俺のラノベは間違っている’ (もよぶ)
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第一話

いつもの奉仕部、今日は材木座が書いてきたラノベの批評をする日

 

今回のラノベはダブルヒロインのラブコメ、かなりの力作だと材木座は自信たっぷりに言っており結構な量があった。

 

ちなみに由比ヶ浜は量もあって読むのが大変ということもあり相談の結果批評には不参加、そして今日約束があるとかで不在、よって雪ノ下と比企谷の二人から批評されるわけだが、このラノベが彼らの今後を変える物になるとはまだ二人は知る由も無かった。

 

「なあ雪ノ下、このラノベについて俺は言いたいことがかなりあるから俺からでいいか?」

 

「そうね・・・まかせるわ」

 

雪ノ下は軽くOKを出す。

 

「まずだな、このヒロインなんだが、黒髪ストレートの金持ちの令嬢とギャルっぽい感じの幼馴染ってステレオタイプすぎないか?安直すぎるだろ」

 

「八幡よ、やはりヒロインが二人だったらタイプの違うのが欲しいではないか、それにご令嬢ときたら清楚系、幼馴染ときたら明るいギャル系、家に押しかけて朝起こしにくるまでがセットではないか」

 

「だからそれが・・・つかそれはお前の趣味だろ、まあいいか、まあこれはこれとしてだ、主人公が目つきの悪い学校の嫌われ者ってのもな、この手の主人公って大概イケメンだろ」

 

「いやだからそれは・・・」

 

ひたすら設定にダメ出ししていく比企谷

 

「んでんだな・・・ここに出てくる登場人物ってどっかで見たことあると思ったがこれって俺たちの知り合いが元ネタじゃないのか?主人公のライバルの金髪のサッカー部のイケメンとかってもろに葉山だろこれ!」

 

「ばれてしまっては仕方あるまい!いかにも!ヌシがパクリパクリと指摘してくるので思い切ってヌシの周りの人物をパクッたのだ!どうだ八幡まいったか!」

 

何故かドヤ顔で説明する材木座

 

「ちなみに主人公の元ネタはヌシで、ヒロインは氷の・・・ゲフン雪ノ下殿と由比ヶ浜殿だ!」

 

「まいったか!じゃないよ全く・・・こういうのは恥ずかしいからやめてくれよ・・・由比ヶ浜がいたら大騒ぎだぞこれ、つか俺を元ネタにするならこいつはおかしいだろ、こいつヒロイン二人にここまでアプローチされてるのに気が付かないとか、ボッチは他人の反応に敏感なんだぜ?それに、なんでこうもいろんな人から好意を寄せられてるんだ?」

 

それを聞いた雪ノ下は何言ってんだこいつと言った顔をする

 

「比企谷くん、一度鏡を見てみるといいわ」

 

「意味が分からんな」

 

比企谷は顔をしかめて話を続ける

 

「まあこれは材木座のラノベだしな、んでだ結局令嬢と交際することになりお互いの家に報告に行くわけだ、そして両家の親から猛反対を食らうと」

 

「うむ、身分違いということで特に令嬢の親の方から強い反対が来るのだ」

 

「それは・・・あるかもな」

 

比企谷はちらっと雪ノ下を見る

 

「ま、まあそれでだ、そっからの展開にまた言いたいことがあるんだが」

 

「うむ、この後の展開がこのラノベの肝なのだ」

 

「肝じゃねぇよ、なんで駆け落ちとかしてんだよ、こいつら高校3年だろ、せめて高校卒業しろよ!しかもこいつら頭いい設定だろ!実は勉強ができるだけの馬鹿なのか?高校生ごときが駆け落ちとかうまくいくはず無いだろ!」

 

声を荒げて比企谷は怒鳴る

 

「そこは色々葛藤があったことを書こうとしたが何しろ我にはこういう経験が無くてだな、うまく書けなかった、つかどうした八幡?」

 

いきなり怒鳴られたのでちょっとビビる材木座

 

「それでだな、逃げた先が山形?なんで東北の田舎に逃げてんだよ!んで山形のさらに田舎の方に逃げた先で偶然運よく夫婦でやってる小さな町工場の社長に拾われてって雇ってもらえたってご都合主義もいいところだろうが!ありえないだろ!!」

 

原稿の束を机に叩きつけてさらに怒鳴る比企谷、そんな比企谷を雪ノ下は悲しそうな目で見ている

 

「い、いったいどうしたのだ?無断でヌシらを使ったのは謝る、許してほしい、でもそこまで怒ることもなかろう、創作なのだしご都合主義があってもよいであろう?」

 

怒り心頭の比企谷に材木座はうろたえ頭を下げる。

 

「ありえなさすぎるからだ!現実問題高校中退で駆け落ちなんてしたら悲劇へ一直線だろ、どう転んでもいいことない!」

 

比企谷はさらに怒鳴り散らす。

 

「そうよね、こんな何もかもうまくいってみんな幸せになる未来なんて、あり得ないわね、こんなに簡単に上手くいくのだったら・・・・」

 

「ま、マテ八幡、あと雪ノ下殿も何を言っておるのだ?これはただの創作であって実際に起きることではないのだが」

 

「大体てめぇがこんないいかげんな設定にするから悪いんだろうが!」

 

「落ち着け八幡、一応これには元ネタがあるのだ、まず逃げた先が山形というのは我の親戚が住んでいてな、去年の夏休み遊びに行ったのだよ、んでだ小さな工場を経営してるんだが、この叔父さんはお人よしな上にわけありの家出した人やら職が無くて困ってる人を呼んで飯食わせたりちょっとバイトとさせたりしてかくまったりすることがあるそうでな?そこをモデルにしたのだよ。それに山形はかの前田慶次が生涯を全うしたところでもあり、愛の字の兜で有名な直江兼続公・・・・」

 

「おいまて材木座、その工場のこと詳しく聞かせろ」

 

「ん?・・・ああ、そうであるな、この工場は鉄工所というか製作所って奴だな、色んな金属の塊を様々な形に加工するところなのだよ、たしか跡継ぎいないから自分の代で工場を閉めないといけないといけないと言っていて、我もその工場を見に行ったことがあってな、猛烈にスカウトされた、無論断ったが誰でもいいから来てくれないかとか言っていたな、頭が良くて品性方向なら履歴書いらんとか言ってたが」

 

「・・・え?そうなの?・・・こ、こんなご時世にもの好きもいるもんだな、つかそんなのは例外中の例外だろう、不特定多数に見せる小説にそれ書いてもご都合主義としかみられんぞ」

 

何故か比企谷は落ち着きがなくなっている。

 

雪ノ下も比企谷の方を見て落ち着かない様子だ。

 

「我もそう思うがこうでもしないとこの二人に未来はないだろう、駆け落ちものって八幡が先に言ったように大体が悲壮感漂うものばかりではないか、しかし本当にどうしたのだ八幡よ?そわそわして、トイレか?それとも体調でも悪いのか?」

 

「比企谷くんの体調はどうでもいいわ、それより材木座くん、その工場の話は本当なのかしら?」

 

雪ノ下が口を挟んでくる

 

「本当だが、雪ノ下殿、いかがなされた?工場経営に興味でもおありか?」

 

「いえ、そういうわけではないのだけれど・・・」

 

「ま、雪ノ下の工場経営の話は置いておいてだ」

 

比企谷が話を戻す。

 

「この逃走ルートについてだがフェリー使うとかおまえパトレイバーのOVAの見すぎじゃね?さふらわあにでも乗れってか?」

 

「ふ、甘いな八幡、よいか!我々一般人が想像できる移動手段というと1に電車2にバス3,4が無くて5に飛行機だ!タクシーなんてのは顔が覚えられやすい上に高いしな、ヒッチハイクは今のご時世リスクの方が高すぎる、自転車なんてのはもっての外だ、フェリーなんてのはそもそも一般人の頭には出てこない、そこが盲点なのだよ!」

 

「まあそうかもしれんが、フェリーってのは高いだろ、そもそも一般人が乗れるものなのか?セレブとかが乗ってるイメージしかないのだが・・・」

 

「ところがだ!去年家族で叔父さんのところに行く前の日に名古屋で行きたいイベントがあったのでな、我だけ名古屋からフェリーに乗って仙台からバスで山形へ行ったのだよ!実に快適だったぞ!丸一日かかるのだが雑魚寝なら7000円程度だ!一応グレードを上げるとカプセルホテル的なベッドや船室も選べたと思う、ちなみに映画館やゲーセンもあって珍しいことにキカイオーができてな・・・」

 

「わかった、わかった、フェリーってのは意外とリーズナブルなんだな、でも何も海路を行かなくてもいいのだろ?そのまま名古屋入りとか普通に電車じゃだめなのか?」

 

「ふん、これは逃走経路のカモフラージュになっておる!主人公は千葉だがフェリーは名古屋、仙台、苫小牧と移動する為一度名古屋まで行くことになる、本来の目的とは真逆が故、調べる側からすると紛らわしく足が付きにくいと考えた、それに名古屋は人の出入りが実に多い、某自動車会社や某重工関連の会社が密集している関係上、他県から見学に来る学生も珍しくは無いし、工場の期間工やらで若い連中がかなりいる、よって学生みたいな年齢の人が平日駅に居ても全くおかしくない!」

 

「なるほど、名古屋に入らない理由はそれか、んじゃあそのまま仙台でもいいだろ、そっちの方が人が多いし身を隠しやすいんじゃないか?、山形に移動する必要がわからんな、移動時に見つかるリスクが高いだろ、仮に材木座の叔父さんがいるのを初めから知っていたとしてもだ」

 

「ここも逃走のキモでな、やはり下船した仙台はそこそこの都会ではあるが千葉からの交通の便は良すぎるし様々な企業が入っておる、御令嬢となれば当然家の者が調べるであろうから仙台では足が付きやすいと思ったのだよ、なのであえてその隣の山形へと場所を移動したのだ!」

 

「大企業の令嬢なんだろ?んなもん関連会社とか息のかかった所とかに総動員されるとすぐ見つかっちゃうだろうが、そもそも捜索願い出されちゃうだろ」

 

「ところがだ我々のイメージからすると山形はド田舎としか思えん、無論身を隠すには不向きと思われがちだが意外とそうでもない、こういうところでは地元企業がでかい顔をしてるから外からの企業からの圧力とかはまるで効力が無い、よって御令嬢の所の会社が出張ることすらできんと考えた、普通に警察に捜索願とか出されると厄介だが、体面気にするところならそういうことはやらないだろうしな、探偵も雇わず内々で処理するだろうと考えた」

 

「なるほど、でもフェリーって予約必須だろ・・・受付の人に金掴ませて予約履歴や乗船履歴調べられたら仙台に行ったと分かっちゃうだろ・・・そしたら山形に移動したこともばれるだろ」

 

「初めに行ったであろう、盲点だと、意外と空いておる、我は予約せず当日行ってそのまま乗れた、メインはトラッカーや自衛隊等の貨物関連や定期的に大人数で移動する団体客だからな、個人客なんぞついでなのであろう、トラックや自衛隊の方々等の団体が乗り込んだ後我々一般人が乗るのでな、それにこういうのは本名でなくても良い、変装して偽名でも使われたら警察でもない限りわからん、イベントの時ビジネスホテルに泊まる時とかもたまに偽名をつかったりしてるぞ、我」

 

「・・・そうか、おまえ結構アグレッシブなんだな、しかもちゃんと事実を基にして考えてるとは、決めつけてすまなかった」

 

少し落ち着いた比企谷は材木座へ頭を下げる

 

「いやその程度で頭を下げられてもだな・・・まだレビューは終わっておらぬだろう」

 

「そうだな・・・んじゃ続けるか、んで令嬢と主人公が6畳1間風呂なしトイレ共同もボロアパートに一緒に住むことになるようだが、令嬢にはこんなクソ狭い部屋で生活なんて無理だろ、少しは考えろよ」

 

「あら、私なら好きな人と一緒ならどんなに狭くてもボロでも構わないわ」

 

「・・・雪ノ下なら確かにどんな環境でもやっていけると思う、でも普通に考えて無理だろ、風呂無いんだぞ?」

 

「それなら心配いらぬ!近所に銭湯がある設定だからな!実際おじさんの工場の近くには温泉があったしな!抜かりはないわ!」

 

材木座が口を挟む

 

「まあ確かに一緒に銭湯に行ってる描写あるけどさ、赤いタオルをマフラー代わりにした彼女って、これ神田川だよね?彼女の優しが怖かったとか彼女が似顔絵を描いてくれたとか完全に神田川の歌詞パクってるよね?まさかこれが書きたかったの?」

 

「うむ、我の親父殿が好きでな、我も歌えるぐらいよく聞いたのだ、ちょうど情景がマッチしてることに気が付いて入れた、さすがに3畳1間は狭いから6畳間にしたがな、後悔はしていない」

 

「あら、私もこの歌好きよ?比企谷くんにはこの良さがわからないのかしら?」

 

「雪ノ下まで・・・もうわかったよ、百歩譲ってこれは良しとしよう、んでしばらくの間工場で働いてると幼馴染も押しかけてくるんだよな」

 

「うむ、これぞダブルヒロインラブコメの真骨頂だろう」

 

「真骨頂じゃねぇよ、幼馴染まで6畳1間って狭すぎるだろ、つか普通に考えて男の方はやばいだろ、色々爆発しちゃうよ?女性2人とかって倫理的に問題のある行動しちゃうよ?」

 

「大丈夫だ、描写が抜けていたが少し広いところに引っ越している設定だ」

 

「いや広くても無理だろ、同じ屋根の下に年頃の女性2人と同居とかってどう考えてもダメだろ」

 

「そこは主人公の頑張り次第だな、それに最後には両方と結ばれる設定だし」

 

「そこだよ!そこが一番の突っ込みどころだよ!令嬢を正妻にして幼馴染を公認の愛人とかっておかしいだろ、なにより世間様がゆるさんだろ」

 

「うむ、一般人ならばそうだろう、しかしこの段階まで来ると工場は主人公の頑張りで大きくなって社長になっている、権力者となれば愛人の一人や二人いてもおかしくなかろう」

 

「いやおかしいからね?いないのが普通だからね?それにいくら成績優秀だからといって高校中退のガキが頑張った所で工場を大きくなんてできないだろ・・・」

 

「まあそれもそうだが、これにも元ネタがあってだな?叔父さん結構年いってるのに助成金の申請通せるような開発ネタをいくつか持っているとか言っててな、若い力がありゃ成功するんじゃーってスカウトされそうになった時熱く語られたのだよ」

 

「そんな一発屋みたいことしてもそのときはいいかもしれんが続かないんじゃないか?」

 

「それがそもそもこの工場は、国内外の人工衛星やらロケットやらの部品を納めるルートも持っているとか言っておった、メーカーも開発に乗り気だが自分は年取りすぎて付いていけないとかで、今他社の工場に業務をお願いしてる最中なんだと、だからそれが全て自社で上手く行ったら大きくなるのも夢ではないだろう、まあそんな事例を元にした」

 

「え?・・・そうなんだ・・・本当に上手く行けば安泰だな・・・で、でもだぞ?愛人とかって社員に知られたら一気に信用ガタ落ちだよ?」

 

「それは大丈夫だ、なにしろ学生時代に主人公を慕ってくれてた友人たちが続々と集結して会社を盛り上げてくれてるであろう?、事情を知ってる人で周りをがっちり固めてるから無問題と考えた、みんな幸せ大団円、これ以上何を望む?」

 

「そこも突っ込みどころの一つだよ!主人公嫌われ者じゃなかったの?なんで友人がたくさんいるんだよ?確かに駆け落ち前のエピソードで何人か登場してたけどさ、なんでそいつらが集結してんだよ、RPGのラスボス戦みたく怒涛の展開だよ。」

 

「そうはいってもおぬしだってボッチと言うくせに我とか戸塚殿とか友人知人は結構いるのではないか?」

 

「戸塚は別だ、お前はしらん」

 

「冷たい奴だな、まあいい、これでおぬしの評価は終わりか?では雪ノ下殿お願いする」

 

まだいろいろ言いたそうな比企谷を尻目に材木座は雪ノ下の方へ向く

 

「私からは・・・」

 

~~~~~~~~~

 

一通り評価が終わり、いつものように文章の書き方についてコテンパにされた材木座は席を立つ

 

「毎度のことながら貴殿らは厳しいな、ではラノベを回収しよう」

 

そういいコピーを回収しようとしたが

 

「いやこれはこっちで捨てるからいい」

 

「私も自分で捨てるからいいわ」

 

なぜか二人とも原稿を渡そうとしない上に比企谷から質問が来る。

 

「材木座、これなに使って書いたんだ?」

 

「ほむん、聞いて驚け!dropboxというアプリがあってだな!これがスマホと自宅のPCを連携してファイルを共有出来るのだよ!好きなエディタで何時でもプロットや執筆ができる優れものだ!」

 

「ふーんそうか、ちょっと見せてみろ」

 

「これなのだよ、自宅のPCは常につけっぱなしだからな、即座に共有・・・ちょっと八幡!なにしてんの?!」

 

「なにってファイルを消したんだよ。これでお前のPCからも消滅しただろ。」

 

「なにあっさり言っておるのだ!これ書くのにどれだけ苦労をしたと思ってる!」

 

「黙れ、人を勝手にモデルにしておいてその言いぐさは無いだろ、それに印刷したものをお前が一部持ってるから構わんだろうが」

 

「それはそうかもしれんがこれはあんまりではないか!クソっ何たることを・・・貴様やっていいことと悪いことぐらい分かれよ!」

 

さすがの材木座もこれには怒り心頭だ。

 

頭を抱え比企谷に怒りの言葉を吐く。

 

「材木座くん、申し訳ないけどこれをデータとして残しておくわけにはいかないのよ?もし流出してあらぬ噂がたった場合あなたは責任とれるのかしら?」

 

「しかしだな・・・」

 

頭を抱えながら返答をする。

 

「材木座、すまんが納得してくれ、あとこれに関する話をよそでするなよ?」

 

「なんでそんなにこれの存在を隠したがるのだ?まさか本当に・・・」

 

「おい、それ以上は言うな」

 

材木座が顔を上げると比企谷と雪ノ下がこちらを睨み付けている、どう見ても雰囲気が異常だ

 

「批評会はこれで終わりだ。お疲れ様」

 

材木座は部室を追い出された。

 

「しかし八幡はいったいどうしたのだ?雪ノ下殿も心ここに有らずといった感じだったし最後なぞかなり怖かったぞ・・・まさか・・・」

 

頭に浮かんだ考えを必死に否定する

 

「そんな訳はないだろう、あれは我が考えた話だし、八幡も雪ノ下殿もああいう関係ではないとは思うし・・・」

 

そんなことを考えながら階段付近まで来たとき

 

「ちょっと待ちなさい」

 

振り返るといつのまにか雪ノ下が立っていた。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「先ほど話に有った工場の連絡先と場所を教えなさい」

 

「へ?本当に工場経営に興味が?」

 

「あなたの意見は聞いてないわ、教えるの教えないの?どっち?」

 

どんどん雪ノ下の目つきがけわしくなってくる

 

「い、今はわからぬ、家に帰らぬと」

 

「では連絡先を交換しましょう、光栄に思いなさい、私の連絡先を知っているのはこの学校でも数人だけよ?あと余計なメールや電話をしてきたら社会的に抹殺するから覚悟してね?」

 

本当は胸がときめくはずの女子との連絡先交換がなんでこんな脅迫じみた展開になってるんだろう、そう思いながら材木座はビクビクしながら連絡先を交換し、家に帰ると二度とかかわりたくないと思いつつ即座に工場の連絡先をメールした。

 

その一週間後比企谷八幡と雪ノ下雪乃は千葉から姿を消すことになる。

 



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第二話

二人がいなくなったことに始めに気が付いたのは八幡の妹の小町だった。

 

最近帰りが遅くなったり一旦帰ってはまた出かけるということが多く行先も教えてくれない状態が続き、きっと誰かとデートしてるのではと気を利かせていたつもりだったが、朝は普通に学校に行くといい出て行ったのにもかかわらず今日に限って全く連絡もよこさない上にこちらからいくら電話をしても全くでない、あれほどのシスコンの兄と連絡が取れないのは異常だと感じ知り合い全員に連絡したためだ。

 

無論材木座の所にも連絡は来た

『もしもし?中二先輩ですか?比企谷八幡の妹小町です、私のことご存知ですよね?おにいちゃん知りませんか?全然電話に出ないんですよ』

「これはこれは八幡の妹君であるか、そういえば今日学校では見てない気がするが、帰っておらぬのか?」

『そうなんです、しかも最近帰りが遅いときが続いてまして』

「部活か何かであろう、また厄介ごとを引き受けているのでは?」

『みんなそういうんですけど、雪乃さんにも連絡取れないんですよ?』

 

「え?」

 

まさかと材木座は思う

 

『で、中二先輩に電話したのは、最近お兄ちゃん紙の束をよく持ち歩いていまして、この間リビングに置きっぱなしになってたからこっそり見ようとしたら見つかっちゃって、その時にいつものお兄ちゃんらしくなく私から無言で紙の束を強引に奪い取ってから『これは材木座が書いたラノベって奴だ、読んだら目が腐る禁書だから絶対見るな』となんか怖い感じだったのでもしかして何か知っているのかと思いまして』

 

「い、い、いや、確かにラノベを書いて批評をお願いしたが、まま、まあ確かに八幡以外には見せられない内容であるし?、り、量も多かったのできっと空いた時間にちょくちょく読んでくれたのであろう!きっと!たぶん」

緊張で声が上ずってしまう

 

『そうですか・・・批評もしないでどっかに行っちゃうなんて中二先輩に失礼ですよね!お時間取らせてごめんなさい』

 

通話後、焦った材木座は比企谷へと電話をするが

『おかけになった番号は・・・』

と繋がらない状態、雪ノ下への連絡は怖くてできなかった。

 

そういえばと思い出す

「ラノベの批評をしてもらった次の日に図書室で八幡を見つけたと思ったら全国地図を広げて雪ノ下殿となにやらメモを取りながら真剣に話し合っていたな、てっきり部活でまた面倒なことを押し付けられてるのかと思っていたが・・・」

 

これはまずいまさかラノベの内容を実行に移したのだろうか?嫌な予感がする。

「叔父さんの所に電話してみようか?でも下手に電話すると叔父さんが変に気を使って学校に電話したりして大変なことになりそうだな」

どうしたらいいのか今の自分にわかるはずもなく布団をかぶって早々に寝てしまった。

 

次の日何度メールや電話をしても雪ノ下雪乃から返信が全くないことに疑問を感じた小町が騒いだため雪ノ下の失踪も発覚し大騒ぎになった。

何しろ地元では名士の御令嬢が同学年の男子とともに消えたのだ。

雪ノ下建設のあらゆる関係者が地元を奔走し足取りをつかもうと躍起になったが、千葉駅でそれらしい制服姿の男女を見たという証言を最後に足取りは全くつかめなくなってしまった。

 

学校でも大騒ぎになっていた、渦中の雪ノ下雪乃は学校でも指折りの有名人である、対して比企谷八幡も別な意味で有名人であったので、なぜあの二人が?と噂が噂を呼んでいた。

 

学内の廊下で戸塚とあった時にも

「材木座くん、八幡のこと何か聞いてない?雪ノ下さんも行方不明って話だし、駆け落ちしたとか心中したとか噂が流れてて僕心配だよ・・・」

「ま、まあ八幡のことだからそのうちひょっこり帰ってくるであろう、だから我々はいつも通り過ごしておけばよい」

「そうかな・・・」

戸塚は暗い表情で教室へと入っていく、ふと教室内を見てみると全体的に暗いムードだった、なにしろトップカーストグループがお通夜状態だったからだ。

グループに所属している由比ヶ浜がずっと泣いているのがその理由のようで、由比ヶ浜を三浦と海老名が慰めており葉山もいつものスマイル顔ではなく表情は暗かった。

 

しばらく見ていると葉山と目があった。

材木座はやばい雰囲気を感じ退散しようとするが、あっという間に葉山に捕まってしまう

「材木座くん、君は比企谷と仲よかったよな?何かしらないか?」

「い、いや、件の噂のことであろう?我は何もしらぬ」

「君はよく雪ノ下さんと比企谷に自分の書いた小説を読ませてたんだろ?その時に何か聞いたりしてなかったか?」

葉山の目はかなり真剣だ

 

「いや、何もしらぬ、何も聞いてはおらぬ、いつもあの二人は我のことを邪険に扱っておるので必要なこと以外は何も聞いておらぬ!」

「君が最後に奉仕部に行ったのはいつだい?」

「先週だったか?普通に設定やら文章にダメだし食らってそのまま追い出された」

先週のことを聞かれて焦りまくる材木座

「・・・そうかその時なにかいつもと変わったこととかなかったか?」

「い、いつも通り散々なこと言われただけだ、たた、たまにはほめてくれても良かろうと思わぬか?」

「・・・そうか、呼び止めてすまないね・・・」

葉山はそういうと教室内に戻るが

 

「比企谷・・・雪乃ちゃんをいったい・・・あいつ・・・」

そんな独り言が葉山から聞こえた

 

材木座はこれ以上ここにいるとまた誰かに捕まると思い自分のクラスへと戻ろうとしたところ、今度はロングヘアーの女子のヤンキーに絡まれ、そのまま廊下の角まで引っ張って行かれる

「あんた・・・比企谷と仲よかったよね?」

「は、はひ!ど、どちらさまで!」

 

ヤンキーは壁ドンをして更に怒鳴るように質問を続ける

「あんた!比企谷のことなんか知ってるんじゃないのか!?」

「ししししらぬ!八幡のことも、雪ノ下殿のことも我は知らぬ!」

材木座は恐怖で足がすくんでしまうが、ヤンキーの様子が一変する

 

「あいつ・・・どこにいったんだよ・・・あいつに私は・・・まだ・・・」

下を向いて体が震えている

「比企谷・・・」

ヤンキーはそのまま床に座り込んで顔を手で覆って泣いてしまう。

材木座はこれはチャンスとばかりにさっさと教室へ戻るが、教室でも色々話が飛び交っていた。

二年の生徒会長が生徒会室に籠って出てこないとか、一年にいる比企谷の妹がいてずっと泣いているので授業にならず保健室へ運ばれたとか

 

「なぜこんなことになってしまったのだ」

HR時に学外へ話を漏らさぬよう教師からの通達を聞いた材木座は頭を抱える

この件に関しては外に漏らさないようにと生徒達に学校側から強く口止めするよう通達が出され、噂を学内で抑えようとしているようだった。

 

「我はラノベを見て話を聞いてほしかっただけなのに、本当に駆け落ちしてしまったのだろうか?・・・一体あの二人になにがあったのだ?」

 

しかし今更どうしようもない、言ってしまえば行動したのはあの二人の勝手である、こちらには責任が無いともいえるが行動の引き金を引いたのは自分という罪悪感があった。

いっそのことラノベのことを先生や皆に言った方がいいのだろうかとも思ったが、何故自分に口止めもせずにあの二人は姿を消したのかということを考えると、彼らの選んだ行動を尊重しなくてはと思い、黙っていることにした。

 

そもそも材木座は比企谷と違い正真正銘のボッチである。

学校内では奉仕部自体あまり知られてないのと、比企谷の存在感の薄さも相まって一部を除きほとんどの人に材木座と比企谷や雪ノ下とのつながりを知られていないのである、また自分のクラスでは原稿に向かって一人ニヤニヤしてる変人というのが周りから見た彼の印象であるため、今回の騒動に関係してるとは誰にも全く気が付かれる心配は無かった。

 

そんなおり二,三日後の材木座家の夕食時に義輝の父からうれしい?ニュースが聞けた

「義輝、山形の叔父さんの工場を覚えているか?ほらあのスカウトされそうになったとこ」

「覚えてるがそれがどうかしたのか?」

「うむ、あの工場にお前と同じぐらいの年の妙なカップルが来たそうだ」

「ほうほうそれで?」

「女の方はかなりの美人で男の方は目がちょっとおかしい人相だったそうだ」

「ほう、それは確かに妙なカップルだな」

平静を装い興味深く聞いているふりをしていたが内心ではまさかと思い落ち着かなくなる

 

「うん、それでだその男女が突然工場に来てだな、男の方が叔父さんと顔を合わせるなり『ここで働かせてください!お願いします!』といって切粉や油でいっぱいの工場の床に土下座したんだと、何度も額を床に叩きつけていたそうだよ」

 

「ずいぶんと必死だな・・・」

「そうなんだ、んで叔父さんが絶句して動けなくなってると、女の子も『またあなたばかり』とかなんとか言って自分も汚い工場の床に膝を突いて土下座し始めたもんだから、騒ぎを聞きつけた叔母さんが慌てて止めに入ったそうだ、なんか肌がとても白くて綺麗な女の子だったとか」

 

目がおかしい男子と肌の白い美人の女子、間違いない、良かった、八幡と雪ノ下殿は無事工場にたどり着いたのか、察するに雪ノ下殿に何も言わずにいつものように汚れ役を買って出て土下座作戦をしたのであろう、こんな状況でもそんなことをするとは八幡らしい、しかし噂の中には心中したとか言ってる人もいたのですごく心配してたんだぞ、と表情には出さず安堵する材木座

 

「んでその男女だいぶ訳ありみたいで名前以外はどこから来たのかとか一切教えてくれないんだと」

「なるほど、確かにそれは大分事情がありそうだな」

 

「んで名前もなるべく他人には口外しないでくれとのことで俺も教えてもらってない、つかこの話自体家族以外にするなと言われている」

「結局訳有カップル雇ったのであろうか?」

 

「それがそのカップル、試に働かせてみたら働きぶりがすごいから即採用したんだと、なんでもあっという間に工場の資料の整理やら紙資料を電子データ化したりして呑み込みも早いし礼儀正しいし、叔父さんもどっかの御令嬢と御子息が駆け落ちでもしたんじゃないかって笑っていたよ」

 

八幡は一般家庭だから叔父さん半分正解だ。

内心苦笑いをする材木座

 

「住むところも昔従業員がいたとき寮として使ってて今はアパートとして貸し出してるところがあるからそこに住まわせてるんだそうだ」

「まさかそこはもしや風呂なしトイレ共同とかではあるまいな?」

「さすがに今のご時世それはないよ、八畳一間の1Kの普通のアパートだってさ、一人一部屋のつもりだったけど二人一部屋で十分ですと言って受け付けなかったそうだ」

 

ふむ、神田川は実現することは無さそうだな、現実問題として風呂が無いのはきついし共同トイレってのもちょっと嫌だしな

 

「避妊はしろよって言葉で二人とも顔を真っ赤にしてたそうだがな!どうだ義輝!様子を見に今年も行ってみないか?」

「今年は受験があるから遠慮する、その訳有カップルも知らない人が来ると警戒するだろうからやめた方がいいのではないだろうか?」

「それもそうか、まあ年頃のカップルが駆け落ちとかアレだな、ドラマみたいだな、なんか興奮するな?」

そう義輝の父は言いゲラゲラと笑う、どうも酒が入ってきてるようだ

友人をダシにした下ネタで盛り上がりたくは無かったので早々に食事を終えて自室にこもる。

 

これから自分はどうすればいいんだろうか?

何しろ味方になれるとしたら自分しかいないのだ。

彼らの為になんかできることは無いか考えても出てこないので宿題を済ませて早々に寝ることにした。



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第三話

数日後、平塚先生の授業が終わった後

「材木座ちょっと顔を貸せ」

と呼び出しを受ける。

案の定噂の二人についてなにか知らないかということだったので知らぬ存ぜぬを突き通す。

 

「そうか、やっぱりお前もしらないか・・・実は由比ヶ浜がな、毎日奉仕部の部室に来ているんだよ、二人はもういないのだからといっても、ここにいると二人が帰ってきそうだからといって下校時刻までずっといるんだ、始めは三浦や海老名もいたんだが、いまはずっと一人だ、お前に言うのもおかしいと思うがなんか声でもかけてやってくれ、私も行って話し相手になったりしているが正直どうすることもできん」

そういって先生はうなだれてしまった。

 

その日の放課後とりあえず行ってみるかと特別棟の方へ足を向けるがふと気が付く。自分が行って何を話せというのだろうか?それに女子との会話が苦手でありまともに話せない。それに気が付き、とりあえず自販機で飲み物でも飲んで心を落ち着かせようとしていると来客者なのか二人の女性が廊下を歩いているのが見えた、どうやら特別棟の方へ向かっているようだ、二人ともすごく美人でどことなく見覚えがあり誰かを連想させた。

 

「ハテ?一体どこで見たのだろうか?というか特別棟に一体何用なのだろう?保護者のようだが今日何かあったかしらん?」

階段を上っていく姿を見つつ考えてみるが学校の細かい行事までは把握していないため、誰かの面談とかそんなんだろかと思い首をひねる。

 

しばらくして二人の姿が見えなくなった為考えを戻す。

「来客より由比ヶ浜殿のことだったな、これに関しては自分は無関係というわけにはいくまい、我にも責任の一端があるであろう、なんとかできないであろうか?」

由比ヶ浜は比企谷と雪ノ下と友人関係であるし何とかしてやりたいという気持ちもあった、ジュースを飲み終わり色々考えてみたがまるで思いつかない、

 

「あのラノベを読ませてもなぁ・・・それに八幡の居場所を教えたりしたらそれこそ彼らの覚悟を無意味なものにしてしまうし・・・」

とりあえず当たって砕けろと覚悟を決めて奉仕部の部室の前まで来る、扉を開けようとして手をかけたときに中から平塚先生と誰かが言い争ってる声がしてただならぬ雰囲気を感じた為、やっぱ入るのやめようと思ったが、扉の方が内側から勢いよく開いた。

 

「あれーあなたも奉仕部の関係者かなー」

扉を開けた女性が声をかけてくる

「え?え、まあそのようなものですが、ど、どちらさまでしゅか?」

材木座は、あれ?さっき見たような?と思うが妙な威圧感に戸惑ってしまい若干噛んで返事をする。

女性から中に招き入れられるが部室内には平塚先生と泣いている由比ヶ浜がいる、状況がつかめずオロオロしていると

 

「わたしはねー雪乃ちゃんのお姉さんで陽乃っていうの、んでこっちがお母さんなんだよー」

 

と雪ノ下の姉を名乗る女性は中にいるもう一人の女性を指してにっこり笑う、

「それでどこかで見たような気がしたわけか、確かにものすごい美人だ、雪ノ下の姉というのもうなずける」

そう材木座が思っていると

 

「雪乃ちゃんの居所しらない?」

途端に陽乃の目つきが殺気のこもった目つきに変貌する、視線で人を殺すとはこのことなのだろうか、母親と紹介された方もこっちに強烈な視線を浴びせてくる

「いや、あの・・・」

材木座が言葉に詰まってると

「あーもういいから、携帯もってる?」

「へ?ええ、持っていますが」

と材木座は勢いに押されて携帯を取り出す。

「ちょっと貸して」

と陽乃は材木座から携帯を奪い取り勝手に操作して調べ始めた

 

「比企谷くんとはやり取りしてたみたいね・・・あなた友達かなにか?」

「ちょ、ちょっと、勝手に見るのは・・・」

そういえば雪ノ下の連絡先が入ってたと焦る材木座だったが、それを無視し陽乃は携帯をいじっている。

「なにこれ?この連絡先のとこにある勇者王とか飛影とかジョー東とか?なんなの?なんか人の名前っぽいのが少ないんだけど」

「そ、それはネットの知り合いで・・・オフで会う時の・・・」

「あーもいいわ、わかった、この最近メールしていた『氷の女王』ってのもそれね」

 

「・・・あ、あのもうよろしいでしょうか・・・?」

「写真も・・・特に雪乃ちゃんとか写ってる物もないみたいだし、最近撮った物も無いみたいね・・・ふーん生意気にもdropbox使ってるんだ、何このテキストファイル?小説?」

「は、はい、そういうのを書くのが趣味でして・・・」

「あっそ、・・・ほかにはゲームぐらいしかないわね、期待して損した、返すわ」

陽乃は携帯を材木座に投げてよこす。

「は、はい、ありがとうございましゅ・・・」

材木座は吹き出る汗をぬぐいつつホッとして携帯を受け取る、氷の女王の名前が出たときは焦ったがどうやら知らなかったようだ。

 

「それでさぁ・・・」

そんな材木座に陽乃はさらに質問をしようとするが、平塚先生が助け舟を出してくれた。

 

「そいつは部員ではないし今回の事件とは無関係だ、勘弁してやってくれないか?」

平塚先生がそう言った途端陽乃は道端に落ちてるゴミを見るような目つきに変わり

「もういいや出てっていいよ」

と材木座を部屋から追い出した。

 

「こ、怖かった、やはり血は争えないのだな、頭にこの間やったFF6のアルテマウェポン戦のBGMが流れて止まらなかったぞ」

材木座は床にへたり込みまだ止まらない汗を拭い取る。

「それにしてもひどい話だ、勝手に携帯を奪って置いて用済みと見るや勝手に追い出すとは」

このまま追い出されるのも何か癪なので中で何を話しているか盗み聞きをしてやろうと思い隣の部屋へ向かう

「話の内容によっては我に何かできるやもしれんし、奴らの助けになるやもしれん」

 

隣の部屋は運よく別な部活が使っていたのか鍵は開いていた。

「これは僥倖、運は我に味方してくれていたようだ」

そう思い中に入る、ちょうど誰もいないためさっそく聞き耳を立てる

 

『あなたの監督不行き届きでしょう!教師としての自覚はあるのですか?』

これは雪ノ下の母の声だろうか、平塚先生をなじるようなねちねちと文句をつけている、

『なんであなたのようないい加減な人が教師に・・・』

かなり酷いことを言っているのを聞き材木座は憤慨する

「平塚先生に罪は無いであろう、なんという母親だ、最近はやりのモンスターペアレンツという奴か?こういうのは家族の問題であろうに、むしろ迷惑をかけてますぐらい言うべきではないだろうか?」

 

『ねえ本当に知らないの?』

これは雪ノ下の姉だろう

『ヒッキーもゆきのんもどこに行ったかなんて本当に知らないんです』

由比ヶ浜はずっと泣いているようだったがそれを意に介さず尋問のように質問を繰り返していた。

 

『西へいったとまでは情報つかんでいるのよ?名古屋駅でそれっぽい二人組を目撃したって聞いたからね、そのまま名古屋か大阪か、はたまた因縁のある京都かなぁ?知り合いがいるとか、いきたかったところとかあったんじゃないの?じゃあもう一回始めから聞くね?あの日の前日の二人の行動をもう一回始めから・・・』

「由比ヶ浜殿が知っているわけなかろう、二人がいなくなって一番つらいのは彼女だぞ、それをなんだこの陽乃という輩は」

材木座はまたも憤慨する

 

「二人が辛い目にあっているのは聞くだけでわかる、それに今日まで一体何人が泣いたのか、八幡も雪ノ下殿もボッチだの孤高だのとのたまっていたが自分らにかかわってる人間関係ぐらい把握せぬか!もうこれはもう地獄だ、駆け落ちとはこうも周りを不幸にするものか」

何かしようにも自分には何もできないことに気が付き情けなさとやるせなさでいっぱいになる。

 

「気軽に書いたラノベがこんな状況を生み出すとは」

いっそのことみんなにあの二人はここですと言ってしまおうかと一瞬考えた。

しかしそれをしてしまうとあの母親の様子だと大騒ぎしておそらく比企谷は確実に退学になるだろうし、雪ノ下も転校か留学とかになり二人は永遠に会えない状態にされるかもしれない、雪ノ下の家は権力者なので比企谷にも雪ノ下にも酷い結末が待っているのは容易に想像がつく。

 

ふと雪ノ下の連絡先が登録されてたことを思い出す。藁にもすがる思いで、雪ノ下に今の状況をメールする、奉仕部を盗み聞きしているが由比ヶ浜と平塚先生が雪ノ下家の姉と母を名乗る者によってひどい目に会っている、二人を助けてくれ、自分ではどうすることもできないと。

ちなみに雪ノ下姉の話から東海か関西方面へ逃げたと思っているようだとも付け加えておいた。

メールを送って数分後隣の部屋の様子が一変する。

 

『雪乃ちゃん?ようやく連絡をしてくれたね、今どこにいるの!ダメよ!勝手なことをしてないで帰りなさい!・・・なんですって!また比企谷くんでしょ!かわって・・・え?今打ち合わせ中だから無理?いったい何を・・・え?雪乃ちゃん何をいっているの!居場所は絶対突き止めるから!おおよそはつかんでいるのよ!今知り合いとか総動員して探してるから時間の問題よ!謝るなら今のうちよ!・・・ちょっと!あなたそんなこと言ってどうなるかわかっているの?雪乃ちゃん、絶対捕まえるからその時は覚悟しなさい!・・・え?好きなだけ探せ?誰も知らない?どういうこと?』

 

どうやら雪ノ下が姉へと電話してるようだった、しばらく話をしていたようだが姉の『雪乃ちゃん!?』という絶叫にも似た声とともに終話したようだ、突然静かになった

 

と、携帯にメールが届く

『送信済みのメールとこのメールを破棄すること、どうしても困った時はまた連絡をください』

「ふー、一時はどうなるかと思ったぞ、しかし何とかなったようだ、よかった」

材木座が指示通りにメールを削除していると隣から扉が開く音が聞こえる、ようやく帰るのかとホッとしていると

 

『この責任は平塚先生、あなたに取ってもらいますから覚悟しておいてください』

この声は雪ノ下の母だろうか、捨て台詞が聞こえる、こういう捨て台詞はアニメとかでは負けた方が発する言葉だし、一介の保護者に教師を辞めさせられるわけなかろうと材木座は高をくくっていて一件落着したと思っていたが相手が悪かった。

 

 

それから一か月後平塚先生は教師を辞め総武高校を去ることになった。

 



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第四話

平塚先生が教師を辞めることを材木座が知ったのは雪ノ下母と姉が来襲してから2,3日後の現国の授業が終わった時だった。

「みんなに報告がある、実は私は教師を辞めなくてはいけなくなってな、来月退職することになった」

 

そう先生が言うと

「えーほんとですか?」

「先生!とうとう結婚相手が見つかったんですか?」

 

と茶化すものもいるし残念がるものいたが材木座だけはまさかと思い手を上げる

「おおどうした材木座?」

「先生、もしかしてこの間のことが関係してますか?」

「・・・それに答える義務はないな、さ、授業は終わりだ」

 

そういって平塚先生は教室を出ようとするが、その言葉で察してしまった材木座は机をガンと叩いて声を荒げる

「なんで先生が辞めないといけないのだ!先生にすべてなすりつけても何も解決しないであろう!クソ!これもあの雪」

最後まで言いかけた時に平塚先生が

「黙れ材木座!!!!!、ちょっとこい!」

 

材木座以上の声で怒鳴り胸ぐらをつかんで廊下へと引きずり出す

 

「材木座、この世はお前の好きなアニメやラノベの世界のようにはなっていない、誰かが貧乏くじを引かなくてはならないんだよ」

「でも先生、これはあまりにも勝手な話です・・・」

「雪ノ下も比企谷も私が部活に強制入部させたから責任が0というわけではない、私ももっと早くあいつらの異常に気がついていれば事態は変わっていたのかもしれないしな、だからもういいんだ」

「・・・すみません先生・・・」

 

「何故謝る?それより今日も奉仕部にこい、由比ヶ浜が紅茶の淹れ方をマスターしたとか言ってたから一緒にごちそうになろうではないか」

平塚先生はそういうと材木座の頭をガシガシとなでつけ職員室に戻っていった。

 

材木座が教室に戻ると水を打ったように静かになっていた、自分の席に戻ると隣の席の女子が話しかけてくる

「材木座くんこの間のことってなに?」

「何でもない、我が執筆しているラノベの話だ」

「えー?違うでしょ?平塚先生のことなんか知ってる感じだったじゃん」

いつの間にか他の人も交じって材木座の席はクラスの連中に囲まれていたが

 

「何でもないと言っておるだろう!!!」

もともと材木座の体は大きく威圧感がある、それが大声で怒鳴り散らしたものだから皆一様に引いてしまう

「ご、ごめんなさい・・・」

「ふ、ふん、き、興が削がれてししまったわ!!」

そういうと材木座は教室を逃げるように出て行き、放課後までの時間を屋上で過ごすことにした。

 

放課後になり奉仕部へ向かう、奉仕部の部室はすでに開いており由比ヶ浜が一人で以前雪ノ下が使っていた電気ケトルでお湯を沸かしているところだった。

「やっはろー中二、今日はどうしたの?」

「いや、平塚先生からお主が紅茶の淹れ方をマスターしたからご相伴にあずかれといわれたのでな、こうして馳せ参じたわけだ」

「さんじた?・・・三時はとっくに過ぎてるよ?」

 

「い、いやそれは、あれ?」

女子相手に自然と声が出ることに自分でも驚いている、雪ノ下の姉と対峙したからだろうか、女子が大した脅威に思えなくなってるのかもしれない、そうこうしていると平塚先生もやってきた。

「ふむ、由比ヶ浜お手並みを拝見しようか」

「任せて!ママからあたしでも入れることができる紅茶の淹れ方教えてもらったんだ」

そういって由比ヶ浜は鞄から黄色い箱を取り出す、箱にはLiptonと書いてあった。

「あのーその箱は?」

「これをこうして、カップのお湯につけるんだよ!1分ぐらい付けるのがコツなんだ!」

 

「いやそれ普通にティーバックであろう・・・」

「文句言うなら中二には分けてあげないからね!」

そんな様子を見て平塚先生は腹を抱えて笑い出す

「あっはっは、まあ確かにこれなら由比ヶ浜でも淹れることは出来るな!」

「んもー二人してなんだし!文句言うなら上げないし!」

 

プンプンとお怒りになっている由比ヶ浜をなだめて平塚先生と材木座は紅茶をいただくことにする。

紅茶を飲みながら平塚先生は材木座に話しかける。

「そういえば戸塚はどうしている?比企谷と仲がよかっただろう?」

「戸塚殿は・・・授業が終わるとすぐに部活に行っているようです、様子を見に行ったことがありますが、いつもの戸塚殿とは思えないぐらい厳しく後輩を指導してました。自分が声をかけても以前と違って態度がそっけなくて、まるで八幡を忘れたいかのように練習に打ち込んでいました」

「そうか・・・」

 

部室内は一転して重い空気になってしまったが、そんな空気をぶち壊すかのように勢いよく扉が開く

「静ちゃん!!教師辞めるって本当?!!!」

そう叫びながら陽乃が入ってきた。

 

材木座と由比ヶ浜は身構えてしまうがそんな二人を無視して陽乃は平塚先生へ話し続ける。

「もしかしてうちの母がなんか言ったから?」

「上から言われてな、奉仕部の顧問だった私に責任とって辞めるようそれとなく言われたんだよ、だから表向きは自主退職ってことになっている」

 

「そんな・・・あの時、私てっきり減俸とか始末書だとかその程度だと思っていたのに!なんで静ちゃんが辞める必要があるの!」

「・・・そのことはもういいんだ、いまさら騒いだところでどうとなる物ではない」

「ちょっとまって、今お母さんに電話するから!」

 

そう陽乃は言って母親に連絡をする

「あ、お母さん、静ちゃ・・・平塚先生のことなんだけど・・・え?・・・でも辞めさせることは・・・どうしてよ!!」

しばらくごねていた陽乃だったが、無駄と悟ったのか暗い顔になり電話を切る

 

「ごめんなさい、家のことなのに静ちゃんの人生まで狂わせちゃって・・・本当にごめんなさい」

そういうと陽乃は膝を突き平塚先生に土下座する

「顔を上げろ陽乃、こんな姿お前を知っている人が見たら大騒ぎになるぞ、それにもういいと言ってるだろ」

顔を上げた陽乃は材木座と由比ヶ浜へ詰め寄る

 

「本当に行先に心当たりはないの!お願い!教えてよ!」

陽乃は顔を歪めて由比ヶ浜へ縋り付く

「雪乃ちゃんと比企谷くんに一番近かったのはあなたじゃない!なにか本当に聞いてないの?本当に知らないの?」

「・・・ごめんなさい」

 

由比ヶ浜が頭を下げると陽乃は放心した顔で

「・・・もういいわ・・・でも諦めないから・・・」

そういうとふらふらとした足取りで部室を出て行った。

 

しばらく無言だった3人だったが

「なんか雰囲気が暗くなってしまったな、お前らももう帰れ、材木座、由比ヶ浜を送って行ってやれ、自暴自棄になった陽乃に何かされるとことだ」

「承知した、由比ヶ浜殿はよろしいか?」

「・・・うん、そうだね・・・」

そうしてその日は終わった。

 

その日以降材木座は奉仕部の部室を訪れることはなかった、また陽乃が来て問い詰められたりしたら白状してしまいかねないからだ。

そしてあっという間に一か月が過ぎた。

 

今日は平塚先生の最後の授業になる、先生は生徒にはかなり人気があった為、花束を渡されたり泣きつく生徒も少なくなかった。

表向きは自主退職となっているが、事情を知っている材木座は憤慨していた、しかしいくら憤慨したところで現状が変わるわけもなく、そうなった事の発端は自分にもある為、自分になにかできることは無いかと頭をひねる。

 

「こうなったらあの二人にこの始末つけさせるか、誰にも相談せずに勝手にいなくなった奴らが悪い!」

責任感と憤りを感じた材木座はあることを思い立ち職員室へ向かい平塚先生を探す、先生は最後だからと自分の席でたばこをガンガン吸っているようだった。灰皿がたばこで山盛りになっていて先生の席だけ煙幕が張っているかのようだった。

 

「先生、お時間はよろしいですか?」

「おお、材木座じゃないか、どうした?」

先生は相変わらずの調子のようだ。

「先生はここを辞められたらどうされるおつもりですか?」

 

「こう見えても蓄えはあるからな、全国ラーメンめぐりでもしようかと思っている、全国回っていればそのうち比企谷と雪ノ下に会えるかもしれんしな」

先生は遠い目をして言う

「あと比企谷にあったらまず顔面を思いっきりぶん殴ってやる、もう教師で無いわけだから遠慮することは無い、あいつめ、更生の為に奉仕部に入れたのに雪ノ下を誑し込みやがって」

と鼻息を荒くして指を鳴らし始める、その迫力に比企谷はよく今まで五体満足でいられたなと材木座は思う。

 

「ま、最もあの二人が一緒ならどこでもやっていけそうだしあまり心配はしていないんだがな」

そう言うと平塚先生はにっこりと笑う。

「でも今回は由比ヶ浜がいないからな、対人関係が不安だ、どうせなら彼女もつれて行けばよかったのに・・・おっとこれは失言だったな」

こんないい先生に気に入られてあの二人は幸せもんだなと材木座は軽く嫉妬してしまう。

 

「ところで先生はかなりのラーメン通とお聞きしてるのですが耳寄りなお話がありまして」

「ほう、どんな内容かな?」

「実は親戚の工場に若い夫婦が入りまして、その奥さんが作るラーメンが絶品なんだそうです」

「ほほう、興味深いな」

「んで近くラーメン屋も立ち上げたいと思ってるそうですが何しろ味がわかるのが周りにあまりいなくてラーメンに詳しい人にアドバイスが欲しいとか」

「なるほど、それで私が試食してアドバイスをすればいいわけだな!」

「その通りです、どうでしょうか?全国めぐる前に一度行ってみていただけないでしょうか?場所は山形なのですが・・・」

「ふむ、よかろう、どうせ暇になるしな、しかし山形か、他にうまいラーメンはあるかな?」

「先生、山形はラーメン店舗数では日本一なんですよ?それに何故か客が来ると出前のラーメンを取るという謎の文化があるぐらいラーメン好きのようです、そして夏になると冷やしラーメンという変なラーメンも出てきます。意外とおいしいですよ?」

 

「冷やしラーメンか、噂には聞いたことはある、しかしそこはラーメン好きにとっては天国のようなところだな、気に入った、是非行ってみよう」

「もっとも店が多いだけでおいしいかどうかは保証できないですが・・・あと看板に蕎麦と書いてある店でも普通にラーメン出しますので気を付けてください、というか飲食店はチェーン店以外100%ラーメンを出すと思っていただいて結構です。ではこちらが場所になります。」

材木座はそういい、例の工場の住所が書いてある紙を渡す。

「ふむ、本当にラーメンだらけのようだな、そういう中から当たりの店を探すのも楽しみの一つなのだよ!」

連絡先を受け取りながら気合を入れる平塚先生だった。

 

「・・・先方に連絡もしておきますので。では先生、今までどうもありがとうございました。お元気で」

「ああ、最後にいい情報をありがとう、材木座も元気でな」

 

職員室を後にしたあと雪ノ下へメールする材木座

『職を失ったアラサーがそのうちそちらへ向かう、詳しいことは本人へ聞いてくれ、あと八幡は顔面を殴られる覚悟しとけと伝えてくれ』

 

数日後、材木座家の夕食時義輝の父がまた情報を持ってきた。

「義輝、叔父さんの工場だが、今度はまたすごい人がきたそうだ」

「どのようなお人なのであろうか?」

「長髪のとうが立ってそうな美女だそうだが、なんでも高級そうな外車のスポーツカーで颯爽と乗り付けてきてだな、来るなり「うまいラーメンを食わせてくれると聞いてきたのだが」とか言っていてたそうだ、何のことやらわからずにいると前に入社してた元ご令嬢が走り出てきて先生!といって抱き着いたそうだ」

「ほほう、それでそれで?」

 

「その美女はご令嬢を見てものすごく驚いていたみたいでな、しばらく二人で泣きながら抱き合ってたそうだが、男の方が出てきた時に男の名前を叫びながらものすごい速さで男の顔面を殴り飛ばしてな、そのままマウント取ったかと思うとまた泣きながら男を殴ってたそうだ」

「なかなか凄惨な光景であるな」

「どうも先に入ってた男女の恩師だったらしい、詳しい理由は言わなかったが教師を続けられなくなったのでラーメンを食うついでに二人に会いに来たんだとか」

「んでその人はどうなったのだ?」

 

「雇ったそうだ、先に入った二人のおかげで工場の生産性がアップしたり助成金の申請も降りたとかで金回りが良くなってるし、開発に力を入れ始めたところだからそろそろ人を増やしたいとおもっていたそうだ、だからちょうどよかったんだと、細い女性なんだが力があるからと現場で働くことになったらしい、なんかラーメンが大好きだとかで出前のラーメンを食べさせたら感激してたそうだ」

 

「それはよかった」

 

「それでうまいラーメン屋をしらないかとか聞いてきてな、叔父さんもそういうのは良くわからないからと近所のラーメン出すところいくつか教えたら早速二人を引っ張って食べに行ったんだと、なんか山形のラーメンを食い尽くすとか妙に張り切ってたそうだよ」

 

よかった、作戦は成功したようだと材木座は思ったが、学校の方を考えるとまだ問題が残っていると考えてしまった。

平塚先生がいない今由比ヶ浜が一人ぼっちになってしまったではないだろうか?

 

「こればっかりは我でもどうにもならん『どうしても困った』状態だ、相談のメール送っても大丈夫だよね?」

その晩雪ノ下へどうしたらよいかの相談のメールを送った。

 



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第五話

次の日の放課後。相談のメールの結果を由比ヶ浜へ伝えるため材木座は奉仕部の部室に来ていた。

部室には由比ヶ浜が以前雪ノ下が座っていたところに一人で座り本を読んでいた。

「あー失礼する」

ぱっと顔を上げる由比ヶ浜

「なんだ中二かぁ、なんか用?あ!またラノベでしょ!中二のラノベはもう読まないよ、あたしは今ぶんがくしょうせつっての読むのに忙しいんだからね!」

ここぞとばかりにドヤ顔になる由比ヶ浜

「もう読まないって言われてもいつも読んでくれていないであろう・・・」

材木座はやれやれといった態度を取る

 

「そ、そんなことないし!中二は難しい漢字沢山知ってるってあたし言ってるじゃん!」

「・・・難しい漢字がたくさんあるっていうのは感想にはならぬがな。それはそうと一体何を読んでおるのだ?」

人間失格とか読んでたらちょっと不安だなと思い表紙を見せてもらう

「なるほど、銀河鉄道の夜か、いいチョイスであるな」

 

「へっへーそうでしょ、ママに勧められたんだ、これなら結衣でも読めるでしょって」

あーそういうことか、材木座は納得する、つかその本は小学生でも普通に読むレベルのものだろう、思わず苦笑してしまう。

「ちょっと何笑ってんだし!あたしが本を読むのってそんなにおかしい?優美子にも笑われたし」

とだいぶご立腹のようだ、

「いやそうではないのだが」

苦笑しながら答える材木座

 

「ところで中二はこれ読んだことある?」

「そのぐらいは昔に読んだことあるぞ、」

「あたしまだこの話少ししか読んでないんだけど、ひょっとしてこの二人って死んでるのかな?」

由比ヶ浜が突然暗い表情になるので材木座も苦笑をやめまじめに答える

「・・・それは読んでいけばわかるであろう」

「そっか・・・もしかしてヒッキーとゆきのんも・・・」

 

由比ヶ浜が落ち込んでいくのが分かった為強引に話題を変える

「マテ、それはただの小説であって八幡達とは関係なかろう、それにそういうことは絶対にない、ところで由比ヶ浜殿はこれからどうされるおつもりだ?」

 

「わかんない・・・でもゆきのんも一年生のときは毎日ここでこうやって本を読んでいたって言ってたから、あたしもこうやって本を読んでいればさ、きっとそのうちそこの扉から「うーっす」って言いながらヒッキーが帰ってきて・・・今度はゆきのんがあたしみたいに依頼を持ってくるの、そしてきっと前の奉仕部みたいに・・・だから・・・」

 

由比ヶ浜は下を向いてしまう、声が震えている

「あ、いやすまなんだ、別に我はそんなつもりじゃ・・・」

事態が悪化してしまい材木座は焦って言い訳をするが由比ヶ浜は泣き出してしまう。

 

泣いている由比ヶ浜を見ながら今日来た目的を思い出す。

「実は由比ヶ浜殿に相談がある、落ち着いたらでいいから話を聞いて下さらぬか?」

「うん、ごめんね、中二は悪くないよ・・・」

由比ヶ浜は下を向きながらうなずく

 

しばらくしてようやく由比ヶ浜が落ち着いたところで材木座は話を始める

「落ち着かれたようだな、ふむ、では話を・・・」

 

ここまで言いかけたときに部室の扉がガラッと空き

「ひゃっはろー」

聞き覚えのある声が後ろからする、この声は雪ノ下姉の陽乃だ

 

「あれー?ガハマちゃん今日は一人じゃないんだー」

「ヒッキーとゆきのんから連絡なんてきてないよ、帰ってくれませんか?」

冷たくあしらおうとする由比ヶ浜だが

「んもーつれないなー」

としつこく食い下がる陽乃

あれから材木座は全く来ていなかったが案の定陽乃は来ていたようである。

あの二人にとって由比ヶ浜は大切な友人である為連絡があるだろうと思ってこうやって来るのかもしれない

 

「君は?たしかこの間もいたよね?」

「・・・八幡の友人です」

「あーこの間は勝手に携帯みてゴメンねー、あの時は気が立っててさー」

という陽乃は口では謝罪してるが目が全く笑ってない、何なんだろうこの人と思う材木座

 

「っていうかさー二人とも仲よさそうに話してたじゃん、なーにー?付き合ってんの?」

そういながら由比ヶ浜になれなれしくまとわりつく、由比ヶ浜は嫌がるように体をよじるが効果は無いようだ。

いったいこの人は何を考えているのだろうか、妹が心配なのかもしれんがそれにしては周囲に対する配慮というものが全く欠けているように見える、二人がいなくなって一番つらいのは由比ヶ浜だろう、材木座は頭の中で憤慨するが怖くて何も言えない。

 

「ねーねーガハマちゃんそこんとこどうなのー?」

なれなれしいとはこのことだろう、肩に手を置いていかにも親しい中ですよみたいな感じで話をするその態度は見ていて激しく不快になる、しかもこの質問は由比ヶ浜を不快にさせるだけの意味が全く無い質問だ、材木座はだんだんイラついてくる。

 

しかも材木座の今日の目的は雪ノ下から言われた計画を由比ヶ浜へ伝えることだが、陽乃がいてはきちんと伝えることができない。

この調子だと陽乃はずっと居座るかもしれない、平塚先生もいない今、陽乃の行動を止める人がいなくなっているからだ。

その為材木座は由比ヶ浜に説明する前に勝手に計画を実行することにした。

 

「中二とはそんなん「そうだ、我と由比ヶ浜殿は付き合ってる!」」

由比ヶ浜は観念したのかようやく口を開くが材木座も相当イラついてたので高らかに宣言する。

 

陽乃は目を丸くして言う

「はぁ?冗談のつもりだったのに、本気で?ガハマちゃんってこんなのが趣味だったんだ?」

由比ヶ浜は今の状況がつかめずオロオロしている。

「ゆ、由比ヶ浜殿が一人辛そうにしていたのでな、わ、我が色々相手しているうちに付き合うことになったのだ」

「へーだからこの間も静ちゃんと一緒にここにいたんだ。傷心の女の子に優しくして付け入るなんてね、ガハマちゃんってこんなデブが趣味だったんだね、気持ち悪い」

いいぞうまい具合に勘違いしてくれたようだ、しかしこの人超怖い

 

「わ、我のことは構わないが由比ヶ浜殿のことを悪く言うのはやめていただきたいでしゅ・・・」

そういうと材木座は陽乃と由比ヶ浜の間に割って入る。

陽乃は明らかに不機嫌になり材木座は気迫に押されてどんどん気持ちがしぼんでいくのがわかる

 

「もしかしてさー雪乃ちゃんの部屋に有った気持ちの悪い自作の小説って君が書いたの?前あった時小説書いてるみたいなこと言ってたよね?」

まさか、今回の引き金になったラノベのことだろうか?雪ノ下は自分で処分するとかいってたがまさか家に置きっぱなしにしてたのでは?だとしたらまずいかも、材木座の背筋に冷たい物が流れる、

 

「た、たぶん、そ、そうだと思うが」

 

するとだんだん陽乃の顔が恐ろしいものになっていく

「あんな気持ち悪いもの二度と雪乃ちゃんに見せないでね、漢字に無茶苦茶なルビが振ってあったり、女の子が無駄に脱いでいたり、今回の事件と関係あるかと思って我慢して最後まで読んだけど人生の時間を無駄にしたって感想しかないわ」

 

あーそっちの方か、つか捨てずに取っていてくれたのか、律儀なものだ、安堵する材木座

「あとさー傷心のところをちょっと優しくされたからと言って比企谷くんの友だちとはいえこんな妄想ばかりたくましい男になびくなんてガハマちゃんの比企谷くんや雪乃ちゃんに対する思いもその程度だったんだ、これって裏切りだよね」

由比ヶ浜はまた泣きそうな顔をしている

 

「それと君ねぇ傷心のところに付け入るなんてずいぶんと卑怯な男だよね、ま、君みたいな人はそうでもしないと彼女なんて作れないか」

陽乃は材木座を睨みつける。

 

「そ、その辺で勘弁してくれぬか、も、もう我々にかかわらないでいただきたいのでしゅが・・・」

材木座はなんとか声を振り絞って言った。

「もういいよ、ガハマちゃんがこんな下らない人だと思わなかった、こんな人に雪乃ちゃんが連絡するなんてとても思えないからもういいわ、仮に連絡取れてもあなたには教えないし、もう二度と話しかけないでね、もちろん君もね」

そう陽乃は宣言し部室から出て行った。

 

「ふー怖かった」

材木座は倒れるように椅子に座る

「中二どういうこと?説明してくれるよね?」

由比ヶ浜は困惑した表情で材木座を見る

「その前に雪ノ下の姉上が聞き耳たててたりしてないか確認してくれぬか?我は疲れてもう立てぬ」

由比ヶ浜は部室から確認の為出ていく、しばらくした後戻ってきて

「うん、もう外に出たみたい、窓から見えたよ」

「では話そう、雪ノ下殿と八幡の計画を」



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第六話

「まず、雪ノ下殿と八幡なのだが、二人とも生きている」

「なにいってるの!あたりまえじゃん!噂見たく二人が心中だなんて・・・そんなことあるわけないじゃん・・・でもよかった・・・」

おそらくそういうことも予想してたのだろう、うれしくて少し泣いているようだ

「あと平塚先生もいる」

「ええ!なんで先生もいるの?」

「我が奴らに押し付けた、責任を取れと」

 

「・・・やっぱり平塚先生が辞めたのはこの間のゆきのんのお母さんのせいで・・・」

「それについてはもういいと再三に平塚先生に言われたのでな、思っていても黙っていてほしい、むしろ平塚先生は今は幸せなのではないだろうか?」

「どういうこと?ってかなんで中二がそんなこと知ってるの?」

「まあその疑問は当然であろうな、直接聞いたからからだ」

 

「!!!中二!どういこと?!どうやって連絡取ったの!教えてよ!!!」

由比ヶ浜は材木座の襟首を掴んで前後にぐいぐいとゆらす

「ちょっ、ちょっと落ち着かれよ!これから「落ち着けるわけないじゃん!ゆきのんとヒッキーは今どこにいるの!早く教えてよ!」」

 

材木座は耐えられなくなり由比ヶ浜の両肩をがしっとつかむ

「落ち着かれよ、これから話すというておるだろう」

突然肩を掴まれたため由比ヶ浜はビクッとなり我に返る

「ご、ごめん、中二」

 

「ふー順を追って話すのでな、連絡は取れるし何故二人が消えたのかの理由はある程度は聞いている」

 

「それさ、あたしもこの間ゆきのんのお母さんが来たとき聞いたよ、ゆきのんは高校卒業と同時にどっかの会社の偉い人と結婚する予定だったんだってね」

「うむ、確かにそのようなことを聞いたがよく考えると姉がいるではないか、普通姉が先に嫁に行くのでは?」

「ゆきのんのお姉さんの、陽乃さんは婿養子を取る予定だから嫁に出せないって言ってた」

「なるほど、そういうことなら合点がいく」

 

「それでね、あたしも知らなかったんだけど、ヒッキーはゆきのんの結婚を阻止しようとしてゆきのんの家まで直談判に行ってたんだって、なんど追い返してもしつこいぐらいに来てたんだって、それで一応話を聞くだけ聞くことにしたらヒッキーはゆきのんのこと愛しているし将来結婚するってまで言ってたんだけど、そもそもヒッキーと結婚させてもゆきのんの家には何のメリットもないし、すでに決まっている縁談の責任とれるのかって言ったら来なくなって、しばらくして居なくなったんだって」

「そこまでは聞いておらぬな、八幡め女のためとはいえなかなか味のあることをやりおるわい」

 

「ゆきのんのお母さんね、お前たちのせいだ、お前たちのせいでうちは大損害をこうむっている!って言ってゆきのんのことなんか心配する気配すらなかったんだ、まるでゆきのんを道具みたいにしか見てないみたいでね、こんなのゆきのんがかわいそうだよ・・・」

 

ふうむ、やはり我が書いたラノベの内容と現実がダブって見えたので八幡はやるせなさで怒鳴り散らしてたわけか

 

「それに・・・もともとヒッキーにはあたしたちのどちらかを選んでもらうつもりだったの、どちらが選ばれても恨みっこなしってゆきのんとも話をしていたの、でもこんな形になるなんてあんまりだよ・・・あたしまだゆきのんにおめでとうって言えてないよ・・・」

最後の方は言葉にならならず由比ヶ浜はまた泣いてしまう。

 

由比ヶ浜がようやく落ち着いたところで材木座は問いかける

「それでだ、実は八幡は雪ノ下殿と由比ヶ浜殿の両方を選ぶつもりでいるとしたらどうする?由比ヶ浜殿は八幡達のところに行きたいか?」

「え?本当?でもそんなこと・・・本当だったらいいな、絶対行くよ!」

 

「それが全てを捨てることになってもか?八幡も雪ノ下殿も家もなにもかも捨てたのだ、おぬしにその覚悟があるか?」

「え?あたしもそうしないといけないの?」

「当然であろう、雪ノ下殿の家は相当の権力者だ、足取りをつかまれたが最後簡単に連れ戻されてしまうぞ、八幡と雪ノ下殿との努力を無駄にするわけにもいくまい」

 

「うーん、そっか、そうだよね、でもいきなりそう言われても・・・」

「まあじっくり考えるとよかろう」

「うん・・・」

 

「それとおそらく我だけ雪ノ下殿と連絡を取れる立場にあるようだ」

「それだよ!なんで中二ばっかり!あたしがいくらメール送っても電話してもダメだったのになんで!?」

「いや、おぬしのメールは読んでおるようだ、ただ返信をしていないだけだ」

「どうして?」

「それは今回のようなことが起きるのを見越してだろう」

「どういうこと?」

 

「誰かに問い詰められても知らない物は言いようがないということだろう」

「なにそれひどいし!あたしのこと信用してないの!」

由比ヶ浜は頬を膨らませてご立腹のようだ。

「ひどくはない、先ほどの件、察するに毎日雪ノ下の姉上は来ていたのであろう、もし情報を知っていたらプレッシャーで言ってしまってたかもしれん」

「そっかーそうかも・・・」

途端に意気消沈する由比ヶ浜

 

「あと着信やメールの痕跡を残さないってこともあるだろう、むしろそっちかもな、実際我もメールを消すように指示が来たし、ラノベのデータ消されたし・・・」

「ラノベのデータ消されたってなんのこと?」

「まあ、今回の騒動の引き金になったものでな、それいついては今は言えぬ、時期が来たら教えるのでな」

「うん、中二、必ず教えてね、でもあたしもゆきのんと連絡とりたいよ、ヒッキーとも」

「それについてだが、八幡はおそらく携帯を破棄している、連絡をとれるとしたら雪ノ下殿だがそれも難しいと思う」

 

「どうして?」

「由比ヶ浜殿は思ったことが態度に出やすいから、安易に連絡をとってしまうと、周囲から親しい二人がいなくなったのになんであいつはいつも通りなんだと不審に思われたり、ついうっかり連絡取っていると口を滑らせる可能性があるということを言っていた」

「うー、それはあるかも・・・あ!でも今教えてくれたよね?」

「うーむここからが本題なのだが・・・」

 

「由比ヶ浜殿、我とその・・・期間限定で付き合ってくれないだろうか?」

「へ?中二と?どうしてそうなるの?」

「それはだな・・・」

 

材木座は計画のあらましを話す。

比企谷も雪ノ下もいずれ由比ヶ浜を希望があれば呼び寄せるつもりでいるということ、今までは言わない方が由比ヶ浜の為だと思っていたこと、でも状況が悪化していくようなのでそれまでずっと自分たちのことを黙っているのはあまりに残酷なことだと気が付いたということを話した。

 

「そっか・・・ゆきのんもヒッキーも私のことを考えてくれた上でのことだったんだね」

「うむ、あの二人がおぬしを見捨てるわけなかろう、むしろ心配していたぞ、八幡なぞは由比ヶ浜殿がとち狂って自分で作った飯を食って自殺とかしてないかとまで言っていたが、いったいなんのことだ?」

 

「中二には関係ないよ!ヒッキーもひどい!ちゃんと練習しているんだよ!最近サボり気味だけどさ・・・でもさっきも言われたけどあたしって態度に出やすいから今後はちょっとまずいかも・・・」

 

「うむ、そこで先ほどの話に戻るのだ、彼氏、まあつまり我のことだな、それから慰められたことにして元気を取り戻したという風にすればいいということだ」

「え?それって中二と嘘の付き合いするってことだよね?そんなことをゆきのんとヒッキーが本当に言ったの?」

「まあ嘘の告白をして、偽物の関係を築くだけだ、本気でどうこうするわけではないので安心してほしい」

由比ヶ浜の目が途端に険しくなる。偽物の関係、嘘の告白、奉仕部にとって大変トラウマがあるワードのようだ。

 

「ま、まあ先日色々相談した結果だ。あと八幡達の近況も知りたいであろう?」

材木座は先日比企谷達と電話で話した内容を由比ヶ浜へ伝えることにした。



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第七話

話は先日の晩に戻る

 

相談メールを出した後、何度もやりとりを繰り返し由比ヶ浜へ自分たちが健在であること、そのうち呼び寄せるから心配しないでと伝えた場合、由比ヶ浜の態度が急変することは間違いなく、それをごまかすには由比ヶ浜自信が演技をする必要がありそれは当人とっては無理だろうという結論になった、やはり第三者の演技によってカバー出来る案が必要になった為だ。その為材木座が

 

「期間限定で彼氏でも作って慰められたことにすればよかろう、葉山殿あたりに全部話をすればきっと協力してくれるのでは?」

 

そう返事をしたとたん、圧倒的な文章量で猛烈な抗議のメールが来た、曰くあいつは信用ならないや、葉山の精神ではだれもすくわれない、そもそもなんでそんな提案をするのか、馬鹿なのか、死にたいのか等、葉山は相当あの二人から嫌われてるようだった。

 

「これはまたずいぶんな物の言いようだな、我も正直好かぬがここまでではないのだが」

 

一通り罵倒のメールが来た後しばらく他の案を考えてみるが思いつかないので風呂に入ったりして小一時間過ごしていると、着信があったようだ、相手は雪ノ下、かけなおすと比企谷が出た。

 

「八幡!おぬしの声を聴くのは久しぶりだ!携帯はどうしたんだ?」

『この身分で使えるわけないだろ、つかこのうざさは久しぶりだな』

「そういうな八幡!おぬしの無事な声を聴けただけで感涙ものだ!しかしおぬし本当に雪ノ下殿と、その・・・』

『そうだ、俺は雪乃と駆け落ちした、察しているかもしれんが材木座、お前のラノベを参考にさせてもらった、本当に助かったありがとう材木座』

こやつにきちんと礼を言われる日が来るとはな、しかし今はっきりと駆け落ちと言ったな、いつのまに雪ノ下殿とそんな関係になっているとは、それに名前呼びとはいろいろ想像してしまうではないか

 

「・・・いきなり礼を言われてもな、我とヌシらの仲であろう、しかし何故今回のようなことをしたのだ?」

『本当は色々込み入っているんだが簡単に言うと雪乃が無理やり嫁がされそうになったからだ』

「なんと!それで駆け落ちか、さすが八幡!我にできないことをやってのける、そこにしびれる憧れるぅー」

 

『茶化すなよ、俺も雪乃も本当は逃げ出さず正面から戦おうとしたんだがな、どうしても無理だった。だからお互い運命を受け入れるか、もしくは由比ヶ浜には悪いが本当に一緒にこの世から消えるしかないと思っていた』

 

「・・・そんな考えが出てくるなんて貴様らしくもないな、諦めるかすべてを捧げるかという意味であるなら貴様らしいとも言えるが」

 

『おれも雪乃も相当追い詰められていたんでな、そしたらそこにお前のラノベだ。逃走経路から逃走後の生活手段の確保まで書かれていた。状況が似ているけどいつものお前の荒唐無稽な設定だと思っていたから読むのが本当にきつかった、こんなことありえないってな、だからあの時ついお前につらく当たってしまった。すまなかった。』

 

「・・・それはいいがあんな我の浅知恵でよくも行動する気になれたな」

『それは俺と雪乃で後でいろいろ付け加えたからな、移動もフェリーを使わせてもらった、でもどっからばれるかわからないからお前には悪いがあらかじめデータを消去させてもらったわけだ』

 

「確かに八幡達の足取りはまるでつかめていないようだ、先生達はもうあきらめているようだし、全く行方に検討がつかないから雪ノ下殿の姉上と母上がわざわざ学校まで来たようだし、しかも雪ノ下殿の姉上から我の携帯を奪われて中身を見られたからな、あの時ラノベのデータが残っていたらと思うとぞっとする」

 

『そうだったのか・・・すまん、お前には沢山迷惑をかけてしまっているようだ』

 

「何を言う!おぬしと我は魂でつながっている言わば盟友というべきものではないか!それにお主の役に立てて我は逆にうれしくあるぞ!」

『そっか、そういってくれると助かる、それでだ、迷惑ついでに由比ヶ浜のことなんだが』

「うむ、なにかいい案でもあるのか?我にはとんと思いつかん」

 

『雪乃と話し合ったんだが、もうこれしか案が考えれらないんだ、材木座、本当にすまないと思っているし本当はこんなこと言いたくないんだが』

 

「なんだもったいぶって、早く話せ」

 

『由比ヶ浜と付き合ってくれないか?』

「は?」

『詳しく言うとだ、卒業までの期間限定で付き合いをするってことだ、いや、その間お前と本物の仲になってしまうんだったらそれはそれでいいんだ』

「なんで?我が?」

 

『事情を知ってるのがお前しかいないからだ、雪乃と話し合った結果これしかなかった、由比ヶ浜は修学旅行の件もあってたぶん拒絶するかもしれないしお前にとっても嫌な思いをさせてしまうことになるかもしれない、本当にすまないと思っている、もしおまえが嫌というなら別な手段をまた考える』

「なんのことやらわからぬが、我は別にかまわんよ?」

『本当か?』

 

「本当も何もおぬしら公認であのような女子と期間限定で嘘とはいえ付き合えるなんて我からしたら夢のような申し出だ、もっとも由比ヶ浜殿がどう答えるかだが」

『そういってくれると助かる、本当にすまない』

「なんかいつものお主らしくないな、頼むときはいつもスパッと頼んでるであろう、大体偽物のカップルなんぞそれこそラノベにありがちなシチュエーションだし、ラノベ好きの我からすれば飛びつきたくなる設定なのだが」

『いや、それはあの、俺の黒歴史が関係していてだな・・・』

 

「??まあヌシの黒歴史なぞはこの際どうでもよい、まあ任せられよ。しかし八幡よ、ヌシと雪ノ下殿がこういう仲になっているとはしらなんだ」

『雪乃から嫁がされそうになっているという話を聞いたあたりに告白したからつい最近の話だ。俺も雪乃ももっと早くからお互いの気持ちに正直になっていればよかった。ずっと気が付かないふりをしていたからな、由比ヶ浜のこともそうだ』

「・・・本当に我のラノベのような結末を目指すのか?」

『ああ、ここまできちまったんだ、やるしかねぇ、由比ヶ浜もそれを望むのならな』

「・・・望むに決まっておるだろう、貴殿らがいなくなって由比ヶ浜殿がどれだけ辛い思いをしているか、我は目の当たりにしているのだぞ」

『すまん、では由比ヶ浜のことをくれぐれも頼む』

 

『そういうわけだから』

返事をしようとしたら突然電話の声が変わる、雪ノ下に変わったようだ

 

『あなた、由比ヶ浜さんになにか卑猥なことやいかがわしいことをしてごらんなさい、ちょうど新しい工作機械を買うことが来たのよ?1/1000ミリ単位であなたの余分な肉をそぎ落として理想的な体型に削ってあげるから覚悟しなさい、それとあとで計画の詳細をメールするからしっかり読んでね?』

この女こえー、やはりこれは血筋なのだと実感する

 

「ひゃ、ひゃい、わかりましゅた」

なぜこのような女子を八幡は気に入ったのだろうか。

 

それからまた比企谷に変わる

『雪乃が失礼なこと言ってすまんな材木座、あんなこと言ってるがお前には足を向けて眠れないって言って感謝してるんだぜ?』

「別に気にしてはおらぬ、しかし我に足を向けたら北枕だからじゃないのか?」

『ふ、そんな理由じゃないよ、本当に感謝してるんだって、昨日の夜だって『あなたとこうしてここにいることができるなんて彼のおかげね、感謝してもしきれないわ、いずれ正式にお礼をしないと』なんて言ってこう顔を俺の胸に埋めてきてなぁ・・・イデデデちょっと雪乃なに」

突然会話が途切れる

 

「なんだ?どうした八幡?」

『ん、んんん、材木座くん、今の会話忘れてくれるかしら?』

雪ノ下の声に変わる、焦っているのか微妙に声が上ずっている

「・・・ツンデレ乙とでも言えばいいのか?というか今更恥ずかしがられてもな、こんな状況なのだ、どうせヌシと八幡は毎晩愛し合ってるとかそんなのだろう、そんなこと聞かされても今更驚かぬわ」

さっきは怖かったが雪ノ下の焦りまくった声に緊張感が無くなってしまう材木座

 

『ちょ!あなた!』

「ハー、やれやれだぜ、もういいから八幡に代わってくれぬか?」

またまた比企谷に代わってもらう

『いやすまんな、これでも雪乃は結構変わったんだぜ?学校にいる時みたいな固い感じは結構無くなって工場に来る客にきちんと応対しているしな・・・というか雪乃、今後どうなるかわからんのだ、今のうちにちゃんとお礼は言っておくべきだろう、ちょっと待てよ、今スピーカーにするからな』

 

『・・・そうね、先程はごめんなさい、材木座くん、ありがとう、本当はこんな電話ではなくきちんと顔を合わせて言いたいし、こんな言葉だけでは足りないのだけれど』

 

「いやまさか貴女そのようなこと言われるとはな、我はラノベを書いただけだ」

『本当よ、それにそのラノベに救われたわけだし、姉にも誰にも私たちのこと言わなかったあなたをもっと信頼すべきだったわね、本当にごめんなさい』

 

「いや、あのその」

しおらしく発言する雪ノ下相手にすることなんて全くなかったため戸惑ってしまう

『俺からも頼む許してくれ、雪乃の話にもあったように工作機械を買ったんだがこれが一千万以上もする奴でな、いろんな助成金の申請書類やらプレゼンをようやく通せて購入できたんだよ。だからちょっと浮かれぎみでな』

「さっきもいったであろう、お主らと我の仲だ許すもなにも無いであろう」

 

『ありがとう、あと由比ヶ浜さんのことお願いね、さっきはああいったけどあなたの今までのラノベに出てくる女の子は、その・・・毎度性的なアピールが多かったものだから・・・』

「あれはああ言うのがトレンドだったからであって、いくらなんでも虚構と現実の区別ぐらいはつくわい、酷いことなぞ絶対しないと誓うぞ」

 

『それなら安心ね・・・由比ヶ浜さんは、毎日メールをくれるのよ?今日はこんなことがあったとか、元気にしてるかって、こちらは返信したいのだけれど返信してしまうと姉さんや母に気が付かれた時由比ヶ浜さんはきっとひどい目に会わされてしまうでしょう、だからずっと返信できなくて・・・でもちゃんとメールは読んでいるわ・・・だから本当に・・・由比ヶ浜さんのこと・・・うっううっ』

『雪乃・・・すまん材木座ちょっと外す、待ってくれ』

 

電話の向こうでは泣いている雪ノ下を比企谷が慰めてるようだった。

雪ノ下と由比ヶ浜がとても仲が良かったのは材木座でも知っている、そんな相手からのメールを返信できないというのは相当つらいことだろう

 

電話口に戻った比企谷と今度は近況や他愛のない話をお互い伝える、どうも材木座の書いたラノベの筋書き通りに事が進んでいるようだ。

工場の方は受注がどんどん舞い込んできてるし、開発の為の助成金の申請も通っている為、叔父さんと協力して毎晩遅くまで工場で働いており、メーカーの人も遠くからわざわざ来てくれて協力してくれている為見通しは大分明るいとのことだった。

『なあ材木座、落ち着いたらお前もこっちに来ないか?もともとここはお前の叔父さんの工場だろう』

「ふん、我が工業系に向いていると思うか?我はラノベ作家かそれに準ずる仕事に就きたいのでな」

『そうか、そうだよな、やっぱりお前はお前だな』

 

またしばらく会話を続けているとインターホンの音が聞こえる

 

「誰か来たようだぞ?八幡」

『ん?ああたぶん平塚さんじゃないかな?同じアパートにいるからな、ちょくちょく一緒に晩御飯食べてるんだよ』

 

電話口からはどうやら雪ノ下が応対していてるような声がするがどうも様子がおかしい

『八幡!平塚さんとっても酔ってるみたい、私では抑えられないわ!』

『またか・・・ちょっと平塚さん!』

 

『おう!比企谷?相変わらず雪ノ下とはラブラブかぁ~この野郎!邪魔してやるぞ!ここで寝るぞ!』

『ちょ!今材木座と電話中なんですから!静かにしてください』

 

『あ?材木座?ちょっと貸せ!』

とたんに平塚の声の調子が変わる

『おい!材木座!貴様よくも騙してくれたな!』

 

電話越しとはいえ激しい怒気を感じ声が上ずる

「ひゃ!ひゃひ!」

『貴様は無関係だと思っていたのに!思いっきり関係してるではないか!なにがラーメン店を立ち上げる予定の若夫婦だ!いるのは雪ノ下と雪ノ下をかどわかしたアホウではないか!』

『ちょっと平塚さん!落ち着いて下さい!』

 

『落ち着いてられるか!何故お前は私にもっと早く相談せんのだ!比企谷!雪ノ下!貴様らもだ!クソ!千葉にいる間に貴様らにシェルブリッドバーストをかましておくべきだった・・・貴様らのせいで・・・・・・・・・・Zzzzz』

『・・・あー寝ちゃったか』

「は、八幡、平塚先生にもラノベのこと話したのか?つか全部話したのか?」

『まあな、ラノベのことも話したさ、でも平塚さんもおまえに感謝してると思うぜ?何しろ今工場に来て開発に協力してくれているメーカーの人と結構いい感じになってるみたいだからな』

「なんと!それはめでたいではないか!」

『でも自分のことより俺たちのことをまだ気にかけてくれてるからな、この人はどこまで行っても俺たちの先生だよ』

 

「八幡、頑張りすぎて体を壊して皆を悲しませるようなことはせぬようにな」

『それがだな、雪乃に由比ヶ浜も呼ぶんだから広い所に引っ越す資金を作らないと!って毎日尻を叩かれてるんだよ・・・さっき話した一千万の機械も、使いこなすには覚えることも値段相応にたくさんあるから喜んでばかりでは居られなくてさ・・・それに工場に猫が何匹か住み着いているからもうずっと雪乃の奴元気で手におえなくて・・・イデデデ!雪乃!本当のことだろ?』

 

「ハハハハ、この幸せ者め!爆発しろ!!!」

 

『平塚さんも雪乃を不幸にしたら今度はゴッドフィンガーで顔面破壊するとか言ってて強制社畜状態だよ。しかも毎日ラーメンばかり食ってるし、この間は地図に印つけてオリジナルラーメンマップだなんていってウキウキで事務所に張り出しててさ、そのうちこの人高血圧で死ぬんじゃないのか?なんて人を送り込んでくれたんだ・・・』

「ふん!貴様のせいで職を失ったのだ。責任とるべきであろう!」

それから深夜になっても比企谷と材木座は会話を続けるのだった。



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第八話

「・・・・とまあ先日色々八幡と話し合ってな、おかげで寝不足だが、まあ偽物カップルの原案は我が出したのだがそれ以外方法は難しいとのことでな」

 

「・・・ゆきのんとヒッキーは毎晩一緒に寝てるんだ・・・・」

「え?そこ?・・・いやまあ、確かにうらやまけしからんがこういう状況だし、駆け落ちだし」

「・・・ずるい!絶対あたしいくからね!ゆきのんはメール見てるんでしょ?」

そういうと由比ヶ浜は携帯を取り出しものすごい勢いでメールを打ち出す

「平塚先生も結婚できそうなんでしょ?いいことばっかりジャン!」

「マテマテ、現実はアニメやラノベのようにはできていないと我は平塚先生に言われた、それに八幡達も所詮は我々と同じ高校生だ、何やら上手く行っているように聞こえるがかなりの綱渡りをしていると思う、ゆえに今後どうなるかわからん」

「でも・・・」

 

「由比ヶ浜殿、結論を急いではならぬ、急いては事を仕損じると言うであろう、順を追って対処していかぬと何もかもがおじゃんになるぞ?」

「でも!あたしだってヒッキーとゆきのんのこと大好きだし!」

 

「あの二人もそれを分かっておるから偽物カップル作戦なのであろう、大体あの雪ノ下殿が我に涙ながらにお願いしてきたり八幡も何度も頼むと言っていたのだ、それを無下にするほど我は不義理な男ではない、それに付き合うと言っても本気でやるわけではない、あくまでふりだ、ただ八幡は何やら修学旅行の件がどうこう言ってて因縁のようなものがあるようだし、由比ヶ浜殿が嫌ならまた考えるが」

 

「だって、それじゃ中二の気持ち踏みにじってるようなもんじゃん、あんまりだよ・・・」

 

「いや別に、むしろ由比ヶ浜殿のようなトップカースト上位の女子と形ばかりとはいえお付き合いできるとはむしろ願ったりかなったりだ、だって我女子からいつも白い目で見られてるし・・・ってかこの学年の大半の男子は同じこと言われたら飛びつくと思うのだが、我のクラスでも由比ヶ浜殿の人気はすごいものだ、むしろなんでお主らはそんなに頼みにくそうなのだ?」

 

「だって・・・ヒッキーは本物が欲しいって、偽物の関係なんて・・・」

「なんだかわからぬな、本物がどうこうというのは以前奴との雑談で聞いたことあるような気もするし、昨日言っていた黒歴史とやらのことなのか?、察するにお主らの間柄の話なのであろう、我にはあまり関係ないから気にする必要は無い」

「ほんとうにいいの?」

 

「うむ、では由比ヶ浜殿、我とお付き合いいただけますかな?」

「うん、中二よろしくね」

そうしてここに期間限定の偽物カップルが誕生した。

 

「それで中二、これからどうするの?」

「うむ、まずはだ」

雪ノ下から来た計画の詳細メールを見る

 

「うーむ、こっちに来るつもりがあるなら資格をとれとあるな、なんか色々書いてあるが・・・うーむ、講習受ければとれるような工場関係の資格はまだわかるが簿記とか会計とか由比ヶ浜殿は計算は得意なのか?」

「うん、数学は苦手だけどさ文化祭の時会計事務ちょっと手伝ったりしてたからそういうのは大丈夫かな?」

「あと高校はちゃんと卒業しろとある、八幡も雪ノ下殿も今後のことを考えて仕事の合間に大検取る予定だそうだ」

 

「そうなんだ、ヒッキーもゆきのんも頭いいからね、すごいなぁ」

「他には高校卒業まで絶対住所を教えるなともあるな」

「えーどうして?メールがダメなら手紙ぐらい書きたいよ・・・」

 

「由比ヶ浜殿の場合、教えると何も考えなしで来るかもしれないとか、不用意に送った郵便物から居場所がばれる可能性があるとのことだ」

「うー、そっかーんじゃあ卒業まで我慢だね!」

「いや待たれよ、本当にいいのか?きちんと考えさせてから行動させろとも書いてある、せめて一晩でも考えた方が良かろう、おぬしの人生だぞ?大学とかにもいきたいのではないのか?」

 

「うん、本当はさ、ゆきのんやヒッキーと同じ大学に行ってさ、また奉仕部みたいに一緒に居られたらなって考えてたんだ、でも二人とも居なくなっちゃったから目標も無くなっちゃってさ・・・」

また由比ヶ浜の顔が暗くなってくる

 

「うーむ、山形にも大学はあるが、特にやりたいことがあるわけでもないのにいきなり遠くに行くのも不自然だしな、雪ノ下殿の姉上はああいっていたがおそらくおぬしの行動は監視されてる可能性もある、おそらく我もそうであろう、目立つ行動は禁物だな。」

「そっか・・・少し考えてみるよ」

 

「そうした方がいいな、とにかく考えてみよ、我も毎日ここに来るようにする、形ばかりとはいえ彼氏役だしな」

「わかった、んじゃあ今日はもう帰るね」

「鍵は我が返しておこう、鍵の場所を覚えないといけないしな」

「ありがと、んじゃあね」

 

由比ヶ浜は軽く手を振って帰宅する

一人残った材木座はメールを再度見直す。要求事項はまだまだ多い

「さて、由比ヶ浜殿の決意がかたまったら我のラノベ読ませろともあるのだが、この為に一部だけ残させたのか?だとすると八幡はすさまじい策士だな、しかし本気であの落ちを目指すつもりなのか?どうするつもりなんだろうか」

猛烈な不安に駆られながら材木座も部室を後にする。

 

数日後、結局由比ヶ浜は比企谷と雪ノ下とともに行く道を選んだようだ、ラノベを読ませたとき由比ヶ浜はかなり驚いていた

「ヒッキーとゆきのんはこれを目指してるの?」

「そのようなことを言っていたが実のところはわからん、だがこれまでは微妙にシナリオ通りに来てしまってる、おそらくこれに近い何かの形を取ろうとしてるのかもしれない」

「こんなこと・・・でもこれならゆきのんともヒッキーとも・・・」

ぶつぶつ言っているようだが、こんなん許す親がいるとは思えない、やはり家を捨てないとどうにもならんだろう現実は厳しいのだ。

「ところで中二はどうするの?」

 

「我は物書き関係の仕事に就きたくてな、一応大学進学の予定だ、それにそのラノベには我のような人は登場していないであろう?」

「うーん確かになんか知り合いによく似た人たくさん出てくるけど中二みたいな人はいないね」

「八幡がパクリパクリとうるさかったのでな、現実をパクってやったのよ!でも自分をパクるのは気が引けたのでやめたのだ、そしてこの有様だ・・・」

「でもそのおかげでゆきのんは助かったんでしょ?よかったじゃん」

「よかったかどうかはまだわからん」

 

その後、奉仕部では由比ヶ浜が毎日資格の猛勉強をすることとなる、奉仕部は顧問も部長もいなくなってしまっているが、今回のゴタゴタで存在がうやむやになっている上に教室も空いているので、知らないふりをしてそのまま使わせてもらうことにした、材木座も受験勉強の傍らネットから資格の過去問題を拾って来たり、取り寄せたりと細かい所を色々手伝っていた。

 

一応付き合っているという体を成すために一緒に帰ったりしていたが、デートとなると資格試験の会場まで一緒に行くとか申し込みの書類を受け取ったりして帰りに一緒に食事をする程度とかで大して色気のある話にはならなかった。

 

その間も材木座は雪ノ下の携帯に資格試験のスケジュールを送ったり、近況や資格試験の合否の連絡を入れたりとまめに橋渡しを行っていた。

比企谷ともたまに話をさせてもらっていたが、仕事が忙しくなっているとのことで冬になるころには材木座が一方的にメールをするだけとなっていた。

そして由比ヶ浜も材木座の手伝いの甲斐もあって卒業までに結構な量の資格を取ることができた。

 

卒業式当日、学校に来るのも最後になった日の奉仕部部室

「今日で最後だな」

「中二、今までありがとう」

「うむ、由比ヶ浜殿も良く頑張られた、誇っていいぞ」

「えへへーありがとう」

「・・・本当に行くのか?」

「うん、今日はクラスのみんなで打ち上げやるから明日だよ。ゆきのんが移動手段手配してくれてるんだ」

 

結局細かい打ち合わせなんかもあるので本人同士の連絡が必要になり携帯での連絡は記録が残るため自宅の電話や公衆電話で連絡を取っていたそうだ。

 

「・・・左様か、それなら何も言うまい」

「中二は打ち上げとかいかないの?」

「ボッチの我にそんなお誘いがあるわけなかろう、もうしばらくここにいる」

「なんかヒッキーみたいだね。んじゃあね中二、今までありがとう」

「うむ、八幡達によろしく伝えておいてくれ」

「あ!中二!ちょっと目をつぶって?」

突然妙なことを言い出す、言われるがまま目をつぶる

すると頬に柔らかい感触があった。

「今までのお礼だから、ヒッキーたちには内緒にしてね?」

そういってぽーっとしている材木座を残し由比ヶ浜は走って出て行った。

 

材木座とて男だ、正直由比ヶ浜へドキッとしたこともなんどかあったし恋愛感情が無かったというのは嘘になる、実際このまま比企谷の所へいかずに自分と一緒に居てくれたらと妄想したことも一度や二度ではない、しかし由比ヶ浜がこちら見るときは自分ではなく自分を通して比企谷や雪ノ下を見ているというのが透けて見えるため一定の距離を保っていたのだった。

 

「波乱万丈の高校生活であった・・・」

 

がらんとした奉仕部の部室を見てつぶやく、本来は自分がここに立っているはずは無かったのだ。

王道的な展開だと今この時この場所で比企谷達は互いの想いを伝えてたのかもしれないが、今回の駆け落ちの原因を考えるとおそらく違うことが起きていたのだろう。

 

全ては体育の時に親しくなった比企谷に自分の書いたラノベを見てもらうことから始まった。

書いたラノベを見せていくうちに調子に乗って奉仕部の面々を主人公にして駆け落ちラノベを書いてしまったことから周囲の運命は大きく変わってしまったのだ、今ここに比企谷たちはいない。

 

自分が何も書かなかったら?もしくはいつも通りのファンタジー物だったとしたら?

そんなことを考えるが

「仮定の話など考える意味が無いとか八幡なら言いそうだな」

そうつぶやき自虐的に笑う

「・・・そういえば昔読んだ誰かの本に『人生は例外しかない』なんて書いてあったな、人によって人生は全く違う、普通の人生なんてないという意味だったと思うが我らの場合例外中の例外だろう」

 

ふと昨日まで由比ヶ浜が使っていた椅子を見る、偽物とはいえこんな自分に淡い恋愛感情と孤独に過ごすはずだった高校生活にわずかな彩りをくれたのだ、ちゃんとお礼を言うべきだったなと先ほどの柔らかい感触があった頬をなでながら少しだけ後悔をする。

 

「・・・結局一人になってしまったな」

 

由比ヶ浜と過ごしてた間には生徒会長の一色やその他数名の女性も来たりしていたが、なにしろ男が材木座ということもあり女性は顔を出すだけですぐ寄り付かなくなっていた。

ただ比企谷の妹の小町だけは何か感づいてるらしく由比ヶ浜と真剣に話していることが多かった。

 

シスコンの比企谷のことだからおそらく連絡は取っていたのかもしれない。

もしかすると他の女子とも密かに連絡を取っていたのかもしれなかったが、それを確認することはしなかったし、逆に比企谷や雪ノ下にも詮索するようなこともしなかった為今となっては藪の中である。

 

「依頼も一件も無かったし我は人払いとしても役に立ったようだ」

 

最後にそう呟くともう誰も訪れることが無い部室に鍵をかけ材木座は卒業証書を手に学校を後にした。



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第九話

数日後予想通り由比ヶ浜が失踪したという連絡が卒業したばかりの高校から入った。傍から見れば付き合ってたわけなので連絡が来るのは当然だろう、由比ヶ浜の家には探さないでください、いつかきっと帰ってくるという内容の置手紙が置いてあったそうだ。

 

「いえ、卒業後やることができたので別れようという話になってそれっきりです」

 

そう材木座は言って電話を切った。警察や何か感づいた雪ノ下家からの追求があるかと思ったが結局そういうのも無く日々が過ぎて行った。

 

数日後、材木座家の夕食時義輝の父がまたまた情報を持ってきた。

「義輝、例の叔父さんの工場にまた新しい人が入ったそうだ」

「ほう、またであるか、してどのような方なのだ?」

知らないふりをして興味深そうに聞く

 

「それが今時の女子高生みたいな感じの明るい娘でな、やっぱり先に入ってた人たちの知り合いだったみたいだ」

「どんどん仲間が増えていくな」

「しかもなんか今回のは来るなり男に抱き着いたりしてなんか大変だったらしい」

「ほほう、いわゆる修羅場というやつか」

「それがそうはならなくてな、元ご令嬢の方とも泣きながら抱き合っていて友人でもあったようだ」

「なるほど、いわゆる恋敵というやつだな?」

「それがどうもそんな雰囲気じゃ無いっぽくてな、住むのも3人でとか言い始めて叔父さんも絶句したそうだよ」

「いわゆるハーレムというやつか」

「結局アパートの空いてた別の部屋に住まわせているんだそうだがこれからどうなることやら、なんかお前の好きなアニメみたいな話になってきたな」

 

結局広い所には引っ越せなかったか八幡の奴と材木座は思う。

「アニメは結局殆どが大団円になるから安心して見れるんだが、現実は違うからな、安心して見てられんな」

「それもそうだな、現実は苦い物だ、若い連中に幸があるといいね、お前にもな」

なにか聞き覚えのあるセリフをどこかで聞いたなと思い、材木座は夕食を食うことに専念した。

 

その晩雪ノ下からメールが届く、由比ヶ浜が無事についてようやく落ち着いたということと由比ヶ浜に協力してくれたことについての感謝の言葉が並べられていた。

「しかし八幡のやつこれから毎晩二人を相手にするのか?クソ!それなんてエロゲだよ!・・・でもまあ八幡も両手に花とかいって浮かれてる暇なんぞないだろうしな、大変なのはこれからであろう、どのみち我に出来るのはここまでだ」

大学が始まるまでにどんな様子か一度行ってみようかと思ってはいたがなんやかんやとやることが結構あり結局行くことは無かった。

 

4月になり、材木座は大学に入学する、一人暮らしを始めたことにより、父から工場の顛末を聞く機会が無くなり、またサークル活動やバイトを始めた為私生活は格段に忙しくなる、たまにアドレス欄の『氷の女王』へメールを送ろうと思った時もあったがそういう時に限ってなんと書いていいか思い付かず、またメールを送らない事が続いたため余計に連絡が取りにくくなり、だんだん比企谷達のことを忘れて行った。

 

その後就職も順調に行き都内にあるそこそこの規模の出版会社に入社することができた為、材木座はまたもや忙しい毎日を過ごすことになる。

入社して数年後、二十代後半の年齢になった材木座は営業に出た先で偶然戸塚と出会い飲みに行く約束をする。

 

その晩

「一緒に食事なんて久しぶりだね、昼は良くわからなかったけど少し痩せた?」

「毎日忙しくての、しかし戸塚殿はおかわり無いようでなによりですぞ」

「あはは、その口ぶりまだ続いてるんだ」

「あーいやこれは懐かしくてつい、な」

 

それからひとしきり高校時代の思い出話に花を咲かせる

やはり一番の話題はアレだった。

 

「それにしても八幡と雪ノ下さんが一緒にいなくなるなんてね・・・」

一瞬ビクッとなる、そういえば自分はその関係者だったことを思い出す。

「材木座くんは奉仕部によく行ってたよね、本当はなんか知ってたんじゃない?」

「我はただ自作のラノベの批評をもらいに行ってたのでよくは知らぬぞ」

「そっかーそれもそうだね」

 

さらっと流されホッとする、ふと居酒屋のテレビを見ると成り上がり特集とかいうのをやっていた

一代で会社を巨大な物にしたやり手の企業の特集らしい。

ちょうど山形のとある工場の話をやっていた、小さな町工場から今や国を代表する国際プロジェクトにも関係することになったとのことで最新設備が整った工場の内容を映しているところだった。

 

ちょうど工場長がインタビューをうけていた、女性ということで余計に注目があるようだが、どう見ても見覚えがある顔だ。

「戸塚殿、あの女性だれだったかな?見覚えがあるのだが?」

「材木座くん!あれって平塚先生だよ!ほら!八幡達がいなくなった後学校をやめた先生だよ!」

「あ!、んじゃあまさかここが?」

たしか叔父の工場は昔お邪魔した時は繁盛していた時でも数人程度で回してた小汚い小さな工場だったはずだ、だが今見るとどう見ても別物だ、白い綺麗な壁、そこかしこに産業用ロボットが配置され100人規模はありそうな感じである。、

 

カメラは工場からオフィスに切り替わる、事務員がたくさんいてPCに向かっている

「あれってもしかして由比ヶ浜さんじゃない?」

戸塚がまた叫ぶ、そこには特徴的なお団子ヘアーが映っていた。

 

カメラが切り替わる、今度は開発部だ、CADやら何やらが並んでるところにも見覚えのある青みがかったロングヘアーの女性が映る

「あれはもしかして川崎さん?」

これはどういうことだ?本当にあのラノベみたくみんな呼び寄せたのか?というかテレビなんかに出たら高校時代に奔走したことが無意味になってしまうではないか!

 

材木座は焦り高校から一度も連絡していなかった雪ノ下へ電話をする。

数コールののち相手が出る。

『もしもし、どちら様ですか?』

「知らないふりはやめていただこうか、積もる話もあるかもしれんが、今テレビを見ているあれはどいうことだ、とうとうとち狂ったか?」

『久しぶりね、ふふふ、これは記念よ』

「記念?どういうことだ」

 

『会社の名前が売れすぎて実家にばれてしまったの、それで半年ほど前に実家から両親がやってきて一悶着あったのよ』

「大丈夫だったのか?」

『こちらは国のプライドをかけた国際プロジェクトに参加してるのよ?もう地方の建設会社や議員がとやかく言っても意味のないレベルまでなったということ、警備員を呼んで早々にお引き取り願ったわ、あとその場で八幡と結婚したと宣言もしたわ、このテレビに出たのはもう雪ノ下という苗字に縛られることは無くなった記念ということね、入籍はもう済ませてあるのよ?そして八幡と私と結衣さんはあなたのラノベ通りの関係、式はまだなのだけれど』

「そうであったか」

『あなたには本当に感謝しているわ、どうにならなくなった状態に道を示してくれたんですもの、今だから言えるのだけれど、あのままだったら私と八幡は心中していたかもしれないわね』

「なんか八幡も似たようなことを言っていた気がするが、おヌシが言うと昼ドラみたいな生々しい感じになるからやめてくれぬか?それに今までも綱渡りだったのではないのか?」

 

『ふふふ、それがあなたのラノベの話のように順調に進んでたので八幡も驚いていたわよ、ところであなたの後ろからやたらと名前を叫んでる声が聞こえるのだけど誰といるのかしら?』

振り向くと戸塚が酒を飲みながらアレは生徒会長だった一色さん?あ!あれは戸部君だ!

とか叫んでる。

「戸塚殿だ、今日営業先で偶然会ってな」

『あらそう、ちょっと待ってね』

携帯の向こう側でごそごそと音がしたかと思うと

 

『戸塚か?戸塚ー!!』

「八幡、相変わらずだな」

『なんだ材木座か、久しぶりだな、それより戸塚に変われ!今すぐに!』

「はいはい、ちょっとまたれよ」

戸塚に携帯を渡す

 

「八幡!久しぶり!元気だった?!」

もう大喜びである、しばらく話をしていたがだんだんまじめな顔つきになり電話を渡してくる。

『材木座か?今戸塚をスカウトした、悪いがお前の営業先の担当者が変わってしまうな』

「それは一向に構わぬが、ヌシはすいぶんと元気そうだな」

『まあな、積もる話は山のようにあるんだが、ここ数年忙しくてまったく落ち着かなくてな・・・連絡できなくてすまん、もうすぐゆっくり話す機会をつくる、もうちょっと待ってくれ』

「あいわかった、連絡しなかったのはお互い様だ、我のことは気にするな、その日を楽しみにしておるぞ」

材木座はそういって電話切る

 

「八幡の方は色々順調で何よりだ、戸塚殿は八幡の所へいかれるのか?」

「うん、八幡の仕事を手伝うことにするよ、しかも今度社内でテニスサークルも立ち上げるとか言ってて社会人大会も目指してるからぜひ来てくれだって」

「それは素晴らしいではないか、良かったな」

「じゃあ僕もう行くね、さっそく退職届書かなきゃ」

 

戸塚が出て行った頃ちょうどテレビには比企谷とその妻の雪ノ下が映ってる、比企谷の目はほとんど腐ってはおらず、雪ノ下はますます美人になっているようだった。

二人ともなにやら苦労話をしていたようだが、無難なことしか言っていないようだった。

「ふん、我の書いたラノベに影響されて駆け落ちしたあげく周囲に多大なるご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした、しかも俺の嫁は隣にいる美人の他にもう一人美人の嫁がいますとか言えよ八幡の奴、まったくどんなエロゲだ・・・」

 

すでにぬるくなった戸塚の分のビールを煽りつぶやく

 

「ふ、また一人か、つか戸塚殿の分も我が払うの?あれ?」

まあ餞別がわりだなと自分に言い聞かせ空っぽになった財布を握りしめアパートに帰った。

 



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第十話(最終話)

終わりになります。
初めて書いたものを見直すと色々書き足りなかったことが出てきたのでリメイクみたく加筆修正を行いました。

お付き合いいただきありがとうございました。



数か月後どうやって調べたのか材木座のアパートのポストに結婚式の招待状が届く、材木座はたまっていた有給をここぞとばかりにつぎ込んで比企谷の待つ山形へと向かった。

 

山形へは結局二人が消えてから一度も足を運んだことは無かった為、かなり久しぶりとなる。

まず叔父さんの家に挨拶をしにいくと会社は全部任せて自分は会長として悠々自適な生活をしているとのこと、材木座は実は比企谷達とは同窓生だと話したところ詳しい話は全て数日前に聞いたとのことだった。

 

式には参加しないのかと聞いたところ同窓会も兼ねているので身内だけでやるから自分は不参加とのこと、あとは行ってみればわかるとのことだった、叔父さんはニヤニヤしながら

「義輝君のおかげでいろいろすごいことになっているぞ」

と言われたがなんのことやらと首をひねり式の会場へと足を運ぶ

 

式の会場に到着すると見慣れた顔がたくさんいた。

「戸塚殿!久しぶりであるな、八幡の会社はどうだ?」

「材木座くん!久しぶりだね!まだ少ししか働いてないけど、高校の時の知り合いがたくさんいてとっても楽しいんだ!」

「左様か、それはよかったのう、しかし式に来る人はこれだけか?社長と言ってる割にはずいぶんと少ないようだが」

「うん、式は身内だけでやるからってこれしかいないんだ、理由は材木座くんならわかるでしょ?僕、話全部聞いたよ」

 

「あーもしかしてラノベの話か・・・」

「そうだよ!材木座くん!すごいよ!八幡と雪乃さんと結衣さんの為に小説を書いてあげたんでしょ?あの時僕は何にも知らなくて・・・知っていても何にも出来なかっただろうけどさ・・・」

「ちょっとマテ、いったいどういう話になっているのだ?我は別にそんなつもりじゃ・・・」

材木座が戸塚に訳を聞こうとしているとき

 

「ちょっと材木先輩、酷くないですかー?」

一色が話に割り込んできた

「なんで小説に私も先輩と駆け落ちするって書いてくれなかったんですかー?ひどくないですかー?」

「いやちょっとマテ、おぬしは誰だ?」

一色とはほとんど顔も合わせたことが無い上に接点がまるでなかったので顔は完全に忘れていた

 

「はぁ?材木先輩酷すぎますよ?生徒会長の顔忘れたとかそれでも本当に総武高校の元生徒ですか?つか材木先輩が小説に私のこと書いてくれれば先輩は私の物になって私は社長夫人なれたんですよ?責任取るべきですよね?」

一色がかなり怖い顔で迫ってくる

「ああそう言えば一年で生徒会長になったのがいたな・・・ってかもうそんな昔のこと忘れたわ!我とそんなに接点なかったであろう!ってか先輩って八幡のことか?おぬしとの関係なんぞ知らぬわ!」

「酷いですよ!もうこうなったら式の最中ちょっとまったコールをかけるしか・・・」

「おい、ちょいと待たれよ・・・ってもうどっかに行ってしまったな・・・ってかいったい八幡はどんな話を皆にしたんだ?」

 

一色が去って行った方向を見ていると別な方向から声がかかる

「・・・書いて」

「んん?」

振り向くとずいぶんと若い、女子大生だろうか?やけに雪乃と雰囲気が似ている女の子が立っている

「八幡が私と不倫して逃避行する話書いて」

 

「いやちょっと待たれよ、おぬしは何者だ?」

「人に名前を聞くときは自分からって雪乃さんに言われなかった?」

「ああ、材木座義輝と申すがおぬしは?」

「鶴見留美・・・八幡の女」

「え?マジデ?」

 

「嘘に決まってるでしょ、ばっかじゃないの?いいから書いて、私と八幡が逃避行する話、あの女たちに負けたくない」

「んな無茶苦茶を言うな、つか本当におぬしは何者なのだ?八幡とどういう関係なのだ?」

材木座は謎の美少女の出現に戸惑ってしまう

 

「昔どうにもならなくった時に八幡に助けられた、雪乃さんとはメル友、今はこっちの大学に通いながらアルバイトで働いてる」

「んもう、八幡のやつこんな若い子まで・・・あれ?昔って我らが高校の時だよね?」

「そう、助けられたのは私が小学生の時」

 

その発言に小学生にまで奴は手を出していたのかと呆れてしまう

「八幡の奴なんであちこちにフラグ立ててんの?あいつなんなの?本当に爆発すればいいのに」

材木座は自分の頭をぐしゃぐしゃとかきながら嘆く

「八幡に危害を加えたら許さないから・・・絶対書いて、私は忘れないから」

 

この子ヤンデレなのかしら?と材木座は引き気味になる

「ま、まあ爆発とかは冗談だ、あと不倫の話?気が向いたらな、たぶん、いつかきっと書くように善処するから勘弁してれ」

そう言って材木座はその場から逃げだす。

 

「なんなんだ?これって肉食系女子って奴?八幡ってこんなのに囲まれていたの?」

これ以上ここにいるとまた誰かに因縁つけられちゃうと思っているとまた声がかかる

 

「なあ材木座、断罪って言葉が似合うキャラってなんだと思う?」

「あ!平塚先生ではないですか?」

テレビではよくわからなかったがもうアラフォーなのに学校の時とあんまり変わらないなと余計なことを考える

「やっぱ断罪というとカズマより劉鳳って感じなんだよな、なあ絶影の剛なる拳ってどんな名前だっけ?」

そう言ってこぶしを固める

 

「ちょちょっと平塚先生・・・じゃない、平塚さん、何をそんなに怒っているんです?」

「今回の式や正妻と愛人とか元教育者として完全に納得できるものではないだろう!貴様のラノベが元でとんでもないことになっているではないか!」

「そんなこと申されてもですよ?こちらもこんなことになるとは・・・」

 

「黙れ貴様、教師を辞めてすぐこちらにお世話になれたのはよかったが、アパートに居たときなんてあいつら毎晩ハッスルしていたんだぞ?貴様が由比ヶ浜を送り込んでから余計に激しくなりやがって!次の日が休みだとそれこそ一晩中だ!それを聞かせられる見にもなってみろ!そしてだ!朝飯を御馳走になりに行くと部屋が異様に生臭いんだぞ!元教師としてどんな顔でいいかわからなかったんだからな!」

「いやそんなこと言われましても」

 

でも確かこの人にも?と思い聞いてみる

「でも先生、先生にもいい人ができたとか?高校の時八幡から聞きましたが?」

途端に平塚にはさっきまでの勢いが無くなる

「あーそれか、それはだな・・・」

 

「平塚さんはもう結婚しているよ、忙しくて式をするのが延び延びになってるだけ」

横から青みがかったロングヘアーの女性が話しかけてきた

「相手も平塚って苗字だから変わってないだけ、相手はこっちによく来ていた某重工の技術屋、相当なラブラブっぷりだよ」

「ああ!、ちょっと川崎!」

 

「いいじゃない、先生・・・じゃなかった平塚さん、私がこっちに来たときの衝撃は未だに忘れないよ、あの平塚先生が男相手に弁当を用意してさらに食べさせ会ってるなんてさ」

「!!!!!」

顔を真っ赤にした平塚はどっかに走り去っていった。

「はーあの先生がなぁ、人生分からぬものだわい」

 

材木座はそう言ってその場を立ち去ろうとしたが川崎に呼び止められる

「ちょっとあんた」

なんだか顔がかなり怖くやばい雰囲気を醸し出している

 

「あんた、やっぱり比企谷のこと知っていたんじゃないか!」

材木座の襟首を掴んで睨み怒鳴る女性

「あの時なんで教えてくれなかったんだ!あの時!もし教えてくれていたら!」

襟首をぎゅうぎゅうに締め付けるので息が苦しくなる

「ちょっちょっとぐるじい」

目を白黒させていると別な方向から声がする

 

「なにあんた?いい年こいていじめ?ウケるんですけど」

声がする方を見ると通称獄炎の女王こと三浦が立っていた。

「・・・あんたこそいい年してその格好はなに?そんなに足だして恥ずかしくないわけ?」

「は?」

「あ?」

 

この二人めっちゃ怖い!そう思い逃げ出そうとしたら

「まちな、話は終わってないよ!」

「ひぃい!」

材木座は足がすくんでしまう、蛇に睨まれたカエル状態である

「あーしもあんたに聞きたいことあるし、なんであんたがヒキオ達の為にあんなもん書いたか超気になるし」

「こっちが先だよ」

「あ?」

「は?」

 

またも睨みあう二人

三次元の女ってこんなに怖かったっけ?

おろおろしているとまた声がかかる

 

「優美子、そのぐらいにしたらどうだ?川崎さんも落ち着いて、今更問い詰めても何も変わらないだろう?それに今日は記念すべき日じゃなかったっけ?」

声がした方を向くと葉山だった。

葉山は三浦と川崎を別方向に連れて行くとすぐ戻ってきた

 

「やあ材木座くん、話は聞いているよ、君のおかげで大変なことになってしまったね」

「貴殿は葉山殿か?いったい何がどうなっているんだ?」

 

「数日前この式の日取りが決まった時に君が書いたラノベ?って奴かい、あれを比企谷、いや比企谷社長がみんなに見せてくれたんだよ、今ここでこうしているのはこれを書いてくれた奴のおかげだと言ってたな、読んで驚いたよ、君は何かの能力者なのかい?」

 

「いや、まさか、我は単に奴がパクりといちいち指摘して来るから・・・つか葉山殿は何故ここに?」

 

「俺は最近呼ばれたんだよ、どうやら奉仕部を知ってる人や関わった人全員に声かけたみたいだね。俺は今弁護士の修行中なんだけど呼ばれてさ、会社を大きくして新社屋にするから人材を集めていて俺に法曹関係を全部任せたいとか言われたんだ、俺の場合うちの弁護士事務所から出向って立場だしひよっこだから大変だけどさ」

 

「さ、左様か、しかしこう言っては何だが貴殿らはあんまり仲がその・・・」

 

「それ言っちゃうかい?まあ確かにね、相変わらず面と向かって嫌いだと言われてる、でも仕事だけは信頼できると言われてるんでね、これで少しは償いが出来るのかなと・・・ああ、これはこっちの話だった、ともかく式を楽しんでくれ、こんな式は前代未聞だよ、自分の式もまだなのに俺と陽乃さんが仕切るように言われていてさ、色々雑用をしないといけないからこれで失礼するよ」

そういって葉山は腕時計を見ながら早足で会場へと姿を消した

 

前代未聞?なんだかさっきから大変だのなんだのと猛烈に嫌な予感しかしないが、あと自分の式とか言ってたな、相手は獄炎の女王なんだろうか?

そんなことを考えているふと気が付く『陽乃さん』と今いったよな?まさかと思っているとまたまた声がかかる

 

「材木座くんだったよね?確か高校の時あったよね?」

満面の笑顔でこちらに話しかけてきたのは陽乃だった、やっぱ出た!高校のことを即座に思いだし材木座は足がすくんでしまう

 

「は、はひ!、おひさひぶりでござります!」

 

「あのときはうまいこと騙されちゃったわねー、雪乃ちゃんが陰で氷の女王なんて呼ばれてたなんて知らなかったし、逃走経路なんて一旦名古屋に行ってからフェリーで仙台行って山形?それにガハマちゃんとの嘘のお付き合いとか本当に何杯も食わせてくれたわね、てっきり愛知県内か東海地方にいるのかと思ってものすごい労力とお金使っちゃったんだよー?」

 

この人笑顔だけど超怖い、そもそもなんでこの人ここにいるのか?雪ノ下を連れ戻しに来た訳では無さそうだしそれとも自分になにかしにきたのだろうかと焦る材木座

 

「そんな顔しなくていいよ、別に君を追い込もうとしてるわけじゃないし、雪乃ちゃんを幸せにしてくれてむしろ感謝してるかな?私も比企谷くんの仕事を手伝うことにしたんだよ」

「さ、左様ですか、で、でもご自分の実家の会社があるのでは?この間ご家族が連れ戻しに来たとか聞きましたが・・・」

 

「あーアレ、家は母親が強引に事を進めるからね、私もその時いたけど、こっちの方が遥かに面白そうってわかったから、実家の方は同族経営だとどっかから横やり入った時に簡単に沈むよって言って強引に逃げてきたのよ、家出って奴かな?」

「そ、そんなことをして大丈夫なのですか?」

「普通に会社の中から後継者選べばいいからね、その辺も根回ししておいたから君が気にすることじゃないよ」

 

それにしても・・・と話を続ける

「数日前この式の日取りが決まった時に君が書いたラノベ?って奴?、読んで驚いちゃった、前に雪乃ちゃんの部屋で見た下らない内容の物かと思ってたけど、未来を暗示してるみたいだった、君、すごいね」

 

「い、いや、まさか、ししかしあなたと八幡達は・・・特に結衣殿とは・・・」

 

「あーそれ言っちゃう?確かにね、結衣ちゃんを追い詰めたりしたからね・・・まああれもほとんど家の母の指示だったんだけどやったのは私だからね、土下座して謝ったら許してくれたよ」

 

このプライド高そうな人が土下座?そういえば平塚先生にもしてたな

 

「静ちゃん辞めさせたときは家族で喧嘩になっちゃってね・・・実は静ちゃんが学校辞めた後コンタクト取ろうとしたんだけど取れなくてさ、静ちゃんまでがここにいるとは知らなかったよ、いつの間にか旦那までいるし・・・それも君のおかげとか言ってたかな?ま、ともかく式を楽しんでねー、隼人と一緒に仕切るように雪乃ちゃん言われてさ、立場は自分が上とか言って聞かないんだよ!私が姉のはずなのにこれっておかしくない?おかげで色々雑用をしないといけなくってさ、とってもメンドクサイ!」

そういいながら陽乃は笑顔で早足に会場へと姿を消した。

 

「なんだか他にも色々見覚えのある人がいるな、本当に高校の時の知り合い全員呼び集めたのか・・・しかし式はもしかしてアレか、本当に我の書いたラノベの通りにやるつもりか?」

材木座は既に書いた内容をほとんど覚えていなかった。データも消され、印刷されて残った一部も由比ヶ浜へ渡してるのだ。

「たしか主人公と二人のヒロインが式を挙げるというやつだったかな?え?マジでやんの?」

 

ものすごい不安にかられたが式の内容はまさにその通りになった。新郎を挟んでウェディングドレスに包まれた二人の新婦が並んで登場した。傍から見ると異常だろうがここにいる全員がそれを認めており、みな祝福しているという筋書きだったはずだが・・・

 

川崎はハンカチを咥えて悔しそうな目で見ているし

一色は新郎新婦が近くまで来たときには新郎へとびかかろうとして周りに抑えられてたし

戸部は相変わらず「ヒキタニくんぱねぇわ、やべーわ」と大声で言って葉山からたしなめられているし

平塚先生はこぶしを握りしめて

「元教育者として許していいのか?いやあいつらも覚悟の上だし・・・」

とブツブツ言いながら小刻みに震えて陽乃からなだめられているし

どっかからは

「この結婚式はじつにイノベーション的マインドでウィンウィンとなるソリューションマリッジだな」

とよくわからない横文字を言っている声が聞こえたと思ったら

「それあるー」

とわかってるのかどうなのかわからないような合の手をいれている声も聞こえる。

 

肝心の新郎新婦はというと新婦は始終ニコニコ顔していたのだが、小町と隣に座ってる大志が仲良く話しているのを見つけた新郎の目つきが途端に変わり、それをいち早く察した新婦達と陽乃や葉山が抑え込まなかったら面倒なことになっていそうだった

 

「なんだろう、我のラノベの筋書き通りとかなんとか言っているが、ここは全然違う気がする、それにこういうのってもっとおごそかにやる物だった気もするんだが、、ものすごくまとまりがないというかあくが強いというか・・・この会社大丈夫なんだろうか?そういやここにいる連中は成績が上位だったり部活動が優秀だったり何気に優秀な奴らばかりだな、それに八幡のことだ、どうとでもなるだろ、しかしこの伊勢海老は上手いな」

 

材木座は伊勢海老の料理を食べながら考える。

ビュッフェスタイルなので既にそればかりか食べており、その間式はまるで飲み会のように喧騒に包まれた中進んだ。

 

「・・・というわけで数奇な運命でつながっていた新郎新婦達はともに苦汁を乗り越えどちらも選ぶという道を選んだわけだな、何と言いうか俺はずっと影でリア充爆発しろと言われて続けていたわけだが、今ならはっきり言えるな、八幡爆発しろ!・・・・・・」

一気に静まり返る式、うわっこれは滑ったなと思ったが案の定

 

「隼人ーそれはないわーつまんないわー」

「今のは微妙だったね」

「あーしはおもしろかったよー隼人!」

 

失笑の中下手にフォローしても逆効果だろうと思って葉山を見ると案の定恥ずかしさでプルプルしているようだが

「んっんん」

咳払いをするといつものスマイル顔に戻る

「さすが元トップカースト、メンタルも半端ないのう、我なら逃げ出してるぞ」

と次の伊勢海老に手を出しながらのんきに考えていると

 

「えー、では最後に、今回の出来事の発端となった材木座くんからご挨拶がありまーす」

滑った発言をした司会の葉山から声がかかる

 

「は?」

五匹目の伊勢海老を食べてるところにスポットライトが浴びせられた。

「は?ちょっとマテ、何も考えてないぞ?」

 

「私をはめてくれたんだからね、このぐらいで許してあげるんだから感謝しなさい、さあどうぞ」

いつのまにか近くに来た陽乃が材木座の耳元でぼそっとつぶやく

 

「はわわわ」

汗がドバっと出て固まってしまう。

何も言えず固まっていると雪乃から声がかかる

 

「材木座くん、その伊勢海老はおいしいかしら?」

「は?ええおいしいですが」

「そう、それは私が調理したのよ?ところでその付け合せのサラダの味はどうかしら?ずいぶん残してるようだけれども」

「あ、そうでしたか、ありがとうございます。ただこの付け合せのサラダはちょっと自分の口に合わないようで、すみません」

「ふふふ、だそうよ由比ヶ浜さん」

「ちょっと!中二!ひどくない!むしろサラダだけ食べろし!」

ふくれっ面になる由比ヶ浜に声がかかる

「結衣ー!今度あーしとまた料理の練習するし!泊まり込みでやるから覚悟するし!」

「おまえら!斬新な料理を作るのはいいが家のキッチンはラボじゃないんだからよ、なんか怪しい物体とか錬成するなよ、そして毎回俺を実験台にするなよ・・・」

頭を抱える比企谷に皆が爆笑し、材木座もつい笑ってしまう。

 

「緊張はほぐれたかしら?材木座くん」

雪乃が材木座に笑顔で語りかける

 

「お気遣い痛み入ります」

しかし変わる物だ、以前は氷の女王とか言っていたがもうそのような感じではないな、こんな気遣いをするなんて高校の時には考えもつかなかった、なにやら色々枷が取れたといった感じだ。

材木座はそう思い少し落ち着いたため思いついた言葉述べる。

 

「あー、げふん、皆さんもご存知かと思いますが自分のラノベのストーリーは今日ここで終わっています。これからは八幡達のストーリーがはじまります。一度公開したストーリーはたとえ間違っていても修正がききません。故に後で読み返した時にあの時ああすればよかった等と後悔しないようなストーリーを作っていってください。別に最良でなくても最善でなくても、後から見て満足のいくものであれば良いと自分は考えます。これは八幡達への自分からのお願いです・・・・」

 

~~~~~~~~

 

二次会の会場は比企谷邸で行われることになった。

比企谷邸までは全員でマイクロバスで移動だったが、ちょうど材木座の携帯に仕事の電話が入ってきた為、材木座だけ後から遅れてタクシーで行くことになってしまった。

「あのー運転手さん?本当にここでいいの?なんかの施設じゃないのこれ?」

材木座の目には長い塀と門が映ってる

「ええ、ここで間違いないですよ?」

 

運転手に料金を払い門を潜る。

「はえー、庭がやたら広い、つか家だけで我の実家の2倍、いや3倍はあるなこれ」

塀の中の比企谷邸は広く庭に築山や池までもあった。よくぞここまで成り上がったもんだと材木座が感心していると

 

「やっときたか、そりゃ嫁が2人もいるんだし毎日知人が押しかけてくるんだから家はでかくないとな、まあ土地が安いってのもあるが」

 

後ろからラフな格好に着替えた比企谷が声をかける。

「今庭でバーベキューの準備しているからお前も早くこい、お前が来ないと始まらん、あと今日は皆泊まり込みで宴会だからな」

 

材木座は振り向き様に言う

「八幡!バーベキューとはとうとうお主もリア充の仲間入りか?それより新婦が二人とかあんなん初めて見たぞ!あとご祝儀は3で割りきれないように2万円包んどいたからな!」

「そこは4万円にしようぜ?まあ今回の式はお前の脳内じゃ既に開催済みだろ、そもそもお前の書いたラノベ通りに事が進んで怖いぐらいだったぞ」

 

「いや我にはそのような特殊能力はないぞ、すべておぬしと雪乃殿や結衣殿の頑張った結果だ」

「俺はその時やるべきことをやっただけで大したことではない、それより材木座、お前で最後だ、お前もこっちにこい、それ相応のポストを用意してある」

 

「八幡よ、あのラノベには我のような存在のことは書かれていなかったはずだ、原作にない無いキャラを登場させるとユーザーに叩かれる原因になるぞ?某三姉妹のアニメ2期のようにな、それに我は今の仕事が好きでな、まだ頑張るつもりなのだよ」

 

「やはりそうか、お前らしい回答だな、本当はもっと早く声をかけるべきだったんだが、俺は携帯をフェリーに乗っているときに海に捨てたし由比ヶ浜は家に置いてきたから、連絡取れない奴が結構いてな、戸塚もその一人だった、どうしても無理な場合はお前に頼むつもりだったんだ、でももうその必要は無くなった、だから気が変わったり路頭に迷った時は絶対に俺に声をかけろ、会社に電話してもいい、雪乃も結衣もいつでも歓迎するといっている。」

「ふむ!その時は是非頼む、社内ニートのポジでいいぞ!」

「ふ、そうだな、考えておくよ、それよりなあ材木座」

 

「なんだ改まって」

「俺の人生は間違っていないだろうか?たまにふと不安になる」

そう言って比企谷はボロボロになったあの日材木座が書いたラノベを手渡す。

「実はこれを支えに3人で励まし合って頑張ってきたんだ、きっと全部うまくいくってな」

 

材木座はそれを懐かしそうにぱらぱらとめくる、注釈やメモ書きの量が半端ではない、比企谷たちがどれだけ必死だったのが伝わってきた。

「八幡、たしか我は言ったはずだ、我のラノベの結末はみんな幸せ大団円、これ以上何を望むんだ?と、それに式場でも言ったであろう我のラノベのストーリーは今日終わったのだ、ここからはおぬしのラノベであろう」

「俺のラノベか・・・」

「それと、後悔しないようとかいったがな、ああいう席だから言ったまでだ、実の所はそんなのは不可能だ」

「どういう意味だ?」

「どう書こうと後悔は生まれる、あの時ああすればなんて必ずな!」

ふと高校の時由比ヶ浜と偽物の付き合いをしたことを思い出す、あの時本気で告白していたらと、しかしすぐ頭を振って考えを消す。

 

「故に!書く前から間違ってるんじゃないか、不安だなどと言ってどうする!書いてみないと間違ってたかどうかはわからん!我がおぬしらに何度ダメ出しされたと思っておるのだ!間違ってても最後まで書き続けるのが大事だとは思わんか?」

 

「俺のラノベは間違っている、そう思っても書き続けるのが大事ってことか?」

 

「その通りだ!さすがわが盟友!さあ次は我が学校で奔走している間こちらでいったい何があったのかとくと聞かせてもらうぞ、特に神田川の下りはかなりお気に入りだったからな!実現したのかどうか大変気になる!むしろ歌いたいぐらいだ!今夜は寝かせないからな!!」

「うへぇ、勘弁してくれよ」

 

しかし我の書いたラノベがこんな結末を迎えるとは、奴の間違ったラノベはどんなストーリーになるのか今から楽しみだ、そう思いながら材木座は比企谷と肩を組んで皆の待つ方へと足を向けるのだった。



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俺のラノベは間違っている 後日談 1

既に完結済みですが、蛇足かもしれませんが後日談を思いついたので投稿します。

花嫁が二人という無茶苦茶な結婚式後、社長となった比企谷八幡の思いとは別に社員達が暴走しサービス残業が横行、会社がブラック化し始めます。
暴走している社員達を止めようと一計を案じる比企谷八幡ですが・・・

例によって材木座が今回も主役です。
城廻めぐりの元生徒会役員の忍者部隊も少しだけ活躍します。


結婚式から数年後、比企谷の会社の社長室にて

 

「社長、前年に比べて売り上げが落ちています」

「またか、まあ国際プロジェクト関連も終わったし、この程度なら気にするレベルでもないが」

「しかしここの立ち上げ当初からいるものや引き抜いてきた者たちの間では動揺が見られます。中にはもっと頑張らないと、と言って勝手にサービス残業するものまでいます」

 

「なにそれ?うちをブラック企業にしたいの?誰それ?ちょっと俺文句つけてくるわ」

「・・・結衣経理部長です」

 

「あいつ、最近遅いと思ったら、部署の連中と飲み会が続いてるんじゃなかったのかよ」

 

「あと工場長の平塚さん、品証の南さん、営業部長のいろはさん、総務部長の戸塚さんなど上げたらキリがありません、皆部下の仕事まで抱え込んで遅くまでやってます」

 

「知ってるなら止めさせろよ」

 

「社長がそこまでしなくても大丈夫と言っていると残業を止めるように言いましたが、品証の南さんは『あいつが大丈夫っていうことは相当やばいってことでしょ?またうちらを騙して自分だけ悪者になる気?』といってるし、いろはさんは『先輩一人にまた辛い思いをさせるわけにはいきません!私が営業部長として責任とらないと』と言ってますし戸塚さんは『八幡は大変な時ほど大丈夫って言っちゃうからね今度は僕たちが八幡を助ける番だから!』と言ってますし、他の人も皆あなたに恩義があるとかで言うことを聞きません、最近は葉山弁護士も現場で作業をやってる始末です」

 

「せっかく作ったテニスサークルの集まりが悪いのもそのせいかよ・・・それになんで戸塚まで俺のこと社長ってつけないの?まあいいけど・・・つか葉山の奴、現場も知らないといけないとか言ってたから軽く研修させただけなのに、もう覚えたの?クソ!これだから下手に頭いい奴は困る、怪我したらどうすんだ?」

 

「私も外部の人が怪我したら大変だから止めてくださいと伝えましたが、自分は弁護士だし父親にも事情は伝えているから自分にもしものことがあっても迷惑は絶対にかけないから、といって聞き入れません」

 

「どうりで一般社員の残業が激減してる訳だな、そんなことしなくても俺が銀行に土下座すればいくらでも引っ張ってこれるのに」

「またあなただけに辛い目に会わせるなんてそんなこと許されないと言っていますよ」

「誰だよそいつは?」

「私と結衣さんよ」

 

報告書片手に先ほどから説明をしていたら雪乃がいう。

「お前、ここは会社なんだぞ?学生の時とは違うんだし俺は社長だぜ?社員の生活維持するためには多少の無茶はやらないと」

 

「ダメよ、どうしてもというなら私や結衣さんを頼りなさい」

「お前らはなんで俺の言うことが聞けないの?俺は社長だよ?偉いんだよ?」

「日ごろの行いよ?あなたはちょっと目を離すとすぐ自分を犠牲にするから違う意味で信用が無いのよ」

 

「・・・っく、反論できんな、つか今は不況なんだから赤字でも仕方ないだろ、それにこの程度は想定済みだ」

「今は沢山の会社がどんどん潰れてるわ、皆このままじゃダメだと思っているのよ」

「といってもなぁ・・・」

 

「それに皆家庭を持っているのよ?私たちにも子供ができたでしょ?家庭を支えないといけないし、第一皆ずっとあなたにお世話になりっぱなしなんだもの、いろんな意味で必死よ?」

比企谷と雪乃と結衣には子供ができたのだが結衣の子供は養子という形で育てることにしていた。

 

他の女性たちは比企谷達の結婚式後、比企谷が一人で社内を回っていたり遅くまで残っていたりすると物陰に引っ張り込んだり無理やり関係を迫ろうとする等、態度が露骨になっていた為、結衣主導の元、合コンを頻繁に開催して相手を見つけるようにしたのだった。

 

初めは皆嫌がっており、参加した男連中は心身共に深い傷を負わせられることもしょっちゅうだったが、女性達は時が立つにつれて比企谷のことを諦められるようになり、陽乃以外全員結婚させることに成功していた。

 

「なあ安心できればいいんだな?」

「端的に言うとそうね」

「分かった、営業二課のめぐりさんを呼んでくれ」

 

しばらくしてめぐりがやってくる

 

「比企谷くん・・・じゃなかったね!社長!今日はどうしたのかな?」

「めぐりさんを呼んだのは他でもない、彼らの力を借りたいんだ・・・」

「ふーん・・・やっぱりそっか、今回の厄介ごとはなに?」

「この男を調査してほしい」

比企谷はそういうと一枚の写真をめぐりに渡す

「・・・この人って・・・どうして?君が直接きけばいいじゃない?」

「直接聞いても本音は引き出せない、客観的に見ないと正しい姿は見えないからな」

「でもこれって結構失礼なことだよ?」

「分かってる、だがこうする必要がある、いざとなったらぶん殴られる覚悟だ」

「きみはずっと変わってないね・・・」

そう言うとめぐりは後ろを振り向き

 

「みんないる?」

そう言うと扉がすっと開き黒いスーツの男女が入ってくる

「ここに」

「この写真の人の調査をお願い、期間は一か月でいいかな?」

「御意」

また音もなく男女は出て行った。

 

「調査結果は報告書にまとめておくからね?」

そういうとめぐりも社長室から出る

「すまない、頼んだ」

比企谷は頭を下げめぐりを見送った。



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俺のラノベは間違っている 後日談 2

川崎さんっててっきり3兄弟だと思ってたんですが4兄弟でしたね、この話の中では3兄弟ということでお願いします。あと年の差ですが鶴見留美は5年差、川崎京華は原作で保育園だったので13か14歳差ぐらいで考えてます。
比企谷達は30歳前後ぐらいの設定です。


一か月後

 

「ほむん、今日も暑いのう、帰ったらビールで一杯やるか」

出版会社に勤める材木座は今日も仕事を終え自宅への道を歩いていた。

と、彼の携帯にメールが入る

『今どこ?』

「またか・・・」

材木座はため息をつき

『今日も残業で遅くなる』

と打つ、すぐに返事が来る

『うそ』

「もう、疲れてるんだから一人にしてほしいのだが」

『嘘ではない忙しくてな』

そう打つとまたすぐ返信が来る

『うそばっかり、だって後ろにいるもの』

ビクッとなり後ろを振り向くと

「義輝の嘘つき」

ストレートヘアーの美女が立っている

「鶴見殿、我も悪い気はしないよ?でもさすがに付き合ってもいない独身男性のところに押し掛けるのはどうかと、それにお主の仕事は大丈夫なの?」

「留美」

材木座はため息をつくと

「・・・留美、仕事はどうした?」

「仕事?」

キョトンとした表情で首をかしげる

「いや可愛く言ってもダメだから、お主もいい年だろうからそういうのはやめろ、つか八幡の所からこっちに出張で来てるのだろう?」

比企谷の会社で東京に長期滞在する人材が必要になったのだが、まだ新人の鶴見留美がいい経験になるからやらせてくださいと強い希望を出し東京に常駐していたのだった。

 

「冗談だよ、私の今日やることは終わった。あとは書類整理を義輝のところでやっておしまい」

「いやだからそれはおぬし会社で賃貸借りてる筈・・・もうよいわ来ればよかろう」

諦め顔の材木座の後ろを留美は嬉しそうに着いていく

 

何故こんなことになっているのか、これは比企谷たちの結婚式の時の話に戻る。

 

鶴見留美に不倫の話を書けと言われた材木座はその場をごまかしたつもりだったが結局比企谷邸の二次会の最中に捕まってしまい無理やり連絡先を交換され話を書かされることになった。

さすがの材木座も本当にそう言う話を書くのは気が引けたので

 

「多分我のラノベの行動をトレースするつもりなのだろう、我は能力者じゃないと再三いっているのに、それにしても鶴見殿は以前の雪乃殿ににておる、多分あれでは世の中上手くやっていけんのではなかろうか?聞くところによると雪乃殿もかなり苦労したとのことだし、この際ちょっと教育してやるか」

 

そういうわけで想い人と自分の職場で偶然会うことができた主人公はまず外堀を埋めるべく社員達と仲良くなるようにつとめるというところから書き始めた。

朝は自分から挨拶、きちんとお礼をいう、間違った時は素直に謝る、話を聞くときは正面からちゃんと聞く、相手を見下さず敬う気持ちで接すること等

「ビジネスマナーというか一般的なマナーだよなこれ、まあこんなんでいいか」

 

最後は周囲の協力もありようやく振り向いてくれた想い人と親友と一緒に新天地で暮らすという比企谷たちに渡した駆け落ち物と結末を似たようにしたものを書き上げる。

「鶴見殿は友人がおらんのではないか?たくさん友だちが出来れば不倫とか言うバカな考えも無くなるだろう、それに親友というのはいいものだしな」

そう思って書いたものを渡したのだ。

 

渡された留美は早速それを比企谷に読ませて不倫を迫ったが

「おまえ、この中のこと何一つできてないだろ」

と指摘を受けたため人間関係改善の為努力することになった。

 

比企谷の観察眼は大したもので入社面接時に変なのは全部弾いていたため社内の雰囲気もよく、そっけない留美の態度も愛嬌の一つとしてとらえられていたのだが、元々顔だちも良く賢かったため、人間関係改善に動いた後の評判はぐっと上がり、正式に正社員として入社するころには友人と呼べる人も何人か出来ており、毎日が忙しく充実するようになった為、不倫を考えることも無くなっていた。

 

ただ、自分をこのように変えてくれた人に対する感謝の気持ちが猛烈に膨れ上がってしまったのが材木座の誤算だった。

ちなみに鶴見留美はいろんなところが雪ノ下雪乃ににており姉妹と言われても違和感が無いような容姿になっていた。

 

「なあ留美?もう我はおっさんだぞ?こんなおっさんと一緒にいてもいいことなんてないであろう?」

「八幡は私でも生きる方向を示してくれたけど義輝はそこに道を作ってくれた。義輝と一緒にいると迷わなくて済む」

留美は材木座にそう語る。

「我なんていつも目の前真っ黒か真っ白だぞ、今日なんて何度目の前が真っ白になったことか!締切なんて無くなればいいのに!」

 

「疲れてるんならマッサージしてあげようか?」

「・・・この間みたいなことになるからいい、すまなかった」

材木座は留美に頭を下げる

「それはもういいって言ったじゃん」

 

独身一人暮らしの所に美人が押しかけてくるのだ、何もないわけはなく材木座は留美を襲いそうになった、すんでのところで理性が勝ってなんとか抑え込んだがなるべく留美と直接的な接触は避けていたのだった。

 

「ほんとはいつでもいいんだけど・・・」

ぼそっと留美が言うが材木座にはよく聞こえなかったため

「んぁ?なんだって?」

よく聞き取れなかった材木座は某難聴系主人公のようなセリフを吐く

 

ようやく材木座達はアパートにつく、留美は当たり前のようにキッチンに立って料理の準備を始める

「簡単な物作るから待ってて、そうめんでいい?」

「まだあったかな?それでよい、我は一杯やってるのでな」

材木座はビールを煽って一息つく、するとと携帯が鳴る

「今度はなんだ?・・・我だ」

『ざいちゃん?京華ですけど、今いいですか?』

 

川崎姉弟が山形へ行ってしまったため、京華が取り残されてしまった。沙希は京華のことを心配して結婚式後に一応面識のある材木座に面倒を見るよう依頼、その為連絡先を伝えており、材木座も出来るだけ川崎京華に連絡をしたり勉強を見てやったり学校で具合が悪くなった時は外回りのついでに迎えに行ったりとこまごまと気をかけていた。

 

問題は初めの頃は『材木座さん』と呼んでいた京華も、そのまま数年が経ち高校生になった頃いつの間にか『ざいちゃん』に呼び名が変わり、よく材木座のアパートに遊びに来るようになってしまっているということだった。

ちなみに川崎京華は色々なところが当時の沙希によく似ているが沙希のようにボッチ気味な性格ではなくむしろ人当りの良い性格になっていた。

 

「ああ、今一杯やっているところだ」

『今度の休みまた遊びに行きませんか?』

「いや疲れてるからいい、我エアコンの効いた部屋でゲームやってる方がいい」

『現役JKが誘ってるのに?なんでいかないの?』

「そこだ、おぬしと歩いてると傍から見るとどう見ても援交してるようにしか見えん、我はまだ捕まりたくない」

 

「また京華と話してるの?」

「ああ、また遊びにかないかだって」

「・・・先週私も一緒に海に行ったよね、今週はもういいんじゃない?」

『あー留美さんもいるんですか?ちょっと代わってくれませんか?』

めんどくさくなった材木座は携帯を留美にわたして

「遊びに行くならお主ら二人で行くとよかろう」

そういうと材木座はエアコンの温度を下げて横になりつつテレビを見始める

 

留美と京華は材木座のつながりで顔を合わせ、そのまま親しくなり一緒に遊びに行ったりと相当仲良しになっていた。

 

「ええ・・・相変わらず・・・まるでトドのように・・・そこがまた・・・ええ・・・わかった」

「話はまとまったか?我は小遣いあんま出してやれんぞ、欲しいゲームをネット予約してしまったのでな」

「週末、京華はここに来ることになった、あとネット予約したゲームはキャンセルしておいた」

「えーちょっとなんで?我めっちゃ楽しみにしてたのに!」

「痴漢するゲームとかダメ、どうしてもしたかったら私とか京華にして」

「・・・冗談でもそんなこと言うものではないぞ、まあいいか、予約特典とか無かったし、つか勝手にPCを見るな」

「うん、でもエッチなのはよくないよね」

そういうと大皿に山盛りになったそうめんを出してくる

 

「たべよ?」

にこっと笑う留美に材木座は顔を赤くしながら

「う、うむうまそうだの」

そう言いながらそうめんを食べる、結局留美は材木座の所へ泊ることとなった、こういうときが何度もある為材木座は寝袋を用意しており、留美はベッドで寝る。

初めは材木座は緊張で眠れなかったが最近はもう慣れてしまい朝までぐっすりなことが多くなっていた。

 

週末、京華が遊びに来る、たまに遊びに来るので材木座は配管工やらピンクの物体やらが戦うアレや配管工がレースするアレや爆殺しまくるアレや友情を破壊するアレやコントローラーを振り回しテニスとかのスポーツゲームが楽しめるゲーム機やらを常備している為朝から3人でキャーキャー言って楽しむ。

 

でもさすがに日頃の疲れもあり早々に疲れ果てた材木座はベッドに横になってゲームをしている二人を見る

「なんだかこういうのをリア充とか言うのかのう、同僚に知られたら嫉妬の嵐でボコボコにされそうだわい、八幡も奉仕部の時はこんな感じだったのかもしれぬの」

ぼーっとしていると留美が材木座に話しかける

「ねぇ・・・義輝はどっちが好き?」

「んぁ?どっちとな?我としてはその緑のLさんがお気に入りだな、そこはかとなく虐げられてる感がなんとも共感を・・・」

 

「ふざけないで」

 

材木座の方を向く二人

「私と京華どっちが好き?」

固まる材木座

「い、いや、好きとか嫌いとかそういうのは我には無縁でな・・・ハハハ」

「ざいちゃん、私たち本気だよ?」

そう京華が言いながら材木座へ詰め寄る

「ば、ばかもの!おぬしたちに手を出したら我を信じてくれている八幡や沙希殿の信頼を裏切ることになるであろう!」

 

「・・・八幡が許可出せばいいんだね?」

そう言って携帯を取り出す留美

「あ、さーちゃ、いえ、姉さんもついでに呼んでください」

京華もかなり真剣な表情だ

 

「あ、八幡?あの・・・え?出張は終わり?明日帰れって?だってまだ・・・引き継ぐからって引き継ぎもまだ・・・え?どうして?」

絶望的な表情で留美は電話を切る

「八幡に戻れって言われた・・・義輝ごめん、電話しなきゃよかった」

「留美さん・・・」

 

あの八幡が強引に戻れというのも珍しいなと材木座が思っているところへ自分の携帯が鳴る

「はい、材木座ですが・・・え?長期出張?月曜から一ヶ月ぐらい?引き継ぎは?現地のテレビ電話からって?先方の意向だから断れないって?ちょっと!」

「もしかしてざいちゃんも?」

「ああ、八幡の所へ行くように言われた、引き継ぎとか現地からやれだと」

比企谷の会社は一般向け商品も開発していたため、材木座の会社のあらゆる雑誌に広告をよく出してた、その為広告主のような立場にあり比企谷には頭が上がらない状態となっていた。

「私だけ・・・また一人ぼっちになっちゃったな・・・」

寂しそうに言う京華に焦った材木座は

「マテ、京華は今夏休みであろう?なら一緒に来ても問題あるまい!向こうには京華の姉や兄もしるし元高校教師や成績優秀な連中がゴロゴロしてるからな、勉強もばっちりだ!」

「京華、一緒にいこ!」

「はい!」

嬉しそうに笑いあう二人、とりあえずさっきの話がうやむやになって良かったと安堵する材木座だった。



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俺のラノベは間違っている 後日談 3

週が明け材木座は旅行カバン片手に山形へと旅立つ。

留美と京華は朝早くから行ったが、結局材木座の方は仕事や手続きの都合上一旦会社に顔を出したり客先に挨拶に行かなくてはならなかっため比企谷邸につく頃は大分遅い時間になっていた。

 

「頼もう!八幡はおるかー」

「いらっしゃい、お部屋の用意は出来てるわ、晩御飯はどうしますか?」

応対に出たのは雪乃

「お久しぶりであるな、せっかくだからいただこうか、しかし雪乃殿はどんどん美人になってくるから八幡が羨ましいぞ」

「あら、お世辞を言っても何も出ませんよ、うふふ」

 

そう言うと材木座は土産のピーナッツ詰め合わせセットを渡して宿泊する部屋へと案内される。

「毎度すまんのう、子供もいるというのに今回は長期滞在になる我に部屋を貸してもらって」

「あら、千葉産のピーナッツね、八幡が喜ぶわ、でもこんな気を使わなくていいのよ、あなたはいつ来ても大歓迎ですもの」

 

実は何だかんだで長期連休の時はたまに遊びに来ており、その度に比企谷邸へ泊っていたのだった。

 

材木座は雪乃の用意してくれた食事をとることにしたのだが何故か比企谷がいない、結衣もいない

「雪乃殿、八幡と結衣殿はまだお仕事中なのか?」

「そうね、今色々と大変で・・・あなたを呼び出したのもそのせいよ」

「我に期待されてもな、我にできることといったらせいぜい八幡の会社をヨイショする記事を書く程度だが」

「そういうのは間に合ってるの、そこじゃないのよ・・・明日になればわかるわ」

 

「何やらよくわからぬな、我にできることなら協力するが」

不安な気持ちになるが、これでしばらく締切と無縁の生活だと思うと気持ちが安らぎ部屋に戻ると疲れもあって早々に寝ることにした。

 

次の日、材木座が起きると結衣が朝ごはんを用意していた

「やっはろー中二」

「んあ、おはようでござる、つかまだその挨拶続けておったのか?」

「うちの部署じゃみんなこの挨拶だよ!」

「大丈夫なのその部署?」

「んもーいいじゃん!それより中二!起こしたのになんで全然起きないの?もう時間無くなったじゃん!」

遊びに来てた時は常に雪乃や比企谷がいたため、二人きりというのは今回が初めてだということもあり、ぷりぷりと怒る結衣を見ながらふと彼女と結婚していたら毎日こんな調子だったんだろうかと頭をよぎる、

 

「・・・結衣殿は今幸せか?」

「中二?・・・うん、とっても幸せだよ、中二のおかげだよ、ほんと感謝してるよ・・・」

結衣は何かを感じ取ったのかじっと材木座を見る

「・・・もし・・・あの時・・・」

材木座も結衣を見つめるが

 

「いや今更何も言うまい!さて朝ごはんをごちそうになるかの!料理の方は大丈夫か?」

高校の頃を思い出してしまいあの頃もしと考えが浮かんでしまったが、今更馬鹿げた質問をするのをやめて朝食をとることにする

 

「ところで八幡と雪乃殿はいかがなされた?」

「二人とももう出社したよ、あたしは中二を送るからまだいるんだよ!だから早く食べろし!」

「左様か、すまぬな、つか平日に来たこと無かったので知らぬのだが子供はどうするんだ?」

「うちの子まだ小さいでしょ、みんなもまだ幼稚園に入れない子供もたくさんいるから今会社に託児所作ろうかって話になっててね、それまでうちが託児所みたくなってるの、みんなで交代で子供の面倒みてるんだよ、今日の当番はかおりんとみなみんとだったかな?」

 

そうこうしているとかおりと南がやってきて子供を預ける人も続々やってきた。

皆材木座を見ると驚いていたがすぐに何故か一様に納得した表情になっていた。

ただ沙希だけは殺気のこもった目で睨みつけていた。

 

「なんか沙希殿がものすごく怖かったのだが、つか何故皆我を見てよろしくとか言ってるのだ?そんなに歓迎されてるの?何をされるの?」

「・・・行けばわかるよ、だから早くご飯食べろし」

せかされて目を白黒させながら昔よりかなりマシになった料理を口に突っ込む、その後結衣の荒い運転で会社へと向かうのだった。

 

会社につくと結衣は用事があるからと材木座に社長室へ行くように言う。

「ふむ、いつも休日にしか来てなかったからこういうのは初めてだの、よしここは一つ」

 

と一考し扉をバーンと開け

「クックックまさかこんなところで出会うとは驚いたな!待ちわびたぞ八幡よ!」

と奉仕部で会った時のセリフを叫んでみたが中にいたのは比企谷だけではなかった

「な、なんだと!?そっちから来たのに驚いて待ちわびたとはどういうことだって・・・ってかすまんがそういうのは今はやめてくれ、恥ずかしい」

「あ・・・はい」

材木座と比企谷は恥ずかしさで互いに顔を赤くする

 

中にいたのは比企谷、雪乃、あと女性と黒い服を着た男女数名だった。

「あなたたち、ご自分の年齢を考えろとは言わないまでもTPOはわきまえていただけるかしら?」

雪乃が呆れ顔で言う

 

「あーごほん、こ、これは失礼した、で、では我を出張させてまで呼びつけた理由を聞かせてもらおうか?」

気を取り直して材木座は比企谷と雪乃に向かって聞く

「・・・実はだな、会社の業績が最近思わしくないんだよ」

「なんと!では我の会社の雑誌に総出で八幡のことをでかでかと猛プッシュする提灯記事を書かねばならぬな!そのつもりで呼び出したのか?でもそんなもんは電話で済む話だろう?」

「そういうのは間に合ってると昨日行ったはずよ?そこではないのよ」

雪乃はため息を吐く

 

「まあ、この程度は想定内なんだが皆無駄に危機感を持っていてな、勝手にサービス残業を始めやがって俺が言っても聞かないんだよ!なに?この会社ブラック企業にしたいの?外から見ると日が変わってもずっと明かりがついてるんだよ?ご近所から『あの会社深夜まで社員を働かせて社長は定時で帰って愛人とよろしくやってるらしいわよやーねー』なんて噂されたらどうするんだ!おかげで俺も残ってないと示しがつかんだろ!俺は早く帰りたいんだよ!」

 

「全くもってお主らしい、しかし半分は本当であろう・・・愛人の下りは、つか叔父さんにも聞いたがおぬしの会社は地域の祭りとかボランティアに積極的に参加してるしお主らも礼儀正しいとかで評判は上々らしいが」

「人のうわさなんて信用できねぇ、いつひっくり返るかわからん、大体俺が早く帰っても結衣も雪乃も残っているからよろしくなんてできないし・・・そもそもあいつらが倒れられでもしたらその・・・困るんだ」

そういや高校の時は皆噂に翻弄されてたなとふと思い出す。

 

「そりゃ従業員が倒れたら色々困るであろう、我の所も36協定だのなんだのと・・・」

「ちがう!そういう意味ではなくて、その・・・皆と仕事ができるここが本物なのかもなんて・・・いや!今のなし!忘れろ!」

本物?なんか昔そんな話を聞いたような?材木座が首をひねっていると

 

「ん、んん、八幡のひねくれっぷりはまず置いておいてちょうだい、結論から言うとあなたにはまたラノベを書いてほしいのよ」

「え?なんで?」

「みんな無駄に危機感を持ちすぎるんだよ、実はこの不況のさなか逆転を狙って陽乃さんが海外で大口の交渉に行っているんだ、詳しいことはわからないんだが上手くいけば相当な受注が見込まれるそうなんだ、でもあっちこっちの国をまたいでの交渉になるから長期にわたっていて終わる気配がなくてね、正直皆諦めているってのもあるし、売り上げが毎年減っているのもあるしで不安がっててな、安心させてほしいんだよ、今回お前を呼び出したのはそういうことなんだ」

 

比企谷は材木座にそう告げた。



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俺のラノベは間違っている 後日談 4

比企谷八幡と材木座義輝のようなどこかで信頼しているみたいな関係っていいなって思います。


比企谷の説明を聞いても良くわからず材木座は首をひねる

「意味が分からん、何故我のラノベとみんなを安心させるがつながるんだ?」

 

「お前のラノベには不思議な力があると皆思っているふしがあるからだ」

「んなバカな、あれはきっかけにすぎぬだろう、成功させたのはおぬしらの力だ」

「俺たちの件もあるが・・・おまえ留美にラノベ書いてやっただろ」

「何故それを知っておるのだ?」

 

「いきなり読まされて不倫しようなどと言われたんだよ、んでその内容何一つできてないから出直せと言ったんだ、その時に一応コピーは取ったんで雪乃や結衣にも見せたんだが、あれはいいアイディアだ、さすが材木座だな、俺も留美の対人関係については不安だった、雪乃も自分に似てるからと色々気にかけていたんだよ、お前のラノベを信じたおかげで留美は対人関係を改善するように努力していい方に変わった。おまえには感謝してもしきれん」

 

「いやあんなの自己啓発やらマナーの本とか見れば普通に載ってることだろう、我の会社からもいくつか出してるぞ?お勧めは我が編集した『ニートでも大丈夫!ネットで社会人ぶれる世間の常識非常識』タイトルはアレだが学生や訳あって引きこもってた人向けに分かりやすく社会人としてのマナーや一般常識なんかを書いている、無論レスバトルにも役に立つ、これを読めば都内85階タワマン住みなんて恥さらしのようなことは言わずに済むぞ、我の好きなラノベの絵師に頼んでイラストも豊富に入れている、一冊1500円だ」

 

「そんな趣味全開すぎるのよく出版できたな・・・つかそんなもん箱でいくらでも買ってやる、今回のはそうではなくて、お前のラノベってことが重要だったんだってば」

「そんな宗教じみたこと言われてもな」

 

「でも、留美はお前を信頼してるだろ?東京にほぼ常駐する人材が必要ってなったとき真っ先に手を挙げたのが留美だ」

どきっとなり材木座は声が上ずる

「で、でもだぞ?そんなこと八幡達しか知らんのだろう?」

 

「でだ、ここから問題だが、留美が持ってきたラノベはデータで持ってきていてな、俺は雪乃と結衣に見せるため共有フォルダに突っ込んだまま忘れちゃってたんだ・・・」

「まさか・・・」

「そう!社員全員に流出しちゃった、おかげでお前が留美に書いたラノベが本当になってるのでは?と噂になってな」

「しちゃったじゃないだろ・・・おぬし、わざとであろう・・・」

材木座は呆れ顔になる

「まあ、わざとかどうかは置いておいて、読んだ連中は留美が変わったのはお前のラノベが関与しているからってことを知っているからな」

 

「しかしだ、別に留美と我はラノベのような深い仲になっているわけではないぞ?別に付き合ってるわけではないし」

 

「おまえがそう言う事は想定済みだ、俺も留美が東京に行ってお前と接触しているってことは聞いていた、話しっぷりからかなり親しい間柄になっているってのいうのもな、ただどの程度まではしらなくてな、お前に聞いてもそんなことは言わないのは知っている、それにこういうのは客観的に見ないとわからん、俺が奉仕部にいたときのようにな、だから悪いと思ったが調べさせてもらった」

 

「いったいどうやって?」

「そこは私たちが調べたんだよ」

と先ほどから座っていた女性が声を上げる、

「ふむ、失礼ながらお聞きしますがどこぞでお会いしましたか?」

 

「ひっどーい!いろはちゃんの前の生徒会長なのに!文化祭でもステージで挨拶したじゃん!」

「ま、まあ材木座はほとんど接点無かったし、あのころは女性は苦手だったからな、めぐり先輩、いやめぐりさん勘弁してやってくれ」

比企谷がフォローに入る

「んでだ、このめぐりさんの説明をするとだ今営業部営業二課に所属してもらっている、ちなみに二課の課長は陽乃さんだ」

 

「八幡、なんかその二課って猛烈に嫌な予感しかしない部署なのだが・・・」

「ああ、表向きは海外や特殊な案件を扱う部署なんだが、実はスパイ活動やら表だって言えないようなこともやってもらってる」

「・・・マジデ?」

「マジなんだなこれが、例えばちょっと前にうちの会社にちょっかいかけてきた所があってな、まあ俺も若いから甘く見られてたんだろうな、会社を乗っ取られそうになったんだ、俺に金やら土地やら女やらを絡ませてきてあることないことスキャンダルを煽って俺たちを追い出そうとしてきてね」

 

「それは怖いな、それでどうした?」

「金やら土地やらは突っ返したんだが、女のあたりで俺も切れてな、雪乃や結衣を上回る女なんているわけないだろう?、それでわざと負けたふりをしてな、負けた証としてうちの優秀な美女をそちらに献上しますと陽乃さんとめぐりさんを送り込んでな・・・」

「・・・なんか予想がつくな」

 

「ああ、内部崩壊させてやったよ、あの狒々爺どもは雪乃や結衣まで要求してきたもんだから陽乃さんぶちぎれてな、経営陣のお偉方は陽乃さんとめぐりさんに骨抜きにされて勝手に熱を上げて経営がガタガタになってな、はめられたと気が付いて色々喚いてたらしいが自業自得だ、ガタガタになったところでめぐりさんの部下を送り込んで情報をごっそりといただいた後、逆にのっとりかけてやって下らないことを考えた連中を軒並み首切ってやった、ついでに内部情報から連中個人のいろいろ面白い事実が出てきたのでな、葉山に関係者焚き付けさせて訴訟を起こしてがっつり吸い取ってやった、奴ら別な会社に運よく入れたとしてもこっちに二度と反抗する気は起きないだろうな」

 

「おぬし、ずいぶんと過激になってるな」

「俺達の居場所を奪うやつは絶対に許さん、奉仕部の時もいろいろあって崩壊しかけた時があったしな、同じ轍は踏まん」

 

「・・・んではそのさっきからめぐり殿の後ろに立っている黒服達は一体?」

真っ黒なスーツを来た男女がずらっと並んでいる、さながらSPやMIBやカイジに出てくるあの人達のようである

「この人たちはねー私が会長だったときに生徒会の役員だったんだ、さっき話に有った私の部下、みんな優秀なんだよ?」

 

「この人たちは通常は受付やら保全やら社内のあちこちで働いてもらってるんだが必要な時にはこうやって出てきてもらっている、彼らの行動はめぐりさんに一任しているんだ」

「そうなんだよー、んで今回は材木座くん、比企谷社長の命令でここ一か月ばかりの君を調査させてもらったんだよー」

「マジデ?」

「マジだ」

比企谷は真剣な顔で返す

 

「報告によるとねー、この色男!留美ちゃんほぼ毎日アパートに行ってるね!」

「はい、会社で借りた賃貸に行っているのは材木座さんが日をまたぐぐらいの深夜残業で遅くなっているときだけです、それ以外は材木座さんを待っていて泊まっています」

黒服が付け加える

「マテ、勘違いされては困るが我は留美には手を出してないぞ?」

「ただ一度だけわりと早い時間に鶴見さんを部屋から追い出すようにしていたことがありました。鶴見さんは気にしてないからなどとドアの前で言っていたようですがドアは開かれることはなく、そのまま鶴見さんは帰宅しました」

「あ・・・それは・・・」

恐らくそれは自分が留美を襲いそうになったときのことだろう、あの時なんとか自分を押さえ込んだがそのままだと我慢できそうに無かったため留美を追い出したのだ。

青い顔をした材木座を見て比企谷は察したが雪乃とめぐりは首をかしげる

「追い出すなんて留美さんが何かそそうをしたのかしら?でも報告書の内容からすると材木座くんが何かしたように見えるのだけれど?」

「止めてくれぬか、これ以上は留美も傷つけてしまいかねん」

追求しようとする雪乃に材木座は止めるようにいう

 

「まあ留美の態度がこの後変わってるわけでもないし喧嘩でもしたんだろ、よくあることだ・・・しかしそうか・・・『留美』ね」

いまいち納得してない雪乃とめぐりを尻目にニヤッとする比企谷

 

「んでー?週末はー川崎京華ちゃんとも遊んでるみたいだねー、その光景援交のごとしって書いてあるね!」

「はい、実際は鶴見さんも一緒にいるのですが、部活帰り等で制服姿の時に一緒に歩いている場合などはむしろ通報されないか心配でしたので警戒しなくてはならず大変でした。本当に通報しそうな人がいましたのであの人は親戚同士だとさりげなく側で会話したり話しかけたりして阻止してました。」

また黒服が一言付け加える

「え・・・我知らぬ間にガードされてたの・・・?」

「当然です、めぐりさんの大事な人の一人である比企谷社長のご友人ですので」

「そうだったのか・・・んじゃもっと京華を外に連れて行けばよかったな・・・」

「ほう・・・『京華』か・・・」

またもニヤリとする比企谷

 

「んで、この日は一緒に海に行ってるね!」

「はい、お二人の水着姿にずっとデレデレしっぱなしのようでした、鶴見さんも川崎さんも美人で人目を引くためナンパ野郎の撃退と、ここでも材木座さんがトラブルに巻き込まれないか心配でしたのでアレは親戚だとかあの男は武道の達人だとかとさりげなく噂をばらまいてました。鶴見さんも川崎さんも材木座さんのことを『剣豪将軍さま』とからかっていたのも功を奏して変なのはあんまり寄り付きませんでした」

なんかこの人たちすごいんだけど、忍者か何かなの?驚くより呆れてしまう材木座

 

「ありがとう、下がっていいよ」

比企谷がそういうと

「うん!みんなありがとう!もういいからね!」

「御意」

 

音もなくすーっと全員が出ていく

「え?なに?ホントに忍者?忍者なんで?」

「驚くのもの無理はないな、彼らは総武高校からああなんだ、めぐりさんを引き抜いた時に全員一緒に連れてきたんだ」

それよりと比企谷は話を続ける

 

「お前に対してものすごく失礼なことをしてしまったのは自覚があるし悪いと思っている、ぶん殴られても文句は言えないから好きにしてくれてかまわん、でもさっきも言ったようにお前に聞いても本当のことは教えてくれないだろ?」

「いやまあ、別になんか逆にガードしてくれたみたいだし、悪い気はしないのだが・・・部屋に盗聴器とか隠しカメラとかないよね?」

 

「重ね重ねすまない、あと部屋に何か仕掛けたりはしていない、あくまで周囲から見た状況を調査しただけだ、でだなおまえが留美に書いたラノベな、よく読むと別に不倫をするって話じゃないだろこれ」

「当たり前だろう、不倫とか寝取られとかは我は好かんのでのう」

「しかもこれって読み方によっては同じ会社の人でもないよな?」

「そこの描写は適当だからな、主たる目的は留美の人格改造が故その辺はどうとでもとれる」

「あとお前つながりでけーちゃんとも親友レベルまで仲良しになってるよな?雪乃と結衣のように」

「・・・そこはほれ、まあ知ってる人つながりだし・・・何が言いたい?」

 

「さっきの報告と併せて考えると、留美に書いたラノベが実現していて現在進行形なんじゃないのか?」

「んなこと言われても、我困るよ・・・」

腕組みをして困った顔になる材木座

「それに実はさっきの報告は書類にまとめて幹部連中に読んでもらっている。読んだ奴のほとんどは俺と同意見だ」

「んな勝手な・・・」

 

「勝手なことは重々承知だ、でもこのままじゃそのうち誰か過労で倒れちまう、それにこれだけ証拠があるんだオカルト嫌いな奴も皆ジンクスみたいなものかもということで信じている、雪乃ですらな、頼む書いてくれないか?今回無理言って来てもらったのはこのためなんだ、一ヶ月もあれば書けるだろ?」

 

「いや、だってここは八幡の会社であろう、我がどうこうする問題ではあるまい・・・」

留美の為にと気軽に書いたラノベがかなりの大事になっているので二の足を踏んでしまう

 

「たのむ!この通り土下座でも何でもする!」

と床に膝を突く比企谷

「私からもお願いするわ、何か欲しい物はある?ご希望に添える物はなんでもそろえるわ」

と雪乃まで膝を突いたので

「わー!やめてくれ!わかった!わかったから!二人ともやめてくれぬか!正直そんなことされてもいい気持ちはせぬぞ!」

「本当にすまん。別にご都合主義でいいんだ、お前のラノベを読めばきっと皆安心する、赤字の部分は俺と雪乃と結衣でなんとかする」

「責任はとれんぞ?我のストーリー通りに進まないとクレーム入れられても困るからな?」

 

「今のおかしげな状況が正常になるだけでいい、文句が出たら俺が抑える、本当に恩に着る」

またも頭を下げる比企谷と雪乃、この二人に頭を下げられるとどうも弱い、材木座は諦めることにした。



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俺のラノベは間違っている 後日談 5

ちなみに後日談一話にもあるように陽乃さん以外のヒロイン勢は皆誰かと結婚しています。
ですが誰となのかはぼかしていますのでご想像にお任せします。
尚、何故陽乃さんだけなのかについては次で明らかにする予定です。


材木座がこれからどうしようかと困った顔をしていると頭をあげた比企谷からさらに話をされる

「それと留美のことなんだが、留美はお前が道を作ってくれた恩人だからずっとついてくと言ってたぞ、俺は留美に生きる方向性しか示してやれなかったからな、それとけーちゃんだ、お前相当なついているよな?困った時にはいつでも助けてくれたって、自分もお前が困ってたら助けたいからそばに居たいって言ってるしな」

 

「・・・留美の件は直接我も聞いた、留美を強引に呼び戻したのは我を呼んだからか?京華については沙希殿に頼まれたからだし、それに我についてきてもなんもいいこと無い、魔法使いの条件も満たしちゃってるし・・・」

「だとさ、ルミルミ、けーちゃんお前達はどう思う?」

というと別室で聞いてきた留美が入ってくる

「ルミルミ言うな、義輝、いいことないなんてない」

 

「あれ?けーちゃんは?ここで二人とも登場して材木座に迫るところじゃなかったっけ?」

「・・・沙希さんが・・・」

といったところでドアの向こうから揉めてる声が聞こえドアを蹴り飛ばして沙希が登場する

「あんた!けーちゃんの面倒を見てくれと頼んだがちょっかいかけろとは言ってないんだけど!」

「ひぇ!ちょっと八幡助けて!」

材木座は比企谷の後ろに隠れようとしが捕まって締め上げられる。

 

「ごめんヒッキー、中二、サキサキをこっちに来ないようにしてたんだけどめぐりさんの報告書読まれちゃって・・・」

結衣が沙希の後ろですまなさそうに頭を下げている。

結依はこのために今日は朝から別行動をとっていたようだった。

 

「電話で話を聞くといつもお前のことばかり話すからおかしいと思っていたんだ!けーちゃんはまだ未成年なのにアパートに連れ込むとかあんたなに考えてんだ!あんたを信じて任せた私がバカだった!」

「ぐ、ぐるじい」

なんかある度締め上げられてるなと薄れ行く意識の中思ってしまう。

 

「さーちゃん落ち着いて!ざいちゃんが死んじゃう!」

「沙希、おちつけ」

あとから入ってきた京華と比企谷が沙希をなだめようと近づくが沙希の怒りは収まらない。

「落ち着いてられるか!このロリコンデブ!ぶっ殺す!」

「さーちゃんダメ!ざいちゃんはそんな人じゃない!」

京華は材木座を助けようとするが沙希は手を離さない、比企谷は沙希の前に立ってたしなめるように言う

 

「やれやれお前のシスコンブラコンも大概だよな」

その言葉にさらにカチンときた沙希は材木座を放り出し比企谷に迫る

「はぁ?あんた!小町と大志の結婚式のこと覚えているからな?いい年してガキみたいに大泣きしてたよね?」

 

「そ、そう言うお前だって、た、大志が離れてしまったって泣き崩れてただろ!」

沙希の剣幕にしり込みしながら比企谷が反論したところに雪乃が割り込む

「はぁー二人ともうちの姉さんを見習いなさい?私の時は笑顔で祝福してくれたわよ?」

 

「雪乃・・・いい機会だしもう時効だろうから言うが結婚式の二次会が終わってみんなが寝たころ陽乃さんに外に連れて行かれてな、泣きながらお前を頼むと言ってきたんだよ、絶対に幸せにしてくれってな、その為なら自分は何でもするって言ってた」

 

「え・・・嘘・・・あの姉さんが?」

信じられないといった顔の雪乃に比企谷は続ける

「本当だ、帰ってきたら聞いてみろ、別に内緒にしてとは言われてないしな」

そんな・・・あの姉さんが・・・と放心気味の雪乃を放置して比企谷は少し落ち着いた沙希に向かう

 

「沙希、材木座はお前が今想像しているような奴じゃないことぐらい本当はわかってるだろ?頭を冷やしてこい、後でちゃんと報告書を読め、材木座は誠実にけーちゃんと留美に接してくれているのがわかるはずだ。だからちゃんと本人達と話を聞しろ、これは社長命令だ。結衣、フォロー頼むわ」

 

「うん、中二ごめんね?サキサキ、行こう」

「サキサキいうな、もう川崎じゃないんだから、わかったよ・・・」

比企谷に厳しい口調で諭され沙希は結衣に連れられて出て行った。

「はーちゃん社長ありがとう」

沙希を見送った京華は比企谷頭を下げる

 

「礼はいらん、これも社長のつとめだ、さて、改めて聞くが留美とけーちゃんは材木座のことをどう思う?」

「それより、ここに来る直前義輝に私と京華どっちが好きかって聞いた、まだ答え聞いてない」

「それとはーちゃん社長とさーちゃんの許可が出れば手を出してくれるって言ってましたね」

「ちょ、ちょっと!我は別にそんなこと言ってはおらぬ!」

必死で否定するが比企谷はそれを無視

 

「ほう、そうか、俺は本人の判断に任せるってことで別にいいぞ、でもけーちゃんは沙希とちゃんと話し合うんだぞ?」

「「わかった」」

 

「なあ材木座、これで二人ともお前のことを本気で慕ってるってのがわかっただろ?良かったな」

「・・・いいわけあるか、こんなろくにとりえもない我についてこられてもな・・・」

「お前だってこの二人に好意寄せてるだろ?お前はいつも名前に殿を付けるが留美と京華にはつけてなかったよな?」

「いやそれは・・・」

歯切れの悪いこ材木座に比企谷は強く言う

 

「おい、材木座良く聞け、俺は昔奉仕部で似たようなことがあってその時即座に頭に浮かんだのが『どちらも選ばない』だった、どっちかを選ぶと片方を悲しませるから俺は二人の前から消えた方がいいってな、今ははっきりと言える、その時の気持ちは欺瞞だったと、俺は欺瞞が嫌いだと言っておきながら自分でそんな行動を取ろうとしてたんだよ、まったくひどい高二病だった、お前は今もそうか?」

 

「いや、我は、その・・・」

「ま、すぐに回答をだせってのは酷だ、考えておいてくれ、留美もけーちゃんもそれでいいな?」

「うん、義輝、どっちえらんでも文句言わないから、どこにもいかないで」

「私も留美さんを選んでも何も言わない、だから消えないでください」

 

「材木座くんって高校の時は変な意味で目立ってたけど今は別な意味ですごいねー、いいなー青春だね!」

一部始終をずっと見ていためぐりが言う

 

「遅れてきた青春って奴だな、まあそれよりもラノベを書いてもらわないと、材木座、留美、けーちゃん一緒に来てくれ」

比企谷はそういうと部屋を出る、材木座と留美、京華はそのあとをついていく

階段を上ったり下りたりして人気のあまり無いフロアに出た

「この辺は倉庫や設備装置が集中していてな、普段はだれもこなくて静かなんだ」

そういって一つの部屋の前に建つ、その部屋の外観は周囲からかなり浮いているデザインであり、扉は引き戸になっている上に何故か学校の教室のようにネームプレートが付いている、そのネームプレートには何も書いておらずシールがべたべたと貼っていた。

その外観は材木座にも見覚えがあった、高校時代よく自分の書いたラノベを見てもらいにドアを叩いたあの部屋によく似ていたのだ。

 

「八幡、なんかこれ全体的に見覚えがあるのだが・・・」

「覚えていてくれたか、これは奉仕部の部室を再現したものだ、ネームプレートの方はけーちゃんは総武高校だろう?まだこのプレートあるのか聞いたらあるって言ってたからな、こっそり外してきてもらった」

「それは犯罪であろう!」

「工場に転がってた端材でまったく同じもの作って入れ替えてもらったから大丈夫だ、誰も気が付かんしむしろ新品同様になったんだから感謝してほしいレベルだな」

「京華、本当か?」

「うん、ちょっと緊張しちゃった、でもあそこの教室、入った人は千葉から消えちゃうって噂になってて誰も近づかないんだ、本当は違うのにね」

まあ、ある意味本当だなと思いつつも材木座は引き戸を開ける

 

「狭いけどすごく見覚えがあるな」

「まあ元の教室の半分程度のサイズだしな、それでもうまく似せた、元々あの教室も机を寄せてるから半分ぐらいしか使えなかったし」

部屋の中は特別棟の教室とほとんど同じ内装になっていた、黒板も設置してあるという徹底ぶりだった。

 

「仕事で疲れた時とか、嫌になった時とかここに来るんだ、んで座って本を読んでいると落ち着くんだよ、雪乃や結衣もたまに来るな、三人そろった時なんて本当に何とも言えない気分になってね」

「しかしよくこんなの作ったな」

「まあそこは社長だしな、工事計画の段階で強引ねじ込んだ、んでだ、材木座は今日から一か月、ここで執筆作業をしてもらう、留美と京華、材木座のアシスタントをしてくれ、あと車は好きな社用車使っていいし出かけてもかまわん、通勤もそれでしてくれ、買い物したら領収書かレシート忘れずにな?」

そういうと比企谷は出て行った。

部屋には3人だけとなる

 

「義輝、答え待ってる」

「ざいちゃん私も待ってますよ?」

 

「ん・・・まあそれはいずれな?んでは作業にかかるとするかって、パソコンを八幡の家に置いてきてしまったな、あとネットはつながるのかのう?」

結局その日は準備で終わり次の日から作業に取り掛かることにした。



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俺のラノベは間違っている 後日談 6

陽乃さんはいつでも自由な人だと思いますがいろいろと辛い立場なのかもしれません。
たぶんこの作品でも別な仮面をつけていると思います。
あとガハマさんは裏方なので出番はほとんどありません、内助の功ってやつです。


次の日

「皆を安心させる話とか言われてもだな・・・」

思案しつつキーボードに指を走らせる、ふと良い匂いが漂ってきたので顔を上げると鶴見が紅茶を淹れてくれていた

「留美、それは?」

「雪乃さんに教えてもらった、義輝どうぞ」

そういうと湯呑に入れた紅茶を渡す

「湯呑に紅茶か・・・昔の八幡を思い出すな・・・」

 

「そう言えばはーちゃん社長って学校ではどういう感じだったの?」

「私も聞きたいな、義輝、教えて?」

「うむ、ちょうど休憩したかったしな、では教えようか、我と八幡との熱い戦いの歴史を!」

材木座は高校時代の思い出を二人に語る、

 

「・・・とまあ我と八幡との出会いは体育の『二人組作って』だったわけだ!」

「やっぱり八幡は友達いなかったんだ」

「それで初めて奉仕部に行ったときは・・・」

材木座は奉仕部に初めてラノベを読んでもらいに行ったことを話す

 

「ざいちゃん雪乃さんと結衣さんと話せなかったってどういこと?」

「だってあの時は二人とも恐かったんだもん」

「義輝、ポイント低い」

材木座は高校時代の女性への免疫の無さについて二人にダメだしを食らう

 

「それで文化祭の時は・・・」

「南さんって酷い!最低じゃん!でもはーちゃんはすごいね、みんなはーちゃんの手の上みたいじゃん」

「まあ、やり方は誉められないが奴の考え方の方向性自体は間違ってなかったのかもしれぬ、でも奴がそこまでやったのは恐らく雪乃殿の為であろうな」

 

「八幡、雪乃さんといい感じだったもんね、夏に会ったときそう思った」

「フム、夏とはキャンプの話しか?我は某イベントの為執筆中で断ったので詳しいことは知らぬのだよ」

 

「じゃあ教えるね、私が八幡に助けられた話」

留美はキャンプであった時のことを話す。

それから体育祭やクリスマスイベントなど奉仕部に持ちかけられた依頼を材木座は語り続ける。

 

留美も京華も比企谷やその周囲の人たちの意外な顔に驚いたり憤慨したりと話を聞くのに没頭する

「意外だね、葉山さんなんてかっこいいし頭もいいしとっても優しいのに高校の時はなんか嫌味みたいな感じだったんだね」

「それは我の主観だからな、八幡も似たように思っていたと思うがな、最もあのころは自分の考えてることが正義みたいに各々が思っていたからな、我も中二病全開だったし、まあ若かったということよ」

 

「でも何で八幡に嫌な目に会わされたのにみんなここにいるんだろ?葉山さんだって南さんだって顔もみたくないって思ってると思うんだけど」

 

「嫌な目に会わされたとか八幡は最悪なやつという感覚こそが八幡の術中にはまったという事だからな。しかもそう思って八幡を踏み台にすることによって問題が解決出来てしまうわけだ。初めは気が付かんが後からそれに気がついた時の後味の悪さや罪悪感は半端ないだろう。実際さっき南殿に会ってな。熱心な顔で『あいつを助けてやって、うちも今あいつに借りを返してるところだから』と頼まれたからな、お主がサービス残業やめてくれればいいとか言えなかった」

 

「葉山さんもそうなのかな?」

「結婚式の時に償いがどうとか言ってたしな、奴らはなにやら因縁がるようだし葉山殿はそれについて負い目があるのであろう、その辺は深くは追及しない方がいいと思う、奴らの中で既に折り合いがついているだろうからほじくりだすのは良くないことだ」

 

「あといろはさんは一年生で生徒会長になったんだって自慢してましたけど初めは嫌がってたんですね」

「うむ、八幡と我のツイッター大作戦によっていろは殿は説得されて生徒会長になったのだ、だが実の所その辺はよく知らぬ・・・そう言えばあの時八幡達はなんかおかしかったな、雪乃殿と結衣殿が立候補するとか言ってて、なんか八幡はそれを応援するどころか阻止しようと我に協力を求めたような物だからな、あの時二人のどちらかが当選したら我に優しくない学校になるとかで説得されたようだが、なんかはぐらかされたような気もするし」

 

「・・・義輝、たぶんそのこと姫菜さんが言ってたよ『私のせいであの三人に亀裂をいれちゃったことがあるの、だから今度はしっかりくっつけておかないと、それが私の使命かな?』とかって、だから八幡がそんなことをやった理由って居場所を守ろうとしたんだと思う」

「居場所?」

材木座は首をひねる

「わたしにもなんとなくわかります、はーちゃん社長って奉仕部でこうやって三人でお茶しながら一緒に過ごすのが好きだったんだと思います、好きな人とは一緒に居たいじゃないですか!生徒会に入っちゃったら忙しくてそんなことできなくなりますもん」

 

「左様か、なるほどそれで八幡の奴あんなに一生懸命だったのか、あやつめあの時点でハーレム王の素質が芽生えたというわけだな?」

「義輝、人のこと言えない」

「そうですよ、ざいちゃん」

 

それから毎日材木座は二人と色々な話をしつつ執筆を続ける。

ある日比企谷と雪乃が様子を見に来た。

 

「材木座どんな調子だ?」

 

「経営のことなんてさっぱりだからサラリーマン金太郎とか島耕作とかの漫画パクって書いてる、なろう系のラノベも参考にしてるな、知り合い集めて会社立ち上げて、皆で猛烈に苦労してとりあえず軌道に乗れたけど一回潰そうなぐらいまで落ち込んだってあたりまで書いたんだがどうやって復活させたらいいかわからん、安易に商品が爆売れしたとか書いてもな」

 

「無理言って頼んでる立場からこういうのは何だがあんまり露骨なパクリはやめてくれよ、説得力が無くなってしまう」

「そこは大丈夫だ、こっちは文章だからな、雰囲気なんぞどうとでも変えられる、しかしどういう方向性で行くかだな・・・ふむ、そういえば陽乃殿は今海外とか言っておったな?」

 

「ああ、ただ詳しい所はなんにもわからないんだ、陽乃さんには特になにも指示も出さないしなんの拘束も制約も無い、自由にやってもらっている、そのほうがあの人は動きやすいしな、いつのまにかでかい案件決めてくるってのもあるんだがわかるのは大体終わったころだ、実際今海外で航空宇宙関連の部品の大口交渉をやってるんだが正直どうなってるのやら把握できてない」

 

「それは大丈夫なのか?つか陽乃殿も旦那がいるのでは?ご家族だって心配だろう」

 

「それが、結衣さんが以前皆を結婚させるために頑張ったのだけれど姉さんだけ相手が決まらなくて、でも姉さんに合う男なんているのかしら?それに姉さんは『好きな人と一夜を共にできたからもういいわ』と言ってたし、その人と結婚すればと言ったら『その人は私の手の届かない遠い所にいっちゃったの、だからもういいの、忘れないといけないの』って、もしかして死んでしまったのか遠くに行って消息が途絶えたのか、どっちにしろあまり深く追求できなかったわ」

 

「左様か・・・それは悪いことを聞いてしまったな・・・」

と材木座がふと比企谷の方を見ると何故か目が泳いでいて落ち着かないようだ。

何かを察した材木座は

「・・・・・スマヌがちょっとアイディアが浮かんだのだが男同士で話をしたいのでな、八幡と二人っきりにしてほしい」

そう言って女性たちを追い出す。廊下の向こうに女性たちが消えたのを確認すると

 

「さて八幡、貴殿の態度がおかしいのは察するに結婚式後の二次会が終わって皆が寝た後の話ではないか?」

「・・・よくわかったな」

「あの時、実は我は起きていた、おぬしが陽乃殿と外に行ったのも知っている、この間沙希殿との一件の際雪乃殿に言った話、あれについて我は覚えがあってな」

「・・・・・」

 

「たしかお主らが出て行ったのは午前二時ぐらいだったと思うが二人で外に出て行ってしばらくした後車が出ていく音が聞こえた、そして朝になるまで帰ってこなかったな、皆気が付かなくて当然だろう、全員雑魚寝でどこに誰が寝ているか全くわからなかったし、起きるのも遅くて10時ぐらいまで寝てたしな、起きていても二日酔いで前後不覚な者が大半だ」

「そこまで知っているとはな・・・」

「我の仕事は徹夜なんて当たり前にあるからな・・・・おぬし陽乃殿と寝たな?」

 

「・・・ああ、雪乃のことを頼むと言われた後告白された、実は好きだったと、でも俺と雪乃と結衣の関係にこれ以上誰も入る隙間なんてないのはわかっているから忘れなくてはいけないと、だから忘れる前に最後に抱いてくれと、これっきりにするからと、そう言っている時の陽乃さんの顔は今まで見たことが無かった、んで俺は結婚式したばかりなのに嫁の姉と寝るなんて最低なことをしちまった。正直次の日は雪乃とも結衣とも顔を合わせられなかった」

 

「左様か・・・そういえば陽乃殿はしきりと皆に酒を飲ませていたな、なんか皆潰れるのも早かった気がする、午前二時程度で皆が倒れるというのもおかしげな話だ、もしかしたら八幡との逢瀬の為我らは一服盛られたのかもな」

「いやまさか・・・そんな・・・」

「恐らく絶対にばれない最初で最後のチャンスだと思ったのであろう、関係者一同が全員一か所に集まって外出しても見つかる心配が無い機会なんてほとんどないからな、その後はどうだ?今まで似たようなことは?」

 

「いや全くないな、たまに家に来て飲むときはあるしふざけて絡んでくることはあるが、ちゃんと節度は保ってるな、まるでなにも無かったかのようだ」

「んでは雪乃殿に話したことは本当で、もういいのだろう・・・もしかして陽乃殿を抱いた時におぬし雪乃殿や結衣殿のことを考えていたのでは?」

「・・・もうその辺で勘弁してくれないか?」

 

「ふん、大方陽乃殿が結婚しないのはお主と寝た罪悪感からかもな、それに海外出張に行っているというのもおそらくおぬしのそばに居ずらいからではないのか?これから先お主や雪乃殿の為に色々やりすぎてしまうかもな、以前奉仕部にいた時のお主のようにな。いや既にそうかもな、会社を乗っ取り返した話もお主が提案したように話していたが、実のところ陽乃殿が提案したのではないか?お主が仲間を危険に晒すような事などするはず無いしな。失いたくなければ手綱をしっかり握っておけよ」

 

「すまん材木座・・・何でもお見通しなんだな、お前には頭が上がらん」

「毎日物書きの仕事をしているからな、無駄な洞察力だけはついたわい、さて湿っぽい話はここまでにしてだ、どうやって会社が立ち直るかなのだが、八幡はこうなったらいいなとかなんかないか?」

 

「うーん、メインでやってる航空宇宙分野は受注の波が激しくてな、某重工ですら丸一年受注が無いときもあるそうだ、しかも受注があっても少量多品種だ、標準化共通化して同じ部品を供給できるようになれば楽に一定の収益を上げることができるんだが、国際的にそうなってくれれば言うことなしだな」

 

「我も良くわからんがどういったところを見ればそういうのがわかるのだ?」

「こういうところだ」

そういうと比企谷は英文だらけのサイトを表示させる

「まるで読めぬがなんだこれ?」

「簡単に言うと技術関係ニュースサイトだ、うちは海外にも納めているからな」

「というか八幡英語読めたのか」

「必死だったからな・・・」

 

「しかしこういうのを毎日見てるのか?なんかインテリっぽいな」

「いや?たまにしか見てないな、そもそも他に目を通さなきゃならんところがたくさんあるしな、なになに?航空宇宙関係のエンジン部品について各国の技術者間で論争しているとあるな」

「・・・うーむそういう話は難しくてな、まあ我も読めぬしこれはいいのでは?いちいちおぬしを呼ぶわけにもいかぬしな」

「まあそれもそうだな」

そう言って比企谷はサイトを閉じる

 

「まあ先ほどおぬしが言った部品が規格化してしかもそれはおぬしの会社が持っている特許の製法でしかできないものだったとかどうだろう?」

「お!それいいね!特許に関しては力をいれているところでもあるからな、そういうのがあるとモチベーションが違うと思う」

「んではそんな感じで書くか、八幡、引きとめて悪かった」

 

「いや、俺も誰にも言えない話をできて少し胸のつかえが取れた感じだ、・・・なあやっぱりおまえこっちに来てくれないか?広報関係を今姫菜さんが仕切ってるんだが社報や社内ポスターがBL寄りでな、企業展なんかだとブースの裏手で本をこっそり販売しているみたいなんだよ、部下もそっち方面だからなのかなんも言わないし皆仕事の方もちゃんとまじめにやっているからあまり強く言えなくてな、誰かが止めてくれないとちょっと困る」

「・・・考えておく、留美と京華を連れてきてくれ」

 

そして材木座は比企谷の会社のサクセスストーリーを書き上げる、書き上げた物は留美、京華により校正され比企谷へ提出され社内へ展開された。

書き上がったラノベを見た者たちは一様に「こうなったらいいけど」と口では言っていたがやはりどこかでは信じているらしく次第にサービス残業をやめるようになり、オーバーワークは目に見えて減っていった。

 

材木座の方は書き上げてこれで終わりかと思ったが、比企谷たっての希望で京華の夏休み終わりまで出張も延長されることになった。



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俺のラノベは間違っている 後日談 7(完結)

今回も大団円で締めました。
後日談前のも含めてフルネーム有のキャラをできる限り登場させたつもりです。
これで本当におしまいです。
お付き合いいただきありがとうございました。


ラノベを書き終わった材木座は広報部に回され軽く仕事を手伝っていた。

主な仕事は姫菜の暴走を止めることでほとんど仕事らしい仕事もなく、社内を見学したり特別休暇をもらった留美や京華を遊びにつれていっているような具合だった。

 

「なんか我ずっと遊んでるような気がするのだがいいのか?」

比企谷が最近の様子を聞きたいと材木座を社長室に呼び出していた。

 

「社内ニートが希望だったんだから願ったり叶ったりだろう、んなもんお前が気にすることではない、あと9月は社員旅行で京都に行くからな?お前ももちろん来るよな?」

「いや我は社員じゃないんだが?しかも京都って高校の時行ったであろう、また行くのか?」

「ようやく社員旅行ができるぐらい落ち着いたんでどこにしようかと雪乃と結衣に相談したんだ、そしたら京都に行って因縁を晴らしたいってさ、まあ奉仕部の時にちょっとあってな」

 

「そう言えばなんかお主ら修学旅行から帰った後ずいぶんと雰囲気が変だったな・・・なんか姫菜殿がかかわってるとか留美は言っておったが?」

「ああ、葉山も戸部もかかわってる、アレはあんまり思い出したくないことなんだが雪乃と結衣はその嫌な思い出を上書きしたいとか、詳しいことはそん時にでも話す、だからお前も来るんだぞ?」

 

「左様か、ならば行かねばなるまい!もっともただ飯食わせてもらえるならどこにでも行くがな!しかしなんか悪いな」

 

「さっきも言っただろう気にするな、もくろみ通りようやく正常な状態に戻ってきたんだ、休止していたテニスサークルだって活動再開できてようやく一人で壁打ちしなくても良くなったし、一応資金繰りもめどが立った、お前のおかげだ、それにお前はあちこちでうちのことを宣伝してるってことになっている、夏の某イベントにだって仕事っていう名目で三人で行ってきてもらっただろ?」

 

「いやあれえび・・ではないな姫菜殿とその仲間たちが出店するからと3人で手伝いに行ったまでだ」

 

「彼女らの出す物にはうちの宣伝を入れてもらったり機械で作った物とかも売ってもらったからな、何気に人気高いみたいだぞ?アルミ削りだしのフィギュアなんて早々お目に書かれるものではないし、ああいうのが元で受注がきたりするんだよ」

 

「でもあんなので手当てもらうのは悪いだろ、京華にもバイト代出してるそうではないか・・・姫菜殿達は無償でやってるというのに」

「姫菜達は行くなと言っても行くからな、お前達に関しては皆同意している、俺の独断ではないから出さないわけにもいかん」

「しかしだな・・・」

 

「感謝の気持ちだから受け取ってくれよ、それに黒服の報告によれば留美や京華のコスプレでまたデレデレした顔になっていたそうじゃないか?」

「え?いたの?マジデ?」

「ああいう場ではよからぬ連中もいるからな、お前達だけでは心配だから特別にお願いしていた。実際お前がトイレに行った隙にナンパしようとしたりやけにローアングルから撮影しようとした輩がいたので始末したとか言っていたな」

「始末ってなにそれ?こえーよ八幡」

 

「彼が言うには二度と近づく気をなくさせたと言ってたかな、まあそれより帰りに観覧車乗ったり買い物したりと楽しそうだったと聞いている」

 

「ま、まあな、いつもはさっさと帰っていたものでな・・・」

「それとな・・・観覧車に乗る前と降りた後では3人ともずいぶんと表情が変わってたとも聞いているぞ・・・」

 

「っぐ・・・」

「・・・どっちを選んだんだ?」

「我に選べるわけなかろう・・・とりあえず京華が高校卒業するまで引き延ばしたが・・・答えが出るまで3人で正式に付き合うって話になってしまった・・・」

「そうか・・・経験者から言わせてもらうと決断するのは修羅の道だぞ」

「分かっておるわ・・・貴様が決断し今の道を選んだのを我は見ているしな、しかしなんでこうもことごとく実現してしまうのだ」

 

「たしか周囲の人の協力で想い人に振り向いてもらえて想い人と親友と一緒に新天地で暮らすって結末だったかな?どうする材木座?」

「我の敗けだ・・・クソッお主の思惑通りになってしまうではないか!京華もこっちの大学に進学希望と言ってたし、もし落ちてもどのみち八幡のとこに勤めるから心配はないよとか言われたぞ!こうなったらやけだ!行き着くとこまでいってやろうではないか!」

 

「もし両方選ぶなんてことになったら親御さんの説得は大変だから俺たちも協力する、最も沙希の方が大変だがな」

「それが沙希殿の方はもう説得済みだそうだ・・・付き合うことになったんだからいつでもとか言われたよ、なあ八幡、我はいつの間にエロゲの世界に入り込んでしまったのだ?三十路のおっさんの自分にベタぼれの美女二人しかも一人は女子高生とか」

 

「俺から言えるのはその日が来るまで避妊はちゃんとしとけってことだけだ、もしできちまっても俺たちで何とかする、託児所も作る予定だしな、それに同意の上だから何も問題はない、受け入れろ」

しかしだなと困り顔になる材木座に比企谷は続けて言う。

「そうだ!この間会社のために書いてくれたラノベな、あれが実現したら式の費用もお前らの住む家の費用も全部だしてやるってのはどうだ?」

 

「ハハハ、それは豪気だな。さすがにそんなことはもうないと思うが実現したら是非頼む、地下室とか天井裏の隠し部屋とかにあこがれててな、冗談でも希望が持てるワイ」

 

「まあ確かに田舎の一企業があんな話のようになるなんてのはまず無理だからな、だからもっと豪勢にプシューって音がして上下に開くドアとか侵入者を検知すると動く石造とか無意味にくるくる回っているレーダーも付けちゃうよ?なんか超かっこいいな、俺んちにもつけたい」

「お主の家につけたら雪乃殿と結衣殿から文句が来そうだな」

 

「ああ、確かにな、結衣からキモイキモイと連呼されそうだし雪乃からは『目の腐り度合が減ったと思ったのだけれど頭に回っていたようね』とか言われそうだ・・・ま、妄想話はここまでにしてだ、これからのこと話そうか、まず転職にするかお前んとこの会社からの永続的な出向扱いにするかとかあるんだが・・・」

比企谷がこれからの具体的な話をしようとしているところに材木座は言う

 

「しかしなあ八幡よ、我は前おぬしに間違っても書き続けろと言った気がするが自分がその立場になると躊躇してしまうのだが」

「何を言ってんだ?お前のラノベの結末はみんな幸せ大団円なんだろ?これ以上何を望むんだ?」

「しかしだな・・・我は八幡のように賢くもないし強くも無いのだが・・・」

 

「お前言ったよな?書く前から間違ってるんじゃないか、不安だなんて言ってどうするんだと、書かなければ間違っていたかどうかなんてわからないってな?だから一緒に最後まで書いてみようぜ?」

「我とお主との合作か?どんな話になるのやら、まともな話にはなら無さそうだな」

 

「ふん俺もお前もお互いイレギュラーよりな存在だっただろ、まともなのは戸塚ぐらいだな、それより正式にここで働くことになったらちゃんと俺のことは社長って呼べよ?」

「そう言えば社内見学してて気が付いたが高校の時の連中はほとんどおぬしのこと社長って呼んでないよな」

「そうなんだよ・・・だから役員会議が学級会みたいでさ・・・しかも俺が今後の方針とか問題について話をするとそれらをどう解決するかって細かいところまで追求されるんだよ。大概答えにつまるから平塚さんが声あげて雪乃や葉山が仕切ってくれてようやく話が進むんだよ・・・」

 

「ふん!問題を片付けるためおぬしが犠牲になるのを皆危惧してるのだろう?お主に任せるとすぐ自分を犠牲にしてことを済まそうとするからな、日頃の行いという奴だな」

「同じようなことを雪乃にも言われたよ」

「お主はもっと回りの人間を頼ればよかろう、今回我に頼ったようにな、でも土下座はもうするな」

「わかった、肝に命じとくとよ」

 

「ふん、頼んだぞ。しかしこんな結末を迎えるとはな」

「結末じゃねぇよ、俺たちの戦いはこれからだろうが」

「ちょ、八幡、それ打ち切りフラグ!」

「打ち切りにはさせねぇよ?なんなら果てしない男坂を上るまである」

「未完!ってか?つかやっぱり打ち切りじゃん!」

 

二人がこれから先のことに思いをはせワイワイしているはるか上空では飛行機が飛んでいた。

 

飛行機の中には超大型の案件の取りまとめをほぼ終わった陽乃が最終調整の為某国から某国へ向かっているところだった。

窓から外を見ながらふとつぶやく

「八幡・・・喜んでくれるかな・・・」

 

陽乃は世界中の航空宇宙関連のメーカーを回り航空機のエンジンの一部やロケットエンジンの一部の部品を国際標準規格として世界的に共通化させることに成功していたのだった。

 

比企谷が材木座に見せた海外の技術関係のニュースサイトには続きがあり、乱立している規格の統一にむけて日本のとある企業の女性が主導し世界を飛び回ってくれている、部品もその会社が所有している特許でしか製造できない物である為成功すればこれからその企業に大量受注が見込まれるであろうということが書いてあったのだ。

 

比企谷がそれに気が付くのはしばらく後のことであり、数か月後陽乃が帰ってからいろんな意味で大騒ぎになるのだがそれはまた別の話である。



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