英雄の半身と弟子の交換転生 〜英雄輔翼伝〜 (ゆうき あゆむ)
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〜プロローグ〜 序詞

短編『英雄の半身と弟子の逆転転生』の長編です。
取り急ぎプロローグを書き上げましたので、読んでいただければと思います。

なにぶんにも遅筆ですので、短いプロローグだけですが、このプロローグが無いとこの物語が始まりませんので、どうぞよろしく願いいたします。


 宇宙歴883年、新帝国歴85年4月4日、バーラト自治政府にある閑静な住宅街の一角で、大勢の親族や友人達に見守られながらその老人は息を引き取った。

 

 老人の名は、ユリアン・ミンツ、101歳まで生きた大往生であった。

 図らずも、彼の師父にあたる人物の誕生日に息を引き取る事になった事は、最期の時まで意識のあった彼にとって、『人生の最後の日に、素晴らしい贈り物を貰った。』と思ったのではないだろうか。

 

 彼の青春は戦争と共にあり、一部の人からは、彼の師父のヤン・ウェンリーや、獅子帝であるローエングラム朝の初代皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラム帝に次ぐ伝説の人物であった。

 

まだ自由惑星同盟が銀河の半分を有していた時にあっては、士官学校を卒業してないにも関わらず、わずか17歳で中尉となり、その後、師父の死の後に同盟が無くなると、イゼルローン共和政府の軍事司令官として、ラインハルト帝との会談を経て、バーラト星系の自治を獲得した。終戦を迎え平和になったその後の人生は、彼の師父であるヤン・ウェンリーの伝記やそこから連なる人々とその事象について書く事に従事した。

 そう考えると、彼は実際の戦争はあまり経験していないが、そのほとんどの人生を後の世で150年戦争と呼ばれる、銀河帝国と自由惑星同盟の間の戦争について費やされたのに等しいと言えたのではないか。ただ、終戦後に書いたその著書は、ヤン・ウェンリーを中心とした150年戦争の終戦前後における歴史書としての意義が高く評価されていた。

 

 他方、彼の死は150年戦争を体験し、詳しく知る世代がほとんど居なくなることを示唆しており、本当の意味での戦後の平和が訪れるとも言えるのではないだろうか。

 彼の師父の言葉を脚色しつつも借りるのであれば、『終戦から80年以上も平和だったのだから、今後のさらに何十年かの平和は、残されている戦後世代が考えれば良い。親はもちろん、その上の世代の責任まで子が背負う必要は無いのだから…』と言ったはずであり、今の平和をこの後どれくらいの期間、享受できるのかは、残された者たちに委ねられたのである。

 

 戦争をほとんど知らない世代に、平和を委ねて死を前にした最期の言葉は、彼らしいものだった。

 

 「やっと、ヤン提督に会える。会ったら、誕生日のお祝いをしなきゃ…」

 

 無邪気な少年のような心からの笑顔で言いった後、ユリアンは静かに瞼を閉じ、永遠の眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずであった…

 

 

 

 

序詞ー了




次回、際会

ユリアンは、キルヒアイス家の息子として生まれ変わり、彼の方と出会う・・・


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雌伏雄飛
第一話 際会


ー 際会 ー

『重大な事件や時期にたまたま出会う事』



今回の場合、事件や時期ではなく、重大な『人』です。


 宇宙歴776年、帝国歴467年、キルヒアイス家に1人の男の子が生まれた。

 

 赤毛が特徴的な、泣き声のとても元気な子であった。

 『勝利』を意味する『ジーク』と、『平和』を意味する『フリード』を合わせた、『ジークフリード』と名付けられた。

 約130年以上続いている、銀河帝国と自由惑星同盟との戦争という背景を持った時代を表しつつ、平和を願う両親の優しさが溢れた名前であった。

 そして、平和への願いが込められた、この赤毛の赤ん坊こそ、前世ではユリアン・ミンツと呼ばれた老人の転生した姿であった。

 

 キルヒアイスはすくすくと成長しつつも、ユリアンとしての前世の記憶は朧気にしか無く、本人も特に意識するものではなかったため、何も疑問に思う事なくジークフリード・キルヒアイスとして、銀河帝国の平民としては裕福な環境であったと推察される生活で、何不自由なく日々を過ごしていた。

 

 

 

 

 

ー それから、10年の月日が流れた。 ー

 

 

 

 

 

 宇宙歴786年、帝国歴477年、キルヒアイスが10歳の時に、キルヒアイス家の隣の家に帝国騎士の一家であるミューゼル家が引っ越して来た。

 

 「こんにちは!」

 

 キルヒアイスは隣に誰かが引っ越して来た事を知り、外出先から帰宅してくると、自宅の敷地に入ってから隣家に引っ越してきた家族の少年を見つけた。

 その少年、すなわち未来の獅子帝であるラインハルト・フォン・ミューゼルに同年代の年頃の少年がいる事を知って嬉しくなり、元気よく挨拶をした。

刹那、挨拶の一言がきっかけになったのか、目があったことがきっかけになったのかはわからないが、キルヒアイスの目の前で火花が飛んだ。

記憶のフラッシュバックが起こったのだ。

 

 ラインハルトが何やら声をかけて来ていたが、そんな余裕はキルヒアイスには無い。

記憶が呼び起こされる度に記憶のフラッシュバックが起こり、そのフラッシュバックに驚愕や朧気な記憶の裏づけとしての納得を繰り返した結果、自分の前世は帝国という専制君主制の政治体系からみると、別の対立軸である共和民主制を掲げた、自由惑星同盟やバーラト自治政府で生きてきたユリアン・ミンツであった事を思い出したのだった。

 

 しかし、瞬間的に約100年分の記憶が、僅か10歳の脳に流れ込んで来たのである。

 脳へのストレスは想像出来ないものだった。当然というか必然的に、ストレスに耐えきれなかった10歳の脳は生命維持としての最低限の活動以外を停止させ、彼は目の前が暗くなって行くのを感じた。

 前世ではユリアン・ミンツとして年齢も立場も違うも目の前の少年に会った事はあるが、ユリアンとしても、キルヒアイスとしても初めて会った10歳のラインハルト少年の目の前で気を失ってしまった。

 

 目の前で意識を無くしたキルヒアイスを、ラインハルトとその姉のアンネローゼが彼の家まで送り届けてくれたようだが、彼は3日ほど意識を失っており、その間、ラインハルトはもちろん、ラインハルトの姉であるアンネローゼも何回も見舞いに訪れていた。

 

 記憶のメカニズムにおける脳科学的に考えれば、100年分の記憶である。

 意識の回復がいつになるかなど考えられないほどのストレスを、キルヒアイスは受けたのだ。

 それが、わずか3日で意識を回復したことは、元々のキルヒアイスの潜在的な身体能力と、朧気とはいえ、誕生した時にすでに転生者としての記憶を有していた事から、10年をかけて記憶の整理を彼の脳が無意識に行なっていた事に起因していた。

 

 しかし、ラインハルトにとっては目の前で同じ年頃の少年が倒れた事が、アンネローゼにとっては弟の目の前で赤毛の少年が倒れた事に驚き気になっていたのだ。

 この医学的な知識が何もない2人にとって、不安であった事に変わりはないはずである。

 キルヒアイスが目を覚ました時にも、部屋にはラインハルトが来ており、どこかやり場のない、不安を隠すことのない蒼氷色の眼差しをキルヒアイスに向けていた。

 

 「目が覚めたか。」

 「俺は、ラインハルト・フォン・ミューゼル。君はジークフリード・キルヒアイスと言うそうだな。君の母上から伺ったぞ。」

 「それにしても、ジークフリード…」

 「俗な響きだな、けどキルヒアイスと言う苗字は良い!」

 「これから俺は君のことを『キルヒアイス』と呼ばせてもらおう。俺のことは『ラインハルト』と呼んでくれ。」

 

 目が覚めたキルヒアイスを見て、一安心したのか、蒼氷色の瞳に無垢な輝きを携えながら、名前の主の家にもはばからず率直に言って来た。

 来客に対してベッドから上半身を起こしたキルヒアイスは、いきなり名前について『俗な響き』言われた事に苦笑いするしかなかった。

 

 「わかったよ、ラインハルト。」

 「けど、ラインハルトが僕のことを、なぜ苗字で呼ぶのかってことを名前をつけてくれた両親に聞かれたら、『キルヒアイスって言う響きが美しくて気に入ったから』って、言うね。」

「それから、遅くなったけど、これからよろしくね。」

 

 苦笑いを崩すことは無かったが、キルヒアイスは悪戯っ子のような視線を向けつつ、彼が前世で師匠達の影響を受けた事を確認できる皮肉を含めて、先日は交わすことができなかった挨拶の続きをようやく交わした。

 そして、右手を差し出し握手を求めた。

皮肉を言われた事を察したのか、拗ねた表情を見せながらも、ラインハルトも右手を差し出し、目の前のベッドの上にいる、引っ越してきてから初めてできた友達の握手に応えた。

 キルヒアイスは苦笑いを消した満面の笑みで、2人の友情のはじまりである、繋がれた右手にもう一度力を込めて強く握り返した。

 

 「ラインハルト、改めて、よろしくね。」

 「ところで、僕はどうなったの?挨拶したまでは覚えているんだけど…。」

 

 キルヒアイスは、気になっている先日の事を聞いた。

 

 「ああ、君は『こんにちは!』って俺に言ったと思ったら、すぐに倒れてしまって、俺と姉さんが連れて来たんだ!」

 

 「そうなんだ!」

 

 驚きの表情とともに眼を見開き、申し訳ない雰囲気がキルヒアイスの全身から感じられた。

 

 「いきなり迷惑をかけてしまったね…。」

 「ごめん…」

 「そして、ありがとう!」

 

 ベッドから起こしている上半身をできる限り前に倒しながら、これ以上はできないくらい頭を下げて謝った。

 

 「気にするな。」

 「それより、今度はうちにも遊びに来いよ。」

 「姉さんも君が倒れたところを見ているから、君の事がすごく気になっているし、それに、姉さんとの挨拶はまだだろ?」

 

 「わかった、ラインハルトありがとう。」

 

 目の前にいる非のうちどころのない容姿のラインハルトを見ながら、前世の記憶から多少の記憶はあるものの、まだ見ぬその姉の容姿や性格を想像しつつ、次は、キルヒアイスがミューゼル家に遊びに行くことを約束した。

 ラインハルトは、友達となったキルヒアイスが無事に意識を取り戻した事と、次は我が家に来てくれるとの約束が守られる事を確信したかのように、キルヒアイスの自室を後にした。

 

 

 

 

 

ー 数日後 ー

 

 

 

 

 

 数日後、キルヒアイスがラインハルトに呼ばれてミューゼル家に行くと、玄関を入ったその瞬間から家中に広がる甘い香りが鼻腔を刺激した。

 リビングにキルヒアイスとラインハルトが入ると、手に2つのケルシーのケーキを持ったラインハルトの姉が入って来た。

 

 「ちょっと待っててね。」

 「今、ホットチョコレートを持ってくるから。」

 

 ラインハルトの姉は、そう言い残すとキッチンに向かい、すぐにマグカップ2つを持って来た。ラインハルトは、姉がその後に自分のケーキと紅茶を持ってきたのを確認してから、キルヒアイスを紹介した。

 

 「姉上、ご存知でしょうが改めて紹介します。

 彼が、ジークフリード・キルヒアイスです。」

 「今回、友達になりました!」

 

 自分の口から友達になった事を含めて、ラインハルトは紹介したかったのだろう、ラインハルトの姉自身も何度もキルヒアイスを見舞っていたので、知っているはずだが、弟の顔を立てるためにあえて彼のフルネームを呼んだのだった。

 

 「はじめまして、ジークフリード・キルヒアイスくん。」

 「私は、アンネローゼ。」

 

 ラインハルトの気持ちを汲んだ、広大な草原の草を撫でる、優しい風のようなアンネローゼの爽やかな彼女の自己紹介であった。

 

 「ラインハルトと、お友達になってくれてありがとうございます。」

 

 爽やかな風の次は、春の暖かな太陽のような笑顔でキルヒアイスに頭を下げた。

 

 この少女の持つ、総てを暖かく包み込む雰囲気に心を奪われたキルヒアイスは、アンネローゼを直視することができず、俯いたまま頷くしかできなかったのである。

 

 「ところで、ジークフリードって、おっしゃるのね。」

 「じゃあ、『ジーク』って、呼ばせてもらうわね。」

 

 「ハイ!」

 

 俯いていたキルヒアイスは顔を上げ、アンネローゼを真っ直ぐな眼差しで見つめながら返事をした。しかし、心の中で『さすが姉弟!』と叫んでもいた。

 アンネローゼも、弟同様、いきなり自分の呼び方を指定して来たからだった。

 さすがに初対面であり、眩いばかりの容姿と雰囲気に軽口を口に出して言わなかったが、思わず『さすがは姉弟、迅速果断な呼び名の決め方が似てますね。』と言いかけていた。

 余計な一言を付け加えてしまう癖は、前世における師匠達の影響が前世のユリアンにとって、晩年まで残っていた事を疑う余地がないものであった。

 ただ、キルヒアイスのアンネローゼに向けられた顔は、ラインハルトの時のような苦笑いはなく、嬉しさからの笑顔だったのである。

 

 「お口に合わないかもしれないけど、どうぞ、私が作ったケーキをお食べくださいな。」

 

 アンネローゼからケーキを促され、キルヒアイスとラインハルトは一口頬張った。

 甘酸っぱいスモモの味が口いっぱいに広がり、スポンジケーキの甘さと相まって、なんとも言えない、幸せな気持ちになった。

 「アンネローゼ様、美味しいです!」

 

 キルヒアイスはケーキで口の中がいっぱいになりながら、それをホットチョコレートで喉元に押し込むと感嘆の声を上げた。

 姉の作ったケーキを褒められて、ニコニコしているラインハルトを一目見て、アンネローゼが微笑みながら頷いた。

 

 「ありがとうジーク。」

 「そして、ラインハルトの事をよろしくお願いしますね。」

 

 「姉上、子供扱いしないで下さい!」

 

 自分のことを同年代の少年に頼まれ少し子供扱いされたと思ったのか、拗ねたように訴えるラインハルトを見て、キルヒアイスとアンネローゼは、声を上げて笑ったのだった。

 

 そんな波乱の出会いから、キルヒアイスとラインハルトは、10歳のヤンチャ盛りな男の子らしく、時に泥だらけになりながら、時によく晴れた日なのにびしょ濡れになりながら遊んだ。

 その度に2人はアンネローゼに叱られていたのだが、結局は、アンネローゼが焼いたケーキを食べて笑い声がこだまする、それは幸せで、楽しい日々が続いていた。

 

 そんな幸せの日々を過ごしているキルヒアイスは、ラインハルトとアンネローゼとの出会いから暇さえあればいろいろと考えた。

 前世での自分の事、前世での自由惑星同盟からバーラト自治政府の事、前世での銀河帝国の事、そして、前世ではイゼルローン要塞での捕虜交換の時に見た現世での自分の事、他にも多くの事を思い出し、考え、その考えを整理していた。前世では作家としての人生が大半であったため、その時の癖で時折、メモを取ったりもしていた。

 

 考えた上で、今の時点での結論が出た。

 

 「あまりにも情報が少ないな…10歳の自分では今の帝国について知ることができる情報は限られている。それに、前世でもこの時期の情報は同盟にほとんど流れて来てなかったし、情報開示されてからもほとんどなかったようだし…。」

 

 情報の少なさには、多少の焦燥感を感じていた。

 

 「ただ、もう一度、同じ世界を違う側からやり直すのか…」

 

 他方、100年生きた後の人生のやり直しについては、苦笑いするしかなかった。

 

 ただ1つキルヒアイス、いや、ユリアンにとって前世でいちばんの後悔であった、事に対する喜びはあった。

 

 「ヤン提督を助けられるかもしれない。」

 

と思った、その一点である。

 

 ただ、『あ~!ヤン提督に会えなかったし、誕生日をお祝いできなかった…』と、かなり残念な気持ちになり、自室に一人でいる時に地団駄を踏むくらい心残りであった事は、墓場に持って行くと決めた、キルヒアイスだけの秘密であった…。

 

 

 

 

 

際会、了




次回、決意

歴史は繰り返される…
ましてや、ほぼ、同じ歴史なのだから…

アンネローゼ、、、ラインハルト、、、

その時のキルヒアイスの決意は?


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第二話 決意

出会った3人の歯車が回り始める。


 キルヒアイス、ラインハルト、アンネローゼ、3人の幸せな日々は長続きしなかった。

 ある日、いつもの様にキルヒアイスとラインハルトが、冒険という名のオーディン探検から帰って来ると、ミューゼル家の門扉の前に黒塗りの高級車が停まっていたのだ。

 宮内省の行政官の乗る公用車だった。その行政官は、2人が帰ってくるのと同時に新無憂宮へと帰宮した。

 それを見た2人は、どうしようもない胸騒ぎを覚えて急いでミューゼル家に入って行った。

 

 「お父様、姉上!」

 

 玄関を入るなり、ラインハルトはいきなり叫んでいた。

 

 「お父様! 何をなさっているのです!」

 

 玄関で叫んだ後、リビングに入ったラインハルトは、隠せないほどの怒りを込めて、もう一度叫んだ。

 目の前でボトルから直接ウィスキーを飲んでいる父の姿を見たのだった。

 

 「セバスティアン様、アンネローゼ様、あの車は、何だったのですか?」

 

 怒気を全身から溢れさせ、あまりの怒りに言葉を発せなくなっているラインハルト代わり、キルヒアイスが聞いた。

 

 「ジーク、ラインハルト…、仕方がないのよ…。」

 

 応えたのはアンネローゼだったが、アンネローゼの答えは、答えにならない答えだった。

ただ、帝国に生を受けた2人には、それだけでおおよその予想はついた。

 

 「アンネローゼが、後宮に入る事になった…。」

 

 飲みかけのウィスキーボトルを持ったセバスティアンが、この世全ての不幸を背負ったかのような背中を向けたまま誰に言うでもなく、2人の予想を肯定するかの様に呟いた。

 

 セバスティアンの呟く背中は、実はラインハルトの記憶には無いが、アンネローゼには過去に一回だけ見た事がある背中だった。

 セバスティアンの妻であり、アンネローゼとラインハルトの母、クラリベルが事故で死んで、その事故の詳細を警察から聞いた時に見たのと同じ背中だったのだ。

 

 何も言えないアンネローゼは、悲しみと申し訳なさに支配された表情を、昔、一度だけ見たが、一番見たくなかった父の背中に向けていた。

 

 今の銀河帝国皇帝に逆らうことは、一族の死を意味する。すなわち、帝国で暮らしている限り、いかなる者、大貴族であっても断る事は死ぬ以外、不可能なのだ。

 ましてや下級貴族のセバスティアンにとって、自分の娘であるアンネローゼは自分の手の届かない、自分にとっては死んだも同然になったと感じているのであった。

 

 「お父様!」

 「お父様は、姉上を売ったのですね!」

 「貴方…、いや、貴様は、我が子を売ったんだ!」

 

 しかし、母の死が己の記憶に無い位に幼かった彼にとっては関係無かった。

 ましてや10歳のラインハルトにとって、後宮に上がる事について知ってはいても理解したくないと感じる、まだ感情を理性でコントロール出来ない年齢である。

 ラインハルトは、我を忘れてセバスティアンにこれ以上も無い侮蔑を含めて詰め寄った。

 セバスティアンは言い訳などは一言も発せず、未だこの場にいる全ての者の発言を拒絶するかのように背を向けたままだった。彼は、ラインハルトにとっては姉が母代わりであり、まだまだ母を必要とする年頃の母性の対象を奪い取ってしまった一端は自分にあることを後悔しているかの様であった。

 帝国にあっては決して、その様な後悔を感じる必要が無いと知っているが、その後悔ゆえに、ラインハルトの怒りを自らの身に受ける覚悟を持っているのだと、100年の記憶に裏付けされた人生経験を持つキルヒアイスは思った。

 

 「ラインハルト、仕方がないのよ…。」

 「それに、この方法が良いの…。」

 

 困窮している我が家、皇帝からの誘いを断れる術のない事実、それら全てを理解しているアンネローゼは、手がつけられないほど怒りに身を震わせているラインハルトに対して、努めて冷静に、そして諭すように語りかけていた。

 ただ、そのアンネローゼ自身も、未だ15歳である。自らの身に起こった事を全て受け止められるほど成熟しているわけでは無い。その身体は、これからの自分に待ち受ける未来を想像して小刻みに震えていた。

 

 姉が家からいなくなる事実、そんな姉のどこか我慢している姿を見てしまった事、心の何処かでは信じていた父に対しての落胆から、ラインハルトは自室に駆け込み引きこもってしまった。

 

 「ジーク、これからラインハルトを止められるのは貴方だけになるわね…。」

 「改めて、ラインハルトをお願い。」

 「貴方の言う事なら、ラインハルトも聞くと思うから…。」

 「もう、貴方にしか、頼めないの…。」

 

 自室に引きこもったラインハルトを横目に追いながら、薄っすらと濡らした瞳を閉じて、アンネローゼは意識してなのか無意識なのか、ラインハルトの今後をキルヒアイスに託す様に彼に頭を下げていた。

 

 その日、前世の記憶で、その概要は知っていたものの、実際に目の当たりにした、あまりの衝撃にそのまま帰宅したキルヒアイスは自身も憤りを感じていた。しかし、その前に、ラインハルトのこの怒気こそが前世で獅子帝となる由縁となった事を改めて思い知った。

 

 前世でのキルヒアイスが、どれほどラインハルトの為に調停者(バランサー)として在ったのか、どれほど彼の覇業の道に陰日向となり支えていたのか。その事を、前世のキルヒアイスが存命であった時のラインハルトの言動と、亡くなった後のラインハルトの言動を限られた資料から得た記憶を基に理解し、現世での自分が前世でのキルヒアイス同様、ラインハルトの覇業を支える立場を担うことはもちろんだが、前世のキルヒアイスでは難しかったのであろうと勝手に推察している政略面でも、出来うる限り支える事を決意するのであった。

 

 数日後、アンネローゼはフリードリヒ4世からグリューネワルト伯爵夫人の称号を賜り、寵妃として後宮に入る事になった。

 その日が来るまで、アンネローゼとセバスティアンは輿入れの準備を、ラインハルトは相変わらず引きこもりの日々であった。ただ、輿入れ当日、睨むようにアンネローゼを乗せて走り去る黒塗りの車を睨みつけるラインハルトの姿があった。同じ様に見送りに来ていたキルヒアイスが久しぶりに顔を合わせたラインハルトは、以前とは顔つきや雰囲気が変わっていた。

 その雰囲気は常に怒りを身に纏い、触れるものは皆、焼き尽くさんとするような覇気とも言うべき風格を10歳の少年ながら身に纏うようになっており、その表情は、遠くを真っ直ぐに見据える、凛とした顔つきで在った。

 

 「キルヒアイス!」

 「俺は、姉上を取り戻す!」

 

 ラインハルトは、『ライン』の意味する『純粋』と『ハルト』の意味する『心』という、名前の示す通り『純粋な心』を、姉を皇帝から取り戻す事へと向け決意したのであった。

 

 輿入れするアンネローゼの後ろ姿を追ったその翌朝、突然、ミューゼル家は引っ越した。

 アンネローゼの輿入れと同時に、ミューゼル家は引っ越し準備を進めていたのだった。『少しでもアンネローゼの過ごした、その雰囲気が残るその家で暮らしたくない。』そんな思いが伝わる、夜逃げの様な引っ越しであった。

 

 ここ数ヶ月、常にミューゼル家の2人と3人で過ごしていたキルヒアイスは、空虚な日々を過ごしていた。

 そんな空虚な数日が過ぎたある日、目の前に帝国幼年学校の制服を着たラインハルトが現れた。

 

 「キルヒアイス、一緒に幼年学校に行こう!」

 

 ラインハルトは、そこで、一呼吸置き、幼年学校に誘う理由を語り始めた。

 

 「俺は考えた。姉上を取り戻し、この銀河を手に入れる。」

 「ゴールデンバウムも、人類の開闢以来、常に皇帝であったわけでは無いはずだ。」

 「そうであれば、ルドルフに可能であったのだから俺にも可能だろう。」

 「キルヒアイス、俺についてきてくれ!」

 「そして、姉上を取り戻し、一緒に銀河を手に入れよう。」

 

 

 そう言って手を差し出して、ラインハルトは突然の別れの前と変わらぬ、怒気を携えた覇気を宿した蒼氷色の瞳を真っ直ぐにキルヒアイスに向けて来た。

 

 キルヒアイスは数ヶ月前に決意した気持ちを確認するように、頷きながら差し出されたその手を握り返した。そして、次の瞬間には跪き、今まで『様』をつけた事がなかったラインハルトに『様』をつけて最上級の気持ちで応えた。

 

 「ラインハルト様、このキルヒアイス、常に共をさせていただきます。」

 「ただ、お耳に痛いであろう諫言をお聞かせする事があるかと思いますが、全てはラインハルト様の覇業のためでございます。」

 「お供させて頂くのにつきまして、願わくば、あえて諫言する事をお許しを頂ければと思いますので、慎んでお願い申し上げます。」

 

 その姿を見て口上を聞いたラインハルトは、すぐにキルヒアイスを引き起こした。

 

 「キルヒアイス、今まで通りで頼む。」

 「俺は、お前が友だからこそ迎えにきたのだ。」

 「もう一度言う、お前は俺の臣下では無い、同じ志を持った友なのだ。俺と一緒に、幼年学校に行ってくれ。」

 

 ラインハルトは、そこまで言うと頭を下げた。

 

 キルヒアイスは恥じた。前世でのユリアンとしての記憶と現世でのキルヒアイスの記憶が、自然とラインハルトへの臣下の礼をとったのであるが、前世でのキルヒアイスの墓標はラインハルトによる『我が友』のみである。

 前世の記憶での墓標の事を失念していたキルヒアイスは、改めて引き上げられた時に握られた手を強く握り返し、深々と頭を下げた。

 顔を上げたキルヒアイスからは、迷いのない真っ直ぐな視線がラインハルトに向けられ、2人はお互いに『友』として、揺るぎない友情を誓うのであった。

 

 その夜、キルヒアイスは父母に幼年学校への入学許可をもらう為、その事を伝えた。

 『帝国男児であれば致し方無し。』と言った父からは、言葉の裏から厳しくも温かい感情を感じた。『無理はしないで、いつでも帰ってらっしゃい。』と言った母からは、包み込む温かさを改めて感じたのであった。

 

 その後、本来、平民は入学する事が出来ない帝国幼年学校で、平民であるキルヒアイスが入学する為に用意された、ラインハルトの伝手によるグリューネワルト伯爵夫人の幼年学校入学の為の推薦状をキルヒアイスは携え、ラインハルトと共に心の決めた決意を実現させるために、幼年学校の門を潜ったのであった。

 

 

 

 

 

 

決意、了




次回、雌伏

幼年学校に入学したキルヒアイスとラインハルト、2人の運命の歯車は、ゆっくりではあるが音を立てながら回り始めている。

未来のため、2人は幼年学校では力を溜める。


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第三話 雌伏

幼年学校前半、キルヒアイスとラインハルトにとって、思考のベースとなる日々を過ごします。


 宇宙歴786年、帝国歴477年、幼年学校に入ってからのキルヒアイスとラインハルトは、『姉が寵姫なだけの何の実力も無い下級貴族とその腰巾着』といった風評が常に付きまとっていた。彼らにとっては目標を持って入学した幼年学校である。ただ単に貴族だからと言った理由で入学していた他の貴族子弟達の流す風評など、どこ吹く風、鼻であしらう程度の事であった。

 

 そんな2人の態度もあって、入学当初は同級生や上級生といった学年に関係なく、多くの貴族子弟から喧嘩を売られた。『元は下級貴族で、姉のおかげで入学できた』と思われていたのだから、貴族としての歪んだ誇りを持つ者達にとっては鼻持ちならない存在であったのだろう。

 ただ、流石に入学してから半年も経った頃からは2人の成績の良さや、腕っ節の強さから売られた喧嘩にことごとく勝って来たと言う実績が付いてくると、あからさまに喧嘩を売られる事は徐々にその数は減らしていた。

 

 そんな2人を、常に忌々しく思っている者達もいた。学校の教官たちである。

 学校側としては、当人たちから喧嘩を売っている事実が見当たらないとは言え、学校で起こるほとんどの問題事に渦中の人物として名前が上がる生徒である事、また寵姫の弟がその中心である事から、歪んだ目で2人を評価し、忌々しい思いをもって目をつけていたのであった。

 

 事実、他の生徒であれば呼び出されないような些細な問題であっても頻繁に教官から呼び出され、その度に嫌味を言われていたのである。特に先日は、上級生を噴水に落としたと言う事で呼び出されたばかりであった。

 ラインハルトは先日に限らず、呼び出される度に怒気を表に出していた。一方でキルヒアイスは、前世での多感な時期を辛辣な洒落が飛び交う事が日常であった環境で過ごした、ユリアンとしての経験が彼を強かにしていた。

 

 「ラインハルト様、嫌味を言われると言うことは、彼らはそれだけ私たちを恐れていると言う事です。そんな、縮こまった胆力しか持たぬ者に対して、まともに相手にする必要は無いかと思います。むしろ、彼らのその小さな胆力を哀れむ、お心の広さをお持ち下さい。」

 

 悪戯っ子の様な笑顔で、どこか楽しむかの様に諭していたのであった。

 言い回しは多少違うが、毎回、要約すると同じような言葉を聞いていたラインハルトは、その度に少し拗ねた表情をするのだが、将来、この諫言がラインハルトにとって判断の幅を広げる一助となる事は想像に難しく無い。

 

 そんな、平穏とは言い難いどこか喧騒に満ちた日常の合間に、キルヒアイスはよく意識をどこかに飛ばしていた。ラインハルトと最初に出会った頃から、1人でいる時には前世の記憶と今の情報を整合し整理する事が、現世でのキルヒアイスにとっての日常だった。

 ただ、周りからしたらは時に笑みを浮かべ、時に苦い顔をしたりと妄想全開であった為、変わり者扱いを受ける事が多々あった事は、ラインハルトだけが知る秘密である。

 そして、今日もキルヒアイスは授業の合間で、1人の世界に浸っていた。

 

 『あっ!そう言えば、前世では僕は生まれてたけど、この世界では生まれてるのだろうか?生まれていれば、4歳のはずだけど…確認なんて出来るわけないしな…』

 

 少し、苦笑いである。

 

 『後、ラインハルト様の元々の性格って、人見知りだったんだな。学校に入ってから、喧嘩の時以外はほとんど私以外の人と会話しているのを見た事が無い。前の世界では、取っ付き難い印象はあったけど、人見知りなんて印象を受けなかった。やっぱり、いろんな経験がそうさせたのかな?』

 

 次は、真剣な表情を見せている。

 

 『あっ! 今更だけど思い出した! そう言えば、前の世界でラインハルト様と謁見した時も気絶してる… しかも、あの時は血まみれで…』

 

 次の瞬間には、また、苦笑いしながら恥ずかしそうにしていた。

 

 「キルヒアイス!」

 

 ラインハルトが、真剣な表情で蒼氷色の瞳を見開き覗き込んで来た。

 

 「ラインハルト様、何でしょう?」

 

キルヒアイスは、慌てて妄想から現実世界に戻ってきた。

 

 「上級生から呼び出しだ! また、難癖つけて来たぞ。」

 「今度は、どちらの貴族の方でしょう?」

 「知らん!」

 

 その言葉を受けて、キルヒアイスが苦笑いしたのをラインハルトは見逃さなかった。

 

 「どこの誰かは関係ない! 売られた喧嘩は買うまでだ!」

 

 蒼氷色の瞳に光を帯びて、嬉々としているラインハルトを見て、キルヒアイスは前世での師父から聞いた言葉を使って、一応は止めようと試みる。

 

 「ラインハルト様、『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』との言葉が、遥か太古の兵法にあります。

 次は相手に貴族の嗜みと礼儀を問き、ぜひとも事前に名乗って頂いて下さい。」

 

 「わかった… 次があればだけどな。」

 

 言葉の意味を詳しく知らないからなのか、あるいは、売られた喧嘩を止められた事が気に食わないのかはわからないが、おそらく後者であると思われるような苦い顔で返事を返した後、今度は悪戯をする前の顔になってから切り返した。

 すっかりラインハルトのペースで日々を過ごしていた彼にとっては、一回は彼を止めてから従うと言う日常が当たり前になっていたのだ。

 

 「ラインハルト様、場所は図書館奥のホールですね? では、参りましょうか。」

 

 自分も楽しんでいる気持ちを隠せずにいる彼のこの気持ちは、無意識としての感覚であったが、彼の前世での師匠の一人である記憶の中での元薔薇の騎士団であったワルター・ファン・シェーンコップ中将が、多分に影響していた事は否めなかった。

 

 四対二と言う、不利な状況ではあったものの、2人がホールの壁を背にして背後を取られないように戦術を取りながらの喧嘩となっていた。

 一見、壁を背にすると不利な様に思われがちだが、人間、一度に襲える人数は限られている。前後と左右の四方向もしくは、斜めからの四方向ということになる。

 すなわち、後ろに目がない限りは、壁などの障害物を背にした方が少なくても一方向は潰せる事から戦いやすい場合が多いのである。

 また、一度に複数が襲う場合、よほどの連携がないと、殴りかかる、蹴り上げるなどの攻撃が中途半端になりやすい。したがって、極端な人数差がある場合を除いて、多人数を相手にする事はそこまで不利な状況とは言えない。

 ましてや、2人はお互いの左右をかばう形で横並びになっていた。

 この立ち位置であれば、お互いがいない横方向と前だけを気にしていれば良いことになる。

 しかし、一対一と比べると人数的には不利である状況に代わりはない事も確かである。

 そこは相手が貴族子弟である。幾度かの同じ様な修羅場をくぐり抜けて来たラインハルトとキルヒアイスの敵ではない。

 

 「先輩方、どちらの方々でしょう? お名前を教えていただけませんか? それから、なぜ、我々に喧嘩をお売りになられたのでしょうか? 」

 

 キルヒアイスが、先ほどラインハルトに言ったことを自分で実践するかの様に上級生達に確認した。

 

 「うるさい!」

 

 上級生達のリーダー的な存在の生徒は、ただ吠えるだけであった。

 

 「先輩、名も名乗らずに多勢に無勢の下級生への意味のない喧嘩、貴族としての矜持はお持ちでは無いのですか? それとも、我々の様な下賎な民へは、そうやって押さえつけ、弱い者苛めをすることが帝国の藩屏たる貴族の矜持だと教わりましたか? ですが、下賎とおっしゃいますが、我々は幼年学校の生徒であることから、陛下の臣下であります。その臣下を意味もなく痛めつける意味をお教えいただけないでしょうか? ひょっとして軍では、この様なことがまかり通るのですか? 」

 

 キルヒアイスは皮肉を込めてリーダー的な上級生に問いただした。

 

 上級生達にキルヒアイスとラインハルトを襲う意味はないのである。『ただ、気に入らないから』という理由が、理由にならないこと位は、たとえ安寧と暮らして来た貴族子弟にとっても理解している。

 ましてや今回、キルヒアイスは皇帝や軍規を持ち出して来た。彼らにとっては『たかが子供の喧嘩』であるが、キルヒアイスにとってはラインハルトの覇道のため一つの踏み台として捉えていた事が、皇帝を出し、軍規にまで話を広げていたのである。

 

 「うるさい! うるさい! うるさい! 」

 「関係無い! やってしまえ!」

 

 周りの上級生達も騒ぎ出した。これで精神的にも勝負はついた。冷静に戦えない者が、人数的に有利とは言え勝てるどおりがない。

 無秩序に突っ込んでくる上級生達に対して、キルヒアイスとラインハルトは冷静に対処し、次々にその戦意を挫いていった。ある者達は相打ちで、ある者はうずくまっているところを盾にされた。

 

 「覚えてろ!」

 

 この日も無事に? 上級生3人を撃退した時点で最後の一人は戦意を失い、捨て台詞を吐いて逃げていった。

 

 「『覚えてろ』って、名前も喧嘩を売られた理由もわからないのに、覚えてられないですよね? 」

 

 苦笑いしながら言うキルヒアイスの皮肉に、喧嘩に勝ったことで上気させ、薄っすらと紅く染まった笑顔を苦虫を噛んだ様な顔に変え、ラインハルトは一言だけ呟いた。

 

 「教官に言うんじゃないか? 」

 

 2人は、苦虫を噛み潰したような顔を見合わせて、『またか… 』と言った雰囲気を出しつつ、肩をすくめて苦笑いした。そして、キルヒアイスもラインハルトに呟いた。

 

 「ラインハルト様、また、一緒に呼び出されましょうか…… 。」

 

 最終的には無事とは言えない、『呼び出し』と言う拷問を覚悟した、そんな2人の一部始終を、遠くから眺めていた灰色の髪をした彼らの同級生と、同じく遠くから眺めていたダークブルーの瞳を持った上級生が、それぞれ別々の場所にいたのだが、2人は気がつく事はなかった。

 

 前世世界のキルヒアイスよりも、時に辛辣な皮肉を含んだ好戦的な一面を持つ現世でのキルヒアイスであるが、そこは前世で100歳まで生きたのだ。その経験を生かして、周囲との繋がりも持つようにしていた。

 

 ラインハルトとの付き合いの中での印象が、希薄な人付き合いだと感じていた事はもちろんのこと、前世の記憶を持つ現世のキルヒアイスにとって、大多数の門閥貴族は別として、平民はもちろん下級貴族や一部の前世のユリアンとして考えた常識的な門閥貴族人との繋がりが、今後のラインハルトにとって、大きな武器になる事を自覚していたからだ。ただ、平民の彼はその人脈作りがなかなか進まないことを忸怩たる思いで捉えていた。

 

 遠くから眺めていた2人の幼年学校生は、そんなキルヒアイスの成果の賜物であったのだが、果実となり成果が目に見えるようになるのは、まだ当分先になるのであった。

 

 そして、皮肉な事に今現在、結果が得られていないと言う事が、ユリアン・ミンツとして生きた前世と、多少の齟齬はあるものの、ほとんど変わらない状況で歴史は進んでいるのだった。

 

 

 

 

 

ー幼年学校入学から2年。ー

 

 

 

 

 

 宇宙歴788年、帝国歴479年のある日、入学から2年の月日が流れ3年生になった彼らに大々的な嫌がらせは無くなっていた。しかし、ほぼ毎日のように取るに足らない嫌がらせは続いていた。

また、この頃の学校側の態度はと言うと、取るに足らない嫌がらせである事と、2人が下級生には決して手を上げず、嫌がらせをしないと言う事から、黙認する姿勢を取っていた。

 嫌がらせを撃退している毎日という、決して暇ではない日々の合間に2人は、軍務省発行の官報でフェザーンからもたらされた三行程度の小さな記事が載っていたのを見つけた。

 

 『エルファシル星系からの叛徒民間人300万人の逃亡は、反乱軍中尉ヤン・ウェンリーが中心になり、煽動したものである。』

 

 数ヶ月前の官報で大々的に取り上げられていたエルファシル星系での戦闘は、帝国軍の艦隊がエルファシルの駐留守備艦隊を打ち破り、リンチと言う名の司令官を捕虜にしたと大々的に書かれていたのだが、今回の記事はフェザーンからの情報である上に、農奴として捕らえられるはずの民間人が逃げられた結果とあり、実に簡素なものである。

 

 「キルヒアイス! この、ヤン・ウェンリーなる者は、300万人の民間人を司令官を囮にして逃したと考えるべきだろうな? 褒められた事では無いが、叛徒共の中にもなかなか出来る奴がいるじゃないか。」

 

 「ラインハルト様、確かにその通りだと思います。将来、この者と対峙する可能性もありますね。」

 

 「そうだな。そうなる事が楽しみだ。」

 

 ラインハルトは蒼氷色の瞳に一層の輝きを増しながら、欲しい玩具が見つかった子供のような笑顔でキルヒアイスに答えていた。微笑んでラインハルトと話をしていたキルヒアイスは、別の意味でも微笑んでいたのである。

 

 『ヤン提督はやっぱり凄い! それに… 歴史が変わってなくて良かった。』

 

 前世がユリアン・ミンツであるキルヒアイスにとっては、ヤン・ウェンリーの活躍が何よりも手放しで嬉しいのはもちろんだが、前世の記憶と違う歴史が流れる事を危惧していた。

 タイムパラドックスなのかパラレルワールドなのかはわからないが、前世とほぼ同じ時間軸に生まれ変わり、前世とは違う帝国側にいるという事は、バタフライ効果を生み出す要因になる可能性がある事を、彼は前世の100年で培った知識で持っていたからである。

 

 そして、2人にとっては将来の思考における原点となる幼年学校の前半が過ぎていくのであった……

 

 

 

 

 

 

 

雌伏、了




次回、初志

幼年学校後半、ラインハルトを助ける事をアンネローゼとの別れで決意したいたキルヒアイスは、前世のキルヒアイスにはなかった、ある志を目指す。


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第四話 初志

現世でのキルヒアイスが目指す志は、どこを目指すのだろうか。


 宇宙歴790年、帝国歴481年、幼年学校の4年生となったキルヒアイスとラインハルトは、嫌がらせなどほとんど無くなった学校生活を過ごしていた。

 嫌がらせが少なくなったのは上級生が少なくなった事もあるのだが、同級生達は2人が強すぎる事で痛めつける事を諦めた事、そして、キルヒアイスが周りとの繋がりを持とうとしていた動きが、少しずつ果実として目に見え出した事も関係していた。

 

 前世のキルヒアイスとラインハルトは孤高な2人と言ったイメージで、他者を寄せ付けない雰囲気があったのだが、現世での2人の場合はラインハルトの近寄り難い覇気こそ同様だったが、その覇気を覆い隠すかのような人懐っこさを、現世のキルヒアイスが醸し出していたのだった。

 その結果、元々のラインハルトの持つ覇者たる素質が人を引き付ける魅力としてそうさせるのか、もしくは、その二つが上手く融合したからなのかはわからないが、自然と2人の周りにも同級生を中心に人が集まるようになっていた。

 

 キルヒアイスの人懐っこさや人付き合いの上手さの影響から、ラインハルトもこの時期に多少の社交性を身に着けていた。正確には、前世でのユリアンとしての素養としての部分で影響を受けていたのである。その違いを知る者は、前世でのラインハルトを知る者だけなのだが、この世界にはいるはずもない事であった。

 

 人の性格は遺伝的要素が2割程度であり、残りの8割はその人が置かれた環境に左右されるという事は、人類が地球と言う一惑星でしか暮らす事が出来なかったはるか太古から知られていた。

 

 現世におけるキルヒアイスの性格の根幹は、前世でのユリアンの人懐っこさや人付き合いの良さである。

 前世でのユリアンのその性格は遺伝的要素もあったのかもしれないが、彼のおかれた環境によるものが多分に影響していたであろう事は疑いようがない。幼い頃の両親の死、養ってもらっていた祖母の家での母への悪口など、幼少期の彼は孤独であった事は想像に難くない。

 そんな環境に育っていたら、成長と共に、孤独を解消しようと悪事の道に進み居場所を作るか、周囲に愛想を振りまくことで自分の居場所を作るかのどちらかであっただろう。

 彼の生活環境の中において、幼少のころから十代の後半まで彼の周囲には同年代の者がほとんどおらず、ほとんどの時間をヤン・ウェンリーが中心の自分を受け入れてくれる大人達との交流で過ごしてきていたのである。

 そうなると、周りと連んで悪さを働くよりも、周囲に愛想を振りまくことで自分の居場所を作る方が容易である。この流れは誰かの思惑などではなく、自然発生的にできた流れなのだがその結果、彼にとっての居場所がヤン・ウェンリーの側であり、イゼルローン共和政府となったのだ。そして、その居場所での生活が、彼の人生全般における性格の基礎になった事は、至極当然の事であった。

 

 前世のユリアンとは関係のない、キルヒアイスの元々の性格も本来であれば社交的なものである事は、隣家に引っ越して来た、見知らぬ同年代の子どもへ、戸惑いもなく挨拶ができる事でわかる。

 そんな元々のキルヒアイスの性格と前世のユリアンの性格が融合した結果と、現世のキルヒアイスによる仲間づくりと言った思惑が、積極的な他者との交流に繋がっていた。

 

 その現世でのキルヒアイスのかなり社交的な性格が、ラインハルトの性格の形成でも多少の社交性を身につけている事に影響していた。

 

 ラインハルトの元々の性格は、清廉で卑怯とは無縁な性格なのだが、悪く言えば人見知りで他者からの干渉が苦手な、自己中心的な性格であり、良く言えば何事にも囚われず確固たる信念を持って、自らが信じた道をただひたすらに突き進む性格で、覇王たる素質が十分備わっている性格だった。しかし、一方で人としての優しさも併せ持っており、その点は、目の前で倒れたキルヒアイスを助けた点で伺い知る事が出来る。

その点ではラインハルトにとっては、キルヒアイスの伝手があったにせよ、自分を頼って集まって来る者を無碍に拒絶する事が無かったのである。こうなると必然的に他者との交流を図ることとなり、その事が今のラインハルトの性格を形成に寄与するに至ったのである。

 

 その結果、放課後にはどこからともなくラインハルトのところには同級生に限らず人が集まるようになり、他愛もない会話はもちろん、軍務省が発行する官報を読んで一喜一憂するようになったり、時には戦術シミュレーターでお互いに競い合ったりするようになっていたのであった。

 

 そんなラインハルトが中心にいる集団を、どこか羨ましそうに、しかし忌々しそうに見ている同級生がいた。

 灰色の髪を持つ、イザーク・フェルナンド・フォン・トゥルナイゼンだ。

 

 彼は、フォンの名が示すように貴族であったのだが、幼年学校の成績は低くはなく、ある程度の能力は有しているであろう事がわかる。

 ただ、貴族としての素地からか自己顕示欲が高い傾向にあり、寵姫の弟で学年首席であるラインハルトを過剰に意識している事はもちろん、ラインハルトの従士として見られがちなキルヒアイスも、平民ながら成績上位にあったため、勝手に、目下のライバルとして意識していたのであった。

 

 中流以上の貴族にとっては、その家に仕える従士の子どもや学友として募った自領の子どもを、自分の子どもの世話係として幼年学校に一緒に入学させる事がこれまでの慣例となっていた。

 今まで、喧嘩を売って来ていた同級生や上級生達のほとんどが、そう言った貴族子弟とその従士の子ども達といった集団であった。そして、ラインハルトの周りに集まって来るのは、従士を連れてこられない下級貴族であったのだ。

トゥルナイゼンもそれまでの慣例同様、彼の家に使える従士の子どもと一緒に入学しており、従士の子ども4名を自身の取り巻きとした5人の集団を形成していた。

 

 「イザーク様、彼らですが、一度、痛い目に合わせた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

 キルヒアイスとラインハルトをライバル視していることを知っている警護係の従士の一人が、トゥルナイゼンに耳打ちした。

 

 「構わぬ、すておけ。 我らは我らの道を進めばよい。」

 

 トゥルナイゼンは、若年であるが故の『彼らに負けたくない。』と言った、歪んだ貴族の矜持に固執し、従士達と学校を後にするのであった。

 ただ、彼の本心はラインハルトの覇気の強さや、キルヒアイスのラインハルトを補佐する姿に、嫉妬と言う名の羨ましさを持っていたのだ。

 その嫉妬からか、彼は幼年学校を卒業すると2人とは違う道を歩む事になる。

 

 キルヒアイスは、そんなトゥルナイゼンの心境を察していたのか、彼が学校を従士と共に去るのを横目で追いながら、『今じゃなくてもいい、いつか、彼も仲間にしよう。』とラインハルトの傍らで、他の同級生達に囲まれながら思うのであった。

 

 嫌がらせなどが減り時間的な余裕ができたキルヒアイスにとっては、自身の前世での記憶に基づいて、これからの事に思案する時間が増えた事に繋がっていた。

 現世における現時点での情報が、前世の記憶をたどっても極端に少ない事から、有限である時間を、これから起こりうる事を前世で知り得た記憶を呼び起こして考える事に使ったからである。

 

 記憶のほとんどは、『正史ローエングラム王朝 ー獅子帝伝ー』と言う、前世で皇族と高級官僚が中心となり編纂された、ローエングラム王朝における正史を綴った書籍であった。

 前世でのローエングラム王朝はその正史を編纂する際、例え陰惨な事象であったとしても、でき得る限り記述していた。

 前世のユリアンは、その書籍が発刊されるとすぐに購入し、ヤン・ウェンリーの伝記との整合性をとっていたのである。

 

 その正史についての記憶が続く限り、キルヒアイスは考えた。

 

 正史から得られた事の一つに、ラインハルトは純軍事的な能力としては、突出していた事が上げられる。戦術的な能力はもちろんとして、戦略的な面でも同様のことが言えるであろう。

 もう一つは、大局での方針を示す事による政略は別として、その方針を後方にて補完し、安定させるための足場固めとも言える政略的な能力が極めて脆弱であった事である。

 前世におけるローエングラム王朝の成立が、ラインハルトにより極めて短期的に成し得た事や、もしかしたら潜在的にはあった政略的な才能を出す前に、彼の命の火が消えてしまった事も政略的能力の脆弱さに起因していたのかもしれない。

 ラインハルトの行った政略が全く皆無である事はなく、どちらかと言うとフェザーンに遷都してからは積極的に行っていたのだが、政略は軍略と違いその多くが結果を出すまでに数ヶ月から数年単位を必要とする場合が多く、短期的に見れば、その途中経過としての結果は得られるが、政略本来としての結果を得られる事は少ない。

 もちろん、軍略においても時間的に結果を得るまでに長期間を要する事象が無いとは言えないが、それでも政略と比べれば少ないだろう。

 政略における特徴とも言える時間的な要素が、王朝成立当時はラインハルトの政略面での脆弱さを覆い隠す結果となり、王朝が安定してくると逆に目立つ結果となっていたのは、ある種の皮肉としか言いようがない事だった。ただ、ラインハルトとしたら、統一後に取り掛かった内政の結果を見られなかった事は心残りであったのかもしれない。

 

 他方で、政略や軍略としての手段の一つとして謀略がある。戦略的にも有効となる事が多い謀略だが、ラインハルトの行った謀略のほとんどが、パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥の考案したものであった。その点でラインハルトには、元々が清廉な性格であり卑怯な事を嫌う傾向が強かったから謀略を実行するための決断力はあっても、考案する素養は多くないと考えられた。

 ローエングラム王朝の成立に寄与した謀略の中心にいたオーベルシュタインについても、政略的な動きは少なく、彼の思考の流れは、謀略に特化していた可能性が高かったのではないかと考えられた。もちろん、彼は軍人であったので、政略的思考を過度に期待するのは酷な事かもしれないが、実際に彼についての正史での記述は、彼自身の死に関する記述も含めて、謀略面でラインハルトを補佐していた事柄が圧倒的に多かったからあったのである。

 

 獅子帝伝の中でも政略面について主だった記述があったのは、ラインハルトの妃であるヒデガルド・フォン・ローエングラムと、伯爵でありその父であるフランツ・フォン・マリーンドルフであった。

 

 圧倒的に内政を取り仕切る官僚が足りないローエングラム王朝は、極端に軍に偏った王朝初期があったのだ。

 もちろん、各省庁内部に限れば優秀な人物はいたのだが、内政を統括してバランスを取りながら国政を舵取りし、取り仕切れるトップたる人材が少なかったのだ。

 ローエングラム王朝初期は、そのような状況であったのだが、少なくともユリアンが大往生を遂げるまで85年間は続いていたのだ。その点では、王朝初期におけるマリーンドルフ伯とその娘の執政官としての手腕は、特筆するべきものであったのであろう。

 そうかと言って前世の記憶を持つキルヒアイスが、あえて現世でその轍を踏む事は無い。ましてや現世での彼の父は下級とは言え官吏である。また、前世でもフレデリカ・グリーンヒル・ヤンという政治家が近くにいた。彼は、ラインハルトの周囲にいる誰よりも、また、今後、ラインハルトの周りに集まってくる可能性がある誰よりも、内政面における政略家としては一日の長があった。

 

 前世でのローエングラム王朝の事や自分ができる事を考えながらキルヒアイスは、『私のやる事は、ラインハルト様を政略面で補佐する事だ。ただ、その時期はまだ先だな。となると、今、やっていることを続け、今のうちから政略のための種は撒いておこう。』と自らの心に誓ったのだった。

 

 キルヒアイスが志を遂行するために日々を送っていたある日、いつものように集まった同級生達と戦術シミュレーターで腕試しを終えた帰りに、ラインハルトは幼年学校と寮の間にあるルドルフ大帝の銅像の前で立ち止まった。

 いつものように敬礼を捧げていたのだが、いつもは敬礼を解くとすぐに帰るところだが、今日は、敬礼を解いた後、話す内容をルドルフ大帝の眼に埋め込まれたカメラに唇の動きを読まれないように俯くと、キルヒアイスに問いかけた。

 

 「キルヒアイス……。 ゴールデンバウム王朝は、人類開闢の時からあったわけでは無い。 であれば、ルドルフに可能であった事が俺にも可能だと思うか?」

 

 キルヒアイスも、一目ラインハルトを見た後、ラインハルトと同じように俯いて返事をした。

 

 「もちろんです。 宇宙を…… 宇宙を手にお入れください!」

 

 「キルヒアイス、お前も一緒に来てくれるだろう? 一緒に宇宙を手に入れよう! そして、姉上を取り戻そう!」

 

 「ハイ!」

 

 返事をしたキルヒアイスは、先日、心に誓った事を伝えようと一呼吸置いた。

 

 「…… ラインハルト様、私は、貴方のお側で、そして後ろで、貴方が安心して前を向いて進めるように、非才の身ながら、全力で共に歩ませて頂きます!」

 

 想いを伝えるようにキルヒアイスは言葉を切りながら言った。

 全てを伝えたわけでは無いが、ラインハルトには十分に想いは伝わったのだろう、満足そうに2度、3度と頷いていた。

 それだけ2人の絆は深く、お互いの事を理解しているのだった。

 

 それから2人はおもむろに顔を上げると、幼子が星空に浮かぶ星を掴むように、それぞれが片手を高々と上げ、ラインハルトは宇宙を、キルヒアイスはその宇宙の安寧を、それぞれの掌の中に収めるかのように空に浮かぶ星を掴もうと拳を握った。

 

 

 

 

 

 そして翌年、宇宙歴791年、帝国歴482年、キルヒアイスとラインハルトは様々な波乱を、実力をもって排除しつつ、平穏とは言い難い帝国幼年学校における全過程を終了した。

歴史的な大きな乖離が無い事はもちろん、ラインハルトは首席のまま卒業の日を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初志、了




次回、静穏

卒業を控えたキルヒアイスとラインハルトは、命を削る戦場に赴く前にやらなければならない事があった。
彼らにとってそれは、ひと時の心の安らぎであった。


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