戦姫絶唱シンフォギア Concerto 〜歌と詩で紡ぐ物語〜 (鯛で海老を釣る)
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序章
某所にて
一話目なのにアルノサージュ成分100パーセント
ーーーー視界が突如として黒に塗り潰される。
画面がテレビの電源を落としたように黒くなった。一瞬にして。目に映るものーー端末に付けられている画面に映し出されているのは、濡羽色の漆黒だけだ。あまりに唐突な出来事に思わず思考と身体が固まってしまう。
しかし、硬直していたのも束の間、直ぐに最悪の展開へと考えが及ぶ、ーーー接続が切れた。
それは困る、非常に困る。冗談じゃない。まだ接続が切れるような段階ではないはず。私はまだ彼女に、伝えたいこと、してあげたいこと、残された時間の中で二人だけの思い出作り、やるべき事は山のようにある。
ましてやこれでは、別れの言葉の一つも交わしていないじゃないか。どうしようもない焦りと一緒に身体中から嫌な汗がジワリと吹き出てくるのを感じる。心臓が脈を打つ音がやけに大きく聞こえるし、息遣いも荒くなってきている。落ち着こうと深呼吸をしてみるも効果は然程無かった。
そんな焦燥に駆られている最中、私の耳に小さなノイズ音が入ってくる。テレビの砂嵐ーーザザッ、ザッ。といったような音が途切れ途切れ聞こえてくる。それと同時に、私の目の前にある端末の画面に文字が次々に表示され羅列される。
落ち着くためにと、私は冷蔵庫に駆け寄り、勢いよく冷蔵庫の扉を開け、よく冷えた飲料水の入っているペットボトルを乱雑に掴み出しては、その場で飲み始める。冷たい水が喉を通る度に熱くなった身体を冷やしていくような気がする。私は十秒程で空になった容器をゴミ箱へ投げ込み、再び端末の前に戻る。汗は既に引っこんでいた。
私は席に座り、先程から続いているノイズ音の出元が端末である事に気がつくと同時に、接続が再び行われようとしている事に安堵から、胸を撫で下ろした。だが、まだ完全に安心するのは早い。私は一先ず画面に表示された文字を目で追い始めた。そこにはーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魂探知機 起動
動作探知機 起動
S#m/$oge$r世界への橋 完了
Tz波をR波に 担持できません
S波はTz波に 完了
D波をS波に 完了
____世界への接続 完了
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんだこれは。まるで私が初めて彼方に接続した時みたいじゃないか。それになんだ。一箇所文字化けしていて読む事が出来ない。表示されている文章からして、文字化けして読めないが、おそらくこの世界へ繋がるということか。
そうなると私のアバターは、一体何処に飛ばされたのだろうか。少なくとも彼女のいた世界ではないことは確かだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目標座標を指定してください
>>3939E89EF
3939E89EF
接続中…
座標:3939E89EF
1次元座標 : 119.4687345 xt.
2次元座標 : 22812.354367 yt.
3次元座標 : 3393.122434 zt.
4次元(時間)座標 : 137726348:9:26:9:0:0 tt.
5次元(可能性)座標 :
38493/f453d3/dew4g4w/g5gg121/439_E it.
6次元(集合意識)座標 : EEASFRFV$SDED$EDEGGTTEE$CVFRGGRDFR$SDSSD ct.
7次元(世界)座標 : 該当なし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私が考えに惚けている間にも、画面には次々と文字や数列が表示されていく。私はどうすることも出来ず、只々画面を凝視することしか出来ない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1次元接続
Tz波を確認中…
テスト座標 = 583151E
==安定状態に固定!!==
『あなたの世界と___の世界を繋ぎます』
『波動の変換をして、生命を招き入れます』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつの間にやら、先程から鳴り続けていたノイズ音は止んでいる。どうやら、接続が完了したみたいだ。もう成り行きに任せるしかない。繋がった先の世界に関しては未知で不安しかない訳だが仕方ない。
そもそもだ。どうしてこうなったのか。
確かあの時はーーーー
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日常から非日常
今回はアルノサージュ9割のシンフォギア1割くらいです。
◇◇◇
「あ、いたいた。あなたー!!」
腰まで届きそうな栗色の髪を風に揺らしながら、紙袋を両手で抱えた少女が雑貨屋と思わしき店の出入り口で声をあげる。その姿は、ミニスカートに肩出しヘソ出しと露出多めで、腰辺りにはマントのような広がり方をしている布の装飾が付いているものだ。「ポーラーズメモリーIII」と呼ばれる自身のお手製の衣装に身を包み、声をかけた方向へと歩みを進める。
『イオン、買い物は済んだの?』
店先で立っている「あなた」と呼ばれた真鍮色のボディに白銀色の装甲、通称「XR77プレミアム」と呼ばれるボディである機械じかけの騎士ーー『アーシェス』は機械の駆動とは思えない滑らかな動きで右手を上げて「イオン」と呼ばれた少女を迎える。
アーシェスは、全高2.5メートル超、背骨に五体を取って付けたような骨格フレームと意匠の凝った装甲だけで構成された、いかにもロボットのような様相をしている。
そんなものが立っていようものなら、たちまち人集りが出来るものだが、アーシェスの前を通り過ぎる人々は、一瞬視線を移すものの、足を止める事などは無かった。イオンという少女とアーシェスが一緒にいる光景は、どうやら此処では日常の一部なのだろう。
「ごめんね。待たせちゃったかな?でもね、これは仕方ないことだと思うの!」
『僕を待たせることは、イオンにとっては仕方がないってこと?』
どこかからかうような楽しげな声色でアーシェスは答えるーーといっても、アーシェスは肉声で話すのでは無く、伝えたい相手を対象に、心に直接言葉が伝わってくるような会話手段を用いる。
そのため傍から見れば不思議な光景そのものだが、当の本人達は全く気にする事なく会話を続ける。
「もうっ、あなたは時々意地悪なこと言うよねっ。そうじゃなくて、ーーこれこれ!じゃじゃーん!!」
イオンは唇を若干尖らせつつも怒ってる様子はなく楽しげだ。紙袋を地面に置き、上機嫌な調子でセルフ効果音を発し、青く透き通った瞳を輝かせながら興奮気味に中から、機械のパーツのようなものを取り出してみせる。
『それは、真空管?』
「正解!4ピンUXベースの整流用双二極菅TA-274Aにそっくりなんだけど、よくよく見ると別物でねーー」
『イオン、どうどうどう。』
「それでね!ーーあっ、ご、ごめんね?あなたは何時も私の話をちゃんと聞いてくれるから、ついつい夢中に…」
申し訳無さそうにしつつも、えへへ、とはにかみながら答えるイオン。そのまま真空管を紙袋に入れれば、アーシェスがそれを抱え上げる。イオンは、嬉しそうにお礼を言うとアーシェスの隣に立つ。
「それじゃあ、帰ろっか。今日は珍しいものが手に入ったし、荷物の整理もしたいから、家の中でのんびりしよう?」
『いいね。そうだ、偶にはイオンの工作が見てみたいな』
「いいけど…私の作業風景を見ても面白くないよ?あなたがそれで良いなら別にいいけどぉ」
一人と一機は他愛のない会話をしながら足並み揃えて帰路へとつく。その様子はまるで日常とも言うべき取り留めもないものなのかもしれない。だがイオンとアーシェスにとっては、掛け替えのないものなのだ。
それは、アーシェスが『この世界』での役目を果たした為に、端末の電源が近い内に落ちる事となっているからである。これは回避することが出来ない絶対のプログラム。お互い「まだ一緒にいたい」と想っているが、それを口にしてしまえば相手が困ることはお互いが分かり切っている。だからこうして頻繁にイオンとアーシェスは出掛けているのであった。少しでも思い出を多く残す為にーー。
◇◇◇
日はすっかり暮れてしまった。窓から射す夕焼けが室内を茜色に染める。私の隣にはすっかり寝落ちして、ソファーに体を預けて静かに寝息を立てているイオンの姿。寝顔が可愛い。
「んー……おきるよぅ……」
顔に掛かった髪を機械の手で優しく払ってみる。そのまま引き寄せられるかのように、気が付けば頭を起こさないよう撫でていた。いつもはイオンから強請ってきたりしない限りは無闇にやらないが、何だか今は無性にしたかった。すると、くすぐったかったのか身を少し捩らせる。幸せな夢でもみているのか表情は綻んでいる。
こんな時間が何時迄も続けばいいのにーーふと頭にそんな考えがよぎってしまう。壊された記憶を取り戻した。一緒にシャールと人間の争いを止めようと奔走した。一緒に移民船ソレイルの民を守る為に戦ったりもした。そんな濃い時間を過ごしてやっと訪れた平和な時間。タイムリミットはゆっくりだが着実に近付いて来てる今、イオンとまだ一緒にいたいと願うことは我が儘なのだろうか。
『少しくらい、いいよな。新生ラシェーラも落ち付いてきたみたいだし、贅沢言っている訳ではないしな』
思わず口に出していた。叶わないと分かっていても。イオンもきっと同じような事を考えているはずだ。まぁ、こんなこと考えていてもしょうがないか。さて、夕食の時間も近いしイオンをどう起こしてあげようかーーと思考を巡らせた時だった。一瞬だが、私とイオンの体が淡く光ったかと思うと、次の瞬間にはーー
ーーーー私の視界は暗転していた。
◇◇◇
ーー視界に光が戻る。ここはどこだろう。新生ラシェーラにこのような場所は確か無かったはず。辺りを見渡してみると一面の緑が広がっている。少し開けた場所みたいだかーーと、周りを観察していると、少し離れた先に良く見知った少女の横になった姿を見つけ、驚きと喜びの狭間の複雑な気持ちを抑えつつ駆け寄る。
『イオン!!大丈夫!?』
芝生の上で横になっているイオンの体を抱え上げるようにして揺さぶる。少々乱暴な起こし方だが、状況が状況なので致し方なし。すると、私の腕から離れ、イオンは身を起こす。約5秒間ぼーっとした後、唐突にぱっちりと青い瞳を開き、
「……おはよ〜。私、眠っちゃってたんだ。」
まだ、頭が覚醒してないのだろう。のんびりとした調子で欠伸を噛みころしながら周囲をキョロキョロと見渡すと小首を傾げる。
「…あ、あれ?私たち部屋の中に居たよね?いつの間に外に…」
イオンは立ち上がれば、不安そうな面持ちで私を見つめてくる。起きたら見知らぬ土地に放り出されていたら誰でも不安を覚えるか。斯く言う私も不安だ。イオンの前だから格好つけているだけだ。
『イオン、よく聞いてほしい。信じてもらえるかは分からない。ここは、新生ラシェーラでは無い可能性がある。二人揃って何処かへと飛んでしまった可能性がーー』
「あ、あのー……?」
背後から女性の声がかけられる。イオンと私は揃って声のする方向へと顔を向ければ、そこには一人の少女が立っていた。制服を身に付けているところから学生だと推測できる。
「えと…あのぉ、こんにちは…?」
困惑の表情を顔一面に広げて苦笑いを浮かべ、白い大きなリボンが特徴的なその彼女は、イオンと私を見つめながら絞り出したかのように、おそるおそるといった挨拶をしてきた。
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少女とロボと少女と装者
今回は未来さん視点でのお話です。
◇◇◇
私立リディアン音楽院高等科1回生並びに特異災害対策機動部2課の外部協力者ーー小日向 未来は、親友である立花 響と7月上旬に、流れ星を見る約束をしたのだが、時間が出来たので、災害やらで立ち入り禁止になってないか、下見を兼ねて流れ星がよく見える小丘まで足を運んでいた。
「響ってば、『未来ー!今日も一緒に寄り道して帰ろーっ!』ーーなんて言ってたのに……お仕事だからしょうがないのは分かるけど……」
響が特異災害対策機動部2課から与えられている端末が鳴った時は、『もしかして』って思ったけど、案の定だった。響は『急な呼び出し』って言ってたけど、あの感じは只事じゃない感じだった。また危ない事してるのかなぁ…あんまり心配させないで欲しい。
「ーーいけない。響を信じて帰りを待つって決めたんだから」
首を左右に軽く振って自身に言い聞かせ、歩みを進める。暫く歩いて行くと目の前に開けた場所が見えてきた。何回か訪れているから見覚えがある風景に私は満足を覚え踵を返そうとした……のだけれど、二つの人影ーーひとつは人影というには大きくゴテゴテしてるものが視界の先に入った。「好奇心は猫をも殺す」とは言うけれど、私は好奇心に負けて近付いてみた。
「ーーえ?」
二つの影の正体を確認して私は呆気にとられてしまった。一人は私と同じくらいの年齢に見える女の子。端正な顔立ちで、美少女と形容してもおかしくない容姿で、同性としてはちょっと羨ましくも思う。
問題なのは、もうひとつの影。一言で言うなら正体は大きな二足歩行のロボット。自然の中に佇んでいるから異物感が凄い。女の子に何か語りかけるような身振りをしているけど……よく見ると女の子の方はオロオロしてるし、何か困り事なのかも。
こんな時、私の親友ならどうするのかな、そこまで考えて私は一人で小さく笑う。私は意を決して話しかけることにした。
「あ、あのー……?」
女の子とロボットが私の方に向き直る。
あれ…ちょっと緊張してきちゃった。
「えと…あのぉ、こんにちは…?」
「え?あ、はい。こんにちはー」
女の子の方が若干戸惑いながらも挨拶を返してくれる。ロボットの方は頭部に付いている、人で言うなら「目」にあたるパーツなのかな。それで私を見据えているような気がした。
「急に声を掛けてごめんなさい。こんな場所で女の子とロボットが一緒にいるってことと、あなたが困っている様に見えたから、ちょっと気になっちゃいまして…」
「ふふっ、優しい人なんですね。困ってるいる様に見えただけで、見ず知らずの私たちにわざわざ声を掛けてくれるなんて。でも、丁度良かったぁ。確かに困ってるとこだったの。ねっ、アーシェス!」
柔和な笑みを浮かべ、好意的に接してくれる女の子。そしてロボットの方へと顔を向け、嬉しそうに話しかける。
『そうだね。僕たちは現状右も左も分からない状態だからね』
あれ?この場にはいない第三者の声が聞こえてきたけれど
この場にいるのって私と女の子一人とロボットだから……
「ーーもしかして、今喋ったのって……」
『僕だ。ごめんね、驚かしちゃったかな』
ロボットが喋る。そのこと自体は現代の技術力を考えれば特段不思議なことではないのかもしれない。でも、テレパシーみたいな手段で話すと話すとは思わなかった。友人の口癖を借りるならば、「アニメみたい」と例えるのかな
「い、いえ。驚きはしましたが…高度な人工知能なんですね」
頭の中に直接言葉が響くような感覚だった。ニュースとか結構見てるつもりだったけど、こんな高度な技術が開発されてたなんて知らなかった。
「ううん、人工知能じゃないよ。アーシェスは実際に存在する人間と繋がっているの。何て言うのかなぁ…こことは別の世界から動かしているんだよ」
「……別の世界?それってどういうーー」
『ソレ』が現れたのは私が疑問を口にしたの同時だった。
私の視界の先、約20メートル先の木々の中から半透明な人型の化け物が、様子を窺うかのようにゆっくりと近付いてくるのが見えた。人間では到底敵わない理不尽そのもの。『ソレ』が一歩、一歩と踏み出す度に、頭の中で警鐘が五月蝿く鳴り響く。心臓をギュッと締め付けられるような感覚に思わず、自身を抱き締めるような姿勢を取り、後退りしてしまう。
私の顔色が変わっていくのが分かったのか、女の子は不思議そうにしながらも後ろに振り向き、『ソレ』を目撃する。
「あれはーーなに?何だか不思議な感じだけど…」
『ソレ』を見ても女の子は悲鳴ひとつどころか、怯む様子も逃げ出す素ぶりすら見せない。寧ろ物珍しいものでも見つけた子供のように、ジロジロと眺めている。
『ソレ』ーーー世間では『ノイズ』と呼ばれる災害。
人類共通の脅威とされる認定特異災害。
ノイズを目の当たりにして動じる事なくいられるなんてどういうことだろう?
ーーーまさかノイズを知らない…?そんなことがあるの?
「ーーっ、何してるんですか!?早く逃げないとっ!」
私はノイズが先程より距離を縮めている事に、緊張から解かれたかのように、急いで来た道を戻ろうと踵を返しながら女の子に呼び掛ける。
私の警告を聞いていたロボットが女の子の手を取り、私の方へと手を引きながら向かってくる。女の子は困惑気味だったけど、私の切迫した声色を分かってくれたのか、大人しくロボットの誘導に従って此方へ来てくれる。
「えっ?えっ?ちょっと待って、突然どうしたの?あれは危ない生き物だったりするの?」
「あれはノイズですよっ!?触れたものを炭素の塊に換える存在ですっ!テレビで報道とかされてるじゃないですか!」
「し、知らないですっ。それに炭素って……」
『イオン。危ないから僕の後ろに』
「そんな事してる場合じゃーーー」
ロボットが女の子を庇うように前に出る。それを見て抗議を入れようとしたけど、いつの間にかロボットの両手に拳銃が握られている事に気が付き口を噤む。拳銃と呼ぶには大きめのサイズな感じもするけど、大きい機械の手に収まっている分には違和感は然程ない。ロボットは二丁拳銃をノイズに向け構え、今にも引き金を引きそうな様子を見せる。だけど、ノイズ相手にはーーー
「ま、待って!ノイズに攻撃はーーー」
『ダブル』
ロボットが短く言葉を発すると、拳銃から弾が放たれる。
連射音が山中に響き渡り、着弾した箇所に風穴を開けた。
ーーーノイズの身体を通過した後ろに位置する一本の木の幹に。
『弾がすり抜けたっ!?』
「…ノイズに物理的な攻撃は一切通用しません。だから、対処法はノイズが一定時間で自壊するまで逃げることしかないんです…」
ロボットが驚愕の声を上げながら後退する。私は諭すように二人に現状で力を持たない私達が出来る抵抗は逃げる事だけだと説明する。そうする間にもノイズは、こちらが抵抗を示したからか不気味にも軽快に走り出す。
「だ、だったら私の詩魔法でっ!これなら、もしかしたらもしかするかも!」
『イオンっ!』
「正直、分かんない。だけど、何だが出来る気がするの!時間が無いから強力なのは紡げないけど、お願い!届いてっ!」
ノイズが接近するなか、女の子が動いた。
私とロボットの前に立つ。私は、何をする気なのかは知らないけど、みすみす死ににいくような真似をさせる訳にはいかないと、手を掴もうとした時ーーー
「
聞いたことのない言葉が女の子の口から発せられる。日本語でも英語でもない。唱え終わると女の子の掌にサッカーボール程の白く輝く光球が現れる。それは、まるでノイズに狙いを付けたかのように、正確に勢いよく飛んでいく。光球はノイズにぶつかった瞬間、すり抜けたりなどせず、小さな爆発を起こした。
爆風と爆煙の後には、上半身が吹き飛ばされたノイズが立っている。半身を吹き飛ばされたことにより、形状を保てなくなったのか、残った下半身が炭素化を始め、最後には黒い塵となり霧散した。
私は命の危機が無くなったことの安堵から膝から地面にゆっくりと座り込む。それでも、私はさっき目の前で起きた光景が信じられない。だって、女の子はシンフォギアを纏わずにノイズを倒したのだから。
「ノイズに…攻撃が届いた…?」
「ーーーよ、よかったぁ〜!一時はどうなる事かと思ったよ…」
『ありがとう、イオン。だけど、危険を顧みずにいきなり前に飛び込んで来るのは駄目だよ』
「アーシェスがそれを言うの?」
「………」
この場所に来てからの情報量が多く混乱してきた。取り敢えず今回の事は特異災害対策機動部2課の皆さんに伝えた方がいいよね。だって、シンフォギア以外でノイズに対抗する事が出来る者が目の前にいるのだから。これからどうしようかな…
未来が今後の事に、頭を捻らせているところ
ーーー突如として上空にヘリコプターのローター音が鳴り渡る。
何事かと未来は空を見上げる。そこには、ヘリコプターの扉から身を乗り出し、此方を見下ろす人影が見える。襟足が広がったボブカットが印象的なシルエット。あれはーー
「未来ーーーーッ!!」
ヘリコプターのローター音に負けないくらいの大きな声で、手を大きく振りながら呼び掛けてくる私の親友が其処にはいた。
色々と説明省いてるところがありますが、説明回で詳細を明かす予定です。
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交わる『物語』
遂に両作主人公合流
◇◇◇
時は数刻前に遡る。
場所は特異災害対策機動部2課の仮設本部である潜水艦。その内の作戦発令所において司令官を務める風鳴 弦十郎は、作戦発令所に並んでいるモニターの中でも一際大きなモニターに映し出された報告を見ながら眉をひそめた。
「ーーー完全聖遺物ギャラルホルン、か」
北欧神話においてラグナロクの到来を告げた角笛の名を冠する完全聖遺物。特異災害対策機動部2課で密かに管理され続けられ、静寂を保っていたものが、突如として起動が確認されたことにより、今こうして彼はモニターの前に立たされている。
「こちらの世界からこぼれた可能性が生んだ平行世界と、こちらの世界とを繋げる特性。並行世界側で異変が生じたときのみ発動する……筈なんだが、この報告を見る限りではやはりーーー」
「ーーーそうとも言い切れない、という事ですか?」
弦十郎の隣で呟いたのは特異災害対策機動部二課のエージェントである緒川 慎次。彼の言葉に弦十郎は頷きで肯定を示し、思案顔で右手を顎に当てては小さく息を吐く。
「その通りだ。過去の起動でギャラルホルンから発せられたエネルギーの波形と今回の起動で確認されたエネルギー波形が、全く以って別物なのだからな」
「別物、ですか」
「あぁ。今回のエネルギー波形は、前回のと比べ物にならない程に強大。それに起動したのは数秒という短い間。解析は不可能と言ってもいい状態らしい」
弦十郎は腕を組み、この不可解なギャラルホルンの起動について頭を悩ます。そして首から掛けていた紐の先、服の内側に収めていたモノを引っ張り上げ、表へと晒す。
「ーーーさらに、こいつもまた問題の一端となっているからややこしい」
弦十郎は胸から取り出した「ギアペンダント」を掲げてみせる。
その時、弦十郎の丁度後ろに位置する自動開閉式のドアが開き、私立リディアン音楽院高等科の制服を身に付けた少女が一人入ってくる。
「師匠ッ!お待たせしましたッ!立花 響、只今参上です!」
制服の少女ーーー特異災害対策機動部二課所属の聖遺物をその身に宿すシンフォギア装者、立花 響は走ってきたのか、軽く息を切らしながらも快活な良く通る声を作戦発令所内に響かせる。
「響くん、突然の招集ですまない。翼とクリスくんは別の任務で外していてな。今は響くんに頼らせてもらうぞ」
「はい!任せてください!それで師匠、もしかしてその手にある物が今回の招集の理由ですか?」
響は弦十郎が握っているギアペンダントを指差し、小首を傾げてみせる。特異災害対策機動部二課にはギアペンダントは二つしかないことから不思議そうにギアペンダントを見つめる響。その視線に気が付き弦十郎は説明をしようと口を開く
「ん?あぁ、これはーーー」
「あっ!!分かりましたよ!遂に師匠がシンフォギアを纏ってーーー」
「残念ながら、響くんの期待には応えられないな。これは二課で密かに管理していたものでな。その聖遺物の名は【アイアスの盾】、未だ誰とも適合を示していない聖遺物だ」
期待に目を輝かせながら自分を見てくる響の言葉を弦十郎は、言わんとすることは分かるのか、先に制するように食い気味に言葉を被せ、話が脱線しないようにする
「で、ですよねー。それじゃあ起動実験でもするんですか?」
若干残念そうな表情をしつつも弦十郎に気圧され、表情を引き締めて今回の招集理由を尋ねる
「いや、それも違う。響くんをわざわざ呼んだのはギャラルホルンが異常な起動を示したからだ。ギャラルホルンについては一度響くん達にも話しているから説明は省かせてもらう。その異常な起動というのは、平行世界に繋がる時よりも遥かに高出力のエネルギーが観測された、というものだ」
「えーと、ただ平行世界に繋ぐだけなら、使う筈ない使わなくていいエネルギーが観測された……もしかしたら平行世界じゃない、別の世界に繋がった可能性があるってことですか!?」
「察しがいいな響くん!その可能性が高いと俺は踏んでいる。幾ら聖遺物であろうとも、元の能力から大きく逸脱した現象は起こせない筈だからな。しかし、そうだとするならば、我々が知り得ない世界に繋がった事になる。そこでここら一帯をチェックすることにーーー」
「それで!結果はどうだったんですかッ!?」
響は結果が気になるのか堪らず弦十郎へと詰め寄る。その様子に弦十郎は苦笑しつつも、咳払いをして仕切り直ししてから口を開いた
「結果は今しがた出されるとこだ。藤尭、進捗はどうだ?」
「観測結果出ます!ギャラルホルンと酷似したエネルギー残滓が特定されました!現場に絞り、衛星写真の提出を要求。間も無くーー承諾の回答きました!スクリーンに出します!」
藤尭と呼ばれた男性オペレーターが、キーボードを叩き巨大スクリーンに転送された写真を映す。最先端技術で写されたものは、ボヤけることなく鮮明にその場を映し出す。そこには、なんだか派手な衣装を着た少女と長身な人型のロボット
「女子供と……あれは二足歩行型のロボットか?ともかく、この者達を確保するんだ!時間帯や場所に似つかわしくない格好、偶然の一言で片付ける訳にはいかない。響くんーーー」
「司令官っ!ノイズ反応を検知しましたっ!場所はーーーギャラルホルンと酷似したエネルギー残滓が確認されたところです!」
藤尭が弦十郎の言葉を遮る。それは特異災害対策機動部二課が相手とする人類の天敵、ノイズが出現した事を意味する藤尭の報告であった
「ノイズだとぉ!?」
「更に追加の衛星写真届きました!こ、これってーーー」
「うえぇぇっ!?な、なんで未来が居るのーーッ!?」
新たに転送された写真を見て響は驚愕の声を上げる。それもそのはず、見間違う筈のない特徴的な白いリボン。其処には先程別れたばかりの親友が映っているからだ。
「響くん!甲板にヘリを用意する。此処からだったら5分とかからないだろう。任務は二つ、少女とロボットの保護とノイズを殲滅すること。勿論未来くんの事もだ。その場に残す訳にもいかないからな。頼んだぞっ!!」
「わっかりましたッ!!行ってきますッ!!」
ガッツポーズと力強い返事と共に響は作戦発令所から勢いよく駆け出していく。かくして、立花 響はヘリコプターと共に現場へと向かい、本来巡り会う筈のない彼方の歌姫と出会うこととなる
◇◇◇
幸に小丘にはヘリコプターを着陸させるのに充分な広さがあった。着陸したヘリコプターから響が飛び出し、未来の元へと真っ直ぐに駆け寄る。
「よかったぁーッ!未来が無事で本当よかったよー」
「響ったら、私は大丈夫だから。でも心配してくれてありがと」
未来の前に来るや否や、未来の両手を包み込むように握り、ブンッブンッと上下に動かす。対して照れ臭そうにしつつも満更ではない未来だったが、命の恩人でもある少女に視線を移しては
「二課に頼まれたこと、まだあるんじゃないの?」
「そうだった!えーと、周囲にノイズがいないってことは、貴方達がノイズを倒したってこと!?」
「そうなるのかな…。無我夢中でやったことだから大したことはしてないですよ」
控え目な回答をするイオンだが、『ノイズを倒した』という事実は無視することの出来ない、とても重要なものである。それを聞いた響は、鳩が豆鉄砲をくらったみたいな表情に一瞬なるが、直ぐにキラキラした表情へと移り変わる
「す、すごいですよ!シンフォギアも無しに一体どうやったんですかっ!?……じゃなくて、あの、そういった事色々聞きたいので私と未来と一緒に来てくれませんか?」
どうやってノイズを撃退したのか気になるとこだが、弦十郎からの指令を優先するべく、二人に向かって頭を下げてお願いする響
『だってさ。どうするイオン』
「行く宛も頼る宛もないし、この世界の事も色々知りたい。それに、私はこの女の子が悪い人には見えないから、付いて行ってもいいかなぁ…って思うけど、アーシェスはどう?」
『いいと思うよ。このまま野垂れるのは嫌だからね』
「ありがとうございますッ!それじゃあ、このヘリコプターに乗って移動するので付いてきてください!」
アーシェスとイオンは響に手招かれながらヘリコプターに乗り込む、最後に未来を乗せれば、ヘリコプターは浮上し、小丘から離れて行った
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戦姫絶唱しないシンフォギア こんちぇると その1
ゆるい雰囲気作りのため、台本形式を採用しています。
◇◇◇
ーー自己紹介ーー
〜ヘリコプター内部〜
未来「そういえば、まだお互い自己紹介してなかったね」
響「よーし、じゃあまずは私から!」
響「私は立花響ッ!15歳ッ!誕生日は九月の十三日で、血液型はO型!身長は157cm!体重は…もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはんッ!」
未来「またその自己紹介してるの?変な子だと思われるよ?」
響「未来が辛辣だっ!?」ガビ-ン
未来「はいはい。私は小日向未来。よろしくね」
イオン「う、うん。よろしくね」
アーシェス『僕たちも負けてられないよ、イオン』
イオン「えぇっ!?私もあの自己紹介するの!?」
響「あの呼ばわりされてるー!?」
イオン「わわっ、そんなつもりじゃなかったの!私も同じのやるからっ」
響「そこまで言われるとそれはそれで…」
イオン「ごほん、それじゃあ……」
イオン「私はイオナサル・ククルル・プリシェール。愛称はイオンだよ。誕生日は4月21日だから今は17歳くらい。血液型は…忘れちゃった。身長は最後に測った時は155cmだったかな?今はもうちょっと大きいかも。体重は私も秘密。趣味は工作で好きなものは真空管っ!」
アーシェス『因みにスリーサイズはB78-W57-H79だよ』
イオン「わぁぁぁぁぁっ!?何で前のスリーサイズ知ってるのっ!?」
アーシェス『はっはっはっ。イオンと僕の絆の深さを考えれば当たり前じゃないか』
イオン「もぉ…そんなこと言っても騙されないからね!」
響「ねぇ、未来。もしかしてイオンちゃんってさ…」
未来「結構流されやすい人かもしれないね…」
アーシェス『あ、僕のことはアーシェスって呼んでください』
イオン「あーっ!?あなたずるい!」
ーー質問大会ーー
響「さてと!お互い自己紹介も済んだことだし、親睦を深めようということで、イオンちゃんとアーシェスに対して質問大会を開催したいと思いまーすっ!」
未来「響っ!いきなりそんなの失礼でしょ」
響「あぅ。だ、だって〜…。まだイオンちゃん達のこと何も知らないから知りたくて〜…」
イオン「私は気にしないよ。答えられる範囲なら、じゃんじゃん答えるよっ!」
アーシェス『同じく』
響「よかったぁ〜!ありがとうっ!」
響「じゃあ早速、一番槍!不肖立花響!質問させてもらいます!」
未来「まったく調子良いんだから…」
響「イオンちゃんは、名前が長いけど外国人さんなの?」
イオン「うーん…まぁ、響ちゃん達からしたら外国人にあたるのかなぁ」
アーシェス『信じてもらえるかは置いといて、詳しいことは響が言っていた特異災害対策機動部2課ってとこに到着次第話すよ』
アーシェス『僕たちが此処とは違う、異世界から来たってことは』
響「ほぇー……異世界かぁ」
未来「全く想像付かないね」
響「じゃあ、イオンちゃんのその派手派手で露出がある服は向こうの標準なんだね!」
イオン「えっ!?や、やっぱりこの衣装派手なんだ…」
未来「どういうこと?」
イオン「アーシェスがこっちの方が似合うとか可愛いとか言ってくれるから……」
響「アーシェスが?ロボットだよね?」キョトン
未来「………スケベロボ」ジト
アーシェス『僕の正体知ってる約一名から非難の声が』
イオン「も、もちろん思い出深い品だから着てたりするのもあるよっ!」
アーシェス『イオン、下手なフォローは止めようか』
ーーアーシェスについてーー
アーシェス『ーーと、まぁこんな感じ』
響「まさか中の人がいるなんて思わなかったよー。最近のロボットはすごいなーとしか考えてなかったからびっくり」
アーシェス『中には誰もいませんよ』
イオン「確かに中にはいないね。別の世界からの操作な訳だもんね」
アーシェス『ボケを天然で潰すイオン可愛い』
イオン「??」キョトン
ーー浪漫ーー
響「ロボットっといえばっ!変形だと思うわけですよ!私はっ!」
未来「どうしたのよ、藪から棒に」
響「未来さんや。ロボットには浪漫が沢山詰め込まれているんだよ」
イオン「うんうん」
アーシェス『わかる』
未来「あれ?私がおかしいのかな?」
アーシェス『だがしかし、だがしかしだよ。残念ながら変形機能は搭載してないんだよ、響』
響「な、なんだってーー!?」
アーシェス『代わりと言ってはだけど、二丁拳銃、アサルトライフル、パイルバンカー、スナイパーキャノンなどロマンあふれる兵装を使用できるよ』
響「かっこいい!!」
未来「うーん、響はすぐに影響されるから、これはまた映画でも見たのかしら」
ーー詩魔法ーー
未来「そういえば、イオンがノイズを倒したアレってなんだったの?」
響「それ私も気になってたっ!」
イオン「あれは詩魔法っていうんだよ」
響&未来「うたまほう?」
アーシェス『詩魔法は内なる想いを高めることで様々な現象を起こすことの出来る能力、といえば分かりやすいかな』
イオン「名前の通り、詩魔法の発動の際には強い想いを込めた「詩」を謳うの。主に《契絆想界詩(けいはんそうかいし)》と《REON-4213》という言語で紡ぐんだけどーー」
響「頭が痛くなりそうな話だから、やっぱり私止めるね」
未来「ごめんね。同じく私も」
イオン「えぇっ!?」
アーシェス『おっ。丁度着いたみたいだよ。高度を下げてる』
続く
ヘリコプター内部での一幕を書いてみました。
次から2期始まる前の空白期間を書いていきます。
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幕間 「QUEENS of MUSIC」開催前の空白の3カ月
初動
久しぶりの投稿となりました。
仕事が思いの外忙しくなったのと、マスターとプロデューサーを兼業しつつ新作ゲームを積むとこうなるのですね。
◇◇◇
イオンとアーシェス、それに現場に居合わせた未来は、響を先頭に2課の仮本部となっている潜水艦の長い廊下を歩いていた。
長く続く廊下は潜水艦の大きさを想像させ、アーシェスとイオンの2人は、特に変わり映えのない景色ですら、物珍しそうに周りを見渡しながら響に着いて行く。
「到着だよっ!」
長く続く廊下の先に待っていた横開きの自動ドアの前で響は立ち止まり、2人に振り向き声を掛ける。
声を掛けられたイオンは、思わず身を強張らせる。響の人柄を信頼して付いてきてみたものの、未知の世界に足を踏み入れるのは、やはり緊張するものである。この先には一体何が待っているのか、そういった真剣な面持ちで前へと進んでいく。
センサーが反応し、ドアがスライドする。
そこでイオンとアーシェスを待ち受けていたものはーーー
パーンッ!パパパーンッ!
部屋中に鳴り渡るクラッカー音。
「―――ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」
「…………へ?」
2人を待ち受けていたのは、そんな言葉と共に降り注ぐような歓迎の嵐だった。真っ先に出迎えたのは何故かシルクハット被っている赤毛の巨漢で、その後ろには制服姿の何人もの男女が拍手を浴びせてきている。その中には、一際目立つ青髪の女性と小柄な白髪の女性も見える。
更には、クラッカーや紙吹雪。長テーブルに所狭しと並べられた料理。真っ先に頭に浮かぶのは「歓迎会」といった装いである。
イオンは、思いもよらなかった光景に、目を点にして驚きを隠せずに呆けているところに、赤毛の巨漢が一歩前に出る。
「驚かせてしまってすまない。これが2課での歓迎の仕方なんだ。挨拶がまだだったな、俺はここの司令官を務めている風鳴弦十郎だ」
弦十郎は、友好的な態度でイオンたちに向けて逞しい手を差し出す。
「ど、どうも」
『よろしく』
響と未来、それとおそらく響から聞いていたのだろう弦十郎以外のメンバーは、アーシェスが喋ると同時に、驚きや不思議そうな表情を見せる。誰しも突然声が頭に直接聞こえてきたら戸惑うものである。
謀らずとも逆にサプライズを決めたことなど露知らず、差し出された手に対し順に握手を交わしていく2人。イオンは緊張しているのか圧倒されているのか若干ぎごちなく見えたが、真相は本人のみぞ知るところである。
「イオンくんにアーシェスくん。君たちの事は響くんの報告から伺っている。何でもシンフォギア無しにノイズを倒した、と」
「私はただアーシェスと未来ちゃんを何とか助けようと夢中なだけで…。たまたま、私の詩魔法が通用したからみんな無事でした。運が良かっただけですよ」
自分に対する弦十郎の評価は大袈裟だと首を横に振りながら呟く。それは、卑下でも謙遜でもなく、心から本当にそう思っているのだと感じさせる迷いのない真っ直ぐな言葉だった。
『だとしても』
矢継ぎ早にアーシェスが発する。
『イオンが僕たちを助けてくれたことに変わりは無いよ。運が良かった、っていうのは本当かもしれない。正直、もしもの時、僕はこの身体を犠牲にしても二人を逃がすつもりだったけど、イオンが勇気を出して立ってくれたから、僕たちは無事なんだ』
アーシェスは、イオンに向き直り、肩に右手を優しく置くと語りかける。その声色はとても優しく穏やかだ。
『僕がこんな事を言うのは烏滸がましいけど、やっぱりイオンは成長したよね。僕は全然だけどさ』
それはまるで、長い間見守ってきたかのような言葉。
『改めて、ありがとう。イオン』
「ううん。あなたがいつも側に居てくれたから、今の私はあるの」
自分の肩に置かれている機械の手を、両手で包み込む。大切なものを無くさない為に、離さぬように。
「私の方こそ、ありがとう。ーーーあなた」
顔を上げ、温度など無いアーシェスの掌を慈しむように愛おしいように、そっと朱の差した頰に寄せる。そして、花が咲いたようなに満面の笑みで答えた
「ーーーそういうのは家でやってくれると我々も非常に助かるのだが」
咳払いと共に弦十郎から二人へ声が掛かる。それもそのはず、歓迎会を催していたら、当事者二人が人目も憚らずナチュラルにイチャイチャし始めたのだ。この場の責任者として弦十郎は、否応なく軌道修正に入ったのだった。
「いや、家でならいいのかよ」
弦十郎に続いて声が飛ぶ。声の主である白髪の少女が二人の前へと人波を割って出てくる。その後ろには苦笑を浮かべた青髪の少女もいる。
「っ!?」
弦十郎と白髪の少女の二人によって、自分たちだけの世界から戻ることが出来たイオンは、周囲の様子を見渡す。大人たちは微笑ましく見ている者から苦笑を浮かべている者などそれぞれだ。響は何だか見てはいけないものを見てしまったかのように、視界を両手で塞いでいるが、よくよく見ると手の隙間から覗いている。未来は、口元に両手を当てて頬を若干赤くしている。
少女とロボットのやり取りなのだが、イオンの表情や仕草がそれを感じさせないくらい真に迫ったものだったのだろう。自分が何をやらかしたのか理解した途端に、イオンの顔は真っ赤に染まる。
「ご、ごごごめんなさい!あの、その…あぅ…」
羞恥やら気まずさやら申し訳なさなど、様々な感情が濁流になって押し寄せ、完全にパニックになったイオンは目を回しながら弁明の言葉を探す。
「なに、気にするな。それより貴方達が異世界から来たというものだな。事情は報告である程度は聞いている。私の名は風鳴 翼という。よろしく頼む」
「…雪音クリスだ」
狼狽えているイオンに助け船を出すように青髪の少女ーー翼が自己紹介を始める。続いて白髪の少女ーークリスが短く自己紹介を行う。翼の丁寧な対応とは対照的にクリスはぶっきらぼうな物言いだったが、クリスをよく知る者なら不器用なクリスらしい挨拶と感じるだろう。
「イ、イオンです。イオナサル・ククルル・プリシェールって言います。長いので元の世界ではイオンって呼ばれていました」
『僕はアーシェス。みんな話は聞いているかもしれないけれど、人工知能ではないよ。遠隔操作されているロボットといえばいいのかな』
一人と一機の自己紹介が終わると、他の職員も次々に声を掛け始める。その中に響と未来も加わり賑やかな輪が二人を囲む。
ーーー暫くして
「互いに自己紹介も済んだみたいだな。親睦を深めることは結構だが、君たちを招いた理由を説明させてもらうぞ」
用意されていた食事や飲み物が数を減らした頃、弦十郎が声を掛ける。
「分かりました。聞かせてくれますか」
イオンが向き直ると、空気を読んだ職員達は離れていく。話し足りないのか唇を尖らせる少女が1名いたが、保護者兼親友の少女に手を引かれ連れていかれた。
「細かいところは掻い摘んで話させてもらうが、我々には条件付きではあるが並行世界へと干渉できる術がある。だか、これは管理出来るようなものではなく、聖遺物『ギャラルホルン』が引き起こす現象だ。我々はこのギャラルホルンについて全貌を把握出来ていない」
「聖遺物……」
『ギャラルホルン……』
「そんな中、ギャラルホルンは明らかに異常な反応を示した。そして、その異常な反応とほぼ同時期に現れたのが君たちだった。我々としては、この二点は繋がっているものと想定し、ギャラルホルンにより異世界へと渡ってしまったであろう君たちを2課の保護下に置かなくてはならないと考えている。もちろん、元の世界へと帰す手段を見つける為だ。これがひとつ目の理由となる」
「ひとつ目…?」
「あぁ、ふたつ目はこれだ」
そう言って弦十郎は胸ポケットから、2課所属のなら見覚えのあるペンダントを取り出す。それを見た職員や響たちは驚きを隠せずに声をあげる。その手に握られていたのは装者が所持しているギアのペンダントであった。
「それは……」
「おいおいマジかよ、おっさん。そいつが適合者って言うつもりか?」
「えぇーーーーっ!!!本当ですか師匠っ!!」
三者三様の反応をする2課所属の装者の面々の中、イオンは静かにペンダントをまじまじと見つめる。
「これは…何ですか?」
「聖遺物『アイアスの盾』の欠片が組み込まれている。こいつは未だ適正反応をひとつも示さなかった代物ーーー今日まではな」
薄々と自分がこれから何を告げられるのか理解してきているイオンは、おずおずと自らを指差す。
「その通りだ、イオン君。ノイズを倒した時に使った…『詩魔法』と言ったかな。それを使用したと思われるタイミングで僅かだがペンダントが発光したのを確認した。我々はこれを偶然という言葉だけで片付ける訳にはいかない。手に取ってみてくれるだけで良い。イオン君、それだけで答えは出る筈だ」
イオンは短く頷くと両手で受け皿を作る。そこにペンダントがゆっくりと置かれる。
「ーーーっ」
皆が固唾を飲んで見守る中、ペンダントが手に収められた後、イオンの目は驚愕で見開かれる。
「頭の中に…これは、歌詞…なのかな?」
「ーーー決まりだな」
弦十郎は、複雑そうな表情を浮かべながら重く頷いた。
「心の底から浮かぶ歌詞。それを我々は『聖詠』と呼んでいる。
『聖詠』を紡ぐことでシンフォギアを身に纏い、ノイズと対抗出来るようになる……その者たちを『装者』という』
弦十郎が話しながら目線を2課所属の3人の少女に移す。
「率直に言う。我々はイオン君たち2課所属の装者。つまりは対ノイズの戦力としても迎え入れたいと考えている。知らない世界に連れて来られ、右も左も分からない君たちに対して卑怯な言い方なのは承知の上だ……。しかし、適合者に加えて新たにノイズと対抗する事が出来る術を持っているイオン君たちを、我々もノイズに立ち向かう為に無視することは出来ない」
「だが、イオン君たちはこの世界の災厄に関わることの無い者だ。生き死にのある戦場へと向かわせることは本来あり得ないことであり、このまま我々の庇護の下、元々世界へと帰る方法が見つかるまで窮屈かもしれんが、安全な場所で待っていてほしいとうのも本音だ」
「………」
『………』
この世界がノイズという人類の天敵に脅かされていることを2課に向かうヘリの中で響から聞いた二人は知っている。
自分たちがいた世界もまた『シャール』という生物に人々は怯えて過ごしていた時期があり、イオンたちはこれを解決した。境遇こそ近いものはあれど状況はまた違う。ノイズは対話による説得は通じない。ただ人間を塵へと変えるだけの殺戮兵器みたいなもので対抗手段も限られている。だからといって、助ける義理がある訳ではない。寧ろ、首を突っ込む事こそ野暮である。
だが、この二人が助けられる人が目の前にいるのに無視が出来るかどうかという事ならーーー
「ーーー手伝わせてください。私の詩が少しでも多くの誰かを助けることが出来るなら」
『うん。イオンならそう言うだろうと思っていたよ』
答えは明白であった。
次回「イオンちゃん学校に行く」
感想欄に見てみたい展開とかあったら書いてくれると反映されるかもしれません(ネタ集め)
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二色花
イオンちゃんとアーシェスが出逢って7年とは感慨がありますね
ーーー歓迎会から2週間後
「私が適合者で良かったのかなぁ」
『それがイオンを選んだのだから、いいんじゃないかな?』
胸元に掛かっているギアペンダントを摘み上げながらジロジロと眺めるイオン。雲ひとつ無い快晴の空から、季節を感じる強い日差しが降り注ぐ。ペンダントはまるでイオンの問いに答えたかのように、日の光を反射させ一段と輝きが増したように見えた。
あの後、聖遺物『アイアスの盾』は有事に備えておくとのことで、イオンの元に一時的に預けられる形となった。起動実験には慎重を重ねたいとの弦十郎からの提案により、暫くの間、異世界へと移動してしまったイオンの容態経過、『アイアスの盾』の状態観察をもって後日行われることとなった。
そして、その間に本来存在しない筈のイオンの身分や戸籍、その他様々な面倒くさい各種手続きを2課が全部用意して整えてくれたこともあり、今イオンはこうして堂々と外出をしているのである。
「そうなのかなぁ」
『そうだとも。まぁ少なくとも、今考えても進展はしないんじゃないかな。取り敢えずさ、遅刻する前に行って来なよ』
アーシェスがイオンの背中を軽くポンと押す。
二人が立っている場所は、2課の仮本部となっている潜水艦が、街に駐在する際に使われている港である。二人が会話している場所から数メートル離れた先には、クリスが「早くしろ」と言いたげな視線を送りながら立っている。
「…そうだよね。うん!行ってくる。少しの間だけお留守番よろしくね。あなたっ!」
『うん。任された。僕がいないからって寂しくなって泣かないようにね』
「もうっ、子供じゃないんだから。そーゆーあなたこそ、私がいないからって泣いたりしないようにね」
『うーん、否定しかねる』
「えぇっ!?」
「いつまで夫婦漫才やってんだ!そういうのは家でやれ!とっとと行くぞ!」
朝っぱらから見せ付けられたクリスは遂に痺れを切らし、港に催促の激が響く。
『ほら、クリスが怒ってるよ』
「あなたがイジワルするからいけないんでしょ。じゃあ、いってきまーすっ!」
『いってらっしゃい』
手を振るアーシェスに見送られながら、無邪気な子供のような笑顔でパタパタとクリスの元へスカートを靡かせながら駆けていくイオン。彼女が身に付けていたのは私立リディアン音楽院高等科の制服だった。
◇◇◇
「ったく。なんであたしが朝からお前らのイチャこらを見せつけられなきゃいけねぇんだよ」
「えへへ、ごめんねクリスちゃん。アーシェスとお喋りするの楽しいから、つい」
「イチャついていたことに関しては否定しないんだな……」
二人はたわいのないことを喋りながら歩いていく。喋っているといってもイオンが話題を基本的に振って、それに対してクリスが相槌を打つことが専らである。
イオンとクリスの関係は比較的良好である。別段、他のメンバーと仲が悪い訳ではないのだが、クリスとは共に過ごす時間が長かったのだ。
何故ならーー
「暫く面倒を見てやるようにおっさんに言われてるから仕方ないけどよ。毎回毎回あたしが顔出すタイミングでイチャ付き合うのはどうにかなんねぇのか?」
ーーー世話係。
クリスは歳が一番近いという理由で弦十郎から身の回りをサポートしてやるよう言伝を受けていた。隠された理由として他人との付き合い方を上手くやれるようにと弦十郎がクリスを案じて任せてみたのだが、本人は気付いていない様子である。
クリスは当初、自分には向いていない、とはっきり断ったのだが、その場に居合わせていたイオンの捨てられた子犬のような目とあからさまに落ち込んでいる様子に見兼ねて勢いで承諾してしまったのだ。
一度引き受けたからには責任があると何かと世話を焼くクリスに、イオンがクリスに対し、他より強い友愛を感じるのは時間の問題であった。
「えっ、やっぱり弦十郎さんに言われてたから私に嫌々付き合ってくれてるの?私、クリスちゃんとは友達になれたつもりだったのに…」
「〜〜〜っ!べ、別にそんなこと言ってないだろ!その目やめろ!そ、それに友達って……その、あ、あたしも…なんだ、そんな風に最近は感じてたり、しなかったり…」
イオンがしゅんと落ち込み、困り顔でクリスを見る。その様子に目を逸らしながら、尻すぼみに答える。
イオンが自分の前では響や翼、2課の職員たちとは違う表情を見せたりと自然体な様子、(アーシェスを除き)真っ先に頼られるイオンから自分への信頼感、時折甘えるようにお願いしてくる子供っぽさ、日常生活では結構ドジなところがあり、ほっとけなさから庇護欲を醸し出す、など様々なことからクリスはすっかり絆されており
「よかったぁ〜。私だけが一方的かと思ったよ、嬉しいなぁ」
曇り顔から一転、眩しいくらいの笑顔を咲かすイオン。
「……お前、わざとやってる訳じゃないよな…」
「??」
イオンの満開スマイルにすっかり毒気を抜かれたクリスは、無自覚な小悪魔をジト目で一瞥すると溜め息混じりに小さく呟くのだった。
◇◇◇
「んじゃ、また後でな」
場所は私立リディアン音楽院高等科の職員室前。今日はイオンの初登校日、つまりは転校初日ということで、クリスがここまで連れて来ることとなっていた。
「うん、ありがとう。次は教室でね!」
◇◇◇
(転校生がそんなに珍しいか?)
クリスは教室の自席に座り、頬杖をついて朝から姦しく賑わっているクラスメイト達をボーッと眺めていた。
イオンが転入するクラスはもちろんクリスが在籍しているクラスだ。夏休みを目前に控えた時期に来る転校生。既にクラスでは耳の早い生徒や噂好きの生徒たちにより話題は転校生で持ち切りだった。
「はーい、みなさん。ホームルームの時間ですよ」
教室の扉が開き、担任の女教師が教室へと入ってくる。先程までお喋りに夢中になっていた生徒たちは、自分たちの席へと戻っていく。
「今日はみんなも噂では聞いているかも知れないけど、転校生を紹介します」
全員が着席したのを確認すると、女教師は転校生の紹介を宣言した。この一言で教室内は再び騒がしさを取り戻す。女教師はそのまま、入ってきていいわよ、と廊下に向けて声を掛ける。教室の扉が開かれ一人の少女が入ってくる。
少女は教壇の前まで進むと、黒板に名前を書いていく。教室はいつの間にか、チョークで文字を書く音が響くくらいに静かになっていた。皆、興味津々という訳である。
「イオナサル・ククルル・プリシェールです。長くて言いづらいので、イオンと呼んでください。これからよろしくお願いします」
黒板から向き直り、教室内を見渡しながら軽い自己紹介の後、ぺこりと会釈するイオン。生徒たちは拍手でそれを迎える。
「イオンさんは、日本語が堪能ですが、最近海外から日本に引っ越されて来たばかりですので、みなさんでサポート出来るところはしていきましょうね。それでは、少し早いですがホームルームは終了とします。次の授業まで時間ぎあるので、周りに迷惑にならない程度に親睦を深めておくと良いかもしれませんね」
女教師はそのまま教室から足早に出て行く。少し間を置いてからイオンの周りに生徒たちが押し寄せ、転校生行例の質問タイムが始まる。突然の人波に困惑しつつも律儀に質問全部に答えているイオンを他人事のように眺めているクリスに、イオンから助けを求めるアイコンタクトが送られてくる。
「お・こ・と・わ・り・だ」
クリスは、ワザと大きな口パクでイオンからの救援信号を断る。自身の性格を分かっている上で、クリスとてわざわざ火中の栗を拾うような真似はしたくないのだろう。
拒絶されたイオンは途端に余裕を無くしたのか、見るからに狼狽え始めている。しかし、『美少女転校生』という好奇の対象となったイオンを女子高生達は掴んで離さない。
「えっと、あの〜…ク、クリスちゃーん!」
「このバカっ!」
遂に名前を呼びあげる強硬手段に出るイオン。そっちから助けてくれないなら、こっちから近付いて巻き込んでいくという悪魔的な発想である。これには思わずクリスも声を上げてしまう。イオンの誘導とクリスの発言に自然と注目はクリスへと移る。
「雪音さん、知り合いなの?」
クラスメイトの一人がクリスの態度を見て、関係性を伺ってくる。突然の転校生に対して、バカ呼ばわり出来るということは一定以上の付き合いが無いと出来ない軽口なので当然の疑問である。
「あ、あぁ、ちょっとした知り合いっていうか…」
「私とクリスちゃんは友達だよ。まだこっちに慣れていない私にすごく親切にしてくれたんだぁ。それにねーー」
「は、はぁ!?ちょっと待て、何言ってるんだお前!」
クリスはそれとなく誤魔化そうとしたが、イオンが遮るかのように言葉を被せる。邪魔立てされたクリスはイオンをジロッと睨むが、当の本人はそれに気付くことなく、嬉しそうに更にペラペラと語り出そうとするので、止めに入ったクリスが席を立ち上がったところでチャイムの音が校舎に鳴り渡る。
その後、イオンは『雪音さんの友達』という認識が拍車となり、放課後を迎える頃には、すっかりクラスに馴染んでいたのだった。
かくして、イオンの学校生活は幕を開けた。
ーーこの件以来、仲良しコンビとしてクリスとイオンはなにかとペアで数えられるようになるが、それはまた別の話である。
タイトル名が浮かばない時は、ガスト作品のBGMタイトルからテキトーに取ってます。
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