瓦解のテンシ、アクマの鮮血 (福宮タツヒサ)
しおりを挟む

プロローグ


どうも皆さん、福宮タツヒサと申します。
サイコホラーに感銘を受ける日々、勢いに任せて書いてみました。
後悔はしてない………ハズ。

では本編どうぞ。


俺は元男だった……。

何故か知らないが、突然目の前に“神”と名乗る爺が現れたのだ。この“自称神”は「お前はわしの手違いで死んでしまった。お詫びに、お主には転生させてもらうぞ」と言った。俺はこの‘自称神’の所為で死んだらしい。

転生——2次創作によくあるテンプレだ。転生先は決まってるらしい。『インフィニット・ストラトス』の世界、俺がよく読んでたラノベだ。

因みに、俺と似たような境遇で先に転生した人達もいるらしい。殆どは身体強化、イケメンの容姿、他作品の技を“特典”として貰って転生したらしい。まったく自分勝手で呆れるよ……。

訳も分からず、俺は唖然とした。

俺は神から貰う特権を“自称神”に任せて転生を果たす。

…………女として。

 

大抵の奴らなら「ハーレムを作るぜ!」と馬鹿みたいに張り切るだろうけど、俺はそんな所じゃない。

この世界、つまり人生2度目の生活環境は最悪だった。

窃盗や殺人が頻繁、取り締まりが一切無い治安の悪い地方。

母親は、5歳の頃から実の娘(俺)を出稼ぎさせて、自分は夜遊びばかりする寄生虫。父親は人妻だろうと童女だろうと、手を出してすぐ捨てる変態。ハッキリ言って……俺の両親はクズ人間だ。

俺は子供の頃から母親に暴力を振るわれ、父親に卑猥な手つきで触れられた。未だに処女を誰にも奪われてないのは奇跡に近い。

そして何より、誰も俺を助けようとしなかった。巻き込まれたくなかったばかりに。

2度目の人生を楽しみ筈が……俺は何度もひもじい思いをして、辛い目に遭った。

何をどう間違えたんだろう?

前世での行いが悪かったのだろうか?

それとも転生の際、自分で選ばなかった罰なのか?

死ぬ度胸とかは無いけど、早く死にたいと願った……。

 

あの日までは………。

 

『———大丈夫?』

 

男の子の声が響いた。聞きなれない声、観光で訪れたのだろうか?

心配そうに、俺の顔を覗き込んだ男の子は、原作主人公である「織斑一夏」———のはずだった。

そこにいたのは……可愛いらしい両瞳に、男とは思えない華奢な体格———文字通り【天使】だった。

彼は片手に持ってたパンを俺に与えて、誰かに呼ばれて走り去った。帰る際、俺に「頑張ってね」と微笑みを残して……。

 

もう1度言おう———俺は元男だった……。

 

 

 

……でもそんなことは、もうどうでも良い。

俺は世界に拒まれていた。神に嫌われていた……。

でも生きてる価値があった。

俺だけの【天使】に巡り会えた。

どうせ真面目に生きても報われないなら、俺、いや———()は欲望のまま手に入れてやる。

彼を、ワタシだけの【天使】を……ッ!

……でも、邪魔者(原作ヒロイン)がいる……ッ!

幸いなことに、私は原作キャラを熟知している。また、ありとあらゆるキャラ改変の可能性も視野に入れている。殆どが暴力ヒロインやチョロインだし、フラグを折るのも簡単でしょうけど。

厄介なのは、私と同じように転生を果たした転生者……。

アホ丸出しの思想を掲げて、強そうな特典を得ているだろうね。中には“原作主義”を掲げて、文字通り原作を破壊しないように心掛ける奴らもいるかもしれない。もしかしたら、本物の善人がいるかもしれない。

………でもそんなのどうでも良いッ!

自分達の都合で、私と一夏の仲を裂こうとするなら、私から一夏を奪おうとするなら。

誰だろうと コ ロ シ テ ヤ ル ……ッ!

まず一夏に会うため、私は行動を開始する。

と、その前に……クズ共が邪魔だなぁ〜。

 

手始めに私の父親———変態を人気のない場所へ呼び出す。耳元で「2人っきりになりたいの……」と、自分でも吐き気がする色目を使って。

案の定、変態はいとも容易く引っかかってくれた。

私が指定した場所、暗がりの倉庫。

変態と私、2人だけと知った途端、変態は欲情に駆られて私に迫った。14歳の誕生日を迎えた、私の発育した体に欲情し、地面へ押し倒す。

…………私の左手に握られたナイフに気づかず。

変態は強引にキスをし、口の中に舌をねじ込ませる。

何年も掃除していない肥溜めみたいな悪臭を我慢し、背後からナイフを変態の頸へ振り下ろす。

グチャリ、と嫌な感触と共に鮮血が噴水のように噴き出した。変態は何が起きたのか分からない表情を浮かべた。眼を見開いてグルングルン回ってるし。

すかさず、強引に入り込んだ変態の舌を噛みちぎる。

変態は立ち上がりながら口から大量の鮮血を撒き散らし、言葉になってない奇声を上げた。舌って噛んだら絶命するんじゃなかったけ? まぁ良いや。

手が返り血で真っ赤、口の中が変態の血だらけでしょっぱい。あ〜、もう。早く終わらせたい。

変態の踵を切って立たせなくし、胸元にナイフを差し込む。もちろん、肋骨に引っかかって臓器まで届かないのを避けるため、刃を横に倒してだ。何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

その度に変態の体はビクンと跳ね上がって抵抗しようとしたが、20回くらい刺した頃、ピクリとも動かなくなった……。

初めてのキスだったのに……。

こんな変態にじゃなく、私の最愛な一夏にあげたかった。まぁ良いよね?

これくらいで裏切る、私の一夏じゃないもん♡

 

次は母親———寄生虫の番……。

変態の死骸を地中深く埋めた後、私は寄生虫を呼びつけた。「大金が手に入れる美味しい話がある」と怪しさ満載の挑発を囁いて。

ある倉庫、変態を殺した倉庫にて。

寄生虫は厚化粧のまま来た。殺しちゃったけど、自分の夫、変態のことは気にならないのかな? まぁ見る限り、そこまで愛情はなさそうだったけど。

それにしても、ドン引きするぐらい濃い化粧。まぁ、死ぬ時くらい、本人の好きな格好にさせてあげよう。我ながら優しいなぁ〜。そう思うでしょ? 一夏♪

金の話は嘘だと言ったら、寄生虫は表情を歪め、距離を詰めて私の胸ぐらを掴んだ。

……………私は懐に忍ばせていたスタンガンを当てる。バチバチッと響き、寄生虫はバタリと倒れる。

変態と同様、自分の身に何が起こったのか分からないと言う表情。流石夫婦、行動パターンが一緒だ。

私は倉庫の隅にあった鉄骨を握り締める。

すると寄生虫は血相を変えて謝ってきた。金は必ず返す、2度と逆らわない、だから助けて、と羽虫のように喧しい。いや、羽虫の方がマシだ。

涙や鼻水など、大量の体液が化粧を落とし、寄生虫はある種のモンスターに豹変している。

早く終わらせよっと。

何か騒いでる寄生虫を無視して、鉄骨を振り下ろす。

グチャリ、と鉄骨は寄生虫の顔面にめり込み、返り血が宙を舞う。1回程度で死ぬ訳がないので、何度も何度も叩きつける………。

寄生虫の息の根が止まった頃、顔面の皮膚が剥がれ落ち、骨格まで砕けてしまい、顔の原型を留めていない。最早誰ったのかすら分からない。頭蓋骨も割れてしまったらしく、脳髄の一部がはみ出ていた……気持ち悪い。

寄生虫の死骸、肉片の1つも残さず、人気のない地面に埋める。その隣には変態の死骸も埋めてあるから、仲良くあの世へ逝けるだろう……。

もちろん、あの世なんてものがあったらね。

 

治安の悪い地方の良い点———悪いことをしても有耶無耶にできる……。面倒な警察や保安局もいないので、殺人も隠蔽できる。

クズ共が消えた今、私を縛り付ける者は誰もいない。私は自由になった。

ようやく………一夏に会える……ッ!

 

待っててね一夏、私だけの【天使】。

貴方は………ワタシ ダケ ノ モノ ダカラ♡

 




え〜と……如何でしょうか?

文才がゼロなので、誤字や脱字報告をしてくれたらありがたいです。

では、感想なども待ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ 2

あれからどうしただと?

晴れて自由の身になった私は各国へ渡り歩いた。

金銭についての問題なら心配無用。幼少の頃から金の管理に慣れていたので困ることはなかった。仮に金が無くなったとしても、そこら辺の人間に冤罪を掛けて脅せば良いだけだ。

そんな生活を続けて私は15歳になろうとした。

 

さて、私の目的を教えようか。

どうしてそんなにまでして、世界を渡り歩き回ったかって?

それは———。

 

 

 

「———喜ぶが良い女。我のものにしてやる。側に置いて可愛がってやるぞ、フハハハハハハ!」

 

目の前で喚いているキザ男……。こんな輩を片付けるため。

……もう色々、不愉快極まりない。

何を隠そう、このキザ男も私と同じ転生者。女を自分の性処理道具としか考えてない、知能を下半身に任せてるクズ男。

それにしても金髪に赤の瞳、それに自称が“我”って……完全に他作品の英雄王だよね? 自分勝手で横暴な困った大人の容姿だよね、これ? とすると、こいつは『王の財宝』とか使えるのかな? ……まぁどうでも良いか。

 

「気持ち悪……生憎、私は元男だ」

 

「何だとっ!? この我を騙したのか、貴様ぁッ!!」

 

いやいや、騙したも何もそっちが勝手にナンパして来ただけでしょ?

つーか普通の容姿じゃなく、わざわざ痛々しい英雄王になりきるとかマジ無いわ。アニメにめり込みすぎて如何に本人が現実を直視していないかが伝わってくるもん」

「何だとっ!? ……さては貴様、転生者か!?」

 

あ、しまった。あまりの気持ち悪さに口が滑ってしまった……。

私を転生者と勘づいたキザ男は全身鎧を纏った。

うわ〜、いつ見てもあれは無いわ。厨二臭さがプンプンする。見ててこっちが痛くなる格好だわ、あれ。

何も無い空間から刃が検出した。標的は私。

 

「ふん! 素直に我の女になれば可愛がってやったものの———主人公よりも先に、貴様を殺してくれようッ!!」

 

……は? 何を言ったのかな、あのキザ男?

 

その瞬間———無数の刃は消失した。

と同時に、キザ男の纏った鎧が粒子となって消え去る。

それだけでなく、キザ男の全身が光に包まれた。

光が止んだかと思ったら、そこにいたのは黒髪の日系人、頭の天辺が禿げた小太りの体型の男。スレンダーとは大分かけ離れた、贅肉だらけのブタだった。あ、今のは本物の豚さんに失礼だね。豚さんは加工されて食料として皆の役に立つのに、目の前にいるデブは何の有効利用も無いもん。

 

「なっ!? どう言うことだよっ!? どうして以前の俺の姿に戻るんだよっ!!?」

 

男はパニックを起こしていた。まぁ当然と言えば当然かな。

これは初めて人を殺した時に気づいたけど、どうやら私が“自称神”から貰った“特典”と言うのは———“()()()()”だ。相手の身体能力や本来備わっている才能、他にも転生者の“特典”を奪って自分の物にできること。でもまさか容姿まで否定できるなんてね。

 

「お、おい! 今すぐ俺を元の姿に戻せよっ!! 何をしたのか知らないけど———」

 

「ねぇ、自分の置かれた状況を理解してるの?」

 

自分でも凍えると認識できるような声色で殺意を放った。

途端にデブは勢いを失って顔を蒼白く染めていた。ヒザもガクガク震わせている。まったく面白い反応をしてくれる。人を殺すことはできても、人から殺される覚悟なんて無いんだろう。

 

「自分が殺そうとした相手に不当な要求が通るとでも思ったの? そんなことも分からないなんて、脳味噌じゃなく贅肉にしか栄養が通らなかったみたいね」

 

「な、何だと———」

 

「後、私は返すつもりないから。そもそも方法も知らない……それに、ここで殺すから」

 

そう言って掌を頭上へ上げた。

少し念じるだけで、周囲の空間から無数の刃が現れた。長剣や短剣などの多種類で、デブよりも多く鋭い。

狙いはもちろん———デブ。

 

「……遺言はある?」

 

「まっ……待ってくれ———いや、待って下さい!! その能力も差し上げます! もう2度と貴方様の前に現れないと約束します! 原作に関わろうともしません! だから、生命だけはっ!!」

 

「……言いたいことはそれだけ?」

 

「えっ?」

 

「この際言ってあげるけど……私は原作が崩壊しようが主要キャラの誰かが死のうが構わないの。一切、微塵も興味ないの……」

 

そう、この世で唯一の【天使】……私の一夏を手に入れれば、この世界に未練なんて無いの♪

 

「私は一夏と一緒になりたいだけなの……と言うわけで、一夏を殺そうとしたお前には死んでもらうわね。まぁ私の存在を知った以上、どの道生かしておかないけどね」

 

「そ、そんなっ……待っ———」

 

「さようなら♪」

 

掌をデブに向けて念じると、無数の剣が目にも留まらぬ速度で突っ走る。

 

「ガァァァァァァァァァッッッ!!?!?」

 

グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ——!!!!

次々と排出された剣はデブを串刺しにし、血肉と骨が斬り裂かれる騒音が周囲に響き渡る。

煙が晴れ、血だらけの達磨ハリネズミになったデブの姿が見えた。両腕両足が斬り裂かれてバラバラ、原型を留めていない。腹部にも無数の剣が突き刺さって血塗れの腸が溢れている。頭部に至っては、眼球や鼻とか顔のパーツが消滅していた。最早これが人間なのかすら分からない。

それにしても……これで3人目かな?

最初に遭遇した転生者の男は『魔眼』を与えられた騎士団を率いた黒騎士姿の転生者。次に遭遇したのは時を停められる能力を持ったメイド姿の転生者。

最初の男から能力を奪ったらデブと同様、禿げたニートに豹変した。大方自分の好きなアニメで得た“特典”で自分のハーレムを築こうとしたんだろう。殺した後の処理は面倒だったけどね。

メイドの女は“特典”を奪っただけ、容姿はそのままにしておいた。その代わり、あっち系の薬を服用している頭のヤバそうな男達に売り渡したけどね。容姿だけは美貌が整ってるからなぁ〜、今頃コスプレメイドは男達の肉奴隷と化しているんだろう。もしくはバラバラにされて売り払われているとか。

 

 

 

「ねえ貴女…」

 

背後から声が響いた。振り向くと金髪の妙齢の女性がこちらに視線を向けていた。

原作キャラの1人にして『亡国企業(ファントム・タスク)』の幹部1人、スコール・ミューゼル。何年か前に死亡した筈らしく、義手をつけたサイボーグ。そして口調の荒いアラクネ女の同性恋人を持つ女、その人だ。

 

「中々面白い力を持っているのね。それはISなのかしら?」

 

「……」

 

「ふふ。そんな顰めっ面していたら折角の可愛い顔が台無しよ?」

 

含みのある笑みを見せて尋ねてくるが、私は口を閉ざしたまま。さっきのデブみたいに殺気を放ってくれれば、どんなに楽か。

私の“能力強奪”。聞こえは最強のチートな能力だが、()()()()()()忿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まったく面倒な能力よ。

 

「まぁ良いわ。私達と一緒に来ないかしら?」

 

どうやら向こうに殺す意思はないようだ。こっちも殺されるつもりはないけどね。逆に殺してあげるし。

それにしても、スカウトね……。

これを利用しない手は無いわね。原作ラスボスの立ち位置である天災ウサギに目をつけられたら厄介極まりない。たった1人の天災を相手に手も足も出せない弱小組織でも、後ろ盾があったほうが何かと都合が良い。

 

「……良いわよ」

 

「あら、やっと口を開いてくれたわね♪ 可愛いわよ——」

 

「黙って聞け……。

条件があるわ。私個人のプライベートには一切関与しないこと。それから私が何処の学園でも生活を送れるように、ニセの戸籍を用意すること。これらの条件を承諾できるなら貴女達の組織に加入してやる。非道なことはもちろん、貴女達の指定した人物も抹殺してあげる。貴女達の邪魔者も含めて、ね。 ——()()()()()()()()()

 

「随分勝手な注文ね……。分かったわ、本部に掛け合ってみる」

 

勝手な注文だと?

こっちはスカウトされた身なのだ。しかも無理強いさせるつもりは毛頭ない。これくらいの我儘も許されないなら、いつでも組織を壊滅させてから脱退してやるさ。

 

「絶対よ。これらの条件にそぐわない対応だったら、お前達の組織ごとまとめて潰す……」

 

「あらあら、怖い怖い♪ ……そう言えば聞いてないわね。貴女の名は?」

 

“怖い”なんて嘘つけ、この年増女が……と内心毒吐きながら「名前か……」と顎に手をつける。

前世、男だった頃の名前は覚えてないし、クズから貰った名前は要らないや。大体あいつらは私のことを「お前」とか「あんた」とか、まともに呼ばなかったし。

そうだなぁ………決めた。

 

「ディアナ……私の名はディアナ・リェータス」

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

『亡国企業』に所属してから月日が流れた。

この頃から頭痛の日々だった。天災ウサギが開発したIS《インフィニット・ストラトス》が一般企業でも開発されるようになった時期だったらしく、私の所属する企業でも取り入れたらしい。

思えば最初の頃……同期の奴らから煙たがられたものだ。

立場を追われた者や金が底を尽きた者の中、私だけ条件付きのスカウトで加入したからである。特にアラクネ女は私をスカウトした人物がスコール・ミューゼルであることが気に入らないらしく、目線が合う度に喧嘩をふっかけてくる。最も私は全然気にしないが。

もしも実力行使で仕掛けてきたら返り討ちにすれば良いだけのこと。貢ぎ品と称して痺れ薬を飲ませ、身動き取れないところで一方的に殴る、蹴る、歯を2、3個引っこ抜く……etc。同性でも気分悪くなるくらい。

 

さて、昔話もここまでにしよう……。

 

 

 

「弱いわね……」

 

「だ、黙れっ!」

 

今、私の眼前にはIS『ラファール』を纏った女がボロボロの姿で倒れていた。原作キャラである織斑(おりむら)千冬(ちふゆ)を、学生時代まで巻き戻した私と同い年な風貌の女、エムこと織斑マドカ。

ミッション遂行のためなら他人でも同僚でも平然と殺害できる冷酷な性格。自身の持つハイスペックな能力故に他人を常に見下す傾向がある。

うん……。この娘が冷酷なら私は何だろうね? サイコパス?

さて、どうしてこの様な状況かと言うと……。

このエムは仕事の実績はトップクラスで、幹部の何人かが一目置いてる。しかし前述で言った通りの性格なので命令違反を犯すことが多く、手を焼かせるじゃじゃ馬だと。

そんな中、私も同じくらい実績を残した。それに加えて命令違反など組織が困るようなことは特にしなかったのでエムよりも評価が高い。組織に従順で助かると何人かが褒めていたが、私個人は早々揉め事を起こしたくなかっただけだ。

プライド高いエムちゃんはそんな私に目をつけて「私と闘え」とほざいた。貴方はどこのチョロコットさんですか?

相手を刺激させないように丁寧に断ったのに、彼女は懐からナイフを取り出して私に襲いかかった。難なく躱したが扱いにメンドくさくなり、決闘を承諾した。彼女の得意なIS戦で。

 

「何故なんだ……IS戦を得意とする私が、何故貴様のような素人に……っ?」

 

勝敗の理由は簡単……マドカの能力を奪っただけだ。身体能力やIS適性など。その所作で彼女のIS適性は一気にDまで下がり、運動音痴な女子ぐらいまで低下して、一般の中年男性でも捕縛できるほど弱くなってしまった。

因みに私の適性はBでそこそこ。しかしマドカから貰った能力で値上げし、今は適正Sだ。

素人以前に、圧倒的な能力の差に、彼女は私に勝てる筈もなかった。

 

「エムさん……だっけ? あなたに何があったか知らないけど、一々私に突っかからないでくれるかしら?」

 

「お、お前を……ッ!」

 

あーあー、まったく人の話を聞いてないや。

彼女ったらシールドがゼロになってISが解除されたのにも関わらず殺気を放ってくるもん。どこにそんな気力があるのか。

また奇襲をかけられても困るなぁ……。仕方ない、少し予定が早いけど、実行に移そう。

ISを解除して彼女に近づくと、彼女の胸元を弄って取り出す。

 

「っ!? そ、それを返せ! それが無いと、私は——」

 

「え〜? どうしてこれが必要なのかしら? とっくに縁を切られた関係なのに」

 

私の手の中には、織斑千冬の写真が埋め込まれたペンダント。彼女にとって唯一の繋がり。

血相を変えて彼女は取り戻そうと、百足みたいに地面を這いずり回る。

だが私は口の端を上げ、三日月みたいな笑みを見せた。

 

「ねぇ、どんな気分かしら? 格下の相手に手も足も出なくて………ねぇ?」

 

少し手の圧力を加えただけで、バキャッとペンダントが粉々に砕け散った。

 

「あっ……あぁ……ッ!!?」

 

エムはこの世の終わりのような表情を浮かべ、粉々になったペンダントの欠片を集めようと必死に手を伸ばす。

その前に私はペンダントの残骸から1つの写真を取り出す。言うまでもなく、織斑千冬が映った写真だ。

その写真を摘み、エムの眼前でビリビルに破る動作をした。

エムは止めてくれと、必死に懇願する目を見せてくる。

 

「貴方は力が無ければ何もできない、組織のお荷物。いたことにすら気づかれないんだよ?」

 

「や、止めろ……っ! それ以上は……」

 

「力が無くなった今……貴方は誰からも愛されない、必要とされないの……。

 

 

 

そうでしょ? 織斑千冬の贋作」

 

ビリビリィ———と写真は無惨に散った。修復不可能なほど。

その瞬間、織斑マドカの精神は完全に崩壊した。

この世に絶望しきった瞳を浮かべ、立ち上がろうともしなかった。

 

「……わた、しを……殺、して……」

 

掠れるような声で私に懇願した。

現実を言い当てられ、格下と思い込んでた者に力で屈せられ、自分の力も奪われて自暴自棄になってるんだろう。どの道、実力主義の組織に加入した時点で、役立たずを生かすことなんてないだろうけど。

良識ある人なら素直に手を下す。もしくは「生きろ」と声を激昂をかける。そう、良識ある人はね……。

 

「……巫山戯るな」

 

「うぐっ!!」

 

エムの腹部に溝打ちをかます。

 

「何の理由も無く生まれて死ぬだと? 1度“生”を受けた身なら1つでも私のために有効利用されろ、エム」

 

「私、が……?」

 

オロオロこちらを見つめるエム。

するとエムの体が発行した。自分の体を見て「私の力が、戻った……っ!?」と驚いていた。

どうやら私の“特典”は、私が任意した相手にのみ能力を返上できるようだ。

 

「……貴女様は……」

 

エムは私をうっとりと見上げていた。それは神を妄信する信徒の如く。

計画が順調過ぎて、私は笑みを抑えるのに精一杯だ。気を抜けば、今にも【悪魔】のような笑みを浮かべてしまうからだ。

 

「もうどうでも良い生命なら、私が有意義な存在にしてあげる………私の役に立ってから死ね、エム。いや、マドカ」

 

「……はい、ディアナ様……」

 

狂気と幸福を孕んだ瞳で彼女は私を見つめる。もう彼女は私に逆らうという選択をしない。永遠に私の言葉を信じるだろう。

たとえ……()()()()()()()()()()

これで駒が1つ手に入った。誤算だったけど、どう利用しようかな〜?

うふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪

 

 

 

——その日、【悪魔】は微笑んだ。それと同時に、世界崩壊へのカウントダウンが近づいた——

 

 

 

 

 

???side

 

“織斑家の出来損ない”——それが僕の貼られたレッテルだ。

 

そう呼ばれる原因は僕の身内だ。

まず僕には姉と双子の兄がいる。姉は第1回モンドグロッソの優勝者にして世界最強“ブリュンヒルデ”の称号を持つ。兄は勉強やスポーツ問わず、何でも1番の成績を残せる万能の天才児。誰もが彼らを“神童”と謳った。

……それに対して、僕は2人に比べて“非才”だった。必死に頑張って上位の成績を取っても、いつも兄と比べられて周囲の人から認められることがなかった。

姉の友人である篠ノ之(しののの)(たばね)さんは僕に興味無さそうな冷淡な態度。その妹である篠ノ之(しののの)(ほうき)に至っては「信念が足りん!」と言って、嫌がる僕に剣道を無理矢理させて、いつも兄と2人掛かりで僕を傷だらけにする。

僕の姉———千冬姉さんは身体中に絆創膏を貼られた僕の姿を見て、いつも心配してくれた。けど僕は夜遅くまで出稼ぎに行ってる千冬姉さんの事情を知っていたので何も言えなかった。

 

そして……篠ノ之束さんがIS《インフィニット・ストラトス》を開発してから周囲の環境が激変した。

この極めて強力な兵器が開発されてから『女尊男卑』という風潮が生み出された。

そんな中、優秀な姉と兄を持った“非才”の僕はどうなるか。

 

『あんたって本当にクズね〜。こんなのと兄弟なんて千冬さまが可哀想だわ!』

 

『生きてるだけで罪なのよ! 織斑家の出来損ない!!』

 

千冬姉さんを崇拝する女子から罵倒を浴びせられ、暴力を受けた。

それだけでなく……。

 

『お前の姉の所為で俺達の立場が危ないじゃねーか!! どーしてくれるんだよ!?』

 

『死んで責任取りやがれ!!』

 

男が冷遇される世界、その元凶とも言える兵器の操縦者の姉という理由で、男子からも虐められる。1歩間違えれば死ぬかもしれない内容だ。

いつしか学校全体で僕を虐めるようになる。しかも先生も見て見ぬ振り。

兄の方は“神童”と謳われるほど優秀なので、迂闊に手が出せない。だから男子の怒りは全部僕の方に集まった。

そうして僕の評価は下がり、兄の評価は上がるだけ。

 

いつだってそうだ。

何か行為をしても、全部兄の方に評価が回るだけだ。

中国から転校してきたって理由で虐められた鳳鈴音(ファン・リンイン)と言う同級生も……僕が助けたのに、容姿が似てるから兄と間違えて兄にばっかり構ってしまった。兄は僕に対して辛辣な態度。必然的に鳳鈴音の僕への評価は低くなる。

 

そのストレスが溜まった所作なのか……()()()()()()()()()()()()()()

思春期を迎えても声変わりすることなく、小学生と間違われそうな幼い外見が残ったまま中学生を卒業してしまった。

 

そして15の春———。

 

初の男性IS操縦者が現れた……。僕の兄だ。

兄が動かせるという理由で、強制的に僕もISの検査を受けるハメになった。

すると僕も動かせてしまい、2人目の男性操縦者としてIS学園に入学することになった。

 

 

 

明日から、僕は兄と共にIS学園に入学することになる。

少しでも自立できるように、就職率の高い藍越学園に入学するため、必死に勉強してきたのに………すべてが水の泡になった。

 

いつもそうだ。

僕の意思は無視され、いつも誰かに流されるだけ……。

 

 

 

いつも……いつも……いつもそうだ………ッ!

 

 

 

「……ヒグッ……誰か、僕を認めてよぉ……っ!」

 

 

 

——その夜も人知れず、世界の被害者である【天使】———織斑一夏は涙を流す。温もりが欲しくて——

 

 

 

——故に【悪魔】は怒りを撒き散らす。世界は滅びへと向かう——

 

 

 

——自身を守ることしかできない愚者は、自分の世界を守ることしかできない——

 

 

 

——故に愚者達は気づかない。自分達の世界が壊れることを——



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 再会


久しぶりの投稿ですが、いつの間にかお気に入り数が増えて驚きました……。
評価も頂いちゃって、本当にありがとうございます。
プロローグを終えて、本文が始まります。


一夏side

 

「(はぁ……)」

 

とうとう来てしまった。

見渡す限り、女性女性女性……男が見当たらない。

実際は前の方に一人の男がいるけど、あいつと一緒なら苦痛以外の何物でもない。

何を隠そう、もう一人の男こそ……僕の苦手な兄だ。

 

「皆さん、このクラスの副担任になる山田麻耶です。よろしくお願いします」

 

ふと声の方へ視線を向けたら副担任が挨拶していた。

だが、シーンと反応がない。

理由は簡単……世にも珍しい男性操縦者が二人もいるから、女子達はそれに注目しているんだ。

後……副担任の先生の容姿が中学生みたいで、背伸びをした大人にしか見えないからだ。

 

「……え、えっとぉ……で、では名簿順に自己紹介していきましょう」

 

あ、気を取り直した。僕よりメンタルが強い人だな〜。

……なーんて思ってたら兄が前に出て来た。

 

「えー……えっと、織斑秋十(あきと)です。よろしくお願いします……以上です!」

 

女子全員が兄の方に注目する。

すっぱりとした紹介をして、半分の女子が漫才よろしくずっこける。

見た目は爽やかに見えるけど……内心では卑劣なことを考えてるに違いない。

憶測とかじゃない、確信だ。何年も虐められた僕には分かる。表面は好青年を演じているが、裏ではいつも他者を見下している。何人もの女の子が、あの表情に騙されたことか……。

すると兄は出席簿のようなものに叩かれていた。

あれ……千冬姉さん?

 

「貴様はまともに自己紹介もできんのか?」

「げぇ!? 千冬姉!?」

「ここでは織斑先生だ」

 

二度目の出席簿アタック。叩かれた箇所から煙が出て、とても痛そうだ。

 

「諸君。私が織斑千冬だ。君達生徒を一人前にすることが仕事だ。多少は逆らっても構わんが、ふざけた理由だったら容赦はせんぞ」

 

黒のカジュアルスーツに身を包んだ女性———千冬姉さんの挨拶に、クラス中のボルテージが上昇した。

 

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

「千冬様! 本物の千冬様よ!」

 

「私、ずっとお姉様に憧れて入学しました! 北九州から!」

 

「お姉様のためなら死ねます!」

 

凄まじい熱狂的声援と言うか、この様子に千冬姉さんは頭を抑えている。

 

「はぁー、まったく……まぁ良い。諸君らも知ってると思うが、このクラスには男性操縦者がいる。が、一個人の生徒として接しろ、良いな?」

 

その言葉でクラスの女子達は口を閉ざした。

流石千冬姉さんと言うか、ブリュンヒルデの称号があると言うか……教師としての威厳が感じられる。

一方、千冬姉さんの隣にいる兄の方を見ると、何か驚愕の表情になって千冬姉さんの方を見ていた。まるで、自分の思い通りに行かなかったような顔をして……。

と、兄と視線が合うと睨まれた。まるで汚物を見ているかのように、見下した目を向けてくる。

すぐに目線を逸らして周囲を見渡すと………あいつもいた。腹黒兄の取り巻きの一人、篠ノ之箒。

やっぱりだ……僕はまた、虐められるんだ。今度はクラスの大半が女子。しかも千冬姉さんを敬愛する人ばかり。

そんな中、“非才”の僕がいたら……また僕は……。

 

 

 

「それとだが、諸君ら以外にも編入生がいる。

ISの経験値が浅いにも関わらず、本気で掛かった元代表候補生の職員と相打ちに追い込んだ、既に専用機を与えられた者だ。気を引き締めるように。

———では、入って来い」

 

 

 

 

「———失礼します」

 

千冬姉さんが命じると、扉を開けて誰かが入ってきた。

腰まで届く茶色の長い髪にスラリとしたプロポーション。そして、鮮血を連想させる真紅の瞳の女性だった。

その人を一言で表すなら———“魔女”。

妖美な美しさも兼ね備えて、僕だけじゃなく女子の誰もが彼女の美貌に見惚れていた。

 

「ディアナ・リェータスです。親しい人からはディアナと呼ばれています。専用機を貰った期待のルーキーなどと呼ばれていますが、気にせず語りかけてくださいね」

 

その女性は微笑む。誰もが魅了される笑みを散らして。

このクラスに、先ほどの千冬姉さんのような騒音は響かなかった……。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

HRが終わり、休み時間。

廊下には既に何人かの女子達が謙遜し合って、バリケードを形成している。

でも皆、僕が織斑家の“非才”だと知ったら袋叩きするに違いない。

そう考えると何だか、視界に映っている全てが鬱に見える。

はぁ……。

 

 

 

「———織斑一夏君」

 

「は、はい……! って、あなたは———リェータスさん?」

 

「“ディアナ”で良いよ、一夏くん♪」

 

男女問わず見惚れるような笑みで、そこに噂の同級生、ディアナ・リェータスさんがいた。

 

 

 

ディアナside

 

待ちに待った入学式(原作介入)。スコールやエムを使って上層部を脅した甲斐があったわ。だって、漸く一夏に会えたんだもん♪

あの時、絶望の淵から私を救ってくれた頃の容姿のまま。可愛い可愛い一夏。私だけの【天使】、これから毎日、一緒にいられるんだ。

 

「あ、あの……僕に何か?」

 

私を見て小動物のように怯える一夏。

うんうん、可愛いね♪ ……でも、もう少し信用して欲しいなぁ〜。

でも、あんまりアピールが激しいと逆にドン引きしちゃうかな?

 

「ううん。特に用とかは無いよ。ただ……一目見て、君と話しがしたかっただけ♪

あ、そうだ。“一夏”って呼び捨てにしても良いかな?」

 

「え? あ……は、はい……」

 

あぁ……今、私は幸せの絶頂よ。

一夏の発して天使の歌声が私の耳を燻り、一夏の吐いた息が私の下腹部を熱くしてくれる……ッ!

一夏と一緒にいられる空間が、私の楽園なのね……!

 

 

 

「こんな所にいたのか、出来損ない」

 

うわ、マジであんなセリフ吐く奴がいるんだ。

唐突に現れた、会いたくないゴミクズ(織斑秋十)。呼んでもいないのに……。

 

「あ、秋十……ッ」

 

「ふ〜ん? ……そんなゴミに話しかけようとする娘がいたんだ」

 

一夏に見下した視線を向け、対照的に私には爽やかな笑みを見せる。その背後には、一夏に軽蔑の視線を送るクズポニテ(篠ノ之箒)も控えてる。

はっ! エロい視線がバレバレだっつーの。大体アンタねぇ、原作キャラの1人のおっぱい星人(山田麻耶)の巨乳をガン見していたでしょ? 気づかれないとでも思ったの?

 

……ってか、何て言ったの?

一夏に……“出来損ない”? “ゴミ”? ……誰の許可無しに、()()()()に不名誉な名をつけてくれたのかしら?

このクズ共は……ッ!

 

「一夏。私が良いって言うまで目を瞑ってくれるかしら? お願いね」

 

「え? う、うん……」

 

私が笑みを浮かべながら言うと、一夏は戸惑いながらも両眼を瞑ってくれる。

ここから先、可愛い一夏には目に毒だからね♪

 

「どうだい? そんな出来損ないとじゃなく、俺のところに———!?」

 

そこから先、クズ男は何も言葉を発せなかった。

クズ男の喉元に、私が懐からナイフを突きつけたからだ。途端にクズ男はブルブル体を震わせた。

面積の少ない極小のナイフ、しかも袖に隠して全員に見られないようにしているので、側からみたら近距離で話をしているようにしか見えない。

それにしてもクズ男ったら……軽蔑する視線からエロい視線、そして畏怖する視線に変わるなんて……本当に面白い反応をしてくれるね。()()()()()()()()()……。

 

「き、貴様! 秋十に何を———!!」

 

目の前のクズ男を脅していると、竹刀を持ったクズイン(篠ノ之箒)が突っ込んで来た。

おっそいなぁ。だが万が一、一夏に当たったら危ないので、素早く回り込んで手刀で竹刀をはたき落とし、ポニテとクズ男の耳元でボソボソ言う。周囲に聞こえないように……。特に一夏だけには絶対にね。

 

「貴方達は何を言ってるのかしら? 一夏が出来損ない? ゴミ? 挙げ句の果てには竹刀を出して襲いかかるとか、バカの極みじゃないの? 頭にババロアが詰まってるんじゃないの?

あんまり一夏を怯えさせると……二度と剣道できないように———両腕を切断するよ? クズポニテ」

 

「っ!?」

 

殺意に敏感に反応したポニテは私から離れる。私を見るなり、ポニテはクズ男同様に余裕の表情が崩れ去った。

 

「私の幸福な時間を邪魔しないで……貴方達と関わろうとしないから」

 

その場を後にして私は一夏のところへ向かった。

すると2人は屋上の方へ足を運んだ。大方、クズ男の方が「屋上に行こうぜ」と誘ったんだろう。少しでも原作通りにするために。まぁ知ったこっちゃないが。

私はクズだが、私は忠告しただけ。

そう……私は何も悪くない。それに一夏以外の他者なんて知ったことではない。

あいつらが勝手に喧嘩を売ってきただけ。私は一夏のために行動しただけだ。

 

 

 

「あ、あの……ディアナさん?」

 

「あぁ。ごめんね一夏。もう目を開けても良いよ」

 

そう言うと一夏はパチクリとつぶらな瞳を見せた。

良かった。どうやら一夏には私の本性を知らされていないようだ。

あぁもう……可愛いすぎる。写真に収めるだけじゃ、この可愛いさは表現できない。今すぐ襲いかかりたい……!

 

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

もう、またかよ……!?

一々絶頂の最中に割り込まないでくれるかな?

 

「……何ですか?」

 

「まぁ! 何ですの、その返事は!? 私に話しかけられてることすら光栄だというのに、それ相応の態度があるのではないのかしら?」

 

今度は金髪チョココルネ(セシリア・オルコット)、別名チョロインさんか。男嫌いのヒステリックな一面があるから面倒なんだよね。

確か両親がどうのこうの? ……で男を執拗に嫌っていたんだっけ?

まぁ別に良いけど。私と一夏には関係無い。

 

「ねぇオルコットさん。今一夏は私と話をしているんだから、要件があるなら早く済ませてくれないかな?(そのメス豚な面を一夏に見せんじゃねえよ。とっとと視界の端から消えろ)」

 

「っ……貴女はMs. リェータス。男なんかの肩を持つおつもり?」

 

「肩を持つも何も、私は同級生と話したいだけだよ(あっちのクズ男を罵るのは一向に構わない。けど一夏に非難の視線を向けるなら、金色のコルネをもぎ取るよ?)」

 

そう言うと何を勘違いしたのか知らないけど、唐突にチョココルネは「私はエリートなのですわ」とか「教官を倒したイギリス代表候補生なのです」とか言い始めた。うわぁ……自分に酔ってる厄介な女だよ、本当……。

ここで、オドオドしながら一夏が手を挙げた。

 

「あ、あの……僕も一応倒したんだけど……」

 

「な……!? 何です———」

 

「へぇ〜! 凄いねぇ一夏! 試験官を倒しっちゃったんだ!!」

 

ワナワナして何か発言しようとしたチョロインの言葉を遮り、私は大声で賛辞の嵐を振りまく。

 

「い、いや……倒したっていうか、突っ込んだのを躱したら勝手に自滅したというか……」

 

「それでも大したもんだよ! 私なんか苦戦しちゃって、勝つことができなかったんだから!」

 

私の言葉に一夏は満更でもないような表情をしている。

あぁ、その赤く染まった頰が可愛いな。今すぐにでも引きちぎって食べちゃいたい……。

 

「あ、貴方!! 私の言葉を———」

 

続けてチョロインは何か叫ぼうとしたが、今度は呼び鈴によって遮られた。プッ……ダサ。

 

「くっ……! また来ますわ。逃げないことね、良くって?」

 

まだ「いいえ」とも言っていないのに勝手に自分の席へ戻っちゃったよ……。あいつが来る前に一夏を連れて逃げよっと。

はぁ……何であんな性格の女がヒロインとして扱われるのかしら? 私が主人公だったら泣いて土下座をさせるくらい調教して人格を壊してやるのに。

 

「それじゃあ後でね、一夏♪」

 

「う、うん……ディアナ、さん」

 

やったー!! 一夏が私の名前を呼んでくれた!

まだ“さん”付けだけど、取り敢えず一夏の好感度はゲットだよね!

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

時間が過ぎて、織斑千冬がクラスの代表を決めると言い出した。

特に一夏と接点がないので、私は我関せずという感じで受けた。すると急にチョロインとクズ男が騒ぎ出した。大方、クズ男が原作通りに進めようとチョロインに喧嘩を売ったんだろう。

ここで気づいたが、クズ男やチョロイン、一夏の他に私も推薦されたようだ。理由は簡単、私も専用機持ちだからだ。

まぁ一夏が代表にならなかったらワザと負ければ良いんだけどね。あの二人と委員会の仕事をするなんて嫌だからね。

しかし、あのチョココルネも一夏を“極東の猿”なんて罵ったね……。

丁度良い……次はあのメス豚を利用するか。実行は明日に移そう。数日後……プライドの高いイギリス令嬢は()()()()()()()()()()()()()()()〜♪

私の【天使】を怯えさせたり、不名誉なアダ名を付けた罪は重いよ?

精々、私の掌で踊りなさい。クズ男とチョココルネ———いや、自称主人公くん(織斑秋十)チョロインビッチ(セシリア・オルコット)さん。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

初日ということで授業はすぐ終わり、1日の日程はあっさり終了してしまう。

やることもなかった私は、一夏を連れて自室へ足を運んだ。

え? 何故一夏も一緒かって?

……それは一夏と私が同室の住人だからだよ。まぁ、専用機を持ってる者の特権や裏工作を使って、私が一夏と一緒になれるように仕向けたんだけどね。

それからクズ男とクズポニテの部屋は、ここから大分離れたところだ。やったね! これであいつらに遭遇することはないよ!

そして今……。

 

 

 

「すごーい!! それじゃあ、一夏は毎日休まずに学校に行ったんだ!!」

 

「う、うん……」

 

お互いのことを話した。まぁ流石に私の過去を語るわけにはいかないので、両親が事故で死んでしまってからロクに学校に行けなかったと、嘘の思い出を話したけどね。

すると一夏は自分の過去を語ってくれた。聞いてるだけで鬱になる過去を……。

一夏本人の気持ちを知ろうとしないで、織斑家の“非才”なんて罵り、男女問わず一夏に暴行を加えた。その所作で一夏は成長期を迎えても、身長が伸びることはなかった、と。

全て話すと、一夏は暗い顔をした。

 

「そ、その……ありがとう。僕なんかと会話を合わせてくれて。でも無理しなくて良いんですよ? その、僕は“織斑家の恥”だと言われてましたし、周りの目とか……僕なんかといるよりも———」

 

「一夏、君は勘違いしているよ?」

 

「え?」

 

私の言葉に、一夏は惚けた可愛らしい声を出す。

 

「私は君が織斑千冬の弟だから、織斑秋十の弟だからって理由で近づいてるんじゃないよ?

君が君だから———君が一夏という人間だから、私は話したかったんだよ?(一夏以外の名前なんてどうでも良い。同僚でも邪魔なら斬り捨てるだけ)」

 

私の言葉を聞き、一夏は涙が溢れていた。ポロポロと、天然ダイヤモンドのように美しい雫は、一夏の頰を伝って、膝上の制服にポトポト溢れて濡らす。私はそんな一夏の涙をハンカチで優しく拭き取る。

可哀想に……よっぽど辛い目に遭ったんだね。でももう大丈夫。私が君の加害者達(虫ケラ共)を駆除してあげるよ。

 

「きっと……君のお兄さんだって分かってくれるよ。君の行いの良さで。だから一緒に頑張ろ♪(あのクズ男やその取り巻きの行いなんて知ったことじゃない。今度一夏を泣かせたら………迷わず精神ごと殺す、それだけよ)」

 

本当はクズ男を“お兄さん”と呼ぶこと自体、私には何処かのチョロインさんよりも苦痛で耐え難い。

でも今は、一夏の好感度を上がるのに専念しなくちゃ。

 

「ど、どうして、僕に優しくしてくれるの……っ? こんな、ぼ……僕を……?」

 

「だって、皆で卒業したいでしょ?

それから“なんか”じゃないよ。一夏は一夏にしかない長所があるもん。私は知ってるよ?(他の人間なんてどうでも良い……私に必要なのは、貴方だけなのよ? 一夏……)」

 

「う……うぅ……っ!」

 

「だから………これからもよろしくね、一夏(もう逃さない……私は貴方のもの。だから貴方は私のものなのよ……私だけの【天使】)」

 

「ぐす……う、ゔん……ゔんっ……!」

 

我慢の限界を迎えた一夏は容姿相応の子供みたいに、私の胸に埋まる。

私は子供をあやす母親のように、幼稚な弟をあやすように、ゆっくりと、彼の頭を撫で続けた。

まぁ、もし一夏がそういうプレイを望むなら、いくらでもやってあげるよ? 前世が男だった知識を活用してね♪

ともあれ……これで私の第1目標———私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、一夏に思い込ませることに成功した。

……あまりにも思い通り行きすぎて口の端が上がりそうになったが必死で我慢した。一夏に見せるわけにいかないから……。

 

 

 

———【悪魔】は毒牙を撒き散らす。それに【天使】が掛かるのは、決して遠くない未来———

 

 

 

 

???side

 

俺こと、織斑秋十は転生者だ。

ずっと片想いだった彼女に振られて、ヤケクソで女を無理矢理貪り食っていたら、彼氏だった男に殴られて殺された。

その時だ、神と名乗るおっさんが、俺に転生する権利を譲ったのは。

しかも転生先は『インフィニット・ストラトス』! 可愛い女子が勢揃いのハーレムラノベ作品だ! ヒャッハーーー!!

俺は原作主人公の織斑一夏に転生してくれるように頼んだが、元々いた魂と交換することはできないとかで、仕方なくその双子の兄として転生を果たした。

原作では織斑一夏に惚れているヒロイン達を、俺の女にしてやるぜ!! そのためには絞りカスが邪魔だ。

それから俺は好感度を上げるべく、転生した特典を駆使して、学校ではトップを取り続けてきた!

そして一夏への評価は下がるように仕向けたのだ!

既に箒や鈴も攻略し終えてハーレム生活が始まると言うのに……一夏も動かせたとかで入学して来やがった!!

ちっ! 絞りカスの分際で、お前の出番なんてねーんだよ!

以前みたいに一夏の精神をボロクソに壊して学園で孤立させようとしたのに……邪魔しやがって! あのクソアマがぁっ!!

あんなキャラ、原作にはいなかったぞ!? それに千冬姉も原作より落ち着いた態度だったし!! どうなってるんだよ!?

それより、あの女だよ!! 美人で可愛いから接近したら……この俺にナイフを突きつけやがって!!

あいつだけは乱暴に犯してやる!! しかも絞りカスの目の前でなぁっ!!

へへへっ!! 楽しみになってきたなぁ!!

 

 

 

———愚者はまだ気づかない……彼女は()()()()()()()()()()()()()()()ということを。それに手を出そうとし、敵と認識されたのが運の尽きだということを……。

知るよしもない。既に人間を超えた【悪魔】であったことを———

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 思い上がり

遅くなって申し訳ありません!

スランプが長引いたので……。

久しぶりの更新ですが、どうぞ楽しんでください!


一夏side

 

翌朝の食堂、僕とディアナさんは朝食をとっていた。

 

「お、これ美味しいね、一夏」

 

「う、うん……」

 

僕は顔を真っ赤にして地面に俯く。

昨夜はあんなことがあったから、恥ずかしくて顔を合わせられない。人生に嫌気が差し、我慢の限界だったとはいえ、同い年の女性の胸に顔を埋めて泣いたのだ。

でも、ディアナさん本人は気にも留めない様子。僕の隣で時折、微笑んでくれる。

その妖美な微笑みを直視してしまった僕は、耳まで真っ赤になり、顔から湯気が出そうになる。

それにしても、さっきから周りの女性達が僕らを見て騒いで気になるんだよなぁ。「先越された!」とか「私の一夏きゅんが!」「諦めたら駄目よ! まだチャンスがあるわ!」とか。何か嫌な予感しか起きないんだよなぁ。

案の定、そこへ……。

 

「……ねぇ。織斑くんだよね?」

 

「一緒に食べないかな?」

 

訊きながら僕に色目を使う人が三人いた。

ネクタイの色が違う、二年生の色だ。つまり僕らの先輩か。

愛想笑いを浮かべる僕。けど知ってる、この人は僕なんかに興味ないことを。

大方、僕が千冬姉さんの弟、世界最強女(ブリュンヒルデ)の弟だからという理由で接触を図ってるだけなんだ。もし僕が千冬姉さんの弟じゃなく唯の冴えない男子だったら、袋叩きに遭ってたに違いない。想像したくないけどね。

え? 何でそんなこと言えるのかって? ……分かるんだ。知りたくもないのに、分かってしまうんだ。過去にこんな視線を浴びせられたから。

彼女達の視線。フィギュアや展示物を見定めるような視線。誰も()()()()()()見ていなかった。

 

 

 

「ごめんなさい、先輩方。今は私と一緒にご飯を食べているの。でしょ、一夏?」

 

僕を物珍しそうに凝視する先輩達の視線を遮って、ディアナさんが横から入る。

僕の心情を理解しているみたい、咄嗟に僕を庇ってくれる。

 

「はぁ? あんたに聞いてないわよ」

 

ディアナさんが言った途端、先輩達はびっくりするくらい態度を豹変して彼女を睨みつける。

それに伴って、周囲の女性が同意したいと言いたそうな非難の視線を一斉に送ってきた。ほとんどの女性が苛立ち眉間に眉を寄せている、中には暴動に走りそうな人もいた。

すると———。

 

 

 

「…………ふぅ」

 

ディアナさんは深い溜息を吐いた。

本人曰く、唯の溜息らしいけど、僕には魔女の呪詛のように聞こえる。

現に、先程まで威勢が凄まじかった先輩達や周囲の人達は怯えた表情をして何も言葉を発さない。さっきまで騒がしかった食堂は、一瞬にして静寂に包まれてしまう。

その中、重々しくディアナさんは口を開いた。

 

「何度も言いますけど……今一夏は私と話しているんです。なので、ここはお引き取り下さい。先輩」

 

ディアナさんは笑みを浮かべたまま丁寧に言う。

先輩達は蜘蛛の子を散らすように、瞬時にその場から消え去った。一方、僕を含むその場にいた皆は開いたまま口が閉じなくなる。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率良く取れ! HRに遅刻したらグラウンド十周だ!」

 

パンパン! と誰かの手を叩く音が食堂中に響いた。

手を叩いた方向へ視線を向けると、そこにいたのは白いジャージ姿の千冬姉さん、もとい織斑先生。

周りの女子達は織斑先生の言葉に従って食事の手を進める。

僕も朝からグラウンド10周はゴメンなので急いで食べる。

食べ終わった時、隣にいたディアナさんが片付けを手伝ってくれた。既に食べ終わって、僕が食べ終わるのを隣でずっと待ってくれたようだ。

とても嬉しいけど、反面申し訳ない罪悪感に苛まれる。

こんなにお世話になってるのに、彼女に何もしてやれない。

何か、僕にできることはないのかな? 彼女のために……。

 

 

 

ディアナside

 

早朝から……私は至福の時を味わっている。

私は今、愛する一夏の隣にいるからだ!

はぁ〜〜!! ハムスターみたいにモキュモキュとご飯を頬張る一夏の姿がと〜〜〜っても愛らしい! ここが公共の場でなかったら、一夏を喰べちゃうところだったよ♡

ま、一夏より早く起きた私は寝ている彼の姿を見て、迷うことなく頬っぺたにキスしちゃったんだけどね。本当は唇を奪いたかったけど、やっぱり私からじゃなく、一夏から迫って欲しいな、って思ってしまったの。

いや〜、我ながらすっかり処女(おとめ)ですね。前世は男だったのか? と自分でも疑うくらいだよ。

と、私と一夏の至福の空間に、問答無用で雌共が入ってきて、図々しく一夏に声を掛けてきた。

チッ……あっちの方に(織斑秋十)がいるだろ! 腰を振るならあれにしなさいよ! あっちも大歓迎でしょうよ!

……などとは言えない。言えるわけがない、一夏の前なのだから。

穏便に済ませようとしたら、リーダー格のビッチは私を睨んでくる。それに伴って周囲の雌共も、私を仇のような嫌悪の視線を送ってきた。

うん……それで? 『亡国企業』にいた奴らの方がもっと重度の高い殺気を送れるし、ぶっちゃけ私の方がもっと濃いのを出せるよ?

『亡国企業』にいた頃なんか、プライド高い一人の女が問答無用でISを装着して奇襲をかけて来た、なんて日もあったからね。むしろ生温い方よ。(因みに襲撃をかけた女は返り討ちされ、私の調教によって忠実な僕と化したエムによって撲殺されかけた挙句に解雇された)

 

「…………ふぅ」

 

溜息混じりに、ちょっと殺気を飛ばしただけで目の前の女共は勢いを失ってしまい、私を怯えるような目つきになる。周囲の女も同様に。

理解できたみたいね。その少ない単細胞みたいな脳味噌でも。

と、一悶着を終えた後、私は一夏の好感度を更に上げるために片付けを手伝う。

すると一夏は申し訳なさそうな表情を見せる。……可愛い!!!

きっと私に色々罪悪感を覚えているんだろうね。でも大丈夫よ! 今後、た〜〜〜っぷり請求してもらうから…………主に身体でね!

一夏と教室へ戻ろうとすると、

 

 

「リェータス。お前には話がある。今から私のところに来い」

 

「あの……早く行かないと遅刻するんですけど」

 

「山田先生には、リェータスは事情があって欠席するように言ってあるから心配無い」

 

織斑千冬に呼び止められてしまう。何もかも手配済みという雰囲気を醸し出す。

はぁ……メンドくさい。折角、一夏と一緒に教室まで歩こうと考えていたところなのに。邪魔すんじゃねーよ。

いいわ、一度この人と話はしなきゃと思っていたから。

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

千冬side

 

私、織斑千冬はディアナ・リェータスを呼び出す。

連れて来た場所は、学園内の使用されていない一つの倉庫。随分前から出入りされてない状態なので、辺り一面に埃がたまっている。

現在この場所には誰もいない。更識姉にも、今だけは監視の任務を外させている。つまり、誰にも気にせず、お互い思う存分話せるということだ。

 

「それで、授業をサボらせてまで、私に何の用でしょうか? 織斑先生」

 

何の用だと? お前は分かってるはずだろ! と激昂したい衝動に駆られるが、私はひたすら我慢する。ここで感情のまま行動してしまえば、教師としての威厳が成り立たないからだ。

 

「単刀直入に問おう。何が目的だ? ディアナ・リェータス? いや——『亡国企業』」

 

既に調べはついている。目の前の少女、ディアナ・リェータスの戸籍や、所属している会社が偽造だということは。こいつが『亡国企業』のスパイであるということも。

現IS学園の生徒会長である更識姉、並びに対暗部用暗部の『更識家』の工作員によって調べた情報だ。

今はまだ泳がせるつもりだったが、あまりにも(一夏)への接触が限度を超えている。

一夏の身柄が狙いだというなら私が黙ってないぞ? と、忠告の一つでもかましてやろうと思った。

ところが…………。

 

「……あぁ、知っていたんですか」

 

私の問いに対して、奴は一切動揺を見せなかった。

それどころか、私に向けて笑みを向けた。その笑みはまるで魔女、いや、【悪魔】だ。自分の所属する組織に対して無関心、まるで興味ないと言いたい顔。

 

「私個人、別に目的とかありませんよ。その男性操縦者のサンプルとか……でも強いて言うなら、一夏の唇とか肉片とか指とか爪とか、あと子種とかなら、とても欲しいですね。あ、もう一人のゴミ男は貰っても捨てますよ。無料で配られてもいりませんから」

 

私は絶句してしまう。それもそうだろう、リェータスの返答は、スパイとして潜入してきた者のそれとはかけ離れたのだったからだ。

自分で言うのもなんだが、目の前に(世界最強)がいるにも関わらず、否定もせず、狼狽える素振りを見せない。それどころか自分をスパイと認めた上で話してくる。あのバカと同じくらい気味が悪い。

それから、一夏への依存度が凄まじい。私でも絶句してしまうほどだからな。後、秋十への評価は低いな。まぁ、あいつは自分の持つ才能故に、傲慢な態度が多々あるからな……。一部の女子から嫌悪されても仕方ないだろう。今後の学園生活で公正させなくてはならんな。

と、話は逸れてしまったが、ディアナ・リェータスは続けて私に言う。

 

「貴女は勝手に対策でも何でもしていれば良いんですよ、別に。 私は、私のためだけに行動しているだけですから……もちろん、一夏のためにも、ですけど♪」

 

そう言って私の顔を覗き込んできた。

一目見て勘付いた。奴の瞳は狂っている。

付き合いの長い束も狂った目をしているが、人生に退屈したとかでバカな行為を繰り返している。退屈凌ぎで動いている束と違い、目の前の少女は明確な目的のために行動を起こしている。目的がはっきりしているという意味では、まだあいつよりマシな方だろう……。

 

「話は以上ですよね? だったら私はこれで失礼します。もう用もありませんので。

……それから一言。私の住処に土足で踏み込んで来たら、一夏の身内でも容赦しませんよ? お義姉さん(ブリュンヒルデ)♪」

 

ウインクをし、鼻唄交じりで私の目の前から去っていく。

どうやら今のところ、奴は学園に何もしないようだ。無論、一夏や秋十にもだ。秋十に関しては単純に心底興味がないというだけだろうが。

それにしても、お義姉さん、か……。私の前であんなに堂々とした宣言をしたのは奴が初だな。

一夏が良いと言うなら、私は一夏の相手が誰だろうが一向に構わんさ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかし、今一夏はリェータスに心を開き始めていると見た。

一夏は厄介な女に感化されつつある、秋十は傲慢かつ怠惰な性格故に周りに誹謗中傷な態度を取っている。二人共、私が受け持つクラスの生徒であり、実の弟だ。唯でさえ初の男性操縦者で世界中から注目の的を浴びているというのに。

私は頭痛に苛まれながら授業の準備に取り掛かる。

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

秋十side

 

クソクソクソ!!

箒と一緒に朝食を食べ、箒を口説きつつ周囲の女子も口説き堕とすはずが、あのディアナ・リェータスが出した異様な雰囲気の所作でそれどころじゃなくなっちまったよ!

あの女のせいで俺の計画が狂ってしまう!! 何だよ、本当にあいつは!? 俺がオリ主なんだぞ!!?

……まぁ良い。性格はクソ最悪だけど、身体は超俺の好みだからな。あいつも奪って、搾りカス(原作主人公)の前でたっぷりと堪能してやるよ!

再び決意が固まり、俺は箒の方へ視線を向けた。原作のシナリオ通りに、箒と剣道の訓練をするためだ。

 

「それじゃあ行こうぜ、箒」

 

前世はブ男だったが、今の俺は爽やか笑みを浮かべられるイケメンだ。あらゆる手を尽くして次々と女を堕としていく。

箒へ手を差し出すと、箒は躊躇した様子だった。

ん? 緊張しているのか、箒? 可愛い女だぜ。原作と違った反応なのはちょっと気になるけどよ。もしかしてあの女がいるせいで、ちょっとしたイレギュラーが発生しちまったのか? クソが! あのクソ女、ろくなことしねぇな!!

まぁ……俺は箒を攻略済みだからな。その辺は何とかなるっしょ! ヒロインズの中では一番の巨乳、束と一緒に姉妹丼にする日が楽しみだぜ。

……って、ヤケに手を握るのが遅くねえか?

まさか、こいつは搾りカス(一夏)に惚れているなんて言うんじゃねえよな?

 

「あ……あぁ。秋十」

 

恥ずかしそうに箒は俺の手を握る。

な〜んだ。恥ずかしがってただけか。暴力系ヒロインなんて、数々の二次創作ではアンチ対象にされていたけど、扱いが分かれば性欲発散できる最高の女だぜ!

俺はどっかの唐変木じゃねえからな、この調子でどんどんヒロイン、モブヒロイン、そして最終的には、この世界の女を全て俺の物にしてやるぜ!! 俺のハーレムのためになぁっ!!!!!

ヒャハハハハハハハハハハハ!!!!

 

 

 

箒side

 

私こと、篠ノ之箒は悩んでいた。このままで良いのか? ……と。

まず始めに言っておきたい。私は……ISが嫌いだ。上に“大”がつくほどにな。

私の姉さん———篠ノ之束が開発したISによって世界は激変してしまった。私の周囲の環境(セカイ)も。

剣道で優勝しても、私と対戦した彼女達は「“篠ノ之博士の妹”だから当たり前」とか「“篠ノ之博士の妹”ならISに携わるべきだ」と悪態を吐いた。審判や剣道部の顧問ですら、誰も私個人を評価してくれなかった。誰もが、私の今まで積み上げてきた努力を無下にした。

私を友達と言ってくれた同級生もいたが……その女達は姉さんに近づきたくて私に寄っただけだった。本当の友達など一人もいなかった。その後、彼女達は姉さんの仕業で転校していったが、別に彼女達がどうなろうと知ったことじゃない。後、姉さんに感謝の念も抱けない。当然だ、その実の姉が私の人生を、青春を奪った張本人なのだから。

そんな人生を送ってるうちに、私は他人を信用できなくなってしまった。信用できるのは身内と、彼だけ。私の幼馴染にして……初恋の男、織斑秋十。六年ぶりだというのに、彼は私の髪型を見た途端、私だと気づいてくれた。

だが…………。

 

「それじゃあ行こうぜ、箒」

 

昔から……彼の性格は横暴だ。今は私に爽やかな笑みを向けているが、この男は厭らしい視線を私の胸に向けている。私のコンプレックスの一つだいうのに。

今まで彼の行為でどれだけ迷惑をかけられたのだろうか……。

手を差し伸べられた私は、このまま秋十の手を取るべきなのかと躊躇してしまう。

すると秋十は少し苛立った雰囲気になる。

 

「あ……あぁ。秋十」

 

嫌われたくない! 彼にも嫌われてしまったら、今度こそ私は一人ぼっちになってしまう!!

秋十に嫌われたくない一心で、私は慌てて彼の手を取る。すると彼は満足そうに手を引っ張って連れて行く。もう私の味方は彼しかいない、そう思ってしまう。

私を“篠ノ之箒”として見てくれる唯一の味方……秋十の手を取るしか、今の私に取り残された道は無い。そう錯覚してしまった。

もう私は彼に恋なんて想いを抱いてない、とっくに消え去ったのだから。そう、私と彼の間にあるのは幼馴染なんて生温いものじゃない。これは“呪い”と呼べる繋がりだろう。

もし、もしもだ……秋十にも裏切られてしまったら……私はどうなるだろう?

怒りに狂って、私を見てくれなかった人を殺し尽くして、世界を壊すかもしれない。

気に食わないから世界を壊す。我ながら、姉さんそっくりな思考だな。流石、姉妹と言ったところか……想像したくない。

どの道、千冬さんや姉さんがいる時点で、世界を壊すなんて行為は実現不可能だろうけど。

そんな現実逃避をしながら、今日も私は悩み続ける。

 




う〜ん……主人公の描写が少ない気がする。
自分をオリ主と勘違いしている男が、違うと知った時どんな風に絶望するのだろう? と鬼畜な思考で制作中です。(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 英の墜落

お久しぶりに投稿します。
最初に言っておきますが……セシリアが好きな人は決して読まないで下さい!
では、始まります。


セシリアside

 

私、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生にして学園の首席、正にエリートと呼ばれるのに相応しい立場ですわ。ですが、この学園に漂う馴れ馴れしい空気に耐え切れず、一人で中庭に足を運んでいました。

現在、剣道場では世界初の男性IS操縦者である織斑秋十が篠ノ之箒という女子生徒の特訓を受けているという話で持ちきりですわ。学園中に流れた噂によると、その二人は幼馴染らしく、篠ノ之箒はあのIS開発者である天才科学者———篠ノ之束博士の妹と。その経路で剣道を受けていると。

まったく……剣道でなくISの指導をして差し上げれば良くって? 極東の島国の人達の考えることはつくつぐ理解に苦しみますわ。

ふと顔を見上げると……中庭のベンチに彼女が座っているのを発見しました。

私にとっても、男の操縦者よりも厄介な相手。私の宿敵とも言える相手——ディアナ・リェータス。

 

「御機嫌よう、ディアナ・リェータス。今度のトーナメントで私に負けるのに、随分ご身分の高い方ですね?」

 

フフン、と私は皮肉をたっぷり込めて言い放ちました。

女性にしか使えないISが軍事兵器として普及され女性の立場が高くなり、女尊男卑な思考に染まった女性が多くなる傾向にある現代において、この挑発に眉を釣り上げない方がいるはずありませんわ。

……と、思っていましたが、彼女は怒りを見せるどころか、私の言葉に添えられた挑発を平然と無視しました。

正直、面白くないですわね。男なんかに肩入れしている女が、私と同じ国家代表候補生にして、専用機を持っているなんて。

 

「少し小耳に挟みましたわよ。貴女、今度行われるトーナメントに向けて、織斑一夏にISの指導をして差し上げてるのですって? 流石は私と同じ代表候補生ですわね。余裕があること」

 

「……余裕、ねぇ」

 

再度たっぷりと込もった皮肉を言い、ようやく彼女は口を開きました。

なるほど……学園中にいる女性達と同じく、この方も織斑一夏を我が物にしようと模索しているのですね。祖国のために男性操縦者のデータが欲しいのか、それとも俗に言うショタコンなのかは知りませんけど。

でしたら話は簡単です。この女に挑発するなら本人を貶すよりも織斑一夏を貶す方が賢明。

 

「あら、事実じゃございませんこと。男相手に本気を出す女性がいまして? 自分達よりも下等な種、しかも島国の猿達をですよ? いくら相手が希少価値の高い男の操縦者としても、IS搭乗のキャリアは素人同然、その実力は皆無も同然。私達代表候補生と比べるまでもありませんわ」

 

フフン、と無意識に口角が上がる私。

その澄ました表情がどのように崩れ落ちるのか楽しみで仕方ありませんわ。

 

 

 

「——少し黙っていようか?」

 

「はい?」

 

突然、立ち上がったと思うと私の顔にグイッと近寄った。

思わず「な、何をするのです!? 無礼者がっ!!」と訴えようとしましたが、直前に彼女の瞳から金色の発光が放たれた。

その瞳を見つめ続けていると、言い知れぬ錯覚に襲われる。

目の前の女が、私を生き物としてすら見ていないような、おぞましい何かの錯覚。

それに誘われ、私は恐怖に駆られてしまい、チャックを閉められたかのように口が開かない。

リェータスさんは怯えて硬直している私をじっと見ながら口を開く。

 

「男に負けることはないなんて言うけど……女にしか使えないISを男が使える時点でありえないんだよ。そもそもIS(インフィニットストラトス)なんて兵器もありえない存在だよ。ありえない事象ばかりが起こるんだから、女が負ける、なんてことも十分ありえるのよ」

 

そ、そんなもの……ただの屁理屈ですわ。

ですが彼女の言葉にはどこか説得力があった。

 

「ま、貴女が無事に勝利を掴んだとしても……後で手痛い目に遭うかもしれないよ? 後ろから刺されたり、周囲から嫌がらせを受けたりね。現にオルコットさんはそれぐらい怒りを買わせる罵倒を彼らに、『日本』という国に与えたんだからね。どんな目に遭うか分からないものよ。

例えば………こんな風に」

 

いきなり彼女は制服の袖を捲り上げました。

何をするのか、と困惑していたら、そこから包帯で巻かれた腕が現れました。更に彼女はその包帯を捲り上げました。

包帯の下にあった腕を見た途端……私は思わず息を呑む。まるで心臓を鷲掴みにされた感覚を覚えました。

制服を裏返して見せつけた彼女の腕には、女性の柔肌にはあってはならない、数多の痛々しい切り傷があった。

私もイギリス代表候補生としての訓練を受けてきて、中には訓練中の事故で傷跡が残った方々を幾度も見て来ました。でも、ここまで酷い傷跡を見た女性は初めてですわ。

 

「男は本来恐ろしいものよ。男をどう捉えるかはあんたの勝手だけど……それじゃ、精々頑張ってね」

 

そう言い残し、踵を返して去って行きました。

解放された……思わず安堵を漏らす。ずっと鷲掴みにされていた心臓がようやく自由になった感じでした。

それにしてもあの傷……もしかして織斑一夏が付けたもの? あの無害に見える男風情が、あの女に傷を負わせたというの?

そんな様々な疑問が過ぎり、しばらくその場で呆然と立っているだけだった……。

 

 

 

——英国少女は知らない。少女の姿をした【悪魔】のシナリオ通りだということを。

 

——軽はずみな言動で【天使】を貶したばかりに、命を弄ばれることになることを…。

 

 

 

〜◆〜

 

 

 

決戦の前夜、とても恐ろしい夢を見てしまいました。

男の操縦者の一人——織斑秋十——に敗北した私は、あの男とクラスメイトから酷い手打ちに遭いました。イギリス政府やオルコット家の親戚からは『素人の男に敗北した』と罵られ、今まで積み上げてきた信用が地に堕ちてしまう。挙げ句の果てには、誰にも授けたことのない私の純潔をあの男に無理矢理奪われ、惨めな下僕と成り下がって生涯を終えるという内容。

夢に出てきたイギリス政府は男のIS操縦者のサンプルを欲している故、私が彼に強姦されるのを知っても世界に公言しようとせず見過ごす始末。あの男との子を身篭った瞬間に祖国へ強制返還されて、好きでもない男の子供を産め、とオルコット家を人質に命じられました。

起きた瞬間、私は即座に洗面所に足を運んで喉から込み上げてくる物を吐き出してしまいました。

これほど、夢で良かったと思ったことはありません。

と同時に、ただの夢だと自分に言い聞かせました。

そう……あれは夢、ただの夢です! この私が、たかが男如きに負けるはずなどありませんっ!!

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

と、思っていましたが……私の対戦相手——織斑秋十——は私の想像を遥かに超える実力者でした。

あの男が纏っている専用機『白式』は日本政府から送られた最新機種の近接格闘戦向け。遠距離戦向けである私の専用機『ブルー・ティアーズ』にかかれば負けるはずがありませんのに……! 彼はその常識を覆す実力で挑み、私をあっという間に不利状況に追い込ませてきましたわ。

私は、ここで負けるの……?

 

『男は本来恐ろしいものよ』

 

織斑秋十に、男に、この私は……ディアナ・リェータスのような傷を負わせられるの??

それとも、身も心も好き勝手にされるの……??

……い、嫌っ!

嫌ぁ……嫌ぁ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!

 

「い———イヤァァァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

 

 

 

秋十side

 

試合前に送られた白式を纏い、俺はセシリアと対戦する。

この決闘の際、俺は神から貰った“特典”を使用した。他にも様々な転生者がそれぞれの“特典”を持ってるらしいが、俺の特典は身体的強化、IS装着時にも通用する力だ!

原作では欠陥だらけの白式に、ダブルオーライザーに似せた装備を追加してパワーアップさせた。最早この白式は白のダブルオーライザーと言っても過言ではない。

そう! つまりこの力で……俺はセシリアに勝つ! そしてセシリアに男の尊厳を見せつけ、俺のハーレムに加わえてやる!

箒に続いて、俺のハーレム候補を手に入れる瞬間だぜ!!

………と、意気込んでいたはずが、

 

「——イヤァァァアアアアアア!!!!」

 

セシリアは錯乱してビームライフルを辺りに撃ちまくっている!

ど、どうなってるんだよ!?

どうしてセシリアが、()のセシリアがこんなことになってんだよ!?

 

『オルコット!! 試合はもう終了した、お前の勝ちだ! すぐにISを待機状態にしろ!』

 

「イヤァァァァァァ! イヤァァァァァァァァッ!!」

 

千冬姉の呼び掛けにも答えず、ただセシリアは俺に定めて乱射を繰り返すだけだった。

ちょ、待てよ! ビーム光線の嵐が半端じゃねえ! 白式もさっきからアラーム音が鳴りっぱなし……シールド数値がゼロに近づいていやがる!?

こ、こんな展開、原作にねえぞ!? このままじゃ俺が死んじまう!!

……ふ、巫山戯るなよ! 俺がオリ主なんだぞ!?

こ、こんなところで……死んでたまるか!!

 

「う、うぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

それは無意識の動作。ズドンッ! と俺の左腕、白式の砲門から白い閃光が走った———セシリアに向かって。

白式のビーム弾がセシリアに当たった瞬間、凄まじい火花が激しく捲き起こる。

セシリアの纏う『ブルー・ティアーズ』の蒼色とは似合わない紅色の液体が宙を舞った。それはセシリアの血。セシリアの身体は、上半身の背中から腰にかけて血が噴水みたいに吹き出ている。

セシリアの端まで見開かれた眼は、今自分に起こっていることが信じられないと、感情を表しているようだった。

「あ、あがぁ……!!?」と鈍い音と弱々しい声が響き渡ると、ダランと身体が下に垂れ、ISを解除されたまま地面に激突した。

地面に衝突した衝撃で半径数十メートルの煙が蔓延し、その煙が晴れるとセシリアの姿が見えた。大量の血が流れ出て、足や背骨があらぬ方向に折れ曲がった状態でままピクリとも動かない。

……死んだ、のか?

………お、俺が殺したのか!?

…………ち、違う! これは正当防衛だ! お、俺のせいじゃない! 俺は何もやってないんだ! あいつが悪いんだ!!

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

後日、セシリアは再起不能になってIS学園から転校してしまった。俺が放った流れ弾に直撃した所作で、もう二度とISに乗れない身体にしまった。当然、セシリアはIS学園を中退せざるおえなかった。

そして俺は……クラスの女子だけじゃなく、学園中の大半の生徒から非難や軽蔑の視線を向けられるようになった。生徒だけでなく、一部の女教師も俺をゴミを見るような目で睨んでくる。千冬姉や箒は「気にするな」と慰めてくれるけど、ショックのあまり二人の声は届かない。

俺は自分の置かれた立場が信じられず、自室に篭っていた。(一人になりたいと言っておいたので今は箒はいない)。

何で……何でこんなことになっちまったんだよ?

俺がオリ主なのに……これは原作(俺の物語)なのに……!?

 

「……も、もう良い。ほ、他のヒロインを狙えば……」

 

打ち震える唇から声を絞り上げる。

そ、そうだよ! 元々、俺はオルコッ党じゃねえんだ! 本当はシャルとか楯無とかラウラとかが好きなんだ!

あいつらを手に入れるためなら、もう金髪ドリル女なんかいらねえんだよ!!

 

「ヒ、ヒヒヒ……お、俺は、悪くないんだ……」

 

ど、どうせ、この世界は俺が中心なんだ。このオリ主()がこの世界の支配者なんだ。なら何をやっても構わないだろ? なぁ、そうだろ……!!?

ハ、ハハハハ!! そうさ、俺だけは何をしても許されるんだ! 前世と違って、俺はこの世界に愛されているんだ!! 愛されなくちゃならないんだ!!

そうと決まれば次の行動だ。もうセシリアは諦めるとして、次のイベントはセカンド幼馴染の鈴と再会だな。

もちろん箒と同様に、鈴も攻略済みだ。俺は原作のクズ主人公と違って、上手くやれるんだ! 今度こそ、今度こそ………絶対にヘマはしない!!

ヒ、ヒヒヒヒ、ゲヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ……!!!!

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

ディアナside

 

あ〜あ〜、ちょろコットさんは脱落(再起不能)になっちゃったか。随分呆気無かったなぁ〜。

まぁ、イギリスの代表候補生という肩書きが付いても、資産家の娘ってだけで、それを除けばただの操縦が上手い殺人料理製造女だもんね。

原作では、情けない父親と姿を重ねて男嫌いって理由で、男を馬鹿にしていたっていうのにねぇ。終わった後は皆に謝りもせず、何食わぬ顔で主人公ラヴァーズに加わったもん。私が原作主人公の立場なら「お前何様だよ? こっち来んじゃねーよ」と罵声の一つでもかけるから。

後日、エムやスコールから聞いた話だと、自信喪失気味に陥ったオルコットはイギリスの精神病院に送られて治療中。しかも財産目当ての親族から資産を全部取り上げられたいだよ。

うわ〜、可哀想……なんて言うつもりは全然無いよ? 全ては自分の口から招いた結果だもん。自業自得でしょ?

今頃、自称主人公くんはパニックだろうね〜。自分が手に入れるはずだったヒロインが呆気なくリタイアしちゃったんだもん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

あ、もしかしたら案外、既にチョココルネを切り捨てたかもしれないね。

クラスの女子の一部は、自称オリ主くんのお見舞いに行こうか迷ってるらしい。私? もちろん行かないよ?

まぁ、彼に掛ける言葉があるとするなら……『“錯乱した女性を撃った外道男”という汚名を被ってまで、私の代わりに邪魔者を消してくれてありがとう。お陰で手間が省けたよ♪』

……ってところかな?

え? 私がチョココルネを嵌めただろ、だって?

変な言いがかりだね〜。私は彼女に忠告しただけで、特に何も加担していないよ?

まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

結局、一組のクラス代表は自称主人公くんに決まりました。

チャンチャ〜〜〜ン♪

え? 私や一夏はどうしたのかって?

自分から辞退したに決まってるじゃん。あの下半身に脳がある男と一緒にいるなんて何のメリットがあるの? デメリットしか生じないよ。

一応、形式だけ一夏とも対戦したけど……白百合のように柔らかく可憐な一夏の素肌に傷をつけるような行為をするわけないじゃん。細心の注意を払って、引き分けに持って行ったよ。

まぁ一夏も一応、篠ノ之束に贈られた専用機『黒式』で戦ったんだけどね……。

素性を隠すとはいえ、私も代表候補生の肩書きを背負ってるし、ワザと負けたら後々怪しまれるからね。最も、織斑教諭にはバレバレだったみたいで、出席簿で叩かそうになったけど。

それにしても……やっぱり邪魔だなぁ、織斑千冬。

私と対戦する際、試合開始の直前で織斑千冬は一夏に「頑張れ」と激励したのだ。その瞳からは確かに“一夏の姉”としての意思が込められていた。

数々の二次創作では織斑千冬をアンチ対象にするのが多いけど、この世界では良いお姉さんみたい。

()()()()()……邪魔なのよ!!

あの女がいる所為で一夏が……私だけを見てくれないじゃない!!

私の一夏が、私だけの一夏が他の女に取られるなんて想像したくない!

いずれ殺してあげるわ……原作崩壊とか世界滅亡とか、もうどうでもいい!

私の一夏を奪おうとするのなら……誰であろうと殺すだけよ!

それがたとえ、一夏の愛する女性でもね!!

 

「……うふふ、い〜〜〜ちか♪……」

 

と、言い忘れていたけど……現在深夜、一夏と私の自室(愛の巣)にいる。

今日は新聞部から意気込みとか目標とかをインタビューされてドタバタしていた日だからなのか、一夏はお風呂に入らず、そのままベッドにダイブして寝ちゃった。

私は起こさないように、そっと忍び寄る……。

一夏のあどけない寝顔を見ると、私は身体中から湧き上がる火照りが止まらなくなる。風呂に入ってなくても桃みたいな良い匂いがする。

……か、可愛い〜〜〜!!

今すぐにでも既成事実を作りたい!! 身ぐるみを剥がされて、私の腕の中で生まれたままの姿の一夏が「はぁ、はぁ……」と顔を赤くして息を漏らす姿を想像しただけで………興奮が治らないよぉ〜!!!!

……と、まだ駄目よ、私。

ここで理性を失って襲ってしまえば、今までやって来たことが全て水の泡になってしまうわ。

精神を落ち着かせた私は、寝ている一夏の上に乗っ掛かり———()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

プシュッと、泡立ったコーラ缶を開けたような音が響く。切り傷から血がみるみると溢れる。

 

「今日は頑張ったね〜……召し上がれ♪」

 

溜まった自分の血を……()()()()()()()()()()()()()()

寝惚けた一夏は嫌な顔一つせず、口元にこびりついた血を舐め取る。

 

「チュパ………ぅ〜……」

 

うふふふふふ♪

美味しそうに私の血を舐めちゃって。もう可愛いんだから。

まるで赤ちゃんみたい。お腹を痛めて産んだ自分の赤ちゃんは誰でも可愛いと思うわよね。赤ちゃんプレイも捨てがたいなぁ……。

も〜っと舐めて良いんだよ? 何時でも何処でも、望むならいくらだってあげちゃうんだから。

この血は私と、一夏のものだけ。

もう私の血無しじゃ生きられないほど、たっぷり飲ませてあげるわ。

これから毎夜、毎夜、毎夜、毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜……ず〜〜〜っとよ。

一生………離さないんだから♪

逃げ出さないように手足を捥いで、檻に閉じ込めちゃうんだから。

ぜ〜〜〜〜ったい逃・が・さ・な・い♪

うふ。うふふ……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪

アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

 

 

 

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

???side

 

ここに……アイツがいるのね。

アイツがISを動かして、この学園に編入したと知った時はド肝を抜かされたわ。

それと確か、アイツの弟も編入するんだっけ? 名前は一夏……だっけ? いつも弱々しくて背中に隠れていたから印象が薄いわ。

まぁいいわ。アイツはここにいる……会いたくって、どれほど、この日を待ちわびたことか……!

私は———。

 

 

 

あんたを許さない……ッ!!

あんた、私があんたに好意があると思ったんでしょ? でも生憎、あんたのことなんて、これっぽちも好意なんて抱いてないわよ! 憎悪と殺意しか湧かないのよ!

あんた、気づかれないとでも思ったの? あの日、あんたの本性を知って、私の初恋がぶち壊されたのよ?! あんたに分かる? 全てが掌で踊らされていたことを知った女の憎しみを!?

まぁ流石に、あんたがIS学園に入学したのは計算外だったわ……。

本当は大人になって、権力を得てからにしようと思ったけど、都合が良いわ。

私を誑かしたこと……その身を以って後悔させてやるわよ……秋十ッ!!

いや……織斑秋十ッ!!!!

 

 

 

——愚者が仕出かした行為は一人の少女の人生を狂わせてしまう。

 

——その事実に愚者は気づきもしない。

 

——そして、【悪魔】が導く原作崩壊(世界滅亡)の時は近い。

 

 

 




セシリアファンの方々にはホント申し訳ないんですけども、ここで脱落になってしまいます。
それと、主人公のサイコな思考に、書いた自分も驚いています。正直、例え美人でも関わりたくないですね。
一夏くんの無事を祈るばかりです……。

では、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 中国からの来訪


初っ端からグロ注意です。(無心で書いてる自分が恐ろしい…!)
食べながら読んでる人はお控えください。


IS学園から離れた——●△町。

ゴミ処理場、深夜0時過ぎ誰もいない時間帯で、二つの人影があった。

一人は、全身殴打された形跡がある顔の整った男。この血まみれ男の正体は、神の手違いにより死に、この世界に送られた転生者、その一人である。

男は良識派と自称する。ほとんどの転生者は自分の欲に任せて好き勝手するが、この男は、自分達は原作に関わるべきじゃないと主張している。

 

「君は一人で寂しかっただけなんだろう? でも大丈夫、俺がいる!」

 

そう言って男は、もう一方の人影に呼びかける。この人物も男と同じ転生者である。

 

「待つんだ! こんなことを繰り返してはいけない! こんなの、君のためにもならないんだろ!? 今からでも遅くない。まだ君はやり直せるんだ……だから!

ちょっと待て! 俺が死んだらこの世界はどうなると思う!? 崩壊するんだ! だから俺は生かすべきだ! 生かさなきゃならないんだ!!」

 

男の呼びかけに何の反応も示さない女は、男の体をある機械の中に押し込む。

何の機械か理解した男は慌てて口を開くが、虚しくも女は気にせず作業を進めて装着を作動させる。

いくつもの点滅が光り、大型機械が作動し始める。そのことに男は動揺を隠し切れず、終いには自分の使命など簡単に忘れて泣き叫ぶ。

それを見ていた女は「所詮こんなものか……」と落胆し、その場を去っていく。男を見捨てたまま。

 

「ま、待ってくれ! 冗談なんだろう!? 本気ではないんだろ!? ……わ、分かった!! もう君に、いや貴女様に関わりません!! だから、お、お願いします!! まだ死にたくない!! ヒィ!!? イヤだ! や、止めてくれぇっ!!! 痛いのは嫌だア"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

 

 

ヴゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴブチブチブチブチチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——翌日のテレビ、

 

 

 

『ニュースです。本日午前七時、●△町のゴミ収集所で細かく刻まれた遺体が発見されました。

現場で押収された所持品を調査した結果、遺体の人物は前夜から行方不明とされた〇▲氏本人であることが判明されました。

警察の捜査によりますと、犯人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とのことです。

極めて奇抜な犯罪に相当する犯行とされ、未だ犯人はまだ把握できていないとのこと。このことに地域住民も不安を隠せない様子で———』

 

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

ディアナside

 

「ねぇねぇ! もう見た? 今日やってたニュース」

 

「あぁ〜! うん見たわ! ●△町で殺人事件があったんでしょ?」

 

「えぇ〜! ●△町って私の家のすぐ隣町じゃない。犯人はまだ見つかってないんでしょう?」

 

「シュレッターにかけたんですって。怖いわよねぇ〜」

 

女子がヒソヒソと噂話をしている。

ま、私の知ったことじゃないけどね。

そう言えば、そろそろ酢豚娘の登場かな?

この世界ではどんな女になっていることか……。

一夏の話じゃあ酢豚娘とはそこまで仲良くなかったとか。あの自称オリ主と勘違いしてイジメに加担していたとか。

聞いた瞬間、私は殺意を隠せなかったよ。あの能無しの屑と、世界の嗜好品である【天使】一夏と間違えたなんて、神への冒涜にもほどがあるんじゃないの? ただし神はあの無責任なクソ爺だが。

二次創作においての酢豚娘の性格はいくつも存在するけど、どんなクズに育ったのかしらねぇ。

 

「鈴……? お前、鈴か!?」

 

と、唐突に自称オリ主が馬鹿みたいな反応した。

声がした教室の入り口の方へ振り向くと、茶髪のツインテール娘が立っていた。

 

「えぇ、中国代表候補生、鳳鈴音(ファン・リンイン)よ」

 

ッ………。

少し、驚いたわね……奴は私と同じだ。

てっきり自称オリ主のために転校して来たのかと考えていたが、どうやら違う目的みたいね。それも目の前の男を陥れたい魂胆。

 

「久しぶりだなぁ、鈴!」

 

「えぇ。あんたも相変わらずね……」

 

冷めた視線を送っている。その瞳の奥には好意の欠片もなかった。

一方、自称オリ主くんは気づきもしていない。

ぷ、哀れだね。女を見る目がないにも程があるでしょ。

 

「また会いましょう………秋十」

 

そして奴は踵を返して、自分のクラスへ戻る。

あれがこの世界における鳳鈴音。

もう彼女は……自称オリ主(織斑秋十)に“好き”という感情を抱いていない。

だが……これは使えるかもしれない。

一夏に悟られないよう、私は心の中で微笑む。

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

鈴side

 

放課後、私こと鳳鈴音は、ある女を呼び出す。

私が指定した場所、屋上に先に赴いてから数分後、階段をかける足音が聞こえた。

 

「あの〜、何か私に用でしょうか?」

 

呼び出した女——ディアナ・リェータスが到着した。

? ……何か雰囲気が違うような?

直接会ったことないけど、何か含みのある笑顔というか、貼り付けた気味の悪い紛い物の顔というか。

しかし、ここで気にしても仕方ない。時間も惜しいから素早く用件を伝える。

 

「あんた、秋十の弟を狙ってるんでしょ? ……手伝っても良いわよ? 但し、私に協力してくれればだけど。どうかしら?」

 

「え? えと……どういうことでしょうか?」

 

「だ・か・ら〜、私に協力してくれれば、あんたの恋路に協力してやっても良いって言ってるのよ! 鈍臭い女ねぇ!」

 

態度や素ぶりを見ると不快感を刺激され、屋上の柵に拳をぶつけて怒鳴り散らす。

それに対して「ご、ごめんなさい……?」と天然の解答をした。

ったく、こんな女で大丈夫なのかしら?

でも、こんなイラつく女でも代表候補生、しかも他の女達から距離を置かれてるボッチよ。

私の計画に利用するには良い人材、他にいないわ!

我慢の辛抱よ、鳳鈴音……!

 

「その〜、鳳さんは何が望みなのかしら? あ、私の祖国のデータとか?」

 

「ああ、そんなものじゃないから安心してちょうだい。ただね……ある男を破滅させる手伝いをしてほしいのよ」

 

そう……私から初恋を奪い、心を弄んだあのクズの人生を滅茶苦茶にね!!

 

 

〜〜回想〜〜

 

数年前、私が日本の小学校に転向した時のこと。

私は中国人という理不尽な理由で迫害され続けた。そこへ手を差し伸べてくれたのが……秋十だった。

子供だった私は、その優しさに一目惚れしてしまう。

彼が貶したものは徹底的に貶した。だから当時、あいつが虐めていた実弟への虐めも加担しまくった。

そしてある日、私は彼を驚かせようと身を潜めて、彼の様子を伺った。

その時だ……。

 

『ははは、案外呆気なくいくもんだなぁ〜。一瞬で落ちるなんて、鈴の奴マジでチョロいじゃん』

 

……え?

時が停止したような錯覚になる。

きっと何かの聞き間違いだろう。再び秋十の言葉に耳を傾けるが……。

 

『ん〜、でもな〜。大きくなってもペッタンコなんだよな〜、あの貧乳娘。ま、いっか。俺は貧乳でもいけるタチだし、前菜くらいにはなるだろうからな』

 

……聞き間違いなんかじゃなかった。

記憶の中の秋十は、私のコンプレックスなんて気にしないと言ってくれる、まるで絵に描いた王子様だった。でも、今の秋十は生き生きとした表情で嘲笑っている。

前菜………? 私、が……?

そ、それじゃあ秋十は……最初から私のことを、そんな目で……?

私の気持ちを、弄んで……?

嘘でしょ………? そんな………。

段々と、ゴミ箱のようにグチャグチャだった私の感情は、ある一つの感情へ集約される。

それは……“殺意”。

秋十…秋十………織斑秋十ゥッ!!

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!

いつの日か絶対に……お前を地獄の底へ突き堕としてやる!!!!

 

〜〜〜〜

 

 

 

「……百年の恋も冷めるとはあのことよね。お陰で今は殺意しか抱いてないわ」

 

「ふ〜ん……それで、織斑くんを殺したいと?」

 

もう、ちゃんと人の話を聞いてなかったのかしら? この女。

代表候補生だから利用できると思ったのに、先が不安になってきたわ……。

でも良いわ。いざとなればこの女に罪を擦り付けて、私は知らぬ存ぜぬでいるだけだから。復讐遂行するためには多少の犠牲は付き物だもの。仕方ないもんね。

 

「それで、協力してくれるわよね?」

 

「う〜ん……要するに、織斑くんの地位を更に堕とすようなことをすれば良いんだね? でもそれなら、今話したことを学園中にバラせば良いんじゃないの?」

 

ふん、浅はかな思考なこと。

この女も、アイツ(織斑秋十)と同じね。

所詮この女も意中の男を自分のモノにしたいっていう欲に塗れている能無しってことね。

 

「まだ早いわ。アイツの背後には——【世界最強(織斑千冬)】がいるのよ? アイツの姉なんだから信用できないわ。私が訴えても、実の弟の社会的地位を守ろうと『変な言いがかりをつけるな』とか一蹴りして、うやむやにする違いない。

だから……あの女でも庇いきれない時が来るまで、チャンスを待つのよ」

 

そう……確実にアイツを殺すためにもね。

それまで精々、学園生活を楽しんでいきなさい、織斑秋十。どうせこれから……あんたは獄中で過ごすんだから。

 

「それじゃ、後日詳細を話すからちゃんと読むのよ? 勝手に抜け出そうとしたら……あんたの立場が危うくなるだけだから、逃げ出そうと思わないことね」

 

そう言って私は誰にも知られないように自室に戻る。

その場を去る直前、リェータスが声をかけて止めに入った。

 

「あ、それじゃあ私からも質問したいんだけど……一夏のことをどう思ってるのかしら?」

 

………はぁ?

何を言い出すのかと思えば、本当に何を尋ねてるのかしら?

そもそも誰だっけ?

一夏、一夏………あぁ、秋十の弟のことね。

 

「安心して、どうとでも思ってないわよ。それに……兄貴に隠れてビクビクしていた“腰抜け”のことなんて興味ないわよ」

 

「…………そう」

 

目の前の女はそれだけ呟き、何も聞き返さなかった。

この瞬間、あのチビを貶す発言を、この女の前で言ってしまったことを、私は後悔することになる。

彼女の瞳には明確な殺意が抱いていたのに、これからのことを考えていた私は全然気づかなかった。

この女が……本物の【悪魔】であることも、この時知るよしもなかった。




自分で書いててなんですけど、本当に自称オリ主(秋十)はアホなことしかしないですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 蜥蜴尻尾

マジか!? 評価バーに色がついてる…!
評価してくださった皆様、ありがとうございます。
本編ですが、先に注意事項を言っときます。セカン党の皆さんは見ない方が良いです。


鈴side

 

いよいよ今日、あいつとのクラス対抗戦が始まる。

私のシナリオの詳細は……。

まず対抗戦で私は一切手を抜かず、徹底的にあいつを叩きのめす。

後日、手も足も出せず無残に敗北したと言う噂が学園中に流れ、プライド高いあの男は鬱憤が溜まるはず。

そこへ何食わぬ顔でリェータスが登場し、苛つかせる言葉をかけて秋十の怒りを触発させる。そして一気に怒りが爆発した秋十は襲いかかり、暴力沙汰を引き起こす。

……大まかに言えばこんな感じね。

聞けば秋十は私が来る前、イギリス代表候補生を再起不能にさせたらしい。前科がある以上、いくら織斑千冬の力を持ってしても今回ばかりは庇いきれないに違いない。

アリーナに設置されたカタパルトに脚部を置き、ISが感知すると競技場へと向けて射出される。

しばらく待つと、向こう側のピットからもISを纏った秋十が飛び出してきた。

 

「お互い頑張ろうぜ、鈴!」

 

えぇ、そうね……精々頑張りなさい。

愛想笑いだけ浮かべると、あいつは何も知らずに馬鹿みたいな顔になった。

まったく、少しの間でもあんな馬鹿に好意を持ったのが私の人生における最大の汚点ね。

でも、忌々しい過去も全て消し去る。あのクズを社会的に抹殺して……今度こそ私は自由を手に入れる!

誰にも心を弄ばれることのない、私だけの人生を噛み締めるんだ!

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

ブザー音が鳴り響き、秋十とのクラス対抗戦が始まった。

 

 

 

〜◆〜

 

 

 

対抗戦は激戦だった。

あいつの専用機は意外にも手強かった。

私と同じ近接格闘戦型と思えば機動力が私の『甲龍(シェンロン)』より上。

……だがここでトラブルが発生した。

その途中、上空のバリアーを突き破って地面に砲弾が着弾した。見上げると、そこには正体不明の敵ISが滑空していた。

突然のことで驚愕する私だったが、秋十はこの事態を予測した素振りで対処し始めた。あいつより出遅れた!

あの鈍臭い女は何をやってるのよ!? こんな時こそあんたの出番でしょうが、殺すわよ!?

私の計画がおじゃんになるのも気に喰わない、クズ男の言いなりになるのも釈然としない。それもこれも全部、あのリェータスの所為と八つ当たり気味になる。

その怒りのあまり、冷静さを欠けてしまった。

それのせいなのか、いつもみたいにISを操縦できなかった。操縦のキレが悪くなって、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そんな気持ち悪い感覚だ。

一発、致命的な損傷を喰らってしまい、私のシールドエネルギーは枯渇してゼロになった。

敵ISに撃墜された私は地面に墜落し、体の節々に激痛を感じた。

くっ……どうやら肋骨や足が骨折したようね。

即座にISプライベート通信機であの女に呼びかける。鈍臭いゴミ女だとしても代表候補生。一応あいつも専用機を国から支給されているはずよ。

……って、さっきからコール音鳴らしているのに全然応答しないじゃない! あのバカ何やってるのよ!?

しばらくコール音が続き、ようやく受話器を取る音が聞こえる。

 

「ちょっと遅いじゃないのよ! 私が連絡を寄越したらすぐ受け取れって言ったでしょう!?」

 

『あー、ごめんね鳳さん。今こっちも立て込んでて抜け出すのに時間かかっちゃったの』

 

あんたの都合なんて知ったことじゃないわよ!

と叫んでやりたがったが、今は非常事態。要件を早めに伝える。

 

「なら良いわ。それより、今すぐ私の元まで来なさい。あんたみたいなウスノロでも代表候補生なんだから、専用機ぐらいは持って——」

 

『あちゃ〜、それは無理。実は私の専用機はグレードアップしたいから、昨日本国へ送り返したばかりなの』

 

「はぁっ!? ほんっと使えないわね、あんたは!! だったら訓練機でも生身でも良いからとっとと来なさ——」

 

『は? 何でそんなことしなくちゃいけないの?』

 

え……?

急に何が起こったの? まるで豹変したような、人が変わったみたいな……。

いや、それが本性なのね。

私の前だけ鈍臭いウスノロ女を演じ切って本性を隠していたのね! 道理でやけにスムーズに事が運んだと思ったわ!

 

「ちょっと待ちなさいよ! あんた裏切る気!? 織斑一夏を手に入れなくても良いの!?」

 

『“裏切る”なんて心外だね〜。一体、何時誰が君と同盟を組んだと約束したのかな? それに君がいなくても一夏は手に入れられるもん』

 

音声のみの通信なので顔は見えないが、きっと憎たらしく笑ってるに違いない! 私としたことが、あのクズ男を早く陥れたいばっかりに、完全な誤算だったわ!

でも、あんたがそう来るなら、こっちだって考えがあるわよ。

秋十の実姉——織斑千冬の力を借りるのは非常に癪だけど、なりふり構ってられないわ!

 

「……そう。あんたが今すぐ来ないなら、今すぐここに駆け付けてくれる教師達にあんたの本性を訴えてやろうじゃないの!! 本国に送り返されて牢獄に入れられたくなければ今すぐ私の元に来なさい! そして土下座して二度と私に逆らわないと——」

 

『あ、そうそう。言い忘れていたけど……今扉が全部ロックされて、誰も君を救助できないらしいよ? しかもシステムが書き換えられているから、教師はもちろん、織斑先生ですら外に出られないんだって』

 

「……え、嘘」

 

途中で遮って言ってくるリェータスの言葉に、私は唖然としてしまう。

誰も、織斑千冬ですら、救助に来れない……?

それじゃあ……絶体絶命ってわけ……?

……ち、違う、こんなの私の考えた計画とは全然違う。こんなの、私の望んだ結末じゃないっ……!

 

「う、嘘でしょ? タチの悪い冗談は止めてよ……だって、これじゃあ本当に、私が死んでしまうじゃない?」

 

『うん、そうだよ。君はここで死ぬ……私の予定通りだよ』

 

え……あんたの、予定通り?

この女は初対面の時から、私の命を狙っていたの? 中国の代表候補生である私を蹴落とすために。

通信越しで『それに』と言い続ける。

 

『君も言ってたでしょ? 織斑秋十に一生の恥をかかせたいと。だったら………幼馴染の君を無駄死にさせた、と不評された方がよっぽど効果覿面でしょ』

 

……は、はぁ!?

あのクズに一生の恥をかかせるため、私の命を犠牲にするですって!?

ふざけるな! 私はあのクズを陥れて、本物の勝者になるのよ! もう両親の勝手な都合で異国に渡ることもない、誰にも私の心を弄ばれることのない、今度こそ本物の自由を手に入れるのよ!!

こんなところで死んでたまるものか!!

 

『そもそも……私の一夏を虐めた時点で、あんたは最初から生きることなんて許されてないのよ。

あの世への切符は予約しておいたから後は自分で逝ってね♪』

 

プツン———とアイツは通信を切った。

じょ、冗談じゃないわよ!? こんなところで死ぬなんて、しかもあのクズ男に関わることによって!?

こんなこと……ま、待ってよ! お願い、誰か! 誰でも良いから助けて!! 何でもする、まだ誰にもあげたことない処女も捧げるから、助けてください!! まだ私は死にたくない! 今度こそ自由になりたいのに! 誰にも制限されることのない自由を、私は欲しかっただけなのにっ!!

……あ……巨大な鉄骨が降って来た。

足が骨折しているから体を動かすこともできない。秋十は未登録の敵ISを相手にして苦戦している。誰も私を救助に行けないのだと、嫌でも分かってしまう。

もう自分の死から逃れる術はない。もう死ぬという現実に目を背けることができない。

………どうして、こうなったのかしら?

親の都合で日本に移住して、生まれが違うという理由で差別され、クズ男に良いように利用されて乙女心をぶち壊されて、中国に戻ってからは嫌々でISの訓練を受けられて代表候補生になって……。

思い返せば、まったく幸せを感じられなかったわね。

本当……乾いた笑みしか出ない。

 

「……ア、アハ………私、何処で間違えたんだっけ………」

 

 

 

———ドシャアッッッ!!!!!

 

 

 

——中国娘は最期まで理解できずにいた。無自覚で【天使】の少年を嘲笑ったために【悪魔】の少女の怒りを買ってしまったことが死因だということに。

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

一夏side

 

「ど、どうしよう……!?」

 

僕は狼狽を隠せずにいる。

さっきまで秋十兄さんと鳳鈴音との対抗戦で盛り上がっていた観客席は、突如現れた謎のISによって阿鼻叫喚の巷と化した。

至るところから悲鳴や喚き声が聞こえ、避難活動は満足に進んでいない。

こんな時こそ、専用ISを持っている()()()が皆を救わないといけないのに。

……専用機が反応してくれない。まるで機能が全て停止したかのような。

どうしよう、どうしよう!?

もしかして僕は……また見捨てられるの!?

すると僕の不安をかき消すように、ディアナさんが背後から僕を抱きしめてきた。姿が見当たらなかったから既に避難していたのかと思ってた。

 

「大丈夫。一夏がたとえどんな存在でも……私はず〜っと味方だよ♪ この気持ちは、織斑先生より本物なんだからね」

 

そう言って微笑んでくれる。

魅了されそうな魔女の笑み、だけど僕にはどうしても【悪魔(サキュバス)】に見えてしょうがない。

………でも、僕の不安を大きく塗り潰すように安堵が押し寄せてくる。

こんなにも僕は彼女に心を許してしまったんだ。実の家族である秋十兄さんや千冬姉さんよりも、ずっと深い安らぎを感じたんだ。

だから僕は……彼女から離れられないと自覚してしまう。

巣離れしてしまえば、幸せの青い鳥が逃げてしまえば……残された巣はボロボロに朽ちてしまうから。

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

ディアナside

 

ここで一つ、私は野望を達成した。一夏の一番の信用を得ることだ。

一夏には可哀想だったけど、万が一にも心優しい一夏に戦闘を巻き込ませるわけにはいかない。

だから敢えて私の“特典”を駆使して、一夏の専用機をしばらくの間無力化させた。ちょうどこの間のダサ男から奪った“機械を操れる”能力だ。これで一夏のISをしばらくの間停止させた。

ごめんね一夏、カッコいい活躍を奪ってしまって。でも誰かを助けるなんてことすれば、その牝豚が発情して君は狙われるかもしれない。まぁ、そんなことをすれば私が黙ってないんだけどね。

でも、この埋め合わせはいくらでもするからね……主に身体で。唇でも涎でも汗でも血でも骨でも眼球でも歯でも……何でも要求して構わないからね?

だって……私の身体は隅から隅まで全部一夏のものだもん♡ むしろ好きにして!!

あ、そうそう。あの口煩いセカンドは死んだ。いなくなって清々するわ。やったね♪

セカンドの頭上に鉄骨が降って来て即死だったんだって……まぁ、その鉄骨も私が用意したものだけど。

その場にいた生徒はもちろん、死骸を回収に来た教職員も吐き気を催されたらしい。まぁ無理はないかもね、何せ……割れたガラス瓶みたいに頭蓋骨がバラバラの破片と化して脳髄や神経が丸見えだったからね。これは元が女だったの? と誰もが疑う感じ。

何はともあれ、これで邪魔者(原作ヒロイン)がまた一人消えた。

あの敵ISは結局、駆けつけた教師達が倒したから、自称オリ主くんは、また盛大に落ち込んだみたいだね。

でも案外、次はフランス娘やチビドイツ娘とかに期待を寄せてるかもしれないね。

でも……できるかなぁ〜〜〜?

だって………もうこの世界(物語)にあの二人は存在しないからね♪




自分で書いてなんですけど……本当に主人公(女)が外道!! っていうか怖いよ!?
こんな奴に狙われる一夏(男の娘)が可哀想スギィッ!!

流れで鈴は救済なしの死亡となってしまいました。
セカン党や貧乳ファンの皆様には本当に申し訳ないです。
いやマジで!!! すんまっせーーーーーん!!(土下座!!!)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5.5話 仏と独の救済


シャルロ党とブラックラビッ党の皆様には申し訳ありませんが、二人はこの話にしか登場しません。


〇〇side

 

私は、“あの人”に救われた。

二年前に母さんを失って、顔も知らなかった父に引き取られて、偶々見つかったIS適性でデュノア社のIS開発の道具として生かされてきた。社長である実父の夫人には会った途端「この泥棒猫!」と強烈な平手打ちを喰らった。

居場所なんてなかった。窮屈な場所に連れて来られただけだった。

世界初の男が現れて、デュノア社の宣伝と男性操縦者のISデータを盗むため、『シャルル・デュノア』なんて偽名を名乗らなければならなかった。

……そこへ“あの人”が救ってくれた。

突然どこからともなく私の前に現れ、彼女に「自由を得たいか?」と問われる。

少し怪しかったが、デュノア社という鳥籠に囚われて自由に飢えていた私は、藁にも縋り付く思いで彼女に助けを求めた。

その際、私はたった一つの条件を焚きつけられる。

 

『今後、二度と世界中のあらゆる最新機器に関わろうとするな』

 

意味不明だったが、彼女の瞳は約束を違えば殺すと物語っていた。

それに、“デュノア”から解放されて自由になれるなら、多少不自由になろうとも構わない。

だから私は【悪魔】の囁きに耳を傾けた。

そして数日後、【悪魔】は行動を起こした。実父の会社——デュノア社を壊滅させたのだ。

デュノア社の闇情報をネットで全世界に向けて拡散・漏洩した。その日の新聞の一面を飾ることになり、ニュースでもこれに関する情報ばかり報道された。

突如として世界中に流出されたデュノア社の不正行為やスキャンダル。

そして芋蔓式にフランス政府の官僚や政治家達の賄賂や政治資金の横領……ありとあらゆる不正行為が発覚し、ネットを通じて公の場に曝された。

フランスを根拠地とする大手IS企業のデュノア社は一日にして大混乱に陥った。

一気に信用がガタ落ちとなったデュノア社は株の大暴落から始まり、会社や工場にもマスコミや講義の電話が殺到と、様々な困難に苛まれる。

デュノア社の社長や社長夫人、つまり私の父とその妻はフランス政府に私の身柄を明け渡して、全ての責任を私になすり付けようと企てた。

でも、それも無駄に終わる。

元社長の実子である『シャルル・デュノア』は事故死という扱いになって、既にデュノアの戸籍から除籍されていた。だから私は“デュノア”とはもう何の繋がりも無い。故にデュノア社の被害が私にも及ぶ心配もない。

それから数日経たないうちにデュノア社は倒産した。尚、不正行為が明るみにされた官僚や政治家は一人残らず逮捕され、元社長も夫人と不正行為を働いたため同じくフランス警察に逮捕されてしまった。

こうして……私は自由を得たのだ。

現代社会において、最新機器のない不自由な生活を送らなければならないことを余儀なくされたけど、自分の名前を捨てるよりはマシだと思うしかない。お母さんがくれた『シャルロット』という名前を捨てるよりも……。

デュノア社が崩壊した後、私はすぐにフランスの辺境地に移住した。最新の電子機器が一切ない田舎。強いて存在する電子機器といったら年代物の古いラジオぐらいだ。

そこである老夫婦が農業を経営しているのだけれど、私は住み込みで農家の見習いとして働いている。前と比べれば骨が折れる仕事だけど、お母さんと暮らした環境に似ているので慣れれば都だ。

勤め先である老夫婦は、いつも私に優しく指導してくれる。本当の孫みたいに接してくれるからとても居心地良い。デュノア社にいた頃なんかとは大違いだ。

……こんな生活を送れるのも、“あの人”の囁きに耳を傾けたからだと思う。

何の対価を支払ったのか分からないけど、この生活をこれからも先、堪能していくつもりだ。

ありがとうね………【悪魔】さん。

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

〇〇side

 

私は、生まれた時から『人形』だった。

自分は誰なのか、生きている価値はあるのか、存在意義は何なのか……。

軍事目的のため鉄の子宮から生まれ、命じられるがままに軍人として生かされてきた。

だが……突然現れた身元不明のIS『サイレント・ゼフィルス』の操縦者に、私は完膚なきまで敗北した。開発されたドイツの最新兵であるAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を使用しても、奴に全く歯が立たなかった。

結果、私は再び『役立たず』の烙印を刻まれ、ドイツ軍から永久追放された。

軍こそが全てだった私は絶望に陥り、生き甲斐を失ってしまう。

知り合いもいない世界に一人放り出されて、当てもなく彷徨っていた。

そんな時……ある男に出会った。この男が、後に私の“夫”となった者。

私が軍に捨てられた『人形』と知っても、夫は顔色を変えず一人の『人間』と受け入れてくれた。この時の私は“愛”と言うものを知らなかったが、無意識のうちにこの男と人生を添い遂げたいと願った。

聞けば夫は“テンセイシャ”という者の一人だったらしい。

私もよく分からなかったが、私達の世界は彼らで言うと架空の話らしく、この世界の未来——つまり私達の未来や過去を知り尽くしているという。聞くだけで何とも不気味な人種だと思った。

だが夫は、それと関係なく私を救いたかったと語った。曰く、プロポーズのつもりだったらしい。

以前の私ならお人好しだと蔑むところだろうが、その言葉を聞いた私は顔を赤くしながら承諾した。

こういう経緯があって、私は人生を添い遂げられる夫と会うことができ、女としての幸せを掴み取ることができた。

今はドイツの辺境の地に引っ越して夫と暮らしている。軍には無かった施設や建物がたくさんあり、当時の私にはどれも目新しいものばかりだった。

夫はそこのある喫茶店の店長をしている。私も妻として、そして店員として、心身共に夫を支えて支えられて暮らしている。

決して贅沢とは言えないが、二人でいられること以上に幸せなことはないだろう。いや、()()()()()()()()()

まだ内緒だが、夫が聞いたら驚きながら泣いて喜ぶだろう。大袈裟なリアクションをして嬉々とする夫の姿を想像して、私は苦笑しながら腹部を優しく撫でる。

これも全て、あの身元不明のIS操縦者のお陰でもあるな。

……そう言えば、あの『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が校閲な笑みを浮かべながら言っていたな。

確か………。

 

『お姉様、これが貴女への愛です……!』

 

思い返すと嘗ての自分を思い出す……偽りの虚像(ブリュンヒルデ)を崇めていた頃の自分を。何と愚かだったのだろうな。

織斑教官が傍にいたから強くなれた気になった。だがそれは所詮張りぼてに過ぎなかった。教官に縋り付くだけで、私自身が全く成長していなかった。

それをドイツ軍から締め出されたことで気付いたのだ。

嘗て軍人としての強さを欲していた私が、軍人の生き方を捨てたことで以前より強くなった。何とも皮肉な話だ……。

昔はあのIS操縦者に殺意に近い憎悪を抱いていたが、今は感謝の念を抱いている。そして、私を捨てたドイツ軍にもだ。

そうであろう? ドイツ軍から追放されなければ、私はこの幸せを勝ち取れなかったからな。

ドイツ軍人としての自尊心(プライド)を破壊し、軍人としての誇りを捨てさせてくれて…………ありがとう。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

——【悪魔】の撒き散らした流れは、本来の世界を崩壊させた。

 

 

 

「クソクソクソッ!! 何でシャルとラウラが転校して来ねえんだよ!? 俺が主人公なんだぞっ!? 何で俺の思い通りにならねえんだよ!!

クソがぁああああああああああ!!!!」

 

 

 

———本来の世界など既に消え去ったことに、道化者は気づきもしない。

 

 

 

「う〜ん、マドカが上手く事を運んでくれたし、思ったより早く終わっちゃったね。

どうしようかな〜? ……もうここは思い切って、自称オリ主くんとモッピーを殺っちゃおっかな?」

 

 

 

——そして物語は、いよいよ終章(クライマックス)を迎える。

 




と、いうわけで二人は救済ルートです。
書いた自分が言うのも何ですけど……良かったよぉ〜!!(号泣)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 道化者の最期

自称オリ主が殺される話です。

ファース党の方は見ない方が宜しいです。何故か、とは言いません。ネタバレになってしまうので……。


ディアナside

 

深夜、私は一夏が眠り込んだのを確認して、見回りの教員に遭遇しないように自室を出た。

私はある人物を呼び出したのだ。メールで『呼び出しに応じないと、お前が秘密にしていることをバラすぞ?』と脅迫状を送ってやった。

指定した場所は人通りが少ない二階の廊下。そこで一つの人影が見えた。

 

「やっと来たかよ、遅ぇだろうが……! ブチ犯して殺すぞ……!?」

 

充血した目で睨みつけながら苛立ちを隠せない男、織斑秋十。

いちいち偉そうにしやがって、わざわざお前みたいなゴミクズに構うために私は一夏といられる時間を削って来たのよ。なのに上から目線で見下しやがって。

内心で渦巻く嫌悪や殺意を漏らさないように、他人行儀の笑みを見せながら尋ねる。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……転生者でしょ? キミ」

 

「ッ——!? ってことは、やっぱりかよ……テメェのせいで……」

 

納得した顔をするクズ男。

へぇ〜……薄々私が同種族(転生者)であることは予感してたんだ。女のことしか考えてない空っぽの頭かと思っていたけど、意外だね。

ボソボソ小言を呟いていたクズ男は、口から汚い唾を撒き散らしながら声を荒げた。

 

「……テメェの、テメェのせいで、()のセシリアや鈴が死んじまっただろうが! たかがモブ女に転生したビッチの癖によ!!」

 

うっわ〜、もう()()とか言ってるよコイツ。

発言がすっかり女の敵だね。

こんなクズが少しでも一夏の血縁者だと思うと苛立ちを隠せないよ。

一夏はそんじょそこらの男とはスケールが違うの。この世で最も尊い史上最高の宝物なのよ。どこぞの偉そうな爺や婆が守ってる小汚い壺や落書き絵なんか、一夏と比べればゴミに匹敵するわ。

それと、聞けばコイツが一夏を虐めていた主犯だったらしいじゃない。

私の【天使】を泣かせるゴミなんて、生きる価値すら無い。だったら殺しても良いよね? 答えは聞かないけど。

 

「はいはい。それは残念だったわね……それはそうと、篠ノ之さんのことキミはどう思ってるの?」

 

少なくとも、モッピーがクズ男を庇ってる現場を幾度か見たんだよね。

ヒロインが一人でも自分の女になってくれるんなら良かったんじゃないの?

……でも一夏の聞いた話じゃあ、二人して一夏を虐めていたんだってね? だったら生かしておくわけにはいかない。

と、話は大幅にズレちゃったけど、私はクズ男の方へ視線をやる。

するとクズ男は肩をプルプル震わせながら言った。

 

「箒は……俺の性処理道具に決まってんだろ」

 

…………はい?

私の聞き間違いじゃなければこの屑、自分を慕ってくれる女を道具扱いしなかった?

流石の予想外の返答にしばらくポカンとしてしまう私。

そんな私に痺れを切らしたのか、クズ男は大声で本音を語り出す。

 

「だってよ、あの女は身体がエロくて胸がデカいだけで、中身は融通の利かないただの剣バカだろうが! 原作だってロクな活躍しなかった暴力女のくせにメインヒロイン面しやがって! 俺にとっちゃあ性処理道具でしかねぇんだよ!! アイツの近くにいるだけで、こっちは鳥肌が立ったんだよ!!

シャルやラウラや刀奈や簪が本命なのに……あのクズ女だけしか攻略できないなんて、割に合わないじゃねえかよっ!! 俺こそが主人公なのによっ!!」

 

ゼー、ハー、と言いたいこと言って肩で呼吸するクズ男。

ここまでクズだとはね……まぁ私も原作を読んでいたから、理解できなくもないけどね。そう言われても仕方ないキャラだし。

でも、ここまで本性を露わにして怒鳴り散らすなんてね。少しは静かにしようとかは考えないのかな? 今夜中だし。

でもこの豹変っぷり、ちょっとツボなんですけど……!

笑いそうになるのを堪える私の様子に気づかないまま、クズ男は言い続ける。

 

「そうさ。あの絞りカスを蹴落として箒や鈴を攻略して、このまま上手く行っていれば今頃セシリアもシャルもラウラも俺のモノにできたのに……お前が現れてからメチャクチャになったんだよ!! お前は本当に……お前は何だよ!?」

 

あぁ? 何逆ギレしてるのコイツ?

強いて言うなら……恋する乙女よ。(一夏限定の)

ってか、私がいたから原作ヒロインをモノにできなかったと言いたいのか?

違うだろ。オリ主(自称がつく)という立場に酔い痴れて、全部が自分の思い通りになると勘違いして、先のことを考えなかったお前が悪いだけだろ。全部お前が脳無しだったからなった結果なんだよ。

あの脳無しの中では酢豚女はヒロインにできたと勘違いしてるみたいだね。ま、本人が知らないだけなんだけどね。

そんなザル思考だったことも散々な結果になった理由の一つじゃないの?

 

「キミは話さなきゃいけない人がいるんじゃないのかしら? ……ねぇ、もう出ても良いよ」

 

「は?」

 

誰もいないはずの廊下。私は暗闇に向けて声をかける。

クズ男は素っ頓狂な声を上げて、姿を見せる人影の方を凝視する。

私の声に呼応して暗闇から現れたのは……。

 

「ほ、ほほ……箒っ……!?」

 

腰まで届く長い黒髪を後ろに束ねてポニーテールにした女、篠ノ之箒、もといモップ女。

二人っきりで話がしたいというのは嘘。クズ男の本音を語らせたのも、このシュチュエーションを作り上げるための布石に過ぎない。

 

「……秋、十ッ」

 

モップ女は今にも泣きそうな顔をしていた。否、泣くどころか精神が崩壊寸前だろう。自分が好きだった男は、自分のことを性処理の対象としか見ていなかったんだから。

クズ男はようやく自分が墓穴を掘ってしまい不味い状況に陥ったと理解し、顔を真っ青に染める。

モップは涙腺崩壊寸前の視線をクズ男に向けながら呟く。

 

「お、お前は……」

 

「ま、待てよ箒! これは違うんだ! ……あ、あの女に言われるように脅されたんだよ! お、俺を信じてくれるよな?」

 

「嘘をつくな!!」

 

「ッ!? な……!?」

 

突然の怒号にクズ男は戸惑いを隠せない。おやおや、モッピーさんも意外と啖呵を切ったね〜。

 

「……だって、あんなにも顔が生き生きしていたじゃないか! 何年、お前のことを考えていたと思ってるんだ!?」

 

まぁ誰もがドン引きレベルの本性剥き出しだったからね。

するとモッピーは懐に手を忍ばせて何かを取り出す。

黒いグリップの鋭利な十センチある刃物……サバイバルにも使用されるジャックナイフ。

何故、モップ女がそんなものを持っているか?

答えは簡単………私がプレゼントしたからだ。

クズ男を呼び出す前、私はモップを呼び出してある計画を持ちかけた。

 

『本当に想い人が貴女のことを愛してくれてるか、試してみない?』

 

暴力ゲスインらしく癇癪を上げて揉め事を起こすかと想定していた。もしそうなったら、他の転生者から奪った精神操作系の"特典"で操り人形にしようかな、と対策を練っていた。

しかし実際、モップの方もクズ男を不審に思うところがあったらしく、渋い表情をしながらも素直に命令に従ったのだ。

このことに関しては流石の私でも唖然としたよ。創作物で散々陰口を叩き込まれたクズインを墜とせないなんて、どんだけアイツは自称オリ主なんだ? と。

兎にも角にも、モップはクズ男の本心を知ってしまった。クズ男は女どころか人としても見ていなかったことを、鬱陶しいとすら思われていたという事実を。

ナイフのグリップを握り、ゆっくりと少しずつクズ男と距離を縮める。モップ女の顔は憎しみと哀しみで醜く歪んでおり、完全にヒロインがしちゃいけない顔をしていた。

ナイフの刃先を向けられたクズ男は焦りを隠せない。

 

「秋、十……!!」

 

「ッ!? ……ま、待て箒! 話し合おう!! だから落ち着いて——」

 

「秋十ゥゥウウウウウウッ!!!!」

 

汗をダラダラ流しながら説得するクズ男。しかしモッピーはクズ男の制止に止まらることなく駆け出す。

獣のような唸り声を上げながら、モッピーは勢いつけてクズ男の身体を押し倒した。

上に乗った状態になると、両手でナイフを握り締め……クズ男の胸に突き刺す。

驚きの表情でモッピーを見やって、クズ男の口からガマガエルのような醜い声が漏れた。

 

「アガッ!? ま、待ってくれ箒……俺が悪かっ——げぅ!?」

 

「私はっ! お前のために頑張ったのに! 私の人生を弄んだISに入ったり! 勉強を頑張った! お前の望むことを何度もやった! 私の純潔も捧げたんだぞ!?」

 

えぇ〜? モッピーさん、そのクズ男に処女をあげちゃったのか。

男を見る目が無さすぎでしょ。スクール○イズのヒロインじゃあるまいし。

ヒステリックの声を上げながらモップはナイフの刀身を抜き、胸や腹を何度も突き刺す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。

口から血を零し始めたクズ男は流石にヤバいと本能的に感じたのか、必死に抵抗してISを展開しようとする。

けど、クズ男の持つ専用IS、もといクズ男の“特典”は何の反応も示さなかった。私の持つ“特典や能力を奪う特典”で無力化させたからだ。

 

「止め、てっ……ごめん、なさいッ……もう、許し……!!」

 

「お前は! お前という男は! 浮気者! ろくでなし! 淫魔! 甲斐性無し! 人でなし!!」

 

羽虫のようなか細い声で泣き言を喘ぐクズ男。あの空っぽな頭には『ハーレム』なんて阿保な行為はこれっぽちも考えてないんだろうな。女を性処理道具として見ていなかったことに後悔してるに違いない。いや、逆にこれでまだ女を犯したいとか考えてるなら、ある意味尊敬に値するけどね?

まぁ、そんなクズ男の声が侍気取りのモップ女に伝わるわけもない。次々と罵倒を撒き散らしながら一心不乱に刺し続ける。

クズ男も抵抗するが……力尽きて両腕が地面に垂れ落ちる。

 

「か、……ふっ…………」

 

意識が朦朧とし、口から血と息を漏らした後、そのままピクリとも動かなくなった。

あ、死んじゃった? 意外に持ち堪えた方じゃないのかな? 特典とか能力が無い奴で言えば持ち堪えた方だよね。

しかし、モップは尚も刺し続けていた。

彼女は無駄な行為をしていることに気付かないのかね? そんなことをしても意味がないのだと。

ま、気の済むようにすれば良いんじゃない?

 

「お前は! お前は! お前は! ………あれ? あ、秋十?」

 

合計三十回ぐらい刺したところでモップは我に還った。

自分が下に敷いているのは、腹や胸にいくつもの刺し傷が空いた血塗れのクズ男。最早それは只の死体に過ぎない。

信じられないという表情を浮かべ、モップは自分の姿を見やる。クズ男の返り血を浴びて真っ赤なマダラ模様が付いた制服、真っ赤に染まった両手、その手で握り締めていた血塗れのナイフ。

誰が見ても、モップがクズ男を殺したのは明白だった。

 

「う、嘘だっ!? こんなの! だって……貴様が言ったじゃないか!? 秋十は死なないって、少し脅してやろうって、お前が大丈夫だって言っただろ!!」

 

そう言って、慌てた私を指差す。

ハァ……認めたくない事実は他人に押し付けるのね。自分で引き起こした面倒ごとは自分で対処しましょうね。

そんなんだからお前は頻繁にアンチ対象にされてボロクソ言われるのよ。

 

「あのねぇ……そんなの嘘に決まってるでしょ? 大体、殺人紛いの行為を提案される時点で断るという選択肢は思いつかなかったの?」

 

それに、私は別に『クズ男の本音を聞こう』と言っただけであって、別に『クズ男を殺せ』とは言ってないじゃん。

え? ナイフ? それはもちろんあれだよ、護身用。ほら、あのプライドだけ高いクズ男が逆ギレして襲って来たら大変でしょ。

モップの方に視線をやると、モップの顔はどんどん青ざめていく。

もしかして……まだ自分がクズ男を殺したことを認めたくないの?

しょうがない、お手伝いしてあげようかしらね♪

 

「兎に角……これで篠ノ之さんは自由の身だね。織斑秋十を殺したんだから。その手でね」

 

「あぁっ……アァァアアアアアアアアッ!!!」

 

血だらけになった両手を見て、モップは天井を仰ぎながら咽び泣く。

本人に殺すつもりは無かったのかもしれないし、懲らしめる程度だったのかもしれない。だが、今更何を言っても手遅れだ。

すると糸の切れた操り人形みたいに、モップの体がビクンッ! と跳ね上がる。

 

「あ、そうか……これは夢なんだ……アハハハ…ただの悪夢に違いない。早く、早く目を覚まさなきゃ……!!」

 

モップ女は狂ったように笑い出す。両瞳の焦点が定まってなかった。

ありゃりゃ〜、頭のネジが本格的に外れちゃったみたいだね。

完全に頭が狂ったモップは両手で掴み、ナイフの先を首へ突きつける。

 

「現実で、秋十に会わなくちゃ……!!」

 

自分が殺したと言う事実から目を逸らす様子のまま、モップは刃を自分の喉に突き刺す。

切れた喉から大量出血し、口から「うぐ……!?」と声を漏らして大量の血を吐き出しながら地面に倒れ込む。

目を見開きながらモップの体は痙攣している。数秒も経たないうちに……静かに両瞼を閉じた。もう二度とその瞳が開くことはない。

丁度、その倒れ込んだ隣にクズ男の体があった。

死んでも仲が良いんだね〜。天国か地獄か知らないけど、あの世でも仲良くなれると良いね♪

……主に肉体関係とかでかな? 神様が許してくれるならだけど。あ、因みに神様はあのクソ爺。

 

「……さようなら、一夏を孤立させる要因を作ってくれてありがとう。 自称オリ主くん(織斑秋十)モッピーさん(篠ノ之箒)

 

哀れで救いようもない君達と違って、私は私だけの【天使】を手に入れてみせるからね。

()()()()()()をそのまま放置にしたまま、私は一夏との愛の巣に向けて踵を返した。

それじゃ、後始末をよろしくね♪ ()()()()()()

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

○◯side

 

彼女、ディアナ・リェータスの一部始終を私は見ているだけだった。

暗部である更識家の党首として、学園最強として、彼女の行動を報告するように織斑先生から指令を下された。

だが、私は彼女にとって知られたくない情報だけを隠蔽してした。

何故、私がそんなテロリストに協力するような行為をするのか。

彼女との決闘に負けたから? いいえ、彼女と私は一度も闘ったこともないわ。

それじゃあ更識家が脅されたから? ……少し惜しいわ。確かに“更識”を脅されたから。

答えは……私の大事な妹、簪ちゃんを出汁にされたからよ。

何食わぬ顔であの女はいきなり私の携帯にハッキングし、警告と呼べるメッセージを焚き付けて来た。

あの天災科学者を除けば、簡単に侵入できるなんてあり得ない。なのに彼女は平然とそれをやってのけた。

この時点で、彼女の背後には『亡国企業』がいるだけでなく、もっと別の何か強大な力があるのだと知った。

もし、彼女の機嫌を損なわせてしまえば、その力で『ロシア代表の姉の力で日本代表候補生になれた』なんて悪い噂が流れたら、簪ちゃんに矛先が向いてしまう!

それだけは回避しなくてはならない。例え簪ちゃんから一生口を聞いてくれなくなるとしても、大事な妹の未来を守るためなら私の身が汚れるなんて構わない。

私は彼女の要求に従うことにした。

彼女の要求はただ一つ。

 

『私が何をしようとも、ただ見ているだけにしてね。そしたら貴女の妹さんの未来は安泰だよ♪』

 

年相応の女の子らしくウインクしながら脅迫紛いの言葉を焚き付けてきた。

私は今も、あの女は人の皮を被った【悪魔】にしか見えない。

【悪魔】に(人質)を取られた【人間】は命令通りに動くしかない。

だから私は……あの二人を見捨てる選択をしてしまった。

 

「ごめん、なさい……ごめんなさいッ……!!」

 

涙を流しながら喉から逆上してくる嗚咽音を押し殺した。彼女の犠牲者になった二人に謝ることだけが、今の私の頭を埋め尽くしてしまう。

そうでもしないと自責の念で胸が張り裂けそうになる。

ここにはいないけど、今頃あの【悪魔】は邪悪な笑みを浮かべているのでしょう。

私は…………なんと無力だろう。

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

●●side

 

とある国、とある場所のとある一室。

私以外は誰にも知られることもないトップシークレットの場所。

宇宙で起動中の衛生をハッキングして、箒ちゃんとクズ男のやり取りを私はモニター越しでずっと凝視していた。

大事な箒ちゃんを性的に食い散らかしたクズ野郎には制裁を下すつもりでいた。例えちーちゃんの弟だとしても関係無い、まず彼奴の身体を適当にボコボコにしてから薄汚い金の玉をすり潰して、その玉をミンチにして乾燥して粉状にして飲ませようと思っていた。まぁこれでも序の口だけど。

もう少し先の話……のつもりが、私は後悔することになる。どうしてもっと早く手を打たなかったんだろう、と。

 

「箒、ちゃんっ……!!」

 

私の大事な妹、箒ちゃんが自殺してしまった!

どうして、どうしてなの!?

私の所為なの……!?

私が、箒ちゃんの居場所を奪ってしまったからなの……!?

私はただ、ISの力を証明したくて、宇宙への高活動可能なのを実証させたかっただけなのに。皆に、私の発明を認めてもらいたかっただけなのに……どうしてこうなったんだろう?

『何で』と言う単語が私の頭の中で何度も過ぎる。

そして、ある一つの結論に至っちゃった。

 

「嗚呼、そっか………」

 

分かっちゃった、箒ちゃんが死んで、私の考えが認められなかった原因が……。

 

「………彼奴等(セカイ)が悪いんだ」

 

あのプライドしかない偉そうな爺や婆が私の才能を認めなかったから。欲が丸見えなクズ共がゴキブリみたいに群がって利用したから。誰も、私のことを理解しようとしなかったからだ……あまりにも彼奴らが底辺過ぎたんだ。

この腐ったセカイに生きる彼奴らが箒ちゃんを死に追いやったんだ。

だったら………。

 

「こんなセカイ……もういらないよね」

 

そう呟き、キーボードを素早くタッチする。

クーちゃんは既にここから追い出してちーちゃんのところへ送った。数日後にはちーちゃんの元へ辿り着くだろう。

ごめんね、ちーちゃん。ちーちゃんに責任を押し付ける形になって。でも、あの娘のことを頼んだよ。私の唯一の良心だから。

クーちゃんも、こんなダメな母親でごめんね。でも大丈夫、クーちゃんでも暮らせる世の中に直してみせるから。良い美人さんになってね、それが私の最後のお願い。

それから………織斑一夏くん。

今更言うことじゃないかもしれないけど、私の所業で今まで苦しませてごめんね。

あのクズ男より劣っていたから興味も示さなかったけど、クーちゃんと生活して親心が芽生え始めた頃から、君の苦しみが理解できた。君は一人で寂しかったんだよね。

謝って済む問題じゃないし、ほとんど接点の無い私が言えた義理じゃないけど、君の未来が幸せに満ちることを祈ってるよ。

……ごめんね、箒ちゃん。何もかも奪ってしまって。

私は姉失格以前に、人間として失格だ。本質はあのクズ野郎と尺も変わらない。最低なクズ女だ。

償いはできないけど、それに近いことならできるよ。

だから……待っててね。私もすぐそっちへ逝くから……。

 

 

 

——数日後、日本を除く世界中の凡ゆる都市国家に、核ミサイルが落下する。

IS操縦者が対応するはずが、束が開発したISキャンセラーで使用不可になり、対処も間に合わず、各国家は爆炎に包まれてしまう。

以降数百年間、その都市は緑が咲かない、死の大陸になってしまうのだった……。

 




自称オリ主は女に殺されるという形で終わりました。人を蹴落としてハーレムを築こうなんて考えた、愚かな男の末路です。
箒は精神崩壊を起こして自殺しました。(哀れな……)
束は改心して自殺したという最期を迎えました。因みにディアナのこと何とも思っていません。精々一夏の同居人ぐらいしか認識していないので、ディアナの特殊能力を知ることなく退場しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 誓いの鐘


やまや党の皆様は絶対に閲覧しないで下さい! トラウマになるかもしれませんから!


マドカside

 

「エム……貴女、自分が何をしたのか分かってるのかしら?」

 

現在、イギリスから強奪したIS『サイレント・ゼフィルス』を纏った私は地面に膝をついた状態で、IS『ゴールデン・ドーン』を身に纏ったスコールに銃口を突き付けられている。

ディアナお姉様の命に従って『亡国企業』を壊滅させよと行動を起こした。私がお姉様の使いと知らず油断しきってる組織本部に入り込み、そこでISを展開して戦闘員や非戦闘員に限らず目の前の人間は殺し尽くした。逃げ惑う奴も、命乞いする奴も一人残らずだ。

そこへ血相を変えたオータムとスコールがやって来て交戦する。

流石に組織内でも有力な二人と纏めて戦った私は歯が立たず、私のISが大破した。対してスコールは部分展開したISの銃口を残して、いつでも私の眉間に引き金を引ける準備をしていた。

 

「泳がせてあげたけど、流石においたが過ぎたわね。覚悟はできてるかしら? 二度と陽の光を拝められないかもしれないわよ」

 

表情こそ笑っているが、瞳に込められた殺意の視線が私の体を射抜く。

体内にナノマシンを仕掛けられた私は自由を制限されていた。だがお姉様の神々しい力で私は解放された。故にスコールに従う理由などない。

一方、スコールの隣にいるオータムは馬鹿みたいに怒りを隠せない。ゴミを見るような視線を向けてながら苛立ち気味でスコールに抗議する。

 

「おい、スコール! こんな裏切り者さっさと殺そうぜ!」

 

「まだよ、オータム。きっちりと尋問するまで生かしとくべきよ。それに……」

 

二人は私の処遇について言い合いをしている。もちろん、逃がさないように私の頭に銃口を向けたままでだ。

……だが、実にくだらない内容だと私は落胆する。こんな奴らに私は自由を縛られていたのか。お姉様ならこんな低レベルの考えなどしないのに。

あの方に会えてから今までの価値観が全部どうでもよくなった。

私は冷めた視線を送りながら語る。

 

「……実に低脳な会話だな」

 

「あぁんッ!? テメェ、自分の置かれてる状況が分かってるのかよ!? 今ここでブッ殺してやるよ!!」

 

「そうか……なら好きにすると良い。命など、今の私にとっては目的遂行のために利用する道具の一つでしかない」

 

「? ……どういう意味かしら」

 

私の言葉を理解できないという表情をする愚図共。そのままの意味だということにも気づかないのか?

そうそう、スコール。最初にお前がお姉様と遭遇して、私と巡り合う奇跡を作ってくれたな。そこには感謝しているよ。織斑千冬のクローンとして見放され、朽ちるはずだった私の命を拾ってくれたことも含めてな。

だが、その感謝もこれでお終いにするとしよう。正直、あの方以外に慈愛を受けるなど虫唾が走る。元から要らないものだったが、もう貴様達の気遣いや親切心など不要だ。

そう、お姉様の……あの言葉があれば私はそれで良い!

 

『エム……いや、マドカ。私はいつも傍にいるから……安心して逝きなさい』

 

“いつも傍にいる”、“いつも傍にいる”、“いつも傍にいる”……嗚呼、これほど身に染みる言葉があるだろうか? いや、あるはずない!

お姉様が傍いる……その想いだけで、私は自分の死など恐るに足らん!

 

「エム、貴女何を……?」

 

「ハハ、これで私は……ディアナお姉様の寵愛を受けることができる!」

 

私の体の底から湧き上がる高揚感を押しとどめることができず笑みを浮かべてしまう。

ようやく二人はハッと気づく、『サイレント・ゼフィルス』のBTが一つもないことに。途端に先程まで私を殺せと訴えていたオータムは表情を青ざめる。

どうした? 先程までの威勢はどこへ消えてしまったんだ? 所詮は口先だけか……。

つくづく貴様達が愚鈍な人種なのかよく分かった。所詮この世の“ヒト”など崇高な存在であるお姉様に比べたらゴミにも等しい。貴様達に、お姉様と同じ世界に生きる価値などない!!

 

「まさか……エム! 貴女は!」

 

「スコール、そいつはもうダメだ! 此処を出るぞ!」

 

私を放置したまま元同僚の二人は目の前から去って行く。

馬鹿め、貴様達に安息の地などあるわけも無いだろう。どこにも所属してない無法者のテロリストに誰が手を差し伸べてくれると言うんだ?

それに比べて私は大丈夫だ。そう……例えこの身が消滅しようとも、この行為がお姉様の心に強く刻まれることになる。それこそ私の喜びであり、私の至福だ!!

私が念じるように操作すると、本部の各所に仕込んだビットが全て爆発する。

突如発生した爆炎によって施設の大事な柱や機械に燃え移り、『亡国企業』の施設は態勢を維持できなくなる。

地面が引き裂かれ、アラーム音が鳴り響き、燃え盛る爆炎の中で脱出する手段もない私は一人取り残される。

だが悲観することなど皆無だ。

何故なら……あの方の言葉があるからだ。

だから私の命など惜しくない。織斑千冬のクローンとしての強さを求めていた私が生きてる実感を湧くことができた。

 

「フフフ……アハハハハハハハハッ!!」

 

刹那、凄まじい爆発が私の傍で起こった。紅蓮の爆炎はその場を吹き飛ばし、私の命と身体を燃やす。炎の渦に包まれながらも、私は魂の極上の喜びに酔い痴れていった。

私の傍には神ではなく、敬愛なる【悪魔】が憑いている。その事実だけが私の人生に価値を見出してくれた……。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

一夏side

 

一昨日のことだ、秋十兄さんと篠ノ之さんが死んだ。学園内の廊下で二人の死体が発見された、と。

秋十兄さんが篠ノ之さんを死に追いやったという噂が学園中に流れるのもあっという間だった。それに伴い、僕への風当たりが強くなった。当然だろう、僕はその弟なんだから。僕のことをフィギュアかマスコットとして見ていた女子達も、今ではゴミを見るような非難の視線ばかり。大抵の教師陣も僕を鬱陶しく思ってるらしく。度々「何でこんな男が千冬様の弟なのかしら……?」と愚痴をこぼしているのを見かけた。

でも、例外だっている。担任の千冬姉さんと副担任の山田先生。だけど一人の生徒として扱うため、必要以上に僕を庇ってくれなかった。

そして………。

 

「おーはよ、一夏♪」

 

同居人のディアナさん。彼女も態度を変えず僕に接してくれる。僕を庇ってるからディアナさんにも悪い噂が流れてるというのに、気にせず気を遣ってくれるんだ。

僕はボソッと呟く。

 

「ディアナさんって、綺麗で、とても強いよね……」

 

「そっかぁ……一夏にはそう見えるのか」

 

そう言うディアナさんの顔は少し暗かった。

少なくとも、僕の知ってるディアナさんは綺麗で強くて、とても凛々しい印象を絶やさない女性だった。だからこんなディアナさんは珍しかった。

気になった僕が尋ねると彼女は話してくれた。

彼女の周りで知ってる人が謎の失踪を遂げたり事故死したりして、ディアナさんだけが生き残る。それ故にディアナさんは自分が“死神”と思い込むことがあった。

完璧超人かと思ってたけど、この人も女の子なんだなって実感が持てた。

……でも、同時に妙な違和感を感じる。()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()感じだ。まるでステージの上に立っている女優を観るような気分だ。

この人は嘘をついている……かもしれない。怖いモノなんてないのかもしれない。

でも、それでも僕は……。

 

「ぼ、僕だけは……ディアナさんを残さないから」

 

そう言ってディアナさんの手を握る。

一人になる辛さは一番知っている。自分の意志が周りに制限される辛さは誰よりも受けたつもりだった。自負でも自慢でもない。

だから——僕は君なしではいられなくなった。

 

「……うん。ありがとう一夏」

 

ディアナさんは元気が出たと言いながら、ほんわかとした笑みを見せる。

この先どうなろうとも、僕はディアナさんの傍にいると決めた。恋とか愛とかそんな生温い類の感情じゃない。もっと深いものだ。彼女無しでは生きられない体になってしまった。

 

 

 

 

ディアナside

 

事が上手く進み過ぎて、私は笑みを抑えられない。

まずあのクズ二人組の成果(自殺)で一夏は学園内で孤立した。教師である織斑千冬も一人の生徒に必要以上に構ってやることはできないので迂闊に手出しできない。一夏は唯一の味方だと認識している私に依存するしか道はなかった。

でもね、これは全部一夏のためなんだよ?

一夏はここにいちゃいけないの。一夏を理解できないゴミ溜めな世界にいたら【天使】の価値が損なうだけ。私が力尽くで君を奪いに来ても、君の姉が許してくれないに決まってる。そして、君自身が許してくれない。だって……一夏は優しいから。薄汚れた女の子に手を差し伸べられるほど、優しい男の子だもん。

だから……一夏にとっての世界は私だけだと認識させる他ない。

 

「ねぇ、一夏……」

 

私の、一世一代のプロポーズ。

今の一夏なら、私を受け入れてくれるでしょ?

 

「私と一緒に暮らさない?」

 

一夏を連れて、どこか遠いところで二人っきりで暮らす。お城でも別荘でも、誰もいない無人島でも良い。とにかく一夏と一緒なら、私にとってはどこも天国だから。

私と一夏は手を取り合ってお互いに顔を見つめる。

病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も……死が二人を分かつまで、共にいることを誓います。

結婚式に流れる聖書の一部を読み上げて、私と一夏は永遠に一緒にいることを誓う。

 

「今晩、ここを出て一緒に新天地を見つけようね」

 

「うん。でも、僕はどこでも良いよ」

 

「うん。私も、一夏といられるならどこだって構わないからね」

 

傍にいてくれれば、悪魔の巣窟だろうと天使の楽園だろうと構わない。依存し依存される関係、他は何も必要としない。

そして、二人の距離はゼロになる。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

深夜の三時、徘徊する者がほぼいない時間帯。

最低限必要な量の荷物を備え、二人分の飛行機チケットを忘れてないか確認して、私と一夏は校内を歩いていた。IS学園から出た近くの空港で乗るチケットは、事前にマドカに用意させたものだ。

IS学園を出た後に飛行機で海外へ行き、誰も住みつかないような無人島へ引っ越す手筈だ。

色々問題はあるけど、今は誰にも遭遇しないように学園外へ出ることが最優先だ。

適当に誰かから奪った“特典”で監視の目を掻い潜り、玄関近くまで来たところで忘れ物に気づく。一夏との誓いの指輪だ。

一夏は同じ様な物をまた買えばいいと言うけど、私にとってはこの世でたった一つしかない宝物だ。だから私は一夏との元愛の巣へ戻り、机の上に置かれたままの指輪を発見した。

銀色の指輪を左の薬指に嵌め、私は扉に来たところで踵を返す。

今度こそ、さようなら。

音を立てずに扉を閉めて、一夏の元へ戻ろうとした時だ。

 

「何をしているんですか!?」

 

深夜で誰もいないはずなのに私を止める声がした。

チッ、やっぱり簡単に通してくれるわけないよね。

ホルスタイン女——山田麻耶がいた。大方、『亡国企業』のスパイである私を監視していたんでしょうね。

ホルスタインは私を凝視しながら、震える手で胸元の待機状態のISを握り締めている。

相手も闘う気満々のようだし、仕方ない。予定と狂ってしまうが、ここで始末するか。

ホルスタイン女は覚悟を決めた表情をすると……ISを地面へ放り投げた。

何を考えているんだ? 降伏する気?

 

「……例え貴女がどんな人物でも、この学園に所属している以上、私達の掛け替えのない生徒です。生徒に銃口を向ける教師なんて、教師失格です」

 

……ふ〜ん、それがお前の戦い(説得)ってわけ? この場で殺されるかもしれないのに。頭の中がお花畑なおめでたい性格なこと。とても元日本代表候補生とは思えないね。

私が内心で見下しているのにも気付かず、ホルスタインは続けて言う。

 

「織斑くんに好意を持つことは一向に構いません。正当な手段で貴方達が幸せになるのなら私は喜んで応援します……ですが、こんな卑怯なやり方はすぐに止めなさい!」

 

……何なのさ、この女は。

私のことを理解している面をして、何も知らないくせに。

なのに……()()()()()()()()()()()()()

 

「本当に織斑くんに愛されたいのなら、正面から彼と向き合いなさい!」

 

「……でも、それで拒絶されてしまったら、私は二度と立ち上がれないかもしれない」

 

「そうなるとしても、その気持ちは決して無駄ではありません。その苦い思いが全て、貴女達を成長させてくれるのです」

 

ホルスタインの凛とした声が響く。その言葉を正面から受けた私は黙り呆けてしまう。

そんな私の顔を見て、ホルスタインは安堵したような表情を見せる。メガネから覗く瞳が歓喜に満ちて、私に向けて手を広げていた。

私が改心したと思ったのかしら?

殺人鬼でも生徒だから恐れず接するなんて、伊達にこの世界でまともな原作キャラをやってないわね。

だから………。

 

「…………甘いんだよ、()()()()

 

「ッ!?」

 

目に見えない速さで駆け寄る。

声を出す前に背後に回り込んで口元を塞ぎ、山田先生の体を固定させる。ついでに彼女の内ポケットを弄って、スマホをその辺に放り投げる。もう彼女は助けを呼ぶこともできない。

大声を出せない状態で、山田先生は私を見てくる。それは信じられないという表情だ。

 

「一体いつ、私がお前に気を許すと言ったの? どの道、お前が慕ってる織斑千冬が私達の関係を赦してくれないのよ、絶対にね」

 

感染疑惑の人間を殺すように、織斑千冬側のこの女を生かしてはおけない。

たとえ優しい人でも、私のことを応援してくれるとしても、私の障害になるなら仕方ない。

 

「だから……ごめんなさい」

 

まったく誠意が伝わってこない言葉だと自覚しながら、私は山田先生の喉笛にナイフを深く突き刺す。

生肉をねじ込んだ感触がナイフ越しに伝わり、噴水のように血が噴き出す。

山田先生は目から涙を流しながら、身体がガクガク震え出す。

 

「んんっ〜〜〜〜〜!!! んんっ! んっ……んっ……ん………」

 

腕の中で必死に踠きながら口を塞がれた状態で絶叫する。しかし声がどんどんか細くなっていき、私の腕を掴んでいた手は地面に垂れ落ち、とうとうピクリとも動かなくなった。

突き刺していたナイフを抜くと、傷口から赤い滝が流れ落ち、糸が切れた人形のように地面に横たわる。

山田先生の亡骸を見下ろすと、床に血がたまって、その中に芋虫みたいな物体が浮かんでいる。目から光が完全に失われていて絶命した事実を物語っている。

人を殺すことも躊躇わない殺人鬼相手に、生徒だから手出ししないという馬鹿みたいな理由で、最期まで私の身を案じていた女の哀れな末路。

だからウザいのよ。善人振って、挙げ句の果てには殺される最期を迎えるなんて。

……でも、ありがとう。この腐った世界で、あんたは一夏の次にまともな人間だったわ。

 

「貴様、そこで何をしておるッ!?」

 

タイミングが良すぎるだろ、と思わず悪態を吐く。

声がした方角には肩で息をしながら、血相を変えた織斑千冬がいた。

 

 

 

千冬side

 

報告に行ってたせいで遅くなってしまった。

ディアナの足元で横になってる人物を見て私は目を疑った。

 

「ま、や……!?」

 

近くにリェータスがいたが、構わず麻耶の元へ駆けつけた。

首に手を当てるが、既に手遅れだった。首から血が溢れ出して、まったく息をしていない。

遠く離れた地面に麻耶が持っていた待機状態のISがあった。リェータスと争った形跡が見当たらない。心の底から生徒想いの麻耶のことだ、学園生徒であるリェータスに説得しようと試みたんだろう。

昔からそうだ、麻耶は私なんかには勿体ないくらい気遣いのできる良い後輩だった。私のことを『世界最強(ブリュンヒルデ)』としでなく、一人の『織斑千冬』として慕ってくれた。

なのに、なのにっ……すまない、麻耶。

麻耶の亡骸を地面にそっと下ろし、大切な後輩を亡き者にした【悪魔】を見据える。

 

「貴様……覚悟はできてるだろうな?」

 

【悪魔】——ディアナ・リェータス、逃げようともせず、ずっと泣き崩れる私を待っていたみたいだ。

根性があるようだな……いや、私から逃げられないと判断して敢えて残ったのかもしれん。

だが、その考え自体が間違いだったと教え込むしかない。命を以ってな。

懐から真剣を抜く。第一世代のISブレードではなく、日本刀だ。

奴に特殊な攻防は効果ないと報告がある。だからISではなく何の細工もしていない刀で勝負を持ち込む。

リェータスは怯えた様子も見せない、寧ろ返り討ちにしてやると言った様子だ。

 

「前々から貴女は目障りだと思っていた。それにしても殺気がダダ漏れだよ?」

 

「黙れ、この異常者! 貴様に一夏を渡すものか!」

 

「ふん……貴女なら一夏を守れるとでも思ったの? 弟一人を救えなかったダメ姉のくせに?」

 

「ッ……!!」

 

痛いところを突かれて黙ってしまう。

そうだ、私は秋十の行いの悪さを知っていたのに、叱咤して改心させることができなかった。世間から姉失格と蔑まれてもおかしくない。

でも……たった一人、唯一生き残った一夏だけは、何が何でも守り通すと決めたんだ!

意に決して刀を握り直すと、リェータスは手を翳した。

何をする気だ……? と警戒心を上げていると、突然目が光った。

その時……!

 

「な……!?」

 

突然、体から力が抜け落ちるような、言い知れない感覚に陥る。

こ、これは……!?

私が困惑して固まってると、笑みを浮かべたリェータスがこっちへゆっくりと歩み寄る。自分の勝利を主張するかのような憎たらしいものだった。

 

「折角、殺気がダダ漏れだって忠告してあげたのに……私の能力で貴女からIS適性の能力を奪ったのよ。そうね、精々今の貴女のIS適性はE以下かしら? 大逆転ね」

 

なるほど、どこで手に入れたかは知らぬが、これで過去数々の命を奪うことが可能だったわけか。

そう言うと、リェータスはナイフの刃先を私に向けて頭上へ上げる。

 

「一夏に嫌われたくなかったから貴女は殺さないでおいてあげたけど、ここで止められたら一生離れ離れになってしまう……私達の幸せの糧になってちょうだい♪」

 

自分勝手な言い分をつらつら垂れ流すと、躊躇せずナイフを振り下ろす。

だが……!

 

「———甘いぞ、小娘!!」

 

金属音が鳴り響く。

交差するナイフと真剣……結果、奴の手元のナイフは粉々に砕け散り、そのままの勢いで真剣の刀身はリェータスの目を斬る。

 

「ッ———!? あ、ぐぅッ……!!」

 

予想外だったリェータスは一瞬で驚愕に染まり、おぼつかない足取りで後退する。激痛のあまり、奴の掌からナイフが落ちた。

血を流す目を押さえながら、ディアナは睨みつけてくる。視界を遮られたことへの憎悪か、未だに異能の力で私から力を搾取するつもりなのか。

だが、何も起こらない。やはりあの輝いた目が奴の力の源だったようだ。

奴の能力は無効、私に効くはずもない。

 

「ど、うしてっ……!? 貴女はもう、IS適性がゼロに等しいのに……!!」

 

息を切らしながら困惑気味で尋ねられる。

案外間抜けだな。ISがない状況で私が負けると思ったか? そんな力に頼らずとも素手でIS操縦者を薙ぎ倒すことなど、私にとっては造作もない。

 

「『世界最強(ブリュンヒルデ)』の力がなくなったとしても、貴様みたいに他者から奪うことしかできん奴に私は負けんさ」

 

「な、んだよぉ……あんたの方がよっぽど反則じゃん……素手で倒せるって、ほぼチートだよ……」

 

「……言い残すことはそれだけか?」

 

そう言って、私は小娘の喉笛に真剣を突きつける。決して反撃の隙を与えない、瞬きも許されない状況だ。

この女が一夏を、私の家族を誑かした。

原因はこの小娘とはいえ、一夏は全然悪くないと強く主張できない。まだ手を血で染めてないとしても、小娘と逃亡しようとした。恐らく私がいくら言っても、周囲から非難の視線を浴びせられるのは免れないだろう。

だからせめて、私だけでも家族として傍にいる。ずっと支えていかなくてはならない。

そのためにも……この【悪魔】を殺して、全ての清算を終える!

 

「覚悟しろ、ディアナ・リェータスッ!!」

 

 

 

 

 

「———止めてぇええええ!!!!」

 

廊下中に叫び声が響いた。振り下ろした真剣は宙で静止してしまう。

その声は私にとって、そして小娘にとっても聞き間違えるはずのない声だった。

暗闇から一つの小さな影が飛び出して私に体当たりしてくる。さほど大したことない威力だったが、呆然とした私は力が抜け切って、リェータスから遠ざかってしまう。

 

「一、夏……!?」

 

呆然としながら、掌から真剣を地面に落としてしまう。

その男こそ、私が何が何でも守り通そうと決意した家族にして実弟……一夏だった。

 





次回で最終回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 堕天

 

千冬side

 

一夏はリェータスに駆け寄ると、守るように両手を広げて私と対峙する。

睨みつけたまま、私に向かって張り裂けそうな声を上げる。

 

「これ以上、僕とディアナさんに手出ししないで!!」

 

何を言ってるんだ、お前は……!?

どうして、どうしてそんな殺人鬼を庇うような真似をするんだ……!?

しかも、よりにもよって、あんなに真面目だったお前がッ……!?

様々な困惑が私の中で駆け巡る。薄々、勘付いていたのかもしれない。家庭の事情で一夏の心の傷を癒すことができなかった。そこに【悪魔】につけ込まれて、一夏は心を奪われてしまった。

頭では分かってはいるものの、耐え切れない。思わず私は事実を暴露してしまう。

 

「そこにいる女は……お前を陥れた張本人なんだぞ!?」

 

「……知ってるよ、それくらい」

 

え………?

一夏の予想外の返答に、私だけでなくリェータスも驚きを隠せない。

私を見つめていた顔は至って冷静だった。自暴自棄になったとは思えない。

でも、なら尚更、どうしてその女の元にいたいなんて言う!? お前の人生を弄んだ元凶の傍にいたいなんて!!

すると一夏は地面に転がっていたリェータスのナイフを拾い、私に刃先を向けながら叫ぶ。

 

「それでも、僕はディアナさんが良いの。ディアナさんがいなくちゃ死んだも同然なんだ! だから姉さんがディアナさんを殺すのなら……僕も一緒に死んでやる!」

 

そんな……一夏はもう手遅れだと言うのか?

こんなの、あんまりじゃないか!

私は結局、何のために頑張って……。

両目から涙がポロポロ流れるのを自覚しながら懇願するように情けない声を上げる。

 

「お、お願いだ、私と一緒に来てくれ。もうお前を一人になんてしない。付きっ切りでお前の面倒を見る。それでもダメなら、せめて……せめて最後に抱き締めてくれ。こんな形で終わるなんて、あんまりにも……!」

 

「それじゃあ、姉さんは一度でも僕を救ってくれたの? 僕は小さい頃から実の兄からも虐待を受けていたのに!」

 

「な、んだと……!?」

 

一夏の告白に私は動揺を隠しきれない。

秋十が、一夏を虐めていた……!?

私の知名度の所作で一夏達に被害が及んでいたことは幾度か耳にした。

小学生の頃、両親がいなかったから一夏は虐められていたものとばかり思っていた。

だけど秋十が、黒幕だったのか……!?

素行が悪いのは知っていたが、まさか実の弟に手をかけるほど落ちぶれていたのか、あいつは……!!

……で、でも! だったらその心配はない! もうあいつは死んだんだ、だから気にする必要はないんだぞ!?

勝手な言い分を思い浮かべながら、一夏に手を伸ばす。一夏は火の粉を振り払うようにナイフを無造作に振るった。

い、一夏……!?

 

「それ以上、僕達に近寄るな! じゃないと、本気で刺すぞ!」

 

「どうして、どうしてだ……一夏」

 

「ディアナさんと約束したんだ……ずっと一緒にいるって。だから邪魔しないで!!」

 

そんな………。

私は……お前の家族なんだぞ?

たった一人の姉なんだ、もう私にはお前しか残っていないんだ。

一夏は手元から何かを取り出し、スイッチを押す。

刹那、眩い閃光が迸る。

灯りが少ない深夜の暗闇に、突然光が発生したのだ。当然私は眩暈に襲われてしまう。

不意を突かれて視界を奪われてしまい、しばらくしてようやく視界が回復する。

 

「くっ………一夏!」

 

しかし、既にそこに一夏とリェータスの姿は無かった。

まだ視界が回復しきってない中、私は脇目も振らずに暗闇にいる一夏の姿を追う。

すると階段の向こう側、リェータスの手を引いて階段へ先導している一夏の姿を見た。

 

「ま、待ってくれ! 一夏! 行かないでくれ!」

 

私の声を聞いてくれず、一夏はリェータスの方ばっか見ていた。

おぼつかない足取りで走れば追いつける距離だった。でも、今の私では一向に追いつけない気がして足に力が入らない。

お願い、行かないで! もう一人ぼっちになるのは嫌なんだ!

だから……置いて行かないでくれ!!

一夏!

一夏ぁッ!!!

 

「一夏ぁあああああああああッ!!!!」

 

悲痛な叫びに聞き入れてもらえず、一夏はリェータスの手を引っ張って、私の視界から失せてしまった。

どうしてなんだ、一夏……。

 

 

 

〜◆〜

 

 

 

ディアナside

 

一夏に手を惹かれながら、私達は学園の屋上に来ていた。

参ったなぁ……一人で大丈夫だって言ったのに、心配して付いて来ちゃったの?

危ないでしょ! って叱りつけたいとこだけど、今回は一夏のお陰で助かったから叱れないなぁ。

でも、知ってたんだ、私が一夏を嵌めたような女なんだって。

それでも私を選んでくれたんだ。ここまで来た甲斐があったよ。

 

「大丈夫? ディアナさん」

 

血が流れている目を見ながら一夏はオロオロする。

先程まで織斑千冬に啖呵を切った面影は失われていた。

でも、カッコよかったよ。子供の頃、私を救ってくれた姿と重なって見えたもん。可愛い姿も良いけど、私を守ってくれた【天使】のヒーローだったわ。

ポケットからハンカチを取り出すと、それを縦に引き裂いて、包帯代わりに目の傷口に巻く。

 

「ありがとう、一夏……でも、新しい家には行けなくなっちゃった、ごめんね」

 

IS学園外へ出るため、モノレールの従業員を誰かから奪った“特典”で催眠をかけて操ろうとした手筈だった。

でもそれも叶わない。力が底知らずの織斑千冬に私の“特典”の本源である目を斬り裂かれてしまった。今までクズ転生者から奪った“特典”は全部吐き出してしまったように消え失せ、何も残ってない。

もう私は……一夏を連れていけない。ただの小娘に成り下がってしまった。

でも一夏は左右に首を振って笑顔を向ける。

 

「ううん、良いんだ。だって僕の居場所は……ディアナさんの隣なんだから」

 

「一夏……」

 

「僕は君と一緒にいられることが、一番の幸福なんだ」

 

私達は互いに見つめ合う。

このまま生きていても、確実に私と一夏は引き裂かれてしまう。たとえ一夏の助言で死刑を免れるとしても、一生私は一夏と関わることを許されない地獄に囚われることになるだろう。

もちろん一夏にとっても地獄だ。

私達の答えは、自ずと決まっていた。

屋上の端まで歩き、柵を外して遥か下の地面を見つめる。屋上から地上まで約五メートル、生身で飛び降りれば助からない。

地面を見ながら、一夏は呟いた。

 

「思うに……僕はあの時、ディアナさんに受け入れられた時から“死んだ”んだ」

 

「え……?」

 

「僕がすること全てを否定されて、死にたいと願う毎日を送っていた。そこへ君が現れて、『織斑千冬の弟』だった僕を殺して、ただの『一夏』に生き返らせてくれた。だから……僕はディアナさんと一緒に死にたい」

 

「一夏……うん」

 

私の中は歓喜と幸福に満たされる。私の本性を知っても、私を受け入れてくれて、命を共にしてくれるのだから。

私達は決心し……身を投げ出す。

自由落下の法則に従って、私と一夏の身体は速度を増して地面に落ちて行く。

一夏を抱きしめながら、走馬灯のように色んな思考が頭を過る。

私は知らなかった。力で手に入れることの達成感と、心から受け入れられた喜び……その二つの違いを。

一夏に会えたからこそ、『俺』と言っていた私は死んで生まれ変われた。この世界に生まれて、初めて生きて良かったと思った。生きる希望が持てた……。

一夏と逃げて、最強戦女や天災兎を殺し、世界を壊した後……誰もいない島で二人っきりで住もうと思っていた。

誰も私達を縛らない、何も私達を制限しない。そんな豊かな楽園で暮らしたかった。

………結局、夢物語に終わったけどね。

 

《ディアナさん!》

 

ふと、一夏の顔が浮かび上がる。一夏が私を【ディアナ・リェータス】と認識して、心を開いてくれた天津万安な笑顔が。

それを思い返すと、私の胸がポカポカ暖かくなるのを感じる。

……あ………そうか。

ようやく山田先生の言いたかったことが理解できた。

一夏に受け入れられたことが、こんなにも幸せだったなんて。

今までの一方的なものとは違う、相思相愛と呼べる“愛”なんだ、この気持ちは。

ようやく私は………一夏と心が繋がれたんだ。

 

「……一夏。生まれ変わっても、私のこと好きでいてね」

 

微笑みながら、一夏の頭を優しく撫でる。

小柄な体型を抱きしめ、できるだけ一夏に衝撃がかからないように抱え込む。

 

「えっ? ディアナ、さん……?」

 

「ごめんね、散々一夏を弄んじゃって。

 

 

 

………………ありがとう」

 

 

 

 

 

〜◇〜

 

 

 

『——先日起きたIS学園で起きた事件の続報です。学園の屋上から転落死したと見られる容疑者は『ディアナ・リェータス』さんであることが判明し、織斑千冬さんの実弟である織斑一夏さんも事件に関与していた疑いがあり……』

 

『臨時ニュースです! 只今入った情報によりますと、突如核ミサイルの発射コードが何者かにハッキングされ盗まれた模様!』

 

 

 

〜◇〜

 

 

千冬side

 

あの事件後、IS学園は崩壊した。行方不明の束が世界中に散らばっているISを全て機能停止にした。女でもISが使えなくなったならIS専用学校も閉鎖するのも必然的だ。

だが束の攻防はそれだけに止まらなかった。

ISが使用不可になったのと同時期、日本を除く各都市国家に向けて核ミサイルが発射された。その爆炎で田舎や森林など一部の大陸を除いて人口が半分以上も失われ、大陸の殆どが数百年も草木の咲かない死の大陸になってしまった。

直撃を免れた都市も無事ではすまなかった。世界中の大気に放射能汚染が拡散し、核爆発で上空へ舞い上がった粉塵が太陽光を遮ってしまう。

だが、日本を含めた一部の地域はその被害を免れた。束が放射能除去装置をばら撒いたのか分からないが、人体への影響が見られなかった……あいつなりの良心なのかもしれない。

そして、世界を散々引っ掻き回したあのバカは……妹の後を追ってこの世を去った。

時々何を考えてるか分からなかった奴だったが、それでも本音を曝け出す相手がいなくなって寂しいことには変わりない。

現在、私は一人の少女を連れて病院内を歩いていた。少女の手元にはお見舞い用の花束が抱えられていた。

 

「千冬様……もうすぐ一夏様の部屋です」

 

「……ああ、分かってる」

 

この少女は織斑クロエ、旧姓クロエ・クロニクル。束が拾ってきて娘のように接していた束に忠誠を誓った少女。

私の元で世話になるように命じて、奴はラボごと爆死した。

勝手で荒っぽいやり方だったが、これがあいつなりの罪滅ぼしなんだろう。箒を、大事な妹を死に追いやり、何もしてやれなかったことへの……。

他に行く当てのなかったクロエをあいつから託され、織斑家の次女として正式に引き取った。

白い廊下を歩き続け、ある部屋に辿り着く。

 

「入るぞ」

 

コンコンとノックし扉を開ける。

そこには点滴を打たれている一夏の姿があった。

 

「一夏、具合はどうだ?」

 

声をかけると、ゆっくりな動作でこっちを振り向く。

医者が言うには後遺症の心配もないとのこと。私を見ても怯える素ぶりがない。

発見当初、ディアナ・リェータスは頭の打ち所が悪くて即死だった。その腕の中で一夏は生きていた。まるで卵の中にいる雛鳥を守るかのような姿で、リェータスの亡骸が発見された。

どんな経緯であれ、一夏は生きている。この事実が私に希望を持たせてくれた。

 

「大丈夫だ。もうお前は一人なんかじゃない。私がずっといるから」

 

もう世界を騒がす機械兵器もない。偽りの仮面を被った碌でなしな元弟もいない。そしてもう、あの小娘はいない。地獄に帰ったんだ。

誰もお前の人生を蝕むことはない。

だから………。

 

「だから……今度こそ一緒に暮らそう。一夏」

 

そう言って一夏に向いて微笑む。

今度こそ一夏と、家族と幸せを噛みしめるんだ。家族という名の繋がりだけしか見るような愚かな行為は二度としないと誓ったんだ。

だから一夏……もう一度私と………。

 

 

 

「……ごめんなさい。僕はそういう甘いのは卒業したんです」

 

その時、思わず私は鳥肌が立った。クロエの方を見ると、驚愕のあまり手元にあった花束を地面に落としてしまっている。

一夏の姿が……あの【悪魔】の少女の姿と重なって見えたからだ……。

 

 

 

一夏side

 

驚愕の表情に染まったクロエさんは僕を見ながら、花束を地面に落としてしまう。あの黄と白の花はクリサンセマムノースボール。確か花言葉は……『輪廻転成』だっけ?

今の僕にはピッタリな言葉かもね。

 

「何を……」

 

「僕の幸せは、僕だけの青い鳥は……今も僕の中で飛び回っている」

 

どうしてあの時、ディアナさんが僕だけを生かしたのか分からない。

でも、裏切ったことには変わりないんだ。だから如何なる手段を使っても、ディアナさんを生き返らせてみせる。

ディアナさん、生まれ変わっても好きでいてって言ったよね? その言葉に従えそうにもないや。

だって、こんなに愛おしくて会いたいんだから。

君が生まれ変わって、()()()()()()()()()()()()()()()なんて絶対に嫌だ。そうなったら、僕は本気で君をユルサナイ……。四肢を引き裂いて君から自由を奪って、誰の目も行き届かないように()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうじゃなきゃ、君は君でなくなるかもそれない。

泣いて縋っても、絶対に逃さないんだから……。

 

「ディアナさん……ずっと、ず〜〜〜っと一緒だからね♪」

 

 

だってこの世界は、

天使(ぼく)】と【悪魔(わたし)】だけの【セカイ(ものがたり)】だから♪

 

 

 

〜◆〜◇〜◆〜

 

 

 

——争いの鼓動は止まらない。

 

 

 

『これは俺の物だ! 誰にもやるもんか!』

 

『あなた、私を騙したのね!? 許さない! 殺してやる! 絶対に殺してやるわ!!』

 

『わ、私は悪くないッ……生き残るためだもの。私は悪くない、私は悪くないッ。ヒ、ヒヒヒヒヒヒ……!』

 

『俺はごめんだね、他人を助けるなんてバカな行為! 誰を蹴落としてでも、俺だけは絶対に生き残ってやる!!』

 

 

 

——人類が愚かであり続ける故に、神はそれを達観するしかできない。

 

 

 

『殺せ! 生き残るために奴等を殺せ!!』

 

『これは奴等が始めた戦争だ……迎え撃つのだ! そして我々こそ、この地上における唯一の生存者となるのだ!』

 

『ハハハハハッ!! そうだ! 皆殺しにしてしまえ!!』

 

『薙ぎ払え! 勝利は我等にあり!!』

 

『死ねぇ!!!』

 

 

 

——嘗て【天使】と謳われた少年は、【悪魔】に魅了されて【堕天使】と化し、神に謀叛を起こす。

 

 

 

『アンタが神様? ふ〜ん……案外パッとしないんだね。それで、どうやったらあの娘を蘇らせることができるの? ……え? 世界の規約に反する行為? そんなの、僕の知ったことじゃないよ、世界(アイツら)のことなんて。それよりもさぁ……』

 

 

 

——もう一度言おう。これは狂気と殺戮に満ちた……世界滅亡への物語。

 

 

 

 

——神が引き起こした惨劇は()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜【end】〜〜〜〜〜

 




もう完全にハッピーシュガーライフのラストシーンですやん! と思う方、間違ってないです!
あの騒然とした最終回、鳥肌ものだったんで。
でも思いつきで書いた今作がここまで来るなんて予想外でした。お気に入り数が百を超えて10人から評価をもらったことも。
皆様、ご愛読ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。