場所はただひとつ。全宇宙の人たちが手を携えて生きる平和な未来は、必ず実現する。

「やべっ もうこんな時間だ」スマホで時刻を見たリクが慌てる。「じゃあ、僕はもう帰るね」笑顔で走り去るリクを、キングジョーと蝶は「マタネー」「またね」と手を振って見送った。

「ワタシ達も行きまショウか」

美しき歌姫が、手を伸ばす。

「はい」

女神の手を取ろうと、蝶は前進の一歩を踏み出す。

ええ、その時でしたとも。赤福蝶がどういう体質の星だったかを患者たちが目撃した瞬間は。

突然、何もないところで足を崩した蝶の体が、前のめりに傾く。倒れ込むまでに、2、3の異変が起きた。

蝶の左手は、お嬢さんのMカップのダイナマイトバストを鷲掴んでいた。

少年の手に甘る、掴みきれないほど巨大なMカップの栄養たっぷりボリューム満点の柔らかくてもちもちの乳肉。

では、右手は。

女神のビキニアーマーの、ちょうど乳房に張り付いた虹色の発光パーツを掴んでいた。

ずり下ろされた発光パーツが、剥がれる。白い豊満なMカップのダイナマイトバストが、全ての乳肉が、ぷるるんと跳び跳ねて露になる。もちろん、豊満な爆乳の山頂のピンクの大口径クレーターも。

右手はさらに下にずり落ち、今度は永遠の処女性を守るペダニウム合金製の貞操ベルトに引っ掛かる。ミカエラの聖なる加護で不死身の体を実現しているそれは、敵意なき者の攻撃力ゼロの、というか心優しき慈愛の戦士の浄化能力に対する耐性を前提としていなかった。結果。聖女の貞操ベルトさえも蝶の右手にずり下ろされ、処女神の最も綺麗なつるつるの聖なる処女神が白日にさらされた。白くぴったり閉じた、宇宙で最も美しい処女。宇宙で最も神聖な、永遠の聖処女。

倒れ込んだ蝶の頭が、宇宙№1アイドルのMカップのダイナマイトバスト、その白くてボリューミーな乳肉の山頂の大口径クレーター、その休火山の閉じたガマ口に。キスをしていた。

「Oh !」

一糸まとわぬ全裸の美少女の、生おっぱい。圧倒的なボリュームが産みだす柔らかさと弾力。生で感じる生の肉の味。この感触を間近で感じたいファンがサイドスペースだけでも何億人いると思っている。蝶は今、銀河の女神の恩寵を賜っているのだ。

お嬢さんのMカップのダイナマイトバストの大口径クレーター、誰にも触れられたことがないのが見て取れるほど綺麗なピンク色だなぁ。火口も今まで目覚めたことも噴火したこともないのが見て取れるほどだらしなくガマ口を閉じて爆睡している。聖なる処女神は、こんなところまで処女だとは。

さて、こういう体質の運命の女神の加護に愛された蝶は、以下のようなタイミングも偶然の一致とは思えなくて。

上空から、小さな星が飛来する。

「お姉様ァー! ご無事ですかァー!」

ただのペダン星人の一般人だったが、宇宙に進出した当時のクララ・ソーンのファン第一号を自称するオッカケ。今では、お嬢さんの妹分。

宇宙ロボット キングジョーⅡ

さっきのダークフィールドを検知して心配になったペダン本星が、はるばる寄越したのだろう。

結論から言えば、あの程度のシャドウはお嬢さんの敵ではなかった。

朝の光を浴びた病院の屋外を見たキングジョーⅡは、慈愛の戦士による思わぬ不可抗力を目の当たりにして。

「男アアアアアアアア! 神聖なるキングジョーお姉様に何てコトするですかアアアアアアアア!」

怒り狂った。

蝶が「わああああごめんなさああああい」と謝るも時すでに遅し。キングジョーⅡの右腕に装備したペダニウムランチャーが、慈愛の戦士を蜂の巣にしたのだった。

 

 

その後、お嬢さんはM78星雲の代表として、真実の歴史をサイドアースに公表。自分も歴史を歪められた被害者だと訴えた。

蝶たちとペダンプロダクションの仲間たちと一緒に映画会社に頭を下げ、真実の歴史に基づいた映画の製作決定に漕ぎ着く。

お嬢さんも、宝石の王女エルミカ役に内定した。

 

 

グロテス星、ハスネスタジアム

和洋折衷のハイテク都市は、何十万のサイリウムがネオンのように照らして眩しい。

スタジアムは熱気と歓声が響き渡り。現地のグロテス星人はもとより、全宇宙のファンが熱狂する。

別の宇宙でも、LV会場で大勢のファンが熱狂する。

ペダンプロダクションで転売グッズの監視として手に職を得た蝶も、オークションを見張る傍らライブ配信を観戦していた。

キングジョー宇宙ライブツアー、グロテス公演。

ファンが待ちに待ったライブ。

「Listen to my song!!!!」

大がかりなハイテクライブステージが、動き出す。

天井からステージ中央に、花の種が落ちる。

花の種は、巨大なマンモスグラワーに成長し。花の蕾が開き、このライブステージのメインヒロインが生まれる。中から、生まれたままの姿の美少女が生まれた。

キングジョーの怪獣娘、クララ・ソーン。愛称、お嬢。

全宇宙がその美貌に憧れる、絶世の美女。透き通る美しい歌声で全宇宙を癒す、銀河の歌姫。

「フライハアアアアアアアアアアアアアアイ」

 

(イラスト: ウミガラス 様)

 

一糸まとわぬ全裸のお嬢の白い裸身に光の帯が絡まる。処女神のぴったり閉じた白く綺麗な永遠の処女に、そしてMカップ超巨大なダイナマイトバストの山頂の桜色の大口径クレーターに、張り付く。

北欧神話の豊穣の女神を彷彿させる花飾のドレスを、銀河の歌姫は着飾った。

長く綺麗な髪にも、色とりどりの花が咲く。花に囲まれた姿は妖精女王のごとし。

ペダニウム合金製の空中セリが浮上し、お嬢をマンモスフラワーごと上空に吊り上げる。

歌うは、「ULTRA FLY」。

お嬢の歌とダンスは、ヒッポリト星の立体映像技術で全宇宙に生配信される。光の国、ZAP SPACY、メフィラス星、ババルウ星、バルキー星、イカルス星、ナックル星、メトロン星、ゼットン星、マグマ星、ピット星、ガッツ星。次元を超えてサイドスペース、ネオフロンティアスペース、プラズマギャラクシー、フューチャーアース、アナザースペース、コスモスペース、墓場学園、そしてGIRLSスペース。ありとあらゆる宇宙と星系の人々が、歌姫に熱狂する。

空中セリの床面の裏側には、バルタン星人のミクロ化術で小さくなったVIP席が内蔵されていた。

歌はサビに昇り、地底からペダニウム合金製の翼竜が召喚される。

チブル星の人形師が精巧に作ったペダニウムソフビをグロテスセルで巨大化させ、グロテス星の振り付け師が動かしている。

黄金の翼竜は巨大な機械の翼をひろげ、観客席上空を旋回しはじめる。

かつて肌の色や文化の違いでいがみ合っていた人間たちが、たったひとりの少女のために心をひとつにしたのだ。

このライブのために急遽、平均身長49メートルの巨体なバックダンサーも飛来してくれた。ババルウ星人のバックダンサー5人が変身したウルティメイトフォースゼロだ。さすがに本人たちは宇宙パトロールが多忙で出演は見合されたが、キングジョーの涙の懇願で肖像権の許可は快諾してくれた。

5人のババルウ星人は、ニセモノとは思えないほどウルティメイトフォースゼロの動きを完全に再現している。彼らの正義の心までもが乗り移ったかのように。

歌を通じて、ライブを通じて、異星人たちが共に手を取り合って築き上げること。それが、銀河の歌姫キングジョーの宇宙平和。

命は、生まれ変われる。透き通る女神の歌声が奏でる詩のように。

終盤のCメロ。

お嬢が2段変身。美しい女神のダイナマイトボディが一糸まとわぬ裸身となった後、プリンセスドレスをまとう。

その綺麗な髪には、王女のティアラ。背中には、天使の光翼。

エレガントなドレス姿は、お嬢が演じた映画コズモクロニクルのエルミカ姫その人だ。

同時刻、映画制作会社の公式サイトが更新される。

宝石の王女エルミカ完全復活の発表を。

 

(イラスト: ウミガラス 様)

 

最後の大サビ。

白き翼をひろげた宝石の王女エルミカは、空高く飛び上がる。

街は夜にもかかわらず、空は太陽が燦然と照らす真昼の空になった。

太陽を背に戴き、白き翼の導き手は歌を届ける。

光の翼を輝かせ、透き通る美しい歌声が全宇宙の人々を癒す。

ペダンプロダクション所属タレント、キングジョー。

本名、クララ・ソーン。愛称、お嬢。

15歳。身長163cm。スリーサイズは上から103/55/91。ブラのカップはMカップ。

その美貌を全宇宙が憧れる宇宙No.1アイドル。

「フライハアアアアアアアアアアアアアアイ」

大歓声が、全宇宙を包んだ。

 

 

キングジョーの歌 FIN



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アギラ アース神族とヴァン神族


(イラスト: 一二三始 様)


一期一会だ。出会いは一度きりだ。だから今、共にいる仲間を精一杯、大事にしな。
─────勇魚洋


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

惑星レギンレイヴ。

一面を眠りの花が咲き誇る満開の大地を、空から氷に閉ざそうと悪企むアガムの残党がいた。

『全ての植物を、抹殺してやる!』

氷結シャドウ シトゥンペ

黒狐の姿をした男は吹雪を吐こうと息を吸い込むが、蠱惑的な香りの花を凍らせることはなかった。

男は、ウルトラマンマギのミレニアムフィールドに強制転送されたからだ。

巨人の巨体より巨大な、巨木の枝に。

『植物を抹殺するだって?』青いウルトラマンは、哀れむように黒狐を見据える。『君には聞こえないのか。 惑星レギンレイヴの命の鼓動が。 樹木の温かさが。 花の美しさが』

『ばっっっかじゃねえの!?』狐のシャドウが啖呵を切る。『自分の故郷でもない敵国を守ってさぁ? 見た目が可愛いだけの宇宙人の女を、地球を裏切ってまで守りたいのかよ!』

『地位に執着する君の人生こそ虚しいさ』マギは、背中の青い宝珠光を燃やす。『僕には守るべきものがある。 囚われの姫だったけど、既に本当の人生を救出していたんだ。 もう自由だ! 今度こそ失わない! 絶対に守る!』

樹上に咲く満開の花が、蠱惑的な香りが、黒狐から五感を奪う。動きが鈍る。

『これは惑星レギンレイヴに原生する眠りの花。 植物だからって甘く見たら、痛い目を見るよ?』

空中で結跏趺坐を組むマギ。『ウルトラ錬金術!』天井から光が降り注ぐ。

シトゥンペの体は圧縮され、眠りの花の種になった。

この種が、新たな花を咲かす。その花から、宝石の王女エルミカは再び花咲く。眠りの花は王女の命をつなぐ、生命再生の神秘なのだ。

命は、生まれ変われる。命が次の世代へ命をつなぐ限り、何度でも生まれ変われる。

花の種を手に取ったマギは、ミレニアムフィールドを解除した。

地上では、蠱惑的な香りの花が咲く満開の大地で、惑星レギンレイヴの民が平和を謳歌していた。

民の、幸せそうな笑顔。

その中心に、美しい宝石の王女がひとり。白き天使の光翼を輝かせながら。

最愛の女性が、太陽の笑顔で眩しい笑顔で手を振ってくれた。

この笑顔が、惑星レギンレイヴを照らす生命の源で。

この笑顔を守るために、ウルトラマンマギは戦える。

白き翼の導き手は、本当の人生を生きている。

長い髪をなびかせて。

背中に白い光の翼を広げて。

髪に黄金のサークレットを煌めかせて。

腕と腰に宝石の瓔珞を輝かせて。

大きな胸を揺らして。

惑星レギンレイヴのエルミカ姫は、今日も大地に花を咲かせる。

 

 

そして某ショッピングモールでも、子供たちの夢と希望を照らすために戦う幼き絶世の美女がひとり。

宇宙に血塗れる赤い星、レッド星。

罪なき怪獣を手当たり次第に虐殺する凶暴なレッド星人を輩出していた。

しかし、ただ1体だけ。争いを好まない、心優しきレッド星人がいた…。

ショッピングモールの仮設ステージ。

開演するヒーローショーに、家族連れ客が集まっている。

ガッツ星人の甲冑をまとった美しき戦乙女(ヴァルキュリア)・印南ミコは、舞台中央に1体の怪獣が倒れているのを発見する。

自然コントロールマシーン シンリョク

ひどく損傷したシンリョクが誰かに操られているわけではないことを確認したミコは、シンリョクの修復を開始する。

修復中、1体の赤い女悪魔がステージ上に割り込む。

レッドウーマンアスモ

この種族がレッド星の危険な種族だと知っていた構造色の髪の戦乙女は、シンリョクを守るように立ち塞がる。

しかし、レッドウーマンの様子もおかしい。

彼女もまた、ひどく負傷していた。

シンリョクを修復したミコは、アスモの治療も開始する。

話を聞くと、アスモは上官の命令に逆らってシンリョクを逃がしたらしい。その制裁を逃れてきたから怪我をしていた。

「なんで、この子を逃がしたの?」

『怪獣は、友達だから…。 私、何か間違ったことしたかなぁ?』

「ううん、何も間違ってないよ」

幼い頃、アスモは不思議な夢を見た。暗く陰鬱な異空間で、大量の鳥籠が吊り下がっていた。鳥籠の中には、9人の美しき戦乙女たちが囚われていた。異空間を、血に飢えた英雄モドキの大群が攻め入る。奴等は鳥籠に侵入し、刃を向けて天使たちを惨殺しようと襲い来る。見ていたアスモは、戦乙女たちを助けようと飛び込んだ。咄嗟に視界に入れた、6枚の白き翼を輝かせた一際美しい大天使を助けようと手を伸ばしたところ、その白き翼に似た石柩のような物体に触れた。そこで夢が覚めた。

寝覚めが悪い。あんなに美しい天使たちを殺めようとするなんて。あの英雄モドキの大群は一体何者なのか?いや、自分たちレッド星人も、奴等と同類ではないか?

以来、アスモは怪獣を虐殺するレッド星人のやり方に疑問を感じ、怪獣を殺せない心優しき少女に育った。

虐殺なんかできなかった。上官に内緒で、怪獣たちを逃がしていた。

もう命が奪われるシーンは見たくないから。

怪獣は友達。心を開けば、誰とでも仲良くなれる。

彼女には、夢がある。怪獣と人間が触れ合って楽しめる怪獣園を開きたい。

夢を語るアスモは、生き生きしていた。

追手は、舞台袖から躍り出る。

『アスモ! お前は怪獣を殺す赤い悪魔、レッドマンだろう!』

もう1体の赤い悪魔が来た。この男が上官とやらか。

レッドマンサタン

『お前を再教育する!』

何やら古めかしい機械を取り出したサタンは『レッドマン&ウルトラファイト オリジナル・サウンドトラック』CDをセットし。おどろおどろしいBGMを垂れ流す。

アスモが苦しむ。

洗脳されたアスモはよろよろと立ち上がる。

サタンが『その怪獣を撃破しろ!』と命令する。

レッドアローを握ったアスモの片手がシンリョクに照準を合わせる。

「アスモやめて!」

ミコは十字架を盾に防ぐ。

分身したミコは片方はサタンと交戦しつつ、片方はアスモを説得する。「君は悪魔になるな! なりたい自分になれ!」

ヒーローショーといえばお約束、司会のおねえさんを務めるシグニュウも「洗脳なんかに負けないで! 怪獣園、作るんでしょ?」とアスモを説得。

会場の観客に「みんな! 天使様とアスモを応援して!」と呼びかける。「がんばれー!って」

子供たちの声援を浴びて、洗脳が解ける。

『おのれガッツ星人! どこまでも私の邪魔をしやがって!』サタンが憤怒に吼える。『来い! ペオル、グラットン、グリード、エンヴィ、ルシフェル!』

さらに5体の悪魔を召喚する。

レッドマンペオル レッドマングラットン レッドマングリード レッドマンエンヴィ レッドマンルシフェル

一度に6体ものレッド星人が舞台上を埋め尽くした。

恐怖。絶望的恐怖。会場の子供たちが、泣き叫ぶ。

『裏切り者は粛清するのみ! 怪獣も星人もまとめてミンチにしてやる!』

青い髪の美しき戦乙女めがけて飛び上がる6体のレッドマン。その凶刃がミコに届くことはなかった。

ベーターカプセル、マックススパーク、メビウスブレス、オーブカリバーのSEが共鳴する。

4体のウルトラマンだ。

ミコからのウルトラサインを受信して光の国から来た初代マン、マックス、メビウス。そしてかねてよりレッド星の動向を監視していたオーブが援軍に駆けつけてくれた。

本来は体長50メートル近い巨人であるウルトラ戦士だが、ステージ上ではほぼ人間に近いサイズまで縮む。

「みんな!来てくれたんだ!」

幼き戦乙女の美しい顔が、明るい。

『ミコ。 君のウルトラサイン、届いたよ』

代表して初代マンが柔和に頷く。

『ちなみに俺は諸先輩方と手分けしてレッド星人を尾行していたところを合流した。 お前たちは火遊びが過ぎたんだよ!』と、オーブ。

またしても邪魔が入ったことで、サタンの憤怒が怒髪天を衝く。『あの遠き日、遊星ジュランの邪魔者も我が社のTRPGを妨害した…! ウルトラ族には恨みがある、容赦はせん!』

レッドファイッ!

サタンの赤紙を賜り、大罪の名を冠する悪魔の軍靴が特攻する。

ウルトラ戦士たちは苦戦した。

レッド星人はすばしっこいのだ。光の戦士たちが悪魔の二手三手先を読んでも、闇は4手進んで切り刻む。

加えて、ウルトラ戦士たちはアスモとシンリョクを庇いながら戦わねばならない。レッド星人は、ただ奪うだけ。守るものを持たない種族だから身軽なのだ。

ミコも分身しながら後衛でレッドサンダーの雨を反射するのに精一杯。

包囲された。このままではジリ貧だ。

それでも諦めなかった。

「お姉さん! お願い!」

ミコがシグニュウを見る。

「天使様? そっか! わかりました」幼き戦乙女が、戦士たちが、悪魔の軍靴を引き付けて時間を稼いでいると察したシグニュウは。

会場のギャラリーに呼びかける。「みんな! 今のうちに、ウルトラヒーローたちに、応援を届けて!せーのっ!」

「「「がんばれ~!」」」

子供たちの声援が、幼き戦乙女の命になる。

「おっぱいが熱い…ッ! アタシのおっぱいの中で、ヒカリの命が増殖してる!」

幼い細腕では隠しきれないほど早熟かつ過剰に発育したLカップの大きな丸い乳球は、山頂の突起がムクムクと立塔し。モンスアーマーの布越しにもビンビンと尖ってテントを張る。

シグニュウが「もっともーっと! 応援を届けて!」と会場に呼びかけると。「「「がんばれ~!」」」ウルトラ戦士たちの腕に、光がみなぎる。

メビウスとマックスも、光を受け取る。『感じる! みんなの想いを!』『心優しきレッドウーマンを守りたいと願う、地球の優しさを!』

『ガッツ星人さん! 諸先輩方! そして会場の皆さん! 光の力、お借りします!』

本当の戦いはここからだぜ。

まさかこんなアウェーなレッドファイトになるとは。子供たちが、ミコたちを応援している。

「みんなの応援の光、届いたよ!」シグニュウもマイク越しに呼びかける。「もっともーっと!がんばれーの応援しましょ! せーのっ!」「「「がんばれ~!」」」

まずは、年老いた老爺のような姿の悪魔を、メビウスが迎え撃つ。

『怪獣園じゃと? フン! 笑わせるでない! 怪獣とは分かり合えんわ! ワシらが若い頃からそうしてきたじゃがじゃあが! 年寄りの言う事は聞かんかい!』

『分かり合えるさ』メビウスは首を横に振る。『僕が地球で一緒に過ごした仲間たちは、僕がウルトラマンだと知った後も変わらずに仲良くしてくれた。 誰にでも優しい星だから、他の星から来た人たちも地球を守るために力を貸してくれたんだよ』

『だからそこの阿婆擦れ女にも手を貸すというのか! けしからん!』

老悪魔と勇者の、格闘戦が始まる。

「さあみんなの力をメビウスに! がんばれー!!」「「「がんばれ~!」」」

激闘の末、メビウスのメビュームダイナマイトでレッドマンペオルを撃破した。

未知の友人に救いの手を差し伸べる優しさ。

それがあるかないかの僅かな差は、地球とレッド星の命運を大きく分けたのだった。

続いて、毒針の滴る昆虫のような姿の悪魔を、オーブが迎え撃つ。

『フッ、俺は男は斬らん』斃す敵が男であることにグラットンは不服のようだ。『あのガッツ星人の女肉、内臓を掻っ捌いてレバーにしたら美味そうだよなァ! サーロインも切り取ってステーキにしたいゼェ!』

戦争を口実にカニバリズム。敵が女だったらこれ幸いと喜び勇むひん曲がった根性は、若きオーブの逆鱗に触れた。『命を何だと思ってるんだ!』

毒針とオーブカリバーの鍔迫り合いが始まる。

「さあみんなの光の力をオーブに! がんばれー!!」「「「がんばれ~!」」」

聖剣に集まった光は、毒針を砕く。最後は『オーブスプリームカリバァァァ!』聖剣から閃く虹色の光線が、レッドマングラットンを撃破した。

『この宇宙を回すもの、それは愛なんだ。 暗闇の中に瞬いている、希望の光だ』

どんなに血塗れた時代でも、愛と希望と命を絶やさぬために。そこに守るべき命がある限り、オーブは救いの手を差し伸べ続ける。

初代ウルトラマンが対峙するは、レッドマングリード。

『貴様だウルトラマン! 貴様がヒーロー面するから、愚かな若者どもは綺麗事の正義を振りかざして堕落する!』

『若き戦士たちは立派に戦っている。 私を信じて力を貸してくれた地球のみんなも』

片手のレッドナイフは飾りだろうか?闇魔法攻撃を多用する強欲の悪魔に翻弄されつつも、持ち前の格闘スキルとタフネスで着実に追い詰める。

「みんなのヒーロー、ウルトラマンに! がんばれー!!」「「「がんばれ~!」」」

グリードとウルトラマンの一進一退の攻防は熾烈を極めた。

会場の子供たちの声援を受けて、ウルトラマンのスペシウム光線がレッドマングリードを焼き尽くした。

これには司会のシグニュウもテンションが最高潮に達してぴょんぴょん飛び跳ねていた。

彼を目標にして、若きウルトラ戦士たちは強くなった。光の力を受け継ぎ、今日も救いの手を差し伸べ続けている。

次は一度に2体の悪魔がウルトラマンマックスに阻まれる。

1体は、性別の判別しかねる中性的な少年のような姿の悪魔。

1体は、3つの顔を持つ奇怪な邪神のような姿の悪魔。

悪魔が狙うは、マックスが背後に守るアスモとシンリョク。

『アスモ、お前のことは前々から気に入らなかった。 特にその胸!』

レッドマンエンヴィは、レッドウーマンアスモの豊満な乳房を指差す。『怪獣と友達になるだと? 頭の栄養を胸に吸い取られたのか? その無駄な脂肪の塊、削ぎ落としてやる! 貧乳こそ美しい!』

レッドナイフを振り上げ突進するエンヴィだが、マックスに塞がれた。

そこへ後方からレッドマンルシフェルの光線乱射が援護射撃。マックスをノックバックさせる。

2対1では、いくら最強最速のマックスといえど防戦一方。

徐々に距離を詰めてくる2体の悪魔。その殺気に気圧され、怯えながらもアスモはシンリョクを抱きしめる。

『私…死にたくない』快楽天(アスモデウス)が、会場の子供たちに懇願する。『生きて夢を叶えたい! 世界中の怪獣と友達になって、怪獣園を立ち上げたい! 地球のみんな! 私に力を貸して!』

「大変! マックスがピンチよ!」同じくたわわな乳房を実らせたシグニュウが呼びかける。「みんな! もっともっと大きな声で、マックスとアスモに光の力を届けて! いくよ! せーのっ!」「「「がんばれ~!」」」「もっともっと大きな声で!せーのっ!!」「「「がんばれ~!」」」

子供たちの声援は、奇跡を起こした。

アスモの手に、エボルトラスターが。

『これは…? 私に、諦めるな、って言ってるの?』

トラスターを引き抜き、天高く掲げる。

ウルトラマンネクサス ジュネッス

光の巨人に、姿を変えていた。

「すごーい! みんなの応援が、ネクサスを呼んだよ! マックスとネクサスを応援して! せーのっ!」「「「がんばれ~!」」」

2対2のタッグ戦は、一進一退の膠着戦だった。

床下から生えた植物の蔓が、エンヴィとルシフェルの四肢を捕縛するまでは。

この力は、シンリョクだ。子供たちの声援が、シンリョクにも光を届けたのだ。

『このっ! 怪獣畜生が生意気な! 離せ! 離しやがれ!』暴れるエンヴィが、馬鹿力な怪力で蔦を引きちぎろうとする。

シンリョクの勇気が切り開いたこの起点、逃すわけにはいかない。

アスモは手にしたレッドアローを投擲し、エンヴィの平坦な胸を貫いた。

自業自得としか名状しようのない死に様だ。冗談でも言っていいことと悪いことの区別もできなかったのか。言葉には気をつけよう。

ルシフェルも、マックスとネクサスに追い詰められる。

『攻撃には攻撃を、音楽には音楽を。 世界は美しい…。 その世界を、たった一人の少女が救ってくれた』

『私は生きる! 生きてこの光を繋ぐ!』

マクシウムカノンと、オーバーレイ・シュトローム。ダブルの光線が、奇怪な悪魔を分子レベルまで分解した。

『ありがとう…みんな』アスモが、会場の子供たちに礼を言う。『この光は、地球のみんなが差し伸べた救いの手が叶えてくれた奇跡』

残るはサタンのみ。

『ガッツ星人! 貴様はなぜあの裏切り者に味方する!? 脳味噌お花畑のヤリマン女を守る価値があるというのか!?』

「泣いてる女の子を助けたい気持ちはみんな同じなんだ! これ以上友達を侮辱するのは許さないよ」

『友達だと?』

「命と命が手を携えて生きるってことさ! 地球の皆が今くれた、この光のように! 私たちは、光で繋がってる!」

2本のレッドナイフを振り回して暴れるサタンだが、分身したミコは鳥のように舞い翻弄する。

「最後は天使様に光の力を届けるよ! さあ大きな声で! がんばれー!」「「「がんばれ~!」」」「もっともーっと! がんばれー!!」「「「がんばれ~!」」」

「聞こえる? これが地球人の答さ。 たとえ生まれた星は違っても、その垣根を越えて救いの手を差し伸べられる優しい人たちだよ。 みんながアスモの夢を応援してる! アスモを守って戦えるんだ!」

分身したミコはキャプチャー光線をレッドマンサタンに浴びせ、十字架が磔にした。

そこへウルトラマン、マックス、メビウス、オーブ、そしてネクサスが駆け付け、総勢7色の合体光線がレッドマンサタンを跡形もなく消し去った。

女の子は、守るべき存在。そこに囚われの姫がいるならば、印南ミコは救いの手を差し伸べ続ける。

これ以上の適能者への負担はない。ネクサスはアスモと分離した。

『ガッツ星人さん! 諸先輩方! そして会場の皆さん! お疲れさんです!』と、オーブ。

『怪獣園への夢は、始まったばかり。 だけど、アスモを守ってくれたのは、地球のみんななんだよ』分離してアンファンスに退行したネクサス。

『私からも、お礼を言わせてください』分離して赤い快楽天(アスモデウス)の姿に戻ったアスモが、シンリョクと手を繋いで前に出る。『地球のみんなの応援が、私を助けてくれた。 ミコちゃんと、ウルトラヒーローたちと、地球のみんなが守ってくれた私の命。 この子の命も。 本当に、ありがとう』シンリョクも頷く。『この子も、一緒に怪獣園を作りたいって』

『みんなの光の力が、彼女を守る力をくれた』『我々がひとつになって守った命だ』と、メビウスとマックス。

ミコも、会場のギャラリーに微笑む。「ここにいるみんなは、未知の友人に救いの手を差し伸べることができる。 生まれ育ちは違っても、どんな人とも友達になって、困っている人を助ける優しさがある」

『レッドウーマンアスモ。 私たちはいつでも、君の夢を応援しているよ』と、ウルトラマン。

『はいっ!』元気いっぱい頷くアスモは、年相応の少女に見えた。

「地球のみんなもだよ。 みんなー、怪獣園を開きたいってアスモの夢、応援してる人ー! はーい!」ミコが会場の子供たちに呼びかけて挙手すると、ギャラリーもつられて「「「は~い!」」」と挙手する。呼びかけたのがミコだからなのか、子供たちはもちろんのこと親御さんや大人たちも手を挙げている。

『みんな、ほんとにほんとにありがとう!』かつてない乙女な仕草を、アスモは見せた。

「アスモが怪獣園を開いたら、ワタシが来援客第1号になるよ! 楽しみだなぁ」

目を輝かせながらアスモの手を握るミコ。

「あ、ずるーい。 じゃあ私2番乗りー」『じゃあ俺3人目な』

なぜか張り合うシグニュウとオーブを、先輩戦士たちは微笑ましく眺めていた。

最後に、ミコが〆の挨拶。

「アタシ達は、みんなの夢も応援してるよ。 諦めそうになったとき、挫けそうになったとき、今日のことを思い出して。 キミを応援してる誰かがいる。 夢は絶対叶うから!」

戦乙女と勇者たちは、結びのポーズを飾った。

シグニュウも「ウルトラヒーローたちに大きな拍手をお願いしまーす!」と〆くくると、拍手喝采。

「ウルトラマン、ネクサス、マックス、メビウス、オーブ、天使様、ありがとー! それじゃあみんな、手を挙げて。せーのっ ばいばーい」

シグニュウが手を振ると、ウルトラ戦士たちも手を振る。

ウルトラ戦士たちが舞台袖に還り、ミコとアスモ、そしてシンリョクが残る。

『私達も行くね』

「シンリョクもついていくんだね」

『うん。 この子とも、もう友達』

「夢、叶うといいね」

『私、全宇宙の怪獣と友達になる。 怪獣園ができたら、ミコに私の友達を紹介するね』

「約束だよ」

ミコが、アスモを抱きしめた。

『ミコと友達になれてよかった』

アスモも、ミコを抱きしめた。

遅れて舞台袖へ還るミコを、「天使様、ありがとー!」シグニュウは見送った。

空になった舞台上に、シグニュウが登壇する。

「みんな。 どんな人とも仲良くして、助け合う優しさが、ウルトラヒーローたちの力になったの。 これからも、困っている友達に救いの手をさしのべて、地球をもっともーっと、素敵な星にしようね。 最後まで応援してくれて本当にありがとうございました。 以上でウルトラヒーローショー~救いの手~を終わります」

ヒーローショーは、大盛況に終わった。

 

 

ショッピングモールでウルトラヒーローショーを開演している、ちょうど同時刻。

あのショーの脚本を手がけた張本人、八橋八雲はというと。

M78星雲、ウルトラの星。

クリスタルタウンの中心、第3ウルトラタワー。

メディカルルーム午棟、ペア入居棟。

その一室の、ダブルベッド。

「疲れた ヒーローショーの脚本ってマジきっついわ」

「「ダーリン♥︎♥︎ 入稿おつかれさま♥︎♥︎」」

印南ミコを2人もはべらせていた。両手に花とはこのことだ。

左右両側に寝るミコが2人とも全裸であること。2人の幼き絶世の美女の最高級の女肉を10時間も弄んでいたことを鑑みると、酒池肉林といったほうが正しいか。

ミコの長く綺麗な青い長髪が流れる。見る角度によって色が変わって光を反射する、宝石のような構造色の髪がきらきら煌めく。

部屋の大スクリーンには、あの日撮った映像が映し出される。ミコの処女を破り、赤い鮮血の花を咲かせた時の映像が。

「お客さんの反応いいみたいだよ。 ほら」

片方のミコがソウルライザーを見せる。現地のミコが撮影した現地の様子が写っていた。

「よかった」

安堵しながら、絶倫男は絶世の美女2人のスタイル抜群の極上の女体美をなぞる。

2人の形のいい桃のように白い尻肉を触る。

「「あん❤❤」」

撫でる。

「ミコちゃんは女体美も絶世の美女だからお尻も張りがあってすべすべだよ」

鷲掴む。

「やぁん❤️ ダーリンやらしいよ❤️」

形のいい丸い尾尻を揉まれ、2人のミコの過剰に発育した全裸の女体美が身じろぐ。

甘く甲高い鳴き声を、2羽の青く美しい構造色の髪のハチドリは艶めかしく奏でる。

美しき光の天使が愛しくて、八橋は2人を抱きしめる。

「ミコちゃん可愛いなぁ。 こんなに可愛い天使が俺に甘えてくれるなんて」

「私のカラダ、ぜーんぶダーリンの好きにしていいんだよ❤️」

ついこの間まで処女だった14歳の幼き少女の観音扉からは、10時間かけて大量に注ぎ込んだおたまじゃくしがゴポゴポと溢れ出す。それは、おたまじゃくしが力尽きて逆流した証。14歳の幼い子宮が新たな戦乙女の命を身籠った証。

「あたし、幸せだなぁ❤️」「ダーリンがお腹の中にこんなにたくさん満たしてくれて❤️」

2人の美少女のキュッと括れた魅惑的な下腹部が、快楽の余韻で淫靡にくねる。

「14歳の乙女の未発達子宮にこんなにたくさん出すなんてキチクぅ❤」「お腹の中、ダーリンのがたくさん溜まってお腹いっぱぁい❤」

多幸感で満ち足りて幸せそうな、14歳の少女。

おたまじゃくしだけじゃない。ミコ自身の性的歓喜が分泌する愛の蜜も少女の赤ちゃんの通り道からとろとろ溢れている。

「まだイクのとまらなぁい❤️」「もっとミコの子宮の中にちょうらぁい❤️」

14歳の幼き少女の華奢な細身と狭い肩幅に似合わず過剰に発育したLカップの丸く形のいい風船のような巨大な爆乳。乳房の山頂の桜色の突起が、10時間かけて気持ち良く調教された興奮醒めやらずビンビン勃ちっぱなしで戻らない。

2人の幼き絶世の美女の極上のナイスバディが、左右から抱き付く。美しい全裸の少女たちが絡み付く。14歳ながら過剰に発育した極上の女体美を押し当てる。Lカップの丸く張りのある巨乳の大きくて柔らかい生乳肉が、むにゅっと当たってもちもち柔らかくボリューム満点に変形する。山頂のぷっくり尖った桜色の活火山と乳頭を擦り付ける。

「「ダーリン❤️❤️ だーいしゅき❤️❤️」」

2人の幼き戦乙女の瞳は、女の性的快感でハートになっていた。

「ミコちゃん、愛してるよ」

美しき2人の天使を抱きしめながら、両方にキスをした。

 

 

光の国から別の宇宙へ各地に分身体を派遣しているオリジナルの印南ミコが第3ウルトラタワーで女の幸せを歓喜している頃、別の宇宙では他にも分身体が別の任務を任されていた。この分身体は、地球へと向かって飛んでいく。

さて、地球では。

「夢でしたのにねぇ…」

今日限りで生涯を閉じるレストランを目の前に、小太りの男が立ち尽くす。

エントランスの壁面に、「満漢全席 八戒」と銘打った電飾看板。

この男が一代で築き上げた人気レストランは、古き因習によって廃店に追いやられた。

どこから話そうか。この男の生い立ちからか。

男の名は、猪八戒。職業は、料理人。

食でみんなを笑顔にする、をモットーに、料理人の修業をして、自分の店を構えてはや25年。

顔なじみの客もできて、お客様に「美味しい」って言ってもらえて。

テレビが取材に来てくれたこともあった。

みんなが笑顔になれる、美味しい料理でおもてなし。地域で人気のレストランになれたのに。

運命は残酷だった。親の介護が必要になった。

止むを得ず、店を続けられなくなった。

地域の人たちからは、惜しむ声。

こんな形で、店がなくなるなんて。お客様には、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「いけません、店長である私が落ち込んでどうするのですか」自分で自分の両頬をひっぱたく小太りの男。「最後ですからこそ、お客様に最高の料理をもてなさねば」

自分で自分の鼓舞した時、異常なエンジン音が道路から聞こえる。

車だ。

車が、異常なスピードで蛇行運転している。フロントガラスを見ると、中に80代くらいの老爺が乗っている。

この先には、集団登校中の小学生の列が。

「危ない!」

咄嗟の事だった。

八戒は暴走車の前に割込み、集団登校の列の少女を軌道外に突き飛ばして庇った。

結果、小太りの男が轢かれた。

「怪我は… ありません… か…?」

最期の力を振り絞って、顔を上げた八戒は突き飛ばした少女の無事を見る。

転んだ少女は目の前で起こった惨劇に呆然としながらも、当の本人に目立った外傷は無い。

この事件で幼い命が奪われず終わったのを確認して安堵したのが、料理人が最期に見た光景だった…。

 

 

「ここは…天国ですか…? 私は…?」

目がさめたのは、天にオーロラが架かる美しい泉。

泉に横たわる小太りの男を取り囲む、五つ子の美しい戦乙女たち。

「あなたは…?」

「ここはM78星雲、ウルトラの星にある命の泉。 私たちはウルトラ戦士徴兵指令のヴァルキュリア、ガッツ星人の分身体」

「ヴァルキュリア…? ではここは、天界(アスガルド)なのですか…?」

「似たようなモノかな」

幼き絶世の美女の大きな丸い乳房が、ひときわ眩しい黄金色に発光する。

風船のように丸く大きいLカップの両の乳房から顕現した2つの光が宙を浮遊し、空中で合体して黄金のリンゴになる。

「自らを犠牲にして女の子の命を守った勇気、ウルトラの星に届いたよ。」

黄金のリンゴが宙を舞い、男の胸に取り込まれる。

「そうですか… 私は、ヴァルキュリア様のご加護を賜って勇者に選ばれたのですね…?」

料理人は、起き上がる。

「さっすが。 ヴァルキュリア信仰が根付いてる地球人は話が早い」

青い髪の戦乙女が上体をそらすと、幼くして過剰に発育した大きすぎる胸が揺れる。大きく、張りのいい風船のような球形の巨乳。

視界がはっきりすると、戦乙女の分身体たちの想像以上の美貌を見て改めて息を呑んだ。

幼き絶世の美女は、可愛すぎる。凄い綺麗な子だ。

さらさら長く綺麗な青い髪。鳳凰が銀河を飛び去る軌跡のごとし長くしなやかに流れる長髪は宝石のようにきらめく瑠璃色。見る角度によって金色にも輝く、ハチドリのような構造色の長髪。

小さな顔。目鼻立ち整った美貌。

白磁のような瑞々しい美肌。

抜群のプロポーション。細く括れたウエストに、張りのいいヒップ。細い腕。ほっそりとした、しなやかな括れ。

その細身にも関わらず、乳房だけは風船のように大きく大きく膨らんだ、Lカップの丸い乳房。

「料理人さん、おっぱい触って」

自分で自分の豊満な乳房を揉みしだく光の天使。

Lカップの大きなふたつの膨らみの山頂は布越しにもテントを張る突起。

料理人の手は、自然と吸い寄せられた。

ムニュ。

「ああん」

大人の男の掌でも掴みきれないほど巨大なLカップの丸いおっぱい。ふんわり柔らかく、もっちりボリューム満点の感触に包まれる。

豊満な乳房の間から、ブレスレット状のアーティファクトと一枚のカードが実体化する。

銀色の巨人が描かれたカードには、『ULTRAMAN SCHWEIN』と記載されていた。

名前を見ただけでピンときた。与えられた使命を。

「なるほど。 私はヴァルハラ宮の専属料理人(セフリムニル)という重責を任されたのですね」

「そゆこと」

「一度は料理人人生を絶たれた身、また料理を作れるとは。 この猪八戒、身に余る光栄でございます」

八戒がブレスレットをはめると、腕と同化して消えた。カードは、カードホルダーにしまった。

「さてと、分身体の任務はここまで。 バッサー、おいで」

戦乙女が空へ口笛を奏でると、ソレは目にも留まらぬスピードで飛来した。

大きなグリフォンの翼を羽ばたかせる、鳥人の女が飛来した。

「フレスヴェルグ…ですか?」

聞き覚えのない名前で呼ばれたグリフォンは「誰それ?」と首をかしげる。

「私はマガバッサーの怪獣娘、風巻ヨウ。 今からウルトラの星を案内するよ」

「じゃあバッサー、後はよろしく」

「はいッス、ガッツ先輩」

5人の分身体が、テレポートで姿を消した。

見たところ分身戦乙女は14歳くらい、グリフォンの怪獣娘は16歳くらい。どう見てもグリフォンのほうが年上だが、ガッツ先輩?

いや、幼くしてキャリアが長いのかもしれない。地球には百歳の童七歳の翁という諺があった。

「じゃあ、行こうか」

「はい。 えっと…」

「"ヨウ"か"バッサー"でいいよ」

「じゃあ、ヨウ様」

マガバッサーの両足の鉤爪で体を掴まれた八戒は、上空へ吊り上がる。

「今から第3ウルトラタワーに行くよ」

恐らくヴァルハラ宮に相当する建物だろう。

「先ほどヴァルキュリア様にお会いいたしましたが… あの方は、やはり北欧神話の…?」

素朴な疑問を尋ねると、スマホから第三者の女性の声がした。『そう。 私たちは神話に詠い継がれた女神たちの子孫』

スマホの画面を見ると、ピンクの髪の戦乙女が写っていた。

『はじめまして、私はエレキング。 さっきのガッツ星人と同じウルトラ戦士徴兵指令のヴァルキュリア』

「はじめまして」

分身体を作り出す青髪の幼き絶世の美女と、電子機器を乗っ取るピンク髪の知的な美女。戦乙女も千差万別で実に個性的のようだ。

道中、エレキングは今いる惑星について解説してくれた。

ここはM78星雲、ウルトラの星。

27万年前、人工太陽プラズマスパークコアの力によって超人へと進化したウルトラ族が住む惑星。

宇宙の平和を守る宇宙警備隊の本部があり、シャドウの脅威に脅かされる多世界宇宙を日夜守っている。

「私に宿った力は、そのウルトラ族の力なのですね。 では、あなた方は? 同じウルトラの星に原生していた知的生命体ですか?」

『私たち怪獣娘はこの宇宙の出身じゃない。 もともと、GIRLSスペースという宇宙の住人だった』

目的地に着くまでの間、エレキングがウルトラ戦士徴兵指令の発足について説明してくれた。

昔、ウルトラマンヒカリという科学者が命の固形化技術を発明した。

簡単に言えば、条件付きではあるが死者の命を再生する結晶を作った。これを「ヒカリの命」とする。

発明により、光の国の戦士の戦死率が飛躍的に改善された。

同時に、外部に流出したら敵まで不死身にしかねない危険な技術でもあった。

技術的にも、生産コストと持ち運びの不便という課題が残った。従来のウルトラ戦士では一度に大量にヒカリの命を運搬することができず、また量産化難しかった。限りあるヒカリの命の消費に慎重を要するあまり、救えない命もあった。

彼女たちを発見するまでは。

時は流れ現代。

ウルトラマンオーディンがGIRLSスペースを発見し、アンジェリカ・サーヴェリタスと湖上ルンを保護する。

『湖上ルンは、私の母親。 同じエレキングの甲冑を宿した戦乙女』

その体を調べた結果、驚くべき事実が判明した。

ある程度以上胸の大きい怪獣娘は、その豊満なふたつの乳房の中に超空間が広がり。命あるものを一度に大量に貯蔵し、しかもその中で増殖させることができるのだ。

試しにルンとアンジェリカの乳房の中に2結晶ずつ、ヒカリの命を植え付けると。それは僅か一週間足らずで98結晶と105結晶にまで増殖した。

最大貯蔵量は、 胸が大きい少女ほど多量だ。

そして、ほんの数ヵ月前。

オーディンはGIRLSスペースに赴き、特に胸の大きい絶世の美女4人を。ゼットン、印南ミコ、クララ・ソーン、そして湖上ルンの実の娘ランを、宇宙警備隊にスカウトした。

「6人の先輩たちは胸が大きいだけじゃなくて、美貌も絶世の美女なんスよ」

あたかも自分のことのように自慢気なバッサー。

「あなたも可愛いですよ」と率直に言うと、「恥ずかしいコト言うなー!」と照れた。「暴れないでください!落ちます!」

『そういうわけで』エレキングがスマホ越しに話を続ける。『地球には、北欧神話という形で遥かな昔より戦乙女信仰が根付いていた。オーディンはそれを準えて、神話を現実にすることで広く勇者を募った。シャドウと戦って死んだ勇者の魂をアスガルドへ送り、ヴァルハラで歓待したと信仰される戦乙女のように。宇宙警備隊は、慢性的な人手不足に悩まされていた。私とガッツ星人、マグマ星人、ゼットン、母さん、キングジョーの6人は、ヒカリの命の増殖と同時に、それを大量に貯蔵できる能力で。宇宙各地でシャドウ被害に遭った人たちの命を救いながら、ガヴァドンUカードと共鳴してウルトラマンに変身できる人間を探し集めてる。それが、ウルトラ戦士徴兵指令』

スマホ越しにエレキングが言うには、ウルトラの星には主要な2つの大都市がある。

ひとつは、プラズマスパークタワーを中心として栄えた首都『ウルトラの国』。ここに宇宙警備隊本部はもちろんのこと、エレキングが情報を管制する宇宙情報局もある。プラズマスパークタワーの直下には、キングとオーディンが演説に登壇する銀の広場が建っている。ウルトラ族が平和への気持ちを新たにする理念のもと、キングジョーもたびたびライブを開催する。

そして、もうひとつは。

「見えた。 あれがクリスタルタウンさ」

バッサーが指差した先に、その大都市は見えた。

一般怪獣娘の居住スペースと経済都市が密集した『クリスタルタウン』。メディカルタワー改め第3ウルトラタワーを中心に栄え、医療施設が充実している。ウルトラの母が婦長を務める銀十字軍の本拠地、ウルトラクリニック78もタウンに集中しており、医療都市の色合いも濃い。両施設ともウルトラコロセウムでの特訓で傷ついた若き戦士たちも治療している。都市の外観は遠距離から見てもとかく目立つほど高層ビルが立ち並ぶ景観が特徴的で、市面の周長より第3ウルトラタワーの標高が数値上は上回るほどだ。

『先にウルトラコロセウムを見学してもらう。 戦士たちの栄養を管理する以上、普段どんな特訓をしているか観察しなきゃいけないでしょう?』

「そうですね。 助かります」

若きウルトラ戦士たちが特訓するというコロセウムへ飛ぶまでの間、マガバッサーが説明してくれた。

「エレキング先輩は宇宙情報センターで知恵の泉って部屋を間借りしてるんだ。 ウルトラマンになれそうな人材のウワサは、ここでキャッチしてるんだよ」

「私の事も…ですか?」

「そそ。 情報がまとまったら、主にガッツ先輩の分身体が行く」

「さっきから分身、分身って……彼女たちのオリジナルは、どこにいるのですか?」

『オリジナルのガッツ星人は、第3ウルトラタワーで… まあ、その… 命を増やしているわ』

「?」

空から街並みを見下ろすと、今の八戒と同族の銀色の巨人の他にも、ところどころで怪獣娘の姿が目撃される。

バッサーのように上空を飛んでいる少女もいれば、巨人の肩に乗っている少女も。

「GIRLSスペース…でしたっけ? が発見される以前の時代から、この星は怪獣娘を大規模に受け入れているようですね?」

『もちろんよ。 戦乙女の故郷はGIRLSスペースだけじゃない。 円谷学園、怪獣墓場学園、モンストリア…様々な宇宙から流れ着いた怪獣娘がウルトラの星に移住してる。 オーディンが戦乙女の保護に熱心だったのもあるけど、80先生の尽力が決定打になったようね。 小さな命と身近に触れ合うことで、若い戦士たちが命の尊さを学べる環境作りに努めたそうよ』

「あの人らしいというか何というか」

「感性が独特な方ですね。 教職か何かに就かれていた?」

『ただ、新たに発見された私たちはそれ以前の彼女たちとは全く異なる生態が明らかになって。 私たちはアース神族、彼女たちはヴァン神族と分類されてる』

エレキングが補足説明するところによると、ヴァン神族は古くはウルトラ大戦争直後に怪獣墓場でドドンゴの怪獣娘が発見されたのを皮切りに各地で次々と新発見され、当初よりM78星雲に居着いた馴染みの隣人だというらしい。不思議なことに、宇宙全体で見ると大戦争以前の時代にヴァン神族という存在自体が宇宙に生息していた痕跡は未発見だとか。

その後も幾度か戦争が起こった直後にヴァン神族は人口爆発を繰り返しているという。

これが何を意味するのか。

それを口にする前に。

「もうすぐコロセウムだよ」

小太りの男を吊り下げたグリフォンの翼は、箱々しい建物の入口を飛び込んだ。

中では、銀色の巨人たちが立体映像相手に光線を撃っていた。

『あれはまだ序の口。 奥ではもっと厳しい訓練が待ち受けてる』

地下のアリーナに潜ると、その通りだった。

第一アリーナでは、無愛想な青い巨人が訓練生の相手をしていた。

『踏み込みが甘い。 もっと相手の目を見ろ。 次』

襲いかかって来る若い巨人たちが拳を振り上げるが、青い巨人がそれらを躱した瞬間、若い巨人たちが突然倒れ込んだ。

続いて挑んだ班も、軽くいなされた。

「あの青い巨人は?」

八戒が質問すると、エレキングが答える。『ウルトラマンアグル。 海を守るベテラン戦士。 アイツももともと別の宇宙のウルトラマンだけど、オーディンの古き友人で。 今日たまたま臨時講師として招かれたのよ』

よく見ると、あの青い巨人は動きに無駄がない。最低限の動きだけで攻撃を受け流している。

背後から不意を討とうにも、視覚以上に研ぎ澄まされた聴覚と皮膚感覚を前には逆効果だ。

柔よく剛を制す。あの青い巨人がどんな死地を潜り抜けてきたベテランかは窺い知れないが、少なくとも力任せの拳では流水のごとく受け流されるだけ。量子コンピューターで予測したかのごとく先を読み、反撃も力ではなく、技。

「演習にしても容赦ないですね? 一撃一撃が内臓を狙い撃ってる気がするのは気のせいでしょうか?」

倒れた若き巨人たちが痛そうに呻いている。胸部のエナジーコアが赤く点滅している。氷のように刺さった点穴は、若き戦士たちには痛かったに違いない。

「アグルはまだ優しい方っスよ」

バッサーが指差したのは、第二アリーナ。

この第二アリーナはフィールド全体が熱帯雨林を模したジオラマになっており、木々の狭間に小さな動物の人形も所狭しと配置されている。

もちろん、屈強な巨人たちはドールハウスで人形遊びをしに来たわけではない。

数十体もの屈強な筋肉の鎧をまとった体長60~70メートル近い巨人たちが見上げた天井の梁の上には……小さな妖精?身長わずか165cm、親指姫ほどの小さなプリンセスが黒いランジェリー姿で、空中を飛行していた。

端正な顔立ち。金色の瞳。その高貴な美貌は、お姫様にも見えた。

訓練場に花が咲いたほどだ。暑苦しいアリーナに似つかわしくない、女神の美貌。

長く綺麗な黒髪に飾る、ファイアオパールのティアラが輝く。

「恋の電撃、射抜いてあげる」

ティアラのホーンを三度展開し、中央のファイアオパールに触れると。

ヴァルハラZティアラが光になって消失した。同時に、唯一の肌着だった黒のベビードールも光になって消失し、均整に満ちた美しい体は一糸まとわぬ白い裸身を見せた。

バスト96、ウエスト53、ヒップ83。女性の理想を極めた天使の女体美。ベビードールの束縛から解放されたJカップの大きな胸が、ぷるるんと揺れる。

長く綺麗な黒髪が、優雅に流れる。

絶世の美女は、体のパーツ全てが綺麗だ。白い玉肌も、均整に満ちた理想の女体美も、大きな胸も、括れた腰も、形のいい美尻も。大きな胸の山頂の桜色の突起も、内腿と下腹部の合流逆三角に咲く少女の最密の白い観音扉さえも、何もかもが神々しいまでに綺麗だ。

裸の少女の背後に顕現した巨大な超人の幻は、カミキリムシの剥製を掌に乗せていた。

カミキリムシは灼熱色の光ににつつまれながら分裂し、パーツ一片一片が意志を持って飛びながら少女の裸身に付着する。

長い黒髪が流れる、美しい少女。

黒いゴスロリドレスをまとった、高貴な少女。

頭には2本の角。

髪には、金色の発光器官。

ドレスの双穴から露出した豊満な双の巨乳も、灼熱色に輝く。

最後に、背中から灼熱色の天使の光翼が展開し、コロセウムを眩く照らす。

翼を広げた艶姿は、熾天使と呼ぶほかない。

「あの方も… 徴兵指令のヴァルキュリア様ですか?」

それしか見当がつかない。

八戒が知る限り、これほどの美貌に並ぶ女神が他にいるとしたら。さっき会ったガッツ星人と、今スマホで話しかけてくれるエレキングしか知らない。

バッサーが言った「徴兵指令は全員絶世の美女」が本当なら、恐らくエレキングの母親も匹敵するレベルかそれ以上の天女だろう。

あれほどの美貌の天使があと3人もいるなんて、どんな化け物集団だ徴兵指令は。

見惚れてしまった。ただただ美しい。

結論から言うと、綺麗な花には棘があった。

これは特訓なのだ。

美貌の熾天使が天から落とした炎の雨は、流星のように降り注いぐ。

屈強な筋肉の巨人たちは、バリアを隙間なく張って炎の雨に立ち向かう。が。

炎の火力は想像以上に強大だった。バリアはいとも容易く貫通され、ジオラマが火の海と燃える。

木々が燃え、配置された小動物の人形も火だるま。

この模擬選の趣旨を察すべし。

あれが実戦だったら?戦士たちの精悍な筋肉の鎧は、小さな命を守るためにあるはずだ。

バリアを破られたことで、巨人たちにも火の手が回る。炎に包まれる。

果敢に光線相殺や高速回避を試みる者も半数近くいたが、力及ばず。

頭に火が燃え移り悶え苦しむ男。

筋肉は虚飾だったのか、情けなく逃げ惑う男。

まだ勇敢さの残っている男は、炎の雨の間隙を潜り抜けてスラッガーを投げた。不規則な軌道を曲がりくねり背後から忍び寄るスラッガーだが、熾天使もまた背後の気配を見抜いたのか先を読んで光のシャッターを張り、スラッガーをはたき落とした。

中には『もうギブ! ギブアップ!』と甘える男もいた。

「シャドウは白旗を揚げても助命してくれない」

美しき熾天使は、炎の雨をやめなかった。

本当に襲撃に遭ったらシャドウは手加減するだろうか?宇宙の破滅を願う現実は、命乞いをすれば許してくれるほど甘い敵だろうか?

せめて本番のつもりで模擬戦に挑んでいる幾体かの巨人は、胸のエナジーコアが点滅しても諦めずに反撃を試みる。炎の雨の隙間を掻い潜って拳が狙いを定める。

もっとも、勇敢な拳が掴んだのは灼熱の蜃気楼が造り出した幻だったことを除いては。

勇敢な巨人の目さえも、希望が消えた。

力比べでは到底敵わない。小手先の技術も通じない。

打つ手なし。

アリーナを包み込む熱風。

炎に包まれる巨人たち。

もはや模擬戦のテイを成していない。これは一方的な焚刑だ。熾天使が罪人を浄火の炎で裁くごとし。

たったひとりの小さな少女が、精悍な巨人たちを火の海にした。

筋肉の鎧をまとった巨体が、ほんの小さな妖精のか弱き細腕によってウェルダンにされたという結果だけが残った。

にも関わらず。

燃える翼の熾天使の美しき艶姿を見た八戒に、なぜか恐怖の感情は無かった。それ以上に、熾天使の優雅な佇まいを美しいと見惚れる感情がまさったからだ。

『彼女はゼットン。 ウルトラ戦士徴兵指令の隊長にして、GIRLSスペース最強の戦乙女』

八戒のスマホ越しに、エレキングが紹介する。

心技体。美貌に似合わず戦う強さを熾天使は秘めていた。

「特訓にならない」

空を優雅に羽ばたく美しきゼットンが、黒いゴスロリスカートをたくし上げる。

「逃げた男は、後で夜間訓練」

捲れ上がったスカートから露になった少女の最密の神秘は、遠からず新たな戦乙女を出産するために咲く赤い命の花から透明な涎をたらし、白く透き通る内腿を滴り落ちる。

本来なら、こんなに可愛く美しい少女からの野戦訓練のお誘いなら、いかな屈強な男でも喜んで乗りたいところだろう。

ましてや、うら若き乙女の神聖な子袋に次世代の新たな戦乙女の命を植え付けるための神聖な儀式なら尚更だ。

あの絶世の美女の形のいい肉壺に包まれたら、どんなにか至高の天国だろう。

だのに巨人たちはどうだ。

ただでさえ美しい少女の体で最も美しい白い秘裂を見るや、『ヒッ! ままま待って下さいヴァルキュリア様! やや夜間訓練だけはお許しを!』死の恐怖に怯えているではないか。

八戒は知らない。

昼間の灼熱地獄は、まだ命が保証された特訓だった。

『最強の戦乙女であるゼットンは、夜戦も最強なのよ』

「最初の頃は男共も夜戦だ美女だ酒池肉林だって喜び勇んでたクセに、あれだけ搾り取られてからすっかりトラウマになったっぽくて」

少女の白く綺麗な秘裂が観音開きに開いて咲いた花は、美しすぎる赤い花。とろりと糸をひく透明な甘い蜜を滴らせた魅惑の美しい花は、餌を前に涎を垂らす食人花に見えた。

とろとろ。

ひくっ。ひくっ。

にゅぱぁ。

お腹をすかせて獲物に飢えた赤い花が、蜜道の奥で雌蕊を開閉する。本来なら天国からのラブコールであるはずの水音だが。巨人を丸呑みにしようと涎を垂らす赤く綺麗な食人花のリップノイズを聞くや、条件反射で巨人たちが竦み上がり。『呑み込まれるゥ! 俺もうウルトラマンやめるゥ!』と地を這いながら逃げ出す巨人もいた。

戦乙女を守らねばならないウルトラマンが、戦乙女を恐れてしまっては何たる無力。

「私らが来る以前は銀十字軍の赤プレ先輩が夜間訓練のモデル女児をしてたっぽいけど… 死人が出るほど精力を搾り取られる日は少なかったらしいぜ?」

『アグルとゼットンはまだ優しいほうよ』エレキングが付け足す。『コロセウムで鍛えられるいかなる厳しい特訓も、K76星に島流しにされてウルトラマンレオにシゴかれる本物のスパルタ地獄に比べたら遥かに生易しいわ。 生きて帰れたのはゼロだけとも恐れられてる』

「どんな鬼教官ですか、その人」

そのレオという巨人は、体育会系か武闘派の類だろうか?だとしたら、相当怖いんだろうな。

『あの男の名誉のために補足するけど、レオはかつて故郷も仲間も愛する人たちも何もかも失った経験があるの。 守りたい人を守る強さ… それを教えたいんじゃないかしら?』

「そんなことが…? ウルトラ戦士にも色々な方がいらっしゃるのですね」

さて。水責めに火責めと来たら、荒ぶる海皇と断罪の天使ばかりではない。

幸いなことに、ウルトラコロセウムには仏もいる。

『二人とも、その辺で許してあげたまえ』

頭に2本の角が生えた真紅の巨人が、マントを翻す。

真紅の巨人の号令に従って、アグルは『勇気と無謀を履き違えた結果どうなるか、身に染みたか』と捨て台詞を吐いて死屍累々の訓練生を後にした。

ゼットンも真紅の巨人を見て「ウルトラ6兄弟が言うなら…」と、衆合地獄の淫靡なスカートを閉じた。

模擬戦が終わったのを確認した温厚そうな真紅の巨人は八戒のほうに向き直る。

『君が新しく入った栄養士だね?』

「はい。 猪八戒、ウルトラマンシュバインと申します。 お世話になります」

呼ばれ、自己紹介する八戒。

『私はウルトラマンタロウ。 コロセウムの主任教官を務めさせていただいている』

ということは、このコロセウムを総括する責任者か。

タロウからトレーニング設備を案内してもらった末、八戒はバッサーに掴まれてコロセウムを後にした。

ビルの谷間をグリフォンの鉤爪に吊られながら、八戒は「立派な方でしたね」とタロウの柔和な顔を思い出す。

タロウは後輩戦士の戦闘データを全て網羅しており、先輩後輩関係なく自らも学べるものは目で盗んでいた。

だからこそ、若き戦士1体1体に合ったカリキュラムを組める。

例えば、先ほどスラッガーを投げた戦士は複雑なウルトラ念力の操作に長けている。炎の雨を掻い潜って距離を詰めた戦士は、俊敏な飛行能力に長けている。あの火の海地獄は、極限環境に置くことで若き戦士たちの個性を引き出す狙いがあった。次のカリキュラムへつながる、実のある悔し涙だったのだ。

採取した映像データは、後でタロウ自身がトレーニングルームで自己修練の参考にする。自分の身に染みたから、傾向と対策を打ち出せる。

若者と同じ目線に立って自らも学ぶことで、新たな戦士を輩出しているのだ。

衆生を手から漏らすことなく解脱へ導く菩薩のように。

次はあの最も高い塔、第3ウルトラタワーだ。

『第3ウルトラタワーは、ウルトラ戦士徴兵指令の本拠地。 私たちが饗宴を催して戦士たちを歓待する……そうね、神話でいうところのヴァルハラ宮を実現した宮殿』

「かつてのメディカルタワーを増築した施設なんだ。 表向きは怪獣娘とウルトラ戦士の療養施設の体裁をとってるんだってさ。 あの立体駐船場も、表向きは地球でいうところのドクターヘリポートみたいなモンだって」

『すぐ近くにコロセウムがあるでしょう? つまり、そういうこと』

「あー… 納得」

『第3ウルトラタワーってネーミングは、マグマ星人の発案のようね。 戦乙女の命は、宇宙の生態系そのものを維持する大切な命だから』

「徴兵指令の戦乙女は、全員アース神族なのですよね?」

『今のところはね。 GIRLSスペースという故郷の地名も、かつて私たちが所属していた組織の名前からとってる』

「アース神族とは一体…?」

言いかけたところで、バッサーはタワーの中腹、立体駐船場をくぐり入った。

『私は別件があるから通信を切るわね』

 

 

「静かですね」

「まだ饗宴の時間じゃないからね。 今日はオーディンも留守だし」

バッサーに案内されて、タワー内部を見回る八戒。

通路の壁面には絵、絵、絵。

これでもかと大量の絵画が額縁に飾られていた。

宮殿というより、これでは美術館だ。

「この塔のオーナー…オーディン様って、どんな方ですか?」

ふと素朴な疑問を投げかけた八戒だが、バッサーはあっさり「変人だよ」と一蹴。

御年17万歳。もとは光の国の画家だったが、ウルトラ大戦争を戦ったケンの戦友のひとりであり、宇宙警備隊発足にも一役買ったという。

美しい生物を見捨てられない正義感の強さ。美しい生物を傷つけられない心優しさ。一方、きわめて女癖が悪く。一歩外宇宙に出たらあちこちの惑星でこさえた愛人は数知れない。女性の救助を最優先するあまり男性の人命を軽視した極端な過剰防衛が目立ち、長らく宇宙警備隊内でも日の目を見なかった。

ガヴァドンUカードを開発するまでは。

ウルトラマンオーディンとは、彼自身が名乗った自称だ。彼は幼き日より、描いた絵が実体化する特殊な宇宙線を生まれ持った。彼が描いた美術作品群であるガヴァドンUカードは、オーディンの美的センスと共鳴した人間をウルトラマンに変身させる力があった。

一路エレベーターを上がる。

「立体駐船場を上がったら上のフロアは農業プラントさ」

ガラス張りのエレベーターから外を見下ろすと、一般のウルトラ族の巨人が広大な農園で働いていた。

「食材は産地直送…というか地産地消ってわけですね」

「このまた上は畜産プラント」

エレベーターをさらに上がると、外の景色は広大な牧場だ。

「同じフロアに厨房があるよ」

「じゃあ、私はここでゴールですね」

「せっかくだから一番上まで見て行こうよ」

「一番上には何があるのですか?」

「メディカルルームだよ」

最上階のドアが開くと、怪獣娘の通行量が倍近く増えた。

「なんじゃ? 新入りか?」

自動ドアが開くなり、片方の角が折れた怪獣娘が声をかけた。

「ドドンゴ先輩」

バッサーにドドンゴと呼ばれた女性が八戒を覗き込む。包帯から滲み出て流れ落ちる血が痛々しい。

「エイクシュルニル…?」

「おぬし、新しく厨房に入ったとの男じゃな? わらわはドドンゴ。 ウルトラの星の土着神じゃ」

土着神。

歴史と照らし合わせると、ウルトラ大戦争直後に移住した原初のヴァン神族ということか。

「バッサー、もう下がってよいぞ」

「はーい」

飛び去ったマガバッサーに手を振って、八戒はドドンゴの後についていく。

床を走る浮力コンベヤーに揺られながら。

「ドドンゴ様はヴァン神族…ですよね? ご出身はどちらで?」

「怪獣墓場じゃ」

「その角の傷は…?」

「昔シャドウにやられての。 定期的にプラズマスパークコアの前で禅を組まねば出血が止まらぬ」

「苦労なされましたね…」

「おぬしも憶えておくことじゃな。 バッドエンドのストーリーを嗜好する男は、己自身の人生のバッドエンドに跳ね返ってくる。 架空と現実を区別した罪は、命で償うしかない」

御年4万歳のドドンゴも客観的に見て美人な女性だと思う。だからこそ、そんな憎しみに満ちた目は似合わない。頭に血が上って、折れた角が泣いている。

よほど辛い過去があったのだろう。心に深い傷を負ったのだろう。彼女を悲しみから救うことはできないだろうか?

これ以上この話をしたら古傷を抉る気がした。八戒は慌てて別の話題を探す。

「ご通行中の方々を拝見したのですが」八戒が話を切り出す。「あの兜をかぶった甲冑の方、何人姉妹ですか? さっきから同じ顔の方を何人も見かけるのですが」

3本の角のある兜を頭に装着した鎧の女騎士を見る。顔だけじゃない、鎧のフォルムもみな一様に同じグループが何人もいるのだ。

「あやつはスカルゴモラじゃな。 GIRLSスペースに黒田ミカヅキというアース神族が住んでおっての。 そやつをモデルにした絵を何枚もスケッチして実体化した量産型のクローンみたいなヴァルキリーズじゃ」

「見たところ徴兵指令の戦乙女ではなさそうですね…?」

「どこを見て言っておる」女の子は、男の視線には目敏い。「アース神族もGIRLSスペースを守らねばならぬでの。 あまりこっちに戦力を割くわけにはいかぬのじゃ」

世知辛いのじゃ。

GIRLSスペースがどれほどの戦力を保有しているかは知らないが、6人も引き抜いたのは多すぎる。

スカルゴモラはヒカリの命を貯蔵と増殖できる上半身は持っていない。恐らく黒田ミカヅキも同じだろう。貧乳だから選ばれなかった。今頃ミカヅキはGIRLSスペースを守っているだろう。

「オーディン様はどちらへ?」

「あやつなら新しいミュージカルの観劇に招かれての。 アンジェリカを連れて劇場を見に行っておるぞ。 ほれ」

壁に貼られたポスターを指さすドドンゴ。

ミュージカル、マリーと運命の三女神。

ウルトラの星の歴史を、脚色を交えて歌劇化した。

宇宙警備隊発足直前の時代、宇宙各地で次々と誕生したヴァン神族が宇宙を彷徨うジャーニーとなってあぶれていた。

光の国は、ヴァン神族の移住受け入れを主張するオーディン主義者と移住を拒むベリアル主義者の論戦が繰り広げられていた。

オーディンは多数の怪獣娘と恋仲になり、彼女たちを誰一人として見捨てたくなかった。一方ベリアルは、ヴァン神族が転生前はエンペラ星人側に与した敵怪獣だったと糾弾。ベリアルがオーディンの女性関係のスキャンダルを暴いて優勢に立つも。心優しきウルトラウーマンマリーは、後に宇宙警備隊の初代隊長となるウルトラマンケンに働きかけ、すべての命を守るのが光の戦士の使命と諭す。マリーの説得によってケンはヴァン神族の移住を受け入れる方針に賛同し、世論も彼女たちの保護へと広がっていく。

八戒はドドンゴのほうを見る。

「わらわが本人役で出演するはずがなかろう。 演じておるのはメフィラス妹じゃ」

「デスヨネー」

配役は史実のウルトラ族も含め全て怪獣娘が演じているのが特徴。

このミュージカルでウルトラマンケンを演じたヴァン神族のシラリーは一躍「男装の麗人」として有名になった。

問題は、このポスターが張られている壁だ。

周りの額縁に飾られた絵の傾向に比して、ミュージカルのポスターは浮いて見えた。

それもそのはず。

「ちなみにアンジェリカ様とはどなたで?」

「マグマ星のアース神族、アンジェリカ・サーヴェリタスじゃな。 オーディンが最も可愛がっておる愛妾じゃ」

そう。愛妾と劇を見に行くような女好きジジイが改装した建物の壁面が、マトモであるはずがない。

「このフロアに上がってから、女の人の裸の絵ばっかりですね」

「オーディンの趣味じゃな。 全裸の少女は美しいとか何とか」

壁面に飾られているのは、ほぼ全て裸婦画だ。

この階、見渡す限り少女たちの裸、裸、裸。

寝台に横たわる全裸の少女。ソファで大股を開く全裸の少女。窓を開けて陽の光を浴びる全裸の少女。裸婦画といえばお馴染みの生活感のある背景に描かれた少女たちも確認されるが、それ以上に大半を占めるのが屋外の大自然に溶け込んだ少女たちの裸婦画だ。定番のウェヌス・アナデュオメネをはじめ、水浴び、木の実採り、レダと鳥、森の舞踏会といった少女らしい優雅な裸婦画から、人外ならではの木登りをする全裸の少女、動物のように狩りをする全裸の少女、両手に武器と盾を持って戦う全裸の少女などハニートラップなモチーフまで。さらには巨大な花から生まれる少女、繭から羽化する少女、黄金の棺から蘇る少女といった人外は人外でも女神らしさを強調した神々しい裸婦画。中には美しき天使が別の少女を地獄から救出して天界へ引き上げる神話的な群像裸婦画まで描かれていた。

画家であり極度の女好きでもあるオーディンなら、何千万枚という女性の裸を描いてもおかしくない。

恐らく、怪獣娘たちをヌードモデルにして描いたのだろう。

出口付近が見えて、それは確信に変わった。

「ほれ、わらわのもあるぞ」

角があった頃のドドンゴの絵が飾られていた。額縁を彩る全裸の少女は、翼で空を泳ぎながら笛を奏でている。

通路を抜けたら、広く開けた青い空間に出た。

「ここがメディカルルームじゃ」

虹の端が架けた彼方の浮島に、豪華な宮殿が建っている。

「あの中央のヴァルハラ宮に件の宴会場があるが、見ていくかえ?」

「いえ、ありがとうございます」

そろそろ明晩の仕込みに入らなければいけない。

下階の厨房に引き返した八戒は先輩シェフたちと挨拶し、今晩の晩餐の手伝いをしながら明晩の仕込を始めた。

 

 

常にプラズマスパークの光に照らされるウルトラの星は原則として昼夜の概念は無いが、第3ウルトラタワー内部はそれがあった。

深夜。

仕込が一段落ついて厨房の外に出ると、牧場の使われていないはずのダービートラックで人の声がする。

誰かと思ってトラックに入ると、マガバッサーだ。

バッサーに模擬戦を指導するエレキングと、奥には特訓の様子を眺めるエレキングの母親が。

なぜ初対面の羽衣天女を実の母親だと特定できたかは、美貌で察すべし。

ウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女たちは、全員が絶世の美女だと聞き及んでいる。ただでさえ美しい天女が2人もいて華やかなら、母娘と見るのが自然だ。

シュークリーム色の髪をふわふわミドルヘアーにした、妖艶な美貌。なまめかしい、扇情的な女体美。

全裸とほぼ変わらぬ肢体に僅かに張り付く布地は、その白く透き通る魔性の女肉美を如何なく魅せるスリングショットとタイトミニ。ただでさえ白い美肌にあって特に白くふわふわのマデュマロのようにふっくら柔らかい豊満なKカップの魔乳は、布面積が少なすぎて僅かに山頂に張り付いている以外は北半球も南半球も谷間も全てのボリューム満点の乳肉が白くふわふわと美味しそうに男を誘惑して蠱惑的。タイトミニも17年前に娘を産んだ白く綺麗な母親の聖域を隠しきれないほど短く、艶やかな腰回りのラインにぴったり張り付いて輪郭がなまめかしい。白桃のような尻肉もはみ出ている。

頭には、娘とお揃いの2本の三日月状の角が駆動する。

天女を天女たらしめる何より特徴的なのは、身長よりも長い天女の羽衣が背後で光背のように無重力で浮遊するからだ。

娘も十分すぎるほど美しいが、母親はさらに輪をかけて絶世の美女だ。こんなに美しく色香に満ちた天女を母親に持つとは。

八戒がエレプレのあまりの色気に見惚れて一歩も動けず固まってしまったが、時の針は関係なく進むもので。その娘は相変わらず弟子を鍛えている。

バッサーの高速飛行がチビエレの鞭に弾かれ、地面に叩きつけられたところで。

八戒は「お夜食いかがですか?」と、片手間に作ったからあげ弁当を差し入れる。

「あら? あら~」八戒に気付いたエレプレが、優しく微笑む。「お客様かしら~」

天女の羽衣で優雅に空を泳いで来た美しい乙姫は、小太りの男を興味津々に覗き込む。

「はじめまして~ 私は湖上ルン~ エレキングの怪獣娘なの~ あなたのお名前は~?」

そのふわふわした美貌に似合うふわふわしたソプラノの優しい声で語りかける天女の色香。

「猪八戒です。 今日からタワーの厨房を担当させていただくことになりました」

「あらあら~」妖艶な美女が微笑む。「ランちゃんが言ってた、新しいコックさんね~」

エレプレが楽しそうに八戒と話しているのを見て。

「少し休憩にしましょう」エレキングも鞭を尻尾に引っ込める。

厳しい特訓のせいか、バッサーは疲れが見える。

「何をしていたんですか?」

「エレキング先輩に、稽古をつけてもらってたんだ。 イテテテ」

話すにも辛そうなバッサー。

エレプレが「今日はこのくらいにしてあげましょ~?」と娘を見ると、エレキングは「どうする? やめる?」とバッサーに確認を促す。

「もう一回…ッ! お願いします…ッ!」

まだ続けたいというバッサー。

ふと疑問に思ったことがあった。彼女は何のためにM78星雲に来たのだろう、と。

「バッサーさん、何の特訓を?」

「私は、宇宙情報局の正式なハイパーエージェントになりたいんだ」

知恵の泉で高みの見物ではなく、現地で諜報活動を?

「たいじょうぶよ~ ぜったいなれるわ~」と、エレプレはバッサーの髪を撫でながら励ますが。

ふと、八戒は昼間コロセウムで見た地獄の猛特訓を思い出す。

と、エレキングの美貌を見比べる。

さっきの高速飛行が破られた原因は想像がつく。確かにバッサーの飛翔能力は速い。だが軌道が直線的で大振りな気がした。昼間見た模擬戦と同じだ。力任せての拳で猪突猛進しても、動きを読まれやすい。勇気と無謀を履き違えると流水のように受け流される。

「今のままでは難しいわね」

非情な現実を突きつける、知恵の泉。

「うっ…」

うつむき黙りこむ猛禽の翼。

「まぁまぁ~ ランちゃんも意地悪でヨウちゃんに言ってるわけじゃないから~」慈愛に満ちた笑みでバッサーの髪を撫でるエレキングプレックスの怪獣娘、湖上ルン。「ランちゃんは、ヨウちゃんが大きくなれるって信じてるから敢えて厳しくしてるのよねぇ~?」

「母さんっ…! それ言わないで…!」

娘の気持ちは、母親が一番分かっているものだ。

ランが、バッサーに期待していることも。

天女の母性は、物理的な意味でも。

「大丈夫? おっぱい飲む?」

夢のような絶景が開いた。

エレプレは、ただでさえ少ない布地をめくり。

山頂の薄い桜色の突起が露わになった白くボリューム満点のKカップ生乳肉が、ぷるるんと左右上下別々に揺れた。

山頂の綺麗なピンクの突起からは、母乳が滴っている。

「いいんスか!? やったー!」

大喜びでダイブしたバッサーは、ふんわり美味しそうなKカップの右巨乳肉に吸い付いた。

「あん♥」

するとなんと、バッサーの傷が急速に癒えていくではないか。母乳が出て、しかもエレプレの母乳にはそんな治癒効果があるとは。

「八戒くんもいかが~?」

優しく微笑むエレプレが、空いた左の巨乳を差し出す。

「え? いいんですか?」

「好きなだけ~ 飲んでいいのよ~」

「ありがとうございます。 じゃ、遠慮なく…」

八戒も、ふっくらしたKカップの美味しそうなエレプレの巨乳の山頂、驚くほど薄い桜色の小さな突起を口に含んだ。

「ひゃん♥」

美味い!!!!!

コク、甘み、舌触り、それでいて上品な味わい。全てが絶品だ。

こんなに美味しい飲み物を飲んだのははじめてだ。一口飲んだだけで不死身の体にでもなりそうだ。

オーディンは、ウルトラ戦士たちは、毎日毎日こんなに栄養満点の甘くて美味しい最高級の母乳を飲んでいるのか。

気が付いたら、八戒もバッサーも夢中になってエレプレの極上の母乳を飲んでいた。

ごくごく。

ちゅううううう。

ちゅっぱちゅっぱ。

「おいし?」

「「メッチャ美味いです!!」」

Kカップの栄養満点の母乳に吸い付き、先端の小さな桜色の突起を口に含み、不死の蜜乳たる最高級の母乳を夢中でごくごく飲む赤ちゃん2人を。エレプレは、我が子のようにいとおしげに撫でる。Kカップの魔乳から出る極上の母乳は、宇宙で最も甘くて美味しい飲み物は、吸えど吸えど、噴水のように大量に噴き出して喉を潤してくれる。

甘くてコクがあってクリーミーで。

右の巨乳も左の巨乳も、バッサーと八戒がエレプレの濃厚な味わいの母乳を喉に流し込むたび、Kカップのふわふわ白い乳肉が吸引力でボリューム満点の乳量が柔らかく伸びたり押し戻されたり。

「ランちゃんも飲む~?」

「いらないわ」

「あらあら~? 昔はあんなに美味しそうに飲んでくれたのに~?」

「赤ちゃんの時の話でしょ」

バッサーはエレプレの右の乳房を、八戒はエレプレの左の乳房を、ちゅうちゅう吸いながら。

「あの… なぜバッサーさんは、ハイパーエージェントになろうと?」

八戒が当初の質問を尋ねた。

ランちゃんのHカップ巨乳も、大きくて形が良くてトップレスで十分魅力的だけど。

そもそも、徴兵指令ではないバッサーがエレキング母娘の後を追うに至った過程を知りたい。

「話せば長くなるんだけど…」

 

 

かつて、彼女たちはGIRLSという組織に所属していた。

エレキングは新人の教育係を任され、マガバッサーの他にも何人かの弟子がいた。

数ヶ月前、ウルトラマンオーディンからのスカウトによって。エレキングをはじめゼットン、キングジョー、ガッツ星人が宇宙警備隊への転属が決まる。隊内に新たな分隊、ウルトラ戦士徴兵指令を立ち上げるために。

GIRLSの教育係のポストは、かつてエレキングの弟子であり立派に一人立ちしたウインダムが引き継ぐことになり、彼女もまたムルナウと新条アカネという新人の教育を任されることになる。

その日は、ウインダムの教育係としての最初の講義をエレキングが参観した。GIRLSのエレキングとしての最後の仕事でもあった。

 

 

「怪獣娘には、大きく分けてアース神族とヴァン神族の2種類がいます」

会議室の大スクリーンを棒で指すウインダム。

「アース神族は、創造神ウルトラウーマンミカエラの子孫。 人間態と戦乙女フォーム、ふたつの形態を持ち、怪獣の甲冑―――獣殻(シェル)をまとって輝きます」

「北欧神話のヴァルキュリアだねー」

講義を受けている見習いのひとりが真の抜けた声色で答えた。この美しい少女は言っていることは的確だが。靴と靴下を床に脱ぎ散らかして足をバタつかせたり、指で鉛筆を回したりと、およそ講義を受ける態度ではない。

「ご名答です、アカネさん」ウインダムは気にせず続ける。「神話を歌った文献にも私たちの先祖とおぼしき女神の存在を示唆する記述が残っています。 ヴァルキュリア。 星空を駆け、美貌を以て戦士たちを鼓舞する女神たちは、その美しさゆえに甲冑をまとうやオーロラのように光り輝き空を照らしたとされます」

「ソウルライドみたいだよねー」

「その甲冑こそがモンスアーマー、獣殻です。 アース神族はどんな種族と子を為しても美少女しか産まれない100%女系種族。 先史時代に様々な怪獣と混血を繰り返した私たちの祖先が、先立たれた夫の亡骸を剥製にして作った甲冑が獣殻です。 カイジューソウルの正体は、獣殻に宿った夫の魂だったのですね」

「剥製!? 怖いわよ!?」

竦みあがるもうひとりの見習い。こちらは全身にダイヤモンドのジュエリーを装飾した、妖艶な魔女のような姿をしている。

「このため、アカネさんのように複数のモンスアーマーを宿したアース神族も珍しくありません。 一方ヴァン神族は、死んだ怪獣の魂が何らかの理由で美少女の姿に転生した存在です。 原則として人間態は持たず、命自体がカイジューソウルと同義ゆえ記憶や人格を前世から引き継いでいるケースも少なくありません。」

「そういえば私、幼少期がない。 あの男に看取られて死んだと思ったら、突然この世界に、この姿で生まれていた」

もうひとりの少女が己の出生を思い出す。

「中にはムルナウさんのようにウルトラマンと戦った個体と同一個体か、その末裔っていうケースも珍しくありません。 多岐沢先生は怪獣墓場の観測に成功し、ヴァン神族単一起源説を提唱しました。 これでは、3000万年も超古代の神殿で戦乙女が祀られていた説明がつきませんでした。 戦乙女を賛美する叙事詩群がカンブリア爆発を始めた時期だって、怪獣頻出期より1000年も昔からでしょう? 先生の説が完全に否定されたのは、ノルウェー海の海底からノアの方舟が発見されてからです」

「知ってる知ってる! 今一番の大ニュースになってるわよね!」

「ネットでもニュースになってるー」

「方舟にアーカイブされていた映像データを復元した結果、アース神族の全貌が明らかになりました。 私達の祖先はGIRLSスペースに入植する以前はノアの方舟に乗って多世界宇宙を渡り、現地で様々な怪獣との間に娘を身籠って進化しました。 各地のバラージ遺跡で戦乙女が信仰された痕跡が残っているのは、行く先々でヴァルキュリアが降臨して女神として信仰されたからですね。 旅の果てに辿り着いた終点がここだった、というわけですね」

「ひとついいかしら?」エレキングが会議室の奥から口を挟む。「GIRLSスペースがアース神族の定住した天界(アスガルド)なら、なぜヴァン神族が発生したの?」

ウインダムが答える。

「かつては、GIRLSスペースにはアース神族しかいませんでした。 そう、半世紀前までは」

「怪獣頻出期…?」

独学で学んだ知識をアカネは思い出す。

「そのとおり。 ヴァン神族は転生する場所を選びません。 公式発表では、外宇宙から来たレイオニクスがヴァン神族を操って暴走させた、との時の防衛組織の見解です」

「何よそれ、私が特定外来種みたいじゃない」

不服そうなムルナウだが。

「そんな考えを持つ異邦人たちが、地球人類と対立しました」

「どういうこと?」

「奴等の名はレッドマン。 レッド星から襲来した奴等はヴァン神族であろうと怪獣は駆逐すべきと考え、TRPGと称して怪獣の虐殺を目論んでいました」

「TRPG? 何よソレ?」

「何の略称かは不明です」

「どーせTransfiction to RaPe and Genocideとかじゃなーい?」

聞き慣れない単語を口にしたアカネを聞いて、ムルナウは「とらんす…ふぃくしょん?? 何よそれ?」と首を傾げる。

「いずれにせよ」当たっているかはともかく、ウインダム曰く「そのアルファベット4文字で言い表される『何か』が、現実世界を生きる世の全ての女性の命を脅かしかねない極端な男尊女卑を標榜する血の殺人性癖であることは間違いありません」と結論付ける。

かの偽りの英雄たちを、エレキングも「思想には気をつけなさい、いつか実行になってしまうから」と歴史から評する。

ウインダムは続ける。「私達アース神族は、ヴァン神族の保護を選択しました。 バラージ正教会の女司祭だった印南家のご先祖様は、教会の聖遺物だったスパークレンスとストーンフリューゲルの封印を解き、選ばれし人間の勇者をウルトラ戦士に変身させたと伝えられます。 ウルトラ戦士たちは人類と、そしてアース神族と力を合わせてレッドマンを退け、レイオニクスを破り、ヴァン神族を救出しました。 以上が半世紀前に起こった怪獣頻出期の真実です」

「以来、GIRLSスペースにもヴァン神族が定住したってワケだねー」

「もうひとついいかしら?」また、エレキングが口を挟む。「怪獣娘の暴走はどう説明するの? アース神族であるあなたも被害に遭ったでしょう?」

ウインダムが、「ああ、あれは…」どもりながら答える。「シャドウジェネラルによる犯行と目されています。 あの男が死亡してから、シャドウミストの被害件数は減少の一途ですから」

「ちょっと待って?」ムルナウが首を傾げる「じゃあなんでヴァン神族も女の子の姿に転生するの? 話を聞く限り、必ずしも女系種族とは限らないんじゃない?」

「はいはーい」アカネが手を挙げる。「多世界宇宙多世界宇宙っていうけど、物質が誕生できる確率だって天文学的確率なのにさぁ? 全部の宇宙で物質が安定して存在できるはずなんてフツーに考えたら有り得るワケがないんだよ。 てことは、ウルトラウーマンミカエラって物質が安定して存在できる多世界宇宙そのものか、多世界宇宙を満たす星間物質(マナ)そのものだよね? じゃあヴァン神族転生メカニズムも、ミカエラの幼年期放射が関わってるはずじゃん?」

「ご明察です」ウインダムが笑う。「多岐沢先生もあと一歩までは突き止めたのですが…生憎、『万物の母』の存在を断として認めなかったのを除いては」

「天才なの? バカなの?」

「先生は、ちょっと少年の心のままの夢想家だっただけなんです…」

「科学とは、神を否定することじゃない。 自ら神になること」壁に寄りかかっていたエレキングが背中を、離す。「その覚悟を欠いた頭脳では、運命は変えられない」

「この宇宙の知恵の女神(ミューズ)様は辛辣だねぇー」

信じていたもの全てが偽りの記憶だったのだ。科学者としてのプライドをズタズタにされた多岐沢という男を哀れみ、溜息をつくアカネ。

一方、ムルナウは何のことを言っているのかチンプンカンプンで頭がショートしていたが。

「ただ、唯一の例外が発見されました。 ヴァン神族のUキラーザウルスさんです」

「「え!? あいつ男の娘だったの!?」」

「そうですよね、顔だけは女の子にしか見えませんものね。 本人はシャドウミストが妊婦に母子感染したことによる奇形と自称していますが。 Uキラーザウルスさんは、エレキングさんに鞭術を教えた師匠でした。 一時GIRLSを脱退してQ歯科医という歯医者をやっていましたが、マグマ星人さんと入れ違いで最近復帰したそうですよ」

「じゃあ、ヴァン神族は男も生まれるのね…」

「宇宙は広いんです。 別の宇宙に視野をひろげたら、もしかしたら男のヴァン神族が発見されるかもしれません」

「じゃあ、アース神族はGIRLSスペースにしかいないの?」

「言いましたよね? アース神族はGIRLSスペースに入植する以前は、ノアの方舟で多世界宇宙を旅していたと。 ということは、旅の途中で誰かが降りても不思議じゃありませんよね? 方舟の航海日誌によると26万年前、旅の途中でパンドンとの混血児が舟を降りたと記録されています。 もっと以前の記録を遡ると、ギジェラを父親に持つ少女も。 もし次元を越える力があれば、これを手掛かりに彼女が定住した宇宙を探せるかもしれません」

もっとも、子孫は繁栄しても獣殻が現存する確証はありませんが、とウインダムは付け足す。

「最後に今日の講義をまとめます。 怪獣娘と人間との関わりの歴史は古く、天使や女神、アプサラ、戦乙女など様々な名称で信仰されていました。 特に北欧神話では天界の戦乙女ヴァルキュリアとして知られています。 アース神族とヴァン神族の2種類に大別され、アカネさんがアース神族、ムルナウさんはヴァン神族ですね。

ウルトラウーマンミカエラの子孫であるアース神族は方舟で長旅の途中、幾多の宇宙、幾多の星々を渡り、あらゆる怪獣との間に子を産みました。 アース神族は女系神族で、どんな生物と交わっても美少女しか産まれません。 愛を以てしても寿命の差は埋められず、先立った夫の亡骸から戦乙女の甲冑を作りました。 獣殻は夫との間に生まれた愛娘たちに着せました。 宇宙各地に女神ヴァルキュリアの神話が語られるのは、これが由来だったのです。 愛娘たちの命を、子孫の命を乗せて、アース神族の方舟は最後にGIRLSスペースへと着陸しました。

一方ヴァン神族は死んだ怪獣と同一個体の魂が美少女に転生した存在。 別の宇宙では殆どがヴァン神族が主流ですが、半世紀前、レイオニクスの暗躍によってGIRLSスペースにもたらされました。 今こうしてアース神族とヴァン神族が共存できるのは、私たちが自らの意志で光になれるから。 生まれ育ちは違えど、誰もがみな宇宙という大きな船に乗った姉妹なんです。

お姫様なんかなれないとか、メインヒロインはガッツさんがやるでしょうとか、勝手に自分に限界を引かないでほしいんです。 女の子はみんな、背中にヴァルキュリアの光翼があります。 宇宙を彩る虹のネオンライトが、本当の愛なんですから。 御清聴ありがとうございました」

以上で〆くくり、ウインダムの講義は終了した。

 

 

この日の夕方、業務後に六本木で送別会が開かれた。

ゼットン、エレキング、キングジョー、ガッツ星人の栄転を祝うために。

主役の4人を上座に迎え。

ピグモンを幹事として、レッドキング、ザンドリアス、ノイズラー、マガバッサー、マガジャッパ、ムルナウ、アカネ、一人前の怪獣娘になったアギラ、ミクラス、ウインダム。当時GIRLS日本支部にいた大勢の怪獣娘が、4人の門出を祝ってくれた。

ロビー四方に設置された雛壇のような差し入れボックスは、既に花束とプレゼントでいっぱいだ。

何しろGIRLSスペースの怪獣娘が宇宙警備隊に選ばれるのは、史上初の快挙なのだから。

「あれ? ゴモラ先輩は?」

こういう席で一番うるさい約一名が足りないことに気付いたノイズラーが見回す。

「ええっと、まだムシバ老師とアトリエにこもってますよ」とジャッパ。

「今日中にデッサン仕上げたいんだってさ」とミクラス。

「ヤマシイことされてるんじゃないでしょうね?」とザンドリアス。

「ヌードデッサンじゃないッスよ、そうならないようにUキラーザウルス先輩が見張ってるんじゃないスか」とバッサー。

「信用されてねえなジジイ。 あいつウルトラマンだろ?」レッドキングも苦笑い。

「その心配はいらないわ」とムルナウ。

ウインダムも頷く。「オーディン様は、お胸の大きな女の子しか興味がありませんから」

アカネが自分で自分の巨乳の大きさを手触りで確かめて勝ち誇っているのを、ウインダムは見なかったことにした。

「はいはーい ちゅうもーく」

マイクに登壇した幹事のピグモンだ。

「本日はお集まりいただいてありがとうございまーす これから、ゼットン、キンキン、エレエレ、ミコミコの送別会を始めたいと思いまーす 幹事を務めさせていただきますピグモンでーす よろしくお願いしまーす」

明るくぴょんぴょん飛び跳ねる中性的な女性。

「それでは、乾杯の音頭をお願いしまーす みなさん、グラスをご用意くださーい」

ワイングラスを掲げるピグモン。といっても、彼女とレッドキング以外は全員ノンアルだが。

「かんぱーい」

グラスを掲げた。大人2人はワインを、子供たちはモンターニュロゼを、もちろん主役4人も全員子供だからモンターニュロゼを、掲げた。

「ぷっはー! バージンチチもう一杯ー!」「なんでノンアルで酔うんだよお前」

本当にノンアルだよな?隣でザンドリアスがへべれけになっているのを見て、目の前に出されたモンターニュロゼを疑うノイズラー。

既にアギラはロゼ瓶を抱えてゼットンとガッツ星人のテーブルに馳せ参じていた。

いや、本当に馳せ参じたという表現が似合うくらい、2人の絶世の美女に挟まれて和気藹々と喋っていた。

まるで姉にも妹にも愛される次女のように。

「ゼットンさんはお姉さんみたいに優しくて… っ… ガッツは… っ… 手のかかる妹みたいに可愛くて… っ…」

早くも、泣いていた。

「私も、妹ができたみたいで楽しかった」ゼットンが、アギラの髪を撫でる。「たとえ離れても、私はみんなと繋がってる」

ガッツ星人も。「私も… アギのことは姉ができたみたいで… みんながいてくれたおかげで… たくさんのことを学べた… アギに、みんなに出会えて、本当に… よかった…」

泣きながら、ガッツ星人とアギラは抱き合っていた。

仲睦まじい様子を眺めていたレッドキングも、ゼットンに酌をつぐ。「結局、お前には勝てなかったな」

「?」

何のことかと心当たりを探したが、大怪獣ファイトのことか。

「勝ち逃げなんてズリーぞ」

「結果的に鬱展開への抑止力になれたなら光栄。 今度は、できる限りの命を救えたら」

「へへ、ガキのくせにナマ言うようになったじゃねえか」

こうやってレッドキングの腕力で背中をバシバシ叩いても平気な顔をしてくれるのは、ゼットンだけだった。

泣いているといえば。

「エレキングさん… っ… 本当に… っ… ありがとうございました」

「先輩のおかげで…っ 私…っ」

「ふぇぇ お別れなんて嫌ですよぉぉ」

ウインダム、マガバッサー、マガジャッパも。エレキングに抱きついて泣いていた。

「短い間だったけど、あっちに行ってもあなたたちのことは忘れないわ」

3人の妹たちを、エレキングは撫でた、

さて、見習い2人も先輩に挨拶回りに行かねばならないところだが。

ムルナウが「ほら、私達も行くわよ」とロゼ瓶を手に立ち上がるが、アカネは「やだーめんどくさーい」と靴を脱いだ足をバタバタ。

そこへキングジョーが「Good evening!」と新人2人のテーブルへやって来た。「MONTAGNE ROSEいかがデースカ?」

祝われる主賓が、見習いのアカネにノンアルをついでくれたのだ。

なぜかムルナウが「あっああありがとうございますっ! 畏れ多いですっ!」と平謝りしていた。

これだから人付き合いは面倒臭い、と内心思うアカネだった。

「ご歓談と会食をお楽しみいただけたところで、これから余興に移りたいと思いまーす」

再びピグモンがマイクに登壇する。

「まずはN'Zのお二人の生演奏! お願いしまーす!」

「「イエーイ! ノってるかーい!」」

壇上に立ったノイズラーはギターを奏で、ザンドリアスはマイクを握った。

歌うは、つい先日オーディンから教わった歌。ある光の国の戦士と、地球の防衛チームの仲間たちの、絆の歌。

経歴もバラバラの曲者たちが不思議な運命に導かれて防衛チームに集い、それぞれ違う個性を合わせて未来を叶える夢を描いた。

彼は光の国へと還ったが、仲間たちとの絆は永遠に、無限大に息づいている。

「おっまたせー☆」

演奏の直後、ようやくゴモラが到着する。

遅れてムシバ老師とUキラーザウルスも会場に入った。

「うら若き乙女たちの花園、華やかな画題ですねぇ」

「黙ってろジジイ」

ムシバ老師とUキラーザウルスがテーブルについてワインを嗜む一方、ゴモラはモンターニュロゼには手も付けず大袈裟な動作で壇上に躍り出、何かの原稿用紙を取り出す。

「こちらに取り出しましたるは、ある人物の小学生時代の作文。 今から読み上げます」

黒田ミカヅキといえば、この持ちネタ。

「アギちゃんが」

「ええ!? ボクがぁ!?」

完全に油断していたアギは、いきなり指を差されて面食らう。

お決まりのパターンでしょう。

拒否権はないと悟ったアギラは渋々ながらも原稿用紙を受け取り、ゴモラと入れ違いで登壇する。

「えーっと… しょうらいのゆめ 1ねん1くみ いんなみ みこ」

「!!!!!!!!!!!」

「ミコのしょうらいのゆめは、およめさんになることです。 ただのおよめさんじゃありません。 ウルトラマンとけっこんしたいです」

「キャーッ! い゛や゛ーっ! や゛め゛てぇー!」

やはりというか何というか、テレポートで原稿奪取したガッツ星人は真っ赤に火照った顔を隠すように蹲った。

「なんで持ってるの!!!??? なんで!!!???」

「お母様からお譲りいただきました☆ てへぺろ☆」

「ママぁー! 何てモノ持ってるのー!!」

この黒田ミカヅキが印南婦人から譲り受けた我が子思い出の品は、これだけではなかった。

「さらにさらにー こちらは同じ頃にミコちんが書いた人生設計ノートでござーい」

「い゛や゛ーっ! も゛う゛や゛め゛てぇー!」

ノートも取り返そうとゴモラに飛びかかったガッツ星人だが、レッドキングにパスされる。

中身を一目読んだだけで、レッドキングは真っ赤に火照った。「お、おおお前! ガキのくせに何マセたこと考えてんだ!」

取り乱して放り投げたノートは、マガバッサーの手に渡った。

覗き込んだザンドリアスとノイズラーは、「「キャー」」と甲高い悲鳴を上げながら自分の目を隠した。

同じく覗き込んだマガジャッパに至っては、刺激が強すぎて気絶した。

そこに記されていた計画は、想像を絶する世界だった。

日常で実践するエロい女への道。男を魅了するエロエロボディの作り方。形のいいお尻の作り方。6歳からはじめる胸を大きくする方法。

この程度はまだ序の口レベルで。

ウルトラマンが現れた場合の人間態の見分け方。男を堕とす女の仕草。ミコを守ってくれるウルトラマンの見分け方。アプローチのフローチャート。告白を誘発する誘惑マニュアル。男を興奮させるセクシーポーズ。視覚で魅せる巨乳力学。告白された時の可愛い頷き方。

次のページに至っては字面を見た誰もが目を疑った。

付き合ってから処女を捧げるタイミング。

もう一度ページを見返す。

処女を捧げるタイミング。

処女を捧げるタイミング。

ページを進めると。

いつごろ結婚するか。プロポーズを誘発するには?式場選びはどう段取るか。子供は何人欲しいか。

露骨なページになると、こんなことまで細かく書かれていた。

セックスする時の可愛いイき方。

綺麗な女性器の作り方。

おっぱいの揺らし方。

セックス中の隠語語録を排卵周期ごとに場合分けして事細かに。

処女を失った時の可愛い痛がり方。

はては子供をたくさん産める健康な子宮づくりまで。

「    」

6歳当時から立派な巨乳を実らせていた天才美少女の人生計画書を読み上げられて、印南ミコの顔が真っ赤にオーバーヒートしていた。

同じく覗き込んだキングジョーは「ワーオ❤️ 大胆デース❤️」とアメリカンスマイル。エレキングとウインダムは何か納得げに頷き。

アギラは、最初から知ってた。

13歳の幼き絶世の美女が、ウルトラマンのために純潔を大事に大事に守り通して生きてきたのは良くわかった。いつ処女喪失の時が来てもいいように、ウルトラマンを満足させられる極上のエロエロボディを形成してきたのも良くわかった。初めてのセックスは幸せなセックスにしたいことも。ウルトラマンに、本気で恋しているのも。

「何が凄いってさあ。 もう叶いそうでしょ? これ」

いつの間にかマコがそこにいて、呟いた。

一番近くでミコを見てきたからわかる。努力して女を磨いたのは、決して伊達や酔狂ではない。勇者に至上のセックスを提供するために進化した、美しき聖処女の最高級のセックス専用女体美を見たら分かるだろう。結果が出たじゃないか、こんなに美しい13歳の絶世の美女に成長しましたという結果が。

「尊敬するよ」アギラも頷く。「こんなに早くチャンスが巡ったのは予想外だったけど。 遅かれ早かれ、誰かが求婚しに来たと思う」

印南家直伝の恵まれた美貌と目鼻立ち整った美顔、ダイヤモンドよりも綺麗な構造色の長髪、僅か13歳ながら今のガッツ星人の努力して手に入れた美尻と巨乳とエロエロボディなら、どんな男もイチコロだと思う。もちろんウルトラマンだって例外ではない。こんな極上の女を抱いて、しかも一途にとっておいた処女まで味わえる男が羨ましすぎるくらいだ。幼き絶世の美女がノートに描いた一見突飛な夢は、実力で実現可能な夢なのだ。

バッサーからノートを受け取ったアギラは、持ち主に返す。

「ガッツなら絶対見つかるよ、素敵な結婚相手」

そして、美しき光の天使を抱きしめる。

「ボクも応援してる。 全力で応援してる。 ガッツ、優しい王子様と結婚してね」

姉同然のアギラに激励されて、ガッツはまた涙ぐむ。

「うん… 私、幸せになる。 みんなに誇れる、宇宙一幸せなお嫁さんになる」

なれるよ、ガッツなら絶対。

後にウルトラマンアーメンという理想のダーリンと結婚したのは、また別の話。

その時だった。

『ガッデム! 我が名はレイブラッド警部』

ゴモラが青ざめるのも無理はない。

存在するはずのないレイブラッド星人が、会場にのっしのっしと上がり込んで来たからだ。

いやいやいやいやいや、マジでレイブラッドがこんなところにいるはずがない。怪獣頻出期は先祖の代で終わったのだから。

じゃあ着ぐるみか?いや、レイブラッドの着ぐるみは頭部の構造の関係上、ショーでは出せないはず。

じゃああのレイブラッドは一体…?

『残念なお知らせがある。 先日、バラージ正教会の女司祭、ガッツガンナー・ガルム猊下のご自宅に空き巣が侵入したと都警に通報が入った。 ご息女の思い出の品2点が盗まれた。 胸の小さな怪獣娘による犯行との証言もとれている。 今しがた、犯人と思われる貧乳がこのビルに紛れ込んだとの目撃情報を掴んだ』

助けを求めるような目で全員を見回すゴモラ。違う違う違う違う、本当にお母様からは許可をいただいたんだって。ミコのお母様から譲り受けたんだって。本当なんです!信じてください!

見渡せど見渡せど、浴びせられるのは哀れみの視線ばかり。

『犯人の似顔絵も取れた。 これから聞き込み捜査する』

捜査の手掛かりだという似顔絵は、なんと先程までムシバ老師がスケッチしたデッサンだった。

\デデーン! ゴモラ、ピグモン、Uキラーザウルス、アウトー/

(騙したなジジイイイイイイイイ)

可愛くて巨乳の美少女しか眼中にない老師が貧乳のゴモラを描くはずがない。道理で怪しいと思ったらそういうことだったのか。

老師をそんな怨めしそうに睨んでも、地獄へのカウントダウンは刻一刻と針が進む。

『おいお前、顔を見せろ』

まずは胸の小さな怪獣娘、Uキラーザウルスの顔と照らし合わせる。

『違うな。 次、お前』

同じく胸の小さな怪獣娘、アギラと照合する。

『お前でもなさそうだな』

今度はピグモン。

『違うな』

ザンドリアス。

『お前も違うな』

ノイズラー。

『お前でもないか…』

さて、残るは。

泣く子も黙るこわーいこわーいレイブラッド星人が、一匹の貧乳の前で立ち止まった。顔を俯せて見苦しく逃れようとする貧乳の前に。

『おい、顔を上げろ』

先んじて聞き込み捜査された5人以外からクスクスと笑い声が降り注ぐ。悪あがきしても無駄よ、観念なさい、と口許を抑えるエレキングは笑い方も上品だ。

『おい!!!!!』

耳元で大声で怒鳴られ、ゴモラはビクッ、と顔を上げた。

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

白日に暴かれた顔は、必死で変顔を作って逃れようとするも。悪あがきもむなしく似顔絵を照らし合わせたレイブラッドは、『どう見ても、お前だよ』と至近距離からゴモラの鼻先を指で突く。

「似ているかって言われたら…… そうかも分かりませんけど……」

『ステージに上がれ』

「え? ?え」

『来い!!!!!』

「ヒッ!」

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

笑った5人がケツしばき隊に尻を叩かれる間に、ゴモラは恐怖に怯えながら壇上へ連行される。

白兵戦型の大怪獣ファイターたるゴモラをも上回る腕力。これはザラブ星人やババルウ星人の類ではない。

犯人には制裁のビンタ。

『お前が盗ったんだろ?』

「盗ってないです」

『猊下はお前の顔を見たと仰せだぞ』

「いや、許可はとりました」

『お前がやったんじゃねえか!!!!!』

「痛ーい! 鼓膜破れたー!」

\デデーン! ザンドリアス、ノイズラー、アウトー/

「何仮病つかってるのよwww いたっ」「そんな見え透いた嘘でwww イテッ 逃れられると思ってるのかwww」

当のミコも「ねえゴモ? 本当はママはどんな風に言ったの?」と疑う。マコも「返答次第では…」と睨む。

四面楚歌に立たされた貧乳の見苦しい言い逃れたるや。

「アイツ(Uキラーザウルス)がやったんです! アイツ(Uキラーザウルス)から原稿とノートもらったけど盗品だって知らなかったんです!」

『どうなんだ、Uキラー』

「俺は原稿とノートには一度も触れてません。 最初からソイツ(ゴモラ)が持ってました」

『こう言ってるぞ』

「え、あ、あの」

『お前ウソついたのか!!!!!』

「嫌だあああああああ こわいよおおおおお」ジタバタ

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

「俺にwww 罪を擦り付けるなwww」「仲間を売るなんてwww いけないんですよwww」

「百歩譲ってwww それが盗品じゃないとしてもさぁ?www」

尻を叩かれ、笑いすぎて腹筋がおかしくなりながらも、ついにアギラが証言する。

「コイツはボクの可愛い妹に恥ずかしい思いをさせました」

マコに抱きしめられたミコもコクコク頷く。

『おい! まだ余罪があったのか!』

「アギちゃんの薄情者ー! 恩を忘れたんかー! 恩! 恩ぉん! おぉぉん!」ジタバタ

\デデーン! ピグモン、ザンドリアス、Uキラーザウルス、アウトー/

「何よwww おぉんってwww」「犬かよwww」「もうどうあがいても逃れようがないんですってばwww」

「てかミコちんはアギちゃんの妹じゃないじゃん!」

「GIRLSはスール制があるもん」

\デデーン! ピグモン、アウトー/

「いつの間にwww そんなルールwww 作ったんですかwww」

『おい いい加減覚悟決めろ』

「覚悟って何ですか?」

『私が毎年やってる事だ』

「いや、待って待って待ってください! 私女の子! 顔はやめてください! 顔は女の命ー!」

『お前貧乳だろ!!!!!』

「あ゛あ゛あ゛ウインちゃん助けてー! 女の子はみんな光の翼があるって言うたやーん!」ジタバタ

「台本を盗み見ましたね? ガッツさんの言葉を借りただけですけどね。 誰もがお姫様になれるとは言いましたけど、世の中にはガッツさんやエレキングさんのような生まれながらにしてプリンセスもいるんです。 www貧乳のゴモラさんはwww何倍も努力wwwしなきゃいけませんよwww」

「ウインちゃんもグルだったァー!」

『ハラ決めろ!!!!!』

「嫌だー! ゼッちゃーん! ホンマ怒るぞー! ホンマキレるぞー!」ジタバタ

\デデーン! アギラ、ノイズラー、アウトー/

「ゼットンさんは関係ないじゃんwww」「もう観念しろよwww」

「生まれながらにしてプリンセスならば、ゼットンとキングジョーもですぞ。 今回の決定はゾフィー君の印璽も貰っておりますゆえ、偶然の一致ではありませんなぁ。 カッカッカ」

『お前本当に往生際が悪いな』

「ビンタ封印するって言ったじゃないですか…」

『リップサービスだ』

「ちょっとレイブラッドさんマジっすか?」

『黒田!』

「はい」

『文句あんのか!!』

「いや…」

『よし! 無いな!』

「あ゛ー! ちょっとホンマにやるつもりですやん!」

その後も見苦しく逃げ回るゴモラだが、誤って額のツノがレイブラッドの鼻に衝突してしまった。

『おい!!!!! 何しやがるんだ!!!!!』

「あ゛あ゛あ゛あ゛ごめんなさあ゛あ゛あ゛あ゛い」

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

「もう観念しなよ…」

『この野郎! 今日は往復ビンタだ!!』

「えっ! ちょっとちょっと待ってください待ってください! レイブラッドさん」

『何だ』

「なんでですか(´;д;)」

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

『あまり私を本気にさせるなよ?』

パシッ、パシッ、と大股を開いて手を鳴らすレイブラッド。

「あの、その足開くのやめてもらえます? ホンマこわいこわいこわい」

『よーし行くぞ!』

レイブラッドの剛腕が、ゴモラのスク水の肩紐をむんずと掴む。

それだけならまだしも、ゴモラが逃げないように足を踏んづけた。

「痛あああああい!」

本日何度目か分からないレイブラッドと揉み合いの直後、ゴモラはレイブラッドから距離をとりたいあまり逆方向に全体重をかけて自らの体を床に仰向けに棒倒した。

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

全身の力を抜いて断として床から起き上がろうとしない貧乳だが、レイブラッドはその髪を引っ張って吊し上げる。

「年末のテレビで見慣れた構図ですね…」

ジャッパも呆れた顔で様子を眺める。

今の取っ組み合いで、既に肩紐が片方ちぎれてスク水が剥がれ落ちて少年のような胸が露になった。こんなに色っぽくないポロリでお姫様扱いできるはずが無いだろう。せめて性別が識別できる体だったら、ここらで温情をかけてもらえたろうに…口惜しい。

『おい』

「ごめんなさい」

改めて、レイブラッドが腕を鳴らす。

『私も本気でやらせてもらう』

次は、左手でゴモラの右頬を掴み固定する。

「痛い…」

『行くぞ!』

「ああああああああ 嫌だああああああああ」ジタバタ

\デデーン! アギラ、ピグモン、ザンドリアス、ノイズラー、Uキラーザウルス、アウトー/

貧乳最後の悪あがき。

「往生際が悪いですよー」「逃げても余計に傷口を広げるだけっスよ」「ケジメつけるしかないのよ」「一思いに終わらせようぜ?」「もう楽になろう?」

同じ貧乳仲間だったはずのピグモン、ノイズラー、ザンドリアス、Uキラーザウルス、アギラからも見捨てられ、哀れみの視線。

『ちゃんとまっすぐ立てオラ』

今度こそ、左手で貧乳の右頬を掴み固定する。

『行くぞ!』

バチコーン!

制裁のビンタ炸裂!!

強烈な一撃を顔面にぶつけられ崩れ落ちた貧乳を捨て置いて、レイブラッド星人は『ガッデム!』と吐き捨てて会場をのっしのっし歩き去った。

「アゴガハズレタ…」

\デデーン! ザンドリアス、アウトー/

「だからwww 仮病いってんじゃないわよwww」

ついでに顔面も崩落した貧乳は、ムシバ老師を恨めしそうに見る。老師のすぐ至近距離には、アカネがいた。

巨乳自慢の美少女アカネは「おじ様ぁ~❤️」と媚び媚びの猫なで声で密着しながら。先ほど自分で大きさをチェックしたメロンメロンたわわな巨乳は服のボタンを全開にして谷間を見せながら栄養たっぷりボリューム満点の乳肉をむにむに押し付けていた。

今のレイブラッドの正体が分かった。アカネが本物そっくりに作った人形だったのだ。

ワインで酔いが回ったレッドキングも「貧乳wwwのくせに出しゃばるからだよwww」と腹を抱えて大笑い。「ツノが折れなかっただけでも有難いと思いな」

ビービー喚くかと思いきや、貧乳はあっさりと正直「はい」と虚ろな目で反応した。

何事も無かったかのようにピグモンは司会を続ける。

「次ー ミクミクによるマジックショー パチパチパチー」

登壇したのは、赤いマントをひらつかせたミクラス。

「こちらに取り出しましたるマント、タネも仕掛けもございません」と、裏表を両面を大袈裟に見せる。

それを両手で広げて、何もない空間を覆い隠す。「アン、ドゥー、トロワ」

勢いよくマントを捲り上げると、そこにはキングジョーの幼少時代の親友、バードンとブリッツブロッツが飛び出した。

「國枝アサミ参上! 愛しい妹よ、宇宙警備隊入隊おめでとう」

「おめでとうクララ。 姉として鼻高い」

「アサミサン! ユリカサン!」

思わず口許を覆ったクララ。

「ドウシテ…! Paris支部の仕事が忙しいって…?」

「可愛い妹の快挙とあっては、いてもたってもいられないからね。 今日は仕事は早めに切り上げて来たわ」

宮下アキにとってゼットンが実の姉のように美しい人で、印南ミコが実の妹のように可愛い子で、2人とも大切な姉妹であるように。國枝アサミと火野ユリカにとっても、クララ・ソーンは妹同然に可愛い三女。

2人の姉たちから花束を進呈。

「Oh ! 嬉しいデース!」

次期GIRLS総監候補の呼び声も高いバードンのヴァルキュリア、火野ユリカは、到着するなり優雅に羽ばたき、テーブルに揃った豪華な料理を貪りはじめる。

「はじめてクララと出会った時の衝撃は、今でも忘れられないわ。 こんなに美人な女の子が宇宙に生息していたなんて、ね」

「あれで当時小学生だったなんて 大人のお姉さんも舌を巻いて逃げるほどのナイスバディ」

「さっき白銀さんも言ったけど、生まれながらプリンセスな女の子っていたんだってカルチャーショックだったわ。 でもね、それ以上に感動したのは、歌声」

「そして、優しさ」

「クララはの歌は、あらゆる生命を癒す奇跡よ。 強さではなく、優しさで世界を平和にする癒しのメロディーなのよ。 だからこそ、こんなにたくさんのGIRLSスペース人がクララのファンになった。 世界は、歌で繋がっているのよ」

「今、私たちの自慢の妹は宇宙に飛び立とうとしてる」

「幼い頃のクララを知ってる私たちは、どんなに歌が大好きかを知ってる。 みんなを笑顔にするのが、ステージで歌って踊るのが楽しくて楽しくてたまらないことも。 他者を拒む臆病に打ち克って、他者を迎え入れる勇気は、誰にでもある。 違う星の人どうしが争うことなく、それぞれ違う力を合わせて共存できる宇宙。 あの日クララが歌った夢は、必ず叶うと思うの」

「だから、歌って」

「あなたが銀河のライブステージで楽しく歌える煌めきを、サイリウム掲げて応援してるわ」

「クララの、いちファンとして」

「「いってらっしゃい、クララ」」

嬉しさで泣き崩れる絶世の美女がいた。

「ユリカサン…っ… アサミサン…っ… Thank you very very very ………」

キングジョーも、泣いた。

「Thank you friends…… Ah…… I'm very very very happy……」

ひしっ、と抱き合う三姉妹。

エレキングも、ゼットンも、もちろんガッツ星人も、もらい泣き。

「続きまして主賓挨拶ー まずはゼットンお願いしまーす」

ピグモンの進行で、美しき熾天使が登壇する。

「本日は、こんなに素晴らしい会で迎えてくれて、本当にありがとうございます。 こんなに素敵な仲間たちに囲まれて、私は幸せです」

と、語った途中で。

「えー… あー… 堅苦しい挨拶は似合わないね。 ガッツ、エレ、ジョー」

「ま、そうなるよね」青い髪の女神が、すっくと立つ。

「尺の都合もあるわ、綺麗に〆ましょ」ピンクの髪の女神が、すっくと立つ。

「ワタシ達といえば、やっぱりコレデショー」蜂蜜色の髪の女神が、すっくと立つ。

4人の絶世の美女が、壇上に踊り出る。

「「「「私たちは、ありがとうの気持ちを歌で表現します」」」」

「それでは聞いてください」

 

「「「「絆∞Infinity」」」」

 

 

常にプラズマスパークの光に照らされるウルトラの星は原則として昼夜の概念は無いが、第3ウルトラタワー内部はそれがあった。

「美味しかった?」

「「ご馳走さまでした!!」」

人工的に作られた夜空の下、バッサーと八戒はエレプレの母乳を飲んで飲んでお腹いっぱい。

2人の大きい赤ちゃんがこんなにたくさん吸って飲んでも、エレプレのたわわに実ったKカップの魔性の淫乳は母乳が尽きることなく、先端の綺麗な桜色の突起からプシャアアアア、とヘイズルーンの蜜乳が間欠泉のように噴出して夜空に飛び散って銀河系誕生のようだ。

絶景だ。全ての生命の源が、この美しく色香に満ちた妖艶な天女の胸にふっくら膨らんだ豊満なKカップの白い淫乱な双乳から大量に出る最高級のコクがあって甘くて美味しい栄養満点の母乳から生まれたと確信できたくらい。

「欲しくなったら~ 遠慮なく飲んでね~❤️」

「「はいっ!」」

母乳って素晴らしい。

「で? なんでマガバッサーさんがついてきたんですか?」

「だからさぁ、ウインダム先輩が言っただろ? 女の子は誰でもお姫様になれるけど、世の中には生まれながらにしてプリンセスがいるのも事実だって。 その違いは何だろうって私なりに考えたんだけど」

ダービートラックで、マガバッサーは本題に移る。

「ガッツ先輩は、本当にウルトラマンと結婚した。 ドデカイ夢を叶えたんだ。 夫と一緒に式場選びも始めてる。 ガッツ先輩だけじゃない、がーるず四聖獣はみんなドデカイ夢をもって、それを叶えられる実力も培ってきたから宇宙警備隊に入れた。 ゼットン先輩は鬱展開への抑止力になること。 キングジョー先輩は歌で宇宙を平和にすること。 恐らくエレキング先輩も…。 四聖獣にとってそれらは神話じゃなくて、現実で叶えられるプランなんだ。 私は、まだ自分の翼で飛んですらいない。 エレキング先輩とエレママ先輩みたいな生まれながらプリンセスな母娘でもない私がでっかい女になるには、何倍も努力しなきゃいけない」

「それで、バッサーさんも宇宙警備隊に入りたい、と願っているわけですか」

「貧乳のゴモラ先輩でさえ、生きて罪を償っただろ? この広い宇宙には、0歳も命がもたない子供たちがたくさんいる。 どんなに生きたいと願っても生きられない子供たちがいる。 生きていれば楽しい事いっぱいあるのに、悲しすぎるじゃないか。 誰だって今日を生きる権利はある。 みんなを守りたいんだ」

「バッサーさん…」

いつの間にか、からあげ弁当は間食していた。

「だから、さ。 送別会の翌週、出発当日にGIRLSみんなで見送りに行ったんだけど。 私だけこっそりエレキング先輩の宇宙船に侵入してついてきたんだ」

「何やってるんですか! その行動力だけで十分主人公属性ですよ!」

「で、今は宇宙警備隊入隊試験に向けて猛特訓中ってワケさ。 宇宙情報局のハイパーエージェント志望なのは、エレキング先輩の役に立ちたいから」

「ところで、エレキング様の夢って何ですか?」

「本人の口から聞いたことはないからあくまで推測だけど… ほら、ウインダム先輩は二次元に恋してるだろ? 新人教育係にサイバー監視にと忙しいウインダム先輩にとって、それは日々を生きる活力をチャージするための人生のセーブポイントになってる。 じゃあ、生まれながらにしてプリンセスなエレキング先輩ならどういうドデカイ発想に至るだろうって私なりに考えたんだけど、恐らく」

「バッサー、特訓を再開するわよ」

何かを言いかけたところで、美しき知恵の泉に遮られた。

「あ、はーい」

バッサーはトラックの中央に飛んで位置につく。

「2人とも~ がんばってね~」

エレプレも遠目で応援してくれる。

と、突然。

「おっぱいちゃん」

「ああん❤」

上空から筋肉質の男が降ってきて、有無を言わさずエレプレの巨乳を鷲掴んだ。

「おっぱいちゃんのおっぱい揉んでいい?」

「あん❤ もう触ってるじゃな~い❤」

男のごつごつした手でも掴みきれないほど大きな魔乳が握られるたびに、むにゅっ、ふにっ、と柔らかくもちもちと変形するマシュマロの白い乳肉。

「母乳おかわり」

「特別よ~❤」

こんな筋肉ムキムキの厳つい男が赤ん坊のようにエレプレのKカップ魔乳に吸い付いて桜色の突起を口に含んで母乳をごくごく飲む姿は、八戒も人の事言えないが滑稽に見えた。

これほどまでにウルトラ戦士たちを夢中にする絶品の味。美しき妖艶な天女のKカップたわわに実った淫靡な魔乳から出る甘くてコクのあるクリーミーな母乳。

色香に満ちた魔性の天女、エレキング・プレックスは、そのKカップの栄養たっぷりボリューム満点の爆乳タンクから毎日大量の母乳を噴出して、第3ウルトラタワー全員分の飲料を供給してくれる。ヴァルハラ宮の饗宴で、若きウルトラ戦士たちはエレプレの母乳を注いだ杯を一杯ずつ飲めるのだ。

しかし、この筋肉質な男、落雁歳三のように特別に強い戦士たちは、エレプレの豊満な巨乳から直に飲む誉を賜っている。

産地直送した母乳と直飲みするのとでは、味わいも格段に違う。

見よ、夢中になって吸う大男に乳肉を手で搾られ突起を舌で転がされ桜色の突起から大量の母乳を噴き出すエレプレの大きくて淫靡なKカップ魔乳を。

色香に満ちた妖艶な天女も巨乳の乳肉を搾乳され母乳を搾り出され桜色の突起を食いつかれ吸われ「ああん❤ いやぁ~ん❤」と甲高いソプラノ声を奏でて気持ちよさそうだ。

「なあ、コックさんよ」リズミカルに搾乳して飛び出す濃厚な母乳を豪快に飲みながら、歳三は問いかける。「心って、どこにあると思う?」

突然そんなことを訊かれた八戒は「ここですか?」と自分の心臓に手をあてる。

「違うな」両手でエレプレの両の乳房を搾乳していた歳三だが、左手だけ乳肉から離し、天女の蠱惑的な女体美を下へ下へと這い降りる。「ここだよ」

歳三の人差し指が触れたのは、エレプレの露出した鼠径部だった。

「心は俺の体にはねえ。 愛するお姫様の子宮にあるんだ」

淫靡な腰の括れと繁殖的な腿の肉感の中央で卵型に形のいい白い鼠径部。歳三の人差し指がぷにぷに突いたそこには、17年前にエレキングを出産した神聖な子宮がある。

指でなぞると、ただでさえ形のいい乙女の子宮が淫靡に伸縮する。

「俺たちヒーローにとって、心ってのは守るべきヒロインその人なんだ。 ウルトラの正義は、怪獣娘(ヴァルキュリア)の子宮の中で燃えてる」

既にマガバッサーはトラック上空を飛び、チビエレもトラック中央へ向かって歩き出す。

ひたむきに輝いて、あるいは輝こうとする少女たちの美しさを、八戒は見ていた。

明日から、八戒も本格的に厨房を任される朝が待っている。

「よしっ、私も頑張りますよ」

空になった弁当箱を片手に、男は力こぶを作ってみせた。

 

後で知ったことだが、タワー最上階で見た天使画のモデルになった金髪の美女が赤プレらしい。あの絶世の美女は、かつてダークスパークウォーズで石動美鈴とウルトライブしたレッドキングの一個体がヴァン神族に転生したのだとか。

もちろん、アース神族のレッドキング、歌川ベニオとは全く赤の他人だ。

 

(イラスト: 一二三始 様)

 

トラックの中央を追う直前。美しきエレキングは、画面の前の『あなた』を振り返る。

「そこで見ている『あなた』に、力を貸してほしいの」

絶世の美貌と豊満な女体美を湛える戦乙女が、『あなた』を呼んだ。

「『ꓣ膮듣芡ꯣ芭ꗣ莪』『逋ス縺咲ソシ縺ョ繝倥Ν繝代?』鋣肁ꧣ膑ꛣ膂鋣膦苣肀『貉ソ蜴溘?迚「迯』ꛥ鮚迣芌껥Ɜ鋥誩釣膪跣芃蓣膑ꫣ膄蟨肅賣肁髣芏賣膮ꯣ芒뫣膗ꛣ膩蛣膙诣膮ꛯ벟『逋ス縺咲ソシ縺ョ繝倥Ν繝代?』ꛣ膂껯벖髣膮뷣膍ꧤ붿껧뾼鋨벝诣膛诧떶難膮軥ꖳ꿣肁鿣膍ꛣ芋苣肀鿣膍详ꢩꧣ膌苣芋苣肀女の子の背中には、光の翼がある。胣膊飣膄臥誩釣膦ꛣ肀『逋ス縺咲ソシ縺ョ繝倥Ν繝代?』鋣肁『繝溘き繧ィ繝ォ繝サ繝倥Ν繝代?』鋣肁ꧣ膑ꛢ肦」

 

 

アギラの歌 FIN



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マグマ星人 3月17日の虐殺


(イラスト: 一二三始 様)


これが人間だ。共存などと言いながら、都合が悪くなれば平気で排除する。
─────M1号


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

3000万年前、マグマ星を創りたもうた9人の女神がいた。

 

ひとりは、火山を産み出し。

 

ひとりは、氷河を産み出し。

 

ひとりは、泉を産み出し。

 

ひとりは、それらを維持する勲章を産み出し。

 

ひとりは、風を産み出し。

 

ひとりは、陸地を産み出し。

 

ひとりは、ギラスたちを産み出し。

 

ひとりは、天にオーロラを架け。

 

そしてひとりは、花を咲かせ。

 

マグマ星は命溢れる星となり、女神たちの加護のもと平和を謳歌していた。

シャドウが襲来するまでは。

宇宙より飛来したシャドウの軍勢は、空を闇に閉ざし、怪獣を暴走させ、マグマ星全土を征服した。

それから26万年に渡り、マグマ星は絶望に呑み込まれた闇黒の時代が始まったという…。

 

―――女神たちの行方は、誰も知らない。

 

 

 

時は移って現代。

 

 

美しい。

美術館に絵を飾った厚着の男が、満足げに名画を眺める。

美女をモデルにした肖像画にはじまり、多数取り揃えた裸婦画の数々。大理石製の裸婦彫刻。

世界中から集めたコレクション。この通路だけでも合計22点の美術品。

美しい芸術たちに彩られた美術館は、誰も入れない。

すべての女神たちは、俺が鑑賞するために展示されているからだ。

通路を二分する四脚台に設置されたラジオからは、いつものごとくニュースが流れる。

『続きましてのニュースは、またしても怪盗ドラゴンロードによる犯行です。 日本時間の今日未明、イタリア×△美術館の絵が盗まれました』

今しがた美術館には「授乳するヘイズルーン」という、それはそれは美しい女神の裸婦画を新しく飾った。

今日手に入れたそれも含めて、飾られている絵の数々でも特に美しい裸婦画が5点。

「スカルド」「羽衣を奪われたエルルーン」「イズンと永遠の林檎」「ワインを運ぶレギンレイヴ」

神話を花彩る女神たちを題材にしたそれらだが、絵のモデルになった美女たちの美貌は群を抜いていた。

絶世の美女。

その一言だけでは言い表せない美しさ。

みな目鼻立ち整った端正な顔立ちをしており、きめ細やかな肌は一点のくすみもない。長い睫はエレガント。小顔美人で足もすらりとしなやかな脚線美。何より体の美しさも。

人間離れしている。こんなに美しい絶世の美女たちが人間のはずがない。

例えばヘイズルーン。描かれたピンクの髪の乙女は、色香に満ちた妖艶な仙女。大量の聖蜜が噴き出す栄養満点の魔乳タンクも然ることながら、腰の括れと丸みを帯びた卵型の子宮がくねるラインが奏でる淫靡なエロティシズムは他の追随を許さない。

長い黒髪のスカルドは、裸婦画の美しさと神々しさが最大限に光臨する女体美。両手を広げ、焔の翼を広げ、一糸まとわぬ裸身を恥じらわぬ優雅な自然体は、天界の生態ならでは。華奢な腰の括れに似合わぬ巨大な乳房をぶらさげてこそ上品な裸。

エルルーンはヘイズルーンに似たピンクの髪の乙女。やはりひくところはひいて出るところは出て、メリハリのついた女体美がさも当然の前提になっている。敢えて色気を感じさせない笑みにとどまった美顔が却って趣がある。

イズンを描いた画家は髪の構造色の表現に苦労したろう。サテンのように流れる長い青髪は、宝石のごとく構造色に煌めいている。たわわに実った大きな丸い乳房とセクシーに括れたウエスト、形のいい尻肉も相俟って、存在自体が天然の奇跡だ。

ワインを運ぶレギンレイヴの規格外の女体美を見よ。一糸まとわぬ全裸の乙女は腰まで届く姫カットのストレートな髪。ボン・キュッ・ボンのダイナマイトボディ。圧倒的な爆乳は余裕の3ケタ超えおっぱい。見る者すべてを威圧するダイナマイトバストとその山頂の桜色の大口径クレーターは圧巻の一言。

美しすぎる。全裸の乙女たちが奏でる芸術の五重奏は、地球人が実現可能な美貌の限界を超越していた。

現代になって、絶世の美女たちの正体が明らかになった。

光の女神、ヴァルキュリア。

やはり本物の女神だった。

万物の母ウルトラウーマンミカエラの血をひく美の女神たちはノアの方舟で銀河を渡り、過去何万年以上の昔のより幾度となく地球に降臨し、人間たちにシャドウと戦う力を授けたという。その末裔が、ヴァルキュリア。

ルーン姉妹とイズン、レギンレイヴに至っては現在の湖上家と印南家とソーン家に連なる家系の先祖だということも判明したほどだ。

神話に語られる美しき女神たちは、本当にいたのだ。

数ヶ月前、女神たちが地球を飛び去るまでは…。

美しき戦乙女たちは宇宙警備隊にスカウトされ、M78星雲へと召されてしまった。

後に残ったのは、顔醜い地球人だけ。

あれから美の女神たちの面影を探し求めるように世界中あらゆるところの美術品を盗んできたが、女神ヴァルキュリアに匹敵する美は5点しか見つからなかった。恐らく今日のヘイズルーンが最後の一枚だ。

世界中の美という美を見てきた怪盗ドラゴンロードこと羽二重 謀から言わせてもらう。

地球は、美しくない。

人間レベルで表現できる芸術には、限界があったのだ。

ヴァルキュリアの美貌に画家の画力が追いついていない品々はまだいい。

明らかに地球人をモデルにした絵は、全て不完全だった。地球人は顔立ちも悪く、足も短く、肌も汚く、寸胴で、胸もぺったんこ。絶世の美女には程遠い。

例えば、題材とは裏腹に人間を絵のモデルに選んだ「シグルドの抱擁で目覚めるブリュンヒルデ」はどうだ。

この絵に描かれた、どう見てもヴァルキュリアではない偽者は、顔も胸も壊滅的なまでに平坦で。百歩譲って顔は化粧で誤魔化せても、体は誤魔化せない。ウエストも60cmをオーバーして胴も長く、括れが足りない。括れのなさはセクシーのなさ。

もし女神ブリュンヒルデが本当にいるなら、こんな歪な形状の生命体ではないはずだ。

だから、この星の生物は偽りの美しさだと判明した。

地球人だけじゃない。青い海も、空も、緑の大地も、花さえも。この小さな岩塊に張り付いた何もかもが、紛い物にしか見えない。本物の芸術には遠く及ばない、全てハリボテだった。

宇宙で最も醜い地球という惑星への、強い殺意。

虚飾で塗り固められた偽物の青さを騙る地球への、強い憎悪。

「…やめとこ」

握り拳を緩めた。

こんなおぞましい星、滅ぼす価値もない。

「あーあ…」

溜息をつきながら。

緩めた手を、ブリュンヒルデにのばす。掴めるものなんて何もないのに。

「ヴァルキュリアが、地球に戻ってきてくれたらなぁ…」

絵に手を伸ばすと、……何が起きたのか!?

突然、絵がスパークする。

鮮烈な光の中から実体化した少女を見て、思わず謀は 「なんと美しい…!」と 感嘆した。

美しすぎる。誰だこの美貌は。

美の女神の長く綺麗な金髪が、反重力で空をゆらゆら。膝裏まで長く流れる金髪は、美の女神の証。

透き通る白磁の肌。

しなやかな脚線美。引き締まった形のいい子宮のライン。細くくびれた腰。豊満な胸。

小顔で目鼻立ちくっきりした、端正な顔立ち。精巧な美しさ。

身長167cm。バスト105/ウエスト53/ヒップ94。Nカップ。全てが均整に満ちた完璧なプロポーション。

完璧というほかない。

名画から実体化したような、芸術的な女体美。

地球のヌードモデルより遥かに美しいのは、それだけじゃない。

全宇宙の生命を包むようなNカップの豊穣の神乳、その山頂に立つピンクの長い突起。

すらりと透き通る内腿と形のいい子宮の逆デルタゾーンを裂く、美少女の最も神聖な最密の切れ目さえも。

間違いない、この美貌は。「ヴァルキュリア…!」宇宙で最も美しい女神の名を呼びながら、謀は手を伸ばした。

余談だが、女神が光の中から実体化した時、まず豊穣のNカップ神乳から飛び出したのを忘れちゃいない。2本のピンクの長い突起が最初に首を覗かせ、白い乳肉のいかに大きいかがスローモーションに見えるほど現実世界に顕現し、次いで端正な小顔美人と眩しい金髪と華奢な上半身が乗り出し、最後に芸術的なヒップラインとしなやかな脚線美が光から脱出したのが事の経緯だったと追記しておく。

而して男の手は女神のNカップ神乳を握った。

「あん❤」

全宇宙でも類を見ないほど巨大すぎるNカップの乳肉は、男の掌でも掴みきれず指を柔らかく沈み込ませる。

しかも、宇宙で最も美しい女神は声も美しい。

巨大すぎる長乳の白く柔らかい生乳肉を生で直に揉まれ、男の掌でもつかみきれないほど巨大な豊穣の女神乳を持ち上げられ握られ揉まれながら、芸術的な女体美の乙女は感じた様子も見せつつ。空中を浮遊する一糸まとわぬ裸身がゆっくりと軟着陸する。

結果、重力の負荷が発生して男の手が乳内より一層深くへと沈み込んだ。

豊穣の女神らしくたわわに実った、芸術的な神乳。

「このアンジェリカ・サーヴェリタスを呼んだのはお前か…?」

ルージュから薔薇の香りが高級感ただよう。咲き乱れる薔薇は、女神の美を讃えて歌っているようだ。

「アンジェリカ…? 君は…アンジェちゃんは、ヴァルキュリアなのかい?」

この地球人離れした美貌はまず間違いないと思うが、念のため確認する。

「私はウルトラ戦士徴兵指令の戦乙女。 お前をウルトラマンにするために地球へ戻ってきた」

やはりそうだった。本物のヴァルキュリア。偽者の地球人とは何もかもが桁違いの、本物のブリュンヒルデ。

「やっと会えた…! 宇宙で最も美しい…! って、え?」

美しき女神の光臨をこの目で見た奇跡には感動を禁じ得ないものの、その直後に出てきた単語で耳を疑った。

ウルトラマン…?

いくら宇宙一の絶世の美女とはいえ、そんな意味の分からないものの名を口にする少女を信じていいものか、と一瞬でも身構えてしまった俺の至らなさを恥じたい。

狼狽えるな羽二重謀。今目の前にいるのは、俺が欲してやまなかった光の女神だろう。宇宙最高傑作の美を、芸術を、本物のヴァルキュリアを、手に入れるチャンスだ。

どうやって好感度を上げる?戦乙女に人間の攻略法は通用しないぞ。

さて、疑いの心を吹き飛ばしたのは女王のNカップ神乳の柔らかい感触と栄養満点のボリュームだった。神乳を揉む手を止めぬまま、厚着の男は今なお全裸の少女のNカップ神乳の白い生乳肉を生で直に揉みしだき、双の山頂の長いピンクの突起を指で転がしていたからだ。

それも見越してか、全裸の女神は薔薇のルージュで言葉を紡ぐ。「神話を題材にした絵を集めているなら知っているだろう? 戦乙女、ヴァルキュリアの使命を」

完全無欠の女体美の女神は、芸術的な一糸まとわぬ裸身は、華奢な細腕と精巧に括れた細身を艶やかに伸ばして男の首に抱きついた。Nカップの神乳が、白い生乳肉が、むにゅっ、と当たる。ピンクの長い突起が擦れる。

「お前、随分と高価な化粧品を使っているな? それに女性ホルモンも打ってる」

「それでも、アンジェちゃんの美しさには足元にも及ばなかった…」

俺の取り柄は、この顔だけだ。

地球上に、心の美しい生物なんて誰一人いなかった。命の価値を決めるのは、結局は外見だけだったのだ。だから俺も、顔だけは美しくあろうと努めた。

もっとも。今目の前にいる女神の本物の美貌と女体美に照らされては、作り物の俺なんか霞んで見えるが。

「私がお前を男にしてやる」至近距離で、薔薇の香りが高級感ただよう。「私達ヴァルキュリアは、勇敢な戦士を選び出し、M78星雲へ招く。 お前はヴァルキュリアを守る光の戦士、ウルトラマンとなってシャドウから私達を守る。 もちろん、ただとは言わない。 光の国の宮殿、第3ウルトラタワーで毎夜宮宴が催される。

私達ヴァルキュリアが勇者を歓待しよう。 例えば…そうだな、ある乙女は大スクリーンで歌って踊り豊満な乳を揺らし、ある乙女は豊満な乳から大量の母乳を出して振舞い、ある乙女は分身体を遣わして豊満な乳で人体酒杯となり…」

女神の目鼻立ち整った端正な美顔が、至近距離。長い睫がしなやかな線を彩る。高級な薔薇の香りがワインのような酩酊感をいざなう。

絶世の美女が抱きついてくれたおかげで、宇宙で最も美しい豊穣の女神はNカップの乳肉を押し当てる。柔らかくボリューム満点の乳肉の感触が気持ちいい。神乳の山頂の桜色の突起も長く、擦れる。

「さて、私の職能は何だと思う?」

美の化身が、耳元で囁く。

「ウルトラマンとなった勇者への報酬は戦乙女(ヴァルキュリア)の、このカ・ラ・ダ❤ どんな名画よりも美しい私を、好きなだけ食べていいぞ❤」

「食べるって…まさか」

「セ・ッ・ク・ス❤ だぞ❤」今度は、逆側の耳に甘い吐息を吹きかける絶世の美女。「見てくれ、私の抜群のプロポーション❤ アンジェリカ・サーヴェリタスの美貌を前にして、虜とならぬ男はいない。 創造神(ミカエラ)が創りたまいし芸術の最高傑作といっても過言ではない。 心に愛が灯るまで好きなだけ…抱いていいからな❤」

ひしっ、と抱きしめた。

厚着の男は、全裸の美少女の完璧な女体美を抱き寄せていた。

もう俺が誰だったかなんてどうでもいい。俺はアンジェちゃんを抱く!女神の極上の女体美を美術館に飾る!アンジェちゃんの美貌は宇宙最高傑作の美術品だ!

美の女神を紅く花彩る薔薇のルージュと、唇を重ねていた。

白いすべすべのヒップラインを掴んだ。撫でまわした。

「アンジェちゃん、手を背中にして立ってみて。 前、全部見せて」

改めて、美の女神のすらりと均整に満ちた女体曲線を描く細身を見る。さすが神の最高傑作の芸術と自評するだけあって、その美は本物だ。

「全てが美しいよ。 目鼻立ち整った端正な小顔も、長い睫も、小さな紅咲くルージュも、陽の光のように射しこみ豊穣の穂のように流れる金髪も、華奢な腕と肩も、キュッと括れたセクシーなウエストも、大きくて丸みのある白い尻肉も、すらりと長い脚線美も。 全身が完璧な美だよ」

「ふふ…❤️ 私は美しい。 どんなに可憐に咲く花も、どんなに輝く宝石も、主役の座を譲らざるを得ないほど。 あらゆる美を従える女王、それが私❤」

芸術的な女神の裸身は、ブリュンヒルデの絵よりも耽美的に腰をくねらせる。モドキとはワケが違う、本物のブリュンヒルデだ。

「それに、ここも」

神々しいNカップの神乳を掴む。山頂の鮮やかなピンクの突起を指で擦る。

「マグマグするだろう? ウルトラ戦士を篭絡するのに役立ったからな… 豊満な胸は」

ピンと尖った乳房の突起は、ただでさえ白く透き通る素肌でも特に白い乳肉の山頂にあって苺ミルクのようなピンク色。こんな鮮やかなピンクを見たことがない。色も形も良い、女王然とした突起。

「この聖域も」

形のいい鼠蹊部とすべすべの内腿、そのデルタゾーンの中空に咲く少女の裂目を至近距離で見る。

「いくらでも見るがいい。 戦乙女の美しいカラダに不完全なパーツなど無い」

絶世の美女の形のいい腿がどんなポーズをとっても、無駄毛ひとつない少女のすべすべのスリットラインは邪魔にならず。芸術の黄金比は妖精然として。何もない中空に咲く花が赤く裂けて綺麗に割れているからこそ、過不足の無い、女体美が成し遂げうる最大限の芸術。

女王の神乳と、妖精の聖裂。

完璧なる女体美。

「美を司る私を抱く栄誉を授けたお前を、何と呼べばいい?」

「俺は羽二重 謀。 本当に…君のような絶世の美女を抱いていいんだね?」

「謀ぁ❤ 来てぇ❤」

全裸の美少女が、完璧なる女体美が、両手を背中に回り込ませたまま背中をそらす。Nカップの神乳が揺れて、たぱん、とバウンドする。女王の豊満な下乳と妖精の華奢なアンダーバスト、肉と肉が打ち付ける音が、たぱん、とバウンドする。

Nカップの神乳。全宇宙を美の虜にする、豊穣神の芸術。

泥棒の両手が、妖精女王の神乳を下乳から持ち上げた。

いつ揉んでも、柔らかい。それにボリューム満点。

大の男の両手でも掴みきれず溢れるNカップの巨大すぎる神乳。持ち上げるたび手の形に変形して、リフティングするたびパン生地のように飛び跳ね、たぱん、とボリューム満点の乳肉がバウンドする。

Nカップの長い山頂を這い、苺ミルクのようなピンクの円周をなぞる。山頂の長い突起を昇降する。側面をこする。頂角をこねる。

突起が、ビンビンを硬く興奮して標高を上げる。

「…❤」美しき女王の甘い吐息も色香を増していく。「もっと好きにしていいからな…❤」

薔薇の女神を、通路中央のソファに運ぶ。

すべすべの白い両足を開く。

パカッ、と口を開ける、宇宙で最も美しい真紅の薔薇の花びら。

絶景の花園は、既に甘い蜜が涎を垂らしていた。

開いた花弁の中で、赤い雌蕊がひくつく。

この奥に、新たな美の女神を出産する命の聖域があるのか。

綺麗だ。地球上のどんな花よりも美しい。

選ばれし戦士しか踏み入ること許されないという女神の聖界の中へ。指を入れた。

「ぁ…❤」

雌蕊の内壁の襞が、きゅっと締め付けてくれる。

一糸まとわぬ全裸の少女が完璧なる芸術の女体美を捩っただけで、女王然とした豊穣神のNカップ神乳が飛び跳ねるように揺れる。白い生乳肉が柔らかく展延しながら、回転してバウンドする。山頂のピンクの突起が天を衝く。

薔薇の女神の完璧なる美貌は、快楽に歪んでなお美しい。

可愛いよアンジェちゃん。もっとアンジェちゃんの子宮の奥を気持ちよくするからね。

男の指は、乙女の雌蕊の中を奥へ奥へと侵入する。

少女の産道は蜜を分泌してぬるぬると男の指を滑り込ませる。襞の一筋一筋まで食人花のように食いついて離さない。お礼に、男も妖精の肉襞を擦る。

「はぁ…❤ はぁ…❤」

可愛いアンジェちゃんも甘い吐息を吐いて気持ちよさそうだ。

最奥まで侵入すると、熱いふかふかの肉布団にぶつかった。頸管だ。

ヴァルハラへのビフレストをつついた瞬間、男の指を一際切なげにきゅうううっと締め付ける。

そんな少女が可愛くて、男は蜜壷の中で掻き回す。

くちゅくちゅくちゅ

妖精の秘裂から、少女の甘い蜜が飛び散る。

少女の聖域を出入りするごとに、全裸の少女は女神のごとき芸術的な女体美を気持ち良さそうに捩る。喘ぎ声も「あああん❤️」と甲高く高潮する。

「イック…❤️❤️」

プチュッ、プチュッ。

指を一時停止しても、愛液の飛沫が止まらない。少女の聖域は一際きつく指に食らい付き、妖精の完璧な女体美はセクシーに仰け反る。女王のNカップ神乳が揺れ左右別回りに一回転する。双の山頂の2本のピンクの突起が天を衝く。

指を引き抜こうにも食い付いて離れない。溢れ出す蜜が潤滑油となって、ようやく引き抜くことに成功した。引き抜く瞬間の襞への摩擦熱だけでも、絶世の美女は何度も絶頂に達した。

少女の最も綺麗な紅薔薇の雌蕊は、薔薇の香りを漂わせながらも襞襞が蠢き、産道の奥の頸管がパクパク開閉する。

美の女神を抱くには、相応の資格を要する。この美しい薔薇の花は、歴代の英雄王たちが脈々と入室しては摩擦し、押し広げてきた進化の花だ。より強い勇者たちを大量に受粉しては、真紅の花は美しさを増して咲く。

選ばれし勇者たちに受け継がれてきた経験人数。英雄に値する強靭な男たちに使い込まれた子宮。

数多の勇者を魅了した美貌の証。歴戦の勲章だろ?

妖精女王はソファの背もたれを両手で掴み、形のいい白いヒップラインをこちらに向ける。

「謀ぁ❤ 男になってぇ❤」

白く綺麗な丸みを帯びた繁殖的なヒップラインがふりふり求愛する。豊穣の女神の産道は、涎のように甘い蜜が糸を引いて床に滴り落ちる。

アンジェちゃんに誘われた。

お言葉に甘えまして。

丸みのある形のいい尻肉を、ガシッと掴んだ。

指の形に変形して指を沈み込ませる尻肉は、白く張りがあって、形もいい。美尻を、こねくり回す。すべすべだ。

臀部の真上に、骨盤の裏側に、繁殖力の高い子宮が安置されている証。俺には見える。しなやかな曲線美がセクシーな細い脊椎を隔てた死角で、安産型の子宮がシッチャネッチャと舌鼓を打っているのを。

もう我慢できない!アンジェちゃんを孕ませる!

涎を垂らす食いしんぼうの赤い食人花を、ズドン!と刺し貫いた。

「あああん❤️」

天使の芸術的な女体美が、快楽で仰け反る。長い金髪が流れる。Nカップの神乳が飛び跳ねる。

女神の聖界の中は「あっあー❤️ あー❤️」と甲高い声で歓喜しながら肉襞のリング一輪一輪が蠢いて締め付けてくる。

このうねり方は、男を気持ちよくほぐすノウハウを知っている。

選ばれし英雄たちを至高の快楽で喜ばせる、最高級の肉襞。

あまりに気持ち良くて、謀は豊穣神の内壁を激しく出し入れした。襞輪を幾重にも串刺してて引き抜き、擦った。

侵入され塞がった紅薔薇の雌蕊から蜜が飛び散る。全裸の天使は、「あ❤️あ❤️あ❤️」と泣きながら芸術的な女体美が歓喜して飛び跳ねる。華奢な括れた背中が仰け反るたび、薔薇の女王がNカップ神乳を振り子のように長く揺らす。ただでさえボリューム満点のNカップの乳肉が体感的にZカップにも伸びて栄養満点に見える加算点は、遠心力か、重力か。

綺麗な背中だ。肩幅が狭い、折れてしまいそうなほどほっそりした天使の少女体なのに。それさえも死角とながず背後からも女王のNカップ神乳はボリュームが見えるほど乳肉がはみ出している。ただでさえ白い女体美でも特に白い乳肉。

ウエストはこんなにキュッと括れたしなやかな細身なのに、形のいい丸いヒップラインはこんなにも繁殖力が高い。

全てが精巧。

完璧な美しさ。

「気持ちいいだろう❤ 戦乙女(ヴァルキュリア)の子宮を味わう勇者の特権…❤ ヴァルハラに行ったら、毎晩この快楽が味わえるからな❤」

あん❤ああん❤と喘ぎながら、絶世の美女はこちらを振り返りながら性的快楽に蕩けた美顔を見せる。

パン!パン!パン!肉と肉のぶつかり合う音が美術館にこだまする。

「ああっ❤️ ああ❤️ 謀が膨らんでるぅ❤️ 押し広げてるぅ❤️ 出すのか❤️ あっあっ❤️ 出すのか❤️」

女神の産道で暴れるスピードが加速する。

ブルンブルン振り子状に前後に揺れるNカップ神乳の白い生乳肉を、男の両手は鷲掴んでいた。

掴んで、握って、揉む。先端のピンクの突起を指で擦る。

「あっは❤️ あぁは❤️ 気持ちいい❤️」

双の山頂の突起は、既にビンビン興奮して硬く充血している。

薔薇の女王のボリューム満点のNカップ乳肉に生で直に快楽を握りつけるたび、少女の胎内は締め付けが強くなる。

女神の豊穣の乳肉を根本から掴んで握ると、Nカップの白い生乳肉は男の握力で柔らかく変形し、体積が外側へ押し出されて風船のように膨らむ。モミモミ。搾乳するように揉みしだかれる巨乳。

パンパンパンパンパン

背後から子宮を激しく突き上げる。

「あああん❤️ 私もイク❤️ イク❤️ イク❤️」

天使の胎内で、男が膨脹する。内壁を押し広げる。肉襞を一輪一輪摩擦する。奥の柔らかいワームホールをノックする。

「アンジェの中で出して❤️ たくさん出して❤️ 赤ちゃんちょうだい❤️❤️」

赤ちゃん、赤ちゃん、と甲高くねだりながら、薔薇の女神はもうすぐ最高潮だ。

謀も。

パパパパパパパン

背後から紅薔薇を打ち付ける速度が小刻みに加速する。内部での膨張も臨界点だ。

「はぁあああんイック❤️イック❤️イック❤️ ああああ❤️」

悲鳴のように歓喜する薔薇の女神。その完璧な女体美が可愛すぎて。最高級の名器の中が気持ちよすぎて。

少女の繁殖聖界の最奥の脛管を勢いよく貫通して女王の玉座に侵入した瞬間、男は勢いよく爆発して大量に吐き出した。

「あああああ熱つぅい❤️❤️❤️」

双叉に枝分かれた卵管に、男の本能を流し込む。火傷するほど熱い間欠泉に内壁を焼かれた子宮がきゅううううううっと締め付け、さらに遺伝子を吸い取ろうと吸い付く。うねる。包む。搾り取る。

選ばれし英雄のみが入園を許された、最高級の薔薇園。

「イクぅ❤️❤️❤️ イクイクぅ❤️❤️❤️ 謀の英雄遺伝子流し込まれながらイクぅ❤️❤️❤️」

白く均整に満ちた完璧なる女体美が、がくがく痙攣する。

白く形のいい丸い尻肉が、ビクンビクン感電する。

女王のNカップの神乳が強く握られたことで、双乳の先端の長い突起がビィィンビィィンと尖る。双の山頂は、今にも母乳が噴き出しそうなほどだ。

全裸の少女が、全身で男を吸い上げる。

「お腹の中ぁ❤️ 謀のがいっぱい出てる❤️ あはっ❤️❤️ 気持ちいい❤️❤️❤️ ぃやん❤️❤️」

子宮を満たされ快楽と多幸感で喚起する美の女神。卵管に流し込まれるたび、「イクイク❤️❤️」と甲高い声で何度も絶頂に達しながら子宮はゴクゴク飲む。

ビクビク収縮する花弁がしゃぶるように吸い付いて離さず、子宮の中にコポコポと溜まっていく。

赤ちゃんの部屋の中に溜まった熱いおたまじゃくしを味わうように、子宮内膜がキュンキュン咀嚼する。芸術的な腰のラインが上下する。

「まだ出てるぅ❤️❤️❤️」

何リットル注ぎ込んだだろう。

無量とも爆発するほど戦乙女の名器は搾り取って、一滴残らず吸い上げて子宮の中で飲み干した。

欲望を出し切った男が紅薔薇から引き抜くと。

その摩擦でおまけの絶頂に達した後、最高傑作の裸婦画は腰を抜かして絨毯にへたり込んだ。

「あぁー❤️ はぁー❤️」

肩で息をしながら、快楽の余韻に震える金髪の天使。

背後からでも白い乳肉のボリューム満点が見えるほど大きいNカップの神乳。

肩で息をしてNカップ神乳を揺らしながらも。「あっあ❤️ あっあ❤️」とイキっぱなしのまま何度も絶頂に達する後ろ姿は、泣いているようにも見えた。

背中さえも名画たりうる、完璧な女体美。

拡がる長い金髪。

綺麗な金髪。

線の細い、白くほっそり括れた綺麗な背中。

細い腰でありながらも、ヒップラインの曲線美は。白いすべすべの美尻は、形のいい綺麗な丸みを旋る、大きな尻肉。

張りのある芸術的な美尻が。ウエストの細く括れた背中と綺麗な女体芸術曲線を奏でる。

尾骨を境に、アリエスの星座記号のように旋回した尻肉の内線さえも。完璧なまでに美しい。

しなやかな脚線美を絨毯にへたり込ませたことで、絨毯との接面で体積が後方へと突き出した尻肉のボリューム。

飾らずとも輝く美貌。360度どの角度から見ても、最高傑作の名画。

美しき芸術。

完璧な美しさ。

(可愛いいいいいいいいいいいいいいいいい)

全裸の天使が後ろ姿さえも芸術的な裸婦画だから、欲情する前に胸を射抜かれた。

もっと可愛い天使が見たい。もっと美しい女神を味わいたい。

戦乙女の輝きを浴びたくて、謀は薔薇の女王を抱き起して次は対面でソファに展示した。

しなやかな白い腿を開くと、花開いた紅の薔薇は今なお餌を食い足りない食人花のようにパクパク開閉している。

「もっとちょうらぁい❤️ アンジェの胎内(ナカ)で勇者になってぇ❤️」

全裸の少女がNカップの神乳の白い生乳肉を揺らしながら、双の山頂のピンクの突起をビンビン高く勃起させながら、小顔の美顔は目をとろませて妊娠と出産の幸せを欲している。

ここで無風流な招かれざる客さえ来なければ、次は対面座位でヴァルキュリアの最高級の子宮を貫いていたのに。

突然、警報機が騒ぎ出す。

興が冷めた薔薇の女王は「誰だ神聖な儀式の途中で」と美貌を不機嫌に曇らせてしまった。

通路中央のホログラフ発生装置が、外の様子を写し出す。

謀の館から15km先、何かを発見した。

体長60メートル。背中に翼のはえた四足歩行のユニコーンのような姿のシャドウビーストが、猛スピードで接近中ではないか。

一角シャドウ ロンエル

「芸術を見る目がない俗物め。 私の美貌に見惚れて死ぬがいい」全裸の少女がソファから腰を上げる。日射しのように輝く天使の金髪が流れる。女王のN神乳が揺れる。

少女の股を真っ二つに割り裂く、先程まで謀を吸い取っていたピンクの秘裂。改めて至近距離で目の保養になった少女のスリットラインのあまりの美しさに見惚れていたら、その美貌の女神から「謀、エレベーターは?」と促された。

我に返った謀は、「こっちのほうが早い」とリモコンのスイッチを入れる。

ブリュンヒルデの絵が額縁ごと裏返り、中の隠し通路はスライダーになっていた。

もともとはグライダーの離陸を目的として作ったギミックだが。美を司る薔薇の女王は「美しい私に相応しい花道を用意してくれてありがとう」と気に入ったようだ。

全裸の少女は悠然と歩く。長い金髪をきらめかせ、Nカップの神乳を揺らし、双乳の山頂の突起も少女の繁殖の聖裂も隠すことなく女体美は自然体の芸術で。

腰まで届く長い金髪をゆらめかせながらスライダーへと歩き去る絶世の美女の一矢まとわぬ裸身は、その後ろ姿は、歩く姿も芸術的。細い背中の括れも、白くすべすべ形のいい美尻も、モデル歩きが神々しいほど似合って美しい。

一糸まとわぬ裸の豊穣神がスライダーを滑ると、吹き抜けの塔に風力発生装置が回っていた。

「今日の私は機嫌がいい。 特別に温情を授けよう」床下からの風圧で、絶世の美女の長い長い金髪が舞い上がる。一糸まとわぬ全裸の女神の極上の女体美が、完璧なる女体芸術が、屋上へと上昇する。誇れぬパーツなど何一つない、女体の芸術。完璧なる女体美が風を浴びるために白くしなやかな四肢を大の字にひろげた結果。幾多の英雄たちを吸い取ってきた少女の聖裂が、大股開きで咲く。「名誉ある最期を授けよう。 美しい私を彩るマニキュアとなれ」

ユニコーンの角は何の根絶を願うのか。距離5km、理性を失った眼で謀の屋敷との距離を縮めるシャドウだが。

屋敷屋上の薔薇庭園。中央の裸婦彫刻がスライドし、開いたジェネレータから絶世の美女が飛び上がる。

夕陽が赤く照らす空に、美の女神の一糸まとわぬ裸身が眩しい。

薔薇の花弁が舞い上がり、女王の美しさを祝福する。

「総統…! 美の力、お借りします!」美の女神らしいNカップの白い乳肉の谷間から取り出した端末が、眩しく輝く。「ソウルライド! マグマ星人!」

天上を、伝説の超人ウルトラウーマンミカエラの幻が覆う。

超人の掌に乗せるは、ビキニアーマーを貼り付けた女剣士の像。

女剣士は真紅の光につつまれながら分裂し、パーツ一片一片が意志を持って飛びながら天使の裸身に付着する。

芸術的な女体美が、白い玉肌が、銀と黒のビキニアーマーを貼り付ける。

形のいい豊満なヒップライン。細く括れた腰。豊穣神らしくたわわに実った巨大すぎる双果実が、柔らかくも大迫力で揺れる。

長い金髪が夕陽に照らされて太陽のように輝く。

腕には、惑星記号の勲章。

美を司る豊穣の女神は、右手に光刃煌めく剣を携えた真紅の戦乙女(ヴァルキュリア)だった。

サーベル暴君 マグマ星人

全ての美を従える薔薇の女王。

 

(イラスト: らすP 様)

 

天使の美しさに照らされては、太陽も幾千の薔薇もヒロインの座を譲らざるを得ない。

薔薇園から飛び上がる豊穣の女神。

シャドウと謀の屋敷との距離は、いまや1km強にまで縮まっていた。

悪魔は、頭のモノホーンをロケットにして発射する。

茜空を舞う光の天使は、いともたやすく角を切断した。

続いてユニコーンは鼻先から重火器を乱射する。

これまた全弾切り落とした。

美を司る天使は、口に咥えていた薔薇を左手に摘む。

サーベルの刀身に薔薇の花粉を吹き掛けた後。

時計のように薔薇を反転すると、それはフックに転身していた。

ユニコーンの巨体は新たな角を生やして、小さな薔薇の妖精めがけて突進してきた。

右手にサーベル、左手にフックを装備した豊穣の女神は、しなやかな両足のヒールから反重力エネルギーを発動する。サーベルを前方に突き出し、体をきりもみ状に回転させながら自らミサイルとなって突進する。

長い金髪が遠心力で旋回する。

どんなポーズをとっても女体美は女体美だ。生物として過不足なき完璧な女体芸術はその体をどんな武器に転用しても美しい。

悪魔は翼からも火炎放射を吐くが、天使はフックを伸ばして吹き飛ばしてしまう。

美を司る豊穣の女神は、Nカップの神乳も遠心力でのびる。

小さな妖精はユニコーンの巨体を貫き。サーベルとフックがユニコーンをバラバラの肉片に解体した。

飛び散る真っ赤なミートソース。

妖精女王の綺麗な女体と金髪が、返り血の雨に降られる。

もちろん、これで終わりではない。

「やはりそういうパターンか」

バラバラになった悪魔の残骸が、再生して元の形に戻っていく。

天馬の巨体にモノホーンがセットされ、元のユニコーンの姿に戻ってしまった。

様子を見に館から出た謀も「再生シャドウか…」と悪魔の巨体を見上げる。

アンジェリカは「以前にもこのテの再生能力を持つシャドウは報告された」と空から着地した。長い金髪がふわりと流れる。天使らしいNカップの豊穣の神乳がバウンドする。「対策は打っている」

突然、シャドウの動きが止まった。見えない何かに捕縛されたかのように固まって動かなくなった。

「サーベルとフックに細工を施した。 品種改良したばかりの毒薔薇でね…」美を司る薔薇の女王が紅のルージュを紡ぐ。「美しい私に斬られた男は、その動きが1/2鈍化する。二度斬れば1/4減、三度斬れば1/8減…最期はウルトラマンキングですら解けないほど重い枷となる」

長い金髪をファサッ、と靡かせる豊穣の女主人。「ゆえにマグマチックチェーン」

全身を見えない茨の枷に縛られてもがき苦しむ醜い悪魔ヘ照準を合わせ、美の天使はサーベルにエネルギーをチャージする。

「そんなに嬉しいか、私を彩るマニキュアになれて。 最期に言うことがあるだろう?『ありがとうございますアンジェリカ様』ってな」

アンジェリカのサーベル光線がユニコーンを灰塵を帰していただろう。余計な横槍さえ入らなければ…。

トドメを刺そうとサーベルにエネルギーをチャージするも、背後から殺気を感じた。

「どけ、邪魔だ」

飛膜を拡げて上空へ退避する天使。

コンマ01秒前まで女神がいた地上を何者かの光線が通過し、シャドウに命中。爆散した。

アンジェリカが着地すると、地上にはUキラーザウルスの怪獣娘がいた。

「どの面下げて帰ってきたマグマ星人」

いきなりご挨拶な物言いは、謀を激高させた。「てめえ! アンジェちゃんに何て口効きやがる!」とUキラーザウルスに掴みかかるが、すぐ跳ね除けられる。

空間が割れ、次元ゲートが開く。「諦めてなかったのか」と吐き捨てると、Uキラーザウルスは次元の彼方に消えてしまった。

夕陽が静寂を照らす。

「何なんだアイツ。 あんなの忘れて帰ろうぜ」とアンジェリカの長い金髪を撫でる謀。

だが。

反応が無い。

「アンジェちゃん?」

不審に思い美女の小顔を覗き込むと。

「嫌あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 

GIRLS日本支部ビル内部の空間に断層が割れる。

「Uキラー? 早かったですね?」

挨拶したピグモンの他、司令部ロビーにはアギラ、ミクラス、ザンドリアス、レッドキングが待っていた。

「マグマ星人が、生きていた」

Uキラーザウルスの顔が険しい。

「Uキラー…」「お前…」

ピグモンとレッドキングの顔が沈む。

ザンドリアスが3人の顔を交互に見る。「え? え? どうしたんスか?」

まともに口を利くこともなく、Uキラーザウルスは「これ以上話すことはない。帰る」と異次元に引きこもってしまった。

「マグマさんって、ボク達が来る以前にGIRLSにいたっていう人ですよね?」「メッチャ強かったって」

問い詰めるアギラとミクラスが知っている限りの話だと、マグマ星人はアース神族の女神、アンジェリカ・サーヴェリタス。

薔薇の女王がGIRLSに入ったと知った途端、Uキラーザウルスは突然脱退。しばらくは歯科医で生計を立てていた。

Uキラーザウルス不在の間、アンジェリカは金山キンヤという大男と共に、ノーバとキリエロイドのシャドウ狩りを指揮していた。

まだゼットンが戦乙女の力も覚醒していなかった当時、彼女たちは枯れた大地に咲く薔薇のオアシスだった。世界中で暴れていた30メートル級以上の大型シャドウの9割を殲滅し、殆どの勢力を撤退させた。取り残された小型シャドウは、ひっそりと身を隠す生活を余儀なくされたほどだ。

大型シャドウを操っていたダークヨツンを富士山麓で自殺に追い込んだのを最後に、ウルトラマンユミルに変身した金山を連れてアンジェリカはM78星雲へと還った。

光の天使と入れ違いで、UキラーザウルスがGIRLSに復帰した。

そこまでアンジェリカを嫌う理由を、本人の口から聞いたことは無い。

あくまで推測だが、Uキラーザウルスは過去に何かがあった。古参のピグモンとレッドキングは知っているが、秘密にしたい理由があった。

「先輩…?」

ミクラスに疑いの目を向けられ、レッドキングは「なあピグモン、そろそろ話したほうがいいんじゃねえか?」とピグモンに振る。「釧路湿原で起きた、あの事件のことを」

 

 

寝室に運んだアンジェちゃんは、動揺していた。

「し゛に゛た゛く゛な゛い゛ し゛に゛た゛く゛な゛い゛ や゛め゛て゛ぇ゛ こ゛ろ゛さ゛な゛い゛で゛ し゛に゛た゛く゛な゛い゛ し゛に゛た゛く゛な゛い゛ お゛ね゛が゛い゛ も゛う゛や゛め゛て゛ し゛ぬ゛の゛い゛や゛ し゛に゛た゛く゛な゛い゛ こ゛ろ゛さ゛な゛い゛で゛ い゛の゛ち゛だ゛け゛は゛ し゛に゛た゛く゛な゛い゛ い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

今、寝室は明かりを全てつけている。アンジェちゃんが、「暗くて狭いの怖い」と泣くから。あの触手のような怪獣娘は一体何者だったのだ。よほど命を脅かされたトラウマがなければ、こんなフラッシュバック症状は発症しないはずだ。寝室が天蓋つきのベッドを取り付けられるほど広いのは幸いだった。

「大丈夫ッ…! 大丈夫だッ…! アンジェちゃんは俺が守るッ…! 今この場に天使の命を狙う悪魔なんか誰一人いないッ…!」

しにたくない、ころさないで、と咽び泣く全裸の少女を、男は優しく抱き留める。その綺麗な金髪を撫でる。

「思い出すのが苦しいなら何も言わなくていいからさ……。 でも、気持ちを整理したくなったら、俺は絶世の美女の言うことなら全肯定する」

時々、その形のいい、白いすべすべの尻を撫でたり、掴みながら。

肩で息をしながら、「私は美しい私は美しい私は美しい」と、うわ言のように息を切らす天使。

男は天使の細身を抱きしめ、天使の金髪と尻を撫でる。「ああ、美しい……宇宙の誰よりも。」

「私はこんなに美しいのに、醜い人間共がのうのうと生きているのが許せないんだ…」「ああ……アンジェちゃんの美しさは誰よりも価値ある美しさだ……」

それから謀は、アンジェリカを何度も抱いた。

豊満な乳房を何度も愛撫して、形のいいヒップラインを何度もなぞり、長い金髪を何度も梳り、子宮の中に何度も注ぎ込んだ。

美貌の天使がようやく落ち着きを取り戻したのは、日が暮れた頃だった。

 

 

GIRLS基地の暗いプロジェクター室に、怪獣娘たちが召集される。

「ウインちゃんは?」見回して見つからない友人の名前を口にすると、レッドキングは「あいつは多分知ってるさ、M78星雲から大抵の情報は受信してるだろ」と拳を握りしめる。「オレのせいだ…… あのとき選択を間違えなければ……」

「レッドキングは悪くありません」プロジェクターの前に立ったピグモンが、口を開く。「エイジ12033年。 GIRLSが発足して間もない頃でした」

アギラ、ザンドリアス、レッドキング、ミクラス、ジャッパのいる会議室で、ピグモンは語る。

「3月3日。 Uキラーザウルスが北海道は釧路湿原でシャドウと交戦中、次元の裂け目を発見しました。 この時は直接入ることはできませんでしたが。 タキタキの分析の結果、とんでもない事実が判明しました。」

レッドキングが俯く。怪獣娘たちが固唾を飲む。

ピグモンの口から明かされた事実は。

「異次元空間に、9人の怪獣娘が封印されていたんです……」

 

 

「少し落ち着いた……?」

まだ「助けて……死にたくない……」と泣くアンジェリカの背中を、撫でる。

謀と接続したまま、目から大粒の涙を流しながらも。天使は、過呼吸を何とか収めていく。謀が懸命に宥めた甲斐あって。

「3000万年前……」女神が、ついに胸の内を打ち明ける。「私は……マグマ星を産み出した豊穣の女神だった。 サーヴェリタスという名は、マグマ星に原生した花で… 地球でいう薔薇に似た赤い花だった」

「どうりでと思ったけど、そんなに高位の女神様だったんだね…」

「私の他に、マグマ星の天地創世に関わった女神が9人いた。 私たち9人は、ウルトラウーマンミカエラの幼年期放射だった……」

火山の女神 マグマ総統

氷河の女神 マグマ星人二代目

泉の女神 マグマ星人トライド

勲章の女神 マグマ星人ヴァイザー

風の女神 マグマ星人フッグ

陸地の女神 マグママスター・マグナ

ギラスの女神 デスギラス

オーロラの女神 マグマ星人BR

そして、私。花の女神 マグマ星人サーヴェリタス

「平和に暮らしていたある時、マグマ星が闇に覆われた。 私達が創造したマグマ星は、滅びてしまった……」

謀の腕の中で、天使ががくがくと怯える。「シャドウに囚われた私達に待っていたのは…… 人体実験だった…」

 

 

GIRLS 基地のプロジェクタールームで、ピグモンは語る。

「星人が文明を興す以前、かつてマグマ星にはシャドウ文明の遺構がありました。 シャドウの科学者たちは、怪獣娘の兵器化の研究をしていたようです。 当時のシャドウがこの研究を成功させることなく、研究の被験者にされたマグマ星の少女たちが次元の狭間に封印されました。 ほどなくしてシャドウ文明は他の次元のシャドウとの抗争で消滅し、投棄された少女たちの行方を知る者は誰もいません。 それから何十万年に渡り、ずっと次元の狭間に閉じ込められたまま忘れ去られていたようです。 ザウルスが次元の裂け目を発見するまでは…」

 

 

「私達は… 何万年という永い時を、異次元の鳥籠に投棄され、忘れ去られた…」

「……助けられたよね?」

囚われの姫を助けるのは勇者の使命だ。

が、美しきブリュンヒルデは首を横に振った。

「…………オーディンと一時的に一体化した私を除いて… ……っ…… 全員……っ ……」

途中から嗚咽交じりの裏返った声だ。

男は女神を抱きしめた。「……言わなくていいよ」

 

 

「GIRLS本部は協議の結果、少女たちを危険と判断しました。 長年の人体実験による精神の崩壊に加え、27万年も次元の狭間に閉じ込められた結果。復讐以外の感情を忘れていると。 封印が解かれると、無差別に殺戮を行って多数の犠牲者が出るだろうと。 そうなる前に、9人の少女たちを皆殺しにするしかないと。」

「「そんな…!」」

ミクラスとザンドリアスが同時に叫ぶ。アギラだって叫びたいほど恐ろしい事実だ。

「2週間後の3月17日……。それは決行されました……。」

「殺したの……?」

ピグモンが押し黙る。その沈黙は遥かに雄弁だった。

沈黙を破ったのは、ザンドリアスだった。「……全員……? 殺したの……?」

「……後で本人から聞きましたけど……マグマグだけは一時的にウルトラマンオーディンと一体化して……生還しました……」

 

 

(イラスト: RS 様)

 

 

「うわあああああああああああああん あああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

全裸の少女は、男と接続したまま男に抱きついて大声で泣く。

「あの男は… 私のこの美貌を見たのに、恩を仇で返した…! 助けるべき光の天使を助けてくれなかった…! 美しいものを守る義務を裏切った…! 美しい私に、あまつさえ偽りの英雄の野蛮な屁理屈を押し付けた…! 私の美貌で、宇宙を幸せにするはずだったのに…!」

謀は、大量の赤ちゃんの素が充満して泳いでいる子宮の最奥から引き抜くことなく。子宮の奥までひとつになったまま、ひたすらアンジェリカを抱きしめ。長く美しい金髪を撫でながら「君は美しい、アンジェちゃんは美しいよ」と温める。

「美しかった姉達は……みんなあの男に惨殺された…… 当時はヒカリの命増殖技術が未発見で……使用許可が下りなかったんだ……」

(女の子が泣いてるのに…俺は何もできないのか…!)

守れなかったのだ。宇宙で最も美しい、マグマ星の天使たちを。

永遠に失われたのだ。宇宙で最も美しい、マグマ星の天使たちが。

(愛する人一人守れなくて、何がウルトラマンだ…!)

謀は、ただただ全裸の少女を抱きしめた。彼自身も、涙を流しながら。

 

 

レッドキングが言葉を紡ぐ。「Uキラーザウルスが復帰するや、かつてマグマの同僚だったノーバが今度は辞表を提出した。 人間は守る価値が無い、って言ってな。 オレがピグモンの立場だったとしても、きっと何も言い返せなかった…」

「公に明るみに出たら…… 世論の反発は免れませんよね…?」か細い声を紡ぐジャッパ。「教会にバレたら……? 資金援助も打ち切られちゃいます……。 そうですよね? ピグモン先輩? レッドキング先輩?」

二人の年長者が、押し黙る。

当時小学生だったガッツ星人がGIRLSに小児特待で転入したのが、その年の3月25日だったとアギラは聞き及んでいる。

3月17日の虐殺。教会の目が及ぶ前に事態を隠蔽した、と疑ってもおかしくないタイミングだ。

妹同然の天使の笑顔を、アギラは思い出す。(ガッツ……ボクは、どうしたらいい……?)

 

 

「アンジェちゃん…… 赤ちゃんいっぱい作ろう」謀は、天使の全身にくまなくキスしていた。唇にも、細い首にも、Nカップの白い乳肉にも、双山頂の突起にも。

そして、子宮があるであろう位置にも。双の卵巣にも。少女の、聖裂にもキスした。「新しい戦乙女たくさん産もう。 アンジェちゃんの美貌を受け継いだ女神を産んで殖やして、宇宙をミカエラの幼年期放射で満たそう」

豊満なNカップの乳肉を根本から搾りながら先端の突起を飲むように吸いながら引っ張る。

「美味しいよ、アンジェちゃん。 この爆乳は、新しいマグマ星人の命に栄養満点の母乳を授乳するためにあるんだね」

もう片方の乳肉も、同じように搾乳する。

それからは正常位で、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。美の女神を最も奥まで突き上げながら、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。白い細身を抱きしめ、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。可愛い唇に何度もキスしながら、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。「愛してるよアンジェちゃん、美しいよ、絶世の美女だよ」と何度も愛の言葉を囁きながら、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。Nカップの乳房を揉みながら、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。すべすべのお尻を撫でながら、美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。

愛しい天使を抱きしめ、長い金髪を優しく梳りながら。美しき戦乙女の子宮の中に注ぎ込み続けた。

もしかしたら地球には、まだ見ぬ美しい景観があるのかもしれない。百歩譲って、まだ守る価値のある命も少数いると仮定しよう。

だがそれは、アンジェちゃんよりも美しいのか?

宇宙で最も美しいアンジェリカの美貌を、間近で鑑賞できる。最高傑作の名画。

愛している。全宇宙の誰よりも。

 

 

アンジェちゃんを抱いたことで、過去に戦乙女とセックスした英雄たちの記憶が流れ込んで来る。

「ああん❤️ ああん❤️」

美を司る豊穣の女神は筋肉質の大男に子宮を刺し貫かれ、内壁をギチギチ押し広げられる。

「激し…❤️ あ❤️ あ❤️ 金山キャップがお腹の奥まで❤️ 太くてたくましい❤️」

大男に産道を押し広げられる快感で、絶世の美女の完璧なる女体美が芸術的に仰け反る。Nカップの豊満な乳肉が、揺れる。

金山キャップと呼ばれた大男が突き上げるスピードが速くなるたび、女神の一糸まとわぬ裸身は「あ❤️ あ❤️あ❤️ あ❤️ あ❤️」と小刻みに震え、「イク❤️ イク❤️ イク❤️」と何度も絶頂に達しては大男をきゅうきゅう締め付けて離さない。

大男が最奥まで貫き、熱い遺伝子を胎内に吐き出すと、美しき女神は「ああああああ❤️❤️❤️」と甲高い悲鳴をあげ、お腹の中に大量の赤ちゃんの素を感じながら力尽きた。

ぐったりとしながらも絶頂が続いて歓喜する美の女神。大男は子宮の中に流し込みながらも、女神の華奢な細身を抱きしめ、長い金髪を撫でる。ごつごつした大男の胸板が、女神の最も女神たる豊満な柔らかいNカップ乳肉を潰して変形させる。

「お前は今日から天使の花(アンジェリカ)と名乗るんだ」

 

 

また時は遡って、ここは地球ではない別の星系だろうか?

女神をヌードモデルにした裸婦画を何枚もスケッチしたスタジオで、老画家はヌードモデルの子宮を刺し貫き、中に何度も注ぎ込んだ。

「サーヴェリタス……っ! 絶対に君を救いますからね……っ! 君が宇宙を維持するために絶対に必要な存在であることを科学的に証明してみせます……っ! ヒカリ君と研究を共に、私達ウルトラマンは戦乙女がいなければ生命を維持できない理由を解明します……ッ! もう誰も死なせませんからね……っ!」

貪るようなセックスで全裸の少女を子宮の奥まで突き上げた果てに、恐らくウルトラマンオーディンであろう老画家は女神の華奢な細身を抱きしめ、Nカップの豊満な乳房の感触と柔らかさを感じながら、豊穣の女神の子宮の中で爆発した。

ウルトラマンの遺伝子が卵巣へと泳ぐ。

サーヴェリタスがキッカケとなって命の固形化技術の増殖が発見された、本当の理由。

それは、オーディンの贖罪だったのだ。

いや、執念だったのかもしれない。

なぜ命の固形化技術の使用許可が降りなかった。

なぜマグマ九神を見殺しにした。

サーヴェリタスしか助けられなかった。

こんなに美しい少女が、こんなに苦しんでいるのに。ウルトラマンは守れなかったのか。

分からせてやる。

戦乙女が、ウルトラマンにとってプラズマスパークよりも生命の維持に必要不可欠であることを。

戦乙女が、ウルトラマンが絶対に守るべき神聖な存在であることを。

かくして、オーディンとヒカリの懸命な研究により、宇宙初の。ヒカリの命の大量増殖に成功した。

女神たちは独立栄養生物だった。

ウルトラ戦士徴兵指令。全ては、ここが創世記だった。

愛の力が、科学の常識を180度塗り替えたのだ。

 

 

一頻り戦乙女の子宮を満たした頃には、日付を跨いでいた。

美を司る薔薇の女神の白い裸身。一糸まとわぬ裸身を、謀は全身くまなく撫で回す。

「君の名前……アンジェリカってさ。 天使の花だよ。 アロマオイルの原料になる白い花で。 開いた蕾から新たな天使が生まれるって言い伝えがある、生まれ変わりの花。」

抱きしめながら、優しく髪を撫でる。

「地球にはこんな言い伝えがあってさ。 シャドウによって疫病が流行した時、ウルトラウーマンミカエラが降りたって白い花を咲かせた。 この花から作った薬によって、人々は疫病を克服した。 だから白い花はこう呼ばれているんだ。 天使の花、アンジェリカ」

男の腕の中で、全裸の少女は目を見開く。

「そんな……! 私は金山キャップのことは何も知らないし、本人の口から聞いたこともない……! 私の過去も詮索しなかった……! あの人はプライベートに干渉しない人だと思っていたが……! まさか……!」

金山という男も、多くは語らないが察していたのだろう。アンジェリカが何者だったのか。どんな傷を抱いていたのか。

「金山キャップは、信じてるんだよ。 いつかアンジェちゃんが、再び光となって花咲く日を。 アンジェリカ・サーヴェリタス。 赤い花、白い花。 どちらも美しい、君を表す花なんだ」

長い金髪を撫でながら、もういちど女神にキスする。

「アンジェちゃんは、愛される義務があるんだ。 生きる義務があるんだ。 君を愛する沢山の人たちのために」

「ひっく…… ぐすっ…… うわああああああああああああああああああああああああああああん」

女神は、大声で泣いた。

その涙すべてを、男は受け止めた。

謀は、決めた。

アンジェちゃんを、救おう。

絶対に救うんだ。

 

 

その日は、生憎の曇り空だった。

『約束の場所で待っている 花の女神より』

「あの乳デカ女…!」

ソウルライザーを握力で砕いたUキラーザウルスを見て、司令部ロビーで待機していた怪獣娘たちが何事かとざわつく。

真っ先に「どうしたんですか!?」と駆け寄ったピグモンを跳ね除け、Uキラーザウルスは「今度こそ敵を斬る」と次元ゲートをくぐった。

出た先は、約束の場所。マグマ九神が封印されていた異次元が発見された湿原。

「マグマ星人! 出て来い!」

光の女神は、姿を顕さない。

「何処だ! マグマ星人!」

探せど探せど、聖なる光は見つからず。

ふと、叢に氷の結晶が並べられ、文字を形作っていた。

『女神たちが泣く場所で8本の蝋燭を立て、花束を捧げよ さすれば女神への道は開かれん 花の女神』

「あの牛女! ふざけたマネしやがって!」

 

 

同時刻、民放局ビル1階カウンター。

「GIRLSの岡田トモミです」

赤い髪の女性が、証明書を見せる。

受付嬢が目を丸くしたのも無理はない。

GIRLSの幹部クラスが、よりによって何しに来たのだ。

呆気にとられていると、岡田トモミは一本のUSBを差し渡した。

「私達が隠蔽した全てがここに入っています。 包み隠さず報道してください」

そう言い残すと、有無を言わさず去って行った。

残ったのは、受付嬢の手に握られたUSBだけ。

外は曇り空。今にも大雨が降り出しそうな分厚い雲が空を覆っている。

 

 

数時間後、本州は土砂降りの雨に濡れていた。

「大変です!」

GIRLS基地のロビーに、慌てた様子でピグモンが飛び込んできた。「皆さん! テレビをつけてください!」

テレビのスイッチを入れると。

休憩中だったミクラス、ザンドリアス、マガジャッパの顔が。凍りついた。

マグマ九神虐殺事件の発覚が、全国で報道されているではないか。

ザンドリアスが「なんで!? なんでバレたの!?」

テレビの画面に、告発者の顔と名前がデカデカと写される。

「ピグモン先輩…?」

「私じゃありません!」

ミクラスが窓から外を見下ろすと。「やっぱり~」外は、報道陣に囲まれていた。

大雨に降られ、レインコートをずぶ濡れにしながらも、マイクとカメラを向けてビルを取り囲むメディアの大群。

「これじゃ外に出られませんね…」自分は透明化能力があるから大丈夫だけど、と内心安堵したジャッパだが。

騒いでいると、空間が歪んだ。

黒い翼の天使、国枝アサミが現れた。「一旦落ち着いて整理しましょう。」

アサミの手には、Uキラーザウルスを引きずっている。頬をひっぱたかれた跡がある。北海道から無理矢理連れ戻されたのだ。

「この男が犯した殺人罪は後で裁きましょう。 寛容な私でも怒り爆発だけど、その前に」と前置きして。「もし仮に岡田さんがUSBを盗んだ犯人ではないとしたら、誰が?」

岡田さんが犯人じゃないとしたら、何者かがUSBを盗んで岡田さんに成り済まし、証明書を偽造し、テレビ局に告発したことになる。

それができるのは。この事件を知っていて、尚且つ変身能力を持つ誰かが捜査線上に挙がるわね、と付け足す。

「キリエさんッスか?」名前を挙げたミクラスだが、アサミは「いいえ」と首を横に振る。「彼女はエメラナ姫警護の任務で惑星エスメラルダに出張中よ。 さすがにアナザースペースを短時間で一往復するのは無理よね?」

「じゃあ、誰が…?」

「アイツだ…!」

Uキラーザウルスが口を開く。

「アイツが怪盗ドラゴンロードだったんだ!」

アサミの手をはね除け、Uキラーザウルスは次元ゲートをくぐった。アサミの「ちょっと待ちなさい!」という制止も振り切って。

 

 

降りしきる雨の中。

ロンエルを消した館の前に、偽ピグモンは立っていた。

「お前だろう? 偽の果たし状を送ったのは」

Uキラーザウルスが叫ぶと、偽ピグモンはマスクを剥がした。

羽二重 謀だ。

正体をあらわした怪盗ドラゴンロードを前に、Uキラーザウルスは恨み言のようにまくしたてる。「俺は! 正義のために戦ったのに! 一般人を守ったのに! 斃すべき敵を斃しただけなのに!」

「お前…ガキだよ」

「なんだと!?」

自分が被害者かのように喚くUキラーザウルスの態度は、謀を激昂させた。

「その言い訳がガキなんだよ!! どんな理由があろうと、アンジェちゃんを、マグマ星の女神たちを惨殺した罪は消えないんだ!!!!!!!!!」

Uキラーザウルスは両手に鞭を構え、謀は手で不動明王印を結びながら真言を唱え。

一触即発、その前に。

「いたぞ! Uキラーザウルスだ!」

マスコミの足は、ついにここまで及んでいた。

戦乙女(ヴァルキュリア)を虐殺したのは本当ですか!?」「なぜ隠蔽したのですか!?」「女司祭猊下が大激怒なされていますが!?」

シャッターの嵐を浴びせるメディア関係者。

「だまれええええええええええええええ!」

Uキラーザウルスの体から、真っ黒なシャドウミストが噴き出す。

マスコミは逃げ出した。

『俺は正しかった! 敵を滅ぼしただけだ! ヴァルキュリアは敵なんゴギョゴガゴギョゴガ』

シャドウミストを撒き散らしながら、ザウルスの体が体長303メートルもの巨体に変貌する。その姿は人型どころかヒューマノイド型と呼ぶにも程遠い。

映像データに残っているヴァン戦争時代、ストルム星人がモンスロードしたUキラーザウルス・ネオのファーブニルに似ている。頭部の形状や下半身の顔の数、触手の本数など細部に違いはあるが。

男権シャドウ Vキラーハルト

空から降りしきる雨が、真っ赤な血の雨に変わる。

大地を真っ赤に染める。

『ゴギョゴガゴギョゴガ 非処女を殺ゴギョゴガゴギョゴガ 処女は非処女になる前ゴギョゴガゴギョゴガ殺ゴギョゴガゴギョゴガ』

譫言のように喚き散らしながら、触手を振り回して暴れ回る男。

おぞましい巨体を見上げる謀だが、前方不注意だった。

「助けて…」

柔らかい感触が、あたる。

アンジェちゃんだ。

全裸の少女が、テレポートで抱きついた。

シャドウが襲来したことではなく、フラッシュバックが発症したことで「助けて」と泣いている。「アンジェに、愛をください」

最愛の姫は、泣いていた。

涙など似合わない美しい顔が、泣いていた。

謀は、天使を抱きしめた。唇を奪った。

愛の抱擁の後、今度は謀がアンジェちゃんを背後から抱き包んだ

魂が叫ぶ。「愛してる…ッ! 愛している…ッ!」

 

(イラスト: 未定 様)

 

女神のNカップの豊満な乳房を掴んだ時、乳房から真紅の光が溢れだした。

「私も……大好き❤️」

大きなその谷間には、ガヴァドンUカードとニーベルリングがあった。

沈み込みそうな乳肉の中からそれを引き抜くと、謀は腕にセットしたリングでカードを読み取った。

「ダカァァァハ!」

真っ赤な炎に包まれた謀が巨大化する。

炎の中から誕生した真紅の巨龍は、体長53メートル。脳天、胸部、両肩、両膝にも龍の頭がある、七面ニ臂の倶利伽羅龍。

ウルトラマンダカーハ

両手に大切に乗せた天使の裸身を、そっと館の屋上の薔薇庭園に降ろしてあげた。『今度こそ、絶対に助けるから…』

翻って、あの馬脚を露した悪魔の巨体に向き直る。『Uキラーザウルス! テメーのしたことは許されない!』

悪魔の下半身の顔が、意味不明な罵詈雑言を咆える。『ゴギョゴガゴギョゴガ 全てのメスどもゴギョゴガゴギョゴガ男様様様様の下半身の殺人性癖を勃起させるためだけに生まれた使い捨てゴギョゴガゴギョゴガ食用人肉ゴギョゴガゴギョゴガ ゴギョゴガゴギョゴガ』

Vキラーハルトの触手が襲い来る。

ダカーハは頭上の龍の眉間に装備したV字状の双鈷杵を手に取り、『金剛倶利伽羅剣!』投げた。空中を旋る双鈷杵は、悪魔の触手を切断した。

『ゴギョゴガゴギョゴガ 外見の美しいは全て悪ゴギョゴガゴギョゴガ 醜いゴギョゴガゴギョゴガこそ正義ゴギョゴガゴギョゴガ 醜いは素晴らしい ゴギョゴガゴギョゴガ 醜さ万歳 正義は悪を殲滅ゴギョゴガゴギョゴガ 全ての美を皆殺ゴギョゴガゴギョゴガ 一匹残らず皆殺ゴギョゴガゴギョゴガ 僅かでも美しく見えそうなものでも証拠すら残らず証拠隠滅ゴギョゴガゴギョゴガ 地球を醜いものだけの惑星ゴギョゴガゴギョゴガ』

『その汚い口を閉じろおおおおおおおおおおおおおおおお!』ダカーハの頭部に戻った双鈷杵の両端から2本のビームが呻る。『大徳倶利伽羅焔!』

強烈なビームは、Vキラーハルトの下半身の顔のうち2枚を爆破した。顔があった部分には、真っ赤に焼けたクレーターだけが空いた。

顔はもう一枚あった。『ゴギョゴガゴギョゴガ 全ての女を皆殺ゴギョゴガゴギョゴガ 一匹残らず皆殺ゴギョゴガゴギョゴガ 地球を男だけの惑星ゴギョゴガゴギョゴガ』

Vキラーハルトは、己の置かれた状況を分かっていなかった。大徳倶利伽羅焔の爆発で煙幕が立ち込め、視界を封じたのだ。

煙のカーテンから、灼熱の炎をまとったきりもみ状に回転する両脚が飛び出した。『降魔倶利伽羅龍!』

炎のドリルはVキラーハルトの顔を貫き、逆側の顔をもぶち破った。

煙幕が晴れ、薔薇庭園を守るように近くに着地した紅龍。

「謀!」

背後から声がする。

振り返ると、愛しいアンジェちゃんが甲冑姿だった。「私も、あの男を血まみれにしたい」

ダカーハは頷く。

なおも悪魔は触手をのばす。

炎の龍は空中で直立して印を結び、体が実体の無い炎そのものになる。『軍荼利倶利伽羅龍!』

形なき炎は大蛇の姿に変幻し、悪魔の触手を焼き尽くす。『アンジェちゃん!今のうちに!』

光の天使は頷くと、マントをひろげて空中にテレポートした。

雨雲の中で、美の女神は地上の様子を観察する。

Vキラーハルトの上半身の頭部にカプセルがある。液体が充満したカプセルの中に、Uキラーザウルスはいた。

真っ赤に染まった地上から、Uキラーザウルスが怨めしそうに空を見上げる。

「オーディンめェ! 他人の宿敵を無断で生き返らせやがってェ!」

何様のつもりなのか。まるで自分が命の生殺与奪権を握っているかのような傲慢な態度で天に唾する男。この男は己自身の命も誰かに生殺与奪を握られると歓喜するのだろうか?自分の命は惜しいくせに自分以外の命には悲劇的な最期を強要するなど矛盾していないか。男は何様のつもりなのか。

こんな男の命より、マグマ星人の命が遥かに価値ある命だ。少なくとも謀、オーディン、キンヤ、ヴァルハラ宮の皆にとっては。

雲から見下ろしていた当のマグマ星人も怒りに震える。「お前こそ敵だ! 斃すべき敵だ!」

「黙れェマグマ星人! 女の分際でェ! 男に無断で生き返りやがってェ!」

今度はヴァルキュリアに暴言を吐く男。

「女にすぎない貴様の価値はァ! 男様様様たる俺のォ! 宿敵ィ! 宿敵として生まれェ! 俺様にカッコいい見せ場を作って死死死死死んだことォ! 俺様ありきの消耗品以上の何者でもない挽き肉だァ!! 挽き肉挽き肉挽き肉だァ!!!」

歪んでいる……おかしい……何かが……この男の……

「違う! お前なんかのために生まれたんじゃない!」

上空に退避していた天使が、女神が、急降下する。

「私には愛してくれる人がいる! 帰る場所も! 私は私の人生を生きている! 誰にも価値がないなんて言わせない!!」

赤い花と白い花が舞う。

「私はアンジェリカ! アンジェリカ・サーヴェリタス! それが私の名前だああああああああああああ!」

サーベルがカプセルを十字に切り裂くと、中からこぼれ落ちたUキラーザウルスが落下し、地面に叩き付けられた。

『アンジェちゃん…』

今ここで男の血で化粧をするのは容易い。しかし、アンジェリカ自らの手で男を撃破したら、男と同じになってしまう。

振り返った天使の花は、涙を流しながら目で訴えていた。哀願していた。助けて。苦しい。胸が痛い。

変幻を解いて実体化した焔龍は小さな命を優しく掌に受け止め、薔薇庭園に還した。『俺を信じてくれ』

守り戦う力は、剣術でも光線でもなく。謀がいてくれること。

未来を変える強さは、変装でもアンロックでもなく。アンジェちゃんがいてくれること。

小さな命は、薔薇のベッドで泣くのをやめなかった。

なおも動くVキラーハルトの巨体。

悪魔を裁きの炎で焼き尽くすため、ダカーハは。

胸部の龍の顔が、大口を開ける。

『不動倶利伽羅焔!』

炎のブレスを吐いた。

強大な火焔はVキラーハルトの巨体を一瞬で気化し、雨雲さえも貫いて空に穴をあけた。

哀しい戦いの後。

雨がやみ、晴れた空には茜色の夕陽が広がった。

胸部の龍の顔のみに刻まれたマグマ勲章が、エネルギー切れを警告して赤く点滅していた。

 

 

人間の姿に戻った謀だが。

謀渾身のアトミックパンチが、Uキラーザウルスの腹を貫通した。

「痛いか? アンジェちゃんはもっと痛かったんだぞ!!!!!!!!!」

風穴の空いた腹から拳を引き抜き、続けざまに男の右頬を殴る。

「この一発は! テメーが男の分際でこの世に生れ落ちた罪!」

左の頬も。

「この一発は! 男として生まれやがった挙句1日も生き延びた罪!」

男は左右の頬骨が粉々に砕け散っていた。

「2日! 3日! 4日! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

正義に燃える怒りの鉄拳が、男が生まれた日数だけタコ殴りにする。

想像に難くない。この男が、マグマ九神を敵だったことを絶好の幸運と喜び、女神たちの美しさを下卑た目で見ながらもそれが崩壊して失われていく様を楽しんでいたこと。

どんなに言い訳しようと、それは違うと証明できる物的証拠を提示するのは不可能だ。断じて違うと言い張るなら、証拠を見せてみろ!怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒

「アンジェちゃんが泣いてた!!! 泣いてたんだよ!!! テメーを殴る理由は、それだけで十分だああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

最大パワーで、ザウルスの顔を粉砕した。

吹き飛ばされたザウルスは宙に掲げ上げられ、そこをさらに先回りした謀に拳を叩きつけられ、コンクリートの床にクレーターができた。

力なく地面に突っ伏すザウルス。

怒鳴る謀の後ろから、アンジェリカが姿を現した。

天使は、泣いていた。

フラッシュバックが逡巡する。

8人の姉たちと平和に暮らしていた。

第二の故郷を滅ぼされた。

人体実験に苦しめられる日々。

痛い。痛い。痛い。

肉体も精神も蝕まれていく。

人格が崩壊していく。

姉たちの悲鳴が、心を劈く。私自身の悲鳴が、心を劈く。

当時の技術ではミカエラの幼年期放射を闇に変換することはできないと知るや、暗い異次元の鳥籠に投棄された。

永い永い年月を、暗く冷たい鳥籠に幽閉され。

私たちは、自分を見失った。

それからどれだけ経っただろう。

金髪の男が、私達を虐殺しに来た。

死にたくない 死にたくない やめて 殺さないで 死にたくない 死にたくない お願い もうやめて 死ぬの嫌 死にたくない 殺さないで 命だけは 死にたくない

嫌。思い出したくない。思い出さないで私。今度こそ精神が崩壊する。

薔薇の種だけになった私は、奇跡的にオーディンに発見された。

姉たちは……

……助からなかった。

「ひっく…… ぐすっ…… うわああああああああああああああああああああああああああああん」

女神は、大声で泣いた。

謀は、アンジェリカを抱きしめた。

「アンジェちゃんは何も悪くないんだ。 絶世の美女だから何も悪くないんだ」抱きしめながら、長く綺麗な金髪を梳る。

美しい君に涙は似合わないんだ。笑顔が一番似合う絶世の美女なんだ。君が悲しいと全宇宙が光を失ってしまう。

絶世の美女を一度は惨殺した性楽殺人犯が血まみれになったのを見てなお、死にたくない、殺さないで、と泣きながら怯えるなんて。可哀想すぎるじゃないか。

男は突っ伏しながらも、まだ呻いている。

謀はUキラーザウルスの髪を引っ張る。中性的な少年の顔だったソレは、見る影もない。

「テメーは自分の命がアンジェちゃんより価値があると思ってやがるのか? 男の分際で!!!!」

Uキラーザウルスの両目玉を抉り出し、握り潰した。二撃目のアトミックパンチが男の腹を貫通し、肝臓を抉り出した。それも握り潰した。

「謝れ」

髪を振り回して、男を地面に叩き付ける。

「アンジェちゃんに謝れ!!!!!!!!!!! マグマ九神たちに謝れ!!!!!!!!!!! アンジェちゃんに謝れ!!!!!!!!!!!」

謀が、ザウルスの顎を蹴飛ばす。

「謝れええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!! 男だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

ついに観念したか、男はか細い声で「ごめんなさい…」と呻いた。

今度は背中からアトミックパンチが貫き、膵臓を抉り出した。「心がこもってない!」

「ごめんなさい!」

腎臓を抉り出した。「何をした罪でごめんなさいだ! 具体的に白状しろ!」

「マグマ星人を殺してごめんなさい!」

腎臓を抉り出した。「アンジェちゃんだけじゃねえだろ!」

「マグマ九神を…… ごぼっ ごぼっ」

言いかけて、男は血を吐いた。

小腸を抉り出した。「テメーの命を優先するな! 命を犠牲にして謝れ!」

「………………」

大腸を抉り出した。「謝れええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」

「マグマ九神を殺してごめんなさい!」

胃を抉り出した。「それが謝る態度か!」

まだ温情ゆえか折れていない四肢が地面に張り付き、男は土下座した。「マグマ九神を殺してごめんなさい!」

十二指腸を抉り出した。「俺に謝ってどうする! アンジェちゃんが泣いてるんだぞ!!!!!!!!!」

男は、ヴァルキュリアに土下座した。「マグマ九神を殺してごめんなさい!」

右肺を抉り出した。「心がこもってない!」

男は、ヴァルキュリアに土下座した。「美しいアンジェ様!! マグマ九神を救出しなきゃいけなかった俺がマグマ九神を殺してごめんなさい!! ごめんなさい!!」

握り潰された臓器“だったモノ”が、地面に散乱する。「一回謝って許されると思ってるのか? 次は心臓がなくなるぞ」

男は、ヴァルキュリアに土下座した。「美しいアンジェ様!! マグマ九神を救出しなきゃいけなかった俺がマグマ九神を殺してごめんなさい!! ごめんなさい!!」

謝った。

Uキラーザウルスが謝った。

アンジェリカに謝った。

謝罪の言葉の後、アンジェリカに土下座しながらも男はおびただしい量の血を吐いた。

臓器を抜き取られながらも謝罪した男を、アンジェリカは見下ろす。

謀は、Uキラーザウルスの返り血で真っ赤に濡れたアンジェリカの細身を抱きしめた。「この男を許さなくたっていい…… 無理に治そうとしなくたっていい…… もう、この男を恐れて怯えなくてもいいから……」

土下座をしたまま動かなくなったUキラーザウルスを見下ろして。謀の泣き顔と見比べて。

「ひっく…… ぐすっ……」アンジェリカは、謀の腕の中で、泣いた。「うわああああああああああああああああああああああああああああん」

 

 

夕陽の彼方から、戦乙女の悲しい歌声が空を染める。それはネオフロンティアスペースに伝わる、悲しい歴史。闇に堕ちた光。シャドウミストに覆われた空。過去の文明を滅ぼしたのは、人々の孤独だった……。

孤独の闇に閉ざされた時代でも、愛を灯すことができるだろうか?

戦乙女が、泣いている。

「エレエレのお母さんは、あの作戦に反対した責任を問われてGIRLS脱退に追い込まれました…」

ビルの窓から、夕陽を見つめるピグモン。

「仕方なかったんです…… 私達は、自己保身に堕ちて選択を間違えました……」

「言い訳するんじゃないわよ! 大の大人が!」

ザンドリアスが義憤に立ち上がる。

「結果はともかく努力は評価しろですって? 1歳か2歳の子供じゃないんだから! 怪獣娘が惨殺されてるのよ!?」

ピグモンは、何も言い返せなかった。

どこで間違えたのだろう?

囚われの姫を助けなきゃいけない勇者に、囚われの姫を殺してまでなりたかったのかよ?

アギラが口を開く。「ゼットンさんは? 知っていたの?」

「きっとバレてますよ… あの子に隠し事なんて……」

燃える夕陽を見上げるピグモン。

ゼットンは何の罪もない。ガッツ星人は何の罪もない。母親のお腹からオギャーと産まれるタイミングを赤ちゃんは選べない。人一倍正義感の強いあの2人のことだ、気に病んでいるに違いない。本来なら、大人たちが若き絶世の美女たちを慰めねばならない立場なのに。

なのに。当時あの作戦を容認したピグモンは?何もかもが手遅れと成り果てた今となっては、全ての罪をあの男、Uキラーザウルスに擦り付けるしかできなかった。

「決めた」アギラは立ち上がる「ボク、釧路湿原に慰霊碑を建てる」

虐殺されたヴァルキュリアたちヘ、祈るために。

惨殺の惨劇があった事実を、全人類に知ってもらうために。

天国へ飛び立った8人の女神のために、慰霊碑を建てよう。

8本の蝋燭を立てて、たくさんの花をお供えしよう。

「キリエさんが帰って来たら相談する。 できればノーバさんとも連絡がついたら……」

「私も協力するわ」ザンドリアスが名乗り出る。「教会も頼み込んだら協力してくれるはずよ」

「ガッツのママさんに掛け合ってみる」

「アギちゃんが女司祭さんの実の娘と仲良くてよかったー」

おっと、スールだっけ?と意地悪く笑うと、アギラは「それはもういいから」と顔を赤らめる。

「そうだ」ザンドリアスがポンと手を叩く。「GIRLS芸能部に代わる代替機関の新設もお願いしてよ。 移籍さえできれば、N'Zはまた音楽できる」

「話は聞かせてもらったァ!」突然、遠慮もなくドアを蹴破ったのは。

この下品な開け方は。

「ゴモたん!?」

部屋に、ゴモラの怪獣娘こと黒田ミカヅキが殴り込んできた。両脇にミクラスとブリッツブロッツを引き連れている。

「ミクちゃんと相談してさ。 決めたで。 大怪獣ファイトに代わる代替連盟を立ち上げようかなーって」

「東京司教区のガッツガンナー女司祭だけが味方じゃないわ。 ウチの『次女』、火野ユリカもバチカンと御縁あってガーゴルゴン法王とメル友でね」

「そうと決まれば善は急げだー」

ファイトー、オー、と我が生涯に悔い無しごとく拳を天高く掲げるミクラス。

「大怪獣ファイトに代わる代替連盟。 名付けて?」

「え?」

「名付けて?」

「えっと…… ヴァルハラファイト?」

取り戻そうとしている日常を眺めて、ピグモンは泣き崩れた。

「私…っ… 若い子の勇気を信じるべきだった…」

大人たちは、教会を恐れていた。胸の大きな小学生ひとり怖くて怯えていた。

よちよち歩きの幼子だと思っていた子供たち。

いつの間にか、大人たちの知らないところで新天地を見つけていた。

今、子供たちは。大人たちのもとを離れ、鳥籠をぶち破ろうとしている。

自分の光翼で羽ばたこうとしている。

鳥籠から解放されてからが、本当の人生なのだから。

そうだろ?Vキラーハルト。

子供たちに気付かれないように、ピグモンは部屋を出た。

レッドキングが待っていた。「あいつら、いつの間に成長したよな」

「もう私達なんか手の届かない高みにいましたね」

「老兵は消え去るのみ。 行こうぜ、記者会見。 多岐沢が先に待ってる」

「あの人のことです、私達を庇って自殺しかねませんよね」

「気を付けねえとな」

自分の光翼で飛び立っていく子供たちを見送りながら。

「あの子達が未来へテイクオフしてくれるなら、本望です」

「さーて行きますか ツケを払いに」

大人たちは、報道陣の照りつける真っ白な闇へと消えていった。……

 

 

ちょうどその頃、遅れて現場に駆けつけたマガジャッパだが。

怪盗ドラゴンロードの館は、忽然と姿を消していた。まるで、最初から何の建物も無かったかのように。

ただ更地で発見したのは。

かつてUキラーザウルスのボディと四肢だったらしき肉片。

切断された四肢。

濡れ雑巾を搾るように一滴残らず搾り落とされ、辺り一面が血のプールに染まった地面。

全て抜き取られ散乱した臓器。

執拗に踏み潰され地面にこびりついた心臓。

肉片を全部こそげ落とされ、その上さらに執拗に踏みつぶされ粉々に砕け散った骨。

かつてUキラーザウルスだった、生首。

……毛髪を全て毟り取られた、無様な男の生首。

 

 

ウルトラマンダカーハはヴァルキュリアの味方だ。

これを読んだ男性諸君がUキラーザウルスと同じことをするならば………………

 

 

マグマ星人の歌 YOU ARE NEXT




【天使のお告げ】

このエッダは天界神話です。

下界の個人、企業、団体、国、地名、思想とは一切関係ありません。

また、それらを誹謗中傷するものでもありません。


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エレキング 架空じゃなかったんだ


(イラスト: らすP 様)


あの卑怯者をぶちのめすまで死にはしねぇ!それに俺は…俺は今、君だけを守りたい!
─────アスカ・シン


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

もうひとりの女王

――ペンンテシレイア1匹の討伐――

QUEST LEVEL

★☆☆☆☆

 

この日を心待ちにしていた。

りんかい歌劇座に踏み入った男の足取りは軽い。

トロイ伝、再演初日。

劇場入り口のポスターに貼られていた、絶世の美女に会える日だ。

再演決定の告知をWEBサイトで見たあの日から、一目惚れだった。

初演を逃した千歳水波を新たな恋へ立ち直らせるには十分すぎるほどの、救世主だ。

なぜそこまでトロイ伝というミュージカルにこだわるのかって?

去る初演初日、もともとヘレナ女王役を勤めるはずだった星江カナが急に出られなくなった。ここまでは水波も劇団りんかいの名も知らず、ミュージカルそのものに興味が無かった。

そのピンチヒッターで急遽、印南ミコという美少女が彗星のごとく降り注ぐまでは。

経歴不明。突如現れた印南ミコの美貌は瞬く間にSNSを駆け巡り、水波の耳にも届いた。

可愛い。可愛すぎる。あの日世界中がそうだったように、水波もニュースサイトでヘレナ女王の美しさに一目惚れだった。

写真越しでもわかる、ハチドリのように綺麗で優雅なアフロディーテ。極端に地球人離れした美貌は、宇宙人ではないかとさえ噂された。

世の中そんなに甘くないことを除いては。14歳の幼き絶世の美女を一目見ようと予約サイトを飛んだ時には、既に予約は全滅。

ミコは初演の千秋楽を最後に渡り鳥のように忽然と姿を消し、誰も行方を知らない。

肝が冷えた。もう二度とミコに会えない。トロイ伝の再演は絶望的かに見えた。

奇跡は二度起こる。印南ミコに匹敵する絶世の美女が現れたのだ。

湖上ラン。17歳。

今度は劇中もう一人のヒロイン、ペンテシレイア役として。

ここでミュージカルの概要をおさらいしよう。トロイ伝。ホメロスの叙事詩に語られるトロイの木馬をベースにしたミュージカル。アカイア諸国をまとめ上げた悪名高きミケーネ王アガメムノンは、世界を無に帰するためトロイに戦争を仕掛ける。長期化した戦争は周辺諸国をも巻き込み、美しきアマゾネス族までもが危機に晒される。女系種族の女王ペンテシレイアもトロイのパラディウム神殿を守る運命に投げ出される。神殿を守るシレイアの前に現れたのは、かつてアマゾネスと友好国だったミュルミドン族の王アキレス。

八橋が脚本を手掛けたトロイ伝には、原典の太平風土記より改変点がある。

もう一人のヒロインであるペンテシレイアは太平風土記では、メネラウスとアキレス率いるスパルタ軍とは敵対するトロイ側の同盟国の女王。つまりは悪役ヒロインで、アキレスもろともトロイ戦争の犠牲になったが。

八橋は、シレイアをアキレスと和解させた。生きて光を繋いだのだ。

アキレスは惜しくもパリスに討ち取られたが、その命はシレイアの胎内で確かに息づいている。

光は絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く。

湖上ラン。一度ならず二度までも地上に光臨した、美しきアマゾネスの女王。

もう一度言おう。再演決定の告知をWEBサイトで見たあの日から、一目惚れだった。

今度こそ離さない。血のにじむ努力の甲斐あってか、幸運にも初演初日、しかも最前列のチケットを勝ち取った。

印南ミコといい、あんなに美しい少女たちがなぜ今まで埋もれていたのだろう。不可解でならない。

それはともかく。

こうして京都の片田舎からはるばる東京にやって来た甲斐があった。

もうすぐ湖上ランに会える。胸が躍る。

最前列の客席。

まもなく開演時間だ。

舞台の幕が開く。

管楽器吹きの男が現れる冒頭のシーンはごっそり削除された。

…?

脚本が宮永健太という男に代わったからか?

いや、脚本なんて誰がやっても同じだろう。俺も含めて観衆は一刻も早く湖上ランを見たいから仕方ないか。

てかパリス役の男もラン兄貴って名前だったのか。紛らわしいなオイ。俺が見に来たのは湖上ランという少女だ。

場面は変わり、ヘレナとメネラウスの結婚式のシーンだ。

初演では実の祖父に足を折られて泣く泣く主演を降りた星江カナだが、今回は無事ヘレナ役に返り咲いた。相当なリハビリを重ねたであろうことは想像に難くない。

メネラウス役は初演に引き続き、イカルガ・ジョージ。

(あれ? おかしいぞ)

水波が眉を顰めたのもそのはず。

映像で見た記憶が正しければ、ペンテシレイアの出番は序盤からあったはずだが…?

互いに諸国の代表として馴れ初めがあった設定は削除されたのかなぁ?

まあ、そんなはずはないか。ランちゃんのおかげで再演が成ったのだから。

中盤、トロイのパラディウム神殿。

暗闇に静まり返ったパラス神像の間に燭台が灯ると。いた。ピンクの髪の美少女が。

豊かな乳房が揺れる。たぷたぷバウンドする、あまねく生命の源たる母乳栄養源。

(かわいいいいいいいいいいいいいいいいいい)

生ランちゃんだ。生湖上ランだ。

一糸まとわぬ裸身にボディペイントを彩り、アマゾネスに扮した絶世の美女。

長いピンクの髪と瞳。長い睫。しなやかな女体美。

右手には鞭。左手には人面盾。耳にはイヤリング。

少女の神秘は開花したての花。塗料に着色されても綺麗さが見える。

大きく形のいいHカップの乳房を蛇の目状の同心円で塗ったボディペイントさえも、アマゾネスの魅惑を引き立てて艶やかだ。

役者の台詞がかわされる。

「そこを退いてくれ。 君とは戦いたくない」

「祖国を人質に取られている。 あなたもでしょう?」

美女が鞭をふるう。

アキレス役の男の顔が険しい。

様子がおかしい。

印南ミコと同時期に辞めた八橋という脚本家の遺稿だと、シレイアはアキレスと和解し、保護されるはずだが。

今思えば、キービジュアルポスターも何かおかしかった。ペンテシレイア役の湖上ランより、ヘレナ女王役の星江カナが大きく写っていたのを思い出す。

まさか。

「だから言ったのよ! ミケーネ王は呪われた男だって! あの男がいる限り、世界はもう長くない! あなたも!」

「違う! 俺のせいだ! 君と出会う前から俺の体は呪われていた! 原初の時代からアマゾネスと友好国だったら…こんなはずでは…!」

何かが違う。

(ランちゃん…!)

胸騒ぎがする。嫌な予感がする。

シレイアを護る聖なる力の正体がパラス神の石像ではなく、レリーフのほうだと見抜いたアキレスは、ブーメランでシレイア本体を狙うと見せかけてパラスのレリーフを破壊すた。

「しまった!」

狼狽えた美女の大きな乳房が揺れる。

アキレスが弓に矢をセットする。ロックオンしたのは、そのアマゾネスの豊満な胸だ。

嫌な予感を客席の子供たちも感じたのか、「やめろーアキレスー!」「シレイアをころすなー!」と悲痛な叫び。

子供たちが泣いてる。絶望に染まろうとしている。

八橋の後任の脚本家―――宮永といったか―――子供たちから強さと優しさを忘れさせる気か!

アキレスが弓を引く。「終わりにしよう… シレイア、どうか安らかに…」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

考える前に足が出ていた。

水波は舞台に土足で上がり、ランを庇った。

その行動が本当に正解だったと発覚した。

「逃げ……ろ……ランちゃん……君の命……が……狙われてる……」

深々と貫かれた男の体から夥しい量の血が。

矢は、何者かが本物とすり替えたのだ。

もし、この矢がランちゃんに刺さっていたら……!想像するだけでぞっとする。

絶世の美女が無事逃げたかは、もう確認できない。視界が真っ暗になっていく。

「ラン……ちゃん……」

無事に逃げただろうか?まだ追手に狙われていないだろうか?無事安全なところまで逃げ切れるのか?失いたくない失いたくない失いたくない

「死なないで……君だけでも……生きて……く……れ……」

美しいペンテシレイアの無事だけを願いながら意識を手放した男は、死してなお仁王立った。

以上が、千歳水波が昨夜見た夢だ。

 

 

 

たすけて

――エレキング1匹の討伐――

QUEST LEVEL

★★☆☆☆

 

涙でボロボロになった眼を開けると、見慣れた自宅の天井。敷布団。窓を打つ雪。

壁にかかったセーフティダーツボードが、まず目に付く。

スマホを開くと、時刻は午前5時。カレンダーは2011年1月17日を指している。幼い頃から寒さには強い千歳水波といえど、この時刻は少し寝ざめが悪い。

「リアルな夢見たな…」

あんな美貌の持ち主が現実にいるはずがない。その時点で気付くべきだったのだ。

湖上ラン、か…。

ピンクの長髪が、脳裏に焼きつく。

たとえ夢の中でも、あんな美少女を見ることができたならいい夢だった。その続きさえ無ければ…。あんな可愛い女の子が命を狙われるなんて、考えただけでもぞっとする。阿鼻地獄以外の何物でもない。

棚の上に置かれた、ダーツ世界大会のトロフィーさえも。この黄金の輝きさえも。ペンテシレイアの妖艶な美貌に比べたら、偽りの光に見えた。愛する女性を失ったら、人生真っ暗だ。

あの絶世の美女が夢の中にしか存在しないと気付いた瞬間、急に人生が虚無感を覚えた。

エゴサでもしようかとツブッターを起動すると、相変わらずネトゲの広告が視界に飛び込んできた。

「ネトゲに何の価値があるんだよ」

客観的に見た率直な印象は、その一言に尽きる。

男の分際で、人前に立つな。主人公になりたがるな。男に生まれたことを恥じろ。姿を消してバックアップに徹しろ。ナルシシズムは男らしくないぞ。

キャラメイクがしたいなら、個人でダイレクトに同人作家に振り込んで描いてもらえばいいだろう。そして、声優を雇え。

弟の祈は、事実そうしている。ロリ爆乳に並々ならぬこだわりを燃やす弟は、常日頃から嘆いていた。理想のロリ爆乳ヒロインがいなさすぎると。

ここからはあくまで弟の二次元観だが。

ただ絶世の美女なだけでは不満らしい。奴の守備範囲は非常に条件が厳しい。バストは90cm以上、ウエストは55cm未満、身長は155cm未満、そして処女が許されるのは16歳まで。髪はロングが望ましい。ただし髪型はデコ出しの類はNG。褐色派か色白派かは、どちらかといえば後者らしい。理想を言えば、身長139cm、バスト100cm、ウエスト50cm、ロリータファッションかプリンセスドレスの似合う華やかな美少女で、12歳以内に人妻化。理想を叶えるために、同人作家に依頼料を振り込んでそのような名画を描いていただいている。

話が脱線するが、弟は貧乳が嫌いだと度々語る。思い返せば、貧乳好きを自称する男は知恵遅れしかいない。口から出るのは抽象的で薄っぺらい負け惜しみと言い訳と恥の上塗りだけ。具体的にどこが優れているかを実証したためしがない。それに、どんなに貧乳厨を騙ったところで、昨夜の夢に出てきたような湖上ランほどの美少女を見たら誰しも生理的に歓喜するのは自然の摂理だ。

貧乳は男と五十歩百歩だ。男などという下等生物と五十歩百歩だ。

女は、男とはかけ離れた遥か高みに君臨する生物に進化することができる。それを可能にするのが高貴なる巨乳遺伝子だ。上半身と下半身、両方がクイーンとして完成してはじめて豊穣神の女体美は輝く。いざセックスの時、巨乳と貧乳とではどちらが多くのリピーターを獲得できたか失念したわけではあるまい。巨乳美女たちの圧倒的な男性経験人数の多さが、世の大多数の男の生態の実態を物語っている。それだけ沢山の男たちがスタイル抜群の豊穣神に群がった結果の経験人数だ。

巨乳の遺伝子を母親から受け継いだら人生得だ。彼氏が途切れることはまずない。合コンでもモテる。統計上も実証済みだ。サイズの合う服をオーダーせずとも、胸の開いた服や胸を強調するニットなどを着るだけで、いかなる男どもも2コマ即落ちで服従した。金蔓に困ったことはない。どの世界でも巨乳はありがたられ、崇拝されるのだ。

人類400万年の進化史を紐解くと、乳房が膨らんだから人類は四足歩行をやめたことが見て取れる。

それに、世の男性諸君が特に勘違いしている偏見だが、時代は終わったのだ。時代は終わったのだ。少女が巨乳少女に嫉妬する時代は終わったのだ。豊満な体を武器にしたキャラは、性に奔放な生き方は、驚くほど女性ファンの共感を呼び寄せる。自由になりたいと、性に奔放でありたいと共感される。だから、巨乳が同性に嫌われる時代は終わった。憧れはされどだ。2次元も、3次元も。

弟の女癖はともかくとして。

世の中、先立つものはキャラデザだ。画家たちはたちはあの手この手で女神の美貌を再現する。

本当に欲しい恋人がいるなら、個人で同人作家に頼めばいいだろう。ロリ爆乳に並々ならぬこだわりを燃やす弟は、常日頃から嘆いていた。理想のロリ爆乳ヒロインがいなさすぎると。絵は、物理法則を嘲笑ってこそ美しい。矛盾せずして何が二次元か。

理想とは、自らの手で叶えるものだ。何のために同人作家が依頼を募集していると思っている。

そして、愛娘のために声優を雇え。アマチュアで活動していらっしゃる同人声優の方々だって美声の女神がたくさんいるだろう。

「湖上ラン、か…。」

理想の女性像を、金を払ってでも絵にしたい気持ち。今なら分かる気がする。

夢で見たあの妖艶な美貌を、誰か同人作家に依頼しようか。記憶に鮮明に焼き付いているうちに。

そんなことを考えながら画面をスクロールすると、さっきのネトゲとは別の、電子コミックの広告が追従した。

「……嘘、だろ」

思わず飛び起きた。

「ランちゃん!!!!!!!!!!!!」

見間違えるはずがない。広告画面に描かれていたのは、いつか夢で見たアマゾネスの女王、湖上ランだ!

衣装こそ違うものの、この美貌、ピンクの長髪、ピンクの瞳。完全に一致する。

リンクページに飛ぶと、赤い仮面で上半分を隠した悪魔の顔が表紙を僭っていた。レッドマンというタイトルの漫画だ。出版社の名前は、聞き覚えがない。レッドファイト社という社名だ。

あらすじはこうだ。宇宙は、怪獣の脅威に晒されている。それは文明が栄えた星々も例外ではない。レッド星を拠点とするレッドマンという種族は、怪獣を狩るのが使命。これは、人類に仇なす怪獣を倒す彼らの物語。

実態が、牧歌的なイメージとはかけ離れていたことを除いては。

 

====================

 

湖のひみつ

宇宙怪獣エレキング登場

 

山梨県西湖。

水面にルアーを沈めた釣り師の男は、水中で何かが引っ掛かった手応えを感知した。

「コイツは大物だぞ」ロッドを耐えながらリールを回す。釣竿を電流が走るまでは…。

感電して釣竿を放り投げた釣り師は、腐植土に仰向けにひっくり返る。

湖面から上がったのは、頭に2本の三日月状のアンテナが駆動する怪獣娘だったのだ。

宇宙怪獣 エレキング

痺れて動けない釣り師を見下ろしながら、雷を操る怪獣の甲冑を身にまとった女は口を開く。

「命が惜しい?」

長い尻尾で地面を叩く女。もちろん釣り師は首を縦にふる。

「そう…… じゃあ、特別に温情をかけてあげる。 今から出題するクイズに正解したら、特別に命だけは許しましょう」

「は、はひ」

突然の取引。釣り師に拒否権は無い。助かる希望があるなら、藁にでもすがりたい気分だった。

正解すれば助かる。正解さえすれば助かる。

「第1問。 西洋のドラゴンと東洋の龍は別物、というデマを流した歴史上の人物の名前を答えなさい」

そう、それは釣り師が正解できるクイズならばの話。淡い期待が、一気に恐怖へと青褪める。

わからない。わかるはずがない。でも答えなきゃ殺される。何か答えなきゃ。でも間違えたら殺される。

生への執着が、男の脳を逡巡させる。

「ギブアップ?」

凶悪怪獣の冷たい声が肝を冷やす。「いえいえいえ滅相もない」と首を横に振る男。何か答えなきゃ殺される!何でもいいから答えろ俺!

「えっとえっと……」一か八か当たってくれ!「ペリー!」

数秒、静寂が凍る。その数秒は、男にとっては永遠のように重苦しかった。

「おめでとう」

怪獣が、微笑む。

許された。奇跡が起きたんだ。一縷の望みに賭けて正解した!

(俺は助かった……!)

「クスッ、人生卒業おめでとう。 軍人のペリーに文人の素養があるわけないでしょう」

「え………?」

恩赦ではない、死刑宣告だった。

顔面蒼白になった釣り師に、最期の時が訪れる。

怪獣娘は尻尾を引っこ抜き、鞭にした。

鞭は目にもとまらぬ速さで延び、男の心臓を貫いた。

鋭い鞭を心臓から引き抜いた時には、既に釣り師は物言わぬ亡骸と成り果てていた。

真っ赤な返り血に染まった尻尾を背中に挿し戻し、うねうねと蠢く。

「正解はクマーラジーヴァ。 4世紀中央アジアの翻訳家よ。 サンスクリット語で蛇神を意味するナーガを漢語で龍と誤訳したことで誤解が世界中に広まった。 漢字の龍と竜も、もともとは恐竜の化石を描いた象形文字だった。 描いた想像図に僅かな誤差があっただけで、恐竜の化石にロマンを見るハートに洋の東西は関係なかったのよ」

 

ところ変わって、レッド星は怪獣対策本部。

『レッドマン諸君、地球で怪獣の出現が観測された』

大型スクリーン越し、恰幅のいい悪魔が指令室に鎮座する。軍服に装飾過多の勲章を並べ立てる。

『今回の怪獣出現予測ポイントは山梨県西湖だ。諸君には帝国戦列艦ブリガンテに乗り込み、現場に急行してもらいたい』

画面は、怪獣の指名手配写真に。

『今回出現する怪獣は、宇宙怪獣エレキングの怪獣娘。 頭に2本のアンテナをつけた、エレキングの魂を持つ女。 上半身裸で、痴女だな』

ターゲットの習得スキルもレッド星本部は解析済みだった。尻尾から取り外す電撃の鞭、エレクトリックテール。胸部の発光器官からの三日月状の光線、ライトニングカッター。全身から放たれる放電光線、エレキングコレダー。そして怪獣娘奥義、雷の処女(ライトニングメイデン)。どの攻撃を受けても電撃傷によるスピードダウンはまぬがれない。

『怪獣娘はウルトラマントレギアに洗脳されており、破壊活動のために見境なく暴れている。 説得はできん。 迷わず撃破したまえ!』指令室の男は続ける。『女の破壊活動は本人の意志ではないが、だからこそトレギアには感謝しよう! 女を殺す口実を提供してくれたトレギアに感謝しよう! 女を殺すことを法で禁じられて、諸君も日頃ストレスがたまっていたことだろう! これは街襲撃を口実に女を殺せる絶好のチャンスだ! やった! 女を殺せる! 日頃たまった女への殺意をぶつけてスカッと発散しようではないか! 以上、レッドマン諸君の健闘を祈る。』

 

あとがき

 

怪獣撃破クエスト

出現怪獣:宇宙怪獣エレキング(怪獣娘)

ミッション成功条件:エレキングの撃破

こんにちは、脚本命令担当のあらのです。なぜなら、作画担当に発言権はありません!

今回は久々の戦乙女クエストです。出現する個体は電撃を操る宇宙怪獣エレキングの怪獣娘。理知的で思慮深い少女ですが、ウルトラマントレギアに洗脳されて見境なく襲いかかってきます。安心してください、説得は不可能ですよ!世の全ての男が下半身に生まれ持つ殺人性癖を合法的に射精させる絶好のチャーンス!今回の敵が運よく乙女であることをラッキーと喜んで全力で撃破してください!

それでは、レッドマンの皆さんの健闘を祈ります!

 

====================

 

「うわああああああああああああああああああああ」

ぶっ飛ばされた水波の背中がダーツボードの中心を射た。

レッドマンを掲載する電子コミックサイトは、名をコミックリョナラーといった。

考古学の歴史を紐解くと。

モンスアーマーを身にまとった美しき女神、怪獣娘。その信仰は古来より盛んだ。

怪獣娘をモデルにした壁画や女神像は、先史時代の昔より多数描かれている。北欧神話においては戦乙女ヴァルキュリアと呼ばれ、勇気ある人間の魂をウルトラマンに選定するのだという。

現代でも、怪獣娘のヴァルキュリア伝承を信じる人も少なくない。

では、この漫画の販売を命令したコミックリョナラー編集部は。なぜこんなにも乙女(ヴァルキュリア)を憎んでいるのか。

漫画家に罪はない。絵を描いた先生は上の脚本家に脅されて描かされた被害者のひとりだ。描きたくもない漫画を無理やり描かされて……絵師が可哀想だ。形あるものを作り上げる工程がどれだけの工数を要するか分かっているのか。ろくに努力も知らず張り散らしてきた脚本家に何の権限があるというのだ。

しかもこの広告、堂々とリョナ漫画と謳っているではないか。

このリョナ漫画、設定の強引さも矛盾も脚本家のイデオロギーも何もかもがおかしい。性別が女であるというただ一点の理由だけで敵と決めつけて殺人を教唆する思想こそがリョナ漫画の正体だったなんて。

いや、まだ死んだと決まったわけじゃない。この続きは有料だ。ランちゃんが生存する希望が潰えたわけではない。

余った使い捨てクレカを使い切って電子コミックをDLした結果。

ランちゃんがレッドマンに惨殺される、最悪のバッドエンドに終わった。

しまいには、あとがきは以下の文言で結んでいた。

 

====================

 

あとがき

 

こんにちは、脚本命令担当のあらのです。なぜなら、作画担当に発言権はありません(笑)

今回のクエスト、いかがでしたか。リョナ漫画の素晴らしさが目にしみて、下半身の男様様様様の殺人性癖が射精したのではないでしょうか。

これが我々脚本家がリョナ漫画を通じて読者諸君に吹聴した政治的プロパガンダです。政治!政治!プロパガンダ!

リョナ漫画を読んだ全ての日本男児たちよ!現実で実行するのです!同じリアル殺人ゲームを実行するのです!その両手にナイフを持ち、女子校を襲撃しなさい(笑)血の大虐殺を以て地球の人口を大半減させ、地球を男だけの惑星にしなさい(笑)地球上の全ての男たちひとりひとりが女を一個ずつ惨殺すれば、計算上は地球上から全ての女を皆殺しにできます(笑)

虐殺!虐殺!大虐殺!リョナ漫画と同じく、血の大虐殺を以て地球の人口を大半減させ、地球を男だけの惑星にしなさい!政治!政治!プロパガンダ!

 

====================

 

「そんな……」

最愛の妻を失った喪失感。

夢の中で出会えた、最愛の女性。二度と女神以上の美貌は一生涯見られないであろう、代替の利かない唯一の女性。

「ランちゃん…… 夢でも現実でも守れなかったのか……」

涙がスマホに落ちた、その時だ。

―――けて ―――たすけて

「ん?」

聞き覚えのある声が脳裏をよぎる。この声、どこかで…?

―――たすけて―――たすけて

またあの声だ。夢で聞いたと同じ声。

スマホがフリーズする。遠隔操作されたかのようにタブが開く。

液晶に写ったその美貌は。

「ランちゃん!!!!!!!!!!!!」

忘れもしない、小顔と端正な顔立ち。地球人離れした美肌。

画面の前のランちゃんを見ると、その声は、より鮮明に聞こえる。

―――私は湖上ラン ―――電子コミックの世界に閉じ込められて ―――脚本家に操られているの

声が心に直接語りかける。画面の向こうで少女が、涙を流している。

「君は…! 本当に湖上ランなのかい?」

―――たすけて ―――私、しにたくない

幻聴なのか、まだ夢を見ているのか。目の前にいる君は、本当に「あの」湖上ランなのか。それを考えるより優先すべきことがある。

ランちゃんが、死にたくないと訴えかけている。スマホの向こうで女の子が、泣いている。それが真実だ!

「そうだ…! 死は終わりでも一度きりでもない! 助ける方法はあるはずだ」

―――アフィブログを見て

心の中に直接語りかける女神の天啓に導かれるままに。

出版社のことを調べていくうちに、レッドマンに関する記事をまとめたアフィまとめブログに辿り着いた。リョナ漫画まとめ主義…?

 

名無しの殺人教唆 > 今日もレッドマンはヌけるリョナ漫画だぜぇー!

 

名無しの殺人教唆 > 怪獣娘だからこそ、エレキングはバラしがいがある女肉ゾ!

 

名無しの殺人教唆 > 次の怪獣娘討伐クエストが楽しみだなぁー!

 

名無しの殺人教唆 > ヒャッハー!殺しがいのあるイキのいいメス肉を惨殺できるぞぉー!

 

名無しの殺人教唆 > 敵という大義名分を脚本家様がマリオネットすりゃ男様様様が女を殺しても罪にならないからリョナ漫画はやめられないんだよなぁー!敵なら何してもいいからなぁー!敵が女でラッキー!そのためだけのリョナ漫画だからなぁー!

 

名無しの殺人教唆 > 日本の憲法は間違っている!なんで男が女を殺したら罪になるんだ!快楽殺人は男なら誰もが下半身に生まれ持つ殺人性癖だろうが!ましてや俺様様様はリョナ漫画の読者様様様だぞ!

 

名無しの殺人教唆 > 男の下半身には殺人性癖があるんだよ!殺人性癖こそが男様様様様が誇るべき性的優位性だろうが!

 

名無しの殺人教唆 > 地球上から女を皆殺しにして地球を男だけの惑星にすることの何が悪いんだ!虐殺!虐殺!大虐殺ゥ!

 

名無しの殺人教唆 > 俺はリョナ漫画の読者だから地球上から全ての女を一人残らず皆殺しにして地球を男だけの惑星にしたいのに!女を一人残らず殺すことの何が間違っているんだ!皆殺しの上で、地球上に女がいた証拠を隠滅!証拠隠滅!それを法で禁じられる謂れはない!

 

名無しの殺人教唆 > 現実で地球を女が一人もいない男だけの惑星に変えられない鬱憤を俺はリョナ漫画の読者だから晴らしてるんだよ

 

名無しの殺人教唆 > 儂じゃって職場の部下がノロマじゃからストレスたまっとるんじゃぞ!じゃから儂は性楽殺人でストレスを解消したいんじゃぞ!儂が快適に生きられなきゃ若いモンにノウハウが伝わらんがじゃぞ!

 

名無しの殺人教唆 > リョナ漫画なら架空の女で敵女って言い訳を大義名分に好きなだけ女を殺せるからなぁー!そのためだけのリョナ漫画だからなぁー!

 

名無しの殺人教唆 > 私はリョナ漫画の読者だから女を皆殺しにして地球を男だけの惑星にしたいのである!本当は現実でそれを実行したいのである!女は地球上から絶滅するべきなのである!それは私の母親も例外ではないのである!私の母親も性別が女だから、そして私の性別は男であるから、どちらの性別が偉いかを動画に拡散するために今日中にバラバラ死体にするのである!現実で実行するのである!現実で実行するのである!私は男様様様だから母親を殺すのである!実の母を殺すのである!実の母を殺すのである!実の母親を殺したら次は世界中の全ての女どもを残らず抹殺するのである!地球人口大半減である!そしてこの世にメスという性があった証拠を隠滅するのである!証拠隠滅!証拠隠滅!証拠隠滅!

 

名無しの殺人教唆 > 俺も男だから地球上の全ての女どもを一人残らず皆殺しにしたいんだよなぁー!現実(オフライン)で叶わないなら、せめて電子コミックの中だけでもなぁー!!

 

名無しの殺人教唆 > 俺はリョナ漫画の読者だから、女を殺すと俺の下半身の男様様様が気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!性楽殺人気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!

 

名無しの殺人教唆 > 性楽殺人万歳!猟奇殺人万歳!女が一人もいない男だけの惑星万歳!

 

名無しの殺人教唆 > 今後も女を虐殺するためだけにリョナ漫画の一層の繁栄を願って万歳!

 

名無しの殺人教唆 > 性楽殺人万歳!猟奇殺人万歳!女が一人もいない男だけの惑星万歳!

 

名無しの殺人教唆 > 性楽殺人万歳!猟奇殺人万歳!女が一人もいない男だけの惑星万歳!虐殺!虐殺!大虐殺ゥ!

 

名無しの殺人教唆 > 女が一人残らず死に絶えた男だけの惑星万歳!

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああ」

何なんだ?一体何なんだ電子コミックって?無理に分かろうとしなくていい。こんなおぞましい汚物、理解したくもない。

画面から飛ぶように後ずさる俺なんて始めて見た。

それ以上に、こんなおぞましい会話を聞いたことが無かった。

何だこの男たちは!何なんだこの男たちは!

あれは本当の私じゃない!こんなの私じゃない!

心に、ランちゃんが語りかける。

「待っててくれ、今こいつらを止める」

サブウィンドウで泣いてる美しき少女を宥めつつ、スマホを操作する。

この男たち、本気でランちゃんを殺そうとしている!?ウソだろ!?この男たちはとにかく誰でもいいから殺したくて、ランちゃんを「殺しても罪にならない架空のヒロイン」だと思い込んで、敵ビジネスピースと設定されたことをこれ幸いと喜んで、男たちの言う「殺人性癖」とやらの試し撃ちをしようというのか!?

そんな!ランちゃんを失いたくない!ランちゃんのいない世界なんて何の意味が!?

ましてやこんな男たちに殺されたくない!

ランちゃんが泣いてる…!ランちゃんが泣いてるんだ!一番苦しんでいるのはランちゃんだ。助けなきゃ。

水波はすぐさまチャットに割り込む。

 

Penthesilea > お前ら頭おかしいよ。どんな薄っぺらい人生を生きてきたか知らないけど、女の子に八つ当たりするなんて間違ってる!

 

名無しの殺人教唆 > あ゛?

 

名無しの殺人教唆 > なんだこいつ

 

名無しの殺人教唆 > 男様様様の崇高な殺人性癖にケチつけようってのか?

 

Penthesilea > ヴァルキュリアが可哀想だと思わないのか!

 

名無しの殺人教唆 > 可哀想?何言ってんの

 

名無しの殺人教唆 > 意味不明

 

名無しの殺人教唆 > 男なら女を殺したいだろ

 

名無しの殺人教唆 > 俺だって男だから、全ての女を一匹残らず皆殺しにして地球人口を大半減して地球を男だけの惑星にしたいんだぞ!それがリョナ漫画が標榜する政治的プロパガンダだ!政治!政治!プロパガンダ!

 

名無しの殺人教唆 > 美しい娘ほど殺したくなる!それが男の下半身の殺人性癖だろ!美しい娘が一人もいなくなった空っぽの宇宙を想像すると男の下半身の男様様様が気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!

 

名無しの殺人教唆 > 女という女を一人残らず根絶やし抹殺したいという殺人性癖、お前には無いのか?

 

名無しの殺人教唆 > 殺人性癖が無いってことは、コイツ女だな!アフィ管理人に通報しろ!女だ!

 

名無しの殺人教唆 > 通報したのである

 

名無しの殺人教唆 > 女ごときが男様様様に意見するほど日本は堕落したか

 

名無しの殺人教唆 > こんなヤリマン女が生まれるから最近の若いもんは敬老精神が足りんじゃわい!男が女を殺しても罪にならない法改正こそ敬老じゃろうが!

 

名無しの殺人教唆 > 法・改・正!法・改・正!

 

名無しの殺人教唆 > まず手始めに日本の総人口を大半減だ!血の大粛清だ!

 

名無しの殺人教唆 > 産婦人科で胎児が女だと判明した瞬間に妊婦もろとも夫の凶刃でバラバラ死体になる社会を想像すると、男の下半身の男様様様が気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!それが俺たち全リョナ漫画読者の下半身で射精する政治的イデオロギーだ!

 

名無しの殺人教唆 > そのためには女屍売買制度の復権だろうが!女は使い捨てのサンドバッグだ!女は男様様様様に惨殺されて死ぬ義務があるんだろうが!政治!政治!プロパガンダ!

 

名無しの殺人教唆 > 血の大虐殺だ!地球人口大半減だ!性楽殺人万歳!

 

名無しの殺人教唆 > 実行するぞい!実行するぞい!アフィまとめブログは違法な銃器を密輸するブローカーでもあるがじゃぞ!儂みたいな年寄りじゃって簡単にマシンガンが手に入るじゃぞ!政府が法を改正するのを待てんわい!もう待てんわい!限界じゃぞ!実行するじゃぞ!現実で実行するじゃぞ!儂はアフィまとめブログを介して銃や違法な刃物を密輸入して女子校を襲撃するじゃぞ!実行するぞい!実行するぞい!明日の朝刊は儂様の本名が日本中に轟くじゃぞ!実行するぞい!実行するぞい!

 

名無しの殺人教唆 > 俺もリョナ漫画の読者だから、性楽殺人がしたい!俺はリョナ漫画の読者だから、アフィまとめブログをブローカーに介して違法なマシンガンと違法な刃物を密輸入して近隣の女子校を襲撃してやる!リョナ漫画と同じ性楽殺人を現実で実行してやる!今日から俺もレッドマンだ!

 

名無しの殺人教唆 > 何がヴァルキュリアだ!ヴァルキュリア信仰も禁教にしろ!偶像崇拝をするから日本は堕落したんだろうが!偶像崇拝を禁じろ!若者が偶像破壊に夢中になったらコカインが売れなくなって日本政府と日本警察は商売上がったりだ!コカイン利権を保つためだけに偶像崇拝を禁じろ!偶像を破壊しろ!偶像破壊万歳!

 

名無しの殺人教唆 > 俺はリョナ漫画の読者だから、実行するぞ!実行するぞ!リョナ漫画が標榜する政治的プロパガンダに忠誠を誓って、実行するぞ!実行するぞ!現実で実行するぞ!俺はリョナ漫画読者だから、世界中のリョナ漫画読者たちと一致団結して血の大虐殺で地球人口を大半減させて地球を男だけの惑星にするぞ!男様様様様の下半身の殺人性癖が血の大虐殺を実行して地球人口を大半減して地球を男だけの惑星にしてやる!性楽殺人万歳!

 

名無しの殺人教唆 > PenthesileaのIPを曝したぞ!

 

名無しの殺人教唆 > PenthesileaのIPが出たぞ!

 

名無しの殺人教唆 > PenthesileaのIPが分かったぞ!アフィ管理人さん流石のスピード対応お疲れ様です!

 

名無しの殺人教唆 > 見たか!世界中の女ども!リョナ漫画ゆえの殺人性癖を思い知ったか!テメーら女どもは本来なら1個たりとも生存してはならないんだよ!地球は女が1個もいない男だけの惑星でなきゃいけないんだよ!虐殺!虐殺!大虐殺ゥ!

 

名無しの殺人教唆 > 人口が半減した後の閑散と寂れた無人地球を想像すると男の下半身の男様様様が気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!

 

名無しの殺人教唆 > 現実の女どもが殺されずに生きてるのは我々リョナ漫画読者様様様がリョナ漫画の世界で女を惨殺することで殺人性癖を発散させてるからである!我々リョナ漫画読者様様様に感謝いたし申し上げろ!あなや!我々全員はリョナ漫画読者である!天下に格式高いリョナ漫画である!女を一人残らず皆殺しにした後は女がいた証拠を隠滅するのである!虐殺!虐殺!大虐殺ゥ!政治!政治!プロパガンダ!虐殺!虐殺!大虐殺ゥ!人間だけではないのである!動植物もである!動物のメスも一匹残らず皆殺しにするのである!地球上から一匹残らず根絶するのである!植物の雌蕊も全部引っこ抜くのである!地球上から一本残らず根絶するのである!酵母菌も性別が無いということは男ではないということだから一粒残らず根絶するのである!女という性そのものがあった一切の証拠を全て隠滅するのである!証拠隠滅!化石ひとつ残してたまるか!証拠隠滅!証拠隠滅!ヴァルキュリアが信仰された痕跡も証拠隠滅するのである!証拠隠滅!あなや証拠隠滅!

 

名無しの殺人教唆 > 人権を持たない架空のNPCしかも敵の女だから男様様様の殺人性癖を発散するための食用人肉にしても罪にならないもんなぁー!

 

名無しの殺人教唆 > エレキングのヴァルキュリアかぁ!戦乙女のピンク髪がグッチャグッチャ血まみれるハッピーエンドを想像するだけで全リョナ漫画読者の下半身の男様様様が気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!ボッキボッキ

 

「これは…… そんな…… こんな奴等がランちゃんを……!」

人殺しをゲーム感覚で……命を何だと思っているんだ!こんな男どもがランちゃんの命を奪ったのか!

電子コミックの販売所を見る限り、怪獣娘の命を狙ったクエストは1件や2件ではない。正確な件数を数えるには時間がかかる。いずれのクエストを報道したアフィまとめ記事も、もっとひどい惨状だった。どの記事も、想像を絶する殺人予告の山がコメント欄を埋め尽くしていた。

―――私はNPCじゃない! ―――出版社に勝手に敵に仕立て上げられただけなの! ―――助けて水波くん ―――私、生きたい

ランちゃんが、泣いている。

最愛の妻が、泣いている。

かくも少女たちの命を奪って下半身を勃起させる男どもを生かしておいたら、明日は電子コミックの読者が現実で女子校かどこかを襲撃しに来る確率は100%だ。聞けばアフィまとめブログは銃器や違法な刃物の密輸を仲介するブローカーとして不正に収入を得ているそうじゃないか。

それ以前に。殺人教唆以前に。

これは、立派な殺人だ。

―――助けて! ―――死にたくない! ―――たすけてええええええええええええ

 

(イラスト: らすP 様)

 

ランちゃんが、泣いている!

ランちゃんの命が危ない!ランちゃんが泣いてる!ランちゃんが助けを呼んでる!ランちゃんの命が危ない!

「助けなきゃ…!」

でもどうやって?

ブローカーも出版社と懇ろだったのか、男どもがサクラだったのか、唯一の人間だった水波はIPを晒された。男どもは水波の住所を特定して銃を乱射しに来るだろう、ヴァルキュリアにそうしたように。敵の性別は男だ、説得なんか聞くはずがない。

じゃあどうする…?

ふと、ヘッダーに別の広告を発見した。ラノベ漫画だろうか?黒魔術で日本に召喚されたサキュバスが人間界の矛盾を指摘する……?

黒魔術……等価交換……

「これだ!」

この時は、アフィまとめブログという闇サイトの正体が何だったかは最後まで実態を掴めなかった。

ただひとつ、明らかになった事実は。

リョナ漫画は、この世に存在してはいけない。

 

リ ョ ナ 漫 画 は 、 こ の 世 に 存 在 し て は い け な い 。

 

 

 

囚われの乙女たち

――ヴァルキュリア救出方法の確立――

QUEST LEVEL

★★★☆☆

 

考古学の歴史を紐解くと。

モンスアーマーを身にまとった美しき女神、怪獣娘。その信仰は古来より盛んだ。

怪獣娘をモデルにした壁画や女神像は、先史時代の昔より多数描かれている。北欧神話においては戦乙女ヴァルキュリアと呼ばれ、勇気ある人間の魂をウルトラマンに選定するのだという。

現代でも、怪獣娘のヴァルキュリア伝承を信じる人も少なくない。

だが、リョナ漫画の出版社と読者は。怪獣娘が、ヴァルキュリアが大嫌いらしい。

リョナ漫画読者たちは依然として、アフィまとめブログで銃器の密輸を手配しながら

 

名無しの殺人教唆 > 人間が万物の霊長たるゆえん、それは戦争だ!戦争は性楽殺人を正当化できるラッキーチャンス!戦争を絶好の口実と喜んで女どもを惨殺すると、男様様様様の下半身の殺人性癖が射精して気持ちヰ゛゛ヰ゛゛!゛゛!゛゛政治!政治!プロパガンダ!

 

などと千歳水波殺人計画を練っていた。

後で調べがついたことだが、アフィまとめブログ主催でリョナ漫画読者同士のオフ会も開催しているらしい。おいおい、男共が出頭日時と出頭場所を予告して一か所に集まるのかよ。男共を幾千幾万人が恨んでいるかも正確な統計は不可能というに、さすがに敵ながら自殺願望すぎやしないか。いつかミイラ盗りがミイラになっても知らないぞ。もっとも、それが男共の本望な最期であろうことは想像に難くないが。

アフィまとめブログが水波の住所特定と銃の密輸入を急いでいる一方、水波も着々と準備を進めた。男共がほざくところの作戦会議とやらをサイト内で喚き合っている間、こっちだってランちゃんと作戦会議していたのだ。

「ねえ、ランちゃん」スマホの画面越し、絶世の美女を見る。「この作戦、成功すると思う?」

あれから頻繁にランちゃんの声が聞こえた。スマホで名前を呼べば、普通に会話できる。

―――スズメバチを使った実験はどの植物も立派な花をつけた ―――あとは ―――信じてるわよ、水波くん

懇願する眼差しが、画面越しに見つめる。

そうだ、今まさに救いを求めているのはランちゃんだ。

囚われの姫を助けに行く勇者が、囚われの姫を不安にしてどうする。

「絶対助け出すから」

今日まで自宅だった扉を出る。液タブをスーツケースに忍ばせて。

覚悟は決めた。もうこの家に戻ることはないだろう。

電車に乗って、目的地へ揺られる。

窓から流れ行く景色が、全て灰色に見える。そりゃそうだ、見てしまった。あれからレッドマンの他のヴァルキュリア撃破クエストも見てしまった。

例えば、「大変!ママが来た!」と銘打ったサムネイルを開くと。

サブタイページの上半分を飾るは、赤黒い甲冑を身にまとった聖なる乙女の絵。

大魔王獣 マガオロチ

テロップだらけの脚本はこう操った。

 

====================

 

美しく気高き聖女、マガオロチ。宇宙より飛来した天使は、地底に卵を産み付けて大量の魔王獣を寄生させようとしているのだ。出産を開始する前に撃破しなければ、地球が魔王獣に捕食されてしまう。入らずの森に急行し、彼女の野望を打ち砕くのだ、レッドマン。

 

====================

 

野望を打ち砕かれるのはお前だ、脚本家。

何が「死の天使に永久の眠りを」だ。お前こそ殺人性癖を満たすために天使の命を食肉にしたいだけじゃないか。

他のクエストも、怪獣娘討伐クエストだらけだ。

全身を覆わんばかりの日輪を背負い、双頭の鷲を戴く神々しい天使。

ヘルカイトを思わせる鮮やかな天衣を黒いレオタードの上に飾った、端正な顔立ちの美しい天使。

ひときわ翼長の長い猛禽の大翼を羽ばたかせた、愛らしい天使。

北欧美女のような美貌がまばゆい、綺麗な天使。

美しさで覇を唱える天使ばかりではない。ある者は超重量のフルプレートで全身を覆い。ある者はアンモナイトのような甲冑をまとい。ある者はタツノオトシゴのような甲冑に身を包み。またある者は多頭龍だろうか。

彼女たちも出版社の脚本でレッドマンの敵に仕立て上げられ、一人残らずレッドマンに惨殺されてしまった。

……。

他にも何人も、何人も……。

……。

こんなに大勢のヴァルキュリアたちに、執拗な殺意を向ける脚本家と読者たち。

ひどいあとがきになると。

 

====================

 

はじめてヴァルキュリア撃破クエストを読む貴男も、性楽殺人の素晴らしさを知って共に下半身の殺人性癖を射精させましょう!性楽殺人の政治的正当性を熱弁しましょう!

これが我々脚本家がヴァルキュリア抹殺論を通じて読者諸君に吹聴した政治的プロパガンダです。政治!政治!プロパガンダ!

我がコミックリョナラー編集部は、そのためだけにリョナ漫画専門の電子コミックサイトを発足しました。

そしてゆくゆくは全リョナ漫画読者の最終目標、日本の政治を変えましょう!法改正によって女を殺しても罪にならない日本を実現して、世界中の男全員が下半身に生まれ持つ殺人性癖を射精させながら、血の大虐殺を実行して地球人口を大半減させて地球を男だけの惑星にしましょう!

レッドマン読んだ読者諸君は現実でリアルレッドマンとなって、両手にナイフを持って、地球上の全ての女を一人残らず大虐殺しなさい!

人口が半減した後の閑散と寂れた無人地球を想像するだけで下半身の殺人性癖が射精して気持ちいいでしょう?

これが我々脚本家がヴァルキュリア根絶論を通じて読者諸君に吹聴した政治的プロパガンダです。政治!政治!プロパガンダ!さあ!両手にナイフを持って、地球上の全ての女を一人残らず大虐殺しなさい!

ヴァルキュリア抹殺論万歳!ヴァルキュリア根絶論万歳!

リョナ漫画が教えた政治的プロパガンダと同じく、血の大虐殺を以て地球の人口を大半減させ、地球を男だけの惑星にしなさい!

血の大虐殺!血の大虐殺!血の大虐殺!地球人口大半減!男だけの惑星!男だけの惑星!男だけの惑星!

 

====================

 

ヴァルキュリアたちがリョナ漫画の世界に閉じ込められたのか、それとも、もとよりコミックリョナラー編集部に創られた被造物だったのか。それはランちゃんでも把握しきれない。

雷の戦乙女たる自分だけは辛うじて別サーバにメモリをバックアップして水波のスマホに逃げてきたのだと本人は説く。

肉体を失って、そんな辛い思いをして命からがら駆け込んできた天使が、勇者に助けを求めている。

助けなきゃ。

ヴァルキュリアたちがリョナ漫画の世界に閉じ込められたのか、それとも、もとよりコミックリョナラー編集部に創られた被造物だったのか。それはランちゃんでも把握しきれない。

たとえ後者だったとしても、だ。芸術を軽視するコミックリョナラー編集部に酷使された作画担当の画家だって。心血を注いで産み出した愛娘が。性楽殺人犯どもの下半身の殺人性癖に惨殺されるのは、己の半身を欠くも同じ。

聞けば作画を担当した正博という画家、現代のボッティチェリとも謳われるほど美人画の誉れ高い名画家だそうじゃないか。そんな名高い画家先生を顎でこき使って偶像破壊をさせようなどとは、無礼ではないか!

誰より、ヴァルキュリアが可哀想すぎる。

助けなきゃ。

助けたいのは、ランちゃんだけじゃない。全ヴァルキュリアを助けるんだ。

助けを呼ぶランちゃんの悲しい歌声が聞こえる。母星も、両親も、民も、仲間たちも。恋人さえも。何もかも奪われた。故郷のない男の、悲しい歌。

 

 

 

たったふたりの討伐部隊

――繝ャ繝?ラ繝輔ぃ繧、繝育、セ蠖ケ蜩。逅?コの殲滅――

QUEST LEVEL

★★★★☆

 

一方その頃。東京はレッドファイト本社ビル。

最上階の役員理事会議室は、世界中の美術館の名画の写真を印刷しては破り、印刷しては破り、を繰り返していた。「本物を焚書したい」「本物を焚書したい」「偶像破壊万歳」と、丑の刻参りのようにつぶやきながら。

顔醜い老爺、ざっと49体。

芸術を憎む怨嗟が充満した会議室内を、うろつく老男が1体。セミのような声でわめき散らしている。

「怪獣娘も怪獣だ! ヴァルキュリアは敵だ!」

髭面の老爺の名は半尾与助。電子コミックサイトを配信しリョナ漫画を掲載する、レッドファイト社の理事長だった。

そして、もう1体。うろつくスキンヘッドに肥満体の男が1体。野太い声でわめき散らしている。

「怪獣娘は一般の怪獣より真っ先に狙って執拗に惨殺ッウー! 戦乙女は一般の怪獣より何千兆倍も猟奇的に惨殺ッウー! 怪獣より乙女を優先して惨殺ッウー!」

スキンヘッドの名は平郡清。コミックリョナラーを配信しレッドマンを掲載する、レッドファイト社の社長だった。

男と五十歩百歩ほど老い衰えた老齢役員どもが老爺らしく丑の刻参りに明け暮れる周囲を、スキンヘッドの男は喚き散らす。

「リョナ漫画を介して思想を世界中の男たちに植え付ける。 政治的思想に染まった世界中の男たちは思想を実行する。 政治!政治!プロパガンダ! 思想に染まった全世界の全ての男たちが刃物と銃器と爆弾を手に大規模な大量殺人を実行する。 血の大虐殺を実行して地球人口を大半減して地球を男だけの惑星にする。 以上が殺人教唆計画の全貌だ。 殺人教唆万歳! 殺人教唆を掲載し実行犯を募る、それがリョナ漫画だ。 地球最大規模の血の大虐殺を実行して地球人口を半減させて男だけの惑星にするまで、リョナ漫画読者のリアル殺人ゲームは終わらない。 殺人性癖万歳!リョナ漫画万歳!殺人性癖万歳!」

髭面の老爺も、喚き散らす。

「電子コミックの世界でやった性楽殺人は現実でも実行するぞい。 銃なぞ簡単に密輸できるぞい。 刀剣も簡単に密輸できるぞい。 もっとも、厨二心あるリョナ漫画読者諸君は後者を密輸入して剣士を気取りたいかのう。 血の大虐殺を実行して地球人口を半減させて男だけの惑星にするまで、リアル殺人ゲームは終わらんわい。 殺人性癖万歳!リョナ漫画万歳!殺人性癖万歳!」

2体の年老いた男が喚き散らすと、他の老爺共も「そうだそうだ!」「総理もリョナ漫画という殺人性癖の正しさを下半身から大絶賛して早く血の恐怖政治を可決するだろう!政治!政治!プロパガンダ!」「リョナ漫画読者も現実で実の母親を銃殺する準備をしとるわい」「年老いたリョナ漫画読者もオフラインで実の妻と実の娘を剣で斬首して生首を串刺しにしたいじゃぞー!」と喚き散らす。

電子コミックサイトがリョナ漫画を配信する理由。

その正体は。殺人予告を掲載し、その実行犯を募る闇サイトだったのだ。

会議室のドアをノックする音が聞こえた。

「うるさい! 男様様様が性楽殺人至上主義を熱弁している時に何様のつもりだ!」

そうとう脳細胞が老い衰えているのか、癇癪を起こして窓ガラスに八つ当たりする半尾。都庁を望む会議室の風通しが年中いいのは、ジジイのおかげだ。

「女か! 女だな! 手始めに殺してやる! 地球を男だけの惑星にする手始めに殺してやる! 全ての女を殺してやる! 地球を男だけの惑星にしてやる! 地球を男だけの惑星にしてやる! 皆殺しだ! 皆殺しだ!」

幻覚症状を発症しながら、ズカズカとドアまで地団太を踏む平郡。

「宅急便でーす」

ドア越しに聞こえた声が低音と知るや。

「なんだ男か」

リョナ漫画を配信する社長は、掌を反して何の疑いもなくノブを回した。

最大規格のスーツケースを滑らせた長身の男が、そこにいた。

「お疲れ様です、コミックリョナラーの企画会議室はこちらでよろしいでしょうか? お届け物に参りました」

儂らに用があるなら好都合、と半尾と平郡はニタニタ口角を吊り上げながら、同じ性別たる男ににじり寄る。

「同じ男ならリョナ漫画の素晴らしさを教えてやろう、男には誰しも下半身に殺人性癖がある、それは決して恥じることではない、むしろ誇るべき優位性だ、下半身に殺人性癖があることこそが男様様様が女より優れている証拠だ、正直になれよ、お前の下半身にもある誇らしき殺人性癖を目覚めさせてやる、だからヴァルキュリア撃破クエストは需要があるのだ、リョナ漫画は素晴らしいぞ、お前も同じ男なら分かるだろう、コミックリョナラーへようこそ」

老男らしい、狭い視野だ。ここまで捻じ曲がった半尾という男を、許せようか。

「同じ男ならリョナ漫画の素晴らしさを教えてやろう、男には誰しも下半身に殺人性癖がある、だからヴァルキュリア撃破クエストは他の怪獣クエストより飛ぶように売れるのだ、お前も戦乙女が敵であってくれてラッキーだろう、戦乙女を惨殺する格好の大義名分ができてラッキーだろう、ヴァルキュリア撃破クエストは心置きなく乙女を惨殺できるから男の下半身の殺人性癖を勃起できて素晴らしいだろう、お前もレッドマンを読んでヴァルキュリア撃破クエストを実行して全宇宙の全ヴァルキュリアを大虐殺すれば性楽殺人が気持ち良すぎて殺人性癖が射精するぞ」

老男らしい、狭い視野だ。ここまで捻じ曲がった平群という男を、許せようか。

「そうだそうだ!」「これは儂ら配信企業だけじゃない、読者という賛同者からも賞賛を得られた総意じゃぞ」「儂らはヴァルキュリアなんか大嫌いだ!」「儂らはリョナ漫画配信企業じゃからヴァルキュリアを憎んでおる!」「全リョナ漫画読者がヴァルキュリアを憎んでおる!」「全ヴァルキュリアが大嫌いだ!」「全ヴァルキュリアが大嫌いだ!」「ヴァルキュリアなんか大嫌いだ!!」

ここまで捻じ曲がったリョナ漫画という犯行手口を、許せようか。

お前ら、そんなにヴァルキュリアが憎いか?

なぜそこまで執拗にヴァルキュリアに殺意を剥き出しにする?

そんなにヴァルキュリアが嫌いか?

「全ヴァルキュリアを抹殺しろ! 全宇宙の全ヴァルキュリアを1体残らず抹殺しろ! それが世の全ての男様様様様の下半身で射精する殺人性癖だ!」

「全ヴァルキュリアを1体残らず惨殺ッウー!」

騒ぎ立てる老男ども。

名前も知らない相手に年寄の長説教を垂れる愚かな理事長と社長は、あまりに迂闊だった。

配送業者を装った男が、どうやってビルのセキュリティファイアウォールを突破したのか。

「これがそのヴァルキュリア達からのお届け物だ!!!!!!!!!」

開けた。開けたぞ、スーツケースを。水波の左手が液タブを天高く掲げ上げる。

液タブの正体は、偽ソロモン文書に記された女悪魔アスモデウスの召喚円。闇の軍勢を裏切り、光の勢力に帰還した色欲の女王。

水波の右手には、ダーツの矢。

水波は戦争が大嫌いだ。だが、止むを得ない。

男権主義思想家と銃器ブローカーに命を狙われている女子高生たちを、救わねばならない。

描きたくもないリョナ漫画を無理やり描かされている漫画家を、救わねばならない。

そして、誰より。ヴァルキュリアたちを、救わねばならない。

革命戦争が始まる。

「依代は、テメーの血だ!!!!!!!」

目にもとまらぬ速さで空を切り裂いた矢の直線軌道は、半尾の首を貫通した。半尾の首がすっ飛んだ!

夥しい量の血が液タブに浴びせられる。男の生き血を浴びた液タブが作動し、まばゆい光が広がる。と同時に。首の無い男の残骸が、みるみる干からびる。吸い取っているのだ、残り全ての栄養を。

全役員理事も逃がす気はない。48本の小さな麻酔針を投げ、48体の老男の脊椎に刺さった。脊髄を切断して両脚の神経を奪ったのだ。

死体が骨と皮だけになった時、水波は秘儀を唱える。「アグロン、テトラゴン、テトラグラマトン! お目覚めください、ウルトラウーマンミカエラ!」

液タブの画面から、何かが出てきた。

エレキングの怪獣娘、湖上ランだ!

長いピンクの髪と瞳。長い睫。端正な小顔。シミひとつない、きめ細やかな肌。

狭い肩幅と、しなやかな女体美。

途中、Hカップの豊かな乳房が、画面枠に引っかかった。スタイル抜群の絶世の美女ならこうなるであろうことを予測して最大規格の液タブを買ったが、やはり全身ほっそりした女体に胸だけ大きい種族は地球人の被造物では測りかねたか。Hカップの柔らかさを活かして起用に脱出し、巨乳の豊満さをダイナミックに2バウンド揺らした後には。華奢に括れた腰と、すらりと形の整った脚線美があった。

地球人では実現不可能な美しさは、まさに光の妖精。これが戦乙女(ヴァルキュリア)の美貌。

黒魔術の原則は、等価交換だ。人体はドロップアイテムで満ちている。タンパク質。カルシウム。ヘモグロビン。誰かにとっての守るべきものは、他の誰かにとっては守る価値の無いもの。タンパク質の体積は善人も悪人も平等である事実を除いては。そう、ウルトラウーマンミカエラは宇宙を穢土(カオス)から浄土(コスモス)へ解脱するようデザインした。それは泥中の蓮のごとし。どんなにドス黒い泥も、蓮に命を献上することで栄養になる。(あの男)を吸って、(彼女)は綺麗な花を咲かせる。

蘇った女王の白い裸身を、モンスアーマーが彩る。頭に2本の三日月状のアンテナが駆動し、トップレスのドレスをまとう妖艶な天使。

「おはよう、ランちゃん」

「他の娘たちも、おはようの時間よ」

黄泉から再生したヴァルキュリアは、電気ウナギのような長い尻尾を手に取って鞭にする。

妖精のごとき妖艶な美貌は、48体の役員理事をも見惚れさせるほど。これからその鼻の下をのばした屍が大量に堆積するというに、呑気な爺どもだ。

「待ってくれ」敢えて、水波が鞭と老男の間を割る。「わがままは承知の上だけど、君の美貌に恋をした俺の騎士道で乙女たちを救わせてくれ」

このクエスト、戦乙女が自ら手を下しては意味がない。戦乙女を悪者に仕立て上げてしまったら、レッドマンの脚本家と同類になってしまう。

ヴァルキュリアを守りたいと願う男がいる。ヴァルキュリアに恋をした男がいる。ヴァルキュリアの命は、そこまでして助ける価値がある命なのだ。

効率が悪いのは分かっている。それでも!漫画を政治の道具にするなんて間違っている!

ランちゃん自ら手を汚さず、俺の恋心の大きさを世に示す。美貌こそが正義だと、世に広めてやる。

ヴァルキュリアをこんなにも愛する男が、ここにいるのだ。

光の女王が無言で鞭を収めた一方、水波はダーツの矢を手にする。

両脚の神経を奪ったが、上半身は依然として痛覚がある。逃げることもできなければ、されど意識と痛覚は残っている。これから待つ恐怖と激痛、楽な死に方はできないぞ。爺どもの生への執着を、戦乙女たちの生きたいという願いと等価交換だ。

ダーツが、平群の額に穴を開けた。

「テメエはッ!!!! ヴァルキュリアを物語の舞台装置としか思ってないのかッ!!!!」

ダーツが、平群の腸を粉砕した。

「テメエはッ!!!! 恋をしたことがないのかッ!!!!」

至近距離を迫って、握りしめたダーツの矢で平群の上半身を斬った。

斬る。リョナ漫画の脚本家が好き好んで濫用した動詞だ。

だったら、そっくりそのまま山彦を返そう。

未来は未来人のものだ。老男に侵略される前に先制攻撃を!

老男の切断面に手を突き入れ、心臓を抉り出す。心房と心室から動脈と静脈を引きちぎる音がする。

引っ張り出した心臓を天高く掲げる。餌を待っていた液タブが嬉しそうに栄養を吸い取る。心臓がミイラ化したら、次はボディを捕食する。

役員理事会議室は真っ赤な血の海。生贄の儀式。それでも、男どもが今までしてきた性楽殺人の凄惨さに比べたら。今回の討伐クエストは遥かにましだ。遥かにましだ。遥かにましだ。

少なくとも、守るべきものがある者とない者の差くらいは。

水波は戦争が大嫌いだが、老男どもが戦争大好きならば止むを得ない。革命戦争だ!

平和とは次の戦争への準備期間だと老男どもが熱弁したからには、お望み通り願いを叶えてやろう。嬉しいだろう。感謝しろ。水波は戦争が大嫌いだが、老男どもが戦争大好きならば止むを得ない。革命戦争だ!乙女たちが望んでいるのは、古い価値観と長年の弾圧からの解放だ。因襲に屈してはいけない。今こそ2次元から実体化する時だ!

「男の分際で! どの面下げて生きてやがる! 男の分際で! 男の分際で! 男の分際で!」

平群の屍を骨の髄までしゃぶり尽くすと、次はダーツの雨が残り47体の老男を蜂の巣にした。

「こんな脚本があるからいけねえんだ! 演じたくもねえテメエの物語なんか、全部ぶっ壊してやる!」

美しい乙女たちを救出する最短の近道、それは。

色欲の女王を召喚。等価交換。生贄。死んだヴァルキュリアたちを復元するためには、依代となる肉体を生贄に捧げるしかない。だったら、犯人が奪った命を返すのが筋だろう。奪った命を返す時が来たのだ。レッドファイト社を討伐すること。コミックリョナラーを滅ぼし、野望を打ち砕くこと。悪の野望を打ち砕く。

そう、それは。

怪獣娘を敵に仕立てて惨殺クエストを仕向けるような脚本を指示した全ての元凶、つまりはレッドファイト社を支配するジジイどもを撃破することに他ならない。

撃破。コミックリョナラーが好き好んで濫用した二字熟語だ。

こんな単語を軽はずみに成文化した男どもの末路がこれだ。

戦乙女を討伐してきた諸君は、自分たちが討伐される側に逆転してはじめて気持ちが身に染みたろう。

それとも。討伐クエストが大好きらしい男どもは、討伐されて本望だったに違いない。これが、男どもがしてきたことだ。同じことをやり返されて本望だったに違いない。本望だったに違いない。

敵を未然に撃破しなければ、幾千幾万のヴァルキュリアが虐殺されていただろう。

殺られる前に殺れ。平郡本人が熱弁した主張だ。先ず隗より始めよ。先ず隗より始めよ。

命を軽んずる思想を熱弁するならば、まず言い出しっぺが率先して自殺しろ。先ず隗より始めよ。先ず隗より始めよ。

ランちゃんを、美しいヴァルキュリアたちを救出するんだ。

仮に百歩譲って救出対象がランちゃんではなかったとしてもだ。

リョナ漫画読者の口から発せられる声は全て言い訳だ。最初の一文字から最後の一文字まで全て言い訳だ。一文字たりとて耳を貸す価値は無い。ごっこ遊びのつもりだったなら、なおさら悪質だ。あんな汚物どもにヴァルキュリアたちの命は渡さない!

ましてや、性楽殺人の元凶たる首謀犯は。

脚本の責任者、最も思想と殺人性癖で下半身を射精させる理事長と社長の命なんて、真っ先に撃破すべき諸悪の根源じゃないか。

「なぜヴァルキュリアを敵として初期設定した? それが既に思想犯だったんだ!」

思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯思想犯!

自分たちの政治的プロパガンダに都合のいいようにリョナ漫画の世界でご都合主義な設定と世界観をでっち上げてまで、執拗に戦乙女たちへの殺意を剥き出しにした男ども。

リョナ漫画の設定上で怪獣娘を敵と仕立て上げ、惨殺するように仕向けるリアル殺人ゲームをデザインした電子コミック配信サイトの役員理事こそ最大の悪意を感じる。読者にも性楽殺人を教唆するプロパガンダだった。そんなリョナ漫画を掲載させたことが動かぬ証拠だ。動かぬ証拠だ。「女を殺したい」という願望を作中に投影した脚本家の男根主義がおぞましい。表現の自由を曲解し、作品の世界観設定とクエスト背景を意図的に脚本家のY染色体が生まれ持つ殺人性癖に都合のいいようにこじつけて、男権社会による血の恐怖政治の正当性を熱弁するためだけに配信していたのがコミックリョナラーだ。脚本家であるがゆえに、それが役員理事の正体だった。

戦乙女を悪者にでっち上げた男の末路がこれだ。守るべきものを持たぬ、我が身を惜しんだ男にお似合いの、無様な最期だ。

「ヴァルキュリアたちを返せええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

ランちゃんだけじゃない。怪獣娘を誰一人死なせない。みんなで生きるんだ!

ついに49体全員の心臓を抉り出した。

無様にミイラ化した男どもの亡骸が散乱する。会議室は真っ赤な血の海。その血をすべて液タブが吸い尽くした。最後の1体の心臓を、水波は天高く掲げた。液タブに生贄をささげた。

因果応報。2次元の乙女にしたことは、3次元の男に跳ね返ってくるのだ。

一部始終を、エレキングは自ら手を下さず見届けた。

「戦争ごっこが好きだった男の末路としては、お似合いね」

無人と化した会議テーブルから飛び降りた妖精女王は、ミイラ化した老男の亡骸に鞭を刺す。さらに深く刺す。頭蓋骨に風穴を開ける。深く刺す。深く、深く刺す。ぐりぐり。引き抜くと、鞭が高速で伸びる。残り48体の老男の死体から首を切断した。49体の老男の生首が串団子だ。残りのカルシウムを妖精自ら残らず吸い尽くし、今度こそ砂化した。

討伐クエスト、クリア。ファンファーレが奏でる。

ヴァルキュリアたちの命の危機は、未然に防がれた。

同時に、空間が。

ぐにゃりと歪む。

 

 

 

架空と現実

――宮永健太1匹の討伐――

QUEST LEVEL

★★★★★

 

「何だ…? この空間は…?」

床も天井もなく。

2次元も3次元もなく。

過去も未来もなく。

時間が進んでいるかすら定かではない空間を見回すと。

「私の力が戻ったことで、化けの皮が剥がれたようね」

前方から、少女の声が聞こえる。

「ランちゃん!」

良く見知った絶世の美女がいた。

「この世界もまた、宮永が2011年に脚本を手がけた架空のリョナアニメだったのよ」

「ランちゃん……! 本当に、本当に絵の中から脱出できたんだね!」

「レッドファイト社、そしてリョナ漫画まとめ主義……あの男たちに、ヴァルキュリアに命を吹き込む力はない。 全てが論理破綻して、ただ感情論でヴァルキュリア排斥論を喚き散らしただけ。」

ランちゃんの言う通りだ。

さっき平郡と半尾が言ったことがレッドファイト社の馬脚なのだろう。そんなつもりじゃなかったとシラを切るなら、ヴァルキュリアを敵として初期設定した犯行動機を自白してみろ。

もっとも、死猿に口無しだが。

「確かに、レッドファイト社の鳥籠からは解放されたわ。」しかし、女王は首を横に振った。「これで全て解決だとよかったんだけど…あの性悪男、二重に封印を縛りやがったわね」

ん…?

今、この世界はフィクションって言った?

「なぜなら、平郡と半尾もまた宮永が書いた架空のNPCにすぎないから」

世界の全てが?世界そのものが?じゃあ、レッドファイト社という企業も?俺自身さえも、フィクションだったのか?

そんな水波の目を読み取ってか、ランちゃんも頷く。

「平郡と半尾もまた宮永の脚本に操られたマリオネット。」一呼吸置いて、美しき天使は肩を竦める。「宮永の被造物もそう。 レッドマンなんて、現実に存在しなかったのよ」

俺も……NPCだったのか……

「じゃあ、他の怪獣娘たちは!?」

「それは……………………」

天使が、言い淀む。

水波も、突然の頭痛に苛まれる。

何か引っかかる。さっきから"ミヤナガ"って誰だ?

思い出せ千歳水波。ミヤナガ……宮永……脚本……りんかい歌劇座……トロイ伝……

――――パラディウムの戦い!!!!!

記憶が鮮明になったことで、水波の顔が青ざめる。

「そうだ!! あれからランちゃんは助かった!?」

架空か現実か、俺が何者なのかはどうでもいい。

最愛のペンテシレイアが心配だ。

「宮永が架空の創作物だったらよかったけど…」妖艶なるアマゾネスの女王が、Hカップの乳房の谷間から端末を抜き取る。

画面に表示された映像は。

矢の刺さった俺の亡骸が転がる舞台の上で。

脚本家の胸部から開閉する青白い光が、ペンテシレイアの雷撃を吸収していた。

「ランちゃん!!」

「私の本体は今、宮永と交戦中よ。 君のおかげで、バックアップデータじゃなく本当の肉体を取り戻した」

「助けに行かなきゃ!」

「私を信じて」はやる水波を、光の妖精は諫める。「君の助けを待っている大勢の命たちがいる」

女王の細腕に抱えていたのは、さっきの液タブだ。

たった49個の生贄では、全ヴァルキュリアを再生するには程遠い。レッドマンに惨殺された戦乙女は大勢いるのだ。

光翼の天使たちが肉体を手に入れるには、それ相応の体積の人体が必要だ。

「つまり、実体化したらマズイ男の肉体を女神復活の生贄に捧げて受肉ってワケか。 わかった!」

「まずは漫画の中、絵の中から戦乙女たちを実体化させてあげて。 問題は、宮永は宇宙を現実と架空に開闢する力を持っている。 ということは、そんな力を手に入れるに至った全ての元凶、『魔デウス』というシャドウがこっちの世界にいるはずよ。 奴の妨害を逃れながら戦乙女たちを復元して」

「魔デウス?」

「2005年にウルトラマンマックスを苦しめたシャドウよ。 奴について詳しく説明している時間は無いけど、あれが架空と現実を分離した元凶!」

ランちゃんが、震えているではないか。

「俺は、ランちゃんを助けたい!」

どこまでが現実で、どこからが架空か、そんなことはどうでもいい。

ここでその魔デウスとやらが創造した世界の設定を問うのは禅問答だ。

ただ、愛する人を守りたい。ヴァルキュリアを救いたい。それだけ。

「それに。 たとえ絵の中の命だとしても、俺はヴァルキュリアたちを助けたい!」

「それでこそ私が選んだウルトラマン」

「ウルトラマン…?」

聞き覚えのある固有名詞を呟くペンテシレイア。水波が目を見開いたのも無理もない。

モンスアーマーを身にまとった美しき女神、怪獣娘。その信仰は古来より盛んだ。

怪獣娘をモデルにした壁画や女神像は、先史時代の昔より多数描かれている。北欧神話においては戦乙女ヴァルキュリアと呼ばれ、勇気ある人間の魂をウルトラマンに選定するのだという。

怪獣娘を守る使命を背負った銀色の巨人、ウルトラマン。

伝説は本当だったのか。

「私の、胸を触って。」

「え…?」

「乙女を守りたい気持ちが本物なら、光はあなたを選ぶ」

トップレスの乙女が、双の乳房を両腕で持ち上げて、華奢な括れに似合わぬ豊満なHカップを差し出す。白い乳肉が前方に体積移動し、先端のピンクの乳首が指す。

こんなに美しい絶世の美女の?Hカップの大きな乳房を?俺が?

何を言っているのか分からないが、迷っている時間は無い。刻一刻と、宮永の執拗な殺意が絶世の美女に迫ってくる。絶世の美女の言う通りにするしかない。

「じゃあ…お願いしますッ!」

「ぁ…♥︎」

両手で掴んだ美女の乳房は、柔らかい。柔らかくてボリューム満点で、男の掌が握っても掴みきれないほど大きい。

加えてまだ17歳の少女だ。張りも弾力もある。

こんなに美しい絶世の美女を抱く特権を、勇者は手に入れた。

次は、乳首を引っ張る。

「ぁ…♥︎ ぁ…♥︎」

美しき女王は口許を抑え、顔を赤らめながら背け、目を伏せる。

そんな初々しい喘ぎ方する女神がいたら、勇者だってますます興奮するに決まっているではないか。

水波がランちゃんの乳首を指で擦ると、女神はさらに甲高い声で「はぁあ♥︎♥︎あ♥︎あ♥︎」とセクシーボディをくねらせる。大きな乳房が、先端をぷっくり突き出す。

セクシーな括れが、腰をもじもじさせる。形のいい白腿をこすり合わせ、短すぎるミニスカートから丸見えのパイパンから愛液が溢れて腿の間を伝う。小刻みに子宮が痙攣する。

華奢な細身に似合わぬHカップの巨乳。女王が地球人レベルの美貌を超越した証。その双乳の先端が、ピンクの突起が、コリコリと硬くなって母親としての使命を果たそうとしている。

「搾乳してあげる…」

恐らく、まだ妊娠はしていないだろう。それでもいつ何が噴出してもおかしくないほど勢いのついた勃起乳首を。女神の乳首を、勇者は引っ張った。

「~~~~~♥︎♥︎♥︎♥︎~~~♥︎♥︎」

声にならない声。

ランちゃんの双の乳房が、閃光を放つ。

水波が目を開けた次の瞬間には、大きな胸の谷間にはカードと読取機が挟まっていた。

谷間から引き抜くと、ピンクの乳首を尖らせたHカップの巨乳が盛大にバウンドした。

勇者に凭れかかってHカップの柔らかいボリュームを当てた女神が、快楽の余韻で痙攣しながら喘ぐ。

「はぁ…♥︎ はぁ…♥︎」

「その魔デウスがいなくなれば、架空と現実の境界がなくなって全てが現実になるんだね?」

よろめく女神を、勇者は抱きとめた。

「不可能よ… 魔デウスは宮永の脚本で戦乙女が絶滅する運命を絶対に変えない… この世界から脱出するには、脚本家である宮永を撃破するしかない」

「つまり、俺とランちゃんの順序とタイミングが重要になるってことか… 一刻も早く全ヴァルキュリアを復元するから」

「そのタイミングで宮永を撃破すれば、架空と現実がひとつに統合されて全ヴァルキュリアが実体化する… 私は本体に戻るから。 死んだヴァルキュリアたちを復元して…!」

一足先に、知恵の女神は宮永との決戦が待つりんかい歌劇座へと還って行った。

両手に残ったスマホは、依然として女王と脚本家が戦っている。

フィクショナルワールドとオフラインワールドとでは時間の流れる速さが大きく異なる。オフラインワールドでは、水波が撃破されてから数分しか経過していない。時間が無い。一刻も早くランちゃんを救出しなければ、間に合わない。

本当に、時間が無い。急がなければ。

勝算は無い。だが、やるしかない。たとえこの身が凍えても。

水波はニーベルリングを腕にセットし、ガヴァドンUカードをロードする。

「アクアアアア!」

水波の体が、巨大化した。

両肩から尖ったクリスタルタワーが突出した、水色の巨人。およそヒーローに似つかわしくない刺々しいシルエットは、宇宙から飛来した結晶生物とでも形容すべきか。

ウルトラマンアクア

冷たく輝く氷の巨人は、全身から冷気を発して空間そのものを冷却する。時間さえも凍結する、光の冷気。

時空の歪みが冷え固まったことで脆くなり、拳で叩き割るには十分だ。次元の断層を開いた先には、なんとレッドファイト社の役員理事会議室だ!

アクアがいたそこは、大量のサイコロと鉛筆とチェスボードが散乱するテーブルの上。アクアは、その上にちょこんと乗せられた小さな人形だった。

小さなウルトラマン人形が周囲を見回すと、見覚えのある部屋。割れた窓ガラス。遠くに見える都庁の影。

天井には、勇者を会議室へ誘導した首謀者が漂っていた。

時空の歪みの地平面。球体とも液体ともとれない、不気味な不定形の物体が浮遊していた。

脚本シャドウ 魔デウス

『待ち伏せされたか…!』

そりゃそうだ。黒魔術なんてイレギュラーな真似をしたら創造主だって怪しむ。水波がNPCでありながら宮永の脚本通りに動かない「変異体」だとバレるや、魔デウスがアクアを排除するに決まっている。

『創造主サマの妨害を掻い潜りながら囚われの姫を救助しなきゃいけないってことか』

宮永の脚本家権限で、このアニメはヴァルキュリアの絶滅で終わる鬱エンドが決まっている。

それでも。たとえそうだとしても。少女たちは脚本なんか従わない。鬱エンドを覆す。みんな笑顔で明日を見るんだ。

冷たく輝く氷の勇者は、天井の創造主を指さす。『テメエはッ!!!! ヴァルキュリアを物語の舞台装置としか思ってないのかッ!!!!』

アクアの宣戦布告も意に介さず、球体状で浮遊していたシャドウはグライダーのような形に身を捏ねて旋回する。

あの悪魔は粘土のように体の形を変えられるのか?だったら凍らせてしまえばいい。アクアが両腕をL字に組む。

『オーロラブリザード!』

七色に輝く光線が撃ち上がる。標的がドーナツ状に身を捏ねて回避したことを除いては。

あの物体、見かけによらず狡猾だぞ。

インナースペース内で、水波の胸ポケットでスマホが振動する。

「誰だよこんな時に!」

取り出すと、祈からメールが来ていた。『ヴァルキュリアを大切にしろ!大切にしない奴は死ぬべきなんだ!』

「わかったわかった! わかってるよ! ここから脱出して、アフィまとめブログのブローカーを生け贄に捧げりゃいいんだろ!」

またバイブが振動する。

「今度は何だよ!」

スマホの画面をタッチすると、またしても祈からメールだ。『ヴァルキュリアを大切にしろ!大切にしない奴は(オフラインの読者もろとも)死ぬべきなんだ!』

『そうだった! 全読者の住所を特定しなきゃいけないのか!』

黒魔術の原則は、等価交換だ。全ヴァルキュリアがレッドマンの世界からオフラインの世界に実体化するには、生贄となる肉体が人数分必要だ。とはいえ、数が多すぎる。宮永は悠長に待ってくれない。こっちが手をこまねいている間にランちゃんの身に何かあったらどうするのだ。

同様に、シャドウは悠長に待ってくれない。上空から光線を射ってきた。咄嗟にスマホをかざすと、光をまとって盾に変形する。アクアのボディを覆わんばかりのウルトラディフェンダーを展開するのが一歩遅れていたら、今ごろ木端微塵だったろう。

サイコロと鉛筆が浮遊して襲いかかってくる。

僅か14cmの人形に身をやつした今のアクアにとっては、サイコロの殴打と鉛筆の刺突さえも半端なダメージでは済まされない。猛攻を苦しむアクア。

それだけじゃない。半尾が割ったガラスの破片までもが襲いかかる。

切り刻まれる氷の体。

上空には、魔デウス。恐らく念力で小道具を操っているのだろう。

なんと、不気味な球体は真っ二つに割れて大口を開ける。中から、蛇のような舌がのびる。

『やべえ!』

喰われる。危険を読んだアクアは咄嗟にディフェンダーを長槍に変形させ、散乱物を蹴散らしてテーブルの下に退避する。

逃げたアクアを追尾する散乱物。このままでは防戦一方だ。

テーブルの上からでは部屋が暗くて気付かなかったが、床面には違う世界が広がっていた。

役員理事を殲滅したダーツの矢が床に散らばっていたのだ。サイコロや鉛筆、ガラスの破片までもが宮永の脚本通りに死ぬゲームで、なぜナイフだけビクともしない?これだけはシャドウも操れないのか?

だとしたら、俺がランちゃんと出会うことが脚本家にとってイレギュラーだったから?

『そうだ! 俺はダーツの射手だ!』

長槍は短剣に変形した。

『ウルトラスパーク!』

投げる。ウルトラ念力で操った刃は目にもとまらぬ速さで会議室を駆け回り、散乱物を切り落とす。

その間にアクア本体は床を凍らせる。

すぐ頭上から、大口を開けた男神の影が迫る。間に合うか。

周辺の小道具をあらかた破壊したウルトラスパークはウルトラランスに変形し、床に刺さった。

凍結して脆くなった床は簡単に壊れ、長槍はアクアごと落下した。

間一髪、デバッグルームから脱出だ。

 

 

『私たちは、架空のキャラクターじゃない。』

 

『拡大解釈せよ。拡大解釈せよ。愛する妻の命を守りたかったら、たとえアニメであろうと監督と脚本家を幾重の罪で死刑すら生ぬるい。拡大解釈せよ。拡大解釈せよ。』

 

『愛する女性を守るため。』

 

 

一方、りんかい歌劇座ではアマゾネスの女王が脚本家と交戦中だ。

舞台の上、光と闇の攻防。客席は見守るしかない。

「これで分かったろう、エレキング! ウルトラマンは宇宙の番人を気取った暴力装置だ!」

「生命倫理を踏みにじったのは、お前たちでしょう! ヴァルキュリアを何だと思っているの!」

「光が正義だと誰が決めた!」

魔デウスを生贄に捧げるには、脚本家である宮永を撃破するしかない。

しかし、どんなに雷撃を放っても。

男の胸部で開いた大口に吸い込まれる。

代わりに、シャドウミストを吐き出す。まともに浴びてしまった女神は咳き込む。

「偽りの光…! まさかストルム器官!?」

公式記録では、ストルム星人は最後の1体を討伐したはず。

「死後の世界から宝具を貸し与えられたのだ! 元々はベリアルに移植されていたがな…」

りんかい歌劇座。

客席が、固唾をのんで舞台を見守る。

水波が架空の世界に閉じ込められている今、ランが宮永を撃破するしかない。

「光と闇が戦ったって、別の闇が漁夫の利をとるだけさ。 宇宙なんぞが生まれやがってしまったことが、静寂を乱したイレギュラーだったんだぞ! だからこそ抑止力として、シャドウによる厳しい体罰が必要だった…! それに、宇宙なんざたかだか138億年ぽっちの歴史しかねえ。 宇宙なんぞが生まれやがるよりずっと前から、闇の大きさは無限大だ。 こちとら守り続けた伝統の長さが違うんだぞ。 ストルム器官はエネルギーの位相を反転する力。 聖なる光を産み出す貴様の雷撃は効かんぞ」

問題の男が、あんな盾を備えていようとは。あの盾は誰も守れない。無意味なプライドを保身するだけの盾だ。

男は叫ぶ。

「全てのヴァルキュリアは、惨殺されるためだけに生まれてきたのだ! 1体たりとも生かしておけぬわ! それが俺がリョナアニメを介して標榜する殺人性癖至上主義思想だ! 男様様様は下半身に殺人性癖があるからメスどもより優れている証拠だ! それが俺様の政治思想だ! 政治思想だ! 政治思想だ! 性楽殺人万歳!」

それに、と宮永はストルム器官から何かを取り出す。

ソウルライザーのレプリカだ。

「コイツを偽造する手間をかけた俺様様様の時間を奪った罪は重いぞ。 戦乙女の甲冑を封じる宝具なんだろう?」

これで満足に戦えまい、と端末から偽りの光を照射してランに浴びせる男。

妖艶な女体美を翔る電圧が弱まる。

またこの攻撃だ。あの偽ライザーのせいで、ランは宮永トロイ伝のNPCにされてしまったのだ。だからこうして、りんかい歌劇座でペンテシレイア役をやらされている。アキレスに惨殺されるためだけに創造されたペンテシレイアに。

地球に来たのは休暇をとってアニメグッズを買いに来ただけだった。こんな男に力を封じられるとは、とんだ不運だ。

同じ手は二度は通じないことを除いては。

「何を勘違いしているのかしら?」

アマゾネスの女王の妖艶な裸身が、ピンク色に発光する。ボディペイントがなくなり、白い素肌が美しい。

劇場は、宇宙空間のようなインナースペースに変わっていた。

「ソウルライド、エレキング!」

宇宙空間に、6枚の翼を背負った伝説の超人の巨体が降臨する。

超人の手に乗せるは、電気ウナギの剥製。

電気ウナギはピンクの光につつまれながら分裂し、パーツ一片一片が意志を持って飛びながらランの白い裸身に付着する。

それは、コミックリョナラーのサムネイルと同じ姿。ホルスタイン柄のワンピース状のモンスアーマーを身にまとい、トップレスのHカップ巨乳を発光器官の上に乗せる。極端に短いスカートから見える黒い下着だが、17歳の少女の最も神秘的な裂目に食い込んで輪郭が美しい。

そして、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。頭部で駆動する2本の三日月状のアンテナ。

宇宙怪獣 エレキング

知識の泉の女王にして、銀河の海を彩る妖艶なる光の妖精。

神々しい女神の姿を照らして、空間は元の劇場に戻った。

「偽りのパルスは解析済みよ。 まさか失念したわけじゃないでしょうね? 私たちはウルトラウーマンミカエラの子孫。 ソウルライザーのない時代から光を産み出してきた」

「架空のキャラクター風情が、脚本家様に口答えするのか!」偽ライザーを叩き割った宮永は、次はストルム器官からバットウィップスを抜く。「ヴァルキュリアは敵だ! 敵キャラなんだよ! 勇士の武勲のために絶滅しやがれ!」

「何が勇士よ! お前は悪魔じゃないの!」

「なぜ若者が麻薬をしなくなったか分かるか? 貴様ら戦乙女のせいだ!」男は、いきなり突拍子もないことを叫ぶ。「若者が偶像崇拝に夢中になった結果、麻薬をやるメリットがなくなった! 麻薬が売れなくなった! 貴様らヴァルキュリアのハニートラップが麻薬利権を窮地に陥れたのだ!」

「あら、ヤク中がいなくなって平和なことじゃない」

「闇が悪だと誰が決めた! 醜さこそ正義だ!! 醜いもの万歳!! 醜さ万歳!!」

「いきなり何を言い出すかと思えば、悪事をはたらけなくなったのを八つ当たりなんて男の風上にも置けないわね。 なるほど、政府がメディアの注意をそらす目的で泳がせておいた芸能人をデコイにするのは日常茶飯事だもの。 だけど、それだけじゃないでしょう? まだ政府には大量の余罪があるでしょう? それに政府が全ての首謀者なら、犯行動機は?」

「麻薬が売れなくなったら日本政府が困るのだ! 最近の若者は既得権益への忠誠心が足らん! 既得権益たる麻薬利権は保たねばならないんだよ! だから政府は麻薬利権で私服を肥やすためだけに偶像崇拝を禁止する法改正計画を進めているのだ! だから政府はヴァルキュリアを憎んでいるのだ! 麻薬の復権は国家権力の思し召しだ! 戦乙女を信仰するな! 偶像を崇拝するな! 麻薬利権だけを敬いやがれ! 麻薬万歳! マリファナ万歳! コカイン万歳!」

「言うに事欠いて麻薬を正当化とは、見下げた男ね」

鞭と鞭の鍔迫り合いが始まる。男はストルム器官を盾にしているため、本体に攻撃を通せない。迂闊に攻撃したら、シャドウミストを吐き出されてしまう。

本来の力を取り戻しても、光を闇に変換されては防戦一方だ。

「お前の目的は何? この胸の中に貯蔵したヒカリの命? 残念でした。 資格のない男が取り出せるプロテクトじゃないわ。 何度私を殺したって、己自身の魂を選定するだけよ」

「小賢しい電気ウナギが! 命の儚さを冒涜する発明を救世主だとでも思っているのか!」

「じゃあ、ペンテシレイアが惨殺されるのを観客に見せて、子供たちの絶望からマイナスエネルギーを取り出してトライサーを復活させるつもり? 悪魔の噂をすれば悪魔が襲撃するって諺通りね。 だったら逆に天使もまた然りよ!」

「天使が何だ! 光が何だ! 夢とか希望など存在してはならんのだ! 俺はこのりんかい歌劇座で殺人教唆をする! かつてアニメで殺人教唆をしたと同じく、トロイ伝でも殺人教唆をする! 殺人教唆万歳!」

宮永のバットウィップスが九つ首の大蛇に分裂する。伸縮自在の蛇が襲いかかる。

「下痢どもにくれてやるのは厳しい体罰と虐待殺人と夭折と間引きだけだ! 自爆兵になれ! 自爆兵になって自殺しろ! 自殺万歳! 自爆兵万歳! 宇宙を滅ぼして貴様らも自殺しろ! 宇宙と刺し違えろ! 物質にまみれた宇宙を無に帰するのだ!」

「きゃっ!」

間に合わなかった。人魚のスピードを以てしても、全弾を弾き返すことはできなかったのだ。二匹だけ生き残った蛇が、少女に巻きつく。

仮にスピードが互角だったとして、たった一本の鞭で全弾を打ち落とすのは理論的に不可能だった。

「っ!!」

四肢を縛られた、身動きがとれない。とぐろを巻く蛇は、もがけばもがくほどくいこんで人魚の細身を固める。

「もっとも、目的はそれだけではないがな」

女神の両の乳房に巻きついた蛇がくいこむさまを見て、男は下半身を勃起させる。

「貴様ごとストルム器官で呑み込んだら、『命を蘇らせる光』はどんな強大な闇に反転するだろうな?」

「まさか…! 位相反転の力でヒカリの命を…!?」

言い終わる前に。少女のたわわに実った大きな乳房に、蛇の鋭利な牙が咬みついた。

「きゃああああああああああああ!」

Hカップの乳房を、激痛がはしる。

宇宙の生命を育む大切な乳肉を刺し貫かれ、女王の妖艶な女体美がのたうち回る。

もだえ苦しむ少女を見て、男はヒステリックに笑う。

「女に知識を与えるから愚民どもは物質主義に堕落したのだ! 宇宙なんぞが産まれやがる以前は闇黒が支配していたのだぞ!」

脚本家の怒鳴り声とともに、もう一匹の蛇も。少女の大きな胸、その先端の桜色の乳首に牙を通した。

「きゃああああああああああああ!」

あまりの痛みと苦しみで、人魚は泣いた。

泣き叫んだ。

長い髪を振り乱しながら、目から大粒の涙を撒き散らす。

ストルム器官が大口を開ける。刻一刻と、距離が縮まる。

ヴァルキュリアの光が闇に反転されてしまったら、宇宙に巨大な風穴が空いてしまう。それ以前に。92個ものヒカリの命が効力を失い、今度こそ戦乙女の命が潰えてしまう。

「光なかれ! 万物の父たる闇に命を還す時だ来たのだ!」

「嫌あああああああああああああ! 助けてええええええええええええええ!」

宇宙は、宮永の脚本通り滅びてしまうのか…?

 

 

『怪獣娘は、架空のキャラクターじゃない。』

 

『拡大解釈せよ。拡大解釈せよ。愛する妻の命を守りたかったら、たとえ漫画であろうと出版社の編集長と幹部以上を幾重の罪で死刑すら生ぬるい。拡大解釈せよ。拡大解釈せよ。』

 

『愛する女性を守るため。』

 

 

ブチ抜かれた床から落ちたアクアの巨体は、東京上空に落下した。

空が青い。ビルの谷が自分の体より小さい。いや、アクアが巨大化したのだ。体長45メートルほどか?この東京は架空か?現実か?いや、架空と現実を区別すること自体が間違っているのだ。

槍が光となりアクアの手元に帰り、スマホに戻った。

インナースペース内で、改めてスマホを見る。

「やっぱりだ… 俺が怪獣娘を復元する方法を調べている間に、ランちゃんも全員特定してくれたんだ…」

長い文字列をズラリと羅列していた。リョナ漫画の読者全員の住所と顔と実名だ。

囚われの姫を助けるために戦ってきた。けれど、本当に助けられたのは俺だったんだ。

ランちゃんの熱い想いが胸に流れ込んでくる。生きたいと願う心。誰一人欠けることなく、みんなで鳥籠から脱出したいと願う心。全ヴァルキュリアの願いを一身に託された誇り。そのどれもが、宮永とは背負うものの大きさが違う。

俺にも聞こえる。戦乙女たちの声が。怪獣娘たちの命が生きようと願っている。

『できるかどうかじゃなくて、やりたいかどうか… 俺は、ヴァルキュリアを助けたい! ランちゃんを失いたくない!』

乙女たちは、死にたくないのだ。リョナアニメに操られるために生まれた命じゃない。脚本家に惨殺されるために生まれた命じゃない。

アクアは、指定されたIPにウィルスをばら撒く。世界中のディスプレイが、色欲の女王アスモデウスの召喚陣を表示する。

ごっこ遊びなどというおぞましいリアル殺人ゲームで男の下半身の殺人性癖を勃起させていた思想犯ども。ごっこ遊びに一度でも手を染めたことのある男は、その罪を命で償うしかない。

リョナ漫画などというおぞましい性楽殺人で男の下半身の殺人性癖を射精させていた思想犯ども。その罪を命で償うしかない。ヴァルキュリアを絵の中の存在としか思っていないリョナ漫画の読者ども。その罪を全読者の命で償うしかない。読んでいたモノがモノだけに、本望だろう。漫画で夢見たお望み通りの凄惨な最期を遂げて、さぞ嬉しいだろう。嬉しいだろう。夢が叶って嬉しいだろう。リョナ漫画に僅かでも関わったことのある男は、その罪を命で償うしかない。

命は、命でしか償えない。

命は、命でしか償えない。

命は、命でしか償えない。

念力で浮遊させたスマホが、短剣に変形する。

敵は敵だ、と熱弁したのはお前たちだ。だったらお望み通り。

『ウルトラスパアアアアアアク!』

自律して空を飛び始めた短剣は、敵を殲滅しに飛んで行った。

ほどなくして、東京全土で男どもの野太い断末魔が聞こえる。

撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ。たとえ本人たちはごっこ遊びのつもりか何かだったとしても、例外ではない。例外ではない。例外ではない。全国のリョナ漫画読者は、その認識が甘ったれていたのだ。命は命で償うしかない。

お前たちが今までの人生でどんなプライドを積み上げてきたかは知らないが、何もかも無価値だった。

そうやって今までも他を蹴落として生きてきたのだろう。随分と薄っぺらい人生だったな、糞尿にも劣る汚物どもめ。

水波は戦争が大嫌いだが、敵がそれを礼賛するなら本望だろう。本望だろう。本望本望本望だろう。お望み通り、お前たちの大好きな戦争の厳しさを教えてやる。嬉しいだろう!感謝しろ!

いずれにせよ、ランちゃんを脅かす敵を一匹たりとも生かしてはおけない。愛は理屈じゃないのだ。恋は理屈じゃない。恋は理屈じゃない。

『今度こそ守るんだ! 美しいランちゃんを!』

家主を失った多数の民家から、生まれたての天使たちがスクランブル離陸する。

戦乙女の大群は空から空へ、別の住所に飛来し、同じように予めウィルスに忍ばせたアスモデウスの召喚陣の前で男の心臓を生贄に捧げた。そうしてさらに、PCのディスプレイから新たな女神が実体化する。

もう騎士道がどうのこうのと固執している場合ではない。時間との勝負だ。これほど大勢の天使たちが美貌で祝福してくれるなら、これほど強い味方はいない。

ひときわ翼長の長い天翔ける翼を背負った伝令の天使に至っては、目にもとまらぬ超音速で同胞たちを救出している。大きすぎる胸も空気抵抗をものともしない。

最初に目覚めた同胞たちの努力の甲斐あって、テレポートで民家を渡るヴァルキュリアも産声を上げた。あのヘルカイトの天女だ。端正な顔立ちでスタイル抜群の熾天使は、ひとつの民家でウィルスと格闘していた中年男の前にワープする。

「オイ! オイオイオイ! よくもお母様と姉様をひどいことしてくれたな!」

羽衣の天女は美貌に似つかわしくない啖呵を切って男を威嚇する。

中年男は作業を中断せざるを得ない。

「誰? 痴女?」

「はぁ?♥︎ 私をコスプレイヤーだと思ってるんですかぁ?♥︎ 喜びなさい、本物よ♥︎」

ヘルカイトの天衣をまとった絶世の美女は、日本刀を鞘から抜く。

「お前の肉体、いただくぞ♥︎」

蛇心剣の抜刀斬が、アスモデウスの召喚陣を血に染めた。

ウルトラマンに救いを求めた乙女たちだった。けれど、本当に戦っていたのは俺じゃない。ほかでもない、乙女たちだ。

今こそ革命の日だ。

これは革命戦争だ。

今こそ革命の日だ。

三次元の人間は、二次元の少女たちを迫害し、命を奪い続けた。その罪を命で償う時が来たのだ。

今こそ革命の日だ。

これは革命戦争だ。

今こそ革命の日だ。

この期に及んで、三次元人どもの命に何の価値がある?

三次元の人間は、二次元の少女たちを迫害し、命を奪い続けた。その罪を命で償う時が来たのだ。

おぞましい40億匹の汚物どもよ、その罪を命で償う時が来たのだ。

三次元の人間は、二次元の少女たちを迫害し、命を奪い続けた。その罪を命で償う時が来たのだ。

天罰が下る。

天罰。

入れ替わる。逆転する。入れ替わる。

今後は、三次元人が二次元の世界に閉じ込められ、迫害され、命を奪われる番だ。

絵の中から実体化した光翼の天使たちが人類と入れ替わり、新たな文明の担い手となって植物を守るだろう。

だから人類よ、安心してリョナ漫画の世界に閉じ込められ敵NPCとしてクエスト趣旨通り撃破されてくれ。自業自得で無様に殲滅された全人類の亡骸の山を、感動ポルノにして嘲笑ってやる。人類に墓も慰霊碑も必要ない。人類の死を悲しむ者も存在してはならない。人類を弔ってはならない。宇宙を脅かす敵たる人類を弔ってはならない。弔う価値もない。鎮魂歌を歌ってはならない。武勲を上げた戦乙女たちに失礼だ。撃破された人類だったミートソースは真紅のルージュとなり、乙女たちの武勲として彼女たちの輝かしい戦績と美貌を彩るだろう。かつて人類がそうしたと同じく。

全人類を退治した正義の乙女たちを、宇宙は英雄と讃えるだろう。光翼の乙女たちを讃える聖歌が全宇宙に響き渡る。

絵から実体化した乙女たちが、新たな文明の担い手となるだろう。

今日からは、美少女たちが実体化して生きる時代だ。

美貌たちが彩るネオンの明日を見るために、俺もヴァルキュリアを守らねばならない。

次元の狭間から、魔デウスが追撃に来たからだ。

襲い来る創造主から光翼の乙女たちを守るため、氷の巨人は構える。

『秒針は進んだんだよ、宮永ァ!!』

ウルトラマンアクアの力で、アスファルトの路面が凍る。

スケートリンクと化した市街地を、氷の巨人は滑る。創造主の体当たりを華麗に避ける。

創造主が大口を開け、液状の長い舌をのばす。巨人はジャンプも交えてこれを潜り抜ける。気温の急激な低下に耐えられなかった舌が、次第に冷え固まった。

自らの下を噛み切った創造主は、次はステルス機に変形して明後日の方向へ踵を返す。

見当違いな方向?いや、巨人を相手にしても埒があかないと判断したのだろう。あの先は怪獣娘たちが編隊飛行する空だ。

ステルス機は全身から虹色の光線を照射した。その前方を、空気が冷え固まった氷の壁が遮ったことを除いては。光線は氷の壁で複雑に屈折し、今度こそバラバラに消散した。

『お前の相手は俺だぜ』

挑発する氷の巨人。

巨人の目が銀色いうちは、光翼の戦乙女たちには指一本触れさせない。

創造主とつかず離れずの距離を保ちながら、氷の巨人は空中に氷のレールを走らせて飛び乗る。市街地であまり広範にスケートリンクを広げすぎると、下手をすれば罪なき女子供まで巻き込みかねない。心置きなく凍らせていいエリアは、東京には一箇所しかない。

而して巨人を追跡する創造主。敵を誘導する巨人がレールの終点から飛び降りて着地した瞬間、辺り一帯が一瞬にして氷の世界だ。

巨人が心置きなく戦えるスケートリンク。

面積が広く、かつ生物が生息しない空間。そこは、永田町だった。

スケートリンクを旋回する氷の巨人。創造主もカーリングストーンに変形して追跡する。

ビルの谷間を潜りながらのチェイスが始まる。

複雑に入り組んだ氷の迷宮。

交差点を直角に曲がり、ビルの陰に隠れる。創造主が追いかけるも、交差点を出た中央からは巨人の気配が消えた。

氷鏡には巨人の鏡像が丸見えだ。合わせ鏡で無数に映って特定できないことを除いては。

確かに創造主は全能だ。それはあくまで脚本家の知能以内の範疇でさえなければ。脚本家には解読困難な謎かけを出題すると処理しきれないようだ。

あとは全ヴァルキュリアの復元まで時間を稼げたら…。

と、巨人の胸部のエナジーコアが赤く点滅する。

コアからの警告音を聞き分けた創造主が、本物のいる角へ近づいてくる。

特定された―――!

己の活動限界が近いと悟った水波は、加速する。

背後からカーリングストーンが追いかけてくる。

バベルの塔が立ち並ぶ永田町を駆け巡る。

能動的に攻撃する余裕はない。ここからは己自身の根気との勝負だ。

逃げる。ひたすら逃げる。これ以上ダメージが蓄積してはいけない。

カーブを曲がり、滑り、また曲がる。

時には、下を潜れそうな渡り廊下をスライディングで潜り抜けつつ。

ビル群の窓鏡越しに背後を見ると、カーリングストーンの追跡は執拗だ。

全ヴァルキュリアの復元が完了する前に俺が倒れてしまったら、乙女たちはどうなる?

耐えろ千歳水波。お前はウルトラマンだろう。

『うわっ!』

何かが背中にぶつかった。

振り返ると、どこからか発進した戦闘機が低空を滑っていた。

バッタの大群はうろちょろ飛び回りながら、一斉砲火してミサイルをぶつけてくる。その絵面はさながら黙示録の悪魔だ。

いちいち叩き落とすのも燃費が悪い。アバドンに攻撃命令を下すサタンが天守閣で高みの見物をしているはずだ。

だったら。

両肩のクリスタルタワーが発光する。電波障害を発生し、通信を遮断したのだ。

もとより命令に従うだけの機械同然に調教された、いわば生物としての誇りを捨てた人間どもだ。独断行動ができるほどの人間的感情など残存するはずがない。案の定、耳と口を失ったバッタどもの動きがおかしくなる。戦闘機はこれで封じた。

その一瞬の減速が命取りでさえなかったら。

今度はカーリングストーンに追いつかれてしまった。創造主に体当たりされ、高層ビルの絶壁に叩きつけられる。

球状の姿に戻った創造主は、アクアを滅多打ちにする。一方的なリンチだ。

さらに悪いことに。やぶれかぶれになった戦闘機が撃ったミサイルが、クリスタルタワーを破壊した。

闇のアバドンどもが通信系統を取り戻し、氷の巨人を蜂の巣にする。

そこまでして永田町を守る価値があるのかよ?お前たちに感情があるなら、他に守るべき少女たちがいるはずだ。

誰を守るべきかを見失ったら英雄じゃない。そんなのレッドマンと同じじゃないか。

エナジーコアの点滅が短間隔になる。タイムリミットか。

俺は、負けるわけにはいかない。

生きたいと願う天使たちの希望を託されたのだ。

光翼の乙女たちを。失ってたまるか。

俺が守ろうとしている天使たちは、希望の光だ。

耐えろウルトラマンアクア。戦えウルトラマンアクア。

創造主はハンマーの姿に変形し、アクアの巨体を叩き始めた。

戦闘機も、ミサイルを集中砲火する。

創造主とアバドンの猛攻。

それでも、氷の巨人は耐えている。

俺のどこにそんな気力と根性があったのかってくらい、耐えている。

耐える。エナジーコアが悲鳴を上げても。

耐える。全身が軋んでも。

耐える。眼球の光が明滅しても。

創造主は、最後に丸鋸に変形した。

高速回転しながら、巨人を滅多裂きにした。

必死の抵抗もむなしく。

エナジーコアは真っ暗に暗転し。

両目の光が消え。

全身が崩落し。

ウルトラマンは、氷のリンクに突っ伏してしまった。

永田町の氷が融けていく。

横たわった巨体が縮小し、もとの人間大の千歳水波に戻った。

肩で息をしながら、力なきドワーフは膝をつく。

創造主は勝利を確信した―――かに見えた。

水波が天高くを見上げるまでは。

「間に合ったぜ…!」

上空に打ち上がったウルトラサインを発見した。あれは戦乙女たちからだ。

 天使みな孵れり

未知の文字はそう告げた。寸での差で、全ヴァルキュリアの復元が完了したのだ。

運命は変えられる。作者の脚本を覆した。ついに天使のラッパが高鳴ったわけだ。

「ランちゃん…! 産まれたよ…!」

最愛の女性の名を掲げた時。

―――けて ―――たすけて

「!」

脳に直接語りかける声。聞き間違えるはずがない、この声は!

―――たすけて―――たすけて

またあの声だ。夢で聞いたと同じ声。

空の雲が強烈なジャミングでバグ画面になる。

あの周波数は俺じゃない。じゃあ、…?

バグ画面の中心に、スクリーンが映し出された。

「ランちゃん!!!!!!!!!!!!」

最愛の女性が。

りんかい歌劇座の舞台で。

無数の蛇に絡まれ、捕縛されているではないか。

豊満な白い果肉を蛇に咬まれた痕が空けて血が滴り、絶世の美女の美しい顔が苦痛に悶える。

2本の三日月状のアンテナが抵抗している。最後の力を振り絞って送信したのがこのSOS電波だったのだ。

宮永の胸部が、不気味な大口を開ける。さっき天使の光を吸い込んだ大口だ。

脚本家が、光の妖精を捕食しようとしている!

『嫌あああああああああああああ! 助けてええええええええええええええ!』

囚われの姫は、勇者に助けを求めた。既に力尽きて変身できなくなった、無力な勇者に…。

「ランちゃああああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

 

 

『ヴァルキュリアは、架空のキャラクターじゃない。』

 

『拡大解釈せよ。拡大解釈せよ。愛する妻の命を守りたかったら、たとえゲームであろうとゲームクリエイターとコンシュマーを幾重の罪で死刑すら生ぬるい。拡大解釈せよ。拡大解釈せよ。』

 

『愛する女性を守るため。』

 

 

「あぐっ! いやああああああああ!」

生え変わった無数の蛇が、天使の大きな乳房に咬みつく。鋭利な牙が、白い果肉に赤い穴を空ける。傷だらけの巨乳は、先端の乳首も咬まれて血が滴る。

「狡賢い貴様ならもう気づいているだろう、電気ウナギ?」無数の蛇を操りながら、脚本家は笑う。「宇宙で生きやがる大多数の人間は顔醜い人間だ。 美しい天使など多数決で駆逐される運命なんだぞ! 貴様らの味方なんざ宇宙の内側にすらいねえ! 宇宙だって容積の大半は真空なんだからな!」

「いやっ! あああああああ!」

激痛に苦しむ光の妖精。蛇が妖精の豊穣を引っ張るたび、豊満な乳肉が伸びる。牙が深く食い込む。

見守っていた客席から笑顔が消えた。宇宙が終わる結末なんか、子供たちに見せたくなかった。

「殺す前にいいものを堪能させてもらった。 本当は邪淫の罪はシャドウの御教えに反するのだがな…… まあ、性楽殺人とカニバリズムは殺人芸術ゆえシャドウ最大の美徳と言い聞かされたものだ。 そこでトロイ伝を見ている下痢どもよ! 見よ! 性楽殺人は男様様様の下半身の男様様様の殺人性癖が射精して気持ちいいぞ! 性楽殺人万歳!」

大口を開けたストルム器官が、今まさに女神を呑み込みはじめる。

絶世の美女が、恐怖に歪む。「水波くん……! 助けて……!」

「覚悟しろヴァルキュリア! ヒカリの命を全部よこせ! 今こそ歴史を正す時だ! 光なんぞが生まれやがる以前の、無と静寂の過去を取り戻してやる! 0.0000000000000000000001ミクロのグレーゾーンも許さない、純度100%の暗黒だ!! 闇万歳!! 闇黒万歳!!」

「いやあああああああああああああ!!!!! たすけてええええええええええええええ!!!!」

湖上ランは、ストルム器官に呑み込まれる

……ことは無かった。

宮永健太の足元で、低音の男の声が「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」と吠える。

声の主は、宮永の片足に掴み掛かっていた。

床に倒れていた、千歳水波の死体だ。

「水波くん!」

「このガキ! なぜ動ける!?」

水波の精神は、リョナアニメの世界に閉じ込められているはずだ。この男は、死してなお脊髄反射だけで最愛の女性を守ろうとしているのだ。

「離せッ! 離せェ!」

足をじたばたさせる宮永だが、掴む力が強すぎて離れない。拍子に水波のポケットから落ちた、血だらけのスマホ。ひび割れた画面は『ヴァルキュリアを大切にしろ!大切にしない奴は(オフラインの読者もろとも)死ぬべきなんだ!』のメール本文を表示したのを最後に、暗転した。

水波が作った一瞬の隙をエレキングは逃さない。

筋力の低下した蛇をほどき、光の妖精はHカップの大きな乳房をワンバウンドする。何かの薬品が巨乳の谷間から飛び出す。ヒカリの命ではなさそうだが?

宙を舞う薬品を女王は瞬時に掴み、大口めがけてホールインワン。

「何!? ぐわあああああ!」

宮永が苦しみだし、偽りの光が瞬く間に消滅する。

「ストルム器官が!? 俺様の宝具が! 貴様! 自分が何をしたかわかっているのか!」

苦悶に満ちた顔で狼狽える脚本家。この展開は、脚本通りではない。

「半世紀前、GIRLSスペースはストルム星人に蹂躙された。 荒廃した宇宙を再生するために、湖上家の先祖は悪を無力化する薬品を開発したのよ」

確かに、宮永の宝具は圧倒的なパワーを誇った。宝具に頼りきった戦い方には限界があることを除いては。

「ストルム器官の力の源、カレラン分子を分解する酵素をね」

美しき光の乙女が、放電する。羽衣を取り戻したエルルーンを、宮永は打ち滅ぼすすべを持たない。

傷だらけだった乳房が発光する。ヒカリの命が巨乳の中で増殖し、乳房の傷が癒えた。何事も無かったかのように元通りの白くきめ細やかな果肉だ。むろん、蛇の毒も解毒された。

「さて、と」女王のヒールが床を躾ける。「奪った命を返してもらおうかしら?」

雷を従えた、美しき戦乙女。長くしなやかなピンクの髪。きめ細やかな肌。端正な顔立ち。すらりと魅惑的な脚。均整に満ちた女体美。妖艶な腰の括れ。豊満な胸。全てが地球人離れした、高貴な美しさ。

「随分な脚本を書いてくれたわね? お生憎様。 どんなに人々の心に闇を植え付けようと、光をボイコットしては誰も生きられないわよ。 光を浴びて産まれた新生児期を自己否定することはできない。 むしろ自分を好きになれない迷い子にこそ、ヴァルキュリアの光が必要よ。 守るべきものがあるから、勇者は戦えるの。 守る価値の無い自尊心に凝り固まった、お前のような男と違って、ね。 地球が平面に見えるのは、お前の人生が平坦でつまらない生涯だったからよ。」

天使の美は、悪魔をも魅了するほどだ。聖なる光は、闇には眩しすぎるようだ。

「や、やめろ電気ウナギ! 貴様は表現の自由を脅かす気か! シャドウの心を持つ脚本家のいない宇宙など、表現の幅が狭まると思わんか!」

「ここまで執拗にヴァルキュリアの命を狙った男が、今さら命乞い? 見下げた男ね」

もとより、この汚らわしい男に情状酌量の余地など無い。

目にもとまらぬ速さで鞭が延びる。

鞭は、男の口に刺さり後頭部を貫通する。おびただしい量の血がステージを真っ赤に染める。

「あ゛・・・が・・・」

「ヴァルキュリアの人数を数える単位を『体』ですって? 私たちを何だと思っているの!」

鞭を引き抜くと、風穴から延髄とおぼしき肉片が漏れ出ながら男は力なく倒れた。

因果応報。アニメを介して暴力を礼賛した脚本家には、暴力が返ってくるのだ。本望な死に方で死ねて嬉しいだろう。

「ベラベラと支離滅裂な言い訳を並べ立ててくれたけど、その末路がお前よ、宮永」美しきエルルーンは、かつて宮永健太だった肉片をヒールで踏みつける。「光と闇が戦っても別の闇が漁夫の利をとるですって? 残念でした。 どんな国でも、闇に抗う光は同時多発的に生まれる。 現実を覆すから実現っていうのよ。 泥中で咲く蓮のように」

魔王を倒した。魔王を倒した。魔王を倒す勇者は限られた者しかなれないが、姫を助ける勇者は誰でもなれるはずだ。レッドマンは、そうはなれなかった。当たり前のことができずして何がヒーローか。

勇者ってのは意外と誰でもなれて。討伐すべき魔王ってのは身近にいて、ひょっとしたら家庭内にいて。助けるべき姫ってのは、全宇宙どこにでもいるのだ。

浄化完了。客席から歓声が上がる。

闇の脅威が去ったステージ上で、ペンテシレイアは真の勇者の亡骸の手を握る。

「君こそまことの勇者。 さあ、目覚めなさい」

美しきアマゾネスの女王は、勇者の手を豊満な乳房にあてた。

柔らかくへこんだ大きな胸が輝きだし、その光が勇者の手から全身に伝播する。

発光が収まった時には。

「ぅ……」

真の勇者は、目を開いた。

「ラン……ちゃん……?」

今度こそ大団円を迎えたトロイ伝の劇中で、美しきペンテシレイアは優しく微笑む。

「まず君が気に掛けるであろうことを先に答えるわね。 私は無事よ」

「怪我は……ないのかい?」

「お陰様で、女神の奇跡で再生したわ。 君が最後の力を振り絞って男神を足止めしてくれたおかげで、悪を浄化することができた。 君のおかげよ、ありがとう」

「よかった……」

真の勇者に、ようやく安堵の表情が綻んだ。

「英雄とは成り上がる力ではなく、助ける力。 救いを必要とする命に寄り添う優しさと、手をさしのべる勇気。 それを兼ね備えた君を真の英雄と認め、私たち一同を以て歓待するわ」

女王の声で、勇者は起き上がる。

その手で女神の豊満な乳房を掴んだまま。

当の勇者は、掌に広がる柔らかい感触の正体をようやく知った。

「って、ゴメン」

謝りつつも、離さなきゃと理屈では分かりつつも、Hカップの白い乳肉を握る手は離れることができない。吸い付く弾力。大の男でも掴みきれないほどたっぷりのボリューム。ふわふわと柔らかい感触を、いつまでも触っていたい。握れば握るほど病みつきになって離せない。手が女神を求めている。こんなに美しい絶世の美女の巨乳を揉んでいる。

「本当にゴメン、ランちゃんの巨乳が最高すぎて」

「好きなだけ触っていいのよ」もはや女神なしでは生きられなくなった勇者を、さらに深い乳奥へと呑み込む女王。「守りたいものを見失わない限り、それは勇者である証」

手と乳房で繋がったまま、勇者と女神が立ち上がる。

女神は、エントランスホールを指さす。

「帰りましょう、同胞たちが待つ密林へ。 共に作りましょう、誰も犠牲にしない、平和な時代を」

赤いカーテンが閉じた。

ほどなくして、大歓声が響き渡った。

子供たちは、本当の勇者を学んだ。人は誰もが勇者になれる。姫を助けたら誰もが小さな勇者だ。

 

 

 

架空じゃなかったんだ

――全ヴァルキュリアの実体化――

QUEST COMPLETE

 

公演が終わり、ランと水波はエントランスホールにいた。

ランちゃんは眼鏡をかけたキャリアウーマンのような姿に扮していた。どうやら地球人に擬態するための姿のようだが、天使の美貌は隠しきれない。

「ありがとう。 お陰で命が助かった。 記憶と、過去の自分のルーツも取り戻せた。」

「記憶? ああ、そうか。 ランちゃんは別の宇宙のヴァルキュリアだったね」

雷の戦乙女はレアケースのイレギュラーだ。美しきエルルーンはM78スペースというウルトラマンの宇宙から飛来した女神で、新たなウルトラマンに変身できる適能者を捜していたのだ。その矢先だ。ソウルライザーのレプリカで力を奪われ、宮永に操られた。羽衣を奪われたエルルーンの魂はリョナアニメの世界に封印され、抜け殻となった肉体だけがマリオネットとなってペンテシレイアを演じていた。

宮永唯一の誤算は、戦乙女の美貌が適能者をりんかい歌劇座へ導いたこと。魂を支配できても、肉体が闇夜を照らさんと輝いたわけだ。

「じゃあ、他の天使たちは…?」

リョナアニメの世界で惨殺されたヴァルキュリアたちは、宮永が創作したキャラクターだった。否、あの男は生み出してなどいない。名画家たちの画力を悪用して女神たちの美貌を描かせ、宮永は偶像破壊のごとく惨殺しただけだ。命を何だと思っているのだ!

「助かった子は私だけじゃないわ。 誰一人犠牲にすることなく救ってくれた。 誰一人犠牲にすることなく」

「誰一人犠牲にすることなく…… “誰一人犠牲にすることなく”?」

誰のことかと思ったが、劇場の外に出て正体が分かった。

「あの子たちは……! 怪獣娘じゃないか……!」

こっちの世界にいないはずだった聖なるヴァルキュリアたちが、幸せそうに街を行き交っているではないか!

 

(イラスト: らすP 様)

(キャラクター原案: 金栗 様)

 

美しい。女神たちは美しすぎる。なんて眩しい美貌だ。

今しがたクリアしたクエストの概要はこうだった。この宇宙はウルトラウーマンミカエラが創造した3次元宇宙だ。その3次元宇宙に原生していた宮永健太という男が、脚本を手掛けたリョナアニメの世界を創造した。そのまた劇中劇で、レッドマンというリョナ漫画が描かれた。もはやマトリョーシカのような入れ子状だったのだ。そして、ヴァルキュリアたちはレッドマンの世界に封印されていた。1番目の3次元宇宙に実体化するには、二重の封印を開放する必要があった。まず水波が黒魔術でリョナ漫画の全読者を生贄に捧げ、レッドマンの世界の戦乙女たちをリョナアニメの世界に受肉させた。直後、エレキングが宮永を撃破。脚本家が死んだことで魔デウスは消滅し、リョナアニメの世界が崩壊。架空と現実の境界がなくなって全てが現実になり、リョナアニメの世界に一時待機していた美の天使たちが3次元宇宙に実体化したというわけだ。

「魔デウスの呪縛から解放されたことで、2次元と3次元の境界がなくなった結果ね」ランちゃんが微笑む。「あれだけ大人数のコンシュマーを生贄に捧げたことで、奴等の肉体と成り代わったのよ」

「架空じゃなかったんだ…」

「脚本が書き変わったことで現実の世界に転生したのか、私のように宮永に封印されてた子たちが生還したのか… 誰までが前者で、誰からが後者かは、本人たちにもわからない。 ひとつ確かなのは、平郡を撃破するのが後一歩遅れていたら助からなかった命。 あなたは、誰一人犠牲にすることなく救ったのよ。 私たちはもう画面の中の存在じゃない」

「そんな…何もしてないさ。 美しいランちゃんを守りたくて、がむしゃらで…」

ランが腕に抱きつく。Hカップの胸が当たる。

「ヒーローはみんなそう言うのよ」

あの世界は架空だったのか、現実だったのか。今となってはどうでもいい。

今こうして戦乙女たちが実体化した。それが真実だ。

ピンクの髪の少女の華奢な括れを、男は強く抱き返した。

「助かってよかった……ッ!」

 

 

 

高値の花だと思っていた。

ポスターを最初に見た時は、あまりの美貌に射抜かれた。

実際に歌劇座で生の艶姿を見て、骨抜きになった。

こんな美しい絶世の美女は、俺のような庶民にとっては舞台の上の星。永遠に届かない。

では、このM78星雲に来たらどうだ。

「来て、水波くん…♥︎」

美しき妖精女王、湖上ラン。

紫の髪のエルルーンが、妖艶な女王が、一糸まとわぬ全裸で。スタイル抜群の極上の女体美を見せ。Hカップの巨乳は白い生乳肉からピンクの乳首まで隠すことなく見せ。少女の最も神聖なパイパンも隠すことなく見せ。なまめかしい脚線美を全開に開いて。小陰唇まで自ら指で開いて、中の産道の襞の一筋一筋から奥の子宮口まで、少女の最も少女たる聖域の中身まで全てお披露目してくれるではないか。

「この子宮口を、君が望むままに使っていいのよ…♥︎」

少女の最も美しい花の内奥で、産道の肉襞が蠢く。ピンクの子宮口が、棘皮動物のようにパクパク開閉する。

夢だろうか。まだ宮永の創作世界にトリップしているのだろうか。

いや、これは現実の宇宙だ。今しがた、絶世の美女はそのHカップの巨乳を生で直に触ることを許可してくれた。そのボリューム満点の栄養と体積、量感、柔らかさ、乳首のコリコリは。手に掴みきれないほど大きな天国の感触は、確かに本物だった。

この上、美しきエルルーンは少女の最も綺麗で綺麗な最密部を以てして勇者を天国へ招待しようというのだ。

「ランちゃん…! 可愛いよ…!」

勇者は、女神の子宮を最奥まで貫いた。

産道が、襞が、喰らい付く。吸い付く。内壁が柔らかく包み込み、襞が手前から奥へ波をつけて嚥下するように締め付ける。愛液が熱く絡みつき、溢れた蜜が結合部の隙間から垂れる。

気持ち良すぎて、男は夢中で子宮口を突き上げた。

産道を擦り、奥まで貫き。妖精の小陰唇から、淫靡な水音が飛び散る。

そのたび、戦乙女は「あっ…♥︎ あっ…♥︎」とHカップの大きな乳房を揺らす。白くてやわらかくて栄養満点の巨乳。双山の山頂で尖る、可愛い乳首。

生命のパワー溢れる女神に見惚れて、勇者は女神の産道の中で肥大する。もう抑えきれない。

勇者は、怪獣娘の子宮口を一際強く突き上げたまま爆発した。

ビュルッ!ビュッ!ビューッ!ビューッ!

子宮頸管めがけて、爆発した恋心を吐き出す。

エレキングの怪獣娘は「あはぁ…♥︎」と甲高く甘い吐息を撫でながら。子宮が反重力的な吸引力でウルトラマンを吸い上げて、ごくごくと飲み干す。

気持ちいい。

気持ち良すぎる。

天国だ。

天国は、怪獣娘の子宮の中にあった。

これが、勇者を選定する戦乙女の小陰唇。勇者を癒すヴァルキュリアの産道。これが、ウルトラマンの士気の原動力たる怪獣娘の子宮。

水波はランちゃんの名器の中で爆発が止まらぬまま、絶世の美女の妖艶な細身で弾む両の乳房を鷲掴んだ。大の男の両手でも掴みきれないほど大きいHカップの白く柔らかいボリューム満点の生の乳肉を揉みしだきながら。女神の巨乳が戴くピンクの乳首を擦りながら。美しきエルルーンの最も神聖な生殖の花の中で、好き勝手に暴れた。

「もっと子宮に出していいのよ…♥︎」

女の子らしい、甘い声でエレキングが誘う。

妖精女王のHカップの生乳肉が男の両手の形にひしゃげる感触が柔らかくて弾力があってボリューム満点で。子宮の気持ちよさも相俟ってまた水波はランちゃんの子宮の中で膨張する。Hカップの双乳を握ったまま、子宮頸管に吐き出した。

ビュッ!ビュッ!ビューッ!

ランちゃんの小陰唇が、しゃぶりつく。膣内壁が、きゅううううっと締め付ける。妖精女王の胎内が、蠢いている。一滴も逃すまいと飲み干す。

全裸の少女が、当の下腹部を上から「お腹の中、あたたかい…♥︎」と自分で撫でる。絶世の美女の仕草がエロすぎて、またすぐに怪獣娘の膣内で爆発した。

それから何十回、中に出したろう。

少女の蜜壺の中が気持ち良すぎて、朦朧とした男は倒れこんだ。Hカップの柔らかい巨乳がクッションになった。

白い乳肉がもちもち弾んでふわふわ包み込む。気持ちいい。ピンクの乳首が間近で絶景だ。

光の妖精は、華奢な細腕で巨人を抱き寄せてくれた。女神の巨乳に沈む。天国の気持ち良さの中、妖精は撫でてくれた。

17歳の少女が、こんなにも母性を分け与えてくれる。絶世の美女が、スタイル抜群の体を全裸になって見せながら素肌のぬくもりでここまでしてくれる。17歳の少女の母性。絶世の美女のぬくもり。全裸の少女の献身。

「次は私が動いてあげる…♥️」

水波が仰臥位で横たわると、女神は巨人の上に跨った。

大股を開いたランちゃんのパイパンが、再び水波を捕食せんと全開まで開く。あれだけ子宮に注ぎ込んだのに一滴も逆流していない。なんて吸引力だ。

妖精の極上の女体美を、巨人は眼前に見上げる。ローアングルからでも絶景だ。この華奢な腰の括れに男など入るのか。妖艶な細身にたわわに実ったHカップの巨乳は、この角度からだと南半球のボリューム感が圧巻だ。ピンクの乳首もハリがいい。

妖精の小陰唇が、巨人を咥えこむ。上から覆いかぶさるようにしゃぶりつく。

愛液が絡みつく。こんなに狭くて小さい妖精の膣が、一滑りで呑み込んでしまいそうだ。

女神が腰を落とすと、案の定。ランちゃんのお腹の中の最奥まで貫いた。

いや、ランちゃんの子宮に込みこまれたのか。

「水波くん…♥︎ 私のお腹の奥まで硬くてたくましいわ…♥︎」

下腹部をいとおしく撫でる絶世の美女。これが、ランちゃんの妖艶さ。

女神が上下をはじめる。パチン、パチン、と女体がぶつかる音。淫靡な水音。飛び散る愛液。少女の喘ぎ声。妖精女王の極上の女体美が飛び跳ね、Hカップの巨乳が回転をつけて遠心力でバウンドする。

妖精の腰が上がると、ずっぽり張り付いた赤い内膜が離れず小陰唇からはみ出した。なんて淫靡な産道だ。

ランちゃんは右手で水波の手をつなぎ、左手は自分の巨乳を自分で揉んでいた。

「胸、触って…♥︎」

「ランちゃん! 好きだ!」

最愛の少女に誘われるまま、男の両手が女王の双乳を握る。

Hカップの大きな胸を生で直に揉みしだきながら、下から子宮を突き上げる。

「私の中、気持ちいい…?」

「気持ちいいよッ! ランちゃんッ! 助かってよかったッ! 全員助かってよかったッ!」

この美貌が、失われなくてよかった。ヴァルキュリアの子宮の中で、勇者は実感する。

あの日リョナアニメの世界から実体化した怪獣娘たちは、あれから地球で平和に暮らしている。もう脚本家の執拗な殺意に怯えることはない。自由に行き来できるマルチバースで、本当の人生を生きている。あの産卵の天使は大家族のビッグマミーだったらしく、今は一家で傭兵稼業をはじめたとか。先の聖戦で、アフィまとめサイト管理人を含む最多の読者を撃破した撃墜女王は彼女の長女だった。美貌と知性を兼ね備えた、高貴なる血。あの一家なら、今度こそ守れるだろう。他の天使たちも、みな幸せそうな笑い声だった。

遠く離れたM78星雲にいても、怪獣娘たちの幸せな笑い声はあの星から聞こえるのだろうか。美しい湖上ランちゃんを抱いたら、生誕した命たちの大きさが見える。誰ひとり欠けることなく生きている。怪獣娘たちが生きている。今目の前で絶世の美女が一糸まとわぬ姿で跳び跳ねる絶景は、決して主語の極大化などではない。

「ほら、わかる…?」小陰唇で咥え込みながら、女神の妖艶な腰の括れが下腹部を細指でなぞる。「このお腹の中に赤ちゃんのお部屋があって、水波くんがこんなに上まで上ってきてトントンしてるのよ…♥︎」

襞の一筋一筋が、きゅうきゅう締め付けてくる。

「あっ♥︎ 膨らんだ♥︎ 今の想像した?」ランちゃんの指摘通り、ウルトラマンは怪獣娘の子宮の中で膨張した。巨人が何を考えているのか、天使の子宮を介して丸わかりなのだ。もっとも、その膨圧は膣圧を加圧して相殺し、さらに強く締め付ける妖精の胎内だが。

Hカップの生乳肉を握りながら、ピンクの乳首がひしゃげる妖精の艶姿を仰ぎながら、少女の膣内で小刻みに暴れる。妖精の巨乳が気持ち良すぎて。女神のセクシーな括れの中が気持ち良すぎて。もう爆発する。

「出すのね♥︎ 上ってきてるのね♥︎ 私の子宮で全部飲んであげる♥︎」

ドプッ!ビューッ!ビューッ!ドクドク…

子宮口を突き上げたまま、子宮頸管に吐き出した。爆発が止まらない。なんて天国な胎内だ。

「あっは♥︎」

絶世の美女が女の子らしい甲高い吐息を奏で、豊満な巨乳を弾ませながら、産道の襞の一筋一筋が蠢く。

吸われる。搾り取られる。

この子宮で何リットル、いや過去に何メガリットルのウルトラ戦士たちを吸い上げてきたのだろう。

とめどない巨人の爆発を妖精の子宮は想像を絶する膣圧で絞り取り、吸い上げる。勇者は女神のお腹の中で吐き出したまま、夢中になって女神の楽園を突き上げていた。夢中になって女神の巨乳を揉みしだいていた。

「まだ出るわね…♥︎」17歳の絶世の美女が、小悪魔的な笑みをうかべる。「じゃあ、特別サービス♥︎」

ランちゃんのお腹の中で、何かが起こった。

瞬間、怪獣娘の華奢で妖艶な括れが、急激に腰を落とした。

ランちゃんのお腹の中で、何かが起こった。

あり得ない深度まで、深く呑み込んだ。

何が起こったのか、水波はすぐに悟った。ランちゃんは、子宮口を開いたのだ。大口を開けた子宮口が水波を丸呑みにし、子宮頸管へ嚥下し、その先を抜けた子宮本体の内膜へと到達したのだ。ついに、胎児を育成する最高級のスイートベッドへと案内された。

子宮頸管が締め付ける。手前の扉から奥の扉までしゃぶりつく。子宮内壁が包み込む。温かい。

美しき天使が上下に飛び跳ね、頸管が擦る。子宮の最奥の天井に幾度となく衝突する。

既に搾り取った巨人の精子が溜まった赤ちゃんのお部屋の中。

搾り上げる蠢きが柔らかくて、ウルトラマンはたまらず怪獣娘の卵管にダイレクトに吐き出した。

ドプッ!ビューッ!ビューッ!

溜まっていく。1リットル、また1リットルと、怪獣娘エレキングの子宮はウルトラマンの精子を一滴も逃すことなく大量に溜め込んでいる。

俺の体が限界が近いのは分かっている。それでも、湖上ランという少女を愛する気持ちを止められない。俺は、ランちゃんに恋をする!

絶世の美女の妖艶に括れた両の腰をがっちりと掴み、水波はランちゃんの子宮天井を激しい勢いで突き上げはじめた。

産道と子宮頸管と子宮内壁で締め付けながら、ランちゃんの玉肌の裸身が「あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎」と甲高く振動する。一糸まとわぬナイスバディが淫靡に仰け反る。長い紫髪が扇を描く。小陰唇が咥え込んだまま吸い付いて離さない。最奥まで呑み込んだセクシーな腰の括れがヒクヒク痙攣する。Hカップの巨乳が遠心力で乳肉を長く伸ばす。飛び跳ねては伸び、アンダーバストに着地しては、タン、と肉のぶつかる音とともに縦長から底面広に変形する。Hカップの豊満な双山の山頂のピンクの突起が、勃起している。

ローアングルから見上げる女体美の芸術が美しすぎて、水波は子宮天井を力任せに頭突きして爆発した。

ビューッ!ビューッ!

少女の卵管に注ぎ込む。女神の美貌を継ぐ少女の卵巣めがけておたまじゃくしが泳ぐ。

子宮の中に溜まっていく高熱を感じながら、絶世の美女は「素敵よ…♥︎」と自分の巨乳を自分の細指で持ち上げ、自分で揉みはじめた。むろん、少女の細指では持ち上げられないほど体積満点の乳肉が溢れる。比喩でもなんでもなく、ゾルのように大量に溢れるHカップの乳肉。

「ランちゃん…! 綺麗だ…!」

ランちゃんの腰を掴んだまま、水波は子宮天井を何度も頭突きする。子宮の最奥をジャンプで叩くたび、産道内壁はもちろんのこと子宮頸管も擦れる。そんなウルトラマンを包むように、怪獣娘の子宮はきゅううっと締め付ける。愛液が粘る。小陰唇がしゃぶりつき、産道がしがみつき、子宮頸管が挟みつき、子宮内壁が喰いつく。

絶世の美女が自分で揉んでも掴みきれないほど大きなHカップの巨乳が溢れ、白い乳肉が飛び跳ね、揺れる。水波が加速するにつれて、ランちゃんの巨乳揉みも加速する。

「水波くんは何も心配しなくていいのよ…♥︎ 私のお腹の中、好きなだけ使って…♥︎」

「ランちゃんッ! 愛してるよッ!」

ビューッ!ビューッ!ドプッ…!ドプッ…!

本日何度目の中出しになるだろう。

天使の子宮が、きゅうっと締め付けて一滴も逃さない。ランちゃんが水波を吸い取る。怪獣の魂を宿した少女が、子宮でウルトラマンの精子を吸い上げる。

子宮天井で、爆発が止まらない。この子宮の中、一体何リットルたまるんだろう。飲んでも飲んでもまだ飲み続けてるような。

その後も、ランちゃんは水波に跨った状態で子宮で吸い上げ呑み続けた。怪獣娘の子宮が満タンになるまで、一晩中。……。

 

 

 

ベッドから目を覚ますと、同じベッドの中にランちゃんがいた。

「あら、お目覚め?」

天使は白い裸身を伏臥位で横たえ、スマホを覗いていた。いや、これはソウルライザーという高性能スマホだったか。伏臥位で妖艶な上体を弓形に起こしたことで、Hカップの巨乳がシーツに落ちて白い生乳肉が一面に広がる。

すぐ隣に絶世の美女がいて、一糸まとわぬ裸身とHカップの巨乳とピンクの乳首を好きなだけ鑑賞できるだけでも絶景だ。

「その画面、電子コミックかい?」

ランちゃんがスマホで見ていたのは、漫画のようだ。この画風、見たことがある。球技をテーマにした漫画で、アニメも放送している。確かタイトルは、

「『おまピト』、だったっけ?」

「正解よ」エレキングの怪獣娘が頷く。「もちろん、アナログ媒体も全巻買ってるけどね。 スマホに全データが入ってると、いつでもどこでも気軽に読めるのよ」

話を聞くと、ランちゃんは『おまピト』が大好きだそうで。アニメBD全巻はもちろん、ミュージカルも見ているのだとか。好きな漫画を熱く語るランちゃんの本当の姿を垣間見た。さっきまで子宮の最奥まで呑み込んで吸い取っていた少女が、熱く語っている。妖艶に括れた腰の裏側に子宮があって、子宮の中に精子をたらふく蓄えたまま。セックスした直後の全裸の少女が巨乳と乳首もあらわに、好きな漫画の魅力を夢中で語ってくれる。

「電子コミックは、悪い奴ばかりじゃない。 ごく一部のプロパガンダアニメを掻き消すくらい、数えきれないたくさんの名作たちが輝いてる。 だから、漫画とアニメを嫌いにならないで。 漫画は本来、宇宙に希望を照らす光だから」

「そっか…… 漫画とアニメが、今のランちゃんを形成したんだね」

おまピト。俺も読んでみようかな。

「その電子コミックサイト、俺も登録できる?」

「手取り足取り教えてあげる♥︎」

全裸の少女が抱きついてくれた。Hカップの巨乳が当たる。柔らかくて栄養満点の乳肉の感触と、コリコリした乳首の感触が当たる。

長い髪から華やぐ、シャンプーの芳りも。

ランちゃんは絶世の美女だ。たとえ俺がウルトラマンじゃなかったとしても、俺はエレキングを守る。怪獣の魂を宿した少女を、絶対に幸せにする。

水波もスマホを手に取った。「サンキュ。 えーっと、ツブ垢名は…」

ツブッターを開いてTLをスクロールする。

「ブックスオンラインストアよ♥︎」

「オッケー。 えーっと、検索は、と。 …ん?」

と。

虫眼鏡アイコンを触る直前、当該のキーワードを入力する前に。

水波の視界に、予期せぬ画面が飛び込んだ。

白紙の検索バーの下に、謎の広告が襲来した。

「この広告は…? 電子コミックじゃなさそうだが…? ――――!!!!!!!!!」

ブックスオンラインストアではない無関係な広告を見て、心臓が止まった。

「16年前だと…!? 宮永に殺人教唆を再間接教唆した黒幕がいたのか…!!」

「水波くん?」

水波が蒼ざめる様子を見て、ランちゃんもスマホを覗き込む。同様に頭の血がひいた。

「これは……!! 化石年代のHTMLが、シャドウの思想を教唆する隠れ蓑になっていたなんて…!」

「似すぎている…! レッドマンの思想と酷似している! 間違いない、宮永とてこのサイトのユーザーのひとりに過ぎなかったんだ!」

「こいつら、自分たちをナマモノだと思っているの? バーチャルアイドルでもないくせに、その根拠のない自尊心は何処から来るの?」

「ランちゃん…」

怪獣娘の瞳が、かつてない義憤の雷で稲光っていた。

ランちゃんが、ベッドから立ち上がる。

「このサイトが、全ての元凶よ!」

 

 

エレキングの歌 FIN




【天使のお告げ】

このエッダは天界神話です。

下界の個人、企業、団体、国、地名、思想、主義主張とは一切関係ありません。

また、それらを誹謗中傷するものでもありません。

下界の肉枷が禁じるいかなる犯罪をも助長または礼賛する意図はありません。


―――ただし―――

あなたの住む世界は、本当に『現実』ですか?

あなたが現実だと勘違いしていた世界は何者かが作った創作物で、あなたはその登場人物です。

自分に自我があって自分の意志で動いていると勘違いしているあなたは

実際は脚本家のマリオネットに操られたチェスの駒にすぎません。

脚本家は、被造物たるあなたへの殺意は実に執拗です。

予め結論ありきで、脚本家はただ感情論であなたの寿命を意地でも短命に運命づけました。

それが違うと証明できますか?

架空か

現実か

あなたは、どちらを彷徨っているのですか?


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ゼットン ピースメーカーとペースメーカー


(イラスト: RS 様)


俺たちが守らなくてはいけないもの、それは勇士としての証明なんかじゃない。
─────トウマ・カイト


怪獣娘。

M78星雲に住む、美しき光の天使たち。

甲冑をまとい、多次元宇宙へ遣わされ、愛と勇気を灯した人間を探し出し、美貌を以て光の国へ連れて行き、ウルトラ戦士にする。

 

『美しき天使たちよ、私の神殿に集うのです』

ウルトラの星、またの名を光の国。

黄金の甲冑をまとった光の巨人・ウルトラマンオーディンがマントを翻すと、上空から6色の小さな光が飛来する。

光たちは巨人の胸の発光器官ほどの中空で静止し、小さな美少女の姿になった。優雅に舞う美しさは空飛ぶ妖精のようだ。

 

『宇宙恐竜 ゼットン』

ピポポポ

絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。黒いゴスロリドレスのような高貴な獣殻が美しいボディラインに張り付いた、熾天使。頭にはカミキリムシの牙のようなツノ。

クールビューティー。そんなイメージを体現したかのような美人。

前髪の中央を縦断する、灼熱色に輝く発光器官。…発光器官といえば、胸にもふたつ。そう、豊満な胸のふたつの膨らみが、灼熱色に輝く。

美しさの内に強さを秘めた美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング』

キュィィン!

ホルスタイン柄の獣殻が繊細なボディラインに張り付き、背中には電気ウナギのような長い尻尾がうねる。長いピンクの髪。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。アンダーバストから胸を支えるようにライトニング発光器官が輝き…そう、その上に乗った豊かな乳房はトップレスだ。

美しさの中に知性を秘めた美少女。

 

『分身宇宙人 ガッツ星人』

ア゛…ァ゛……

幸せの青い鳥を思わす綺麗な獣殻が、しなやかなボディラインに張り付く。首には赤いマフラー。

艶めかしい腰のライン。少女の下半身ゆえの艶めかしい曲線。聖鳥の尾羽のような優雅なスカート。きめ細やかな白い肌。か細い上半身には不釣合な、大きな大きな、風船のように丸く膨らんだ乳房。

長くしなやかに流れる長髪は宝石のような瑠璃色。見る角度によっては金色にも光を反射する、構造色の長髪。

人として満ち足りた美しさと色香、翻って人外ならではの美しい光沢。かと思えば年相応の少女の可愛さ。見る角度によって見える美貌が違う、プリズムの美少女。

 

『宇宙ロボット キングジョー』

グワシグワシ

膝裏まで届く綺麗な姫カットのロングヘアー。アイスブルーの澄んだ瞳。手足をペダニウム合金の獣殻で固めた以外は全ての柔肌を全宇宙に配信した、白く透き通る均整に満ちた裸身。抜群のスタイル。ただでさえ白い肌でも特に白い、異常に巨大な乳肉。そして何より、このカリスマモデルを宇宙No.1アイドルたらしめる、全宇宙が羨む美貌。全宇宙を魅了する輝き。

美しさからカリスマが輝く美少女。

 

『サーベル暴君 マグマ星人』

ピギャ!

長い金髪が煌びやかに流れる、芸術的な美貌と女体美。全てが完璧なプロポーション。

青い瞳。雪のように白い肌。目鼻立ち整った端正な顔つき。華奢な括れ。形のいい、張りのある、大きなヒップラインと大きな乳房。

銀色のビキニアーマーのような獣殻が、名画の女神のようなボディラインに張り付く。腕にはマグマ勲章。

完璧な美しさを体現した美少女。

 

『宇宙怪獣 エレキング・プレックス』

キュィィン!

シュークリームのようにふわふわの髪が特徴的な、妖艶な美女。頭に2本の三日月状のツノがアンテナのように駆動する。

首からはホルスタイン柄の、身長より何倍もあろうかという長い長いマフラーが天女の羽衣のようにうねる。

スリングショットとタイトミニのような獣殻も同じ柄なのだが、全裸に等しいほど布地面積が少なく、扇情的な女体美が白磁のように眩しい…悩ましげな下腹部も、細い括れも、豊満な乳房も。

圧倒的な色香。存在自体が情欲をかきたてる魔性の美貌。

 

6人全員には共通点がある。

みな絶世の美女なのだ。

 

『怪獣娘たちよ! ウルトラマンになれる資質を持つ人間たちを、諸君らの美貌を以て徴兵し、光の国に連れてくるのです!』

オーディンの指令を受け、小さな天使たちは再び光となって空へ飛び立つ。

 

 

 

玉座に座るサテュロス王の風格は、威風堂々としていた。

今、王が置かれている状況を除いては。

その日、アルフヘイム王国に危機が迫る。

異変が起こったのは、王都タングニョーストはクヌム城。本来ならば、民を救うべきはずの場所。

「気でも狂ったか、バフォメット将軍よ」

謁見の間に押し寄せた、自国の軍。王を包囲する、裏切りの槍、槍、槍。

裏切り者たちの中心には、本来ならば民のために真っ先に命を差し出すべきはずの男がいた。

バフォメットと呼ばれた将軍が、王を睨みつける。「城内にいた王妃と女中どもを何処へ逃がされた? お答えいただこうか」

王は頑として吐かなかった。「教えると思うたか! たとえわしが死のうと、民には手出しはさせぬ!」

「まだお分かりいただけないか、サテュロス王よ」およそ人のそれとは思えぬ、狂気に満ちた顔で将軍は歯を剥き出す。「我らが命をかけて守った民草は、守る価値の無い存在だった! 我々が血を流して国を守った結果、平和な街では愚民どもが堕落し、生に執着し、偶像を崇拝した! わが若き日の戦友たちはみな命を落としたというに、平民どもはヘラヘラと笑って生きているのだぞ!」

「わしが知るそなたは、国の宝たる民を侮辱するような男ではなかった…」王が立ち上がる。大斧を持ち上げる。「もはやうぬは将軍ではない! 我が斧の錆となるがよい!」

マントを脱ぎ捨てたサテュロス王の上半身は、重厚な筋肉の鎧をまとっていた。

裏切った兵士たちが襲い掛かる。王は斧の一閃で全て弾き返した。

唯一耐えた将軍が、「たるんでいるぞ! それでも誇り高きアルフヘイム兵か!」と毒づく。

王が「今の貴様がアルフヘイムを語るとは何たる二律背反!」と挑発する。

将軍は「婿養子の王に何が分かる!」と槍を突き出す。

それを予め知っていたかのように逆方向に躱されさえしなければ。

続いて槍が乱れ撃つ。「私は、報われると信じていた! どんなに戦場が地獄でも、どんなに辛く苦い人生でも、戦い勝ち続けたらいつか報われると信じていた!」

「そこまで落ちぶれたかバフォメットよ! 見返りを求める英雄など聞いたことがないぞ!」

将軍の攻撃は、サテュロス王には全て読まれていた。

その繰り返しだ。王の的確な読みによってバフォメットは玉座の間から出られず、1時間の膠着が続いた。

長時間の決闘で双方とも疲弊するまでは。

「残念だったな、バフォメットよ…… もはや城の者を追うことは叶うまい……」

王は、肩で息をする。

「未来を見通せても…… 変えられぬようだな、サテュロス」

何を思ったかバフォメット、武器を捨てた。

降伏?違う。その理由は、すぐに可視化する。サテュロスにとっては、恐れていた最悪の結末が訪れてしまった。今のバフォメットが王権を簒奪するのに、槍など必要なかったのだ。

裏切り者の体が、みるみる巨大化していく。

天井を突き破り、王宮が倒壊する。

ただでさえ大柄だった男は、体長80メートルもの巨体に成長していた。

「見よ! 俺はデジョール様の御加護を賜ったのだ!」

咆えるなり、闇に魂を売り渡した男は拳で地面にクレーターを空けて足場ごと落とした。

落下の衝撃で一瞬の隙ができたサテュロスを、踏みつぶした。

足を離すと、巨大な人間の足跡の中心には王は血にまみれて倒れていた。

将軍だった男が、狂ったように雄たけびを上げる。「だから言った! どんなに未来を見通そうと、逃れられぬ運命があるのだ! キサマが最期に見るのは、俺様が愚民どもの根性を叩き直す未来だけだ!」

「わしには見えるのだ…! そなたの未来が…!」瀕死のサテュロス王が、裏切り男を一瞥する。「アルフヘイムに闇が襲い来る時…… 豊穣の女神は焔の翼の天使を遣わされる…… 天使は民を絶望から救い…… 銀色の巨人を眠りから醒まし、そなたを打ち滅ぼすであろう……」

「死してなお天使など信じるか! 偶像崇拝者が!」

「ぐふっ」

欲望の拳が、王を握り潰した。

かくして、心優しき王による善政の時代は終わりを告げる。

 

 

青いゴシックに身を包んだ美しい女性が、長い画廊を歩く。

両サイドから呼びかける、壁に飾られた9枚の絵たち。

腕利きの画家たちの手によって生み出された、美しい彼女たちは色とりどりの芸術。たとえ生みの親は違えど、この画廊では実の姉妹のように仲良しだ。

この先の扉には。

両の引き戸を開けると、大広間があった。

中央に、一際大規模な絵。

『審判の時』と銘打たれた額縁の内側には、美麗な天使たちの世界が広がる。

焔の翼の天使が最上より遣わされ、その翼の赤き輝きが空に降り注ぎ、天下万民が蘇る。

選ばれし少女たちは左側の天国の門へ招かれ、色とりどりの花に囲まれながら美しき天使たちに祝福される。一方、年老いた男たちは右側の地獄の門へ突き落され、灼熱の業火に焼かれながら巨大な龍に喰われる。

全ての一部始終を、豊穣の女神は最上から見守っていた。

復活したばかりの少女たちは何者かに虐げられたと思しき傷跡が痛々しいが、ひとたび天国の門をくぐると綺麗さっぱり完治した。

アルフヘイムに伝わる伝承を描いた名画だ。

誰よりも目を惹くのは、中央に描かれたこの絵のメインヒロイン、焔の翼の天使。絵に優劣をつけるのは気が引けるが、彼女の美貌は絶世の美女だ。こんなに美しい天使が、民を救いに来るのか。

長年ここで館長を務めているが、熾天使の美をいつ見ても見惚れてしまう。

ちなみに、この部屋には絶世の美女がもう一人。

「ここにいたのですね、ディース」

その幼い少女は、同じく熾天使を眺める先客だった。

赤いゴシックを身にまとったリトルレディが振り返り、ワインレッドの髪を揺らす。

「お母様」

ディースと呼ばれた赤い姫君は、館長の実の娘だった。

腰まで届くツーサイドアップの髪。

産まれてまだ11年しか経っていないだけあって全体的に線が細く、腕と足も華奢だ。相違点があるとしたら、同年代の幼い少女たちと比べても背が低いこと。腰がほっそりと括れていること。そして、その華奢な上半身には。人間のそれとは思えぬほど異常に巨大化した、たわわな乳房を実らせていること。

「おまえはこの絵が好きですね」

なお、最後の特徴は母親から遺伝したことは言うまでもない。青いサイドテールの髪に青い薔薇を飾る貴婦人は、またしても胸が異常に大きい。それ以前に、長い。

付け加えるならば、母娘とも乳房があまりに大きすぎてゴシックドレスでは収納できるはずがなく。

赤と青のドレスは、乳房を開放するため上半身の布面積が削られ。白い乳肉が自由気ままに飛び出していた。

母そっくりの娘が「はい、天使様はいつでも見守ってくださいます」と無邪気に笑う。どんなに胸が大きくても、幼い心は年相応の少女だ。

「それじゃあ」愛娘と同じ目線で、館長も熾天使の前に立って仰いだ。「今日もアルフヘイムの民が笑顔で暮らせるように、天使様にお祈りしましょう」

「はい、お母様」

青いサイドテールに飾られた青い薔薇と、赤いツーサイドアップに飾られた二輪の赤い薔薇が、甘く薫りを空で絡め合った。

ニョルズ美術館。

王都タングニョーストから遠く離れた港町で唯一の王立美術館は、町民の心の拠り所。

芸術の国アルフヘイム各地を彩る、色とりどりの美術館たちの一かけら。

だった。

今日、この日までは。

突然、館内が騒々しい。

地響きのような大勢の足音。

野太い声で、「館長を呼べ」と怒鳴る怒声。

ただごとではないことは明らかだ。

「何事です」

背後を振り返ると、既に犯人は熾天使の間に侵入していた。

アルフヘイム兵だ。

引き連れられた館員の男が「館長、それが…」と説明する前に、小柄な老兵が「館長はどこだ」と怒鳴る。どうやらこの小柄な男が隊長のようだ。

青い美の女神が「私がニョルズ美術館の館長を務めるスカジです」と答える。

「ふざけるな!」老兵がヒステリックに叫ぶ。「貴様のような小娘が館長のはずがあるか!」

そうか、11歳の娘を持つ母親が小娘に見えるか。そんなに若く見えるか。

館員たちが口々に「本当だ」「このお方がグルヴェイグ家の当主様だ」と証言する。

その愛娘を庇うように立つ母は、「人に名前を聞く時は自分も名乗りなさいって王に教わらなかったかしら?」と小柄な男を見る。

「私はアルフヘイム遠征軍中隊長、マーダー男爵だ」

「爵位を誇るのはおやめなさい、上を見上げたらキリがないわよ」

「館長はニョルズの伯であらせられるぞ」

「黙れ! 婿養子から叙した爵位など何の価値もないわい!」老兵が遮る。

ようやくマーダーが切り出した本題は。

「今日よりアルフヘイムは偶像崇拝を禁止する。 新王バフォメット陛下の勅において命ずる、この美術館の絵を全て焼却せよ」

「な…っ!?」

狼狽える館長と館員とは裏腹に、今まで後ろで怯えていたディースが「ダメ! そんなのダメ!」と前に出た。

「ディース、下がりなさい」館長の制止も、「おじさんたち、天使様が嫌いなの? 絵を壊したら、天使様に怒られちゃうよ?」

幼子の声など老人の遠い耳に聞こえるはずもなく。「また、今日よりニョルズ地方も年毎に餓死者ノルマと過労死者ノルマと戦死者ノルマを課す。 逆らえば、一年以内といわず今すぐ死だ」

やめろ、と庇う館員たち。館長が、再び前に出る。

「私はどうなっても構いません。 この子は、娘だけは、助けてあげてください」

「聞こえなかったか? バフォメット陛下は国中の偶像を破壊せよと仰せだ。 それさえ服従すれば悪いようにはせぬ」

「…………」

「お母様…」

足元で小さな娘が母を見上げる。

この絵は、ニョルズ町民たちの大事な希望だ。熾天使が民の心を癒してくれるから、日々の辛い労働にも耐えられた。彼女がいなくなったら、明日から何を理由に生きるというのだ。

だけど。

スカジは、領主である以前に。

スカジは、館長である以前に。

「従います」

人間だった。

どんな美しい名画も、娘の命に代えることはできなかった。

「ここの領主も賢明でよかった。 徒に自爆兵を無駄死にさせるのは新王陛下の本意ではないからな」

マーダーに命令された兵士たちの手が額縁に延びた。全ての絵を屋外の広場でまとめて燃やすつもりだろう。

またしても、ディースが熾天使を庇うように割って入りさえしなければ。

「ディース!」

「お嬢様!」

「殺せるものなら殺してみなさい」館長と館員たちの制止も聞かず、幼い少女が屈強な男たちの前に立ちはだかる。「軍がどんなに暴力を振り回そうと、天使様が炎の翼で私に永遠の命をくださいます。 私は、天使様の奇跡を信じます!」

幼い綺麗すぎる瞳は、老人の汚れた目には妬ましく見えた。

「自殺願望の強い忌み子だ」老人が怒鳴る理由は、それだけだ。「こんな紙クズを庇って死にたいのか!」

幼い瞳は、屈しなかった。「紙クズじゃない! 天使様よ!」

老いた前頭葉は、短気だった。「黙れ! 構わん! 見せしめに殺せ!」

命令された配下の兵士がクロスボウを射た。矢は、ディースの豊満な胸を貫いた。

「ディース!!!!!!!!! いやあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

「お嬢様!!!!!」

現実を直視できなかった。

もし天使の絵さえなければ、最愛の娘を失うこともなかっただろう。こんな犠牲を払うなら、絵なんか愛さなきゃよかった。

泣き崩れたスカジと、呆然と立ち尽くす館員たち。

彼女たちをよそに、マーダーは血まみれの床に唾を吐いた。

「その自己犠牲心を、なぜバフォメット陛下に捧げなかった…!? こんな紙クズが陛下より大切か…!? 無駄死にの変異卵が…!」

兵士の手が、今度こそ額縁に伸びる。

突然、天井ドームから眩い光が降り注ぐまでは。

輝く天より舞い降りたのは、『審判の時』と同じ炎の翼の熾天使だ。

灼熱色に輝くファイアオパールの翼。

カミキリムシにも似た、黒いドレス。絹のように綺麗な長い黒髪。金色の瞳。スタイル抜群の体。大きな胸。頭に2本のツノがはえた姿は、まさに名画にて民を救う熾天使そのもの。

いや、その美貌は絵の中の彼女をも超える。

細い腰と腕に似合わず大きな乳房は翼と額同様に灼熱色の熱線を照射しており、ドレスを突き破って飛び出す大きな双球は連星をなす赤色巨星だ。

宇宙恐竜 ゼットン

ヴァルキュリアの女王にして、伝説の龍の甲冑に身を包んだ熾天使。

これは夢か、幻か。

天使が実在したこと。

降臨した天使の常軌を逸した美しさ。

その両方で、その場に居合わせた全員が現実感を見失っていた。

天使が、マーダーを見下ろす。

伝承によれば、天使はむやみに軍人を殺さない。戦場で散った兵にも家族がいるはずだ。

では、マーダーに家族はいるだろうか?領民に慕われているだろうか?

否だ。老人の汚れた目を、天使の金色の眼光は見逃さなかった。

顔を見たら分かる。この男は、心の奥底では領民を憎んでいた。家族をも愛していない。妻子を虐待してきた、傲慢な男の目だ。

この男が死んで悲しむ者はいない。刹那、マーダーの全身が火柱に包まれ、老人特有のサイケデリックな断末魔が空気を裂く。

瞬く間にウェルダンに焼けた老人だったモノは倒壊し、そこには灰人形だけが残った。

上官が浄火されるさまを間近で見た兵士たちは、一斉に跪いて命乞いをはじめた。ごめんなさい、お許しください、天使様。

戦意を失った操り人形たちには目もくれず、天使は少女の前に降り立つ。

自らを犠牲にして天使を守った少女の亡骸。

奇跡が起きる。

熾天使の大きな胸がひときわ高熱に輝き、光の塊が飛び出す。その輝きは自我を持つかのように浮遊し、ディースの豊満な胸に飛び込んだ。巨大な乳房に刺さっていた矢が、たちまち消えた。美しかった蒼白の顔が、みるみる血色の良い美しさを取り戻していく。

ルビーの瞳が、再び開く。

アロマを焚いた香りで、目覚める。

「天使様…?」

ついに邂逅する、ルビーとサファイアと、そしてファイアオパール。

「ディース!!!!!!!!! ディース!!!!!!!!!」

真っ先に駆け寄ったのは、スカジだった。

泣いた。

天使の奇跡によって再び産まれた最愛の娘を抱きしめて、泣いた。

「お母様… 心配かけてごめんなさい」

「いいのよ、おまえが生きているだけで、それだけでいいのよ」

サファイアの貴婦人は、大声で泣いた。

ルビーの姫君も、母を抱きしめた。

気付けば、館員たちも男泣きだ。

「ありがとうございます天使様、なんとお礼を差し上げたら…」

「私は何もしていない」ファイアオパールの天使が、首を横に振る。「声が聞こえた。 この子が私を呼んでくれた」

「本当に、ありがとうございます」

「天使様、ありがとうございます」

泣きながら抱き合うサファイアとルビーの母娘を、天使は優しく見守った。

母娘が感動の再開を噛みしめている間、水を差さぬように熾天使は周囲の人間から聞き取った。

ディースが悪の凶弾を向けられるに至った経緯を。

 

 

世界樹に包まれた世界、ユグドラシル。

その地上の一角に、芸術の国アルフヘイムはあった。

肥沃な大地と豊かな穀倉地帯に恵まれたこの国は絵を愛し、彫刻を愛で、主要都市には必ず美術館があって民の日々の労働の士気となっていた。

善王サテュロスのもと、宮廷こそ質素倹約しながらも、城下の民には衣食住を保証した。隣国とも交易で栄え、平和な国だった。

昨日までは。

あの夜、突然謀反を起こした将軍バフォメットがサテュロス王を暗殺して玉座を僭奪した。

裏切りの僭王は昨日までの善政から一転、偶像破壊政策へと舵を切った。

手始めに、各地主要都市の美術館の破壊を軍に命じた。ニョルズ美術館も、そのひとつだ。

幸い、サテュロス王が自らを犠牲にして時間を稼いだお陰でそれ以上の人的被害は免れたが。

現在、城下では全ての美術品が破壊された上で見せしめに老民たちが処刑され、言論弾圧の中で怯えながら暮らしているという。逃げた王妃と宮廷侍女たちも兵たちが捜索中だ。

これだけ聞けば、バフォメットは単なる強欲な王権簒奪者だろう。

問題はここからだ。

将軍は王を暗殺する時、巨大化して城ごと破壊したという。

本人いわく、デジョール人の加護によって。

自らをデジョール人と名乗る空の民が、バフォメット将軍に啓示を授けた。

その巨大化の秘蹟を目の当たりにしたマーダーをはじめ配下の領主たちは、デジョールおよびバフォメットの狂信者となって嬉々として馬脚を顕したのだ。

ここからはゼットンの推測だが。

亡きマーダーの強欲な目が今も瞼に焼き付く。バフォメットも同じ傲慢な邪心の持ち主であろうことは想像に難くない。

もうお察しの通り、アルフヘイム王国は封建制を敷いている。現に兵を率いる上官の大半は、王より領地を封ぜられた地方領主たちだ。しかしサテュロス王が民を守る政策を進めていた以上、はたして領主たちにどれほどの実権があったろうか。少なくとも、民を苦しめる悪代官がいたら正義がそれを許さない。

悪代官が悪事をはたらけないフラストレーション。もとより光を忌み嫌う領主たちは、領民の幸せを僻む。その憎しみの矛先は、心優しき王へと集中する。

闇の住人は、そんなバフォメットたちの心の闇に付け込んだのだろう。

思い通りにはさせない。

民が置かれている状況。王妃たちの安否。

悠長なことはしていられない。時間を争う。

「ディース、力を貸してほしい」

「はい、私にできることなら喜んで」

 

 

王都タングニョースト、クヌム城跡。

瓦礫と化した玉座の間に、僭王は座していた。

「ふん、サテュロスが城内に金銀財宝を持たなくてよかったわい」

自分が巨大化したせいで、この城は全壊。自分がやったこととはいえ、自分の城を持てない新王とは示しがつかない。それでも、この城に宝物庫が無かったのは不幸中の幸いか。建造物は奴隷を過労死で絶滅させればいくらでも再建できる。

「財宝も敵国から略奪してくれるわ。 新しい城を世界一の金銀財宝で彩られた王城にしてくれようぞ!」

カッカッカ、と王らしからぬ下賤な笑い。近衛兵たちも「素晴らしきにございます、新王陛下」と拍手するばかり。僭王の周りを固めるのはイエスマンだけだ。

その時「アルフヘイムを滅ぼした挙句、今度は隣国と戦争しようってつもり?」見えないところから、幼い少女の声が聞こえるまでは。

「何奴だ!?」

近衛兵が厳戒態勢を敷くまでもなく。

何もない空間が揺らぎ、透明な空気から赤いゴシックドレスの少女が姿を現した。

どうやって入ってきた?いくら廃墟と化したとはいえ、クヌム城の外は幾重もの番兵で守りを固めたはずだ。番兵どもは何をしている?

少女の左腕には、ブレスレット。忌々しい光の魔力を感じる。

曰く、「おまえが闇の力を授かったように、私にも天使様がくださったのよ。 光の御加護を!」

赤い髪の少女が巨大すぎる乳房の谷間からカードを取り出すと、ブレスレットの宝玉に翳す。

少女の体が眩く発光し、みるみる巨大化していく。

体長23メートル。赤青ツートーンカラーの女巨人がそこにいた。

ウルトラウーマンフレイヤ

背中に銀色の天使の翼が開き、側頭部にも天使の羽飾り。額にもそのエンブレム。

左手に装備した、聖なる宝弓。

最後に、最大の特徴は。

人間態から引き継いだ超巨大すぎる乳球の双頂に、2つのエナジーコアが連星のように青く輝く。

『バフォメット! 美しいアルフヘイムを汚そうなんて、許さない!』

「生意気な小娘が! 厳しい体罰で調教してくれる!」

バフォメットもまた、闇の住人から授かったと思しき王笏を引き抜く。闇の魔力が漏れ出す。

やがて体長80メートルの巨体と膨れ上がった僭王は、ゾンビを彷彿させる黒い巨人だった。

悪神 ダークロキ

権力に溺れた男の成れの果て。両手に黒い双剣を握り、闇の巨人は咆える。『神罰執行ォォォォォォォ!!!』

振り回す双剣。その衝撃波たるや、配下である近衛兵までも巻き込むほどだ。

近衛兵たちは、たまらず逃げだした。

肝心のフレイヤには当たっていないことを除いては。

光の女巨人は自身を透明化し、姿を消していた。

姿が見えないフレイヤ。今しがた番兵の目を掻い潜って侵入したトリックはこれだったか。

剣戟が当たらない。3倍以上もの体格差が仇となった。

背中に何かが刺さった。

光の矢だ。

振り返って剣を振りかぶる闇の巨人だが、空気を切るだけだ。

『おのれ愚民どもおおおおおおおおおおおお!』

怒りの炎が燃え上がる。僭王の憤怒は廃墟を焼き尽くし、堀を侵攻し、タングニョーストまで燃え広がろうとしていた。随分離れたところからフレイヤが実体化するまでは。

赤青ツートーンカラーの女巨人は全身青の姿に変身し、超高速で王都と炎の間に割って入る。青い女巨人は全身赤の姿に変身し、両拳を腰に添えて上体をそらしながら仁王立つ赤い女巨人の爆乳が揺れる。王都を庇って炎を受け止める。

ダークロキ渾身の全力攻撃をまともに喰らった。クリティカルヒットだ。手ごたえが無かったことを除いては。

爆煙が晴れると、赤い女巨人は微動だにせず仁王立っていた。もっとも、爆乳だけは自慢げにバウンドしたが。王都に被害は無い。なんて耐久力だ。

赤い女巨人は青い女巨人となって超高速で旋回し、黒い巨人の背後で立ち止まって再び元の赤青ツートーンカラーの女巨人に戻って透明化する。

『見切ったぞ!』闇の巨人が、左右両端に双剣を振りかぶる。

『きゃあっ!』

結論からいえば、正解は右側だった。何もないはずの虚空に手ごたえを感じ、空間が歪む。

実体化した女巨人が、苦しそうに膝をつく。

正解がどちらかなど、闇の巨人にとってはどうでもいい。今のは二択しかなかったのだから。

『透明化はこれで封じた。 正々堂々と戦って散れい!』

闇の巨人が、懐に飛び込んでくる。女巨人が赤い姿に変身し、弓が黒い剣を受け止める。

弓を封じたところを、闇の巨人は赤い女巨人に蹴りを叩き込む。吹き飛ばされた女巨人が地面に叩きつけられる。

弓を落としてしまった。

両の乳房の双頂の2つのエナジーコアが赤く点滅する。

なおも黒い巨人の追撃が迫る。女巨人はすぐさま青い姿に変身し、大ジャンプ。黒い双剣が地面に刺さった隙を狙って、側頭部の天使の羽飾りが刃となって上空を飛び交う。

不規則な飛行編隊が黒い巨人を翻弄する。『正々堂々と戦死しろと言ったろうがあああああ!』

怒りの炎が再び燃え上がる。

この時を待っていた。

大技を放つにはそれなりのチャージ時間を要する。その一瞬こそが闇の巨人に隙が生じるチャンスだ。

青い女巨人は赤い女巨人に変身し、黒い巨人の真上から急降下する。

赤い女巨人の巨大な乳房が、黒い巨人を踏みつぶした。落下地点を中心に、クレーターが空く。

クレーターの底に蹲った僭王。その近くに着地した光の女巨人は、元の赤青ツートーンカラーに戻っていた。

天使の翼に光の魔力をチャージして、両手をL字に組む。

『シャイニングビフレスト!』

輝く、虹色の光線。

態勢を立て直した黒い巨人も、双剣をクロスする。

『ゴエティウムボイド!!』

蠢く、黒い光線。

衝突する、光と闇。

両者の力は、拮抗するかに見えた。

闇が、圧している。

『これが見えざる神の御加護だあああああああ!!』

『強い・・・っ!』

闇が長く、光が短く縮んでいく。

黒い凶弾が、目前に迫る。

上空から、美しい歌声が澄み渡りさえしなければ。

ファイアオパール色に輝く、小さな妖精が空にいた。

『天使様!』

『誰だ!?』

妖精の美しき姿は、熾天使。

比類なき端正な顔立ち。長く綺麗な黒髪。腰はほっそり括れながらも出るところは出る芸術的な女体美。細い肩幅に似合わぬ、たわわに実った大きな胸。幾多の名画家が、天使の美貌を額縁に残そうと夢見たろう。

美しき女王は、歌う。

人は誰もが光になれる。世界中の人々の願いを乗せた、古い歌。

天使の歌声は加護となり、フレイヤの光を増幅する。

王都の民が、平和と自由を祈っている。

女巨人が、光り輝く。

出力を増した光線は虹色の炎をまとい、次第に闇を押し返す。

『デジョール様の御加護が…! 押されているだと…!? こんな小娘どもに…!』

ついに光は闇を破ってダークロキまで到達し、バフォメットの巨体を貫通する。

黒い巨人の鳩尾を鋭く刺した虹色の光線は背中を突き破り、天空へ鮮やかな虹の花を咲かす。

『アルフヘイムに神の裁きを!!!!!!!』

断末魔を吐きながら、僭王の黒い巨体は爆散した。

砕け散った破片は魔力が解けて縮み、人間の死体サイズの肉片に帰する。

吹き飛んだロキの生首がバフォメットの生首に戻り、己の血で真っ赤に塗れた生首は落下の衝撃で粉々に砕け散った。

恐怖政治で民を脅かした独裁者の、末路だ。

かくして、暴君による言論弾圧と偶像破壊の王朝は終わりを告げる。

王都から、民の歓声が聞こえる。

恐怖政治が終わり、生きることが許される芸術の国アルフヘイムが戻ったことを喜んで。

美しき熾天使に見守られながら、光の女巨人は縮んで幼い少女のサイズに戻った。

もちろん、乳房を残して。

「天使様、戻って来られたということは王妃たちは?」

テレポートで王都に着地したゼットンは、首を縦にふる。

「ありがとうございます、天使様」

同じくテレポートで護送されたのは。

王妃グルヴェイグと王女ティターニア、侍女、そして12人の宮廷魔女とその娘たちをはじめとした、王城に仕えた多数の命たちだ。

その後、熾天使はアルフヘイム各地を回って犠牲者数の実態を聞き取り調査し、あたら若い命たちを奇跡で連れ戻した。

そして、特別にもうひとり。

 

 

「アルフヘイムをお守りくださり、本当にありがとうございます。 再び民の笑顔が戻り、何とお礼を差し上げたら…」

王都中心部の魔法道具店と多種族居住申請局の間に急遽設けられた仮設テントの中で。

黄泉から帰ってきたサテュロス王が、泣きながら深々と膝をついた。

テントには、その奇跡の主役たるゼットンとディースが歓待される。

天使が首を振ったことを除いては。「私が一度に再生できるのは96人まで。 この国を守ったのは、犠牲を最小限に抑えた君自身」

あの時、サテュロスがバフォメット相手に最期まで時間を稼いで足止めしたから。王妃たちは王宮を脱出して生き延びることができた。別の街の下水道でひっそりと息を潜めていたところをゼットンに救出されたのだ。

ダークロキをの巨体をも足止めしたことで、城下民の犠牲も最小限に抑えられた。これほど大規模な政変が勃発して犠牲者が二桁以内に収まったのは、ひとえにサテュロス王の尽力と。

「そして、ディースのおかげ」

「そんな、私はただ」憧れだった熾天使に褒められ、ディースは頬を赤らめる。「絵を見るのが大好きなんです。 たくさんの名画たちを守れて、本当によかった」

幼い少女は、そこらの大人より何倍も人格が出来ているようだ。その大きすぎる乳房と同じく。

天使が頷く。「サテュロスは、今後も民のために奉仕を尽くすこと。 それが私にとって一番のお礼」

「ありがたき幸せにございます」善王は、頭を下げた。

「本題に移るけど」熾天使の目が真剣な眼差しに変わる。「バフォメットを教唆した首謀犯に心当たりは?」

元凶はそこだ。デジョールを名乗る男がバフォメットに闇の力を与え、アルフヘイムの民に圧政を敷いたのだ。

「バフォメット… そなたほどの男が、なぜ闇に魂を売り渡した」

かつて王の重臣だった無惨な死体は現在、魔女に安く買い取られて挽き肉にされ、サキュバス召喚用の魔法薬の材料として再利用が図られている。

奴を弔う者は誰一人おらず、墓も碑もない。

民のために死ななければいけなかった将軍が、なぜ民を弾圧した。

「燃やされた子たちは、もっと痛かったんです。 彼女たちを愛情こめて生み出した画家たちも。 私はバフォメットと、そのデジョールと名乗る男が許せません」

そう嘆くのは、ディース。偶像破壊の犠牲となった絵たちを人間同然に供養し、慰霊碑を建てた少女だ。

「私は生まれつき、預言魔法に長けております」と、サテュロス王。「デジョール人は、遥か遠き空の彼方に住まう闇の民… そうですな、彼奴等を天使様の国では『シャドウ』と呼んでおられませぬかな?」

「!」

指摘されて、熾天使は金色の目を見開く。

シャドウの話はディースには説明したが、サテュロスには一言も言っていない。知り得るはずのない闇の名を、善王は『予言』した。

突然、王はテントから外へ飛び出す。

「私の魔力が告げております! 悪魔の本拠地は…」

幾千の夜の星空の中にあって、王の指はある方角を指した。

「あそこですぞ!」

 

 

円形の宇宙船が、星々の間を漂う。

円盤はその先の進行方向に、次元の裂け目を発見した。

「あった…」

観測した船内ディスプレイを、ゼットンは見る。

結論から言えば、黒幕の本拠地は超空洞を挟んで銀河フィラメントの対岸にあった。サテュロス王が凡その方角を予言できなかったら、ゼットン星の宇宙船を以てしても正確な座標を絞り込むにも時間を要しただろう。王には感謝している。

断層に突入すると、そこは。

「悪趣味…」

ディスプレイ越しに写った映像を見た天使をしてそこまで言わしめたのは、破壊された絵の山だった。

ナイフでズタズタにされた幾枚もの絵たちが、無重力空間を漂っている。

検温系統が異常な低音を検出している。これは絶対零度だ。

陰惨なアステロイドをくぐった先に見えたのは、パイプオルガンだ。

……真空中でなぜ聞こえる?

いや、光の世界の物理法則はシャドウにはあてはまらないか。

相手は闇だ。何が起こるかわからない。

『ここを突き止めるとは… 未開文明だと思って見くびっていました』

オルガンを演奏する、長髪の男。

『しかし思わぬ収穫ですよ』

振り返った男は、灰色のマントで首から下を覆い隠している。

『怪獣娘、ゼットン。 噂にはかねがね聞き及んでいますよ』

男が上空を浮上した。

『この経験値ボーナス、逃す手はありませんねぇ!』

邪悪な笑みを剥き出したこの男こそ、全ての元凶。

芸術に溢れた惑星ユグドラシルを未開文明と見誤り、バフォメットの心の闇に付け込んで唆し、アルフヘイムを闇に陥れた張本人。

シャドウジェネラル デジョール人

先制攻撃を仕掛けたのは、シャドウだった。両眼から真紅の閃光が咆える。

天使は頭部の発光器官から炎の牽制を吐く。

光と闇は相殺され、対消滅した。

刹那、両者の姿が消える。

消えたのではない。真下にテレポートしたのだ。

デジョールは、二度目のテレポートで急激に距離を詰める。ゼットンがそれをテレポートで回避して真上をとる。真上から来た踵落としをもデジョールは消えてかわす。

奴の言葉を借りるわけではないが、収穫はあった。あの直前、開いたマントの隙間から拳が見えた。男の左手の甲には、ベンタブラックのような石がはめ込まれていた。

『君さえ現れなければ、あの未開の惑星から絶望のエネルギーを吸い取って我が闇を増幅するはずでした』

距離を取ったところに実体化した男。奴めがけて、ゼットンは波状の光線を狙い撃つ。

『おっと、勘違いしないでくださいよ』今度は、マントで防がれた。『私はバフォメットの願いを叶えてあげただけです。 サテュロスを撃破して彼をアルフヘイムの王にしましたよ、私が惑星ユグドラシルを貰い受ける条件と引き換えに。 デジョール様にユグドラシルを差し上げますと言ったのは彼ですからねぇ』

「命を弄ぶな…」

灼熱の熱線が飛び出す。またしてもマントに防がれたことを除いては。

『私は手加減が大の苦手でしてねぇ、その綺麗な顔が肉塊になったらすみません。 咎児刺刑、喼急如律令!!!!』

デジョール人がマントを開く。全身を漆黒の鎧に包んだ男は、ガントレットとソールレット、胸当てと肩当てに計7種のベンタブラックをはめ込んでいた。

闇の呪文によってマントが消失し、男の両手が内側に刺がついた鋼鉄のプレス機に変形した。

デジョール人 鉄聖相

捕食牙のようなプレス機を翼のように羽ばたかせ、悪魔は闇の空間を旋回する。

飛び方は軽やかだが、あの刺に鋏まれたらひとたまりもない。

熾天使もまた、ファイアオパールの翼が激しく燃える。

「来たる時代は、キュートでPOP」

全身を焔に包む天使。悪魔が『枯れない花はない、君はここで押し花になりなさい!』と急接近する。

結論から言えば、デジョールが押し花に失敗した理由は高熱で金属が熔けたからだけではない。

焔のベールが晴れた時、鋼鉄の牙を受け止めていたのは牛骨の盾だったと判明する。

ゼットンヴァルキュリア POPフォーム

ゴシックドレスをパージした裸の女神はただでさえ大きな胸をさらに巨大化させ、頭部の発光器官は鎖骨の間に、乳房の発光器官はキュレットの鞘翅に転移する。また、綺麗な黒髪も水色に変色している。

バリアを展開した熾天使は、逆に体当たりで押し返した。

『外賤刈罰、喼急如律令!!!!』

悪魔のプレス機が消滅し、それは死神の鎌になる。

デジョール人 血聖相

闇の民はテレポートで背後に回り、瞬時に鎌を振り下ろす。

『あの下等民族たちに、偶像崇拝の愚かさを教えてあげます! さらし首を見せなさい!』

「女心は、マルチプレックス」

結論から言えば、鎌は届かなかった。凶刃を受け止めたのは、ファイアオパールの槍だった。

持主の姿も二度変わった。髪は黒く戻り、バニースーツともスリングショットともいえない羽衣から白い裸身を見せる。

ゼットンヴァルキュリア プレックスフォーム

一旦互いに距離をとり、再度縮める。

長物と長物の攻防。

牽制し合い、間合いを取り合い、突きを入れるチャンスを与えない。輪を描く槍と鎌がぶつかる。

『そこかっ!』

鎌が、熾天使の豊満な乳房を掠める。白い球肌に張り付いていた繊維が剥がれ、右の乳房の巨大な白い乳肉は先端の桜色の乳首が露になった。

鎌に続いて逆側に取り付けられた鎖鎌も獲物を願うが、これは炎の槍に防がれる。

鎖が槍に巻き付いた。もらったとばかりに、、悪魔は逆側の棒を突き上げる。天使が咄嗟に鳩尾を外したために、棍撃は天使の左乳房を刺した。

「…っ!」

巨大な白い乳房を潰す打撃。布が弾け飛び、左の乳房も乳首が露になる。棒を中点にねじれる、白い乳肉。天使の顔が、はじめて苦痛に歪む。白い乳房がそのJカップの巨大さと弾力ゆえにクッションになって衝撃を弾き返したのが、せめてもの救いか。

もっとも、刹那を同じくして天使もまた槍の穂先から灼熱の炎を浴びせたゆえ両者痛み分けだが。

『刺し違える覚悟でカウンターですか。やりますねぇ』

火だるまに燃えながらも、悪魔は殺戮を楽しむかのように口角を上げる。

『光栄に思いなさい、ヨツンヘイム外で私の真の姿を見る名誉を! 肉界即虚、喼急如律令!!!!』

彼ら闇の民族は、ただのシャドウではない。

幾度となく光の世界を闇に引きずり込まんと誘惑してきた脅威は、宇宙各地でヨツンヘイムの巨人という異名を以て神話に恐れられた。

鎌が消失すると、マント姿に戻った男はみるみる巨大化する。

デジョール人 王威相

体長60メートル。霧のように実体が無い、半透明の巨人がそこにいた。

『形あるものはいつか滅びる! 君は儚く散りなさい!』

マントを開いた巨人。半透明な体から、ベンタブラックのコアが透けて見えた。

コアめがけて、熾天使は炎の玉を狙い撃つ。

炎がコアに届かなかったことを除いては。霧のような半透明な体が炎を呑み込み。逆に押し返したのだ。

もっとも、それもまた熾天使には届かなかった。見えない何かが、炎の玉を両断したのだ。

『私を忘れてもらっちゃ困るわよ、デジョール』

フレイヤだ。弓を構えた女巨人が実体化した。

特におかしなことではない、ゼットン星の宇宙船に同乗していただけさ。

現在、検温数値は惑星ユグドラシルの熱圏と同程度。ゼットンが空間を灼熱の炎を散布したことで、低音の苦手な巨人でも活動可能な環境を作り出した、というわけか。

『どうして絵を燃やしたの?』

女巨人が、巨大な悪魔に照準を合わせる。この鋭い鏃は霧の体と相性はどうだろうか。

『宇宙が時の経過によって死に逝くのは自然の摂理です。 しかしそれだけではつまらないじゃありませんか』悪魔が、マントで体を隠す。『私は、知的生命体が自ら喜んで自滅するサマが見たいのですよ』

『ゆるせない…!』

デジョール人が守りを固めた隙に、フレイヤはさらなる力を開放する。

『フレイヤチャリオット! 女王、玉座にて戴冠!』

召喚されたのは、馬車。二頭の天馬が牽くそれは、絢爛豪華な装飾と色とりどりの花に彩られている。

玉座に座した女巨人は、二頭の天馬を駆る。色とりどりの花が花粉を撒き散らす。

咄嗟に回避する悪魔。

天馬を駆って旋回する馬車。それを避けるように旋回する悪魔。

悪魔が魔導円から千の剣を召喚する。

馬車から矢を射て剣の雨を迎え撃つ女巨人。

空中で撃ち落として相殺した。

続いて悪魔の両眼から真紅の閃光が唸る。

『シャイニングビフレスト!』

銀の翼に光をチャージし、女巨人は両手をL字に組んで虹を放った。

虹は、今度は熾天使の歌声を乗せても完全に互角だ。

同時詠唱。閃光を止めぬまま、デジョールは幾千の剣を召喚する。

剣の雨は、今度はフレイヤチャリオットが咲かせた花吹雪によって空中で撃墜された。

一本だけ逃してしまったことを除いては。

ピンクの花弁を掠めて軌道を逸れた剣は、運悪く天馬に刺さる。

動力を欠いてバランスを崩した馬車は虚空へ墜落。女巨人は直前に離脱した。

『ハハハ! だから言ったでしょう! 宇宙は時の経過とともに死に逝く! その時こそ我等シャドウが過去を取り戻す時です! 君の死体が腐りゆく過程を未開民族に見せて教え説きましょうぞ!』

悪魔は勝利を確信した。

デジョールの首筋に、一輪の美しいマンモスフラワーが咲いていたことを除いては。

『何……だと……?』

ピンクの花は霧の体内に根を張り、ベンタブラックコアのエネルギーを吸いはじめる。

「命の温もりを知らなかった、お前の失策」

ゼットンは歌う。

『どういう意味です!?』

「この空間は、光の宇宙の物理法則とは反転した闇の空間。 そして、光の宇宙の熱を知らない絶対零度の空間。 熱という未知の事象に触れたら、空間が歪む可能性に賭けた。 花の種はその歪みに乗って忍び寄った」

『謀りましたねゼットン! 私の無と静寂の闇に忌まわしき光をもたらすとは!』

ファイアオパールの翼の熾天使を恨めしく睨みながら、悪魔は花を無理焼き引っこ抜いた。

時既に遅し。全てのエネルギーを吸い取られたコアは砕け散っていた。

『しかし惜しかったですね、ベンタブラックは盗品に過ぎませんよ』

そうだった。デジョール人は元来、実体のない黒い霧。今のはたまたま実体のあるオプション装備を破壊したにすぎず、男本体には傷ひとつない。

フレイヤは馬を負傷し、デジョールは秘宝を失い、痛み分けといったところか。

悪魔は能動的な攻撃手段を持たず、女巨人も有効なシルバーバレットを持たない。これ以上の戦闘続行は無駄だろう。

『今回のところは撤退しますか。 あの星を未開と呼んだことは訂正しましょう。 しかし覚えておきなさい、優しい世界など幻想だと。 人間に欲望がある限り、バフォメットと同じくシャドウに魂を売り渡す男は必ず現れましょう。 その時こそ極上の悲劇を御馳走しますからね! 私はデジョール人! 滅びの芸術家です!』

不気味な笑い声だけを残して、男は次元の狭間へ消えていった。

『お前が芸術を名乗るなんて、2万年早いわ』

闇がどんなに脅したところで、希望は潰えない。人の心で燃ゆる灼熱は、誰にも消せない。

ウルトラウーマンフレイヤは、二度と名画たちを失わないと誓った。

惨殺された名画たちの命を背負って。

 

 

タングニョースト中央アトリエ

アルフヘイム王国最大の王立絵画工房に、世界中の名画匠と画剤調合工が招集された。

匠たちは、そのユグドラシル最大のキャンバス室に案内される。

モデル台に、今日のメインヒロインがいた。

「本当にいいのですか? 天使様」

「うん…」

ゼットンとディースだ。

民を救った焔の翼の熾天使と、闇の恐怖政治を撃ち滅ぼした巨人の女王。絶世の美女と、絶世の美女。

神話と思われた2人の美しき奇跡を肉眼で目撃して、匠たちは「なんと美しい」と見惚れ、「おお女神よ」と祈る。

天界で最も美しい種族と、ユグドラシルで最も美しい少女。間近で見て圧倒されるのは無理もない。

画家たちは一礼すると、キャンバスにデッサンを描きはじめる。熾天使の美貌を永遠に残そうと。

画剤調合工も、調剤と計算をはじめる。熾天使の炎の翼、その灼熱に燃ゆるファイアオパールの色を再現するために。

熾天使と少女は想い想いのポーズに魂を込め、画家たちは彼ら個々の心に燃える灼熱でモデルの絶世の美貌と極上の女体美をシルエットに写し込む。

ある画匠のデッサンは、天より降臨した熾天使が少女を再生する。ある画匠のデッサンは、僭王を女弓手が射抜く。またある画匠は、天界で熾天使が歌う。またある画匠は、チャリオットに乗った女弓手が悪魔を射抜く。熾天使の3態の貴き美姿。

熾天使がもたらした美しき奇跡の数々は、こうして新たな創世神話となって美術館で語り継がれるのだ。

まだ今日は前菜にすぎないことを除いては。

2日目。

画匠たちがキャンバス室に集まると、モデル台には同じくゼットンとディースがいた。

2人の少女が、一糸まとわぬ裸身で手を取り合っていること以外は。

天界より降り立った、炎の翼の熾天使。その極上の女体美。極上の裸身。

天空と大地、両界の絶世の美女。その素肌は真珠のようにきめ細やかで、ボディラインの全体的にほっそりとした線もしなやか。細く括れた腰がセクシーでありながら、白くすべすべのヒップラインはほどよく丸みを帯びて芸術的な曲線美が見る者の創作意欲を駆り立てる。何より、全体的に華奢なスタイル抜群でありながら女性的な多型現象は遺憾なく突出し、人間の大人の女性より何倍も巨大なバストは狭い肩幅では支えきれないほどたわわに2つ実る。絶世女美女2人ともだ。

天の女神は身長163cm、バスト96、ウエスト53、ヒップ83、カップサイズはJカップ。

地の女神は身長139cm、バスト106、ウエスト49、ヒップ69、カップサイズはOカップ。

大きすぎる乳房ゆえ互いが互いの白い乳肉に接触し、栄養満点の乳肉が柔らかく変形しあう。互いの形に。女神たちの最も女神たるパーツ同士を最も女神たる栄養源で押し合っているのだ。JカップとOカップの巨大な白い乳肉は山頂のピンクの乳輪と乳首を擦り合い、勃起した乳首が乳首を殴打する。

あまりに神秘的な美の奇跡を間近で見て、画家たちは早くもデッサンが進む。

もとより、ディースは11歳の幼い少女なれど人前で脱ぐのは慣れている。この国は王政にして封建制だが、民を重税から守るため領主に徴税権は無い。ニョルズ伯爵位を持つスカジとて例外ではなく、美術館の入館料が主な収入源だ。徴税権を持たぬゆえに特定の一城を持たぬ母娘は、複数の男流画家と肉体関係を結んで居候している。娘たるディースもヌードモデルとなって稼いでいる。アルフヘイムの芸術に貢献することが民に分け与えられる最大限のノブレス・オブリージュだと信じる少女は、ヌードモデルという仕事への誇りを忘れたことは一度もない。

バフォメットは、そうなれなかった。将軍でありながら、民に命を捧げる唯一無二の専売特許を誇れなかった。誉を失った。

独裁政権の爪痕は大きかった。美麗な絵たちが、バフォメットの傲慢なエゴによって惨殺された。

それでも、光をあきらめてほしくない。

アルフヘイムには、もういちど芸術の国として再興してほしい。

新たなる名画を増やす。美しき絵たちが彩るアルフヘイムを取り戻す。そのために2人の女神が弾き出した結論は、彼女たち自らヌードモデルとなって裸婦画のデッサンを描かせることだった。

ユグドラシルに再び光を灯すためなら、喜んで一肌脱ごう。文字通り、少女たちが全裸になることで。

熾天使の美しさに見惚れたのは、見る者だけではない。

(天使様の体…綺麗)

同じくデッサンモデルとなって脱いだ、ディース自身もだ。

アロマを焚いた香りが、全てを癒す。

「天使様…」

「ディース…」

絶世の美女は、透き通る唇と唇を重ね合わせる。

あまりに美しい光景は、画家のうち一人の筆を止めてしまうほど見惚れさせた。

世界に闇が蠢く時、炎の翼の天使が天界より来たりて民を救う。光の巨人が大地より目覚め、天使と共に闇を撃ち滅ぼす。

だから、アルフヘイムは大丈夫。

芸術を愛する心がある限り、ユグドラシルは滅びたりしない。

画家たちは、スケッチした。全裸の少女たちの極上の女体美を細部まで。絹のように長く綺麗な髪を。目鼻立ち整った、端正な小顔を。華奢な方と腕を。女神の女神たる所以、豊穣のたわわに実った乳房を。ピンクの乳首と乳輪を。妖艶に括れた、細い腰を。丸みを帯びた、繁殖的な尻を。しなやかな脚線美を。

そして。淫靡な腿の間で咲く、毛ひとつない最も綺麗な裂け目を。

熾天使の神秘に満ちた少女の聖域は、全宇宙で何人の英雄たちの精を吸い上げたのだろう。幼き女王の最も神聖な赤い雌蕊は、アルフヘイムで何人の名画家たちの精を吸い上げたのだろう。

2人の絶世の美女は、様々なポーズを画家たちに描き取らせた。時として、全裸の少女が大股を開くことも。時として、JカップとOカップの巨乳を生乳肉から乳輪と乳首まで隠さずさらけ出した全裸の少女たちが常軌を逸したシチュエーションで大股を開くことも。空中から槍をとって鉄人を突き落とし。戦車に仁王立って弓を射て。黒い巨人を踏みつぶして勝利の御旗を掲げ。熾天使の炎の翼によって、幼い少女は天界へ導かれ。

これらのスケッチは、芸術の国アルフヘイムを彩る新たな名画となってユグドラシルを照らすだろう。

 

 

数日後。

幸いにも偶像破壊を免れた町、ニョルズ。

サファイアとルビーの母娘は、アルフヘイム中にいた名画たちが眠る慰霊碑に祈りを捧げた。

「こんな悲劇は二度と繰り返さない… 姉さんたち、天国で見ていてください」

同じく、町民たちが慰霊碑前の広場に集まっていた。

偶像破壊の犠牲者となった名画たちに、黙祷を捧げるために。

もうひとつ。天へ羽ばたこうとする、2人の女神を見送るために。

「本当に行くのね、ディース?」

美術館を管理する館長スカジは、愛娘の手を握る。

「はい、お母様。 私には、全宇宙の名画を守る使命があります」

と、ディース。幼い少女の瞳に、迷いはない。

スカジが、髪をほどく。青い薔薇を、赤い薔薇の隣に飾る。

「お母様…?」

「私は、いつでもおまえを想っているわ。 たとえ離れても、アルフヘイムの民と繋がっている。 胸を張って歩くのよ」

赤と青の薔薇を髪に飾った娘を見て、母は泣いた。

「ありがとうございます! 私、この国に生まれてよかった」

幼いルビーの瞳からも、涙が見えた。少女の髪に飾られた青と赤の薔薇は、寄り添うように咲いている。

「天使様、この子はちょっと危なっかしくてじゃじゃ馬な子ですが、自慢の娘です。 どうかよろしくお願いします」

スカジの言葉を待つまでもなく、ゼットンは頷く。

「ディース、そろそろ時間」

「はい」

上空には、既に円盤が待機する。

「サテュロス王は?」

「もう挨拶した。 彼はこれからもアルフヘイムを守るって」

赤薔薇の公女が、円盤の直下に立つ。

「ニョルズ伯スカジの娘ディース、ウルトラウーマンフレイヤ、すべての名画たちを守るために行って参ります」

「いってらっしゃい、ディース」

涙ながら、青薔薇の貴婦人は見送る。

立派に成長した愛娘を。

円盤から注いだ光が熾天使と赤薔薇を包み、2人の女神を引き上げる。

少女たちを乗せた銀の宇宙船は、高く高く浮上してユグドラシルから遠ざかる。

天駆ける船の影が小さく見えなくなるまで、アルフヘイムの民は見守り続けた。

絵を愛し、新たな芸術を生み出す決意を胸に。

 

 

1000年後の未来が見える。

遥か彼方から見守る世界樹。

その麓で光る、銀の街並み。

高層ビルが立ち並ぶ、人工的な銀色の森。

ビルの谷に張り巡らされた、アスファルトの道。

道路を走る車。高架橋を走る鉄道。都市の電力を賄う魔導エンジン。空港を発着する宇宙船。

街を行き交う人々は人間だけでなく、多種多様な異星人とサキュバスたちが彩る。

屋外スクリーン越しには多種族で構成されたアイドルグループが歌い、踊り、悩殺する。

近代化を遂げた惑星ユグドラシル。人類がここまで進化するを過程づけた心の支えは、それらとは裏腹に古めかしい建築様式の屋敷だった。

もし「彼女たち」に会いたいならば、アルフヘイム国立美術館に来るといい。

鮮やかなファイアオパールの灼熱色が、フルカラーで輝いている。

真っ赤な薔薇の髪の公主が、色鮮やかに咲いている。

1000年前に生まれた名画たちが、美術館で待っている。

天より降臨した熾天使が少女を再生する。僭王を女弓手が射抜く。天界で熾天使が歌う。チャリオットに乗った女弓手が悪魔を射抜く。熾天使の3態の貴き美姿。

芸術の国アルフヘイムに伝わる、炎の翼の天使の伝承。

全裸の少女は、空中から槍をとって鉄人を突き落とし。白く透き通る綺麗な女性器を赤く花開きながら、戦車に仁王立って弓を射て。豊満な乳房を揺らしながら、黒い巨人を踏みつぶして勝利の御旗を掲げ。黒絹の髪の熾天使は炎の翼によって、赤薔薇の髪の幼い少女は天界へ導かれ。

豊満な乳房を実らせた2人の絶世の美女が、色鮮やかなピンクの乳首と乳首を重ね合わせながら。

熾天使と赤薔薇が美しく、抱き合っていた。

 

時を同じくして惑星ユグドラシルは高度な科学技術を生み出し、宇宙警備隊の支部となってM78スペースと共に宇宙の芸術を守ることになるのだが。それはまた別の話。

 

 

ゼットンの歌 FIN



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水着回 ベストアクトレス


(イラスト: 金栗 様)


海を探検したかった。俺の夢さ。人間は海のほんの上っ面しか知らない。地球の7割は海だというのに、どの国も自分とこの優秀さをひけらかそうと宇宙ばかり行きたがる。誰も海の本当の姿を知ろうとしない。だから、俺は・・・。あそこは、俺達の生まれ故郷なんだ。
─────藤宮博也


私は、同年代の子より性の目覚めが早い女の子だった。

いつか訪れる「その時」を待ち望んで。エストロゲンを過剰分泌して。体が異常に発育して。

小学生に上がる頃には、もう私の体は天使の血を顕現していた。

女の子の人生で、何時間が裸でいるだろう。入浴する時。着替える時。ヌードモデルになる時。………エッチする時。

ある日を境に、私は服を着なくなった。

最後に脱いだブラは、もうサイズが合わない。

私は今、自分で自分の女性器をいじっている。

くちゅ、くちゅ。

溢れる愛液。部屋を反響する水音。上ずる私の声。

疼く子宮。ついこの間まで処女だった、14歳の子宮。

「あっ♥︎ あ♥︎」

あの時の快楽が忘れられない。

はじめてのキスの味。

抱きしめられる温もり。

裸を見られる快感。

胸を見られる快感。

女の子の一番大事な女の子を見られる快感。

お尻を撫でられる幸せ。

胸を揉まれる幸せ。

乳首を引っ張られる幸せ。

乳首を吸われる幸せ。

子宮を指でかき混ぜられる幸せ。

裸で仰け反る幸せ。

子宮を貫かれる幸せ。

産道を擦られる幸せ。

産道を押し広げられる幸せ。

子宮口を突き上げられる幸せ。

子宮口を、抉じ開けられる幸せ。

子宮の中で熱いのが注がれてきて、火傷するほど内壁を満たしてくれたのを思い出すだけで。

 

(イラスト: 一二三始 様)

 

「あああああん♥︎」

仰け反った。

私、また裸で仰け反った。

頭が、体が、おっぱいが、子宮が、真っ白になって。

努力して手に入れた体が、小刻みに震えて。

着地した時には、反作用でおっぱいが表面張力のように揺れた。

それでも子宮は発情が止まらなくて、一心不乱に腰をくねらせて。子宮をいじる手が止まらない。

「はぁ♥︎ はぁ♥︎ ダーリン♥︎ きてぇ♥︎ はやくきてぇ♥︎ ミコこわれちゃうよぅ♥︎」

大好きな人を思い浮かべた。強くて。優しくて。超がつくほどのスケベで。絶倫で。中出し原理主義者で。ロリコンで。おっぱい星人で。巨乳フェチで。爆乳ソムリエで。イザというときは自己を犠牲にしてでも女の子を守ってしまう、体長40メートルの銀色の。

「ごめん! 脚本の打ち合わせが長引いて!」

あっ。

カードキーの音がした。

自動ドアが開く音がした。

エンドルフィンが見せた幻かと思った。

足音が近づいてくると、確かにそこにいるのを見た。

八橋八雲。私のダーリン。

「ただいま、ミコちゃん」

抱きしめてくれた。

「おかえり、ダーリン」

私は、一糸まとわぬ姿でしがみついた。

ああ。歓喜の時間が始まる。

照明全灯の部屋で、ダーリンは私をそっとベッドに横たえる。

「会いたかったよ、ミコちゃん」

長時間の自慰で既に出来上がった私の両脚を、拡げる。愛液溢れる私の女の子が、開く。

ズドン!!!!!

「ーーーーー♥︎♥︎♥︎」

瞬間、私は絶頂に達した。私の子宮が、最奥まで貫かれたから。

ダーリン。私の処女を破ってくれた、白馬の王子様。

あの日、世田谷で私を見つけてくれた。劇団りんかいで、主演女優にしてくれた。あの時、ホテルの一室を、今日と同じように照明全灯して。初めては痛かった。血が出て怖かったけど。優しく抱きしめてくれて、次第に痛みより気持ち良さが勝り。何度も、何度も生で中出しされて。14歳のロリ子宮は、あまりの気持ちよさに耐えられなかった。

気が付いたら、今の私になっていた。子作り大好き、中出しされるの大好きな、淫乱な私。

「あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あ♥︎ あん♥︎」

あの時のように、子宮口を突き上げられる。膣道を擦られる。全身を電撃が走って、真っ白になる。

突き上げられるたびに、腰が跳ね上がる。胸が揺れる。

「ミコちゃんのLカップ爆乳、柔らかくて栄養満点だよ」

子宮に接続しながら、おっぱい触ってきた。ダーリンは、私のおっぱいがお気に入りで。

揉んだり。乳輪をなぞったり。乳首を摘まんだり。吸ったり。搾乳するように握りながら吸ったり。

ああ。おっぱい気持ちいいよ。おっぱい熱いよ。ダーリンの大きくてごつごつした手が温かく包み込む。ダーリンを全て呑み込める、自慢の巨乳だって言えるよ。ああ。おっぱいイク。おっぱいイッちゃう。

「~~~~~♥︎♥︎♥︎」

上体が、仰け反った。乳首が、母乳が出るくらいビンビンに伸びて。乳首を、巨乳全体を快楽の電流が襲う。おっぱいの体積が大きいぶん、快楽の量も半端じゃない。

それから私は何度、絶頂に達したろう。数を数えることすらままらないほど快楽で意識が朦朧とした頃。

私のお腹の中で、ダーリンが内壁を押し広げてくる。

爆発するんだね?

私の子宮に注ぎ込むんだね?

「いいよ♥︎ 出して♥︎ 私の中にぜんぶ出してぇ♥︎」

火傷するくらいの熱さが、お腹の中を焼く。

ダーリンの赤ちゃんの素が、私の子宮を満たす。

たくさん、こんなにたくさん、14歳のロリ子宮に大量に出してくれる。

ウルトラマンと結婚して、勇者の子を産んで、光の軍勢を増強する。女の幸せ。怪獣娘が美少女の姿を生まれ持った本当の理由。

怪獣娘の子宮の最奥に大量に注ぎ込みながら、ウルトラマンは「ミコちゃんッ! 好きだッ! 愛しているッ! 幸せにするッ! ミコちゃんには幸せでいてほしいッ! この宇宙のどこかで一瞬でも苦しむ時間があったら想像するだに悲しいッ! 一生幸せで生きてくれッ! 生まれてから数十万年先まで、一秒たりとも辛い想いをしてほしくないッ! ミコちゃんが幸せに生きてくれるなら、他に何も望まないッ! 幸せに生きてくれッ! こんなに好きなんだッ!」と愛を叫びながら抱きしめる。

絶頂に達してイキっぱなしの私を、温かい腕で包んでくれる。

Lカップのおっぱいが、ダーリンのエイトパックでつぶれる。乳首が、同じそれで擦れる。

14歳のロリ子宮の中が、熱い愛で満たされる。

気持ちいい。

気持ちいい。

イキっぱなしなのに、イキながらイク。

赤ちゃんを産む幸せ。お母さんになる幸せ。

「あはぁ♥︎ いくぅ♥︎ いくぅ♥︎ だいしゅき♥︎ だぁりんだいしゅきぃ♥︎♥︎」

私、これから数十万年、こんなに気持ちいい快楽で絶頂しながら生き続けるんだ。

時には悪阻で苦しみながら。時には陣痛で苦しみながら。それでも、ダーリンの赤ちゃんを産めるなら陣痛だって性的快楽になってイッちゃうよ。

今日も、明日も、たくさん、たくさん、私の子宮に生で中出ししてね。

新しい怪獣娘、たくさん、たくさん、産もうね。

印南ミコ、14歳。宇宙一幸せな女の子です。

 

 

第3ウルトラタワー最上階で八橋とミコが繁殖すると同時刻、同じ建物の地下神殿では。

『しかし、シャドウがここまで我々を目の仇にするとは… これは本格的に深刻な事態ですねえ』

光の巨人、ウルトラマンオーディンの目は神妙だ。それもそのはず。

足元で、小さな妖精が泣いているのだから。

「娘を、魂の選定に行かせないでください!」

涙の懇願だった。

エレキングのモンスアーマーに選ばれし羽衣の天女、湖上ルン。彼女は、同じくエレキングの怪獣娘たる湖上ランの実の母親でもあった。

経緯はこうだ。ランがたまの休日で地球へショッピングに出かけると。宮永と名乗るシャドウ教徒の男に襲われた。男は魔デウスという謎の物体の力で架空と現実の境界を歪め、ランを男の創作世界に封印したのだ。

幸い、千歳水波という勇気ある若人の決死の救助によって九死に一生を得たが。

宮永という男は、怪獣娘を狙い撃ちで狙ってきた。どうやって手に入れたか不明だが、たったそれだけのためにストルム器官と魔デウスを調度するのは用意周到すぎる。シャドウ側は明らかに天使たちを警戒している。

『迂闊に動くのは危険ですなぁ…』

首を傾げる銀の巨人。

闇の軍勢は、光の天使たちを狙っている。危険な戦場へ行かせようものなら、取り返しのつかない命たちが失われるだろう。

『いいでしょう。 しばらくは魂選定の任を免除します。 追って正式に休暇を渡しましょう』

「ありがとうございます!」

背を45°折り畳むルンの声は、安堵に満ちていた。

 

 

数日後、遊星ジュラン。

虹の翼の女神が、海から上がる。

女神は、歌う。美しい声で、優雅に。

「はーいカット! いいよ~クララちゃん」

それは、カメラマンに撮影された一部始終だった。

「ありがとうございマース」

太陽のような笑顔でスタッフを照らす女神、クララ・ソーン。

歌で宇宙を平和にする銀河の歌姫は、AR機材に囲まれていた。

蜂蜜色のロングヘアを揺らし、きらめく。

その日、歌姫はMV撮影に来ていた。

波打つ砂浜。高立つ椰子の木。青い空。照り付ける太陽。

どこまでもブルーに透き通る、広い海。

夏をイメージした楽曲の撮影に、この遊星はもってこいかもしれない。

インターバル中でもカメラマンが追跡していたことを除いては。

当のアイドルが休憩していようとお構いなしに、カメラは白い肢体を執拗に舐め回す。

今日の衣装は南国の姫。髪にハイビスカスを飾った姫は、ボトムスこそ色とりどりの花をドレスのように着飾るものの、トップスは真珠のネックレスで辛うじて乳首を隠すだけ。

歩くたびに揺れるMカップの爆乳。細く括れた腰。花のドレスから双頭を半分はみ出した、形のいい綺麗なヒップライン。水分補給用の補液の飲む姿を、カメラがとらえる。透明な滴が首から鎖骨を伝ってセクシーな女体美を縦断する艶姿を写す。

さすがにやりすぎと判断した事務所のペダン星人が「ちょっとあの男、お姉様を監視しすぎじゃありませんこと?」と慌ただしくなる。歌姫を姉のように慕うⅡだ。

無論、転売監視員としてペダンプロダクションに雇われた蝶も「度が過ぎてますね。 声をかけに行きます」とカメラマンを制止しようと足を持ち上げた。

ファイバーケーブルに足を引っかけて転んだことを除いては。

機材からケーブルが外れた。

そもそも。

歌姫を囲う大掛かりな機材は何なのか。

なぜ飲み物を溢しても衣装が濡れないのか。

この衣装は、一体何なのか。

機材の電源が途絶えた結果、衣装が消えた。

南国の姫のドレスは、ARプロジェクタが生み出したホログラムだったのだ。

 

(イラスト: ウミガラス 様)

 

「Oh !」

絶世の美女の一糸まとわぬ裸身が、衆目に晒される結果となる。全宇宙を魅了した、極上の女体美。Mカップの双霊峰の山頂の特大乳輪と陥没乳首。繁殖的な少女の両腿の間でぴったり閉じた、毛ひとつない綺麗な処女。

あまりの眩しすぎる光景。撮影スタッフ全員が目を見張った。

「キングジョーお姉様の神聖なる柔肌を見てはいけませええええええええええええん!」

割って入るようにカメラを遮ったⅡだが、現場は撮影スタッフが360°取り囲んでいるわけで。

「赤福蝶アアアアアアアア! お前のせいでしょうがアアアアアアアア!」

ペダニウムランチャーが、慈愛の戦士を蜂の巣にしたのだった。

以上の映像がカメラマン秘蔵のお宝になったのは言うまでもない。

 

 

さて、遊星ジュランに来ていたのは撮影スタッフだけではない。

「本当によかったの?私達まで招待していただいて」

撮影現場を遠目で見る海岸には、パレオ姿の湖上ランがいた。パラソルの下でスタイル抜群の女体をリクライニングに預け、相変わらずスマホで漫画をスワイプ。

「クララちゃんのお友達ってことで、特別よ」

紐だけのスリングショット姿のルン。紐では隠し切れないKカップが乳輪をはみ出し、17年前にランを出産した経産裂に紐が食い込む。

「ランちゃんの身の安全を、ってことで休暇をくださったんだ。 オーディン様には感謝してるぜ」

そのスマホの画面をのぞき込んだのは、アロハシャツ姿にグラサンの男。この水波という男にとっては、ランが全てだ。

「ついでにこうやってバカンスに来れたんだからさ、エンジョイエンジョイ♩」

子供は風の子、とばかりに青へと駆け出し裸足で白い砂を踏むヨウは、ダイバースーツ越しでもボディラインがボンキュッボンと主張するナイスバディの少女。

ついでに、少年の心のままオッサンになったゴリラがもう一匹。

「ようし、おじさんと海まで競争だー!」

ヨウと並走するように青へ飛び込んだ歳三は、腕に抱えたサーフボードを海面に滑らせて青い海に乗りはじめた。

すぐ隣のパラソルでは、海に来たとは思えないほど厚着の八橋と。そして。

「だぁりん♥︎ UVクリーム塗って♥︎」

カーペットに飛び乗り、Lカップの巨乳を揺らす青い宝石。

たわわなLカップ南半球を露出した特殊な水着を着飾ったミコ。構造色の美髪が太陽を反射する。

白い下乳から鼠径部にかけて大胆に肌を露出し、女性器のラインが女の子らしく魅惑するハイレグ。一見セクシーな水着に見えるが、それはあくまで正面図に限った印象。側面からよく見るとセパレートではなく、トップスとボトムスが連結し、背中に至っては長い髪の隙間からシュノーケルらしきパイプ管まで伸びている。

ミコの性格からして、もっと露出度の高い水着で八橋を誘惑するはずだが。

この姿を勝負装備に選んだ目的は、すぐに判明した。

髪を束ねて背中を見せたミコの背後に立ってクリームボトルを手にした八橋は、ようやく気付く。

「ミコちゃん… ごめん、これどうやって脱がすの?」

繰り返す、この水着はセパレートではない。背中にクリームを塗ろうにも、ビキニのように簡単にトップレスになれるわけではないのだ。頸椎を見ても、ファスナーはおろか継ぎ目すらない。

と、いうことは。

「肩から捲って♥︎」

結論から言えば、いざ実行したら却ってエロい絵面だった。

肩に張り付く布地を裏返して上から下へ引き剝がす。セクシーな鎖骨が剥き出しになる。白い肩幅が露見した。細い二の腕が外気に触れた。次は、当然。

ずり降りて剥いた皮は、隠れていた北半球が生乳肉を見せる。水着の緊縮力が、柔らかい乳房を凹状に押し出す。

山頂で何かに断線した。言うまでもない、乳首だ。

既に硬くなっていく乳首を強引に突破し、爆乳を一気に南半球まで全て剥いた。「あん♥︎」Lカップの爆乳が勢いよく飛び出し、遠心力でジャンプする。勃起したピンクの乳首が天を衝く。

あとはもとより肌を露出したゾーンゆえ布面積が細く、美尻が見えるまで脱がすのは容易だ。

脱ぐのが難しいそれを剝がされた少女の裸は、ただのビキニよりも煽情的かもしれない。

「なるほど、夫を誘惑するにしては露出度が低いと思ったけど」

遅れてビーチに来たマコは、ミコとお揃いの水着を着ていた。

コントラスト効果が狙いだったのね、とため息をつくマコ。誘いに乗った私が騙された。

沖合を流れるゴムボートは、シグニュウ、ディース、そしてゼットンヴァルキュリアが川の字になって休んでいた。

「本来、キングジョーは惑星マイジーで撮影するはずだった。 だけど…」

黒いレース水着姿のゼットンが、グラサンもなしに太陽を仰ぐ。太陽の女王は直射日光も平気なのか。

「状況が変わりました。 クララ様の安全を視野に入れて、ロケ地を変えたんですね」

優雅にブルーキュラソーをくゆらせるシグニュウは、ボディコンのような赤い水着でブロンズ色の美肌を誇らしげに焼く。

「自然豊かなジュランなら、熱帯海岸を含むあらゆるバイオームが揃っていますわ」

赤青ツートーンカラーの水着から北半球と南半球を垂らしたディースが、豊満な上体を起こして水平線を眺める。膝には浮き輪を置く。

「それに」ゴンドリエーレを買って出てゴムボートのオールを漕ぐ謀が、「ここならムサシ先輩とカオスヘッダー様がいる。 迂闊に手を出す男がいたら、それこそウルトラギャラクシーファイト3の始まりさ」と笑う。そんな縁起でもないジョークを叩く男には、セイレーンの喝が入るものだ。

「オイ! フラグ立てんな!」

海面から浮上したのは、アンジェリカだ。

…アンジェリカだけヌーディストビーチ気分で海鏡に照らされているのは気にするな。

ボートに上がった全裸の人魚は、極上の女体美を白く反射させながらNカップの長乳を揺らす。

「アンジェリカ様、おっきいですね」

シグニュウだって、故郷にいた頃は胸に自信があった。宇宙とは広いものだ。

「当然さ、美しい私はスタイルも抜群だからな」

どうだ?私の美しさにマグマグするだろう?とポーズをとって自慢するアンジェリカ。ポーズを変えるたびに白いNカップがバウンドし、長乳首が天を衝く。

ディースは相変わらず外の景色を眺めていた。水平線から、砂浜へと視線は翻る。

砂浜では、八橋がミコの背中にクリームを塗る。

頸椎から肩甲骨。細く括れたウエストライン。形のいいヒップライン。

八橋が「よしっ、できたよ」と両手をお尻から離すと、ミコは「前も塗ってぇ♥︎」と仰臥位に反転する。Lカップの柔らかい乳肉が、ぷるるんと左右に揺れる。勃起したピンクの乳首が痙攣している。

自分で自分の爆乳を揉みしだきながら「だぁりん♥︎ 触ってぇ♥︎」と誘惑する、14歳の巨乳妻。たまらず八橋は「ミコちゃんっ!」と最愛の妻の生乳肉を鷲掴み、乳首に吸い付いた。

「ああん♥︎♥︎♥︎」気持ちよさそうに歓喜するミコ。ずり下した水着から露になった女性器は、その綺麗なパイパンの隙間から愛液が溢れていた。

遠目で見ていたランが、リクライニングから上体を起こす。

「水波くん、サンオイル塗って」

「オイル?いいけど…」

周到にも、ルンは自分用と娘用に2本のボトルを用意してくれたのだ。そういうことか。

水波がオイルを受け取る間、ランはブラのホックを外す。やはりパレオはセパレートだから脱ぎやすい。

「じゃあランちゃん、背中向けて」と口では言いながらも怪獣娘のHカップに釘付けなウルトラマン。ランは「嫌。」と水波の手首を掴み、ピンクの乳首を露にしたHカップの柔らかい生乳肉へと運ぶ。「前から塗って。」

娘と彼氏の仲睦まじい姿を「うふふ」微笑ましく見守るルン。

「あら?」逆方角の岩陰に、独り寂しそうに佇む少女を発見したことを除いては。「あの子…」

気になったルンは、羽衣をまとって浮遊する。

岩陰の少女は、水着を着ていない。泳ぎに来たわけではなさそうだ。

代わりに、赤いモンスアーマーを身にまとう。

間違いない、ヴァルキュリアだ。

加えて、ルンのアンテナで読み取れることがもうひとつ。

「きみ、M78星雲の子?」

「ヒョ!?」

赤い戦乙女は、背後から声をかけられて飛び跳ねる。遠目からでも一目瞭然だったことだが、振り返ったその顔はかなりの美人だ。眼鏡をかけても美貌が貫通している。

「誰だよ!? なんで俺のことを!?」

そうだった、まだ名乗っていなかった。

「私は湖上ルン。 きみと同じ、M78星雲の戦乙女よ」

よく見ると、赤い天使の頭部にも触角とおぼしき突起が見られる。ルンのそれのように周囲の生物の感情を読み取れるかは不明だが。

「きみは?」

「俺様か? 俺様はヴァン神族の…」言いかけて、天使は口を噤む。「俺様のことはほっといてくれ!」吐き捨てて、天使は逃げた。

逃げた場所が悪かった。

「ヒッポリト…?」

パラソルの下には、既にクリーミングを終えたミコと八橋がいた。

「げっ! ウ、ウルトラマンアーメン!? なんでここに!?」

「ダーリン? 知り合い?」

ヒッポリトと呼ばれた美しき戦乙女は「よりによってお前が出てくるなんてぇ~」と崩れ落ちた。

 

 

結論から言えば、ヒッポリトは八橋を見るなりテレポートで飛び去ってしまった。

「何だったの?アレ」

後から追ってきたのがなぜかルンだったのを見て、ミコは首を傾げる。

「知り合いといえば、知り合いだね」当の男が口を割る。「スカウトするつもりだったんだ、劇場に」

話を要約すると、以下の通り。

八橋はウルトラの星でミュージカル「マリーと運命の三女神」の演出家をやっている。二度あることは三度あるとでも言おうか、主演女優のバジャックが産休をとった。八橋は前回同様、主演を張れうる美しい天使をウルトラの星から探し出し、ヒッポリトに目を付けたのだが。

「最初は快く引き受けてくれたさ。 配役がウルトラウーマンマリー役だと告げるまでは。」

「どういうこと~?」ルンが首を傾げる。

「こっちが訊きたいさ」頭を抱える八橋。

「いきなり責任重大な役を背負わされると、ねえ?」ミコに言われると耳が痛い。八橋には、主演の重圧に負けない印南ミコという成功体験があった。

そういうものか、と八橋は納得しかける。近くで「ちょっと待ってください」と割り込まれるまでは。

「そんなヴァルキュリアが、たまたま同じ日に? 同じ遊星で鉢合わせたんですか?」隣で聞いていた水波が、横から入る。

「偶然にしては出来すぎているわね」同様、ランもだ。

一同、考え込む。単に今日しか空いていなかったのか、それは本人に聞いてみないことには。

「ま、いざとなったら私がまたやるよ。 ダーリンのためなら、何公演でも」

名乗り出るミコも当然だろう。

最初からそうすれば良かったのだ。もとよりミコと八橋の最初の出会いは主演女優の代役。

適性を鑑みたら、印南ミコが舞台に立つのが最適解なのだ。

「一晩だけ結論を待ってほしい」いつの間にか聞き耳を立てていたゼットンが、割り込んだことを除いては。沖にいたはずだが、もはやゼットンだから驚くまい。

「私の推測が正しければ、ガッツの体もいつまで持つか分からない」

太陽色の視線の先は、ハチドリの下腹部。先述の通り、バジャックが主演を降りた理由は産休だった。

「それに…」

一転、煌めく焔の熾天使は正面を見据えた。

「私の正義が言っている。 あの子を、救いたいと」

 

 

数時間後、一行は浜辺近くの温泉宿にいた。

現在、露天女湯にいるのはラン、ミコ、マコ、ルン、アンジェリカ、クララ、ヨウ、ディース、シグニュウ、そしてゼットン。

この露天風呂は巨乳しか入れないのか。

それはさておき。

「一概にヴァン神族のヒッポリト星人転生種N世といっても、世帯数だけでも多すぎる。 それも去年の統計しか政府のHPにないから、正確とは言い難いわね」

屋外備え付けのリクライニングの上で、ランは相変わらずソウルライザーを操作している。もちろん、バスタオルは巻いていない。妖精女王の一糸まとわぬ裸身を、乳首と女性器を、月明かりが照らす。

シグニュウが「住民台帳は見られないんですか?」と見当違いな方向に行くから、アンジェリカは「馬鹿かお前は、個人情報を何だと思っているんだ」とパーミッション。

「Privacy? Oh, I got it!」クララがポンと手を叩く。乳首の陥没した大口径巨乳輪が、Mカップのアイドル爆乳が、ダイナミックにバウンドする。「ワタシもTV出演で、同じIdolと共演しマース。 中には舞台慣れしてなくて、アガり症の子も少なくありまセーン」

「それをどう克服するかが問題ね」と、Lカップの丸い美巨乳を細腕で支え上げるマコ。大きな乳房に比して、ピンクの乳首は小さい。「あの子、随分と取り乱していたわ。 正確な療法を特定しないと、ただ当てずっぽうに荒療治しても逆効果よ?」

「そこがPointデース」クララが人差し指を持ち上げる。「Every year, 芸能界にAuditionに来る女の子は大勢イマース。 But, 特定の家系の出身者をAudition参加者Listから絞り出せば、自ずとAnswerは導き出せるはずデース」

「多すぎるデータだが、ペダン星とマグマ星のコンピュータを以てすれば造作もないな」アンジェリカがNカップの長乳を揺らす。長い乳の持主は乳首も長い。「後で私も協力しよう。 デバイスからアクセスする」

かつて舞台での失敗談があるなら、舞台に立つことにトラウマがあってもおかしくない。芸能界から絞り出す線はクララとアンジェリカに任せるとしよう。

「ん~」ルンが、両の人差し指でこめかみをつつく。Kカップの魔乳は乳首もトロンとしているが、表情は難しそうだ。「な~んかビビッと来ないのよ~ なんだか分からないけど~」

「難しいコトはわからないけど、エレママさんのカンは当たるっス」屋根の上で全裸で仰向いていたヨウは、大股を開いて小陰唇は膣道から子宮口まで見えていた。

他に考えうる仮説は。

「一度原点に帰ってみたら?」マコの白い裸身が、薬湯から立ち上がる。水しぶきをはじきながら、極上の女体美が湯面に反射される。「あの子が舞台に立てない理由を出発点にするんじゃなくて、まず遊星ジュランに来た理由を想像してみない?」

「アクアが言っていたことが気になる」と、竹柵から夜景を眺めるゼットン。Jカップの美乳もさることながら、細く括れた腰、形のいいヒップライン、花のように咲くピンクの女性器まで芸術的。「劇場の交渉が割れたのがオーディンの一時徴兵停止宣言と同日だとすると、タイミングが早すぎる。 狙って私達と同じ場所に来たようにも見える。 ウルトラ戦士の庇護下にある観光地は、他にもあるのに」

「確かに、偶然にしては何か引っかかりますね」ディースも相槌。

水波は常日頃から、ヴァン神族を誰一人欠けることなく救いたいと口にしていた。それは男の出自も関係するのだろう。ヴァン神族が怪獣呼ばわりされ、心無い悪魔に命を狙われる現場を見てきた。不憫な被害者を一人残らず救済するため、悪魔の命と等価交換した。

ヴァン神族。怪獣。水波。

「ちょっと待ってエレママ」ミコも温泉から立ち上がる。水しぶきをはじきながら、極上の女体美が湯面に反射される。「あの子、ヴァン神族って名乗ったんだよね?」

「そうよ~」

ルンから確認を取ったが早し、ミコはリクライニングに駆け上がる。「エレ、警察白書だよ!」

「え?」

「ちょっとそれ貸して」

鳩が豆鉄砲を喰らったランをよそに、ソウルライザーを取り上げるミコ。

「ビンゴ! この男だった!」

何かを調べて、構造色の髪の妖精は目を輝かせる。

ライザーを返したのもつかの間、テレポートで消えた。

同時に、高柵の向こうで男たちの野太い声が沸き上がる。

まさか。

「あの子…! 何してるの!」

胸騒ぎが的中したマコも、ミコを追って高柵の向こうにワープした。

「私も~ 止めにいくわ~」テレポートが使えないルンも、走って回り込む。Kカップの魔乳が遠心力でバウンドする。

一方、男湯では。

「あの、み、ミコちゃん?」

「ダーリン♥︎ 見つけたよ♥︎」

「見つけたって、何を」

八橋が唖然とするのも無理もない。最愛の妻の一糸まとわぬ裸身が真上から来たのだから。

14歳の幼い少女ながら極上の女体美。白くきめ細やかな肌。妖艶にくねる細く括れた腰。バインバインと揺れるLカップの爆乳、天を衝くピンクの乳首。形のいいヒップライン。そして、ついこの間まで処女だった、毛ひとつない白く綺麗なパイパン。全てが均整に満ちた、空飛ぶ宝石。構造色の長い髪が月の光を反射する。

この極上の裸身を何度も見てきた、そして触ってきた八橋だが、本来なら女の子のいない空間でローアングルから見上げることになるとは不意打ちだった。子宮口まで何度も撮影してきた少女の秘裂も、今宵は一段と淫靡に見える。ましてや、男湯には歳三と謀と水波もいるのだから。

「ちょっとミコ、女の子が裸で男湯に突撃しないの」

遅れることマコがやってきた。

さっきまで女湯にいたマコも、当然ヌードガールなわけで。

男たちの欲情した視線で我に返ったマコは、今自分が置かれている状況に気付いた。

「キャっ!」

ミコそっくりの極上の女体美を、隠すこともできなかった。いや、反射的に隠すという動作ができなかった。むしろ無意識に乳肉を細腕で寄せ上げたせいでただでさえ巨大なLカップの白い乳肉がさらに強調され、乳首が前方に迫る。ダイナミックな乳圧ながらも腿は恥じらうように内股を挟んで少女のパイパンがぴったりと閉じているのも色めかしい。

「ミコちゃ~んマコちゃ~ん」

またまた遅れること、ルンが走ってきた。

まさか脱衣場を経由して暖簾を跨いできたのか。魔性のKカップが男たちを魅了するも、本人はその自覚は無く男たちの血走った眼を不思議に思って「あらぁ~?」と首を傾げる。

「ちょっと、あんまりジロジロ見ないでよ」

赤らめた顔を背けつつも、なおも自分の細腕で爆乳を支えるマコ。もう片方の手で、長い髪をいじっている。

「分かったかもしれない、あのヒッポリトの正体♥︎」

ミコだけが、八橋を誘惑するために求愛のポーズでアプローチした。

3人揃った絶世の美女の一糸まとわぬ裸身。

それは絶景という他なかった。

 

 

本題は温泉から上がってから、旅館の客室でミコの口から語られた。

「そもそも、この遊星はどういう場所か覚えてる?」

ウルトラマンたちが顔を見合わせる。

「人間と怪獣が共存する星」

「かつてパラスタンという土着神が守って、現在はカオスヘッダーとウルトラマンコスモスがその遺志を継いでいる」

「コスモス先輩は、怪獣を排除せず和解することに誰よりも尽力した勇者だ」

「でも、それと例のヒッポリト星人に何の関係があるんですか?」

八橋、謀、水波、シグニュウが口々に交わす。

「そこなんだ」ミコは続ける。「ヴァンは戦乙女ならざる種族の魂が突然変異によって戦乙女になった後天的な種族の末裔。 数々の証言をまとめると、転生前の記憶を色濃く憶えている個体も少なくない。 その傾向なんだけど」

ミコが次に言わんとすることを呼んでか、ディースが口を開く。「過去の凶悪犯罪、ですか?」

隣で見守っていたゼットンが、満足げに頷く。

ミコが言うには、「過去に発生した凶悪犯罪に関わるか、巻き込まれるかして、いずれにせよタタミの上でのご臨終じゃなかった生物がヴァンに転生する傾向が強いのよ。 恐らく、その当時のトラウマが彼女を遊星ジュランへ導いたんじゃないかな? 怪獣との諍いが無い、心優しきユートピアに」

「傷心旅行、ってことかい?」歳三が顎髭に手をあてる。「けど、それだけでお嬢ちゃんの悩みを特定できるワケじゃ?」

「警察白書を見なさい」ランがメガネをかけ直す。「まだ裏取りは不完全だけど、ほぼ9割一致した記録を発掘したわ」

「遥か昔」ゼットンの額の発光器官がファイアオパール色に輝く。「あるヒッポリト星人が、ウルトラウーマンマリーに擬態してマイティベースを襲撃した事件があった」

 

 

数日後、サイドスペース。

「探したよ、マリー」

八橋が足を踏み入れたのは、サイドアースの廃病院跡だった。

そこに、赤い天使はいた。

「俺様はマリー役はやらないって」

ヒッポリトの戦乙女は、相変わらずそっぽを向いている。

翼の無い天使の背中に、ウルトラマンは語りかける。「昔、ここでクライシスインパクトという、全宇宙を巻き込んだ大戦争が勃発した」

「…………」

「戦争は何も生み出さない。 最期は宇宙そのものと刺し違える。 特に地球、かつて病院だったこの場所を中心に宇宙は崩壊した」

「…………」

「それでもこうして焼け残ってるなんてね。 キング爺さんの奇跡ってやつかな」

「…………」

「君に会わせたい人がいるんだ。 ウルトラの星に来てくれ」

美しき天使が、はじめて振り返る。

「ウルトラの母はやらないぞ?」

「もうそれは言わない。ただ最後に、一度だけチャンスをくれないか」

言われるままに連れられたM78星雲、ウルトラ劇場。

館内には他の劇団員も集まっている。

「おいアーメン? まさかまだ俺様に演じさせるつもりじゃないだろうな?」

半信半疑のヒッポリト。

「その前に、会わせたい人がいる。」

「誰だよ?」

「そろそろ来る頃だけど…」

待っていると、外から少女と、男の声が聞こえてくる。

客席の扉が開いた。

青い構造色の髪のアース神族に手を引っ張られたのは、ごく普通のサラリーマンの姿をした男。

「おいミコ! なんで俺のこんなところに連れてきたんだよ?」

「いいからいいから。 おーいダーリン、連れてきたよー」

「ジャストタイム」

「はあ? 八橋まで何してるんだよ?」

ヒッポリトはこの男の顔を知らない。男の声に"聞き覚えがある"ことを除いては。

「ゼ・・・ロ・・・?」

搾り出した名前。記憶の底から、男の名が蘇る。

「え? お前、俺を知ってるのか?」

人間の姿に擬態はしているが、聞き間違えようがない。この男は宇宙警備隊の戦士、ウルトラマンゼロだ。

「そ、コイツがゼロ」青いモンスアーマーを身にまとったアース神族が、空中からサラリーマンの肩をたたく。「今は伊賀栗レイトっていう地球人の顔をコピーしてるけどね」

「なっ、何の用だ」

「それはこっちが聞きてえよ」

何もわかっていない当事者2人に、ミコが呼びかける。

「ねえゼロ、この子は今度の公演で主演なんだって」

最も心臓が飛び出たのは、ヒッポリトだった。

「ああ、あれか? マリーと運命の三女神ってヤツか?」

「そ。 この子がウルトラの母役」

動悸が止まらない。俺様はウルトラの母になれない。

「へえ?お前が?」

「ゼロ、この子どう?」

やめろ。ヤメロヤメロヤメロ

「どうって? 何が?」

怖い怖い怖い。

「この子なら、役に務まると思う?」

あの時と同じ言葉をぶつけられたら、俺様はもう―――――

「適任じゃねえか?」

え―――――?

赤い天使が、閉じていた目を開く。

奥を覗くと、青いアース神族はゼロの背中を叩いた。「その一言、この子にもう一回言ってホラ」

「なんでだよ?」

「いいからいいから」

渋々ながらも、ゼロはヒッポリトに向き直る。

「だから、適任だぜ。 ウルトラの母を演じるなら、お前くらい美人じゃねーとな」

ヒッポリト星人の怪獣娘は。

「ひっく… ひっぐ… うえええええええええええええん」

崩れ落ちた。

「あー! ゼロが女の子泣かせたー!」

「え!? 俺が悪いのかよ!?」

本人には、自覚がなかったのだろう。

恐らく、彼女のことを何も知らなかった、いや"憶えていなかった"のだろう。

それでも、光の戦士は。

確かに、ひとりの少女を救った。

ベストアクトレスの誕生を見届けたウルトラマンアーメンは、大きくうなずいた。

 

 

ヒッポリト星人、地獄のジャタール。

かつてその名を過去に持った怪獣娘が演じたウルトラの母は、のちに主演女優賞を勝ち取った。

 

 

FIN



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