浦の星学院高校の日常 (ぷりんしぱる)
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第1話 初日。
謎めいた思考をする主人公で一人語りも多いですが、そこも魅力として楽しんでいただけたら幸いです…w
ピピッ ピピピピッ ピピ…
ガンッ!!!!!…外した。痛え。
カチッ、今度こそコンプリートっと。
朝5:30起床という中学時代から全く変わらぬ謎の早起き癖。でもそんな朝も、山に囲まれた街と海辺の街とじゃ大違いだ。布団からさっと体を起こして窓を開ければ、外はもう海。自分の部屋から地平線が見えるなど、思えば考えたこともない。
着替えを済ませ、いつものように1人で朝食を摂る。そしてまた部屋に戻って音ゲーをやる。早朝は静かだから、音ゲーにはうってつけの時間帯なのだ。
そうこうしてたらもう7:30。登校だ。父の仕事の都合で、岐阜の山奥から沼津の海辺に引越してから3日、いよいよ今日から学校に通うことになる。
俺が入ることになったのは「浦の星学院高校」。元々女子校だったらしいのだが、今年度から男子の受け入れも開始したそうだ。だが驚くべきことに、俺は「浦の星」の男子生徒第1号なのである。新入生にも男子はいなかったらしい。お分かりいただけると思うが、俺以外は全員女子。重圧に耐えられるかどうかもわからないが、ここ内浦から沼津市街まで通おうと思えば、バスに30分揺られることになるため仕方ないとも言えよう。とは言っても浦の星の方もバス通学なのだが。
家の最寄り、というか目の前のバス停のポールに寄りかかり、文庫本を開く。
「あのー…」
後ろから少し幼げな声。本を開いて2、3行しか読んでいない。本を読みながら声の方向に目を当てずに「なんですか?」と聞き返した。
「それって、浦女…じゃなかった。浦の星の男子服だよね?」
体がピクっとなった。まさかいきなり同校の生徒に会うことになるとは。本にしおりをはさみつつ、声の主に目を向けた。
その女の子は、鮮やかなオレンジ、というかみかん色の髪の毛からアホ毛が飛び出て、赤い目をしていた。声と同じく顔も少々幼い。
「そうだけど…あなたも浦の星の生徒さんですか?」
タメ語と敬語が入り交じって変なことになる。
「うん!私は高海千歌、浦の星学院高校の2年生!そこの『十千万』って旅館に住んでて…」
「千歌ちゃ〜ん!」
高海さんの自己紹介が、彼女の友人らしき桜色の長髪の女の子によって見事に遮られた。
「ごめんね千歌ちゃん、昨日作曲してて寝るのが遅くなっちゃって寝坊しちゃった…」
「梨子ちゃん大丈夫?無理はしないでね?」
え?作曲?沼津の女子高生ってそんなスペック高いもんなの?そういえば高海さんも旅館住まいって言ってたな…
「というか、この方は?」
まるで約束された展開のように俺の方に話題が回ってくる。
「あ、そういえば名前聞いてなかったね。貴方は?」
「俺は桐谷涼真。ふつーに涼真って呼んで。高海さんと梨子さん?と同じく2年生だよ。」
同い年との確認が取れたため、ガッツリタメ語モードに入る。
「私は桜内梨子。梨子って呼び捨てでも大丈夫よ。」
「あ、私も千歌で大丈夫だよ!」
会話のテンションが違いすぎる。ちょっと失礼かもだけど、なんでこの2人仲いいんだろ…
なんて言ってたらバスが来た。転校前までは自転車通学だった俺にとって、初めての通学定期でのバス乗車だ。と、千歌がバスに乗り込むなり「よーちゃーん!よしこちゃーん!」と声を上げながら一番後ろの席に駆けた。すかさず梨子が「危ないわよ、千歌ちゃん!」と注意を送るも、届かず。親子かよあんたら。何となくこの2人の仲の理由が分かった気がした。
「善子じゃなくてヨハネ!」「おはヨーソロー!」
ああ、やばい。これまたキャラが濃そうなのが出た。
お決まりのごとく自己紹介を受けた。
津島善子、1年生、自称「堕天使ヨハネ」。うん濃い。
渡辺曜、2年生、飛び込みの強化指定選手。うん強い。
そんな濃すぎるメンツに迎えられ、俺の学校生活は開幕を迎えようとしていた…
いかがでしたでしょうか?
何度も言いますが初めてなので多分変でしたよね…w
学業の傍らなので更新頻度は極端に遅いですが、まあ頑張っていきます!
次回もお楽しみに…
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第2話 堕天使ヨハネと飛び込み少女と俺と。
今回は前回終盤に登場した曜ちゃんと善子…じゃなくてヨハネちゃんが独特のキャラを出しまくるお話です。
果たして涼真は2人のテンションについていけるのか…?w
それではどうぞ。
千歌に促されて、4人の近くに座ることになった。本当は前の方で静かに座ってる方が好きなんだが…
一番後ろからひとつ前の席に腰を下ろした俺に、曜が話をふりかけてきた。
「涼真くんはなんで沼津に?」
なんだその某テレビ番組みたいな言い草は。などと思いながら
「親の仕事の都合だよ。」
と事実だけを返した。
「へぇー、 じゃあ海はあんまり行ったことない感じかな?」
「あんまりどころか、こっち来るまでは1度も見たことなかった」
また事実だけを返した…が、おかしい。曜の返答がこない。ふっと目をやると、完全に哀れみの眼差しを向けられていた。
「海を見たことがなくて、16年間生きてきたの…?」
いやそんな言う?別に生命活動に関わりはないだろ。
まあでも仕方ない。海に縁がありすぎる沼津市民にとっては俺みたいな人は不思議だろう。
と、後ろから梨子が
「曜ちゃん、流石にその言い回しは失礼よ…」
と、しつけのようなツッコミを入れた。保護者かよ。
「ああ、ごめんごめん…w 私、幼稚園の頃から海っ子だからさー…」
分かってる、というか大体想像はついてた。
「ところであなた…私のリトルデーモンになる気は無い?」
ここまで完全に無言だった善子(ヨハネ?)が口を開いた。とは言っても完全に何言ってるか分からない。リトルデーモンて、え?何?俺生贄にでも捧げられんの?なんて考えてたら
「ああ気にしないで、善子ちゃん大概こんな感じだけど、中身はちゃーんと名前の通り『善い子』だから。」
と、千歌が解説を入れた。
「善子じゃなくてヨハネよ!」
すかさず善子がツッコミを入れる。俺はそれに対してツッコミを入れたくなったのだが、これ以上聞き出すとめんどくさくなりそうだったのでやめた。
その後はただただ善子の堕天使エピソードなるものを聞かされた。
小中学校のイベントはほぼ全部雨。もし晴れても自分が病気にかかって休み。とにかく不幸すぎる堕天使。うん、確かにそうだな。
そして、現時点ではリリーと上級リトルデーモンの契約を結んでる…?リリー?
「あのー、リリーって?」
「ああ、梨子ちゃんのこと。」曜が即座に解説を入れる。善子との会話には千歌か曜の通訳がいるっぽい。それにしても梨子は大変だ…
と、そんな話をしているうちに学校前のバス停に到着した。バスを降り、初めて見た時からずっと気になっていた時刻表を覗く。
…やっぱり。このバス停、通学時間と下校時間に数本しか通ってない。嘘だろ、岐阜でも1時間に2、3本位はあるぞ。
そんなものには目もくれず、当然のごとくスルーした4人は坂道を登り始める。それも結構長そうだ。勾配もなかなかある。それを曜と千歌が「競走だー!」と小学生のように走り始め、梨子はまたまた善子に絡まれながら歩いている。やはり何をどう考えてもメンツが濃すぎる。これが浦の星の実態だと考えると、なんだか怖くなる。
でも同時に、なんだか学校生活が楽しみになった気もした。
俺は4人のあとを軽やかな足取りで追った。
いかがでしたでしょうか。実はこれの後半、学校の教室で書いてましたww まだ誰にも明かしてないんですが、恥ずかしいのでこのままバレないでくれると嬉しいですw
次回はいよいよ理事長と生徒会長さんの登場です。お楽しみに。
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第3話 アメリカンな理事長と大和撫子な生徒会長。
今回はダイマリちゃんがわちゃもちゃしつつ、涼真の割とすごい事実も浮かび上がりますので是非楽しんでって下さい
ハァ、ハァ、ハァ、、、いや何だこの坂道…千歌と曜、よく走れんな…
バス停に着いてから数分、ようやく学校にたどり着いた。校舎は至って普通。しかし、校舎に掲げられている校章は女学院時代のままのようで、「浦女」と書かれている。
「よし!涼真くん、じゃあ教室に…」
千歌が言いかけたとき、
「あの、桐谷涼真さん、ですわよね?転入生の…」
いきなりの「ですわ」口調。驚きと共に後ろを振り向くと、そこには名実通りの大和撫子がいた。綺麗な長い黒髪が風でなびいている。リボンの色からするに上級生のようだ。
「そうですが…どうかしましたか?」
「私、生徒会長の黒澤ダイヤと申します。理事長に顔見せをして頂きたいので、着いてきてもらっても…」
「ああ、分かりました。千歌、また後でな。曜と梨子と善子も。」
「ヨハネよ!」
「分かった!後でねー!」
千歌達の走り去る後ろ姿を眺めつつ、俺はダイヤさんに理事長室へ案内された。
「千歌さんたちともう仲良くされているのですね。」
「え、あ、はい。」
意外だな、千歌と何かしら関わりがあるのだろうか。
「理事長室はここですわ。」
そこにあったのは、普通のドアではなく、割とゴツめの濃茶色のドア。どんな人がいるのか…なんて考えてると、ダイヤさんが慣れたようにドアをノックし、
「鞠莉さん、入りますわよ。」
と言った。…鞠莉さん?しかも「ですわ」口調の丁寧なダイヤさんが敬語も使わず、普通に入りますって…?
「さあ、どうぞ入って。」「はい、失礼します。」
剣道部で培った礼儀正しさは転校しても健在だ。余談だが、俺は高一の頃、インターハイの個人戦でベスト4、団体戦で東海大会で準優勝している。浦の星にも剣道部があるとの事だから、もちろん続けるつもりだ。しかし剣道には持久力的要素が少ないため、さっきのような坂道を毎朝登るというのはきつい。まあいい、トレーニングの一環としよう。
部屋に入るとそこには理事長らしき人がいた。金髪で黄色い目をし、3年リボンの制服を着た…制服!?
「ハロー!リョウマくん♡Nice to meet youデース!」
理事長が俺に思いっきりハグしてくる。まあアメリカンスタイルであることは分かった。
だが待て色々とわからん。まずなんで理事長が3年生の制服を?まあダイヤさんと身長は同等程度だから…ってことは18で理事長!?ああもうなんなんだ浦の星…
「私がこの学校の理事長の小原鞠莉よ。」
「いやなんで理事長が3年生の制服着てらっしゃるんですか…」
すると理事長が妙にシリアスな顔をした。
「それは…話すと長くなるの…」
「せいぜい30秒もあれば終わりますわよ。」
ダイヤさんに一瞬でツッコミを入れられる。
…で、色々と話を聞いた。要約すると、理事長の親がこの学校の所有主であり、娘である鞠莉さんが「生徒兼任理事長」を、しているらしい。いやもっと分からん。なんだその「選手兼任監督」みたいなノリ。
「そう、私は理事長って立場にあるけれど、インサイドは普通の高校3年。1つしか年も違わないんだから、『理事長』なんか堅苦しいネームじゃなくて、気軽に『マリー』なんて読んでほしいの♡」
いや普通の高校3年はそんな中途半端なルー語使わないでしょ。
「ところで貴方…」
ダイヤさんが横から口を挟む。
「インターハイの剣道種目でベスト4だった方ですわよね?小野坂第二高校の…」
いや知ってたのか。手続き書にそこまでは書いてなかったぞ。
「はいそうです。なぜご存知で…?」
「私も剣道部員でして。まぁもう1つ兼部していて、最近はそちらの方が主になっているんですが…」
生徒会長と剣道部ともうひとつ掛け持ち?超人かよ…って、あ!!!!!
「もしかして黒澤ダイヤさんって、あのインターハイ個人戦準優勝の!?」
いきなり思い出して声を上げた。あの時見た「浦女」の「黒澤」の垂れ。
「はいそうです、知ってらっしゃったのですか!?」
「隣の会場で試合していたダイヤさんの面が素早過ぎて…物凄く印象に残っていたんです。」
「お褒め頂き光栄ですわ。私もパワフルな貴方の剣道がとても素晴らしいなと思っていましたの。」
とても光栄なことだ。おひとつ上の学年の、それも全国準優勝の方に覚えていて頂けるなんて。。
「ン〜?こんな所で運命の再会?いいわねぇ♡今から試合やっちゃえば?」
「防具もないのに試合なんて出来るわけありません。」ダイヤさんが常識で一閃する。
「ほら、昔のサムライみたいにこうバシバシっと…」
「貴方にバシバシっとしてやりましょうか…?」
ダイヤさんのSっ気やばいな、おい…
「うわーん、ダイヤ怖いー!助けてリョウマくん~♡」
理事長…じゃなくて鞠莉さんが俺の後ろに回り込む。
「嫌ですよ、俺叩かれたくないですし…」
スっと右に移動。恐らくダイヤさんの方から見た構図だとダイヤさんが俺と鞠莉さんに説教を食らわせているようにしか見えないだろう。
「…まあいいですわ。そろそろHRも始まりますし…」
その時ドアが開き、
「桐谷涼真くん、HRで自己紹介して欲しいから来てくれる?黒澤さんと小原さんも、教室へ。」
と、担任教師的な人が俺を呼びに来た。
「はい、分かりました。ではダイヤさん、理事長…」
「マリーだよぉ(´・ω・`)」
「ま、鞠莉さん、失礼します。」
部屋を出て、ドアを閉めた。さっき感じた威厳とかそういうものは、1ミリも感じなかった。当たり前か。
教師に連れられ、ついに教室前へ辿り着いた。看板的なものには「2年」としか書いていないので、恐らく1クラスしかないのだろう。
いよいよ、クラスメイト(但し全員女子)との対面だ。
いかがでしたでしょうか?
涼真の剣道部設定、実は自分の中学時代から取ってるんです。まあ個人戦全国大会なんてかすったこともなかったほどの実力でしたけどねwww
そんなわけで、次回はようやく本格的な学校生活に入り込んでいきます。お楽しみに。
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