ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生with軍師の娘 (雑賀衆見習い)
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オープニング

かつて、世界に絶望をもたらさんとする邪竜と、父さん率いる…じゃなかった、クロムさん率いるイーリス軍の激突から一年ほどが経ち、世界には平和が戻ってまいりました。父さんはクロムさんと一緒にイーリスの統治に、ほかの人たちも、それぞれの道を歩み始めました。そんな中、私マークちゃんは父さんのような軍師になるべく、諸国放浪の旅に出ています!

 

今日はたまたま行商人が来ていて、武器が安く買えました。やったね!とか思いながら道を歩いていると、

 

「………ここに来るのも久しぶりですねぇ」

 

なんとビックリ!ここは時の神殿だったんです!いやー、ここは父さんたちが秘宝を求めて足を踏み入れると、私が行き倒れていた、という父さんと私の「出会いの場」なんですよね。

どうしてここが出会いの場なのかと言いますと、実は私、記憶喪失なんです。しかも、いつの間にか時空を超えてきたみたいなんです!

みたい、というのは自分に記憶がないからなんですよね。でも、実際並んでみると、父さんは私とあまり変わらない見た目してますし、しかも、私の父さんと母さんはまだ結婚すらしていなかったんですよ!

当然そんな状態では私が居るはずがなく、ほかにも未来から来たって人が居ましたし、だから私もそんな感じなんだろうなぁ、と思ったわけです。

………そういえば、あの時は父さんについていくことしか考えていなかったけど、もしかしたらここには私の記憶を取り戻す何かが眠っているのでは?

いえ、そうに違いありません!そうと決まればさっそく捜索開始です!

 

………それから2時間ほどが経過したんですが、成果は0でした。やっぱりここには記憶を取り戻す手掛かりはないのでしょうか…

そう思って帰ろうとした矢先、奥のほうの部屋で面白いものを見つけたんです!

 

「何でしょうか、これ…」

 

遺跡の中にある部屋のうちの一つ、その中央の空間に水色で出来た綺麗な渦が発生しているじゃないですか!

もしかしたら、これが記憶を取り戻す手がかりかも!そう思って近づいてみたんです。そしたら…

 

「うぇあ!?」

 

…うっかり吸い込まれてしまいました。よく分かっていないものに手を出すのは良くないですね。

…私、これからどうなっちゃうんでしょう?

 

 

 

 

 

 

~苗木視点~

私立希望ヶ峰学園

卒業したら人生の成功を約束されるとまで言われる日本屈指の名門校だ。

この学校は、ほかの普通の学校のような入学試験は存在しないため、次の二つの条件を満たす必要がある。

 

① 現役の高校生であること

② ある分野において、「超高校級」と呼ばれるほどの才能を持っていること

 

え?じゃあ僕はどんな才能かって?残念ながら僕には、そんな才能は持っていないよ。だから本来ならこの学園に入るなんて夢物語なんだ。

けど、そんな僕にも希望ヶ峰学園から合格通知が届いたんだ。理由は、僕が「超高校級の幸運」に選ばれたから。これは、全国の高校生の中からたった一人だけが抽選によって選ばれるという枠で、僕は本当に、運良くこの学園に入学出来ることになった。

 

…けれど、ここからが大変だと思う。だって周りは、僕と違ってその才能を認められた超人ばかり。ここから頑張っていかないと!

 

そう思って一歩踏み出した途端、視界が渦を巻き、僕は意識を失った…

 

 

 

「…ん?……………あれ?」

 

気が付くと、いつの間にか教室の中に居たんだ。けど、この教室、窓の部分には鉄板が打ち付けられていて、外が全く見えない。加えて天井には監視カメラが設置されている。

おかしいな、外から見たときはこんな風になってなかったと思うんだけど。そんなことを考えながら、手元にあった紙を開く

 

『入学あんない

あたらしいがっきがはじまりました。しんきいってんこの学えんがオマエラのあたらしいせかいとなります

入学しきは8じからたいいくかんしゅうごう』

 

時計を見ると、もう8時だ。ここにいても仕方がないし、とりあえず体育館に向かおう。

 

体育館に着くと、僕と同じ高校生の人たちが集まっていた。もしかしてこの人たちがクラスメイトなのかな?

 

「遅いじゃないか君!集合時刻は8時と明記されていただろう!」

 

…早速怒られた。いや、確かに書かれていたけど、こんな訳の分からない状況ではある程度は勘弁して欲しい。

 

皆の話によると、全員が同じように教室で目を覚まし、この体育館に来るように書かれた紙があったみたい。

 

このままでは何も始まらないので、一人ずつ自己紹介をしようという流れになった。

 

朝日奈 葵。超高校級の“スイマー”

日焼けによるものだろうか、褐色の肌を持つ彼女は、身体能力がとても高く、特に得意種目の水泳では数々の高校記録を塗り替えた実績を持っている。

 

石丸 清多夏。超高校級の“風紀委員”

品行方正、四角四面を絵にかいたような人物で、自分にも他人にも規律に人一倍厳しいんだって。さっき僕を注意したのも、風紀委員として見過ごせなかったからなんだろうね。

 

江ノ島 盾子。超高校級の“ギャル”

人気ファッション誌でカリスマ読者モデルを務め、オシャレに独自のこだわりを持っているらしい。それにしても、化粧すごいなぁ。

 

大神 さくら。超高校級の“格闘家”

ありとあらゆる武道に精通し、地上最強の女子と呼ばれている。一見男と見間違えるほど体が大きい。

 

大和田 紋土。超高校級の“暴走族”

関東一円を支配する巨大暴走族の頭で、全国の不良から憧れの視線を集める存在だ。どうでもいいけど、暴走族の才能って伸ばしていいんだろうか?

 

霧切 響子。超高校級の“???”

自分自身の才能についてよく分かっていないらしい。でも、何かしらの才能はあるはずだよね。幸運枠は僕が使っちゃってるし。

 

桑田 怜恩。超高校級の“野球選手”

野球選手らしからぬ髪型だけど、野球の名門校でエースと4番を兼任する実力者。本人いわくミュージシャンに転身する予定だとか。

 

セレスティア ルーデンベルク。超高校級の“ギャンブラー”

ゴスロリ調の服装に身を包み、左右の巨大な縦ロールの髪が特徴的な女性。ありとあらゆる賭け事に精通しているらしい。あの髪型は、毎日セットしてるんだろうか…

 

十神 白夜。超高校級の“御曹司”

かの有名な「十神財閥」の御曹司。幼い頃から帝王学を叩き込まれたらしい。でも、この高圧的な態度はちょっと僕は苦手かな…

 

葉隠 康比呂。超高校級の“占い師”

ドレッドヘアーが特徴的な男性。3割の確率で当たる占いが出来るという。…これから伸ばすのかもしれないけど、7割が外れているのは大丈夫なんだろうか?

 

腐川 冬子。超高校級の“文学少女”

ベストセラーを次々手がける新進気鋭の女流作家。ただ、性格はとんでもなくネガティブみたい。

 

不二咲 千尋。超高校級の“プログラマー”

見た目は小学生と見間違うほど小柄だけど、極めて高いプログラミング技術を持つらしい。なんというか、小動物系の可愛さがあるね。

 

舞園 さやか。超高校級の“アイドル”

知らない人はいないと言われるアイドルグループでセンターとメインボーカルを務めている。実は僕と同じ中学出身だけと、向こうは知らないだろうなぁ…

 

山田 一二三。超高校級の“同人作家”

かなりの恰幅の良さを誇る彼は、学校の文化祭で自らの同人誌1万部を完売させた逸話が有名だ。

 

それぞれの自己紹介と状況の整理が終わり、これからどうするのかを考えていると、スピーカーから声が聞こえてきた。

 

「あー、あーマイクテスト、マイクテスト。大丈夫?聞こえてるよねこれ。全員集まったみたいだし、始めようか!」

 

その声に全員が体育館の壇上を見た。すると

 

右半身はかわいらしい表情をした白色の、左半身はいかにも企んでいそうな顔をした黒色のクマが壇上から飛び出してきた。

 

「ぬ………ぬいぐるみ?」

「ぬいぐるみじゃないよ、僕はモノクマだよ。この学園の学園長だよ」

 

そう言うと、モノクマは驚く生徒を無視し、説明を始めた。

モノクマが言うには、「世界の希望」である僕らには、ここで共同生活を送ってもらう。という内容だった。

別にそれだけなら全寮制ということで片付けられるのだが、問題はそのあとだった。

 

「えーその期限についてなんですが、ありません。つまり、オマエラは一生ここで暮らすのです。あー、心配しなくても予算は豊富にあるからオマエラに不自由はさせないよ」

「……一生…ここで?」

「おい!悪ふざけにもほどがあるぞ!」

 

一生学園で過ごす。この突然の発表に生徒からは口々に不満の声が上がる。というか僕もやだ。また家族と会いたいし。

 

「あー、ハイハイ。外に出たいっていうオマエラの要望にもお応えするため、あるルールを用意しました」

「ルールだと?」

 

「殺し方は問いません。誰かを殺した生徒だけが卒業し、この学園から出て行ける。それだけの簡単なルールです」

 

まるで何かのゲームのルールを説明するかのように、ごく自然に放たれた言葉に全員が戦慄する。

ここから出たければ誰かを殺せだって!?冗談じゃない!

 

「うぷぷ…こんな脳汁迸るドキドキ感は、鮭や人間を襲う程度じゃ得られませんなぁ。希望同士が殺し合う、絶望的なシチュエーションなんです」

 

そう言って興奮した様子を見せるモノクマに、次々と抗議の声が上がる。そして

 

「もういい!テメェの悪ふざけは度が過ぎてんぞ!」

「悪ふざけ?それって君の髪型のこと?」

「ガァァァァ!」

 

とうとうしびれを切らした大和田君がモノクマを掴み上げる

 

「ラジコンだかヌイグルミだか知らねぇがバキバキに捻り潰してやる!」

「わー!学園長への暴力は校則違反だよ!」

 

そう言って動かなくなるモノクマ、しかし、それと同時に左目が点滅し始める。

その異変に何かを察知した霧切さんが叫んだ。

 

「危ない!それを早く投げて!」

「あ?」

「いいから早く!」

 

大和田君が指示通り誰もいない方向に投げると、モノクマが爆発する。

 

「…爆発した?」

「あのヌイグルミ…死んじゃったの?」

「ヌイグルミじゃなくてモノクマ!」

「!」

 

爆発したはずのモノクマの声。と同時に…

 

「じゃ~ん」

 

体育館の壇上から再び姿を現すモノクマ。もはや誰も状況の理解が追い付かない中、モノクマは言葉を続ける。

 

「うぷぷぷぷ。今のは警告だけで済ませたけど、今後校則違反をするような悪い子には、グレートな体罰を発動させちゃうからね!」

 

爪を立てながらそう言うモノクマに、誰も言葉を返せない。

 

「じゃあ、これくらいにて入学式をおわります。ルールを守って、清く正しい学生生活を心がけて下さい」

 

言うことを終え、体育館から出て行くモノクマ。しかし、その後に残ったのは自分以外の人間に関する疑心暗鬼だけだった。

誰かが自分を殺すかもしれない。この状況で誰も声を発せずにいた。

 

「あ、やっと人がいました。おーい!すみませーん!」

 

もちろん、そのまま互いを牽制し続けるわけにもいかない。今の状況を整理しようとした時、体育館の入り口から声が聞こえてきた。そこに目を向けると…

 

「よかったー。窓には鉄板が打ち込まれてて外見えないし、見覚えのない場所だったので焦りました。しかし、そこは父さん譲りの冷静さで、現状の把握に努めるべく、行動を開始したわけです!…で、ここって一体どこですか?」

 

一人の少女が、そこに立っていた。

 



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イキキル日常
イキキル①


~マーク視点~

「遅いじゃないか君!8時集合と通達があったはずだろう!入学式はたった今終わったぞ!」

「え?一体何の話ですか?」

 

…本当に何の話でしょう?気が付いたら机だの椅子だのがいっぱいある部屋にいて、いろんな部屋覗いてたら遠くで爆発音がしたんです。何事かと思って来てみたら、たくさん人が居てこれでようやく状況の整理ができると思ったら、真っ白な服の栗みたいな頭した人に怒られてしまいました。

 

「とぼけるんじゃない!この紙にそう書かれているだろう!」

 

その人はそう言ってポケットから紙を取り出しました。もちろん初めて見る紙です。

 

「つまり!この学園の生徒である君は、8時までにここに来なければならなかったのだ!」

「それは違うよ!」【モノクマの発言】

 

おっと、白い人に思いっきり反論した人が出てきましたね。アンテナみたいな髪の毛してますね。寝癖でしょうか?

皆さん、突然大声を上げた彼に興味津々ですね。…出来れば「言ってしまった」みたいな感じで両手で口元を塞いでないで続きを話して欲しいんですけど…

 

「違う?何が違うというのだね?」

 

当然、白い人が質問します。

 

「ご、ごめん。いきなり大声を出して。でも、そこの人、えーと…」

「あ、名前ですか?マークちゃんです!」

「マークさんね。本当に希望ヶ峰学園の生徒なのかな?」

「えっとぉ…ここに居るってことは…そうだと思うんだけど…」

 

リヒトさんみたいな小さな人がなんだか自信なさそうに言ってますね。希望ヶ峰学園とは何でしょうか?

 

「でも、だとしたら変なんだ。さっきの入学式の最初、モノクマが言っていたことを思い出してほしいんだけど」

「…そういえば最初、モノクマはこう言ってましたよね。(全員そろったみたいだし、始めようか)って」

 

さっきのアンテナさんにものすごく水色の髪をした美人な方が同意してますね。すごく素敵です。

 

「確かに、今日が初対面の私たちと違って、生徒全員を把握しているはずのモノクマが生徒を知らない、ということは考えにくいですわね」

「じゃあ何でマークはこんな所にいるんだべ?」

「私に聞かれても答えられませんわ」

「…マークと言ったな。この場所に一体どこから忍び込んだ?」

 

忍び込んだって失礼な言い方ですね。まるで泥棒みたいじゃないですか!

 

「ちょっと!そんな人を泥棒みたいに言わないで下さいよ眼鏡さん!」

「…貴様、俺のことを言っているのか?」

「だって私、皆さんの名前知りませんし。どう呼んでいいのかも分からないので」

「…俺は十神白夜だ。二度と下らん呼び方をするな」

 

なるほど、このメガネは十神さんだったんですね。この後皆さんに自己紹介してもらって、ここへ来た経緯を聞かれたんですけど、突然渦に巻き込まれたとしか言えないんですよね。でも皆さんもそんな感じだったみたいです。

霧切さんという方の提案で、この後全員でこの場所を探索するということになったんですけど…

 

「俺は一人で行動させてもらう。この中にすでに人を殺そうと企んでいる者がいるかも知れない。そんな奴らと一緒に行動できるか」

「待てコラァ!んな勝手は許さねえぞ!」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてよ!僕らが争ったって何にもならないって!」

 

単独行動をとろうとする十神さんと、勝手は許さないとする大和田さんの間で口論が始まった。苗木さんがそれを止めようとしたんですけど…

 

「あぁ!?テメェ今キレイ事言ったな?そいつは説教か!?俺に教えを説くっつうのか!?」

「そ、そんなつもりじゃ「るせぇ!!」

 

すごく面白い髪形した大和田さんに本気で殴られ吹っ飛ぶ苗木さん。それにしても、殴っただけで人ってあんなに飛ぶんですねぇ。

………そのあと、舞園さんや朝日奈さんにこってり絞られてましたけど。

 

 

 

 

 

~苗木視点~

 

僕が目を覚ましたのは、見慣れない個室だった。自分が何故寝ていたのかを思い出しながら周りを見回すと…

 

「まっままま舞園さん!?」

「苗木君、気が付いたんですね。良かった」

 

超高校級のアイドル、舞園さやかさんが見守っていた。彼女曰く、同じ中学出身の苗木が心配でここにいたそうだ。今の状況について聞いてみると、あの後バラバラなって学園を探索していること、現在自分たちがいるのは生徒全員にあてがわれた個室のうち、僕の個室だということだ。

 

「舞園さ~ん。苗木さん起きました?」

 

という声とともに誰か部屋に入ってきた。

 

「あ、マークさん。苗木君なら今起きましたよ」

「ホントだ。いま一通り探索が終わったので、食堂で報告会を開くことになったんです。動けるようになったら来てくださいね~」

 

それだけ言うとそのまま部屋を出ていく。

 

「それにしてもよかったです。知ってる人が居て」

「え?舞園さんが僕のことを?」

 

逆ならともかく、同じクラスにもなったことのない人、ましてやトップアイドルとして多忙な日々を送っていた舞園さんが自分を覚えていたなんて驚いたなぁ…

 

「覚えていましたよ」

「え、声に出てた?」

「私、エスパーなんです」

 

超高校級のアイドルの突然すぎるカミングアウト

 

「冗談です。ただの勘です」

「…驚かさないでよ」

 

どうやら舞園さんの冗談だったらしい。心臓に悪いよ…

ちなみにこの後、舞園さんの超高校級の助手宣言にもう一度驚かされることとなるのを、まだ僕は知らなかった…

 

その後、食堂で行われた報告会では、

・食料の心配はないこと

カメラを除けば快適な個室であること。しかし、脱出への手がかりは無く、逃げ場のない密室に閉じ込められたということが分かり、全員の士気が低下する。ここでの一生を受け入れるべきだと主張するものまで現れ始めた。

 

「それよりも、一つ大きな問題があるんです」

「む、どうしたのだねマーク君」

「私の部屋がありません!これは由々しき事態です!」

 

マークさんだけ部屋が無い?あの個室がないってこと?

 

「何、それは本当か!?山田君、どうなんだ?」

「…そう言われてみれば、確かにマーク殿だけネームプレートを見ておりませんな。ほかの生徒のネームプレートは部屋のドアにかけられておりましたぞ」

「そりゃそうだよ!」

「「「!?」」」

 

音もなく現れたモノクマの出現に驚く一同。そんなこと気にせずモノクマは言葉を続ける。

 

「マークさんの部屋がないことについてだけど、そりゃそうだよ!マークさんはそもそも希望ヶ峰学園の生徒ではないんだよ。部屋なんか用意してるわけないじゃん」

「なるほど、確かにそうですね」

「何納得してんだよ。テメェの話だぞ」

「でしたら、どうしてこの学園に入れましたの?」

「それが、時の神殿を探索してたら渦に吸い込まれて、気づいたらここにいたんです」

「…貴女、私を馬鹿にしていますの?」

 

マークさんの要領を得ない説明に呆れるセレスさん。

…そもそも時の神殿なんていう場所、見たことも聞いたこともない。そういったゲームの話をしているのかな?セレスさんも追及しようとしたけど、意外な存在に止められた。

 

「聞いても無駄だと思うよ。ボクも何度も聞いたけどゲームの話しかしないんだよ」

「だからゲームって何ですかモノクマさん!私はありのままを話」

「アーハイハイ、もうそういうのいいから。話を戻すけど、マークさんは誰かに泊めて貰ってください。じゃ、そういうことで」

 

そのままスタスタと食堂を出ていくモノクマ。その後の話し合いで、今日は朝日奈さんの部屋に泊めて貰うこととなった。

 

翌日も探索が行われたが、昨日と同じで、特に成果は得られなかった。

僕は舞園さんと共に護身用の武器として模造刀を回収したぐらいかな。

 

その日の報告会の後、食堂を出て個室に向かう僕に、とある人が声をかけてきた。

 

「苗木さ~ん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけどいいですか?」

「マークさん?別にいいけれど」

「立ち話もなんですし、食堂に戻りませんか?」

 

そう言って食堂へ戻るマークさんに続いて僕も食堂に入る。二人が丸テーブルに座ると

 

「私もいいですか?」

 

と、舞園さんも現れた。

 

「あ、いいですよ。じゃあ三人で話しましょう」

 

そのまま舞園さんも加わって、三人で丸テーブルに座る。

 

「それで、聞きたいことって何?」

「そんな大したことじゃないんです。自己紹介みたいな感じです。ほら、私あとから皆さんと合流したじゃないですか。あの時は名前しか教えて貰えなかったので、もう少し皆さんの事を知りたいなぁと思ったんです。それでこうして皆さんに聞いて回っているんです。」

「あぁ、なるほど、じゃあ僕からね。僕は苗木誠。希望ヶ峰学園には“超高校級の幸運”として入学しているよ。特にこれといった特技はないんだけど、強いて言うなら前向きなとこかな」

「すごいですね!さっき石丸さんに聞きましたけど“超高校級の幸運”って何百万人という人の中から年に一人しかいないって話ですよ!」

「いやぁ…たまたま運が良かっただけだよ。抽選だからね」

「それでも選ばれるってすごいことだと思いますよ。じゃあ、次は舞園さん、お願いします」

「はい、私は舞園さやか。“超高校級のアイドル”としてこの学園に入学しました。苗木君とは同じ中学出身だったんですよ」

「へぇ、二人は同じ学び舎出身だったんですね」

「…学び舎?」

「すみません、私のところだと勉強するために通うところは学び舎というんです」

「…へぇ、そうなんだ」

「あと、アイドルって何ですか?」

「知らないの?舞園さんが所属するアイドルグループって言ったら…」

「いや、その前に“アイドル”という存在を…」

「「そこから!?」」

 

まさかアイドルの定義そのものを聞かれるなんて思いもしなかったな。実際、日本だと舞園さんを知らない人はいないと言われるくらいには有名だし…そもそ「学校」じゃなくて「学び舎」なんて言い方…

もしかしてマークって外国から来たばかりとかなのかな?確か一つ上の77期生には超高校級の“王女”がいたらしいし、セレスさんもいるし…

そんなことを思いながら舞園さんの実演を踏まえつつ説明したけど…

 

「えーと、踊り子が歌を歌うような感じ、と考えればよさそうですね」

「あー、うん。間違ってはないかな」

「そうですね…」

 

伝わった…のかな?

 

「じゃあ私、マークちゃんの自己紹介ですね。私はマーク。誕生日は5月5日で、年は記憶喪失なので分かりません。夢は父さんみたいな立派な軍師になること。そのためにイーリス、ペレジア、フェリア、ヴァルム等々、様々な国々を渡り歩いてきました。戦術関係はお任せください!」

 

………ちょっと待って、世界中を渡り歩いたって言いたいのかな?ただ問題なのは…

 

「あの、マークさん。いーりす?でしたっけ。それはどこにあるんでしょうか?私たち、ちょっと名前に聞き覚えがなくて…」

 

そう、国の名前が聞いたこともない国なんだ。いや、もしかしたらイギリスみたいに、日本ではなじみがない名前なだけかもしれない…

 

「イーリスはイーリス大陸の南東に位置する王国ですよ。国王はクロムさんです。その西にペレジアが隣接してて、両国の北側にフェリア連合王国が…」

「ごめんねマーク、ちょっと待ってもらっていいかな?僕たち、マークさんが何を言っているかさっぱり分かんなくて…」

 

…だめだ。もうお手上げ。本当に理解できない。

 

「そういえば石丸さんも似たような渋い顔をしてましたね。何故でしょう?」

「マークさんの説明がとんちんかんだからじゃないの?」

「「!」」

「あ、モノクマさん」

「いや、マークさん。何普通に対応してるのサ。そこは二人みたいに驚くとこだよ?」

 

音もなく現れるモノクマに、普通に対応するマーク。今回ばかりはモノクマの言う通りだと思う。

 

「あ、そうなんですか?じゃあ今度からそうしますね」

「…まぁいいや。それよりお三方。もうすぐ夜時間ですよ。早く食堂から出てってね。でないとオシオキだよ~」

 

うぷぷと笑いながら消えるモノクマ。確かに時計を見ると9時50分。確かにもうすぐ夜時間だ。僕たちは言われた通り食堂を後にする。

 

「あ、そうだ。聞いておきたいことがまだありました」

 

別れる直前、マークが唐突にこう切り出した。

 

「お二人は、誰かを殺してでもここを出たいって思いますか?」

「「!!」」

 

…マークさん、今それ聞く?



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イキキル②

~苗木視点~

「マークさん、いきなりどうしたの?」

「そうですよ、冗談でも言っていいことと悪いことがありますよ!」

 

人を殺してまで外に出たいかという、現状この学園からの唯一の脱出手段を実行するのかというマークからの問いに驚ろかされる。

今の状況でよくそんなこと聞けるよね…

僕らの動揺を知ってか知らずか、マークは平然と言葉を続ける。

 

「だって、十神さんも言ってましたよね。この中にすでに誰かを殺そうとしている奴がいるかもしれないって。お二人がそう考えていたら怖いなーって思ったものですから。で、どうなんですか実際?」

 

まるで彼氏との近況を深堀りする女友達のように躊躇のない問いかけ。しかし内容は信頼関係にヒビを入れかねないギリギリな質問…

 

「…マークさん。僕は、誰も殺さずにここから脱出したいと考えているよ」

「そうです!それに私と苗木君は誓ったんです!必ずここから生きて出ようって!」

 

当然、殺しても出るなど言えない。というかそもそも言えるはずがないのだ。

 

「そうですかー。いやーよかったです。聞きたいことは以上なので、私もう寝ますね。おやすみなさい!」

 

そう言いつつ、セレスさんの部屋のインターホンを押した。どうやら今回は彼女の部屋らしい。

 

「まったく、変なこと言いだすからビックリしました。ね、苗木君?」

「う、うん、そうだね。僕らももう寝ようか」

「そうですね。では苗木君、おやすみなさい」

「おやすみなさい、舞園さん」

 

二人はそれぞれの個室へと入っていった。

 

それにしても、どうしてマークさんはあんなことを聞いたんだろう…

マークの最後の質問が気になっていたが、結論が出ることはなかった。

 

翌日も校内の探索が行われたが、脱出の手がかりとなりそうなものはなく、いたずらに時間だけが過ぎていき、定例報告会の時間となった。

 

「んあああああ!どんだけ同じ場所探しても、なんも手がかり無ぇよ!」

「…本当に、もう帰れないのかな…助けも来ないのかな…」

 

苛立ちを露にする野球選手。同じ場所に3日も軟禁状態では無理もないよね。不二咲さんに至っては今にも泣きだしそうだ。

 

「大丈夫だよ不二咲さん。だってさ、もうすぐ助けは来るんだし」

「はぁ!?助け?」

「マジで?」

 

朝日奈さんの一言に僕を含め全員が反応する。確かに、もしも救援が来るのならこの学園から脱出できるかもしれない。彼女はその根拠をこう言った。

 

「だって、あたしたちがここに閉じ込められてからもう3日も経つんだよ。警察だって動いてるに決まってるよ」

 

彼女の言い分も一理ある。何せ、希望ヶ峰学園は大都会に位置している。そんな場所で監禁事件など起きれば、警察が気付かないはずがないからだ。

 

「アッハッハッハ!警察だって?警察なんかあてにしてるの?」

 

突如現れたモノクマがそれを嘲笑する。

 

「というかさ、そんなに出たいんだったら、こk「ハイ!!」おぅわ!」

 

モノクマが凄みをきかせながら何か言いかけたんだけど、マークさんが突然モノクマの真横から勢いよく手を挙げ大声を上げる。モノクマはそれに驚き椅子から転げ落ちてしまう。

 

「もう!マークさん!いきなり出てきたら心臓に悪いでしょ!あービックリした」

「あははーすいません」

 

数秒前に突然出てきたモノクマにだけは言われたくない。この時ほど発言がブーメランな瞬間はそうそうないと思う。

 

「あ、そうだ。ついでだから緊急で作ったマークさんの生徒手帳渡しとくね」

「あ、ありがとうございます。」

「で?何の用?」

「皆さんの会話の中で分からないことがあったんです。今後の皆さんの会話についていくためにも分からないままではいけないと思いました」

「うむ、それは良い心がけだ。分からないこととは何かね?」

 

マークの言葉に石丸が同意する。分からないことを質問するのは優等生らしいといえばそうなのだろう。

 

「警察ってなんですか?」

「・・・」

 

…内容にさえ目をつむれば、の話だが。

全員が【何言ってんのこの人】といった目でマークを見る。あのモノクマでさえ同じ目をしている。ネタなのか本気なのか分からない…

 

「………それは後で誰かから教えてもらってよ。とにかく僕が言いたいのは、一向にコロシアイが起きないから視聴覚室にあるものを用意させていただきました。じゃ~ね~」

 

モノクマが用意したのはDVDだった。ご丁寧に誰のDVDか分かるように名前付きだ。ただ、全員が気になったのは…

 

「どうして私だけ円盤がないんですか!仲間はずれは嫌です!」

「だからマークさんは希望ヶ峰学園の生徒じゃなかったからそんなもの用意してないの!」

 

マークさんのDVDだけが用意されていないこと。部屋といいDVDといい、マークさんだけはぶられているから、腹は立つよね。

というか、円盤って…DVDももしかして知らない?まさかね…

 

苗木や石丸などがなだめること数分、落ち着いたマークだったが…

 

「苗木さん苗木さん!円盤を机が食べちゃいましたよ!大丈夫なんですか!?おなか壊さないんですか!?」

 

ちょっと黙っていてほしい。その後もうるさいマークさんを放ってヘッドフォンを使いDVDの映像に意識を集中する。

相手にされなくなったマークさんはいじけて部屋から出ていった。

若干悪いと思ったけど、それ以上にDVDが気になった。

 

僕のDVDに記録されていた映像は、自宅にいる家族から自分に充てたメッセージと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その自宅の無残な姿だった。周りも似たような反応を示していることから、おそらく自分の大事な人に何かあったことを示す映像だろう。舞園さんに至ってはショックのあまり視聴覚室を飛び出してしまった。

慌ててそれを追いかけて、なんとか廊下で腕をつかむが…

 

「嫌っ!離して!」

「みんなで協力すれば、きっとここから脱出できるよ!」

「そんなの嘘よ!」

「もしかしたら、その前に助けがくるかも…」

「助けなんてこないじゃない!」

 

先ほどの映像がよほどショックだったのだろう。普段の笑顔を絶やさない彼女からは想像できないほど取り乱していた。

生半可な言葉ではダメだ。そう思った僕は自分の思いを正直に叩きつける。

 

「…僕がここから君を出してみせる。どんな手を使っても絶対にだ!」

「!」

 

舞園さんの動きが止まる。説得成功、かな?

 

「…約束、して下さい。苗木君だけは、何があっても、ずっと、私の、味方でいて…」

 

それだけ言うと、彼女は僕に縋り付いて泣き出した。その後、誰も何も言葉を発さないまま、自然解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、間もなく夜時間となるとき、僕の部屋にチャイム音が響いた。

扉を開けると…

 

「苗木君…」

 

自身の両肩を抱き寄せ、怯えた様子の舞園さんが居た。

とりあえず彼女を招き入れ、事情を聴くことにする。

 

「部屋で横になっていたら、ドアが急にガタガタと鳴りだして…誰かを疑っているわけじゃないけど…怖くて…」

 

コロシアイが容認されているこの空間では、それはとてつもない恐怖だろう。そう思った僕は…

 

「だったら、今晩は僕の部屋に泊まろう。そうしたら怖くないでしょ?校則には、誰がどの部屋で寝るかは書かれていないし」

 

うん、我ながら考えた。

 

「でも、男女が同じ部屋で寝るというのは…」

「・・・ハッ!」

 

…しまった

 

その後、彼女からの提案により、僕と舞園さんの部屋を交換するという結果となった。夜時間となり、舞園の部屋に入った。

 

「舞園さんは、僕が支えないと…」

 

決意を新たに、ベッドに横になる苗木。しかし、女子の部屋ということもあり、なかなか寝付けないでいた。そんな時…

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

苗木が寝ている舞園の部屋にチャイム音が鳴り響いた。



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イキキル③

~苗木視点~

(…誰だろう、こんな時間に…)

 

もう夜時間だ。セレスさんの出歩き禁止ルールを誰かが破っていることになる。別に強制力は無いけど…

 

ピンポーン

 

チャイムがもう一度鳴らされる。もしかして…

 

(部屋で横になっていたら、ドアが急にガタガタと鳴りだして…誰かを疑っているわけじゃないけど…怖くて…)

 

それを思い出した僕は、チャイムの主は舞園の話にあった謎の人物だと結論付ける。ならばドアをこじ開けて部屋に入ってくるかもしれない。そう思って咄嗟に模造刀のあるほうへ手を伸ばす。

 

「あっ、しまった…」

 

だが、ここは舞園さんの部屋だ。残念ながらここには模造刀はない。いまだチャイムが鳴り響く部屋の中を見回してみるも、護身用となりそうなものは見当たらない。そうこうしているうちに、ドアの下の隙間から、一枚の紙が差し込まれる。それと同時に、部屋のチャイム音が消えた。

苗木は、ドアが突然開かないか警戒しながら、慎重に紙を拾い上げる。そこには…

 

【舞園さやかが襲われた。危機的状況につき、救援求む】

「!」

 

舞園が襲われた。その文字を見た瞬間、ほぼ反射的に部屋を飛び出していた。そして急いで舞園がいる自分の部屋に行こうとし…

 

「うわっとっと!危ないじゃないですか苗木さん!いきなり飛び出してきたら!」

「あぁ、うんごめん…」

 

部屋の前にいたマークとぶつかりそうになる。慌てていた苗木はマークに謝るが、そこで不可解な点に気づく。

 

「…マーク、なんでこんな時間にこんなところにいるの?」

「苗木さんを呼びに来たんですよ。なのに苗木さん、部屋のチャイム鳴らしても全然出てこないので、手紙を書いたら出てきてくれるかなーって」

 

つまり、さっきのチャイム連打もこの手紙も、すべてマークの仕業である。すでに夜時間になってからしばらく経っており、もう少しで寝付けそうだったのだ。そんな時に執拗なチャイムで起こされれば当然…

 

「……いい加減にしてよ!!」

 

こうなる。

 

「えっ?」

「えっ?じゃないよ!何度も何度もチャイム鳴らして、こんな夜中にたたき起こして、しかもこんな手紙まで用意して、どういうつもり!?」

「いや、ですから…」

「さっき舞園さんのドアをこじ開けようとしてたのもマークの仕業!?夜時間は出歩き禁止になってるのにこんなことして一体何になるのさ!」

「苗木さん、とにかく落ち着いてください。さっき手紙に書いた通り、舞園さんが危機的状況なんです。帰ってくるとまずいので、すぐに苗木さんの部屋に向かいましょう。」

「え?ちょっとマークさん!?」

 

それだけ言うと、マークは強引に苗木の腕を引っ張って隣の「元・苗木の部屋」へと入っていく。

 

部屋に入ると、まず目についたのは何故か床に無造作に置かれている模造刀だった。確かこれは枕元に置いてあったはず…

というか、どうして舞園さんが居ないんだ?

 

「苗木さん、ここ開けてもらえませんか?何故か開かなくて…」

 

そう言ってマークが指さすのはシャワールーム。まぁ開けられないのは当然なんだけど…

 

「僕だけ教えてもらったんだけど、ここって立て付けが悪いらしくてね、ドアノブをひねりながら、持ち上げるようにしないと開かないんだ。こうやって…」

 

そう言って実演しながら開ける。そしたら…

 

「…な、苗木君?」

 

痛そうに腕を抑えている舞園さんがいた。

 

「どうして?いったい何があったの!?そのケガは!?」

「それは、彼を交えたうえで話を聞くべきでしょう」

「彼っていったい誰?」

「それはすぐに分かりますよ。もうすぐドアが開きますから」

 

僕の疑問を、いつの間にか廊下に通じる扉前に移動していたマークが遮る。ドアが開くと言い終えた瞬間、マークは触ってもいないのに扉が自動的に開いた。そこに立っていたのは…

 

「ねぇ?超高校級の野球選手、桑田 怜恩さん?」

 

工具セットを手にした桑田君がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

~マーク視点~

私には、集中すれば一定の範囲を上から見下ろす視点が得られる特殊な“目”があります。この能力は父さん譲りで、父さんも“目”をフル活用して、敵の位置や持っている武器などを確認し、誰に攻撃させるか決めていたそうです。

とはいえ、あんまり広すぎる範囲は見えないし、ちょっと疲れるのでずっとはやりたくないですけど、今日は皆さんの様子がおかしかったので“目”を使いました。

結論から言うと、“目”は開いて正解でした。もしこのまま誰にも気づかれることなく桑田さんがこの部屋に入っていたらと思うと………ゾッとします。

 

「まずは中に入ってください。話はそれからにしましょう」

 

目の前の状況が呑み込めずフリーズしている桑田さんをとりあえず中に招き入れます。

工具セットを持ってるということは、シャワー室のドアをこじ開けようとしてたんですかね。とはいえ苗木さんや私が居る前で誰かを殺すことはしないでしょう。

これで殺し合いは避けられましたかね。いやーよかったよかった。後はそこに落ちている包丁を回収すれば…

 

「桑田君…」

 

あ、そうでした。苗木さんに今回の一件を説明しておかないと…ってなんで苗木さんが包丁持ってるんですかね?しかもこちらに切っ先を向けて。

 

「舞園さんをコロそうとしたって本当?」

 

…あーなるほど。それは考えてませんでしたね。

 



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イキキル④

~マーク視点~

舞園さんに何と言われたのかはわかりませんが、どうやら桑田さんが舞園さんを亡き者にしようとした。ということになっているみたいですね。

機転が利くのは良いことなんですが、これはちょっと厄介ですね。

父さんの仕事は、何も戦場で策を練り、みんなに指示を出して実行するだけではありませんでした。商売人(食料や日用品等)との交渉や、戦争に反対する貴族の説得も行っていたんです。その過程では、どうしても話術が必要でした。つまりこれから先、私が父さんのようになるためには、こういった話術も磨かなければなりません。

それに私自身、今回の状況を利用して見極めたいこともあるんです。

ここは父さんのような軍師になるため、私の話術をもって桑田さんの疑惑は払拭させて貰いましょう。と、言いたいところですけど…

 

「は⁉ 何言ってんだよ苗木!舞園が呼びつけてきて俺を殺そうとしたんだよ!」

「違います!桑田さんが扉をこじ開けて入ってきて、私、怖くて…」

「ひどいよ桑田君!舞園さんを襲うなんて!」

 

こうもパニックになられると何も進展しませんね。まずは…

 

「皆さん、一旦落ち着いてください。こうも興奮されると言いたいことも分からなくなりますから」

 

こうしないと、話し合いにすらなりませんからね。

まず、ここが誰の部屋なのか明らかにしましょう。

 

「私の記憶違いでなければ、ここは苗木さんの部屋のはずなんですが、どうして舞園さんが部屋にいたんですか?」

「…舞園さんに頼まれたんだ。一晩だけ部屋を交換してほしいって」

「その時、手に怪我をしていましたか?」

「いや、してなかった」

「舞園さん、苗木さんの部屋を訪れたのはいつ頃の時ですか?」

「夜時間が始まる、少し前です」

 

なるほど、これは覚えておきましょう。じゃあ次は…

 

「部屋を交換してもらってからしばらくしたら、急にドアが開いて桑田さんが押し入ってきたんです!」

「だからンなことしてねぇって!」

 

…どうやら、ここが最初の勝負所みたいですね。

 

 

 

 

<議論開始!>

・部屋の交換

・舞園の怪我

・工具セット

 

舞園

「苗木君に部屋を[交換してもらって]から、部屋で寝ていたんです」

 

舞園

「そしたら、突然ドアが開いて[包丁を持った桑田さん]が襲い掛かってきたんです!」

 

舞園

「私、怖くて…無我夢中で[シャワー室に逃げ込んだ]んです」

 

桑田

「だから、そんなの全部[でっち上げ]じゃねーかよ!」

 

桑田

「俺は舞園に襲われた[被害者]だっての!」

 

 

 

(桑田さんの言い方だと荒れる一方ですね。ここは冷静にオカシイ点を突くことにしましょう)

 

 

 

舞園

「苗木君に部屋を[交換してもらって]から、部屋で寝ていたんです」

 

舞園

「そしたら、突然ドアが開いて[包丁を持った桑田さん]が襲い掛かってきたんです!」

 

―――――それは違います!【舞園の怪我】

 

 

「ち、違うって…舞園さんの話はいったい何が違うの?」

「舞園さん、その手の怪我はいつ負ったものですか?」

「これは、桑田さんに襲われたときに出来たものです。必死で抵抗して、何とかシャワー室に…」

「だから俺h…」

「桑田さん少し黙ってください」

「えぇ…」

 

本当に話が進みませんので。

 

「ですが舞園さん、包丁を持った桑田さんに襲われたのなら、その怪我は有り得ないんですよ」

「有り得ないって…どうしてそんなことが言い切れるの、マークさん」

 

苗木さん、疑ってますね。疑いの目を向けたままです。

 

「簡単なことですよ。どうして包丁で襲われたのに、【切り傷】ではなく【打撲傷】なんですか!」

「あっ!いや、それは………」

「待ってよマークさん!何も桑田君に襲われたときだなんて言えないんじゃ…」

「彼女は部屋の交換時、怪我をしていなかった。これは苗木さんが言ったんじゃないですか!」

「ああっ!」

 

全く、自分の言葉くらいちゃんと覚えていてほしいものですね。

 

「あ。あの…いいですか?」

「どうしました、舞園さん」

「すみません。さっきまで気が動転してて…思い出したんです。そこのシャワー室に逃げ込むときに、手を挟んじゃって、それで怪我したんです」

 

…う~ん、これは否定するのは難しそうですね。無理に追及すれば却って反撃されてしまいます。疑われている今の状況では、これ以上の追及は危険ですね。

 

「…わかりました。では桑田さん、貴方は何故夜時間出歩き禁止ルールがあるにも拘らず、舞園さんの部屋を訪れたのですか?」

「それは、このメモで舞園に呼び出されたんだよ」

 

彼はそう言ってポケットから一枚の紙を取り出しました。全員で確認すると…

 

『二人きりでお話ししたいことがあります。5分後に私の部屋に来てください。部屋を間違えないようにちゃんとネームプレートを確認してくださいね 舞園さやか』

 

…なるほど。この怪しい手紙に釣られてノコノコとやってきたわけですか。浅はかとしか言いようがないですね。

 

「…知りません。こんな手紙、私知りません!」

 

自分は桑田さんに襲われた被害者。ということにしたい舞園さんにとっては当然容認するはずがありませんよね。次は、このメモが争点となりそうです。

 

 

 

 

 

<議論開始!>

・部屋の交換

・舞園の怪我

・工具セット

・桑田が持っていたメモ

 

桑田

「夜時間になってしばらくしたら、ドアにメモが[挟まっている]のに気づいたんだ」

 

桑田

「ちゃんと5分後に部屋に行ったら、[包丁を持った]舞園が襲い掛かってきたんだよ!」

 

舞園

「桑田さんを襲ってなんかいませんし、[そんなメモも知りません]!」

 

桑田

「でも、このメモには[舞園の名前]が入っているじゃねーか!」

 

苗木

「このメモ自体は、みんなの[部屋にあるメモ帳]みたいだね」

 

苗木

「舞園さんの名前は[みんな知っている]から、そのメモは誰でも書けたよね」

 

舞園

「本当は[桑田さんが書いた]物じゃないんですか、そのメモ」

 

苗木

「そのメモを[舞園さんが書いた証拠]、あるとは思えないけど…」

 

 

 

(名前だけでは証拠にならない、ですか。確かに父さんやクロムさんの名前ならイーリス中に知れ渡っているから、名前だけなら問題なく書けますね。

でも、舞園さんが書いたなら”アレ”に必ず痕跡があるはずです!)

 

 

 

桑田

「夜時間になってしばらくしたら、ドアにメモが[挟まっている]のに気づいたんだ」

 

桑田

「ちゃんと5分後に部屋に行ったら、[包丁を持った]舞園が襲い掛かってきたんだよ!」

 

舞園

「桑田さんを襲ってなんかいませんし、[そんなメモも知りません]!」

 

桑田

「でも、このメモには[舞園の名前]が入っているじゃねーか!」

 

苗木

「このメモ自体は、みんなの[[〇部屋にあるメモ帳]]みたいだね」

 

苗木

「舞園さんの名前は[みんな知っている]から、そのメモは誰でも書けたよね」

 

舞園さん

「本当は[桑田さんが書いた]物じゃないんですか、そのメモ」

 

苗木

「そのメモを[舞園さんが書いた証拠]、あるとは思えないけど…」

 

―――――それは違います!【部屋にあるメモ帳】

 

 

「メモ帳?それが証拠になるの?」

「ええ、なっちゃうんですよ。苗木さん」

 

彼女を信じている苗木さんには悪いですが、舞園さんが書いたことを証明してくれるはずです。

 

「もし、このメモ帳に何か書いたのなら、その後ろの紙にも筆圧が残ります。それを鉛筆の芯で紙全体を軽くこすれば…」

 

口で説明しながら、この部屋のメモ帳で実践していきます。そうすると…

 

『二人きりでお話ししたいことがあります。5分後に私の部屋に来てください。部屋を間違えないようにちゃんとネームプレートを確認してくださいね 舞園さやか』

 

やっぱり!浮かび上がってきましたね。

 

「念のためお聞きしますが、これは苗木さんが書いたものではありませんよね?」

「…うん」

 

心ここにあらず、といった感じですね。信じた人に裏切られたのだから、当然といえば当然ですが…

 

「もうお分かりですね。元の部屋の持ち主である苗木さんは書いていないと言いましたし、何より書く理由がありません」

「じゃあ、やっぱ俺の部屋のドアにこのメモを挟んだのは…」

「勿論、舞園さんです」

「………待って、マークさん」

 

まだ認められませんか。苗木さんにはつらいでしょうけど。

 

「…そのメモ、本当にこの部屋のメモ?桑田君のメモじゃないの?」

 

…なるほど、すり替えですか。有り得ないことじゃないんですけど。

 

「オイ苗木、いい加減にしろよお前。そんな屁理屈並べて何になるんだよ」

「僕には舞園さんが簡単にコロシアイをするとは思えない!さっきのメモ帳だってこの部屋のものだという証拠は無いんだ!」

 

ヒートアップしてきてますね。ですが、ここは彼の主張を聞いていくことにしましょう。

 

 

 

 

<議論開始!>

・部屋の交換

・舞園の怪我

・工具セット

・桑田が持っていたメモ

・超高校級の「幸運」

・超高校級の「アイドル」

・超高校級の「野球選手」

 

苗木

「桑田君のメモも、舞園さんの怪我も、[都合がいいように]解釈しただけじゃないの!?」

 

桑田

「じゃあ聞くけど、俺たちはどうやって舞園の[部屋の鍵]を開けたんだよ?」

 

桑田

「[鍵が壊された]感じはないぜ?」

 

苗木

「マークさんが僕を呼び出したように、[メモを使った]りしたんじゃいないの」

 

苗木

「それで出てきたところを[襲い掛かった]、ってこともあり得るよね」

 

桑田

「だから何度も言うように、俺は[呼び出された]だけなんだよ!」

 

 

 

(感情的に対応してどうするんですか桑田さん。とはいえ、苗木さんもかなり感情的ですね。本人は冷静に考えているつもりなんでしょうけど、有り得ないんですよ、苗木さん)

 

 

 

苗木

「桑田君のメモも、舞園さんの怪我も、二人にとって[都合がいいように]解釈しただけじゃないの!?」

 

桑田

「じゃあ聞くけど、俺たちはどうやって舞園の[部屋の鍵]を開けたんだよ?」

 

桑田

「[鍵が壊された]感じはないぜ?」

 

苗木

「マークさんが僕を呼び出したように、[メモを使った]りしたんじゃいないの」

 

苗木

「それで出てきたところを[襲い掛かった]、ってこともあり得るよね」

 

―――――それは違います!【超高校級の「野球選手」】

 

「…マークさん、どういうこと?」

「苗木さん、残念ながら、そんな状況なら舞園さんが逃げ切れるはずが無いんですよ。舞園さんが部屋のシャワー室に逃げ込むまでに桑田さんなら必ず追いつきます」

「ちょっと待って。舞園さんだってアイドルとして多くのステージに立っているんだ。体力なら負けてないはずだよ!」

「確かに体力だけで言えばそうでしょうね。ですが、野球選手には攻撃や守備のほとんどの場面で素早い走りが求められます。その分野で圧倒的な実力を持つ桑田さんが本気で追いかければ、いかに踊り子として鍛えられた舞園さんでも逃げ切るのは不可能です」

 

この前桑田さんに野球について教えてもらって正解でした。競技の内容から考えれば、間違いなく走力が必要ですからね。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

…舞園さん、今度は何を言い出すんでしょうか。

 

「私、もしかしたら苗木君が何か忘れ物したんじゃないかと思って、鍵を開けたんです。その時に、あそこに落ちてる模造刀を持って行って、模造刀でガードしながら…」

 

実際模造刀を調べた結果、何かを防御したときに出来たと思われる傷跡がありました

この後出しじゃんけんが辛いですね。せっかく矛盾点を指摘しても、後出しの情報で解決されてしまう。

ですが諦めません。誰かが濡れ衣を着させられるのはゴメンですし、何より今回の一件を通じて、私は見極めたいことがあるのです。

 

「…もう分かったはずだ。これが事件の真相だよ!」

 

苗木さん、勝負です!




高山流水さん、クリシュナさん、誤字報告ありがとうございます<(_ _)>


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イキキル⑤

<議論開始!>

・部屋の交換

・舞園の怪我

・工具セット

・桑田が持っていたメモ

・超高校級の「幸運」

・超高校級の「アイドル」

・超高校級の「野球選手」

 

苗木

「まず、部屋で寝ていた舞園さんの部屋に[誰かが押し入ろうとした]」

 

舞園

「誰かを疑ってたわけじゃないんですけど、[怖くなって]しまって…」

 

苗木

「そして、[廊下に出て]僕の部屋まで来たんだ」

 

苗木

「そして[部屋を交換した]あとで、桑田君が僕の部屋まで来たんだ」

 

舞園

「私、てっきり苗木君が[忘れ物]をしたんじゃないかと思って、ドアを開けたんです」

 

苗木

「そして、桑田君はドアが開いたと同時に舞園さんに[襲い掛かった]」

 

舞園

「何とかかわしたり、[模造刀で防いだり]しながらシャワー室に逃げ込んだんです」

 

苗木

「桑田君はそのあと、シャワー室を開けるために[工具セット]を取りに自分の部屋に戻ったんだ」

 

舞園

「マークさんが苗木君に[助けを求めて]なかったら、どうなっていたかと思うと…」

 

桑田

「だから、全部でっち上げだっての![俺がやったっていう証拠]は何処にあるんだよ!」

 

 

 

(「僕が貴女を必ずここから出す。」そう宣言するくらい、苗木さんは彼女を信じているんですね。ですが、それは時に悪意に付け込まれる隙にもなる。彼女には大きな矛盾があるんです)

 

 

 

苗木

「まず、部屋で寝ていた舞園さんの部屋に[誰かが押し入ろうとした]」

 

舞園

「誰かを疑ってたわけじゃないんですけど、[[〇怖くなって]]しまって…」

 

苗木

「そして、[廊下に出て]僕の部屋まで来たんだ」

 

―――――それは違います!【怖くなって】

 

「………どういうこと?マークさん」

 

だって、そもそもの理由が有り得ないんですよ。

 

「苗木さん、舞園さんは誰かに狙われているから、怖くなって苗木さんの部屋に来たんですよね?」

「うん、それで部屋の交換をしたんだ」

「よく考えてください。舞園さんを狙ったにせよ、誰でもよかったにせよ、その時廊下には、誰かを殺そうとする人物がいたことになる。なのに、どうして舞園さんは謎の人物が居る可能性がある廊下に出たんですか?」

「そ、それは………」

 

そう、ここです。ここが不可解なんです。私の見立てでは、舞園さんは毎日のあいどる?とやらの稽古で身体能力こそ高いものの、戦闘経験に関しては皆無といえるでしょう。誰かに襲われたとき、上手く対処できるとは思えません。

 

「仮に誰かに助けを求めるためと仮定しても、呼び鈴を鳴らしてすぐに扉が開くとは限らない。加えて、その助けを求めた人物が命を狙っていないという保証は無い」

「そうだよ!部屋を襲ったのは苗木だってことも考えられるだろ!」

「…だって、苗木君が私を襲ってくるなんて、そんなことないって信頼してたから…」

 

舞園さん、今あなたの口から【信頼】なんて言葉、聞きたくないですね。

 

「確かに、苗木さんと舞園さんは、この建物内を探索しているときも、基本的に行動を共にしていましたね。信頼関係があったとしても不思議じゃない」

「そうだよ。僕と舞園さんは二人で脱出するって誓ったんだ!だから僕が舞園さんを襲うなんて…」

「ですが、廊下にいた謎の人物とは…」

「その…いいですか?」

 

…むうぅ、この後出し情報で結構かわされているんですよねぇ。ですが、聞かないわけにはいかないですよね

 

「何ですか、舞園さん」

「実は、その音がしてから結構時間が経っていたんです。だから、外に出ても大丈夫かなって…」

「だったら、舞園さんが廊下に出てもおかしくは無いんじゃ…」

 

………ようやく、ようやく捕まえましたよ。

 

「だとすると、別の問題が生じてしまいますね」

「マークさん、いい加減にしないと怒るよ!」

 

苗木さんが今怒っているように見えているのは私だけなんでしょうか?

 

「苗木さん、少し想像してみてください。脱出のために殺人を強要されている異質な空間で、誰かの部屋に無理やり侵入しようとしている人を見かけた。そのあと、侵入された側の人が殺害されたら、犯人は誰だと考えますか?」

「…そんなの、侵入した側じゃないか」

「そう、加えて見つかって途中でやめても、ずっと疑いの目で見られ続けるでしょうね。本当に殺害するつもりなら、誰にも見られてはいけないんです。」

 

でなければ、何をするにも警戒されるし、もっと言えば軟禁されたり、殺人の濡れ衣を着せられたりする恐れも出てきますからね。

 

「なぁ、マークはいったい何が言いてぇんだ?」

「…つまり、出歩き禁止のルールが適用されない時間帯に、誰が通るかも分からない廊下で、他人の部屋をこじ開けようとする奇怪な行動など出来るはずが無いんですよ、舞園さん!」

 

舞園さんの顔がだんだん見えなくなってきました。うつむいたせいで影が出来ているし、前髪が邪魔で表情が良く見えないです。

相手の心理を読むうえで表情は重要なんですけど、これでは分かりませんね。

 

「ずっと気になっていました。もし舞園さんを襲おうとしている誰かが居たとして、なぜそんな危険極まりない行動に出たのか。襲われてすぐに苗木さんに助けを求めたなら、夜時間の直前ですから、見つかる危険性も低くなっていることでしょう。ですが、助けを求めた時間と襲われた時間に差があるなら話は別です。探索は続けていますから見つかる危険性も高い」

「えーと、つまり、どゆこと?」

 

ちょっとは自分で考えてくれませんかね桑田さん。

 

「襲われてすぐ助けを求めたなら舞園さんの行動が、安全を確保するほど時間差があったのなら襲撃者の行動が矛盾している、ということです」

「………………………………………………………」

「? 何か言いましたか舞園さん?」

 

声が小さくてよく聞き取れませんでした。なんだかさっきからブツブツ言ってるんですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ</small>黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ

 

黙れ!!!!

 

うわっ、怖っ。まるで親の仇でも見るかのような怒りに満ちた目で見られてますし、心なしか髪の毛の先がゆらゆらと蠢いているように見えます。

 

 

 

どうやら、ここが正念場のようですね。

 

「舞園………さん?」

「いや、あの………落ち着こう?な?」

 

苗木さんも桑田さんも舞園さんの変化についていけてないみたいです。まぁ、無理もないかもしれませんね。何というか今の舞園さん、あいどる?がしてはいけないような顔していますし。

踊り子さんなら知り合いにもいましたけど、あんな顔で踊られたら元気が出るどころか恐怖ですくんで動けなくなるんじゃないですかね………

 

「さっきから何なんですか!私は桑田君に襲われた被害者なんですよ!」

「本当に桑田さんが舞園さんに襲い掛かったのか確認したいだけですよ、舞園さん」

 

その割には話がちぐはぐじゃないですか。話が合わないからこうやって追及しているんです。

 

…皆さん、円盤を机に食べさせてから何か様子がおかしくなりましたけど、彼女は輪をかけておかしくなりました。何というか…戦火によって故郷が焼け落ち、帰る場所がなくなった人たちと同じ目をしているんです。

一体、何が彼女を変えてしまったのか、それを知るためには………

 

「………情報を整理します。これが、今回の一件の真相です!」

 

1.まず、舞園さんは苗木さんの部屋へ行き、部屋の交換を提案した。おそらく、今後起こす事件の濡れ衣を着せるためです。

 

2.次に、メモを用意して、桑田さんの部屋のドアにメモを挟んだ。

 

3.そして、メモに呼び出された桑田さんを、部屋に招き入れ、そこで予め用意していた包丁で襲い掛かった。

 

4.本来ならここで桑田さんが死亡する手はずだったが、部屋にあった模造刀で、咄嗟にガードしたのでしょう。その後、反撃に遭い、舞園さんは負傷しました。

 

5.そこで彼女は身を守るために、シャワー室へ立て籠りました。

 

6.桑田さんはシャワー室を開けようとしましたが、立て付けが悪いため開きませんでした。ところが、この部屋を舞園さんの部屋だと思い込んでいた桑田さんは、シャワー室の鍵を閉められたと思い、自分の部屋にドアを開けるための道具を取りに帰った。

 

7.その間に、私と苗木さんがこの部屋に入った。

 

「………と、いったところでしょうか。何か反論はありますか?」

「ありますよ!あなたの話は全て推測じゃないですか!」

 

現状を考えれば、これしかないんですがねぇ…

なら、決定的な証拠を突きつけるとしましょうか!

 

【トドメを刺せ!】

 

「あなたの話は全て推測です!決定的な証拠がないんですよ!」

 

――――これで終わりです!【ネームプレート】

 

 

 

 

「………ね、ネームプレート?…そんなの、いったい何の意味が………」

「桑田さん、貴方のドアに挟まっていたメモ、もう一度見せてもらえませんか?」

「お、おぅ…」

 

そう、このメモに貴女を指し示す、決定的な証拠があるんです。

 

「メモにはこう書かれていますね。『部屋を間違えないようにちゃんとネームプレートを確認してくださいね』と。」

「あ!」

 

苗木さん、気づいたみたいですね。

舞園さんから血の気がどんどん失われていきますね。今なら、昔ソンシンで見た能面をつけていると言われても信じてしまいそうです。

 

「そうです。舞園さんと苗木さんは部屋を交換していました。この状態で桑田さんが部屋を訪れた場合、本来なら[苗木さんのいる舞園の部屋]に向かうはずなんです。例え桑田さんがメモを書いたとしても同じことです」

「でも、実際は僕が居る部屋じゃなく舞園さんが居る部屋にたどり着いた。まさか…」

「確認しますか?」

 

舞園さんが「ダ、ダメ…」と細い声で静止しましたが、聞こえなかったのか無視したのか、おそらく前者でしょうけど、苗木さんが部屋を出ていきました。

すぐに戻ってきた苗木さんは、うつむいていて表情が分かりません。うーん、できれば壊れないで頂きたいのですが…

 

「その様子だと、この部屋には舞園さんのネームプレートが掛けられていたみたいですね」

 

無言のまま頷く苗木さん。

 

「二人の部屋のネームプレートを交換する理由はただ一つ。メモで呼び出す人物を自分のもとへ誘導するため。そして、二人が部屋の交換したことを知っていた人物。その条件を満たすのはただ一人、舞園さやかさん。貴女しかいないんですよ!」

 

能面を通り越してそろそろ幽霊のように透け始めそうな白さのまま、舞園さんは崩れ落ちました。

 

 

 

私の策のほうが、上回っていたみたいですね。【COMPLETE! 】



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イキキル⑥

~苗木視点~

マークさんの手によって、事件の真相は明らかになった。舞園さんが僕にコロシの濡れ衣を着せようとしたこと、舞園さんが桑田君をコロそうとしたこと。

………正直、知りたくなかった。

 

「舞園さん、聞かせてもらえませんか?桑田さんを殺害しようとした理由を」

 

マークさんが舞園さんに問いかけるも、全然反応が無い。

でも、知りたい。一体どうして、一緒に脱出しようと誓った舞園さんが、僕を騙したのか…

 

 

 

「はいはーい!その質問に関しては僕がお答えするよ!」

「「「「!」」」」

 

先ほどの重苦しい空気に不釣り合いな高い声でそう言いだすのは、どこからともなく現れたモノクマ。

 

「もう!突然現れないで下さいよ!ビックリするじゃないですか!」

「うぷぷぷぷ、マークさんはびっくりさせられる側の気持ちが分かったかな?それはそうと、舞園さんも怖いねぇ、あんなかわいい顔して一緒に出ようと約束した相手を身代わりに自分だけ出ようとヒトゴロシをするなんてね。桑田クンも桑田クンで工具セットなんて持ってきて何するつもりだったんだろうね。あぁ~想像しただけでもゾクゾクするぅ!」

 

まるでこの間観てきた映画の感想を話すような口調で、興奮したように嬉々として語りだすモノクマ。今ここで起きたことをすごく喜んでいるようにも見える。

 

「でも、もっと面白くなると思っていたのに、マークさんのせいでコロシアイは無くなりました。とってもガッカリです…」

「あなたの趣味嗜好なんてどうでもいいです。それより、舞園さんの理由って何ですか?」

「いや、マーク、どうでもいいってことはねぇんだけど…」

 

うん、桑田君に賛成。コロシアイが起きなかったことを残念がるモノクマも、それをどうでもいいと切り捨てるマークさんもおかしいと思う。

 

「うぷぷぷぷ、口で説明するより、実際見てもらったほうが早いよね。というわけで、こんなものをご用意しました!」

 

そう言うと、部屋のドアが開き、二体のモノクマが大きなテレビを抱えて入ってきた。

 

「舞園さんの“動機DVD”を流したいと思いま~す!」

「やめて!」

 

反射的に舞園さんが飛び出すが、それ以上の速さでマークさんが抑え込む。

舞園さんも抜け出そうとじたばたしているけど、全然抜け出せそうにない。マークさんってひょっとして腕力あるのかな?

 

「それでは、どうぞー!」

 

その言葉を合図に、テレビの画面がついて、舞園さんの“動機DVD”の再生が始まった。

その映像は、舞園さんが所属するグループのコンサート映像のようだった。

舞園さんをセンターに、大事な仲間たちと踊っている映像がしばらく流れた後、あの忌々しい声が聞こえてきた。

 

「超高校級のアイドルである舞園さやかさんがセンターマイクを務める国民的アイドルグループ。そんな彼女たちには華やかなスポットライトが本当によく似合いますね。ですが…」

 

そこで、画面が突然暗転した。そして、僕らは信じられないものを目の当たりにした。

 

「えっ⁉」

「はぁ⁉」

 

荒れ果てたステージ上からは舞園さんの姿は消えていた。だが、それ以上に目を引いたのが、ステージ上にぐったりと倒れこんだほかのメンバーたちの姿…

有り得ないはずの光景に目を奪われていると、映像の大型モニターに何故かモノクマの顔が映し出された。

 

「訳あって、このアイドルグループは解散しました!彼女たちがアイドルとして活動することも、スポットライトを浴びることも二度とありません!つまり、舞園さやかさんの“帰る場所”は、もうどこにもなくなってしまったのです!」

「では、ここで問題です。この国民的アイドルグループが解散した理由とは⁉」

 

その後、再び暗転した画面に『正解発表は“卒業”の後で!』と表示された。

 

「…なるほど、仲間の安否を知るために、今回の事件を起こした。ということですか…」

「うぷぷぷぷ、こんな本当かどうかも分からない映像一つでコロシを計画しちゃうなんて怖いねぇ。しかも一緒に脱出しようと約束した苗木クンに罪を被せようとするなんてアイドルも何もあったもんじゃないよね。うぷぷぷぷ………あれ、マークさん?」

 

マークさんはモノクマの言葉にも反応せず、顎に手を当ててなにか考え込んでいるみたいだ。

 

「まぁいいや、面白いことは起きそうにもないし、あとは非難するなりコロすなり好きにすれば?」

 

じゃ~ね~、と三体のモノクマが部屋から退出する。とはいえ、僕にはこの重苦しい空気はどうしようもなかった。桑田君もおそらく同じ、マークさんは考え中みたいだし、マークさんから解放された舞園さんも押さえつけられた状態のまま動こうとしない。

そんな空気に耐えられなくなったのか、桑田君が口を開いた。

 

「なぁ、舞園、今の映像が理由で…」

「…えぇ、そうですよ。私にとって、アイドルという仕事は私のすべてだったんです。何を犠牲にしてでも“あの場所”を今まで守ってきたんです。なのに、なのに………帰る場所が無くなったってどういうことですか!なんで私がこんな目に合わなきゃいけないんですか!私は、どうしても確かめなきゃいけなかったんです!だから…だから私は!」

「だから、苗木さんを騙し、桑田さんを亡き者にしようとしたんですね」

「しょうがないじゃないですか!ここにいたって仲間のことも私の居場所についても何も分からないじゃない!」

 

舞園さんにとってアイドルというのは、きっと何にとっても代えがたいものなんだろう。幼いころからの夢をかなえるために、一体どれほどの努力をしてきたのだろう。

水中を息継ぎ無しで全力で泳ぎ続けなければいけない世界…

思えば、学校の授業こそ出席していたけど、下校時にはいつも事務所の車が迎えに来ていた。土日でも基本的にはスケジュールが詰まっているという話だったし、私生活なんてものは、存在しなかったのかも知れない。

それだけ大変な生活を続けてでも、アイドルであり続けた舞園さん。

 

「舞園さん」

「な、何ですか。苗木君」

「………一つだけ、聞かせて」

 

僕が気になるのは一つだけ。

 

 

 

 

 

~舞園視点~

きっかけは、幼いころにテレビで見たアイドルに憧れたことだったと思う。両親は仕事で家を空けることが多く、一人で留守番することも珍しくなかった。

そんな私にとって、その寂しさを紛らわせるのがテレビだった。だから、テレビで見るうちに、アイドルを見て、そうなりたいと思ったんだろう。ただ、芸能事務所に入ってからはレッスンを通じて自分を追い込むうち、どうしてアイドルを志したのかは忘れてしまった。

それでも、私には幼いころから努力を続けてきた“アイドル・舞園さやか”が何より重要だった。だから、アイドルとしての私を守るためなら、どんなことでもした。

こういうことを言うと、枕…を思い浮かべる人もいるだろう。でも私は、というより私が所属する事務所では、そういうことは絶対ないと断言できる。

別に規律がしっかりしているとか、道徳心があるとかじゃない。

枕に限らず、裏でのつながりや非公式な取引を別の事務所に所属するアイドルが行った場合、私の事務所はそれをいち早くキャッチし、証拠を押さえたうえで、その事務所や所属アイドルに圧力を加えるのだ。そうやって競合相手を抑え込み、仕事を獲得していく。

たまに、そういった圧力を加えても屈しない人もいたが、そういう相手には遠慮なく不正を公開していた。私たちの事務所にとっては競合相手を減らすことが目的であるため、相手が芸能界から消えたとしても何も問題ないから。

そして、容赦がないのは私の事務所に所属するアイドルとて変わらない。もし私たちのグループの誰か一人でも裏での営業があれば、翌日には全員が解雇を言い渡される。自分たちが他事務所に脅しをかけているため、自分たちがそれをされれば身動きが出来なくなるのが分かっているからだ。

そんな風に追い込まれて、芸能界から追放されたアイドルを私は何人か知っている。だからこそ、私は裏での営業を絶対にしない。自分の夢を、そんなくだらないことで失いたくないからだ。

 

ただ、裏での営業をしないだけで、当然自分磨きは欠かさなかった。そのうえで、営業先や番組などで何を求められているのか、率先して読み取るように努めた。下積み時代から自分のファンや番組プロデューサーの考えや意向の読み取りを続けていくうち、相手の表情から考えていることが何となくわかるようになった。苗木君の考えを読み取ったのもここからきている。

顔を見ただけで考えを読み取る力と、裏での事務所の力。この二つが、私を「超高校級のアイドル」たらしめる力なのだ。

 

それでも、トップアイドルを続けていくには並々ならぬ努力が必要で、私生活など存在しないに等しかった。でも私はそれでよかった。私にとってはアイドルこそがすべてであったから。

そんなある日、学校に鶴が迷い込んだ。学校に動物が迷い込むなんて確かに珍しい出来事だけど、それでもしばらくしたら勝手に飛び立つだろうと思っていた。周りもおおむねそんな感じだった。ただ、しばらくしても一向に飛び立とうとしないので気になっていると、校舎から一人の生徒が走っていった。そのあと彼が鶴に何かすると、鶴はすぐに飛び立っていった。最初は彼が追い出したと思っていたけど、後になって鶴がビニール袋を誤って飲み込んでおり、弱っていたことが分かった。彼はのどからそれを取り出したようだ。つまり、彼は鶴を助けたのだ。

その日以降、鶴の恩返しになぞらえて『六中の恩返し待ち』なんて呼ばれる彼が、苗木誠のことが何となく気になるようになった。

 

そして、私は『超高校級のアイドル』として、希望ヶ峰学園にスカウトされ、閉じ込められてしまった。

最初は、自分が知っている人も居たし、みんなで協力して脱出する雰囲気もあって、特に問題はなかったけど、二日目、三日目となるにつれ、だんだん不安のほうが大きくなった。

そして、私は………あのDVDを観た。

信じられなかった。誰かが裏で営業を?いや、それは無い。私のグループのメンバーは程度の差はあれど、みんな芸能界を生き抜く覚悟がある人たちだ。そんな危険な橋を渡るとは到底思えない。しかも大型モニターにはモノクマの顔、何かが起きているとしか思えなかった。

 

確かめないと。守らないと。自分の居場所を。

 

 

 

 

どんな手を使ってでも!

 

 

 

 

そこから、私は計画を立てて実行した。まずは包丁を用意し、苗木君の部屋に向かった。怯える演技も、昔女優として出演したときに培ったものだ。苗木君をだましているとき、時折胸にチクリと刺すものがあったが、みんなの安否を確かめるために無視した。部屋の交換とネームプレートの交換を済ませ、あとはメモを見てノコノコやってきた桑田君を包丁で刺せば、それで終わるはずだった。

予想外だったのは『超高校級の野球選手』の反射神経と、反撃だった。私は彼の反撃によって手を負傷し、包丁を落としてしまった。

このままでは、自分が殺される。無我夢中で私はシャワー室に立て籠った。立て付けが悪く簡単には開かないのは知っていたので、これで一時的にやり過ごせると思った。でも、もし彼が工具セットでこじ開けたら?もう帰ったと安心して出たところを襲われたら?明日、襲ったことを問い詰められたら?

そんな恐怖感に襲われていた時、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。

まさか、もう戻ってきたのか、まずい、どうすれば…考えても考えても、思考がまとまらない。

すると、シャワー室のドアがガタガタと揺れだした。

だめ、コロされる。いやだ、死にたくない。私は必至で怪我をしていないほうの手でドアノブを握った。

するとすぐにドアの揺れは止み、部屋に入った誰かはすぐに出ていった。助かったと思っていると、また誰か入ってきた。しかも今度は二人。そして片方は………

もう一方の部屋にいるはずの苗木君だった。

シャワー室のドアが開いて、助かったという安堵の気持ちが一瞬、でもすぐに、このままでは濡れ衣を着せようとしたのがばれてしまうという焦りが沸き上がってきた。そこで私は、苗木君に話した『私を襲おうとした人物』を桑田君にすることにした。

あとはこの場をやり過ごして、またやり直そう。そう思っていた…

 

でも、その目論見は簡単に崩れ去ってしまった。マークさんの手によって。

こうなってしまっては、もう苗木君を利用するのは難しいだろう。明日になれば今回の一件で、全員に警戒されてしまうだろう。

もうおしまいだ。ここから出ることも、みんながどうなったか知ることも、もう私には出来ない。

 

「舞園さん」

「な、何ですか。苗木君」

「………一つだけ、聞かせて」

 

何を聞きたいんでしょうか。いっそのこと裏切られた復讐とかで包丁で刺してくれたら…

 

「舞園さんは、今でも外に出たいと思っている?」

 

どうして今更そんなことを、もうどうしようもないのに

 

「…出たいですよ。私には、あの場所しかなかった。小さなころから、トップアイドルになるために、今はトップアイドルの座を守るためだけに生きてきたんです!アイドルは私のすべてだったんです!だから、どうしても確かめたかった…」

「………だったら、確かめに行こう」

 

………え?

 

「…何言ってるんですか。分かってるんですか!私は貴方を騙したんですよ!」

「今まで舞園さんが、アイドルとしてどれだけ努力をしてきたのか、僕には正直想像もつかない。でも、それだけ必死に守ってきたなら、簡単に手放しちゃだめだよ」

 

どうしてここまで言えるのか。一体、どんな裏があるのか。

そう思って表情を読み取るけど、本当に私を心配しているようにしか見えない。

 

「一体、何が目的なんですか。私に何をさせたいんですか!」

「約束しただろ。僕がここから君を出してみせる。どんな手を使っても絶対に、って」

「………え?」

 

あんなの、ただの口約束じゃ………

気づくと私は苗木君に抱きしめられていた。

 

「もう一度言うからよく聞いてね。僕がここから君を出してみせる。どんな手を使っても絶対に」

 

ああ、今ようやく分かった。

私の周りにいた、利害関係でつながっているわけじゃなく、ただ純粋に誰かを助けたいと思う心。そんな優しさに、私は惹かれたんだ。

 

「………ごめ……なさい。苗木…くん……ごめん…なさい」

 

そのあとは号泣しまって、うまく言葉を紡げなかった。

騙した相手にすがって泣くなんて、自分でも都合がいいなと思う。でも今は、今だけはそれでもいいと思った。

そんな私でも、今私をやさしく抱きかかえてくれている苗木君なら許してくれそうな気がした。



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イキキル⑦

~舞園視点~

私が泣き続けている間、苗木さんは黙って私を抱きしめてくれた。気づいたら桑田君は居なかった。多分先に帰ったんだと思う。ようやく落ち着いたと思ったら、マークさんが突然口を開いた

 

「で、どうするんですか?」

「えっと、何を?」

「舞園さんの処遇です。今回、彼女は苗木さんを裏切り、桑田さんを殺害しようとしました。これは到底許されることではありません」

 

確かにマークさんの言う通りです。私は苗木さんに捨てられてもおかしくない…

 

「特に何も考えてないよ。というか、そんなことしないよ」

「どうしてですか?彼女は貴方の信頼に付け込み、利用しようとした。これを無罪放免とすれば、今後同じことをするかもしれません」

 

分からなくもない。だって私の事務所でも、芸能界のルールに違反した人にはペナルティが課せられていた。それは罰を与えるというだけでなく、自分が何をしたのか分からせることで再びルール違反をさせないようにするためだ。

だから苗木君が私に何かしてもおかしくない。

 

「もう舞園さんは裏切ったりしないよ!」

「どうしてそう言い切れるんですか!すでに苗木さんは一度舞園さんに騙されているんですよ。それだけじゃない、今後もモノクマによる殺し合いを誘発させる“動機”がばらまかれるでしょう。そうなれば、貴方や舞園さんが狙われることだって出てきます。誰が狙われるか分からないこの状況で、再び彼女が貴方を切り捨てないって言えますか。舞園さんをここから出してみせるって言えますか!」

 

マークさんが圧力をかけるように、顔がどんどん険しくなっていく。でもそれ以上に、私は独りぼっちになってしまうのではないかと怖かった。でも、私は苗木さんを裏切ってしまった以上、文句は言えない…

そんな私の不安が伝わったのか、苗木さんが私を強く抱きしめながら、こう強く言い放った。

 

「マークさんの言うように、モノクマが何かしてくるかもしれない。僕や舞園さんが狙われるかもしれない。それでも、僕は舞園さんと約束したんだ。だから彼女のことは僕がここから必ず出してみせる!諦めないことが、僕の取り柄だから」

 

………今更ながら、騙してしまったことに対する罪悪感で胸が苦しくなった。私は、こんな人を身代わりにしようとしていたんだ。

 

「………フフッ」

「なっ!」

「ちょっと!苗木君に失礼ですよ!」

 

思わず声が出てしまった。でも、人の決意を笑うのはちょっとどうかと思う。

 

「あぁごめんなさい。いや決して馬鹿にしたわけじゃないんです。なんというか、あの人と同じだなぁ、と思っただけです」

「あの人?」

「知り合いに一人いるんですよ。たとえ敵がどれほど強大であろうとも、たとえ状況がどれほど絶望的でも、絶対に希望を捨てず、仲間を決して見捨てない、今の苗木さんによく似ている人が」

 

マークさんがとても楽しげにその人について語っている。表情もさっきとは全然違っていて、本当にその人が好きなんだと分かる。

 

「すみません、実は苗木さんを試していたんです」

「僕を試す?」

 

どういうことだろう。そもそも何を試していたんだろう。

 

「舞園さんが苗木さんを利用したのに気づいたとき、苗木さんが彼女をどうするのかを観たかったんです。舞園さんを切り捨てるのか。それとも彼女を守ろうとするのか。もし、それでも舞園さんを守るというなら、私は苗木さんの軍師としてさせてほしいな、って」

「え?じゃあ…」

「ええ、手伝わせてもらえませんか?この場所から、みんなで脱出するんです」

 

マークさんの申し出は、私たちと一緒に脱出するというものだった。確かに、マークさんの頭脳なら脱出に大きく貢献できるかもしれない。

 

「それはありがたいけど、どうして僕なの?軍師として仕えるなら、十神君のようなリーダーの素質がありそうな人のほうがいいような気がするんだけど…」

「いえ、十神さんじゃダメなんです。確かにあの人は、人の上に立つ素質があると思います。でも、全部自分一人ですべてをこなすでしょう。そんな人の軍師になっても、私の出番はありません。それに、今後人を引っ張っていくとしたら、理屈や規律ではなく、人への思いやりや優しさといった“心”が重要なんです」

 

そう言いながら、マークさんは苗木君に手を差し伸べる。握手を求めるような形で。

 

「そういった意味では、自分を騙した相手さえ救おうとする苗木さんが一番ですから」

 

それを見たくて、私の計画を苗木さんの前で暴いたんですね。でも確かに、苗木君以上にやさしい人はいないと思う。

 

「そういうわけで、これからよろしくお願いしますね。苗木さん!」

「ああ、うん。よろしくお願いね」

 

そういって握手を交わす苗木さんとマークさん。でも時間はおそらく深夜帯。だから…

 

「ふぁ~」

 

マークさんが大きなあくびをしてしまった。私もつられそうになる。

 

「すみません。もう遅いので朝日奈さんの部屋に戻りますね」

「じゃあ、僕たちも寝ようか。舞園さん」

 

そう言って苗木君は私の部屋の鍵を出してきた。それを受け取るときに、苗木君の手に手を重ねる。

私の決意を、苗木君にしっかり伝えるために

 

「苗木君。私は貴方に、本来ならばどれだけ謝っても許されないことをしました。それでも、苗木君があの約束を守るのなら、ここから出してくれるのなら…私も今度こそ、助手として貴方の力になります。これから先、モノクマによるコロシアイを誘発させるための工作は次々と出てくるはずです。ですが私は、自分が一番なりたかったものを思い出しました。ですから、たとえモノクマが何をしてこようとも、もう惑わされません!必ず生きて、ここを脱出しましょう!」

 

苗木君が真剣な眼差しで手を握り返してくる。表情を読み取らなくても、伝わっているのが分かる。私は鍵を受け取り、部屋を後にする。

 

「おやすみなさい、苗木君」

「おやすみ、舞園さん」

 

もし、私が誰かをコロそうとしたことが世間に知られれば、アイドルとしてはおろか芸能人として終わりだろう。それでも構わない。だって私はもう見つけたから。

一度交わした約束だからと、自分を身代わりにした相手すら救おうとする、苗木君のような。

閉じ込められ、出口が無いと分かっていても自分の手で脱出してみせようとする、マークさんのような。

幼いころ、家でさみしい思いをしてた私を画面越しに勇気づけてくれた、あの日のアイドル達のような。

誰かにとっての希望に。今度こそ私はなってみせるから。



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イキキル⑧

~苗木視点~

昨日は本当に長い一日だった。モノクマによる動機のDVDだったり、舞園さんのことだったり、マークさんのことだったりと、一日に起きた出来事にしてはボリューム満点な日だった。

モノクマによる朝のアナウンスで目を覚ました僕は、朝食を食べるため食堂へ向かう。

すでに石丸君のような、時間を守る人たちは食堂に来ていた。

 

「おはよう苗木君!少し眠たそうだが大丈夫か?」

「おはよう石丸君。昨日はなかなか寝付けなくてね」

 

昨日起きた出来事をそのまま話すのも気が引けたので、そこは伏せておくことにした。

 

「あー苗木もそうだったんだ。私も眠れなくてさ、さくらちゃんに無理言って私の部屋に泊まってもらったんだよね」

 

僕が眠れなかったのは別の理由だけど、まぁ気持ちは分かる。あのDVDは人の不安をあおるには十分過ぎた。

 

「不健全ではないか!男女が一つの部屋で眠るなど!」

「我は女だが…?」

「し、失礼した………」

 

そんな会話をしている間に、他の人たちも続々と食堂に集まってくる。

 

「おはようございます。苗木君」

「苗木さ~ん。一緒に食べましょうよ~」

 

憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔の舞園さんと、いつもと変わらないマークさんが声を掛けてきた。特に断る理由もないので、そのまま一緒にご飯を食べる。

………超高校級の野球選手から呪いの言葉らしき呪文が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。うん、気のせいだ。

全員が朝食を食べ終えた後、モノクマからアナウンスが流された。

 

「え~、オマエラ、三十分後に体育館に集合してください。以上」

 

いつものモノクマらしからぬテンション低めなアナウンスに違和感を覚えながらも、とりあえず体育館に全員で向かう。

体育館に到着すると、一番最初の朝礼のように壇上にモノクマが飛び出してきた。

 

「はぁ~、オマエラには心底ガッカリです。せっかくコロシアイに相応しい環境を整えて動機まで用意したってのに、結局なぁんにも起きなくて残念です…」

 

そう言いながら、何故かそこにあった小石をコツンと蹴るモノクマ。昨日のことでコロシアイが起きなかったのがそんなに残念だったのか…

というか、どうしてそこまでコロシアイにこだわるのか…

 

「そんな簡単に誰かをコロそうとするわけないじゃん!」

「DVDのことは確かに気になるけど…だからって…」

「つうかよ、このレクレーションいつまで続くわけだべ?そろそろ疲れてきたべ」

 

朝日奈さんや不二咲さんがそれぞれモノクマに反論する。葉隠くんは昨日のことをしらないから、まだこれがレクレーションだと思っているみたいだ。

でも、本当にレクレーションなら舞園さんがあんなこと起こす前に当然止めるだろうし、何よりあんなDVDを用意する理由が分からない。レクレーションやドッキリにしては度が過ぎる。

 

「あ、そうだ。モノクマさん、質問いいですか?」

「またマークさん?今度は何?」

 

こんな状況でもマイペースというか、空気が読めないというか、唐突に質問を出してくるマークさん。

 

「昨日貰った生徒手帳に書かれていた校則の6番目に書かれていることに関して詳しく説明をお願いします」

 

校則の6番。僕らに配られている電子生徒手帳には、この希望ヶ峰学園で生活するにあたって守るべき校則が存在する。6番の内容は以下の通りだ。

 

仲間の誰かを殺したクロは〝卒業〟となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

 

つまりこれは、コロシアイのルールといえるものだ。

 

「ん~?んん~~?どうしてそんなこと気にするの?マークさんはそれ聞いてどうするのかな~?」

 

まるでコロシアイを実行するためにルール確認を行うような行為に、みんなの視線が突き刺さる。(舞園さんと桑田君は心配そうな目をしていた)しかし、マークさんは気にも留めていないのか、そのまま言葉をつづけた。

 

「だって、他の校則は規定や禁止行為が明確なのに対して、この校則だけ曖昧なんですよ。分からないことも多くて、気になります」

 

「………ふ~ん。ま、いいでしょう。校則6の補足説明をします。校則6にもある通り、ただ殺すだけじゃ駄目なの。ほかの生徒に知られないように殺さなければならないの!で、その条件がクリアできているかどうかを査定するためのシステムとして…

殺人が起きた一定時間後に、『学級裁判』を開くこととします!」

 

学級裁判、初めて聞くフレーズだ…

モノクマの説明を要約すると、学級裁判では生徒全員で誰が犯人かを議論する。

その結果、犯人を見破った場合は犯人だけが“おしおき”

犯人を見破ることが出来なかった場合は、犯人が卒業してここを出て、残った生徒全員に“おしおき”が行われる。

 

「あの…さっきから連呼している、“おしおき”とは…」

「あぁ、簡単に言えば処刑だね」

 

処刑の二文字に程度の差はあれど全員が動揺する。不二咲さんに至ってはもう泣きそうだ。

 

「ラインナップは多岐にわたるからね。“おしおき”の時間を楽しみに待ってるんだよ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 

説明し、出ていこうとするモノクマに江ノ島さんが突っかかる。

 

「あんたの言ってることめちゃくちゃじゃない!あたしはそんなのに絶対参加しないから!!」

 

分からなくもない。いきなりコロシアイに巻き込まれて、その上命がけの裁判なんて、本来なら絶対にやりたくない。

 

「学級裁判に参加しないだって!?なんという巨悪!だけどなぁ…僕は悪に屈する気はない。最後まで戦うのがモノクマ流よ…どうしても通りたければ、ボクを倒してからにしろー!」

 

そう言ってトテトテと突進してきたモノクマは、いとも簡単に江ノ島さんに踏んづけられてしまう。

 

「はい、これで満足?」

「そっちこそ。校則5を覚えてる?」

 

校則5は、えっと確か…

 

「学園長ことモノクマへの暴力を禁じます。…江ノ島危ない!」

「さすが風紀委員。召喚魔法を発動する!助けて!グングニルの槍!」

 

そうモノクマが言うと、天井や床から無数の槍が江ノ島さんめがけて飛び出してきた。これから起こる出来事が直感的に分かった僕は思わず目をつむる。

 

「ぐぁあぁ………ううぐうぐうう………」

 

だけど、聞こえてきた悶絶の声は、江ノ島のものではなかった。恐る恐る目を開けると…

 

「マークさん!?」

 

無傷の江ノ島さん、体育館の床に突き刺さった槍、そして………

 

 

 

 

脇腹に槍が一本刺さっているマークさんだった。

それを見た瞬間僕と舞園さんはマークさんに駆け寄った。

 

「大丈夫!?しっかりして!」

「は?いや?なんでだべ?あんなの何本も刺さったら死んじまうべ?だってこれ、ただのレクじゃ…」

 

目の前で誰かがコロされようとした光景に全員が言葉を失う。何人かは腰を抜かして座り込んでいた。

江ノ島さんも殺されそうになった現実に腰を抜かしている。さっきから何かうわごともつぶやいている。

 

「葉隠さん、残念ですが、モノクマさんは本気でみなさんに殺し合いをさせようとしています」

「いいね!よく分かっているじゃない。まぁ今回はマークさんが大怪我を負ったわけだし、コロシアイ生活とは関係ないところで死人はあんまり出したくないからこれで終わりにするけど、今後校則を破る生徒には、グレートな“おしおき”を発動させちゃうからね!」

 

モノクマが爪を立てて威嚇しながらそう宣言する。

 

「マークさんの怪我もあるし、保健室を開放しておくよ。じゃあ皆さん、これからも張り切ってコロシアイ共同生活を続けてくださいね~」

 

モノクマはそう言うと今度こそ帰っていった。みんなの目が疑心暗鬼になっているのが気掛かりだけど、先にマークさんを保健室へ運ぶことを優先させる。

 

「舞園さん……すみませんが…江ノ島さんを保健室に連れて行ってあげてください…彼女も心配です…」

「わ、分かりました!」

 

 

 

 

 

 

「いつつつ………苗木さん、助かりました」

 

保健室についてからマークさんの行動は早かった。自分の大怪我に対してテキパキと応急処置を済ませていく。その手つきは何処か手慣れた感じがした。

マークさんが応急処置を終えたころに舞園さんと桑田君が江ノ島さんを抱えて入ってきた。

 

「マーク!江ノ島連れてきたぞ!」

「なかなか動こうとしないので、桑田君に手伝ってもらったんです」

 

抱えられた江ノ島さんは生気の感じられない虚ろな目をしていた。殺されそうになった現実に頭が追い付いていないのかな…

 

「とりあえず、江ノ島さんはベッドに寝かせておいてください。それにしても、桑田さんが居るのは好都合ですね」

「好都合?」

「いい機会ですので、これからの方針をここで話し合っちゃいましょう」

 

いや、そんな大怪我してるのになんでいつもと変わらない感じでしゃべれるの…

 

「つってもよ…何度同じ場所探しても、脱出の手がかりなんてねぇと思うけど…」

「私も同感です。このまま大人しく警察を待ったほうが………」

 

僕も二人の意見に賛成だ。全員で手分けして探したから、もう捜索されていない場所なんてほとんどない。

 

「マークさんも、その方向でいいかい?」

「ちっちっち、甘いですよ!苗木さん!」

 

………短い付き合いだけど分かる。マークさんはこの後、とんでもないこと言い出す。

 

「今後は、『自分たちの手で、全員で脱出する』です」

「わ、私たちでですか!?ちょっと無理があるんじゃ…」

「そうだよマーク!どこにも脱出できる場所なんかねぇだろ!」

「これにはちゃんとした理由があります。少し長い考察になりますけど、聞いてもらっていいですか?」

 

やっぱり。でも、マークさんはちょっと抜けてるところがあるけど、訳もなくこういうことを言い出すとも思えない。

 

「分かった。話して、マークさん。二人とも、一度聞いてみようよ」

「ありがとうございます。江ノ島さんも、聞いてもらえませんか?」

 

江ノ島さんも、落ち着いたのか、ベッドに腰掛ける形で座り、頷いた。

マークさんは一呼吸置くと、今回の方針の根拠を話し始めた。



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イキキル⑨

~苗木視点~

自分たちの手で、全員で脱出する。その方針について、マークさんは話し始めた。

 

「まず、この学園の外からの救出ですが、あまり期待できないでしょう。理由は、おそらく警察という治安を守る部隊ですが、機能不全に陥っていると考えられます」

 

警察が機能不全に?そんなことが有り得るの?

 

「根拠としては…舞園さんや江ノ島さんがここにいること、でしょうか」

「私(あたし)?」

「ええ。舞園さんや江ノ島さんは、この国では超が付くほどの有名人ですよね?加えて人前に立つことを仕事としている。ですよね?」

「うん。コンサートや、テレビに出ることも多いし、それは間違ってないよ」

「…あたしも、雑誌の取材とかあるし、ランウェイなんかは特にそうかな」

 

言われてみれば、舞園さんや江ノ島さんはトップアイドルとカリスマモデル。当然連絡がつかなくなれば、大きな騒ぎになる。

 

「ええ、そうなんです。そんな二人が監禁状態になれば、自ずと大きなニュースになるはずです。警察とやらも動くはずです。加えてこの学園は、トウキョウという首都のど真ん中にあるそうですね。到着に時間がかかるということもないでしょう。ですが、警察らしき組織からの音沙汰もない」

「でも、単にまだ踏み込めてないだけじゃないの?」

 

「最初はそれも考えました。ですが、石丸さん曰く、この国ではパトカーのサイレン?やめかぼん?でしたっけ」

「それ、きっとメガホンだと思う」

「そうそう、それです。そういったもので語りかけてくるとかがあると聞きました。誰かを監禁し、立てこもっている今の状況なら尚更です。そんなの、一度でも聞いた人はいますか?」

 

全員が首を横に振る。僕も聞いたことがない。

 

「ですよね。つまり私たちの救出は、現在行われていない。と考えるのが自然です」

「そんなわけねぇだろ!希望ヶ峰学園で立てこもりだぞ!葉隠じゃねぇけど、レクでもない限り………」

「桑田さんも分かってくれたみたいですね。そうです、本来私たちの救出に向けて行動するはずの組織が行動の素振りすら見せていない。これは、その組織の怠慢か、機能不全が考えられます。皆さんの信用度から言って、怠慢は考えづらいので、機能不全に陥っていると考えました」

 

マークさんの主張はすごく突飛で、それでもある程度筋が通っている。でも…

 

「マークさん、警察が機能不全に陥った理由って、分かる?」

「それはさすがに。外を見ようにも鉄板で覆われていますし」

「…だとしたら、これから私たちはどうすれば………」

 

警察からの救助は望めないため、自力で脱出しなければいけない。でも、散々脱出のためのルート探しは行ったけど、そんなルートは発見できなかった。

 

「これから私たちが考えなければならないのは、私たちを閉じ込め、コロシアイを強要する存在が誰なのかを突き止めることです」

「つまり、黒幕を突き止めるってことですか?」

「ええ、そして黒幕を倒し、脱出のためのアイテムを手に入れることです」

 

言っていることは理解できる。僕たちを閉じ込めた相手なら、脱出用の鍵とかを持っていても不思議じゃない。

 

「でも、どうやって?僕らは今、ここから出られないんだ。相手が外にいるなら、手も足も出ないよ」

「………これは憶測ですが、黒幕も、この学園内にいる可能性が高いです。警察、というのが機能していない以上、学園の外の秩序が崩壊している可能性もあります」

「ちょっと待ってください!それって私たちの中に黒幕が居るってことですか!?」

 

マークさんの憶測に舞園さんが声を上げる。でも、確かにそれは考えづらい。だって、僕らの中にいるってことは、黒幕自身もコロシアイに巻き込まれる恐れがある。

 

「別に私たちの中にいるとは言っていません。というか、その可能性は低いでしょう。ここには鉄の網などでいけない場所が多くあります。おそらく黒幕は、その向こう側に潜んでいるかと…」

 

なるほど。それなら納得できる。事実、2階へつながる階段にはシャッターで閉ざされていた。その向こう側にいるなら、コロシアイに巻き込まれることは無いだろう。

 

「でもさぁ、それって無理じゃない?シャッターの向こう側にいるなら、それこそアタシらじゃ手の出しようが無いし…」

「ええ、江ノ島さんの言う通り、今のままでは私たちも動けません。ですから、黒幕に開けさせるんです」

「いや、どうやって開けさせんだよ」

「………コロシアイの阻止、です」

 

コロシアイの、阻止?

 

「モノクマ及び黒幕は、私たちを殺したいわけではないと思います」

「マークさん、江ノ島さんは殺されかけたんだよ!あれは殺意が無かったっていうわけ!?」

「落ち着いてください。あれは明確に殺意があったと思っています。ですが、本当に最初から私たちを殺す気なら、とっくにそうしてると思いませんか?モノクマは殺害する方法は多数そろえてあると言ったんですよ?」

 

………ラインナップは多岐にわたる。確かにモノクマもそう言っていた。でも、だとしたらどうしてコロシアイの強要なんかを?

 

「だとしたら、どうして私たちを閉じ込めて、コロシアイなんてさせているんでしょうか…」

「黒幕は、私たちを殺したいのではなく、コロシアイを観たいのではないかと」

「…だとしたら、趣味悪すぎだろソイツ…」

「ですが、皆さんで協力すれば、今行動可能なスペースなら、コロシアイの阻止は十分可能です。私たちでコロシアイを阻止し続ければ…」

「コロシアイが見れない黒幕は、スペースを開放する。ということですか?」

「その通りです。いくら“動機”を用意しても、コロシアイを阻止されてしまえば、あるいはコロシアイの犯人がすぐにばれてしまっては黒幕にとっても望まない展開です」

「だから、スペースを開放せざるを得なくなる。か」

「これを繰り返し、黒幕のいる居住スペースまで解放させる。そうすれば、私たちの手で捕まえることも可能です。…納得してもらえましたか?」

 

…正直、かなり気の遠くなるような作戦だと思う。でも、だれもコロシアイに巻き込まれることなく、ここから脱出できる可能性があるなら…

 

「江ノ島さん、どうでしょう?私たちの作戦に協力してもらえませんか?」

「………ゴメン、ちょっと考えさせて」

 

そう言って、江ノ島さんは保健室から出て行った。

 

「マークさん、僕はその作戦で行こうと思う。誰も殺されずに出られるなら、僕はその可能性に賭けてみたい」

「私も賛成です。桑田君をコロそうとしたときも、本当はすごく怖かったんです。仲間のためだ、って自分に言い聞かせても、震えが止まらなくて…あんな思いをしなくていいなら、私もそのほうがいいです」

「いやコロされそうになった俺が一番怖かったわ!でも、だからと言って正直今は舞園ちゃんを責める気になれねぇんだよな…まぁマークは命の恩人みたいなところあるし、俺もマークの作戦に協力するぜ!」

「皆さん賛成ですね!よかったです。じゃあこれから、頑張っていきましょー!えいえいおー!……いたたた」

「いや無理しないでよマークさん」

「あはははは、すみません」

 

マークさんが笑うのにつられてみんなも笑ってしまった。でも、このコロシアイ生活になってから、初めて心から笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぷぷぷぷ、コロシアイの阻止だって?面白いねぇ。………彼らの言う通りにするのは癪だけど、そうしないとコロシアイが見れそうもないのは事実か。………私様の計画を邪魔するとはいい度胸ですわね!………その笑顔が、絶望に染まる瞬間を楽しみに待っているとしましょう」




いかがだったでしょうか。

これにてイキキル編終了です。

次話についても今書き進めていますので、少々お待ち下さい。

高山流水さん、誤字報告ありがとうございます<(_ _)>


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週刊少年ゼツボウマガジン
週刊少年ゼツボウマガジン①


~苗木視点~

新しい世界の開放。

モノクマが言うには、本来は学級裁判後に開放するはずだったが、一向にコロシアイが行われないので、先にスペースを広げてみようというものだった。

保健室でマークさん含むみんなで決意を新たにした矢先に、マークさんの言う通りにスペースが解放された。

正直、昨日の今日だけに黒幕の何かしらの意図が何なのかと勘ぐってしまう。

ともかく、解放されたスペースを含め、もう一度校内の探索が行われることとなった。

 

「…ム?先ほどからマークくんの姿が見えないようだが?」

「あの小娘なら、モノクマが消えたと同時に出て行ったぞ」

 

 

 

 

電子手帳で確認した結果、2階にはプールと図書室があった。僕はまず図書室に向かうことにした。

 

図書室には、十神君、霧切さん、山田君、腐川さん、マークさんが居た。

 

山田君と腐川さんによるラノベVS小説の大論争を尻目に先ほどから読書に夢中になっているマークさん。

 

「あ、苗木さん!ここの図書館すごいですね!見たことも読んだこともない本が大量にあります!片っ端から読んでもどれくらいかかるでしょう…特にこの魏・呉・蜀の三国時代や日本と呼ばれる国の戦国時代という時代に関する小説には、時折戦闘に関する詳細な記述があってとても勉強になります!苗木さんも…」

「あー、うん、後で読むよ。それより僕は、ここの探索を優先したいかなって…」

「はっ、それはそうでした。では読書をいったん中断して、探索に戻ります!」

 

そう言うと、本を閉じて図書館の探索を始めた。

この後、霧切さんや十神君と共に希望ヶ峰学園が「閉鎖」されたという内容が記された手紙を発見した。って…

 

「希望ヶ峰学園が閉鎖!?」

「しかも、このホコリからして、つい最近というわけでもなさそうね…」

 

でも、少し前に希望ヶ峰学園に来たときは、そんな印象なかったけど…

 

「しかも、この手紙にある深刻な問題って一体………」

「苗木さん!苗木さん!正体不明の物体を発見しました!」

 

マークさんはそう言いながら、両手で抱きかかえるようにして少し古いタイプのノートパソコンを持ってきた。

 

「…少し型落ちしただけのパソコンね。正体不明というものでもないわ」

「霧切さん、パソコンって何ですか?」

「………え?」

 

…そう言えば、生徒手帳に関しても全然扱えてなかったなぁ。DVDを見るために視聴覚室に行く間、生徒手帳の操作方法について説明したっけ。スマホどころか携帯電話すら知らないマークさんに使い方を教えるのは苦労した。

マークさんって、会話の内容から現代機器に疎いのは分かるけど、携帯もパソコンも知らないってどういうことなの?

 

「…苗木君、説明しといてもらえる?」

「えっ!?僕?」

 

………この後、結局マークさんへのパソコンの説明に時間がかかってしまい、説明が終わるころには報告会の時間になっていた。

 

食堂での報告会では、図書館のほかにプールと、その更衣室にトレーニング器具が併設されていることが朝日奈さんから報告された。

一階を再度探索した石丸君から、倉庫と大浴場に入れるようになったことが分かった。

しかし、今回も脱出の手がかりとなる情報は無く、そのまま解散となった。

 

翌日、新しい校則が追加された。内容は「電子生徒手帳への他人への貸与禁止」というものだ。

確か朝日奈さんが昨日の報告会で、更衣室へ入るには生徒手帳をかざす必要があったって言ってたっけ。それで異性の更衣室に入れないようにするためだろう。

 

食堂に入ると、石丸君と十神君を除く全員がすでに来ていた。みんなの話だと、遅刻魔の十神君を石丸君が呼びに行ったらしく、それを全員で待っている状態だという。

そんな中、セレスさんが口を開いた。

 

「待つのはよろしいのですが、一つ問題があります」

「問題?」

「山田君、紅茶を入れてくださる?」

「な、何故僕が?」

「喉がカラカラですの。早くしてくださる?」

 

セレスさんの命令には逆らえなかったらしく、しぶしぶ厨房へと入っていった。

しばらくして、トレイを片手に山田君が戻ってきた。

そしてセレスさんが紅茶を一口紅茶に含むと、突然カップを壁に向かって投げつけた!

 

「えええええ!?」

 

かなり長々とした彼女の主張によると、紅茶はロイヤルミルクティーしか認めていないらしい。

 

「いや、紅茶だけでロイヤルミルクティーだというのは、先に言って…」

「いいから早く持ってこい、このブタがぁぁぁぁ!!!!」

「ひぃぃぃぃ!」

 

豹変したセレスさんの気迫に押され、慌てて再度厨房に駆け込む山田君。やっぱり、セレスさんは一筋縄ではいかない人みたいだ。

 

「…あれ?そういえばマークさんは?」

「む、先程までここに座っていたはずだが……」

 

そういえば、さっきまで居たはずのマークさんが居なくなっている。もしかしてセレスさんの豹変に怯えて逃げた………無いな。想像できない。

 

「皆さん、お待たせしました!」

「マーク殿、助かりましたぞ。あんまり待たせるとまたセレス殿の内に潜む狂気が現れるところでした」

 

たくさんのティーカップを乗せたトレイを両手にマークさんが厨房から出てきた。

 

「あ、もしかしてみんなの分も?」

「ええ、どうせなら皆さんと一緒に、と思いまして」

「気が利くじゃない。どこかのオタクとは違うわね」

「因果律の流れに逆らうことは許されないのですよ根暗女」

 

バチバチとした雰囲気を出す腐川さんと山田君をよそに、マークさんはみんなに紅茶を配っている。

とは言っても、さっきのセレスさんを見ている限り気が気じゃない。またカップを投げつけたりしないだろうか…

セレスさんは紅茶を一口含み………それを静かに置いた。

 

「香りも味も申し分ありません。なかなかの腕前をお持ちですわね」

「ふっふーん、ブレディさん直伝のロイヤルミルクティーは伊達ではありません!」

 

エッヘンといった感じで胸を張るマークさん。ブレディさん?マークさんの知り合いかな?

とりあえず、セレスさんが満足したようなので一安心だ。と思っていたら…

 

「みんな、妙なことになった!」

 

慌てた様子の石丸君が駆け込んできた。

 

「あ、石丸さん。ロイヤルミルクティーどうぞ!」

「あぁ、ありがたくいただこう。って、いや、それよりもだ…」

「あ、もしかしてお嫌いでした?すみません、別の飲み物を」

「………少し話をきいてもらえないだろうか!」

 

彼の話によると、何度インターホンを押しても十神君の部屋から反応が無いそうだ。

最悪の事態を想定し、全員で手分けして捜索することになった。




生徒名簿.1

苗木 誠

超高校級の「幸運」

取り立ててずば抜けた才能を持たない、普通の高校生。今回、抽選の結果希望ヶ峰学園への入学を許された。平和主義な常識人で、仲間意識が強いが物腰は低く少々頼りない。しかし、下地から滲み出る素直さ、謙虚さから他の超高校級と衝突することなく会話が出来る数少ない存在となっている。
クラスメイトの中で一番、前向きな性格。
誕生日は2月5日


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週刊少年ゼツボウマガジン②

~マーク視点~

十神さんが行方不明ということで、全員で手分けして捜索することになりました。

うーん、十神さんの居そうな場所となると………そういえば昨日本に興味を示していましたね。図書室に行ってみましょう。

 

「………マーク、貴女それを持って行くの?」

「だって勿体ないじゃないですか、霧切さん」

 

せっかく上手くできたロイヤルミルクティーも飲んでもらわないと。

 

 

 

 

図書室に入ると、十神さんが飲み物を片手に読書をしていました。何を読んでいるんでしょうか?

 

「…十神君、貴方何をしているの?」

「釣りでもやっているように見えるか?」

「読書ですか?十神さんってマイペースですよねぇ~」

「貴様にだけは言われたくないな」

「なっ!失礼な人ですね!」

 

私は十神さんみたいに単独行動していませんし、今日みたいにみんなを放っておいて読書しません!

………何ですか霧切さん!その「確かに」みたいな目は!

 

「十神君、今全員で貴方を捜索しているわ」

「何故俺が探されなければいけない?」

「朝になっても姿が見えないので、もしかしてもう被害に遭われたのかなーって…」

「………なるほどな、“ゲーム”に巻き込まれ命を落とした可能性を考えた訳か」

 

“ゲーム”……コロシアイのことですね。

誰にも知られずに誰かを殺害することで、この閉鎖された空間から確実に脱出できる、極限の騙しあいともいえる命がけのゲーム。

 

「とりあえず、十神さんは図書室にいたことを伝えてきますね」

「俺を連れて行こうとしないのか?」

「十神さんは一人でいるのが好きそうなので。もし気が向いたら来てくださいね」

「………気が向いたらな」

 

そう言って、読書を再開した十神さん。この様子じゃ、ロイヤルミルクティーは飲んでもらえそうにないですね。

残念ですが、ロイヤルミルクティーは別の機会に飲んでもらうことにします。

十神さんを発見したので、皆さんに伝えに行きましょう。

 

 

 

 

 

~苗木視点~

マークさんから十神君が図書室にいたこと、調査をするため一人で行動していることが全員に伝えられた。

石丸君はどうにか参加させたいみたいだけど、多分無理じゃないかなぁ…

 

それからしばらくしたある日の夜、夜食を取りに食堂に向かうと、マークさんに出会った。

 

「あ、苗木さんも夜食ですか?珍しいですね」

「うん、ちょっとお腹すいちゃってね」

「私もです。今日はなんだか眠れなくて」

 

あの後そんなに説教されたのか………

そんなとりとめのない会話をしているとき…

 

「もういっぺん言ってみろや!!!!」

 

食堂から大声が聞こえてきた。

 

「何ですか!?今の」

「食堂からだ、行ってみよう」

 

事件は食堂で起きた。いや、起きていた。

 

「おお、苗木君、マーク君、いいところに来たな!」

「おう、苗木、おめぇちっと立会人になれや」

 

うわぁ、これ絶対面倒なことになるやつだよ…

 

「さっきからこいつが舐めたこと抜かしやがるんだよ。俺を根性無しだとかよぉ」

「根性無しだからこそ、秩序も守らず、そのような奇妙な格好で珍走するのだろう!?」

「だったらお前には俺以上の根性があるのか!?」

 

うん、やっぱりこの二人は相性が悪いと思う。

 

「それで、さっき言ってた立会人って?」

「こいつと俺、どっちが根性あるのか勝負する」

「はっ、これから河原で殴り合いですか!?そして最後には男の友情が………」

「マーク、僕たち今閉じ込められているから…」

 

というかマークさん、そんな漫画みたいな展開そうそう起きないって…

 

勝負の内容は、殴り合いではなく一階の大浴場に併設されているサウナで我慢比べをするというものだった。

ここで大和田君が、石丸君に対しハンデをやると言って服を着たまま勝負しようとするが、ここにマークさんが待ったをかけた。

 

「駄目です。ハンデは認められません」

「あぁ!?言ったろうが!楽勝過ぎてもつまんねぇ…」

「勝負は公平に行われるべきです。そのハンデで勝負を分けたとしたら、本当に根性があるのはどちらか決着がつきません」

「俺が負けるって言いてぇのか!?」

「………それに、言いたくありませんがその服は大和田さんが負けた時の“言い訳”になりかねませんからね」

「なるほど、確かに服のせいにすれば自分が負けたという現実も多少和らぐという寸法か。初めから自分にまけている君らしい」

「………後悔すんじゃねぇぞ!!」

 

そう言って、大和田君は乱雑に服を脱ぎ捨てた。

そのあと、マークさんが勝負のルールを細かく定めていった。

 

1.お互いタオル一枚を持ってサウナに入室。

2.退出は無し。退出した場合降参とみなす。

3.相手への妨害行為は禁止(念のため)

4.5分に一回、苗木が入室し二人の意識があるか確認する。声を掛けても返事が無い場合、失格とする。

 

「って、僕もやるの?」

「はい、だって苗木さんは、立会人ですから!」

 

………やっぱり夜食なんか取りに行くんじゃなかった。

こうして始まった二人の我慢比べ。さすがにすぐ決着がつくとは思っていなかったけど、5分経ち、10分経ち、30分経ち………

 

1時間ほど経ち、ついに夜時間になってしまった。だけど二人はいまだ我慢比べを続行するようだ。僕もう寝たいんだけど………

 

「もしよかったら、代わりましょうか?」

 

僕が眠そうにしているのを見て、マークさんが交代を提案してきた。

 

「…お願いできる?さすがに付き合ってられないよ」

「ええ、このマークちゃんにお任せです!」

「ありがとう、じゃあ部屋に戻るね」

「おやすみなさい、苗木さん」

 

僕はそのまま自室に戻り、特に何もすることなく寝た。

二人のことは気になったけど、マークさんがついているし、死んでしまうようなことにはならないだろうと思っていた。

 

翌朝、食堂に向かうと、そこでは信じられない光景が広がっていた。




生徒名簿.2

舞園 さやか

超高校級の「アイドル」

知らない人はいないと言われる5人組アイドルグループでセンターマイクを務めるトップアイドル。言動に一本芯が通ったしっかり者であり、周囲からの信頼も厚い。ちなみに、苗木誠とは同じ中学校に通っていた。周囲の人間の考えていることを言い当てる。本人曰く「エスパーですから」ということだが、真相は不明。
クラスメイトの中で一番、勘が鋭い。
誕生日は7月7日


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週刊少年ゼツボウマガジン③

いつも読んでいただきありがとうございます。雑賀衆見習いです。

こういった形での挨拶は初めてですね。

日々増えていくUAや気づいたら増えてるお気に入りに正直びっくりしております。

なかなか更新が出来ず申し訳ありません。

これからも更新していくので、気長にお待ちいただけたら幸いです。

では、最新話どうぞ!


~苗木視点~

「ギャハハハ、何言ってんだ兄弟!」

「はっはっは、君こそ冗談はよしたまえよ、兄弟よ!」

 

………ナンダコレ?

昨日サウナで我慢比べをしていた二人が、食堂で仲良く肩を組んで笑っている。

他の人たちも異質な空気を前に近づこうとしない。

 

「……舞園さん、桑田君、あれ何?」

「…それが、朝食堂に来たらすでに………」

「朝二人が入ってきた時からああだったぞ………」

 

…昨日、僕が部屋に戻った後、一体何があったんだ?

とても気になるけど、かといってあの二人に今近づくのは避けたいし…

 

「おっはようございまーす!」

 

と、いつものように元気よく入ってくるマークさん。我慢比べの立会人を代わってくれたマークさんなら何か知っているかもしれない。ちょっと聞いてみよう。

 

「マークさん、昨日いったい何が「「姉御ォ!!」」あっ………え?」

 

先ほどまで男同士の独特な世界を作っていた二人は、マークさんを見つけると飛んできてマークの手をガシッと両手で力強い握手をした。

 

「石丸さん、大和田さん、おはようございます!」

「姉御!昨日はありがとな!」

「おお、苗木君もいるではないか!昨日は立会人をしてくれて感謝しているぞ!」

「えっと、勝負はどうなったの?」

「そういう問題じゃねぇ!勝負をしたってことが大事なんだよ!」

「えええ!?」

 

もうメチャクチャだ。マークさんも普通に挨拶してるし。

その後の朝食会は、男同士の濃厚なつながりを延々聞かされるという、かなりしんどいものとなった。

 

その後、夜時間になる少し前、モノクマから体育館に集合するよう連絡があった。

新しい部屋の開放か、それとも前回のような「動機」か………

どちらにせよ、行かないわけにはいかない。

 

体育館には既に全員が集まっていた。今回は何が起こるだろうかと不安そうだ。

そんな中、マークさんからある疑問が投げかけられた。

 

「そういえば…ケーサツ、でしたっけ?ほら、朝日奈さんが言っていた人たち。あの人たちって今どうしてるんでしょか?」

「そういえば妙ね。都会のど真ん中でこんなことが起きていたら、気づかないはずがないのに………」

「もしや黒幕は、国家権力さえ自由に動かせる力を持っているのかもしれませんね」

「そういや、今日ボーっとしてたら外から工事現場みたいな音が聞こえたべ」

「うぷぷぷぷ、葉隠君の聞いた音って爆発音とかマシンガンかもね。工事現場の音に似てなくもないよね」

「!」

 

またいつものようにモノクマが突然壇上に現れた。

 

「さて、最近僕はめっきり元気がないのです。それもこれも全部刺激もドキドキもない“退屈な日々”のせいなのです」

「………ということは、今回は“動機”?」

「ピンポーン!苗木君だ~いせ~いか~い!今回はこんな“動機”を用意しました~」

 

モノクマは何処からか、僕たちの名前が書かれた封筒を取り出した。

 

「人間生きていれば誰しも人に知られたくないような過去があると思いますが、今回ボクは独自の調査により、そんな秘密を集めてみましたー!」

「苗木さん苗木さん!今回は私のもありますよ!仲間はずれにされてません!」

 

………あぁ、うん。よかったね………

一応コロシアイの“動機”なんだから、出来ることなら欲しくないんだけどな…

 

「さあみんな拾って拾ってー!」

 

僕らはモノクマから足元に投げられた封筒を拾い、中身を見た。僕の封筒に書かれていたのは………

 

【苗木君は小学5年生までおねしょをしていた】

 

確かに恥ずかしい秘密だけど、一体どうやって調べてきたんだ!?

他のみんなも、それぞれ驚愕の表情を浮かべている。

 

「タイムリミットは24時間!それまでにクロが現れない場合、この恥ずかしい秘密を世間にばらしちゃいま~す」

 

それが嫌ならはりきってコロシアイしてね~と言い残し、モノクマは消えた。

 

このあと石丸君が、コロシアイの動機を消すために、この場でお互いの秘密を暴露しあうことを提案するも、腐川さん・セレスさん・不二咲君の反対によって却下された。

すでに夜時間が迫っていることもあり、この場はそこで解散となった。

 

僕も今日は休もう。そう思って自室に入ろうとしたとき…

 

「苗木君、マークさん見ませんでしたか?」

「え?そういえば、解散した後は見てないけど、どうしたの?」

「今日は私の部屋に泊まることになっているんですけど、マークさんが見当たらなくて………」

「え?」

「その…今日は“動機”の件もありますし、マークさんが心配で…」

「分かった。じゃあ手分けして探そう」

 

そのあと、2階は舞園さんが、1階は僕が捜索することになった。

 

~舞園視点~

“動機”のタイムリミットは24時間。もし誰かが、この前の私と同じことをしようとしているなら、今夜中に必ず行動を起こすはず。

それまでにマークさんを見つけ出さないと!

 

「あれ?不二咲さん?」

「ま、舞園さん?」

 

2階に着くと、何故か不二咲さんが居た。普段と違い、スポーツバッグを持っている。

 

「どうしてこんなところに?もう夜時間は過ぎてますよ?」

「あ、うん、ちょっとね………舞園さんは?」

「私はマークさんを探しにこっちへ来ました。今日は私の部屋に泊まることになっているのですが、見当たらなくて…」

「そうなんだ…大変だね…」

 

気のせいでしょうか?不二咲さんは他の女性と話すとき、緊張しているような、距離を取っているような………

何かしらの苦手意識があるのかもしれませんね。

早めに部屋に戻るようにしてくださいね、と言って不二咲さんと別れた後、私はまっすぐ図書室に向かった。マークさんはよく本を持ち歩いているから、もしかしたらと思ったんだけど………

 

「おい、うるさいぞ」

「十神君?こんなところで何してるんですか?」

「………他に聞くことが無いのか?貴様らは」

 

とりあえず、こっちにマークさんが来ていないことを確認すると、私は急いで図書室を後にしました。

となると、後はプールや更衣室、他の教室とか…とりあえず近くの教室とトイレを覗きましたがマークさんはいません。

最悪の可能性が頭をよぎりだした頃、ようやくプール前ホールでマークさんを見つけることが出来ました。

ただ、何故か不二咲さんと大和田君と一緒に居ましたけど………

 

「舞園さん、下がっていてください」

 

いつもと違いトーンの低いマークさんの声。こういう声を出すときは何かあった時だ。

よく見ると、マークさんは不二咲さんを庇うようにして立っている。

 

「不二咲さんを連れて逃げてください」

「待って、マークさん。一体何、が………」

 

その時、今まで更衣室側の壁にもたれかかるように座っていた大和田君がゆらりと立ち上がった。

その時、私は大和田君の顔を見て、気づいてしまった。

あの目は、危険な目だ。倫理も秩序も無視して自分だけのルールを押し通そうとする人と同じ目をしている。

 

「お前も……秘密を言えってのか?………言って、何もかも台無しにすりゃよかったのか?」

「早く!」

「っごめんなさい!」

 

マークさんの言葉にはじかれるように、私は不二咲さんを抱えて走り出した。




生徒名簿.3

マーク

超高校級の「???」

マークの詳細は謎に包まれており、出自・経歴を含む一切が不明。厳密には希望ヶ峰学園の生徒ではないが、学園長が急遽生徒手帳を作成し、仮ではあるが生徒という扱いとなった。本人曰く、ある日を境にそれ以前の記憶を失っているらしい。性格は極めて明るく、同じクラスメイトと積極的に交流を図っているが、空気を読まない発言にクラスメイトが振り回されることもしばしば。
クラスメイトの中で一番、行動が自由。
誕生日は5月5日


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週刊少年ゼツボウマガジン④

~マーク視点~

最初は、大和田さんが寄宿舎に戻らずに校舎の2階へ向かったので追いかけたんです。普段から単独行動を好む十神さんならともかく、普段は大和田さん、ちゃんと帰りますからね。

そしたら、そのまま真っすぐ男子更衣室へ向かったんです。

流石に中には入れなかったので、私は女子更衣室に入り、“目”を発動させました。

………今のところ一人みたいですね。誰かを待っているんでしょうか。

しばらく待っていると、不二咲さんが1階から上がってきました。

そのあとすぐ舞園さんも上がってきましたね。うーん、二人して何を話しているのでしょう。“目”では相手の居場所は分かっても何を話しているのかまでは分からないんですよね。

その後、二人は別れ、不二咲さんは更衣室がある方へ、舞園さんは図書室がある方へ向かいました。あぁ、何か用事があって二人で来た、というわけではないんですね。

そして不二咲さんは男子更衣室へと入っていk………男子更衣室!?ということは不二咲さん男性なんですね!

いやぁまさかですね!あ、でも、だとしたら不二咲さんがなかなか私を泊めてくれないのも納得ですね。不二咲さんと腐川さんは私を絶対泊めたくないみたいで………

 

さて、そんなことより今ですね。うーん、今のところどちらからも襲い掛かる様子は感じ取れませんし、今回は取り越し苦労でしたかね。

いやーそれならよかったです。まぁ軍師たるもの読み違えるのはまずかったのですけど、最悪の可能性は無くなったのでよかっt………大和田さんの様子が変ですね。

え?………大和田さん、不二咲さんを「攻撃」しようとしている?

しかもこれは………極めて危険です。私の“目”であれば、人のポテンシャルも確認できますが、今の大和田さんなら、不二咲さんを一撃で死に至らしめることが出来ます。

回避は………ポテンシャル的に無理ですね。

仕方ありません。恨まないで下さいよ、大和田さん!

 

私は懐から魔導書「ウインド」を取り出し、腕に魔力を集中させます。

今からこれを使い、壁越しの大和田さんに当てて彼を無力化します。

…ですが、このまま直接大和田さんに当てれば、今度は私が彼の命を奪ってしまいます。

ですから、少々方法を変えます。

狙いは、彼が今手にしているダンベル。それを手から叩き落せば、少なくとも動揺を誘えるはずです。

一番怪我をさせる可能性が低いのは、攻撃の瞬間。ダンベルを振り上げた瞬間を狙います。

……………今です!

 

 

 

 

 

私の放ったウインドは見事ダンベルに命中!

大和田さんの手から叩き落すことに成功しました!

とはいえ、一度防いだだけ。彼の戦意がなくなるまで何度でも止めますよ!

……あれ?

どうやら、たった一回で終わったみたいですね。

そうと決まればもう安心です。後は二人とも部屋に戻るのを見届けたら私の出番は終了です。

もう女子更衣室にいる必要もないので私も舞園さんの部屋に戻りま………あ、もしかして舞園さん、私を探しに来てくれたんですかね…

悪いことしましたね………後で謝っておきましょう。

 

その時でした、後ろで男子更衣室の扉が開いたと思ったら、錯乱した状態の大和田さんが飛び出してきました。

開いた男子更衣室の扉からは不二咲さんが見えていますね。

「どけぇ!」

言うが早いか動くが早いか、彼はそんな言葉と同時に右の拳を打ち下ろしてきました。

彼の腕力も相まって、当たれば痛そうですが、モーション丸見えの拳なので避けるのは簡単です。左に躱して、そのまま鳩尾に一撃。

たたらを踏んだところに体当たりで向こうの壁まで吹っ飛ばします。

 

「不二咲さん!」

 

状況が呑み込めずオロオロしているようですが、今の大和田さんの近くにいるのは危険です。腕をつかんで強引にこちらへ引っ張ります。

後ろから足音が聞こえてきました。どうやら舞園さんですね。

 

「舞園さん、下がっていてください」

 

あまり悠長にもしていられないので、端的に要点を伝えます。

 

「不二咲さんを連れて逃げてください」

「待って、マークさん。一体何、が………」

 

………状況を理解してくれたみたいで助かります。ただ、大和田さんが立ち上がったので猶予がありません。

 

「お前も……秘密を言えってのか?………言って、何もかも台無しにすりゃよかったのか?」

「早く!」

「っごめんなさい!」

 

二人を避難させた後、立ち上がった大和田さんと対峙します。

 

「まだ続けるなら、相手しますよ」

「…………………いや、止めだ。女殴るとか情けねぇことはしたくねぇ。…さっき殴り掛かって悪かった」

 

大和田さんが戦意喪失したので、私も臨戦態勢を解きます。

 

「男子更衣室の中で、何かあったんですか?」

「………」

 

大和田さんは答えようとはしませんね。一応、巻き込まれたのですから説明くらいしてくれてもよさそうな気はしますけど………

どう声を掛けようか悩んでいると、階段から足音が聞こえてきました。

 

「マークさん!大丈夫!?」

「舞園さん、もうこっちは終わりましたから…って、なんで増えてるんですか?」

 

舞園さん、不二咲さん、石丸さんに苗木さんまで……

 

「話は不二咲君と舞園君から聞いた。兄弟、何故だ。何故マーク君に襲い掛かった」

「………」

「何故だ。何故だ!答えろ兄弟!」

「………どうしても、知られるわけにはいかなかったんだ。俺が………俺が兄貴を“殺した”ことを………」

 




桑田 怜恩

超高校級の「野球選手」

出身は高校野球全国大会の常連校で、エースの4番打者としてチームを優勝に導いた。しかし、真面目に努力することは嫌っており、1度も野球の練習をしないまま高校野球の頂点に到達した野球の才能の塊。しかし、本人はこれ以上野球をするつもりは無く、女性にモテるためにミュージシャンを目指している、とのこと。
クラスメイトの中で一番、朝早く起きる。
誕生日は1月3日


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