第四天の逝く型月散歩(旧題:型月散歩) (しましまパンダ)
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Prologue──

 三人称的な奴の練習。
 駄文ですがよろしくお願いします。


「ハハハッ!!」

 

 気持ちいい、男の脳内はそれにのみに支配されていた。それもそのはずだろう、生前、人であった頃は虐められ、罵られ碌でもない扱いを受けてきたのに、自らをかつて虐げていた存在以上の人間を蹂躙しているのだから。

 

「ヒヒヒッ」

 

 辺りには家として最早成り立っていない建物が所狭しと並んでいることからも、男が襲う以前はそれなりに発展していたはず。その街をつい数時間前に襲い始め、蹂躙していない場所など男の襲い始めた場所とは逆の街の端くらいのものだ。

 その場所も順当に行けばこの男が破壊しつくすだろう。

 

「ったくよォ」

 

 悪態をつきながら蹴り飛ばしたのは人の頭部であった。蹴り飛ばされた頭部は瞬間に首から千切れ、蹴られた瞬間弾け飛び、辺りには血の海ができていた。

 

「あそこかァ?」

 

 残った家屋を見つけるや、羽虫を弄ぶ餓鬼と同じような圧倒的強者のみがするであろう笑みを浮かべた。

 近づく男に襲い掛かるは泥で出来た守護者──ゴレームと呼ばれる存在。数体のゴーレムは男を一回りも二回りも上回る巨体から右腕を振り下ろした。

 

「塵が──邪魔すんじゃねえよ」

 

 そう言って振った腕、脚による攻撃で守護者として何も為せないまま砕けた。乾いた音を立てながら崩れていくゴーレムを男は興味無さげに一瞥し、目的であった家へ向かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 そのあともゴーレムから何度か襲われつつも容易く砕いていき、目的であった家についた。

 壁を拳で破り、辺りを見渡すが人気が無く、期待外れか……と半ば思ったその時。

 

 「───」

 

 この状態になったことで強化されてい聴覚が人の声らしきものを捉えた。聞こえた瞬間方向を瞬時に察知し緩慢だった先ほどまでとは一転して男の足の踏み込みによって地がめくれる程力を入れ移動した。

 

 

 男の不運は此処だろう。この声に気付きさえしなければ■■■■■■■のに。

 

 

 声の主のいるであろう場所はこれまでとは一転、西洋の神殿を簡易的にしたような作りだった。

 とはいえ、強者の愉悦に浸る男は気付いていなかったが……。

 

 

 ──瞬間、男から酔いがさめる。いや、強制的にそうさせられた、というべきだろう。

  

 男の脳に在りし日に毎日浮かべていた感情が浮かぶ。それは、恐怖というこの姿になってからは浮かべた事が一度もなかった感情である。心では自分は強者と思っているはずなのに、何故か震える身体。

 震える体を律し本来自らが弄ぶはずだった存在を見てみると、

 

 『こ■に■■子 ■現せ■ 』

 

 部分的にしか聞き取れなかった幻聴のようなものが聞こえた。視線の先は先ほどまでは苦し紛れの手段によって生まれた土煙だと思っていたが、今はどうしようもなく晴れてほしくない。あり得ない感情が男を占めていた。

 

 

 

 ヒュー、ヒューと死にかけの人と同じような息が漏れ、いよいよ晴れてしまった。

 

 そこに居たのは……黄金と……

 

 ──と視た瞬間、視界が失われた。数瞬後、自らに何があったのか察する。目が砕けていたのだ。何が実際にあったのか男は理解できていなかったが、マズイと本能で感じとり近くにいたグールから血を吸い目を再生させた。

 ホッとしていた男に超重の圧がかかった。

 

 辺りにいたグールは皆例外なく平伏し、その圧に耐え切れず破裂する者までいた。男は辛うじて立つことが出来ているが、それもいつまでもつか……。

 男の脳内は恐怖で占められ、動き出したくても圧によって動けず、それによって恐怖が、といった具合の無限ループに陥っていた。

 気力を振り絞り首と眼球だけその圧の主の方を向くと、

 

 宙がいた。

 

 世界すらもちっぽけに見え、宇宙と比較しても決して見劣りしない所が、勝ってすらいるように感じる存在がいた。

 獅子の鬣のような髪の毛を持つ男──それが圧の主だった。

 眼球が砕けることなかったため、先ほどよりもより鮮明に見ていると自らの存在が軋み始めている事を感じた。

 超重量の存在が傍にいることで個として存在するための殻、いわゆる身体ではなく、その中。魂と呼ぶべきものが潰れかけていた。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

 

 もはや声を出せず呼吸しかできない男を黄金の瞳が捉えた。辛うじて立っていたはずの体はグールと同じく崩れ落ち、膝で立つ事すらもかなわなくなってしまった。

 そんな男の耳に先ほどの幻聴と違い、確実に聞こえたのが

 

 

 『Yetzirah(形成)―─Vere filius Dei erat iste(ここに神の子 顕現せり)  Longinuslanze Testament(聖約・運命の神槍)

 

 それは詠唱なのか、呪文なのか果たして何なのかと動けぬ状態ながらも考えてる男を他所に顕現という通り、ナニカが顕現した。。

 顕現したそれは黄金の男に相応しい極大の存在感を放つ槍、この世においてそれ以上の格が無いのではと感じるほどの──直視した男はその槍の放つ真の聖性の光に呑まれ、己が消えるのを確かに感じた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 

 

 ──某所にて、ある街を死徒が襲ったという報告があり、依頼を受け街へ向かった魔術師達の見た光景は天すら容易く覆い隠すカドゥケウスと黄金の城であったそうな……




どーしても、下手でも何でも書きあかったのでかき上げた感じです。
ありがとうございました。


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第1章 ■■聖杯戦争 
■■聖杯戦争の記録 その1


 特になにというわけでもないですが、出来上がったので上げてみました。
 相変わらずの語彙で申し訳ない。
 


 とある場所で戦争が行われていた。戦争と言っても国家間の戦争のように戦闘機が爆撃したり、戦艦が出てきたりと言うものではなく、ごく少数の少々一般的な人から逸脱した人間たちによる戦争ではある。

 その名は──聖杯戦争。簡単に言ってしまえば、何でも叶うアイテムをめぐって人間と特殊な術によって呼び出されるサーヴァントと呼ばれる存在のペアが七組が争う……本来は。

 この地で行われているのは本来の真似、似たような何でも叶う系のアイテムを据えてそれを本来七組の所を色々と問題があったこともあり五組しかペアが存在しないこの世界での呼称で言うのなら亜種聖杯戦争というものだ。

 

 この地に呼び出されたサーヴァントは、セイバー、アーチャー、ランサーの三騎士と言われるクラスと、バーサーカー、ライダーの三騎士ではないクラスのサーヴァント達。

 そしてそれを使役するマスター五名によって数日前に開幕した戦争。この戦争によって日々起こる破壊でお腹を痛める監督者という存在もいたようだが、流れは順調に進み、残り二騎……つまり残ったのは二ペアということだ。

 

 そして、今夜この地で最後の勝者を決める戦いが始まっていた。

 

 

 カン、キンという金属同士を思いっきり振り当たるような音と物理的ではない音が人気のない郊外の森に響く。音の響く場所には四人の男がおり、金属同士をぶつけあっている二人の男と、少し離れた場所で何かを唱えそれによってナニカを起こす──魔術で互いを攻撃、防御しあっている二人の男がいた。

 金属同士で戦っているのは、身の丈程の大剣を軽く振り回し、時には叩きつけている男と、その大剣を上回る長さを持つ槍を突き、振りまわす男だった。

 お互い得物で相手からの攻撃を弾き、逸らせ、そして攻めに転じるという戦いを行っており、少し離れた場所では──

 

 

「薄汚いネズミがッ」

 

 相手を罵りながらサッカーボールの数倍はある火球を飛ばす貴族然としている黒髪紫眼の男と、

 

「戦い方をしらないお坊ちゃんらしい綺麗な魔術だなァ! 敵を殺すってのはこうすんだよォ!」

 

 当たれば即死もあり得る火球をひらりひらりとかわしつつ、魔術と短剣の投擲を織り交ぜながら戦うぼさっとしている髪に眼帯をしている男が、先ほどの戦いとは対照的に近接ではなく、互いが見えるがある程度の距離を取る中距離戦を行っていて、

 

「魔術師の誇りも無い愚か者はとく失せよッ──」

 

 黒髪の魔術師が、術の詠唱を高速で済ませ、ソレによって紫炎の業火が辺りの木々を溶かしながら濁流の様に面で広がる。

 炎であれば炭になるはずが、この男の魔術の特性なのか木は金属のように溶けていた。

 

 押し寄せる特異な業火に、眼帯の男が何もしないで溶かされるわけもなく、

 

「おーおー、やるねえ。流石は魔術師様だ。俺みたいな半端者にはできねえ芸当だがよ……お前、俺が何もせずにここで走り回ってると思ってんのか?」

 

 そうして男が指を弾くと──辺りの地が爆ぜた。それは一箇所ではなく、連鎖的に広がっていき魔術師に襲い掛かた。

 業火の操作をしていた魔術師は自らの理の外からの攻撃に一瞬止まったが。

 

「その程度の子供だましが、私に通用するわけないだろう」

 

 自らの放った火の海を意志によって操り、攻勢に出していた火を自らの守りに転じたのである。火は広がりをやめ、呼び出し主である魔術師を守るためにその身の周りを包む。

 上下左右、空からも地中からの攻撃に対応できるように球体のように炎を纏った魔術師。

 

「穴倉に籠るのは魔術師の得意分野ってかァ? 生憎手前みたいな奴はいっぱい見てきたんだよォ!」

 

 そう言った男は独自の改良を施した対魔術師用の切り札、アンチマテリアルライフル擬きを構え──放った。

 特大の爆音を伴って改良せずとも戦車の装甲すら貫く弾丸が炎に籠る魔術師に襲い掛かる。

 魔術師は知らない。現代の兵器が自らの形成した魔術の装甲を容易く貫くことを。その現代兵器に対する不便が、この事実を……

 

「ガッ──」

 

 生んだ。全方位に張られた炎の守りは確かに脅威だが、全方位へ炎を向けているため一転突破の一撃に対して多少ではあるが弱いのだ。とはいえ、生半可な攻撃では突破できないことからも彼が現代兵器を軽視したということを愚かと言うことはできないが、結果としてライフルの一撃が彼の右肩を破壊した。

 

 銃火器による痛みに耐性のなかった魔術師は顔をゆがめ負傷した肩を抑えているが、その瞳におびえは無く、むしろ軽視してきた芥に己の魔術が破られ傷つけられたことに対する憤怒が宿っている。

 

「マスターッ!」

 

 己のマスターが負傷したことを察知した大剣を持つサーヴァントは即座に己のマスターの元へ戻る。その事実もプライドを若干刺激させられたが、間を置くにはちょうどいいと言うこともあり魔術師は軽く礼を言った。

 

「流石だなおっさん。生粋の魔術師程度に負けるわけもないか。」

 

「ったりめえよ。こいつまで出すことになるとは思わなかったが……お前の方はどうなんだよランサー。」

 

「おっさんが敵のマスターを狩るっていうから時間稼ぎしかしてないよ。あのセイバーに宝具を使えば勝てんじゃねえかな。」

 

「ねえかなって、相変わらず適当だなァランサー。まあいい、こっからは首を殺りにいくぞ。」

 

「へいへい」

 

 綺麗な主従のセイバーと魔術師コンビと比べて戦場の友のようにラフなランサーおっさんコンビ。お互い対照的ではあるものの綺麗にコミュニケーションがとれていることからも何処かの魔術師殺しの方とは大違いである。

 お互いのコンビの戦意が高まり、本当の闘いが始まる──と思ったが、

 

「誰だッ!」

 

 そう叫んだのはランサーか、おっさんか、それともセイバーか。あらゆるイレギュラーのある場所に身を置いてきた彼らはいち早く反応した。第三者の存在に……

 

「そう殺気立たないでもらいたいな。」

 

 コツコツと靴の音を鳴らしながら出てきたのは薄い、影とかそういう事ではなく、純粋に存在がブレている。老若の判別はもとより、造形すらもはっきりしていないボロ布のようなローブを纏った陽炎のようなヒトだった。

 

 




 どうでしたか、面白かったでしょうか?
 少しでもそう思えてもらえたら幸いです。
 一読、ありがとうございました。

 


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亜種聖杯戦争の記録 その2  『怒りは短い狂気である  自然に従え』

 一応終わり。モブ聖杯戦争編。


 前回のあらすじ
 
 聖杯戦争なう→なんか一般人っぽいのがいた(今ここ)


 影法師のような捉え所の無い男という第三者の出現に二組の主従は警戒する。なぜならば、この最終局面で、なおかつ最後の戦いの火蓋が切られるようなタイミングで出てくる男、しかも普通の一般人とは到底思えない捉えどころの無さを持っている存在を無警戒でいるほどサーヴァントにしても、そのマスターも甘くはない。

 

「貴様……何者だ」

 

「何者か、ふむ……どういったものか。其の問い掛けに君たちが納得するような答えを渡すのは難しい。何故ならば、君のような生粋の魔術師である者が持つ思考は非常に偏っている。そしてそういった存在は例え私が真実を言ったところで君自身が納得できなければ納得しないだろう? その点、そこの戦場を渡り歩き、状況に応じて流動的に動けるおっさん……もとい、フリーランスの殺し屋のヒロシだったか。彼の方がまだ話しやすいというものだ。」

 

「黙れッ! 私の問に答えてもらおうか。さもなくば今炭になりたいのか?」

 

「お待ちくださいマスター。彼は正体不明とはいえ、あの魔力量からしても一般人が濃厚。一般人に危害を加えるなど……」

 

「セイバー、貴様の論は表の世界での倫理だ。魔術というのは秘匿しなければならない。故に、仮に不幸にも盗み見てしまった一般人は消されるか、記憶を操作する。」

 

「流石は魔術師様だなァ、手前勝手な理論をベラベラと……そんなんだから何時まで経っても根源だけっか? それにいけねえんだよ。」

 

「ドブネズミ風情が、崇高なる魔導を語るな……死にたいのか。」

 

「さっき迄おっさんに殺されかけてセイバーに助けられた雑魚が威勢良く吠えるじゃねえか。」

 

 影の様な男そっちのけで、今にも殺し合いを始めそうな二組。殺気立つ二組の主従に影法師は語り掛ける。

 

「殺し合いを始めるのなら私はお暇してもよろしいか?」

 

「貴様は後回しだ、私に殺される前に失せよ。」

 

「面白い冗談だ、数分後にはお前いないのによォ!」

 

 

 そさくさと、影法師の男がその場から消えようと歩を進め始め、再び戦意を高め始めた二組。多少のアクシデントはあれど、今度こそ願望器を巡った戦争の最終決戦が始める時、その場にいる誰でもない声が響いた。

 

『カール、それは卿の悪癖だぞ。表舞台で動きたいのに面倒くさがり他人に丸投げ、未知に満ちているこの世界ではやめたらどうかね?』

 

 カールとは誰の事なのか、三度戦意を滾ら、また水を差された主従はさすがに憤りを露にする。それもそのはずだろう。

 あと一歩でほしいものが手に入るという所で、意味不明な現象と男に邪魔されているのだから。

 

 お互いの名を知っているマスター同士、そしてサーヴァント同士はカールでないことを知っているから……消去法でさきほどこの場を去ろうとした男がカールであるということになる。

 

 そうなってくると、可笑しいな点が出てくる。先ほど影法師は一人でおり、それ以外の人気などなかった故、この人ならざる美しく、そして荘厳な声の主は誰なのか。

 

「獣殿、貴方が表に影で有っても出てこられてしまうと、残存魔力量から言ってもよい事ではない。」

 

 声の主に反応したのはさきほどの男だった。では、声の主はどこにいるのか、辺りを警戒する主従であったがそれらしき存在は確認できず──イラつきが頂点に達した魔術師が今にも己のサーヴァントに指示をだすところで──

 

『分かっているとも。だがな、唯一の友である卿が折角の機会を無為にしようとしているのだ。私も影とは言いつつも、出てくるというものだ。』

 

 二組の主従は驚愕した。何の変哲もない影の薄いだけの一般人だと思っていた男の影からこ黄金が出てきたからだ。

 とはいえ、黄金はそこにいるというよりはプロジェクターか何かで投影されているかのような不安定さが有り、此方に対して危害を加えてこれるようには思えない──が、黄金はその場にいるだけで圧を放つ。

 それがこの世界において誰も知らぬ在りし日の三柱の決戦、愛した刹那における黄金の億分の一であろうと、只人は黄金そのものが手加減や配慮をしない限り苦しいと感じるほどの圧が放たれる。

 

 故に、これは当然の行動だったのだろう。

 

「セイバー、奴を殺せ。(ランサー、殺れ)」

 

「了解ッ!(あいよっ)」

 

 数メートルは離れている距離を音を置き去りにして即座に詰めるランサー、やや遅れるが数センチにみたない間、その遅延が自然のコンビネーションを生んだ。セイバー、ランサーいずれもヒトの枠を超えた神秘による一撃が影法師の首を捉えかけた刹那。

 

「私の方は荒事は苦手だが……」

 

 そう呟いた影法師の背後から二つの巨影が二騎のサーヴァントへ襲い掛かった。いずれもスキルにならずとも戦場で培った直感を信じて動いていた二騎は巨大な影が襲い掛かってくると同時に己のマスターの元へ離脱しており事なきを得た。見えた己を襲い掛かった大きな、とても大きな存在──

 

『苦手と言うのであればカールよ、その笑みを消したらどうかね。』

 

 黄金は消え、自然の圧は消滅したが、二組の主従は認知できなかった。それよりも大きな、超級の重圧に襲われていたから……。

 

「貴様……何なんだソレ(・・)は。」

 

「何とは……先ほど魔術師殿、貴方の問い掛けの答えだよ。納得していただけるかどうかは分からんが。」

 

 影法師であったはずの男は揺らぎ消え、確固たる真実の姿を敵対する勢力へ見せた。捉え所の無かった姿は黄金に対を為すかのごとき宇宙すら連想する黒と、ソレを前にはサーヴァントすら霞かねない神秘の塊である対の巨大なヘビ。呆気にとられる魔術師と、すでに行動を起こしていた戦場を生きる(おっさん)の違いは経験の差だろう。

 

「ランサー、令呪を持って命ずる。奴を打倒せよ──命ずる、セイバーと共に奴を打倒せよ。最後の令呪を持って命ずる、勝利せよ。」

 

「任せときなァ! 怪物退治は英雄の本懐ってなッ!」

 

 瞬間移動すら可能にする奇跡の塊である令呪。それを己のサーヴァントの強化に使ったおっさん、もといヒロシは戦うという選択肢(・・・・・・)の中では最善の一手を打ったのだろう。それに呼応するかのように魔術師も隠したと侮っていた男に先に最善を打たれたこともあり、憤怒に染まってはいたが、同じように……

 

「セイバー……令呪を持って命ずる。あの化け物を打倒せよ。……令呪持って命ずるランサーと共に奴を打倒せよ。最後の令呪を持って命ずる、必ず勝利を我らの手に。」

 

「マスター、貴方に勝利を。」

 

 そうして先ほどのと比べ数段格の上がったサーヴァント二騎を前にカドゥケウスを従える影法師であった男は変わらず軽薄な笑みを浮かべている。まるで意に介していない、竜からして見ればアリが羽を持ったところで何も変わらないと感じているのと同じように。

 

「獣殿……いや、ハイドリヒよ、心配はいらん。不安定だろうが、全盛の万分、億分であろうとも──問題ない。」

 

「「いくぞォ!」」

 

 気が付けば宙は黒く、星は不可思議な動きをしているが、それに気付くほど彼らに余裕はない。超級のホンモノの怪物を前に己の覚悟を決める声と共に疾走する剣士と槍兵。強化されたその速さに並みのサーヴァントは置いてかれ首を刎ねられている所だが──

 

「届かぬよ──■■■■ ■■■■ 」

 

 唱えたのは異界の言語か、いや言語なのかも怪しい呟いたソレによって現れたであろう障壁によって二騎の通常であれば必殺の一撃足りえたものは阻まれた。その後も速さ、そして自らの宝具を以てしても傷の一つもつかないカドゥケウス。

 

「どうした、それで終いか? ……もう無いのだな」

 

 まるで、全てを見せろと言わんばかりの台詞を言われたランサーとセイバーであったが、出すものはもうなかった。己の切り札であった宝具も通用せず、打ち出した悉くが打ち砕かれた。今の彼らを動かしているのは英雄としての誇りか、これまでの聖杯戦争における道程か、令呪による縛りなのかは分からぬが戦意は衰えず、己のサーヴァントがあきらめないことからもマスター達もどうにかあの手この手で攻撃しているが……

 

Ira furor brevis est.( 怒りは短い狂気である ) Sequere naturam.( 自然に従え )

 

 紡がれた詠唱は彼らには意味は理解できなかったが、起こり始めた事象を以て何が起こっているのか理解した。先ほどまで盾しか張っていなかった蛇を従える男はここにきて初めて攻勢に入った。詠唱が終わり、男の手のひらには、球体が集まり……視覚強化を即座にした魔術師には星のように、おっさんにはぱっと見ビー玉かなにかの集まりに見えた。

 球体状の物体はやがて軋み、ビキビキという音を立てて──爆ぜた。これぞ、異界における宇宙そのものであった存在を一撃で消し飛ばした男の技といえるものだ。いわゆる、 超新星爆発。とはいえ、 その破壊の威力は力の安定していない男では嘗ての威力と比べると塵以下でしか出せないが、サーヴァント二騎程度を葬ることに関して言えば大した障害足りえない。

 神すら葬った技は奮戦をしていた二組の主従をその熱量を持って文字通り消した。

 消え際に、おっさんは思った。もとより、こんな奴と戦うという選択肢を選んでしまった時点で間違いだったと……

 

 

 

 辺りはカドゥケウスによって守られていたため被害はないが、この一帯に限り隕石の落下等比較にならない被害が出ていた。

 焼野原どころではない一帯の中心に、本来消えた二組のうち一組が得るはずだった聖杯が出現した。

 

 

「これが……擬きとはいうが聖杯。私の読み通り燃料としては申し分のない機構を備えているようだな。願いを叶えるどうこうよりも私が改良して燃料専用とすれば問題ない。」

 

『ほぉ、これが聖杯か。』

 

「そのようだ。擬きとは言えよくできているよ。溜め込み機構としてだがね。」

 

 手に入れた聖杯を弄びながら自らの影と会話するという奇妙は風景であったが、違和感が無いのは二人が異なる世界において対の存在であったからだろうか。

 

『上手く使えば形成くらいは安定するかね?』

 

「ふむ……そのレベルであればいけると思われるが──」

 

『なら良い。』

 

 

 そうしてなにもなかったかのように消えた黄金の後を見て、再び影法師になった男は言う。

 

「この世界は我らにとって未知に溢れているようだ。先ほどのサーヴァントなる存在しかり、魔術しかり……獣殿、此度の旅は私をしても楽しめそうだ。」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 星は放っておくはずがない、己すら滅しかねない化け物を……目には目を歯には歯を、怪物には怪物を……真の約束の時は未だ来ず。

 

 

 

 




 少し強すぎかなとか思いつつ、やってたいことをやれているんかな~?
 
 感想などあれば頂けると嬉しいです。

 三人称ってこれでいいのかなと思ったりもしますが、頑張ります。


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第■章 石英の渓谷と至高天
VS■■■ その1 至高天・黄金冠す第五宇宙


とりあえず、前章から間に何かやろうと思ったんですけど、思いつかなかったので当初の予定通りいきます!

 時系列的には前章から結構進みます、よって章の位置づけが■っていう事です。

ついに、型月原作キャラ登場ッ!


 

 端的に言えば彼らは暴れ過ぎたのだ。数多ある亜種聖杯戦争を幾度となく制し、嘗ての自分たちに近づけようとしすぎた。

 星は決める。消さねばならない。あの者達は一歩間違えば破壊しつくしてしまうかもしれない。故に──

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 天から飛来するは本来眠っているはずの怪物、星の最強種であった。その事実を黄金も、水銀も知らないが。

 突如現れた怪物が起こし始めた事象に取り乱すこともなく……

 

 

「これは空間かな、カール」

 

「おそらく、自己の世界を展開していると思われる。簡単に言えば侵食している辺りベイの創造に近い。」

 

「中尉のか、限定的に異界を創る辺りそうかもしれん。……カール、ここは」

 

「言われずとも獣殿、ここは任せる。大方全力を出してもこれまでの敵と違い打倒が容易ではないと踏んでいるのでしょう。」

 

「──私の考えなどお見通しか。まあ、そういうことだ。ここは譲れ。」

 

「全盛の貴方ならまだしも、決してアレを甘く見られるな。アレは本来現状のこの星の生物では打倒不可能だ。」

 

「望むところだ。これまでは意志は持つが力の無いもの。中途半端な力に溺れる人ならざるもの、それでは私の飢えを満たすことはできん。」

 

 

 ある日から自由にできるようになった己の影である水銀との会話の最中も蜘蛛の世界が塗りつぶす。それは徐々に広がっているにもかかわらず、黄金は何もしない。ただ、見ているだけなのだ。

 その姿勢は余裕からか、それとも……

 

「ようやく展開が終わったかね? ああ、卿には言葉は通じんか。」

 

 体が徐々に蜘蛛の異界の法則にとらわれ始めていることを感じがらも常の状態を保つ黄金の獣。彼からすれば異界を展開する相手はなにも珍しい事ではない……珍しくないということは、黄金も持つということだ。

 

 

「卿の世界は見せてもらった。では私のも見てもらおうか。」

 

 

Dieser Mann wohnte(その男は墓に住み) in den Gruften, und niemand(あらゆる者も) konnte ihm keine mehr,(あらゆる鎖も)

nicht sogar mit einer(あらゆる総てをもってしても) Kette, binden.(繋ぎ止めることが出来ない)

Er ris die Ketten(彼は縛鎖を千切り) auseinander und brach(枷を壊し)die Eisen auf seinen Fusen.(狂い泣き叫ぶ墓の主)

Niemand war stark genug,(この世のありとあらゆるモノ総て)um ihn zu unterwerfen.(彼を抑える力を持たない )

Dann(ゆえ)fragte ihn Jesus.(神は問われた) Was ist Ihr Name?(貴様は何者か)

Es ist eine(愚問なり) dumme Frage.(無知蒙昧)Ich antworte.(知らぬならば答えよう)Mein Name ist Legion―(我が名はレギオン)

Briah―( 創造 )

Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall(至高天・黄金冠す第五宇宙)

 

 黄金の獣、ラインハルト・ハイドリヒを頂点とする異界であり、かつて全力を出せずにいた獣が唯一全力を出せる場所であった城が蜘蛛の異界に亀裂を走らせた。

 

「礼を言うぞカール。足りぬ魔力を聖杯で満たし、創造すらも好きに使える様にしてくれた。負けぬさ、さあ……始めようか」

 

 異界同士が己の法則で飲み込むために鬩ぎあう。その光景はいつかの日に起こした怒りの日に規模は違えど相似しているようで、黄金は嗤う。自らの創造と互角の異界を広げる未知の怪物に感謝を。

 感謝の念を持ちつつも滾る戦意を槍の穂先に載せ、黄金の破壊光を蜘蛛へ向けて放った。

 これまで相手取ってきた存在の数々は一部を除きこの一撃を持って消滅していたが──

 

「ほぉ……!」

 

 街の一つを容易く半壊させる一撃手加減の無い一撃を容易く防がれたにもかかわらずその敵を前に顔には喜悦が浮かべている黄金の獣。

 

「■■■ ■■■ ■■■ 」

 

 鳴き声なのか何なのかわからないが、蜘蛛がソレを紡いだ時に襲い掛かるは水晶の流星群。その一撃一撃が少し前の獣であれば半死になるところだが、今ならば……

 

「オォォォッ!」

 

 流星の大半を打ち落とし、直撃した流星によって手傷こそ負ったものの特に戦闘に支障はなかった。加速する戦闘、いやこの規模はもはや戦闘でなく戦争だろう。小さいとはいえ個人レベルの世界と世界の戦いである。

 

「さぁ、これからが本番だ。」

 

 黄金の獣の声に反応してどこから伴く表れたのは彼を取り巻くような形でいる髑髏の軍団。その一つ一つは矮小なモノかもしれないが、確実に強者を狩れるだけの牙を持っているのだ。

 その状態で蜘蛛へ接近した黄金の獣。打ち合わせていたかのような絶妙なタイミングで髑髏の軍団から放たれたのはパンツァーファウスト、その数計測不能。当たらなかったところは無いのでないかというほどの数のファウストを受けたものの、蜘蛛は意に介していない。

 その後も、万を超える機銃、槍の一撃、パンツァーファウストと地雷の同時攻撃、万の髑髏によってできた手による物理攻撃。いずれもわずかに揺らぐことはあれども先ほどと変わらず無傷といっても過言ではない。

 これが、星の最強種。これが、この世界における現状最強の存在──この世界の人からORTと呼ばれる怪物の強さ。特に攻撃する意思はなくとも、堅牢な外皮がまず問題なのだ。

 

「これほどか……」

 

 出した攻撃の悉くが防がれているにも関わらず余裕の笑みは変わらない。とはいえ、この戦争の置いて異質なのはここまでお互い攻撃を直撃しあっているにもかかわらずほぼ戦闘継続の問題になる傷がついていないことだろう。

 

 現在の光景をこの世界の裏の住人が見れば驚愕と共に恐れを抱かれるだろう。様々な機関が接触を試み、特に何もしていないにもかかわらず大損害を与え続けている怪物相手なのだから。

 

「中尉──もはや卿の顔を見ることはないが、世界を跨ごうとも残滓として残るその忠誠……使わせてもらうぞ。」

 

 万物を愛していたころと比べ、黄金自体に様々なものが混ざっているせいなのか個人に対しても友愛を持つようになったゆえの言葉なのだろうか。

 それにより、残滓ではあるが──所持者にとっての至上の喜びを表すかの如く。

 

「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界。夜に無敵となる魔人になりたい。この畜生に染まる血を絞り出し、我を申請させる耽美と暴虐と殺戮の化身――闇の不死鳥

枯れ落ちろ恋人―― 」

 

 夜が満ち、所持者であった男の理想であった世界が今、世界が変わろうとも発生しようとし、

 

Der Rosenkavalier Schwarzwald(死森の薔薇騎士)」 

 

 

 本来の重量以上のモノが残滓にもかかわらず発生した。水晶、城、末に二つの世界が展開されている所へ夜が満ちた。発動者たる黄金へ蜘蛛の力を削ぎ送る。蜘蛛は自らの知らぬ法則にわずかではあるもののとらわれ、僅かではあるが極大の星の力を奪われた。

 気付いた蜘蛛はついに本気の反撃をする。誰も見たことのない蜘蛛の本当の攻撃が今始まろうとして──

 

「……遅い。接触を恐れる。接触を忌む。我が愛とは背後に広がる轢殺の轍

ただ忘れさせてほしいと切に願う。総てを置き去り、呪わしき記憶(ユメ)は狂乱の檻へ

我はただ最速の殺意でありたい――貪りし凶獣

皆、滅びるがいい―― 」

 

 それは最速の願い。最速の殺意、誰よりも抱きしめられたいゆえに、接触を拒んだ矛盾した凶獣の願い。

 

Niflheimr Fenriswol(死世界・凶獣変生)」 

 

 時間の取り合いすら上回る最速の法則……つまり、この世における概念でコレを上回るものは世界規模の速さをいじるくらいかもしれない。

 本来の所持者同士ではありえない白と白の願いの共演が為された。最速で駆ける者は黄金、その白光を伴った一撃は蜘蛛の現代において最強の鎧を僅かではあるが貫いた。

 

 

 




 勝手に設定変えてるところとか多いかもしれませんが、妄想した段階でこんな感じがいいなあっていうのがあったのでこうなりました。
 


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VS■■■ その2 闘争の果てに

 なんだか、もうちょっと重量の重くていい感じの文が書きたいんですけど語彙力皆無だったりするので難しいです……

 


 

「■▼●▼▲!!」

 

 蜘蛛は初めての痛みに絶叫した。戦場に生きる者からすれば大したものでないのかもしれないが、無敵の鎧に包まれ守られていた中身には痛みに対する耐性などないのだ。

 ゆえに、至上の怒りを持って敵を殲滅することを蜘蛛は決める。はじめは言われたので掃除するというどちらかといえば作業に近い気分で行っていた戦を蜘蛛は滅ぼしにかかる。

 蜘蛛は攻勢に出る。無限に降り注ぐ流星から、巨躯を活かした攻撃、攻め込んできた黄金に対しての地からの明確なカウンター、その何れもが黄金の体を捉えていた。

 

「ははははッ!」

 

 にもかかわらず、笑う黄金。これは、自らの全力に対してそれ以上を持って応えてくれるものがこの世界にも存在したことに対する歓喜か。蜘蛛はお構いなく攻め立てる。これ以上黄金は喰らわない。極限の武すら超える戦闘技術を持っている獣にとって簡単に二度目の攻撃はない。

 だが、躱しているだけでは倒せない。故黄金は新たな手を行使する。

 

「この身は悠久を生きし者。ゆえに誰もが我を置き去り先に行く

追い縋りたいが追いつけない。才は届かず、生の瞬間が異なる差を埋めたいと願う

ゆえに足を引くのだ――水底の魔性

波立て遊べよ―― 」

 

 まずは止めなければ必殺の一撃は当たらない。戦闘において必殺の一撃を放つのは隙があった時だ。隙もないのに大技を使えば逆にカウンターをくらうのは自分だから。故に、この技を使う。

 

Csejte Ungarn Nachtzehrer(拷問城の食人影)

 

 触れたものの動きを止める影を出す。蜘蛛はその巨体ゆえに掛かる。膂力も極大であるから今にも振りほどきそうではあるものの、この隙を逃さない。

 

 ここぞで使うのは、あの世界で黄金を最も愛した業火だろう。

 

「我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い続ける者

届かぬゆえに其は尊く、尊いがゆえに離れたくない

追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい――逃げ場なき焔の世界

この荘厳なる者を燃やし尽くす――」

 

 これぞ真の業火。かの水銀の一撃にすら拮抗した尊き炎。

 

Muspellzheimr Laevateinn(焦熱世界・激痛の剣)

 

 放たれた一撃に蜘蛛は飲まれる。初めての攻勢に意識が向いているが故、疎かになった自己の防衛。槍の一撃すら確かに耐えた鎧ではあるが──

 

「 ●▼▲ ▲ ▲──! 」

 

「卿の鎧は確かに素晴らしい。隙など無いだろうが……信ずる愛がない。」

 

 絶叫する蜘蛛に対して黄金は語る。多少変われど本質は変わらない。黄金は万物を愛している。柔らかく、柔軟になってはいるものの、本質はここにある。

 猛る業火は焼き尽くしにかかる、蜘蛛は抗いそれを消すことに躍起になるが……見ているだけの黄金ではない。

 

「さあ、幕引きだ。我は終焉を望む者。死の極点を目指す者。唯一無二の終わりこそを求めるゆえに、 鋼の求道に曇りなし――幕引きの鉄拳 砕け散るがいい―― 」

 

 此れこそ、必殺という名に相応しい一撃。死があるものを強制的に幕引く審判の一撃。

 

Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)

 

 この戦の最中において蜘蛛は信じられないような超速で変化を続けていた。それによって、この一撃は危険だと瞬時に理解したのかもしれない。破神の業火に身を焼かれながら瞬間に小規模であるものの黄金の獣を中心に異界の中に同じような異界を何重も重ねて作り出した。

 

 明らかに特異な現象だ。固有結界を一度展開しているにもかかわらず、もう一度中で小規模とは言え展開するというのは──

 星レベルの生命体の追い込まれた時に起こる火事場の馬鹿力とでもいうものはこれほどの事すらやってのけるということだろうか。

 必殺の機会を逸し、瞬間に隔離された黄金は察知する。蜘蛛がこの小世界ごと自らを押しつぶそうとしていることを……

 

「そうはさせぬよ。」

 

 黄金は槍を振り下ろす。限定的とは言えどもこの一撃は概念であろうとも文字通り終わらせる。つまり、異界規模においても通じる。突き出された槍の穂先が世界の内面に振れると、本来果てしないほどにの強固なモノであるはずの世界が何ともないガラスのように砕けた。

 ──これこそ、かつて黒騎士と呼ばれたものが極めた主たる黄金の獣にすらも届き得た求道の残滓。例え残り滓であろうとも、自足時間に影響はあるものの効果その者は変わらない。

 

 小規模の異界層を砕かれた蜘蛛と必殺をうまく躱される形になった黄金の獣。お互いの先の攻撃は別の存在で有れば何もできずに消されていただろう。これほどの規模の攻撃を交し合っているにも関わらず、蜘蛛は軽傷。黄金も手傷こそ負っているものの何ら問題ない。

 この世界規模の闘争はこのまま何方かが滅ぶまで続くのか──

 

 

『獣殿、時間だ。今の貴方では魔力切れが起こるかもしれん。』

 

 猛る獣の影から傍観者であった片割れ、水銀が忠告をした。いくら聖杯擬きを燃料にしているとはいえ、異界の鬩ぎ合いをしつつ、同出力の技を使い続ければ、魔力の回復が間に合わなくなる可能性もある。

 

『それと、一つ、二つ程度ではあるが此度の戦にて耐え切れなかった杯があるようだ。』

 

「──そうか、かまわん。カール、私は今満ちているのだよ。見たまえ、私の()という前提は付くものの、全力の私と互角以上に戦う敵が卿以外にいる。嬉しいのだよ、歓喜しているとも。名を聞けぬことは残念だが、私に(あい)させてくれッ!」

 

 黄金は止まらない。ただ己の衝動に身を任せ槍を操り、自らの世界を操り、異界と化した戦場を修羅の軍勢──己の爪牙と共に駆け抜ける。

 

 

 蜘蛛は成長し続ける。幾千の攻めに対して、一つずつ、しかし確実に対応し続ける。

 黄金の獣も攻め続けるわけにはいかないのだ。なぜなら蜘蛛が新たに得た小規模の異界を何重にも重ね、その世界事消滅させるという必殺を持っている故に。

 

 

 それを攻め続ける黄金に対し時折使うのだ。異界を破れるほどの技は黄金は今の段階では1つしか持ち合わせていない。破れる技は黄金と生前の事情により色濃く残滓として残っていないため長時間展開できず、消費魔力も他の物とは桁違いなのだ。

 

 様々な要因によって黄金は決めきれずにいた。にも拘わらず黄金の顔には喜悦が浮かんでいる。心の底から蜘蛛進化とその奮戦を歓喜しているかのように……。

 

 

『──そこまでにしてもらいたいな、獣殿。この肉体は一応私の物でもあるのだよ。』

 

 戦意を滾らせている獣を鎮めたのは唯一の友である水銀。かつてのノリで自壊しながらも戦い抜こうと思った獣であったが、今生においては共生していると言うこともあり、ある程度満足もしたため戦意を鎮めた。

 

 

 蜘蛛の方はそのようなことはお構いなしに攻め立ててきていたが、そこは術にも精通する水銀による異界からの転移によって何事もなかったかのように余波だけでも世界を破壊しかねない戦争は唐突に終わった。

 唯人の住む通常の世界に対しては未だ被害は出ておらず、異界内だけでの戦であったことは世界にとって幸運であったと言えよう。

 

 この戦争が激化し、水銀までもが出張り始めたとき、蜘蛛と黄金たちの世界の狭間に世界が新生し、現状の人々は蜘蛛か黄金の世界に呑まれ、新生した世界から蜘蛛と黄金の恩恵を受けた超人たちが闊歩する新世界が創造されていた可能性もあった。

 

そうなってしまえば、世界はコレを切り離し。無理やりこの世界を終わらせようとしただろう。とはいえ、黄金と蜘蛛だけならばそのまま消える可能性はあるだろうが、術師としての極み以上に立っている水銀がいることもあり、世界の思惑通りに消えるとは思えないが……。

 

 

これはあくまで可能性の話。此度は戦は終わり、裏の世界の住人の一部は蜘蛛の動きや魔力の残滓などで異常事態を察知するかもしれないが、上記のような事態にはならなかった。

 

 

「カール、次は負けぬ。久方ぶりだな、壊そうと思って壊せなかった存在は。」

 

『悔しそうな言葉のわりに、顔が緩んでいますが』

 

「何度も言ったがね、嬉しいのだよ。創造と残滓とはいえ我ら黒円卓の全力を受けても倒れず反撃までしてきたあの蜘蛛……名前はわからなかったのが残念だ。」

 

『獣殿、それでは当面は杯の修復と共に見聞を広めましょう。あの者は私の見立てではこの世界で最強の一角だ。様々なこの世界の知識を深めることで人からの呼称でしょうが分かるかもしれませぬ。』

 

「──それもいいかもしれんな。その道程に武ではない別の未知が待っているやもしれん。」

 

 水銀と黄金は行く。現状の己の武がどれほどかは理解した。そうすれば次は知識だ。世界を知ろう、そうすればまだ見ぬ強者や未知が待っている可能性が高い、故に──まだ旅は続く。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 旅は続く、それは世界を守るか、それとも破壊するのか、はたまた別の所へいくのか。もしかすれば世界単位で何処かへ行くのかもしれない。

 

  

 

 




 ORTには勝ちきれません。個人的にそんな技ねえだろとか思う方もいるかもしれませんが、ORTクラスなら何してもありかな~とか思いつつ。
 幕引きの鉄拳は個人的に練炭の方に言っちゃったんでコストがかかる感じにしました。
 そうじゃなければずーっと使ってれば勝てちゃいますからね。
 ……マキナはやっぱチートですね。

 


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