剣魂  (トライアル)
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設定集・番外編集
剣魂設定集01(キャラクター紹介篇)


 今回は日常回などでおもに登場するキャラクターを紹介していきます。片方の作品しか見たことない方は、これを見てぜひ理解を深めていってください!

注意 ここでは、キャラクターの第一章終了後の状況を明記しています。ネタバレとなる情報もあるので、苦手な方は閲覧を控えてください。



ファイル1 万事屋銀ちゃん

 かぶき町にあるなんでも屋。金さえ払えばどんな依頼でも受けてくれる。メンバーは、坂田銀時、志村新八、神楽、定春の三人と一匹。

剣魂本篇では、キリト、アスナ、ユイの三人が加わって計六人と一匹で活動している。新体制になってからは評判も良くなり依頼数も増えているので、原作に比べて金欠描写が少ない。

 

坂田銀時(銀魂)

年齢:20代 身長:177cm 誕生日:10月10日 声優:杉田智和

 万事屋銀ちゃんのオーナーにして、この剣魂でも主人公を務める男性。銀髪天然パーマと死んだ魚の目が特徴的である。甘党で気だるく無気力な性格をしているが、情は厚く、守る存在があるならば全力で立ち向かう。かつて銀魂の世界であった戦、攘夷戦争を生き残った英雄でもある。専用武器は、洞爺湖と書かれた木刀。その正体は、別の星で作られた妖刀「星砕」だ。

 剣魂でも、原作通りだらしない一面が目立っている。そのせいで、SAO女子からは見下されることも多い。キリトと過ごす時間も多く、彼とは深い縁を築いている。しっかり者のアスナには頭が上がらない。(逆らおうものなら、簡単に返り討ちにあってしまう)

 

キリト/桐ケ谷和人(ソードアート・オンライン)

年齢:17歳 身長:165cm 誕生日:10月7日 声優:松岡禎丞

 この物語のもう一人の主人公で、現在は万事屋メンバーの一人。外見は、黒髪と中性的な顔をしている。かつて閉じ込められたデスゲーム「SAO」を生還した一人で、英雄とも呼ばれている。性格は優しく他人思い。本気を出せば潜在的な能力を発揮して、困難に立ち向かう根気強さを見せる。二刀流の使いで、エクスキャリバーと呼ばれる金色の剣を主戦力にしている。

 剣魂では、万事屋の一員として活躍。ゲームに関わることがめっきり少なくなったので、愛読書であるゲーム専門雑誌で暇を潰す。もう一人の主人公枠だが、トラブルに巻き込まれることも多い。(おもに銀時や神楽が原因)

 

志村新八(銀魂)

年齢:16歳 身長:166cm 誕生日:8月12日 声優:阪口大助

 万事屋のツッコミ担当。優しく真面目な性格をしているが、ツッコミを披露する際は激しくなることもある。眼鏡をかけていることから、それにちなんだネタでバカにされることも。実家の道場を復興するために、独自の流派であるビームサーベ流を教えている。アイドルの寺門通を応援しており、親衛隊のリーダーも務めている。戦闘の際は、銀時と同じく木刀で戦うことが多い。あまり知られていないが、かなりの歌音痴。

 剣魂でもツッコミ担当を維持。キリト達常識人が万事屋へ入った影響で、彼の精神的な負担も少なくなった。年齢的にも近く、キリトら別世界の住人達ともすぐに仲良くなった。若干、キリトとアスナのリア充ぶりには羨ましがっているが。

 

アスナ/結城明日奈(ソードアート・オンライン)

年齢:18歳 身長:164cm(推定) 誕生日:9月30日 声優:戸松遥

 ソードアート・オンラインのヒロインで、現在は万事屋メンバーの一人。大人びた美貌に加えて、頭脳も明晰。女子力もあり、意志が強くてしっかりした一面を持つ。キリトと同じく「SAO」へ閉じ込められた経験があり、困難を乗り越えた二人は現在恋人の関係となった。料理が得意で、剣魂作中でもあらゆる場面でその腕を披露している。レイピアを使った戦術が得意だ。弱点はお化け。

 剣魂では、万事屋の一員となり日々仕事を手伝っている。銀時に代わって万事屋の家計簿を握っており、事実上彼女がリーダーと言っても過言ではない。神楽に対しては妹のようにかわいがっており、特に仲が良い。そのせいで、ユイからやきもちを焼かれることもある。

 

神楽(銀魂)

年齢:14歳 身長:155cm 誕生日:11月3日 声優:釘宮理恵

 銀魂のゲロイン……いや、ヒロイン。万事屋の元祖紅一点。人間の容姿をしているが、元々は別の星から来た天人。宇宙最強戦闘民族である夜兎族の生き残り。故に力が強く、怪力を得意とする。可愛らしい見た目とは裏腹に、豪快な性格と毒舌が特徴。しかし、年相応な一面も持っており、アスナ同様意志が強い。武器にもなる日傘は、弱点である日の光を遮る効果を持ち合わせている。私服であるチャイナドレスのレパートリーは意外にも多い。

 剣魂でも相変わらず豪快な性格は変わっていない。万事屋にアスナやユイといった女子陣が入ったことを嬉しく思っており、二人と親しい仲を築いている。特にアスナに対しては姉のように甘える。もちろん、シリカやリーファらとも仲は良い。

 

ユイ(ソードアート・オンライン)

年齢:不明 身長:138cm(推定) 誕生日:不明 声優:伊藤かな恵

 ソードアート・オンラインのヒロインであり、現在は万事屋のメンバーの一人。少女のような姿をしているが、その正体はゲームを監視するAI。記憶を失った状態で、キリトとアスナに出会い、以来親子のような関係を築いている。天然な性格だが責任感が強く、大人顔負けな一面を見せることも。戦う力は持ち合わせていないが、持ち前の頭脳や解析力で原作でも大いに活躍している。

 剣魂では、念願だった現実デビューを果たす。彼女にとっては現実の何もかもが初めてで、この世界で多くのことを学んでゆく。特殊な事情で別世界へと来たため、銀魂世界では彼女を一人の人間として扱う。世界観が違うため、ピクシー体には変身できない。

 

定春(銀魂)

年齢:不明 座高:170cm 誕生日:2月25日 声優:高橋美佳子

 神楽のペットであり、万事屋のマスコット。座高が170cmもある巨大犬で、人を乗せることもできる。無邪気な性格で、銀時や新八に突進することも珍しくない。神楽と同じく大食らいで、食費もかかることで有名。

 剣魂でもあらゆる場面でマルチに活躍。神楽だけではなくユイにもなついたので、戦闘の際には彼女を乗せて戦うこともある。ピナとも仲が良い。

 

 

ファイル2 真選組

 江戸の治安を守る武装警察。幕府に属している組織で、攘夷浪士の検挙や将軍の護衛などをお上から任せられている。個性が強すぎる集団であることを忘れてはいけない。

剣魂でも、キリトらSAOキャラクターと絡むことが多く、万事屋と同様腐れ縁を紡いでいく。

 

近藤勲(銀魂)

年齢:28歳(アニメは29歳) 身長:184cm 誕生日:9月4日 声優:千葉進歩

 真選組の要である局長。だが、その立場とは裏腹に、新八の姉である妙を追いかけるストーカーでもある。お人好しな性格で、あまり人を疑わない。よくゴリラと揶揄されて、バカにされる。それでも、局長としての器と心構えは持ち合わせており、多くの仲間から信頼されている。ボケの頻度が多いが、ツッコミもそれなりにこなす。刀を使った技や、力任せの戦術で戦場を駆け抜ける。

 剣魂でも、安定のストーカーキャラとして確立している。初登場の際は、キリトへ恋愛相談を持ち掛けて彼を困らせた。まだあまりキリトやその仲間達と深く接していないため、今後の展開に注目だ。

 

土方十四郎(銀魂)

年齢:27歳 身長:177cm 誕生日:5月5日 声優:中井和哉

 真選組の副長であり、作戦を立てる戦術家も担っている。性格は冷静沈着でクール。かっこよさを持ち合わせているが、彼なりの個性も強い。常軌を逸したマヨラーで、一回の食事でマヨネーズ一本を使い切ることも珍しくない。また極度のヘビースモーカーであり、ニコチンが切れると精神的に落ち着かない。しかし、剣術は真選組でも指折りである。局長に代わって隊の指揮をとり、多くの戦いで勝利を導いた。銀時とは壊滅的に仲が悪い。

 剣魂でもクールな一面は変わっていない。しかし、すぐにマヨラーとバレてユイらを引かせてしまった。別世界から来たキリト達を、密かに心配している。攘夷党に入った新しい侍を怪しんでいるが、クラインだとは気づいていない。近藤と同じく今後の動向に注目だ。

 

沖田総悟(銀魂)

年齢:18歳 身長:170cm 誕生日:7月8日 声優:鈴村健一

 真選組の一番隊隊長。キリトと同じく中性的な見た目が特徴。しかし、外見とは一転。毒舌で腹黒な本性を持ち合わせている。人をいじめるのが得意であり、特に土方に対しては日頃から命を狙っている。江戸っ子口調かつやる気のない声で人と話す。また性格とは反して真選組でも屈指の剣術を誇り、戦いの際は実力以上の力を発揮する。神楽とは喧嘩が収まらないほど犬猿の仲だ。

 剣魂でも、ドSぶりはまったく変わっていない。キリトやアスナに洗礼を与えた他、屯所に落ちてきたリーファに対して、これでもかというほど精神的な痛みを与えた。まだ話していないSAOメンバーもいるので、のちの展開に期待がかかる。

 

山崎退(銀魂)

年齢:32歳 身長:169cm 誕生日:2月6日 声優:太田哲治

 真選組の監察。いわゆる情報収集のプロだ。黒髪の男性で、銀魂では地味キャラとして目立っている。だが本人はとても気にしている。監察の際はルールとしてアンパンしか食しておらず、そのせいで精神的に病んだこともあった。バトミントンやカバディと、多趣味な一面も持ち合わせている?

 剣魂では、初登場早々リーファからアンパンをぶつけられ、悲惨なスタートを飾った。その後もピナや定春の攻撃に巻き添えを食らい、かっこ悪い場面しか目立っていない。彼が剣魂で輝ける日は来るのだろうか?

 

 

ファイル3 攘夷党

 打倒幕府を掲げる組織。昔は過激な思想で活動していたが、現在は考えが変わり穏健派となった。桂やエリザベスが所属しているが、そこへ新しい仲間としてクラインが一派へと入った。指名手配されながらも、彼らは幕府を転覆する日を目指し今日も逃走を続けている。(ちなみにクラインは、まだ警察組織から指名手配されていない……らしい)

 

桂小太郎(銀魂)

年齢:20代 身長:175cm 誕生日:6月26日 声優:石田彰

 攘夷党の党首。かつて銀時と共に攘夷戦争へと参加した過去を持つ。黒い長髪が特徴的。真面目な性格であるが、ボケの回数も多くクールボケキャラとして有名。「狂乱の貴公子」「逃げの小太郎」と様々な異名を持つ。「ヅラじゃない桂だ!」が代名詞。良くも悪くもマイペースで、人の話もあまり聞かない。戦闘の際は刀を用いた技で、男らしく果敢に敵に立ち向かう。ちなみに好きな女性のタイプは年上で人妻。

剣魂でも勢いとバカさ加減は変わっておらず、むしろ悪化している。SAOのキャラと対面するたびに、勧誘を迫ってきて困らせたことも。そんな中、侍に興味のあるクラインを仲間へ入れることに成功。新体制となり幕府討幕を目指す。

 

クライン/壺井遼太郎(ソードアート・オンライン)

年齢:20代 身長:174cm(推定) 誕生日:不明 声優:平田広明

 キリトの旧友であり、現在は攘夷党所属の侍。赤髪で頭に巻いたバンダナが特徴的。良くも悪くも熱血な性格で、空回りすることも多々ある。お人好しなため騙されることも。仲間からは、愛すべきバカとして親しまれている。デスゲームである「SAO」を戦い抜いたので、それなりに実力は高い。桂同様刀を使った戦闘を得意とする。女好きな一面もあってか、一目惚れからの告白もそう少なくはない。

 剣魂では本物の侍である桂小太郎と出会い、本格的に侍を目指し始めた。運命を感じており、桂とは親友の仲を築いている。しかし、銀魂世界へ来てもまったくモテていない。銀魂女子からも男として見られておらず、見下されている。

 

エリザベス(銀魂)

年齢:不明 身長:180cm 誕生日:9月7日 声優:そのへんのおっさん/神谷明

 桂のペット兼相棒の宇宙生物。ゆるキャラのような見た目が特徴的。布の中には多くの武器が仕込んでおり、刀だけではなくバズーカやドリルなども自在に取り出し可能。中にはおっさんが入っているらしいが、真相は不明。普段はプラカードを使って、他者と交流する。

 剣魂でも桂や仲間達を手助けするために大活躍。クラインを仲間として受け入れたが、桂へ心酔する場面を見ていると辛辣な言葉をかけることもある。酒飲み仲間としてエギルとも仲が良い。ピナともプラカードを介して、コミュニケーションをとることが可能。

 

 

ファイル4 超(ダイヤモンド)バキューム

 銀魂並びにソードアート・オンラインのヒロイン達が、協力し合って出来た組織。かつて人気投票篇にて妙の組んだ組織が、形を変えて再登場した。シリカら別世界から来た女子達を、妙ら女性陣が保護者として見守っている。みな意外にも戦闘力が高い。

 

志村妙(銀魂)

年齢:18歳 身長:168cm 誕生日:10月31日 声優:ゆきのさつき

 新八の姉にして、超パフュームのリーダー的存在の女性。江戸一の美少女と言われるほど、可愛らしい容姿をしている。しかし、性格は激しくて男勝り。腕っぷしでは男以上の力を発揮する。弟同様に道場を再建するために日々努力を続けている。普段はキャバ嬢として、夜のかぶき町で働く。戦闘の際は薙刀を使った戦いが得意。自身の貧乳を以上に気にしている。大人びた印象を持たせるが、意外にもまだ十八歳。アスナ、リズベットと同い年である……

 剣魂でも、勢いのある男勝りキャラは健在。別世界から来たキリト達を心配しており、積極的に手を差し伸べている。SAOキャラの女子とは全員仲は良好であり、特にシリカとは親しく接する仲である。

 

シリカ/綾野珪子(ソードアート・オンライン)

年齢:16歳 身長:146cm(推定) 誕生日:10月4日 声優:日高里菜

 キリトの仲間であり、現在は超パフュームの一員。小柄で幼く見える容姿だが、れっきとした高校生である。控えめな性格とアニメっぽく高い声が特徴。元々はキリトらとも「SAO」で知り合い、解放された後も関係を続けている。ペットであるピナとコンビを組んで戦うビーストテイマーで、武器のダガーを使って身軽な戦いを得意とする。妙同様貧乳への悩みは尽きない。

 剣魂では、超パフュームとして月詠らの仕事を手伝っている。百華の仕事も手伝っており、自身の戦闘力も着実に高まっている。妙とは比較的に仲が良いが、彼女の作った卵焼きだけは受け入れられず、その犠牲になることも多い。

 

ピナ(ソードアート・オンライン)

年齢:不明 身長:不明 誕生日:不明 声優:井澤詩織

 シリカのペットである水色の小竜。名前の由来は、彼女が元の世界で飼っている猫からつけられた。小柄な見た目に反して泡を使った多様な技が得意。中でもバブルブレスは、相手の動きを止める効果があって、銀魂世界でも大いに活躍している。のんびりした性格だが、決める時は決める。シリカの頭の上に乗っていることが多い。

 剣魂では、奇跡的に現実デビューを果たした。超パフュームとして手伝う女子達をサポートして支えている。シリカとの散歩と、好物であるチョコアイス「ピオ」が毎週の楽しみ。定春やエリザベスとも仲が良い。

 

柳生九兵衛(銀魂)

年齢:10代後半 身長:157cm 誕生日:4月20日 声優:折笠富美子

 柳生家の次期党首で、超パフュームの一員。迅速の剣の使い手と言われ、真選組とも互角に戦える実力を持つ。普段は陣羽織や野良服と落ち着いた衣装を着ているが、女子らしい振袖も上手に着こなす。女子だが男として教育された過去があり、男性の局部に対してこだわる意外な一面も持つ。桂と同じくクールボケキャラとして有名。戦闘の際は刀を用いる。男性への免疫が弱く、触れた相手を投げとなす癖を持つ。

 剣魂でも、個性を存分に発揮。男性キャラであるキリトやクラインも、彼女に触れて投げ飛ばされている。(クラインに至っては二回)超パフューム再結成後は、リーファを柳生家の手伝いとして迎い入れ、親交も深い。リズベットとも関わることが多く、仲が良い。

 

リズベット/篠崎里香(ソードアート・オンライン)

年齢:18歳 身長:157cm(推定) 誕生日:5月18日 声優:高垣彩陽

 アスナらの仲間で、超パフュームの一員。そばかすのついた童顔やピンクのショートヘアーがチャームポイント。明るく元気のよい性格で、メンバーでも有数のムードメーカー。彼女もまた「SAO」を生き残った一人でもある。仮想世界では鍛冶屋として活躍し、仲間達の武器を鍛えたりしている。武器は先端の尖った棍棒(メイス)と銀色の盾。からかい上手でもある。

 剣魂では、本物の鍛冶職人である村田鉄子の元で本格的な技術を学んでいる。気が強い性格は変わらず、銀時や真選組に対しても容赦はない。銀魂世界で初めて出会った九兵衛とはより親交が深い。下宿先で同居している晴太には、女子らしくからかうことも。

 

猿飛あやめ(銀魂)

年齢:20代 身長:169cm 誕生日:6月2日 声優:小林ゆう

 元お庭番衆の一員で、現在はフリーの始末屋兼超パフュームの一員でもある女性。みんなからの愛称は、さっちゃん。赤縁の眼鏡と目元の泣きぼくろ、薄い紫髪が特徴的。自他共に認めるドMで、銀時に対してしつこくストーカーをしている。しかし、銀時以外の人間に対してはドSに回ることもある。一応忍者としての実力はあり、クナイや手裏剣を使った戦術が得意。眼鏡を外すと極度に目が悪くなり、何も見えなくなる。

 剣魂でも、勢いのある性格は変わらない。表向きは女子達を手助けしているが、ストーカーは平然と続けている。ユイの前でも放送禁止用語を連発したりと、いつものさっちゃんである。SAOのキャラの中では、比較的シノンと関わることが多い。

 

リーファ/桐ケ谷直葉(ソードアート・オンライン)

年齢:16歳 身長:162cm(推定) 誕生日:4月19日 声優:竹達彩奈

 キリトの義妹で、現在は超パフュームの一員。金髪のポニーテールと大きめの胸がチャームポイント。元気な性格で、羽を使った飛行が趣味。キリトに対してはブラコンぶりを見せており、隙あらば甘えている。「SAO」解放後に、アスナやシリカらとも知り合った。(彼女は「SAO」に参加していない)剣術にも才能があり、戦闘では魔法剣を使い敵に立ち向かう。アバターと現実の容姿に一番ギャップがある。

 剣魂では、九兵衛の元で柳生家の手伝いをしている。時間がある時は、彼女から直々に教えてもらうこともある。元の世界とは違い、義兄とは違う場所で暮らすことが不満。それでも、下宿生活は大いに楽しんでいる。沖田にいじめられたことが、人生最大のトラウマ。

 

月詠(銀魂)

年齢:20代 身長:170cm 誕生日:2月9日 声優:甲斐田裕子

 吉原自警団百華のカシラ。並びに超パフュームの一員である女性。高身長で大きめの胸と、銀魂女子の中でも有数のスタイルを誇る。落ち着きのある冷静な性格で、空気を読むことが得意。アルコールを体に入れると、性格が変わってしまう酒乱の一面を持つ。主要武器はクナイで、着物に隠し持っている無数のクナイで相手を攻撃する。面倒見のよく、後輩からもよく好かれている。

 剣魂でも、クールかつ優しい女性として描かれている。SAO女子とは共に暮らしており、彼女達の下宿生活を支えている。特にシノンとは気が合って、一段と仲が良い。仲間からは「月姉」と慕われている。

 

シノン/朝田詩乃(ソードアート・オンライン)

年齢:16歳 身長:159cm(推定) 誕生日:8月21日 声優:沢城みゆき

 キリトの仲間で、現在は超パフュームの一員。露出の多いファッションとアバター特有の猫耳が特徴。クールで自立心があり大人びた性格。それゆえ、元の世界では高校生にして一人暮らしをしていた。それでも、仲間達との親交は深くアダ名で呼ばれることも。趣味は読書で、神話や伝承にも詳しい。遠距離戦が得意で、戦闘の際は弓を使って戦う。現実では眼鏡を着用していた。

 剣魂では、超パフュームとして月詠や百華を手伝っている。下宿生活にて慣れない集団生活に戸惑いつつも、仲間達と仲良く暮している。普段はクールだが、またたびを被ると泥酔状態に陥る弱点が発覚した。月詠とは特に親交深く接している。

 

 

ファイル5 スナックお登勢

 万事屋と建物を同じにする居酒屋。別名「酒と健全なエロをたしなむ店」 メンバーはお登勢、キャサリン、たまと女性のみであったが、剣魂では初の男性メンバー、エギルを迎い入れて計四人で店を切り盛りしている。

 

お登勢/寺田綾乃(銀魂)

年齢:60代 身長:166cm 誕生日:7月7日 声優:くじら

 スナックのオーナーで、万事屋の大家でもある。かぶき町でも影響力のある人間で、かつては四天王の一人であった。毒のある言葉が目立つが、本人は至って義理人情に厚い。基本はツッコミに回ることが多いが、稀にとんでもないボケを出すこともある。(例 たまキュアなど……) ちなみに若い頃の容姿は、見違えるほど美人であった。お登勢は源氏名で本名も存在している。旦那を早くに亡くしている。

 剣魂でも、義理人情に厚い一面を見せる。別世界から来たキリト達を気にかけたり、行き場所のないエギルを迎い入れたりと、彼女なりの優しさを見せる。おかげでSAOキャラからの信頼も高い。

 

キャサリン(銀魂)

年齢:30代 身長:165cm 誕生日:8月21日 声優:杉本ゆう

 スナックの従業員。銀魂の本家猫耳キャラ。元々は泥棒ばかりを繰り返したみたいだが、お登勢に拾われて現在は辞めている。口が悪く威圧的。日本語には慣れておらず、神楽以上に片言。年はそれなりに取っており、あまり顔も良くない。(本人も自覚している)しかし、恋をすると美人へと変わり、日本語もベラベラと達者に話せる。

 剣魂でも、全く変わらずに存在感を発揮。しかし、本物の萌え系猫耳キャラが現れたことに、危機感を抱いている。故に自分の出番を気にしている場面も目立つ。さらにエギルにも何故かライバル心を燃やす。

 

たま(銀魂)

年齢:不明 身長:165cm 誕生日:2月23日 声優:南央美

 スナックの従業員。カラクリ家政婦と言われている女性型アンドロイド。誰にでも丁寧語で話す礼儀正しい性格で、あまり感情を露わにしない。しかし、実力行使には容赦ない一面も。好物はオイルでおもにストローを使って食事する。また口に入れたモノで調理できる機能も存在する。戦闘では手にしたモップを使い、火炎を放つなど多彩な技を繰り出す。可愛らしい見た目に反して、力はかなり強い。

 剣魂でも、キリト達を手助けするために活躍する。特にエギルとは親交が深く、共にスナックで働いている。ユイとは人工知能繋がりで、共演することも多い。

 

エギル/ギルバード(ソードアート・オンライン)

年齢:20代 身長:190cm(推定) 誕生日:不明 声優:安元洋貴

 キリトやクラインの旧友である褐色肌の男性。ガタイのよい肉体で、力技が特技。面倒見がよく、見た目に反して真面目で誠実。元の世界では、ワインを扱うバーを営んでいた。主要武器は斧で、力任せに戦うことが多い。彼もまた「SAO」からの生還者で、解放後も仲間との繋がりは強い。

 剣魂では、スナックお登勢の一員として所属。拾ってくれたお登勢に恩を感じ、仕事を手伝っている。年は違うが、長谷川と仲が良い。夜兎族の神楽やカラクリ家政婦のたまには、腕相撲で唯一負けたらしい。

 

 

ファイル6 銀魂からの登場キャラクター

 所属はバラバラだが、出番がそれなりに多いサブキャラクターを紹介

 

長谷川泰三

年齢:38歳 身長:179cm 誕生日:6月13日 声優:立木文彦

 別名 人生というデスゲームを生き残ろうとしている男(笑) 元々は幕府側の仕事に就いていたが、ある一件でクビになり、現在のホームレス生活に至る。サングラスがトレードマークで、彼を語る上では欠かせない。仲間からの愛称はマダオ。まるでダメなおっさんという意味がある。普段は公園で生活しており、気が向いたら脱却を図ろうと努力する。万事屋とは、切っても切れない仲だ。

 剣魂でも、原作通りマダオの運命からは逃れられていない。初登場もホームレス生活のままキリト達と挨拶を交わした。年下ではあるが、エギルやクラインとは良好な仲を築いている。その分、SAO女子との共演はあまり多くない。

 

村田鉄子

年齢:20代(推定) 身長:161cm 誕生日:9月8日 声優:根本圭子

 刀鍛冶屋を営む青髪の女性。万事屋とも縁があり、依頼をすることもしばしば。冷静で活気のある性格。

 剣魂では、鍛冶屋繋がりでリズベットを弟子に加えている。情熱のある後輩が出来て彼女も嬉しく思っており、友好な関係を築く。

 

日輪

年齢:30代(推定) 身長:164cm 誕生日:1月8日 声優:櫻井智→井上喜久子

 吉原の太陽と言われている女性。気が優しくおおらかな性格。現在は吉原の代表を務めながら、茶屋も経営している。足が不自由なため、車椅子を使って普段は移動する。

 剣魂では、リーファら女子陣の保護者的立場として活躍。面倒見が良く、彼女達をしっかりと支えている。故に信頼も高い。

 

晴太

年齢:10歳(推定) 身長:133cm 誕生日:5月10日 声優:三瓶由布子

 吉原で暮らす少年で日輪の義息子。元気な少年で銀魂でも数少ない子供キャラ。思春期真っ盛りで、年上の女子に照れる一面を持つ。寺子屋に通っている。

 剣魂では、目立つ場面がサブキャラの中では多め。ユイを見てときめいてしまったり、シノンら下宿する女子達に恥ずかしがったりと、SAOキャラと多く触れ合っている。

 

平賀源外

年齢:60代(推定) 身長:159cm 誕生日:12月18日 声優:青野武→島田敏

 かぶき町一のカラクリ発明家。多くの機械を開発し、銀時ら万事屋に見せることもしばしば。年はとっているが、体は丈夫。

 剣魂では、一話の後篇にて初登場。キリト達へ肉体とアバターが融合した事実を分析した。意外にも重要な役割を果たしている。今後の展開にも注目。

 

東城歩

年齢:不明 身長:178cm 誕生日:1月14日 声優:遊佐浩二

 柳生家に仕える腰元。柳生四天王の一人でもある。常に糸目で落ち着いているが、九兵衛の事となるとすぐに取り乱す。そして、彼女からの制裁を受けるのがいつものパターン。

 剣魂でも早速九兵衛の鉄槌をお見舞いされた。(しかも、二回も)中の人繋がりだが、決してキリトの命を奪おうとしたクラディールではない。声は似ているが全くの別人。

 

おまけ 本作で中心に出てくる用語を解説

 

サイコギルド

 剣魂を通じて暗躍する謎の組織で、本作の敵ポジションに当たる。ブラックホールを作り出し、キリトらSAOキャラクターを銀魂世界へと送りこんだ張本人。他にも仮想世界の時間を止めるなど、人間離れした能力を多く持つ。その目的は一斉不明。メンバーも二人しか分かっておらず、他にも仲間がいる可能性が高い。彼らの正体が明かされる日は、来るのだろうか?

 

マルチバース

 別名は多次元宇宙論。多くの宇宙が無限に存在している説である。銀魂の世界とSAOの世界は地続きではなく、交わることのない別宇宙に存在していた。剣魂本編では、おもに銀魂の世界で物語が進んでいく。

 



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剣魂設定集02(夢幻解放篇)

 キャラクター紹介に続いて、夢幻解放篇に関わってくる人物や用語について紹介していきます。

注意 ここではネタバレとなる情報や本編にはない裏情報も含まれています。苦手な方は閲覧を控えてください。

目次
ファイル1 キャラクター紹介
ファイル2 世界観紹介
ファイル3 用語紹介
ファイル4 サプライズゲスト紹介(ネタバレ注意) 7月31日更新
ファイル5 敵対勢力紹介(ネタバレ注意) 9月4日更新
ファイル6 第二章・第三章登場キャラクター紹介(ネタバレ注意) 10月8日更新
※後書きと雑談も含みます。


ファイル1 キャラクター紹介

 

早見千佐/チサ イメージCV:早見沙織

 銀魂世界にて、寺子屋に通うごく普通の少女。夢幻解放篇で重要な役割を果たす今回のゲストキャラクター。青髪とあどけない目つきが特徴的で、見た目からは「SAO」に登場したサチを彷彿とさせる。サイコギルドの怪しいやり取りを目撃してしまった彼女は、実験と証して利用されてしまい、現在も昏睡状態が続いている。彼女が苦しむ夢の世界が、この長篇の舞台となっている。

 夢世界にて生きるチサは、本人とは異なり世話好きで元気のある女子に変更されている。実は記憶を失っており、本当の自分を取り戻すために戦っているようだ。ちなみに主要武器は、原典と同じで両手槍を用いている。

 補足:早見と言う苗字は、担当声優の早見沙織さんから取りました。ちなみに原典で所属していた月夜の黒猫団は、人数の関係で今回の章では出てきません。

 

白夜叉 声優:杉田智和

 千佐の夢の中に存在するかつての銀時と瓜二つの人物。攘夷志士として戦い抜いた白夜叉の姿に酷似しているが、性格は銀時とはまったくの別人。強い責任感を持ち仲間想いで男らしい一面が際立っている。銀魂で例えると「たまクエスト篇」に出てきた白血球王に性格は近いだろう。本人とは違って真面目なので、ボケは一斉通用しない。彼も元の世界ではある使命を背負って戦っており……

 補足:設定上では本物の銀時と境遇はほぼ一致している。すなわち、性格を除けば同じ人間と言う事になる。

 

キリト 声優:松岡禎丞

 千佐の夢の中に存在するかつてのキリトと酷似した少年。SAO時代の服装を身にまとっており、顔までもキリトとそっくりである。しかし性格は一ミリたりとも似ておらず、弱腰で泣き虫。戦いをも恐れている貧弱者である。他人のようにも思っていないキリトは、パラレルな自分を連想しており、彼を強くするべく心を通わせていく。

 補足:本編では語られていないが、実は本物のキリトと境遇が大きく異なっている。両親が生存しており、養子に迎い入れられる事は無く子供時代を過ごしていた。故に本人との興味も異なっており、SAOやVRゲームに関してもあまり詳しくはない。

 

アスナ 声優:戸松遥

 千佐の夢の中に存在するかつてのアスナにそっくりな少女。SAO時代の服装を着ており、髪の色も明るい栗色が目立っている。性格は上記の二人と同じく原典とは異なっており、ヤンキー口調で脅す強気な性格をしている。故に上品さは微塵もなく、粗暴で破天荒な戦い方を得意とする。こんな雰囲気だが、本当は面倒見が良く根は優しい。

 補足:別世界のアスナも本人とは家系が同じだが、原典とは異なり幼い頃から親に反発心を抱いている。とあるきっかけで不良系に興味を持つと、そのまま自身の性格に反映していた。本物のアスナとは、何もかもが正反対である。

 

桂小太郎 声優:石田彰

 千佐の夢の中に存在する攘夷戦争時代の桂小太郎。見た目だけでなく性格も似ており、人の話を聞かない我が道を行くタイプに等しい。夢の中でもクラインとはとても仲が良い。

 

クライン 声優:平田広明

 千佐の夢に存在するSAO時代のクライン。お人好しな一面も残しており、性格は本家譲りである。こちらも桂の事を尊敬している。ちなみに風林火山のギルドメンバーも、桂一派と協定を結んでいる。

 

坂本辰馬 声優:三木眞一郎

 千佐の夢の中に存在する攘夷戦争時代の坂本辰馬。夢の中でも武器商人としての名は伊達ではなく、リズベットやエギルにも材料を提供する始末である。何気に剣魂では初登場だ。

 

シリカ 声優:日高里菜

 千佐の夢の中に存在するSAO時代のシリカ。現在と容姿は違うが、小柄なのは変わっていない。原典と同じくビーストテイマーで、ピナを相棒にして戦う。性格もほぼ同じだ。

 

リズベット 声優:高垣彩陽

 千佐の夢の中に存在するSAO時代のリズベット。耳が違うだけで、ほぼ容姿は現在と大差がない。原典とは違い前線で戦いながら、鍛冶も兼用して行っている。材料を提供してくれる坂本には頭が上がらない。

 

高杉晋助 声優:子安武人

 千佐の夢の中に存在する攘夷戦争時代の高杉晋助。夢の中でも鬼兵隊の総督である。戦闘力が高く、実質的なリーダーとして指揮をとっている。彼も剣魂には初登場だ。声の似ているオベイロンとは何の関係性も無い。

 

エギル 声優:安元洋貴

 千佐の夢の中に存在するSAO時代のエギル。上記のキャラ同様、性格は一ミリたりとも変わっていない。深くは描写していないが、この世界でも商売をやっている模様。

 

サブキャラクター一覧

 

キバオウ 声優:関智一

 夢の中に存在するキバオウ。関西弁で話す活気のある男性で、やや威圧的である。原典と容姿は変わらないが、肩書きは異なりパクヤサ一派へと加担している。ちなみに、銀魂に登場した馬董とは中の人繋がりである。

 

ディアベル 声優:檜山修二

 夢の中に存在するディアベル。原典とは違い長く生存している。キバオウ同様パクヤサ一派へと加担しており、チームの指揮を担っている。

 

パクヤサ 声優:檜山修二

 夢の中に存在するパクヤサ。銀魂本編にて少し出演した銀時の下っ端である。夢世界ではだいぶ出世しており、キバオウらを取り込んで一大勢力の党首として君臨している。ちなみにディアベルとパクヤサの中の人は同じである。

 

ファイル2 世界観紹介

 

 千佐が見続けている夢の世界観は、攘夷戦争とSAOの世界が入り混じったものとなっている。パラレルワールドの住人であるもう一人の銀時やキリトらが閉じ込められており、今なお解放する手立ては僅かしかない。統率者が用意した百あるエリアを攻略することで、元の世界へと戻れるようだ。現在は七十五番目のエリアへと辿り着き、そこでまた統率者からの刺客に挑まなければならない。そこに万事屋も介入し、事態は急展開を迎える。

(それぞれの世界線については、以下を参照にしてください)

 

A世界(銀魂の世界)

 天人が地球に飛来して、宇宙に開国した世界。江戸時代でありながら、現代と同じ水準の文明を発展させている。万事屋や真選組、攘夷志士、天導衆と言った独自の組織が多く存在している。「剣魂」では、この世界を主軸に物語が動く。

 

B世界(SAOの世界)

 茅場昌彦がナーヴギアや仮想世界を作り出して、VR技術を発展させた世界。文明水準は2022~2026年頃だと予測されている。キリト達も本来はこの世界で生きていたが、サイコギルドの陰謀に巻き込まれてしまい、現在は銀時達のいるA世界で生活している。

 

C世界(パラレルな銀魂の世界)

 天人が地球に開国を迫り、銀時ら攘夷志士達が国の為に命を懸けて戦っている世界。未だに決着が付いていないが、大まかな流れは銀魂の攘夷戦争とほぼ同じである。夢幻解放篇では、その戦争途中に一部の攘夷志士達が夢世界に捕らわれたと予測される。

 

D世界(パラレルなSAOの世界)

 本来ならば2022年に発売される予定だったSAOが延期となり、事件すら起こっていない世界。故にキリトやアスナの性格が異なっており、B世界と比べれば大きな誤差が生じている。推定だがナーヴギアも公には浸透はしていない。

 

ファイル3 用語紹介

焦点装置

 源外が開発したカラクリの一つ。小粒程度の大きさしかないが、対象者の額に着けることで夢世界への突入を可能にする。転移装置とセットで使用する。

 

転移装置

 源外が開発したカラクリの一つ。見た目は白くて古いヘルメットだが、使用した人間の精神を夢世界へと転移することが出来る。焦点装置とセットで使用する。元となったカラクリは、ナーヴギアとひみつ道〇らしいが……

 

歩汗里

 銀魂で登場したスポーツドリンク。戦場でも売っていたらしく、4500円という破格の値段で販売していた。

 

統率者

 別世界の銀時やキリトを夢世界へと閉じ込めた黒幕。その正体は不明で、容姿も赤い頭巾とマントを羽織っているのみで顔も分かっていない。チサがその秘密を記憶に残しているようだが……

 

エリア

 夢世界にある空間の略称。およそ百個にも連ねており、全てを攻略しなければ元の世界には戻れることは出来ない。

 

※以下 中盤のネタバレを含めております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイル4 サプライズゲスト紹介

 

吉田松陽 声優:山寺宏一

 夢の中に存在する銀時の恩師。霧の中へと迷い込んだキリトが偶然にも出会った人物である。悩みを抱える彼に、的確なアドバイスを伝えた。

 

茅場晶彦 声優:山寺宏一

 夢の中に存在するキリトにとって因縁のある人物。霧の中へと迷い込んだ銀時が偶然出会った人物である。銀時の本音を探り出し、密かな話を交わしていた。奇遇にも吉田松陽と茅場晶彦の中の人も同じである。

 

※以下終盤のネタバレを含めております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイル5 敵対勢力紹介

 

ショッカー

 剣魂「夢幻解放篇」における黒幕であり、サイコギルドが銀魂世界に呼び寄せた初めての刺客。別世界にて世界征服を目論み暗躍していた悪の秘密結社であるが、組織を裏切ったバッタ型改造人間である仮面ライダーによって勢力をそがれていき、壊滅の一途を辿った。リーダー格であった首領は怨念として異次元を彷徨っていたが、サイコホールを通じて人為的に銀魂世界へ転移された。千佐の精神を蝕んで、組織を復活させようと企んでいる。

 

補足:世界線紹介

E世界(昭和ライダーが活躍した世界)

 ショッカー、デストロン、ブラックサタンなど改造人間を配下にして、世界征服を企む悪の組織が存在する世界。同時に仮面ライダー1号、仮面ライダーV3、仮面ライダーストロンガーといった組織の裏切り者――すなわち昭和ライダーも存在しており、彼らの野望を止めるべく、多くの組織へ立ち向かっている。

 

「夢幻解放篇」に登場した昭和怪人一覧

 サイコギルドから手にした二つの戦いの記憶を元にしているので、登場する怪人は一部を除き、SAOに出たモンスターや銀魂の天人をモチーフにしている。幅広い範囲から選んでいるので、そこはご了承ください。

 

・幹部級

ショッカー首領/大蜘蛛大首領 所属:ショッカー 代役声優:関智一

 別世界にてショッカーを裏で操っていた真の黒幕。赤いマントを体に羽織り、無数の蛇が絡みついた不気味な一つ目の頭部を持っている。冷酷な性格で、目的の為ならば仲間すらも簡単に切り捨てる。

 本来の歴史ではアジトごと自爆して消滅したはずなのだが、次元を繋ぐサイコホールによって、不完全な状態で銀魂世界へ転移。アンカーらから記憶を貰った後に、たまたま居合わせた早見千佐を利用して、完全復活を図ろうとしていた。夢世界を作り出し、復活の為の準備を周到に進めていく。すなわち、統率者の正体も首領である。

 終盤では自ら正体を明かして、強硬手段へと打って出た。

補足:この首領は初代仮面ライダーに出てきた個体と同じである。また夢世界故に、ショッカー以降に結成された組織の怪人も使役する事が出来る。(ショッカー怪人ばかりだと、偏りが生まれるからである……)

 

スペースイカデビル

所属:スペースショッカー 形態:イカ型改造人間 声優:関智一

 ショッカーの科学者イカデビルが、魔法の力を得て強化した姿。触手のように伸びる腕を鞭代わりに使用して、神楽や二人のアスナと死闘を繰り広げた。会話によく「イカ」という語尾を入れ込んでいる。上記の首領同様、担当声優はキバオウと同じ関智一さんである。

 

ウルガ(怪人態) 所属:ノバショッカー 形態:ハイエナ型改造人間

 ショッカーに反旗を翻した分裂組織、ノバショッカーの幹部。ハイエナの特性を持ち、主敏な動きや衝撃波で高杉や新八らに襲い掛かる。モチーフはアインクラッド第28層狼々原にて生息していた狼のモンスター。幹部の中では唯一声が割り振られていない。

 

アポロガイスト 

所属:GOD機関 形態:太陽神型改造人間 イメージCV:遊佐浩二

 神話をモデルにしたGOD機関が作り出した幹部級の怪人。太陽神をモデルとしており、それを模した盾や細刀の攻撃を得意とする。本物の銀時やキリトと対決する。赤と白、騎士然とした姿から血盟騎士団がモチーフ。

補足:イメージCVを遊佐浩二さんにした理由は……お察しください。

 

鋼鉄参謀 所属:デルザー軍団 形態:黄金魔人型改造人間 イメージCV:大川透

 魔の国から呼び寄せた幹部級怪人の集団、デルザー軍団の一人。全身が鋼鉄で覆われ、巨大な鉄球を武器に戦うパワーファイター。リズベット、坂本辰馬、エギルの三人を相手取る。モチーフはアインクラッド第1層ボスであるコボルドロード。色は気にしてはいけない。

補足:イメージCVは、ヒースクリフ役を担当した大川透さん。

 

ドラス 所属:ネオ生命体 形態:戦闘型ネオ生命体 イメージCV:井澤詩織

 ネオ生命体の持つ戦闘用ボディ。本体が破壊されない限り、何度でも再生が可能。接近戦だけではなく、ビームを用いた遠距離戦も得意。桂小太郎、シリカ、クラインを相手にする。モチーフは銀魂世界に存在する不死のエネルギーアルタナ。

補足:不気味な見た目に反して子供っぽい声で会話するので、イメージCVは井澤詩織さんにしました。(ピナやアルゴ役を演じた人です)

 

・一般怪人級

ドグダリアン 所属:ショッカー 形態:人喰い花型改造人間

 人喰い花をモデルにしたショッカー怪人。戦闘においては鞭を使い、相手を追い詰める。別世界のシリカと相見えた。もちろんモチーフは、アインクラッド第47層フローリアに生息する花型のモンスター……夢世界でも運命は避けられないのか?

 

ギルガラス 所属:ショッカー 形態:カラス型改造人間

 カラスの特性を持った改造人間。巧みな槍技だけではなく、飛行能力も得意とする。別世界の白夜叉と対峙した。天導衆が使役するカラスをモチーフにしている。

 

ジャガーマン 所属:ショッカー 形態:豹型改造人間

 人間豹と異名を持つショッカー怪人。素早さや接近戦に優れている。志村新八と戦いを繰り広げた。モチーフは銀魂第一訓に登場した茶斗蘭星の猫型天人。新八にとっては、因縁のある相手である。(一訓以降は特に出てないけど)

 

シードラゴンI世 所属:ショッカー 形態:タツノオトシゴ型改造人間

 タツノオトシゴを模した改造人間。左手にハサミ、右手に高圧電圧を流す鞭を内蔵している。別世界のリズベットと交戦した。アインクラッド第55層西の山に生息するドラゴンをモチーフにしている。(強引な気もするが、昭和怪人で縛っている為中々見つけづらかった)

 

サソリトカゲス 所属:ゲルショッカー 形態:サソリとトカゲの合成改造人間

 二つの動物を組み合わせるゲルショッカー怪人の一人。サソリのハサミと、トカゲの攻撃力を身に宿している。別世界の坂本辰馬と相対した。モチーフはアインクラッド第74層をうろついていたリザードマン。(トカゲも含まれている事から)

 

ジシャクイノシシ 所属:デストロン 形態:猪と磁石の合成改造人間

 有機物と無機物を合体させるデストロン怪人の一員。左手には超強力な磁石を装着している。本物のキリトと相見えた。モチーフは、アインクラッド第1層はじまりの町西フィールドに生息するイノシシ型モンスター。

 

ミノタウロス 所属:GOD機関 形態:牛人間型改造人間

 GOD機関の神話怪人。左右の手の甲についた半円状の盾で相手を追い詰める。力自慢である別世界のエギルと一戦を交えた。ちなみにミノタウロス系のモンスターは、SAO「ホロウ・フラグメント」でも姿を現している。

 

黒ネコ獣人 所属:ゲドン 形態:黒猫型改造人間

 黒猫を模したゲドンの獣人。鋭い牙や爪と言った野性的な戦闘を主軸にしている。別世界のキリトへ戦いを挑んだ。モチーフはもちろん「月夜の黒猫団」から取っている。

 

ハチ獣人 所属:ガランダ―帝国 形態:蜂型改造人間

 世界征服を目的にするガランダ―帝国最初の獣人。手や尻尾に着いた針を武器にして、トリッキーな戦法を用いる。神楽を相手に戦った。モチーフは極道のような天人蜂――ではなく、「ホロウ・フラグメント」にて出てきた雑魚敵である。

 

カマキリ奇械人 所属:ブラックサタン 形態:カマキリ型改造人間

 ブラックサタンが作り出した奇械人の一人。右腕には大鎌、左腕には鉄球付きの鎖を装備して戦う。他の一般怪人とは異なり、戦いを見守るユイに狙いを付けており……。モチーフは、アインクラッド第20層ひだまりの森に生息していたカマキリ型のモンスター。

 

マントコング 所属:ネオショッカー 形態:ゴリラ型改造人間

 ネオショッカー所属の怪人。驚異的な怪力と、俊敏な動きを得意とするゴリラの特性を持ち合わせている。本物の銀時と交戦した。モチーフはアインクラッド第35層迷いの森に生息する、ゴリラ型モンスターである。(某ゴリラ原作者ではない)

 

ライギョン 所属:ドグマ王国 形態:ライギョ型改造人間

 楽園成立を掲げるドグマ王国の改造人間。鋭い牙や強靭な腕を武器にしている。別世界の桂小太郎と戦った。モチーフは、アインクラッドコラル郊外の湖に生息する主魚である。

 

ツリボット 所属:ジンドグマ 形態:釣竿型改造人間

 日用品をモチーフにした怪人を配下にするジンドグマの一員。右手に装着した釣竿は、どんなモノでも釣り上げてしまう。別世界のクラインを相手にした。モチーフは、ライギョンと同じ釣り関係である。

 

バラロイド 所属:バダン帝国 形態:薔薇型UFOサイボーグ

 バダン帝国の改造兵士。トゲの付いたツルを伸ばして、鞭のように相手をからめとる。別世界の高杉と一戦を交えた。モチーフは、アインクラッド第47層フローリアの花畑。

 

ヤギ怪人 所属:ゴルゴム 形態:山羊型改造人間

 暗黒結社ゴルゴムが配下にする怪人の一人。大きい二本の角からは、炎や黄色い破壊光線も繰り出す。幻覚をも操る事が出来る。別世界のアスナと対峙した。モチーフはアインクラッド第74層ボスである青眼の悪魔が関係している。(角繋がり)

 

ムンデガンデ 所属:クライシス帝国 怪魔異性獣大隊 種族:怪魔異性獣

 クライシス帝国に所属する異種生物。ムカデのような容姿を持ち、鋭利な鎌や鋭い口で相手に襲い掛かる。本物のアスナに戦いを挑んだ。モチーフはアインクラッド第75層ボスである、スカルリーパーである。(ムカデ繋がり)

 

・戦闘員軍団

 組織に忠誠を誓い、圧倒的な人数で立ちはだかる下級の改造人間達。有名のは「イー!」でお馴染みのショッカー戦闘員だが、本章では別組織の戦闘員を加えて攘夷志士やプレイヤーへと襲い掛かっていく。

 

ショッカー戦闘員 所属:ショッカー

 

ゲルショッカー戦闘員 所属:ゲルショッカー

 

デストロン戦闘員 所属:デストロン

 

ドグマファイター 所属:ドグマ王国

 

コンバットロイド 所属:バダン帝国

 

チャップ 所属:クライシス帝国

 

対戦表

 

坂田銀時・白夜叉VSギルガラス・マントコング・ショッカー戦闘員・コンバットロイド・チャップ

 

アスナ・アスナ(別世界)VSヤギ怪人・ムンデガンデ・チャップ・デストロン戦闘員

 

桂小太郎・クラインVSライギョン・ツリボット・ドグマファイター

 

志村新八・神楽VSハチ獣人・ジャガーマン・ドグマファイター・ゲルショッカー戦闘員

 

ユイ・定春VSカマキリ奇械人・ショッカー戦闘員

 

キリト・キリト(別世界)VSジシャクイノシシ・黒ネコ獣人・デストロン戦闘員・ショッカー戦闘員

 

シリカ・リズベットVSドグダリアン・シードラゴン・ショッカー戦闘員・コンバットロイド

 

高杉晋助・エギル・坂本辰馬VSバラロイド・ミノタウロス・サソリトカゲス・ゲルショッカー戦闘員・コンバットロイド

 

対戦表2

 

白夜叉・キリト(別世界)VSショッカー首領

 

坂田銀時・キリトVSアポロガイスト

 

アスナ・アスナ(別世界)・神楽VSスペースイカデビル

 

志村新八・定春・ユイ・高杉晋助VSウルガ

 

桂小太郎・クライン・シリカ・ピナVSドラス

 

坂本辰馬・リズベット・エギルVS鋼鉄参謀

 

ファイル6 剣魂 第二章・第三章登場キャラクター

 

・万事屋銀ちゃん

坂田銀時(第十八~二十・二十二・二十七~三十九訓)

キリト(第十八~二十・二十二・二十七~三十九訓)

志村新八(第十八~二十・二十二・二十七~三十九訓)

アスナ(第十八~二十・二十二・二十三・二十七~三十九訓)

神楽(第十八~二十・二十二・二十三・二十七~三十九訓)

ユイ(第十八~二十・二十二・二十七~三十九訓)

定春(第二十九・三十四・三十六~三十八訓)

 

・真選組

近藤勲(第二十一・二十二・二十四)

土方十四郎(第二十・二十四・二十五・三十九訓)

沖田総悟(第十八・二十三・二十四・三十九訓)

山崎退(第二十一訓)

 

・攘夷党

桂小太郎(第二十五・二十七・三十九訓)

クライン(第二十五・二十七・三十九訓)

エリザベス(第二十五訓)

 

・スナックお登勢

お登勢(第二十六訓)

キャサリン(第二十・二十六訓)

たま(第二十・二十六~二十九・三十九訓)

エギル(第二十六訓)

 

・超パフューム

志村妙(第二十一・二十五訓)

シリカ(第十八・二十一・二十七・三十九訓)

ピナ(第二十一訓)

柳生九兵衛(第二十二・二十五訓)

リズベット(第十八・二十二・二十七・三十九訓)

猿飛あやめ(第二十三訓)

リーファ(第二十四・三十九訓)

月詠(第二十三訓)

シノン(第二十三・三十九訓)

 

・ダンボール

長谷川泰三(第二十・二十六訓)

 

・超パフューム関係者

村田鉄子(第二十二訓)

東城歩(第二十二訓)

 

・サブキャラクター

平賀源外(第二十六・二十七・二十九・三十四・三十六・三十八訓)

服部全蔵(第二十訓)

松平片栗虎(第二十四・二十五訓)

松平栗子(第二十五訓)

徳川そよ(第二十四訓)

おりょう(第二十五訓)

花子(第二十五訓)

坂本辰馬(第二十七訓)

 

・ゲストキャラクター

ケーキ屋店員(第十八訓)

過激派攘夷志士のみなさん(第十八訓)

鶏卵場のみなさん(第十九訓)

ソリート(第二十一訓)

ロア(第二十一訓)

百合ノ薫(第二十三訓)

早見千佐(第二十七~二十九・三十九訓)

千佐の友人達(第二十七・二十八・三十九訓)

 

・サイコギルド

アンカー(第二十七・三十九訓)

シャドームーン(第二十七・三十九訓)

 

別世界の住人達

坂田銀時(第二十九~三十二・三十四~三十八訓)

キリト(第二十九~三十八訓)

アスナ(第二十九~三十二・三十四~三十八訓)

チサ(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

高杉晋助(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

桂小太郎(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

坂本辰馬(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

シリカ(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

ピナ(第三十~三十八訓)

クライン(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

リズベット(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

エギル(第三十~三十二・三十四~三十八訓)

パクヤサ(第三十一・三十二・三十四・三十五・三十七・三十八訓)

キバオウ(第三十一・三十二・三十四・三十五・三十七・三十八訓)

ディアベル(第三十一・三十二・三十四・三十五・三十七・三十八訓)

 

特別出演

吉田松陽(第三十三訓)

茅場喜彦(第三十三訓)

 




後書き
 剣魂としての初めての長篇はいかがでしょうか? 始まりの戦いを意識して今回の話を作りましたが、意外にも苦労しますね。(汗)
 剣魂ではパラレルワールドもテーマとして上がっているので、別世界の住人と言うのも面白い試みだと思って構成しています。いわゆる挑戦作だと捉えてもらっても構いません。予定よりも少し遅れていますが、事態を解決するためにもより試行錯誤を凝らしていきます。終わったらまた銀魂らしい日常回に戻るので、現在活躍できていない真選組やリーファやシノンにもちゃんと出番があるのでご安心ください。MOREDEBANには、絶対にさせません!
 今後の予定ですが、思わぬ人物との遭遇、そして黒幕の正体がいよいよ明らかになる予定です。それなりに布石は置いていると思いますが、結構賛否が分かれそうな展開かもしれません。まぁ予想外な方が、面白味があるかもしれませんからね。
 それでは、また次回までお待ちを!


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剣魂設定集03(次元遺跡篇+妖国動乱篇)

 今回は妖国動乱篇に登場するキャラクターや設定を紹介していきます。(一部ネタバレ情報を含むので、注意してください)

目次
ファイル1 次元遺跡篇初登場キャラクター及び組織
ファイル2 世界観・用語説明
ファイル3 仮面の英雄たち
ファイル4 配下の怪人達
ファイル5 妖国動乱篇登場キャラクター&サプライズゲスト紹介
ファイル6 託された新たなる力(一部未登録)



ファイル1 次元遺跡篇初登場キャラクター及び組織

 

フィリア(剣魂版) 身長:154cm 年齢:10代後半 種族:スプリガン 声優:石川由依

 銀時らが初めて出会ったALO星の天人で、次元遺跡篇にて行動を共にする少女。その風貌はSAOのゲームオリジナルキャラクターであるフィリアを彷彿とさせるが、あくまでも別人。短めの黒髪や左右非対称な衣装と、アグレッシブな一面を持ち合わせている。

 勇敢な性格の持ち主で、どんな危険にも立ち向かっていく。逆境でも決して弱音を吐くことはない。トレジャーハンターを自称しており、ALO星にて暗躍するマッドネバーが狙っていたオブジェも、いち早く見つけ出していた。

 戦闘の際はノコギリに似た歯型の片手剣を使用するが、戦闘経験は少なくまだまだ修行中である。それでも人並みには戦えている。

 補足:余談ですが、本来の予定ではオリキャラかまた別のSAOキャラを登場させる予定でした。しかし宝探し要素に相応しいキャラを見つけたので、あえてゲームオリジナルキャラを選ぶことにしました。

 

マッドネバー

 次元遺跡篇と妖国動乱篇にて暗躍するメインヴィラン。ALO星の国家転覆を目的にしており、過激的な思想の者が集まっている。彼らは独自の技術力を用いて、凶悪な怪人達を配下に従え、ダークライダーシステムを使い対象者に超人的な力を与えている。構成員はALO星の者のみならず、銀魂における傭兵部族の一員も幹部に着いている。作戦実行を前にして、遺跡にある粒子や結晶を集めているようだが……

 

野卦/仮面ライダーリュウガ 性別:男 身長:170cm 年齢:20代前半 種族:夜兎 イメージCV:村瀬歩

 マッドネバーを自称する構成員の一人。ライダーデッキを用いて、仮面ライダーリュウガへと変身することが出来る。銀魂内における戦闘民族夜兎の血を引き継ぎ、犯罪集団である海賊春雨の元一員でもある。

 男性としては平均的な背丈で、中性的な顔や声が特徴的だが、常に不敵な笑みを浮かべている。性格は残忍かつ冷酷。自身の勝利の為ならば、どんな手段も辞さない激しい戦い方を得意とする。その戦闘力は夜兎の力も加わり強く、キリトのみならず真選組すらも圧倒する。

 

ライダーデータ 出典作品:仮面ライダー龍騎より 変身形態:黒龍型

 野卦が変身するダークライダーは、仮面ライダーリュウガ。原典では圧倒的な戦闘力で、仮面ライダー龍騎らミラーワールドのライダー達を蹂躙していた。元からの戦闘力と相まって、野卦との相性はとても良い。アドベントカードを使って、戦況に応じた戦いを得意としている。

 

アドベントカード一覧

SWORD:ドラグブラッカーの尻尾を模した剣を召喚する。

STRIKE:ドラグブラッカーの頭部を模した武器で炎を放つ。

GUARD:ドラグブラッカーの胴体の形をした盾を召喚する。

FINAL:最強の必殺技を繰りだす。ドラグブラッカーの火炎をまとったキックで、相手に衝撃と熱波を与え、大ダメージを与える。

 

ドラグブラッカー

 リュウガこと野卦が使役する黒龍型のミラーモンスター。アドベントカードを使う事で、鏡の中から姿を現すことが出来る。高い機動性を生かした物理攻撃と、高熱火炎を吐き散らす特殊攻撃でリュウガの戦いをサポートする。

 

亜由伽/仮面ライダーダークキバ 性別:女 身長:167cm 年齢:30代後半 種族:夜兎 イメージCV:矢作紗友里

 野卦と同じくマッドネバーに属する一人。キバットバットⅡ世を用いて、仮面ライダーダークキバへと変身することが出来る。経歴は野卦と同じく、夜兎の血を引き継ぐ元春雨の構成員だ。

 大人っぽく色気のある外見で、性格は高圧的かつ自信家。敵味方構わずに、常に相手を見下している。自身が勇勢の際には高笑いを披露するが、反対に劣勢の場合はその余裕は皆無となる。またかなりの潔癖症。

 

ライダーデータ 出展作品:仮面ライダーキバより 変身形態:ダークキバの鎧

 亜由伽が変身するダークライダーは、仮面ライダーダークキバ。強大な魔皇力を秘めた鎧の戦士で、原典では仮面ライダーイクサやアームズモンスターを圧倒させていた。紋章を模した結界やフエッスルを用いて、銀時やキリト達の行く末を阻んでいく。

 

必殺技一覧

結界:キバの紋章を模した結界を出現させて、相手を拘束状態にする。発動に制限は無く、使用頻度も高い。

 

ダークネスヘルクラッシュ:キバットバットⅡ世にウエイクアップフエッスルを一度吹かせて発動。全身の力を腕に集中させて放つパンチ技。

 

キングスバーストエンド:キバットバットⅡ世にウエイクアップフエッスルを二度吹かせて発動。全身の力を足に集中させて放つキック技。

 

キバットバットⅡ世

 ダークキバこと亜由枷が使役するコウモリ型のモンスター。オリジナルとは異なる複製生物であり、亜由枷を変身させる為にしか存在していない。口数は少ないものの、従者には忠実に従う。口癖は本家と同じく「絶滅タイムだ!」。

 

唖海/仮面ライダーポセイドン 性別:男 身長:184cm 年齢:40代後半 種族:辰羅 イメージCV:三宅健太

 マッドネバーに属する構成員の一人。海洋生物系のコアメダルを用いて、仮面ライダーポセイドンに変身することが出来る。こちらは戦闘民族の一種である辰羅の血を引き継いで、元は春雨と敵対する犯罪組織に手を貸していた。

 大柄な体格の男性で、辰羅の特有の青髪やとんがり耳と言った特徴もある。性格は過激で好戦的。見境なく戦う相手を求めるが、頭脳を用いた判断力にも秀でている。地球における侍に強い興味を示している。

 

ライダーデータ 出展作品:仮面ライダーオーズ 変身形態:水棲系コンボ形態

 唖海が変身するダークライダーは、仮面ライダーポセイドン。サメ、クジラ、オオカミウオと言った水中生物の力を宿す戦士だ。原典では仮面ライダーバースや仮面ライダーオーズを相手取った。武器である長槍「ディーペストハープーン」を操り、地球の侍達に戦いを挑む。

 

必殺技一覧

キック技:オオカミウオの力から放たれるキック。巨大な足影と重なるのが特徴。

 

槍技:先端を振り水色のエネルギー波を繰りだす。また防御としても使用できる。

 

瞬間移動:コアメダルの力で、一瞬のうちに接近が可能。また設定上ではあるが、水中戦も得意。

 

屑ヤミー作成:集団戦を得意とする辰羅ならではの戦法。セルメダルから作り出し、相手全体をかく乱させる。

 

宇堵/仮面ライダーソーサラー 性別:女 身長:162cm 年齢:20代前半 種族:辰羅 イメージCV:斉藤千和

 マッドネバーに属する構成員の一人。変身リングを使用して、仮面ライダーソーサラーに変身することが出来る。唖海と同じく辰羅の出身で、とある犯罪組織の一員としても暗躍をしていた。

 平均よりも高めの背丈で、他人には明るく振る舞う性格。しかし、本性は下劣であり人殺しも躊躇わない。能天気そうに見えて、動きには一斉の隙がない。妖精に対しては、ただならぬ憎悪を向けている。

 

ライダーデータ 出展作品:仮面ライダーウィザード 変身形態:金色の魔法使い

 宇堵が変身するダークライダーは、仮面ライダーソーサラー。多種多様な魔法を駆使して戦う魔法使いだ。原典では仮面ライダーウィザードや仮面ライダービーストを追い詰めた。魔法リングを用いた攻撃に加えて、ディースハルバードと呼ばれる長斧で接近戦も得意とする。

 

必殺技一覧

ストライクソーサラー:足元に魔法陣を発生させて、金色の魔法をまとった飛び蹴りを相手にお見舞いする。

 

コモンウィザードリング:右手にはめた魔法リングで、多彩な魔法を発動させる。劇中ではバインド(拘束能力)・リフレクト(攻撃返し)等を使用した。

 

グール召喚:ポセイドンと同じく戦闘員を用いた戦法。魔石から解き放たれ、ソーサラーの戦いをサポートする。

 

オベイロン/アナザーエターナル 性別:男 年齢:不明 種族:不明 声優:子安武人

 マッドネバーの黒幕にして、ダークライダーのベルトや怪人を複製した張本人。その容姿はかつてキリトと敵対した科学者、須郷信之及びオベイロンと酷似している。貴族風の緑色の衣装と金色の王冠、鋭い目つきが特徴である。

 原典とは別人であるが、こちらの世界でも卑劣な性格は変わらない。冷酷な野心家であり、支配欲の為に国家転覆を目的としている。自分の非を認めない自分勝手な一面も持ち合わせている。

 元々はエネルギーやモンスターの研究を続けていたが、サイコギルドと関わったことで状況が一変。その技術力をダークライダーや怪人に費やし、兵力を格段に上げていた。

 またアナザーウォッチを使用して、原典にはいなかったアナザーエターナルに変身することが出来る。独自に開発したT3ガイアメモリを巧みに使い、銀時やキリト達と敵対する。

 

ライダーデータ 出展作品:仮面ライダージオウ? 変身形態:仮面ライダーエターナルのアナザーライダー

 オベイロンが変身するアナザーライダーは、アナザーエターナル。かつて風都を地獄に陥れようとした、仮面ライダーエターナルと同等の力を持つ。

 他のアナザーライダーと同様、原典のライダーを怪人化した容姿である。ゴツゴツとした表面と、ボロボロの黒いマント、鋭利に尖った口元、腕や足には青や赤色ではなく緑色の炎があしらわれている。

 また左足には2009年、右足には2024年とアナザーライダー特有の年号が刻まれている。前者はエターナルが登場する仮面ライダーWが放映開始された時期、後者はSAOの舞台設定でオベイロンが登場する「フェアリーダンス編」と同じ時期である。ちなみにエターナルの英字は、背中に横書きで刻まれている。

 能力は独自に開発したT3ガイアメモリと、ガイアキャリバーをメインに使用する。さらにエターナルと似た力で、ALO星にいる妖精達の魔法や飛行能力をも封じてしまう。この効果はキリトらにも波及してしまった。

 また弱点は仮面ライダーの力であり、原典と同様にエターナルの力はそこまで大きく関係していない。しかし銀時やキリト達は、仮面ライダーの力を持っておらず……。

 

補足1:ダークライダーについて

 今回選出したダークライダー達は、比較的ファンタジー系で統一している。(リュウガ=竜騎士・ポセイドン=海の王・ダークキバ=皇帝・ソーサラー=魔法使い)

 変身者である夜兎や新羅の構成員のイメージCVは、「フェアリーダンス編」で活躍したキャラ達がモデルとなっている。

 ちなみに初期案では他に十体程度いた。他の候補では仮面ライダーダークカブト・仮面ライダー幽汽・仮面ライダーデューク等がいる。

 

補足2:アナザーエターナルについて

 ジオウ本編では登場すらしなかったアナザーエターナル。実は妖国動乱篇ではガイアメモリの要素を導入したい考えから、オリジナルのアナザーライダーが創られた。

 またダークライダーではなく、何故アナザーライダーの方なのか? 率直に言うと、オベイロンの性格上後者の方が似合っていると思ったからです。

 

補足3:実は……

 本来の予定では、別世界からの刺客として仮面ライダーエターナルこと大道克己が登場予定でした。しかし彼の本来の性格や、Vシネマ及びジオウでの活躍を見ると、どうしても弊害が生まれることに気が付き、結果アナザーエターナルというカタチに落ち着きました。

 

アイテム一覧

・アナザーエターナルウォッチ 

 ライドウォッチの欠片から生成した独自のウォッチ。オベイロンはこれを使用して、アナザーエターナルに変身する。

 

・ガイアキャリバー

 アナザーエターナルの主要武器。キリトの所持するエクスキャリバーと似た構造の長剣。刀身部分にはメモリスロットが付属している。原典とほぼ同等に最大で二十六本までメモリを刺せる。

 

・T3ガイアメモリ

 オベイロンが独自に開発したガイアメモリ。A~Zの二十六種あり、多種多様な効果を発揮する。使用する際はガイアキャリバーに装填する。ちなみに、ドーパントに変身することは不可能のようだ。

 この二十六本のメモリが、妖国動乱篇の重要なキーアイテムとなる。

 

・一覧

A アルヴヘイム

 妖精の国アルヴヘイムの記憶を秘めたメモリ。効果はあらゆる場所でも、瞬時にそこへ移動することが出来る。

 

B バズーカ

 砲撃装置の記憶を秘めたメモリ。効果は砲弾を発射できる。

 

C キャリバー

 聖剣の記憶を秘めたメモリ。ガイアキャリバーを強化させる効果を持つ。

 

D ドラゴン

 竜の記憶を秘めたメモリ。効果はドラゴン型のエネルギー波を放つことが出来る。

 

E エリザベス

 謎のマスコットの記憶を秘めたメモリ。効果はエリザベスを強化させる。(未使用)

 

F フェアリー

 妖精の記憶を秘めたメモリ。効果は不明。

 

G ゴリラ

 ゴリラの記憶を秘めたメモリ。効果は握力上昇。また漫画の腕が上がるらしい。

 

H ホームレス

 生活困窮者の記憶を秘めたメモリ。効果は長谷川さんの身に何かが起きる。(未使用)

 

I インセレクト

 審判の記憶を秘めたメモリ。効果はハンマー型のエネルギー波を作り出せる。元ネタはSAO一期の2クール目OPのタイトル。

 

J ジョウイ(攘夷)

 攘夷志士の記憶を秘めたメモリ。

 

K カラクリ

 カラクリの記憶を秘めたメモリ。効果は歯車状のエネルギー波で相手を拘束する。

 

L リード

 先導の記憶を秘めたメモリ。効果は散らばったメモリを集めることが出来る。T2ガイアメモリのゾーンと効果はほぼ同じ。

 

M マヨネーズ

 マヨネーズの記憶を秘めたメモリ。

 

N ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲

 破壊兵器の記憶を秘めたメモリ。超火力のエネルギー波をノーリスクで放つ。

 

O オンライン

 サイバー空間の記憶を秘めたメモリ。効果は対象の相手を、異次元空間に閉じ込めることが出来る。

 

P ピクシー

 妖精の記憶を秘めたメモリ。

 

Q クエスト

 探求の記憶を秘めたメモリ。

 

R ラビット

 ウサギの記憶を秘めたメモリ。とある人物が使用して、追っ手から逃れるために兎へと変身していた。

 

S ソード

 剣の記憶を秘めたメモリ。ガイアキャリバーの切れ味を高める効果を持つ。

 

T トレード

 交換の記憶を秘めたメモリ。効果は不明。

 

U アンブレラ

 傘の記憶を秘めたメモリ。日傘型のシールドを形成する。

 

V ヴァーチャル

 仮想空間の記憶を秘めたメモリ。相手に幻影を見える効果を持つ。(未使用)

 

W ウッドソード

 木刀の記憶を秘めたメモリ。ガイアキャリバーの硬度を高める効果を持つ。

 

X クロス

 交差の記憶を秘めたメモリ。二つの力を一つに合わせることが出来る。

 

Y ヤト(夜兎)

 夜兎の記憶を秘めたメモリ。効果は一時的に肉体を強化できる。

 

Z ゼッカイ

 とある必殺技の記憶を秘めたメモリ。効果は不明。

 

 

 

 

 

 

 

ファイル2 世界観・用語説明

 

ALO星

 銀魂の宇宙に存在する惑星。その星では九つの妖精種族が支え合い、国や町を発展させている。世界観や歴史は、SAO本編に出ていたALOとほぼ酷似している。

 

アルン

 妖国動乱篇の舞台とも言えるALO星の中心街。普段は他の星からの観光客で、街は賑わっている。しかし……

 

次元遺跡

 次元遺跡篇の舞台となる謎の遺跡。ここでは他世界で活躍している、仮面の英雄こと平成仮面ライダー達の記憶が刻まれている。マッドネバーは、その力すらも利用しようと企んでおり……

 

セキさん

 銀魂世界で活躍する某都市伝説おじさん。次元遺跡の存在をテレビ番組内にて示唆していた。

 

川空駅

 セキさんの情報から、銀時達が訪れた田舎の駅。近辺を探していると、彷徨う一人の妖精少女と出会い……。ちなみに現実世界で言う埼玉県近くにあるらしい。

 

 

 

 

 

 

ファイル3 仮面の英雄たち

 

 次元遺跡に銅像として建てられていた二十人の英雄達。その正体は、かつて別世界で己の信念の為に戦った平成仮面ライダーである。彼らは多様な能力を持ち合わせており、多くの怪人達に立ち向かっていた。ここでは平成ライダーの簡単なプロフィールを紹介しよう。

 

 

仮面ライダークウガ 変身者:五代雄介 活躍した時代:2000年―2001年

主なフォーム:グローイング・マイティ・ドラゴン・ペガサス・タイタン・アメイジング・アルティメット他

 グロンギの魔の手から人々を守る伝説の戦士。超人的な身体能力と、物質を再構成して姿を変える超変身を持ち合わせる。

 

仮面ライダーアギト 変身者:津上翔一 活躍した時代:2001年―2002年

主なフォーム:グランド・フレイム・ストーム・トリニティ・バーニング・シャイニング

 超越生命体と呼ばれるアンノウンと戦う仮面ライダー。人類の進化した姿とも言われている。近距離戦に特化した複数の姿に変身することも出来る。

 

仮面ライダー龍騎 変身者:城戸真司 活躍した時代:2002年―2003年

主なフォーム:サバイブ

 ミラーワールドで戦う仮面ライダーの一人。赤龍型モンスターのドラグレッダーやアドベントカードを駆使して、ミラーモンスターや他の仮面ライダーと戦った。

 

仮面ライダーファイズ 変身者:乾巧 活躍した時代:2003年―2004年

主なフォーム:アクセル・ブラスター

 ファイズギアによって変身した仮面ライダー。全身に流れるエネルギー、フォトンブラッドの力で、オルフェノクを仕留めていく。技の発動には携帯電話を介したコード入力が必要。

 

仮面ライダーブレイド 変身者:剣崎一真 活躍した時代:2004年―2005年

主なフォーム:ジャック・キング

 アンデッドの脅威から人々を守る戦士。ラウズシステムを駆使して、倒したアンデッドをカードで封印。その力や技を使いこなしていく。

 

仮面ライダー響鬼 変身者:ヒビキ 活躍した時代:2005年―2006年

主なフォーム:紅・装甲

 魔化魍に対抗する音撃戦士の一人。清めの音を相手に叩き込み、多彩な技を繰りだすことが出来る。厳しい鍛錬の下で、その力を維持している。

 

仮面ライダーカブト 変身者:天道総司 活躍した時代:2006年―2007年

主なフォーム:マスクド・ライダー・ハイパー

 地球外生命体ワームと戦うマスクドライダーの一人。装甲がメインの第一形態と素早さがメインの第二形態を使いこなす。相手よりも早く動けるクロックアップが特徴的だ。

 

仮面ライダー電王 変身者:野上良太郎 活躍した時代:2007年―2008年

主なフォーム:プラット・ソード・ロッド・アックス・ガン・ウイング・クライマックス・ライナー他

 未来からの侵略者イマジンに立ち向かう電仮面戦士。時を駆ける列車のデンライナーで、自由に時間を移動できる。またイマジンの力を用いて、多彩な姿に変えることが出来る。

 

仮面ライダーキバ 変身者:紅渡 活躍した時代:2008年―2009年

主なフォーム:キバ・ガルル・バッシャー・ドッガ・ドガバキ・エンペラー他

 人類を狙う種族ファンガイアと戦うキバの鎧の戦士。フエッスルを吹かせて、戦闘スタイルや姿を変えられる。カテナと呼ばれる鎖で、強大な力を抑え込んでいる。

 

仮面ライダーディケイド 変身者:門矢士 活躍した時代:2009年

主なフォーム:平成主役ライダーのカメンライド・コンプリート

 平行世界を行き来する通りすがりの仮面ライダー。肩書きは世界の破壊者や悪魔。歴代仮面ライダーの力を宿したカードで、姿や特殊能力を再現して戦う。

 

仮面ライダーW 変身者:左翔太郎・フィリップ 活躍した時代:2009年―2010年

主なフォーム:サイクロンジョッカー・ヒートメタル・ルナトリガー・ファングジョーカー・サイクロンジョッカーエクストリーム他

 風都の探偵が変身した二人で一人の仮面ライダー。ベルトにガイアメモリを装填して、二つの能力を同時に使うことが出来る。町に蔓延る怪人、ドーパントと戦った。

 

仮面ライダーオーズ 変身者:火野映司 活躍した時代:2010年―2011年

主なコンボ:タトバ・ガタキリバ・ラトラーター・サゴーゾ・タジャドル・シャウタ・プトティラ・ブラカワニ・タマシ―・スーパータトバ他

 人々の欲望を狙う怪人ヤミーに立ち向かう戦士。三枚のメダルを組み合わせて、数多の動物の力を借りて戦う。同じ色で合わせると強大な力を持つコンボ形態となる。(例外も含む)

 

仮面ライダーフォーゼ 変身者:如月弦太朗 活躍した時代:2011年―2012年

主なステイツ:ベース・エレキ・ファイヤー・マグネット・ロケット・コズミック・メテオフュージョン他

 学園の平和を守る、宇宙飛行士を模した仮面ライダー。両腕と両足にあるユニットは、用途に応じて様々な装備を出現させる。宇宙のエネルギーを秘めたアストロスイッチを使用して、ゾディアーツと呼ばれる星座の怪人達に立ち向かった。

 

仮面ライダーウィザード 変身者:操真晴人 活躍した時代:2012年―2013年

主なスタイル:フレイム・ウォーター・ハリケーン・ランド・オールドラゴン・インフィニティー他

 人々を絶望に追いやる魔物ファントムと戦う指輪の魔法使い。ベルトに指輪をかざすことで、多彩な魔法を発動させる。属性に応じた姿にスタイルチェンジも出来る。

 

仮面ライダー鎧武 変身者:葛葉紘汰 活躍した時代:2013年―2014年

主なアームズ:オレンジ・パイン・イチゴ・スイカ・バナナ・ジンバーレモン・カチドキ・極他

 果実を模した錠前型アイテム、ロックシードで変身するアーマードライダー。アイテムを組み替えることで、果実型の鎧を変えることが出来る。未知の生命体、インベスやオーバーロードに立ち向かった。

 

仮面ライダードライブ 変身者:泊進ノ介 活躍した時代:2014年―2015年

主なタイプ:スピード・ワイルド・テクニック・デッドヒート・フォーミュラ・トライドロン・スペシャル他

 人を襲う機械生命体ロイミュードを追う警察官ライダー。相棒のベルトさんと共に怪人が引き起こす難事件を解決していった。スーパーマシンであるトライドロンや、タイヤの能力を変えるシフトカーが特徴的である。

 

仮面ライダーゴースト 変身者:天空時タケル 活躍した時代:2015年―2016年

主な魂:オレ・ムサシ・エジソン・ニュートン・ロビン・闘魂ブースト・グレイトフル・ムゲン・テンカトウイツ他

 異世界の使者眼魔と戦う幽霊型仮面ライダー。目を模したアイテムである眼魂は、偉人の力を宿しており、ベルトに装填することでその能力をまとうパーカーで姿を変化させる。

 

仮面ライダーエグゼイド 変身者:宝生永夢 活躍した時代:2016年―2017年

主なゲーマー:アクション・ロボット・バーガー・ハンター・スポーツ・ダブルアクション・マキシマム・ムテキ・クリエイト他

 人々に危害を加える未知のウイルス、バグスターと戦う天才ゲーマー兼医者。ゲームカセット型アイテムをベルトに装填して戦う。種類によっては、レベルの値が異なっている。

 

仮面ライダービルド 変身者:桐生戦兎 活躍した時代:2017年―2018年

主なフォーム:ラビットタンク・ゴリラモンド・ホークガトリング・ニンニンコミック・海賊レッシャー・キードラゴン・スマホウルフ・ラビットタンクスパークリング・ハザード・ラビットラビット・タンクタンク・ジーニアス・クローズビルド・ラビットドラゴン他

 謎の怪人スマッシュから人々を守る天才物理学者。有機物や無機物を模したアイテムのフルボトルを二本使用して、多種多様な姿に変身することが出来る。その中でも相性が良いものを、ベストマッチ形態と言う。

 

仮面ライダージオウ 変身者:常磐ソウゴ 活躍した時代:2018年―2019年

主なアーマー:ビルド:エグゼイド・ゴースト・フォーゼ・オーズ・鎧武・W・クウガ・ディケイド他

主な強化形態:ジオウⅡ・ジオウトリニティ・グランドジオウ・オーマジオウ・オーマフォーム

 最高最善の王を目指す青年が変身した時の王者。ライダーの歴史を秘めたアイテムのライドウォッチを駆使して、歴史を歪ませる敵タイムジャッカーに戦いを挑んだ。また時間に関する操作も可能である。

 

 

 

 

 

 

ファイル4 配下の怪人達

 マッドネバーは平行世界で暗躍した数多ある怪人達を、独自の技術力によって複製することが出来る。クーデター開始の際にも、彼らの戦力として活躍していた。その数は五十体を優に越している。ここでは妖国動乱篇にて登場した、怪人達の種族や個体の特徴を見てみよう。

 また今回登場する怪人達は、一部を除いて銀魂かSAOに関連している。

 

・グロンギ 出展作品:仮面ライダークウガ

 別名は未確認生命体。人類に極めて近い戦闘種族であり、性格は総じて残酷かつ好戦的。様々な動植物の力を有している。グロンギ語と呼ばれる独自の言語で会話をする。

 本章では、特に戦闘能力が高い「ゴ」集団から三体が復元された。

 

ゴ・ガドル・バ 形態:カブトムシ種 武器:素手/剣 代役声優:安元洋貴

「ゴ」集団の最強戦士。電気エネルギーを吸収して、戦力が格段と強化された。格闘術を用いて銀時らと対峙する。モチーフは銀魂にて行われたカブト狩りから。

 

ゴ・ベミウ・ギ 形態:ウミヘビ種 武器:ムチ

「ゴ」集団に属する女怪人。零下150℃の超低温鞭を操り、相手を始末する。原典における人間体はチャイナドレスの女性で、服装繋がりから神楽と相対した。

 

ゴ・ジャラジ・ダ 形態:ヤマアラシ種 武器:小刀

 グロンギの中でも特に残忍な怪人。原典では特殊な針を駆使して、多くの人の命を奪っていた。戦闘時には、ダーツのように針を相手に投げつけていく。動きはかなり俊敏である。短期間で多くの命を奪った点は、SAOの第一層ボスであるコボルトを彷彿とさせる。(若干こじつけ感はあるが……)

 

・アンノウン 出展作品:仮面ライダーアギト

 超能力者を襲う超越生命体。正式名称はロード怪人で、その正体は神に従える天使。彼らは神に近づこうとしている人間(主に超能力に目覚めた又は目覚めそうな者)を、この世から排除することを目的にしている。倒される際には、頭上に天使の輪っからしき光が現れる。個体によっては、人間と同じく会話も可能。

 本章では、オベイロンによって複数の個体が再生。本来の目的を無視して、マッドネバーに忠誠を誓う。

 また余談ではあるが、アンノウンの個体が最終決戦で襲い掛かった相手は、アスナ、リーファ、シノンの三人。この三人の共通点を辿れば……おのずと答えは見えてくるだろう。

(後の原作で三人は、スーパーアカウントで神に近い力を手にしている。まさかアンノウンはそれを予見して!?)

 

地のエル(強化体) 形態:ライオン型 武器:長剣 声優:三宅健太

 アンノウンよりも高位な存在、エルロードの一体。手のひらから放つ熱砂と、「敬虔のカンダ」と呼ばれる長剣を武器に戦う。選出理由は中の人繋がり。担当している三宅健太さんは、銀魂で鯱や原田右ノ助。SAOでユージーン将軍を演じている。

 

クラブロード(クルスタータ・パレオ) 形態:蟹型 武器:蟹型ハサミ

 超越生命体の一体。攻守共に使えるハサミ型の盾で戦闘する。選出理由は、銀魂にて蟹をテーマにした日常回から。ちなみにSAOでも、二期最終回で一瞬だけ蟹型モンスターを見かける。

 

ファルコンロード(ウォルクリス・ファルコ) 形態:ハヤブサ型 武器:羽根

 超越生命体の一体。空中から相手をかく乱しつつ、頭突きや嘴でとどめを刺す。アスナらを相手取った。モチーフは、ゲーム版のロストソングに出たワイバーン。

 

バッファローロード(タウルス・バリスタ) 形態:バッファロー型 武器:三つ槍

声優:鳥海浩輔

 水牛をモデルにした上級の超越生命体。紋章型のプラズマを放つ三つ槍、「至高のトリアンナ」を巧みに使って戦う。高位に属する為、人間の言葉を発することが出来る。

 選出理由はミノタウロスと似ていたから。またバッファローロードは、仮面ライダーディケイドに登場した怪人だが、その後篇の年代と放送日はなんと、リーファこと桐ケ谷直葉が誕生した日でもある。〈2009年4月20日〉

 

・ミラーモンスター 出展作品:仮面ライダー龍騎

 鏡の世界ミラーワールドに生息する奇怪な化け物。メカニカルな外観と鮮やかな体色が特徴的である。知性は持っておらず、本能のままに人間へ襲い掛かる。個体によっては、仮面ライダーと契約して、戦いをサポートすることも可能。

 本章では、オベイロンの手により多数の個体が復活。その中には繁殖性が高い個体までおり……。ちなみに原典とは異なり、ミラーワールド外でも活動が可能。オベイロンの指示を聞くのは、復元時に仕様を調整したかららしい。

 そしてミラーワールドは、本章にて意外な活躍を見せる。

 

※ダークライダーを復元した為、幹部怪人はいません。

 

ウィスクラーケン 形態:イカ型 武器:槍

 ミラーモンスターの一種。武器である長い槍や、頭上にある口から煙幕を発射して相手を惑わせる。クラインや土方十四郎を相手にした。モチーフはSAOの特別篇に出てきたクラーケン。

 

オメガゼール 形態:レイヨウ型 武器:杖

 ミラーモンスターの一種。優れた運動性と、先端がドリル状になった杖を武器にして戦う。選出理由は、騎士然とした容姿。色味は違うが、どことなくサラマンダーの鎧に見える。

 

ソロスパイダー 形態:アシナガグモ型 武器:カギ爪

 ミラーモンスターの一種。腕力に優れて、両腕から伸びたカギ爪で相手を仕留めていく。素早い動きも特徴である。選出理由は、ソロプレイヤーの言葉いじり。

 

シアゴースト・レイドラグーン・ハイドラグーン 形態:ヤゴ型・トンボ型 武器:爪

 ミラーモンスターの一種。集団性に優れており、数に任せて相手に襲い掛かる。全身に生えた鋭い爪が特徴的だ。脱皮をすることで、人型からトンボ型に進化することが出来る。モチーフは、世界樹にいたガーディアン達。

 

・オルフェノク 出展作品:仮面ライダーファイズ

 死んだ人間が覚醒して蘇った人類の進化系。動植物を思わせる能力や形態を持ち、強靭な肉体を有している。全身はグレー色で統一されている。倒された際には、青い炎を放って砂と化してしまう。

 本章では、多くの個体が復活。オベイロンの野望遂行の為に尽力を尽くす。

 

ドラゴンオルフェノク(魔人態) 形態:龍型 武器:腕

 龍の特性を備えた幹部級のオルフェノク。強固な外殻をまとったパワー重視の魔人態を主軸に戦う。分厚く覆われた腕には、強力な電気が蓄えられている。選出理由は、ロストソングに出たファフニールから。

 

エレファントオルフェノク 形態:象型 武器:片手剣(アルマジロオルフェノクの流用)

 象の特性を備えたオルフェノク。圧倒的なパワーを生かした力任せの戦闘を得意としている。リーファや柳生九兵衛と相対した。モチーフはトンキーのモデル繋がり。ちなみに武器の片手剣は、本編ではなく「レッツゴー仮面ライダー!」に出た個体の方を参考にしています。

 

オクトパスオルフェノク 形態:タコ型 武器:素手

 タコの特性を備えたオルフェノク。伸縮自在な両腕と拳を活かしたパンチを武器に戦う。触手に隠れている口からは、墨を吐くことも出来る。モチーフは、エクストラエディションに出たモンスター。またはハタ皇子のペット。

 

オクラオルフェノク 形態:オクラ型 武器:片手斧

 オクラの特性を備えたオルフェノク。強い粘着を持つネットと、鉄板をも両断する斧で相手を仕留める。リズベットと戦いを繰り広げた。モチーフは、世界樹にいたガーディアン。全体的な見た目から選びました。

 

フリルドリザードオルフェノク 形態:エリマキトカゲ型 武器:剣盾

 エリマキトカゲの特性を備えたオルフェノク。鉄板を刺し貫く刀と、エリマキトカゲの頭部を模した盾で、引けを取らない戦いを得意とする。月詠やシリカに立ち向かった。モチーフは、ALOに出たイビルグランサーから。

 

スラッグオルフェノク 形態:ナメクジ型 武器:素手

 ナメクジの特性を備えたオルフェノク。徒手空拳の戦いを得意にする。モチーフは、ALOに潜んでいたナメクジ研究員。

 

タイガーオルフェノク 形態:トラ型 武器:サーベル(スカラベオルフェノクの流用)

 トラの特性を備えたオルフェノク。運動神経に優れており、手のひらから青白い炎を放つことも可能。沖田総悟と対峙した。選出理由はロストソングに出たディープワンから。また武器として操るサーベルは、原作には無いオリジナル設定。

 

ライオトルーパー 形態:戦闘用特殊強化スーツ 武器:アクセレイガン(ナイフ+光線銃)

※厳密にはオルフェノクではないが、変身者はオルフェノクなので同じ括りで紹介します。

 ライダーズギアを参考に変身した強化戦闘員。複数で戦うことを前提にしている為、攻撃力はいまいち。集団性に長けており、多数戦法で戦闘を有利に運ぶ。

 本章における戦闘員ポジションであり、得意の集団性でクーデター成功に貢献した。他にも万事屋をバイク(ジャイロアタッカ―)で追跡したり、反抗する者たちの鎮静に当たっていた。最終決戦では、ほとんどのキャラ達と対峙している。

 

・アンデッド 出展作品:仮面ライダーブレイド

 太古より存在する不死生物であり、その正体は動植物の始祖。禍々しい容姿をしており、どんな手段を使っても殺すことは不可能。その代わり、ラウズカードと呼ばれる特殊なカードで封印しなければならない。封じたアンデットのカードを使用すると、それぞれにあった特殊効果を発動できる。

 本章では、全53体のアンデッドのうち4体+aが復元。不死能力も再現されており、銀時やキリトらを苦戦させていく。

 

ギラファアンデッド 形態:ギラファノコギリクワガタの始祖 武器:二刀流

 上位アンデッドの一体。ラウズカードはダイヤのKで、エボリューションの効果を持つ。ヘルターとスケルターと呼ばれる双剣を出現させて、好戦的に相手を攻めていく。ブーメラン上の光弾を放つことも可能。同じ二刀流使いであるキリトと戦った。モチーフはこちらも銀魂のカブト狩りから。(流石にノコギリクワガタは出ていないが……)

 

ディアーアンデッド 形態:ヘラジカの始祖 武器:二刀流

 アンデッドの一体。ラウズカードはスペードの6で、電撃を発生させる効果を持つ。怪人態の際も、頭の二本の角から雷を落とせる。近接戦の際には、二本の七股刀を武器にする。たまやリズベットと交戦した。モチーフは、SAOのゲーム版に出たモンスターから。

 

カプリコーンアンデッド 形態:山羊の始祖 武器:ブーメラン

 上位アンデッドの一体。ラウズカードはスペードのQで、アブゾーバーの効果を持つ。敵を両断する三日月状のブーメラン、光弾を放つ左右の角、鋭利に生えた爪を武器に戦闘する。キリトや沖田総悟と相対した。モチーフはキリトがフェアリーダンス編で変身した悪魔系モンスターからきている。

 

リザードアンデッド 形態:トカゲの始祖 武器:剣

 アンデッドの一体。ラウズカードはスペードの2で、スラッシュの効果を持つ。文字通り剣に特化しており、右腕に装着した巨大な剣で戦闘する。モチーフはリザード系と同様に、イビルグランサーから。

 

ティターン 形態:サソリの始祖とカメレオンの始祖の合成アンデッド 武器:片手斧

 二つの始祖が合わさった合成のアンデッド。クラブの8であるポイズンの効果を持つスコーピオンと、ダイヤの10であるシーフの効果を持つカメレオンが合わさっている。武器の斧や、透明化する能力を使って相手を翻弄する。選出理由は、アスナがオベイロンに囚われていた時に、変身したティターニアからの言葉いじり。

 

・魔化魍 出展作品:仮面ライダー響鬼

 古来より人々から恐れられている魔物の総称。その大半の個体が、人間を餌にしている。生態に関しては謎が多いが、特定の条件が無いと成長しない個体もいるそうだ。清めの音を打ち込むことで、倒すことが出来ると言い伝えられている。

 本章では魔化魍に加えて、その成長を支える怪童子と妖姫が一般怪人として復活。さらに劇場版で活躍した魔化魍たちも、幹部怪人や戦闘員として銀時らへ襲い掛かる。

 

火焔大将 武器:魔剣

 戦国時代に存在した魔化魍。「鎧武者の化け物」として伝承に残されている。口から吐く炎や、供えられた斧や魔剣を奮って戦闘する。モチーフはサラマンダー系から。

 

ウブメの怪童子・ウブメの妖姫 武器:素手

 巨大魔化魍ウブメの成長を支える二体の魔化魍。共に素早い身のこなしや飛行能力を有している。志村姉弟らと相対した。ウブメを含めてモチーフは、SAOにおける魚型モンスターから。または銀魂の巨大えいりあんより。

 

ウブメ 武器:尻尾・羽根・口

 巨大魔化魍の一種。成体になることで、超高速で空を飛ぶことが出来る。体当たりや噛みつきなど、巨大を活かした攻撃が得意。

 

魔化魍忍群 武器:両鎌刃

 戦国時代に存在した魔化魍。「化け狐」として伝承に残されている。個々の戦闘能力は少ないが、集団性を生かして相手を翻弄する。ちなみに本章では白狐版しか登場していない。

 

・ワーム 出展作品:仮面ライダーカブト

 渋谷に落下した隕石より飛来した地球外生命体。サナギ体から成虫体へと進化する特性を持つ。高速移動に似た能力や、さらには人間に擬態する能力まで所持している。ちなみに倒された際に爆発する炎は個体によって異なる。

 本章では節足タイプのワームを中心に復元。サナギ体も戦闘員として襲い掛かっていく。

 

ウカワーム 形態:シオマネキ型 武器:巨大なハサミ

 上位ワームの内の一体。シオマネキに似た能力を持ち、右手についた巨大なハサミで鋼鉄すらも切断する。さらには赤いエネルギー波を放つことも可能。硬い外骨格に覆われている。実はこのワーム、とある人物に擬態しており……

 

キャマラスワーム 形態:エビ型 武器:カギ爪型ハンマー

 成虫体となったワーム。頭についた長い触角は暗闇でも敵を検知することが可能。右手に備わっているカギ爪型のハンマーは、あらゆる障害物を粉砕する。脚力や防御力にも優れている。猿飛あやめと交戦した。モチーフは、SAOの海底遺跡にいたモンスター。

 

コキリアワーム 形態:カタツムリ型 武器:三本の触手

 成虫体となったワーム。右腕に生えた触手を伸ばして、敵を叩きつける。同じく高速移動が可能。志村妙と衝突した。

 

ワーム(サナギ体) 形態:サナギ体 武器:素手

 ワームの初期の姿。全身が緑色に覆われた異質な姿をしている。他の戦闘員と同様に、集団性の戦闘に優れている。本章でも戦闘の途中に成虫体となる個体もおり……

 

ブラキぺルマワーム(ビリディス・オーランタム) 形態:クモ型 武器:触手

 サナギ体から成虫体となった二体。どちらとも蜘蛛をモチーフにしており、高速移動で銀時達を翻弄する。

 

・イマジン 出展作品:仮面ライダー電王

 未来から来た人間の精神体が、接触した人間の記憶により怪人としての肉体を得た存在。契約者が思い浮かべた昔話をモデルにしている。時間移動や人間への憑依と言った異質な能力を持ち合わせている。

 本章では多数の個体が復元したが、他の怪人と比べるとあまり個性を発揮できなかったと思われる。(話の構成上怪人も多いので、仕方ないと言えば仕方ないのだが)

 

レオイマジン 形態:ライオン型 武器:カギ爪・ロッド 声優:山路和弘

 イマジンの一体であり、「金のライオンを見つけた男」の昔話をモデルにしている。全身を覆う金色の鎧は、あらゆる攻撃も寄せ付けない。武器はカギ爪や長いロッド。イマジンの中では屈指の戦闘力を持ち、マッドネバーの幹部怪人としても立ちはだかる。選出理由は、担当声優から。山路和弘さんは銀魂、SAO共に出演している。

 

アイビーイマジン 形態:ツタ植物型 武器:両鎌

 イマジンの一体であり、「ジャックと豆の木」の童話をモデルにしている。手をツタ状にして攻撃する他、両手からビームも放つことが出来る。両手鎌も巧みに操る持ち主だ。リズベットやエリザベスと対峙した。選出理由は世界樹ユグドラシルから。

 

ホエールイマジン 形態:クジラ型 武器:ロッド

 イマジンの一体であり、「ピノキオ」に登場したクジラをモデルにしている。武器であるロッドで接近戦を得意としている。口からは水流を飛ばすことも可能。選出理由はSAO特別編に出たクジラより。

 

スコーピオンイマジン 形態:サソリ型 武器:ハサミ・戦斧

 イマジンの一体であり、「バッタをとる子供とサソリ」をモデルにしている。左手のハサミから放つ光弾と、手に持つ戦斧を武器とする。意外にも防御は手薄である。銀時やシノンを相手取った。選出理由は、SAOロストソングに出たモンスターより。

 

ワスプイマジン 形態:ハチ型 武器:レイピア

 イマジンの一体であり、「ハチとヘビ」をモデルにしている。所持したレイピアが最大の武器であり、敵を穴だらけにして始末する。羽根や針と言った蜂を思わせる部位も存在している。細剣使いのアスナと一騎打ちした。

 

アリゲーターイマジン 形態:ワニ型 武器:素手

 イマジンの一体であり、イソップ童話の「キツネとワニ」をモデルにしている。格闘戦を得意としており、高杉にも戦いを挑むが……。余談だがアリゲーターイマジンの声優は、鯱やユージーンを演じた三宅健太さんが担当している。

 

レオソルジャー 形態:不明 武器:多種多様な剣

 レオイマジンに従える兵士型の敵。三体一組となって行動して、連携攻撃で相手を追い詰める。武器は主に接近戦で使われる。町の見張りの他、銀時、シリカ、シノンの三人と戦闘を繰り広げる。

 

・ファンガイア 出展作品:仮面ライダーキバ

 吸血鬼に似た魔族の一種。人間の持つエネルギー、ライフエナジーを欲して襲い掛かる。モチーフとなった動物の種類によって、クラスが分かれるのが特徴的。ステンドガラスに似た体組織を持ち、倒された際にはガラスのように割れて消失する。

 本章では四つのクラスより、それぞれ一体ずつが復元。ちなみにライフエナジーを吸う描写はほとんどない。また幹部クラスのファンガイアは復元されていない。

 

ウォートホッグファンガイア 形態:イボイノシシ型 武器:素手

 イボイノシシを彷彿とさせるビーストクラスのファンガイア。頑丈な皮膚を持ち、徒手空拳の戦闘と瞬間移動能力を持ち合わせている。定春と激突した。モチーフは、SAOキャリバー編に一瞬登場した邪心型モンスター。

 

シームーンファンガイア 形態:クラゲ型 武器:素手

 クラゲを彷彿とさせるアクアクラスのファンガイア。伸縮自在な触手と、強い腕力を備えている。リーファや柳生九兵衛と対峙した。モチーフは、トンキーのモデル繋がり。

 

サンゲイザーファンガイア 形態:ヨロイトカゲ型 武器:盾

 ヨロイトカゲを彷彿とさせるリザードクラスのファンガイア。両腕に備えられた巨大な盾で、どんな攻撃も跳ね返す。シリカやピナと衝突した。モチーフはピナ。よく見ると顔つきが似ている気がする……

 

シルクモスファンガイア 形態:カイコ 武器:三つ槍

 カイコを彷彿とさせるインセクトクラスのファンガイア。大柄な三つ槍と身軽な身のこなしを武器に戦う。志村妙と激突する。ちなみに声を演じた勝生さんは、銀魂にて寺門通の母親を演じている。

 

・ドーパント 出展作品:仮面ライダーW

 地球の記憶を秘めたガイアメモリで変身した怪人。その設定上、他の怪人と比較すると異質な能力を持つ個体が多い。ガイアメモリの一部には相性が絡むものも多々ある。

 本章では、ガイアメモリの欠片から多くの怪人達が復元。またオベイロンもT3ガイアメモリなるアイテムを開発しており、クーデターにも大きく関係している。ちなみに復元した怪人に変身者はいない。

 

ナスカ・ドーパント(レベル3) 記憶:ナスカ文明 武器:片手剣

 ナスカメモリで変身したドーパント。ナスカ文明の力を持ち、目にも止まらぬ素早い攻撃を得意としている。飛行能力も有しており、空中からも襲撃が可能。選出理由は、ALOに存在するダンジョンから。

 

マグマ・ドーパント 記憶:マグマ 武器:熱操作

 マグマメモリで変身したドーパント。体からは火炎弾や超高熱を操ることが出来る。ALO星の王女、フレイアを足止めする。選出理由は、ALO星のサラマンダー領から。

 

アイスエイジ・ドーパント 記憶:氷河期 武器:冷気

 アイスエイジメモリで変身したドーパント。名の通り冷気を自在に操り、相手や周りを氷漬けにする。たまと相対する。選出理由は、SAOキャリバー編に出たマップより。

 

イエスタデイ・ドーパント 記憶:昨日 武器:盾

 イエスタデイメモリで変身したドーパント。装備した盾は防御のみならず、光弾を放つことも出来る。刻印を相手に埋め込むと、24時間前の行動とまったく同じことを繰り返してしまう。選出理由は、ALOのゲーム画面より。

 

ヒート・ドーパント 記憶:熱 武器:炎

 ヒートメモリで変身したドーパント。高熱を発する体で、格闘戦を得意とする。神楽と交戦した。

 

メタル・ドーパント 記憶:闘士 武器:ロッド

 メタルメモリで変身したドーパント。頑強な肉体から繰り出す棒術を武器に戦う。

 

ルナ・ドーパント 記憶:幻想 武器:触手

 ルナメモリで変身したドーパント。伸びる腕から繰り出す攻撃と幻影で相手を翻弄する。エギルや近藤勲と戦った。ちなみに元となった怪人は個性が強い。

 

トリガー・ドーパント 記憶:狙撃手 武器:ライフル

 トリガーメモリで変身したドーパント。右腕に備えられたライフルによる銃撃戦を得意とする。シノンと一騎打ちを繰り広げた。ちなみにこれら四体のドーパントは、オリジナルのエターナルの仲間である。

 

ヤミー 出展作品:仮面ライダーオーズ

 人々の欲望から生まれた怪物。セルメダルと言うアイテムで体が形成される。攻撃を与える度にメダルが散る仕様になっている。多種多様な動物をモデルにしている。

 本章では、種類の違うヤミーが一体ずつ復元。ちなみにだが、ヤミーを生み出すグリードは一体も復元されていない。

 

カマキリヤミー 形態:カマキリ 武器:両腕の鎌

 昆虫型ヤミーの一体。手に付属された鎌で、接近戦を得意に戦う。リーファと交戦した。

 

シャムネコヤミー 形態:シャムネコ 武器:爪

 猫型ヤミーの一体。右手にあるメス状の爪で相手を仕留める。月詠と相対した。

 

エイサイヤミー 形態:エイとサイの合成ヤミー 武器:角

 海洋系と重量系の複合ヤミー。怪力を武器にして戦う。モチーフは、SAO特別編に出てきた海のモンスター。

 

プテラノドンヤミー〈オス〉 形態:プテラノドン 武器:羽根・火球

 幻獣系ヤミーの一体。高速で飛行する能力と、人々を消滅させる黒い霧を放つ能力を持ち合わせる。町の監視や長谷川らと対峙した。モチーフは、SAOゲーム版に登場したワイバーンから。

 

・ゾディアーツ 出展作品:仮面ライダーフォーゼ

 ゾディアーツスイッチを使用して変身した怪人。星座をモチーフにしたデザインが特徴的。それに応じた戦闘力を有している。また実力が異なる幹部級、ホロスコープスも存在している。

 本章ではゾディアーツスイッチの欠片から、幹部級が二体、一般怪人が四体と復元されている。まだドーパント同様に、人間は変身していない。

 

ジェミニ・ゾディアーツ 形態:双子座 武器:カード

 双子座の力を持つホロスコープス。二種類の爆発するカードを用いて、トリッキーな戦い方を得意とする。また分身体を自在に操ることも可能。モチーフは、原典の変身者がユウキと言う名前で、ユウキ繋がりで選出した。

 

アリエス・ゾディアーツ 携帯:おひつじ座 武器:杖

 おひつじ座の力を持つホロスコープス。コッペリウスと呼ばれる杖で、人の生体エネルギーを操ることが出来る。爆撃といった特殊な攻撃を得意とするが、接近戦はあまり得意ではない。オベイロンに命令されて、ユウキと一騎打ちするが……。

 

オリオン・ゾディアーツ 形態:オリオン座 武器:棍棒と大盾

 オリオン座の力を持つゾディアーツ。巨体から繰り出す怪力と、棍棒と大盾を操って戦う。エギルと激闘を繰り広げた。赤く巨大な体から、モチーフはSAO一層のボス(コボルト)である。

 

ユニコーン・ゾディアーツ 形態:一角獣座 武器:長剣

 ユニコーン座の力を持つゾディアーツ。長剣を巧みに変化させて戦う。九兵衛と交戦した。モチーフは騎士然とした姿から、こちらもガーディアン。

 

アルター・ゾディアーツ 形態:祭壇座 武器:杖・火炎

 アルター座の力を持つゾディアーツ。念動力を用いたトリッキーな攻撃と、炎を自在に操る能力を手にしている。モチーフはALOのメイジ使いから。

 

ペルセウス・ゾディアーツ 形態:ペルセウス座 武器:大剣

 ペルセウス座の力を持つゾディアーツ。自分の身の丈ほどある大剣と、相手を石化する能力で戦いを有利に進める。モチーフはALOにいる巨人型モンスター。

 

ダスタード 形態:ホロスコープスの分身体 武器:忍者刀

 ホロスコープスから生成される下級兵士。忍者のような容姿をしており、身軽な身のこなしと集団戦法を武器に戦う。

 

・ファントム 出展作品:仮面ライダーウィザード

 人間を絶望に陥れる魔物。伝承を模した姿に化けている。強力な魔力を持った人間を狙っていた。原典では組織的に行われていたが、あくまでも命令であり仲間を増やす意図はあまり見られなかった。

 本章では、幹部怪人を抜いた一般のファントムが多数復元。中にはALOの種族やモンスターと被る個体まで現れている。

 

ミノタウロス 形態:牛頭型 武器:両手斧

 ファントムの一体。頭部に巨大な角を持ち、猛牛のような怪力を誇る。接近戦では斧を用いて戦う。近藤勲やエギルと交戦した。選出理由は、ALOでもよく見かけるミノタウロス型モンスターから。

 

ケットシー 形態:妖精猫型 武器:素手

 ファントムの一体。猫のような身軽さを持ち、鋭い爪と体全体に生えた刃を武器に戦う。シリカやシノンを相手取った。選出理由は、ALOの種族の一つより。ちなみにこのケットシーはオス個体である。

 

ノーム 形態:地霊型 武器:三つ槍

 ファントムの一体。地中を自在に移動して、持ち手である槍を武器に戦闘する。エリザベスらと相手にした。選出理由は、ALOの種族の一つから。ちなみにノームは、エギルやストレアと同じ種族である。

 

スプリガン 形態:戦士型 武器:剣盾

 ファントムの一体。戦士のような姿をしており、細身の長剣と盾を武器にして戦う。背中から生えている管のような部位から、青い光弾を放って攻撃をする。キリトと激闘を繰り広げた。選出理由は、ALOの種族の一つから。

 

シルフィ 形態:精霊型 武器:両手斧

 ファントムの一体。風を操る力を持ち、相手の攻撃回避や真空の衝撃を与えることが可能。ミノタウロスが持つ斧とほぼ同等の武器を用いて戦う。リーファと一騎打ちをした。選出理由は、ALOの種族の一つから。

 

・インベス/オーバーロードインベス 出展作品:仮面ライダー鎧武

 異世界「ヘルヘイムの森」に生息する生物。植物に侵された生物の末路であり、ゾンビのように知性が無く暴れまわる。また知性を持って生き残った者、オーバーロードなる生命体もいる。こちらは超人的な力を有している。

 本章では、インベスより一体。オーバーロードより二体が復元されている。ちなみにオリジナルの個体とは異なり、ヘルヘイムの植物を操る能力は持っていない。

 

レデュエ 形態:オーバーロードインベス 武器:長槍・植物操作 声優:津田健次郎

 オーバーロードインベスの一人。高い知性を持っており、策略に秀でている。ヘルヘイムの毒素を持つ長槍からは光弾を放つことも可能。選出理由は担当声優から。津田健次郎さんは銀魂にて紫雀を演じている。

 

ビャッコインベス 形態:白虎型 武器:爪

 白虎に似た姿をしたインベス。硬質化した皮膚と、鋭い右手の爪が特徴的。紋様部分からは、緑色のビームも放つことが出来る。選出理由は、レデュエの部下として。下記に紹介する怪人と踏まえて、原典でも揃ったことがある。

 

シンムグルン 形態:オーバーロードインベス 武器:大型斧

 玄武に似た姿をしたオーバーロードインベスの一人。頑丈な甲羅と、怪力を誇る頑強な肉体を持つ。巨大な斧を両手で奮って攻撃する。エギルや近藤勲に立ち向かった。選出理由は、同じくレデュエの部下から。

 

・ロイミュード 出展作品:仮面ライダードライブ

 周囲の時間を遅らせる「重加速」の能力を持つ機械生命体。合計で108体いると言われている。本体は数字のような姿をした電子生命体で、コアを破壊しない限り何度でも蘇る。ワームと同じく人間の姿へ擬態することも可能。人間の感情を吸収することで独自の姿へ変化することもいる。

 本章では超進化態が一体。進化態が一体。融合進化態が一体と、それぞれ復元されている。重加速の能力も再現されており、銀時達の手を煩わせていく。

 

フリーズロイミュード(超進化態) 形態:ロイミュード超進化態 武器:冷気

 ロイミュード001が進化した姿。氷を操る能力を持ち、相手に絶対零度のダメージを与える。超進化態は「屈辱」の感情が高められた姿。高エネルギーの破壊光線も打てるようになった。モチーフは、アイスエイジと同じくALOのマップ。

 

アイアンロイミュード 形態:ロイミュード進化態 武器:拳

 ロイミュード029が進化した姿。強力なパワーと変形能力を持つ腕を武器に戦う。リズベットやたまと交戦した。モチーフは、鍛冶で使う鉱石。

 

ソードロイミュード 形態:ロイミュード融合進化態 武器:剣

 ロイミュード007が悪人と融合して進化した姿。両腕に装備されたブレードが武器で、攻撃や防御が時間を経つごとに上昇する能力を持つ。ブレードからはエネルギー波を放つことも出来る。キリトや沖田総悟と対峙した。モチーフは、SAOのタイトル繋がり。

 

・眼魔/ガンマイザー 出展作品:仮面ライダーゴースト

 ガンマホールと呼ばれる紋章から現世に現れる異界の存在。物に宿る想いから特異な能力を得ることが出来る。普通の人間には視認することが出来ないゴーストのような特性も持つ。またガンマイザーは、異界における管理者のような存在。それぞれが特徴的な属性を持ち合わせている。

 本章では、ガンマイザーより一体。眼魔より二体が復元されている。ちなみに普通の人でも視認出来るようになっている。

 

ガンマイザーリキッド 形態:水系戦闘形態 武器:水力操作

 水の要素を持つガンマイザーの一人。回復能力に長けている他、水流を使ったトリッキーな技も繰り出す。モチーフは、ALOの種族の一つウンディーネから。

 

刀眼魔 形態:刀型 武器:巨大刀

 左手に刀を装備した眼魔怪人。自慢の剣術で相手をなぎ倒す。志村新八と交戦を図った。モチーフは、クラインや真選組の刀から。

 

斧眼魔 形態:斧型 武器:斧

 文字通り斧を武器にする力の強い眼魔怪人。強固な体から繰り出される技は圧倒的。モチーフは、エギルの斧から。ちなみに声を演じていた桐本さんは、SAOでシグルドを演じている。

 

・バグスター 出展作品:仮面ライダーエグゼイド

 とあるゲームプログラムから生まれたコンピューターウイルス。各々がゲームに応じた能力を持ち、人間を感染させる病原体を持ち合わせている。倒されてもレベルが上がって復活することがある。

 本章では、三体のバグスター怪人が復活。またその内の一体は、強豪クラスである。ちなみにバグスターウイルスも違った形で活躍を果たす。

 

ハテナバグスター モデル:パズルゲーム 武器:杖・パズル操作

 パーフェクトパズルのゲームから生まれたバグスター。パズル型のエネルギー波や、杖術を用いて相手を圧倒する。

 

ソルティバグスター(レベル10) モデル:アクションゲームのボスキャラ 武器:素手

 マイティアクションXのゲームから生まれたバグスター。身軽な攻撃を得意とする塩の怪人である。坂田銀時と相対した。

 

アランブラバグスター(レベル5) モデル:ファンタジーゲームのボスキャラ 武器:魔法

 タドルクエストのゲームから生まれたバグスター。魔法使いをモデルにしており、ありとあらゆる魔法で戦いを有利に進める。アスナと交戦した。RPG系のゲームから、SAO自体がモチーフ。

 

バグスターウイルス モデル:バグスターウイルスの戦闘体 武器:槍

 バグスターウイルスが人型に変形した姿。オレンジ色の不気味な頭部が特徴的である。状況に応じて多彩に武器や姿が変化していく。

 

・ファウスト/スマッシュ 出展作品:仮面ライダービルド

 謎のガス「ネビュラガス」によって生まれた謎の生命体。メカニカルな外観をしているのが特徴。倒されると緑色の炎を放つ。無意識に人を襲う習性を持つ。

 本章では、スマッシュを操る疑似ライダーまで復元。二体のスマッシュと共に、妖精の国を襲撃する!

 

ナイトローグ 形態:コウモリ型疑似ライダー 武器:スチームブレード 声優:?

 バットロストフルボトルによって蒸結した疑似戦士。戦闘力は大幅に挙がり、属性を操る刃スチームブレードと変身に用いるを使って戦う。実はこの戦士、オベイロンの協力者が変身しているようだが……

 

ストロングスマッシュ 形態:格闘特化型 武器:怪力

 スマッシュの一体。岩のような表面をした体格と、強固な力を武器に相手をねじ伏せる。近藤勲と対峙した。モチーフはゴリラ繋がり。実は裏モチーフとして採用されています。

 

フライングスマッシュ 形態:飛行特化型 武器:飛行能力

 スマッシュの一体。飛行能力を持っており、空中から相手へと襲い掛かる。リズベットやたまと戦った。

 

・不明 出展作品:仮面ライダージオウ

 最後に紹介する怪人は、詳しい固有名を持っていない。というわけで、出展作品のみを載せておく。ちなみにジオウ共通の敵であるアナザーライダーは、倒す条件が特殊で今回は不参加となる。

 

カッシーン 形態:自立AI搭載の兵士ロボット 武器:長槍

 ライオトルーパーと同様、大量に作られた兵士型戦闘員。こちらは完璧にロボットとなっている。長槍を巧みに操り、集団戦法で相手をねじ伏せる。クーデター決行の際にも、大いに活躍を果たした。最終決戦の際にも、戦闘員として多数の個体が現れている。

 ちなみに担当声優は、レデュエと同じ津田健次郎さん。

 また余談であるが、カッシーンは第五十二訓にて先行登場している。

 

戦闘員枠一覧

シアゴースト→レイドラグーン→ハイドラグーン

ライオトルーパー

魔化魍忍群

ワーム(サナギ体)

レオソルジャー

屑ヤミー

ダスタード

グール

バグスターウイルス

カッシーン

 

 

 

 

 

 

 

ファイル5 妖国動乱篇登場キャラクター&サプライズゲスト紹介

 

・鬼兵隊

 高杉晋助が結成した組織。倒幕を目的にしており、これまでにも万事屋や桂一派、真選組といった勢力と何度も衝突している。その強さは桁違いであり、屈指の実力者が集められている。

 剣魂本篇では、密かにオベイロンことマッドネバーと契約。しかし向こうの裏切りにより、宣戦布告されたことで、本格的に敵対することになる。

 

高杉晋助 身長:170cm 年齢:20代 声優:子安武人

 鬼兵隊の総督であり、銀時や桂の旧友。攘夷志士の中でもっとも恐ろしい男と恐れられている。紫がかった髪と右目に巻かれた包帯、女性ものを思わせる和服が特徴的である。

 冷静な性格で、誰の意見にも流されない我流を常に通している。派手さを好む傾向があり、戦いにもそれを求めている。剣術はもちろん高く、銀時とも互角以上に張り合える。

 妖国動乱篇では喧嘩を売られたオベイロンらを返り討ちにするため、自らが船頭に立ち戦いを吹っ掛ける。ちなみに高杉を演じた子安武人さんは、オベイロンとも声が同じである……。

 

来島また子 身長:165cm 年齢20代?(推定) 声優:早水リサ

 鬼兵隊の一員であり紅一点。紅い弾丸と言う異名を持ち、優れた射撃術を有している。気性の荒い性格だが、高杉の前ではコロッと態度が変わる。ツッコミ役も兼任しており、武市のボケには積極的にツッコミを入れている。

 妖国動乱篇では高杉らと共に、マッドネバー壊滅の為に乗り込んだが……。

 

河上万斉 身長:179cm 年齢20代~30代?(推定) 声優:山崎たくみ

 鬼兵隊の一員。人斬り万斉の異名を持つ剣豪。刀を忍び込ませた三味線を手にして、剣術と糸を使ったトリッキーな技で、有利に戦いを進める。音楽にも精通しており、人物を音調で例えることもしばしば。意外にも作曲家も兼任している。

 妖国動乱篇では同じくALO星へ向かったが。

 

武市変平太 身長:178cm 年齢:40代~50代?(推定) 声優:茶風林

 鬼兵隊の一員にして参謀。戦いよりも戦術家として活躍している。自称ロリコンかつフェミニストと紹介して、周りからは変人扱いされている。主にボケを担当しており、事あるごとにまた子からツッコミを入れられる。ちなみにALO星だと、歌姫として有名なセブンがお気に入りとのこと。

 妖国動乱篇でも相変わらずらしい。

 

鬼兵隊隊士

 上記の三人に続いて、高杉に忠誠を誓う仲間達。大勢で群をなし、マッドネバーに戦いを挑んだが……。

 

ここから先は妖国動乱篇のネタバレが含んでいます。ご注意ください。

 

・スリーピング・ナイツ

 ALO星に生きる妖精達、ユウキ、シウネー、ジュン、テッチ、タルケン、ノリの六人が結成した異種族チーム。現在は厳しい審査を勝ち抜き、姫様ことフレイヤに従う騎士団としてその役目を果たしている。元々はユウキの双子の姉が、二~三人ほど集めて結成したチーム名であり、このまま騎士団の審査を受けたがあえなく落選。以降チームは一旦解散して、その名は妹へと受け継がれることになる。ひょんな縁から次々と仲間が集まり、現在の六人体制に生まれ変わった。

 SAO本編にて登場したスリーピング・ナイツとはあくまで別人なものの、容姿や性格は不思議なことに本人達と似ても似つかないが……。

 

ユウキ 身長:151cm(推定) 年齢:10代後半 種族:インプ 声優:悠木碧

 スリーピング・ナイツの若きリーダーにして、ALO星最強の剣使いとも言われる女子。明るく元気な性格で、いつも前向きに人と接している。他人を巻き込むほどの強引さとリーダーシップを持ち合わせるが、責任感が強く一人で抱え込みやすい一面もある。向上心も人一倍強く、現状には満足せず日々鍛錬に励んでいるという。武器であるマクアフィテルは、鋭い切れ味を持つ彼女にとっても相性が良い刀剣だ。性格といい見た目といい、かつてアスナが出会った大切な友人を彷彿とさせるが……。

 

シウネ― 身長:160cm(推定) 年齢20代(推定) 種族:ウンディーネ 声優:嶋村侑

 スリーピング・ナイツのサブリーダー。チーム内の回復役を務めているが、率先して前線にも立つ。戦闘の際は手にしている杖で相手に打撃を与えていく。心優しい性格で正義感が強いが、あまり自分からは強く言えない気弱さを持つ。ユウキらとは偶然の出会いで知った経緯がある。怒るとめちゃくちゃ怖いらしい……。

 妖国動乱篇ではとある重要な役目を任されることになる。

 

ジュン 身長:155cm(推定) 年齢:10代後半(推定) 種族:サラマンダー 声優:山下大輝

 スリーピング・ナイツのメンバー。小柄な体格で少年っぽさの残る男子。武器として使う大剣で、勇猛果敢に敵へと立ち向かう。元気が取り柄の熱血な性格で、調子に乗ることもしばしば。仲間を第一にしており、巡り合ったユウキ達とは深い情を持ち合わせている。戦闘力も抜群に高く、仮面ライダーリュウガとも互角に張り合えるスペックを持つ。

 

テッチ 身長:177cm(推定) 年齢:20代~30代(推定) 種族:ノーム 声優:こぶしのりゆき

 スリーピング・ナイツのメンバー。大柄な体格の青年で、チーム内ではタンク役及び防御役を務める。もちろん攻撃役にも精通している。無口で落ち着いた性格だが、仲間想いであり情に厚い。武器は大盾と棍棒を手にしている。力強さを武器にマッドネバーと戦うが……。

 

タルケン 身長:159cm(推定) 年齢:20代(推定) 種族:レプラコーン 声優:田丸篤志

 スリーピング・ナイツのメンバー。細身の男性で、新八と同様眼鏡をかけている。決して眼鏡が本体ではない。気の弱い性格で、女性が苦手。恥ずかしがり屋の一面も持つ。それでも戦いには勇敢に立ち向かう。両手槍を武器にして巧みに戦う。仮面ライダーポセイドンとも互角以上に戦えるようだ。

 

ノリ 身長:165cm(推定) 年齢:20代(推定) 種族:インプ 声優:田野アサミ

 スリーピング・ナイツのメンバー。名前の通りノリが良い女性で、冗談も口にするチームのムードメーカー。仲間内で収拾がつかなくなった際には、彼女が加わり止めることが多い。武器は小型ハンマーで、接近戦を得意としている。集団戦もものともせず、ライオトルーパーの大群も瞬く間に一掃するほどだ。

 

フレイア 身長:162cm(推定) 年齢:20代(推定) 種族:不明 声優:皆口裕子

 ALO星を管轄する新たな女王。若くして培われた才を発揮しており、星の発展並びに治安の安定化へ大いに貢献している。おしとやかな性格だが、強情な一面もある。武器として伸縮可能な金色のハンマーを所持している。元の世界でキリト達が出会ったNPCと容姿は似ているが、まったくの別人。巨大化して男性になることも断じてない。

 

サクヤ 身長:167cm(推定) 年齢:20代~30代?(推定) 種族:シルフ 声優:矢作紗友里

 シルフ領を管轄する女性の長。穏やかな性格であり、自身の手の内はひた隠すしたたかな一面を持つ。武器は長刀であり、その腕は見廻組の今井信女にも匹敵する。とある理由から鬼兵隊と協力することになる。

 

アルシャ・ルー 身長:150cm(推定) 年齢:20代~30代?(推定) 種族:ケットシー 声優:斎藤千和

 ケットシー領を管轄する女性の長。無邪気な性格ながら、仲間を上手いこと引っ張るリーダー性を持ち合わせている。武器はダガーナイフであり、主に接近戦で自身の実力を発揮させる。余談だが、決して松平片栗虎の娘ではない(中の人ネタ)

 

ユージーン 身長:185cm(推定) 年齢:50代(推定) 種族:サラマンダー 声優:三宅健太

 サラマンダー領の領主。各種族の領主の中では最年長であり、幾戦のも戦いを潜り抜けた実績を持つ。気難しい性格だが、仲間として認めた人物にはとことん情を持つ義理堅さも持ち合わせている。武器は両手剣であり、その強さはユウキにも匹敵する。余談だが決して原田右ノ助や鯱とは何も関係がない。(中の人ネタ)

 

シグルド/仮面ライダーシグルド 身長:170cm(推定) 年齢:20代~30代(推定) 種族:シルフ 声優:桐本琢也

 騎士団に所属していた騎士の一人。その姿はかつてリーファらを裏切ったシグルドと酷似しているが、あくまでも別人。銀時やキリトらに接触して、彼らの協力を仰いでいたが――その正体はマッドネバーの内通者。要するに騎士団へ潜り込んだスパイだったのだ。本性は冷血な性格で、自分本位な考え方をしている。さらにはマッドネバーから渡されたドライバーを使用し、仮面ライダーシグルドへと変身してしまう。遠距離戦両方に使える武器ソニックアローを用いて、マッドネバーの野望のためにその武器を振るっていく……!

 

ナメクジ研究員/ナイトローグ 身長:不明 年齢:不明 種族:不明 声優:沼田祐介・金光宣明

 マッドネバーことオベイロンに味方をする軟体生物。知性があり、科学者として密かに暗躍していた。実はアスナとユイが初めて銀魂の世界へ飛ばされた際に出会った生物であり、その最中に神楽の塩撒きによって追っ払われていた。

 さらに研究員の一人は、トランスチームガンを用いて疑似ライダーのナイトローグに変身。人型の体を手に入れて、ダークライダーの一人としてアスナらに襲い掛かる。(ナメクジなのにコウモリ型の戦士になっていると、ツッコミを入れてはいけない)

 

 

 

 

 

 

 

ファイル6 託された新たなる力

 

アルヴドライバー

 オベイロンが密かに開発していたアイテムの一つ。ベルト型とブレスレット型の二つがあり、それぞれに付属された液晶部分の絵柄を組み合わせることで、指定された力の一部を行使することが出来る。本来の予定ではこのアイテムのライダーの力の一端を注ぎ込み、オベイロン自身がライダーの力を悪用しようとしていた。

 けれでも本物の平成仮面ライダー達の力によって、アルヴドライバーに改良が加えられていき、ALO星の自由を取り戻すためのアイテムとして生まれ変わった。以後はユイを中心に銀時、キリト、神楽、アスナの四人が正式な使用者となる。

 

ヘイセイジェネレーションメモリ

 平成仮面ライダーの力を行使するために必要なアイテム。特殊なガイアメモリであり、アルヴドライバーのブレスレット型にそれを装填することで真の力を発揮できる。なお悪意ある者が使用した場合は、一切の機能を失うセキュリティを完備している。

 

ヘイセイジェネレーションフォーム

 坂田銀時、キリト、神楽、アスナの四人が平成ライダー達から託された力で強化した姿。普段の服装にライダーの紋章をあしらった陣羽織やマントを羽織っている。歴代の平成ライダー達の力を宿しており、ありとあらゆる技や能力を発動することが可能。圧倒的な力と共に、サイコギルドの怪人軍団に仲間達と一緒に立ち向かっていく。

(ちなみに変身者は決まっておらず、その気になれば新八や真選組、シリカやリズベット達も、設定上は使用可能である)

 

坂田銀時版

マゼンダ色の陣羽織を羽織っている。色味からディケイドを彷彿とさせる。

 

キリト版

緑色のマントを羽織っている。色味からWをイメージにしていると思われる。

 

神楽版

 青色の陣羽織を羽織っている。色の特徴からビルドやカブトが思い浮かぶ。

 

アスナ版

オレンジ色のマントを羽織っている。現実世界での自分の髪型……とも言えるが、ライダー括りで言うならば鎧武であろう。

 

ユイ版

 ピンク色のマントを羽織っている。恐らくピクシー体との色彩を模しているものと思われる。




後書き
 新しく始まった剣魂の長篇はいかがでしょうか? 鬼兵隊にスリーピング・ナイツ、さらには平成仮面ライダーと増々盛り上がっていると思います!
 本章では更なるサプライズも用意しているので、気長にお待ちいただけると幸いです。語りたいことはもう前回で言いつくしたので、今回はここでカット! また思い浮かんだら、追記しようと思います!


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特別訓 BGオンリー風総集篇!

※今回は銀魂でお馴染みのBGオンリーのようなオマケ感覚でお楽しみください。文体も台本のような形式です。最後にはちょっとした発表があります。では、どうぞ。


銀時・神楽「「あけまして、おめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたしま……」」

新八「ちょっと待てぇぇぇぇ!! 何新年の挨拶っぽく始まっているんですか!! もう二月の中盤ですよ!! 季節はずれにも程があるでしょうが!!」

 背景に万事屋を移して始まった、今回の剣魂総集編。銀時達のあからさまなボケに、新八のツッコミが激しく決まっている。そしてそのまま、話題はあの一件へと振られていた。

新八「というか、これが今年初めての投稿ですよね? 一体全体なんで、遅くなったんですか!?」

銀時「いやいや、ウチの投稿者も大変だったんだよ。機材トラブルのせいで、中々執筆が進まなかったんだってば」

神楽「詳しくは作者のあとがきに書いとくアル。需要は無いと思うけど、気になる方はチェックネ」

新八「本当に需要が無い気がしますが……」

 投稿への遅延理由を軽く説明していると、ここで万事屋の新メンバーも集まる。

キリト「銀さん。こんなところで、何を話しているんだ?」

アスナ「今日は予定が入っているんじゃないの?」

銀時「おー。ちょうど良いところに来てくれたな、万事屋ニュージェネレーションズ」

神楽「略してニュージェネ組ネ!」

新八「そんな呼び方した覚えは無いよ!! ていうか、微妙にパクっているし!!」

ユイ「フフ……相変わらず三人共賑やかですね!」

 新規メンバーであるキリト、アスナ、ユイの三人であった。慣れた雰囲気で万事屋三人の賑やかさに、微笑ましく思っている。

 それはさておき、ようやく今回の主題を銀時から発表がされた。

銀時「よし……キリト達も集まったし、今年最初の剣魂は総集篇から始めるぞ!」

キリト「総集篇? つまり思い出を振り返るってことか?」

銀時「その通りだ。お前達と出会って軽く二か月は経ったから、今一度振り返って、より仲を深めようって魂胆だよ」

アスナ「もう二か月もこの世界で暮らしているのね……」

ユイ「不思議ともう慣れていますよね」

 改めて感じた時の流れに、しみじみと共感するアスナとユイ。そんな懐かしさを彷彿とさせる思い出語りが、始まろうとしていた。

神楽「確かに色んなことがあったアル! 五十回も投稿していれば、ネタも尽きないアルからナ」

新八「そんなメタネタはいいから! というか、キリトさん達はメタネタを分かっていないから、そこは控えてくださいよ!」

銀時「心配するな。今日を境に教え込んで、SAOの歴史を変えてやるよ」

新八「やめろぉぉぉぉ!! タイムジャッ〇―みたいな手法で、勝手に未来を変えないでくださいよ!!」

 本篇同様のメタネタがここでも炸裂する。しかしそれは、あくまでも銀魂内での決まり。他作品であるキリトら三人には、二か月経っても未だに意味を分かっていない。

キリト「また銀さん達は、訳の分からないことを……」

アスナ「いつもとお馴染みの光景ね」

ユイ「本当に何を言っているのでしょうか?」

神楽「気にしないのが一番アル。さぁ、さっさと総集篇を始めるネ!!」

 こうして万事屋の、緩い総集篇が幕を開けた!

 

 

 

 

 

 ブロック1 万事屋との初めての出会い

 

銀時「よし、じゃ気を取り直すぞ。まずはキリト達と出会ったところから、始めていこうか」

キリト「確か、俺達が出会ったきっかけは偶然だったよな」

新八「たまたま道中でぶつかって、出会ったんですよね」

神楽「偶然だったら、私とアッスー達にも同じことが言えるネ!」

アスナ「変なナメクジの天人に捕まっていて、助けてもらったのよね」

ユイ「今想えば、どちらも奇跡的な出会いでしたよね」

 最初に拳がったのは、万事屋とキリト達の初めての出会いである。今でこそ冷静に振り返れるが、当初は訳も分からずに、強い不安に襲われたことをキリトらは思い起こしていく。

キリト「あの時は本当に大変だったからな。無理やり異世界に飛ばされて、帰る方法すら分からなかったし」

神楽「キリ達の立場からしてみれば、不安になるのもいた仕方ないアル」

アスナ「それでも、万事屋のみんなと出会えたおかげで救われたのよね」

ユイ「今でもこの恩は忘れていませんよ!」

 事情を理解して今でも協力してくれる万事屋の人情に、深く心に響いている。この純粋な言葉に気を良くしたのか、銀時はすかさず冗談を入れてきた。

銀時「おーそうか。だったら恩返しとして、今からジャンプと焼きそばパンを――」

新八「って、銀さん!!」

銀時「はいはい、分かっているよ。冗談に決まってんだろ」

アスナ「まったく……銀さんらしいわね」

 相変わらずのマイペースさには、アスナらもヤレヤレと呟いている。それはそうと万事屋に関連して、今度は個人ごとの強さについて話題が挙がっていた。

ユイ「でも、そんな銀時さんも戦争の英雄だって聞いた時はびっくりしましたよ!」

キリト「そうだな。今でも正直信じられないし……」

銀時「どこまで疑ってんだよ。お前らも俺の強さを見ただろ。真の強者は常に見せびらかしたりしないんだよ」

新八「その分だけ、恥は見せびらかしていますけどね」

銀時「何だとコラー!」

 確信を突く新八のツッコミに、銀時も反射的に言葉を返す。そのまま彼の過去の経歴や神楽の正体について、話は続いていた。

アスナ「それに神楽ちゃんが宇宙人なのも、衝撃的だったわね。見た目は私達と大して変わらないのに」

神楽「それなら私も、アッスー達が普通の人間だって聞いた時は驚いたネ! これじゃどっちが宇宙人なのか、初見さんには分からないアルよ」

アスナ「まぁ、ALOのアバターだと宇宙人に間違われても仕方ないわよ」

銀時「そんな俺達と互角に張り合うおめぇらも、十分に凄いと思うけどな」

神楽「アッスー達の境遇を知れば、その強さにも納得するネ!」

キリト「そんな事は無いよ。ただゲーム世界に閉じ込められて、二年間ほど命を懸けて戦っていただけだから」

新八「それだけでも、十分な強者感があるんですが……」

 SAOの世界で培ったキリト達の経験も、銀時側からしてみれば、十分な強さだと悟っている。強さを認め合う謙虚な心こそが、よりよい信頼関係へと深くつながっていた。

ユイ「そうですよ! パパやママも銀時さん達と同じく、とっても強いんですからね!」

銀時「だな。って、そういえば……まだあの時の勝負の決着はついていなかったな」

アスナ「あっ、初めて出会った時の決闘ね! 源外さんのトラブルのせいで、うやむやになっていたんだっけ?」

キリト「また時間がある時に、勝負を再開できるといいな」

 流れから思い出したのは、初対面時に行われた決闘の一幕。中途半場なままで終わってしまい、いずれは決着を付けようと、共に心へそっと入れていた。

神楽「いずれにしても、あの日から新しい万事屋が誕生したアルネ!」

新八「結構思い出深い出来事でしたね」

銀時「ああ。ポプテピピッ〇をネタにしたところとか、随分と時代を感じるよな」

新八「いや、そこじゃないだろ」

 思い出に懐かしく浸る一方、いちいち銀時は小ネタを挟んでいる。新八からは辛辣な言葉だけが、寂しく投げかけられている。一通り初対面時の思い出を振り返り、次の話題へ変わっていく。

 

 

 

 

 

ブロック2 万事屋としての新生活

 

銀時「とそんなわけで、お前らを新万事屋メンバーとして迎え入れたが、思ったよりも生活に慣れていて一安心だよ」

キリト「まぁ江戸時代と言っても、文明水準は現代とほぼ同じだもんな……」

アスナ「むしろ困る場面の方が、少ない気がするもの……」

 この銀魂世界での新生活について銀時から振られると、キリトら三人は共に微妙な反応を返している。元いた世界とほぼ同じ生活で、特に不満を覚えていないからだ。

新八「まぁ、それだったら何よりですよ。特に生活と言えば、万事屋での依頼が当てはまりますよね」

ユイ「これまで手伝ったものは……引っ越しにベビーシッターや、ゲームセンターの店員にピザ屋さんのバイト――でしょうか」

神楽「思ったよりも手広くやったアルナ。それに仕事になると、ユイが大活躍する時が多い印象ネ」

ユイ「そうでしょうか? 私はやるからには、本気で挑むので普通だと思っていますよ」

 仕事の関連からは、ユイの有能さにも注目が集まっている。真面目さが取り柄の彼女にとってはごく普通の思考だが、神楽らからすれば物珍しいようだ。

銀時「何とも純朴な心構えだな。万事屋どころか、銀魂キャラでもそんな真面目な奴はほとんどいねぇよ」

新八「なんだかんだでウチは、個性の強い人達ばかりですからね……」

 思わず感心する三人はさておいて、今度はキリト達から話題が振られていく。

キリト「それはそうと、思い出といえば結構記憶に残るトラブルとかが多いかな。移動販売店のケーキ屋を追いかけていたら、銀行強盗だったとか」

アスナ「強面の人達が経営する鶏卵場とかも、中々だったわよ!」

ユイ「つい最近ですけど、ハタ皇子さんっていう人のペット騒動もありましたよね!」

銀時「お前らも意外に巻き込まれてんだな」

キリト「元の世界とは比にならないくらいにはね……」

 次々と蘇っていく個性的な出来事。そのほとんどが一般的には非日常であるが、この銀魂世界では当たり前のように起きている。どこかキリト達も慣れから、内心では納得していた。しかしそれ以上に、得られたものも多く存在する。

神楽「でも楽しい事もたくさんあったアル! ユイのはじめてのおつかいに付き合ったり、源外のじいさんが作ったカラクリでゲーム世界に行ったり」

ユイ「ああ、そんな事もありましたよね!」

銀時「どれもお前等にとっては、希少な体験じゃないのか?」

アスナ「うん、確かにそう言われてみればそうよね」

 銀時らの言う通りに、つられて相槌を打つ一行。素朴で何気ない日常を過ごすのも、よりよい思い出へと繋がっている。実にシンプルな考え方であった。

キリト「でも、銀さんと過ごす生活も結構楽しいからな」

新八「そう言ってもらえると、何よりですよ」

神楽「つまりは、非リアと子持ちのリア充でも仲良くくらせるという事ネ」

銀時「……そ、そうか?」

 仲睦まじく温かい雰囲気が続き、さらには神楽の自虐気味の一言も決まっている。高低差を感じつつも、さらに会話は進む。

 

 

 

 

 

ブロック3 仲間達や知り合い

 

神楽「それじゃ、次はお互いの仲間や知り合いについて語ってみるネ!」

銀時「キリト達の仲間も、随分と個性の強い奴等ばかりだからな」

キリト「いやいや、銀さん達の知り合いの方が何倍も個性的だと思うが……」

 続いて上がったのは、仲間達の存在である。銀時、キリト共に知り合いが多いのだが、どれも印象深い人物達ばかりだ。

新八「まず思い浮かぶのは、桂さんとクラインさんの二人でしょうか?」

神楽「ああ、俗にいう侍バカコンビアルか」

アスナ「本当、この世界に来てからクラインって変わったわよね……」

銀時「類は友を呼ぶとはまさにこの事だろうな。後にクラインも真選組から目を付けられたりしてな」

キリト「逮捕だけは免れてほしいが……」

 真っ先に上がったのは、攘夷党に所属する侍、桂小太郎とクラインの二名である。侍をきっかけにして仲を深めた二人は、現在も幕府転覆を掲げて人知れず活動している。ある意味で、人生の方向性を一変させていた。それはさておき、そのまま次の人物へ話題が移行する。

ユイ「大人同士なら、エギルさんとお登勢さん達も負けてはいませんよね!」

銀時「意外な組み合わせだよな。スナックお登勢に、まさか男が加わるなんてよ」

神楽「アレで上手くやっているのが、摩訶不思議アルよ」

キリト「多分エギルは、そこまで気にもしてないと思うよ。それに少し聞いてみたら、たまさん達とも関係は良いみたいだからな」

アスナ「控えめに言って、お登勢さん達はみんな良い人達だものね」

神楽「キャサリン以外はな!!」

新八「そこだけはまだ目の敵にしているんだ……」

 神楽の私情はさておき、スナックお登勢の面々が上がっていく。特にキリト達の仲間であるエギルが加入したのは、予想外であった。キリト側はエギルの適応力を。銀時側はお登勢らの懐の広さを改めて理解していく。

 そこから続き、両陣営の女子陣へと話が移り変わる。

ユイ「そして忘れちゃいけないのが、超パフュームの八人ですよね!」

新八「あっ、ユイちゃんもその括りにするんだ……」

銀時「そうそう。お妙に九兵衛、さっちゃんや月詠がお前等んとこの女子をチームとして加えたんだよな」

アスナ「シリカやリズ達も最初は驚いたけどね」

キリト「でも、みんな仲良く暮らすことで一致して一安心したよ」

神楽「上手く暮らせているといいアルけどナ……」

 銀時達の知り合いである妙、九兵衛、あやめ、月詠と、キリト達の仲間であるシリカ、リズベット、リーファ、シノンの計八人で成り立っている超パフュームが、話に上がっていた。現在は妙らの支援の元、シリカ達は四人揃って下宿している。互いの了承で暮らしているのだが……その裏で壮絶な心理戦があったことを、キリトやユイはまだ気付いてはいない。(神楽や銀時らは察しているが)

 そして、忘れてはいけない組織がまだ一組いる。

新八「そして忘れてはいけないのが、真選組の人達ですよね」

アスナ「私達にとっては衝撃的だったからね……」

キリト「ストーカーに、マヨラーにドSって……強烈なキャラの宝庫だもんな」

神楽「どいつもこいつも、中々見ないタイプアルよ」

銀時「剣魂でも変わらずに暴れまわっているからな」

ユイ「本当に警察なのか、私でもうたがってしまいますよ」

 強烈な性格でお馴染みの真選組であった。近藤勲、土方十四郎、沖田総悟を始めとする江戸の武装警察だが、トラブルを起こす事でも有名である。剣魂でもリーファを始めとして、多くのSAOキャラが被害を受けていた。

 このように個性的な仲間達が絡むのも、剣魂ではお馴染みの光景なのである。

新八「とまぁ、人物説明はこんな感じですね」

アスナ「改めて聞くと、結構色んな人と知り合いになったのね」

神楽「他にもリッフー達を支えている日輪や晴太。リズの鍛冶師匠である鉄子と、魅力的な知り合いも多くいるネ!」

ユイ「そうですね! それじゃ――長谷川さんも同じく頼りになる人ということですね!」

銀時「そうそう――って、長谷川さん? アレ、紹介してなかったけ?」

キリト「そういえば、聞いてない気がするな」

銀時「……いや、大丈夫だ。一人くらい飛ばしても、どうせ気が付かないだろ」

新八「いや、ちょっと待てよ! さり気なく誤魔化さないでくださいよって!!」

 まとめに入ったつもりが、うっかりと長谷川の存在を忘れており、タイミングが悪く思い出してしまう。上手くまとめきれない一行であった。(マダオ如きで悩まされるとは……)

 

 

 

 

 

ブロック4 サイコギルド及び夢幻解放篇での戦い

 

 ひとまずは気を取りなおして、一行の事態が進んだ長篇へと話題を進めていく。

新八「じゃ、じゃ! 今度はサイコギルドに関連して、夢幻解放篇……いや、千佐さんの一件について話してみましょうよ!」

キリト「そうだな。俺達にとっても、因縁の深い相手だからな」

神楽「確かアッスー達がこの世界へ来た原因って、そのサイコギルドが絡んでいるアルよな」

アスナ「うん。最近まで進まなかったけど、あの千佐さんの事件で急展開を迎えたのよね」

 万事屋にとっても大きく進展のあった出来事、夢幻解放篇である。キリト達を銀魂世界へと送り出した謎の組織、サイコギルド。その情報を掴むべく、昏睡状態にあった少女、早見千佐の夢世界を探索した物語である。そこでは予想外の展開が待っていた。

銀時「夢世界じゃ、別世界の奴等が閉じ込められていたからな。あっちの俺は、妙に主人公っぽいしよ」

ユイ「パパは気弱で、ママは激しい性格だったのも覚えています! 一見すると顔は同じなのに……」

神楽「それがパラレルワールドってヤツじゃないアルか? もしかするとキリのいた世界にも、銀ちゃんや私にそっくりな奴がいるかもしれないアルよ」

キリト「それはそれで、少し気になるかもな」

 夢世界で会った別次元にいる住人達。万事屋は彼らと協力して、元凶である統率者の刺客に挑んでいた。だがそれは、さらなる新事実へと繋がることになる。

アスナ「そして私達が戦ったのは、これまた別世界の悪の組織、ショッカーだったのよね」

キリト「あんな分かりやすい悪役は、生まれて初めて見たよな。それでも敵が少なかった分、倒しやすかったと思うけど」

新八「だとしても、何故サイコギルドはショッカーを呼び寄せたのか? まだ明らかになっていませんよね」

ユイ「謎は深まるばかりですね……」

 協力者であったショッカーの存在が明るみになり、万事屋や仲間達の協力を得て、無事にそれを撃破した。一連の事件を解決したものの、サイコギルドに関する情報は未だに謎を多く残している。

 そんな真剣な空気の中で、銀時だけはある裏話を話し始めていた。

銀時「まぁ、ここだけの話。ウチの投稿者はギリギリまで敵について悩んでいたからな」

神楽「オリジナルの敵や、過去の敵やモンスターの復活も案に入れていたアル。でもインパクトとノリがきっかけで、ショッカーに見事決まったネ」

新八「って、そんな裏事情をあっさり話していいんですか!?」

銀時「別にいいんだよ。キリト達には理解されないから大丈夫だろ」

新八「本当に大丈夫なのでしょうか……」

 あっさりと事情を話す銀時に対して、新八はこっそりとツッコミを加えている。だが彼の言う通り、キリトらは意味が分からずに聞き流していた。

キリト「でも最終的には首領も倒して、千佐さんやもう一人の俺達も元の世界へ戻れて良かったな」

アスナ「終わり良ければ全て良しってところね!」

ユイ「この調子で、どんどん情報を集めていきましょうね!」

新八「……アレ? さほど気にしてない?」

神楽「ふっ、これがちゃんとした作品の対応ネ。住む世界が違うアル」

銀時「むしろここまで上手くやっているのが、奇跡的かもな」

新八「そうですね……」

 改めて両者の方向性の違いについて、思い知らされる。温度差を感じながらも、総集篇はいよいよ終わりに近づいていく。

 

 

 

 

 

ブロック5 これからも続く物語

 

新八「という訳で、これで振り返りは終了ですね! 改めてどうだったでしょうか?」

アスナ「良くも悪くも印象的な思い出ばかりだったわ。トラブルに会う確率も多かったし」

キリト「でも、なんだかんだで楽しくやっているかな。この生活にもしっかり慣れてきたし。後はサイコギルドへの情報を集めて、無事に元の世界へ帰るのが当分の目標かな」

ユイ「この六人だったら、きっと達成できますよ。なんてたって、私達は万事屋の一員ですからね!!」

神楽「おっ、ユイからその言葉が聞けるなんて意外アル! 私達も負けてられないアルナ!」

銀時「競っている訳じゃねぇよ。でもまぁ、良いんじゃないか。この剣魂では六人と一匹で万事屋ってことで。これからも数多の依頼を解決して、サイコギルドにも敢然と立ち向かっていこうじゃねぇか!」

五人「「「「「オー!!」」」」」

 各々の気持ちを確かめ合い、今一度振り返った思い出話も良い雰囲気でまとまっている。剣魂で起こる予想外な日常、サイコギルドの隠された思惑。まだまだ銀時やキリトら万事屋の物語は続いていく。様々な人物を巻き込みつつ、今日も万事屋は何気ない日常を過ごしていく……

 とそれっぽいエンディングを迎えたところで、場面は変わり旧万事屋メンバーの銀時、新八、神楽のみが集まっている。キリト達を一旦離れたところで、とあるお知らせを伝えるようだが……

銀時「さて……総集篇を終えたところで、お知らせに移るぞ。テメェらは静粛にしてろよ」

新八「って、急にどうしたんですか?」

神楽「ま、まさか遂に投稿者が引退アルか!?」

新八「そんな訳ないでしょ! 続く流れなのに、勝手に終わっちゃまずいでしょうが!!」

銀時「いやいや、違うぜ。実はな……剣魂の新長篇が製作決定したぞ!!」

新八「新長篇……?」

神楽「マジアルか!?」

 その内容は、まさかの告知である。

銀時「ああ、そうだとも。前回の夢幻解放篇に引き続き、バトルが中心の長篇を今年中に作る予定だぞ!」

神楽「おお! てことは、またストーリーが進むってことネ!」

新八「これは中々、良い発表じゃないですか!? それで他に情報は無いんですか?」

銀時「投稿者からだと、なるべくレギュラーキャラ全てを活躍させたいらしい。さらにサプライズも考えているようだ」

神楽「おー! 結構期待は大アルナ!」

 発表早々に期待を寄せあう三人。とそこへキリト達の声が聞こえてくる。

キリト「おーい、銀さんにみんなー! もう行くぞ!」

アスナ「急な仕事が入って、すぐに来てほしいんだって!」

ユイ「早く来ないと、置いていきますよ!!」

銀時「分かったよ、すぐに行くから待ってろ!! ――という訳で、今後とも剣魂のことをよろしく頼むぜ!」

神楽「2020年も頑張っていくアルネ!」

新八「それじゃ、また次回に会いましょう!!」

 お知らせを終えて、銀時ら一行はすぐにキリト達の元へと戻っていく。こうして万事屋は、次なる仕事場……大江戸マートへと向かうのであった。 (総集篇終了)

 




後書き
 はい、カット!! という訳で、みなさんお久しぶりです。投稿者のトライアルです!
 剣魂特別編はいかがだったでしょうか? 投稿が結構久しぶりとなるので、文体はかなり緩めです。あくまでもおまけみたいなものなので、そこは温かく見てください。結構書くのが久しぶりなので、ミス等があればコメントにてお知らせください。

 まずは中々投稿できずにいて、すいませんでした。内情を言うと、パソコンの故障で修理に時間がかかってしまい、今に至っています。予備の方にも不具合があったので、この一ヵ月の間は執筆を進められませんでした。休止中には新作の案や長篇の構成に力を入れつつ、過ごしていました。ようやく作業環境も整ったので、また連載を再開させられます。今後も気軽に見て頂けたら、何よりだと思っています。

 裏事情の件はさておき、今後の活動についてご報告させていただきます。まず「剣魂」の方ですが、一か月に二~三回の投稿を目安とさせていただきます。今までは週一の投稿でモチベーションを上げようとしていましたが、詰まる事も多々あったので変更しました。
 「剣魂」では今後も日常回を描きつつ、夏頃には新長篇を上げたいと考えています。新長篇の情報は、三月に投稿される「かぶき町フレンドラリー篇」の最後に発表します。

 さらに「剣魂」だけではなく、新しい二次小説も現在構成中です。こちらは発表にまだ時間がかかりますが、今年中には上げられると思います。

 創作活動から早くも二年目を迎えようとしていますが、多くの方に自分の作品を見て頂いて、評価までしていただき、本当にありがたいです。これからも至らぬ点はありますが、自分のペースで活動したいと思っています。

 それではまた、「かぶき町フレンドラリー篇」にてお会いしましょう! 次回からはちゃんと日常回に戻るので……よろしくお願いします。



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長篇前日談&予告篇

予告だけじゃ物足りなかったので、サイコギルドを交えた前日談も付け加えました。オリキャラもいるので出すタイミングに迷いましたが、今回ならば大丈夫だと踏みました。それではご覧ください。

※この前日談では、二つの場面に分けてお送りいたします。



 

前日談1 八月三日の出来事(万事屋がチサを救った後)

 

 サイコギルド。それはキリト達を銀魂世界へと送った黒幕の組織。彼らはブラックホールに似たサイコホールを巧みに使い、人知れず暗躍を続けている。現状では組織の兵力拡大に向けて、別世界から新たなる敵を呼び出しているようだが……?

 そんな彼らは今、江戸から離れた山奥にある遺跡の内部にて、サイコホールを作り出していた。ショッカー首領に続き、さらなる協力者を呼び出そうとしていたが……お世辞にも上手くはいっていない。流れてくるのは、倒された怪人の破片や武器の欠片ばかりである。

「チッ! また失敗か……」

「はぁ……これで何度目? 最初の威勢が良かっただけで、全然来ないじゃん。運ゲーにも程があるって」

「うるさい! これでも尽力はしているはずだ……!」

 またも破片が流れてきており、組織の一人であるシャドームーンはかんしゃくを立てていく。槍の先端からサイコホールを出現させているアンカーも、この結果にはため息を吐き、呆れかけていた。

「欠片でも、使えればマシなんだけどね……」

 そう呟くと、彼女は周りにあった欠片を見渡していく。トカゲの顔をした盾、ノコギリクワガタを思わせる双剣、青くゴツゴツとした巨大なカギ爪、牛に似た鋭利な角など、その種類は多岐に渡っている。ざっと見たところ、五十種類近くはあるだろう。

「どれも強そう……って、アレ? これって」

 つまらなそうに眺めていた彼女だが、ふとある欠片を発見していた。怪人とはまた違ったオーラを匂わせるもので、興味深く手にしていく。

 竜のようなマークが付けられた黒いカードケース。サメの絵が描かれた青いメダル。金色と黒色に包まれた小型の笛。魔法使いのような顔を思わせる指輪。

 この四つの欠片を見て、アンカーにはある考えが閃いていた。

「ねぇ、これって使えそうじゃない? 私達で復元したら、きっと凄い力になると思うの。いっそのこと、利用してみない?」

 欠片に価値を見出して、シャドームーンに復元を勧めていく。自信満々に言い出したものの、彼の反応はあまり好ましく無かった。

「駄目だな。時間がかかるし、止めておいた方がいい」

「えっ、なんで? またすぐに言いきっちゃうの? そこまでしてアンタは、怨霊とかにこだわっているの?」

「その通りだ。どんなに欠片が流れてこようと、魂が無ければ利用する価値は無い。ショッカー首領のような彷徨う者が相応しいからな。ノロイドの復活には」

 どんなにせがまれても、シャドームーンの考えは一斉変わらない。欠片よりも魂や怨念と言った類に、重きを置いている。

 いまいち納得のいかないアンカーは、つい不機嫌な表情を浮かべていく。欠片の一件のみならず、彼の発した言葉にも不満を覚えていた。

(ノロイド……またその名前。初めて会った時からずっと言い聞かされてきたけど、どんなヤツなの? アイツは詳しく教えてくれないし……)

 逐一耳にするノロイドと言う言葉。復讐に必要だと言われているが、それが何なのかいまいち理解出来ない。生物なのか無機物なのかも、はっきりとは分かっていなかった。

(いずれは分かるといいけどね……って、痛!)

 そう心の中で呟いていると、またもサイコホールから部品が落ちてくる。今度はアルファベットが描かれたUSBメモリのような物体だった。これを出すと同時に、サイコホールは縮小して跡形も無く消えてしまう。

「ふっ、これでひとまず終わりだな。今回も大した収穫は無しってところか」

「また時間を空けなきゃいけないの……」

 作戦を終了させると、二人は一旦休憩に入っている。シャドームーンは落ちてきた欠片や破片を一つずつ確認しており、対してアンカーは彼の様子をじっと見張っていた。考え方の違いから、少しばかり彼との関係について不安視している。

(私の想いを理解してくれたのは、アイツが初めてだった。最初こそ復讐の為に協力したのに、最近は力を求めるばかり。本当にこのまま一緒で良いのかな……)

 心の奥底では信頼が揺らいでおり、つい疑いの目を向けてしまう。彼女もまたある“復讐”の為に、シャドームーンと行動を共にしていた。最近では自信を失うばかりであったが。

 疑いや不満を積み重ねながら、アンカーは現状に頼るしかない。すると彼から、話をかけられてきた。

「思ったよりも欠片や破片が多いな。これさえあれば、記憶の圧縮に繋がるかもしれない」

「えっ、本当なの?」

「あぁ。だがやはり、これだけでは不完全だな。より詳しい記憶やデータが必要だ……」

 散らばった欠片から新たなる策を模索しており、兵力の増強へ繋げようとしている。それでも補填するべき課題は、多くあるのだが。

 より頭を悩ませるアンカー達の元に、突如としてある集団が近づいてきていた。

「だったら、僕達に良い方法があるよ」

「ん? 誰だお前……いや、お前達は?」

 男性の声が聞こえた方向に目線を向けると、遺跡の入り口から四人の天人が姿を現している。不穏な雰囲気を漂わせており、アンカーらは即座に警戒心を高めていた。すると天人の一人が声を上げてくる。

「そう警戒はするな。僕達は別に怪しい者じゃないぞ」

「怪しい奴は最初からそんなことは言わないよ」

「随分と疑り深いわね。折角良い話を持ってきたというのに」

「少しでもいいから、聞いてくれないかな?」

 図々しくも距離を近づかせて、会話を持ち掛けていく。いまいち信用が出来ない二人は、警戒心を保ったまま、慎重に相手を見極めていた。話だけは聞く姿勢を見せている。

「ねぇ、こいつらって一体何なの?」

「見たところ、この世界における傭兵部族と言ったところか。夜兎と辰羅が二人ずついるな」

「夜兎? 辰羅?」

 そこで四人を改めて見直すと、シャドームーンだけは特徴的な種族だと理解していた。

 左側の男女二人は黒いマントを羽織って、必要以上に肌の露出を遠ざけている。日傘を持ち陽の光を避ける様子から、戦闘部族の夜兎だと判別できた。

 一方で右側の男女二人は、白く動きやすい野良着を着こなしている。とんがった耳に鮮やかな青髪と、戦闘部族の辰羅の特徴と一致していた。

 いずれにしても、銀魂世界では名の知れた戦闘部族である。

「なんでそんな人たちが、私達に用があるの?」

 増々接点が見出せずに、アンカーはつい疑問を浮かべていた。自分から質問をしてみると、天人達は次々に目的について語り出している。

「フッ、単刀直入に言うならば交渉が正しいな。我ら四人は今、ある星の反王国組織に手を貸している。クーデターを企てる為に、兵力やエネルギーを集めているぞ」

「ほう、兵力集めか。俺達とは同じ目的だな」

「そうだな。そんで僕達が従えているオベイロンと言う男は、性格はともかく頭脳に関しては一級品だ。お前達が召喚した部品や欠片さえあれば、きっと怪人達を復元してくれると思うよ」

 どうやら彼らの正体は、オベイロン率いる反王国組織の構成員のようだ。サイコギルドと同じく力を求めているらしく、アンカー達の召喚した怪人の欠片にも興味を示している。一部始終を目撃した彼らは、怪人の復元を前提として、交渉を持ち出してきた。

 これにはアンカーも、純粋に驚嘆としている。

「ふ、復元って……そんなこと、本当に出来るの?」

「出来るとも。あの男ならばな……」

「腕だけは一級品だからな」

「もちろん交渉だから、アナタ達にも得を与えないとね。一ヵ月もあれば出来るから、それまでに得た怪人達のデータを提供するのはどう? 簡単に複製できるように調整しておくからさ!」

「悪い話では無いでしょ? 後はアナタ達の判断に任せるわよ」

 交渉の条件として、見返りにデータの提供を彼らは提案していた。互いの利益になるように、抜かりの無いアピールを見せている。

 願ってもいない急展開に、彼らの考えにも変化が生じていた。データの提供は、サイコギルドの兵力拡大にも繋がるからである。

「これは結構な好条件ね……どうするの、シャドームーン?」

「文字通りに悪い話では無さそうだな……良かろう。貴様らの案に乗ろうではないか」

 互いの気持ちは一致したようで、冷静な判断の元で交渉を受け入れていく。これには夜兎や辰羅達も、ニヤリと笑いをこぼしていた。

「ハハ! だったら、話は早いね。早速欠片は貰っていくよ。それと……このアイテムもね」

「えっ? これのこと?」

 すると夜兎の男性が、アンカーにあのアイテムを要求してくる。怪人とはまた違ったオーラを持つ、デッキやメダルと言った部品だった。素直に渡してみると、彼らのテンションはまるで別人のように変わっている。

「よし! この力さえあれば……もっと強くなれる!」

「同族よりも上を行けるはずだわ!!」

「早く持って帰らないとね~!!」

 皆が揃って力に執着する様子から、狂気じみた一面を覗かせていた。どうやら彼らには、この部品の価値がはっきりと分かるらしいが……?

(本当に信用していいのかな……)

 場のノリから引き受けてしまったものの、やはり時間が経つ度に後悔の方が強く残ってしまう。アンカーだけが、彼らの協力には懐疑的なままである。

 結果的にサイコギルドには、新しい協力者が見つかっていた。ノロイドの存在や、目的として掲げられる復讐とは? 未だに多くの謎が彼らには漂っている。

 

 

 

 

 

 

2.9月3日の出来事(キリト・ユイが高杉と邂逅した頃)

 

 交渉から約一ヵ月が経ち、場面は彼らの拠点となった遺跡内部から始まっている。ちょうどアンカーは、シャドームーンから怪人複製の途中経過について聞かされていた。

「えっ? 怪人のデータがもうすぐ出来上がるって?」

「そのようだな。近々星まで来いと連絡があった」

「これなら、平成の怪人達も無事にまとめられそうだね」

 データはもう出来上がっているようで、後は直接取りに行くだけである。不安要素が一つ無くなり、彼女は思わず一安心していた。

 ここまではサイコギルドとしても、順調な道筋と言ったところだろう。

「いずれにしろ計画は順調だな。我らの復讐の日も近いであろう」

「そうだね。絶対に果たすんだから……」

 計画への手ごたえを感じると共に、アンカーの表情も真剣になっていく。復讐への執念を密かに燃やし始めていた。

 一方でシャドームーンだが、彼は突如として遺跡から去ろうとしている。

「その調子だな。それとだな、俺は今から遺跡の調査に行ってくる。この場はしっかりと守っておけよ」

「遺跡? 調査? 私その話聞いてないよ。一体どこへ行くの?」

 アンカーに呼び止められて足を止めると、彼はオベイロン一派から頼まれたある依頼を話してきた。

「それは一派が探している遺跡だな。次元の狭間にあると言われていて、二十人の英雄の力がそこにはあるそうだ」

「そんな遺跡があったの? ということは、私達もその英雄の力にあやかれるの? めっちゃいいじゃん! これでより復讐が楽になるよね!」

 次元の狭間にある遺跡の存在が明かされており、彼女は思わずテンションを高めていく。想像力を働かせながら、さらなる組織の発展を口に出していたが……シャドームーンにそんな考えは微塵も無かった。

「勘違いするな。俺はただ居場所を突き止めるだけだ」

「えっ……なんで? また怨念云々とか言うの!? そんなこだわりに、いつまですがっているの!? もっと貪欲に考えなさいって……!」

 真っ先に考えを否定されたことで、アンカーはつい感情的に反論してしまう。一か月前のすれ違いと言い、彼との考え方が合わずに抑圧された気持ちをぶつけていく。だが……何を言われようとも、シャドームーンの考えは変わらない。

「どんなに言われようとも、俺の意志は変わらない。光に落ちた者たちに頼らずとも、必ずや怨念による復讐を果たしてやる。その想いを分かれ、アンカー……」

 自らの意志を伝えた後に、彼は機械音を立てて走り出していく。遺跡に一人取り残されたアンカーは、膝から崩れ落ち思い通りにいかない怒りを吐き出してきた。

「なんで……? なんで私の考えは通してくれないの……! こんなんじゃ、復讐なんて夢のまた夢だよ……」

 強張った表情となって、必死に涙を堪えていく。復讐自体にも自信が持てなくなり、喪失した気持ちが心を支配している。彼女の嘆きは誰にも届いていない……

 そしてシャドームーンは、早くも遺跡の行き方について発見していた。

「この遺跡だな。侵入方法は――」

 知らない間に揺れ動く二人の信念。復讐を誓ったはずの寄り添う気持ちは、いつ壊れてもおかしくはない。彼らの物語はまだ続くのだろうか……




余談1
 サイコギルド篇はどうだったでしょうか? まとめるとこんな感じです!

1 彼らの目的は復讐が第一(誰に対してはまだ不明)
2 オベイロン一派とも取引をしている
3 二人の間には、考え方の違いですれ違いが起きている
 シャドームーン→怨念へのこだわり アンカー→形は問わない復讐
4 ノロイドと言う謎の存在
5 アンカーには迷いが生まれている
6 今のところ二人しか入っていない?

 彼らにも知らない間に変化が起こっていたんですね。アンカーが何故復讐に執着するのか? まだ先になりますが、剣魂の終盤で描ければいいなと思います。

 後は大変申し訳ないんですが、次回の長篇のサイコギルドはほんの少ししか出番がありません。彼らのドラマ部分は、また気長に待っていただけるとありがたいです。もしかすると並行して、話を作るかもしれません。まだ未確定ですが……

ちなみにサイコギルドの時系列を並べ直すと、第二十七訓(七月下旬)→前日談1(八月三日)→第三十九訓(八月七日以降)→前日談2(九月三日)です。ご注意ください。






 そして今回で! 剣魂の初投稿から二周年を迎えました!! 今後も長く続けられるように頑張りますので、どうか応援のほどをよろしくお願いします!
 それでは、お待ちかねの長篇の予告篇をどうぞ!!





予告!

 剣魂 二周年突入記念章 開幕!!

????「この宝は、絶対にアンタ達なんかに渡さない!」

初のダブル長篇! 第一弾の舞台は次元の遺跡!

神楽「宝探しじゃぁぁぁぁ!!」

?「次元の狭間にあると言われている謎の遺跡! 果たして本当にあるのでしょうか?」

ユイ「ほら! 都市伝説おじさんも言っていますよ! だから行きましょうって!」
銀時「仕方ねぇな……」

 まことしやかに噂されている遺跡の存在……その謎を解くために、万事屋一行は仲間と共に冒険へ向かう!

銀時「なんでお前達まで、ついてきてんだよ!」
土方「うるせぇ! テメェらの方こそ、ついてくるな!!」
リズ「また喧嘩しているの……」
リーファ「本当懲りないね」

……失礼。一部を除いてですね。

 そこで会ったのはある一人の少女だった。

新八「君は一体……」
????「お願い、力を貸してくれない?」

 遺跡の在処を知る彼女……そして近づく不穏な影。

シリカ「アナタ達が追っ手なんですね!」
??「そうだ! 我らの名はマッドネバー! オベイロンを筆頭とした反組織だよ!」
キリト「オベイロンだと……!?」
??「アヤツの開発したアイテムでも使ってみるか……!」

未知の力を持つ、マッドネバーが現れる! その正体は……

「サメ! クジラ! オオカミウオ!」
「チェンジ! ナウ!」
近藤「あ、あれは……」

「アドベント!」
「ウェイクアップ! ワン!」

シノン「つ、強い……」
沖田「なんて奴等だ……!」

 最強の敵、ダークライダー襲来!! 渦巻く陰謀に彼らは巻き込まれていく……

江戸の侍

銀時「テメェらの好きにはさせるかよ!」
神楽「変身なんてズルいアル!」
新八「僕達は何が何でも、アナタのことを守り通します!!」

令和のゲーマー

キリト「戦力差なんて、この手で覆してやるよ!」
アスナ「諦めるものですか!」
ユイ「みなさん……頑張ってください」

 辿り着いた遺跡の秘密。刻まれた二十人の英雄の力。謎を解く鍵は……平成のヒーロー。

剣魂 次元遺跡篇 8月より公開予定!

キリト「みんな!!」
銀時「てめぇらぁぁぁ!!」

絶対に諦めるな――





そして第二弾。妖国動乱篇!

ユイ「キャッ!?」
新八「ユイちゃん!?」

 マッドネバーに狙われたユイ。彼女の元に舞い降りたのは、紫色の兎だった。

神楽「アッスー! この兎を使って、サンドイッチを作って欲しいアル」
アスナ「駄目よ、神楽ちゃん! 色々と不味いから!!」
銀時「マジでお前、食おうとしているのかよ」

 新たなる陰謀に巻き込まれていく……戦いの舞台は遂に妖精の国へ!」

????「この国はすでにあのお方に取られたからな」
桂「なんと許さんぞ! 高杉もどき!」
銀時「お前も中の人繋がりで、酷いことしているけどな」

そこで出会うのは……テロリストか?

高杉「俺はただ壊すだけだ。あの腐った妖精王の計画を……!」

はたまた身勝手な王か?

?????「これで僕が、この星の王となるのだぁぁぁぁ!!」

それとも……仲間か?

???「大丈夫かい、アスナ!」
アスナ「えっ……!?」
神楽「あの子って……」
クライン「嘘だろ……!」

剣魂 妖国動乱篇 次元遺跡篇終了後 公開予定

キリト「ア、アナタ方は……」
???「君達なら、力を託せそうな気がする!」

 平成を受け継げ――

※構成中の為、上記の台詞が使われない場合があります。ご了承ください。





 という訳で、長篇の予告を発表致しました! いかがだったでしょうか? 次元遺跡篇はSAOのエクストラエディションのような宝探しを。妖国動乱篇ではALOの世界観をベースに作っています。注目点としましては、サイコギルドの新たな刺客ダークライダーたち。強大なる力を持った戦士が、銀時やキリト達に襲い掛かります。果たして勝てるのでしょうか?
 そして高杉を始めとした両原作キャラの登板。まだ詳しくは言えませんが、ALOの世界観を元にしているので、あの懐かしいキャラ達も登場するかもしれません……
 さらには平成のヒーローの意味。果たして何者なのでしょうかね……

 剣魂の集大成とも言える本章。前回の長篇では出番の無かったキャラ達も続々登場致します! 銀時やキリト達の新しい戦いを是非応援してください! それでは、八月までお待ちを!

 それと次回の日常回は25日までには投稿できそうです!


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没シーン集+第四章出番表

 アスナの誕生日回までに長篇が間に合わなかった……という事で九月最後の投稿は本編で使われることの無かった没シーンをご紹介いたします。軽いオマケ程度でご覧ください。新長篇は十月の上旬頃に投稿いたします。


・第十六.五訓より シリカら女子達が初めてひのやを訪れた場面

 

 堅苦しい話はそっちのけに、月詠の寝言をネタに場は盛り上がっていた。

「それにしても、アンタ。寝言で言っていたわよね。妹が欲しいって。良かったじゃないの、四人もできて夢が叶ったわね!」

「そ、そんなこと言っておらぬぞ! 日輪、嘘はやめなんし!」

「そう? 例え嘘でも本当は内心嬉しく思っているんじゃないの? この子素直になれない時があるから、そういう時は思いっきり攻め立てて大丈夫よ!」

「な、なんてことを……」

 日輪により話の主導権を握られ、言い訳すらも出来なくなってしまう。悪ノリの幕開けであった。

「そうだったんですね!! 月詠お姉ちゃん!!思いっきり可愛がりたいんですよね!?」

「って、シリカ!? 急にキャラを作るでない!! 妹っぽくせんでいいから!!」

「もう~! 本当は月姉も隠しているんでしょ? この機会に言ってもいいんだよ! 妹分が出来て嬉しいって!」

「リーファまで……モロホンの妹感を出さんでよい!」

 まずはシリカとリーファがつぶらな瞳を見せつけて、月詠へ可愛さをアピールする。いたずらっぽく演技しているとはいえ、抜かりなくあざといキャラを演じ続ける。

 さらに、場の空気に乗っかってリズベットやシノンも加わってきた。

「まったく月姉ってば……もっと素直になろうって! ぶっちゃけ甘えてもいいんだからさ~!」

「そうよ! それに、私は月姉さんに尻尾や猫耳を触られても別に……構わないんだからね!」

「何ツンデレっぽくしとるんじゃ! もうツッコミが追い付かんぞ! 四人共、止めるんじゃ!」

 妹または後輩感をアピールする四人に、月詠は手も足も出ずに困り果ててしまう。一方で、この状況を作った日輪は呑気にも傍観するだけだった。

「なんだかんだで、月詠とはもう仲が良いのね。後は晴太とも顔合わせくらいはしてほしいものよね……」

 そう言って彼女は、後ろを向き戸の隙間の方へ目線を合わせる。そこには、ずっと影を潜めていた晴太がいるのだ。日輪は最初から気付いており、彼の様子を伺っていたのである。そして晴太も、ついに目を合わせてしまいこの状況を察し始めていた。

「ま、まずい! 母ちゃんに気付かれた! これじゃ、もう出るしか――」

 隠れ場所が見つかった以上は、もう隠し通すのは不可能である。動揺しながらも晴太は腹を括り、外へと出る準備を始めていた。

そんな時、思わぬ邪魔者が彼の目に入ってくる。

「ナー?」

「えっ……竜?」

 隙間越しに見えたのは、シリカのペットである小竜のピナであった。彼はいつの間にか別行動をとっており、独自にひのや内を飛び回っていた。そんな中、偶然にも戸の隙間から晴太を見つけたのである。

「ナー!」

 するとピナは急に大声を上げて、羽を大きく羽ばたき始めた。その振動を利用して羽を戸へ触れさせると、力任せのまま開けようと行動に移していく。

「ま、まさか開ける気!? って、うわぁ!?」

 防ごうにも時すでに遅い。戸は開けられてしまい、勢いのまま晴太は床へと倒れ込む。そしてようやく、一同の前にその姿を晒したのだ。

「って、晴太?」

「晴太……そこに隠れておったのか?」

 突然の登場に動揺する日輪と月詠。さらに、

「晴太……って、まさかこの子が息子さんなの!?」

「そうよ。……でも、ずっと隠れていたの?」

リズベットら女子四人も同じく戸惑っている。シノンだけは晴太と対面したことがあるためリアクションは薄めであったが、それ以外のメンバーはこれが初めてであり驚きの表情を浮かべていた。一方で表舞台へと出てしまった晴太は、

「アレ、みんな……? ハハ、失礼――では、さらば!!」

苦笑いを見せた後、何事もなかったかのように逃走を図り始める。しかし、同じ手は二度も通用などしなかった。

「ナー!!」

 逃げる晴太へ狙いをつけて、ピナは鳴き声と共に透明な泡を放射させる。泡に当たってしまった晴太は、早速異変が生じ始めた。

「ん? うわぁ!? って、アレ? 急に動かなくなったんだけど!? 何これ!?」

 急に体の自由が効かなくなり、またも倒れ込んでしまう。そう、相手の動きを封じるピナの得意技、バブルブレスが晴太にも効いたのである。

「な、何が起こったの?」

「これは、ピナの技です! 相手の動きを封じるバブルブレスって言うんですよ!」

「ナー!」

 技が決まり勢いよく鳴き声を放つピナ。役に立ったことが、よっぽど誇りに思っているようだ。一方で日輪や月詠は、初めて見たピナの技に驚きを隠せずにいる。

「そんな技があったのか……ということは、今晴太は金縛り状態と言う事じゃな?」

「えっと、そうですね」

「そうか――なら」

 バブルブレスの効力を知った月詠は、表情を険しくさせると真っ先に晴太の元へ向かう。そして、動けないのを良い事に彼を体ごと持ち上げたのだ。

「なぜこそこそと隠れていたのか、じっくりと話してもらおうか」

「って、待って!! 月詠姐!! これには深い訳があるんだ!! 決してやましいことじゃないから!!」

 月詠に捕まってしまい、晴太は抵抗できないまま連れていかれてしまう。金縛り状態のため体の自由はまったく効かず、万策が尽きてしまった。虚しい叫び声が家中に響き、晴太は思わぬ初披露を飾った後、とばっちりを受けてしまったのである

「えっと……アレはアレで良かったのでしょうか?」

「いいんだよ。恥ずかしがっているのに、すぐに来なかった晴太も悪いんだからさ」

 軽く罪を感じているシリカに、日輪が励ましの一言をかけた。ピナの予想外の行動が、思わぬ結末を導いた騒動である。

 

没理由・晴太が不憫すぎるから

 

・第十九訓より 養鶏所での結末

 

「こ、これって……?」

「お願いします! 俺達に、極道らしい演技を教えてください!!」

「……はっ!?」

 なんと急に頭を下げた養鶏場の方々。どうやらアスナの迫真溢れる姿に、感銘を受けたようだ。本人はもちろん困惑している。

「って、それどういうこと!? 私のどこが極道だっていうの!?」

「何をおっしゃいますか! あなた様の本気になった表情と怒りは、早々見かけないのですよ! さながら極道を支える姐さんや姫さんのようでしたぞ!」

「そんなんじゃないって! そもそも意識したことすらないわよ!!」

「意識せずにあの演技力……ますます教え欲しいです!」

「なんでむしろ食いついているのよ!!」

 幾ら否定しようとも、中々食い下がらない大人達。対応に困り果てたアスナは、とうとう最終手段へと出る。

「もう限界だわ!! 神楽ちゃん! 卵持ってて! 私はこの場から立ち去るから!!」

「って、アッスー!? どこ行くのネ!?」

「ほとぼりが冷めるまで! もう極道とかドッキリとか関わりたくないんだから!! それじゃ!!」

「あっ! 待ってください! 我が姐さん!!」

 そう現実逃避だ。羽を広げて空を飛び、この状況を放りなげてしまう

こうしてアスナにもう一つ弱点が加わった。極道のような強面な男性が、苦手になったのである。

「もう~! 私は極道になんて、なりたくないのよー!!」

「こち〇みたいな終わり方アル」

 

・第二十一訓より シリカとお妙さんの会話

 

「えっ!? は、はつ、初恋なんですか!?」

 思ってもいない答えを聞かされて、シリカは取り乱してしまう。まさか恋にまで発展しているとは予想外だったからだ。動揺が収まらない中、妙はさらに補足を加える。

「そうよ。ピナちゃんだって異性には興味があるはずだから、友情を越えた愛を求めるのは当然のことなのよ」

「ま、まさかピナに限ってそんなこと……」

 真実を確かめるべくシリカは、ピナの表情から本心を読み取ることにした。正面を向かせて表情を確認してみると――

「ナ~!」

「えっ?」

彼の顔は真っ赤に恥ずかしがっている。妙の予想通りの結果となった。

「ピナが恋をしている……!? アタシの知らないところで?」

「本当驚きよね。ピナちゃんも飼い主と同じく発情期を迎えるなんて、おめでたいことじゃないの」

「……そうですよね。アタシと同じく発情しているなんて――って、お妙さん!? なんてこと言わせるんですか!? 冗談も程々にしてくださいよ!!」

 妙が言い放った冗談によって、再びシリカは取り乱してしまう。ノリツッコミを交わして、ピナよりも顔を真っ赤にしていた。感情的になる彼女に、妙は穏やかに謝りを入れる。

「ごめんなさいね。ついからかっただけよ。心配しなくても、人間なんて年中発情期だから、キリちゃんの前で言っても何も問題は無いわよ」

「大ありですよ!! キリトさんの前で発情期なんて……そんなこと……破廉恥すぎて言えませんよ!!」

「いや、そこまで恥ずかしいことじゃないと思うけど……」

 ピナよりも顔を真っ赤にして、シリカの動揺は止まらない。

 

・第二十二訓より 刀鍛冶屋での会話シーン

 

「凄い入れ込みようね。よっぽど大事にしていた刀なのかしら……」

 用意周到な九兵衛の姿を見て、刀に思い入れがあると感じていたリズベットであったが

「いいや、それほどでもないんだ。つい先日にネットオークションで売っていたのを落札しただけだからな」

「そ、そうだったの……?」

その思いは簡単に打ち破れる。意外にもインターネットを利用して購入したようだ。この世界特有の刀事情に、彼女は心の中で疑問を叫び始めていく。

(ていうか、刀がインターネットオークションで売っているってどんな時代よ! 九兵衛さんはともかくとして、他の人が落札したら廃刀令の意味ないじゃん! もっと規制しなさいよ!)

 廃刀令を例に上げてリズベットは、ひたすらツッコミを入れていた。他にも疑問は浮かんでいたのだが、全てにツッコミを入れたら負けだと思っており、今はグッと堪えるしかない。

 

・第二十九訓より 源外のカラクリ説明

 

「へぇー凄いじゃないですか! さすが源外さんですよ!」

「久々に完成度の高いカラクリを見せてもらったアル!」

「まぁ、困った時には源外が一番頼りになるってことか。四次元ポケット並みに優れているじゃねぇかー」

「俺をドラえも〇扱いすんじゃねぇよ。軽口言っていたら、製作費をてめぇらに請求するぞ」

 某猫型ロボットまで話題に上げられて、彼は思うままにツッコミを入れてくる。万事屋の調子の良さは、何度会ってもまったく変わっていなかった。そんな浮き足気味の彼らを差し置いて、源外はキリトら三人の元へ近づいていき、ある会話を交わしていく。

 銀時からの問いに源外は自信良く答えると、同時に手に持っていた一台のカラクリを一行へ見せびらかす。その正体は――何の変哲もない黄色の工事用ヘルメットであった。

「カラクリっていうか、ただのヘルメットじゃないのか?」

「これで夢世界への転移が可能アルか?」

 不思議そうにキリトや神楽は疑問を呟く。仲間達も物珍しそうにヘルメットを見回す中、源外は自信良くカラクリの説明を話し始める。

「ああ、もちろんだとも。久々に手の込んだカラクリだからな。瞬時に精神を相手の夢世界へと転移させる装置……題してドリームギアだ!」

「ド、ドリームギア!?」

 意気揚々と名前を発表したのだが、キリトら三人だけは驚きよりも既視感を覚え始めていた。心に引っかかっている理由は、かつて使用したことのあるフルダイブ装置、ナーヴギアが大きく関係している。

「なんだかナーヴギアと似ている名前ですね」

「そりゃそうだ。なんせ、お前さん達の世界にあったカラクリを元に作ったんだからな」

「えっ!? じゃ、源外さんはナーヴギアを知っているの?」

「この前教えてもらったんだよ。エギルと話す機会があってな」

「い、いつの間に……」

 何気なく源外から明かされたのは、疑問に思っていたナーヴギアとの関連性だった。密かにエギルから存在を知らされたようで、そのアイデアを元にドリームギアを製作したようである。キリトらが違和感を覚えるのも仕方ないことであった。しかし彼らには、たった一つだけ気になっている部分がある。

「でもなんで、工事用のヘルメットなの? 確かナーヴギアって、バイクのヘルメットみたいに顔を覆うタイプだったけど……」

「ああ、そうか? アイツからはヘルメットを被って、仮想世界とやらに行っていたと聞いたぞ。ヘルメットと言えば、工事現場用に決まっているだろ?」

「源外さん。多分根本から間違っていると思う……」

 それは異なっている見た目であった。どうやら源外はヘルメットを間違った意味で解釈してしまい、ナーヴギアとはかけ離れた外観で、ドリームギアを製作したらしい。実物を見たことない為仕方ないことではあるが、キリトら三人はどこか複雑な気持ちを心に宿している。勘違いで解釈されたことに、妙な違和感を覚えていた。この一連の流れは、ずっと見ていた銀時ら三人にも伝わっている。

 

・第二十九訓より 夢世界で起きた出来事

 

 彼は何気なく前を向いていると、ある不可思議な物体を発見していた。

「えっ? って、銀さん! もしかして、アレの事か?」

「アレ? 一体何の事だよ……」

 思わず動揺するキリトに釣られていき、銀時も前の方へ目線を向けていく。すると、そこで見たものは――

「ん? 自販機?」

話題に上げたばかりの自動販売機がひっそりと佇んでいた。販売品もほぼ高額な歩狩汗しか置いておらず、銀時の記憶通りに再現されている。もちろんそれを知った彼は、大いに衝撃を受けてしまった。

「って、さっき話した内容と同じじゃねぇか!! なんで夢世界にも歩狩汗が売っているんだよ!! おかしいだろうがぁぁ!!」

「夢世界故に何でもありと言う事なのか……恐ろしいな」

「おい、キリト! お前は考えすぎだ! すぐに考察するんじゃねぇよ!」

 ツッコミを入れる銀時とは対照的に、キリトは疑い深く推測を立て始めている。折角初めて見つかった手がかりなのだが、あまりにも唐突すぎたので素直に受け止められずにいた。      

 そんな二人に続いて、新八ら仲間達も自動販売機の存在に気付いていく。

「二人共! もう手がかりを見つけたんですか!」

「おー自販機がアルネ! ちょうど喉を潤したかったところアル!」

「って、お前らも食いつくんじゃねぇよ! 値段を見ろ、値段を! 夢世界なのに全然良心設計じゃ無いからな!!」

 テンションが高くなる神楽に対しては、真実を見るようにと銀時が忠告を促してくる。終始ツッコミに徹している彼の姿を見て、アスナやユイはふと疑問を頭へ浮かべていた。

「そういえば、銀さんのツッコミがいつもよりも激しいわね」

「私達の知らない間に、何かあったのでしょうか?」

「まぁ、あったけど……説明するのはややこしいかな」

 言葉を濁したキリトの返答を聞き、二人はつい首を傾げてしまう。

 

・第三十訓より 自分との戦い

 

 ところが夢世界のキリトだけは、自信を失って戦闘を放棄しており、もう一人の自分から慰められていた。二人の異様な光景は仲間内でも気が付いており、彼らの様子を図るために一旦集まってくる。

「キリト君! 大丈夫よね?」

「もちろん。そんなに戦っていないからね」

「随分と楽ちんだな。こっちは手ごわくて、そんな余裕なんかねぇよ」

 決闘の最中でも互いの無事を確認して、高い信頼度を見せる本物の万事屋三人。その一方で夢世界側の彼らはと言うと、

「何をやっているんだ、キリト! 弱音を吐かずにちゃんと戦えよ!」

「敵にお情けでもかけたら、承知しぇねぞ!! 分かってんのか!?」

「わ、分かっているけど……」

痺れを切らせた銀時とアスナが弱気なキリトに対して、こっぴどく一喝していた。まともに戦おうとしない姿に怒りを覚えており、厳しめに接している。

 

・第三十三訓より 本来の次回予告

 

次回予告

銀時が出会った男は、仮想世界の研究に没頭する一人の科学者だった。

キリトが出会った男は、行き場のない子供達に学びを与える一人の先生だった。

「君のような人間が、世界全体を変えるのかもな」

「何も無理することなく、信じた道を行けば良いのですよ」

夢幻解放篇七 二人の師

 

・第三十三訓より 銀時と茅場の邂逅

 

 難しい単語が立ち並び、到底自分には理解できない内容だが、レポートや雑誌の見出しから、ここの学者は量子学を研究しているようである。

「量子学? そんな学問あったか?」

 初めて聞く単語に銀時は、首を傾げて本音を声に出していた。その間自然と恐怖心は薄らいでいき、むしろ近くに人がいる事に安心感を覚えている。落ち着きを取り戻しつつある彼は、研究器具や材料だけではなくある変わったモノまで発見していた。

「ん? これは一体……」

それはフラスコ内に閉じ込められている光り輝く種である。灯りが少なくとも構わずに発光する姿は、例えようのない神秘性を醸し出していた。銀時自身も興味深く種に見とれていた、ちょうどその時である。

「そこで何をやっている?」

 背後から突如として男性の声が聞こえてきた。彼の手には拳銃が構えられており、銀時へ向けて容赦のない脅しをかけている。この一連の行動には、銀時も周りの鏡越しで気が付いており、両手を上げつつ冷静に応対していた。

「ようやく研究者の登場かよ。人様に銃口を向けるなんざ、随分と野暮じゃねぇか」

「ほぅ……背を向かせたままでも気が付くのだな。だが機密情報を知ったからには、帰すわけにはいかないな」

 依然として男性も拳銃を手にしたまま警戒心を解こうとはしない。お互いに落ち着きながらも、緊迫した状況が無情にも続いている。すると、ここでようやく銀時が意を決して動き始めた。

「そうかい。だったら――」

 相手の一瞬の隙を確信し、木刀を手早く握ったところで――

「はぁ!」

「何!?」

 振り返り様に男性へ向けて攻撃を加えていく。拳銃を手にしていた右手に狙いを定めており、反撃する余地を与えないまま奇襲を成功させた。一方で拳銃は男性の元を離れて空中を舞うと、そのまま銀時の手へと渡っている。

「これで帰らせてくれるんだろ? モデルガン所持の理系おじさんよ」

 さらにはモデルガンさえも見透かしており、彼は余裕の表情で男性からの策略を完封させた。正確な判断力や行動力を目の当たりにして、男性も薄い反応を示しながらも言葉を詰まらせている。

「この一瞬で偽物まで見抜くとは……貴様只者ではないな」

「まぁな。一応これでも元攘夷志士だからな。緊迫した状況には慣れてるんだよ」

 意気揚々と銀時は高い自己評価を打ち出す一方で、男性は彼からのある言葉に疑問を抱いていた。

「攘夷志士? なんだそれは? 聞いたことが無いぞ」

「はぁ? 何を言ってんだ? お前らの世界でも起って――まさか、また別の世界の住人か!? どんだけパラレルワールドを出せば気が済むんだよ! ウチの投稿者はよ!」

 まるで初めて聞いたかのような反応に、銀時は即座に学者風の男性も別世界の住人であると察している。分かるや否や彼は複雑性を感じて不満を口にしているが、対照的に男性は銀時が別世界の住人だと知り大きな興味を沸かしていた。

「パラレルワールドだと? まさか貴様は、この世界線とは違う世界線からやって来たのか……? 詳しく私に教えてくれないか!?」

「えっ? ああ、そうだな。めんどいけど」

 態度を変えて食い気味に銀時へ話し合いを迫ってくる。その強い探求心には彼も心を引かせているが、逃げるタイミングも失った為仕方なく応じていく。

 こうして研究室にて二人の話し合いが行われるが、銀時はまだ気付いてはいない。白衣の男性の正体が、かつてSAO及び仮想世界を作り出した立役者である茅場昌彦である事に……

 

・第四十三訓より アスナの料理評価

 

「それじゃ、結果を知りたいんだけど……一体どの料理が一番良かったかしら?」

 勝負が一段落したところで、アスナは次第に心を落ち着いていき、改めて料理の評価を土方ら三人に求めていた。今日作った料理の品々から、将軍様のぴったりの一品を決める本題へと移っている。

 味見を終えた面々は、自身が気に入った料理を口々に声へ上げていく。

「俺は断然和食の煮物だな! 健康志向で、将軍様にもぴったりだと思うぞ!」

「いやいや、洋食のバーグがぴったりですよ。野菜も入っていますし、食べ応えはそれなりにありますよ」

「俺は中華だな。これまでの料理の中では、マヨネーズがぴったりと合っていた。それが理由だよ」

「……見事に分かれたわね」

 偶然にも三人の意見は真っ二つに割れている。近藤は和食、沖田は洋食、土方は中華をそれぞれの評価として上げていた。この結果には、アスナも返す言葉に困ってしまう。

 すると間を置かずに、真選組の間ではより激しい主張が繰り出されていく。

「って、どうなっているんですかい? 土方さんは、あのマヨ天ぷら一択じゃないんですかい? 何で急に、中華に変えたんでい?」

「はぁ!? 俺は元々、あの天ぷらは気に入ってねぇんだよ! マヨネーズに合わない料理は、意地でも認めねぇからな!」

「まぁ、落ち着け二人共。ここは間を取って、俺の薦めた和食で……」

「「それは無しだ」」

「なんでそこだけ、気が合うんだよ!?」

 意見がぶつかり合っていき、依然として三人の話は噛み合わずにいる。次第に険悪な雰囲気が漂っていき、今にも口論が激しくなろうとしていた。そんな状況の中で、アスナはただ場の空気を呼んで、ただ黙っているしかない。

(結局、全然決まらないわね。これからどうしようかしら……)

 心の中ではそっと本音を呟いている。口論に割って入るべきか、まだ状況を鑑みるべきか。

慎重に悩みを積み重ねていた。

 本題が一斉進まずにいた――その時である。予想外の人物が屯所を訪れており、この調理場へと足を踏み入れてきた。

「ならば、申し付けた余が吟味しようではないか」

「えっ?」

 聞こえてきたのは、しっかりとした男性の一言である。アスナは反射気味に振り返っていたが、真選組の面々は聞き覚えがあり、表情を変えてから顔を向かせていた。入り口の前に堂々と佇んでいたのは――豪勢な法被に身を包んだ丁髷姿の男性である。

「だ、誰!? この人!?」

 

没理由・最後に将軍様を出したかったものの、オチが上手くまとめられなかったから。

 

・第四十七訓より フレンドラリーの紹介

 

 時期は八月も終盤へと差し掛かっていた頃。連日続いていた暑さも一段落して、子供達の過ごす夏休みも終わりを迎えようとしている。みなが秋に向けて準備を始める一方、かぶき町では渾身の新企画が着々と進められていた。

「「「「かぶき町フレンドラリー?」」」」

「ですか?」

「そうなのよー。町内会で決まったイベントで、是非銀さん達にも参加してほしいのよ」

 もちろん銀時らにも、その情報は伝えられている。万事屋へ遊びに来ていた妙から、宣伝も兼ねた内容が発表されていた。穏やかな表情で、一行に企画の参加を促している。

「へぇー、姐御が企画したイベントアルカ」

「結構楽しそうな響きだな。一体何をするイベントなんだ?」

 興味本位でキリトが聞いてみると、彼女は概要を簡潔に伝えていく。

「まぁ、簡単に言うとスタンプラリーよ。かぶき町内にある指定の場所まで行って、とあるミニゲームをクリアすることで一つもらえるの。それが三つ集まったら、景品と交換できるのよ」

「家族向けのイベントってことですか。結構楽しそうですね!」

「自由参加みたいだし、私達も参加していいんじゃないかしら?」

「そうですね。銀さん、万事屋としてこのイベントに出てみましょうよ!」

 詳しく話を聞いていると、一行も次々に興味を持ち始めていた。家族向けと言う事もあり、特にユイの心には深く刺さっている。この流れからすんなり決まると思われていたが……銀時だけは気だるい表情でイベントに乗り気ではなかった。

「えっ、マジで行くのかよ? どうせ新型ウイルスのせいで中止になるんだから、行くだけ損だって。今の内から止めとけよ」

「いや、なりませんよ! ていうかアンタ、時事ネタを挟みたいだけでしょうが! 季節感が違って、無理矢理すぎますよ!!」

「別にいいだろ。ネタとか関係なく人混みは嫌だから、俺はパスしてもいいよな」

「むしろ開き直るんですか、そこ!?」

 だらだらと持論や小ネタを挟みつつ、彼だけは否定的な態度を続けている。新八にツッコミを入れられようが、無関心な素振りは変わっていない。イベント自体を面倒くさく思っていた銀時だが――

「アラ、残念だわ。折角景品に結野アナのサイン色紙も加えたのに、銀さんったら参加しないの?」

「……ん!?」

妙のさり気ない一言をきっかけにして、気持ちに変化が訪れている。大ファンでもある結野アナのサインが景品ならば、話は別のようであった。徐々にやる気も上がっていき、真剣な顔色へと変わっている。

「よし、お前等! さっさとスタンプ集めて、豪華賞品をかっさらうぞ!!」

「いや、変わりすぎだろ!! どんだけ結野アナのサインが欲しいんだよ!! さっきと言っていること真逆すぎだろ!!」

 その結果、キリトらに向かって自らが士気を取る始末であった。あまりにも分かりやすい心変わりに、新八のツッコミも激しく決まっている。当然仲間内でも、彼の単純さに皮肉が飛び交っていた。

「やっぱり銀ちゃんは単純アルナ」

「良い意味で銀さんらしいよな」

「もうすっかり見慣れちゃったわよ」

 呆れを通り越して、もはや慣れすらも感じてしまう。キリトやアスナも苦笑いで、神楽らと気持ちを同調していた。

 ともあれ、万事屋一行も全会一致でイベントへの参加が決まったが――ここで妙から、とある条件が言い渡されてしまう。

「あっ、そうだ! 大事なことを言い忘れていたわ! このフレンドラリー、参加上限が五人までなのよ! だから六人としては、参加できないのよ」

「えっ、そうなんですか!?」

※商品の内容は本編にて変わりました。

 

・第四十九訓より 万事屋チームの一幕

 

「ちなみに銀時さんは、家賃の件で日ごろからお登勢さんと揉めているんですよ。何ヵ月も滞納して、こっぴどく怒られたりして!」

「へぇー……そこまで銀さんって、だらしなかったのね」

「そうですね!」

「って、ユイ!? お前なんか言いやがったな!? 誤解を招くことは止めろって!!」

 赤っ恥な内部事情を暴露されており、それを悟った銀時が激しいツッコミを繰り出していく。自身の弁解の為に彼は躍起となっていた。

 悪意はなくとも満面の笑みで話すユイの無邪気さと、内情を知ったシノンの哀れんだ目線が印象的に残っている。お登勢に続き、ユイらにも惑わされる銀時であった……

 とそんな一悶着はさておき、土方は身内話よりも試練の概要に興味を寄せている。

「もう家賃云々はいいから、さっさと試練について教えてくれねぇか?」

 彼はもう一人の主題者であるエギルに話しかけていく。

 

・第五十五訓より リズベットの目覚め

 

「ス~ヤ~」

 穏やかな朝を迎えた吉原は日輪の実家。その寝室ではリズベットが一人、寝言を立てて心地よく寝込んでいる。寝間着姿のまま、布団を抱き枕のようにして寝転がっていた。今日の彼女は手伝いが入っていない休日であり、普段よりも心が緩み切っている。

 そんなリズベットの元に、とうとう月詠が起こしにやって来ていた。

「入るぞ、リズ。いつまで寝ておるんじゃ? いい加減起きなんし!」

「うむぉ~後五分だけ~」

「またか……なんでこうも休みの日には、寝相が悪いんじゃ?」

 積極的に呼びかけたが、リズベットの反応は微々たるものである。気の抜いた声を上げながら、夢の中から離れようとしない。これには月詠も頭を抱えてしまった。

 幾ら呼んでも目が覚めない為に、彼女は偶然にも訪れていた知り合いに任せてみる。

「仕方がない。ここはたまさん、主に任せてもいいか?」

「了解しました。この箒で起こして見せます」

 ちょうど側に立っていたのは、カラクリ家政婦のたまだった。箒を両手で持ち、先端部分をリズベットに向けて差し出している。そして、

「発射です」

そう一言だけ告げると寝室に簡易的な空気砲を発射させていく。辺りでは〈バーン!〉と言った轟音が響き渡り、疑似的な爆発音を生み出していた。

「って、な、何事!? 一体何が起きたの!?」

 これにはリズベットも仰天しており、一瞬にして目を覚まし起き上がっている。あたかも爆発だと信じ込んで、思わず辺りを見渡していた。しかしそこにいるのは、呆れた表情の月詠と無表情にこちらを見つけるたまだけである。

「えっ、月姉? と、たまさん?」

「おはようございます、リズベット様。夢からの帰還、ご苦労様でした」

「……はい? さっきの爆発は?」

「あれ全部嘘じゃぞ」

 未だに彼女は全体の把握を理解していない。折角の休日を迎えたのだが、その始まりは実に刺激的であった。

「正確には嘘ではありませんが」

「結局どういうことよ!?」

 

・第五十八訓より 冒頭の入り

 

 イメージチェンジ、通称イメチェン。自分の印象をガラッと変えることを意味する。

 リズベットのようにアバターの髪色を変更したり、山崎退のようにモヒカンヘアーを辞めたりと、両作品にも外見からイメチェンしたキャラは多々いる。

 今回の話の主役は、万事屋に所属するキリト、アスナ、ユイの三人。タイトル通りに自身の印象を変えるようだが……

 

「それじゃ銀さん。俺達は出かけてくるよ」

「おうよ。夕方頃には戻って来いよ。さっさと替えを洗いてぇから」

「そんなに急かさないでよ。ちょっと散歩するだけだから」

「とりあえず、行ってきますね」

 そう会話を交わすと、キリト、アスナ、ユイの三人は万事屋を後にした。時刻が正午を迎えた九月の日のこと。三人は珍しくも揃って散歩に出かけている。

 懐かしい組み合わせだが、一つだけいつもと違う部分があった。

「本当にあの格好で行ったよ、アイツら」

「キリトさんが銀さんの着物を着ると、少し違和感があるような……」

「それを言うなら、アッスーもアルよ! あんな格好、絶対童貞を殺しにかかっているネ」

「だろうな。それはそうと、なんでユイは新八の幼少期の服にしたんだよ」

「僕に言われても困りますよ。雰囲気と数合わせじゃないですか?」

 出かけた途端に銀時らは、次々と思ったことを声に出していく。今日のキリトらは気分を一新して、銀時達の普段着に着替えたようである。以前にもあやめとリーファが衣装交換したこともあり、それに感化されたアスナが今回の件を提案したようだ。

 改めて三人の風貌を振り返ると、色々と思うことが浮かび上がってくる。だがそれでも、本人達が楽しんでいるなら十分であった。

 

・第六十三訓より 観覧車の会話

 

銀時「ったく、ようやく気付きやがったか。まぁ、見直してくれるなら何よりだよ」

シリカ「いや、やっぱり前言撤回で」

シノン「キリトと違ってすぐ調子に乗るんだから」

シリカ「そういうところが、銀時さんの悪いところですよね」

銀時「いや、手のひら返しすぎだろ! どんだけくるくる変えるんだよ!? つーかキリトも、結構調子に乗る時あるぞ! そこに気が付け、バカヤロー!!」

 

・第六十四訓より 飲み会の会話

 

※初期案では桂小太郎も参加しています。

 時は八月の下旬頃。剣魂の時系列では、フレンドラリーが終わって数日が経った頃である。夜を迎えたスナックお登勢には、銀時、長谷川、桂、クライン、エリザベスの男五人が集まって、仲良く飲み会を始めていた。皆カウンター席に座り、ビールを片手に飲みながら、早くも酔いの気分へ浸っていく。

「いやー久々だな、みんな! フレンドラリー以来か?」

「そうだな! あの時は、俺もはっちゃけいたからな! クライン殿やエリザベスと共に、配管工に化けたものだ」

 長谷川の問いに、桂が自信満々に返答している。フレンドラリーを含めた昨今の出来事について、思うままに語っていた。

 するとすかさず、銀時が話に横やりを入れてくる。

「よくもまぁ、真選組に見つからなかったな! テメェらの悪運には、つくづく呆れるぜ」

「何ってんだよ、銀さん! その悪運が、俺達攘夷浪士の売りなんだよ!」

 皮肉っぽく言ってきた彼に、今度はクラインが口出ししてきた。

[クラインも言うようになってきたな]

「なにせ今の俺は、立派な攘夷志士だからな!」

「よくぞ、言ったクライン殿!」

「「ハハハ!!」」」

[笑いが止まらん!]

 自らの悪運を高らかに自覚した上で、侍三人は愉快にも笑い声を上げる。クライン自身も攘夷浪士の誇りを掲げて、自信良く振る舞っていた。良くも悪くも、桂やエリザベスの影響を大いに受けている。

 相変わらずのマイペースさに、銀時はまたも本音を発していく。

「ったく、コイツの将来が心配だな」

「そう言うなよ、銀さん! クラインが楽しいなら何よりじゃないか」

 調子よく長谷川がフォローを入れると、カウンター側にいたお登勢やエギルも口を開いてきた。

「そうだねぇ。こんな清々しいバカの方が、生き方に困らないだろうねぇ」

「まぁ、一直線なのが売りだからな。アイツは」

「一直線ね……」

 共にクラインの真っすぐな生き方に共感している。昔からの知り合いであるエギルはともかく、付き合いの浅いお登勢も彼には一目置いているようだ。

クラインの性格が度々話題に挙がる中で、彼にはある不安を抱えている。

「あぁー。でも心配事ならあるぜ。一回でも良いから、彼女ってモンが欲しいよなぁー」

「彼女? お前元の世界で作ってねぇのかよ?」

「そりゃ経験はあるが、上手くいった試しは無いんだよ! 付き合っては別れの繰り返し……女心は難しいぜ」

 

剣魂 第四章登場キャラクター

 

・万事屋

坂田銀時(第四十~五十一・五十四・五十六~六十四訓)

キリト(第四十・四十二~五十二・五十四・五十六~六十四訓)

志村新八(第四十二~四十八・五十・五十一・五十六~六十四訓)

アスナ(第四十二~四十八・五十・五十一・五十六~六十四訓)

神楽(第四十二~五十一・五十六~六十四訓)

ユイ(第四十二~五十ニ・五十六~六十四訓)

定春(第五十九・六十訓)

 

・真選組

近藤勲(第四十三・四十七・四十八・五十・五十一・五十六・五十九訓)

土方十四郎(第四十三・四十七~五十一・五十四・五十六・六十一~六十四訓)

沖田総悟(第四十三・四十七~五十二・六十一~六十三訓)

山崎退(第六十四訓)

 

・攘夷党

桂小太郎(第四十二・五十一・五十四・六十四訓)

クライン(第四十二・五十一・五十四・六十四訓)

エリザベス(第四十二・五十一・五十四・六十四訓)

 

・スナックお登勢

お登勢(第四十九・五十八・六十四訓)

キャサリン(第五十・六十・六十四訓)

たま(第四十二・五十・五十三・五十五・六十四訓)

エギル(第四十二・四十九・五十三・六十・六十四訓)

 

・超パフューム

志村妙(第四十二・五十一・五十六訓)

シリカ(第四十~四十二・四十七~五十一・五十五・五十八~六十三訓)

ピナ(第四十・四十二・五十五・六十訓)

柳生九兵衛(第四十二・五十・五十七・六十四訓)

リズベット(第四十~四十二・四十七・四十八・五十・五十一・五十五・五十七・五十八~六十・六十四訓)

猿飛あやめ(第四十二・五十・五十六訓)

リーファ(第四十~四十二・四十七~五十一・五十五・五十六・五十八~六十・六十四訓)

月詠(第四十一・四十二・五十・五十五・六十訓)

シノン(第四十~四十二・四十七~五十一・五十五・五十八~六十三訓)

 

・ダンボール

長谷川泰三(第四十二・四十九・六十四訓)

 

・超パフューム関係者

日輪(第四十二・五十・五十五・五十八訓)

晴太(第四十・四十二・四十六訓)

村田鉄子(第四十八・五十七・六十四訓)

東城歩(第五十訓)

 

・サブキャラクター

いずみ(第四十・四十六訓)

いずみ兄(第四十訓)

よっちゃん(第四十一・四十二訓)

けんちゃん(第四十一・四十二訓)

平賀源外(第四十四訓)

白水〇×子(第四十四・四十五訓)

兄ヶ崎百々(第四十四・四十五訓)

桐ケ谷翠〈愛チョリスの妄想内〉(第四十五訓)

ハタ皇子(第四十六・五十三訓)

じい(第四十六・五十三訓)

アゴ美(第四十七訓)

西郷特盛(第四十九訓)

小銭形平次(第五十一訓)

ハジ(第五十一訓)

武蔵っぽい人(第五十一訓)

脇薫(第五十七訓)

屁怒絽(第五十七訓)

チビ屁怒絽(第五十七訓)

屁怒絽次郎(第五十七訓)

屁怒絽三郎(第五十七訓)

屁怒絽四郎(第五十七訓)

屁怒絽五郎(第五十七訓)

寺門通(第五十八訓)

 

・ゲストキャラクター

ちはる(第四十一・四十二訓)

一派の天人達(第五十二訓)

マッサージ店長(第五十四訓)

吉原の親子(第五十五訓)

トンキー(回想)(第五十六訓)

ソリート(第六十・六十三訓)

宇宙猫達(第六十一~六十三訓)

動物ハンター達(第六十一~六十三訓)

 

サプライズゲスト

高杉晋助(第五十二訓)

木島また子(第五十二・五十三訓)

河上万斉(第五十二・五十三訓)

武市変平太(第五十二訓)

神威(第五十三訓)

阿伏兎(第五十三訓)

坂本辰馬(第五十三訓)

陸奥(第五十三訓)

徳川茂々(第五十四訓)

佐々木異三郎(第五十八・五十九訓)

今井信女(第五十八・五十九訓)

星海坊主(第五十八・五十九訓)

坂田金時(第六十四訓)

 

そして物語は、妖精の国に移り変わる!




 ここまで見て頂きありがとうございました。小説を製作する中でどうしても使われないシーンやカットした場面は多くあるので、今後もこのような形で溜め込んでいた失敗話が出来ると有難いです。
 そして今度こそ! 次回から長篇が始まります!


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新春特別篇 ぐうたらな人間ほどこたつからは抜け出したくない

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

 今回も銀魂でお馴染みのBGオンリーのようなおまけ及び緩い感覚でお楽しみください。文体も例の如く、台本のような形式です。



新八「って、銀さん。今年もやるんですか、この企画?」

銀時「そうだよ、新八。折角キリトやアスナも来てるんだし、やっておいて損は無いだろ」

ユイ「私も忘れないでくださいよ!」

神楽「分かっているアルよ、ユイ。心配しなくていいネ」

 昨年と同様に万事屋の外観をバックに、今回も始まった特別篇。いつもの万事屋メンバーが集まり、今回は何を行うのだろうか?

キリト「またこのパターンか」

アスナ「ってことは、今回も昔の思い出を振り返るのかしら?」

銀時「まぁ、それも良いんだが。今回はちと別の企画を用意しているぜ」

新八「別企画? なんだか嫌な予感が……」

 そう不穏な気配を新八が察していると、銀時は意気揚々に声を上げてくる。

銀時「そう、名付けてだ! 両作品映画化記念! 今後の剣魂を考えようのコーナー!」

神楽「何アルか、この安っぽいバラエティみたいな企画は?」

ユイ「えっと、つまり何をするんですか?」

 聞き慣れない言葉の羅列に、一時は戸惑いを浮かべる仲間達。彼らの反応を尻目にして、銀時はブレることなく説明を続けていく。

銀時「おいおい、お前ら察しが悪いぞ。もうそろそろ剣魂も三周年を迎えようとしているのに、なんで浮かれてねぇんだよ」

新八「いや、まだ半年間あるんですけど。ていうか、アンタの浮かれ様が異様なんですよ!」

銀時「はいはい、戯言はさておいてだ。今回は銀魂とSAOの劇場公開を踏まえての特別企画だ。本家がいよいよ完結を迎えるってことで、俺達の作品もどう終わらせるか決めていこうじゃないか」

 新八を軽く宥めながら、銀時は今回の企画の本筋について話していた。どうやら両作品の劇場公開を記念して、今後の剣魂の方向性を考えようという。

神楽「SAOはまだ続くとして、銀魂はまた終わる終わる詐欺だと思うネ。どうせFINALやったって、数年後にはFOREVERでもう一回映画化するのがオチアル」

新八「どんだけ信用してないんだよ!! つーかそれ、平成仮面ライダーでもやっていましたよ!!」

 終わる終わる詐欺に慣れている神楽は、今回の謳い文句にも懐疑的に見ている。思わず新八からもツッコミを入れられていた。

 一方のキリトやアスナらは、メタ要素はさておきこの企画に興味を持ち始めている。

キリト「今後の予想か……確かに面白そうな企画だな」

アスナ「現状を踏まえ直して、新しく対策を立てていくってわけね」

 彼らの好意的な反応を見ると、銀時もすぐに調子へ乗ってきた。

銀時「おっ、そうだな。てなわけで、お前らもしっかりと協力しろよ」

新八「いや、三人共絶対意味を分かっていませんよね? このまま巻き込んじゃって、本当に良いんですか?」

神楽「細かいことは置いておくアルよ」

ユイ「それじゃ、始めちゃいましょうか!」

銀時「って、俺の台詞勝手に横取るなよな!」

 場面は難なくスムーズに進み、いよいよ万事屋だけの話し合いが幕を開く。

 

※ここからは万事屋外部又は万事屋のリビング内を背景にしてお楽しみください。

 

銀時「そんじゃ、まずは俺からだな。とりあえず言えることは……もうサイコギルドって必要ないんじゃね?」

新八「いや、いきなり何を言い出すんですか!? ただの思考放棄じゃないですか!!」

 初っ端から飛び出たのは、まさかの敵役放置である。あまりのぶっちゃけ様に、新八のツッコミも激しく決まっていた。それでもなお、銀時の方針は変わらない。

銀時「だって考えてみろよ、お前。俺達三年もやってるのに、まだ組織の全体図とか分かっていないんだぜ。俺の予測によれば、多分投稿者は投げ出しているに違いないな」

新八「勝手な推測立てないでくださいよ!! 勘違いする読者もきっと出ますから!」

 思わぬ憶測には増々彼のツッコミも激しくなっていく。一方のキリトらはメタ要素をさておき、サイコギルドの冷静な分析を交わしている。

キリト「でも確かに、長いこと暮らしていて一個も証拠が見つからないのは変だよな」

アスナ「未だに私達をこの世界に送った理由も分からないままよね……」

ユイ「一体何が目的なのでしょうか」

 彼らが銀魂の世界へ飛ばされるきっかけを作ったサイコギルドと言う存在。その目的や人員、何もかもが未だに解明されていない。辛うじて銀時らの協力で情報探索は続けているが、思うように上手くいっていないのが現状である。

 ついついただならぬ不安を覚える三人だが、神楽は元気づけるように威勢よく檄を返していく。

神楽「きっと大丈夫ネ。焦らずに探せば、きっと見つかるアルよ! ねぇ、銀ちゃん!」

銀時「まぁ、今回の長篇の冒頭にも出ていたし、投稿者も忘れてはいないはずだと思うがな」

新八「だったら最初っから話題にするなよ……」

 銀時らへ確認するものの、彼は自主回収のごとく話題を撤回している。粗末な畳み方には、新八も小声でツッコミを発していく。そう言った途端、銀時はある閃きが思い浮かんでいた。

銀時「あっ、分かったぞ! もしや本来はもっと手短に完結する予定だったが、色々と書きたい話が多くなって、相対的に奴らの出番が少なくなっているのか!?」

新八「それは……あの投稿者ならありそうですね」

神楽「遅延系投稿者アルからナ」

新八「そんな呼ばれ方でしたっけ?」

 またもメタ的な視点である。投稿者の都合から、色々と遅れが生じていると察していた。(実際に本当のことなのだが……)

 それはさておき、サイコギルドに関する情報不足は現状の課題でもある。

ユイ「やっぱり情報が不足していると思いますよ」」

キリト「これを打開させないとな……あっ、そうだ!」

 するとキリトには、この事態を回避する打開策がふと思いついていた。早速銀時らへ提案してみる。

キリト「なぁ、銀さん。今後の万事屋の方向性で、一つ提案があるんだが」

神楽「提案? キリの思い付きアルか?」

キリト「あぁ。折角の機会だし、今度万事屋もパソコンを購入してみたらどうだ?」

新八「パ、パソコン!?」

ユイ「おっ! それなら情報収集に良いですね!」

 それは新しい家電の購入提案だった。新八らにとっては考えたこともないパソコンを購入しようという。キリトらは情報収集に持って来いと思っていたが……

銀時「おいおい、ちょっと待て! 急に大金が絡むこと言うんじゃねぇよ! 大体本家ですら導入してないのに、これでやっても良いのかよ!?」

銀時は真っ向から否定してきた。何よりも大金が絡むことが目に見えており、ただならぬ拒絶反応を見せている。

 新八や神楽は特段気にもしていなかったが。

神楽「まぁ、所詮二次創作だし良いんじゃないアルか?」

銀時「良くねぇよ! こういうのは慎重に話し合わねぇと駄目だろ! 購入費とか維持費とかさ! 急に言われたって、こっちが困るんだよ!!」

新八「銀さん、必死すぎですよ。どんだけお金使いたくないんですか」

 あまりの温度差に、新八も若干気を引かせてしまう。

 さらに彼の反応を見るや否や、キリトも引き気味になってしまった。

キリト「やっぱりすぐの購入は難しいか……」

銀時「そうそう! 今は計画を立てるところから始めて……!」

 と無理にでも挫折させようとした時である。

アスナ「別に問題無いわよ」

キリト「えっ?」

銀時「はい!?」

アスナ「一応予備金はこれくらい用意しているし」

 急にアスナが何食わぬ態度で呟くと、所持していた大江戸三角UFO銀行の預金額を見せつけてきた。

新八「えっ!? こんなに!?」

ユイ「ママ、いつの間に……」

 なんとそこには、一行の目が驚くほどの金額が刻まれている。パソコンを購入するのも十分な金額だった。

 これには銀時もつい目を疑ってしまう。

銀時「……てか、なんでお前がこんな大金持ってんだよ。まさか水商売か?」

アスナ「んなわけないでしょ! 言わばへそくりよ。いざという時を考えて、依頼料からしっかりと徴収していたんだから!」

 そう預金額の実態は、アスナが独自に貯めていた貯金である。万事屋の財布の紐を握って以降、密かに別の通帳を作っており、そこで誰にも知られることなく予備の貯蓄をしていたようだ。

(どうやって作ったの? とか聞いてはならない。細かいことは気にするな、おまけなんだから)

 現に銀時も貯金額に動揺しており、肝心な部分は気にしてすらいない。

神楽「アッスーはやっぱり抜かりないアルナ……」

新八「流石です。銀さんとは偉い違いだ」

銀時「なんで俺と比べんだよ」

 計画性のある彼女の行動には、新八や神楽もつい感心している。以前の銀時と比べれば、よっぽど経営能力に長けていることが分かった。当の本人は微妙な気持ちに苛まれていたのだが。

 それはそうと、これで万事屋にもパソコンを購入する目途がようやく立っていた。

キリト「じゃ、思い切って来月にはパソコンを買うか」

ユイ「ですね! サイコギルドの情報を見つかるかもしれませんし!」

アスナ「万事屋のサイトも作って、依頼の数も増やしていきましょう!」

 特にキリトら三人が一番好意的に見ており、情報収集のみならずサイトの立ち上げにも好意的に見ている。

神楽「万事屋も段々と新しい方向に向かってるアルナ」

新八「そうですね。てか、銀さん。いつまで落ち込んでいるんですか?」

 新たな万事屋の改革には、新八や神楽も密かな期待を寄せていた。一方の銀時は、自身の影響力が低いことにえらく落ち込んでいる。

銀時「俺の影響力って、こんなに小さかったか?」

神楽「ただの世代交代ネ。落ち込むなヨ、天パ」

新八「神楽ちゃん。さり気なくとどめを刺さないで」

 色々と踏んだり蹴ったりな銀時だった。神楽からは世代交代と一蹴されてしまう。

 とそんな話題はさておき、彼は無理にでも次の話題へ移ろうとしている。

銀時「あぁ、とにかくだ! 次の話題行くぞ、次! 誰か良い案はあるか!?」

 すると次に声を上げたのは、神楽だった。

神楽「はいはーい! 次は私に任せるヨロシ!」

銀時「おぉー言ってやれ、神楽! やりたいことや改善点を難なく叫べ!」

 銀時に乗せられるまま、彼女は大声で自身の考えを発していく。

神楽「次の長篇でもっと強い奴らと戦いたいネ! 強力な敵役にオファーをかけたいアルよ!!」

ユイ「強い敵と神楽さんは戦いたいんですか?」

神楽「そうアル! 敵役がいた方が物語も盛り上がるからナ!」

 どうやら彼女の提案は、より強い敵と戦いたいそうだ。向上心のある返答だが、銀時にはいまいち肝心な部分が届いていない。

銀時「あぁ、なるほど。そういう考えか……うん」

新八「いや、なんで反応悪いんだよ! 絶対めんどくさいって思っているでしょ!」

 新八からも核心を突いたツッコミを入れられてしまう。一方のキリトらは、神楽の提案を真面目に受け止めていた。

アスナ「盛り上がりは置いとくとして、確かにこれまで私達が戦ってきた敵も強敵ばかりだったわよね」

キリト「そうだな……夢の世界ではショッカーって言う別世界の悪の組織と激闘を繰り広げたからな」

ユイ「あの方も中々に自分勝手でしたよね」

 三人が振り返ったのは、以前に戦った悪の組織ショッカーである。サイコギルドの刺客として立ちはだかった彼らの、醜悪な目的には未だに許せない部分も多かった。さらに連続するように、今回の長篇の敵役であるダークライダーにも普及していく。

新八「強敵と言うと、この前戦ったダークライダー達も該当しますよね」

神楽「そうネ! 本人じゃなかったにしろ、強いことに変わりは無かったアル! あまりの強さに吐きそうになったからナ!」

銀時「いや、現に吐いたじゃねぇかよ」

 神楽の例えには、つい銀時も本音で返していた。彼の言う通り、神楽はダークキバとの戦闘中に嘔吐した経緯がある。それにより、余計に相手の怒りを買ったのだが……。

 とそれはさておいて、一行はサイコギルドに関連する強敵達にちょっとした恐れを感じてしまう。

ユイ「でもサイコギルドを追う中で、またあのような強敵と戦うことになるのでしょうか?」

新八「それは……僕等にも分かりませんね」

アスナ「備えることに越したことは無いから、いつでも準備は整えていた方が良いわね」

キリト「そうだな。また苦戦することもあるかもしれないし……」

 前回や今回に引き続いて、今後もより強い敵が立ちはだかると内心思っている。ふと不安な気持ちを覚える仲間達に、銀時や神楽が元気づける一言をかけてきた。

銀時「まぁ、大丈夫だろ。俺達だったら」

神楽「そうアル! 着実に強くなってるからナ!」

 そう彼らの言う通り、万事屋も着実に強くなっている。別世界からの刺客やアイテムと対峙しても、同じように張り合えることが二人の根拠を物語っていた。

キリト「そう言われると、そうだな」

新八「絶対大丈夫ですよ! 僕達なら、これからも!」

 仲間達も次第に自信を取り戻して、そっと微笑みを浮かべていく。この互いを信じあう姿勢が、彼らにとっての強さなのかもしれない。

 温かな雰囲気となったところで、なおも万事屋の話し合いは続く。

銀時「よし、じゃ他にあるか案は?」

新八「はい! 是非とも次の日常回はお通ちゃんを登場させて……!」

銀時「保留だ。他には?」

アスナ「それじゃ、みんなで旅行する日とかどうかしら? 気分転換に!」

銀時「いや、パソコンも買うのにそんな余裕あるか? 次だ、次!」

ユイ「それでは、衣替えはどうでしょうか? そろそろ寒くなってきたので!」

神楽「おっ! これはちょうど良いネ!!」

 次々と案を言い合いながら、自然と時間は過ぎていった……。

 

 そして時刻が昼頃から夕方となった頃。ようやく話し合いは終わりへと近づいていた。

銀時「よぉし。大体案がまとまったな」

 銀時は密かに出された案を紙にまとめ直している。パソコン購入、衣替え、お通との共演、強敵との遭遇、出来れば旅行など、数多の案が出されていた。

キリト「まずはネット環境から整えないとな」

神楽「新しい万事屋が始まりそうネ!」

新八「結構思い切った改革案でしたけどね」

 何よりもキリトはパソコン購入に意欲を示しており、早くも期待を膨らませている。万事屋の宣伝も踏まえて、サイコギルドの情報提供にも希望を見出していた。

ユイ「このままサイコギルドも見つかると良いですよね!」

アスナ「大丈夫よ。今の私達なら!」

 ユイやアスナも自信良く振舞い、こちらも期待を寄せている。

 長いこと続いた話し合いが終わり、一行はまとめへと移っていく。

銀時「そんじゃ最後に、読者に挨拶して明るく終わるぞ」

 と銀時が最後の挨拶で事を閉めようとした時である。

配達員「お届け物ですー!」

銀時「ん? なんだ?」

キリト「荷物か?」

 急に万事屋には荷物が届けられていた。気になったユイは、真っ先に玄関で届けられたものを確認している。

ユイ「何か手紙が届いていましたよ」

新八「手紙? 誰からだ?」

ユイ「えっと、トライアルって言う方からです」

銀時「って、投稿者じゃねぇか!」

神楽「なんでアイツから手紙が届くアルか!?」

 なんと手紙の主は、この小説の投稿者であった。銀時側は大いに驚いているが、キリト側は何が驚きなのかさっぱり分かっていない。

アスナ「つまり誰からなの?」

銀時「お前らに分かりやすく言うなら……そう! プレゼンターからだ!」

新八「いや、かっこよく言い換えてもまったく伝ってないと思いますよ!!」

 そう例えられても、彼らには到底理解は得られないだろうと銀時は括っていた。

銀時「とりあえず、キリト。お前が代わりに読んでくれや」

キリト「えっ!? なんで俺なんだ?」

銀時「なんとなくだよ。キャラも忘れて良いからな」

キリト「キャラとか気にしてないんだが……まぁ、いっか」

 そして彼は代読役として、近くにいたキリトを指名している。当の本人は言われるままに、手紙の代読を始めていた。

 

 

 

「……この小説を読んでくれている読者の方へ。改めてここまで読んでいただきありがとうございます。僕が六年前から感じている情熱が、皆さまに伝っているならありがたい限りです。僕はこの二次小説を通じて、もっと皆さんに両作品を好きになってほしい想いから書き続けています。この作品をきっかけにして、是非他方の作品にも興味を持ってほしいです。ただキャラ描写に重きを置いているせいで、製作に遅延が生じたり、展開が雑になった時もありましたが、今後はそれを極力減らしつつ執筆を頑張ります。最後になりますが、ここまで続けられたのも皆さんの応援のおかげです。その想いは十分に僕にも伝わっています。今は長篇の佳境に入っていますが、次回の長篇ではさらに皆さんが驚くようなサプライズもご用意しています。期待してお待ちください。そして銀魂もSAOも原作が終わろうと……永久に不潔です! トライアルより」

 

 

 

 その手紙は思ったよりも長く、万事屋よりは読者に向けてメッセ―ジである。

銀時や新八らは即座にそれを察していく。

神楽「随分と長い手紙だったアルナ」

銀時「投稿者がどうしても読者に伝えたかったんだろうな」

新八「えっと、良かったんですけど……SAOも不潔って言ってよかったんでしょうか?」

銀時「そこは気にするな」

 細かいことを気にする新八に、銀時はさらっと受け流している。一方のキリトらは意味を理解しなくても、少なからず気持ちは伝わっていた。

アスナ「なんだか分からないけど、この手紙からは温かい気持ちが伝わるわね」

ユイ「なんだか私達も励まされてる気分ですよ!」

キリト「ところでこの手紙は誰からなんだ? トライアルって?」

銀時「まぁ、後に分かるさ。そんなに気にする相手でもねぇよ」

 確信のある質問を聞かれても、銀時はちょっぴり濁しながら伝えている。こうして手紙も読み終わり、ようやく閉幕すると思いきや……手紙にはさらに続きが書かれていた。

キリト「あっ、銀さん。さらに書かれているよ」

銀時「何? どれどれ、見してみろ」

 仲間達が再び手紙に注目すると、そこに書かれていたのは謎の暗号である。

「PS。次回の長篇より、あのキャラ達が登場します! 謎解き風に伝えるので、お時間があれば解いてみてください!

 

37・3・7  

12・3・24・―

12(“)・37(S)・48 

16・43・9・48

19・18(S)・17

25・42

参戦!!

 

アスナ「こ、これは暗号……?」

神楽「今流行っている謎解きアルか?」

ユイ「これは、どういう意味でしょうか?」

キリト「ぱっと見ても、全然分からないな……」

 意味のない数字の羅列に、つい困惑を示しているキリトやユイら。より頭を悩ませている間に、銀時はとある共通点に気が付いてしまう。

銀時「おい、待てよ。これって……」

新八「銀さん? もう分かったんですか!?」

アスナ「えっ、早くない?」

銀時「いや、俺だって合っているか分からねぇよ! そもそも絶対今のお前等には、伝えられねぇ情報だぞ!!」

キリト「そ、そんなにか!?」

ユイ「むしろ気になります……」

神楽「銀ちゃん! 教えるネ!!」

銀時「駄目だ! 駄目だ! このことは一旦忘れろ!! 後の感動が薄れるから!!」

 と仲間達から質問攻めされても、彼は頑なにそれを拒否してしまう。自分の解いた答えが衝撃的だったのか、あまり伝えたがらない様子だが……。

 何はともあれ、これで話し合いはようやく閉幕した。今後も万事屋の活躍に期待である。




あとがき
 と言うわけで、改めて今年もよろしくお願いしまいます! トライアルです! 今回は万事屋の今後を兼ねた雑談会を設けてみました。いかがだったでしょうか? ほぼ思い付きで書いたので、何の起伏も無いかもしれませんが、そこはご了承下さい。
 特に大きな動きと言えばパソコン購入でしょう。よくよく考えると、キリアスユイがパソコン及びインターネット環境が無いのは、中々苦痛だと思い今回思い切って提案してみました。この二次小説の万事屋は無駄遣いも減って予算にも余裕がある設定なので、この提案もアリなのではないかと思います。今後のストーリーにも万事屋用のパソコンが絡んでくるかもしれません! 他にも今回出た提案は、後の日常回として出す可能性もあります。
 そして最後の暗号ですが、皆さんは意味が分かったでしょうか? 次の長篇ではとあるキャラが登場するので、そこにも注目してお待ちください。ちなみに没ネタのオチは、銀時がタイキックの如くライダーキックを受ける展開でした。あまりにも可哀そうと感じてしまい、暗号オチに展開しましたが。多分年末番組の影響でしょうね。
 それでは次回はツイッターにも乗せた通り、もしものポケモン手持ち予想と次元遺跡篇の続きになります。連続して投稿出来るように頑張ります!!

 さらにですが、銀魂THEFINAL! 公開おめでとうございます!! 僕は予定が重なって、来週辺りに行く予定です! めちゃくちゃ楽しみ!!

 最後は語彙力が破壊しましたが、何はともあれ今年もよろしくお願いします!!


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特別企画:もしもあのキャラがポケモンを手持ちに加えていたら?

前々からやって見たかった企画です! こちらもおまけ感覚でご覧ください!


ルール
手持ちの数は6体
色違いでの選択は不可。伝説・幻は二匹のまで可能。(極力一匹)
メガシンカ・Z技・ダイマックス個体も可能。
主要キャラは必ずメガシンカ持ち・基本は最終進化。一部は進化前
完全に作者主観で選んでいます。そこを了承して、ご覧ください。



坂田銀時 肩書き:万事屋銀ちゃんの

 

手持ちポケモン

アブソル〈メガ〉 白夜叉のイメージから

ジャラランガ〈Z〉 格闘戦・防御に強いが、オカルト系〈ゴーストやフェアリー〉に弱いから

マホイップ〈DM〉 甘党枠

モジャンボ 天パのイメージから

バイバニラ 甘党枠2

ルギア ソウルシルバー繋がり

 

キリト 肩書き:ゲームプレイヤーの

 

手持ちポケモン

エルレイド〈メガ〉 剣を使うイメージから

ブラッキー 黒のイメージから

ポリゴン2 プログラミング繋がり

グライオン ALOでの飛び方から

キリキザン 名前が似てる・剣使い

ゼクロム 黒き英雄繋がり

 

志村新八 肩書き:万事屋の

 

手持ちポケモン

ヤドラン〈メガ〉 のんびりな性格から

ウソッキー 中の人繋がり・手の木々でツッコミしそう

ヨルノズク 眼鏡繋がり

マッスグマ〈原種〉 ストレートなツッコミから

ダイケンキ イメージカラー+刀使い

ワンパチ 名前が似てる

 

アスナ 肩書き:血盟騎士団副長の

 

手持ちポケモン

サーナイト〈メガ〉 ステイシアと似ている

アシレーヌ〈Z〉 ALOのイメージから

シャワーズ 同じく・ヒーラー

ミロカロス 耐久・攻撃共に強いから

トリミアン 中の人の所持ポケモン繋がり・ペットとして飼っていそう

レシラム ステイシアの時持ってそう

 

神楽 肩書き:万事屋の

 

手持ちポケモン

バシャーモ〈メガ〉 イメージカラーから

ウインディ 定春と似ているから

カポエラー 格闘繋がり

コジョンド 格闘及び武術繋がり

フーパ〈いましめられた姿〉 中の人繋がり・無邪気さも似ている

ウーラオス〈いちげきのかた〉 神楽の戦い方から

 

ユイ 肩書き:ピクシーの

 

手持ちポケモン

タブンネ〈メガ〉 見た目のイメージから

ピクシー 名前繋がり

トゲキッス 同じくイメージカラーから

クレッフィ 仲間を補佐する役割繋がり

キュワワー 同じく・小柄ながら強い

エムリット 感情を持つ繋がり

 

桂小太郎 肩書き:攘夷党党首の

 

手持ちポケモン

ピジョット〈メガ〉 ロン毛繋がり

オーロンゲ〈DM〉 同じく

マルマイン 爆発繋がり

フワライド 逃げの小太郎が使いそう

グソクムシャ 同じく

コバルオン イメージカラーから

 

クライン 肩書き:風林火山の

 

手持ちポケモン

バクーダ〈メガ〉 風林火山繋がり

マルヤクデ〈DM〉 似合いそう

バクフーン 同じく

カモネギ〈原種〉 侍繋がり

ファイアロー 持っていたら様になりそう

エンティ 風林火山繋がり

 

エリザベス 肩書き:謎の生物の

 

手持ちポケモン

オニゴーリ〈メガ〉 イメージカラー繋がり

コダック 嘴繋がり

エンペルト 同じく

キテルグマ なんか似てる

コオリッポ 珍獣繋がり

ゲノセクト 砲台繋がり

 

近藤勲 肩書き:真選組の

 

手持ちポケモン

ギャラドス〈メガ〉 中の人の所持ポケモン繋がり・近藤さんなら手なずけられそう

ゴリランダー〈DM〉 言わずもがな

ニドキング 力強さ繋がり

ヒヒダルマ〈原種〉 パワーファイター繋がり

ネギガナイト ネギを体に刺したことから

サンダー〈ガラル〉 力強さ繋がり

 

土方十四郎 肩書き:真選組の

 

手持ちポケモン

ジュカイン〈メガ〉 イメージ的に。昔の方が似合っているかも

アーマーガア〈DM〉 重量的にも様になってる

ロズレイド バラガキ繋がり

レントラー 警察犬として従えてそう

ルガルガン〈まよなかのすがた〉 夜の方が似合うから

ファイアー〈ガラル〉 鬼の副長繋がり・怒らせると怖い

 

沖田総悟 肩書き:真選組の

 

手持ちポケモン

メタグロス〈メガ〉 中の人の持っていたポケモン繋がり・計算高さから

ドラピオン タイプ的にイメージ通り

シュバルゴ カブト虫使いから

ジャローダ ドSっぽいイメージから

ブロスター バズーカ繋がり

フリーザー〈ガラル〉 目下した態度が似ている

 

山崎退 肩書き:真選組の

 

手持ちポケモン

ヤミラミ〈メガ〉 偵察用として持っていそう

インテリオン〈DM〉 スパイ繋がり

ノクタス 観察にぴったり

バオッキー 影の薄さ

ズルズキン 昔の姿とあってる

ストリンダ―〈ローのすがた〉 同じく

 

斉藤終 肩書き:真選組の

 

手持ちポケモン

ガブリアス〈メガ〉 二刀流繋がり

カブトプス 同じく

バッフロン アフロ繋がり

ネッコアラ 居眠り繋がり

ワタシラガ アフロ繋がり

カプ・ブルル 義理堅さが似ている

 

志村妙 肩書き:キャバ嬢の

 

手持ちポケモン

ミミロップ〈メガ〉 可愛く強いから

ブリムオン〈DM〉 怒らせると怖いから

ニドクイン 腕っぷしが強い繋がり

ハピナス 卵料理繋がり・ハピナスの卵も消し炭にしそう

フレフワン キャバ嬢っぽい〈※個人的な感想〉

フェローチェ 素早く強い・つまり似合っている

 

シリカ 肩書き:ビーストテイマーの

 

手持ちポケモン

チルタリス〈メガ〉 ドラゴン使い・似合いそう

ブースター SAOでのイメージカラーから・後不遇

コロトック 中の人のキャラ繋がり〈正確には手持ちとして従えているのか不明〉

エモンガ あざとい繋がり

ニャオニクス ケットシー繋がり

ドラパルト 最速ドラゴン! めちゃくちゃ似合う!

 

柳生久兵衛 肩書き:柳生流の

 

手持ちポケモン

ラティアス〈メガ〉 中の人繋がり・素早さにぴったりだと思う

キレイハナ 振袖姿と似ている

オオスバメ 偵察用として持っていそう

ゴウカザル (略)ビチグソ丸繋がり

チラチーノ セレブ繋がり・イメージ的に

カミツルギ 刀使いから

 

リズベット 肩書き:鍛冶屋の

 

手持ちポケモン

クチート〈メガ〉 鉱石潰しに手伝いそう

バリヤード〈原種〉 鉱石探しに一役買いそう

ヒートロトム 鉄を打つ時に役立ちそう

モグリュー 中の人繋がり・鉱石探しを手伝いそう

メレシー 鉱石繋がり

ギャロップ〈ガラル〉 イメージカラーから選んだ・採掘した鉱石を運びそう

 

猿飛あやめ 肩書き:元御庭番衆の

 

手持ちポケモン

ジュペッタ〈メガ〉 似合っていそう・銀さんに近づく女性に恨みを与えてそう〈ただの妄想です〉

プクリン 中の人ネタ繋がり・マルチな技を出せそう

アリアドス けん制役として持っていそう・特に蜘蛛の糸で

テッカニン 素早い身のこなしが似ている・忍者繋がり

マニューラ 同じく・一緒に相手を仕留めそう

ウツロイド 神経毒を研究して、怪しげなことに使いそう〈こちらも妄想〉

 

リーファ 肩書き:シルフの

 

手持ちポケモン

フシギバナ〈メガ〉 メガシンカポケモンなら一番似合う

フライゴン 飛び方が似てる

リーフィア 名前繋がり・一番似合っている

エルフーン 同じく

アマージョ スタイル的にちょっと似ている?

バドレックス 豊穣=テラリア繋がり

 

月詠 肩書き:百華の頭の

 

手持ちポケモン

プテラ〈メガ〉 羽がクナイっぽく似合うから

キュウコン〈原種〉 落ち着いた雰囲気が似ている

エアームド 同じくクナイっぽいイメージから選んだ

ムシャーナ つきのいしを使う点から・愛染香と似てる?

ラランテス 花魁のようにも見えるから

クレセリア 月繋がり

 

シノン 肩書き:凄腕スナイパーの

 

手持ちポケモン

カメックス〈メガ〉 メガ枠なら一番似合いそう

ジュナイパー〈Z〉 弓矢繋がり

キングドラ とくせい・スナイパー繋がり

グレイシア 雰囲気がもろもろ似ている・一番似合う

ルガルガン〈まひるのすがた〉 中の人の手持ち繋がり・朝田の名前から

ソルガレオ 太陽神ソルス繋がり

 

長谷川泰三〈マダオ〉 肩書き:ホームレスの

 

手持ちポケモン

カイロス〈メガ〉 段ボールで羽を生やした姿が若干似ている

ベトベトン〈原種〉 悪臭繋がり

ルンパッパ 中の人繋がり・雨に打たれ強い

ケッキング ぐうたら繋がり・欠勤

ワルビアル サングラス繋がり〈アニポケ参照〉

マッギョ〈ガラル〉 擬態繋がり・一緒に地面と同化してそう

 

エギル 肩書き:商人の

 

手持ちポケモン

バンギラス〈メガ〉 力強さ繋がり

カイリキー〈DM〉 パワーファイター繋がり

ドサイドン ノーム繋がり

ウオノラゴン 馬鹿力繋がり

テラキオン 中の人繋がり

マッシブーン 筋肉繋がり・全員で決めポーズしてそう

 

お登勢 肩書き:かぶき町四天王の

 

手持ちポケモン

ガルーラ〈メガ〉 強い女性繋がり

ハリーセン 毒舌繋がり

コータス 年の功繋がり

バルジーナ 年長者繋がり

マフォクシー タバコの火を付けていそう

モスノウ なつき進化から。お登勢さんに似合いそう

 

キャサリン 肩書き:スナックお登勢の

 

手持ちポケモン

チャーレム〈メガ〉 サイコパワーで昔していたスリで活躍してそう

ルージュラ ベクトルが少ししている

スターミー 天人として持っていそう

ネイティオ イメージカラー繋がり

ブニャット 猫耳繋がり

ハギギシリ 同じくサイコパワーでやらかしそう

 

たま 肩書き:スナックお登勢の

 

手持ちポケモン

ハッサム〈メガ〉 機械的な行動から・手のはさみが色んな用途で役立ちそう

ブーバーン 炎を扱うところから

ジバコイル カラクリ作業中に使っていそう

ギギギアル 歯車系との調和性が高い

タイレーツ 仲間として従えていそう

マギアナ ソウルハートがそっくりだと思う

 

サチ 肩書き:月夜の黒猫団の

 

手持ちポケモン

スピアー〈メガ〉 ランサー使いから

オドシシ トナカイ繋がり

デリバード サンタ繋がり

マリル 中の人の手持ち繋がり・イメージカラー

ルナトーン 月夜から

レパルダス 黒猫から

 

坂本辰馬 肩書き:快援隊の

 

手持ちポケモン

ハガネール〈メガ〉 龍・戦艦と似ている

ラプラス〈DM〉 巨大戦艦繋がり

マタドガス〈原種〉 中の人の手持ち繋がり・攪乱用として持っていそう

ペリッパー 郵送繋がり

マスキッパ 中の人の手持ち繋がり

レジドラゴ 桂浜の龍繋がり

 

ユウキ 肩書き:スリーピングナイツの

 

手持ちポケモン

ラティオス〈メガ〉 メガシンカとイメージカラーが似ている

イーブイ〈DM〉 中の人繋がり・めちゃ可愛がっていそう

チェリム 陰と陽が本人を現しているよう

キバゴ 中の人の手持ち繋がり

ヌメルゴン イメージカラー繋がり・技的にスリナイを現していると思う

モルペコ 闇属性繋がり

 

陸奥 肩書き:快援隊の

 

手持ちポケモン

ラグラージ〈メガ〉 馬鹿力繋がり

ジュラルドン〈DM〉 カイエーン繋がり

マリルリ 可愛い+馬鹿力繋がり

カットロトム 剃刀副官から

シビルドン 坂本を黙らせる時に使いそう

ズルッグ 中の人繋がり

 

服部全蔵 肩書き:元御庭番衆の

 

手持ちポケモン

ゲッコウガ 忍者繋がり

カクレオン 隠密行動で使いそう

サマヨール 影うちで使いそう

グレッグル 作戦時に使いそう

ナッシー〈アローラ〉 切り札の意外枠で持っていそう

オトスパス 相手のけん制役として持っていそう

 

平賀源外 肩書き:カラクリ技師の

 

手持ちポケモン

ライボルト〈メガ〉 開発時に役立ちそうだから

ダイオウドウ〈DM〉 プレス時に使いそう

オクタン 大砲繋がり

ゴルーグ 三郎と似ている

ゴローニャ〈アローラ〉 大砲繋がり

レジスチル 鉄関連で持っていそう

 

エイジ 肩書き:元血盟騎士団の

 

手持ちポケモン

ボーマンダ〈メガ〉 巨大な赤い三日月が彼の昔のイメージカラーと似ている

スリーパー 記憶消去に役立ちそう

クロバット イメージカラー的に。OS版

ムクホーク 素早い動きが似ている

アギルダー 同じく

イベルタル 生命を吸う様子が、映画の行動と若干似ている。(彼も利用された側だけど…)

 

松平片栗虎 肩書き:警察庁長官の

 

手持ちポケモン

ヘルガー〈メガ〉 番犬として使いそう

ガオガエン〈Z〉 いかくが似ている

イオルブ〈DM〉 戦艦っぽさで持っていそう

オコリザル 強面繋がり

グランブル 同じく

スカタンク 強面+臭い

 

ユナ 肩書き:歌姫の

 

手持ちポケモン

メロエッタ〈ノーマルフォルム〉 歌姫繋がり

プリン 同じく

ソーナンス 映画時のガード場面から

ペラップ 音符繋がり

バリコオル エンターテイナー繋がり

カプ・テテフ 味方への補佐繋がり

 

高杉晋助 肩書き:鬼兵隊の

 

手持ちポケモン

ゲンガー〈メガ〉 イメージ的に持っていそう

グラエナ 番犬に使いそう

ドンガラス ボスの風格が似ている

ササンドラ 攻撃性と共鳴しそう

ウルガモス 服の柄の蛾と似ている

アーゴヨン イメージカラー的に持っていそう

 

ユージオ 肩書き:騎士見習いの ※良いのが思いつかなかった……

 

手持ちポケモン

ルカリオ〈メガ〉 イメージカラーの青・仲間に従順!

ハハコモリ 中の人の手持ち繋がり・メンタル面で労わっていそう

フリージオ 名前繋がり

ギルガルド 剣繋がり

オーロット 木々繋がり

キュレム イメージカラー的に持っていそう

 

神威 肩書き:宇宙海賊春雨の

 

手持ちポケモン

リザードン〈メガX〉 圧倒的な攻撃力から持っていそう

エースバーン〈DM〉 人型+ポケモン界のエースから

サワムラー キック技が似合っている

ゾロアーク イメージ的に持っていそう・時折相手を惑わしそう

ゼラオラ 同じく

ウーラオス〈れんげき〉 連続攻撃が様になっている

 

アリス 肩書き:整合騎士の

 

手持ちポケモン

デンリュウ〈メガ〉 イメージカラー的に。龍属性も持っている

ミミッキュ〈Z〉 化けの皮が人格豹変に合っていそう?

ラフレシア 中の人の手持ち繋がり

サンダース イメージカラー的に持っていそう

カイリュー 龍使いから

ネクロズマ 光と闇が彼女に似合っていそう?

 

吉田松陽 肩書き:松下村塾の 

 

手持ちポケモン

ミュウツー〈メガY〉 中の人との関わり繋がり・人工的?

ホウオウ さいせいりょく繋がり

マーシャドー 中の人繋がり

ザシアン 圧倒的攻撃力+剣繋がり

ヌケニン 抜け殻繋がり

ミカルゲ 封印繋がり

 

茅場昌彦 肩書き:仮想世界研究員の

 

手持ちポケモン

ミュウツー〈メガX〉 中の人との関わり繋がり

ギラティナ〈オリジン〉 並行世界へのあこがれから

フーパ〈ときはなたれしすがた〉 中の人繋がり

ザマゼンダ ヒースクリフの武器と似ている

ポリゴンZ プログラミング繋がり

ニャイキング 剣繋がり

 

※今回はここまで! 他のキャラクターも思い付き次第、追加していきます!!



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特別訓 スリーピング・ナイツ THE FIAST

皆さま、お久しぶりです。


 次元遺跡篇ラストにて鮮烈なる登場を果たした銀魂版スリーピング・ナイツ。彼女達が出会った経緯を、今回はご紹介しよう。

 

 時は過去へと遡り、五年前のこと。地球よりも遠くに離れた星、ALO星の中心街アルンには妖精や天人達が商売や観光目的で集まっている。城下町としても役目を果たすこの街に、今日もまた領地から上京する者がいた。

「もうすぐですね。これからどんなことが待っているのでしょうか」

 そう穏やかな口調で呟き、女性は微笑みを浮かべている。大きめのバッグに杖を突き刺し、期待を高めて道を進む彼女の名は、ウンディーネ族出身のシウネーだ。元々は領地にて学問を学んでいたが、自分を変えたいと思うようになり、思い切って上京を決意したという

 そんなシウネーの容姿は、淡白な水色で髪の毛や服装を統一しており、凛とした印象を持ち合わせていた。髪は足元まで伸びており、一部は二つ結びに縛っている。全身を覆う緩やかなワンピースは、両肩のみを露出していた。ちなみに背丈は160cm程度である。

 心機一転と新生活を楽しみにするシウネーだが、まだ大きな目標は見つけられていない。それが彼女にとっての悩みだった。

「これからのことも決められれば良いのですが……」

 先ほどとは打って変わり、不安げな表情を見せている。自覚はしているが上手くいかないのが現状だ。今の段階では興味のある仕事を見つけて、そこからやりたいことを探すそうだが……。

 そう将来を考え込みながら道を歩んでいると、彼女はとある人だかりに出くわしていた。

「ん? あの集まりは?」

 通りすがろうとした川辺にて発見したのは、数十人ほどの集まり。妖精や人間、天人が一堂に会して、何やら戦いを観戦しているようだが?

 シウネーもつい気になり、道を外れて川辺方面へ降りた。

「あの……何が行われているのですか?」

 人だかりに近づくと、彼女は近くの男性に状況を聞く。

「ん? あぁ、俺もさっき来たばかりで分からんが、何やら強者がいるらしくな。そいつと宇宙の帝王っぽい奴が、決闘しているみたいだぞ」

「……随分と情報量が多いですね」

 どうやら行われているのは白熱と化した決闘らしい。場の熱気は否応なしに盛り上がっていく。

「あの女の子強いよな。若いのに一体何者だよ」

「これで六十七連勝目だぞ」

「もしかしたら、騎士団を目指せるじゃないのか?」

「いやそれがさ、元候補生の妹って噂らしいぞ」

「それ本当かよ」

 次から次へと発せられる強者の情報。その正体は年端も行かない少女らしいが。

「えっと、あの子が強者でしょうか?」

 頑張って背伸びをしつつ、シウネーも強者の正体をマジマジと発見した。周りの情報通り、そこには堂々と振舞う小柄な少女が見えている。見たところ種族は闇属性の力を持つインプで、武器に細長い片手剣を所持していた。髪の色や服装は紫で統一しており、前髪にかけられた赤いバンダナが目に止まっている。見た目といい雰囲気は、快活で明るい印象を与えていた。

 そう。彼女こそが巷で強者と噂される剣士、ユウキなのである。

「さて、アンタが次の挑戦者だね。全力全開で戦おうね!」

 ユウキは対戦相手にも、明るく元気に接していた。笑顔を振りまく姿は、強者の印象は皆無に見えるが……。

 そんな彼女に挑戦を申したのは、観戦客の言う通り宇宙の帝王っぽい奴である。

「フフ。何をたわけたことを。全てはこのブリーザ様が勝利を収めるのですよ」

 彼は自信満々と勝利を確信していた。小さく呟き、表情もニヤリと笑っている。この宇宙の帝王っぽい奴の正体は、かつて土方十四郎と対峙した天人のブリーザだった。白い体色にオレンジ色の髪と、某サイヤ人系漫画の敵役にも見えなくないが、あくまでも別人である。そんな彼がひょんなことからALO星に立ち寄り、強いと評判の女の子に戦いを挑んだのだ。

「なんともこれは、異色の決闘ですね……」

 ようやく状況を把握したシウネーでも、この混沌とした展開に思わず苦笑いを浮かべてしまう。連勝続きのユウキももちろんだが、ブリーザの奇抜な容姿にも衝撃を隠せていない。

 とそれはさておき、ひとまずは勝負の行方を見守ることにした。シウネーに続き場にいた観客達も、そっと静まり勝負に注目を寄せていく。

「さて……始めようか!」

「望むところです!」

 そしてユウキ、ブリーザと共にようやく準備が整ったようだ。前者は装備した片手剣を振るい突撃、後者はオレンジ色のオーラをまとい本領を発揮していく。

「「ハァァァァァ!!」」

 勢いよく近づくユウキと、真っ向からねじ伏せようとするブリーザ。互いの全身全霊の力がぶつかり、ほんの一瞬で決着が付いていた。

「ど、どちらが勝ったのですか……」

 勝敗が気になり意気込むシウネーら観客達。二人の様子にじっと目を見張ると――

「ア……レ?」

バタンとブリーザは呆気なく倒れこんでしまう。一方のユウキは深く呼吸を整えた後、剣を鞘に戻して元気よく勝利を喜ぶ。

「よし! これでまた連勝達成!」

「おぉー、スゲェ」

「また勝ったのかよ」

「一瞬にして仕留めるとは……」

 ユウキの勝利と共に、観客からは祝福の声が飛び交っていく。あまりの強さに皆が圧倒される中で、シウネーもまた彼女の強さに見とれていた。

「す、凄い……」

 しばらくは拍手やら声援やらで場の熱狂は止みそうにない。

 一方でブリーザは気絶からすぐに目が覚めていた。

「痛ぁ……まさかこの私が妖精如きにやられるなど……」

 彼は敗北したことを悔やみながら、すたこらとすぐに場から去ろうとする。若干気まずさを感じる中で、ユウキは咄嗟にブリーザへ声をかけてきた。

「ねぇ、宇宙の帝王さん!」

「あぁ?」

「勝負に乗ってくれてありがとうね! 突然なんだけど、僕達のチームに入らない? 今メンバー募集していてさ」

 勝負のお礼と共に持ち掛けてきたのは、チームの勧誘である。屈託のない笑顔で誘いをかけたのだが、当然ブリーザには何一つ響いていない。

「誰が入るか! このブリーザ様を何だと思って……」

 激高しつつもあまり深くは接さずに、この場から逃げてしまう。

「アレ、行っちゃった? やっぱり負け時に誘うのは上手くいかないのかなぁ?」

 ユウキはブリーザの行動に疑問を覚えつつも、あまり気にしてはいない様子だ。決闘も一段落したことで、観客達も頃合いを見て場から去ろうとしている。

「そろそろ行こうぜ」

「もう挑戦するやつも流石にいないだろ」

「ありがとうな! 良いもの見せてもらったよ!」

 何人かはユウキに挨拶やお礼を伝えてから帰っていく。一方のシウネーも場を離れようとしたが、

「ん? アレは……」

ふとユウキの様子に違和感を覚えていた。彼女は左腕を微かに押さえており、どこか無理をしているようにも見えなくない。つい気になってしまい、シウネーは思わず近づいていた。

「どうしたのお姉さん? もしかして勝負かい?」

「いいえ、違います!  確認したいことがあって……」

 呑気そうに接するユウキに構わず、シウネーは彼女の左腕を確認してみる。すると掠ったような傷が目に見えてきた。

「やっぱり。怪我しているじゃないですか!」

「あぁ、これのこと。平気だって。そんなに気にすることでもないからさ」

「そう油断するのが一番危ないのですよ! 私に任せてください!」

「ち、ちょっと!? お姉さん?」

 ユウキは気にしないように宥めるも、シウネーは納得がいかず、やや強引にでも治療を始めていた。バッグから応急処置用の道具を取り出すと、覚えたての治癒魔法を唱えながら懸命にユウキの傷を癒していく。

 言われるがままに治療を受けるユウキだが、彼女はこの光景に既視感を覚えている。

(アレ? こんなこと前にもあったような……いや、気のせいか)

 シウネーとは初対面のはずだが、何故だか遥か昔に出会った感覚があるそうだ。とは言ってもあまり詳しくは思い出すことが出来ず、ただの気のせいで一蹴してしまったが。

 この一件をきっかけにして、ユウキはシウネーと出合ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「うぉー! もう傷が治っている! ありがとうね、お姉さん!」

「まったく……心配しましたよ」

 応急処置を施してくれたシウネーに、ユウキは明るくお礼を返している。前者は安心した表情を。後者は屈託のない笑顔を見せていた。

 場が一段落すると、二人は川辺に腰を掛けて、自己紹介を含めた会話を進めていく。

「ところでお姉さん。名前は何て言うの?」

「私ですか? シウネーですね」

「シウネー……うーん、やっぱり気のせいかな?」

「どうかしたのですか?」

「いや実は、シウネーさんと会ったような気がしてね。でもどうも思い出せなくて……」

 名前を聞くや否や、ユウキは思っていたことを口にする。本来シウネーとは初対面のはずだが、どうも親近感を覚えているようだ。

(アレ? そう言われると私もそんな気が……)

 彼女の言葉に影響されたのか、当の本人もそう思い込んでしまう。

その件はさておき、ユウキは話題を変えて話を続けていく。

「とりあえず、この件は置いておこう! 改めて僕の紹介もしておくね! 僕はユウキ! ちょっとした目的で、今チームメイトを集めているんだよね!」

「ユウキさんと言うのですね」

「呼び捨てでいいよ! その代わり、シウネーさんも呼び捨てにしていい?」

「呼び捨て!? 良いですけど……」

「よしっ!」

 了承を貰うと、彼女はにこやかな表情を浮かべて、親指を立てたサムズアップで感謝を伝えている。

 無邪気さも兼ね備えながら前向きに振舞うユウキと、対照的に控えめな態度を続けるシウネー。特に後者は相手との性格の違いから、あまりその雰囲気には慣れていなかった。

(強者と言うよりは、どこか子供っぽいですね……)

 数分前に見せた強者の風格からも温度差は異なり、ますます謎が深まってしまう。しかし同時に、ユウキへの興味も沸いていた。引き続き彼女の話を聞くことにする。

「えっと……じゃなんでユウキは、チームメイトを探しているんですか?」

「そりゃもちろん、姫様の騎士団を目指しているからだよ!」

「き、騎士団ですか!?」

 気になっていたチームメイト探しの理由を聞くと、彼女の口からは思わぬ一言が飛び出してきた。この展開はシウネーも予想外で、つい声を失ってしまう。

「ん? どうしたの、シウネー? そんなに驚くことかな?」

「当たり前ですよ! 騎士団って言ったら、姫様を護衛するいわば重要なガードマンなのですよ! 志願者も多くて、倍率も高いはずなのに……」

 そう。彼女の言う通り騎士団は、この星で言う花形の職種なのである。姫様と言った重要人物の護衛を任されることになり、戦力を磨き上げた者のみがなれると言われている。倍率も非常に高いため、シウネーはユウキの目標に驚きを隠しきれていないのだ。

 するとユウキは、少し落ち着いた表情を浮かべてから話を続けている。

「そんなこと僕でも知っているよ。だからこそ、みんなで合格するために頑張っているんだよね」

「その心意気が凄いです……でもなんで、そこまで騎士団にこだわるのですか?」

 そう聞かれると彼女は、ゆっくりとその理由を返答してきた。

「それはね……僕のお姉ちゃんが関係していてね」

「お姉ちゃんですか?」

「そう。僕にはね、双子のお姉ちゃんがいるんだよ。お姉ちゃんも仲間と同じく騎士団を目指していたけど、途中で病気にかかってやむを得ず諦めちゃったんだよね……。別に大きな病気じゃないけど、続けることは難しいみたいで。だからね、僕がお姉ちゃんの夢を叶えてあげようと思って!」

「そんなことがあったのですね……」

 時折空を見上げながら彼女が話したのは、騎士団を目指すまでの経緯である。ユウキには双子の姉がおり、彼女の志に影響を受けて、自分も騎士団に興味を持ったそうだ。そこにあるのは、純粋な気持ちかららしい。

 感心するシウネーをよそに、さらに話は続いていく。

「この決闘を始めたのも、お姉ちゃんやその仲間達の勧めでさ。まずは共に高めあえるような仲間を集めてこいって。最初は戦っても断られることが多かったけど、続けるうちに僕と同じ騎士団を目指す仲間が集まってさ。今じゃチームも、僕を入れて五人に増えたんだよ」

「そうなのですか……」

 仲間が集まったことを口にすると、ユウキはまたも晴れ晴れしい笑顔を見せている。姉からの勧めで始めた決闘を通して、多くの仲間と出合うことが出来たという。楽しそうに話す彼女に、シウネーも知らず知らずのうちに話へ聞き入っていた。

「ということで、僕らが探すべき仲間は後一人! 話を聞いてくれて、ありがとうね!」

「いえいえ、私は大したことは」

「そこで折り入ってお願いがあるんだけど、シウネーも僕らのチームに入らない?」

「そんなチームだなんて――えっ!?」

 そんな矢先に事態は急展開を迎えている。不意にもユウキは、シウネーにチームの誘いを持ちかけたのだ。当然ながらシウネーは、突飛な提案に思わず耳を疑ってしまう。

「絶対頼りになると思うんだよ! シウネーとなら! 僕と一度戦って、実力を試してみない?」

「えっと、私は戦った経験もあまりないですし……」

「関係ないよ! やってみないと分からないから!」

「で、でも……」

 あまり本気にはなれず、彼女は控えめな姿勢でやんわりと断ろうとする。だがしかし、ユウキは中々引き下がらない。シウネーなりの優しさに興味を持ち、一度戦いたい気持ちで頭が一杯になっていた。

 両者共に心が折れたりせず、こう着状態が続いていた――そんな時である。

「大変だ!! ユウキ!!」

 一人の男子が彼女達の会話へと割り込んでくる。彼の正体は、ユウキの仲間であるジュンだった。ジュンは慌てふためいた表情で二人の元に近づいていた。

「アレ、ジュンじゃん。どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ! 砂漠地帯で見たこと無いモンスターが暴れて、みんなで抑え込んでいるんだよ!」

「えっ、そうなの!?」

「モンスター……?」

 訳を聞いてみると、どうやら突然現れたモンスターの対処に、ユウキらの仲間達が当たっているという。ジュンの話を聞いたシウネーは、怪訝そうな表情で不安を感じていた。

 同じく不安を悟ったユウキは、真っ先に仲間のいる場所まで飛び立っていく。シウネーも気になって、そっと二人の跡を追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらはアルンとノーム領を繋ぐ通行路。その一部は砂漠地帯に覆われており、岩場と熱気が漂う灼熱の通路と化している。本来ならば環境に適応できず、この場所にモンスターなど生息してはいないのだが……

「グルォォォ!!」

何の前触れもなくそいつは姿を現していた。砂を振り払って所かまわず暴れるのは、タコに似た宇宙生物。ALO星には生息していない、いわゆる外来種だ。全長は十五メートルほどあり、巨大生物と言われても可笑しくないだろう。

 周りの被害などお構いなしに暴れ続ける宇宙生物に、武器を手にした三人の男女が立ち向かっている。

「周りの人達の避難は完了したよ!」

「よっしゃ! これで心置きなく戦えるな!」

「ユウキやジュンが来るまで、アタシ達で乗り切らないと……!」

 そう言葉を交わすと三人は、槍やハンマーと言った自分が得意とする武器を構えていく。その三人の正体は、ユウキの仲間でもあるタルケン、テッチ、ノリである。彼らは仲間の援軍が来るまで、自分達でこの場を凌ぐつもりだ。勝ち筋は見えていないが、それでもがむしゃらに立ち向かうしかない。

「グルッタァ!!」

「よっと!」

「はぁ!」

 宇宙生物が振るう腕を上手くかいくぐり、隙を付いたところを近距離から攻撃していく。羽や武器を最大限使いこなして、拮抗した戦いを繰り広げていた。

「くっ……流石に押し切られるか」

「やっぱり私達だけでは限界が……」

「いや、まだまだ! 諦めるのはまだ早いよ!」

 戦況が依然として変わらず弱音を吐くテッチとタルケンに、ノリが力強く鼓舞していく。彼女の言葉を信じて、二人はすぐに気持ちを前向きに整えていく。彼らは決して逃げ出すことはなく、今自分が出来ることに全力で取り掛かっていた。

「「はぁぁ!!」」

「フッ!」

「グル!?」

 宇宙生物との闘い続ける最中で、一瞬だけ相手に隙が生まれていた。その隙へ集中的な攻撃を与えると、瞬く間に動きが止まってしまう。

「えっと、これは……」

「まさかこのモンスターの弱点か?」

「そういうことなの?」

 突然の変わり様に、攻撃を与えた側のテッチ達も何が起きたのか分かっていない。宇宙生物の様子からも、弱点だと予測を立てている。ようやく勝ち筋が見え始めていた――そんな時だった。タルケンが後ろの岩場にいて、ある人の気配を察している。

「ん? ちょっと待って」

「どうした、タルケン?」

「今、後ろに人の気配が!」

「えっ、ちょっと!?」

 逃げ遅れた人だと思い込み、タルケンは即座に後ろへと走り出す。仲間達も思わず彼の跡を追いかける。

 岩場にたどり着くと、そこには逃げ遅れたと見られる二人の天人がいた。

「あの、大丈夫ですか!」

 大きい声をかけたが、天人達はタルケンらの存在に気づいていない。それどころか悪態を付きながら、互いに悪口をぶつけあっている。

「うぉぉぉ! じい!! お前のせいだからな!! お前が暇ぶっこいたせいで、こんなことになったのじゃぞ!!」

「黙れ、バカ皇子!! そういうお前も、飼い主のくせして見逃したじゃねぇか!! 俺に責任転嫁するんじゃねぇよ!!」

「うるせぇ! 余の責任はお前の責任じゃ!!」

「ジャイア〇かてめぇは!」

 相手へ決して譲ることはなく、責任を擦り付け合う二人。その正体は、銀時らとも面識のある央国星出身のハタ皇子とじいである。会話の様子からも、暴れまわる宇宙生物と何かしら関係があるそうだが?

「……どういうこと?」

 首をかしげながら、タルケンもその喧嘩の様子を見ている。密かに関係性を疑っていると、テッチらも駆けつけてきた。

「タルケン! まさかまだ人がいたのか?」

「そうだけど……人と言うか天人と言うか」

「あの二人のこと? どこの星の人だっけ……?」

 当然二人も何が起きているのか、分かっていない。揃って困惑気味の表情を浮かべる中、ハタ皇子はノリ達の存在に気付いて声をかけてきた。

「あっ! おい、ちょうど良いぞ! そこの現地民共! 余のペットを、どうにか落ち着かせてくれ!!」

「ペ、ペット?」

「はぁ? まさか、あのモンスターが!?」

 モンスターこと宇宙生物の正体を知るや否や、驚嘆とした表情を浮かべる三人。正体がハタ皇子のペットだと知り、彼への不信感が生まれていた。

「その通りじゃ! じいが見張りをさぼったせいで、勝手にオアシスの湖へ入ってしまってのう。ちょうど湖の温度も高くなっていて、温水のせいで巨大になったわけぞよ。だからお前たちには、止めてきてほしい……」

「おい、お前! ここでも俺の責任にするのか!! 言っておくが、お前の見張りの番だったぞ! 勝手に擦り付けるな!」

「うるせぇ! 余の責任ではないと言っておるじゃろ! 余は絶対認めんぞ!!」

 説明の途中でも起きたハタ皇子とじいの口論。頑なに譲らない言い争いに、テッチら三人は呆れ返り言葉を失ってしまう。

「つまり、お二方が騒動の原因だと」

「呆気ない犯人だな」

「余は犯人じゃないぞよ! こいつじゃ!」

「お前だろ!」

「うっさい!! くっだらない犯人当てはいいから、さっさとモンスターを止める方法を教えなさいよ!! さもないと……」

「お、落ち着けノリ!」

「そうですよ! 冷静に対処しないと……!」

 仕舞いにはイライラが募ったノリが、恐ろしい表情を浮かべて、ハタ皇子らに返答を催促していく。傍にいたタルケンとテッチが、力づくで彼女を静止している。その威圧さには、ハタ皇子達も恐縮してしまう。

「ヒィ……! えっと、時間が来れば元に戻る仕様じゃったか? じい!?」

「俺に聞くな! とりあえず、傷は付けずに生け捕りしろ。こちらとしても、国家間の問題には発展したくはない――」

 一方のじいからは淡々と説明が促されたが、あくまでも保護を前提とした生け捕りを要求している。傷は付けるなと注文を付けてきた――その時だった。

「エイヤァァ!!」

「グラァァ!」

 突如として聞こえてきたのは、少女の雄たけびとモンスターの叫び声。場にいた全員が思わず後ろを振り返ると、

「「えっ?」」

「おっ!」

「「ユウキ!!」」

そこにいたのは援軍として駆けつけたユウキとジュンだった。共に透明な羽を広げて、刀剣や大剣を手にしている。当然二人はじいの要望など知らず、勢いに乗って攻撃を与えていた。援軍の登場により、ノリ達は彼らの元へ駆け寄っていく。ハタ皇子達は思わぬ展開に呆然としていたが。

「みんな、お待たせ! ここからは僕達も参加させてもらうよ!」

「もらったぁぁ!!」

 仲間に一声かけると、二人は早々に宇宙生物との戦いを始めていく。

「今だ、ユウキ!」

「オーケー! ジュン!」

 大剣を振るって相手の隙を誘うジュンに対して、ユウキがその突きを狙って着実な攻撃を与えている。完成されたコンビネーション技を披露していた。

「「ハァァァ!!」」

「よし、二人に続くぞ!」

「えぇ!」

「はい!」

 果敢に宇宙生物へ立ち向かう姿に感化されて、ユウキの仲間達も釣られて戦闘へ参加していく。

「おい、お主ら! 極端に傷は付けるな!! 余の言う通りにしろ!!」

 ハタ皇子は依然として、ペットに傷が付くことに恐れを抱いていた。そんな忠告などつゆ知らず、ユウキ達五人の戦いは続く。

 一方のシウネーはというと、崖近くに隠れて戦いを見守っていた。

「アレがユウキの仲間達なのですね……」

 ひたすらに攻めの姿勢を続ける姿に、思わず目を見張っていく。

 仲間の様子を見ながら、刀剣の攻撃手段を変えていくユウキ。大剣を振り回し、確実な一撃を与えているジュン。ハンマーを用いて、相手の隙を伺うノリ。反対側に回って、槍を使い仲間の補佐を行うタルケン。自ら前線に立ち、盾で相手の注意を誘うテッチ。

 それぞれが今出来ることを、全力で行っていた。

「かっこいい……! こんなにも強い方々だったなんて」

 優し気な表情を浮かべたまま、彼女はそっと想いを呟く。ユウキらの戦う姿に惹かれて、増々興味が湧いていたが――

「私とはまるで違う……とてもじゃないけど」

自分の強さと比較してしまい、上手く行動には移せないようだ。未だに迷いが生じているらしい。

「ユウキ、ジュン! ヤツの怯んだ隙がチャンスだ! ありったけの攻撃をぶつけろ!」

「オーケー! 分かったよ!!」

「僕達で隙を作るぞ!!」

 その一方でユウキ達にも動きがあった。事前に戦っていた仲間から弱点を教えられて、早速行動に移していく。宇宙生物の隙を伺いながら攻撃を続けようとした時、

「おい、止めろ!」

「ん?」

「「えっ?」」

唐突にも地上から大声が響いてきた。皆がその声に気を取られて、下や横へ振り向く。もちろん声の正体は、側近のじいである。

「生け捕りにしろと申しているだろ! じゃねぇと、このバカ皇子がまた駄々をこねるんだよ! 分かってんのか!?」

「そう……って、ジジィ。また火種作りやがったな」

「はて、何のことやら」

 再度ユウキ達へ忠告を加えたが、流れ弾の如くハタ皇子にも文句が伝わっていた。不穏な雰囲気がまたも漂い始めていた時、空気を読まずに宇宙生物が動き始める。

「グルァァ!!」

「あっ、危ない!」

「避けろ、あんたら!!」

 両端の触手を大きく振るい、ハタ皇子らに狙いを向けてしまう。ユウキらが警告するも、時すでに遅い。

「えっ? ギャァァァ!!」

「何だと!?」

 予想外の行動に慌てふためき、辺りを右往左往としてしまう。二人共に逃げようとした時である。思わぬ助け舟が繰り出されてきた。

(カチッ!)

「ん?」

「お、お主は……」

 自らの手を挺してハタ皇子らを守ったのは、傍観者としてずっと様子を見ていたシウネーである。荷物に加えていた杖を手に、真っ向から触手を防いでいた。

「シ、シウネー!?」

「あの人が守ったのか……?」

 勇気ある行動を目の前にして、ジュン達も驚きを口にしている。特にユウキはシウネーとの面識がある分、想定外の行動により大袈裟に驚嘆としていた。

 そんな騒然とした状況下で、シウネー本人は苦しそうな表情を浮かべたまま、ハタ皇子らの安否を確認している。

「だ、大丈夫ですか……?」

「こっちはなんとも。じゃが、お主は?」

「平気です……これくらい!」

 無事を確認すると彼女は、前を向いて杖に力を入れていく。相手の隙を伺った後、大きく事態を動かしていた。

「いい加減、大人しくしなさい! ハァァァァ!!」

「はぁ!?」

「えっ!?」

「何!?」

「おいおい、嘘だろ!?」

 なんとシウネーは一か八かの如く、杖を宇宙生物に向かって投げ飛ばしてきた。その姿はまるで、砲丸投げの選手のようである。あまりの思い切った行動に周りが驚きの声を上げる中、宇宙生物も同じように戸惑いを見せていた。

「グラァ!? ラァァァア!!」

 咄嗟の攻撃に対処することも出来ず、そのまま杖は頭部へと突き刺さってしまう。自分でも何が起きたのか、まったく分かっていない。杖を抜くことに必死となり、次第に隙が生まれてしまう。

「シ、シウネー……?」

 そんな好機を作ったシウネーに対して、ユウキらは逐一驚かされる始末である。そう動きを止めていると、本人からは思わぬ激励が飛ばされてきた。

「今です、ユウキ!! とどめを刺してください!」

「う、うん! 行くよ、ジュン!」

「あぁ、任せろ!!」

 力強い言葉を受け取り、ユウキはジュンと共に決着を付けようとする。互いに刀剣や大剣を握りしめて、相手の隙を密かに伺い、最大の攻撃をぶつけていく。

「「ハァ!!」」

〈シャーキン!!〉

 相手の頭上へ交差するように切り刻み、二人は羽を操作して地上にゆっくりと降り立つ。後ろに振り返って、宇宙生物が倒れる様子を確認している。

「グラ……」

 悲痛な叫び声と共に、彼は砂煙を起こしながら横へと崩れ去った。あくまでも気絶しただけで、鼓動や呼吸する様子から生存状態が確認出来る。後に元の小さいサイズへ戻ることも予見されており、宇宙生物による騒動はようやく幕引きとなった。

「お。終わった?」

「落ち着いたか?」

「そうみたいだね」

 空中にいた仲間達も事態の鎮静化を再確認して、ようやく安堵の表情を見せている。もちろん地上にいるユウキやシウネーらもだ。

「ふぅー、良かった!」

「そうですね!」

 一言ずつ掛け合って、互いに屈託のない笑顔を見せている。

 その一方でハタ皇子らは、思い通りの展開にならず複雑な心境を抱えていた。

「な、なんて奴らだ……」

「余のべットがぁ……」

 開いた口が塞がらず、体も固まってしまった、後に宇宙生物も元のサイズに戻ったが、刻まれた傷跡は今なお残っている。肉体的にも精神的にも。

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙生物との戦いも終わり数分が経った頃。現場検証のために砂漠地帯には、騎士達が駆けつけてきた。彼らはユウキ達やハタ皇子から、一連の騒動について聞き出している。

「それでどちらが原因ですか?」

「そんなのコイツに決まってんだろ!」

「おい、ジジィ! いつまでその話、引っ張っているんだよ! いい加減、お前が譲れよ!」

「なんだと! 俺は意地でも認めねぇからな!」

「いつまで、このやり取りしてんだ……」

 騒動の原因を作ったハタ皇子らは、未だに罪の擦り付け合いを行っていたが……。対処している騎士達も、往生際の悪さに呆れ返っている。

 一方でユウキらの聞き込みは終わっており、彼女達は仲間内で今回の戦いについて振り返っていた。もちろん話題はシウネー一択である。

「凄かったよ、シウネー! まさか杖を投げて、モンスターの動きを止めるなんて!」

「いえいえ、私もがむしゃらにやっただけで大したことはしてませんよ」

「そんなこと無いよ! あんな度胸のある人、中々いないって!」

「もっと誇っていいと思うよ! アンタの強さだからさ!」

 ユウキ、ノリ、ジュンと、興味津々に彼女をベタ褒めしていく。当の本人はあまり実感が無いが、高い称賛を受けて嬉しく感じていた。その証拠に表情も満更ではない。

 一方のタルケンやテッチは、相手にした宇宙生物を話題に上げている。

「ところで、あの宇宙生物はどうすんだろうな?」

「あぁ、後は騎士達に任せるらしいよ。あの天人達も央国星の皇子だったみたいで、しばらく時間がかかるみたい」

「うへぇー、そうなの!? あの天人、そんな偉い人だったんだ。もしかして僕達、悪いことしたかな?」

「まぁ、原因作ったのもあの皇子達みたいだし、そんな気にすることでもねぇと思うよ」

「そっか」

 今更ではあるが、ユウキはハタ皇子が本物の皇子だと知った。驚きと共に罪悪感も生まれたが、ジュンの一言により気にしなくなった。気持ちの切り替えは案外早いようである。

 するとユウキは、再度シウネーを持ち上げてきた。

「でもこれも、起点を作ってくれたシウネーのおかげだよ! 本っ当にありがとうね!!」

「いえいえ、だから言っているでしょ。私は大したことはしていないって。チームの一員でもないですし」

「……チームの一員か」

「どうしたのですか?」

 途端にとある言葉が引っ掛かり、ユウキは言葉を濁してしまう。シウネーが素朴に問いかけると、仲間達はユウキの気持ちを察して、次々に彼女へ要件を伝えていく。

「ねぇ、アンタ。これも何かの縁だし、僕達のチームに入らないかい?」

「えっ!?」

「ぴったりだと思うよ! アタシは賛成するよ!」

 そう。ユウキが伝えたかったことは、改まったシウネーのスカウトである。先ほどの戦い方や振る舞いから、より魅力的に感じ取っていた。当の本人は不意に驚きの表情を浮かべていく。対してジュンやノリと言ったユウキの仲間達は、まるで歓迎するように屈託のない笑顔を見せていた。

「わ、私もです……!」

「同じくな」

 同時に話を聞いていたタルケンやテッチも同じ想いである。突然のスカウトに、シウネーの戸惑いは強くなっていた。

「み、皆さん……」

 そしてユウキが再度、気持ちを念押ししていく。

「ねぇ、シウネー。君の度胸と優しさは、誰にも負けない個性だと思うんだよ! きっと僕らのチームでも、上手くやっていけるよ! だからお願い! 僕らのチーム、スリーピングナイツに入らない?」

 率直に感じた気持ちを前面に出して、誠実にスカウトをしている。ユウキの強い気持ちと仲間達の温かな雰囲気に触れていき、シウネーの気持ちは瞬く間に変わり始めていた。

(この人達となら、きっとやれることが見つかるかもしれない……私自身も強くなれるはず!!)

 本当に自分がやりたいこと。自分自身を変えたい本音。新たに作られた目標に、仲間と共に進みたい気持ちが強くなっていった。

 深く深呼吸を交わした後に、シウネーは自分の出した決断をユウキらに伝えていく。

「……分かりました。この私で良ければ、よろしくお願いします!」

 彼女達の想いを信じて、スリーピングナイツの加入を決意したのだ。

「よしぃ! ありがとうね!! それじゃ早速、僕と決闘してしよ!」

「えぇ!? ここでですか?」

「大丈夫だって、手加減するから! 強さを見るだけだからさ!」

「でも私、戦ったことはあまりな――」

「行くよ!」

「勝手に始めないでください!!」

 望み通りの答えを聞くや否や、ユウキは早速シウネーを決闘に誘っていく。本人も突然の提案に困惑しており、ジュンらに助けを求めている。ところが彼らからは、「いいぞ」や「頑張れ」と言った悪乗りしか言葉が返ってこなかった。初加入と共に決闘へ巻き込まれてしまったシウネーである。

 かくしてこの世界のスリーピングナイツは結成した。彼らが努力を積み重ねて、夢を叶えようとするのはまた別の話である……。




 さて、今回は復帰もかねて銀魂版スリーピングナイツの過去篇をお送りしました。いかがだったでしょうか?
 まさかブリーザも加わろうとしていたとは……予想も付かなかったと思います。本編とは別人ですが、彼女達の性格や個性は概ね変わっていません。ご安心ください。
 次回は次元遺跡篇の振り返りをしつつ、新章へと繋げていきたいと考えています。

 と言うわけで、まずは長い間投稿出来ず申し訳ありませんでした!!
 遅れた理由ですが、端的に言うと就活で上手く時間が取れなかったからです。現状だとようやく一段落したので、また定期的に投稿していきます! また順次追っていただけると、ありがたいです!!
 それでは今回はここまで! 次回の投稿は8月頃を予定しています。


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妖国動乱篇再突入記念! 次元遺跡篇を振り返れ!

八月投稿間に合いませんでした……


※万事屋の背景を思い浮かべながら、ご覧ください。今回は簡略的に描いているので、ご了承ください。

 

あらすじコーナー

 

銀時「というわけで今回は、本編に入る前にちとこれまでのあらすじを振り返っていくぞ」

新八「いや、急にかよ! これまでにも散々振り返っているから、良いんじゃないですか?」銀時「うるせぇ! 半年間も投稿が空きゃ、読者は忘れているに違いねぇよ!」

神楽「そうだゾ! 定期的に振り返って、尺を稼いでおいた方がいいアルよ!」

新八「その尺を稼ぐのにも時間がかかるんだよ! なるべく寄り道せずにやってくださいよ!!」

銀時「分かっているから」

新八「本当かよ」

 久々の登場にやや浮足立っている銀時や神楽。新八のツッコミを交えつつ、改めて新章へ入る前に振り返りを提案してきた。もちろんキリト達も参加する。

キリト「銀さん、そろそろ良いか?」

アスナ「次の仕事もあるんだから、さっさと終わらせましょうよ」

ユイ「時間を無駄にしちゃダメですよ!」

 とユイらに念押しされたが、

銀時「分かっているよ。それじゃ……侍の国、俺達の国が――」

新八「いや、早速無駄にしているだろうが!! 誰が本家の連載期まで振り返れって言ったよ!!」

案の定おふざけが始まってしまう。

ユイ「銀時さん、ボケている暇じゃないですよ!」

アスナ「そうよ。次ふざけたりしたら……」

 時間が押しており、ここはアスナが銀時に威圧を押している。

銀時「ア、アスナ……?」

アスナ「さぁ、真面目にやりましょう」

銀時「は、はい……」

 効果は覿面であり、すぐにおふざけを封印していた。

新八「黙っちゃったよ」

神楽「銀ちゃんもアッスーには叶わないからナ」

キリト「もうアスナが万事屋のリーダーだからな」

 案の定仲間達からはアスナのリーダーシップに感心している。と騒動が一息ついたところで、ようやく振り返りが始まった。

銀時「おい、気を取り直して次だ次! 事件の始まりはとあるテレビ番組から始まったんだったよな」

新八「確かカマシスギ都市伝説でしたよね」

ユイ「あの番組は面白かったです! 是非次回も見てみたいです!」

アスナ「私はいいかな……やっぱり苦手だし」

 最初に触れたのは、全てのきっかけを作った番組についてである。この都市伝説系の番組を起点に、最初はサイコギルドや空川町にある遺跡の情報を仕入れていた。

キリト「それでその番組の情報を頼りに、空川町に向かったんだよな」

神楽「車内では結構わちゃわちゃしていた記憶があるネ」

銀時「到着まで暇だったからな。宇野だったり席決めで時間潰していたよな」

アスナ「まさか真選組も来ているなんて、思いもしなかったけど」

 百聞は一見に如かずと実際に確かめに行った万事屋とその仲間達一行。列車内では真選組も現れて、ちょっとしたトラブルが起こっていた。もちろん沖田が原因なのだが。

ユイ「結局情報はガセでしたけど、その代わりある人と出会ったんですよね!」

新八「確かフィリアさんですね。ALO星出身の」

銀時「正確にはSAOのゲームオリジナルキャラだけどな」

キリト「どうしたの、銀さん?」

銀時「いや、なんでもねぇよ」

 サイコギルドに関する情報は見つけられなかったが、代わりにフィリアというALO星出身の少女と遭遇する。どうやら彼女は、誰も見つけたことのない遺跡の行き方を知っているらしい。

アスナ「フィリアちゃんの情報で、次元の狭間にいる遺跡のことを知ったのよね」

神楽「訳アリだったから、私達も協力することにしたネ」

 フィリアの事情を悟った一行は、彼女に協力することにするが、同時に新たな脅威がキリトらの目の前に出現していた。

ユイ「と同じくして現れたのは、マッドネバーですね」

キリト「ダークライダーっていう変身能力もあるし、手ごわい相手だったよ」

銀時「俺達はともかく、シリカ達にとっては悔いの残る相手だったよな」

新八「でも、大丈夫ですよ! 再戦に向けて特訓しているみたいですし!」

神楽「リッフー達ならきっと次は勝ってくれるネ!」

 脅威の存在はALO星で暗躍する謎の組織、マッドネバー。夜兎や辰羅と強力な戦闘民族が参加しており、さらには別世界で活躍したダークライダーにも変身する恐るべき組織だ。この圧倒的な力にはシリカ、リズベット、リーファ、シノンとキリトらの仲間達が皆倒される始末である。悔しさから彼女達は現在猛烈な修業を積んでいるらしい。神楽らも素直に四人のことを応援していた。

神楽「まぁ、いざという時はゲロを吐けばいいネ」

新八「それだけは止めろ」

 最後の一言で良い雰囲気が台無しとなったが。キリトやアスナも思わず苦笑いを浮かべてしまう。それはさておき、今度は次元遺跡にあった銅像について話題が上がった。

銀時「そして次元遺跡の正体は、別世界のヒーローの活躍を収める場所だったな」

アスナ「確か平成仮面ライダーっていうヒーローなのよね」

キリト「平成ってことは、その前の昭和仮面ライダーや後に続いた令和仮面ライダーもいるってことか?」

神楽「まぁ、いるんじゃないアルか?」

銀時「本当はいるんだけどな」

 銅像の正体はこれまた別世界で活躍したヒーロー、平成仮面ライダーである。正統派から変わり種まで、ありとあらゆるヒーローの活躍が次元遺跡には刻まれていた。キリトはてっきり年号にちなんで、他にもヒーローがいるのではないかと推測していた。全て当たりなのだが……

ユイ「その平成仮面ライダーさん達は、幻や夢の中で会ったこともありましたね」

新八「僕は見れなかったんですけど……」

銀時「思えばアレって、結局何だったんだろうな?」

キリト「何か大事なことを俺達に伝えていたんじゃないのか?」

アスナ「フィリアちゃんから貰った結晶もあるし、関係性は確かにありそうね」

神楽「逆転の一手になってほしいアル」

 そして幸運なことにも新八以外の五人は、幻や夢の中で一時的に平成仮面ライダーと遭遇したらしい。一瞬の出来事だったが、何故出会えたのかはまだ不明である。もしかするとフィリアから預かった結晶とも関係があるのかもしれないとも睨んでいた。

ユイ「それとびっくりしたのは、この世界のオベイロンですよね」

キリト「まさかこの世界でも会うなんて、思いもしなかったけどな」

神楽「あの男はいちいちムカついたアル! 今度はギタギタのメタメタにしてやるネ!」

新八「どこのガキ大将だよ……」

アスナ「あの人とは別人にしても、やっていることはテロリストとなんら変わらないのよね……」

銀時「厄介な野郎だぜ。また襲いに来ても可笑しくないからな」

新八「今度こそは絶対に倒しましょう……!」

 さらに話題に上がったのは、この世界で生きるオベイロンの存在だ。流石に本人とは多少の違いはあれど、野心や野蛮な考え方はほぼ同じである。原典とは違いアナザーライダーという特殊な力も身に着けているため、戦闘力も大幅に上がっている。いずれにしても、厄介な相手に変わりはない。改めて彼の打倒をキリトらは決意していた。

 それともう一つ。銀時にはもう一つ気になったことがある。

銀時「ところでヅラとクラインは、普通に空川町にある遺跡を見に来ていたのか?」

新八「た、多分……」

アスナ「アレでまだクラインが指名手配されていないのが驚きね」

神楽「ん? もう手配されているんじゃないアルか?」

ユイ「でもそれって、クラインさんが変装した方では?」

新八「いつもギリギリすぎて、本当に大丈夫なのか、あの人?」

 最後に出会った桂とクラインについてである。特にクラインは桂と出会ってからというもの、ほぼ攘夷志士として活動しているが、未だに真選組からはマークされていない。悪運が強いというか本人はまったく気にしていないが、仲間達はそれなりに気にしている。もしかするともう手配されているのかも知れないが……

 とその件はさておき、これで大まかな振り返りは終了となる。

銀時「改めて振り返ると、波乱万丈な旅路だったな」

神楽「新しい強敵も出てきて、段々ジャンプ漫画っぽくなってきたネ!」

アスナ「ジャンプ漫画はともかく、マッドネバーに関してはまた戦うことになりそうね」

ユイ「フィリアさんのALO星も心配ですからね……」

キリト「何かあった時には絶対助けに行こうな。これ以上アイツの好きにはさせない……!」

新八「もちろんです! そのためにもまずは、準備を整えてましょう!」

ユイ「平成仮面ライダーさん達も、きっと皆さんのことを応援していますよ!」

 まだまだALO星絡みで解決していないことは山ほどある。だからこそ、いざという時にはいつでも備えることが重要だと皆は考えていた。新たな決意を燃やして、とうとう一行は締めの言葉に入る。

銀時「それじゃこの辺で終わるか」

神楽「後は妖国動乱篇にバトンタッチするネ!」

新八「久しぶりの剣魂を、是非楽しみにしていてください!」

 銀時らが言ったところで、次はキリトらに言葉を促す。

銀時「ほら、キリト達もそれっぽい言葉で締めるぞ」

キリト「あぁ。えっと……みんな、よろしくな」

アスナ「必ずマッドネバーは倒して見せるわ!」

ユイ「それじゃ、バイバイです!!」

 と和やかな雰囲気で終わった振り返り篇。しかしキリト達は密かに疑問を抱えていた。

キリト・アスナ・ユイ(なんで急にビデオレター風に?)

銀時(細かいことは気にするな)

新八(いや、心で会話するなよ。番外篇だからってフリーダムにしすぎだろ)

 未だにメタネタが分からないので、このような語弊が生まれている。

 こうして万事屋はまたいつもの日常へと戻っていくのだ。

 

おまけ

 

銀時「さて最後に答え合わせのコーナー!」

新八「えっ、急に?」

神楽「時間も無いからさっさとやるネ」

銀時「今回はこちら。今年の初めに出したこの問題~」

 

37・3・7  

12・3・24・―

12(“)・37・48 

16・43・9・48

19・18(S)・17

25・42

参戦!!

 

新八「あぁ、そういえば投稿者からこんな問題ありましたね」

神楽「その答えは何だったアルか?」

銀時「ズバリだな、あいうえお順でやると、分かりやすいぞ」

新八・神楽「「あいうえお順?」」

 

ユ・ウ・キ

シ・ウ・ネ・ー

ジ・ュ・ン

タ・ル・ケ・ン

テ・ッ・チ

ノ・リ

 

神楽「あっ、スリーピングナイツ!」

銀時「その通り! 実は年始からヒントを貼っていたんだな、これが」

新八「別にアンタが考えたわけじゃないでしょうが」

銀時「中々に考え付いた問題だろ? きっと読者も注目して……」

 

神楽「そんなことないアルよ」

銀時「えっ?」

神楽「だって誰も聞いてきてないアルからナ」

 

銀時「そうなの?」

新八「問題なんてこんなものですよ」

神楽「謎解きは他の作者さんが優れているからナ」

 

分かった方はいたでしょうか?(汗)




 というわけで、今回は前回の長篇である次元遺跡篇を振り返ってみました。本当は新しい話の冒頭にサラっと振り返る予定でしたが、思っていたよりも書く内容が多くて分割することにしました。しばらく投稿が空いちゃったので、この振り返りを機に内容を思い出していただけると幸いです。
 次回のお話はなるべく早く出せるように頑張りますので、どうかしばらくお待ちください……!


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没シーン集+長篇出番表その2

・総集篇 序盤没シーン

 

銀時・神楽「「出てこい、投稿者ぁ!!」」

新八「はい?」

 一言目から怒り心頭している銀時や神楽。一体何に怒っているのだろうか?

新八「急にどうしたんですか、二人共? いきなり怒っても何も伝わりませんよ」

神楽「何を言っているアルか、新八! ウチの今年の投稿頻度を見れば、怒るのも仕方ないネ!」

銀時「そうだぞ、てめぇ。数えてみたらなんと、六回しか投稿してねぇんだぞ。しかも話として成り立っているのは四話と来た――一体どういうことだ!!」

新八「落ち着いてくださいって! 投稿者にも色々あるんですから!! それに小説作成には興味あるので、まだまだ剣魂は続くので安心してください!」

 投稿者の投稿頻度によって不満があるようだが、ここは新八が優しく宥めていく。まだ気は立っているが、このまま今回の本題を進めていく。

神楽「でもどうするアルか? もう前回の話から半年以上経っているネ。読者もきっと内容を忘れているアルよ」

新八「だから僕らで振り返っていきましょうよ。投稿者の復帰も兼ねて!」

銀時「また総集篇かよ。今年で何度目だよ」

新八「二度目ですよ。でも今回は次元遺跡篇のみ振り返っていきましょう! キリトさん達ももう来ていますから!

 新八の言葉と同時に、話の輪にはキリト、アスナ、ユイの三人も入ってくる。

キリト「何か久しぶりな気がするな」

アスナ「みんなは一体何を話していたの?」

銀時「いやいや、今回の企画だよ。この前起きたマッドネバーや次元遺跡のことを振り返ろうってな」

ユイ「また思い出を振り返るのですね!」

キリト「それはそれで面白そうだな」

アスナ「最近起きたことだし、起きたことをまとめるのもいいわね」

 三人は銀時や神楽と異なり、振り返りには好意的であった。もちろん大人の事情は知らず、純粋な気持ちで賛成している。

銀時「またこのパターンかよ」

新八「それじゃ。キリトさん達も乗り気なので、このまま振り返っていきましょう!」

神楽「分かったネ。てか新八は、何で乗り気アルか?」

 場の雰囲気が若干和んだことで、万事屋の次元遺跡篇振り返りが始まった。

銀時「あっ。ちなみに俺達は今回、総集篇よりも本編を進めてほしいと思っているぜ」

 

・総集篇 序盤没シーン パターン②

 

銀時「と言うわけで、なんやかんや期間が空いちまったから、一旦おさらいでもしておくか」

新八「いや、そんな暇があるなら執筆しろよ! そもそもなんで進まなかったんですか?」

神楽「ただ単に投稿者の時間が無かったからアルよ。思うように時間が取れないって言っていたアル」

銀時「の割には、ツイッターいじったり、ポケモンの仲間大会に出ていたけどな。どうやら新作の小説もポケモン関係だし、本当に両立できるのか?」

神楽「無理そうアル」

新八「って、そんな話はいいですから! さっさとあらすじ紹介しますよ! 今回もキリトさん達が来ているんですからね!」

キリト「えっと……この台本通りに読めばいいんだな?」

アスナ「って、台本ありきで進めていいの?」

銀時「いいから、いいから。あらすじなんてやったことねぇんだし、ほぼ棒読みでも許されるだろ」

ユイ「そうなのですか?」

新八「いや、棒読みは許されませんよ。もっと真剣にやってください!」

銀時「分かっているから。それじゃ行くぞ」

 

銀時「侍の国、俺達の国がそう呼ばれて……」

新八「待て待て待て!! 誰が定番のボケ、やれっていったよ!?

銀時「いや、初見さんだっているだろ? 俺達の作品の根幹から説明しねぇと」

神楽「そうアルよ。銀魂篇が終わったら、次はSAO編ネ。キッリー、頼んだアルよ」

キリト「あぁ。えっと……2022年、人類は新たなる境地に――」

新八「いや、付き合わなくていいですからね! 余計に時間かかりますから、カット! カット!!」

 

ユイ「それじゃ、気を取り直しましょう!」

新八「しっかりやってくださいよ」

銀時「分かったよ――地球より遠く離れた星、ALO星。そこは九つの妖精達が暮らす平和な星だった」

アスナ「そんな星に訪れた突然の脅威。それは国家に復讐を誓う科学者、オベイロンだった……まさかこの世界にも、オベイロンがいたなんてね」

キリト「須郷とは違う人だったが、どうしてもアイツと重なるよな」

ユイ「どちらも卑怯な人ですよ! 力で人をねじ伏せるなんて、言語道断です!」

神楽「その通りネ! おまけに声を聴くだけで、ムカムカするアル! 銀ちゃん! アイツの顔に嘔吐してもいいアルか?」

銀時「許可すっぞ」

新八「って、話がずれてるから一旦戻して!」

 

・第七十五訓より スリーピングナイツの秘蔵話

 

 これはユウキ達が三年ほど前に交わしたやり取りである。

「ねぇ、みんな。僕たちでさ、騎士団を目指してみない?」

「騎士団ですか?」

 突然の彼女の提案に、場にいた仲間達は皆驚きの表情を浮かべていた。場所は中心街アルンに店を構えるとあるレストラン。そこでユウキは仲間達を集めて、目標を語り始めている。その表情は至って真剣そうだが。

「どうしたの、ユウキ? そんな突拍子も無いこと言って」

 ノリの指摘に、ユウキはムキになって答える。

「全然そんなこと無いよ! 僕は至って本気だよ! みんなの実力だったら、きっと騎士団も目指せると思うんだよ。みんなはどうかな?」

 彼女は決して冗談で言ったわけではなく、本気で仲間と一緒に騎士団を目指したいのだ。力強く説得を促すも、メンバー間の反応はまちまちである。

「確かに憧れるけど、現実は厳しいと思うぞ。倍率だって結構高いはずだし」

「今の俺達の戦力じゃ、まだまだ甘いはずだしな……」

「目標は高い方が良いと思いますけど……」

 ジュン、テッチ、タルケンと微かな心の本音を出していく。彼らは浮かない表情で、現実の厳しさを深く感じ取っていた。シウネーやノリ女子陣も同じ想いである。

 ALO星における騎士団は実力主義で選ばれ、ましてやチームとなればより一層に連携が必要視させ、さらに狭き門を潜らなければならない。いわば六人全員が騎士団になるのは、無茶と言われても仕方ないのである。

 もちろんユウキも、現実の厳しさは重々に理解していた。だからこそ彼女は、挑戦する気持ちを大切にしている。改めて仲間達に自身の気持ちを訴えかけていた。

「僕も十分に知っているよ。そう易々と叶わないことだって……でも、諦める前に挑戦してみようよ! 折角僕達でチームを組んだんだし、やれることはどんどんやっていこう! 大丈夫だよ、僕達なら。このスリーピングナイツのメンバーなら!!」

 やる前から諦めるのではなく、今出来ることを全力で取り組む。これがユウキの目指す理想のチームの形である。彼女は仲間達の底知れぬ可能性を信じて、騎士団の採用試験を提案したのだ。

 ユウキらしい前向きさと仲間を巻き込む姿勢には、シウネーら五人も思わずクスっと笑ってしまう。

「確かに、ユウキの言う通りかもしれませんね」

「挑戦することが大事ってことか」

 密かに決めつけていた偏見も払拭して、ジュン達は徐々にユウキの考えへ納得していく。そして彼らも、彼女と同じく思い切った覚悟を決めた。

「そういうことなら、アタシもユウキの考えに乗るよ! 結構面白そうだしさ!」

「なら僕も……!」

「仕方ない。俺も加わるか!」

 挑戦する心意気を大事にして、次々と意見に賛成していく。これにはユウキ本人も、感謝の気持ちで心が一杯になっていた。

「みんな……ありがとう! やるからには全力を懸けて挑むよ!」

 天真爛漫なとびっきりの笑顔を見せた後に、彼女は右手をテーブルの中央に寄せている。それにつられてシウネーら仲間達も、同じように手を重ね合わせていた。そして、

「「「「「「ゴー! ナイツ!!」」」」」」

息を合わせた合図と共に六人は、目標を新たにして気持ちを一つにしていく。これが銀魂世界のスリーピングナイツが、初めて大きな目標を掲げた瞬間である。

 それから六人は、強くなるために誰よりも努力を惜しまなくなった。時間が空けば特訓に費やし、その繰り返しの日々。時にすれ違いからぶつかることもあったが、ユウキやシウネーの説得ですぐに鎮静化した。

 

・第七十七訓 リュウガ襲撃シーンより

 

「おや?」

「なんだ?」

 たまとエギルは共に、上に併設している万事屋の騒ぎに気が付き始めている。ドタドタとやかましい物音が鳴り響き、一向に鳴り止む気配すらない。

「万事屋ガ騒ガシイデスネ」

「またアイツら騒いでいるのかい?」

 キャサリン、お登勢も万事屋の騒ぎに気が付くも、やはりリアクションは薄い。万事屋との騒音トラブルはもはや日常茶飯事で、キリトらが来ようともやはり幾度かは発生している。故にこの騒ぎに慣れているお登勢らは、怒りよりも鬱陶しさを強く感じていた。

「ったく、終わらないねぇ。たまにエギル。あのバカ達の様子、見てきてくれるかい?」

「あぁ、分かった」

「了解しました」

 痺れを切らした彼女は、近くにいたたまとエギルに万事屋の様子見をお願いする。

すんなりと二人が了承すると、早速騒音の根源である万事屋へと尋ねていた。

「おーい、銀さんにキリトいるか?」

「騒がしいので様子を見に来ました」

 軽く声をかけて戸を叩くも、一切返答はない。不思議に思った二人は、戸を開こうとすると――あっさりと戸は開いている。

「おっと……って、これは?」

「もぬけの殻か? ていうか、何があった!?」

 そのまま万事屋の中を見てみると、そこには誰一人として人がいなかった。しかも居間には荒らされた形跡があり、少々散らかった跡が見えている。この数分間の間に何があったのだろうか? さっぱり分からずに、たまとエギルは不吉な光景に首を傾げてしまう。

 

・第七十七訓 ホームレスメモリの真実

 

「おい、銀さん。何やってんだよ? 仕事にでも行くのか?」

「は、長谷川さん!?」

 彼らの目の前に突然現れたのは、知り合いでもある長谷川泰三。言わずと知れたホームレスの代表格である。彼は万事屋の現状をよく知らず、てっきり仕事の依頼関係だと勝手に決めつけていた。

 長谷川にかまっている時間は無く、このまま素通りしようとした――その時である。

「えっ? うわぁぁ!?」

「なんだ!?」

 唐突にもメモリスロットが輝きだして、灰色のオーラを解き放っていた。そのオーラは上空を舞い、やがて一人の男に狙いを定めている。

「おいおい、これは……って、ちょっと待て! 俺かよ!? う、うおぉぉぉ!!」

 迷うことなくオーラは長谷川の元に向かい、そのまま彼の全身へくすんだ光を浴びせていく。

「は、長谷川さん!?」

「おいおい、何が起こってんだよ!?」

 予想だにしなかった急展開に戸惑いつつも、銀時らも動きを止めて、長谷川の様子を確認している。

「アレ? 何が起こっているの?」

 きっかけを作ったユウキでさえも、現在の状況がまったく読み取れていなかった。

 すると瞬く間に、長谷川には明確な変化が起きている。

「輝け~! あの時の如く~! 灰色のウジ虫おっさん!― ホームレスーー! マダオ!!」

「うぉぉぉ!! この力は!?」

「は、長谷川さんんんん!?」

「おい! マダオがパワーアップしているアルよ!」

 気の抜けた音声と共に、長谷川は未知の力をまとい強化してしまった。その姿は全身に灰色のオーラをまとっており、例えるならば某バトル漫画のサイ〇人とも言うべきであろう。

 その名の通りホームレスメモリは、現在のホームレスに該当する者全てに強力な戦闘力を与えることが出来るのだ。

「ていうか、このメモリってホームレスだったの!?」

 差し込んだはずのユウキでさえも、まさかホームレスの記憶の力だとは、予想も付いていなかった。ただ結果的には、上手くいったとも言うべきなのだろうか……?

 一方の万事屋一行も、徐々にこの状況を理解していく。

「長谷川さんの身に何が起きたのですか!?」

「きっと、これよ! このメモリのせいじゃない?」

「密かにウサギがメモリを入れていたのか?」

「ていうかよ、なんでホームレスなんだよ! ニッチすぎるだろ! 一体誰が使うよ!?」

 ユウキの所持していたメモリが要因だと察したが、それよりも銀時らはホームレスメモリの存在が気になって仕方ない。しばらく彼の様子を伺っていると、長谷川も万事屋の事態に気付き始めていた。

「詳しいことは知らないが、お前ら追われているみたいだな。だったら俺も力を貸すぜ!」

 彼らの窮地を感じ取り、快く協力している。

「何をモタモタしている! 今がチャンスだ! 行け!」

 

・第七十七訓 ドラゴンメモリの真実(※前の訓とは繋がっていません)

 

「ん? どこだここ? ていうか俺、ワープしてないか!?」

本物のホームレスである長谷川泰三だった。

「グルラァァ!!」

「えっ? ギャァァァァ!!」

 登場するや否や、長谷川は早速ドラグブラッカーの標的にされている。解き放った火炎弾の爆発に巻き込まれて、体ごと遠くに吹き飛ばされてしまった。何の役にも立てず、出番が終了となっている。

「は、長谷川さんんんん!?」

「おぃぃぃぃ! アイツ、光の速さでやられたアルよ!」

「おい、待てよ! 時間稼ぎにすら、なってないぞ!!」

 あまりにも早い退場劇に、万事屋一行のツッコミも激しくなるばかりだ。出落ち感は拭い切れず、何の為に来たのかもはっきりと分かっていない。

「何だったの、今の人……」

 ユウキですら、長谷川の存在感には困惑している。唯一理解したことは、ホームレスメモリはまごうことなき使い道の分からないメモリだということだ。

「ハズレのメモリだったのでしょうか?」

「というか、なんで長谷川さんが?」

「って、それはともかく! 追いかけてくるぞ! 早く違うメモリを!」

 

〈ドラゴン! マキシマムドライブ!!〉

「おっ! これならマトモな攻撃が出来るかも!」

 

「龍には龍だ! いけぇぇ!!」

 

「な、何!?」

「誰か現れましたよ!」

「あの人は……」

 

「君達の想い、しかと受け止めた! ここはこの私、ドラゴン隊長に任せろ!!」

「誰だぁぁぁぁぁ!?」

 

「ド、ドラゴン隊長!?」

「どこかで見たことがあるような……」

「これ以上は詮索するな! ていうか、こんなマイナーキャラ誰も覚えてねぇよ!!」

 

「とりあえず行きましょう! ドラゴン隊長さんに任せて!」

 

・第七十七訓 超パフュームとソーサラーの戦い

 

「チッ! 面倒な奴らに出くわしたわね……!」

 思い通りには事が進まず、ソーサラーはつい憤っている。現在彼女と衝突しているのは、シリカ、リズベット、リーファ、シノンの女子四人とピナであった。

「「ハァァァ!!」」

「ウゥゥ!!」

「ナー!!」

 彼女達はソーサラーの使役するグールと戦っており、武器や格闘技を用いて次々と蹴散らしている。

 元は妙の料理から逃れるために逃げていたが、その道中で偶然にも現実世界に戻ってきたソーサラーと遭遇。依然に受けた屈辱を果たすべく、全力でこの戦いに挑んでいた。

「フッ、ハァ! そこよ!」

 特にシノンは一段と気合が入っている。弓矢による遠距離攻撃に加えて、蹴り技を交えた接近攻撃で、グールを次々と薙ぎ倒していく。

 ソーサラーと一戦を交えて敗北した分、譲れない気持ちが彼女にはあった。

「これで最後よ!」

「ウグルゥゥゥ!」

 リーファ達の勇気ある奮闘により、ソーサラーの連れてきていたグールは瞬く間に全て倒しきっている。

「あらあら。前よりも成長しているじゃない、アンタ達」

「当ったり前よ! アタシ達だって、着実に成長しているのよ!」

 

「残るはアナタだけです!」

「ナー!」

「このまま一気に倒すんだから!」

 

「アナタだけは……私の手で引導を渡すわ!」

 

「ったく、いちいちうるさいんだよ。全然くたばらないから、妖精って大嫌いなのよ!!」

〈サンダー! ナウ!!〉

 

「「「「ハァァァ!!」」」」

 

・第八十訓より キリトと銀時の会話

 

ってそういえば、オベイロンも確かお前の世界にいたんだっけか?」

「そうだな。よくよく考えたら、銀さんに話したことあったか?」

「悪ぃ。半分聞いてなくて忘れたかもな。もう一回説明してくれや」

「半分ってほぼ聞いてないだろ。まぁ説明するのは良いけど……」

 キリトが知るオベイロンの特徴を、まだ詳しく聞いていなかったという。もしかすると別の機会に話したかもしれないが、銀時曰く半分も聞き流していたとのこと。あまりにも適当な返答に、キリトも思わずツッコミを入れていたが。

 それでも話の流れを鑑みて、キリトは銀時に自身の知るオベイロンを説明していく。依然として二人の会話が続く中、様子を見張っていたシノンらは段々と覗き見に飽きてしまう。

「ふわぁぁ。いつまで相談しているのよ」

「時間が経つたびに、声が小さくなってませんか?」

「あのシグルドと何か一悶着ありそうな様子だけど……」

 どうやらキリトらの声の大きさが変わったことで、途中からはあまり会話を聴き取れなかったらしい。そのせいで興味も薄れていき、今は会話が終わらないか待機する始末である。女子達はみなとろけたような表情となり、仕舞いには欠伸までお構いなしにしていた。

 気長にも二人の会話が終わるのを待っていたが……新たな話題によって、さらに終了が遠ざかってしまう。

「俺の出会ったオベイロンはアスナに執着していて、自分が管理者なのを良いことに好き放題やっていたんだよ」

「うわぁ、マジかよ。アイツに執着するなんざ、本気を出したらギタギタのメタメタにされるぞ」

「まぁ反撃されないようにアイツは仕掛けていたんだけどな。でもこの世界にいるオベイロンは、元の世界のアイツとちょっと違う気がするな。力とか権力への執着が異常というか……」

「どっちにしろ、クズ野郎に変わりはないだろ」

「それはそうだな……」

 キリトの知るオベイロンと、この世界にいたオベイロンを二人は比較していた。多少の違いはあるものの、総じて分かるのは、善人ではなく救いようのない極悪人であること。だからこそ同情の余地などなく、ためらうことなく戦えるのだが。さらに話を進めていくと、銀時はキリトから聞かされたオベイロンの異常性にドン引きしている。

「まだ終わらないんですか?」

「話に如何にか割り込みたいけど……」

「なんか行きづらいのよね」

 一方の女子達も調子を整えつつ、話に割り込む隙を伺っていく。皆が揃って場の空気を読んでおり、闇雲に突入することも無かった。それでもなお、キリトと話したくてうずうずしているのだが。

 と一瞬の隙も見逃さない彼女達の元に、仲間の男が突然口出ししていく。

 

・第八十二訓 世界樹侵入シーンより

 

 早々にはまとまらない北東側の陽動作戦。シグルドもそわそわしながら様子を伺っていると、意外な人物が前に出ている。

[ここは俺に任せろ]

「ナ?」

「ワフ?」

 ペット組を代表して、エリザベスがプラカードを掲げていた。とある陽動作戦を思いつき、仲間達に提案しようとしたのだが……

「いいか! 俺の作戦があれば、すぐに君達を世界樹へ連れ込むことが出来るのだぞ!」

「お前のチンケな作戦なんざ、すぐにバレるのがオチに決まってんだろ!」

「だいたいなんですか、桂ップにヅラ子って!」

「ここはネタ見せ番組じゃないのよ!!」

「ここは桂さん、考え直した方が良いと思うぞ」

「同じくね」

彼らは桂への文句に躍起となっている。本人は真面目に考えていたようだが、やはりどう見てもふざけているようにしか見えない。肝心なところで亀裂が生じている。(無理矢理実行に移した、南東組よりかはマシに見えるが)

 話し合いが長引いていることにシグルドも危惧していると、エリザベスは誰の相談もせず勝手に実行へ移そうとしている。

[仕方ない。ここは無理にでも仕掛けるか?]

「ナァ?(さぁ?)」

「ワフ……(こっちの存在がバレなかったら良いと思う)」

[分かった。ならばやろう]

 一応定春やピナに確認を貰ったところで、エリザベスは覚悟を決めていく。すると彼は黄色い嘴から、細長い大砲を装備する。それを上空に向けたところで――

[発射!!]

勢いよく一つのミサイルを発射していた。ミサイルは低空飛行のまま落下していき、

〈ドガーン!!〉

「何、爆発!?」

「あそこだ! 向かうぞ!」

大通り付近に着弾している。辺り一面に爆発音が響き渡り、異変に気付いたプテラノドンヤミーらはすぐに現場へと向かっていた。おかげで警備は手薄になっている。

 唐突にも訪れた異変には、銀時やキリトらも気が付いていた。

「えっ? な、なんですか!?」

「爆発……?」

 不意にも一行が辺りを見渡すと、そこには驚いた表情で佇むシグルド。そしてバズーカを徐に体内へとしまうエリザベスの姿が目に見えている。ちなみにピナと定春は、「やっぱり」とやや呆れた表情でエリザベスを見ていた。

「ま、まさかエリザベスが仕掛けたの……?」

 驚きながらシノンが問うと、エリザベスはゆっくりと頷く。

[さぁ、敵は撒いたぞ。今の内だ!]

「お、おう!」

 いまいち状況を読み込めないキリトらだが、ただ一つ分かるのは自分達に風が向いていることである。怪人達の注意が爆発へ向いているうちに、一行は世界樹へ入り込むつもりだ。その最中に銀時は桂に小言をぶつけていく。

 

 

・第八十二訓 ユイとオーマジオウの邂逅

 

 突如ユイの目の前に現れたのは、クウガからジオウを始めとする二十人の平成仮面ライダー達。言葉を発さぬまま皆決めポーズを交わしていくと、ライダー達を代表してエグゼイド、ビルド、ジオウの三人がユイに励ましの言葉をかけていく。

「今の君ならば、きっと運命を変えられる」

「愛と平和の意味に気付いている君ならな」

「未来を切り開けるよ! さぁ、行って!」

「うぅ!? か、変わった……?」

 各々が意味深な言葉をかけていくと、またも場面が切り替わっていく。先ほどまでいた二十人の平成仮面ライダーが消えて、次に見えたのは荒廃し切った平地とあの最高最善の魔王の姿である。

「お前か? 次元遺跡に認められた者は?」

 力強い声が聞こえて、ユイはふと後ろを振り向いていく。するとそこには、ジオウとよく似た戦士が覇気を放ちながら佇んでいた。

「えっ……ジオウさんですか?」

「違う。私の名はオーマジオウ。全ての仮面ライダーの力を受け継ぐものだ」

「オーマジオウさん……?」

 そう、彼の名はオーマジオウ。ジオウが全ての仮面ライダーの力を受け継いだ姿であり、その容姿はまるで魔王とも揶揄出来る。金色に覆われた外見に、複雑な造形の目立つ重々しい鎧。背中には時計の針に似たマントが付けられ、複眼は禍々しい赤色に覆われた「ライダー」という文字が独特な存在感を解き放っている。

 ジオウとは明らかに違うこれらの外観から、ユイはジオウとオーマジオウの関係性を内心で探っていく。

(ジオウさんとは違うのでしょうか? レベルが上がって進化? パパと同じく幻影魔法で化けている可能性も……いや、ジオウさんのパパということですか!?)

 絶妙に正解へ近いものもあれば、正解とは程遠い勘違いな答えもユイは思い浮かばせている。一人で考えを煮詰めていく中、オーマジオウはユイの実力を見極めようとしていた。

「早速だがお前に問おう。もしライダーの力を手にして、お前ならば何に使うか?」

「ライダーの力ですか……?」

「荷が重すぎるか? そう謙遜はするな。お前なりの答えを、私に示せば良いのだからな」

 彼が聞いたことはたった一つ。力の利用方法である。膨大に有り余るほどのライダーの力を、託せる器であるかオーマジオウは判断するようだ。

 壮大な話を聞き入れて、ユイは一瞬だけ怖気づいてしまうも、すぐに立て直して自身の気持ちを整えていく。そして彼女は――覚悟の決まった表情で、オーマジオウに返答する。

「そんなの決まっています。この星を守るために使います! あの人の暴走を止めるためにも……!」

 凛とした目つきで彼に伝えてきたのは、平和を取り戻す覚悟であった。オベイロン及びマッドネバーの暴挙を止めるため。囚われた人々を救うため。彼によって奪われた未来を取り戻すために、ライダーの力を使うと自負していく。彼女なりの力の使い道を強く誇示していく。

 するとオーマジオウはゆっくりと頷き、ユイを率直に褒め称えてきた。

「お前の眼に偽りは無さそうだな。流石は選ばれし者だ」

「えっ……? もしかして、私のことを知っているのですか?」

 選ばれし者と発してユイが気になり問い直すと、オーマジオウは自身と次元遺跡の関係性を彼女に明かしていく。

「もちろんだ。次元遺跡で起きた数々の出来事……これも私の意思だ」

「扉の仕掛けも、あのオーロラも?」

「そうだ。この遺跡は本来次なる継承者へ託すために、私が用意したものだ。しかし何者かが介入し、意図的にこの力を奪おうとしてきた。そこで私は同時にやって来た君達に目を付けた」

「そうだったんですね……」

 その事実を聞き入れ、ユイは一段と驚嘆した表情を浮かべていた。次元遺跡は本来誰にも見つけられない場所だったが、想定外にもマッドネバーに狙いを付けられたこと。次元遺跡で起きた数々の不可解な行動は、オーマジオウが絡んでいたこと。どれも初耳である。

「ということは、マッドネバーやオベイロンには力を託すつもりはないのですか?」

「当たり前だ。あのような最低最悪の男に、我らの力を託すつもりは毛頭ない」

 さらにはマッドネバーとの明確な敵対関係も彼女に明かしていく。オベイロンのことも最低最悪の男と見下していた。

 とそれらの話を踏まえて、オーマジオウはユイを認めた理由を明かす。

「中でもお前には、無限の可能性が秘められている。善悪を理解し、それを制御出来ると私は見込んだ。そこで君やその仲間達を、最深部まで迎えることにしたのだ」

「じゃ……フィリアさんやリズベットさん、近藤さんはダメだったのですか?」

「残念ながらな。一歩及ばずと言ったところか」

 あくまでもユイの信念や想いに応えたのみであり、彼女の仲間達とは扱いが違うという。そう言葉を濁す彼に対して、ユイはある気持ちを伝えていく。

「あの……お願いがあります」

「なんだ?」

「もし私に力を託してくれるのならば……パパやママ、銀時さんに新八さん、神楽さんにも分け与えてもらえませんか! 私よりもずっと誰かのために一生懸命になれて、守るために戦える人達なんです! 無理は承知です――でも、よろしくお願いします!」

 無我夢中で熱願してきたのは、万事屋を継承者

 

 ユイのただならぬ熱意を受けて、オーマジオウは少し考えた後に

「良かろう。後はお前の頑張り次第だ。フッ!」

 

「ん!? ……これは?」

「結晶とドライバーを、使いやすいように変えさせてもらったぞ。名付けてヘイセイジェネレーションメモリと、アルヴドライバーだ」

「新しい力……」

 

「強大な力を得たからには必ずその使命を全うすることだ。お前がどのような未来を選ぶのか、楽しみにしているぞ」

「……はい。ありがとうございました!!」

「また会おう。いずれな」

 

・第八十五訓より 助っ人登場シーン

 

 こうして思わぬ協力を得ることになった銀時、キリト、ユウキ達。気になることも多々あるが、とりあえず一行は彼らの好意を素直に受け止めていく。

「って、ここは進んでいいのか?」

「アイツらが言ってんだから、従うべきでしょうよ」

 クラインの一言に沖田が答えていた。すると今度は、銀時が来島へ一応礼を交わしている。

「どういう風の吹き回しか知らねぇが、正直感謝するぜ」

「一応貸しっすよ。全ては晋助様と鬼兵隊のためっす」

 そう言って彼女は戦闘準備を構えていく。万斉、武市、サクヤ、アリシャ、ユージーンも同じように、各々の武器を手にしていた。そんな最中である。

「ねぇ、みんな! ここは私も戦うから、先に行って!」

「フィ、フィリアちゃん!?」

 フィリアはある覚悟を決めて、鬼兵隊や領主達と共闘する意思を見せていた。急な覚悟に仲間達が困惑する中、彼女はその理由を手短に述べている。

「あのコウモリ野郎は、どうしても私の手で決着を付けたいの……だから、お願い!」

 一度敗北を喫したナイトローグへリベンジを果たしたいようだ。その目つきはより真剣さを増しており、一切の迷いが無いようにも見える。

 仲間達も彼女の気持ちを汲み取っていく。

「分かったわ」

「しっかり打ち返すアルよ!」

「ありがとう!」

 アスナや神楽ら女子達の激励もあり、フィリアも素直に感謝を伝えていた。こうして彼女は銀時らの元から、領主や鬼兵隊側に移動している。

「これまた、面白そうなヤツが加わったでござる」

「合計七人か……ギリギリ抑え込めそうかな?」

 突然の参加に万斉らは特に否定的ではない。来る者は拒まずと言ったところか。アリシャは七人の戦力を加味して、幹部怪人の大群をギリギリ抑え込めると予見していた。

 こうして敵味方共に、ようやく戦闘の準備が整っていく。怪人達も狙いを鬼兵隊や領主側に向ける中で、万事屋一行は密かに逃げ道を見出している。

「よし、みんな! こうなったら……」

「強行突入だぁ! コノヤロー!」

「おう!」

「オーケー!」

 銀時やキリトの掛け声の元、強行突入を彼らは決意していく。狙うは密かに空白が出来ている右側の通路。この一点に集中しつつ、皆が勢いよく走り出していた。

「「「ハァァァ!!」」」

 もはや勢いとノリで突っ走っており、怪人達を振り切る覚悟で通路を駆け抜けていく。

「ま、待て!」

「させるか!」

 一方の怪人側も彼らを食い止めようとするも、鬼兵隊や領主達、フィリアの連合チームによって思うように動けずにいる。

 行動が制限される中、あっという間に万事屋一行を全員通路へ通させてしまった。

「お前達の相手はアタシらっすよ!」

「さぁ、覚悟すると良い」

 近くにて残ったのは連合チームの面々。来島やサクヤが意気揚々と、怪人達へ改めて宣戦布告している。果たして彼女らに、怪人達を抑え込むことが出来るのだろうか……。

 

 一方勢いのままに最上階までの通路を駆け抜ける一行。曲道や一直線な道を進みながら、オベイロンがいるとされる執務室まで向かう。

「ユッキー! 執務室まであとどのくらいアルか!」

「後……もうすぐだよ!」

 とユウキが残りの距離を大雑把に発していく。奇襲を警戒しつつも、次なる戦いに心構える彼らだったが……状況は咄嗟に一変した。

〈adobent!〉

〈バリア! ナウ!〉

「こ、これは……!?」

 突如として聞こえてきたのは、聞き覚えのある効果音。皆が新たな敵の気配に警戒する中……ユウキはその脅威をまたも察している。

「伏せて!!」

 仲間達にも警告を促した時である。

「グラァァァ!!」

「キャ!?」

「うわぁ!?」

「おい、なんだ!?」

 何の前触れもなく、反射材からはドラグブラッカーが出現。その巨体を生かして、桂やクラインらへ体当たりを仕掛けていく。

 さらに目の前には、彼らの行く手を阻むが如く、土に覆われた壁が出現。ソーサラーの魔法によって、妨害を仕掛けられたようだ。

 そんな最中、辛うじて被害を受けなかった者達もいる。銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユウキ、定春の六人と一匹だった。ちょうど前線にいた彼らは、ユウキの警告によって運良く奇襲を回避している。仲間の安否が心配なところだが。

「み、みんな!?」

「さてはまたダークライダー共アルか!」

「早く助けに――」

 と仕掛けられた壁を壊してまでも、置いてかれた仲間達を助け出そうとした時である。

「いえ、私達に構わずに行ってください!」

「シウネー?」

 壁越しからは、シウネーの大きな声が聞こえてきた。どうやら自分達よりも、ユイやオベイロンのことを優先すべきとのことである。それは彼女に限らず、仲間達も同じ想いだった。

「どうせ、いつものアイツらでしょ! 平気だって!」

「それに真選組や桂さん達もいますから、何も心配は無いですよ!」

 

・第八十六訓より 幹部怪人の戦闘シーン

 

 引き続き怪人達の足止めを行う鬼兵隊らだったが、やはり時間をかけるうちに限界が生じてしまう。一部の怪人達は彼らの目を盗み、執務室へと向かうべく抜け出してしまった。

「あっ、奴らめ……!」

「構うな! 私達は目の前にいる敵へ集中しろ!」

 見逃した敵は致し方ないと括り、彼らはこれ以上逃がさないためにより戦闘に力を入れていく。冷静な判断を踏まえつつ、上手く作戦遂行のために動いていた。

 一方で抜け出した怪人達は、レオイマジン、ナスカ・ドーパント、ジェミニ・ゾディアーツ、ハテナバグスターの四体。オベイロンの身を案じ、彼の加勢に加わろうとしたが……

「フッ!」

「ナ!?」

その道中で彼らは思わぬ奇襲を受けてしまう。現れたのはマッドネバーの戦闘員……ではなく、その恰好をした不審者である。幹部怪人達も彼らがすぐに偽者だと気付いていく。

「ここから先は行かせないわよ」

「もうこんな変装もいらないってことだ!」

 そう意気揚々と発すると、彼らはためらいもなく変装していた服装を脱いでいた。するとそこには、見慣れた格好を着用した十一人の精鋭達が佇んでいる。各々が得意とする武器を持った彼らの正体は、誰にも悟られずに忍び込んでいた妙やジュンらであった。

彼らは断片的にしか銀時らの事情を知らないが、ひとまずはフィリア達と同じく足止めを行うことで皆の意見が一致している。

当然怪人達にとっては、信じ難い光景ではあった。てっきりメモリの力で、サイバー空間に幽閉されていると思ったからである。

「き、貴様らは……!」

「騎士団!?」

「そゆこと。色々あって、あの空間から抜け出したのよ!」

「私達が止めてみせますよ……!」

「覚悟しろ!」

 多くは語らずにスリーピングナイツの面々は、皆が戦う準備を整えていた。それは妙らも同じである。

「さぁ、行くわよ!」

 銀時らが知らぬ傍らで、こちらも守るための戦いが始まっていた。

 

第八十七訓 平成仮面ライダー登場シーン

 

 とダークライダー達が攻撃を差し向けようとした――その時である。

「「させるか!!」」

「ダブル!」

「ビルド!」

 聞き覚えのある男達の声と共に、土方やリーファらの目の前に金色の扉が出現する。またしても年号が描かれており、2009からは仮面ライダーW(サイクロンジョーカーエクストリーム)。2017からは仮面ライダービルド(ジーニアスフォーム)。各々が持つ得手、プリズムビッカーとフルボトルバスターを用いて、ダークライダー達の遠距離攻撃を力づくで受け止めていく。

「「はぁぁ!!」」

 そして瞬く間にエネルギーを相殺。突然のライダー召喚には、敵味方問わず全員を騒然とさせてしまう。

「何!?」

「またライダー!?」

 

 さらには二人の平成仮面ライダー達も、とある技を仕掛けていく。

「一気に決めるぞ」

「あぁ!」

〈サイクロン! ヒート! ルナ! ジョーカー! マキシマムドライブ!!〉

〈掃除機! ヘリコプター! 扇風機! ドライヤー! アルティメットマッチブレイク!!〉

 ダブルはガイアメモリ。ビルドはフルボトルを武器に装填。とっておきの必殺技を、ダークライダー達へお見舞いしていく。

「ビッカーファイナイリュージョン!」

「行けぇ!」

「うわぁ!?」

「光に熱風か!?」

 ダブルはガイアメモリの力によって、プリズムビッカーから眩い光を射出。ビルドはフルボトルの力を混ぜ込み、強風や熱風を模したエネルギー波を辺り一面に吹かせていた。

 

・第九十三訓 没シーン イサオトルネイダー

 

「消去します」

「何!?」

「伏せろ!!」

 突然場には水しぶきを含めた衝撃波が襲い掛かり、皆が防御姿勢を構えつつその攻撃を防ぎきっている。

 改めて襲撃した張本人を確認してみると、目の前には幹部怪人の一体であるガンマイザー・リキッドが出現。水の力を宿した特殊な怪人であり、自身を液状化することも出来る厄介さも持ち合わせている。

「こいつは……まだいたのかよ」

「作用……消去する」

 そう無感情に呟いたガンマイザー・リキッドは、体を液状化して辺り一帯を縦横無尽に動き回っていた。恐らく銀時らをかく乱させる一種の作戦であろう。

「ったく、面倒なまた相手にすんのかよ。こうなったら、また使うしかないな」

「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」

 トリッキーな動きを続けるガンマイザー・リキッドにしびれを切らしたのか、銀時はまたしてもファイナルフォームライドの一端を解き放とうとしている。それを知った仲間達は、揃って怪訝な表情を浮かべていた。勝手に体を武器に変えられることに、絶大な恐怖心を感じてしまう。

 そんな仲間の様子などは気にせずに、銀時は黙々とアルヴドライバーを操作していた。

〈ディケイド! アギト! ファイナルフォームパワー!!〉

〈ファイナルフォームライド、ア、ア、ア、アギト!!〉

 次に使用したのはアギトのファイナルフォームライド。これはアギトを特殊なサポートマシン、アギトトルネイダーに変貌させる力である。

 早速銀時は代わりになるような仲間を選別しようとした。

「さて……じゃ、ゴリラ。てめぇにするか」

「はぁ、俺!? おい、万事屋! 考え直してくれ! そんな俺は武器に向いてねぇから」

「武器じゃねぇっての。人間ボードだ、コノヤロー」

「えっ? って、ギャァァァ!!」

「こ、近藤さん!?」

 彼が目を付けたのはたまたま近くにいた近藤であり、内心ではただ頑丈そうだからと言う安直な理由で一任している。必死に拒む近藤の反応などつゆ知らず、銀時は近藤の背中へ回り込むと、早速アギトトルネイダ―……いや、イサオトルネイダ―に変形しようと企てていく。

「おぉ、なんだ!?」

「よぉし。どんどん出来てきているんじゃないか」

 近藤が驚くのも無理はない。銀時が彼の背中を開くような仕草をすると、後方からはアギトトルネイダーと酷似した後部が出現。近藤は半強制的に宙へと浮き上がり、腕や足、頭部などが変形していく。ほんの数秒間でイサオトルネイダ―は完成したのだ。

「こ、近藤さんがサーフボードに?」

「武器じゃないの……?」

 先ほどまで目にしたクラインブレ―ドとはまた違った変化に、ジュンやリーファらは目をまくしたてていく。同時に嫌な予感もしたのだが……その予感は大方当たることになる。

「あらよっと」

「って……何お前は近藤さんに乗ってんだぁぁぁあ!!」

 銀時は一切のためらいがなく、近藤が変化したイサオトルネイダーへ堂々と乗っかっていた。所謂サーフボードやスノーボードに乗るような感覚で、液状化したガンマイザー・リキッドを追尾していく。巻き込まれた近藤にとっては、とてもたまったもんじゃないのだが。

「お、おい、万事屋! 今の俺どうなってんだ!? ずっと地面しか見えないんだが……」

「そう焦るんじゃねぇよ。お前はこれから飛び回るんだからよ。ちょっとの間だけ、我慢しとけよ」

「えっ? って、ギァァァァァ!!」

 そう会話を交わした途端に、イサオトルネイダーは自身の意志とは反して動き出す。どうやら銀時の匙加減で上下左右に動けるようだ。

 主導権を完全に握った銀時は、バランス感覚を程よく調整しながら、イサオトルネイダーを試運転。空中浮遊を使いこなしつつ、クラインや土方らがいる場所まで突撃していく。

「ん? こっちに来ているんじゃないですかい?」

「はぁ? って、バカ! おい、なんで来るんだよ!!」

 彼の向かう方向に気付いた七人は、衝突を恐れて焦りだしている。咄嗟に移動しようとした時……銀時はどさくさに紛れて、土方と沖田の二人をイサオトルネイダーへと乗っけっている。

「うわぁ!? って、土方さんに沖田さん!?」

「二人も乗っかっただと?」

 一瞬のうちに起きた出来事には、リーファや九兵衛ら仲間達は戸惑いの声を上げていた。近藤も含めて四人の動向をつい不安視してしまう。

 地上に残されたのはリーファ、九兵衛、クライン、エギル、ジュンの五人であり、皆が銀時らの様子を目で追っていた……その時である。

「ん? みんな! アレを!」

「アレ? って、あいつは……!?」

 ジュンが後ろから近づく気配に気づき、仲間達へ警戒を呼び掛けていた。ふと一行が後ろへ振り返ると、そこには幹部怪人の一体であるフリーズロイミュードが、余裕そうな態度でこちらへ近づいていく。特殊な機械生命体の一体であり、フリーズロイミュードは氷の属性に加えて、超進化態という一般の個体に比べて戦闘能力が大幅に上がっている。要するにそう簡単には倒せない相手だ。

 クラインらが新たなる敵に身構える中で、フリーズロイミュードは早速自慢の氷技を披露していく。

「凍てつけ! 反逆する者たちよ……!」

 その言葉と共に解き放つは、全身から解き放たれる猛吹雪。周りを一瞬にして凍えさせる技であり、歯向かうクラインらを一掃しようと企てていく。

 猛吹雪はうねりを上げて、五人へ容赦なく襲い掛かろうとしている――そんな時だった。

「させるか!」

「って、キリト!?」

「お兄ちゃん!?」

 クラインやリーファらの目の前に現れたのは、ちょうど近くで別の敵を撃破したばかりのキリトである。彼は真剣そうな表情のまま、瞬時にこの窮地を乗り切れるであろうライダーの力を解き放っていく。

(氷の相手なら炎が有効か? いや、相手の予測を上回る行動択が大事か)

 アルヴドライバーを操作しながら考えたのは、柔軟かつ効率的な方法である。咄嗟に炎関係の技を借りようとしたが、吹雪攻撃が広範囲に及べば自分一人では対処も難しい。

 そう危機を察したキリトは、ふとあるライダーの力が頭に思い浮かんでいた。

「こういう時は……これだ!」

〈エグゼイド! ダブルアクションパワー!!〉

 彼が解放した力はエグゼイドのダブルアクションゲーマー。数あるライダーの中でも一風変わった能力が特徴的だが……ちょうど同じタイミングで暴風交じりな吹雪が一極集中して、キリトへと襲い掛かっていた。

「キリト!?」

「キリト君!? 大丈夫か!?」

「おい、どうなったんだ!?」

 真正面から一人で受け止めたキリトの安否が気になり、つい心配の声を上げていくエギル、九兵衛、ジュンら仲間達。使用したライダーの力が分からぬまま、不安は刻一刻と募らせていく。

「ふっ……愚かな奴め」

 仕掛けた側のフリーズロイミュードも、自身の実質的な勝利を確信している。このままとどめを刺そうとしたが……

「「はぁ!!」」

「何!?」

「えっ?」

「なんだ!?」

状況は一瞬にして逆転されていた。キリトは再びマックスフレアの力を借りて、炎の剣と化したエクスキャリバーを周りへ振るい、吹雪や冷気を瞬く間に相殺している。

 立ち込めてきた霧の中で一行が目にしたのは……キリトの意外な姿であった。

〈ダブルアップ! 俺がお前で~! お前が俺で! ウィアー!! マイティ! マイティ! ブラザーズ……ダブルエックス!!〉

 その名の通り。エグゼイドのダブルアクションゲーマーは、一人から二人に分身する特殊な姿。各々が意志を持ち、超強力プレイで数々の強敵を倒してきたのだ。

 この力をキリトが使用すると、なんと現在使用しているALOのアバターに加えて、かつて「フェアリーダンス編」にて活躍した初期のスプリガンのアバターも登場していたのだ。髪型や服装、武器に違いは見られるが、どちらもまごうことなきキリトである。

 そんな二人の振るった炎のエクスキャリバーによって、フリーズロイミュードが放った渾身の攻撃はまったくの無駄撃ちに終わってしまう。

 一方で二人に分割したキリトを目にして、仲間達は各々困惑した反応を示している。

「ふ、増えてる?」

「どっちもキリト君か?」

 何とも言えない表情を浮かべるジュンや九兵衛に対して、

「おい……確か前の髪型のキリトだよな?」

「ライダーの力を使えば、かつてのアバターを呼び起こせるのか?」

すぐに昔のアバターのキリトを思い起こすクラインやエギル。やはり彼との繋がりの深さによって、反応はまばらに変わるらしい。特にリーファは、誰よりも懐かしい気持ちを思い出している。

「なんだか懐かしい姿ね……」

 旧ALOで経験した旅路を脳内に浮かべており、少しだけ優し気な表情を浮かべていた。絶大な安心感を抱きかかえながら、二人に増えたキリトをそっと見守っていく。

「さぁ、行こう!」

「おう! 超強力プレイでクリアするぞ!」

 一方でキリトはもう一人に増えた自分と意思疎通しつつ、厄介な能力を持つフリーズロイミュードを討伐すべく、闘志を存分に高めていく。アルヴドライバーを操作していき、エグゼイドに相応しい武器も召喚していた。

〈ガシャコンブレイカー!〉

〈ガシャコンキースラッシャー!〉

「「はぁ!!」」

 旧版のキリトはブレードモードを展開しているガシャコンブレイカーを。新版のキリトはキー操作が可能なガシャコンキースラッシャーを装備。本来所持している長剣と合わせて、二刀流戦法でフリーズロイミュードへ挑んでいく。

「フッ!」

「なんの!」

 手始めに新キリトがガシャコンキースラッシャーとエクスキャリバーを振るいつつ、大胆にも接近戦も展開。すぐにコツを覚えていき、戦況を有利に進めていく。

〈ジャジャジャキーン!!〉

「ハァ!!」

 武器に装備されたキーを巧みに操り、連続攻撃を繰り出していく。相手の動きに鈍さが生じた時に、

「今だ!」

「任せろ!」

「グッ!?」

背後からもう一人のキリトが斬りかかる。ガシャコンブレイカーと大型の剣を力強く振るって、フリーズロイミュードの隙を見事に突いていく。

「ハァァァ!!」

 攻撃を設ける手段を一切与えることなく、次々と相手の策を封じる二人のキリト。終始押され気味のフリーズロイミュードの疲弊具合を見定めつつ、キリトらは一気に勝負を決めようと仕掛けていく。

「今だ! これを使え!」

「もちろん!」

 新キリトは旧キリトへ向けて、必殺技を発動するためのライダーガシャットを渡す。ゲームを模した能力を秘めており、旧キリトにはギリギリチャンバラガシャット。新キリトはタドルクエストとバンバンシューティングのガシャットを手にしていく。それらを自分が今所持している武器の窪みへと装填するのである。

〈ガシャット! キメワザ!!〉

〈ギリギリ! クリティカルフィニッシュ!!〉

〈クエスト! クリティカルフィニッシュ!!〉

〈シューティング! クリティカルフィニッシュ!!〉

 必殺技を発動するためのエネルギーが剣へ宿っていき、旧キリトにはチャンバラゲームの力が。新キリトにはファンタジーゲームとシューティングゲームの力が。ゲームに準じたエフェクトを放ちながら、標的をフリーズロイミュードへと定めていく。

 そして遂に待ち望んだ瞬間が訪れていた。

「「ハァァァ!!」」

「させるか! って、何!? うわぁぁっぁあ!!」

 力を解放しつつ、真っ向からフリーズロイミュードへ斬りかかる二人のキリト。冷気を放ち危機を回避しようとするも、二人は止まらずに突き進む。そして互いに相手の体へ交差するように斬撃を与えていき……ものの数分で幹部を打破してしまった。

〈会心の一発!!〉

 渾身の技を受け止めきれなかったフリーズロイミュードは、この音声と共になだらかへ倒れこんで爆発。本気を出した二人のキリトへ成す術なく敗れている。(超強力プレイのおかげではあるが、ほぼ自分一人で行っているため、ある意味でソロプレイとも言えるかもしれない)

「ありがとうな、もう一人の俺」

「なんの。これしき大したことないよ。アイツのこと……絶対に倒せよ!」

「分かっているよ」

 一時戦闘を終えた新キリトは、もう一人の自分に対して激励をかけていく。互いに拳を合わせると、旧キリトは光を放ちつつ姿を消していた。エグゼイドの力による効果だったが、最後にかけられた言葉は嘘偽りない本音だとキリト自身が察していく。その表情も言葉を固く受け止めたようにしっくりきていた。

 仲間達もようやく戦闘が終わったと察していく。

 

 その一方で別の幹部怪人を追いかけるは、銀時と真選組。近藤が変形したイサオトルネイダーを乗りこなしつつ、液状化したガンマイザー・リキッドを追尾している。

「おい! なんでお前らまで乗っかってんだ!! 重いんだよ!」

「悪ぃ、ゴリラ。このボード三人用なんだ。我慢しれくれや」

「どこぞの骨川君張りに屁理屈言ってんじゃねぇよ!」

三人分を体に乗せているためか、苦痛さを訴える近藤に対して、銀時は何食わぬ顔で冗談を交わしていく。本人からツッコミを入れられようが、その意志に変わりは無かった。

一方で沖田や土方は、銀時へさっさと勝負を決めるように急かしていく。全ては近藤の容態を心配してのことだが。

「ていうか、旦那。近藤さんにも限界があるんで、さっさと決めた方が良いですよ」

「もっとスピード出さねぇのかよ」

「分かった、分かった。じゃ急接近して、一気に斬りかかろうじゃねぇか」

「おう、頼むぜ……って、ギァァァァ!!」

 要求へ素直に応じた銀時は、イサオトルネイダーのスピードを調整。限界一杯にまで追い込み、ガンマイザー・リキッドとの距離を縮めていく。勝手にスピードを上げられた側の近藤にとっては、さらに負担が大きくなっていたのだが。

 だがこれで平行線を辿っていた追いかけっこにも大きな動きが見えて、危機を察したガンマイザー・リキッドはようやくその姿を現していた。

「危険を察知。排除」

 そう無機物に呟くと同時に、ガンマイザー・リキッドは水を宿した波動を連続して飛ばしていく。銀時、土方、沖田の三人はそれらを刀で薙ぎ払いながら、そっと必殺技の準備を進めていた。

〈ファイナルアタックライド……ア、ア、ア、アギト!!〉

「こいつで決めるぞ! テメェら、歯を食いしばれ!」

「分かっていやすよ」

「俺に指図するな!」

「いいから早くしてくれ!!」

 アルヴドライバーを操作して、イサオトルネイダーへ必要な力を貯めこんでいく。すると彼らの中心にはアギトの紋章が浮かび上がり、宙に浮かんだままガンマイザー・リキッドへ突撃していく。

 そして、

「「「ハァァ!!」」」

「くっ!?」

各々が刀に込めた一刀で一瞬にて彼女へ斬りかかる。連続して放った一撃の技に、ガンマイザー・リキッドは大きなダメージを負い、

「理解不能……!」

困惑したまま空中にて爆発四散した。再生することも出来ぬまま。

 口喧嘩は交わしつつも、最終的には素直に共闘した銀時と真選組。土壇場で起きた共闘だったが、彼らはその熱意を引っ張ることなく、数秒後には普段通りの険悪さを表情から滲ませている。

「って、いつまでポーズ決めてんだよ。かっこつけるなや」

「はぁ? してねぇわ。つーか、テメェこそイキるんじゃねぇよ!」

「何を人の生き方否定してんだよ」

「そういうことじゃねぇわ!!」

「あぁ~、土方さぁん。人権侵害でさぁ」

「テメェはどっちの味方だ!!」

「ていうか、いい加減俺を元に戻してくれ!!」

 ものの数分でこの体たらく。銀時からヤジが飛ばされ、土方がキレ気味にツッコミを入れると、沖田が悪乗りで加担している。幹部怪人を撃破して間もなくのことだ。そう健気な会話が交わされる中で、ただ一人忘れられている近藤が咄嗟に呼び掛けている。もうイサオトルネイダーとして維持するのが難しいらしい。

「おっと、そうだったな。はぁっと!」

「アギャァァァ!!」

「えっ!?」

「こ、近藤さん!?」

 ようやくその訴えに気付いた銀時は落下する傍らで、近藤を元の姿に戻していく。だがしかし着陸態勢が整っておらず、近藤は地面にめり込む形で強制的に不時着してしまう。ちょうどキリトとリーファら仲間達の間で起きており、その様子を間近で見た一行は騒然としていた。

 ちなみに銀時、土方、沖田の三人は、すっと地面に降り立っている。

「も、元に戻してくれ……」

「いやいや、なんでそんなギャグマンガみたいな落ち方になるんですかい」

「俺が聞きたいよ……」

 早速近藤は救出を呼び掛けており、心配した沖田と土方が彼をギュッと引き上げていた。(沖田だけは無駄口を叩いていたのだが……)

 とそれはさておき、幹部怪人やアンデッドらを撃破して、ようやく周辺の怪人達を片づけることが出来た一行。

 困難を乗り越えたことに感服しながら、一行は一度事態を整理するために集結していく。

「おい、キリト。いつの間にこっちへ来ていたんだよ」

「そういう銀さんも。ずっと敵を相手していたのか?」

「ここにいる税金ドロボーと共にな。ゴリラに至ってはサーフボードになっていたし」

「えぇ!? 何があったんだ?」

 

剣魂 第五、六章登場キャラクター

・銀魂より

坂田銀時(第六十五~七十四・七十六~八十九・九十一~九十六訓)

志村新八(第六十五~八十八・九十一~九十六訓)

神楽(第六十五~七十四・七十六~八十八・九十~九十六訓)

高杉晋助(第七十三~八十・八十二・八十三・八十六~八十八・九十一~九十五訓)

定春(第六十五・七十六~八十八・九十~九十六訓)

近藤勲(第六十六~七十四・七十七~八十・八十二~八十九・九十三~九十六訓)

土方十四郎(第六十六~七十四・七十七~八十・八十二~八十九・九十三~九十六訓)

沖田総悟(第六十六~七十四・七十七~八十・八十二~八十八・九十・九十三~九十六訓)

桂小太郎(第七十三・七十四・七十七~八十八・九十一~九十六訓)

エリザベス(第七十三・七十七~八十九・九十二~九十六訓)

志村妙(第七十三~七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十一~九十六訓)

柳生九兵衛(第七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十・九十三~九十六訓)

猿飛あやめ(第七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十・九十二・九十四~九十六訓)

月詠(第七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・八十九・九十二・九十四~九十六訓)

たま(第七十六・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・八十九・九十二・九十四~九十六訓)

長谷川泰三(第七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十・九十二・九十四~九十六訓)

お登勢(第七十六・七十七・八十一訓)

キャサリン(第七十六・七十七・八十一訓)

河上万斉(第七十三・七十四・七十六~八十・八十三・八十五・八十六・九十四・九十五訓)

来島また子(第七十三・七十四・七十六~八十・八十三・八十五・八十六・九十四・九十五訓)

武市変平太(第七十三・七十四・七十六~八十・八十三・八十五・八十六・九十四・九十五訓)

山崎退(第七十七・八十訓)

原田右ノ助(第八十訓)

 

・ソードアート・オンラインより

キリト(第六十五~七十四・七十六~八十八・九十~九十六訓)

アスナ(第六十五~七十四・七十六~八十八・九十一~九十六訓)

ユイ(第六十五~八十八・九十~九十六訓)

シリカ(第六十六~七十五・七十七~八十九・九十二~九十六訓)

ピナ(第六十六~七十五・七十七~八十九・九十二~九十六訓)

リズベット(第六十六~七十五・七十七~八十九・九十二~九十六訓)

リーファ(第六十六~七十五・七十七~八十・八十二~八十八・九十・九十三~九十六訓)

シノン(第六十六~七十五・七十七~八十九・九十二・九十四~九十六訓)

クライン(第七十三・七十四・七十七~八十・八十二~八十九・九十三~九十六訓)

エギル(第七十六・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十三~九十六訓)

 

ユウキ(原典)(第八十訓)

シウネー(原典)(第八十訓)

 

・仮面ライダークウガより

仮面ライダークウガ(マイティフォーム・ライジングタイタン)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ゴ・ガドル・バ(第六十五・七十五・七十七・八十五~八十八・九十一訓)

ゴ・べミウ・ビ(第七十九・八十七・八十八・九十訓)

ゴ・ジャラジ・ダ(第七十八・八十七・八十八・九十一訓)

 

・仮面ライダーアギトより

仮面ライダーアギト(グランドフォーム・フレイムフォーム・バーニングフォーム)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

地のエル(強化体)(第八十五・九十四訓)

クラブロード(クルスタータ・パレオ)(第七十九・八十七~八十九訓)

ファルコンロード(ウォルクリス・ファルコ)(第八十七・八十八・九十一訓)

オウルロード(ウォルクリス・ウルクス)(第八十二訓)

 

・仮面ライダー龍騎より

仮面ライダー龍騎(通常フォーム・サバイブ)(第七十・七十二・八十二・八十四・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ドラグレッダー(第八十七訓)

ドラグブラッカー(第六十五・六十七・七十六・七十七・九十四訓)

ウィスクラーケン(第八十七~八十九訓)

オメガゼール(第八十七・八十八・九十一訓)

ソロスパイダー(第七十九・八十七・八十八・九十訓)

シアゴースト(第七十五~七十七・八十七・八十八~九十三訓)

レイドラグーン(第七十七・七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

ハイドラグーン(第九十二・九十三訓)

 

・仮面ライダー555より

仮面ライダーファイズ(通常フォーム・アクセルフォーム)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

オートバシン(九十二・九十四・九十五訓)

ライオトルーパー(第七十四・七十五~八十三・八十七・八十八~九十三訓)

ドラゴンオルフェノク(第八十五・九十四訓)

エレファントオルフェノク(第七十八・八十七・八十八・九十訓)

オクトパスオルフェノク(第八十七~八十九訓)

オクラオルフェノク(第八十七~八十九訓)

フリルドリザードオルフェノク(第八十七~八十九訓)

スラッグオルフェノク(第七十九・八十七・八十八・九十一訓)

 

・仮面ライダー剣より

仮面ライダーブレイド(通常フォーム・ジャックフォーム)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ギラファアンデッド(第七十七・八十五~八十七・九十一訓)

ディアーアンデッド(第八十七~八十九・九十三訓)

カプリコーンアンデッド(第七十九・八十七・八十八・九十訓)

リザードアンデッド(第八十七~八十九・九十三訓)

ティターン(第八十七・八十八・九十一訓)

 

・仮面ライダー響鬼より

仮面ライダー響鬼(通常フォーム・装甲)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

茜鷹(第八十七訓)

火焔大将(第七十九・八十五・九十一訓)

ウブメの怪童子(第八十七・八十八・九十一訓)

ウブメの妖姫(第八十七・八十八・九十一訓)

ウブメ(第九十三訓)

魔化魍忍群(第七十五・七十六・七十八・七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

 

・仮面ライダーカブトより

仮面ライダーカブト(ライダーフォーム・ハイパーフォーム)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ウカワーム(第八十五・九十四訓)

キャマラスワーム(第八十七・八十八・九十訓)

コキリアワーム(第七十九・八十七・八十八・九十一訓)

ワーム(サナギ体)(第七十五・七十六・七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

ブラキぺルマワーム(ビリディス)(第九十三訓)

ブラキぺルマワーム(オーランタム)(第九十二訓)

 

・仮面ライダー電王より

仮面ライダー電王(ソードフォーム・ガンフォーム)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

レオイマジン(第七十五~七十七・八十一・八十五~八十七・九十一訓)

アイビーイマジン(第八十七~八十九訓)

ホエールイマジン(第七十九・八十・八十七・八十八・九十訓)

スコーピオンイマジン(第八十七~八十九訓)

ワスプイマジン(第八十七・八十八・九十一訓)

レオソルジャー(第七十五~七十七・七十九・八十七・八十八~九十三訓)

 

・仮面ライダーキバより

仮面ライダーキバ(キバフォーム・ガルルフォーム)(第七十二・八十二・八十六~八十八・九十四・九十五訓)

キバットバットⅢ世(第八十二・八十七・九十五訓)

タツロット(第九十二訓)

キバットバットⅡ世(第六十五・六十七・七十七・九十四訓)

ウォートホッグファンガイア(第七十九・八十七・八十八・九十訓)

シームーンファンガイア(第八十七・八十八・九十訓)

フリルドリザードファンガイア(第七十八・八十七~八十九訓)

シルクモスファンガイア(第八十七・八十八・九十一訓)

 

・仮面ライダーディケイドより

仮面ライダーディケイド(通常フォーム・コンプリートフォーム)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

バッファローロード(タウルス・バリスタ)(第七十五・七十八・八十七・八十八・九十訓)

タイガーオルフェノク(第七十九・八十七・八十八・九十訓)

アリゲーターイマジン(第八十訓)

 

・仮面ライダーWより

仮面ライダーW(サイクロンジョーカー・ファングジョーカー・サイクロンジョーカーエクストリーム)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ナスカ・ドーパント〈レベル3〉(第七十七・八十五~八十七・九十一訓)

マグマ・ドーパント(第七十八・八十七・八十八・九十訓)

アイスエイジ・ドーパント(第八十七~八十九訓)

イエスタデイ・ドーパント(第七十九・八十七・八十八・九十一訓)

ヒート・ドーパント(第八十七・八十八・九十訓)

メタル・ドーパント(第八十七・八十八・九十訓)

ルナ・ドーパント(第八十七~八十九訓)

トリガー・ドーパント(第八十七~八十九訓)

 

・仮面ライダーOOOより

仮面ライダーオーズ(タトバコンボ・タジャドルコンボ・プトティラコンボ)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

カマキリヤミー(第七十八・八十七・八十八・九十訓)

シャムネコヤミー(第八十七~八十九訓)

エイサイヤミー(第七十九・八十七・八十八・九十一訓)

プテラノドンヤミー〈オス・メス〉(第七十八・八十二・八十七・八十八・九十訓)

屑ヤミー(第六十八・六十九・七十五~七十七・七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

 

・仮面ライダーフォーゼより

仮面ライダーフォーゼ(ベースステイツ・エレキステイツ・コズミックステイツ)(第七十二・八十二・八十六~八十八・九十四・九十五訓)

ジェミニ・ゾディアーツ(第七十七・八十五~八十七・九十一訓)

アリエス・ゾディアーツ(第七十五訓)

オリオン・ゾディアーツ(第七十八・八十七~八十九訓)

ユニコーン・ゾディアーツ(第八十七・八十八・九十訓)

アルター・ゾディアーツ(第七十九・八十七・八十八・九十一訓)

ペルセウス・ゾディアーツ(第八十七・八十八・九十訓)

ダスタード(第七十八・七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

 

・仮面ライダーウィザードより

仮面ライダーウィザード(フレイムスタイル・ウォータードラゴン・オールドラゴン)(第七十二・八十二・八十四・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ミノタウロス(第七十八・八十七~八十九訓)

ケットシー(第八十七~八十九訓)

ノーム(第七十九・八十七~八十九訓)

スプリガン(第八十七・八十八・九十訓)

シルフィ(第七十九・八十七・八十八・九十訓)

グール(第六十八・六十九・七十五~七十七・七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

 

・仮面ライダー鎧武より

仮面ライダー鎧武(オレンジアームズ・ジンバーレモンアームズ・カチドキアームズ)(第七十二・八十二・八十四・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

レデュエ(第七十九・八十五・九十四訓)

ビャッコインベス(第七十八・八十七・八十八・九十一訓)

シンムグルン(第七十九・八十七~八十九訓)

 

・仮面ライダードライブより

仮面ライダードライブ(タイプスピード・タイプワイルド)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

トライドロン(第八十七・九十四訓)

ベルトさん(第九十五訓)

シフトカー(マックスフレア・ファンキースパイク・ミッドナイトシャドー・ジャスティスハンター)(第九十訓)

フリーズロイミュード(超進化態)(第八十五~八十七・九十四訓)

アイアンロイミュード(第七十八・八十七~八十九訓)

ソードロイミュード(第七十五・七十九・八十七・八十八・九十訓)

 

・仮面ライダーゴーストより

仮面ライダーゴースト(オレ魂・リョウマ魂・ムゲン魂)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ゴーストパーカー(ムサシ・ロビンフッド・ビリーザキッド・ベンケイ・サンゾウ)(第九十四訓)

ガンマイザーリキッド(第七十九・八十五・九十四訓)

刀眼魔(第七十八・八十七・八十八・九十一訓)

斧眼魔(第七十九・八十七~八十九訓)

 

・仮面ライダーエグゼイドより

仮面ライダーエグゼイド(アクションゲーマーレベル2・ロボットアクションゲーマーレベル3・ハンターアクションゲーマーレベル5・マキシマムゲーマーレベル99〈分離状態〉)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ハテナバグスター(第八十五~八十七・九十二訓)

ソルティバグスター(レベル10)(第七十八・八十七~八十九訓)

アランブラバグスター(レベル5)(第七十九・八十七・八十八・九十一訓)

バグスターウイルス(第七十九・八十一・八十七・八十八~九十三訓)

 

・仮面ライダービルドより

仮面ライダービルド(ラビットタンクフォーム・ニンニンコミックフォーム)(第七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

ストロングスマッシュ(第七十八・八十七~八十九訓)

フライングスマッシュ(第七十九・八十七~八十九訓)

 

・仮面ライダージオウより

仮面ライダージオウ(通常フォーム・ジオウⅡ)(第七十・七十二・八十二・八十七・八十八・九十四・九十五訓)

カッシーン(第七十八~八十三・八十七・八十八~九十三訓)

 

アルブヘイムゲスト

ユウキ(第七十三~八十・八十二~八十八・九十一~九十六訓)

シウネー(第七十三~八十・八十二~八十八・九十一・九十二~九十六訓)

ジュン(第七十三~七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十・九十三~九十六訓)

タルケン(第七十三~七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十一・九十二~九十六訓)

テッチ(第七十三~七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・八十九・九十二~九十六訓)

ノリ(第七十三~七十五・七十七・八十一・八十三・八十六・八十八・九十・九十二~九十六訓)

フレイア(第七十三・七十九・八十・八十二・八十三・八十六~八十八・九十・九十二・九十四~九十六訓)

シグルド/仮面ライダーシグルド(第七十八~八十八・九十二~九十四訓)

ナメクジ研究員/ナイトローグ(第七十八・八十一~八十三・八十五~八十八・九十二・九十三訓)

オベイロン/アナザーエターナル(第六十五・七十~七十六・七十九・八十一・八十五~八十八・九十二~九十五訓)

ユージーン(第七十九・八十・八十三・八十五・八十六・九十四~九十六訓)

サクヤ(第七十九・八十・八十三・八十五・八十六・九十四~九十六訓)

アルシャ・ルー(第七十九・八十・八十三・八十五・八十六・九十四~九十六訓)

フィリア(第六十五~七十三・七十八~八十六・九十四~九十六訓)

セブン(回想のみ)(第七十六訓)

 

オリジナルゲスト(既存キャラ含む)

野卦/仮面ライダーリュウガ(第六十五・六十七・七十~七十七・七十九・八十三~八十八・九十二・九十四訓)

亜由伽/仮面ライダーダークキバ(第六十五・六十七・七十~七十七・七十九・八十一~八十八・九十三・九十四訓)

唖海/仮面ライダーポセイドン(第六十五・六十八~七十七・七十九・八十一~八十八・九十三・九十四訓)

宇堵/仮面ライダーソーサラー(第六十五・六十八~七十七・七十九・八十三~八十八・九十二・九十四訓)

アンカー(第六十五・九十六訓)

シャドームーン(第六十五・九十六訓)

セキさん(第六十五訓)

シマノブ(第六十五・七十八訓)

カヤノン(第六十五・七十八訓)

GGO星からの観光客(第六十五・七十八訓)

観光客たち(第六十六・七十八訓)

爺さん(第六十六訓)

草野アナウンサー(第七十七訓)

結野アナ(第八十一訓)

阿伏兎(ナレーションのみ)



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第一章 万事との出会い篇
第一訓 異世界へ行く時は戸締りを忘れるな! 前篇


初投稿…でしたが色々あって再投稿しました。迷惑かけてすいませんでした。では、再度ご覧ください。


 ※この二次小説は銀魂 将軍暗殺篇前 ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ編後の時系列となります。

 

 多次元宇宙マルチバース。みなさんは知っているだろうか? この宇宙は多くの次元を繋ぎ、様々な宇宙や地球が存在していることを……

 例えば、何一つ変わらない日常で音楽やスポーツを楽しむ少女達のいる世界や、人々が魔法を使いまったく違う文明を築いた世界。人とは違う種族が存在し互いに支えあいながら生きている世界に、人間の自由と平和のために戦う仮面の戦士がいる世界。その数は無限に等しい。

 そんな世界のうち今回は、二つほど詳しく紹介しよう。

 一つは、仮想世界の技術が発達し、人の意識ごとゲームの世界へフルダイブさせる近未来の世界。そしてもう一つは、江戸時代に天人と呼ばれる宇宙人が飛来し日本、いや地球が宇宙へ開国した世界。

 二つの世界は交わることのない遠い次元に存在しているはずだった――だが、あることがきっかけで繋がり新たな物語が起動する!

 

2026年 4月上旬

 ここは、ソードアート・オンラインの次元の世界。今日も桐ケ谷和人ことキリトは、仮想世界ALOで仲間を待っていた。ALOとはアルブヘイムオンラインの略。仮想世界の一つで、アミュスフィアと呼ばれるゴーグルを被りその世界へ行くことができる。そんなALOは妖精がモチーフ。9つの種族が存在して、ゲームプレイヤーはみな、とんがった耳や猫耳へと変化する。さらに背中には透き通った羽が生えて、自由に空を飛べることができる。キリトはこの世界でスプリガンと呼ばれる戦士型を選択。黒髪のストレートヘアーで中性的な顔立ちをしており、黒のコートを身にまとっていた。背中には武器である二本の長剣が装備されている。

「そろそろか」

 町中にある噴水前で待っていた彼は、ふとメニューを開き時刻を確認した。仮想世界では自分の任意でメニューを開くことができ、それを使って仲間と連絡を取り合ったり、手にいれたアイテムを召喚したり、ログアウトして現実世界へ戻ったりすることができる。そして、時刻を確認すると現在は十三時過ぎ。ちょうど集合時間となった。

「お~い!!  キリト君!!」

「パパー!!」

 すると、タイミングよく二人の女子が声をかけてくる。それは、キリトにとって大切な存在であるアスナとユイだった。

「おっ、時間ぴったりだな」

「でしょ! それとね、みんなは買い出ししてから来るって言っていたわ」

「今日のクエストのために張り切っていましたよ!」

「それは、頼もしいな。これでいっそう楽しくなりそうだ!」

 一日ぶりの再会に、思わず微笑みをこぼす三人。今回、キリトとその仲間達は春休みを利用して、ある隠しクエストを攻略する。そのために集まる約束を立てていたのだ。

そんな彼の仲間の一人アスナは、昔からの仲である。四年前、キリトも捕らわれたことのあるデスゲーム「SAO」で知り合い、共に多くの困難を乗り越えて、解放された現在は恋人の関係となった。彼女が選んだ種族は水を操るウンディーネ。ゆえに現実では栗色のロングヘアーだが、このALOでは青髪となっている。女子としては背が高めの身長で、ノースリーブとスカートを着用。足元はニーハイと白ブーツで決めていた。さらに、腰には武器であるレイピアを帯刀している。

 一方でユイも、同じくSAOで知り合ったが、その正体はゲームを監視するAI。さまよっているところを二人に助けられ、以後本物の父親と母親のように慕う仲となった。アスナと同じく腰まで伸びたロングヘアーで、髪の色は黒。また普段は十歳ほどの少女の姿だが、ピクシーとして手のひらに収まるほどの妖精に変身することもでき、仲間をサポートしている。そんな三人は、近くにあったベンチへと座り仲間が来るまで談笑で待つことにした。

「あ~あ。春休みももうすぐ終わっちゃうね……」

「そうだね。しばらくしたらまた学校だしな」

 学校への登校が迫り、憂鬱に思ってしまうアスナ。二人は現在、SAO被害者の通う特別学校へ在籍しており、とれなかった中学や高校の単位をとろうとしている。そんな会話の中でユイはというと、

「でも、終わらない春休みも少し怖いですけどね」

独自の考えを呟く。彼女の返答に、思わず二人はクスッと笑ってしまう。

そんなアスナも一か月前は、ある一人の少女と出会いその一生を見届けていた。それ以来、彼女の心はより成長したとキリトは感じている。

「アスナ――だいぶ成長したな」

「ん? 何か言った、キリト君?」

「いや、何でもないよ」

 少女のために一生懸命になれたからこそ、キリトはその努力を誰よりも知っている。そう心の中で感じていた。そんな時、アスナはとある話題を振ってくる。

「あっ、そうだ、キリト君! マルチバースって知ってる?」

「マルチバース? パラレルワールドみたいなものか?」

「そうそう! この間ね、ユイちゃんに都市伝説系の番組のことを話したら興味を持ってくれて,最近調べているのよね」

 内容はマルチバースについてだった。一体どういうものなのか? 詳細はユイが説明してくれた。

「はい、そうなんですよ! マルチバースとは多次元宇宙論。多くの宇宙が壁のように入り組んでいて、つながっている説なんです!」

「つまり、俺達のいる地球とは別に多くの宇宙や地球が存在しているってことだよな?」

「はい! その通りです!」

 ユイの言う通りマルチバースとは、多くの宇宙が存在している説である。立証はされていないが、ユイはあの番組を見て以降その考えを信じている。二人もこの意見には好意的だった。

「どうですか、パパ? 別の宇宙ってあると思いますか?」

「う~ん……どうかな? 信じがたいけどあるのかもしれないな。最近はブラックホールを通り抜けると、別の宇宙があるって説も出たし」

「別の宇宙か……一体どんな世界があるのかな?」 

「きっとSAOやALOみたいに、本当に魔法やモンスターのある世界とか」

「漫画やアニメとかの世界も、別の宇宙に存在していたりしているのかもな」

「一度でいいから行ってみたいですね! 別の世界に!!」

 三人がマルチバースの話題で持ち切りになり、話していた時である。ふと、周りの変化に気づき始めていく。

「って、アレ?」

「どうしたの? キリト君?」

「時間、止まってないか?」

 開いたメニューを見ているとそこには、先ほど見たはずの時刻が全く動いていなかった。さらに周りを見渡すと、まるで時が止まったかのように他のプレイヤーは動いておらず、キリトら三人だけが流れに逆らって動いていたのである。

「いつの間に、こんなことになったの?」

「一体どうして? 運営のミスでしょうか?」

「いや違う……何かがおかしい……!」

 一瞬、バグの可能性も示唆したがこの現状は普通ではないとキリトは感じ取った。そして、嫌な予感は的中し彼らの頭上に物体が重なりあう。上を見てみるとそこには――

「何だ、アレ……」

巨大で渦巻く黒い雲が仮想世界の空を覆っていたのだ。当然、それに気付いているのは動いている三人だけである。

「あれってまさか、さっき話していたブラックホールじゃないですか!?」

「嘘!? じゃ、なんでこの世界に……」

 見れば見るほどその雲は信じがたい。未体験の恐怖に警戒心を高めていると、急に足音が聞こえてくる。

「足音?」

 現在は誰も動いていないはずだが、足音のする方向へ体を向けるとそこには、

「アハハハハ……どうやら成功したみたいだね。ブラックホール」

黒いローブを羽織った小柄な少女がいた。頭を覆ったフードからほのかに見える口はニヤリと笑い、不気味な雰囲気を漂わせる。

「あなた、何者なの?」

 アスナの問いに彼女は、愉快そうな声で返答した。

「私? まぁ、強いて言うならブラックホールを作り出した張本人ってところかな?」

「あなたが一人でやったんですか?」

「違う~違う~。サイコギルドが作り出したんだよ」

「サイコギルド? それがお前達の組織なのか!?」

「そうだよ~」

 質問されようとどこか楽しんで答える少女の姿は、自分のやったことに責任を感じていないように見える。そもそもサイコギルドは、彼らにとって聞いたことのない組織だ。ブラックホールの生成にゲーム時間そのものを止める能力。それはあまりにも人間離れしており、その行動が常軌を逸していることを物語っていた。

「あなた達の目的は一体なんなの!!」

「早くこの世界を元に戻してくださいよ!!」

 勇気をだして歯向かうアスナとユイだが、もちろん少女が要求に応じるつもりなんてない。そして、ついに最終手段へと彼女は出る。

「フフ……いいよ。その代わりあなた達には犠牲になってもらうけどね!!」

 少女は背中に装備された三つ槍を手に持ち空へと掲げた。その瞬間、上空を渦巻くブラックホールが動き出し、キリト・アスナ・ユイを取り込もうと巨大な竜巻を作りだす。

「うわぁ!! こ、これって……」

「俺達を吸い込もうとしているのか!?」

 ついには竜巻に捕らわれてしまい、体の自由が効かなくなる三人。例え羽を広げても風の勢いは増していき、徐々にブラックホールの目へと近づいていく。

「このままじゃ、吸い込まれちゃいますよ!!」

「そんな……サイコギルド!! 俺達をどうする気だ!!」

 キリトの問いにも彼女は全く動じない。この状況でも彼らがブラックホールへ吸い込まれるのを、ただじっと見るだけである。そして、

「さぁ、行ってらっしゃい……別の地球へ」

その言葉とともに三人は、ブラックホールの目に入り飲み込まれてしまった。

「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」」

「アスナ!! ユイ!!」

 まずは、アスナとユイの二人がブラックホールの彼方へと飛ばされてしまう。それに続きキリトも二人を追いかけ奥へと進むが、漆黒の闇が続いていくとしばらくして気を失い、風のままに三人はある世界へと飛ばされてしまった。

「本当に消えちゃったよ!! さて後は、六人と一匹か……あいつに任せようかな?」

 その様子を眺め満足したローブの少女は、指を鳴らしてブラックホールを消滅させる。すると、何事もなかったかのように時間は元通りに動き、町は賑わいを取り戻す。少女はその人混みの中へと消えていった。

 一方で、現実世界では桐ケ谷和人の部屋と結城明日奈の部屋に本来あるはずの肉体が跡形もなく消えている。こうして物語は始まりを告げた……

 

「アレ? どうなったんだ、俺達……」

 しばらく経ってキリトはようやく目を覚ます。最初に目にしたのは青空とビル。そして起き上がると自分が眠っていたのは、ビルに囲まれた裏路地であることがわかった。

「ここは一体? そういえば二人は!?」

 まだあまり状況は把握していない。周りにはさっきまでいたアスナとユイはいなく、所持品も武器である黒い長剣と金色のエクスキャリバーのみである。ひとまずキリトは試しにメニューを開こうとするが、

「やっぱり、開かないか……」

別の世界のため全く反応しなかった。予測してはいたが、いざその事実に直面すると一気に不安が募り始める。

「……ひとまず外へ出てみるか」

 行動しないと事態が動かないと思い、キリトは太陽の照らす大通り方面へと進む。そして、ようやくこの世界の町並みを見ることができたのだ。

「えっ? ここは――」

 彼は目を疑ってしまう。目にしたのは理解を超えた世界だった。江戸時代のような風景が広がり、町を行き交う人々も和服や振袖で歩く姿が多く、洋服を着ている人が極端に少なかった。その影響かキリト自身も、この世界の住人に好奇の目線で見られてしまう。さらに、驚いたのはこれだけではない。

「建物は江戸と現代が入り混じっているみたいだし、舟も空を飛んでいる? 人間以外の生物も存在しているのか?」

 文明の違いだった。江戸の風景にも関わらず、この世界には高層ビルが乱立し奥には細長いタワーらしき建物がそびえ建っている。しかも人通りを見てみると、そこにはとても人間とは思えない二足歩行の生物が町を歩いている。さらに空中では舟が飛び交い、文明のレベルがキリトの思い描く江戸時代とは異なるほど、科学が発達していた。むしろここは、自分のいた世界より発展しているのかもしれないと感じている。

「本当に別世界なんだな……じゃアスナとユイもこの世界に来ているのか……?」

 これらのことから別の世界と確信したが、不安として残っていたのはアスナとユイの行方だった。本当にこの世界にいるのか? もしかすると、こことはまた別の世界にいる可能性も否定しきれない。キリトはただ立ちすくみ呆然としてしまう。しかし、マイナスな考えを振り切り、自分のやるべきことを心の中で確信させた。

「でも、まだ希望はある――探さないと。二人を!!」

 拳を握り直し気持ちを切り替えたキリトは、その時思わぬ事実へ気付く。

「な、なんだ? 羽?」

 ふと背中を見てみると、そこにはALOでも使用できたアバター特有の羽が生えていた。種族によってその色や形は異なるが、キリトの種族であるスプリガンの場合は、黒く細い羽が四方に生えている。別の世界とはいえ羽はこの世界でも使えるらしい。

「そうか、一応飛べるんだな。なら!」

 するとキリトは、羽に力を込めてあっという間に空中浮遊へ成功。空を飛び始める。

「これで探すか!」

 そして低空飛行のまま町を移動して二人を探すことにした。自分の常識が通用しない世界で、彼の心は不安で押しつぶされそうになっている。戻る方法。泊まる場所。食事など、もし出会えたとしても問題は山積みであった。

(今は二人を探すことに集中しろ。でも、もし見つかったとしても俺達はこの後どうすればいいんだ……どうすれば……)

 邪念を払いのけ、キリトはひたすらに南西方向へと進んでいく。

 

 この世界は仮想世界ではない。かつて侍の国と呼ばれた平行世界の地球である。二十年前、突如宇宙から舞い降りた天人と呼ばれる宇宙人の台頭により地球は宇宙へと開国。江戸時代でありながら高度な技術を持つ文明へと発展していったが、その代償としてこの世界にいた侍は衰退してしまった。しかし、その世界に一人の侍魂を持った男がいる。その男は現在スクーターを走らせ、仲間へ愚痴をこぼしている。

「あ~~いやだ~~働きたくね~~」

「しょっぱなから何を言ってんだ、天パ!! 主人公にあるまじきセリフだよ!!」

 スクーターへ乗り込んでいたのは、二人の男。一人は着物を着た成人男性で、銀髪の天然パーマとけだるそうな表情が際立っていた。さらに腰には、洞爺湖と書かれた木刀を収めている。彼の名は坂田銀時。銀魂の世界における主人公であり頼まれればなんでもやる店、万事屋を営むオーナーでもある。一方もう一人は、袴を着た男子で銀時よりも若い。ツッコミと眼鏡が何よりも特徴的なその男子は、志村新八。万事屋の従業員である。他にも万事屋には神楽や定春といった仲間がいるが、今回はこの場には同行していない。三人と一匹で構成される万事屋は、なんでも屋として小さな手伝いや大きな乱闘まで多種多様に仕事をしている。今回は新八の勧めで二件ほど仕事を見つけてあさっての予定が埋まったのだが、銀時のモチベーションは依然として上がらず、しまいには愚痴を垂れ流しているという。

「あんさ、なんで二件続けてあさってになるわけ? おかしいだろうが」

「仕方ないでしょ。依頼人にちょうどいい日程を聞いたら、二組共この日を選んだんですから」

 なんとかやる気を取り戻してもらおうと思い新八は銀時をなだめていく。しかし愚痴は収まらず、ついにはとんでもないことを口走ってしまう。

「ああ、働きたくねぇよ。なんだったらもうSAOにでも閉じこもって、一生を終えた方がまだマシだよ」

「さりげなくとんでもないことを言ってんじゃねぇよ!! 電撃文庫にも喧嘩を売る気ですか!?」

 SAOをネタにした銀時の発言に、新八はツッコミを入れる。銀魂ではパロディや下ネタは日常茶飯事になので、これでも平常運転であった。一方、銀時の文句は続く。

「だってよ、最近勢いがあるっていうだろ。SAOって」

「確かに……劇場版も売れて三期も決定。この前は外伝もやっていたから、他のアニメから見ればいいライバルですよね」

 新八はSAOの近況について、軽く呟く。銀時もSAOというコンテンツに対してライバル視しているみたいだが、どうやら新八の思っていたこととはだいぶ違うらしい。

「ハァ? 何を言ってんだ、新八? まだ二期すらも始まっていないのに三期とか気が早いんじゃないのか?」

「ええ? だってさっきSAOって」

「バカヤロー。SAOっていうのは――SさてはAアンチだなOオメーってことじゃないのか?」

「そっちぃぃぃぃ!? それポプテ〇ピックだろうが!? SAOってそういう意味じゃないから!! ソードアート・オンラインの略だから!!」

 新八がツッコムのも無理はない。銀時がSAOと〇プテピピックをごっちゃにして、同じように思っていたからだ。ちなみにポプテピピ〇クとはアクの強い四コマ漫画である。とても、SAOとは似ていない作品だが。それは置いといて、新八は銀時へ教え直す。

「ええ!? そうだったの!?」

「そうですよ! SAOはクソ四コマじゃないから! れっきとしたライトノベルだから!」

「あーわかったよ。ソードアンチ・オンラインってことだろ?」

「ポプ〇ピから離れろ!!」

 止まらないボケとツッコミの応酬。まさに銀魂のノリだ。おふざけも済んだところで、二人は話を戻す。

「わかっているよ。SAOって言うのは、キリトやアスナとか出てくるVTR空間を舞台にした作品だろ?」

「VR空間ですけどね。でも、知っているじゃないですか。ひとまず安心しましたよ」

「あったりまえだ。仮にも同じアニプレックス所属のアニメだぞ。だいたいのことは、知ってんだよ」

 どうやらボケで言っていたらしく、銀時はSAOの知識を少しは持っていた。

「確かに。でも抑え目に言わないと、キリトさん達がこの世界へ乗り込んできますよ」

「んなわけないだろ。あいつら真面目な作品だぜ。そんなこと起こらねぇよ」

「確かにそうですね!」

「「ハハハハハ!!」」

 真面目なアニメだからということで、好き放題言ってしまう銀時と新八。この近くにSAOの関係者なんかいるわけない。だからこそ呑気に笑っている。そんな二人が、曲がり角へと差し掛かり右へ進んだ時だった。

「って銀さん!! 前~!! 前~!!」

「うわぁぁぁぁ!?」

 突如目の前に黒い物体が出現する。止めようにももう間に合わず、銀時らは物体とぶつかりスクーターごと横転してしまった。

「って銀さん!? 大丈夫ですか!?」

 幸いにも二人に怪我はなく、新八はすぐに銀時へ声をかける。しかし彼は、体を震えさせて思いっきり動揺していた。

「だ、だ、大丈夫だ! 落ち着け! まずは落ち着いて転移結晶を探せ!!」

「アンタが落ち着け!!」

 SAOに存在するアイテムをネタに、この場から逃れようとする銀時。初期のころに見られたタイムマシンネタである。それはさておき二人は立ち上がると、まずは心を落ち着かせた。

「そ、そうだよな! きっと大丈夫だよな! ぶつかった奴も生きているよな!」

「大丈夫ですよ! ほら、声をかけにいきましょう!」

 呼吸を一旦整えると、二人はぶつかった男のもとへと駆け寄った。

「おーい、大丈夫か?」

「どこもケガはありませんよね?」

 と男の顔を見た時である。共に表情が一瞬にして凍りついてしまう。

「――おい新八。なんで動かないんだ?」

「そういう銀さんも動かなくなっているんじゃないですか」

「だってよ。今、目の前にいるのは誰だ?」

「キリトさんでしょ」

 なぜなら、ぶつかった相手が別の作品の主人公だったからだ。

「新八君……夢じゃないよな?」

「夢じゃありませんよ。だって、この人は紛れもないキリトさんですよ……電撃文庫に所属するSAOの主人公ですよ……!!」

 唐突に現れる沈黙。そしてついに、互いの感情が爆発する。

「って、なんでこの世界に来てるんだよ!!」

「知るわけないだろ、そんなもん!! こっちが聞きたいですよ!!」

 銀時は新八の肩をつかみ自らの疑問を大きく問いかけた。しかし、新八も混乱してどうすればいいのかわからないので、二人の叫びは断末魔のように響き渡っていく。

「おい! 落ち着いて聞けよ、新八! こいつはな、ラノベ主人公の中でもトップに君臨する男だぞ! 俺達のような下ネタとパロディ・終わる終わる詐欺とは無縁といっていいほど遠い存在の男だぞ! なんでそんな男が、この「銀魂」の世界に来ているんだよ! しかもアバターのまま! もうわけがわからねぇよ!! 助けてー!! 川原〇―!!」

「って、SAOの原作者に全て丸投げしているんじゃねぇよ!!」

 焦りのあまり原作者をもネタにした銀時。それくらい彼は、この事態に動揺している。とそんな時、キリトはすぐに気を取り戻した。

「ん? 痛ぁ……ってぶつかったのか?」

 頭を抱え自分の無事を確認する。どうやら、大して体に影響はないらしい。そして、目にした光景は二人の男が喧嘩している場面だった。

「えっ? 何があったんだ?」

 もちろん話しかけようとしても喧嘩に夢中で気づいていない。耳を傾けても、

「だいたいどう対応すりゃいいんだよ!! 俺はな、まともなアニメキャラクターを相手にしたことがねぇんだよ!! 下ネタもメタネタも通じなねぇ男主人公にどう対応すりゃいいんだよ!!」

「落ち着いてくださいよ、銀さん!! なんとかなりますから!! 銀さんならできますから!!」

連続したメタ発言により意味がわからず、理解していなかった。

【挿絵表示】

 

「どういうことだ? 銀さんというのは、あの男なのか?」

 会話の中で、キリトは銀髪の男の名前を銀さんだと理解した。しかし、それ以外は全く意味が分からない。とその時、遠くの方である声が聞こえてきた。

「この声は!?」

 その瞬間キリトの表情は一変する。かすかだがアスナとユイの声が聞こえたからだ。衝動的に動き、キリトはこの場をすみやかに去っていく。

「って銀さん!? 見てくださいよ!!」

「なんだよ!! って、あいつ!? どこ行きやがった!?」

 一方で銀時、新八はようやくキリトが逃げ出したことに気付く。彼が逃げたと思われる路地を進み大通りへ出てみると、

「あっ!! いましたよ!!」

南東方向へ羽を広げて、どこかへと向かうキリトの姿を見つけていた。

「いくぞ!! ぱっつぁん!!」

「はい!!」

 二人はスクーターを起こして、勢いよく乗り込む。急発進して、キリトの元を追いかけた。すると、数分も経たないうちに空を飛ぶ彼の元へと辿り着く。

「ん!? あっ!! さっきの男達!? 確か、銀さんだったか!?」

 気配を感じたキリトが後ろを振り返ると、そこには先ほど喧嘩をしていた二人が、すごい剣幕で追いかけてくるのが見えた。そして銀時が、勢いよく話しかけてくる。

「おい、どうしたんだよ!! 急に起き上がったと思いきやトンボみたいに飛びやがって!! 一体、何があったんだよ!!」

「さっき、アスナとユイの声が聞こえて今探しているんだよ!」

「アスナ? ユイ? 誰だそりゃ?」

「俺の恋人と子供だ!」

「ああ、そう。って、ええええ!?」

「銀さん!! 前! 前!」

 会話の中で出た言葉に、理解できない銀時はよろけて運転もおぼつかなくなる。新八に注意されてようやく運転も戻ったが、脳内は未だに混乱状態であった。

「おい!! ガキのくせして恋人に腰を振ってセ〇〇〇した挙句〇ス〇を作るとはどういうことだぁ!!」

「って、いきなり下ネタを言うんじゃねぇよ!! 天パ!!」

 勢いのまま下ネタまで口走ってしまう銀時に、新八が強くツッコミを入れる。それを聞いたキリトはというと、

「えっ? 腰ってどういう?」

最初意味がわからずにいたが、徐々に理解していき顔を真っ赤にしてしまった。

「ア、アンタ!! 公共の場で何てことを言ってんだよ!! もうちょっと言葉をわきまえろって!!」

「なんだと!? やることやっておいて、逆ギレしているんじゃねぇよ!!」

「いや、逆ギレはアンタだろ!!」

「そもそもこの世界じゃ公共の場でも金〇とか〇〇〇とかの下ネタが許される世界なんだよ!!」

「それ、どんな世界だよ!!」

「ストップ!! ちょっと待ってくれ!!」

 銀時と新八がボケとツッコミを繰り返しているうちに、キリトが割って入り彼らのスクーターを止めさせた。と同時に、羽を収め地上へ降りると彼らへ話しかける。

「あの、そもそも誰なんだ? アンタ達は?」

「誰って万事屋だけど」

「よろずや?」

 聞いたことのない仕事名にキリトは首を傾げてしまう。すると新八が補足を入れる。

「えっとつまりですね、金さえ払えば家事や人探しをする代行サービスみたいなものですよ」

「それがアンタ達なのか?」

「そういうことだ」

 万事屋の意味を知りキリトの心は少し落ち着いていた。ようやくであるが、話せる相手ができたからである。

(万事屋……この世界のなんでも屋ってところか。この人達に訳を話せば手伝ってくれるのか? でも結局はお金だよな……)

 彼らとの出会いで一筋の希望を感じたが、残念ながら彼はこの世界の金銭を所持していない。またも途方に暮れるキリトの元に突如バイクの音が聞こえ、銀時が声をかけてきた。

「それでそのアスナとユイってやつはどこへいるんだ?」

「えっ?」

 なんと幸運なことに万事屋は、アスナらの捜索を手伝うと言ってきたのだ。これにはキリトも驚きの表情を見せている。

「いいのか? 俺、金なんて持っていないんだぞ!」

「いえ、関係ありませんよ。これは僕らの善意ですからお金なんていりませんよ」

「そうだぜ。だからさっさと案内しろよ。お前がいないと場所なんかわからないからさ」

 銀時達の隠れた優しさを見て、キリトは感じ取ったのだ。この人達は厚い人情を持っていると。少なくとも悪い人間でないことは雰囲気でわかっていた。

(万事屋……まだわからないけど、ここは信じてみるか!)

 そう心に決めると、キリトは再び羽を広げ空中浮遊する。

「よし! じゃ、ついてきてくれ二人共!!」

「ああ! 任せておけ!!」

 こうしてキリトの案内のもと、銀時と新八は彼へ連いていった。まだわからないことだらけだが一つだけわかったのは、キリトの心には彼らに対する信頼が芽生え始めていたことだった。

 

「あ~ん。うん! やっぱりポテトチップスはうすしおネ!」

 銀時がキリトと出会うほんの数分前。一人の少女は、買い食い用として買ったポテトチップスを片手に犬の散歩をしていた。犬といってもその背丈は成人男性くらい大きい。そう彼女こそがもう一人の万事屋メンバー、神楽とそのペット定春である。赤髪にズボン型の赤い中華服を着て、紫色の和傘を手に取っている。実は彼女、地球人ではなく異郷の星出身。いわゆる宇宙人、いや天人なのだ。一方、定春は白い体色のペット。狛犬と呼ばれる由緒正しい犬で、今は万事屋の一員として活躍している。そんな神楽は、いつもの散歩コースとは別に人気の少ない工場地帯を歩いていた。

「定春も食べるアルか? 塩が効いていておいしいアルよ!」

「ワン!」

 威勢の良い鳴き声が返ってくる。これは、興味を持ったサインであった。ちなみに神楽は食い意地の張った性格で、小柄な見た目にも関わらず結構食には太い方である。そんな神楽と定春が散歩を楽しんでいた時、定春はある気配を察した。

「ん? どうしたネ定春?」

 すると彼は近くにあった廃工場へと近づく。

「ワフ~~」

「ここに何かいるアルか?」

 窓の前で止まり怪訝そうな顔でにらみつける定春に、神楽は訳があると思いその窓を見つめる。そこで見たのは、

「あっ! 女の子が二人捕らわれているアル」

気絶した少女二人が倒れこむ様子だった。しかもその奥では、ピンクの色をしたナメクジらしき天人が密談を交わしている。どうやらあの少女達は、なんらかの事件に巻き込まれたようであった。

「ワフ……」

 定春はこの匂いに反応して工場へと近づいたみたいだ。しかしこの状況を様子見して、神楽はしばらく動かないことにする。

「待つネ、定春……今は様子を見るネ」

 小声で交わし神楽と定春はそっと気配を消した。だがこの時、彼女はまだ気づいていない。捕らわれた少女二人が「ソードアート・オンライン」のヒロイン、アスナとユイであることに……

 

「ん? 何が起こったの?」

 一方で、アスナはようやく目を覚ます。見渡すとそこは人気のない廃工場。横にはまだ眠っているユイがおり、目の前には後ろ姿で話し合うナメクジらしき生物が見える。

「やっぱり、ALOじゃないの?」

 試しにメニューを開いてみようにも、当然現れることはない。これが別の世界の証明にもなった。さらに、ナメクジらしき生物からはこんな会話が聞こえてくる。

「いや~いい天人が捕獲できたな」

「これでベーロ様も大喜びだ。ココアでもいれて祝杯としよう!」

 それは、低い男性のような声だった。この二匹の会話から友好的でないと察したアスナは、今自分達のいる状況が危機的であることに気付き始める。

(あまんと? もしかして私達のこと? って、早く逃げないと!!)

 すると彼女はユイを起こし、この場を逃げようと画策した。

「ユイちゃん、起きて! 逃げるわよ!」

「ママ? ここは?」

「説明は後! 今はとにかくこの場を去ろう!」

 ユイもアスナの必死な表情から察して共に脱出を試みる。すぐ近くのドアへ見つからないように移動したのだが……

「アレ開かない?」

「外側から鍵がかかっているのでしょうか?」

残念ながらドアは固く締められていた。これで一つの脱出方法は閉ざされてしまう。

「なら、窓からなら――」

 近くにあった窓を見つけて、次の脱出方法を考えていた時である。

「きゃぁぁぁ!!」

「ユイちゃん!? うわぁぁぁぁ!!」

 二人の足元をヌルヌルした触手が襲い、足を捕まれるとそのまま引き込まれてしまう。そう、あの生物にとうとう見つかってしまったのだ。

「困るね。逃げられてしまったら計画が形崩れだからね」

 ナメクジ達は悪びれることなく黙々と話し出す。その姿は、かつてアスナがALOに捕らわれた時にいたナメクジ型の研究員と酷似しており、アスナ自身もデジャブを感じている。

「くっ……あなた達! もしかしてサイコギルドなの? 私達をどうする気よ!」

 拘束されながらもアスナは冷静さを失っていない。サイコギルドと関連性がないかナメクジ達に問いただしたのだが、

「サイコギルド? 知らないな」

「そんな……」

全く心当たりはなかった。いずれにしても脅威なのに変わりはない。

「さて、能書きはいいからこいつらどうします?」

「逃げられないように体内へ入れて保存しますか?」

「そうしよう」

 会話を交わした後ナメクジ達は、唾液でべっとりした口を開く。そこへアスナとユイを取り込ませようとする。

「ま、まさか、私達を食べる気!?」

「そうだよ。だが安心しろ。殺しはせずに、保存するだけだ。大切な生贄だからな!」

「やめてください!! 離してくださいよ!!」

 危機的な状況を逃れようと二人は抗うも、触手はビクともせず徐々に口元へと近づいてゆく。まさに絶体絶命である。

(くっ……このままだと本当に食べられちゃう……抵抗もできないし、レイピアもこの状況じゃ……)

 腕をも縛られ武器として収めているレイピアを抜くこともできない。戦う手段を失い絶望しかけた時であった。彼女らにようやく救いが訪れる。

〈パキーン!!〉

「ちょっと待つネ!!」

 聞こえてきたのは、窓が割れる音と威勢の良い少女の声。思わず後ろを振り向くとそこには、巨大な白い犬に乗った赤髪の少女が見えた。窓を破壊してやってきた少女は、手にした傘を使いナメクジ達に立ち向かう。

「くらえアル!!」

 傘の先端からガトリング砲を放ち、その弾丸でアスナとユイを縛っていた触手を攻撃。ナメクジ達に痛みを与えたところで、彼女らを解放させた。

「「グワァ!」」

「えっ? きゃっ!」

「よっと!」

 離した隙に神楽はアスナを、定春はユイを乗せて安全に地上へ降ろしたのである。

「な……なんだ!?」

「ガキ一人が助けただと!?」

 突然の出来事に動揺するナメクジ達。一方で、神楽は早速アスナへ話しかけた。

「ふぅー大丈夫だったアルか? 二人共?」

「ええ、何とか……ユイちゃんは?」

「こっちも大丈夫ですよ!」

 どうやら二人共に大きなケガもなく無事で、神楽も安心してほっとする。アスナは助けてくれた赤髪の少女に対して、早くも好感を持ち合わせていた。

「ところで、あなたは?」

「あっ、私アルか? 私は神楽ネ!」

「神楽さん?」

 片言の日本語を話し独特の雰囲気を放つ神楽に、アスナの心には信じる気持ちが高まっていく。一方で、ひるまされたナメクジ達は活動を再開させる。

「チッ、やっぱり夜兎だったか……」

「なんて奴に目をつけられたんだ」

「「ヤト?」」

 聞きなれない単語に首を傾げるアスナとユイ。だが神楽は、動揺することなく続けざまに強気に言い放つ。

「ふっ。その通りネ! こんなかわいい女共を胃の中に入れるなんてとんだ変態アル!

私が倍にして返してやるネ!!」

 そう言うと神楽はフッと勝利を確信させた表情で笑った。そんな彼女の勇敢な姿に感化されると、アスナもレイピアを抜き神楽の横へと並ぶ。

「ねぇ、神楽ちゃん! 訳は後で話すから今は一緒に戦いましょう!」

「いいや、私にそんな必要ないネ!!」

「でもこのままじゃ……」

「大丈夫アル! 私にはこれがあるネ!」

 アスナの加勢を断り、神楽はある秘策を使ってこの戦いを一気に終わらせるという。そのために取り出したのは、

「タラりらたたーん!! ポテトチップスー!!」

「はっ?」

「えっ?」

先ほどまで食べていたポテトチップスであった。某猫型ロボット風のダミ声で紹介する。拍子抜けした切り札の存在に、アスナとユイは開いた口が塞がらない。だがこれを見たナメクジ達は、

「おい! アレを見ろ! あの娘、ポテトチップスを持っているぞ!」

「しかも塩味だ!! 俺達を殺す気満々だぞ!!」

袋を見ただけで体が震え始めて汗を多くたらしてしまう。実際に現実でもナメクジは塩に弱く、神楽の予想通り効果があるようだ。そして、

「くらえー! アンチは外―!」

「ブホォ!」

「信者は内―!」

「ぐはぁ!」

神楽は大量のポテトチップスを握り潰してナメクジ達へ向けてばらまき始める。その姿は豆まきを彷彿とさせるものであったが、ばらまいている姿は当然なごやかなものではなく、戦場で繰り広げられる悲鳴が響き渡る光景だった。

「に、逃げろー!」

「もう、やめてくれー!!」

 一分後には、耐え切れなくなったナメクジ達が、塩の魔の手から逃れるためにこの場を去ってしまう。完封勝利を決めた神楽は、最後にポテトチップスの袋を放り投げ、親指を立てたサムズアップの決めポーズでこの戦いに幕を閉じる。

「ふぅ~大勝利アル!!」

「って、どんな勝ち方!?」

「ポテトチップスに負けるモンスターなんて聞いたことありませんよ!!」

 神楽の勝ち方に思わずツッコミをいれてしまうアスナとユイ。変わった勝ち方であるが、気転の効いた勝利によって助けられたのも事実であった。

「でも、これでみんな助かったアルな!」

「ワン!」

 定春も神楽と同じくこの勝利に祝福する。そして、アスナやユイもお礼を伝えた。

「そうね……神楽ちゃん。助けてくれてありがとうね」

「別にいいアルよ。ところで、二人はなんて言うアルか?」

「あっ、私はアスナよ」

「私はユイです!」

「なるほど。ユイにアッスーアルか!」

「アッスー!? 随分独特な呼び名ね……」

 三人の女子は、軽く自己紹介をして互いの名前を知った。そんな中で神楽は、アスナへ早速質問する。

「ところでアッスーは、どこの星から来た天人アルか?」

「えっと、星にあまんと?」

 神楽の質問へ戸惑いを見せるアスナ。思わず質問で返してしまう。

「ねぇ、星とかあまんとって何なの?」

「アレ? わからないアルか? それは……」

 と神楽が言いかけた時である。

〈シュル!!〉

「ってうわぁぁ!!」

「きゃっ!」

 足元に落ちていたポテトチップスの袋に滑ってしまい、神楽はバランスを崩してしまう。さらにアスナをも押し倒してしまい、二人共々体制を崩してしまった。

「ママ!? 神楽さん!? 大丈夫ですか!?」

 ユイが心配そうに声をかける中、二人はというと

「「えっ!?」」

共に抱き合って口付けを交わしている。トラブルとはいえ滅多にない同姓のキスがここで実現した。

「ウグググ!? (神楽ちゃん!?)」

「ブクブブ!? (アッスー!?)」

 二人はふと目を合わせると冷静に戻りすぐに離れる。ポテトチップスも含んでいることから、しょっぱくも淡い味が互いの口元を漂っていた。

(これが女の子同士のキス……少ししょっぱい……)

(年上の香りがしたアル……なんか不思議な感じネ……)

 口元を拭いて黙り込んでしまうアスナと神楽。少し気まずいムードが場を包む。しかしユイだけはある事に気付き、それを伝えるべくアスナへ話しかけた。

「ママ……?」

「あっ。ユイちゃん。これはただのトラブルだからそんな深い意味はないのよ」

「いや、それはわかっているんですけど……パパが来ました」

「ああ、そう。えっ!?」

 そう言われ表情を変えるアスナ。思わず出口付近を見てみると、

「アスナ……?」

思いっきりドン引きしているキリト、そして同行していた銀時と新八が立っていた。三人は悲鳴を聞きつけ駆け付けたが、もうすでに遅く二人のキスシーンを目撃したらしい。

「ぎ、銀さん。アレ大丈夫ですよね? 各方面から、訴えられませんよね?」

「ああ、そうかもな……だったらやる事はただ一つだ」

 この状況をまずいと思った銀時と新八はゆっくりと下がっていき、

「「失礼しました!!」」

勢いのまま場を去ってしまう。この状況にキリトもわからなくなり彼らを追いかけていく。

「って二人共!? どこ行くんだよ!!」

「待ってよ!! キリト君!!」

「お~い! 人を百合呼ばわりして逃げるんじゃねぇよぉ!! ゴラァ!!」

 慌てた表情となり誤解を解こうと女子達も追いかけようとするが、廃工場を出たところで男子達を見失ってしまう。

「って、もういないアル!!」

「もう~! どこ行っちゃったのよ!」

 一刻も早く誤解を解きたい二人。だが、ユイだけは対照的に二人ほど焦っていない。

「あの……そこまで気に病むことはないんじゃないでしょうか?」

「ユイ!? それどういう意味アルか!?」

「だって、ママと神楽さんは口付けを交わすくらい友情を深めあったということですよね? だったらもっと誇ってくださいよ!! 友情を超えた愛だと言うことを!!」

「まったくわかってないじゃん!!」

「お~い!! 余計にややこしくなっているアルよ!!」

 ユイにとって、アスナが神楽と仲良くなるのは喜ばしいことだが、その何気ない優しさが二人にショックを与えてしまう。事の重大さを理解していないユイだった。

 しかしこれでようやく、キリト・アスナ・ユイはこの世界で無事に合流し、万事屋というバカ共と出会うことになったのである。物語はまだ始まったばかりだ……

 

 




後篇もあるのでぜひそちらもどうぞ。


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第一訓 異世界へ行く時は戸締りを忘れるな! 後篇

「「ハァ……ハァ……」」

「やっと追いつきました……」

 息を切らすアスナ、神楽、ユイの三人。誤解を与えてから数分後。ようやく、女子陣は銀時ら男子陣を見つけ出した。近くにあった広い空き地におり、そこで先ほどのキスについて神楽やアスナが誤解を解こうとする。しかし、

「ようやく着いたか。まぁ嘘だってことは最初からわかっていたけどよ」

銀時達に誤解なんて存在せず、逃走もただのネタであることがわかった。これを聞いた神楽は、顔色を変えて怒りを露わにする。 

「ハァ!? おいてめぇ、よくもだましたアルな!! チキショー!!」

「って落ち着いてよ! 神楽ちゃん!」

「ワフ~!」

 激高する神楽に、新八や定春が抑えてなだめていく。一方で、キリトだけはキスの件をまだ信じこんでいた。

「ところでキスをしたってのは、本当のことなのか?」

「そうだけど、それは単なる事故なんだって!!」

 必死に事故だったと弁解するアスナだったが、ユイが再び事態をややこしくしてしまう。

「そうですよ! ママと神楽さんは、友情を超えたアツーい関係になったんですよ!」

「ええ、そうなのか? って、ことはアスナ……」

「ユイちゃん!? 誤解を与えるようなことを言わないでよ!!」

 ユイの言葉を信じ、目を細めて疑いを強めるキリト。アスナの動揺も激しくなり困り果てたところで、突如彼の表情が笑顔に変わる。

「なんてね。ただのからかいだよ。ごめんな、アスナ」

 そう。キリトも全てトラブルだと察して彼女をからかっていたのだ。真実を知ったアスナは、つい顔を膨らませて怒っている。

「キ~リ~ト~君~!!」

「おい、リア充共。イチャイチャはいいから落ち着け」

 そんな彼女を銀時が抑え込み場を整えた。互いに落ち着いたところで、ようやく揃っての話が始まる。まずは銀時が声を上げた。

「さて、全員見つかったところだし、まずはてめぇらが何者か説明してもらおうか?」

「あっ、一応やるんだ。それ」

 彼が促したのは、お互いの自己紹介である。銀時や新八はSAOのことを多少知っているが、この後の展開のつじつまを合わせるため、あえて名前を聞いたのだ。

「俺達か? 俺はキリトだよ」

「私はアスナよ」

「私はユイです!」

「そうか。だいたいわかったわ」

「って、本当は最初から知っていただろうがぁ!」

 銀時のそっけない態度に新八はツッコミをいれる。一方、神楽だけは例外で改めてキリトらの名前を知った。

「なるほど! アッスーとユイに続きキリもいるってことアルな!」

「キリ!? 随分、独特なあだ名だな……」

 キリトも神楽のネーミングセンスに驚きを見せる。とキリトら三人の名前が分かったところで、今度は銀時達の番だった。

「では、あなた方はなんて言うんですか?」

「俺達か? 俺は万事屋のリーダー。坂田銀時!」

「僕はツッコミ担当の志村新八!」

「私は紅一点のヒロイン、神楽アル。そしてこの子は定春ネ!」

「ワン!!」

「「「三人揃って万事屋銀ちゃん!!」」」

 名前だけでなく自分の役職についても紹介した万事屋の三人。これでお互いに名前を知ることになった。

「坂田さんに志村君? それによろずや? それがあなた達の職業なの?」

「その通りアル!! 金さえ払えばなんでもやる。それが私達ネ!!」

「なるほど……変わったギルドですね!!」

「ギルドじゃないんですけどね……」

 ユイの勘違いに、新八が小声でツッコミを入れる。イメージはつかなかったが、ひとまず一連の流れから賑やかな人達であることはわかった。現在話せる相手も彼等のみだったので、キリトは銀時らにこの世界について聞いてみることにする。

「えっと、それじゃ呼び名は銀さんでいいのか?」

「いいよ。それくらいの気軽さで。俺は気にしねぇからよ」

「じゃ銀さん。まずはひとつ言いたい事があって――」

 自分の言うことは他人から見れば、信じられないのかも知れない。それでも、正直に話して理解を求める。そう決意して、キリトは自分達の正体を包み隠さずに話した。

「実は……俺達は、この世界の住人じゃないんだ」

「えっ!? そうアルか!? じゃ、アッスーやユイも?」

「ええ、そうよ。信じられないかもしれないけど、私達はこの世界のことをまったく知らないのよ」

「だから先ほど言っていた、あまんとや、やとの意味がまったくわからないんですよ」

「そうだったアルか……」

 思ってもいないカミングアウトに神楽や定春は驚きを見せたが、なぜか銀時や新八はあまり驚いていない。

「アレ? 二人は驚いていないのか?」

「まぁ、だいたい予想はついていましたから」

「そうだぜ。なんせてめぇらは、電撃文庫の人気ラ……じゃなくて雰囲気からして違ったからからな」

「電撃文庫?」

「ああ! 気にしないでください!」

 元ネタをだいぶ知っていた二人だったが、正直に話せば余計に混乱すると見てあえて話さないことにした。ただしユイは、聞き慣れない単語に首を傾げてしまったが。

「まぁ、それは置いといてだ。要するにてめぇらはまずこの世界について知りたいんだろ?」

「そうだな」

 一応、別の世界の人間であることを銀時らは理解してくれた。ならば、次に聞きたいのはこの世界の特徴である。

「ちなみに聞きますけど、あなた方のいた世界はどんな感じでしたか?」

「えっと、アミュスフィアがあって仮想世界っていうVR空間へ入っている時に、この世界へ来てしまったのよね」

 アスナは、自分達の世界にあった特徴的な物を銀時達へ伝えたが、もちろんこの世界には存在していない。その証拠に銀時らは、ピンときていなかった。

「アミュスフィア? 仮想世界? 悪いがこの世界じゃそんなのまったく通用しないぜ」

「やっぱりないんですね。ということは、一体どんな世界なんですか?」

 ユイの問いに意気揚々と銀時が答える。

「ああ、聞いて驚くなよ。この世界はな――宇宙へ開国した江戸時代ってところだよ」

「「「……えっ?」」」

 銀時から聞いたこの世界の現状。しかし、受け入れがたい漫画のような世界観に三人の頭が困惑してしまう。

「ん? どうした?」

「あの、もっとわかりやすく説明してもらえるか? 宇宙へ開国した江戸時代と言われても想像しづらいんだが……」

「ったく。そのままの意味だって言ってんだろ!」

「そう言われても……」

 銀時の説明不足に、キリトら三人は全く理解できていない。ここで、見かねた新八と神楽が割って入った。

「ハァ……銀ちゃんはわかりにくいアルな」

「ここは僕らが説明しますから黙っていてくださいよ」

「ハイハイ」

 説明を二人へバトンタッチして、話は再開される。

「えっと、つまりですね。この世界は、星を移動するほどの文明がいくつもあって、この地球も宇宙へ開国して科学技術を大きく発展させた世界なんですよ」

「そうか。だから江戸の風景なのにビルや飛行船が存在しているんだな」

「宇宙へ開国しているなんて、本当に別世界なんですね」

 新八の説明に一同は納得した。これが事実であれば、江戸時代でありながら科学技術が発展している理由に繋がる。宇宙人のおかげで発展した別の世界の存在に、キリトも興味を持っていた。

(予想のはるか上をゆく世界だな。こんな世界が別の宇宙にあったなんて……俺達のいた世界とは違う歴史を刻んだ文明か……)

 そう心の中で解釈している。一方で、アスナはあることが気になっていた。

「ということは、この世界には宇宙人が存在しているってことよね?」

「そうアル。てか、私がそもそも宇宙人アルよ」

「えっ……!?」

 宇宙人について質問したはずが、当の本人が目の前にいたことについ驚いてしまう。神楽の容姿は人間っぽくてとても宇宙人とは思っていなかった。つい気になってしまい、アスナは彼女をじろじろと見つめる。

「嘘!? 神楽ちゃんってこの容姿で宇宙人なの!?」

「そうアルよ。というかアッスーの方がよっぽど天人っぽいネ!」

「あまんと? って、結局なんなんだ?」

「天に人って書いて天人だ。まぁ、わかりやすく言うなら宇宙人ってことだよ」

「それで神楽ちゃんは、夜に兎って書いて夜兎という種族で、宇宙最強戦闘民族の一人なんだ」

「宇宙最強戦闘民族!? すごい肩書きですね……」

 宇宙人の存在、並びに神楽の素性も話の中でわかった。動揺するキリト達を前に、突如神楽はアスナの前に近づき背伸びし始める。すると、急に彼女のとんがった耳をプニプニと触りだした。

「って何するの、神楽ちゃん!! くすぐったいよ~!」

「お~! 結構いい耳をしてるアルなー! どこの星出身アルか?」

「私はれっきとした地球人だよ~!!」

「ってことは、別の地球ではみんな耳がとんがっているアルか?」

「そういうわけじゃないって!」

 興味深く好奇心のままアスナの耳を触り続ける神楽。その表情は好奇心旺盛の子供を思わせる。そんな彼女の姿を見て、徐々にアスナは心を許してしまう。

(こんな純粋な子が宇宙最強戦闘民族の一人なんて……豪快で強気だけど、子供っぽくて

……かわいい!!)

 妹のいない彼女にとってこの状況をまんざらでもないと感じ、神楽の魅力に惹かれ始めてしまう。そして、早くも仕返しを始めてくる。

「もう! やったわね、神楽ちゃん! こうなったらお返しよ! えいっ!」

「アッスー!? 何するネ!? こちょばしいアルー!!」

 攻撃を緩めた神楽へ対して襲いかかり、彼女の耳をコショコショと触りだしたのだ。その姿は仲の良い姉妹にも見え、二人共に笑顔である。

「どう、神楽ちゃん? くすぐったいでしょ?」

「わかった! わかったアルから! やめるヨロシ!」

「さ~て、どうしょうかな?」

「アッスーの意地悪! 小悪魔ネ!!」

 ふざけあいながらじゃれあう女子二人。その様子に、メンバーの反応も千差万別だった。

「フフ。アスナ、もう友達を作ったとは……」

「さすが、ママです!!」

 喜ばしく思うキリト、ユイに対して、

「おい、新八ィ。やっぱり、あいつ女の子大好き人間じゃないのか?」

「絶対欲望を溜め込むタイプですよね?」

銀時と新八は完全にバカにしている。

「って、二人共!! 勘違いしないでよ!」

 つい聞こえたので思わずアスナは一喝してしまう。ここまで、ほんの数分しか経っていないが二組は打ち解けあい早くも仲を深めていた。とだいぶこの世界のことについて知ったところで、キリトはもう一つの疑問を万事屋へ明かす。

「あっ、そうだ。銀さん、もう一つ聞いていいか?」

「おっ。なんだよ」

「この世界にサイコギルドはいるのか?」

 そう、自分達をこの世界へ送った張本人。サイコギルドについてだった。はっきり覚えているのは、ローブを被った少女がおり、ブラックホールを作り出す技術を持っていること。もしかすると、この世界の存在かもしれないと思い銀時達へ聞いてみたが、

「サイコギルド? 知らねぇな」

「初耳アル」

「聞いたことありませんね」

「そうか……」

全く知らない様子である。これにはキリトも不安な表情を浮かべてしまう。

「ところでよ、サイコギルドっていうのは一体誰なんだよ?」

「それは、私達をこの世界へ送った張本人なんです……」

「ローブを被った女の子で、あの子の作ったブラックホールによって私達はこの世界へ来てしまったのよ」

「ええ!? ブラックホールを通ってみんなはこの世界へ来たアルか!?」

 ここで、ようやく万事屋はキリト達がこの世界へ来た理由がわかった。少なくともこの件は何者かの陰謀が絡んでいる確率が高い。そう彼らは感じていた。さらに、キリト達にはもう一つ不安材料がある。それは、自分達の肉体についてだ。

「後、もう一つあるんだ」

「ええ? まだあるんですか?」

「実は――俺とアスナはこの姿が本当の姿じゃないんだ……」

 アバターであることの告白。この言葉に、一番衝撃を受けていたのは神楽である。

「マジアルか!? じゃ、レベルアップや通信交換、十分ななつき具合で進化するってことアルか!?」

「そういうことじゃないと思いますけど……」

「てか、どんだけポケ〇ンから引っ張るんだよ……」

 神楽の〇ケモンネタにツッコミを入れる新八と、意味がわからずに苦笑いをしてしまうユイ。それは置いといて、キリトやアスナは自分達の現状について話を続ける。

「実はこの姿はね、ゲームでの自分の分身でいわばアバターよ。仮の姿で本当は、銀さん達と同じ普通の耳をした人間なのよ」

「そうだったアルか。じゃ、その肉体が今どうなっているか不安ってことアルか?」

「そうだな……」

 自分達の現状を語り尽くし、不安な表情を浮かべているキリト達。別の世界とはいえ現実世界でゲームのアバターのまま存在しているのはほぼ異例だ。ログアウトもできない状態のまま、自分の肉体がどうなっているのかは想像もつかない。そんな様子を見た銀時はある提案を思いつく。

「そんなに不安ならいい相談相手がいるぜ」

「えっ? 誰ですか、それは?」

「すぐ近くで店をやっているじいさんだよ」

 すると彼は足を進め、空き地の裏にあった店へと周りこむ。銀時へ続き新八やキリトらも連いていく。

 

 ほんの数分ほど歩くと見えたのは、「からくり堂」と書かれた店だった。古びた外観店で、内から鉄やオイルの匂いが強烈に漂っている。その店内へ一行は入っていった。

「からくり堂? ここなのか?」

「そうだよ。おーい、じいさん聞こえてんのか? おーい!!」

 彼が大きく叫ぶと部屋の奥から、薄汚れた黄色い作業着を着た老人が姿を現す。

「なんだ、誰かさんかと思ったらてめぇらじゃないか」

「そうだよ。少し用があってな」

 銀時がその老人と話し込む一方で、キリトらは新八から説明を聞いている。

「えっと、あの人は一体誰ですか?」

「あっ、あの人は平賀源外さんって言って、なんでも直す江戸一の発明家なんだ」

「いわゆる修理屋さんってところね」

 老人の名前は平賀源外。銀時達の知り合いで多くの発明をしてきたカラクリ技師である。アミュスフィアを扱うキリト達にとっては、一番相性が良いと考えここへやってきた。

「なるほど。訳はだいぶわかったぜ」

 銀時から訳を聞かされ源外も事情を理解し、息を荒くする。

「要するにてめぇらは別世界の住人で、精神を架空の世界へ行けるカラクリを利用中にこの世界へ来ちまった。ということか……」

「はい。私は少し事情が違うんですけど、だいたいそんな感じです」

「うむ、そうか」

 何やら考え込んだ源外はある仮説をたて、それを結論づけるためにキリトやアスナらへある要求を交わす。

「なら、少し確かめたいことがあるんだ。この特殊X線カメラで、撮影できるか?」

「これで? いいですけど……」

 三人は要求に答えて特殊なカメラへ撮影してもらい、さらには脈も測ってもらった。そして、結果を見た源外は神妙な顔となりある結論を導き出す。

「うむ、やっぱりな」

「やっぱりって、何かわかったんですか? 源外さん!?」

「ああ、もちろんだよ。例えそれが、信じられない事実でもお前さん達は受け入れる覚悟はあるのか?」

「……わかったよ。俺達は真実を知りたいからな」

 キリトに続きアスナとユイも頷いたので源外は、その重い口を開き真実を語りだした。

「よし。なら、担当直入に言おう。いいか、X線写真や脈を測ったところ、少なくとも黒髪のあんちゃんと青髪のねーちゃんの二人はな、ゲームのアバターと現実の肉体が一致して融合しているってところだな」

「「「!?」」」

 衝撃の事実が三人の心に突き刺さる。その言葉に戸惑い、みなこわばった表情をしてしまう。一方、万事屋の三人は多少驚いたもののすぐに平常心を取り戻し、空気を読んで一旦黙ることにした。源外は彼らの反応を見た後に、話を再開させる。

「まぁ、驚くのも無理はないだろう。だが、これが事実なんだ。この写真を見てもらえるか?」

 すると用意したのは、先ほど撮ったⅩ線カメラの写真。それを三人へ見せると、そこには自分達の内部が写し出されており、本来アバターにはあるはずのない骨が明確にこの写真から写し出されていた。この証拠が源外の仮説を確定づけたのである。

「これって骨よね?」

「ってことは、今俺達の肉体がアバターと融合してるってことか……?」

「まぁ、そういうことになるな。お前さん達は、ブラックホールを通じてこの世界へやってきたのだろ? その途中現実の肉体もこの世界へ来た……っていうのが正論だろ。後、脈も見てもらえるか?」

「脈?」

 源外に言われた通り腕から脈を測ってみると、心臓の鼓動と共にアミュスフィアの待機音が同時に聞こえてくる。

「本当だわ。呼吸だけじゃなくて待機音も聞こえてくる……」

「なるほど、その音だったか――要するにだ。この世界へ来ると同時に現実の肉体もアバターと一体化してこの世界へ来てしまったってところだな。まぁ色が変わったり耳がとんがっただけで、他は人間と変わらんと思うがな」

 信じられない事実を突きつけられる二人は、暗い表情を浮かべてしまう。まだ受け止めるのに時間がかかりそうであった。一方、ユイはというと、

「あの、すいません。では、私は一体どんな状況なんですか?」

「ああ、嬢ちゃんか? レントゲンも脈も見たが、特に問題はねぇよ。ただ、データとつながらないからただの普通の女の子になっちまっているだけだな」

「そうなんですか……」

仮想世界から離れたことでデータとはつながらない、普通の女の子となったようだ。ユイは、キリト・アスナと違い現実に肉体を持っていない。レントゲンで見てもエネルギーの塊しか見つからず、いわゆる異例の変化をとげたのである。いずれにしろ、場の空気は重くなっていき、一同は静まりかえってしまう。

「でも安心したよ。肉体がここにあるだけでも無事なのは確かだってわかったから」

「そうかい。ところでおまえさん達は、これからどうするんだ? 帰る方法はあるのか?」

「それは、わからない。前も後ろも知らないこの世界で、これから俺達がどうするべきなのか……本当に元の世界へ戻れるのか……」

「キリト君……」

 言葉を濁すキリトに、アスナとユイは心配そうに見守っている。帰る方法も見つからないままこれからどうするべきか? この世界で生きていくのか? 不安が的中してどうにもならない時だった。

「戻れるさ。絶対に」

 なんと、今まで黙って訳を聞いていた万事屋の三人がようやく行動へと移ったのだ。

【挿絵表示】

 

「えっ、銀さん?」

「何、重い空気にしてんだよ。そもそも、こんな重要な問題に俺達をなんで巻きこませねぇんだよ。俺達は万事屋だ。どんな依頼だって受けてやるからよ」

 銀時はけだるくも優しい言葉で彼らを励ます。さらに、意外な一言を彼等へかける。

「それに行くとこがねぇなら俺達のところへ来い。別世界から来た人間を見過ごせないほど、俺達は腐ってねぇからよ」

 なんと、居場所のないキリト達をかくまうと言ってきたのだ。これには、三人もつい驚いてしまう。

「えっ……本当にいいんですか?」

「もちろんです。うちのリーダーは言い出したら止まらない人間ですから。それに僕らにできることならなんでも協力しますよ!」

「そうアル! 訳はだいたいわかったネ! 絶対にみんなを元の世界へ戻す――それまでは私達が色々とめんどうを見るからじゃんじゃん頼っていいネ!」

 銀時に続き、新八や神楽も理解して快く勧めてくる。

「銀さん達は、本当にそれでいいの?」

「ああ、いいぜ。なんせ大勢いた方がにぎやかだろ。その代わり、俺達の仕事は手伝ってもらうぜ」

 展開が早くなり、いつのまにか居候する前提で話は進む。しかし、この状況にキリトは急に流れを止めた。

「って、待ってくれ! これはそもそも俺達の問題だ。銀さんや万事屋には迷惑をかけられないよ……」

 迷った表情を見せている。彼は遠慮しており、万事屋の元でお世話になることに抵抗していた。しかし、銀時達の人情は細かいことなんて一斉気にしていない。

「ハァ? 何遠慮なんかしてんだよ。心配なんか何もねぇよ。迷惑なんて上等だ……全てこの俺達――」

「「「万事屋に任せな!!!」」」

「ワフ~!」

 万事屋総出で全ての気持ちをキリトらへ伝えた。この世界へ来て不安しかなかった彼らにとって、この三人は一筋の光にも見える。頼もしい言葉を聞き三人の心も変わりつつあった。

「本当に来ていいのか?」

「大丈夫だよ。こればっかりはお言葉に甘えろよ」

「ふふ……でも銀さんが言うと何か違和感があるな」

「おいそれどういうことだ? ゴラァ?」

 銀時の臭いセリフに思わず失笑してしまうキリト。わずかな時間ではあったが、六人の距離は確実に縮まっている。そして、悩んだ末に

「それじゃ、銀さん達の言う通りお言葉に甘えて万事屋に入ろうかな? それでいいか?アスナ、ユイ」

「もちろん! 私も同じ考えよ!」

「私も賛成ですよ! パパ!」

キリトらはこの万事屋の考えに賛成することにした。これで一時的だが、三人は万事屋のメンバーとして加わることが決まる。

「よし、これで決まったな。まぁ、万事解決ってことだろ?」

「よろずだけにか?」

「気にするな。そういう時は、優しく黙るんだよ」

 そう言って、互いに笑いあう銀時とキリト。早くも主人公の二人は、仲良くなっていた。

「よろしくお願いしますね。えっと……誰でしたっけ?」

「あっ、僕ですか? 僕は――」

「あっ! メガネさんですね!!」

「メガネ!? 僕は新八ですよ!」

 名前を間違えるハプニングで、新八がツッコミを見せる。知性派の新八とユイもいい仲を築いていた。

「改めてよろしくアル! アッスー!」

「うん! これで、神楽ちゃんにいたずらし放題だね!」

「って、何言っているアルか!? アッスー!?」

 冗談を言ってこちらも笑う、ヒロイン同士の神楽とアスナ。それぞれ、仲を深めてたちまち自然と触れ合っている。そんな彼らに源外も安心すると共に、キリトら三人へ一言アドバイスを添えた。

「なるほど。ひとまず、生活には困らなくて済むな。だが、万事屋は中々大変だぞ。近所の介護やベビーシッター、浮気調査に人手の手伝い。さらに、テロリストの壊滅や国を覆すほどの乱闘。数えられないくらいの仕事があるぞ」

「って、途中からスケールがでかくなっているんだが……」

 内容のインフレに苦笑いをするキリト。しかし、これは全て事実である。

「まぁ、間違っていねぇけどよ」

「そうなんですか!?」

 疑わしかったが、彼らの素っ気ない反応からは本当のことだと悟った。万事屋の仕事を近所程度と考えていたキリト達だったが、テロリストや国も絡んでいる以上、この人達がいかに一般離れした経歴を持つことがわかった。

「えっと、それじゃみんな結構強いの?」

 アスナからの問いに、神楽や新八が返答する。

「そうアル! 私なんてほぼ負けたことがないネ!」

「僕も人以上だと思いますよ。それに銀さんは、かつてあった攘夷戦争を戦った英雄の一人ですからね」

「新八ィ。過去のことはあまり言うなよ」

「戦争の英雄!?」

「銀さんが!?」

 さらにあっさりと銀時が戦争の英雄だと言われ、またも衝撃を受けてしまう。彼らの言っていることが本当かは分からないが、もし強いのなら戦ってみたい。そんな気持ちがキリトらの心の中で湧いていた。

「そうか……だったら、銀さん。一つお願いしていいか?」

「お願い? まさかお前ら……」

「そう。俺と一対一の勝負をしてくれないか?」

 そしてキリトは、銀時へ勝負を申し込んだ。もっと万事屋を知りたい。銀時の実力と戦ってみたい。たったそれだけの思いで彼は決断した。もちろん銀時の答えは、

「……わかった。来るなら本気で行かしてもらうぜ」

この勝負に乗ることにする。

「ああ。そうじゃなきゃ迫力がないからな」

 キリトも願いが叶い笑顔で返す。さらに勝負するのは彼だけではない。

「よし! なら私も神楽ちゃんに勝負を挑もうかしら。いい神楽ちゃん?」

 アスナも流れに乗って、神楽へ同一の条件で勝負を申し込んだのだ。

「おっ、いいアルか!? アッスー?」

「もちろん! 神楽ちゃんのことをもっと知りたいからね!」

 こうして神楽も賛同し、四人は勝負へと準備を始めるのである。

 

 舞台となるのは先ほどの空き地。ルールは、銀時対キリトと神楽対アスナの決闘方式。審判は、新八とユイと定春が務める。

「みなさん!! 準備はよろしいですかー?」

「「「「OK!!」」」」

 ユイの掛け声に答え、四人共準備はばっちりだった。そして、

「それじゃ、始め!!」

「ワン!!」

新八と定春の合図で、戦いの火蓋は切って落とされた。

「いくぞ!! アスナ!!」

「わかってるわ!! キリト君!!」

「神楽ァ!! あんなゲーマー共に俺達ジャンプ主人公が負けられるわけないだろ!!」

「そうアル、銀ちゃん!! ゲロインの底力を見せてやるネ!!」

 彼ららしい一声を交わし四人は、相手に向かって勢いよく走る。共に多くの激戦を乗り越えた者同士、その息のあったコンビネーションは素晴らしい。武器を最大限生かして戦うキリト・アスナに対して、銀時と神楽はがむしゃらな戦いを得意とする。異なる戦闘スタイルがぶつかり合い今、激しさを増す一騎打ちが始まった!

〈カン!! カチン!!〉

 まず相容れたのは、銀時対キリト。年の差はあるが、遠慮なんていらない。木刀とエクスキャリバー。二つの剣がぶつかり場にこだましていく。

「木刀でも中々やるじゃないか……」

「木刀でもだぁ? そんなもん根性でカバーするだけだ!」

 体勢を立て直し木刀の連続技を使って、キリトへ反撃を与えさせない銀時が一つ有利に立っている。その心情は互いの強さに驚くばかりだった。

(早い……木刀ながらもここまで実力を発揮するなんて、さすが戦争の英雄だ。背負ってきたものも俺達と違うということか……)

(ヤレヤレ。どれくらいの強さかと思いきや予想以上じゃねぇか……本当にこいつらゲーマーかよ……)

 戦い方は違うがその実力はほぼ互角。二つの剣がなびきあい、火花を散らして思いがぶつかりあう。

「はぁあああ!」

「うおりゃゃゃゃ!」

 戦いは簡単には終わらない。それは、女子だって同じだ。

「ホワッチャー!」

「ハッ!」

 レイピアを使いこなすアスナと傘を使う神楽の戦い。互いに攻撃しては防ぎ、戦況は一歩も譲らない。

「中々やるわね!! 神楽ちゃん!!」

「そういうアッスーもナ!!」

 一声かけると神楽は体勢を変えてアスナをはね返す。そして、場から一旦離れた。

(すげぇアル!! アッスー……完全に武器を使いこなしているネ!! 素人技じゃないアル……)

(神楽ちゃん……思っていたよりもずっと強い……これが宇宙最強戦闘民族の力!!)

(でも、必ず勝ってやるアル!!)

(でも、必ず勝って見せるわ!!)

 二人は心で勝利を誓い、改めてこの勝負へ情熱を燃やす。もっと知りたいのだ。相手の強さを。とここでアスナは勝負へと出た。

「さぁ、くらいなさい!! 神楽ちゃん!」

 アスナはレイピアによる連続突きの攻撃を始める。神楽は傘を広げ防御の姿勢をとり相手の隙をうかがう。攻防が極まる中チャンスが訪れたのはアスナの方だった。

「今よ!」

「何ぃ!?」

 防御ができる隙を狙って、神楽の死角となった腹部を突いて攻撃。見事、カウンターが決まった。

「グハァ!」

 姿勢を崩された神楽は地へと落ちてゆく。だが、アスナは容赦なく追い打ちをかけてくる。

「これでとどめよ!」

 レイピアを奮い立て、神楽へとどめをさそうとした時だった。

「フッ!」

「えっ!?」

 神楽は傘ではなく、自らの腕でレイピアをつかみ危機を回避していた。彼女らしい意地で、アスナを驚かす。

「くっ……動かない……」

 神楽の馬鹿力によってアスナのレイピアはぴくりとも動かない。そして、

「アッスー!! とどめはまだ早いアルよー!」

「うわぁぁ!」

そのままぶんまわし、空中へアスナを投げ飛ばしてしまった。反撃をしたが、アスナはその瞬間羽を広げて空中浮遊。ダメージを軽減させる。

「チッ! 羽があったアルか!」

「フフ! まだ戦いはこれからよ!」

 二人の戦いは終わる気配がない。一方、銀時とキリトの戦いへ戻してみると

「はぁぁ!!」

「くっ……!」

キリトの連続技が発動して、逆に銀時が劣勢に追い込まれていく。二本の長剣が銀時の木刀を襲い、攻撃の手を与えさせなかったのだ。そして、キリトはフッと笑い勝利を確信する。

「これでとどめだぁ!!」

 長剣を振り降ろし木刀を払おうとした時だった。

「なーんてな」

「!?」

 銀時も同じくにやけて笑いキリトの攻撃を身軽にかわすと、急に空へ向けて大きくジャンプ。上空から攻撃を試みた。

「空か!? なら――」

 キリトは、気配を察して二本の剣を使い防御姿勢となる。これで銀時の攻撃を防ごうとしたが、

「ごらぁぁぁぁ!」

落下する銀時は木刀ではなく、足に力を入れていた。彼はあえて木刀ではなく蹴りで攻撃を仕掛けている。そして、

「おらよっと!」

「ぐはぁ!!」

攻撃パターンを予測できなかったキリトがダメージを受け、彼の勢いが終わりを告げた。

「どうした? こんなもんか、ゲーマーさんよ」

「そっちこそ、戦争の英雄か? もっと強いと思っていたよ」

「うっせぇ! 今から本気を出すからビビるんじゃねぇよ!」

「はいはい。じゃ、こっちも……!」

 軽口や煽りで、意思を伝える英雄の二人。こちらの勝負も簡単には終わらない。その様子を間近で見ていたユイと新八は、勝負の迫力に圧倒されている。

「すごいです! 銀時さんや神楽さんも! パパやママと互角に渡り歩いているなんて!」

「まぁ、うちのメンバーは、そんじょそこらの人間よりもバカみたいに強いから、それと渡り合っているキリトさんやアスナさんもすごいですけど」

「とっても、レベルが高いですね!」

 この勝負は、多くの激闘を繰り広げてきた四人の全力の戦い。故にそのレベルもかなり高い。そして、長いバトルの末にようやく勝利も目前に見えた時である。

〈ドーン!!〉

「ん!? 何アルか!? 爆発!?」

 突如、からくり堂から爆発のような轟音が聞こえてきた。気になってしまい四人の勝負は中断してしまう。

「ったく! あのじいさん、やらかしやがったな! おい、てめぇら! 一旦この勝負お預けだ! そこで、待っていろ!」

 銀時ら万事屋は察しがいいのか、様子を確認するためにからくり堂へと向かった。

「っておい!? 行っちゃった……」

 置いて行かれたキリトらも彼らの跡を追いかける。一方で、万事屋が駆け付けたからくり堂は大して壊れてはいなかったが、源外だけが黒焦げの状態になっていることがわかった。

「おい、じいさん! 一体何があったんだよ!? 無事か!?」

「ケホ、無事だよ……これくらい新発明ができた代償に比べたら楽なモンよ」

「新発明?」

 咳をしながら源外は、自分の作った自慢の発明を見せる。それは、

「あっ! これ、キリの持っている剣アルよ!!」

キリトの持つ金色の剣、エクスキャリバーに酷似した剣だった。

「まぁな。さっきの妖精のあんちゃんが、持っていた剣をちと似せた模造品だよ。戦うときじゃなくてあることに使うんだよ」

「あること? って、まさか――」

 この言葉を聞いて万事屋にあるデジャブが湧く。そして、確信へと変わる。

「この剣は、砂糖・醤油・酢・そばつゆ・塩の五つの調味料が出る伝説の剣。その名も、味付けキャリバーだ!」

「やっぱりかぁぁぁぁ!」

 予想通り調味料の出る聖剣に、新八はツッコミを入れた。以前にも源外は、銀時の木刀を醤油さしに変えられたことがあり、あの発明が形を変えて蘇ったのだが、ほぼ出オチでしかない。ちなみに喜んでいるのは神楽だけである。

「やっほ~い! これで、色んな味付けが可能ネ!」

「じゃねぇよ! 使いづらくてしょうがねぇだろ!」

「まぁ、全身が食い物で出来ている相手には効果的だろうな」

「そんな奴滅多にいねぇよ!!」

「何っているアルか! 白い粉を必要としている奴にも効果的ネ!」

「やめろー!! その言い方だと別の意味になるよー!!」

 万事屋の三人によるいつものグダグダムード。銀時や神楽のボケに、新八が勢いよくツッコミをいれた。いつもの彼らの日常だったが、突如笑い声が聞こえてくる。その方向へ振り向いてみると、

「ん? お前ら?」

そこには、口を抑えながら大きく笑っているキリト・アスナ・ユイの三人がいたのだ。

「ハハハ!! やっぱり、おもしろいな! 銀さん達って!!」

「本当に喧嘩しているように見えませんよ!」

「おかしくて、涙が出てきちゃったよ……三人共お笑いトリオみたいね!」

 どうやら万事屋のやり取りが彼らにとって笑いのツボにはまったらしく、その仲の良さに心が温まった様子である。

「って、お前ら? いつのまに……」

「そんなにおかしかったアルか?」

「当たり前でしょ! さっきまで、あんな真面目に戦っていたのに、急に笑いに変えちゃうんだもん!」

「メリハリの差がありすぎて、ある意味すごいよ!!」

 彼らからしてみれば、万事屋は強くて笑いのセンスもある人間だと感じていた。これに新八は、複雑な気持ちが混ざる。

「えっと、これは素直に喜んでいいんでしょうか?」

「いいんだよ。笑いあえたならそれで何よりじゃねぇか」

 銀時は彼らが明るくなれたことに安心する。終わりよければ全て良し。そう、感じていた。

 

 時刻はいつの間にか夕方となり空は赤い夕焼けで覆われる。一同の気持ちも落ち着いたところで、まとめへと入った。

「結局勝敗はつきませんでしたね」

「いや、いいのよ。みんなの実力がわかっただけでも十分だったから。それに神楽ちゃんがかわいいだけじゃなくて強いこともわかったからさ」

「こっちこそ、アッスーがただの人妻じゃなくて、バカ強い人妻だってことがわかってよかったアルよ!!」

「って、コラ!! 神楽ちゃんってば!!」

 神楽のからかいについ乗ってしまい、顔が赤くなってしまうアスナ。冗談を言い合えるくらい仲が深まった証でもあった。

「さてと、また今度機会があれば勝負の続きしてくれるか?」

「おう、いいぜ。全力で叩き潰してやるがな」

 銀時とキリトも勝負の約束をして、必ず決着を付けると宣言する。

「今度こそパパが圧倒させちゃいますからね!!」

 ユイもこの約束へ期待を寄せていた。さらにキリトは新八とも勝負の約束を交わす。

「それと、今度は新八にもお手あわせ願おうかな?」

「えっ、僕と? 結構意外ですね……」

 予想していなかった指名に嬉しくなり新八はつい照れてしまう。しかし、

「やめとけよ。こんな、ダメガネに勝負したって時間の無駄だぜ」

「雑魚モンスターを相手にした方がよっぽど有意義アル。キリ、悪いことは言わないから諦めろアル」

「んなわけあるかー! あんたらもっとためたいを持てよ! 煽るしか能がねぇのか!」

銀時や神楽から否定的な意見を言われてしまった。皮肉を言われても彼らは、笑いあいその仲の良さをキリト達へ見せつけている。

(血はつながっていないのに、三人共本当の家族みたいだな……)

 心では、彼らの文句を言い合える仲に憧れているのだ。そんな時、急に「ギュルル」とお腹の鳴る音が響く。

「ん? これは?」

 ユイが最初に気付き探して見ると、犯人は目の前にいる。

「あっ、これ私のお腹の音アル!!」

 その犯人は神楽であった。さっきまで体を激しく動かしたので、ついお腹が空いてしまったのである。

「そういえば、お昼たべてなかったな」

「確かに……」

 思えばキリト達も昼食をとっておらず、落ち着かない状況が続いたせいかすっかり忘れていた。だが、安心したと同時にお腹も減ったことへ気付いた。それを聞き銀時は、帰宅準備を促す。

「よし。なら、もう帰るか。てめぇら、万事屋に帰るぞ。ついでにどんな場所か紹介してやるからよ」

 そう言って銀時はスクーターを準備する。スクーターには、銀時と新八の二人が乗り、定春には神楽が乗り込む。一方で、キリト達はというと

「俺とアスナは、羽があるからいいとしてユイは――」

「あっ! じゃ、私が乗せるアル! いいよネ? 定春?」

「ワン!!」

羽を持つ二人は空中から銀時らへ連いていき、羽のないユイは定春に乗っかる形で移動することになった。

「わかりました。よろしくお願いしますね、定春さん!」

「ワフ~!」

 ユイに撫でられて定春もどこか嬉しそうである。こうして六人は万事屋へ向かう準備が整えられて、最後に改めてお礼の挨拶で締めた。

「とにかく、これからよろしくな。銀さん、新八、神楽」

「よろしくね!」

「よろしくです!」

「「「おう!! よろしくお願いしや~す!!」」」

 この言葉で六人と一匹の心は一つとなる。ひょんなことで万事屋のもとでお世話になることになったキリト達だが、彼らに後悔はない。だって、ここにいるのは面白くて頼りになるくらい強い人間達だったからだ。前も後ろもわからないこの別世界できっと助けてくれる。その思いで、信じることにした。万事屋という愉快な人間達を。

「よし、じゃ行くか!」

 銀時の掛け声とともにからくり堂を去っていく一同。その光景を見て源外はふと呟く。

「ヤレヤレ。妖精ゲーマーと万事屋か……。どんな化学変化が起こるのか楽しみだな!!」

 こうして、SAOで出会った三人の少年少女と、かぶき町で出会った三人の万事屋は、今日手を結び新しい物語が幕を開けたのであった。

 

 




後篇および一話は、これで以上です。気長にやっていくので、意見があれば教えてください。



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第二訓 新生活は期待と不安で入り混じる

言い忘れていましたが、銀魂の世界の季節は七月ごろだと思っていてください。次回から、日付も表示していきます。では、どうぞ!


 夕焼けが沈み辺りは、暗闇に染まり始める。かぶき町の夜はネオンの光に包まれ、いわゆる夜のお店が営業を始める時間だ。その夜道を走ってゆく一台のスクーターと一匹の巨大犬、そして空を飛ぶ二人の妖精。そう、万事屋と新たに加入した別世界の住人キリト達である。風を浴びながら、住処である万事屋に戻ろうとしている途中なのだ。

「あ~疲れた。帰ったら、いちご牛乳摂取しねぇと調子戻んねぇなぁ」

「ちょっとしっかりしてくださいよ、銀さん! まだ、コラボして一話しか経っていないのにだらしなすぎですよ!」

 運転中にも関わらず銀時と新八のやり取りは、漫才のように交わされる。あくびをしながらもスクーターを動かしているため、とても安全運転とは思えない。

「銀さーん! ちゃんと動かさないと、今日の昼みたいなことになるよー!」

「うるせぇ! わかっているから、てめぇは口出しするんじゃねーよ!」

 キリトにも注意されようやく運転はバランスを取り戻す。彼の不注意が今日の衝突事故を起こしたのだが、そのおかげでキリトは万事屋と出会えた。この件を彼は、怪我の功名のように思っている。

(まったく、銀さんってば……でも、事故のおかげで出会えたってことは、ある意味奇跡だよな……)

 そう心の中で彼は呟いたのだ。一方で、神楽もアスナ達へ話しかけてくる。

「それで、みんなは他に聞きたいことはないアルか?」

「そうね。万事屋って週に何回くらい働くの?」

「不定期アルよ。仕事が入り次第進めていく形ネ!」

「えっ!? 決まってないんですか!?」

 万事屋の仕事事情に驚きを隠しきれないユイ。神楽の言う通り万事屋の家計は全然安定していない。かろうじて生活は保っているのだが、いつも神楽と定春の食費代にかかりおかげで毎月金欠なのだ。

「それ、大丈夫なのか?」

「そんな心配しなくていいネ。人数も増えたからきっと仕事も増えてくるアルよ! あっ、でも家賃が溜まっているからそれも払わないといけないアルな」

 しかも、神楽は万事屋の賃貸事情まで明かしてしまった。これで、万事屋はとてもお金に困っている組織であることが発覚してしまう。

「えっ? 銀さんって家賃払っていないの?」

「そうネ! 毎回大家のババァにこっぴどく叱られボッコボッコにされているアルよ!」

「おい、神楽! これ以上言うんじゃねぇよ! 万事屋の信頼が下がっちまうだろうがぁ!」

「銀さん。もう手遅れだと思います」

 いくらフォローを入れようと、もう事実を変えることはできない。万事屋の経済状況を知り、キリトらは申し訳ない気分に陥ってしまう。

「何か、ごめん銀さん……」

「私達、なるべく迷惑かけないようにするね……」

「お金に困っても借金なんかしたらダメですからね!!」

「おぃぃぃ!! やめてくれ!! 変な気の遣い方しないでくれぇぇ!! 普通でいいから!! 俺が悪いことしたみたいになってんじゃねぇかぁ!!」

 場の空気に耐えられなくなり銀時がついツッコミを入れる。そして、煽るように新八や神楽、定春までも細い目で呆れた表情をしていた。

「って、なんでてめぇらまで同じ表情でこっち見てくるんだよ!! おかしいのは俺か!? 俺だけなのか!?」

 銀魂らしいグダグダな空気が漂いながら、一行は万事屋へと進んでいく。

 

 数分後、ある建物へと到着した。一階にはスナックがあり、二階の看板には大きく「万事屋銀ちゃん」と書かれた看板が設置されている。ここが、これからキリト達の住む万事屋なのだ。

「着いたぞ。ここが万事屋だ」

「もう、着いたんですか!」

「へぇ~ここが万事屋なんだな」

 外観は、茶色をベースとしており和風なイメージを持ち合わせている。ある程度説明すると銀時ら四人はスクーターや定春を止めて降り、キリトやアスナも羽を閉じて地上へ降り立つ。

「ここが今日から住む場所なのね!」

「そうアル! さぁさぁ、早く上がって色々説明するアルよー!」

 人一倍張り切る神楽。そんな一行が階段を使い万事屋へ上がろうとした時だった。

「ん? おや、銀時様方ではありませんか?」

「あっ、たまさん! こんばんわ! お仕事ご苦労様です!」

 突如、一階にあるスナックから女性が出てきて話しかけてくる。振袖風の服を身にまとい、耳には特徴的なヘッドホンを付けた緑髪の女性だったが、どこか機械的に話す姿にキリトらは違和感を持ち始めていた。

「えっと、この人は銀さん達の知り合いか?」

「そうだぜ。たまって言うカラクリ家政婦だ。下のお登勢んところで働いてんだよ」

 女性の名前はたまと分かったが、一つ気になったのはカラクリ家政婦という言葉である。

「カラクリ家政婦? って、何なの?」

「えっと、それはだな――」

「それについては私が説明します」

 話を聞きつけ本人であるたまが、直接キリトらへ説明してくれた。

「カラクリ家政婦というのは、文字通りカラクリで出来た家政婦のことです。わかりやすく言うと、人工知能を搭載したお手伝いロボット。ドラえも〇と同じものだと思ってください」

「ちょっと、たまさん!? いきなりボケをかまさないでくださいよ!?」

 聞いたことのある某猫型ロボットも出たが、わかったのは彼女が人間ではなく機械の体を持った人工知能だということだった。

「つまり、たまさんは人型ロボット――アンドロイドってやつか?」

「その通りです」

「そうなんですか! 少し、親近感が沸きます……」

 キリト達はたまの事情をようやく理解する。特にユイは、たまと同じく人工知能を持っているので彼女への興味が一層持ち始めていた。続いてたまも、万事屋にいた見慣れない少年少女の存在について聞いてくる。

「ところで、銀時様。こちらの方々は一体誰なのでしょうか?」

「こいつらか? この女っぽい顔している男が、キリト。ヤンデレっぽい顔しているのが、アスナ。天然っぽい顔しているのが、ユイだよ」

「女っぽいって……」

「雑な紹介にも程があるわよ! そもそも、私ヤンデレじゃないからね!」

 銀時の紹介は、ユーモアであったが聞く身からしてみればバカにしているようにしか見えない。それを聞きたまは、即座に自分の中のデータへと刻んだ。

「了解しました。ハーレム系主人公のキリト様。鬼嫁のアスナ様。幼女のユイ様。の三人ですね。データへ入れときました」

「まったく違うんですけど!? 小バカにしている以外の何物でもねぇよ!」

 三人の外見も覚えデータにコピーしたが、たまも一ボケをかまして新八にツッコミを入れられてしまう。とそんな時、キリト達のある特徴的な部分へたまは気付く。

「ところで、キリト様達は耳がとんがっていますが、別の星から来られた天人なのですか?」

「ん? これか?」

 それは、普通の人間とは違い鋭くとんがった耳だった。この銀魂の世界では、そのほとんどが別の星から来た天人扱いされるので、アスナも神楽には最初宇宙人と思われ勘違いされていた。興味深く聞くたまへ、新八が割って入る。

「あっ! それは、ちょっと訳がありまして……」

「訳とは?」

 複雑な内情のため銀時や新八が数分かけて、たまへと説明した。

「そうですか。別の世界から来られたのですね」

「そうなんだよ。で、俺達が帰れるまで面倒を見ることになったというわけだ」

 銀時らの説明を聞きたまは、感じ取っている。キリト達が、不安な感情に打ちひしがれていることを。別の世界で信じられる人ができたとはいえ、それでもまだ慣れてない様子は雰囲気から理解した。そんな三人へ向けて、たまは自分なりのアドバイスを加える。

「大丈夫です。彼らを信じてあげてください。普段は、バカなことをして「何をやってんだ?」と疑問を浮かべることもありますが、彼らはいい人達です。決して、皆さんを見捨てずに依頼を果たしてくれますよ」

「あの、たまさん? 今、マジトーンじゃありませんでした?」

 一部ドスの効いた声で答えたたまだが、言い終えるとその表情はさっきとは違い微笑んでいた。彼らを信じてほしい。たまの言葉に、三人の心は励まされる。

「たまさん……わかったよ。励ましてくれてありがとうな」

「いえ。当然のことをしたまでです」

「さすが、たまアルな」

 場の空気が、優しさで包まれて和やかなムードが流れていた。たまに対して信頼が生まれ始めていたその時、もう一人スナックから女性が現れる。

「お取込み中申し訳ないんだが、銀時ィ。いつになったら家賃を払ってくれるんだい?」

「ゲッ!? ババァ!!」

 話かけて来たのは銀時達の大家さん、お登勢だった。妙齢の女性で、黒くくすんだ着物とつねに持っている煙草が、キリトらへ強烈な印象を持たせる。見た目から威圧感があり、とても怖く感じ取っていた。

「えっと、あのおばあさんは一体誰なんだ?」

「お登勢様です。銀時様の大家さんで、いつも家賃を滞納する彼らに対して怒鳴り散らすのが恒例となっています」

「何だか怖いですね……」

「心配ありません。アレは銀時様にのみ行うコミュニケーションです。他の方々には優しく接してくれますよ」

 ユイらはお登勢の威圧さに恐れを抱いていたが、それはあくまで銀時のみの話である。と、たまは言ったのだが、

「おめぇわよぉ! いくらツケを溜めれば気が済むんだ! ゴラァァァ!!」

お登勢の怒りは容赦が無かった。顔芸とも捉えることのできる鬼の形相が銀時へ対して襲い掛かり恐怖を与える。しかも店から、もう一人の従業員が加勢に入った。

「ソノ通リダヨ! イイ加減二シネェトテメェノタマヲ抜クゾ! コラァ!」

 現れたのは、緑の和服を着た中年女性。片言でしかも頭には猫耳が生えていた。

「おい、てめぇら!! 二対一は卑怯だろうがぁ!!」

「うるせぇ! てめぇがいつまでも払わないのが悪いんだろうがぁ!」

「イザトナレバ実力行使シテヤル二ュ!」

 不利な状況でも銀時はひるまず、一進一退の攻防が続く。その様子にキリトらはというと、

「まるでボス戦だな……」

「迫力なら大型モンスターにも負けないわね……」

呑気に分析するのであった。

「あの、感心しないでもらえますか? うちの大将の不祥事なので……」

 新八は小声でツッコミを入れるしかない。一方で、キリトらが気になったのは中年女性の存在だ。

「ところで、あの女性は一体誰なんですか?」

 ユイの質問に神楽が答える。

「あっ、アイツはキャサリンアル! どっかの星の天人で猫耳の生えたおばさんアルよ!」

「誰ガオバサンダ、コラァ!!」

 キャサリンと言う女性で神楽と同じく別の星から来た天人だった。神楽以上の片言で、日本語がまだ慣れていない。失礼なことを言った神楽はキャサリンから一喝されてしまうが、アスナがフォローに周る。

「神楽ちゃん。こういう時は、場をわきまえなきゃダメよ。例え相手がおばさんでもお姉さんと言わないと。ねぇ、おば……お姉さん」

「丸聞コエダヨ!! ソモソモオバサンッテ言イカケタダロウガ!!」

 しかしアスナもボケに参加してしまい、一層ツッコまれたのであった。そんなキャサリンの外見にある猫耳を見て、ユイは元の世界にいた仲間をふと思い出す。

「そうなんですか! それなら、私達の仲間と同じですね!」

「仲間? 誰ですか?」

「シリカさんとシノンさんです! 二人共アバターが、ケットシーっていう妖精で、猫耳と尻尾を生やしているんですよ! あっ、でもママと同じくらいの年齢なのでキャサリンさん程の年齢ではありませんから!」

「ダカラ丸聞コエダッテ言ッテンダロウガ!!」

 またもキャサリンからツッコミを入れられる。一方で、シリカやシノンといったアスナの仲間達を紹介され、神楽は強い興味を持ち始めていた。

「おお、そうアルか! 他にどんな仲間がいるアルか?」

「他は女子ならリズやリーファちゃんとか? 男子ならクラインやエギルくらいかしら?」

「やっぱりアッスーみたいに強いアルよな!! みんなと戦って無双してみたいアル!!」

「ハハ、神楽ちゃん。もし戦う機会があっても少しは手加減してね……」

 どうやらアスナと同じく勝負したいみたいで、テンションも大きく上がっている。それを聞いた彼女は、苦笑いで返す。戦闘力が伊達じゃないので、本気をだせば圧勝されると思ったからだ。そんな話をしているうちに、銀時はお登勢らとの言い争いを収めた。今回はキリト達がいたので、またの機会と持ち越しになる。

「ったく、ロクなもんじゃないよ。あんたらもこんなバカ侍にむかついたら、遠慮なく殴っていいんだよ」

「は、はい……」

「それと、何かあったら相談しにきな。大変だとは思うけど力になれることならなんでもやるからさ」

「えっ!? それって?」

「なぁに。ただのババァの戯言さ。受け取るのも受け取らないのも好きにしな」

 最後にお登勢は、キリト達へ励ましの言葉で返した。彼女もこっそり話を聞いておりキリト達の正体を理解している。なんだかんだで頼りになる人であるとわかり、お登勢に対する印象が大きく変わった。

「マァ、コンナロクデナシガイヤニナッタラコッチヘクルンダヨ。私ノカワリニ働イテモラウ二ュ!」

「それ以前にてめぇが働け!!」

「では、私達はこれで失礼します」

 キャサリンへの印象は変わらなかったが。そして、一通りの挨拶を済ませると三人はスナックへと戻っていき、周りは嵐が去ったように静まり返ったのだ。

「銀さん達の知り合いって個性的な人ばかりだな……」

「それ、どういう意味だよ。まぁ、そんな奴等ならこれからもっと出てくるよ」

 キリトは、改めてこの世界の住人の個性に驚いていたが、それはまだほんの一部に過ぎない。一段落着いたところで、ようやく万事屋へ足を踏み入れるのである。

 

「ここが万事屋の内部だよ」

「へぇ~ここが」

「思っていたより広いわね」

「おい、少しバカにしてねぇか?」

 鍵を開けて中へ入ると、その内部は想像以上の広さかつ清潔な印象を与えていた。三人が加わっても生活するには十分であり、雰囲気も落ち着いている。なおかつ、家電や生活品も揃っていた。ALOにあったログハウスほどではないが、それでもキリト達は万事屋の部屋に納得している。

「トイレやお風呂は、右側の部屋で左はキッチン。ここがリビングで、左側の和室が寝室ですよ」

「なんか、モデルルームの紹介みたいアルな」

 新八が軽く部屋の説明をしていると、ここでユイから素朴な疑問が浮かぶ。

「あの、すいません……」

「ん? どうしたアルか、ユイ?」

「ふと思ったんですけど、寝床ってどうします?」

「「「「「あっ!」」」」」

 その場にいた全員が、重要な事実に気付く。寝床をまだ決めていなかったのだ。普段は、和室で寝ている銀時達だが、長期滞在する以上はキリト達の寝床もちゃんと決めなくてはいけない。一同は悩みに悩んでいる。

「う~ん。どうしょうか……新八は外せば何とかなるか」

「いや、そんな気を遣わなくてもいいんだが」

「いえ、大丈夫ですよ。僕はここに住んでいませんし実家通いですから」

「えっ!? そうなの、新八君?」

「はい、そうですよ」

 話し合いをしているうちに、新八が万事屋に住まず実家通いであることがわかった。彼は、実家である恒道館で姉と二人暮らしなので基本万事屋には住んでいない。今日も案内をしたらそのまま帰る予定のようだ。

「それじゃ、ここに住むのは銀さんと神楽と俺達だけってことか?」

「そういうことになるな。一応、こいつらは非正規雇用みたいなもんだから部屋は少し余ってんだよ」

「そうなんだ……」

 家族のように思われた万事屋の意外な一面である。それはさておき、銀時は手っ取り早くキリトらへ要望を聞く。

「じゃ、てめぇらはどうする? 寝るにしてもこの和室しかねぇぞ」

「うん。なら、やっぱり三人一緒に寝た方がいいわよね?」

「三人か。まぁギリギリ大丈夫だろ。俺は屏風で囲めばいいし、お前らの要望通りここにするか」

 彼らの要望を受けいれ、和室を寝室場所として提供することにした。仮想世界と同じくこの世界でも一緒に眠れることになり、キリトらのテンションが大きく上がる。

「ありがとうな、銀さん」

「これで、三人一緒に仲良く寝れるもんね!」

「よかったですね!! パパ!! ママ!!」

 喜びを分かち合い笑顔をこぼす三人。幸せそうな場面であるが、突如そこに冷たい視線が刺さる。振り返るとそこには、鬼の形相でキリト達をにらみつける銀時らの姿があった。そして、思いっきり聞こえる声で恨み節をこぼす。

「おい、新八ィ。神楽ァ。よく目に焼き付けておけ。あれがラノベ界のリア充だぞ……」

「本当羨ましいですよ……あのままチリとなってしまえばいいのに……」

「あたいら万事屋がそばにいる以上は、イチャイチャもムラムラもできないことを忘れるなよぉ!! 未成年どもぉ!!」

 もはや顔芸ともとれる三人の姿に、キリト達は黙り込んでしまう。ちなみにずっと静かにしていた定春でさえ、銀時らと同じく唸り声を上げてじっと睨みつけるのだ。

「あの、何か威圧感を感じるんだけど……銀さん達のまわりに紫色の邪気が見えるのは気のせいだよな?」

「ハハハ、気のせいに決まってんだろ?」

「そうだよなー! ハッハッハッ――」

 冗談を言って笑いあう二組。しかし、銀時の目が本気だったことに、こっそりと恐怖を覚えるキリトであった。リア充と非リア充の二組が同棲した初日は波乱の連続である。と落ち着いたところで話題を変えて、アスナは神楽の寝床について聞いていた。

「ところで、神楽ちゃんはいつもどこで寝ているの? みんなと一緒に和室で寝ているの?」

「いいや。あそこアル」

「あそこ?」

 そう言って神楽が指をさしたのは、押し入れだった。

「えっ? 押し入れなの?」

「そうアルよ。こんな、馬鹿共と一緒に寝るくらいなら押し入れで寝た方がまだマシネ。あっ、そうだ! 今度アッスーやユイと一緒に寝る時はここを使うアル!」

 神楽は自分のひらめきに納得して満面の笑みをするが、それとは裏腹にアスナの表情はだいぶ困っている。そして、彼女の肩を掴む。

「神楽ちゃん。せめて、一緒に寝る時は和室にしましょうか……」

「えっ? わかったアル」

 さすがに押し入れで三人分寝るのは無理があり、なんとか神楽を説得するのであった。

(やっぱり、神楽ちゃんって個性的な女の子ね……)

 自分のいた世界には滅多にいない個性的な女の子に驚かされ、心の中でそっと呟く。

 

 それから、万事屋としての説明は大方終了した。

「はぁー、とりあえず言うべきことは全て言ったな。まぁ、ホームステイみたいなもんだし軽い気持ちで過ごしていけよ。さて、それじゃ飯にすっか」

 安心したところで、一同はまず夕食の準備へと入っていく。

「確かにもう十九時だしな」

「そういえば、料理って万事屋は誰が作っているんだ?」

 キリトの問いに新八が答える。

「基本当番制ですよ。ローテーションで決めていくんです」

「それじゃ、みんな料理は得意なの?」

 今度はアスナが銀時らへ問いかけた。

「まぁ、一人暮らしが長かったから俺は大抵のモンは作れるぜ」

「僕は、あの姉上がいますから最低限の料理は作れますよ」

「姉上? ということは、新八さんは弟ということですか?」

「そうアルよ。まぁ、このことは明日じっくり話すネ。ちなみに私は卵かけご飯が得意料理アル!!」

「神楽ちゃん、それ料理なの?」

 会話の中で新八に姉がいることや神楽の好物が卵かけご飯だとわかり、万事屋への理解を深める。さらに一応全員料理はできるらしく、万事屋が当番制で料理を作っていることもわかった。すると、今度は銀時がキリト達へ問いかける。

「でよう、テメェらの方はどうなんだ?」

「フフーン! よくぞ、言ってくれたわね! 料理は私にとって得意分野よ!」

 すると、待っていましたと言わんばかりにアスナは自信満々に答えてきた。アスナの料理技術はレベルが高く、仲間達からも多くの高評価を頂いている。これには、神楽が大きく反応した。

「おおー、そうアルかー! なら、私アッスーに作ってほしい料理がアルネ!」

「任せてちょうだい! で、どんな料理なの?」

「卵かけご飯アル!!」

「えっ!?」

 神楽のリクエストに言葉を詰まらせるアスナ。彼女が上げたのは、好物の卵かけご飯だった。簡単な料理を言われてしまい返答に困ってしまう。

「も、もっと本格的な料理でいいのよ……」

「ん――ならタンドリーチキンパイ包み焼きを作ってほしいアル!」

「急に難しくなったわね!? メジャーとマイナーの差が激しすぎるわよ、神楽ちゃん!?」

 結局、難しい料理を提案されて、ついツッコミをしてしまったアスナである。一方で、料理をできるのは彼女だけではなかった。

「それで、キリトさんやユイちゃんは?」

「俺もだいたいのものは作れるから不得意ってわけじゃないよ。ユイは練習中だもんな」

「はい! その通りです!」

「そうか。じゃ二人の分を加えてまた新しく作り直すか」

 キリトも料理できることが分かったので、銀時は改めて料理の当番表を組みなおすという。そして、一段とお腹が空いている今日の担当は、

「それで、今日は――」

「あっ、私アル!!」

「神楽ちゃん!? ということは」

「みんな、待っていてネ!! 今、とびっきりおいしい卵かけご飯を作ってくるアル~!!」

生憎にも卵かけご飯を得意料理とする神楽だった。張り切る彼女とは異なり、一同の空気は微妙になっている。さらに、アスナの心の中にはある決意が生まれていた。

(神楽ちゃんに卵かけご飯以外にもレシピを教えないと……)

 料理好きとしてのプライドが黙っていなかったのである。

「まぁ、順調ってところだな」

 銀時の言う通り、彼らがこの生活に慣れるのも時間の問題であった。

 

 こうして時間は過ぎていく。神楽の作った卵かけご飯で夕食を済ました後、順番を決めて風呂へ入り一日の疲れをとる。新八は実家である恒道館へと帰り、万事屋には五人だけとなった。銀時や神楽の持つ寝間着のスペアをキリト達が着て、ゆっくり五人が過ごしていると、気付けば自然と眠気が出てくる。

「もう二十二時アルか。早いけど私は、先に眠るネ。おやすみアル」

「おやすみ、神楽ちゃん」

 まずは、神楽が就寝につき押し入れへと入った。それに続きみんなも疲れが溜まっていたので、早い時間だが眠りにつくことにする。

「じゃ、俺も眠いから先に寝るわ。明日は、挨拶回りするからてめぇらも早めに寝とけよ」

「うん。おやすみ、銀さん」

 銀時も布団へ入ると、そのまま寝てしまう。

「それじゃ、私達も」

「そうだな。寝るか」

 部屋の明かりを消して、キリトら三人も和室で眠ることにする。布団へ入ると、少し今日一日の出来事を話していた三人。しかし時間が経つにつれて次第に口数も減っていき、いつの間にかアスナとユイは眠りについていた。

「寝ちゃったのか?」

 現在、起きているのはキリトだけである。彼も眠いのだが、ふと思っていたことがあった。元の世界にいる仲間達が今どうしているのかと。不安が募り気になって中々寝付けない。

「大丈夫かな……みんな」

 あまり口に出さない弱音を吐いていた時だった。

「どうした? なんか抱えているのか?」

「うわぁ! 銀さん? 起きていたのか?」

急に銀時が屏風越しに話しかけてくる。彼はまだ起きており、キリトもつい驚いてしまう。

「シー。静かにしろ。気付かれたらことだからな」

 小声で話して、ここからはふすま越しに二人の会話が短く交わされる。

「で、どうしたんだ? まぁ、別の世界へ来て初めての夜にどうしたもこうしたもねぇがな。正直に話してみろ。おめぇの家族も今は寝ているみたいだしな」

「……わかったよ。実は――」

 キリトは銀時へ元の世界にいる仲間について話し、不安をかけているのではないかと悩みを打ち明けたのであった。

「そうか。約束している時にこの世界に来ちまったってことか?」

「そうなんだよ。アスナやユイは気を遣って大丈夫って言ってくれたけど、俺はそうは思わなくて」

「告白を待つ男子中学生か? コノヤロー。考えたってどうにかなることじゃねぇし、今はそんなに考えることでもねぇだろ」

「そうだけど……」

「それより、明日のことを考えろよ。気持ちは十分楽になるぜ。俺だってそうやって気楽に生きてんだ。なんでも気にしすぎると、見えるモンも見えなくなっちまうぜ……」

「銀さん……」

 銀時の優しくも重みのある言葉がキリトの心に刺さる。普段はだらしなく見えるのに、いざという時は頼りになるその姿は、好印象を与えていた。

「ありがとうな。励ましてくれて」

「別にどうってことはねぇよ。それと、一つ言い忘れてたわ」

「ん? なんだ?」

 すると銀時は少しの間黙り込む。そして、キリトへかけた言葉は、

「〇ッ〇スする時は、あんまり声を上げるなよ」

「えっ?」

まさかの下ネタであった。

「それじゃ、おやすみー」

「って銀さん!? 最後の最後で下ネタを言わないでくれよ!? ちょっと聞いてる!?」

 キリトのツッコミに返すことなく、銀時はそのまま眠ってしまう。

「グァァァ! ゴォォォ!」

「寝るの早!? ――まぁ、いっか」

 マイペースな銀時に呆れつつも、キリトは一旦気持ちを落ち着かせる。布団へ入り直し、再び眠りにつくことにした。

「おやすみ。アスナ、ユイ。神楽、定春、新八。そして、銀さん」

 ゆっくりと目を閉じて、この世界で初めての夜をキリトらは過ごしたのである。

 

 




まだこの話では、サブキャラクターは出てきません。次回の話で一気に出てきます。お楽しみに!


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第三訓 挨拶回りは何かとめんどくさい!

いよいよサブキャラクター達が本格的に出てきます。見逃さずにご覧ください!


2026年4月 13時15分

 SAOの次元の地球にて動きがあった。キリト達が銀魂の世界へ飛ばされたおよそ五分後、仮想世界ALOにて仲間達が集合場所である広場へたどり着いている。

「ごめんー! お待たせ!」

「遅れちゃいましたー!」

 羽を収め地上へと降りたのは、シリカとリズベット。そして、ペットであるピナだ。二人共、旧知からキリトら三人のことを知っている仲間で、良き理解者でもある。シリカは猫耳と尻尾を生やした茶髪の女の子で、見た目や声から幼く思われがちだがれっきとした女子高生である。青色で統一した服にスカートとニーハイで決めており、武器のダガーや小竜であるピナを使うビーストテイマーなのだ。一方のリズベットは、小さいとんがり耳をした鍛冶の得意な女の子。明るい性格とそばかすのついた活発なムードメーカーだ。赤と白色のズボンタイプの服を着用して、盾とメイスと呼ばれるこん棒を装備している。二人共に仲が良く、今日もクエストに必要な物を買い揃えていて集合場所へと着いたのだが――

「アレ? 三人共いない?」

「ええ!? どこ行っちゃったのよ!?」

そこには、キリト、アスナ、ユイの三人の姿はいなかった。突然と姿を消したことに、二人は違和感を覚える。

「ナー?」

 ピナも不安そうに鳴き、この状況に自然と不安が募り始める。

「さっきまで、連絡取れていたのに……」

「まさか、そのままお茶に行っていたりして!?」

 そう憶測を考えていた時、またも仲間がやってきた。

「ん? シリカにリズ?」

「って、リーファにシノンじゃない!? 一体どうしたの?」

「お兄ちゃん達を探しているんだけど、中々見つからなくて……」

「お二人も探しているんですか?」

 場へ駆けつけたのは、同じく仲間であるリーファとシノンだった。リーファは、キリトの義妹であり現在世界では黒髪のショートカットだが、仮想世界では外見を変えて金髪で大きめのポニーテールにしている。胸元の空いた服や白いスパッツ、茶色のブーツでファッションセンスを上げており、風を操る種族シルフの力と剣を使った空中戦法が得意だ。結構長いとんがった耳をしている。一方、シノンはシリカと同じく三角耳と尻尾を生やしたケットシーの女の子。元々シューティングゲームの世界で活躍していたが、キリトやその仲間との出会いを機にこのファンタジーの世界へと移行した。水色髪のショートヘアー、外見は薄い緑色のローブ付きの服、黒いホットパンツにへそ出しと露出の多いファッションをしており、足元は黒ブーツで決めている。遠距離戦が得意なため大型の弓を使いこなし、仲間をサポートしている。個性も武器センスも違う四人はキリトやアスナの頼もしい仲間だが、その呼び出した張本人が集合場所にいないことにまだ戸惑いを隠しきれていない。

「そうよ。でも、あちこち探しても見つからないのよ」

「もしかして、ログアウトしているんじゃないの? 現実世界に戻っていたりとか?」

「だったら、あの二人のことだし連絡くらいするよ!」

「それでは、一体どこへいるのでしょうか?」

 四人は持つ情報を話せるだけ話したが、結局何もわからずしまいだった。しかし、見つからなくて当たり前である。なぜなら、今キリト達がいるのは――

 

「うるせぇぇぇ!! もうとっくに起きてるだろうがぁぁぁ!!」

銀魂の世界なのだから。そんな、彼らが初めて起きた朝は銀時の唸る怒りから始まった。

「フワワ……何の音?」

「朝から何騒いでいるのよ……銀さん?」

 騒ぎを聞きつけキリトやアスナも目を覚ます。屏風越しに見てみるとそこには、壊された目覚まし時計が転がっており、安眠を妨げられた銀時の鬼の形相が目に見えていた。

「ったく、このおんぼろ時計のせいで折角の睡眠が台無しだぜ」

「それはこっちのセリフよ……」

「まったく、銀さんはすぐ責任転嫁するんだから……」

 朝から銀時の調子は昨日と変わらず激しかった。でも、そんな彼の姿を見てキリトは少しだけほっとする。

(一日経ったけどやっぱりこの人は変わらないな……)

 なんだかんだで、心の中では頼りにしていた。そんな中銀時は、目覚ましを設定した犯人を探している。

「そもそも、俺昨日時計なんかセットしたか?」

「あっ! つい、いつもの癖で俺がセットしていたわ」

「全ての元凶はてめぇかぁ!?」

 そして、まさかのキリトが犯人であった。怒りのまま銀時はキリトの頬っぺたをつねって、彼の目を覚まさせようとする。

「痛てて! やめてって銀さん!」

「うるせぇ! ついでに、てめぇの目を覚ましてやろうかぁ!」

「もう俺は、起きてるからぁ!」

「フフ。キリト君も銀さんも仲いいわね」

 子供のようなじゃれあいをする二人。しまいにはキリトも銀時の頬っぺたをつね始めて反撃に出ていた。そんな二人の様子にアスナはそっと微笑んでいる。すると、その騒ぎを聞きつけユイや神楽も目を覚まし始めた。

「フワァァ……一体何の騒ぎですか?」

「朝から何を喧嘩しているアルか?」

「あっ、ユイちゃん! 神楽ちゃん! おはよう!」

 あくびをしながらアスナの元に集まると、二人が見た光景は銀時とキリトが互いの頬っぺたをつねり喧嘩している様子である。

「ん? パパと銀時さんが喧嘩してます?」

「アッスー? 寝ている間に何があったアルか?」

 神楽の質問にアスナは笑顔で答える。

「えーと……アレはただの兄弟喧嘩よ」

 こうしてキリト達は、この世界で初めての朝を迎えたのであった。

 

 この世界の朝は、キリトのいた世界の朝となんら変わらない。まばゆい太陽が町を照らし一日の始まりを告げている。そんな万事屋の朝は、新八が来てから始まるのだ。

「おはようございますー!」

 彼が部屋へ入るとすでに仲間達は起きている。普段の万事屋ではまだこの時間帯に起きていないことが多いが、先ほどの目覚まし騒動があってか今日はみんな早めに起きていた。服も着替えており、みなソファーに座って、テレビに映ったニュース番組を見ている。

「あれ? 今日はみなさん早いですね」

「こいつのせいで目覚まし時計が鳴ってこの様なんだよ」

「悪かったって、銀さん」

 そう言った銀時とキリトの頬っぺたは赤く腫れていた。これはきっと朝に一悶着があったのだろうと、新八は察している。

「あっ、これは喧嘩したんだな」

 彼は小声でそっと呟いた。それはさておきニュース番組を見ていると、宇宙中の出来事が報道されている。政治や経済など他の星で起きている様々な話題が取り上げられていた。

「やっぱり色んな事が宇宙で起きているのね」

「宇宙規模となると、問題もやっぱり多くなるんだな」

 アスナやキリトは、見ているうちに改めてこの世界が宇宙へ開国した事実を知る。

「お二人共、ニュースはよく見るんですか?」

「朝に見たり、後はネットで見ていたかな?」

「そんな、頻繁じゃないわよ」

 新八の質問に答えているとキリトが見かけたのは、銀時が微動だにせずにテレビをじっと見つめる場面であった。

(やっぱり、銀さんも社会問題には関心があるのか?)

 社会的な一面を見て彼を見直そうとした時である。番組も終盤にかかり、ニュースからお天気と占いのコーナーへ変わった。

「それでは、ここで星座占いに移りましょう。結野アナーお願いしますー」

「はぁ~い! 結野クリステルです! みなさん、夏も近づき暑くなってきましたね。今日は――」

 場面が変わり映ったのはピンク色の和服を着た穏やかそうな女性、結野クリステルである。それと同時に銀時の目が変わり、

「来たぁぁ! 結野アナー!!」

急にテンションが上がり始めた。

「ぎ、銀さん!?」

「急にどうしたのよ!?」

 あまりの変貌ぶりにキリト達が驚いていると、新八と神楽が代わりに説明してくれた。

「はぁ……この時間が来たアルか」

「一体、どういうことなんですか?」

「えっと、実は銀さんはお天気や占いをする結野アナって人の大ファンなんだよ」

「そうなのか!?」

 銀時の好みのタイプに人一倍驚いた表情を見せるキリト達。しかしそれも無理はない。彼らにとって銀時は何が好きなのか全く分からず、まさかお天気お姉さんが好きなタイプだとは思ってもいないからだ。

「ぜひ、暑さに気を付けて仕事や勉強をしてくださいね!」

「はーい! わかりましたー!」

 しかも見る限り、かなり熱烈なファンであることがわかる。

「銀さんの好きなタイプってお天気お姉さんなんだ……」

「意外ね……まさか銀さんが」

「人の好みは千差万別ですからね……」

 苦笑いで呟くキリトら三人。この人はニュースのためではなく、お天気お姉さんである結野アナのために番組を見ていたのだと、心の中で確信する。すると、彼が待ちわびていた占いのコーナーが始まった。

「それでは、お待ちかねのブラック星座占いですー!」

「ん? 何か始まりましたよ?」

「これは星座占いだよ。毎回銀さんはこの結果を楽しみにしているんだ」

 ユイの質問に新八が返す。始まったのは結野アナが独自の力で運勢を予測する星座占いである。キリトらも元の世界では朝出かける前にやっている占いを、おまけ程度で見ておりつい結果を気にしてしまうらしい。

「星座占いか。当たるといいな」

「そういえばキリ達の星座って何座アルか?」

「それは――」

 アスナが神楽へ言いかけた時、もうすでに結果が発表されていた。

「今日、もっとも運勢のいい星座は……てんびん座のあなたです!!」

「よっしゃー! ラッキーだぜ!」

 一位を獲得して喜びに浸る銀時。しかし、喜んでいるのは彼だけではなかった。

「えっ!? てんびん座が一位!?」

「やったわね!! 私達が一位よ!!」

 なんと、同じくてんびん座であるキリトとアスナも喜び声を上げたのだが――

「「「えっ!?」」」

ここで三人は気付く。銀時、キリト、アスナの三人が同じ星座であることに。

「お前ら!? 俺と同じ星座だったのかよ!?」

「うん……だって私、九月三十日生まれだから」

「俺は、十月七日生まれだな。そういう銀さんは?」

「十月十日――って、三日違いじゃねぇかぁ!?」

 まさに偶然の一致である。話をまとめるとアスナは九月三十日生まれ。キリトは十月七日生まれ。銀時は十月十日生まれとかなり近い範囲で、三人は同じてんびん座ということだ。

「すごいです……パパとママの星座が銀時さんと同じ星座なんて」

「むしろ集まりすぎアル」

「なんで、うちの天パがラノベカップルコンビと同じ星座なんだ……」

 この展開に仲間達の反応もバラバラである。そんな、てんびん座の内容はというと、

「てんびん座のあなたの運勢は、かなり好調です。特に背中に大きな剣を二本携えた妖精の方に抱きつくと、かなり運勢や恋愛運が上がります。羞恥心を捨てて、てんびん座の方は励んでください! それでは、次に二位から五位についての発表です――」

かなり変わった展開であった。しかも、キリトを言い当てるような結果に当の本人は戸惑いを見せている。

「えっ、さっきの占いってまさか俺のことか!?」

 自分に指をさし周りを見渡していると、そこには新八、神楽、ユイの三人しかいなく銀時とアスナの姿はいなかった。

「アレ? アスナ? 銀さん?」

 二人を探して後ろを振り返ってみると、

「「キ~リ~ト~く~ん!!」」

「ん!? ギャャャャ!!」

そこには占いを信じ込み強制的に抱きつこうとする彼女と万事屋の社長がいた。そして、彼の体へと飛び掛かってくる。

「もう~!! さっすがー、私のキリト君なんだから!! ラッキーアイテムが彼氏なんて最高すぎるよ~~!!」

「ちょっと、アスナ!? 落ち着いてって!? 意味間違えているから!?」

「頼むー、キリトー!! 俺に恋愛運を分けてくれー!! 結野アナのケツの〇〇を早く〇合したいんだぁぁぁ!!」

「銀さん!? 朝から欲望を叫ぶのやめてもらえるか!? つーか俺にそんな力ないからなー!!」

 アスナはただイチャイチャするため。銀時はただ結野アナと〇合したいがために、キリトへ抱きつき離れない。彼はただツッコミを入れることしかできないが、まだ収まりそうにはなくカオスな状況が朝から続いた。この場面を見た仲間達は、

「って、この状況誰が得するアルか?」

神楽は死んだ目となり冷静に呟き、

「〇合とは一体どういう意味なんですか?」

「あわわ! ユイちゃん!? まだ知っちゃダメだから!! 銀魂に染まっちゃダメだからー!!」

新八はユイの説得に明け暮れ、賑やかな朝が続いたのである。

 その数分後、ようやく騒ぎは収まった。

「はぁ……やっと終わった……」

「これで、私は満足だよ~!」

「本当にあやかれるのかな!? 結野アナと俺、付き合えるのかな!?」

「俺が知るわけねぇだろ!!」

 ごもっともな意見である。彼氏に抱きつき幸せな気持ちに溢れるアスナと、結野アナへの思いの止まらない銀時。キリトにとって、波乱な朝のひと時だった。それは置いといて、みなが落ち着いたところで新八が話しかけて、場を整える。

「ほら、銀さん! 今日は挨拶回りなんですから、シャキッとして朝ご飯作ってくださいよ! 今回は銀さんが料理当番なんですから!」

「あっ! そうだったな……」

 そう指摘されると、銀時はあくびをしてキッチンへと向かった。今日は彼が当番らしい。

「銀時さんが料理を作るんですね!」

「そうアル! 銀ちゃんは、ああ見えて料理の腕はある方だからナ! 存分に期待していいアルよ!」

「へぇ~そうなんだ! なら、言葉通り期待してるわ!」

 料理のハードルを上げられ、アスナやユイはかなりの期待を持つ。その一方で、キリトは急に少し浮かない顔をしている。

「ん? どうしたんですか? キリトさん?」

「いや、なんでもないよ!」

「そうですか?」

 新八が聞いても特に何もなかったが、実はまだ彼の心の中では元の世界にいた仲間達が不安で仕方がなかった。そのせいで、無意識にボーと浮かない顔になってしまう。

(みんな……大丈夫かな?)

 その彼の不安と比例して、時は過ぎていくのであった。

 

 話をSAOの世界へと戻そう。その後、シリカ達は同じく合流を約束していた男子達と会い、三手に分かれて大規模な捜索へと明け暮れていた。シリカ、リズベット、ピナは町に近い洞窟エリアを。リーファ、シノンの二人は、近い草原エリアを。そして、男子陣は市街地を担当することになる。

「おーい! どこにいるんだ、三人共ー!」

 大声を出しながら町を走るのは、キリトの旧友クラインであった。彼もデスゲームである「SAO」に捕らわれていた一人である。解放後もキリトとの縁はあり、直々一緒に遊んだり戦っている。濃い赤髪に鉢巻と巻き炎をモチーフにした和服を着ており、刀を使った戦術で侍を志して生きている。現実では、物を運ぶトラック運転手だ。見た目からはわかりづらいがこれでも二十代前半のいい大人である。一方、西側にはもう一人探している大人がいた。

「いないな……ここにも」

 しらみ潰しに店を覗き三人を探していたのは、もう一人の男子エギルであった。彼も同じく「SAO」に捕らわれた一人で彼らとも旧知の中である。褐色肌の目立つ外人で、体格もかなり大きい。髪はなくスキンヘッドで濃い緑色の服に装甲も重装備である。おもに大型の斧を使って力任せに戦うのを得意としている。ちなみに現実では、バーを営むこじゃれた大人で年齢も意外に二十代後半である。そんな、大人の男性二人も捜索には難航を示していた。

「どうだ? いたか?」

「いいや、これっぽちも。にしてもよぉ……本当にこの世界にいるのかよ?」

「さぁな。まぁいざとなれば家まで訪ねればいいって話だ!」

「リーファちゃんもいるしな!」

 気持ちを明るい持ち二人は捜索を再開させる。しかし、まだ六人は気付いていない。サイコギルドにその存在を狙われていることに。

「もうすぐだ。待っていろ……」

 その影はすぐ近くにまで迫っていた――

 

 一方、こちらは銀魂の世界。銀時の作った朝食のチャーハンを食べ終えると、一行は軽く支度をしていよいよ挨拶回りに向けて出発しようとしていた。

「それにしても、銀さんの作るチャーハンは本当おいしかったよ」

「正直予想以上だったわ。やっぱり、銀さんって侮れない人ね……」

「おめぇら! 俺のこと、どういう目で見てたんだよ!」

 準備をしながら交わされる銀時の料理談義。どうやら思ったよりおいしかった反応で、ユイもそのおいしさに感動している。

「これがこの世界の料理なのですね! 感動しました!」

「って、チャーハンはどこの世界にもあるだろうがぁ! 何に感動してんだよ!」

 銀時が大きくツッコミを繰り返す展開であったが、この様子に新八と神楽は感心している。

「なんだか、アッスー達の緊張がほぐれたみたいネ」

「そうだね。一日しか経ってないけど不安は少なくなっているみたいだね」

 昨日まではどこか不安で押しつぶされそうになっていた三人も、一日経てば自然と万事屋に解け込み笑顔の回数も増えていた。そんな三人が次に挑むべきは今日のメインイベント、挨拶回りである。

「ほら、銀さんにみなさん! 行きますよ!」

「チャチャとやって、チャチャと帰ってくるネ!」

 新八らに呼びかけられ六人はついに万事屋を出た。もちろん、遠くまでいくので定春も同行しており、先ほども多めにドッグフードを食べて気合もばっちりである。

「ワフ~!」

「定春さんも元気一杯ですね!」

 ユイも定春の額をさすり仲良く接した。彼女との仲が深まるのも時間の問題である。そして、階段を下りて地上に集まると、まず銀時がスクーターを持ってきて新八を後ろに乗せて自分も乗る。神楽も定春にまたがりその後ろにユイが乗った。キリト、アスナは羽を広げて空中浮遊するとバランスを保ち空への飛行に成功する。これですべての準備が完了すると、ちょうどよいタイミングでたまがスナックお登勢から顔を出した。

「おや、どこへ行かれるのですか? みなさま?」

「あっ、たまさんだ。これから銀さんに連れられて挨拶回りに行くんだよ」

「挨拶回りですか……お気を付けてください。この世界の住人は個性が強すぎる方が多くいるので気を確かに持ってくださいね」

 彼女が伝えたのは、励ましと警告だ。たまの言う通り銀魂のキャラクター達は一癖も二癖もある連中が多いので、かなり丁寧に警告してくれたのである。

「挨拶回りって、そんな命がけの行事だっけ?」

「おそらく違うと思いますよ」

「まぁ、それは置いといてだ。気を取り直して行くぞ、てめぇら!」

「じゃあな。たまー! 夕方には帰るアルからナ!」

 そして、一行はついに万事屋は出発。勢いよく場を去っていったのだ。

「夕方ですか……」

 それを聞きたまは手で見送っていたが、同時に何かを思いついている。

 

 かぶき町を中心に江戸のビル街を駆け抜けて行く万事屋一行。この時代背景は江戸時代末期だが周りに存在しているのは、ビルや飛行船。さらに道行く人は、スマートフォンにタブレットなど最新の端末機器を持ち歩き、その光景はまるでキリト達のいた現代となんら変わっていない。

「どこを見てもビル……本当に江戸時代なのかわからないわね……」

「まぁ、この世界観は説明したってイマイチわからないアルから、ほとんど気にしなくていいアルよ」

 アスナの呟きに、神楽が返す。さらに、ユイも銀時へ聞いてくる。

「本当にそんな大雑把でいいんでしょうか?」

「いいんだよ。そんな気にしなくて。わかるやつだけ連いていけばいいだけなんだよ」

「銀さんがそういうならいいけど……」

「本当に気にしたら負けですからこの世界は……」

 万事屋の三人は一斉に些細なことは気にするなと助言してくれた。これが正論だと思い、これ以上キリト達は言わないことにする。そんな中、キリトは銀時に改めて目的地を聞く。

「ところでまず俺達は、どこへ向かうんだ?」

「ここから近いってなったら、まず新八の家か?」

 彼の返事からまず一行が向かうのは、昨日も話題で上がっていた新八の住む道場「恒道館」であった。

「新八さんのお家ですか?」

「そうですよ。ということは、姉上に挨拶した方がいいかな?」

「姉上? 新八君のお姉さんのことね!」

 興味を持ち始めるユイやアスナに対して、再び銀時がからかいを加える。

「まぁな。ゴリラに育てられたキャバ嬢のねぇ―ちゃんだよ」

「ちょっと、銀さん!? 勘違いを思わせることは言わないでくださいよ!!」

 彼の冗談に新八がすかさずツッコミを入れた。だがキリト達は、ゴリラ似のキャバ嬢だと言われても想像がつきづらく、早くも嫌な予感しか感じてない。

「それで、結局どんな姉なんだ?」

「まぁ、そこは行ってからのお楽しみにしましょうよ」

 結果、楽しみに取っておくことになった。一行が恒道館へ向かおうと進んでいた時である。

「ピピーー!!」

 突如聞こえてきたのは、高音の笛の音だった。

「ん、何アルか?」

 音の聞こえた方角へ向けるとそこには、黒い服を着た男が二人立ち並んでいる。

「はいー。ストップーストップー検問ですー」

「真選組だ! おとなしくこっちへ来い! てめぇら!」

 鞘へ納めた刀を手に男達は促してきた。一人は、緑がかった黒髪に先端をⅤ字ヘアーにして目つきをかなり鋭くさせている。しかも、口には煙草をふかして煙を出していた。もう一人は、茶髪の髪に大きな赤目と若い印象を持たせている。さらにリズムを刻みながらピンク色の風船ガムを作っていた。そんな二人は共に制服のような黒服と刀が目立つ男達である。しかし、キリト達が気になったのは見た目と威圧さだけではない。真選組という言葉だ。

「ったく、やべぇのに見つかちまったな」

「真選組の土方さんと沖田さんだ! あの二人が一緒に仕事となると、イヤな予感しかしないんだけど……!」

 銀時らは真選組との関わり方にも慣れているため、見た瞬間にやる気が失せたが、キリト達は真選組という単語が引っかかり気になっている。

「なぁ、銀さん。シンセングミってあの新撰組なのか?」

「はぁ? それってまさか新って書く方の新撰組か?」

「そうよ。って、それ以外に何があるの?」

「――この世界じゃ真に選ぶと書いて真選組って言うんだよ。多分、てめぇらの知っている新撰組とは違ぇよ」

「「えっ!?」」

 二人はてっきり京都で活躍した本来の偉人の新撰組を思い浮かべていたが、この世界では全く違う組織として存在していたことがわかった。

「つまり、この世界の新撰組は大きく異なるということですか?」

「その方がわかりやすいですよ。真選組はここでは江戸を守る武装集団で、簡単に略すると警察みたいなものなんですよ」

 ユイの問いに新八が答える。さらに、神楽が一言アスナへ伝えた。

「ほとんどチンピラのようなことしかしてない組織アルけどナ」

「警察でチンピラ……本当に別の組織なのね」

 万事屋からの補足で、真選組の存在について理解したキリト達。彼らもそこまで詳しくなかったが、まさか別の世界で歴史上の偉人達に会えるとは思いもしていなかった。

「おい、何ゴダゴダしてんだ? さっさとこっちへ来い」

「わかってるわ! そう、急かすんじゃねぇよ!」

 土方からの催促が来てしまったので、仕方なく万事屋は真選組の待つ検問前に向かう。その途中でも会話は続く。

「それで、あの二人は一体誰なんですか?」

「えっと、前髪がⅤ字になって、煙草を吸っている人が土方十四郎さん。鬼の副長と言われていて、真選組の要と言われている人なんだ。そして、茶髪で風船ガムを作っているのが沖田総悟さん。真選組一番隊の隊長で、剣術なら誰にも負けない持ち主の人なんだ」

 新八が事細かにキリト達へ、真選組を説明する。土方十四郎と沖田総悟。見た目も違えば名前も微妙に違っていた。

「土方十四郎? 沖田総悟? 歳三と総司じゃなくて?」

「気にするなって言っただろ。別物として扱えって」

「本当に別人なのね……」

 慣れている銀時とは違い、キリトやアスナが真選組を受け入れるのも、まだ時間がかかりそうだ。そして、検問所へと一行はたどり着く。

「やけに遅かったじゃねぇか」

「ちと、説明していたんだよ。こいつらに」

「説明? それはこっちがしてほしいですよ、旦那。その見慣れないとんがり耳の天人共と小さい女は一体誰ですかい?」

 キリトらを見た瞬間に沖田がやはり聞いてきた。彼の勘はかなり鋭い。仕方なく銀時が説明する。

「誰って、俺達が新しく雇った連中だよ」

「万事屋にか? てめぇにそんな金あるのかよ?」

 すかさず土方が反論してきた。

「だいたい、見たところ天人らしきやつが二人いるが、不法入国ってわけじゃねぇよな?」

「天人? 違ぇよ。こいつらはな別の地球から来た奴らなんだよ」

「はぁ? じゃ、なんで耳がとんがってファンタジー系の衣装を着てんだよ」

「そりゃ、仮想世界のアバターだからだろうが! いい加減、察しろ!」

「察するわけねぇだろ! だいたい、なんでゲームのアバターがこの世界に来て、現実世界を普通に歩いているんだよ!」

「知らねぇよ、そんなもん! それがわからねぇから俺達がかくまっているんだよ! だいたい、その原因知りたいならこの二次小説の原作者に聞きやがれよ!!」

「元も子もないこと言ってんじゃねぇよ!!」

 弁解するつもりが、途中から口喧嘩となりしまいにはただの喧嘩にまで発展してしまう。銀時と土方は、壊滅的に仲が悪く顔を合わせれば話すらうまくいかないのもザラである。

「ちょっと!? 銀さんに土方さん!? 大丈夫か!?」

「無駄ですよ。あの二人は言い出したら止まらねぇ人間なんでねぇ」

 心配するキリトらとは違い、沖田は全くもって無関心であった。ひとまず二人を放っておくことにして、代わりに沖田が簡単に話をまとめる。

「で、要するにゲームのアバターのままこの世界へ来てしまって、帰れるに帰れない状況。そんなところですかい?」

「まぁ、そういうところですね……」

「なるほど。ゲームのアバターねぇ。じゃ……」

 理由を知った沖田は急に不敵な笑みを浮かべる。そして、何の前触れもなくキリトへ近づくと左手に力を入れて、そのとんがった両耳を押しつぶし始めた。

「痛ァ!? 沖田さん!? 何してるの!?」

「おーい! やめるアル! このドS!」

「キリト君から離れなさいよ!!」

 唐突な沖田のいたずらに怒りを覚え、アスナと神楽は攻撃を仕掛けようとする。しかし、その瞬間に沖田はいたずらをやめて、彼女達の攻撃も反射神経でかわす。

「ふっ。チャイナだけでなく、あの青髪も中々やりやすねぇ」

 いたずらの中で沖田は密かに強さを測っていたのだ。一方で、アスナと神楽は沖田から解放されたキリトの元へ集まる。

「大丈夫アルか、キリ! あのドSにもう何もされていないアルか?」

「う、うん。なんとかな」

「はぁ~よかった……」

 どうやら、キリトに問題は何もなかった。安心する女子陣とは裏腹に、沖田は何一つ悪びれず謝るどころか余計に煽ってくる。

「ふっ、どうやら本物の耳らしいな。証明できて良かったですねぇ」

「あんたねー! それでも、警察なの!」

「警察ですが何か?」

 アスナの怒りも沖田には伝わっていない。何一つ表情を変えず人を小バカにする笑みを浮かべている。彼には何を言われても全く動じないのだ。

「落ち着くネ、アッスー! あいつに何を言っても無駄アルよ!!」

「くっ……何てドSな人なのよ……」

 沖田の本性に、アスナはとうとう何も言えなくなってしまう。正直、悔しい気持ちでいっぱいになっていた。しかし、当のキリトはというと

「そもそも俺は大丈夫なんだが……」

そこまで気にしてはいない。

「そう、まともに相手にしたら終わりだぞ。てめぇら」

「って、銀さん!? いつ、戻ったんですか!?」

 一方で、銀時と土方はいつの間にか喧嘩の熱が冷めて仲間の元に戻っていた。

「まぁ、総悟もほどほどにしろよ。仮にも別の世界の人間らしいからな」

「そうですかい。じゃ土方さんのあの料理は誰も受けいれてくれやせんねぇ」

「料理?」

 ここで沖田に続き、土方の本性まで明かされてしまう。

「土方さんに得意料理なんてあったのか?」

「おい、三人共! 見るなアル! 理解なんてできない世界が広がっているネ!」

 神楽の忠告を促すが、時すでに遅い。

「はい、これですよ」

「「「!?」」」

 沖田の携帯電話に映し出されたのは、丼たっぷりにマヨネーズが入っただけの料理、土方スペシャルであった。もちろん、これを見たキリト達は完全に気が引いている。マヨラーの常識範囲を超えていたからだ。

「うわぁ……なんだこれ……」

「バランス悪そう……」

「体に良くないですよー!」

 顔色を悪くして土方に注意する三人。さらに、銀時も続けて口に出す。

「まぁ、あんな料理見せられたらそうなるわな」

「いや、あんたが言える立場かよ! ご飯に小豆かけて食べていただろうがぁ!」

 他人事に思う彼に、新八もついツッコミを入れる。だが、土方は全く聞く耳を持たずに我流を通す。

「まぁ、誰から何を言われようが俺の思いは変わんねぇよ。この土方スペシャルは、俺のソウルフード。何も変えられない大切な一品なんだよ……」

 なぜか誇った表情で堂々と宣言する土方の姿にキリト達は、

(((この人もまともじゃない!!)))

心の中で癖のある大人であると確信する。

「まぁ、この世界にまともを求めること自体間違っているけどな」

 銀時の呟いた言葉は、ある意味間違ってはいなかった。

「つーか、アンタどうやって心の中読んだんだよ?」

 細かい事を気にしてはいけない。

 

 それはさておき真選組が本当に呼び止めた理由は廃刀令にあった。この銀魂の世界では、普通の人間が武器を持てないようにこの法案が地球にはびこっており、一部の人間しか武器を持つことが認められない。キリトやアスナも自慢の剣型の武器を持っていたため、真選組に呼び止められてしまったのである。

「これが全部ゲームの武器なんて思いもしないですねぇ」

 沖田は一つずつ武器を確認して危険性がないか確認した。一方、土方はキリト達の名前を聞いている。

「キリト、アスナ、ユイか。本当に天人じゃねぇんだな?」

「疑い深いアルなー! 三人共別の世界から来た立派な人間アルよー!」

「神楽ちゃん、落ち着いてって!」

 怒りを上げる神楽をアスナが止める。さっきとは真逆の展開であった。

「ふっ、一応覚えておくよ。少なくともこいつよりはしっかりしてそうだし、大丈夫だろ」

「こいつって俺のことか!? バカにするんじゃねぇよ! おい、聞いてんのか!!」

 さりげなく放った土方のフォロー。銀時の悪口でもあったが、何気に彼らのことを考えてくれていた。そう、話し込んでいるとようやく沖田から武器が返却される。

「はーい。検査終了でっせ。特に問題なかったですよ」

 結果は問題なく異状なしだった。

「やっと、戻ってきた……」

 武器を返してもらい、二人はもう一度腰や背中へ装着し直す。

「まぁ、この江戸で暮らす以上は、俺達みたいな人間が多いことを忘れるなよ」

「てめぇも受け入れたからには、しっかりと責任持てよ。それじゃあな、行っていいよ」

 こうして、真選組の検問も終わり万事屋は彼らの元を去っていったのである。初めての挨拶回りは最初からクライマックスの展開だった。

「あれがこの世界のシンセングミ……」

「なんか、イメージが覆されたんだけど……」

 特にキリトとアスナの二人は、おそらく一生忘れられない思い出として心に残っていただろう。

「だろうな。ニコチンV字ヘアーのマヨラーとサディスティック星のドS王子だからな」

「歴史好きの人からすれば苦情モノですものね……」

 万事屋がさりげなくフォローを入れたが、複雑な気持ちに変わりはない。そんな一行が再び、恒道館へ向かおうとした時である。遠くからある気配が近づいてきた。

「ん? 何か聞こえてきませんか?」

「何アルか? ユイ?」

 ユイが感じ取っていたのは、微かに聞こえてくる男の声。しかも徐々にこちらへ向かってくる。そして、

「うわぁぁぁぁ!」

凄まじい轟音とともに万事屋の近くへ落ちてきたのだった。

「な、何だ!?」

 幸いにも手前の歩道に衝突したためメンバーに怪我はない。巻き上がる砂煙の中、姿を現したのは真選組の隊士服を着た男である。

「だ、誰だ?」

「また、真選組の人?」

 キリト達が戸惑う中、万事屋は断言した。

「「ゴリラァァ!?」」

「って近藤さんだろうが!!」

 天より降ってきた近藤という男はいかに? そして、いつになったら再び事態は進むのか? まだ挨拶回りは始まったばかりである……

 




後篇は間に合わなかったので次週にします。次々と出てくる銀魂キャラクターの個性に注目して待っていてください。


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第四訓 引っ越しそばでも末永く付き合えない理由がある

今回は銀魂女子が続々登場致します。では、ご覧ください!


 銀魂の世界へ来てしまったキリト、アスナ、ユイの三人は銀時ら万事屋に入ることになり挨拶回りをすることになった。新八の実家、恒道館へと向かう最中に真選組の土方十四郎と沖田総悟に出会い、その個性の強さに翻弄されてしまう。そして再出発しようとした時。彼らの目の前に、ゴリラと揶揄する男性が空から落ちてきたのだった。

「「ゴリラァァ!!」」

「って近藤さんだろうが!!」

 万事屋のツッコミが大きく決まる。すると、すぐに男性は起き上がってきた。茶髪で大柄な体格をしており、真選組特有の黒い隊士服を羽織っている。その正体は――

「その通りだ!! この俺は真選組局長、近藤勲だ!」

真選組の局長である近藤勲であった。さっきまで歩道にめり込んでいたくせに、とても元気である。

「近藤勲? 近藤勇じゃなくて?」

「この人も真選組なんですか?」

 またも出会った真選組からの人間に、警戒心を高めるキリト達。名前は違ったが、雰囲気から土方と沖田に続き嫌な予感しかなかった。そして、すぐに確信へと変わる。

「真選組つーかストーカーだけど」

「えっ?」

 銀時からの言葉に思わず耳を疑ってしまう。ここにきて犯罪の可能性のある人間と、ばったり出会ってしまったからだ。

「ス、ストーカー!? この人、警察官よね!?」

「そうアル! しかも局長で、この江戸を守る治安部隊の幹部アルよ!」

「嘘だろ? 本末転倒じゃないか……」

 信じがたい事実に頭を抱えてしまうキリト達。処理が追い付かない中、近藤は相も変わらず弁解してくる。

「ちょっと待ってくれ! 俺はストーカーじゃないぞ!」

「えっ? そうなんですか?」

「そうだ! 俺は愛を求めお妙さんを追いかけるゴリラだ! さっきだってお妙さんに追いかけたら、吹き飛ばされてここまで来たということだ!」

「結局、ストーカーじゃないですか!!」

 しかし、弁解をしても結局ストーカーであることに代わりは無かった。思わずユイも新八ばりのツッコミをしてしまう。整理すると近藤は真選組の局長だが、自他共に認めるストーカーだということだ。すると彼も、ようやくキリト達の存在に気付く。

「ところで、万事屋! この天人達は一体誰なんだ?」

「また説明するのかよ。まぁ、こいつらは新しい万事屋のメンバーだよ」

「何!? 新メンバーだと!?」

 土方、沖田と比べてかなりオーバーアクションを見せる。

「そうですよ。キリトさんとアスナさんとユイちゃんの三人です」

「こいつらはいわゆる、リア充のカップルアルよ!」

「何、そうなのか!? なら――」

 彼らの境遇まで知った近藤は、急に顔色を変えた。すると、勢いのままキリトへと近づき彼の手を掴む。

「えっ?」

「頼む、キリト君! 教えてくれ! 俺はどうやったらお妙さんを落とせるのかを……!」

 まさかの恋愛相談。突然の展開にキリトどころか万事屋すら対応に困る。だが近藤は、涙ながらに自分の思いについて語りだした。

「お、お妙さん?」

「そうだ! 彼女は、それはそれは美しい方なんだ! 強くて優しく、そして新八君のお姉さんで気も回るし――」

「ちょっと待って!? 新八君のお姉さん!?」

「お妙さんは、新八さんのお姉さんだったんですか!?」

「間違いではありませんけど……」

 再び出てきた急展開に、驚きを隠せないアスナとユイ。近藤のストーカー相手が新八の姉だとは予想のしようもなかった。もちろんキリトも同じく衝撃を受けている。

「アンタ、新八の姉をストーカーしているのか!?」

「そうだよ! それがどうしたんだよ!」

 一斉悪びれることのなく開き直る近藤に、キリトは対応に困っていたが、結局正論で返すことにした。

「あの……さすがにイヤがっている女性と結ばれることなんて考えない方がいいんじゃないのか?」

「何!? だがな、お妙さんはいやがっていないぞ! お妙さんはな……」

 そう、近藤が続きを言おうとした時である。

「フフ……そうよ。ゴリラが来れば制裁を加えればいいだけなんだから……」

 突如ドスの効いた女性の声が聞こえてきた。と同時に、近藤は言葉を失いその場へ倒れ込んでしまう。

「こ、近藤さん!?」

 一体何が起こったのか分からなかったが、その後ろからゆっくりとある女性が姿を現す。その正体は――

「まったくここにいたのね。しぶといゴリラは……」

近藤のストーカー相手、志村妙であった。どうやら彼女が制裁を加えたらしい。笑顔で拳を握り、その表情はいかにも怒りで満ちている。

「あ、姉上!!」

「えっ!? この人が新八君のお姉さん!?」

「まったく似てないです!」

「ちょっと、ユイちゃん!? 正直に言わないでくれる!?」

 初めて見た妙の容姿に惹かれてしまうアスナとユイ。予想よりも美しく見とれていたのだ。茶髪の髪を短いポニーテールにして、花柄をあしらったピンク色の和服を着こなしている。背も高くまさに、おしとやかな和服美人の印象をキリト達に与えさせていた。そんな妙は、顔を柔らかくしてこちらへ話しかけてくる。

「さてと、銀さん。この人達が昨日雇った リア充達ね」

「えっ? こいつらのこと知っているのか?」

「昨日少し新ちゃんと話したから、大体のことは知っているわよ」

 銀時へ返答する妙。どうやら彼女は昨日のうちに、新八からキリト達について説明を聞いていたようだ。そして、目線をキリト達へ向ける。

「それで、キリト君にアスナちゃんにユイちゃん……で合っているわよね?」

「はい! 間違いないですよ!」

 ユイの元気のいい返答を聞くと、妙はじろじろと三人を見つめてきた。

「へぇ。万事屋にはいない優男にお色気美少女と幼女ね。随分バランスがいいわね……」

「姉上、一旦落ち着いてください」

 気を乱れさせて不気味な笑顔になってゆく妙。貧乳へのコンプレックスから、特にアスナの大きめの胸を見て嫉妬を燃やしていた。それは置いといて、彼女は落ち着かせると挨拶だけはちゃんとしてこの場を締める。

「まぁ、どうせ長いこと滞在すると新ちゃんから聞いているから、これからお世話になることはあるわよね。三人共これからよろしくね!」

「は、はい! こちらこそ!」

「よろしくお願いします!」

「よろしくです!」

 互いに礼儀正しくして、ようやくちゃんとした挨拶をした。真選組とは違いメリハリがつき、まともな人間だと思った時である。

「お妙さ~ん! やっぱりあなたでしたかー!」

 気絶から目覚めたはずの近藤がお妙目掛けて突進し始めた。その瞬間に妙の目が再び怖くなり、

〈ドス!〉

近藤の右腕をすかさず力一杯抑え彼の動きを防ぐ。そして、

「てめぇに用はねぇんだよ!! ゴラァ!!」

「ウワァァァ!!」

プロレスのような回転技で、近藤の息の根を一時だけ止めてしまったのだ。あまりの迫力に押され、反射的にアスナはユイの目を隠してしまう。近藤にとどめを刺した妙は、一行の方へ振り返ると笑顔で返してくる。

「それじゃ、よろしくね」

「は……はい」

 こうして妙も個性の強い人間であることが、キリト達の記憶に刻まれたのであった。

 

 妙との挨拶を終えた一行は、予定を変更し次の目的地である柳生家へ向かう。住宅街を進み先ほどの出来事を振り返っていた。

「はぁ……銀さんの周りの人って個性的すぎないか?」

「アレが普通だよ。まだまだいるからばてるんじゃねぇぞ」

「私達の体力は持つのかしら?」

 真選組と妙に会っただけで疲労が一日分感じるキリト達。この先に出会う人間達にも不安しか感じられなかった。一方で、キリトはこの世界の真選組を見てある不安を感じる。

「でも、スグは新撰組についても詳しかったからこの世界の真選組を見たらおそらく倒れ込むだろうな……」

「スグ? って、誰アルか?」

「スグはキリト君の義妹で、ゲームではリーファって言うのよ」

「妹……へぇーてめぇ兄貴だったんだ。見た目によらないな」

 話にあげたのはキリトの義妹、リーファについてだ。勉強ができて歴史にも詳しかったので、真選組の存在を知ればショックを受けると思っていたらしい。そんな、会話をしているうちに偶然ある店を通りすがる。鉄臭くて硬いものを叩く音が聞こえるその店は、「刀鍛冶」と書かれた店だった。そこから青髪で作業服に似た服を着た女性が出てくる。

「おーい! 銀さんー! みんなー!」

「あっ! あいつは鉄子!」

 すぐに神楽が気付き、一行は彼女へと近づく。

「鉄子? あの人も銀さん達の知り合いなの?」

 アスナの問いに新八が答える。

「あの方は村田鉄子さんって言って、刀鍛冶を営む女性ですよ」

「鍛冶屋!? この世界にもあったんですね……」

 鍛冶屋の存在を聞き、驚きを隠せないユイ。一方、声をかけてきた女性の名は村田鉄子。万事屋とも面識のある鍛冶職人だ。折角なので彼女にもキリト達を紹介する。

「この人達は今日のお客さんかい?」

「いいや、私達の新メンバーアルよ!」

「新メンバー!? いつの間に?」

 やはり、鉄子も驚きを見せた。

「左からキリトさんとアスナさんとユイちゃんっていうんですよ」

「よろしく」

「よろしくね!」

「よろしくです!」

 新八が手早く紹介して、彼女は早くも名前を覚える。

「そうか……わかったよ。どういった事情で入ったのかはわからないけど私に手伝えることがあったらなんでも言ってよ。それじゃ、仕事があるから今日はここで。また会った時に詳しく言ってね!」

 そして、鉄子は仕事があって早くも鍛冶屋へと戻っていく。忙しくてあまり時間はなかったが、好意的に接して感じの良い女性であることがわかった。

「鉄子さん、優しい方でしたね」

「それに、この世界に鍛冶屋があったのも驚きだったわね」

「鍛冶屋? てめぇらの世界にはないのか?」

「RPG系の仮想世界にはあるけど、現実には存在してないよ」

 鉄子に対する印象と同時に、鍛冶屋の存在にも驚いたキリト達。さらに、アスナは鍛冶屋繋がりである仲間を挙げた。

「それに鍛冶屋ならリズとも相性がよさそうね」

「リズ? またアッスーの仲間アルか?」

「そう! 武器を鍛えるのが得意な女の子なのよ!」

 アスナが紹介したリズベットは仮想世界で鍛冶屋を営む女子で、もし鉄子と彼女が会ったら相性が良いと考えていた。

「おめぇらの仲間も随分個性的だな」

「いや、銀さんの仲間達の方がよっぽど個性的よ……」

 それでもこの世界にいる人間の個性とはだいぶ違うので、銀時への返答に困ってしまうアスナ。会話を弾ませながら、一行は次の目的地である柳生家へと向かう。

 

「よし着いたぞ。ここが柳生家だ」

 一行が次にたどり着いたのは大きな門だった。長い階段を上がり、六人は門の前に立つ。ここは柳生家の次期党首、柳生九兵衛が住む屋敷である。

「次に会う人は一体誰ですか?」

「柳生九兵衛さんっていう剣の達人の人だよ」

 ユイの問いに新八が答えると、今度はアスナが神楽へ聞いてきた。

「九兵衛? 十兵衛じゃなくて?」

「そうアル! また違ったアルか?」

「俺らが聞いたことあるのは十兵衛の方だな。ということはまた男の人か?」

「いいや、違ぇよ」

 またも偉人に似た人間の名が上がり、キリトは九兵衛を男と予測する。すると、ようやく門が開き柳生九兵衛が姿を現した。

「みんなか。僕に何の用だ?」

 現れたのは、眼帯を付け黒い髪をポニーテールに結んだ男性――いや、女性だった。

「えっと、この人が?」

「柳生九兵衛。九ちゃんアルよ!」

「お、女の人だったの!?」

 そう、柳生九兵衛は実在した柳生十兵衛と違い女性だったのである。服装は青い野良服と白い陣羽織が特徴的で、足元は下駄をはいていた。一見男のような容姿をしているが、目の大きさや小柄な体格から女性だとわかる。これにはキリト達も衝撃を受けてしまう。一方で、九兵衛も早速キリト達の存在に気付いた。

「ん? 見慣れない者がいるな。一体誰だ?」

「こいつらか? 新しい万事屋のメンバーだよ」

「何、増やしたのか!? 新しく!?」

「そうネ! キリとアッスーとユイは訳があって、万事屋に入ることになった別世界の人間アルよ!」

「ちょっと、神楽ちゃん!? キリトさんとアスナさんくらい、正しい名前で言わないとダメだって!」

 神楽の独特な紹介に、新八からツッコミが入れられる。そんな万事屋の説明に、人一倍驚いた表情を見せる九兵衛。新メンバーの存在が気になり、キリト達をじろじろと見てきた。

「新メンバー……なるほど。女子を三人も入れるとは随分思い切ったことをしたな」

「あの俺、男ですけど……」

 九兵衛特有のクールボケが発動して、男であるキリトもボーイッシュな女子キャラクターと見間違えてしまう。しかし見たところ、三人共しっかりして真面目そうだったので、彼女は一安心している。

「そうだったのか。キリト君にアスナ君にユイ君か……合っているよな?」

「はい! 大丈夫ですよ!」

「うん。まぁ、いずれにしても新メンバーとして万事屋に入るとなれば、僕らとも長い付き合いになるだろう。今後ともよろしく頼む」

メンバーを確認して、ふと笑った九兵衛は手を差し出た。お近づきの印として、握手を求めてくる。まずは同性のアスナとユイの二人と握手を交わす。

「よろしくね、九兵衛さん」

「よろしくです!」

 それが終わると次に、キリトも挨拶しようと近づく。

「こちらこそよろしくな」

 と彼女の体に手が触れた時だった。

「ウワァァァ!! 僕に触るなぁぁぁ!!」

「ん!? あぁぁぁぁ!?」

 急に九兵衛は奇声を上げて反射的にキリトを投げ飛ばし、地面へと叩き落としてしまったのだ。

「痛ァ……背中をぶつけただけか……」

 幸いにも大きな怪我はしていないが、場は彼女の急変ぶりに騒然となっている。

「な、何があったの!?」

「す……すまない、僕は男の人に触れられると、反射的に投げ飛ばしてしまう癖があるんだ……」

「そうだったんですか!?」

 恥ずかしがりながら九兵衛は訳を話す。彼女は男の人に対しての耐性が弱く、少しでも触れるとご覧の通り攻撃してしまう体質なのだ。これには、アスナらもまた驚いてしまう。

「そういうことだ。例え俺らのように付き合いが長い奴にも構わずやるからな。なぁ、九兵衛君」

 そう言った矢先、銀時も不意に彼女の体に触れてしまった。

「ウァァァァ!!」

「ブホォォ!!」

 キリトとは比べ物にならない勢いで彼は、柳生家の敷地内まで飛ばされてしまい、歩いていた男性と衝突してしまう。

「って、銀さん!? 何、自爆してるんですか!?」

「思いっきり体を張ったアル! 出川〇郎並の根性ネ!」

「そこはいいから、早く助けないと!」

 銀時の無事を確認するために、一行は屋敷内へと入っていく。すると、そこには銀時だけでなく糸目をした和服の男性もいた。どうやら、彼がぶつかった相手らしい。

「痛ぁ……って大丈夫か、アンタ?」

「いえ、大丈夫です。柳生四天王が一人東城歩の頑固さをなめては――って銀時殿でしたか!?」

 その正体は東城歩だった。彼は柳生九兵衛の付き人で、柳生四天王と呼ばれる強者の一人でもある。幸いにも知り合いだったため、新八や神楽は安堵の表情を浮かべていた。

「東城さんー! 良かったー! 知っている人で」

「何がいいんですか! 若ならまだしも銀時殿にぶつけられるとは聞いてませんぞ!」

「いいじゃん。こういう経験も必要アルよ」

「どこが必要だというんですか!」

 ぶつかったことに不満をぶつける東城。場が落ち着き和やかになっていく中、キリトとアスナだけは真逆の反応を示している。

「キリト君! この声って……」

「クラディール……!」

 そう。その理由は東城の声が関係していた。彼の声はかつてキリト達の命を奪おうとしていた相手、クラディールと瓜二つの声をしている。関連性が無いにしても、嫌悪感を抱いているのは確かだ。二人はつい東城へ冷たい目線を向けてしまう。

「ん? どうした、てめぇら?」

「いや、実は――」

 不審に思った銀時は彼に声をかけ、事細かに訳を聞いていた。

「何? かつて命を奪われそうになった相手に、東城と声が似てるって?」

「本当アルか? アッスー?」

「ええ、あの声は間違いないわ……」

 理由を知った万事屋は、ただの思い違いだと説得するが、それでも二人の不安が消えることはない。一方、九兵衛だけはそれを聞き反応が異なっている。

「そうか、そういうことなら」

 すると、急に彼女は腰に携えていた刀を抜き東城へ躊躇いなく向け始めた。

「ここで償ってもらおうか……」

「若!? 急に何するんですか!!」

 唐突な展開に驚いてしまう東城。そんな彼に対して、九兵衛は黙々と理由を語りだす。

「お前は前世でキリト君とアスナ君の命を奪おうとしていたみたいだな……前世の記憶が目覚める前にここで葬ってやる!」

「落ち着いてください、若! 私が彼らの命を奪うわけないじゃないですか!」

 どうやら彼女は東城へ復讐する大義名分ができたことで、この行為に出たようだ。とんだ風評被害だが、九兵衛は本気である。

「本当か? お前はクラディールとかいう男と何の無関係なのだな?」

「本当ですって! そんなことするくらいなら、私は若に全身全霊をかけてゴスロリを着させるために命をかけま――」

「どっちにしろ悪質だぁぁぁ!」

 逆鱗に触れた九兵衛は、いつの間にか用意した大砲を持ち出し東城へ向けて砲撃。

〈ドカーン!!〉

死なない程度に彼を痛めつけた。

「ぶ、ぶほ……」

 爆発の中から東城は倒れ込みそのまま気絶する。理不尽にも思えるがこれが銀魂の日常なのだ。

「よかったな、てめぇら。どうやらあいつは、クラディールとは何の関係もなさそうだぞ」

「そうだな……」

「そうね……」

 苦笑いで銀時へ返すキリトとアスナであったがその心の中は、

((少し心配……))

やっぱり不安しか残っていない。こうして、柳生家での挨拶も波乱を起こしたまま終わる。

 

 九兵衛らとの挨拶を終えた一行は、次の目的地へ向かっている。

「それにしても九兵衛さんもお強い方でしたね」

「なんせあのお妙と幼馴染だからな。十分強いだろ?」

「た、確かにそうだな……」

 銀時の言葉に言い返せないキリト。妙と友人なだけで、すぐに納得してしまったようだ。その最中で、九兵衛の印象について六人は話し合っている。

「でも、折角女の子に生まれたんだから女子らしい服とか着ないのかな?」

 アスナが不思議そうに聞くと、神楽が返答してきた。

「九ちゃんは、たまにだけど女子らしい振袖を着こなすこともアルあるよ」

「そうなんですか! 一度見てみたいです……」

 九兵衛の隠れた女子らしさを知り、より一層の興味を持つユイ。一方でキリトやアスナは、九兵衛と自分達の仲間の一人を照らし合わせている。

「迅速の剣の使い手か……もしシリカと戦わせたらいい勝負になりそうだな」

「シリカ? またキリトさん達のお仲間ですか?」

「そうよ! 小柄だけど、とっても素早くて強い私達の仲間なのよ!」

 二人が話題に挙げたのはシリカであった。彼女も早さを武器に戦っていて、九兵衛の肩書きを見て思いだしたらしい。そんな話をしているうちに銀時は、突如ただならぬ気配を感じてスクーターを降りる。

「どうしたんですか? 銀さん?」

 新八に聞かれても銀時は黙ったままだった。そして、近くにあった石を手に取ると電柱へと投げつける。すると電柱から、

「ぎぁぁぁぁ!!」

女のような叫び声が響いてきて勢いよく人が落ちてきた。

「って、一体何が起こったのよ!?」

「この展開はまさか……」

 再びイヤな予感を察するキリト達。それは見た目を見なくても理解している。

「何やってんだぁ! このメス豚ァ! やっぱり、てめぇか!」

 銀時が怒号をかけた相手は、赤い眼鏡をかけた薄い紫髪の女性だった。忍者のような服やスパッツを身にまとい、足元は黒ブーツを履いている。そんな彼女は万事屋とも、縁の深い人間だった。

「あーあ。やっぱり、さっちゃんアルな」

「さっちゃん? あの方もみなさんのお仲間なんですか?」

 ユイが聞くと、銀時が怒号を交えて返す。

「仲間じゃねぇよ! こいつもストーカーなんだよ!」

「ス、ストーカー!? また!?」

「この世界って本当にストーカー規制法働いてんの!?」

 ついに元も子もないことを言い放ってしまうアスナ。近藤に続き二人目のストーカーに遭遇して、驚くどころか呆れ果てていた。

「それであのストーカーさんは何て言うお方ですか?」

「あいつアルか? 猿飛あやめ、通称さっちゃんって言う元エリート忍者ネ!」

「猿飛で忍者って、どこかで聞いたことがあるわね……」

 女性の名前は猿飛あやめ。お庭番と呼ばれるエリート忍者集団の一人だったが、現在はフリーで始末屋をやっている女性だ。あることをきっかけにストーカーにもなって、銀時を追いかけ続けている。そして当の本人は、道路に落下したにも関わらずすぐに起き上がり、早くも開き直り始めていた。

「ぷはぁぁ! やっと会えたわね! 銀さん!」

「やっとじゃねぇだろ! 何してんだぁ! てめぇはよ!」

 銀時の怒りにもビビることなくあやめは話を続ける。この世界のストーカーは、メンタルが強すぎる。そう、キリト達は内心思っていた。

「待ってよ、銀さん! まずは私の話を聞いてよ!」

「一体何だよ!?」

「聞いたわよ! 万事屋がリア充を雇ったって!」

「リア充? こいつらのことか?」

 どうやらあやめは万事屋に新メンバー――いやリア充を雇ったことにやきもちを焼いているらしい。一方、このハイテンションなあやめの姿にキリト達もだいぶ引いていた、

「随分ハイテンションな人だな……」

「どう割り込めばいいのかわからないわね……」

 戸惑う彼らとは裏腹にあやめは、一方的に距離を縮めてくる。

「初めまして、リア充の妖精達! 私の名前は猿飛あやめ! これから銀さんのお嫁さんになる女よ! よろしくね!」

 誇った表情を見せる彼女に、キリト達もどう対応したらいいのかわからない。

「は、はい……」

「よろしくね……」

「あの、さっちゃんさん――この人達は左からキリトさん、アスナさん、ユイちゃんといいます。ちゃんと覚えてくださいね」

 引き気味に新八がいつも通り三人を紹介する。

「フーン! わかったわ! 他に何か聞きたいことはあるかしら?」

 すると、あやめは調子に乗り自信良く質問を促してきた。正直出しづらいが、真っ先に挙げたのはユイであった。

「では、さっちゃんさん。なんで、銀時さんのストーカーをしているんですか?」

 興味深く聞いたユイに対して、あやめは躊躇なく自分の気持ちをさらけ出す。

「いい質問ね! それはね運命なのよ! 銀さんは私のMに対応するS! 私の感情を刺激して早い話いくとこまでいって合体して子作――」

「生々しいこと言うんじゃねぇぇぇ!」

「ブホォォ!!」

 勢いに乗ったあやめの答え――いや、爆弾発言を銀時が強制的に止めて背中へ蹴りを与える。どうにか規制音を出さずに済んだが場は混乱を極めた。

「ちょっと、さっちゃんさん! さすがに生々しすぎるよ! キリトさん達、引いちゃっているでしょうがー!」

「これくらい言わないとこの世界じゃやっていけないわよ!」

「確かにそうかもしれませんけど!」

 新八のツッコミも全く動じないあやめ。むしろ、銀時へ蹴られた事に興奮を覚えていた。一方で、答えを聞いたユイは深追いを始める。

「合体? とは一体どういう意味ですか?」

「ユ、ユイちゃんにはまだ早いことよ!」

「そうそう! 時間が経てばわかってくるから!」

「おーい! ユイになんてことしたアルか!」

 弁解に追われるキリトとアスナ。そして元凶たるあやめをこらしめる万事屋の三人。まさに、収集不可能でカオスな現場が展開されていた。

 

 それから十分後。

「申し訳ありませんでした。はい、言え!」

「申し訳ありませんでしたー」

「今後は発言を慎みます。はい!」

「今後は発言を慎みますー」

 銀時の言葉をあやめが繰り返して、一応キリト達へ謝罪した。しかし、棒読みでとても反省しているようには思えない。

「まぁ、さっちゃんさん。これからはキリトさん達もいるので今後は気をつけてくださいね」

「わかったわよ! 要するにユイちゃんがいない時は好き放題言っていいってことね!」

「とんでもない解釈してるんじゃねぇよ!」

 あやめのしぶとさに、新八のツッコミも追い付かない。やっぱり彼女は、何一つ懲りてはいなかった。

「いずれにしてもよろしくね! 銀さんについて何かあったら真っ先に伝えて頂戴ね! では、よろしく!」

「よ、よろしく……」

 そう言ってあやめはご機嫌よくその場を去っていく。またも個性の強い人間を見て、キリト達の疲れは溜まりに溜まる。

「……銀さん達も大変だね」

「苦労がわかったらそれでいいよ」

 銀時達も同じ気持ち、そして同じ疲れを背負っていた。場の空気を変えつつ、一行は次の目的地である吉原へと進む。

 

「ここが吉原ですか?」

「そうアル! 昼時でも賑わっているアルな!」

 時刻がお昼を過ぎる中、一行が着いたのは江戸に近い繁華街、吉原だった。遊閣が広がり江戸に比べて大人向けの施設や店が並び立っている。そんな町を見たキリトとアスナは不安しか感じていない。

「ねぇ銀さん? ここ本当に大丈夫なの?」

「俺達のような未成年が来ていい場所なのか?」

「大丈夫だよ。俺達が今行こうとしているのは普通の茶飲み屋だから」

「それならいいんだけど……」

 半信半疑で銀時に連いていき吉原の奥まで向かう。すると、ある一軒の店にたどり着く。そこには「茶屋ひのや」と書かれていた。

「ここが目的地?」

「はい、ここですよ」

 店の前にしばらく立ち止まっていると、奥から一人の女性が姿を現す。

「なんじゃ、主らか? 揃いもそろって。一体何の用じゃ?」

「あっ! やっと来たアル! 紹介するネ! この人が吉原の番人月詠ことツッキーアル!」

 神楽が再びキリト達へ紹介する。女性の名前は月詠。見た感じ落ち着きのある大人の女性であった。暗めの金髪を髪飾りで結い、服は紅葉をあしらった藍色の着物を着こなしており、足元はヒールの付いたブーツを履いている。背も高くスタイルも抜群で、雰囲気から今まで会った人間とは一線を画す人に見えた。

「月詠さん?」

「大人っぽい女性の方です……」

 その美しさにアスナやユイといった女子陣は見惚れている。一方で、月詠もキリト達の存在に気付き始めた。

「ん? 見慣れない者たちがいるな? こやつらは一体誰じゃ?」

「それを紹介するためにここへ来たんだよ」

「とりあえずみなさん座ってください」

 新八に勧められ一行はひのやにあった椅子へ座り一息つく。その後はいつもと同じくキリト達の紹介やこの世界へ来た経緯、これからについて月詠へ大まかに説明した。

「なるほど。キリト、アスナ、ユイの主ら三人は別の世界からやってきて、こやつら万事屋と帰れるまでに世話をすることになったんじゃな?」

「まぁ、だいたいこんな感じだな」

「そうか……」

 話を聞き終えると月詠は手にした煙管から煙を吹き改まる。しばらく考えると、三人へ向けて自分なりにアドバイスを交わした。

「まぁ、なんじゃ。この世界へやってきたからには、おそらく主らのいた世界とは大きく異なることも多いじゃろう。でも見た感じ大丈夫そうじゃ。そこの天パと違い、美しく澄んだ瞳をしているからな」

「今、さりげなく俺のことディスらなかったか!?」

 銀時に飛び火したが、月詠は構わずに話を続ける。

「こやつらといればきっと大丈夫じゃ。何も心配なんてしなくてよい」

「月詠さん……ありがとうございます!」

 優しい言葉に触れてユイは丁寧にお礼をした。彼女の優しさから今まで会ったこの世界の大人で、一番頼れる人間にキリト達は感じている。

「月詠さんってかっこいい大人だな」

「この世界にもまともな人間っていたんだね……」

 むしろ今まで会った人間達の方が特殊だったと心の中で思う。そんな月詠の大人っぽさは、キリト達のある仲間と似ていた。

「月詠さんってシノノンと似ているわね」

「シノノン? またアッスー達の仲間アルか?」

「はい! 月詠さんと同じくクールでかっこいい女の子なんですよ!」

 上がったのは月詠と同じく大人っぽさのあるシノンである。彼女も月詠と同じくクールさや気遣いのある女子で、月詠との共通点も多かった。もし会うことがあれば気が合うと彼らは思っている。そんな話をしているうちに、奥からもう一人女性がやってきた。

「なんだい、あんた達が新しい人雇うなんてそんな理由があったのね」

「日輪! 主も聞いていたのか?」

「途中からね。私も聞いてよかったのかしら?」

「もちろんネ! こっちも挨拶回りをしていたからアルな!」

 車椅子に乗りこちらへやってきたのは、赤い着物を着た女性、日輪だった。月詠の友人でありこの店を営む主人でもある。

「えっと、あの人は?」

「日輪だよ。この店をやっているオカン的ポジション奴だよ」

「もうー銀さんってば! そんなこと言われた覚えはないってば!」

 顔に手を合わせ否定する日輪。しかし、声が高いことから満更でもないらしい。

「それはそうと月詠。少し手伝ってもらえる? 料理に使うものを取ってほしいのよ」

「ん? わかった。一体どこじゃ?」

 そんな日輪は月詠を呼びつけ手伝いを要請してきた。快く受け入れ月詠は日輪と共に、キッチンへと向かう。

「車椅子なんて結構大変そうだな」

「それに月詠さんって優しくて毒のない人だから本当良い人よね!」

「毒のない人か……」

 キリト達の言葉に引っかかる銀時。今まであった人に比べたら真面目な人だが、ある部分を知っている万事屋からしてみれば、彼女も十分個性の強い人物だ。そんな時である。

〈ガシャーン!!〉

 キッチンの方からガラスを割る音が聞こえてきた。

「な、なんだ!?」

「まさか、この展開って……」

 新八ら万事屋は嫌な予感を薄々と感じ始める。そして、数秒も経たないうちに月詠がこちらへとやってきた。

「つ、月詠さん?」

「どうしたの?」

 声をかけたが返事がない。顔はうつむいて動きも挙動不審だ。不思議に思っているとついに月詠は口を開く。

「おい……なんでこうも人が多いんじゃぁぁぁ! ごらぁぁぁ!」

「ブホォォ!」

 顔を上げた瞬間、月詠の顔は赤くなっていた。さらに、性格も破天荒になり一発のパンチが銀時の頬へ当たる。数分前の面影なんてないほど乱暴に変貌してしまったのだ。

「つ、月詠さん?」

「一体どうしちゃったの!?」

 この様子にキリト達も驚きを隠せない。目の前にいる人間がほんの数秒で変わってしまったからだ。

「あーあー。やっぱりアルな」

「やっぱりって、どういうことですか!?」

「それは……月詠さんはお酒に弱くて、一滴でも飲んじゃうと乱れるタイプの人なんだよ」

「そうだったの!?」

「結局、月詠さんも個性的な人ってことか……」

 新八らの説明通り月詠は酒に弱く酒乱と化す特徴的な人であった。先ほどの手伝いで、トラブルがあり誤ってアルコールを体に入れてしまったと考えられる。やっぱりこの人も個性の強い大人であった。一方で、酒に酔う月詠は銀時の首根っこをつかみ、部屋の奥へ連れて行こうとする。

「おい、銀時ィ! 私の酒に付き合え! てめぇしかいねぇんだからよ! こっちへ来いや!」

「ちょっと待て! てめぇの酒に付き合ったらこっちの身が持たねぇよ! おい、ちょっと! 聞いてんのか!」

 銀時の意志とは無視して、月詠は酔ったまま奥の部屋へ連れていく。そして数分も経たずに、

「ギャャャー!!」

早くも彼の悲鳴が無情にも響くのであった。

「一体何が起こっているんだ?」

「みなさんのご想像にお任せします……」

 少なくともひどい目に合っていることが目に見えている。五人は一斉手を貸さずただ時が過ぎるのを待つしかない。こうして、挨拶回りも終盤を迎えるのであった。

 




来週はお盆で投稿できないので挨拶回り後篇は金曜日に投稿します!


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第五訓 個性的な人間ほど心に残る

 前回の話で東城歩を東条歩と誤変換しておりました。大変申し訳ありませんでした。現在は訂正をしています。後、今回の話でエリザベスのセリフ部分は「 」のかぎかっこではなく〔 〕のかぎかっこを使用していてプラカードを意味しています。決して口から喋っていませんのでご注意ください。では、どうぞ!!


 月詠の暴走から数分が経ち、ようやく騒ぎは収まった。

「ググ……オオ……」

 彼女は疲れ切り奥の部屋で寝込んでいた。一方、銀時は月詠から被害を受けて、顔にひっかかれた跡がついている。よっぽど、痛めつけられたようだ。

「銀ちゃんー大丈夫アルか?」

「大丈夫なわけないだろ! 顔の傷を見て見やがれ!」

 やはり気が立っており彼は怒っている。とここで、日輪が声をかけて代わりに慰めてくれた。

「まぁまぁ、銀さん。月詠を止められなくてごめんね。お詫びに昼食とケーキをおごるから許してくれない?」

 お詫びとしての食事のおごり。しかも銀時の好物である甘い物にありつけると知った彼の心は、

「はい! ケーキの為なら許します! オカン様!」

百八十度変わり痛みなんて簡単に忘れてしまった。これには、新八のツッコミも止まらない。

「変わるの早ぇよ! 思いっきりタダ飯にたかるだけだろうぁ!」

「ていうか、銀さんの好物ってケーキなのね……」

「意外に甘党なんだな」

 銀時の手のひら返し、並びに彼の甘党振りにキリト達は驚く。示談も成立したところで日輪は、再びキリトらへ話しかけてきた。

「さて、キリト君にアスナちゃんにユイちゃんね。改めて私は日輪。文字通りオカンとして働いているからよろしくね! みんな!」

「はい! よろしくです! 日輪さん!」

 元気で明るい彼女の姿を見て、自然と安心感が生まれる。その姿はまさに母親そのものであった。すると、アスナに一つ疑問が浮かんだ。

「あの、日輪さんってお母さんなの?」

「ええ、そうよ! もうそろそろ戻ってくるんだけどね、晴太は」

「晴太?」

 やはり予想通り日輪には子供がいる。とちょうどいいタイミングで、噂の息子が家に帰ってきた。

「ただいまー! あっ、銀さん達だ!」

 店に入ってきたのは茶髪で緑色の和服を着た元気そうな男子。彼がどうやら晴太のようだ。

「おかえり、今日は万事屋のみんなが来ているのよ」

「そうなの? って、この人達は一体誰?」

 来て早々晴太も、キリト達の存在に気付き驚きを見せる。

「あっ、晴太。この人達はね新しい万事屋の一員なのよ」

「えっ? ええええ!?」

 日輪からの一言を聞きさらに衝撃を受けてしまう晴太。というのも、

「こんな美男美女の人達が万事屋に入るの!? 嘘でしょ!?」

「おい! それどういう意味だ、ゴラァ!?」

「あたいらが違うってことアルか!?」

万事屋には正直似合わない人達ばかりだったからだ。その言葉を聞き、銀時と神楽は思わず彼を一喝。そんな二人を新八がなだめる。

「まぁまぁ! でも、晴太君。この人達は本当に万事屋の新メンバーなんだよ」

「そうなの!?」

「紹介するよ。黒髪の人がキリトさん。青髪の子がアスナさん。白服の子がユイちゃんだよ」

 新八の紹介とともに、三人はそれぞれ晴太へ挨拶を交わす。

「晴太君だったよな、よろしくな!」

「これから仲良くね!」

「よ、よろしくです! えっと、キリトさん! アスナさん!」

「おい、鼻の下のびてるぞ」

 キリトやアスナの挨拶に顔を赤くする晴太に、思わず銀時がツッコミを入れた。特にアスナへ対しては、思春期の影響もあってか恥ずかし気味である。そしてユイも続く。

「よろしくお願いしますね! 晴太さん!」

「えっ……」

 彼女を見た瞬間晴太の心に衝撃が走る。いままでにない脈の上がり様と心の変化。顔は真っ赤になっており、彼はユイに見とれてしまっていた。

「よ、よ、よろしく!」

「どうかしましたか?」

「いいえ! なんでもないよ!」

「なら、よかったです!」

「ポッ!」

 純粋無垢なユイの姿を見て、とうとう耐え切れなくなってしまう。そして、晴太は体温が上昇したまま床へと倒れ込んでしまった。

「だ、大丈夫ですか!? 晴太さん!?」

「しっかりしなさい!!」

 急いで駆け寄るユイや日輪は晴太を起こす一方で、万事屋は苦い顔で彼の気持ちを察している。

「こ、これって……」

「なんかとんでもないことになりそうアルな」

 ユイの気付かないところで始まる晴太の気持ちの揺れ。こうして、吉原での挨拶は波乱のまま完了し、晴太を安静にするのに部屋へと運ぶのであった。

 

 ひのやで昼食を食べ終えた一行は、かぶき町へと戻り始めていた。時刻はすでに十五時半。先ほどの騒動もあってか予定よりもかなり遅れており、夕方も近くになっている。

「挨拶もこれくらいか。一通り知り合いには会ったところだろ」

「それにしても個性的な人達ばかりだったね」

 銀時やアスナに続き、神楽も声を上げた。

「そうアルな。キリの世界にはいない人達ばかりだったアルよな?」

「確かに……あんな個性的な人達、俺達のいた世界にもそうそういないよ」

 今まで会った銀時の知り合いをキリトらが振り返ってみると、マヨラー、ドS、ストーカー、キャバ嬢、男性恐怖症、ドM、酒乱と個性の強い方々ばかりで、しかもその半分が自分達の知っている偉人と似ていたため深く印象に残っている。しかし、まだ彼らには会っていない人物がいた。それは、かぶき町公園を通り過ぎる時に見つける。

「ん? あの方は誰でしょうか?」

 ユイが見つけたのは、段ボールの上に座る中年男性だった。赤茶色の服を着て手元には煙草をふかしている。サングラスが特徴的なその男性は万事屋の知り合いであったが、

「気にするな。ただのグラサンをかけたおっさんだよ」

「ユイー。見ちゃダメアルよ。教育上悪いから」

「ちょっと待って!! なんで、俺は紹介してくれないんだよ!!」

意図的に無視をして、当の本人に直接ツッコミを入れられてしまった。

「わかっているよ、長谷川さん。ちゃんと紹介してやるからな」

「って、やっぱり知り合いだったのかよ!?」

 態度を変えた銀時らは、長谷川もちゃんと忘れずに説明する。

「紹介しますね。この方は長谷川泰三さん」

「別名マダオって言われている絶滅危惧種のおっさんネ!」

「言われてねぇよ! 絶滅の危機じゃないからな!」

「ホームレスが、なんて矛盾したこと言ってんだよ」

 万事屋にいじられる男性の名は長谷川泰三。元々は入国管理局という仕事についていたが、ある一件でクビになり現在のホームレス生活に至る。ホームレスとは縁のゆかりもなかったキリト達は、この世界で初めてその存在に触れた。

「ホームレスの人?」

「ホームレスとはどういう意味ですか?」

 特にユイにとってホームレスは初めて触れる存在で、かなり興味を持っている。万事屋に代わって、アスナが説明してくれた。

「家のない人のことよ。だから段ボールで暮らしているのね」

「かわいそうです……私達で保護してあげましょうよ!」

 長谷川を見たキリト達は銀時らと違い同情の気持ちが生まれている。そんな汚れがなく純粋な思いの三人を見て、長谷川は心を打たれた。

「おまえら……誰かは知らねぇがなんていい奴らなんだ……!」

 思わず涙を流す彼に対して、万事屋の反応は至って真逆である。

「はぁ? 何言ってんだ? 甘やかしたらこいつの為になんねぇぞ」

「そうアル。このおっさんを対処するには、私達みたいに資格を持っていないと近づくことすらできないネ」

「いつからそんなのできたんだよ!! てめぇら、嘘ぬかしているんじゃねぇよ!」

 感動する長谷川の気持ちを踏みにじる万事屋達。非常にも見えるがこれが長谷川とのコミュニケーションの取り方である。

「銀さん達と長谷川さんって本当に仲間なのか?」

「わかりにくいけど、これが長谷川さんとのコミュニケーションの取り方なんですよ」

「そうなのね……」

 新八も苦い表情で、キリト達に説明した。複雑な思いで騒ぎが収まるのを今は待っている。

 

 それから長谷川も事情を聞きキリト達の現在の状況を知る。

「そうか。キリト君にアスナ君にユイちゃんか。別世界から来て今は万事屋の一員に所属、おもしれぇじゃねぇか……」

 先程とは違い、男らしくダンディな雰囲気で彼らへメッセージを伝えた。

「こいつらはこの町でもおもしれぇ人間達だよ。いつもバカをやっているがその分正直さ。いい奴らと出会っちまったな!」

「おい、急に態度変えて頼れる大人風にしてんじゃねぇよ」

「わかってるよ! かっこよく決めただけじゃん! なんでこんな冷たい目で見られてるんだよ!!」

 長谷川の男らしさも銀時の皮肉で不発に終わる。しかし、キリト達は彼を感じの良くおもしろい大人であると感じていた。

「まぁまぁ。長谷川さん。これから会うこともあるからよろしくな」

「おう! ――にしてもお前達が別の世界から来ていたとはな。あーあ。もし行けるならいい就職先を教えてくれよー!」

 すると、長谷川は今一番自分が欲しい願望を言い放つ。無職のため仕事が欲しいのである。

「就職先ね……」

「エギルさんなら長谷川さんを雇ってくれるかもしれませんね!」

「エギー? また仲間アルか?」

 神楽の疑問に、キリトが答えた。

「力の強い男で、現実ではバーを営んでいる人だよ」

「長谷川さんがウェイターデビューか」

 そこで、キリト達が挙げたのはエギルであった。立派な個人店を持つバーの店主で、彼の善意なら長谷川さんを雇ってくれると考えている。しかし、万事屋からしてみれば彼がバーで働いている姿は想像できず、むしろしたくなかった。そんな中、長谷川はあることを伝える。

「あっ、そういえばこの近くに桂さんとエリザベスさんがいたからついでに挨拶してきたらどうだ?」

「げっ! あいつらまでいるのかよ……」

 どうやら、この近くに銀時の同期である桂がいるらしい。会ったら会ったで、めんどくさい人間なので、銀時は今まで避けてきたが言われた以上は紹介するほかはない。

「桂さんって誰だ?」

「銀ちゃんの同期で幼馴染アルよ」

「えっ!? じゃなんで紹介してくれなかったの!?」

「まぁ、桂さんとエリザベスさんは少し特殊な人間なので……」

 と新八がアスナらへ伝えた時だった。

「ハッ! ハッ! ハッ! そんなことはないぞ! 銀時ィ!」

 突如活気の良い男性の声が響く。長谷川の元を離れて声の聞こえた公園へ向かってみるとそこには、

「やっぱりおまえかぁ! ヅラァ!」

「ヅラじゃない!! 桂だぁ!!」

お馴染みのセリフと共に二人の男? が立っていた。一人は長い黒髪に青い和服を着て、腰には刀を装備している。そしてもう一人は、白い謎の生物であった。というか人なのかも怪しく、黄色い大きな唇と吸い込まれそうな目が特徴である。そう、この二人が桂小太郎とエリザベスなのだ。

「えっ? あの方が桂さんなんですか?」

「そしてアレがエリザベス? ゆるキャラなのか?」

 キリトの問いに、エリザベスはプラカードを掲げて答える。

〔ゆるキャラではない! エリザベスだ!〕

「って、なんでプラカードで会話しているのよ!?」

 エリザベスの会話方法にツッコミを入れるアスナ。だが、それ以上に桂達へのインパクトが強かった。見た目はかっこいいのに癖の強い桂と、もはやどう表現したらいいのかわからない白い生物エリザベス。二人の印象は今までの人間よりもはるかに濃い。一方、桂は腕組みをして早速話しかけてくる。

「ふっ、銀時。噂で聞いたぞ。こいつらが新万事屋メンバー、リア充星人だな!?」

「合っているけど違ぇよ! そもそも、ツッコミが追い付かねぇよ!!」

「何違うのか!? どこがだ!? 貴様らがリア充になったのか!?」

「リア充から離れろよ!」

 人の話を聞かず独自の解釈をする桂。そんな彼を銀時が説得する。そして、時間はかかったが正しい情報を伝えることができた。

「そうか。君達はゲームのアバターのままこの世界へ来てしまい帰れるまで万事屋に所属することになったか……」

「まぁ、そういうことだな」

 事情を理解した桂は突如考え始めると、自分なりに思いついた励ましのメッセージをキリト達へ伝える。

「わかった。なら俺からも言わせてもらおう。キリト君、アスナ君、ユイ君。俺の名は桂小太郎。そして彼が俺の相棒、エリザベスだ。俺達はこの世界では攘夷志士として活動している。そこでだ、万事屋だけでなくこの俺と共に攘夷活動をしてみないか?」

〔今なら、無料で夏季特訓へご招待!!〕

「その通りだ、エリザベス! この俺の導きがすぐにでも侍になれる! どうだ? ぜひこの俺と共に攘夷活動をして幕府を転覆――」

「ならねぇよ!!」

「グオォ!」

 まだ桂が言い終わっていないのに、銀時の不意打ちを受けて、話を途切れてしまう。長い上に勧誘だったので、強制的に止めさせられた。

「何をする! 銀時ィ! 折角の勧誘を!」

「勧誘じゃねぇんだよ! こいつらは攘夷志士になる気はねぇんだよ!」

「わからないぞ! もしかすると、立派な侍に――」

〔ゲーマーの可能性は無限大だ!〕

「断じてねぇよ! てめぇの思想を叩き込ませるんじゃねぇ!」

 銀時と桂による言い争い。もちろん、これも銀魂の世界では日常茶飯事だ。そんな二人を、仲間達は寒そうな目で見ている。

「本当に、桂さんって侍なのか?」

 キリトの疑問に、新八や神楽が返す。

「まぁ、銀さんと一緒に攘夷戦争を生き残ったくらいですから侍って言い方は間違っていないと思うけど……」

「そのせいで幕府の目に止まって今は指名手配のテロリストに成り下がったアルけどナ」

「テロリスト!? 桂さんって警察から逃げているの!?」

「それなのに堂々としてますけど?」

「あの人の場合あれで十分なんですよ」

 驚いた表情を浮かべるアスナやユイに、新八はため息交じりの言葉で返す。桂がお尋ね者であることがわかり、さらに衝撃を受けている。そんな桂の威勢の良さは、キリト達のある仲間を彷彿とさせた。

「なんだか、桂さんはクラインさんと似ていますね……」

「クラー? ヅラと似ているってことはそいつもバカってことあるか?」

「バカとは意味が違うけど、クラインも桂さんと同じく侍道を大切にしているんだよ」

「えっ!? じゃ、もし桂さんと会ったら……」

「とんでもないことになりそうね……」

 思いだしたのは侍を志す男クラインである。彼の性格から桂と会えば気が合うことは目に見えており、想像もつかないことが起こると思っていたのだ。そして、桂との小競り合いも終わり、これにて挨拶回りは終了を迎える。

「よし。ではまたな、みんな! ハッ! ハッ! ハッ!」

〔アイルビーバックだ!〕

「もう二度と来るんじゃねぇぞ!! ヅラー!」

「ヅラじゃない桂だぁ!」

「おめぇの耳はどうなってんだよ!!」

 お馴染みのセリフとともに桂達はこの場を去っていた。そして、みんなも万事屋に戻ることにする。

「よし、じゃ帰るか」

「そうだな」

 

 空模様が夕日になり、一行は今日の思い出を語り合いながら万事屋へと戻ってゆく。大変だったが、銀時達の知り合いは個性的で面白い人達ばかりだと感じていた。歩いていき、ネオンに包まれた街を通り過ぎていくと、見かけたばかりの看板が見えていき数分も経たずに万事屋へ到着した。

「はぁーやっと着いたー」

「本当、一日お疲れでしたね」

「挨拶回りも案外楽じゃないわね……」

「まぁ、私は楽しかったアルけどな」

 新八やアスナらが今日の挨拶回りについて話している時。リーダーである二人は、

「「ふわぁぁ」」

揃って大あくびをした。いつの間にか行動が重なり始めている。

「アレ? 銀ちゃんとキリが同じタイミングであくびしたアル?」

「へぇー二人ってやっぱり気が合うのかな?」

 神楽やアスナが、からかい交じりに聞いてきた。

「俺が銀さんと?」

「俺がこのリア充とか?」

 二人はそっと互いの顔を見ると、耐え切れなくなって笑いだし、それにつられて仲間達も笑いだす。まさにその姿は幸せそのものであった。二日間とはいえ、六人の距離はより短くなっている。そんな中、スナックお登勢からは、たまがやってきた。

「おや、みなさん。もう帰っておられたのですか?」

「たまさん! はい、帰ってきましたよ!」

「そうですか。なら、こちらへ来てください。晩御飯の準備ができていますよ」

「晩御飯? そんなもん頼んでねぇぞ」

「いえ。これはちょっとしたサプライズですから」

 たまが促したのは晩御飯への誘いだった。どうやら、万事屋には内緒でこのサプライズを進めていたらしい。

「ええ!? たまさん!? いつの間に作ってくれたんですか!?」

 驚く新八とは違い、たまは冷静に返す。

「いいえ。私はあくまで提案しただけです。実行してくれたのはお登勢様ですよ」

「その通りだよ」

 するとたまに続いて出てきたのは、口元で煙草をふかしていたお登勢であった。

「バ、ババァ!? てめぇが用意したのか!?」

「その通りだよ。これは私からの洗礼ってことだ。今日は疲れているみたいだし、私が代わりに用意したんだ。さっさとあがりな、妖精ゲーマー共」

 そう言うとお登勢は静かに微笑む。彼女はやっぱり人情深い人であった。そんな、彼女の小粋な優しさに触れて、キリトらがお店へ上がろうとした時である。

「よっしゃぁぁ!! ありがとうな!! ババァ!!」

「ヒャッホイー!! ただ飯にたかるアル!!」

 一目散に店に入ったのは食い意地の張った銀時と神楽だった。

「ちょっと銀さん!? 先に入ったらダメじゃないですか!!」

「こら、てめぇら!! アンタらよりも先にこいつらに譲れ!!」

 さっきまでの疲れを忘れ切った銀時達の愉快な雰囲気。新八やお登勢にも止められない勢いである。そんな万事屋と一日過ごした三人は、店に入る前にこんな会話をしていた。

「なぁ、アスナ。ユイ。俺達はやっぱり、万事屋の三人と出会えて正解だったと思うよ。何だかわからないけど、一緒にいて安心するんだ。根拠の無い自信が自然と湧いてきて……きっと戻れる。あの人達となら……」

「奇遇ね。私も同じことを考えていたわよ。銀さんも新八君も神楽ちゃん、定春君だって血が違うのに、みんな本物の家族みたいだもの」

「いいですよね。互いに素直になれるのって」

 まだ二日しか経っていないが、万事屋という存在が面白くも温かいことがわかったのだ。三人にとって最高の理解者であると。より信頼を彼らは深めていった。

「おい、何やってんだ! てめぇら! さっさと来ねぇとたいらげるぞ!!」

「おめぇらの席はねぇんだよ!」

「おーい! 危なっかしいこと言うんじゃねぇぞ!」

 そんな三人の勢いに押されてキリト達もスナックお登勢へと入ってゆく。

「ちょっと、銀さん! 俺達の分まで食べないでくれよ!」

「わかってるよ! ちゃんと残してんだろ!」

「ほらほら! 食えアルー!」

「あんたら調子乗りすぎだろ!!」

「まったく。みんなすぐ調子に乗るんだから……」

「みなさん! 落ち着いて食事してくださいよ!!」

 こうして賑やかで騒々しい夕食会が幕を開けたのだった。密かに紡がれる信頼がより深いものになると信じて――

 

「いたか? キリト達?」

「うんうん、全然」

「もう探して二時間になるわよ……」

「一体、どこにいるのよー!!」

 一方、こちらはSAOの世界。仮想世界ALOにて仲間である、シリカ、リズベット、リーファ、シノン、クライン、エギルの六人は集合場所である広場へと合流。行方不明になったキリトら三人を探していたが手掛かりすら見つかっていない状況だ。

「まったく、なんでこうも見つからねぇんだよ! おかしいだろうが!」

 捜索に行き詰まり、嘆いてしまうクライン。一方、シリカはある仮説を立てる。

「でも連絡も取れないってことは、この世界にはいなくて現実世界に戻っているってことでしょうか?」

「ナー?」

 ピナも同意した意見であったが、いとも簡単に論破されてしまう。

「いいや、それはないわ。さっき、現実世界に戻ってお兄ちゃんの部屋を確認してきたんだけど――そこにはいなかったの」

「いなかった? どっかに出かけたということか?」

「お母さんに聞いても出て行った形跡はないから、外には絶対出ていないって」

 リーファによれば先ほど現実世界に戻り、兄であるキリトの部屋を確認してみたが、そこに彼はいなかった。外にも出ていないらしくより不安な気持ちが募ってゆく。

「それってまずい状況なんじゃないの?」

「どうする? このままこの世界で探し続ける?」

「でも、本当に見つかるのか?」

 仲間達は必死に考える。仮想世界にも現実世界にもいないとするならば、探すあてなんてない。ただ時が過ぎるだけだったが――

「ん?」

シノンはある変化に気付いた。

「どうしたんですか? シノンさん?」

「時間、止まっていない?」

「えっ? 嘘だろ!?」

 彼女の言う通り周りを見てみれば、仲間以外のゲームプレイヤーは全く動いていない。時計を見ても、全く進んでいなかった。

「なにこれ……? 運営のトラブル?」

「いいや、何か違う気がします……!」

 不吉な場面を目の前にして警戒心を高め、武器を構える六人。誰一人として声を出せない状況の中で、ある足音が聞こえてくる。カツンといった機械のような音だった。しかもこちらへ迫ってくる。

「何、この音……?」

「近づいてくる……?」

 音の聞こえた方向へ六人は体を振り返る。そこにいたのは一人の人間――いや人間とは言い難い存在であった。全身は銀色で覆われ、緑色の目やベルトからは不気味な光が放っている。手には赤い剣を持ち、禍々しさを際立てていた。HPゲージもなく、おそらくこの仮想世界にいる存在ではないことはあきらかである。モンスターや騎士とは違うその存在は、まさに怪人だ。そして、六人の目の前でようやく止まる。

「フッ……貴様らだな? 残りの実験体は?」

 発したその声は渋い男性の声であった。

「はぁ? 何言ってんの、アンタ? 実験体ってどういうことよ!」

 この事態にひるまずに強気に聞くリズベット。ただならぬ恐怖にさいなまれても、彼女は必死に抵抗する。

「まだわからなくてよい。貴様らもあのゲーマー達と同じく実験に付き合ってもらおうか。我が組織の野望の為にな……」

「あのゲーマー達? ――もしかしてキリトさんやアスナさん達のことですか!?」

「その通りだ」

 怪人の発した言葉に衝撃を受ける六人。もしこの怪人の言うことが真実ならば、探してもキリト達が見つからない理由にもつながる。

「実験って、あいつらをどこに連れて行ったんだ!!」

「少なくともこの世界ではない別の世界だな」

「別の世界!? そこにキリト達がいるっていうの!?」

 怪人との会話で新たなる真実が知らされ、クラインやシノンも心がかき乱されてゆく。

「なら、お兄ちゃん達をこの世界へ戻してよ!!」

「ふっ……無駄だな。だが安心しろ。今すぐ貴様達もその世界へと送ってやろう。サイコギルドの作り出した、このブラックホールでな!!」

 すると、怪人は赤い剣を構えて戦闘態勢に入る。剣からは黒いオーラが刀身を覆い、六人の警戒心を煽る。

「あれってブラックホール!?」

「もし吸い込まれたら私達も別の世界に行っちゃうってこと!?」

「そうだ……貴様らも飛ばされてしまえ!!」

 そして、怪人は剣から放った衝撃波とともに黒いオーラを放った。

「あぶねぇ!! みんな、避けろ!!」

 エギルの掛け声につられて一行は懸命に避ける。だが、怪人は攻撃を続けた。

「チッ……こざかしい。早く行けばいいものを!」

 仲間達はみな防御に徹して、今は攻撃の隙を伺うしかない。全員の心がその作戦で一致していたが――

「ふっ……って何!? アレは……」

クラインがあることに気付いた。避け続けた衝撃波の残像が地面に集まっていることを。怪人の狙いは黒いオーラを浴びせて別の世界に飛ばすのではなく、そのエネルギーを集めて隙を突き実行することだったのだ。そして、そこには今シリカとリズベットがいる。

「まずい!! あぶねぇ!!」

 危機を知ったクラインは彼女達に近づき、肩を突き押してその場から離れさせた。

「痛ぁ! って、いきなり何す――」

 リズベットが文句を言おうとした時、

「ぎゃぁぁぁ!!」

床にあった残像が黒く輝きだし小さいブラックホールをクラインの足元に出現させた。彼はその力に抗うも抵抗できず、ポツンと音を立ててそのままブラックホールの中へと吸い込まれてしまう。

「クラインさん!!」

「ナー!?」

「嘘……本当に吸い込まれたの……?」

 突然の出来事に受け入れられない仲間達。彼のいた場所にはもう何も残っていない。これで怪人の作り出した黒いオーラが、ブラックホールであることが証明された。それを知ると、自然と恐怖で足が動かなくなってしまう。

「フン、無様だな。だが、安心しろ。殺してはいない、別の世界へ送っただけだ。さぁ、次は貴様らの番だ!!」

 冷静になれない仲間達は洞察力が薄くなり、自分の足元にブラックホールの残像が近づいていることに気付いていない。そして、

「「きゃぁぁぁぁ!!」」

「「うわぁぁぁぁ!!」」

シリカ、リズベット、ピナも足元にできたブラックホールに吸い込まれてしまい、続けてリーファ、シノンも犠牲となり四人共にこの世界より消失してしまった。

「みんなー!!」

 場に残ったのはエギルたった一人である。そんな彼にもブラックホールの魔の手が迫り、怪人は赤い剣を差し向けた。

「さて、残りは貴様だ。最後に言い残すことはあるか?」

「くっ……一つ聞こうか。アンタは何者だ? 何が目的なんだ?」

「ふっ、教えてやろう。我はサイコギルドに属する一人だ。ブラックホールを使い、いずれ強大な力を手に入れるだろう……その為にもこの世界から消えてもらおうか」

 こうしてエギルもブラックホールへと吸い込まれてしまう。六人も同じく現実の肉体と同化して、銀魂の世界へと飛ばされてしまった。

「さて、全て整ったということか……後はアンカーと共にブラックホールを使い戦力を集めるだけか――」

 不穏な呟きを放ち怪人はその場から去ってゆく。と同時に仮想世界の時間は動き出し、元の賑わいを取り戻した。広場から消えた六人のプレイヤーなど知らずに――

 

 一方、こちらは銀魂の世界。夕食会を終えた六人と一匹は、万事屋に戻り明日の予定を確認していた。

「いいか? 明日はてめぇら、ついに仕事だぞ」

「仕事……ついにやるのね」

「ちなみに内容は何ですか?」

「午前に引越しの手伝い。午後にベビーシッターをやることになっているアル!!」

「二つやるのか!?」

「万事屋でも珍しいんですよね。二つの仕事が同時に入るって」

 テーブルを囲み話していたのは仕事の内容である。万事屋では多種多様に仕事が入るが、今回のように一日に二つの仕事が入るのは異例であった。内容を聞かされたユイは、やる気と不安に満ちている。

「引越しとベビーシッター……うまくできるのでしょうか?」

「大丈夫だよ。荷物をまとめるのとアンパン〇ンでもあげときゃ大丈夫なんだよ」

「元も子もないこと言うんじゃねぇよ!!」

 銀時のアドバイスはかなり適当に見えたが、

「なるほど……荷物をいかに早くまとめるのとアンパ〇マンをいかに早く与えるのかが攻略のカギなのですね。わかりました!」

「ユイちゃん!? 真面目にボケないでくれる!?」

ユイは無垢にも全て受け止めてしまっていた。天然な性格にも程があり、新八からは再びツッコミを入れられてしまう。

「まったく、銀さんの言うことはいつも適当なんだから」

 いつも通りの銀時に呆れるアスナ。そこへ神楽もキリトらへ話しかけてくる。

「もし、困ったことや聞きたいことがあれば、むしろ私達に聞いた方がわかるアルよ!!」

「そっちの方がありがたいかもな」

 仕事の話や銀時への冗談を交わしつつ時間は過ぎてゆく。そんな時であった。定春が急に起き上がると、唸って声を上げ始める。

「ウ~……」

「どうしたネ? 定春?」

 ずっと天井を向きにらみつけているその様子に、みんな違和感を覚えていた。

「何か上にあるんじゃないのか?」

 とキリトが予測した時だった。

「ギャャャャ!!」

 外から薄っすらと聞こえてきたのは男性の悲鳴。ほんの数秒だったが、その声ははっきりと聞こえてきた。

「今の声って……」

「悲鳴?」

「外で何かあったのでしょうか?」

 不穏に響いた悲鳴に動揺するキリト達。どこか聞き覚えのある声だった気がするが、当の万事屋達は何も気にしていないようである。

「どうせまた攘夷浪士がポリ公に捕まったとかだろ?」

「そんな気にしなくていいアルよ」

「そうなのか?」

「まぁ、この町は物騒ですから悲鳴くらいでビビらない方がいいと思いますよ」

「それ、本当に大丈夫なの……?」

 万事屋の慣れに言葉が出ないキリト達。その度胸と根拠はどこから出るのか不思議でしょうがない。そんな六人はまだ知る由もなかった。仲間達が次々とこの世界へ来ていることに――

 

 かぶき町の夜に響いた一筋の悲鳴。その正体は今、裏路地のゴミ捨て場に落下している。

「痛ぁ……ここ、どこだ?」

 周りを見て状況を確認する別世界の人間。そう、クラインだったのだ。ブラックホールを通じてこの世界へと飛ばされてしまい、現在は全く状況を理解していない。

「ここは一体?」

 周りを見ればここが仮想世界でないことが明らかであった。周りは江戸時代の町並み。それでいて、高層ビルが並び巨大な塔がたたずむ異様な世界。ここが自分のいた世界ではないことの証明にもなっていた。

「本当に別の世界なのか? だとしたら……」

 彼は、メニューを出そうと試みるがやっぱりできない。つまり、元の世界へ戻ることもできないのだ。

「そんな……これじゃ俺はどうやってみんなと合流すればいいんだ……」

 非常な現実に苦しみ、ただうちひしがれることしかできない。そんな、クラインの元に足音が近づいてくる。

「な、なんだ!?」

 振り返るとそこには、十手と提灯を持った数人の男性が彼を取り囲む様子だった。全員服装は、時代劇で見かけるような岡っ引きの姿である。

「ア、アンタ達は誰だ?」

「誰だ? それはこっちのセリフだ!」

「貴様……刀を持ちその出で立ちは攘夷浪士だな?」

「攘夷浪士? 侍ってことか……!?」

 自分について聞かれていると思い、クラインは正直に答えることにした。

「その通りです! 俺は、侍道を志す男だ!」

「なるほど。では御用だな」

「えっ!?」

 戸惑うクラインとは異なり男達は彼の両手をつかみ手錠をかけた。これにはクラインも、思わず抵抗する。

「な、何するんだよ!?」

「黙れ!! 攘夷浪士如きが我々に逆らうのではない!!」

「大人しく来てもらおうか……!」

「ちょっと!! 離せよ!! お前ら !!」

 しかし、男達に取り押さえられて中々逃げ出すことができない。彼が力尽きるのも時間の問題だった。

(まずい……このままだと、捕まる! この世界じゃ侍は弾圧されているのか!? 俺の憧れは、この世界じゃ……)

 続く不幸に勝てることができず、絶望しかけた彼に救いの手なんてない。そんな時だった。

「おい! アレはなんだ!?」

 事態が大きく急変する。一人の男が大声をあげて見つけたのは球状の物体。それには、タイマーが仕組まれており全ての数字がゼロになったところで、

〈ドーン!!〉

大きな爆発を起こし周りを煙幕で覆ってしまった。

「な、なんだ……!?」

「爆破テロか!? とにかく身を守れ!!」

 煙に動揺して混乱する男達を前に、クラインはと言うと

「こっちだ! 来い!」

「えっ!?」

ある男に連れられてその場から逃げることに成功する。そしてとある路地裏へと逃げ込み、追っ手からまくことができた。

「はぁ……どうやら逃げ切れたようだな」

「あ、ありがとよ! 助けてくれて!」

「気にするな、貴様の持つ自由を守っただけだ。弱きものを救うのも、立派な侍としての役目だからな」

「侍?」

 その瞬間、クラインの心に電撃が走った。助けてくれた男は、とても頼もしく侍のような男だったからである。そう、彼を助けたのはこの世界の侍。桂小太郎だったのだ。

「アンタ、本当に侍なのか!?」

「侍じゃない!! 桂だぁ!!」

「えっ?」

 こうして、二人の侍の運命が動きだす。同時に仲間達も次々とこの世界へとやってくるのである。

 




 とうとうSAOレギュラーメンバーも銀魂の世界へ来てしまいました。ちなみに銀色の怪人は勘のいいひとならわかると思います。どう物語と絡むのか期待していてください。それでは、お盆開けにまたよろしくお願いします!!


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第六訓 恩は売るだけ売っておけ

遅くなりすいません…早速ですが補足です。万事屋の時に泊まっているキリト達三人の寝間着は銀時や神楽の持っているスペアを借りています。以上!では、どうぞ!


 攘夷党。それは幕府を転覆するために活動する組織だ。昔は過激な思想を掲げ、国を取り戻そうと戦っていたが、現在は穏健派となり武力以外の手で解決策を図っている。そのリーダー桂小太郎は、相棒のエリザベスと共に深夜の町を歩いていた。

〔今日は色々なことがありましたね。桂さん〕

 横で歩いているエリザベスが、プラカードで会話してくる。

「その通りだな。万事屋の新メンバーか……是非とも我々の一派にも欲しい――ん?」

 すると、桂は遠くである騒ぎを発見する。それは岡っ引きと赤髪の男が揉めている様子だった。その男の容姿は着物に刀と侍のような風貌に見える。

「あれは、どこかの攘夷浪士か?」

〔そうかもしれませんね。しかも手錠をかけられてるぞ!!〕

「何だと!? ならばどうであれ、同胞を見過ごすわけにはいかぬぞ! ゆくぞ、エリザベス! あの男を助けるのだ!」

〔もちろんだ! 桂さん!〕

 こうして桂は時限爆弾、エリザベスはプラカードを手に岡っ引きへ奇襲を仕掛けて捕まった赤髪の男、クラインを救出したのだった。

 

「さ、侍? アンタ、本当に侍なのか!?」

「侍じゃない!! 桂だぁ!!」

「えっ?」

 岡っ引きから助けられたクラインが出会ったのは攘夷党の党首、桂小太郎だった。黒の長髪でつねに刀を腰に差している彼の雰囲気に、クラインもどこか親近感を沸かしている。

「桂さん……っていうのか?」

「そうだ。さて、まずは――」

 すると、桂は刀を抜きクラインにかかった手錠を切り裂く。彼の腕の自由を取り戻した。

「これで、腕を自由に動かせるぞ」

「おっ、本当だ! ありがとよ、桂さん!」

「礼をいうほどではない。当然のことだ」

「かっけぇ!!」

 助けてくれたことにより、クラインの桂へ対する興味がより高まっていく。どこか自分と同じ雰囲気を感じたからである。一方、桂は落ち着いており自己紹介を交わす。

「さて、改めて紹介しよう。俺の名は桂小太郎。貴様は何と言うのだ?」

「クラインだよ。本名は壺井遼太郎って言うんだ」

「何? ミドルネーム付きだと!? ハーフだったのか!?」

「いや、生粋の日本人だよ。クラインはゲーム内の名前だからさ」

「クライン殿……その名前で呼んでいいのか?」

「ああ、いいぜ!」

 ようやくお互いの名前を知った二人。桂はクラインを攘夷志士だと思い込み、クラインは桂をこの世界にいる侍で、自分を救ってくれた恩人だと感じていた。つまり桂だけが、勘違いしているのである。

「あっ、そうだ! 桂さん、色々と聞きたいことがあって……」

「分かっている。貴様も攘夷志士なら悩むことも多いだろう」

「そうそう。そもそも、攘夷志士って一体――」

「ここで話すのは危険だ。場所を移動することにしよう」

「って、桂さん!? さっきから人の話を遮りすぎじゃないのか!?」

 いちいち話を遮断する桂のマイペースさに、ツッコミを入れるクライン。初対面にも関わらず桂の性格はブレない。すると彼は指を鳴らし、パートナーであるエリザベスを呼びつけた。

「な、なんじゃこりゃ!?」

「なんじゃこりゃではない!! ペットのエリザベスだぁ!」

「答えになっていないって!! てか、ペットなのか!?」

 ゆるキャラのようなエリザベスの姿を見て、クラインはまたも衝撃を受けてしまう。そんなエリザベスは岡っ引きの囮として活躍し、街はずれまで逃がしたところでこちらへとんぼ返りしてきた。

〔その通り。先ほど私は桂さんの命令で、ポリ公共を江戸の方へ逃がしてきたのだ〕

「って、プラカードで会話するのかよ!?」

 しかも、エリザベスはプラカードに書かれた文字でコミュニケーションをとる。これにもクラインは驚きを隠せない。

〔桂さん。近くにポリ公はいません。今がチャンスです〕

「そうか……なら行くぞ! 同胞よ!」

「えっ、桂さん!? 行くってどこに!?」

「近くの安全な場所だ!」

 すると桂はクラインの手を掴み、周りを警戒しながらより安全な場所へ向かうことにした。数分間、路地裏を走ると一軒の飲食店にたどり着く。

「えっと、ここはどこなんだ?」

「知り合いのラーメン屋だ」

 そう一言を言い桂は店の戸を開くと、そこには一人の女性が閉店の支度をしていた。

「あっ、いらっしゃい。ごめんね、今日はもう閉める――ってアンタかい」

「ああ。久しいな、幾松殿」

 桂と親しく話しているのはラーメン屋「北斗心軒」の店主、幾松。白い野良着を着た薄い茶髪の女性で桂とは腐れ縁の仲だ。信頼がある方なので、この店に入り一時身を隠そうと策を打ったのである。

「どうしたの、今日は? その男は仲間かい?」

「ちと、同胞をかくまうところだ。協力してくれるか?」

「はいはい。好きにしなさんな」

「わかった。では、ラーメンを二つとそばを一つ頼む」

「もう、閉店だって言っただろうが! 余計な仕事を増やすな!」

 周りを見ずに注文をして一喝されてしまう桂。先ほど同様、全く空気が読めていない。

「やっぱり、桂さんはマイペースなんだな……」

〔今に始まったことではないからな〕

 桂の何ともいえない独特の雰囲気に触れて、クラインも惹かれ始めている。そんな侍達は店の中に入ってテーブル席につき、話を再開させた。

「さて、揃ったところで、貴様も侍で合っているよな?」

「侍……さっき言っていた攘夷志士ってやつだな!」

「ああ、そうだ。敵を払う侍という意味だ」

「そうなのか!!」

 攘夷志士の意味を知り感心するクライン。同時に桂へ憧れが高まってゆく。

(本物の侍……まさか、別の世界で会えるとは! 攘夷志士……ああ、俺もなってみてぇな!)

 口からは言えないが、本物の侍に出会えたことに彼は大きく喜んでいた。一方で、桂は冷静に話を進める。

「さて次は、クライン殿について色々聞かせてもらおうか?」

「はい、もちろんです! 実は、俺も侍として活躍しているんだよ!」

「そうか。例えばどんなところでだ?」

「そりゃ、ゲームの世界ALOでモンスターをばっさばっさと――」

「ゲームの世界?」

「あっ! いや、なんでもないです!」

 桂の反応を見て一旦言葉を濁すクライン。別の世界から来たことを正直に言うのは、まだ心の準備が足りていなかった。

(あぶねぇ……でも、桂さんになんて言おうか……こことは違う世界から来たって言っても信じてくれるかわからねぇぞ……ましてや、桂さんは真面目そうな人だし、説得するにも時間がかかりそうだな……)

 心の中で悩み決心がつかない中、再び桂が話しかけてくれた。

「ん? ひょっとして貴様――」

(桂さん……!? まさか、もうバレ――)

 正体がバレたと思い目をつぶって覚悟を決めた時、聞こえてきたのは

「スーパーマリ〇ブラ〇―ズの世界からやってきたのだな!!」

「……はい?」

予想を裏切る言葉である。桂は全くわかっておらず、頓珍漢なことを言われてクラインも対応に困ってしまう。

「違うのか?」

「いや、俺はそんな世界から来ていないから! つーか、スーパーマ〇オブ〇ザーズって何だよ!?」

「俺の好きなゲームだ。ツインファミコンで遊ぶのだぞ。どうだ、最先端だろ?」

「そ、そうなんだ(すいません、桂さん……古すぎます。この世界では最先端でも、俺のいた世界では最古参に当たるから……)」

 余韻に浸る桂の姿を見て、口答えできなかったクラインはただ笑顔で肯定するしかない。銀魂の世界にもSAOの世界に負けない仮想現実の技術はあるのだが、流行に鈍い桂にとっては、ツインファミコンが今の最先端だと思っているのだ。アナログ派の人間とデジタル派の人間の悲しい運命である。すると、桂はクラインのある部分に気付く。

「ん? その耳はなんだ?」

「耳? ……ハッ!」

 自分自身も忘れていたことにようやく彼は気づいた。自分の耳が、アバター特有の妖精らしいとんがった耳になっていることに。

(ヤ、ヤベェ!! 今の俺はアバターのままだった!! どうすんだ……ごまかすか?

でも自信が……)

 気付かれてしまった以上、自分が人間だとは証明できない。かといって、アバターと説明するのも理解してくれるはずがない。迷いに迷ったクラインを救ってくれたのは、

〔ちょっと、待ってください。桂さん! クラインさん!〕

エリザベスだ。プラカードを掲げて二人の会話に割って入った。

「エ……エリザベス?」

「待てとはどういうことだ?」

 すると彼はもう一つのプラカードを掲げる。

〔クラインさんの耳は今日会った彼らに似ていないか?〕

「彼ら――ハッ! そういうことか!」

 ここで桂は今日会ったキリト達のことを思い出し、彼へ直接聞くことにした。

「クライン殿! 一つ聞きたいことがある!」

「えっ、何だ?」

「貴様はまさか、キリト君達の知り合いか?」

 勢いよく伝えた桂。この言葉を聞きクラインの表情が大きく変わる。

「えっ!? 知っているのか、キリト達のことを!?」

「ああ! キリト君にアスナ君にユイ君だろ? 三人は、今日我が旧友である銀時に紹介されたからな。ということは、クライン殿も別の世界から来たということか?」

「そ、そうです!! アバターだから耳もとんがっているんだよ!!」

 どさくさに紛れて、自分の外見について正しく伝えたクライン。これで彼から罪悪感は消えて、さらに探していたキリト達の安否もわかり、一石二鳥の得を得たのだ。

(やった! 桂さんに伝えられたぜ……!)

 一方で、それを聞いた桂は顎に手を当てて考え始めている。

「そうか、そうだったのだな」

「そうなんだよ! この耳は仮の姿の方で、本当は普通の人間で仕事はトラック運転――」

 ついでに自分の本職まで言おうとしたクラインだったが、

「現実の肉体がゲームのアバターと一体になって、この世界へ来たことは本当だったのだな」

「そうそう! 現実の肉体と一体になってこの世界に――ってどういうことだ!? 桂さん!?」

自分の知らない事実を聞かされ動揺してしまった。その後、彼は桂から多くの情報を聞かされ自分の置かれた状況を理解し始める。

 

 わかったことは、今自分の肉体がアバターと一致していること。元の世界に戻る方法が見つかっていないこと。この世界では、廃刀令により侍が衰退しきっていること。天人と呼ばれる宇宙人が存在して、この世界の文明を発展させたこと。多くの情報を桂やエリザベスから教えてもらった。

「こんなところだな。俺が今日、銀時から聞いた話とこの世界についての簡単な説明は。だいたいわかったか?」

「まぁな。にしても宇宙人のやってきた江戸時代だとはな。まるで漫画のような世界だよな」

「信じられないのも無理はないだろう」

「確かにな」

 そう言い切ったクラインの表情は少し悲しそうだった。どうすることもできない状態に打ちひしがれるのも無理はない。桂もその心境を感じ取っている。

(キリト達が無事だったのはいいけど、まさかこんなことになっていたなんてな……でもこの先、俺はどうすればいいんだ……何も見えねぇよ……)

 心に迷いが生じて、黙り込んでしまう。頭の中を整理しようにも全く追い付かない。困り果てた彼の元に、再びあの男は動いた。

「ん?」

 クラインが見たのは、桂が手を差し出す瞬間である。

「クライン殿。行くところがないのならこの俺と共に行くか?」

 そう、桂はクラインを迎え入れようとしたのだ。別世界の人間とはいえ、侍に興味がある若者を見過ごすわけにはいけない。しばらくの間帰れないのなら、攘夷志士として迎える。それが桂の考えであった。

「えっ!? いいのかよ、桂さん!?」

「ああ、その通りだ! これも何かの縁だ。侍を重んじる奴に悪い奴はいない……貴様がよければ攘夷志士として迎えることができるが、俺と共に本物の侍になってみないか?」

 そう言うと桂はそっとクラインへ向けて微笑み、エリザベスもプラカードを掲げ誘う。

〔何も心配はない。できることはなんでも協力する。攘夷志士として生きてみようぜ!〕

 彼らはクラインを助けようとしていた。桂もクラインとは気が合うと信じ、誘い込んだのである。二人の侍に背中を押されて、彼の心は調子を戻していった。

(見ず知らずの俺をここまで優しくしてくれるなんて……だったらもう言うべき言葉は一つだ!!)

 そして、勢いよく席を立ちあがり自信満々に彼らへ向けて言い放つ。

「桂さん……エリザベスさん……俺、入ります。攘夷志士として……侍として生きてみたいです!!」

「うむ! よくぞ、言ってくれた!!」

〔新しいクライン君の誕生だぁぁぁ!! おめでとうぅぅぅ!!〕

 彼の出した答えは攘夷志士として生きていく決断だった。別の世界とはいえ、自分の憧れているものに近づけるのならそれでいい。そんなクラインを桂達は祝福する。しかし、

「あの男、入るのか……」

幾松からはため息をつけられて呆れさせている。そして、友情を深めあった二人の侍は、互いの手を握って契りを交わし始めた。

「我が一派に入ったからには必ず約束しよう。元の世界に変える方法を見つけ出し、貴様を立派な侍にすると」

「ああ、桂さん! 俺……アンタともっと早く会いたかったよ!」

「同じくだ。共に見よう。この国の夜明けを……そして目指すのだ! SAOを!」

「おう! ……って、SAO!?」

 桂から飛び出した聞き覚えのある単語を聞き、クラインは思わず耳を疑う。

「どうしたのだ? クライン殿?」

「桂さん、SAOってまさかソードアート・オンラインの略なのか?」

「ハァ? 何を言っているのだ? SAOとは〈S真選組Aあの世にO送るぞ〉の略語ではないか?」

「どんな略語だよぉぉ!! この世界では、そんな愛称になっているの!?」

 予想外の内容にクラインのツッコミも止まらない。SAOの意味はこの世界では、攘夷志士が真選組に対する恨みの意味として存在していたからだ。そんな話を終えた三人の元に、突如サプライズが届く。

「ん? これは?」

「一応、お祝いのラーメンだよ。一杯分のしか余りがなかったから分けて食べな」

 幾松が一杯だけラーメンを作ってくれたのだ。なんだかんだで面倒見の良い女性である。

「あ、ありがとうございます!!」

〔かたじけない〕

 クラインやエリザベスが丁寧に感謝するが、桂だけはなぜか浮かない顔をしていた。

「ラーメンか……俺はそばの方が良かったのに……」

 どうやら注文したラーメンよりも、そばの方に期待があったようである。もちろん、これには幾松の逆鱗に触れて、

「そうかい、あるよ……。へい、かけそば一丁!!」

「ブホォ!!」

事前に用意しておいた熱いかけそばを桂へぶつけて、容赦のない攻撃を加えた。その瞬間に桂は気を失い、テーブルへ倒れ込んでしまう。これにはクラインも、ヤレヤレと桂を憐れんでいる。

「あ~あ、桂さん怒らせちゃって」

「ったく。本当だよ、この男は」

「でも、やりすぎじゃないのか? 仮にもパートナーなのによ」

「パートナー? 何言っているんだい?」

「だってあんた、桂さんの嫁さんじゃないのか?」

「よ……嫁!?」

 さらに恐ろしい勘違いが発覚した。クラインは桂と幾松の仲をてっきり夫婦だと間違っていたらしい。思いもよらぬ発言に顔を赤くした幾松は、

「――私は未亡人だよ!!」

「なんで、俺まで!!」

彼にも同じく熱いかけそばをぶつけ気絶させてしまう。結局二人揃って同じ結末を背負うのであった。

〔この男共は……これから手を焼かすな〕

 エリザベスからも辛辣なプラカードが上げられてしまう。そんな彼は、二人の代わりにラーメンを手に取る。

「食べたらこの男共を連れてさっさと帰んな!!」

〔わかっている〕

 こうしてエリザベスがラーメンを食した後、気絶した桂とクラインの二人を抱えて店を去っていく。波乱に満ちた夜だったが、この世界でクラインはついに本物の侍として、新しい道を切り開いたのであった。

 

 朝陽が町を照らし、キリト達にとってこの世界で二回目の朝を迎えた。今日は万事屋としての初仕事が入っているため、昨日よりもみな早めに起きている。すると、八時頃には新八もやってきた。

「おはようございますー! やっぱりみなさん今日は早いですね」

「本格的な仕事が今日から始まるからな」

「キリトさん、気合入っていますね!」

「その通りです! 私も気合が入っていますから!」

 朝の様子は昨日とまるで違っている。疲れを解消して朝から調子のよいキリト。同じく仕事への意気込みを高め張り切っているユイ。そして、

「ほら、銀ちゃん。さっさと起きるネ」

「うるせぇよ。さっさと眠らせてくれよ……」

神楽は銀時を強制的に起こそうとしていた。万事屋の社長にも関わらず、彼だけは昨日と全く変わっていない。

「やれやれ、やっぱりいつもの銀さんだな」

 新八はそっと呟く。一方で、アスナはというと

「アレ? 新八君もう来たの?」

「アスナさん。今日、料理当番でしたっけ?」

「銀さんや神楽ちゃんが中々起きないから、率先して作っているのよ」

キッチンにてみんなの分の朝食を作っていた。パンを切ったり、具の材料を炒めたりと手際の良い調理を進めている。

「おー! アッスーが料理を作っているアルか!!」

「そうよ! どうかしら?」

「おいしそうアル! 早く食べたいネ!」

「もう少し待っていてね」

 料理の匂いを嗅いでテンションの高ぶる神楽。一瞬で目が覚めた彼女だが、銀時は未だに体が起きていない。そこへキリトが話しかける。

「銀さんもほら! 早く起きなよ」

「うるせぇな……なんでてめぇらは疲れていねぇんだよ……」

「……若さかな?」

「喧嘩売っているのか!?」

 冗談を交わしふと笑いあう銀時とキリト。二日目にも関わらず仲は深まるばかりであった。一方、新八は急に浮かない顔をしており、気になったユイが話しかけてくる。

「どうしたんですか? 新八さん?」

「いや、うちの姉上が九兵衛さんに頼んで卵を持ってきてるんです」

「こんな朝早くからですか?」

「姉上が新しい料理をひらめいたらしくて、すぐに行動したんですよ。でも、正直試食したくなくて、早めに万事屋に来たんです」

「お妙さんの料理を食べたくないんですか?」

「――あれはもう料理じゃないんで」

 新八の答えに疑問を呈するユイ。そんな朝を過ごす万事屋だが、恒道館ではある騒ぎが起ころうとしていた。

 

 恒道館。新八と妙の住む実家で先代から受け継いだ流派、ビームサーベ流を教えている道場である。今日は朝早くから九兵衛がやってきて、妙の要望通り卵を届けにやってきた。

「こんなものでいいか? 妙ちゃん?」

「十分よ! これで私の思いついた卵料理が作れるわよ!」

「そうか……」

 妙の言葉に対して九兵衛は苦笑いをする。妙の作る料理はお世辞にも言えないがとてもまずい。食べれば体に支障をきたし、多くの人間に迷惑をかけてきた毒物だ。しかも本人の自覚はなく、誰も否定せずに今なお作り続けている。

「あっ! 折角だし九ちゃんも食べていく? 朝ごはんついでにどうかしら?」

「ぼ、僕か?」

「新ちゃんが今日早めに万事屋に行ったから食べさせる相手がいないのよ。だからどう?」

「そう言われても……」

 妙が促すも九兵衛はやはり乗り気ではない。そんな対応に困る彼女がふと空を見上げてみると、ある物体を発見した。

「あれはなんだ、妙ちゃん?」

「ん? ……UFOかしら?」

 彼女が発見したのは空で不安定に飛行する二つの球体。ピンク色と茶色に光り落下を続けている。だが、目を凝らして中をよく見ると、そこには二人の少女が捕らわれていたのだ。

「いや、違うわ。女の子が落ちてくるわよ」

「何!? すぐに助けないと!」

「そうね、急ぐわよ! 九ちゃん!」

「ああ!」

 荷物を置いて二人は、光を追いかけて行く。一方で光の中身はというと

「ウワァァァ!!」

「止めてくださいぃぃぃ!!」

シリカとリズベットの二人とピナであった。この世界へやってきて、光に捕らわれてしまい自分ではコントロールできない状態になっている。不安定に飛行して落下を続け、遂に地面へ叩きつけられようとしていた。

「もうダメ……」

「誰か、助けて……」

 目をつむり、気を失ったところで二人と一匹は最期を覚悟する。しかし、

「ふっ!」

「はっ!」

地面へ落下直後に妙と九兵衛によって助けられ、一命をとりとめた。シリカは妙、リズベットは九兵衛に抱えているが、気絶は続いたままである。

「ふぅ……ぎりぎりセーフだったわね」

「そうだな。二人が無事でよかったよ」

「脈もちゃんとあるし――アレ?」

「ん? どうした、妙ちゃん?」

「なんか、不思議な音が聞こえてこない?」

「……本当だ? これは一体?」

 妙が彼女達の脈を測ると、鼓動とともにのアミュスフィアの待機音が聞こえてきた。しかし、聞いたことのない音だったので、彼女達は不審に思うしかない。さらに天人のような変わった容姿にも、疑問を持ち始めていた。

「それになんだか容姿も天人っぽいわね。猫耳にとんがり耳なんて」

「まるでファンタジーの世界から飛び出したみたいだな」

「そうね……でもまずは、ひとまず休ませましょうか?」

「そうだな――ん?」

「今度はどうしたの、九ちゃん?」

 二人を連れて恒道館へと戻ろうとした時、九兵衛はもう一匹ある存在を見つける。

「アレも落ちてきたんじゃないのか?」

「アレってあの竜?」

 見つけたのは、ゴミ袋の上で一命を取り留めた水色の小さい竜だった。同じく気絶しており、何か関係性があると彼女は考えている。

「ついでに持っていきましょうか?」

「そうだな」

 こうして妙と九兵衛は、シリカとリズベットとピナを助け出し恒道館へと連れて行ったのだ。

 

 それから一時間後。シリカがようやく目を覚ます。

「ん? どうなったの? アタシ達……」

 起き上がるとそこは見覚えのない和室。布団の中に入っており横を向けば、眼帯を付けた女性が正座してこちらを見ていた。

「目覚めたか? おーい! 妙ちゃんー! 目を覚ましたよ!」

「ちょっと待ってください! 聞きたいことが……行っちゃった……」

 彼女が目覚めると九兵衛は廊下の方へ向かい去ってしまう。仕方なくシリカが周りを見てみると、横では別の布団に入って眠っているリズベットの姿があった。

「良かった……リズさんも無事で……」

 安否を確認してふと微笑むシリカ。一方で、ある重大な事実に気付いてしまう。

「えっ? メニューが開かない?」

 手を動かしてもメニューが開かないことだった。それだけではなく、隣で寝ていたリズベットにHPゲージがついていないことや、ログアウトできない状態も徐々に理解しはじめている。

「嘘でしょ……じゃここは本当に別の世界なの……」

 嫌な予感を察した彼女は、体の震えが止まらなくなってしまう。そして、隣で寝ていたリズベットを起こしてこの危機的状況を伝えようとした。

「ん? どうしたの? シリカ?」

「大変なんですよ!! アタシ達の状況が!!」

「大変って……それよりも、あんたのペットの方が大変なことになっているわよ」

「どういうことです――」

 とシリカが後ろを振り返った時である。

「あら? ようやく目覚めたみたいね」

 そこには妙も駆けつけていたのだが、持っていた鍋の中が衝撃的だった。中には――グツグツと煮えられているピナの姿が見えた。

「ピナァァァァ!!」

 思ってもいない再会につい叫んでしまうシリカ。数秒も経たないうちに妙へ怒りをぶつけ始める。

「ちょっと何やっているんですか!! その子、アタシの大切なパートナーなんですよ!!」

「そうだったの? 気絶していたしどう起こそうかと思っていたら、折角ならだし汁でもとろうかなって」

「なんでピナからだしをとるんですか!!」

「いいじゃないの。減るもんじゃあるまいし」

「そういう問題じゃないですよ!!」

 妙の誠意のない対応にシリカの怒りはより大きくなる。一方で、九兵衛はリズベットに話しかけていた。

「ところで君は大丈夫か?」

「うん、まぁね。って、シリカー! いつまで言い争っているのー?」

「アタシの気が収まるまでですよ!」

「上等じゃない。やるだけやりなさいよ」

「……あれは、長くかかりそうね」

「妙ちゃんは気が短いからな……」

 妙とシリカの様子に九兵衛とリズベットはただ見守るしかない。

 それから数分後、言い争いの末にピナはシリカの元へ戻ってくる。同時に四人は、テーブルを囲み本格的な話し合いを始めようとしていた。

「申し遅れたな。僕の名前は柳生九兵衛だ。」

「私は志村妙よ。ところで、あなた達は?」

「アタシはリズベットで、この子がシリカとそのパートナーのピナだよ」

「よろしくです。志村さん」

 まずはお互いの自己紹介をしたが、シリカは未だにふくれっ面で妙をにらみつけている。ピナをだしにされたことを、未だに許せないのだ。

「あら? そんなに怒っているの?」

「当たり前ですよ! ペットをだしに使われて怒らない飼い主なんているんですか!?」

「まぁ、落ち着け。シリカ君。これは僕らの落ち目だし謝る。しかし、今は大目に見てやってくれないか?」

「シリカ、まずは話を進めよう。そうじゃないと、アタシ達の状況がわからないわよ」

「ナー?」

 九兵衛やリズベット、さらにはピナからも説得されたので、一旦シリカは妙のことを許すことにする。

「……わかりました! 志村さんも今度から気を付けてくださいね!」

「はいはい、わかったわ」

 わだかまりも無くなったところで話し合いが再開された。まず話題に上がったのは、

「それでは、話を戻そう。まずは君達が何者なのか教えてもらえるか?」

「何者って?」

「覚えていないの? 私達に助けられるまであなた達は空で浮遊し続けていたのよ」

「あっ! そうでしたね……」

シリカ達についてである。今の二人は人間ではなく妖精のアバター。シリカには猫耳と尻尾が生えて、リズベットには小さくとんがった耳があった。故に妙達は、天人だと推測している。

「そうよ。それに、その姿はどう見ても人間じゃないわよね? 正直に何があったのか話せるかしら?」

 指摘された以上は、ごまかしなんて効かない。二人は言葉通り正直に話すことにした。

「あの……これには深い事情がありまして……こう見えてもアタシ達は人間なんですよ!」

「人間? 僕らと同じということか?」

「うーん……説明しづらいんだけれど、この姿はゲームでの自分の分身で、本当は志村さんや柳生さんと同じ丸っこい耳をした人間なのよね……」

「つまり、コスプレイヤーということね?」

「まったく意味が違いますよ! なんて、説明したらいいんだろう……」

 だが、やはり予想通り話がかみ合わず、余計に混乱を招くだけだった。そんな途方に暮れる二人だったが、リズベットはあることを思いつく。

「あっ! そうだ!」

 突然大声を出すとシリカを一旦後ろへ向かせて、二人でひそひそ話を始めた。

「って、何するんですか、リズさん! 話している途中なのに……」

「いい、シリカ? ここがアタシ達のいた世界と別だってことはわかっているわよね?」

「はい、そうですけど?」

「だったら、キリト達がここに来ているかもしれないでしょ? 志村さん達なら知っているかもしれないわよ」

「そんなうまくいきますか?」

「えっと……勘よ!」

「不安しかないんですけど……」

 二人はALOで必死に探していたキリト達のことを、話へと上げるようだ。賭けではあるが、策が無い以上は試すしかない。

「ん? どうしたの、急に? 恋バナでもしていたの?」

「違いますよ! えっと――」

「あの! 二人はキリトやアスナ、ユイちゃんについて知っている?」

 口ごもるシリカに代わってリズベットが強気に言い放つ。土壇場の時の彼女は根性が強い。すると、それを聞いた妙達の反応は、

「アレ? もしかして二人はキリト君達の知り合いだったの?」

「「えっ……!?」」

「それならそうと先に言ってくれれば良かったではないか?」

思いっきり知っている様子だった。これにはシリカ達もすぐに反応する。

「ええ!? 知っているんですか!? キリトさん達のこと!?」

「アタシと同じとんがった耳をして、黒髪の男子とかわいい青髪の女子とワンピースを着た女の子の三人よ!同じよね!?」

「安心してくれ。まさしくその人達だ」

「仲間だったのね。なら納得だわ!」

 さっきまでのねじれた話し合いはどこへやら。今は完全にキリト達を見つけられたことに、シリカ達はただ喜ぶしかなかった。

「や……やりましたよ!! リズさん! ピナ!」

「この世界で見つかるなんて奇跡よ! 奇跡だわ!」

「ナー!」

 二人と一匹は抱き合い共に感涙を流している。その姿を見た妙らはそっと静かに見守っていた。

「キリト君達の知り合いとは驚いた。仲間達もこの世界へ来てたということか?」

「そうね……でも、あの喜び様はよっぽど強い絆で繋がっているのね。これがハーレム系ラノベのやり方ね!」

「ハーレムはここでは関係ないのではないか?」

 大人らしい優しい眼差しに加えて、妙らしい毒舌も決まる。そして、彼女は優しくシリカへ話しかけた。

「いずれにしても良かったわね。二人共」

「はい! 教えてくれてありがとうございます! 志村さん! 柳生さん!」

 妙とシリカの二人もいつの間にか、わだかまりが無くなり親しくなった――かに思われたが、

「それじゃ、安心したところでピナちゃんをだしに使っていいかしら?」

「それは絶対ダメです!!」

余計なことを言って再燃させてしまった。今日はシリカばかりがツッコミに回っている。一方、九兵衛は再びリズベットへ話しかけた。

「これで君達も一安心だな」

「そうね! ありがとうね! 柳生さん!」

「いいや。苗字の読みは慣れていないから、普通に九ちゃんや妙ちゃんくらいの気軽さでいいよ。堅苦しいのは似合わないんだ」

「そうなの? じゃ、九ちゃん……?」

「ああ、リズ君」

 接点の少ない二人も呼び方を機に仲を深めていく。とそんな時だった。

「グゥゥ」

突然お腹の鳴る音が聞こえてくる。

「ん? この音は?」

「……アタシです。安心したらお腹が空いちゃって……」

「それなら、アタシも……」

 その正体はシリカとリズベットの二人だった。空腹となり手でお腹を押さえている。現在の時刻は九時前後。朝食をとっても遅くない時間だ。この状況を知った妙は、ある考えを思いつく。

「あっ、そうだわ! ちょうど朝ごはん用に新作の卵焼きを作っていたところだったのよ! 良かったらあなた達も食べてみる?」

 なんと自分の作った料理を勧めてきた。当然事情を知らないシリカらは、すぐに食いついてくる。

「えっ!? いいんですか?」

「もちろん! きっとあなた達の口に合うこと間違いなしよ!」

「なら、是非お願いします!」

 了承を得た妙は目の色を変えて、浮かれ気味にキッチンへと向かう。一方、シリカやリズベットはどんな卵焼きになるか、期待しながら待ち始めている。

「妙さんの料理か……一体どんな感じなんだろう?」

「きっと、アスナさんと同じくらいおいしいに決まっていますよ!」

「見た目もかわいいからね!」

 二人は想像しただけで期待が膨らませて、笑顔を浮かべている。しかし九兵衛は知っていた。期待するだけ損であることを。

「ん? どうしたんですか? 柳生さん?」

「いや……二人共。過度な期待はしない方がいいんじゃないのかな? むしろ食わない方がいいぞ……」

「えっ? なんで……まさか志村さんって料理が苦手とかですか?」

「大丈夫よ! 味くらいでそうビビらないわよ! 仮想世界だってモンスターの珍味が多くあったんだし!」

「アタシ達の味覚は大丈夫ですから!」

「いや、味覚とかの問題ではないんだが……」

 と九兵衛が説明しても二人には全く伝わらない。その時、ついに妙は卵焼きをのせて皿を持ってやってきた。

「さぁ、出来たわよ! これが卵焼きよ!」

「一体どんなたま――」

 実物を見た瞬間に、体が動かなくなってしまうシリカとリズベット。それは嫌悪感、恐怖、絶望。あらゆるマイナスエネルギーが集まり本能的に拒絶した証拠であった。なぜなら、

「これ……卵焼きなの?」

「そうよ。それがどうしたの?」

妙の作る卵焼きは、黒く焦げて原型すらとどめていないのである。妙は笑顔で勧めてくるが、二人は苦笑いでこの危機をどう乗り切るか考えを始めていた。

(これって、本当に食べないといけないの……!?)

(思っていた卵焼きと違うんだけど……!)

 心の中で本音を言い続ける二人。一方で、いつまでも黙ったまま食べない二人を見て、妙の機嫌は少しずつ悪くなってゆく。

「あら? 折角持ってきたのにあなた達は食べないというの? だったら強制的に食べさせてあげようかな?」

 笑いながら怒りを溜める彼女の姿に、二人はとうとう焦り始める。

(志村さんの機嫌がどんどん悪くなっていく!)

(食べるしか方法はないってこと!?)

 逃げるも地獄、進むも地獄。そう感じた二人は、覚悟を決めて卵焼きに手を伸ばそうとしたが、

「待つんだ! 二人共!」

ここで九兵衛が助け船を出した。

(や……柳生さん!?)

(きゅ……九兵衛さん!?)

 突然の行動に二人も心の中で驚いている。

「どうしたのよ。九ちゃん」

「悪いが妙ちゃん。この子達はあくまで別の世界の人間だ。僕らとは根本的な価値観が違うだろう。だから、そこまで強要させる必要はないのではないか?」

 九兵衛は別の世界の人間という条件を利用して、この状況を打破しようとしたのだ。いつもの妙なら無視してかまわず食わせるのだが、幼馴染で仲の良い九兵衛に言われるとすぐに納得したようで

「うーん……それもそうかもしれないわね。わかったわ。残念だけど諦めようかしらね」

自然と諦めをつけさせてしまった。やや無理があったが、これで危機は去ったのである。

(柳生さんがアタシ達を救ってくれた……?)

(空気を読んでくれたってことね!)

 心の中で安心した時、九兵衛は二人の方に顔を向けて親指を立てたサムズアップでコンタクトをとった。まさに空気を読んだ九兵衛の行動だったが、

「ナー?」

ただ一匹ピナにはこの一連の流れが理解できていない。この黒い物体に興味を持ち始めており、小さい腕を使い妙の卵焼きをつつき始めていた

「ってピナー! それに触れちゃダメだってば!」

 シリカも気づきピナを卵焼きから離れさせようとした時である。

「ナー!!」

 ピナは皿を滑らせて空中へ飛ばしてしまう。そこから綺麗に散った三つの卵焼きは落下と同時に

「「えっ!?」」

シリカ、リズベット、ピナの口に入ってしまった。噛むとジャリジャリと食べ物とは思えない触感が口を覆っている。そして飲み込んでしまうと、

「「「ギャャャャ!!」」」

脳機能が麻痺し、電気ショックのような衝撃を受けて全員気絶してしまった。結局卵焼き。いや、ダークマターの餌食として運命を変えられなかったのである。

「あら? シリカちゃんにリズちゃん? それにピナちゃんも……そんなに私の卵焼きがおいしかったのね!」

「そんな……くっ……すまないシリカ君、リズ君、ピナ君。救ってやれなくて……」

 妙は間違った解釈で喜び、九兵衛は悔しさを表しこの騒動を幕引きした。結局二人は目を覚ますまで、再び布団の中で過ごすことになった。ピナはテーブルの上で固まったままであるが。こうしてシリカとリズベットも頼もしい? 大人達と出会うことになったのである。

 




今回の万事屋は少なめです。仲間達が同じく銀魂の世界へ来たけどキリト達はまったく気づいていません。さぁ、次は万事屋の仕事とクール系女子だ!


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第七訓 ギャップ萌えは人の心を刺激する

 自分が何かをしている裏でとんでもないことが起こっているなんて中々気付きませんよね?そんな思いを頭に入れて今回の話をご覧ください。どうぞ!


 かぶき町の朝。キリト達にとっては、この世界で二度目の朝を迎える。今日は万事屋としての初仕事の日。六人と一匹は、一層の気合を入れて朝食を食べていた。

「おおー! おいしいアルよ! アッスーの料理!」

「本当だな! これがラノベヒロインの女子力か!」

「はいはい。冗談はいいから銀さんも神楽ちゃんも温かいうちに食べなさいよ!」

 アスナの料理を褒めまくる、銀時と神楽。そんな六人が食べていたのは、彼女が作ったサンドイッチである。油で炒めた鶏肉に野菜と合わせて挟んだ朝食は、銀時ら三人からも大絶賛で、みな喜びの表情を浮かべていた。

「でも、アスナさんの料理っておいしいですね」

「そりゃ、アスナにとって料理は得意中の得意だからな」

「そうですよ! ママの料理は宇宙一ですから!」

「もう~! 照れるじゃないの、ユイちゃん! キリト君!」

 キリトらにも褒められて、まんざらでもなさそうな表情で照れるアスナ。その様子を見た銀時や神楽は、突如顔色を変えて皮肉を言い始める。

「ついでに年中発情しているヒロイン、宇宙一かもな」

「うさぎよりムラムラしてそうアル。ああいうのを欲求不満って言うアルよな」

「って、コラー!! 二人ともご飯中にそういうことは言わないの!」

 根も葉もないことを言われて、アスナからツッコミを入れられてしまった。さらに、それを聞いたユイが勘違いしてしまう。

「ムラムラ? 一体ママは何が宇宙一なんですか?」

「ユイちゃん!? そこは気にしなくていいから! アスナさんが余計ショックを受けるだけだから!」

ユイの疑問を新八が抑え沈静化する。そんな万事屋の朝は、いつにもまして賑やかで楽しい。そうキリトは感じ取った。

(みんな楽しそうだな。これも万事屋のみんなのおかげかな……?)

 そう心の中でそっと呟くと、彼は一足早くサンドイッチを食べ終え突然立ち上がる。

「さぁ! みんなも早く食べて仕事へ行こう!」

「おいおい、てめぇは少し張り切りすぎじゃないのか?」

「そんなことないって! ほら、行こう!」

 銀時へ向けて屈託のない笑顔を見せると、彼も同じく微笑みで返す。こうして、万事屋は朝食を食べ終えて仕事への準備を始めたが、ユイがあるモノを窓から発見した。

「ん? アレはなんですか?」

 彼女が見つけたのは、水色に光る物体が空を飛び続ける光景である。

「光が錯乱している?」

「アレは一体何なんだ?」

 アスナやキリトは見慣れない存在に疑問視しているが、万事屋は全く動じていない。

「アレアルか? ただのUFOアルよ」

「た……ただのUFO!?」

「まぁ、この世界じゃ珍しくねぇんだよ。どっかの天人が不法入国してきたんだろ?」

「だから、そんな気にしなくていいんですよ」

「そうなのか?」

 銀時曰く、この世界じゃよく見かけるUFOだと言われ、キリトらは反論のしようのない。一応気になってはいたが、今は仕事に集中して気を戻すしかなかった。

「よし、そんじゃ行くか!」

 銀時の掛け声と共に万事屋を出た一行は仕事先へと向かう。キリトの仲間達が次々と、この世界へ来ていることなど知らずに――

 

 かぶき町に現れては落ちている球体上の未確認飛行物体。住人達は天人の乗ったUFOだと思い込み大して気にしてはいないが、その中にはSAOの世界から来たキリトの仲間達が入っている。昨日の夜に落ちたクラインは、桂とエリザベスによって助けられ彼らの所属する攘夷党に加入。朝早くに落ちたシリカ、リズベット、ピナも妙と九兵衛に救われ現在は恒道館にいるが妙の作った料理、いや暗黒物質を食べてしまい気絶した状態である。そして、またもかぶき町の空に物体が出現した。水色に光るその中には、

「ここ……どこ? って、空!?」

シノンが入っていた。気を戻した瞬間に自分が空にいることや、身動きできない状態だと早くも理解する。

「早く止めないと……! でも、動けない……!」

 住宅街の上を縦横無尽に飛んで行くシノン。徐々に落下していき地面に近づくと、彼女は思わず目を瞑った。

「もう、ダメ……」

 そうあきらめた時、救いの手が現れた。

「……何?」

 目を開けると何者かに抱えられて無事だった。周りを見ると江戸時代らしき民家の路地裏。上を見ると忍者のような白服に薄い紫髪をした女性がおり、彼女がどうやらシノンを墜落直前で助けたらしい。

「あ、あなたが私を助けてくれたの?」

「そうよ! ケガはなかった? 銀さん!」

「……銀さん?」

 違う人の名前を言われて、シノンは反応に困ってしまう。この一言で女性は人違いしているのではないかと心の中で感じていた。一方、彼女を助けたのは言うまでもなく、銀時のストーカーである猿飛あやめ。歩いていたところ、メガネを落としてしまい視界がぼやけたままシノンを救出。髪の色が少し似ているだけで勝手に銀時だと思い込み今に至る。

「何か小さくなった? でもいっか! さぁ、私と共に行きましょう!」

「って待ちなさいよ!  私は銀さんって人じゃないわよ!」

「またまた~! その髪の色は間違えなく銀さんじゃないの! ほら、行くわよ!」

「違うってば! 離してよ! 早く!」

 あやめの怪しげな雰囲気に危機感を感じ、シノンは抵抗し始めた。そんな時、どこからともなく赤い眼鏡が飛ばされて、あやめの顔に付けられる。

「よかった! これで銀さんの顔がはっきりと見えて……って誰だ! お前!」

「それはこっちのセリフよ!」

 あやめの手のひら返しに、強くツッコミを入れるシノン。するとあやめは、彼女を解放して一旦距離をとると、にらみつけながら文句を言い始める。

「だいたいアンタ銀さんと同じ髪の色をしているのよ! ややこしくて~!」

「知らないわよ! だいたい銀さんって一体誰なのよ!」

 文句をも言われシノンも怒りを露わにした時、もう一人の女性が二人の中に割って入ってくる。

「そこまでじゃ! 主ら!」

「ってまた女の人?」

 二人の前に現れたのは、紅葉の柄が入った着物を着ている女性。吉原の番人、月詠である。あやめに比べて落ち着いており、大人びた印象をシノンは感じ取った。

「何よ、ツッキー! 割り込んでこないでよ!」

 月詠の介入にあやめは一喝するが、彼女は動じずにフォローを続ける。

「落ち着くんじゃ。そもそもこの猫耳の子は空から来とるんじゃ。何か訳があるかもしれんじゃろ?」

「空から――」

 この言葉を聞きシノンは思い出していた。銀色の怪人が言っていた別の世界の存在について。冷静になれば、メニューが開けないことや、前にいる二人の女性にHPゲージがついていないことが、別の世界である証拠を物語っていた。

「嘘でしょ……まさか本当に別の世界なの?」

 頭の中での整理が追い付かない彼女は、額を押さえて落ち着こうとする。しかし、情報量が多くて全く混乱が収まらない。そんな時、月詠がシノンへ話かけた。

「主、ここで話すのもなんじゃ。一旦移動するぞ」

「えっ!? ちょっと!?」

「ほら、早く!」

 あやめに抱えられたシノンは、そのまま彼女達に連れられていき住宅街を去っていく。こうして、吉原へと向かうのだった。

 

 一方、万事屋一行は別の住宅街を歩いている。今回は依頼先が徒歩でも行ける距離だったので、定春は同行していない。すると、一軒の五階建てアパートへ辿り着く。最上階にある五階まで行き、依頼人の部屋にあるチャイムを鳴らした。

「ここが最初の仕事場所ですか?」

「そうだな。505号室で合っているよな?」

「確かそうですよ」

 ユイや銀時が新八に再度確認すると、今度は神楽がキリトらへ話しかける。

「ここで今日は最初引越しの手伝いをして、荷物運びをするアルよ!」

「でも、五階からか……少し大変そうだな……」

「時間がかかりそうね……午後のベビーシッターまでに間に合うのかしら?」

 キリトに続きアスナも高層階への懸念を示す。最初の仕事は引っ越しだったのが、最上階から運ぶので時間を多く有してしまう可能性があった。それを聞いたユイは、ある作戦を考えている。

「ここに配置すればいけるかも……」

「ん? どうしたアルか? ユイ?」

「いえ! 考え事です!」

 まだ途中しか考えていなかったので、つい言われても否定してしまう。そう時間を過ごしていた時、ようやく依頼主が姿を現した。

「あっ、遅れてすいません! あなた達が万事屋ですね!」

「ええ、時間通りですよ」

 快く迎えてくれたのは、引っ越しの依頼をしたタツヤさん。近くの会社に通う新人のサラリーマンで、この度アパートの再改造のために違うアパートへ引っ越すため、万事屋へ依頼を頼み込んだ。そんなタツヤは、会ってそうそう万事屋の新しい顔ぶれに気付く。

「って、アレ? 聞いていた人数よりも多くありませんか?」

「ああ、こいつらか? 昨日は入ったばかりの天人達だよ。こう見えて全員十八だからな」

「じゅ、十八!? でも明らかに小さい子が……」

「気にするな、十八だ。お前も知ってんだろ? 見た目は子供、頭脳は大人の名探偵〇ナン君を? アレと同じだよ」

「そ、そうなのか……?」

 ユイへのごまかしを別の漫画であるコ〇ンで例えて、無理やりタツヤを納得させた銀時。彼の強引さには誰にもかなわない。

「名探偵コナ〇? どっかで聞いたことあるような、ないような……」

「気にしなくていいアル、アッスー。ただの漫画ネ」

「私と同じ……コナ〇君と似ているとはどういう意味でしょうか?」

「ユイちゃん。そこは触れなくていいから。少なくとも理解するのに九十巻以上はかかるから」

「というか、天人って言えばごまかしがあっさり効くんだな……」

 仲間達は、微妙な反応のまま彼の行動を様子見しているしかない。タツヤ側も納得したところで、万事屋はようやく部屋に入る。

「リビングやほかの部屋は事前にまとめておいたんですけど、まだ自分の部屋の片づけが出来ていなくて……」

「へぇー。で、ここが自分の部屋か?」

「って銀さん!? 勝手に入っちゃダメじゃ――」

 と彼の自室に入った時である。意外な趣味を目の当たりにすることになった。

「えっ!? ここは……」

「アイドルグッズ!?」

 そこには、大量に貼られた一人のアイドルのポスターグッズがある。紫髪のサイドテールに黄色の振袖を着た女性アイドルで、どの写真にも楽しそうに歌っているのが印象的であった。そう、彼はアイドルオタクだったのだ。

「こ、これって……まさかあなた! お通ちゃんの大ファンなんですか!?」

「そうなんですよ! でもいわゆる俺は隠れオタクってヤツであんまり人には言っていないんですけど……」

 うっかりとバレて自白する依頼者。そんな彼が好きなアイドルは、お通ちゃんとして愛称を親しまれている寺門通である。この世界では、メジャーなアイドルで認知度も抜群に高い。銀時ら万事屋はもちろん理解していたが、キリトら三人は全くわかっていない。

「この子があなたの応援しているアイドルってこと?」

「そうです! 江戸のトップアイドルとして有名なんですよ!」

「へぇ~この子が今売れているアイドルなのか」

 普通の反応をするキリト達。三人共にアイドルには疎いのだ。ただし、万事屋には一人大きくテンションの上がっているメンバーがいる。

「あの……すいません。あなたもお通ちゃんの大ファンなんですか?」

 声質を震えて口に出したのは意外にも新八であった。

「はい、もちろん! って、あなたはまさか!?」

「そうです! 僕もファンであり、そして親衛隊の隊長ですよ!!」

 そう。今までキリト達に口では言わなかったが、彼は寺門通のファンであり、親衛隊のリーダーを務めるほどお通の大ファンだったのだ。その熱狂振りは凄まじく、多くのファンからも憧れの的とさせるほどである。依頼者ももちろん知っていた。

「まさか、あなたのような人にここで会えるなんて!」

「こちらこそ理解してくれるファンと出会えて嬉しいよ!」

 嬉しさのあまり二人は互いの手を握り、出会いを分かち合っている。一方、新八の一面を知ったキリト達は色々と衝撃を受けていた。

「えっ? 新八君ってアイドルのファンだったの……?」

「ファンどころか、親衛隊のリーダーを務めるほど心酔しているアルよ」

「そうなのか!? 結構意外だな……」

「人は見かけによらないとはこのことですね!」

「おい、てめぇら。新八にどういう印象を持っていたんだよ」

 新八の隠された一面にただ唖然とするしかない。そんなお通への談義は後に回すとしてまずは、荷物を運び出すのが優先的だった。

「家具や割れ物は丁寧に運ぶとして、軽いもんはまとめて運ぶことはできねぇのか?」

「できるなら効率よく運びたいよな」

 銀時やキリトが荷物運びに対して知恵を絞り考える中、突如ある作戦を閃いたユイが手を挙げる。

「あの……みなさん! 私に考えがあります!」

「考え? ユイは何か思いついたアルか?」

「この五階分の差を埋めて作業を効率化するには、パパとママの羽が必要になるんです!」

「羽……俺達が空から運ぶということか?」

「そうです! 二人が空から待機すれば効率よく荷物を運べると思うんです! どうでしょうか?」

 ユイの熱意の込もった作戦。それはキリトとアスナの持つ羽を有効的に使い、時間短縮を図るモノであった。この彼女の考えを聞き、仲間達は迷いなく賛成する。

「確かにその方がいいかもしれませんね」

「中々いい考えよ! ユイちゃん!」

「さすがユイアル! 本当にコナ〇君みたいね!」

次々と褒めるアスナ、新八、神楽に続いて銀時やキリトもお礼を口にした。

「そこと比べてどうすんだよ! まぁ、いいんじゃないのか?」

「ありがとうな、ユイ。ナイスな考えだよ」

「はい! どういたしましてです!」

 感謝を伝えられたユイは、心から嬉しく思い笑顔を見せる。そんな万事屋の作戦を聞いていたタツヤは、そのチームワークに驚いていた。

「これが万事屋の作戦……というか親衛隊長って働いていたんだな」

「驚くところそこですか!? タツヤさん!?」

 さらに新八が働いているところにも驚いている。遅い反応であった。

 

 ユイの決めた作戦で役割が振り分けられた。荷物の整理や準備を新八と依頼者のタツヤ、キリトとアスナは羽を使いベランダから荷物を運び、地上で待っている銀時と神楽とユイの三人へ渡すリレー式の方法である。ちなみにユイは作戦立案者ということで、荷物を確認する監督も務めていた。

「はい、できたよ!」

「ありがとうございます! タツヤさん!」

 荷物の判別作業をして段ボールへ詰めると、新八はベランダへ向かいキリト達へ渡す。運ぶのは軽い物からで、重いものや割れ物注意のものはすでに銀時達が地上に向かうついでに運んでおり、家具は後回しである。

「キリトさん、アスナさん。頼みましたよ」

「「OK!」」

 新八から受け取った段ボールを受け取り二人は地上で待機している銀時と神楽の元まで運ぶ。

「それじゃ、銀さん。この荷物は頼んだよ」

「あいよ」

「神楽ちゃんもよろしくね」

「任せてアル! どんどん持ってくるヨロシ!」

 銀時らは段ボールを受け取るとユイのいる場所まで運んで置いた。こうして荷物運びを進めていく。階段を昇り降りするよりもよっぽど効率が良い作戦である。

「これなら、予定より早く終わりそうだな」

「そうね。さすが、ユイちゃんね!」

 万事屋の仕事に手際よく進めるキリトであったが、ふと空を見上げた時だった。またも元の世界にいる仲間のことを思いだしていた。

「ん? どうしたの、キリト君?」

「いいや、なんでもないよ。仕事に戻ろう」

 心配する思いを誤魔化してキリトは再び五階のベランダヘ飛ぶ。こうして引っ越し作業は順調に進んでいく。

 

 一方シノンはというと、月詠とあやめに運ばれて吉原へと連れてこられ、茶屋である「ひのや」へと辿り着いていた。

「ここは?」

「わっちの恩人が営んでいる茶屋じゃ。ちと日輪を探してくる。猿飛、こやつを見てもらえぬか?」

「わかったわよ」

 そう言うと月詠は、店に入って日輪を探す。一方、シノンは辺りを見渡し本当に別の世界なのか確認する。江戸の遊郭を思わせるような街の外観に人々の服装の違い。この世界が仮想世界でも現実世界でも違う別の世界である証明に繋がった。

「やっぱりね……」

「どうしたのよ。急に改まっちゃって」

「ここは私のいた世界じゃないわ……」

「それってどういう――」

 あやめが聞こうとした時、ちょうど店の奥から月詠と日輪が現れる。

「あら? これが月詠の言っていたお客さんね。なんだか昨日の子達と雰囲気が似てるわね」

「昨日の子達?」

「そうじゃな。確かキリトとアスナとユイの三人じゃったかな?」

「えっ……」

 二人の言葉を聞いてシノンの表情が大きく変わった。さらには、あやめも表情を変えて焼きもちを露わにし始めた。

「あっ! あの三人ね! 万事屋に入ったっていう! ったく、あのリア充が新メンバーなんて! 私はまったく認めな――」

「ちょっと待って!」

 あやめの言葉に割り込んだシノンは、月詠に本人かどうか確認する。

「もしかしてその人達って、耳がとんがっていて格好がファンタジー風じゃなかった?」

「確かそうじゃったな。って、まさか主は知り合いなのか?」

「そうよ! 私はキリト達の仲間よ!」

「仲間!? ということはあなたもリア充ということね!!」

「違うわ」

 あやめの勘違いに耐え切れず、シノンは塩対応で返す。だがこれでキリトら三人の安否がわかり、彼女は安心する。表情も柔らかくなったので、後は月詠達が相手することにした。

「そうか……なら、ゆっくり話すか。日輪、少し席を借りるがいいか?」

「もちろんいいわよ! 私はまだ仕事があるからこの場を離れるけど自由に使っていいわよ。さぁ入って! 猫耳のお嬢ちゃん!」

 日輪に案内されてシノンは茶屋の席につく。背中に装備していた大型の弓ははずして、近くの椅子へ置いた。同時にあやめと月詠も座り、日輪は奥の部屋へと戻る。こうして三人の話し合いが始まった。

「ところで名乗り忘れたな。わっちの名は月詠じゃ。でこやつが」

「猿飛あやめよ。気さくにさっちゃんとかあやめって呼んでもいいわよ。それであなたは?」

「私はシノン。本名は朝田詩乃って言うのよ」

「えっと、どっちで呼べばいいんじゃ?」

「じゃ、シノンで」

「そうか、わかった」

 まずは互いの名前を紹介して、それから本格的な話へと入る。まずは、あやめから話が振られた。

「それで、シノンちゃんは別の世界から来たっていうけど、その辺はあのリア充達と同じってことでいいわよね?」

「そうね。月詠さん達はどこまで知っているの?」

「軽くしか銀時からは聞いていないぞ。仮想世界から来たとか、謎の少女によってこの世界へ来てしまったくらいじゃな」

「謎の少女? 私達は、銀色の怪人によってこの世界へ来たんだけど」

「何ですって? じゃ、送った相手が違うってこと?」

「そういうことになるな。もしかするとその少女と怪人は仲間かもしれん。後で銀時達に伝えてみるか……」

 話は落ち着いた雰囲気で静かに進む。シノンがこの世界へ来た理由や、月詠達がキリト達とどんな関係を持っているかが話の主軸であった。

「でも、少し安心したわ。この世界にもキリト達が来ているなんて」

「そうか。主らは知り合いじゃったな」

「確かにね。一人でいるよりみんなでいた方が安心するわよね」

「一人……」

 あやめの一言を聞いたシノンは急に黙り込み場の空気を少し重くしていた。

(アレ? これ地雷ふんじゃった?)

(何をしているんじゃ、猿飛! シノンが黙り込んでしまったぞ! どう切り替えるんじゃ!)

 心の中でまずいと感じた大人の二人は、どう立て直そうとか頭の中で模索する。しかし、シノンが再び口を開いて、その沈黙を破った。

「ごめんね、月詠さん。あやめさん。少し嫌なことを思い出しちゃったけどもう大丈夫よ」

「そうなのか? 何かこちらもすまぬことをしたな」

「いいのよ。私だって色々あったけど、キリト達と出会えて変われることができた……ただそれだけなんだから……」

 シノンはふと切なそうな表情で仲間を想っていた。彼女はSAOのレギュラーメンバーの中で一番遅い加入であり、一つの過去に悔み続けていたがキリトを始めとする仲間があってこそ成長した人間である。だからこそ仲間の存在を大切に思い、今を生きているのだ。その言葉と想いは月詠やあやめにも届いている。

「そうか。主も仲間を大切にしているんじゃな。ならばわっちもあのチャランポランと出会っていなければ今頃どうなっていたかわかりゃせんな」

「月詠さんもそんなことがあったの?」

「じゃな。人の縁ほど大切な物などありやせんよ」

 そう言って月詠は手にした煙管から煙を吐き空へと飛ばす。その表情は優しく微笑んでいる。彼女もシノンと同じく銀魂のレギュラーメンバーで遅めの加入であった。今でこそ酒乱でクールボケのイメージのある彼女だが、銀時と出会う前は孤独のままに戦い抱え込む吉原の番人だった。そこから銀時ら万事屋と出会い多くの苦難を乗り越えて今の自分を受け入れている。その点を見れば、シノンと月詠は共通点の多い人間ともいえる。一方であやめもこのシリアスな雰囲気に乗り過去を語りだした。

「そうね。信じられる人間がいるっていいわね」

「猿飛さん? まさかあなたも?」

「ええ、そうよ。私だって銀さんと出会ったから全てが変わったわ。時間があれば銀さんの家の天井や床下に隠れていつも見守っているほど彼に心酔しているんだから!」

「へぇ……いつも見守――ってちょっと待ちなさい! 今何て言ったのよ!?」

 シノンは耳を疑い顔色を急変させた。正気な人間だとは思えないセリフが、あやめの口から出てきたからである。一方、彼女は何一つ顔を変えることなく答えた。

「えっ? 銀さんをいつも監視していることを言ったのよ。恋する乙女にとってあたりまえじゃないの?」

「それを私のいた世界ではストーカーというのよ! まさか、猿飛さんってストーカー!?」

「そうよ。それが何か?」

「ハッ!?」

 一斉悪びれずにストーカーだと認めたあやめに、シノンはより混乱してしまう。彼女もストーカーの被害者としての経験があるので、あやめにできるかぎりの注意を促そうとする。

「あなた、やめといた方がいいわよ! そんなことして……!」

「いいや! やめないわよ! この世界では、私が知っているだけで三人のストーカーがいるのよ! それくらい好意的なの! それくらい許させる世界なのよ!」

 しかし、全く通じていなかった。あやめの開き直った姿を見たシノンは唖然としてしまう。そして、震えた声で彼女は呟く。

「狂ってるわ……」

 先ほどのしんみりした雰囲気とは異なりあやめのカミングアウトで一変し、騒がしくなった。すると、月詠はシノンへフォローを入れる。

「心配せんでいいシノン。こやつがストーカーしているやつは十分強い。いつも跳ね返しておるぞ」

「で、でもいつ血迷った行動をするかわからないわよ!」

「そこも大丈夫じゃ。こやつはMで自分からは過激なことはしない」

「そうよ! 銀さんが追い返すたびに私のマゾが刺激されるのよ! だから余計に近づきたくなるのよ! まさにドMスパイラル!」

「それを狂っているって言うのよ!」

 結局シノンが激しくツッコミをしただけでこの話は終わった。騒動も一段落したところで彼女が気になったのは、先ほどから話題に上がっている銀さんという人だった。

「ところでさっきから言っている銀さんって一体誰なの?」

「銀さん!! それはね――」

「あやめさんは落ち着いてからでいいから。それで月詠さん、銀さんって言うのはどんな人なの?」

 さりげなくあやめではなく月詠へ聞いたシノン。もちろんこの扱いをあやめが黙って見過ごしたりはしない。

「何、否定しているのよ!」

「いいから、主は一旦落ち着くんじゃ。で、銀時じゃな……」

 結局月詠からも一喝されて、彼女が答えることになった。

「銀時という男は、つかみどころのない男なんじゃ。普段はだらしないがその行動力や強さは常人を越えていて、幾度も守るために戦ってきたんじゃ」

「そんな極端な人間が本当にいるの? 信じがたいわね?」

 話を聞いてみると前半と後半でかなり落差のある男であり、シノンも半信半疑である。

「そうじゃな。そんな男が今キリトら別の世界の人間の世話をしている。信じられるか?」

「うん……やっぱり信じがたいわね。でも、キリトがその銀時って人を信じようとしたことはきっと良い人だと思うわ。私も一度会ってみたいわね、銀さんって人と」

 どうやらシノンにも少しだけだが銀時の魅力が伝わったみたいだ。

「そうか、ならよかった」

 話を終えると月詠とシノンは互いにそっと微笑んだ。そんな二人の様子を見てあやめは既視感を抱き始める。

「にしてもアンタ達、雰囲気が似ているわね」

「そう? どこらへんが似ているんじゃ?」

「そりゃクールで大人びたところでしょ! 外見は違っても姉妹みたいよ!」

「姉妹ね……月詠さんがお姉さんなら楽しいかもね」

「わっちもじゃ。主とはいい関係を築けそうじゃ」

 互いの顔を見てより信頼を深める月詠とシノン。あやめの言う通り雰囲気の似た姉妹にも見えなくはなかった。そんな月詠への興味を深めるシノンだったが、あやめには厳しめの言葉で返す。

「でも、あやめさんとはあまり合いそうにないわね。ストーカーをしていること自体理解できないもの」

「なんとでもいいなさい! あなたが何を言おうと私は止められないのよ!」

「シノン。こういう時は黙るのが大人の流儀じゃ」

「わかっているわ、月詠さん」

「ちょっと! 聞こえているわよ!」

 早くも月詠とも意見を合わせて否定するシノン。一方、あやめもムキになって彼女のある部分に嫉妬心を抱く。

「そもそもあなたズルいのよ! なんで、人間の耳じゃなくて猫耳になっているのよ! どんなキャラ付けよ!」

 あやめが名指ししたのは、シノンの猫耳である。彼女は他の妖精系アバターと違いとんがり耳の代わりに三角耳が生えておりそこから聴覚を感じ取っていた。ただしキャラ付けで彼女は決めてはいない。

「キャラって……そもそもこれは私の主要武器である弓を生かすために選んだアバターよ! 萌えとか選んだんじゃないのよ!」

「なんですって!!」

 あやめとシノンの一触即発した場に月詠が再び介入する。

「落ち着きなんし二人共。それとシノン。アバターということは、現実の肉体があるということじゃな?」

「――そうね。普段の私はこんな派手な髪の色じゃないし普通の人間の耳よ」

「そうか……では仮想世界以外では普通の人間の耳なんじゃな」

「そうよ。そもそも現実でも猫耳の方がいないでしょ?」

「いいや、こっちの世界ではそんな人腐るほどいるわよ」

「えっ!? そうなの!?」

 あやめの言葉にシノンが戸惑いを見せる。ここで彼女はこの世界の実情を知った。

「その通りじゃ。この世界は宇宙へ開国した江戸時代……故に猫耳をつけた宇宙人もざらにいるんじゃよ」

「宇宙へ開国した江戸!?」

 予想の斜め上を行く世界観にシノンは衝撃を受ける。しかしこれで町並みのつじつまが合う理由にもなった。よく見ると江戸時代とは思えない装飾品や派手な看板。さらに上にはシェルターのような巨大な屋根があり、異様な風景を漂わせる。

「だからあんな機械の屋根があるの?」

「そうじゃ。他にも高層ビルや宇宙船があるのも、天人と呼ばれる宇宙人がその技術を持ってきてくれたおかげだからのう」

「そうだったのね。だからこんな町並みに……ということは私のように、猫耳が生えている人もいるってことよね?」

「そうよ! 知り合いにいるわよ! 猫耳を生えたおばさんが!」

「おばさんでも存在していることが凄いと思うわよ」

 世界観を理解し受け入れたシノンはすっかり警戒心を紐解いている。そんな彼女にあやめはある忠告を促す。

「ところで気を付けなさいよ。この世界に来た以上は猫耳を生やしたキャラはモテ遊ばれるんだから。マタタビしかり、猫じゃらししかり」

「そんなことで私は壊れたりしないわよ」

「本当~?」

 あやめは怪しむがシノンは自信満々に答える。その時、三人の前にある声が聞こえてきた。

「待て~!」

「ん? この声は晴太か?」

「せいた……? って、誰?」

「日輪さんの息子よ。思春期真っ盛りの子供と思っておきなさい」

 晴太が何かを追いかけている様子だった。すると店に一匹の野良猫が入ってくる。

「ん? 猫?」

「野生種のようじゃな?」

「ちょっと待った! 月詠姐達!」

 同時に晴太も店の前に立った。どうやら猫を追っていたらしくその手には〈猫注意〉と書かれた袋を持っている。一方、野良猫は自分の仲間だと思い込みシノンへ近づいてじっと動きを止めた。

「えっ!? これって――」

「捕まえた!!」

 と次の瞬間、晴太は袋に詰めてあった粉を手一杯に握り猫へ向けてなげつけた。

「「「きゃっ!!」」」

 突然舞った粉を吸って咳き込む三人。周りには粉が舞っている。

「うわぁ! みんな大丈夫!?」

「見てわからぬか! 大惨事じゃ! ケホ!」

「あんた! 急に何をするのよ!」

「野良猫を捕まえようと思って、友達から借りたマタタビを使ったんだけどさすがに量が多すぎたよ! 本当にごめん!」

「「マタタビ……!?」」

 それを聞き二人の大人は嫌な予感を察した。野良猫は動きを止めたが、それと同じくシノンもマタタビを浴びて以降一斉言葉を発さずに動いていない。それどころかずっと下を向いたままである。

「ってシノン! 大丈夫か!?」

「アンタ! 気は確かよね!?」

 彼女の元へ近づき異常が無いか確認したが、聞こえてきたのは

「ヒック……!」

イヤなしゃっくりだった。この一言で二人は感じ取る。シノンの身に起こったことを……そして彼女は顔を上げた。

「大丈夫でしゅよ~! 私は~!」

「「……」」

 二人はこの光景に固るしかなかった。シノンがマタタビで酔ったからである。顔つきは人が変わったように柔らかくなり、表情も子供っぽくて陽気。フラフラした足取りに真っ赤な頬っぺたとクールキャラとは思えない変貌ぶりを露わにした。

「ってちょっと!? 完全に酔っているじゃないの!?」

「ええ!? 猫耳を付けた子にもマタタビで効いちゃうの!?」

「この子はちょっと特別なんじゃ! じゃなくて、おーい! しっかりするんじゃシノン!」

 必死に呼びかける月詠であったが、被るように浴びたマタタビのせいでシノンは中々正気に戻らない。

「わかっているわよ~! 月詠さ~ん! それよりも――」

 するとシノンは大胆にも月詠に抱きつきハグをし始める。

「な……これは?」

「私ね~! 月詠さんと遊びたいの~! 遊んでほしいにゃ~!」

「って何か子供っぽくなっているわよ!! 酔ったらこの子、子供に戻るタイプよ!!」

 どうやらシノンは酔うとクールさを忘れて、子供のように甘える性格になってしまうみたいだ。無邪気な目をキラキラと輝かせて月詠を見つめてくる。あながち、数分前に言った姉妹のような光景である。

「わ、わかった。ひとまず中へ入ろうか?」

「うん! 早く、早く!」

「ってアンタ達! 待ちなさいよ! 万事屋に伝えるんじゃなかったの!?」

 とあやめがシノンの手を握った時である。

「ふにゃ~!!」

「ぎゃゃゃ!!」

 尖った爪を使ってシノンはあやめを攻撃、追い払ってしまう。子供に加えて猫っぽい行動もする。

「猿飛さんは黙っていて! 今は月詠さんと遊びたい気分にゃんだから! それじゃ行こう! 月詠さん~!」

「ああ、そうじゃな」

 戸惑いつつも今は下手に刺激せずに、月詠はシノンを連れて奥の部屋へと行ってしまった。

「さっ、さっさん!? 大丈夫!?」

「……ドMなのに……なんでこんな気持ちになるのよ……」

 あやめは複雑な気持ちを交差させて今は倒れ込むしかない。そこへ同じくマタタビで酔った猫も転がり込んできて、彼女の顔に落ちてくる。まさに踏んだり蹴ったりで、一番損な役回りをしたあやめであった。こうして、シノンも無事? この世界の住人と仲良くなった……はず。

 




 月詠が酔わない代わりに誰がオチを決めると思う?シノンだ!…改めて全国のシノンファンのみなさん。ごめんなさい…ケットシーって猫の妖精だしマタタビのようなネタは多分ないと思ったので、意表を突いてみました。温かい心で許してください。それでは、次回は風の妖精×武装警察でお送りします。お楽しみに!


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第八訓 歴史は事実に比べて一部異なる

 こんばんは。トライアルです!今回は、万事屋の仕事プラス真選組でございます!中々全員集合まで時間がかかっていますがもう少々お待ちください。それでは、どうぞ!


 キリト達が万事屋に入り早二日。初仕事である引っ越し作業は、ユイの立てた作戦によって効率良く進み、ようやく全ての荷物を地上の広場へと運び出すことができた。

「よし、これで運び終えたアルな!」

 神楽は最後の家具を置くと汗をぬぐう。段ボールに詰められた荷物と家具が広場に集まり、依頼者を除く万事屋の一行はその場へと集まっている。

「これで引き下げ作業は終了ですか?」

「そうだな。ユイのおかげで時間短縮できたよ。ありがとう」

「どういたしましてです!」

 キリトに褒められて思わず笑顔を浮かべるユイ。初めての仕事をこなし嬉しく思っている。早めに終わった引き下げ作業だったが、まだ仕事自体は終わっていない。

「おい、てめぇら。喜ぶのはまだ早ぇよ。部屋の掃除をするために戻るぞ」

「えっ!? あっ、まだ終わってなかったのね……」

「でも、まだ午前中ですし午後の仕事までには終わると思いますよ」

 まだある仕事を知り、疲れを露わにするメンバーもいた。そんな時、ベランダから依頼者が声をかけてくる。

「そうです! それに後数分すれば兄貴が差し入れの弁当を買ってトラックでやってくるので、一緒に頑張りましょう! みなさん!」

彼から飛び出したのは差し入れの話。それを聞き銀時達の表情が変わる。

「おい、てめぇら! さっさと掃除して昼食にありつくぞ!!」

「弁当が私を待っているネ! 乗り遅れんなよ!」

「おいぃぃぃぃ!! あんたら! 食い意地が過ぎるよ! 運んだ荷物は誰が見るんですか!!」

「新八がやっとけアル!!」

「結局僕ですか!?」

 銀時と神楽はやる気が復活し一目散に五階まで階段を駆けていく。新八は止めることができず勝手に荷物の見張りを任されたのだ。

「はぁ……うちのメンバーは新メンバーを追加してもマイペースなんだから……」

「そう気を落とすなよ、新八。それに銀さんや神楽が食い意地を張るのはいつものことだろ?」

「出会って二日でもう二人の個性を理解したんですか!?」

「まぁ、そうかな? それで、荷物の見張りは――」

「はい! 私も新八さんと見張るので、パパとママは銀時さんと神楽さんを押さえてくださいね!」

「わかった! それじゃ頼むよ」

「行ってくるわね!」

 一方で、キリトとアスナも羽を広げて空を飛び依頼者の部屋である五階のベランダまで飛んだ。銀時らと比べるとかなり落ち着いている。結局荷物の見張りは新八とユイが担当し、部屋の掃除は四人に任せることになったのだ。

「行ってらっしゃい~!」

「あの二人を落ち着かせてくださいね!」

 仲間を見送ったところで二人は、近くにあったベンチに腰かけて休み始める。すると、新八がユイに話しかけてきた。

「ふぅ……どうですかユイちゃん? 万事屋として初仕事は?」

「とっても楽しいですよ! 働くことは喜びの連続ですね!」

「ハハ……社畜が聞いたら発狂しそうなセリフだな……」

 ユイの疲れのない笑顔に新八は苦笑いで対応する。しかし彼女には、もう一つこの万事屋を通してある思いが生まれていた。

「ところで、ユイちゃん。これから万事屋としてやっていけそう?」

「はい! だって、私にとって現実の世界は初めてで、折角みなさんと一緒にいられるなら元の世界に帰る前に色々と体験したいんですよ……」

「……そっか。ユイちゃんは仮想世界しか生きられないんだよね……」

 そう言った彼女の表情は悲しそうに見えた。ユイはキリトやアスナと違い現実の肉体が無いため現実世界そのものが彼女にとってみな新鮮に感じている。だからこそ、この世界で生きることに喜びを覚えて、万事屋として使命を果たそうと張り切っているのだ。

「だから、新八さん! これからも私達をよろしくお願いしますね!」

「もちろん! 帰れるまではみんなの世話をきちんとするよ!」

「ありがとうございます!」

 訳を聞いた新八も笑顔で返して彼女を安心させる。しっかり者で常識人の二人は、この一件でより強い仲を紡いだのだ。すると、ユイはさらに質問をする。

「あっ、そうでした! 質問したいことがあったんですよ!」

「うん、いいよ。答えられる範囲ならなんでも教えるよ」

「では……なんで、お通さんの曲はいつもピー音がつくんですか?」

「……えっ?」

 唐突な問いに戸惑いを覚える新八。ユイの言う通り、お通の曲はどれも放送禁止用語や毒のある言葉が目立っている。さっきの引っ越し作業でそれを知ったらしく、彼女もつい気になっていたのだ。

「気になってしょうがないんです! 教えてもらえませんか、新八さん!」

「って、ユイちゃん! 一旦落ち着こう! これは深いわけがあって――」

 と対応に困った新八は偶然にもあるモノを発見する。

「ん? あっ、ユイちゃん! アレUFOじゃない!?」

「えっ!? またですか!?」

 空へ指を指してユイの興味を変えさせた。すると上空には緑色に光る未確認飛行物体が出現しユイの興味が変わる。彼女は上空を眺めてその不気味さに惹かれていた。

「本当ですね……! そういえばこの世界には宇宙人が存在しているんですよね? ということは、この世界での技術ってどうなっているんでしょうか?」

(よし! 興味が変わった! ここは思い出さないように話さないと!)

 こうして新八は、ユイにこの世界の技術力について話して話題を変えることに成功する。しかし二人は気付いていない。空に光る物体には仲間が入っていることに――

 

「止めてぇぇぇ!!」

 緑色に光る球体にいる一人の少女。その正体はキリトの義妹であり仲間でもあるリーファがいた。羽を使っても自己制御できずに、絶望感を漂わせる。

「このままじゃ建物に落ちちゃう……!」

 彼女の真下にあるのは広いお屋敷。そこで落下を覚悟して目を瞑り、希望を諦めてしまった。しかし、

「……アレ? どうなっちゃったの?」

落下する直前に自分の動きが止まる。気になって目を開けるとそこには庭園のような風景があり、上へ向けると自分が男性に抱えられるのが見えた。

「おや? 大丈夫かい、お嬢ちゃん?」

 助けた男性はゴリラのようないかつい印象の男である。そう、その正体は近藤勲。素振りの稽古中にリーファを見つけて助けたらしいが、彼女は近藤の姿に驚きを隠せなかった。

「えっ?」

 なぜなら――近藤は何も履いていない全裸状態だったからだ。

「い……いやぁぁぁぁぁ!!」

「ブホォォォ!!」

 えげつないものを見たせいで混乱したリーファは、近藤の顔面を殴り彼を気絶させてしまう。その直後に羽を広げて脱出し、近くの屋敷へ逃げ込んだ。

「誰か! 誰か助け――」

 助けを求めるため戸を開け部屋に入ったが次に見たのは、

「おい。何の騒ぎだ? 俺の昼食を邪魔するやつは?」

大量のマヨネーズを白いご飯にかけて食べる土方十四郎の姿である。この光景にまたもリーファは唖然として衝撃を受ける。

「う……うわぁぁぁ!」

 たまらずその場から逃げ出し部屋を去った。廊下を走ろうとするとそこでまた男と会う。

「くたばれ土方……くたばれ土方……くたばれ土方……」

 釘人形を使って土方へ呪いをかける沖田総悟がいた。しかもその人形には赤い絵の具が血のりのように塗られており余計にリーファを怖がらせる。

「な、何なのよ! ここー!」

 常軌を逸した男性と立て続けに会い我慢が限界を超えてしまう。そんな彼女の元に一つのアンパンが転がってくる。

「あっ、それ俺のアンパン!」

 今度は山崎が近づいてくるが、すでに混乱状態であったため訳も分からずリーファはアンパンを手に取って、

「もう、イヤ!! 来ないで!!」

「グハァ!!」

山崎の顔面を攻撃してしまった。いわゆるスパーキングを受けた山崎は倒れ込みその場で気絶する。

「な、なんで?」

 剣魂初登場の山崎だったがタイミングが悪すぎた。こうしてリーファもこの世界へやってきたが、武装警察の屋敷に落ちて、軽いトラウマを心に植え付けられたのである。

 

 それから数分後、身なりを整えた近藤らは他の隊士にばれないようにリーファを接待用の部屋へ連れていく。互いに正座をして向かい合いながら、不穏な空気を漂わせる。いわゆる警察でいう事情聴取はまず近藤の謝罪から始まった。

「先程は大変失礼した! まさか空から女の子が降ってくるなんて思いもしなくてな! つい身を裸にしたまま助けに行ってしまった!」

「だからって全裸で外に出ていたらあきらかに通報されるってことくらいわかるでしょ!」

 やはりリーファは気が立っており、彼らに怒りを露わにして不満な表情を浮かべる。しかし近藤以外のメンバーは謝りもせずに煽りを始めてきた。

「何を怒っているんですかい? お前もしかしてチン〇を見たのは始めてか?」

「……あのね、もうちょっと柔らかい表現で言ってよ! 私の心をどこまで汚せば気が済むのよ!」

「ったく、うるせぇ女だな。純粋アピールはいいんだよ。処女かてめぇは?」

「っていい加減にして!!」

「ちょっと落ち着てくださいよ! みなさん!」

 山崎の一言で黙り込んでしまう一同。和解どころか真選組の対応に、リーファの怒りは収まるどころかさらに増す。その心境はもちろん荒れていた。

(何なのこの人達! 思春期の女の子の前でも平気で下ネタを使ってくるし、デリカシーのかけらもないわね!)

 これまでの所業を根に持ち気を荒くしているが、彼女はすぐに歯向かうことはできない。この世界が本当に怪人の言っていた別世界なのか? 仲間達や兄もこの世界へ来ているのか? 聞きたいことが山積みだからだ。何より黒髪の冴えなそうな男を除いた三人は、佇まいから刀の使い方が達者であると確信している。とても自分の手では敵わない。そう心の中で思っていた。

(あの三人は見た目からして強そうね……相当な実力を持っていることに違いないわ。ここは下手に動かない方がいいわね……)

 警戒心を持ちつつもその場をしのごうと決意した時、思いもよらない言葉を近藤から聞くことになる。

「さて、取り乱してしまったが話を戻そうか? 君はなんで真選組の屯所に落ちてきたんだ?」

「……えっ? 新撰組?」

 近藤のセリフにリーファは耳を疑った。新撰組はSAOの世界でも歴史の偉人として存在しており、彼女もかっこいいイメージを持ち合わせていた。だが、この状況で会うとは思いもしておらず、ましてや目の前にいるのは個性の強すぎる男達が新撰組だとは、信じがたかった。

「おや、急にどうしたんですかい?」

「ア、アンタ達、新撰組なの!?」

「そうだが、どうした?」

 さも当然に答えた土方の言葉に、リーファの動揺はより大きくなっていく。

「――いやいやいや! じゃなくて! 私の思っていた人達と違うんですけど!?」

「一体どこが違うんだよ」

「だって新撰組って京都を救った英雄で、近藤勇、土方歳三、沖田総司を始めとした志士で形成されている組織でしょ! それがあなた達なんて……」

 持っていた知識を全て使い自らの疑問を四人に問いかけたが、彼らは全く思い当たっていない。

「ああ? 何を言っているんだ? 俺達真選組は江戸を守る武装警察だぞ」

「……はぁ!?」

「名前だって違うぞ! 俺は、近藤勲だ!」

「俺は土方十四郎だ。歳三じゃねぇぞ」

「ついでに俺は沖田総悟でさぁ」

「後俺は名前が挙がっていないけど山崎退といいます」

 微妙な名前の違いを聞きリーファは口を閉ざし固まった。そしてこの事実を知りあることを確信する。

「ここは……私の知っている世界じゃない!!」

 この世界が別の世界であることを。

「知ってる世界じゃない!? ということは、君は別の世界から来たということか?」

「あっ! いや、これはその……」

 思わず声に出した独り言を聞かれ言い訳に困ってしまう彼女だが、真選組は驚いてもいない。山崎を除いて。

「別に驚きはしねぇよ。昨日も同じような連中と会ったからな」

「えっ? それって誰なの?」

 土方の言葉に引っかかったリーファはある予感を感じていた。そして、確信へと変わる。

「誰って確か……万事屋と一緒にいたキリト君、アスナ君、ユイちゃんと言っていたか?」

「えっ?」

「あ~そうでしたね。ゲームのアバターと肉体が融合したっていう、別の世界のゲーマーですよね?」

「えっ?」

「そうだな。帰る方法も見つかんねぇから、ひとまず万事屋に連いていくとか言っていたが、本当に大丈夫なのか?」

「えっ?」

「あのその話、俺聞かされてな――」

「えぇぇぇぇぇ!!」

 真選組の口から次々と発覚する事実にリーファはただ驚愕するしかない。頭を整理したいところだが、まずはこの人達に聞くしかなかった。

「おや? どうしたんですかい? もしやお知り合いなんですかい?」

「お知合いっていうかお兄ちゃんなんだけど!! この世界にいたってこと!?」

 あれだけALOで探しまくったというのに、まさかこの世界にいるとは思いもよらない。

一方、真選組も早速反応する。

「お兄ちゃん!? って、ことはキリト君の妹なのか!?」

 近藤と山崎は信じて衝撃を受けるが、土方や沖田の二人は全然動じていない。

「ああ、妹? 全く似てねぇじゃねぇか? あいつに比べたら前髪Ⅴ字の角度が軽くずれているぞ」

「見比べるのはそこなの!?」

 土方は前髪Ⅴ字を理由に似てないと指摘して、兄妹関係をかなり疑っている。その顔は決してふざけておらず本気であった。

「そもそも似てねぇじゃなぇかよ。本当に妹なのか?」

「し、失礼ね! そりゃお兄ちゃんは養子だから多少似てないところもあるけど、私はれっきとした妹なの!」

 きっぱりと言い放ったリーファに、今度は沖田が話しかけてきた。

「わかりやしたぜ。なら、DNA鑑定しやしょうか? なーに肉体と融合してるんだろ? 血くらい出るんだろゴラー」

 すると彼は唐突に懐から注射器を手に取り彼女へ向けてくる。その顔は、悪魔のような薄ら笑いを浮かべていた。

「アンタ達! 私をどこまで疑っているのよ! って、本当にやる気!? ちょっと、やめなさいよ! アンタ達それでも警察なの!?」

 沖田の本気度を知り、いきなり危機が訪れるリーファ。密室で逃げられないうえに迫る注射器に、一瞬涙目になる彼女であったが、

「ふっ、何本気でビビっているんでい? これ、おもちゃですよ。本当に純粋みたいですねぇ、てめぇは?」

「えっ?」

急に沖田がネタバラシを始める。注射器の針を触るとそれはゴムのように柔らかいおもちゃであった。どうやら彼女は沖田に一杯食わされたようである。それを知ると急に顔が赤くなっていった。

「……はぁ!? 何してるの、この悪魔! ドS!」

「ふーん」

 そして怒りを沖田へ向けてぶつけたが彼は何一つ動じずに適当に返すだけである。そんな二人を見かねて土方が入った。

「おい。こいつに何を言っても無駄だぜ。なんせサディスティック星から来た王子だからな」

「つまり沖田隊長は、ドSの中のドSということですよ」

「……おい、ザキ。後で裏に来い。しょっ引いてやるからな」

「なんで、俺だけ!?」

 とばっちりを受ける山崎。一方、土方の言う通り沖田はドSで、人をいじめることに関しては豊富な知識を持つ癖の強い男性であった。それを知りリーファの心は、大きい屈辱で一杯になってしまう。

(とんでもない人達ね……特にあの沖田って男は怖い! お兄ちゃんと大違いね!)

 彼らとはとても仲良くできなさそうに見えた。特に沖田に対しては――

 

 それから数分後。場が落ち着いたところでリーファは真選組のメンバーからこの世界のことや万事屋、キリト達の現状を話せるだけ話した。この場面でようやく真選組もリーファの名前を覚える。

「リーファ……桐ケ谷直葉か……本当にどっかの星の天人じゃないんだな?」

「そうよ! とんがった耳をしているけど私は地球人だからね!」

「本当ですかい? こないだ会ったブラコン星の天人と似てやすけどね?」

「ブラコン……!? 違うってば!!」

「なんで間を開けたんですかい?」

 ブラコン(ブラザーコンプレックス)を言われて、顔を赤めるリーファ。沖田はこの反応を聞きあながち間違いではないと確信した。一方、彼女も真選組のメンバーを改めて振り返る。

(近藤さんは体格が大きくて男っぽいけど全裸の印象しかない……でも一番人が良さそう。土方さんは厳しそうだけど真面目っぽい……マヨネーズ丼は受け入れられないけど。山崎さんは……特になし。沖田さんは一番警戒しないといけない相手かも……警察でいじめるのが好きってどうゆうことよ!! この四人を今は頼るしかないってこと……?)

 心の中で印象を整理して見極めを図っていたのだ。そんな考え込むリーファだが、一方で真選組もこれからについて相談している。

「おい、トシ! どうするんだ? リーファちゃんは、本当にキリト君達の仲間かもしれないぞ!」

「そんなの服装見たらだいたいわかるよ。まぁ、あいつら同様何らかの理由でこの世界に来たなら、合流させるか……」

「それはいいですねぇ。いっそのこと人質にして金を巻き上げるのはどうでしょうか?面白そうですよ」

「って警察の考えることじゃないですよ! 沖田隊長!」

 四人はこれからのリーファの扱いにどうするか悩んでいた。すると、話を聞いていた本人が声を上げる。

「あの……! 今、万事屋って言うなんでも屋にお兄ちゃんがいるのよね?」

「ああ、そうだが。まさか、合流するのか?」

「うん。できるならそうしたい。きっと私達の仲間もこの世界に来ていると思うから、早く会ってこれからについて話したいのよね……」

 リーファはそう言って真選組へ自身の希望を伝えた。その顔はややしんみりとしている。真選組も訳を聞き彼女の要望に賛成することにした。

「わかった。リーファ君のために我々も動こうじゃねぇか!」

「ここまで来りゃ乗り掛かった舟だ。できることはやってやるよ」

「良かったな。これで兄貴を寝取るってことか。昼ドラルートまっしぐらですねぇ」

「って、恋愛ゲームで例えないでよ! お兄ちゃんを寝取るってことは……そ、そんなことしないんだから!!」

「おい、焦っているぞ」

 近藤や土方とは違い沖田だけはやはり彼女を煽りその反応を楽しんでいる。コラボしようとも彼のドSは、何一つ変わらない。そして、いよいよ作戦が動き出す。

「うむ。まずは、万事屋に伝えねぇとな。山崎! 今すぐ伝えてきてくれるか?」

「もちろんです! 局長!」

 まずは山崎を連絡係として送らせる。彼が部屋を出る一方で、近藤はある不安を明かす。

「さて、万事屋に送るまでにまずは君をどうするかだな……」

「えっ? それってどういうこと?」

 彼が悩みを浮かべるのは訳があった。

「実はこの屯所は女子禁制で立ち入りをなるべく控えているんだ」

「えっ!?」

 突如真選組の決まり事を言われて困惑するリーファ。真選組では、女性隊士の募集を行っておらず屯所にいるのもほぼ男性だ。もし、この四人以外にバレてパニック状態になってしまえば、キリト達との合流どころではないのである。

「そ、それを早く言ってよ! 見つかったら処罰とかされちゃうの!?」

「別にそんな厳しくしねぇよ。最悪の場合、男だって言ってごまかしてやるよ」

「私のどこが男!? どう見ても女の子でしょ!?」

「いやいや、大丈夫ですよ。このデカ乳を偽物って言えばギリギリ男って言ってもバレませんよ」

「バレるよ! ていうか、私のことデカ乳って言うのやめてもらえる!? 立派なセクシャルハラスメ――」

 とリーファが土方や沖田と言い合いになった時だった。

「すいません! 大変です! 副長!!」

 突然部屋に男性が入ってくる。その正体は真選組十番隊隊長を務める原田右ノ助。スキンヘッドが特徴で、ある事件を伝えに近藤らへ会いにきていた。

「今日の内に三件も未確認飛行物体が現れて――って誰ですか!? その女性は!?」

 報告の途中に原田は、やはりリーファの存在に気付き疑問を呈してきた。不安が的中した瞬間である。

(やっぱりバレたじゃん! いまさら誤魔化しようもないし一体どうするの!?)

 汗をかき口が開けなくなったリーファは、周りを見た。近藤は慌て言い訳を考えていたが、土方は至って冷静である。と理由を思いついた沖田が原田へ弁解をした。

「あっ、悪い原田。ちとこれには訳がありましてね……」

(お、沖田さん!? 一体どんな言い訳をするの?)

 リーファが見守る中沖田が言い放った言い訳とは、

「これ俺の女でさぁ」

とんでもないホラだった。これには周りの仲間はただ驚くしかない。

「……はぁ? はぁ!?」

「って沖田さん!? 本当なんですか!?」

「まぁ、そうですよ。こいつは遠い星から来たブラコン星の天人でねぇ、しばらく遠距離をしていたんだが、今日サプライズで来たもんで、近藤さんや土方さんに紹介していたんですよ。そうですよね、みなさん?」

 苦し紛れ……いや、まるで本当のことのように話す沖田の嘘に今はみな乗るしかなかった。

「そ、そうだな……」

「総悟も大人になったってことだな。ハハ!」

 苦笑いをして原田へ信じ込ませる近藤と土方。そしてリーファも空気を読み、沖田の彼女のフリをする。

「そ、そうなんですよ! 総司君とは仲良くして良好な仲を築いているんですよ~!」

「総悟ですよ」

 名前を間違えられ軽くツッコミを入れられるリーファ。彼の左腕を掴み原田に笑顔を振りまいたが、その心は悲しみに包まれている。一方、原田は報告など忘れて沖田の嘘を信じこみ祝福を送った。

「沖田隊長……アンタも大人になったんだな! わかりました! 必ず幸せを掴んでくださいね!」

 そう笑顔で返すと彼は部屋を去った。そして、大声で他の隊士にも広めてゆく。

「お~い! 朗報だ! 沖田隊長がとうとう所帯を持つことになったぞ!!」

「って待って!? いつの間にかデマがとんでもないことになっているんですけど!? ちょっと!?」

 彼女が声をかけてももう遅い。原田の声は大きく屯所内に響いてゆく。一応ごまかしは効いたが、リーファの心はかなり傷つけられてしまった。怒りの矛先はもちろん沖田である。

「沖田さん!! 何てことしてくれるのよ!! 私がいつあなたに惚れたっていうのよ!? ありえないんだけど!!」

「まぁまぁ落ち着いてくだせぇ。これはいわゆる計画通りでっせ……」

「……もう、いい加減にしてよ!!」

 何一つ反省のない沖田を見たリーファはただ無常にも叫ぶしかない。ある意味他のメンバーより精神的な苦痛を与えられたリーファは、この屯所での待機を余儀なくされたのだった。そして、そんな沖田の姿を土方や近藤はいつになく恐ろしいと感じている。

「総悟? お前やりすぎじゃないのか? さすがにリーファ君が困っているぞ」

「心配ないですよ。いったでしょ、俺に考えがあるって」

「本当か? ただ女子をモテ遊ぶ男にしか見えねぇが?」

 何やら沖田には策があるらしい。その不敵な笑みに一体何を考えているのだろうか?

 

 場面は変わりこちらは万事屋銀ちゃん。引っ越し作業も佳境を迎え、依頼者の兄貴が乗ってきたトラックに荷物を詰め終えたところで、彼らの仕事は終了した。

「よし、詰め終えたアルよ!」

「ありがとうございます! おかげさまで、早めに終わりました!」

「でも、引き上げ作業は手伝わなくて大丈夫なんですか?」

「大丈夫です! 俺も金欠で後は兄貴の仲間達と共に運びますから! お代はもちろん払いますよ!」

 そう言って彼は銀時に依頼料の入った封筒を渡す。彼らの要望で、引き上げ作業は行わなくてもいいので、平均の引っ越し代よりも低めだが万事屋にとってはいい報酬だった。

「あんがとよ! これで、家賃が払えそうだな」

「まったくよ。ちゃんと計画立てて使いなさいよね!」

 浮かれる銀時とは違いアスナはしっかりして彼に注意する。そんな時、思わぬ情報を神楽から聞く。

「アッスー、もっと強く言わないとダメアルよ! 銀ちゃんはこう見えてギャンブルをしてお金をチャラにすることもあるからナ!」

「えっ!? そうなの!?」

「家賃滞納だけじゃなくて、ギャンブル症候群なんですか!? 銀時さんは!?」

「よく、万事屋として生き残れたな……」

「すごいよ。こんだけ衝撃を受けるなんて。やっぱりキリトさん達だよ……」

 銀時がギャンブル好きであることを知り、驚きを見せるキリトら三人。そして、新八は彼らの普通の反応に真面目さを覚えた。そんな冷たい目線を向けられた銀時は言い訳を交わす。

「おい、てめぇら! さすがにこれから三人も養うのに、ギャンブルなんてやってられるかよ! しっかり有効活用するから安心しろ!」

「本当ですか~?」

「信じがたいアル~」

 しかし、新八や神楽から疑いの目をかけられてしまい細い目でにらみつけられてしまう。そんな時、アスナが少し脅しをかけてきた。

「そう、銀さん。さすがに私達も趣味には口出ししないけど、もし取り返しのつかないことになったら――」

 すると、アスナは銀時の背後へ向かいレイピアを抜く体勢を構える。この徐々に低くなってゆく言葉に、銀時は後ろに振り向かずとも気配だけで嫌な予感を察していた。

「……アスナ?」

「なーに?」

「なんでもないです……」

「よろしい」

 彼は逆らえなかった。今まで万事屋にはいない、怒ると怖いタイプに口が出せないからである。神楽とはまた違った怒り方に銀時もタジタジになってしまう。そんな彼の姿を見て仲間達は次々と話し出した。

「あーあ。アッスーを怒らせたアルな」

「アスナさんって怒らせると怖いんですね」

「まぁ、アスナはそこらへんしっかりしているからな」

「さすが、ママです!!」

 彼らの反応も十人十色だが、結局みな納得するだけだった。そんな万事屋を見た依頼者は、ふと呟く。

「やっぱり、万事屋に頼んで良かったな。楽しいし見ていて安心するよ」

 万事屋に頼んで満足したらしい。こうして、引っ越し作業は幕を下ろしたのだった。

 

 そして、真選組屯所にいるリーファにも動きがあった。沖田に連れられてある部屋の前に立っている。

「ここは?」

「見りゃわかりやすよ」

 そう言って彼は戸を開き彼女を招き入れた。そこには、和風なお座敷が用意された旅館のような光景である。

「こ、これって?」

「お前が旦那方と会うまでに用意した個室だ。普段は幕府の重役とかを入れるが、今日は俺の彼女ってことで特別に許可が下りたんでい」

「って彼女じゃないから!! ――えっ!? もしかして沖田さん? 私を安全な場所に入れるためにわざと嘘をついたの……?」

 彼女と否定したリーファであったが、ここで自分の待遇にある直感を閃く。沖田はワザと嘘をついて、助けてくれたのではないかと。それを聞いた沖田の返答は、

「はぁ? そんなんじゃねぇよ。あれくらいインパクトのある事言わねぇと、ここの部屋は使えないんでね。ただそれだけですよ」

「ですよね……」

ごみを見るような目で否定した。彼の不満そうな顔を見て、優しさではないことをリーファも納得する。

「まぁ、でも好きに使いな。俺達は部屋を提供しただけなんでね」

「わかったわ。ありがとうね、沖田さん!」

 それでもリーファは助けてくれたことに感謝して沖田へお礼を伝えた。雰囲気の良い感じで会話が終わると沖田は去っていき、部屋には彼女ただ一人となる。

「……さて、一旦ゆっくりしてみんなと再会しようかなと~」

 緊張をほぐしたリーファは、腰に付けていた剣を床に置きのんびりくつろぐことにした。とテーブルを見てみるとおもてなし用の饅頭が置かれている。

「ん? お饅頭? ちょうどお腹が空いていたから食べようかな~」

 一人になったことで気持ちが楽になり、自分の時間を楽しむ彼女は饅頭を手に取って一口頂いた。しかし、口に入れた瞬間に異変が起こる。

「!? ……か、辛!? 何これ!? 水! 水!!」

 感じたのは、痺れるような辛さ。触感からわさびっぽくつい饅頭の中身を除いてみると、

「な、なんでわさびが?」

そこには本当に大量のわさびが詰められていた。こんな事を仕掛けるのは、一人しかいない。彼女の心に直感が生まれている。

「まさか沖田さん!? もう!! なんで、こんなことするのよ!!」

 悔しい思いを胸にリーファは悲鳴を上げるのであった。口一杯に広がるわさびの辛さに耐えて――そして、廊下を歩く沖田の顔は悪い微笑みを浮かべていた。

「悪いな。それが俺なんでね……」

 やはり、彼が確信犯である。真選組への滞在はまだ続きそうだった。

 

 再び万事屋へと場面が戻る。引っ越し作業を終えた、一行は次の目的地であるベビーシッターを依頼した家へと向かう。住宅街に入り、江戸らしい民家も見えたが二階建ての現代風の家もあり、交差する町並みはキリト達に不思議な印象を与えていた。

「何か見かけない光景だな……」

「そうですか? まぁ、それは置いといて次の仕事はベビーシッターですから、広い家が舞台ですよ」

「夕方まで子供を預かる大切な仕事ネ!」

「でも、夕方くらいならこんな大人数で行かなくてもいいんじゃないの?」

「おめぇら、わかってねぇな。母親はタフなシッターを欲しているんだよ。つまり、わかるよな?」

「どういうことですか?」

 会話をしながら六人は、今日の仕事内容を確認する。ベビーシッターという赤ちゃんを一時的に預ける仕事だが、キリト達と銀時達には温度差があった。それは家庭事情を知っているかでわかるのだが、銀時達が説明する前にちょうど家に着いた。

「あっ、着いたな。ついでだ。お前らに子供という存在がラスボスと同じだってことを証明してやるよ」

「そんな、子供がHPゲージを三本付けたモンスターなわけがないでしょ?」

「アスナさん、その例えわかりづらいですよ」

 銀時の言う意味深な言葉に思い当たらないキリト達。そして、ついに家から依頼者と子供が現れる。

「あら、もう来たんですね! 万事屋のみなさん!」

 ドアから姿を見せたのは、すでに出かける準備をして着飾った母親。そして、

「あっ! よろずやだ!」

「きょうこそけっちゃくをつけてやる!!」

「みんなとつげきだー!」

「「「おー!!」」」

威勢で元気の良い男女の子供達が大量に押しよせて万事屋を覆ってしまったのだ。当然、この状況にキリト達は困惑を隠せない。

「うわぁ!? 何が起こったんだ!?」

「だから言っただろうが!! 子供はラスボスなんだよ! 俺達が太刀打ちできないくらい強いんだよ!」

「なんでこんなに数が多いのよ!!」

「そりゃ、七つ子と八つ子を含めて十五人いるアル!」

「そんなにいるんですか!?」

「だから、ベビーシッターが多く必要だったんですよ!!」

 そう、この家は世にも珍しい大家族だった。母親のちょっとした都合で、子供を見守るベビーシッターが必要だったので万事屋もよく依頼されていたのだ。この事実にようやくキリト達は、銀時の言っていた意味を理解する。一方、母親はこの状況でもマイペースだった。

「アラ? 万事屋の人数増えた?」

「あっ、この人達はですね新しい万事屋のメンバーなんですよ!」

「そうなの! 六人もいれば子供達も楽しめるわね! それじゃ、早速ママ友会に行ってくるから世話をよろしくね~!」

 軽く質問しただけで依頼者は、即座にママ友会の現場へと向かう。一方、万事屋は彼女の子供達に翻弄されている。

「おい! そこのとんがりみみ! おれとしょうぶしろ!!」

「って、俺のことか!?」

「おまえもしょうぶだ! ぎんぱつてんねんパーマ!」

「なんで俺はそんな呼び方なんだよ! 敵意むき出しだろうが!!」

 勝負を挑まれる銀時とキリトや、

「しんぱちにいちゃんのオタげいをまたみたいよー!」

「ハハ。覚えてたんだ……」

 芸をせかされる新八に

「かぐらねぇーちゃん! きょうもあそんでー!」

「あおかみのおねえちゃんもー!」

「おー! わかったアル! アッスー、気合を入れていこうアル!」

「もちろんよ、神楽ちゃん!」

 一段と気合をいれる神楽とアスナ。多様に対応する万事屋だが、中でもユイは早くも子供の心を掴んでいた。

「おー! ちいさいこ!」

「あなたもわたしたちとおなじ?」

「はい、もちろんです! 今日はよろしくお願いします!」

「そんなかしこまんなくていいからためぐちでいいよ!」

「タメグチとはなんでしょうか?」

「ああ、もう! あたしがおしえるからまなびなさいよ!」

「はい、わかりました!」

 ユイも出だしは好調である。こうして、万事屋は午後の仕事ベビーシッターを任されて子供達とともに部屋へ戻るのであった。

 同じ時刻。かぶき町公園にいる長谷川泰三は、ある男性に説明していた。

「てわけだ。やっぱり、アンタも別の世界の住人ってことか?」

「ああ、そうだな。教えてくれてありがとう。マダオ……長谷川さんだったか?」

「どっちでもいいさ。アンタもマジでダンディーな男みたいだな……エギル」

 そう、長谷川の目の前にいるのはキリトの仲間の一人エギル。彼もまたこの世界へとやってきていたのだ。バラバラに出会った六つの物語。それは重なりあって、いよいよ一つに合わさる。

 




 あらかじめ言っておきます。リーファはブラコン星の天人ではありません。れっきとした人間です!まぁわかるか…そして次回はいよいよSAOキャラ集合へと動き出す…!!(集まるとは言っていない)


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第九訓 アダ名には必ず意味がある

こんばんわ、トライアルです。投稿が遅れてすいません。それはさておき今回はパワーファイターとホームレスが初対面します。では、どうぞ!


 それは、かぶき町公園で突然起こった出来事だった。

「ん? 何だ、ありゃ?」

 段ボールに座っていた長谷川泰三は、ふと空を見上げると濃い緑色をした光の球体を目撃する。しばらく様子を見ていると、球体に異変が起こりこちらへ向かって落下することがわかった。

「な、何!? こっちへ来る!?」

 急な事態に長谷川は、慌てて近くの茂みへと隠れる。そして、

「ドーン!!」

球体は凄まじい音とともに彼の座っていた段ボールへと衝突した。

「おいおい、隕石かよ! 俺はどんだけ不幸なんだよ!」

 と自分の自虐を含めて叫んだ長谷川だったが、光の球体をよく見てみるとその態度は一変する。

「いや、隕石じゃねぇ……人? しかも、男か?」

 そう。落ちてきたのは隕石ではなく、一人の屈強な男だった。褐色の肌とスキンヘッドが目立ち、頑丈な装甲をまとっている。その正体は、キリトの仲間の一人であるエギルだった。すると、彼もようやく目を覚ます。

「痛……ここはどこだ? まさか、別世界か!?」

 頭を押さえたエギルはふと辺りを見渡すと、そこは公園のような広場が近くにある森の茂みであることがわかった。さらに、横には驚きを隠せないサングラスをかけた男性が腰を抜かしている。どうやら驚かせてしまったらしい。

「おっと、人がいたのか? 大丈夫か、アンタ?」

「……ああ、なんとかな」

 長谷川を見つけたエギルは彼の手を掴み助けた。互いに悪意は感じておらず、長谷川はエギルを訳のあるおっさんだと思い、エギルも長谷川をこの世界にいる見た目に反して優しそうなおっさんだと思っている。そして、このまま信じて話を続けることにした。

「えっと、まずは自己紹介からだな。俺はエギルだ。アンタは?」

「俺は長谷川泰三。通称、マダオだよ」

「マダオ? アダ名ってことでいいか?」

「ああ、そうさ。マジでダンディなおっさんって意味だ。どうだ、かっこいいだろ?」

「ダンディか……悪くないな。ということは、俺もマダオということか?」

「ふっ、確かにアンタにも似合いそうだな!」

 アダ名をきっかけに距離を縮めていく二人。ちなみにマダオの意味は「まるでダメなおっさん」でもあるのだが、長谷川が勝手に解釈してエギルに伝えていたのだ。すると、早速話しかけたのは長谷川の方である。

「それでアンタは一体何者なんだ? 隕石みたいに落ちてきたってことは、何か訳がありそうだけどな」

「あっ、そうだったな。実は――」

 こうして、エギルは長谷川からこの世界のことや現在の状況について色々と教えてもらい、互いに理解を深めたのであった。

 

 それから、数分も経たないうちに二人はこの状況を完全に理解する。

「てわけだ。やっぱり、アンタも別の世界の住人ってことか?」

「ああ、そうだな。教えてくれてありがとう。マダオ……長谷川さんだったか?」

「どっちでもいいさ。アンタもマジでダンディーな男みたいだな……エギル」

 木の下に隠れ、ふと休むおっさんの二人。エギルは、この世界の状況や現在のキリト達のことを知り、一方で長谷川は彼がキリトの仲間で別の世界の住人であることを知った。話したいことは山積みだが、まずは互いの素性から話が交わされる。

「それにしても長谷川さんがホームレスなんて思いもしなかったな。てっきりサラリーマンをやっているもんだと思っていたぜ」

「いや、俺だってな、前まで入国管理局の局長をやっていたんだよ。それなのに今じゃ、この有様だぜ」

「随分哀愁が漂っているな……」

 エギルは長谷川の独特な雰囲気に触れて自分の世界には滅多にいない、波乱万丈で面白い人だと感じていた。

(なんで、ホームレスなのにこんなに男前なんだ?)

 心の中で彼はそっと呟く。一方、長谷川もエギルの素性を知り興味を持ち合わせている。

「それならこっちだって、アンタがバーの店主だって思いもしなかったぜ!」

「そうか? そこまで驚かれるのはびっくりだぜ」

「まぁ、人は見かけによらないってことかな?」

 これを機にフッと笑う二人の男。バーテンダーとホームレスが分かり合えた瞬間である。そして、二人はその上でこれからどうするか共に考え始めていた。

「それで、これからアンタはどうするんだ?」

「ん……他の仲間もこの世界に来ているかも知れないからな……だから、さっき言っていた万事屋って場所に行ってみるのがいいかもしれないな」

「そうか……それが一番かもな」

 結局、万事屋に行ってキリト達と合流する決断で落ち着いたようである。そんなエギルに対して、長谷川は最後まで手助けすることを決めた。

「よし! そうと決まったら、俺が万事屋まで案内してやるよ」

「えっ? いいのか?」

「お安い御用だよ。ここで会ったのも何かの縁だ。その代わり後でもっと話してくれよ。アンタの波乱に満ちた人生をよ」

「長谷川さん……ああ! なら、俺も聞きたいな。長谷川さんの痛快な人生をよ」

「こりゃ、一本取られたぜ。さてと、まずはとりあえず俺についてきてくれよ! 話はそれからだぜ!」

「わかってる……アンタの背中を追いかけさせてもらうぜ!」

「任せろ! ついてこい!」

 そう言って二人は勢いよく公園を飛び出した。共に話の飲み込みが早いせいか、ほんの数時間で男同士の友情はかなり深まっている。まずは万事屋銀ちゃんを目指して、キリト達と合流するのが彼らの目的だった。そして二人が住宅街付近を走り抜けていると、エギルはあることに気付く。

「ここは本当に宇宙に開国した江戸時代なのか?」

「ああ、そうだぜ。ビルやタワーも天人っていう宇宙人達が持ってきた技術で発展したんだよ。そのせいで弊害も起っちまったかがな」

 そう、この世界の町並みだった。江戸のような古風の風景に現代技術であるビルが乱立する不思議な光景。これにはエギルも内心驚くしかない。その途中ある住宅街を通りすぎたのだが、彼らは気付いていない。そのうちの一軒の家には今、万事屋がベビーシッターとして働いていることを――

 

 引っ越し作業を終えた万事屋一行が次に挑む仕事はベビーシッター。しかも、十五人の子供がいる大家族だったので、六人はそれぞれの対応に追われていた。

「おらぁ! どうだ!」

「まいったか?」

「参った! 参ったからもう離してもらえるか!? ハハ!!」

 やんちゃな男の子達を相手しているのはキリト。実は一対一のチャンバラごっこをしていたのだが、負け続ける男の子は最後の手段として弟達を呼び彼を取り押さえる。現在、彼は三人の男の子のおもちゃとして遊ばれていたのだ。

「にいちゃん! おもしれぇ!」

「みみもたぷたぷしててきもちいいし、わらってるかおもおもしろいよ!」

「それは、君達がこしょばしているからだろ! いい加減やめてくれって! 笑い苦しいよ!」

 初めての子守りに奮闘する彼は、大苦戦している。あながち数分前に銀時が言った「子供はラスボス」という意味を痛感したキリトであった。一方、他の男の子達はアスナの前にいる。その手には、それぞれ自分の大切にしている物が置かれていた。

「アスナおねえちゃん! ぼくとつきあってください!」

「いや、このおれとつきあってくれ!」

「いやいや! オイラとつきあってくれ!」

 そう、告白されていたのだ。彼らはアスナを見た瞬間に心がときめいて虜になっている。もちろん、彼女にはすでにキリトという男がいる。本人が直接断りを入れるのかと思いきや、ここで一緒にアスナや神楽とおしゃべりしていた妹達が動きだす。

「ちょっと、アンタたち!! アスナおねえちゃんは、すでにかれしもちなんだからうばっちゃだめでしょ!」

「そうだよ! おねえちゃんだってこまってんだからもうやめなさいよね!」

「「「……は、はい……」」」

 二人の強気な態度に反論できなくなった男の子達は、潔く諦めてしまった。

「おー!! やったアルな! 二人共!」

「とうぜん! かぐらおねえちゃんからまなんだげきたいほうで、ギャフンといわせてあげたわ!」

「だいじょうぶだった? アスナおねえちゃん?」

「うん、私は大丈夫よ! 助けてくれてありがとうね、あなた達!」

「「えっへん!!」」

 アスナに褒められて女の子達は誇らしげに喜んだ。そうして、女子同士のおしゃべりは再開する。一方、銀時はある男の子に対決を挑まれていた。

「ふっ、四十号だ!」

「せいかい!!」

「くそ!! またまけた!!」

 クイズ対決で。彼らは週刊漫画に関する問題で競い合っている。大人しい男の子を審判にして一対一の対決をしていたが、結果は銀時の圧勝。子供相手でも彼は容赦ない。

「ハハーン! どうだ、この俺の実力は? 参ったか?」

「いいや、まだだ! もういっかいしょうぶだ!」

「何度やっても同じだと思うぜ! いくらでも受けてやるがな!」

 調子に乗って悪役のように笑う銀時。そんな彼に対して審判の男の子から皮肉が飛ぶ。

「でも、これくらいしかぎんときにいちゃんのほこれることはないんじゃ?」

「おい! 何言ってんだ、コラ!!」

「す、すいません! ちがいますから!」

「というかこどもあいてにようしゃねぇだろ……」

 ついには勝負していた男の子にまで呟かれた。彼もなんだかんだで子供達と馴染んでいたが、もっと子供と馴染めているメンバーがいる。

「やいやい! いい加減にしねぇか! ――こんなものでしょうか?」

「だから、そこでけいごになっているって! まったく、タメグチもつかえないなんてまだまだね!」

「えへへ、ごめんなさいです!」

「また、けいごになっているよ!」

「ユイちゃんもくろうしているね!」

 それはタメ口を練習中のユイであった。彼女は、女の子達に囲まれて今どきの子供事情や口調を知り勉強中である。優しく接する性格から女の子達も好意的に接してきた。

「まぁ、がんばっているからあともうすこしだよ」

「そうですか! では、がんばります!」

「ゆだんしないでよね!」

「はい!」

 純粋なユイと素直になれない女の子。いい友情が築いた瞬間だった。とここで、二人の女の子が加わる。

「みんな!  おいしゃさんごっこのあいてがみつかったよ!」

「あいて? だれなの?」

「このアイドルオタクよ!」

 彼女らは新八を取り押さえて持ってきたのだ。彼をお医者さんごっこの遊び相手にするために。

「新八さん? なんで、ここに?」

「芸の準備をしていたら突然連れていかれたんだよ!」

「そうよ! さぁ、おとなしくしゅじつされなさい! メガネ!」

「って、なんで僕はこんな扱い何だよ!! ちょっとみなさん、待って……ギャャャャ!!」

 抵抗する暇もなく新八は女の子のごっこ遊びへ強制的に参加することになった。取り押さえられている姿にユイは心配しつつも、みんなが笑いあう姿を見て彼女もそっと微笑む。

「楽しいですね、ベビーシッターって!」

 また一つ、働くことの楽しさを分かち合ったのだ。

 

 一方、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん前。スナックお登勢を前に長谷川とエギル、二人の男が立っていた。

「ここが万事屋ってところか?」

「そう。頼まれたらなんでもやる仕事をやっているんだ。そこでキリト君達は新メンバーとして入ったんだよ」

「へぇーあいつらがね……」

 改めて万事屋について知ったエギルは、ふとキリト達の働いている姿を想像する。だが、

「……本当に大丈夫なのか? あいつらちゃんと接客とか出来ているのか?」

どうしても失敗する場面か浮かばなかったため少々心配してしまった。

「そんな心配しなくていいよ! そもそも接客だけってわけでもないし、銀さん達がついているからきっと大丈夫だって!」

 そう長谷川が説得した時である。スナックから一人の女性が出てきた。

「おや? 誰かと思えば長谷川様ではありませんか?」

「ん? たまさんじゃないか!」

「たま? 長谷川さんの知り合いか?」

「その通りです。私はこのスナックで働く従業員ですよ」

 彼らに声をかけてきたのはスナックで働く従業員の一人たまである。エギルは彼女とは初対面であった。

「スナック? ああ、万事屋の下は酒場になっているのか」

「まぁな。俺や銀さんはいつもここで酒を飲んでいるんだよ。まぁ、みんなの溜まり場ってところだよ」

「まるで俺の店みたいだな」

 このスナックを見てエギルは元の世界にあった自分の店を思い出していた。バーとスナック。種類は違えど飲み屋としての本質は同じだと彼は感じている。一方、たまもここでようやくエギルの存在に気付く。

「ところで長谷川様。この男性は一体誰ですか? ボビー〇ロゴンのそっくりさんでしょうか?」

「全然違うよ! この人はエギルって言って、キリト君達の知り合いだよ! 彼ら同様この世界に来ちまった別の世界の住人なんだよ!」

「そうなんですか?」

「ああ、そうさ。信じられないかもしれないが、俺は別の世界から来たんだよ」

 そう説明したがたまはまだ半信半疑であった。そこで彼女は目の色を変えて彼の生体を読み取ることにする。

「ん? 何をしているんだ?」

「あっ、言っていなかったな。たまさんはカラクリ家政婦って言うロボットなんだよ」

「ロボット? どう見ても人間に見えるが、まさかアンドロイドってやつか?」

「そう思っておけばわかりやすいよ」

 たまの素性を知り内心驚くエギル。同時にこの世界の技術力が高いことにも驚いていた。そして、一分も経たないうちに彼女は解析を終えた。

「読み取り完了しました。外観から肉体とアバターの融合を確認。この世界とは違う確率が九十二パーセントであることがわかりました」

「そうか……って、残りの八パーセントは一体何なんだ?」

「それはアンタがボビーオロ〇ンである確率です。流暢な日本語を話すので少ない結果となりました」

「って、それいる!? なんでボ〇―オロゴンばかり推してんだよ! エギルだって絶対理解してないぜ!」

「まぁその通りなんだが、だいたい想像はつくかな……?」

 結果は完全な別の世界から来た人間であることが証明されたが、一割ほど某外国人タレントとの外観も混じってしまった。ただしそれに深い意味はないが――互いに打ち解けたところで、ようやく本題へ入る。

「それで、お二人は万事屋を訪ねに来たということですか?」

「そうだな。長谷川さんに案内されてここまで来たんだ」

「どうやら、彼らのお仲間達もこの世界に来ているかも知れなくてな。これからのことを含めて万事屋と合流しようと思ってんだよ」

「そうでしたか。しかし、残念です。ただいま万事屋は仕事に出かけておりましてここにはいませんよ」

「えっ!? そうなのか?」

「はい。午前に引っ越し作業、午後にベビーシッターと二件続けて行うと昨日申しておりました」

「そんなにやるのか!? 万事屋ってそんなにハードなんだな……」

 万事屋へと合流するつもりが、留守とわかり計画が詰まる二人。特にエギルは万事屋の仕事の多さにキリト達を少し心配する素振りを見せた。そんな二人を見かねて、すかさずたまは対応する。

「もし、よろしければこのスナックで彼らが来るまで待ちますか? 外で待っても暑いだけなので中に入った方がいいですよ」

「えっ、いいのか? たまさん」

「はい。お酒は出せませんが水くらいなら出せます。さぁ、こちらへ来てください」

「わかったぜ。入ろうか、エギル」

「まぁ、そうだな。お邪魔するぜ」

 たまに促されて結局二人は入ることにした。外にいても暑くなるばかりなので、建物に入り彼らが仕事から帰るまで待つことにする。そしてスナックお登勢の中へ入ると、その雰囲気にエギルは惹かれた。

「おっ、ここがこの世界の酒場か……いい雰囲気じゃないか」

「はい。お登勢様曰く酒と健全なエロをたしなむオヤジの聖地だそうですよ」

 こじんまりした内装に自分のいた世界と変わらない設備。そしてこの世界の銘柄らしき酒がカウンターには置かれている。落ち着いた雰囲気が気に入り早くも好印象を与えていた時だった。

「なんだい、騒がしいと思ったらお客が来てたのかい?」

「マダヤッテナイダロウガ! 出直シテコイヨ! コラァ!」

 店の奥から二人の女性が騒ぎを聞きつけやってくる。共に着物を着ており、威圧的な見た目からこの店の経営者であると彼は感じていた。

「って、アレがお登勢さんか?」

「はい、その通りです。隣にいる猫耳を生やしたおばさんがキャサリンさんですよ」

「ッテコノ間と同ジ展開ダロウガ! モウチョットイイ紹介ハ出来ナイノカヨ!」

 たまの紹介の仕方に一喝するキャサリン。一昨日のキリト達への紹介と全く同じためだった。それはさておきお登勢は状況を把握し始める。

「それで、あのお客は誰だい? ホームレスの連れてきた奴――いや違う感じがするねぇ」

「あっ、お登勢様。これには深い訳がありまして」

「訳? 一体何だい」

 こうして、お登勢らも長谷川達から話を聞きエギルについて詳しく知ることになった。

 

 それから数分後。場にいた全員がカウンターに集まって現在の状況を理解し始めていた。

「そうかい。アンタもまさか別の世界から来た人間だったとはね」

「ああ。俺も驚いたぜ。まさか、宇宙へ開国した地球の世界に来ちまうなんてな」

 お登勢やキャサリンも彼が別の世界の住人であることを信じる。案外あっさりと納得したのはキリト達という前例があったからだ。その上で、彼らがこの世界に来た理由もだいぶわかってくる。

「それであなた達は、サイコギルドという組織によってこの世界に来たのですね?」

「そうだな。奴らの作り出したブラックホールによって、この世界に来ちまったからな」

「サイコギルドか……聞いたことない組織だな」

「私達モ見当タラナイ名前デスネ」

「そうか……」

 彼らがこの世界に来た理由もわかったが、以前わからないのが現実だ。サイコギルドへの手がかりも見つからない中せめてエギルはクラインらの仲間の無事を祈るしかない。

「はぁ……だったら後は俺といた仲間の無事を祈るしかないな」

「確か、後五人くらいいたと言っていましたね」

「本当にこの世界へ流れ着いているだろうか?」

 不安に苛まれるエギルであったが、それを見かねたお登勢は自分なりの言葉で励ますことにした。

「大丈夫さ、絶対に」

「えっ? お登勢さん?」

「アンタは知らないと思うけどこの世界には多くのバカがいるんだよ。あいつらともし会っているなら、救いはあるだろうね。個性は強いが絶対に人を見過ごさない奴等さ。だから、大丈夫だとアタシは思っているよ」

「そうか……わかったよ、お登勢さん。励ましてくれてありがとうな」

 毒のある言葉も含んでいたが、お登勢は自分なりの言葉でエギルを励ました。彼女の言う通り、この世界に生きるバカ共と会っていればきっと大丈夫。そうエギルも安心し始めた。

 だが正直に言うと仲間は違った意味で無事ではない。侍を志す男は指名手配者の侍と出会って心酔し、テイマーと鍛冶屋の女子とそのペットは、暗黒物質の犠牲となって未だに気絶した状態。猫耳を生やした女子はまたたびにより酔い潰れて現在も調子が戻っておらず、キリトの義妹は魔法も使えずに武装警察の来賓室でデマと辛さに苦しめられている。これらの事実をエギルは全く知るよしもなかった。それはさておき、話題はエギルのこれからについて変わる。

「さて、今後アンタはどうするんだい? 行く場所はあるのかい?」

「うーん……そこはまだ決めてなかったな」

 彼の悩む表情を見てお登勢は唐突にあることを提案する。

「そうかい。なら、一旦ここに泊まるかい?」

「そうだな――って、えっ? 今、何て言ったんだ?」

「だから、泊まるかって言ったんだよ。行く場所がないならアタシらが一時的に受け持ってやる。ただそれだけだよ」

 それは、エギルをかくまう提案だった。これには、エギルのみならず長谷川やキャサリンも驚いている。しかし、たまだけは納得して微笑んだ表情をしていた。もちろん場は混乱を極めている。

「ッテオ登勢サン!? イインデスカ? コンナ外国人タレントヲ雇ッテ!!」

「いいんだよ。それにこいつはワインに関しても詳しいから、きっとこのスナックにも新しい風を与えてくれるよ。後アンタよりも流暢に日本語を話せるからね」

「ギ、ギク!! ソコハ大目ニ見テクダサイヨ!!」

 痛いところを突かれたキャサリンは反論のしようもない。一方で、長谷川はエギルの待遇にあやかりおこぼれをもらおうとしていた。

「って、ちょっと待った! なんでエギルは大丈夫で俺は雇ってもらえないんだよ! おかしいだろうが!」

「そりゃ、訳が違うからだよ。そもそもアンタは帰る場所があるじゃないかい」

「段ボールですけど!? だったら俺もついでに――」

「店員オーバーだよ!!」

「うまいこと言うなよ! 頼む! 俺も雇ってくれ!」

 しかし、お登勢の強気な態度に何も言い返せなくなった。なんとか、すがろうとするその姿は男としてのプライドもへったくれもない。そんな状況を見かねたエギルは、たまへ話しかけている。

「なぁ、本当にいいのか? 俺を雇うなんて」

「お登勢様が許可しているなら、遠慮なんかいらないと思いますよ。それに、男手がなかったので私はいてくれたら助かると思っていますよ」

「そ、そうか……ありがとうな」

「どういたしまして」

 彼女はふとした笑顔で、エギルへ伝えた。そんな彼女に後押しされて、エギルはこの考えを受け入れることにする。後のことはキリト達と合流してから決める。そう心の中で決めたのだ。少しいい雰囲気になったがそこは置いといて彼は長谷川に近づき話しかける。

「まぁまぁ、長谷川さん。落ち着いてくれ。まだ仮に決まっただけだからさ」

「エ、エギル……」

「後はあいつらが来てから決めようぜ。それまでは、俺達の武勇伝を話し合うじゃねぇか」

「……そうだな。言っていたもんな。それじゃ、話すか!」

「ああ、頼むぜ!」

 こうして、エギルは約束していた長谷川との話し合いを始める。その様子にお登勢らはため息を吐きつつも、平行して店の準備を始めるのだった。

 

 話を万事屋銀ちゃんの仕事へ戻そう。ベビーシッターをしていた六人は、アスナと神楽におつかいを任されていた。スーパーで足りなかった材料を買い二人は家へと帰宅している。

「ふぅ……どうアルかアッスー? 初めての万事屋の仕事は?」

「いい調子よ! 子供達もかわいいし、これからやっていけそうね! もちろん、他の仕事も全力投球で挑むわよ!」

「おー!! 気合が入っているアルな!!」

 元気な子供が相手でもアスナは疲れることなく体力を保っていた。そんな彼女の姿に神楽は、より憧れを強めたのである。

「やっぱりアッスーはお母さんアルナ! 私とまるで大違いネ!」

「それは経験の差でしょ。神楽ちゃんは、私と比べて四歳も差があるんだから仕方ないことだよ」

「でもいつかはアッスーみたいなお母さん。いや、お姉ちゃんみたいになりたいアル! 今度色々と教えてもらいたいネ!」

「もちろん! でも今は仕事をちゃんとこなさないとね」

「そうだったアルネ」

 張り切る神楽とは違い冷静でしっかり者のアスナ。その姿は姉妹のようにも見える。一方で、今度はアスナから話しかけてきた。

「ねぇ、神楽ちゃん。前に私の友達を紹介したことあったわよね?」

「友達……あっ! シッリーにリッフー、リズとシノの四人アルナ!」

「そのネーミングセンスは変わらないのね……」

 アッスーの時同様、神楽の個性的なアダ名のつけ方に驚くアスナ。そんな彼女が話題に挙げたのは、自分の友達についてだ。

「それでその四人がどうしたアルか?」

「もし……会える機会があったら友達になってほしいのよ。私達の仲間はとっても強くて個性的で、頼りになるから神楽ちゃんともきっと仲良くなれるわよ。この先どんなことが起こるかわからないけど、もし会ったらよろしくね」

 アスナからの心の込めた言葉。それを聞き神楽も期待に答えようとしている。

「アッスー……わかったアル! しっかり期待するネ! もし、みんなもこの世界に来てたら一緒に変身ヒロインごっこをして遊びたいアルよ!」

「って、神楽ちゃん!? さっき遊んだ影響受けすぎだよ! みんな、そんな年ごろじゃないでしょ!」

「何を言っているネ! アッスーだって、「暁に舞う閃光の輝き!」って中二病臭いセリフをノリノリでやっていたじゃないアルか!」

「それは、あの子達からの提案でしょ! そういう神楽ちゃんだって「力の切り札!」とか大人っぽくやっていたじゃないの!」

「それはそれ! これはこれネ! 私の想像力をなめないでアル!」

「って神楽ちゃんが考えたセリフだったの!?」

 話はいつの間にか某変身ヒロインごっこの決め台詞へと移っていた。そんなアスナは自分の仲間のことをふと思い出して神楽へ伝えようとしていた。会ったら面白いことが起きると、頭の中で彼女は思っている。しかし、皮肉にもまだ二人は知らない。この世界にはすでにその仲間達が来ていることを……

 

 時間はいつの間にか夕方を過ぎ、子供達の家にはママ友会を終えた母親が帰ってきていた。時刻はちょうど十八時。夕暮れ時とぴったりである。

「本当に今日はお世話していただきありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそ子供達との触れ合いは楽しかったですよ」

「そうです! 新八さんなんかもう表現できないくらい面白かったんですから!!」

「って、ユイちゃん!? まだ、受けていたの!? さすがに笑いすぎだってば!」

 新八の顔を見るなり笑いの止まらないユイ。よっぽど面白いことをされたらしい。そんな万事屋は玄関越しに母親と会話して、彼女から依頼金を渡される。これで、仕事が終わり彼らは子供達に別れを告げた。

「それじゃ、またな!」

「また遊びに来るからナ!」

「じゃあね! よろずやのおにいちゃん! おねえちゃん!」

「またこんどね~!」

 子供達はみな満足げな表情で彼らを見送る。そして、ユイと知り合ったあの子も。

「それでは、さようならです! みなさん!」

「ア……アンタ! もういっかいきてもいいんだよ!」

「はい! わかったよ! です!」

 彼女との会話でタメ口を徐々に理解してきたユイ。彼女の心が成長した証でもあった。そして万事屋は依頼金を手に、帰り道を和やかなムードのまま歩いている。夕暮れと相まってか光が反射して格好よく見えた。そんな時、銀時がキリト達へ声をかけてきた。

「どうだった? 万事屋としての初仕事はよ。ばてなかったのか?」

「ばててないよ。ちゃんと全力でやったからさ。それに中々やりがいのあるものだったよ」

「私もよ。万事屋って意外に私達に合っているのかもね」

「大変でしたけど、とても勉強になりました! これからも続けて行けそうです!」

 三人は互いに満足した表情で銀時へ返す。彼らは万事屋という仕事が大変気に入ったのだ。これには新八と神楽も安心している。

「それは良かったアル! 満足してくれたならそれで充分ネ!」

「彼らも続けて行けそうですね」

「まぁ、なんとかなるだろ。このままやっていれば」

 そして万事屋の三人も働き者の仲間を見つけて喜んでいた。ひとまず初仕事は成功してこれからへの希望も見えた。そんな六人が歩き万事屋へ到着するとある異変に気付く。

「ん? 誰かいるのか?」

「こんな時間からお客さんでしょうか?」

 と彼らがスナックのドアを開くとそこには、この世界にはいないはずの人間が座っていたのだ。

「えっ……アレって……」

 この瞬間にキリト達は衝撃で体が固まってしまう。なぜなら、そこにいるのは紛れもない仲間だったからだ。見慣れた大型の斧と装甲、そして褐色のスキンヘッド。そう、その正体は、

「ん? おっ! やっと来たか、みんな!」

「「エギル!?」」

「エギルさん!?」

彼らの仲間エギルだが……

「「ボ、ボビーオロゴ〇!?」」

「いや、違うだろ!?まったく似てねぇだろうがぁ!!」

同じく万事屋も衝撃を受けて某外国人タレントと人違いをして叫んだのだ。しかし、これでようやく物語は動き出した……

 




 本当はこの回から徐々にメンバーが集まっていく予定でしたが、エギルと長谷川の絡みを考えているうちに予定されていた内容とオーバーしたので、ちょうどいいところで区切りました。後、某外国人タレントよりも調べてみたら世界で戦っているプロレスラーや格闘家にエギルっぽい人がいましたが、認知度を考えて変えませんでした。しばらくしたら変えるかも?それはさておき、次回からいよいよ集結していくぞ!


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第十訓 情報はしっかり集めよう!

 こんばんわ。今回も遅れてすいません。そして今回からは、登場キャラクターが多くなります。なるべくわかりやすくしますので、どうか混乱せずにご覧ください。では、どうぞ!


 自分の知らないところで、物事が進み動いている。それに本人が気づくのはいつだって事が済んだ時だ――

 

 銀魂の世界へキリト達がやってきて早三日。二つの依頼を終えた六人は万事屋へと戻るため帰り道を歩いていた。

「あー疲れたアルー! 家に帰ったらアッスーに抱きついて癒されたいアル!」

「って、神楽ちゃんってばまた甘えたこと言うんだから!」

「ずるいですよ! 私も混ぜてくださいよ!」

「ユイちゃんも本気になってる……こりゃ長くかかりそうだな」

 女子陣は仲良くじゃれあって絆を深めている。その様子を新八は近くから見守っていた。そんな穏やかな空気とは変わり、後ろでは銀時とキリトが会話していた。落ち着いた雰囲気でキリトは自身の悩みを銀時へ打ち明けていたのだ。

「それで、結局悩みは晴れたのか?」

「ん……だいたいはな。でも、やっぱり元の世界にいるみんなには迷惑をかけているよな」

「迷惑ね……」

 彼はずっと元の世界にいる仲間が気がかりで仕方なかった。自分達がこの世界で生活している間みんなは何をしているのか? きっと自分達がいなくなったことに気付き必死に捜索している。そうキリトは感じておりずっと不安に思うしかなかったのだ。そのせいで、仕事の時も考えてしまうこともあった。銀時は気にするなと言って励ましたが、やはり上手くはいかない。そこでもう一回、銀時は励ましの言葉をキリトへかける。

「まぁ、そんな気にするなよ。考えても変わらないのは放っておけって言ったろ。それに少しは仲間のことを信じてやれよ。きっとうまくいくからよ」

「仲間……そうだよな。なんとかなるよな」

「そうそう。もし戻れなくても俺達のところに移籍してこいよ。銀魂の新レギュラーとして、てめぇらを迎い入れてやるよ」

「フフ……銀さんはまた訳のわからないことを言って」

「いいんだよ、わからなくても。だいたい、てめぇらは真面目にやってる作品だからふざけるって心意気を知らねぇんだよ。俺達みたいに三期のアバンは謝罪会見から始めな――」

「はいはい。訳のわからないことはいいから、みんなの元へ戻ろう!」

「お前! 人の話を区切るなよ! つーか、いつの間にか元気を取り戻しているんじゃねぇか!」

 途中からメタ発言となったが、キリトは思わずクスッと笑い笑顔が戻った。意味は全く理解していないが、銀時の言葉に思わずおかしさを感じたかららしい。そして二人は前にいた仲間達へ合流し、穏やかな空気のまま万事屋へと足を進めたのであった。しかし、彼らが働いている間にもキリトの仲間達が次々とこの世界へやってきている。そして、ついに気付く時がやってきた――

 

 しばらく歩き一行はようやく万事屋へと到着。着いた頃には夕方から夜近くになり辺りも暗くなっていた。

「よし、帰ってきたな。我が家に」

「さて、仕事も終わったし、みんなゆっくり休もうか」

「そんなの言われなくてもわかっているアルよ。キリ!」

 そう言って一行が万事屋への階段を上がろうとした時である。スナックから突如賑やかな声が聞こえてきた。

「ん? 誰かいるのか?」

「こんな時間からお客さんでしょうか?」

 一体どんなお客が来ているのかと思い彼らは中を覗く。すると、そこには一人のいかつい男性がお登勢らと話していた。椅子には大型の斧を置き服装は分厚い装甲を装着している。褐色の肌とスキンヘッドが際立っているその男性は、明らかに外国人だった。

「おいおい、誰だありゃ? なんで長谷川さん達と仲良くなっているんだ? どっかの外国人タレントか?」

「きっとあの人アル! でも、中々思い出せないネ! 有名な人なのに――」

「本当に外国人タレントなんですか? 明らかに違う気がしますけど」

 銀時ら三人は呑気にも芸能人だと推測して、必死に名前を思い出そうとする。一方で、キリト達の反応は全く違う。

「って、キリトさん達はさすがに外タレとかわかりませんよね? ん、アレ? どうかしましたか、みなさん?」

 新八が声をかけた時だった。キリト達の表情は変わり気が動転している。みな黙り込みこの状況を理解していなかった。

「あの、大丈夫ですか? みなさん?」

 新八が言っても反応がなかったが、しばらくするとようやくキリト達は口を開く。

「嘘だろ……」

「あの人って……まさか……」

 その声は少し震えており、三人の変わり様を見た銀時は不審に思い始めた。

「どうした、キリト? って、勝手に開くのか!?」

 するとキリトは衝動的にスナックの扉を開き中へと入っていく。彼に続き仲間もついてきて全員が店へと入った。

「ん? どうやらあんたの待ち人がようやく来たみたいだねぇ」

 いち早くお登勢が気付きその男性へ声をかける。そして、いよいよキリト達と対面した。

「おっ! やっと来たか、みんな!」

「「エギル!?」」

「エギルさん!?」

 そう。その男性の正体はエギル。元の世界へいるキリト達の仲間の一人だ。本来ならこの世界にはいないはずだが……突然の展開にキリト達も驚きを隠せない。一方、銀時達は別の衝撃を受けている。

「あっ、銀ちゃん! 思い出したアル!」

「俺もだぞ! あいつの名前は――」

「「ボ、ボビーオロゴ〇!?」」

「いや、違うだろ!? まったく似てねぇだろうがぁ!!」

 二人が思い出したのは外国人タレントの一人、〇ビーオロゴンだった。前回のネタでもあったが、ここでもまた間違われてしまう。エギルは戸惑うが、勘違いした銀時と神楽は馴れ馴れしくも話しかけてきた。

「おー! こんなところで、会えるとは幸運アル! 後でサインが欲しいネ!」

「いや、俺はボビーオ〇ゴンじゃないんだが……」

「またまた冗談を。まさかモザイク無しでこの話に出てくるなんて思ってもなかったぜ。ところでいつもと口調が違うな。「あなたは何しにキャバクラへ?」みたいなナレーションしてくれよ~!」

「アンタら、いい加減気づけよ! ボ〇―オロゴンじゃねぇって言ってんだろうが! 微妙に番組名も間違っているし! ほら、離れてくださいよ!」

 余計に場を混乱させた二人は新八の手によって取り押さえられる。そして、彼が代わりにエギルへ謝りを入れた。

「すいません。うちのリーダーとヒロインが余計なことして」

「まぁ、別にいいんだ。この世界へ来てからよく間違われているから」

「間違われているんですか!? 〇ビーよりも格闘家とかと間違われていませんか!?」

 しかし、すでに慣れていたのでエギルは大して気にしてはいなかった。すると今度は横にいた長谷川が万事屋へ声をかけてくる。

「って、銀さん! ようやく来たのかよ! 遅かったな!」

「長谷川さん。なんでアンタもここにいるんだよ?」

「エギルを案内しようと思ってここにやってきたんだよ。なんせキリト君達と同じ世界から来たんだぜ」

「同じ世界――まさかお前、キリトの仲間か!?」

「マジアルか!? ボビー〇ロゴンじゃなかったアルか!?」

「当たり前だろうが! いつまでそのネタ引きずっているんだよ!」

 長谷川からの言葉でようやく銀時と神楽はエギルがボビーオロ〇ンではなくキリト達の仲間であると知った。むしろ気付くのが遅い方である。長谷川に続きキャサリンとたまも説明を補足した

「その通りです。キリト様と同じくエギル様も別の世界から来られたんですよ」

「散々話シ合ッテ私達ノトロコデ預カルコトニナッタンダヨ!」

「そうだったのか……」

 キリト達はエギルがお登勢の店で働くところまで理解する。いつの間にか進んでいた状況の変化に、驚きがとどまることはない。そんなキリトは、状況を整理するためにエギルへ近づき話しかけた。

「エギル……もうここまで話が進んでいたのか?」

「まぁな。それにしてもお前らも無事で良かったよ。万事屋って奴等も面白そうだし、一安心したよ」

「ってそれにしても急すぎるよ! 一体何が起こったのよ?」

「詳しく話してもらいませんか!?」

 さらにはアスナとユイも加わり事実の確信へと迫る。そんな、彼らの本気を見たエギルは、三人へ向けて自分や仲間の身に何が起こったのか鮮明に話し出した。

「わかったよ。これははっきりと話さないといけないな――実は、お前達が失踪した後に俺達はALOを飛び回りあちこちと捜し回っていたんだ。そしたら、突然現れた怪人によってこの世界へ来たんだよ」

「怪人?」

「ああ、サイコギルドを名乗る銀色の怪人だ。そいつの持つ赤い剣から放たれたブラックホールに吸い込まれて、俺はこの世界へやってきてしまったんだ」

「サイコギルドにブラックホール……やっぱりアイツらの仕業ってことか……」

 キリトは悔やんだ表情を露わにする。やはりエギルがここに来たのはサイコギルドが大きく関わっていた。しかし、ユイは会話の中で一つ気がかりなことを見つける。

「銀色の怪人? 槍を持った少女ではないのですか?」

「少女? いや、銀色の怪人は渋い男性の声をした奴だったが……」

「私達と送った人物が違うってこと?」

「ギルドなだけあって複数犯ということでしょうか?」

 送った人物が違うことだった。エギルの話によれば彼らをこの世界へ送ったのは少女ではなく赤い剣を持った銀色の怪人。同じくブラックホールを作り出すことから少女と同じくサイコギルドの仲間と仮定した。なぜキリト達が狙われたのかは未だに不明であるが、いずれにしろ謎は深まるばかりである。それよりもキリトは今、他の仲間の行方が心配で仕方がなかった。

「それじゃ、みんなもこの世界へ来ているってことか?」

「そういうことになるな。俺よりも先に行ってしまったからな」

「そうか……」

 新しい事実を多く知らされて言葉に詰まるキリト。これはアスナとユイも同じだ。場には重い空気が流れて、みな黙り込んでしまっている。しかし、キリトは冷静さを保ちながら銀時へ話しかけた。

「銀さん……一ついいか?」

「わかっているよ。仲間を見つけてほしいんだろ? それくらい手伝ってやるよ」

「……ありがとう、銀さん」

 訳なんか言わなくても銀時は全てを察してすぐに答えを返す。そんな彼の優しさを受けてキリトは静かにお礼を言った。同じく彼らの仲間達も励ましの言葉をかける。

「ほら、大丈夫アルよ! キリ!」

「今はしっかりと対策を考えて、みんなを助けましょうね!」

 神楽やアスナや言葉にキリトもうなずいた。こうして、万事屋の六人は隣にあったソファー席へと駆け寄り話し合いを始める。そんな銀時達の頼もしさを見てエギルも一安心した。

「アレが万事屋か。あいつらがついているならキリト達も大丈夫そうだな」

「そうさね。なんでもやるバカな連中だが、依頼は解決するまで果たす奴等だよ。案外早く仲間達も見つかるかもね」

 憎まれ口を叩きつつもお登勢もしっかりと彼らの人情を理解している。大人達五人は空気を読んで今は六人をそっと見守った。一方、万事屋の話し合いもいい調子である。

「さて、で誰を探すんだ?」

「エギルさんがここにいるなら待ち合わせをしていたメンバーは五人です!」

「結構多いアルナ……」

「どこに誰がいるのかまったくわからない状況なのに」

「聞き込みから始めましょうか?」

「それがいいかもな。一刻も早く捜さないと――」

 彼らは仲間の捜索を前提に考えを一致させていた。しかし、現在は夕方過ぎで夜も近い。さらに仕事の疲れもあり、今日の捜索は困難に思われた。まずは情報集めからと決めていた時、突如店の扉が開く。

「ハハハ!! こんなところにいたとはな! 銀時ィ!」

 聞こえてきたのは威勢のいい男性の声だった。声質から思い当たるのは昨日会ったあの男しかいない。

「って、その声は――ヅラてめぇか!?」

「ヅラじゃない桂だ!」

 お決まりのセリフを言い放ったその正体は桂小太郎と相棒のエリザベスだ。いつものように腕組みをして直立不動のポーズのまま立っている。おかげで真面目な空気は彼らによって壊されてしまった。

「か、桂さん!? 一体何でここに?」

 新八からの問いに桂はフッと笑い理由を答える。

「うむ! よくぞ聞いてくれた! 実は貴様らに紹介したい奴がいてな。居ても立っても居られずに来てしまったというわけだ!」

「紹介だ? こちとらそんな暇はないんだよ! 今大事な話し合いをしている最中で――」

「まぁ、待て。すぐに事は終わる。我が一派に、素晴らしいニューフェイスが加入したのだ。侍を愛し侍に愛された空前絶後の男だぞ」

「どこかで聞いたことのある言葉アル。サンシャイン池〇でも入ったアルか?」

「いいや、違う。侍道を愛する男だ」

「侍道……まさか」

 どうやら桂の組織に新しい仲間が入ったらしい。浮かれる桂とは裏腹に万事屋の対応は冷たい。しかしキリトだけは嫌な予感を察していた。侍と聞いて思いつく仲間がいたからだ。そして、その男は桂とエリザベスの間に割って入ってくる。

「それでは紹介しよう! 我が一派に入った俺達の新しい仲間! クライン殿だ!」

「どうも! ご紹介にあずかったクラインです! この度我が桂さんの一派に入りました! 万事屋のみなさん! よろしくお願いします!」

 現れたのは赤い髪と侍のような和服が特徴的な男、クラインだった。桂と同じく高いテンションと笑顔で現れた彼は、腕をガッツポーズにして元気さをアピールする。ところが、彼の登場により場の空気は盛り上がるどころか静まり返ってしまう。なぜなら、

「ク、クラインさん?」

「う、嘘だろ? 本当にお前なのか……!?」

彼こそがキリト達が探そうとしていた仲間の一人だったからだ。思わぬ再会に開いた口が塞がらないキリトら三人。一方、銀時もこの事態をようやく理解して声を上げた。

「えっ、マジで!? もう見つかったの!? ヅラが連れてきたこの男がお前達の仲間ってことか!?」

「ヅラじゃない桂だ! そしてこの男がクラ――」

「そんなセリフはどうでもいいんだよ! そもそもなんで、てめぇがそいつといるんだよ!」

「何を言うか銀時。貴様らだってキリト君やアスナ君、ユイ君といった仲間を増やしたではないか。それと同じことだ。そんな訳で、これからの「剣魂」は挨拶回り篇ヅラクラバージョンをお送りするぞ!」

「お送りしねぇよ! 妙にお笑いコンビみたいな名前つけやがって! 漫才師にでもなるのか!? てめぇら!」

「クライン殿は漫才師ではない! トラック運転手だ!」

「誰がリアルな方の職業を言えって言ったよ! もうツッコミが追いつかねぇんだよ! てめぇの方が冷静になれよ!」

 喧嘩腰に桂と話す銀時。彼のマイペースさに銀時も苦戦してしまう。一方で新八と神楽も事態を飲み込み、クラインがキリト達の仲間だと知る。

「えっ? あの人がキリトさん達の仲間なんですか!?」

「その通りです! クラインさんという侍道を愛する男の人ですよ!」

「まさか、桂さんと一緒にいたなんて……混ぜるな危険とはまさにこのことね……」

「なんか雰囲気がヅラと似ているネ! バカの匂いがプンプンするアル!」

 言いたい放題言う神楽やアスナは頭を抱えてため息を吐いた。侍を愛する者同士のタッグ結成は予想以上に衝撃を受けてしまう。そんな中、キリトはクラインの元へ近づき話しかける。

「て、てかクライン!」

「おー!! キリの字にみんな! やっぱり元気だったか! 一安心したぜ!」

「それはこっちのセリフだって! そもそもなんでアンタが桂さんと一緒にいるんだよ!?」

 真剣な表情のキリトに対してクラインの表情はどこか能天気そうだった。するとクラインは桂同様腕組のポーズをして、キリトへ自信よく答えを返す。

「それはな……俺はこの世界でピンチになった時に助けてくれたのが桂さんだったんだ。本物の侍に助けられてその時俺は思ったんだよ! この人こそが俺が人生で出会うべきだった男なんだって!」

「……はぁ?」

 熱弁するクラインに対して、キリトはその思いをまんじりとも感じ取っていない。しかも話はまだ続く。

「だから俺は桂さんと一緒に行動すると決めたんだ! きっとこの人となら後悔のない時間を過ごし元の世界にだってきっと戻れる! そう確信したんだよ! お前らが万事屋を信じたように、俺は桂さんを信じると決めたんだ!!」

「その通りだ! クライン殿!」

 すると、銀時と言い争っていた桂もクラインの元へ戻る。互いに肩を組み熱い気持ちを一つにし始めたのだ。

「共に見るのだ! この江戸の夜明けを!」

「ああ、もちろんだぜ! 桂さん!」

「「ハハハハハ!!」」

〔見たか! これが、侍達の絆だ!!〕

 共に高笑いをする桂とクライン。さらにエリザベスもプラカードを掲げて彼らの仲の良さをアピールする。要するに分かったことは、クラインは桂に憧れを感じて心酔していることだった。指名手配犯と仲良くなった仲間の姿に、万事屋の六人はもちろん苦笑いで引いている。

「いつの間にあいつら仲良くなったんだよ……」

「完全にこの世界の侍に染まったわね……」

「驚くほど共鳴しています……もうあの頃のクラインさんとは違うんですね……」

「バカとバカがただ手を組んだだけネ」

「てか、本当にいたんだ。桂さんについていく人……」

「クラインならやりかねないと思っていたが、まさか現実になるなんて……」

 銀時達三人は厄介な奴が増えたとめんどくさい気持ちになり、一方キリト達三人はかつての仲間が親友を見つけたことに、嬉しいのか悲しいのかわからない気持ちで心が一杯になってしまった。そんな彼らの様子をずっと見ていたエギルは、万事屋とは違いクラインの心境を理解して普通に話しかけてくる。

「まぁ、良かったよ。お前も居場所を見つけられたのならなによりだよ」

「おー!! エギル! アンタも万事屋に入ったのか!?」

「いいや、ここのスナックお登勢ってところでかくまうことになったんだよ」

「スナック? あっ、ここは居酒屋だったか!」

 ここでクラインは今いるのが古風な酒場であることに気付く。すると、今度はたまが話しかけてきた。

「その通りです。折角ですので侍のお二方もここで飲んできますか?」

「酒か……そういえばまだ杯を交わしていなかったな。ここで祝杯でも上げるか?」

「おう、悪くねぇぜ! 桂さん!」

 その場のノリに乗って桂とクラインはお酒を飲むことに決める。さらに桂は、周りの人間も巻き込むことにした。

「ならば、銀時。貴様も元攘夷志士として参加しろ。当然、おごりはしないがな」

「はぁ? 何言ってんだよ。なんで、てめぇらの祝いに参加しなきゃいけねぇんだよ!」

 自腹と言われ否定する銀時。否定する彼の元にクラインが近づき誘いをしてくる。

「まぁまぁ、そんなカリカリするなよ。銀さん」

「って、なんでお前は気安く銀さんとか言ってんだよ! 俺と若干衣装被りやがって!」

「あっ、本当だ!」

「今気づいたのかよ!!」

 初対面にも関わらず桂と同じ雰囲気のクラインに銀時はあまりいい印象を持っていなかった。さらに、桂は長谷川も誘いをかける。

「おお! 長谷川さんではないか! どうだ、ついでに一緒に飲むか?」

「ついでは余計だよ! いいけど俺、金持っていないぜ」

「心配するな。ここは俺が持ってやるから安心しろ!」

「って、なんで長谷川さんはOKなんだよ! お前の基準はどうなっているんだ!?」

 長谷川に関しては桂が持つことになった。銀時は納得がいっていないが……

「ったく、どうしようか。自腹だしな」

「そこなんですか、銀さん!? それよりもまだ見つかっていないメンバーがいますから、そっちを優先してくださいよ!」

「そうだって! まだシリカにリズ、リーファにシノン、ピナが残っていて――」

 とキリトが銀時を説得しようとした時だった。彼らの元にキャサリンが近づく。

「ミナサン。電話デスヨ」

「電話? って、姉御からアルよ!」

「姉上からですか!?」

 彼女は鳴っていた固定型の電話機を新八へ渡した。着信先は新八の実家、恒道館からである。銀時を除く万事屋の五人は電話の方に注目して、新八は急ぎ通話ボタンを押して電話に出た。

「もしもし、姉上!?」

「あっ、新ちゃん? ようやくつながったわね!」

 出てきたのは予想通り新八の姉、妙からである。

「一体どうしたんですか? 急に電話なんかかけてきて」

「いや、実はね今日の朝に女の子が二人うちの近くに落ちてきたのよね。九ちゃんと一緒に助けに行ったらその人達がキリト君達の仲間だったのよ!」

「えっ!? そうなんですか!?」

「そうよ。シリカちゃんとリズちゃんの二人と小さい竜みたいなピナ君が今うちにいるのよ。でも、みんな私の卵焼きを食べたら急に倒れこんじゃって未だに起きないのよね」

「卵焼き? ……大丈夫なんですか?」

「まぁ、大丈夫よ。九ちゃん曰く別の世界の住人だからお口に合わなかったのよ。いずれ起きてくるから安心して! それじゃ、みんなに伝えてね。新ちゃん!」

「……わかりました姉上。僕は今日万事屋に泊まるので二人と一匹をお願いしますね」

「はーい!」

 妙の元気な返事と共に電話は終わった。吉報と悲報を伝えられた彼の表情は少し下向きであった。そして新八は、受話器を外して近くにいた四人へ妙から聞いた内容を伝える。

「一体何の電話だったアルか? 新八!」

「えっと、まずはいい報告からです。姉上がキリトさん達の仲間を見つけたそうですよ」

「えっ!? それって本当なのか!? 新八!」

「はい、シリカさんとリズさんとピナ君の二人と一匹だそうです」

「そうなの!? 良かった! シリカちゃんにリズ、ピナも無事だったんだ!」

「見つかって良かったですね!」

 シリカ、リズベット、ピナの安否がわかり安心するキリト達。喜ぶ彼らとは裏腹に、新八だけはなぜか全く浮かない顔である。

「ん? どうした、新八?」

「お二人に何かあったんですか?」

「それはですね……申し上げにくいんですけど。シリカさん達は今姉上の料理を食べて気絶中なんですよ……」

「気絶? どっちの意味で?」

「不味い方です」

 この言葉にみな再び黙り込んでしまう。料理を食べて気絶するなんてフィクションの世界でしかないと思っていたからだ。新八の表情を見てキリト達もその深刻さに気付く。

「そ、そうか……でも、生きているよな」

「そこは大丈夫です。まぁ、記憶障害が起こらなきゃいいけど」

「記憶障害!? お妙さんの料理って本当に食べ物なの!?」

「本当にシリカさん達は大丈夫なんですよね!?」

 思ってもいない妙の料理に心配の種が増えた。とはいえ、仲間が助かっているなら彼らにとって何よりだった。と安心した時に再び電話が鳴り始める。

「今度は私が出るネ!」

 新八に代わり今度は神楽が電話に出た。

「もしもしアル?」

「ギャャャャ!?」

「おーい!? さっちゃんアルか!? 一体何があったアルか!?」

 聞こえてきたのはあやめの悲鳴である。ふと着信先を確認すると月詠のいる茶屋「ひのや」から電話だった。すぐにあやめは調子を取り戻して、通話を続ける。

「だ、大丈夫よ。今少しひっかかれてね……シノンって女の子に」

「シノン? まさか、キリ達の仲間のことアルか?」

「えっ、シノンなのか!?」

「本当なの、あやめさん!? 一体シノノンに何が起こっているのよ!?」

 どうやら、あやめからの情報によると今「ひのや」にシノンがいるらしい。目の色を変えて一行は受話器へと近づく。そして、シノンの声を聞き取ろうと耳を澄ますが……

「ひっく! 私は大丈夫でしゅよ~! みんなー!」

聞こえてきたのは陽気で酔った女性の声だった。これには一同も沈黙してしまう。この状況は良くないと。

「シノは結構陽気な奴アルな」

「違いますよ! シノンさんは、大人びていてもっと落ち着いてクールな女の子なんですよ!」

「じゃなんでこんなことに……まさか、アンタ! 酒でも飲ませたのか!?」

「って、違うわよ! 彼女が酔っているのはお酒じゃなくてマタタビ! 晴太が大量にばらまいたせいで、こんなことになっているのよ!」

「シノノンがまたたびで酔った!?」

 思ってもないトラブルを聞きアスナらは驚いてしまう。ここで、通話相手があやめから月詠に変わり詳しく理由を説明してくれた。

「そうなんじゃ! かぶった瞬間にわっちに抱きついてきて猫のようにじゃれあってくるんじゃ! 今日は無理だと思うから明日来てもら――」

「会話はおしま~い! 月詠さん! もっと遊んで! 遊んで!」

「わかったわね、あなた達! 明日ちゃんと来るのよ!」

 あやめから言葉で通話が切れる。シノンも無事だったのは嬉しかったが、それよりもまたたびで酔ったことが衝撃的で仕方なかった。

「またたびであんなに酔うんですね」

「猫がモチーフのケットシーだから酔うのはある意味間違っていないような……」

「あーあ。シノノンがキャラ崩壊しちゃった……でも、それはそれで見てみたいかも!」

「新しい属性が追加されたアル。これも銀魂の世界ならではの影響アルか? それとも大人の事情アルか?」

「神楽ちゃん。せめて、後者の選択肢は排除しようか……」

 感想はそれぞれだが、アスナは少しだけ興味を寄せている。仲間の安否が続けさまに報告される中、またも電話が鳴る。

「ん? またですか!?」

 再び新八が電話に出ると、次にかかってきたのは真選組屯所からだった。

「あっ! 新八君?」

「山崎さん!? 珍しいですね! 電話をかけるなんて!」

「そんなこと言わないでよ! 今日は用があってかけたんだよ! 万事屋にはつながらないから、下のスナックにかけてようやくつながったんだよ!」

 電話の相手は真選組屯所にいる山崎である。珍しい電話相手に驚きつつも山崎は会話を続ける。

「それで、キリトさんっていう新しい万事屋のメンバーはいますか?」

「キリトさんに用があるんですか?」

「いや、用があるのは俺じゃなくてお客さんなんだよ」

「お客さん?」

 山崎の指示通り新八はキリトに電話を渡した。

「ん? 俺か?」

「はい。かけたい相手がいると」

 キリトはとんがった耳に電話を近づかせる。

「あっ、もしもし一体誰――」

「お兄ちゃん!? お兄ちゃんなの!?」

「えっ!? スグ……いや、リーファか!?」

 すると、電話越しに聞こえてきたのはキリトの義妹のリーファだった。またもメンバーに衝撃が走る。

「スグ? アッスーの言っていたリッフーって女の子のことアルか!?」

「そうよ! でも、なんで真選組からかかってきているの?」

 聞きたいことはあるが、まずは二人の会話を一同は見守る。

「今ね! 私は真選組の屯所にいるのよ!」

「屯所? 一体なんでそんなところにいるんだ?」

「落ちたところがそこだったからだよ!」

「そうか……それで、今は大丈夫なのか?」

「うん。一応沖田さんのおかげで接待部屋にいてプライベートの面は大丈夫。お兄ちゃん達が迎えにくるまでここにいていいって。ただ……」

「ただ?」

 突然リーファの声が小さくなった。そして、急に言葉を溜めて自分に起きたショックな出来事を言い出す。

「沖田さんの彼女にさせられたのよね……」

「えっ?」

 唐突な言葉にキリトもどう返したらいいのかわからなかった。

「それって……どういう?」

「この部屋に通すための嘘なんだけど、もう局内じゃ噂が広がっていて! 結婚とか妊娠とかそんな嘘まで広がっているのよ!」

 どうやら知らないうちに自分の義妹が、あるドSの警察官によって心の傷を負っているらしい。彼女の放った心の叫びは、キリトだけでなくそれを聞いた仲間達にも聞こえている。

「あー! 奴のやりそうな手アルな!」

「沖田さんならやりかねないな……」

 万事屋の二人は特に納得していた。リーファにとってかなり悪い状況であることを理解する。だがこれで、待ち合わせをしていたキリトの仲間達が全てこの世界にいて、無事であることが確認できた。

「わかったよ。災難だったな」

「うん! 励ましてくれてありがとうね、お兄ちゃん!」

「それじゃ、明日迎えに行くから今日は待っていてもらえるか?」

「うん、わかったよ! それじゃ、待っているね! ……山崎さん! 電話も終わるからさっさと部屋を出て! 女子だけの空間に入ってこ――」

 山崎を部屋に追い出すところで通話が切れた。仲間の無事もわかったところで一同は、早くも明日の予定を立て始める。

「さて! これでみなさん無事だってことがわかりましたね!」

「そうね! それも私達が挨拶回りした万事屋の知り合いばかりで良かったわ!」

「まぁ、予定通りってことアル! 今日はもう遅いし明日にした方がいいアルよな?」

「焦っても自分達によくないからな。一部心配な人もいるけど、まぁ大丈夫だよ。きっと」

「そうですね。それじゃ、銀さんにも伝えましょうか。銀さん! 明日――」

 と今まで通話には参加しなかった銀時へ先ほどの出来事を紹介しようとした時だった。

「「「「ぷはぁ~!!」」」」

 彼らが見たのは、銀時、桂、クライン、長谷川のおっさん四人組はいつの間にかビールを頼み勝手に祝杯を上げる光景である。

「おぃぃぃぃぃ!! お前ら、何勝手に乾杯しているんだよ!! さっきの話聞いていたのか!? ごらぁ!!」

 四人の能天気さに耐え切れなくなり新八は大声でツッコミを入れた。しかし、四人は全く変わらず陽気に接してくる。

「そんなに怒るなよ、新八君! それよりも聞きなよ! クラインさんの悲恋の話をよ!」

「はぁ?」

 長谷川の言葉と共にクラインは半泣きしながら自分の悲しい愛について語りだす。

「聞いてくれよ、みんな! 俺なんてキリトと違ってよ、全くモテないんだぜ! おかしいだろうが!」

「そうだよな! その気持ちわかるぜ! 若いからって美少女共といちゃいちゃしやがって! 何が彼女持ちだ! 何が子持ちだ!」

 クラインの肩を銀時が支えフォローしている。数分前とは全く違った対応であった。

「てかお前らいつから仲良くなったんだよ。酒が入っているからって、フレンドリーすぎだろうが……」

「若さを羨ましがるおっさん同士の哀れな飲み会アル」

 新八や神楽が辛辣な言葉を言っても、酔っ払い共の勢いは止まらない。

「よし! こうなったら俺が、若くイキった奴らを天誅してやろうじゃねぇか!」

「よっ、待っていたぜ! ヅラ!」

「さっすがー桂さんだぜ!」

「俺達のリーダーだな!」

「「「「ハッハッハッ!!」」」」

 酒で酔っ払うおっさん四人組。その様子をキリト達は苦い顔で見つめていたが、エリザベスはずっと見守っている。

〔クラインもいい飲みっぷりだな! アレはいい侍になるぜ!〕

「って、エリザベスさん!? 能天気すぎませんか!?」

「ていうか、アレってしばらく終わらないわよね……」

 戸惑う五人の元に今度はエギルとたまが話しかけてきた。

「だろうな。お前達は後好きにいな。ここにいてもいいし、万事屋に帰ってもいいよ」

「ご心配なく。終わったら銀時様達に伝えておきますので今日はゆっくりと休んでくださいね」

 二人に加えてエリザベスもプラカードを掲げてメッセージを伝える。

〔まぁ、仲間も見つかったんだ。後はゆっくり休んで明日に備えておけよ〕

「みなさん……わかりました。それじゃ、上でゆっくりと休みますか?」

「そうだな。今一度作戦を見直しておきたいし」

「しっかり休養を取って明日に備えないとね!」

「それでは、銀時さん達は頼みましたよ!」

「いざという時は、ボコボコにしてもいいアルよ!」

 こうして、五人は休養をとるため賑やかなスナックから上の万事屋へと移動した。夕方過ぎに起きた多くの出来事は衝撃の連続だったが、それでも仲間達が全員無事で何よりである。おっさん達は酒に酔い、シリカやリズベットは未だに気絶中。シノンも元に戻る様子はなく、リーファは屯所の個室で安心した時間を送っている。それぞれがそれぞれの時間を過ごして、いよいよSAOのレギュラーメンバーが集結する――

 




 銀魂の連載が終わると聞いてあとがきを長く予定していましたが、移籍だと聞いたので、なかったことになりました。さぁ、次回予告へと話を戻して、予定では後二訓か三訓くらいでこの章は終了します。今後の予定はのちに明かしていくので待っていてください。では、また次回!



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第十一訓 小説は人数が多いと誰が話しているのかわかりづらい 

 今回は題名の通りです。完全な自虐なので気にしないでください。それと突然ですが警告です!ご飯を食べている方は今すぐやめてください!気分を害することになります!それでは、どうぞ!
 追記 10月10日に文体を大幅に変更いたしました。ご了承ください。


  

 キリト達がこの銀魂の世界へやってきて四日目となった。まだ日が出始めた頃に万事屋の六人は、出かける身支度を始めている。昨日に発覚した仲間達の行方。キリト達だけではなく、その仲間達もこの世界へとやってきていた。万事屋はそれを知り今日に全員と合流することを決意。スナックお登勢の一員になったエギルと、桂一派並びに攘夷志士と化したクラインを除き、シリカやリズベットらの女子達四人は偶然にも銀時達の知り合いの元で預かっている。仲間と集まるべく万事屋は朝早くから動いていたのだ。そして着替えた一行は、昇る朝陽を背景にしてそれぞれの意気込みを語り始めた。

「ついにこの日がやってきましたね……」

「そうですね。絶対に全員と合流しましょう! ユイちゃん!」

「ワン!」

 新八はユイや横にいた定春とコンタクトを図る。二人共にやる気で心が満ちて、思いを一つにしていた。

「アッスーの仲間達は、きっと私達が取り戻すネ!」

「がんばろうね! 神楽ちゃん!」

 励ましあいながら心を通わせる神楽とアスナ。同じく気合が高ぶり、真剣な眼差しを見せている。そして、キリトや銀時も続き声を上げ始めていた。

「よし! 俺も準備ばっちりだ! 出発しよう、銀さん!」

 とキリトが銀時へ向けて後ろを振り返ると、そこには……

「オェェェェェ!!」

「って、銀さん!?」

気合ではなくゲロを吐いて顔色の悪くなっている銀時の姿があった。

「オィィィィ!! アンタ!? 何を朝っぱらから吐いているんだよ!」

「悪ぃ……二日酔いだわ……」

 思わず新八がツッコミを入れる。この事態の要因は昨日の酒にあり、彼は二日酔いになってしまった。情けない銀時の姿を見てアスナや神楽は呆れてしまう。

「銀さん……昨日飲みすぎるから気分が悪くなるのよ」

「アッスー達もいるんだから下ネタは控えめにするアルよ!!」

「わかってるよ……つーか、ゲロインに言われたかねぇわ……」

 銀時はボソッと文句を呟く。新八やキリトもこの件については自業自得だと思い心配はしていないが、ユイだけは不安に思って声をかけてきた。

「銀時さん? 大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな。ユイ……これだけは覚えておけよ。大人って言うのは我慢できない時は吐いてもいい生き物なんだよ。だから、もう一回……ブォォォ!!」

「ぎ、銀時さん!?」

 そう言って銀時は路地裏へ向けて再びゲロを吐きだしてしまった。酸っぱい匂いが辺りに漂い、一同は鼻をつまんでしまう。

「おぃぃぃ!! だから下ネタはやめろって言ったアルよ!!」

「つーか聞いたことねぇよ! そんな大人のルール! アンタだけでしょうが!!」

 神楽や新八がツッコミを入れて怒りを露わにする。真面目な空気が壊されてしまい、場にはグダグダな空気が漂うのだった。その様子にキリトやアスナも呆れている。

「なんで、こうも銀さんはかっこよくできないのよ……」

「それが銀さんらしさだと思うけどな」

 しかし、それでも銀時らしさと受け入れ彼をそっと見守るのであった。

 

 嘔吐騒動から三十分後。ようやく銀時の体調が戻り、彼の体は安定し始める。

「なんとか、大丈夫かな?」

「本当ですか、銀さん?」

「そうだよ! 俺を信じろよ、ぱっつぁん!」

「はいはい、わかりましたよ。しっかりしてくださいね」

 新八に文句を言われつつも銀時は頭を抱えて立ち上がった。調子が戻ったところで、六人は再び集まり今日の予定を確認する。

「で、まずはどっから行くんだ?」

 銀時の問いに新八が答えた。

「ここから近くとなると、姉上の方から先に行った方がいいかもしれませんね」

「シリカさんやリズさんがいるんですよね!」

「お妙さんの料理を食べたって聞いたけどどうなっているのかしらね……」

 アスナは一つの不安を口に出す。まず万事屋が最初に向かう場所は新八の実家、恒道館に決まった。そこには妙の料理を食べて気絶したシリカとリズベット、ピナがいる。キリト達は、妙の料理に面識が無かったため余計に不安視していたのだ。まずは近い場所から仲間と合流していく。そう決まると、神楽とキリトは先走って声を上げた。

「よし! そんじゃ、気を取り直すアルよ!」

「そうだな! みんな、出発の準備をしよう!」

 二人の掛け声に一同は強くうなづいた。万事屋一同がそう心に決めた時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「ちょっと待てよ、みんな!」

「俺達とクライン殿を忘れてはいないか?」

「って、この声は……」

 銀時らはすぐに声の主に気付く。後ろへ振り返るとそこには、昨日銀時と共に酒を飲んでいた男達、桂、クライン、エリザベスの姿があった。桂達は、全てをわかったような表情で立っていたのである。

「ヅラクラか!?」

「ヅラじゃない! 桂だぁ! そして!」

「クラじゃない! 壺井だ!」

「誰が本名まで言えっていったよ! つーか、クラはヅラの影響受けすぎだろうがぁ!!」

 桂に加えてクラインまでボケをしたため、銀時は二重にツッコミを入れた。前触れもなく現れた三人に、万事屋のどよめきが広がる。

「桂さんにクライン!? それにエリザベスまで……一体どうしてここへ来たんだ?」

 キリトも驚き思わず彼らへ聞いてきた。すると桂はいつもの腕組みで答える。

「うむ! よくぞ、聞いてくれた! 実はな、昨日言っていた挨拶回りを俺達もやろうと思っている。もしかすると、キリト君達の仲間も攘夷志士に興味を持つかもしれないからな!」

「あっ……そういうことね……」

 桂の目的を知りアスナは苦笑いで察した。彼は挨拶回りを利用して自分の仲間を増やそうとしていたのだ。もちろん、エリザベスやクラインもこの案にノリ気である。

〔クラインさん以外にも募集しているぞ!!〕

「そうだぜ! もしかすると、桂さんに憧れて入る女子もいるかもしれないからな!!」

(((((いや、いねーよ!!)))))

 クラインの自信満々な言葉に万事屋メンバーは心の中でツッコミを入れた。しかし、

「恐らくいないと思いますよ……」

ユイだけは困った表情でそっと呟く。桂達の考えは本気で引き下がる気がなかったので、銀時は渋々一緒に行動することを決める。

「ったく、しゃあねぇな。連いてきてもいいが邪魔だけはすんなよ!」

「わかっているさ。控えめに攘夷させるだけだ」

「攘夷させるってなんだよ! 言っておくけどクラ以外にメンバーが入るわけねぇだろ!」

 桂のしぶとさには銀時もツッコミを入れるしかない。朝からゲロを吐いたりツッコミを入れたりと今日の銀時は一段と忙しかった。一方、クラインは近くにいた新八や神楽に話しかけている。

「そういうわけだ! 改めてよろしくな! 新八君に神楽ちゃん!」

「気安くちゃん付けするんじゃないアル!」

「っていうか、いつの間に僕らの名前を覚えたんですか?」

「そりゃ、桂さんから教えてもらったからだよ。頼りになるリーダーの神楽ちゃんと、桂さんと同じく侍の銀さん。そして、ツッコミ眼鏡担当の新八君だろ?」

「どんな覚え方ですか!? 桂さん! ちゃんとふざけずに教えてくださいよ!」

 友好的に接するクラインであったが、新八や神楽とはまだ距離が縮まらなかった。桂らの乱入によって本筋からズレてしまったが、ここでエリザベスが修正する。

〔ほら、無駄話はいいからさっさと準備しろよ!〕

「エリザベスさん。ありがとうございます、代わりに伝えてくれて」

 ユイのお礼にエリザベスもすぐにプラカードを掲げた。

〔別に構いはしない。俺が言ったところでみんなには聞こえないから伝わりづらいだろうがな! ハッ! ハッ!〕

「とういうか、表情や気持ちもプラカードで会話するんだな……」

「本当にペットなのよね……?」

 エリザベスの生態により一層の謎を深めるキリトとアスナであった。ちなみに昨日の飲み会で、一緒に飲んでいた長谷川は未だに寝ているが起きる気配が無いという。場が落ち着いたところで、一同はようやく準備が再開する。銀時はスクーターを持ってきて乗り込み、後ろには新八が乗った。神楽とユイは定春にまたがり、キリトやアスナは羽を使って空中浮遊。同じくクラインも羽を使って浮遊状態になり、桂はエリザベスの背中に乗っかった。この配置で準備が完了すると、銀時は全員へ声をかけた。

「よし! 準備はいいか、てめぇら?」

「もちろん大丈夫だよ!」

 キリトに続き仲間達もうなずき返事を返す。そして、ついにその時がやってきた。

「そんじゃ……出発するぞ! てめぇら!」

「「「「「「OK!!」」」」」」

 気合の入った掛け声と共に一行は万事屋を出発した。朝陽が彼らの背中を押すように照らし合わせている。最初に向かうべき場所は新八の実家恒道館。そこには今、お妙の料理を食べて気絶中のシリカ、リズベット、ピナがおり、まずは二人と一匹と合流するのだ。速度を上げていき、町を颯爽と駆け抜けながら恒道館へと向っていく……

 

 約十五分後。一行は目的地である恒道館へと到着。スクーターや定春を止めて銀時らは降り、キリトらも羽を収めて地上へと降り立つ。そして、駆け込むように九人は玄関へと入っていった。

「姉上―!!」

 新八が声をかけるとすぐに妙が玄関まで駆けつける。さらに朝早くに来ていた九兵衛も続いてやってきた。

「アラ、新ちゃん! それにみんなも、もう来てくれたの?」

「そうですよ! って、九兵衛さんも来ているんですか?」

「ああ。昨日ちょうど妙ちゃんと一緒にリズ君達を助けたからな。だが、卵焼きの脅威からは助けることが出来なかったよ……」

「それはご愁傷様ですね……」

 新八は苦笑いで九兵衛に返す。どうやら彼女も妙と一緒にシリカ達を助けたらしいが、昨日起こしてしまった騒動に対しては今でも悔やんでいるようだ。その表情から悔しい気持ちが万事屋らにはよく伝わっている。一方で、妙は桂達がいることに気づく。

「ん? みんなだけじゃなくて、桂さん達も来ているのね。そちらのアゴヒゲの方は新しいメンバーなのかしら?」

 妙の質問に銀時が返す。

「ああ、こいつか? クラインって言う桂の新しい仲間だよ。耳がとんがっているのは、こいつは元々キリト達の仲間だからだよ」

「キリト君達の仲間!? じゃ、彼も別世界の人間ってことなのか?」

「そうだよ。おい、クライン。てめぇも挨拶しろよ」

 やはり妙や九兵衛は驚いた様子だった。と銀時へ促されて後ろにいたクラインは前へと出ると、妙を見てふと声を上げる。

「う、美しい……!」

「えっ?」

 突拍子もない言葉に妙は驚き、クラインは顔色を変えて急に男前になった。さらに、妙へ近づくとそっと手を差し伸べて優しく声をかけ始める。

「あなたのような美しい女性がこの世界にいるなんて思いもしませんでした。ぜひ、今度俺とお茶でも飲みにいきませんか?」

「えっ!? その……」

 唐突な誘いに顔を真っ赤にする妙だが、クラインは至って本気のままだった。予想外な行動に銀時ら万事屋の三人や桂は驚きを隠せなかった。特に新八は姉の乙女のような顔を見て、かなり動揺している。

「ク、クラインさん!? どうしたんですか!? まさか、うちの姉上のことを好きになったんですか!?」

 焦り気味にツッコミを入れる彼にキリトが小声交じりに補足を加える。

「まぁ、言い忘れていたけれどクラインは一目惚れしやすいんだよ。すぐにタイプの女性を見つけると口説くっていうか――」

「マジアルか!? ナンパ好きの男アルか!?」

「これだけは積極的なのよね……」

 アスナもため息まじりに神楽へ説明した。キリトらの言う通り、クラインの女好きは仲間達がよく理解しており、何度もよく成就だの失恋などと聞かされるばかりだという。ユイもキリト達同様詳しく知っており、銀時や新八へこの件について説明した。

「つまり、クラインさんは積極的に攻めることが得意ということですよ!」

「そうだったんですね……てか、ユイちゃんは本当に理解している?」

「いいんだよ、新八。細けぇことは。それよりもあいつ、まんま某海賊漫画に出てくる料理人みたいだな。声も似ているし。クラインじゃなくてサン〇じゃねぇのか?」

「あの、銀さん。ここで中の人ネタをするのはやめてもらえますか? さすがに別作品なので。わかる人にしかわかりませんよ」

 銀時の細かいボケに新八は控えめにツッコミを入れる。中の人ネタを披露しようとも、ユイは全く理解していない。

(〇ンジさん? 一体何のことでしょうか?)

 心の中で静かに思うだけだった。そんな中、桂も同じく衝撃を受けており未だに表情が固まったままである。

「女好き……!? そうだったのか……クライン殿!」

「桂さん!? まさか、武士道に反するから怒ってい――」

「俺の好みである熟女とは全く違った方向か! これでキャラ被りは回避できたな!」

「そこぉぉぉぉ!? ていうか、どんだけ小さいことをアンタは気にしていたんですか!?」

 あまりの予想との違いに再び新八のツッコミが響き渡る。桂は異常にキャラ被りについて気にしており、クラインとも対比していることに一安心したらしい。一方、そんなクラインは妙へ変わらずアプローチを続ける。

「えっ? 美しいだなんてそんな……」

「そう照れなくてもいいですよ。それがまごうことなき真実なのですから」

 普段では見せないかっこいい笑顔を見せて妙を惹かせようとするクライン。しかし、横にいた幼馴染はこの状況に黙ってなどいなかった。

「そこまでだ!!」

「えっ? うわぁ!?」

 突如、クラインの目の前には鋭い刀が突きつけられる。それは妙の横にいた九兵衛による刀だった。ずっと耐えていたが、ついに我慢が限界を超えたので彼女はクラインへ怒りをぶつけ始める。

「貴様!! ナンパ好きだとは破廉恥だぞ! そんな奴を妙ちゃんと付き合わせるわけにはいかない! 今すぐ立ち去ってもらおうか!?」

「ま、まさか彼氏さんか!?  これは失礼しました!! 許してください!!」

 九兵衛を彼氏だと誤認して焦るクラインは、思わず謝罪を込めて彼女の手を握ると……

「うわぁぁぁ!! 僕に触るなぁぁぁ!!」

「なんでぇぇぇ!?」

そのまま廊下の角まで投げ飛ばされてしまった。九兵衛特有の男嫌いがここで発揮される。しかもその先には、

「あ……まだ頭痛がする……」

「大丈夫ですか、リズさん? ひとまず志村さん達を探しに行きましょうよ」

気絶状態からようやく立ち直ったシリカとリズベットがいた。丸々一日眠っていた二人は数分前に起きており、頭を抑えながらも廊下を歩き回って妙らを探している。そして、玄関先でようやく見つけた。

「あっ! いたいた! 志村さ――」

 その時である。九兵衛に投げ飛ばされたクラインがちょうど向かってくるのがわかった。突然のことで回避することもできずに二人は、

「「「グハァァァ!!」」」

クラインの体当たりをもろに受けて床へと倒れ込んでしまった。同時に彼もぶつかった衝撃で倒れてしまう。結局、三人はとばっちりで再び気絶してしまったのだ。

「ク……クライン殿ォォォォ!?」

「って、ちょっとぉぉぉぉ!? 何をやっているの!? 三人共気絶してしまいましたよ!?」

 桂や新八は絶叫しながらツッコミを入れて、

「こんなミラクル起きるのかよ!?」

「それもギャグ漫画じゃ基本アル! 気にすることないアルよ! 銀ちゃん!」

銀時や神楽はいつものノリで思ったことを言い、

「って、呑気なこと言っている場合じゃないですよ!」

「早く起こさないと!」

「みんな! しっかりしろ!!」

キリトら三人は焦ってすぐにみんなの元へ駆け寄った。反応はそれぞれ違うが、収集不可能な場が展開されている。一方、そんな思わぬ奇跡を起こした九兵衛は複雑な気持ちになってしまう。

「……アレ?」

「こんな奇跡も起こるのね……」

 故意ではなかったものの彼女は罪悪感に苛まれてしまった。妙はそんな彼女をそっと励ますのである。こうして最初の再会は一応だが果たせた。

 

 数分後。シリカら三人はようやく気絶状態から立ち直った。九兵衛の淹れたお茶を飲み一息ついて、自分達の無事を確認する。

「はぁ……ようやく立ち直れました……」

「ナー……」

 シリカとピナは同時にため息をついて安心する。一同が落ち着いたところで、九兵衛は彼女達に謝りを入れた。

「すまなかったな。僕のせいで再び気絶させてしまって」

「九兵衛さん、そんなに謝らなくていいよ。私達は気にしていないから。どうせ、このナンパ男が何かやらかしたんでしょ?」

「そ、それは……はい、その通りです。すいませんでした……」

 しかし、リズベットらは気にしてはおらず、全てクラインが原因だと思っている。当の本人も頭を下げて二人へ謝っていた。これで九兵衛の件は帳消しとなり、妙自身も納得している。

「まぁ、アゴヒゲも反省していることだし一件落着ね!」

「「落着……?」」

 この言葉にシリカとリズベットは強く反応した。クラインにも非があるが、第一に妙にも卵焼きの件で責任があると思っていたである。彼女達は真っ向から反論した。

「って、そもそもは、志村さんの卵焼きのせいで私達、丸一日気絶したまま過ごしたんですよ! それを忘れないでくださいよね!」

「あっ、ごめんね。さすがに妖精達のお口には合わなかったのね。これからはちゃんと味を調節して見直すわ!」

「見直してどうにかなるような料理なの? アレは……」

 しかし、全く自覚がないようで二人は呆れてしまった。これには、温厚なピナさえも渋い表情となって呆れている。

 騒動も一段落したところで、状況を整理する。現在、彼らがいるのは恒道館にある居間。テーブルを囲み、妙や九兵衛、シリカとリズベットの四人が廊下側で正座しており、ピナはテーブルの上に座っている。窓側には万事屋の六人と桂一派の三人が分かれて正座し、総勢十三人で話しあいが行われている。だがまずは、シリカ達にとってキリトらとの再会が嬉しくて仕方なかった。

「それにしても、二人共無事で良かったよ」

「お妙さんにツッコミを入れる元気があるなら大丈夫そうね」

 一安心し、彼女達へ声をかけたキリトとアスナ。久しぶりに聞いた二人の声にシリカとリズベットは密かに感動している。

「アンタ達……こっちも三人共無事で良かったわ」

「そうですよ! まさか、別の世界にいるなんて思いもしませんでしたよ!」

「無事で何よりです! シリカさん、リズさん!」

 ユイも優しい言葉で返し、再会を喜び合った。そんな五人の姿を見て万事屋や妙らも同じく安心している。

「キリにアッスーも笑顔ネ! よっぽど仲間のことが心配だったアルナ!」

「まぁ、良かったんじゃねぇの? 聞けば妙の毒物食ったみたいだからどうなっているかと思っていたけど、あれくらい元気なら大丈夫そうだしな」

「何か言った? ……銀さん?」

「いえ、なんでもなんです。勘弁してください」

「つーか、アンタ謝るの早ぇよ」

 新八の辛辣なツッコミが決まる。妙も銀時の毒物という言葉に反応して軽く脅し、即座に謝らせたのであった。一方、キリトらの話はいつの間にか時間がテーマになっている。

「そういえば、みなさんはこの世界へ来てから何日経っていますか?」

 シリカの問いにアスナが答えた。

「えっと、今日で四日くらいかしら?」

「四日……!?」

 この言葉を聞いたリズベットは表情を急変させ、追及を続ける。

「そんなに経っているの!? アタシ達が来たのは、昨日よ! それに元の世界では二時間も経っていないわよ!?」

 そう二つの世界の時間の進み方が異なっていたのだ。新しい事実を知らされたが、ユイやキリトはしっくりきていない。

「そうなんですか!? 意外と時が進むのが遅いのでしょうか?」

「もしくは浦島太郎みたいに時間の進み方が異なっているのかもな……いずれにしても早く真実を突きとめないといけないな……」

 時間の流れ方の違いに考え込むキリト。だが、それよりもシリカ達が今一番聞きたいのは現在の彼らの状況だった。

「それはそうと、四日間もアンタ達は何していたのよ?」

 今度はリズベットが聞き、ユイがそれに答える。

「あっ! それはですね、私達は万事屋というなんでも屋に入って挨拶回りや仕事の手伝いをしていたんですよ!」

 万事屋という聞いたことない店と仕事内容にシリカがさらに問う。

「万事屋? 挨拶回り? つまり、みなさんはなんでも屋の一員になったってことですか!?」

「そうだな。この世界では、銀さん達の所でお世話になっているんだよ」

「銀さん達? あの銀髪の男のこと?」

「そうです! あの目の細いぶっきらぼうな男性のことですよ!」

「って、ユイ!! 目の細いは余計だろうがぁ!」

 ユイの天然発言に思わずツッコミを入れる銀時。どうやら、キリトらの横にいる三人が万事屋の一員らしい。銀髪天然パーマの成人男性と眼鏡がトレードマークの若い男子とチャイナ服を着た赤い髪の少女。見た目からもわかる個性の強さに二人が戸惑う中、神楽から急に自己紹介が始まった。

「まぁまぁ、銀ちゃん! そこは落ち着くネ! あっ! 私は神楽って言うアル! シッリーにリズ、よろしくアルナ!」

「シ、シッリー!? 随分独特なアダ名ですね……」

 独特な呼び方を聞きさらに戸惑うシリカだが、アスナは何一つ疑問に思っていない。

「それが神楽ちゃんの特徴よ! 私だってアッスーって呼ばれているもの。ねぇ、神楽ちゃん!」

「もちろんアルよ! アッスー!」

 さらに二人は互いの顔を見て、笑顔でコンタクトをとった。いつの間にか築かれた二人の仲の良さに、シリカ達は言葉を失う。

「って、アスナ? もう神楽と仲良くなっているの!?」

「さすがです……まるで姉妹みたいですね……」

 言葉に出ないがそれと同時に、神楽への興味は少なからず沸いている。と次に新八が挨拶を交わす。

「まぁ、あの二人は初めて会った時からあんな感じですよ。それと僕は志村新八です! あのお妙さんの弟です。シリカさんにリズさん! よろしくお願いしますね!」

「よ、よろしく……って、志村さんの弟なんですか!?」

 驚くシリカに妙が補足を入れた。

「そうよ。新ちゃんは私の弟なんだから!」

「すごいわ……驚くほどまったく似てないわね……」

 リズベットも同じく驚きを隠しきれていない。新八と妙を幾ら照らし合わせても全然似ていないからだ。と最後に銀時が挨拶を交わす……はずが、新八が勝手に紹介し始める。

「そこは気にしないでくださいよ。それと、この死んだ魚の目をした男が銀さんこと坂田銀時さんですよ!」

「余計なこと言うんじゃねぇよ! ユイの時よりひどいじゃねぇか!」

 普段とは違いボケとツッコミの立場が逆転する銀時と新八。だが、それを聞いたシリカとリズベットは、

「死んだ魚の目……」

「銀時さんが……」

「「フフ!! ハハハハ!!」」

なぜか笑いのツボにはまり大笑いをしてしまった。しかもお腹を抱えるほど笑っている。予想外の状況に銀時のツッコミが止まらない。

「って、おいぃぃ!! 何をてめぇら笑っているんだ!! そんなにおかしいことかよ!?」

「だって、どっかで見たことあると思ったら、死んだ魚の目とそっくりなんだもの!!」

「おかしすぎますよ!! 銀時さん!! 最高です!!」

「大受けしすぎじゃねぇか!? 煽り以外の何物でもねぇぞ! お前ら!!」

 二人の笑いが収まる気配がない。彼女達の記憶に大きく残ったのは銀時だったが、当の本人は全く納得していなかった。そんな彼へキリトとユイが声をかける。

「まぁ、銀時さん! これも結果オーライという意味ですよ!」

「そうだよ。シリカやリズとも仲良くできそうで俺も嬉しいよ」

「どこがだ!? 完全にバカにされているだけじゃねぇか! てめぇらまでノリに乗ってくるんじゃねぇよ!」

 銀時は結局二人にもツッコミをしてしまうだけだった。万事屋の自己紹介も終わり、二人には色濃く印象が残り、それと共に安心感が生まれる。

(万事屋の皆さん……とても面白い人達ですね!!)

(ツッコミもうまいし、この人達ならキリト達も安心して任せられるかも……!!)

 笑いながら心の中でそっと信頼を寄せた。それから、笑いも収まったところで次は桂が自己紹介を始める。

「さて、笑いも収まったな。次はこの俺の番といこう」

「えっ? あなたも万事屋の一員じゃないんですか?」

「いいや、違う。クラインを受け入れた侍と言っておこう」

「えっ!? 侍……てことはアンタと相性が良いんじゃないの?」

「そうだぜ! 俺と桂さんは、昨日に杯を交わした仲なんだぜ!」

 クラインが桂の肩を組み仲の良さを見せた。桂も動じずに微笑み自己紹介を始める。

「その通りだ! 俺の名は桂小太郎。この世界で侍として活躍している。よろしくな、二人共」

「よ、よろしくお願いします……」

 控えめにシリカが返した。真面目で堅物な印象が残り、なおかつクラインとの仲の良さからこちらも打ち解けあっていると勘付いている。しかし、二人にとっては桂よりもその横にいる謎の生物が気になってしょうがなかった。

「……ていうか、アンタ達の左にいる白い物体は何なの?」

 苦い表情でリズベットが聞くと、桂が顔色を変えずに答える。

「ああ、こいつか? これはエリザベスという俺のペットだ」

「「ペ、ペット!?」」

 やっぱり驚いて、理解に苦しむシリカとリズベット。今日一番の衝撃で、言葉に詰まってしまうが周りにいる人間は全く動じていない。

「なんだよ、お前ら。知らなかったのかよ?」

 平然と受け入れているクラインへリズベットが疑問をぶつける。

「そうでしょ!? だって、初見の人がわかるわけないでしょ!? ゆるキャラとかマスコットとかじゃないの!?」

 そう言われると、エリザベスは急にプラカードを掲げた。

〔いいや。俺はマスコットではない。桂さんの忠実なるペットだ〕

「って、プラカードで会話するんですか!?」

 エリザベスの会話能力に驚きを見せるシリカ。そんな時だった。ずっと休んでいたピナが彼の存在を見て興味を持ち始めた。

「ピナ? どうしたんですか?」

「ナー!」

 ピナは翼を広げて空中浮遊するとエリザベスの目の前に近づいた。

「ナー? (君も僕と同じペットなのかい?)」

〔その通りだ。お前も同じペットなら仲良くできそうだな〕

「ナー! (そうだね! よろしく!)」

〔よろしく。俺以外にもペットキャラはまだいる。今度紹介してやるぞ〕

「って、会話が成り立っているんですか!?」

「未知の生物と仲良くなるとは……さすがは俺の相棒だ」

「アンタの生物がよっぽど未知すぎるわよ!!」

 ピナの鳴き声はエリザベスに伝わり、会話が成立したところで簡単に打ち解けた。もはやなんでもありである。これで挨拶も一通り終わったが、最後にとんでもない勘違いが起きていることに一同は気付いてしまう。

「これで万事屋や桂達の紹介は以上だな。二人共とりあえず合流出来てよかったな」

 九兵衛からの締めのセリフにシリカ達も返答した。

「そうですね! でも、他の仲間達は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ! みなさんと連絡は取れたので後は再会するだけです!」

 ユイが自信満々に伝えて二人を安心させた。

「良かった……ひとまずホッとしたわ! この世界もアタシ達の世界と、何ら変わっていないみたいだし結果オーライね!」

「そうね――って、えっ!?」

 アスナはリズベットの言葉に思わず驚いてしまう。そう、実は二人は気絶していてこの世界の現状について全く知らされていないのだ。この発言によって和やかな場の空気は一気に凍り付く。新八は静かに訳を妙へ聞いた。

「ま、まさか姉上……シリカさん達にこの世界について教えていないんですか?」

「あっ! そうだったわね!」

「それマジかよ!?」

 妙のあっさりとした態度に驚く銀時。一方、シリカやリズベットは意味を理解しておらず首を傾げている

「みなさん、何を驚いているんですか?」

「この世界のこと? 何か違うの?」

「これは重傷だな……」

 キリトも頭を抱えて事の重大さを思い知る。こうして、シリカとリズベットは場にいた一同の説明でようやく多くの情報を知ることになった。

「「ええ!? 宇宙に開国した江戸時代!?」」

 やはり驚いてしまう二人。これで、この世界が自分のいた世界とだいぶ異なることが証明された。長く時間がかかったがキリトもやれやれと思い説明をまとめる。

「そうなんだよ。江戸の風景なのに生活水準は、俺達の世界と何ら変わらないからな」

「それじゃ、さっき言っていた侍は本当のことだったんですか!?」

「その通りだ。俺とクライン殿は攘夷志士と呼ばれる侍として、本格的な道を歩むことになったのだ」

「ふざけてやっていたわけじゃなかったのね……」

 生活風景や政治風景、さらにクラインが本物の侍の一派として入ったことに驚きが止まらなかったが、何より一番衝撃的だったのは神楽が宇宙人だということだった。

「それに神楽さんが宇宙人だったなんて信じられません!! 見た目は地球人っぽいのに!」

「まぁ、仕方ないアル。でも、生まれた星は違っても関係ないアルよ! ねぇ、アッスー!」

「もちろんよ、神楽ちゃん!」

「ていうか、こう並んで見るとアスナがよっぽど宇宙人っぽいわね。耳もとんがっているし……」

 再び笑顔で返す神楽とアスナ。そんな二人が並ぶと、耳がとんがっているアスナの方がよっぽど宇宙人っぽく見える逆転現象が起こった。とここで銀時が補足に加わる。

「まぁ、耳がとんがっている宇宙人は星の数ほどいるよ。これからこの世界で過ごすなら、てめぇらは絶対宇宙人に間違われるよ」

「そうなんですか? それじゃ、猫耳が生えた宇宙人もいるってことですよね?」

「ああ、いるぜ。でもてめぇの方がよっぽど萌えってことをわかっているよ。アレは絶対認めたくない女だからな……」

 シリカは銀時の言った言葉の意味が気になっていた。それは置いといて、これで二人と一匹はこの世界のことについてだいたい理解した。話もまとまったところで一行は次の現場へ向かう準備を始める。

「さて、これでシリカちゃんやリズちゃんと合流できたわけだけど、みんなは次にどこへ行くの?」

 妙の質問にユイが答えた。

「次は……吉原にいるシノンさんのところに行きますか?」

「そうだな。昨日は大変なことになっていたからな」

 キリトらは昨日の電話の内容からシノンの大変な状況を理解していたが、飲み会に参加していた銀時は全くわかっていない。

「大変なこと? なんだ、そりゃ?」

「まぁ、会ってからの方が早いと思うよ」

 キリトが控えめに返答する。そんな一行が次に向かうのはシノンのいる吉原に決まった。すると、神楽は早くもシリカ達に誘いをかけてくる。

「あっ! それなら、シッリーやリズも加わるアルか?」

「えっ? いいんですか?」

「もちろんです! 仲間は多い方が頼もしいですからね!」

「そんなの最初から決まっていたわよ。私達も行くわよ!」

「そうですね、リズさん!」

 神楽だけではなく新八にも促されて二人は即答で賛成した。だが、銀時だけはなぜか浮かない顔をしている。

「はぁ? これ以上増えるのかよ。漫画やアニメだと大丈夫だけどこれは小説だぞ。ただでさえ作者がセリフの付け方とかに悩んでいるのに、てめぇらまで増えたら余計に混乱――」

「って銀さん!? これ以上言わないでくださいよ!! 触れちゃいけない部分をネタにしちゃダメだから!」

 新八のツッコミが再び決まる。銀時はキャラクターの多さを不安視してメタ発言を連発したのだ。当然この意味を理解しているのは銀魂世界の住人だけで、キリトらSAO世界の人間は全く理解していない。

「漫画やアニメ? それに作者って一体どういうことなの?」

「アッスー……そこは知らない方が幸せアルよ」

 神楽は言葉をぼかして知らされないようにする。それは置いとき、結局シリカら加わることに問題は無かった。銀時を押さえたところで新八は、次に妙へある相談を交わす。

「あっ、そうだ。姉上、一つ相談していいですか?」

「ええ、何かしら?」

「今日の夕方、この道場を使っていいですか? キリトさん達と今後のことについて話したいんですよ」

「そうね……大丈夫よ。みんなと話し合ってこれからについて決めていきましょう」

「はい!」

 新八は要望を受け入れてもらい一安心する。キリトら別の世界の人間達が今後この世界でどうするのか、整理しておくために恒道館の道場を使うという。なるべく銀時達の知り合いを集めて話し合うようだ。すると、桂が反応してきた。

「そうか……ではできるだけ多くの浪士を集めてこようか? 真選組の奴等は絶対に呼ぶんじゃないぞ」

「いや、攘夷志士はアンタらだけで十分だよ。絶対に呼ばないでくださいね!」

 桂の要望を新八は真っ向からへし折った。こうして、これからの予定も埋まった一行は外へと出て再び出発準備へと入る。

 

「ひとまずこれで合流出来て良かったわね、二人共!」

「はい! 志村さ――えっと、お妙さんの方が言いやすいですよね」

「そうね。私も堅苦しいのは苦手だから、そっちで十分よ!」

 妙への呼び方を変更するシリカ。そしてリズベットも含めた二人は、出発前に九兵衛らにお礼の挨拶を交わした。

「では、言い直して……お妙さんや九兵衛さんが助けてくれたおかげで、キリトさん達と合流出来ました!」

「それに色々と教えてくれてありがとうね!」

「いいえ。私達は大したことはしていないわよ」

「当然のことをしただけだ。でも、その言葉は有り難く受け取るよ。 それじゃ、気をつけて行ってくれ!」

「わかってるわよ! それじゃ、また夕方ね!」

 互いに微笑み返して四人の仲は深まっていることがわかった。そして、いよいよ出発の時間である。シリカやリズベットもこの世界で初めて羽を広げて空中浮遊。ピナも翼を広げて同じく空中に浮いた。恒道館前の外で、全員の準備が完了する。

「よし! なら、再び出発だ!」

 そして銀時の掛け声と共に一行は、次の目的地である吉原へと向かい始めた。妙らは見送りながら、最後にある言葉で締める。

「巻き込まれているのは確かなのにどこか明るかったわね、あの子達」

「そうだな。でもこれで僕らも安心したし一件落着だよ」

「まだ巻き込まれそうだけどね」

「そうだな」

 そう呟き二人は見えなくなるまで見送りを続けるのであった。次の行き先はシノンのいる吉原。果たして彼女はマタタビの酔いから解放されているのか? 今後の展開に注目である。そんな時、銀時はクラインへ声をかけた。

「あっ! そうだ、クライン。お前気づいていないから言うわ」

「ん!? なんだよ、銀さん?」

「九兵衛は女の子だよ」

 唐突な沈黙。そして、彼はようやく意味を理解する。

「……はぁ!? そうなのか!?」

「ていうか、気付いていなかったんですか!?」

「これだから鈍い男は困るのよね……」

 シリカやリズベットはとっくのとうに気付いており、彼へ呆れさを表した。このタイミングで九兵衛が女の子だと理解したクラインだったが、

「ということは……お妙さんは百合ってことか!?」

「いや、ちげぇよ!!」

思わぬ誤解が最後に生まれてしまう。全員が心の中で彼へツッコミを入れたのであった。吉原までの道のりはまだ遠い。

 




 中々展開が進まなくてすいません……キャラが多いから予定していた内容よりも多くなってしまうんです……普通の小説よりも人数が多いからしょうがないですけど。なるべくわかりやすく書いていきます。それでは次回はシノンとの再会をお送りします!お楽しみに! 


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第十二訓 猫に甘い物を与えるな! 

 みなさん、すいません。二週間ぶりの投稿で……言い訳になりますが実は体調を崩してしまって絶不調でした。本当はSAOの3期の放送に合わせてこの章を終わらせるつもりでしたが、体調不良に加えて台風といった自然現象にやられ、今に至っています。もうしばし、お付き合いください。後、前回の話は人数が多くてわかりづらかったと思い第十一訓の文体を大幅に変えました。冒頭の部分を除いて、大まかな話の流れは変わっていませんので気になる方は是非見てください。人数が多いと思いますがなるべくわかりやすく書いてお送りします。それでは、二週間ぶりの剣魂を是非ご覧ください。



 時刻は九時を過ぎたあたりで、朝から徐々に昼へと向かっている。そんな中、万事屋一行はシリカ、リズベット、ピナと合流して、かぶき町から次の目的地である吉原へと進んでいた。次に出会うべき仲間は月詠らの元にいるシノン。一部のメンバーは、現在彼女がとんでもないことに巻き込まれているのを知っている。少しだけ不安を感じつつも、一同はかぶき町を駆け行けていった。総勢十一人と二匹で移動する中、かぶき町の町並みを改めて見たリズベットら二人は、それぞれ自分の感じたことを声に出している。

「宇宙人の来た江戸時代ね……未だに信じられないわ……」

「そうですね。別の世界から来た人なら最初は信じがたいですもんね」

 彼女の呟きに新八が返す。周りを見れば古風な江戸の町とビル街が乱立して、中央には巨大な塔がそびえ建っている。自分達のいた世界とは違った文化に驚きを隠せなかった。徐々にこの世界について理解を深めていたシリカ達だったが、それでも疑問は多くある。

「本当です……ところでキリトさん達はこの世界でどんな生活をしていたんですか?」

 シリカの素朴な疑問に、キリトはすぐに返答してくれた。

「生活って、特に変わったことはないよ。さっきも言ったけど、文化や科学技術は俺達のいた世界となんら変わらないし、困ったこともないから安心して過ごしているよ」

「つまり、江戸時代と言ってもそこまで意識しなくていいということですよ!」

 ユイも説明を補足して二人に伝える。キリト達はすでに慣れた様子であり、まったく不安に思っていなかった。それを見てリズベットらは反応に困ってしまう。

「そうなの……?」

「そうよ、リズ。多少困ることはあったけど、私達は何不自由なく暮らしているのよ」

「そうだぜ、気にしたら負けだからな。無意識でいいんだよ、無意識で」

 アスナに続きスクーターを運転していた銀時も伝えてきた。万事屋らの表情から不安な気持ちはないように見えるが、彼女はまだ納得していない。

「本当なのかしらね……?」

 大雑把な態度に思わず苦笑いで返してしまった。さらに今度はユイが二人に質問を振ってくる。

「他に聞きたいことはありますか?」

「他ですか……やっぱりアバターとの一体化でしょうか?」

「そうね……まさか妖精系のアバターのまま別の世界に来るなんて、思いもしなかったわ」

「みなさんはともかく、アタシに至っては猫耳と尻尾付きですからね。この姿のまま生活するのは不安しかないですよ……」

 そう言ってシリカは、自分の耳部分に付いた茶色い猫耳をさする。二人が肉体とアバターの一体化を知ったのもつい数分前だった。脈だけではなくアミュスフィアの待機音が聞こえた謎も分かったのはいいが、まだ受け入れがたく不安を口にする。浮かない顔をしている彼女達に、キリトや銀時がアドバイスを加えた。

「まぁ、そんな重く考えるなよ。アバターと一体化しても俺達は何不自由なく暮らしているし、そこまで気にすることはないよ」

「そうそう。それにこの世界には宇宙人が存在しているって言ったろ。何かあってもごまかしが効くし、不幸中の幸いってやつだよ」

「宇宙人ね……ある意味この世界の方が、今のアタシ達にとっては安全かもしれないわね」

「そうですね。宇宙人がいるからこそ、この姿でも緩和されているんですね……」

 改めて二人はこの世界へ来たことの奇跡を思い知る。宇宙に開国した別世界だからこそ、容姿を気にせずに存在できるのだ。すると、急に桂は意味深な言葉を呟き始める。

「おい、銀時。そんな話よりも今は仲間との合流に集中しろ。結局、アレには間に合わなかったからな……」

「アレ? 桂さん、一体どういうことなの?」

 アスナが気になって質問で返すと、桂は一つの不安を口に出した。

「それは――SAOの三期放送にだ!」

「さ、三期?」

「って、ヅラァァァぁ!? 何とんでもないこと言ってんだよ! こいつらの前で放送ネタはやめろよ!!」

 銀時のツッコミがすかさず決まるが、桂は何一つ動じていない。そんな彼は突如SAOの放送再開に乗っかりメタ発言を口走った。当然キリトらSAOキャラクターはまったく意味を理解していないが、銀時ら銀魂キャラクターは桂の言った意味をよく理解している。

「桂さぁぁぁん!? 急にどうしたんですか!? 三期とか言っても僕らにしか分かってませんよ!? キリトさん達、何一つ意味を理解してませんよ!!」

 我慢できなくなった新八が激しいツッコミを繰り出すが、何を言われようと桂は否を認めない。

「それでいいのだ!! そもそもこの「剣魂」の第一章も放送再開前には終わる予定だったが、作者の環境の変化に加えて体調不良により予定が狂ってしまった! だから、もうこうするしかないのだ!」

「誰が作者の裏事情まで話せっていったよ! つーか、さっきからキリト達が顔をポカンとしたまま理解してねぇんだよ! やめろ! これ以上ここで三期ネタをするんじゃねぇ!!」

 銀時の言う通りキリト達は苦い顔のまま、まったく意味を理解していなかった。注意を促し続ける中、クラインだけはなぜか食い気味に反応している。

「いや、待ってくれ! 桂さんは何も悪くねぇよ! 俺も楽しみにしていたんだ! そこは素直に喜んでいるぜ!」

「ク、クラインさん!? まさか、あなた……桂さんに影響されてとうとう銀魂キャラに染まったんですか!?」

 意見に同感するクラインの姿を見て、思わず動揺する新八。彼もメタ発言の意味を理解していると思いきや、

「いや~面白かったぜ! 「とある魔王の時空転移」!」

「って別の作品だったぁぁぁぁ!! つーか、お前らいつアニメなんか見たんだよ!! ちゃんと攘夷活動しろ!!」

まったく違っていた。桂のようなボケをかまして、新八からの手強いツッコミが入る。それは置いといて、桂のボケはまだ止まらない。

「しかし、どうする? このまま放送が続くとこの小説の時系列が合わなくなるぞ。作品のピンチではないか?」

「いや、そこは読者の方に注意書きくらいで大丈夫だと思いますよ!」

 新八からのフォローが入ろうと、桂の考えは依然として変わらなかった。

「ダメだ!! こうなったら仕方ない! かくなる上は……俺達も行くぞ!! アンダーワールドへ!!」

「行くなぁぁぁぁ!! おい、誰かヅラを止めろぉぉ!!」

 勢いよく速度を上げる桂とエリザベスに、銀時のスクーターが追いかける。桂の思い込みと熱意は誰にも止めることができなかった。一方で、キリト達は未だに桂や銀時の言った内容を理解していない。

「えっと……つまり三期とか放送とかアンダーワールドとか一体どういう意味なんだ?」

「この世界の人にしかわからない暗号みたいなものでしょうか?」

「キリにユイ……その考えで十分アル。世の中には知らない方が幸せなこともアルからナ……」

 ユイの勝手な解釈で神楽がごまかし、騒動は一旦幕を下ろした。果たしてキリト達がメタ発言を理解する日は来るのだろうか? 違った思いが交差して、一行は吉原へと進んでいく。

 

 数分後。時刻が十時を回ったところで、一行はようやく吉原へと到着する。かぶき町とはまた異なる和風な風景が広がり、初めて見るメンバーに驚きを与えていた。数多ある店の中から彼らは茶屋であるひのやへと到着。銀時達はスクーターや定春を止めて降り、キリト達は羽を下ろして地上に再び着陸する。ピナもシリカの頭の上に乗っかった。そして、十一人が次々と店に入っていくとそこには店主である日輪がおり、車椅子に乗りながら店の準備を進めている。

「あら、みんないらっしゃい! また来てくれたの? 今日は万事屋以外にも初めてお目にかかる人達もいるわね。もしかして、また挨拶回り?」

 万事屋だけでなく新しい顔ぶれにも気付き、呑気に接する日輪。しかし、万事屋らの緊張の度合いは異なっており、切迫した雰囲気のままキリトはシノンの行方を聞いてみる。

「ここにシノンがいるって聞いて駆けつけたんだが……」

「あっ、そういうことね! あの子なら奥の部屋で月詠と一緒にいるわよ」

「わかった……なら上がらせてもらうぜ!」

 銀時が合図をして一行はみな靴を脱ぎ捨て奥の部屋へと進んでいく。大勢で向かっているため、廊下を走る音も一段と騒がしくなった。

「アレは……合流かしらね? 昨日の電話が伝わったみたいで良かったわ」

 日輪は彼らを見守りつつも準備を再開させる。一方で、万事屋一行が部屋へと向かう途中に、ちょうど廊下で倒れている人を発見した。

「ん? あいつは……ストーカーか?」

「って、さっちゃんさん!?」

 銀時や新八はいち早く正体に気付く。それは顔に引っかかれた跡が多くつき、真っ赤になっていた猿飛あやめだった。目を閉じて気絶しているようにも見える。一部のメンバーは彼女の存在を知っており、すぐに駆け寄ってきた。

「猿飛さん!? しっかりしてください! 一体何があったんですか!?」

 ユイが必死に呼びかけるとあやめは一時的に気を取り戻し、指を震えたまま奥の部屋を指す。

「あ……あそこにアナタ達の求めた者が……いる……」

 かすれ声で呟き、あやめは再び倒れ込んでしまう。とその時、奥の部屋から女性の高い悲鳴が聞こえてきた。

「この声はまさか……シノンさん!?」

 ユイがすぐに感じ取ると、キリトとアスナは走り出して部屋へと向かう。

「シノン! 大丈夫か!?」

「今、助けに……」

 二人は勢いよく戸を開けると、その光景に愕然とした。目の前に広がっていたのは――

「にゃふ~尻尾は苦手って言ったじゃん!」

「す、すまぬ。猫の扱いには慣れてないんじゃ……」

「じゃ、今度は気を付けてね! 月詠さん!」

「わ、わかった。それじゃ、やり直すぞ」

「は~い! よろしくね!」

シノンが月詠に甘えて撫でられている光景である。彼女は昨日から変わらずに酔ったままであり、改めてキリト達に衝撃を与えていた。普段のクールで冷静な性格からは想像がつかないほど表情が柔らかく、積極的に月詠へ甘える姿は元の面影すらない。月詠も困った表情で彼女の相手に苦戦している。共にキリト達の存在には気付いていないので、アスナらは状況を整理するためにそっと戸を閉めた。

「お前らどうした? シノンっていうのはあいつのことじゃねぇのか? なんで戸なんか閉めたんだよ?」

 事情を知らない銀時や桂は不思議に感じ取り、シリカ達三人は逆にシノンの陽気な姿に動揺を広げている。そんな彼らの疑問に、キリトやユイは正直に説明した。

「まだ、酔っていたから……」

「酔っていた? って、どういうことだ?」

「……実は昨日猿飛さんから連絡があって、シノンさんがまたたびで酔ったと報告を受けたんです……」

「「「またたびで酔った!?」」」

 クライン、シリカ、リズベットの三人は同時に声を上げて叫ぶ。さらにはピナにも伝わったのか、「ナー!!」と大きく鳴き声を上げた。三人もシノンの現状をようやく理解したが、銀時や桂にはまったく響いていない。

「何? それのどこがおかしいというのだ? 猫ならばまたたびで酔うのは当然のことではないか?」

「それはそうだけど、そもそもアタシ達のこの姿はアバターなのよ! 本当は桂さん達と同じ人間なのに、なんでシノンが酔っちゃっているのよ!?」

 リズベットは隣にいた桂へ疑問を叫び続ける。彼女の言う通りキリト達も元々は普通の人間で、またたびで酔うことは到底考えられない。しかし、これは猫妖精であるケットシーの特殊な事情だとユイは推測していた。

「もしかすると、この世界に来たことによって新しい弱点が付けられたのかも知れません。だからシノンさんは、またたびで酔ってしまったのでしょうか?」

「マジアルか!? ということはシッリーも……なんか酔っても変わらなさそうアルな……」

「それ、どういうことですか!? 神楽さん!?」

 神楽の言葉に思わずシリカがツッコミを入れる。それは置いときシノンが酔った原因は、新たなケットシーの弱点が関係しているかもしれなかった。シリカにも当てはまるため、彼女を中心に仲間達への動揺が広がっていく。しかしアスナだけは、心配と同時にこの状況を少しばかり楽しんでいた。

「はぁ……まさか、こんなに甘えるシノノンを見られるなんて……これはこれでかわいくてレアよね……」

「アッスー? なんか変なスイッチ入ってないアルか?」

「いいや、なんでもないわよ! 神楽ちゃん!」

「顔がにやけているアル」

 神楽が目を線にして気が引く中、アスナは酔ったシノンのかわいさを見て心がときめいている。一行がそれぞれ反応して一段落したところで、ようやく行動へと移し始めた。

「とりあえず、まずはシノンさんを元に戻しましょう!」

 ユイの声かけに続いて、クラインや新八も口を開く。

「そうだな! あんな陽気なシノンだとこっちの気が狂ってしまうぜ!」

「それじゃ。部屋に再突入しましょう!」

 二人の言葉に仲間達も頷いている。シノンを元に戻すためにも、一行は戸を開けて再び部屋へと入りこんだ。

「な、何じゃ……って主らか。いつの間にここへ来たんじゃ?」

「ついさっきだよ。キリトの仲間を引き連れてここへやってきたんだよ」

「仲間……そういえば見かけない奴らが三人おるな。シノンの仲間ということか?」

「そうだよ。とりあえず話は後だ! こいつをまずは酔いから醒まさねぇとな!」

 いきなり押し込んできた銀時達に月詠も驚いていたが、すぐに状況を把握して冷静さを戻す。彼らと接触を図り、気持ちを合わせ始めていた。そんな中、今度はキリトが話しかけてくる。

「そもそも、昨日酔っていたのになんでまだ酔ったままなんだ?」

「それはじゃな……」

 返答しようとした月詠であったが、その時にシノンは急に彼女へ向けておねだりを始めてきた。

「ねぇ、ねぇ! 月詠さん! また食べさせて~! お願い~!」

「……しょ、しょうがないな! ほら、あ~ん!」

「あ~ん!」

 断れずに月詠は、横に置いてあった袋から飴玉を取り出してシノンへと食べさせる。その袋にはマタタビ味と書かれており、これによって一同は全てを察していた。この飴玉が、シノンの酔いを悪化させているのだと。

「ま、まさか月詠さん……」

「し、仕方ないんじゃ!! この飴玉を上げないとシノンが機嫌を悪くして、本物の猫のように暴れまくるんじゃ! だから、戻そうにも戻れないということじゃ!」

「そうだったんですか……!? まさに負のスパイラルです……」

 取り乱した月詠の言い訳に、ユイも苦い顔で共感している。予想を越えたややこしい現状に、一同も言葉に詰まっていた。すると今度は新八があることに気付く。

「えっ……じゃ、さっちゃんさんが倒れていたのは、シノンさんが攻撃したからですか!?」

「その通りよ……」

「って、あやめさん!?」

 唐突に声が聞こえて思わず後ろを振り返ると、そこにいたのは戸に寄りかかりながら必死に話すあやめであった。顔に付けられた傷は、彼女曰く暴走したシノンによってつけられたようだ。

「大丈夫アルか、さっちゃん!」

「大丈夫よ……これくらい銀さんに痛めつけられる妄想に比べたら軽いもんよ……」

「おい、真面目な場でふざけんなよ」

 傷ついてもあやめのサービス精神はブレない。銀時に文句を言われたが、止まらずに説明は続けられる。

「シノンちゃんは何も悪くないのよ。たまたま、またたびをかぶってしまっただけだから……幾ら酔っていても彼女も元は人間……そこをうまく突けばきっと元に戻るわよ……」

 意味深な言葉を呟いた後、あやめは再び気絶して床へと倒れ込んだ。彼女の残してくれたヒントは重要なものだと一同は感じ取っている。

「元に戻る方法? それって一体……」

 キリトも真剣に考え始めていた時だった。

「えへへ! やっぱりキリトじゃ~ん!」

「えっ? うわぁ!」

 彼の目の前にシノンが現れる。陽気にも笑った表情はさながら子供っぽさを見せていた。どうやら彼女もキリト達の存在に気付き、近づいてきたようである。

「ひさしぶりだね~! 元気してた~?」

「げ、元気って……」

「それはこっちのセリフよ! アンタこそ、大丈夫なの!?」

 リズベットが緊迫した表情で聞いてきても、シノンの表情は柔らかいままであった。

「大丈夫だよ~! この通りいつも通りじゃん!」

「全然いつも通りじゃありませんよ! シノンさんはもっと大人びていてクールビューティーな人ですよ!」

「クールビューティ―? ハハハ! 何それ笑っちゃうよ!!」

「こ、これは思った以上の重傷ね……キャラ崩壊もいいところだわ……」

 シリカの説得も無駄に終わり、シノンはまったく戻る気配すら無い。その陽気さには、アスナも気が引いてしまう始末である。全員の調子が狂い始めたところで、いよいよ元に戻すための救出作戦へと入った。

「とにかく、元に戻さないと状況が進みませんよ! 誰か! 酔った猫を元に戻す方法を知りませんか!?」

 新八が呼びかけると真っ先に手が挙がってくる。その正体はまさかのクラインだった。

「なら、この俺に任せておけよ!」

「って、クラがやるアルか!?」

「そうだぜ! こういう酔った猫には額を押すと元に戻るって俺のばあちゃんが言っていたからよ! なら絶対シノンにも効くと思うぜ!」

「って、ちょっと待て!? クライン!?」

 キリトら仲間の不安をよそに、彼は走り出してシノンの額に向けて指を押す。ところが、

「ふにゃゃゃ!!」

「ぎゃゃゃゃ!!」

思いっきり顔を爪で引っかかれてしまい、見事に返り討ちにあってしまう。意表を突かれたカウンター負けで、彼の作戦は簡単に崩れ去ってしまった。

「おぃぃぃ!! あの人何やってんだよ!? ただセクハラしただけでしょうが!?」

 あまりのあっけなさに新八のツッコミも止まらない。一方のクラインはというと、

「違う……俺はただ……」

そう言い残した後に目を閉じてクラインは気絶してしまった。

「あっ、ゲームオーバーアル」

「不吉なこと言わないで神楽ちゃん!? クラインさん気絶しただけだからね!!」

 神楽からも辛辣な言葉を浴びせられる。そんな中、彼のリベンジを果たすべく桂が前へと出てきた。

「仕方ない。では、この俺がクライン殿のリベンジを果たそうではないか!」

「か、桂さん!? アンタがやるんですか?」

 新八はクラインの二の舞になるのかと心配するが、彼には一つだけ秘策がある。

「何、心配するな。俺は年長者だ。このぐらいのこと容易く片づけられるさ」

「か、桂さん……」

「俺の肉球への愛を伝えればきっとシノン君も元に戻るはずだ」

「か、桂さん!?」

「待っていろ、肉球! 必ずや使命を果たしてやるからな!」

「桂さん!!」

 新八が止めようともはや桂は止まらない。思い込みのままシノンへと近づく桂であったが――

「アレ? 肉球ついてなくね?」

途中で重大なことに気付いてしまう。ケットシーのアバターに肉球なんてついていないのだ。気づいた時にはもう遅く、勢いのまま桂はシノンの手を掴み……

「ふにゃゃゃ!!」

「ぐわぁぁぁ!!」

クラインと同じ運命をたどるのである。

「桂さん!! アンタ何しに行ったの!? 自爆しにいっただけなんだけど!?」

「すまぬ……後は頼んだぞ、銀時……」

 顔を痛く引っかかれたまま、さり気なく銀時を巻き込ませて桂も気絶していった。

「って、何で俺なんだよ! こいつ完全に俺になすりつけただろうが!!」

 思わぬとばっちりを受けて引き下がれなくなった銀時は、仕方なく覚悟を決めて行動へと移していく。

「ったく、しゃぁねぇな。後は俺に任せろ!」

「銀時……主にシノンを戻せるというのか?」

「ああ、そうさ。これで戻してやるよ!」

 月詠から言われると、彼はフッと笑い隠し持っていたある物を上に掲げる。

「戻すって……アレ、チョコじゃないの?」

 アスナを始め一同が気付いたのは、銀時の手にした物が携帯用のチョコレート菓子だったことだ。予想外である切り札の登場に、仲間達は驚きを隠せない。すると銀時は事細かに、その理由を話し出す。

「てめぇら子供にはわからねぇと思うが、実は酔った奴の勢いを止めるには甘いお菓子が有効的なんだよ。ここで俺が負のスパイラルを止めてやらぁ!!」

「ぎ、銀さん!?」

「本当に大丈夫なのか!?」

 勝算を見据えたのか、銀時も桂達と同じく突っ走り、シノンの元へ近づいていく。新八やキリトら仲間達が見守る中で、ついに運命の時が訪れる。

「これでもくらえぇぇ!!」

 一瞬の隙を突いて彼はシノンの口元にチョコレートを入れた。それを口にしたシノンは噛んでいないまま飲み込むと、急に唸り声を上げ始める。

「うう~! うわぁぁ!!」

 頭を抱えて苦しんだのも束の間、数秒も経たないうちに彼女の様子は急変した。

「――アレ? 私、今まで何していたんだろう……?」

 ふと我に返ったシノンは、ようやく冷静さを取り戻したのである。表情ははっきりとしていて、雰囲気も大人びさを持ち合わせていた。戸惑いながらも、彼女は完全に酔いから覚めたのである。

「やっ、やったわ! いつものシノノンに戻ったわ!!」

「これが普段のシノアルか! 確かに落ち着いていて大人っぽいアル!」

 喜びの声を上げるアスナと神楽。同時にメンバー全員が、彼女の無事を確認して一安心した。一方でシノンは、現状をまだ把握できていないが、近くにいた仲間達の存在には気付いている。

「えっ? みんな……? 一体なんでここにいるの?」

 驚きを見せるシノンとは違い、仲間達は喜びに満ちていた。あやめ、クライン、桂と犠牲者を出しながらもようやくシノンを元に戻すことに成功したからである。すると、横にいた月詠も話しかけてきた。

「とりあえず、元に戻って良かったな。それにこれには深い訳があるんじゃ」

「深い訳?」

「そうだぜ。俺達がてめぇを止めるのにどれくらいの労力がかかったと思い……」

 とかっこよく締めた銀時がシノンへ近づこうとした時である。

「ん!? うわぁ!?」

 落ちていたまたたび飴の袋につまづき体勢を崩してしまう。転ぶ彼は手をバタバタと動かしていると――

「フギャ!!」

シノンの尻に生えていた水色の尻尾につかんでしまった。不意に掴まれたことで彼女はつい高い声を上げてしまう。ケットシーの尻尾は触れるとくすぐったい感覚になるらしいが、銀時はそれを知る由もない。

「あっ……アレ? 尻尾……?」

 彼は一瞬にして嫌な予感を感じる。顔が真っ青になる銀時に対して、シノンの顔は真っ赤になって恥ずかしがっていた。この状況を見たキリトは、苦い表情となり頭を抱えてしまう。

「銀さん……死んだな……」

 彼に続きアスナら事情を知っているメンバーも同じく頷いている。そして、

「な……何触っているのよ!! この変態!!」

「ぎゃぁぁぁ!!」

反射神経でシノンは銀時に対して怒りの鉄槌をくらわせた。顔を拳で殴られてしまい、彼も桂らと同様気絶の末路を辿ったのである。こうしてシノンを酔いから戻したのだが、大人達四人を気絶させるほどの犠牲を生む結果よなってしまう。またたび騒動はこれにて終結した。

 

 それから数分後。シノンも一通り落ち着き、銀時ら大人四人も気絶状態からようやく元に戻った。そしてシノンは、月詠らからこれまでの事情と自分が酔っていた事実をここで知ることになる。

「ええ!? 私がまたたびで酔っていた……? そう……だから昨日までの記憶がぼやけているのね」

 気付いたのはいいが、やはり酔っていたせいで何一つ覚えていないという。

「そうじゃ。主を止めようとわっちらが止めようとしたんじゃが、銀時によって主を止めてくれたんじゃよ」

「そうだったのね……で、あなたが銀さんね。助けてくれてありがとう。でも、尻尾を触ったことは許されないことだから、拳の件はプラマイゼロってことでいいわよね?」

「おい、勝手に解釈するんじゃねぇよ。それが助けたやつに言う言葉かよ!」

 シノンは改めて銀時へお礼を交わしたが、同時に尻尾を触られたことを根に持っていた。銀時がツッコミついでに一喝するとアスナ、シリカ、リズベットは順々にひそひそと嫌味を話し始める。

「でも、銀さんがやったことは、私達の世界じゃプライバシー侵害よね?」

「キリトさんなら構わないですけど、銀時さんは正直……」

「普通だったら牢獄行きなのに、許してもらっているだけでありがたく思わないとね……」

「おい、てめぇら! 女子特有のおしゃべりで俺を責めるんじゃねぇよ!」

 聞こえるような声で話していたのでつい銀時にツッコミを入れられてしまった。

 ここで場の状況を整理する。現在一同がいるのは先ほどいた部屋で、みな正座やあぐらで座って話し合いをしていた。万事屋や桂一派らに加わって、シノン、月詠、猿飛あやめの計十四人とピナがこの場にいる。自己紹介を後回しにして、込み入った話を続けていた。すると今度は、シノンが仲間達へ話しかけてくる。

「さて、みんなも迷惑かけて悪かったわね。特にあやめさん達は引っかいたりしてごめんね」

「別にいいのよ……どうせ私はマゾなんだから……」

「アンタ、何か泣きそうになってませんか?」

 若干涙目なところを見せたあやめに、新八からのツッコミが入った。彼女に続いて、クラインや桂もこの件についてはさほど気にしていない様子である。

「まぁ、大丈夫だぜ。またたびで酔っていたんだから仕方ねぇよ」

「その通りだ。君の腕には感服した。ぜひ、攘夷志士として――」

「勧誘はやめてください! 桂さん!」

 どさくさに紛れて桂は勧誘を迫ったが、新八によって止めさせられた。そんなシノンだったが久しぶりに会うキリト達の姿を見て、心の底から嬉しく思っている。

「でも、みんな無事で良かったわ。リーファやエギルは見当たらないけどもう見つかっているの?」

「はい! エギルさんはスナックお登勢という店にいて、リーファさんはこれから合流する予定ですよ!」

「そう、なら良かったわ」

 ユイが詳しく説明して、シノンもひとまず安心した。落ち着いたところで、今度はキリトへ話しかけてくる。

「随分遠回りになったけど、キリト達も無事で安心したわ」

「それはこっちも同じだよ。これもやっぱり万事屋のおかげかな?」

「万事屋……今キリト達が所属しているなんでも屋よね?」

「あっ、知っていたんだ! そうよ、今私達はこの銀さん達の元で暮らしているのよ!」

 アスナがそう言うと、シノンは万事屋の方へ顔を向けた。銀髪の男性と眼鏡をかけた少年、赤髪の少女が今のキリト達の協力者であると察している。すると早速彼らも話かけてきた。

「はい、その通りです! 先ほどはうちの大将が情けないことをしてすいません」

「こんな九割がダメで出来ている人間でも、残りの一割は信じてほしいアル!」

「おい、どんな紹介だよ! それほぼ見限られてんだろ! 信じるって方が無理あんだろ!」

 銀時を当たり前のようにけなす新八と神楽。そんな彼らの雰囲気を見て、シノンもその場のテンションに乗っかることにする。

「……わかったわ。一割だけ信じるわ」

「お前も乗るんじゃねぇよ! 何笑ってんだ!?」

 面白い状況につい耐え切れなくなったのか、シノンはクスクスと微笑みを浮かべていた。同時に万事屋へ対しての信頼も生まれている。

(すごい不思議な人達……キリト達が信頼を寄せるのもわかる気がするわ)

 心の中でそっと信じ始めていた。そして万事屋も忘れないうちに自己紹介に入る。

「あっ、私は神楽って言うアル! よろしくアル、シノ!」

「うん、よろしく。神楽」

「僕は志村新八です。ツッコむこともあるかもしれませんがよろしくお願いします!」

「よろしくね。って、ツッコミってお笑いのことを指すの?」

「一応ですけど……」

 軽く挨拶を交わした神楽と新八に続いて、銀時も流れからシノンへ自己紹介を交わす。

「さて、あなたが銀さんね。改めてよろしくね」

「よろしく……ったく、尻尾触ったくらいで顔を赤くするかよ……」

「何か言った?」

「いえ、なんでもありません。勘弁してください!」

 何気ない文句を聞いたシノンは顔色を怖くして、銀時を脅し始める。彼はすぐに謝りを入れており、男としてのプライドもへったくれもない。アスナに続いてシノンにも頭が上がらなかった。

「だから謝るの早いって言ってんだろ……」

 新八にも小さくツッコミを入れられる。万事屋との挨拶も終わったところで次に桂が声を上げた。

「さて、万事屋もいいが俺も忘れては困るぞ」

「えっ? あなたも万事屋の一員じゃないの?」

「違う……俺の名は桂小太郎。侍の一人さ」

 静かに自己紹介した桂だったが、シノンはその名前に違和感を覚える。

「小太郎? 小五郎の間違いじゃないの?」

「小五郎じゃない小太郎だ! 別人だから覚えておくのだぞ」

「あっ、そうなのね」

 てっきり彼女は歴史上の人物である桂小五郎を思い出したようだ。しかし、あくまで人違いらしい。

 

 それから、延々と自己紹介が繰り返し行われ、互いに面識のないメンバーもこれでひとまず名前を憶えてくれた。

「なるほど、シリカにリズベットにピナとクラか……よし、ばっちり覚えたぞ」

「あの、月詠さん? 俺の名前が簡略されているみたいだけど……」

「いいのよ、これで! あごひげはさっさと黙っていなさい!」

「ていうか猿飛さん!? 俺にだけ当たり強くないか!? テンションも高くなっているし!?」

 月詠やあやめは、クラインの扱いを適当にあしらう。銀魂女子にはよくあることだった。一方、シリカやリズベットも月詠らの印象をしっかり記憶している。

「猿飛さんは忍者で、赤い眼鏡が特徴的よね……」

「月詠さんは大人びていてかっこいい女の人です……それに、背も高くてすごい胸も大きいですね……」

「ナー……」

 シリカの悲哀さをピナも共鳴して鳴く。自分とは真逆の容姿をした月詠が羨ましくて仕方なかった。そんな二人もあやめと月詠に対しては、共に頼りになる女性だと思い始めている。そしてシノンは、キリトや銀時と今後について話し合っていた。

「それで、次に行く場所は決まっているの?」

「ああ、そこにはスグがいるからな。無事みたいだけど少し不安かな?」

「それ、どういう意味なの?」

「それはだな……真選組の屯所だからだよ」

「えっ……!?」

 銀時の言葉を聞き動揺する桂。すると彼は急いでエリザベスを連れて、クラインの元に駆け寄る。

「クライン……少しいいか?」

「えっ、何だ?」

 そう声をかけて三人はそっと部屋を出て行く。実は真選組と攘夷志士は敵対関係にあり、簡単に言うと桂は簡単に屯所へ行けないのだ。なので、クラインへ説明するために部屋を出たと思われる。

「クラインさんを連れて桂さんはどうしたのでしょうか?」

「桂さんは少し特殊ですからね……」

 ユイの心配事に新八はそっとフォローを入れた。一方、真選組と聞いて驚いていたのはシノンも同じである。

「新撰組……この世界にもいたのね」

「……でもね、シノノン。多分私達の思っているような新撰組とは真逆の存在よ」

 アスナが注意するように説明するが、シノンはすでに勘付いていた。

「そんなの分かっているわ。あやめさんを見ていたらすっかり耐性がついたもの」

「それは褒められているのかしら……?」

 あやめはそれを言われて複雑な気持ちを示す。とはいえシノンも興味を持ったので、彼女は万事屋に連いていくことを決めた。

「わかったわ。ここまで来たら私も連いていくわよ! この世界の新撰組も見てみたいからね」

「後でショックを受けても知らねぇぞ」

 銀時はボソッと文句を呟く。こうして、お約束通りシノンも仲間に加わり一緒に屯所まで、向かうことになった。再び出発の準備を始める中、神楽は最後に月詠とあやめへある約束を交わす。

「あっ、そうアル! さっちゃん、ツッキー! 今日恒道館でアッスー達の今後について話しあうアル! 二人も来てほしいネ!」

「そうか……今後についてじゃな」

「わかったわ! 私は一足先に行ってサプライズプレゼントとして私を……」

「って、それもはやサプライズになってねぇよ!」

 あやめのダダ漏れの計画に銀時が直々にツッコミを加えた。こうして、二人はあっさりと承諾して話し合いも終了する。

「それじゃ、月詠さん、あやめさん、後でね」

「わかっておる。後でまた合流じゃ」

「銀さんもちゃんと連れてくるのよ!」

「わかっているって!」

 そう会話してシノンは月詠らと一旦別れを告げた。一日しか経っていないが、三人の間には情が深まりつつある。偶然の出会いに感謝しながら一行は外へと出て行った。そして、外へ出るとそこには一人でポツンと待っていたクラインの姿を見つける。

「アレ? クラインか?」

「一人でいますね。桂さんはどうしたのでしょうか?」

 キリトやユイがいち早く気付き彼の元へ駆け寄り、仲間達もそれに続いた。

「おっ、みんなか? 待っていたぜ!」

「って、クラインさん。一体何があったんですか?」

「それはだな……桂さんにも訳があるんだよ。あの人は侍を通すために真選組と敵対している……でも今のうちに真選組を見とけと言われて俺達は後で合流すると心に誓ったんだよ!」

 涙ぐんで話すクラインだったが、要するにわかったのは桂への尊敬と後で合流する約束だけである。この姿にリズベットは思わず皮肉を口にした。

「というかアンタ、桂さんのこと信じすぎよ」

「やっぱりヅラと似ているアルナ! 類はバカを呼ぶとはこのことアル!」

「バカじゃない! クラインだ!」

 神楽の毒舌に反抗するように桂らしい決めセリフで反抗したクライン。その言葉を聞き仲間達はそれぞれ異なる反応を示す。

(こいつ、ヅラに染まっているな)

 銀時ら万事屋は桂の影響力を身に占めてわかり、

(クライン……だいぶ変わったな……)

 キリトらゲーマー仲間は彼の心の変化になんとも言えない気持ちになっていた。こうして、シノンと合流した一行は最後の合流先、真選組屯所へと向かうのである。

 




銀魂が放送を終了して、そのバトンを受け継ぐようにSAOが放送を再開しました。恐らくですけど、銀魂はまたふらっとアニメを再開してくれそうですけどね。それはさておき、この二次小説を読む時だけは、現在の時系列を気にせずに見てくれるとありがたいです。ちなみに、なんでALOの方にしたのかは後日お伝えします。さらにシノンはチョコによって酔い状態から元に戻りましたが、本物の猫にチョコレートを与えると相性が悪いみたいで決して与えないでください。その代わり酔った人間に甘い食べ物は有効的みたいです。話が長くなりましたが遂に次回……本当に全員が集まります。後二訓くらい第一章をお付き合いください。
 後言い忘れましたが今日はちょうど銀魂の主人公、坂田銀時の誕生日です。おめでとうございます!
 では次回もお楽しみに!


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第十三訓 嘘やデマには気を付けろ

やっと、完成!先週は予定と仕事が重なり、なおかつ文体の変更があって投稿できませんでした。最近、忙しくて小説をかける時間がなくて本当に困っています……毎週投稿よりも隔週投稿の方がいいのかもしれません……それはさておき、仲間との合流もいよいよ残すところ後一人!最後までお付き合いください!


 銀時達がキリトの仲間達と合流している間、真選組屯所でも動きがあった。時刻は午前十一時過ぎ。ちょうど万事屋一行が、吉原でシノンや月詠らと話し合っていた時である。屯所にある宿泊部屋にはリーファが泊まっており、今なお眠っていた。寝間着姿で髪をおろし、布団をまるで抱き枕のようにして寝ている。しかもその寝言も幸せそうであった。

「えへへ……お兄ちゃんと二人っきり~!」

 布団に強く抱きつき満面の笑顔を見せている。キリトと一緒に過ごしている夢を見て、楽しい気分に浸っていた。そのせいで、中々夢から覚めようとしない。

「そんな大胆だってば……! こんな人通りの多い中でキスだなんて……! もう、しょうがないわね!」

 ついにはキスというチャンスが訪れる。例え夢であっても関係ない。彼女は全身全霊をかけて彼からのキスを受け止めようとしたが……そこに邪魔者が割り込んでしまう。

「なら、この俺がしてやりやしょうか?」

「えっ……?」

 聞こえてきたのはキリトの優しい声ではなく、やる気のない男性の声である。聞き覚えがあり、ふと目を覚ますと目の前にいたのは――

「おはようございやすー」

沖田総悟だった。昨日と同じく人を馬鹿にしたような表情でリーファの方をじっと見つめていたのである。

「……うわぁぁぁぁ!!」

 急に夢から現実に覚めた彼女は、驚愕してしまった。さっきまでの夢の雰囲気を壊され、今は沖田への恐怖心で心が一杯になってしまう。動揺しながらも今は、沖田へ理由を問い詰めていく。

「お、お、沖田さん!? なんでこの部屋に入ってきているのよ!? ここは男子禁制でしょ!?」

「はぁ? 何を言っているんでい? こちとらてめぇが起きてこないからわざわざ心配して見に来たんですよ。もう十一時なんでねぇ」

「十一時……って、こんなに寝ていたの!?」

 沖田に言われ横にあった時計を見てみると、確かに針は十一時を超えていた。しばらく夢の中にいたとはいえ、これには彼女も驚きを隠せない。一方で沖田はリーファの様子を伺うために、スペアの鍵を使って部屋へと入ってきた。元々やる気すら無かったが、彼女の大胆な寝言を聞くと態度が一変。表情をにやつかせて、早速からかいを始めている。

「それはそうと……いや~すごかったですねぇ。てめぇのブラコンっぷりは……最高でしたよ」

「……ギク! やっぱり聞いていたの……?」

「そうですよ。夢の中で兄とセ〇〇〇や逆〇〇プをしたんですよねぇ?」

「って、違うから! キスだけだから! 勝手に話をねつ造しないでよね、沖田さん!」

 沖田の面白がる表情とは異なり、リーファは顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。彼がいる前では、対抗策が見つからず本調子が出ないのである。ドSさを見せる沖田は、さらなる仕掛けで追い詰めていく。

「そうですかい……なら、これで確認しやしょうか?」

「確認?」

 すると沖田は懐からある物を取り出した。それは一つのボイスレコーダーであり、軽くボタンを押すと聞こえてきたのは、

「お兄ちゃん!! 大大大だーいすーき!!」

さっきまで呟いていたリーファの寝言である。これを聞いた本人は、さらに顔を赤くして動揺を広げていた。

「……ギャャャャ!! なんで、私の寝言なんか録音しているのよ!! 沖田さん!?」

「いや~面白かったんでね。人の弱みを握るってこんなに心が躍るんですねぇ」

「って、渡しなさいよ!! こんなのお兄ちゃんやみんなに聞かれたら私の立場がなくなるでしょ!!」

「いやですよ、こんな面白そうなもの。簡単に渡すわけにはいきゃせんよ」

「渡しなさいー!! このドS!!」

 激しい感情を露わにしながら、リーファは沖田へと近づきボイスレコーダーを奪おうとする。だが、彼の素早い身のこなしによって中々奪うことができない。昨日に続き今日も彼女は沖田に振り回されてしまった。

 

 それから数分後。ボイスレコーダーは、結局リーファに渡されて騒動は幕を閉じる。あまりの執着心に沖田も辟易して渡したようだ。

「ふぅ……やっと奪い返せた……」

 一安心した彼女は、ボイスレコーダーをポケットへしまい後で壊すことを決める。一方で、渋々渡した沖田はリーファへ向かい皮肉を言い始める。

「ったく……たかが寝言如きに本気になりやがって……よっぽど兄貴にバレたくないんですかい?」

「それは、そうよ! 私だってみんなにバレたくない秘密があるんだからね!」

「はいはい。要するにてめぇはブラコンってことですね」

「勝手に片づけないでくれる!?」

 怒りが収まらないリーファとは違い、煽りをやめない沖田。喧嘩はまったく収まらず、二人の溝は深まるばかりであった。そんな沖田は最後にリーファへ本題を伝える。

「そんじゃ、俺は出るんでブラコン星人はさっさと身支度を済ましてくだせぇ。終わったら、鍵を持って昨日いた部屋に来てくださいよ」

 要件を済ますと彼は足早に部屋を出て行った。場は嵐が去ったように静まり返っている。一人になったところで、ひとまずリーファは心を落ち着かせた。

「はぁ……沖田さんに何回振り回されているのよ…… もう、あの人はドSどころか悪魔に等しい人だわ……」

 思わずため息をこぼしてしまう。沖田に限らず真選組と出会ってから彼女は、ことごとく散々な目に合っている。その我慢も限界に近づいていたが、そんな日々も今日で終わりを告げる。仲間との再会が近づき、もうすぐ合流できるからだ。

「早くみんなと会いたいな……そのためにもまずは準備を完璧にしておかないと!」

 再会を強く願うと、自然と気持ちが明るくなっていく。彼女は気を取り戻していき、手早く身支度を始めていった。

 

 一方沖田は、近藤と土方がいる接待部屋へと戻っていた。ここは昨日リーファから事情を聞いた際にも使用した部屋で、今日もここで万事屋の到着を待つことになる。戸を開けた彼は、けだるく二人へ報告した。

「うーす。あのブラコン女を起こしてきやしたぜ」

「どんな呼び方してんだよ……あいつは確かリーファか桐ケ谷直葉って名前じゃなかったのか?」

「そんな中二全開の名前言いたくないですよ。ブラコン女、デカ乳女。後はあずにゃんって言う方が俺にはわかりやすいでっせ」

「いや、そっちの方がわかりにくいだろうが! 最後の名前に至っては中の人ネタじゃねぇか! わかるヤツにしかわからねぇよ!」

 沖田の独自の考え方に土方は大きくツッコミを入れる。ふぬけた報告だが、近藤はしっかりと聞き入れて優しく返した。

「そうか! 無事だったなら何よりだよ! 一緒には来なかったのか?」

「待つのが面倒なんでねぇ。あの手の女子は、朝シャンに洗顔、髪の手入れに時間を使いやすからね。付き合ってられやせんよ」

「だとしても総悟。もう少しリーファちゃんには、優しくしてもいいんじゃないか? あの子は、女の子なんだから男の俺達がしっかりしてないとダメだろ?」

「はいはい、わかってやすよ」

 近藤のアドバイスを受け流し、沖田はふてぶてしく座布団へと座る。適当さが目立つ返答に、土方は冷静に指摘を入れた。

「本当にわかってんのか? リーファに対しては優しくしろってことだよ」

「優しくねぇ……」

 そう呟くと彼は黙々と考え込んでしまう。その心の中はまったく懲りておらず、むしろ開き直っていた。

(悪いな……俺には俺のやり方があるんで何を言っても聞きやせんよ。それに、アレを渡したとはいえ、こっちにはまだ面白いモンが残っているんでねぇ……)

 そう心の中で言うと沖田は、ポケットに入ったあるモノを確認する。それはボイスレコーダーに似た黒い筒状の物体だった。一体沖田は何を企んでいるのだろうか……

 

 時刻はついに一二時となった。真選組屯所前では、ようやく万事屋一行が到着。銀時、新八、神楽、キリト、アスナ、ユイ、シリカ、リズベット、シノン、クライン、定春、ピナの計十人と二匹が門の前に集まっている。

「ここだな。真選組屯所っていうのは……」

「ようやくリーファさんと合流できるんですね……」

 キリトやユイは続けて声に上げた。一昨日にも挨拶を交わして、真選組の存在を知っていたキリトら三人であったが、他の仲間達は初めてその存在を目の当たりにする。

「これがこの世界の新撰組……でも、何か違うような……」

「新撰の文字が微妙に違うわね」

「真に選ぶ……やっぱり私達の知っている新撰組ではないのね」

 シリカ、リズベット、シノンの三人は、自分達の知っている新撰組との名前の違いに違和感を覚えていた。一方で、クラインは名前よりも真選組と桂の関係に気にしてしまう。

「桂さんと敵対しているって聞いたけど、どういうことだ……? まさか、喧嘩しているってことか?」

「あのクラインさん……決してそんな事公の場で言わないでくださいね。下手したらアンタ、捕まりますよ」

 呑気な考察をして新八にツッコミを入れられた。現在の彼は攘夷志士であり、桂と同じ立場にある。もし桂との関係性が真選組等の警察組織にバレてしまえれば捕まってしまうが、彼自身はまだそこまで危機感はない。それぞれが独自の感想を述べたところで、次に銀時がキリト達へ向かって声を上げた。

「まぁ、この世界の真選組はバカの集まりって思っておけばいいよ? もしくは税金ドロボーでも意味は変わんねぇよ」

「散々言われているわね……」

「でも、この世界の新撰組は私達の世界で言う警察なんですよね? さすがに言い過ぎじゃないですか?」

 シノンやシリカは銀時の言っていることが大げさに思っていたが、アスナや神楽らはそれが全て事実であることをよく知っている。

「決して言い過ぎじゃないのよね……」

「真実を知らない方が幸せアルかもな……」

 真選組を知る者と知らない者の間で、かなりの温度差が生まれていた。そんな中、ついに真選組の門が開きはじめる。中から現れたのは――

「だ、旦那方!?」

「や、山崎さん!?」

真選組の監察担当、山崎退だった。外の様子を確認しようとたまたま門を開けたところ、万事屋らと出くわしたようである。ちなみに、山崎がキリトらと会うのはこれが初めてであった。

「山崎さん……? あなたも真選組の一員なのですか?」

 ユイの質問に山崎が答える。

「えっ? そうですけど……って旦那方! まさか、この人達が新メンバーのキリトさん達ってことですか!?」

「ああ、そうだよ。一部違う奴等もいるけどな」

 銀時が軽く補足を加えていた。驚く山崎とは裏腹に、キリト達も彼を見て異なった反応を声に出している。

「山崎……聞いたことのない新撰組の人だな」

「結構マイナーな人かしらね?」

 キリトやアスナからは遠回しで地味だと指摘されて、

「どうせならもっとメジャーな人に会いたかったわね……」

「なんで、近藤勇や土方歳三のような人じゃないのよ……」

「正直がっかりです……」

「って、ちょっとぉぉぉ!? 会ってまだ数分しか経っていないのに、なんでみんながっかりしているの!? 知名度が低いからって、それはないでしょ!」

リズベットら女子三人からはため息を吐かれてがっかりさせていた。山崎の地味さ加減は、別の世界の住人にも伝わっているようだ。すると、今度はクラインが彼へ話しかけてくる。

「あっ、ところでよ、山崎ってやつ。ここにリーファちゃんがいるっていうのは、本当だろうな?」

「というかアンタも十分雑な言い方だな! ……もちろん、リーファさんならウチで預かっていますよ。もう折角ですから、俺が案内するんで連いてきてください」

「おー! マジアルか! ありがとうアル! ジミー!」

「だから、山崎だってば! 旦那方はせめて名前くらい覚えてくれない!?」

 折角の優しさも、影の薄さで帳消しにされてしまう山崎。しかし、彼のおかげでリーファとの再会はすんなり進みそうだった。

「よし! ならお言葉に甘えるか!」

「そうだな。スグは昨日散々な目にあっているし、早く慰めてあげないと」

「散々な目? 何かあったのかよ?」

「それは……」

 とキリトが銀時へ説明しようとした時である。

「おい、山崎!! 何やってんだ!」

 突如渋い男性の声が場に響いていく。一同が前へ振り返るとそこには、真剣な眼差しで銀時らをにらみつける五人の真選組隊士がいた。その中には、スキンヘッドが特徴的な十番隊隊長原田右ノ助もおり、どうやら彼が先ほど怒鳴りを上げたようである。

「は、原田!?」

「原田さん? あの方も真選組の一員なんですか?」

 ユイの問いに今度は新八が答えた。

「そうだよ。でも、なんであんなに怒っているんだろう……まさか、山崎さんが原因!?」

「いや、俺じゃないですよ! 何もやらかしてませんからね!!」

 山崎は真っ向から否定する。原田が怒っている理由を、彼自身もまったく理解していないのだ。すると、原田から銀時達へ話しかけてくる。

「山崎! そいつらはまさか、リーファさんを取り返そうとしている連中か?」

「はぁ? そんなの当たり前じゃないの? アンタ達が連絡したからアタシ達は、ここへやってきたのよ!」

「そうアル! リッフーを取り戻すために私達は来ているネ! 話が違うアルよ!」

 強気に反論するリズベットと神楽。どうやら、万事屋側と真選組側で意見が対立しているみたいだが……互いに勘違いしている理由は、沖田の言ったデマが原因だった。

「何を言っているんだ!! リーファさんはな……沖田隊長の大切な婚約相手なんだよ!!」

 原田の言い放った衝撃発言に、場は静まり返ってしまう。そう、沖田によるデマが一部の隊士の間で大きく話を膨らませていたのだ。昨日には沖田の交際者だと噂程度に広まり、いつの間にか結婚にまで嘘が拡散されている。この言葉が嘘だと知っているのは一部のメンバーだけであり、知らないメンバーはというと……

「えっ……? えぇぇぇ!? リーファさんが結婚ですか!?」

「嘘でしょ!? アタシ達の知らない間に何があったのよ!?」

「本当なの? 嘘じゃないの……?」

かなり惑わされていた。シリカやリズベットは慌てふためき、シノンは思わず絶句してしまう。一方、銀時だけは事態をすぐに飲み込んでいた。

「沖田が結婚……ただの嘘じゃないのか?」

「そうなんだよ、銀さん。だからリーファは大変なことになっているって伝えたかったんだけど……」

「今度はみんなが大変なことになっちゃったわね……」

 アスナはこの混沌とした状況に頭を抱える。万事屋のみが嘘だと見抜き、ここでも温度差が露わになった。女子達が動揺する中、クラインも例外ではない。

「リーファちゃんが結婚……!?」

「って、クラインさんが一番衝撃を受けているんですけど!? どうしたんですか!? まさか、密かに想いを寄せていたってわけじゃないですよね!?」

「いや、違う……! 俺が気になっているのは……」

 新八のツッコミを素通りして、クラインは原田へと近づく。一体何を言うのかと思いきや、彼は急に頭を下げ始めた。

「頼む!! その沖田隊長って人に会わせてくれ!! 一日で女性を口説き結婚させるまでのテクニックを教えて欲しいんだ!!」

「そこぉぉぉぉ!? アンタが別の意味で惑わされているよ!! つーか、アンタが会おうとしている人はこれから敵になる人でしょ!? そこまでしてモテたいんですか!!」

 彼はリーファの結婚よりも、沖田の口説く技術に惹かれて驚いていたらしい。いずれにしろ、デマに惑わされていることに変わりはないが……混沌を極める場にキリトらが対応に困った時である。

「ええい! 下がれ! 二人の恋路を邪魔しようものなら俺達が相手になるぞ!!」

 原田の怒りが限界を超えてしまった。

「うわぁ!!」

 まずは近づいてきたクラインを跳ね飛ばし距離をとると、腰に携えていた刀に手をかける。原田に続き、四人の隊士も同じく刀を構え始めたので、完全に敵意を露わにしてきた。

「おいおい、ここまで話がこんがらがっているのかよ……こうなりゃ戦うしかないってことか?」

「そうみたいだな……戦って突破するしかないかもな……」

 話し合いでは通じない相手だと察して、銀時やキリトは戦闘準備を始める。仲間も続き武器を構えようとした時だった。思わぬ助っ人が銀時らの前に現れる。

「ワフ―!!」

「ナー!!」

「この声は……まさか!?」

 突然聞こえてきた二匹の異なる鳴き声。同時に万事屋一行の頭上を、二匹の生物がジャンプして通過していく。その正体は――

「やっぱり定春アル!!」

「それにピナまで……!?」

ペットである定春とピナだった。突然やる気を見せた二匹の姿に、主人である神楽やシリカは驚きを見せる。今まで様子を見て目立った行動をしていなかった二匹だが、ここでようやくチャンスが訪れた。互いの目的を一致させて、原田ら隊士らに果敢にも立ち向かっていく。

「ペットが相手か……怯むな! 取り押さえろ!!」

 隊士達も容赦なく定春やピナに向かって襲い掛かろうとするが……

「ワフゥゥゥ!!」

「「「「ぐわぁぁ」」」」

「何!?」

人よりも大きい犬には対抗する術もなく、隊士達は全て投げ飛ばされてしまった。さらに隙が生まれているうちに、ピナが追い打ちをかける。

「ナー!!」

 ピナの口から透明な泡が多く発射された。それに当たった隊士達は、みな体の自由が効かなくなり動けなくなってしまう。いわゆる金縛りにあったのだ。

「な、なんだこれ!!」

「動けないぞ……一体何をしたんだ!!」

「えっと……ピナが泡を使ってアナタ達の動きを封じたんですよ!!」

「ナー!!」

 シリカの説明にピナも同じく共鳴する。この技はピナの得意技であるバブルブレス。相手の動きを一定時間封じてしまう技なのだ。この世界でも、威力は健在で変わらぬ効果は発揮してくれた。なおかつ、定春の高い攻撃力も相まって二匹のコンビネーション技が決まる。そして隊士達の動きが封じられたところで……

「よっしゃぁぁ! 今だ、てめぇら! そのまま乗りこめぇぇぇ!!」

銀時が勢いよく声を出した。仲間達を誘導し、強行突入を決めたのである。

「って、ちょっと!? 銀さん!? 本当にいいんですか!?」

「いいアルよ! 細かい事なんて気にしていられないアル!!」

「そうだな! みんな、銀さんに連いていこう!!」

 すぐに納得した一行は、勢いのまま屯所内へと侵入していく。一方でピナや定春はというと、

「ワフ―!」

「ナー!」

共に手を振り見送っていた。二匹はバブルブレスの効力が消えないか、ここで原田らを見張ることにするようだ。みなが知らない間に、二匹の仲も徐々に紡がれている。

「ま……待て……お前ら……」

 一方で、動けない原田らはあっけない敗北を受けて屈辱に打ちひしがれていた。たかが、小さい竜の吐いた泡で負けるなど武士としてのプライドもへったくれもない。虚しい声が場に響く中、もっと悲惨な目にあった男がいる。

「何で俺まで……」

 定春に踏みつけられた山崎だった。彼は巻き込まれた側の人間だったが、どさくさに紛れて定春に蹴り飛ばされ、ピナのバブルブレスを浴びて今に至っている。しかも銀時達に存在を忘れられるなど、悪いことが重なって起こっていたのだ。

「コラボしても俺はこの扱いなんだな……」

 不憫さを感じる山崎である。

 

 遂に屯所への侵入に成功した万事屋一行。みな靴を脱ぎ、廊下を走り抜けていく。順調に進んでいると思いきや、山崎を置いてきたことにより一行はリーファの現在位置を未だに分かっていなかった。

「って、銀さん!? 大丈夫なんですか!? 山崎さん、置いてきちゃいましたよ!?」

「構うかよ! こうなったら手あたり次第探すだけだ!!」

「行き当たりばったりすぎよ! 銀さん! 本当に大丈夫なの!?」

 銀時の大雑把な考えに新八だけではなくアスナまでツッコミを入れる。しかし、もう引き下がることはできない。十人は足を止めずにただ進むしかないのだ。

 一方、リーファは現在部屋にはおらず、沖田の指示した接待部屋へと向かっている途中である。衣装や髪型と身だしなみをきちんと整えて、部屋の鍵もちゃんと持ち合わせていた。

「ようやく終わったわ! これでいつお兄ちゃん達に会っても、大丈夫ね! 早くみんな来ないかな~!」

 気持ちが楽になった彼女は、スキップをしながら廊下を歩いている。仲間との再会を強く願いながら……そして、ついにその時がやってきた。

「何の音かしら……」

 彼女は何かが近づく気配を感じ取っている。曲がり角である廊下の方へ様子を見ようとすると……

「って、うわぁ!?」 

タイミング悪く何者かと衝突してしまい、床へと倒れ込んでしまう。肩をぶつけただけで大したケガもなかったが、リーファは怒りを露わにしている。

「痛ぁ……って、何ぶつかっているのよ!! 廊下を走っちゃダメって……」

 と怒鳴ったのも束の間。彼女はぶつかった相手に驚いてしまった。その正体は……

「お兄ちゃん!? それに、みんな!?」

まさかの仲間達である。よく見ると、エギルを除く全ての仲間がそこにはいた。唐突に訪れた再会に、リーファは脳内が混乱してしまう。それはキリト達も同じ気持ちだった。

「痛たた……って、誰だ……スグ!? いや、リーファ!?」

「えっ? あいつがリーファなのか!? もう見つかったのかよ!?」

 思わず現実の方の呼び名で声をかけてしまったキリト。一方の銀時は、早くも最後の仲間と合流できたことに驚きを隠せない。ちなみに、銀時や新八らがリーファと会うのはこれが初めてであった。

「あれがリーファさんなんですか……」

「何か思っていた妹キャラと違うアル。なんであんなに乳がデカいアルか……」

「神楽ちゃん……気になるところ、そこなの?」

 神楽の妬みに対して新八がツッコミを入れる。彼女は同じ妹キャラとして、外見の違いに一段と嫉妬を燃やしていた。いずれにしても予想よりも早く合流できたのは幸運である。

「よかったです! リーファさんをようやく発見できました!」

「そうね! これで全員集合ね!」

 ユイやアスナは、安心して思わず微笑んだ。だが、リーファはまったくこの状況を読み取れていない。

「えっと……つまり何がどうなってみんなはここにいるの?」

「それはだな……」

 とキリトがリーファへ話しかけようとした時である。

「ちょっと待ってください!!」

「それよりもまずは、教えなさいよ!!」

 急にシリカ、リズベット、シノン、クラインの四人が話に割り込み、リーファへと近づいた。彼女達はまだデマを信じており、その真相を聞くために彼女に問い詰めてきたのである。

「な、何!? 急にどうしたの……!?」

「リーファ……結婚するって本当なの!?」

「……はぁ!?」

 シノンの質問を聞き、リーファは理解に苦しむ。真剣な表情から彼女は、仲間達がデマの影響を受けていると気付き始めている。

「どうやって口説かれたんだよ! 沖田さんって人はどんな男らしい人なんだよ!」

「本当に結婚するんですか!?」

「教えなさいよ! リーファ!」

 あまりのしつこさに彼女は対応に困ってしまったが、ここは大声できっぱりと否定することにした。

「あのね……私は口説かれていないし、沖田さんに恋しているわけでもないのよ!! それは全部デマ!! 私は沖田さんと関係なんか一斉もっていないんだからね!!」

 全力で伝えた彼女の渾身のメッセージ。局内中に響き渡り、仲間達にも十分伝わっている。

「えっ……そうなの?」

「そうだよ! 昨日宿泊部屋を借りる際に沖田さんが言った嘘が大きくなっただけだからね!! だいたい、沖田さんと付き合うくらいならおに……もっと別の人と付き合うわよ!」

「おい、今は本音が出なかったか!? 完全に言いかけたじゃねぇか!」

 興奮のあまり思わず本音を言いかけたリーファ。幸いにも銀時や神楽くらいしか気づいていない。一方、リーファの弁解を聞いた一同は一旦沈黙し、ようやく全てを理解した。

「な、な~んだ! やっぱり嘘だったのね!」

「ア、アタシ達はちゃんと最初からわかっていましたよ!」

「そんなことあるわけないわよね……」

「いや、完全に信じ込んでいたわよね。三人共……」

 シリカら女子三人はすぐに誤魔化したが、その心の中は嘘で踊らされた自分を密かに後悔している。だが、やっぱりクラインだけは別のショックを受けていた。

「な、なんだ……やっぱり一日じゃ女の子と結婚までに発展しないってことか……」

「てか、クラインさんは何に対してショックを受けているのよ!? アナタだけ、話題がズレているわよ!?」

 リーファもこれにはツッコミを入れるしかない。嘘が原因の騒動も一段落したところで、再びキリトが話しかけてきた。

「まぁ、嘘は置いといて。まずはお疲れさま、スグ。昨日は大変だったな、無事で何よりだったよ」

「うん! 慰めてくれてありがとうね! お兄ちゃん!」

 キリトからの励ましの言葉をかけられて、思わずリーファは照れてしまう。一日ぶりの再会を彼女は心から喜んでいた。するとある疑問が浮かび、早速キリトへ聞いてくる。

「あっ! そういえば、お兄ちゃん達が万事屋って言うなんでも屋に入ったって聞いたんだけど、それって本当なの?」

「えっ? 知っていたのか?」

「うん。近藤さん達から聞いていたから」

 リーファが知りたかったのは、万事屋についてだった。彼女自身も半信半疑で本人から直接聞いてみたが、

「まぁ、本当だよ。この世界へ来てからは、万事屋の一員として活躍しているんだよ」

「そうだったんだ……」

やはり事実である。リーファは、期待と共に不安も入り混じり苦笑いで返してしまう。すると、キリトへ代わり今度は神楽らがリーファへと話しかけた。

「そうアルよ! キリやアッスー、ユイもみんな働き者でこっちは助かっているアルからナ!」

「……あの、もしかしてあなたがその万事屋って人達なの?」

「そうネ! 私は神楽って言うアル! それと冴えない眼鏡が新八で、けだるい銀髪男が銀ちゃんアル!」

「って、神楽ちゃん!? 真面目に紹介してよ!」

「つーか、何週に渡って自己紹介すんだよ」

「そこはツッコまないでください! 銀さん!」

 神楽のふざけた紹介や銀時のメタ発言に大きくツッコミを入れる新八。いつもの万事屋らしい光景に、リーファは名前よりも愉快で賑やか人達であると感じていた。

「なんだか、明るそうな人達ね……」

「まぁ、アレが万事屋のいいところなんだよ」

「すぐ笑いに変えちゃうもんね」

「さすが、万事屋ですね!」

 既に万事屋に慣れた、キリト、アスナ、ユイの三人はさも当たり前のように答えていたが、リーファはまったく慣れていない。

(三人共、もう馴染んでいるんだ……でも、良い人達みたいだから安心したわ……)

 それでも、彼女は心の中でそっと万事屋の雰囲気に安心する。少なくとも悪い印象は持っていなかった。互いに顔見知りになったところで銀時が場を仕切りだす。

「まぁ、詳しい話はここよりも移動してからの方がいいだろうな」

「それもそうだな。それじゃ、みんな! まずはここを出ようか」

「賛成アル! バカ共に見つかったら余計に時間を食うアルからナ!」

 彼らは一旦屯所を出ることで考えが一致した。とその時である。

「おいおい、何の騒ぎだ?」

「まだ来ないですかい、あいつは?」

「一体何が……って……」

 何とタイミング悪く、リーファを探していた近藤、土方、沖田の三人とばったり会ってしまった。互いに目を合わせて沈黙が続いてしまう。

「って、このタイミングで会うのぉぉぉ!?」

 新八のツッコミが無常に響いていく。果たして彼らはこの危機を脱せるのだろうか……

 




元々下書きをしてから行うのですが、今回はもっとも変更部分が多かったのでこんなに遅れてしまいました。すいません……次回はこの話の続きと最後のまとめの二つの話を上げようと思います。うまくいけば来週には投稿できます。もし更新していなかったら次の週まで待っていただければ幸いです。いよいよ第一章も完結……最後までお付き合いください。


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第十三・五訓 嘘やデマには気を付けろ 延長戦

 お久しぶりです!まずは前回の延長戦が出来上がりました!オチをつけての続きです。いつもより少なめなのでご了承ください。では、どうぞ!


 遂に最後の仲間、リーファと合流できた万事屋一行とキリト達。しかし、場を去ろうとした時に近藤、土方、沖田の三人と鉢合わせしてしまい、よからぬ空気が漂い始めていた。

「って、このタイミングで会うのぉぉぉ!?」

 新八のツッコミが無常に響いていく。偶然過ぎる展開にみな反応に困っていたが、銀時は一段とにらみつけて喧嘩腰で三人に声をかけた。

「おいおい。何かっこつけて出てきてんだ、てめぇら。余計な文体を増やすんじゃねぇよ」

「うるせぇ、てめぇらに言われたくねぇよ。不法侵入者共」

 銀時の言葉にすかさず土方が反応する。こちらも同じく喧嘩腰である。

「不法侵入だぁ? こちとら、沖田君の流したデマで大変だったのに状況を分かって言ってんのか?」

「総悟の嘘はいつものことだろうが。だいたいこっちだって、てめぇらを待っていたというのに勝手に入ってきやがって……喧嘩でも売ってんのか?」

「売ってねぇわ! 煽るのもいい加減にしやがれ! マヨラー!」

「それは、こっちのセリフだ! 天パ!」

 そして、二人の口喧嘩はより激しさを増し始めた。一触即発の状態となったので、見かねた仲間達が慌てて止めに入る。

「って、落ち着けよ! 銀さん! 土方さん!」

「トシ! もういいだろ! リーファちゃんが、無事に仲間と合流できただけでも何よりだろうが!」

 キリトは銀時を、近藤は土方を抑えて事態の収束を図った。この光景を見た仲間達はそれぞれ違う反応を示している。

「はぁ……銀ちゃんもマヨラーも懲りないアルナ……」

「喧嘩するほど仲が良いって言うけど、あの二人だけは絶対違うわね……」

 神楽やアスナは、変わらぬ二人の仲の悪さを見てため息を吐く。一方でリーファを除くキリトの仲間達は、初めて土方ら三人の真選組を見て驚きを口にしている。

「土方さん……!? もしかして、あの人が土方歳三さんなんですか!?」

「えっ、嘘でしょ!? あのⅤ字前髪の男の人が!?」

 シリカやリズベットに続きシノンやクラインも声に出した。

「じゃ、あの二人も真選組の有名な人なのかしら?」

「えっと、誰かいたか……まったく思いだせねぇ!」

 困惑する四人に対して、新八やユイが説明を加える。

「まぁ、簡単に説明すると、あの人は土方十四郎さんで真選組の副長を務めている人なんですよね」

「十四郎!? ……って、ことはアタシ達の知っている土方歳三とは別人ってことよね?」

「その通りですよ! さらに、髪の毛が立っている方が近藤勲さん。中性的な顔をしているのが沖田総悟さんですよ!」

「みんな! 沖田さんだけには気を付けて! 何を考えているかわからない男だから!」

「何で俺にだけ警戒しているんでい」

 途中でリーファが沖田への警告を挟み、本人からツッコミを入れられた。しかし、これでシリカら四人も近藤ら三人を覚えたのである。一方、近藤達も初めて見るリーファの仲間達を気にかけていた。

「おい、トシ! もしかして、あの四人もリーファちゃんと同じ妖精ゲーマーって奴等か!?」

「もしかしなくてもそうだよ。てっきり天人と間違えそうな外見だよな」

「優しくすれば簡単に落ちそうな女ばかりですねぇ」

「総悟……それだけはやるなよ。別作品のキャラだからな……」

 近藤は動揺していたが、土方や沖田は至って冷静を保ったままである。沖田だけはリーファの言う通り良からぬことを考えていたが……と互いの事情が分かったところで、再び銀時が声を上げた。

「ところでよ、特にないならこのまま帰らせてもらうぜ! 俺達も暇じゃねぇんだよ!」

「おい、ちょっと待てよ。用だったあるぜ。真選組として伝えるべきことがな」

「はぁ? なんだよそれ?」

 土方の真面目な雰囲気を察して場は急に静まり返る。そして、彼は落ち着いた口調でキリト達にあることを伝えていく。

「廃刀令についてだ。てめぇらの武器についてどう対処しようか悩んだが、天人と同じ扱いにすることで決めたから、取り上げたりはしねぇよ」

 それは廃刀令についてだった。一部の人間しか武器を持つことを許されないこの法律に対して、真選組はキリト達SAOキャラクターが持つ武器を例外として見なし、所持を公に認めたのである。

「つまり土方さん達は、俺達が別の世界から来たことを正式に認めたってことか?」

 これにはキリトが興味深く反応した。

「まぁ、そういうことになるな。だが、別世界から来たとはいえ、この世界のルールや法律にはちゃんと従ってもらう。破るなら俺達が対処するが、それで文句はねぇよな」

「――もちろんだよ。俺達は犯罪なんか起こすことはない。それだけは絶対に言える……!」

 土方へきっぱりと言い切ったキリト。仲間達に悪人などいない。その瞳は、仲間を信じ切っているまっすぐな目だった。一方、その言葉と共に銀時やアスナはなぜかクラインの方へ顔を向けている。

「えっ、どうしたんだ? 俺の顔に何かついているのか?」

「いや、だって今のお前はアレだし……」

「一番捕まりそうな人よね……」

「って、二人共!? 何言ってんだよ! 今の俺は誇り高き攘夷――」

「だから、口に出すんじゃねぇよ!」

「捕まりたいの、アンタ!?」

 攘夷志士と言いかけたので、銀時とアスナが急いで彼の口を塞ぐ。今のクラインは良く言えば本物の侍。しかし、悪く言えばテロリストなので、真選組の前で正体がバレるのは危険なのだ。だが土方には運良く聞こえていないので、構わずに話を続ける。

「まぁ、全員を見てる限りしっかりしてそうだし大丈夫だと思うけどな」

 と言った時、リーファが急に彼へ声をかけた。

「あ、あの……土方さん。一つ聞いていい?」

「ん? なんだよ?」

「……廃刀令って何?」

「って、知らなかったかよ……説明不足だったな」

 そう。実は廃刀令はキリト、アスナ、ユイの三人以外にはまったく知らされていない。つまり、さっきまでの話を理解していないのである。

「アレ? みんな、知らなかったアルか?」

「そうよ。でも名前から武器に関係することよね?」

 そうシノンが言うと、次に近藤が前に出てみんなへ説明をした。

「その通りだよ。この世界では、一部の人間しか武器を持つことを認められていないんだ。でも、君達は例外と認めるから武器の所持は可能になったってことなんだよ」

「そうだったんですか……やっと意味がわかりました」

 回りくどくなったが、一応廃刀令の意味はシリカ達にも伝わる。だが、それを知ったクラインがまた余計なことを口走った。

「つまり刀を持ってはいけないってことか……あっ! だから桂さんは真選組と敵対――」

「おい! いい加減思ったことを言うんじゃねぇよ!」

「少しは学習しなさいってば!」

 再び言い放った爆弾発言。銀時とアスナがすかさずクラインを取り押さえる。しかし、また幸運にも土方ら三人には全て聞かれていない。

「まぁ、分かればいいよ。真選組から言えることはそれだけだな」

 土方がそう言い切ると、今度は近藤が話かけてきた。

「それじゃ次は俺達個人としての番だな。改めて紹介しよう。俺達は真選組だ! 恐らく君達の世界で言う警察のようなもんだ。もし、俺達に出来ることがあればなんだって協力してやるぜ! まぁ、俺は局長だけど気軽に話しかけてくれよ!」

 彼は自らの口で、挨拶を始める。元気よく初見の人にも良い印象を持たせようと笑顔で接してきたが、

「でも、局長って言っているけどああ見えて全裸になって素振りする変態の男だからね」

「ええ、そうなの!?」

「そうそう。土方さんはご飯にマヨネーズかけて食べるし、沖田さんはいじめるのが大好きだし、気を付けておいたほうがいいよ」

「って、リーファちゃん!? イメージ悪くなること言わないでくれる!? アレはたまたまだから! 毎日ってわけじゃないからね!!」

リーファに近藤達の所業が全て暴露されてしまった。良い印象どころか逆に悪い印象が与えられる。近藤は焦って表情も落ち着かなくなるが、土方や沖田は顔色を変えずむしろ開き直っていた。

「まぁ、こうなるだろうと思っていたよ」

「近藤さん。妖精たちにいい顔しようともアンタがゴリラであることには変わらないから、焼け石に水ですよ」

「ちょっとやめて、二人共! せめて努力しようよ! 別世界の住人にはいい顔くらいしようって!」

「初登場した時にストーカーって言ったヤツなんかに言われたかねぇよ」

「アレはストーカーではなく愛を求める――」

 三人の間でグダグダな揉め事が展開された時である。

「じゃあな、ゴリラ! バイバイアル!」

「せめて、妖精共に手当くらい支給しとけよ。税金ドロボー」

「あっ! 待って、みんな!!」

 空気に連いてこられなくなった一行は、そのまま無視してその場を立ち去ってしまう。結局、真選組は良いイメージを与えられずに会話が終了したのだった。

「まぁ、あのバカ共は置いといて。どうだった、てめぇら? 真選組の印象は」

「思っていた人達とだいぶ違いました……」

「なんだか疲れる人達ね……でも別人で安心したわ」

 銀時の問いにシリカやシノンが答える。他の仲間達も同じ気持ちであり、みな疲れた表情をしていた。特にリーファは、真選組に対して強く否定する。

「そうだよ! あんなのが沖田総司だなんて、私は絶対認めないんだからね!!」

「おお! リッフーもあいつのことが嫌いになったアルナ!」

「でも、ここまで否定するのは、沖田さんに何かされたからなのか?」

「そ、それは……」

 キリトが聞くと急に口を閉ざしてしまう。すると彼女は、ポケットにしまっていたボイスレコーダーを確認した。これは今日の朝、寝ている時に沖田に寝言を録音されたモノである。

(さすがに撮られたとは言いづらいし……後で壊した時に言おうかな)

 と彼女が心の中で呟き安心しきっていた時だった。

「そろそろですかい?」

 沖田が不敵な笑みを浮かべて、手に黒い筒状の物体を持つ。そして、中央のスイッチを押すと聞こえてきたのは――

「お兄ちゃんと二人っきり~!!」

「……えっ!?」

なんと彼女の寝言だった。場に腑抜けた言葉が響き渡る。仲間達はそれを聞き、みな困惑してしまう。

「えっ? 今の声って……」

「リーファさんでしたよね?」

 注目が彼女へと集まっていく。しかし、リーファは今起きている状況がまったく理解できずに動揺していた。

「嘘……なんで!?」

 焦った彼女は、ポケットに入れていたボイスレコーダーを取り出す。だが、ボタンを押しても音声は聞こえてこない。これを知り、彼女は徐々に状況を理解し始める。

「ま、まさかこれって……」

 そう、考えられる犯人はただ一人。リーファが振り向くと、その男は嘲笑いながらこちらへ向けていた。

「おや? ようやく気付いたんですかい? これが偽物だってことに」

 犯人はやはり沖田総悟である。彼が安々とボイスレコーダーを渡すはずがない。数時間前にリーファに渡したのは、何も録音されていないモノだったのだ。こんな簡単な仕掛けに最後まで気づけなかった彼女は、悔しい気持ちで胸が一杯になる。一方、

「お兄ちゃん!! 大大大だーいすーき!!」

種明かしをした後でも沖田は音声を流し続け彼女を煽ってゆく。そして、遂にリーファの堪忍袋の緒が切れた。

「沖田さん……もう……いい加減にしなさいぃぃぃぃ!!」

 激高したリーファは、顔を怖くさせると緑色の羽を広げ飛行しながら沖田へと突進する。

「おおっと。これはまずいですねぇ」

 しかし、沖田は怯むことなく逃げてさらに彼女を煽ってくる。

「ほら~捕まえるもんなら捕まえてくだせえよー」

「待て!! このドS男!! アンタだけは……絶対許さない!!」

 二人の追いかけっこは収まる気配がなかった。さらに、火に油を注ぐ事態が起こる。

「おい、ドS!! リッフーをいじめるのもいい加減にするアル!! 私がこの手で制裁を加えてヤルネ!!」

「って、神楽ちゃん!? ちょっとぉぉ!? 追いかけるの!?」

 何と神楽までもが追いかけっこに参加を始めたのだ。沖田への憎しみが、衝動的に彼女を動かしたらしい。そんな、カオスな光景に仲間達も違った反応をする。

「はぁ……総悟も懲りない奴だな」

「年が近いから気が合うと思っていたが、ここまで悪くなるとは」

 近藤や土方は沖田の性格に難色を示し、

「えっと……つまりあの声は一体何だったのでしょうか?」

「まぁ、リーファがあれほど怒っているなら、沖田さんに何かされたってことじゃないのかしら?」

「なんだか、リーファちゃんが可哀そうになってきたわ……」

ユイやシノン、アスナを始め仲間達は彼女の不運さを見て哀れに思い始めていた。

「沖田さんはとんでもないドSだったんですね……」

「リーファも悪い友と出会ったってわけね」

「友じゃないと思いますけど……」

 シリカやリズベットの言葉に新八が軽くツッコミを入れる。一方、銀時やキリトは至って冷静だった。

「まぁ、お前の妹も運が悪かったってことだろうな。後でしっかりフォローいれとけよ」

「分かっているよ、銀さん。それにしてもあの声は、沖田さんが勝手に作った声なのか?」

「お前は意外にも純粋だな……」

 そっと銀時がツッコミを入れる。だが、クラインだけは反応が異なっていた。

「なるほど……イケメンだったら何をしても許されるということか……」

「お前はどこにショックを受けてんだよ」

 またも銀時がツッコミを加える。こうして、最後の仲間であるリーファと合流できた万事屋一行であったが、沖田の仕組んだ策によってグダグダな締めくくりを迎えるのだった。

「もう!! なんで私ばっかりこんな目に合うのよぉぉぉぉ!!」

 彼女の悲痛な叫びが屯所中に響き渡る。その一方で、足止めをしている定春とピナは、

「ワフ―?」

「ナー?」

動けなくなった山崎をさすって遊び始めていた。どうやら、見張りに飽きて山崎をおもちゃとして扱い始めたようである。

「アレ……俺、これで出番終わり? 蛇足じゃない?」

 自問自答を問う山崎だった。




 結局綺麗に終われないのが銀魂です。やっぱり沖田は容赦ねぇな……さぁ、次回へと話を戻して、いよいよ銀魂並びにSAOのレギュラーメンバーが恒道館へと集結します!第四訓でちらっと出たあのキャラクターも登場します!次回は明日か明後日には投稿できますので、ご期待ください!あっ、ちなみに次回は真選組の出番はないです。


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第十四訓 集合時間はちゃんと確認しておこう

 遅れてすいません!やっと出来ましたが、後半で加筆部分が見つかったのでまずは前半部分です!予告で言っていた四話のキャラクターは後半に出てくるので、そこはご了承ください!それでは、どうぞ!


 時刻が十四時を過ぎた昼下がりのかぶき町。キリトの仲間達と合流した万事屋一行は、最後の目的地である恒道館へと足を進めていた。全員がゆっくりと歩く中、銀時はスクーターを手で押しながら、神楽とユイは定春に乗りながら向かっている。すると、銀時がキリトへ話しかけてきた。

「さて、これでお前らの仲間は全員集まったんだろうな?」

「うん。お登勢さんのところにいるエギルを除けばこれで全員だよ」

 今一度、全員が揃っていることを確認する。新八、アスナ、神楽、ユイ、定春と自分達を含めた万事屋の六人と一匹に加え、シリカ、リズベット、リーファ、シノン、クライン、ピナといったキリトの仲間達が五人と一匹。総勢十一人と二匹で住宅街を移動していたのだが――未だに不機嫌なメンバーが一人いた。

「はぁ……なんで私ばっかりこんな目に合うのよ……」

「しっかりするネ、リッフー! ドS野郎にいじめられてもくじけちゃダメアルよ!」

 落ち込むリーファを神楽が励ます。彼女は、数時間前に沖田のいたずらで酷い目に合わされており、仲間達に自分の恥ずかしい寝言を晒されたのだ。怒り狂ったリーファが沖田を追いかけまわし、神楽までも加わったこの騒動の結末は、近藤や土方が止めに入ったことで収束する。沖田の代わりに近藤ら二人が謝り、彼自身もいたずらで寝言を録音したことだけは認めたが、リーファへの謝りは一斉無かった。仲間への誤解は解けたものの、まだ彼女は心から納得していない。

「でも……あんな寝言をみんなの前で晒されて、これから私はどう生きていけばいいのよ……」

 やはりショックが大きかったのかズルズルと引きずるリーファ。顔色も悪く落ち込んだままである。そんな彼女に対して、仲間達は次々と励ましの言葉をかけた。

「そんなこと思わないでくださいよ、リーファさん! アタシ達だって、大変な目に合っていたんですから!」

「えっ? それって、どういうこと?」

「まぁ、この世界へ来てからお妙さんって言う女の人に助けられたんだけど、あの人の作った卵焼きを食べてアタシやシリカ、ピナは一日中気絶していたのよ」

「ええ!? 卵焼きで気絶するの?」

「しますよ。お妙さんの作った卵焼きだったら……」

 まずはシリカとリズベットが、自ら犠牲になった体験談をリーファへ話す。彼女達にとって妙の作る卵焼きはトラウマに等しかったが、明るい表情から共に気にしていないように見えた。すると、流れに乗ってシノンも失敗談を話し始める。

「それに私は、またたびを浴びて半日酔っていたのよ。しかも、キリト達にも見られていたからリーファと同じく恥をかいたのよね」

「シノンさんが酔った……!?」

「そうよ。身に覚えはないけど、ずっと月詠さんに甘えていたらしいわ」

 冷静に自分が酔って迷惑をかけたことを打ち明けたシノン。無自覚とはいえ彼女もリーファと同じく仲間に、恥ずかしい姿を晒してしまった。だが、微笑んだ表情を見ると彼女も大して気にしていないように見える。さらに、アスナやユイも続く。

「私達だって大変だったのよ。この世界へ来たら変な宇宙人に捕まって食べられそうになったんだから」

「でも、神楽さんが助けてくれたおかげで、私達は万事屋と会うことができたんです!」

「その通りネ! 不幸中の幸いってヤツアル!」

 二人は初めて神楽と出会った時の危機的状況を話す。大変な目にあったにも関わらず、やはり三人も明るく笑い話で済ましていた。これらの話を聞き、リーファはあることに気付く。不幸なのは、自分だけじゃないということを。

「そうだったんだ……みんなも大変だったのね」

「まぁ、不幸だったのは自分だけじゃないってことだよ。悪いことがあれば、その分良い事もあるからよ。現に、仲間や兄貴と合流出来たじゃねぇか」

 銀時がそう励ますと、次にキリトが彼女へ声をかけた。

「寝言くらいで、俺達は気にしていないよ。だから、そう深く考えるなって。スグ」

 義兄の優しくも温かい言葉がリーファの胸に刺さる。すると、気持ちが楽になり彼女は徐々に元気を取り戻していった。

「お兄ちゃん……励ましてくれてありがとうね!!」

 そして、振り切った笑顔をキリトへ返す。ようやく彼女も平常心を戻していった。仲間達も一安心する中、銀時が音量を下げて皮肉を口にする。

「そうそう。そこまで気にするなってことだ。だいたい妄想がバレたって言うけど、お前らの仲間も同じような事一つや二つ思っているから安心しとけって」

「同じ? とはどういうことでしょうか?」

「いいや、なんでもねぇぜ! ユイにはわからねぇ大人の事情だからな!」

 ユイが不思議そうに聞くと銀時は慌ててごまかしを入れた。奇遇にも小さい声だったのでシリカ達には聞こえていなかったが、雰囲気から銀時が良からぬことを言ったことは察している。

「なんか銀時さん、怪しくないですか?」

「確実にアタシ達のこと言っていたわよね」

「今度聞こえたらどうなるか覚えておきなさい……」

 疑いを強めるシリカ、リズベット、シノンの三人。共にしかめっ面の表情となり、銀時の方へにらみつけていた。キリトと違い銀時への対応は甘くない。その一方、

「って、アレ? おい! 俺の桂さんとの出会いをまだ話していないじゃねぇか!」

「完全にタイミングを逃しましたね。まぁ、それは僕もなんだけど……」

新八とクラインは言葉をかけるタイミングを失い、ここでの出番を失ってしまう。チャンスを逃し、共にため息を吐いてしまう。そんな会話を交わしながら、仲間達は恒道館へと道を進んでいく。

 

 しばらく歩いていると、一行はとある門の前に止まった。そう、ようやく恒道館へとたどり着いたのである。

「よし、戻ってきたぞ。恒道館に」

 着くなり銀時が声を上げた。万事屋らが恒道館に戻ったのは実に数時間ぶりだが、リーファとシノンにとっては初めて訪れる場所でもある。

「ここが恒道館……確か新八君の家で道場なのよね?」

「そうですよ。ビームサーベ流を教える立派な道場ですから!」

「ビ、ビームサーベル!?」

「随分変わった流派を教えているのね……」

 予想もしなかったダジャレのような流派にシノンら二人は反応に困ってしまった。もちろん、他のメンバーも同じである。

「ビームサーベルってどっかで聞いたことある名前だよな」

「そこは気にしないでください! 色々訳があるんですから!」

 またもクラインが余計なことを言いだしそうなので、新八がすぐに説得させて沈静化させた。道場について軽く触れたところで、銀時とキリトが手を叩き一同へ向けて話しかける。

「はい、注目―。これより、俺達から大事な話があるのでちゃんと聞くようにー」

「って、なんで銀時さんはやる気のない声で言うんですか!?」

「なんか引率の先生みたいね……」

 銀時が腑抜けた声で伝えてきたので、シリカやリズベットからツッコミを入れられた。と一行の注目が二人に集まったところで、今度はキリトが口を開く。

「まぁ、銀さんは置いといて、まずはこれからの予定をみんなへ話しておくよ」

「これから……確か月詠さん達と一緒に話し合いをするのよね?」

「その通り。銀さん達の知り合いがここに集まって意見交流をするんだよ。もちろん、この先のこともしっかり話し合うよ」

 シノンからの質問にキリトはすぐに返した。彼の言う通りこれからこの道場には、多くの大人達が集まる。自分達が置かれている状況、並びに今後立てるべき目標を今一度整理させる。まさに、今後の彼らを左右させる重要な分岐点でもあるのだ。

「そうでしたね……アタシ達の知らない間に大きく事態が動いていたんですよね」

 シリカを始め仲間達はこの事態に感慨している。多くの大人達が自分達のために、協力してくれることに感謝しかないのだ。すると、銀時が再び話しかける。

「まぁ、結果オーライってところだろ。お前達が出会った大人達は、バカで人として欠けている部分もあるが、それでも厚い情を持っている。そんな奴等と出会ったことで、この世界でもお前らは再会できたんだ。俺は事態がうまくいっている方だと思うぜ」

 彼は自分らしい言葉を使ってキリト達を励ました。前も後ろもわからないこの異世界で、銀時ら万事屋やその個性的な仲間達と出会い、今こうしてみんなと合流できたのは奇跡に等しい。その重みをキリト達は深く受け止めている。

「銀さん……励ましてくれてありがとうね」

「別にいいよ。俺達は当たり前だと思って、行動しているだけだからよ」

「なんだかいつもよりも大人ですね、銀時さん!」

 アスナからのお礼に銀時はそっと微笑んで返す。その光景に、ユイは思わず彼を見直していた。普段はあまり見せない優しさが、銀時への信頼を高めていく。それはキリトだって同じである。

(やっぱり銀さんらしいな。普段はふざけたり情けない部分もあるけど、こんな大人らしいことも言えるなんて……この人と出会えて本当に良かったよ)

 そう思うとついクスッと表情が緩んでしまった。照れ臭く口には出せない言葉だが、キリトは心の底から銀時への信頼を強めていく。仲間達も銀時を見直す中、突如恒道館の門が開き始める。

「あっ! 銀ちゃん! 門が開いたアルよ!」

「おっ! ってことは、お妙と九兵衛か? 開けてくれて、ありがと……」

 と銀時が礼を言った時だった。門を開けると見えてきたのは――

「誰がバカで人として欠けているじゃ!! ボケェェ!!」

「ブホォォォ!!」

強烈な飛び蹴りを交わす妙の姿である。突然の出来事に銀時は避けることができず、彼女の飛び蹴りを腹に食らってしまい、そのまま隣の壁まで吹き飛ばされてしまった。

「ぎ、銀さん!? ちょっとぉぉ!? 何が起こったの!?」

 衝撃の展開に新八のツッコミは止まらない。他のメンバーも最初はこの状況をまったく読み込めずにいる。一方妙はというと、

「ふぅ……って、アラ? ごめんなさいね! これでも通常の五割しか力を出していないから安心してね!」

「いや、何のフォローにもなっていないよ! むしろ恐ろしさを与えているだけだよ!」

周りの状況に気付き表情を柔らかくして誤魔化した。しかし、幾ら言い訳を言おうとも既に逆効果である。さらに、そこへ遅れて九兵衛もやってきた。

「妙ちゃん!! そこにいたのか!!」

「あっ、九ちゃん! ごめんね、急に飛び出して。銀さんが悪口を言っていたから、つい壁に飛び蹴りしたら本人に当たっちゃったのよ! 偶然って意外にも近くで起こるものなのね~」

「って、偶然だったんですか!?」

「相変わらず勢いのある人ね……お妙さんって」

 妙の呑気な言葉に、シリカとリズベットもツッコミを入れる。どうやら彼女は、故意で銀時へ攻撃を仕掛けたらしい。これには一行の動揺も止まらなかった。

「すごい……凛としているだけじゃなくて度胸があるなんて……まるで男みたいだ……!」

「おい! 今なんて言った、ゴラァ?」

「いや、なんでもないです!!」

 本音をこぼしたクラインに、妙はにらみを効かせて脅す。男みたいと言われるのが、彼女にとって最大の侮辱にあたるのだ。

「お妙さんだけはどうしても敵に回したくないわね……」

「もう素手でラスボスのモンスターと張り合えそうだよな……」

「キリトさん、アスナさん。そこは僕も否定しません。むしろ、肯定します!」

「って、新ちゃんまで何てこと言ってんのよ!」

 キリトやアスナも苦笑いをしたまま言った例えに、新八はツッコミをするどころか共感してしまう。それくらい、妙には恐怖を感じていた。一方で、妙らを初めて見たリーファとシノンは状況を理解していない。

「えっと……お妙さんと九ちゃんって言うの?」

「どうやら私達が会っていない、キリト達の知り合いみたいね……」

 戸惑う二人に対してユイが近づき本人に代わって説明をした。

「その通りですよ! 先ほど銀時さんを吹き飛ばした女性は、志村妙さん。新八さんのお姉さんなんです!」

「お姉さん……って、新八君、弟だったの!?」

「それと眼帯をつけた女性が柳生九兵衛さん。外見から分かりづらいですが、男性ではなく女性ですよ!」

「九兵衛……新撰組に続いてまた偉人と似た名前の人ね」

 印象が強かったせいか、早くも名前を覚えた二人。妙に対しては男勝りな女性だと認識し、九兵衛に対しては偉人の人物と似た印象を持ち合わせる。さらに神楽も説明に加わった。

「そうネ! 姉御達は強いからジャンジャン頼るといいアル! 同性に対しては優しいし、みんなの心強い味方にあるアルよ!」

「えっ? そうなの、神楽?」

「うん! 姉御はあまり異性とかを気にしていないみたいだからナ」

「……じゃ、つまりお妙さんはまさか――」

「「百合?」」

「いや違いますよ!! 神楽ちゃん、勘違いするようなこと言わないで!」

 神楽の言葉が足りなかったからか、勝手に同性愛者と勘違いする二人。すかさず新八が修正し、大事には至らなかった。すると、妙達もようやくリーファやシノンの存在に気付き始める。

「おや? みんないると思っていたら見慣れない子もいるわね。もしかしてこの子達も、アスナちゃん達の仲間なの?」

 妙が質問すると、二人に代わって神楽が紹介した。

「そうアルよ! 金髪で胸が大きいのがリッフーで、猫耳で足が細いのがシノアル! 以後よろしくネ!」

「って、神楽!? 紹介雑じゃないの!?」

「正確にはリーファとシノンなのに……」

 大雑把な紹介に、ツッコミを入れる二人。一方妙は一斉気にしておらず、リーファとシノンの外見に興味を示していた。

「へぇー随分可愛らしい子じゃないの。上半身が立派なリーファちゃんと、下半身が美しいシノンちゃんね。しっかりと覚えたわ……」

「って、お妙さんまで変な覚え方しないでくださいよ!」

 妙は不気味な笑顔をしたまま、密かに嫉妬を燃やし始める。今回は大きめの胸を持つリーファのみならず、細くて美しい脚をしているシノンも妙に目を付けられてしまった。と彼女の乱入で取り乱した場に、あの男が戻ってくる。

「おい、お妙!! さっきの攻撃はなんだよ! 完全に俺が被害者じゃねーか!」

 それは怒号を上げた銀時だった。壁と衝突したものの命に別状はなく、体も無事のようである。しかし、蹴りを入れられたことに納得がいかず怒りを露わにしていたが――

「偶然当たったことは謝るわ。でも、銀さんも私のことをバカにしていたんだから、蹴りはチャラってことでいいわよね?」

「またかよ! 俺これで今日二度目だぞ! どんだけ女共からサンドバックにされなきゃいけないんだよ!」

妙からはお互い様と言われてしまう。銀時の怒りが収まらない中、キリトと新八が説得のために彼の元へ駆け寄った。

「まぁまぁ、銀さん。今は落ち着こう」

「そうですよ。これから話し合いだってあるんですから。今は穏便に済ましましょう!」

「……チッ! わかったよ! 一旦、手は引いてやるよ! チキショー!」

 話を進めるために銀時は、一旦怒りを抑える。これにて喧嘩が収まった一方で、九兵衛は妙の様子を見るために話しかけていた。

「妙ちゃん、大丈夫か?」

「ええ、色々あったけど今は落ち着いているわ」

「そうか……ん? そういえば、彼女達にまだ挨拶していなかったな」

 すると九兵衛は、リーファら二人に挨拶していないことに気付く。二人へ近づき、挨拶を交わすことにした。

「初めまして、二人共。もう紹介が入っているかもしれないが、僕の名は柳生九兵衛だ。万事屋や妙ちゃんとも仲良くしてもらっている。リーファ君やシノン君も大変な目に合っていたかもしれないが、僕等がいればもう大丈夫だ。安心してくれ!」

「あ、ありがとうございます!」

 力強く頼りになる言葉が、二人の心に響く。九兵衛の雰囲気は今まで会ったこの世界の住人の中でも、真面目でしっかりした印象にも見えた。

「良かった……この世界にも常識が通じる人がいて……」

「月詠さんと同じくらいしっかりしているわね。真面目な人で安心したわ……」

 妙とは違い毒のなさそうな九兵衛の雰囲気に二人は安堵の表情を浮かべる。そう安心していた時、突如銀時が声をかけてきた。

「真面目ね……こう見えても九兵衛も意外な一面があるぞ」

「えっ? それって、どういうことなの?」

「こういうことだよ。それ!」

 すると銀時は近くにいたクラインの背中に近づき、思いっきり後ろから強く押していく。

「えっ!? ちょっと、銀さん!? うわぁぁ!!」

 バランスを崩したクラインは体勢を安定するために、がむしゃらにも目の前にいた人の肩を掴む。

「ふぅ……危なかったぜ。助けてくれてありが――」

 だが上を向いた瞬間、クラインの脳裏には今朝の事件が蘇る。なぜなら、

「きゅ、九兵衛さん……?」

肩を掴んだ人物は柳生九兵衛だったからだ。彼女は男性に触られると、つい投げ飛ばしてしまう癖を持つ。故に今日も、突然握手してきたクラインに背負い投げを食らわせた。つまり今回も、

「ぼ……僕に……僕に触るなぁぁぁぁ!!」

「やっぱりこうなるのぉぉぉ!!」

恥ずかしがる九兵衛によって体を掴まれて、クラインは思いっきり投げられてしまう。突然の展開に、一行は唖然としてしまった。

「って、何が起こったのよ!?」

「九兵衛さんがクラインさんを投げ飛ばした!?」

 特にこの光景を初めて見たリーファとシノンは、一段と驚いてしまっている。そんな彼女達に、銀時がわかりやすく説明を加えた。

「そうなんだよ。九兵衛は男に触れられると、反射的に投げ飛ばしてしまう体質なんだよ。どうだ? 意外な一面だろ?」

「って、呑気に解説している場合じゃないでしょ!!」

「早く追いかけましょうよ!!」

 九兵衛の一面が分かったのはいいが、今は投げ飛ばされたクラインの行方が気になって仕方ない。一行が急ぎ足で、彼を追いかけていく。一方、投げ飛ばされてしまったクラインだが、残念なことに不幸はこれで終わらない。彼が投げ飛ばされた先の地面の中では、

「もうそろそろかしら! ここで出るわよ! さっちゃん!」

銀時を待ち伏せしていたあやめがいる。彼女は既に恒道館へと着いていたのだ。クラインの叫び声を聞き銀時と勘違いした彼女は、頃合いと確心して勢いよく地上へと飛び出す。

「さぁ、銀さん! 約束通り、サプライズを仕掛けたわ! 私と一緒に濃厚なキスを――」

 満面の笑みでジャンプしたあやめだったが、彼女の目の前にいたのは、

「って、えっ!? ブホォォォ!!」

投げ飛ばされたクラインである。二人は避けることもできず、そのまま正面衝突した。クラインは地上へと落下し、あやめは気を失い空へと飛ばされる。しかも彼女が向かう先には、

「ハッ! ハッ! ハッ! 銀時! クライン殿! ようやくこの俺、桂小太郎が帰ってきたぞ! 久しぶりに活躍させてもらおうじゃないか!!」

塀を昇っていた桂とエリザベスの姿があった。ようやく回ってきた出番を大袈裟にアピールして、にやけながら高笑いを続けている。なんとも悪いタイミングで、出てきてしまった。

「よし、まずは話し合いの前にリーファ君に攘夷の素晴らしさを手取り足取り教え……って、グハァァ!!」

 桂は途中であやめが向かってくることに気付くが、時すでに遅い。彼女と衝突してしまいエリザベス共々、道場の敷地内へと落下。三人同時に倒れ込んでしまった。さらにエリザベスの持っていたセリフ用のプラカードも、落ちた衝撃で空中を舞う。その先には、

「アレ? まだみんな来てないのか? 折角うまい酒をたまさんから借りてきたのにな」

お気に入りの酒瓶を持ち浮かれている長谷川がいる。裏口から入った彼は酒を飲むため、早めに到着していた。

「おーい! 銀さん! まだ来てないのか……って、ギャャャ!!」

 呑気に声をかけていた長谷川にも不幸が訪れる。後ろの首筋にプラカードが直撃したのだ。彼の首に激痛が走りそのまま倒れ込むと、持っていた酒瓶の蓋がはずれて中身のお酒が吹き出してしまう。その先には、

「なんじゃ、この騒ぎは? 折角早く来たというのに……何が起こっているんじゃ?」

騒ぎを聞きつけた月詠がタイミングよく戸を開けた。彼女は既に恒道館へと到着し万事屋一行が来るのを待っていたのである。

「ん? アレはなん……」

 月詠も気づいた時には遅かった。ちょうどよく――「バッシャャ!」とお酒が降りかかってしまう。体中に浴びたお酒のせいで、月詠の態度は一変。冷静さを失い、破天荒な性格の酒乱と化したのだ。

「……ヒック! おい……いい加減静かにしろよ、ゴラァ!! ゆっくり酒も飲めねぇじゃねぇかぁ!!」

 真っ赤な顔で一人怒号を上げる月詠。一昨日に続いて、またも被害を受けてしまう。とそこに、ようやく万事屋一行が駆けつける。

「クライン!! 大丈夫か――って、えっ!?」

 キリトが声をかけようとした瞬間、衝撃的な光景を見てつい絶句した。仲間達もキリトと同じく、次々と衝撃を受けている。そこには、クライン、あやめ、桂、エリザベス、長谷川の五人が倒れ込む様子と、

「早く酒を持ってこいよ!! ハッ!」

ただ一人叫びながら暴走する月詠が目に映っていた。投げ飛ばされたクラインをきっかけに負の連鎖が続き、まるで地獄絵図のような光景を作り出したのである。これには全員が引いてしまった。

「……な、何がどうしてこうなったぁぁぁぁぁ!?」

 新八のツッコミが敷地内にこだまする。メンバーとの再会や合流は、トラブルのせいでグダグダなものになってしまった。一方で遅れてお登勢、キャサリン、たま、エギルの四人も恒道館へと訪れていたのだが、ドミノのように起こった負の連鎖を見て心配するどころか呆れてしまっている。

「ヤレヤレ……全くあいつらときたら、こうも綺麗に集まれないものなのかね?」

「ハッ、ハッ! それもそうだな! でも、俺は賑やかな方が楽しいと思うし、何よりあいつらが元気そうなのが一番だと思っているけどな」

「そうかい……」

 お登勢の皮肉にエギルは笑いながら返した。彼自身どんなことであれ、笑いあえる方が楽しいと感じている。それから数分後、気絶していたクラインらや酔っていた月詠も気を戻す。結局この騒動もお互い様ということで、誰のせいにもされず収束した。こうして、騒動はあったもののようやく恒道館に、万事屋やその知り合い、並びにSAOのレギュラーメンバーが集結した。いよいよ、話し合いが幕を開ける。

 




 前回に続いてグダグダで終わる展開でした!では、次回は明日投稿します!長い事かかりましたが、ようやく第一章が完結!最後までコラボたっぷりで、ご覧ください!


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第十五訓 全員集合はお早めに 

 本当にすいません……手直しをしているうちに一週間が経過してしまいました。見積もりを持たずに、明日とか曜日指定を変更してすいませんでした。今後は自分の余裕に関係なく多めに見積もりを持って進めていきます。
 さて、小説の方に戻って今回から会議がスタート!果たしてどこまで真相に辿り着くのか?さらに、あのグループも思わぬ復活を果たします。大人数での会議前半戦をぜひ、ご覧ください!



 会議が始まる三十分前の出来事。恒道館にある道場の裏側では、四人の女性が集まって事前に話し合いを行っていた。場には妙や九兵衛、気絶から立ち直ったあやめに泥酔状態から酔いを覚ました月詠がいる。四人はある議題に対して、考えをまとめていたのだ。

「それじゃ私達で、シリカちゃん、リズちゃん、リーファちゃん、シノンちゃんの四人を手助けするってことでいいわよね?」

「もちろんじゃ。今日には日輪とも下宿について話してみるかのう。大方、賛成だと思うが」

「異論はない。四人くらいなら柳生家の財力でも養うことができるからな」

 妙の言葉に月詠と九兵衛が反応する。あやめもうなずいて妙の考えに賛成した。どうやら四人は、現在行く当てのないSAO女子達を、サポートしようと話し合いの前に色々と決めていたようである。すると、あやめが妙に話しかけてきた。

「私達で四人の女子達を支えるというわけね? アンタにしては珍しく手際のいいことするじゃないの」

「もちろんよ。これなら、SAOで人気投票があった時、私達も組織票として参加できるでしょ?」

「そんな野望があったの……?」

 妙はさらっと本音を言い、あやめの気を引かせてしまう。以前あった人気投票篇と同じく、地位に執着する心を仲間へと見せつける。だが、妙の本心は決してふざけていたわけではなく、ちゃんとシリカ達のことを思ってこの答えへと至っていた。

「でも本当はね、あの子達が心配で仕方がないのよ。自分が知らない世界に来たら、誰だって戸惑うし不安も消えないわよね。だからこそ、私達大人がしっかりと支えて、あの子達を安心させてあげないと」

「お妙ちゃん……」

 先ほどまでの気楽さとは異なり、しんみりとした表情を妙は浮かべている。別の世界の住人であるシリカ達を預かることに、重い責任を感じているからだ。それは九兵衛らも同じく受け止めている。

「そうじゃな。シノンやみんなには安心してこの世界で暮らしてほしいからのう……」

「同じサブヒロイン同士、仲良くしていきたいものよね」

 月詠やあやめも冷静に呟き、改めて責任を確認した。話しているうちに、そろそろ会議が始まる時間となる。

「ん? もうこんな時間か? そろそろ道場に戻らなければ」

「そうだったわね。それじゃ、空気を見計らってシリカちゃん達を私達の組織へ誘い込みましょう!」

「もちろんよ! ちゃんと空気を読んで誘い込むのよ!」

「わかっておる。では、行くかのう」

 これからの会議に妙ら四人は、気持ちを静かに高めていく。こうしてひっそりと道場へ戻っていくのだった。

 

 時間は過ぎていき、ちょうど十七時となる。恒道館にある道場には、銀時やキリトらが呼びかけた仲間や知り合いが集まっていた。左から順に、万事屋、スナックお登勢、攘夷党、未所属の女子メンバーと所属先ごとに縦で整列して座っている。万事屋に所属するキリト、新八、アスナ、神楽、ユイ、定春の五人と一匹。スナックお登勢に所属するお登勢、キャサリン、たま、エギルの四人。攘夷党に所属する桂、クライン、エリザベスの三人。そして、女子メンバーの妙、シリカ、九兵衛、リズベット、あやめ、リーファ、月詠、シノンの八人。さらにピナや長谷川を含めた合計二十二人と二匹が、この話し合いのため集まっている。すると移動式のホワイトボードを二台分持って、銀時が一行の前へと現れた。配置を終えると、マイクを片手に口を開く。

「あ、あ、あ。え~みんなが集まるまで色々と長く時間がかかってしまったが、ようやくこの会議を始めようと思っている。では、いくぞ。これより、第一回他世界対策交流会議を開始するー!」

 やる気の通っていない掛け声と少量の拍手により、いよいよ会議が幕を開けた。だがまず気になったのは、会議の名前である。

「た……他世界対策交流会議?」

「名前長くない、銀さん?」

 細かいことを気にするキリトやアスナに、銀時は自分らしい言葉で返す。

「そこは気にするな。適当につけた名前だから、そんなに深い意味はないよ」

「って、適当につけたのかよ!?」

 彼曰くそこまで深い意味はない。これには、キリトも新八並みのツッコミ力を見せる。それはさておき、銀時は再び話し出した。

「みんなも分かっていると思うが、今俺達の世界には別の世界から来たゲーマー達が、なんと九人も来ている。しかもアバターのまま来ているみたいだから、このように天人のような容姿をしているみたいだ。まずはそれを踏まえて自己紹介……と言いたいところだが、いちいちやってもめんどいから、さっき用意したホワイトボードに俺が代わりに書いておいたから、分からねぇ奴は後で適当に見ておくようにー」

 すると銀時は左側に置いたホワイトボードを裏へ回転させて、事前に書いておいた紹介文を一同へ見せつける。これで自己紹介を簡単に済ませようとしていた。

「いつの間にこんなもの作ったのよ……」

 銀時の意外な行動力に脱帽するシノン。一方、紹介文にはこの場にいる全員分の名前や現在の所属先などが事細かに書かれていたのだが、

「って、待てよ! なんで俺だけ所属先、ダンボールなんだよ! せめてホームレスじゃないのかよ!」

なぜか長谷川の部分のみ所属先がダンボールと書かれていた。指摘を受ける銀時だが、彼にはいちいちツッコミを入れる余裕は無い。

「長谷川さん、そこは黙っていてくれよ。ただでさえこっちは、二十人以上を相手にしなきゃいけないのに、お前のツッコミで時間はとりたくないんだよ」

「って、ツッコムようなことを書いたお前が原因だろうが!」

 長谷川の指摘は軽くあしらわれてしまう。一方で、銀時は構わずに話を続ける。

「紹介文に文句がある奴は後で、クレームを言うように。さて、それじゃ本題といくか。まずは、お前達をこの世界へ送った元凶……サイコギルドについて話し合おうじゃないか」

 最初に話題に上がったのは、キリト達を銀魂世界へと送った全ての元凶であるサイコギルドについてだ。この言葉により、場の空気は一気に緊張感へと包まれていく。

「サイコギルド……俺達をこの世界へ送った組織……」

「そうだな。お前らの方が分かっていると思うから説明を頼めるか?」

「はい、わかりました。銀時さん」

 すると説明役としてユイが立ち上がった。彼女がキリト達を代表して、自分達の身に何が起こったのかを大まかに説明する。

「サイコギルドは私達をこの世界へ送った組織です。時間停止やブラックホールを作り出す能力を持っていて、私達はその組織の作り出したブラックホールに吸い込まれて、この世界へ来てしまったんです……」

「それは恐ろしい力ね……」

「ブラックホールを作るなんて物騒な奴等アルナ……」

 想像を超える能力を持つサイコギルドにあやめや神楽も心が動揺する。銀魂世界の住人にもサイコギルドの恐ろしさが伝わった。さらに、被害を受けた仲間も次々とブラックホールの中で起こった出来事を語りだす。

「そうね……ブラックホールに吸い込まれた時の感覚は今でも忘れられないわ。真っ暗な闇の中、体の自由が効かなくて、頭も激しい痛みで苦しめられたもの……」

「アスナもなの? アタシ達も同じように苦しめられたのよ!」

 アスナの体験した内容に、リズベットも同じくうなずく。どうやらキリトら別世界から来た住人は、ブラックホールを通り抜ける際にみな頭への痛みを感じたという。

「正直、思い出したくないです……」

「なんだか気色悪かったからな」

 シリカやクラインも口を揃えて共感する。不安げな表情から、相当な恐怖を感じているようにも見えた。と彼女達が語った体験談を、銀時は右側に置いてあるホワイトボードへ書き込んでいく。

「なるほど……触手プレイに巻き込まれたってことか」

「って、全く違うこと書いているんだけど!!」

「ちょっと、銀さん! 真面目な会議なんだから、ふざけないでくださいよ!!」

 予想もしていなかった銀時のボケに、リーファと新八がツッコミを入れる。場が少しだけ和んだところで、銀時は真剣な空気を戻していく。

「わかっているよ。要するにこうだろ? まず大型のブラックホールによって、キリト、アスナ、ユイがこの世界へとやってくる。遅れて二日後くらいに、小型のブラックホールで仲間達も時間差で来てしまったと」

 そう言いながら彼はわかりやすく経緯を書き込んだ。すると、今度はキリトが反応して説明を続ける。

「そうだな。後、見てわかる通りサイコギルドは複数犯だと思うんだ」

「複数犯? 一人の仕業ではないということだな?」

「ああ。俺達が会ったのはローブを被った女子だったが、エギル達が会ったのは銀色の怪人みたいなんだ」

「つまり、二人以上いると考えた方がいいわけね?」

「その通りだよ」

 九兵衛や妙の問いにキリトは自信良く言葉を返す。ここで現在分かっているサイコギルドの情報をまとめると、時間停止やブラックホールの生成と人間離れした能力を持っていること。ローブを被った謎の少女と銀色の怪人が所属していること。思いつく限りのことを銀時はホワイトボードへ書き詰めていく。そんな中、キリトは引っかかることを彼へ聞いてくる。

「なぁ、銀さん。この世界には本当にサイコギルドはいないんだよな?」

「俺がわかる範囲では、聞いた覚えはねぇよ。恐らくここにいる奴等も同じだと思うぜ」

 それはサイコギルドの存在についてだ。人間離れした能力を持つことから、キリトは自分のいた世界とは違う世界から来た存在と考えていたが、残念ながら銀時らもサイコギルドについては初耳である。

「そうですね。私の中に入っているデータにも該当するものがございません」

「同ジク。ソンナノ宇宙デモ聞イタコトガナイデスヨ」

 たまやキャサリンら他のメンバーも銀時と同じく、サイコギルドについてまったく知らなかった。すると、今度は月詠がユイへ質問する。

「なぁ、ユイ。そもそも、主らのいた世界にもサイコギルドという名前は聞いたことがなかったのか?」

「それは、私達でも聞いたことがありません。そもそも、私達の世界の技術で異世界に送るほどのブラックホールが作れるのは不可能なので、その考えはないと思っています」

「そうか……教えてくれてありがとうな」

 ユイの詳しい説明に納得する月詠。彼女の言う通り、仮想世界の技術が発達したSAOの世界でも別の宇宙まで飛ばす技術があるとは考えにくい。銀魂の世界でも、SAOの世界でも存在が確認されていないサイコギルド。一同が話し合いで行き詰まる中、突如桂がゆっくりと手を挙げた。

「ん? ヅラ? どうしたんだ、トイレか?」

「いや、違うぞ! 銀時! サイコギルドについて一つ思ったことがあるのだ!」

「それ、どういうことだよ?」

 銀時に促され、桂は静かに自らの考えを一同へ打ち明かす。

「ここまで話してきたが、サイコギルドという存在はキリト君達がいた世界にも俺達のいる世界にもいない……ということはつまり、二つの世界ではなくそれとはまた別の世界から来たのではないか?」

「それはまさか、第三の世界が介入しているってことだよな?」

「そういうことになるな」

 エギルからの問いに、ゆっくりうなずく桂。彼はパラレルワールドに基づき、サイコギルドの存在を二つの世界以外から来たのではないかと予測した。この考え方に、一同も共感している。

「パラレルワールドか……確かに桂さんの言っている考えが合っているのかも知れないな。俺達のいた世界と銀さん達のいる世界があれば、理論上他の世界があってもおかしくないと思うし」

「だな。現にお前らが、この世界にやって来たからな」

 キリトや銀時は、桂の立てた仮説を有力視していた。想像を超える展開だがこの銀魂世界の自由さを思うと、すぐに一同は受け入れる。これで一つのヤマを越えることができた――はずだが、またも一つの疑問が浮かんでしまう。

「でも、ちょっと待って。仮に第三の世界からサイコギルドが来たとして、なんで別の世界にいる私達をこの世界へ送ったのよ?」

 アスナが言い放った疑問に、再び一同は頭を悩ませてしまった。別世界の組織がなぜ、キリト達を狙い別世界へ送ったのか? その理由がまったく浮かばない。残された謎に対して、一同は推測を立てていく。

「偶然とは信じたいけど、正直それだと出来すぎている気がしますね」

〔だとすれば、クライン達全員に共通する何かが関係しているのではないか?〕

 新八の発言に続き、エリザベスもプラカードを掲げて考えを伝える。彼はキリト達九人に共通していることから、解決の糸口を見つけ出そうとしていた。

「共通していることか……この中だとSAOに閉じ込められていたメンバーか? でも、リーファやシノンは無関係だしな」

「ALOにログインしていたといっても、私達以外にも大勢いるしきっと違うわよね……」

 キリトやアスナが知恵を絞って見つけ出そうとするも、やはり難航してしまう。他のメンバーも思いつくことを上げていくが、やはり有効的な結果にはたどり着かなかった。しかし、銀時だけはある一つの共通点に気付き始めている。

「……これなのか? いや、でもそうなれば……」

「ん? どうしたのですか、銀時さん?」

「いや、なんでもねぇ。思いつかなくて行き詰まっていただけだよ」

「そうですか」

 ユイが聞くと彼はすぐに誤魔化してしまう。銀時の考えた仮説は、キリト達にとっては信じられないメタ要素のある話なので、ためらって言葉にできなかったのである。一方、キリト達の方も結局共通点を見つけられずにみな諦めてしまった。

「うーん……ダメか……」

「簡単なのはちらほらと浮かんでくるんだけど、深く考えるとどれも有力的じゃないのよね……」

 頭を抱えてため息を吐くクラインとアスナ。他のメンバーも考えすぎたせいで頭が疲れてしまっている。

「やっぱりアタシ達がブラックホールに吸い込まれたのは、偶然だったのでしょうか?」

「わからないけど、今はそう考えるしかないわね。でもサイコギルドの目的を知らない以上は、真相を突き止めるのはとても難しそうね」

 シリカの呟きをシノンが返す。一行は考えがまとまらなかったことに、悔しそうな表情を浮かべていた。そんな中、キリトも心の中で悔しさを抑えている。

(サイコギルド……一体奴等は何者なんだ? 何が目的で俺達をこの世界へ送りこんだんだ? 陰謀が絡んでいるのか? それとも、俺達の予想を上回る事態が知らない間に起こっているというのか……?)

 有力な情報も見つからず、不安な気持ちへと苛まれるキリトらSAOメンバー。銀時達も空気を読み進行が行き詰まった時である。ふとお登勢が立ち上がり、急に口を開いた。

「アンタら。悩むのもいいが、情報が無い以上は考えても無駄じゃないのかい? 元の世界へ帰れず不安な気持ちはわかるけど、そこで冷静さを失っちゃダメだよ。焦らずゆっくり進みな。必ず元の世界へ戻れるはずだから。まずは先のことよりも、明日のことを考えた方がアタシは利口だと思うけどね……」

 そう言うとお登勢は、大人らしく落ち着いた笑みを浮かべる。彼女なりの冷たくも優しい言葉が、一同の心へと刺さった。この状況の中、自分達のやるべきことは限られている。それでも焦らずゆっくりと生きていれば大丈夫だとお登勢は伝えたかったのだ。さらに、銀時が言葉を続ける。

「ありがとよ、お登勢。伝えたい事を言ってくれて」

「別に構わないよ。アタシは正直なことを言いたかっただけさ」

「はいはい。まぁ、そういうこった。そんなすぐに帰れないことは、薄々わかっていたはずだ。だから、この世界で生きていく他はない。でも、俺達に出来ることはなんだってやろうと思っている。今日はそれも兼ねて、お前たちの明日や居場所を決めていこうとみんな集まったんだよ。なぁ、てめぇら」

 銀時の言葉に続き新八や神楽、桂と言ったこの世界の住人が元気よく返事をした。全てはキリト達を手助けするため、万事屋やその知り合いが今日ここに集まってくれている。こんなにも信じて協力してくれる人間がいることに、キリト達は改めて心から感謝していた。

「銀さん……それにみんなも……励ましてくれてありがとうな」

「いいんだよ、別に。俺達が伝えたかったのは、そう焦るなってことだけだ。協力ならなんだってするからよ」

「そうか……なら!」

 するとキリトは急に立ち上がり、仲間達へ向けて自らの思いを伝え始める。

「みんな! おそらくこれからは、この世界で長く滞在することになるけど、きっと元の世界へ戻ろう! ……大丈夫! 俺達には銀さんやこの世界で出会った頼もしい人達がいるから、この困難もきっと乗り越えられるよ! 絶対に……!」

 そう言うと彼は思わず屈託のない笑顔を浮かべた。自分らしく言った励ましの言葉は、仲間達の心にもよく響いている。

「まったく……キリトも銀さんもポジティブになりすぎだって! でも、おかげで元気が出たわ。ありがとう!」

「そうだよね。焦ったって仕方ないし、今は明日のことをしっかりと考えないよね! お兄ちゃん!」

 リズベットやリーファも彼の言葉を受けて、笑顔で返す。前向きに生きていくことが、今の自分達にとって大切なのだと一行は感じたのだ。そんな中、

「そうだぜ! 折角この侍の世界に来たんだ! 元の世界へ戻れるまで、俺は真の侍になってやるぜ! なぁ、桂さん!」

「おう! よくぞ言った、クライン殿! それでこそ立派な攘夷志士だ!!」

「「ハッ! ハッ! ハッ!」」

クラインだけは頭のネジが外れたように振り切っており、桂と共に大笑いしている。前向きすぎる二人の姿に、仲間達は少しだけ気が引けてしまう。

「……ク、クラインさんは元の世界に戻る前に、捕まらないでくださいね……」

 ユイが苦笑いで皮肉を呟くが、熱中している二人には残念ながら届いていなかった。場の空気も緊張感が消えていき穏やかになったところで、再び銀時が口を開く。

「さて、サイコギルドについて話し合うのはここまでにしよう。次はこの世界での生活について本格的に話していこうじゃないか」

 次に銀時が話題に上げたのは、この世界での生活についてである。お登勢の言っていた通り、キリトらの明日や居場所をこれから本格的に決めていくのだが――

「それじゃまずは下宿先を決めていこうと思うが……もうだいたい決まっているようなもんだよな?」

泊まる場所に関してはSAOメンバーの内、半数が既に決まっていた。

「まぁ、そうアルナ。キリもユイもアッスーもみんな今じゃ、万事屋の立派な一員だし」

「やるべきことも決まっているから、特に相談するようなことはないわよ」

 神楽やアスナが万事屋の実情を口にする。キリトら三人は他のメンバーと異なり二日分この世界におり、既に万事屋としても働いているので相談や悩みはもう無かった。さらに、たまやエリザベスも続く。

「エギル様は私達スナックお登勢で住み込みとして働くので、下宿先については大丈夫ですよ」

〔クラインについても大丈夫だ。我が一派がしっかりとめんどうを見てやる〕

 クラインとエギルの二人に関しても、攘夷党やスナックお登勢等といった所属先が決まり、仕事や目的も見つかっている。これでSAOメンバーの中で九人中五人が下宿先について決まり、残るはシリカ、リズベット、リーファ、シノンといった四人だけとなった。

「ということは、まだ決まっていないのはこの四人ということか……」

 銀時がそう言うと今度はリズベットが言い返す。

「アタシ達だけね……色々とトラブルに巻き込まれたりしたから、決めようにも決められていないのよね」

「確かに四人共、悠長に決めてる状況じゃなかったよな……」

 ため息交じりに言ったリズベットに、キリトはつい共感する。思えばリーファを除く三人に至っては気絶なり泥酔状態で一夜を過ごしたため、この先のことについてまったく考えていなかった。

「うーん……どうすればいいのでしょうか?」

「急に言われても答えに困るわね……」

 再び頭を悩ませるシリカとシノン。女子らが今後について考え込もうとした時、突如リーファが前触れもなく声を上げてきた。

「ねぇ、みんな! 私から提案があるんだけど、言っていいかな?」

「えっ? リーファさんからですか!?」

「提案って一体何を考えたのよ?」

 彼女の言葉に食いつくリズベットら三人。そしてリーファは、落ち着いた表情で自分の考えを伝える。

「下宿のことだけど、私達四人で一緒に住んでみるっていうのはどうかな?」

「四人で住む? シェアハウスみたいな感じ?」

「そう! そんな感じ! これからどうなるのかはわからないけど、みんなで一緒に生活した方が安心するし、何より楽しいと思って提案したんだけど……どうかな、みんな?」

 仲間の顔色を伺いながらリーファが提案したのは、下宿生活を四人一緒に行う考えだった。これには場の空気も一瞬どよめくが、シリカら女子達の反応はみな好意的に受け止めている。

「いいんじゃない? アタシはそれでいいと思うよ!」

「えっ!? 本当なの!?」

「そうですよ! なんだか楽しそうですからね!」

「私も賛成よ。学生寮みたいに過ごすのは良いと思うし、みんなで寝泊まりするのもまんざらでもないからね!」

 リズベット、シリカ、シノンと三人共に、リーファの意見を受け入れてくれた。さらにピナも、笑顔を見せてリーファの意見に賛同している。これには、彼女も心から一安心した。

「みんな……もう! 否定されるかと思って、ひやひやしたよ!」

「そんなことないわよ。むしろアタシ達も同じこと考えていたから!」

「こんなにも簡単に決まるなんて予想もしていなかったけどね」

「でも話がスムーズに済んで良かったです! アタシ達四人で、一緒に楽しく過ごしましょうね!」

 結果、リーファら女子四人は同じ場所で下宿することで話がまとまる。全員、これからへの期待を膨らませて希望に満ちた笑顔をしていたが……その本心は至って穏やかなものではなかった。

(よし……! みんな乗っかってくれた! これで、お兄ちゃんのところには抜け駆けさせないんだから!)

(まさかリーファからこんな考えが出るなんて……油断も隙もないわね!)

 心の中で仲間へ聞かれないように、本心を呟くリーファとリズベット。さらにシリカやシノンも同じである。

(やりますね、リーファさん……キリトさんと一緒に住めないから、アタシ達まで道連れにするなんて……)

(互いに抑制して抜け駆けをなくしたわけね……まぁ、私が言わなくてもいずれこうなっていたわよね……)

((((でも、まだ諦めていないからね……))))

 笑顔の裏に隠した女の本音。それは、四人同時に住み込むことでキリトと一緒にいる時間を作らせない作戦でもあった。四人は建前を作りながら静かに執念を燃やしつつある。この不穏な事態に銀時ら大人は薄々気付いていたが、子供のユイや鈍感なキリトは知る由もない。

「やっぱりみなさん、団結力が強いんですね!」

「そうだな。みんなで下宿生活か……それはそれで楽しそうかもな!」

「いやアンタら、少しは気づけよ」

 呑気なことを言う二人に新八は静かにツッコミを入れた。事態が進んだところで再び銀時が話しかける。

「まぁ、細かいことは置いといて、お前ら一緒に住むってことで話がまとまったんだな?」

「はい! 後は泊まる場所を見つければいいんですけどね……」

 とシリカが言った時だった。待ちかねていたあの女性達がついに動き出す。

「それだったら私達に任せて頂戴! みんな!」

「って、お妙さん!?」

 急に声を上げたのは、彼女達の横にいた志村妙だった。突然の行動に、シリカらは驚いてしまう。さらに、妙に続き九兵衛、あやめ、月詠も同じく声をかけてくる。

「九兵衛さん? それにみなさんも……?」

 リズベットが引き気味に聞くと、九兵衛らも次々と答えてきた。

「ああ。君達が困っていると思っていてな、事前に僕等の間で話をまとめておいたんだ」

「全ては主らのためじゃ。困っているならわっち達が手を貸そう」

「これはもう決めるしかないでしょ。アンタ達女子と私達で新しい組織を作るのよ!」

「そ、組織!? 一体それって……?」

「何をする気なの?」

 次々と起こる急展開に、シノンやリーファらも困惑が止まらない。そして、彼女達はある宣言をこの場を借りて行った。

「みんな!! 私達はここに宣言するわ! 今日から、シリカちゃん、リズちゃん、リーファちゃん、シノンちゃんの四人は――超(ダイヤモンド)パフュームの一員になるのよ!!」

 自信良く言い放った妙は、誇らしげな表情を浮かべる。彼女達が隠していたのは、超パフュームの復活だった。しかし唐突すぎる宣言はシリカ達のみならず、その場にいた一同をも困惑させる事態に発展させてしまう。

「って、四人が姉上達の組織に吸収されたぁぁぁぁ!? なんでSAOのサブヒロイン達が、銀魂女子と手を組まされているの!? 人数が同じとはいえ、無理やり過ぎませんか!?」

急展開に耐え切れず新八が大声でツッコミを繰り出す。一方、キリトは銀時へ詳しく情報を聞いている。

「ぎ、銀さん? ダイヤモンドパフュームって、一体何なんだ……?」

「ああ、あいつらのことか? お妙とか九兵衛とか、女子四人が勝手に作った組織のことだよ。まさかこの場であいつらも、新メンバーを入れるとは思っていなかったぜ」

「なんか強制的に入らされたようにも見えるんだけど……」

 銀時なりの解釈に、キリトは苦笑いで返す。超パフュームについての詳細は分かったが、それでも急に加入させられたシリカ達を思うと、仲間達は一抹の不安を感じてしまう。

「大丈夫なのかしらね、四人共……」

「大丈夫ネ! 姉御達がきっと何とかしてくれるから、ここは見守るアルよ!」

「うまくいくといいんですけどね……」

 アスナやユイがまだ不安を口にする中、神楽だけは楽観的に考えていた。とこの場は妙やシリカら八人に任せることにして、他のメンバーは様子を見ることにする。そして、超パフューム内でも話し合いが行われようとしていた。

「ダ、ダイヤモンドパフューム?」

「いや、違うわよ。超と書いて、超パフュームよ!」

「って、細かい事はいいですから! 一体どういうことか詳しく説明してくださいよ!!」

 シリカからの指摘を受けると、今まで説明していた妙に代わり九兵衛が前に出る。彼女は冷静な口調で話し出した。

「ああ、わかっているよ。簡単に説明すると超パフュームは、僕ら女子のみで作った組織のことだよ」

「それにアタシ達も入るってことなの?」

「その通り。目的は君達が元の世界へ帰れるまで、僕らがこの世界でのサポートをすること。つまり、僕らが保護者になると言った方が分かりやすいかな?」

「なるほど、そういうことね……」

 超パフュームの概要を聞き、深く理解するリズベットやシノン。九兵衛の説明が分かりやすかったのか、四人はすぐに事態を読み取っていた。

「どうじゃ? 意味は伝わったかのう?」

「だいたいね。月詠さん達が協力して手助けするなんて、予想の斜め上をいく事だわ」

「でも、こんなにも頼もしい人達が助けてくれるなら、心強いよね!」

 月詠からの問いに、シノンとリーファは好意的に返す。どうやら四人共、超パフュームの加入については前向きに考えているようだ。

「話を聞いている感じ、アタシ達もそれで大丈夫だと思うわよ」

「そうですね。ならみんなで入りましょうか! 超パフォームに!」

「パフュームね、シリカちゃん」

 名前を間違ったシリカに妙がそっと訂正を加える。だが、予想よりも早くシリカ達は超パフュームへの加入を認めてくれた。そして、あやめが四人へ三度確認を入れる。

「それじゃみんな、加入ってことでいいのよね?」

「もちろん! これからよろしくお願いします! みなさん!」

 そう言ってリーファは、深くお辞儀をした。さらに仲間達も感謝を込めて、同じくお辞儀をする。これで、正式に超パフュームに新メンバーが加わったのだ。

「うまくいって良かったな、妙ちゃん」

「そうね。これなら安心して二期生を受け入れられるわね!」

 九兵衛が聞くと、妙は満面の笑みで彼女へ返答する。この穏やかな空気に場にいた八人も思わず笑顔になっていたが、妙の本心はやはりあの事に執着していた。

(これで、超パフュームも間接的にSAO女子と絡むから人気投票は貰ったわね……フフフ……アハハハ!!)

 数分前に言っていた人気投票に対しての執着心を、静かに心の中へしまうのである。その姿を見た新八は、すぐに妙の本心を察した。

「絶対姉上良からぬこと考えているよ……女ってやっぱり怖いよ」

 彼女に聞かれないように新八は小声で呟くしかない。こうして、他世界対策交流会議と並行して超パフュームも話し合いを始めるのであった。

 




 いつも投稿が遅くなる要因は、普通の小説ではあまりない大人数がいる場面を書いているので、加筆や手直しを入れるとどうしても予定よりも遅れてしまうんです。展開が遅くて不満に思っている方もいるかもしれませんが、私の体調や都合にもよるので、どうか気長に待っていただけたら幸いです。
 では、次回予告です。会議も後半戦に突入!再三言っていますが、第四訓に出てきたあのキャラもようやく登場します!そして、終わる終わる詐欺のように先延ばしてきましたが、第一章が終わるのも近いです。それでは、また次回!



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第十六訓 何事もグダグダなまま終わらせるな!

お久しぶりです! ようやく、会議の後半戦が出来上がりました! キリト達の明日がどう決まるのか? 期待してご覧ください! そして、不穏な影も動き出します……



 銀時やキリトらが話し合っている他世界対策交流会議は、まだ続いていた。数分前に再結成された超パフュームを中心に、現在はシリカら女子四人の今後について話題が上がっている。そんな中銀時は、月詠に代わって吉原にある「ひのや」に黒電話で連絡し、四人の下宿先について日輪と交渉していた。

「まぁ、年頃の女子四人が安心して住める場所が、お前の所しかないと思うから電話したんだが、受け入れてもらっても大丈夫か?」

「もちろん。四人くらいなら、私は問題ないわよ! 任せて頂戴な」

「おー! それは助かるぜ。性格はてんでばらばらだけど、根は優しい奴等ばかりだから、よろしく頼むな」

 電話してから一分も経たないうちに、日輪は下宿について受け入れる。月詠の言う通り、訳を話せば彼女も大方賛成してくれたようだ。しかし、一人だけこの事態に動揺を隠せない男子がいる。

「ねぇ、銀さん……その下宿に来る女の子って、一体どんな子達なの?」

 それは、日輪の息子である晴太だった。彼だけは寺子屋に行っていたため、シノンを除く女子とは出会っていない。故に女子達の想像がついていなかった。電話越しで聞いてきた彼に、銀時はからかい混じりで伝えてくる。

「その点については安心しろ。お前が興奮するほどかわいい奴等ばっかりだからな」

「って、ちょっと待って!! それってどういう――」

〈プツン!〉

 晴太が動揺して興味深く聞いてきたところで、銀時は受話器を黒電話へ置いて会話を強制的に終了させた。そして、電話で話した内容を早速仲間達へ伝える。

「大丈夫だそうだ。四人まとめて受け入れてくれるってよ」

「良かった……これでみんなも、泊まる場所が決まったのね」

 アスナを始め仲間達は、交渉が成功したことに安堵の表情を浮かべていた。それは、この件の当事者でもあるシリカ達も同じである。

「下宿先が決まって良かったですね!」

「そうだね。でも、日輪さんの家ってどんな感じなんだろう?」

「落ち着いている雰囲気の家よ。茶屋も経営していて、十歳くらいの息子もいたと思うわ」

「へぇーそうなんだ」

 ふと疑問が浮かんだリーファに対して、シノンが昨日の記憶を元に言葉を返した。すると、リズベットにある考えが浮かぶ。

「十歳くらいの子ね……純粋な子だったら、小悪魔っぽくいたずらしようかな?」

「って、リズさん。そんな悪い事考えないでくださいよ」

 息子がいると知り、ついいたずらを考え付いたようだ。若干薄ら笑いとなる彼女に、シリカがヤレヤレと小声でツッコミを入れる。四人共、新生活への期待がより高まった。

「ありがとうよ、銀さん。わざわざ日輪さんとまで話し合ってくれて」

「別にいいよ。これくらい、当然のことだからな」

 キリトの何気ないお礼に銀時が照れ臭く返す。これで下宿先についての問題は解決したが、まだ彼女達には決めるべきことがあった。

「後は姉御達の意見がまとまってくれればいいアルけどナ……」

「お妙さん達の意見ですか……」

 そう言った神楽とユイは、苦い表情のままある方向へ顔を向ける。そこには、妙、九兵衛、あやめ、月詠の四人がおり、シリカ達の今後について詳しく話し合っていたのだ。

「やっぱり、大人の女になるには私と同じくキャバ嬢をするべきなのよ!」

「いいや。我が柳生一門で手伝いをした方が、彼女達の為にもなると思うのだが……」

「何を言っているのよ! 始末屋としての知識を教えれば、きっと強くなれるわよ!」

「そうかのう? 百華の元で手伝えば、女として立派に生きていけると思うが……」

 話が行き詰まる中、四人は腕を組み必死に考えている。そもそも事の発端は、妙達が下宿をするシリカ達に対して、自分達の仕事を手伝ってもらおうと提案したのが要因だった。意見もバラバラに分かれ、妙はキャバ嬢、九兵衛は柳生一門の手伝い、あやめは始末屋、月詠は自警団である百華の手伝いと、結論がまとまらずに今へ至っている。言い争いではないのだが、一行は空気を読んで口出しできずにいた。

「キャバ嬢に始末屋って……さすがにそれはやりたくないわね……」

「女子高生のするような手伝いじゃないですよ……」

 小声で思わず本音をこぼしたリズベットとシリカ。妙やあやめの提案した仕事内容に、気が引いてしまい表情も困ってしまう。その一方で、

「でも、月詠さんや九兵衛さんの仕事ならやりがいはありそうね」

「そうだね。剣術に関われるなら、私は構わないよ」

シノンやリーファは月詠と九兵衛の提案した仕事内容に興味を持ち始める。超パフューム内でも、仕事内容によって格差が生じていた。その様子を見ていた銀時は、既に結果を見据えている。

「こりゃ、お妙とさっちゃんのメンツが立たねぇな」

 どう考えても水商売と命懸けの仕事が、女子高生に受けるはずがない。選ばれなくてショックを受ける妙とあやめの姿を彼は予測していた。そんな中、女子達の中でなぜかリズベットだけが浮かない顔をしている。

「ん? どうしたんだ、おめぇ? トイレでも行きたいのか?」

「いや、違うから! 乙女であるアタシに何てこと言ってんのよ!」

 気になった銀時が声をかけたが、冗談交じりに言った言葉に彼女はつい怒りを露わにした。しかし、銀時は怯むことなくやる気のない声で話を続ける。

「それはいいから、何か言いたいことがあるなら言ってみろよ。コラー」

「そ、それは……」

 リズベットも銀時へ話すのを躊躇っていたが、ある思いがあったので彼女は正直に話してみることにした。

「……わ、わかったわよ! 実はね、アタシは鍛冶がやりたいのよね……」

「鍛冶? 武器を鍛える方のか?」

「そう。でも、お妙さん達とは無関係そうだから、正直話しづらかったのよ……」

「そういうことだったのか」

 リズベットが話したのは、元の世界でもやっていた鍛冶屋についてである。武器を鍛えるのが好きだった彼女は、折角なら自分に合った仕事をしたいと心の中で思っていた。しかし自分から言えずに、浮かない顔をしていたという。そんなリズベットの要望を聞いた銀時は、ふとある事を思いつく。

「あっ、そうだ。何ならいい方法があるよ」

「えっ? どういうこと、銀さん?」

 すると彼は、先ほど使った黒電話を持ってきて、ある番号をかけ始める。受話器を取り連絡をとると、すぐにリズベットへ渡した。

「ほらよ。後は任せたぜ」

「えっ!? ――あ、あの? もしもし?」

 耳へ近づけると、電話越しに聞こえてきたのは活気のある女性である。

「あっ、君が鍛冶について興味のある女の子だね?」

「えっと、あなたは?」

「村田鉄子。銀さんの知り合いで、刀鍛冶を営んでいる職人ってところかな?」

「刀鍛冶……!?」

 そう。通話の相手は鍛冶屋を営んでいる村田鉄子だった。挨拶回りの時にキリト達とも出会っている銀時の知り合いである。鍛冶屋繋がりのリズベットとは相性が良いと思い、銀時から電話をかけたのだ。そんな二人の通話は予想通りスムーズに進む。

「ところで、君は何て言うんだい?」

「あっ、リズベットと言います!」

「リズベット……わかったよ。銀さんからさっき聞いたけど、君もキリト君達の仲間なのかい?」

「そ、そうです! 元の世界では、鍛冶屋をやっていたんです!」

「おー! それは、助かるよ! 私とも気が合いそうだね!」

「こ、こちらこそ光栄です!」

 やや緊張気味にリズベットは、鉄子と通話する。その後も会話は進み、話のウマが合ったのか彼女の表情も明るくなっていく。雰囲気から二人は既に意気投合し、仕事が決まるのもそう遠くはなかった。

「まぁ、きっと大丈夫だろうな」

 様子を見ていた銀時も、彼女の楽しそうな表情を見て一安心する。一方、他のメンバーも徐々に仕事が決まりつつあった。

「さて、アイツらの方はと」

 妙らの方へ顔を向けると、そこには銀時の予想していた光景が広がっている。

「それじゃ、柳生一門のお手伝いとしてよろしく頼むな」

「はい、九兵衛さん!」

 互いに握手をする九兵衛とリーファ。どうやら九兵衛の提案した剣術関係の仕事に、リーファが了承してくれたようだ。満足気な表情を共に浮かべている。その一方で、

「まぁ、日輪の店の手伝いは四人全員に任せるとして、シリカとシノンはひとまず百華の手伝いを頼むぞ」

「もちろんですよ、月詠さん!」

「ナー!」

「力になれることは、なんだってするつもりよ!」

月詠の提案した仕事に快く賛同していたのは、シリカ、ピナ、シノンの二人と一匹であった。自警団である百華の手伝いを、このメンバーで行うことが決まる。ということは、やっぱりあの二人の仕事は誰も受け入れていなかった。喜ぶ五人の横では、妙とあやめが項垂れて落ち込んでしまっている。

「な、なんで……みんな、キャバ嬢のように男から金を搾取したくないの?」

「そんな……始末屋になれば、私と同じく愛を追いかけるストーカーになれるのに……」

「――お前らはまず仕事内容を変えろ。スタート地点すら立ってねぇんだぞ」

 そんな彼女達に対して、銀時は辛辣な言葉で追い打ちをかけた。二人はふざけていたわけではなく、本気でシリカ達をキャバ嬢や始末屋として誘い込もうと考えている。だからこそ、選ばれなかったことにショックも大きかった。こうして事態は進み、超パフュームの今後の目的や活動も着々と決まっていく。

 

 時刻が夕方から夜へと移り変わり、会議もいよいよ終盤を迎えた。今回議題に上げたサイコギルドの情報や超パフュームの仕事内容なども、ホワイトボードのスペースが無くなるほど書き詰めている。そして、頃合いを見た銀時が再びマイクを持って仕切りだした。

「さて……夜になってきたし、話せることもだいたい話したからそろそろ締めるか。お前らの明日もだいたい決まったからな」

「明日か……」

 銀時の言葉を深く受け止めるキリト。思えばこの会議を通して、多くの意見交流が出来たと思っている。彼の仲間達もみな、会議に集まってくれた万事屋らこの世界の住人達には感謝しかない。これからは、みなバラバラの場所でそれぞれの日常を送ることになるが、元の世界へ戻るという目的はなんら変わっていない。この個性的な大人達の元で、なんでも屋として働いたり、侍として国を変える運動をしてみたり、スナックで元の世界と同じく酒場で働いたり、下宿しながら各々の仕事を手伝ったりと、普段とは違う日常を送っていく。そうキリトら九人は決断したのだ。そして、銀時が会議を締め括る。

「まぁ、最後に俺から言うことはただ一つだな。お前らは……俺達が絶対に元の世界に戻す! いつになるのかは分からねぇが、それまでは俺達のことを信じてほしい。大丈夫だよ。どんなことがあろうと、ここにいる奴等は全員……てめぇらの味方だ!」

 彼の頼もしくも人情味のある言葉が、場に響いていく。その表情は、いつもよりも男らしく普段とは別人のようにかっこよく見えた。

(銀さん……やっぱり、なんだかんだで頼もしい人なんだな……)

(銀さんもこんなかっこいいことを言えるのね……)

 キリトやアスナを始め仲間達も心の中で、銀時の言葉を深く噛みしめている。彼や万事屋がいたからこそ、仲間との再会や自分達の状況を理解してくれる新しい仲間もできた。先行きが不安な未来でも、この人達だけは最後まで信じていきたい。そう、キリト達は密かに心の中で思っていた。

「銀ちゃんにしては、珍しい締め方アル」

「そうだね。相手がキリトさん達だから、ふざけたことは言わないのかもね」

「そうアルナ」

 新八や神楽も、銀時の真面目な締め方に一安心する。と会議は綺麗に締め括られたはずだったのだが――

「……といっても、結局元の世界には戻れるんだけどね」

「えっ?」

「アレ、銀さん?」

銀時が唐突に元も子もないことを言い始めてきた。表情も気だるく変わり、態度も先ほどと違って緩く一変している。キリトらは意味がわからず、新八らは嫌な予感を察して戸惑っているが、さらに銀時は言葉を続けた。

「だってよ。一訓か冒頭の説明にも書いてる通り、お前らの時系列って原作七巻の後、もしくはアニメの方の二期の最終回直後って設定なんだぜ。だったら、その後も劇場版なり三期をやっているんだから、必然的に戻るのは当たり前だろ? そんな真剣な表情しなくても戻れんだって! だからもっとお気楽にいこうぜって!」

 まるで気持ちが吹っ切れたように、メタ発言を連発する銀時。無論、キリト達SAOのキャラクターは意味が分かっておらず、まったく通じていない。

「劇場版に三期って、一体どういう意味ですか?」

「アレ? ユイやお前らには伝わっていないのか? だったらこれを機会に教えてやろう。てめぇらは実は人気ライトノ――」

「「これ以上言うな!! 天パァァ!!」」

「ブホォ!!」

 勢いに乗ってメタ発言を言ってきた銀時に対して、業を煮やした新八と神楽が彼に向って飛び蹴りし、強制的に止めさせる。そして、万事屋同士の内輪揉めが始まった。

「アンタ!! 最後の最後で、なんてこと暴露しようとしてるんですか!! キリトさん達をさらに混乱させたいんですか!!」

「綺麗に締め括ると思ったら、メタ発言でぶち壊しにされたネ!! なんで最後にふざけたアルか!!」

「ったく、てめぇら! こっちだってな、グダグダにしないと気が済まないんだよ! ギャグ漫画の定めなの! SAOみたいに真面目な空気は続かねぇんだよ! 察しろよ、ゴラァ!」

「「察せるか!!」」

 仲間達が大勢いるにも関わらず、三人は本格的な喧嘩を始めてしまう。結局、グダグダな雰囲気を作りながら、会議は締め括られたのであった。この結末に、仲間達の反応もそれぞれ異なっている。

「ヤレヤレ……やっぱりこうなるのか」

「まったく……さっきまでの空気はどこへやらだねぇ……」

 いつも通りの展開に、呆れを口にする長谷川とお登勢。さらに、たまはエギルへ万事屋の説明を加えていた。

「エギル様。これが、万事屋の本性です。よーく覚えておいてくださいね」

「ああ、わかったよ。喧嘩するほど仲が良いってことだろ?」

「ソウ解釈スルノカヨ!?」

 ポジティブに考える彼の姿に、キャサリンがついツッコミを入れる。一方で、シリカら女子達はこの状況に気が引いていた。

「すごい剣幕で争っているわね……」

「そうじゃな。それが奴等の日常と言うべきところかのう」

 喧嘩の迫力に圧倒されるシノンに、月詠が一言添える。さらに、リーファからはある不安が思い浮かぶ。

「これが毎日あるなんて……お兄ちゃん達の体力が持たないよ!」

「って、そこに食いつくの、リーファちゃん!?」

 キリトらの心配をする彼女に、あやめが強くツッコミを入れた。

「だ、大丈夫なんでしょうか、三人共……」

「ナ……?」

 人一倍不安を感じるシリカやピナには、妙と九兵衛が補足を入れる。

「大丈夫よ、このくらいの喧嘩。数分じゃなくて、数時間で収まるから」

「って、余計心配するわよ!? 本当に大丈夫なのよね!?」

「ああ、心配ない。それが、万事屋らしさで彼らの日常だからな」

 予想外のことを言われ、リズベットも激しくツッコミを返す。動揺するシリカら女子四人とは違い、妙ら女性四人はさも当たり前のように慣れていた。一方で、

「ん、桂さん? この状況でも冷静さを保っているのか?」

クラインは万事屋の喧嘩よりも、それに動じない桂の姿が気になっている。先ほどの超パフュームの仕事決めの時も、桂は腕を組み男らしく黙っていたので、クラインも釣られて珍しく黙っていたのだ。微動だにしない桂の行動に、彼は疑問に感じる。前に回り込んで桂の様子を見ようとするとそこには、

「ゴォォ……エリザベスにクライン殿、そばがあるぞ……」

「って、寝てんのかよ!?」

寝言を立てながら居眠りしていた。そう、マイペースな桂は会議の途中から眠気に負けてしまい、静かに眠っていたのである。近くにいたクラインでさえ、まったく気づいていなかった。

「誰にもバレずに居眠りを続けるなんて……やっぱり桂さんは、只者じゃないってことか!?」

〔いや、お前も只者じゃないよ。それを自覚しろよ、バカ〕

 勘違いをしたクラインに、エリザベスが辛辣なプラカードを掲げる。いい意味で彼らの仲も高まっていった。

 そして、万事屋でもあるキリトら三人も、銀時らの喧嘩を静かに見守っている。

「なんだかいつも通りになってきましたね……」

「そうね。でも、勢いがありすぎてつい喧嘩しちゃう関係は、私は嫌いじゃないかな? それで仲直りして、絆が深まるなら良い事だと思うよ」

「銀さん達には、そのやり方が合っているのかもな。だから、素直に信じられるんだよ。さっきみたいに、時々意味の分からないことを言う時もあるけど」

「ワフ!」

 キリトの解釈に、アスナとユイはフッと笑いながら大きく頷いた。三人に続き定春も深く頷き、共感している。メタ発言の真意について彼らはまったく理解できていないが、それでも万事屋の三人を信じる気持ちに変わりはない。だからこそ今は、三人の気が収まるまでずっと見守っている。こうして、大規模に行われた他世界対策交流会議は、銀時らの喧嘩によって幕を閉じた。

 

 気付けば時刻は夜の九時を過ぎている。満月が夜の空へと輝く中、会議を終えた一行はそれぞれの新しい居場所へと帰っていく。

「みんなー! 元気でやるのよー!」

「また会おうなー!」

 下宿先である「ひのや」へと向かうシリカら女子四人に、手を振って見送る妙と九兵衛。にこやかな表情ながらも、少し寂しそうな仕草を共に見せていた。

「……まだ会って二日しか経っていないのに、少し寂しい気分だわ」

「そうだな。でも、これからはいつでも会えるんだから、大丈夫じゃないのか?」

 九兵衛が優しく妙へ声をかける。二人は女子達への思い入れが強く、全員ともっと仲良くしたいと心から思っていた。

「そうね! その為にもまずは、キャバ嬢以外の仕事を考えないと! 何がいいのかしら? うーん、思いつかないわ……」

「いや、僕と同じく道場の手伝いくらいでいいのではないか?」

 盲点にすら気付かない妙に、九兵衛がそっとツッコミを入れる。それでも、彼女はまだ真剣に悩み続けるのであった。

 

 一方で月詠は、女子四人とピナを連れて吉原へと向かっている。街灯が照らす道中で、彼女達は期待と不安を交差させていた。

「いよいよ今日から、新しい生活が始まるんですね」

「ナー!」

 やや緊張しているシリカに、ピナはいつもよりも元気な鳴き声を返す。これから始まる新生活に彼女は期待を寄せていた。

「成り行きで色々と決まったけど、このメンバーと過ごせるなら、なんだかんだで充実した生活を過ごせそうだけどね」

 何気なく言ったリズベットの言葉に仲間達も頷く。交流会議をしてから四人は、下宿先や目的も明確に決まり、気持ちが楽になっていたのだ。故にその表情も明るくなり、月詠も一安心している。

「そうか……主らがそう思っているなら、わっちも何よりじゃ。会議をして正解じゃったな」

「まぁ、今は先の事よりもこの時を楽しむ方が、有意義だと私は思うけどね」

「折角別の世界に来たんだから、帰れるまで思いっきり楽しまないとね!」

 冷静なシノンと、前向きに考えるリーファ。女子四人の反応は違えど、その気持ちは一つである。こんな状況だからこそ全力で楽しみ、手伝いや仕事を通じて自分の長所や個性を高めようと、心に誓ったのだ。

「ふぅ……主らなら絶対に出来ると思うぞ。わっちらも、全力で後押しするからのう」

 優しい口調と微笑みで話をまとめた月詠。そんな彼女に対して、シリカがお礼を口にした。

「はい! これからよろしくお願いしますね! 月詠お姉ちゃん!」

「ああ! ――って、お姉ちゃん!?」

 唐突な呼び方の変更に、月詠はつい戸惑ってしまう。しかも、シリカの高音かつロリっぽい口調で言われると、どこか違った意味にも聞こえてくる。彼女に続いてか、リズベットやリーファらも呼び方を変えてきた。

「おっ! その呼び方、いいね! 月詠さんに対しても、親しみも込めているし」

「いや、あの。そうなのか……?」

「そうだよ! 月詠さんにとって、私達はもう妹分みたいなものだから、私もその呼び方にしようかな? 略して月姉(つきねぇ)とか!」

「それはいいわね。月詠さんはその呼び方でも大丈夫かしら?」

「――もう! ならば、主らの好きなように呼びなんし! 姉でもお姉ちゃんでも!」

「フフ……わかったわ。月姉さん」

 シノンまでも姉呼びをしてきたので、月詠はついに気持ちが吹っ切れてしまう。顔を赤くする彼女に対して、シリカら四人は純粋な反応を見て思わず笑いをこらえている。月詠との距離が縮まるのも時間の問題であった

 

 同じ頃、桂、エリザベス、クラインの攘夷志士三人組は、拠点としている極秘のアジトへと足を進めていた。

「さて、クライン殿。明日から本格的な攘夷活動が始まる。気を引き締めて覚悟するのだぞ」

「わかっているぜ、桂さん! 侍としての覚悟なら、もう既に出来ているからよ!」

「そうか――それでこそ、立派な攘夷志士だ! また一歩、侍へと近づいたな!」

「桂さん……その言葉こそが、有り難き幸せです!!」

 不安など一斉感じさせないクラインの表情と言葉に、桂も一安心する。彼だけはむしろ、今後の生活が楽しみで仕方がないのだ。そんな二人の侍を、後ろから見守っていたエリザベスは唐突にプラカードを掲げる。

〔ヤレヤレ。今度からこのバカ二人を、俺が支えていかなければいけないのか……〕

 桂と同じくバカの匂いのするクラインに、手を焼く光景が浮かんだようだ。それでも彼らのことを見捨てることはできないので、陰ながら支えることを決心する。

〔まぁ、クラインさんが元の世界へ戻るまでは、俺達が守らなければな……〕

 続けて掲げたプラカードにも、その思いが書かれていた。そんなエリザベスに対して、桂とクラインが急に声をかけてくる。

「ん? どうした、エリザベス? 何か伝えたい事でもあったのか?」

〔いいえ。なんでもないですよ〕

「そうか……でも、相談したいことがあれば難なく俺達に言ってくれよな!」

〔わかっている。ありがとうな〕

 心配をしてくれた二人に、エリザベスは新しいプラカードでお礼を返した。思いを隠しつつ、三人の侍は絆を深めていく。

 

 一方で、お登勢ら四人はスナック、長谷川は公園へ戻るため、共に帰り道を歩いていた。場には大人しかいないため、口数も少なく落ち着いた雰囲気となっていたのだが――

「はぁ……またこれから、無慈悲なホームレス生活が再開するのか……」

長谷川だけは空気を読まずに、ずっと文句を垂れ流している。不安定な生活が続き思わずため息をついたようだ。そんな彼に、見かねたエギルが一言声をかけてくる。

「そう悲観するなよ、長谷川さん。アンタと知り合った以上は、俺からも出来ることはなんだってするから、遠慮なく頼ってくれよな」

「エギル……お前は何て良い奴なんだよ! 横にいるババアとは偉い違いだぜ!」

「って、それどういう意味だ!! ゴラァ!!」

 エギルからの励ましの言葉を受けて、感動した長谷川は思わずお登勢への本音を口に出す。当然、彼女からはツッコミを入れられてしまったが。その様子を見ていたキャサリンやたまは、長谷川やお登勢のリアクションよりもエギルの頼もしさに脱帽している。

「アノグラサンヲ励マスナンテ、エギルサンモ物好キデスネ」

「それは、私達女子には分からない、おっさん同士の情が関係しているのですよ。エギル様らしいですよね」

「アノ男ハ人一倍、落チ着イテイマスカラネ」

 エギルがこの世界に馴染んでいることが、彼女達にとって喜ばしい事だった。だが、そんな彼も実は心の中である思いを隠している。

(落ち着いているか……本当は不安な気持ちもあるんだが、この人達といるとそんなもんが吹き飛んじまうんだよな)

 密かにあった不安も、この人達といれば自然と無くなっていく。だからこそ、大切に関係を築いていきたいと思っていた。互いに理解しながら、新しい信頼を勝ち得るのである。

 

 そして、万事屋も同じく自分達の居場所へと帰ろうとしていた。先にいるお登勢らの後を追いかけるように、六人と一匹はゆっくりと道を歩いている。ちなみに、今日も新八は万事屋へ一泊するようだ。すると、ユイが元気よく銀時らに話しかけてくる。

「それにしても良かったですね! 喧嘩をしても、すぐに仲直りできて!」

「まぁ、万事屋の喧嘩はこう見えて、すぐに収まるからナ!」

 彼女の言葉に、意気揚々と神楽が答えた。先程の喧嘩も時間が経つと収まり、三人は既に仲直りしている。

「確かにそうだね。そもそも今回は、銀さんが真面目な空気を読まなかったのが原因なんですから、これからは気を付けてくださいよね!」

「はいはい、わかってるから!」

 新八からの注意に、けだるい声で答える銀時。喧嘩して懲りたはずなのだが、本当に反省しているのか疑わしかった。これには、アスナもため息を吐いてしまう。

「まったく銀さんってば……って、そもそもさっき言っていた劇場版とか三期って一体どういう意味なの?」

「そこは触れないでください、アスナさん……この世界の住人にしか伝わらない言葉だと思っておけば十分ですから……」

「そうなの……?」

 メタ発言について知ろうとするアスナに、新八が震えた声でごまかしを利かす。キリト達には正直、その真意を知られたくなかったのだ。まだ納得が出来ていない彼女だったが、そこへキリトが話しかけてくる。

「まぁ、銀さん達が訳の分からないことを言うのはいつものことだし、気にしなくてもいいと思うけど」

「そっか……そうよね」

「って、キリトさんの言葉には納得するんですか!?」

「つーか、お前らメタ発言のこと、そんな風に思っていたのかよ」

 彼の解釈を聞き、アスナはすんなりと納得してしまった。展開の早さに、銀時や新八からはツッコミを入れられてしまう。と話が途切れたところで、ユイが再び一行へと話しかける。

「でも今日は、色んなことがありすぎて忙しかったですよね。ハプニングもありましたけど、無事にシリカさんやリズさん達と合流出来て本当に良かったです!」

「そうですね……それに、みなさんの居場所や目的も決まって進展した方だと思いますよ」

「終わりよければ全てよしアル! みんなの明日が決まって私も安心ネ!」

 今日の出来事を振り返ったユイに、新八や神楽が言葉を返した。三人の言う通り、少しずつではあるが事態はいい方向へと進んでいる。仲間達の受け入れ先も決まり、サイコギルドの情報も整理できた。それだけでも十分な成果である。すると、アスナやキリトが銀時へと話しかけ、自らの思いを伝えてきた。

「私達のためにここまでしてくれるなんて……銀さん達には感謝してもしきれないほどの、恩が出来たわね」

「フッ……そうでもねぇよ。俺達は万事屋として、当然のことをしただけだからな」

「当然のことか……それでも、銀さん達は優しいよ。見ず知らずの俺達を、信じてかくまってくれるなんて。そんな大人、俺のいた世界にも滅多にいないよ」

「それは……テメェらを見過ごせなかっただけだ」

「フフ……銀さんってば」

 若干照れている銀時に、キリトらは思わず微笑みをこぼす。万事屋と出会えたからこそ、自分達の今に繋がっている。疑いもなく信じてくれた彼らに対して、キリトら三人は改めてお礼を交わしていく。

「いずれにしても、しばらくお世話になるんだから、改めて銀さん達にはお礼を言っておかないとね!」

「そうだな。これからも色々と迷惑をかけるかもしれないけど、万事屋として精一杯頑張るから……俺達やみんなを、これからもよろしくな!」

「よろしくです!」

 そう言うと三人は一旦歩みを止めて、微笑みながら深くお辞儀を交わした。それにつられ、万事屋も立ち止まり彼らの気持ちを受け取る。

「こちらこそよろしくネ! さぁ、また明日から忙しくなってくるアルよ!」

「僕等もできることは全力でサポートしていきますから、遠慮なく頼ってくださいね!」

「まぁ、前も言ったけど迷惑なんて上等だからな。俺は、テメェらが満足しているならそれで十分だよ」

「ワン!」

 銀時らも自分なりの言葉で、キリト達へ返答した。正直に言い合ったからか、お互いに笑顔の表情を浮かべている。こうして、万事屋はまた絆を深めていくのだ。と場の空気が落ち着いていた時である。

「ん? アレはなんでしょうか?」

 ユイが万事屋の後ろにあった曲がり角から、ある気配に気づく。目を凝らしてじっと様子を見ていると、いつの間にか気配は無くなっていた。だが、

「ガサッ!」

と微かに小さい物音が彼女の耳に入ってくる。

「まさか、誰かいるのでしょうか?」

「って、ユイ? どこへ行くんだ?」

「一人で行っちゃ危ないでしょー」

 不審に思ったユイは、つい気になってしまい曲がり角へと向かう。その跡をキリトとアスナが追いかけていった。三人はその場を離れてしまい、道中には銀時、新八、神楽、定春の三人と一匹だけとなる。すると、銀時は急に顔色を急変させて仲間達へ話しかけてきた。

「なぁ、新八、神楽。あいつらって、「ソードアート・オンライン」って作品のレギュラーメンバーなんだよな?」

「えっと……そうアルか、新八?」

「そうですね。劇場版のポスターも確かあの九人が飾っていましたから。それがどうかしたんですか?」

 神妙な顔つきに加え意味深に聞く銀時に、新八や神楽も違和感を覚えていく。さらに、彼は続けざまにある推測を話してくる。

「いや、これは真面目な話なんだが。もしかすると、サイコギルドがあいつらを狙った理由って、やっぱり偶然じゃねぇのかもな?」

「えっ? つまり、どういうことですか?」

「それはだな……」

 と二人へ伝えようとした時だった。

「キャァァァ!!」

 突然、ユイの悲鳴が辺り一面に響き渡ってくる。

「ユ、ユイちゃん!?」

「まさか、とうとう尻尾を表したってことか! てめぇら、話は後だ! 行くぞ!」

「おうネ!」

 キリト達の身の危険を感じとり、万事屋一行は急いで彼らの向かった曲がり角へと向かっていく。もしかすると、サイコギルドを見つけたのかもしれない。そう一行は思っていた。

「おい、てめぇら!! 大丈夫か!?」

「今助けに来た――」

 そして駆けつけたのはいいのだが、そこで目にしたのは予想外の光景である。

「あっ、みんな! ようやく、来てくれたのね」

 キリトら三人に異常や怪我はなく、みな無事であった。さらに横には、

「って、銀さん!? なんでここにいるのよ!?」

布を使って電柱と同化していたあやめの姿を見つける。ユイが見つけた気配は、銀時のストーカーをしていたあやめであった。会議が終わり、みんなが油断している隙に実行へと移したようである。つまり、さっきのユイの悲鳴も彼女が原因だった。

「ま、まさか……悲鳴の正体って……」

「えっと、あやめさんが電柱に隠れていて、びっくりしてしまったんですよ。すいません」

 自分には何も非がないのに、丁寧に頭を下げて銀時らへ謝りを入れるユイ。一方であやめは、まったく懲りておらず反省すらしていない。

「フフフ……バレてしまっては仕方がないわね! こうなったら、銀さん!! 今日はあなたの家に泊め――」

「ノーサンキューじゃぁぁ!! このメス豚ァァァァ!!」

「ブホォォォ!!」

 手を広げて突進してきたあやめに、銀時は彼女の顔面を容赦なく殴り、その勢いを終わらせる。心配して損した上にストーカーであるあやめのテンションの高さに苛立ち、銀時の怒りは限界を迎えていたのだ。

「す、すごいです……銀時さん」

「ストーカーを難なくひれ伏せるなんて……」

「これが銀さんの本気なのか……?」

 見たことのない銀時の一面に、驚きを隠せないキリトら三人。みな苦笑いで、この状況を呟いている。一方で、新八や神楽もあやめのしつこさには辟易していた。

「はぁ……さすがさっちゃんアルナ……」

「そうですね。――って、そういえば銀さんが言っていた、サイコギルドの話って一体何だったんだろう?」

「まぁ、今は話せる状況じゃないアルし、また今度ってことにするネ」

「そうですね」

 結局、聞くことのなかった銀時の推測も、またの機会に持ち越しとなる。こうして、あやめへの制裁を加えつつ、万事屋の帰宅時間はより遅くなっていくのだ。

 

 時を同じくして、江戸にある一つの港にはある不穏な影が近づいている。それは空中に集まっていき、一つの不気味な穴を作り出す。そう、ブラックホールだ。するとその穴の中から二人の人間が出現し、この世界へと降り立つ。同時にブラックホールは、役目を果たして跡形もなく消滅していった。

「ふぅ……ようやくこの世界に辿り着いたね」

「そうだな。これからはこの世界が、俺達の拠点となるだろう」

「さっすがー! この世界の宇宙は広いんだし、簡単にはあいつらに見つかりそうにないもんね」

 周りに人の気配がないのを言いことに、堂々と計画を口にする二人。その正体は、キリト達を別世界へと送った張本人、サイコギルドのメンバーだった。大きい槍を持った少女と、全身が銀色に覆われた緑目の怪人。やはり二人は、最初から面識があったのである。

「あいつらか……いい実験材料となってくれたもんだな」

「本当そう! 別世界に送ったおかげで、良い実験結果を得られたんだし、感謝だけはしておかないとね……」

「ふっ……まぁ、いずれは俺達と衝突することになるだろう。その為にもまずは、このサイコホールの完成を急がなくてはならない」

「これを使って、私達に協力してくれる輩を増やそうってことだね?」

「未完成ではあるが、それでも凄まじいエネルギーを秘めている。別世界から敵を呼ぶなど容易い事だ……」

 会話の中で彼らは、ブラックホールを元に作り出したサイコホールの存在を上げた。恐ろしい計画を次々と語り、少女は不気味な笑みを浮かべる。一方で、怪人も高笑いで自身の計画に酔いしれていた。

「……さて、そろそろ始めようか。サイコギルドが掲げる野望の為に……なぁ、アンカー?」

「もちろんだよ……シャドー――」

 互いの名前を言った二人は、気持ちを合わせるために唐突に握手を交わす。銀時やキリト達の知らない間に、大きな陰謀が渦巻き始めていく。サイコギルド――その正体や目的は未だに不明である。

 




 ようやく全員の居場所が決まりましたが、その裏で暗躍するサイコギルドとは一体……?そこにも、注目していてください。そして、次回はいよいよ第一章が完結! 同時にこの小説のこれからについても話そうと思います。長い事時間はかかりましたが、最後までお付き合いしていただければ幸いです。では、次回!


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第十六.五訓 新生活は期待と不安で心が一杯になる

 一か月という沈黙を破り、再び投稿出来ました! みなさん、お久しぶりです! トライアルです! 色々と予定が崩れたのですが、ようやく出来ました! 今回は、シリカら女子四人が下宿することになった「ひのや」でのお話。時系列は十六訓と十七訓の間となります。それでは、どうぞ!


 時刻は午後の十時を回ったあくる日の万事屋。この日は万事屋の知り合いや、キリトら別世界の住人が集まって話し合った、他世界対策交流会議が行われていた。やるべきことも決まり一行は、それぞれの新しい居場所へと帰っている。そんな中、万事屋ではさらなる話し合いが行われており、六人は揃ってテーブルを囲みソファーへと座っていた。

「さて……明日からまた本格的に万事屋としての仕事が始まるわけだけど……その前にはっきりと決めておきたいことがあるのよね」

「決めておきたいことですか?」

 アスナの力強い言葉に、ユイが反応する。どうやら彼女は、ある問題について白黒をつけたいようだ。その表情は真剣さを極めている。

「おい。それって一体なんだよ?」

 銀時も聞いてくると、急にアスナは彼の方を向き再び口を開いた。

「銀さん。これからのことも考えてちゃんと言っておくわ……今後は私が万事屋のお金を管理していいわね?」

「ああ、うん。って、はっ!? おい、それどういうことだよ!! 急展開すぎるだろうがぁ!?」

 思ってもいない言葉を聞き、銀時は耳を疑う。彼女が伝えたことは、これからの万事屋の家計簿を握ることだった。もちろん銀時は、この考えに真っ向から反対している。一方でアスナは、冷静に訳を話しだす。

「私は今後の万事屋の事を思って提案したのよ! 銀さんみたいにギャンブルなんかしてお金をチャラにされるよりは、私がしっかりと管理した方が効率的でしょ? 養ってもらっている身だけど、しっかりした組織体制にしないと元も子もないわ! どうかしら?」

 真剣な眼差しで、彼女は銀時を睨みつける。正論を言っているためか、今日のアスナは普段よりも強気であった。その言い分に銀時は言い返すこともできずに、立場が危うくなる。そこで彼は仲間達を頼ることにした。

「ふざけんな! そんなの新八達が納得するかよ! なぁ、お前ら! アスナよりも俺の方が良いって言ってくれよ!」

 とキリトら四人へ勢いよく聞いてみたのだが――

「いや、俺はアスナの方がいいと思うが……」

「僕もアスナさんの意見に賛成です」

「ママの方が良いに決まっていますよ!」

「問答無用でアッスーアル」

全会一致でみなアスナの意見を推している。誰一人として銀時に賛同する者はいなかった。さらに、

「ワフ!」

定春でさえ手をアスナの方へ向けて彼女を指示していたのである。これには銀時も気持ちが沈んでしまい、動揺を隠せずにいた。

「……なんでおまえらまで? 定春も俺の味方じゃねぇのかよ……」

「仕方ないネ。アッスーの方がしっかりしていて、頼りがいがアルからナ」

「正直銀さんのギャンブル癖のまま、お金は管理してほしくないですからね」

 長い付き合いである新八や神楽からも、辛辣な言葉と共に簡単に手のひらを返される。そして、アスナは満面の笑みでとどめをさした。

「フフ……分かった、銀さん? これで私がお金を管理してもいいわよね?」

「……はい、大丈夫です」

「ありがとうね」

 遂に言い返せなくなった銀時は、アスナの要求を受け入れることにする。その光景はまさに下克上であり、万事屋の歴史が大きく動いた瞬間でもあった。

「ふぅ……これで万事屋も少しはまともな組織になるアルナ」

「そうだね。もういっそのことアスナさんが万事屋の所長でいいんじゃないですか?」

「そうネ! アッスーがリーダーで十分アルヨ!」

 新八や神楽からは容赦ない言葉をかけられ、ますます万事屋での立場を失っていく銀時。その表情は徐々にやつれ始めていた。すると、彼の元にキリトが優しく声をかけてくる。

「おーい。大丈夫か、銀さん?」

「……なぁ、キリト。一つ聞いていいか?」

「ん? 何?」

「アスナって、なんであんな強引なんだよ?」

 銀時は憔悴しきった声で、キリトへ疑問を問いかけた。すると彼は、丁寧に答えを伝える。

「それは……アスナなりの優しさだと思うよ。万事屋のことを真剣に考えた結果なんだし、しょうがないことだよ」

「そうか? 俺からしてみれば、鬼嫁以外の何者でもねぇぞ」

「ハハ……。相当トラウマを植え付けられたみたいだな」

 皮肉を口にした銀時に対して、キリトは思わず苦笑いで返してしまう。説得しようとも銀時の気持ちは沈んだままである。そんな彼を励ますように、キリトは銀時の愚痴に付き合うのだった。こうして、万事屋の忙しい一日は終わりを迎える。

 

 その一方で、シリカ達女子四人は月詠に連れられて、下宿先のある吉原へと向かっていた。新生活が始まることから不安も見せていたが、会話をしているうちに気持ちが変化していき、期待も大きく高まっていく。

「下宿と言えばなんだろう……? まずは寝間着でゴロゴロと転がって、その後は枕投げが定番かな?」

「って、途中から修学旅行あるあるになっていますよ!」

 リズベットの思いついた考えに、シリカがすぐにツッコミを入れる。そんな彼女達の話題は、新しく始まる下宿生活で持ち切りだった。リーファもこの話の流れに乗っかってくる。

「でも、あながち修学旅行みたいな感じだよね。みんなで泊って生活するなんて」

「そうなのか? 主らは普段、お泊り会とかはあまりせんのか?」

「そうね。このメンバーで本格的に泊まるのは初めてかしらね。その分、期待も高まっているけど」

 月詠からの問いにシノンが答えた。みな下宿自体あまり経験したことが無く、女子同士で泊ることもあまり多くないという。これには月詠も少し驚いていた。

「なるほど。主らにしては意外じゃな。てっきり何回も行っていると、わっちは思っていたが……」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ。元の世界ではみな学生だと聞いていてな。今どきのJKはあまり遊びには行かんのか?」

 今度は月詠から質問が飛び出す。興味深く聞く彼女に対して、リズベットが返答した。

「まぁ、アタシ達のいた世界には仮想世界があったから、そっちで集まって済ましちゃうこともあるのよね」

「ほう……時間短縮と言うことじゃな。まったく時代も変わったもんじゃ」

「って、月姉の世界と私達のいた世界は別物だから、時代もへったくれもないんだけど……」

 神妙に納得した月詠であったが、リーファからは正論を言われてしまう。SAO世界の事情も理解したところで、再び話題は下宿へと戻る。

「そこは気にするでない。仮想じゃろうと現実じゃろうと、主らが満足しているならよい。それに、今のわっち達は主らの保護者じゃからな。元の世界へ戻れるまでしっかりとめんどうを見るから、安心して頼ってきなんし」

「月姉さん……」

 場が落ち着いたタイミングで、月詠は頼りがいのある言葉を一同へかけた。生活環境が大きく変わっても、何不自由なく暮らしてほしい。そう月詠は伝えたかったのだ。そして、彼女からのメッセージを受け取り、シノン達もみな前向きに捉えている。

「そうよね。まだ慣れてなくて分からないこともあるけど、月姉さんやお妙さん達がいればきっと大丈夫よね!」

「みなさんを信じて、この困難もきっと乗り切りましょう!」

「ナー!」

 シリカの勢いにつられてピナも共鳴するように叫ぶ。同じく仲間達もアイコンタクトで、思いを一致させた。その表情は希望に満ち、みな屈託のない笑顔を見せている。そんな女子達の絆を目の当たりにした月詠も、そっと微笑んでいた。

「ふっ……やっぱり、この子達は仲がいいのう。ウチがますます賑やかになりそうじゃ……」

 彼女達と生活を共にすることに期待を持ち合わせている。明るくも前向きな雰囲気が辺りへと漂っていた。そんな時――

「フギャ!!」

「えっ? あっ!」

ちょっとしたトラブルが起こってしまう。月詠が手を後ろへ下すと、ちょうどシリカの猫耳を鷲掴みにしてしまった。身長差があってか、月詠は無意識に行ったらしい。一方で、急に触られたシリカは気が立っている。そして、早速怒りをぶつけてきた。

「つ、月姉さん!! 急になにするんですか!! びっくりするじゃないですか!!」

「す、すまぬ! つい気付かずにやってしまったんじゃが――」

「気を付けてくださいね! アタシやシノンさんは、猫耳や尻尾を不意に触られると驚くんですから!」

「わ、わかった。ちゃんと覚えておく……」

 先ほどのまでの雰囲気とは打って変わり、月詠も罪悪感を覚えて何も言い返せなくなる。普段はあまり見られない珍しい光景であった。

「月姉がシリカに対して、タジタジになっている……」

「ある意味、中々見れない光景かも……」

 シリカに怒られている月詠の姿を見て、リズベットやリーファは複雑な気持ちで呟く。しかし、同じケットシーであるシノンは違った反応を示していた。

「月姉さんにしては珍しい失敗ね。それにしても――ちょっと、シリカが羨ましいかも……」

 月詠の失敗に反応を示しつつ、猫耳を触られたシリカに対してちょっぴり焼きもちを焼いている。その証拠に表情もふくれっ面だった。ハプニングがありつつも、気を取り直して一行は目的地の吉原へと向かっていく。

 

 一方で、こちらは吉原桃源郷。江戸でも有数の遊郭であり、大人向けの店が軒を連ねていた。深夜へ差し掛かろうとしている今、多くの店が賑わいを見せている。そんな中、茶飲み屋であるひのやは夕方を過ぎた頃には既に閉店して、ある準備を行っていた。

「四人分の寝間着と布団。歯ブラシに、下着は――みんなが来てからで大丈夫かしらね。あっ! そうだわ! ペットも連れてくるみたいだから、その準備もしておかないと!」

 車椅子に座りながら、日輪は晴太と共に集めた下宿用の道具を確認している。そう、今日からひのやには、別世界から来た女子四人とペットが下宿先として泊まりに来るのだ。突然決まったことだが、日輪はすぐに了承して準備を手際よく進めている。楽しみにしている彼女であったが、その反応とは真逆に晴太はまったく落ち着いていない。

「ねぇ、母ちゃん……本当にウチに下宿してくるの?」

「当たり前でしょ。ウチは部屋が余っているだし、適任だったのよ。ところで、なんで緊張なんかしているの?」

「それはそうだよ! 急に姉ちゃんが四人も増えるなんて、まるでどっかのラブコメみたいじゃんか!」

「何言っているの。昨日来たシノンちゃんには、普通に接していたじゃないかい」

「それは、酔っていたからだよ! オイラだって、泊まりに来るって知っていたらここまで動揺してないのに!」

 顔を真っ赤にして、晴太は本音を口に出した。どうやら彼は下宿する女子達が気にかかり、ずっと緊張を隠せないようである。思春期の男子らしい反応であった。すると、戸惑う晴太を見た日輪は自分なりの言葉で返してくる。

「大丈夫よ。銀さんだって言っていたじゃないの。興奮するくらいかわいいって。みんな期待通りの美少女よ。だから安心して迎えればいいのよ!」

「そういう問題じゃないって! もう~! 母ちゃんまでからかわないでよ!」

 しかし、余計に晴太の気は乱れてしまう。恥ずかしがる姿を見て、日輪もついちょっかいをかけてしまったようだ。そんなやり取りをしているうちに、ようやくその時がやってくる。

「ただいまじゃ、日輪―! みなを連れて来たぞ!」

 玄関から聞こえてきたのは月詠の声。そう、いよいよ下宿する四人が月詠に連れられてやって来たのである。

「あっ、いらっしゃい! 今行くからね! さぁ、晴太。一緒に行き――って、アレ?」

 と日輪が声をかけた時、晴太は真っ先にその場からいなくなっていた。彼の行動から察するに、気持ちが落ち着かないまま逃げてしまったのだと彼女は考えている。

「全く、あのバカは。女子に対してすぐ意識しちゃうんだから」

 思春期の義息子に苦労しつつも、日輪はクスッと微笑みを浮かべた。そして、そのまま女子達を出迎えるために、車椅子を動かして単身玄関へと向かう。

「ん? やっと来たか、日輪。何かあったのか?」

「いいや。みんなのために準備をしていただけだよ。それで、この四人が今日から泊まる女子達かい?」

「ああ、そうじゃ。シノンにリーファ、リズベット、シリカとペットのピナじゃ。みな、しっかりと挨拶するのじゃぞ」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

「ナー!」

 対面して間もなく月詠に促されて、日輪へ挨拶を交わす女子四人とピナ。みな元気よく威勢の良い言葉で返す。そんな彼女達を見て、日輪も一安心していた。

「こちらこそよろしくね。みんな元気そうだし、かわいい子ばっかりね。将来は上玉って言われるくらい、べっぴんさんに成長するのかしらね~」

「って、日輪。……そういうことは初対面の時に言うものではないぞ」

「そうかしら? 無難に自己紹介をしても面白味がないでしょ? 凝った話で引っ張るべきじゃないの?」

「どこのトーク番組じゃ!! 主は普通に自己紹介するだけで、十分だと思うぞ!!」

 茶目っ気のあるボケをかました日輪に、月詠が激しくツッコミを加える。彼女達らしい親しげな雰囲気を見て、自然とシリカら女子達も親近感が生まれ始めていた。

「日輪さんって、結構ノリの良い人なんだ」

「そうね。雰囲気からしてみれば、親しみやすい人だと思うわ」

 リーファからの率直な感想を聞き、シノンが返答する。自己紹介はしなくとも、日輪の持つ優しい一面はうまく伝わっていた。

「気さくなお母さんって感じかな? どっちにしても親しみのある方が、話しかけやすいけどね!」

「そうですね! 遊び心のある大人って、素敵だと思いますよ!」

 リズベットやシリカも日輪に対して好印象を持ち合わせている。すると、それを聞きつけた本人は早くもお礼を伝えてきた。

「ありがとうね、みんな! 褒めてもらえてうれしいわ! お礼に明日の夕食は豪勢にしちゃおうかしら~!」

「何、浮かれとるんじゃ!! 照れているのがバレバレじゃぞ!!」

 冗談っぽく言った日輪に対して、月詠のツッコミも止まらない。場は自然と和んでいき、女子達は日輪とも打ち解けあい始めている。

 一方で、後ろ側にある戸の隙間からはある視線が突きつけられていた。その正体は――

(って、やっぱり銀さんの言っていた通りだ……いや、それ以上の可愛さなんだけどぉぉぉ!!)

心の中で本音を叫びまくる晴太である。彼は日輪が玄関へ向かった後に、こそこそと隠れながら外の様子を伺っていた。しかし、女子達の容姿を見ると余計に緊張が高まっていき、出るタイミングを失ってしまう。その証拠に、彼の心拍数は上がったままである。

(ど、ど、どうしょう……オイラあの子達とこれから一緒に暮らすの? そんなことしたら余計に緊張しちゃうし、SAOの読者を敵に回しちゃう可能性だって――ああ、オイラはどうすればいいんだよぉぉ!!)

 ついにはメタな心配まで晴太は始めてしまう。行動や思考すらも八方塞がりに追い込まれてしまい、今はただこの状況を様子見する他はない。彼が決意を固めるのは時間がかかりそうだ。

 

 それから数分後。結局晴太は表へ出ることもなく、挨拶をする機会を見失ってしまう。気配を消して、近づくことすらもためらっていた。一方で、女子達は日輪に連れられて廊下を移動している。向かう場所は、これから自分達の暮らす下宿部屋だ。

「さて、ここが今日からみんなの暮らす大部屋よ!」

「へぇ~。ここが下宿部屋なのね」

 新しい部屋の全貌を目の当たりにして、シノンら女子達は思わず息を呑む。四人が暮らしても十分な広さである十畳の部屋が印象的であり、旅館を思わせる和風な雰囲気を醸していた。内部ではすでに四人分の布団や寝間着に加えて、ピナ専用のバスケット型のベットも用意されている。気の利いた行為にみな心から嬉しく思い、リズベットも本音を口にした。

「ここまで用意してくれるなんて……予想外だわ」

「フフ。気に入ってくれたなら、何よりよ。四人共同部屋にしてみたけど、それで大丈夫だったかしら?」

「も、もちろん! 私達のイメージ通りよ!」

「そう。なら良かったわ!」 

 リーファからもお礼を言われ、日輪は満足気な表情を浮かべる。女子達が喜んでくれることに、幸せを感じていたのだ。

「それじゃ、部屋は好きに使っていいからね。詳しい事はまた明日になったら伝えるから、今日はゆっくり休みなさい。お風呂も沸かしてあるから、入ってきても大丈夫よ。わからないことがあったら、私や月詠に聞いてきてね!」

「はい! わかりました!」

 連絡事を全て言い終えた日輪は、部屋を出て女子達の元を去っていく。後のことは彼女達に任せるようだ。廊下を移動し月詠の元へ戻ろうとした時、タイミングよく晴太と鉢合わせする。

「か、母ちゃん……」

 突然の再会に彼は言葉に詰まっていた。すると日輪は一言だけメッセージを送る。

「晴太。あの子達はみんないい子よ。きっと仲良くなれるから、自己紹介は早めにしちゃいなさい」

 そう優しく伝え晴太の背中を後押ししたのだ。この言葉を聞いた彼は、ようやく決意を固めていく。

「そ、そうだよな……ここで待っていても始まらないし、チャンスは今しかないかも!」

 気持ちが楽になった今こそ、千載一遇の好機かもしれない。そう信じた晴太は、急いで女子達のいる下宿部屋へと足を進めた。そして、ちょうど戸の前へと立ち止まる。

(この部屋か……でも、少し物音がするからまだ着替えているのかな? ちょっと待ってみる?)

 部屋から聞こえてくる音を察して、晴太はタイミングを計り再び気配を消した。もし着替えている途中であれば、報復を受けかねないからである。少なくともエチケットは守らなくてはいけない。それから三分ほど待つと、ようやく部屋からの物音が静まった。

(そろそろかな? もう流石に着替えているのよね? 入っても大丈夫だよね?)

 静けさの中で再び彼は不安に包まれる。緊張も重なっていき、普段よりも疑心暗鬼に陥っていた。そこで晴太は、気付かれないように戸の隙間から部屋を覗くことにする。

(タイミングが悪かったら、すぐに離れよう……きっと、大丈夫だと思うけど。つーか、たかが挨拶に、オイラどんだけ神経質になっているんだよ……)

 ついには自分自身にもツッコミを入れ始めた。臆病さを感じながらも、晴太は隙間から女子達のいる部屋をこっそりと覗く。そこで目にしたものは、

「あ~~。久しぶりの布団は気持ちいいわね、シリカー」

「本当です~。季節は夏なのに、自然と温まりたくなりますよー。ねぇ、ピナ?」

「ナー……」

女子達がパジャマ姿でくつろぐ様子である。シリカやリズベットは、一日ぶりに布団へとこもり寝っ転がっていた。温もりを感じながらリラックスしている。同じくピナも自分専用の小型ベットに満足して、体を丸くしていた。みな表情は和らぎ、幸せそうである。

 一方のシノンとリーファは、共に枕を持ちある話し合いを行っていた。

「部屋の広さが限られている中で、いかに相手へ枕を叩き込むか……っていうルールで合っているわよね?」

「ええ、そうだけど……もしかしてシノンさんって、枕投げを楽しみにしているの?」

「べ、別にそうじゃないわ! ただ、やったことが無いから気になっているだけよ……」

「急なツンデレ!? って、本当は楽しみにしているじゃん!!」

 若干照れ始めているシノンに対して、リーファがすかさずツッコミを入れる。彼女達が話していたのは、枕投げへの戦略についてだった。数時間前に話していた下宿生活の定番で上がった話題だが、シノンは少なからず興味を持ち始めている。つまり、枕投げを存分に楽しもうと考えていたのだ。そんな女子達の雰囲気は和やかなものであり、みな楽しそうに過ごしている。この光景を見た晴太は、好機と捉えていた。

(良かった……。これならいつ訪ねても大丈夫だよね? なら今からでも――)

 ようやく覚悟を決めて、彼は改めて部屋へ入ろうと試みる。一歩前へと下がり、戸を叩こうとした時だった。予想外の出来事が彼に降りかかってきた。

〈ガラッ〉

「えっ?」

 聞こえてきたのは戸を開ける音。思わず前を向いてみるとそこには、

「って、みなさん……?」

シリカ、リズベット、リーファ、シノンと女子四人が立ち並んでいた。急すぎる場面転換に、晴太の理解も追い付かない。一方女子達は、彼を凝視して話しかけてくる。

「君が晴太君だよね? ずっと隠れていたみたいだけど、こそこそ何をやっていたのかな~?」

 不気味にも愉快そうな声でリズベットは話しかけた。その雰囲気は先ほどまでと異なり、静かに怒りを露わにしている。つまり、彼女達はすでに晴太の行動に勘付いていたのだ。これには晴太もすぐに察して、動揺が激しくなっていく。

「ま、まさかバレた……って、ハッ!」

 そしてつい本音を漏らしてしまった。不本意で覗いていたとはいえ、勘違いを与えたと彼は思っている。しかし、謝ろうにも時すでに遅い。

「さて、どういうことか説明してもらえるかしら?」

 誤解を与えたまま、シノンら四人は怒りが収まっていなかった。笑顔を崩さずに迫っていることから、晴太へただならぬ威圧感と恐怖を与えていく。とても弁解する空気ではない。対応に困った晴太はやむを得ず――

「えっと、その……さらば!!」

この場から逃げ出し脱出を図った。しかし、そううまくはいかない。

「逃がしませんよ! ピナ! バブルブレス!!」

「ナー!!」

 シリカがピナへと指示して、相手の動きを止める技、バブルブレスを発射させる。この泡に運悪く晴太も当たってしまい、

「って、何!? うわぁ!?」

体の自由が効かなくなると同時に倒れ込んでしまった。もちろん晴太はバブルブレスの存在は知らないため、突然の金縛りに頭が混乱してしまう。そして、

「さぁ、洗いざらい説明してもらうわよ」

「ギャャャ! 待ってー! 誤解なんだー! 許してー!」

リーファへと引っ張られていき、晴太はなすすべもなく連れていかれてしまった。体が思うように動かないため、抵抗することもできない。彼の気持ちは虚しさで一杯になっていた。

 

 それからも晴太は、下宿部屋で長い取り調べを受けている。もはや挨拶どころではなく、彼の頭は罪悪感で埋め尽くされてしまう。

「それで、どうして逃げたりなんかしたの?」

「正直に話してって、そう言ったのね?」

 リズベットやリーファが真剣な表情で自白を迫ってきた。シリカやシノンも同じように睨みつけているので、もはや晴太に逃げ道などない。

(ど、どうしよう……オイラもしかしてみんなに嫌われちゃったの? 下宿初日なのに……。でも、あの時すぐに挨拶しなかった自分も悪いし、自業自得なの……?)

 罪を重く感じている彼は、すぐに行動しなかった自分を責め立てていた。しかし、今は状況を鑑みて、女子達との誤解を解くことを優先的に考えている。

(でも、今はみんなの誤解を解かないと! 息苦しいまま生活したくないし……! ここで動くしか――)

 自分が説明しても信じてもらえない。そんな可能性だってある。でも今は、しっかりと自分の気持ちを伝えるしか方法はない。我慢してきてきた思いを解き放ち、晴太は四人に向けて全てを打ち明けた。

「ごめんなさい、みなさん……。急に覗いてきて……。でも、オイラはやましい気持ちで見ていないし、むしろ姉ちゃん達と友達になりたかったんだ……! 覚悟が決まらなくて、こんなことになっちゃって……。本当に、本当にごめん!!」

 謝罪も込めた晴太からのメッセージが部屋に響き渡る。彼らしく正々堂々と言葉を伝えてきた。その言葉を聞いた女子達は、急に表情を柔らかくしてみな純粋な笑顔を見せてくる。そして、リズベットが女子を代表して晴太へ話しかけた。

「ふぅ……言いたいことは良くわかったよ。最初からそうすればいいのに、本当男子ってじれったいわね」

「ご、ごめん。オイラが優柔不断なばっかりに……」

「別にいいよ。それに、アタシ達もそんな気にしていなし、怒ってもいないから安心して」

「……えっ? でも、さっき凄い怒っていたんじゃ……?」

「ああ、アレね。ただからかっただけだから、怒っていないよ。てか、よく演技だって気付かなかったわね」

「……はい!?」

 思いもよらぬ事実が晴太の耳へと聞こえてくる。彼女達が受けた誤解は最初から存在していなかった。つまり、全てを分かったうえで晴太と接していたのである。ネタバラシを聞かされた晴太は、驚きを隠せずにいた。

「ど、どういうこと!? オイラが隠れていたの、みんな知っていたの!?」

「まぁ、日輪さんから聞いていたし、玄関先で覗いていたのも最初から分かっていたよ」

「そ、そうだったの?」

 リーファからも理由を聞き、晴太の動揺はさらに広がっていく。自分自身が気付いていなくても、みな彼の気配をしでに気付いていたのだ。さらに、シノンやシリカが続く。

「そうよ。それに日輪さんからも言われたのよ。晴太は女子に対して控えめになっているから、ちょっと驚かせて距離を縮めなさいって」

「恥ずかしがる年相応の男子って聞いていましたよ」

「か……母ちゃんがそんなこと言っていたんだ……」

 この騒動の発端は日輪も深く絡んでいた。初めて会う女子とまともに話せそうもない義息子の姿を見て、深く心配していたらしい。いずれにしても、嘘だと分かった瞬間に晴太は気が抜けて、心を落ち着かせた。

「でも、良かった……姉ちゃん達との間で誤解が生まれてなくて」

「そうね、でも、これだけは言っておくわ。これからはこそこそしないで、言いたいことがあったらはっきりと言って! 私達だって晴太君と仲良くしていきたいし、そんな誤解で関係を崩したくないもの……」

「そ、それは……そうだよね。元々オイラが悪いし、これからは恥ずかしがらずに向き合うよ。だから、ごめんなさい」

 最後にリーファが騒動に対する注意を聞かせる。晴太が再び頭を下げたことで、ようやく騒動は幕引きされた。同時にリズベットとシリカが、場の空気を一新させる。

「ふぅ……それじゃ、この件はもう終わりにして」

「改めて晴太君に、挨拶しましょうよ!」

「えっ? もういいの?」

「晴太君も反省しているみたいだし、私達も気にしていないから大丈夫よ!」

「だから晴太、もう一回あなたのことを教えてくれる? 私達も紹介するから」

 リーファやシノンも彼に笑顔を見せて、声をかけてきた。さらに、

「ナー!」

ずっと様子を見ていたピナも晴太の方を見つめてくる。互いに話し合ったことで、友好的に接したいのだ。自分が彼女達から認められたことを確信した晴太は、嬉しくなり自然と笑顔になっていく。

(なんだ……母ちゃんの言っていた通り、みんな優しい姉ちゃん達じゃん……)

 こうして晴太は彼女達との信頼を勝ち取った。お互いに信じあい、これからは姉弟のように親しい仲を築いていく。新しい絆は一つの騒動によって、強く芽生え始めていた。しかし、自己紹介を踏まえて話し合っている途中、またも晴太はからかわれてしまう。

「あっ、そうだ! 折角だし親睦を深めるってことで、今日はお姉ちゃん達と一緒に寝てみる?」

「えっ? そ、それは……か、勘弁してくださいぃぃ!!」

 リズベットからの提案に、晴太は顔を赤くして大声で否定する。最後まで惑わされて、女子達から茶化される晴太であった。初めての下宿は、波乱の連続である。




これで本当に第一章は幕を閉じます。長い間空けてしまいすいませんでした。これからは時間の余裕があるので、週間投稿ができるようになります。第二章も期待していてください。
後、一つ訂正があります。第一章の前半部分でよく出てきた機械の名称なんですが、ナーブギアではなく正しくはアミュスフィアでした。この話の時系列では、後者が当たっていました。話には直接関係はありませんが、こちらのミスなので申し訳ありませんでした。随時訂正します。
 さて、話を戻して次回からはようやく日常回を中心に物語が進んでいきます。といっても一話完結が主流ですけど。それでは、次回予告と共に締め括りましょう。また、次回!



次回予告
銀時 「ギャャャャ!!」
アスナ「さぁ、銀さん……」
神楽 「覚悟するネ……」
キリト「銀さん……可哀そうだな……」
銀時 「うるせぇ! 見てないで助けろって!」
新八 「えっと、次回! 甘党の恨みは恐ろしい!」
ユイ 「みなさん、是非みてくださいね!」
銀時 「いいから助けろ――って、ギャャャ!!」




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第十七訓 異世界で暮らす時は、目的を見失うな! 

 お待たせいたしました! ようやく第一章が終了!! 元の世界へ戻れなくなったキリト達が、この銀魂の世界でどうするべきか……最後までその決意を見届けてください!


 時は過ぎていき、会議から約二週間が経過した。相変わらず夏らしい暑い日が続く中、キリト達はこの銀魂の世界で新しい生活を送っている。まだ慣れないことはあるものの、今は自分に出来ることをみな懸命に励んでいた。そして、今日もまたそれぞれの日常が朝から始まっていく。

「銀ちゃん! キリ! まだ準備出来ていないアルか!?」

「うるせぇ! 急かすんじゃねぇよ! ちょっと待ってろ!」

「なるべく早くしてくださいね!」

 準備が遅れている銀時やキリトに対して、玄関先で待っていた新八や神楽が催促を促す。この日の万事屋は朝から仕事が入っており、早めに準備をしていたのだが銀時とキリトの二人が寝坊してしまい、今は彼らの準備が整うまで出発待ちとなっている。

「はぁ……キリト君も銀さんに似てきたのかしらね……」

「でも、しょうがないですよ。昨日のお仕事だって、パパも銀時さんもすごく頑張っていましたから!」

 ため息をついたアスナに対して、ユイは元気よくフォローを入れた。自分の彼氏が万事屋の社長と行動が重なっていることに、彼女は不安しか感じていない。すると、新八や神楽も会話に参加してくる。

「あの二人はマイペースですからね。性格は違うけど、そういうところで気が合ったのかもしれませんよ」

「なるほど! つまりキリも銀ちゃんと同じく、いつかはロクデナシの大人になるってことアルか?」

「そういう意味じゃないよ、神楽ちゃん……」

 勘違いをした神楽に新八がそっと指摘を加えた。いつの間にか和んでいる場に、四人はつい笑い合っている。一方で戸を挟んだ向こう側には、銀時とキリトが急いで身だしなみを整えていた。こちらもお互いに会話を交わしている。

「まったく……呑気に笑いやがってよ、あいつら……」

「まぁまぁ、銀さんってば。寝坊したのは俺達なんだし、急かすのもしょうがないことだよ」

「おめぇは心が広いな。どこまで温厚なんだよ……」

 寛大に接するキリトに、銀時は皮肉交じりにツッコミを入れた。そんな中、急に銀時は顔色や態度を変えて再びキリトへと話しかける。

「なぁ、キリト……お前らが万事屋に来てから数日経つけど、楽しくやっているか?」

「えっ? まぁ、そうだな。アスナやユイもこの生活に満足しているみたいだし……それがどうかしたの?」

「……いいや、別に。聞いてみただけだよ」

「なんだよ、銀さん。急に改まって」

「深い意味はねぇよ。だから、気にするな」

「気にするよ。そんな銀さんらしくないこと言われたら」

「らしくないってなんだよ。俺にどんなイメージを持っているんだよ」

 たわいない会話を交わして、二人はついおかしく思い笑いあってしまう。キリトが万事屋としての日常に解け込んでいることに、銀時は一安心していた。

 そんな万事屋は、キリト達三人が来てから大きく変わり始めている。人数が増えたことや仕事の効率性が評判を呼び、以前よりも依頼数が多くなっていた。故に連続して仕事が入る日も珍しくなくなっている。万事屋としては、良い進歩であった。

「って、パパー! 銀時さん! もう着替えは終わりましたかー?」

「はーい! 終わったから、今すぐそっちへ行くよ!」

 ユイからも催促が来たところで、二人の準備はようやく整う。

「よし……それじゃ、行くか! キリト!」

「もちろん! 今日も頑張ろうな! 銀さん!」

 すると二人は、お互いの腕を合わせて気持ちを合わせた。その表情は共に、やる気に満ち溢れている。そして、そのまま仲間達が待っている玄関先へと向かうのであった。

「悪ィ! 遅れた!」

「みんな、ごめん! 準備に戸惑って!」

「もう……銀ちゃんもキリもたるんでいるアルよ!」

「万事屋に入って二週間も経つのに……相変わらず二人共マイペースね」

 文句を言い続ける神楽やアスナ。さらに、続いて新八も声をかけてくる。

「って、そういえば銀さん。早く出発しなくて大丈夫なんですか?」

「えっと……もうこんな時間か! ならさっさと行くぞ、てめぇら!」

「銀さん!? あんまり急がないでくれって!」

 やはり予定よりも出発時間を大きく過ぎていた。焦って玄関を出る銀時へ続き、キリト達五人も彼の後へと続いていく。

「ワフ~!」

 留守番をする定春に見送られながら、万事屋は今日の仕事先へと向かっていた。

 

 一方で、万事屋の下の階にあるスナックお登勢では、夕方の営業のために下準備が進められている。

「こんなもんかい? お登勢さん?」

「おー、やるじゃないかい。アンタも随分と、仕事の覚えが早いんだねぇ」

「これでもお登勢さんと同じ飲食系の仕事をしてたから、だいたいのことはわかるんだよ」

 エギルの手際の良さに、改めて感心していたお登勢。彼が住み込みで働いてから、早数日。スナックもより賑やかなものになっており、客足も徐々に伸びていた。エギル自身もこの仕事には満足しており、新しい生活にもだいぶ慣れている。お登勢だけではなく、キャサリンやたまとも彼は仲良くなっていた。

「ヨシ! エギルハ下ゴシラエガ終ワッタラ、サッサト私ノ為ニ煙草ヲ買イニ行ッテコイヨ!」

「エギル様。キャサリン様の言う事は――」

「わかってる。あしらっておけばいいんだろ?」

「ッテ、私ノ攻略法ヲ見ツケヤガッテ!」

 キャサリンからの脅しにも彼はまったく屈さない。すでに接し方を攻略済みである。そんな、騒がしくも楽しい日々を彼はこの世界で送っていたのだ。

「フッ……やっぱり、騒がしい方が性に合っているのかもな」

 そう呟き、エギルは静かに微笑みを浮かべる。

 

 同じ頃。クラインが入った桂一派では、仲間達が数十人ほど集まり作戦会議を行っていた。隠れ家であるアジトで、静かに計画を練っている。

「時は来た! 再び我ら攘夷志士が、幕府の犬共に天誅を下す! 明日の明け方、真選組屯所に奇襲を仕掛け、再びトイレットペーパーを逆の奥にくるように設置してくるのだ! あの時のリベンジを今! ここで果たしてくるのだ!」

「「「おー!!」」」

 桂が提案した奇襲作戦の復活に、その場にいた仲間達も驚きと興奮に満ちていた。もちろんクラインも、迷うことなく意見に賛成する。

「よっ! 待っていたぜ! 桂さん!」

「クラさんも加わった我らに、もはや敵などいない!」

「今度こそ、真選組の奴等へ目に物を見せてやるのだ!」

 しかもいつの間にか、彼は桂一派の仲間とも親しく接していた。同じ侍を志す者同士、惹かれ合って多くの友を築いていたのである。

 アジトを転々とし幕府から逃げ回る日々を続けるクラインであったが、彼の心に後悔なんて存在していない。自分らしく侍を貫き、本物の侍の元で自分自身を磨いている。それだけで十分なのだ。その証拠に、元の世界よりも生き生きとした表情を彼は浮かべていた。

「クライン殿……貴様も段々と攘夷志士として、成長しているな」

「もちろんだよ! 桂さん!」

 楽しくも真剣に接するクラインの姿勢に、桂も心の底から安心する。そして、会議はこの言葉と共に締め括られた。

「よし! ならば、皆の者いくぞ! 我らが今目指すべきことはただ一つ……」

「「「S! A! O!」」」

 攘夷浪士内で流行っている略語。〈S真選組Aあの世にO送るぞ〉を一斉に叫び、攘夷党はより強く結束を高める。この光景にエリザベスはというと……

〔ヤレヤレ。クラインも桂色に染まったか……。類は友を呼ぶとは、まさにこのことだな〕

やっぱり辛辣なプラカードを掲げていた。こうして、クラインも新しい目標のために充実した日々を送るのである。

 

 そして、女子メンバーもそれぞれの仕事場所で新しい生活を送っていた。

「よし! それじゃ、一旦休憩にしようか? リズ」

「はい! 鉄子さん!」

 リズベットは元気よく鉄子へ返事する。刀鍛冶屋に彼女が加わって早数日。二人はすっかり意気投合し、良好な関係を築き始めていた。鍛冶作業も佳境を迎えたところで、二人は畳に座ってお茶を飲みながら一段落している。すると、鉄子から話が交わされた。

「ふぅ……どうだい? この世界の鍛冶は? リズが元の世界にあった仮想世界の鍛冶屋と比べてみて」

「まぁ、あっちはゲームらしくなっているから、鉄子さんみたいに本職で仕事している人がそもそもいないのよね」

「そうか……じゃ、独学で技術を身に着けたということだね?」

「そ、そうかな」

「なるほど」

 会話は落ち着いた雰囲気のまま続いている。リズベットの鍛冶事情を改めて知った鉄子は、この場を借りてある思いを彼女へ伝えてきた。

「でも、リズは頑張っているよ。まだ会ってから数日しか経っていないけど、見てる感じ武器を鍛える姿から手慣れているみたいだし、素質は十分にあると思うよ」

「えっ!? それ、本当なの!?」

「ああ。君が鉄を打っていたり、武器を作っている時には楽しそうに見えるからね。手伝ってくれて、とても助かっているよ!」

「鉄子さん……ありがとうございます!」

 鉄子からの思わぬ励ましの言葉に、リズベットも感極まってお礼を返す。自分の考えを理解してくれる大人と出会い、彼女はより憧れを高めている。一方で鉄子も、熱意のある後輩が出来て大変嬉しく思っていた。

「どういたしまして。それじゃ、そろそろ仕事を再開しようか」

「もちろん! さぁ、昼までには直さないとね!」

 お互いに信頼しあいながら、二人の鍛冶職人は今日も武器を鍛え続けている。

 

 一方で、柳生一門ではリーファが手伝いを行っていた。広い屋敷の掃除や手入れを担当するほか、直々に九兵衛から剣術を教えてもらうなど、こちらも充実した日々を送っている。

「セイ! セイ! セイ!」

「うん。少し肩に力が入りすぎているよ。軽く抑えめに持ちつつ、しなやかに振ることはできないか?」

「やってみます! セイ!」

 空いている道場にて、九兵衛と共にリーファは素振りの練習をしていた。元々剣術に対して才能を開花していた彼女は、九兵衛の流派である柳生一門にも興味を持ち合わせている。故に時間が余っている時は九兵衛自らリーファへ教えることもあり、門下生のように真剣に接していたのだ。そんな二人の元に、雰囲気を壊す男が近づいてくる。

「若―! リーファ殿! その調子ですぞー!」

 それは、過保護に九兵衛を守っている東城歩だった。リーファが柳生家に来てからも彼はまったく変わることなく、今日も彼女をストーカーのようにいつも見守っているのである。もちろん九兵衛は、彼の行為をいつも鬱陶しく思っていた。

「東城……また大砲の餌食にでもなりたいのか?」

「な、何を言っているのですか! 若! 私はただアナタをずっと見守っているだけなのですぞ! リーファ殿に教える姿を、応援しているだけではないですか!」

「そうか……でも、本心はどうなんだ?」

「本心? それは若もリーファ殿のようなスタイルを少しは見習って――」

 と東城が言いかけた時である。九兵衛は勢いよく床のタイルを押すと、彼の目の前にある床から前触れもなく大砲を出現させた。どうやら事前に床下へと隠し、仕込んでいたようである。そして、

「見習えるか! ボケェ!!」

「ボフォォ!!」

躊躇いもなく大砲を東城に向けて砲撃を食らわせた。幸いにも威力は少なめだったが、彼は再び大きなダメージを負ってしまう。

「……また九兵衛さん、大砲で攻撃したんですか?」

「すまない……でも奴を黙らせるには、これが一番有力なんだ。申し訳ないな」

「いえ、もう慣れたんで大丈夫ですよ」

 一連の九兵衛の行動に、リーファは思わず苦笑いで返す。この異常とも言える日常に、彼女もついには慣れてしまった。そして、何事もなかったかのように稽古を再開するのである。

 

 さらに、地下都市吉原でも二人の女子が活躍していた。自警団である百華の練習場では、シリカが新たに取得した技を披露している。

「ハー! トウ!」

 百華から学んだ戦術を使い、的であった竹を綺麗に切り裂く。成長した彼女のダガー裁きに、見守っていたピナや百華の女性は拍手で祝福する。

「ナー!」

「って、ピナ! じゃれつきすぎですよ! くすぐったいです~!」

 シリカのかっこいい一面を見て、ピナは思わず興奮して飛びついてしまった。そこへ、百華の二人も続けて声をかけてくる。

「シリカさん! 成長しましたね!」

「これなら十分、アタイら百華の中でも十分に通用できますよ!」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 今までの努力を認められて、シリカはつい笑顔で返した。彼女とシノンを含めた二人は、百華の元で吉原の仕事を手伝っている。といっても大人向けの仕事ではなく、あくまで未成年が出来る範囲の仕事が中心ではあるが。そしてこちらも、空いた時間に百華直伝の技を教えてもらっている。数日も経たないうちに初歩の技を成功させて、順調なステップをシリカは歩んでいた。

「百華に入ってからシリカさん、調子がいいんじゃないんですか?」

「そうですね。なんだか体も軽くなった気分ですよ! ほら!」

 褒められてテンションの上がったシリカは、次に自分の小柄な体格を生かし、練習中の回転技を披露する。ジャンプ力を使った体術に集中していた彼女だったが、その影響で注意力が散漫になってしまう。そして、運悪く悲劇は起こってしまった。

「アラ? シリカちゃんはもう練習中なの? 差し入れを持ってきたのよ。新作のベーコン入り卵焼き。食べてみない?」

 突然彼女達の元を訪ねてきたのは、差し入れを手にした妙である。もちろんその中身は、毒物ともいえる黒焦げの卵焼きがぎっしりと詰まっていた。そんなことは知らず、シリカは目の前にいた妙に気付くことなく、

「キャ!!」

「うわぁ!」

タックルするように衝突してしまう。同時に卵焼きは宙を舞っていき、落下と同時に運悪くシリカの口の中に入ってしまった。

「えっ? まさか、これって……」

 数日前に起きたトラウマが、脳裏へと蘇っていく。すると、そのまま彼女は卵焼きを口にしてしまい――数秒も経たないうちに白目を向いたまま静かに倒れ込むのであった。

「って、シリカちゃん!? 大丈夫!?」

「しっかりしてください!?」

「一体何があったの!?」

 突然の状況に、慌てふためく妙や百華の女性達。ピナも心配そうに彼女を見つめる中、本人は消えゆく意識の中で自分の不幸を哀れんだ。

「なんでアタシばっかり……こんな目に?」

 そう言い残し再び気絶してしまったのである。シリカも他メンバーと負けず劣らずに、濃い日常を送っていたのだった。

 

 一方でシノンはというと、現在は日輪の店である茶屋の手伝いをしていた。四人の下宿先でもあるひのやは、茶屋としても営業している。少しでも力になりたいと思い、四人は役割や時間を決めてローテーションで店を手伝っていたのだ。

「こちら、抹茶とお団子になります。ごゆっくりどうぞ」

 やや緊張気味に接客をするシノン。経験があまりないのか、少しつたない喋り方になってしまった。そんな彼女に、見守っていた月詠が声をかける。

「大丈夫か、シノン?」

「ええ、大丈夫よ。まだ慣れていないだけだから、心配しなくてもすぐに覚えるわ」

「そうか……じゃが、伝えるべきことはしっかりと言うべきじゃ。最後までな」

「うん。わかったわ」

 月詠はシノンの持っている問題点を指摘した。仕事があまり慣れない彼女にも、優しく事細かに教えている。そんな時だった。一人のお客が、シノンらにちょっかいをかけてくる。

「本当、だいじょうぶなのかしらね~!」

 嫌味たっぷりに声を上げたその正体は、あやめであった。暇がある時には店に遊びに来る彼女は、時折面白がってシノンらをからかうことも少なくない。その影響もあってか、あやめを見た瞬間にシノンは思わず呆れを口にしたのだ。

「って、またあやめさんなの……」

「またって何よ! お客さんに向かって、失礼なことを言わないでちょうだい!」

「おい、猿飛。その辺にしときなんし。シノンもどう対応していいのか困っておるぞ」

「いいじゃないのー! これくらい応対しておかないと、一人前になんてなれないわよ!」

「何を言うとるんじゃ……お客もいるから落ち着いて静かにしなんし」

「はぁ!? そんなことを言われても聞かな――」

 とあやめが月詠に口喧嘩を売ろうとした時である。

〈ヒュー! トン!〉

「えっ?」

 彼女の額に何かが飛んで、引っ付いてきた。よく見るとそれは、吸盤のついたおもちゃの弓矢である。飛んできた方向へ目線を向けてみると、そこには満面の笑みで怒りを露わにするシノンの姿があった。そう。彼女が弓矢を放った張本人である。

「お客様……当店では他のお客様の迷惑にならないように、静粛な心掛けをお願いしています……わかりましたか?」

「は、はい……」

 あまり見たことのないシノンの怒りに恐怖を感じ、あやめはあっさりとおとなしくなった。店は静かな雰囲気を取り戻したのである。

「ありがとうな、シノン。おかげで大事にならずに済んだ」

「どういたしまして、月姉さん。私はただ、伝えるべきことを言っただけよ」

「フフ。主らしいのう」

 しっかりしたシノンの対応に、月詠もつい微笑みで彼女へ返した。こうして、ひのやでの穏やかな日々は流れていくのである。

 

 仲間達がそれぞれの日常を送る中、万事屋一行は急ぎ仕事先へとひたすら走っていた。

「ったく、新八ィ! 後何分で現場に着くんだよ!?」

「えっ!? 走って十分くらいじゃないですか!?」

「そんなにかかるのかよ!? おい、てめぇら! 絶対に止まるんじゃねぇよ!」

「OKアル! フリージ〇が流れないように、気を付けるネ! 希望の花~!」

「って、神楽ちゃん!? 思いっきり歌っちゃっているでしょうが!? つーか、ボケている暇があるなら走りに集中してくださいよ!!」

 その道中、銀時と神楽がふざけてボケを言い放つ。そんな二人に対して、新八のツッコミも激しく決まった。移動中でも変わらない万事屋らしい自由な雰囲気に、キリトらも釣られて笑ってしまう。

「フフ……やっぱり、万事屋は賑やかでないとな」

「一緒にいて楽しいもんね。言っている意味は分からないけど、つい雰囲気で笑っちゃうもの」

「メリハリがあるところが、万事屋らしさだと思いますよ!」

 三人は改めて万事屋への信頼を寄せるのである。そんな中、江戸の町へと入ると偶然にも長谷川とすれ違う。

「アレ? 銀さんじゃねぇか? そんな急いでどこへ行くんだよ?」

「仕事だよ! 急いでいるから、また今度な!」

「ごめんなさいです! 長谷川さん!」

 彼からの声掛けを無視して、万事屋一行は走りを止めなかった。変化した万事屋の一面に、長谷川も寂しさを覚える。

「ヤレヤレ……前よりも忙しくなっているじゃねぇか。でもまぁ、あいつらを養えているなら、それもしょうがねぇのかもな」

 そうふと呟いたのだ。ちなみに長谷川もエギルなど知り合いは増えたのだが――まったくと言っていいほどホームレス生活は変わっていない。

「へックション!! 誰か俺の噂でもしているのか……?」

 嫌なくしゃみをしつつ、悲痛な日々は今日も続いている。

 一方で万事屋は、また知り合いとすれ違っていた。

「おっ! 万事屋じゃねぇか! 一体何をそんな急いでいるんだよ?」

 それは真選組である近藤、土方、沖田の三人である。揃って江戸をパトロールしており、その道中で万事屋と鉢合わせしたのだが――

「仕事へ行くんだよ! てめぇらにかまっている暇は、ねぇからなぁ!」

「急いでいるんで、また今度!」

こちらも長谷川の時と同じく、軽く言葉を返してそのまま通り過ぎて行った。いつもの素っ気ない対応に、近藤はショックを受けるどころか、むしろ安心している。

「ヤレヤレ……まったくあいつらは、新メンバーを入れても変わらねぇな……」

 さらに、横にいた沖田や土方も声を上げていく。

「聞くところによると、仕事も順調らしいでっせ。他の妖精ゲーマーも元気にやっているそうですよ」

「なら何よりだよ。やっぱり違ぇな。しっかりしている奴等は、別の世界に来てもちゃんと出来るってことか」

 そう言った二人の表情は、屈託のない微笑みを浮かべる。真選組も別世界から来たキリト達のことを密かに気にかけてはいたのだが、元気に過ごしている姿を見ると思わず安心していたのだ。

「そうだな……リーファ君も柳生家の手伝いに来ているみたいだし、まずは一件落着だな」

「ですねぇ……まぁ、暇さえあればあの女とも遊んであげますよ。あの時のようにね……」

「総悟。少しは手加減しろよ。あくまで別世界の住人だからな……」

 不敵な笑みを浮かべる沖田に、土方が冷静にツッコミを入れる。彼はリーファのいじめられている反応を、大変気に入っていたようだった。そんな中土方は、心の中で敵である桂一派の動向を気にしている。

(血迷ったことをしなければいいんだが……って、そういえば攘夷党に新しい浪士が加わったと噂で聞いていたな。まさか、キリトの仲間ってわけじゃ――って、考えすぎか。まさか、桂についていくバカなんてどこにもいないだろ……)

 そう言い切った土方であるが、残念ながら図星であった。真選組がクラインに目を付けるのも、そう遠くはないのかもしれない。そんな思いを抱えつつ、真選組一行はパトロールを再開したのである。

 

 別世界という前も後ろも分からないこの世界で、キリト達は懸命に生きている。個性が強く、どこか大人らしくないが、それでも心強くて頼もしく見えるこの世界の住人達と。そんな彼らを信じて、今日も忙しい日常を送っていく。今自分が出来ることのために。いつか、自分達のいた元の世界へ帰るために。どんな運命が待っていようとも、この人達となら乗り越えられる。そう信じているのだ――そして、万事屋もようやく今回の仕事場所へと到着。制服に着替えて、早速働き始めている。

「あっ! いらっしゃいませ!」

「ようこそ! ゲームセンターカブキへ!」

 来店したお客に対して深く礼や挨拶を交わす六人。今日の仕事は、ゲームセンターの手伝いだ。




あとがき

 キリト達が無事に銀魂の世界で暮らせているところで、第一章は終了です。改めてこの小説をご覧いただきましてありがとうございます。二次小説を当サイトで投稿しているトライアルと申します。銀魂とソードアート・オンラインのコラボ作品である「剣魂」はいかがだったでしょうか? 数ある二次小説の中でも、マルチバースを重視して原作の世界観をそのまま取り入れた話は中々お目にかからないと思います。
 私自身も二つの作品に関しては大好きで、世界観の異なる作品をコラボしてみたらどうなるのかと思い、日夜色んな話を創作しています。

 今更なんですけれども、途中から投稿頻度が下がってしまいすいませんでした。私自身の環境の変化もありまして、中々作る時間が無くここまで先延ばしになってしまいました。これからも時間だけは確保していきたいのですが、二週間という間隔は守るのでよろしくお願いします。おかげでこの作品の季節はまだ七月上旬なんですけどね……現実と真逆になりました。

 剣魂という作品が今後どうなっていくのかなんですけど、基本は銀魂ベースで話が進んでいきます。故に次回からは、一話完結のギャグ短篇が主流となります。銀魂らしいぶっ飛んだ非日常に、SAOキャラクターが良い意味でも悪い意味でも巻き込まれていく話だと思っていてください。

 また、今作オリジナルの要素としてサイコギルドが物語の敵として現れます。なぜキリト達を銀魂の世界へ送ったのか? なぜ彼らをピンポイントで狙ったのか? そこに注目してご覧ください。サイコギルドはおもにバトルが主流のシリアス長篇に出てくる予定ですが、十六訓の場面であったようにブラックホールを使い別の世界から敵を呼び寄せるようです。もしかすると、皆さんの知っているような敵が銀時やキリト達を倒すための刺客として、呼び寄せられるのかも知れません。乞うご期待です。

 さて、前に言っていたALOアバターについてなんですけど、この妖精らしい姿で銀魂とコラボさせたのはちゃんと理由があります。一つは銀魂には天人がいるので、この姿のまま存在しても違和感がないこと。服装や外見を見ても、町民からはそこまで怪しまれないと思ったからです。もう一つは、移動手段について。ALOアバターにはみな透き通った羽で飛行ができるので、移動手段としては効率の良い要素となります。万事屋で例えると、スクーターに銀時と新八が乗り、定春には神楽とユイ、その上をキリトとアスナが飛んでいるというのが基本の移動手段です。見栄えもよく、本家銀魂のアニメのOPでもよくある演出みたいで、個人的にはしっくりときています。他にも銀魂の日常回で、色んな話のネタとして使いやすいことが上げられます。まぁ、現にシノンはマタタビで酔ったけどね……

 長くなりましたが、最後に今後の展開についてお伝えします。前述のようにギャグや日常回がおもな主軸となり、時々ストーリーが進む長篇を書いていきます。銀魂の世界観なので、もしかするとSAOに出てきたキャラのそっくりさんが出てくる考えもちらほらと浮かんでいます。むしろ長篇の方でSAOらしさを出して行こうとは考えています。この作品を一言で例えるなら、アナザー銀魂とアナザーSAOですかね……完全に特撮ネタです、はい。いずれにしても結構長く続きそうなので、なるべく投稿頻度を上げて行こうと頑張っていきます。現在はSAOの新作が放送中ですが、時系列が全く違うので、あまり意識せずに見ていただければ幸いです。同人活動についてはまだ不慣れな部分もありますが、この作品の魅力が広まるように活動の幅を広げようと思っています。実はイベントにも参加する予定です。コミケではないですが……

 次回はひのやでの初めての下宿生活と大まかなキャラ紹介を上げていきます。これまで上げた話の不自然な文体も随時直して行くので、よろしくお願いいたします。ではまた次回、お会いしましょう! 後、下には今回の章に出てきたキャラクターの出番表を作りました。よければご覧ください。

剣魂 第一章登場キャラクター

・万事屋銀ちゃん
坂田銀時(第一訓~第十七訓)
キリト(第一訓~第十七訓)
志村新八(第一訓~第十七訓)
アスナ(第一訓~第十七訓)
神楽(第一訓~第十七訓)
ユイ(第一訓~第十七訓)
定春(第一訓~第十七訓)

・真選組
近藤勲(第三・四・八・十三・十七訓)
土方十四郎(第三・八・十三・十七訓)
沖田総悟(第三・八・十三・十七訓)
山崎退(第八・十・十三訓)
原田右ノ助(第八・十三訓)

・攘夷党
桂小太郎(第五・六・十~十二・十四~十七訓)
クライン(第三・五・六・十~十七訓)
エリザベス(第五・六・十~十二・十四~十七訓)

・スナックお登勢
お登勢(第二・五・九・十・十四~十七訓)
キャサリン(第二・九・十・十四~十七訓)
たま(第二・三・五・九・十・十四~十七訓)
エギル(第三・五・八~十・十四~十七訓)

・超パフューム
志村妙(第四・六・十・十一・十四~十七訓)
シリカ(第三・五・六・十一~十七訓)
ピナ(第三・五・六・十一~十七訓)
柳生九兵衛(第四・六・十一・十四~十七訓)
リズベット(第三・五・六・十一~十七訓)
猿飛あやめ(第四・七・十・十二・十四~十七訓)
リーファ(第三・五・八・十・十三~十七訓)
月詠(第四・五・七・十・十二・十四~十七訓)
シノン(第三・五・七・十・十二~十七訓)

・ダンボール
長谷川泰三(第五・九・十・十四~十七訓)

・超パフューム関係者
日輪(第四・五・七・十二・十六訓)
晴太(第五・七・十六訓)
村田鉄子(第四・十六・十七訓)
東城歩(第四・十七訓)

・サブキャラクター
平賀源外(第一訓後篇)
結野アナ(第三訓)
幾松(第六訓)

・ゲストキャラクター
ナメクジ型の天人(第一訓前篇)
タツヤ〈依頼者1〉(第七・八訓)
母親〈依頼者2〉(第八・九訓)
子供達十五人(第八・九訓)

・サイコギルド
アンカー〈槍を持つ少女〉(第一・十六訓)
シャドー……?〈銀色の怪人〉(第五・十六訓)



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第二章 盛夏の日常回篇
第十八訓 甘党の恨みは恐ろしい


遅れながらもようやく完成! いよいよ第二章である「盛夏の日常回篇」が幕開けとなります! おもに七月中旬~八月上旬に起こった出来事をお送りしていきます。後、今回は文章量が多めです。それでは、どうぞ!


 人の幸せというのは、気付かないうちに儚く散っていく。だからこそ、毎日を懸命に生きていかなければならない。七月も中盤に差し掛かった今日この頃。万事屋では一瞬にして幸せを破壊された男がいた。

「ギャャャャ!!」

「さぁ、銀さん……」

「覚悟するネ……」

「やめろ! やめてって! 腕がもげるからぁぁ!!」

 朝っぱらから銀時は、悲痛な叫び声を上げている。彼は今、アスナと神楽の二人によって体を拘束されており、強く痛めつけられていた。苦しみに苛まれている銀時であったが、拘束は一向に収まる気配が無い。神楽はゴミを見るような目で銀時の足を押さえつけ、アスナは不気味な笑顔のまま彼の両手を締め付ける。この光景に、仲間達はただ唖然として見守るしかない。

「銀時さんは大丈夫なのでしょうか?」

「まぁ、あんなことをしたから、フォローのしようもないんだけど……」

「アスナや神楽も楽しみにしていたからな……」

 キリトも苦笑いで、ユイや新八へ返答する。一見銀時が被害者のように見えるが、実はこの事態、彼が引き起こしたものであった。

 

 時はさかのぼり昨日の夕方。この日の万事屋一行は仕事を終えた後、近くのスーパーにて夕食の材料を購入していた。

「これでよしっと! お好み焼きの材料は全部揃ったわ!」

「やったネ! あ~早く食べたいアル~! アッスーのお好み焼きー!」

 期待を高めて笑顔を見せる神楽に、アスナもそっと微笑んで返した。今日の万事屋の夕食は、前々から決めていたお好み焼き。小麦粉やキャベツ、豚肉、山芋などと材料を買い揃えて準備は万全であった。すると、急に銀時がある考えを思いつき呟く。

「お好み焼きか……ソースの代わりにホイップクリームをかけて食べてみてぇよな」

「って、銀さん! ユイちゃんもいるんですから、そんなこと言わないでくださいよ!」

 甘党めいた発言に、すかさず新八がツッコミを入れた。普段の万事屋であれば問題ないが、現在はすぐに影響してしまうユイがいる。心配の尽きない新八であったが、肝心のユイはそこまで気にしていない。

「大丈夫ですよ、新八さん! 銀時さんが甘いものが大好きなのは、既に分かっていますから! そんな心配は無用です!」

「ええ? そうなんですか?」

「そうだよ、新八。ユイは覚えるのが早いから、銀さんの癖はもう熟知しているもんな」

「はい! もちろんです!」

 キリトから太鼓判を押されると、ユイは笑顔で返答する。彼女は既に銀時の癖を理解しており、そこまで驚いていなかった。さらにユイは、思いつく限りの銀時の癖を言い始める。

「例えば、漫画を読んで居眠り。鼻くそを暇さえあればほじる。後、よくママからこっぴどく怒られたりしますよね!」

「って、それもう癖じゃないだろ!! もういいから! 過去のことは言わなくても!」

 しかし、だいぶ本筋からそれてしまい、当の本人からツッコミを入れられた。ユイの汚れのない笑顔を見ると、銀時も強く出られないのである。万事屋らしい温かい場面であった。そんな彼らが会計を済ましてスーパーを後にした時、駐車場である人だかりを見つける。

「ん? 何か人が集まっているアルよ?」

「本当ですね。何かを売っているのでしょうか?」

 神楽からの問いにユイが返す。気になった一行が人だかりへと近づいて覗いてみると、

「ケーキの販売車みたいだな……」

そこには移動販売用のトラックが止まっていた。コンテナ部分を開きケーキを販売しているみたいで、十数名の行列も出来ている。すると、神楽とアスナの二人はこの店を見てあることを思い出した。

「あっ! この店って確か、前にテレビで紹介されていた店じゃない?」

「本当アル! ロールケーキが美味しい評判の店ネ!」

 そう、ここは以前テレビの情報番組で取り上げられていたケーキ屋であった。口コミや話題性から評判を呼び、人だかりや行列が出来ていたのである。

「へぇ~。こんなところでお目にかかれるなんて偶然だな」

「そうですね。折角ですし、僕らも買っていきますか?」

 店の評判を知り、キリトや新八も興味を持ち始めていた。一方で神楽とアスナは、目の色を変えて銀時の方へ顔を向ける。

「そうね。それじゃ、銀さん……!」

「銀ちゃん……!」

 目をキラキラと輝かせ、おねだりを始めてきた。その真意は、銀時に行列を任せようと考えている。分かりやすく甘えてくる二人を見て、銀時のツッコミも止まらない。

「って、おい! その顔は何だ!? その目は何だ!? つまり、俺が並べってことか!?」

「そうよ! もし並んでくれたら、またアップルパイを作ってあげるから~!」

「私もネ! とても酸っぱい酢昆布をプレゼントするアル~!」

「って、それもう料理ですらねぇだろうがぁ!」

 おねだりはまったく収まらず、収束する気配すらない。女子達の勢いに負けた銀時は、仕方なく要求を受けることにした。

「ったく……しゃあねぇなぁ。じゃ、俺が代わりに買ってきてやるから、お前らはここで待っていろよ!」

「「はーい!!」」

 元気よく返事をする神楽とアスナ。銀時は怠さを感じつつも、渋々行列へと並び始める。彼の粋な優しさを感じて、ユイ達は自然と笑顔を浮かべていた。

「やっぱり銀時さんって、なんだかんだ言って優しいですね!」

「まぁ、あれが銀ちゃんアルからナ。やる時にはやる男ネ!」

 行列へと並ぶ銀時を見守りつつ、彼の評判は上がっている。仲間達は銀時を見直し始めていた。その後、ロールケーキを無事に購入した一行は万事屋へと帰宅。今日ではなく明日のデザートとして残すことになり、冷蔵庫へと入れて楽しみにしていたのだが――

 

「ケーキを全部飲み友達にプレゼントしたって、どういうことアルかぁぁぁ!!」

「ごめんって! あん時の俺は無意識だったから、気付かなかったんだって!!」

「そんなの関係ないわよ!!」

当日の朝に事件は起こってしまう。実は昨日、銀時は夜遅くに桂やクラインに誘われて、下のスナックで軽くお酒を飲んでいた。気を良くした彼は、みんなが寝ている間に桂達へケーキをあげてしまう。そして朝を迎えると、アスナ達へ見つかってしまい現在に至る。おかげで昨日に上がった銀時の評判は一転。地の底まで叩き落されていた。

「私達がどれだけあのケーキを楽しみにしていたのか、分かっているの!?」

「本当ネ! 楽しみを奪ったことを後悔させてやるアル!!」

 特にケーキを楽しみにしていた二人は感情的になり、悔しさと怒りを銀時へぶつけている。一方で制裁を加えられている銀時はと言うと、

「もう後悔ならしているからー!! だから許してくれぇぇ!!」

涙目のまま許しを貰おうとすがってきた。その姿はもはや、男としてのプライドもへったくれもない。痛めつけられている銀時を見ていた新八達も、絶句して対応に困っていた。

「神楽ちゃんだけじゃなくて、アスナさんも凄い本気だ……」

「アスナは怒らせると怖いからな。銀さんにも容赦ないし、仕方ない事だよ」

「ママも銀時さんのママになったということですね……」

 キリトやユイも苦笑いのまま会話を続けた。ユイの言う通り、銀時へ厳しく接するアスナの姿は母親や保護者に近い。彼のだらしない性格や態度が放っておけず、率先して注意に出ることもしばしばあった。そんなアスナに対して、銀時も簡単に口出しできず強気な態度もとれないのである。そんな中、遂に状況は一変した。

「痛ァ!?」

 拘束を解放された銀時は、思いっきり壁へと叩きつけられる。安心したのも束の間、彼女達の気はまだ収まってはおらず、鬼のような形相で銀時を睨みつけてきた。

「まったく銀さんってば……。反省しているみたいだけど、やっぱりこれだけじゃ足りないわ!」

「そうアル! こうなったらもう一回あのケーキを買い直してほしいネ! というわけで、今すぐ出かけてあのトラックを探してくるヨロシ」

「えっ……? はぁ!?」

 神楽からの言葉に耳を疑う銀時。完全な許しを貰うには、ケーキを買い直すしか方法はないようだ。しかも、ロールケーキを売っている移動販売車が対象。場所も特定できないため、捜索への難易度も高い。これには、銀時も弱腰になってしまう。

「そ、そんなもん、どこにあんのかわからねぇだろうがぁ! せめて近場のケーキ屋とかじゃ――」

 とグチグチ文句をこぼす銀時に対して、

〈シュ!〉

女子陣から追い打ちがかけられる。アスナは自身のレイピアを、神楽は握りしめた拳を彼の顔面へと差し向けた。突然すぎる行動に銀時の表情や体も固まる。

「か、神楽? アスナ?」

「私達はあの店のロールケーキが食べたいアルよ……。それ以外は求めてねぇんだよ、ゴラァ……」

「ないなら探すのが筋じゃないのかな~? ねぇ、銀さん?」

 三度表情を怖くした神楽とアスナに対して、銀時は抗う力すら失った。今回ばかりは自分に非があるので、何も言い返せないのである。そして、

「……わ、わかりました。今から、行ってきます……」

銀時は弱った表情のまま、彼女達の要求を受け入れた。これ以上争っても、自分が勝てる見込みがないと確信したようである。

「ふぅ……じゃ、今日の夕方までに見つけて買ってきてね!」

「期待して待っていてやるからナ!」

 希望通りの答えを聞けた二人は、表情を柔らかくして彼の元を離れた。稀に見る争いを見たキリト達は、銀時の方へ顔を向ける。彼は一段とやつれていて、精神的に追いやられていた。哀愁漂う姿に、キリトらはむしろ切なく感じている。

(銀さんがあそこまでやられるなんて……何か可哀そうになってきたな……)

 今はただ心の中で、そっと呟くしかなかった。

 

 時は過ぎていき時刻は十一時へと近づく。雲一つない空とまぶしい太陽が印象的な今日の天気は、言うまでもなく晴れであった。そんな真夏の日に銀時は、スクーターへと乗り込みケーキを売る移動販売車を探している。ヘルメットを着用しながらも、その表情はあまり浮いていない。しかし、乗り込んでいるのは彼だけではなかった。

「ったく!! なんで俺があんだけ怒られなきゃいけねぇんだよ!! たかが一回だけのミスによ!!」

「まぁまぁ、銀さん。アスナや神楽だって、ケーキを楽しみにしていたんだから、つい感情的になったんだよ。だから帰ったら、きっと謝ってくれるって」

「本当か? あの二人の事だから、きっとそんなこと微塵も思ってねぇよ!」

「随分根に持っているんだな……」

 女子達に対する銀時の恨み節や愚痴に対して、キリトは控えめな笑いで返事をする。そう、スクーターを運転しているのは銀時だったが、その後方にはキリトが座っていたのだ。彼は銀時一人だと心細く感じており、情けから移動販売車の捜索に協力している。キリトなりの優しさであったが、当の本人にはあまり伝わっていない。

「つーかさ、お前は万事屋で待っていてもよかったんだぜ。この件には無関係なのに、なんでついてきてるんだよ?」

「それは――心配だからだよ。銀さん一人じゃ大変そうだし、恩返しの機会だって早々ないからチャンスかなって思って」

「そうか? でもまぁ、今日中に見つけないと、またアイツらからボコボコにされそうだからしょうがねぇか。見つけたら俺に教えてくれ」

「分かったよ、銀さん」

 キリトからの言い分に納得した銀時は、照れ臭くも彼の同行を認める。本当は銀時もキリトが協力してくれることに、内心嬉しく思っていた。しかし、あまり表に出さないのは、もはや彼のお約束である。

(やっぱり分かりやすい人だ。でも銀さんも大人だし、ここはそっとしておくのが一番だろうな)

 付き合いの長いキリトからは、早速見破られてしまったが。そんな彼の表情は、クスッと静かに微笑んでいた。銀時の持つ癖をユイと同じく彼も理解している。

 涼しく舞う風を浴びながら、二人の乗ったスクーターはかぶき町を駆け抜けて行く。待っている仲間達のため、移動販売車を探索するのだった。

 

 探索から約二時間が経過した。時間はだいぶかかったのだが、残念ながら移動販売車の手がかりは一斉つかめていない。つまり、探索に行き詰まっているのである。

「あ~。まったく見つかんねぇな」

「そうだね。でも、まだ時間はあるから焦らずにいこう」

 冷静に状況を判断するキリトに対して、銀時は早くも暑さにやられてやる気が薄れていた。そんな二人の乗るスクーターはかぶき町を離れていき、江戸の都市部へと進んでいる。この近くには別の町へと向かう高速道路の入り口があり、車の行き交いが多い場所でもあった。すると銀時はスピードを緩めて、日陰のあった歩道側へとスクーターを停車させる。

「アレ? 銀さん? 急に止めて一体どうしたの?」

 キリトが不思議そうに聞くと、銀時は彼の方を向いてあるお願いをした。

「なぁ、キリト……お前ってバイクの免許持っていたよな?」

「そうだけど……って、まさか!?」

「そう。俺と運転を代わってくれないか?」

 その要件は運転交代である。実はキリトもバイクの免許を持っており、運転することも可能だった。長い時間運転していた銀時は、暑さのせいで調子が悪くなっているので、彼に交代しようと考えていたのだ。一方、キリトの反応は少し遠慮気味である。

「……まぁ、俺は構わないよ。でも、本当にいいのか?」

「いいんだよ。バイクもスクーターも同じようなもんだろ。お前なら出来るってば」

「また大雑把なことを……。でも、いいよ。俺が運転するから、銀さんは後ろに座って」

「あいよ」

 粗大に考える銀時に頭を抱えつつも、キリトは彼の要望を受け入れた。二人は座席を移動して、キリトが前方の運転席、銀時が後方の席へと座り込む。

(銀さんは急に決めつける時があるよな……。でも、剣を装備していても大丈夫かな……?)

 ハンドルやブレーキを確認しつつもキリトは、心の中である不安を呟く。彼は普段外出する時も、護身用として愛用の長剣二本を背中へ装備している。カバーを付けたままで刀身は露呈してはいないが、剣を所持したまま運転したことがないので、唯一の不安と感じている。一方の銀時は、そんなことはつゆ知らずに早くも自分だけ楽をしていた。

「そんじゃ、キリトー。運転頼むわー」

「はいはい。分かったから、銀さんはしっかり掴んでいて」

 やる気を失いかけている銀時に対して、キリトは静かにフォローを入れる。温度差の違いに彼は思わずため息を吐いてしまった。

(はぁ~。銀さんがこの調子じゃ、俺までテンション下がっちゃうよ……)

 キリトまで調子が下がり始めてしまう――そんな時である。状況がようやく一変した。

「ん? アレって!?」

 キリトが前を向くと、歩道にはシリカとリズベットが歩いている。二人が持っていた袋には、なんとあのケーキ屋のロゴが入っていたのだ。

「見つけた!!」

「えっ!? それって本当――って、ブハァァ!」

 好機だと確信したキリトは、アクセルを急発進して彼女達の元へ向かう。しかし、後方に座っていた銀時は、彼の持つ剣にぶつかってしまい弾き飛ばされてしまった。歩道側へと落ちた銀時には気付かずに、キリトはスクーターへ乗ったままシリカとリズベットの元へ近づき話かける。

「シリカ! リズ! ちょっといいか?」

「ん? あっ、キリトじゃん!」

「お久しぶりですね! 一体どうしたんですか?」

 久しぶりにキリトと再会して、声を高ぶらせるシリカとリズベット。しかし、彼は今悠長に話している場合ではない。早速二人へケーキ屋について聞いてみた。

「二人が持っている袋って、移動販売車で買ったケーキだよね?」

「ああ、これね。休みだから二人で出かけていたら、たまたま見つけてね。月姉達のお土産として、結構多めに買ってきたのよ」

「そうなのか……。それで、そのケーキ屋はどこにいるのだ?」

「どこって……もう移動しちゃいましたよ。確か高速道路側に向かったと思います。買ったのも三十分くらい前ですし……」

 二人から多くの情報を得たキリトは、安心したと共に緊張も高まる。もしかすると、移動販売車が江戸を離れている可能性があるからだ。都市部自体あまり彼は来ないので、ここは土地勘のある銀時が頼りであった。

「そうか……。教えてくれて、ありがとう!」

「いいえ。力になったなら、アタシ達もそれで十分よ!」

「キリトさんもあのケーキ屋さんに用があるんですか?」

「まぁな。アスナや神楽にお使いを頼まれていてね。なぁ、銀さん? ……アレ?」

 彼が後ろを振り向くと、そこには座っているはずの銀時が姿を消している。予想外の状況にキリトは言葉を失った。

「えっと、銀さん? 一体どこに……」

「って、ここだぁ! ゴラァ! 人を置いて出発しやがって!!」

 辺りを見渡すと、歩道側から走ってくる銀時の姿が見えてくる。振り下ろされたことに怒りを立てており、その表情は強張っていた。ここで、ようやくキリトも銀時の状況を知る。

「えっ!? もしかして俺、銀さんを置いていったの!?」

「そうだよ! よくも気付かずに会話なんかしていたな! それでも主人公のやるこ――」

「って、銀さん! 説教なら後で聞くから、今はケーキ屋を追いかけよう! 高速道路付近に向かったって!」

「……はぁ!? そうなのか!?」

「シリカやリズから聞いたから間違いないよ! さぁ、早く!」

 怒りを露わにする銀時であったが、キリトから捜索しているケーキ屋の情報を聞くと表情が一変した。彼と同じく好機を感じており、失いかけていたやる気を取り戻していく。

「わ、分かったぜ……! じゃ、早く出発しようか!」

「ああ! もちろん!」

 すると2人は、大急ぎで出発する準備を進めていった。銀時は流れから後方座席へと座り、キリトの肩を掴む。共にヘルメットを締め直して、気持ちを落ち着かせた。

「それじゃ、シリカ! リズ! 情報をくれてありがとうな!」

「何だか知らんが、助かったわ! 今度会ったら、お礼として「んまい棒」を渡してやるからな! じゃあな!」

 キリトは優しさを込めた感謝。銀時は彼らしい捨て台詞を吐いて、この場を勢いよく去っていく。キリトの運転するスクーターの元、ようやく移動販売車の追跡が始まる。

「って、もう行っちゃいました……?」

 シリカ達は声を返す間もなく、二人を見送るしかなかった。

「まったくあの二人は。思い立ったらすぐに行動するんだから……キリトも銀さんもどっちもどっちね」

「性格的には正反対の方が、合うのかもしれませんね」

 男子らしい仲を感じとり、シリカとリズベットは笑いあっている。皮肉も交えたが、本心では銀時とキリトを応援していた。気を取り直して、彼女達が次の目的地へ向かおうとしていた時。入れ違いでまたも知り合いと遭遇する。

「って、アレ? あの人ってまさか沖田さんですよね?」

「あっ、本当だ!」

 二人が目にしたのは、パトカーから降りて携帯電話で連絡をとる沖田総悟の姿だ。何やら物騒な話をしているように見える。通話が終わると沖田は、近くにいたシリカ達の存在にも気付き始めていた。

「ん? お前らは確か……あの時の妖精達じゃないですかい? 随分、久しいな」

「ええ、こんなところで再会なんて偶然ね……」

 話しかけられたと同時に、二人の表情は険しくなっていく。さらに、沖田との距離を遠ざけて警戒心を高める。

「はぁ? 何を遠くから話しかけてきてんだ? マウントでも取るのか?」

「違いますよ! 沖田さんがドSだから警戒しているだけですよ!」

「ドS……ああ、そういうことか」

 そう、彼女達は沖田を恐れていた。被害者でもあるリーファから、彼の腹黒い性格や行動をだいぶ聞かされており、女子達の間でも要注意人物として話題に上がっている。だからこそ、会った時は緊張感が高まるのだ。一方の沖田は、まったく気にせずに接していく。

「何も心配ねぇですよ。今からお前らの持っているケーキに、タバスコなりデスソースなりを注入してやるから、さっさとこのお巡りさんによこしてくだせぇ」

「って、誰があげるものですか! 警察の言う事じゃないですよ! 沖田さん!」

「リーファが苦手意識を持つ理由も、だいたい理解した気がするわ……」

 沖田からのからかいを受けて反撃するシリカに対して、リズベットは彼の腹黒さを理解していた。やはり沖田は、別世界の人間であろうと容赦はない。そんな時である。

「って、それは……トラックで売ってるケーキか? よく買えることができたな」

「これですか……?」

 彼が話題に上げたのは、二人の持つケーキ屋の袋だ。興味深く見る沖田に、リズベットが説明を加える。

「そうそう! この店ってトラックで売っているから、中々見つけることができないのよね! まぁ、買えたからラッキーだったけど」

「へぇ~。お前らって、運がいいんだな。あのトラックって、今大変なことになってんのに」

「「えっ?」」

 唐突に飛び出た沖田からの言葉に、シリカ達は耳を疑う。場の空気は急に変わり、怪しげな雰囲気を漂わせ始めた。

「大変……って、一体どういうことなの?」

「アレ? 知らねぇのかい? あのトラックって、今俺達が追っている過激派攘夷浪士がハイジャックしているんだぜ」

「「……ハァァァァ!?」」

 沖田から聞かされた事実に、二人は大きな衝撃を受けてしまう。彼によれば現在移動販売車は、指名手配中の攘夷浪士によって乗っ取られているらしい。突然の情報に混乱しながらも、シリカとリズベットは沖田へ詳しい事情を聞く。

「って、ど、どういうことなの!? アタシ達が買った時は、何も起らなかったのに……」

「だろうな。さっき俺達が掴んだ情報だから、ざっと十五分前くらいに起こっているんだよ。それで今から、対策を立てていたところでい」

「そんな……アタシ達の知らない間に、こんなことになっているなんて……」

 自分達が気付かない間に、ケーキ屋が危機的状況に陥っている。信じがたい事実を受け止める彼女達だが、考えているうちにあることを思い出した。

「って、ちょっと待って……まさか、キリトと銀さんってこのこと知らないんじゃないの?」

「そ、そうですよ!! 知らないまま追っていますよ!! ど、ど、どうしましょう!?」

 先ほど会ったキリトと銀時は、この状況をまったく知らないまま移動販売車へと向かっている。つまり、巻き込まれる危険性が高かった。混乱がより大きくなる彼女達に対して、沖田は冷静に判断する。

「何? 旦那まで絡んでいたのか……。だったら、仕方ねぇ。隊士達の分担を変更して、俺が代わりに行ってくるか」

 そう言うと沖田は、止めていたパトカーへと乗り込みエンジンをかける。本来であれば真選組の隊士を分担させて作戦へと取り掛かろうとしたが、見ず知らずの銀時らが向かっている場合では支障を与えかねない。そこで彼が率先して移動販売車を追いかけようとしていたのだが……

「だったら、アタシ達も連れて行ってください!!」

「はぁ? 何を言ってんでい。一般人はパトカーに入ってくるな!」

「そんなこと言わないでよ! キリトのことが心配だから、アタシ達も追いかけたいのよ! だから入らせて!」

「ていうか、旦那の心配はいいのかよ!? お前らは一旦落ち着け!」

混乱したシリカとリズベットによって邪魔が入ってしまう。否が応でもパトカーに乗り込み、キリト達を追いかけようとしたのだ。思わぬ展開に、沖田も珍しく激しいツッコミを繰り出す。このせいで、だいぶ出発が遅れてしまった。

 

 場面は変わり、こちらは江戸近くの高速道路。平日と重なっているためか、今日の通行量は少なく道路も混雑していない。しかし、そこを走る一台の移動販売車には……

「やりましたねぇ、兄貴! これで江戸をトンヅラできますわぁ!」

「幕府の犬に嗅ぎつけられる前にトラックを奪って正解だったな。人質も確保できたからな……」

沖田の言う通り過激攘夷浪士「鈍金昆愚(ドンキンコング)」のメンバーがケーキ屋を占拠していた。人数は運転者を含めて計六人。みな濁った袴を着て、腰には刀を装備している。メンバーは中年の男性しかおらず、みな人相も悪く目つきも鋭い。一方で店員の男女二人は、ガムテープやロープを巻かれて拘束されている。腕や足、口までも封じられており身動き一つとれない。まさに絶体絶命の危機だった。すると、メンバー間でまたも会話が始まる。

「ところでどうします? 江戸を離れた後は?」

「まずは、この店員共を利用するか。最近じゃ、宇宙での人身売買が高値らしいからな」

「さっすがですね! 兄貴ィ!」

 人質までも金稼ぎの道具としか彼らは見ていなかった。この言葉を聞き、店員二人は言い知れぬ不安で心がかき乱されてしまう。浪士達の悪い高笑いが車中に響き渡り、勝利に酔っていたまさにその時である。

「ん? 兄貴! こっちに何者かが向かってくるぜ!」

「何!? まさか、真選組共か!?」

「いいや! 二人の男ですわ!?」

 思わぬ邪魔者が、移動販売車へと近づいていた。危機を察した浪士達が、後ろの窓から追っ手の姿を確認する。その正体は――

「ケーキ屋!! 待てぇぇぇぇ!!」

「逃げるんじゃねぇぇぇぇ!!」

鬼のような形相で追跡する銀時とキリトであった。二人はもちろんのこと、移動販売車内に攘夷浪士がいることには気付いていない。アスナと神楽から任せられた使命感の元で、懸命に追い続けているのだ。

「もうチャンスはこれっきりしかねぇぞ! だからキリト! 思いっきりスピードを上げろぉ!」

「分かっているよ、銀さん! 行けぇぇ!!」

 二人は好機を逃さないためにも、スピードを上げて必死に移動販売車を追い続ける。一方で志士達は、見知らぬ追っ手の登場を受けてみな困惑していた。

「何だ、アイツら!? まさか、俺達が占拠したことを知っているのか!?」

「とうとう幕府の犬に嗅ぎつけられたというのか!?」

「ええい、構うな! なんでもいいから、奴等を撒くのだ!」

 リーダーが士気を上げていき、仲間達へ攻撃の準備を入らせる。銃火器は持ち合わせておらず、近くにあった障害物を使って追っ手を撒くようだ。すると、後方に設置された大窓がゆっくりと開いていく。

「あっ、銀さん! 窓が開いてきたよ!」

「おお! とうとう俺達の祈りが通じたってことか! 近くのサービスエリアまで誘導して、売ってくれるんじゃねぇのか?」

「それだと、だいぶ助かるな!」

 自分達の意志が伝わったのか、呑気にも笑顔を見せる銀時とキリト。しかし、彼らはまだ浪士達の存在に気付いていない。そして、とうとう最悪の事態が起こってしまった。

「やれぇ!!」

 リーダーの掛け声のもと、大窓から一台の木箱が放り投げられる。地面へと落ちて転がると、数秒も経たないうちに……

〈ドサァァァ!!〉

中に入っていた大量のバナナの皮が道路へと散乱した。

「えっ……? って、銀さん!? 急にバナナの皮が飛び出してきたんだけど!?」

「マジでか!? 急にマリ〇カートみたいになってんぞ!? 一体どういうことだ!?」

「俺だって知らないよ!! とりあえず銀さん! 捕まって!」

 予想外の事態に戸惑いつつも、キリトはスクーターのスピードを調節してバナナの皮を上手に交わす。運が良い事に彼らは切り抜けることが出来たが、後方の車は緊急停車をして早くも数台が立ち往生を起こしている。

「おいおい! バナナの皮でとんでもないことになっているぞ! 渋滞を起こしちゃっているよ!」

「なんでこんな迷惑なことを……? 俺達に売る気がないというのか?」

 銀時がツッコミを入れる中、キリトは一連の行動を疑問視している。ケーキ屋らしからぬ豹変した対応に、深く考え込んでいた。すると、早くも彼はある仮説をひらめいていた。

「いや、まてよ……。もしかして、これって!」

「おい、キリト? 何か思いついたのか?」

 銀時も興味深く聞き、話しかけようとした時である。

「しつこい奴等だ! もう一度食らいやがれ!」

 またも浪士の一人が、木箱からバナナの皮を放出させた。前触れもなく出てきたバナナの皮によってついに、

「って、うわぁぁぁ!?」

「ギャァァ!?」

二人の乗ったスクーターは被害を受ける。スリップしたと同時にスクーターごと倒れてしまい、痛みを負ってしまった。幸いにも大きな怪我ではなく二人はすぐに立ち直ったが、移動販売車との距離は遠ざかってしまう。

「あばよ! 俺達を捕まえるなんざ、三万年早いぜ! ハッ! ハッ!」

 追っ手を負傷させたことにより、一段と調子に乗る浪士達。高笑いが道路中へと響き渡る。しかし、この行動が二人の逆鱗に触れたことを彼らはまだ知る由もない。

「なぁ、キリト……さっき言おうとしたのは、もしかしてあのことか?」

「そうだよ。きっとアレは、昨今流行っているバイトテロだよ……」

「ハハ……そういうことか。通りで昨日と対応が違うわけだ……。バナナの皮を公道に放って調子乗りましたってか。笑わせるじゃないか……」

「ケーキを売る気もなく、人様に迷惑をかけるなんて、大した根性してるよな……」

「……だったらやるべきことは、ただ一つだ」

 声を震わせながら二人はゆっくりと立ち上がる。去り行く移動販売車を睨みつけながらこう言い放った。

「「俺達に喧嘩を売ったこと……後悔させてやる……!!」」

 恐ろしい表情を作りながら、復讐を誓ったのである。彼らはまだ攘夷浪士と気付いておらず、不適切な対応をとる店員だと思い込んでいた。いずれにしろ、渋滞などの迷惑をかけたからには全員懲らしめるつもりである。

「よし、乗れ! キリト! 今度は俺が運転してやる!」

「ああ、任せた! しっかり追跡してくれ!」

「わかってらぁ!」

 本気となった二人は手早く実行へと移す。スクーターを立ち上がらせて乗り込むと、今度は銀時が運転席へと座り、キリトが後方へと座った。アクセルを思いっきり踏み、二人は追跡を再開させる。追う中で二人はある作戦を立てていた。一方で、浪士達も追っ手の変化に気付き始めている。

「どうだ? 奴等は撒いたか!?」

「いいや! まだ追ってきます! しかも、さっきよりも勢いが凄いです!」

「なんて奴等だ……。ならばもう一度、バナナの皮を撒け! 距離を稼ぐのだ!」

 またも現れた邪魔者に対して、再び浪士達は木箱を準備した。使用済みのバナナの皮が詰められた木箱は、これで最後である。

「さっさと諦めろ!」

 三度道路へと撒かれた木箱とバナナの皮。まんべんなく散乱して通る隙間さえないが、今の銀時達にとってはもう通用などしない。

「今だ! キリト! いけぇ!!」

「おう! ハァァァ!!」

 二人が声をかけると同時に、それぞれの行動へと移る。キリトは剣を両手に構えると、羽を広げて空へと舞った。一方の銀時は車体を上げていき、さらにスピードを上げる。

「これでどうだぁぁぁ!」

 そのままバナナの皮へ向かうかと思いきや、破損した木箱を台にしてスクーターを宙に浮かせたのだ。勢いのままトラップを潜り抜けていき、銀時は移動販売車を追い越して先頭部分へと向かっていく。その隙にキリトは、羽の速度を上げていき大窓から車内への侵入を試みる。

「銀さん、早く頼んだよ……。俺はその隙に……やるべきことを果たすだけだ!」

 改めて自分の役割に責任を感じていた。ここで彼らの立てた作戦を説明する。まずキリトが車内へと侵入し、極力戦闘を避けながら時間を稼いでいく。その隙に銀時が運転席へと向かい、近くにあるサービスエリアへと誘導する。場所の安全が確保できたところで、存分に粛清してから身柄を拘束する流れだ。銀時の手早い交渉と、キリトの我慢強さが求められる作戦である。そして、ついに時は来た。

「いけぇぇ!!」

 長剣を両手に大窓へとキリトは突進していく。近づいたところで剣を勢いよく振るい、

〈バキィィィ!!〉

封鎖していた大窓を打ち破った。これで車内への侵入はひとまず成功を収める。

「な、何!?」

「打ち破ってきただと!?」

 予想外の行動に、浪士達の動揺は広がっていた。しかし、キリトは車内へ着地後に早速行動へと出る。金色に輝くエクスキャリバーを浪士達に差し向けてこう言い放つ。

「……お前達か? 公道なんかにバナナの皮を撒いた非常識な奴等は……?」

 その声はいつもよりも低く、怒りに満ちていた。顔もうつむいており、正面からは表情が読み取れない。まずは怒り気味に自らの思いをぶつける。

「こ、こいつ……まさか俺達とやり合うつもりか?」

「どこから情報を得たか知らないが、我らに歯向かう者ならここで朽ち果ててもらうぞ!」

 彼の雰囲気に恐れをなして、浪士達はみな刀を抜き始めた。一人しかない敵に対して、浪士の数は五人。多勢で襲い掛かろうと企んでいる。不利な状況でもキリトは落ち着きを見せた。過去にも彼は多勢に囲まれる経験があるので、まったく恐れていないのである。

「やり直すのは今だぞ。それもできないなんて……お前らは本当に人間なのか?」

 最低限の説得はしたが、やはり応じる気はない。彼の怒りも頂点に達すると、鋭い眼光を浪士達へと見せつけた。数分前とは思えない変わりようである。長剣を両手に握りしめて、戦闘準備も万全であった。

「だったらしょうがない……ここでこらしめてやる!」

「上等だ! 叩きのめしてやらぁ!!」

 リーダーの言葉を皮切りに、浪士達は列を作りキリトへ斬りかかろうとする。しかし、

「ハァァァ!!」

「何!? ブハァァ!?」

本気を出したキリトの前になすすべもなく、返り討ちへとあってしまった。斬りかかろうとしても、彼の持つ羽が素早く動き、攻撃が一斉当たらない。その隙に長剣で攻撃を与えられ、前へと押されていく。予想もしない強さに浪士達は、さらに動揺してしまう。

「おい、あのガキ! 只者じゃねぇぞ!」

「こんな小僧に追い込まれるのか……」

「ええい! 奴は一人だ! 力づくでもねじ伏せろ!!」

 それでも、体勢は崩さずに再び斬りかかろうとする。たった一人の敵に怯むことはないと。ところが、キリトは一人では戦っていない。

〈キィィ!!〉

「何だ……!? 止まったのか!?」

 高音が聞こえたと同時に、移動販売車が急に運転を止めた。そう、これは銀時の作戦が成功した証である。コンテナ部分が開き外の風景が明るみになると、

「おい、てめぇら!! トイレ休憩の時間だ!! 全員降りてこい!!」

キリトに続いて銀時も戦いへと乱入してきた。自慢の木刀を片手に、浪士達を弾き飛ばして外へ放り投げる。その下では、運転していた浪士が銀時に倒されて気を失っていた。

「ぎ、銀さん! 来るのが遅いよ!」

「何言ってんだ! 作戦通りだろうが! ここなら、存分に暴れられるぜ!」

 二人は容赦なく歯向かってくる浪士達に対して攻撃を加えていく。サービスエリアの駐車場にて、激しい戦いが行われていた。この光景にようやくリーダーも勘付いている。

「そういうことか……。あのガキは囮で、ここへ連れてくるために仕掛けたというのか……」

 作戦を読み解いた時にはもう遅い。本気になった二人によって、仲間達は続々と倒されている。なぜあの二人を相手取ってしまったのだと、心から後悔するのであった。そして、

「「その通りだよ!」」

「えっ? って、グハァァ!!」

二人の息の合った技に抵抗することもなく、そのまま建物まで弾き飛ばされてしまった。意気揚々と語っていた浪士達であったが、二人の万事屋に喧嘩を売ったのが運の尽き。徹底的に打ちのめされて、戦力も全滅してしまった。一方でキリトと銀時は、戦いを終えてようやく気持ちを落ち着かせる。

「ふぅ……。やっと終わったな、銀さん。作戦成功だよ」

「そうだな。これで、バイトテロをした罪の重さを分かってくれるといいんだが……」

「まさか刀まで持っているなんて。最近は物騒って言うけど、その通りだよ」

「でもまぁ、後は拘束して真選組に任せりゃ万事解決ってことだろ」

 紆余曲折はしたものの、自分達の作戦が成功して共に達成感を持ち合わせていた。そんな二人は車内を改めて見直すと、

「アレ? 捕まっている人がいるよ」

「おいおい、まさか店長か? バイトテロに巻き込まれた被害者じゃねぇのか?」

拘束されていた男女を発見する。すぐに二人の元まで駆けつけて、口元に貼っていたガムテープをはがした。すると、

「あ、ありがとうございます! 助けていただいて!」

「攘夷浪士達に取り囲まれた時は絶望しましたが、アナタ達のおかげで助かることができました! 本当、感謝です!」

店員達は早速感謝の言葉を伝えてくる。だが、銀時とキリトは反応に戸惑った。

「「……じょ、攘夷志士?」」

「「えっ?」」

 ここで二人は、初めて自分達が戦った相手が攘夷志士であることに気付く。今更である。

 

 時は経っていき、ようやく真選組が現場に到着した。浪士達はみな現行犯逮捕となり、パトカーへと送りこまれている。一方でキリトは、心配して駆けつけたシリカやリズベットと会話を交わしていた。

「もう! 心配かけて損しましたよ! またキリトさんは、無茶なことするんですから!」

「ごめん、ごめん。俺もまさか、攘夷志士だって分からなくて戦っていたから!」

「本当、アンタは周りが見えなくなる時があるんだから……」

 無事であったキリトの姿を見て安心する二人であったが、そこに銀時が話に加わる。

「というか、なんで俺の心配はしないんだよ?」

「えっ? だって、銀さんは頑丈なんでしょ? 月姉からよく聞いているわよ。十人が相手でも死なないって」

「しぶといのが銀時さんの特徴だと、女子達の間でも話題に上がっていますよ」

「なんだその待遇の差!? 同じ主人公なのに、不公平じゃねぇか!」

 二人が心配しない理由を知り、激しくツッコミを入れる銀時。信頼されているのか、けなされているのか、もはや分からなくなっていた。すると、沖田が銀時へと話しかけてくる。

「いや~。それにしても旦那方、やってくれましたね。おかげでこの高速道路はバナナの皮まみれ。渋滞も起こすなんて、ある意味才能がありやすよ」

「どんな嫌味だよ……。つーか、また迷惑料とか要求してくるんじゃないだろうな?」

「そうしたいのは山々なんですが、旦那方が戦った浪士達は結構なホシでね……。高速道路の方も渋滞しか起こらなかったみたいなんで、今回はチャラってことで許してやりやすよ」

「なんで上から目線だよ! 指名手配犯を捕まえたんだから、懸賞金くらいよこせよ! この税金ドロボー!」

 追跡により起こってしまった二次被害の皮肉を交えつつ、沖田は複雑な事情を口に出した。こちらも感謝されているのか、バカにされているのか分からない始末である。しかし、良い事に変わりはない。二人の勇気ある行動によって、浪士達への確保、人質の救出が早まったのは沖田でさえ感謝している。

「でもまぁ、犯人確保に手伝ってくれたことはありがとうと言っておきやす。後、お前らが助けたケーキ屋から話があるそうですよ」

「ああ? ケーキ屋が?」

 そう言うと沖田は場を去っていき、ケーキ屋の店員と話を交代した。

「この度は助けていただき、本当にありがとうございました!」

「ああ、礼か。いいや、俺達は大したことはしてねぇよ」

「そんなこと、めっそもない! 勇気ある行動に私達は感謝しきれないんです! だから、在庫で残っていたケーキでよければ、受け取ってもらえませんか!?」

「えっ? マジで!?」

 助けてくれたことに恩を感じている店員の二人から、なんとお礼の品を受け取る。しかもその中身は、

「って、ロールケーキじゃねぇか!? 本当にいいのかよ!?」

幸運にも探し求めていたロールケーキであった。

「はい! 他にも種類があるんですけど、無事だったのがこれだけで……。それでもいいですか?」

「ああ、もちろん! これでアスナや神楽から、大目玉を食らわずに済むぜ!」

 思ってもいない幸運が舞い込んだことにより、テンションが高まった銀時。嬉しさのあまり思わずガッツポーズまでとっている。そこへ、キリトらも話しかけてきた。

「良かったね、銀さん。無事にケーキをゲット出来て!」

「ああ。色々あったが、納得のいく結果だぜ……」

「報われて本当に良かったです!」

「ちゃんと持って帰って、見せつけなさいよ!」

 シリカやリズベットも彼の嬉しそうな表情を見て一段落している。一同は笑いあい、幸せな空気を作っていた。

(銀さんが思いっきり笑っている……。よっぽど嬉しく思っているんだな……)

結局は丸く収まってキリトも平和に感じている。その後銀時らは、高速道路の出口を下っていきそれぞれの帰る場所へと戻っていく。とっておきのケーキを仲間達へ届けるために……

 

「というわけで、俺達が苦労して手に入れたロールケーキがこれだよ!」

「しかも、バナナが入っているんだぞ! てめぇら、存分に味わって食えよ!」

 万事屋へと帰ってきた銀時とキリトは、早速仲間達へロールケーキを見せつける。困難の連続ではあったが、それでも目的を達成できたことを二人は誇りに思っていた。自信良く笑顔を見せるが、なぜか神楽達の反応はあまりしっくりきていない。

「ん? どうした? 遠慮せずに食べていいんだぜ」

「あんなに楽しみにしていたのに、一体どうしたの?」

 すると、アスナが気まずい表情のまま声を上げた。

「ねぇ、銀さんにキリト君……」

「ん? どうした?」

「私達が昨日買ったの、イチゴの方だよ……」

「「えっ?」」

 まさかの間違いに、二人は言葉を失う。苦労して手に入れた品が間違いとなると、もはや固まるしかなかった。こうして、綺麗に収まったオチは台無しにされるのである。

 




結論 銀さんとキリトを敵に回すと、勝つことは難しい。だから、みなさん。悪い事はやめましょうね。
 さて、今後は出来る限りなんですが、月や火に投稿を集中していこうと思います。いつかは安定した時間帯に毎週投稿したいのですが、時間的に余裕を作りたいです……それでは、また次回!
後一つ報告があります。この小説のタグを増やしました。今後の展開次第で増えるかもしれません。また変化がありましたら、報告します。





次回予告
アスナ(アレ? 私達って卵を買いに来ただけだよね? それなのに、なんでこんな目に合っているの? どうして、ボス戦よりも緊張しているのぉぉぉ!?)
神楽 「次回! 考えすぎは体に良くない!」
アスナ(神楽ちゃん! これ以上はやめてぇぇ!!)





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第十九訓 考えすぎは体に良くない

 アスナとリズベットの年齢は十八歳(この話の時系列では) それに対して銀魂の十八歳キャラクターは、沖田総悟、神威、志村妙――って、妙ちゃんとリズとアスナの三人、同い年だったの!? そんな年齢設定に驚いた今日この頃です。

 という昨日予定していた前書きは置いといて、今回も加筆部分が見つかったので一日遅れてしまいました。個人的な意見ですが、やっぱり時間が欲しい……



 万事屋の一員として活躍するアスナは、一つのこだわりを持っている。それは……特技でもある料理に関係することだ。彼女は食材にもこだわっており、産地や価格などを見比べて徹底的に厳選している。料理には自信があるからこそ、決して手は抜かない。そう考えていた。そんなアスナの元に、珍しい食材の情報が舞い込んでくる。今回の物語は、そこから始まった……

 

 時は本格的な夏を迎える七月の下旬。キリト達が万事屋に加入してから、約三週間が経った頃である。連日暑い日が続く中、万事屋の姿は宅配ピザ屋にあった。この日は依頼が入っており、人手の少ないピザ屋を手伝っている。役割を分担していき、協力しながら一同は働いていた。

「よし! シーフードピザとビスマルクピザの出来上がりよ!」

「銀ちゃんにキリ! さっさと行ってくるヨロシ!」

「はいはい、分かっているよ」

「それじゃ、銀さん。行こうか」

 箱へと入れたピザを片手に、銀時とキリトは店を出ていく。止めているバイクへと乗り込み、それぞれの注文先へとこれから向かうのだ。今回の仕事は、二人一組となって役割を分担している。まず銀時とキリトは、バイクの運転が出来るので宅配係。新八とユイは、注文を受けるオペレーター係。そして、神楽とアスナは料理全般を行う調理係。正社員から方法を教えてもらい、みな慣れない仕事を懸命にこなしていた。

「ふぅ……ひとまず、昼時のラッシュはようやく終わったわね」

「大変だったネ……アッスーも疲れたアルか?」

「全然よ! これくらい朝飯前なんだから!」

「さすがアル! 髪をポニテにしてだけはアルネ!」

「髪型は関係ないわよ。衛生上、長いままじゃいけないからね」

 一通り仕事を終えた後でも、アスナは一斉疲れを見せていない。元気に接する彼女の姿を見て、神楽はさらなる憧れを強めていた。ちなみに今日のアスナは、仕事の規則上で髪をポニーテールに束ねている。珍しい容姿の変化に、神楽は目新しさを覚えていた。それはさておき、時間に余裕が出来た二人は一息つくために休憩へと入る。折り畳み式の椅子へ座ると、今度は神楽が話しかけてきた。

「それにしても、アッスーは仕事が出来る女ネ……どうやったら、そんなにうまくこなせるアルか?」

「えっ? 急にどうしたの、神楽ちゃん? もしかして、教えてもらいたいの?」

「そうアル! 今日だって私よりもうまく出来ていたネ! 何かコツや裏技があったら、教えて欲しいアル!」

 話題に上がったのは、仕事についてである。今回神楽は慣れていない調理作業に苦戦して、アスナに助け船を貰う事も多くあった。その為失敗を気にしており、仕事上手な彼女から助言を求めようと考えつく。興味津々と聞く神楽に対して、アスナは率直な言葉で返すことにした。

「なるほどね……それじゃ、私なりにアドバイスを教えてあげるわ」

「えっ? それって、何アルか?」

「まぁ、一つの方法として、先のことを予測することかしら。柔軟な対応をして、幅広く考えるのよ。良い意味で臆病になることが、効率良い仕事に繋がると私は思っているわ」

「そうアルか……」

 優しい口調で伝えたアスナからの助言。神楽も納得して意味を理解したと思いきや……

「つまり、妄想癖のある臆病者になれば、どんな仕事も出来るってことアルか?」

「言い方に語弊があるけど……まぁ、だいたいそんな感じね」

独特な解釈によって、本当に伝わっているのか分かりづらかった。それでもアスナは、失敗を直そうとする神楽の向上心を見て、密かに感心している。

(悔しさを糧にして進んでいけば、きっと成長していけるわよ。神楽ちゃん……)

 その姿はさながら、妹を見守る姉のような光景であった。互いの気持ちを分かり合い、二人はより強い仲を築いていく。そんな会話をしているうちに、彼女達の元へ訪問者がやってきた。

「お疲れ様、二人共!」

「おー! 新八にユイ! もうそっちも休憩に入ったアルか?」

「その通りです! 今は社員さんが代わりにやっているので、私達も休憩に入ったんですよ!」

 現れたのは、オペレーターを担当していた新八とユイだった。時を同じくして二人も休憩へと入っている。実に四時間ぶりの再会であった。すると、早速アスナはユイに話しかけてくる。

「そうだったの。ところで、ユイちゃん。オペレーターはしっかりと出来た?」

「はい、もちろんです。新八さんも教えてくれたので、ばっちりとこなせましたよ!」

 ユイが仕事で失敗しないか不安に思っていたが、何も問題は無かった。一緒に仕事をした新八から教えてもらいながら、自信よく進めていたらしい。

「そ、そんなことないよ。万事屋の先輩として、当たり前のことをしただけだから」

「いえいえ。新八さんには、色々と助けてもらいましたから、とっても感謝しているんですよ!」

 お礼を言われた新八は、若干照れながら対応した。ユイも彼への信頼を高めており、羨望の眼差しで見つめている。互いに頼りにしている二人の仲の良さを見て、アスナは好意的に捉えていた。

「新八君もユイちゃんと仲良くなったのね。まるで兄妹みたいだわ……」

 優しい声でそっと呟く。しかし、神楽はこの状況をあまり良く思っていない。好感度が上がって浮かれる新八の姿を見てられないからである。そして顔をしかめたまま、皮肉交じりに彼へと話しかけてきた。

「おい、眼鏡。幼女に褒められたからって、調子に乗るなアル。お前なんて、ユイに好かれるくらいしか、もう女子と絡むことはないんだよ。だからモテ期が来たなんて、思い上がるなよ。ゴラァァ……!」

「アレ……? なんだこの待遇の差? 同じヒロインなのに、作品が違うとこんなに変わるのか……?」

 そっと見守っていたアスナに対して、神楽は辛辣な言葉を並べ毒舌を吐きまくる。メインヒロインを飾る二人の女子だが、作風が違うだけでその差は一目瞭然であった。新八はただ苦笑いで耐えるしかない。そんな中ユイは、話の流れを遮ってある情報を話題へと上げた。

「そういえば、ママと神楽さんってこの店の秘密を知っていますか?」

「秘密? って、どういうこと?」

「それはですね……あの卵に隠されているんですよ!」

「卵アルか……?」

 ユイが指を差し向けた方向には、何の変哲もない白い卵が置かれている。今日の調理でも使用した卵に、この店の秘密が隠れているらしい。さらに彼女は自信良く話を続けた。

「そうなんです! この卵はなんと、市場に出回っていないレアな卵なんですよ!」

「えっ!? そうアルか!? 色違いよりレアな卵アルか!?」

「それはわからないけど、社員さんから聞いた話なら、結構希少な卵を使っているみたいだよ。その鶏卵場と契約して、独自に仕入れているんだって」

 新八もさりげなく説明へと加わる。どうやらオペレーター係を担当していた二人だけが、知っている情報のようだ。秘密を聞いた神楽は物静かに噂の卵を睨みつけている。

「へぇー。こんな卵が希少だなんて信じられないネ。外見じゃわからないってことアルナ」

 細かく凝視しても、色や大きさは他の卵と大差はない。試しに手に取って、味を確かめようとしたが、

「神楽ちゃん。店の材料なんだから、味見しちゃダメだよ」

「分かってるネ。ただ興味深く見てただけアル」

真面目な新八に注意されてしまった。あくまでも勤務中なので、常識はわきまえなくてはいけない。いずれにしても、神楽も希少な卵だと聞いて気になりつつある。

(レアな卵アルか……。ご飯にかけたら絶対おいしいアルよな……)

 想像が掻き立てられていき、無意識のうちに口を開いていた。一方でアスナも、希少な卵への興味が湧いている。その表情は先ほどまでと違い、真剣さを極めていた。

「ん? ママ? 一体どうしたんですか?」

 ユイが声をかけても、今の彼女には届いていない。集中力が研ぎ澄まされており、聞こえていないのである。そんな彼女の頭の中はというと、

(卵自体そこまで単価は高くないはず……。市場に出回ってないにしても、供給のバランスを考えて……一般の人でも交渉次第で買える値段かな? 現地までいけば、話くらい聞いてもらえるかも!)

卵への考察で頭が一杯になっていた。珍しい食材と聞くと、どうしてもその理由を解き明かしたくなってしまう。探求心をたぎらせて、気持ちを高めつつあった。そして、ついに行動へと現れてくる。

「ねぇ、ユイちゃん! その卵って、どこで売っているか聞いていないの?」

「えっと、それは……パックの裏に書いてあると思いますよ」

「裏ね! 神楽ちゃん! 見てもらえる?」

「おうネ! 任せるヨロシ!」

 アスナからの要望に、神楽はすぐに動いた。彼女達は卵の容器を発見して、わずかな情報を確認し始める。

「この住所は……江戸の近くネ!」

「そうなの? ここからどのくらい?」

「バスで行ける距離ネ! 日帰りで帰ってこられるアルよ!」

「よかった~! これなら明日にでも、行けるわね!」

「もういっそのこと、明日に行って買ってくるアルか?」

「いいわね! 一緒に行って、レアな卵を購入しよう!」

 お互いに話は盛り上がっていき、いつの間にか明日の予定まで立て始めていた。興味が刺激されていき、行きつくところまで行った結果である。二人の高まったテンションを見て、場にいた新八とユイはただ唖然としていた。

「アスナさんも神楽ちゃんと同じで、熱中すると周りが見えなくなるんですね……」

「ママはALOでも、レアな食材にこだわっていますから。本気になったママは、誰にも止められませんよ……」

 浮かない顔をしながら状況を悟っている。万事屋の同業者と自慢の母親は、意外なところで共通点を一致させていた。だが、ユイ達には一つだけ心配が生じている。あの話にはまだ続きがあったのだ。

「それにしても、どうしますか? 二人にあの事も伝えておきますか?」

「言いづらいですよね……楽しそうな空気を壊すわけにはいきませんから……」

「そうだよね。どうしようか……」

 本当のことを言うべきか、悩み始める二人。この店で取引している鶏卵場には、癖の強い一面があることを伝え忘れたのである。空気を壊すわけにもいかず、今はひたすら黙っているしか方法はなかった。

「あっ! それなら、ユイちゃんや新八君も一緒に来る? 大勢で来た方が楽しいと思うけど、どうかな?」

「えっと、私は……遠慮しておきます。ごめんなさい」

「ぼ、僕もです! 明日は外せない用があって……」

「そっか。それじゃ、私達だけで行きましょうか」

「二人で乗り込んで、何としても卵をゲットするネ!」

「「オー!!」」

 士気を高めたアスナと神楽は、気持ちを一つにしていく。二人の気合の入った笑顔とは対照的に、ユイと新八はただ不安な表情を浮かべている。こうして、続きを言いそびれたまま仕事は再開されたのだ。

 

 翌日。謎に包まれた鶏卵場へと向かうべく、アスナと神楽の二人は朝早くからバスに乗り込んでいた。神楽はおいしい卵かけご飯を食べるため。アスナは料理に使用したいため。それぞれ目的は違うが、共に辿り着く場所は同じである。気持ちが高まったまま、到着を待ち続けるのだ。そして数分後。目的地に近い、バス停へと彼女達は降りてゆく。古い住宅や低いビルがまばらに建つ、都市部とは違った光景がそこには広がっていた。

「ふぅ……結構な長旅だったネ」

「本当ね。でも、もうすぐで私達の求めていた卵を入手することができるわ!」

「おー! 卵かけご飯も、もう目の前ネ!」

「一品料理や中華、デザートにも使えて……想像しただけでたまらないわ!」

 早くも二人は、卵を入手した後の使い道に悩み始めている。夢物語に現を抜かしているが、まだ入手できると確定したわけではない。浮かれた気を戻すように、アスナは威勢の良い声を上げた。

「さぁ、気を取り直して鶏卵場へと向かうわよ!」

「おうネ! ここから行くと……南側に行けばいいアル!」

「南ね。わかったわ!」

 方向を確認しながら二人は足を進めていく。神楽でさえあまり来たことがない地域なので、道しるべを慎重に見ながら向かっていった。そこから数分後。住所通りに進んでいくと、ようやく目的地である鶏卵場へと辿り着く。

「えっと、ここみたいね」

「なんだか鶏卵場って見た目じゃないアルナ……」

 門の前まで立ち止まると、その外観に二人はただ驚くしかなかった。敷地面積が広く屋敷のような風貌に加えて、入口へと繋がる門には光沢のある黒味がかっている。看板にはしっかりと鶏卵場と明記しているので、ここが目的地であることに変わりはない。しかし、強烈な印象と場違いとも感じる雰囲気に、二人は疑問を覚え始めている。

「確かにイメージしていた鶏卵所とだいぶ違うわね。経営者の趣味なのかしら?」

「いい趣味しているアルナ。厳ついおっさんしか、いなそうアル」

「そんなことないと思うよ。ドラマじゃあるまいし」

「まぁ、私はどんな奴が来ようとも動揺しないアルけどナ!」

「神楽ちゃん、自信満々ね! もちろん私も、これしきのことでビビらないんだから!」

 鶏卵場の個性に驚きつつも、二人の好奇心がそがれることはなかった。深追いをせずに常識の範囲内で考えていたからである。そんな中、ついに状況が動き出す。彼女達の前にあった門が、唐突に開き始めたのだ。

「って、アッスー! 話していたら急に門が開いているネ!」

「本当!? ということは、いよいよ噂の卵を買えるってことね!」

 謎が多き鶏卵場への入り口が開かれて、期待に胸を膨らませている。特にアスナは一段と楽しみにしており、その表情も希望に満ちていた。

(一体どんな人なんだろう……? 老夫婦が営んでいるのかな? それとも、若者が協力して作っているのかな? いずれにしても楽しみ――)

 生産者への予想まで始めて、彼女の妄想も止まらない。そして、ようやく対面を果たしたのだが、その目に映ったのは――

「……わしらに何か用でっか?」

「……」

サングラスをかけた強面の男性だった。黒いスーツを着こなし、無表情のまま睨みを利かしている。背も高く余裕で二人を見下ろしていた。見る者に威圧感を与える姿に、アスナは対応に困った挙句――

〈バタァ!!〉

無言のまま扉を勢いよく閉めてしまう。

「……ねぇ、神楽ちゃん。今見たのって、何?」

「何って、ただのおっさんだったアルよ」

「おっさん……そんな生易しいモノじゃなかったわよね。何ていうか、映画とかでよく見かける感じの……怖い人達だよね……」

 終盤に連れてアスナの声は、こじんまりと小さくなっていく。震えながら話すその姿は、恐怖を抱えているように見えた。彼女としては珍しい反応である。

「ん? アッスーは何が言いたいアルか?」

「だから、強面の人だったよね! 裏社会にはびこってそうな人だったよね!」

「ああ、極道ってことアルナ」

「って、神楽ちゃん!? さらっと遠回しにしていたこと、言わないでくれる!?」

 アスナがためらって避けていた言葉を、神楽はさらっと何事もなく口に出していた。彼女が動揺している理由は、先ほど会った極道のような男性が関係している。そもそも人生で出会ったことのない類なので、接し方も分からないまま戸惑っているのだ。一方で神楽は、アスナとは違いまったく動じていない。むしろ子供のような無邪気さで、気にもしていないのである。すると神楽はアスナへと話しかけて、彼女を落ち着かせようとした。

「大丈夫アルよ、アッスー。きっと強面なだけで、根は優しい人アル。香川〇之に、遠藤憲〇。蝶〇正洋みたいな男アルよ、きっと!」

「って、それは神楽ちゃんが好きな俳優さんの話でしょ!!」

「俳優じゃないネ。蝶野正〇だけは、格闘家アルよ」

「知ったこっちゃないわよ! 細かい事を気にしている場合じゃないんだから!!」

 強面な芸能人を例に上げて説得しようとしたが、結局何も変わらずじまいである。アスナの動揺も増すばかりであったが……

「アレ? アッスーってもしかして、怖いアルか? 極道っぽい人は苦手アルか?」

「苦手……?」

神楽から本心を突かれると、急に冷静さを取り戻した。妹のように可愛がっている神楽から心配をかけられるなど、年上としても情けなく思い始める。彼女のように、平常心を戻さないといけない。自分自身を見つめ直したアスナは、我に返ると気持ちを振り切らせた。

「そ、そんなことないわよ! 私だって正々堂々と立ちむかうんだから! ボスモンスターに比べたら、こんなの軽い方よ!」

「おー! さすがネ! それでこそアッスーアル!」

 神楽はアスナの恐怖心に気付かないまま、彼女をおだてていく。そんなアスナの本心はというと、

(ごめん神楽ちゃん……ボスモンスターと戦った方が、よっぽどマシかもしれない……)

素直な気持ちを流していた。それでも覚悟を決めて、もう一度入らなければならない。自分達が何としても手に入れたい、卵の為にも。

「さ、さぁ! もう一回開けるわよ!」

「おうネ! ここまで来たら、もう突き進むだけネ!」

 神楽は期待を向けた表情。対してアスナは不安を交えた表情で、再び門へ手をかける。

(大丈夫……神楽ちゃんだって落ち着いているんだから。きっと、さっきの人も外見は怖いだけで、根は優しいはずだわ……! 極道とは関係ない……絶対に!!)

 憶測を交えつつ、アスナは一度深呼吸を行う。気持ちを改めた後、意を決して自ら門を開いたのだ。

「あの……さっきはすいま――」

 と言いかけた時である。彼女達の目に映ったのは、

「……何、急に閉めたんだ。お前ら」

おでこに怪我をおった先ほどの男性であった。アスナが急に門を閉めたことで、頭をぶつけたのである。その表情は怒りを交えつつ、より怖さを増していた。

「……す、すいませんでした……」

 予想もしない展開に、アスナは怖気づき勢いを無くしてしまう。言葉も失ってしまい、折角の覚悟も叩きつけられてしまった。彼女達の苦行は、まだ始まったばかりである。

 

 それから二人は、男性へ謝罪を交わした後に要件を軽く話した。すると彼は鶏卵場内の事務所へと案内して、彼女達を椅子へと座らせる。そこに仲間も入ってきて、本格的な交渉へと入るのだが、待っていたのはさらなる恐怖でしかない。

(何この状況……漫画でしか見たことないんだけど!?)

 顔をうつむかせながら、アスナは心の中で本音を叫び続けている。男性が連れてきた仲間も同じ雰囲気だったからだ。強面でサングラスをかけて、黒いスーツを身にまとっている。椅子には二人の男性が座り込んでおり、アスナと神楽に対してまたも睨みつけていた。周りには、ボディーガードらしき男性が四人おり、簡単に逃げ出すこともままならない。まさに絶望を感じさせる状況だが、なぜか神楽は平然と落ち着いている。そしてアスナは重く考え込みながら、心の中で自問自答を繰り返し始めた。

(……アレ? ここって、鶏卵場だよね? 卵を育てる場所だよね? なのに、どうして私はこんな目にあっているの? なんで緊張が止まらないの……? なんでデスゲーム並みに殺伐としているの!?)

 十八年生きている彼女だが、こんな経験は初めてである。卵を買いに来ただけで、極道っぽい事務所に連れていかれるなど、奇想天外にも限度があった。しまいには、デスゲームよりも生存確率が低いと大袈裟に考え始める始末である。考え込むアスナであるが、神楽は依然として動揺もしていない。

(それにしても、神楽ちゃんの方が落ち着いているなんて……まるで昨日と真逆だわ……)

 彼女の度胸強さに、アスナは内心驚いていた。経験上万事屋では、極道や犯罪者と関わることもそう少なくない。神楽も分かったうえで、落ち着いていると思いきや――

「あっ、すいません! 喉が渇いたんで、お冷持ってきてもらいますか?」

(って、神楽ちゃん!? 急に相手を挑発すること言わないで!!)

ただ空気が読めていないだけだった。つまり鈍感で気付いてすらない可能性が浮上したのである。これにはアスナも内心でツッコミを入れてしまう。もちろん男性達も、神楽の命令口調に腹を立てている。

「何だと、貴様! なめた口を言いやがっ――」

「まぁ、待て。威勢があっていいじゃないか。俺は嫌いじゃない性格だぜ」

 ところが、年長者の男性が一言かけただけで、すぐに場は静まった。雰囲気から彼が、この中で位の高い人物だと伺える。

(あの人がここのボスみたいね……それにしても、とんでもないところに来ちゃったわ。雰囲気から、極道の人達にしかもう見えてこないよ……)

 こっそりため息を吐きながら、改めてアスナは部屋を見渡す。八畳くらいしかない手狭な部屋と、赤い壁に貼られた装飾品や壁紙が目立っている。清々しいほど、極道映画で見かける光景であった。だが例え外見が怖くても、もう引き下がることはできない。鶏卵場で働く人に変わりはないので、今は話し合って目的を果たすしか方法はないのだ。

(……大丈夫よ。極道如きで怯むなんて、私らしくないわ! 神楽ちゃんも堂々としているんだから、私だって立ち向かわないと! 良い臆病者になれ! 昨日言ったことを心に刻むのよ! 私!)

 昨日の仕事で教えた神楽への助言を思い出し、アスナも再び覚悟を固める。先のことを予測しながら、柔軟な対応を考えていく。そう言い聞かせて、警戒心を高めながら話し合いに臨むのだ。

「さて……ウチを訪ねてきたのは有り難いが、一体何のご用件だい? お嬢さん方」

 まず話を切り出したのは、ボスである男性。彼からの問いに、アスナは素直に返す。

「それは、卵が欲しいからです。ここでは、一般販売しない卵があると聞いて……」

「よく知っているじゃないか。宇宙でも俺達の名が知れ渡っているなんて、光栄だぜ」

「えっ? 宇宙?」

「ん? 何を驚いているんだ? お前さんは耳が鋭いから、地球人じゃないだろ?」

「あっ! そういうことね……」

 会話の中で、アスナが天人扱いされていることを彼女は理解していた。耳がとんがった妖精系アバターでは、誤解されるのも無理はない。この状況を利用して、アスナは考えていたが――

「はいはい! 違うアル! アッスーはこれでも地球人で、私の方が天人アルよ!」

「って、神楽ちゃん!? ここで正論言わないで! 空気読んでよ!」

神楽が正直にも指摘を口に出してしまった。またも彼女の余計な一言によって、アスナがツッコミを入れてしまう。しかも今回は思いっきり声に出して聞かれてしまっている。

「何……? お前は天人ではないのか?」

「いや、あのこれは……深い訳があって……」

 何やら怪しげな空気が漂い始めた。アスナは巻き返そうと言い訳を思い浮かべるが、中々まとまらない。そんな状況の仲、ボスはある奇妙な言動を取り始める。

「まぁ、いい。落ち着きたまえ。いい加減建前はもううんざりだ。地球人であれ天人であれ、知ったことではない。俺達が伝えたいのは、これだからな……」

 そう言うと六人は一斉に右手をスーツへと伸ばして、固い物体を手に取った。アスナ達も取り囲んでいき、何やら不穏な空気を漂わせる。この行動でアスナは疑惑を確信へと移した。

(まさか私達に銃を向ける気……? やっぱり最初から、売る気も帰らせる気もなかったということね……なら、取るべき行動は一つよ!)

 臆病に考えていたおかげで、この危機的状況も彼女にとっては予測済みである。動揺もいつの間にか消えており、表情も真剣さを極めていた。多勢の敵に不安も抱えていたが、何も心配はない。今のアスナには、一緒に戦ってくれる頼もしい仲間がいる。

(ん? これって……)

 右手に温もりを感じて横を向くと、そこには同じく手を握る神楽がいた。彼女もようやく状況を察しており、アスナと同じく準備を心得ていたのである。

(大丈夫ネ……こんな奴等に私達が負けるはずないアル!)

(神楽ちゃん……分かったわ! 一緒に戦いましょう!)

 お互いの声は聞こえないが、顔を見ただけでその気持ちは一つになっていた。言葉を交わさずとも、作戦はすでに理解している。後は切り抜くための僅かな勇気が必要だった。そして、数秒後に事態は動く。ボスが右手を上げて、指示を加えようとした時である。

「今よ!」

「OKネ!」

 二人は瞬時に行動へと移した。神楽は拳に力を込め、アスナは装備したままのレイピアをそっと握る。そして、

「「ハァァ!!」」

「えっ? 何!?」

一瞬のうちに彼らが手にした武器を取り上げてしまったのだ。拳やレイピアを使って、相手の武器へとぶつけて狙ったのである。男達は戸惑いを見せており、みな丸腰状態となった。そして、最後に二人はボスの方へ刃と拳を向け始める。

「さぁ、もうあなた達に勝ち目はないわよ!」

「とりあえず観念するアル!」

 アスナは今まで我慢していた悔しい気持ちを。神楽は場の空気を読みながら、それらしい言葉を吐いた。唐突な展開にボスも驚きを隠せなかったが――

「って、えええ!? あの一瞬でパネルを全部奪ったの!? これじゃ、ネタバラシが台無しじゃないかぁぁ!! どうしてくれるの!?」

「えっ?」

「はぁ?」

その様子に二人は目を疑う。大物のようにふんぞり返っていたボスは、素に戻ったかのように慌て始めていた。さらに仲間の男達も、同じように戸惑っている。

「一体どういうことなの?」

 先ほどまでの緊迫した空気とは打って変わり、アスナも状況の把握ができていない。一方で神楽は、奪った武器から重要な事実を読み取っていた。

「って、アッスー! これを見てみるネ!」

「神楽ちゃん? 一体何を――」

 アスナにも見せて、この騒動の真実を知らせる。彼女が手にしたのは複数の拳銃ではなく、文字の張ってあった六枚のパネルであった。

「これを繋げて見るネ!」

「ん? ドッキリ成功――えっ!? ドッキリ……」

 並び変えて読み解くと、信じがたい言葉が浮かんでいる。ここから導かれる予測はたった一つしかない。すると、一人の男性が照れ隠しながら声をかけてきた。

「そうなんですよ。実は全部ドッキリで、あの後はネタバラシの予定だったんですよ……」

 そう。極道のように思われた男性達の正体は、全て偽者だったのである。見せかけだけの仕掛けに、彼女達は騙されていたのだ。この予想外な結末に、アスナはただ唖然とするしかない。そして、とうとう我慢ができなくなり思いを叫んでしまった。

「な……何よこれぇぇぇぇ!?」

 今まで自分が感じていた緊張や恐怖が、全て無駄だとわかった瞬間である。彼らの誤解が解かれるのは、まだ時間がかかりそうだ。

 

 その後、お互いが冷静になったところで、ようやくちゃんとした話し合いが行われる。極道の格好をしていた男性達は、全て鶏卵場を取り仕切る役員であることが分かった。彼らからの事情を聞き、二人は新たなる真実を知ることになる。

「……つまり、こういうことアルか? この鶏卵場は一見さんを見定めるために、毎回違ったドッキリを仕掛けて、度胸を試すってことアル?」

「そ、そうです。一見さんには驚かせるのがウチの恒例でして……まぁ、悪ふざけが過ぎたから驚かせて悪かったね。お嬢ちゃん達」

 そう言ってボスは、再び謝りを入れる。サングラスを外したその姿は、つぶらな瞳が目立つ人の良さそうな男性だった。他の役員達もサングラスを外して、印象をガラリと変える。彼ら曰く、昔からの恒例行事で特に意味はないらしい。癖の強い一面を理解して、アスナは思わず肩の力を抜いた。同時に本物だと思い込んでいた自分を、恥ずかしく思い始める。

「そ、そうだったの……。ドッキリだったなら、もっと早く知らせてよ……」

「いや、最初に会った時の反応が面白くて、続けていたんだよ。おかげで、いつネタバラシをするかタイミングを失ったけど……」

「なるほどネ。ボスが無理して繋げようとしていたのは、そんな理由があったアルか」

 神楽から本筋を言われてしまい、ボスの心へと突き刺さった。役員達の事情も理解したことで、ようやく互いの誤解も解かれる。苦労はしたが目的である卵を入手できるならば、二人は何よりだと感じていた。

「でも本当に良かった~。これでようやく卵を買えるのね……」

「いずれにしても結果オーライアル。終わり良ければすべていいネ!」

「随分強引だけど、まぁいっか! 神楽ちゃんにもバレていないみたいだし……」

 小声でアスナはそっと呟く。彼女は極道に怖気づいていた様子を神楽にバレていないと思い込んでいたが……

「何て? アッスーが怖がっていたのは、最初から知っていたアルよ」

「そうなの――って、えっ!? ちょっと待って、神楽ちゃん!? それ本当なの!?」

当の本人は最初から分かっていた。つまり、神楽にはお見通しだったのである。

「そうアル。アッスーにも苦手なものがあるって分かったから、ずっと黙っていたアルよ。結構バレバレだったネ」

「ギク……! それなら意地なんか張らなきゃ良かったわ……!」

「ごめんネ。アッスーの反応を見ていたら、面白くてつい言えなかったアル」

「神楽ちゃんまで……ひどすぎるよ!」

 ドッキリとまではいかないが、神楽にも引っかけられていたアスナはまたも落ち込んでしまった。今日の彼女は不びんにも騙され続けている。

「アッスー? 大丈夫アルか?」

「……大丈夫よ! キリト君やユイちゃんには、あまり今日の事言わないでよ。恥ずかしいから」

「OKアル。銀ちゃんと新八には、しっかり伝えておくネ!」

「それもダメ! 神楽ちゃん、絶対面白がっているでしょー!!」

「そんなことないネー!!」

「そんなことあるって! 顔が笑っているから!!」

 小悪魔っぽく攻める神楽に、アスナのツッコミも止まらない。仲のよい口喧嘩を始める光景は、まるで本物の姉妹のように思わせる。役員達にも彼女達の仲は強く伝わっていた。

「この子達なら、ウチの卵を売っても大丈夫そうだな」

「そうですね。用意してきます」

 こうして長く続いたアスナの苦難は、思わぬ展開で幕を下ろす。しかし、彼女達の言い争いはまだ続いていた。

「アッスーの怯えた表情は、珍しかったネ! また見たいリアクションだったアル!!」

「だから笑いすぎだって!! もう~!! 絶対にみんなには内緒にしてよねー!!」

 またも悲痛なアスナの叫びが、屋敷中に響き渡ってゆく。

 




 紆余曲折あって、いい感じ風に終わりました。二週連続で食べ物系が続いたので、来週はさすがに避けます。次回予告では、匂わせている感じがしますが、被らないようにしますので安心してください。後、以前伝えていたキャラクター紹介は、まだ時間がかかります。完成するまで気長にお待ちください。




次回予告
キリト「うーん――どうかな? ユイにはまだ早い気がするな……」
銀時 「そうか? てめぇらが親バカだから、過保護になりすぎているじゃないのか?」
アスナ「そんなことないよ! ユイちゃんが怪我したら、大変なことになるじゃん!」
神楽 「典型的な親バカアル」
ユイ 「次回! かわいい子にはお使いさせろ!」
新八 「アレ? これタイトルでネタバレしているけど、大丈夫だよね……」



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第二十訓 かわいい子にはおつかいさせろ

 ユイがピクシー状態のまま銀魂の世界へ来なかった理由。それは……小さいままだと日常生活を送りづらいから。個人的な意見ですが、少女の姿の方が日常回を作りやすいです。


「えっ、ユイ? 今なんて言ったんだ……?」

「だから、おつかいに行きたいんですよ! 昨日のあの子達みたいに、パパとママの役に立ちたいんです! だから、いいですよね?」

「そ、それは……」

 朝食時の万事屋で、ユイは思わぬ願いを打ち明けていた。おかげでキリトとアスナは、答えに詰まり表情も戸惑っている。彼女が強くおつかいを希望する理由は、昨日見たテレビ番組が関係していた。

「ん? もしかしてユイって、「初めてのおつかい」に影響されておつかいがしたいアルか?」

「もちろんです! 子ども達の頑張る姿を見て、私も強く影響を受けたんですよ!」

 神楽からの問いにユイは自信満々に答える。実は昨日、彼女は「初めてのおつかい」というドキュメンタリー番組を見て、おつかいに興味が湧いていた。まだ年端もいかない少女達が、知恵と勇気だけで買い物をする姿に心を打たれたのである。きっかけは分かったものの、未だに二人は対応に困っていた。一方で万事屋らの反応はみな良好である。

「へぇー、いいじゃないですか! きっとユイちゃんなら出来ますよ!」

「立派アル! 自分から言い出すなんて、さすがユイネ!」

「まぁ、いいと思うぜ。元の世界に戻る前に、色々と経験しといた方がいいだろ。なぁ、お前ら? って、アレ……?」

 と銀時がキリトらの方を向くと、彼らは未だに戸惑っていた。そして苦い表情をしたまま、彼女へ返答する。

「ユ、ユイにはまだ早いんじゃないのかな……?」

「えっ!? そうなんですか?」

「そうそう。それにかぶき町って危ないところもあるし、一人で出歩くのはマズいと思うのよね……」

 複雑な気持ちを表しながら、ユイの願いを取り下げてしまう。これには彼女だけではなく、銀時らも納得していなかった。

「おいおい。こんなところで、親バカを発動すんのか? おめぇらはユイに対して過保護になりすぎなんだよ。おつかいくらい許してやれって」

「そうアル! 昨日の番組だって、ユイより小さい子達が大活躍していたネ。憧れや興味を持つのは当たり前の反応アルヨ」

「そ、そうですよ! 銀時さんや神楽さんの言う通りです!」

 ユイも銀時側について再び説得へと移る。彼女の真剣な気持ちはキリトらにも伝わっているのだが、それでも答えが変わることはなかった。その理由は二人が抱える心配性が関係している。

「それでも心配だよ。ユイがもし攘夷志士にでもさらわれたら、心も痛むし……」

「こないだの私達みたいに、極道っぽい人にでも絡まれたら……心配で息苦しくなっちゃうよ~!」

 思い当たった危機的な状況を例に上げて、不安な気持ちを打ち明け始めた。ユイ一人をかぶき町へと繰り出すのは、二人にとって大きい抵抗心を持ち合わせている。複雑に考え込む親心には銀時達も口出しできず、説得を諦めてしまった。

「……そう言われると仕方ねぇかもな。かぶき町なんて、人間の吹き溜まりみたいなところだし」

「そんな……それでは、一人でおつかいに行けないということですか?」

「そうなるよね。キリトさんやアスナさんも心配して言っているから、しょうがないよ」

「まったく……こういうところでアッスー達は、無駄に心配するネ。守りに入りすぎアル!」

 落ち込んでしまいユイは、苦い表情を浮かべていた。しかし、否定されても諦めきれない。本心ではどうしてもおつかいがしたかった。そこで彼女は、ある妥協策を考え付く。

「……なら、二人だったらおつかいを許してくれるんですよね?」

「えっ? それはいいけど、ユイちゃんは本当にいいの?」

「はい! パパやママに成長を見てもらえるなら、私はそれでも十分です!」

 保護者同伴と提案したユイであったが、あくまでキリトとアスナには頼らないと決めていた。そして彼女の本心は、思わぬ展開へと行きつく。

「えっと、つまりユイはキリやアッスーじゃなくて、私達と一緒におつかいへ行こうとしているアルか?」

「もちろんです! 私は……新八さんと一緒に行こうと思っているんですよ!」

「へぇー。僕と一緒に行くんだ――って、えっ!? それどういうことなの、ユイちゃん!? まったく聞かされていないよ!?」

 突拍子もなく出たユイの一言によって、場にいた全員が衝撃を受けてしまう。特に新八は不意打ちのような出来事だったので、かなり動揺を隠せずにいた。するとユイは、早速その理由を話し始める。

「だって、今決めたんですから! 新八さんならきっと事情を理解してくれると思って選んだんですよ!」

「いや、それはありがたいけど……本当に僕でいいんですか!?」

「大丈夫です! 自分に自信を持ってください!」

「そう言う事じゃなくて――」

 彼女の持つ高らかな自信の良さに、新八はただツッコミを入れるしかない。彼への信頼を強めているユイならではの答えであった。この決断に仲間達の反応は千差万別である。

「でも新八とだったら、一緒についていっても問題なさそうだよな」

「三人の中だったら、新八君の方が一番いいのかもしれないわね」

 キリトとアスナは若干不安を覚えつつも、新八との同伴には前向きに考えていた。一方で銀時と神楽の反応は、

「おい、新八。お前はいつから幼女に好かれるようになったんだよ?」

「ユイのこと、まさか狙っているんじゃないアルよな?」

冗談を交えつつ新八を軽く脅し始める。二人らしい返しに、彼はため息を吐きながらツッコミを入れた。

「アンタらはなんでいつも文句やネタから始まるんだよ……」

 いつも通りの反応に、新八は安心と共に呆れも感じ始めている。そんな時だった。

〈コン、コン〉

「すいませんー。ユイ様はいますか? 少しお話したいことがあるのですが」

 ノック音とたまの声が玄関越しに聞こえてくる。どうやらユイに用があって、万事屋を訪ねて来たようだ。

「たまか……ユイに何か用があるみたいだぞ」

「何でしょうか? ちょっと見てきますね」

 気になったユイは、食卓を離れて単身玄関へと駆ける。彼女が戸を閉めて、たまと会話している時であった。メンバーは一斉に新八の方へ顔を向け始める。

「えっと、みなさん? 何の用ですか……?」

 嫌な予感がしていることは、否が応でも分かっていた。仲間達の表情が、真剣さを極めていたからである。すると、最初にアスナが声をかけてきた。

「新八君……君の手にユイちゃんが懸かっているのよ……だから絶対に守ってね!!」

「あの、アスナさん? おつかいに行くだけなので、そこまで真剣にならなくてもいいのでは……?」

「でも、新八が頼りだからな。ユイの事……しっかりと託したぞ!!」

「アンタら、どこまで親バカなんだよ!? 心配性にも限度があるでしょうがぁぁ!?」

 キリトまでも加わり、新八へ自らの思いを伝えた。真剣に接する二人であるが、新八からしてみればただの子煩悩なボケキャラにしか見えない。おかげで彼のツッコミも止まる気配が無かった。さらにそこへ、銀時や神楽も会話へ乱入する。

「まぁ、親の愛は強しってことだろ? たくさんプレッシャーをかけて、新八を苦労させてやれよ。てめぇら」

「って、アンタも余計なこと言うんじゃねぇよ」

「でもどうするネ? さすがに新八だけじゃ、心細いアル。ユイに気付かれないように尾行するのは、どうアルか?」

「神楽ちゃんまで何言ってんの!? そんな本格的にやらなくていい――」

「尾行か。それはいいアイデアかもな!」

「ユイちゃんの危機にも対応できるから、大賛成よ!」

「人の話を聞けぇぇぇ!! 頼むから僕のツッコミを増やさないでくださいよぉぉ!!」

 すんなりと賛成した神楽からの提案に、新八はより激しいツッコミを入れた。彼の意志とは関係なく、勝手に四人の間で保険用の対策が立てられる。とちょうどその時、

「ただいま戻りましたー! って、アレ? みなさんどうしたんですか?」

「いいや、ユイが来るまで待っていただけだよ」

「そうですか。わざわざありがとうございます!」

ユイが戻ってきたのでやむを得ずに中断した。その後も彼女の目を盗んでは気付かれないように、着々と作戦が立てられていく。

「それにしても、服はどうするアルか?」

「目立ちすぎるといけないから、配色を抑えたものにしましょう」

「眼鏡やサングラスを必須だぞ。よく覚えておけよ」

「さすが銀さんだ。色々と知識が多くて助かるよ」

「あっ、ダメだ……もう僕がどうこう言っても引き返せないや……」

 話に熱中する銀時ら四人の姿を見て、新八は頭を抱えて現状を嘆いた。この勢いは彼にも止められないのである。朝から波乱の連続だった新八は、ため息を吐いて早くも疲れ始めていた。一方でユイは、作戦などまったく知らずにおつかいが出来る日を楽しみにしている。

「早くおつかいをしてみたいです……!」 

 

 それから約一週間が経った頃。ユイが心待ちにしていたおつかいが、ついに当日を迎える。万事屋を出発して早数分。買い物先へと足を進めていき、その道中でも二人は仲良く話を弾ませていた。

「念願のおつかい……新八さんと一緒でも、叶えられたなら私は満足ですよ!」

「そうなの? 本当に僕で良かったのかな?」

「はい! でも、私自身で切り開きたいので、新八さんは極力助けないでくださいね!」

「分かっているよ。保護者として心構えは出来ているから、ユイちゃんだけでおつかいを成功させるようにサポートするよ」

「よろしくお願いしますね!」

 お互いに笑顔で返して、気持ちを高める。ユイが懸命におつかいを果たそうとする心構えを見て、新八は素直に応援しようと考えていた。希望に満ち溢れた表情のユイに比べて、新八の表情は落ち着きがないように見える。その理由はもちろん銀時達の立てた作戦が関係していた。ユイを守るための保険として、もうすでに作戦が実行へと移されているのである。

「……というか、本当に良かったんですか? みなさんで連いてきて……」

 袴に潜めてあったピンマイクを使って、新八は銀時達と連絡を交わした。すると彼は真っ先に後ろを振り向く。そこにいたのは――

「おい、新八。振り向くんじゃねぇよ、バレるだろ?」

「バレバレなんだよ。こっちも大声でツッコミが出来ないんですから、蛇足なことしないでくださいよ」

変装した銀時ら四人が電柱へ隠れていたのである。お互いにピンマイクを介して会話をしており、周囲の人には聞こえていない。仲間達は作戦通り変装を施しており、地道な監察を行っていた。銀時はサラリーマン風のスーツを着こなし、キリトら三人は学生服と眼鏡を使って変装している。分かりやすい作戦に、新八の呆れはとっくに越えていた。

「そもそも尾行する考え自体が間違っているんですよ。僕だけじゃ心配なんですか?」

「そうじゃないけど、やっぱりユイちゃんが頑張る姿をこの目で見てみたいじゃん。保護者として当然の行動よ!」

「昼間っからセーラー服を着て、レイピアを腰に装備している人に言われたくないですよ」

 反論するアスナであったが、新八から変装を指摘されると何も言い返せない。ちなみに銀時ら四人はみな武器を装備しており、いつユイが襲われても対応できるように準備をしている。変装と重なってかなり目立っており、早くも通行人から好奇の目線を晒されていた。

「もしもし、新八。なんか私達の方が、目立ち始めているネ。どうすれば、いいアルか?」

「……って、自分で考えてくださいよ!! ユイちゃんの見守りで僕は精一杯なんだよ!! これ以上仕事を増やさないで!!」

 能天気な質問を出した神楽に対して、新八はついに我慢が出来ず大声でツッコミを繰り出す。しかし、これがきっかけでユイは彼の異変に気付いてしまった。

「新八さん? 急にツッコミを入れて、一体どうしたんですか?」

「あっ、これは……」

 冷静になった新八は、ひとまず状況を把握する。ここで作戦が見つかれば、全て水の泡だ。言い訳を考えつつ、まずはユイを自然と前を向かせる。そして、

「あ……新しいツッコミが浮かんだから、つい声に出して面白いか確かめていたんだよ」

「そうなんですか! 周りが見えなくなるほど、ツッコミに情熱を注ぐなんて……さすが新八さんです!」

「アレ? これは、褒められているのか……?」

ツッコミへの練習だと誤魔化して信じこませた。どうにか銀時達の存在には気付かなかったみたいだが、新八の心には複雑な気持ちが生まれている。ユイへの見張り並びに、キリトらの機嫌を伺いながら苦悩はさらに続いていく。板挟みされている彼とは違い、ユイは晴々とした気持ちで目的地へと向かう。同時に銀時達も、見つからないように追跡を続けていく。

 

 それから数十分後。ようやく二人は目的地である大型スーパー、トンキーホーテへとその姿を見せていた。

「ここだね。おつかい先であるトンキーホーテは」

「ここなんですか……トンキーというと、私達の世界にいた邪心型モンスターを思い出します」

「えっ? そうなの?」

「はい! リーファさんと仲良くなったモンスターなんですよ!」

 名前に既視感があったユイは、第一印象としてALOにいたモンスターを思い出す。元の世界で付けた名前が、別の世界では違った意味で存在していることに、彼女は奇妙な偶然を感じていた。新八もトンキーへのイメージが浮かびにくいが、同じ気持ちを持っている。

「へぇー意外な偶然もあるんですね。でも、そのトンキーってどんな形をしているの?」

「えっと、象とクラゲが合体したような大型モンスターなんですよ。分かりやすく言うと、あんな感じです!」

「えっ? どういうこと?」

 説明中にユイは、たまたま目にしたある物体に指を差し向けた。新八もつられて振り向くと、そこに立っていたのは――

「さぁ、いらっしゃい-。みんな大好きなドライヤーが、今ならこの価格だよー。よってらっしゃいー」

白い象にクラゲのような細いガムテープを付けた謎の着ぐるみである。店の売り余った在庫商品を処分したいばっかりに、自虐気味に紹介をしていた。

「温度調節が強すぎて、情熱を燃やしたい方にオススメー。あの松岡〇造も多分愛用しているよー」

 しまいには、某有名テニスプレーヤーの名を勝手に利用する始末である。しかし、その声は万事屋でも馴染みのある渋い男性の声だった。テーブルに置かれているサングラスから、その正体を二人はすでに見破っている。

「まるでトンキーさんみたいです! 長谷川さんもすごく頑張っているんですね!」

「あっ、ユイちゃんも気づいたんだ。さすが……」

 そう。ユイの言う通り、着ぐるみの正体は長谷川泰三だった。バイトなのか再就職なのかは不明だが、懸命に仕事をこなす姿を見てユイは純粋にも感動している。

「長谷川さんもようやく仕事が見つかったんですね……安心しました!」

「ユイちゃん……やっぱり君は、優しすぎるよ」

 彼女の透明な優しさに触れた新八は、静かに返答するしかなかった。すると、今度は銀時や神楽がピンマイク越しに話しかけてくる。

「おい、新八。さっさと店の中へ入るネ。マダオにどれだけ尺を与えているアルか?」

「仕方ないでしょ。ユイちゃんが感動しているから、中々声をかけづらいんですよ」

「じゃ、しばらくしてからでいいよ。ちゃんと見張ってないと、ユイが余計なお世話をかけるかもしれないからな」

「何言っているんですか? そんなことをするわけが――」

 と新八がユイの方へ振り返ってみると彼女は、

「長谷川さん! お仕事頑張ってください! 応援していますからね!」

長谷川に近づき堂々と話しかけている。予想外の行動に、新八の驚きも止まらなかった。

「って、ユイちゃん!? いつの間に話しかけてんの!?」

「ほら、言ってるそばから。新八、後は任したぞ」

「って、ちょっと待って!? もう……間に合ってくれぇぇ!!」

 叫び声を上げつつ、彼は急いで二人の元へ走り出す。ユイの優しさを考えれば、困っている長谷川を助けたいと思い、在庫品を買わされる可能性があったからだ。予想外の危機を止めるためにも、新八も躍起になっている。一方で長谷川も、ユイの声を聞いてようやく気付き始めていた。

「ん? この声は確か――」

 視界が悪いので、マスクをはずそうとした時である。

「ああぁぁと! 手が滑ったぁぁぁ!!」

「ブハァァ!!」

新八がわざと転んで、長谷川に対して体当たりを繰り出す。吹き飛ばされた彼は、勢いよく柱まで叩きつけられてしまった。

「って、新八さん!? 長谷川さんも大丈夫ですか!?」

「大丈夫! とりあえず、ユイちゃん! 店に入ろう!」

 戸惑うユイの隙を突き、新八はすぐに彼女の手を取って一目散に走りだす。

「えっ? 長谷川さんはどうするんですか!?」

「あの人なら無事だから! 絶対に生きているから!」

「そうなんですか!? すごい生命力ですね……!」

 感心するユイは置いといて、間一髪で気付かれずに済んだ。二人は店へと入り、その間にキリトら四人もこっそり尾行して入っていく。そして長谷川の方は、まったく状況を把握していなかった。

「痛ぁ……。何だったんだ!? どっかのガキのいたずらかよ!?」

 やっぱり新八らだとは気付いていない。思わぬとばっちりを受けただけであった。

 

 トンキーホーテ店内へと入っていき、ようやくユイのおつかいが始まる。まずは神楽が希望したふりかけを探すため、一階の食品売り場へと二人はやって来た。

「えっと、ここみたいですね」

「確か神楽ちゃんからは、酢昆布味のふりかけが欲しいって書いてあったよね?」

「それならこの売り場に絶対ありますよ!」

 元気よくユイが返事すると、早速辺りを見渡す。上に掲げられた看板を頼りに探していると、すぐにふりかけや調味料が積まれているエリアへと到着した。そこからさらに凝視していき、慎重に捜索を続けていると――

「あっ! ありました!」

「えっ? 本当なの?」

「はい! でも……高いところにあるんですよ」

ようやくふりかけを発見する。ところがよりにもよって、高い棚に置かれておりユイの身長では届かなかった。早くも危機を迎えている。

「これは……ユイちゃんでも大丈夫なの?」

「平気です! ジャンプをすればきっと取れるはずです! だから新八さんは、何も手を出せないでくださいよ!」

「わ、分かっているから。大丈夫だよ」

 新八は不安を感じていたが、空気を読んでひとまずはユイの動向を見守った。物理的に不可能ではないが、後数センチほど高さが足りない。もどかしい彼女の行動に、新八のピンマイクからは仲間達の声が薄っすらと聞こえてくる。

「頑張ってーユイちゃんー!」

「きっと出来る! 負けるな!」

「もっと声の大きさ調整してください。キリトさん、アスナさん」

 熱中する二人とは違い、新八は冷静な指摘を加えた。そんな中、ついに状況が動き出す。

「あっ、取れました!」

「えっ? 本当に、ユイちゃん?」

「はい! それに隣のレーンで、知り合いとも目を合わせましたよ」

「知り合い?」

 ようやくふりかけを手に入れたが、同時にユイはジャンプしている時に知り合いを見かけたらしい。気になった新八が辺りを見渡すと、そこにいたのは――

「おう、やっぱりお前らだったか。ここで何やってんだよ?」

「ひ、土方さん!?」

真選組副長の土方十四郎である。またも起きた偶然の出会いに、二人は驚きを隠せない。

「長谷川さんに続いて土方さんまで……あなたも買い物に来ていたんですか?」

「まぁな。というか、てめえらも来ていたのか? にしては、いつもの野郎もいないし少なくねぇか?」

「それはユイちゃんのためですよ! 初めておつかいを任されて、僕が保護者として来ているんです!」

「そうか……なら野郎はついてこない方が正解だったな。あいつは女のガキだろうと、下ネタをためらいなく言いそうだからな」

「そ、そうですね……」

 事情を知った土方は、途中から銀時への悪口を交えながら話していた。おかげでピンマイクの奥からは、妙な唸り声が聞こえてくる。恐らく土方への怒りを燃やす銀時であろう。新八は空気を読みつつ、今は耐えるしかない。一方でユイは、土方が持っているかごに注目を寄せている。

「あの土方さん? もしかしてこれって、全部マヨネーズなんですか?」

「ああ、そうだな。メーカーの違うマヨネーズを買って、食べ比べようと思ってんだよ」

「あっ、そういうことか……」

 見た通り、やはり全てマヨネーズでかごが一杯になっていた。嬉しそうな土方とは異なり、新八は控えめな笑顔で返すしかない。しかしユイだけは、口を開いたまま未だに驚いていた。今までとは違った反応である。

「ユイちゃんとかは、あんまりマヨネーズはかけないよね……アレ? ユイちゃん!?」

 新八がユイに話しかけようとした時、彼女の姿は目を離した隙にいなくなっていた。どこにいるかと思い前を向いてみると、ユイはちょうど土方に近づき話しかけている。

「す、すごいです!! マヨネーズの種類がこんなにあるなんて、知りませんでした! 土方さんはマヨラーの中のマヨラーなんですね!」

「えっ?」

 まさかの興味を示す反応であった。ユイはマヨネーズの種類に好奇心を沸かして、目をキラキラと輝かせている。知らない情報を知って、興味深く土方へ聞いてきた。子供らしい彼女の姿を見て、土方の反応も珍しく食い付きが良い。

「ああ。まさかお前は、マヨラーに興味があるのか?」

「はい! 私の知らないことがあるなら、ぜひ教えて欲しいです!」

「そうか! なら一から教えてやろう! マヨネーズの全てを!」

 話は新八が止められないほど盛り上がっていた。土方自身もマヨラー仲間が出来るかもしれないと思い、テンションも上がっている。しかしこの状況は、新八にとってはかなり気まずいものだ。監視している銀時らからの通信に、恐怖を感じているからである。すると、彼の予測通りピンマイクから声が聞こえてきた。今度はアスナが怖がらせた声のまま、話しかけてくる。

「……ねぇ、新八君? 私が言いたい事、もちろん分かっているわよね?」

「な、何でしょうか?」

「ユイちゃんを今すぐこの場から早く離れさせて!! マヨラーになって激太りしちゃったら、どう責任を取ってくれるのよぉぉぉ!!」

「は、はい!!」

 怒りと気合のこもったアスナからの命令に、新八はすぐ行動へと移す。ユイをこの場から

離れさせなければ、彼女からの制裁が待ち構えている。一瞬でユイを抱きかかえて、風のように場を去っていった。

「土方さん! 時間がないので、今日はここでサヨナラー!」

「えっ、新八さん!? マヨラーのコツを学ばなくていいんですか?」

「後でアスナさんとかに聞いて! 答えはすぐに出るから!」

「わ、わかりました!?」

 ユイは手にしたふりかけを握りしめて、軽く動揺している。新八は取り急ぎで、次の売り場まで向かった。一方で取り残された土方は、

「アレ? なんでもう行ったんだ?」

突然の行動を読み込めていない。いずれにしても、アスナが危惧した状況は見事解消された。

「はぁ……これでユイちゃんも、マヨラーにならずに済むかな?」

「と言うかお前……そんな心配していたのか?」

 滅多には見せないアスナの怒りに、銀時と神楽はただ驚いている。キリトだけは腕を組み、少し気持ちを理解していたが。こうしてまた銀時達も二人を追跡していく。

 

「よし! ママの好きなシャンプーとリンスもゲットしました!」

「あっ! もう見つけたんだ! やるじゃないですか!」

 アスナが希望していたシャンプー類を手に入れて、喜びを浮かべるユイ。現在二人がいるのは、美容グッズを取り扱うエリアだった。彼女にとっては馴染みがなく、初めて見かける商品も多々ある。

「それにしても、美容品もこんなにあるんですね。ママが悩む理由も良く分かります!」

「ここは女の子にとっての武器庫みたいなところだからね」

「……武器庫? 一体どういう意味ですか?」

「いや、分からなかったら大丈夫だよ……」

 折角思いついた例えも、ユイにはまったく意味が伝わっていなかった。新八は思わず言った例えを後悔してしまう。ピンマイク越しでは、神楽らに笑われていたからだ。

「滑ったアル。新八が滑ったネ!」

「新八君。私は結構さっきの例え、面白いと思ったからそんな落ち込まないで!」

「すいません、アスナさん。むしろ傷つくんですけど……」

 アスナからも情けをかけられる始末である。そんなやり取りをひとまず置いといて、新八は再びユイに話しかけた。

「そ、それじゃユイちゃん。別のエリアに移動しようか?」

「あっ、ちょっと待ってください。このエリアで、一つだけ見てみたいものがあるんですよ」

「見たいものですか?」

「はい! 獣耳専用のコンディショナーを一度目にしたいんです!」

 次の売り場へ行く前に、ユイは興味を持っているコンディショナーを見てみたいという。この情報は仲間であるシリカとシノンから聞かされたものだった。

「実はですね、そのコンディショナーはシリカさんとシノンさんが愛用しているんです。他のシャンプーを使うと、耳への刺激が強かったり、尻尾の毛並みが悪くなるみたいなので、二人にとってはぴったりの美容品なんですよ!」

「へぇー、そうなんだ。それを見てみたいんだね?」

「はい! 少し興味があるので」

 ユイの言う通りその商品は特殊な効果を持っている。一般的なコンディショナーと何が違うのか、ユイは一目見てみたいのだ。周りを見ながら探していると、数分も経たないうちに見つかる。

「あっ、ありましたよ! 新八さん!」

「アレか……って、あの人は」

 しかもちょうど売り場には、とある客がコンディショナーを手にしていた。その正体は、

「ハァ……コラボシテカラ早二十話。出番ハマタ夢ノマタ夢……。唯一ノアイデンティティダッタ猫耳モ今ジャ、小娘二人ニ枠ヲ取ラレテ見ル影スラ無イ。ドウスレバ、イインデショウネ……」

悲壮感に苛まれるキャサリンである。自身の持つ猫耳とおばさんのようながめつさで活躍していた彼女だが、最近では危機感を抱いていた。別世界から来た猫耳キャラの女子二人の方が、出番が多い事に気付いてしまったのである。実は彼女もこのコンディショナーを愛用しているが、言ったところでもう遅い。そこで切ない表情をしたまま、意地でも出番を増やそうとしていた。キャサリンを見たユイは何かしら接するのかと思いきや、

「新八さん。こういう時は、そっとしておくのが一番なのですよね」

「余計なお世話をかけるかもしれないからね」

「ッテ、待チヤガレ! 尺ヲ気ニシテ節約シテイルンジャネェヨ! 話カケロヤ!」

空気を読んであえて通りすがってしまう。先回りした答えに、彼女のツッコミも止まらない。同じく銀時ら四人もさりげなく通りすがっていき、無言のまま進むのであった。

「オイ、コラ! テメェラマデ無視スルナ! 覚エテロヨ! イツカメイン回デ倍返シニシテヤルカラナ!」

 答えの返ってこないツッコミに、キャサリンは悔しい気持ちを見せる。場は何事も無かったかのように、静けさを取り戻すのだった。

 

 その後もユイは次々と買い物をこなしていく。新八は見守るだけであって、ほとんど彼女の力だけで困難も切り開いていた。そして、いよいよ最後のエリアへと到着する。

「よし! 後はパパと銀時さんの欲しがっている本を買えば、コンプリートです!」

「ということは、後は本だけってこと?」

「はい! その通りです!」

 新八からの問いに、ユイは元気に答えた。二人が現在いるのは、雑誌を売っているエリア。ここで銀時用のジャンプとキリト用のゲーム専門雑誌を買えば、ようやくおつかいが完了する。

「そっか、もうここまで来たのか。でも後少しだし、何も起らないと思いますけどね」

「そうだと信じたいですね!」

 安心する二人であったが、新八のピンマイクからは銀時達の会話が静かに聞こえてきた。

「おいおい、フラグが立っちゃっているよ」

「アレは間違いなく死亡の方ね」

「悲しいアル。新八ともお別れなんて……」

「アンタら、いい加減にしろよ。ピンマイクの存在をバラしますよ」

 フラグが立ったと勝手に話をまとめられ、新八の我慢も限界寸前である。それでもユイの前では平然を装って、必死にこらえるしかないのだ。

「新八さん? どうしたんですか?」

「いいや、なんでもないよ。さぁ、本を探しましょうか」

「そうですね!」

 ユイのおつかいを成功させるためにも、この状況は絶対に見つかりたくない。新八も意地を見せつつ、ようやくおつかいも佳境を迎えようとしている。

「この本と……あっ、見つけました! これですね!」

 ユイは最初に、キリトが愛読しているゲーム専門雑誌「フェル通」の最新号を手に取った。そして、ジャンプにも手を伸ばそうとした時である。

「えっ?」

「あっ?」

 彼女と時を同じくして、男性の手がジャンプへと重なった。ふと横を見てみると、そこにいたのは青く忍者のような服を着た男性である。

「あ、あなたは一体?」

「お前こそ……てか、眼鏡? お前もなんでこんなところにいるんだ?」

「ぜ、全蔵さん!?」

「えっ? 新八さんのお知り合いなんですか?」

 男性の正体は万事屋の知り合いでもある服部全蔵だった。元々幕府に仕えるお庭番衆として活躍していたが、数年前に解散。現在は元忍者としての技術を生かして、職を転々としている。そんな彼がユイらSAOキャラと出会ったのは今回が初めてだった。

「そうだけど……というか全蔵さんもユイちゃんを見るのは初めてですよね?」

「まぁ、噂で新メンバーが入ったとは聞いていたが……まさかこんな幼い子だったとは。もしかして、お前はロリコンだったのか?」

「違いますよ! ユイちゃんとは友達なんですから、そういったことは一斉考えていませんからね!」

 からかい気味に接する全蔵に、新八もムキになって言葉を返す。さらにユイも続く。

「そうですよ! 新八さんは、私にとってのお兄ちゃんなんですから! とっても頼りにしている、最高のお兄ちゃんだと思っているんですよ!」

「あのユイちゃん? ここでその言葉を連発すると、あえて誤解を与えかねないからやめてもらえるかな……?」

 勢い余って余計な誤解を与えかねない言葉に、新八は冷静な指摘を加えた。それは置いといて、全蔵はようやく本題へと戻す。

「とりあえず、まぁいいや。兄貴だろうとなかろうと、そこまで興味はない。それよりもどうする? このジャンプは一冊しかないが、どっちが手にするかここで決めるか?」

「えっ、嘘!? またこの流れ!?」

 彼が気にしていたのは、ジャンプの行方だった。この雑誌コーナーではもう一冊しか置いておらず、近くには目星のつく書店もない。故にどちらかが購入を諦めなくてはいけないのである。これには遠くで見ていた銀時も、激を飛ばしていた。

「おい、ふざけんな! 俺が楽しみにしていたジャンプを取りつもりか!」

「取り乱さないでください、銀さん……」

 新八はピンマイクを押さえながら、静かにするよう呼びかける。一方で彼女は、今日で一番の窮地へと追い込まれていた。

「そんな……一冊しかないなんて」

「まぁよくあることだ。それに今回は発売から数日経っているから、かぶき町で見つけるのは難しいだろ。今回はアイツもいないから、穏やかに解決できそうだな。さぁ、どう決めるか? お嬢ちゃん?」

 口喧嘩でしぶとい銀時とは違い、一見純粋そうなユイを見て全蔵は勝利を確信する。彼女もどうすればいいか必死に考えていたが、何も答えが出てこない。

(どうしよう……本でここまで悩むなんて、私にとって初めてです……どう解決すればいいのでしょうか)

 悩みに悩みを重ねたが、最善の方法が見つからない。時間を消費して困惑する中で、彼女は思考を変えて自分を落ち着かせていた。

(正直、ここで諦めたくはない……今日が私にとって初めてのおつかいになるなら、ここで頑張らないと! 大丈夫……今の私なら、きっと出来る!)

 思いを振り切らせてようやく覚悟を決めると、全蔵に対して自らの思いを赤裸々に語り始める。

「あの全蔵さん……申し訳ないんですが、私もそのジャンプを購入したので、どうしても譲れないんです」

「ということは、俺が引き下がった方が良いってことか?」

「はい。今日は私にとって、初めてのおつかいの日なんです。パパやママ、銀時さんや神楽さんが楽しみにして待っているんですよ。だから今日だけは……今日だけは私のワガママを聞いてもらいませんか! この恩はいずれ絶対に返しますから、だからお願いします……ジャンプを私に譲ってください!」

「ユイちゃん……」

 ユイが導き出した答えは、誠心誠意を込めて全蔵に気持ちを伝えることだった。素直になって話せばきっと分かってくれると思い、涙ながらに言い伝える。勇気ある言葉を聞いた全蔵の反応はと言うと、

「……ったく。分かったよ。今回ばかりは諦めてやるか。ほら、受け取れ」

「ありがとうございます……」

理解してジャンプをユイへと譲った。彼女の気持ちを読み解き、今回は自分が手を引いたようである。すると新八も声をかけてきた。

「あの全蔵さん……」

「いいんだよ。純粋な子供に俺は弱いんだ。まぁ、せいぜいおつかいが達者になってから、恩は返してもらうぜ。それくらい覚えてりゃ、十分だよ」

 そう言って全蔵はその場を去っていく。大人らしく誠意を持って態度を返す。一方でユイは、強い罪悪感に苛まれていた。

「新八さん……これで本当に良かったのでしょうか……?」

「……ユイちゃんが思うほど、そんな重たい事じゃないよ。銀さんが読み終わったら、全蔵さんに渡せばいい話だから。ほら、そんなに自分を攻めなくてもいいんだよ」

 考え込んでしまったせいで、彼女は思わず涙を流してしまう。普段はあまり哀しい感情を出さないので、新八は空気を読みつつユイを懸命に励ましている。

(ユイちゃんは優しいから、責任感もその分強く思っちゃうんだ……でも、それは絶対悪い事じゃないと思うよ)

 心の中でそう呟き、彼女の努力を褒めたたえた。残すはレジ会計のみで、ユイを落ち着かせた後に向かおうとしたその時である。

「ユイちゃん! そんなに悲しまなくてもいいんだよ!」

「ん? 今の声はママ?」

「えっ? まさか……」

 ここまで来てトラブルが発生してしまう。新八の付けていたピンマイクから、アスナの声が漏れてきたのである。ユイにその声を聞かれてしまい、状況は急展開を迎えていた。

「どういうことですか、新八さん? 今のママの声が聞こえて……」

「いや、気のせいだと思うよ! 空耳じゃないのかな?」

 必死に誤魔化しを利かせる新八であったが、時すでに遅い。焦っている表情から、ユイは裏があると思い始めていた。

「怪しいです……ちょっと見せてください!」

「あっ、それは……」

 偶然目に入ったピンマイクを見つけて、ユイはそれを耳元へ近づかせる。そこから聞こえてきたのは――

「おい、バカ! ユイに聞かれたらどうすんだよ! 監察がバレるだろうが!」

「銀さん。アスナもワザとやった訳じゃないから、大目に見てやってよ」

「キリはアッスーに甘いネ! こういう時は厳しく追及するのが筋アル」

「神楽ちゃんまで、銀さんの味方をするの!?」

キリトら四人が言い争っている場面だった。この証拠によって、ユイは状況を飲み込み始めている。そして不満な表情で、ピンマイク越しに叫びだした。

「みなさん、こそこそ何をしているんですか!!」

「「「「えっ?」」」」

 さっきまでの涙は引っ込み、ユイは怒りの気持ちを仲間達へとぶつける。こうして作戦は、意外な形であっさりと崩れ去ったのだ。

「あーあ。僕はもう何もフォローもしませんけどね」

 頭を抱えた新八も吹っ切れた気持ちのまま、大きくため息を吐くのである。

 

「もう! すっかり気分が台無しですよ! これじゃ、初めておつかいをしたことにはならないんですよ! みなさんしっかり反省してくださいね!」

「「「「はい……」」」」

 万事屋への帰宅途中、ユイは顔を膨らませながら銀時らを叱りつけている。何も言わないまま監視されていたのが、彼女の怒りに触れてしまったようだ。

「本当に反省しているんですか? もう二度とこんなこと起こさないですよね?」

「起こさないネ! 酢昆布に誓ってしないアル!」

「神楽ちゃん、今のユイちゃんにボケは通用しないよ」

 神楽からのボケにも新八は冷たいツッコミで対応する。しかしユイ自体もそこまで怒ってはいない。たった一つ新しい約束を守れれば、それで良かったのだ。

「もう……。これからはちゃんと内緒にしないでくださいよ! それにおつかいだって、何も起きなかったんですから、もう一回挑戦させてくださいよ。もちろん、一人で!」

「わ、分かったわ、ユイちゃん。本当にごめんね……」

 アスナに続いてキリトや神楽も反省を込めて頭を下げる。銀時は新八に促されて、渋々謝りを加えた。十分に反省していると感じたユイは、急に表情を柔らかくする。

「それなら大丈夫です! さぁ、万事屋に戻りましょう!」

 機嫌の直ったユイの姿を見て、仲間達はひとまず安心していた。同時に万事屋としての生活を通じて成長した彼女に、若干驚きを見せている。

「ユイちゃんの機嫌の直って良かったわね」

「そうだな。俺達が知らない間に、随分と成長していたんだな」

「まぁ、万事屋として長くいるし、成長するのも当たり前だろうな」

「キリとは違った男とも仲良くなっているからナ」

「ああ、新八の事か……」

 銀時ら四人の手前を歩いているユイの横には、なぜか新八が一緒に歩いていた。今日の出来事を通じて、二人の仲はより一層深まったのである。そんな二人は、小声である会話を交わしていた。

「新八さん。実は言うほど、私は怒っていないんですよ」

「えっ、そうなの?」

「はい。アレくらい強く言わないと、パパやママは懲りないと思ってつい強めに叱ったんですよ」

「そうだったんだ……やっぱりユイちゃんは、優しいね」

「ありがとうございます」

 秘密の会話を交わしつつ、二人は思わず笑顔で返す。こうして、ユイにとって初めてのおつかいは幕を閉じたのだ。

 




トンキー(SAO版)
 キャリバー編に登場した大型モンスターの一種。象とクラゲの要素を併せ持った外見をしている。ゲルショッカ〇怪人ではない。

トンキー(銀魂版)
 全国展開する大型スーパーとして名を馳せている。要するに「ドンキー〇―テ」の名前違い。本家とはまったく関係はない。
 この名前の一致は、果たして偶然で片付けられるのか……? (多分偶然です)

 そして、銀魂の新作アニメが決まりましたね! 未定のままですが……





次回予告
シリカ「最近、ピナの様子が変なんです!」
妙  「そうなの? それはきっと……恋じゃないのかしら?」
シリカ「こ、恋!? 一体誰に恋をしたんですか!?」
妙  「それは……ゴリラとか?」
シリカ「って、思いつかないからって適当なことを言わないでくださいよ!!」
妙  「次回! ペットの変化には早く気付こう!」


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第二十一訓 ペットの変化には早く気付こう 

 お妙ちゃんとシリカって、見た目や性格は対照的ですけど、一つだけ共通点があるんですよ。それは……メンバーでも一、二を争う貧乳キャラ。こりゃ後でボコボコにされるな。

 後先週は忙しかったので、作る時間を確保できませんでした。すいません。



「あーん。やっぱり冷たくておいしいですね! ピナが気に入る理由も分かります! ほら、ピナもどうぞ!」

「ナー!」

 ピナと散歩に出かけていたシリカは、駄菓子屋で買ったアイスを口にしていた。彼女が買ったのは「ピオ」という、バニラとチョコを挟んだアイスである。ピナにとってもお気に入りの好物で、口へ入れた瞬間に幸せそうな表情を浮かべていた。

「この世界に来てから、随分気に入っていましたもんね。でもしっかり、ペットフードも食べて栄養補給しなきゃダメですよ!」

「ナー!」

「……といっても、ドラゴン用の栄養食が普通のペットショップに売っている時点で、とても信じがたい状況なんですけどね……」

 飼い主としてピナの健康を気にする一方で、この世界のペットショップ事情にシリカは驚きを隠しきれない。そんな彼女とは対照的に、ピナは呑気にもアイスを頬張っている。穏やかな雰囲気のまま散歩を楽しむ中、ある場所を通るとピナの様子は急に変化していた。

「ナ……」

「ん? またあのお屋敷が気になるんですか?」

 シリカからの問いに、ピナはゆっくりとうなずく。彼が見つめていたのは二階建ての白い屋敷だった。ここはいつも散歩で見かけており、その度にピナは気になって立ち止まっている。実はこの屋敷の住人は、ピナのような小竜を飼っていると噂されていた。ときたまに二階のガーデンで姿を見せると言われているが、今日はまったく出る気配すらない。

「ナナー?」

「今日はいないみたいですね……折角晴れているのに」

 天候には恵まれているが、一斉外には出てこない。シリカは不思議に思いつつも、今はピナが感じている心情を読み取っていた。

「ナ……」

「そうですよね。この世界だったら、ピナにそっくりな竜がいてもおかしくありませんよね。友達のように仲良くなりたいんですよね……」

 彼の寂しげな表情から、シリカは悟っている。ピナにも友達が必要なことを。その気持ちに答えたかったが、情報量が乏しいままでは何も行動に起こせない。困っていた彼女達の元に、ある知り合いが声をかけてくる。

「アラ? シリカちゃんにピナちゃんじゃない。どうしたの、そこで立ち止まって」

「お、お妙さん!?」

 声の聞こえた方向へ振り返ると、そこには買い物かごを下げた妙が立っていた。偶然の再会にシリカはかなり驚いている。

「どうしたんですか、こんなところで?」

「ちょっと買い物していたところでね。料理で使用する卵を買いに行っていたのよ」

「た、卵……」

「ナ……」

 妙からの言葉を聞き、シリカとピナは一瞬にして表情が凍り付いてしまう。彼女達は過去に妙の料理を口にして、丸一日気絶していた経験があった。強い抵抗心を持っており、自然と恐怖が蘇ってくる。しかし妙は、彼女の怯えた様子に気付くことなく話を続けた。

「シリカちゃん達の口に合うように、日々練習しているのよ。あっ! もし今時間が空いているなら、ウチに寄っていく? もう少しで卵焼きもできそ――」

「えっと、お妙さん! さっきアタシ達、お昼を食べたので今はちょっと……」

「ナ……」

「アラ、そうなの? それじゃ、仕方ないわね」

 誘いを断られて残念がる妙に対して、シリカは安堵の表情を浮かべている。以前の教訓を胸に刻み、妙からの誘いは意地でも断ると決めていたのだ。

(助かった……もし誘いに乗っていたら、今度こそアタシ達の命が危なかったかも…)

「ナー……」

 彼女は心の奥底でそっと呟く。ピナにもその気持ちが伝わったのか、優しい鳴き声で静かに返された。料理への話題が落ち着いたところで、妙は本題へと話を戻す。

「それはそうと、シリカちゃんはこんなところで一体何をしていたの?」

「あっ、それはですね……少し悩みがあって」

「悩み? 私で良かったら相談に乗ってあげるわよ」

「えっ、いいんですか!?」

「もちろん! 同じ貧乳キャラ同士、包み隠さずに話していいのよ」

「貧乳って……お妙さん! アタシが今一番気にしているのに、さり気なく会話に挟まないでくださいよ!」

「いいじゃない。緊張をほぐしただけだから、そんなに深い意味はないのよ」

「もう! お妙さんってば……」

 冗談を交えた言葉に、シリカは頬っぺたを膨らませて怒りを露わにする。内心気にしている貧乳を話に挙げられて、彼女は不満を持ち始めていた。それでも妙と話せば答えが見つかると信じて、一連の出来事を打ち明けることにする。

「と、とりあえず! 話が出来る場所まで移動しましょう!」

「そうね。ちょうど近くにベンチがあったから、そこまで行きましょうか」

 木陰にひっそりと佇むベンチへと移動して、二人は座り込む。そしてシリカは、白い屋敷の噂やピナが感じている心情を事細かに説明していった。

「――なるほどね。ペットの為にそこまで考え込むなんて、さすがシリカちゃんだわ。飼い主の鑑よ」

「そ、そんなことないですよ! アタシは当たり前のことをしているだけなんですから!」

 ペット思いで優しいシリカに感心した妙は、彼女を褒めちぎった。その言葉に浮かれて、シリカのテンションはかなり上がっている。数分前の怒りもすっかり忘れ切っていた。そんな彼女を一旦落ち着かせて、妙は話の趣旨を簡潔にまとめていく。

「要するにシリカちゃんは、ピナちゃんのために友達作りを協力したいということね」

「そ、そうです! でもお屋敷についてまだ分からないことが多くて……本格的に考えていないんですよ……」

「うーん。じゃまずは、情報収集から始めた方がいいわね。協力できることは何でもするから、難なく頼ってきなさい。一緒にピナちゃんの思いを叶えてあげましょう」

「お妙さん……ありがとうございます!」

「ナー!」

 頼りがいのある妙の言葉を聞いて、シリカとピナは律儀に礼を返す。共感できる人が出来て嬉しく思っていた。温かい雰囲気の中、二人の心にもある変化が訪れている。

(お妙さんはやっぱり優しい人です……アタシ達のことをしっかりと理解してくれて。料理下手が少し傷ですけど……)

 妙への印象を見直して信頼をより強めるシリカ。一方の妙は、

(シリカちゃんはとても純粋な子ね。猫耳自体私はあまり好きじゃないけど、なぜかつい優しくしちゃうのよね。あの子が不遇なヒロインだからかしら?)

元も子もないメタ発言をひっそりと呟いていた。猫を苦手とする彼女であるが、シリカにはむしろ好感を持ち合わせている。互いの本音をつゆ知らないまま、気持ちを一つにした彼女達は早速作戦を立て始めた。

「よし! それじゃまずは、情報収集から始めましょうかね」

「えっ!? もう始めるんですか?」

「そうよ。なるべく短期決戦で情報を集めないと、この難局は振り切れないわ」

「……でも、どうやって?」

「それなら任せて。私にぴったりの考えがあるから」

「考えですか?」

 屋敷への情報を探る方法を妙はすでに思いついているという。シリカが興味深く聞くと、彼女は何の前触れもなく立ち上がった。

「お妙さん? 一体何を……」

 戸惑っているシリカには何も説明せずに、近くにあった一本の木まで移動する。拳を強く握りしめながら木の幹へ狙いを定めると、

「出てこいや!! ゴリラァァァ!!」

気合に溢れた叫び声を上げながら勢いよく殴りかかった。すると彼女の狙い通り、ある物体が落下してくる。

「ぎゃゃゃ!!」

「悲鳴!? 一体誰が――って、近藤さん!?」

 甲高い悲鳴と共に落下してきたのは、妙のストーカーをしている近藤勲であった。今日もこっそりとついてきていたが、すでに妙から見破られていたようである。彼は正体が晒されても悪びれることなく、早々に言い訳を始めてきた。

「あっ、お妙さん! これには訳が――って、グハァァ!!」

 ところが話している途中で近藤は、妙に首根っこを掴まれて持ち上げられてしまう。体の自由を奪われたまま、彼女は喧嘩腰に脅してきたのだ。

「おい、ゴリラァァァ!! 私の可愛い後輩のシリカちゃんが困っているんだよ! 今までの話を聞いていたら、すぐに警察の権力を使って行動しやがれ!」

「えっとつまり……あの屋敷の情報を集めろと?」

「分かっているじゃねぇか。だったら、今すぐやれや!!」

「は、はいぃぃぃ!!」

 鬼の形相で近藤を恫喝して、強制的に約束を交わした。同時に妙は手を下ろして、近藤の拘束を解き放つ。彼は這いつくばりながら去っていき、屯所へと戻っていく。ストーカーには容赦ない妙の実力行使に、シリカとピナは愕然として言葉を失っていた。

「ふぅ……任務完了ね。これならあっという間に情報を手に入れられるから、事態も大きく進むわよ」

「そ、そうですか……良かったですね。ピナ」

「ナ……」

 一瞬にして穏やかな笑顔へと変わった妙の姿に、シリカとピナは苦笑いで返事をする。裏表の激しい彼女の性格を目の当たりにして、気が大きく引いていたのだ。

(お妙さんだけは、絶対敵に回しちゃいけない気がする……)

(ナナ……)

 滅多に見かけない妙の豪快さに、シリカは尊敬と恐怖が入り混じった気持ちに苛まれている。複雑な心境を抱えたまま、事態は近藤も加入して大きく動き始めていた。

 

 一方真選組屯所へと戻った近藤は、早速情報収集へと勤しんでいる。

「あっ、いた! 山崎! お前に一つ、頼みたい監察があるんだ!」

「えっ!? どうしたんですか、局長? そんなに慌てて……」

 偶然に出会った山崎へ話しかけて、これまでの状況を大まかに説明した。

「――というわけなんだ! だから山崎! 今すぐ監察して、情報を集めてくれ! お妙さんとシリカちゃんのためにも!」

「あっ、はい……分かりました……」

 意気込んで真剣さを伝えた近藤であったが、山崎は訳を聞いた瞬間にやる気が失せてしまう。完全に私情だと確信したからだ。その目線は横を向き、彼と目を合わせないようにしている。それでも山崎は渋々命令を聞き、屋敷の身辺調査を短期間に渡って始めた。

 

 それから約四日が経った頃。山崎を通して屋敷の情報を得た近藤は、妙とシリカに連絡をとって集合を呼び掛けていた。

「えっ!? もう情報が集まったんですか!?」

「そうみたいよ。ストーカーをやってのけるゴリラだから、案外早く集まったのかしらね」

「ストーカーは関係ないんじゃ……」

 近藤に厳しく当たる妙の態度に、シリカは控えめな笑顔で返答する。

(もうどっちが加害者なのか分からないです……)

「ナ……」

 二人の不思議な関係性に、頭が混乱しかけていた。そんな彼女達は現在あの屋敷の門で待機しており、そこで近藤の到着を待ち合わせている。四日前と比べて何も変わっていないと思いきや、妙だけはなぜか和服との相性が悪いリュックを背負っていた。不自然な変化に、シリカも疑問に思い始めている。

「そういえばお妙さん? 珍しくリュックを背負っていますけど、一体何が入っているんですか?」

「ああ、これ? 秘密兵器とお弁当よ。今回はピナちゃんのために、卵焼きをドラゴンが好む味付けに改良したのよ」

「えっ!?」

「ナ!?」

 リュックの中身を知って、再びシリカ達の表情が凍り付く。どうやら三日前から予告していた卵焼きが完成して入っているようだ。持参してきており、その言葉を聞いた瞬間に体を震え始めている。

「どう? 一緒に食べてみたら?」

「えっと……いや、それはさすがにダメな気が……」

「ええ、どうして!? あの時みたいに気絶なんかさせないから安心してよ!」

「そう言われても……」

 自信満々に卵焼きを進める妙とは異なり、シリカは意地でも断ろうと躍起になっていた。反応に困り始めていたその時である。

「遅くなって済まない! 二人共!」

「あっ! 近藤さん!」

 タイミングよく近藤が二人の前へと現れた。すると妙の対象が近藤へと移り、辛辣な態度を取り始める。

「あら、近藤さん。やけに遅かったわね。アナタから呼び出しておいて」

「レポートをまとめるのに遅くなったんだ! そしてこれが、あの屋敷に関する情報だ!」

「ご苦労よ、ゴリラ。礼だけは言っておくわ」

「ありがとうございます!」

「本当にご苦労様です……」

 高圧な態度で返す妙に対して、シリカは控えめな言葉で礼を伝える。そんな彼女達が近藤から受け取っていたのは、数枚に重ねられたプリント用紙だった。書かれていたのは、山崎が集めた屋敷の情報である。

「えっと、あの屋敷はテイマー星の王女が所有しており、愛玩動物として宇宙生物の小竜を飼っていると」

「さらに三日間のうち、外へ出た回数は一回。晴天や雨の日には現れることはなく、曇天の日に必ずガーデンへ出るって、書いてありますよ!」

 一通り目を通していき、二人は屋敷に関する情報を頭へと入れていく。住人の正体は別の星から来た王女様であり、噂通りペットを飼っている。そして必ず曇天の日に、二階のガーデンでペットと現れるらしい。偶然にも今日の天気は、太陽の光が遮られている曇天日。まさに今が絶好の機会であった。

「ということは、今から乗り込めばペットと主人に出会えるという事ね」

「これはチャンスですよ! 今からでも入るべきです!」

「ナー!!」

 ピナにも気持ちが伝わり、シリカと同じく笑みを浮かべている。好条件が揃っているため、訪ねる機会はまさに今しかなかった。しかしここで重要なのはその方法である。

「って、待ってくれ二人共! 今から入るにしても、まずは手続きをしてから入った方が良い気がするんだが……」

「まどろっこしい事をしてる場合じゃないのよ。読者には分かりやすい展開で伝えないと。今回でさえ文字数が多くなっているんだから、無駄な事は省かないといけないのよ」

「いやそんなこと言われても、勝手なことをしたら後でウチが困るんだが……」

 近藤からの忠告を妙はさらっと聞き流していた。小言を言われようと今の彼女には関係ない。とっておきの方法をすでに立てていたからだ。

「……仕方ないわね。それじゃ強行突入よ。シリカちゃん達は、羽を使ってガーデンまで飛んでいきなさい」

「えっ? じゃ、お妙さんはどうするんですか?」

「私も飛ぶわよ。これでね」

 そう言うと妙は、リュックに装備されていた隠しボタンを押す。するとリュック真下から炎が燃え上がり、調節しながら空中浮遊してきたのだ。

「こ、これって……!?」

「フフ。たまさんから借りたカラクリ装置よ。ジェット噴射で屋敷のガーデンまで、一直線に飛ぶわよ!」 

 秘密兵器の正体は、特製のリュック型飛行ユニットである。この数日間でたまを通して、源外から借りてきていた。当たり前のように使いこなし、シリカや近藤に驚きを与えている。

「えっ!? あのリュックって、そんな仕組みだったんですか!?」

「そうよ! それじゃ、先に行っているからついてきてねー!」)

 そう言うと妙はそのまま屋敷上空を飛行して、宣言通り二階のガーデンまで侵入した。

「って、お妙さん!? 待ってくださいよ!」

「ちょっと二人共!? まだ最後の情報を伝え終わっていないのに飛んじゃうの!? 待ってくれ!!」

 彼女を追いかけてシリカとピナも羽を広げて飛び去っていき、屋敷の前には近藤だけが取り残されてしまう。

「な、なんてことだ……アレだけは伝えなくてはいけないのに」

 置いてきぼりにされて彼は一段と焦っている。実はレポートにはまだ続きがあり、一番重要な情報を彼女達は見逃していたからだ。

「こうなったら……」

 責任を感じた近藤は、急いで裏口へと走り出す。現在レポートは妙が所持しているが、それだけでは不十分にしか伝わらない。直接会って話さなければ意味がないと考えて、躍起になっていた。こうして展開は思わぬ方向へと進み始めている。

 

 一方空中から屋敷に侵入した妙らは、無事に二階へと着陸していた。

「よっと、到着!」

「ほ、本当に来ちゃったんですね……」

 意気揚々と侵入成功に満足する妙に対して、シリカは気が引けて罪悪感を覚えている。未だに彼女だけは戸惑い、否応なしについてきただけであった。

「それにしても、強行突入して良かったんでしょうか?」

「いいのよ。庭から入った方が確実的に出会えるでしょ? 時には思い切った行動することが、人生を切り開くベストな方法なのよ!」

「そう言われても……」

 妙の大胆すぎる行動や考え方に、シリカは理解できずにいる。それでもついてきた身なので何も言い返せない。不安が大きくなる彼女であったが、まずは辺りを確認して心を落ち着かせる。二階部分はガーデンとなっており、自然豊かな風景と横に連なる広さが際立っていた。魅力的な庭にシリカだけではなく、ピナも見惚れ始めている。

「それにしても綺麗な庭ですね。整っていて、本当に森の中へいるみたいです……」

「ナ……」

 共に自然を感じて心を整理したようだ。とその時である。「ガチャ」とドアを開閉する音が聞こえてきた。

「えっ? まさか……」

 もしかしなくても、嫌な予感であることは悟っている。彼女が恐る恐る後ろを振り返ってみると、

「アラ? アナタ方は……ここで何をしているのですか?」

目に映ったのは気品の良い穏やかな女性だった。薄く青いドレスを着こなし、淡くて白い肌を惜しみなく露出している。艶のあるオレンジ色の髪を腰まで下ろして、鋭利にとんがった耳が天人である証拠を表していた。雰囲気から噂の王女様であると感じたシリカは、見つかった瞬間に大きく取り乱してしまう。

「あの、えっとその……ご、ごめんなさい!! 侵入しましたけど決して怪しい者じゃないんです!! 深い訳があってここにやって来たんです!!」

 そして大声で威勢よく謝りを入れた。突然の謝罪に横にいた妙でさえ驚いている。

「シ、シリカちゃん? 急に謝ってどうしたの? 怪しくないなら正々堂々とするべきじゃないの?」

「いいえ! もう耐えられないんです! これ以上……不法侵入者扱いされるのは、ごめんなんですよ!!」

「そこを悩んでいたの!?」

 真面目に考えすぎたシリカの自白に、妙も珍しくツッコミを入れた。違った対応をする二人の姿を見て、女性にもある変化が起こる。

「フフフ……」

 なんと口に手を当てて笑いを堪えていた。予想外の行動にシリカと妙も会話をやめて、彼女に注目する。

「えっと……どうしたんですか?」

「あっ、違うのよ! 決してアナタ方の会話が面白かったから、笑っているんじゃないのよ。ただの思い出し笑いだから!」

「凄い無理矢理感があるけどね……」

 笑いをごまかす女性に妙も本音を呟く。いずれにしてもお互いの掴みは偶然にも上手くいっていた。

「まぁ、少なく見ても悪い人ではなさそうなので、どうやって来たのかはあえて問わないことにしますね」

「あ、ありがとうございます……」

 女性の計らいで、シリカ達は何も問われずに済む。無事に落ち着いたところで、ようやく互いの挨拶が交わされていく。

「さて、まずは私から挨拶しますね。私の名前はソリート。テイマー星出身の天人で、この地球には研修で訪れているんです」

「ソリ―トさん?」

「はい。呼び方は自由に読んでください。ソリちゃんだとか、ピ〇―ルソリとか」

「一つ読んじゃいけないアダ名があったわよね……」

 シャレのつもりで言ったアダ名に、妙から控えめな言葉でツッコミを入れられる。見た目や立場に反して、意外にもノリの良い性格であった。しかし、気品溢れる雰囲気は見る者の心を奪い、彼女の魅力として大きく引き立てられている。

(意外にも気さくな人なんですね。でもやっぱり、綺麗な人です……)

(王女様と言う肩書は伊達じゃないみたいね……でもまぁ、所詮一話限りのゲストキャラだし、そこまで気にするほどじゃないわね)

 シリカはうっとりと目線を集中させる中、妙はメタ発言を交えながら嫉妬を燃やしていた。ここでも二人の反応は対照的である。すると今度は、シリカ達が挨拶をする番であった。

「それでは、アナタ方の名前を教えてもらえますか?」

「あっ、そうでした! アタシはシリカって言います。ピナっていうこのドラゴンと一緒にテイマーをしているんですよ」

「ナー!」

「そして私は志村妙よ。好きな物はバーゲンダッシュアイス。嫌いな物はゴリラストーカー。そんなところかしらね?」

「って、お妙さん! それじゃ伝わりづらいですよ!」

「フフ……やっぱり面白い人達ね」

 漫才のように交わされる二人の会話に、ソリートの笑いも止まらない。これでお互いに自己紹介を交わして、話を続けようとした時である。

「ナー?」

 ピナがドアの奥からある生物を見かけた。一瞬しか見えなかったが、その姿は自分と似たドラゴンだと思っている。好奇心が高まった彼は、シリカの元を離れてドアまで飛んでいく。

「って、ピナ!? 一体どこへ行くんですか!?」

 シリカが声をかけても、ピナは止まろうとしない。この行動にソリートもある直感を思いついている。

「もしかして、ロアに気付いたのかしら?」

「ロア? って、ソリートさんのペットですか?」

「そう。ちょっと特殊な事情を持っているドラゴンで、確か見た目もあなたが飼っているピナと似ているのよ」

「そ、そうなんですか」

 どうやらソリートもシリカと同じく使い魔を所持しているらしい。先ほどまでとは違い複雑な心境を浮かべる辺りは、何か訳があると彼女は予測している。すると噂の使い魔がピナに連れられてその姿を現した。

「ナー!」

「ロ……」

 テンションに違いのある鳴き声が辺りに響き渡る。連れてこられたロアは文字通りピナにそっくりな小竜であった。体色は明るいピンク色に染まり、羽や目つきといった部分はピナと大方同じである。表情豊かで元気なピナに対して、ロアは控えめなイメージを持たせていた。あまりにも似ている竜の姿を見て、シリカ達はみな驚きを隠せずにいる。

「これがロア? まるでピナの色違いです!」

「やっぱり思った通りね。ロアにも遂に仲間が出来たのですね」

「ここまで似ているなんて、まるでコピペみたいだわ」

「って、どんな表現しているんですか!」

 妙だけは少しボケを含んで声に発していた。しかし一番驚いているのはピナ本人であり、早速彼はロアと接触を試みている。

「ナー?(君は何て名前なの?)」

「ロ……ロ?(ロアだよ……君は?)」

「ナー、ナー!(ピナだよ、よろしくね!)」

「ロ……(よろしく……)」

 積極的に話すピナに反して、ロアは控えめに接していた。引っ込み思案な上に、極端な臆病の持ち主とも読み取れる。

「なんだか、ロアさんは怖がっているみたいですね」

「それはあの子の弱点が原因で、中々他の動物とも馴染めないのですよ」

「弱点って、どういうことなの?」

 ロアが控えめに接する理由をソリートは深く理解しているらしい。彼女が詳しく話そうとしたその時であった。

「それは――」

「それは陽の光が原因なんですよ、お妙さん!」

 聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。思わず振り返ってみると、

「こ、近藤さん!?」

「やぁ、シリカちゃん……どうにか間に合ったようだな」

そこには壁をよじ登ってきた近藤の姿が見えた。ある事を伝えるべく、意地でもここまでやって来たようである。彼なりの好意であるが、妙からは不快にしか思われていなかった。

「って、どこまでついて来るんだぁぁ、ゴリラァァ!! さっさと落ちてしまえ!!」

「ブフォォ!!」

 壁を登ってきてきた近藤にすかさず、ドロップキックをかまして地上まで転落させようとする。しかし間一髪のところで手すりに掴み、難だけは逃れられた。

「ちっ! 死ななかったか……」

「死ななかったかって何!? 完全にお妙さん、殺意むき出しだよね!?」

 女性とは思えない鬼の形相で睨みつけ、舌打ちまでしてしまう妙。そんな彼女の行為に、シリカは辟易としてため息を吐いている。ところがソリートだけは反応が異なっていた。

「アレが地球の女性……なんて頼もしいのでしょうか!」

「あの、ソリートさん? 多分アナタが思っていることとは、だいぶ違いますよ……」

 事情を知っているシリカは、素直に訂正を促す。一方で妙の怒りは一向に収まっていない。

「さて……どう落とし前をつけようかしらね……」

「待って! お願いだから話だけ聞いて! あの生物には秘密があるから!」

「ったく、仕方ないわね。いいわよ、上げてあげるわ」

 納得はしていないが、妙はひとまず近藤を二階へと上げていく。彼が持っている秘密を話させるためである。

「はぁ……助かった」

「それで近藤さん? 秘密って言うのは……」

「ああ、そうだったな。実は……単刀直入に言うと、あのドラゴンは元々危険生物として扱われていたんだよ」

「き、危険生物!?」

 思わぬ言葉を聞き、シリカは大声で驚いてしまう。妙もリアクションこそ薄かったが、それなりに驚きを見せている。一旦間を開けたところで、近藤は説明を再開させた。

「そうだ。元々は好戦的な性格で他の動物を襲っていたんだが、陽の光がない夜や曇りの深い時は一段と大人しくなることがあるんだ。条件付きで凶暴化するが、一般的には普通の宇宙生物として扱われているんだよ」

 説明を一通り終えると、今度はソリートが加えてくる。

「確かに彼の言う通りです。ロアは自分の弱みを分かっていて、その運命に苦しんでいるのです。私はそんな彼を助けたいと思い一緒にいるのですが……中々直らなくて」

「そんな……ロアさんにそんな秘密が……」

 ロアの弱点を知ったシリカは、複雑な気持ちを沸かしていた。ピナがこの真実を知ってしまえばどうなるのか……考えただけでも頭が痛いのである。

「ということは、曇りの日にしか外に出てこなかったのは、その弱点が原因と言う事ね」

「そうなりますね……」

 妙の質問にそっとソリートは答えた。場には危うい雰囲気が流れ込み、みな複雑な思いを漂わせている。一方でピナとロアの様子を確認してみると、

「ナー!(最近「ピオ」っていうアイスにはまっているんだよ!)」

「ロー(何それ、おいしそうだね)」

ようやく二匹は打ち解けあい始めていた。ロアの表情も柔らかくなっており、ピナへの興味を高めつつある。ますますロアの弱点について、言い出しづらくなっていた。

「ロアの方も大変ピナのことを気にかけていますね。でも弱点次第で、その態度も一変するかもしれません――今しか打ち明ける機会はないかもしれませんね」

「そんな……それしか方法はないのでしょうか」

 今後の行動次第ではピナを傷つけてしまうかもしれない。そう感じたシリカ達は、どうするべきか悩み始めていた。共に引きはがしたくない。かといって何も伝えないのも危険である。迷いを浮かべる彼女達に、突如予想外の事態が起こり始めていた。

「ん? えっ、まさか……」

 シリカが気付いたのは、明るくなった空模様である。気になって空を見上げると、そこには雲が少なくなっていき、今まで隠れていた太陽が姿を現し始めていた。彼女達が抱えていた不安が的中した瞬間である。すると太陽の光は庭の装飾品を辿っていき、何度も屈折を重ねていく。その方向はちょうど、ピナとロアの場所まで向かおうとしていた。

「ロ!? ロー!!」

「ナー!?」

 光を感じて危険を悟ったロアは、ピナに体当たりしてシリカ達の元まで突き飛ばす。彼の安全を考慮して、自らとの距離を離れさせるためである。

「ピナ!? 大丈夫!?」

「ナ……」

 シリカとぶつかっただけで、ピナは怪我をしていなかった。一方でロアは、陽の光を浴びたことによって異変が生じてしまう。

「ロー!!」

「ロア! しっかりしなさい!」

 叫び苦しみながらロアは、自分を制御しようと力を尽くしていた。ソリートが呼びかけて祈るも、ロアはすぐに行動を止めてしまう。すると目つきを鋭くさせて、態度を豹変させてきたのだ。

「ロ……ロー!!」

 怒りに満ちた表情のまま勢いよく雄叫びを上げる。ロアは再び自分自身を制御出来ずにいた。さらに口からエネルギー状の塊を形成していき、シリカ達の元へ狙いを定める。

「あっ、アレって……!」

「ロアの暴走形態です! 光線を放ってくるので、みなさんかわしてください!」

 ソリートが声をかけて、シリカ達へ攻撃を避けるよう呼び掛けていく。

「ロー!」

 ロアの放った光線は床へと当たっていき、そこには黒く焦げた跡が残っている。幸いにもシリカらに影響は無かったが、ロアの暴走は依然と続いていた。光線攻撃をかわしていき、一行は出入口近くのドアまで避難して対策を練っている。

「まさかあんな風になるなんて……聞いてないわよ!」

「アレがロアの弱みなんです……もう! お天気お姉さんはずっと曇りって言っていたのに! 外れてどうするのよ!」

「怒るところそこなんですか!?」

 ソリートの怒りの矛先にツッコミを入れるシリカ。しかし今は、悠長に話している場合ではない。ロアに近づき行動を止めなければ、被害は広がる一方なのである。すると、近藤が率先して声をかけてきた。

「落ち着くんだ、みんな! こういう時こそ冷静になるんだ! きっと方法は見つかるはずだ……だからお妙さん。アナタのことをきっと守って見せますよ……」

「近藤さん……」

 力強く頼れる言葉をかけて、近藤はさり気なく妙を見つめてくる。こんな状況でも男らしさを見せて、気を引かせようとしていた。しかし妙には別の考えが浮かんでおり、それを実践すべく近藤へ言葉を返してくる。

「よし、分かったわ。近藤さんの事を頼りましょう」

「お妙さん……!」

「じゃ早速だけど、私の作戦に協力してくれるかしら」

「おっ、本当ですか!? お妙さんのためならなんだってやりますよ!」

 気持ちが伝わったと勘違いして快く賛成する。とそこへロアの目線が、妙らのいる場所に狙いを定めていた。口にエネルギーを溜めていき、再び光線攻撃を準備していく。その隙を狙い、妙は作戦を実行させる。

「なんだってやるのね……じゃ、よろしくお願いね!」

 すると彼女は急に近藤の腕を掴んだ後、向きを反対へ寄せて彼の背後へと隠れた。

「お妙さん? 一体何を……」

「作戦よ。名付けてゴリラシールド!」

「えっ? って、ギャャャャ!!」

 なんと妙は近くにいた近藤を身代わりにして、理不尽にもロアの光線を浴びせたのである。それを受けた近藤は、悲痛な叫び声を上げた後に体を真っ黒にしてそのまま倒れてしまった。外道とも言える妙の作戦を目の当たりにして、シリカやピナは愕然としてしまう。

「……って、お妙さんー!? 何やっているんですか!? 近藤さんが、た、倒れちゃいましたよ!?」

 そして状況を読み込めないまま、ひたすらツッコミを入れてきた。予想を超えた妙の行動を見て取り乱すシリカだが、妙は平然と返答してくる。

「大丈夫よ、シリカちゃん。ゴリラシールドは頑丈だから、これしきのことで死ぬことなんてないのよ。だから安心しなさい」

「安心できませんよ! 焦げて倒れている時点で重症じゃないですか!」

「心配ないわ。所詮ただの日常回なんだから、来週にはケロッと何事も無かったかのように出てくるわよ」

「何の話ですか! 意味が分かりませんよ!!」

 メタ発言を交えた妙の冷静な見解に、シリカは感情のままにツッコミを入れていく。この光景をみたソリートは、ある勘違いを浮かべていた。

「なるほど……この星の男性は愛する人の為なら、盾になる風習があるのですね。私思わず感動してしまいました!」

「ソリートさんもお願いだから勘違いしないで! ツッコミが追い付きませんよ!!」

 二人分のボケをさばいていき、シリカはツッコミだけで早くも疲れを見せている。だがその間にもロアの暴走は続いていた。ピナもロアの一面を見て、悲しい表情を浮かべてしまう。

「ナ……」

(ピナが怖がっている? このままだと、気持ちが変わっちゃうかも……どうにかして、ロアさんを止めないと! でもどうすれば――)

 ピナの表情を見たシリカは、気持ちを切り替えて頭を悩ませていた。すぐにでもロアの暴走を止めたいが、その手段が見つからない。もどかしいまま考え続けていた時、あることを彼女は思い出していた。

(あっ! アレを使えばどうにかなるかも……賭けかもしれないけど、ここはアタシがやらないと!!)

 とっておきの作戦を考えついたのである。厄介ではあるが、暴走を止めるには打ってつけであった。シリカは決意して、早速行動に移していく。

「あの、ソリートさん! ロアの胃って、頑丈ですか!?」

「頑丈? まぁ、大丈夫だと思います。お腹を壊したことはないので……一体何をするのですか?」

「秘密兵器を使ってロアの暴走を止めるんです! お妙さんの料理で!」

「わ、私の料理で!?」

 そう、彼女は妙の料理を使ってロアの暴走を止めることにしたのだ。食べれば体に支障をきたす不味い料理だが、即効性は抜群である。ピナの不安を払うためにも、彼女はこの賭けに乗るしかなかった。しかし妙は、やや不満に思い始めている。

「それって、私の料理で気絶させるって作戦なの?」

「ギク……! えっと……」

 図星を突かれて対応に困ってしまうシリカ。ここは即興で思いついた言い訳で、難局を乗り切るしかない。

「あっ、それはですね……お妙さんの料理のおいしさで気絶させるって意味なんですよ!」

「おいしさ――あっ、そういうことね! ピナちゃん好みにテイストしたなら、ロアにも効くってことかしら!」

「そうです! おいしさでノックアウトさせるんですよ!」

「もうー! それならそうと、言ってくれればいいのに!!」

 逆転の発想を用い、どうにか妙にバレることなく誤魔化した。彼女は褒められたと思い込み気分が高揚しているが、シリカは到底そんなことは微塵も思っていない。

(お妙さん、ごめんなさい……全て嘘です)

 罪悪感を覚えて早くも後悔していた。しかしこれで、状況を打開するための材料が揃う。妙は早速リュックからタッパーを取り出し、お手製の卵焼きをシリカへ渡してきた。

「はい、どうぞ! シリカちゃん!」

「あ、ありがとうございます……」

 半場苦笑いで渡されると、彼女は本音を心の中で呟く。

(うわ……期待を裏切らない出来……って、言ってる場合じゃなかった! 例えまずくてもロアを止められるなら、なんだって利用するだけです!)

 ツッコミどころはあるが、今は抑え込むしかない。タッパーを手に取ると、大きく深呼吸して集中力を高めたのである。

「――それでは、行ってきますね」

「本当にシリカちゃんだけで大丈夫なの?」

「はい! ピナとロアさんの友情の為にも、アタシが頑張るんです! 短期決戦で絶対に、止めて見せます!」

「シリカさん……」

 シリカの本気を見て、ソリートや妙も密かに願いを託す。全てはピナが芽生えた友情を枯れさせないため、ロアの暴走状態を止めるためだ。少ないチャンスを見定めながら、彼女は強い思いを心に宿している。

(ピナ……待っていてください。今アナタの友達を、取り戻して見せます!!)

 そう意気込んだ直後に、ようやく好機が巡ってきた。ロアが背を向けて、行動を止めたのである。もう今しかチャンスは無い。

「行きます! 待っていてね、ピナ!」

「ナー?」

 ピナに声をかけた後に、シリカは単身ロアの元まで向かっていく。背中に広げた羽を補助として使いながら、速度を調節していった。距離を縮めていき、気配を気付かれる前に押し切ろうと考えている。それがシリカの考えた作戦であった。

「もう少し……もう少しです!」

 走り出してから僅か数秒で、ロアとの距離は目と鼻の先まで近づく。成長した自分の素早さに驚きつつも、いよいよ時は迫っていた。しかし、

「ロ……?」

至近距離手前にて急にロアから気配を悟られてしまう。後ろを振り返ると偶然にも、シリカと目線が合わさってしまった。

(えっ!? ここに来て……)

 突然の窮地にシリカの頭の中は一瞬にして、真っ白になる。ロアが光線を溜め始めたその時であった。

「ナー!」

(えっ!?)

 シリカの背後から、ピナの鳴き声が聞こえてくる。彼は得意技である泡攻撃「バブルブレス」を勢いよく放出させて、彼女を援護してきたのだ。

「ロ!?」

 ピナからの攻撃を受けたロアは、光線を遮断されて動きを制限されてしまう。戸惑いを見せる中、シリカはピナの思いを読み取っている。

(そっか……ピナもロアを戻したいんですね……なら、もうすぐですよ!)

 彼もまたロアを戻したと心から思っていたのだ。その気持ちを受け取ったシリカは、突き動かされていく。タッパーから卵焼きを取り出し、すかさずロアの口元へ狙いを定めたのだ。

「アナタの思いも伝えます! だから戻ってください!!」

 そして勢い良く叫びながら、ロアへと卵焼きを投げつける。

「ロー!?」

 避けることが出来なかったロアは、見事に命中した後にそのまま倒れこんでしまった。すると徐々に目つきを戻していき、数秒も経たずに大人しくなっていく。

「ロ? ロ……」

 ちょうどよく陽の光もまた雲へと隠れた直後に、ロアの暴走はようやく収まっていった。数十分にも渡った無自覚な暴走は、シリカの作戦とピナの勇気によって終止符を打たせたのである。

「も、戻った……!?」

「ナー!?」

 激戦を果たしたシリカやピナは、ロアの収まった様子を見てそっと一安心した。そこへ妙やソリートも駆けつけて、彼女達へ声をかけてくる。

「大丈夫だった? シリカちゃんにピナちゃん?」

「はい、なんとか! お妙さんの料理のおかげで、止めることが出来たんですよ!」

「そ、それは喜んでいい事なのかしら?」

 満面の笑みでお礼を伝えるシリカに対して、妙はその言葉に複雑な心境を浮かべていた。一方でソリートは別の不安を心に宿している。

「でもこれで、アナタのペットともおそらく友達にはなれませんよね……」

「ソリートさん……いえ! そんなことないですよ!」

「えっ、それって?」

 ピナを傷つけてしまったと思う彼女であったが、シリカはそこまで気にしていなかった。その証拠にピナは真っ先にロアの元に向かい話しかけている。

「ナー!?(大丈夫!?)」

「ロ……ロ(ごめんね……でもこれが僕の弱みなんだ)」

「ナ……(そうだったの……)」

「ロ、ロ……(うん、怖かったらもう僕とは近寄らない方がいいと思うよ……)」

 互いに鳴き声を交わして、本音をぶつけ合っていく。ロアの提案にピナは、真っ向から反対している。

「ナー! ナー!(いいや! そんなことで離れたりなんか絶対にしないよ!)」

「ロ? ロ……(えっ? なんで……)」

「ナー! ナー!(素直に友達になりたいからだよ! たったそれだけなんだよ!)

「ロ……(ピナ君……)」

彼は暴走如きでロアを見捨てなかった。事情を理解して友達関係を築いていきたい。そう率直に思っている。ピナの優しさを通じて、ロアもようやく信じることが出来た。二匹は友情で結び合い、かけがえのない存在を作ったのである。

「ピナはこんなことで、ロアさんのことを見捨てたりなんかしませんよ」

「これは予想外です……やっぱりあなた方は面白い人達ですね!」

 ソリートも予想していなかった展開だが、なぜかすんなりと納得していた。それはシリカやピナが魅力的で、優しさ溢れるテイマーだったからだと考えている。彼女も同じく、シリカや妙らと友情を深め合っていたのだ。

「それじゃ、これからも遊びに来ていいというわけね」

「もちろん、どうぞ! いつかはロアの弱点も克服して、きっとあんしんできるようにしますからね! 

「頑張ってください! アタシ達からも応援しますね!」

 困難を乗り越えた三人にも情が深まっている。お互いに笑いあい意志を疎通しあっていた。曇りの日に起こった出会いと騒動はこうして幕を閉じたのである。

「アレ? 俺の事忘れられていない? ずっと待っているのに、早く気付いてくれよ!!」

 ずっと放置されている近藤などを知らずに。忘れ去られる仕打ちを受けた彼はただ嘆くしかなかった……

 




 ちなみに補足ですけど、銀魂世界でのピナの食事はドラゴンフーズって言うペットフードで栄養を賄っています。機会があれば話のネタにするかもしれません。後は今更ですが、ピナはオスで合っていますよね? 間違っていたら指摘お願いします。






次回予告
九兵衛「なぁ、リズ君。ストーカーを撃退するにはどうすればいい?」
リズ 「どうすれば……スタンガンとかで対抗するとか?」
九兵衛「いいや。それだけじゃダメだ! だからリズ君! ストーカーをぶっ潰すための兵器を作ってくれ!!」
リズ 「って、依頼だったの!?」
九兵衛「次回! 万全を期せば、何も怖くない!」


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第二十二訓 万全を期せば、何も怖くない!

 意外な情報ですけど、リズの中の人(高垣彩陽さん)も銀魂に出演しているんですよ。OVAの方で。結構SAOレギュラー陣も銀魂で出ているんですね。ちなみに、キリトとシリカとリーファの中の人は、銀魂に出たことがないそうです。(トライアル調べ。間違っていたら、すいません)


 鉄子が営む刀鍛冶屋にリズベットが加わって早数日。彼女の鍛冶技術は鉄子の指導の下で、以前よりも格段に上がっていた。強い向上心を持ち日々努力を続けているリズベットだったが、今回鍛えていた刀には一時の迷いが生じている。

「こんな感じかな……?」

「どれどれ。まぁ大丈夫だと思うよ。少し変わっているけど、本音をいえば普通の刀だから」

「普通じゃないわよ。刀身に文字がついた武器なんて、アタシのいた世界にも無かったわよ」

「それは……依頼者曰く宇宙から取り寄せたものだから、細かいことはむしろ気にしない方がいいのかもね」

「宇宙か……確かにそんな気がするわね。この刀は」

 悩みを浮かばせながら彼女達が打ち直していたのは、刀身部分に文字が付属された刀であった。カタカナで「ゲキタイ」と刻まれており、その外装は見る者に違和感を与えている。特殊な形状を模した刀に、リズベットらは鍛冶作業中も困惑しながら進めていた。

「というか、最近こういうのが流行っているの? 何か昨日も同じような武器を鍛えた覚えがあるんだけど……」

「アレも確かに文字が付いていたね。さすがに「ゲキタイ」ではなかったけど、恐らくこの刀と同じ系列だと思っているよ」

「武器にまで文字を付ける時代になったのね……アタシには理解しがたいわ。依頼者の顔が見てみたいわよ」

変わった流行を受け入れられずに、リズベットは思わずため息を吐く。その表情は少し苦みを利かせていた。そんな彼女に対して、鉄子は冷静に説得を加える。

「まぁでも、どんな武器であれ最高に鍛え上げるのが鍛冶屋としての宿命だよ。それに依頼者の顔を見たら、きっと驚くこと間違いないかもね」

「えっ? それってどういう……」

 最後の言葉に違和感を覚えたリズベットが、鉄子へ聞き直そうとした時だった。ちょうどよいタイミングで、店に人が入ってくる。

「こんにちは。頼んでいた刀の様子を見に来たんだが……入ってきてもいいか?」

 聞こえてきたのは低く特徴的な女性の声であった。リズベットにとっても馴染みのある声だったので、すぐに反応して入り口の方へ顔を向けると――

「きゅ、九兵衛さん!?」

「リズ君!? そうか……確かここは、君が手伝っている鍛冶屋だったな」

そこにいたのは、真剣な眼差しをしていた柳生九兵衛である。リズベットと親交の深い女性の一人であり、実に会議以来の再会であった。まさか刀の依頼者として鍛冶屋にやって来るなんて、彼女にとっては予想もしない展開である。

「ねぇ。やっぱり驚いたでしょ」

「そ、そりゃ九兵衛さんが刀の依頼者だったら驚くわよ! 意外過ぎるわ……」

 平然と接する鉄子に対して、リズベットは未だに驚きを隠し切れなかった。同じく九兵衛も思いがけない再会に驚嘆している。お互いに相手を伺う中、鉄子が介入してある考えを提案した。

「あっ! 刀が出来上がるまであと少しだから、リズは九兵衛さんの相手をお願い! おしゃべりとかして、時間を潰してて!」

「って、鉄子さん!?」

「久しぶりに会ったんでしょ。私に構わないで、ゆっくり話してきな!」

 仕上げの作業を全て任して、リズベットと九兵衛が会話できる機会を作ったのである。そのまま鍛冶作業へと戻ったため、場には二人だけが取り残された。

「……随分と急な展開だな」

「そうね。とりあえず、座敷で休みましょうか」

 空気を読みつつ、一旦二人は鍛冶屋にあった座敷まで移動して腰をかける。しばらく間をとったところで、最初に話しかけてきたのは九兵衛の方であった。

「ひとまずはリズ君が元気そうにやっていて何よりだよ。この世界の生活にはだいぶ慣れた方かい?」

「まぁ、そうかな。最初は戸惑ったこともあったけど、今は自然と慣れているわ。みんなとの下宿も楽しいし、鍛冶技術も高められて一石二鳥ね!」

「そうか……じゃ、僕の依頼した刀も君が打ち直してくれたのか?」

「ああ、あの刀ね。鉄子さんが率先して打っていたから、アタシは半分くらいしか手伝っていないわよ。むしろアタシだけで打つなんて、まだまだ先のことだし」

「そんなことは無いよ。鉄子殿がリズ君の腕を認めているならば、きっといつかは大役を任せられるはずだ。遠慮なんかせずにもっと自信を持つべきだと僕は思っているよ」

「九兵衛さん……ちょっと照れるようなことを言わないでよ~!」

 率直な意見を言われたリズベットは、若干照れてつい笑ってしまう。九兵衛から褒められて、内心嬉しく思っていた。そして九兵衛も彼女につられて笑顔を浮かべている。会話を進めるうちに緊張がほぐされていき、自然と二人にも笑顔が戻っていった。

(相変わらず九兵衛さんは堅苦しいわね。でもそこが九兵衛さんの良さだし、いつも通りに接してくれて一安心したわ)

(リズ君が頑張っているならば何よりだな。一人前になれるように、僕も心から応援するよ)

 互いの魅力に惹かれ合い、心の中で相手を思う二人の女子。より深い仲を彼女達は築き上げたのである。会話も弾んできたところで、リズベットはいよいよあの刀の詳細について九兵衛から聞き出すことにした。

「あっ、そうだ九兵衛さん! そう言えば気になっていたんだけど、あの刀について詳しく教えてくれない?」

「ああ、あのゲキタイバーのことか」

「ゲ、ゲキタイバー!? って、あの刀の名前なの!?」

「元々無名だったから、僕が代わりに名付けたんだ。そこまで驚くことか?」

「……いや、分かりやすくていいんじゃないのかな?」

 名付けられた刀の名称を知らされて、リズベットは若干引きずった笑いを見せる。独特なネーミングセンスに何も言い返せなかった。

(清々しいほどあっさりした名前ね……いい意味で九兵衛さんらしいわ)

 本音では微妙な反応を示していたが、ひとまず心へと抑え込み本題の質問へと移る。

「それでこの刀って、地球産じゃなくてどっかの星から取り寄せたの?」

「そうだよ。骨董市でたまたま見つけてね。バ〇ダ〇星における護衛刀として売れている武器らしい。地球でいうスタンガン感覚で、みなこの刀を常備しているそうだ」

「うわぁ……聞いただけで頭に浮かび上がってくるわ」

 予想通りの返答に、棒読み混じりで呟く。ある程度想像を膨らませていたので、リアクションは薄めである。ゲキタイバーへの情報を聞く中で、彼女には一つの疑問が浮かんでいた。

「でもなんで、九兵衛さんはゲキタイバーを買おうと思っていたの?」

「それはだな……お妙ちゃんの為でもあるんだ。彼女に蔓延る巨悪を叩きのめす為にも、必要なんだ!」

「巨悪? って、お妙さんの身に何かあったの?」

 購入理由を聞いた瞬間に、九兵衛は突如真剣な表情へと変わっていく。意味深な言葉と変化に気付いて、詳しく真相を迫ろうとすると――

「お待たせ! 依頼品の刀は、この通り打ち直したよ」

絶妙なタイミングで鉄子が介入してくる。打ち直したゲキタイバーを、九兵衛へと差し出してきた。

「何!? もう修復できたのか?」

「大方出来ていたから、そこまでかからなかったんだよ」

「そうか……だがこれでようやく、お妙ちゃんを守れるな!」

 ゲキタイバーを受けとった九兵衛は、手にした瞬間に思わず気持ちを高ぶらせる。そのまま立ち上がると、まずは懐から依頼金を取り出して鉄子へと手渡した。そして軽く会釈を交わして、二人に改めて礼を伝え始める。

「ありがとう、鉄子殿にリズ君。君達が鍛え上げたゲキタイバーを使って、必ずやお妙ちゃんを守ってみせるよ……! それでは、行ってくる!!」

「って、九兵衛さん!? 肝心の理由を話し忘れているよ! お妙さんの身に何があったっていうの!?」

 思いを吐いた直後に九兵衛は店を走り去っていく。彼女の勢いは止められず、リズベットの声すらも聞こえていなかった。結局は妙の事情を聞き逃してしまい、リズベットはひたすら気になりかけている。

「行っちゃった……結局聞きそびれたんだけど。九兵衛さんも浮足気味だったし、心配なんだけど……」

 ため息を吐きつい不安を口に出してしまう。そんな彼女を見て、鉄子はまたもある提案を思いついていた。

「彼女は真面目過ぎて空回りすることもあるみたいだからね。それだったら、リズが止めに行ってきたらいいんじゃないのかな?」

「えっ? でもまだ、仕事が終わるまで時間が……」

「そんなことは気にしないの。大方の仕事は片付いたし、どっちにしろ今日は私だけでも大丈夫だよ。それに自分が打った刀の使い道を見届けるのも、いい経験になると思うよ」

 さり気ない気遣いを見せて、そっと微笑みを入れる。九兵衛との仲を理解して、鉄子は後押ししようと考えていた。空気を読んだ行動にリズベットも彼女の本心を受け止めている。

「鉄子さん……ありがとうございます!」

 九兵衛同様深く礼を交わした後に、彼女は鍛冶屋を後にした。透き通った銀色の羽を広げて、空中から九兵衛を追いかけていく。

「危なくなったら、意地でも止めに入りなさい――って、もう聞こえてないか」

 大声で注意を言おうとしたが、既に彼女の姿は遠くへと消えかけている。鉄子は苦労を感じながらも、弟子の行く末を最後まで見守っていた。何も起きないことを祈り、作業へと戻っていく。

 

 一方でリズベットが飛行を続けていると、あっさりと九兵衛の元まで追い付いていた。

「九兵衛さん! 待って!!」

「ん? この声はリズ君!?」

 声をかけられてようやく九兵衛は気配に気づく。後ろを振り返ると、ちょうどリズベットは地上へと降り立ち羽を収めている。そこへ九兵衛が駆けつけて話しかけてきた。

「どうしたのだ、ここまで追いかけてきて。何か忘れものでもあったのか?」

「いいや……九兵衛さんが心配になって来てみただけよ。話の続きも聞いてないし、色々と気になってここまで飛んできたの」

「そうだったのか……鍛冶屋の方は大丈夫なのか?」

「鉄子さんに許可を取ったから大丈夫……それよりも続きを教えてくれない?」

「ああ、分かった。まずは君が落ち着いてからだな」

 急いで飛んできたため、リズベットはやや息切れ気味に答えている。彼女が落ち着きを見せたところで、九兵衛も立ち止まって続きを話してくれた。

「それじゃ話を戻そうか。妙ちゃんのことなんだが……彼女には昔からストーカーがついていて、今なお被害を受けているんだよ」

「えっ? お妙さんって、ストーカーの被害者だったの!?」

「そうだな。しかもそのストーカーは、ゴリラのようにしぶとく諦めが悪くてな……僕や仲間達も対応に困っているんだよ……」

「それはゴリラと言うよりも、ゴキブリの方が分かりやすいのでは……?」

 小さくツッコミを入れるリズベットであったが、妙がストーカー被害を受けていることについては内心驚きを隠せなかった。

(お妙さんにストーカーする人なんて、この世にいたんだ……。よっぽど度胸がある人なのかしら……)

 妙に関しては気が強いイメージしかないので、被害者と言われても正直思いつかない。またストーカーの正体も彼女は知らないので、一層の謎を深めている。そんなリズベットとは対照的に、九兵衛は怒りを燃やして徐々に感情的になっていく。

「まぁどっちにしろ、今日がゴリラの命日となるだろう……妙ちゃんが受けたこれまでの苦しみを、全て倍返しにして返してやる!!」

「って、九兵衛さん! ゲキタイバーを強く握り閉めないで! 本気で殺しかけたら、廃刀令に関係なく逮捕されるんだからね!」

 激しく高ぶらせる九兵衛を抑え込み、今度はリズベットが落ち着かせていた。彼女の心情から、妙のストーカーに相当な恨みを抱え込んでいる。そうリズベットは予測していた。不安が的中したちょうどその時、タイミング悪くある男性が彼女達へ近寄ってくる。

「若! ここにおられたのですか!」

「と、東城!?」

 話しかけてきたのは、九兵衛の付き人を務める東城歩であった。どうやら彼女を捜索していたようであり、その表情も焦りを見せている。

「……なぜここに来たんだ?」

「今日は若のゴスロリ衣装を共に買うと約束していたではないですか!」

「はぁ? そんな約束は元々断ったはずだ。さては強引に連れて行こうとしているな?」

「……ちが、違いますぞ! 付き人として当然の使命を果たそうとしているだけですから! さぁ、行きましょう!」

 見え透いた嘘と呆れた捜索理由にがっかりした九兵衛であったが、東城は意地でも連れて行こうと躍起になっていた。彼女の気持ちに関係なく、東城が強引に近づこうとした時である。

〈ストーキング発見! 撃退!〉

 所持していたゲキタイバーより電子音が響き渡ってきた。その瞬間に刀身が光りだし、バチバチと光る電流を流し込んでいく。するとその変化に気付いた九兵衛は、

「ん? って、ギャャャ!!」

何のためらいもなく東城へ向けて、電流を帯びたゲキタイバーを振りかざしてしまった。刀に触れただけであったが、彼の体には死なない程度の強い電流が流れ込んでくる。数分もがき苦しんだ後に、そのまま東城は路上へと倒れ込み気絶してしまった。連続して起こった衝撃の出来事に、リズベットはただ唖然として体が固まってしまう。

「な、何この刀!? 急に電流が流れてきたんだけど!?」

「これがゲキタイバーの威力か……さすが〇ンダ〇星が誇るスタンガン技術だな!!」

「モロホンのスタンガンでしょうが!! 文字通りに撃退したんだけど!? ツッコミどころが多くて追い付かないんだけど!!」

 納得する九兵衛に対して、リズベットはひたすらツッコミを続けていた。状況をまとめると、ゲキタイバーは電流を流せる機能を持ち、その効果を受けた東城が気絶してしまったらしい。一応正当防衛ではあるが、この行動に九兵衛は罪悪感すら覚えていなかった。

「まぁいいだろう。東城はストーカーみたいなものだし、むしろ試し斬りに付き合ってくれて助かったよ」

「元も子もない事言わないでよ! 東城さんって付き人じゃなかったの!?」

「そもそもこいつは、アスナ君を襲ったクラディールと言う男と声が似ているらしい。その分を含めても、倒されて当然だっただろう」

「何その強引な理由!? 声が似ているだけで電流を浴びせるとか、とばっちり以外の何者でもないわよ!」

 無理のある理論を打ち出して、勝手に正当化し始めている。そんな彼女の考えに、リズベットのツッコミも激しくなっていく。しまいには気分を良くした九兵衛が、変な自信まで付け始めてしまう。

「この刀さえあれば、ゴリラの息の根を止めることだって出来るな……!」

「あの、九兵衛さん? さり気なく怖い事を言わないでよ! 段々と危険な方向に向かっているわよ!?」

「この際そんなもの構わない! ゴリラを血祭りにあげてやるぅぅぅ!!」

「お願いだから落ち着きなさい!! そもそもゴリラって一体誰なのよ!!」

 暴走気味に走り出し、妙のいる恒道館までがむしゃらに向かっていく。我を忘れた九兵衛を追いかけるように、リズベットも羽を再び広げて尾行を再開させた。一刀の護衛刀によって、早くも状況は急展開を迎えてしまう。そんな最中、場に取り残された東城はというと、

「若……電流を浴びせるならば、まだまだですぞ」

もうろうとした意識の中で一言呟いていた。そのまま倒れ込んでしまい、再び気絶状態へと戻ってしまう。こうして妙のストーカーを巡って、二人の女子はいよいよ恒道館へと近づいていく。

 

「ふぅ……ひとまず恒道館へと着いたな。リズ君にもついてきてもらい、何か申し訳ないな」

「いいや。こうなったらもう、乗り掛かった舟だから最後まで手伝うだけよ。ストーカーなんて女の敵は、さっさと諦めさせるべきなのよ」

「そうか……君まで手伝ってもらうと心強いな」

 恒道館前へと辿り着いた二人は、着くなりまずはお互いに会話を交わしていた。気分が高揚していた九兵衛も、時間の経過と共に今は落ち着きを見せている。しかし、きっかけ次第でまた暴走する可能性があるので、リズベットの警戒心はより高まっていた。

(まぁ半分は、九兵衛さんを制御するために来ているんだけどね……)

 建前ではストーカーの討伐に協力しているが、その本心は九兵衛の暴走を止めるためである。苦労を感じていたが、ここまで来たら見過ごしたりはできなかった。彼女らしい良心的な気持ちを沸かしている。

「それじゃ、さっさと入ろうか。まずはお妙ちゃんに訳を話さなければ」

「そうね。今の時間帯だったら、きっといるわよね」

 現在の時刻はざっくりと見積もっても十四時前後。恒道館に妙がいる可能性は大いにあった。何気なく門をくぐっていき、戸に手をかけようとしたその時である。

「なんで俺がこんな暑い中で、てめぇらの分のアイスまで買ってこなきゃいけねぇんだよ」

「仕方ないでしょ。銀さんがじゃんけんで負けたんだから、素直に行ってきてくださいよ」

「そうですよ! 銀時さんはパパと違って、往生際が悪すぎです!」

「好き放題言いやがって……」

 内部から三人の男女の声が聞こえてきた。会話をしているようだが、彼女達は早くもその正体を見破っている。

「アレ? この声ってまさか……」

「間違いなくあいつらだな」

 分かりやすかったので、共にパッと思い付いていた。すると戸が開き、予想通りあいつが姿を見せてくる。

「分かったから! 俺が行けばいいんだろ! 新幹線並みに走って戻ってくるから、ちょっと待ってろよ!」

 現れたのはやっぱり万事屋のオーナーである坂田銀時だった。納得してない表情のまま、未だに仲間との会話を交わしている。そして後ろを向いたまま歩きだしてしまう。目の前にいるリズベットと九兵衛のことなど知らずに。

「あっ、銀さん! ちゃんと前を見てくださいよ!」

「はぁ? 何があるってんだよ! そんなんで俺は誤魔化せ――」

 同じく戸から現れた新八の忠告を聞き入れずに、銀時は進み続けている。ついには横切った九兵衛の上半身に体を接触させてしまい……

「グワァァァァ!! 僕に触るなぁぁぁ!!」

「って、えぇぇぇぇ!?」

お約束通り投げ飛ばされてしまう。銀時は思うままに体を動かさず、建物へと強くぶつけられてしまった。予想外に起きた事故であったが、リズベットにとっては想定の範囲内である。

「九兵衛さんってば、また男の人を投げ飛ばしたの?」

「……あっ! 今回は銀時と分かっていたのに……」

 自分の癖を理解はしていたが、今回も無意識のまま行ってしまった。場は静まり返ってしまうが、そこへ銀時の仲間達が駆けつけてくる。

「大丈夫ですかー! 銀時さん!?」

「前方に九兵衛さん達がいるのに、気付かなかったんですか?」

「気付く訳がねぇだろ……話していたんだからよ……」

 気だるく文句を交わす銀時を見て、新八とユイはすぐに安心していた。一見いつもの万事屋にも見えるが、なぜか残りのメンバーであるキリト、アスナ、神楽の三人の姿はどこにも見当たらない。恒道館からも来る気配すら無かったので、リズベットら二人は不思議にも違和感を覚えている。そんな中、新八達が最初に声をかけてきた。

「あっ! それよりもまずは、九兵衛さん達に挨拶しないと!」

「そ、そうでした! お久しぶりです! リズさんに九兵衛さん!」

「ああ、久しぶりだな……」

 せわしない挨拶を交わされて、九兵衛が静かに言葉を返す。本筋とは外れているが、ひとまずはこの三人と話を進めることにした。

「ていうか、恒道館になんでアンタ達がいるの? キリトとかアスナとかは、今日来てないの?」

「ああ、あいつらか? 今頃行列に並んでしばらくは帰ってこねぇよ」

「行列だと?」

「はい! 実はですね、ママと神楽さんが限定品の餃子を手に入れるために朝から遠出しているんですよ! パパも二人に連れてかれて、今も一緒に並んでいるんです!」

「そんなことがあったの……?」

 三人しかいない理由が分かり、ようやく状況を読み込めた九兵衛ら二人。どうやらキリト、アスナ、神楽の三人は、江戸を離れて限定の餃子を手に入れるために現在並んでいるらしい。一人で買うには限度があるため、あえてキリトも道連れにされたようだ。この現状を知ったリズベットは、何気ないショックを受けている。

「ってことは、あの二人はここにいないってこと!? 嘘でしょ……」

「おいおい、どうしたんだ。まさかキリトに対して、寝取るつもりじゃねぇだろうな?」

「そんな訳ないでしょ! 少し二人をからかおうとしていただけよ! 勘違いしないでちょうだいよ!」

「どこのツンデレキャラだよ。別にうまかねぇよ」

 やる気のない皮肉交じりに吐く銀時のボケに対して、リズベットはややムキになってツッコミを入れた。思わぬとばっちりを受けたせいで、若干頬を赤くしてしまう。それはさておき、九兵衛は質問を続けている。

「それじゃユイ君達は、キリト君達が帰るまでここで待っているということか?」

「はい、もちろんです! パパとママがいない間に、銀時さん達からこの世界の文化について多く学んでいたんです!」

「文化……? 具体的に言うとどんなことだ?」

「えっと……この世界で一番優れた本はジャンプだとか……この宇宙で一番かわいいアイドルはお通さんだとか! とにかく多くの作品や歌の魅力について教えてくれたんです!」

 満面の笑みで答えるユイであったが、彼女とは対照的にそれを聞いた九兵衛とリズベットの目の色が変わった。銀時か新八の方へ目線を向けて、率直な感想を声に上げていく。

「アンタ達……まさかユイに偏った知識を教え込んだの?」

「か、偏ってなんかいませんよ! お通ちゃんが宇宙一かわいいのは、事実であることに変わりませんから!」

「そうだよ! 俺の愛読しているジャンプだって、子供達に友情と努力と勝利を教えてくるいわば教科書なんだよ! 何一つ間違っていねぇよ!」

「……まぁ、外野がとやかく言うのもアレだが、後であの二人に怒られても僕らは一斉知らないぞ」

「二人共ユイのことになったら、親バカを通り越すから気を付けなさいよ」

 かたくなに思いを守り続ける銀時と新八であったが、内心はキリトらに怒られることを危惧していた。男子達が意地を張る中で、九兵衛ら女子達は糸目をしたままその本心を読み解いている。大人達のいざこざを知ることなく、ユイは純粋にも鼻歌混じりに今日の出来事を振り返っていた。

「放送コードがなんぼのもんじゃい~始末書差し替え関係ねぇ~」

 歌の意味を知ることなく鼻歌を続けていた。ユイの件はさておいて、万事屋の事情を知ったところでようやく九兵衛達は本題へと移る。

「まぁ、ユイ君のことは置いとくとして……新八君。今日ここにお妙ちゃんはいるか?」

「あっ。姉上に用があったんですね」

「少し話したいことがあってね。今ここにいるのかしら?」

「お妙なら今、道場の方にいた気がするんだが……」

 と妙の居場所を教え込んでいた時であった。

「キャャャャ!!」

 唐突にも彼女の悲鳴が響き渡っていく。妙の身に何かが起こったことは明白である。

「た、妙ちゃん!?」

「まさか、もうストーカーが潜り込んでいたんじゃないの!?」

「と、とにかく僕等も行きましょうよ!」

「そうですね! 急いで行きましょう!」

「分かってら!」

 敷地内にいた五人は、急いで恒道館へと入っていき道場へと進んでいった。一分にも満たない距離を、みな緊迫しながら走っている。特にリズベットは正体すら分かっていないため、より強く緊張感を高めていた。

(お妙さんのストーカー相手……ゴリラのような人って聞いていたけど、一体誰なのよ……)

 妙の無事を祈りながら、ただひたすらに走り続ける。そしてついに入口へと到着して、勢いよく突入していった。

「お妙さん!! 大丈夫――」

 武器であるメイスを片手に持って戦闘準備を万全としたリズベットが、道場で見たのは

「ゴリラが人間様に逆らうんじゃねぇぇぇ!!」

「ギャャャ! 止めてお妙さん!! 苦じぃぃぃ!!」

妙がストーカーを――いや近藤に対して、体を締め付ける光景である。そう彼女は、ここでようやくストーカーの正体が近藤であることに気付いたのだ。正体にも驚いていたが、何よりも妙が優勢的に反撃していることにも衝撃を受けている。

「……九兵衛さん。アレって、もしかして」

「ああ、そうだよ。お妙ちゃんを追いかけ続けるストーカー……近藤勲だよ!」

「……あの人、真選組の局長だよね?」

「そうだよ。今更何を言っているんだ、リズ君?」

「あ。そういうことねー。完全に理解したわー」

 ストーカーと聞いて心配していた気持ちは、一瞬にして打ち砕かれた。ツッコミどころが多くて、もはや放置してしまっている。頭を抱えてやる気がそがれていくリズベットに、共にいた銀時らが声をかけてきた。

「お前の気持ちはよーく分かる。初めて知ったなら、驚いても仕方ねぇよ」

「ていうか、みんなは知っていたの?」

「まぁ、そうですね。キリトさん達も初めて近藤さんと会った時に、同じような衝撃を受けていましたよ」

「そうだったんだ。ハハハ……」

 状況が段々と読み込めても、未だに立ち直れていない。ユイも心配そうに彼女を見ていたが、銀時達の雰囲気を読み取って声をかけてはいなかった。一方で九兵衛の反応は真逆である。獲物に狙いを定めて、早速ゲキタイバーを抜いていた。

「ようやく見つけたぞ、ゴリラ!! リズ君達が打ったこのゲキタイバーで、塵と化すがいい!!」

 勢いよく突進していき、身動きのとれない近藤へ電撃を浴びせようと画策する。しかし、

「フッ」

「何!?」

彼は間一髪でかわした。溜め込んでいた力を発揮して、妙からの拘束を自ら解いたのである。

「なるほど。あの星の護衛刀か。だったら……!」

 さらに彼女にとって予想外の事態が起きてしまう。立ち上がった近藤は対抗するように、腰に携えた刀を抜く。そこに映ったのは、

「な……何!? ボウエイだと!?」

カタカナで「ボウエイ」と書かれていた刀である。近藤もまた九兵衛と同じく、特殊な護衛刀を隠し持っていた。

「フフ……お妙さんを守るために手に入れたのだよ。彼女のナイトになるためにも、邪魔者は全て叩きのめしてやるのさ!」

「貴様……! 意地でも歯向かうならば、返り討ちに合わせてやるぞ!」

「こっちのセリフだ! なんとしてでもお妙さんと……」

「お妙ちゃんとの……」

「「二人っきりの時間は作らせねぇぞぉぉ!!」」

 ついにはお互いの思いがぶつかり合い、とうとう衝突してしまう。九兵衛の持つゲキタイバーと近藤の持つボウエイバー。どちらも同じ性質の刀を振りかざし、所かまわず乱闘を展開する。この隙に妙は新八らの元へと合流している。

「おい、お妙。あの二人の暴走を止めてこいよ。もう一本刀が出てきたら、流石の俺でも処理しきれねぇよ」

「ええー。九ちゃんはともかくとして、近藤さんは止める必要ないでしょ? あのまま電気で痺れさせて、怪我を負わせたいもの」

「アンタはどんだけ黒いんですか! 他人事みたいに軽く言わないでくださいよ!」

 原因を作った妙でさえ、この光景にためらいを見せている。近藤には痛い目を合わせたいばかりに、九兵衛の方を応援する始末であった。呑気な会話を繰り出す中で、リズベットはある思いを心に宿している。

(はぁ……なんで互いに熱中したら止まらなくなるのよ……まさに不毛な争いね)

 感情が入り混じりながら、再び頭を抱えてしまった。彼女自身もどう表現したらいいのか分からず、ただため息を吐くしかない。一方でユイは、別の気配に気が付いていた。

「ただいまアルー!」

「みんなー! 餃子を買ってきたわよー!」

「あっ! ママ達です!」

 聞こえてきたのは、餃子を買いに出かけていた神楽達である。ほんのりとニンニクが香る餃子の匂いも道場まで届いていた。これがきっかけで、銀時達も気付き始める。

「おいおい、マジかよ。本当に餃子を手に入れたのかよ!?」

「やったわね、みんな! 早速神楽ちゃん達を迎いに行きましょう!」

 自然と興味が餃子へと移っていき、匂いにつられて次々と道場を離れていった。最後には新八も跡を追いかけようとする。

「あの、リズさん。後であの二人にも、餃子の件を伝えておいてくださいね」

「わ、分かったわ……」

 そう声をかけて彼も去ってしまう。道場にはうなだれるリズベットと、未だに戦いを続ける九兵衛と近藤の三人しか残っていない。いつまで経っても決着すらつかないので、仕方なく彼女は強制的に止めることにする。

「はぁ……こうなったら、やるしかないのね」

 三度大きいため息を吐くと、意を決してリズベットは大声を放ってきた。

「あのー! 乱闘終わったら、餃子あるから冷めない内に来なさいよ!」

「餃子だと!? お妙さんと一緒につつきあえるのか!?」

「ならば一層負ける気はしない! 妙ちゃんと餃子をつつきあうのは、この僕だぁぁぁ!」

 しかし情報を聞き間違えてしまい、対立を深める結果となる。止めるきっかけすら作れず、もどかしい気持ちから、ついにリズベットの我慢がついに限界を迎えた。

「……だ~か~ら……不毛な争いは辞めなさい!! このクソ真面目共がぁぁぁぁー!!」

 出来る限り声を思いっきり張って、怒りを込めた叫びが道場中に響き渡っていく。滅多には見せない彼女の激高に気付き、ようやく九兵衛らの戦いは中断される。

「リ、リズ君……?」

「はぁ……あ」

 大声を出しすぎたせいで、ついに声が枯れてしまう。リズベットの思いが届き一件落着――かに思われたが、別の問題が発生していた。

「リ、リズ?」

「ハッ!?」

 ふと我に返り聞こえてきたのは、キリトの声である。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには帰ってきたキリトらの姿が見えた。みな彼女の叫び声に気付いており、思わず愕然としている。何が起こったのかすぐに察していた。

「キ、キリト……?」

「一体何があったんだ……?」

 友人に恥ずかしい姿を見られて、急に顔が赤くなってしまう。良くも悪くも今日のリズベットは、九兵衛に振り回されっぱなしである。その後彼女は必死に説得して、誤解は解けたようだ。

 




 元ネタはライド〇ルセイバー――ではなく、ライドヘイセイバーです。分かる人には、分かるはず! 平成もあと数十日で終わるのか……




次回予告
シノン「私達に頼み事って一体何なの?」
あやめ「アレが絡んでいるのよ! 厄介だから人手が必要なの!」
月詠 「主がストーカー以外に熱意を持つとは……珍しいな」
シノン「そうね」
あやめ「アンタ達、私をどういう目で見ていたのよ!?」
月詠 「次回、新戦力は早く使えじゃ」


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第二十三訓 新戦力は早く使え

シノンと月詠とさっちゃん。この三人の共通点を改めて考えていますが、中々揃いません。さっちゃんが場違いすぎると思われがちですが、彼女はこの三人におけるボケ担当として役目を担っています。いわゆる大人の事情です。


「ご利用ありがとうございました。またの来店をお待ちしています!」

 慣れてきた接客をこなして、シノンは元気よく客へ礼を伝える。最初は上手くできなかった接客も、日を重ねるにつれてしっかりとこなせるようになっていた。

 この世界へ来てから早数週間。おもに吉原で活動しているシノンは、仲間達と同じく充実した日々を過ごしている。普段は百華の一員として戦闘訓練や自警に取り組み、ある時には仲間と入れ替わりで日輪の店を手伝っていた。日々努力を重ねている彼女に、見守っていた月詠も感心している。

「シノン。主もだいぶ仕事が上手くなってきたな」

「月姉さん……もちろんよ。この店で暮らしている身だから、お礼位はちゃんと返さないといけないからね」

「フッ……主はやっぱり、責任感が強いな」

 そう言うと二人は、表情豊かに微笑んでいた。月詠とシノンは出会った時からすでに意気投合しており、暮らし始めてからは姉妹のような仲を築いている。強い信頼の元で彼女達は繋がっていた。そんな中、月詠には一つだけ気にかけていることがある。

「そういえば、弓矢の方は大丈夫か? ちゃんと使いこなせているのか?」

「ああ、これね。もちろん使いこなしているわよ。百華のみなさんが作った弓矢だもの。頑丈で性能が良いのは、言われなくても分かっているわ!」

「そうか、それならば良かった」

 自信を込めた答えを聞き、ひとまず安心していた。彼女が気にしていたのは、シノンの主要武器である弓矢についてである。遠距離戦が得意なシノンは主に弓を使って戦うが、基礎ともいえる弓矢は現在百華の女性達が作り上げていた。頑丈で性能も良いため、彼女自身も百華製の弓矢には満足している。ちなみに弓矢の中には、変わった効果を持つ矢も装備していた。すると早速、その出番が回ってくる。

「ん? これはまさか……」

「どうしたんじゃ、シノン?」

「ちょっと気付いたことがあってね……少し待ってて」

 怪しい気配に気づき、シノンは壁に立てかけていた大型の弓を手に取った。弓矢箱から吸盤の付いた弓矢を取り出して、すかさず射貫く準備へと移る。集中力を高めていき、狙いを定めると――

「……見つけた。行くわよ!」

すぐに気配を把握して弓矢を発射させた。向かい側にある店の路地裏に狙いを付けて命中すると、ある異変が起き始める。

「ぎゃゃゃー!!」

「この声は……」

「やっぱりあの人ね……」

 聞こえてきたのは濁った女性の悲鳴。シノンや月詠には聞き覚えがあり、すぐに正体を察していた。すると壁紙が剥がれ落ち、そこからある女性が転がり込んでくる。

「急に何するのよ!! びっくりするじゃない!!」

「それはこっちの台詞よ! あやめさん!」

 取り乱した声と激しい表情で姿を露わにしたのは、二人の知り合いでもある猿飛あやめだった。正体を晒しても彼女は一段と取り乱している。

「何じゃ猿飛か。心配して損したのう」

「露骨にがっかりするんじゃないわよ!! ツッキーどころかシノンちゃんまで同じ表情しないでくれる!?」

「だって、どうせまた銀さんの事を追いかけていたんでしょ? 言われなくても分かっているわよ」

 苦い表情のまま接する二人に、あやめのツッコミも止まらなかった。シノンさえも彼女のストーカー事情をだいぶ理解しているので、扱いには慣れた方である。呆れていた二人であったが、それでもいつも通りのあやめのテンションには安心感を覚えていた。そんな中、今度はあやめの方から話が交わされる。

「勝手に決めつけないでちょうだいよ! 今日の私は始末屋モードなのよ! アナタ達にも協力してほしくて、ここまで来たんだから!」

「始末屋……あっ! そういえばあやめさんの仕事だったんだっけ」

 意気揚々とストーカー行為を否定し、要件を伝えてきた。あやめ曰く、今日は仕事として二人を訪ねたようである。シノンはすっかり本職を忘れていたが。その言葉には月詠も気になって、彼女の方へ耳を傾けていく。

「主が仕事の依頼で来るのは珍しいな。それで一体何が起こったんじゃ」

「少しばかり吉原にも関わっていることよ。シノンちゃんは知らないと思うけど、話を進めるわね。愛染香って薬……ツッキーなら知っているわよね?」

「何!? なぜ主がその名を……」

「裏ルートで手に入れた情報よ。出来ればついてきてほしいけど、大丈夫かしら?」

 今まで冷静に接していた月詠でさえ、あやめの言葉には引っかかり動揺を広げていた。もちろんシノンは愛染香について聞き覚えが無く、何に驚いているのかも分かっていない。

「えっと、一体何が起こっているの? 月姉さん? 愛染香っていうのは一体……」

「……シノン。話せば長くなることじゃ。ひとまずは準備をしなければ……」

「準備!? そこまで大事なことなの?」

 真剣な表情となった月詠を見ても、何が起こっているのかさっぱりであった。こうして彼女達の波乱な一日が、幕を開いたのである。

 

 数分後。ひのやの仕事を午後の担当であるリーファに交代したところで、あやめ、月詠、シノンの三人は一度吉原を出て、江戸に近い住宅街まで足を進めている。あやめからの情報によると、その近くに手がかりがあるらしい。みな武器を装備して緊張感に包まれる中、詳しい事情や出来事について話し合っていた。まずはシノンが根本である愛染香について月詠へ聞いている。

「それで月姉さん。愛染香っていうのは……」

「ああ、まずはそっからじゃな。愛染香っていうのは、吉原で禁止されていた薬の名前じゃ。嗅ぐだけで人を興奮状態に陥れて、場にいる相手に恋愛感情を抱かせる……変わった効力を持った薬なんじゃ」

「まるで惚れ薬みたいね……」

 元の世界には存在すらしない独自の効力を知って、彼女は静かに驚いていた。

(相手を惚れさせる薬なんて……月姉さん達が神妙な表情になっていたのも理由が付くわ。そんな薬が蔓延したら、大変なのは目に見えているもの)

 怪しい予感しか察しておらず、心の中では事態の深刻性を理解する。しかし、同じく興味も沸いており、不本意ながらある想像を頭に浮かべてしまう。

(いや、待って……もし薬を手に入れたら、キリトも影響を受けるわよね? そうすれば……って、何考えているのよ!! これじゃまったく意味がないのに、なんで頭の中で思い付いちゃうのよ!!)

 愛染香で一時的に惚れたキリトの姿を想像してしまい、シノンは我に返って後悔を始めていた。心の中で一人ツッコミを繰り出し、気持ちを落ち着かせようとする。表情も赤くなり、彼女は大きく動揺していた。

「ん? どうしたのよ、シノンちゃん? なんか赤くなっているわよ」

「気分でも悪いのか?」

「はっ! いや、なんでもないのよ……」

 あやめや月詠からも心配をかけられて、シノンは静かに心を落ち着かせる。一応大事には至らずに済んでいた。一方で月詠は、あやめの方からさらなる情報を聞き出そうとする。

「そういえば、猿飛。愛染香について何があったのか、詳しく教えてくれないか?」

「もちろんよ。愛染香は結局全て消滅したはずなんだけど、そのかけらを元忍者が集めていると情報が入ってきたのよ」

「何じゃと……まだ残っておったのか。それに忍者となると、もしや主の知り合いなのか?」

「いいや違うわ。少なく見ても、私の知り合いではないわね」

 珍しくもあやめは真面目に話を進めていく。彼女によると愛染香を集めている犯人は、あやめと同じ忍者の経歴を持つ者のようだ。あくまで知り合いではないようだが――

「でもね……まだ分からないけど、怪しい人物が一人思い浮かんでいるのよ」

「えっ!? それ本当なの、あやめさん?」

「噂通りならね。保証は出来ないけど」

どうやら一人だけ思い当たる節があるようだ。思ってもいない展開に、シノンや月詠は再びあやめへと注目する。

「それでもよい。主が特定した名を、わっち達に教えてくれぬか?」

「わ、分かったわ。それはね……」

 月詠に促されて説明しようとした時である。タイミング悪く、ある知り合いが三人の元まで駆け寄ってきた。

「うぎゃゃゃゃ!! 助けてアルゥゥ!!」

「って神楽!? 急にどうしたの……?」

 叫び声を上げながらやって来たのは、万事屋に所属する神楽である。何者かから必死に逃げており、迫真の表情から緊迫感を漂わせていた。すると彼女は、涙ながらに自分の身に起きた出来事を話し始める。

「アッスーが……アッスーがぶっ壊れて……」

「アスナが? 一体何が起こったっていうんじゃ!?」

 とアスナについて伝えようとした時であった。

「神楽ちゃ~ん!!」

「ギャャャ!!」

 噂されていたアスナが神楽へと突進し、人目を気にせずに抱きついてくる。その瞬間、神楽は恐怖に満ちた表情を浮かべ、対照的にアスナは幸せそうな笑顔を見せていた。すると二人の間で、早速会話が交わされる。

「ひどいよ、神楽ちゃん! 私は本気なのに何で逃げたりなんかするの~?」

「だっていつものアッスーじゃないからネ! 正直気持ち悪いアル!!」

「って、そんな風に言っても私が好きなんでしょ? ツンデレ神楽ちゃんも可愛いー!!」

「人の話を聞けアル!!」

 とろけそうな笑顔のまま攻め立てるアスナに、神楽もタジタジになって反抗できない。一方でシノンら三人は、キャラ崩壊したアスナの姿を見てただ愕然としている。一連の流れからアスナだけに異変が起こったのは明白で、ひとまずは彼女に質問を仕掛けることにした。

「ア、アスナ? 一体何をしているのよ?」

 引き気味にシノンが聞くと、アスナは声を高ぶらせながら返答してくる。

「あっ、シノノン! ちょうど良かったわ! 実は伝えたいことがあって……今日から神楽ちゃんを私の愛人に決めたのよ!!」

「……はぁ!?」

 思ってもいない答えを聞き、シノンらの困惑はさらに広がった。友人である神楽を愛人にするなど、常軌を逸しており何も言い返せないのである。ツッコミをしたい気分を抑え込み、今は彼女からさらなる情報を聞き出すために様子を伺っていく。

「愛人じゃと? 一体どういうことじゃ!?」

「それはね……神楽ちゃんの魅力に気付いちゃったのよ! 神楽ちゃんを見ていたら急に鼓動が止まらなくなって……友情だけじゃなくて愛情も高めたくなったの!! でも私にはキリト君がいるから、恋仲になることは不可能……だったらもう愛人にしちゃおうって考えに至ったわけ! ねぇ、理解できるでしょ?」

「ごめんアスナ。何一つ共感できないわ……」

 長々と語ったが、シノンからは冷たくも正論で返された。急変した彼女の姿を見て、どう対応したらいいのか分からないのである。一方でアスナの勢いは衰えず、未だに神楽をがっちり掴んで離そうとしない。もがいている神楽に、今度はあやめが質問を交わす。

「と言うか神楽ちゃん!? そもそもアスナちゃんの身に何が起こったのよ!?」

「私にも分からないアル! でもアッスーと歩いていたら、急に水風船が飛んできて破裂してきたネ! その水を浴びて、アッスーがおかしくなったアル!」

「水風船? やっぱりまさか……」

 彼女からの証言を聞き、あやめは自らの考えを当てはめる。アスナを急変させたという水風船に心当たりがあるようだ。一方でアスナの暴走は未だに続いており、ついには神楽を下へと抑え込んで感情のままに叫び始めている。

「さぁ、神楽ちゃん!! 私と一緒に大人の階段を上りましょう!! 経験したことがない世界まで、連れてってあげるわよ~!!」

「ギャャャ!! アッスーに侵されるアル~!! 年齢制限がかかりそうなくらい、ヤバい状況ネ!! 助けてぇぇぇ!!」

 拘束を強めてきたアスナに、神楽は身の危険を察してひたすら救援を求めている。もはや耐えることは出来ず、彼女の我慢も限界に近づいていた。

「って、神楽にアスナ!? どこまで進んでいるのよ!」

「アンタ!! 私よりも早くデビューするんじゃないわよ!!」

「どこに怒っているんじゃ!! それよりも止めないと、大変なことになるぞ! 早く二人を離れさせるんじゃ!!」

 これ以上はアスナを野放しにすることは出来ず、シノンら三人は否が応でも引き離そうと躍起になっている。とそんな時――

「……ん? 風船?」

シノンの真横を正体不明の風船が横切っていた。まるで弾丸が発射されたような速度で通りすがった風船は神楽まで向かっていくと、

「うわぁ!? 何かかかったネ!!」

「って、神楽!? 大丈夫か!?」

不運にも破裂して中に入っていた水をかけられてしまう。そう、これは先ほど神楽が伝えていた怪しげな風船に間違いなかった。

「あやめさん。これって……」

「恐らくアスナちゃんと同じ状況よ。このままいけば恐らく……」

 あやめ達もこの後起こるべきことを悟り始めている。もし効果が同じならば、神楽もアスナと同じく暴走の危険性があった。事態の先読みをして、混乱を避けるためにも神楽へ呼びかけていく。

「ダメよ神楽ちゃん!! 目を開いたら大変なことになるわよ!! 否が応でも閉じてなさい!!」

「いいや、神楽ちゃん。しっかりと目を開きなさい……私と一緒に一つになろうよ!!」

 必死なあやめとは対照的に、アスナは悪魔のささやきのように目を開くように促してくる。その表情も一斉笑みを崩しておらず、周りからは不気味な印象を与えていた。神楽は答えに戸惑い、目を瞑りながら混乱状態に陥っている。混沌を極める場に、さらに拍車をかける人物が介入してきた。

「おいてめぇら。公の場で夜這いするとは勇気がありやすね。そういうことはラブホでやってこい、バカチャイナ」

 聞こえてきたのは、江戸っ子口調で話す気だるい男性の声である。神楽とは深い因縁のある人物であり、彼女は聞き取った瞬間に怒りをこみ上げていた。そして、

「……うるせぇぇぇぇ!! こっちは被害者ネ!! バカにする暇があるなら、警察らしく助けろアル!! ドS!!」

いつもの癖でつい大声で反抗してしまう。勢い余ってつい目を開いてしまい、神楽は思いっきり彼を見てしまった。そこにいたのは――

「はぁ? 何言っているんでい? 逆ギレするなんてみっともねぇですよ」

苦い顔でかったるく話す沖田総悟である。神楽とは壊滅的に仲が悪く、目を合わせれば喧嘩するほどお互いを忌み嫌っていた。現に今回も喧嘩腰で二人は接している。

「てめぇに言われたくないネ! お前なんて私の手にかかればギタギタに……」

 ところが、神楽は会話の最中にある異変を感じとっていた。急に黙り込んでしまい、心を大きく動揺させている。

(アレ……なんで言葉が出ないアルか……急にこのドSを見ていたら、息が苦しいアル……なんで?)

 頬を赤らめていき、年相応ともいえる恥ずかしい仕草を見せていた。彼女の乙女らしい行動を見て、シノンらは数分前の水風船との因果関係を結び付けている。

「アレって……やっぱりあの水風船に、愛染香が入っているの?」

「恐らくそのようじゃな。アスナも神楽も、最初に目にした相手に好意を抱いているからな」

「でも、かなりややこしい事になってきたわね」

 彼女達は水風船の中身に愛染香が入っていることを確信した。二人の恋愛感情に似た行為が、曖昧だった仮説を立証したとも言える。しかし、場は一斉解決の糸口すら見つかっていない。アスナは神楽に好意を抱き、神楽は沖田に好意を抱いている。ドラマさながらの愛憎劇が引き起こされそうとしていた。

「おい、チャイナ。一体どうした? 生理でも来たのか?」

「ち、違うわよ!! 少し恥ずかしがっているだけよ!!」

「はぁ? 何片言じゃなくなってんだよ。気持ち悪いから、さっさと元に戻せ」

「いやよ! 総君は黙っててよ!」

「総君……? こいつ、頭でも打ったのか?」

 沖田は平然と毒舌を交えて話すが、神楽は高いテンションや可愛い声を用いて彼と接している。彼女の人を変えたような態度に、沖田の調子も徐々に下がっていき内心めんどくさく思っていた。ため息を吐く中、さらにめんどうな人物が二人の間に割り込んでくる。

「ちょっと沖田さん!! 私の神楽ちゃんを横取りしないでくれる!? しっかりと場をわきまえてちょうだいよ!」

「だから違ぇよ。てめぇまでどうした? チャイナのバカが移ったのか?」

「私はバカじゃないよ! 神楽ちゃんへの愛が止まらないだけだよー!」

「なんでこいつまで、めんどうになっているんだよ……」

 嫉妬を露わにするアスナが、沖田へと必死に抗議をしてきた。頬っぺたを膨らませて、目を細くしながら睨みを利かしている。場はより乱れており、収集不可能だと確信した彼はある行動へと移していた。

「はぁ……こうなったら逃げるか。相手にしない方が一番の方法だな」

「って、総君!? 逃げないで! 待ってよ~!!」

「神楽ちゃん!? 私だけを見てよ~!! ねぇーってば!!」

 こっそりと脱出して、一目散に逃亡を試みる。沖田が逃げた跡を神楽が追いかけて、また彼女の跡をアスナが叫びながら追いかけていく。被害者とはいえ女子二人の起こした騒動は、追いかけっこという形で一時的に幕を下ろしていた。

「……な、何だったのアレ。三人共、結局大丈夫なのよね?」

「まぁ、そこに関しては信じるしかないじゃろ。あの程度であれば、数時間も経てば元に戻るからな」

「今すぐ戻って欲しいわよ……あの二人絶対立ち直れなくなるわよ」

 一部始終を見ていた三人も、一連の出来事には困惑を隠せずにいる。特にシノンは、元に戻った時のアスナと神楽のことが気がかりで仕方がなかった。だがこれで、愛染香についての行方はかなり近づいている。再び確信に迫ろうとした時であった。とうとう犯人の魔の手が、彼女達にも迫っていく。

「って、月姉さん! あやめさん! また水風船が来てるわよ!」

「何!? わっちらが狙われたということか!?」

「ひとまず逃げないとさっきのアスナちゃん達みたいになるわよ! 急いで逃げるわよ!」

 不覚にも勘付かれたのか、先ほど飛んできた水風船がより勢いをつけて三人の身に襲いかかろうとしていた。危機を察しながら水風船を避けていき、彼女達は思うままに逃げ始めている。南西方向へと進む中、運よくも隠れ場所として最適な廃工場を発見した。

「ねぇ、月姉さんにあやめさん! あの廃工場に逃げ込むわよ!」

「分かったわ!」

「了解じゃ!」

 シノンはすかさず月詠やあやめへ伝えてくる。彼女達はすぐに駆け込んで、入り口近くの鉄壁へと身を潜めた。ちょうど水風船も入ってこないため、まずは一つの危機は回避される。その間にもまずはお互いの無事を確認していた。

「猿飛……シノン……主らは大丈夫か?」

「ええ、なんとかね……水風船にも当たっていないし」

「私もよ。どうにか逃げ切れたみたいね……」

 幸運にもみな水風船の影響は受けていない。犯人からの攻撃が収まったのはいいが、辺りには不気味な静けさが漂っていた。予断を許さない状況が続く中、シノンは隙間の穴から犯人の居場所を捜索する。警戒心を震わせながら捜していると、向かい側のビルからある人影を発見した。

「ねぇ。犯人って、あの人じゃないの?」

「あの人? 微かに見える人影のことか?」

 月詠らも気になり順々に確認している。しかしビルとの距離は長く、肉眼で姿を見るのは不可能に近い。そこであやめは、密かに持っていた双眼鏡を取り出して、犯人の姿を確認することにした。そこで見えたのは、彼女の予想通りの光景である。

「やっぱり……あいつなのね」

「あいつ? もしかして、さっき言っていた元忍者のこと?」

「そうよ。水風船を使うから怪しいと思っていたけど、まさか当たりだったなんて信じがたいわ……」

 神妙な面持ちであやめが口に出したのは、犯人の正体であった。この前にも色々と怪しい点が見つかっていたので、彼女にとっては想定内の結果である。すると月詠は、再びあやめへと質問を交わしてきた。

「なるほど……それで猿飛。その犯人について、再び詳しく教えてくれないか?」

「わかったわ。でも奴のことは名前しか知らないのよ。私とは違ったベクトルで、存在感を見せる元忍者……その名は水風船使いの百合ノ薫よ!」

「百合ノ薫……? 忍者系で、そんな名前の人いたかしら?」

「そこは気にしないで。所詮一回限りのゲストキャラだから、そこまで作者も作りこんでいないのよ」

「どういうメタ発言じゃ……」

 さり気なく出たメタ発言に、月詠は呆れながらツッコミを加えた。シノンの素朴な疑問は、結局理解できずに終わってしまう。そこは気にせずに彼女達は、あやめへの質問を続ける。

「それで百合ノ薫は、一体どういう人なの?」

「奴はね風船や水を用いて多くの悪人を始末してきたエリート……だったんだけど、独自の趣味によって現在は休業中と聞いていたわ」

「趣味……? 嫌な予感しかしないが、一応聞いてみていいか?」

 急に言葉を溜め始めて、月詠は嫌な予感を薄々と察していた。そして彼女は勢いを込めて、薫の秘密を言い放つ。

「奴は名前の通り……百合が大好きなの! つまり、女の子同士のイチャイチャに興奮を覚えるド変態の忍者なのよ!」

 爆弾発言が如く叫び散らかしたあやめからの暴露。この秘密を聞き入れた月詠やシノンは、驚くどこかむしろ呆れている。気持ちまでも萎えていき、反論する気持ちまで失せてしまったところで、

「……月姉さん。一旦吉原に帰ってもいいわよね」

「わっちも帰る予定じゃ。途中でシュークリームでもお土産に買うか?」

「いいわね。ちょうど甘いモノが食べたかったのよ」

何事も無かったかのように場を去り始めた。

「って、待ちなさいぃぃぃ!! 二人揃って仕事を放棄するの!? アンタ達って、そんな性格じゃなかったでしょぉぉ!?」

 当然あやめにとっては予想外の行動だったので、すぐに彼女達を止めようとする。しかし二人には、立ち去るだけの理由が十分にあった。

「だって、もっと大惨事になっていると思っていたもの。忍者まで絡んできて責任も大きくなっていたのに……蓋を開けてみれば百合って何よ。心配して損したわ」

「左に同じくじゃ。愛染香と聞き感染を心配していたが、この程度なら大丈夫じゃ。いずれ収まるから、心配せんでもいいぞ」

「なんでこうも嫌そうに接するのよ! 規模や目的が下がった時点で、テンションも比例して下げるのやめてもらえるかしら!」

 あやめの真剣な佇まいから大仕事を任せられたと思いきや、犯人の目的がただの愉快犯だと聞いてやる気をなくしたようである。彼女の熱意とは真逆に、二人の心境は冷めていくばかりであった。

「いずれにしても、ただの愉快犯でしょ? 時間が経てば真選組とかが駆けつけるから、私達がそこまで肩入れしなくてもいいんじゃないの?」

「そうだとしても……折角ここまで来たんだから、一気に捕まえましょうよ! シノンちゃんの仲間も、もしかしたら被害を受けるかもしれないのよ! だからお願い! ここまで来たら、最後まで一緒に手伝ってちょうだい~!!」

 どんなに説得してもあやめは、引き下がりたくないらしく続けて協力を要請する。珍しくも頭を下げて、その気持ちを伝えてきた。紆余曲折したものの、最後まで彼女は犯人を捕まえたいらしい。その熱意に負けて、月詠やシノンも徐々にやる気を戻していく。

「どうする、月姉さん?」

「……まぁ、そんな時間はかからんじゃろうな。シュークリームのおごりで手を打とうか」

「そうね。あやめさん! 大目に見てあげるから、私達も改めて手伝うわよ!」

 取引を提案して、二人は改めてあやめに協力することを決めた。これを聞いた彼女は気付かれないように微笑むと、すぐにテンションを戻し始める。

「アンタ達……やっぱり頼んで良かったわ! これなら簡単に愛染――じゃなくて、犯人も捕まえることもできるわ! さっすがー!」

「……あやめさん?」

「途中言い直さなかったか?」

 突然にも飛び出た意味深な言葉を聞き、シノンや月詠は疑問を覚えていた。それでも三人は、犯人を捕まえるために思いを一つにしている。狙うは向かい側のビルの屋上に隠れる薫。効率よく捕まえるためにも、シノンはある作戦を立て始めていく。

「さて……作戦なんだけど、私にいい考えがあるわ」

「シノンちゃん? もう思いついたの?」

「ええ、そうよ。まずはね――」

 作戦を勘付かれないようにと、シノンはひそひそと小言で二人に作戦を伝えてくる。その内容は大きな賭けでもあったが、上手くいけば効率よく仕留めることが可能だ。一同はこの作戦に賛同して、早速行動へと移していく。一方で屋上にいる薫は、特製の水風船を構えながら未だに隠れているシノンらへ狙いを定めていた。

「まだか……」

 その姿は全身白の忍者服に包まれており、一見ビルと同化しているようにも見える。一斉に気を引き締めていた時、ようやくチャンスが訪れていく。

「……いた」

 見つけたのは、廃工場から逃げ出そうとする月詠とあやめの姿である。周到に追いかけていた甲斐を感じて、薫は次々と水風船を連続投下していく。

「さっさと犠牲になれ……」

 小さく呟きながら、狙いを定めた二人を順当に追い詰めていった。しかし熱中するあまり、倉庫に未だに隠れているシノンには気付いていない。そう、これこそがシノン達の作戦でもあった。

「月姉さんとあやめさんが囮をしている隙に、ケリをつけるわよ……!」

 彼女は密かに弓を構えており、水風船を手の持つ薫へと狙いを定めていく。数分前に披露した特殊弓矢を使用して、薫を捕獲する。これが三人で決めた作戦の全貌であった。一回きりで成功させるためにも、シノンは一段と集中して薫の止まる瞬間を伺っている。そして彼女が、熱中するあまり背を向けた時であった。

「今よ! 捕まりなさい!!」

 シノンの弓矢は勢いよく発射される。このまま網が放出して、後は薫を捕獲するだけであった。

「やったわ。これで一件落――」

 とシノンらが作戦の成功を確信していた時、予想外の状況が起きてしまう。

「えっ!? アレは……」

 弓矢が展開したところまでは良かったが、そこから出てきたのは網ではなく黒い球状の塊であった。何事かと思い目で追ってみると、黒い球はそのまま薫まで向かい彼女と接触すると……

〈バッシャャャ!!〉

大量の墨汁を溢れさせて薫を染め上げてしまう。白き姿は漆黒に変えられていき、薫のみならずシノン達でさえも唖然とする爪痕を残してしまった。

「って何やっているのよ、ツッキー!! 網じゃなくて墨汁が出るって、どういうこと!?」

「いや……弓矢の中には、こういったオチが決まるのもあるのじゃよ。きっと……」

「オチすら微妙になっているわよ! さらっと終わらせないでちょうだいよ!!」

 この結果はあやめさえも驚き、月詠へと理由を差し迫っている。一方で月詠は、目線をそらしてどこか複雑な表情を浮かべていた。緊迫感が欠けた場に微妙な空気が流れ込む中、騒動の中心人物であった薫はと言うと、

「うぅ……もう無理……」

低いテンションで捨て台詞を吐いた後にそのまま倒れ込んでしまう。網ではなかったのだが一応効果はあり、偶然にも彼女達は作戦を成功させていた。

「って、二人共!? 薫さん倒れ込んでいるわよ!?」

「なんじゃと!? 墨で倒れたとは、怪我の功名とも言うべきか……」

「そんな呑気なこと言わないで、さっさと屋上に行った方が……」

 功労者とも言えるシノンや月詠も成功を知った瞬間に驚いている。と二人の間で会話は交わされているが、あやめの方でもある動きがあった。

「って、アレ? さっきまでここに猿飛がいなかったか……?」

「そういえば、どこ行ったの?」

 振り向くと既に彼女は二人の元から姿を消している。どこにいるかと辺りを見渡していると、ある高笑いが聞こえ始めていた。

「オーホホホ!! ご苦労様ね! 真面目なお二人さん!」

「この声は……」

「やはり猿飛か……」

 すぐに二人は察しており、共に苦い表情を浮かべている。一方であやめは、すでに薫のいた屋上からとんぼ返りして地上へと戻っていた。その手にはなんと、先ほど薫が使っていた水風船を多く抱えている。

「ありがとうね、アナタ達!! これで私も愛染香を手に入れることが出来たわ! これなら銀さんのハートも鷲掴みで一件落着ね!」

「まさか、猿飛さん……私達の事を利用したの?」

「そう捉えてもらっても結構よ! シノンちゃんには悪いけど、これが私のありのままの姿よ! しっかりと覚えておきなさい!!」

 何と唐突にもあやめは、自らの本当の目的をさらけ出し、声を高ぶらせながら二人に伝えてきた。彼女が執着していたのは、愛染香の入った水風船である。銀時との距離を縮めるためにも、欲しくてたまらなかったようだ。一応彼女は、シノンらにも裏切ったことに謝りを入れたが、二人はそこまでショックを受けていない。

「いや……あやめさんなら、やってもおかしくないと思っていたわ」

「こやつは綺麗にしめることは出来んのか……」

 むしろ想像通りに裏切って、またも呆れ果てる始末である。一方であやめは、気にすることなく水風船を抱えたまま逃げようとしていた。

「それじゃ、またね! お二人さん!! ハッハッ!」

 高揚とした気分のまま、あやめは走り去っていく。忍者としての本気を見せており、早くもシノンらとの距離を遠ざけていた。一方でシノンらもただ黙っているわけにはいかない。

「……どうする月姉さん?」

「そうじゃな。とっておきの弓矢で、オチを付けるか」

「分かったわ。せめて綺麗なまま、騒動を終わらせたいものね」

 月詠の指示の元で、シノンは一つの弓矢を手にする。弓へと引っかけて、走り去っていくあやめに狙いを定めていた。そして、

「私達からの天罰よ。しっかり受け取りなさい!」

その言葉と共に弓矢は発射される。その中身には特殊な火薬が積まれており、対象物に当たるとある仕掛けを繰り出すのだ。弓矢は徐々にあやめとの距離を近づいていき、ついには彼女と接触してしまう。

「えっ? って、ギャャャャ!!」

 その瞬間に大きく発火して、空中には綺麗な花火を作り出していた。その真下では、あやめが破裂した水風船を抱え込みながら道端へと倒れている。天罰と証したお仕置きは、文字通り激しく火花を散らす結末となった。

「ふぅ……これであやめさんも少しは懲りたのかな?」

「いいや。奴の事じゃ。こんなことじゃ懲りぬに決まっている」

「確かにね。それじゃ後のことは真選組に任して、私達は帰りましょうか」

「そうじゃな。途中でシュークリームでも買おうかのう」

「いいわね! みんなのお土産ってことで、買いに行きましょうか」

 一通り役目を終えたシノンと月詠は、二人揃ってお土産のシュークリームを買いに向かっていく。残念ながらあやめの計画は、あと一歩のところで失敗に終わってしまった。

「愛染香が……折角のかけらが……」

 暑さにより蒸発していく水風船を儚く感じながら、あやめは再び倒れ込むのである。ちなみに愛染香のかけらは、そもそも効果が薄いため一時間も経てばすぐに元に戻ってしまう。ということは、

「……アレ? 神楽ちゃん?」

「……えっ? なんでドSを追いかけていたアルか?」

この二人も時間が経ってすぐに戻っていた。

 




オマケ
桂  「突然だがここでアスナ君にサービス問題だ!」
アスナ「えっ!? なんで私!?」
桂  「細かい事は気にするな。さて問題は……俺とアスナ君、リーファ君、銀時、猿飛殿の五人に当てはまる共通点を答えてみろ!」
アスナ「……はい!? そんなバラバラで逆に共通点なんてあるの!? えっと……見た目かな? それとも性格かな……」
桂  「ブブー! 時間切れだ!」
アスナ「早いって! それで結局、五人の共通点って何なの?」
桂  「冷静になれば分かるはずだ。正解は……ピピ〇の担当声優だ!!」
アスナ「……ピ〇美って誰ぇぇぇぇ!?」

 つい思い付きで書いてしまった。だが私は謝らない。ともあれ、石田彰さんと戸松遥さんがあのク〇アニメに出るなんて予想外でした(笑) いいぞもっとやれ!!




 報告
 以前からまだ手直ししていなかった12話~17話を、この度変更していきます。物語の構成はまったく変わっていないので、興味がある方は是非どうぞご覧ください。
 後お気づきの方もいると思いますが、この第二章はメインを順々に変えているので、残す回はリーファ×真選組、クライン×桂小太郎、エギル×スナックお登勢の三回のみです。それが全て終わったら、物語を少しでも進める為に長篇を予定しています。近々明らかにするので、期待していてください。それではまた次回!



次回予告
リーファ「ちょっと! 何でまた私に絡んでくるのよ!?」
沖田  「たまたま飛んでいたからですよ。こっちはあるお方の要望の為に動いているんですから」
リーファ「あるお方って誰!?」
土方  「次回! パラグライダーには気を付けろ」
近藤  「あ~ドキドキするな~!」
リーファ「だから誰よー!!」


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第二十四訓 パラグライダーに気を付けろ

リーファって剣魂の中じゃ、一番不憫な気がする。
・元の世界と違って、キリトと一緒に住めない。
・沖田に目をつけられて、精神的な痛みを受けた。
・彼のせいで、恥ずかしい寝言を仲間達に暴露される。
・お妙さんにも巨乳の件で目をつけられている。
 それでも彼女は現在、平穏な日常を送りつつあります。今のところはね……



「それじゃ九兵衛さん! また明日、よろしくお願いしますね!」

 柳生家での手伝いを終えたリーファは、九兵衛へ別れの言葉を交わす。その後に彼女は、背中へ透明な羽を広げていき空へと飛び去っていった。

「今日は思ったよりも早く終わったな~。どうせなら万事屋にでも寄って、お兄ちゃん達にちょっかいでもかけにいこうかな~!」

 慣れた飛行を続けていき、今後の予定について考えている。普段のリーファは柳生家で仕事をこなしており、余った時間は九兵衛との剣術稽古に励んでいた。しかし今日の柳生家は午後に予定が入っており、午前で仕事を切り上げることになる。そこで出来た時間に、キリトらへ会おうと彼女は企んでいた。

「抜け駆けはダメだけど、この場合は仕方ないよね! こっそり会って、ひっそりと帰ってこよう~!」

 偶然にも韻を合わせて、調子はより高まっていく。久々の再会に妄想を膨らませて、リーファの心には隙が生まれていた。そんな時、反対方向から知り合いが通りすがる。

「あっ、沖田さんだ! こんにちは!」

「うっす」

「こんなところで沖田さんに会うなんて偶然――って、沖田さん!? こんな上空で!?」

 信じられない光景に気付き、思わず目を疑った。集中力が鈍っていたとはいえ、あの姿は間違いなく沖田である。幻覚だと疑って後ろを振り返ると、そこにはいたのは

「アレ? パラグライダー?」

やっぱり沖田であった。パラグライダーに乗り込んでおり、どうやら空を飛んでいたらしい。

しかもその尾翼部分にはバズーカまでも装備されていた。

「ちょうどいいや。おい、デカ乳女。少し手を貸せ」

「えっ? って、キャァァァ!!」

 そして彼はためらいもなく引き金を引き、バズーカから丈夫な網を放出させる。リーファを上空で取り押さえると、そのまま彼女をどこかへと連れ去ってしまった。こうしてリーファの立てた計画は惜しくも崩れてしまう。

 

 一方こちらは真選組が待機している山奥。今回彼らは、ある特別任務を受けてこの場所へとやって来ていた。簡易的なテントで本部を立てて、少数精鋭で連絡を取り合い、場には物々しい空気が漂っている。その人数は三十人と規模もそれなりに多かった。そこにはもちろん近藤と土方もおり、共に緊張感を持って場の指揮を行っている。

「どうだ、総悟の調子は? ちゃんとパラグライダーには乗れているだろうな?」

「あいつなら大丈夫だよ。すっかり乗りこなして、空の散歩に出かけていったからな」

 近藤からの問いに土方が答えていた。

「ハハ! さすが総悟だ! 相変わらずの調子で安心したよ!」

「そうだな……それでどうすんだよ。総悟は良いにしても、もう一方のパラグライダーは破けたみたいじゃねぇか。これじゃ、作戦が台無しだろ」

「確かにな。こういう時に、キリト君達がいてくれたら助かるんだが……」

「あいつらか。強ち間違ってはいねぇな。だがそう上手くはいかないだろ」

 突然起きたトラブルの対処に困り、悩みを打ち明かしている。実は今回真選組は、幕府の依頼でこの任務に携わっていた。その基盤であったパラグライダーが一台故障してしまい、現在窮地に立たされている。代案が見つからず不安を口にするが、さらなる問題が二人にはあった。

「そうだトシ。俺のポケットに入れていた婚約指輪がどこにいったか知らないか?」

「知らねぇよ。ていうか、そもそも結婚する予定じゃないだろ?」

「備えあれば患いなしだよ。いつどんな状況でも、お妙さんと婚約するか分からないだろ?」

「どういうポジティブ思考だよ……それよりも俺の買った高級マヨネーズが丸ごと無くなったんだが、近藤さんは知らないか?」

「いいや、見てないよ。トシのマヨネーズを奪う奴なんて、俺達の仲間にいないと思うぜ」

「総悟以外はな……まぁ、あいつが帰ってきたら問いただしてみるか」

 大事に懐へしまっていた婚約指輪やマヨネーズが紛失し困り果てている。ある程度心当たりがあるようで沖田の帰りを待っていると、すぐに彼は上空から戻ってきた。

「心配ねぇですよ。こちとら代わりを連れて来やしたから」

「おっ! その声は総悟か! 代わりって言うのは――って、えっ!?」

 彼の声を聞きつけた二人が後ろを振り返ると、急に表情が乱れて黙り込んでしまう。そこにいたのは沖田だけではなく、

「ウッス。近くにいた露出妖精を捕まえて来やしたぜ」

「総悟ぉぉぉぉ!? お前何連れてきてんだぁぁ!?」

何故かリーファも連いてきていた。網に捕まり抵抗できないまま、彼女は静かに黙っている。大胆な沖田の行動には、土方らの衝撃も大きかった。一方で彼は、何も悪びれることなく話を再開させる。

「おや? 何を驚いているんでい? ご覧の通りこいつはリーファですよ。もしかして、もう忘れちまったんですかい?」

「いやいや! 覚えているから! 俺達が聞きたいのは、なんでリーファちゃんを連れてきたってことだよ!? しっかり説明してくれって!」

 平然と話す沖田とは違って、近藤や土方は未だに動揺しながら接していた。仕方なく彼も、

一連の流れについて説明しようとした時である。

「説明? そんなの簡単よ! このドS男に拉致されただけなのよ!!」

 急に声を上げたのは、網に捕らわれていたリーファだった。口調も怒りに満ちており、声を震わせて真選組へ伝えてくる。しかし、沖田はそれでも否を認めない。

「あん? 何言ってんだ? 俺はただ任意の元で近づいただけですよ」

「アレのどこが……任意だって言うのよォォォ!!」

 早くも彼女は堪忍袋の緒が切れて、高らかに怒りを露わにする。その瞬間腰に収めていた剣を抜き、覆っていた網を切り裂いていく。罠から抜け出したところで、その剣を沖田へと差し向けてきた。

「フッ、流石柳生家に入っただけはあるな。一応剣術の才能はあるみたいですねぇ……」

「これでも元の世界では剣道を習っていたからね……男相手でも私は容赦しないわよ!」

「面白れぇ……なら一回俺と戦ってみるか? 女だろうと手加減は一斉しねぇよ……」

 目の前にある剣に怯むことなく、沖田はこの状況でも冷静に対応している。むしろ、リーファの強さに興味を持ち本気で戦おうと考え始めていた。その顔つきも高らかに楽しみ、彼女の動揺を一段と広げている。

(やっぱり沖田さんの行動は読めない……このまま戦うしかないってこと?)

 引くに引けない状況となり、表情を固めながら対応に困っていた。二人の喧嘩が始まるのも時間の問題である。

「ト、トシ!? 早く止めないと大変なことになるぞ!?」

「何やってんだよ、あいつは……おい。いい加減にして――」

 見るに見かねた近藤と土方が、二人の争いを止めようと声をかけてきた。とその時、

「お二人共やめてください!! 刀を持って争う前に、話し合ったらどうなんですか!?」

近藤らよりも一早く話しかけた人物が現れる。声が聞こえた方向を向くと、そこには真剣な眼差しで様子を伺っている少女が立っていた。

「えっ? この子は一体……」

 リーファには馴染みのない相手だが、真選組にとっては大きく関わりのある人物である。

「あっ、姫様」

「はぁ? 姫様!?」

 沖田の呟きにいち早く反応した。改めてその少女の姿を凝視してみると、長い黒髪に付けられた煌びやかな髪飾りや、手入れの行き届いている麗しい赤い着物が一段と目立っている。以上の特徴から姫様であると彼女は薄々察し始めていた。

「ま、まさか本当に……姫様なの?」

「そうですよ。こちらにいるのは、第十四代征夷大将軍徳川茂々の妹君……徳川そよ姫なんですよ」

「えっ……えぇぇぇぇ~!?」

 予測が確信へと移り変わり、リーファの注目がそよへ集まる。大きく叫び声を発して、愕然としてしまった。同時に自分の身だしなみにも気をかけて、先ほどまで手にした剣も鞘に戻して緊張した声を発していく。

「えっと、本当に姫様なんですよね!? 私は何をしたら……」

「そんなことはどうでもいいです! それはそうと、アナタ達は仲直りしたんですか!?」

「……はい?」

 意外にもそよが一番気にかけていたのは、沖田とリーファの仲についてであった。その行方を聞くために、ややほっぺを膨らませながらリーファへと迫っている。これには彼女も答えに困ってしまう。

「えっと仲直りって……」

「さっきまでアナタ方がしていた喧嘩のことですよ! しっかりと互いに謝って、仲直りした方が良いと思いますよ!」

「それで沖田さんが謝るわけが……」

 と冗談半分に沖田の方を振り返ってみると、

「どうもすいやせんでした、リーファさん。俺がやりすぎました」

「早!? 沖田さん!? さっきとやってることが真逆すぎるわよ!?」

すでに頭を下げて謝罪を告げている。そよの前ではさすがに対立を長引かせずに、事態を収めようと彼は画策していた。表情では誠意に欠ける部分もあったが、リーファ自身も空気を読んで謝罪を受け入れることにする。

「……でも、私も剣を差し向けたわけだし、今回はお互い様ってことで私は大丈夫よ」

 彼女からの言葉を聞き、沖田は静かにうなずいた。二人の謝罪風景を見て、そよも満足そうな笑みを浮かべ始めている。

「良かったです! お二人が仲直りしてくれて!」

「いや~ほんの些細なことで喧嘩していたんで、姫様が来てくれて助かりやしたよ」

(って、そんなこと微塵も思ってないくせに……)

 そよに話しかけられた沖田は、不自然にもにこやかな笑顔で返答していた。明らかに作り笑いであるが、肝心の彼女には気付かれていない。一方で沖田は心の中で、自らの想いを吐き出していた。

(まぁ、今日は姫様が割り込んで来たのでこれくらいにしときやすよ。今度会ったら、本気の戦いを期待してやすね……)

(ドキ! 絶対悪いこと考えているよ……なんて人に私は目をつけられたのよ……)

 リーファに対して沖田は不敵な笑みを見せつける。これには彼女も危機感を覚えて、聞こえてなくても嫌な予感だけは理解していた。二人の対立は未だに続いたままである。

「と、とりあえず喧嘩は収まったってことで大丈夫だよな、トシ?」

「そうみたいだな……総悟も下手に行動できないからな。天真爛漫な姫様によって、あいつらは助けられたんだよ。きっと……」

 今まで状況を見守っていた近藤や土方も、一触即発を解消してくれたそよには大きい感謝を感じていた。場は緊迫感が薄れていき、徐々に落ち着いた雰囲気へと戻り始めている。

 

 そよが介入してから数分後。リーファがようやく心を落ち着かせたところで、彼女達は改めて自己紹介を交わし始めてきた。

「そういえば、まだ挨拶をしていませんでしたね。沖田さんの紹介通り、私は徳川そよと申します。アナタは何て言うのですか?」

「私はリーファよ。つい最近かぶき町に来たばかりで、今は柳生家で修業しているのよ」

「そうなんですか……可愛くて強いなんて、憧れてしまいます!」

「そ、そんなことないってば! 姫様、褒めすぎだって!!」

 数分前の緊張した態度とは対照的に、リーファはそよとの距離を縮め始めている。羨望の眼差しで見つめられて、彼女は満更でもなく思い始めていた。仲睦まじい光景に、見張っていた近藤ら三人も驚嘆している。

「そよ姫とリーファちゃんがすぐに打ち解け合っている……!?」

「これは予想外だったな。まさかウマが合ったっていうことか?」

「あっち側にも黒髪ロングの幼女がいたから、きっと親近感があるんじゃねぇですかい?」

 口々に思ったことを声に出していた。そよの寛大さのみならず、リーファのコミュニケーション能力の高さも見直し始めている。一方で女子達の会話は、いよいよ本題へと移り変わっていた。

「あっ! そういえば姫様って、この山奥に何か用があってきたの?」

「その通りですよ! 実は今日、念願の空飛ぶじゅうたんに乗せてもらうんです!」

「そ、空飛ぶじゅうたん!?」

「はい! 松平さんっていう長官の方がいるんですけど、その人に頼んでみたらすんなりと通ったんですよ! だから、今からウキウキと心待ちにしているんです!」

 天真爛漫に語るそよであったが、リーファには何一つ意味が伝わっていない。だが周りの状況を見ると薄々ある事に気付き始める。物々しそうに準備を進める真選組を見て、そよのために動いていると推測していた。

「もしかして、今日の真選組の仕事って……」

「そう、姫様の護衛でさぁ。空飛ぶじゅうたんを再現するためにパラグライダーを利用するんですよ。だが一台壊れてしまってねぇ……そこでてめぇを連れて来たってわけだよ」

「って、そんな理由だったの!? だったら回りくどいことせずに、素直に言った方が良かったんじゃないの!?」

 自分が拉致された理由も分かり、リーファは激しいツッコミを沖田に繰り出す。彼女の推測通り、真選組一行はそよの願いを叶えるために山奥まで来て準備をしていた。一見大袈裟にも見えるが、将軍の妹の立場を考えればこの待遇でも納得はできる。リーファはさらにツッコミを入れたい気持ちで一杯になったが、それと同じくある想いも芽生え始めていた。

(そうだったんだ……将軍の妹だけあって、真選組ってなんでもやるのね。色々とあるけど、さっき言っていたパラグライダーが用意できなかったら打ち切られるのかな? もしそうなったら……)

 静かに悩み込みある決意を固め始めている。表情も真剣さを極めており、自ら近藤らへ伝えようとした時であった。

「おい、てめぇらぁ。代わりの案は思い浮かんだんだろうなぁ?」

 突如いかつい男性の声が響き渡ってくる。渋く威圧感があり、リーファ以外の四人はもちろん聞こえた瞬間に正体を察していた。

「この声は……」

「えっ? また知っている人なの?」

「知ってるも何も、俺達にとっての重要人物だよ」

「重要人物って……」

 再び緊迫感に包まれる場に、彼女はたった一人状況を把握できていない。予測を立てる暇もなく、ようやく噂の男性が一行の目の前に現れてきた。

「おいおい……テメェらだけかと思ったら、姫様に天人だと? どういうことか、ちゃんと説明しろやぁ」

「……えっ!?」

 予想を越えた見た目の濃い雰囲気の男性を見て、リーファは数分前と同じく愕然としてしまう。その男性は真選組隊士服に似た制服を着こなし、目元は黒いサングラスを装着している。中年っぽい見た目であり、強面な顔は見る者に恐怖を与えていた。そう、彼の正体は警察庁長官を務める松平片栗虎であるが……リーファにとっては初対面でまだ何者なのかはっきりと理解していない。

「だ、誰この人!? 真選組の幹部か署長なの!?」

 戸惑う彼女を見て、近藤が率先して説明を加える。

「いいやリーファちゃん……あの人はそんな生温い方じゃないんだ。真選組や見廻組……いや、江戸の治安部隊の全てを取り仕切る長官、松平片栗虎公なんだよ」

「って、警察庁長官!? あの人がぁぁぁ!?」

 やっと松平の立場を知って、より一層困惑を強めてしまう。見た目との差に驚きどう表現したらいいのか分からないのである。一方松平は、たった一人知らないリーファについて土方らに問いかけていた。

「おいトシ。あの天人は一体誰なんだ? おめぇの彼女か?」

「違ぇよ。あいつはリーファって言って、最近かぶき町に来た天人だよ。沖田の野郎がたまたま連れてきて、ここに今いるんだよ」

 彼は丁寧な説明でフォローを入れている。実際にリーファは別世界の住人であるが、松平には訳を知られたくないので、見た目から天人だと誤魔化し場を切り上げようとしていた。

「なるほど……要するに沖田の野郎がナンパして捕まえてきた女か。中々あいつもやるじゃねぇかぁ……」

「そういうことじゃないんだよな……」

 しかし松平は勝手に解釈して、沖田に脈がある相手だと勘違いしてしまう。土方も訂正しようとしたが、その真意が伝わっているのかは分かっていない。ちなみに一連の会話は、リーファや沖田にも薄っすらと聞こえている。

「って、なんであの人もすぐにナンパへ結びつけているのよ……」

「仕方ないですよ。とっつあんはせっかちだから、すぐに断定して後は一斉聞いていないんですから」

「そんな……もうこれ以上変な噂を広めないでよ」

 嫌な予感しか察しておらず、面倒なことが起きないように今は祈るしかなかった。それはさておき、松平は早速要件を述べ始める。

「ところでてめぇら。姫様の為に準備は完了したんだろうな? 壊れたパラグライダーの代わりは見つかったんだろうなぁ?」

「いや、それがまだで……」

 恐縮気味に近藤が返答すると、松平は感情のままに怒りを露わにした。

「なんだと? 結局用意できなきゃ、作戦は中止するしかねぇんだぞ。折角お上を喜ばせて良い顔できるはずが台無しじゃねぇかぁ……どう落とし前付けるんだぁ!!」

「いやとっつあん! こんな山奥でパラグライダーが見つかるわけが……」

「だったら飛行ユニットやら重力低減装置やら持ってくるのが常識だろ、ブラァ!!」

「すいません!! だからもう少し時間を――」

「いいや、ダメだ。これ以上待っていたら、姫様の時間が無くなる……悪いがここで中断するしかねぇな」

 勢いに終始押されていた近藤であったが、彼の努力は虚しく松平は冷徹にも作戦の中止を言い渡す。そよの安全や時間の都合が重なってしまい、やむを得ない決断であった。

「そんな……」

 これにはずっと楽しみにしていたそよも、悲しい表情を浮かべている。顔をうつむかせた彼女に、リーファはその心情を悟っていた。

(やっぱり楽しみにしていたんだ……だったら、私に出来ることはこれしかない!)

 するとリーファは、心で固めていた決意を再び思い出していく。顔つきも凛と真剣さを増し、話し合うべき松平に向けて果敢に立ち向かっていった。

「あの……! パラグライダーの代わりに、私が飛んで姫様をサポートしていいかしら?」

「えっ? リーファさん?」

 彼女が伝えたことは作戦の続行である。しかも自ら協力する条件で、そよの気持ちを叶えようとしていた。場にいた全員が予想外の決断に驚嘆し、松平の表情も若干変化している。

「おい、天人の姉ちゃんか? 見た目に反して威勢がいいじゃねぇか。おめぇが作戦に協力するのかぁ?」

「そうよ! 姫様が悲しむ姿なんて見たくないから! 私の羽と飛行技術があれば、きっとパラグライダーの代わりになるわよ! 沖田さんのせいでここまで来たけど、今日くらいは私も協力させてよ! 当然姫様の為だけどね……」

 初対面かつ強面な松平に怯むことなく、彼女は根気強さを見せて自分の意志を貫く。そよの想いを守るためにも躍起になって接していた。

「ふっ……面白い展開になってきたじゃねぇか」

 流れを見守っていた沖田も、リーファの根性を見てつい素直に笑ってしまう。一方で説得された松平はというと、

「ったく、仕方ないな。作戦を変更して、続行させるか。ここまで用意した金も無駄にしたくねぇからな」

彼女の熱意に負けて作戦の継続へと変更した。ようやく想いが実を結び、立役者となったリーファは緊張をほぐして安堵の表情を浮かべている。

「良かった……実現しそうで」

 正直松平への恐怖で心が一杯になっていたので、その我慢も実は限界まで近かった。いずれにしてもそよの想いを守れたことは、大きい成果である。場にいた四人もリーファへと近づき、賞賛をたたえてきた。

「リーファさん!! ありがとうございます! 手伝ってくれるなんて、思いもしませんでした!」

「姫様……別にいいって! これで願いが叶うんだったら!」

 そよは元気よくお礼を交わして、自分なりの感謝を伝える。幸せそうな笑顔を見るだけで、リーファは十分であった。続いて真選組の三人も声をかける。

「とっつあんに挑むとはリーファちゃんも中々やるな!」

「一応姫様にも顔向けできるし、助かったとは言っておく」

「いや~正直びっくりしやしたよ。感謝だけは伝えやすぜ」

 共に彼女を見直していたが、沖田だけは皮肉気味に言ってきた。それでも慣れているので、受け流し笑顔で返す。雰囲気も活気よく戻っていき、準備もいよいよ最終段階へと入った。

「よぉし! 時間までに間に合わせろぉぉ!! 総悟の彼女も参加するんだぁ!! 本気で取り組めぇぇぇ!!」

「だから違うってば!! そんな大声で言わないでって!!」

 松平が受けた勘違いによって、リーファは思わぬ被害を受けることになったが……

 

 時刻は昼を過ぎた頃、ついにそよを安全に飛ばすための準備が全て整った。山全体に隊士達を配置させて、トラブルが起きた時の保険として潜り込ませる。一方でそよの乗るじゅうたんには、右側全体を沖田、左側全体をリーファが担当して、角と自分の体に命綱代わりの丈夫な網を括りつけた。そのままパラグライダーやシルフの羽を使って飛行バランスを保つことで、一行は空飛ぶじゅうたんを再現しようと考えている。

「いいか! てめぇらの判断一つで、姫様をどうにでもできるのだと忘れるなよぉ! 最悪の場合、全員の首が飛ぶかもしれないから気を付けるように……」

「って、松平さん!? いきなり不吉な事を口走らないでよ!」

 耳へと着けたスピーカーから聞こえた松平の注意に、リーファは激しくツッコミを入れた。彼女も頭では分かっているのだが、将軍の妹の命を預かることには重い責任を感じとっている。

「まったく……本当に大丈夫なのかしら?」

「大丈夫でっせ。外部からの侵入はほぼ不可能。天候も良いし、何事もなきゃたった五分で終わりやすよ」

「その五分がとても長いのよ……」

 沖田は何度も護衛などに経験があるため手慣れてはいたが、リーファにとっては初めてが故に半場緊張状態にあった。そんな彼女に対して、じゅうたんに乗っていたそよが元気よく声をかけてくる。

「そんな重く考えないでください、リーファさん! 私もいざという時を考えて、パラシュートを装備しているので、気にすることなくいつも通り飛んで方がいいですよ!」

「そ、そうなのかな……ハハ」

 と苦笑いで返したリーファの心の中は、

(やっぱり心配かも)

全然不安なんて晴れていなかった。いずれにしても、ここまで来ればもう乗り切るしか方法はない。彼女も気を引き締めて意を決した。

「よし! それじゃ行け、てめぇら!」

 土方からの掛け声でようやく作戦が開始される。まずリーファが背中に生やした透明な緑色の羽を広げていき、ゆっくりと空に浮き始めた。同時に沖田もパラグライダーに装備された噴射機から微々たる燃料を放出させて、じゅうたんの飛行バランスを保っていく。お互いに浮遊が安定したところで、

「それじゃ、行きやすよ」

「分かっているわよ!」

心を一つに合わせて空へと向かっていった。速度を上げながらじゅうたんのバランスに気をつかい、飛行機が離陸するように上へと上がっていく。その結果は……予定通りじゅうたんを浮遊させることに成功した。すなわち、そよの思い通りに空を飛べたのである。

「うわ~! これが空の風景ですか! 気持ちよくて、最高ですね!」

「そうでしょ! 風も冷たくて、夏にはぴったりの気持ちよさよね~!」

 初めて体験する大空の風景に、彼女は自然の雄大さを感じていた。青く澄んだ空は宝石のように美しく、照らし続ける太陽は生き物に躍動感を与え続けている。滅多には感じ取れない光景に心を躍らせ続けていた。そよの屈託のない笑顔を見て、リーファも心から満足している。すると、浮遊を始めてから一分も経たないうちにスピーカーから通信が入ってきた。

「おおー! 作戦が成功したのか!! リーファちゃんの方も大丈夫か?」

「ええ、もちろん! 姫様も飛行を楽しんでいるわよ」

「そうか……それならば良かったな、とっつあん」

「いいや、本番はこれからだ。てめぇらは飛びながら、姫様の安全を守れよ。一瞬の隙を見逃さずになぁ……!」

「わ、分かりました……」

 未だに緊迫感の違いが生じている松平によって、リーファは心なしか気も休めていない。そよに気を配りながら、今度は沖田にも話しかけてきた。

「ねぇ、沖田さん! 空を飛んでいる時、どう感じているの?」

「あん? ごみのように小さい人を見て嘲笑っていやすよ」

「……そういうことじゃなくて、もっと具体的に……」

「そんなこと言っていないで、色々警戒してくだせぇよ。前方に障害物が現れたら、どうするんですか?」

 相も変わらずマイペースに話し返答しづらい雰囲気を作り出す。仕方なくリーファも答えを返さずに飛行へと集中する。

「まったく沖田さんってば……そうも簡単にトラブルが起こるわけが――」

 と呑気にも呟いていた時、ある異変が前方で起き始めていた。

「えっ? 何アレ……」

 突如として見えてきたのは、漆黒に束ねられた集団。目を凝らしてよく見てみるとそこには――大量のカラスが群れを成して突進している。彼女の予想とは反して、あっさりと危機は訪れていた。

「あっ……カラス!? ちょっとみんな!! こっちに向かって来ているから、早く対処しないと大変なことになるわよ!?」

 発見するや否や取り乱し、沖田やそよ、さらにスピーカーを通じて土方らにも警告を伝えていく。一段と緊迫感が上がる中、肝心の二人はと言うと

「あっ、姫様。あっちに白鳥を見かけやしたぜ」

「本当ですか! どこにいるのですか?」

「って、話を聞いてぇぇ!! さらっと現実逃避してるんじゃないわよ!!」

横を向いて真実から目をそらしていた。分かりやすい現実逃避である。一方で本部には伝わったらしく、スピーカーから通信が入ってきた。

「おい、みんな聞こえるか! こういう時の為に、総悟のパラグライダーに鳥よけを装備したから、早く使ってくれ!」

「えっ? そうなの?」

 勢いよく近藤が言い放ってきたのは、鳥よけについての情報である。沖田が乗り込むパラグライダーには護衛用として仕掛けが施しているらしい。もちろん彼自身もすでに知っていた。

「そうみたいですねぇ……じゃ、いっちょやりますか」

(そういえば今日会った時も網を放出していたよね……だったら乗り切れるのかも!)

 実は今日にも沖田は、リーファを捕まえる時にバズーカを使用して網を放出させている。これをうまく使えばカラスは危害を加えないのかもしれない。一筋の希望を信じて、沖田はためらいもなくバズーカの引き金を押した。

〈プシュュュ!!〉

「おっと! ……やっと出たか」

 と発射したところまでは良かったのだが……

「って、アレ? 網じゃなくてマヨネーズが出てきた!?」

その中身に問題が発生する。出てきたのは網ではなく大量のマヨネーズであった。何が起こったのか一瞬分からなかったが、土方だけは状況をよく理解し始めている。

「おい、総悟。まさか俺の高級マヨネーズを使ったわけじゃねぇだろうな……」

「あっ、やべ」

「何て言ったてめぇ!? 完全に図星じゃねぇかぁ!! 一体何企んでいたんだよ!!」

 そう、沖田が発射したマヨネーズの正体は、土方が無くしていた高級マヨネーズであった。密かに盗み出しており、事前にバズーカへと仕込みなおしていたのである。マヨネーズを無下に扱われて土方は怒りを露わにしたが、沖田は一斉懲りておらずむしろ煽り始めていた。

「チッ! バレたか……」

「バレたって何だよ! おめぇ地上に戻ってきたら、覚悟しとけよ!!」

「ちょっと沖田さん!? 戻りづらい状況作ってどうすんの!! 一層気まずくなっているわよ!?」

 もはや地上に戻るのも勇気が生じている。土方と沖田の仲が一層悪くなる一方、前方にいたカラスたちはマヨネーズをかけられたことで激しく怒りを見せてきた。

「カァァァァ!!」

「って、こっちに向かっているんだけどぉぉ!? ちょっと沖田さん! 早く網を放出させてよ! 喧嘩なんかしてないで!!」

 リーファが幾ら呼び掛けても、彼は土方との口喧嘩に夢中になっている。前方のカラスになど微塵も興味を示していなかった。絶体絶命の危機に陥る中で、いち早く行動したのは意外な人物である。

「お二人共、大丈夫です! 私の秘策を使って、カラスたちを追い払いましょう!!」

「姫様が!? でも一体どうやって……」

 なんとそよが立ち上がり、一同へ冷静になるよう促してきた。自信ありげな表情でカラスを収める秘策を持ち合わせているらしい。密かな期待を寄せながら、彼女は懐からある物体を見せつけてくる。

「これを使うんです!」

「これって、指輪?」

 手にしていたのは綺麗に輝くピンク色の指輪であった。リーファや沖田には馴染みがなかったが、近藤には深くかかわる物である。

「あっ! その指輪ってまさか、俺の買った婚約指輪じゃ……」

「こ、婚約指輪!?」

 なんと偶然にも彼が落としたという婚約指輪であった。そよは気付かずに拾っており、ここでようやく近藤の所有物であると理解する。

「あっ、そうだったんですか。道端で落ちていたんで、ついさっき拾ったんですよ」

「だったら俺に返してくれ! この指輪には、お妙さんとの未来がかかって……」

 必死にも取り返そうと説得する彼であったが時すでに遅い。

「あっ! カラスが来ちゃいます! こうなったら……ソレ!!」

「ギャャャャ!!」

 自分達の身を守るためにも大切な婚約指輪を軽々しく遠くへと投げ捨ててしまった。しかしこれによりカラスたちの興味が宝石へと移り変わり、多数の群れを引き連れながら宝石の落ちた方向へと進んでいく。どうにか危機だけは逃れることが出来たが――

「指輪がー!! お妙さんの為の婚約指輪がー!!」

「おい総悟!! 今すぐ降りてこい!! みっちり叩き込んでやるからなぁ!!」

「落ち着けてめぇらぁ!! 通信が聞こえないじゃねぇかぁ!!」

地上では悲しみと怒りが交じり合う混沌とした状況を作り出していた。戻ろうにも戻りにくい雰囲気である。こんな結果を生み出したにも関わらず、沖田とそよは平然と会話を再開させた。

「やりましたね姫様。これで俺達カラスに完全勝利しやしたぜ」

「はい! 嬉しい限りです!」

「……何このドSぶり。姫様にもそういう天性が備わっているの……? ていうか、もう戻りたい……」

 元気が有り余るそよと常に悪意をにじませる沖田を見て、リーファは静かにため息を吐いていく。今回彼女は巻き込まれた側であり、一斉否なんて存在しない。地上に戻った時の恐怖に怯えながら、今はひたすら飛ぶしかないのだ。

「誰か私の時間を返して……」

 ひっそりと涙まで浮かべる始末である。




裏話
 実は最初、姫様と将軍のどちらかを出すかで迷っていました。尺を考えた結果前者を選ぶことになりました。将軍の出番は、もっと大舞台ではっちゃけるべきです! というわけで、出番はまだ先になりそうです。

次回予告
クライン 「桂さん!! 俺ってどうやったら、モテるんだよ!?」
桂小太郎 「そうだな……まずはナンパから始めるのが一番だな」
クライン 「ナンパ……ちなみに桂さんは、やったことがあるのか?」
桂小太郎 「いいや、ない」
クライン 「えっ!?」
桂小太郎 「次回! 漢の決断は早めにしとけ!」
エリザベス〔さらに今回はもう一つ、予告があるぞ!〕

特報! 剣魂……ついに、長篇へ突入!

新八 「夢の中?」
たま 「はい。この子の夢には、キリト様達に関わるヒントがきっとあるはずです……」

 事態は突然動き始めた。銀時ら万事屋が出会ったのは、昏睡状態に陥っている少女、千沙。今なお眠り続けている彼女には、ある謎が浮かび上がっている。
神楽 「銀ちゃん! キリ! さっきこの子の寝言で、二人の名が出たアル!」
キリト「何……どういうことだ?」
 夢の中に二人がいる? 疑問に思った謎を解き明かすためにも、万事屋六人はついに夢
へと突入!?
銀時 「困ったときの源外頼みってことだな」
源外 「俺をドラえも〇扱いするんじゃねぇよ!」
 一夜限りの作戦。夢へと入った万事屋が見た光景は、
アスナ「えっ? 私達……?」
懐かしい自分達の昔の姿だった。これらが意味することは……?

キリト「お前が俺ならきっと出来るはずだ!」
銀時 「例え夢の俺でも、手を貸すと最初から思っていたぜ」
 蘇る戦いの記憶……二つの激闘が入り混じった夢世界で、果たして悪夢は解放されるのか?
ユイ 「きっと出来ますよ! ここにいるみなさんが力を合わせれば!」
 そしてついに明らかとなる……サイコギルドの刺客。
キリト「お、お前は……」
?? 「まだ言っていなかったな。私はかつて別世界で暗躍した親玉と言っておこうか……」
 想いは蘇って、新たな真実へといざなっていく……

剣魂 夢幻解放篇 令和元年以降に公開!! 絶賛構成中!!

銀時 「こんなに煽っているけど、期待すんなよ」
神楽 「物語が進むって言っても、またすぐに日常回が始まるから、温かい目で見ろよ」
新八 「って、コラァァァ! いきなり拍子抜けた言葉を言うなぁぁ!」
※構成中の為、上記の台詞が使われない場合があります。ご了承ください。

 というわけで、この度新しい長篇を発表させてもらいました。記念すべき最初ということで、二つの作品の始まりをテーマにしています。原作とはまた違った色合いがありますが、何分コラボを楽しむ作品ですので細かい事は気にしない方が良いと思います。令和以降の投稿を目指して、現在も構成中です。どうにか第二章を平成までには終わらせたい……残り二回まで走り抜けていきます!! ちなみに補足を入れますと、銀魂の初期のころに一回だけ出た夢幻教とは一斉関係はありません。ご了承ください。後以前伝えていたキャラクター紹介も第三章と同時に発表しようと思います。それでは、また次回!!


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第二十五訓 漢の決断は早めにしとけ!

 攘夷党の一員として入ったクラインは、元の世界よりも生き生きとしています。彼だけはむしろ銀魂世界に残した方がいいのでは……?


 江戸にひっそりと佇んでいる一軒の寂れた屋敷。ここには日々討幕の為に暗躍する攘夷党のリーダー桂小太郎と、部下のクラインとエリザベスが隠れ蓑として暮らす場所である。クラインにとっては初めての逃亡生活であるが、彼は何一つ後悔していない。自身の目指す侍に近づくためにと、攘夷志士としての誇りを持ち日夜鍛錬を積み重ねている。そんなクラインは今、桂やエリザベスと向かい合い自らの悩みについて打ち明けていた。

「……そうか。クライン殿がそんなことで悩んでいたとは」

〔意外にも気にしていたのか?〕

「俺にとっては死活問題でな……なぁ、二人共! 何かコツやアドバイスとかを教えてくれないか!?」

 落ち着きを見せる桂らとは異なり、クラインは必死な表情で問いかけてくる。過去に起きたある出来事をきっかけに、彼の心には大きな焦りが生じていた。

 

 時は一週間前へと遡る。この日の桂やクラインは、定期的に行われる攘夷党の集会に参加していた。ちょうどそれを終えたところで、二人は現在の住処へと帰路についている。

「いや~今日の会議は、一段と有意義だったな! 桂さん!」

「フッ……アレくらい当然のことだ。クライン殿もしっかりと見習って、みなに追いつくのだぞ」

「もちろん分かっているよ! だいぶこの世界にも慣れてきたからな!」

 帰り際でも会議の内容について熱く語り合っていた。攘夷志士としてのクラインの上達ぶりも著しく、桂の期待もそれなりに高まっている。侍同士で良い仲を築き上げる中、クラインの目線はある方向へと移り変わっていた。

「おっ!? なぁなぁ、今の女子達可愛くなかったか?」

「そうか? 若い女子にはさほど興味はない。もっと熟していなければ、俺はときめかんぞ」

「って桂さんは、本当熟女が好みなんだな~!」

 彼が話題に上げたのは、一瞬通りすがった振袖姿の女子三人である。可愛い美貌に目移りしてしまい、テンションが上がってしまったようだ。一方で桂は女性への好みが違うからか、冷静さを保って言葉を返している。反応の違いがあるが、これは女性達からの印象にも大きく関係していた。

「ねぇ、さっき通りすがった男の人、めっさかっこよくなかった?」

「わかる~! 凛としていて美しいよね!」

「えっ? まさかこれは……俺の事か!?」

 偶然にも女性ら三人も同じような会話を交わしている。テンションを高めて大声で話しているため、クラインの耳にもすっと聞こえてきた。期待値を上げながらウキウキと、自分の名前が挙がることを楽しみにしていたのだが……

「あ~! 私もああいうロン毛男性と付き合ってみたいな~!」

「えっ……?」

残念にも聞こえてきたのは桂への噂である。どうやら三人共、彼の容姿に男らしさを感じて心を震わせていたようだ。

「それな! 横にいた赤髪のアゴヒゲ男は気に食わなかったけど、あの人は別格よね!」

「正直ジロジロと見てきて、うざったかったもの!」

「下心丸出しだっつーの!」

「「ハハハ!!」」

 それどころか、クラインに対しての評価は散々である。泣きっ面に蜂が如く、文句を吐き出して彼の精神をズタズタに引っ掻き回す。本人にとっては聞きたくもなかった事実であるが、時すでに遅い。期待を裏切られた結果に心を落ち込ませてしまった。

「そ、そんな……」

「ん? どうした、クライン殿? 何かあったのか?」

「いいや……なんでもねぇよ」

 対照的に桂は気にもしておらず、相も変わらないマイペースぶりを見せる。クラインにとってはこの事実を重く受け止めており、立ち直ろうにも時間がかかってしまった。こうして今日までずっと、女性からの印象について深く悩んでいたのである。

 

「それで要するに、クライン殿は女子にモテたいということだな?」

「その通りだよ! もう恥も外聞も関係ねぇよ! だから、教えてくれー! 女子受けのいいコツとかをよ!」

 訳を全て話したクラインは、三度頭を下げて桂達へとお願いした。今後始まるかもしれない恋路の為に、彼は自分の印象や行動を変えようと必死に悩み続けている。桂にも相談して、その本気さは数段と高かった。もちろん二人にもその想いは伝わっており、お馴染みの腕組みをした後に彼は少し考えて、ある策を思いついていた。

「うむ、分かった。クライン殿の要望に応えて、俺がとっておきの方法を教えてやろう!」

「ほ、本当か!?」

「ああ、そうだとも。ひとまずは場所を移動しなければ……連いてきてくれるか?」

「もちろん! 教えてくれるなら、俺はどこまでも連いていくぜ!」

 どうやら場所を移動して取り行うらしい。クラインは一斉疑うことなく、桂の意見へと賛成した。共に立ち上がり外出への準備を始めたが、エリザベスだけは気乗りしておらず今回は住処へと待機することに決めている。

〔いってらっしゃい、二人共。健闘を祈っているぜ〕

「ああ! 必ずいい知らせを持って、帰って来てやるぜ!!」

「エリザベスは留守番を頼むな」

〔任せておけ〕

 外出する二人を見送って、エリザベスは静かに手を振る。一方で桂に連いていったクラインは、これからの展開に存分と期待を寄せていた。

「ところで桂さん? 一体どこへ行こうとしているんだ?」

「そう急かすではない。後の楽しみとして存分に取っておけ」

「は、はい! 分かったぜ!」

 何をするのかは不明であったが、すでにモテている自分を想像しており彼はつい笑みを浮かべていた。早くも思いに浸っているクラインであったが……エリザベスだけは知っている。桂が思い浮かんだという策の全貌を。

〔クラインは恋愛のコツを知る前に、桂さんのコツを掴んだ方がいいな……〕

 辛辣なプラカードを掲げながら、エリザベスは二人の行く末を見守っていた。表情はまったく変わっていないが、心なしか不安そうにも見える。こうして事態は動きだした。

 

 数分後。正午を迎える中、桂とクラインはかぶき町へと姿を現している。天気は快晴で日当たりも良くなっていたが、クラインはまだ今後の展開について把握できていなかった。

「ここは……」

「笑ってよきかなでお馴染みのスタジオオルタ前だ。人通りも多いし、絶好の機会であるな」

「って、桂さん? ここで何をするんだよ?」

 人通りの多いスポットまで来ても、まったく策の全貌を話さない。クラインが不思議に感じていると、急に桂は懐から小型のトライシーバーを取り出して彼へと渡してきた。

「ト、トライシーバー? って、どこに行くんだよ!?」

 何の説明もないままクラインを町中へと置き、桂だけは路地裏へと進み身を潜めている。するとトライシーバーから、彼の通信が聞こえ始めてきた。

「さて、準備は整ったようだな」

「準備って……一体何の?」

 三度質問して、ようやく桂は作戦内容をトライシーバー越しに発表してくる。

「ナンパだ」

「えっ? ナンパ? ま、まさかここでナンパをしろってことなのか!?」

「なんだ。今気づいたのか」

「はぁ!?」

 引っ張った割には、かなり安直な答えが返ってきた。そう。ここまでの前振りは全て、クラインを強制的にナンパさせるための誘導でしかない。本人もやっと状況を理解して、心を大きく動揺させていた。そしてトライシーバー越しに文句をぶつけてくる。

「待ってくれ桂さん!? さすがに急すぎるよ!? 俺何も準備してねぇよ!!」

「そうなのか? だが彼女を作るには手っ取り早い方法だと思うぞ」

「そうかもしれないけど、時と場合によるだろ!? そもそも俺が求めていた答えと違うんだけど!?」

「ああ、そうかもしれないな。だが俺だって考えた結果これしか浮かばなかったんだ。人と言うのは失敗を経験して自らの実力に変えていく……クライン殿にはぴったりであろう」

「って、失敗する前提なのかよ!? 桂さんの言い分は分かったけど、さすがに俺だけじゃ……」

 互いの意見を応酬しあいながら通信会話を続ける二人。桂への強引さには脱帽しながらも、クラインはまだナンパへの決心がついていない。そこで桂も最後の後押しへと移る。

「大丈夫だ、安心しろ。俺もただ来ただけではない。下手に表に出ていれば、幕府の犬共に捕まっておじゃんだからな。幸いクライン殿はまだ目を付けられていない……正々堂々と挑む方が良いぞ。俺も裏方でサポートするからな。では」

「桂さん!? 勝手に通信切らないで!! ちょっと!?」

 陰ながら助言すると約束したうえで、急に通信を遮断してしまった。クラインから呼びかけても反応が無いため、ここからはたった一人でナンパに挑まなくてはならない。なりゆきや偶然で始まったことなので、若干後悔の渦が流れ始めている。

「な、なんてこった……まさかこの世界にでもナンパする羽目になるなんて。でも今回は桂さんが後ろ盾してくれるみたいだし、何とか挑戦だけはしてみるか……」

 それでも無理矢理自分を納得させて、ナンパに挑戦しようと心に決めていた。諦めるのもかっこ悪いと思っていたが故の、ヤケクソじみた行動である。桂も見守って助言をくれるみたいなので、普段と同じ雰囲気で女子と接しようと考えていた。深呼吸をして気持ちを整えた後に、早くも彼に好機が訪れる。

「よし……! じゃまずは、あの子達にしてみるか」

 クラインが発見した女性は、和服を着て楽しそうにおしゃべりする活気のある二人組であった。ちょうど歩きながら移動しており、近づくと同時にまずは強引気味に話しかける。

「おっと、すまねぇ! 君達、今時間は空いているかい?」

 なるべく男前な口調で強さをアピールして、言動もキザっぽく決めた。場の勢いに任して言い放った誘いに女性達の反応はというと、

「ん? おりょうちゃん? 話かけられたけど、これって一体何なん?」

「これはナンパよ。しかも下手過ぎるし、何の捻りもないしロクでもないわね」

「ナンパ!? ウチらナンパされたん!? めっちゃラッキーな事やないの!?」

「って、なんでアンタだけテンションが上がってんの!?」

それぞれ違った反応である。苦い顔で呆れる者もいれば、ナンパされたことに嬉しさを覚え好意的に捉える者もいた。いずれにしても、一組目にして早くも手ごたえのある反応である。

(おっ!? 意外にも上手くいきそう? これは初っ端から当たりを引いたってことか?)

 クライン自身も成功へと近づくことを心待ちにして、次の段階へと入ろうとした。ところが、この女性達はある知り合いと深い親交のある人物である。もちろん桂はこの繋がりをよく知っているので、通信を入れて早速伝えていく。

「おい、クライン殿! あの二人には注意した方が良い! 何をされるか分からないぞ!」

「か、桂さん!? いや、そんなことはねぇよ。少なくとも男をボコボコにするようなタイプじゃないし、このままナンパを成功させるからよーく見てくれよ!」

「そういうことではなくて……後ろだ! 後ろに気を付けるんだ!」

「後ろ? って、どういう――」

 必死に呼びかける桂の言葉が気になって、つい後ろを振り返ってみるとそこには――

「何二人にナンパしてんだぁぁぁ!! このドスケベ野郎がぁぁぁ!!」

「ブホォォォ!!」

思いっきり飛び蹴りを交わす妙の姿が目に入った。当然クラインは避けることが出来ずに、その攻撃をもろに食らってしまう。彼がナンパした女性二人は、妙と共に働くキャバ嬢の同僚であった。気付くことなく誘ってしまい、たまたま見かけた妙の怒りを買ったようである。もちろん彼女はクラインだと分かっていながら、現在もなお制裁を加えていた。別世界の人間だろうと、お構いなしである。

「おい、てめぇ!! 私の同僚をラブ〇に誘うとはいい度胸してんじゃねぇか!!」

「って、お妙さん!? 色々違うから!! さすがの俺でも〇ブホまでは連れて行かねぇって!! つーか俺だから!! クラインだから!!」

「関係ねぇんだよ!! これ以上私の同僚に手を出して見ろ……アバターごと消し炭にしてあげるわよ……」

「何さりげなく怖い事言ってんの!? ちょっとやめて……ギャァァァ!!」

 説得も無駄に終わってしまい、妙はクラインの体を締め付けたと同時に大きく投げつけたことでとどめをさした。彼女ならではの容赦ない攻撃によって、クラインの体力や精神にも大きな打撃を与えている。この光景にナンパされた側の仲間達はというと、

「さすがお妙……もう向かうところ敵なしだわ」

「折角ナンパされたのに……なんか残念やわ」

いつも通りの用心棒ぶりに言葉を詰まらせていた。もう何も言い返せないのである。

「だから注意しろと言ったのに……」

 桂も同じような心境であった。折角のナンパも相手が悪かったことで、最悪の結果を残ってしまう。そして桂はクラインを裏路地へと連れて行き、ひとまずは応急処置で容体を安定させた。

 

「痛ぇ……お妙さんってやっぱり激しい一面を持っているんだな……」

「前にクライン殿も告白したことがあったろ? その件については、どう思うんだ?」

「断ってくれて本当に良かったと思う……」

「だろうな」

 以前にもノリで妙にナンパしたことがあったクラインであったが、昨今では彼女の意外な一面を目の当たりにして過去の自分の好意に後悔を覚えてしまう。一方で彼の傷は徐々に回復はしているが、精神的な傷は癒えておらず、ナンパへの自信はすり減っていた。

「なぁ、桂さん……流石に今回は分が悪くないか? ナンパって言ってもタイミングとかにもよるから、今日は一旦引いた方が身のためじゃないのか?」

「うーん……そうだと困るんだよな。まだ話の半分も進んでないし、何よりオチの段階までいかなければならない……ここで打ち切りは難しいだろうな」

「何の話!? 桂さんの事情は分からないけど、流石に俺の身が持たねぇって! 今日とかじゃなくて、また時間がある時でいいだろ?」

「そう言われてもな……」

 制作側に配慮して深く考える桂に対して、クラインは調子の悪さから今日は身を引こうと提案している。お互いの意見がずれ合う中、またもある知り合いと遭遇することになった。

「ん? 桂にクラインではないか? こんなところで何をしているのだ?」

「この声は……九兵衛さん?」

 聞こえてきたのは特徴的な低い声を持つ女性……。振り返ってみるとそこには、知り合いである九兵衛が立っていたのだが、その容姿にクラインは驚くことになる。

「……えっ? 九兵衛さん?」

 なんと九兵衛の格好は、いつもよりも女性らしい姿であった。落ち着いた野良着から、可愛さを目立たせるゴスロリ風の振袖に。髪型もポニーテールからツインテールへ変更。何の変哲もない眼帯もハート形に変化しており、これらすべてを踏まえて以前よりもキュートさを目立たせる容姿となっていた。劇的なイメージチェンジに、クラインも驚き反動から黙ってしまう。いわゆるギャップ萌えであった。

「ど、どうしたんだよ!? その格好は一体……」

 分かりやすい動揺を見せて質問してみると、九兵衛も恥ずかしがりながら答えを返す。

「ああ、これか。実は今日お妙ちゃんの店を手伝うことになってな……東城の奴が強制的に僕へ着させてきたんだ。まぁ恥ずかしいが、妙ちゃんの為ならば仕方ない。少し変か?」

「はっ! いやいや! むしろ凄い似合っていて、び、びっくりしてるよ!!」

「本当か? いずれにしても有り難い言葉だな。褒めてくれてありがとうな」

 訳を話し終えた九兵衛は、そっと屈託のない笑顔を桂らへと見せつけてきた。この天使のような笑顔には、クラインの心境にも多大なる変革を起こし始めている。

(アレ……九兵衛さんって、こんなに可愛い人だったの!? ここまで乙女のような仕草を見せる人だったの!? なんでこんなにも、鼓動が止まらないんだよ……!?)

 急に顔を真っ赤にして、九兵衛の隠れた魅力に惹かれ始めていた。その瞬間、クラインの心にあった抵抗の鎖は剥がれおち、彼女を一人の女性として認識するようになる。するとその気持ちを悟ってか、桂が静かにクラインの肩へと手を添えた。

「桂さん……」

「クライン殿。もしや君にとっての運命の相手は、九兵衛殿だったのかもしれないな」

「運命の相手……確かにそうかもしれないな!!」

 後押しされたように決意を新たにして、彼は九兵衛の元まで歩きだし遂にナンパへと振り切ろうとする。

(そうだ……今までの仕打ちは全て、この瞬間の為の布石だったんだ! 俺がつい九兵衛さんの魅力に気付かなかったばっかりに、与えられてしまった試練だったのかもしれない……でもそれは過去の話! 魅力に気付いたならば、ナンパをする他はない! 今の俺なら、きっと大丈夫!)

 前までは触れただけで投げ飛ばされてしまい酷い目にあっていたが、魅力を再発見した今、もうあの恐怖なんて存在しない。女性として受け入れるなら、きっと起きないと予測していた。そして……

「あの、九兵衛さん!!」

とうとう話しかけて彼女の手を握りしめる。その結末は、

「うわぁぁぁぁ!! 僕に触るなぁぁぁぁ!!」

「やっぱりかぁぁぁぁ!!」

お馴染みの投げ飛ばし攻撃を受けてしまった。容姿が変わろうと根本はまったく変わっていない。クラインの目も覚めたところで、彼は近くにあった木々の茂みへと不時着してしまう。妙に続いて理不尽な仕打ちをまたも受けてしまった。

「ダメだったか……」

 一筋の可能性を信じていた桂も、これには頭を抱えてしまう始末である。こうして九兵衛へのナンパも失敗に終わってしまった。

 

 数分後。再度応急処置をしてもらったクラインは、三度人通りへと姿を見せている。一方の桂は真選組にバレないようにと、未だに路地裏へ身を潜めていた。気を取り直してナンパと行きたいところだが、立て続けの失敗や仕打ちに脱力感を覚えており、やる気に関してはもう微塵も残っていない。トライシーバー越しの通信でも、その心境は分かりやすかった。

「もういい加減やめようぜ。これ以上ここで待っていても、何も進展しないと思うんだけど……」

「そう諦めるな。もしかすると、また知り合いにばったりと会うかもしれないだろ? そこが狙い目だ」

「といっても、猿飛さんや月詠さんなんて成功する気すらねぇよ! 色々と癖が強いし、とんでもない一面を持っているし……」

 遂には似合わない後ろ向きな言葉まで口に出す始末である。ストーカー加害者でもあるあやめや酒乱の一面を持つ月詠に抵抗心を覚えるのは仕方ないことではあるが……。それでも桂は必死な説得を続けていた。

「ここが踏ん張り時だ。クライン殿が字数を稼いでくれたおかげで、残りも後少ない。オチまで持っていって、一気にとどめを決めるんだ!」

「だからどういうこと!? オチとかドラマじゃあるまいから、そこまで重視する必要は――」

 メタ発言を交えながら話す桂に疑問を覚えながらも、クラインの意志は中々変わろうとしない。このまま状況を鑑みて桂自身も作戦を中断しようと考えていたその時である。

「おい! 何トライシーバーでコソコソと喋っているんだよ?」

 またもある知り合いがクラインを見つけて声をかけてきた。しかしそれは、あまり嬉しいものではない。声を聞いた瞬間に、彼の脳裏には大きな緊張が走っていた。

(ま、まさか……)

 早くも正体を悟っており、恐る恐る後ろへと振り返ってみる。そこにいたのは……

(や、やっぱり土方さんだ!!)

真選組副長の肩書きを持つ土方十四郎である。眼光を鋭くさせながら、こちらをじっと睨みつけていた。現在のクラインにとっては敵対すべき相手であり、土方を見た瞬間から反射的に体を震わせている。

(ヤ、ヤベェ……もしかして俺の肩書きを知って、捕まえに来たのか? だとしたらナンパどころじゃねぇよ! 桂さん助け――って、絶対黙り込んでいるよ……どうすれば?)

 心の中では、絶対に表には出せない言葉を言い放ち、思いを存分に吐き出していた。逮捕への恐れもあったが、何よりも頼れるべき桂もこの状況では手も足も出せない。現にトライシーバーから聞こえるのは、誤魔化しを利かすためのコマーシャル音声である。

「こだまでしょうか? いいえ誰でも。OC~!」

(桂さん!? 聞いたことあるCMで誤魔化さないで! むしろバレるから!)

 心でツッコミを交わしながらも、緊張は未だに解ける気配すら無い。多くの意味を含めて、クラインは現在最大の危機に陥ってしまった。一斉の油断が許されない中、ついに土方が声をかけてくる。

「って、お前は……」

「いや、違うんです!! 俺にとっての使命を曲げたくなかっただけなんです! だから土方さん! 見逃してくれないか!!」

 悪あがきが如く説得を促したクラインであったが――

「おい、何言ってんだよ? 確かお前は、キリトやリーファの仲間の一人だったよな? こんなところで会うなんて、随分と奇遇じゃねぇか」

「えっ……アレ?」

なぜか土方は普通に接してきた。それどころか敵意を見せるような素振りもなく、目は鋭くても他は優しそうな雰囲気にも見えている。これらのことから彼は、自分の正体がまだ悟られていないと推測していた。

(これはもしかして、気付かれていないのか?)

 下手に誤魔化すよりも、ここは正々堂々と話した方が無難である。そう確信すると、彼も気軽な感じで土方と話していく。

「どうした? 何黙ってんだよ?」

「い、いや……少し考え事していて」

「そうか。ていうか、テメェの名前って何て言うんだっけ?」

「ああ、クラインだよ。本名は壺井遼太郎って言うんだよ」

「壺にクラインか……随分とお手頃な名前に決めたんだな」

「いいや。しっかり来たのが、これしかなかったからだよ」

 怪しまずにゆっくりと会話を進めて、攘夷志士だと悟られないようにと会話を進めていた。一方で桂も状況を理解しており、息を潜めながら二人の話に耳を傾けている。

「どうやらバレていないようだな……びっくりさせておいて……」

 ひとまずはホッと安心していた。その後の会話も特に変わりはなく、土方もクラインを疑いはせずに場を進めている。

「そういえば、土方さんはパトロールの最中なのか?」

「まぁ、そんなところだよ。大事な会議をほったらかした長官を探し回ってんだよ」

「それは……ご苦労さんだな」

 土方が探しているという長官が話題に上がったり、

「と言うか、クラインはこんな真昼間から何していたんだよ? 散歩でもしていたのか?」

「まぁ、そうだな。少しスランプなことがあって色々と考えていたんだが、中々思いつかなくてな」

「スランプか……人生生きてりゃ何度もあることだな。だが、どんなことがあっても投げ出さない方が良い結果を出すこともあるからな。焦らずゆっくりと見定めた方が、てめぇの身の為にもなると思うぜ」

「土方さん……」

何気ないアドバイスがクラインの心に響いたりと、会話は和やかな雰囲気のまま進んでいた。しばらく話すと、土方にも召集がかかったので丁度良いタイミングで話は打ち切られる。

「じゃ、この辺でな。達者でやれよ」

「ああ! ありがとよ!」

 最後まで攘夷志士だと身バレせずに乗り切ったクラインは、離れていく土方を見ながらようやく緊張をほぐしていった。大きなヤマを越えたことには、彼も十分な達成感を覚えている。するとようやく、桂からの通信が再開された。

「クライン殿! 大丈夫であったか?」

「もちろん。何とか乗り切ったぜ」

「ふぅ……良かったな。しかしどうする? 奴が近くにいては俺も行動が制限される……ここらでやはり撤退するか?」

 場の安全を考慮している桂は、慎重にも撤退を求めている。しかし、土方の言葉によってやる気を戻したクラインは、真逆な反応を示していた。

「いや! もう一回だけ挑戦してみるよ。ここらで諦めても情けないし、何よりせめて一つくらい収穫があってもいいからな」

「クライン殿……」

「俺はよ、いっつも不器用だから、理屈よりも根性で動く時があるんだよ。今がまさにその時だよ……だから桂さん! 最後くらいは俺に委ねてくれないか?」

 気持ちのこもったクラインからの願い。もちろん桂にもよく伝わっており、その意見を快く受け入れることにした。

「……分かった。クライン殿が思い描く様にやってくれ!」

「ああ!」

 了解を得ると同時に大きく返事を交わした。残るチャンスはあと一回……例え失敗してももう怖がったりはしない。今の自分ならではの全身全霊をかけて挑む……そうクラインは心に決めていた。すると丁度よく、可愛らしい女性を遠目で発見する。

「じゃ……あっ! あの子にしてみるか!」

「う、うん……いいんじゃないのか?」

「どうしたんだよ、急に歯切れが悪くなって? まさか桂さんが一目惚れしたってわけじゃないよな?」

「そういうことではないのだが……」

「まぁ、いいや! とりあえず最後のナンパくらいは、びしっと決めないとな!」

 桂はやや苦い対応であったが、クラインの意志は変わることなく彼女へと勢いよく近づいていく。気合を込めて表情も一段とビシッと決まっていた。

「ヒュ―! そこのお嬢ちゃんー!」

 ついに一歩手前まで近づいていった……その時である。

「てめぇ……」

「ん? って、うわぁぁぁ!?」

 何者かによって、急に別の路地裏へと連れ去られてしまった。当然クラインは何が起こったのか分からず、状況をまったく理解できていない。

「痛ぁ……って、何すんだよ! 折角の俺の花道を――」

 と引っ張った相手へ強気にも文句を言おうとしたのだが……

「ああ!? てめぇこそ、俺の娘に何手を出そうとしてんだぁ? ゴラァ?」

「は、はい?」

あまりの勢いを受けて返り討ちにあってしまった。彼がナンパしようとした相手は、警察庁長官を務める松平片栗虎の娘、松平栗子だったのである。土方が数分前に探していた長官は、娘の安否が不安で尾行していたようだ。当然クラインはこの事実をまったく知らないため、未だに何が起こっているのか分かっていない。しかも松平は拳銃を所持しており、ためらいもなくクラインへと差し向けて脅しにかけた。

「お前よぉ……俺の娘に手なんか出したらどうなるのか分かってんだろうな?」

「ど、どうなるんですか……?」

「腑抜けた野郎なら抹殺! これしかあるめぇよ」

「いや極端すぎねぇか!? あまりにも強引すぎるってば!!」

 我流を通す松平の考えに、クラインもつい激しいツッコミを入れてしまう。しかし、彼の勢いは衰えることなくむしろ悪化の一途を辿っていた。

「おい、おめぇ。なぜ栗子に手を出そうと思った? 三秒以内に言わねぇとドタマぶち抜く……」

「えっ、嘘!? 待ってくれ!? アレはただのナンパであって……」

「一~」

〈バキューン!!〉

「って、二と三は!?」

「知らねぇな、そんな数字。男は一だけ覚えていりゃ、生きていけるんだよ。さぁ、言えアゴヒゲ男!! 俺の栗子に手を出した理由を!!」

「……な、何でナンパだけでこんな目に合わなきゃいけねぇんだよおぉぉぉ!!」

 お得意の強制射撃まで披露して、クラインにさらなる恐怖を与えていく。彼の無常な響きが辺り一面に広がっていった。一方の栗子は何も気づくことなく、そのまま通り過ぎてしまう。果敢にもナンパへ挑戦したクラインであったが、今日は特に運が悪く散々な結果を残すだけであった。ちなみに桂はと言うと、

「クライン殿……可哀そうであるが、これでオチは完璧だな!!」

元も子もない事を口走っている。悪意はないのだが、今のクラインからすればただの煽りでしかない。今はただ時が過ぎるのを見守るしかないのだ。

「だ、誰か助けて~!!」

 再び無常な叫び声が響き渡っていく……

 




 第二章終了まであと一訓……チクショウ! 結局令和をまたぐことになったじゃねか!
というわけで、次回投稿は連休明けです。


次回予告
エギル「有給に付き合ってくれ?」
たま 「はい。たまにはエギル様のことも多く知りたいので、お願いできますか?」
エギル「構わないぜ。俺もたまさんの事を知りたいからな」
たま 「次回は私達が主役ですから、本腰を入れないといけませんね」
エギル「そんなに気合を入れないとダメなのか?」
たま 「次回、休みはとりあえずはっちゃけろ!」
エギル「たまさん……威勢いいな」


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第二十六訓 休みはとりあえずはっちゃけろ!

 銀魂世界に来たSAOキャラの中で、エギルが一番大差なく生活しています。本人の性格から一番馴染むのが早いと思っているんですよ。だからといって、メタ発言を言うようなキャラにはなりませんが……

 渾身の令和一発目の投稿ですが、気付けば既に二週間経っています。遅れてすいません……その上今回はいつもよりも少なめの字数です。



「よろしいのでしょうか、エギル様?」

「ああ、もちろん。どんとこい!」

 たまからの問いかけに、エギルは真剣な眼差しで答えた。現在二人は勝負の真っ只中であり、共に見つめ合いながら集中力を高めている。営業中のスナックお登勢に訪れた戦場の嵐。酒を片手に客は面白そうに観戦し、お登勢やキャサリンも二人の勝負の行方を見守っている。その勝負方法は――

「ソレデハイキマス! レディーゴー!!」

「フゥゥゥ!!」

腕力が重視される腕相撲であった。元の世界ではどんな相手でも平たく勝ち、無敗を誇っていたエギルであったが、この世界では規格外の猛者達によってその勢いに陰りを見せ始めている。

「まさかエギルから勝負を申し込むなんて、思わなかったけどね」

「最近ジャ万事屋ノ怪力娘ヤ、タマサンニモ負ケタノデ示シヲ付ケタインデショウネ」

「確かにね……」

 お登勢やキャサリンの言う通り、その敗因は神楽やたまが大きく関係していた。戦闘民族である夜兎の血を引く神楽のバカ力や、カラクリ家政婦であるたまの機械的な力によってエギルは敗北を喫していたのである。そこで今日リベンジを行うために、自ら勝負を申し出たのだ。賭けを作り負ければ相手の言う事になんでも従わなければならない。彼自身のプライドの為にも、懸命にたまの力に抗っていたのだ。

「グゥゥ! たまさん! 本当に腕に力を入れてんのかよ!!」

 力んだ表情をしながら話しかけるエギルに対して、たまは

「入れていますよ。たったの二パーセントですけれども」

「えっ!?」

無表情のまま本音を返す。その言葉を聞き、油断したところで――

「フッ!」

「……あっ」

あっけなくねじ伏せられてしまった。リベンジを果たせずに、彼の挑戦は虚しくも終わった。

「あーあ。また負けたのかよー!」

「結局、たまさんの圧勝かー!」

「エギルさんでさえねじ伏せられちゃ、人間に勝ち目はねぇなー」

 観戦をしていた男性客達は次々と不満を呟いていき、元いた席へと戻っていく。お登勢らは「やっぱり」と思い始めており、早くも仕事に戻っていた。勝負に惜しくも敗北したエギルは、大きなため息を吐きつつも自らの負けを素直に認めていく。

「はぁー。負けたよ、たまさん。やっぱりアンタは強いな」

「いいえ。私は皆さんと違ってカラクリですので、力に差が出るのは当たり前ですよ」

「そうか……でも約束は約束だ。たまさんの言う事は何でも聞いてやるよ」

「言う事ですか……」

 たまは特に願いを持っていなかったので、数分悩んだ後に話しかけてきた。

「それでは、明日の有給に付き合ってもらえますか?」

「えっ……そんなことでいいのか?」

「はい。よろしくお願いしますね」

 予想とはかけ離れた願いに驚きつつ、エギルはすんなりと了承する。こうしてお登勢にも許可をとり、彼の明日の予定が埋まったのであった。 

 

 翌日。予定通りにエギルはたまに連れられて、共にかぶき町を歩き回っていた。晴々とした晴天の中で、二人はたわいない会話を交わしている。

「本当にこれで良かったのか、たまさん?」

「構いません。銀時様が言っていたのですよ。休みの日は同僚とはしゃぐべきだと。これを機会にエギル様と羽目を外そうと思うのですよ」

「いや、心なしかそういう風には見えないんだが……」

「気にすることはありません。いつも通りに接していれば大丈夫ですよ」

「そ、そうか……」

 相変わらず無表情を貫くたまの雰囲気に、エギルはつい圧倒されていた。彼女が感情を露わにしないのは周知の事実なのだが、二人っきりになることが滅多にないので、やはり若干の気まずさを感じている。

(いつも通りのたまさんだな、こりゃ……まぁ、気にしても仕方ないし、今日限りは彼女に任してみるか……)

 それでも彼は心の中で、今回の休日に期待を寄せていた。特に目的地は決まっていないが、たまに任せるままに進んでいき、何が起こるか分からないハプニングを楽しみにしている。その表情も密かにそっと微笑んでいた。それぞれの想いを持ちながら二人が歩き回っていると、ある知り合いと偶然にも遭遇する。

「う~ん……こりゃ困ったな」

「ん? どうかしましたか、源外様?」

 通りかかったのはからくり堂と書かれていた店。そう、たまとも関係の深い平賀源外が営む修理屋であった。彼は店の前にて、首を傾げながらずっと悩み続けている。その目の前には年季の入った冷蔵庫が置かれていた。すると早速源外も二人の存在に気付き始める。

「おお、たまか。実はな、頼まれていた冷蔵庫の修理をしていたんだが、どうもうまくいかなくてな……また力を貸してもらえないか?」

「了解しました。そういうことでしたら、難なくお任せください」

 どうやら源外は依頼されていた冷蔵庫の修理をしており、途中で息詰まっていたようだ。仕方なく彼は奥の手でもあったたまへ協力を要請していく。了承すると彼女は、急に目を閉じて冷蔵庫に近づき手を合わせ始める。

「ん? たまさんは一体何をしているんだ?」

 突然の行動にエギルが疑問を呟くと、すかさず源外が返答してきた。

「おや? お前さんは知らないのか? たまはな、機械と会話することで瞬時に修復することが出来る能力を持っているんだよ。カラクリならではの特権ってところだな」

「そ、そうだったのか……!?」

「なんだ、知らなかったのか? まぁ、無理もねぇか。たま自体あんまり自慢したがらないからな」

 初耳であったたまの特技を知って、エギルは内心驚きを隠せずにいる。機械との会話を通じて故障部分を直すなど、聞いたことすらなかったからだ。

(たまさんにもそんな能力があったとは……一体どんな腕前を見せるんだ?)

 つい気になってしまい、たまの方へ顔を向けている。彼女なりの修復方法にも興味を示し、ずっと目線を集中させていたのだが――目にしたのは意外な光景であった。

「ハァァァァ!!」

〈ブゥワァン!!〉

「えぇぇぇぇ!?」

 急に奇声を発したと思いきや、突然拳を握りしめて冷蔵庫の正面を勢いよく殴りかかっていく。唐突にも粗暴な扱いをするたまに、エギルの驚きは別の方向へと向かっていた。

「ちょっと、たまさん!? 素手で思いっきり殴ったんだけど、大丈夫なのか!?」

「大丈夫です! 学園ドラマでもある通り、殴り合って悪いところを直すのは定番でありますから。ご心配なく」

「いや、心配だよ! 本当に直っているのか!?」

 ツッコミを入れられても、彼女は淡々と自らの理由を口にする。もちろんエギルは納得してはいなかったが……。この方法で本当に合っているのかは疑わしかったが、

「一応大丈夫みたいだな……。さすがたまだよ。手を貸してくれてありがとうな」

「ありがとうございます、源外様。お役に立てたのなら光栄ですよ」

「えっ? 直ったのか……?」

結果として冷蔵庫の修理は成功していた。源外曰くどうしても修理できなかった部分が、無事に機能を戻したらしい。たまの思い切った行動が、意外にも吉と出た瞬間である。あまりの強引さに、エギルも思わず言葉に詰まってしまう。

「すごいな、たまさん……まさか拳一発で直すなんて」

「これが私の特技ですから。俗に言うワイルドみたいなものですよ」

「ワイルド?」

「はい。世間一般的にはそう言うみたいですよ。青いデニムベストと短パンを着こなしていた中年男性がおしゃっていました。「ワイルドだろー」って」

「たまさん……それ多分、意味が違っていると思うんだが」

 某ピン芸人の決め台詞まで言い放ったたまを見て、彼は静かにツッコミを入れている。機械の修理のみならず、意外な知識や天然ボケまで惜しげもなく披露していた。

(前々から思っていたが、たまさんは広い意味で器用だよな……強引な一面もあるし、自然なボケまで見せるし、意外過ぎるな……)

 思わず口を開いたまま、彼女の汎用性には脱帽するしかない。

 

「いやー。一仕事を終えましたので、ありったけのオイルが飲みたいですね」

「そんなに力を使ったのか?」

「はい。あの拳一発で半分くらいは使いましたよ」

「力の配分を間違っていないか……」

 天然なのか本気なのか分からないたまの一言に、エギルは半信半疑な反応で返した。からくり堂を離れた二人は、再びかぶき町を歩き回り、目的地を決めないまま歩き続けている。気温も徐々に上がってきたところで、エギルは休憩を提案してきた。

「それじゃ、どこかで水分補給でもするか」

「そうですね。私の場合はENEO〇かコス〇石油が近場にあると嬉しいです」

「どこかで聞いたことあるような名前ばかりだな……」

「気にしないでください。いつものことです」

 たまに至っては冒頭で呟いていたオイルを欲しているようで、好みである会社名まで声に出している。世界線が違うためか、エギルは引き気味に言葉を返すことしか出来なかった。と二人が休憩場所を探し回っていると、またもある知り合いと鉢合わせすることになる。

「おお、誰かと思ったらお前達じゃねぇか」

「って、この声は……長谷川さんか?」

「おう! 久しぶりだな、エギル! それにたまさんも!」

 声をかけてきたのは、エギルとの親交が深い長谷川泰三だった。振り返ると彼はスムージーを売る屋台の前に立っており、ひしゃげた煙草を片手に一服している。しかしその表情はまったく浮いておらず、どこか落ち着きがないようにも見えた。

「長谷川様? 一体ここで何をしているのですか?」

「ああ、これか。実はよ、知り合いに店番を任せられていて、スムージー屋を手伝っているんだよ。ところがさっき一休みしていたら、肝心のミキサーが盗まれて困り果てているんだ。二人共、どうにか手伝ってくれないか?」

 手痛くも彼が話したのは自らのミスであった。店番をしていた長谷川であったが、目を盗んだ隙にスムージーを作るミキサーを盗まれてしまい途方に暮れているという。情けなくも二人に全てを打ち明かし、ワラをもすがる気持ちで頼っていく。

「そんなことがあったのか……でも、ミキサーの代わりになるものなんか近場だと見つけづらいだろうな……どうするたまさん?」

「ご心配なく。そんなことをしなくても、ミキサーの代わりはここにありますよ」

 何気なくたまへ聞いてきたエギルだったが、彼女は即答である対策案を思いついていた。

「えっ? どうするんだ、たまさん?」

 興味本位で聞くとたまはそっと進んでいき、屋台の前にあった多くの果物に目を付けている。

(食材をじっと見つめているな。まさか腕を変形させて、自らミキサーになろうとしているのか!?)

 何が起こるのか分からないエギルは、静かに見守るしかなかった。するとようやく動き始めていく。

〈バク〉

(た、食べた!? 勝手に店のフルーツに手を付けてもいいのか!?)

 なんとたまは、唐突にも近くにあったリンゴを口にして体内へと入れ込んでしまった。未だに行動の意図が読めないエギルは、ただ唖然とするしかないのだが……

(いや、違う……アレは)

ここでたまの真意に勘付き始めている。果物を入れたと思いきや急に下へと倒れ込み、目の前には大きめのコップを用意していた。そして、

「オェェェェ! ブフォォォ!」

嗚咽音と共に口から出てきたのは、シャーベット状と化したリンゴのスムージーである。

「で、出来ました……特製スムージーです……」

「って、口から出てきたぁぁぁ!? 完全にアレにしか見えないんだが、本当に大丈夫なのか!?」

 そう、彼女は体内を通してスムージーを作り出していたのだ。つまり自らの体でミキサーの代わりになろうとしている。これにはエギルも肝を潰されたようで、数分前よりも大きく驚嘆していた。つい本音を丸出しにして、激しいツッコミまで交わす始末である。

「た、たまさん! 今のは……」

「ああ、これですか? 私なりの調理方法ですよ……体内に入れてミキサー代わりにスムージーを作り出したのですよ」

「で、でも変な液体まで付いているんだが……」

「これはオイルです……気にしないでください」

「気にしない方が無理だと思うんだが……」

 盛大に口から出したせいか、たまの表情は悪く調子が出づらくなっていた。エギルは引いた表情のまま、様子を確認することしか出来ずにいる。ちなみに長谷川はたまの調理方法について知っているので、そこまで驚きはしていない。すると彼女はコップを手に取り、目の前にいたエギルへ急に勧めてきた。

「百聞は一見にしかずです……エギル様も是非飲んでみてください」

「えっ? ちょっと待ってくれ、まだ心の準備が……」

 若干抵抗を見せていたが、飲むことには状況が進まなかったので、覚悟を決めてスムージーを味わうことにする。その反応は、

「アレ? おいしい?」

意外にも受け入れていた。調理方法こそ常軌を逸していたのだが、その味はリンゴらしい甘みも凝縮した程よい味わいのスムージーとなっている。自分でもここまで口に合うことが信じられずにいた。

「そ、そうですよ……私の調理する腕には、自信がありますからね……」

「それは腕と言っていいのだろうか……」

 ぎこちない口調のまま自画自賛するたまに対して、エギルは微妙なツッコミで言葉を返している。一方の長谷川は、一連の流れからたまの提案を好機として捉えていた。

「たまさん! まさかアンタ、ミキサーの代わりに手伝ってくれるのか?」

「そうです……。さぁ、早く果物を持ってきてください!」

「分かったぜ!」

 成功を確信して、彼は作り置きできるように原料である果物を選別していく。無理をしてまで人助けをするたまに、エギルは若干の心配をかけている。

「たまさん……そこまでして」

「心配ありません……私は人の役に立つカラクリですから、大丈夫ですよ……」

「いや、それもそうだが……ミキサーを買い直した方が早くないか?」

 無理をするよりは、代わりのミキサーを購入した方が手っ取り早いと思っていたようだ。しかし頑張りすぎる性格のせいで、あっさりと断られてしまう。結局たまは七つほど作り置きのスムージーを生成したようだ。

 

「ああ、気分が良くないです……勢いよく吐いたせいでしょうか?」

「だから無理をするなって言ったんだが……」

「そうかもしれませんね……でも、幾ら言っても後の祭りです。気を取り直しましょう」

「本当に大丈夫か?」

 エギルに抱えられる形で、たまは調子が戻らないまま引きずられている。スムージーを作りすぎたせいで、似合わないため息まで吐く始末であった。調子が悪いままではいけないので、仕方なくエギルは偶然にも見つけた日陰付きのベンチへと彼女を座らせて、安静するように言い聞かせている。

「とりあえず休んでおけ。何か代わりに買って来てやるから」

「そうですか? ではどこのガソリン屋でもいいので、ハイオクをお願いできますか?」

「わ、分かった。ちょっと待っていてくれ」

「ポリタンクに入れて、持ってきてくださいねー」

 一番欲しているハイオク燃料を求めてきたところで、エギルは場を離れて近くにあるガソリンスタンドへと足を進めていく。そしてたまも、涼しげな日陰に当たり休んでいたところで徐々に調子を戻していった。すると急に、近くにあった古着屋からある服に目を付けている。

「ん? アレは……」

 つい気になってしまい、ベンチを離れ店へと入ってしまった。そこで彼女は、以前から探し求めていたある服と遭遇することになる。

 それから数分後。

「買ってきたぞ。たまさん……って、アレ? どこ行ったんだ?」

 エギルはたまの要望通りに、ポリタンク一杯にハイオクを詰めてきて戻ってきた。しかしベンチに彼女の姿はなく、辺りを見渡しても気配すら感じ取れずにいる。探し回っていると、たまはようやく古着屋を出て姿を現してきた。

「あっ、エギル様! 申し訳ありません、場を離れてしまって」

「ああ。それはいいんだが、どこへ行っていたんだ?」

 エギルが問いかけると、彼女はすかさず服の入った袋を見せびらかしてくる。

「探していた服が見つかったのでつい買っていたのですよ。エギル様に似合う私服を」

「えっ!? 俺の服なのか?」

 そう。彼女が持っていた袋の中身は、エギル用として買っておいた私服だった。思ってもいない展開に、彼自身も三度驚きを隠しきれていない。今日で一番のサプライズに、思わず心を震わせていたのだ。するとたまは、優しい口調で理由を呟いていく。

「はい。この世界へ来てからずっと男性用の浴衣しか用意できなかったので、ずっとアナタに似合う私服を探していたのです。ハイオクを買ってくれたお礼に、是非着て見てください。きっと似合うますから、エギル様なら」

「まさか今日の外出はこのために……?」

「少しハプニングや寄り道はありましたが、本題はこちらです。受け取ってもらえますか?」

 そう言ってフッと笑い、愛らしい笑顔を浮かべてきた。たまにとって珍しいサプライズに、エギルは恩を感じて優しく袋を受け取っていく。

「ああ、もちろん。ありがたく着させてもらうよ!」

「良かったです……。それでは戻って着替えましょうか」

 こうしてたまにもポリタンクを渡して、お互いに似合わない笑顔で返答していた。この休日を通じてエギルとたまの間にも、密かな絆が強まり始めている。こうして穏やかな空気が続いたまま、貴重な休日を終えていった。

 

と思っていたが、帰宅後のスナックお登勢にて一つの事件が発生してしまう。

「どうですか、着替えましたか?」

「まぁ……これで本当に合っているのか?」

「問題ありません。ぴったりの服なのですから、堂々と出てきてくださいね」

「分かった……本当に私服なのか?」

 楽しみにしていたたまからのプレゼントであったが、いざ着てみるとエギル自身は微妙に感じている。気乗りしないまま、お登勢やキャサリンにも披露することになった。

「それでは登場してください! エギル様の概念を壊す新衣装……ワイルドエギちゃんの登場です!」

 一段と気合の入ったたまの一言によって、彼は表舞台へと上がっていく。その姿は――

「私服って言うか……」

「タダノ出オチデスネ」

たまが話していた某ワイルド芸人と同じ風貌である。袖を引きちぎった青いデニムベストと短パンへ着替えており、涼しげではあるがどこか違和感のある格好であった。さらに手には意味深にもキャップの付いていないコーラを持ち上げており、完全に確信犯である。もちろんエギルも、これが私服だとは思ってすらいない。

「たまさん……何か間違っている気がするんだが」

「気のせいです。自分を信じてください。ワイルドエギちゃん」

 無表情にもたまは煽るように言葉をかけていく。お登勢らにも微妙な反応で返されたエギルが感じることはたった一つである。

(絶対キリト達に知られたくねぇ……)

 これ以上広まってほしくない事であった。こうして今回の物語は、エギルの出オチ衣装で幕を閉じたのである。

 




 エギルとたまの話はもっと多めに構成したのですが、ちょうどよい着地点が無かったので今回は少なめとなりました。といっても、オチが上手く生かせたのか不安しかないですが……


 これにて第二章である「盛夏の日常回篇」は終了致します。改めて振り返ってみると、バラエティに富んだ話を多く作ったと思います。その中には、文体が多かったり、描写が多くて伝わりづらかった部分もあると痛感しています。今後はその反省も踏まえて、より面白い話を作っていきますので、応援のほどをよろしくお願いします! 
と言っておきながら、少しお知らせがあります。来週は予定が立て込んでいて、次回の投稿は再来週になります。本当にすいません……さぁ、気を取り直して次回からはお待ちかねの長篇が始まります! その舞台は、夢の中です!





次回予告
?  「アレは一体誰なの?」
?  「ようこそ別世界へ……」
キリト「最近変な夢を見るんだよ」
アスナ「キリト君もなの?」
神楽 「銀ちゃん宛にこんなに手紙が来てるネ!」
銀時 「だから、少しは自重しろぉぉぉ!」
次回 夢幻解放篇一 知らない方が幸せなこともある


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第三章 夢幻解放篇
第二十七訓 知らない方が幸せなこともある


今回からいよいよ新長篇である夢幻解放篇の始まりです! 時系列はちょうどキリト達が銀魂世界にやって来てから約三週間が経った頃です。三十訓近く話を作っているのに、まだ一か月すら経っていません……そこはあんまり気にしないでください。
 後序盤はオリジナル要素が多めに入っています。そこを踏まえてご覧ください。



 すべては一人の少女がきっかけで、物語が動こうとしていた……

 

 七月が始まり一週間が経ったある日のこと。かぶき町でも夏の勢いが止まることはなく、夜でも昼間と同じ蒸し暑い日々が続いている。帰宅途中の大人達は収まらない暑さにうんざりとしているが、塾帰り中の少女達はまったく暑さなど気にすることなく道端で雑談に勤しんでいた。

「それでさーアタシは言ってやったのよ! マンホールは万能武器じゃないって!」

「ていうかどういう発想したら、そんな考えに行きつくのよ!」

「不思議だよね。でも、想像豊かなのは少し羨ましいかも」

 三人ほど集って、今日に起こった面白い出来事を振り返っている。その内の一人である早見千佐は、他の女子と比べて控えめな一面が目立っていた。青みがかったセミロングの黒髪と右の目元についた泣きぼくろが特徴的で、アジサイをあしらった着物を気に入って身に着けている。大人しい印象であるが、真面目で優しい性格から友人も多い、どこにでもいる普通の少女であった。

「あっ、もうこんな時間じゃん! 早く帰らないと!」

「そうね。じゃ、また明日寺子屋ってことで!」

「うん。じゃあね、みんな!」

 話が盛り上がったせいか、友人達が時間を確認すると既に八時を超えている。三人は別れの挨拶を交わした後に、別々の方向へと向かいそれぞれの家路へと進んでいった。夜が色濃く変わっていく中、千佐は夜道を警戒しつつ人通りの少ない道を歩いていく。

「早く明日にならないかな~」

 暗がりに近づいてもなお彼女は、明日への想いを募らせ、呑気にもハミングを続けている。日々寺子屋にて勉学へと励み、友人にも恵まれている千佐は、まさに子供らしい順調な日常を送っていた。あの時までは……

「ん? 今の何……」

 穏やかに歩いていたちょうどその時、唐突に怪しい気配を察して顔色を急変させている。得体の知れない感覚に見舞われてしまい、警戒心を高ぶらせていく。すると、何気なく見た空の上にその正体が浮かび上がっていた。

「アレって……」

 彼女が目にしたのは――小さい紫色の粒が束となって、一斉に南東の方角へと集まっていく光景である。その姿は未知の生き物なのか、はたまた偶然にも起こった自然現象なのか定かではない。たった一つ彼女が理解したのは、経験したことのない異常な恐怖である。

「怖い……に、逃げないと!!」

 不気味な存在に不安を駆られてしまい、千佐の心は大きな動揺に包まれてしまう。つい空からの目線を逸らすと、ひたすら家に向かって足早にその場を走り出していく。もしまた空を見てしまえば、より恐ろしい光景を目にしてしまう。そう心の中で思い込み、今はただこの状況から逃れるしか術はなかった。

(何なのアレは……あの紫色の粒って一体……)

 頭で考え込みながら、無我夢中で逃げ回っていく。その表情は怯えきっており、冷静さすら失っている。場所の把握も出来ないまま奥へと逃げ回っていき、気が付けば彼女は家とはまったく違う方向へと辿り着いていた。

「はぁ……はぁ……。ここは?」

 辺りを見渡すと、そこは人気のない真っ暗な港である。荷物を運ぶためのコンテナが丁寧に積み重ねており、街灯によって出来た大きな影が存在感を露わにしていた。

「港? そういえば、あの物体は?」

 呼吸を整えて自身を落ち着かせたところで、千佐は改めて空を見上げていく。するとそこで見たのは、先ほど見かけた紫色の粒が一つの塊へと集約する瞬間であった。塊からさらに渦巻き状の穴へと変化していき、いびつな存在を作り出していく。

「何アレ? ブラックホール?」

 コンテナを影にした彼女は、恐る恐る変化を観察しながら分析を始めている。恐怖と並行して子供らしい好奇心も芽生え始めており、真相へと近づくために危ない橋をも渡る覚悟であった。その予測が偶然にも当たっていることなど知らずに……。

「えっ……あの人達は一体?」

 さらに千佐はブラックホールだけではなく、怪しげな行動を取る二人組の人影をも発見していた。銀色に覆われた怪人と大きな槍を持つとんがり耳の少女である。堂々と話し込んでいるので、彼女は耳を澄ましてその会話を盗み聞きすることにした。

「アンカーよ、ブラックホールの調子はどうだ?」

「ばっちりだよ。新たなエネルギーを集めたから、これで別世界から手駒を呼び寄せることも可能……まぁ、俗にいう運ゲーってところかな」

「それでも構わん。我が組織に必要なのは異次元の兵力だ。上手くそそのかして利用しなければ……俺達自身の計画も滞ってしまうだろう」

「それもそっか。まぁ、出来る限りラスボスクラスに来てもらわないとね。早くやって来てよ~!!」

 ブラックホール、別世界、異次元の兵力。どれも聞き慣れない言葉に違和感を覚えていたのだが、唯一理解できたのは自分が今とんでもない事実を知ろうとしていることである。

「何言っているの、あの人達……何を企もうとしているの?」

 これ以上ここにとどまってしまえば、その分見つかる危険性も高まってしまう。それでも好奇心を抑えきれない千佐は、リスクを承知で一連の流れについて見届けることにした。一方アンカーらにも、ようやく事態が動きだした。

「あっ! 何か引っかかったよ!」

「何? 今すぐ引き出してこい!」

 まるで魚釣りのような感覚で接していき、アンカーは自慢の槍を使ってブラックホールから物体をすくいだしていく。同時にブラックホールも役割を終えると、自然に消滅してしまう。証拠を消し去ったところで、アンカーらは呼び寄せた手駒に注目を寄せていた。

「これは――結構な大物だね」

「我々は当たりを引くことが出来たようだな」

 召喚された敵の姿を見て、二人はやや驚きつつも堂々たる貫禄に惹かれている。コンテナの影と重なってしまい、千佐だけは詳しく見られなかったが、人型である事は少なからず理解できた。するとようやく敵側も、状況に気付き声を発していく。

「ここはどこだ……? お前達は何者だ?」

「ようこそ別世界へ! 私達の名はサイコギルド! アナタを消滅から救った者だよ!」

「消滅だと?」

「そうだ。我が組織が作り上げたブラックホール――いやサイコホールは、別次元をも干渉する能力を保持している。恐らく貴様はある理由から命を落として、先ほどの空間でずっとさまよっていたのだろう?」

「それは間違いない……。私はかつて組織ごと爆発して散ったからな」

 アンカーは高ぶった口調とテンションで会話を続けているが、銀色の怪人は冷静さを保ったまま敵と接していた。次々と明らかになる事実を受けて、隠れていた千佐も思わず小声で驚嘆してしまう。

「サイコギルドにサイコホール? それに別次元なんて……」

 傍から見れば信じられない光景である。彼らの思想は大きく見積もっても、侵略的であることは想像に難くなかった。一方でアンカーらは、突然不可思議な行動を取り始めている。

「さて……折角この世界へ来たんだから、私達からあるプレゼントを贈らせてもらうね!」

「プレゼント? 何を与えるのだ?」

「そう怪しむではない。我々が貴様の味方であることの、証明だと思っていれば良い」

 意味深な言葉を発した後に、銀色の怪人は両手を重ね始めて、透明な球体を作りだした。それも二つほど作り出すと、目の前にいた異世界の敵へと投げつけて取り込ませていく。

「グォ! ……な、何をしたんだ?」

「貴様に記憶を吹き込んだんだ。一つはこの世界で起きた悲しき戦争の記憶。そしてもう一つは、別世界で起きた仮想世界での戦いの記憶。それらを上手く使いこなせれば、きっとさらなる力を得ることになるだろうな」

「そうか……! なんて頼もしい連中なんだ!」

 球体の正体は、二つの世界で起きた戦いの記憶のようだ。どこから仕入れたのかは不明だが、異世界の敵は疑うことなく友好的に捉えている。さらにアンカーは、続けざまにある条件を伝えてきた。

「まぁ、折角貴重な記憶を与えたんだから、その代わりアンタも私達に協力しなさい。ウィンウィンの関係ってことで」

「分かっている……お礼に私も、君達に手を貸そうじゃないか」

「契約成立……ということだな」

 話し合いの末に異世界の敵は、あっさりとサイコギルドへの協力を了承する。計画通りに事が進み、アンカーら二人は勝利を確信するように不敵な笑みを浮かべていく。彼らが起こしていた一連の行動は、唯一その場に居合わせた千佐にしかまだ把握していなかった。

「これって結構まずいんじゃ……早く誰かに知らせないと……!」

 彼らが実行へと移す前に、彼女はこの場からそっと立ち去ろうとする。町へと逃げ込んで、近くにいる大人か真選組に知らせないといけない。重い使命を背負って、今にも走り出そうとしたその時である。

「行かせないよ。お嬢さん~」

 唐突に聞こえてきたのはアンカーのねっとりとした不気味な声。つい後ろを振り返ると、そこには満面の笑みで千佐を見つめてくる彼女の姿があった。そう、すでにサイコギルドからは千佐の存在を悟られていたのである。

「あ、あなたは……!」

「さっきの事、全て聞いていたんでしょ? まったく、ドブネズミのような女の子ね!!」

 急な事態に動揺して感覚が鈍っている千佐の隙を狙い、アンカーは容赦なく彼女の上半身へと襲い掛かっていき、力任せに締め付けていった。子供相手にも関わらず、本気で千佐を封じ込めていく。

「離してよ!! 離してってば!!」

「いいや~離さない!! クフフ!!」

 嫌がる千佐の表情とは対照的に、アンカーはまるで状況を楽しむかのように異様な笑みを浮かべ続けている。必死にも抵抗を続けているが、年齢差が相まってかまったくアンカーには効いていない。脱出する方法すらも見つからず、まさに千佐の現状は絶体絶命であった。さらにそこへ仲間達も駆けつけてくる。

「アンカーよ。よくぞやってくれた」

「当然! 秘密を知ったネズミちゃんには、相応の処置を取らないと……どうしようかな~?」

「処置か。では、我らの実験体として活用させてもらおうじゃないか。ちょうど今、肉体を欲している同士がいるからな……」

「おおー! ナイスアイデア! それじゃ、後はアンタに任せるわ。よろしくね~!」

 千佐の口封じのためにサイコギルドは、異世界から来た敵に対処を任せることにした。彼もまた静かに了承していくと、ゆっくりと近づき実行へと移し始める。その様子を見たところで、アンカーも千佐を解放して地べたへと突き放した。そしてそのまま、銀色の怪人と共にその場を立ち去ってしまう。港の一角に千佐と敵だけを残したまま。

「ハハハ……女に入るのは趣味ではないがこれも仕方ない。お前の体を乗っ取り、私は完全復活を果たすのだ!」

「そんなの……嫌! やめてって……!! 誰か! 誰か助け――」

 必死に抵抗を続けて助けを求める千佐であったが、人気の少なさから助けなど来るはずがなく、その努力も虚しいまま散ってしまう。そしてとうとう敵と目が合ってしまい、恐ろしげな姿を目の当たりにしてしまった。

「存分に利用させてもらうぞ……我が生贄よ!!」

「キャャャャ!!」

 悲痛な叫び声を上げたと同時に、敵は宣言通り千佐の肉体へと侵入していく。そのショックから彼女は絶望を抑えきれずに、勢いよく倒れ込んでしまう。場に唯一残ったのは、静寂を極める夜の闇であった……

 

 だがそれから数分が経った頃。ある予想外なことが起こり始めている。

「はぁ……はぁ。伝えなきゃ、誰かに……」

 なんと気絶していたはずの千佐が、自我を保ったままゆっくりと起き上がっていく。どうやら彼女はまだ敵に精神を乗っ取られてはおらず、残った気力を振り絞り意地でも誰かに状況を伝えようと動き出したようだ。

「誰でもいい……誰でもいいから……」

 ボソッと呟きながら、体を引きずっていき、自分が辿ってきた道を再び歩いていく。道行く人に伝えようとしているが、不幸にも人通りが少ない道を彼女は進んでいる。また通りかかった人にも、その異様な雰囲気から遠ざけられてしまい元も子もなかった。誰一人頼ることが出来ないまま、彼女の精神が限界を迎えようとした――その時である。

「おや? どうしたお前さん? 顔をうつむかせたままで、一体何があったんだ?」

 ようやく声をかけてくる者が現れた。その正体は――からくり堂を営む江戸一の発明家、平賀源外である。彼女は現在からくり堂の前を通りかかっており、偶然にも異変に気付いた源外が話しかけてきたようだ。その瞬間千佐は思わず涙を流して、思い責任から解放されたことに喜びを感じている。そして、

「サイコギルドがサイコホールを作り出して――」

〈バタァ!〉

「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!? おい!!」

一言呟いた後に力尽きてしまい、再び倒れ込んでしまった。源外は取り急ぎ駆けつけ、事態の重大さにようやく気付いている。サイコギルドの陰謀に巻き込まれた千佐によって、物語は大きく動こうとしていた。

 

 時は流れていき、あの一件から三週間が経とうとしていた。銀魂世界ではすでに七月も終盤を迎えており、キリト達がこの世界へ来てしばらく経った頃である。気温は数週間前よりも蒸し暑くなり、本格的な夏日へと移り変わっていた。しかし夏が来ようとも、万事屋では相も変わらぬ日常が送られている。今日は特に仕事が入っていなかったので、朝からゆったりとした朝食の一時を過ごしていた。

「ごちそうさまヨー! 久々に食べたアルナ! 朝から卵かけご飯なんて」

「って、今日は神楽ちゃんが当番だったからでしょ。それに久々でもないと思うけど」

「いいや、久々アルよ。味の〇付きの卵かけご飯なんて」

「そっちかい! そんな微妙な違い僕には分からないって!」

「フフ……新八さんに神楽さんも、朝から元気が良いですね!」

 独特なこだわりを持つ神楽の考えに、新八のツッコミが激しく決まっていく。食べ終わってもなお、二人の応酬は終わる気配すらない。それを見たユイは、思わずクスッと笑いを堪えている。何気ない日常の一幕であったが――異変はすでに起こり始めていた。

「「「ハァ……」」」

 ちょうど同じタイミングで、銀時、キリト、アスナのため息が重なって吐き出されている。何故かこの三人だけは、朝からまったく元気がなかった。

「ん? どうしたアルか、三人共? ため息なんか吐いて」

「何か気にするようなことでもあったんですか?」

 心配そうに神楽やユイらが問いかけると、口々にある気持ちを打ち明かしていく。

「いや、実は最近変な夢を見るんだよ。それも一回だけじゃなく、何度も続いていて……」

「そうそう。俺だって変な夢を見続けているぞ」

「私も同じね。まさかキリト君や銀さんと同じ悩みを抱えているなんて、信じられないわ」

 三人は口を揃えて、ある不可解な夢に悩まされているようだ。表情も若干やつれており、元気が無かったのもその夢が原因らしい。

「えっと、三人はどんな夢を見ているんですか?」

 続けざまに新八が聞いてみると、今度はキリトから答えを返してきた。

「それが不思議なんだよ。さっき聞いてみたら、アスナや銀さんと同じ夢を見ているらしいんだ」

「同じ夢ですか!?」

「そうよ。夢の中で私達がもう一人いて、一緒に戦う場面を何度も見続けているのよ。神楽ちゃん達にはイメージしづらいけど、その姿もSAOの時のアバターとだいぶ似ていたわ」

「俺に至っては攘夷志士時代の姿だからな……ったく、今更になって何でこんな夢を見ることになるんだよ……!」

 三人からの証言によると、夢の内容は奇遇にも全員共通した内容らしい。しかもその中にはもう一人の自分がおり、姿も昔の衣装と酷似しているようだ。不可思議すぎる夢の事情に、話を聞いていた新八らも違和感を覚え始めている。

「そんな三人も揃って同じ夢を見続けているなんて……」

「少しおかしいですよね」

「絶対裏があるに決まっているネ! こんなこと偶然じゃ片づけられないアルよ!」

 自然的な要因ではなく、何者かが関わっている人的要因であると万事屋内では捉え始めていた。すると、丁度よいタイミングで定春がある物を神楽へと渡してくる。

「ワン!」

「ん? どうしたネ、定春?」

 彼が運んでくれたのは、複数枚の手紙であった。差出人はみなバラバラで、裏面にはそれぞれの想いを綴った内容が書かれている。

「これは……皆さんからの手紙でしょうか?」

「あっ! 見て銀ちゃん! ヅラクラの手紙にこんな事が書かれてあったネ!」

 興味深く呟いたユイの言葉をかき消すように、神楽は仲間達へ桂から届いた手紙を見せびらかしていく。一同もその手紙に注目を寄せていた。

『銀時にキリト君。最近変な夢を見続けたりはしていないか?』

 そこに書かれていたのは、現状の銀時達にも当てはまる内容である。

「変な夢……まさか桂さんやクラインも、俺達と同じ夢を見続けているということか?」

「マジかよ!? あいつらにまで影響が出ているのか!?」

 続きが気になってしまい、キリトや銀時らはさらに桂達の手紙を読み解いていく。そこに記されていたのは――実に意外な内容であった。

『突然ですまない。だが俺達の実情を伝えるべく、今回は手紙を書かせてもらった。実はな、俺とクラインは偶然にも同じ夢を見たんだ。突拍子もなく仙人がやって来て、攘夷を極める前にピザを極めろと! ――そこで今俺達は、未知なる土地イタリィにてピザマスターになるべく日夜修行に励んでいる。そうだろ、クライン殿?』

『もちろんだぜ! 期待を寄せてくれた仙人の為にも、一日も早くピザマスターにならないとな!』

『その通りだ! だから銀時。剣魂も遂に長篇に突入するみたいだが、今回は休暇を取るから一斉出ることはないぞ。みな懸命に頑張ってくれ』

『追記。最近知ったのだが、どうやらSAO本編にもアナザー桂が現れたらしいな。俺と同じ声をしているみたいだが、こいつも剣魂本編に出てくる予定はあるのだろうか?』

「知るかぁぁぁ!! 作者自身もそんな先まで考えてねぇよ!! つーか長い文字数を使って、何の情報性も無いってどういうことだぁぁぁ!!」

 期待して見続けたのだが、結局的外れな内容しか書かれておらず、時間を無駄にしただけである。苛立ちを抑えきれなくなった銀時は、激しいツッコミを入れながら、思わず手紙をビリビリと引き裂いてしまった。彼に続き他のメンバーも不満を口にしていく。

「ていうか、この人達だけ別件に巻き込まれているだけでしょうが!! 桂さんだけじゃなくて、クラインさんもこんな大ボケに参加するなんて……」

「類は友を呼ぶとはこのことアルナ。夢に導かれてイタリアに行くなんて、バカにしか出来ない所業アル」

 新八や神楽は桂の行動力に驚くどころか呆れ果てており、思わずため息を吐いてしまう。一方のキリトらはというと、

「てか、クラインって今イタリアにいるんだ……」

「ちゃんとイタリア語は話せるのでしょうか?」

「それよりも、勢いだけで桂さんに乗っかっていく方が心配よ……」

変わり果てたクラインのバカさ加減に、思わず苦言を呈する始末であった。いずれにしても事態の進展はなく、銀時らは桂達を気にせずに別の手紙を拝見する。

「もうこいつらは良いとして。その次は誰からなんだよ」

「次は、シッリーとリズからネ!」

「えっ? シリカちゃんとリズからなの!? 一体どんな手紙?」

 続けて目にしたのは、吉原で滞在しているシリカとリズベットからの手紙であった。アスナ達も再び食い付いていき、内容を確かめていく。

『キリトさーん』

『アスナー』

『最近変な夢を見ませんかー?』

『でそれは置いといて……』

『『八月いつ遊べる?』』

「って、短!? 思いっきり緩く書いているし、内容も薄いんですけど!?」

 書かれていたのは二人の切実な願いが伝わる予定確認であった。テンポ良く新八がツッコミを入れた後、キリトも思わず本音を口にしている。

「そう言われてもな……万事屋って不定期だから、遊べる日も当日にならないと分からないんだよな」

「おーい、キリト。真面目に答えなくていいぞ。また時間がかかるから」

 素直に答えてきたので、すかさず銀時が気だるい口調でツッコミを加えてきた。概要の少ない手紙であったが、夢に関しての疑問がまたも書かれており、彼女達も同じような影響を受けていると一行は捉えている。さらに手紙はこれだけにはとどまらない。

「あっ、こんなのもあったネ! 銀ちゃん、見るヨロシ」

「ああ? 今度は一体誰が――」

 神楽に釣られて銀時が手紙を見てみると、そこには懐かしい男からの願いが書き記されていた。

『おお、金時! 不思議な夢を見とるんじゃが、剣魂でのワシの出番はいつ来るんじゃ?』

「辰馬ぁぁぁぁ!! 急にぶっこんで来るんじゃねぇよ!! 俺に言う前に、この小説の原作者に聞けやぁぁぁぁ!! 名前も間違っているし!!」

 まさかの辰馬からの手紙に、銀時は桂と同様に勢いよく手紙を引き裂いていき、やりきれない思いを解消していく。彼らしいノリと質問であったが、今の銀時からしてみれば火に油を注いだに過ぎなかった。キリト達もその思いを密かに読み取っている。

「ま、また銀時さん、手紙を引きちぎりましたね……」

「よっぽど怒りがあったのね……というか、辰真さんって言うのは一体誰なの?」

 苦い表情のまま呟いているが、まず率直に感じたことは辰馬の存在であった。キリトらはまだ彼とは会っておらず、ここでようやくその存在について知ることとなる。

「ああ、キリトさん達にはまだ紹介していませんでしたね。辰真さんは銀さんの知り合いで、本名は坂本辰馬さん。共に戦った攘夷志士の一人で、現在は宇宙を股にかける貿易組織快援隊の艦長を務めている人なんだよ」

「坂本辰馬……坂本龍馬に名前が似ているな。それに銀さんと同じく戦争に参加していた一人なのか」

「昔は強かったみたいだけど、今は能無しの能天気野郎に成り下がったから、キリ達と会わなくても十分な奴アルよ」

「そ、そうなんだ……」

 新八や神楽からの説明で辰馬についての補完は出来たのだが、実際に会ってみないとやはりイメージはしづらかった。類似する偉人で坂本龍馬と名前が似ていることに興味を沸かしていたが。それはさておき、銀時の方は次々と来ていた手紙の内容について、もはや鬱陶しく思い始めている。

「ったく、なんだよ! どいつもこいつも変な手紙を送ってきやがって! 期待はずれなもんばっかりじゃないか!!」

 怒りを露わにして本音を口にするが、ユイだけは冷静にも考察を練ってある考えを閃いていた。

「でも、結構進展はしたと思いますよ。一つ気になる共通点も見つかりましたし」

「共通点? そんなもんあったのか?」

「はい! 手紙を送ってくれた人は、みんな奇妙な夢を見てみます。パパやママも含めると、全員がSAO参加者という枠組みが出来上がります」

「確かに……。リーファちゃんやシノノンからは特に連絡もないし、その考えは合っているのかもしれないわね」

 元気よく彼女が伝えてきたのはある共通点である。手紙を送って来た友人はみな不思議な夢に悩まされており、なおかつ過去にデスゲームであったSAOに参加していた面々ばかりであった。盲点を突くユイの考えにみなが納得していると、さらなる根拠を彼女は述べていく。

「さらに銀時さん達も大きく関係があります! 手紙を送ってきた桂さんや坂本さんとの接点は、同じ戦争に参加していたこと……つまりここでも共通点があるということです!」

「そう言われてみれば、そうだな……」

 銀時、桂、辰馬の共通点として攘夷戦争に参加していたことが上げられる。二人の手紙にも夢についての記載があるため、大方銀時と同じような夢を見ていると言っても過言ではないだろう。桂だけは若干怪しいが……。以上の接点から、特定の人間しか不思議な夢は見続けていないようだ。もちろん一行は、一連の流れから早速疑い深く進めている。

「やっぱりこれって、何か裏があるに違いありませんよ!」

「絶対そうネ! もしかしたら、とうとうサイコギルドが本格的に動きだしたんじゃ――」

 と新八や神楽らも考察に加わろうとしたその時であった。

「失礼します! みなさん揃っておりますか?」

「この声はたまか?」

 玄関先からたまの声が聞こえている。全員揃って玄関先まで行き戸を開くと、そこには神妙な顔つきで待っていたたまの姿が見えた。どこか真面目な雰囲気を醸し出しており、いつもとは確実に何かが違っている。

「たまさん? 一体何の用なんだ?」

「……キリト様にみなさん。少しお時間を頂けるでしょうか? 会ってもらいたい人がいるんですよ」

「会ってもらいたい人? そう言われてもこっちは今立て込んでいて――」

「不思議な夢の真相について、知りたくはないのですか?」

「えっ!? なんでお前がそれを知ってんだよ……」

「エギル様も同じ夢を見て悩まされていますからね。それに今会わせようとしている人は、きっと夢を解放するきっかけになる方だと思いますよ」

 どうやら彼女は夢についての事情をだいぶ理解しているらしい。たまからの誘いをきっかけに、遂に状況が動きだしていく……

 




おまけ
神楽 「あっ、銀ちゃん! こんな奴からも手紙が届いているネ!」
銀時 「ああ!? 今度は一体誰が……」
ギンガ『剣魂のオファー待っています。BY.仮面ライダーギンガ』
銀時 「って、おめぇは銀魂でもSAOにも所属してねぇキャラクターだろうがぁぁぁ!! ちゃっかり乗っかってくるんじゃねぇよ!!」

 分かる人には分かる声優さん繋がりです。まぁ、サイコホールが通じるなら、ワンチャン来るのかな? 出したら厄介なことになりそうだけど……




 予定では十訓程度にまで伸びる予定ですが、何分予測の為どうなるのかは分かりません。そこはご了承ください。
 後関係ないかもしれませんが、予告では千沙と表記していましたが、個人的にしっくり来なかったので千佐と変更しています。どうでもいいかもしれませんが、一応伝えておきます。
 さらに補足ですが、今回の港の場面は十六訓の場面とは時系列が異なるので、そこは勘違いしないでください。長くなりましたが、今回はここまでです。また次回、お楽しみにしてください!




次回予告
たま 「あの方は、早見千佐様。ずっと夢の中に閉じこもっている少女です」
神楽 「さっき、銀ちゃんとキリの名前を言っていたネ!」
ユイ 「やっぱり何か裏があるのでしょうか?」
キリト「千佐って子、どこか昔の仲間と似ているんだ」
銀時 「気にすんな。喋りづらいことなら、無理して言うんじゃねぇよ」
夢幻解放篇二 悪夢を見る少女


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第二十八訓 悪夢を見る少女

ようやく投稿できました! その前に一つ報告です。前回坂本辰馬を坂本辰真と誤変換していたことが発覚しました。現在は訂正していますのでご安心ください。
 今回から徐々に真面目なシーンが増えていきます。



 銀時やキリトを始め、多くの仲間達が見続けている謎の夢。接点を結んで考察を続けていく中、万事屋の元に突如たまが訪れてくる。彼女によると夢の真相へ迫るために、ある人物に会わせたいようだ。たまの案内によって万事屋の六人が向かった先は、日々多くの患者が訪れてくる大江戸病院。一行は入り口を通り抜けて、すでに病院内へ足を踏み入れている。

「この病院にたまさんの紹介したい相手がいるんですか?」

「その通りです。十二号室にいますので、ひとまずはついてきてくださいね」

 改めてユイが確認すると、たまは丁寧な口調で答えを返す。紹介相手はこの病院にいるらしく、彼女は早速その部屋へ向かおうとした。たまに続いて万事屋一行も静かについていき、廊下内を進んでいく。その道中で仲間達は、率直に思ったことを話題に上げていた。

「病院か……俺やアスナも昔は随分お世話になっていたからな」

「そうだったわね。今でも目覚めた時の事は、昨日のように覚えているわ……」

 キリトやアスナは病院と連想して、自身の過去について振り返っている。SAOに幽閉された二人の肉体は病院へと預けられることになり、目覚めるまでずっと病室で過ごしていた経験があった。苦く辛い事もあったが、その分現実で再会した瞬間は今でも忘れてないという。一方で銀時ら万事屋も、病院に関する出来事を思い出している。

「まぁ、俺達も病院には世話になりっぱなしだな。糖尿病になるから医者に何度も警告を受けたこともあったし、スクーターが爆発して一週間くらい入院していたこともあったな」

「期限切れのカニを食いまくって病院送りになったこともあったアル! まぁ、今では感慨深い思い出だけどナ!」

 あたかも当たり前のように話す二人であったが、傍から見れば実に馬鹿馬鹿しい入院理由であった。笑い話で済まそうとしているが、キリトらは笑うどころか気が引いてしまい呆れ果てている。

「何やってんだ、この人達……」

「私達に比べたら、よっぽど緩い理由で入院していたのね……」

「まぁ、銀さんと神楽ちゃんですからね……」

 苦い表情で呟く二人を察して、新八は控えめなフォローを加えていた。微妙な雰囲気となり果てていたが、能天気な銀時や神楽は気にも留めていない。

 そんな会話をしているうちに、一行の足取りはようやく十二号室へと辿り着いていた。

「着きました。ここが十二号室です。早速ですが、中へ入ってもらえますか?」

「……あの、たまさん? 今更なんですけど、僕らが会おうとしている人って、一体どんな人なんですか?」

 着くなり入室を促してくるたまであったが、そこへ新八の質問が割り込んでくる。これから会う紹介相手については、まだ詳しい情報を聞かされておらず、年齢どころか性別すらも知られていないままであった。距離にして目と鼻の先にあるのだが、今一度たまから情報を聞き出したいのである。しかし、

「それについては会ってからでお願いします。まずは彼女の姿を見てほしいので」

「彼女?」

「……さぁ、入りましょうか」

たまからの答えは一斉返ってこなかった。百聞は一見に如かずのように、言葉ではなく現実を見せてから説明に入るようである。頑なに意志を貫くたまの行動に、何か秘密を隠していると一行は悟っていた。雰囲気は一変し真面目な空気が漂い始める中、キリトら六人は恐る恐る病室へ入っていく。

「お邪魔します……」

 小さく挨拶を発してから、カーテンを潜り抜ける。病室へ入り最初に目にした光景は、予想を越えた辛辣な現実であった。

「えっ? この子は……?」

「ずっと眠っているアルか?」

 アスナや神楽は驚いた表情で声を上げると、同時にたまもその重い口を開き始める。

「その通りです。眠り続けているこの少女こそが、私の紹介したかった相手です」

 険しい表情のまま淡々と説明を続けていく。万事屋が対面した相手は、ベッドで横たわり眠り続ける小柄な女の子であった。子供っぽさが残る中学生くらいの外見で、青みがかったセミロングの黒髪と目元についた泣きぼくろが特徴的である。口には酸素マスクを付けており、常に過呼吸気味に体を震えさせていた。顔色もだいぶ悪く、まるで悪夢を見ているような苦しみに苛まれているようである。今なお眠り続ける彼女の姿を見て、銀時達の心境は一変。思わず言葉に詰まり、内心戸惑いを見せていた。

「紹介相手って、昏睡状態の女の子だったんですね……」

「たまさんが隠していた理由って、この事だったんだ……」

 ユイや新八は口々に感じたことを声に出している。紹介相手をひた隠しにしていた理由も分かり、深く心に受け止めていた。深刻な表情となっていき、神楽やアスナも同じ気持ちを持ち合わせている。一方で、銀時とキリトの反応は四人とは少し異なるものであった。

「おいおい、まさかこの子供が夢を解く鍵を握っているのか? いかにも訳アリで、一筋縄じゃいかなそうじゃねーか」

 予想とは違った展開に、銀時は気だるくも本音をこぼしてしまう。昏睡状態の少女と自身や仲間達が見続けている夢との関連性が、まったくもって想像つかないのである。早くも複雑な状況だと察しており、事は簡単に解決しないと予測していた。その一方で、

「う、嘘だろ……」

何故かキリトだけはより大きい衝撃を心に受けている。眠り続ける少女の姿にも驚いていたが、何よりも彼女の容姿を見て大きく心を動揺させていく。常に冷静なキリトでも、今回ばかりはある理由から落ち着きを戻すことすら至難を極めていた。

「ん? どうした、キリト?」

「いや、なんでもない……」

 彼の微々たる変化に、横にいた銀時は気付いて声をかけてくる。キリトが否定してもなお、いつもと様子が違うことは明白だったので、銀時はどこか違和感を覚え始めている。出会ってから初めて見せる素振りに、ただならぬ理由があると勘付いていた。

 驚嘆する万事屋の反応を見届けたところで、たまが前へ移動してまずは深くお辞儀を交わす。

「返答を先送りにしてすいませんでした。ただ私は、千佐様の現状を知らせたかっただけなのです……」

「そうだったんですね、たまさん」

「言葉では伝えづらかったってことかしら……」

 改めてたまからの本音を聞き、ユイやアスナは頷きながら彼女の気持ちを理解していた。最初の段階を踏み入れたところで、ようやくここから本題へと入っていく。

「それで、たまさん。千佐さんと言うのは、この眠っている女の子でいいんですよね?」

「そうです。改めて紹介しますと、彼女の名前は早見千佐様。一か月前までは、この近くの寺子屋に通っているごく普通の少女でした。しかしある日を境にして、今日まで眠り続けていることになります」

 新八からの質問に、たまは事細かな説明で答えを返す。昏睡状態である早見千佐の名前や入院前の状況について、簡略的に伝えていく。

「ある日? 千佐の身に一体何が起こったアルか?」

「はい。事の発端は三週間ほど前に遡ります……。七月の上旬頃、夜に源外様がカラクリを整理している時、うつむきながら歩く千佐様の姿を発見致しました。声をかけてみると、一言だけ言い残してそのまま倒れ込んだそうです。その後は病院へ搬送されて、現在もなお眠り続けていると言うわけです」

 今度は神楽から質問して、千佐に関する情報を聞き出していた。事の経緯は源外が倒れ込んだ彼女を発見したことで、現在へと至っているらしい。一連の出来事を聞き入れたところで、次にユイが話しかけてくる。

「それからずっと、寝込んでいると言う事ですか……。千佐さんが倒れ込んだ理由って、病気か事故が関係しているのでしょうか?」

「それは……まだ分からないのです。医者の診断でも特定できないみたいで、病気かどうかも定かではありません。現在は最低限の処置で安静を保っているようですが、今後の治療プランもまだ不透明なままなんです……」

「そんな……原因不明なんて」

 さらに明らかになったのは、千佐に対する厳しい現状であった。彼女の昏睡状態は医者ですら原因を突き止められず、今なお全容が明かされていない。回復の兆しすらなく、治療は今なお難航している。

 さらなる重い空気が場へ流れ込み、誰一人として声を上げられなくなってしまう。そんな中、千佐の口からは思わぬ寝言が微かに聞こえてきた。

「銀さん……キリト……」

「ん!? 今の声って、まさか……」

 唸りながら彼女が無意識に発したのは、会ったことすらない銀時とキリトの名である。唐突に聞こえてきた意味深な寝言に、万事屋内での動揺はさらに広がっていく。

「えっ!? なんでこの子、銀ちゃんとキリの名前を知っているアルか!?」

「千佐さんとは初めて会うのに、どうしてでしょうか?」

 神楽は慌てふためいたように驚き、ユイも心を落ち着かせつつ疑問を呟いている。一行には何が起こったのか分からず、ただ無情にも困惑するしかなかった。

 ところが、銀時だけは千佐の寝言からある仮説を閃いている。その瞬間「フッ」と顔を緩ませて、意気揚々とたまや仲間達へ向けて声を上げてきた。

「そういうことか、たま。俺達をここに連れてきた理由は、やっぱり謎の夢と関連しているんだな」

「流石銀時様です。もう思いつくなんて」

「まぁな。この千佐って子は俺達と同じ夢を見続けている……ただ違うのは、彼女は昏睡状態だからずっと夢の中へ居座っている。これが俺達に伝えたかったことだろ?」

「……その通りです。銀時様方が見続けている夢と、千佐様の見ている夢は、本質的に一緒なのかもしれません」

 堂々と言い放った銀時の仮説に、たまは素直にも肯定する。千佐が眠り続けている理由と、銀時達が見続けている夢は、やはり間接的な繋がりがあると推測してきた。もちろんアスナら仲間達も、この仮説に注目を寄せていく。

「えっ!? それって、本当なの?」

「確証はありませんが、関連性は高いと思われます。実は夢に悩まされているエギル様にも協力していただいて、千佐様との脳波を調べさせてもらいました。すると、こんな結果が導き出されました」

 そう言ってたまは、懐から一枚の用紙を手渡してきた。そこに描かれていたのは二つの折れ線グラフだったが、よく目を凝らしてみるとグラフが重なり合っているのが分かる。つまり結果から、脳波の動きが同じであることを証明していた。

「これが千佐さんとエギルさんの脳波……」

「二重になっているグラフが、二人を表しています。波長が酷似しているため、共に同じ夢を見ていると捉えて良いでしょう」

「ということは、千佐も俺達と同じ「夢を見続ける被害者」って捉えていいんだな」

「大方その通りだと思っています」

 周到に銀時が確認した上で、千佐と夢との関連性について確信づける。グラフによる集計によって、仮説はより現実味を帯びていた。多くの情報や証明を露わにしたところで、新八ら仲間達も徐々に信じこんでいく。

 だが一方で、依然としてキリトの調子は戻っていない。顔をうつむかせたまま考え込んでおり、仲間達もその異変に気付き始めている。

「ん? どうしたの、キリト君? さっきから喋ってないけど、具合でも悪いの?」

「いや、何でもない……」

 心配になったアスナが話しかけてきても、彼は元気を戻すことはなかった。付き合って数年は経っているが、ここまで露骨にテンションが低いのは滅多にない。そう感じた彼女は過度に干渉せずに、時間をおいてキリトの様子を見ることにする。

そんな中、昏睡状態の千佐からまたも意味深な寝言が飛び出してきた。

「一つ目……多くの蛇が取り――」

「って、また寝言を言っているアル!」

「今度は、一つ目と蛇ですか?」

 神楽やユイがいち早く気付き、一行へと伝えてくる。彼女がうなされながら呟いたのは、二つの謎めいた言葉であった。一つ目と蛇。これが何を表しているのかは、全くもって理解できていない。万事屋内でも早速推測が飛び交っていた。

「千佐さんの夢の中に出て来たってことか……銀さんは何か心当たりはないんですか?」

「知らねぇよ。俺だって、そんなに夢の内容を覚えてないし。キリトとかの方が、知っているんじゃないのか?」

「いや、俺も分からないかな……」

「……そうか。分かった」

 新八からの問いを受け流して、銀時はついキリトへと話を振っていたが、やはり小さい声で返されてしまう。元気がない様子が続いていき、銀時のみならず新八ら仲間達も彼の変化に気付いている。みな心配をかけていたが、空気を読んであまり大きい事は出来なかった。

 いずれにしても、千佐の寝言から思い当たる節が見つからず、万事屋内でも推測が難航してしまう。そんな中、たまは覚悟を決めて隠していた事実を一行へ伝えようとしていた。

「……あの、みなさん。少しよろしいでしょうか?」

「ん? どうしたんですか、たまさん?」

「実は言おうか迷っていたのですが、彼女が源外様に残した言葉が、妙に気になっているのですよ」

「言葉? 一体どんな事を言い残したアルか?」

 千佐が倒れる寸前で源外へ伝えた言葉を、このタイミングで打ち明かすようである。六人は再びたまの方へ注目していくと、そこで耳にしたのはある衝撃的な真実だった。

「それは……サイコギルドだったそうです」

 その言葉を聞き、全員の顔色は見違えるほど急変してしまう。大半が強張った表情へと変わってしまい、体を震えさせる始末であった。たまが言い放ったサイコギルドという名前は、現在のキリト達にとっては度し難い存在なのである。

「サイコギルド……!?」

「たま……それは本当なのかよ」

 一段と落ち着いていた銀時でさえ、言葉を詰まらせて動揺してしまう。

 サイコギルドとはキリト達を銀魂世界へ送った張本人であり、密かに万事屋が追い続けている組織である。極端に情報が不足していることから、最近は調査が滞っていたが、まさかこのタイミングで足取りを掴めるなんて想定外であった。

 全員が一層深刻な表情へと変わる中、たまからさらに詳しい情報を聞き出すことにする。

「本当の事です。千佐様が倒れる寸前で、源外様へそう伝えたそうです。サイコギルドがサイコホールを作り出してと」

「そんな……じゃ、千佐さんはサイコギルドの陰謀か計画に巻き込まれた……って、ことじゃない!」

「そういうことになりますね。最後まで打ち明かすのをためらっていましたが……やはり、最初に伝えておくべきでした。すいません……」

 アスナから問いただされると同時に、彼女は三度頭を下げていき万事屋へ真剣な謝りを入れてきた。彼らの動揺を誘いたくない故に、伝えるタイミングを伺っていたようだが、結局は失敗へと終わってしまう。その表情も珍しく深々と悔やんでいるようである。

 万事屋一行も最初こそ困惑していたが、徐々に落ち着きを戻していくと、それぞれ異なった反応を口にした。

「……ったく。まさかアイツらまで絡んでいるとはな。とうとう尻尾を掴んだってところか」

「やっぱり、この世界で暗躍していると言う事でしょうか? 千佐さんはひょっとして、サイコギルドの重要な秘密を知って、昏睡状態にされたってことじゃないですか?」

「きっと、そうネ! ブラックホールを作れるくらいなら、少女を貶める方法なんて幾らでも出来るはずアル! 本当、卑劣極まりないアルナ!」

 銀時や新八ら万事屋の三人は、追い求めていた組織の手がかりを見つけて、十分な好機として捉え始めている。千佐の一件や謎の夢も彼らの仕業であると断定しており、激しい怒りも露わにしていた。一方でアスナら三人は、怒りよりも衝撃の感情が大きく、その余韻をだいぶ引きずっている。

「裏でサイコギルドが暗躍しているなんて……」

「衝撃的よね……。私達と同じで、ブラックホールを通じてこの世界へ来たのかな? どっちにしろ、何を企んでいるのかしら……」

「アイツらも関わっているのか……」

 特にまだ落ち着いていないキリトにとっては、火に油を注ぐ事態であり、さらに心をかき乱されてしまう。表情はより一層暗くなり、またも深く考え込んでしまった。

 

 数分後。たまから多くの情報を教えてもらった万事屋一行は、一連の流れを整理して今回の件についてまとめている。

「改めて情報を整理しますね。パパや銀時さん達が見続けている夢は、偶然ではなく必然であること。千佐さんも同じ夢を見ていて、今なお昏睡状態が続いていること。そしてこの二つに、サイコギルドが関わっているかもしれないこと。後一つ目や蛇の謎もありますが、これで大方合っていますよね?」

「はい。私が伝えたかったことは、これで全てですよ」

 ユイが丁寧に要約してくれたおかげで、だいぶ内容を整理することが出来た。改めて振り返ってみると、実に密度の高い情報を手に入れたと思われる。目的が次々と積み重なり、万事屋内では新しい目標が着々と立てられていった。

「ということは、まず僕らがやるべきなのは、千佐さんを昏睡状態から解放させること……ですよね?」

「この子が目覚めない限りはどうにもならないだろ。でも、どうやって起こすんだよ? 下手に行動したら、危険性が増すだけだろ」

「だったら思い切って、千佐の夢の中へ入って、起こしに行けばいいんじゃないアルか?」

「って、神楽ちゃん。そんな漫画みたいな展開が、そう易々と実現する訳ないでしょ。もっとしっかり考えないと!」

 結論から千佐を目覚めさせることが解決への糸口となっていたが、その具体的な方法についてはまだ明確に決まっていない。神楽が思いつきで言い放った提案には、アスナが現実的な主観で否定していたのだが――

「いいえ。千佐様の夢の中に入ることは、源外様のカラクリでなら実現可能ですよ」

「……えっ!? そうなの?」

即座にたまから反論が飛び出してくる。予想外の答えにアスナも耳を疑っていたが、彼女によると源外特製のカラクリを使えば可能ではあるらしい。

「って、たまさん!? それは本当なんですか!?」

「もちろんです。夢の一件を聞きつけた源外様は、現在急ピッチで夢へ転移するためのカラクリを製作中です。完成まであと僅かですので、夢へ入ることは実質的に可能でありますよ」

 またも寝耳に水な事実を知らされて、万事屋は文字通り驚きに満ちている。今回はたまや源外の行動が一段と早いため、気合の入れ方が格段に違っていた。

「なんだよ、もう作っているのか。今回のお前ら、随分気合が入っているじゃないか」

「当然ですよ。あの子達と約束を交わしましたから……」

「約束?」

 銀時からの言葉を聞き入れると、たまは真剣な表情となり、ある気持ちを抑え込んでいる。彼女が行動を急がしているのも、やっぱり何かしら理由があるらしい。つい口走っていた約束という言葉にも一行が注目していく中、丁度よいタイミングで病室にある人物が訪れていた。

「こんにちは……」

「おや? アナタ達は……」

「あっ、お姉ちゃんも来ていたんだ。千佐の見舞いに」

 やって来たのは、千佐と同じ中学生くらいの女子二人組。下の名前で呼び合う仲から、二人は千佐の友人であると万事屋は察している。

「たまさん? この女の子達は……」

「千佐様のご友人です。同時に、私が約束を交わした相手でもあります」

「えっ? この子達なんですか?」

 さらに女子達は、たまと約束を交わした相手でもあった。すると彼女は友人達へ近づくと、子供達の目線に合わせて腰を下げていく。その後に優しい口調で会話を始めていた。

「ねぇ、お姉ちゃん。千佐って回復しているよね? もうすぐ元気を取り戻すよね?」

「もちろんですよ。千佐様は絶対に治ります。もう少しの辛抱ですから、アナタ達も彼女が目覚める日まで信じてあげてくださいね」

「うん……分かった! 私達だけじゃなくて、クラスのみんなにも伝えておくね!」

「大丈夫ですから。安心してください」

 微笑ましい表情のまま友人達を慰めていき、不安を与えないように接していく。彼女が約束を交わした訳も自然と理解していき、万事屋内でもその気持ちを受け止めつつあった。

「たまさんの約束って、きっと千佐さんを連れ戻す事ですよね」

「約束を果たすために、いつもよりも気持ちが入っているってことアルナ」

 新八や神楽はしみじみとたまの事情を解釈していき、

「千佐さんって、みんなから信頼されているのね」

「きっと友達思いで、優しい子なんですよ」

アスナやユイは千佐の人柄の良さを思い起こしている。様々な思いが交差するこの一件に、万事屋が協力する以外もはや選択肢はなかった。課せられた使命に覚悟を決めて、銀時達の想いは一つになっていく。

「だったら、俺達がやるべきことはもう決まっているだろ」

「銀さん……そうね。私達で夢の中へ突入して、千佐さんを救い出すってことね!」

「上等アル! 何が待っていようと、必ず千佐を取り戻して見せるネ!」

 源外のカラクリを使って、直接千佐の夢の中へと侵入する。彼女を目覚めさせることが、今回の万事屋としての依頼でもあった。想定外の方法だが、一行には迷いなど一斉ない。夢の謎やサイコギルドを解き明かすため、何より千佐を救うために気持ちが高まっている。

「何だか、万事屋っぽくなってきましたね!」

「その通りネ! 人助けも立派な万事屋として仕事アルからナ! ねぇ、キリ!」

 と勢いよく神楽がキリトへと話題を振ってきたが、

「……」

彼からの返事はなく、とうとう黙り込んでしまった。急変した様子に我慢が出来ず、神楽は強気なまま本音を口走ってくる。

「って、どうしたネ! キリ、さっきから元気が無いアルよ! 一体何があったアルか?」

「パパ? なんで急に落ち込んでいるんですか? 何か嫌な事でも思い出したんですか?」

 徐々に元気を無くすキリトを見ていられず、ユイもつい心配気味に声をかけてきた。すると彼はようやく口を開き、落ち着いた口調で仲間達へと伝えてくる。

「悪い、みんな。少し考えたいことがあるんだ。ちょっと部屋を出ていくよ」

 若干寂しげな表情を見せた後に、キリトはそのまま静かに病室を去ってしまった。滅多には見せない心情故に、新八らだけではなくアスナやユイも強い心配を心へ浮かばせている。

「パパ!? ……本当に何があったんでしょうか?」

「きっとまた一人で抱え込んでいるに違いないわ。ちょっと、追いかけてくるね!」

 落ち込んだ理由を知りたいため、アスナも病室を出てキリトを追いかけようとした時であった。

「待てよ。ここは、俺に任せておけ」

「えっ? 銀さん……?」

 様子を見計らっていた銀時が、迷いなく声を上げてくる。追いかけようとするアスナを差し置いて、自分だけが出口へと歩み寄っていた。その間に、自らの想いを話し始める。

「俺が代わりに行ってきてやるよ。恋人同士でも、言いづらい事の一つや二つくらいあんだろ? だったら、俺だけで十分だ。おめぇらは、今後の予定でも立てて待っておけ。それでいいな?」

「……分かりました。銀時さん、パパをお願いしますね」

「任せろ」

 伝えるべきことを全て言い切った後、銀時は似合わない微笑みを見せて、その場を立ち去っていく。その姿は以前にキリト達を万事屋へと誘った時と、同じくらいの頼もしさを感じさせる行動であった。

「……なんか、あんなに頼りになる銀さんを見たの、結構久しぶりかも」

「まぁ、銀ちゃんはいざという時は、本当にかっこいいアルからナ!」

「普段はだいぶ偉い違いですけどね」

「そこが、銀時さんのギャップということですね!」

 普段の生活ではあまり見かけない一面に触れて、ユイやアスナも銀時については見直している。彼へキリトを任せてみることにして、四人となった万事屋は今後について考え始めていた。一方で、流れを見聞きしていた千佐の友人達は、

「お姉ちゃん。ああいうのを、青春って言うの?」

「そうかもしれませんね。アレも一種の青春という形かもしれません」

「受けと攻めって感じ?」

「それは……」

「って、意味が違っているよ! まだこの子達、寺子屋通いだよね?」

ある意味間違った解釈を踏み入れようとしている。思わず新八がツッコミを入れて、場の流れを修正していく。この先の展開が、やや心配であった。

 

 一方、見失ったキリトを追いかける銀時は、廊下を中心に探し回っている。数分歩いていると、ようやく彼の姿を発見した。寂れた二人掛けの椅子に腰をかけて、窓の方へと見つめている。外ではさっきまで晴れていたが、いつ間にか雲に覆われていき、今にも雨が降りだしそうな光景であった。影と相まって警戒心を高ぶらせているキリトに、銀時は怯むことなく近づき意気揚々と彼に声をかけてくる。

「よっ、見つけたぜ。急に出ていくから、びっくりしたじゃねぇか」

「銀さん……」

「お前にしては珍しいな。ここまでしょんぼりするなんて。一体全体何があったんだよ?」

 ヅカヅカとキリトの雰囲気へと割り込んでいき、否が応でも会話する空気を作り出していく。同時にベンチへと座っていき、彼への親近感を持たせていた。するとキリトも気持ちを紐解いたのか、銀時へ対して込み入った自らの想いを話し出す。

「それは……少し過去の事を思い出していたんだよ」

「過去? お前が経験したっていうSAOってやつか?」

「そう。実は千佐の姿を見た時に、ただならぬデジャヴを感じとったんだ。過去の仲間とそっくりで……」

「そういうことか。冷静になれなかった訳は……」

 場に二人しかいない会話は、まるでキャッチボールをするように、お互いへ言葉を返している。キリトが大きく動揺していた理由は、千佐をきっかけに昔の記憶を思い出していたからだった。

「どんな奴なんだよ。昔の仲間っていうのは?」

「……俺がSAOに閉じ込められてからほどなくして、一時的に加入していたギルドがあったんだ」

「ギルド? 要するにパーティーってことか?」

「そう。そのギルドの中に、サチって言う千佐に似ていた女の子がいたんだ」

「サチって……千佐をひっくり返しただけじゃないか」

 ここで明らかになったのは、サチという仲間の存在である。キリトが初期に入っていたギルドの一員であり、先ほど見かけた千佐とそっくりだった女子らしい。これが彼の動揺を大きくさせたのだと銀時は確信している。その後もサチに関する話が続いていった。

「そうだな。サチは他のメンバーと比べて気弱で、何度も現実から目を背けようとしたこともあったんだよ」

「まぁ、戦闘皆無の人間からしてみれば、そう考えるのは必然だな。本当にそんな心構えで大丈夫だったのかよ」

「……途中までは。俺自身も出来る限り力になりたくて、サチや仲間達にも色んなことを教えていったんだ。必死に戦って守ろうともしたんだ――でも!」

 その瞬間である。「バリバリ!」と大きい雷が鳴り響き、雲に覆われていた空から大粒の雨が降り出してきた。まるでキリトの持つ悲しみを先読みするように、雨は激しく降っていき目の前の窓にも強く当たってくる。銀時もまた、キリトが本当に言いたかったことを悟っており、深く心へと受け止めていた。

「そういうことか……。だいたい分かったぜ」

「えっ、銀さん?」

「守り切れなかったんだろ、その仲間達を……。俺もそこまで聞くつもりはなかったんだ。辛かったらここで断ち切っても良いぜ」

 彼の言った通り、キリトは目の前で仲間を失った過去を持っている。この事実は自身もひた隠しにしており、仲間内でも知っている人間はごくわずかであった。なぜ銀時へ打ち明かしたかは不明だが、当の本人は空気を察して思わず気を遣ってしまう。キリトの辛辣な表情を見てられず、話を遮ろうとしていた。しかし、彼にはある別の狙いがある。

「いや、そうじゃないんだよ。確かに俺にとっては、辛くて忘れられない過去だけど、それと今回の一件にはある想いを寄せているんだ」

「想い?」

「ああ。実はずっと考えていたことがあるんだ……。別世界だからこそ、まったく同じ姿をしたパラレルな人間がいたとしたら。あの千佐って子が、この世界で生きるサチだとしたら。面影が重なってつい戸惑っていたけど、冷静に考えればそう感じるんだ。今度こそ、彼女を救えるかもしれないって」

 キリトが打ち明けたこと、それは救いのある考え方だった。マルチバースにのった考えに沿って、早見千佐をこの世界のサチであると予想している。元の世界では失った彼女が、この別世界で生き続けていたら……そう考えると感慨深かった。現在彼女が危機的な状況に直面しているからこそ、同じことを繰り返したくない。万事屋一行と同じように救いたい気持ちが彼にはあった。この運命的ともとれるキリトの考えに銀時はというと、

「フフ……アハハハ!!」

「って、銀さん!? なんで急に笑ってくるの?」

シリアスな空気を壊すように、思いっきり笑っていた。予想外の反応に、キリトも表情を緩くして新八張りのツッコミを交わしていく。すると銀時は、にやつきながら思ったことを声に出してきた。

「いや~一安心しただけだよ。表情も絶望しきっていて大丈夫かと心配したが、そんなこと考えていたのか。意外にも想像力が豊かだな。尊敬するわー」

「いや絶対嘘だろ! 完全に俺の事バカにしているだろ! 目つきで大体分かるんだよ! 銀さん聞いてる?」

 だいぶ適当なことを言いつつ、キリトの純情な気持ちを煽っていく。同時に彼らしい希望を捨てない考え方に、こっそりと感心している。

「フッ、だいぶ調子戻っているじゃねぇか。こんだけ激しいツッコミが出来ていたら、もう大丈夫だろ」

「そ、それは……銀さんがからかってくるからだろ」

「まぁ、半々ってことだな。俺はお前の考え方を否定しないし、そういうのも良いと思っているよ。失った野郎が、別世界で幸せに暮らしていたら……よっぽど嬉しいことだよな」

(えっ、銀さん……)

 その時、銀時の表情は一瞬だけ曇りかけていた。まるでキリトの気持ちと同調するように、寂しい目つきを露わにしている。銀時もキリトと同じく過去に命を懸けた戦いに赴いていたので、どこか同じように考える気持ちがあったのだろうか。詳しい事情を聞かされていないキリトでも、彼の気持ちにはそっと察し始めている。

 互いに込み入った話をしたことで、キリトも気持ちが楽になり肩の荷を下ろしていた。表情も明るさを取り戻したところで、銀時は話を締めていく。

「まぁ、これからは正直に話しておけよ。俺が言える義理じゃないが、なんでも一人で抱え込むなよ。アスナにでも言いづらい事があったら、俺に相談してきてもいいんだぜ。だから、これからは気を付けておけよ」

「銀さん。心配かけて申し訳なかったな」

「あいつらにも言っておけよ。じゃねぇと、質問攻めされるぞ。ロマンチスト君」

「って、キリトだから! 変なアダ名付けないでよ!」

「何だよ。新しい呼び名作ってあげただろうが。じゃ間をとって、松岡禎〇にすっか」

「人に名前になってんじゃん! 俺の本名、桐ケ谷和人だからな! 松岡ってそもそも誰だよ!」

 場の空気を変えるように、銀時がキリトへ構わず自由なボケを次々と発している。キリトのツッコミも激しくなっていき、二人はいつの間にか共に楽しげな表情を浮かべていた。窓の方ではにわか雨が既に止んでおり、徐々に雨雲も少なくなっている。そんな二人の様子を、仲間達は死角越しでこっそりと覗いていた。

「はぁー。キリト君が元気を取り戻してくれて、一安心したわ」

「銀ちゃんと腹を割って話して、スッキリしたってことアルネ!」

「多分そうだと思うよ。やっぱり銀さんは、こういう時には頼りになる人だな」

「普段とはまったく違いますけどね!」

 ユイの率直な言葉を聞き入れて、思わず四人はクスッと笑顔を浮かべている。彼が明るさを取り戻したことにより、みな心から安心していた。

 その後キリトが落ち着いたところで、再び一連の出来事について振り返っている。彼も快く了承して、千佐の夢へ侵入する計画が着々と進んでいった。

 千佐との出会いをきっかけに、物語は大きく動きだしていく。謎の夢の存在、サイコギルドの暗躍……彼らがたどり着く先では、一体何が待っているのだろうか? 舞台は未知なる世界、夢空間へと移り変わる!

 




 もうここまで来たら分かるんじゃないでしょうか。早見千佐のモデルとなったキャラクターを……。千佐を逆から読むとサチ。そう、アニメ版では三話だけにしか出てこなかった彼女なのです! ちなみに早見という苗字は、実際にサチの声を担当した早見沙織さんの苗字をそのまま使いました。いずれにしても、彼女が本章で大いに活躍してくれます。今後も注目しながらご覧ください。




次回予告

神楽 「着いたアル! 夢の中に!」
新八 「でも何か異様な光景ですよね」
銀時 「そこに隠れてんのは誰だぁぁぁ!」
キリト「って、俺!?」
アスナ「それに私まで来ちゃった!?」
ユイ 「夢の中にいるパパにママ、銀時さんと言う事でしょうか?」
夢幻解放篇三 夢の世界


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第二十九訓 夢の世界

 今思うと今回の長篇って、過去に銀魂でやっていた「たまクエスト篇」と流れは一緒なのかもしれませんね。初期のSAOと攘夷戦争がメインではありますが、一応ふと思ったので伝えてみました。


 千佐の現状を知ってから一夜が明けた七月三十一日。源外が取り急ぎ製作していた夢世界への転移装置が完成し、万事屋やたまらが計画した作戦が遂に本番へ移ろうとしていた。決行時刻である午後十時を過ぎ去ると、源外はトライシーバー越しにたまと通信を始める。

「たま、聞こえているか? 千佐の方の様子はどうだ?」

「大丈夫です。変わりはありません。彼女の額に焦点装置を設置しましたので、いつでも夢世界への侵入は可能ですよ」

「ありがとよ。後は彼女の具合を随時見張っていてくれ。病院の方はお前に頼んだぞ」

「了解しました。源外様もお気を付けてください。銀時様方を頼みましたよ」

「ああ、分かった」

 そう言葉を交わすと、二人は同時に通信を遮断した。現在二人は別の場所で待機しており、それぞれ違う役割に取り組んでいる。たまは千佐が入院する大江戸病院で、ずっと彼女の様子を見守っていた。千佐の額には小粒程度の焦点装置が付けられており、ここから脳波の動きを探って転移装置と交信を送っている。すなわち、たまの準備はもうすでに完了していた。

「千佐様。後少しの辛抱ですよ……」

 未だに夢から解放されない千佐の身を察して、たまはそっと彼女の手を握る。後はただ成功を祈るしかなく、夢世界へと向かう銀時達へ想いを託すしかなかった。

 その頃源外は、現在銀時やキリトらがいる万事屋で準備に取り掛かっている。今回の作戦ではこの二つが拠点となるようだ。

「ふぅ……果たしてこれで上手くいけばいいんだが……」

 不安げな表情で自らの思いの丈を呟いていく。今回開発した転移装置は、一定の条件が揃わなければ発動はせず、正直作戦が成功するのかは運次第でもあった。

 一方で協力相手でもある万事屋の六人は、何故か普段の格好のまま布団やソファーへと寝そべっている。木刀や剣まで装備して寝づらそうなのに加えて、頭には「転移」と描かれた白いヘルメットを着用していた。傍から見れば訳の分からない状況であり、銀時は早くも不満を口に出していく。

「おい、爺さん! こんなヘルメットで、本当に千佐の夢世界へ行けるんだよな?」

「何ぃ、心配するな。このヘルメットが転移装置だって言ったばっかりだろ。このカラクリはな、焦点装置との遠隔通信で互いの脳波を重ね合わせて、人為的に現実の人間を夢世界へと連れて行くことが出来るんだよ」

「……ということは、私達の肉体じゃなくて、意識が夢世界へと行くってことね」

「その通りだ。だから格好はそのままにしているんだよ」

 アスナからの質問にも、源外は自信良く答えを返している。どうやらこの個性的なヘルメットが、以前伝えていた夢世界への転移装置らしい。人の脳波を読み取る効果を持ち合わせており、それを利用して対象者を夢世界へと転移させるようだ。事細かに説明を伝えていく中、キリトやアスナは後者の仕組みには親近感を持ち合わせている。

「意識ごと転移か……なんだかナーヴギアやアミュスフィアを思い出す仕組みだな」

「ナーブにアミュス? どっかのお菓子名アルか、キリ?」

「いやいや、違うよ。俺達の世界にあったゲーム機の話だよ。前にも話しただろ? 俺達は仮想世界へフルダイブ中に、この世界へ来たって」

「……ああ! そう言えば、そんなこと言っていたアルナ!」

「ていうか、もう忘れかけていたんだ……」

 マイペースな神楽の反応に、聞いていたキリトは苦笑いで言葉を返す。だが彼の言っていた通り、今回源外が製作したカラクリは、SAO世界におけるフルダイブ系のゲーム機を彷彿とさせていた。それを耳にした銀時は、源外へ若干のちょっかいをかけ始めている。

「てか、爺さん。ここまで酷似しているってことは、さてはナーヴギアをパクったんじゃねぇだろうな?」

「……さぁ、どうかな? 似せたところでたかが模造品よ。それに形は同じでも用途は違う。人に恐怖を与えるカラクリと人を救うためのカラクリ。俺が作りたいのは、断然後者の方だからな」

 返答を曖昧にしていたが、彼らしい信念を込めた言葉を聞くことが出来た。この時点で銀時も追及をやめて、素直に源外の粋な気持ちを受け止めることにする。

「分かったよ。アンタの気持ちは分かったから、これ以上は何も言わねぇよ」

「あっ、ちなみに現在俺がライバル視しているのは、茅場昌彦とドラえ〇んだな」

「って、絶対パクっただろ!! SAOだけじゃなくて、〇ラえもんからもちゃっかりおこぼれを貰っているじゃねぇかぁぁぁ!!」

 はずだったが、源外が本音を漏らしたことで、温かい雰囲気は台無しになってしまう。一連の流れからナーヴギアだけではなく、ドラ〇もんのひみつ道具までも参考にしていたようだ。おかげで場の空気は一変し、グダグダなムードが漂い始めている。一方でユイが気にしていたのは、その情報の出どころであった。

「アレ? そういえば、何で源外さんはナーヴギアなどの事を知っているのでしょうか?」

「それは……エギルさんやクラインさんから聞いたと思いますよ」

「あっ、そうですよね! じゃ、ドラえも〇はどこから聞いたんでしょうか? そもそもド〇えもんとは、一体誰なのでしょうか?」

「ユイちゃん……これ以上の追及はやめようか。もう面倒くさいから……」

 好奇心旺盛な彼女の質問攻めに、新八は内心答えに困ってしまう。特に後者は元ネタが分からなければ説明も難しいので、どう返答すればいいのかも分からなかった。

 早くも場は一つ目のピンチを迎えようとしていた……はず。

 

 それから数分が経った頃。場の空気が落ち着きを取り戻し、再び真面目な雰囲気へと変わっていく。源外が説明を振り返っていると、ようやく千佐の焦点装置から反応が返ってきた。

「これは……チャンスが舞い込んで来たってところか! てめぇらは、ひとまず心の準備だけはしておけ! もうそろそろ、夢世界への道が切り開かれるぞ!」

 体を横にしている銀時達にも勢いよく伝えていき、源外は用意したパソコンに向かってひたすらキーボードを打ち続けていく。焦点装置との波長と、銀時らが頭に付けている転移装置が発する波長を合わせながら、慎重に二つを組み合わせている。もし合成に成功すれば、夢世界への転移は可能に近づいていく。数少ない好機を逃さないためにも、彼は必死に作業を進めていた。

 そして結果を待っている万事屋ら六人は、みな心を落ち着かせながら万全に備えている。

「いよいよ夢の世界に行くアルか……一体どんな事が起こるアルか?」

「それは行ってみないと分からないよ。少なくとも、楽な道のりではないと思うけどね」

 ソファーで横になっている新八と神楽は、不透明な予測に心を惑わされていた。共に不思議な夢を見ていない為、何が起こるのかまったく分からないのである。神楽は珍しく不安な表情を露わにしているが、新八は肝が据わったように凛とした表情で時を待っていた。

 寝室の方では、今までと同じくキリト、アスナ、ユイ、銀時の四人が布団へと寝そべっている。銀時のみは屏風を挟んで、たった一人で横になっていたが。それはさておき、彼らの心境も神楽らと同じく期待と不安が大きく入り混じっていた。

「なんだかドキドキしますね。夢の世界へ行くなんて」

「このやり方で、千佐さんを救えるのかは心配だけど……ここまで来たら、やるしかないわよね!」

 千佐を救うために決意を新たにして、アスナとユイの二人は共に深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせている。表情も晴々としており、終始リラックスした雰囲気であった。

 一方でキリトや銀時の二人は、緊張感を高めながらも、今後の展開について予想を頭へ浮かべている。

「あの子の夢の中か……俺達が見てきた夢の通りになんのかな、キリト?」

「さぁ、分からないけど……彼女を救えるなら、俺はどんな奴が相手でも立ち向かえるよ」

「ふっ……同じくだ。負ける気はまったくねぇぜ」

「ああ、俺もだ」

 穏やかな会話を交わしていき、こちらも決意を新たに誓い合う。果敢に挑戦する心意気は、キリトが千佐に対する救いたい気持ちから生まれていた。銀時もそれに同調して、一層の気を引き締め合っている。

 転移への時間が刻一刻と差し迫っていく中、もう一匹の万事屋メンバーも夢世界へ行く仲間達へ応援を送っていた。

「ワフ~!」

「あっ、定春! 見送ってくれるアルか?」

「ワン!」

「……そうネ! 待っててヨ。すぐに戻って来るからナ!」

 不安に苛まれている神楽を後押しするように、定春が元気よく彼女へ近づいてくる。彼のあどけない一面を目の当たりにして、神楽も思わず笑顔で返してきた。一瞬ではあるが、気持ちはちゃんとほぐされていたようである。

 長い待ち時間を過ごしていたちょうどその時、ようやく運命的な瞬間が訪れようとしていた。

「よし、繋がった! 夢世界への道のりが、遂に出来上がったぞ!」

 中々完成に至らなかった二つの波長が、奇跡的に一つへと集約していき、未知なる進路を作り出している。立役者でもある源外は喜びを声に上げた後、時を急ぐように銀時らへと催促を促してきた。

「いいか、お前等! 俺から言うべきことはただ一つだ! タイムリミットの明日の朝までに戻ってこい! 千佐を救うのに制限があるって事を忘れるんじゃねぇよ!」

 注意深く伝えた後に、彼はキーボードにある「Enter」のカーソルを勢いよく押していく。すると転移装置が本格的に動き始め、神秘的な虹色の光を解き放ちながら、六人の波長と合わさっていく。後は銀時らの任意次第で、千佐の夢へと突入することが可能となる。一行は覚悟を決めた後に、即興である考えを思いつく。

「よし! それじゃ、行くか!」

「って、その前に掛け声はどうするんだよ?」

「そんなのもう決まっているアル!」

「夢世界へ行くなら、言うべき言葉はただ一つね!」

「みなさんで合わせて行きましょうか!」

「そうですね。では早速……せーの!」

「「「「「「ドリームスタート!!!」」」」」」

 突入する前の掛け声で気持ちを合わせていき、六人の想いは一つとなっていた。同時に意識も夢世界へと転移していき、みな気を失ったように眠りについてしまう。さっきまでの万事屋とは思えないほど、場は静寂に包まれていく。現在は源外と定春しか起きておらず、後はパソコンで状況を把握しながら、銀時らをサポートするしかなかった。

「ワフ……」

「千佐を頼んだぞ、てめぇら……」

 一筋の希望を万事屋へと受け継ぎ、戦いの舞台は夢世界へと移り変わっていく。

 

「よっと……もう夢世界に着いたのか?」

 転移が始まってから僅か十数秒後。キリトは早速千佐の夢世界へと到着しており、気が付くと同時に自分の所持品や容姿について確認している。寝る前と同じ服装や、装備していた二本の長剣がそのまま引き継がれており、ひとまずは安心していた。

「ふぅ……寝る前とまったく変わっていないな」

 一つの不安を解消していたちょうどその時。四方八方から次々と、アスナや銀時ら仲間達五人が彼の元に駆け寄ってくる。

「キリト君―!」

「ここにいたのか! 何も変わっていねぇよな!?」

「ああ、もちろんだよ」

 彼らもキリトと同じく転移前とまったく容姿が変わっていない。ユイを除く四人もちゃんと武器を装備したままであり、戦力面から見ても何一つ問題は無かった。予想よりも早く万事屋の六人が集合したので、幸先の良いスタートを飾る結果となる。

「これで、万事屋全員集合ですね!」

「驚くほど早いアル。まぁ、下手にバラバラに分かれても複雑になるだけだし、これがちょうど良いのかもしれないアルナ!」

「って、神楽ちゃん。ここでの裏話は控えめにしないと」

 ユイに続いて神楽も思ったことを呟いていたが、若干メタ要素を含むものだった。長篇故に控えるようにと、新八は軽く注意を加えている。

 一通り確認が取れたところで、まずは千佐の夢世界を知るために、辺りを見渡していく。

「で、夢世界へと来た訳だが……特に変わった様子は無いよな」

「今のところ、草原と森しか見つかっていないもんな」

 発見したものと言えば、自然豊かな情緒ある風景だけである。風に揺られて葉を落としていく木々達や、地平線まで緑に生い茂っている草原。空の色も現実と変わらない水色であり、ここまで見れば特に悪夢とは関係のない穏やかな夢の世界だとも言える。

「……どう見ても平和な世界よね。第一印象だけみれば」

「そうですね。でもここまで人気が無いと、むしろ気持ち悪いですよ」

 自然しか見当たらない風景に、アスナや新八は思っていたことを呟いていた。近くに人の気配が無いことに違和感を覚えており、夢世界を懐疑的に捉えている。銀時やキリトも同じ気持ちであったが、何よりも気にしていたのは千佐が言い残した寝言の正体であった。

「そういえば、千佐が言っていた寝言ってどうだったんだよ? 俺達の名を呼んでいたってことは、この世界にも俺やキリトがいるってことじゃないのか?」

「それもそうだが、一つ目と蛇という手がかりも気になっているんだよ。一体何を表しているんだ……?」

 謎めいた言葉を思い出したようで、今一度考察を始めている。現在残されている手がかりはごく少数であり、前述した千佐の寝言と、微かに覚えている銀時ら三人の夢の記憶しかなかった。未知なる世界へと訪れているため、著しく情報が不足している。そこで一行が最初にすべきことは、地道な情報集めであった。

「あー! じれったいアル! こうなったら場所を移動して、コツコツと手がかりを探して見るしかないネ!」

「そうですね! 神楽さんの言う通りですよ! ひとまずは進んでみるべきです!」

 士気を高めた神楽に続き、ユイも同じく高い志を照らし合わせていく。彼女達の言う通り、しっかりとした情報収集が現在の万事屋には必要だった。仲間達もみなこの意見には、素直に賛同している。

「それじゃ、とりあえず歩いてみるか。途中でこの世界の住人にも、顔を合わせるかもしれないからな」

「同感だ。じゃ、まとまって行動するか。下手に分かれても面倒だからな」

 集団での行動を決めたところで、ここからの流れはキリトと銀時の二人のリーダーに委ねていく。彼らは場の指揮を取り始めながらみんなを誘導して、多くの謎を含ませている森の中へと侵入していった。一行の心境にはまだ気楽さが残っており、雰囲気も穏やかに落ち着いている。

 ところが、彼らはまだ気が付いていない。森の中にはすでに隠れている人物がおり、ずっと万事屋の様子について周到に見張っていたことを。

「これは、みんなに伝えないといけないな」

「そうや。由々しき事態やからな……」

 そう小さく呟くと、二人の人間は万事屋とは別の方角に走り出していく。果たして、二人は一体何者なのだろうか……

 

 一方で万事屋一行は、ただひたすらに森の中を進んでいる。最初は元気よく意気込んでいた彼らであったが、人に出会う事もなければ手がかりすらも見つからないため、一部のメンバーは早々に疲れを露わにしていた。

「……全然見つからないですね」

「森の出口すらも分からない状況ね……」

 複雑な気持ちのまま呟く新八やアスナに続いて、

「もう何分歩いているんでしょうか?」

「あー! 喉が渇くくらい変化が無いネ! さっさと出てきてアルよ!!」

ユイや神楽もつい本音を口に出していく。それぞれ異なった文句を言い放っており、進展すらしない現状に若干の焦りを感じていた。そんな四人とは打って変わり、銀時やキリトは先へと進みながら過去の思い出について語り合っている。

「森って聞くと、結構出会いが多い印象を持っているんだよ。現にシリカやユイと出会ったのも、森の中がきっかけだし」

「マジかよ。じゃ、ロリコンの森って言っても過言じゃねぇな」

「そんなことは無いって! それよりも銀さんは、森とかで思い出とかってないの?」

「森か……俺はあんまり覚えてねぇけど、ヅラが確か言っていたな。戦争中にアジトへ帰る時に、森で歩狩汗を見つけたって」

「ぽ、ぽかり!?」

「ああ、スポーツドリンクの名前だよ。偶然にも自動販売機が見つかったらしくて、どうやら俺が金をパクったらしいんだよ。そんなことあったかは分からねぇけどな……」

「いや、それ以前に……戦争中に自動販売機があるって、どんな状況だよ……」

 予想もしなかった銀時の思い出に、キリトはツッコミを忘れて言葉に詰まってしまった。森の中に自動販売機があるなど想像がついておらず、返答にすら困り果てている。そんな衝撃的な話を聞かされていた時であった。

〈コロコロコロ〉

 近くの茂みから一本の空のペットボトルが転がり、キリトの足元へとぶつかってくる。

「ん? ペットボトルか?」

「おいおい、夢世界まで不法投棄が浸透しているのか? しかも中身は歩狩汗か。奇遇だな」

「って、これがぽかり!? 漢字表記ではこうなるの!?」

 初めて見つかった手がかりだったが、その中身は意外にも話題に上がった歩狩汗そのものであった。ラベルにはちゃんと漢字が表記されているので、それを目にしたキリトはまたも衝撃を受けてしまう。

 それはさておき、ここで注目すべき点は転がってきた空のペットボトルだった。手がかりとしては十分であり、そこからの予測もだいたい考えは付いている。ここで仲間達も二人へ駆け寄っていき、ペットボトルの存在に気付き始めていた。

「銀ちゃん、キリ! 何か見つかったアルかー!?」

「って、ペットボトルを見つけたんですか?」

「そうなんだよ。たった今転がって来たんだ。しかも中身は入っていないからな。確実に誰かが飲んだ後だぜ」

「ああ、確かにそうですね」

「と言うことは、この近くに人がいるってことかしら?」

「そうかもな。願わくは、話が通じる相手だと良いんだが……」

 二人は中身の有無からペットボトルは使用後であると予測しており、この森の中に夢世界の住人が紛れ込んでいると考えている。状況は徐々に進展していき、同時に場の空気も緊迫感へと包まれていく。全員の表情も真剣さを増していたその時であった。

〈ガサァ!〉

 先ほどの茂みから、草と被さった大きい物音が聞こえてくる。その瞬間に一行はただならぬ気配を感じ取り、あらかじめ立てていた予測を確信へと移し替えていた。

「って、今のは……」

「やっぱりそういう事か。だったら、さっさと見つけねぇとな」

「ああ、もちろん。逃がしたら元も子もないからな」

 銀時やキリトの考え通り、あの茂みには何者かが潜んでいる。そう仮説を立てると、まずは二人だけが茂みへと向かっていき、気付かれないようにと距離を縮めていった。気配を消し足音を立てずに進んでいくと、ようやく茂みの目の前へと辿り着く。そして、

「そこに隠れているのは誰だぁぁぁ!!」

銀時が大声を上げると同時にためらいもなく侵入していった。潜んでいる対象者に驚きを与えるように、子供らしい悪戯で接触を試みたのだが――

「って、はぁ!?」

「えっ? 嘘だろ……」

むしろ驚いていたのは銀時とキリトの方である。その姿を目の当たりにして、大きく心を動揺させていた。

 対象者の容姿は黒髪のストレートヘアーが綺麗に目立ち、女子っぽい中性的な顔立ちをした男子である。黒いコートまで身にまとっており、まさにキリトとそっくり――いや、見間違えるほど姿が酷似していた。よく見ると耳が人間と似た形状であり、服装も若干本人とデザインが異なっている。しかしそれ以外は、まったくもってキリトそのものであり、未だに二人はこの事実を受け入れていなかった。

 そして新八達も近づいていき、二人と同じ衝撃を受けることになる。

「ん!? キリトさんが二人……?」

「茂みの犯人が、キリだったってことアルか!?」

「夢の世界にいるパパと言う事でしょうか?」

「そう考えるのが妥当よね……服装もSAOの時と似ているし」

 それぞれ違った反応を示していたが、共通してみな驚きを隠しきれていなかった。

 万事屋全員が言葉を上げられない中、夢世界側のキリトも同じ気持ちである。大袈裟なまでに表情を怯えさせており、発作が起きたように体を震えさせていた。

「や、や、やっぱり、僕なの? 君達は一体……?」

「えっと……まずはお互いに落ち着こうか。俺も内心驚いているけど、まずは話し合わないとどうにもならないし……」

「しゃ、喋った!! しかも、同じ声だし……」

「そ、そうなのか? とりあえず落ち着いてくれ。少なくとも俺達は敵じゃないから」

「そう言われても落ち着かないよ!! だって、僕がもう一人いるんだから……!!」

「それはそうなんだが……」

 終始気持ちを押さえて冷静に接していくキリトに対して、夢世界側のキリトは気の弱さを前面に出してもう一人の自分の存在に恐怖を感じている。一人称や性格も本物とはまるで異なっており、容姿以外は微塵も似ている部分が存在していない。これには様子を見ていた銀時達も、違和感を覚えてしまう始末である。

「おいおい。夢世界の方のキリト、思いっきり弱腰じゃねぇか。本人とだいぶ違うぞ」

「あんなキリ見たことないネ。臆病すぎて、のび〇君に見えてしまうアル」

 銀時や神楽は何のためらいもなく、ありのまま感じた事を口に出していた。一方で、

「千佐さんが寝言で言っていたキリトさんって、まさかあの人の事じゃないですか?」

「その可能性は十分にありえます! でもなんで、パパとはだいぶ性格が異なっているのでしょうか?」

「分からないけど……夢世界の方だと、性格そのものが違うってことじゃないかしら?」

新八、ユイ、アスナの三人は早くも考察に徹している。千佐が寝言で発したキリトの正体。本物とはだいぶ差のある性格や言動。一つの謎が解決すると同時に、また新しい謎が浮かび上がってきた。

 そんな中キリトも、諦めずにもう一人の自分との交渉に試みている。

「信じてくれ、俺は敵なんかじゃない。この世界へ来たばっかりで、何一つ知らないんだ。当然君の事も」

「えっ? 世界って?」

「俺達はこことは別の世界からやって来た。まぁ元を辿れば、俺もそのまた別の世界から来たんだけどな……」

「どういうこと?」

「えっと、つまり! 俺達は君の手を借りたいんだ。この世界について分からないことだらけで、色々と情報が欲しいんだ。だから、俺達に教えてくれないか?」

 何度も説得を交わしていき、その度に彼は優しく微笑んで、手を差し伸べてきた。キリト自身もう一人の自分に対しては、何の抵抗も持ち合わせてはいない。臆病な一面もしっかりと心に受け止めている。だからこそ真摯に話し合って、彼を理解しようと思っていた。

 そんなキリトの優しさに心を打たれたのか、夢世界側のキリトも警戒心を解き始めようとしている。

(えっ? もしかして、もう一人の僕って優しい人なの?)

 心では信じる気持ちが湧いており、彼から差し伸べられた手を握ろうと歩み寄っていた。しかし、その瞬間に思わぬ邪魔者が入ってくる。

「キリト、避けろー!! そいつらから今すぐ離れろー!!」

「アタイ達が徹底的に懲らしめてやるからなー!!」

 聞こえてきたのは、銀時らしき男の声とアスナらしき女子の声。口調や一人称が異なり、当然本物とは違うことは明らかであった。足音は徐々にこちらへと近づいていき、警戒心を高めていると、遂にその姿が露わになっている。

「……ハッ! そこか!!」

 異常な殺気を感じとったキリトは、背中に装備した二本の長剣を抜き、上から迫ってくる二人の攻撃を受け止めていく。防ぎ切ると同時に剣へ力を入れていき、自分との距離を遠ざけるように薙ぎ払っていった。

「ファ! お前達は一体……」

 身を守ったところで彼は、自分へと襲い掛かってきた人物の姿を凝視していく。銀時らも同じように注目していると、またも信じられない人物を目に映してしまう。

「えっ!? まさか……」

「って、おい……俺じゃないかよ!」

「嘘……私まで!?」

 その正体は、恐らく夢世界側にいる銀時とアスナであった。二人もキリトと同じく、本物との顔つきは大方そっくりである。

 夢世界側の銀時は、攘夷戦争で活躍した白夜叉時代の姿を踏襲していた。鉢巻を頭へと被せて、白い陣羽や灰色の野良着に身を包ませている。目も格好良く整っており、気だるさを感じさせない風貌は侍そのものであった。

 一方で夢世界側のアスナは、キリトと同じく昔のSAO時代を思わせる容姿をしている。髪色はALOと異なり、現実と同じ明るい栗色に染まっていた。服装はかつての血盟騎士団と同じ姿であり、赤と白を基調とした軽い鎧やスカートを身に着けている。足元も白色のニーソやシューズで統一していた。全体的な風貌は孤高の女騎士とも捉えられる。

 しかしいずれも、雰囲気はやはり本物とだいぶ異なっており、口調からその性格が滲みだしていた。

「大丈夫か、キリト! 怪我はしていないみたいだな?」

「ああ、そうだけど……あの人達は……」

「いいんだよ、伝えなくて。もう分かり切っていることだから……やい、てめぇら! アタイらの可愛い後輩をよくも泣かせやがったな! この落とし前は、ちゃんと付けさせてもらうぜ!!」

「その通りだ! 俺達がしっかり倍にして返してやるからな!」

 夢世界側のキリトとは違って、簡単には敵対意識を解こうとしない二人。だがそれよりも万事屋が気にしていたのは、夢世界側の二人の性格である。

「って、ちょっと待って! アレが夢世界の私なの!? なんで男勝りな口調で話しているの!? なんでちょっと不良っぽくなっているの!?」

 方が外れたようにアスナはツッコミを入れていき、思っていた違和感を声に出していく。夢世界での彼女は粗暴さが際立っており、本物と比べて上品さの欠片すら存在していない。その証拠に眼光も鋭利にとんがっており、メンチを切るようにずっと睨みを利かせていた。女騎士とは程遠い出で立ちである。

「ていうか俺に至っては、何で本物よりも主人公っぽくなってんだよ! 完全にオリジナルよりも男らしいじゃねぇか! 主役を食いそうじゃねぇか!!」

 一方で銀時にも、整理したい疑問が多く浮かんでいた。夢世界側の彼は仲間想いな一面が目立ち、責任感のある性格から一段と男前な印象を持たせている。おかげで普段の銀時との乖離が凄まじく、早くも仲間内からは本物を見下している意見が挙がっていた。

「なんかこっちの銀さんより男前ですよね。あっちの方が主人公っぽいかも……」

「いっそのこと、入れ替えてみるアルか? 本物の銀ちゃんを夢世界に置いて」

「そうですね」

「おい! 新八に神楽! ワザと聞こえるような声で見下すじゃねぇよ! 俺の心をどこまで傷つける気だよ!」

 銀時へ聞かせるように大声で話していき、新八と神楽の二人は不満を口にしていく。長い付き合い故に、つい本音をこぼしていたようである。

 そんな万事屋からの反応はさておき、夢世界側の銀時やアスナは依然と剣を収めずに、敵対意識すらも解こうとしない。警戒を続けている彼らは、内輪だけで会話を始めていた。

「おい、どうなっているんだ? あいつらはキバオウ達が言っていた新種の敵じゃないのか? 妙に俺達とも似ているし、調子が上がらないんだが……」

「アタイもだよ。あんな髪色に染めて、耳までとんがっているってどういうことだよ?」

「いや、それは……あの人達も別世界から来たみたいだよ」

「別世界? ということは、やはり統率者が呼び出した新たなる敵ということか?」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「否定しなくていいんだよ。眼前の敵は叩き潰すだけ! そうみんなで決めただろ?」

「そ、それは……」

 夢世界側のキリトの押しが弱く、本当のことを伝えられずに物事が進んでしまう。その影響もあって、せっかちな二人は勘違いしたままある決意を固めていく。

「よし、だったら……おい、お前達! 何者だか知らないが、敵だということに変わりは無いんだろ? アタイらがここで一気に叩き潰してやるからな!」

「その通りだ! 覚悟しろ、貴様ら!」

「そんな……」

 銀時ら万事屋の六人を完全に敵だと思い込み、堂々と喧嘩まで売ってしまった。誇らしげに笑みを浮かべている銀時とアスナに対して、キリトは誤解が解けなかったことに苦い表情でため息を吐いている。

 一方で売られた側の本人達は、話が上手く通じないことにもどかしさを覚えていた。

「おいおい。折角打ち解けようとしたのに、俺とアスナが出てきてから強制戦闘になろうとしているぞ!」

「厳密に言うと夢世界の私と銀さんだけどね……でも、どうするの? ここは戦うしかもう選択肢はないわよね?」

「アイツらがその気だったら、こっちも戦うしか手段はないよ。少し心が痛むけど……仕方ないか!」

 売られた喧嘩に堂々と挑むようで、律儀にこちらも銀時とキリトとアスナの三人が夢世界の自分に戦いを挑むようである。木刀や長剣、レイピアと言った得意の武器を抜いたところで、夢世界側の彼らも緊張感を口走っていく。

「あっちも戦う気だよ……もう止められないよ……」

「ほら、キリト! アンタも剣を抜いて、アタイらに加勢しなさいよ!」

「はい……」

 未知なる存在に戸惑いを見せていたが、既に覚悟は決まっていた。キリトだけは武器を手にしてもなお、調子が下がっていくだけだったが。

 一方で本物の万事屋では、戦闘に参加しないユイと新八と神楽へ向けて、場から離れるように忠告を加えていく。

「新八と神楽はユイを頼む! 木の陰に隠れて守っていてくれ!」

「分かったネ、キリ! 任せるヨロシ!」

「パパにママ! 銀時さんも気を付けてくださいね!」

「何とか穏便に済ましてくださいね!」

 素直に応じると共に、三人は近くにあった大きい木の陰へと隠れ始めている。これで戦闘に必要な条件は、全て整うことになった。

「よし。じゃ、行くか……自分との戦いに!」

「OK!」

「もちろんよ!」

 説得を促すために気持ちを一つにしていく、本物の銀時ら三人。心の迷いは一斉なく、夢世界の自分にも果敢に挑む所存である。

「覚悟しろ、偽物共!」

「アタイらが打ちのめしてやるからな!」

「お手柔らかにお願いします……」

 そして夢世界側の三人も勢いだけでは負けていない。キリトだけは戦う気がさらさらないので、気持ちが戸惑っていたままであったが。

 いずれにしても、この戦いが終わらなければ進展しないのは事実である。万事屋達は千佐の悪夢を解放する手掛かりを見つけるために。夢世界側のキリト達は目の前にいる敵を倒すために。譲れない思いを心に宿しながら、遂に自分同士の決闘が始まろうとしている。

「「「「「行くぞ!!」」」」」

「やっぱり始まるの~?」

 戦いの火蓋は今、切って落とされた。

 




 本物のキリトと夢世界のキリト。新しい試みだと思っていたのに、いざ書いてみると……とてもややこしい! これは設定集でもまとめて、上げていくしかないな。いずれは分かりやすいように表記するので、しばしお待ちください。
 後は報告ですが、来週は所要の関係で投稿が出来ません。再来週までお待ちください。
 それでは、また次回まで!






次回予告
夢世界で現れたもう一人の自分
次々と現れる懐かしい顔ぶれ
そして……
「戦いをやめてください! みなさん!」
「君は……」
遂に夢世界の千佐も姿を現す!
夢幻解放篇四 もう一人の自分

銀時「ていうか、次回予告のテイスト変わってない?」
新八「予告を作っても、使われないセリフが増えたから変更したみたいですよ」
銀時「そっか。ただの裏事情だったか」



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第三十訓 もう一人の自分

話題の一件について
沖田総悟「いや~おめでとうございやす。まさかお前が人妻になるなんて、思ってもいなかったですけど」
リーファ「えっ? 一体何の話?」
沖田総悟「まぁ、分からなくて当然ですよ。俺はリーファじゃなくて、竹達彩奈に言っているんですから」
リーファ「竹達彩奈って誰!? 私の本名、桐ケ谷直葉なんですけど!?」
沖田総悟「だからお前に言ってねぇんだよ。この間はアスナ……いや、戸松遥が結婚したから、SAOでメインヒロインを飾った女は軒並み幸せを掴んでいるんだな。末永く幸せを育めよー。梶裕貴と」
リーファ「……だから、一体何の話なのよ!?」

という完全に本編とは無関係な話ですが、知らないうちにまた声優さんが結婚しましたね。戸松遥さんに続いて竹達彩奈さんまで結婚なんて、びっくりしました! 梶裕貴さんとだなんて……意外すぎます。ネットではピピ美同士の結婚って言われていますけどね。そういえば、戸松遥さんもピピ美を担当していた気が……。それはともかくとして、共にお幸せに過ごしてください!


 昏睡状態が続いている千佐を救う為に、銀時ら万事屋は源外が開発したカラクリを使って、現在彼女の夢の世界へと侵入している。そこで出会ったのは、性格の異なるもう一人の自分達であった。

 穏便に済まそうと説得を試みるが、考え方のズレから無情にも決闘を申し込まれてしまう。話の流れに乗るしかなく、銀時、キリト、アスナの三人のみが剣を手にして挑むことになった。木の陰で仲間達が心配そうに見守る中、自分同士の戦いは今も続いている。

「はぁぁぁぁ!!」

「とぉぉぉ!!」

 銀時が木刀で攻撃すると同時に、夢世界の銀時も刀を使って攻撃を未然に防いでいく。木刀で斬りかかろうとしても、刀が破壊されることは無く、互いに一歩も引かない状況が続いている。彼らが対峙する度に、木々に生えた葉っぱは揺らいでいき、意図的な突風を生み出していた。その直後、二人は一旦場から離れていき体制を整えていく。

(なんだよこいつ……まるっきり強さまで俺に似やがって……)

 決着のつかない勝負に、本物の銀時は心の中でつい本音を吐き出している。自分と同じ姿……ましてや昔の白夜叉時代の格好をした相手との戦いに、普段よりも調子は上がっていない。睨みを利かせた表情を崩さずに、彼は一層息遣いを荒くしていた。

 もちろん夢世界の銀時も、同じ行動を取っている。

「はぁ……。中々やるな、お前も」

「あたぼーよ。気だるそうに見えて、やる時にはやるんだよ。俺は……」

「益々信じられん……。死んだ魚のような目をしているくせに……!」

「って、気にしている事を平然と言いやがるな! 率直にもほどがあるだろうが!」

 何のためらいもなく発した彼の一言を聞き、銀時は思わずムキになって怒りを露わにしていく。夢世界側の自分は未だに敵対意識を続けており、刀を手にしている限りは銀時も攻撃を続けるしか手段は無かった。相対する彼らの目の前に、一枚の葉っぱが地面へと落下したところで――

〈キーン!〉

再び刀や木刀を握りしめて襲い掛かっていく。がむしゃらに攻撃を続ける銀時と、ひたすら防御に徹して彼の隙を狙う夢世界の銀時。どちらも勢いが衰えることは無く、火花を散らす戦闘は激しさを増すばかりであった。

 一方その横では、異なるレイピアを手にしたアスナ同士の戦いが繰り広げられている。

「チッ! 強さは同格ってところか……」

「そうみたいね!」

 長らく続いた攻防の末に、互いのレイピアは向かい合わせとなって、一歩も譲らないこう着状態を作り出していく。まるで鏡に映った自分の姿のように、二人は動きを正反対に一致させている。

 しかし、その戦闘スタイルは大幅に異なっていた。打撃を与えて激しい戦法を繰り出す夢世界のアスナと比べて、本物のアスナは繊細な動きを用いた突き攻撃を得意としている。見た目はもってのほかだったが、戦い方の違いにも夢世界側の彼女は納得していない。

「てか、そもそも本当にアタイなのか!? 少しばかり上品すぎなんじゃねぇの?」

「そうかしら? そういうアナタこそ、女子っぽさが見当たらないけど? もうちょっとしなやかさを磨いた方がいいんじゃないの?」

「うるせぇ! アタイのやり方にいちいちケチを入れてくるんじゃねぇよ!!」

 我慢できずに指摘を言い放った瞬間、もう一方からはブーメランの如く言葉を返されてしまう。本物のアスナは既に彼女の気性の荒い性格を見透かしており、一歩上手へと回り込んでいた。いずれにしろ、二人は女子特有の対立性を表に出している。共に相手の様子を伺っており、こう着状態は一行に解かれる気配が無かった。

 それぞれの決闘が続いていく中、キリトの方はというと――

「いくよ! とりゃー……って、うわぁ!」

「って、おい!? 大丈夫か?」

前例の二人とはまったく異なる雰囲気で進められていた。夢世界のキリトが長剣を両手に走り出すが、途中で小石につまずいてしまい、勢いよく地面へ叩きつけられてしまう。心配になった本物のキリトは急いで駆け寄っていき、彼の現状について確認している。

「どうやら怪我はないみたいだな。とりあえず安心したよ」

「そうなの……? でも僕はちっとも安心出来ていないよ! 戦うのをためらって、おまけに銀さんやアスナさんも人の話を聞かないし……なんでこうも上手くいかないの!」

 優しく言葉をかけたものの、彼は自身を追い詰めてしまい、本音を吐き出すと同時にしくしくと涙まで流し始めた。事が上手くいかず理由すらも聞かない仲間の強引さに、どう行動すればいいのか分からなくなったのである。

 自暴自棄と化したもう一人の自分に対して、キリトも反応に困ったものの、苦い表情をしたまま説得を促すことにした。

「まぁまぁ、落ち着けって。そんなに泣いても問題なんて解決しないから、まずは自分から行動した方が最善だと俺は思っているよ」

「で、でも……僕が止めたって、あの二人に返り討ちにされるだけで、出来っこないんだよ……」

(かなりのネガティブ思考だな……夢世界の俺って、ここまで悲壮感に溢れているのか?)

 優しい口調で話しかけても全然立ち直らずに、むしろマイナスな思考でより暗い気持ちに彼は包まれてしまう。これには本物のキリトも対応に困ってしまい、言葉に詰まる始末であった。

 大した進展も無いまま、自分同士の戦いは今もなお続いている。

 

 そんな中、ユイら仲間達は木の陰からそっと銀時達の戦いを見守っていた。

「中々決着が付こうとしませんね……」

「銀ちゃんもアッスーも互角に戦っているアルからナ……。まぁ、キリだけは月とすっぽんくらい差があるけど」

 ユイからの素朴な呟きに、神楽は正論に近い言葉で返している。弱気な性格である夢世界のキリトに対しては、容赦のない辛辣な言葉で例えていた。真剣に場を見守っている中、新八だけは密かにある気配へと気付き始めている。

「ん? アレ……?」

「どうしたんですか、新八さん?」

「いや……気のせいかもしれないけど、足音が聞こえてこない?」

「足音アルか?」

 彼からの情報を頼りに神楽やユイも耳を澄ましてみると、微かではあるが草に揺れて響く人の足音を感じとっていた。徐々に音は大きくなっていき、まるでこちらに近づいてくるようである。

「って、新八さんの言う通り聞こえてきますよ!」

「何か嫌な予感がするアル……新八! ユイの身を一緒に守るネ!」

「もちろんですよ!」

 新たなる伏兵の可能性もあり、新八や神楽も隠し持っていた木刀や日傘を手にして準備へと入っていく。戦うことが出来ないユイを自分達の後ろへ連れて行き、取り囲みながら守備を周到に整えている。すると落ち着く暇もなく、二人の人間が一行の目の前へ姿を現していく。

「「ハァァァ!!」」

 甲高い声を発しながら、接近戦用の武器を手に、新八達へと襲い掛かってきた。だが彼は既に攻撃を予測しているので、一段と冷静に対応している。

「早く下がって、二人共!」

 ユイや神楽を反対方向へ逃がしたところで、木刀を握りしめながら、二人の襲撃者へ果敢に立ち向かっていく。振り上げると同時に木刀で相手からの攻撃を打ち消していき、まずは勢いよく薙ぎ払っていった。一定の距離を保ったところで、ようやく新八は襲撃者の姿を目の当たりにする。

「一体誰が……って、シリカさんとリズさん!?」

 その正体は意外にも、知り合いであるシリカとリズベットに酷似した少女達であった。共にSAO時代にて着ていた衣装を身にまとっており、耳や外見も本人と比べれば若干の違いが生じている。

 シリカの服装は赤を多めに基調しており、リズベットも丁度良い丈のスカートと茶色いブーツで足元を決めていた。

 いずれにしても、またも現れた夢世界のそっくりな住人に、新八達は驚きを隠せずにいる。一方でシリカとリズベットの二人は、強気な態度で接して勝手に話を進めていく。

「って、なんでアタシ達の名前を知っているの……?」

「さてはアンタも統率者の一味ってことね!」

「違いますから! ていうか、統率者って一体誰なんですか!?」

「しらばっくれないでください! ピナの技を使って、アナタの行動を制限しますよ!」

「ピ、ピナ!? まさかあの子も夢世界にいるって事!?」

 こちらも依然として敵対意識をむき出しにしており、しかめっ面な表情をしたまま新八へと脅しをかけている。動揺をしながらも彼は説得の為に会話を続けようとしたが、その背後からはある鳴き声が響いてきた。

「ナー……!」

「えっ!? これって……」

 気づいた時にはすでに遅い。新八は恐る恐る後ろへ振り返ってみると、そこには特技のバブルブレスを発射しようとするピナの姿が映っている。狙いを定められてしまい、逃げる隙もないまま……

「ナー!!」

「うわぁぁぁ!!」

無抵抗で泡攻撃を受けてしまった。当然現実との効果は同等であり、新八はこの泡によって数分間は体の自由が奪われてしまう。

 そして新八の助けもあって、襲撃者から逃げようとしているのは神楽とユイ。出来る限り森の入り口まで避難しているが、彼女達の元にまた新たなる敵が襲い掛かってくる。

「ハッ!? ユイ! 左の木の下に隠れるネ!」

「えっ!? 神楽さん!?」

 人の気配を悟った神楽は、ユイを強引にも左へ押し倒すと、たった一人で戦闘準備を本格的にしていく。目を大きく見開きながら、警戒心を高めていたその時である。

「ファァ!」

「そこネ!!」

 微弱に感じた振動から、右側からの襲撃を一瞬で察していた。この直後に神楽は、勢いよく飛び上がって未然に攻撃を回避している。一方で襲撃者の正体は、大型の斧を持った褐色肌で大柄な男性……エギルと酷似した人物であった。

「な……エギ!? こいつも夢世界の住人ってことアルか!?」

 気が付くなり大きく驚嘆する彼女であったが、既にその後ろにはさらなる伏兵が回り込んでいた。

「夢世界? 十分ロマンチックな台詞を言うじゃねぇか。お嬢さんよ!」

「何!? お前は……」

 聞き覚えのある男性の声に気が付き、思わず後ろを振り返ってみる。そこにいたのは、甲冑が特徴的な侍風の衣装に身を包んだクラインらしき男であり、彼女と同じくして大きく飛び上がっていた。この二人も共にSAO時代と同じ格好をしており、服装や容姿にも本人との誤差が生じている。

 それはさておき、背後を取られてピンチに陥っていた神楽だったが、土壇場である作戦を閃いて早速行動へと移していく。

「あっ、そうネ! これでもくらえアルー!!」

「ハハ。何をしてももう……って、アレ?」

 余裕をかましていたクラインであったが、彼女に足の根元を掴まれたことで状況が一変。動きを制御されたことに気が付くと、

「ピンチをチャンスに変えるアルゥゥゥ!!」

「って、ウワァァァ!!」

そのまま勢いよくエギルの元まで投げ飛ばされてしまった。彼女の作戦通りに上手くいき、見事に形勢を逆転させている。

「えっ、おい!? こっちに来るな……!? って、うぉぁぁ!?」

 エギルにも予想が付かなかった故に何の対策も立てておらず、落下するクラインの衝突をもろに受けてしまった。ぶつかり合った両者は気を失い、行動不能に陥っている。

 時を同じくして神楽も地上に着地して、木の隅へ隠れていたユイの元へと駆け寄っていく。

「ユイ! 大丈夫だったアルか?」

「はい、もちろんです! ところで神楽さんの方は?」

「こんなの平気ネ! お茶の子さいさいアル! でも、こいつらまで夢世界にいたなんて驚きアルナ」

 お互いの無事を確認したところで、彼女達は一連の流れについて振り返っている。シリカ、リズベット、クライン、エギル。どれもキリトやアスナと同じく過去の姿を踏襲した別人が、この夢世界に存在しているようだが……彼らには一つだけ共通点が浮かんでいた。

「どれもSAOの生還者ばかり……不思議な夢の正体とは、やはりコレなんでしょうか?」

「不思議な夢……あっ! そういえば、まだ銀ちゃんと同じ攘夷志士達とは出会っていないネ!」

「確かにそうですね。ということは、同じくこの森に潜んでいるという事でしょうか?」

「ひょっとして……」

 SAOを経験した者、並びに現在夢に悩まされている仲間達が、夢世界で姿を現している。となれば、銀時と共に戦った攘夷志士達もこの世界に存在していると予測していた。嫌な予感を察し始めており、二人は急いで銀時達のいる場所へと戻り出していく。

 

 一方でキリトらがいる一帯では、未だに決闘が続けられており、まったく収まる気配すら無かった。銀時とアスナの二人は互角の勝負を繰り広げているが、キリトだけは自信喪失したもう一人の自分に根気強く説得を促している。

「ほら、もう一度考えようって。自分の意志を伝えないまま、このまま誤解を招いたままじゃいけないだろ?」

「そうだけど……僕には無理なんだよ。君みたいに強い根性も持ってないし……」

「そんなことは関係ない。たった一歩の後押しだけで十分なんだよ。だから……踏み出してみろよ。自分の心に決めた気持ちで!」

「気持ち……」

 必死に問いかけていき、自らの想いについて伝えていた。彼の言葉が心に響いたのか、夢世界のキリトは迷いながらもある考え事を浮かべていく。自分の行動次第でこの決闘も終わらせることが出来ると。彼が決意を固めるのももはや時間の問題であった。

(例え別人だとしても、この子も俺だったら……絶対に前へ進んでくれるはずだ)

 本物のキリトも心の中でそっと呟いている。弱気な自分であれ、必ず克服して自らの強みにしていくと信じていた。その瞬間までは優しく見守っていく――はずだったが、

「そうはさせるかよ……」

「……何!?」

ここで予想外の事態が発生してしまう。聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある低く渋い男性の声。キリトが気配を悟っていると、その男は唐突に目の前へと姿を現していく。

「……ハァ!!」

「フッ!!」

 そして何のためらいもなく刀を抜き、本物のキリトへ向けて素早く斬りかかっていった。しかしキリトも二本の長剣を前へ差し向けて、瞬く間にその攻撃から身を守り抜く。ギチギチと剣と刀を擦る音が響いており、かなりの力を入れている事が伺い知れたが……

「トワァ!」

せめぎ合いの末に二人は、互いの力に押されて距離を広めてしまう。地面へと叩きつけられてしまったが、共にそこまでの深手は負っていない。

「おい、キリト!?」

「キリト君、大丈夫―!?」

 銀時やアスナも彼の危機に気付き、戦闘を一時中断して駆け寄ってくる。これにより、現実世界の万事屋と夢世界のキリト達にて勢力が分かれてしまう。

「……なんとか平気だよ。それよりも、あいつは一体何者だ……?」

 二人へ礼を言うと同時に、彼は慎重に新たなる襲撃者を凝視していく。紫がかった髪と一段と細い目つきが特徴的であり、陣羽織風の甲冑を身にまといこの戦場へ舞い込んでいる。すると彼は、冷静な口調で言葉を返してきた。

「ふっ……俺の事か? 鬼兵隊を率いる総督、高杉晋助だ。ちゃんと覚えておけよ、偽物共」

「高杉……晋助?」

 聞いたこともない名前に、キリトはつい首を傾げている。その正体は、かつて攘夷戦争で銀時と共に戦った一人の高杉晋助であった。戦闘能力の高さから、ただならぬ人間である事は雰囲気からも察せることが出来る。彼の登場により場の空気は一変し、それぞれ異なった反応を露わにしていた。

「高杉さん……?」

「よぉ、キリト。また随分と困ってんじゃねぇか。いい加減戦いに慣れないと、こっちの身が持たねぇんだよ」

「何言ってんだよ、お前だけ遅れてきやがって! アタイらがどんだけ大変だったのか、分かっているのか!?」

「高杉はいつでもマイペースだからな……」

 助っ人の介入に文句を言いつつも、若干安心感に包まれている夢世界のキリトら三人。やはり彼らも、夢世界での高杉とは面識があるようだ。

 一方で現実の銀時は、自然と苦みのある表情を浮かべている。高杉とは大きい因縁があり、例え別人であっても心にはモヤモヤとした感情を募らせていた。

「やっぱり高杉もいるんだな……こりゃまた面倒な事になりそうだな」

 そう言いながらもキリト達の方へ顔を向けると、彼らはまた違った反応を示している。初めて会う相手にも関わらず、声だけを聴いてある天敵を頭に思い浮かべていたからだ。

「ねぇ、キリト君。高杉さんの声って、どこかで聞いたことのある声よね?」

「声で言うと……やっぱり、オベイロンと似ているよな?」

 神妙な表情で二人は深く共感している。話題に上げた人物は、かつてのALOの管理者でもあったオベイロンであった。アスナを数か月に渡って自分の手元に幽閉していき、それを助けに来たキリトにも憎悪をぶつけて危害を加えた外道とも言うべき男である。もちろん高杉とは何の接点もないが、声を聞いただけで二人はすぐに強欲なイメージを彼に植え付けてしまう。

 すると、二人の話に乗っかって銀時も声をかけてきた。

「ああ、オベイロン? まさかこの間の東城みたいに、声の似ているお前らの宿敵って野郎か?」

「まぁ、そういうところね。あの人には本当酷い仕打ちを受けたからね……」

「思い出しただけで、虫唾が走るくらいだよ」

「ほう……そんなに悪意のある奴か。高杉も別の世界では、クロちゃ〇並みに問題を起こしていた事をしていたのか」

「あの、銀さん? 多分その人と比較するのは、間違っている気がするんだが……」

 銀時の独特な例え方に、キリトは小声でツッコミを入れている。彼はふと思い付きで某芸人の名を声に出していた。ちょっとした小ボケであり、キリトらもその名を理解しなくとも場のノリを察している。

 そんな万事屋の会話を夢世界側の高杉達も密かに聞き入れていた。

「さっきからアイツらは何を言っているんだ? オベイロンって言うのは、一体誰だよ?」

「さぁ、分からないが恐らく……あっち側の奴等にいる高杉のアダ名じゃないのか?」

「随分とかっこ悪いアダ名だな! そんな凝った名前よりも、気楽にタカちゃんって付けりゃいいじゃないのか!?」

「そこは違うと思うよ、アスナさん……というか、いつまでクロ〇ゃんの話題を引っ張るつもり?」

 アスナからの提案に、こちらのキリトも控えめにツッコミを加えていく。思わず彼らの雰囲気に合わせており、互いの緊迫感は少しずつだが薄れていった。

 しかし、高杉の介入から間もなくして、さらに別の仲間達が夢世界のキリト達の元へと集結していく。

「フッ……オベイロンに〇ロちゃんか。確かに高杉には似合わないアダ名だな。あまりにもファンシーすぎるのではないか?」

「ならばワシらが付ければいいきに! ファンシーがダメならファンキーじゃ! 題してモンキーベイベーでいいじゃろ!」

「って、坂本。あのグループは既に解散したのではないか?」

「そんなことは関係ないぜよ! 今日から高杉はモンキーベイベーで決まりじゃ! 良かったぜよ!」

「いや、何も良くねぇよ……」

 呑気にも会話をしながら駆けつけた二人に対して、高杉は苛立ちながらも不機嫌にツッコミを入れていた。その二人とは、銀時や高杉の仲間でもある桂小太郎と坂本辰馬である。共に甲冑を用いた攘夷時代の格好をしており、こちらも昔の姿とほぼ酷似していた。本物のキリトやアスナも桂には見慣れていたのだが、ここで初めて坂本辰馬の姿を目の当たりにしている。

「って、あの人達は……桂さんと坂本さんなのか?」

「えっ!? あの人が坂本辰馬なの!?」

「その通りだよ。どっからどう見ても、胡散臭いだろ? なんであいつらだけは、この世界でも性格がほぼ変わんねぇんだよ……」

 本人との性格が変わっていない二人を目前にして、銀時は頭を抱えて三度苦い表情を浮かべていた。その証拠に辰馬のいつもの癖も夢世界では健在である。

「アレ? 金時が二人いるぜよ!! なんだかだいぶ目つきが違うきに。あっちの金時の方が、ノリが良さそうじゃ! すぐにツッコミを入れて来るぜよ! ハッ、ハッ! 愉快じゃの!!」

「って、愉快さはてめぇの頭だろうが!! なんでお前はこっちでも金時って言い間違えるんだよ!? いい加減覚えろよ!!」

 お決まりである銀時の名前違いを声に出して、本物の銀時からは怒りを買ってしまう。彼らの登場によって場が乱れてしまったが、冷静に考えると夢世界側に高杉ら三人も助っ人が加わったことになる。つまり、万事屋にとっては窮地に追い込まれてしまった。

「金時ではないと言っているが……まぁいい。援軍として存分に手を貸してもらうぜ」

「分かっている」

「もちろんじゃ!」

「足を引っ張るなよ」

 銀時や高杉らが互いに声をかけたところで、桂や坂本も仲間達と同じく刀を抜いて構えていく。アスナも含めた計五人が再び万事屋への敵対意識を露わにしていた。攘夷志士達の助けによって、不利な状況となった万事屋は闇雲に戦うことを諦めかけている。

「おい、どうするんだ? ちょいと多勢に無勢になってきたぞ」

「確実に私達の方が不利ね……でも戦う以外に選択肢は」

「ここはもう一人の俺に賭けるしかないな……頼む! 早く動いて、誤解を解いてくれ!」

 最後の希望としては、唯一現状を理解している夢世界のキリトに託すしかなかった。彼だけは武器を構えておらず、依然として敵対意識は持っていない。密かに本物のキリトがアイコンタクトを送りながら、彼へ動くように指示を加えていく。ほんの少しだけの勇気が、場の雰囲気を変えるきっかけになりつつあった。

「あ、実は……」

 遂に、小声ながらもようやく打ち明けようとした――その時である。

「もう戦いをやめてください、みなさん!」

 突如として聞こえてきたのは、芯のある女性の声。一同が声の聞こえた方向へ背を向けていくと、そこにいたのは……

「えっ!? まさか……サチ!? いや、チサ!?」

夢世界にいる千佐であった。その外見はSAOに登場したサチそのものであり、装いである青い服やスカートも本人と瓜二つである。あまりにも似ているので、本物のキリトも最初に目にした時から間違えてしまう始末であった。

 一方で彼女は勢いよく声を上げた後に、一同の元へ近づき自信良く自らの主張を続けていく。

「何をやっているのですか、皆さん!! この人達もこの世界に捕らわれた被害者かもしれないのに、襲い掛かるとは何事ですか! まだ敵だとも判断していないのに!」

「って、チサ! アンタも言いたいことも分かるが、それ以前にキバオウ達が言っていたんだよ! こいつらはアタイ達と似ている統率者からの新たなる刺客だって」

「そうですか……では、第一発見者に聞いてみましょうか。キリトだったら、何か知っているようね?」

「って、ぼ、僕!?」

 アスナからの反論にも動じずに、チサはすぐにキリトへと質問を振ってくる。唐突な展開に彼は戸惑いつつも、言葉を詰まらせながら口を開いていく。

「えっと……僕が知っているのはこの人達も別の世界から来ていて、少なくとも敵意とかは無くて……」

「つまり統率者の刺客じゃないって事だよね?」

「そ、そうだと思います……」

 途中でチサの助け舟を貰いながら、キリトはようやく仲間内へ伝えたかった事を打ち明けていた。この大胆な発表により、仲間達の心境は一変。みな驚きを隠せずに困惑した表情を浮かべている。

「そ、そうなのか……!?」

「と言うことは、お前達は統率者からの刺客ではないのだな?」

「さっきからそう言ってんだろ。そもそも統率者自体分かっていないからな」

 桂や高杉からの問いに、銀時は堂々と答えていく。反応の違いから敵でないことは明確であり、夢世界の銀時達は徐々に状況を理解していった。

「おい、てめぇ!! 何でここまで重要な事を、さっさと打ち明けねぇんだよ!! おかげで骨折り損のくたびれ儲けじゃねぇか!!」

「だって言ったところで、アスナさんも銀さんも分かるわけないと思って……」

「そんなことは無ぇよ! アタイが優しい女だって、昔から分かり切っていることじゃねぇかよ!」

「優しかったら、胸ぐらを掴まないよ……」

 そんな中、夢世界のアスナは弱気に怯えるキリトの胸ぐらを掴んでいき、思いの丈をぶつけていく。女子とは思えないドスの効いた大声で接していき、彼をさらに恐怖で震え上がらせていた。

 いずれにしても、夢世界の彼らは敵対意識を紐解いて、装備していた刀や剣も鞘に戻し始めている。結果的に一触即発な状況は過ぎ去っていた。

「えっと、これは助かったって事よね?」

「そうだな。無駄な体力も使わなくていいし、結果オーライだろ。なぁ、キリト」

 安堵の表情を浮かべるアスナや銀時に比べて、キリトは未だに驚いた表情を続けている。夢世界で生きるチサを目にして、かつての仲間であるサチとの面影を照らし合わせていたからだ。

「やっぱりサチなのか、あの子は……」

「って、キリト? おい、聞こえてんのか?」

 銀時からの呼びかけにもまったくもって応じていない。

 一方でチサは、決闘が収束したことにより安心感を覚えている。

「ふぅ……助かって良かったですね」

 髪を風になびかせながら、訪れた平穏に彼女は心から感じとっていた。大きく変化した現状には、後から駆けつけた仲間達もつい驚きを見せている。

「アレ? もう終わっているアルか?」

「見慣れない人もいますけど、あの人達も攘夷志士なのでしょうか……?」

 ようやく現場に到着した神楽やユイの二人は、高杉ら攘夷志士にも注目を寄せていたが、決闘が終わったことにも衝撃を受けていた。一方で、

「えっ? 敵じゃ無かったって事?」

「ど、どうしましょう! この男の人をボコボコにした後なのに……」

「ナー……」

敵でないと分かるなり大袈裟に動揺していたのは、シリカやリズベットらである。バブルブレスによって拘束した新八に向かって、共に攻撃を与えていたので自らの行動に後悔を抱き始めていた。

 そんな新八は、現在木の茂みにて体に軽い傷を負いながらずっと横たわっている。

「誰か、助けて……」

 クラインやエギルと同等に、新八もまた気絶寸前の状態であった。

 こうして、夢世界で生きる千佐をきっかけにして、物語は急展開を迎えていく……




銀魂完結について

 まずは空知先生、お疲れさまでした! 銀魂が遂に完結したということで、この場を借りてちょっとした思いを語らせてもらいます。
 私自身が銀魂という存在を知ったのは、四年前のアニメ放送再開がきっかけでした。ジャンプ系のアニメにはさほど興味が無かったのですが、たまたまテレビを付けると、銀さんや仲間達がハチャメチャとしている一場面が映って、度肝を抜かれたことは今でも覚えています。そこからは再放送やDVDを借りてきて、過去の話数を全て視聴していき、段々と深みにハマっていきました。コミカルな日常回では腹を抱えて笑い、シリアスなバトル系の長篇でも息を呑んで心を震わせていました。
 自分が愛していた作品が終わるのは正直辛いですが、しっかりと完結してくれたことには感謝もしています。本当に、この作品と出会えて良かったです! 
 銀魂が完結してもこの剣魂はまだ続くので、これからも応援よろしくお願いします!





もう一つ報告

 実は伝え忘れていましたが、一昨日開催された洞爺湖マンガ・アニメフェスタに参加してきました。物販をするのは二回目でしたが、ここまで大きいイベントに参加したのは今回が初めてでした。紆余曲折ありましたが、手に取り買っていただいた方には、本当に感謝しかありません! 今後も積極的にイベントにはどんどん参加していこうと思っています!




次回予告
夢世界でのチサともう一人の自分達
彼らの正体は一体何者なのか?
明かされるこの世界の仕組みとは?
夢幻解放篇五 戦い続ける者達

桂 「ヅラちゃんです! ワワワワ~!!」
坂本「攘夷大サーカスの結成ぜよ!!」
新八「って、コラァァァ!! もうそのネタは引っ張らなくていいんだよ!!」


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第三十一訓 戦い続ける者達

 今回はパラレルワールドをテーマに話が進んでいきます。後書きにはまとめも作っておきますので、安心してご覧いただけたら幸いです。では、どうぞ。


 銀時ら万事屋が挑んだ決闘は、突如現れたチサの介入によって幕を下ろす結果となった。もう一人の自分との間に出来た誤解は徐々に薄れてはいるが、それでも微妙な距離感であることに変わりは無い。

 現在万事屋一行はチサ達に連れられていき、森の奥に佇む教会風の建物へと足を踏み入れている。彼女曰く仲間達が過ごすアジトのような場所で、六人は揃って手狭な一室に通された。夢世界側のチサ、銀時、キリト、アスナの四人も集まっており、共に簡略的な話し合いを取り行っている。

「誠に済まなかった。君達を敵だと勘違いして……」

 最初に声を上げたのは、夢世界側の銀時。律儀にも深々と頭を下げており、本物とは違った生真面目な印象を一行に与えていた。

「悪かったよ……アタイも早とちりで勝手に判断していたからな」

 彼に続いてアスナもぶっきらぼうな口調で謝りを入れて来た。手で前髪をさすりながら、若干頬を赤らめて接している。その姿はまるで恥ずかしがっているようにも見えた。

「ううん、別にいいのよ。誤解が解けただけでも嬉しいから」

 本物のアスナが穏やかな口調で返答すると、咄嗟に彼女は真剣な眼差しで睨みを利かせてくる。

「えっ? 急にどうしたの?」

「いや……本当にアタイなのかと思ってな。お前の方が色気もあるし、女子力も高そうだな……耳もとんがっているし、一回触らせろよ」

「さ、触る!?」

「何驚いてんだよ。女子同士なんだから、触っても問題ないだろ? 胸とか尻を揉むわけじゃないから、安心しろって」

「安心できるわけないでしょ! くすぐったくなるからやめてって! もう一人の私~!」

 自分との容姿や雰囲気の違いに納得がいかず、好奇心を公にしながら差し迫っていく。持論を展開して、彼女のとんがった耳を触ろうと企んでいた。もう一人の自分の急な行動力に、本物のアスナは対応に困り果てている。

一方で夢世界の銀時の謝りには、神楽ら万事屋が反応してきた。

「そんなに深々と謝らなくてもいいネ、もう一人の銀ちゃん! こっちも大した怪我は無かったし、不幸中の幸いアルから!」

「そうなのか? でもお前らの仲間は、シリカやリズベットから仕打ちを受けたと……」

「ああ、こいつか。それなら大丈夫だよ。新八は眼鏡が本体だから、肉体が傷つこうが関係ないからな」

「って、おいぃぃぃ!! 何嘘をぶっこ抜いているんだぁ!? アンタら夢世界でも、お決まりのネタをかますんじゃねぇよ!! 僕達以外で理解している人いませんからね!!」

 銀時からのお馴染みの眼鏡ネタに、新八は勢いよくツッコミを加えてくる。万事屋にとっては見慣れた光景であったが、夢世界の銀時は何のことだかさっぱり分かっていない。

「眼鏡が本体……ということは、この男は人間じゃないという事か?」

「って、別の銀さんが真面目に受け止めちゃっているよ!! さっさと誤解を解いてくださいよ!」

 不運にもまた違った誤解を招いてしまい、新八からさらにツッコミを入れられてしまう。この様子に銀時と神楽の二人は、笑いを押さえながらこの状況を楽しみつつあった。一方でキリトも、もう一人の自分との会話に勤しんでいる。

「でも一段落して良かったよ。君が伝えてくれたおかげで、無駄な争いが起きずに済んだからな」

「そんな、僕なんて……言いそびれただけだし」

「俺達は気にしていないよ。悲観なんかせずに、自信を持った方が君は良いと思うよ」

 決闘を止めてくれたことに感謝しており、彼に対して素直に褒めたたえていく。夢世界のキリトが控えめに言葉を返すと、横にいたチサも急に声を上げてくる。

「その通りです! そもそもキリトは、ネガティブに考えすぎです! いつまでもくよくよしていたら、みなさんに置いていかれますよ!」

「で、でも……人には出来ないことがあって……」

「そうやって可能性を否定するから、成長なんかしないのですよ! 戦いも佳境に入るし、本当に自分自身を変えないといけませんよ!」

「はい……」

 まるで姉に叱られている弟のように、チサは心に溜めていた気持ちをためらいもなく指摘していく。反論もできない彼は、落ち込みながらも深く心へ受け止めていた。この光景にユイや本物のキリトも、何とも言えない表情で呟いている。

「パパが女の子に怒られているなんて、珍しい光景ですね」

「俺が弱気だと、周りの仲間達はみんな強気に接していくんだな……」

 例え容姿が同じでも性格が異なれば、周りの対応も変わると改めて痛感したようだ。大して内容は進展せずに、ただ時間だけが過ぎ去っていく。

「おおー! だいぶ柔らかい耳だな! 本当に人間なのかよー?」

「だからそう言っているでしょ! いい加減に落ち着いてって!」

 アスナ同士のじゃれ合いも、収まる気配すら無かった……

 

 数分後。ようやく全員が心を落ち着かせたところで、本格的な話し合いがいよいよ始まっていく。

「それではまずは、自己紹介から始めましょうか。私はチサと言います。よろしくお願いしますね」

「俺は坂田銀時だ。仲間からは白夜叉と呼ばれている。どっちで呼んでもいいぞ」

「アタイはアスナだよ。閃光って言われているが、しっくりきていないから本名で呼んでくれや」

「僕はキリトです……アダ名とかはないけど、何でも呼んでくれていいですよ」

 最初に夢世界側の銀時達が、肩書きを含めて自己紹介を交わしてくる。予想はしていたが、やはり本物の銀時達とは名前に大差がないようだ。

「では、君達の名前も聞きたいが……大方同じといったところか」

「その通りだよ。俺も坂田銀時で、こいつらもキリトとアスナって名前だから。強いて言うなら、この三人か。白ワンピースの子がユイで、赤チャイナ服は神楽。そして、人間をかけた眼鏡が新八だな」

「なんで僕だけで例え方が違うんだよ……」

 隙を見て入れてきた銀時からのボケに、新八はすかさずツッコミを入れていく。恐らく夢世界側にはいない新八、神楽、ユイの三人のみを彼は紹介していた。

「ユイちゃんに神楽ちゃんに、新八さんですか?」

「アタイらの仲間にも、そんな名前や姿をした奴は一斉いないな。似ているのは、この三人だけってことか」

 首を傾げ聞き慣れない反応を、チサやアスナは露わにしている。万事屋が感じていた予想は奇しくも当たっていた。

 互いに名前を知ったところで、次は経緯について話題が移っていく。

「では改めて聞くが、君達は一体どこからやって来たんだ? なぜこの世界に迷い込んだのか、教えてくれないか?」

 夢世界の銀時が神妙な表情で問うと、本物の銀時は渋い表情で答えを返してくる。

「まぁ、こっちもただならぬ事情があるんだよ。とある女子を助け出すために俺達は奔走していたが、行きついた先がこの世界だったんだよ」

「女の子を助けるために?」

「表現は大雑把だけど、筋はだいぶ一致しているよ。助けるための手がかりを見つけるために、この世界へとやって来たんだよ」

 本物のキリトも説明への補足を加えていく。元々万事屋の六人は、昏睡状態の千佐を救う目的で彼女の夢世界へ侵入している。もっとも、目の前にチサがいることが重要な手がかりでもあったが……下手な動揺を誘いたくないので、一行はひとまず事情を伏せて伝えるしかなかった。

 だがチサら四人は、ある言葉が心に引っかかり、不安にも別の動揺を広げてしまう。

「ん? どうしたネ? 何か変な事でも言ったアルか?」

「いや……自分達の意志でこの世界に来るなんて、珍しいなと思って」

「アタイらは脱出する為、必死に戦っているのにな……」

「それって、どういうことでしょうか?」

 彼らがざわついていた理由は、万事屋がこの世界へ来たきっかけにあった。ユイが興味深く問いかけてみると、千佐達の口からは信じがたい現状が明かされる。

「実は私達は、この閉鎖された仮想の空間で何か月もの間捕らわれているんです」

「えっ!? それって……」

「簡単に略すると誘拐ってところだな。自分達の意志とは関係なくこの空間へ連れ去られて、今なお元の世界へ戻るために戦っているからな」

「そうだったのかよ……」

 予想もしない真実を知ってしまい、万事屋の六人は大きく衝撃を受けていた。彼らは夢世界の住人ではなく、事情があり連れ去られた人間である可能性が示唆されている。異なった理由を抱え込んでいると予測しており、彼らへより詳しい情報を聞き出していく。

「でも、なんで閉じ込められているアルか?」

「さぁな。そんな理由が分かったら、ここまで苦労なんかしねぇよ! そもそも、ごく普通の世界で生きていたのに、なんでこんな空間に閉じ込められるだよ……」

「元々僕やアスナさんも、何の変哲もない中学生だったのにね。突然黒い塊に吸い込まれちゃって、気が付いたらこんな格好で戦わされているなんて……どうしてこんな事に巻き込まれたんだろう……」

 若干感極まりつつも、夢世界のアスナやキリトが思いの丈を打ち明かしてきた。二人は戦いとは無縁な世界から来たようだが、所々に気になっている箇所が存在している。

「黒い塊って、ブラックホールの事じゃないでしょうか?」

「その可能性もあるな。やっぱりサイコギルドが関与しているのか……」

 彼らが口走った黒い塊に注目を寄せており、本物のキリトやユイはブラックホールと仮定して、サイコギルドの仕業であると考察を始めていた。さらにキリトは、直感である仮説を思いついている。

「いや、待てよ。ひょっとして……」

 すると、もう一人の自分へと近づいてある質問を声に出していく。

「なぁ、もう一人の俺! 一つ聞きたいことがあるんだ!」

「えっ!? な、何……?」

「君がいた世界に、VRMMOであるSAOは販売していなかった?」

「SAO……? あのゲームは販売延期になったはずじゃ……」

 突然の質問にどよめくキリトであったが、本物のキリトは答えを聞いた瞬間にしっかりと頷いて自らの仮説に確信を持たせていた。彼からの答えには、SAOを知っているアスナやユイらも驚きを浮かべている。

「えっ? アナタ達もSAOの事を知っているの?」

「だいぶニュースに上がっていたからな。2022年くらいに発売される予定が、ゲーム機共々重大な欠陥が発覚して二年も延期になったんだよ。まぁ、アタイは興味が無いからどうでもいいけどな」

「SAOが販売延期ですか……?」

 またも知ることになった予想外の真実。銀時ら三人も言葉に詰まってしまう中、キリトだけは自信を持ってある仮説を一行へと伝えてきた。

「なるほどな……」

「キリ? 何が分かったアルか?」

「ああ。俺の考えなら、ここにいるもう一人の俺とアスナは……恐らくパラレルワールドの俺達かも知れないんだ」

「パラレルワールド……つまりこの二人は、本来の歴史とは違う世界からこの空間に連れ去られたという事ですね」

「その通りだよ。SAOが販売延期された世界の俺達だと思うんだ……」

 彼の考えには新八ら仲間達も素直に納得している。本物のキリト達と夢世界のキリト達では、過去に起きた出来事に誤差が生じているため、マルチバースに基づく別世界であると判断したようだ。さらにこの仮説は、千佐ら四人も興味深く反応している。

「別世界のキリトやアスナと言う事ですか……」

「じゃ、もう一人のアタイ達はSAOが販売された世界からやって来たんだな……」

「そういうことになりますね……」

 やや半信半疑ではあるが、キリト達六人を別世界の人物であることを理解していた。互いの情報を交換して話し合いが進展すると、もう一人の銀時も関連する内容を声に上げる。

「そうか。ならもう一人の俺は、攘夷戦争を終えた後と捉えていいんだな」

「お前……まさかとは思うが、その格好はまだ戦争が続いているってことか?」

「ご名答だ。俺や高杉達も、攘夷戦争の真っ只中でこの空間へと転送された。以来戦闘に不慣れなキリト達を補佐しつつ、彼らと共に戦っているというわけだ」

 彼が告げたのは、別世界での現状であった。銀時ら攘夷志士達もキリト達とは別の世界線におり、過去に銀魂の世界で起きた攘夷戦争が続いている世界からこの空間へ飛ばされたようである。以降は戦闘の最前線に立ち、戦いの素人でもあったキリト達を助けながら、元の世界へ戻るために戦っているらしい。

 多くの事情や世界線が明らかになったので、ここで一行は一連の情報をまとめていく。

「う~ん。話が複雑になってきたネ~! 頭が痛いアル~!」

「そうですね。では一旦整理してみましょうか。先程の話で出た世界観の違いを分岐してみましょう。まずは銀時さん、新八さん、神楽さんの三人がいる江戸時代をA世界。次にパパやママ、それに私がいた2026年をB世界とします。さらにもう一人の銀時さんが戦っている攘夷時代をC世界として、もう一人のパパやママがいたSAOが販売延期した世界をD世界にすると……合計で四つのパラレルワールドが存在していることになりますね」

 ユイの細かい補足説明によって、世界線が四つに分けられていった。銀魂世界とSAO世界で起きた過去の出来事が、何らかの要因で変えられた世界に銀時、キリト、アスナの三人がそれぞれ暮らしていたようである。信じがたい事実ではあるが、ブラックホールを操るサイコギルドが存在する以上は、可能である考えであった。

 すると、別世界のキリトはユイのある言葉に心を引っかけている。

「パパにママ……? もしかして……別世界の僕とアスナさんって、結婚しているの?」

「あっ、そのことね。今は真剣に付き合っている身で、ユイちゃんとは養子のような信頼関係を築いているのよね」

 彼からの疑問に、アスナは少し照れながら返答してきた。本物のキリトとアスナが交際している事実を知り、別世界側の二人は衝撃から体が固まってしまう。

「お付き合いしているんだ……」

「お前ら正気かよ……どう転がったら、そんな関係に行きつくんだよ……」

「って、そんな衝撃を受ける事なのか?」

 普段の関係から交際に行きつくなど考えた事もなく、その分大きい衝撃を受けたようだ。価値観の違いが露わになった瞬間でもある。

 一方で新八は、しばらく黙っていたチサへ話を振ってきた。

「これだけパラレルワールドがあるって事は、チサさんは一体どこの世界からやって来たんですか?」

「えっと……それはまだ分かっていないのです」

「ん? 自分がいた世界を知らないアルか?」

 暗い表情をしたまま、質問には答えずにただ口を閉ざしてしまう。代わりに彼女の気持ちを察した別世界の銀時が、万事屋へと返答してくる。

「チサについては俺から説明しよう。彼女は俺達が戦っていた途中で、倒れているところを発見したんだ。ここへ来た経緯もまったく知らないようで、記憶もうっすらとしか分かっていないらしい。その記憶を戻すためにも、現在は果敢にも一緒に戦っているんだ」

「記憶喪失かよ。そりゃ辛くてしょうがねぇよな……」

 チサは三人とはまた違った事情で、この空間に飛ばされてきたようだ。特殊な立ち位置であるが故に、万事屋はチサと昏睡状態の千佐の二人に繋がりがあると予測している。

「って事は、ここにいるチサは俺達がいるA世界から、この空間に来たって解釈できるな」

「ああ。でも同じ人物だとしても、別世界の俺や銀さんの件も解決しない限り、悪夢は解放されないと思うけどな……」

 解決への道筋がようやく見えてきたが、同時に新たなる問題も発生してしまい、事態の収束はより複雑化していた。そこでユイ達は、この空間から脱出する手掛かりをチサ達へ聞いてみることにする。

「あの、一ついいですか? チサさん達はずっと戦っていると言っていましたが、一体何を相手にしているのですか?」

「それは……統率者からの刺客です」

「統率者って、最初に会った時に言っていましたよね?」

「ああ。俺達をこの空間へと閉じ込めた全ての元凶だよ。最初のエリアに忽然と姿を現して、こう告げたんだ。「この世界から抜け出したいならば、百あるエリアを攻略しろ」って」

「エリアの攻略? それが済めば、みんなは元の世界へ戻れるアルか?」

「そうだと信じたいけれど、まだ二十五個分エリアがあるし……先行きは不安しかないよ」

 銀時やキリトらの証言によると、この空間を作り出した元凶は統率者と呼ばれる謎の存在らしい。彼が用意した百もあるエリアを突破しなければ、元の世界への帰還は成り立たないようだ。現状では七十五に位置するエリアまで到達したが、確証のない未来に別世界のキリトは思わず弱音を漏らしてしまう。

 この理不尽とも捉える解放条件は、キリトやアスナにとっては既に経験済みであった。

「百個分のエリアを攻略って……」

「まるでアインクラッドみたいだわ……」

「アインクラッド? って、なんだそりゃ?」

「SAOに存在していた浮遊城の名前ですよ。あのゲームからログアウトするには、城にある百層まで辿り着かなければいけなかったんです」

「なるほど。要するにキリト達が戦っていたゲームフィールドとクリア条件ってヤツか」

 ユイも即座に説明して、銀時ら三人へアインクラッドについて教えている。夢世界での現状とキリト達が体験したSAOには、類似点も多数あり何かしらの関連性があると推測を立てていた。さらなる考察を続けていく中、新八や神楽は統率者の情報をさらに聞き出そうとする。

「そういえば、統率者って言うのは一体どんな人なんですか?」

「どんなって……一瞬しか見てないから詳しくは分からねぇよ。赤いマントと頭巾を羽織っていて、顔も隠していたからな。しかも最初のエリアに現れただけで、以降はまったく見かけてねぇよ……」

「だからチマチマとエリア攻略を進めているアルか」

 別世界のアスナから伝えられたのは、容姿のみの特徴だけであった。統率者の目的は一斉分かっておらず、接触しようにも居場所すら特定できないので、彼女達はエリア攻略に進むしか手段は無いのである。

 夢世界への謎がより深まっていき、仲間内でも不安が募り始めていた。徐々に重い空気へ包まれていく中で、暗い気持ちを打ち消すように、本物の銀時とキリトがある覚悟を決めて声を上げてくる。

「だったら、もうゴールまで後少しじゃねぇか。ざっと四分の三までクリアしたんだろ?」

「ああ、その通りだが……」

「じゃ、俺達から言えることはただ一つだな」

 すると二人は揃って立ち上がり、別世界の自分達へある提案を持ち掛けてきた。

「一緒にこの戦いへ参加してもいいか?」

「えっ!? 僕達と一緒に戦ってくれるの?」

「もちろんだよ。乗り掛かった舟だし、君達を放っておけないからね。助けになるなら、俺達は何だって手を貸すつもりだよ」

 清々しい表情で共闘への志を真摯に伝えていく。彼らの話を聞く度に一言ではないと感じ取っており、チサだけではなく別世界の自分達も助ける決意を公にしている。即興で決まった二人の覚悟には、チサら四人と共に万事屋の仲間達も驚きを隠せずにいた。

「って、キリト君に銀さん!?」

「いきなりどうしたネ! そんな話、一斉聞かされてないアルヨ!」

「そりゃ、そうだよ。たった今決めたからな」

「そうなんですか……?」

「ああ。チサの件もそうだけど、もう一人の俺やアスナ達を救わない限りは、事態の解決に至らないと思うんだ。だから、一緒にエリアの攻略を手伝うべきじゃないのかな?」

「それは……」

 動揺する仲間達を説得するように、銀時やキリトは冷静な口調で接している。あくまでも昏睡中の千佐を救うのが目的ではあるが、事態の収集には別世界の銀時達をも助ける所存であった。最初は戸惑いを見せていたのだが、二人の本気の想いを察すると少しずつ考えを理解していく。

「確かにそうかもしれませんね……千佐さんだけじゃなくて、別世界の銀さんやキリトさんもサイコギルドの被害者だったとしたら……」

「助け出すのが妥当アルナ」

「だとしたら、パパや銀時さんの意見に賛成ですね」

「まったく、こういう時の二人はすぐに意気投合するんだから……」

 行動力の早さに感銘を受けながら、新八ら四人も共に戦う事を決意している。これで、万事屋全員が協力体制を取ることになったが、チサら四人の間では若干の遠慮が生じていた。

「ていうか、本当にそれでいいのかよ? お前等は戦うために、この空間へ来たわけじゃないんだろ?」

「そうだけど、君達を放ってはいけないんだよ。万事屋としても、こんな事態は一刻も早く解決したいからね」

「万事屋?」

「俺達が所属する組織名だ。頼まれたら何でもやる、万を売っている店だ。テメェらの人手が足りないなら、俺達はすぐにでも参入してやるぜ。当然、特別サービスで依頼料はチャラにしてやるからさ」

 さり気なく自分達の肩書きであった万事屋も説明に入れて、銀時やキリトはチサ達へ説得を続けていく。四人の間でも考え方に変化が生まれており、大方は万事屋からの提案を受け入れるつもりであった。

「分かった。万事屋の俺よ。この戦いへ終止符を打つためにも、手伝ってもらえるか?」

「……あたぼーよ。承ったぜ、お前達の依頼」

 別世界の銀時からの依頼を聞き入れると、本物の銀時は納得した表情で彼に返している。これにより、正式に万事屋もエリア攻略の戦いへ参入することになった。

「もう一人のアタイ達って、案外良い奴なんだな……」

「これは頼もしい助っ人が加わりましたね!」

「この人達と一緒なら、閉鎖空間からも抜け出せるかもね」

 アスナら他の仲間達も、心強い仲間が加わったことに今後の希望を見出している。喜びあうその姿に、万事屋一行も安堵の表情を浮かべていた。新しい戦いにも恐れる事はなく、ただ一心に突き進む方針であったが――ここで一つの問題が浮かび上がる。

「アレ? そういえば、源外さんから朝まで戻るように言われてなかったっけ? エリアが百まであるってことは……もうそんなに時間は残されていないんじゃ……」

「「「「「あっ」」」」」

 忘れていた注意事項をキリトが思い出すと、一斉に声を上げていく。源外曰く夢世界への滞在には時間制限があるので、銀時らが豪語していたエリア攻略は最後まで行けない可能性があった。これには仲間内でも、心配の声が飛び交っている。

「ぎ、銀ちゃん……大丈夫アルヨネ?」

「……心配するな。この長篇が終わったら、また日常回を再開するらしいから、そんなに長くはかからないと思うぞ……多分」

「いや、そっちの方が不安だよ!! さすがの原作者だって、そんな長丁場は書きませんよね!? 僕らの体力が尽きる前に、倒れたりなんかしませんね!?」

 特に銀時ら三人はメタ発言も含めながら、どうにか自分達を納得させていた。一抹の不安がよぎっているが、考えても仕方のない事である。万事屋にも別の問題が発生していた、まさにその時であった。

「なんでや!! どういう事やねん!!」

 別の部屋から威勢のいい男性の声が響き渡ってくる。関西弁の口調で怒りを露わにしているが、本物のキリトやアスナにとってはどこか聞き覚えのある声であった。

「アレ? この声って……」

「また、あの一派ですか……とりあえず様子を見に行きましょう」

「一派って、一体誰の事アルか?」

「ちょっと喧嘩っ早いチームがいるんだよ。とにかく、止めに行くぞ」

 チサ達によると、この声の主はこことは違う一派の一員であるらしい。ちょうど別の部屋にはシリカや桂といった仲間達が待機しているので、心配になった一行はすぐに部屋を出て隣接する会議室へ入っていく。そこで目にしたのは、仲間達に構うことなく、高杉がある男性と口喧嘩を交わす光景であった。

「だから言っているだろうが。あの六人は統率者とは一斉関係ないって」

「じゃ、ワシらが早とちりしたとでも言うのか!」

「そこまでは言っていないだろ……いい加減落ち着け、トサカ頭」

「トサカ頭やない! キバオウっいう名前じゃ!!」

 とげとげしい特徴的な髪形を震え上がらせて、高杉に臆することなく常に喧嘩腰で接している。会話から名前がキバオウと判明したが、実は本物のキリトやアスナにとっては面識があり、そして因縁のある相手であった。

「う、嘘でしょ……あの人も夢世界に存在していたの!?」

「ん、どうした? あの滑稽な頭をしている奴も、まさかお前らの知り合いなのか?」

「知り合いというか、あまり会いたくはない相手かな……」

 夢世界での彼を見た瞬間に、二人は苦い表情を浮かべていく。過去に出会ったキバオウと言えば、せっかちで誰にでも当たり散らす好戦的な性格が目立つ男性であった。故にキリトも何度か目を付けられてしまい、仲もあまりよろしくはない。もちろん、夢世界でのキバオウもその性格は本人とほぼ同じである。

「いい加減に非を認めたらどうじゃ? ここで喧嘩を続けても、お互いの不利益になるだけぜよ!」

「そうよ! こっちは切羽詰まっているから、さっさと怒りを収めて別の話し合いに移りたいのよ!」

「何を言っているんや! 目の前にくりそつな銀時とキリトがおったんや! ドッペルゲンガー以外の何者でもないやろ!!」

「って、ちゃんと話を聞いてくださいよ!!」

 辰馬やリズベットからの説得も一斉聞き入れずに、キバオウは持論を強く主張して、他の仲間達の手を煩わせていた。話すらまともに聞かない状況で、シリカやピナは辟易とした表情を浮かべている。その一方、桂やクラインらは隣にいた彼の理解者に話しかけてくる。

「おい、ディアベル。お前一応サブリーダーなんだから、あの芸人かぶれを大人しくさせてこいよ」

「そう言われてもな……アイツはリーダーからの説得がないと、まったくもって応じないからな……」

「ったく、とんだ迷惑野郎だぜ……」

「どうにか出来ないのか?」

 すんなりと断られてしまい、エギル達は思わずため息を吐いてしまう。一方で彼らの近くにいる青髪の男性ディアベルは、キバオウと同じくSAO世界にも存在していた人物だ。惜しくも第一層の戦いで倒されてしまったが、この夢世界ではちゃんと最後まで生き残っている。もちろん彼の姿にも、本物のキリトやアスナは衝撃を受けていた。

「なんだか、懐かしい顔ぶればかりいるわね」

「そうアルか? というか、あの男達は一体誰ネ?」

 気になっていた神楽が問いかけると、別世界のアスナが答えを返してくる。

「ああ、あいつらか? キバオウとディアベルって言う、白組にいる構成員達だよ。特にキバオウって奴は癖のある男でな……自分の意見を断固として変えない、少々めんどくさい性格をしているんだよ」

 予想通りに二人も、名前や姿が同一の別人である事が明かされた。ただ唯一異なるのは、白組と言う元の世界には無かった組織に所属している点である。

 事情が分かったとしても、口論は一斉収まらずむしろ過熱の一途を辿っていた。依然として自分の非を認めないキバオウによって、場の雰囲気は徐々に険悪へと変わっていく。おかげで万事屋や千佐達も介入しづらい状況であった。

「てか、どうするんですか! このままじゃ、もっと入りづらくなるだけですよ!」

「止めたいのは山々なんですけど、多分僕とかが行くと火に油を注ぐ事態になるから、止めることは難しいんですよ……」

「ったく、もどかしいな! だったら俺が、あのネタキャラを止めてきてやろうか!」

 誰一人として動くことが出来ない中で、本物の銀時は意気揚々と腕をまくって動こうとするが……

「待て。ここでお前が行っても、事態が長引くだけだぞ!」

別世界の銀時から止めるように促されてしまう。

「じゃ、どうするんだよ! アイツを止められる奴が他にいるのかよ?」

「そう焦るな。もうすぐでやって来るはずだ。白組一派の頂点に立つリーダーであれば、キバオウは素直に引くはずだ」

「リ、リーダー? そんなのいるのかよ?」

 彼にはちゃんとした考えがあり、ディアベルらも呟いていたリーダーの存在に後は任せるようだ。

「リーダーって、あの二人をまとめる人間が他にいるってことか?」

「そうですね。見た目はあまり強くはないですが、リーダーシップが強くて、一大勢力を築くほどカリスマ性のある方なんですよ」

「へぇ……そんな人がこの世界にいるのね」

 チサからの説明を聞き、本物のキリトやアスナは半信半疑でそのリーダーたる人物に注目を寄せている。すると、ようやくその時が訪れた。

「いい加減理解しろや! この提督野郎がぁぁぁ!!」

 遂に我慢の限界を超えたキバオウは、実力行使へと移って、高杉の顔面へ向けて拳を投げかけようとする。この急を要する事態に、思わず万事屋や仲間達も反射的に動こうとした時であった。

「これ以上は止めろ、キバオウ!!」

 突如として威厳のある男性の声が響き渡ってくる。その声質は、先ほどのディアベルとは若干似ているようにも聞こえていた。唐突な展開にキバオウだけなく、多くの仲間達が動きを止めて、声の聞こえた方向へ振り返ってみる。そこに立っていたのは、実に意外な人物であった。

「あ、あの人が白組のリーダーですか!?」

 ユイを始め万事屋も、その姿によく目を凝らしてみる。そこで見えてきたのは……銀時の攘夷時代と酷似した衣装を着こなす小太りの男性であった。

「はぁ? あの人がリーダーなんですか?」

「キバオウを従えている割には、どこかイメージと違う気が……」

 あまりにも拍子抜けした姿に、新八やキリトらは思わず呆れを口にしている。しかし銀時だけは心当たりがあり、すぐに激しいツッコミを入れて来る。

「って、お前かいぃぃぃぃ!? なんでてめぇが、この世界でカリスマリーダーの座に付いているんだよぉぉ!!」

「ぎ、銀さん!? まさか、あの人の事知っているのか?」

「知っているも何も、アイツも一応攘夷戦争経験者なんだよ! 焼きそばパン補給係として活躍させていたのに、この世界では一派のリーダーってもう訳が分からねぇよ!」

 衝撃的な展開を受け止められずに、銀時は感情的に想いを解き放っていた。彼の正体は、かつて攘夷戦争で密かに活躍した一人のパクヤサである。銀時に弟子入りを志願したが、見た目から却下されて、以後は食料の配給係として活躍していた。もちろん彼も本人とは無関係な別人ではあるが、この夢世界では立場が変わり、ディアベルやキバオウを従える一派のリーダーとして君臨している。

「アイツが白組のリーダーなんだよ。パクヤサって名で、多くのエリア攻略に貢献してきたんだ。いわゆるエリートの頂点に立つ男だ」

「あの人が攻略組のトップなんですね……」

「血盟騎士団とは、偉い違いだわ……」

 別世界のアスナからの補足を聞き、ユイやアスナは三度衝撃を受けてしまう。人は見た目に寄らないともいうが、今回限りはもってのほかである。偽者とも捉えかねないパクヤサが、攻略組のトップにいるなど信じられなかった。

 一方で彼が現れると同時に、キバオウは態度を変えたように気持ちを縮小していく。

「パ、パクヤサさん……!」

「何をしているのだ。この人達は敵ではないと散々言ったであろう? いい加減自分の非を認めて、謝ったらどうなんだ?」

「いや、でも……ワイは一刻も早くこの世界から抜け出したくて……」

「言い訳をするのか? ならばお前を、白組から除外しても良いのだな?」

「そ、それだけは勘弁してや! パクヤサさんの元で、ワイはまだ学びたいやねん!」

「ならば、すぐにでも仲間達に謝るのだな」

「は、はい!! この度はすいやせんでした、皆さん!!」

「って、早!? あの人、プライドの欠片すらないよ!? 完全にジャイア〇みたいに、仕打ちを受けちゃっているよ!」

 話し合いの末に彼は、パクヤサに見捨てられたくない故に、自分の非を認めて素直に謝りを告げる。威張り散らしていた時とは一変し、強い者にはとことん弱い人物であった。あまりの変わり様に、新八もノリでツッコミを繰り出してくる。

 こうして場は一段落したかに見えたが、しばらくするとある知らせが一行の元へと告げられてきた。

「大変だ! エリア75を解放するステージが、ようやく見つかったぞ!」

 この情報によって、一同の態度は一変。いよいよ、運命を決める戦いが始まろうとしている……

 




 パラレルワールドを題材にすると結構複雑になるので、ここで改めて整理してみようと思います。

A世界(銀魂の世界)
 天人が地球に飛来して、宇宙に開国した世界。江戸時代でありながら、現代と同じ水準の文明を発展させている。「剣魂」では、この世界を主軸に物語が動いている。

B世界(SAOの世界)
 茅場昌彦がナーヴギアや仮想世界を作り出して、VR技術を発展させた世界。文明水準は2022~2026年頃だと予測されている。

C世界(パラレルな銀魂の世界)
 天人が地球に開国を迫り、銀時ら攘夷志士達が国の為に命を懸けて戦っている世界。未だに決着が付いていないが、大まかな流れは銀魂の攘夷戦争とほぼ同じである。夢幻解放篇では、その戦争途中に一部の攘夷志士達が夢世界に捕らわれたと予測される。

D世界(パラレルなSAOの世界)
 本来ならば2022年に発売される予定だったSAOが延期となり、事件すら起こっていない世界。故にキリトやアスナの性格が異なっており、B世界と比べれば大きな誤差が生じている。推定だがナーヴギアも公には浸透はしていない

 ここら辺の細かい内容は、のちの設定集にも記載していきます。





次回予告
遂に始まるエリア攻略への戦い
もう一人の自分と向き合っていき、万事屋は何を思うのだろうか?
キリト「君が本気を出せば、きっとみんなを守れると思うんだ!」
銀時 「お前はこれからも、良い人生を送れると思うぜ」
アスナ「ほんのちょっとの勇気だけで、アナタもきっと変われるわよ」
夢幻解放篇六 たった一歩の後押し


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第三十二訓 たった一歩の後押し

 一週遅れてすみませんでした。突然ですが七月は都合が重なって、中々投稿が出来ないかもしれません。ご了承ください。
 一方で七月と言えば、この「剣魂」と言う小説を投稿して一周年を迎えます。長いようで短いような一年でしたが、まだ小説は終わってないので末永くお付き合いいただければ幸いです。その為にも早く長篇を進めなければ……
 そんな今回は、現実の万事屋と別世界の住人が触れ合っていく話です。では、どうぞ。




 千佐の夢世界へと侵入した万事屋は、そこで新しい事実を目の当たりにしていた。もう一人の銀時やキリトらの事情、チサに置かれた特殊な立場。多くの現状を踏まえて彼らは、全員を救い出す決意を固めている。

 一方でキバオウが起こした騒動には、一派のリーダーであるパクヤサが介入して、彼の気持ちを落ち着かせていた。物語はいよいよ折り返し地点を迎え、事態は大きく動き出していく……

 

「おっ、もう来ていたのか! みんな! 新しい同士を迎えようではないか!」

 入り口近くにて万事屋らを見かけたパクヤサは、一同の士気を高めながら急に大声で伝えてくる。反応に困った素振りを彼らは見せていたが、空気を読んで高杉やディアベルらが小さい拍手を始めていく。その後もまばらに聞こえてくるが、固い雰囲気だけが辺り一面に漂っていた。

「何か、本当に歓迎されているのでしょうか……」

「そう、心配するな。あいつらも内心は仲間だと認めたいはずだ。ただでさえ少ない戦力を、補強してくれるからな」

 不安な表情を浮かべるユイに、別世界の銀時が返答を交わす。万事屋への敵対意識は無く、好意的に捉えていると伝えていたが……実際はまったく異なっていた。

「もう一人のキリトさんって、結構しっかりしていそうですよね」

「ウチの臆病君と比べたら……まぁ、あっちの方がいいわよね」

「アスナに至っては、女子っぽくなっているからな……」

「男子の的を突くほど、美しくなっているもんな~!」

 シリカやリズベット、エギル、クラインの四人は、本物のキリトやアスナに対する印象を声に上げていく。自分達の知る二人と見比べながら、本人に構うことなく思ったことを口にしている。

「ああ? てめぇら、何言いやがるんだぁ! 遠回しにアタイの悪口言いやがって!!」

「で、でも正論だから……何も言い返せないよ……」

「性格が違うだけで、ここまで差が出るんだ」

「少し複雑ね……」

 これにはキリトら四人も反応に困ってしまい、特に別世界のアスナは吹っ切れたような怒りを露わにしていた。一方で銀時に対しても、同じような会話が繰り出されている。

「結局ワシらと共闘することになったか……と言う事は、これからはもう一人の銀時を何と呼べばいいぜよ?」

「そんなもん、俺が知るかよ。まぁ無難にも、銀時と白夜叉呼びで統一すればいいんじゃないのか?」

「何を言っている。俗にいうアナザー銀時の方がしっくりきているだろ! アイツはあそこまで意地の汚い目をしていないぞ! そっちにするべきではないのか?」

「いや、どっちでもいいだろうが……」

 名称の区別によって意見が分かれてしまい、桂と高杉の間でも軽い衝突が起きてしまう。この展開に銀時は、苦い表情で二人の対立に呆れていた。

 場の空気は変わっていき、徐々に緩やかな雰囲気になりつつあった――その時である。

「大変です! パクヤサさん!!」

 突如部屋に攘夷志士らしき男が転がり込んできた。焦った表情で息を荒くしたまま、パクヤサへと話しかけていく。

「どうしたのだ? 一体何があったんだ?」

「エリア75を解放するステージが、ようやく見つかったんだ!」

「何だと!?」

 彼からの情報を聞き、パクヤサは大きく驚いている。同時に別世界の銀時らも同じ表情となり、事の重大さを受け止めていた。探し求めた手がかりが見つかったことで、再び緊迫した状況へ変わっていく。

 もちろん万事屋の六人は、彼らの心境を察し始めていた。

「ステージって……つまり、いよいよ戦いが始まるってことアルか!?」

「そうですね。ステージには恐らく統率者の刺客が生息していると思います。それを倒せば、また次のエリアへ進むことになりますね」

「刺客って言うのは?」

「ゲームで言う巨大モンスターの事ですよ……」

 新八や神楽からの質問に、チサは真剣な口調で返答する。エリアの解放には巨大なボスを討伐する必要があり、またもSAOと同じ仕組みが明らかになった。キリトやアスナらがさらに疑惑を強める中で、別世界の仲間は一段と気合を高めつつある。

「よし、分かった。ならば善は急げだ! 同じく探索している仲間を、アジトへと連れ戻すぞ! このエリアなら……三手に分かれたら十分だな!」

 パクヤサの的確な指示の元で、まずは分散している他の浪士やプレイヤーを集めることで意見が一致した。周りを見渡しながら、決めつけで続々とチームが形成される。

「ならば俺は、クライン殿とシリカ君の三人で行くか」

「もちろんだぜ、桂さん!」

「ピナの事も忘れないでくださいよ!」

「ナー!」

 桂は近くにいたクラインとシリカ、ピナの二人と一匹を誘ってきた。この世界でも彼はクラインと良好な仲であり、さらにシリカやピナとも師弟のような関係を築き上げている。

「それじゃワシは、エギルとリズの二人で行くか!」

「って、またアタシと? 別にいいけれど」

「辰馬には商売の面で色々お世話になっているからな」

 坂本がチームに加えたのは、リズベットとエギルの二人であった。商売仲間という共通点があり、この世界でも武器の原料や商品の調達には彼が一役買っている。

「では、我が一派は高杉さんと共に行こうではないか」

「ゲッ!? アンタと一緒に行くのか!?」

「……まぁ、いいけどよ」

 ディアベルはあえて、キバオウと対立していた高杉をチームに入れていた。関係の改善を図っているが、キバオウからしてみればいい迷惑でしかない。しかし高杉は、そこまで気にしていなかった。

 続々とチームが決まる中で、パクヤサはチサら四人と万事屋にある役目を託している。

「それでは銀時やキリト達は、このアジトの留守番を頼めるか?」

「えっ? 僕らも捜索に行かなくていいですか?」

「万が一の為の襲撃に備えたいからな。では、よろしく頼む!」

 そう言うと彼は高杉らの方へ向かい、散らばった仲間を集めるためにアジトを後にした。桂や坂本らも同じく外へと向かっており、現状残っているのは留守番を任された万事屋とチサら四人のみである。

「いっ、行っちゃいました?」

「本当に僕等だけしかいないんですね……」

 先ほどまでの賑やかさとは一変して、場は静寂に包まれてしまう。留守番によって出来た自由時間には、ユイや新八と同様に戸惑いを隠せないメンバーもいた。ところが銀時は、この状況を謙虚に受け止めている。

「一番地味な仕事を残しやがって……。まぁ、いいや。暇でも潰しながら、気長に待っているか」

 文句を口にしつつも、彼だけは楽観的に捉えていた。仲間達の収集には時間がかかると見定めており、一旦は休憩に入ろうとしている。この銀時の呑気な行動に、別世界の銀時は納得していなかった。

「おい、もう一人の俺! このタイミングで休むというのか? 現を抜かしているなら、特訓でもしたらどうなんだ?」

 時間の使い道で、休憩よりも戦闘の訓練が大事だと強く促していたが……

「特訓って……よりにもよって、ウチの作品には似合わない展開じゃねぇか。悪いが俺は、そんなの真っ平ごめんだよ」

銀時の意志は変わらずに、適当な理由を付けて部屋を後にしてしまう。マイペースな彼の性格には、別世界の銀時も頭を抱えて対応に困るばかりである。

「おい、待て! 俺の話をちゃんと聞けよ!」

 そして考えを理解してもらうために、咄嗟に追いかけてきた。銀時同士が場を離れた一方で、キリトもある手段を思いつき、もう一人の自分に話を持ち掛けてくる。

「特訓か……なら! 君も俺と一緒に特訓でもするか?」

「えっ? 僕と……?」

「ああ。心が恐れているだけで、きっと君も強いと思うんだよ。だから、一緒に来てくれ!」

「ええ!? ちょっと……」

 話題に上がっていた特訓と重ね合わせて、別世界の自分にも戦術を教え込もうと考えていた。唐突な誘いに困惑していたが、返答する暇も無くキリトは彼の手を握り、部屋を去っていく。銀時に続いてキリトも自由に行動を始めたので、同じく別世界のアスナも部屋を出ようとしていた。

「どいつもこいつも楽しそうだな。アタイはそんな気になれないから、自分なりに休ませてもらうぜ」

「じゃ、私もアナタに合わせて連いていこうかな?」

「勝手にしろ。アタイと一緒でも別に面白い事なんかねぇよ」

「それでも、構わないわよ」

 当然のように本物のアスナももう一人の自分に連いていくようで、笑みを見せて距離を縮めようとしている。別世界のアスナは乗り気ではなかったが、彼女が一緒でも特に問題は無かった。

 こうして似た者同士が共に行動していき、部屋にはチサ、新八、神楽、ユイの四人しか残っていない。

「見事に分かれちゃいましたね……」

「残ったのは、この四人ってことですか」

「じゃ、私らは素直に留守番でもしているアルか」

「そうですね。みなさんについても聞きたいことがあるし、雑談でもしましょうか」

 自由気ままに四人も、有り余った時間を有意義に楽しむようである。部屋を出ていくことはなく、留守番をしながら雑談に興じていく。自分同士や新しい仲間との接触を通して、万事屋はさらなる縁を築こうとしていた。

 

「ちょっと待て! 一旦止まれ!」

 休憩に入ってアジト内を歩き続ける銀時に、別世界の銀時が大声で止めに入る。絨毯が敷かれた細長い廊下にて、彼は素直に歩みを止めた。すると、背を向かせたままもう一人の自分に話しかけてくる。

「何だよ? お前がどんなに説得しても、俺は特訓なんかする気は無ぇよ。そもそも、なんでそんな必死になっているんだよ?」

「当たり前だろ。俺はともかくとして、キリトやアスナ達には、一刻も早く元の世界へ帰さなければいけないからな。アイツらは戦争とは無関係な世界からやって来ている。だからこそ俺達攘夷志士が、最後まで守り通す使命があるんだ! アイツらが元の世界へ戻れるまでは、俺が強く支えなきゃいけないんだよ……」

 感極まって声を震わせながら、別世界の銀時は自らの想いを打ち明けてきた。戦闘に慣れていないキリト達を支えながら、一人の侍としての責任感を持ち、彼はこの戦いに臨んでいる。自分とは違った情の深さを知ると、銀時は小さく微笑んでその真意を悟っていた。

「そうかい。だが、安心しろよ。俺がお前だったら、そんな特訓しなくても実現出来ると思うぜ」

「何? 一体どう――」

 続けて質問を返そうとした時である。

「はぁぁ!」

急に銀時が木刀を抜いて、振り返ると同時に襲い掛かってきた。無論彼も衝動から反射的に刀を抜くと、

〈キーン!!〉

耳障りな金属音を発して攻撃を未然に防ぎ切る。何の脈略も無い銀時の行動には、別世界の銀時も到底理解していない。

「急に何をする!? まさか決闘の続きでもするつもりか?」

「違ぇよ。てめぇに理屈だけじゃ似合わねぇって、言いたいだけなんだよ」

 そう言うと彼は、木刀を振り降ろして再び腰へと収め直す。敵意を解いたところで、別世界の銀時も刀を鞘に戻した。そして互いに目線を向き合わせて、会話を再開させていく。

「つまり、どういうことだ?」

「難しく考えるなってことだよ。特訓だけで戦闘がパターン化しちまうと、予想外の行動には苦戦するからな。命が懸かっているなら、尚更だと思うぜ」

「……そういうものなのか?」

「ああ。俺だってこう見えて、結構色んな戦いを乗り越えてきたからな。大体分かるんだよ。てめぇの剣筋だったら、もう特訓しなくても十分だと思うぜ」

 似合わない微笑みをちらつかせながら、突発的な行動力が必要だと、銀時はもう一人の自分へ伝えていた。攘夷戦争を経験して、その後も守るべきものや人の為に数多の強敵達と戦い続けた、彼らしい考え方である。

「そうか……。俺よりも多くの戦いを経験したからこそ、自信を持って言える事なんだな……」

 銀時なりの解釈を耳にして、別世界の銀時も深く心へと受け止めていた。それでも、生真面目な思考は相変わらずであったが。

 彼からの反応を目にすると、銀時は話題を変えて別の疑問を投げかけてくる。

「ところでよ、俺も一つ聞きたいことがあるんだ。お前が元いた世界って、今どんな状況になっているんだよ?」

「状況? 攘夷戦争の事か?」

「そういうこった。俺は一応戦争が終わった世界から来ているからな。折角の機会だし、ちょいと教えてくれないか?」

 やや寂しげな表情を浮かべながら、別世界の銀時がいた攘夷戦争について聞き出そうとしていた。自らの過去と照らし合わせながら、今一度確認したいのである。

 突然の質問に戸惑いを見せていた彼であったが、数秒後にはすんなりと返答してくれた。

「少なくともここよりは自由に戦えているよ。天人共からの侵略を、すぐにでも断ち切らなければいけないからな。それに……」

「それに?」

「一刻も早く救いたいからな……俺達の大切な先生を」

 その言葉を聞いた瞬間に、銀時は彼からの心情を悟り始めている。何よりも心を揺さぶられたのは、大切な先生と言う言葉であった。別世界でも同じ目的で戦っている事が分かると、例えようの無い刹那さも感じている。もっと詳しく知りたいが、彼からは辛い気持ちも感じたので、ここはグッと堪えて空気を読んでいた。

「そっか。ならもうそれだけで十分だ。俺が求めていた答えも聞けたからな」

「って、本当にそれだけで良かったのかよ?」

「良いんだよ。短い方が手っ取り早いからな」

 無理にでも納得した素振りを見せながら、自然と話題を打ち消していく。最後には話してくれた礼として、銀時は心に宿した気持ちを伝えてくる。

「……そうだ。後一つだけ伝えておくよ。お前がいた世界で攘夷戦争が、どのように終わるのか知ったことじゃない。違う結末になりえる可能性だってあるから、俺から詳しい事は何も言えねぇよ。でも……絶対に運命は受け止めるべきだと思う。そうすれば、多少苦しい事はあっても、いつかは新八や神楽のような仲間にきっと出会えるぜ」

「新八に神楽? お前のところにいた子供の事か?」

「子供じゃねぇよ。万事屋の立派な従業員だ」

 自分が戦争を終えた後に経験した出来事。そして現在へと繋がる経緯。大雑把にぼかしながらも、大切な言葉を抜粋して彼に知らせていた。例え困難があれども、乗り越えればきっと新しい出会いが待っている。そう銀時は、もう一人の自分へ教えたかったのだ。

「万事屋……もしかして、俺がこの先に出会う組織か? やっぱり、詳しく教えてくれないか?」

 別世界の銀時もつい未確定な情報を気にしてしまい、さらに聞き出そうとしたが――既に目の前には銀時の姿は無い。

「アレ? って、どこ行った!? 目を盗んだ隙に逃げるとは、どこまで悪知恵が働くんだよ……」

 話とは別に特訓への嫌悪感は変わらず、指摘される前にその場をひっそりと抜け出している。姑息な手段には別世界の銀時も怒りを覚えて、思わず呆れてしまう。こうして念願の特訓が実現することは無く、時間は無情にも過ぎ去るばかりであった。

 

「ねぇ、本当に特訓するの?」

「ああ。君も二刀流の使いだったら、俺と同じような技を使えるかもしれないからな。身につけておけば、きっとこの先の戦いでも役に立つと思うよ」

 時を同じくしてキリトも、別世界の自分に対して特訓への理解を求めている。現在二人はアジト近くにある庭の一角で立ち止まり、込み入った話を続けていた。弱気な彼の姿を放ってはおけずに、キリトは手助けも踏まえて剣術を教えようとしていたのだが……

「無理だよ。僕なんかが剣術を得たところで、本番で使えるのか分からないし……」

「そう自分を悲観するなって。やってみない事には、何も答えなんて出ないと思うけど」

「それでも……弱いから仕方ないんだよ」

残念ながら当の本人からは拒否されてしまう。心を動かすことはなく、自分の弱さにコンプレックスを感じて頭を抱えている。その証拠に表情も暗く、憤ったままであった。何一つ話が進展しない中で、本物のキリトは彼のマイナスな気持ちを察しても、諦めずに説得を続けていく。

「君を弱いと思ったことは一度もないよ。だって俺も、自信が持てずに悩み続けた時があったからな」

「そうなの?」

「ああ。ちょうど二人っきりだし、少し昔の事でも話してみようか」

 心境を変えるためにもキリトは、別世界の自分へ過去の出来事を話す事にした。当然彼も興味を持ち始めており、すぐに注目を寄せてくる。二人は庭に設置されたベンチ椅子に腰を掛けると、話を再開させた。

「実は俺も、この閉鎖空間のような世界で幽閉されたことがあるんだよ。君がさっき言っていた、SAOってゲームでね」

「SAOって、そういうゲームだったっけ?」

「まぁ、別世界だから誤差があるかもしれないけど、少なくとも俺がいた世界では、販売直後にログアウトが出来なくなって、現実に戻れなくなったんだよ」

「それってまるで、この空間と同じだね……」

やはり話題に上げたのは、SAOでの体験談である。夢空間と同じく現実に戻れない仕組みを口にすると、別世界のキリトは小さく体を震えさせていた。すると彼は、唐突にもある疑問を投げかける。

「ところで、君は怖くなかったの? 元の世界に戻れない事を知って」

「うん……正直に言うと、怖い思いもあったよ。ゲームの世界での死が、現実と同等になることに。でも俺は、自分の気持ちを誤魔化してずっと戦ってきたんだ。あの時までは……」

「あの時?」

 予想もしない本音に驚く最中で、キリトの表情は急にしんみりと変わった。意味深な言葉も呟いており、雰囲気から訳アリだとはあきらかである。空気を読みしばらく待っていると、彼はようやく重い口を開き始めた。

「実は……一回だけ俺は、目の前で仲間を失ったんだよ」

「えっ!? それって……」

「守り切れなかったってことだよ。しかも、その中には君達の仲間にいるチサとそっくりな女の子もいたんだ」

「そんな……」

 あまりにも辛辣な過去を知り、別世界のキリトは暗い表情のまま衝撃を受けている。自分にない強さや優しさにしか触れていなかったが、まさか仲間を失っているなど想像すらしていなかった。思わず反応に困る彼を見届けたところで、本物のキリトはゆっくりと話を続けていく。

「あの一件以来俺は、自分自身も信じられなくなって、心も閉ざしていたんだよ。それこそ、目的も無く自暴自棄で戦っていたり……でも、彼女が残してくれた希望に触れて少しずつ心を戻していったんだ。これが俺にとっての、忘れられない記憶の一つかな」

 終始落ち着いた口調で話していたが、その真意は後悔や悲しみに包まれている事は明白であった。別世界のキリトもその心情を読み取って、慎重に言葉を選別しながら声を上げてくる。

「そんな過去があったなんて……僕とは違うけど、君も辛い思いをしていたんだね」

「そうだな。だから俺は、もう一人の自分にも同じような後悔をさせたくないんだよ。つまり、君にもちゃんと強くなってほしいんだ! 戦術で分からない事があったら幾らでも教えるから、今からでも特訓に付き合ってもらえないか?」

 そして彼は改めて、もう一人の自分に特訓への誘いを促す。大切な仲間を失う恐怖を知っているからこそ、例え別世界の自分であっても他人事だとは思っていなかった。弱くても立ち向かう根性を、キリトは真剣に伝えようとしている。彼の熱意に触れて、別世界のキリトもその覚悟を受け止めつつあった。

「わ、分かったよ。僕だって仲間は失いたくないし、後悔もしたくない……でも、本当に特訓なんかでみんなを守れるの?」

「それは君の気持ち次第だよ。諦めずに挑戦するのも、重要だと俺は思っているよ」

「それなら、いいよ。その代わり分かりやすく教えて!」

「ああ。そのつもりでいるよ」

 彼と触れれば自信が変わると思っており、率直に信じて特訓に挑もうとしている。徐々に前向きな姿勢になる姿を見て、キリトはそっと微笑んで感心していた。

「それじゃ、早速始めようか」

「うん。でも最初は、お手柔らかにしてね」

「分かっているよ」

 互いに声を掛け合いながら、二人は庭にある広場へと足を進める。二刀流ならでは戦法や広いフィールドを生かした戦術を、教えようとしていた。こうしてキリト同士の距離も、また一つ縮まっていく。

 

「って、調理場で休憩するの?」

「そうだよ。ちょうど腹も空いたからな。間食ついでに来ただけだよ」

 一方でアスナら二人が休憩に訪れたのは、アジト内に隣接していた調理場である。料理を作るには欠かせない場所であり、てっきりアスナも別世界の自分も料理上手だと思い始めていた。しかしその期待は、一瞬にして砕け散ってしまう。

〈サク!〉

 音が聞こえた方へ顔を向けると、そこには堅いフランスパンを力づくで噛みつく彼女の姿が見えた。両手でパンを押さえながら、獣のように執着する姿は、まさに勇ましさそのものである。この野性的な行動に、本物のアスナはつい心を引いていた。

「フランスパンを丸かじり……調理とかはしないの?」

「調理? 悪いがアタイにとっては苦手分野なんだよ。一回だけ肉を焼いたら、前のアジトが全焼しちまって……アレ以降は戒厳令が敷かれているんだよ」

「そんな事故があったんだ……」

 新たなる出来事を耳にして、彼女はさらに言葉を詰まらせてしまう。別世界の自分は料理に苦手意識があるようで、挙句の果てにアジトを全焼させた経験談まである。見た目は同じでも、得意不得意にはそれなりの誤差があるようだ。

 それでも、野性的にパンを食らう姿を見てられずに、アスナはある考えを思いつき実行に移している。

「ねぇ、良ければ調理場の方を貸してもらえる?」

「ああ? 別にいいが、何を作るんだよ?」

「もちろん、私の得意料理よ!」

 調理場に来ている事を逆手にとり、自らの特技である料理を披露しようとしていた。並行して互いの距離も縮められるので、本物のアスナにとっては一石二鳥である。意気込みながら彼女は、保存してある食材を手に取って、高揚した気分で調理を始めていった。野菜を切りこみ、肉をオイルに浸しながら焼き、予め半分に切ったフランスパンに挟むことで、数分も経たないうちにサンドイッチを完成させる。

「はーい、お待たせ! お手製のサンドイッチよ!」

「って、ただ具を挟んだだけじゃねぇか。肉くらいしか調理してねぇじゃねぇか」

「はいはい、皮肉はいいから。栄養のバランスを考えて作ったから、きっとアナタの口にも合うはずよ。肉が冷めない内に、頂いちゃいなさい」

 もう一人の自分からの文句を受け流して、アスナは自信良く完成したサンドイッチを薦めていく。若干不満げに想いながらも、彼女はサンドイッチに手を伸ばして注意深く見た目を凝視している。温かい匂いを感じ取り、無言のまま口へと運びそのまま頂いた。

「どう、おいしい?」

「……それ以外なんて返すんだよ?」

「もう~! 素直じゃないんだから!」

 予想通りにその味を受け入れており、遠回しでしっかりと褒めている。つい浮かれ気味になるアスナに対して、別世界のアスナは少し複雑な気持ちを感じとっていた。サンドイッチを食べ続けながら、何気なくもう一人の自分へ話を持ち掛けてくる。

「なぁ……やっぱりお前って、女子力がずば抜けて高いよな」

「えっ? 急にどうしたの? そんなに改まって」

「少し羨ましく思ってんだよ。おしとやかで料理も出来て、おまけに彼氏持ちなんて……性格が違うと、ここまで差が広がるのかって」

 彼女は密かに感じていた性格のズレに、内心悩んでいたようだ。気性の荒い性格を分かり切った上で、もう一人の自分の女子らしさに惹かれている。今まで口にしなかった彼女の本音を目の当たりにして、アスナは意外性を感じながらも、それを踏まえてそっと言葉を返していく。

「そこは別に気にしなくても良いと思うよ。私だって完璧に女子らしいわけじゃないし、アナタにしかない個性に惹かれている部分があるもの。強気な性格とか堂々とした根性とか」

「……そうなのか?」

「そうそう。育った環境が違うから、性格が異なっても仕方ないことなのよ。他人と比べるよりも、自分の良いところを磨いた方が有意義だと私は思っているわ。当然あなたにも、きっと当てはまる事よ」

 率直に感じていた考えを、しっかりと伝えていた。常識に捕らわれることは無く、自分自身の個性を受け止めたアスナなりの助言である。大人びた考えを耳にした彼女は、手にしていたサンドイッチを一旦皿に戻すと、急にアスナの手を強く握ってきた。

「ん? 今度は何?」

「感謝を伝えたいだけだよ。アタイも元の世界では自分の個性を押し殺して生きていたからな……親からはエリートになれと散々言われて、その反発心でヤンキーやスケバンと言った自由な信念に憧れを持つようになったんだ。周りと考えが違う事に気持ちを窮屈にしていたが、アンタのおかげで少しは楽になったよ。本当に、ありがとうな!」

「アレ?」

 感極まった別世界のアスナは、長らく抱えてきた気持ちを赤裸々にも吐き出していく。しかし、本物のアスナは一つだけ、ある事実に疑問を抱いてしまう。真相を確かめるべく、再び質問を仕掛けてみた。

「……ちなみに、アンタの本名って結城明日奈なの?」

「おお、そうだよ。こう見えてもな、結構良いとこ育ちのお嬢なんだぜ。親の前では上品に振る舞っているが、もし不良系にハマっているなんて知ったら……考えただけでもぞっとするけどな!」

 あたかも他人事のように言い放つ別世界のアスナであったが、本物のアスナにとってはあまりにも信じがたい事実である。確定ではないが、恐らくもう一人の自分との家系や教育方針は自身とほぼ一致していた。これには彼女も冷静さを失い、心の中で大きく取り乱してしまう。

(育った環境同じだったの!? 別世界の私って、親に反抗する形で性格が荒々しくなったんだ……興味が違ったら、ここまで異なってしまうのね)

 何か一つでも違うきっかけがあれば、同じ人間でも対照的に性格が変わると彼女は深く理解していた。考え込んでしまったアスナとは違い、別世界のアスナは呑気にも食事を再開している。こうして二人の仲も、より深まっていた……はずだ。

 

 そしてチサ、新八、神楽、ユイの四人は、留守番をしながら何気ない雑談を進めていた。

「それでですね、坂本さんってば交渉に失敗して、歩狩汗のアルミ缶を大量に手にしちゃったんですよ。仕方ないからリズさんに頼み込んで、アルミ缶で盾や防弾チョッキを作ってもらったそうですよ」

「へぇ~そんな事があったアルか!」

「坂本さんはこの世界でもバカなんですね……というか、アルミ缶でリズさんが武器を作り出した方が凄いかも……」

「例え別人でも、鍛冶技術は本人と同等ってことですね!」」

 夢世界で起きた珍事件をチサが紹介して、ユイら三人から笑いをかっさらっている。辰真のドジな一面やリズベットの鍛冶技術の高さが垣間見えた話だった。

「チサの仲間達も、かなり個性的アルナ!」

「そうですよ! みなさんとっても強くて、頼りになるんですから」

「この人達とだったら、きっと解放される日も近いですよね」

「……うん。そうだといいですね」

 神楽に続けて新八も声をかけると、急にチサは気持ちが変わったように表情を変えていく。この突然の変化に、万事屋の一面はつい戸惑ってしまう。

「アレ、チサさん? どうしたんですか?」

「おい、新八ィ! お前まさか気に障る事を言ったんじゃないアルか?」

「って、僕に責任を擦り付けないでくださいよ! そんな変な事は言ってないけれど……」

 神楽は最後に言葉を発した新八に疑いを強めているが、当の本人には思い当たる節が無かった。すると、ようやくチサが口を開き始める。

「大丈夫ですよ、みなさん。少し考えていただけですから」

「そうなんですか? 本当に大丈夫なのですか?」

「ええ。解放される日も近いと思って、元の世界へ戻った時を想像していたんです。きっと私の記憶も戻って、幸せな日を送れれば良いんですけどね」

 彼女が話してくれたのは、密かに感じていた帰還についてであった。エリア攻略も残りは数少なく、解放への道筋は着実に高まっている。チサは最後まで希望を捨てずに、自身の記憶も戻ると思っていたようだ。このポジティブな考え方に万事屋も感銘を受けており、早速ユイが言葉を返してくる。

「それは、きっと大丈夫ですよ! チサさんの仲間達や、私達万事屋が力を合わせれば……みなさんを元の世界へ戻せますから!」

「フフ、ありがとうね。その言葉だけでも、嬉しくて何よりだから」

 自信良く万事屋の強さを自負した彼女からの言葉に、思わずチサも優しく微笑んでいた。穏やかな雰囲気が辺りに広がる中、神楽だけはマイペースにも、またも新八にちょっかいをかけていく。

「というか、ユイ! 新八だけはせめて除外しないとダメアルよ! こいつの戦闘力の九割は眼鏡だから、それが無いとレベルが初期値まで戻る設定になっているネ!」

「ええ!? そうなんですか?」

「そうアル! 別名ダメガネって言われているからナ……」

「って、神楽ちゃん!? また突拍子もない出まかせを言わないでって! ユイちゃんも簡単に信じようとしないで! ツッコミを入れるのが、面倒になるから!」

 純朴なユイに対して、デタラメな設定を教え込み、悪質にも信じさせようとしていた。無論ユイも疑うことは無く、あっさりと信じて新八の手を煩わせていく。神楽は無邪気にも笑いを堪えて、この展開を面白がっている。

 そんな万事屋独自の雰囲気を見て、チサは穏やかな口調で呟いていた。

「やっぱり、愉快ですね。ノリやテンションが、彼らに合っているみたいで」

 家族のように仲睦まじい様子を見て、彼女は再び笑顔を浮かべている。訪れた平穏な時間を味わいながら、四人は留守番へと勤しんでいた。仲も深まりつつあるそんな時である。チサの身に、ある異変が起こってしまう。

「ウッ!? ……アレ? 今のは一体?」

 頭を上げようとした瞬間に、まるで電撃が走ったかのような頭痛を感じとっていた。幸運にもすぐに収まったのだが、さらに彼女は脳裏にある記憶を映し出している。

 唐突に訪れたチサの変化には、もちろん万事屋も気付いて注目を寄せていた。

「どうしたんですか、チサさん?」

「今一瞬だけ、ある記憶を思い出したんです……」

「記憶? 一体何が浮かんだアルか?」

 興味深く神楽が聞くと、チサは印象に残っていた記憶について説明する。

「確か――一つ目と蛇。そして、羽を広げた鳥のマークだった気がします」

「一つ目と蛇って……」

「千佐さんが寝言で言った言葉ですよ!」

 彼女からの言葉に一段と動揺するユイら三人。現実世界で眠る千佐と同じような寝言を発しており、新しい関連性が浮き彫りなった。さらに、

「でも、羽を広げた鳥は呟いてなかったはず。新しい証拠なのか……」

新八が気付いたのは新たな手がかりである。チサが頭に浮かばせていた鳥のマークは、謎を解く鍵にも繋がりそうだが、残念ながらすぐに思いつくことは無かった。

 さらなる展開を迎えたのだが、意味を理解できずに事態は息詰まってしまう。

 

「ああ! ダメだ……上手くいかないよ!!」

「簡単に諦めるな! 剣筋は上がっているから、後は練習を繰り返せば絶対に使いこなせるよ!」

 そしてこちらは、熱心にも激しい特訓を続けるキリトら二人。基礎的な戦法を教えたところで、早速キリトは応用系の技をもう一人の自分へと叩き込んでいた。次第に彼の熱意は高まっていき、自然と別世界のキリトを置いてきぼりにしてしまう。強い感情移入故の行動だが、当の本人には何一つ気が付いていない。攻撃を受けて倒れてしまった彼は、遂には無謀さを感じて深く心を落ち込ませてしまう。

「やっぱり無理なんだよ。僕は君と違って才能とかも無いと思うし、技術を鍛えたところで時間を浪費するだけだよ……」

「そんな事を言うなよ。基礎も軽々しく攻略したんだから、きっと高い難易度のある技もできるはずだ。まだ時間はあるから、根気強く挑戦しよう。さぁ、立ち上がって!」

 例えどんなに諦めかけても、キリトはしぶとくも説得を続けている。思いの強さが前面に現れており、もう一人の自分を強くする事に使命感を背負っていた。優しい微笑みを投げかけて、さり気なく手を差し伸べていくが……

「ごめん。どんなに君が優しくても、期待にはもう応えられないよ」

「えっ?」

別世界のキリトは手を掴むことなく、とうとう諦めかけてしまった。ゆっくりと立ち上がり、彼は背を向かせたまま声を発する。

「少し一人にしてくれるかな? ちょっと心を整理したいんだ……」

 そう言い残すとまたも森林へと逃げ込み、本物のキリトと距離を遠ざけようとしていた。

「って、待ってくれ! もう一人の俺!」

 急な行動には、キリトも思わず戸惑いを隠しきれていない。咄嗟に追いかけようとしたその時。偶然にもアジト内を散歩していた銀時と鉢合わせした。

「ん? どうした、キリト? 何をそんなに焦ってんだよ?」

「ぎ、銀さん!? 丁度良かった! 森に逃げ込んだ別世界の俺を、一緒に捜索してくれないか!」

「ああ? そんな事が起きていたのか。まぁ、いいぜ。手分けして探そうじゃねぇか」

 彼はすぐに状況を読み込んで、キリトと共に捜索へと協力する。すぐに森の中へと入っていき、手分けをしながら別世界のキリトを探し続けていく。

 しかし、二人はまだ気付いてすらいなかった。この夢空間にて、思ってもいない人物と遭遇することに……




 次の三十三訓ですが、あえて予告は作らない事にしました。決してネタ切れではなくて、ある展開を踏まえての判断です。一体どういうことなのか……それは、次回までお待ちください。(タイトルやタグでネタバレしちゃうかも)
 後以前から伝えていた長篇の設定表は、明日投稿します。物語には書ききれなかった裏事情も載せておきますので、その辺も踏まえてお待ちください。


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第三十三訓 二人の師

「おーい! どこにいるんだよ!」

「さっさと戻って来いって!」

 森へと逃げ込んだ別世界のキリトを連れ戻す為に、銀時とキリトは東側と西側に手分けして捜索を続けている。しかし中々見つけられずに、事態は難航していた。その最中に悪い条件が重なり、途中から濃い霧が立ち込めて二人の視界を妨げていく。

「霧が濃くなってきたな……銀さんの方は大丈夫なのか?」

「おいおい、妙な霧だな。良からぬ事でも起こりそうじゃねぇか」

 後の捜索に支障をきたすと思い起こし、不安げな表情を共に浮かべている。それでも今は前に進むしかなく、霧をかき分けて探し続けていた。これから起こる不思議な出来事などつゆ知らずに――

 

「ん? あの光は……?」

 隈なく捜索していたキリトが見つけたのは、不自然にも発光する白い光であった。霧の中で忽然と存在を現して、はっきりと見える様子は違和感しかない。それでも彼は、好奇心から恐る恐る光へと近づいてみる。思わず手を伸ばして触れたその時であった。

「うわぁ!? って、今のは一体?」

 光は急に大きく輝きだして、辺り一面に広がっていく。一瞬何が起こったのか分からないキリトは、反射的にも目を閉じて自分の身を守っている。驚きを抑えきれない中、再び目を開けると、そこには信じがたい光景が待ち構えていた。

「えっ? ここは?」

 目にしたのは森の中ではなく、自然に囲まれた田舎のような場所である。一面を覆う自然豊かな風情は、この夢空間でも見覚えが無かった。唐突なる場面転換に、彼は動揺を露わにしている。

「いつの間にこんな所へやって来たんだ? 夢の空間だから、不安定な場所にも辿り着くという事か?」

 考察を練っているが、真相は定かではない。ひとまずは様子見の為に周りを見渡すと、すぐ後ろには古風な民家が一軒だけ建っていた。

「ん、建物? ……松下村塾?」

 表札には名が明記していたが、当然ながら初めて聞く言葉である。さらなる動揺を広げていく中で、状況はさらに急展開を迎えた。

「そこで何をしているのですか?」

 突然穏やかそうな男性の声が響き渡る。横へ振り返ると、そこにいたのは灰色の長髪をした和服姿の男性であった。雰囲気からキリトは、民家の関係者であると悟っている。

「あっ、いや……何でも無くて、ただ道に迷っていただけですよ」

「道ですか?」

 つい気まずさを感じてしまい、咄嗟に思いついた言い訳を口にして、この場を去ろうとした。無理にでも話を切り上げる彼の姿に、男性は違和感を覚えている。

「ここには用事も無いので、失礼しますね……」

「ちょっと待ってください! もしや君は、少し悩みを抱えているのではないですか?」

 逃げようとした直前に声をかけられてしまい、キリトは足を止めてしまう。心に刺さる質問を耳にして、率直に返答していく。

「えっ? まぁ、悩みは一応ありますけど……」

 すると男性は、穏やかに微笑んでから言葉をかけてきた。

「それならば、相談に乗りましょうか? こう見えても私は先生なので、アナタのように困っている人は放っておけないのですよ」

 朗らかな口調で先生と名乗り、相談を持ち掛けたのである。気の利いた行為だが、キリトからすれば反応に困る提案であった。

(妙に親切な人だな……断りづらいし、ここは流れに乗ってみるか)

 苦い表情を浮かべつつも、男性からの気持ちを察して悩みを話す事にする。了承したところで、彼は男性に連れられて松下村塾と呼ばれる民家へと入っていった。だが、キリトはまだ気付いてはいない。この男性の正体が、かつての銀時に学問を教えた先生――吉田松陽であることに。

 

「はっ!? なんだここは……」

 一方で銀時にも、キリトと同じような現象が起こっていた。気が付くと森にはおらず、閉鎖感が漂う建物の廊下へと立っている。彼もまた霧の中の光に触れて、目の前の場面が移り変わったようだ。

 直後にまずは周りを見てみるが、室内の灯りは少なく人気も無いため、徐々に恐怖や寂しさを感じて体を震えさせている。

「ちょっと待て。なんでよりにもよって、暗い場所にいるんだよ! こういうのは苦手なのによ……」

 オカルトや幽霊といった類にはめっぽう弱い銀時にとっては、まさに最悪の環境に近かった。普段は口にしない弱音を吐きながら、警戒心を高めていた時である。

〈キィィ〉

「ん? そこにいるのは誰だ!?」

 突然右側の扉が開き、中から人が姿を現した。予想もしなかった声掛けに、彼の心拍数は急に上昇して、落ち着きを失っていく。そして、過剰にも驚嘆した反応を示していた。

「ギャャャ!! 出たぁぁ!! 命だけはお助けを……!!」

「はぁ? 何を言っている? 子供のように怯えて恥ずかしくないのか?」

「えっ……?」

 吹っ切れたように恐怖を露わにする銀時に対して、男性は冷静な態度や口調で指摘を加える。その真意に気が付くと、彼は目の前の男性をじっくりと凝視して、幽霊でない事を確認した。同時に心を落ち着かせて、先程までの取り乱していた自分へ後悔を始めていく。

「って、幽霊じゃないのかよ――じゃ、ただの騒ぎ損じゃねぇか! 見知らぬ相手に、醜態をさらしただけかよ!?」

「ようやく気付いたか。まったく、いちいち忙しい男だな」

 一人でツッコミを繰り出す銀時であったが、男性からはまたも辛辣な言葉が返ってくる。二人の間には温度差が生じており、互いの第一印象を強く残していた。

 一方で銀時は、改めて声をかけてきた男性へ目線を向ける。外見は痩せ型で目つきが鋭く、常に白衣を羽織る姿は、学者や研究者を彷彿とさせていた。そんな白衣の男性は、話題を変えて銀時の正体について追及を始める。

「というか、お前は一体誰なんだ? ここには私一人しか入らないようにしているが、どこから侵入したのだ?」

「侵入って、気が付いたらここにいたんだって。本当は森の中にいたんだけどな、霧が立ち込めてからは前も分からなくなって今に至るんだよ」

「益々訳が分けらん……ひとまず、話だけは聞こうではないか。ちょっとこっちまで来い」

 やはり軽く話しただけでは上手く噛み合わず、解明のためにじっくりと言い争う構えを見せていた。その表情も疑いを強めたように、鋭利に目を尖らせている。執念深い男性からの提案に、銀時はつい気だるさを覚えていた。

(随分と周到な奴だな……本当に自分が納得するまで問いただすのかよ。ああ、絶対長引きそうだぜ)

 大幅な時間の消費を推定しており、複雑な事態になったと心では嘆いている。沈んだ気持ちのまま、彼は男性に連れられていき手狭な一室に入っていく。しかし、銀時は思ってもいないだろう。現在自分が対面している相手が、かつてSAO及び仮想世界を作り出した立役者である茅場晶彦である事に……

 

「では、まずは自己紹介を。私の名前は吉田松陽と言います。この松下村塾で、教え子達に学びを教えている先生ですよ」

「松陽さんか……。あっ、俺はキリトだよ。よろしくな」

 松下村塾内にある広々とした教室にて、キリトと松陽の二人はお互いの自己紹介を交わしていく。共に正座を組み、穏やかな雰囲気のまま会話は始まった。ところが、キリトには少しだけ心に引っかかる部分がある。

(なんだか松陽さんって、茅場晶彦と声が似ているな。いや、気のせいかもな)

 SAO開発者であり自分とも因縁がある茅場と、松陽の声が似ていると感じ取っていた。しかし人柄はまったく違うので、同一人物でない事は明白である。心の中で考えを巡らせる中で、松陽は早々と本題へ移っていた。

「それでは早速、キリト君の悩みを聞かせてもらえますか?」

「ああ。悩みっていう、悩みじゃないんだけどな」

 若干首を傾げながらも、キリトは自分が抱えている問題について打ち明けてみる。別世界の自分を後輩と差し替えて、特訓時に起きた出来事やこの場所まで来た経緯を大まかに話していく。

「――そうですか。弱気な後輩君を強くするために、一緒に特訓をしている途中で、相手が逃げ出してしまったという事ですね」

「そうだな。それで森の中を探していたら、ここに辿り着いたってところかな」

 彼からの話を聞いた松陽は、ゆっくりと頷いて問題の本質を読み解いていた。一旦目を閉じて自分なりの考えを構築する間に、場は静寂に包まれ声を上げづらい状況が続いている。キリト自身もつい相手の出方を伺う程であった。

(アレ? 急に目を閉じたけど、大丈夫かな?)

 心配もしているが既に皆無である。松陽は目を開けると、キリトへ目線を向けて優しい口調で言葉を返してきた。

「キリト君は立派ですね。後輩君の為に、ここまで懸命に動くなんて」

「いや、俺も教えるのには慣れてないんだよ。あの子を見ていたら、昔の弱い自分を思い出して、とても放ってはおけなくて……」

「でも、少し考えすぎではないでしょうか? その後輩君が、キリト君のように強くなるのもペースが異なると私は思うのですよ」

「そ、それは……」

 仲間想いの一面には感銘を受けた一方で、周りを見ずに突き進む行動力に対しては注意を加えている。松陽からの的確な答えには、キリトも思わず返す言葉が見つからない。責任感が強く心へ抱える事の多い彼は、周りが見えなくなる事もしばしばあった。自分が掲げる理想を重視した故の弊害が起きていたようである。

 キリトが真摯にその言葉を受け止めていると、松陽は気持ちを察して話を続けていく。

「どうやら心当たりがあるようですね。でも、大丈夫です。違いに気が付いただけでも、十分な進歩なんですから」

 穏やかな微笑みを浮かべて、前向きな言葉を彼はかけていた。さらに、自分のある考えも声に上げてくる。

「一つだけ私の考えを伝えましょう。キリト君や後輩君にも、きっと当てはまるはずですよ。人が誰しも持っている弱さは、決して変えられないという事はありません。抗って変わろうとする強さも、人は誰だって持っているのです。そんな経験が君にもあるのではないでしょうかね?」

 人の持つ弱さを強さに変える力。先生と言う器に収まる事のない、人として生きる覚悟を松陽はキリトへ教えていた。その考えに触れて、キリト自身も顔色を変えて深く心に受け止めている。

「……そうかもな。ちょっとだけ考えすぎたかもしれないな」

「原因が分かったなら何よりです。先程と比べて、表情も晴々としていますからね」

 表情も明るく戻っており、彼は徐々に前を向き始めていた。気持ちを新たにすると、早速行動へと移し始めている。

「そうとなれば……俺行くよ。この気持ちのまま、後輩と真摯に向き合いたいからな」

「迷いを振り切れて良かったですね。もしよろしければ、またここへ遊びに来てください。教え子たちにも、キリト君の事を紹介したいので」

「もちろん、また来ると思うよ」

 互いに微笑みを向けて、また新しい約束を共に交わしていく。キリトも松陽の事を頼れる大人であると、心から信頼を寄せていた。

(松陽先生……あんなに良心的な人が、この夢世界にもいるんだな)

 人柄の良さを認識した上で、彼は松下村塾を後にしている。一方で松陽も、真剣なキリトの姿を目にして陰ながら応援していた。

「頑張ってくださいね」

 こうして不思議な一時を過ごしていたキリトだったが、門を抜けると同時に場面に変化が訪れていく。

「アレ? 戻ってきたのか?」

 気が付くとそこには、木々が立ち並ぶ森の中である。数分前と同じ場所へ戻ってきたようであるが、振り返っても松下村塾や吉田松陽も一斉見当たらなかった。

「ずっと森をさまよっていたのか? じゃ、さっきの松陽先生は一体……」

 記憶は確かに覚えているはずだが、どれだけ見渡しても濃い霧しか見えてこない。彼が過ごした出来事は、霧の中の虚構でしか無かったのか? その真相は誰も分からない……

 

「坂田銀時……元攘夷志士で、現在は万事屋を営んでいるか。さっぱり聞いた事が無いな」

「またこのパターンかよ……。だったら、もう信じるのは自由だよ。都市伝説感覚で受け取っておけよ」

 一方で銀時も、見知らぬ科学者を相手に話し合いを進めている。その正体が茅場晶彦だと知らないままに、彼は名前や肩書きについて説明していた。狭い研究室にて行われる会話は、最初から暗雲が少なからず見えていたのだが――

「もし君が別世界から来ているなら、私は君の証言を信じようではないか」

「って、むしろ信じるのかよ!?」

「別におかしい事ではないだろ。パラレルワールドは、理論上存在する可能性が高いからな。立証がされていないだけで多くの人間は信じないが、私は普通に信じているつもりだ」

意外にも茅場は何一つ疑わずに受け入れている。侵入方法も分からない上に話も合わない事から、この結論に至っていた。表情は未だに無表情を貫いているが、これでももう疑ってはいない。やや上から目線の彼からの反応に、銀時はむしろ違和感を覚えている。

(いちいち生意気な奴だな。先生と同じ声でも、性格は全然違うってことかよ……)

 さらに茅場が松陽と似た声であると、心では察していた。例え同じ先生と言われる立場でも、その根本は大きく異なっている。そう銀時が感じていた時に、茅場はさらなる質問を仕掛けてきた。

「ところで一つ聞きたいのだが、君の世界には浮遊城なる巨大な建物は存在していないのか?」

 聞いてきたのは、浮遊城に関する情報である。

「浮遊城? ラピュ〇って程ではないが、ターミナルくらいなら俺は知っているよ」

「ターミナル? 駅の事か?」

「駅って言うか、宇宙と地球を結ぶ空港みたいなもんだ。あの技術があってこそ、俺のいた世界は普通に宇宙人も生活しているんだよ。もっとも、弊害が起きている事は言うまでもないがな」

 銀時は代わりに、自分の世界にあるターミナルについて紹介していた。銀魂世界における象徴であり、江戸の要と言っても過言ではない建物である。この返答には、茅場も予想外だったらしく若干驚いた表情をしていた。

「別の世界では、宇宙人も存在しているのか? いつかは、私も行ってみたいものだな」

「行けば良いだろうが。勝手に装置でも完成させて。というか、なんでアンタはそこまで別世界にこだわるんだよ。そんなにこの世界が嫌なのか?」

 より強く別世界への興味を示していたが、現実の事柄には一斉口にしていない。つい疑問に思い銀時が聞いてみると、茅場はすぐに答えを返してくる。

「否定は出来ないな。私自身昔からあの城の完成に執着しているからな」

 そう言うと彼は、壁紙に立てかけておいた巨大な城のイラストに指を指した。無機質な鉄の塊が集まった城であり、空中に浮かぶ姿はまさに浮遊城とも言える。美しさをも感じさせる外観には、銀時もつい息を呑んでいた。

「おいおい。あの城がアンタの理想だって言うのか?」

「ああ、そうだ。名前はアインクラッド。このイラストは、私が仮想世界で再現しようとしている浮遊城の全貌ってところだな」

「それはまた壮大な。遂に自らの手で作ろうってか。良い意味でアンタも、馬鹿正直な事をやろうとしているんだな」

「何とでも言え。私はアインクラッドの完成ならば、どんな犠牲だって払うつもりだ。例えそれが、人の道を踏み外そうとしてもな」

 茅場から計画の一部を聞かされた銀時は、彼の行動力やこだわりに呆れ果てている。現実への興味の無さは、あの浮遊城が全てを物語っていた。しまいには率直な言葉で揶揄していたが、彼は一斉動じていない。それどころか意味深な言葉まで呟いており、どこか危険な思想を匂わせていた。

「おい。それってどういう……」

「これ以上は深入りするな。例え別世界の人間であっても、ここからは企業秘密だからな」

 嫌な予感を察して問い詰めるも、軽くあしらわれてしまう。これ以上話しても恐らく発展性が無いと感じた銀時は、潮時と見て中途半端なタイミングで部屋を去る事にする。

「――そうかい。じゃ俺は帰らせてもらおうぜ。少年の心を忘れずに頑張れよ、ジブ〇男。バルスされないように気を付けろよ」

 適度に冗談を交えながら、彼はそのまま研究室を出て行った。茅場は一斉銀時へ目を向けずに、挨拶もしないまま退室を黙認している。

「フッ。最後まで訳の分からない男だったな――坂田銀時。名前だけは覚えておこうか」

 それでも自分の記憶には、別世界の客人としてちゃんと残しておくようだ。一人っきりになったところで、彼は中断していた研究を再開していく。

 そして銀時の方は、ある重大な見落としにようやく気付いている。

「アレ? そういえば、アイツの名前を聞いてなかったな。どっかに書いてないのか?」

 今まで話していた相手の名前を、すっかり聞き忘れていた。部屋の方角に振り返って表札を見てみると、そこには茅場晶彦と名が書かれている。

「茅場晶彦……どこかで聞いた事があるような」

 既視感を覚えていたが、やはり何も頭には思いつかない。考えに詰まらせていると、急に場面が大きく変わっていた。

「ん? 森に変わった!? さっきまでの研究室は……!?」

 気が付くと彼は、濃い霧が立ち込める森の中へと戻っている。もちろん研究室も、茅場晶彦なる人物も近くには存在していない。銀時もキリトと同じように、霧の中の虚構に惑わされていたのだろうか……

 

 銀時とキリトが不思議な体験をする傍らで、別世界のキリトは霧をかき分けて、誰もいない森の中でただ一人しゃがみ込んでいた。自分自身の弱さを嘆いて、ひたすらに責めている。

「ハァ……ハァ……僕には無理だって言っているのに」

 小粒の涙を浮かべながら、気持ちを落ち込ませていく。未だに自信を付けられずに、悲しみに包まれていたその時であった。

≪君を弱いと思ったことは一度もないよ。だって俺も、自信が持てずに悩み続けた時があったからな≫

 ふともう一人の自分から聞いた言葉を思い出している。その瞬間に涙を止めた彼は、その言葉の真意について考え始めていた。

「そうだよ……もう一人の僕だって、泣きたい事がたくさんあったのに、それを乗り越えて強くなっているんだよね。だったら、僕にも出来るのかな?」

 本物のキリトが抱えていた気持ちを悟って、自身の背中を強く押し始めている。心には変化が訪れており、今までよりも強い勇気が湧いていた。残っていた涙を腕で拭い、深呼吸を交わしたところで気持ちを落ち着かせると、近くである物体を発見した。

「これは……落ちてきた岩石か?」

 そこにあったのは、自分の背丈と同じくらいの岩石である。山から落石したものだと思われるが、キリトは怯む事は無くその岩石に向かい合っていく。

「ちょうどいいや。これを的にして、技の練習をしてみよう!」

 そう、自身を鍛え上げるために、岩石を練習台として使用するようだ。決意を新たにしており、その表情もやる気で満ち溢れている。背中に装備された二本の長剣を手に持つと、教えられた剣術を思い起こしながら、ひたすら岩石へ斬り刻んでいく。

「はぁ!! はっ!!」

 剣を振るう度に重厚な音が辺りに響き渡る。慣れない剣術を繰り返し行い、思い通りの技には中々完成へと行きつかない。それでも諦めずにキリトは、工夫を凝らして攻撃を続けていく。より素早く正確に。それを筆頭にして、一人だけの特訓は密かに続けられた。それから三十分が経過していくと、ようやく変化が現れる。

「ハァァ!!」

 交差するように斬り込んだ直後に、岩石は小さく音を立てて真っ二つに分かれた。輪切りのように決まった新技に、本人は驚きを隠せずにいる。

「えっ!? やった……遂に出来たんだ!! 僕自身の力で!!」

 努力を積み重ねた事により、達成した悲願に思わず喜びの声を上げた。長く時間はかかったが、別世界のキリトも自分の強さを見出している。おかげで自信も付き、新しい可能性を切り開くことが出来た。ひとまず心を落ち着かせて、達成感に酔いしれていた時である。

「ん!? この気配は……」

 急にキリトの表情が大きく変化した。邪悪なる敵意を近くで感じており、彼は恐る恐る警戒心を高めている。すると西側の崖から、ある話し声が僅かに聞こえてきた。

「この下か?」

 小声で呟きながら、キリトは気配を消して崖の下を覗いてみる。そこにいたのは、赤いマントを羽織った統率者らしき人物と、ボスと思われる大型のモンスターが解放ステージへと入る場面であった。

(統率者にモンスター? アレがエリア75の刺客なのか?)

 心の中で呟きながら、彼は手がかりを見つける為に統率者らの監視を続けている。そして瞬く間に、重大なる秘密を目撃してしまった。

(嘘……? 僕達が戦ってきた刺客の正体って……)

 予想もしない展開を見てしまい、つい言葉を失う始末である。自分達が戦ってきた過去をも覆す事実に触れて、大きく心を動揺させていた。

それでも相手に自分の存在が見つかれば元も子もない。驚嘆した気持ちをグッと心へ抑え込み、キリトは静かにこの場を後にする。幸運な事に統率者はキリトの存在に気が付かないまま、配下と共に解放ステージへと足を進めていった――

 

「銀さん!!」

「あっ? キリトか?」

 一方の銀時とキリトは、三度森を彷徨う中で再会を遂げている。お互いの無事を確認したところで、彼らは自分が体験した出来事について話し始めた。

「こっちは全然見つからなかったよ。それに……どこか幻を見ていた気がするんだ」

「奇遇だな、俺もだよ。森を探し回っていたら、研究室に辿り着いたからな」

「研究室? 俺は寺子屋らしき学び舎に行っていたんだが」

「何!? そんな所に行っていたのかよ……」

 情報を交換する中で、また新しい発見を伝えている。捜索していた別世界のキリトは見つかっていないが、代わりに二人は霧の中での出会いを口にしていた。状況の違いから誤差が生じているが、共通しているのは幻のように消えていった点である。不可思議な現象に興味を持ち始めており、さらに追求しようとした時だった。

「お~い! 二人共―!!」

 急にキリトらしき男子の声が聞こえてくる。後ろを振り返り見てみると、そこには森へ逃げ込んだもう一人のキリトがこちらへと向かっていた。合流すると同時に喜びを浮かべているが、対照的に銀時やキリトは心配を念頭に話しかけてくる。

「って、お前!? ようやくお出ましかよ……」

「ごめん……。ずっと森の中で、自分を強くしていたんだよ」

「強く? つまり特訓していたって事か?」

 予想もしない答えを聞き、キリトが再び質問すると、別世界のキリトは自信良く返答した。

「うん。途中で投げ出したりしてごめんね。でも、君の言う通りにやってみたら、ようやく達成できたんだよ! だから……教えてくれてありがとうね」

「いや、俺も君の気持ちを察せなくてごめんな。少し考えすぎていた部分もあったから」

「そんな事はないよ。だから気にしないでって」

 誇らしげな表情で感謝を伝えているが、本物のキリトからすれば急激な変化に戸惑いを示している。落ち込む事の多いもう一人の自分だったが、自信が付くと前向きに気持ちが切り替わるようだ。それでも彼は、相手が満足しているならばそれが本望であった。

(心配は杞憂だったって事か。でもまた何かあるといけないから、油断は禁物だな。ちゃんと相手のペースを考えて行動しないと)

 心では松陽からの教えを思い起こしており、さらに気を引き締めている。一方銀時も、同じような考えを頭に浮かべていた。

(まぁ、一件落着ってところだな。あんななよなよしい奴が、ここまで自信を付けるなんて。元に戻らなきゃいいんだけどな……)

 期待と共に微弱な不安も感じている。願わくは前向きな気持ちで、このまま戦いを乗り切ってほしいと考えていた。再会の余韻に浸りながら話す三人であったが、ここで唐突にもお迎えがやって来る。

「ナー!!」

「あっ、見つけたアル! 三人共!」

「って、神楽? それにみんなも?」

 聞こえてきたのは、甲高い竜の鳴き声と万事屋である仲間達の声。近くを見渡してみると、後ろからピナと神楽、新八、ユイ、アスナの四人が駆けつけてきた。

「おいおい、どうしたんだよ? そんなに急いで。まさか俺達まで迷子扱いにされているのか?」

「まぁ、だいたいそんな感じですよ……それよりも、みなさん! もう仲間達がほぼ集まっているんですよ!!」

「えっ? そうなのか!?」

 息継ぎをしながら新八は、銀時らにアジトの現状を言い放っている。どうやら彼によれば、もう既に仲間達が集まっているようだ。さらに、ユイやアスナも続けて声を上げてくる。

「その通りですよ! 後はパパや銀時さん達だけなんですから!」

「もう一人の私も随分イライラしていたわよ。さっさと戻りましょう。ピナちゃんが連れてってくれるみたいだから!」

「ナー!」

 自分の名が挙がり元気よく鳴き声を返すピナ。そんな彼とは違い、万事屋の四人はみな真剣な表情を続けていた。遅刻である事態を察すると、ようやくキリトら三人も焦りが生じている。

「って事は、遅刻だよな?」

「そ、そうだよ! は、早く戻らないと!! アスナさんにしごかれる!」

「そうなのか? と、とりあえず辿った道を戻ろう! ピナ! 案内頼むな!」

「ナウー!」

 自身の立場を知った上で、一行は緊張感を持ちながらアジト内へと戻っていった。森を走り去る中で、銀時やキリトらは各々に起きた出来事を振り返っている。幻のように消えていった吉田松陽と茅場晶彦。そして統率者や刺客の秘密。強く印象に残った記憶を、三人は心に深く刻み込んでいた――

 




 まさかの夢の中で、それぞれ違う師との再会。いかがだったでしょうか? さぁ、次回はどうなっていくのでしょうか。




次回予告
遂に解放を賭けた戦いが始まる。
作戦を組み立てる中で、さらなる情報が伝えられた。
「あの……実は」
事態は大きく動き出す……

夢幻解放篇八 攻略開始


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第三十四訓 攻略開始

 ちょっとした余談ですが、白猫プロジェクトと言うゲームでSAOコラボが始まったみたいですね。私自身はやっていないのですが、前に銀魂ともコラボしたみたいで、お互いのキャラも並べる仕様にびっくりしています。持っている方は、試してみてはいかがでしょうか? (ちなみにモンストとパズドラでも二つの作品はコラボ済みだそうです)


 銀時やキリトら万事屋六人が夢世界で活動する一方で、現実世界でも絶え間なく事態が動き続けている。源外はただ一人パソコンと向かい合い、一行の脳波を監視していた。装置の状態も神経質に確認しており、抜かりない手助けを黙々とこなしている。時刻が二時を過ぎてもなお、その集中力が途切れる事は無かった。

 定春も静かに見守っている中、急に源外はある変化に気が付いている。

「ん? これは……」

「ワフ?」

 共にパソコンの画面へ目線を向けると、そこに映っていたのはレーダー上で点滅する黒点であった。六人の脳波から夢世界での大まかな位置を示しているが、ここまで大きな変化が起きるのは初めてである。さらに、黒点は万事屋とは違う人物から発せられているようだ。

「ちと怪しい光だな。これが夢世界の秘密を握っているのか? 調べてみる必要があるな……」

 不穏な予感を察して、タイピングもより激しくなっていく。すると源外は、定春にある嘆願を持ち掛けてくる。

「定春よ。もしかすると、お前さんの力も借りる事へなるかもしれないな」

「ワフー!?」

 突然の提案に彼は大袈裟な反応を見せていた。ずっと見守っていた定春にも、夢世界への介入が近づいている。この方向性の転換が、万事屋の助けに繋がっていくのだろうか――

 

 一方で夢世界にいる万事屋は、別世界の銀時達が集まるアジトに取り急ぎ戻っていた。

「ん? やっと来たか」

「遅ぇぞ、てめぇら!! どこまで行っていたんだよ!?」

「ごめん……森の中を彷徨っていたんだよ」

 到着するなり別世界の銀時やアスナが声を荒げると、反射的にもう一人のキリトが言葉を返す。万事屋一行も申し訳なさそうに、会釈をしながら会議室にぞろぞろと入っていく。

 部屋の中には既にチサの仲間が集まっており、銀時や高杉と同じく攘夷志士風の男達や、キリトやアスナと同じくのSAOゲームプレイヤー風の戦士が姿を見せていた。もちろん、桂やシリカら七人も捜索から戻ってきている。

 手狭な会議室に密集して、神妙な面持ちで全員が時を待っていると、中心で佇んでいたパクヤサがようやく話し始めた。

「みんな! 集まってくれてありがとうな! 随分と苦労を掛けたが、このエリアを解放するステージが遂に見つかったようだ! これより、ステージ攻略による作戦会議を開始する!!」

 勢いよく声を響かせて号令をかけている。重要な情報を発見したパクヤサ一派白組が、この会議を進めていく。その証拠にキバオウやディアベルの二人も、パクヤサの周りを固めていた。全員が注目を向ける中で、続けて伝えたのはボスステージの情報である。

「今回のステージは、探索団によると四つの障害が待ち構えているようだ。大ボスの前に中ボスが二体。その前に大量の雑魚兵が、入り口付近で守りを固めているらしい。そこで今回は、事前に役割を分担するべきだと思うんだ!」

 通常の大ボスに加えて、中ボスや雑魚兵もこのステージには現れると告げていた。強さにはバラつきがあり、戦力の分担も重要になるが、ここでパクヤサは独自の考えを話し始める。

「誠に勝手ながら、我が一派は人数が少ないので雑魚兵を相手にする考えだ。残りのボスは君達自身で決めてくれるか? 分担が決まり次第、それぞれのチームで進めて作戦を話し合ってくれ!」

 人員の少なさを理由にして、彼の一派は一番負担の少ない雑魚兵を担当すると発表した。まとめ役でありながら、自分の一派のみを優先する決めつけに、銀時ら万事屋は反感を覚えている。

「おいおい。アイツらだけ優遇するのかよ。要するにボス戦には参加しないって事じゃないのか? そんなで大丈夫なのかよ?」

 銀時の率直な呟きを聞き、別世界の銀時が小声で言葉を返す。

「まぁ、仕方ない事だからな。パクヤサの一派は曲者の集まりだから、前線から外れないとこっちが迷惑を被るんだよ。現に俺だって、キバオウに戦闘中でも喧嘩を売られた経験があるからな」

 彼によると、パクヤサの判断は何ら問題無かった。表向きでは人手不足による割り当てであるが、本音では他の一派に迷惑をかけない為の手段でもある。数分前にも高杉といがみ合っていたキバオウを始め、パクヤサの配下には癖のある戦士が集められていた。一連の流れを読み解くと、万事屋も徐々に彼の考え方に納得していく。

「それは……そうかもしれないわね」

「パクヤサさんも、事情を分かって判断しているんだな……」

 特にキバオウと一悶着あった本物のキリトとアスナは、苦い表情でしみじみと理解していた。一方で当の本人には何も伝わっていないが、妙な違和感だけは覚えている。

「何か、さっきからワイの噂が飛び交っていないか?」

「さぁ。気のせいだろう」

 察したディアベルのフォローによって、噂は軽く受け流されていた。割り当てが一つ決まったところで、ボス戦による会議はさらに続いていく。

 

「――さて、これで全部決まりましたね!」

 会議から約三十分が経った頃。チサは堂々と声を上げて、決まったボス戦の主要メンバー十六人に話しかけている。先ほどの会議室とは違い、別の部屋に移動してさらなる話し合いを続けていた。ここで一行は、割り当てられたメンバーを確認している。

「中ボス戦の一つは、俺桂小太郎とクライン殿を始め攘夷志士で戦うとしよう。花形として、シリカ君とピナ君を加えようと思う」

「もちろん大丈夫ですよ! でもピナはオスですから、間違えないでくださいよ!」

「ナー!!」

「おう! どんと任せておけ!」

 手慣れた雰囲気を持つ桂、クライン、シリカの三人を始め、攘夷志士の連合チームで中ボス戦を担うようだ。桂のリーダー性から、仲間内からは早くも安心感が生まれている。一方でもう一つの中ボス戦では、

「こっちもじゃ! ワシとリズベットとエギルの三人に、自慢の戦士が数十人も集まれば完璧じゃき! 勝利はこっちのもんぜよ! ハッ! ハッ!」

「また馬鹿笑いが始まったのね……もういい加減慣れてきたわ」

「辰馬のチャームポイントだからな。底抜けで明るいとこっちも安心するよ」

独特な雰囲気を持つ、坂本、リズベット、エギルを筆頭にする戦士達で請け負う考えだ。彼らが従える戦士の中には戦いに不慣れな者もいたが、銀時ら攘夷志士の教えもあって、今ではモンスターにも立ち向かえるくらい成長している。

 チームが続々と決まっていく中で、万事屋はというと――残っていた大ボス戦に割り振られていた。

「それで、俺達は大ボス戦ってわけか。責任が思いやられるな」

「何を言っているネ、銀ちゃん! 大切な戦いだからこそ、私達の出番が回ってきたって事アルよ!」

「そうですよ! ここまで来たら、みなさんの為にも頑張るべきですって!」

「なんでお前らは、やる気に満ち溢れているんだよ」

 早くも後ろ向きな言葉を呟く銀時へ向けて、新八や神楽は十分な元気を見せて反論していく。捉え方に違いはあれども、その目的は三人共に一致させていた。

 一方で二人のアスナも、それぞれの反応を声に出している。

「結局このメンツで、ボス戦も挑む事になったのかよ」

「まぁ、良いんじゃないの。アナタとも一緒に戦ってみたいし」

「……そうかもしれないけど」

 優しく受け入れる本物のアスナに対して、別世界のアスナはつい頬を赤らめていた。素直になれない自分を恥ずかしがっており、もどかしさを覚える始末である。そんな彼女の姿を見て、本物のアスナはそっと心意気を悟っていた。さらに、

「フッ。結局今回も、鬼兵隊が大ボス狩りに努めるという訳か。足なんか引っ張るんじゃねぇぞ、銀時」

「それはこっちの台詞だ。もっとも、お前のようなリーダーがいれば、問題は無いと思うけどな」

「言わせてくれるじゃねぇか……」

高杉や別世界の銀時も、お互いに言葉を掛け合って、気持ちを合わせている。例え別人だろうと、強さを認め合うライバル関係は、本人達とはなんら変わっていなかった。

 続けてユイも本物のキリトにある想いを伝えている。

「みなさん十分に気合が入っていますね! 私にも何か手伝える事があったら、遠慮せずに言ってください! パパ!!」

「ああ、もちろん。いつものようにサポートしてくれるだけで十分だと俺は思うよ」

「ありがとうございます!」

 戦う意志ではなく、仲間を支える意志を彼女は口にしていた。普段よりも気合が入ったユイの覚悟を聞いて、キリトは優しい微笑みで気持ちを受け取っている。強い信頼関係を感じさせる一場面であった。

 それぞれの想いを誓い、挑もうとする解放の為の戦い。万事屋、攘夷志士、別世界の戦士。立場は違うが、全員の想いは一つになっていく。この強い気持ちに触れていき、見守っていたチサも心強さを感じている。

「このメンバーだったら、刺客にも勝てそうですね。改めて頑張ろう、キリト!」

 そして、横にいたキリトにも共感を求めようとしたが――何故か彼は、一度も言葉を発さずに黙り続けていた。その表情も、落ち込み気味に悩んでいるように見える。

「どうしたの? また黙り込んで?」

 心配になったチサが話しかけると、彼は急に横を向いて言葉を返していく。

「チサ。ちょっと僕、勇気出してみるね」

「キリト?」

 意味深な言葉を呟いた後に顔色を急変させていた。弱腰な性格とはまるで違う、真っすぐな態度をチサは不思議そうに感じ取っている。様子を見守っていると、彼は宣言通りに勇気を出して、声を上げてきた。

「あの……みんな! 少し、僕の話を聞いてもらえるかな……」

「って、もう一人の俺?」

「急にどうしたんだ? お前から話しかけてくるなんて珍しいじゃねぇか。一体どんな話なんだよ?」

 話しかけられた銀時らは、キリトの唐突な行動力に驚きを受けている。注目が向けられると同時に、彼はつたない喋り方で話を続けていく。

「それは……ボス戦の話だよ! 実は森の中を彷徨っていた時に見てしまったんだ。統率者が引き連れている刺客の正体に……」

「刺客の正体? そんなものを見たのか?」

「ああ。この目でしっかりとね。みんなにも、ちゃんと真実を受け止めてほしいと思っているんだ……」

 声を途切れさせながら打ち明けたのは、偶然目にした刺客の正体であった。迷いながらも伝えようとする真意を察して、一行はさらに話への興味を寄せていく。

「真実か……。じゃ、詳しく聞かせてもらえるかな?」

「わ、分かっているよ」

 本物のキリトからも声をかけられて、もう一人のキリトはゆっくりと頷き了承する。深く呼吸を交わした後に、彼は一連の出来事について話し始めた。間接的ではあるが、万事屋や仲間達にも刺客の正体が大まかに伝えられていく。

「――という訳なんだよ。僕が見た真実は」

「そんな……私達が戦ってきた刺客って……」

 数分程に凝縮された内容は、想像の遥か上をいっていた。これにはチサを始め、多くの仲間達が激しい動揺を受けている。衝撃から口を閉ざす者や、仕掛けに気が付かなかった自分へ後悔を始める者もいた。もちろん別世界の住人のみならず、万事屋の六人も同じようなショックを露わにしている。

「あんな仕掛けがあったなんて、予想もしていなかったわ……」

「これじゃ益々、サイコギルドと何か関係がありそうですよね……」

 アスナや新八も複雑な表情で思った事を呟いていく。刺客の正体を改めて知って、サイコギルドとの関連性をさらに高めていた。

 同じくしてキリトの仲間達も動揺こそしたが、誰一人彼を疑う事は無く、信じがたい情報を受け止めつつある。

「嘘じゃないって事は明らかだろうな。こいつが嘘を付く訳が無いし……」

「この件が事実なら、今まで俺達はとんでもない勘違いをしていた事になるな……」

 比較的に疑い深いもう一人のアスナや高杉の二人も、彼への信頼性からすんなりと信じていた。思い切ったカミングアウトによって、戦況や作戦も変わり始めている。上手くいけば無条件の解放も不可能ではなかった。希望的な道筋を信じて、別世界の銀時は呼吸を整えてから一行に話しかけていく。

「そうと決まれば、話は簡単だな。このボス戦を通じて、統率者の企みを炙り出そうじゃねぇか」

 そう。彼は既に迷いなどなく、この情報を元に戦いを終わらせるつもりであった。突発的に決まった目標の変更に、仲間達も強く頷いて共感を呼んでいる。みな真剣な表情で、この空間からの脱出を考えていた。

「と言う事は、他の仲間達にはこの件を言わない方が良いアルか?」

「急に伝えれば、さっきの俺達のようになってしまうからな。一部のメンバーだけに伝えて、その後は徐々に伝言で知らせる方法でいくか」

 神楽からの素朴な疑問にも、もう一人の銀時は答えを返している。あくまでもこの場にいる十七人のみが知る情報として、共有への線引きを図っていた。

 そしてもう一つ問題となるのは作戦面である。刺客の正体を暴く計画がそんなすぐに思いつく訳も無く、銀時どころか他の仲間達も悩みを浮かべる始末であった。息詰まり始める空気の中で、突如として坂本がある考えを思いつく。

「あっ、そうじゃ! ワシにいい考えがあるぜよ!」

「辰馬? 何かいい考えが思いついたのか?」

「もちろんじゃ! きっと刺客の正体を暴く方法に違いないからのう!」

 エギルからの問いかけにも自信満々に答えて、彼は三度呑気な笑い声を高らかに上げている。全員が分かり切っている事だが、坂本の考えには期待と同時に不安も付き物であった。とりあえずは話だけでも聞いてみる事にする。

「それで、一体どんな作戦だ?」

「そう焦らんでいいヅラ。簡単に言うとじゃな……囮作戦で本性を誘い出すぜよ!!」

「囮作戦?」

 意気揚々と告げたのは、無難とも言える作戦概要だった。一行が反応に困っている中で、坂本はさらに説明を加える。

「おうよ! 中ボスにしろ大ボスにしろ、仲間内で倒れる相手を決めて、力尽きる演技を見せればいいぜよ! そうすれば、刺客は誤解して本性を露わにする事間違いないきに!」

 倒すのではなく、あえて負ける演技をして、刺客の本性を誘い出す方法であった。機転は利いているが、その分危険を伴う作戦である。演技面や作戦においても、不安の声は少なからず上がっていた。

「……それはいい考えですけど、そんな簡単に騙されるのでしょうか?」

「ていうか、そもそも倒されなきゃいけないんでしょ? 体力を削られるにしろ、ちゃんとした防具を揃えなくちゃいけないんじゃないの?」

 話を聞いていたシリカやリズベットも、作戦への指摘を加えている。すると彼は、強い自信を保ったままある秘策を口にした。

「心配無用じゃ、二人共! ワシらには、とっておきの防具があるからのう……」

「防具? そんなのあったっけ?」

 どうやら作戦を遂行するための防具を、既に用意しているらしい。坂本にしか知りえない情報だと思われたが、その防具は意外にも仲間達から認知されているものであった。こうして、大勢の仲間達が知らないうちに、十七人のみで打ち立てられた作戦は静かに進展していった――

 

 それから数分後。作戦を組み立てた一行は、それぞれ担当するチームに分かれて、アジトから森内部にある解放ステージの入り口まで移動していた。先頭をパクヤサ一派白組が進み、その後を追いかけるように、中ボス担当の桂チームと坂本チーム、本丸を迎え撃つ高杉ら鬼兵隊や万事屋が列を作って歩いている。

 緊迫した空気のまま向かっており、空気を察してか誰一人声を上げる事も無かった。ほとんどのメンバーが近くの仲間とアイコンタクトをとって、互いの様子を確認している。そんな中、遂にパクヤサはステージの入口を発見していた。

「おっ! どうやらここみたいだな!」

 指を指した方向には、何の変哲もない洞窟の入り口が見えている。その中は薄暗く、人の気配すら感じられなかった。みなが警戒心を高めていると、パクヤサは一行に指示をかけて自分だけ進んで状況を確認してみる。すると、

〈カチ!〉

≪シュ!!≫

スイッチを切り替える音と共に、地面から大量の兵士が飛び出してきた。地面下に仕掛けられたトラップで出現している。全員が西洋風の甲冑を模していることから、事前情報で上げられた雑魚兵であると推測していた。

「何!? もう出て来るのか!?」

「ならばここは、俺達が引き受ける! お前達は先に行け!」

 飛び出してきた兵士達に驚きを受けたパクヤサらであったが、すぐに平常心へと戻して、早くも戦闘態勢に移り始める。彼に続いてキバオウやディエベルも剣を構えていた。この入り口一帯は、パクヤサ一派白組によって委ねられている。彼らへ希望を託しながら、一斉に仲間達は洞窟内へと走り出していく。

「言われなくても、分かったらぁ!」

「雑魚にやられるんじゃねぇぞ! 曲者共の集い!」

「誰が曲者や! 後で兄ちゃん覚えておけや!!」

 その途中でキバオウは、二人の銀時から声をかけられたが、本物からは挑発じみた言葉を受け取ってしまう。おかげですぐに怒りを見せて、ツッコミを返す始末であった。

「落ち着け、キバオウ。ひとまずは我らのみで、この雑魚を相手にするぞ!」

「わ、分かっているよ。パクヤサさん……」

 そんな彼に対して、パクヤサが冷静になるよう促してくる。リーダーには頭が上がらずに、あっさり怒りを静められていた。仲間達もひとまず安心したところで、ディアベルが号令をかけて白組の気持ちを一つにしていく。

「よし! ならば……みんな! 覚悟は良いか!?」

〈オー!!〉

「そうか。では、いくぞ!」

 勢いに乗っかったまま、一派は剣や盾、刀を構えて雑魚兵に向かって突進を始めた。そのまま相手へ斬りかかっていき、互いの戦力をぶつける持久戦が行われていく。

 

 一方で、洞窟の奥へと進んでいた残りメンバーは、目の前に立ちはだかった大きな扉の前で動きを止めている。話によればこの扉の向こう側に、統率者の刺客――いわゆる中ボスや大ボスが待ち構えているようだ。

「えっと……扉の中に刺客がいるんですよね?」

「そうだな。ここからは気を引き締めて、戦いに集中しなくてはいけないからな」

 ユイからの疑問に高杉が静かに返答する。扉の中に潜むボスの存在は、かつてのアインクラッドを彷彿とさせる仕様であった。本物のキリトやアスナは既視感を覚えながらも、徐々に戦闘への覚悟を決めていく。同じく銀時ら万事屋の三人も気持ちを重ね合わせていた。緊張感に包まれた一行は、恐る恐る扉を開いて、辺りを注意深く見ながら部屋に入っている。

「ここがボスのいる部屋アルか……」

「中には誰もいないけどな……」

 気配を察しながら神楽や銀時が思った事を呟く。内部には遺跡のような複雑かつ神秘的な模様が広がっており、透明感を漂わせる薄い水色で統一されていた。洞窟内部とは思えない煌びやかな光景と広大なフィールドに戸惑っていると、本物のキリトがある気配に気が付いている。

「いや、待てよ……まさか天井からか!?」

 周りに刺客がいない事に疑問を覚えると、そのまま注意を疎かにしていた天井の方へ顔を上げてみる。そこには……タイミングよく落下する二体の巨大生物の姿が見えていた。

〈ドォーン!!〉

「うわぁ! ……遂に現れたか!」

 着陸すると同時に地ならしが起こり、クラインら一行の足元へ微弱な揺れが襲い掛かる。すぐに揺れは収まったが、刺客は既に目の前に存在していた。中ボスと位置付けられる二体の巨大モンスターは、体格こそ四メートル弱で一致していたが、それぞれ違う姿をしている。

「四足歩行の虫型が一体。二足歩行の角持ち獣人型が一体です!」

「どれもアインクラッドにいなかった個体ね……」

 さらにユイの言う通り、どちらの個体もSAO及びアインクラッドには存在していない。バッタのような四足歩行型のモンスターと、銀色に覆われた大きい角持ちの獣人モンスターは、どのタイプにも当てはまらないのである。

 過去の出来事はさておき、中ボスが姿を現すと同時に、担当である仲間達は一斉に前へと飛び出してきた。

「とりあえず銀時さん達は先に進んでください! この奥にきっと、本丸の大ボスがいるはずですから!」

「進路はワシらに任せるぜよ! 中ボスを相手にしているうちに、さっさと行けきに!」

 シリカや坂本を始め、桂、クライン、リズベット、エギルの四人も、それぞれの武器を構えて戦闘態勢に入る。彼らの後に続いて攘夷志士や戦士達も、同じように武器を構えていく。作戦通りに彼らも、この場を担う考えであった。

「よし! だったら、テメェらに任せたぞ!」

「怪我しないように気を付けてね!」

 走り際にもう一人の銀時やキリトが声をかけると、近くにいたリズベットが言葉を返してくる。

「分かっているって。アンタ達こそ、作戦を成功させなさいよ!」

「もちろん!」

 激励を受けた残りの仲間達は、大ボスがいる刺客の部屋へと足を走らせていく。その隙に桂やエギル達が、中ボスである二体の刺客を相手にする。隠された正体について、意地でも暴くために……

「みんな! 気合を込めて行けよ!!」

「俺達の遥かなる目標の為に……!!」

 声掛けを行った後、果敢にもそのまま刺客へ向かって勢いよく走り出す。勝つ為に戦うのではなく、正体を暴く為に彼らは剣や斧を奮って戦うのだ……

 

 最後に残っているメンバーは、銀時やキリトら万事屋の六人と、別世界の銀時、キリト、アスナ。さらにチサや高杉を始めとした鬼兵隊の面々である。集団として行動しながら中ボス部屋と向かい合わせの部屋に向かうと、そこには既に大ボスであるモンスターが待ち構えていた。

〈グルルァァ!!〉

 風をなびかせる雄叫びが、辺り一面に響き渡ってくる。一行の目の前に姿を現した刺客は、キマイラ型の巨大生物であった。

「アレが大ボスなんですね……」

「ハイエナや蛇にイカって……モチーフがゴチャゴチャしていねぇか!?」

 野性的な迫力に圧倒されるチサに対して、銀時は統一性の無いモチーフにツッコミを入れている。彼の言う通り目の前にいるキマイラは、中心の顔が白い毛で覆われているハイエナ、右側の顔には緑の大蛇が張り付けられており、左側の顔には透明なイカの頭部が隣接していた。さらに尾は日輪を模した盾が装備されている。種族も能力もバラバラのキマイラが、今回の大ボスを務めるようだ。一行がそれぞれの反応を口にしていると、キマイラは早速攻撃を仕掛けてくる。

〈グルルー!!〉

 再び雄叫びを上げた後に、突進を繰りだして銀時らの元へ襲い掛かっていく。

「って、危ない! みんな避けて!」

 攻撃に気が付いた別世界のキリトが、大声で仲間に喚起を促す。タイミングよく気が付くと、全員で左や右へと向かい攻撃をかわしていく。大ボスが戦闘態勢に入ったのを見計らい、一行は次々と刀や剣を装備している。ここで神楽は、手にしていた日傘を近くにいたユイに手渡してきた。

「ユイ! 作戦通りに決めるアルよ!」

「もちろんです! 神楽さん!」

 日傘を受け取ったユイは、しっかりと抱きかかえて前線より離れていく。戦えない彼女の存在が、後に作戦で重要な使命を果たす事になる。それはさておき、丸腰となった神楽であるが、自慢の怪力を武器に先陣を切っていく。

「さぁ、行くアルよ! ホワチャァァ!!」

 真剣な表情でまずは、キマイラの中心顔に向けて殴りかかる。俊敏な動きでキマイラも応戦しようとした時、思わぬ不意打ちを突かれる事になった。

「下ががら空きよ!」

「どこに目を付けてんだ、ゴラァ!!」

 足元には既に二人のアスナが配置されており、レイピアを武器に攻撃を加えていく。

「「ハァァァ!!」」

 繊細なる斬撃とデタラメで激しい斬撃が、キマイラへ順調にダメージを与えている。動きに鈍さが出てきたところで、

「ハッ!!」

神楽の拳が直に命中した。さらなる攻撃を受けて、初戦にして勢いに陰りが出始めている。

〈グルァァ!!〉

 怒りを高めたキマイラは、唐突に変化技を繰り出してきた。蛇の顔からもう一匹の細長い蛇を、イカの顔から伸縮性のある足を使って触手のように形成させる。そして有無を言わさずに、人質を捕えていく。

「えっ? って、うわぁぁ!?」

「僕まで吊るされちゃうの!?」

 残念な事に捕まったのは、新八ともう一人のキリトであった。共に叫び声を上げて困り果てていたが、すぐに救いの手が伸ばされる。

「何やったんだよ、新八!」

「今助けてやるからな!」

 大きくジャンプをして新八を助け出そうとする銀時と、黒い羽を広げて助け出す本物のキリトの二人であった。自慢の木刀や長剣で応戦していき、触手に怯む事は無く斬りかかっていく。

「これでもくらえぇぇ!!」

「ハァァァ!!」

 共に眼光を鋭くさせて、有利な瞬間を見抜き救い出していた。斬られてしまった触手であるが、キマイラは痛がることは無く、たださするだけで事なきを得ている。一方で仲間を助け出した銀時やキリトも、無事に着地して新八やキリトを両手で抱えていた。

「大丈夫かい、もう一人の俺?」

「うん、大丈夫。また迷惑をかけてごめんね」

「そんな事はないよ。仕方のない事だから」

 優しく接しているキリト同士に対して、

「大丈夫か、新八! ちょっとグラスが曇りすぎているんじゃないのか!?」

「って、体の方を気にしろよ! 思いっきり触手で濡れて、ぬめぬめになっているからな!」

銀時はいつも通りの眼鏡ネタで全振りしている。おかげで新八からは、場違いなツッコミを加えられていた。仲間の無事を確認する一方で、キマイラとの戦いはさらなる激しさを増している。

「ここでもお前と共闘する日が来るとはな……タイミングよく斬りかかれよ、銀時!」

「言われなくても分かっている。お前こそミスなんかするなよ」

「当たり前だ!!」

 キマイラへ向けて悠然と立ち向かうのは、別世界の銀時と高杉の二人。刀を手にして走り出しており、真っ向からやり合う姿勢を見せていた。

〈グララァァ!!〉

 キマイラも新たなる攻撃パターンを披露しており、日輪を模した衝撃波を二人へ向けて放っている。しかし、

「かわせ!」

「おうよ!」

手段を予測している二人にとっては、何の問題も無かった。自信良く砲撃を避けると、そのまま相手の両肘に向けて斬りかかっていく。

「とりゃぁぁ!」

「ファァ!」

 威勢の良い声を上げながら、銀時と高杉の攻撃が綺麗に決まっている。長い戦いの中で二人の間にも、阿吽の呼吸とも言える信頼性が高くなっていた。

 キマイラへの攻撃が次々と決まる中で、仲間達も一斉手を緩める事は無かった。

「みなさん怯まないで! 銀時さんやキリトに続いて、立ち向かってください!!」

 チサの掛け声と共に鬼兵隊の面々も、次々にキマイラへと斬りかかっていく。場は優先的に相手の手を見切った銀時達が上手をリードしていた。

 快進撃を続ける彼らの状況に、ずっと姿を隠して監視していた統率者もある考えを思い浮かばせている。

「フフ……奴等の強さも高まりつつあるか。ここいらで正体を明かしても、良い頃合いだろうな……」

 銀時やキリトらの強さを見定めながら、不穏な呟きを口にしていた。彼が思い描く計画が、いよいよ現実味を帯び始めている。

 遂に始まったエリア75解放への戦いであったが、密かに計画していた作戦によって、事態は思わぬ方向へと向き始めていく……

 




 ここで改めて、この長篇の謎についてまとめようと思います。
1 サイコギルドの呼び寄せた敵について
2 早見千佐が呟いた「一つ目と蛇」の謎
3 夢世界の秘密及び銀時らが見ている不思議な夢
4 別世界のキリトが見つけた刺客の正体
5 坂本の提案した作戦概要
6 何故かアインクラッドにはいないボスモンスター

 これらの謎の内、次回の話ではその大半が分かるかもしれません。急展開を迎えるので、覚悟をして見て頂けると幸いです。ではまた次回で!

追記 今回はお盆の関係で、普段とは違った時間帯に投稿しました。


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第三十五訓 刺客の正体

 あーー! 色々とタイミングを逃したー。新八とシノンの誕生日は過ぎちゃったし、リズベットの中の人〈高垣彩陽さん〉はいつの間にか結婚報告するし、ジオウの放送を終わっちゃたし、どれをネタにすればいいんだー!

 という嘆きはひとまず置いといて、今回の話は夢幻解放篇で起きた謎の大半が明らかになります! 銀魂やSAOでは考えられない急展開になっているので、もしかしたら賛否が分かれるかもしれません。心してご覧ください……



 エリア75を解放するために戦う万事屋や攘夷志士達。順調に奮闘していた一行であったが、この戦いを通じて統率者や刺客の正体が明らかになろうとは――この時は誰も思っていなかった。

 

「ハッ!!」

「トリャ!!」

 掛け声を上げながら戦っているのは、雑魚兵を蹴散らしているパクヤサ一派白組。みな刀や剣を装備して、続々と相手へ斬りかかっていく。入り口前にて行われていた戦闘も、遂に終わりが近づいていた。

「ハァ!! ふぅ……これでひとまずは済んだか」

 またも兵を一体倒したパクヤサは、体勢を整える為に一度深く呼吸を交わす。その間に仲間内での状況を確認していた。キバオウら全員が雑魚兵との戦闘を終わらせており、足元には倒れた兵士達が多く転がっている。まさに異質な光景であった。

「何か、呆気なかったなコイツら。本当に雑魚兵だったんかよ?」

「さぁな。だが少し違和感が残る戦いだった気もするな」

「違和感?」

 苦労を分かち合い、安心感に包まれていた一派の仲間達は、次々と思った事を呟き始めている。何気なく飛び交った言葉を聞き、パクヤサにはある疑問が頭をよぎっていた。

「どうしたんや、パクヤサさん?」

 様子を察したキバオウが思わず聞いてみると、彼は神妙な表情で自らの考えを呟く。

「いや、実は私も気になる事があってな……これまで戦ってきた兵士よりも今回は小物のように感じているのだ。例えるならば、特撮番組で見かける戦闘員のような戦い方だな」

「なんやそれ。例え方が独特すぎんか?」

 兵士らしからぬ隙のある戦い方に強い疑念を持っていた。パクヤサの変わった持論には、キバオウも反応に困る始末である。軽く笑い話で済まそうとした時であった。事態は急を要する展開を迎える。

「大変だ、パクヤサさん! こっちへ来てくれ!!」

「何!? 一体どうしたのだ?」

 ディアベルが兵士の秘密に気が付き、大声を上げていた。場の空気が不穏に包まれる中で、一同は彼の元へ近づいてみる。するとそこには、予想もしない光景が待ち構えていた。

「コイツを見てくれないか……」

「これは……」

 一行の目に映ったのは――兵士の中に入っていた黒タイツ姿の男性である。顔面はフルマスクで覆われており、体には骨の模様が入っていた。その姿はさながらパクヤサの例えた戦闘員を彷彿とさせている。この信じがたい現状には、白組全員が言葉を見失ってしまう。

「こいつは一体……」

「分からない……だが、これが今まで戦っていた雑魚兵の正体だというのか?」

「何てこっちゃ……一体どういう事や」

 みな衝撃に襲われてしまい、体が固まってしまった。中には拍子抜けした正体に、見抜けなかった自分へ後悔を始める者もいる。仲間達の間で隙が生まれている時、倒れていた雑魚兵達が次々と起き上がっていき……

「イー!!」

勢いよく奇声を発した後に白組全員を取り囲んでしまう。姿が変わろうと本来の目的は変わらずに、敵対意識を露わにしている。

「パクヤサさん! こいつらは一体……」

「正体を現しても、ワシらに敵対するとでも言うんか!?」

「さぁ、分からない。だが! 誰であろうと我が一派の邪魔をする野郎は、叩きのめすだけだ! 惑わされるな、我が同志達よ!!」

 事態をまだ把握できなくとも、パクヤサは冷静さを取り戻していき、やるべき手段を仲間達へ伝えていく。彼に同調して、動揺していた仲間達も本来の役目を思い出す。新しい敵にも果敢に挑む所存であった。

「そうや! ここがワシらの踏ん張り時ってところや!」

「戦闘員だろうと、ただの雑魚には変わりないからな!」

「そうだ、みんな! 迷うことなく戦うぞ!!」

 強い志を掲げて再び剣を握り直していく。そして場を脱するように、未知なる敵との戦闘を開始していた。刺客の正体が徐々に綻び始めていく……

 

 一方で中ボス戦を担っている桂や坂本達は、有利な戦況へと持ち越していた。物理攻撃を順調に与えていき、相手からの反撃も上手くかわしながら立ち回っている。場には勝利の兆しが少なからず見えていた。

「よし! この調子です!」

「このまま一気に叩き込むわよ!」

 さらなる追い風を吹かせるために、シリカやリズベット、ピナらが率先して追加攻撃を仕掛けてくる。大きく飛び上がり斬りかかろうとした時、バッタ型のモンスターが隠し持っていた技を繰りだしてきた。

〈ギュアー!〉

「えっ!? キャァ!」

「うわぁぁ!!」

 突然額を輝かせると、そこから赤い光線が解き放たれる。二人にとってこの攻撃は予想外であり、当然避ける事も出来ずに体が光線へと触れてしまう。体勢を崩したまま、彼女達はそのまま地へと落下してしまった。

「シリカ、ピナ! リズ!」

「おいおい、おまんら! しっかりするぜよ!!」

 ダメージを負ってしまった仲間を気遣い、桂や坂本が大声で呼びかけるも何一つ反応は無い。目を瞑ったままずっと倒れ込んでいる。この悲惨な現状によって場の空気は一変。仲間内でも敗北への恐怖が沸々と燃え上がっていた。

「くっ……よくも大切な仲間を……!!」

「許さねぇぜ!!」

「よせ、二人共!! がむしゃらに戦っても、自分を犠牲にするだけだぞ!!」

「今は冷静に対処するぜよ!!」

 中でもクラインとエギルは激情に駆られており、気持ちの赴くままにボスモンスターへと立ち向かっている。自らの武器を強く握りしめて、何のためらいもなく突進していた。桂達の忠告など聞かずに、自らの手で仇を討つ覚悟である。ところが……

〈スティール!!〉

彼らの前にもう一方の中ボス、獣人型のモンスターが立ちはだかった。どこからともなく装備した巨大な鉄球を手にすると、まずは地面へと叩きつけて、衝撃波から大きな揺れを作り出す。二人の行く手を足止めすると、

〈スティール!!〉

「何!? グワァァァァ!!」

「クワァ!! クッ……」

鉄球を振り回しクラインとエギルへ向けて攻撃していく。彼らも避ける事が出来ずに、両壁へと吹き飛ばされてしまった。体を強く打った後、立ち上がる事も出来ずに彼らも力尽き倒れてしまう。

「そんな……クラインにエギルまでやられたのか?」

「もはや、打つ手はないんか……」

 相次いで倒れる仲間を目にして、桂や坂本の間にも行動に迷いが生まれていた。体もすくんでしまい考えを画策していると、またも容赦ない攻撃が襲い掛かってくる。

〈ギュア!!〉

「「ウワァァァ!!」」

 バッタ型のモンスターが近づき再び光線を放ってきた。桂と坂本のみに向けられており、二人は叫び声を上げながら爆発の中へと飲み込まれていく。

「桂さん……坂本さん……!?」

 共に戦っていた仲間達も無事を祈っているが、希望はいとも簡単にへし折られてしまう。爆風が去って見えてきたのは、力尽きて倒れる二人の姿であった。彼らもまた攻撃に耐える事が出来ずに、無残にも敗北を余儀なくされたのである。善戦から一変して、負の連鎖が続く絶望的な状況へと変えられてしまった。作戦の中枢を担うメンバーが次々と倒されたことで、取り残された志士や戦士達はやむを得ない決断を下すことになる。

「撤退だ……この場から全員で逃げ出すぞ!!」

「しかし! それでは桂さん達の犠牲が……」

「これ以上犠牲が増えれば、それこそチーム全体の危機に繋がる……ここは諦めて撤退するんだ!」

 圧倒的な中ボスの力に恐れを感じ取り、部隊のサブリーダーが撤退を促してくる。一行は複雑な心境に苛まれているが、仕方なく従って出口方面へ走り出していく。

 彼らが去った事により、場には力尽き倒れる六人と中ボスである二体のモンスターしか残されていない。坂本らが立てた作戦も失敗に終わってしまった――かに思われたが、彼らの作戦はここからが本領であった。

「フッ……これで主要メンバーは、全員倒したということか」

「呆気ない戦いだったね」

 どこからともなく聞こえてくる謎の二人の声。正体はなんと、鳴き声しか上げていなかった中ボスのモンスター達である。バッタ型のモンスターは少年のような子供っぽい声。獣人型のモンスターは大人びた男性の声で、人間と同じように会話を進めていく。

「もういいだろう。首領によれば、もう正体を明かしてもいいらしい」

「やっとか……こっちの方が楽だけどね」

 意味深な会話を続けていると、彼らは突如不可思議な行動を取り始めている。体に溜め込んでいた力を放出していき、蒸気を上げながら徐々に体を縮小化していた。人間と同じ等身大のサイズになって、体を変形させて本来の姿に戻している。その容姿は人型の怪人であり、おぞましさや恐怖すらも感じさせていた。

「さぁ、行こうか。大首領の元へ」

「ああ、分かっている」

 人型になっても倒れている六人には一斉目を向けずに、二体は奥の部屋にいる大ボスの元へと足を進めている。倒した相手に対しては興味すらも沸いていなかった。

 刺客が共に場を去ると、倒れていた桂やシリカ達六人やピナはゆっくりと顔を上げて、互いに意思疎通を含めたアイコンタクトを始めている。

「……行ったか?」

「ああ、行ったぞ」

「と言う事は、もう演技しなくてもいいんだな」

 刺客の気配を感じなくなったところで、六人と一匹は一斉に起き上がっていく。そう彼らは、最初から倒される前提で作戦を実行させていた。すなわち、これまでの行動は計算上で許容していた演技であり、まったく倒されてなどいない。威力の高い攻撃を受けても気絶や瀕死にならなかった訳は、坂本の用意した防具が大きく関係していた。

「まさか歩狩汗の空き缶で作った防弾チョッキで助かるなんて、思ってもいなかったぜよ」

「ていうか、あんな攻撃まで防げるなんて……ミラクルにも限度ってモノがあるわね」

 奇跡のきっかけを作ったのは、坂本やリズベットが作り出したアルミ缶で出来た防弾チョッキである。以前にチサの話でも触れていた代物であり、簡易的でありながら強固な装備として紹介されていた。笑い話で済んだ失敗談が、思わぬ活躍ぶりを見せた瞬間である。

 それはさておき六人は、早速倒れている間に聞いていた刺客の正体について語り始めていた。

「しっかしよー。本当にキリトの言っていた通りになったな。刺客の正体が、怪人のような等身大の人型なんて」

「あの反応ならば、事実として間違いないだろうな。今まで俺達は統率者に欺かれていたという事か……」

 クラインや桂を筆頭にして、仲間内では刺客の正体について驚きの声が上がっている。実は数分前にキリトが暴露した刺客の正体は、大型のモンスターから等身大の人型へと変わる情報であった。この証言は何一つ間違っておらず、現に六人が倒れている間は、刺客も当たり前のように正体を披露している。それだけでも作戦の功を奏していた。

「まさか巨大モンスターの正体が、人型の怪人なんて予想もしない展開だったぜよ」

「でも怪人だったとしても強そうでしたよ。本当にアタシ達で敵う相手なんでしょうか?」

「さぁな。だが今はこの事実をアイツらにも伝えなきゃならねぇからな……」

 坂本のようにまだ驚きを受けている者や、シリカやエギルのように新しい使命感に駆られているなど、反応は多種多様である。全員の表情が真剣に変わっていく中で、大ボスのいる部屋からは大きい物音が壁越しに響いていく。

「おっと、これは……」

「大ボスの部屋で異変が起こっているのか?」

「とりあえず前に進むか!」

 刺客への反応を後回しにして目的を改めた六人は、大ボスのいる部屋へと向かう。刺客の正体について伝えるべく、行動に迷いなどは無い。

この戦闘でも新たに、刺客や統率者への情報が浮き彫りになっている……

 

 そして大ボスを相手にする万事屋や鬼兵隊も、刺客の正体を誘う作戦へと進めている。

「「ハァァ!!」」

 二人一組となって戦闘を続けており、攻撃の手を一斉緩めていない。キリト同士の双剣攻撃や、アスナ同士の異なったレイピア術。銀時同士のがむしゃらな戦闘方法など、戦い方には違いが生じている。鬼兵隊や高杉も追撃を加えてきたところで、大ボスであるキマイラもある切り札を発動させてきた。

〈グルァァ!!〉

 三度雄叫びを上げた後に、各頭部のユニットからエネルギー状の結晶を集めだしている。それらを大いに溜め込んでいき、時間差のある光線を作り出そうとしていた。

「って、アレは……」

「恐らくあの刺客のとっておきだろうな……発射する前に何とか食い止めるぞ!!」

 一早く気が付いた高杉が、大声で仲間達へ呼びかけている。キマイラの攻撃回避には、相手の隙を突き妨害するのが有効的だが――ちょうど刺客の近くには、ぴったりの人材が配置されていた。

「だったら……ユイ! ようやく出番だ!」

「分かっています! いきますよ……」

 キリトからの掛け声に、ユイが元気よく返事を交わす。戦闘には参加していない彼女だが、作戦の保険として役目を果たそうとしていた。

 手には神楽から託された銃兼用の日傘が握られており、遠距離からキマイラへの妨害を仕掛ける作戦である。焦点を合わせながら、同時に自身の集中力も高めていく。その目つきも徐々に真剣さを極めている。そして相手に自分の存在が悟られた瞬間に、

「そこです!!」

取っ手部分を押して大量の弾丸を放出していった。僅かな隙を狙った奇襲攻撃は、キマイラの予想に反しており、そのほとんどを体へと受けてしまう。

〈グルァァ……〉

〈ドァーン!!〉

 仕舞いには溜めていたエネルギーが逆流して、許容範囲を超えて激しく爆発していった。悲痛なる鳴き声と共に、大ボスは儚く散っていったのである。奇襲作戦の成功により、戦いはあっさりした結末を迎えていた。

「や、やりました! 成功です!」

「よくやったアル、ユイ! 結構戦えるじゃないアルか!」

「そうですか? ありがとうございます!」

 健気にも喜びに浸るユイに対して、神楽も共感して褒めたたえている。照れ隠ししながら彼女は、すぐに仲間達の元へと戻っていく。そこではさらなる祝福が待っていた。

「これもユイのおかげだよ。よく頑張ったな」

「私だって戦う事が出来るんですよ、パパ!」

 秘められたユイの根性に、見守っていたキリトも感謝を伝えている。彼女の目線に合わせて、屈託のない笑顔を見せていた。

「微笑ましい光景ですね」

「いつもの事だろ。ああいう男は、子供にも尽くすタイプだからな」

 二人の様子を目にして、銀時や新八も感じたままに呟いている。日常的な光景に、彼等はつい心を休ませていた。さらに、二人のアスナも言葉を続けていく。

「非戦闘員でとどめを刺すとは……作戦的に良かったのかもな」

「ユイちゃんは小さくても、勇気と度胸だけは人一倍強いからね」

「それ同じ意味じゃないのか?」

 どうやら別世界のアスナも、ユイの強みには深く読み取っていた。彼女の素直な反応には、本物のアスナも満更では無い表情を浮かべている。

 大ボスの撃破により場の空気は明るく変化したが、戦いはまだ終わっていなかった。

「さて、喜ぶのは後だ。ここからが、本当の戦いだからな」

「そ、そうだよね……みなさん! しっかり気を引き締めて……!」

 ぬか喜びする仲間達へ向けて、別世界の銀時やキリトが注意を促していく。彼等主要メンバーのみが刺客の正体を周知しており、本性を誘い出す為にも今後の油断は禁物であった。

 一行の表情が変わり気持ちも改めると、爆風にさらされている大ボスの行方に目を向けている。その中から姿を現したのは――

「ゲ、ゲソ……」

「ブルァ……」

特徴的な鳴き声を放つ四体の怪人達であった。みな人と同じ等身大の大きさで、ハイエナや烏賊と言った動物の特徴を一体ごとに持ち合わせている。キリトの証言通りに、巨大モンスターは真の正体を晒していた。

「モンスターが怪人に変わった……?」

「やっぱり。お前の言った事は、間違いじゃなかったんだな」

「そ、そうだね。あの時見たのと、まったく同じ奴等だね」

 怪人達を目にして、一行の反応も多種多様である。驚きを口にするチサや、冷静に判断する高杉、ゆっくりと心に受け止めるキリトなどが目立っていた。もちろん万事屋内でも、違った反応が見受けられている。

「怪人が黒幕なんて……じゃ、銀色の怪人と何か接点があるって事アルか?」

「その可能性は高いわね。関連性があると良いんだけど……」

 サイコギルドの一人と考えられる、銀色の怪人との関わりに注目を寄せていた。神楽やアスナらも神妙な表情へと移り変わっていく。

さらには、一斉知らされていなかった鬼兵隊の一員も次々に声を上げている。

「怪人ってマジかよ!?」

「巨大なモンスターなんて、そもそもいなかったのか?」

 衝撃的な事実に、ほとんどのメンバーが動揺を露わにしていた。しかしここまでは、予想の範囲内である。問題はこの先に待っている展開であった――

「フハハ……よくぞ私の正体を、見破ってくれたな」

 すると突然不気味な笑い声と共に、年老いた男性の声が響き渡っていく。一行が声の主を探して辺りを見渡すと、チサは一体の怪人からある既視感に気が付いていた。

「赤いマントに、この声って……まさか統率者!?」

 そう。彼女の言う通り、分裂した怪人の中には赤いマントと頭巾を羽織った謎の怪人が紛れ込んでいる。以前にも話していた統率者の容姿と酷似しており、思わず大声で決めつけていた。この言葉によって、場には緊迫した空気が流れ込む。みな統率者らしき人物に注目して、恐れや不気味さを感じ取っていた。言葉の通りに、赤いマントの怪人はゆっくりと前に進んでいく。一定の距離を保ったまま、チサ達へ向けて話しかけてきた。

「フフ……さすがだ。もう潮時であるし、私の正体を見せようではないか」

 妙な自信を付けながら、正々堂々と正体を明かす意思を見せている。信用ならない相手である為に、みな彼からの言葉には疑いをかけていた。警戒心をより高める中で、統率者は構うことなく自身の赤い頭巾を剥がしていく。そこに映った素顔とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!? 嘘でしょ……私?」

なんとチサと瓜二つの少女の顔であった。自信良く笑みを浮かべる姿は、見る者にただならぬ邪悪さを感じさせている。この予想の上を行く真実は、本人のみならず場にいた全員が驚嘆を上げていた。

「嘘だろ?」

「もう一人のチサさんが黒幕!?」

 鬼兵隊の一員もまばらに声を発しているが、親しい関係にあったキリトや万事屋達は、むしろ衝撃から一言も発せずにいる。駆け巡った反応を面白がるように、統率者は不謹慎にも笑いながら会話を続けていく。

「ハハハ!! 何を驚いている? 私はお前の精神に憑りついているのだ。この姿になっても、おかしい事ではないだろ?」

「さっきから何を言っているの……?」

「分からないのなら教えてやろう。私の本当の姿を……!!」

 さらに統率者は余裕の表情を見せて、隠していた真の姿まで見せるつもりである。顔をニヤリと笑わせて指を鳴らすと、顔つきが徐々に人間とは程遠くなっていった。頭部には緑色の蛇が覆われて、真ん中には巨大な一つ目が鋭く睨みつけている。その姿はまるで、怪人と何ら変わりは無かった。

「変わった? 怪人に!?」

 次々と姿を変える統率者により、場は盛大にかき乱されていく。本当の正体を見破れずに、遂には混乱する者まで現れていた。ところが新八やユイらは、怪人となった統率者にある手がかりを結び付けている。

「一つ目と蛇……それに鳥のマークまで!?」

「チサさんの証言と一致しています!」

「と言う事は、お前がこの一件の首謀者という事アルか!?」

 三人の言葉通りに、怪人の特徴はチサが話していた証言とぴったり合わさっていた。頭部に一つ目と無数の蛇を持ち、首からは羽を広げた鳥のプレートがぶら下がっている。彼女が密かに見ていたビジョンは、統率者の姿を暗示していたようだ。

 一方で統率者は、真の姿を明かして意気揚々と話を続けていく。

「その通りだ! 私の名はショッカー首領。チサの精神を乗っ取り、この空間にお前達を幽閉した全ての元凶と言えよう」

「ショッカー? 聞いたことない名前だな……」

「分からなくて当たり前だ。ショッカーはお前達とは違う世界に存在していたのだからな」

 名前や出身までも明らかとなり、ショッカーが別世界の存在だと彼は告げている。銀魂の世界にも、SAOの世界にも存在しない、第三の世界からの介入者であった。これには万事屋の六人も強く反応しており、早くも考察を巡らせていく。

「違う世界? と言う事はアナタも、サイコホールを通じてこの世界にやって来たの?」

「サイコホール? ああ、サイコギルドの作り出した物体の事か。確かに私は、あの穴を通じてこの世界へとやって来たな」

「やっぱり、サイコギルドとも繋がっていたのか……」

 アスナからの質問により、首領はサイコギルドとの繋がりをためらいもなく打ち明かす。予想はしていたが、いざ事実を知ると受け入れるのに時間がかかってしまう。現にキリトも、悔しそうな表情でさらなる考察を続けていた。

 一方の銀時は、首領に向けて強気な姿勢を貫いている。真剣な表情を保ったまま、物事の確信に迫ろうとしていた。

「ところでショッカーさんよ。率直に聞くが、てめぇらの目的は一体なんだ? 元の世界での悪行と、別世界の俺達を連れ去った理由を……洗いざらいぶちまけてもらおうか?」

「フッ……やけにストレートな男だな。良いだろう。お前の根気に免じて、話してやろうか」

 彼からの要求にも素直に受け入れて、ショッカー首領は自身の過去と現在の目的について説明していく。万事屋のみならずチサや別世界のキリト達も、耳を傾けて話に聞き入っていた。場が静寂に包まれる中で、首領はようやく声を発していく。

「ショッカーとは……!! かつて世界征服を目論んだ秘密結社の事だ。愚かな人間共を屈服させて、全人類を私の支配下に置こうとしたが――組織の裏切り者によって壊滅してしまった。私も自爆して散ってしまったが、その魂は時や空間を彷徨い、サイコホールによってこの世界へと流れ着いた」

「魂って事は、お前は肉体を持っていないという事だな?」

「そうだ。だからこそ、まずは肉体が必要不可欠であった。転移して間もなく、近くで隠れていた千佐を利用して、私は半分ほどの精神へと寄生した。おかげで復活までの準備も、そう長くはかからなかったがな……」

 彼から語られたのは、世界征服と言う目的と自身の体験した最期である。常軌を逸した考え方には誰一人として共感を呼ばず、目的にこだわるしぶとい執着性だけが印象に残っていた。

 しかしそれよりも、注目すべきは千佐との関係性である。彼女の意識へと入り、昏睡状態を起こしていた真犯人であり、失った肉体を手に入れる為に長らく彼女を利用していたようだ。この事実を知ると、チサは急に頭を抱えて、失っていた記憶を微かに思い出していく。

「うう……そうだった。確かあの時に私は、怪人同士の取引を見て、逃げ出そうとしていたんだ。でも捕まっちゃって――気が付いたら、この空間にいたんだ」

「それが、チサがここに来た理由なのか……」

 彼女の経緯を知って、別世界の銀時が真剣にも呟いている。共に戦っていた仲間達も、この事実には息詰まりを感じていた。場には重い空気がのしかかるが、この状況を楽しむかのように、首領はさらなる事実を一行に伝えていく。

「あえて半分に寄生した理由は、お前の戦闘力を高めるためだ。しかし、普通の人間を戦士程に仕立てるのは容易ではない。だから私は、二つの戦いの記憶を元にこの空間を作り出した。ちょうど記憶の中には、お前達も閉じ込められていたから利用させてもらったのだ。命を懸けて戦う攘夷志士共と、突然戦場に投げ飛ばされた一般人。どれも彼女を強くするには、ぴったりの人材だったからな」

 次々と明らかになる謎めいた空間の真実。全てはショッカー首領の企てた復活への踏み台でしかなかった。完全な肉体を得るために、チサやキリト達にあえて恐怖を与えて、知らずのうちに成長させていたらしい。

 この真実には場もどよめいており、続々と驚きが呟かれている。特に気性の荒い別世界のアスナは、けたましくも激しい怒りを露わにしていく。

「つまりアレかよ……アタイらを連れ去った奴は別にいて、ここに閉じ込められたのもたかが偶然って事か。いずれ全てに寄生するチサを強くする為に……アタイらを利用したって事かよ!?」

「大当たりだ。彼女を強くするならば、誰でも良かったのだ。記憶の中にはSAOなるゲームがあったから、それを模してこの空間を作り出した。死と隣り合わせになった人間は、否が応でも強くなるからな。これが、私がお前達を閉じ込めた理由とこの空間の真実なのだ」

 単眼を動かしながら首領は、隠し通していた計画の全容を打ち明かしていた。内容をまとめると、チサを媒体にして復活を目論む手順である。その為にサイコギルドから手に入れた記憶を使い、夢世界を作った後に閉じ込められていたキリトや銀時達を放出。空間に幽閉しながら、チサ自身を強くするために裏から手ぐすねを引いていく。つまり彼らは、ずっと首領の思うままに踊らされていたのだ。

 解き明かされた謎と計画された陰謀に、場は例えようのない虚無感へと包まれてしまう。これまで命を懸けて戦った想いが、全て悪の親玉の復活に利用されていたなど、みな心に受け止め切れていなかった。誰一人として声を上げられない中で、突如別世界のキリトが勇気を持って自らの気持ちをぶつけていく。

「……ふざけるな!! 僕達がこれまで必死に戦ってきた気持ちを、何だと思っているんだよ!! 僕等はお前のおもちゃじゃないし、操り人形でもない……これ以上、弄ばないでくれよ……」

 涙ながらに語った心へ溜めていた想い。我慢の限界を超えて、つい感情をむき出しに発していた。大声で叫び終わると、彼に続き万事屋の面々も文句を言い放っている。

「その通りアル……酷い……酷すぎるネ!!」

「チサさんの苦しみに紛れて、何を強気に語っているんですか!!」

 歯を食いしばりながら怒りを放つ神楽や新八に、

「デスゲームを再現して、モルモットのように扱うなんて……正気の沙汰じゃないわ!」

「みなさんの気持ちを、踏みにじる度し難い行為ですよ!!」

強気な言葉で怒りをぶつけるアスナやユイが一様に目立っていた。彼女達に続いて、利用されていた志士達も次々に声を上げている。

「ふざけんな! 俺達の気持ちを返しやがれ!」

「平然と語るな! 単眼野郎!!」

「情報を一気に出すんじゃねぇよ!!」

 みな怒り心頭しており、感情的になって気持ちをぶつけていく。折々の気持ちが混ざった抗議の声は、一斉止む事などは無かった。

 一方で万事屋のキリトや銀時は、情報を聞いた上で冷静に考察を続けている。

「銀さん……あの首領って奴は、強くなったチサに取り入って肉体も復活させようとしているんだよな?」

「その為にここまで大掛かりな事をしているんだろ? ショッカーの復刻が、奴の最終的な目的だ。それを食い止めれば、全てが解決するだろうな」

「だったらこれが、真のラスボス戦と言う事か……!」

 首領の最終目的を予測して、戦いへの心意気を改めていた。そんな彼らと同じく、別世界の銀時や高杉も静かに闘志を燃やしている。抗議の声が収まりを見せた時に、二人は真剣な眼差しで疑問をぶつけていく。

「ちょっと待てよ、首領。確かこの空間は、百までエリアがあったはずだ。だが何故このタイミングで、お前は全てを打ち明かしたんだよ?」

「……まさか、もう計画が完遂したって事か?」

「フハハ……勘が良い奴等だな。その通りだよ」

 確信を突く質問を聞き、首領は三度笑うと指を強く鳴らしている。すると場面は一変して、ボス部屋から砂利が転がる荒野へと移り変わっていた。さらに首領の背後からは、真っ暗な闇と共に、配下と思われる怪人達が次々に姿を見せていく。

「イー!!」

「ギィーッ!」

「キキーッ!」

 個性的な奇声を放つ各組織の戦闘員達や、

「ヒッヒ!」

「アーアー!」

「ヒョーオウ!」

「イィーチッ!」

ショッカー怪人を始め動植物を用いた一般怪人達が集まっていた。さらには巨大モンスターに化けていた二体の幹部怪人も合流し、歴代の昭和ライダーと戦った怪人達が、夢世界にて共演を果たしている。おぞましさを放つ怪人達の存在は、銀時やキリトらにただならぬ狂気を感じさせていた。

「怪人達がこんなにいるだと!?」

「こいつらは二つの戦いの記憶から作り出した副産物だな。時間はかかったが、強さもオリジナルと互角になっている。刺客を強化してくれて、ご苦労さんだったな」

 記憶から生まれた個体だと知ると、本物のキリトはある疑問を解消させている。

「そうか……。この空間のモンスターが怪人と同一だったら、アインクラッドにいない個体でも納得がいくな……」

 存在が確認されていないボスモンスターは、ショッカーが作り出した副産物と同一であると仮定していた。

 一方でショッカー首領は、大量の戦闘員や怪人を配下に迎えたところで、いよいよ強硬手段へと打って出る。

「さて……もう役目は果たされた。お前達はもはや用済みだ! そして、チサよ! 私と共に一つになれ!! お前さえ取り込めば、私は完全な肉体を得るのだからな……!!」

 本来の目的であったチサに狙いを付けており、単眼を輝かせると同時に小さい突風を発生させていく。その突風はチサの周りを取り込んで、仕舞いには彼女の自由を奪い、自らの手で連れ去ろうとしていた。

「えっ、何これ? 吸い込まれちゃう!? 誰か、助けて!!」

「チサ!? 捕……捕まって!!」

 突然の出来事に彼女も困惑して、必死に手を伸ばして助けを求めている。近くにいた別世界のキリトがつられて腕を掴もうとするも――無情にも間に合う事は無かった。

「キャァァァ!!」

「チサァァ!!」

 悲痛なる叫び声を上げながら、チサは風の中で粒子となり、ショッカー首領の単眼へと吸い込まれてしまう。完全な肉体を手に入れた首領は、気持ちを高ぶらせながら、作戦の成功を確信している。

「これで私は完全態となった! 後はお前達を始末すればいいだけの話だ……行け! ショッカーの精鋭達よ! 邪魔な人間共を排除するのだ!!」

「「「イー!!」」」

 蘇らせた手下に命令を下して、用済みとなった銀時達を始末するべく動きだした。短剣や棒を手にした戦闘員達は、勢いよく彼らが固まっている場所へと進行していく。

 一方でキリト達はと言うと、一部のメンバーを除き、チサが首領に吸収された事に衝撃を受けている。気持ちの整理が追い付かず、中々前へ進めずにいた。

「チサが吸収されただと……」

「じゃ、アイツは完全態になったって事か……?」

「って、今はそれよりも戦いが先よ! ほら、早く準備して!」

「でも、この人数差じゃ勝ち目なんて……」

 普段は冷静な別世界の銀時やアスナまでもが、受け入れずに困惑を続けている。戦闘員達が迫る戦場で、誰一人として動こうとはしていない。まさに絶体絶命の危機――かに思われた時であった。

「その心配は無用ぜよ!!」

〈ドーン!!〉

 聞き覚えのある土佐弁と共に、盛大な爆発音が響き渡ってくる。音の聞こえた方へ目線を向けると、そこには桂や坂本を始めとする別部隊の志士や戦士達が大ボス部屋に介入していた。

「行くぞ、皆の者!! あの首領を倒して、元の世界へと帰還するのだ!!」

「「「オー!!」」」

 白組のリーダーであるパクヤサも駆けつけて、仲間達へ的確な指示を与えている。咄嗟に現れた助っ人の介入により、場の空気は一変。活気が溢れ出る戦闘地帯へと化していた。

 多くの仲間達が戦闘員を相手にする中で、桂やクラインら主要メンバー六人は、万事屋や高杉達の元へと集まっている。

「大丈夫だったか、お前達?」

「ヅラに辰馬か!? 来るのが遅くないか?」

「ちょっと準備に戸惑っただけだ。それよりも、後悔は後にしろ。アイツを倒せば、きっとチサも元に戻るはずだ」

 桂や坂本は銀時の元へ駆けつけて、さり気なく励ましの言葉をかけていた。同時にクラインもキリトへ向けて、心強い一言を言い放つ。

「何も言わなくても事情は分かってんよ。首領も倒して、チサも救い出す! その為に、全力で力を貸してやるぜ」

「クラインさん……それにみんなも!」

 彼が前を向くと、そこには共に戦ってきた仲間達が集まっている。例え世界線が違っても、本物と同じ繋がりを彼らは築いていた。

「キリトさんだけじゃ頼りないですからね!」

「アタシ達と攘夷志士。そして、万事屋のみんなと一緒に取り戻しましょう!」

「俺達の自由ってヤツをな」

 シリカ、リズベット、エギルの三人も、既にショッカーと戦う覚悟は出来ている。頼れる仲間達が次々に駆けつけると、総督である高杉晋助も部下に指示を加えていく。

「フッ……だったら仕方ないな。この戦乱に鬼兵隊も暴れさせてもらおうか。出来るよな、お前等?」

「「オー!!」」

 余裕の笑みを取り戻した事で、仲間内での指揮も急激に高まっている。彼らは刀を手にして、この戦場に快く参加していた。さらには仲の悪いキバオウらさえも、真の敵を知ると関係なく、他の一派と共闘してショッカー戦闘員を相手にしている。

「ワシらも忘れるんじゃねぇ!!」

「雑魚もとい戦闘員は、俺達が相手をする!!」

「銀時達は怪人共を相手にして、首領の野望を打ち破ってくれ!!」

 ディアベルやパクヤサも果敢に戦いながら、彼らが目指すべき首領がいる道筋を死守してゆく。

 この空間に閉じ込められた全ての志士や戦士達が、一つの目的の為に今、協力して戦場に赴いている。ショッカーが姿を現した事で、バラバラだった意志が団結した瞬間であった。この結果には首領も、想定外の反応を示して焦りを感じている。

「くっ……奴らめ。どこまでしぶといのだ?」

 この言葉とは対照的に、別世界の銀時やアスナも団結した仲間達に驚きを受けていた。

「ここまで全員が一致して戦うなんて……」

「初めての光景だな」

 全員が果敢に挑み、元の世界へ戻ろうとしているこの合戦。闘志を燃やす仲間の姿を見て、キリトら三人も立ち上がり、気持ちを入れ替え直していた。

「そうだな。俺達も立ち上がって、この戦いに参加しなければなるまい!」

「遅れをとった分、倍にして活躍してやろうぜ!」

「チサを取り戻すまでは、絶対に負けられないんだ!」

 共に想いを一致させて、こちらも団結力を高めていく。しっかりと前を向き、表情からは迷いは一斉消えている。

 さらには万事屋も例外ではない。乗り掛かった舟の如く、みなこの戦場でショッカーとの決着を付ける覚悟を決めていた。

「よし、話はだいたい分かりましたね」

「チサやみんなを救うには、あの首領を倒せばいいアルナ」

 木刀や傘を手に持ち目的を改める新八や神楽。

「ショッカーの野望は、絶対に止めないといけませんからね!」

「これは予想もしていなかったボス戦ね……」

 予想外の展開にも、ひるむことなく前を見るユイやアスナ。

「……キリト。もちろん作戦は決まっているよな?」

「ああ。がむしゃらに戦い続ける。この一択に尽きるよ」

「ハハ、面白いじゃねぇか。考えずに蹴散らすのが、この戦いには似合っているよ」

 共に拳を合わせて、戦いへの意志を見せる銀時とキリト。互いに声をかけながら、六人の気持ちは今一つになっていく。

「ユイは下がっていて! 身を隠せる場所で、戦いを見守っていてくれ!」

「了解です! 頑張ってください、みなさん!」

 それでも戦いに慣れていないユイは、一行の元を離れて近くにあった岩石の影へと移動する。安全な場所からキリト達の戦いを密かに見守るようだ。

 場にいる全員がそれぞれの想いを掲げたところで、一斉に横へと立ち並んでいく。左からエギル、坂本、リズベット、高杉、新八、銀時、キリト、別世界のキリト、銀時、アスナ、アスナ、神楽、クライン、桂、シリカの計十五人の志士や戦士達が集まっていた。みな剣や刀と言った得意の武器を手にしており、戦闘準備は既に完了している。

 彼らの眼前には大量の戦闘員や怪人達が集結しているが、恐れなどはまったく感じ取っていない。目的を達成させるためにも、勝利の道しか考えていなかった。

「さぁて……いっちょやったりますか。悪夢を解放する為の大乱闘を!」

「みんな! 覚悟はいいか!?」

「「「「おう!!」」」」

「「「「OK!!」」」」

「「「はい!!」」」

「「うん!!」」

 本物の銀時やキリトからの掛け声に、仲間達はそれぞれの反応を返している。強く武器を握りしめたところで、彼らはようやく動きだしていく。

「だったら……いくぞぉぉぉ!!」

「「「ハァァァ!!」」」

 真剣な表情でみな一斉にショッカーの大群へと突き進んでいく。夢空間を巡る戦いは、姿を現した黒幕(ショッカー)によって、いよいよ最終局面へと向かう……





 という訳で、サイコギルドの呼び出した刺客はショッカーでした……。まぁ、なんで別作品の敵が出るんだという声もありますが、これには理由があります。
 剣魂の敵役としては、銀時やキリト達が戦った事の無い相手を主軸に考えていました。メインヴィランとしてサイコギルドが暗躍していますが、あくまで彼らはオリジナルのキャラクター。そこで私はサイコホールという設定を使って、既存の敵を銀魂世界へ迎い入れる事にしたのです。オリジナルの天人やモンスターが出演するよりは、ショッカーのように別作品で活躍した敵と戦った方が、よりインパクトや新鮮味があって適任だと思っています。あくまでも二次創作なので、そこまで深く考えなくてもいいんですけど……
 さて、ショッカーの登場により夢幻解放篇はいよいよクライマックス! とうとう合戦が始まります。詳しい人員や怪人の詳細は、次回の更新と共に設定集に記載する予定です。




次回予告
遂にその正体を現した一連の黒幕ショッカー。彼らの恐るべき計画により、夢世界にて怪人や戦闘員が姿を現す。果たして銀時達はチサを救い出し、元の世界へ戻れる事は出来るのだろうか? 次回「戦いの記憶」にご期待ください。

新八「何か予告のテイストも、昭和風になっていませんか?」
銀時「細かい事は気にすんなよ」


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第三十六訓 戦いの記憶

 今更なのですが、前回のラストで集結した十五人って、丁度昭和ライダーの数と一致しているんですね。それらを含めてショッカーと戦うのは、どこか運命的と言うか……
 それはさておき、物語はいよいよ合戦状態へ! かなりマニアックな怪人も集まっていますが、容姿や設定に関しては設定集で補完するので気にしないでください。今回はバトルが中心で進みます。では、どうぞ。




「よし。これで万全だな。後はお前さん次第で、夢世界へ転移することが出来るぞ」

「ワフー?」

 銀時達が夢世界で真実に触れていた一方で、現実世界で源外は、定春にも彼らと同じ転移装置を頭から被せている。咄嗟に察していた嫌な予感を気にしており、保険用として彼に出動を呼び掛けていた。

 するとタイミングが良く、コンピューターにもある異変が生じている。画面全体が赤く点滅しており、夢世界で始まった戦闘を現実側にも伝えていた。

「遂に起きたか……定春よ。アイツらを守ってやってくれよ」

「ワン!」

 源外の必死なる想いを感じ取ると、定春も神妙な表情で理解して頷いている。後は彼の気持ち次第で、夢世界へと転移していく。現在の時刻は午前の三時半。タイムリミットまでの時間は、刻一刻と迫っている……

 

「だったら……いくぞぉぉぉ!!」

「「「ハァァァ!!」」」

 そして夢世界では、一連の黒幕であるショッカーの軍団を倒すべく、攘夷志士や戦士達が共闘して戦いを繰り広げていた。首領に取り込まれたチサを救うために、元の世界へと戻るために、みな一丸となって戦っている。万事屋の五人も別世界のキリトや銀時らと共に、ショッカーの大群へ突き進んでいた。

「来たか……行け!」

 しかし首領は、ひるむことなく冷静に手下へと指示を加えている。彼からの命令に応じて、一部のショッカー戦闘員が先制攻撃を加えてきた。

「「「イー!!」」」

 奇声を発して大きく飛び上がると、足から火を噴射させて、そのまま空中からの奇襲を仕掛けていく。命懸けとも言える体当たりだが、銀時達は一斉怯むこと無く、攻撃を避け続けている。戦場にこだまする爆発音を潜り抜けながら、彼等は果敢にも走り続けていた。

「ええぃ! 何をやっている! 奴等の侵攻を止めるのだ!!」

 立て続けに失敗する奇襲へ苛立ちながら、首領は手下に作戦の続行を伝えている。そこで一人のショッカー戦闘員が、銀時へ突撃した時であった。

「そこをどけぇぇぇ!!」

 唐突に狙いを定められて距離を縮めると、同時に木刀を振り下ろされて、返り討ちを受けてしまう。

「イー!?」

 まるで野球のホームランのように投げ飛ばされていき、とんぼ返りの如く怪人達の元へと戻されてしまった。

「……イー!!」

 落下直後には受けたダメージにより、煙を上げながら爆死。しかしその煙が目くらましの役目を果たして、隙が出来ている間に銀時達との距離が徐々に縮められる。

「タァァァ!!」

 遂に追いついた一行は、真正面から衝突して各々で戦闘を開始していく。大量に出現している戦闘員の軍団を蹴散らしていき、襲い掛かる怪人を相手にしながら、大合戦が幕を開けたのであった。

 

「これでも食らえ!!」

「イィィ!」

 木刀を手にしながらトリッキーに戦うのは、本物の坂田銀時。戦闘員の軍団に恐れを成す事は無く、次から次へと相手取り薙ぎ倒していく。その表情も真剣さを極めており、向かい打つショッカー戦闘員を怯ませるほどである。

「そこをどけぇぇ!!」

「イィィー!?」

 近づいていた戦闘員の肩を掴むと、そのまま持ち上げて襲い掛かる軍団へ向けて突き飛ばしていく。相手すらも巻き込む銀時ならではの攻撃術であった。

「ハァ! フッ!」

「イー!!」

 そんな彼の近くで戦うのは、刀を用いて多くの戦闘員へ斬りかかっている別世界の銀時。本物とは違い正々堂々と挑み、自身の持つ力を誇示している。律儀にも一つの型に集中する姿は、彼の真面目さを際立たせていた。

 二人の銀時が戦い続ける場には、戦闘員に続いて怪人達も乱入していく。

「アーアー!」

「フォフォ!」

「何……!」

「こいつらは……!?」

 槍や強靭な腕を使い、正面から衝突したのは二体の怪人である。本物の銀時と接近戦で張り合うのは、ショッカーに所属するカラス型改造人間のギルガラス。一方別世界の銀時には、ネオショッカー産のゴリラ型怪人マントコングが立ちはだかった。奇しくも攘夷戦争や作者ネタに関する動物が、姿を変えて襲い掛かっていく。

 共に一度相手を振り降ろしながら、静かに距離を遠ざけていると、二人の銀時は互いに背中合わせとなり会話を始めている。

「どうやら奴等が、ショッカーの言う副産物のようだな。見るからに戦闘員とは格が違うようだ……」

「何を言ってんだよ。たかがカラスとゴリラに対策を立てる必要は無ぇよ……キリトの言うように、最後までがむしゃらに戦い続けようじゃないか」

「がむしゃらか……それも悪くはないな」

 気合で乗り切ろうとする銀時の本気を感じ取って、彼は静かに頷いていく。むやみに考えるのではなく、ひたすら戦い続ける決意を彼も固めたようだ。

 そんな二人の元に、容赦なく二体の怪人が突撃していく。

「アーアー!」

「フォフォ!」

 特徴的な鳴き声を発して襲撃を仕掛けようとするが、気持ちを一つにした銀時達にとってはもはや敵ではなかった。

「ちょうどいい! お前等全員、地獄まで送り返してやらぁぁ!!」

「俺達の剣撃を受けてみろ!!」

 木刀や刀を握りしめた後に、二人は大きく飛び上がり、相手の隙を突いたところでとっておきの技を放っていく。

「ハァァ!!」

「アー!?」

 木刀を振り下ろした銀時は、ギルガラスの手にした槍を打ち落とすと、丸腰となった彼に向けて力一杯連続で斬りかかる。木刀ならではの打撃を与えていき、怪人へのダメージを増やし続けていた。

「おらぁぁ!!」

「フォ!?」

 もう一方の銀時も、マントコングの顔や上半身に狙いを定めて、正確な剣裁きで攻撃を繰りだしていく。体毛の目立つ上半身を集中的に攻めて、そのまま押し切ろうとしていた。

 二人の銀時によるがむしゃらな戦法は、見事に成功を収めている。ギルガラスにはカウンター攻撃、マントコングには弱点を突く攻撃が有効打となり、有利となった戦況を物語っていた。その結果……

「アーア……!」

「フォ……!」

鳴き声の迫力も衰退していき、怪人達は地面へ倒れ込み爆発していく。燃え上がる炎を背景にして、二人の銀時は勝利の余韻に浸っていった。

「よし! まずは第一関門の突破だな!」

「いや、喜ぶのはまだ早いぞ。怪人を倒しても、まだ戦闘員がいるのだからな」

 健気にも喜びの声を上げる銀時に対して、別世界の銀時は早くも近くに潜む敵を察している。彼の言う通り近くには、ショッカー戦闘員や隠れ潜んでいたコンバットロイドやチャップも姿を見せていた。所属の違う戦闘員同士で、集団戦法を披露している。

「ってまだいやがったのか……次から次へと湧いてきやがって」

「流石は別世界の悪の組織だな……しぶとさがまるで違う……!」

「どこに感心してんだよ! とにかくさっさと倒して、首領の元へ向かうぞ!」

「分かっている!」

 例え戦闘員だろうと一斉手を抜かずに二人は、武器を握りなおして再び大軍へと戦いを挑んでいく。三度背中合わせとなったが、その表情は互いにフッと笑いかけている。微かに感じている絆を思い起こしながら、二人の銀時は果敢に立ち向かっていった。

「行くぞ!!」

「言われなくてもな!!」

 

「これでも食らいなさい!!」

「さっさと受け上がれや、ゴラァ!!」

 それぞれ異なった戦い方で、レイピアを武器に戦うのは二人のアスナ。上品さを感じさせる本物の繊細な技と、勇ましさを思い起こすもう一人の豪快な攻撃には、表裏一体のコンビネーションを生み出していた。

 おかげで続々と登場するデストロン戦闘員やチャップも、すぐに一掃する始末である。互いに戦闘力の高い二人だが、密かに奇襲攻撃が迫っている事にまだ気が付いていなかった。

「ん? アレは……」

 戦闘員の大群と戦う中で、本物のアスナが気付いたのは紛れ込む怪人の存在である。その正体はゴルゴム直属の改造人間ヤギ怪人と、クライシス帝国所属のムカデ型異性獣ムンデガンデであった。皮肉にもアインクラッドに存在していたボスモンスター、グリームズアイとスカルリーパーを彷彿とさせる怪人達である。

 それはさておき二体の怪人は、密かにアスナ達へと標準を合わせて、各々の遠距離攻撃を準備していた。

「まさか奇襲を仕掛けるつもり? だったら……」

 事の重大さに気が付いた本物のアスナは、事態の回避の為にやや強引な手段を思いつく。迷っている暇などは無いので、早速行動に移し始めている。

「ねぇ、私! 一旦場を離れるわよ!」

「ハァ? 何を言って――って、どういうことだ!? まだ戦っている最中だろうが!?」

 強引にももう一人の自分の両腕を掴むと、自らの青い羽を広げて空中へと逃げ込む。彼女達が場を離れたと同時に、二体の怪人による光線が発射されていく。

〈ドゥーン!〉

 たった僅かな秒差で、攻撃を回避していたのだ。

「おのれ、小娘共め!!」

「俺達の作戦に気が付きやがって……!」

 人間と同じ言葉を発しながら悔しがる怪人達。一方でアスナら二人は、危機を脱した事に一安心している。

「ふぅ……なんとか間に合ったわ」

「って、お前……最初から気が付いて、アタイを上空まで運んだのか?」

「そうよ! と言うか、そろそろ下ろして戦いに戻らないと……」

 敵へ狙われない為にも、今すぐ地上へ戻ろうとするアスナであったが、もう一人の自分はある作戦を閃き早速伝えていく。

「いや、このままでいい! おい、アタイ! このまま敵の元まで連れて行って、蹴散らしてやろうぜ!!」

「えっ? それって」

「がむしゃらに戦うんだろ? だったら、多少の無茶は承知の上だよ!」

「……分かったわ。アナタに免じて行きましょう!」

「気が合ってきたな! 正面突破で一気に走り抜けるぜ!!」

 冷静に場を進めるアスナでさえも、彼女の作戦には同意して、無茶を覚悟に突き進むつもりであった。両腕をがっちりと掴んだところで、空中から急降下して怪人やチャップのいる大群へと突進していく。

「いたぞ、奴等だ!」

「ここで撃ち落としてやらぁ!」

 発見するなり二体の怪人は、再び紫や赤色を模した破壊光線を角や目から発射する。だが、アスナらは怯むことなく勢いのままに降下を続けていた。

「今だ! 離せ!」

「分かったわ!」

 頃合いとなった時には、アスナが掴んでいた両腕を離して、彼女の自由を解放している。風の抵抗を利用して、もう一人のアスナは素早さを増して怪人達の元へと突っこんでいく。そして――

「くたばれ、ヤギ野郎ォォ!!」

「グワァァ!!」

ヤギ怪人の特徴的な角に狙いを定めて、力強く斬りかかっていった。攻撃手段を失ったことで徐々に弱体化しているが、この事実に気付くことなく、彼女はさらなる追い打ちを加えていく。

「もういっちょくらえ!!」

「ブホォォ!!」

 レイピアを使わずに、勢いのまま殴りかかった拳で、ヤギ怪人を吹き飛ばしてしまう。本物とはまた違った技を、彼女は惜しげもなく披露している。

「おい、大丈夫か!?」

「相手の心配よりも、自分の心配をした方が良いんじゃないかしら?」

 隙を見せるムンデガンデに対しては、本物のアスナが攻撃を仕掛けていく。空中から向かっていき、レイピアを強く握りしめていると――

「ハァァ!」

〈グサァ!〉

「クッ……!?」

ムンデガンデの体へ突き刺していき、一撃必殺を加えている。かつての太陽の子を思わせる技で、アスナも怪人へとどめを刺していた。

「これで……」

「終わりよ!」

 勝利を確信した二人のアスナは、誇らしげに笑みを浮かべると、手にしていたレイピアを下していく。同時に必殺技を受けた怪人達は、倒れ込みそのまま爆発していった。燃え上がる炎を背景に、彼女達も勝利を手中に収めたのである。

「いや~作戦成功だぜ!」

「がむしゃらって言うのも、悪くはないわね!」

 お互いに成功を祝うと、タイミングよくハイタッチを交わしていく。真逆な性格のアスナ達であったが、むしろ功を奏した結果を残していた。

「さぁて、残りは雑魚狩りだな!」

「一気に倒しちゃいましょうか!」

 そして場に残された戦闘員を倒すべく、再びアスナらは戦闘を開始していく。互いの信頼を糧にして、二人はより強くなっていった――

 

「行くぞ、クライン殿!! 侍の底力を見せつけようではないか!!」

「もちろんだぜ、桂さん!!」

 一方でこちらは、戦闘員の大群へ突撃していく桂とクライン。侍魂を心掛ける二人は、例え別人でも本物の同じ縁を築いている。そんな彼らが相手にするのは、ドグマファイター達を率いている怪人であった。雷魚をモチーフとする怪人ライギョンと、釣竿の能力を持つ改造人間ツリボットが幹部に代わって指示を加えている。まずは戦闘員を倒すしか、進む道は無かった。

「ハァ! トォワ!」

「オラよっと!」

「「ギギ!!」」

 すぐに衝突すると、彼等は素早く戦闘員達を一掃していく。拳法を用いて戦うドグマファイターだが、侍達の剣裁きには太刀打ちできず、次から次へと倒されてしまう。場にいたドグマファイターを全て倒しきると、ここでようやく怪人達が動きだしていく。

「ギャハー!」

「何!? 遂に動きだしたか……!」

 ライギョンの持つ巨大な口が、桂の刀へと噛みつき攻撃手段を防いでしまう。力技で封じ込めており、攻撃手段すら奪ってしまった。

「桂さん!? 大丈夫か!?」

「隙ありだ!!」

 桂のピンチにより呆気にとられるクラインにも、ツリボットの魔の手が迫る。右手に装備した釣竿で、クラインの持つ刀を引っかけて、ひょいと盗まれてしまった。

「あっ、しまった!?」

「コイツは頂いていくぜ!」

 主要武器を奪われたことで、丸腰となってしまうクライン。さらに彼だけではなく、桂も刀を取り返せずに、ライギョンから押し倒されてしまう。

「グハァ!」

「桂さん!? 大丈夫か?」

「何とかな。しかし、こちらも刀を奪われてしまったな……」

 傷は負わなかったものの、どちらも武器を取られたことで、劣勢へ追い込まれてしまった。刀を手にした二体の怪人が差し迫り、まさに絶体絶命である。しかしこの状況で、桂はある打開策を思いつく。

「あっ、そうだ! これならばきっと、勝てるやもしれんぞ!」

「おっ? 何か作戦でも思いついたのか!?」

「ああ、クライン殿! 今から刀になれ!」

「……はい?」

 一度は期待を寄せていたクラインであったが、桂からの突拍子もない言葉には、つい反応に困ってしまう。首を傾げている間にも、怪人達の侵攻は続いている。

「「ハァァァ!!」」

「まずい、来るぞ! こうなったらヤケだ!」

「ええ!? ちょっと桂さん!? 急に何をして――ウワァァァァ!!」

 クラインからの了承を得ずに、桂は強引にも自ら考えた作戦を実行へと移していく。彼の両足を掴んで持ち上げると、そのまま刀のようにして装備していた。真面目な表情で接する桂であるが、クラインには訳が分からずに混沌とした表情を浮かべている。この常軌を逸した行動には、二体の怪人も立ち止まり困惑を口にしていく。

「おいアイツ。仲間を武器にしやがったぞ!」

「まさか、こっちに向かってくる気か!?」

 警戒心を高ぶらせているが、その分足元には一瞬の隙が出来始めていた。この好機を桂が、見逃すはずなど無い。

「今だ! 行けェェ!!」

「ギャャャャ!!」

「「ええっっっっ!?」」

 なんと今まで持ち上げていたクラインを突き放し、怪人達の足元へ向けて投げ飛ばしてきた。自由すぎる桂の攻撃はクラインのみならず、怪人達も驚きを受けてしまう。奇想天外な技に怪人達も避けることが出来ずに――

「「「ブハァァァ!!」」」

クライン共々三人でダメージを被っていた。その反動によって、奪い取っていた刀も勢い余って手放していく。これこそが、桂の狙っていた真の目的である。

「作戦通りだ!」

 文字通り奪還作戦が成功すると、彼は勢いよく飛び上がり、二本の刀を取り戻す。同時に怪人へ向けて、必殺技の準備を進めていた。

「こいつで終いだ!!」

 勢いを付けたまま突き進み、空中に舞う怪人へ渾身の剣術で斬りかかっていく。乱舞とも言えるこの技によって、ダメージを負った怪人達はさらなるダメージを増やしている。

「「グハァ! ……アァァァ!!」」

 共に地面へ叩きつけられると、喚き声を上げて遂には倒されてしまった。爆発で燃え上がった炎を背景に、桂もかっこよく着地してポーズを決めている。

「やったぞ、クライン殿! 刀も取り戻し、怪人共も倒すことが出来たぞ!」

「ハハ……桂さん。せめて事前に伝えてもらえるか? 俺……決めポーズすらやっていないから」

 彼の横ではクラインも着地していたが、体勢を間違えて軽い痛みを負ってしまう。武器のみで利用された彼にとっては、精神的にも悔いの残る戦いであった。そんな彼をいたわりながら、二人の侍の戦いはさらに続く。

 

「ハァァ! ホワチャァー!」

 大量に襲い掛かる戦闘員を次々に薙ぎ倒していくのは、万事屋の一員である神楽。戦闘民族である夜兎の特性を生かしながら、徒手空拳の戦法でさらなる勝利を得ていく。拳法を使うドグマファイターや、格闘技を多用するゲルショッカー戦闘員すら、彼女には敵わずにいた。作戦通りに戦闘員を蹴散らしていく神楽に、いよいよ怪人が差し迫ってくる。

「チィーッ!」

「何!? こいつは……」

 眼前に見えたのは、蜂の能力を持ったガランダ―帝国直属のハチ獣人。手や口に針を装備した奇怪な容姿であるが、神楽は嫌悪感を抑え込みさらなる闘志を燃やしていた。

「へんてこな奴アルナ! 私が一撃で倒してやるネ!!」

 強気にも豪語しながら戦いへ挑んでいる。神楽からの先制で始まったタイマン勝負だが、彼女の言う通りに勝負は一瞬で決まってしまった。

「くらえアル!!」

「チィーッ!?」

 強い自信を保ちながら、連続で拳を用いた打撃を加えている。自らの隙すら与えない連続攻撃は、相手の反撃すら封じてしまう。

「これで終わりアル!!」

「チィーッ!!」

 そしてとどめの一撃として手を真っすぐにしながら、手刀のように相手へと斬り込みを入れていく。かつての野性的な戦士を彷彿とさせる技で、この戦いへ終止符を打とうとしている。

「……チィーッ!!」

 結果ハチ獣人は、蓄積ダメージにより呆気なく倒されていった。黄色い爆発を背景にして、神楽も渾身の決めポーズで勝利への達成感に酔いしれていく。

「やったアル! 早く決着が付いて良かったアル……」

 内心は嫌悪感を抱いていた彼女にとって、早期の決着は本望であった。思わず一安心して、静かに呼吸を整えていく。

 戦闘を終えた神楽であったが、彼女の近くでは新八が木刀を手に戦いを続けている。戦闘員の軍団を倒しきった後に、ショッカー怪人であるジャガーマンを相手取っていた。

「ヒョーオウ!!」

「くっ……! 中々こいつも強いな」

 スティックを武器に使っており、木刀とぶつけ合いながら互角の戦闘を繰り広げている。豹の特性を持つ怪人ジャガーマンは、かつて新八を虐げていた茶斗蘭星の天人を思わせる容姿をしていた。もちろん新八も密かに照らし合わせており、自らの士気を高めている。

「あの時を思い出すけど、今は違う! 僕だって、強くなっているんだ!!」

 顔つきも真剣さを極めながら、心からリベンジを誓っていた。集中力を高めながら、遂に運命の時がやって来る。

「そこだぁぁ!」

「ヒューオウ!」

 気合の入った一騎打ちが始まりを告げていた――はずだったか、

「ホワチャャ!!」

「ヒューオ!?」

「……えっ?」

場の空気を読まずに神楽が突拍子も無く割り込んでしまう。大きく飛び上がりジャガーマンへ向けて、強力な頭突きを与えていく。この不意打ちは予想外だったようで、大きいダメージを体へと負ってしまう。

「ヒューオン……!」

 挙句の果てには倒れ込んでしまい、鳴き声を上げながら爆死してしまった。爆発の背景には神楽が立ち上がり、またもや別の決めポーズで勝利を喜んでいる。

「やったアル! 見事に勝利ネ!」

「ちょっと神楽ちゃん!? ここ僕のターンなんだけど!? 勝手に割り込んで見せ場を奪わないでくれる!?」

「何を言っているネ。新八の見せ場が遅いから、私が代わりにとどめを刺したんだろうが。ありがたく思えよ、コラァ」

「人の話を聞いてた!? 僕だって爆発を背景にポーズを決めさせてよ! そこがバトルの醍醐味だろ!」

「いちいちうるさいアルナ……だからお前は新一号じゃなくて、新八号アルよ」

「そんなライダーいねぇよ! いいから見せ場を取らないでって!」

 見せ場が取られたことで怒りをぶつける新八であったが、神楽は一斉謝らずに口論を長引かせていた。戦場で行われる万事屋らしい口喧嘩は、どこか安定な雰囲気を醸している。現に岩陰で戦いを見守っていたユイも、クスッと笑みを浮かべていた。

「新八さんに神楽さんも、いつも通りの調子ですね!」

 戦う事の出来ない彼女は、応援と言う形で一行をサポートしている。常に場を見張っている彼女であるが、その背後には刻々と怪人が迫ろうとしていた……。

「ん? この気配は……?」

 ただならぬ殺気に気が付き、思わず後ろを振り返るとそこには――骸骨とカマキリを模した怪人とショッカー戦闘員二体がユイを取り囲んでいる。

「キャ!! あなた方は……?」

「チッ、見つかったか! ならば、お前を人質にとるぜ! かかれー!!」

「「イー!!」」

 双頭のドクロを装着したカマキリ奇械人は、見つかると同時に戦闘員を使役してユイを取り押さえていく。子供相手にも関わらず、力でねじ伏せて人質にしようと企んでいた。

「キャャャ!! 離してください! 人質なんて卑怯ですよ!!」

「やかましい! 大人しくしなければ、この鎌で貴様を切り裂いてやるぞ……ギリギリ!」

 遂には奇械人によって捕らえられてしまい、右腕にある鎌で脅しをかけている。ユイも必死で抵抗するが、ショッカー戦闘員の取り押さえにより行動すらも制限されてしまう。

 彼女の叫び声を聞きつけて、口喧嘩をしていた新八と神楽も、表情を変えて怪人らの方へ目線を向けていた。

「って、ユイ!? 捕まったアルか!?」

「その通りだ! こいつの命を救いたければ、武器を捨てて降伏するがいい! さもなければ、どうなるのか分かっているだろうな?」

「くっ……卑怯な真似を!」

 ユイを人質にして無理難題を押し付ける奇械人。これには新八や神楽も対応に困り、慎重に動かざるを得なかった。不安げな表情で彼女も助けを待っているが、ここで予期せぬ助っ人が姿を現していく。

「さぁ、どうする――って、うわぁぁ!?」

「「イー!?」」

 意気揚々と脅しをかけていた奇械人の横から、白い塊が割り込み突進を食らわせている。おかげでユイは拘束から解放されて、事なきを得ていた。

「えっ? 一体誰が……?」

「ワン!」

「さ、定春さん!?」

 振り返るといたのは、ふわふわの毛を揺さぶらせる万事屋の巨大犬……定春である。彼もまた転移装置を使って、この夢世界へとやって来たのだ。

「さ、定春!?」

「来てくれたアルか! ユイを助けてくれて、ありがとうネ!」

 丁度良いタイミングで駆けつけた定春に、新八や神楽も思わず脱帽している。一方の彼は、ユイの顔をじっと見つめてある気持ちを伝えていた。

「ワン!」

「……もしかして、私に乗って欲しいんですか?」

「ワフ~」

 それは彼女と一緒に戦う決意である。戦えないユイを補佐するために、自らの意志で彼女を助ける考えであった。いつもとは違う本気の眼差しで気持ちを察すると、ユイも深く頷いて定春の頬をさすっていく。真剣な表情でこちらも決意を固めていた。

「分かりました! 私も一緒に戦います! 行きましょう、定春!」

「ワワン!!」

 互いの意志を疎通したところで、彼女は定春にまたがり準備を整えていく。強力な相棒へ指示を加えて、早くも行動へ移ろうとしていた。

「おのれ~一体何が……?」

 不意打ちを食らい油断を見せるカマキリ奇械人らに向けて、定春が勢いよく差し迫っていく。そして、

「倍返しです! 行っけぇぇ!」

「ワフ―!!」

「って、ギリィィィ!!」

「「イィィィ!!」」

タックルのように体当たりを与えていき、奇械人ら三体はあえなく敗北。揃って倒されたところで、爆発してしまった。真っ赤に燃える炎をバックに、ユイや定春も喜びを分かち合っていく。

「ワフ~!」

「やりましたね、定春さん! 大金星ですよ!」

 頑張りを見せた定春に対して、ユイは顔をさすり仲睦まじくじゃれ合う。彼女の意外な活躍には、見守っていた神楽らも賞賛していた。

「やったネ、ユイ! これで戦えるようになったアルナ!」

「ユイちゃんまで活躍するなんて……これじゃ、僕のメンツが」

「そんなに落ち込まないでください、新八さん!」

「うわぁ……グサッと来る台詞だ」

「ワン!」

 子供らしい純朴な笑顔の前には、新八もさらに落ち込んでしまう。彼の不遇な扱いを慰めながら、三人と一匹はさらなる協調性を高めていく。

 

「はぁ! おりゃ!」

「せい! やー!」

 そしてキリトら二人も、果敢に戦闘員を相手取り戦いを続けていた。ナイフを手にするショッカー戦闘員や、スティックを使うデストロン戦闘員を倒していき、集団戦法に負けじと抗い続けている。熟練されたキリトの二刀流による技と、がむしゃらに戦い続けるもう一人のキリトによって、場の主導権は二人が握っていた。とそこへ、怪人達も乱入していく。

「シャーシャー!」

「何!? こいつは……」

 獣のように突進を繰りだしたのは、デストロンの改造人間ジシャクイノシシ。名前の通り磁石と猪を合成した改造人間であり、左手に装備した巨大磁石には、キリトも警戒心を露わにしている。

「ニャアーオゥ!?」

「おっと……! 危なかった……」

 さらにもう一人のキリトにも、ゲドン産である黒ネコ獣人が襲い掛かってきた。一瞬の殺気を感じて、不意打ちを回避している。正体を現した怪人達によって、場の流れは変わりつつあった。キリトももう一人の自分と合流して、怪人への警戒を呼び掛けている。

「気を付けろ! 奴等は只者じゃない気がする……」

「うん。気を付けるよ」

 冷静にも二人は、怪人が持つ特性を見定め始めていた。すると怪人達も、キリトらとの距離をとって秘策を取り始めていく。

「さて……俺があの二人をぶっ倒してやる!」

 強気に前へと出てきたのは、キリトが警戒していた相手ジシャクイノシシ。左手に装備した巨大磁石を使い、何かを引き寄せるようだが――

「……今だ!」

「えっ? あっ!?」

彼の狙いはキリトの持っていた長剣である。こちらも武器を奪い去り、相手の攻撃手段を無くす作戦に出ていた。その目論見は当たっており、もう一人のキリトが持っていた一本の剣を引き寄せる事に成功している。

「よしよし、やったぞ!」

「そんな……僕の武器が奪われるなんて」

「やっぱりあの磁石は、相当な磁力を持っているのか……?」

 辛うじてもう一方の剣は無事であったが、油断を許さない状況は続いていく。しかめっ面で本物のキリトも対策を練っているが、既に標的は彼に向いていた。

「お前の剣も引き寄せてやる!!」

「うわぁ!? くっ……!!」

 必死にも磁力に抗うキリトであったが、強力な磁場の前では力に限度があり、遂には握っていた二本の長剣を手放してしまう。

「しまった!!」

「これでお前達は――って、重!? なんだこの剣は!!」

 優勢を図っていたジシャクイノシシだが、例外的にもキリトの主要武器であるエクスキャリバーには、重量の影響で持ち上げる事すら困難になっていた。二兎を追う者は一兎を得ずのように、欲張った仕打ちを彼は受けている。

「アレ? 君の剣って、そんな重たかったの?」

「認めた者しか持つことを許されないからな……その影響かもな」

 エクスキャリバーの特殊な仕様によって、最悪の事態を防いだ二人。場の流れはキリト達の方へ風を吹かせており、敵が戸惑う間に長剣の奪還へと動いていく。

「と、とりあえずこれを使って! 一気に取り返そう!」

「おう、もちろん!」

 もう一人のキリトが守り抜いた黒い長剣を手にすると、本物のキリトが羽を広げて、ジシャクイノシシの元へと飛び立つ。長剣が密集している巨大磁石に狙いを定めており、目つきも段々と鋭く変わり集中力も高めている。

「この、動け! って、何――」

「ハァァァ!!」

「シャャャ!!」

 怪人が隙を見せている間に、キリトは剣を振り下ろして、巨大磁石を切り落としていく。片手持ちであろうと、キリトが強い事に変わりは無かった。三本の長剣を奪い返して、作戦を成功させている。一方のジシャクイノシシは、唯一の武器を切られた事で悲痛な叫び声を上げ続けていた。

「シャャ! おのれ……黒の剣士め!!」

 激しい怒りを露わにしながら、その矛先をキリトへと向けている。感情のままに反撃を仕掛けようとしたが――

「そうはさせるか!」

彼も簡単には退こうとしていない。地面に落ちたエクスキャリバーと黒い長剣へ武器を持ち替えると、突進するジシャクイノシシに得意の必殺技で対抗していく。

「今だ! ハァァァ!!」

「何!? グワァァ!?」

 容赦のない一撃を次々に浴びせる連続斬りを、この最中で発動させていた。素早く正確に攻撃する姿は、かつてのSAOで培った昔の自分を彷彿とさせている。

 そんな彼の猛攻を目にして、もう一匹の怪人も黙ってなどはいなかった。

「ニャアーオゥ!!」

「さ、させないよ!」

「二ャア!?」

 奇襲を仕掛けようとする黒ネコ獣人であったが、もう一人のキリトの乱入によって、あえなく防がれている。未遂に終わった直後、彼は地面に落ちていた二本の長剣を手にして、そのまま獣人へ向けて技を解き放っていた。

「ぼ、僕だって戦えるんだ! 行けぇぇ!!」

「ニャアー!?」

 真剣な表情へ急変させると、こちらも連続斬りを発動させて斬りかかっていく。もう一人の自分と共に鍛え上げた渾身の技で、この戦いへ決着を付けようとしていた。動きにはブレがあるが、それでも技としての威力は格段に上がっている。

 信念を貫く二人のキリトによる猛攻も、数秒後には終わりが見えてきた。

「「ハァァァ!!」」

「シャャャ!!」

「ニャャャ!!」

 最後の斬撃が綺麗に決まると、怪人達は蓄積ダメージによって喚き声を上げて爆発。爆風に舞う火花がちらつく中で、二人のキリトは長剣を下ろして、勝利の余韻へ浸っていく。その表情はどちらも誇らしげであった。

「や、やったね! もう一人の僕!」

「ああ、よくやったな。もう一人の俺」

 つい喜びを溢れさせている別世界のキリトに対して、本物のキリトは率直に彼を励ましている。弱気で強気な二人のキリトも、抜群のコンビネーションで戦場を勝ち進んでいた。

 

 戦闘員との戦いも終盤を迎える中で、シリカやリズベットも仲間に負けじと奮闘を続けている。

「ピナ! ウォーターブレスを発射です!」

「ナ……ナー!!」

「イィィィ!!」

 泡や水を操るピナを相棒に従えて、ショッカーに立ち向かうシリカ。彼との息の合った戦法を見せながら順調に戦っていた。

「そうはさせませんよ! ヤー!」

「イー!!」

 自身もダガーを用いて、短剣を持つコンバットロイドらを一掃していく。彼女に続きリズベットも、勢いに乗って戦いを続けていた。

「シリカに負けてられないわね! アタシも行くわよ! セイ!」

「イィィ!!」

 トゲを付着させた棍棒メイスを振り回しながら、混成の戦闘員軍団を次々に倒していく。可愛くて強い女戦士達の快進撃によって、周りにいた戦闘員達は全て倒されてしまった。

「よし、やりました!」

「ナー!」

「お疲れ~。これで一段落着いたわね」

 苦労を労い、勝利を分かち合う二匹と一匹。休憩がてらに心を休ませている彼女達であったが、実は背後から新たな怪人が刻一刻と迫っている。

〈ヒュル!!〉

「ん? えっ――って、キャャャ!!」

「シ、シリカ!?」

「ナー!?」

 なんと彼女の足元に植物のツタが絡み、そのまま持ち上げられてしまった。その先にはなんと、ショッカー怪人の一体であるドグダリアンが堂々と姿を現している。

「ようやく捕まえたぞ、小娘よ! ヒーヒ!」

 老婆のような声を出しながら、不気味にも引き笑いで状況を楽しんでいた。人喰い花をモチーフとするドグダリアンは、かつてシリカに襲い掛かった植物系のモンスターを思わせている。状況が酷似している為、当然ながら彼女もデジャブを感じ始めていた。

「って、またこのパターンですか!? 恥ずかしいから、やめてくださいよー!!」

 ツッコミを入れながら彼女は、自身が感じている恐怖心と羞恥心を赤裸々に吐き出している。左手でスカートを必死に抑え込みながら、右手に持ったダガーを振り回し抵抗を続けていた。不憫さや危機を感じさせる訴えは、リズベットやピナにも届いている。

「ナー!?」

「シリカ! 今助けに――」

 と彼女らも救出に向かおうとした時であった。

「そうはさせるか! イチィィィ!」

「って、また怪人なの!?」

 行く手を阻むように白い怪人が堂々と立ちはだかる。その正体は同じくショッカー怪人のシードラゴンであった。タツノオトシゴを模した改造人間で、右手に装備している鞭を使いリズベットへ襲い掛かろうとしている。

「お前らを真っ黒に染めてやるぜ! イチィィィ!」

「ハッ! 避けて、ピナ!」

「ナー!」

 脅しをかけながらもシードラゴンは、鞭を振り回しながら攻撃を仕掛けていく。ただならぬ恐怖を感じてリズベットやピナが避けていると、近くにあった岩石へ鞭が当たっている。すると岩石は黒く焦げあがっており、あられもない姿へと変えられていた。

「これって……」

「ナ……」

 予想外の出来事に彼女らも釘付けになっていると、シードラゴンは自ら説明を繰りだしていく。

「俺の鞭には大量の電流が組み込まれているのだ! これでお前らも感電死させてやる! イチィィィ!」

 自白後も態度を変えることはなく、リズベットらを倒すために襲撃を再開している。当然彼女達も警戒心を高ぶらせながら、意地でも攻撃を避け続けていた。緊迫感漂う攻防であるが、傍から見ればただの追いかけっこでしかない。逃げ続けている間にも、シリカはまだ吊るされたままであった。

「助けてください~! 全然脱出出来ないんですけど~!」

「ヒーヒ! 苦しむがいい! いつでもお前を倒す事は出来るのだからな!」

 悲痛なる想いを叫び続けながら、未だに彼女はリズベットらの助けを待ち続けている。戦況は依然として劣勢が続き、怪人の能力によりどちらも追い込まれてしまった。捕らわれてしまったシリカと、電流鞭を避け続けるリズベット。逆転の可能性は低いと思われていたが――

「くっ……どうすれば? ……あっ、そうだ!」

ここでリズベットがある作戦を閃いている。もし上手くいけば、怪人達による自滅が可能となる作戦であった。早速ピナに指示を加えて、実行へと移し始めている。

「ピナはシリカを救い出して! アタイはあの白い怪人をおびき寄せるから!」

「ナー!」

 彼女からの指示を聞き取ると、ピナは高速でシリカの元へと向かい、足元に絡んでいるツタをかじり始めていた。

「ピ、ピナ!? ようやく来てくれたんですね!」

「ナー!」

 主人を助けるためにも、その期待に応えようとしている。しかしドグダリアンは、ピナの行動を快く思ってなどいない。

「何をしている! いいからツタに噛みつくな!」

 もう片方の手で新しい鞭を作り出し、ピナへ向けて攻撃を始めていた。その直後に彼は場を離れて、空中を飛行しながらドグダリアンの気を誘っている。

 一方のリズベットは、一か八かで攻撃を避けながら順調に作戦を進めていた。

「ハァ! よっ!」

「いい加減感電しろよ、小娘!」

 彼女を執念深く追いかけるあまりに、怪人は周りすらも見えなくなっている。

 頃合いを見定めたリズベットは、ドグダリアンとの距離を縮めながら、遂に実行へと移し始めている。

「今よ! ハァァ!」

 助走を付けて大きく飛び上がると、手にしていたメイスを握りながら、シリカを捕えているツタへ狙いを定めていく。

〈シュパーン!〉

 トゲの付いた部分を利用して、先程ピナが噛みついた箇所を切り裂いていった。この直後にピナはシリカの元へと駆け寄り、リズベットも落下する彼女を抱きかかえて救っている。

「リ、リズさん!?」

「作戦成功よ! 後はアイツらが自爆するのを待つだけよ!」

「自爆? 一体何を……」

 意味深な言葉につい首を傾げているが、その理由はすぐに把握できていた。

「イチィィィ!」

「って、待て! こっちへ来るな――ギャャャ!!」

「イチィィ!?」

 なんとシードラゴンの振り回した電流鞭が、ドグダリアンの体へと触れて感電を起こしたのである。同時にシードラゴンも電流を浴びる事となり、ダメージを負う羽目になった。さらにドグダリアンは花をモチーフとしており、電流から発せられた火が引火して体中を燃え上がらせていく。シードラゴンにも引火しており、結果二体の怪人は互いの能力がアダとなってそのまま倒れ込み、大きく爆発していった。燃える炎を背景として、リズベットは地へと着地しシリカを解放していく。

「こ、これは凄い爆発ですね……」

「まぁ相手は植物系の怪人だからね。ギリギリで思いついた考えが功を奏したってわけね」

「ナー!」

「むしろ危機一髪ではないでしょうか……?」

 相打ち作戦の成功を喜ぶリズベットやピナであったが、シリカは野暮にも賭けのある作戦だと聞きどこか複雑な心境を抱えていた。いずれにしろ助かった事に変わりは無いため、丁寧に感謝を伝えていく。こうして彼女達も気を取り直して、次なる戦いへと進んでいた。

 

「行くぞ! エギルに辰馬!」

「おう!」

「了解じゃき!」

 そして高杉、エギル、坂本の男三人も順調に戦いを勝ち進めている。眼前に広がっている三体の怪人や戦闘員の大群を打ち倒す為にも、横列を崩さずに突き進んでいった。

「くたばり散るがいい! ムウー!」

 すると怪人の一体であるGODの改造人間ミノタウロスが、三人の行く手を阻んでいく。角の手から次々と遠距離攻撃を放ち威嚇を図ってきたのだが――

「その手には乗らんぞ!」

「ハァァ! 恐れずに進め!」

三人には一斉効いてはいなかった。ただひたすらに走り続けて、自らの意志を曲げずに行動している。爆発を潜り抜けて、遂に真っ向から衝突していく。

「ハァ! トォア!」

「オラァ!」

「ここぜよ! トォ!」

 刀や斧と言った武器を握りしめて、まずは多勢に襲い掛かる戦闘員らと戦っていく。拳を用いるゲルショッカー戦闘員や、ナイフを扱うコンバットロイドと戦法は各々まばらであったが、三人は気にすることなく攻撃を続けている。

 素早い剣裁きで圧倒的な実力を見せる高杉。巨体を生かして豪快な技を披露するエギル。正確かつ軽い身のこなしで戦う坂本。戦い方は違うがそれぞれの持ち味を現していき、次々に戦闘員を一掃していく。

「ギィーッ!!」

「イー!!」

 遂には場にいた数十人ほどの戦闘員達を、数分の間に全て倒しきってしまった。勝ち進み勢いをつける高杉らの元に、こちらも怪人達が襲い掛かってくる。

「ムウー!!」

「くっ! とうとう怪人共のお出ましか!」

 エギルに真っ向から挑んだのは、先ほど遠隔攻撃を放ってきたミノタウロスであった。手の甲に付けられた半円状の盾を装備して、肉弾戦で勝負を挑んだのである。

「ソーリィ!」

「こっちはサソリとトカゲか……面白い組み合わせぜよ!」

 坂本にはゲルショッカー出身の合成怪人、サソリトカゲスが立ちはだかった。二つの動物の特性を生かして、自信良く勝負を挑んでいる。そして高杉にも一体の怪人が戦いを仕掛けてきた。

「ここは俺が相手をしてやる!」

「ふっ……受けてやろうじゃないか」

 バダン帝国のサイボーグ、バラロイドが姿を見せていく。植物上のツルを使って、接近戦で決着を付けるようだ。

 三対三で始まった個別の一騎打ち勝負。互角の戦いが続くと思いきや、勢いの付けた高杉ら三人が早くも決着を付け始めている。

「フッ……オラァァァ!!」

「ムウー!!」

 斧と盾が激突して、力任せの勝負が続いていくエギル対ミノタウロス。持久戦へと持ち込む中で、追い風が遂にエギルへと向き始めていく。

「まだだ! ハァァ!!」

「ムウー!?」

 溜め込んでいた制御を徐々に解除していき、自分の持っている力を斧へと集中していた。次第にミノタウロスも押されてしまい、劣勢へと追い込まれていく。

「ならばこっちもじゃ! せい!」

「ソー!?」

 時を同じくして坂本も、秘策であった技を繰り出していく。大きく空へ飛び上がっていき、空中を一回転しながら、サソリトカゲスへと攻撃を仕掛けてきたのだ。

「行けぇぇ!!」

「ソーリィ!?」

 無防備であった背中へ斬りかかると、サソリトカゲスは極端に痛がり地へと崩れていく。弱点が偶然にも直撃して、予想よりも大きいダメージを受けてしまう。

「ハァ!」

「フッ! そこだ!」

「何!?」

 一方で高杉対バラロイドにも進展があった。繰りだしてきたトゲ付きのツルを、高杉がなんと素手で掴み、そのまま的確に切り落としていく。

「おのれ、ツルを斬るとは!」

 体の一部を斬り落とされて激情に駆られるバラロイドに、高杉は隙を見計らい必殺技へと行動を変えてきた。

「今だ! ハァァ!!」

「クワァ!? ギャャャ!!」

 シンプルにも真っ二つに切り裂く剣技で、この戦いにとどめを刺している。実力を存分に発揮する高杉らしい戦法であった。

 各々の必殺技で決着付けたこの勝負。倒されてしまった怪人達は、限界を迎えて爆発していった。燃え上がる火を目にしながら、三人の戦士は勝利を強く受け止めている。

「やったぜよ! ワシらの勝利じゃき!」

「いや、まだ幹部が残っている。油断は決してするなよ」

「分かっているぜ、高杉さん。こっちもより本気を出していくからな」

 喜びを上げる者や次の戦いへ備える者。各々異なった感想を口にしていた。

 

 順調な戦いを続けている銀時ら十六人の戦士達。微かな希望が見え始めている中で、遂にショッカーの幹部怪人や首領が牙を向いていく。

「復活まであと少しだ……」

 合戦はまだ続く……

 




ユーザーのみなさまへ
 コメント欄でよくリクエストを頂きますが、残念ながら本作では受け付けておりません。ご理解を頂けると幸いです。

 さて、四か月ほど続いた夢幻解放篇もいよいよクライマックス! 予定では後二話か三話でまとめるので、最後まで是非ご覧ください。それにしても、戦闘パートの分量は多い!

次回予告
「見るがいい! ショッカーの底力よ!」
 遂に始まる最終局面! チサを救う為に……元の世界へ戻る為に……彼らは決して諦めない!
「行くぞ、キリト」
「ああ、銀さん!」
夢幻解放篇十一 過去の意志


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第三十七訓 過去の意志

あらかじめ言っておきます。この回で戦いは終わりません! 一部は次回に持ち越しになります。何よりも文章量が多すぎるので……それはさておき、今回は幹部戦です。強力な相手にどう立ち向かうのかご覧ください。戦闘場面ではお好みのBGMやかっこいいアニソンを流すとそれなりに盛り上がりますよ。


 長期的な戦いを見せるショッカーとの合戦。銀時やキリトらが怪人の大群を蹴散らす一方で、キバオウやパクヤサらも仲間を率いて戦闘員を次々に倒していく。

「怯むな! 続け!!」

「恐れずに突き進むのだ!」

「我らの勝利の為にな!」

 共に戦う仲間達へ指揮しながら、一丸となって戦い続けている。

 そして銀時ら十六人と二匹にも動きがあった。大群を倒して全員が合流すると、荒野の奥で佇んでいた黒幕、ショッカー首領の元へと辿り着いている。戦いに終止符を打つ為に、みな真剣な構えで覚悟を決めていた。

「遂に見つけたぞ、ショッカー首領!!」

「チサを取り戻して、元の世界へ帰らせてもらうよ!!」

「アタイらを苦しめた分、きっちり返させてもらうぜ!!」

 別世界の銀時、キリト、アスナが順々に首領へ向けて、強気に声を発していく。同時に仲間達も武器を握りしめて、敵意を露わにしていた。一方で当の本人は、取り囲まれてもなお平然とした態度で接していく。

「ハッハッハッ! よくぞここまで来たな! ……だが! 私に敵う事は出来ぬぞ!」

 高らかに笑い声を上げると、彼は自身の一つ目を発光させて、そこから無数の火炎弾を解き放ってきた。威嚇射撃のように銀時やキリトらに牽制を図っている。

「ハァ!!」

「危ない! みんな伏せろ!」

 咄嗟の判断で本物のキリトが呼びかけて、全員が首領の攻撃を避けていく。中には武器を盾代わりにして、火炎弾を防いだ者までいた。突然の奇襲にさらなる警戒心を強めていると、首領の元には五体の幹部怪人が集結して、早速指示を加えている。

「お前らの相手はこいつらだ! 仲良く遊んでもらうのだな!」

「イカ―!!」

「ガラァ!!」

「スティール!!」

 得意げに鳴き声を発していき、怪人達は意気揚々と銀時らの元へ襲い掛かっていく。各々の特性や武器を生かしながら、彼らの足止めを図ってきたのだ。

「こ、こいつらは……」

「大ボスの元になった怪人達ね……いわゆるラスボス戦ってところかしら!」

 アスナらも必死に対抗して戦闘を始めていくが、やはり幹部級とあり戦闘力には大きな差が生じている。一体の幹部怪人に付き、二、三人は相手にしないと互角には張り合えない。元凶が近くにいるにも関わらず、思わぬ足止めを食らってしまった。

「くっ……こいつら強い!」

「やはり、簡単にはいかせないという事か……」

 苦戦を強いられてしまい、新八や高杉もつい心の内を声に出している。全員が幹部怪人との戦いで躍起になる中で、ショッカー首領は自然と場を去って、自分だけが逃れようとしていた。

「あっ、待て! ショッカー首領!」

「ここで逃がしてたまるかよ!」

 彼の行動に気が付いた別世界の銀時やキリトは、がむしゃらに場を突き抜けて、二人で首領を追跡していく。掴みかけた好機を逃がさぬ為にも、必死で走り出していた。

「そうはさせぬのだ! ショッカーに反抗する者たちよ!!」

 当然幹部達もただで逃がすわけもなく、怪人の一体であるアポロガイストが彼らを追いかけようとしたが――

「おっと! ここからは先は通さねぇよ!」

「悪いが通行止めなんでね。俺達が相手させてもらうよ!」

「何……!?」

目の前に本物の銀時とキリトが立ちはだかり、こちらも足止めを企てていく。余裕の表情を見せながら、アポロガイストを相手取っていた。

(後はお前等次第だ。しっかりとやっつけろよ、もう一人の俺……!)

(今の君ならきっとチサを救えるよ。頼んだぞ……!)

 共に心の中では別世界の自分を信じており、彼らに希望を託して勝利を祈っている。この戦いの運命は、この場にいる十六人によって委ねられていた……

 

 ショッカー首領を追っていた銀時とキリトは、次第に彼の元へと追い付いていき、堂々と前の行く手を阻んで強制的に戦いを挑んでいた。

「もう逃がすか……ショッカー首領!」

「アンタを絶対に倒して、こんな戦いを終わらせてやる!」

「ふっ……たった二人で挑むとはいい度胸だ。私が返り討ちにしてくれようぞ……!!」

 長剣や木刀を向けながら強気に接していく二人であったが、首領も同じように高らかな自信を持っている。共に目つきを鋭くさせて、一歩も引かない状況が続いていた。荒野にて行われる決闘が始まる一方で、首領にはある切り札が残されている。

「そうだ。私も本気を出さなければな……ハァ!!」

 そう呟くと同時に、彼は腕を下ろして全身を変化させていく。赤いマントだけを残し、異形であった顔や肉体を人間の姿に差し替えていた。

「な、何……?」

「嘘だろ……?」

 首領の思惑通りに変化後の姿には、銀時やキリトも驚嘆して言葉を失ってしまう。予想外の展開に、彼らも強い動揺を露わにしている。

 その容姿は――数分前に見せたチサと酷似していたからだ。

「どうだ? 随分と似合っているであろう?」

 度肝を抜かれた二人の反応を面白がるように、首領はチサの顔でニヤリと笑みを見せている。予測通りに事が進み、この状況を存分に楽しんでいた。容姿だけでなく声色すらもチサに似せており、本物と同じ仕草でさらなる動揺を与えている。

 そして銀時とキリトは、首領が化けたチサの姿に思わず抵抗を覚えていた。するとキリトが、ようやく声を発していく。

「なんで、チサの姿にまた化けたの?」

「戦いやすくするためだ。かつての仲間が敵として立ちはだかれば、この上なく面白いことになるからな! ハッ! ハッ!」

 彼からの問いに、首領は悪びれることなく高笑いで答えを返している。キリトらとチサの縁を利用して、精神的なショックを与える悪質的な行為であった。作戦にはめられていく二人だが、ここは一旦互いの顔を合わせて、静かに心を落ち着かせる。そっと肩の力を抜くと、自らの想いを次々に吐き出していた。

「面白くなんかねぇよ。勝手に煽りやがって、何を笑ってんだ!! 本当に外道だな……お前は!」

「もうチサを苦しませないでよ……例えどんな姿に変わろうと、僕等は決して負けないからな!!」

 姿を変えていく首領に、さらなる怒りをぶつけていく。手にしていた刀や長剣を強く握りしめて、二人は彼女を救い出す覚悟を決めている。対抗するように首領も、チサが得意とする両手槍を手に持ち、戦闘態勢を整えていた。

「だったら来い。ショッカーの名の元に、お前達から消し去ってくれよう!」

 相手が二人であろうと、気にせずに戦いを望んでいる。未知数の能力を持つ首領にも、彼等は敢然と立ち向かう。チサを取り戻して、自分のいた世界へ帰るために。命懸けも承知で二人は、最後の戦いへと赴いていく。

「ハァァ!!」

「行くぞ!!」

「ああ!!」

互いの武器を衝突させて、運命の勝負が遂に始まった……!

 

 一方で幹部怪人を相手にする銀時ら十四人と二匹は、依然として苦戦を強いられている。自分の持てる全力を出し切りながら、必死に抗って戦い続けていた。

「「「ハァァァ!!」」」

 刀やダガーを握りしめて、一体の怪人へ集中攻撃を仕掛ける桂、クライン、シリカの三人。ピナもサポートに回して、戦略的に場を進めていく。

 そんな彼らが戦うのは、ネオ生命体の一種であるドラス。バッタのような容姿をした怪人で、物質を取り込む再生能力と肩からの破壊光線を、能力として持ち合わせている。

「ドォア!!」

「「ウワァァァ!!」

「キャッ!!」

 故に三人揃っての攻撃も、光線によって返り討ちにあってしまう。軽い擦り傷で済んだ桂達であるが、一歩間違えれば命すらも危うい攻撃であった。するとドラスはゆっくりと口を開いて、声を発していく。

「どうしたのお兄ちゃん達? もっと僕を楽しませてよ。そうしないと、殺しちゃうよ?」

 恐ろしげな見た目に反して、その声は少年のような響きであった。戦いを遊びのように楽しむ姿は、さながら子供っぽさを覚える始末である。当然桂ら三人も、この声にはテンポを崩されていく。

「なんて奴だ……見た目は大人で声が子供とは、逆コ〇ン君かアイツは!?」

「そんなボケはいいですから、どうにか隙を見て倒しちゃいましょう!」

 桂からのボケを受け流して、シリカが根気よく場の士気を高めている。戦力の差を埋める為にも、相手を見極めながら持久戦へ持ち込む作戦に移っていた。

「そうだな! 諦めずに進もうじゃねぇか!」

「ナー!」

 クラインやピナも声を上げて、今一度気合を上げている。武器をドラスへ向けると、集中力を高めて狙いを定めていた。攻略に向けて、彼らは一歩前進している。

「行くぞ!」

「「「ハァァァ!!!」」」

 発射される光線に怯むことなく、三人は大声を上げて勇敢にも立ち向かっていく――

 

 桂らと時を同じくして、坂本、エギル、リズベットの三人も幹部怪人を相手に苦戦を強いられている。

「スティール……!!」

「おっと! 危なかったぜよ……!」

 振り回してくる鉄球を避けていき、ひとまず安心する辰馬。三人と戦いを繰り広げているのは、デルザー軍団に属する鋼鉄参謀。他の幹部怪人よりも大柄であり、鉄で覆われた上半身と武器である巨大鉄球を巧みに操るパワー系の怪人だ。おかげで攻撃もロクに与えられず、相手からの鉄球をただ避けるだけで時が進んでしまう。

「こいつめ……固いし厳ついし、モンスターと大して変わりはないな」

「あの鉄球に当たったら、一溜りもないからね……」

 みな深刻な表情となって、攻略への道筋を探るため慎重に動いている。消極的に戦う彼らの姿に、痺れを切らした鋼鉄参謀は自らの声で強気に喧嘩を売っていく。

「フッ、弱腰共め。中ボス戦での勢いはどうした? もっと俺に近づけ。正面から徹底的に潰してやるからな……」

 渋い男性の声を発しながら、高らかに勝利宣言を掲げている。これには坂本らも黙ってはおらず、互いに目を合わせて、押さえていた気持ちを解き放ってきた。

「完封じゃと? そんな事はさせんぜよ!」

「力だけならば、俺だって負けてはいないぞ!」

「鉄は鍛冶屋にとって慣れているんでね……打ち倒すくらい簡単な事よ!!」

 攻撃を恐れずに突き進む根性を三度心へ思い起こしている。僅かにあった迷いも無くしながら、三人は各々の武器を握りしめて前を向いていた。鋼鉄参謀へ狙いを定めて、その場の勢いで突き進んでいく。

「「「ハァァァ!!」」」

「愚かな真似を……これでも食らうがいい!!」

 迫力負けすることは無く、鋼鉄参謀も洗礼として鉄球を用いた奇襲攻撃を仕掛けている。しかし恐れを捨てた三人にとっては、何の効果も無かった。鉄球を避け続けながら、一瞬の隙を狙う攻防は続いていく……

 

「行くぞ、もう一人のアタイ!」

「オーケー! 一緒に行くわよ!」

 一方でこちらは、変わった幹部怪人を相手にする二人のアスナと神楽。奮闘しながら戦っているのは、軟体動物を模した幹部怪人であった。

「ゲソゲソ!!」

「グワァァ!」

「ウワァ!」

 堂々と正面から攻撃を加えようとしたが、怪人の伸ばした触手により、いとも簡単に跳ね返されてしまう。地へ落ちたところで、神楽が真っ先に駆けつけてくる。

「大丈夫アルか、アッスー達!?」

「ええ、なんとかね。とんでもない不意打ちを食らったわ……」

「あんなふざけた野郎にやられるなんて、真っ平ごめんだけどな!」

 冷静に場を読み解く本人に対して、もう一人のアスナは感情的になって怒りをまき散らしていた。三人が相手にしている幹部怪人は、イカ型の改造人間であるスペースイカデビル。イカのような白い外見が特徴的であり、伸縮自在の腕を使って、自由に攻撃を仕掛けられる強敵であった。実力も十分にあるが、何よりもアスナを苛立たせるのは彼の性格にある。

「イカカ! これで終わイカ? 全然イカしてないじゃないか、ゲソゲソゲソ!!」

 イカやゲソと言った単語を多用して、神楽やアスナらを煽りにかけていく。彼女はこの小馬鹿にする性格がどうしても我慢にならなかった。

「聞いたか、今の!! 完全にキバオウと声も似てるし、腹立つんだよ!! 色々と調子が狂うし、どうにか黙らせろよ!!」

「そ、そんな事私に言われても……」

 強張った表情になりながら、もう一人のアスナは本人に対して無理な提案を押し付けてくる。やや興奮状態となっており、冷静になるのも時間がかかりそうであった。さらに同じくして、その怒りは神楽にも伝わっている。

「でもムカつく事に変わりは無いネ! 完全におっさんのノリには、私も付いていけないアル! ここは一緒に倒して、スルメに仕上げるネ!」

「おおー! それはいい考えだな! おやつに丁度良いじゃねぇか!」

「って、二人で何を企んでいるのよ! 呑気な事を言う前に、早く戦闘態勢に入って!!」

 場違いな神楽の提案にも、彼女は本気で乗っかっており、本物のアスナからは強めのツッコミを入れられていた。他の仲間達の戦いとは異なり、若干緊迫感に欠けた展開がここでは繰り広げられている。

「お前等はボケてる場合じゃなイカ! さっさとゲソっそりにさせてやるからなー!」

 遂には敵であるスペースイカデビルですら、戦闘を促してくる始末であった。彼からの一喝によって、場の空気は再び神妙に戻っていく。

「どうやら細かい事を気にしてる場合じゃないようだな」

「さっさと倒して、スルメルートに突入するアル! 行こう、アッスー!」

「……とりあえず、二人共落ち着いてから作戦を立て直しましょうか」

 感情の起伏が激しい二人をまとめるには、本物のアスナでさえも苦労を感じている。今一度戦闘態勢を整えていく中で、彼女だけがため息を吐いていた。少しの不安を抱えながらも、彼女達の戦闘はようやく再開していく。

 

「ガルァ!」

「おい、あっちだ! 気を付けろ!」

「はい! くっ……!!」

 さらにアスナらの近くでは、高杉と新八がノバショッカーの幹部怪人であるウルガと戦っていた。ハイエナの特性を持つ怪人であり、俊敏なる動きで二人を翻弄している。冷静にウルガの動きを見定めており、新八が木刀を使って力尽くで抑えようとしたが――

「ラァァ!!」

「ぐわぁ!」

「……駄目か」

敢え無く負けてしまい、彼は突き飛ばされてしまう。素早く動くが為に、決定的なダメージを与えられぬまま場が進んでいる。とここで巨大な獣が一体、この戦いに乱入していく。

「ワン!」

「行ってください、定春! あの怪人を取り押さえて!」

 その正体はユイを乗せていた定春であった。彼女の指示の元で戦場を駆け抜けており、幹部戦にも当たり前のように姿を見せている。彼女らも勢いに乗っかっていたのだが……

「ハァァ!!」

「ウウ!? ワフー!?」

「えっ? きゃっ!?」

ここで思わぬ不意打ちを受けてしまった。ウルガの口から放ってきた透明な衝撃波によって、定春が動きを急停止してしまう。同時に乗っていたユイもバランスを崩してしまい、振り落とされてしまった。

「ユイちゃん!?」

「何!? チッ……!」

 彼女の身を守る為にも、ここで近くにいた高杉が咄嗟に動く。両手を広く伸ばして、落下する位置を予測したところで――ユイは何事も無く助かっている。

「えっ? アナタが助けてくれたんですか?」

「ああ、そうだ。ガキのくせして無理するんじゃねぇよ。俺達に任せておけって」

「それは出来ません! 私だって見ているだけじゃ駄目なんです! 一緒に戦って、皆さんの力になりたいんですよ!」

「……ったく、分かったよ。その代わり、もうへまはするなよ」

 子供という理由で彼女を気遣う高杉であったが、ユイの強気な態度には返す言葉も無かった。真剣な表情を目の当たりにして、つい心では妥協を許している。とそこへ、新八や定春も駆けつけてきた。

「高杉さん!! ユイちゃんは、大丈夫でしたか!?」

「ワフ―!?」

「ああ、何てことは無いよ。それよりも、あの幹部を倒すには総出で立ち向かうしかなさそうだな……お前らもしっかり手伝えよ」

「もちろんですよ!」

「ワン!」

 互いの無事を確認すると、高杉は自らの提案で協力を呼び掛けている。近くにいた新八や定春が返事をすると、今度はユイが言葉を返してきた。

「そうです! 私だって、手伝いますからね!」

「ああ。だがな、いざとなったら意地でも逃げろ。自分の身だけは必ず守れよ」

「……はい。分かりました!」

 彼女の固い意志を否定はせずに、高杉は安全を気遣いながら、彼女を共に戦う仲間として認識している。微かにある優しさを感じ取って、ユイもさらなる責任感を高めていた。

 こうしてウルガには、高杉、新八、ユイ、定春と言った滅多にない混合チームで相手にしていく。即席ではあるが、そのチームワークは申し分ないほど高まっている。

「では、行くぞ」

「「はい!!」」

「ワン!!」

 こちらの戦いもさらに激化していた。

 

 そして一段と激しい戦いを繰り広げるのは、坂田銀時とキリトの二人。太陽神を模したGOD機関の大幹部、アポロガイストを相手に立ち向かっていた。

「ガイストカッター!!」

「キリト、今すぐに避けろ!」

「分かった! ハァ!!」

 ブーメランのように投げつけた盾、ガイストカッターを反射的に避けていく二人。互いに相手の動きを読み取りながら、逐一声をかけて順調に戦っていた。一方のアポロガイストは、ガイストカッターだけではなく、細身の刀であるアポロフルーレを取り出して、銀時やキリトに襲い掛かってくる。

「これで終わりなのだ! さっさと散れ!」

「させるか!!」

 近場にいたキリトが反射的に動くと、エクスキャリバーを含めた二本の長剣を使い、アポロフルーレを力づくで取り押さえていく。「ギチギチ」と武器同士で擦れる音が、場に響き渡っている。長剣と細刀で大きさに差があるが、どちらも梃子でも動かずにこう着状態が続いていく。

「くっ……何故貴様らは抵抗して戦うのだ? ショッカーの軍門に下れば、さらなる力を得られるのだぞ! お前が求めているのも、力ではないのか?」

「悪いが俺はそんなのに興味は無いよ。力なんて自分自身で掴むモノだからな。それに今必要としているのは……」

 怪人の考えなどは聞く耳を持たずに、キリトは自らの意志を強く貫いている。さらに意味深な言葉を呟いたところで、

「ハァァァ!!」

「グワァ!?」

真横から銀時が援護攻撃を加えていく。木刀で殴りかかっていき、アポロガイストへ予想外のダメージを与えていた。絶妙なタイミングによる攻撃は、銀時自身も誇らしげな気持ちでキリトへと話しかけている。

「俺の手助けだろ? お前も粋な事を言うようになってきたな」

「いやいや。銀さんじゃなくて、いつもの万事屋って言いかけたんだよ」

「ったく、素直じゃねぇな。さすがは黒の剣士だな」

「白夜叉も同じだと思うよ」

 互いに冗談を交えつつも、二人はそっと笑みを浮かべていた。時に見せる戦いでの相性が、存分に発揮された瞬間である。

「何を呑気に喋っているのだ!! 黒と白の男共よ!」

 追い打ちを受けたアポロガイストは、大きく怒りを露わにすると、手にしていたガイストカッターを再び投げつけていく。油断をしている二人を狙った奇襲攻撃であったが、

「二度も同じ手は食わねぇよ!」

「そのまま、切り裂いてやる!!」

すぐに気付かれてしまい、そのまま木刀と長剣によって綺麗に切り裂かれてしまう。返り討ちどころか、武器であった盾すらも失ってしまう結果を生み出していた。

「おのれ、貴様ら……!!」

「「ハァァァァ!!」」

 さらなる憎しみを糧にするアポロガイストと、一つの目的のために立ち向かう銀時とキリト。志の違う三人の剣士達は、次々に剣や刀をぶつけていき、己の信念を貫く為に戦いを続けている。

 

「ハァ! トウ!」

「セ、セイヤー!」

「ハハハ! この状態でどこまで立ち向かえるか?」

 一方もう一人の銀時とキリトは、チサの姿に化けたショッカー首領と激突しており、武器をぶつけ合ってひたすらに攻撃を続けている。互いに接近戦を展開しているが、やはりチサを相手にするのは共に抵抗を覚えていた。銀時は気持ちを押し殺しながら戦っているが、キリトは思うままに攻撃が出来ずに調子が狂っている。

「キリト、大丈夫か?」

「ああ。でも、やっぱり調子が上がらないよ」

 苦い表情をしながら彼は、赤裸々に胸の内を語っていた。一旦体勢を立て直す中で、ショッカー首領も一度呼吸を整えていく。その間にも彼らの心の変化を察して、精神的に追い詰めている。

「どうした? こんなものか、お前達の強さは? 折角モンスターと戦わせて、ついでに強くさせてやったのに……相手が仲間と言うだけでこの体たらくとはな」

「お前……! 俺達をどこまで欺く気だよ……!」

 煽るように言葉を発しており、さらなる怒りを買っていた。当然銀時は噛みつくように怒りを感じているが、キリトは対照的に黙ったままである。首領が化けたチサを偽者だと払拭できずに、心では迷い続けていた。そんな悩みを抱える彼に向けて、首領はある非情な現実を突きつけていく。

「さぁな。ところで黒い方に良い事を教えてやろうか?」

「ぼ、僕に……?」

「ああ。例え私を倒してチサを取り戻したとしても、彼女とはもう会う事は出来ぬぞ。彼女は別の世界の人間だからな。いずれは別れが来ることを、お前も知っていたはずだ」

「そ、それは……」

「戦う中で感じなかったのか? チサもお前の仲間である侍も、共にいる時間が限られている事を。いずれはバラバラの世界へと戻り、お前には何も残らなくなる。随分と寂しくないか?」

 首領からの問いかけに、キリトは再び口を閉ざしてしまった。いずれは起きる仲間達との別れを例に上げて、さらなる精神的追い打ちを彼に与えていく。策に陥ろうとするキリトに、銀時が咄嗟に警鐘を鳴らしている。

「これ以上聞くなキリト! 奴からの言葉を間に受けるな! 今は戦いに集中しろ!」

「無駄だ! どんなに抗おうと、お前に待つのは孤独だけだ。辛い思いをするよりは、私やチサと共にショッカーへ入らぬか? 共に理想の世界に仕立てようではないか……」

 食い気味に首領も会話へと介入して、とどめの誘いを呟いていく。チサのみならず、迷いが生まれているキリトすらも手中に収めて、利用しようと画策していた。人の弱みに付け込むその姿は、悪魔と言っても過言ではない。

 策略に乗せられようとするキリトだが、顔をうつむかせてゆっくりと歩みを進めている。首領の元へと向かっており、完全にペースへ飲み込まれていた。

「おい、キリト!? 行くな! 何を考えているんだ! 首領の考えに乗るつもりか!?」

 銀時が必死に呼びかけても返事は返ってこない。魂の無い抜け殻のように、背後の姿には喪失感が漂っている。場の流れは首領の思惑通りに動き始めていた……

「勝負あったな。さぁ、私と共に――」

「悪いけど、断るよ」

「はぁ?」

わけではなかった。急に口を開いたキリトは、顔を上げると同時に手にしていた長剣を、首領へ振りかざしていく。予想外の攻撃であり、彼は無防備のままダメージを負っている。

「ハァァ!!」

「くっあ!? 貴様何を考えて……」

 睨みを利かしながら問いかけると、キリトは一度深く呼吸をして、自らの想いの丈を大声で吐き出していく。

「僕達がバラバラの世界から来たのは、既に分かっていたよ。一緒に戦ってくれた銀さんや、励ましてくれたチサも、いずれ別れが来るって……でも、だからそれでいいんだよ! みんなにとっての居場所に戻れるなら、それを受け入れて後押しするべきだって! 永遠の別れだとしても、ここで築いた記憶はずっと残り続ける! それなら僕は、十分なんだよ……」

 目には大粒の涙を浮かばせながら、彼は自身の決意を存分に話している。今まで溜め込んでいた感謝や、運命を受け入れる覚悟。仲間と紡いだ絆の数々を全て言葉に諾していた。この行動は銀時自身も驚かされており、つい言葉を詰まらせるほどである。

「キリト、お前……」

「銀さん! もう迷いは一斉無いよ! だから……さっさと倒そう! チサの偽者を!」

「……ああ。また足なんか引っ張るなよ!」

「もちろん!」

 涙を拭ったキリトは、屈託のない笑顔を見せて強気に勝利を誓っている。彼の本気に触れていき、銀時も同じく覚悟を決めていた。一斉の迷いを全て捨て、チサを救い出すことで目的を一致させている。

一方で厚い手のひら返しを受けた首領は、感情を高ぶらせて敵意をむき出しにしていた。

「おのれ剣士共め……ただで帰れると思うな!!」

「いいや。帰らせてもらうぜ」

「アンタと決着を付けてからな!」

 表情をフッと笑わせながら、二人は果敢にも首領に全力で立ち向かっていく。その姿勢は数分前とは比べ物にならないほど変化していた。

 長く続いている幹部怪人との決戦も、終わりが近づいている……

 

「ドラァ!」

「また発射したか……!」

「気を取られないでください! 私が囮になるので、桂さんとクラインさんは集中して狙ってください!」

「おう! 任せておけ!」

 光線を巧みに操るドラスに立ち向かう桂達は、相手の能力を封じるために賭けの作戦に出ていた。小柄で俊敏なシリカが囮となって、その間に桂とクラインが発射装置のある肩を破壊する段取りである。重要な役割を担う彼女であるが、恐れは抱かずにドラスへ接近戦を挑んでいく。

「行きますよ! ハァ! トウァ!」

 武器であるダガーや身軽な戦法を用いて、次々に攻撃を与えている。ドラスからの物理攻撃も難なくかわしていき、場の主導権は彼女が握り始めていた。

「ハァ……! いいねお姉ちゃん。もっと僕を楽しませてよ!!」

 強く戦うシリカにドラスも気を惹かせており、彼女へ向けて早速光線を発射させていく。その間に彼女は指を鳴らして仲間に指示を加えている。

「今です!」

「待っていたぞ!」

「覚悟しやがれ!」

 一瞬の隙を狙ってシリカが光線を避けたところで、二人の侍が前線へと姿を現す。刀を握りしめながら、ドラスの肩にある発射装置に狙いを集中している。そして、

〈グサァ!!〉

「グワァ!?」

二人の刀は見事にドラスの肩を貫いていた。火花を散らしながら抜くと、場を離れてシリカの元へ合流する。作戦は成功して、ドラスの主要武器であった光線は使用不可となった。

「お兄ちゃん達もやるね……でも、全て無意味だよ!!」

 しかし彼にもまだ打つ手はある。隠し持っていた再生能力を発動させて、周辺にあった岩石で肩を再構築しようとしたが……

「させません! ピナ! バブルブレスです!!」

「ナー!!」

ここでようやくピナが動き始めた。シリカの指示で彼は、得意技であるバブルブレスを発射していく。相手の動きを止める効果があり、もちろんドラスも泡を浴びると、再構築を止めて体の自由を封じられてしまう。

「何!? 動かない……」

 想定外の技を受けた事で、若干の焦燥感に包まれている。またとない好機を生かすために、困惑している間を狙って、三人は怒涛の決め技でとどめへ斬りかかっていく。

「これで最後です! ハァァ!」

「俺達も行くぞ! トオァァ!!」

「おう! ホワァァ!!」

「グッ!? グワァァ!?」

 シリカを筆頭に桂、クラインの順でドラスの腹部に向けて次々と斬りかかっていた。この一撃に全力を懸けた三人の技によって、ドラスにはダメージが蓄積して肉体には限界が近づいている。

「……強いね君達も……最高だよ!!」

 彼女らの強さを認めたところで、彼は倒れ込みそのまま爆発していく。強力な能力を併せ持つドラスであったが、侍やテイマーのチームワークには敵わず敗れてしまった。

 一方の桂達は、ドラスを撃破すると同時に高く喜びを露わにしている。

「よっしゃー! 勝ったぜ!!」

「よくやったな、二人共」

「ピナの事も忘れないでくださいよ!」

「ナー!」

 全力を尽くした結果には、みなが大きい達成感を覚えていた。さらなる励みを受けながら、三人は勝利の余韻に浸っていく。

 

「力には力で勝負だ! ウォリャャャ!!」

「来い! スティール!!」

 さらに鋼鉄参謀を相手にする坂本らも、全面的に相手へ勝負を挑んでいる。まずは力に自慢のあるエギルが、斧を握りしめて攻撃を仕掛けてきた。相手も鉄球を持ち上げて、二つの武器が激しくぶつかっていく。

「貴様も強いな! だが俺には及ばない!」

「それはどうかな? お前の鉄球さえ無くせば、互角に張り合えると思うぜ?」

「何をふざけたことを……」

「ふざけてなどいないさ。ハァァァ!」

 たわいないやり取りを続けていると、ここでエギルが賭けへと動いている。手にしていた斧を急に手放して、全身の力を拳に溜め込んできたのだ。斧が刺さった鉄球は地へと落とされて、鋼鉄参謀の動きを止めている。僅かな油断を見計らい、彼から攻撃が仕掛けられた。

「今だ! ハァァ!!」

「はぁ? って、グハァァァ!?」

 力を目一杯に溜めた強烈な拳が、鋼鉄参謀の上半身へと襲い掛かっている。渾身の一発は頑丈な装甲にもヒビを入れており、こう着していた戦況を一気に作り変えていた。

「ハァ……やっぱりこれで限界か」

「アンタはこれで良いのよ! ここからはアタシに任せなさい!」

 しかし力を使い果たしたエギルは、息切れしながら疲れ切っている。そんな彼に代わって、今度はリズベットが戦いを挑んでいく。武器であるメイスを握りしめて、引き続きヒビの入った上半身を狙っていた。

「今度は女か……たわいもないな!」

「そうやってなめてていいのかしら? これでどう!?」

 嘲笑うように女子を挑発する鋼鉄参謀だが、彼女は気にせずに戦闘態勢を整える。助走を付けて勢いに乗ったところで、高くジャンプをしてメイスの先端を向けていく。そのまま相手へ突き刺すように、攻撃を加えていったのだ。

「ハァァ!!」

「何!? ダハァ!?」

 正面から受けた鋼鉄参謀は予測よりダメージを受けて、吹き飛ばされてしまう。さらにはヒビも大きく広がっており、自慢の装甲も少しずつ綻びている。まさに彼女の作戦通りであった。

「こ、これは……」

「アタシは鍛冶屋なんでね、鉄ならではの脆さは既に知っているのよ」

「そういうことか……おのれ!」

 鉄の扱い方に慣れているリズベットが一歩上手に戦っている。各々の攻撃を与えていく作戦は、鋼鉄参謀へ順調にダメージを与えていた。そして遂に、最後の大トリに運命が託されていく。

「さぁ、とどめよ! 辰馬さんにバトンを渡すわ!」

「オーケーじゃ! いよいよワシの出番ぜよ!!」

 意気揚々と坂本も大きく飛び上がると、刀を上へ掲げて斜め上から鋼鉄参謀へ向かっている。回転斬りの構えをして、得意の技で終止符を打つのだ。

「とどめじゃゃゃ!!」

「ナ……ス、スティールゥゥゥ!?」

 最後の攻撃は綺麗に決まっており、受け止めた鋼鉄参謀にも体力の限界が近づいている。さらには壊れかけた装甲が、ダメージを上手く吸収できずにいた。鳴き声を上げ続けながら……ようやく倒れ込み爆発していく。同じくして鉄の装甲もはじけ飛んでおり、思わぬ二次災害を生み出している。

「痛!? なんじゃこりゃ!? 置き土産が飛んできたぜよ!」

「最後の最後まで警戒が必要って事だな」

「ありがとうね辰馬さん! アタシ達の盾になってくれて」

「って、これじゃ褒められている気がせんぜよ!」

 その内の一つは坂本の背中に当たり、仲間内では和やかな会話が飛び交っている。勝利を手にしてこちらも、喜びの雰囲気に包まれていた。

 

「イカゲソ! さっさと捕まるイカ!」

「そうはいくかよ!」

「お前の触手ももう見飽きたネ!」

 一方でこちらは、スペースイカデビルを相手にする女子三人。腕を伸ばして捕まえようとする怪人の技を避けながら、着実にダメージを与えていく。もう一人のアスナと神楽が避けている内に、空中からは羽を広げた本物のアスナが攻撃を仕掛けている。

「ハァァ!!」

「何!? イカカ!?」

 振られてきたレイピアが皮膚へと当たっており、またも不意打ちを食らっていた。怪人の個性と相まってか、他の幹部よりも隙や油断を多く見せている。おかげで場の流れは、完全にアスナ達がリードしていた。

「よし! また成功したな!」

「さっきよりも戦いやすいからね。このまま一気に決めちゃうわよ!

「おうネ! 任せるヨロシ!」

 勢いに乗っかって三人は、攻める考えで一致させている。みなが勝利を確信しており、気楽な心構えでこの戦いに臨んでいた。対して幹部怪人であるスペースイカデビルは、隠していた秘策を披露して逆転を図っている。

「小娘共め……これでも食らイカ!!」

 唸り声を上げると同時に、手から紫色で三角状の魔法陣を生成していく。切り札として残しておいた魔法の力で、彼は奇襲を仕掛けていった。

「って、アレは……」

「まさかアイツは魔法も使えるってこと?」

「はぁ!? 反則だろうが! 何本気を出してんだよ!」

「うるさイカ!! スペースショッカーの魔法を味わうがいい! ゲソソ!!」

 聞く耳を持たずにスペースイカデビルは、意気揚々と魔法陣を解き放っていく。一瞬にしてアスナ達へ近づき、避ける暇も無く彼女達を吸い込んでしまった。

「「ギャャャ!!」」

「キャ!!」

 叫び声を上げてそのまま魔法陣の中へと消えてしまう。こことは違う場所へと転移しており、不利であった相手を退けて怪人は勝ち逃げを図っていた。

「イカカ! 愉快、愉快! このまま転移を続けて、永久にこの世界を彷徨うがイイカ!」

 予想通りに事が進み、笑いが止まらずにいるスペースイカデビル。相手を送り去ったところで、自分もこの場から去ろうとしていた。

「さて俺様は別の相手でも――って、イカカ!?」

 しかし、ここで彼は思わぬ攻撃を受ける事となる。背後の隙を突かれてしまい、突然の奇襲を許してしまった。その相手は――なんと先ほど別の場所に転移させたアスナら三人である。

「よくもアタイ達を勝手に飛ばしてくれたな……!」

「な、何故すぐ戻って来たんだ?」

「気付いたらお前の背後にいたからだよ。いや~幸運だったアルナ!」

「貴様ら……!!」

 魔法陣に吸い込まれた彼女らは、幸運にも近場で転移していた。おかげで時間もかからずに、この場所へと戻れたのである。

「はぁ! さぁ、これでとどめよ!」

 受けた攻撃を返すようにアスナ達は、目を鋭くさせてスペースイカデビルに狙いを定めていた。アスナらはレイピア、神楽は日傘を握りしめて決着を付けていく。勢いよく走り出して、次々に斬りかかるのだ。

「トリプル!!」

「ヒロイン!!」

「超絶螺旋斬!!」

「イカカァァァァ!?」

 即席で思いついた必殺技名を叫びながら、渾身の一撃を次々に決めている。各々の得意な戦法で相手にダメージを与えていった。

「女も怒れば恐ろしい……ゲソソー!!」

 悲痛な呟きを上げた後に、スペースイカデビルは倒れ込み爆発していった。本気を出した彼女達によって、あえなく敗北している。そして三人は、怪人を倒して歓喜に浸っていく。

「遂に勝利だぜ! やったな!」

「って、超絶螺旋斬ってどういうこと?」

「ああ、思いついた事をありのままに言っただけだ。かっこいいだろ!」

「確かに戦う乙女って感じがするアル! 流石は別世界のアッスーネ!」

「だろ! 共感してくれてアタイも嬉しい限りだよ!」

 中でも必殺技の名称で、もう一人のアスナと神楽が共感して二人だけで話が進んでいる。本物のアスナだけは、どこかついていけずにいたが。

「ここまで盛り上がっているなんて……でも、まぁいっか」

 それでも勝利を誇らしく思い、長い戦いが終わった事に安堵の表情を浮かべている。

 

「ハァ!!」

「セイ!!」

 そしてウルガと戦っている新八や高杉らにも動きがあった。相手の俊敏な動きを見極めながら、順調に攻撃を与えていたのである。長期的に戦いが続いており、いよいよ終わりが見えてきた。

「グルァ……」

「次は私達です! 行ってください、定春!!」

「ワフ―!!」

 さらなる追い打ちをかける為に、ここでユイを乗せた定春が動き始める。失敗した突進攻撃を再び発動させて、大きなダメージを与えようとしていた。しかし……

「ガルァ……ラー!!」

「キャッ!!」

またもウルガは衝撃波を使い、定春の動きを止めてしまう。徐々に勢いを失っていく彼女達には、仲間内でも不安が飛び交っている。

「また衝撃波!? 早く助けに行かないと」

「ここは俺達が回り込むか……」

 すぐにでも救い出す方法を画策していたが、その心配は無用であった。なんと急に定春が前進を続けて、ユイも同じように指示を加えている。突然の粘り強さを彼女達は見せていた。

「大丈夫です……定春は同じ手なんかに負けませんから!」

「ワフ……!」

 共感するように彼も強く頷いている。衝撃波を真っ向から受けながら、ゆっくりと進んでいき、遂には走り出すまでに行動範囲を広げていた。

 一方のウルガは、衝撃波を出し続けたあまりに、声を枯らして攻撃を止めてしまう。反動で動けない隙を狙い、定春はさらに走りを加速させている。

「今です! 定春―!!」

「ワフ―!!」

「ガラァ!?」

 そしてようやく、巨体を生かした突進がウルガへと当たっていく。苦労しながらも彼女達は、諦めずに自らの信念を貫いていた。渾身の攻撃を受けたウルガは、大ダメージによって取り柄だった素早さを一時的に失っている。まさに今が狙い目であった。

「今です! 新八さんに高杉さん! とどめを刺してください!」

「言われなくても分かってたら!」

「この一撃で決めてやる!」

 ユイに言われるまでも無く、新八と高杉は木刀や刀を構えて、ウルガの元へと駆け抜けている。目指すべき一撃に全てを駆けて、この戦いに終止符を打とうとしていた。

「ハァァァ!!」

「サァァァ!!」

「ガラァ!?」

 共に刀を振るわせると同時に、ウルガへ向けて一刀の斬撃を浴びせている。X型の字を描くように、二人揃っての必殺技で決めていた。

「ウルァ……!」

 この技が決め手となって、ウルガはそのまま倒れ込み爆発していく。ユイや定春が突破口を作ったことで、スムーズに戦いを終わらせることが出来た。

「やりましたね! 遂に勝つことが出来ましたよ!」

「よくやったよ。ユイちゃんに定春も、頑張ってくれてありがとうね」

「はい! どういたしましてです!」

「ワン!」

 全員が合流すると、早速新八はユイや定春に向けて率直に褒めている。頑張りを見せてくれた彼女達に、思わず感銘を受けていた。ユイも満面の笑みを浮かべて、新八に言葉を返している。もちろん定春も同じ気持ちだ。

一方の高杉は、ぶっきらぼうな口調でユイを評価している。

「お前も中々やるじゃないか。その根性だけは、認めてやるよ」

「……ありがとうございます。高杉さん」

「大した事は無ぇよ」

 こちらは真面目に接しており、ユイも真剣な表情となって高杉の言葉を受け止めていた。思わぬチームワークを発揮しながら、こちらも無事に戦いを終えている。

 

 仲間達が幹部との決着を付けていく中で、銀時やキリトの戦いも佳境へと突入していた。強敵であるアポロガイストを打ち倒すために、二人は攻撃の手を緩めずに戦い続けている。かつて経験した戦いを思い起こしており、その表情も真剣さを極めていた。

「タァァ!!」

「こいつ! どこまで食らいつくのだ?」

 木刀を握りしめて、がむしゃらに立ち向かうのは坂田銀時。攘夷戦争での戦いと照らし合わせて、守るべき者を救う為に敢然と戦っている。チサを現実へ連れ戻すために、彼も最善を尽くしていく。

「キリト! バトンタッチだ!」

「オーケー! ハァァ!!」

「今度はお前か! どこまで張り合うつもりだ!?」

 銀時に代わって今度はキリトがアポロガイストを相手取る。二本の長剣を使った激しい剣裁きで、次々にダメージを与えていた。SAOで培った死を恐れぬ覚悟と、立ち向かう強さをここで発揮している。彼も銀時と同じで昔の自分と照らし合わせていた。

 しかしアポロガイストも、押されているわけではない。細刀であるアポロフルーレを用いて、二人の猛攻を受け止めながら反撃の瞬間を伺っていた。

「これしきの攻撃で、負ける私ではないのだ! ドファ!」

「クワァ!?」

 僅かに出来た隙を突いていき、見事にカウンター攻撃を決めている。キリトには地味なダメージを響かせており、折角の勢いもここで途絶えてしまった。

「キリト! 大丈夫か!?」

「ああ、何とかな。それよりも、そろそろ決着を付けないといけないな」

 彼の無事を確認すると、二人は体制を整えて、最後の構えへと入っている。全力を賭けた必殺技を使って、この戦いを終わらせようとしていた。

「折角だし、二人でやってみるか?」

「もちろん! 同時に斬りかかろう!」

「ああ、そうだな」

 少ない言葉で交わして、心を通じ合わせる二人。戦法は大きく違うが、お互いを信じあい、各々で準備に入っている。木刀や長剣を掲げた後に、アポロガイストへ向けて狙いを定めていた。

「何が来ようと無駄なのだ!」

「果たしてどうかな?」

「俺達のコンビネーションは、そう簡単に折れねぇよ!」

 怪人に何を言われようとも、二人はやる気をたぎらせつつ心を研ぎ澄ましている。相手の隙を見極めたところで、二人は遂に動きだしていく。

「「行くぞ!!」」

 突発的に走り出すと、キリトは左方向に、銀時は右方向へと進んでいる。がむしゃらのままに突き進み、動きを合わせながら同時に斬りかかっていく。

「何!?」

「ハァァ!」

「トワァ!」

「グワァ!?」

 一瞬で囲まれたアポロガイストは、かわす暇も無く二人の攻撃を食らっていた。そのまま吹き飛ばされて動きが鈍ると同時に、銀時とキリトはさらに容赦なく必殺技を叩き込んでいく。

「とどめだ……バーストストリーム!!」

「こっちも……えっと……どれにするか」

「って、銀さん! 言うなら早くして!」

 ところがその途中で、銀時が必殺技の名称で迷いを浮かばせている。時間が限られているので、彼はヤケクソになって決めていった。

「分かってる! じゃ……トウヤコストリーム!!」

「結局思いついてなかったのかよ!!」

 自身の木刀についた洞爺湖と、キリトの必殺技名をいじり、安上がりな技名を叫んでいく。おかげで本人からは、強いツッコミを入れられる始末であった。

 それはさておき必殺技名を上げた二人は、アポロガイストへ向けて全力の連続斬りを浴びせていく。一つ一つに込めた斬撃が、次々にダメージを蓄積させている。

「ハァァァァ!!」

「トワァァァ!!」

 力尽きぬ限りに続けていくと――相手の動きがぴたりと止まり、同時に二人も必殺技を止めて長剣や木刀を下ろしていく。とうとう決着が着いていた。

「クルァ! この私が負けるとは……組織にとって大迷惑なのだ……」

 そう言い残して、アポロガイストは倒れ込み大きく爆発していく。長期的に続いていた幹部戦は、これを持って幕を下ろした。綺麗に必殺技が決まって、銀時やキリトも有終の美を飾っている。

「どうにか勝てたな、キリト」

「うん。それよりも、トウヤコストリームって何?」

「技名が思いつかなったから許してくれよ! 本当はカメハメストリームとか、卍解ストリームとかあったんだが、こだわっていたら時間が過ぎたんだよ! だから多めに見てくれよ!!」

「何か聞いた事がある名前ばっかりだな……」

 一つだけ気にしていた必殺技名だが、結局銀時の考えた案がパロディ風だと気付き、キリトは安心と共に若干の呆れを感じていた。それでも勝利を手にしたことは誇らしく思っている。

「そういえば、アイツらは大丈夫か?」

「そうだった。行ってみようか?」

「ああ、もちろん!」

 戦いを終えたと同時に、もう一人の自分達の戦況が気になり、二人はこのまま彼らの行方を追いかけている。残す相手は遂に、ショッカー首領ただ一人となった。

 




 残すはチサ(ショッカー首領)のみ! 長く続いた夢幻解放篇の戦いもいよいよフィーナーレ!! ここまで長かった……では、また次回! (予告は今回無しです)


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第三十八訓 現実への帰還

 前回の話を作っていて思ったのは、幹部怪人が敵として立ちはだかったのですが、それを撃破する銀時やキリト達って地味に凄くないですか? 自分から作っておいてなんですが。さて、それはそうといよいよ決着が着きます。では、どうぞ。


 遂に最終局面を迎えたショッカーとの決戦。その元凶たる首領を倒すためにも、別世界の銀時とキリトは今もなお激しい戦いを続けている。一斉の迷いを捨てており、全力を尽くして相手に立ち向かっていた。

「おのれ剣士共め……これでもくらえ!」

「くらうかよ!」

「こんな攻撃じゃ、僕達は絶対に倒れないよ!!」

 チサの姿へと化けた首領は、手にした槍の先端から燃え盛る火炎弾を次々に解き放っていく。ところが二人の剣裁きにより、その全てを真っ二つに切り裂かれている。爆発で燃える背景に照らされながら、共に首領の元へと走り出していた。

「「ハァァ!!」」

「くっ……しぶとい奴等め!」

 攻撃の手を緩ませずに進む二人に、首領もつい引き気味となっている。焦燥感にかられながらも、槍を構えてこちらも正面から衝突していく。互いの武器がぶつかり合い接近戦を繰り広げる中で、銀時やキリトは自らの想いの丈を言い放ってきた。

「僕達はこの空間で何度も辛い目にあってきた! 傷ついて必死に頑張って、ここまで強くなったんだ!!」

「お前はチサだけじゃなく、俺達まで強くしたんだよ! 侮ったのが運の尽きだったな!」

「黙れ!! 例え貴様らが強くなろうと、私に勝つことは出来ぬぞ!」

 仲間と共に心を成長させた記憶。困難にぶつかり乗り越えた達成感。この夢空間で起きた出来事を思い起こして、二人はこの瞬間を全身全霊で戦っている。

 槍を巧みに使って攻撃を防ぐ首領だが、勢いに押されてしまい若干劣勢に追い込まれていた。形勢が逆転する中で、銀時とキリトはいよいよとどめの準備を進めていく。

「キリト! この技に全てを懸けるぞ!!」

「ああ、もちろん!!」

 各々の武器を握りしめて、首領へ向けて慎重に狙いを定めている。目つきを鋭くさせて、最後の一撃に全力を注ぎ始めていた。

「何をしようと無駄だ! 限界を思い知るがいい!」

 咄嗟に首領も再び槍から火炎弾を作り出し、真っ先に放出して妨害を加えていく。攻撃は命中して、辺りには濃い煙が広がっている。見事先手必勝が決まったかに思えたが――

「ハハ……とうとうくたばったか……」

「「トワァァァ!!」」

「何!?」

彼等はまだ倒れていなかった。煙をかき分けて抜け出すと、大きく飛び上がり首領へ向けて刀や長剣を振り下ろしていく。そして、

「これで……!」

「最後だぁぁ!!」

「ぐっ……ウワァァァ!!」

渾身の一撃が首領へと決まっている。十字を描く様にダメージを与えており、負荷が大きくなった相手は嘆き声を上げながら、そのまま静かに倒れ込んでしまった。

「ハァ……やったのか?」

「これで全て終わったのかな?」

 全力を出し切ったことで、共に息遣いも荒くなっている。手にした勝利を受け止められずに、まだ半信半疑で細心の注意を払っていた。すると首領からは、聞き覚えのある声が微かに聞こえている。

「キリト……銀さん……」

「チサ? 今チサの声が!?」

「ようやく戻ったのか?」

 小さくも普段通りのチサの声を感じ取っていた。思わず二人も倒れた首領の方へ振り向くと、そこにはゆっくりと立ち上がる姿が目に見えている。しかしその様子は、明らかに彼女では無かった。

「勝手に出るな……お前は私だ! 何があってもなぁぁぁぁ!!」

 なんと首領は、二人の猛攻を堪えており驚異の粘りを見せつけていく。本来の姿とチサの姿を混在させて、真っ黒に染まったおぞましいオーラを体から放出していた。

「何……うわぁ!!」

「剣が……!?」

 二人にもオーラが襲い掛かり、武器を盾代わりにしながら身を守っている。ところが武器も、オーラに当たると砂のように粉々と崩れ去ってしまった。丸腰状態となったキリトらを嘲笑うように、首領は甲高く声を発していく。

「もはや誰であろうと私を止める事は出来ぬぞ!! 貴様らがどれだけ抗おうと、この力で跪かしてやる!! ハハハ!!」

 溜め込んでいた力を暴走させながら、自暴自棄となり二人をねじ伏せようと企んでいる。往生際が悪く、首領は意地でも戦いを止める事は無かった。一方の銀時やキリトもオーラに堪えて踏ん張っているが、攻撃手段を失った事で戸惑いを見せている。

「アイツ……まだあんな力を残していたのか?」

「最後の悪あがきってヤツか……武器まで葬られたのが手痛いな……」

 苦しい表情を露わにして、逆転の手段を必死に模索していた。だが、強いオーラに体を押されてしまい、思うように動けずにいる。状況を打開するために考えを巡らせると、ここでようやく本物の銀時とキリトが駆けつけてきた。

「おい、てめぇら!」

「これを使え!!」

 大きく声をかけると同時に、二人は自身の武器である洞爺湖の木刀とエクスキャリバーをもう一人の自分達に投げつけてくる。チサを救い出すための希望を、彼等はさり気なく託してきたのだ。

「これって……」

「そういう事か……ならば使わせてもらうよ!」

 言葉を交わさずともすぐに理解したキリト達は、木刀や聖剣を握りしめて、三度体制を整えていく。そして首領の元へと突き進んでいき、今度こそ決着を付けようとしていた。放たれるオーラを潜り抜けながら、相手の僅かな隙を狙っている。

「私こそが真の支配者となる――」

 力に酔いしれて不気味に笑い続ける首領だが、慢心するあまりに横側への防御は手薄となっていた。もちろん二人は、この好機を逃すはずがない。

「「ハァァァァァ!!」」

「グッ!? ナ……」

 新しく手にした武器を振りかざして、タイミングよく首領に斬りかかっている。不意を突かれた彼は徐々に勢いを失い、放っていたオーラも薄らいでいき、本来の姿へと戻っていた。土壇場で見せた特別な一撃が決め手となり、長く続いた戦いにようやく終止符が打たれている。

「き、貴様ら……!!」

「これ以上させるかよ……!」

「アンタの野望も、これで終わりだ……!」

「おのれ……」

 最後に台詞を言い放つと、銀時とキリトは手にしていた武器をゆっくりと下ろしていく。同時にショッカー首領も動きを止めており、一つ目の光が消えると再び後ろへと倒れ込んでいた。直後には取り込まれていたチサも解放されて、首領と分離する形でようやく本物が姿を現している。

「チ、チサ……!!」

 突発的にキリトが手を伸ばして、彼女を抱きかかえるように救出していた。一方のチサは依然として目を瞑って、気を失ったままである。二人は固唾を飲んで慎重に安否を気遣っている。

 そして離れた場所で様子を見ていた本物の銀時とキリトの元に、幹部との戦いを終えた神楽やアスナら仲間達が瞬く間に集結していた。

「キリト君!!」

「銀ちゃん! チサはどうなったアルか!?」

「ああ、アイツらが助けてくれたよ」

「首領もあの二人が倒してくれたんだよ」

「何!? 本当か?」

 銀時らが目にした戦いの結末を、彼女達も徐々に理解していく。目線の先にあるのは、倒れ込んだ首領と、気絶しているチサに呼びかけを続けるキリトと銀時の姿であった。事情を聞かなくとも、この一場面だけで十分に理解できる。

 仲間達がみな彼女の無事を祈っていると、その瞬間は唐突に訪れていく。

「……ウ……キリト……? それに銀さんも……?」

「チ、チサ!?」

 キリトらの必死な呼びかけに気が付いて、チサはゆっくりと目を覚ましていた。待ちに待った再会が、ようやく実現している。

「お前……本当にチサなのか?」

「何を言っているの? 私に決まっているじゃん。首領に取り込まれちゃったけど、もしかしてキリト達が助けてくれたの?」

 慎重に本人かどうか確かめてみるが、控え目な口調や穏やかな雰囲気から、チサ本人で間違いはなかった。それを確信した二人は、肩の力を抜いて安堵の表情を浮かべている。特にキリトは目に大粒の涙を浮かばせながら、彼女との再会を心から喜んでいた。

「ああ、そうだよ。僕達が君を……救……救ったんだ!」

 気持ちを抑えきれずに感極まっており、ボロボロと涙までこぼし始めている。辛く苦しい戦いを乗り越えたからこそ、つい本音のままに自分をさらけ出していた。

「そっか……ありがとうね。キリトもここまで強くなったんだね……」

「いや、まだまだだよ……僕なんて」

「そんなことは無いよ。絶対に……」

 泣きじゃくるキリトの心境を察して、チサは優しく微笑んだ後に彼の頭をなでて慰めていく。気弱で自信の無かった彼だが、この戦いを通じて見違える程に心身を成長させている。その変化はもちろんチサにも伝わっており、彼女も心の中では密かに感激していた。

「ふっ……良かったな。キリト」

 戦いを共にした銀時も、二人を静かに見守りながら呟いている。桂やクラインら長い付き合いのある仲間達も、同じような気持ちで温かく見守っていた。ところが、何故かアスナだけは徐に感情を出していつの間にか号泣している。

「クソ……こっちまでもらい泣きじゃねぇか! 一体どうしてくれるんだよ……!!」

「いや、お前が涙もろいだけだろうが」

 あまりの泣き顔を見せられて、高杉も気が引いた表情でツッコミを入れていた。感動的な場面には、意外に涙腺の弱い彼女である。

 一方で本物の銀時やキリトらがいる万事屋でも、チサの救出ともう一人のキリトの成長につい心を揺さぶられていく。

「とりあえず、元凶を倒してチサも助け出したし一件落着アルナ!」

「まさかもう一人の銀さんとキリトさんが倒すなんて、予想もしていませんでしたけど」

「あっちのキリト君も、十分に強くなったからね!」

「さすが、パパが鍛えただけありますね!!」

「いやいや、俺はただ技を教えただけだから。後はチサや仲間を想う優しさが、彼自身を強くしたと思っているよ」

 各々が感じた事を率直に呟いているが、特にキリトはもう一人の自分に対して強い思い入れがあった。弱さを糧にして強さに変える精神力には、つい感銘を受けている。彼なりの優しさを感じ取り、そっと微笑みを浮かべていた。

 感動的に物事を受け止める万事屋一行であったが、ただ一人銀時だけはあまり浮かない顔をしている。黙り続ける不自然な態度には仲間達も気が付いており、慎重に新八が声をかけてきた。

「アレ、銀さん? どうしたんですか、急に表情を変えて?」

「ああ、新八。戦いが終わったからこそ、少し言いたい事があってな……」

「えっ? 何をですか?」

 意味深にも言葉を発すると、彼は一度呼吸を整えていく。そして、心に抱えていたある気持ちを解き放ってきた。

「……なんで黒幕がショッカーなんだぁぁぁぁ!!」

「いや、今更!? なんでそのツッコミを急に繰り出すんですか!! アンタ二話に渡って、真面目に戦っていたじゃないですか!!」

 正直すぎる一言を聞き、新八のツッコミも激しくなっている。どうやら彼は敵役に対して、強い不満を持ち合わせていた。予想もしない相手と戦った事で、内心では強い戸惑いを宿している。ツッコミを交わす機会すら失っていたので、今この場を借りて赤裸々に本音を口にしていく。

「そこはしっかりと空気を読んだんだよ!! キリト達もいるからさ!! だいたい攘夷戦争とSAOの世界観をテーマにしているなら、天道衆とかヒースクリフとかが適任じゃないのか!? 何で他作品の秘密結社が黒幕なんだ!! もう意味が分からなねぇよ!!」

「そんなこと僕に言われても困りますよ!! そもそも自然に伏線を張っていただけでも、十分じゃないですか!! ちょっとは普通じゃないのは、僕も薄々感じていましたからね!!」

 独自の主張を展開しながらも、新八からは的確なツッコミを入れられている。予想の斜め上を行くショッカーの襲来は、銀時達に多大なる衝撃を与えていた。もちろんキリト達には、何一つ意味は伝わっていないが……。それはさておき、二人の会話には神楽も乱入して、さらに思わぬ方向へと進んでいく。

「それは私も思っていたネ!! 散々敵の存在をほのめかしておいて、ショッカーなんて出されても、とんだ拍子抜けアル! それがアリなら、デ〇オとか〇オウとかと戦ってみたかったネ!」

「そーだよな! 今後は俺達の融通も聞くべきだよな! 俺だったら、ゾー〇や〇スカと戦いたいけどなー!」

「って、おぃぃぃぃぃ!! 戦いが終わったからって、急にぶっちゃけるんじゃねぇよ!! 前回との温度差が激しすぎるでしょうが!! 少しは自重してください!!」

 銀時と神楽の間では敵役談義が盛り上がり、思うままに著名な悪役を次々と声に上げている。勝手に妄想を膨らませる仲間には、新八も勢いのあるツッコミで返していた。万事屋らしいグダグダとした雰囲気が広がり、キリト達三人もつい彼らの愉快さを察している。

「……結局、銀時さんは何が言いたかったのでしょうか?」

「さぁな。でも銀さん達にしか分からないこともあるし、深く追わない方が良いかもな」

「ああやってじゃれ合うのも、三人らしいからね」

「ワン!!」

 側にいた定春も元気よく鳴き声を返していく。会話の内容をいまいち理解していない三人だが、銀時達が楽しそうであれば十分であった。万事屋一行も勝利の余韻へ浸っている。

 そんな平穏な空気が流れる一方で、ユイはあるただならぬ気配を感じ取っていた。

「ん? アレ?」

「どうしたの、ユイちゃん?」

「ちょっとついてきてもらえますか? 銀時さん達も」

「えっ、俺達もか?」

 近くにいたキリトや銀時らを促していき、万事屋だけである人物の元へと近づいている。その正体は、地べたへ寝込みを続けるショッカー首領であった。

「こいつが一体どうしたアルか?」

「もう一人の俺と銀さんで倒したはずだが……まさか、まだ生きているのか?」

「そうかもしれません。ちょっと嫌な予感を感じたので……」

 爆発の過程を得ずに個体が残っていることから、ユイらは微かに生存の可能性を悟っている。みなが一定の距離を保って首領を取り囲んでいると、唐突にも彼の一つ目は見開いて、ささやくように声が発せられた。

「ハハ……その通りだな」

「何!? まだ生きてやがったのか!?」

「しぶとい人ね! いい加減敗北を認めなさいよ!」

 生存を確認した一行は、目つきを急変させて警戒心を高めている。武器を持つ者は収めている腰に手をかけて、万全の体制を整えていた。だが、首領の態度は数分前とだいぶ異なっている。

「それなら安心しろ。私にはもう戦う力は残されていない……消滅するのも時間の問題だ。だから、置き土産としてお前達に有益な情報を教えよう」

「有益な情報……サイコギルドの事ですか!?」

 戦う意志を見せることはなく、衰弱した様子で万事屋に話しかけてきた。自身に残された時間を使って、サイコギルドに関する情報を伝えるらしい。一行が半信半疑で耳を傾けると、首領は淡々と事を打ち明けていく。

「ああ、そうだな。私はアイツらの手によって、この世界へと流れ着いた。サイコギルドはブラックホールに似た物質、サイコホールを使って、平行世界から刺客を呼び寄せているらしい……」

「刺客? 一体何のために呼び寄せているのですか?」

「それは私にも分からぬ。ただ一つ言える事は、奴等の計画はお前達の想像を遥かに越えている……それだけはしっかりと、肝に銘じて覚えておけ――」

 そう言い残した途端に首領は言葉を失い、それ以上は何も口にしなかった。同時に肉体も砂のように崩れていき、風に吹かれて綺麗に消え去ってしまう。恐怖を与え続けた統率者の顛末は、呆気なく終わりを告げている。

「消えた……のか?」

「これで本当に勝ったんですね……」

 勝利は確定したのだが、粘り強かった首領の退場にはしっくりと来ていなかった。新八やユイも疑問形で呟く始末である。一方で気になったのは、サイコギルドに関する新しい情報であった。

「サイコホールに刺客って……益々謎が深まったわね」

「想像を遥かに越える計画って、もうどう捉えたらいいのか分からないネ」

 謎が解けるわけもなく、アスナや神楽はため息交じりに頭を抱えている。大雑把に計画を知らされても、何一つ事は進展などしていなかった。

「結局、ショッカー首領もサイコギルドの計画に利用されたって事か?」

「そうかもしれねぇな。ここまで大事に仕立てるなんざ、何か理由があんだろ? 俺はそう思うぜ……」

 キリトや銀時も真剣に考察を進めているが、やはり息詰まっている。新たな謎も発生しており、さらなる情報が必要不可欠であった。問題の根本解決のために、二人は躍動に駆られている。万事屋一行が首領の証言に触れていると、目の前ではある変化が訪れていた。

「ん? って、みなさん!? 見てくださいよ、アレ!!」

 新八が一早く気が付き、仲間達に大声で伝えていく。彼に釣られて前を見てみると、そこにあったのは――三つに並んでいる光り輝く扉である。

「どうしたって……扉?」

「なんで三つも現れているアルか?」

「そこじゃなくて、その隙間を見てくださいよ!」

 彼の言う通りに扉からの隙間をよく見てみると、森林や町並みといったバラバラの場所が映し出されていた。恐らく別世界の銀時やキリトが暮らしていた世界であり、元凶を倒したことにより帰還への道筋が出来たと推測される。

「もしかして、この扉で元の世界に戻れるのか?」

「それじゃ……これでもう一人の私達も救えるって事?」

「やりましたね! これで全て解決ですよ! 皆さんに伝えてきましょうよ!!」

 状況を飲み込んだ万事屋一行は、一度喜びを抑え込んで、チサ達のいる場所へと再び駆け寄っていく。彼女達も扉の情報を聞きつけると、みな喜びを露わにしていた。こうして長く続いた戦いは終焉を迎えて、場にいる全員に別れの時が訪れている……

 

 それから数分が経った頃。三つの扉の前には、万事屋だけではなく高杉ら攘夷志士やキバオウを含めた戦士達が集結している。みな戦いを終えて心を落ち着かせながら、元の世界への帰還を楽しみに待ちわびていた。現在は全員がそれぞれの言葉で、戦いに協力してくれた仲間達に感謝や別れの一言を伝えあっている。

「ありがとうな、あの時に助けてくれて!」

「こちらこそ、共闘してくれてありがとうな!」

 率直な言葉を言い合って感謝を伝える者が多いが、キバオウの場合は少しテイストが異なっていた。

「パクヤサさん……! アンタのおかげで、ワイは強くなったんや!! 本当に……良い侍でしたわ!!」

「そう感極まるな。元の世界へ戻っても、その強さを生かしてくれると俺は嬉しいぞ」

「はいー!!」

「ヤレヤレ。こりゃ、長く続きそうだな」

 尊敬していたパクヤサとの別れを惜しんで、似合わない泣き顔を見せている。パクヤサ自身もしっかりと返答して、彼の感謝を受け取っていた。近くにいたディアベルも、静かに見守りながら事が済むのを待っている。

「クライン殿にシリカ殿。元の世界へ戻っても、達者にやるのだぞ」

「おう! 任せておけよ!」

「もちろんですよ! それにピナも、今までアタシ達を助けてくれてありがとうね!」

「ナー!!」

 一方で桂は、共闘してくれたクラインとシリカに対して丁寧に礼を交わしていく。侍同士とあってか、特にクラインとは手厚い握手で接していた。さらにシリカも、協力したピナに感謝の言葉を伝えている。共に別れを惜しみながら、この時間を勤しんでいた。

「さて、おまんらも手伝ってくれてありがとうな。中々楽しい時間を過ごせたぜよ!」

「辰馬さんとのやり取りも悪く無かったわよ。こっちもいい刺激を受けたからね!」

「元の世界でも、アンタらしさを貫けよ!」

「おう、任せとき!!」

 こちらでは、活気の良い挨拶を交わす坂本らの姿が目立っている。共闘する機会が多かったエギルやリズベットと接して、元気よく別れを伝えていく。

 名残を惜しんでいるのは、もちろん万事屋一行も同じであった。

「あんかとよ。アタイに色々と接してくれて」

「こちらこそ。もう一人の私と共に戦えて、光栄だったわよ」

 共に深い握手を交わして褒め合うのは二人のアスナである。性格や戦い方は大まかに異なるが互いを信じて突き進み、戦闘では見事なコンビネーションを見せていた。より強い絆を強めている中で、もう一人のアスナはある決意を本物のアスナへと伝えている。

「もしよ……元の世界へ戻ったら、打ち明けようと思うんだ。親に自分のしたい事や本心とかを。そうじゃないと、前に進めないと思ってさ……」

「それは良い決断よ。自分で抱え込むよりかは、打ち明けた方が気持ちも楽になるからね」

「そっか……ありがとうな」

 しんみりとした表情で、今後の目標について語っていた。彼女なりの決意には、アスナもそっと後押しをしている。そんな二人の会話の中に、突如として神楽が割り込んできた。

「おおー! こんな真面目なアッスーは見た事がないネ! なんかもう一人の自分と触れ合って、少し乙女っぽくなったアルナ!!」

「お、乙女!? バカ、違ぇよ!! 何も変わってねぇし、アタイはそのまんまだって!!」

「そうアルか?」

「そうだって! 勝手に勘違いするなよ!!」

「さーて、どうかしらね?」

「お前もこの流れに乗っかるなよ!! ていうか、アタシがツッコんでいるだけじゃないか!!」

 彼女の一言から始まって、場には和やかな空気が流れ込んでいる。取り乱して顔を赤くするもう一人のアスナに対して、神楽や本物のアスナがノリよくからかっていく。こうして三人の女子も、残された時間を有意義に接していた。

その一方でユイは、手助けしてくれた高杉に改めて礼を交わしている。

「あの、高杉さん。先程は助けていただいて、ありがとうございました!」

「別に大したことはしてねぇよ。子供にしては無茶が多いから、そこだけは気を付ろよ。それと……行動力だけは素直に褒めてやるよ」

 そう言うと彼は、会話を終わらせて別の人物に話しかけていく。口数は少なかったのだが、ユイを思いやる優しさだけは彼女自身にも伝わっている。穏やかな表情で、真意を悟っていた。とそこへ、新八や定春もユイに声をかけてくる。

「別人とはいえ、高杉さんも褒める事ってあるんですね」

「えっ、そうなんですか!? と言うことはかなり珍しいんですね。貴重な体験ということでしょうか?」

「ワン!!」

 あくまでも別人だが、高杉の他者を率直に褒める行為には、新八もつい目新しさを感じていた。それを知ったユイは、改めて彼からの言葉を深く心に刻み込んでいる。

 そして二人の銀時やキリト、チサも名残惜しく別れを勤しんでいた。

「ありがとうな。土壇場で君の剣を貸してくれて」

「お前らのおかげで、チサも救い出せたからな」

「どういたしまして。君達の助けになって、俺達も嬉しい限りだよ」

「結構すれすれだったからな。まぁ、勝利できたんだし何よりだよな!」

 まずは貸してもらった聖剣と木刀を返却して、本人の手元へと渡している。お礼を言いつつも彼等は、たわいない雰囲気で会話を進めていく。

「ところで元の世界へ戻ったら、君は一体どうするんだ?」

「僕は……まず自分の身の回りを整えるよ。それから普段通りの生活に戻って、もっと積極的に人付き合いをしていくよ」

「そっか。ようやく日常の生活に戻れるもんな」

 変わらぬ日常へと戻り、本音を口にしていくもう一人のキリト。そんな彼とは違い銀時は、気を引き締めてやるべき事を声に上げていた。

「俺はまた戦争へと戻っていくぞ。大切な人を救い出すために、立ち止まっていられないからな」

「ふっ……精々頑張れよ。絶対にくたばるなよ」

「分かっているよ」

 元の世界では三度過酷な戦いに戻っていくが、恐れを感じる事は無く堂々と立ち向かう構えを見せている。目的が大きく異なっている二人だが、それでもやり遂げる強い意志がある事に大差はなかった。その強さは本物の銀時やキリトも感じ取り、そっと背中を押して彼らを応援している。

 しかしチサだけは、仲間との別れに少しだけ寂しさを覚えていた。

「でもこれで、みなさんともお別れなんですよ。別々の世界に戻っちゃうなんて……どこか寂しい感じです」

「チサ……そ、そんなことはないよ! 元の世界へ戻っても、この記憶がある限り僕達は一緒なんだよ!!」

「キ、キリト?」

 悲しげな表情を浮かべる彼女に向けて、ここでもう一人のキリトが声を上げてくる。真剣な表情で、熱心にも説得を始めていた。

「チサが言う通りこれでお別れかもしれないけれど、それでも忘れなければ絶対にまた会えるよ! そう信じて僕は戻ろうと思っているんだ……だからチサも、また会えることを信じて前に進もうよ!!」

「……そうだよね。またいつか会えるよね、絶対に……!」

「うん……そうだ! 折角だし約束しよう! また会える日を祈って!」

「ええ!」

 前向きに物事を捉えており、場の流れから固い握手を交わして約束を取り付けている。寂しさを紛らわすように、二人だけで明るく乗り越えていた。築かれた絆の強さには、見守っていたキリトも安心感を覚えている。

「良かったな。もう一人の俺……」

 微笑みを浮かべながら、そっと呟いていた。さらに銀時ら二人も、さり気なく話題に乗っかっている。

「例え離れていても、また出会えるか……俺も叶うならば、またお前等とも会ってみたいな」

「今度は俺達の世界でも来るか? 万事屋らしいおもてなしで出迎えてやるよ」

「ふっ……考えておくよ」

 冗談を交えながらこちらも親しげに接していた。各々が感謝を伝えて別れを惜しんでいき、限られた時間を過ごしている……

 

 かくして夢世界で激戦を終えた者たちは、それぞれの世界に戻っていく。キリトら戦士達は、平穏な日常の世界へ。銀時ら攘夷志士達は、真っ只中な攘夷戦争の世界へ。そして万事屋とチサは――

「おっ、やっと目覚めたか。朝陽ぴったりに戻って来たな」

「ああ……おはよう、爺さん。千佐もちゃんと戻って来たよな」

「もちろんだ。さっきたまから連絡を受けて、あっちも目覚めたらしいぞ」

「良かった……これで、本当に終わったんだな」

一夜が明けた銀魂の世界に帰ってきている。眩い朝陽は既に町を照らしており、新しい今日を告げていた。時刻は五時半を指しており、制限時間までには間に合っている。万事屋一行のみならず、昏睡状態だった千佐も現実世界へと戻って来ていた。夢世界で起こった出来事を微かに思い出しながら、六人と一匹は徐々に目を覚ましていく――

 




なんだろう、このチサのヒロイン力は。書いていてそう感じました。

 さて、次回でいよいよ夢幻解放篇は完結します。同時に次の章の内容もちょっとだけお見せします。それでは、また!!






次回予告
銀時 「とうとうこのスタンスで予告が戻るんだな」
神楽 「長篇の時は使われないセリフが多かったアルからナ!」
新八 「そこは作者の事情では……」
キリト「ていうか、みんなは誰に話しかけているんだ?」
新八 「いやいや、なんでもないです!」
銀時 「次回は「戦いを終えて」だからな」
アスナ「戦いならもう終わっているわよ?」
新八 「だから、そういう事じゃないんですって!!」



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第三十九訓 戦いを終えて

 祝え! 持ち前の優しさと母性で、キリトを支え続ける強き彼女を! その名は結城明日奈! 今この時を持って、誕生日を迎えたことを心から祝おう!

 ……今更ウォズネタと思うかもしれませんが、今日がアスナの誕生日なので、これがぴったりだと思いました。〈すいません。一日過ぎて時間に間に合いませんでした……〉

 それはともかく……これで夢幻解放篇はラストです! 今回は本編に加えて、補足や次回の展開など盛りだくさんでお送りしていきます。では、どうぞ!



 夢世界で起こったショッカーとの戦いは終わった。目的であったチサの救出に成功して、閉じ込められていたもう一人の銀時やキリトらも、それぞれの世界へと戻っている。万事屋の六人と一匹も元の世界に帰還して、何事も無く日常に返りつつあった。

 事態が収束して一週間が経とうとした八月の上旬。入院していた千佐の容態も回復して、現在一行はたまと共に再び病院へと訪れている。

「千佐様。体調が回復して良かったですね」

「ありがとうございます、たまさん。怖い夢から解放されて、体も楽になりましたから」

 声をかけてきたたまへ向けて、千佐は優しく微笑んで言葉を返していた。病室のベッドに入ったまま会話を進めているが、その穏やかな雰囲気は夢世界で出会ったチサを彷彿とさせる。万事屋は密かに二人を照らし合わせていた。

「やっぱり千佐とチサは同じ人間アルよな」

「と言う事は、夢世界での出来事もしっかりと覚えているのでしょうか?」

 記憶の有無について心配するユイらであったが、それも皆無である。たまと話し込んでいる彼女だが、突然キリトと目が合うと、急に表情を変えて彼の顔へ近づいてきた。

「えっ、千佐さん? 一体何を……?」

 しばらく黙り込んだまま見つめており、共に気まずい空気が流れ込んでいる。すると千佐は、首を傾げてこう断言していた。

「いや、違います。ごめんなさいね……実は夢の中で出会った男の子がいて、その姿がアナタと似ていたんです。よく見れば全然印象が違いますけど」

「そ、それって……どんな人だったんだ?」

「どんな人って……気弱で泣き虫だけど、ちょっぴり勇気のある男の子かな。またいつか会うって、約束もしたんだよ。叶うといいんだけどね……」

 キリトの姿を見て、夢世界で出会ったもう一人のキリトを思い起こしている。彼女はしっかりと夢世界での記憶や約束について覚えていたのだ。この事実が分かっただけでも、万事屋にとっては十分すぎる成果である。

「やっぱり、アイツらとの約束も忘れていないんだな」

「千佐さんにとっては、かけがえのない仲間だったからね。忘れるはずなんて、きっと無いのよ」

「とりあえず一安心しましたね」

 銀時やアスナらも口々に呟き、安堵の表情を浮かべていた。もちろんキリトも、同じように優しく微笑んでいる。

「ん? どうしたのですか?」

「いいや、なんでもないよ。ただ君が覚えておれば、いつか会えると俺は思っているよ」

「そうですか……ありがとうございます!」

 希望を感じさせる言葉を聞き、千佐も再び笑顔で返していた。穏やかな雰囲気が場を包み込み、全員が屈託のない笑顔を浮かべている。そんな中で、彼女はある事を思い出していた。

「あっ、そうでした。たまさんに言われていたので、これをお渡ししますね」

 そう言ってキリトに手渡したのは、一枚のノート用紙である。

「これは……」

「サイコギルドに関するメモです。アナタ達のお役に立てればなと思って、まとめておきました。有効的に使ってくださいね」

 中身は自身が目にしたサイコギルドの情報が書かれていた。お礼としての気持ちを態度として露わにしている。これにはキリト達も驚きを見せていた。

 すると病室には、また新たに知り合いが訪れていく。

「千佐―! またお見舞いに来たよー!」

「二人共! 今日はいつになく早くない?」

「気のせいだよ。ほぼ毎日来ているから、そんな大差はないって」

 駆けつけたのは、千佐の大切な友人達である。万事屋とも面識のある二人であり、現在では明るく気を戻して、療養中の千佐を日々励ましていた。彼女達の仲睦まじい光景を見ると、万事屋一行も空気を読んで病室を出ようとしている。

「さて、そろそろ行くか。みんな」

「ああ。後はアイツらに任せておこうぜ」

 ぞろぞろと出口へ向かおうとした時であった。

「あっ、待って! 万事屋のみなさん! ……千佐を助けていただき、ありがとうございました!」

「こっちも、お礼を言わせてもらうよ。本当にありがとうね!」

 友人達は礼儀正しく頭を下げて、しっかりと礼を交わしていく。突然の感謝の言葉を聞き入れ、万事屋一行はつい歩みを止めてしまう。振り返るとそこには、とびっきりの笑顔を浮かべるチサ達が見えていた。

「お、お前等……」

「二人も根は真面目ですから、言わないと気が済まないんですよ。当然、私もですけど!」

「……はい! どういたしましてです!」

 返答としてユイが元気よく声を上げて、その気持ちを受け取っている。当然銀時ら五人も同じ心構えであった。こうしてチサ達とは、印象に残る別れ方で場を締め括っている。

 

 病室を後にした万事屋一行は、病院を抜けて庭にあったベンチに腰を掛けている。そこでメモを見開き、サイコギルドに関する情報を閲覧していた。

「えっと……最初に見たのは港で、そこには妖精のような少女と銀色の怪人が立ち並んでいたか」

「少女の名前はアンカーと呼ばれていて、銀色の怪人とも親しげな雰囲気だった」

「と言う事は、共に裏で繋がっていたんですね」

 目にした言葉をキリトやアスナが発していき、ユイが内容をまとめている。まず理解したのは少女の名前や、銀色の怪人との接点であった。共に行動していることから、繋がりがあると断言できる。さらに万事屋の三人も続いていく。

「サイコギルドはブラックホール及びサイコホールを作り出していたか……」

「異次元の兵力と呼んで、仲間を増やしているようにも見えたってアルネ!」

「マントを羽織った怪人が現れた途端に、不思議な球状から記憶を与えていた……それが夢世界に繋がるという訳ですね」

 夢世界にてショッカー首領が伝えていた情報と、誤差が無いか慎重に確かめていた。サイコホールに関する普及や、戦力を増強する策略が少なからず目に見えている。別世界のキリトらが現れたのも、やはりサイコギルドが大きく関係しているのだろうか。

 メモ用紙を一通り見たところで、キリトらはまず情報を整理していく。

「うーん。ショッカー首領が言っていたことと、だいぶ合っているな」

「情報は大方これで間違いないアルナ……」

「やっぱり、サイコギルドの目的は勢力を拡大させることでしょうか?」

 ユイも独自に考えを呟いてみるが、ここでアスナや新八からは反論が飛び交っている。

「それは間違いないと思うけど、でも結局私達には結びつかないわよね。この世界へ飛ばした理由も、まだ分かっていないから……」

「球体状の記憶って書いてあったけど、もしかしてサイコギルドにとって重要なアイテムじゃないのかな?」

「うーん。全然解決できないアル~!」

 情報を選別できずに、神楽も頭を抱えてやむなく混乱してしまう。サイコギルドが持つ謎を今一度まとめると、四つほど浮かび上がってくる。

 何故キリト達を銀魂世界に連れ去ったのか?

 ブラックホールとは一線を画すサイコホールの正体。

 ショッカー首領といった別世界からの勢力を呼び出す行動。

 球体状に入った記憶をどこから手に入れたのか?

 これらの情報から模索を続けてみるが、謎が謎を呼び結局みな息詰まりを見せていた。

「あ~じれったいから、もう行動するしかないネ! 港にいるなら、見張っていればその内出会えるんじゃないアルか!?」

「そ、そうかもしれませんけど、一般人に見つかっている限りは場所を変更しているんじゃないですか?」

「二度も同じ場所に現れるのは、可能性として低いのかもな……」

 衝動的に神楽は思い切った提案をしてみるが、ユイやキリトらからはもっともな正論で言い返されてしまう。ブラックホールを生成する以上は、場所にこだわりはないと彼らは予測していた。おかげで足取りも掴めずに、万事屋一行はさらに頭を抱え込んでしまう。

 一方で銀時だけは、違う観点からサイコギルドの目的について考察を続けていた。特に気がかりだったのは、キリト達を狙った理由である。少ない情報の中で彼はある仮説を立てているが、確証がない故か仲間達には伝えられずにいた。黙々と悩み続ける様子には、キリトらも気付き始めている。

「ん? 銀さん? さっきから考え込んでいるけど、一体どうしたの?」

「いや……サイコギルドについて考えていただけだよ。どうも情報が少なくてな、上手くまとまらねぇんだよ。考えすぎているだけかもしれないけどな……」

「そんなことは無いと思いますよ。試しに言ってみてはどうでしょうか?」

「いいや遠慮しとくよ。ぶっ飛びすぎて、テメェらには絶対理解できないと思うからな」

「そう言われると、余計気になっちゃうわね……。ねぇ、言ってみてて!!」

「だから遠慮するって! なんでお前等の方が、食いつきが良いんだよ!!」

 銀時の考えた仮説に興味を示して、キリト、アスナ、ユイの三人はすかさず注目を寄せていく。思いのほか反応が良く、彼自身も威勢よくツッコミを加えている。さも平然と接しているようだが、新八と神楽の二人だけは銀時に対して微かな違和感を覚えていた。

「なんだか、銀ちゃんの様子がいつもと違うアル」

「自分の考えを言うのに、ためらっているのかな? 確か――前の会議の後に、僕達だけに言った事があったよね。サイコギルドとキリトさん達の関係について」

「偶然ではないって言っていたネ! てことはやっぱり銀ちゃんは、もう大方予想が付いているって事アルか……?」

「恐らくそうだと思うけど、僕達にあえて伝えないのは情報が少ないからじゃないかな? この先でまた新しい証拠を見つけたら、きっと僕達に打ち明かすと思うけど……」

「銀ちゃんも計画的に考えているってことアルか……」

 あえて仮説をひた隠すのは、彼なりの配慮であると悟っている。サイコギルドにはまだ明かされていない謎が多くあり、確証を得てから打ち明かすと二人は予測していた。銀時との長い付き合いから、既にその本心はお見通しである。そんなことはつゆ知らずに、当の本人は話題を変えてキリトらとの会話を楽しんでいた。若干の温度差を感じつつも、万事屋一行は新しい目標の為に、また一歩前進している。

 

 その後も話し合いは続けられたが、長くは持たずに早々と打ち切られてしまう。千佐からの情報は十分に役に立ったが、それでもサイコギルドへの謎は平行線を辿ったままである。気持ちを新たにして一行は、病院を後にすると住処である万事屋へ帰路についていた。その道中でも、彼女達の会話は続いている。

「ふっ……結局考えても分からなかったネ。もっと有力な情報があればいいアルけどな」

「また別の機会に聞き入れるかもしれないし、焦らずに余裕を持って進みましょう。それよりも今は、気持ちを入れ替えておこうよ。神楽ちゃん!」

「そうですよ! 新八さんでさえ切り替えているんですから、考えすぎは体に毒ですよ!」

「って、ユイちゃん!? 今さり気なく僕の事をディスらなかった!?」

 未だに考察を引きずる神楽には、アスナやユイは気持ちを切り替えるように促してきた。特にユイは満面の笑みで、新八を例えとして上げている。彼女の言い草からは優しく聞こえずに、ツッコミを入れられる始末であった。

 仲間内四人にて愉快な話が繰り広げられる中で、銀時やキリトは後ろ側に付き二人だけで話を続けている。

「ヤレヤレ、アイツらもいつも通りに戻って来たな。依頼が終わったからって、切り替えが早くないか?」

「それがアスナとユイの良いところだからね。今は考えても分からないし、一旦切り離すのが英断なんじゃないかな?」

「ウチのチャイナ娘とは偉い違いだな。熱が冷めるまでは、引きずるからな……アイツは」

 女子達の考え方の違いを身に染みて感じており、銀時は目を細くして微妙な気持ちに浸っていた。一方のキリトは苦笑いをしながら、彼の真意について悟っている。

 各々で会話を交わす万事屋一行だが、その道中にて一台の信号機に差し掛かっていた。アスナら四人は青信号の最中に横断歩道を渡れたのだが、銀時らが進もうとした途端に点滅してしまい、二人だけは歩道に取り残されてしまう。後に赤信号となり、再び青に切り替わるまでは待機を余儀なくされていた。

「あっ、待ってください! パパと銀時さんはまだ渡り切っていませんよ!」

「本当ネ! てっきりついてきているものだと思っていたネ!」

「ここはひとまず待ちましょうか」

 仲間達も渡り遅れた二人に気が付き、合流の為に歩みを止めている。道路を挟んで車が次々と走り抜けているが、その向こう側の歩道には青信号を待つ銀時とキリトの姿が目に見えていた。何気ない日常の光景だが、アスナだけはどこか心に寂しさを感じ取っている。

「こうやって、いつかは離れちゃうのかな。神楽ちゃん達とも……」

「ん? 何か言ったアルか、アッスー?」

「いいや、何でもないわ。ふともう一人の私を思い起こしていただけよ」

「そうアルか。心配なんかしなくても、きっと元気にやっているアルよ」

「そうだよね……ありがとう神楽ちゃん」

 気持ちを表に出せないまま、彼女は神楽に対して誤魔化していた。率直に言うとアスナは、万事屋との別れが来ることに抵抗を覚え始めている。夢世界で体験したもう一人の自分との別れを通して、少なからず意識してしまうようだ。心情を悟られないように仲間内では隠していたが、信号待ちで取り残された二人を目にして、比喩的に思い出したようである。夢世界での出来事が、思わぬ心境の変化を与えていた。

(今は気にしないって、考えていたのに……)

 心の中ではその苦悩について、そっと呟いている。

 

 一方で反対側の歩道にいる銀時とキリトも、似たような話題を上げて青信号に変わるのを待っていた。

「そういえばさ、もう一人の俺達って今はどうしているんだろうな……?」

「さぁな。俺のそっくりさんはきっと、変わらずに戦い続けていると思うぜ。なんせ改造人間にも立ち向かえるからな。簡単には死なねぇだろう」

「確かにな。じゃもう一人の俺も、平和な世界で元気に暮らしているよな」

「当たり前だろ。なんだかんだで根性が強いから、上手くやってるはずだよ」

「フフ……そうだと良いな」

 夢世界で出会ったもう一人の自分達について触れており、しみじみと懐かしく思い出している。寂しい表情を互いに見せながらも、心の中では再会を心待ちにしていた。どこかも分からない別の世界の住人だとしても、覚えている限りは可能性を持ち続けている。そんな中で二人には、夢世界に関連してある疑問が頭に浮かんでいた。

「あ、そうだ。銀さんに一つ聞きたいことがあったんだ」

「奇遇だな。俺にも一つあるよ。キリトに聞きたいことが」

 共に改まって呼吸を整えたところで、相手へ振り向きある質問を発していく。

 

「……吉田松陽って先生知っている?」

「……茅場晶彦って科学者は知っているか?」

 

 それは夢世界で出会った不思議な人物の名だった。互いの人生に影響を与えた恩師だとも知らずに、好奇心から相手に聞いてみたのだが――

〈ドドド!!〉

その瞬間にダンプカーが轟音を放ちながら通り過ぎていき、二人の言葉をかき消していく。さらにはちょうど信号機も青に変わり、「カッコー」と音声まで鳴り始めていた。おかげで二人の質問は、何も聞こえずじまいで失敗に終わっている。

「あれ、キリト? お前今何て言ったんだ?」

「そういう銀さんこそ、何も聞こえなかったけど……?」

 共に戸惑いを見せているが、そのような時間は皆無であった。向かい側の歩道からは早速、仲間達からの催促が聞こえている。

「おーい、キリト君に銀さん! 早く渡っちゃいなさい!!」

「また赤信号に変わるアルヨ!」

「急いでくださいね!!」

 先に横断歩道を渡ったアスナやユイらが、大きく声をかけてきた。みな合流を待ちわびており、神楽に至ってはあくびまでかわす始末である。待機に飽きているアスナらを察して、キリトら二人は急いで向こう側へと渡り始めていく。

「って、そういえばもう赤なのかよ」

「ここの信号機って、案外早いんだな」

「地域あるあるだよな。じゃなくて、赤になる前に渡り切るぞ!」

「ああ、分かっているよ!」

 青信号が変わる前に横断歩道を走り抜き、仲間達との合流を図っている。渡り切った途端には再び信号が点滅しており、ギリギリ時間には間に合っていた。

「って、赤に戻るのも早いな。これも地域あるあるだよな」

「そうじゃなくて、二人共遅いアルよ! いちいちのんびりしているから、歩道にも勢いにも取り残されてしまうネ! 今後は気を付けるヨロシ!」

「神楽に怒られるのは、結構珍しいな……」

 事情を知らない神楽からは、強気な態度で注意を促されている。怒りを露わにする彼女に、二人は頭が上がらなかった。そんな神楽の気持ちを落ち着かせたところで、万事屋一行は再び帰路へと戻り始めている。

「では、このまま万事屋に帰りましょうか」

 新八もさり気なく声を上げたその時であった。

「キリトさ~ん!!」

「キリトー!!」

「ん? って、ギャャャ!!」

 突然万事屋の元にシリカとリズベットが駆けつけて、正面にいた銀時を突き倒してしまう。被害を被った銀時であったが、彼に構うことは無く二人は勢いのままにキリトへと話しかけてくる。

「シリカにリズ!? 一体どうしたんだ、急に?」

「どうしたもこうしたもありませんよ!! 手紙で言っていたじゃないですか! 変な夢を見続けているって!」

「ここ最近は収まったけど、それでも大変だったのよ! ショッカーとか言う悪の組織まで現れるし、溜まったもんじゃなかったのよ!!」

「そ、そうだったんだ……」

 激しく主張する夢の内容を聞き、キリトもタジタジになって恐縮してしまう。夢世界やショッカーの真相は既に知り得ているが、説明には時間を要するので、ここは苦笑いで誤魔化しを入れるしかなかった。反応に困っていた時、ようやく銀時も起き上がって早々に文句を口にしている。

「おい!! 何仕掛けてんだ、てめぇら!! 詫びの一つでも入れとけよ、ゴラァ!!」

「えっ!? だって銀さんは頑丈なんでしょ? これくらい大したことないって、お妙さんは言っていたわよ」

「むしろ攻撃した方が良いと、月姉さんからも言われましたよ!」

「原因はアイツらかい!! 何とんでもねぇ教育してんだよ!! 同じ主人公なのに、待遇の差が酷すぎやしないか!!」

 持論を聞いた銀時はさらに激しいツッコミを入れていた。キリトとの待遇の差が広がり、なおかつ妙や月詠と言った知り合いからもシリカ達は影響を受けている。その結果彼には、不憫さが残ることとなった。悲壮感漂う現状には、仲間達もつい同情をしてしまう。

「銀ちゃんの嘆きが寂しく聞こえるアル……」

「もう何を言っても変わらないと思うけど……って、そういえばー同じ夢を見続ける現象って結局何だったの?」

「あっ、そんな現象ありましたよね! きっと夢世界に関する事だと思うけど……」

 会話の最中にて、アスナや新八らが思い出したのは残された謎である。キリトやシリカらを始め一部の人物が、夢世界を模した夢を見続ける現象だが――銀時には既に目星が付いていた。

「ああ。それはきっとアレだよ。作者の伏線回収で、きっと取りこぼしたんだろうな」

「なるほど、そういう事アルか!」

「いや、なるほどじゃないだろ!! 完全に投げっぱなしじゃないですか!!」

 まさかの投げやりな結論を聞き、新八は反射的にツッコミを加える。作者の事情を察する銀時らしいメタな考え方であった。

「いいんだよ、別に。そこまで大したことじゃないだろ? 見た目は同じだから、きっと影響を少なからず受けたんだよ」

「アンタがそれを言ったら、おしまいな気がするんですけど……」

 恐縮することなく彼は、むしろ堂々とした態度で理由を説明している。勢いのまま押されていき、新八も返す言葉が見当たらなかった。銀魂らしいメタな空気感は、アスナらには一斉伝わらず、彼女達は苦笑いで聞き入れている。

 一方でシリカとリズベットは、未だにキリトへ夢の中での出来事について語っていた。

「それに聞いてくださいよ! アタシが桂さんやクラインさんと共闘して、バッタのような怪人に挑んでいたんですよ! 信じられますか!?」

「アンタはまだマシよ! こっちに至っては、坂本辰馬って言う謎の男と共に戦っていたのよ! なんであんなに仲良くできたのか、本当に謎なんだけど!」

「お、落ち着けって二人共。あくまでも夢なんだから、そんなムキにならなくても良いんじゃないか?」

 白熱する夢談義には、キリトもついていけずに困惑を露わにしている。冷静に二人をなだめていた時、またも知り合いと鉢合わせしていた。

「あっ、見つけた!」

「二人共、ここにいたの?」

「って、リーファちゃんにシノノンまで来たの!?」

 姿を見せたのは夢世界と一斉関わりのないリーファとシノンの二人である。どうやらリズベット達を探していた様子であり、発見と同時に近づいている。そこには万事屋もいた為、思わぬ再会に二人は驚きを見せていた。

「久しぶり、みんな! ……ていうか、一か月しか経っていないのに、本当に久しい感じがするんだけど」

「体感的には半年間も会っていない気がするわね……」

「って、きっと気のせいですよ! 会っていない分、感覚が麻痺しているだけだと思いますよ!!」

 冷や汗が出るような言葉を聞き、新八はついツッコミを激しく加えている。振り返ればシノンらとは会議以来の再会であるが、事情込みで言うと万事屋との共演は実に半年以上経っていた。長篇を挟んでいた故に久しぶりの出番なのである。

 そんな裏事情はさておき、リーファらは万事屋との再会に興じて高揚とした気分で接していた。

「あっ、そうだ! 折角みんなオフで集まったんだし、どこかへ遊びに行かない? 例えば……カラオケとか!」

「それはいいわね。滅多には無いことだし、キリト達も一緒に行きましょうよ!」

 思いつき際にカラオケを提案すると、もちろん近くにいたシリカやリズベットも貪欲に後押しをしていく。

「そうです! 皆さんで行きましょうよ!」

「まだまだ話足りない事もあるし、このまま直行ってことで!」

「ああ、今日は特に予定は無いし……行ってみるか?」

「別に大丈夫だよ。俺達も参加できるんだったら」

 女子達の雰囲気に流されながら、万事屋一行は予定を変更して共にカラオケへ向かうこととなる。誘いが成功して喜びに溢れているシリカら四人に対して、万事屋もまた違った喜びを表していた。

「やっほいー! 久々のカラオケアル! 何を食べようかな、アル~!」

「って、神楽ちゃんはやっぱり歌より料理なのね」

「神楽さんらしくて良いじゃないですか!」

 特に神楽は歌よりも料理に興味をそそられており、急にテンションを上げている。カラオケへの期待でみなが心を弾ませていく中で、彼らの元にはさらなる知り合いが訪れてきた。

「ハハハ! カラオケか! 実に良い選択ではないか!!」

「ならば、この俺達もついていくぜ!!」

「こ、この声はまさか……」

 威勢が良い二人の男性の声が聞こえてきたが、その正体を一行はすぐに察している。すると彼らは、瞬く間に目の前へと姿を現してきた。

「……やっぱり、ヅラクラかよ」

「ヅラクラじゃない! 桂だ! そして!」

「クラインだ! 勝手に略すんじゃねぇよ!!」

 お決まりのフレーズを発して、二人は同じく満足気な表情を浮かべている。侍を心掛ける攘夷志士、桂とクラインとも久しぶりに再会を果たしたのだが――残念ながら万事屋ほど驚きは無かった。

「……余計バカに磨きがかかっているわね」

「てか、何しに来たのアンタら! こっちからは呼んですらいないんだけど!」

「ただの出オチでしかないネ! 分かったら、さっさと散るアルよ!!」

 それどころかシノン、リズベット、神楽の三人からは辛辣な言葉まで飛び交う始末である。すこぶる反応の悪い二人であったが、意見には左右されずにそのまま自分のペースを貫いていく。

「フッ……何を言っている。我らにもちゃんとした理由があるのだ。なんせ、ついさっきまで有終の美を飾ったのだからな!」

「有終の美? 一体何をしたんですか?」

 ユイが思わず質問してみると、桂に代わってクラインが返答していた。

「おう! それはな……遠征でイタリィに行った時に得た奇襲作戦なんだよ!」

「って、そういえばこいつら遠出していたっけ……」

「てか、私達が知らない間に、外国に行っていたんだ……」

 ここで改めて万事屋一行は、手紙通りに桂達が異国へ遠征に行った事実を知り得ている。もちろんリーファら女子達にとっては、初耳な情報であった。

 それはさておき、桂達は淡々と異国での体験談を明かしていく。

「ピザ修行の傍らで現地の爆弾製造に勤しみ、まさに充実した日々であったな」

「アレ? これって、侍に必要な技術なの?」

 シリカからの野暮なツッコミを素通りして、桂は話を続けている。

「そこで我々は実現したのだ。真選組への奇襲に必要な疑似爆弾を! というわけで、たった今作戦を遂行してきたのだ」

「……たった今?」

 唐突な成功宣言を聞き入れて、万事屋一行は体が固まり反応に困ってしまう。思えば「有終の美」や「作戦」と言った言葉を発している時点で、桂達には疑念を持っても不思議ではなかった。銀時は恐る恐るその真実について確かめる事にする。

「……で、何をやったんだよ?」

「フフ……聞いて驚くなよ。実はピザ屋を装って真選組屯所に、ピザ型の爆弾を仕掛けたのだ!! どうだ、中々の名案だろ?」

「桂さん直伝の作戦なんだぜ! 凄いだろ!」

(((はい?)))

 やはり嫌な予感は当たっており、一行の心の中にはただならぬ困惑が広がっていた。どうやら桂一派は、異国で得た技術を生かして、ピザ型の爆弾を真選組の屯所に仕掛けてきたようである。桂やクラインは誇らしげに自信を露わにしているが、対して万事屋一行は当然のように呆れ果てていた。桂の意志を曲げない性格と、クラインの信じやすい性格が悪い方向に向いた瞬間である。

 もちろんこんな仕打ちを受けて、真選組も黙っている訳にはいかなかった。

〈ヒュー!!〉

「ん? って、うわぁ!?」

「な、なんだよ急に!?」

 突如として桂達の元には、簡易型爆弾であるジャスタウェイが襲い掛かってくる。煙が立ち込める中で、彼らの目線の先にはあの天敵が姿を見せていた。

「御用だ桂ぁ! 神妙につきやがれ!!」

「よくもピザ型の爆弾を仕掛けてきたな、コノヤロー」

 そこには激情に駆られている土方と沖田の二人が立ち並んでいる。手にはバズーカやジャスタウェイといった遠距離型の武器を装備しており、武装も完璧に仕上げていた。彼らの隊士服には黒く焦げた跡があり、恐らく桂からの爆弾を受けたに違いはない。その影響からか、共に表情も怒りに満ち溢れている。

「って、土方さんと沖田さんが来ていますよ!!」

「嘘でしょ!? 桂さん達を追って、ここまで来たって事!?」

 執念深い真選組の一面に驚嘆して、シリカやリズベットは大きく声を上げていた。さらに銀時も、真選組の襲撃には文句を口にしている。

「おい、てめぇら! なんで俺達まで巻き込まれなきゃいけねぇんだよ! それでも江戸の警察かよ!」

「何文句を抜かしてんだ、天然パーマ! おめぇらは別件でしょっぴいているんだよ! 闇〇業もしてねぇのに、五か月間も出番が無いとはどういう了見だよ!?」

「そこなんですか、気にしていた事!? てか出番云々は僕等じゃなくて、原作者に問い合わせてくださいよ!!」

 土方からの思わぬ反論には、新八もツッコミを加えていた。真選組もまた剣魂では久しぶりの登場であり、しばらく出番が無かった憂いを晴らすために、銀時へ八つ当たりを仕向けている。土方だけではなく、沖田も同じ気持ちを持ち合わせていた。

「うるせー。もうめんどいから、全員分吹っ飛んじまえー。どーん!!」

 棒読みで呟いた後にバズーカを構えると、何のためらいも無く銀時らの方へ砲撃を放っている。治安部隊とは思えない横柄な所業の数々に、リーファやシノンも動揺を隠しきれていない。

「って、本当に砲撃してきたんだけど!? 沖田さん、ドSにもほどがあるって!!」

「それよりも、早く逃げないと余計に食らうわよ!!」

「ならば仕方ない……撤退だ!!」

「お前が仕切るんじゃねぇぇぇ!!」

 原因の一端でもある桂は、足早にその場を去っていき、砲撃から免れようと走り出した。彼に続いてクラインや銀時らも、彼の跡を追うように逃げ出している。

「待ちやがれ、天パに桂ぁ!!」

 さらにその跡を、怒り心頭の土方や沖田が追いかけていく。こうして、カオスさが極まりない逃走劇が幕を開いたのであった。

「おい、ヅラにクラ! 元々お前の責任アルから、どうにか犠牲になれアル!」

「そんな殺生な事は言うな、リーダー! これも攘夷活動にとって、仕方ないことだ!!」

「そうだぜ! 桂さんの言う通りだ! 逃げるのも立派な侍の役目だよ!」

「いや、アンタがやってることはただのテロ活動だから!! そこに気が付いてくださいよ!!」

 走りながら文句をぶつける神楽らであったが、桂やクラインからは一斉の詫びは返ってきていない。持論を展開しており、新八からは強いツッコミを加えられてしまう。

 巻き込まれる形で真選組に追いかけられる万事屋一行や桂達だが、その中でもアスナだけはどこか賑やかな空気に安心感を覚えていた。

「フフ……やっぱり賑やかな方が、万事屋らしく見えるわね」

「ん? ママ? どうしたんですか?」

「なんでもないわよ。ただこの状況も、悪くないって思っていただけよ」

「そうなのですか?」

 いつの間にか彼女も不安が吹き飛んで、心から笑いあっている。一方で銀時とキリトは、走りながらこの状況を抜け出す作戦を練っていた。

「おい、キリト! とりあえず、作戦でも立てるか! 真選組から撒く方法を!」

「そんなの簡単だよ! 桂さん達を追い抜けばいいだけの話だから!」

「何!? そうはいかぬぞ! 競争であれば、こちらもフルスロットルだ!!」

「おめぇはいいから、報いを受けろやぁぁぁ!!」

 勝手に対抗心を燃やす桂の行為には、銀時も我慢できずに大声でツッコミを入れている。カラオケまでの道のりはとても程遠く、今全員はこの逃走劇を走り抜ける事で躍起になっていた。

 かくして夢世界での一件を全て片付けた万事屋は、新しい目標を掲げると共に、いつものハチャメチャな日常へと戻っていく……

 

 一方でこちらは、江戸から離れた人気のない山の深層部。森林が生い茂る木々の中を潜り抜けると、突如として現れるのは寂れた雰囲気を醸し出す一つの遺跡であった。その暗い内部には、未発達である小型のブラックホールやサイコホールが、辺り一面に渦巻いている。

 当然近くには、サイコギルドに属するアンカーと銀色の怪人が佇んでいた。刺客として放ったショッカー首領が倒されたことで、彼等は一連の流れを振り返り、次なる手を打ち始めている。

「ショッカー首領、やられちゃったね。何か呆気なくない? アレでも仮面ライダーってヒーローを追い詰めた強敵なんでしょ?」

「フッ……奴は既に不完全だったからな。本来の力は出せなかったのだろう。それに、あやつが勝とうが負けようが、我々には関係のない話だ」

「アレ? そうだっけ?」

「そうだ。今の我々にとっては、組織としての兵力が必要不可欠だからな。首領が来たサイコホールからは、数多の改造人間の記憶が渦巻いていた。それらを一つに集めて、今はこの玉に収めている」

 そう言って怪人が見せてきたのは、緑色に輝く小さき球体であった。よく覗いてみると、夢世界で姿を見せた改造人間の同志が薄っすらと見えている。文字通りサイコギルドの兵力として、有効活用するようだ。これにはアンカーも強い興味を示している。

「へぇー凄いじゃん! これでまた記憶を圧縮させたんだね! これならサイコギルドの勢力拡大も間違いなしだよ!!」

「いいや、慌てるな。まだ計画は始まったばかりだ。ゆっくりと進もうではないか。我等の復讐の為にも……」

「オーケー、任せてね! シャドームーンさん!」

 壮大な計画を頭に浮かべながら、アンカーは協力者である銀色の怪人――いや、シャドームーンに了承していた。かつて仮面ライダーBLACKを追い詰めた強敵が、何故サイコギルドに加担しているのか……その理由は定かではない。

「さて、次なる準備へと進めようではないか。新しい刺客も用意してあるからな」

「刺客って、あの男のこと?」

「ああ。昭和が猛威を振るうならば、平成も負けてはいられん。覚悟しとけよ……坂田銀時に桐ケ谷和人……!!」

 彼は銀時やキリトの本名を上げながら、新しい計画を刻々と進めていた。謎が謎を呼ぶサイコギルドという組織。まだその全体像を把握できないまま、密かに銀魂世界で暗躍を続けている……

 




 色々ありましたが、銀魂らしい終わり方で長篇を締め括りました。四か月ほど連載していましたが、一言で例えると「ぶっ飛んだ」としか言いようがありません。

 今回は攘夷戦争やアインクラッドでの戦いをモチーフにしていますが、あえて原作には似せずに話を作っていました。そもそも銀魂もSAOも原作での時系列に沿って作っているので、同じことをしても今作には合わないだろうと思っていました。その結果、夢世界での設定を作ってサチに似た少女チサや、性格の違う銀時やキリトを出して、オリジナル風に仕立てていきました。でも今作に出たキャラはあくまでも別人設定なので、ちょっと感情移入しにくかったと私自身も自覚しています。(汗)

 それでもグッとくる場面もあって、本物の銀時やキリトが茅場昌彦や吉田松陽と出会うシーンや、原作では出番の少ないサチの別人が活躍したりと、前にも言った挑戦作としては相応しかったと思います。

 後は黒幕としてショッカーが出てきましたが、それは話を作る前から決まっていました。思いもよらぬ敵と言う事で、皆さんが予想しづらい相手を出しましたが――いかがだったでしょうか? 今後も予想もしない敵役は出す予定ですが、既に私自身で決まっているのでそこはご了承ください。

 最後になりますが、長篇を通じて私自身にもある変化が生まれました。まだ確定事項ではありませんが、最終的に銀魂とSAOの未来が変わるかもしれません。このことについては、また別の長篇のあとがきで普及しようと思っています。(まだ上手くまとまっていないので……)

 さて次回からは日常回を中心にまずは描いていきます。そしてそれが終わったら……また戦闘系の長篇に移ろうと思っています。今度は本人達が参加できるように調節していきます。それでは長く付き合っていただき、ありがとうございました!






新シリーズ予告! 剣魂は再び日常回へ!!
銀時「俺達の日常がまた始まるから、サイコギルド云々は一旦お休みな」
神楽「掲載から一年以上経って、ようやく八月って遅すぎアルよ!」
新八「オィィィィ!! 予告で赤裸々にぶっちゃけるんじゃねぇよ!!」
 季節はいよいよ夏から秋へ! 八月~九月に起こった銀魂世界での日常を、一話完結型で描いていく! キリト達SAOキャラクターも、さらなるドタバタ劇に巻き込まれていくぞ!! 夢の共演を見逃すな!!
 そんな次回は――「男には隠しておきたい秘密が多々ある!」
近藤「おっ、てことは俺の主役回か!!」
銀時「いいや、晴太が主役みたいだから、ゴリラの出番はないぞ」
近藤「……はい!?」


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第四章 真夏の日常回篇
第四十訓 男には隠しておきたい秘密が多々ある!


 祝え! ゲーム攻略に長けて、仲間の為に全力を尽くす少年の生誕を! その名は桐ケ谷和人ことキリト! これからも剣魂で活躍する主人公に、祝福を上げようではないか!

 アスナの誕生日から一週間後。ちょうどキリトも誕生日を迎えたので、今回もウォズネタで祝いました。ていうか、10月上旬は誕生日迎えるキャラが多すぎるんだよ! 今度は銀さんに向けて頑張ってみるか……アレ? 誰か一人忘れているような……

 さて、「剣魂」の方では日常回に一旦戻り「真夏の日常回篇」が始まります! この章ではこれまで出演した銀魂・SAOキャラクターのみならず、様々なサブキャラの登場や、意外な共演を主軸に描いていきます。より銀魂らしい日常に近づいていくので、応援のほどをよろしくお願いします!

 そんな今回は晴太とそのお友達が主役です! キリトの誕生日なのに場違いな感じがしますが……気にせずにご覧ください。ちなみにこの話だけは、時系列が7月下旬となっています。



 江戸の近くに建てられている一軒の寺子屋。そこには日輪の義息子である晴太も通っており、友人達と共に日々勉学に励んでいた。七月も終盤に差し掛かった今日は、終業式が行われており、待ち望んでいた夏休みにみな期待を膨らませている。ホームルームも終わって生徒たちが帰宅の準備を進める一方で、晴太の元には桃色の和服を着た少女が話しかけてきた。

「晴太君! 夏休みも始まるし、折角だから今度お家に遊びに行ってもいいかな?」

「えっ!? それは……」

 元気よく笑顔で接してきたのは、クラスメイト兼友人でもあるいずみであった。愛想が良く明るい性格の彼女は、晴太とも気軽に話せるほど親しい関係を築き上げている。故に遊ぶ機会も多かったが、彼女から誘ってきたのは今回が初めてであった。

(ど、どうしよう……まだいずみちゃん達には、リフ姉達の事を言ってないし……)

 ところが、晴太の心の中では迷いが生まれている。実は彼、自身の家で同居しているシリカやリズベットら女子陣の事を、まだ友人達に明かしていないのだ。タイミングを密かに伺っていたが、言う機会も見出せず今に至っている。

「ご、ごめん! まだ母ちゃん達に確認していないから、決まったら伝えに行くね!!」

「って、晴太君!? もう行っちゃうの?」

「今日は忙しいから――!」

 返す言葉に詰まってしまい、晴太は急ぎ気味に話をはぐらかして去ってしまう。彼の不自然な態度には、いずみも薄々勘付いている。

「怪しい……」

「ん? どうしたんだ、いずみ」

「あっ、お兄ちゃん! 聞いてって! 晴太君の様子が最近変なんだよ! 遊びに行くって約束したのに、急にうやむやにするなんて、きっと何かを隠しているんだよ!!」

 疑いを強めながら彼女は、近くにいた自身の兄に向けて昨今の晴太の様子について話していた。熱意が収まらない妹とは異なり、兄は冷静に物事を分析している。

「って、アイツにも事情があるんだろ。その内落ち着いたら、きっと向こうから誘いに来ると思うよ」

「お兄ちゃんは呑気に考えすぎだよ! 夏休みも今日から始まっちゃうのに――こうなったら、私達の目で今から確かめに行こうよ!」

「はぁ? 今から……?」

 しかし説得をしても、彼女の意志が変わる事は無かった。夏休みに入る前にどうしても事実をはっきりさせたいので、兄を巻き込んで晴太の跡を追いかけようとしている。こうしていずみの積極的な行動から、晴太の隠していた秘密が徐々に暴かれていく――

 

「はぁ……いつどのタイミングで、みんなに言えばいいんだろうか」

 ため息を吐きながら晴太は、深く考え込んで帰り道をゆっくりと進んでいる。実際同居している女子達の一件も、好機さえあれば友人達に訳を話して、素直に打ち明ける考えではあった。ところが中々言い出せずに、ズルズルと長引かせてしまい、つい後悔を覚えている。

 そんな彼の後ろには、いずみら二人が密かに身を潜めて尾行を始めていた。電柱を影に利用して一定の距離を保って、静かに晴太の様子を伺っている。彼が移動すると同時に、二人もまた別の電柱に移動して身を隠していた。真実を知るためにやる気に溢れるいずみだが、兄はそこまで乗り気ではなく、二人の間には早速温度差が生じている。

「それで結局ついてきたんだが、何一つ変わらねぇじゃないか。やっぱり、いずみの思い違いじゃないのか?」

「そんなことないよ。きっと晴太君には誰にも言えない事情があるんだよ。まだまだこれからだから、お兄ちゃんもちゃんとついてきて!」

「はいはい、分かっているよ……」

 兄に何を言われようが、いずみは意志を曲げずに尾行を続けていく。妹の真っすぐな態度には彼自身も苦労を感じていたが、それでも内心では心配しており、今もこうして行動を共にしていた。

(こういう時のいずみは、梃子でも意志を曲げないからな……まあ、その内にほとぼりも冷めて諦めるだろう)

 心の中ではそっと本音を呟いている。晴太の隠し事についても、彼はさほど重要視はしていなかった。本人の様子を後ろから覗いても、特に怪しい行動は見当たらないからである。目を閉じて今後の状況を定めていると、ずっと見張っていたいずみは途端に強い動揺を露わにしてきた。

「えっ……? 嘘!?」

「どうしたんだ? 動かぬ証拠でも掴んだのか?」

「お兄ちゃん。ア……アレを見て」

「アレって……えっ!?」

 彼女の驚嘆とした反応に気が付き、兄も目を見開くと、目の前の光景を凝視していく。すると彼も反動で驚いてしまい、表情を一変させていた。彼らが見たものとは――

「あっ、晴太さんだ! おーい!」

「ナー!!」

「ん? もしかして、シリカ姉とピナ?」

晴太が知り合いらしき女子と出会う光景である。彼女の容姿は見慣れないファンタジー風の衣装であり、茶色い猫耳と尻尾を生やした天人のような風貌であった。肩には水色の小さき竜も乗せており、地球人ではないことが遠目からでも理解できる。

おかげでいずみら二人は、早速頭を混乱させていた。

「だ、だ、誰あの女の子!? 晴太君と……ど、どんな関係なの!?」

「お、落ち着けいずみ! まずは大声を出さずに、冷静になれって」

「そ、そう言われても……仕方ないじゃん。猫耳の天人と知り合いなんて、まったく聞かされてなかったから……」

 彼女は分かりやすく心を惑わせており、頭の中では晴太と少女の関係性について考えを煮詰めている。変な詮索まで始めてしまい、中々心を落ち着かせずにいた。一方の兄も、晴太の交友関係には驚きを見せている。

(これは予想外だったな……でも、なんで俺達に黙っておくんだよ。やましいことも無かったら、普通に打ち明けてくれるだろうし……)

 こちらも心の中では、猫耳の少女との関係性について注目を寄せていた。兄妹揃って晴太の彼女疑惑に関心を強めている。

 そんな彼女の正体は、ひのやに下宿している女子の一人シリカであった。晴太からも信頼されており、姉弟のような仲で彼と親睦を深めている。いずみらの眼差しには気が付くことは無く、彼女は晴太と会話を進めていく。

「この時間に会うなんて意外ですね! 晴太さんはもう帰宅時間ですか?」

「今日はそうだよ。終業式だったから、早めに終わったんだ」

「そうだったんですか。では一緒に帰りませんか? アタシも百華のお手伝いが終わって、ひのやに戻る最中だったんですよ!」

「そうなんだ。じゃ、一緒に帰ろうか。シリカ姉やピナと帰るのも、結構新鮮だし」

「ナー!」

 どうやら共に帰宅する途中であり、このまま合流して一緒にひのやへと家路に着くようであった。目的を一致させた二人は互いに微笑んだ後、相手に寄り添いながら横へ並び、歩みを進めていく。この晴太らの後ろ姿を目にして、いずみ達の心はさらにかき乱されている。

「えっ……そのまま一緒に歩いている!? これはどういうこと?」

「おいおい、待てよ。本格的に匂ってきたぞ。まさかあの猫耳女子が、晴太の彼女――」

「そ、そ、そんな訳ないよ!! 晴太君だったら、別の女子と付き合っても秘密にはしないはずだよ! 多分……」

「……とにかく、もっと探ってみるか」

 未だに落ち着けない彼女は、体を震わせて必死に否定を念じていた。兄の方も動揺した気持ちを押し込ませて、妹に説得を加えていく。さらなる事実を得るためにも、二人は三度電柱の影へ渡って移動しながら、晴太の尾行を続けている。その最中には、隙を見て晴太と猫耳少女との会話を盗み聞きしていた。

「それにしても、この世界の女性って比較的に背が高いですよね。お妙さんや月姉とかも高めだし……背が小さいアタシにとっては、羨ましい限りですよ!」

「そんなことはないよ。シリカ姉はまだリズ姉達よりも若いんだし、巻き返すチャンスは幾らでもあると思うよ」

「そう言って晴太さんも、いつかはアタシよりも絶対に大きくなりますよ。男子ってのは、いきなり成長しますからね……!」

「ハハ……そこまで気にしているんだ」

 話題に上がっていたのは身長や容姿に関連することである。シリカが抱えている悩みを晴太が聞き入っているようにも見えていた。高身長に強い憧れを見せる彼女の姿勢には、晴太も苦笑いで接していく。

 その一部を聞いていたいずみらは、普通の会話にすら神経質に考えている。

「猫耳少女は身長を特に気にしている……と言う事は、晴太君よりも年上だよね?」

「そこは別に気にしなくても良いんじゃないのか?」

 兄からはもっともなツッコミを返される始末であった。慎重に晴太達を見張っていると、ある一幕が起こっている。

「ん? シリカ姉の猫耳に、綿がついているよ」

「えっ、本当ですか? ――取れましたか?」

「いいや、全然。オイラが代わりに取ってあげるよ」

 シリカの猫耳に付いている綿埃に気が付くと、晴太は背伸びをして彼女の代わりに綿埃を取っていた。何気ない日常の光景であるが、いずみらにとっては死角になる部分もあり、一連の行動から間違った解釈をしている。

「急な背伸びって、まさか……身長差を利用してキスでもしているの……!?」

「落ち着けって。アイツが堂々とするようなタマじゃないだろ? 早とちりすんなよ」

 過敏にもいずみは、二人がキスしていると思い込み、さらなる困惑に苛まれていた。反応がいちいち忙しい妹の姿に、兄からはまたも冷静になるよう促していく。

 緊迫とした空気が彼女達の間に流れ込む中で、晴太たちの元にはまた新たに知り合いが近づいてくる。

「アレ? 晴太にシリカじゃん! 一緒に帰っているなんて、珍しいわね!」

「って、この声は……リズ姉!?」

「当たり~! ここで会うなんて、奇遇だね!」

 軽く親しげな感じで接してきたのは、シリカと同じくひのやに下宿する女子、リズベットであった。女子メンバーでは意外にも最年長であり、比較的に場を仕切るお姉さん気質な一面を持っている。故に積極性が高く、晴太にはからかい気味に接することも多い。

「というか、リズさんももしかして仕事が終わったんですか?」

「そうそう! 今日は鉄子さんが午後から予定があって、店も早く閉めたのよ。それで帰宅していたら、アンタ達に出会ったってわけ」

「そ、そうだったんだ」

 彼女もまた理由があって、普段よりも早く家路に着いていた。度重なる女子達との遭遇には、晴太もつい不思議さを感じている。

 しかしその遭遇が、いずみらに間違った誤解を与えようとは知る由もないであろう。

「こ、今度は誰……!? また新しい女の子が現れたんだけど……!?」

「なんか雰囲気が猫耳少女と似ているな……彼女の知り合いとか?」

「どっちにしても、気になってしょうがない……!」

 突如として現れたピンク髪の少女に、二人は遠目で注目を寄せている。猫耳少女とはどこか衣装の雰囲気は同じだが、一見すると十代後半にも見えなくはない。益々晴太との関連性が分からなくなっていた。

 するとリズベットはある誘惑を思いつき、早速晴太へ向けて仕掛けてくる。

「それはそうと……晴太もアタシ達に対して、抵抗心が随分と薄れたわよね」

「ええ、そうかな? 半月くらい二人と一緒に暮らしているから、自然に慣れただけだと思うけど……」

「ふーん。だったら……」

 そう言うと彼女は徐に近づき、満面の笑みを見せたところで――

「えい!!」

「ん!? リ、リズ姉!?」

両手を広げて彼をがっちりと抱きしめてきた。彼女の大胆すぎる行動には、晴太や近場にいたシリカも困惑して、顔を赤くしてしまう。驚いた反応を面白がるように、リズベットは無邪気にも笑って状況を楽しんでいた。

「こういうのも、別に問題ないってことでしょ?」

「って、急すぎるってば!! オイラは別に抱きしめてなんて、お願いもしてないよ!!」

「何言ってんの! アタシ達にとって晴太は弟みたいな存在だから、ハグくらいごく普通のスキンシップでしょ?」

「そこまで子供じゃないよ! オイラは!!」

 持論を展開しながら、晴太へ女子らしい挑発を続けている。彼の純朴な性格を利用して、時折悪戯やからかいを仕掛けるのも、もはやお馴染みの場面であった。

「ハハ……リズさんらしいからかいですね」

「ナー……」

 顔を赤くしながらシリカも、苦笑いでそっと呟いている。リズベットのからかうような接し方にどう表現すればいいのか、毎度困っているらしい。もちろんピナも、主人と同じ気持ちを持っている。

 一方でより反応に困っているのは、一斉の事情を知らないいずみら二人である。

「あの女子とも親しい関係みたいだな……ていうか、猫耳女子よりも積極的だよな」

 兄は一段と冷静に対処しており、ピンク髪女子との関連について考察を続けていた。その最中には、いずみの方へと顔を向けている。

「なぁ、いずみ? って、アレ? おい、どうしたんだ!?」

 しかしそこに彼女は立っておらず、なんと兄との距離を置いて地面へと倒れ込んでいた。急いで妹に近づき体を起き上がらせると、彼女はかすれ切った声で現在の気持ちを伝えている。

「お兄ちゃん……私もうダメかも。ショックで立ち直れない……」

「どうして? まさか、過度なスキンシップが原因か……?」

「違うよ。その前に晴太君が言っていたことだよ」

「な、何か言っていたか?」

「うん。半月ほど一緒に暮らしているって……」

「……あっ。そういえば」

 いずみが大きく衝撃を受けたのは、晴太が口にした同居発言であった。彼女疑惑に上がった猫耳女子も、スキンシップの激しいピンク髪女子も、同じ屋根の下で暮らしている事を知ると動揺が抑えきれないのである。兄も聞き逃した部分を知って、妹の心情を悟っていた。どうにもならない虚無感に包まれてしまった彼女は、涙を流して悲壮感に漂っている。

「晴太君もいつの間にか、ハーレム系ラノベ主人公になったってことだね……」

「いや、そこまで言うか。二人だから、ハーレムとは言わないんじゃ……」

 もはや兄が何を言っても、いずみの心には響いていない。普段は明るく振る舞う彼女だが、友達であった晴太の隠された秘密を知ると、精神的なダメージが心を蝕んでしまう。ここまで落ち込むのも、かなり珍しいことであった。冷静さを取り戻すのも、時間がかかりそうである。

 そんな一悶着があったいずみらの元に、通りかかった二人の女子が、心配そうに話しかけてきた。

「ねぇねぇ。何かあったの、君達?」

「ただれているけど、大丈夫?」

「ああ、いやなんでもねぇよ。妹がちょっと転んだだけで……大したケガも無いし、心配をかけるほどでもないよ」

「そう? なら良いんだけど……」

 咄嗟に兄が誤魔化しを加えて、大事には至らずにいる。声をかけてくれた二人の女子も、これまた特徴的な容姿をしていた。妖精のようにとんがった耳を持つ金髪の女子と、水色がかった髪と猫耳が際立つ華奢な女子である。服装からは猫耳女子とピンク髪女子の二人と、どこか同じ雰囲気を醸していた。

(なんだこの胸騒ぎは……まさか、あの女子達もアイツらの仲間と言う事か?)

 兄は心の中で感じたままに呟いているが、その直感は奇しくも当たっている。彼女達は前を振り向くと、偶然にも自身の仲間達と目が合っていた。

「ん? ねぇ、リーファ。あの人達って、シリカやリズじゃない?」

「あっ、本当だ! 晴太君もいるし、一緒に見に行ってみようよ!」

「そうね」

 そう発すると二人は、この場を去って晴太達のいる方面へと向かう。そう、彼女達の正体はシリカやリズベットと同じく、下宿仲間のリーファとシノンである。偶然に引き付けられるように、二人も近場にいた晴太達と合流していく。

 当然ながらいずみらにとっては、さらなる衝撃が襲い掛かっていた。

「えっ、またかよ!? あの女子達も、晴太の知り合いだったのか!?」

「そんな、嘘でしょ! 本当にラノベ主人公っぽくなっているじゃん!!」

「そ、そうだな……」

 いずみが例えたツッコミには、とうとう兄も否定できずに受け入れてしまう。女子達に囲まれる晴太の姿は、俗にいうラノベ主人公を彷彿とさせていた。二人共に心が落ち着かないまま、リーファとシノンが晴太と接する場面を見張っていく。

「みんな! こんなに集まって、一体どうしたの?」

「リーファさんにシノンさん! お二人も手伝いが終わったんですか?」

「まぁ、そうね。私はオフだったけど、たまたま手伝い終わりのリーファと会って、今に至っているってわけ」

「そうだったのね。てことは、今日は偶然の集合って訳ね!」

 滅多には無い昼時の集まりに、リズベットら女子達のテンションも急に高くなっている。場の空気に乗っかって、ここでシリカはある提案を思いついていた。

「中々無い展開ですよ! 折角ですし、これからみなさんで遊びに行きましょうよ!」

「いいわね! でも、まずは晴太の都合も聞いてみないと」

「オイラは大丈夫だよ。この後も予定は無いし、母ちゃんに連絡が取れるなら構わないよ」

「よし! じゃ、みんなで万事屋に行ってみようよ! 久々に、お兄ちゃんやアスナさん達に会いに行きたいし!」

「いいわね。私も賛成するわ!」

 一緒に遊びへ行く方向となり、リーファの希望から行き先が万事屋へと決定する。晴太も了承しており、彼を含めてこれから移動するようだ。

 この急な方向転換には、見張っていたいずみらも動揺を覚えてしまう。

「えっ!? これからどっかに向かうのか……? どうする、いずみ……って、アレ? どこへ行った?」

 妹の反応を伺う兄であったが、顔を振り向かせるとそこに彼女の姿はいなかった。辺りを見渡しても見つからない為、彼は咄嗟に嫌な予感を察している。

 そう彼女は、覚悟を決めて堂々と真正面から立ち向かっていた。

「ちょっと、止まってー!!」

 晴太達の元へ近づくと、ためらいも無く大声を発して彼らの注意を引き付けていく。

反射的に晴太らが後ろを振り向くと、そこにいたのは……紛れもないいずみ本人である。悔しそうな表情を露わにしながら、堂々と場に乱入してきたのだ。

「えっ? いずみちゃん!? どうしてここに?」

 唐突な友人の登場により、晴太は驚きを示している。続くようにして女子四人も、彼の友人らしき人物に注目を寄せていた。

 その一方で兄は、大胆不敵な妹の行動力に嘆きを口にしている。

「アイツ、何やってんだよ……」

 顔に手を当てて、彼女を止められなかった自分に後悔を感じていた。そしていずみの方は、涙を浮かばせながら抱えている疑問をぶつけていく。

「晴太君!! この女の子達って、一体誰なの!? 何で今まで秘密にしていたの!!」

「いや、それはオイラにも言うタイミングがあって……」

「こんなに可愛い子達と友達だったら……一人くらい紹介しても良いんじゃないの!!」

「……はい?」

 しかし未だに気持ちが整理できないのか、本筋を言えずに回りくどく疑問を発している。これには晴太も首を傾げて反応に困ってしまう。

その傍らで見守っていた女子達も、様々な反応を口にしていく。

「おっ、いきなりの大胆発言。晴太の友人も、随分と面白いわね」

「そうみたいだけど、ちょっと話がよじれているのかな……?」

「晴太が私達の事を明かしていないからかしら?」

「驚きです……だから、勘違いしているのでしょうか?」

「ナー?」

 ピナでさえもつい違和感を覚えている。状況を面白がる者もいれば、すれ違いが起きていることに不安を感じる者もいた。だがこうして、いずみとの出会いによって、場の空気はようやく一変していく……

 

 それから数分が経った頃。互いに落ち着きを戻したところで、一行はまず近場にあったベンチ付近へと移動していた。晴太やいずみといった子供達のみがベンチに座ったところで、早速情報交換を始めている。

「えっとつまり……いずみちゃん達は晴太君の友達で、隠し事があると思って尾行していたってことだね」

「そうだな。ウチのいずみがかなり心配していたから、ずっと追っていたんだよ」

 確認がてらにリーファが問いかけると、いずみの兄が返してくれた。彼女達は自身や晴太との関係性や、今日の尾行までに至る経緯を説明している。その甲斐もあって判明したことは、やはり晴太がリズベットらの存在を隠していた事実であった。

「ていうか、晴太ってまだアタシ達の事を話していなかったの?」

「そ、そうだけど、オイラでも言いづらかったんだよ! 姉ちゃん達の事を言うのは、抵抗もあるし……」

「まぁ、気持ちは分からなくはないけど……」

 下宿とはいえ女子達と同居している事実に変わりは無く、彼は打ち明けるのにためらいを感じている。男子ならではの考え方には、シノンも微かに理解を示していた。

 一方でいずみの反応では、彼の事情を考慮しつつも自らの気持ちを交えて、注意を加えていく。

「そういうことだったんだ……でも、こうやって誤解を招くこともあるから、今後はなるべく打ち明かしてほしいよ。晴太君が隠し事をしていたら、私達も心配しちゃうからね!」

「それは本当にごめん! オイラが早めに言うべきだったよね!」

「うん。じゃ、これからは気を付けてよね!」

 一人の友達として信頼する気持ちを、彼女は表していた。優しさ溢れる対応には、晴太も頭が上がらずに早々と謝りを入れてくる。それを聞いたいずみは、安心して笑顔を取り戻していた。こうして二人の間に出来たすれ違いは、ようやく解消されたのである。より仲を深めた二人の光景には、兄だけではなくシリカら女子陣も微笑ましく見守っていた。

「晴太さんといずみさんって、仲睦まじい関係ですよね」

「アレは明らかに、ちょっとだけ気があるわよね」

「これからの関係に期待だね!」

 今後の発展に興味を向けており、女子特有の恋話で徐々に盛り上がりつつある。いずみらの事情を説明したところで、今度はリーファら女子陣の番であった。

「えっと、それでお姉さん達は、晴太君の家で現在は下宿しているんですか?」

「そうだよ。この世界に来てからは、晴太君のお母さんの元でお世話になっているのよ」

「つまり、別の星から来た天人の留学生って事か?」

「天人留学生……そ、そうですね」

「へぇー。だったら、大変だよね。容姿も違うから、慣れないことも多いのに」

「そ、そうね! 文化の面も多少違うからね……」

 下宿している彼女達を留学生と仮定しており、猫耳やとんがった耳から天人だと決めつけている。歯切れの悪い反応であったが、シノンらは肯定して話を通していた。

 もちろんいずみらの予測は外れであり、彼女達にそのような要素はまったく当てはまらない。晴太が彼女達の経緯を説明する傍らで、本人達は小声で密かに本音を呟いている。

「流石に別世界から来た地球人なんて、言えませんよね?」

「言ったところで、信じてもらえないからね……なんせこの容姿だし」

「とんがり耳と猫耳だったら、宇宙人だって誤魔化した方がスムーズに済むからね……」

「これからも説明がややこしくなりそうね……」

 複雑な状況には、みながため息を吐く始末であった。予め事実を言っておくと、彼女達は別世界の人間であり、現在の容姿はゲームのアバタ―と一体化をしている。元の世界へ戻れるまでは、下宿がてらに手伝いを続けている……といった訳ありな事情であった。全てを説明する余裕もないので、これからは留学生の天人として設定を貫くと心に決めている。その覚悟を密かに誓っていた。

 一方で晴太達は、女子達がひのやに来た経緯を説明している。それが終わると同時に、いずみは再び安堵の表情を浮かべていた。

「――という訳なんだよ。シリカ姉達が、ウチにやってきたのは」

「そうだったんだ……でも、良かった。晴太君にやましい事が無くて。てっきり私は、彼女が出来たものだと勘違いしていたんだよ」

「それは絶対にないよ。第一姉ちゃん達には、もう心に決めた相手がいるからさ」

「えっ? そうなの?」

「うん。確か姉ちゃん達と同じ世界――じゃなくて、同じ星から来た男子がいるんだよ」

 途中で誤魔化しを加えながら、話題はシリカ達が恋焦がれている相手へと移り変わっている。いずみも食いつきが良く気になり始めていると、その噂の相手は偶然にも通りすがってきた。

「アレ、みんな? ここに集まって、一体何しているんだ?」

〈〈〈〈ハッ!?〉〉〉〉

 声を聞いた瞬間に、四人の女子は顔色を急変させて、横や後ろへ振り向いていく。もちろんそこにいたのは……仲間でもあるキリトであった。銀時とユイの計三人で行動を共にしている。

「やっぱり、みなさんじゃないですか! ここで会うなんて、奇遇ですね!」

「そうだな。負けヒロイン共が集まっていたら、そりゃレアだよな」

「負けヒロインって……凄い悪口に感じるんだが」

 再会を喜ぶユイらとは異なり、銀時だけはためらいもなく皮肉を口にしていた。これにはキリトも苦笑いで、反応に困惑している。万事屋らしい緩やかな展開が繰り出される中で、対照的に女子陣は気合を込めて、静かに闘志を燃やし始めていた。

「ん? どうした、お前等? まさか冗談を本気にしているんじゃ――」

 と銀時が声をかけてきた時である。

「キリトさーん!!」

「「キリト―!!」」

「お兄ちゃんー!!」

「えっ、何!?」

 四人は一斉に走り出して、キリトに目掛けて勢いよく言い寄ってきた。みなは目を輝かせており、急激にテンションを高めている。近くに銀時がいてもお構いなしに、次々とキリトに話しかけてきた。

「お久しぶりですね、キリトさん!! もしかして、仕事帰りですか!?」

「ああ、久しぶり。というか、今日は仕事じゃなくて、三人で買い物に出かけていたんだが……」

「なるほどね。じゃ、もう帰りって感じ?」

「そうだな。これから万事屋に帰る予定なんだよ」

「じゃあさ、じゃあさ! これから万事屋に遊びに行ってもいいかな? 私達も偶然予定が空いて、久しぶりにお兄ちゃん達と会いたかったのよね!」

「えっ、今日か? まぁ、今日は空いているから大丈夫だけど」

「それじゃ、決定ね! 久しぶりに一杯話そうね!!」

 満足気に四人は笑顔を見せながら、勢いよくキリトへ約束を取り付けている。元気に接していく女子達とは違い、キリトは平然と落ち着いて話していた。有り余る活気を見せる姿には、彼も一安心してそっと微笑んでいる。

 その傍らで銀時は、無我夢中で接する女子達へ向けて、強気にも注意を促してきた。

「おい、てめぇら! 急にキリトへ駆け寄ってくるなよ! ジャニー〇の出待ちでも、ここまで過激な奴はいねぇぞ!」

「って、銀時さんは静かにしてくださいよ! アタシ達はキリトさんと話しているんですから!」

「そうよ! 負けヒロインって言っておいて、逆ギレは無いんじゃないの!?」

「そんなんだから、お兄ちゃんと違って好かれないのよ!」

「少しは肝に銘じておきなさいよね!」

「うるせー! もう踏んだり蹴ったりじゃねぇか!? 同じ主人公なのに、どうしてここまで優劣付けられるんだよ!!」

 一言発しただけで、四人分の文句を食らい、銀時はさらにツッコミを加えていく。明らかなキリトとの待遇の差には、当たり前のように理解していた。好き放題言い張る女子達には、もう勢いで押し切るしか策はない。

 一気に豹変した女子達の行動には、当然いずみらも唖然となり体が固まっている。

「……す、凄まじいね。さっきまでの態度はどこへいったの?」

「オイラの姉ちゃん達は、情熱だけは人一倍強いからな」

「信念が強いというか、往生際が悪いというか……」

 兄からは正論が飛び交う始末であった。だが同時に、女子達に好きな相手がいると分かり、いずみは心の中でそっと一息ついている。

(でも、良かった。この調子だったら、晴太君に好意は向かないよね。これで一安心――)

 心配していた晴太の彼女疑惑が払しょくされた時であった。

「アレ? 晴太さんじゃないですか! お久しぶりですね!」

「あっ、ユイちゃん!」

「……えっ?」

 ここで予想外のダークホースが出現している。ずっとキリトの後ろにいたユイが、晴太に気が付くや否や急に話しかけてきたのだ。以前にも接したことのある二人である、早くも手慣れた様子で会話を進めている。

「ここで会うなんて偶然ですね! 寺子屋はもう終わったんですか?」

「うん! 実は今日が始業式で、これからは夏休みなんだよね」

「そうだったんですか! じゃ、今日からいつでも会えるって事ですね!」

「そ、そうだね!」

 元気よく無邪気に接するユイと比べて、晴太は若干照れながら意識して話を進めていた。仲良き光景であるが、この純朴な雰囲気に我慢できない女子が名乗りを上げてくる。

「ちょっと、待ちなさいってー!!」

 それはもちろん、さっきまで安心感に浸っていたいずみであった。突然現れた同年代の女子に焼きもちを感じており、真っ向から対抗心を露わにしていく。

「ん? どうしたのですか?」

「どうしたもこうしたもないよ! アナタは一体誰なの!?」

「私はユイですよ! 万事屋に所属する立派な従業員です! ところでアナタは――?」

「いずみよ! 晴太君のお友達だって!」

「そうだったんですか! では、私ともお友達になりましょうよ!」

「だから、そういう事じゃなくて!!」

 融和的に接するユイとは相性が合わずに、いずみはついもどかしさを覚えている。優しく接する彼女に対しては、話のテンポすら崩されかねないのだ。

 そんな妹の心境を悟って、兄は深いため息をボソッと吐いていく。

「はぁ……これからアイツも、忙しくなるだろうな」

「えっ? 夏休みなのに?」

「……お前って、意外にも天然なんだな」

「はい?」

 鈍い反応を見せる晴太を見て、彼はこの先に待つ苦労を察している。子供らしい感情や考え方の違いが、にじみ出た瞬間でもあった。

 一連の流れを目の当たりにして、いつの間にか見ていたシリカら女子陣も口々に意見を発していく。

「ユイちゃんが意外にも、場を狂わせている?」

「あの子が入ったら、余計にややこしくなりそうね」

「まるで少女漫画的な展開だよー」

「晴太もこの先苦労するわよね」

 女子陣はみな頷いて、今後の三人の行方を見定めていた。一方で男子陣も、同じように続けて呟いている。

「昼ドラみたいにならなきゃいいけどな……」

「大丈夫だって。ユイの優しさだったら、きっと誰だって友達になれると思うよ」

「……何呑気な事を言ってんだ。おめぇは」

「えっ?」

 こちらでは鈍感かつ親バカなキリトの一面が際立っていた。これには銀時のみならず、近場にいたシリカやリズベットらも微妙な反応を見せている。

 こうして晴太の人間関係が明るみになり、また新しい一歩を踏み出したのであった。

 

 




 いずみちゃんの中の人は、SAOでシウネ―さんを演じたそうですよ。それにしても、いずみちゃん自体「銀魂」本編から見れば、結構なマイナーキャラな気がします……本編で出たのはたったの二回だけで、うち一回はセリフ無し。だからこそ、今回の話では性格の面で苦労しました。ただ元気で活発な女の子だけは印象に残っていたので、今回の話に反映させて描いています。ユイちゃんに対抗心を燃やすのも、女子らしくていいですよね!
 ちなみにいずみの兄は名前が分かっていないので、終始兄と呼称していました。
さて次回も出来れば、早めに上げたい……!





次回予告
シノン「私が公園で出会った男の子は、みんなに隠れてぬいぐるみを縫う、ちょっと不思議な子だった。どうやら一つの目的の為に頑張っているみたいだけど……」
銀時 「次回。サプライズは最後まで貫き通せ」
シノン「って、銀さんも来るの?」




補足 前回の話で書くのを忘れていたので、設定集02に第二章と第三章に登場したキャラクターを提示しておきます。興味があれば、どうぞご覧ください。


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第四十一訓 サプライズは最後まで貫き通せ

 祝え! 万事屋のリーダーでもあり、銀魂の主人公を務める侍の誕生日を! その名は坂田銀時! これからも大いに活躍する彼に、祝辞を述べようではないか!

 ……すいません。何とか頑張ったんですが、全然生誕祭に間に合いませんでした。でもこれで、アスナ、キリト、銀さん。主要キャラの誕生日は祝えた……シリカだけは出来なかったけど。

 そんなこんなで誕生日ラッシュが続く中、今回はシノンの主役回をお届けします。では、どうぞ。



 八月もいよいよ終盤を迎えようとする今日この頃。かぶき町公園では、暑さに負けじと子供達がはしゃいで遊びまわっている。活気が飛び交う公園にて、一人の少女はベンチに座り、物静かに読書を楽しんでいた。

「ふぅ……終わっちゃった。中々面白い物語だったわね」

 読み終わると同時に体を伸ばして、自身の柔らかい猫耳をさすっていく。そう、少女の正体は超パフュームに所属するシノンである。彼女は休みが出来ると、公園や広場に出向くことが多く、毎回お気に入りの本を持ち寄って、一人の時間を楽しんでいた。今回は雨を主題にした群像劇を読み込んでおり、完成度の高さからつい満足感に浸っている。

「雨の中での再起ね……やっぱり粘り続けるのが肝心なのかしらね」

 印象的な場面を思い起こして、空を見上げていく。残念ながら天気は小説と違い晴天だが、お構いなしに深呼吸をして心を落ち着かせていた。

「さてと……そろそろ戻ろうかしら」

 そう呟くと彼女は、晴々とした気持ちのまま、身支度を始めている。ベンチを立ち上がって、ひのやへ戻ろうとした――その時であった。

「ん? そこにいるのは誰なの?」

 突然背後からの視線を感じて、顔色を急変させている。後ろの茂みから人の気配を察しており、振り返りざまに問いかけた。すると、茂みから姿を現したのは一人の少年である。

「えっ? 君は一体……?」

 もちろんシノンにとっては、初対面の相手であった。無愛想な表情でやんちゃな雰囲気を持っているが、その印象とは一変して手には糸や針、作りかけの猫のぬいぐるみを抱えている。明らかに訳がありそうな佇まいであった。

「はぁ……バレたか。分かったよ。ちゃんと訳は話すから、勘弁してくれよな」

 一方で彼は悪びれず素直に接しており、シノンへ近づき訳を説明していく。この出会いがきっかけで、彼女の心境には大きな変化が訪れている――

 

 一人の少年と接触したシノンは、再びベンチへと座って彼の話を聞き入る事にしていた。風貌とは異なる堂々とした性格から、悪意が無いと察しており、彼女には信じる気持ちが湧いている。少年も呼吸を整えたところで、ようやく会話が始まっていく。

「まずは自己紹介からだな。俺はちはるって言うんだ。近くの寺子屋に通う生徒だよ。姉ちゃんは、そもそも何て名前なんだよ?」

「私はシノンよ。地球には留学目的で訪れていて、今は百華のお手伝いをしているわ」

「そっか……やっぱり天人だよな。猫耳や尻尾も生やしているし……」

 互いにまずは自己紹介から交わしている。少年の名は「ちはる」であり、晴太と同じく寺子屋に通う生徒であった。一方のシノンも自己紹介をしたが、以前の約束通りに天人の留学生と称して誤魔化している。嘘を伝える事には、少しだけ罪悪感を覚えていた。

(本当は別世界の地球人だけどね……)

 気付かれないように心の中で、こっそり本音を呟いていく。

 そんな事情はさておき、話はいよいよ本題に移っている。

「それで、ちはる君はどうして隠れていたの? 後……このぬいぐるみは何かしら?」

「実はな……言いづらいけど、姉ちゃんをモデルにしてぬいぐるみを作っていたんだよ」

「えっ、私なの!?」

 予想もしない返答を聞き、シノンも動揺して大きく声を発してしまう。ぬいぐるみ作りはどことなく想像は出来ていたが、そのモデルに自分が選ばれていたことが衝撃的であった。驚きに包まれる彼女とは対照的に、ちはるは顔を赤くして、恥ずかしそうに話を続けていく。

「だから言いたくなかったんだ! 正直ドン引きすると思って、言いづらかったんだよ……」

「いや、そうじゃなくて……そもそもなんで、私をモデルにしていたの?」

「実は――俺には目的があって、今はこの猫のぬいぐるみ作りに全力を注いでいるんだよ。慣れてなくて最初は戸惑っていたけど、シノン姉ちゃんが公園に来てからは自然と調子が上がっていったんだ。この猫のイメージとぴったり合っていて……。でも中々本人に言いづらくて、今に至ってんだよ……」

 終始言葉を詰まらせながら、彼は伝えるべきことを包み隠さずに話している。ちはるの作っていたぬいぐるみをよく見てみると、水色の体色に大きい猫耳とシノンの印象とまるで一致していた。流石に顔はゆるキャラっぽいアニメチックな猫になっていたが、それでも彼女を思わせる箇所は、所々に散りばめられている。

 その真相を知ったシノンは、気を引かすことも無く、真摯にちはると向き合っていく。

「確かに私と似ている部分もあるけど、それだったら別に話してくれても良いのに。ちゃんとした理由があって、ちはる君はぬいぐるみ作りに取り組んでいるのよね?」

「そ、そうだけど……出来ないんだよ。姉ちゃんみたいな美人さんには、正直声もかけづらいし……」

 さらに説明を続けていくと、彼はさらに恐縮して恥ずかしがっていた。男子特有の淡い感情が前面となって、声をかけられなかったらしい。率直な理由を聞き、シノンも徐々に理解を深めている。

(この子、結構女子には控え目なタイプなのね。というか……美人と言われると私も返答に困るわね……)

 しかし彼女も誉め言葉には弱かった。嬉しく感じている分、若干頬を赤くして静かに照れている。どうにか心を落ち着かせて、シノンはさらに会話を振り下げていく。

「えっと、まずは褒めてくれてありがとうね。それでもう一つ質問なんだけど、ちはる君が言うぬいぐるみを作る目的って一体何なの?」

「それだけど……実は近々、俺に家族が増えるんだよね」

「家族? 妹さんや弟さんが生まれるってこと?」

「そう。妹なんだけど、もうそろそろ生まれるんだよな。母さんは今産婦人科にいて、出産の準備の真っ只中なんだ。俺も出来る事をやろうと思って、サプライズでぬいぐるみを作っているんだよ……これから生まれてくる妹の為に!」

 ここで彼の心情がようやく明るみとなっている。ぬいぐるみを製作する本当の理由は、新しい家族を迎い入れる為であった。一段と嬉しそうに話すちはるの様子から、相当な家族思いである事が伺える。母親には内緒で進めながら、慣れない裁縫を頑張っているようだ。

 しかしシノンの反応は異なっており、家族と言う言葉に引っかかって、複雑そうな表情を浮かべている。

「そっか……家族の為に頑張っているのね」

「ん? どうしたんだ?」

「いいや、なんでもないわ。ちょっと考えていただけよ」

 ちはるの前では平然を装っていたが、その心にはある葛藤が生まれていた。

 実を言うとシノンは、家族と言う存在をあまり理解していない。幼少期から父親を早くに亡くして、母親ともある事件から疎遠となり、以来祖父母としか関係を維持していなかった。年を重なるごとに自立心が強くなり、元の世界では一人暮らしを続ける彼女にとって、家族は遠い存在のように感じている。現状のちはると見比べれば、真逆の立場である事がよく理解できる。

(この子は家族の事を大切に思っているのね……聞いているだけで、その想いが伝わってくるもの。私にもこの気持ちが、分かる日が来るのかな……)

 あまり表面上には出さずに、心の中でそっと呟いていく。彼女は徐々に気持ちを切り替えていき、心に出来た葛藤も抑え込んでいた。無理のないように笑顔を浮かべると、自分から再び話を切り出している。

「ねぇ、ちはる君。話を聞いていて思ったんだけど……良ければ私も、ぬいぐるみ製作を手伝っていいかしら?」

「えっ、良いのか!? 姉ちゃんをモデルにしても?」

「構わないわよ。時間もあるから、焦らずゆっくりと進めていきましょう」

「あ、ありがとう! この恩は一生忘れねぇよ!」

 自ら進んで協力を持ち掛けており、彼の希望通りに応えようとしていた。それを聞いた本人は、屈託のない笑顔を見せて喜んでいる。シノンもつられて優しく微笑んでいたが、心にはある本音がよぎっていた。

(ちはる君の家族愛に触れていければ、私にもその大切さが分かるのかな……?)

 純粋な想いを持つちはると接していけば、考えが変わるかもしれない。微かに感じていた家族の憧れが、薄っすらと蘇りつつある。そう思ってシノンは、積極的に協力を設けていた。かくして互いの理想が交差する中で、ぬいぐるみ製作は再開したのである。

 

「どうかな、こんな感じで?」

「良いんじゃない。中々可愛いわよ」

 それから数分が経った頃。二人は試行錯誤を繰り返して、猫のぬいぐるみ製作を順調に続けていた。モデルになったシノンが間近にいることで、ちはるの作業効率も上がっている。未経験者でありながら、その裁縫技術は彼女をも驚かせていた。

「結構手際が良いわね。本当に初心者なの?」

「いいや。シノン姉ちゃんが近くにいるから、作業がはかどるんだよ! 折角協力してくれたんだから、立派なモノを作らないと!」

「フフ、気合十分ね! でも、怪我はしないように気を付けて」

 ちはるは一段と気合が入っており、声を弾ませつつ縫い続けている。楽しそうに製作する彼の姿には、シノンも一安心して見守っていた。

 穏やかな雰囲気のまま時間を有意義に過ごしていると、突如として二人の元にとある乱暴者が介入していく。

「よぉ! またぬいぐるみでも、作ってんのかよ!」

「男子のくせして、女々しいよな!」

 聞こえてきたのは、ちはるを煽るような文句である。振り向くとそこにいたのは、目つきの悪い男子二人組であった。

「何あの子達? ちはる君の知り合いなの?」

「いいや、違ぇよ。アイツらはよっちゃんとけんちゃんだ。この近くを牛耳るいわば――ガキ大将ってヤツだよ」

「つまり、関わるとめんどくさい子達って事ね」

 二人組の正体を聞き、シノンは率直な言葉で揶揄している。彼らの名はよっちゃんとけんちゃんと呼ばれている近所のガキ大将達であった。気に入らない相手へ喧嘩を売るのも日常茶飯事であり、公園でぬいぐるみを縫うちはるは、既に目を付けられている。彼は目つきを鋭くさせて、適当によっちゃんらをあしらっていく。

「なんだよ。俺をいじる暇があるなら、勉強でもして来たらどうだ?」

「そんなことはするかよ。それよりもよぉ……いつ出来上がるんだよ? 早く完成させて、おままごとでも始めたらどうなんだ?」

「てめぇ……何度も言ってんだろ。俺は使命があって、このぬいぐるみを縫っていると」

「何ムキになってんだよ! お前のセンスじゃ、ぬいぐるみなんかで新しい家族も喜ばねぇつーの!! ハハハ!!」

「お前等、言わせておけば……!」

「やめなさい、ちはる君! 挑発に乗っちゃダメよ!」

 ちはるはつい怒りを抑えきれなくなり、このまま実力行使へと移っている。しかし、間一髪でシノンに止められて事なきを得ていた。場は一触即発の雰囲気に包まれているが、ここでよっちゃんは近くにいたシノンにも喧嘩を売っている。

「ん? もしかして、猫耳姉ちゃんもこいつの味方しているのか? だったら、やめといた方がいいぜ。こんな女々しい奴の手伝いをしたって、時間の無駄だからな」

「そうだぜ! 止めとけ! 止めとけ!」

 ケンちゃんも続けて煽り文句を口にしていく。例え年上だろうと、彼らにとっては関係なかった。対立意識が続き緊張が走る中で、シノンは二人の言葉を聞き入れずに、冷静とした態度で反論を発している。

「女々しいからって、手伝っちゃいけないのかしら?」

「あん?」

「……私は、この子の純粋な優しさに応えたくて手伝っているのよ。新しい家族を迎い入れるのに、間違っている事はしているのかしら? それとも、気持ちを分かった上で、アナタ達は批判しているの?」

 大人っぽい真剣な表情を見せて、言葉一つ一つをはっきりと伝えていた。自身が感じていた強い気持ちを表して、ちはるを咄嗟に守っている。シノンの本気に触れていくと、よっちゃん達の勢いも徐々に失い始めていた。

「って、それは……」

「ちっ! 分が悪いな! 今日はこのくらいで勘弁してやるよ!」

「お、覚えておけよ!!」

 返す言葉が見当たらずに、二人はのこのこと公園を立ち去っていく。一時的ではあるが、衝突の危機だけは回避できた。一方でちはるは、守ってくれたシノンの行動を見て驚きを示している。

「シ、シノン姉ちゃん?」

「フゥ……私も我慢できなかったのよ。頑張っている人を馬鹿にするなんて、腹が立っちゃうもの。さぁ、気を取り直して製作に戻りましょう!」

「あ、ありがとうな……」

 場を収めてくれたことに恩を感じており、静かに礼を伝えていく。そして何事も無かったかのように、二人はぬいぐるみ製作を再開させていた。その最中で彼女は、心の内側で一連の流れを振り返っている。

(この子も大変なのね……いじめっ子たちにも目を付けられて。どうにか、気にしなければいいんだけど……)

 因縁を持たれているよっちゃんらとの、今後の関係について気にかけていた。大きい騒動に至らないことを、今はただ祈るしかない。進展するぬいぐるみ製作であったが、その道筋には思わぬ危険も潜んでいる。そう感じた一幕であった。

 

 さらに数時間が経った頃。時刻はすっかり夕方へと移り変わり、真っ赤な夕焼けが空一面を覆い始めている。集中して続けていたぬいぐるみ製作も、二人の帰宅時間を考慮して一時中断となった。状況は順調であり、シノンの協力もあってか完成はほぼ目前に迫っている。

「よし! 今日はこの辺でやめておくか」

「お疲れ様、ちはる君。随分と頑張ったわね。これなら、後少しで完成するんじゃない?」

「何とか間に合いそうだからな。これもシノン姉ちゃんが、協力してくれたおかげだよ!」

「どういたしまして。猫のモデルでも頼りになれたなら、私はそれだけで十分よ。この調子で進めて、立派なぬいぐるみを完成させてね!」

「もちろんだよ!」

 達成感に浸っていた二人は、互いに感謝の言葉を掛け合って、綺麗に場を締め括っていく。無邪気にも子供らしい喜びを見せるちはるの姿を見て、シノンも同じくらい微笑んで返していた。偶然の出会いを通じて育まれた縁は、共に新しい刺激を与えている。

 だが一方で、惜しくも別れの時間が訪れていた。

「あっ、もうこんな時間か。それじゃ俺はこの辺で帰るよ。じゃあね、姉ちゃん!」

「うん、さようなら!」

 門限が迫っているためか、急ぎ気味にちはるは別れの挨拶を済ましている。ぬいぐるみや裁縫道具を抱きかかえて、そのまま公園を去っていく。シノンも静かに手を振って、彼の姿を見守っていた。

 そしてまた一人になったところで、彼女の表情はまた切なく変わっている。家族想いなちはるの一面を見てもなお、家族と言う存在をまだ具体的には掴めていない。内心では迷いが広がっており、さらに考えを詰まらせている。

(ちはる君の持つ家族愛だけは理解できたけど、やっぱり私にはまだ分からないよ。なんでそこまで、大切に思えるの?)

 顔もうつむいてしまい、心の中では何度も疑問の壁にぶつかっていく。彼のように自然と芽生えてくる親の愛情が、自分には中々伝わっていなかった。他者と比べてしまい悩みを重ねていくシノンだが、そんな彼女の元にある知り合いが近づいてきた。

〈ヒュー〉

「ん? って、冷た!? いきなり何するのよ!?」

 唐突にもシノンの右肩に、少量の水が降りかかっている。反射的に驚き声を上げると、思わず前を向いていく。そこで目にしたのは、

「って、銀さん!?」

「やっぱりお前かよ。こんなところで、何やってんだ?」

水鉄砲を手にしていた万事屋のリーダー、坂田銀時であった。相も変わらず気だるい声や態度で接しており、自堕落な一面が垣間見えている。おかげでさっきまでの重い空気感は、いつの間にか吹き飛んでいた。良い意味でも悪い意味でも、現状のシノンにとっては突破口となっている。本人は苦い表情のまま、銀時に呆れを覚えていたが……。それはさておき彼女は、渋々彼との会話に徹していた。

「……いや、別になんでもないわよ。今日はオフだったから、公園で読書をしていただけよ。それよりも、銀さんこそ何の用で来たの?」

「ただ冷やかしに来ただけだよ。遠目で見かけたらおめぇがしょんぼりしていたから、この水鉄砲をかけたってわけだ」

「どんな理由よ!? そもそも水なんかかけてこないでよね! 猫にとっての弱点なんだから、結構嫌うなのよ!」

「おめぇ、そこまで猫じゃねぇだろうが……。ったく、折角地球防衛軍から仕入れてきたのによ」

「どんな場所から、持ってきているのよ……」

「勘違いするな。ただのリサイクルショップだよ」

「全然ツッコミが追い付かないんだけど……」

 続々と降りかかっていくボケとツッコミの応酬には、シノンもつい疲れを覚える始末である。銀時なりの気遣いではあったが、どれも思いつきで実行しているため、特に一貫性は無かった。声をかけた理由、水鉄砲を手に入れた経緯だけでもう十分である。

これ以上面倒には巻き込まれたくないため、シノンはこのまま場を飛び去ろうと考えていた。

「もう分かったから、何も無いなら私は帰るわよ」

 そう言って本を持ち、背中に生えた黄色く透明な羽を広げて、飛び立つ準備を進めていく。しかし、銀時からはある意外な一言が投げかけられる。

「用ならあるぞ。日輪のところに持っていく荷物があってな……吉原へ行くついでに、お前も送ってやるか?」

「えっ? 銀さんのスクーターに?」

「それ以外何があるんだよ。別にめんどかったら、このまま飛んでも良いけどよ」

 ぶっきらぼうな態度で提案したのは、想像も付かなかった送迎であった。どうやら荷物を届ける傍らで、シノンを家に送っても構わないようである。これを聞いた彼女は、一旦羽を閉じると急に悩み始めていた。

(銀さんにしては珍しい対応ね。よっぽど気を遣っているのかしら……?)

 彼の本心は不明であったが、さり気ない気遣いには好感を持っている。現状では一人でいるよりも、話し相手のいる方が精神的に楽だと察していた。悩んだ末の決断を、早速銀時へ返していく。

「じゃ、銀さんの言葉に甘えて、乗せてもらえるかしら?」

「ああ。でも今更なんだが……このヘルメットに、お前の猫耳入るか?」

「って、そこは最初に確認しときなさいよ!!」

 了承はしたものの、いきなり無理を問われてしまい、またしても彼女は激しいツッコミを加えている。彼が用意したヘルメットでは、どう見ても猫耳が入らない仕様となっていた。

 早々にハプニングがあったが、結局ヘルメットを押し込んで解決はしている。若干の不満を感じながらも、シノンは銀時へついていき、共にスクーターへ乗り込んで目的地である吉原へと出発していく。

 その道中でも、やはり文句は絶えずに会話が続けられていた。

「ねぇ、やっぱりこのヘルメットきついんだけど……」

「人間用に作られているからな。しばらく押し込んどいて、我慢しとけよ」

「はぁ……いつも銀さんはいい加減なんだから。本当にキリトとは偉い違いね!」

「当たり前だろ。価値観なんて人それぞれだから、バラバラでいいんだよ」

「だったらせめて、男らしさを見せなさいよ……」

 適当な言い訳を続ける銀時の応対に、シノンは何度も呆れを口にしている。マイペースともとれる彼の性格には、男どころか大人としても見る事は無かった。

 そんな二人を乗せたスクーターは、江戸の町並みを抜けて吉原へと続く住宅街付近に方向を変えている。同時にシノンも頃合いを見て、銀時に自身の苦悩を打ち明かしていく。

「ねぇ、銀さん。一つ聞いてもいいかしら?」

「あん、何だよ?」

「……実は今日、ぬいぐるみを縫っている男の子と出会ったのよ。なんでも生まれてくる妹さんのために、家族には内緒で作っていたのよね」

「そりゃ、珍しいガキだな。まだ生まれてもいねぇのに、張り切っているじゃねぇか。それで、そいつがどうしたんだよ?」

「ううん。ちはる君の事じゃなくて、悩んでいるのは私の方。あの子の家族愛が、いまいち分からない時があるのよ。理解したいのに、何故か気持ちが付いていかなくて……」

 感じ取っていた気持ちのズレ。分かりたいのに理解できない矛盾。密かに思っていた家族への憧れ。彼女は赤裸々に感じていた心の内を話していた。それを聞いた銀時は真剣に表情を変えて、慎重に返答を悩み続けている。そして丁度赤信号に差し掛かり、スクーターを停止させたところで、ようやく話しかけていく。

「結局悩んでいたのかよ。だったら、自分で問い詰めても答えは出ねぇよ。限界を悟っている証だ。それだったら、もっと身近な奴に打ち明けたらどうだ? もし仲間とかに話しづらいなら、月詠や日輪も頼りになるとは思うぞ。男の俺が言うよりも、女同士で話した方がきっといい方向に向くよ」

 相手に寄り添うようなトゲの無い言葉で、大雑把に答えを伝えていた。この大人らしい対応には、シノンもつい目新しさを覚えている。自らの励みにしながら、銀時なりの優しさを受け止めていた。

「そうだよね。ありがとうね銀さん。素直に答えてくれて……でも、アナタ自身はどう思っているの?」

 彼女は礼を伝えるとともに、流れに乗って彼なりの意見を聞いている。信号も青に移り変わって、スクーターも動き出したところで、銀時から聞こえてきたのは――

「ス―。スー」

わざとらしいいびきのフリであった。

「って、何寝たふり使っているのよ! 運転しながらつく嘘じゃないでしょうが!」

「痛ぇ、やめろ! てめぇ、どんだけ俺に当たり強いんだよ!? さっきまでの空気はどこいったんだよ!?」

「アンタがボケるから台無しになるんでしょ! 少しは自重しなさいよ!!」

 シノンの悲痛なる思いが、道路にてこだまするように響いていく。またしても垣間見えた銀時のいい加減さには、彼女も辟易として怒りをぶつけている。再会した時と同じく、しんみりとした雰囲気が急に破壊された。銀時も若干の被害を受けつつも、運転だけはしっかりと続けていく。

 巡っていく心理の中にて、シノンは少しだけ気持ちを楽にしている。それでもまだ答えが出ないのは事実であった。銀時もその様子だけは察しており、かけるべき言葉を頭の中にて模索していく。吉原までの到着はもう少しであったが……

 

 その日の夜。ひのやへ戻ってきてもなお、シノンは家族についての悩みを未だに引きずっている。銀時からのアドバイスを受けたものの、やはりすぐには行動出来なかった。自分自身で考えを続けて、答えが出るまで粘っている。

 現在彼女は寝間着へと着替えており、窓際から見える月を眺めながら、自分なりも考えを続けていた。

「はぁ……結局、何が正解なのかしらね」

 切ない表情でそっとため息を吐いている。そんな彼女の様子を心配して、月詠やシリカら仲間達は戸の隙間から密かに見張っていた。

「どうしたのでしょうか、シノンさん? 帰ってきてから、ずっとあの調子だし」

「かなり悩んでいるみたいだけど、何かあったのかな?」

「もうすぐあの日なのに……これじゃ、盛り上がるか心配だよ!」

 長い付き合いであるシリカ、リズベット、リーファの三人は口々に不安を呟く。内緒で進めているある計画にも、一抹の不安がよぎっている。とここで、月詠だけは我慢できずに早くも行動へと移していた。

「ならばやむを得んか……わっちが話してみるかのう?」

「って、月姉さん!? 流石に早すぎますよ!」

「もう少し様子を見ておかないと! 変な空気になっちゃ困るでしょ?」

「シノンさん結構ナイーブだから、まずはそっとさせた方がいいよ!」

「そうか? ならばやめておくが……」

 強引にも突入を企てており、速攻で三人からは否定を受けている。まだ慎重にシノンの様子を見定めており、話しやすい雰囲気を彼女達は狙っていた。いずれにしても四人にも、心配の念は拡大している。

 

 揺れ動くシノンの心。家族愛に溢れるちはるのサプライズ計画。さらなる悪事を考え付くよっちゃん達。密かに心配を感じている銀時。多くの想いが混ざり合う中で、みなは新しい明日を迎えていく。果たして彼女は、答えに辿り着くことが出来るのだろうか?




没案
 祝え! 小柄でありながら努力をたゆまぬビーストテイマーの生誕を! その名は綾野珪子(シリカの本名)! 剣魂では地味に出番の多い彼女に、祝福を送ろうではないか!

 誕生日にちなんで投稿した結果、全然上手くはいきませんでした。(汗) シリカ、キリト、銀さんって三日おきに誕生日来るのは、中々えぐいです。来年はもうアスナも含めて、全員分まとめちゃおうかな……

 さて、ここからは後書きになりますが、今回は銀魂でよくある感動系を意識して話を作っています。家族と言うテーマを題にして、シノンをベースに進めていきましたが、いかがだったでしょうか? 本編とはまた違った感覚で、シノンの心情や成長を描いていけたら幸いです。
 ちなみに……よっちゃんはオリキャラではなく銀魂本篇の登場キャラクターです。まぁ、またマイナーキャラですよね。
 それはともかくとして、シノンの心も揺れ動く中で、続きは後篇に回します。
 では、また次回まで!

 後、SAOの放送が再開しましたが、「剣魂」ではまったく影響を受けずに独自の路線で続けていきます。そこはご了承ください。(アリスやユージオ等新キャラクター達の出演は……まだ未定です)


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第四十二訓 迷いが晴れる日

 祝え! 大食いで毒舌ながらも、女子らしい一面も持つ銀魂ヒロインの生誕を! その名は神楽! 剣魂でも個性を光らせる彼女の凱旋である!

 ……もう何回祝っているんでしょうね。予定外ではありますが、またウォズネタで誕生日を祝いました。二日過ぎてしまいましたが……投稿してない間にも、お妙ちゃんも誕生日を迎えて益々誕生日ラッシュが続いています。
 さて、久しぶりの投稿となりますが、今回は家族篇の後半です。結構内容を詰め込んでいるので、時間に余裕がある時にお読みください。それでは、どうぞ。



 シノンがちはると出会ってから、二日が経過した八月の二十一日。彼女は未だに理想的な家族像を模索しており、内心ではさらなる疑問を積み重ねている。月詠や仲間達にも本心を明かすことは無く、平然を装って誤魔化していた。

 そんな彼女は現在、当番でもあった日輪が経営する茶屋を手伝っている。迷い続けている気持ちを押さえながら、接客へと臨んでいたのが――

「うーん……全然お客さんが入ってこないわね」

今日に限ってはまったく客足が途絶えていた。平日の昼時にも関わらず、店内には誰一人として客が入っていない。まさに閑古鳥が鳴く状態である。その理由として、シノンはだいたいの目星が付いていた。

「やっぱり、この曇天が原因なのかしらね」

 外へと近づき空模様を覗くと、暗くて分厚い雲が空全体を覆い、今にも雨が降り出しそうな光景が広がっている。この天気は朝から続いており、おかげで付近の通りもまばらにしか人が歩いていない。気温が高く湿気の多い夏の時期だからこそ、じめじめとした雰囲気は人々に陰鬱な印象を与えていく。

 もちろんシノンも、この曇天には好ましく思っていない。自身の悩み続ける心境と照らし合わせて、内心ではさらに考えを詰まらせていた。

(それにしても嫌な天気ね。自分が迷っている時に限って、全然晴れないなんて……まるであの時に読んだ小説と同じ状況だわ)

 より複雑な表情を浮かべて、つい迷いに苛まれてしまう。二日前に読んだ小説の場面も思い出しており、何も感じられない無常さを悟っている。心の整理が上手くできずに、じっと動きを止めていた時であった。

「どうしたの、シノンちゃん? ずっと空を見上げていて」

「ん? 日輪さん?」

 孤独な空気を打ち破るようにして、店主である日輪が後ろから話しかけてくる。そっと微笑みを見せた後に、彼女は車椅子を動かしてシノンへ近づいていく。

「今日は夕方くらいから晴れるみたいよ。それまではずっと曇りで、雨も降るみたいだから、お客さんは中々来ないと思うわ」

「えっ? そうなのね……」

「ウチってこういう天気に限って、全然お客さんが入らないのよ。だから、しばらくは休んでいても大丈夫よ。ちょうどお茶も出来上がるから、一緒に飲みましょうよ」

 日輪の明るいペースにつられて、店の事情を聞いていると、急に彼女はお茶を取りにキッチンへ戻っている。咄嗟に勧められた誘いには、シノンも驚きつつ母親のようなお節介を感じていた。それでも好意的に受け取っており、気遣いを察して、さり気ない笑みを浮かべていく。

「私はお客さんじゃないんだけど……まぁでも、日輪さんらしいわね。おかげで気持ちも楽になった気がするわ」

 悩み続けていた雰囲気が変わり、つい彼女の行動には感謝を覚えている。呼吸を整えてから近くの客席へ座ると、トレイに急須や湯呑を置く形で、日輪が運んで持ってきていた。

「はい、どうぞ。今日のお茶は自信があってね、思い切ってほうじ茶を入れてみたのよ」

「ほうじ茶ね……あんまり飲んだことのないお茶かも」

「知られてはいないけど、結構効果も多いのよ。冷え性の改善や、リラックス効果もあって、休憩には打ってつけの代物だと思っているわ」

「へぇーそうなのね。じゃ、ありがたく頂くわね」

 シノンの横隣りへと置き、彼女は丁寧にも淹れたお茶について説明していく。今日の気分に合わせて茶の種類を変えており、効能の多いほうじ茶を快く勧めていた。

 分かりやすい説明にはシノンも興味を持ち始めており、ひとまずは湯呑を手にしている。匂いからじっくりと楽しんだ後、そのまま口へ含み「ゴクッ」と飲み始めていた。

(……あっ、意外においしいかも。さっぱりとしていて、飲みやすいわね)

 その味わいは予想を優に上回っている。癖がなく香ばしいすっきりとした味が、口全体に広がり満足感へと浸っていく。表情もほのかに赤くなっており、身も心も温かく満たされている。日輪の勧めた通り、現状のシノンにとってはぴったりのお茶であった。

「うん、かなりおいしいわね。日輪さんの言う通り、だいぶ心も落ち着くわ」

「気に入ってくれたなら嬉しいわ。これでシノンちゃんの迷いも、解消できるといいわね」

「そうね……って、迷い?」

 彼女がお礼を伝えた矢先に、事態は急展開を迎えている。日輪の言い放った確信を突く言葉を聞き、シノンは顔色や態度を急変させていた。真意を悟られないように警戒していると、日輪は優しい口調で本来の目的について話してくる。

「急に問いかけてごめんなさいね。でも実は昨日、月詠達から聞いたのよ。シノンちゃんの元気が無くて、何かあったんじゃないかって」

「そ、それは……少し悩んでいただけで……」

 気まずそうに答えるシノンとは対照的に、彼女は相手の気持ちを探りながら慎重に話を進めていく。

「悩みね……それだったら、尚更放ってはおけないわ。私から言うのはお節介かもしれないけど、シノンちゃんが困っているなら相談に乗れるわよ。今すぐじゃなくてもいいから、後はアナタの決断に任せるわ」

 穏やかな表情を保ったまま、自らの想いを惜しげもなく伝えてきた。密かにシノンの様子を心配しており、自然に相手との距離を縮めて、助けを差し伸べている。

 一方の本人は、急な提案に心の準備が追い付かず、つい戸惑っていた。

(どうしよう……決断に任せるって言われても、日輪さんにはまだ打ち明けるのに抵抗があるし……)

 焦った表情となって、一時は否定を考えていた時である。ここで彼女は、銀時からの言葉を思い出していく。

〈――もし仲間とかに話しづらいなら、月詠や日輪も頼りになるとは思うぞ。男の俺が言うよりも、女同士で話した方がきっといい方向に向くよ〉

 まるで迷っている心を後押しするように、彼の言葉が脳内をよぎっていた。さり気ない助言が、思わぬ場面で大きな役割を果たしている。

 この言葉に感化されたシノンは、迷いがスッと抜けていき、真剣な表情へと変わっていく。自らの考えを改め直していき、日輪からの提案を好機と捉え始めていた。

(そうよね……これはチャンスかもしれない。ここで話さないで、いつ打ち明けるのよ! この場に二人しかいないなら、ここで動くしか――)

 話したところで何が変わるのかは分からない。ただそれでも、素直な想いを理解してもらいたい。信じる気持ちが高まり、シノンがするべき行動はもう一つしかなかった。

「あの、日輪さん! 今からでも相談に乗ってもらえる?」

「ええ、もちろんよ!」

 日輪の言葉に甘えて、頼ってみることにする。真剣に考えた末の決断は、彼女も後悔はしていない。二人っきりで話せるからこそ、ここで気持ちを貫くと覚悟を決めていた。平行線を辿っていたシノンの悩みは、日輪の何気ない気遣いによって、徐々に解決の道へと突き進んでいく……

 

「――ということなのよ。私がずっと思い悩んでいたのは……」

「なるほど。そうだったのね……」

 それからシノンは、日輪へ向けて一昨日の出来事について話していた。ちはると出会ったきっかけ。家族への考え方。解消しきれないモヤモヤとした感情。自身が抱えていた悩みを、全て打ち明かしていく。

 彼女の想いに触れていき、日輪は理解を深めながら会話を進めている。

「要するにシノンちゃんは、家族想いの男の子と出会って、考え方にズレが生まれたってことね」

「そうね……ちはる君の気持ちは何となく分かるのに、どうしても上手く掴めないのよ。家族って存在が……」

 表情も段々と暗くなり、シノンは言葉すらも次第に詰まらせてしまう。家族という存在について思い悩ませていると、日輪は彼女へ寄り添うようにして話しかけてきた。

「確かに……シノンちゃんが悩む気持ちは、私にも理解できるわよ」

「えっ? 日輪さんもなの?」

「ええ、そうよ。私も家族って存在には、良くも悪くも苦しめられた経験があるからね」

「……どういうこと?」

 意味深な言葉を耳にして注目を寄せていると、彼女の口から出たのは意外な事実である。

「実は、あんまりみんなには言ってなかったんだけどね……私と晴太って、本当の親子じゃないのよ」

「えっ……!?」

 唐突に告げられた事実を知り、シノンは大きく驚きを露わにしていた。日輪の息子と認識していた晴太は、実の親子関係ではないのである。衝撃からか彼女は体や表情までも固まってしまうが、日輪は構わずに話を続けていく。

「本当はね、あの子自身が一番分かっているのよ。こんな受け入れがたい事実を打ち明けても、私の事を母親だと認めてくれた。他の家族とはまったく関係が違うけど、私は自信を持って言い切れるわ。晴太は私の大切な息子だってね」

 切なくも凛々しい表情のまま、自分が大切にしている晴太への気持ちを表している。仲睦まじい親子関係にあった二人にも、一言では言い表せない事情があると、シノンは心の中で察していた。

(日輪さんと晴太君の間にも、辛い過去があったってことね。それでも幸せそうな家族に見えるのは、よっぽどお互いを信頼しているってことかしら……)

 困難を乗り越えた二人だからこそ、現在のような関係に行きついたと考えている。流石にこれ以上詳しい事情は聴けなかったのだが、彼女にとっては十分すぎる内容であった。さらに日輪は続けて、自身の持つ家族への捉え方について話していく。

「だからね、家族って存在に正解は無いと思うのよ。母子家庭や父子家庭でも、幸せだって思う家族は大勢いるんだから。きっとシノンちゃんは、真面目に考えすぎたから、悩み続けているのよ。もっと肩の力を抜いて、視野を広げた方が良いと私は思うわよ」

 決まった家族像は存在せずに、幸せと感じるのも人それぞれだと伝えている。ちはるの家族と向き合う姿や、晴太の普段の様子を見ていれば、自然とその考えが頭に入ってきた。

「そうよね……いつの間にか、一つの理想に偏っただけかもしれないわね……」

 薄っすらと苦笑いを浮かべていき、そっと今の心情を呟いている。固定概念に囚われていた事にも気が付き、少しだけ後悔を感じていた。そんな考えを改めたシノンへ向けて、最後に日輪はある気持ちを含めた言葉を投げかけてくる。

「シノンちゃんって性格は真面目で自主性も高いけど、その分もっと人に頼ってもいいと思うのよ。積極的に私や月詠にも、自分の事を相談しても別に構わないのよ」

「そ、そうだけど……」

「確かに言いづらいことかもしれないわね。私もまだみんなとは一か月弱しか暮らしていないし、元の世界で何があったのかも、断片的でしか分からないわ……。それでもね、これだけは言える。どんな事実があっても、アナタ達の保護者である事に変わりは無いって。みんな働き者で良い子だし、結構私も助かっているのよ。だからこれからも、遠慮なんかせずに悩みがあったら相談しなさい。ちょっとやそっとの事で、私も驚きはしないからさ!」

 そう言い切って彼女は、安心感を与えるように温かい笑顔を浮かべてきた。保護者としての責任を持ちながら、しっかりと頼りがいのある一面や心構えを見せつけている。

 真摯な姿勢を目にしていき、シノンは改めて感じていた。この人はありのままの姿で見てくれていると。もっと頼ってもいい大人なのだと――今まで以上に信頼感が高まっていき、心の中ではその余韻に浸っている。

(日輪さん……やっぱり、優しくて心の広い人ね……。本当に頼れる大人って感じがするわ)

 現実では母親との距離を置いていた彼女にとっても、この信頼できる気持ちは新鮮味があった。こちらも自然と笑みを浮かべてから、日輪へ感謝を伝えている。

「ありがとうね、日輪さん……おかげで迷いもすっかりと晴れたわ」

「うん。シノンちゃんの表情を見ていたら、もう大丈夫そうね。良かったわ」

 穏やかにも笑顔を見せあった後に、この会話に幕を下ろしていく。同時にシノンは、心の中である決意を固めていた。いずれは元の世界で経験した辛い過去も、日輪に打ち明かしてみようと。きっと彼女の懐の広さがあれば、受け入れてくれると信じていた。

「あの、日輪さん。一つお願いがあるんだけど……もし今度時間があったら、また相談に乗ってもらっても良いかしら……?」

「もちろんよ! でもまずは、お客さんが来たから接客をお願いね!」

「ん? あっ、いらっしゃいませ――」

 約束を取り付けた最中で、ちょうど良く一人の客が来店してくる。今までのしんみりとした雰囲気から、素早く接客の姿勢に日輪らは切り替えていく。

 こうしてシノンが抱えていた悩みは解消され、より一層日輪への信頼を強めていた。そんな晴々とした彼女の心境を差し置いて、空模様は反抗するように「ザーザー」と雨が無情にも降り始めている……

 

 それから数時間が経って、時刻が午後の三時を過ぎた頃。天気は変わらずに雨が降り続く一方で、ひのやの接客係が午後の担当であるリーファに交代していた。時間に余裕が出来たシノンは、日輪からの要望によりかぶき町までお使いを頼まれている。

「雨が降っている中で申し訳ないんだけど……かぶき町までお使いに行ってきてほしいのよ。ちょうど、買い忘れていたものがあって」

「ええ、大丈夫よ。今日は相談にも乗ってくれたし、日輪さんの頼みだったら、何でも引き受けるわよ」

「じゃ、お願いするわね! お礼として高めのレインコートを貸すから、これで雨から身を守ってね!」

「って、別に安物でもいいんだけど……」

 了承したところで彼女は、事前に用意していた高値のレインコートをシノンへ手渡した。安物よりもしっかりとしているが、使用するには抵抗心を覚えてしまう。それでも引き下がる事は出来ずに、渋々とレインコートを羽織っていく。さらに護身用として、愛用している弓も背中へと装着している。

「まぁ、とりあえず買ってくるわね」

「いってらっしゃい。夜までには帰ってくるのよ」

「分かっているわ」

 そう軽く会話を交わしていき、シノンは背中から黄色く透明な羽を広げて、そのままひのやを飛び立っていった。さほど雨も激しく降っていないため、飛行をしても特に影響は無く、いつものペースでかぶき町に向かっている。

「――さてと、シノンちゃんがいない間に準備を進めるわよ」

 彼女が飛び去った頃合いを見て、日輪は密かにある準備を再開していた。シノンには内緒で通している計画のようだが……?

 

 そしてさらに数時間が経ち、時刻がちょうど四時半を迎えた頃。シノンは無事にかぶき町にてお使いを終えており、レジ袋に食材を詰めて、徒歩でひのやへと帰路についていた。

「ふぅ……結構時間がかかったわね。そもそもこの食材って、中々見つからない代物だったかしら?」

 その道中では首を傾げるようにして、独り言を呟いている。意外にも指定された食材を見つけるのに、大幅に時間をかけてしまった。疑問を引きずりながら、雨道を鬱陶しく思って進んでいる。すると奇遇にも、思い入れのある場所を通りかかっていた。

「ん? この公園って……」

 そこは初めてちはると出会ったかぶき町の公園である。入り口付近へ立ち止まると、彼女は一昨日の出来事を振り返っていく。

「そういえば、ちはる君と出会ったのもここだったわね。あれから来てないけど、もうぬいぐるみって完成したのかしら……?」

 家族の為に張り切る姿が印象に残っており、思わず彼の行く末に期待を寄せていた。後の動向も気になっており、シノンは公園を見渡して人気を確認している。流石にこの雨では誰も来ておらず、閑散とした雰囲気が場に広がっていた。

「誰もいない……当然よね。こんな雨の中じゃ――って、えっ?」

 そう決めつけていた次の瞬間である。ここで彼女は、信じがたい光景を目にしてしまう。

「嘘でしょ……ちはる君なの?」

 声を上げながら公園の奥をよく見ると、そこには雨に打たれるちはるの姿が見えていた。顔をうつむかせており、たった一人でただならぬ悲壮感に包まれている。不穏な空気を察したシノンは、咄嗟に走り出してそのまま彼の元へと近寄っていく。

「何やっているのよ! こんな雨の中で!」

「あっ、シノン姉ちゃんか……」

「そうじゃなくて、一体何があったのよ! それに、ぬいぐるみはどうしたの?」

 目線を合わせて話しかけてみると、ちはるの様子は明らかに憔悴しきっていた。以前会った時よりも元気は無く、肌身離さず手にしていた猫のぬいぐるみも、何故か無くなっている。状況を把握するために聞いてみると、彼は小さい声で返答してきた。

「取られた」

「えっ?」

「取られたんだよ……あいつらとの喧嘩に負けて」

「……あいつらって、あのいじめっ子達に?」

「そう。本当は今日の時点で、完成する予定だったんだ。でも、急にアイツらがやってきて、ぬいぐるみを人質に喧嘩を仕掛けてきたんだ。俺も頭にきて無我夢中で戦ったら、この有様だよ」

 あまりにも理不尽な事実を知り、シノンは返す言葉に詰まってしまう。ちはるの証言から大まかに出来事を理解していた。以前にもちょっかいをかけてきたいじめっ子達が原因であり、突然喧嘩を仕掛けられた上にこっぴどく敗れている。大切に縫っていたぬいぐるみも奪われてしまい、まさに泣きっ面に蜂であった。

 雨に打たれ続けるその姿は、例えようのない無常さも感じさせる。落ち込んだ様子に気を遣いながら、シノンは慎重に話を続けていく。

「そうだったの……でも、奪われたなら取り返せばいいんじゃないの。今からでもあの子達を探せば、大丈夫じゃない?」

「いや、もういいんだよ。雨だって降ってきたし、きっとあのぬいぐるみも台無しになっているよ。下手な挑発に乗った俺も悪いから、自業自得なんだ……もう放っておいてよ」

 悔やんだ表情でちはるは、自分自身を責めてぬいぐるみも諦めかけている。喧嘩に負けたことで精神的にやられてしまい、失意に暮れ果てていた。二日前に見せた家族愛に溢れる姿は、もうどこにも残されていない。今度は彼自身が心に迷いを宿していた。

 そんなちはるの様子を見て、シノンは心の中である覚悟を決めていく。

(私の知らない間に、そんなことがあったなんて……ちはる君にも迷いが生まれているなら、今度は私が助けてあげないと――!!)

 真剣な表情へ変わっていき、真っ先に行動へと移している。

「放ってはおけないわよ。絶対に」

「えっ?」

「……探しましょう。アナタの作ったぬいぐるみを」

 静かに話しかけると、急にちはるの右手を握り、そのまま公園を去ろうとしていた。突然の行動には彼も驚き、反抗するように声を上げていく。

「って、待ってよ姉ちゃん! 俺はもういいって、言ってんだろ! 正直諦めているんだから、何も助けなんていらないって……!」

 強気な口調で否定を続けていると、シノンは急に後ろを振り返ってくる。すると大きく息を吸った後に、自らの感情を惜しげもなく伝えてきた。

「本当にそうだったの? ちはる君が大切にしてきた気持ちは……こんなくだらない事で折れるようなものだったの!?」

「ね、姉ちゃん……?」

「私はね……アナタの家族愛に溢れる姿を見て、快く協力したのよ! ただ新しい家族を迎い入れたい気持ち、お母さんを喜ばせたい気持ち……それが、ちはる君がぬいぐるみを縫う理由じゃなかったの!?」

「そ、それは……」

「外野にとやかく言われようとも、自分の信念を貫いてきたじゃないの! だったら気持ちに嘘なんかつかず、行動すればいいじゃない! 今アナタに必要なのは、雨に打たれることじゃないわ! 自分の想いを詰めたぬいぐるみを、取り戻すことでしょ! どうなのよ、ちはる君!!」

 高らかに言い放ったシノンの想いを耳にして、ちはるは勢いに押されていき黙り込んでしまう。ぬいぐるみ製作を通して思い出した家族への愛情、ひたむきに続けていく強い意志といった、自身が感銘を受けた気持ちを訴えかけていく。普段は冷静なシノンでも、今日に限っては気持ちの赴くままに感情的となっていた。

 そしてその気持ちは、ちはるにもちゃんと届いている。熱意がこもった言葉によって、大切にしていた愛情や本来の目的を、彼は徐々に思い出していく。

「シ、シノン姉……俺、本当は……」

 張りつめていた想いが弾け飛んでいき、我慢できずに涙腺すらも緩ませていた。疑心暗鬼に陥っていた自分にも後悔を覚え始めている。

 雨に当たり続ける中で気持ちを再起していると、彼の手元にはシノンが着用していたレインコートが手渡されていた。

「ん? 合羽?」

「レインコートよ。このまま濡れちゃ困るから、これを着て雨を防ぎなさい」

「でも、それじゃ姉ちゃんが……」

「心配ないから――こんな雨、早々長くは続かないわよ。私は大丈夫だから、早くぬいぐるみを見つけましょう!」

 彼女は自身の雨具を手放してもなお、ちはるの体調を優先的に気遣っている。雨に打たれようが気にせずに、屈託のない笑顔で相手に安心感を与えていく。さり気ないシノンの優しさに触れて、彼はさらに目に涙を浮かばせていた。

「姉ちゃん……ありがとよ」

「さぁ、泣いている時間はないわよ。早くぬいぐるみを探しに行きましょう」

 互いに言葉を掛け合うと、二人は公園を抜け出して住宅街へと進んでいる。ぬいぐるみを奪い去ったよっちゃんらの捜索に、今は全力を注いでいた。

 

 一方で公園より少し離れた歩道では、銀時がスクーターへ乗り込んで移動している。彼もまた日輪からの連絡を受けて、単身で吉原へと向かっていた。

「あーやっぱり降ってきやがったか……どうにか、濡れなきゃいいんだけどな」

 天候の悪化を危惧しており、浮かない表情で愚痴を呟いていく。雨具として傘を使用できないため、安物のレインコートで雨風から身を守っている。可能な限り速度を上げたいので、彼は雨が落ち着くことを心待ちにしていた。

「早く止んでくんねぇかな。面倒な事になる前に――って、アイツらは……」

 と自らの想いを呟いていた直後に、目の前である二人組を目撃している。傘をさしながら歩く二人の男子であり、その後ろ姿には既視感を覚えていた。気になった銀時は急に尾行を始めており、そのまま彼らの会話に耳を傾けていく。

「ふっ……スカッとしたぜ。これであいつも公園からいなくなるよな」

「いちいちめんどくさかったからな。ぬいぐるみの事になったら急に冷静じゃなくなるし、すぐに勝負がついたもんな」

「ざまぁみろってんだ! ハッハッ!!」

 きな臭い会話から、一瞬で正体を見透かしている。そう、先程ちはるに喧嘩を売っていたよっちゃんとけんちゃんであった。非情な手段で彼らは喧嘩に勝利しており、よっちゃんの手にはちはるお手製のぬいぐるみが抱えられている。

 この様子を見ていた銀時は、二日前に交わしたシノンとの会話を思い出していた。

(ん? ぬいぐるみってことは、まさか……)

 ぬいぐるみを縫う少年の話から、密かに関連性を頭に浮かばせている。だがまずは、悪行を働いた二人に罰を与えようと行動に移していた。

「ところでこのぬいぐるみはどうする? 勢いで持ってきちゃったし」

「どっかに置いておけ――って、ギャャャ!!」

「よ、よっちゃん!?」

 突如としてよっちゃんは、背後から両脇を捕らわれてしまい、上へと持ち上げられている。さしていた傘も振り落とされて、冷たい雨風が無防備に体へ当たっていく。当然だが仕掛けたのは銀時であり、堂々とした態度で二人に真相を突き詰めていった。

「急に何しやがるんだよ! って、お前は銀髪のニート!!」

「誰がニートだ、コノヤロー。それよりもお前等、また悪さしやがって。ぬいぐるみを奪って恥ずかしくないのか?」

「うっせーな! これはな、気に食わねぇ男子がいたから、喧嘩したついでに奪ってきたんだよ!」

「奪う時点でお前達も気に食わねぇ奴等だよ。だったら俺が、このままポリ公共につれていってやろうか? もしくは雨に打たれたまま、マンホールの気持ちになって反省するか?」

「いや、解放の道は無いのかよ! 後者に至っては、どっからツッコめばいいんだよ!」

 被害にはあっていないけんちゃんも、訳のわからない提案には、大声でツッコミを入れている。銀時の介入によって場の空気は乱されてしまい、いじめっ子達もめんどくさい大人に絡まれたと後悔を感じていた。

 だが彼の足止めが功を奏しており、シノン達は彼らとの距離を縮めている。

「ん? さっきの声は……まさか、アイツらか!?」

「ちはる君!? もう見つけたの?」

 捜索を開始してから、僅か七分の間に事態は動いていた。密かに聞こえてきたよっちゃんの声を頼りにして、二人は住宅街を走り抜けていく。ぬいぐるみの無事を信じて、曲がり角を通り抜けていくと――

「あっ、いた! アイツらだ!!」

ようやく捜索していた二人を見つけている。彼らの推測通りに、まだ公園の近くをうろついていた。静かに怒りを募らせるちはるに対して、シノンはある別件で驚きを示している

「って、銀さん!? なんであの子達と一緒にいるの!?」

 何故かいじめっ子達と一緒にいる銀時が、気になって仕方がなかった。事態はまだ読み解けていないが、一見すると銀時がよっちゃんを吊るして、何かを問い詰めているようにも見えている。

「それで喧嘩を売った理由は、一体何だったんだよ?」

「だから気にくわねぇからって言ってんだろ!」

 聞こえてきたのは、二人の間で行われている口論であった。するとここで、いじめ仲間のけんちゃんがシノンらの存在に気が付き始めている。

「ゲッ、よっちゃん! アイツらが追って来たぞ! しかも、あの猫耳女とも一緒だ!!」

「何!? ぬいぐるみを取り返しに来たのか……そうはさせねぇぜ!!」

「あっ!?」

 分が悪くなった二人は、ここで強硬手段に移っていた。力づくで銀時からの拘束を逃れて、ぬいぐるみを片手に持ち、そのまま場を立ち去っていく。意地でも嫌な思いをさせるために、悪知恵をあくせくと働かせている。

「待て! 勝手に逃げ出すんじゃねぇよ!」

 子供ながらの俊敏さには、銀時も取り押さえることすら出来なかった。つい怒りを感じているが、その気持ちはちはる達も同等である。

「あっ、ぬいぐるみが!!」

「あの子達……ちはる君! ここは私に任せて! ぬいぐるみは絶対に取り戻すわよ!」

 いじめっ子達の往生際の悪さには、遂にシノンも怒りが臨界点に達していた。ずっと手に持っていたポリ袋をちはるへ預けて、背中に装備していた弓を取り出し構えていく。ホルダーから隠れ網を仕込んだ弓矢を手にして、弓へと装填している。準備を整えると真剣な眼差しで、よっちゃんらが手にしているぬいぐるみに狙いを定めていた。

「……そこよ!!」

〈シュ!!〉

 相手の動きを予測した僅か数秒後には、弓矢はシノンの手元を離れていき、よっちやんらの方角へと向かっていく。軌道は勢いよく上に上がっていき、そのまま下へ急降下を始めている。距離を十分に保ったところで、

〈ガパァ!!〉

「何!?」

弓矢の先端からは小型の網が放出してきた。よっちゃんが手にしていたぬいぐるみを捕縛して、シノンが手ごたえを確認していくと――

「はぁ!」

弓矢に装備した隠れ網を引っ張っていく。すると自然に、ぬいぐるみはいじめっ子達を離れていき、ちはるの手元へと戻っていた。トリッキーな戦法によっちゃんらは唖然としており、対照的にちはるはぬいぐるみの奪還に大きな喜びを表している。

「あ、ありがとう! シノン姉ちゃん!! ぬいぐるみを取り戻してくれて!!」

「どういたしまして。遠距離戦は得意だから、アナタの役に立てたなら私も光栄だわ」

 ぬいぐるみと共に笑顔を取り戻した彼の様子を目にして、シノンも同じようにして微笑んでいく。不安が取り除かれており、一緒に達成感を覚えている。

 一方で、思わぬ仕打ちを受けたよっちゃん達は、何も行動できずに赤っ恥をかいていた。

「こ、これって……」

「チッ! 今日はこのくらいにしてやる! 帰るぞ!」

「って、待ってよ! 俺達超かっこ悪くないか!!」

 態度では強がっていたよっちゃんも、本当は根深い精神的ダメージを負っている。まさに自業自得な顛末を受けていた。

 そして一連の流れを目にしていた銀時が、二人に近づいていった時である。

「ふぅ……これで終わ――キャ!!」

「シノン姉!?」

 不覚にもシノンは足を滑らしてしまい、水たまりに転びそうになってしまった。転倒を覚悟して目を瞑った――その刹那である。

〈バサッ!〉

「……アレ? 落ちてない? って、銀さん!?」

 目をゆっくり見開くと、そこには銀時が彼女の身を抱え込み、水たまりから守ってくれていた。危機を察して駆けつけてくれた行動力には、シノンも驚いており、珍しくも男らしさを感じている。表情だけはいつも通り、気だるさが抜けていなかったが。

「おい、何やってんだよ。猫は水に弱いって、前に言っていなかったか?」

「銀さん……いや、違うのよ。ちはる君が雨具を持っていなかったら、私の分を貸しただけなのよ」

「そうなのか? まぁ、だったらもう必要ないかもな。お天道様も日を出してくれたし」

「えっ? お天道様?」

 そう会話を進めていた直後に、天候は急激に移り変わっていた。雨はいつの間にか止んでおり、曇天に覆われた空には夕日がほんのりと光を放っている。日輪の伝えていた情報通りに、夕方を境にして天候は回復傾向にあった。

「あっ、いつの間にか止んでいたのね」

「そう。ていうか、そこまで濡れてんなら新しい雨具でも買ったらどうなんだ?」

「って、こっちはそんな余裕一ミリも無かったのよ。銀さんの基準で判断しないでよね」

「何またツンツンしてんだよ。ツンデレアーチャーさんよ」

「それ、私の事よね!? 変なアダ名付けないでちょうだいよ! このニート侍!」

「って、お前までニート呼ばわりするのかよ! 俺は違ぇからな! 万事屋の所長だ、コノヤロー!」

「言うほど、所長らしいことしているのかしら!?」

「なんだと、コラ!?」

 晴々とした雰囲気など無視して、シノンと銀時の間ではアダ名の付け合いから、会話から口喧嘩へ発展してしまう。互いの顔をいがみ合わせて、不満に思う点を次々に上げている。

 仲良しなのか険悪なのか分からない二人の関係性だが、ちはるだけは何故か一安心して、静かに様子を見守っていた。

「フフ……シノン姉でも、ここまで張り合う事があるんだ。本音をぶつけ合うってことは、あの男の人はまさか――」

 意外な一面に脱帽しつつも、密かに深い関係性を揶揄していく。微笑みを浮かべながら、二人の口論が終わるのをひたすら待っていた。

 

 それから数分が経って、時刻が六時を指していた頃。徐々に空が暗く移り変わる中で、シノンと銀時の口論はいつの間にか収まっていた。

「とりあえず、口喧嘩が終わって良かったね。二人共」

「喧嘩じゃないわ……考えが合わないだけよ」

「同じくだ。俺とお前じゃ、まったく正反対だからな……」

 ちはるも話しかけたが、二人の表情は未だに不満げである。考え方の違いから不仲にも見えるが、雰囲気からそこまで険悪ではないと彼は感じていた。

「まぁ、お互い仲良くな。それよりも、シノン姉。今までありがとうよ。ぬいぐるみも無事に取り返せたし、後は手直しさえすれば、もう完成するよ!」

「あっ、そうなんだ。別に私は大したことはしてないわよ。モデルをやって、捜索に協力しただけよ」

「それだけでも十分だって。俺、シノン姉と出会えて本当に良かったよ!」

「フッ……こっちもよ。ちはる君!」

 そしてちはるは締めの言葉として、率直な想いをシノンへ伝えている。彼女をモデルにした猫のぬいぐるみと見比べて、運命的な出会いに感謝していた。多くの奇跡を思い起こして、共に微笑ましい表情で余韻に浸っている。

 さらなる友情を深めていると、銀時も割り込むようにしてちはるに声をかけてきた。

「まぁ、俺が言うのもなんだが、アイツらのことは気にするなよ。また何かあったら、ウチにいる神楽に言えば、すぐに懲らしめに行くぜ」

「ああ、ありがとうよ。銀さん――で合っていたっけ?」

「そこは確認しなくてもいいだろ」

 自分なりのアドバイスを伝えて、彼の背中を後押ししていく。ぶっきらぼうでも人情深い気持ちは、シノンにもよく伝わっている。

「フフ……銀さんらしい大雑把な意見ね」

「俺らしいって、どういうことだよ」

「別になんでもないわよ!」

 彼女も軽口を叩きつつ、「クスッ」と小さく笑っていた。気長に会話を続けていると、惜しくもちはるの帰宅時間が迫っている。最後に彼は感謝を含めた挨拶で、シノンらに別れを告げていた。

「ありがとうね、シノン姉ちゃん! 俺、絶対にぬいぐるみを完成させるよ! 新しい妹の為に!!」

「うん、しっかり頑張りなさいよ!」

「ああ! そして銀さ――いや、彼氏さんも!」

「おうよ! ……って、はい!?」

「えっ!?」

「二人も幸せを掴めよな! じゃあね!!」

 綺麗に締められた別れの一幕だったが、一つだけ度し難い事実が発覚してしまう。満面の笑顔で告げられたちはるの言葉に、場の空気は大きく一変していた。突拍子もなく飛び出したのは、まさかの恋愛がらみである。恐らくちはるは、二人が交際関係にあると勘違いしたまま帰っていった。当然二人の間には、微妙な空気が流れ込んでいる。

「彼氏って……」

「幸せを掴めって……」

「「はぁ!?」」

 大きく驚嘆しており、事の重大さをようやく理解していた。戸惑い続ける中で、共に必死な表情で相手に否定を連ねている。

「おい、何勝手にあいつ勘違いしてんだよ!! カップルみたいな素振り、一回も見せてねぇだろうが!!」

「アンタが急に優しくするから、いけないんでしょ!! そもそも、銀さんと付き合う気なんて一斉ないからね!! 誤解しないでちょうだいよ!!」

「そんなもんこっちからお断りだわ!! 別作品の女に手を出すほど、俺は腐ってねぇんだよ!!」

「一体何の話をしているのよ!!」

 収まったはずの口論が、ここで再燃してしまった。激しく言い争っていると、銀時は興奮気味にメタ発言まで上げている。さらなる誤解を与えない為に、見苦しい弁解が続けられた。

 そして数分が経つと、互いに気持ちが次第に落ち着いていく。息切れするほど、長い言い争いを続けていた。冷静さを取り戻した後に、シノンは改まって銀時にお礼の気持ちだけは伝えている。

「とにかく……ぬいぐるみの件は手伝ってくれてありがとうね。多分あのままだったら、見つからずに終わっていたから……」

「なんだよ。そこは感謝しているのか。ったく、いちいち忙しい奴だな」

 まぐれだがいじめっ子達を足止めしたことや、転倒からかばってくれたことには、一応恩を感じていた。人としての義理を彼女は通している。

 そう言葉をかけていき、シノンはこのまま吉原へ戻ろうと考えていた。

「それじゃ、私も帰るわね。買い物もあったし、急いで戻らないと。じゃあね、銀さん」

 ポリ袋を手に持ち、足早にこの場を去ろうとした時である。

「いや、待てよ。折角手間が省けたんだし、また吉原まで送ってやるよ」

「いいわよ、そう何回も。もう晴れているし、私一人でも帰れるわよ」

「違ぇーよ。お前忘れてんのか? 今日が何の日か?」

「今日?」

「……まぁ、とりあえず乗っておけ。ひのやに着けば、その内に分かるよ」

 意味深にも何かを隠しているような素振りで、銀時はまたも吉原までの送迎を提案していた。どうやら今日に関する事だが、パッと考えても何も思いつかない。少々の不安を感じながらも、シノンは銀時からの誘いに乗る事にした。

 

 それからスクーターへ乗り込んだシノンは、銀時の運転の元で数分も経たない内に吉原内部へと入っている。何も情報が伝えられずに、道中でも彼女の問い詰めは飽きずに続いていた。

「って、何を隠しているのよ? いい加減教えなさいって!」

「うるせーな。もう着いたから、別に言わなくていいだろ。さっさと入れよ」

 銀時が適当に理由をはぐらかしている内に、一行は目的地であるひのやへ到着している。訳を聞けずに不満を感じているシノンは、仕方なくこのまま戸を開けて、ため息混じりに玄関へ入っていく。

「はぁ……ただいま。って、日輪さん? みんな? 居間にいるの?」

 すると、早くも違和感を察していた。普段は灯りが付いているのだが、今日は家全体が暗闇に包まれている。胸騒ぎを感じており、少々の不安に苛まれていた。足を進めていき、居間への戸を開いた――その時である。

〈パーン!!〉 〈パーカン!!〉

「えっ!?」

 聞こえてきたのは、激しいクラッカーの音。そして、

「「「「「シノン(さん!)! 誕生日おめでとうー!!」」」」」

仲間達の盛大な祝福であった。驚き混じりに場をよく見ると、そこには日輪や月詠、晴太、シリカ、ピナ、リズベット、リーファといった下宿での仲間達。さらにはキリト、新八、アスナ、神楽、ユイの万事屋や、妙、九兵衛、あやめといった超パフューム関係者。桂、クライン、エリザベスの攘夷三人組に、たま、エギル、マダオまで駆けつけている。

 さらに仲間達だけではなく、居間には可愛らしい飾りつけ。テーブルにも豪勢な料理にロウソクが立てられたケーキと、盛大な宴の準備が用意されている。

 この用意周到なサプライズには、シノンの理解も追い付いてはいなかった。

「これって……」

「まだ気付かないのか? 今日はお前の誕生日なんだろ? まさか忘れているのか?」

「誕生日……あっ! 今日だったんだ……」

「そうだよ。日輪から言われてな、色々と準備していたんだ。アッと、お前を驚かせたいってな」

 銀時からの一言をきっかけに、彼女は全てを察している。今日八月二十一日は、自分の誕生日であることを。別世界であり意識もしていなかった記念日が、ここまで大きく発展するとは考えもしていなかった。記憶の片隅に置いていた懐かしい気持ちが、今蘇っている。

 経験したことの無い人情深い雰囲気に包まれていると、宴の立役者である日輪や月詠、晴太らが優しく話しかけていく。

「みんなに誕生日の日にちを聞いたら、シノンちゃんが一番近かったから、こっそりと準備していたのよ」

「例え別世界から来ていても、主が生まれた日に変わりはないからな。今日は存分に、わっちらと楽しもうではないか」

「もうシノン姉はオイラんちの一員だからさ! 気を遣わずに堂々と祝わせてよ!」

 至って純粋な気持ちから、この宴を三人は内密に計画していた。彼女達が持つ懐の広さや愛情が明るみとなり、シノン本人にも深く伝わっている。駆けつけてくれた多くの仲間達にも感謝を感じて、益々心を突き動かされていた。

(……そっか。これが私にとっての、家族だったんだ……本音を言い合えて、素直に信じあえる。そんな人たちと出会えて……本当に良かったわ!)

 内心で感極まった後、彼女は堪えていた涙をボロボロと流していく。そして、この宴を作ってくれた仲間達に、多大なる感謝を伝えていた。

「日輪さん……それにみんなも! サプライズ……ありがとうね!!」

 眩いとびっきりの笑顔を浮かべて、表情豊かに歓喜している。忘れられない大切な思い出を、また一つこの世界で紡いでいた。信じあう心が人を繋いでいき、彼女は最高の結末を迎えている。

 未だに涙を拭うシノンの元には、銀時もさり気なく声をかけてきた。

「何うれし泣きしてんだよ。そこまで、嬉しかったのかよ」

「当然よ! ここまで盛大な誕生日……久しぶりだもの!」

「そうかい……まぁ、楽しく感じているなら何よりだよ。ていうか……お前でも子供っぽい笑顔見せるんだな」

「どこに食い付いているのよ! まったく、銀さんらしいだから……」

 ちはるの一件を手伝ってくれた銀時にも、なんだかんだで感謝を覚えている。彼女に続き銀時もつられて小さく笑っていると、リーファら仲間内からは冗談が飛び交っていく。

「銀さんとシノンさんが仲良くなっている……!?」

「と言う事は……ここに来る前に何かあったのかな~?」

「えっ!? ま、まさか!?」

「って、アンタ達!! 何勝手に妄想しているのよ!! 誤解を生むような事、言わないでよね!!」

 本人の耳にもちゃんと入っており、涙を引き抜いて激しくツッコミを入れている。仲間達にも誤解を与えるわけにはいかず、必死に否定を貫いていた。微笑ましく仲睦まじい光景が、そこには広がっている。

 

 かくして、家族や仲間の存在を改めて再認識したシノンは、その仲間達と共に久しぶりの誕生日を全力で楽しむのであった。

 




 まさかのシノン誕生日篇でもありました。アスナ、シリカ、キリト、銀時、妙、神楽と続けてまた誕生日関係です。ややこしいですよね。何はともあれ遅くなりましたが、ようやく書き抜くことが出来ました。2か月経ったけど……シノン、ハッピーバースデー! (そこも祝えコールではないのか……?)

 またここからは余談ですが、シノンって原作の方だと大人と関わる事って結構少ないと思うんですよ。(クラインやエギルを除いて) だからこそ「剣魂」では、性格的に気が合う月詠や、頼りになる日輪がいて、考え方や精神面がより成長したと私自身は思っています。ちなみに、銀さんに対しては相変わらずの態度です(笑)。

次回予告
近藤「トシ! 将軍様が急に料理を変更したいと申し出が!」
土方「なんでまた俺達に押し付けるんだ……」
沖田「心配ねぇですよ。適任の女を連れてきてやりやすから」
近藤「本当か、総悟!?」
沖田「ああ、なんか行けそうな気がしますよ」
土方「それは別のソウゴだ!!」
沖田「次回、料理は見た目から食べるモノだ」


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第四十三訓 料理は見た目から食べるモノだ

前回の続き
キャサリン「私モ八月二十一日生マレナンデスケドネ……」
お登勢「仕方ないよ。良い流れにアタシらが割り込むのも、間が悪いからねぇ……」
 本編が終わった後に気付いてしまいました。シノンとキャサリンって、同じ誕生日だったんだ……すっかり忘れてた。



「何!? 将軍様が、昼食の内容を変更したいだと?」

「ええ。たまには目新しさが欲しいとか言い出して、今回限りは違う料理に変更したいそうですよ」

 真選組屯所に届いた通達を知り、土方は驚きを隠せずに声を上げている。江戸を収める将軍様こと徳川茂々が、日々食する昼食に物言いを申したからだ。恐らくは親しい関係にある松平を介して、無理やりここへ流れ着いたと思われる。

このように将軍の希望を叶えるのも、真選組としては稀に入る仕事であった。その大半は、散々な結末を迎えているが……

 それはさておき、要望を投げかけられた近藤、土方、沖田の三人は、もちろん対応に困り果てている。屯所内にある一室へ集まり、早くも対策案に追われていた。

「しかし、どうするんだ? 料理を変えるといっても、これまでにほとんど変えてきただろうからな……」

「こうなったら、別の料理人を探すか? それともマヨネーズを入れて、いっそ味覚でも変えてみるか? 悩ましいな……」

「いや、後者は絶対に無ぇですよ」

 マヨネーズの出番だと期待を寄せる土方であったが、沖田からは呆れ気味に否定されている。近藤も思いつく限り知恵を絞るが、どれも目新しさに欠けていた。僅か数分もかからずに、会議はとたんに静まり返ってしまう。

 そんな中で沖田は、場の空気を変えるために、戸を開けて外の景色を眺めている。雲がまばらに浮く夏の昼空を眺めていると、奇遇にもある知り合いを見かけていた。

「ん? アイツは……」

 目を凝らして見ていると、そこには青く透明な羽で飛行するアスナがいた。ちょうど屯所の上空付近を通り過ぎている。

 そんな彼女は現在、今晩の献立について悩みながら飛行していた。

「うーん……今日はどんな夕食を作ろうかしら?」

 家にある材料からヒントを得て、頭の中ではおおよその料理を思いついていく。足りない材料を補うために、商店街へと向かう最中であった。

 アスナの万事屋事情はつゆ知らずに、沖田は彼女を見かけた瞬間からある作戦を思いついている。

「あっ、そうだ。あの女を連れてきて、協力させればいいや」

「あの女? って、総悟は何を見つけ――お前!? 何バズーカなんか構えてんだよ!?」

 そう呟いた直後に、彼は肩にバズーカを構えていき、飛行するアスナへ向けて狙いを定めていく。唐突なる行動には土方らも驚き、慎重にしてなだめているが……時すでに遅い。

「今でっせ」

 何のためらいも無くバズーカの引き金を引くと、銃口からは勢いよく飛翔弾が解き放たれる。飛翔弾は上空で形を展開していき、事前に仕込ませた網を広げたところで――

「ん? ……キャャャャ!?」

アスナを丸ごと包み込み、空中で捕縛してきた。自身の思惑通りに作戦が成功すると、沖田は不敵な笑みを浮かべてそっと喜んでいる。

「ふっ……やりましたぜ」

「いや、そうじゃねぇだろ!! 何でお前は達成感に浸っているんだよ!!」

「アスナ君が!! おーい、大丈夫か!?」

「全然大丈夫じゃないわよ!! 一体何なのよ~!!」

 突拍子も無い彼の行動によって、場にいた全員が慌てふためいていた。近藤や土方は動揺しつつも事態の収集を図り、巻き込まれたアスナは状況を読めないまま、無情にも助けを求めている。

 この騒動をきっかけに、彼女の長い寄り道が幕を開けたのであった……

 

 それから数分が過ぎていくと、捕縛されたアスナは成り行きから屯所の一室へと連れられている。ようやく網の拘束から解放されたのだが、沖田ら真選組の印象は益々悪くなっていた。

「つまり……将軍様の料理を私が代行して作ればいいってこと?」

「そうですよ。もちろん、俺達に快く協力してくれるよな?」

「うん、分かったわ! ――って、なるわけがないでしょうが!! か弱い乙女を拉致する人達には、協力なんてしたくもないわよ!!」

 ひとまずは捕縛に至った経緯を聞いたアスナであったが、納得などは出来るはずがなく、沖田らに向けて強い怒りを露わにしていく。将軍様の昼食事情は少なからず理解していたが、彼の拉致行動が全てを台無しにしている。不機嫌な表情へ変わり、目つきも細く睨みつけていた。

 一方の沖田は何一つ動じることなく、平然とした態度で接している。

「なんでい? 将軍様の料理を作るなんて、中々無い機会でっせ。受けておかないと、勿体ないですよ」

「それ以前にアナタの態度が気に食わないのよ! リーファちゃんや神楽ちゃんからよく聞いているんだからね! ドSな事ばっかりして、信用が無いって!」

「仕方ねぇですよ。これが俺のやり方なんでね。チャイナもブラコン女も、相性がただ悪いだけなんでい」

「相性よりも、口の悪さが原因だと思うんだけど……」

 まったく反省の色を示さない彼の性格には、アスナも話し続ける度に気が参っていた。神楽やリーファの情報通りに、一筋縄ではいかない男である。依頼内容よりも今は、沖田から離れたい気持ちで心が一杯になっていた。

 二人の会話が平行線を辿る中で、見守り続けていた近藤と土方も、先行きを不安視している。

「おいおい、アイツ大丈夫か? アスナへの第一印象最悪だぞ。折角適任者を見つけ出したというのに……」

「噂でアスナ君は、かなりの料理上手らしいからな。この仕事には、ぴったりだと思ったんだが……」

「掴みが最悪だったな。総悟の強引さを見れば、怒らない方が無理あるからな」

「確かに……」

 互いにため息を吐いており、つい苦い表情を浮かべていく。二人も風の噂でアスナの料理の腕前は知っており、それを見越して依頼も視野に入れていた。議題に上げようと考えていたが……沖田のドSな捕縛行動が仇となって、最悪の再会で今に至っている。

「まぁまぁ、受けてくだせいよ。料理の一つや二つくらい、お前にとっては朝飯前じゃないですかい?」

「そんな簡単に作れるものじゃないのよ! そもそも頼む立場として、礼儀がなってないんじゃないの!?」

「……ったく、いちいち細かいな。だったらこっちにも、秘策があるんでい……」

 依然として交渉は上手くいかずに、アスナの機嫌も段々と悪くなっていく。交渉の決裂を悟った沖田は、巻き返しを図るためにここで切り札を取り出してきた。

(何を出す気なの……どんなにお金を積まれても、私は受ける気なんてないのに)

 過度な期待もせずに、アスナも心の中で興味を寄せていると、提示されたのは予想もしない代物である。

「はい、これですよ」

「だからお金は受け取らないって――えっ!? そのチケットは……!」

 目を疑うようにして、彼女は沖田の取り出したチケットをまじまじと見直していく。その中身は……江戸で人気のスイーツバイキングへのチケットである。若い女子の興味を引く代物を、彼は事前に用意していた。

 思惑通りにアスナのテンションが高まっていると、沖田は確信を得るように笑みを浮かべている。この絶好の機会を利用して、ここで一気に交渉を畳みかけていく。

「江戸に新しく出来た、飴泥牝陀の姉妹店が行っているスイーツバイキングでい。結構若い女子に人気らしいから、行かない手は無いんじゃないか?」

「そ、そうだけど……そんな手で私は釣れないわよ! 一人でバイキングに行ったって、何の楽しくもないもの!」

「それだったら……ペアチケット三枚分で、手を打ちましょうか? 一般ペアが二枚、親子ペアが一枚。これさえあれば、お前の彼氏も子供も喜ぶに違いありやせんよ。後はついでに、旦那と眼鏡とチャイナ娘も」

「は、はい……!?」

 さらに用意がいいことに、アスナの分に加えて万事屋全員分のチケットまで、懐から取り出してきた。褒美で相手を釣る沖田の作戦は、意外にも上手くいっている。アスナの意志は急にぐらついて、真剣に依頼を考え直していた。

(ほ、欲しいー!! みんなでケーキバイキングなんて、結構楽しそうなイベントよね!! ……これじゃ沖田さんの思うツボかもしれないけど、将軍様の料理を作るくらいだし……まぁ、受けてもいいわよね!)

 全員分のペアチケットが欲しい為、依頼を前向きに捉えている。沖田への印象はひとまず置いといて、ここは素直に褒美へ釣られる事にした。

「わ、分かったわ。でも協力するからには、ちゃんとした料理を作るわよ! いいわね?」

「はいはい、分かっていますよ」

 過度な喜びを前面には出さず、言いくるめられた素振りで了承している。紆余曲折はあったが、沖田の機転をきっかけにして、交渉を成功へ納めていた。真選組にとっては喜ばしい結果だが、ここでまた彼は毒のある本音をこぼしてしまう。

「いやー、女っていうのは単純だから、餌を与えたらすぐに食いついてきやすよね」

「総悟……これ以上はもう言うなよ。二度と俺達、信用されなくなるぞ」

 培った努力を無駄にする発言を聞き、土方らも冷や汗をかいて注意を促す始末であった。アスナには聞こえていないのが、不幸中の幸いである。

 こうして幕府から投げかけられた将軍の希望は、万事屋に所属するアスナへと託されていった……

 

「よし! それじゃ、早速始めましょうか!」

 会議室から調理場へ場所を移動したアスナや真選組一行四人は、早くも料理の準備に取り掛かっている。そのほとんどを賄う彼女は、気合を入れつつ、素朴な緑色のエプロンを服の上から巻きつけていく。本人の愛嬌と相まって、着こなした容姿はとても可愛らしく見えていた。

「トシ。エプロン付けている女子って、一段と魅力が上がるよな! お妙さんのエプロン姿も、いつかは見てみたいものだ……!」

「エプロン以前に、料理の腕が上がれば問題ないんだがな。まぁ、そんな機会はもう来ないと思うが……」

「いや……それは……ないと思う」

「息詰まっている時点で、自覚ありじゃねぇかよ」

 連想するように恋焦がれる相手を頭に浮かべた近藤だが、土方の現実を突きつけた言葉により、一瞬にして妄想が破壊されてしまう。否定しようにも事実に変わりは無いので、彼はただ黙ることしか出来なかった。

 近藤の恋愛事情はさておき、料理へのやる気を高めているアスナには、沖田が丁寧な説明を促してくる。

「まぁ、まずは試しにここで調理してくだせいよ。材料は一通り揃えたので、好きに使って構いやせんよ」

「分かったわ。ところで、将軍様の料理って……何をテーマに作ればいいの?」

「特にこだわりはないですよ。豪勢な料理を作ろうが、家庭的な料理を作ろうが、上手ければ問題ないですからね」

「そんな、大雑把な考え方でいいのかしら……?」

 将軍の昼食でも、張り切らずに普段通りの料理で良いと伝えていた。条件に縛られず自由に調理が出来るが、その分強い責任をアスナは感じている。

 苦い表情を浮かべつつも、とりあえずは真選組の用意した材料をさっと眺めていく。

「へぇー結構揃っているわね。これだったら、大半の種類は作れそうよ」

 普段の料理でも使う野菜類やキノコ類、あまり見かけない魚や精肉などと、材料は豊富に揃えてあった。さらには調味料も、まんべんなく用意されていたが――ここで明らかにおかしい光景を目にしてしまう。

「それでこっちは調味料……って、ちょっと待ちなさい! これは何?」

「何って、ただのマヨネーズだが」

「……じゃなんで、こうもおびただしく大量にあるのよ!!」

 調味料置き場にあったのは、二十本を超える大量のマヨネーズであった。もちろん用意したのは土方であり、彼の異常なるマヨネーズへのこだわりが嫌でも分かってしまう。アスナも激しいツッコミを繰り出す中で、土方は自信良く反論を繰りだしてくる。

「はぁ? 何を言ってんだ? マヨネーズくらい、二十本は当たり前で用意するだろ?」

「全然常識外よ!! こんな大量のマヨネーズ、一体どんな時に使うのよ!!」

「用途を使い分けて、選ぶんだよ。左からハーフ、クォーター、ノンコレストロール、ノンオイル、マスタード、醤油風、みりん風、ケチャップ風、ソース風とあるぞ」

「途中から他の調味料と混ざっているじゃないの!! もはやマヨネーズって呼べるの、それは!?」

 理由を聞いてもなお、依然として理解をすることは無かった。たった一つ分かったのは、土方に何を言っても意志は変わらない事である。永遠に分かり合えないと悟り、アスナはこの一件を水へと流していく。

「相変わらず土方さんは、度を越えたマヨラーだったわね……で他には、どんな食材が置いてあるのかしら?」

 気を取り直して、またまばらに材料を見直していくと、不自然にも置いてある一つの発泡スチロールの箱を見つけていた。

「ん? これだけなんで、丁寧に舗装されているの?」

 つい気になって箱の中身を覗いてみると、そこに入っていたのは実に奇妙奇天烈な食材である。

「えっ? って、キャャャャ!!」

「おや、どうしたんでい?」

「な、何よコレ!? これが食材だって言うの!?」

 強い精神的ショックを受けて、アスナは思わず叫び散らして腰を抜かす。彼女が目にしたものは……死腐土(シーフード)星特産として知られているチコン貝であった。その外見は、女子にとってはかなり刺激の強い代物である。

「ああ、これか。俺の用意したチコン貝ってやつですよ。一部の界隈には、珍味として知られている高級食材でっせ」

「そ、そんな説明いいから!! こんな卑猥な食材、早く外してちょうだいよ!!」

「なんでですかい? 尾の部分にチ〇コが付いていただけで、ここまで動揺するんですかい?」

「当たり前よ!! ていうかアンタ、絶対に受け狙いで持ってきたでしょ!! これ以上、私の純情を汚さないでよ!!」

 そう、沖田の言う通りにチコン貝とは、男性の局部に似た尾を持つ珍妙な食材であった。当然アスナには理解ができずに、卑猥な外見から目をそらして気までも取り乱していく。

「とにかく、この貝は却下!! 使わないから、さっさと遠ざけてよね!!」

「はいはい、分かりやしたよ。〇ンコくらいでここまで動揺するなんて、お前も意外と純粋なんですね」

 彼女の指示の通りに、沖田はチコン貝の入った箱をこの場から遠ざけている。声を枯らしつつも、問題の一件が解決してようやく落ち着きを戻していた。

「まったく……沖田さんも土方さんも、なんでこうも常識からかけ離れているのかしら……」

 強烈なボケとも捉えられる二人の個性には、もはや呆れも通り越している。大きくため息を吐いたところで再び食材を見直すと、またも意味不明な物体を見つけていく。

「ん? なんでこのこんにゃくだけ、真ん中に切れ目が入っているの?」

 手にしたのは、不自然な切れ目の入った一個のこんにゃくであった。不思議そうに眺めていると、ここで近藤が慌てて動きだす。

「あっ、それは……俺の切ったもので!」

 すかさず取り返そうとした時である。

「ハァァァ!!」

「ブハァァ!? なんで……?」

 咄嗟にアスナは勢いよく、手にしたこんにゃくを近藤の顔面へ投げつけていく。カウンターのような攻撃を受けて、彼は当たるとそのまま後ろへ倒れてしまった。一方のアスナは顔を赤くして、感じたままに大声で伝えている。

「嫌な予感を察したからよ……きっとこのこんにゃくも、どっかの星のゲテモノ料理だって言いたいんでしょ!!」

「……はい?」

 あまりにも疑いを強めたせいで、かなり的外れなことを発していた。これには近藤も、首を傾げるようにして少々驚いている。

「疑いすぎて、とうとう頭にきたって感じか」

「本当はマニアックな下ネタなんですけどね」

 対照的に土方や沖田は、冷静に場の状況を淡々と分析していた。ボケには慣れないアスナだからこそ、早とちりで疑念に苛まれたと察している。ちなみにこんにゃくの一件は、真実を伝えると余計に取り乱すので、あえて詳しくは普及しなかった。

 調理の手前である材料選びから、早く波乱が巻き起こっている……

 

 それからさらに数分が経つと、アスナも気を取り直しており、本格的に調理を進めていく。ジャンルの異なる三つの料理の完成を目標にして、手際よく作っていた。

「ふふーん。ようやく料理も、完成に近づいてきたわね!」

 本人の気分も好調であり、鼻歌混じりに楽しく呟いている。誰にも邪魔されずに料理を続けられるのは、彼女にとってもこの上ない好条件であった。

 一方で真選組の面々は、何一つ手助けすることは無く、ただ傍観している。料理する光景を見守りながら、独自で会話を進めていた。

「なぁ、総悟。料理をしている女子って、なんか麗しく感じるよな!」

「また、この流れですかい? 何回でも言いますが、近藤さんの片思い相手は、料理下手に変わりはないですよ。なんせダークマターを作れる鬼才ですからね」

「き、聞こえてないぞ! 決して俺は、憧れている訳じゃないからな!」

「やっぱり、自覚しているじゃないですか」

 心に「グサッ」と刺さる沖田の一言を聞き、またも近藤は精神面を追いやられてしまう。恋焦がれる妙を想起していたが、密かに心では彼女の料理下手を気にしている。アスナとの才能の有無が露わになり、近藤は複雑な心境を持ち始めていた。

 二人の話が込み合う中で、土方だけはアスナへ近づいて、料理模様をじっくりと見物している。

「ほうー和洋中って、ジャンルごとに分けたのか?」

「その通りよ。下ごしらえはある程度終わったから、後は一気に焼いたり炒めたりするだけよ! さぁ、一品目が完成したわ!」

 軽く会話を交わしている内に、早くも一品目の料理が皿へ盛り付けられた。中華の部類に当たる青椒肉絲が完成しており、油に炒められた豚肉とピーマンの芳しい匂いが辺り一面へと広がっている。

「もう出来上がったのか? とりあえず、味見しても大丈夫だよな」

「ええ、どうぞ。かなりの自信作だから、期待して食べてちょうだいね!」

 匂いにつられて土方も、彼女の作った料理に興味を持ち始めていた。食欲をそそられており、食す前にじっくりと出来立ての匂いまで満喫している。

(よし! これだったら匂いも抑え目に作っているから、将軍様にもピッタリの料理だと思うわ。さぁ、土方さんはどんな反応を……)

 掴みは完璧だと確信して、アスナ自身も屈託のない笑顔を見せていた。料理の感想を楽しみにして、期待を寄せていた……直後である。

「あっ、忘れてた。マヨネーズをかけねぇと」

「はぁ!?」

 土方は急に携帯していたマヨネーズを取り出して、青椒肉絲に向けてたっぷりとかけ始めていた。折角作った料理を勝手に味付けされて、アスナも咄嗟に怒りで頭にきてしまう。

「ちょっと待ちなさい!! 味見にもマヨネーズをかけるとか、どこまで味を濃くしたいのよ!! というか、これは将軍様向けに作っているのよ!! 土方さん用には、作っていないんだからね!!」

 気持ちが高ぶって、しかめっ面で言い迫ったのだが、残念ながら土方には何一つ伝わっていない。

「いちいち、うるせぇな。俺のマヨラー流儀には、茶々を入れんなよ。そんなに嫌だったら、小皿に盛り付けて勝手に食えばいいんだろ?」

 ふてぶてしい表情で、彼は棚から皿を取り出して、マヨネーズの付いた部分だけ丁寧に箸で盛り付けていく。あくまでも我流を通す性格には、これ以上注意のしようがない。アスナも内心では、つい納得が出来ずにいた。

(なんて人なの……折角私の作った料理が、マヨラー男で台無しにされるなんて。こうなったら、もう一品料理を作るわよ……。土方さんを、ギャフンと言わせるために!!)

 しかし、怒りと共に沸き上がったのは悔しさを晴らす覚悟である。意気揚々とマヨネーズをかける土方に、料理で見返す計画を思いついていた。既に料理の構想も練っており、将軍様の料理と並行して作るようである。

「分かったわ、土方さん。もう一つ料理を作るから、全部出来上がったら、また味見してくれるかしら?」

「ああ、いいぜ。どっちにしろ、俺はマヨネーズ込みで評価するからな」

「望むところよ!」

 彼女は堂々と、相手に向けて宣戦布告を伝えていく。互いに気持ちを譲り合う事は無く、迫真の表情で自らの信念を貫いている。険しい表情となって、共にバチバチとした対立意識で相手を睨み続けていた。

「って、いつの間にか別の勝負が始まっているみたいですよ」

「ト、トシ!? 一体何があったんだ!? アスナ君の目が、結構本気なんだけど!?」

 知らずの内に二人の勝負が始まっており、沖田や近藤も薄々と気付き始めている。前者は冷静にも面白がるように、後者は再び慌てるようにして驚いていた。こうして、マヨラーの土方と料理上手なアスナとの間に空いた溝から、予想もつかない勝負が始まっていく……

 

「はい、どうぞ。これで全て出来上がったわ!」

 二つの目的達成に向けて料理を続けていたアスナは、いよいよ全ての料理を作り終えていた。和洋中のそれぞれを代表する料理が三品と、土方への対策料理の計四品である。どれも見栄えが良く、将軍様に出しても申し分が無かった。

「おっ、もう全部出来たのか!!」

「へぇー、これは中々やりやすね」

 改めて誇示された彼女の料理技術には、近藤や沖田もその全貌に脱帽している。それからは作り上げた料理を、丁寧に一品ずつ見渡していく。

 先ほど完成した青椒肉絲に加えて、和を代表する魚の煮物漬け、洋を代表とする野菜とひき肉をふんだんに使ったハンバーグが皿に盛られていた。青椒肉絲以外は出来立てを保っており、どれも食欲をそそる一品として完成している。

 そしてマヨラー対策用の料理は……こちらも和風料理であるキノコと海鮮系の天ぷらであった。

「はい。これが土方さん向けの料理よ」

「ほうー見た目は良さそうだな。まぁ、何が来ようがマヨネーズ込みで評価してやるよ」

「ええ、もちろん。後悔してもしらないわよ……」

「ああ?」

 アスナは意味深な言葉をかけると、フッと自信ありげな笑みを浮かべている。違和感を覚えた土方であったが、特に気に掛ける様子は無かった。

 ひとまずは、真選組の面々で作った料理を味見していく。一品ずつ口にしていき、最適の料理を定めていた。

「うん、中々これはいけやすね」

「どれも完成度が高いじゃないか! やっぱりアスナ君には、期待して良かったよ!」

「ハハ……それはどうも」

 どの料理にも大した不満は無く、出来栄えの良さから自然と食欲が進んでいる。特に近藤だけは、感激のあまり過剰な喜びを見せていた。

 一方で土方は、アスナの作った天ぷらに大量のマヨネーズをかけて食べようとしている。

「さぁ、これでようやく食べられるな。いただくか」

 いつもよりもふんだんに使ったことで、主軸である天ぷらがマヨネーズに埋もれてしまった。もちろんお構いなく、彼は箸でキノコの天ぷらをとって、そのまま口にしていく――すると、早くもある違和感を覚えている。

(……何!? おいしいはずなのに、味が濃い……? マヨラーの俺でも、耐え切れない濃さだと!?)

 神妙な表情となって気が付いたのは、天ぷらとマヨネーズとの相性の悪さであった。ありとあらゆる料理にマヨネーズをかけた土方でも、味わったことのない酸っぱい感触が襲ってくる。認めたくない複雑な感情が、沸々と心の奥底から上がっていく。

 困り果てる姿を見届けたところで、アスナは不敵な笑みを浮かべて、彼に種明かしを話し始める。

「フフ……ようやく気が付いたかしら。この天ぷらに隠された秘密を……」

「お、お前……一体何を仕掛けたんだ!?」

「それは……卵の代わりに、アナタの薦めた数多のマヨネーズを仕込んでおいたのよ!!」

「な、何だと……!?」

 意表を突く一言を聞き、土方は思わず驚嘆していた。彼女が明かしたのは、隠し味として使用したマヨネーズである。天ぷらの粉に多くのマヨネーズを調合して、絶妙な濃い味付け具合を実現させていた。さらに、後にかけるマヨネーズとミスマッチさせるように計算する徹底ぶりである。アスナが目論んだ見返しは、いよいよ仕上げに入っていく。

「少なくとも美味しさを踏まえた上で、マヨネーズ同士を調合したのよ。そのおかげで、普通のマヨネーズとはミスマッチさせる、完璧な隠しマヨネーズが出来たのよ!」

 詳しく事実を畳みかけていき、どや顔を見せつけて彼にとどめを突きつけている。SAOやALOで培われた調合技術が、思わぬ場面で発揮されていた。これには土方も返す言葉が見当たらず、観念して素直に負けを認めていく。

「くっ……俺の負けだ。参ったよ」

「よし! 見返し成功ね! やったわ、ハハ!!」

 悔しい表情となった姿を見て、アスナは爽快感に溢れた笑いで勝利に浸っていく。料理の腕を落とさずに、技術だけで相手を見返したことが、彼女にとってこの上ない幸福であった。

 と激しい勝負を展開した二人であったが、傍から見れば実はそこまで対した事ではない。傍観していた近藤や沖田は、首を傾げて呆れ果てている。

「何やってんだ、アイツら……目的を完全に見失っているぞ」

「マヨネーズバカと料理バカが張り合った結果、何とも虚しい雰囲気になってやすね。まぁ、本人達が満足するまで放っておきましょうか」

 冷たい視線を送った後に、二人は黙々と味見を続けていく。出来る限り口出しはせずに、そっと距離を置いていた。見返しに執着するあまり、周りの反応にはまだ気が付いていないアスナである。

そしてこの料理を元にして、彼女はレシピを書き記して、無事に依頼を達成させていた。

 

 それから数日が経過した頃。依頼料としてスイーツバイキングへチケットを手にしたアスナは、万事屋一行と共にその店を訪れていた。室内にあるテーブルに座り、皿に盛りつけたスイーツを味わいながら、彼女は真選組との間に起きた出来事を仲間内に話している。

「ということなのよ。この間私が、巻き込まれた昼食騒動って」

「へぇー。そんな濃い出来事があったんだ」

 一通りの話を聞くと、キリトは納得して深く頷いていた。アスナが経験した料理の苦悩が、大まかに仲間達にも伝わっている。

「それにしても、アッスーも頑張ったアルナ! あんな税金ドロボー達の依頼に、真摯に答えるなんて!」

「そうでしょ! 結構大変な目にあったのよ! 特にマヨラーとか、土方さんとか!!」

「よっぽど土方さんに、恨みが出来たんですね……」

 神楽から声をかけられると、怒りを思い出したように激しく主張していた。特に本筋から離れて対立していた土方には、やるせない気持ちを表している。不機嫌そうな表情からは、新八も深い理由があると察していた。

 そんな彼女に対して、銀時やユイはさり気ない言葉を返して慰めていく。

「でもいいじゃないか。こうやって今、スイーツバイキングに行けてんだからよ」

「そうですよ! 美味しいケーキをいっぱい食べれて、私はすごくハッピーですよ! ママ!!」

 前者はごく自然な振る舞いで、後者は満足気な表情で大きく喜びを伝えている。仲間内の温かい優しさを目にすると、アスナの気持ちも徐々に元気を取り戻していった。

「二人共……フフ、励ましてくれてありがとうね! さぁ、気を取り直して、バイキングを再開しましょう!!」

「もちろんアル!!」

 苦い経験を紛らわしていき、今は神楽達と共に有意義な時間を楽しもうと考えている。心機一転して彼女は、神楽と新しいスイーツを取りに席を外していく。人一倍笑顔を戻した姿には、銀時やキリトらも一安心していた。万事屋の甘い一時は、まだ始まったばかりである……

 

 一方で昼食のレシピを提出した真選組には、早くも幕府側からの返答が届いていたのだが――

「おいおい、嘘だろ……」

「まさかな……」

近藤、土方共に驚嘆とした反応を示していた。手紙の内容を目にしていき、思わず愕然としている。さらにそこへ、沖田も部屋へと入ってきた。

「おや、どうしたんですかい? 幕府側からの返答が、よっぽどショッキングだったんですかい?」

 興味深く聞いてみると、互いに神妙な表情となって手紙の内容を伝えてくる。

「いや、それがだな……将軍様に四つの料理を吟味させたみたいなんだが……」

「一番美味しかったのが……あのマヨ天ぷらだったらしい……」

 どうやら将軍の評価では、土方対策として作られたマヨ天ぷらが気に入ったようだ。これにはこの料理に否定的な土方も、驚きを隠せずにいる。話の流れを察した沖田は、彼の肩をそっと掴むと、急に優しい言葉をかけてきた。

「良かったじゃないですかい。これで将軍様も、マヨラーの道に引きずれますよ」

「いや、そうじゃねぇよ!! 何でよりによって、あの濃い味付けの料理を選ぶんだよ!! 予想外にもほどがあるだろうが!!」

「いいじゃないですかい。そもそもあの天ぷらは、マヨネーズをかけなかったら、結構美味しい代物でしたよ。土方さんは無駄にかけすぎるから、いけないんですよ」

「何だと、てめぇ!! 俺のマヨラー道を、否定するのかゴラァ!!」

 ごく当たり前な正論を言い放つが、やはり土方には何一つ伝わっていない。極度のマヨラーとしては、どうしてもあの天ぷらだけは認めたくは無かった。何とも歯がゆい性である。

「やはり将軍様は気まぐれなお方だな……いや、アスナ君の料理の腕が、高いと言うべきか……」

 険悪な雰囲気が流れる中でも、近藤は腕を組んでしみじみと結果を受け入れていた。結局はアスナ頼りであったが、十分に貢献したくれた事には、感謝してもしきれないのである。

 こうして依頼は一段落した一方で――

「へッ、クッション!!」

「おお、でっかいくしゃみアル!」

噂を聞きつけるように、アスナは大きいくしゃみを出してしまう。結果を未だに知らされていない彼女であった。

 




 思えばアスナも土方も副長繋がりなんですね。料理のセンスは、壊滅的に合わないけど……
 後はやっぱり、料理への描写って難しいですね!


次回予告
源外「てめぇら、ゲームの世界へ行きたいか―!」
銀時「どうしたんだよ、爺さん! そんなに張り切って」
源外「いいか、ようやくゲームの世界へ入れる装置をこの俺が開発した。剣魂にもSAOらしさが欲しいと、上から言われてな」
銀時「上って誰だよ! 適当な理由を語るんじゃねぇよ!」
源外「次回! 未来は想うままに辿り着かない! 懐かしのあのゲームが登場だぞ!」
銀時「な、なんでお前がそのゲームを!?」


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第四十四訓 未来は想うままに辿り着かない

 今回は珍しくゲームの世界へ行きます。果たしてどんな世界へ行くのでしょうか? それでは、どうぞご覧ください。


「まずい……この先の行動で、決着が着くのか……」

 とある事情で窮地に陥っていたキリトは、思わずただれた本音を呟いていた。表情は緊張感に包まれており、慎重に行動を選んでいる。

 きっかけは些細な事であったが、勝負となれば負けるわけにもいかないましてや。相手は、仲間でもある新八。彼の隠された一面から、勝負は持久戦へ持ち込まれていた。

「さぁ、早く選ぶがいい! まさか僕に勝ちを譲る気かな?」

 まるで人が変わったように、調子に乗って挑発気味の発言を繰りだしている。高らかな自信からは、一斉の迷いすらも感じられない。

 一方で近辺には、残りの仲間達四人がこの勝負を見守りつつ観戦していた。

「キリト君、頑張って……!」

「パパ、ファイトです!!」

「ていうか、この場面から始まるの? この話」

「読者には何が起こったのか、全く伝わってないアルよ」

 アスナやユイは祈りを込めてキリト側を応援していたが、銀時や神楽は冷めた目つきで他人事のように呟いている。メタ発言も交えており、その温度差はかなり激しかった。一体万事屋の身に何が起こったのか? 時間を巻き戻して、昼頃にからくり堂を訪れた辺りから話を進めよう――

 

「えっ? ドリームギアを改造して、ナーヴギアっぽくしたんですか?」

「あたぼーよ。夢世界ではなく、瞬時にゲームの世界へ行けるカラクリを完成させたんだよ。名付けてドリームギアV2だな!」

「ドリームだけは、名前を変えないのね……」

 源外の癖のある名称のこだわりには、アスナも引き気味に苦笑いを浮かべている。

時系列はちょうど八月の半分を過ぎた頃。万事屋一行は彼からの連絡で、昼頃に揃ってからくり堂を訪れていた。新作のカラクリであるドリームギアV2のお披露目としてやって来たのだが……全員の反応は十人十色のようにバラバラである。

「ドリームギアは確か……早見千佐さんを目覚めさせるために、使用した装置ですよね?」

「そうだな。少しナーヴギアやアミュスフィアと系統は似ていたけど……まさか似せてくるなんて、思いもしなかったよ」

 過去の実績を振り返りつつ、好意的に受け止めているキリトやユイらに対して、

「ていうか、爺さん! それってつまり、ナーヴギアを諸々パクったって事アルか?」

「おいおい、それは頂けねぇな。無許可でやったなんざ、後で本人からのお叱りを受けるに違いねぇぞ」

「いや、アンタがそれを言うなよ! ブーメランの如く、返ってきていますよ!」

銀時や神楽は文句ばかりを口にして否定的であった。特に銀時は人には言えないことまで言い放ち、新八に核心を突くツッコミを入れられている。

 万事屋からのまばらな反応には気にせず、源外は終始冷静とした態度で接していく。

「まぁ、言いたいことは良く分かるが、そこも安心してくれ。俺も一人の大人だから、けじめの一つくらいは付けているさ」

「けじめですか?」

「ああ。無許可云々を乗り越えるには、まったくの別物に寄せればもうなんてことないよ。ナーヴギアが頭に被って仮想世界へ行けるならば……」

 そう言いながら彼はドリームギアV2を手に取り、近くにあった携帯用ゲーム機の上に被せてきた。

「えっ? これって……」

「もう見てわかるだろ。頭がダメならばゲーム機に被せればいい! これならばちゃんと、差別化も図れて問題なしってわけだ!」

 予想の斜め上をゆく発想には、万事屋一行もみな言葉を失っている。ナーヴギアとの差別化を重視した結果だが、正直凄いのかくだらないのかよく分かっていない。それでも源外は、意気揚々と誇らしく感じていた。

「ちょっと、何言っているか分からないアル」

「安直にもほどがあるんじゃないのか?」

 沈黙に耐えかねて、再び銀時や神楽が冷めた目つきで愚痴を出している。全員揃ってすこぶる反応の悪さだったので、ここで彼は隠し通していた最終手段を披露していく。

「今日はねちねちと文句ばかりだな。だったら、これで驚かせてやるよ。ポチっとな!」

 勢いよくドリームギアV2のスイッチを押して、ゲーム世界の入り口を発生させていた。歯車のようなレトロ風の音楽が流れると、ゲーム機の周りを光の粒子が飛び回り、一つの塊へと集約していく。白いオーブを作り出して、現実とゲーム世界を繋ぐ光のトンネルが瞬く間に完成した。

「あ、穴が開きました!?」

「この輪っかは一体……」

 当然のことだが、万事屋一行の表情は急変している。否定気味だった銀時や神楽も、これには唖然とするしかない。すんなりと見返したところで、源外は高笑いをしつつ、自身のカラクリを自画自賛している。

「ハハハ! これがドリームギアV2の真骨頂よ!! このオーブは現実とゲーム世界を、そのまま繋げることが出来るのだ!! それじゃ……御託はいいから、ひとまずは行ってこい!!」

 勢いに乗って再びスイッチを押すと、白いオーブから風が吹き出して、瞬時に彼らの周りを包み込んでいく。まるで掃除機で吸い上げるように、六人を強制的にゲーム世界へ引きずり込もうとしていた。

「って、えっ!? まだ準備も何もしてないんだが!?」

「まさか強制的に連れて行く気なの!?」

「どんなゲームなのか、聞いてすらいねぇぞ!! おい、爺さん! 聞いてんのか!?」

 徐々に風へ乗っかっていき、キリトやアスナらは困惑して本音のままに叫んでいる。垣間見えた源外の強引さには、銀時も頭を抱えて悔やんでいた。

 すると、自ら仕掛けた本人が一行へ向けて声をかけてくる。

「心配するな! ゲームをある程度まで進めれば、現実へ戻れることが出来るぞ! それまでお前達には、ちと検証実験に付き合ってもらうけどな」

「って、オーブを仕掛ける前に言えアル! 完全に私達をはめやがったナ、ゴラァ!!」

「言ったところで、断られるのは目に見えていたからな。ちなみにセットしたゲームカセットだが……どんなジャンルを入れたっけな?」

「ここでド忘れしないでくださいよ!! もう時間がな――」

 さらっと重要な条件を伝えた後に、源外は間が悪くセットしたゲームを忘れかけていた。呑気に思い返そうとした……直後である。

「「「うわぁぁ!!」」」

「「「キャャャ!!」」」

 ちょうど万事屋一行はオーブの中へと吸い込まれていき、悲鳴を上げながらみなゲーム世界へ転移してしまった。中から吹き出した風は静かに収まり、何事も無かったかのような静寂に戻っていく。

「おっと、思い出したぞ! 確か眼鏡のお前さんが昔ドはまりしていた……アレ? もう行ったのか?」

 時すでに遅く源外が思い出した頃には、もう万事屋は誰一人としてここにはいなかった。突如として始まったドリームギアV2の検証実験。キリト達に待ち受けるゲーム世界とは、果たしてどんな世界なのだろうか?

 

「あぁぁーと! 痛ぁ!?」

 風に連れられるままオーブを潜り抜けていき、銀時は不十分な着地でゲーム世界へ転移していた。さらに彼へと続き、

「うわぁぁ!!」

「グハァァ!!」

キリトら仲間達五人も次々にやって来ている。みなが銀時の上に乗っかる形で来たために、本人はその重みから怒りがこみ上げていた。

「おい! てめぇら、早く降りろ!! どさくさ紛れに、乗っかるんじゃねぇよ!!」

「ぎ、銀さん!? あっ、ごめんなさい!!」

 呼びかけから気が付き、仲間達は慌てて銀時から降りていく。五人分の重みから解放された彼は、ゆっくりと起き上がった後に話しかけてきた。

「ったく、色々と後先が思いやられる展開だな……」

「まぁまぁ、銀さんってば。ひとまずは落ち着いてって」

「落ち着けるわけがないだろ。なんせ俺達は今、ゲームの世界にいるんだからよ」

「そういえば、そうだったな……」

 キリトがフォローするものの正論を言われてしまい、返す言葉を失っている。銀時の言う通りに、オーブを通り抜けたこの場所がゲーム世界のようだ。しかし、辺りを見渡していたアスナやユイはふと疑問を呟いている。

「ゲームの世界とは言っても、現実と何も変わらない町並みですよ」

「少なくとも、私達の得意なRPG系では無いわね」

 彼女達の言う通り、このゲーム世界は現実との差があまり感じられない。江戸風の町並みに加えて、古民家とビル街が周りに立ち並ぶ昼下がりの光景。現在一行がいるのも、閑散とした住宅街に囲まれた歩道である。こうした少ない情報から、まずはこのゲームのジャンルについて解き明かしていく。

「となると、如何にも現実的なゲームっぽいアル。初っ端から不安しか無いネ」

「そうだな。もしかしたらゲートボールやパチスロをやらされるかもしれないから、てめぇら何が来てもいいように覚悟だけはしとけよ」

「それだけは俺も攻略できないよ……」

 銀時らの冗談めいた予想には、キリトも苦笑いで返答している。源外の古臭いセンスから、期待もしない答えが飛び交っていく。先行きが不透明な状況が続く中で、新八にはある既視感が頭をよぎっていた。

「まさか、このゲームの世界って……」

「ん? どうしたんですか、新八さん? 何か思いついたのですか?」

「いや、何でもないよ! 皆さんはここで待っていてください! 僕は確かめたいことがあるので、終わったら戻ってきますね!」

「えっ、新八君!? ちょっと待ってよ! おーい!?」

 ユイやアスナらの問いかけをはぐらかして、新八は確証を得たかのように仲間の元を離れていく。足早にこの場を去っており、不可解な行動にはみなが拍子抜けしていた。

「あの眼鏡、どっか行っちゃったアルよ」

「新八さんにしては、結構珍しい行動力ですよね」

 特に知り合ったばかりのキリトら三人は、意外な一面に驚きを隠せずにいる。その一方で銀時は、一連の行動を察してある答えに辿り着いていた。

「無断で行くとか突拍子も無いだろうが……でもこれで、このゲームの正体がようやく掴めたかもな」

「えっ!? そうなのか、銀さん?」

「おうよ。おそらくこのゲームの世界はな……愛チョリスっていうギャルゲーだよ」

「「「愛チョリス?」」」

 初耳なゲーム名を聞くと、キリトら三人は声を揃えて驚きを露わにする。彼の提案した仮説には、唯一神楽だけが食い入るように納得していた。

「あっ、あのゲームアルか! それなら、新八の行動にも納得できるネ!」

「いや、そうじゃなくて! 一体どういうゲームなのか、俺達に教えてくれないか?」

 流れを断ち切って詳しい情報を求めてくると、銀時はSAOメンバーに愛チョリスを軽く解説していく。

「簡単に言うと、リアルに近づけた疑似恋愛ゲームだよ。三人の女の子から一人を選んで、自分好みの彼女に育ませてゴールインするのが目的なんだよ」

「なるほどね……要するに王道な恋愛ゲームってわけね!」

「いいや。ツッコミどころ満載過ぎて、正直ついていけねぇゲームだよ。仕舞いには参加者揃って、妄想まで見える始末だったからな」

「それ、どんな状況なんだ……」

 一癖も二癖もある恋愛ゲームだと知ると、反応に困り言葉が詰まっていた。いずれにしろ、キリトらにとっては馴染みのないジャンルである。

 それはさておき、現実に戻るにはある程度までこのゲームを進めなくてはいけない。条件を満たすためにも、万事屋一行は体験を兼ねて、この愛チョリスを進めようと考えていた。その主軸となるゲームプレイヤーは――

「とにかくだ。まずはこのゲームを進めて、手早く現実世界に戻ろうじゃねぇか。折角だから、とりあえずキリトがやってみるか?」

「えっ、俺なのか!?」

まさかのキリトが指名されている。これを聞いた本人は、戸惑いの反応を見せていた。

「何驚いてんだよ。ゲーマーって呼称しているんだから、ギャルゲーの一つや二つくらい攻略できんだろうが?」

「そうは言っても、俺ほとんどやったことがないし……アスナやユイもいるから、やりづらいと思うんだが……」

 ノリで決めつけた銀時に向けて、彼は否定的な返答を突きつけている。その傍らで、場の空気や仲間達の気持ちまで察していた。どこか乗り気ではない態度は、ユイにもよく伝わっている。

「そうですよ! パパにはママがいるんですから、例え疑似恋愛だとしても、浮気をしたら絶対にダメですからね!」

 彼女は頬っぺたを膨らませて、銀時の指名に強く否定していた。キリトへの愛情が深いからこそ、必死に守ろうと抗議を続けている。

「えっと……それじゃアスナはどう思うかな?」

 結論に詰まった彼は、慎重な面持ちでアスナにも意見を聞いてみた。すると彼女から返ってきたのは、想定外な一言である。

「うーん……別に参加してもいいんじゃない? だってあくまでもゲームの世界での疑似恋愛なんだし、問題ないと思うわよ」

「そうか、問題ないか……って、えっ?」

 まさかの肯定的な返答だった。気にする素振りを見せずに、ごく自然な対応で接している。これには全員が耳を疑ってしまう。

「アッスー、マジアルか!?」

「本当にいいんですか、ママ? パパが浮気しちゃうかもしれないんですよ!!」

 顔色を変えて食い入るように、神楽やユイが問い詰めていく。しかしアスナは、自分なりの意見を持ち合わせていた。

「そんな心配は無用よ。恋愛ゲームくらいで、キリト君の心が変わるわけがないもの。信じているからこそ、何も制限なんかかけないのよ」

「アスナ……」

 長い付き合いからの信頼がある以上、素直に彼女は受け入れている。優しさ溢れる心構えには、キリトもつい感激していた……。と思いきや、

「でもその代わり、一つだけお願いがあるわ」

「お願い?」

アスナは顔色を変えて、そっとキリトの耳元に近づいていく。周りには聞こえない小さめの声で、内緒の約束を交わしていた。

「現実に戻ったら、今日の倍以上の時間を使って私を奉仕してね。約束よ」

「えっ? あっ、えっと……わ、分かったよ」

「もうー、反応が悪いわね! 約束はきちんと守っているわよ!」

「わ、分かっているから! 忘れないから、安心してくれ!」

 ユイらには内緒で、こっそりと二人っきりになる時間を約束している。彼女の本心では、密かに濃厚な時間を過ごしたいと思い、この一件を利用してキリトへと取り付けていた。

 一方でこの約束を知らない銀時ら三人であるが、ユイを除く二人は薄っすらと気付き始めている。

「ん? お二人は何を話しているのでしょうか?」

「気にするな。カップルにしか分からない大人の事情だと思うぞ」

「ユイにはきっと、まだ早い世界アルよ……」

「どういうことですか? 教えてくださいよ!!」

「そう言われてもな……」

 気になって問いかける彼女とは対照的に、銀時や神楽は目を点にして言葉を詰まらせていた。いつにもまして愛情を深めるキリアスの姿に、微妙な反応を示していく。板挟みにされている二人が、この場における被害者なのかもしれない。

 紆余曲折はあったが、愛チョリスの主役は無事にキリトへ決まった……だがしかし、新八の方にも、ある異変が起きようとしていた。

 

「よし、名前も登録したな。それじゃまずは、彼女となる女子を三人から選ぼうじゃないか」

 順調に名前などの登録を終えた一行は、いよいよ第一の山場となる彼女選びに突入している。一応アスナから許しをもらったキリトであるが、知らぬ間に本人からは静かなる圧力をかけられていた。

「フフ……出来ればキリト君には、私に似た雰囲気の子を選んでほしいものだわ~」

「ああ……なるべく見極めるよ」

 満面の笑みで迫ってくるアスナの姿を目にすると、彼は引き気味に苦笑いを返している。複雑な心情を悟って、心の内では本音を吐き出していく。

(結構なプレッシャーをかけてくるな……やっぱり、本当は気にしているのでは……?)

 ほんの数分前には背中を押してくれたのだが、一連の態度を見るとどこか不安を感じてしまう。益々とキリトの肩身は狭くなっている。

 その一方でユイや神楽が気にしていたのは、彼女候補に当たる女子キャラクターの特徴であった。

「そういえば、銀ちゃん。このゲームには、どんな女子がいたアルか?」

「分かる範囲で教えてもらえませんか?」

「そうだな……確か覚えているのは、メガネっ娘系とお姉さん系の女子だったと思うが」

 銀時が思い出しながら質問に答えていると、話に上げていた女子キャラクターが等身大のまま、イメージ画像として目の前に表示されている。ご丁寧に実物のキャラデザを見せて、説明を補足していた。

「うーん……まぁ、悪くはない可愛さよね。キリト君との相性が良いのかはさておき」

「相性って……アレ? そういえば三人ってことは、もう一人いるんだよな? 一体どんな女の子なんだ?」

 まじまじとデザインを凝視するアスナとは異なり、キリトはもう一人の女子キャラクターに注目を寄せている。初心者故の興味であったのだが……そんな淡い期待は一瞬にして砕かれてしまう。

「女子っていうか、特徴的なお姉さんなんだけどな」

「「「……えっ!?」」」

 銀時の言葉に続けて出てきたイメージ画像には――割烹着を着た妙齢の女性が映り込んでいた。哀愁を漂わせる風貌には、妙な貫禄を感じさせていく。先程までの女子二人とは明らかに異なるキャラデザには、キリトら三人にとってあまりにも強い衝撃が襲い掛かってくる。

「銀さん……何かの冗談だよな? この人、主人公の母親とか知り合い的ポジションだよね……?」

「いいや、立派なメインヒロインだよ。白水〇×子っていう、定食屋の女将だ」

「ちょっと待ちなさいよ!! 一人だけ存在感が違うじゃないの!! これ恋愛ゲームよね!? 完全に趣旨と異なっているわよ!!」

 説明を聞いても、当然三人は納得などしていない。アスナも新八ばりの激しいツッコミで、どうにか自制を保っていく。一方でこのゲームを体験済みである銀時は、珍しくも淡々として場を取り進めている。

「そう取り乱すな。どんなゲームにも、一つくらいはネタ要素があるもんだろ? そうわきまえれば、自然と慣れて来るって」

「慣れる以前に、特徴が強すぎて今にも胃もたれしそうなんだが……」

 何故そこまで平常心を保てているのか。今のキリトにとっては、銀時の強い肝っ玉の方が気になって仕方がない。さらにはユイまでも、このキャラデザに心からドン引きしていた。

「これは強烈な設定ですね……私でも引いてしまいます」

「そうアルか? ユイはまだ子供アルから、きっと慣れてないだけアルよ!」

「時間が経過しても、到底慣れるとは思いませんが……」

 苦めの表情を浮かべている彼女とは違って、神楽も平然とした態度で気にもしていない。強烈な個性に囲まれているからこそ、ここで反応の違いが露わになっている。

(この中から一人を選ぶのか……完全に二択でもいい気がするんだが。それとも、あの〇×子さんを選んで攻略した方が楽なのでは……)

 衝撃を抑え込みながら、キリトは内心で彼女選びを考え始めていた。正統派の美少女系キャラ二人から選ぶか。はたまた、強い存在感の〇×子にするべきか。周りの反応や自身の気持ちを分析して、悩み続けている――そんな時であった。

「何を迷っているのよ。ここは私を選びなさい!!」

 唐突だが野太い女性の声が、近辺から聞こえてくる。キリトに限らず全員が耳にしており、つい周りを見渡していると……ある信じがたい光景が目に入ってきた。

「さぁ、さっさと顔を見せなさい!」

 なんと表示されていたイメージ画像から、白水〇×子本人が破くように姿を現してきていた。例によってアニメ版同じく、顔面には黒いモザイクがかかっている。この強引な登場によって、場の空気は大きく一変していた。

「ぎ、銀さん!? 前に〇×子が!? 〇×子がいるんだが!?」

「あん、何を言ってんだ? そんな訳が――って、いたぁぁぁぁ!? こっちへ来てるぅぅぅ!?」

「今気づいたのかよ!?」

 全員が平常心を忘れて、近づいてくる彼女に恐怖を感じていく。大袈裟に取り乱す銀時と神楽、強張った表情で体をすくめるアスナやユイの姿が、印象に残っている。それはさておき、〇×子はゆっくり足を進めていき、なんとキリトの目の前にて立ち止まっていた。

「な……何でしょうか?」

 恐る恐る引き気味に聞いてみると、彼女は唇を曲がらせて、ある心情を声に出している。

「今の私の寂しさを埋められるのは、アナタしかいないのよ。この中性的な顔は、間違いなくエナ〇とそっくりだからね」

「エ、エ〇リ?」

「突然共演NGを告げた息子役の男よ。アナタにもその気持ちが、少しは分かるんじゃないの?」

「えっと……一応ですが、分かる気はします」

 意外にも複雑な事情が告げられていた。諸事情で出演が難しくなった〇ナリと照らし合わせて、雰囲気の似てるキリトに温もりを寄せている。やや生々しい話ではあるが、銀時の時と比べると、好印象のままスタートを切っていた。

「アレ? 結構上手くいっていますよ」

「銀ちゃんの時とは偉い大違いアルな」

「なんであいつは、〇×子にまだ好かれてんだよ! どこまでハーレムを築くつもりなんだよ!?」

 仲間内でも驚きの声が上がり、特に銀時は納得がいかずに、激しいツッコミを繰り出して、怒りをまき散らしている。

 相応の反応が続く一方で、アスナだけは人一倍〇×子の迫力に押されており、警戒心を高めていた。

「やっぱり、実物を見ると結構インパクトが大きいわね……まさかキリト君、あの人を彼女として選ぶのかしら……!?」

 苦い表情をしたまま、率直な気持ちを呟いていていると――

〈ヒュ!〉

「えっ?」

なんと急に〇×子が、アスナへ目掛けて圧迫感のある睨みを利かせてくる。目や口からは真っ赤な血を垂れ流して、ホラーテイスト風に脅しをかけてきた。

「この空間に割り込んだら……ぶっ潰す! 覚悟しておきなさい……メスガキ」

「そんな……嘘でしょ?」

 凄まじい本気の口調からは、薄っすらと恐怖を感じる始末である。真っ青な顔になると、つい反応に困ってしまう。さり気なく目線をずらして、小走りで銀時や神楽の後ろ側へ移動していた。

 気付かぬうちに争いが生じる中で、キリトは真剣に〇×子の攻略方法を考え始めている。

(〇×子さんには、恋愛関係に至りたい条件がそれなりにあるのか。息子さんと会えなくなったら、その気持ちも分からなくはないな……)

 少ない情報から彼女に同情していき、意外にも興味を持ち始めていた。彼らしい優しさが、ここで存分に発揮している。気持ちへ寄り添って動こうとした――その直後であった。

「ちょっと待ったぁぁぁ!!」

 タイミングが悪くあの男子の声が、高らかに場へ響き渡ってくる。みなが察している通り、その正体は単独行動を続けていた新八であった。滑り込むように駆けつけて、場の空気を一新させていく。

「し、新八さんですか!?」

「おい、お前どこ行っていたアルか!? それにこの衣装は、一体どうしたネ!?」

 彼との再会にユイら仲間達が驚いていると、さらにある変化にも気が付いている。衣装が袴から光沢のあるタキシードに変わり、雰囲気も数分前と比べると大人っぽく見えていた。別人のような振る舞いは、口調からもよく理解できる。

「騒ぐな、皆の者よ。今日から僕は、新しい新八へと生まれ変わるのだ! この百々さんと一緒に!!」

「モモさん?」

 キザっぽく話していると、何の前触れもなく女性の名前を上げてきた。すると新八に呼ばれるように、一人の女子が彼に駆け寄ってきた。

「おーい、新八君!」

「あっ、こっちだよ! 早くおいで!!」

 温和な声で現れたのは、ウエディングドレスを着たあどけない笑顔の似合う女子である。そう彼女の正体は、新八が以前愛チョリスを介して付き合っていた空想の彼女、百々さんであった。何故か彼女とも、このゲーム世界にて再会を果たしている。無理やり単独行動をしていた理由が、ここで明かされていた。

「あ、あの子ってもしかして……最初に選ぶ女の子の一人よね?」

「恐らくな……新八が飛び出した理由って、あの子も探す為だったのか……」

 謎を解けたのはいいが、変わり果てた新八の風貌を目にして、キリトやアスナは引き気味に反応している。イメージが覆されてしまい、少しだけ心の整理が追い付いていなかった。

 一方で事情を知っている銀時だけは、ため息を吐いて事態の複雑化を悟っている。

「おいおい……益々面倒な事になってんじゃねぇか。こりゃ、戻すの大変だぞ」

「えっ、どうしてですか? 新八さんはちょっと変になりましたけど、一見幸せそうに見えますよ」

 本音を混じらせつつユイが反応すると、彼は過去の経験談を語り出していく。

「そこじゃなくてな……アイツは愛チョリスに夢中になると、現実とゲームの区別が付かなくなってんだよ。おかげで引き戻すのに、かなり大変だったんだよな」

「えっ、そうだったんですか!?」

「憑りつかれたように、毎日やっていたアルからナ……」

「恐らくは過去の記憶が蘇って、今に至ってんだろ。現実へ戻る以前に、アイツを止めないと元も子もないかもな……」

 ゲームにのめり込んだ新八の姿を浮かばせて、苦労の数々を思い起こしていた。神楽も納得したように思い出して、彼の気持ちに同情していく。さらなる目的が出来てしまったが、その道のりは簡単には進まない。

「僕を止めるだって……? 何を言ってんだ! 今僕はキリトさんと同じ土俵に立っているのだ! もう非リサなんて、一斉言わせないぞ!!」

「……言った覚えは無い気がするんだが」

 反論するように新八は、彼女への愛情を膨らませて、仲間達に自慢をまき散らしていく。益々調子に乗っかっており、冷静さを取り戻すには、まだまだ時間がかかりそうである。

 そんな状況下で、新八自身もある事実に気が付き始めていた。

「おや? もしやキリトさんも、愛チョリスに入って来たのか?」

「えっ、ああそうだよ。女子を選んでいたんだが、〇×子さんにしようかと……」

 キリトへの愛チョリス参加を耳にすると、咄嗟に彼はある作戦を思いついている。

「そうか……だったら、話は早いな。今まで溜めてきた屈辱を、ここで晴らさせてもらう! たった今、君に勝負を申し込もうか!!」

「しょ、勝負!?」

 何と決めつけで、彼に堂々と勝負を申し立てていた。新八の宣言により、場にいた全員が驚嘆とした反応を見せている。

「あら、勝負でもするの? 殴り合いだったら、負ける気がしないわよ……」

「いや、物理勝負じゃないと思うんだが……」

 しかし〇×子だけは、違った解釈を頭に浮かばせていた。意外にも、腕っぷしには自信があるようである。

 次々と衝撃的な展開が続く愛チョリスの世界。万事屋は無事に現実世界へ戻れるのか? 〇×子とキリトは果たして仲を上手く深められるのか? 暴走気味の新八を止められるのは誰か? 彼の宣言した勝負とは果たして? 多くの波乱を持ち越して、話は後半戦へと続く……

 




 前回に引き続いて、銀魂の懐かしいネタを絡ませてみました! 気付いた方は、いるでしょうか? 今回の話では途中から分かりますが、一応キリトが主役です。後半戦では、彼の活躍をより強調しようと思っています。イキった新八を、彼は止められるのか? ご期待ください。
 ちなみに原作では出てきたエナ〇が出てきていないのは……察してください。
 次回も恐らくですが、二週間後に投稿となります。変更の場合はまたお知らせするので、よろしくお願いします。

 さらにハーメルンの方では、一訓に二枚の挿絵を投稿しました。ピクシブでは中々上手く表示できなかったので、一旦はこのサイトのみで上げようと思っています。





次回予告
キリト「ギャルゲーの恐ろしさ……十分に理解できたよ」
銀時「そうだろ? まぁ、彼女持ちのお前には到底関係はないけどな」
キリト「あの〇×子さんと、俺は上手く行けるのか……」
銀時「そこはもうお前次第だよ」
キリト「次回。乙女のときめきは分かりづらい」
銀時「リア充に憧れている全ての読者に贈るぜ」


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第四十五訓 乙女のときめきは分かりづらい

 祝! お気に入り登録100人突破ありがとうございます! 投稿から早一年半……ここまで長かったものです。ちょうど今回の投稿で五十回目を迎えるので、何か特別な企画を作ってみようと思います。仮決定ですが……
 それはさておき、愛チョリスの後半戦をどうぞご覧ください。



 源外が新開発したカラクリ、ドリームギアV2によって、万事屋一行は強制的にゲーム世界へと飛ばされてしまう。その世界はかつて、新八を夢中にさせた恋愛ゲームの愛チョリスであった。内容を進めなくては現実に戻れないので、一行は代表としてキリトを選び、彼に命運を託している。だが例の如く、愛チョリスは強烈な女性キャラが登場する癖の強い恋愛ゲームであった。

 そんな中で過去の情熱を取り戻した新八は、万事屋一行と敵対して、突如キリトに勝負を申し込んでいる。最愛のパートナーである百々と共に、彼を見返そうと企んでいた。キリトの戸惑った表情から、物語は再び始まっていく……

 

「それで、勝負って一体何をするんだ?」

「愛チョリスならではの方法で、優劣を決めようではないか。如何に彼女と信頼度を高められるか? 当然僕は、この百々さんと一緒に勝利を掴むけどな!」

「そうだよね、新八君!」

 唐突にも新八は勝負内容を告げており、つられて疑似彼女である百々も声を上げていく。互いの仲の良さを強調するように、幸せな微笑みを共に浮かべていた。人一倍優越感に浸っている行動には、仲間達もつい気が引いている。

「おいおい、とうとう調子に乗り出しているぞ! どこまで思い上がってんだよ……」

「イキリトならぬ、イキリメガネの誕生ネ! キリも負けてられないアルナ!」

「その言い方は止めてもらえるかな……? というか、新八とも張り合っているつもりはないんだけどな……」

 長い付き合いのある銀時や神楽は、蔑んだ目つきで激しいツッコミを交わしていく。ところがキリトも、流れ玉で思わぬ被害を受けてしまう。本人が苦笑いで注意を促すと……またも〇×子が話へと割り込んできた。

「イキリトはダメ……ならばイキリカズ〇なんてどうかしら? アナタにはピッタリだと思うわよ」

「いや、〇ズキに変わっただけなんですけど……」

「そう心配しなくても大丈夫。アナタならきっと、立派なエナ〇カズキになれるわよ」

「どこまでエ〇リのことを引っ張っているんだ!? 無理やり入れなくても、十分に分かっていますから!」

 逐一〇ナリに繋げようとする彼女の態度には、キリトも我慢が出来ずにツッコミで反論している。感情を徐に出す行動には、アスナやユイも物珍しさを感じていた。

「パパのツッコミが激しくなっていますね」

「いきなり勝負を申し込まれた上に、パートナーがあの調子じゃ……仕方ないのかもしれないわね」

 現状を悟りつつ、彼の気持ちにも揃って同情を浮かべていく。新八や百々の登場により場の空気は大きく一変していたが、あくまでも万事屋の目的はゲームを進めて現実世界へ戻ることである。にも拘わらず彼は、ただ我欲の為にキリト達の行く道を阻んでいた。

「僕もキリトさんと同じく、立派な彼氏になったんだ! 百々さんとの絆で、今こそ見返してやる! 万事屋にとっての優男を決めようではないか!!」

 自らの想いを叫びつつ、新八は指を「パチン」と鳴らして、勝負に相応しいステージへと場面を変えていく。住宅街近辺にあった向かい合わせの一軒家に表札が加わり、それぞれに「志村家」と「桐ケ谷家」と名が刻まれている。これで全ての準備が整ったようだ。

「えっ? これは一体……」

「彼女との仲を深める絶好の状況とでも言うべきか。ルールは簡単だ! それぞれの家にパートナーを上手く誘って、如何にラブラブな雰囲気でキスが出来るか? 当然信頼度を高めてからが、最大の条件だ!」

 さらに新八は勝負内容を意気揚々と伝えていく。信頼度を高める場面として、家に誘う展開を想定している。中でも仲間達が気になったのは、ラブラブやキスといった単語であった。

「キ、キスって、そこまでいっちゃうの!?」

「完全に新八の願望も混ざっているアルナ」

「お前はそこまでして、好きな人が欲しいのかよ……」

 驚嘆するアスナや、三度呆れる銀時や神楽が印象的であるが、本人はそこまで気にもしていない。

「何とでも言うがいい。今の僕には、キリトさんしか眼中にないからな! さぁ、堂々と勝負をしようではないか!!」

「……分かった。この条件で、俺も受け入れるよ。勝負と言うからには、本気で挑ませてもらうよ!」

「望むところだ!!」

 思い上がってキリトのみをライバル視しており、勝つことしか頭に無かった。一方の本人も、新八を戻すために勝負を受け入れていく。〇×子をどこまで本気にさせられるのか? キリトにとっての不安材料は、未知なる彼女の存在である。

 こうした勢いや流れから、新八とキリトとの勝負が始まろうとしていた……

 

「結局、誰得な勝負が今から始まるってことアルか……」

「ここまで来たら、もう引き下がれないですよね。頑張ってください、パパ!!」

「新八君の目を早く冷ましてあげてね!」

「意外にも二人は乗り気アルか……?」

 男二人の勝負に期待を寄せるアスナやユイとは違い、神楽は薄いリアクションで気持ちが冷めきっている。互いの正反対な表情から、温度差が明らかになっていた。

 女子達のまばらな反応はさておき、いよいよ新八とキリトとの特殊な決闘が幕を開ける。各々の特徴的な彼女と共に、限られた場面や条件から、高い信頼度を得られるかが鍵を握っている。ちなみに審判役として、愛チョリスの体験者である銀時が躍り出ていた。

「よぉし、そんじゃいくぞ。レディーゴー!!」

 彼の掛け声を起点に、勝負は始まりを告げていく。今一度ルールを説明すると、彼女との信頼度をより高めた上で、キスを交わした方に軍配が上がる。その基礎として、家へ入れることが最低限の条件であった。雰囲気次第で持ち越せば、勝利はもう目前である。

 お互いに気を引き締める中で、先に行動へ移したのは新八の方であった。

「最速で決めますよ……!! ねぇ百々さん。折角僕の家の近くまで来たし、良かったら寄っていきませんか?」

「えっ? でも、それじゃお姉さんにご迷惑じゃない?」

「そんなことはないって。僕らのことを許しているんだから、堂々としていればいいんだよ」「それは……そうよね!」

 独自の世界観を作り出し、優しい口調や微笑みで彼女の気持ちを緩めている。表情もかっこよく決めており、早くも勢いに乗っかりつつあった。

 そんな新八のキザっぽいやり方には、仲間内でも大いに賛否が分かれている。

「チッ! 何かムカつくアル!! あのバカップル……完全に舐めプしているアルヨ!」

「もう完全に新八じゃねぇよな。某国民的アニメに出てくる、よしり〇だよ。アレは」

「……例えは分かりませんが、新八さんはそれなりに頑張っているとは思いますよ」

「これくらい吹っ切れていた方が、女子からもモテそうなのにね……」

 さらなる怒りを燃やす銀時や神楽は、身も蓋も無いことを発していた。一方でアスナやユイの二人は、苦い表情をしつつ意外な一面に驚きの声を上げている。絶好調な新八の様子を目にしたところで、続けて一行はキリトと〇×子にも目線を向けていく。

「それじゃ、キリトの方は一体どうなんだよ?」

「えっと……アレは苦戦しているのでしょうか?」

「全然話が噛み合っていないのかしら?」

 ところが、一行の予想通りに彼は苦戦を強いられていた。積極的に会話を仕掛けているが、〇×子は心すら揺さぶられていない。

「えっと……ウチの近くまで来たし、ちょっと寄っていくか? ゲームとかも置いてあるし」

「はぁ……ウチのエナ〇はそんなことは言わないわよ。ゲームと私じゃ、不釣り合いなのは目に見えているじゃない」

「そ、そうか……じゃ、ご飯でも一緒に食べないか? 具なしのペペロンチーノだったら、今からでも作れるし」

「ペペロンチーノ? そんなオシャレな料理より、ラーメンくらいは作れないの? それでもアンタは、中華屋の息子じゃないのかい?」

「……って、完全にエ〇リとごっちゃにされているな」

 興味を惹かせる誘いも全て不発に終わり、仕舞いには〇ナリカズ〇と混合させられてしまう。相手が妙齢の女性であることから、普段よりも調子は中々上がっていない。体も固まってしまい、キリトは口をすくめて反応に困っていた。

「話が噛み合っていないというか、〇×子がエ〇リの件を引きずっているだけアルよ」

「どこまでショックを受けてんだよ……俺の時とは違って、キリトも思わぬ壁にぶつかったってところか?」

 不穏で危機的な状況なのは、離れていてもよく分かる。戸惑い続けている彼の姿に、みなが物珍しさを感じていた。

 開始早々から明暗が分かれているが、その後も二人の態勢は何一つ変わっていない。

「ねぇ、家に入ったら新八君と何をしようかな~?」

「それはもちろん……百々さんから決めていいよ!」

「え~! 悩むよー急に言われても!」

「自分の思ったことで十分だと思うよ!」

 幸せそうにリア充さをアピールする新八や百々に対して、

「だいたい一つ思ったんだが、なんでアンタと疑似恋愛しなきゃいけないんだい? 私とエナ〇が付き合うくらい、無理があるんじゃないかい?」

「とうとう根本から否定されたよ……」

キリトと〇×子は仲良くなるどころか、彼女から説教を受けている。もはや相性云々の話ではなく、心の距離も段々と遠ざかっていく。彼自身も、この勝負には少しずつ無謀さを感じとっていた。

「結構まずい状況よね……」

「パパが〇×子さんに圧倒されています……」

「あんなキリ見たことないね。こりゃ、イキったまま新八のストレート勝ちかもナ」

 見守っていたアスナやユイでさえも、追い込まれた様子から言葉を詰まらせている。仲間内でもキリトの敗北は、薄々と感じ始めていた。

 だがしかし、銀時は〇×子の一連の言動からある勝機を見出している。

(いや、まだだな。キリトには一つだけ、逆転のチャンスが残っているはずだ)

 自分の時とは違い、エナ〇に執着する様子から導き出していたが、その方法は賭けも生じるものであった。柔軟な対応が必要だと、彼は予測している。

 一方で対決しているキリトらにも、ようやく大きな動きがあった。

「それじゃ、暗くならないうちに家に入ろうか」

「そうだね。やることもだいたい決まったし!」

 会話が盛り上がったまま、新八と百々のカップルが遂に家へ足を踏み入れている。最低限の条件を満たして、この勝負に王手をかけていた。

「な、何……新八に先を越されたか……」

 依然として〇×子との距離が縮まっていないキリトから見れば、まさに寝耳に水である。突如として窮地に立たれてしまい、心では僅かに焦りが生まれていた。ここから逆転を狙うには、思い切った行動が必要だと察している。

「まずい……この先の行動で、決着が着くのか……」

 緊張感に包まれた表情で、思わずただれた本音を呟いていく。慎重に今後の作戦について、彼は考え始めていた。

 そんなキリトの姿には、新八も心の中で面白がっている。余裕からか調子に乗っており、玄関前にて挑発気味の発言を繰りだしていく。

「ハハ! キリトさんも年齢差の高い〇×子さん相手では、この体たらくか……? 早く行動を選ばないと、僕が勝利をもらうよ! それでも、いいのかな?」

 露骨にも高らかな自信を見せつけて、より強い焦燥感を与えている。密かに持ち合わせていた屈辱を果たすために、容赦のない追い打ちをかけていた。絶体絶命なキリトサイドであるが、万事屋の仲間達はみな彼の陣営に応援の声をかけていく。

「キリト君、頑張って……!」

「パパ、ファイトです!!」

「あっ、前回の冒頭に戻ってきたアルよ」

「一部を除けば、使いまわしだったけどな……」

 祈りを込めて応援するアスナやユイに対して、銀時や神楽は再びメタ発言を呟いていた。表情から見て、その違いは歴然である。まばらな反応はさておき、二人の勝負も遂に山場へと突入していた。その焦点はキリトと〇×子との行方にかかっているが、信頼度は未だに伸び悩んでいる。新八には先を越されてしまい、当の二人は揃って家の中へ入っていた。決着が着くのも、時間の問題である。

(どうすればいいんだ、俺は……距離をどうやって掴むんだ……?)

 このまま何も出来ずに負けを認めたくないため、最後まで考えを煮詰めていた。行動もままならずに、ひたすら黙り込んでいた――その時である。

(いや、待てよ。年齢差があるってことは……そういうことか? 俺をエ〇リカ〇キって人と照らし合わせているなら、これが特効薬かも――)

 新八のある一言から、解決の糸口を見出していた。高低差のある年齢。エナ〇に執着する姿勢。彼女としての構えを否定する言動……これらの点を結び合わせて、一つの答えに辿り着いている。それはまさしく、銀時と同じような捉え方であった。

(もう迷っている時間はない! 一か八かで、巻き返しを図ってやる!!)

 もちろん同じようにリスクは察しているが、彼に迷っている時間等はもう残っていない。捨て身の覚悟で、〇×子に猛烈なアピールを仕掛けていく。

「どうしたんだい? そこまでして恋仲になりたいなら、話くらいは聞いてやるよ」

「いや、違う。俺が求めているのは……」

 呆れ気味の彼女に向かって、キリトは表情を整えてから、そっと近づき率直な気持ちを声に出してきた。

「アナタの純粋な包容力……母性なんだ! 是非お母さんと呼ばせてください!!」

「えっ!?」

「ん!?」

「はい!?」

 ……まさかの母親呼びが潔く決まっている。急な呼称変えには、場にいた全員が驚嘆していた。何事も動じてなかった〇×子でさえも、これには開いた口が塞がらず、自身のペースも乱されている。

「アンタ……急に何を言い出すんだい! 反応に困るじゃないかい!!」

「いいや。これが俺の気持ちなんだよ! 不器用でもどこか温かく感じる〇×子さんには、つい母親として見てしまうんだ。〇×子さんだって、息子役だった〇ナリカズ〇と俺を照らしあわせているんだろ!?」

「そ、それは……」

「アナタ達との間に何があったのかは、正直分かっていない……でも、俺で良かったらエナ〇と同じように支えることが出来る! だから素直に、母さんとして接したいんだ!!」

 彼女の戸惑いを抑え込むように、持ち前の優しさを振るわせて、距離を急接近させていく。彼女ではなく母親として認識を変えたことで、滞っていた関係性に変化が生じていた。その証拠に〇×子の目線も、キリトの顔をしっかりと向いている。

 一方で観戦していた仲間達は、唐突の息子宣言に困惑が広がっていた。

「ちょっと、どうしたのよキリト君!? 急にお母さん呼びをするなんて……」

「追い詰められた末に、とうとうやっつけになったアルか!?」

 各々が感じたままに呟いていき、中には辛辣な声も飛び交っていく。しかし銀時だけは、キリトの作戦を読み取って納得していた。

「いや、違う。アレはアイツ自身が決めた作戦だな!」

「えっ、作戦ですか?」

「ああ。今まで彼女にしようと接したから、中々上手くいかずにいたんだ。けれども母親として対象を変えれば、進展も大きく一変する。母親ならではの母性もくすぐられて、距離も縮められるからな。エ〇リが不在だからこそ出来た、キリトなりの作戦ってことだな」

 自分の考えを踏まえて、彼は仲間達にも分かりやすく解説している。縛られていた固定概念を払いのけたが故に、現在の行動へ繋がっていた。突発的にも見えるが、それは計算された作戦でもある。恋愛ゲームの常識を覆す、破天荒な手段でもあった。

「随分と回りくどいことを仕掛けたアルナ」

「いざという時のキリト君は、行動力があるからね……」

 妙に説得力がある解説には、女子陣も首を頷かせて、微妙な面持ちで納得している。疑問が次々と浮かぶ中で、ユイは率直な意見を呟いていた。

「でもそれでは、恋愛ゲームとして成り立たないのでは?」

「そこは……気にするな。距離を縮める方法としては、間違ってはいないからな」

「……って、本当にこれで大丈夫なの?」

 確証がない銀時の言い方には、やはり不安を感じさせてしまう。良く言えば大胆な交渉術。悪く言えば本末転倒な方法だからである。いずれにしても、後は〇×子との気持ちの変化に委ねるしかなかった。

「だからその気持ちに、答えてくれないか! 母さん!!」

 キリトも未だにアプローチを続けており、最後の一押しに全力を尽くしている。彼女の心境も変わり始めていた……その時であった。

〈ヒュー!!〉

「うっ!? 風か……?」

 突如として冷たい強風がなびき、一行の元へ襲い掛かってくる。一瞬の出来事だったが、その間に〇×子の付けていた頭巾が飛ばされてしまった。

「ああ、頭巾が……! これじゃ隠せないじゃないかい!」

「――って、えっ!?」

 被り物が無くなり困り果てる彼女だが、キリトは三度目を向けてみると、さらに愕然としてしまう。〇×子の姿が、見違えるほど変化したからだ。

「どうしたんだい? 私の顔に何か付いているのかい?」

「付いているどころか……変わっているんだが!? ま、まさかの義母さん!?」

 そう。頭巾がとれた彼女の姿は、キリトの義母である桐ケ谷翠と酷似していた。後ろ髪を束ねた艶のある黒髪と、優しく微笑む穏やかな表情。服装は割烹着と変わってないが、雰囲気は大幅に一変している。声までも本人そっくりに変わり、思わぬ再会が実現していた。

 当然キリトだけではなく、仲間達にも同じような衝撃が広がっていく。

「母さん?? ってことは、あの人はキリの母親ってことアルか!?」

「正確には義理のお母さんだけどね。でもまたなんで、〇×子さんから急に変わったのかしら?」

 率直に疑問を呟いていると、再び銀時が解説へと回っている。

「俺の時と同じ現象だな。現実と戦うために幻を作り出す覚悟。キリトが〇×子を母親だと仮定したからこそ、自然に自身の母親に姿が変化したんだろうな」

「……つまり、パパの想いが〇×子さんに届いたってことですか?」

「簡単に言うと、その通りだな。さぁこれで、アイツもゴールまであと一歩だぞ」

 覚悟や愛情が伝わった故に起こった変化だと、彼は推測していた。自分にとって馴染みのある母親が、〇×子を介してこの世界に現れている。距離が縮まった今だからこそ、実現した現象であった。そしてこれは、キリトにとって千載一遇の好機でもある。

(と、とりあえず落ち着け俺! ここにいるのは義母さんでも、中身は〇×子さんなんだ。今までどおりに接して、一気に畳みかけよう!!)

 最初こそ動揺したものの、次第に状況を読み込んでいき、本来の目的へ戻していく。調子を落とさずに、〇×子に最後のアプローチを仕掛けてきた。

「あ、あの〇×子さん!」

「な、何よ。また急にかしこまって……」

「……今度こそ、俺の家に寄ってみないか? 愚直に話がしたいんだよ」

 中々上手くいかなかった誘いを、飾りっけのない言葉で伝えていく。表情も優しく微笑み、さり気の無い笑顔を見せている。何度でも諦めずに想いを貫く彼の姿には、〇×子にも十分に伝わっていた。

「――わ、分かったよ! アンタがそこまで言うなら、入ってあげるわよ! 別に……気になっているわけじゃないんだからね」

「って、まさかのツンデレなの……?」

「なんかもう、テンプレ感が半端ないアル」

 容姿が変わったからか、性格にも微妙な補正が入っている。可愛げな素振りやツンデレな性格が、それに当てはまっていた。仲間内ではツッコミもあったが、キリトは大して気にせずに彼女をエスコートしていく。

「それじゃ、早速入ろうか」

「そ、そうだね……」

 照れ気味な〇×子の手を握って、遂に念願だった家へと連れている。そして戸を開けた時であった。

「ありがとうね。アンタ」

 小声で感謝を伝えると――彼女はキリトの頬っぺたに優しくキスを交わしてきた。

「えっ? これは……」

「何でもないよ。母さんからの、有り難いお礼だよ」

「そうか……ありがとうな」

「別にそんな、たいそうなことでもないよ……」

 咄嗟の出来事にも関わらず、彼は気持ちを悟って三度感謝を伝えている。そしてこの瞬間をもって、全ての条件を満たしたキリトがこの勝負での勝利を手にしていた。

〈WINNER! THE KIRITO!!〉

 証拠として頭上には、しっかりと名前も表示されている。新八の進行については不明だが、キリトが先に出ている以上は、勝負は着いたも同然であった。まさに起死回生な逆転により、成し遂げられた勝利である。キリト自身も心の片隅で、達成感を覚えていた。もちろん仲間達も、同じ気持ちで伝わっている。

「やったアル! キリの逆転勝利が決まったネ!!」

「やりましたね、パパ! 新八さんを遂に追い越せましたよ!!」

「アイツは、恋愛ゲームでも無双すんのかよ。でも良かったじゃないか。なぁ、アスナ――って、アレ? どこいったんだ?」

 そんな中で、銀時がアスナの方へ振り返ると、彼女はいつの間にか場から姿を消していた。どこへ行ったのかと思いきや――もちろんキリトと〇×子の元へ足を進めている。

「それで、一体どんな話をするんだい?」

「そうだな――」

「って、ストップ―!!」

 二人の会話を邪魔するようにして、アスナは大声で突然ズカズカと割り込んできた。不機嫌そうな表情となり、自分の気持ちを赤裸々に吐き出していく。

「ア、 アスナ? どうしたんだ、急に……?」

「どうしたもこうしたもないわよ!! もう勝負は着いたんだから、正式にキリト君は返してもらうわよ!!」

「アラ? ちょっかいはかけないでと、言ったわよね? それに彼女じゃなくて、母親として接しているんだから、何も問題は無いでしょ?」

「大問題よ!! 例え義母と同じ姿をしていても、私は容赦なんかしないからね!」

「それなら、私達でも勝負しましょうか?」

「当然よ!!」

 これ以上二人でいるのが我慢できずに、彼女は無理にでも引き離そうとしている。だが〇×子も張り合っており、中々打ち解けあうことは無かった。板挟みにされているキリトが、何とも不憫に感じ取れる。

「お、落ち着けって二人共。ひとまずは……」

「キリト君は黙っていて!!」

「アンタは黙っていなさい!!」

「は、はい……」

 挙句の果てには、口出しまで出来ない始末であった。二人の勢いには恐縮してしまい、今はただ黙っているしかない。

「ママと〇×子さんとの間で、勝負が始まろうとしていますよ!」

「こりゃ、結構時間がかかりそうアルナ」

「誰がここまでやれって、言ったんだよ……」

 もちろん銀時ら万事屋一行も、下手には二人を止められずにいた。熱意が収まるまでは、空気を読んで行動を制限している。

 こうして愛チョリス世界での勝負は、意外な展開で幕を閉じていた。そして家へとこもっていた、新八と百々はというと……

(フフ……どんな雰囲気で、キスをしようか?)

勝負が着いたにも気が付かずに、キスへのこだわりを呑気にも考えている。知らぬが仏とはまさにこのことであった。

 こうしたハプニングもありつつ、万事屋一行は無事にゲームを進めて、現実世界へと戻ることが出来た。強烈なる思い出を引き継いで。




 まさかの〇×子が変わる展開、いかがだったでしょうか? ちなみに今回登場した、兄ヶ崎百々と桐ケ谷翠は中の人ネタです。どちらも系統は違いますが……声が同じなので実現してみました。多分私の作った中では……結構なカオス回が出来上がったと思います(笑)

 残り少ない今年の剣魂の予定ですが、後は一訓分の投稿を目指しています。もし時間に余裕があれば、前置きでも伝えた特別企画も投稿したいです。(年末は忙しくて、もしかすると新年企画になるかもしれませんが……)
それでは、また次回お会いしましょう。





次回予告
ユイ「みんなと一緒にカブト狩りなんて、結構楽しそうですよね!」
いずみ「そ、そうね……って、なんでこの子もいるの!?」
ユイ「どうかしましたか?」
いずみ「いいや、何でもないって!!」
ユイ「次回! 夏の風物詩に乗っかっていけ! ですよ!」
いずみ「乗っかれないんだけどー!!」

新八「って、ちょっと待ってください!! いつの間に、勝負付いていたんですか!?」
銀時「お前、予告で気が付くのかよ」


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第四十六訓 夏の風物詩に乗っかっていけ!

 なんとか間に合いました! 今年最後の剣魂は、季節外れのカブト狩り!? 最後までコラボたっぷりで、ご覧ください。内容を確認していたら、いつもよりも遅くなりました……


「カブト狩りじゃゃゃゃ!!」

 人一倍張り切った神楽の叫び声が、自然豊かな森全体へとこだましていく。八月も中盤に差し掛かったこの日、彼女は仲良しの子供達を引き連れて、江戸近くにある森で「カブト狩り」ならぬ「カブト取り」へ出かけていた。籠や網を装備して、虫よけスプレーまで用意する徹底ぶりである。子供達を差し置いて、彼女が一番童心に帰っていた。

 一方で連れてきた子供達は、ユイ、晴太、いずみの計三人である。特にユイはいつもの白いワンピースではなく、動きやすい探検用の服へと衣装を変えていた。茶色い半袖のチョッキに短パンと、これまた彼女にとって珍しい服装を着こなしている。

「どうですか、晴太さんにいずみさん。神楽さんが選んでくれた服なんですけど、ばっちり合っていますか?」

「うん、大丈夫! しっかり似合っているよ。ねぇ、いずみちゃん?」

「あっ、そうだね。普段とは違うけど、可愛らしいよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 新衣装の評判もまずまずであり、つい嬉しさを露わにしていく。幸せに笑顔を撒く姿には、晴太も微笑ましく感じていた。

 だが一方で、いずみだけは一人浮かない顔をしている。念願だった虫取りがまた実現したのはいいが、ユイまで来るとは想定外だった。知らずの内に彼女をライバル視して、心の中では静かに敵対心を燃やしている。

(なんでこの子までいるの……!? 折角の虫取りなのに、これじゃ調子が上がらないんだけど!!)

 本音をこっそり呟いて、表情も自然と強張っていく。口には出さずとも、態度では密かに不満さが明らかとなっていた。

「ん? どうかされましたか?」

「いいや、なんでもないよ!」

「そうですか! それでは、早く進みましょう!」

 自身の気持ちを勘付かれないように、適当な誤魔化しで場をはぐらかしていく。ユイも大して気にすることなく、早くもカブト狩りに気持ちを切り替えていた。

「はぁ……あのユイって子と、上手くやれるのかな……」

 誰にも言えない複雑な想いを抱えながら、いずみも神楽らと一緒に森の奥へ足を進める。こうして、波乱に満ちたカブト狩りがいよいよ始まろうとしていた。

しかし、背後の草むらにいた謎の生物の気配には、まだ誰一人として気が付いていない。

〈ビート……〉

 その標的は、いずみらの方へ向こうとしている――

 

 場面は変わり、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん。そのリビングには銀時、新八、キリト、アスナの四人が集まっている。ところが後者二人は落ち着くことなく、常にそわそわしていた。朝っぱらからユイと神楽を見送った後に、彼女達の動向を不安視している。

「うーん……大丈夫かな、二人共」

「怪我もせずに、元気で帰ってくれればいいんだが……」

「たかが虫取り如きに、心配をかけすぎなんだよ。別に何事も無く、アイツらはきっと帰ってくるよ」

「そうですよ。何かあったら神楽ちゃんが対処してくれるから、安心してくださいって!」

「そう言われても……」

 未だに心配が尽きることは無く、キリトら二人の過保護さには、銀時達も気が引いていた。さり気無いフォローも効かず、共に顔をすくめて不安を募らせていく。これは新八らも、対応に困り果ててしまう。

「ど、どうしましょう銀さん。今日の朝から二人共、この調子ですし」

「それだったら、落ち着くまで放っておけよ。俺達が横やりを入れても、変わらないのは明白だからよ」

「それはそうですけど……」

 気がかりで仕方ない新八と異なり、銀時は既に気持ちを割り切っている。マイペースに物事を捉えており、早くも気だるい表情に変わっていた。するとそのまま、近くにあったリモコンでテレビの電源を入れて、キリトらをそっちのけに一人でくつろぎ始めている。

「って、銀さんも! テレビなんか見てないで、考えて下さ――」

 彼の能天気さに注意を入れようとした時であった。ちょうどテレビでは昼時の報道番組に変わっており、大御所キャスターである草野義仁が最新のニュースを伝えている。

『こんにちは、草野です。早速ですが、まずは速報からお伝えします。先日から地球に滞在している央国星のバカ……ハタ皇子が、今日の朝未明より失踪している事が分かりました。共に一夜を過ごしていたペットも消息を絶っており、警察は誘拐も視野に入れて捜査を進めています――』

 番組にて話題に上がっていたのは、来国していたハタ皇子の失踪事件であった。実はこの皇子、万事屋とは大変因縁の深い関係なのである。

「おいおい。あのバカ皇子、また地球に来ていたのかよ。原作での出番が、ほとんど減っているのによ」

「懲りずにまた珍獣探しでも来たんじゃないですか?」

「そうだな。相も変わらず、変な皇子だぜ」

 今までにも彼の起こした所業や態度を振り返ると、自然と口からは文句がこぼれていく。辛辣な言葉をかけて、今まで通りに呆れ果てていた。

 その一方で、ハタ皇子に馴染みがないアスナらからしてみれば、二人の言い分はさっぱり理解していない。

「結構言いたい放題なこと言ってるわね……」

「そんなにこの皇子は、評判が悪いのか?」

「まぁ、あながち間違ってはいないぜ。俺達もアイツのワガママのせいで、とんでもない目に合ってきたからな」

「ほとんどヘンテコなペットが原因なんですけどね……」

 気になって質問をしても、大雑把にしか答えは返ってこなかった。共に微妙な表情をしたままで、さらに話しかけようとした時である。ニュース番組には、ある新情報が伝えられていた。

『えー、先程のバカ皇子失踪事件について、新たに情報が入ってきました。側近に当たるじいやの証言によると、逃げたペットを追って密かに宿屋を抜け出したとのことです。気になるペットの特徴ですが、カブトムシに酷似した成虫で、陽の光を大量に浴びると戦車ほどの大きさに変化する宇宙生物のようです。現在被害は確認できていませんが、一部の情報にはかぶき町の近辺にある森へ入ったと多数寄せられています。みなさんも、用心深く注意してください。さて次は――』

 さらなる詳しい情報が明らかになったが、これには万事屋一行もつい驚嘆としてしまう。なぜなら――現在その森には、ユイや神楽が遊びに出かけているからだ。

「ちょっと待って!! この森って確か……ユイちゃん達が今行ってる場所よね!?」

「そういえば、そうですよ! しかも宇宙生物までいるってことは……」

「みんなの身に何かあったら大変だ! 今すぐ俺達も森へ向かおう!!」

「だな。あのバカ皇子、また余計な仕事増やしやがって……!」

 みな顔色を急変させて、取り急ぎ外出の準備を進めている。皮肉にもキリトやアスナが察していた不安が、見事に当たってしまった。銀時や新八だけは、またも迷惑をかけたハタ皇子に怒りを燃やしている。各々の気持ちを抱えながら、銀時ら四人は急いで万事屋を後にしていった。

 

 そして神楽ら一行は、穏やかな自然を満喫しながら森の奥へと突き進んでいた。からっと晴れた清々しい青空を見上げながら、緑豊かな木々の空気に触れている。暑さには負けない元気さを持ち続けて、みなカブト狩りにやる気を高めていた。

 軽く会話を交わしつつ歩いていると、早くも通り道が二つに分かれている。

「ん? ここに来て、分かれ道アルか?」

「本当ですね。どちらが本当の道なのでしょうか?」

 唐突に訪れた選択肢の出現に、一行は悩み始めていた。一つの小道には日差しが当たっているが、もう一方は日陰に隠れて暗い雰囲気を漂わせている。まさに裏表のある選択肢であった。次の行く先にみなが頭を悩ませていると、ここでいずみにある直感が思い浮かんでいる。

「あっ、そうだ! だったら人数も多いから、二人ずつに分かれて後で合流ってのはどう?」

「つまり、手分けしてカブトを狩るってことアルか?」

「そんな感じだよ。もし道に間違っても、後から合流すれば問題は無いからね」

 大人数ならではの方法で、彼女は解決策を提案してきた。チームごとに分担する手法には、仲間達も快く賛同している。

「それは良いですね! では、早くチームを決めておきましょうよ!」

「それじゃ、公平にじゃんけんで決めておこう!」

「絶対に負けないアルからナ!」

 妙な熱気も高まっており、三人のやる気もさらに上がっていく。晴太からの提案で、チーム決めはじゃんけんの勝敗で分けていくようだ。この一連の流れを目にしていき、いずみは密かに達成感を覚えている。

(よし! 引っかかってくれた! これで上手くいけば、晴太君とユイちゃんを離れさせられる……!!)

 そう。彼女の真の目的は、晴太とユイの距離を離れさせる事であった。チーム決めはその為の布石でしかなく、都合の良い口実合わせでもある。じゃんけんでは当然運も絡んでくるが、いずみは構わずに勝つことしか頭にはなかった。

(デメリットもあるけど、そこはもう関係ない! 私に必要なのは勢いなの! この調子で運を味方につけて見せる……!!)

 高らかに強気な自信を見せており、賭けも受け入れる所存である。気持ちを整理している間にも、いよいよ四人のじゃんけんが始まっていた。

「それじゃ、いくよ……」

「「「「じゃんけん、ぽん!!」」」」

 掛け声を合わしていき、各々が違った手つきを繰りだしていく。そこからどのようにチームが分担されたのか――

「それじゃ、また後で合流しようね!」

「ユイといずみも頑張れよアル!!」

「はーい! 分かっていますよ!!」

「……なんで、こうなったの?」

結果は彼女にとって信じがたいものである。ユイと晴太を離れさせることは出来たが、よりにもよってユイとチームを組むことになった。結果から日当たりの良い道をいずみとユイ、日陰の道を晴太と神楽の二人ずつで探していく。初っ端から微妙な展開を迎えている。

「頑張りましょうね、いずみさん!」

「そ、そうだね……ハハ」

 互いの温度差も大きくなっており、その様子は一目瞭然であった。気にもしないユイに対して、いずみは苦笑いでただれた気持ちを押し殺している。

各々の心情はさておき、四人はカブト狩りの為にそれぞれの小道を突き進んでいく。だが早々に、晴太はある不安を口にしている。

「大丈夫かな? あの二人だけで……」

「心配ないネ! ユイはああ見えて肝っ玉があるから、いざという時も大丈夫アルよ!」

「本当かな……?」

 無用な心配だとフォローをかける神楽だったが、それでも晴太はまだ疑っている。チームを決めたからには、もう信じるしか道筋は無かった。不安を薄めていき、彼は神楽の背中を追いかけていく。

 一方でユイといずみの方では、対照的な二人の絶妙な雰囲気が未だに続いている。

「ん? どうしたのですか、いずみさん?」

「い、いや……なんでもないよ。思えばユイちゃんと二人っきりになるのは、これが初めてかなってね」

「言われてみれば、そうですね。女の子同士ですけど、一緒に頑張ってたくさんカブトを捕まえましょうね!!」

「そ、そうだね……」

 益々やる気が高まるユイとは違い、いずみは距離を掴めずに、彼女との会話に合わせている。表面では気を遣っており、その分溜め込んでいた気持ちを心の中で吐き出していく。

(ってこの後、どうすればいいのー!! ユイちゃんとチームに組むなんて、想定外にも程があるんですけどー!!)

 渦巻いていた迷いを発散できず、彼女の苦悩は未だに続いている。あくまでもライバルとして見ているために、子供らしいプライドがより悩みへ拍車をかけていた。その表情も徐々に苦みを帯びていく。場の空気を察して慎重に行動を選ぶいずみであったが――ここで突然にも、ユイから話が振られてくる。

「あの、いずみさん。少しいいですか?」

「えっ!? あっと……何かな?」

「実はですね、私このカブト狩りを凄い楽しみにしていたんですよ! こうやって、同年代の子と遊ぶのも結構久しぶりで……」

「……そ、そうだったの?」

「はい。ほんの昔は、私よりも年上な人やパパやママと過ごすことが多かったので……でも、このかぶき町に来てからは、神楽さんや晴太さんにいずみさんのような同年代の知り合いが出来て、とっても嬉しいんですよ!」

 時折刹那そうな表情を見せて、彼女は率直な気持ちを声に出してきた。元の世界では中々出来なかった同年代の子との交流や遊び。現実世界に存在しているからこそ、焦がれていた想いがここで実現している。ユイにとってはこの上ない幸福であった。

 そんな純粋な気持ちを目の当たりにして、いずみの心にも徐々に変化が訪れている。

(……この子って、意外にも素直なのかな。今まで外見や振る舞いで勝手に決めつけていたけど、本当はユイちゃんってすごい良い子なのかも……)

 なりゆきから張り合っていた気持ちも薄らいでいき、自然と信頼感が沸き上がってきた。年の近い女子同士とあって、たった一つのきっかけで見方が変わっていく。いずみ自身も気持ちを切り替えて、彼女との距離を縮めようとしていた。

「あ、あのさ、ユイちゃ――」

 そう声をかけようとした時である。

〈ガササ!!〉

「ん? この音って……」

「もしや、念願のカブト出現ですか!?」

 タイミングが悪く、近くの草むらから物音が聞こえてきた。共に警戒心を高めつつ、恐る恐る草むらに近づくと……そこから予想外の人物が飛び出してくる。

「……おや、余のカブト虫では無かったのか?」

「「……えっ?」」

 彼女達の目の前に現れたのは、珍妙な姿をした男の天人であった。頭部に一本の触手を生やしており、赤や青で彩られた豪勢なマントやチョッキで身を包んでいる。全体的にふくよかな体格であり、細い目つきや紫色の体色が特徴的であった。そう彼こそが、失踪中の身であるハタ皇子なのだが……残念ながら、ユイやいずみはその事実を知らない。ちなみにいずみでさえも、彼と会うのは今回が初めてである。

「だ、誰この人!?」

「分かりませんが……もしかして、新種の生物ではないのでしょうか? しっかりと保護して、真選組に持っていきましょうよ!」

「余をUMA扱いするではない!! 央国星の皇子を知らんとは、地球人として無礼に値するぞ!!」

「央国星の」

「皇子……?」

 位の高さを強調するように、彼は自信良く肩書きを誇示してきた。しかし……当然のことだが、彼女達には上手く伝わってはいない。

「「フフ……アハハ!!」」

 それどころか型が外れたように、存分に笑われてしまう始末であった。

「何を笑っておるのじゃ!! 余はただ自己紹介をしただけぞよ!!」

「だって、皇子のイメージすらないから! 百歩譲って、王様なら分かるけど!!」

「本当この人、面白い冗談言う人ですね!」

「冗談ではないというのに……!」

 言動や雰囲気から肩書きを信じておらず、幾ら言おうとも豚に真珠である。そんな一幕はさておき、言葉も通じるのでまずは、いずみらからハタ皇子に関する質問が飛び交ってきた。

「ていうかそれよりも、なんで皇子様がこの森に来ているの?」

「ひょっとして、私達と同じくカブト狩りに来たんですか?」

「カブト狩り? いいや違うぞよ。余のペットが逃げ出して、ここまで追いかけてきたのだ。なんせ滅多に生息はしていない、新種の生物じゃからな」

「新種の生物ですか?」

 興味本位で聞くと、返ってきたのは意外な答えだった。ハタ皇子がここにいる目的は、逃げ出したペットを連れ戻す為である。さらに彼からは、詳しい情報が伝えられていた。

「そうぞよ。ライズ星に僅かながら生息しているカブト虫、「リッチングビートル」がこの地球で保護されていると聞いて、急いで駆けつけたのだ。じゃが奴は元気が良くて、捕まえても籠から飛び出してな、ここまで追いかけてきたってことぞよ」

「だからこの森までやって来たんですね」

「そうなんじゃが、ちと不味い事になりそうで……リッチングビートルは陽の光を極度に浴びると、巨大化する性質を持っているのだ。その大きさは戦車程くらいだと聞いていたが……お主らは何か知らぬか?」

 生体情報を踏まえた上で、改めてユイ達にカブト虫の行方を聞いてみる。ところが、話を聞いている途中から彼女達はある事に気が付いてしまった。表情も怯えたような振る舞いとなり、困惑気味にハタ皇子へ声をかけていく。

「……えっと、それは」

「後ろです。後ろ!」

「えっ? 後ろがどうかした――って、ギャャャ!! 余のリッチングビートルではないか!!」

 なんと彼が話している間に、噂のリッチングビートルが後ろまで近づいていた。その容姿は規格外の一言に尽き、煌びやかな黄土色に彩られて、戦車程の巨体を持ち合わせている。

 予想外の出現に一行の間にも戦慄が走っていた。するとリッチングビートルは、目の前にいたハタ皇子に標的を定めている。

「ビート!!」

「って、アァァァァ!! 余のペットなのにぃぃぃぃ!!」

 鳴き声を上げてから、自慢の一本角を振るわせると、彼に打撃を与えてそのまま弾き飛ばしてしまう。悲壮感溢れる叫び声を上げながら、上空の彼方へと皇子は消えてしまった。

「えっ!? ってことは……私達かなりのピンチじゃないの!?」

 場に取り残されていたいずみとユイは、突然最悪な状況に転げ落ちている。興奮状態にあるリッチングビートル相手では、勝ち目が無いのは明確であった。早急な脱出が必要だったが……ユイはこのカブト虫に興味を持ち始めている。

「こんなに巨大なカブト虫がいるなんて。少し興味が湧いてきますね!!」

「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないって! 早く逃げて、助けを求めないと――」

 好奇心旺盛な性格に、いずみもついツッコミを加えていた。対照的に彼女は、思いっきり動揺して体を震わせている。とそんな時、リッチングビートルは女子陣二人に狙いを定めてしまう。

「ビート!!」

「はっ!? キャャャ!!」

 ハタ皇子の時と同様に二人を弾き飛ばそうとしていたが――間一髪でユイがいずみの手を握って、この場からの脱出を図っていた。

「えっ、ユイちゃん!?」

「さぁ、こっちですよ!」

 先程までの子供らしさとは違う、冷静な対応を行動で示している。力一杯に手を繋ぐ行為」からは、ひしひしと温かい気持ちが伝わっていく。未だに困惑している彼女を支えるように、ユイは逃げ出しながらそっと話しかけてきた。

「大丈夫ですよ、いずみさん! 元の道まで戻って、神楽さんに助けを求めましょう! 絶対にあのカブト虫から、逃げ切りましょうね!」

「ユ、ユイちゃん……。アンタは怖くないの?」

「はい! 簡単には諦めないので、いずみさんも最後まで希望を信じて進みましょう!!」

 ポジティブに物事を考えており、屈託のない笑顔で相手に安心感を与えていく。新しく出来た友人を守るために、ユイなりの方法で彼女を守ろうとしていた。

(やっぱり、凄い良い子じゃん。……それなのに私は、勝手に張り合ってばっかりで)

 真っすぐ前を向く姿勢に触れていき、いずみの心情にも信じる気持ちが湧いている。同時に今まで張り合っていた自分に、しみじみと後悔を悟っていた。表情もどこか寂しげに変わっている。

〈ビート!!〉

 だがしかし、穏やかに事が済むことは無い。興奮状態のリッチングビートルは、女子陣へ向かって、のこのこと追いかけていく。幸いにも移動速度は遅く、互いの距離は遠ざかるばかりである。この仕様を知ったユイは、思い切ってある行動へと出ていた。

「そろそろいいかもしれません!」

「いいって何が?」

「こうですよ……誰か、助けてください―!!」

 急に立ち止まったかと思いきや、彼女はすぐに大声で助けを求めてくる。真逆ともとれる行動に、いずみも唖然としてしまった。

「ちょっと何してんの! 大声で呼んだら、あのカブト虫に見つかっちゃうでしょ!!」

「それを踏まえての呼びかけですよ! 後に分かりますから!」

「はい……? って、また来てる! 早く逃げよう!!」

 その結果、リッチングビートルとの距離がまたも近づいてしまう。このままでは元も子もないので、彼女達は再び走り出していく。一見すると無用ともとれる行動だが――実はこの呼びかけにより、神楽側にも異変が伝わっている。

「ん? この声ってまさか……ユイアルか!?」

「確かに……でもさっき、助けてって」

「こうしちゃいられないネ! 助けに行くアルよ、晴太!!」

「お、おう!」

 ユイの叫び声を感じ取ると、神楽らの顔色も急変していた。ただ事ではないと悟り、取り急ぎ彼女達の方面へと向かっている。さらに二人の跡を見つけて、あの仲間達も次々に追いかけていく――。

 一方で逃げ続けるいずみらであったが、

「えっ、きゃ!?」

「ユイちゃん!?」

ここで不運にもハプニングが起きてしまう。道端にあった石ころに、ユイがつまずいて転倒してしまった。彼女を気遣って、いずみも折り返して手を差し伸べていく。

「大丈夫なの?」

「平気ですよ! さぁ、早く逃げて――」

 そう言ってユイが、いずみの手を握った時である。

〈ビート!!〉

「あっ、危ない!!」

「きゃ!?」

 リッチングビートルは何の前触れもなく、突進攻撃を繰りだしていく。咄嗟に危機を読み取ったいずみは、ユイを抱きかかえてそのまま横へと回避している。間一髪で攻撃をかわしきっていた。

「い、いずみさん?」

「大丈夫だって……このくらい」

 心配をかけられても尚、謙虚な姿勢で言葉を返している。この困難を共にしていくうちに、彼女自身にも新しく友情が芽生えていた。改めて伝えたいことがあったが、今はこの危機を乗り越えるのに精一杯である。

〈ビート!!〉

 そんな空気を読むことは無く、リッチングビートルが三度接近しようとした――その時。

「ホワァチャャ!!」

〈ビー!?〉

 唐突にもある助っ人が、返り討ちの如く奇襲攻撃を決めていく。リッチングビートル側にも大きいダメージを与えていたその正体は、

「大丈夫アルか、二人共!」

「か、神楽さん!!」

手分けしていた神楽であった。紫色の日傘で日よけをしながら、ユイ達の目の前に駆けつけている。

「えっ? もしかして、助けに来てくれたの?」

「その通りだよ」

「あっ、晴太君も来たの!?」

 彼女に続いて晴太も、この場へやって来ていた。次々と現れる仲間達の登場には、ユイらもようやく安心感を覚えている。希望を灯されて、表情にも若干の余裕が出来ていた。

「さぁ、早くこっちへ」

 彼の案内の元で、ユイといずみは一時安全な場所へ避難していく。近くにあった森の茂みへ身を隠すと、またもちょうど良いタイミングで助っ人が駆けつけていた。

「「「ハァァァ!!」」」

〈ビート!?〉

 勢いを張った声を響かせて、三本の剣がリッチングビートルの装甲にダメージを与える。続けて現れたのは……銀時、キリト、アスナの万事屋一行であった。

「パパにママ!! それに銀時さんも!!」

「ん!? あの人達が両親なの……?」

 強くて頼もしい保護者達を目にして、ついユイも笑顔を取り戻していく。一方のいずみは事情を知らない為か、彼女の呼び方に混乱を覚えてしまう。

 それはさておき、次々と現れる強者たちの登場によって、状況はあっという間に優勢へと逆転している。

「おっ、みんなも駆けつけてくれたアルか!」

「当然よ! ユイちゃん達に怖い思いをさせたからには、きっちりお仕置きをしておかないとね……!」

「悪いがそう簡単には帰さないからな……!」

「ヤレヤレ、いつも通りの親バカだぜ。まぁ、その分きっちり戦えるけどな!」

 特にキリトとアスナは、怒りを交えてこの戦いへ望んでいた。目つきも真剣さを極めており、表情も迫力を増している。彼らに合わせるように、銀時や神楽も気合を高めつつあった。

〈ビート……!〉

「いくぞ!」

「「「「はぁぁぁ!!」」」」

 勢いに任せたまま、四人の精鋭たちは本気でリッチングビートルを倒しにかかっていく。各々の感情を乗せたこの戦いが、呆気なく収束したのはもはや言うまでもないだろう。

「ていうか、ユイちゃんの知り合いって、凄い人達ばかりだね……」

「そうですよ! みんな強くて頼もしいですからね!!」

「ハハ……もうそのレベルじゃないと思うけど……」

 遠くから見守っていたいずみら三人も、ただこの戦いは愕然としてしまう。圧倒的な戦闘力を、嫌と言うほど目に焼き付けていたからだ。ユイだけは、さも当たり前のように感じていたが……

 だがこうして、万事屋一行の介入により、リッチングビートルは戦闘不能にまで追い込むことに成功していた。ちなみに一緒にいたはずの新八はというと、

「アレ!? みなさん!? どこに行ったんですか!?」

ただ一人森の中へと迷っている。どうやら途中ではぐれてしまい、未だに場所を把握できていない。肝心なところで、見せ場すらもらえていなかった。

 

 それから数分が経った頃。万事屋の追撃が決まったところで、事態はすんなりと収束している。陽の光が弱まって、リッチングビートルは元通りのサイズへ戻り、ダメージを負いながらもハタ皇子の元に返ってきた。もちろん吹き飛ばされた本人も、時間をかけて森へと戻ってきている。

 しばらくすると森には、央国星の関係者やじいやが事情聴取の為に集まっていたが……特に後者は皇子に対して喧嘩腰で接している。

「おい、このバカ皇子! なんてことしてくれたんだ! おめぇのせいで、こっちがどれだけ尻拭いしたのか分かっているのか!!」

「うるせぇよ、じじい!! そもそもお前が見逃したのが、いけねぇんだろうが! 責任と自覚を持てや!」

「勝手に責任転嫁するな! こんな泥喧嘩見せられて、読者もきっと呆れているぞ!!」

「変に話題を逸らすんじゃねぇよ、てめぇ!!」

 どちらも物騒な言葉づかいで、激しい口論を展開していく。いつもの万事屋からしてみれば見慣れた光景だが、キリト達にとっては信じがたい光景ではある。

「皇子とは思えない言葉遣いね……」

「平気で醜態をさらすんだな……」

「まぁ、この世界じゃ常識だからな。変な先入観は持たない方がいいぞ」

 一国の皇子が怒りに任せて感情的になる姿は、正直見ていられなかった。共に苦笑いをしつつ、言葉を詰まらせている。平然と接する銀時から、考え方の相違が明るみに出ていた。

 一方で神楽も、途中ではぐれた新八に一喝を入れている。

「というか、どこ行っていたアルか新八!? 眼鏡のくせして、すぐに駆けつけないとはどういうことアルか!?」

「眼鏡のくせって何!? あの時は僕も彷徨っていたんだって!!」

「まぁまぁ、二人共。落ち着いてって」

 二人の会話には、晴太も抑え気味に割って入っていく。冷静になるようにとなだめていた。

「ふぅ……あっ! それはそうと、ユイといずみはどこ行ったアルか?」

「ああ、あの二人ならあそこでずっと話し込んでいるよ」

 そしてユイらの行方を聞くと、彼女達はちょうど近くのベンチに揃って座っている。今日の出来事を振り返りつつ、いずみはある気持ちをユイへと伝えていく。

「今日はありがとうね。色々と助けてくれて……」

「いえいえ、そんなたいそうなことはしていませんよ。いずみさんも無事で、何よりですからね!」

「そう……あのさ、まだ正式に言ってはいなかったけど、もしよかったら私と友達にならない? もっと、色んな話がしたいんだよね……」

 若干照れ気味に彼女は、友達として誘いを図っていた。変な張り合いやプライドを捨てて、率直な気持ちを前面に出している。子供らしく正々堂々とした態度で接すると、ユイも真っ先に言葉を返していく。

「友達? もう既になっているのではないのですか?」

「えっ?」

「だって神楽さんが言っていましたよ。友達と言うのは、自然と作れるものだって! だからもう、いずみさんとは正式に友達ですよ!」

 そう、彼女にとっては知り合った頃から友達であると悟っていた。考え方の近い神楽の影響を受けて、その言葉を信じ切っている。元から備わっている優しさが、ここで存分に発揮されていた。

 これにはいずみも、その人柄に触れて強く感激を受けている。つい表情も緩んでおり、そっと笑顔を浮かべていた。

「フフ……やっぱりアンタって、本当に面白い子だね!」

「そうですか? そういういずみさんも、感情豊かで女の子らしく見えますよ!」

「もうー! そう褒めないでよねって!」

 たわいない会話を続けていき、二人の穏やかな時間は今も続いていく。いずみが考え方を変えてくれたおかげで、ユイとの関係は大きく飛躍していた。新しい友情の芽生えは、当然二人にもより良い刺激を与えている。同じくして万事屋一行も、彼女達の友人関係を微笑ましく見守っていた。

「おー! ユイといずみも、とうとう友達になったアルか!」

「って、いつの間にそんな関係になったんだろうね?」

「まぁ女子達はすぐに友達を作れるものですからね」

 快く受け入れている神楽や、驚き気味の晴太など、その反応は十人十色である。もちろん第一の保護者であるキリトとアスナも、彼女の成長には嬉しさを覚えていた。

 数多ある出会いを繋いで、今日も万事屋の日常は終わっていく……

 




 色々と出演を見送っていたハタ皇子がようやく登場! ですが、そこまで重要ではない気がします。原作だって途中から出番が無くなったし……(最終章を除く)
 後書きとしては、やはり苦戦したのはいずみちゃんの描写でしょうか。前も伝えましたが、彼女は原作でも本当に出番が少なくて、中々性格が掴めないのですよ。なので一般的な女子像を意識して今回は作ってみました。ユイちゃんと友人関係になれて、本当に良かったですね! ライバル意識は変わらなそうですが……
 ちなみに新八の出番は、時間の都合でなくなりました。またいつかメイン回で頑張れるといいですね(笑)

 後は報告ですが、特別企画は時間の都合で来年に回します。それを踏まえて、二つの予告篇で今年は締め括ろうと思います。それでは、よいお年を!!
(諸事情で、コメントの返信は来年になります)

特別企画篇予告
新八「銀さん! 剣魂の特別企画って、一体何をするんですか?」
銀時「そりゃ、アレだよ。銀魂名物のアレで、アレすんだよ」
神楽「さっきから、アレアレしか言ってないアル」
銀時「アルよりはマシだろうが!」
新八「いや、意味が分からねぇよ!!」
ユイ「もっと明確に伝えてくださいよ!」
銀時「そうだな……他のアニメとかでもよくある手法と言うべきか」
アスナ「手法? 総集篇とかかな?」
銀時「……まぁ、それもあるな」
キリト「アレ? 何か図星っぽい?」
銀時「と、とにかくだ! 2020年も剣魂の投稿は続いていくから、てめえらさらにキバって行けよ!」
新八「って、誤魔化さないでください!!」

 というわけで、総集篇っぽい企画をやります(汗)

次回予告
2019年から2020年へ! 新年一発目の「剣魂」は……主要キャラが全員集合だ! かぶき町フレンドラリー篇開幕!!

銀時「元ネタは分かっていると思うが……東京フレン〇パークだからな」
新八「おぃぃぃぃ!! そこはいうんじゃねぇよぉぉぉ!!」

予想もしない混合チームが、かぶき町巡ってスタンプラリー!? 次回よりスタート!!


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第四十七訓 チーム決めなんて、ほぼ運で決まる

 お待たせいたしました。以前から予告していた「かぶき町フレンドラリー篇」がいよいよ始まります。今回は題名の通りチーム決めですが、事は簡単に済むはずがありません。(とある男がきっかけで……)それでは、どうぞご覧ください。


 彼女達の運命を分けたのは、一か月前の他世界対策交流会議がきっかけである。あの時にリーファは思い付きで、仲間のシリカ、リズベット、シノンを巻き込み、四人揃っての下宿生活を提案した。表向きには仲良く手を取った女子達だが、本音ではキリトへ近づけさせない為のけん制が目的である。当然四人は自力で動くことは無く、寂しさを潰して銀魂の世界で生活を続けていた。しかし、その我慢もいよいよ限界が近づいていた……そんな中で、彼女達の元にあるイベントの情報が舞い込んでくる。果たしてそれは、サブヒロインが抱える希望へと繋がるのだろうか――

 

神楽「なんか壮大な書き出しアルナ」

銀時「書くのが久しぶりすぎて、冒頭に気合が入ったらしいぞ」

新八「こんなにハードル上げて大丈夫なんですか……?」

銀時・神楽「「さぁ?」」

新八「いや、人任せだな!!」

 

 時は真夏日が続いている八月の下旬頃。この日のかぶき町の天気は風通しが良い快晴で、連日の暑さに比べると過ごしやすい気温になっていた。心地の良い風が人々に安らぎを与えて、公園ではつい居眠りにつく人も見られている。

 同じくして万事屋一行も、この涼しげな気温に甘んじていた。今日はちょうど仕事が入っておらず、朝から自由に過ごしていた六人は、正午を過ぎた辺りからみな眠りについている。万事屋内のリビングは静寂に包まれて、各々の寝言や寝息が微かに聞こえていた。

「アァ―ウゥー……」

 机に寄りかかり、力尽きたように眠る銀時。唸り気味の寝言を上げている。

「スゥー」

「ヤァー」

「フゥー」

 ソファーでは互いに寄り添って、幸せそうな表情で寝言を上げるキリト、アスナ、ユイの三人の姿があった。

「ヘヘ……お通ちゃん……」

 一方で向かい側のソファーでは、イヤホンを付けたまま寝転がる新八がおり、にやけた顔で妄想に浸っている。

「グワァ―! ゴォー!」

 そして神楽は押し入れにて、野性的ないびきをかき、本格的に寝込んでいた。十人十色な休憩をとり、英気を養っている万事屋一行だったが――そんな彼らの元に、とある訪問者が近づいてくる。これが騒動の発端になるとはつゆ知らずに……。

〈ピンポーン!〉

「……ん? チャイム?」

 突如として鳴り響いた、玄関先からのチャイム音。これにいち早く気が付いたキリトは、単身起き上がって、欠伸を発しながら玄関まで足を進めていく。

「はーい、どちら様ですか……?」

 腑抜けた声を呟いて戸を開けると、そこに立っていたのは――

「あっ、こんにちはです! キリトさん!」

「えっ、シリカ?」

仲間の一人であるシリカであった。彼女は元気よく挨拶を交わして、屈託のない笑顔のまま、寝ぼけているキリトへ話しかけていく。

「あの突然ですけど、三日後って万事屋さんの仕事は入っていますか?」

「三日後? 確か入ってないはずだけど……」

「そうなんですか! それではアタシと、イベントに参加しま――」

 万事屋での予定の有無を知るや否や、彼女は態度を変えて本題に入ろうとしていた。だがしかし、

「キリト~!!」

「って、キャ!?」

「リ、リズ!?」

タイミングを見計らってさらなる訪問者がやって来る。二人の会話に割り込んできたのは、これまた仲間の一人であるリズベットだった。彼女もシリカ同様に、キリトへとある誘いを勧めていく。

「ねぇ! 今度の日曜日空いていたら、このイベントに参加しない? どうしても男手が必要だからさ、アンタにも来てほしいのよ」

「イ、 イベント……?」

「そうそう! かぶき町フレンドラリーって言うんだけど……」

 意気揚々と会話を進めていき、主導権を握り始める彼女。だがここで、話を横取りされたシリカが、堪らずに反論へと移っている。

「リ、リズさん!! 何で話に割り込んできているんですか!! 横取りは厳禁って、約束したじゃないですか!!」

「って、それを言うならシリカもいけないでしょ!! みんなの目を盗んで抜け駆けするなんて、ルール違反じゃないの!?」

「そ、それは……たまたま万事屋を通りかかったから、ギリギリセーフなんですよ!!」

「いや、絶対確信犯よね!? 確実に万事屋へ向かおうとしていたわよね!?」

 互いに意地を譲ることは無く、激しく感情を露わにする二人の女子。しかめっ面な表情で、自身の主張を続けている。そんな口論の板挟みにされたキリトは、段々と目を覚ましていき、ひとまずは事態の収集を図っていた。

「いや、待って二人共! ここはまず冷静に……」

 彼女達の出方を伺いつつ、冷静な姿勢で相手の気持ちをなだめていく。

 さらにこの騒ぎに気が付き、リビングでは銀時がゆっくりと起き始めていた。

「あん? 一体何を騒いでやがるんだ……?」

 彼も寝起きであり、はっきりと理解していないが、玄関前にいるキリトの姿だけは見えている。自身も気になって、玄関前まで向かおうとした時であった。

〈カン、カン!〉

「あぁ? 何だよ、この音はよ……」

 後ろ側の窓から、強めの物音が聞こえてくる。音に気が付いた彼は、網戸を見開き周辺を眺めていると……

「お邪魔します!!」

「お邪魔するわ!!」

「って、うわぁぁ!?」

何の前触れもなくリーファとシノンが目の前に現れた。彼女達は羽を使って、窓から万事屋へと強制的に侵入している。もちろん物音の正体は二人であり、彼女らもキリトに用があって来ていた。しかも仲間達の行動の裏をかいて、窓から訪れる徹底ぶりである。一方で勢いに押された銀時だが、間一髪で横へ移動して、衝突だけは回避している。ところが、突飛な女子達の行動には怒りを覚えてしまう。

「おい、お前等!! 何勝手に入って来てんだ!! 妖精が不法侵入なんざ、聞いた覚えがねぇぞ!!」

「ごめん銀さん! 訳は後で話すから、今はお兄ちゃんと話させて!」

「あぁ? キリトとか?」

「そう! って、リーファ! あそこにいるわよ!」

「えっ、本当に!?」

 銀時の注意に構っている暇も無く、リーファらはキリトを見つけると、一目散に彼の元まで駆け寄っていく。そして同様に、イベントへの参加を勧めてきたのだ。

「お、おい!? ……何やってんだよ、アイツらは」

 たった一人取り残された銀時は、苦い表情で女子達の行動に唖然としてしまう。その必死さから、幾ら言っても意味が無いと確信したようだ。

 それからはアスナや神楽らも騒ぎに気が付いて、多勢で女子陣を抑え込み、事態の収集を図っている。一行の踏ん張りの末に、騒動は一旦幕を閉じたのであった……。

 

 突然の訪問から、およそ数分が経過した頃。一行の説得もあって四人は、ようやく落ち着きを取り戻していた。彼女達は万事屋内へと入り、リビングにあったソファーに座って静かに待機している。場には昼寝から目覚めたばかりの万事屋一行もおり、ひとまずは事の経緯を聞き出そうとしていた。しかし……

「「「「ぐぬぬ……!!」」」」

依然として四人は対立心を露わにしている。不機嫌な表情で相手を睨みつける者や、頬っぺたを膨らませて威嚇する者など、清々しいくらいに気持ちを態度へと出していた。これには銀時、新八、神楽もツッコミを入れたくなる始末である。

「なんでアイツらは、あそこまで躍起になってんだよ」

「絶対キリ絡みアルよ。吉原に隔離されているのが我慢ならなくて、遂に正妻戦争を仕掛けてきたネ。ヒヒ……」

「いや、神楽ちゃん? 絶対この状況を楽しんでいるよね? 今一瞬だけ、にやけたよね?」

 小声のまま会話をして事態を察している三人だが、神楽のみはおかしく思ったのか、つい笑みを浮かべていた。新八からさり気ない注意が入り、そっと心に抑え込んでいく。それはさておき、場を整えながらようやくアスナから、話が振られてきた。

「それで……私達に何の用があって、万事屋に来たのかしら?」

「実はね、まずはこの紙を見てもらえる?」

「紙? かぶき町フレンドラリー……?」

 するとリズベットから、一枚の広告紙が差し出される。そこにはかぶき町内会主導で行われる、特別イベントの内容が書かれていた。この広告紙に目を通しながら、キリトが代表して朗読していく。

「えっと、『夏休みの終盤を、かぶき町巡りで遊んでみませんか? ミニゲームをクリアしてスタンプを集め、豪華景品と交換しましょう。かぶき町にいる個性豊かな人達がお出迎えしてくれます。ぜひご参加してください。企画者、志村妙より』……って、えっ!?」

「まさかの、お妙さんの企画だったの!?」

 イベント内容よりも目を惹いたのは、企画に関わっていた妙の存在である。これには万事屋一行も、素直に驚嘆してしまう。

「マジアルか……てか、新八もこの企画を知っていたアルか?」

「いや、特別なことをするしか聞いてなかったから……イベントの企画なんて、僕は初耳なんですけど」

 弟の新八にすら、イベントの全貌は明かされてはいない。姉弟にも極秘で進められていた企画のようだ。そして内容については、銀時から触れられている。

「というか、かぶき町の個性豊かな人達って……どんなおぞましい奴等を集めてんだよ」

 ゲームで待ち構えるかぶき町の住人達の予想に、嫌な予感を察してしまう。銀時側の反応は身内ネタが多かったが、キリト側の反応では少なくとも興味だけは持ち始めていた。

「なるほど……。つまり、このフレンドラリーにみんなで参加しようってことだな」

「家族向けだし、結構楽しそうよね?」

「私達でも参加してみたいですよ!」

 一行の上々な反応を見届けると同時に、女子陣は即座に自身のアピールを始めていく。

「その通りです! だからキリトさん! アタシとチームを組みましょうよ!」

「いいや、私を選んで! 兄妹なんだし、こんな機会ないから私を優先してよ!」

「それだったら、アタシと組んで! 今度お礼として、武器を鍛えてあげるからさ!」

「いや、私にしてよ! こないだ誕生日だったし、記念としてお願い!」

 露骨とも捉えられる伝え方で、必死に当事者のキリトへと訴えかけていく。各々の理由を抱えながら、彼女達はこのイベントに全力をかけていた。率直すぎる想いは、銀時ら三人にも伝わっている。

「……どこまでキリトとチームを組みたいんだよ、アイツらは」

「サブヒロインの不憫さが、ひしひしと伝わってくるネ」

「まさか姉上って、こうなることを予測して、この企画を立てたんじゃ……」

「十分にありえるな」

 冷めた目つきのまま、揃って淡々と本音を発していた。このきっかけを作ったとされる妙にも、疑いの目をかけていく。

 その一方で四人同時に誘われたキリトは、真面目にも返答について深く悩んでいる。

「どうしますか、パパ? みなさんからオファーが懸かっていますけど?」

「そう言われてもな……全員と組むわけにもいかないし」

 無自覚な鈍感さを見せて、友達目線から誰と組むべきかを考えていく。するとアスナは、広告紙のある注意書きに注目を寄せていた。

「参加上限は五人まで……あっ、そうだわ!」

 イベントの参加上限を知ると、彼女はとある合理的な方法を閃く。

「みんな、注目!! 私から、一つ提案があるわよ!!」

 早速大声を上げて、仲間からの注目を自分に向けていく。そして自信満々な表情で、立てた方法について話し始めていた。

「参加上限が五人までなら、ここにいる十人で均等に決めちゃいましょう! そうね……私とキリト君とユイちゃんの妖精ゲーマーチームと、銀さん、新八君、神楽ちゃんの万事屋チームに分けて、そこから二人ずつに分けていきましょう!」

 その全貌は、最初からチームを固定するものである。万事屋の六人で二組に分かれて、そこから女子陣二人が別々のチームに加入する策だった。しかもアスナは、ちゃっかりキリトやユイをチームに入れて、損をしない手段を選んでいる。彼女としての自覚を、ここで発揮していた。

「って、しれっとアッスーはキリと同じチームに入っているネ」

「なんか万事屋チームが、外れっぽく見えないか?」

「流石にこんなルールで、リーファさん達が納得する訳が……」

この考えに微妙だと悟った銀時らは、女子達の反応を今一度覗いていると……

「分かったわ。このルールで、決めていきましょう!」

「二人に枠があるなら、まだチャンスがあります!」

「いや、納得するんかい!? 意外にあっさり受け入れるんですね!?」

なんと全会一致で、誰一人不満を発さずに受け入れている。これには新八も、激しくノリツッコミを決めていた。しかし女子陣は、周りの反応は気にせずに、自分達で勝手に話を進めていく。

「どう? ここはじゃんけんで、チーム決めをしてみない?」

「いいわね……運に任せて、勝者を決めようじゃないの!!」

「おい!? 何か別の方向に向かっているぞ! どんだけこのイベントに、全力を懸けているんだよ!? って、聞いてんのか!?」

 妖精ゲーマーチームの枠を決めるため、まさかのじゃんけんで決着を付けるようである。もうこうなれば、銀時らが幾らツッコミを入れようと関係はない。熱気の高まっている女子達は、それぞれ拳を握って集中力を高めていく。ちっぽけな一つのイベントでも、惜しみなく全力を注いでいた。全てはキリトと同じチームになるために……その一点しか見据えていない。

「勝っても負けても、恨みっこなしですよ!」

「そんなこと分かっているわ!」

 少しずつ覚悟を決めていくシリカやリズベットに、

「妖精チームに入るのは、この私よ!」

「いい加減に決着を付けましょうか!」

気持ちを高ぶらせるリーファやシノンなど、女子陣の意気込みが態度へと現れている。この迫力には、キリトらもつい押されかけていた。

「というか、そんなに勢いを込めなくても良いんじゃないか?」

「いや、キリが原因アルよ」

「まぁ、キリト君は大人気だから仕方ないよね」

「やっぱり、お前って無自覚なんだな……」

 呑気にも女子陣の真意に気が付いてないキリトや、こんな状況でも一人余裕なアスナの性格を目の当たりにして、銀時や新八は改めて二人を末恐ろしく感じる。

 そう話しているうちに、じゃんけんが不意にも始まっていた。

「「「「せーの! じゃんけん、ポン!!」」」」

「って、もうやるアルか!?」

「だ、誰が勝ったんですか!?」

 様子を見守っている中で、果たして四人が出したものとは――

 

 チーム決めから約二日後が経った休日の日。天気は期待通りの快晴で、数日前と同じく風が程よくなびく、過ごしやすい気温となっていた。そして、かぶき町フレンドラリーは無事に当日を迎えて、集合場所の公園にはたくさんの人が集まっていた。子供達のみのチームや、家族連れにホームレス集団など、多様なチームが参加する中、キリトは受付を終えてチームメンバーの元へと戻っている。

「お待たせ、みんな」

「あっ、パパが戻ってきましたよ!」

「どうだったの受付は?」

「結構時間がかかったけど、問題なく出来たよ。俺達は二十九番だってさ」

 迎い入れてくれたのは、アスナやユイの面々に加えて……

「まぁとりあえず、今日一日はこのメンツで頑張っていきましょう!」

「一番乗りにゴールして、みんなを驚かせましょうね」

「ああ、もちろん」

幸せそうに笑顔を撒くリズベットとシノンの姿があった。そう、じゃんけんに運勝ちしたのはこの二人である。仲間達(特にキリト)と同じチームに入れて、共に上機嫌な態度で接していく。

 一方でユイは、惜しくも敗北したリーファとシリカに少し気にかけていた。

「それにしても、シリカさんやリーファさんは本当に大丈夫なのでしょうか? 結構落ち込んでいましたし」

「何も心配ないって! 恨みっこなしって約束したから、時間が経てば元気が戻るよ」

「人数制限は仕方ないことだからね」

「まぁ、二人のことだから大丈夫だと思うけどな……」

 長い付き合いの仲間達は、心配せずとも二人のことを信じ切っていた。どこか楽観的に捉えていたが……当の本人達は未だに、じゃんけんの敗北を引きずっている。

「ねぇ、見てください。あそこのチーム、キラキラに輝いていますよ」

「うわぁ~凄い。隣の花は赤いって言うけど、本当だったんだね」

「あぁ、羨ましいです。なんで運負けなんて、したんでしょうか?」

「きっとじゃんけんの女神に見放されたんだよ、私達」

「ハハハ。じゃサザエさ〇を見て、鍛え直さないとですね」

「「ハァー」」

 やつれたような表情で皮肉を呟き、遠くにいる妖精チームに向けて冷たい視線を刺していく。ため息を吐いて、気持ちがどん底に下がっているのは、もちろんシリカとリーファであった。敗北が相当なショックだったようで、数日経った今でも気持ちは立ち直っていない。周りとの距離感も極端に遠ざけている。

 一方でチームメンバーである銀時と神楽だが、彼女達と微妙な距離を保って、呑気に冗談を言い合っていた。

「銀ちゃん、あそこにいる人達は一体誰アルか?」

「あいつらはな……某ラブコメ漫画で敗北が決定したヒロインの悲哀を、味わっている人達だよ」

「そうか。それじゃ、そっとしておいた方が一番アルナ」

「だろうな」

「――じゃねぇだろ!! 僕達同じチームなんですよ!! 初っ端からこんな悲壮感マシマシで、今日一日頑張っていけるんですか!?」

 この空気感に我慢できなくなり、新八が型を外したように激しいツッコミを入れていく。開始早々からチームワークもへったくれも無いのだが、銀時と神楽は半分ほどこのチームに諦めかけていた。

「んなこと言われても、集合場所から既に顔が死んでいたじゃねぇか。アイツら」

「あんな空気だと、こっちも気が引けてしまうアルよ。折角負けヒロインだって、いじろうとしていたのに」

「神楽ちゃん。お願いだから二人に、とどめを刺すのだけは止めてもらえる?」

 ボケる雰囲気ではないと察して、用意していた小ネタも不発に終わってしまう。おかげで銀時や神楽の調子も上がらずじまいであった。この危機的状況を解消するため、新八は覚悟を決めて、落ち込むリーファらへと話しかけていく。

「ほらほら。リーファさんもシリカさんも、気持ちを入れ替えてイベントを楽しみましょうって!」

「……あ、ありがとう新八君。励ましてくれて」

「そうですよね。折角のイベントですし、このメンバーで楽しみましょうね。ハハハ……」

「さっきから棒読みなんですけど? やっぱり気持ちを、引きずっていますよね?」

 目を合わせずに苦い笑みを浮かべて、二人は小声で彼に返答していく。もはや表情や口調も隠しきれてはいない。チームとして早くも、今後の先行きが危うくなっていた……そんな時である。

「ピンポンパンポン! 大会委員会からのお知らせです。番号が二十八、二十九.三十で参加予定のチームは、至急本部まで来てください」

 会場内に呼び出しのアナウンスが鳴り響いていた。特定の番号が該当するのだが、万事屋チームはその対象に当てはまっている。

「えっ? 三十って僕らのチーム番号じゃないですか?」

「おいおい、マジかよ。こんな状況の中で呼び出しって、一体何用だよ?」

「とりあえず、行ってみた方がいいネ。シッリー、リッフー行くアルよ!」

「「は、はい……」」

「……本当に大丈夫ですよね?」

 元気のないリーファとシリカにも声をかけて、一行はテントの隅っこにある本部へと足を進めていた。そして到着すると、同じくして呼ばれたチームが先に集まっている。

「あぁ、お前らも呼び出されたのか?」

「あっ、銀さん。そっちのチームも呼ばれたのか?」

「そうアルよ。ったく、めんどくさいことさせるアルナ~」

 まさかのキリトら妖精チームも、本部に呼ばれていた。さり気なく会話を交わしていると、キリトは元気の欠片も無いシリカとリーファの姿を目撃する。

「ん? シリカ、スグ? 大丈夫か?」

「あっ、キリトさん……」

「こっちは全然……」

「そう落ち込むなって。参加上限は仕方のない事だし、それに悩むよりも今は気持ちを切り替えて、一緒にイベントを楽しもうよ。別のチームでも、俺は二人を応援しているからさ」

 極端な落ち込み具合に心配をかけて、彼は優しい笑みで二人を励ましていく。するとどうだろう。一斉心が動かなかった女子達も、キリトの一言で徐々に元気を取り戻しているではないか。

「そ、そうですよね。いつまでも落ち込んでいたら、全然楽しめませんものね!」

「お兄ちゃんに言われちゃ、仕方ないわね~! ありがとう、心配してくれて!」

「まぁ、二人が元気になったなら何よりだよ」

 彼の優しさに惹かれて、いつの間にか元気を取り戻していた。笑いを浮かべる姿から、数分前の落ち込み具合がまるで嘘のように思えてくる。振り回された万事屋一行は、彼女達の単純さに若干呆れかけていた。

「結局、キリと会えば全て丸く収まるってことアルナ」

「単純すぎるだろうが……だから巷でチョロインって言われんだぞ」

「ここまで来るともう、分かりやすくて潔いですけどね……」

 引きずったような表情で、ため息を吐いている。ここ数日は、イベント関連に巻き込まれ気味の三人であった。

 一方でシリカとリーファの元には、じゃんけんの勝者であるリズベットとシノンが、煽るように話しかけている。

「おや~? さっきまでしょんぼりしていたのに、本当に元気になったのかしら~?」

「って、リズさん! 余裕があるからって、アタシ達を煽らないでくださいよ!」

「まぁでも、私達が勝者なのは変わらないけどね」

「う、羨ましい……!!」

 相手からの反応を面白がって、からかい続けている二人。運勝ちしたことを、よっぽど嬉しく思っているようだ。そんな女子陣の様子を見て、キリトもつい疑問を感じてしまう。

「というかみんなって、そこまでして俺やアスナとチームを組みたかったのか?」

「いや、多分キリト君だけだと思うけどね」

 やはり友達目線で見ているせいか、鈍感な一言を呟いている。これには横にいたアスナも、そっと注意を加えていた。知り合い同士で場は騒がしくなる一方、ユイは呼び出されたもう一組のチームが気になっている。

「そういえば、もう一つのチームはどこにいるのでしょうか?」

 辺りを軽く見渡していると、そのチームメンバーはようやく本部へ来ていた。

「おや? 騒がしいと思ったら、君達だったのか?」

「えっ? もしかしてこの声は……」

 しかし、声を聞いた瞬間に場の空気は一変してしまう。聞き覚えのある口調で、とある知り合いを連想したからだ。もちろんその予想は、的中しているのだが……。

「やっぱり、真選組のみなさん!?」

 そう、もう一組のチームは真選組の近藤、土方、沖田の三人であった。思わぬ再会を果たして、全員はつい驚嘆としてしまう。だが真選組側は大した反応を見せず、淡々とした態度で万事屋一行に接していく。

「あん? 誰かさんと思ったら、万事屋に妖精ゲーマー達じゃねぇか。まさかテメェらも参加していたとはな」

「それはこっちの台詞よ! というか、みんな揃って真選組の方は大丈夫なの!?」

「そこも問題ねぇですよ。全員有給で来ているんで、江戸の方は二番隊か十番隊の方に任しきっていやすよ」

「そんなアバウトで大丈夫なの……?」

 どうやら沖田ら三人は休みを取って来ているらしく、その証拠に服装も普段の隊士服ではなく、外出用の和服を着こなしていた。江戸の治安を他の隊に任せる様から、リズベットやシノンも少し不安を感じてしまう。

「とりあえず、俺達の目標は一つだ! スタンプラリーを遂行させて、お妙さんという豪華賞品をゲットする!! 待っていろよ、お妙さん!!」

「おい、このゴリラ。とうとう自分から墓穴を掘っているアルよ」

「お妙さんへの愛は、一方的な気もしますが……」

 そんな真選組……いや、リーダーたる近藤の本心はやはり妙が目当てだった。惜しみなく自分の本心を出しているが、彼の恋愛模様はキリトらにとっても周知の事実である。神楽とシリカは冷めた目つきのまま、そっと皮肉を投げかけていた。

 該当する三組のチームが集まったものの、どれも個性が豊かで、一筋縄ではいかない人達が集まってきている。ところが大会本部側の人間は、予想の遥か上を行く容姿をしていた。

「みなさんー! お待たせいたしました!?」

「ん!? えっ!?」

「まさかのオカマ!?」

 野太い声が聞こえた方へ注目を寄せると、そこには女性用の着物を着こなした男性が姿を見せていた。オレンジ髪のおかっぱ頭で、出っ張ったケツアゴが特徴的である。キリトらSAOキャラクターは困惑しているが、銀時らにとっては知り合いと呼べる人物であった。

「あー! お前は……」

「「「かまっ娘のアゴ美!!」」」

「誰がアゴ美だ、コノヤロー!! ちゃんとあずみと呼ばねぇか、てめぇら!!」

 揃って声を上げたものの、やはりお決まりのアダ名を言い当ててしまう。そして彼も反射的に、ノリツッコミで返している。そんなアゴ美……いやあずみは、万事屋とは繋がりの深い人物であった。

「ぎ、銀さん!? もしかして、この人と知り合いなのか?」

「あぁ。アイツは、かまっ娘クラブって言うオカマバーに所属するアゴ……あずみさんだ。あんなアゴをしているが、れっきとした一人の人間だから、モンスターと勘違いするなよ」

「いや、それ以前にだいぶ失礼なことを言っているわよ……」

 悪意を含めた銀時の解説を聞き、アスナは小さくツッコミを入れている。彼の言う通りあずみは、個性的な見た目のオカマ系キャバ嬢なのだが、やはりケツアゴが目立っていて、初対面のユイや沖田からも間違った名称で呼ばれてしまう。

「あの……アゴ美おじさんが、大会のスタッフさんなんですか?」

「色々と間違えているわよ! おじさんじゃなくて、お姉さん! アゴ美じゃなくて、あずみよ!!」

「とりあえずどうでもいいから、さっさと要件を話してくだせぇ。アゴ」

「もはやそのものになっちゃったじゃないの!! ……まぁ、いいわよ。時間も無いから、軽く要件の方を話すわね」

 次々とツッコミを繰り出すあずみであったが、時間の都合によって途中で諦めてしまう。ボケに構っている暇も無く、彼女は本来の要件を手短に説明していく。

「実はね、アナタ達のチームと名前をパソコンで入力した時に、私は誤ってトラブルを起こしてしまったのよ」

「トラブルアルか?」

「そうよ。突然体勢を崩してね、パソコンとアゴがぶつかって、不覚にもエラーを起こしたのよね」

「エラーだけって……よく壊れなかったな。奇跡的じゃねぇか」

「どこが奇跡的よ! おかげで終盤に入力したチーム名とメンバーが、バグで総入れ替えになったていうのに。さらに訂正も出来ないから、少し困っているのよ!」

 話の主な内容は、自身のミスによるパソコンのトラブルだったが……その現状はあまりよろしくはない。場にいた全員も、徐々にこの意味を理解していく。

「えっ? 今なんて……?」

「だから、アナタ達のチームだけが希望通りにならなくなったってことよ!! 再入力も出来ないから、ここで一つお願いがあるの。今から発表するチームで、このイベントに参加してくれないかしら? もしママやお妙さんにバレたら……どんな恐ろしい罰を受けることやら……お願い! 私の保身の為にも、実現してちょうだい!!」

 なんとあずみのミスにより、本来とは別のチームメンバーで、パソコンに登録されてしまったようだ。これを公には出来ない彼女は、別々に記載されたチームで動くように、全員へ嘆願していく。思わぬお願いを受けた一行であったが、この展開に一番心を揺さぶられていたのは、もちろんあの女子陣である。

(ちょっと待って! これってまさか……キリトのチームと引きはがされるってこと!?)

(下手すれば銀さんや真選組の人達とチームを組んじゃうの……?)

 じゃんけんの勝者であるリズベットとシノンは、キリトと離れることに身震いしていく。だが一方で、

(これはチャンスでは!? 運次第ではまだ逆転できますよ!!)

(棚からぼた餅とは、まさにこれね! もうアゴ美さんに感謝するしかない!)

敗者のシリカとリーファはむしろ期待を寄せていた。形勢逆転を狙い、心の中では強く祈り始めている。そして真選組や万事屋もこの発表を聞いて、各々思ったことを呟いていく。

「こいつらとチームを組むんですかい? まぁ土方さんと離れるなら、万々歳ですけどね」

「なんだと、てめぇ! もう一回言ってみろ!?」

「まぁまぁ、落ち着け二人共。俺はチームを離れてもお前達を信じているから、もう心構えは出来ているぞ」

「「はいはい」」

「って、二人共!?」

 目立った動揺を見せない真選組の三人。近藤を除いて、チームとしてのこだわりは特にないようだ。

「そんな……パパやママと離れ離れになるなんて……」

「まぁ、仕方のないことよ。それに私達と別のチームになっても、銀さんや新八君、神楽ちゃんがいれば大丈夫よ」

「そうだな。ユイはしっかりしているから、みんなを引っ張れるように頑張ってくれよ」

「……分かりました。私、頑張ってみます!」

 キリト、アスナ、ユイの三人は家族として思い入れが強く、離れることに強く不安を感じてしまう。それでもすんなりと受け入れて、共に覚悟を決めている。

「これは俺達が良しとしても、あの女子達に関わることじゃねぇのか?」

「絶望と希望が入れ替わったような顔をしているネ」

「これじゃどっちにしろ、波乱なチームになりそうですけどね」

「頼むから、女子のみで固めるのは勘弁してくれや……」

 そして万事屋だが、自分達よりもあの女子陣の様子が気になって仕方が無かった。チームの編成次第では、思わぬとばっちりが来ることが気がかりである。

 一方であずみは一通り様子を見て、新チーム発表への判断を見極めていた。

「アラ? これはもしかして、受け入れてくれる雰囲気なのかしら?」

 そう呟くと同時に、咄嗟に動いたのはもちろん女子陣である。

「そうですよ! だから発表してください、アゴ美さん!!」

「アナタの一言にかかっているんです! お願いだから、お兄ちゃんと一緒のチームに入れさせて!!」

「ちょっとアンタ達!? ここまで来て、往生際が悪いわよ!!」

「こっちだって、心の準備がまだ出来ていな――」

 発表に期待を寄せる敗者の二人と、覚悟の出来てない勝者の二人。共に複雑な心境を抱えながら、互いに言い争いを始めていく。しかし彼女達の事情を知らないあずみは、口論に関係なく発表の準備が出来ていた。

「よし! もう時間も無いから、さっさと発表しちゃうわよ! みんな、覚悟してね!」

「あー! 待ってって!!」

 もうこうなれば、後戻りなどは出来ない。期待と不安の入り混じった新チームの発表が、今ここで言い渡されていた。

「まずは万事屋チーム! 坂田銀時さんに、土方十四郎さん! シノンさんとユイさんの計四人です!」

「「「えっ!?」」」

「銀時さんと土方さんとシノンさんのチーム……ですか?」

「続いて真選組チーム! 近藤勲さんに、志村新八さん! アスナさんとリズベットさんの計四人です!」

「「ん!?」」

「おっ!?」

「……はぁぁぁぁぁ!?」

「最後に妖精チーム! キリトさん、リーファさん、シリカさん! そして神楽さんと沖田総悟さんの計五人です!」

「「何!?」」

「ふーん」

「「や……やったぁぁぁぁ!!」」

「以上です!! ではこのチームで、頑張って来てください!!」

 発表を終えたあずみは、文句を言われる前に足早に場を後にする。トラブルから起きたチーム総入れ替えは、この場にいる全員へとんでもない衝撃を与えていた。仲の悪い者同士の共演。敗者から大逆転勝利を勝ち取った二人。勝者から絶望の淵へと叩き落された二人と、もちろん場は混乱状態に陥っている。新八のツッコミも留まることを知らない。

「ちょっとぉぉぉ!? 何この組み合わせ!? 予想以上の入れ替えだよ! 絶対にまとまらないって!!」

「ねぇ、新八君。早速だけど、トラブル発生よ……」

「えっ、何ですか!?」

「リズが気絶したわ」

「……はい?」

 同じくチームメイトとなったアスナからは、思わぬ報告を受けている。彼女の向けた方向には、笑顔を失い絶望感に浸っているリズベットがいた。勝者からの転落劇は彼女のメンタルを崩壊させて、心の支えすらも奪ってしまう。

「私の青春が……私の勝利が無駄に……」

 さながら廃人のような姿である。これには仲間達も、つい目を背けていた。

「これは重傷ですね……」

「よっぽどキリト君と同じチームになりたかったのね。さっきまでの笑顔とは、もう真逆だもの」

 彼女の気持ちを理解しつつも、二人は話しかけることには抵抗を覚えてしまう。どう接するべきか考えていると、同じくチームメンバーである近藤が、空気を読まずにリズベットへ話しかけてきた。

「ハハハ! まったくみんなは、心が沈みすぎだぞ! でも大丈夫だ! 俺と共に進めば、必ず一番乗りへと連れて行けるぞ! 今日一日、共に頑張ろうではないか!! 新八君にアスナさん! そして……リズベット君!」

 あえて気を遣わずに話しかけているが、もちろん逆効果である。これには彼女も怒りを覚えたようで、

「……じゃ、ないでしょうがぁぁぁぁ!!」

「ブホォォォ!?」

お返しに不意のビンタで近藤を攻撃していく。さらにそのまま彼の胸ぐらを掴むと、自身の気持ちをありのままにさらけ出してきた。

「アタシはね!! 確実にあのチームで行けるはずだったのよ!! なのにどこぞのアゴ男のせいで、勝手にチームを入れ替えたのよ!! この気持ちがアンタに分かるの!? アタシの貴重な青春を返してよぉぉぉ!!」

「そ、そう俺に言われてもだな……」

「あぁぁぁ!! なんでこのチームになったのよ!!」

 感極まって涙を流しながら訴えているが、結局はキリトとチームが別になったことが気に食わないだけである。一度は実現した願いが失われて、悔しさはより一層強まっていた。そんな彼女の悲哀を、いまいち理解していない近藤である。

「……大丈夫かな、このチーム」

「絶対大丈夫じゃないわよ」

「「はぁ……」」

 近くで見守っていた新八とアスナも、このチーム編成に危惧していた。共にため息を吐きながら、今日一日をどう乗り切るか考えていく。新真選組チームは、最初から波乱に満ち溢れていた。

 一方で、同じくキリトと別々のチームになったシノンだが、リズベットほど後悔は感じていない。軽くため息を吐いて、すぐに現状を受け入れている。

「はぁ……。結局嫌な予感が当たってしまったわね」

「大丈夫ですか、シノンさん? やっぱり前のチームが良かったですか?」

 引き続きチームメンバーとなったユイが、心配そうに声をかけてきた。だがしかし、彼女は普段通りに接していく。

「そうだけど、今の問題はそこじゃないわ。あの二人のことよ」

「あの二人……銀時さんと土方さんですか?」

「そう。いかにも仲が悪そうでしょ?」

 冷静にチーム構成を見定めて、いち早く懸念材料を指摘している。シノンが不安視していたのは、同じくチームに入れられた銀時と土方の関係性であった。お互いに顔を合わせた時から、異様な険悪さが滲み出ている。その理由を知らないシノンやユイでさえも、二人の様子から既に察していた。

「おいおい、勘弁してくれよ。なんでてめぇと、チームを組まなきゃいけねぇんだよ」

「それはこっちの台詞だ。こんなところでも一緒にされるなんざ、今日はついてねぇみたいだな」

「うっせーよ!! 仕方なく同じチームになったから、足だけは引っ張るなよ! 多串くん!」

「誰が多串だ!? このネタが分かる奴一部しかいねぇから、今すぐやめろ!」

「やめるか、ボケ!」

 煽りながら会話を交わした直後に、挑発を加えて共に事態をややこしくしている。二人は相手を睨みつけながら、多様な悪口で口喧嘩を始めていく。

 奇しくも予想が的中したシノンは、再びこの状況にため息を吐いていた。

「はぁ……何やっているのよ、銀さんも土方さんも。いい大人なんだから、それらしい振る舞いをすれば良いだけなのに……」

「でもちょっと、兄弟みたいな感じで微笑ましい気はしますけどね」

「フッ……それは分からなくないけど」

 一方でユイは二人を兄弟だと揶揄して、呑気にも温かい目で見ている。子供らしい考え方を聞き、シノンも不意にクスッと笑ってしまう。新万事屋チームは、しっかり者の女子達にかかっているのかもしれない。

 そして唯一の大金星を挙げたのは、紛れもない新妖精チームである。

「やりましたよ、リーファさん!! アタシ達大逆転勝利ですよ!!」

「最後まで希望を信じて、本当に良かったよ!!」

 キリトと同じチームに加入して、歓喜の声を上げるのは、もちろんシリカとリーファだ。運命をひっくり変えたトラブルにより、大逆転勝利を収めている。絶望から希望へと見事にのし上がっていた。ところが……このチームには思わぬ天敵も入っている。

「だけど……不安材料が一人」

「あぁ、沖田さんのことね……」

 そう。リーファに数多の嫌がらせをしてきた男……沖田総悟であった。彼も新妖精チームに入っており、何食わぬ顔でキリトや神楽に向かって煽りを入れていく。

「まぁ、気軽に頑張りやしょうや。中二病主人公と怪力女がいれば、大体のことは乗り越えられるだろうな」

「中二病主人公って、俺のことなのか? 当てはまってない気がするんだが……」

「って、キリはまともに答えちゃ駄目アルよ! アイツは何を企んでいるか、分からないアルから!」

「よく分かっているな。それじゃ改めて、今日一日よろしく頼むぜ」

「チッ! あぁ、こちらこそアル!」

 神楽だけが不機嫌になりつつも、沖田から差し出された手を掴み、手慣れたように固い握手を交わしていく。一見腐れ縁を匂わせている二人だが……その本心は互いに恨みや怒りを溜め込んでいる。

(どう仕掛けるか、しっかり覚悟しとけよ。チャイナ……)

(どう晒すか、油断はするなよ。ドS!)

 表面の態度とは裏腹に、心の中では真っ黒な本音を呟いていく。如何に相手を陥れるか――腹黒な性格が共に現れていた。その殺伐とした雰囲気から、キリト、シリカ、リーファも二人の本心に気付き始めている。

「本当にアレは握手なのでしょうか……」

「悪だくみしているのが、丸わかりな気がするわ……」

「神楽ってもしかして、沖田さんに何か恨みでもあるのか?」

 こちらも一つのチームとして、この先の活動に不穏さを漂わせていた。新妖精チームもこれまた、癖の強い面々が集まっている。

 こうしてチーム決めは思わぬ結末を迎えて、いよいよ本番であるフレンドラリーが幕を開けようとしていた。

「ゴリラ、何とかしてって!!」

「リズ君……落ち着け」

 未だにリズベットは取り乱しているが……




 こんなチームワークバラバラで本当に大丈夫か!? 書き上げた時にふと思ってしまいました。個人的にはリズベットが不憫で仕方ないです……(自分で書いておきながら)
 訳ありなチームで、次回からこのラリーを回っていきます。(「上限五人までならキリトと女子四人で組めるじゃん」と言わないでください。多分アスナが許しませんから……)

 結構久しぶりにコラボ小説を書いたので、中々まだ調子が上がっていません。キャラ描写に気を遣いすぎたせいか、いつもの遅筆に拍車がかかってしまいました。(汗)
どうにか勘を取り戻せるように頑張ります……


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第四十八訓 呉越同舟なんて実際耐えられない

前回までのあらすじ
 かぶき町で開催されるイベント、「かぶき町フレンドラリー」のチームを巡って、シリカ、リズベット、リーファ、シノンの女子4人は、キリトと一緒のチームになるべく躍起になっていた。話し合いの末にようやくチームが決まったが……運営側のミスによって、チームは解消されてしまう。それどころか万事屋や真選組も巻き込んで、まとまりそうにないチームへ変えられてしまった。果たして万事屋チーム、真選組チーム、妖精チームは、無事にイベントを乗り切れるのだろうか?



「――えー、それではみなさん。今日はしっかりとルールを守って、怪我無くこのラリーを楽しんできてください。では、かぶき町フレンドラリー……これより開幕致します!!」

〈ピー!!〉

 説明を終えた大会のスタッフは、笛をよく鳴らして、参加者にフレンドラリーの開始を告げた。各チームは配布された地図を眺めて、指定された場所まで歩き始めている。

 再度フレンドラリーのルールを確認すると、目的地はチームごとに異なり、合計で三つのエリアを周回しなければならない。そこで簡単なゲーム、いわゆる試練を達成することでスタンプを獲得できる。それを三つ集めて、公園まで戻ってくれば、豪華な景品と交換できるのだ。

 およそ三十あるチームが動き始める中で、万事屋の六人はチームと再合流する前に、互いに声を掛け合っている。

「それじゃ、銀さん。ユイちゃんのことを頼むわよ!」

「分かってらぁ。お前らもしっかりと頑張れよ」

「任せるネ! キリと一緒にあのドS野郎に、立ち向かってみせるアル!」

「って、神楽さんは趣旨が変わっていますよ!」

「……まぁとにかく、混合チームでも一丸となって頑張ろうな」

「そうですね。では、行きましょうか!」

 一行は覚悟を決めて、二人一組でチームの元に戻っていった。銀時とユイは、土方、シノンのいる万事屋チーム。キリトと神楽は、沖田、リーファ、シリカがいる妖精チーム。新八とアスナは、近藤とリズベットが待つ真選組チームと別れていく。この一癖もあるチームメンバーと共に、フレンドラリーを周回するのだ。

 すると真っ先に、行動を始めたのは万事屋チームからであった。

「よし! 全員集まったし、俺についてこい! 遅れるんじゃねぇぞ!!」

「って、なんでテメェが仕切ってんだよ! そもそもいつリーダーを決めたんだ!?」

「はぁ? チーム名を思い出してみろよ、万事屋チームだろ! だったら自動的に、俺がリーダーに繰り上がるんだよ! 覚えておけよな!」

「どこのルールだ、ソレ!? 勝手に決めつけるな! せめて指図は止めろ!!」

「いいや! 万事屋に入ったからには、てめぇは下っ端から始めろ! もちろんユイやシノンよりも、階位は下だけどな!!」

「意味分からねぇよ!! ていうかシノンは、万事屋にすら入ってねぇじゃねぇか!!」

 しかし早速トラブルが起こってしまう。横暴に振る舞う銀時の態度に対して、土方は不満げに文句をぶつけてきた。元々相性の悪い二人の対立は、ほんの少しのきっかけでも再燃してしまう。新チーム発表後も収まらず、互いに相手を睨みつけて口喧嘩を始めていた。

 そんな二人を目の当たりにして、チームメンバーであるユイとシノンは、苦い表情で呆れかけている。

「また二人共、喧嘩を始めたんですか……」

「もう仕方ないわね……ちょっと荒っぽいけど、止めに行くわ」

「シノンさん……?」

 この事態を解消するべく、シノンが率先して強硬策に出ていた。背中に装備していた弓を構えて、腰元のホルダーから、先端に吸盤の付いたおもちゃ用の弓矢を二本ほど取り出している。そのままそれを弓へ装填して――

「ハァ!」

瞬く間に連続して発射した。彼女が狙った方向は、銀時と土方のおでこへ向けられている。

〈スッ!〉

「「……えっ?」」

 そして綺麗に命中すると、二人は弓矢の存在に気が付き、揃っておでこから引き抜いていた。注意が弓矢に向き、喧嘩も途端に静まると、この隙を狙いシノンは説教を始めていく。

「いい加減落ち着きなさい、二人共。さもないと、本物の矢が飛んでくるわよ……? いいわね?」

「「は、はい……」」

 怒りを織り交ぜながら、にこやかな表情で注意を促してきた。まるで妙や月詠といった銀魂系女子を彷彿とさせる叱り方である。おかげで銀時、土方共に、肝が冷え切って落ち着きを取り戻していた。

「シノンさん、マジかっこいいです!!」

 大人げない男を制裁するシノンの姿に、ユイも目をキラキラとさせて、憧れを抱き始めている。もはや彼女が、万事屋チームのまとめ役に成り代わっていた。

「ふぅ……それじゃ、さっさと出発するわよ!」

「はいです!」

「「お、おう……」」

 さり気なくチームを仕切りつつ、女子を先陣にして公園を出発していく。こうした一悶着も収まり、万事屋チームの長い一日が幕を開いた。

 一方で真選組チームでは、新八とアスナがリズベットに用心深く気遣っていた。

「ところで大丈夫なの、リズ? もう落ち着いたかしら?」

「まぁ、何とかね……未だに受け入れがたいけど」

「凄いショックの受けようですね……」

 彼女はチーム変更のショックを引きずり、表情も暗く染まっている。よっぽどキリトと同じチームになりたかったようだ。落ち込むリズベットに、新八とアスナが宥め続けていると――またもタイミングが悪く、近藤が介入してくる。

「ハハハ! また気分が落ち込んでいるのか!! だがリズ君、安心してくれよ! 男手ならば、この近藤勲一人で事足りるからな! じゃんじゃん頼ってくれていいぞ!」

 場の雰囲気を変えようと明るく接しているが、今の彼女にとっては逆効果に等しい。本心をいまいち理解せずに、的外れな一言を呟いていた。この言葉がリズベットに、突飛な怒りを芽生えさせてしまう。

「って、そのお節介が余計なのよぉ!!」

「ブフォォ!?」

 怒りの表情へと一変させて、彼女は近藤の頬を目掛けて、またもビンタを繰りだしている。もちろん本人は攻撃を受けて、地面へ叩きつけられていく。さらにリズベットは続けて、近藤の胸ぐらを掴むと感情的に文句をぶつけてきた。

「またアンタは怒られたいの!? さっきアレだけ言っておいて、アタシの乙女心を理解できていないとはどういう事よ!! そんなんだから、お妙さんにも全然振り向いてもらえないのよ!!」

「わ、分かった……頼むからこれ以上は揺らさないでくれ」

 数分前にも見た二人のやり取りである。近藤の厚かましいお節介により、リズベットにはぶつけようの無い怒りが、徐々に高まっていた。そんな二人を見て、新八とアスナは思ったことをそのまま呟いている。

「もしかして、リズさんと近藤さんってものすごく相性が悪いんじゃ……」

「そうみたいね……。近藤さんの性格から、リズとイマイチ噛み合っていないわよね」

「本当にこのチームで大丈夫なのかな?」

 共に苦笑いを浮かべながら、再びチームの行く末に不安を覚えてしまう。二人の相性の悪さから、不安がより拍車をかけていた。

 結局真選組チームは、リズベットと近藤の争いが落ち着いたところで、ようやく第一地点まで足を進めている。果たしてこの先、上手くまとまるのだろうか?

 そして妖精チームも公園から出発する準備を始めていた。

「それじゃ出発する前に、まずはリーダーを決めておきたいんだが……手短に多数決でいいか?」

 キリトが場を仕切りつつ、チームメイト達にリーダー決めを呼び掛けている。すると早速、女子陣が堂々と声を上げてきた。

「はい、はーい! リーダーはキリトさんでお願いします!!」

「私も賛成よ! よろしくね、お兄ちゃん!」

「じゃ私も乗っかるネ。ドS野郎よりも、キリの方が安定しているからナ!」

 シリカとリーファは喜んでキリトを推薦して、神楽も二人の意見につられていく。この結果には当の本人も、若干驚いていた。

「えっと……沖田さんはどうなんだ?」

「俺も同意見ですよ。どうせこんな票数になると、思っていやしたから。リーダーの座は黒剣さんに任せやすよ」

「さっきから、呼び方が安定してないんだが……」

 沖田も場の空気を察して、すんなりとキリトを指名している。

 一方で彼だけは、キリトへの呼び方が一斉定まっていなかった。さらには、シリカらにもその傾向がみられている。

「よし、だったらもう行きやすよ。発情妖精にチビ猫耳に焼きチャイナも、ついてきてくだせぇよ」

「って、沖田さん!? 発情妖精って私の事!?」

「チビ猫耳って、そんなにアタシ幼くないですよ!!」

「おい、てめぇ! 焼きチャイナってなんだぁ!? 完全に適当に付けやがったナ!!」

 確信犯の如く小馬鹿にした呼び方に、女子達は揃って文句を発していく。特に沖田へ警戒心を高めるリーファや神楽は、人一倍怒りを露わにしていた。ほんの一瞬で一触即発な雰囲気となり、キリトは慌てて仲間達をなだめていく。

「まぁまぁ、みんな落ち着いて。沖田さんも挑発は止めとけって。同じチームメンバーなんだから」

「はいはい、分かりやしたよ。それじゃ、気を取り直して行きやしょうや」

 事は大きくならずに済んだが、やはりシリカらの沖田に対する敵意は高まっている。

「まったく……沖田さんってば!」

「これだから、あの人は好きにならないのよ! お兄ちゃんの前で発情だなんて……」

「妙に合っているところが、ムカつくアルナ……」

 折角キリトと同じチームになったシリカ達も、沖田の存在によって、喜んだままではいられなかった。一層警戒心を高めて、今後の動きにも注視していく。

 早々に波乱が起きた妖精チームも出発して、遂に主要三チームのスタンプ周回が始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 ここからは第一地点に向かう各チームの様子を、順々に見ていこう。

 まずは万事屋チームからだ。女子陣を先頭にして銀時ら二人がついていく中で、会話では男性陣の仲の悪さに注目が集まっている。

「そもそもなんで、銀時さんと土方さんはとても仲が悪いんですか?」

「そうよ。ちょっとしたことで喧嘩するなんて、むしろ友人っぽく思えるんだけど」

 シノンとユイが不思議そうに質問を投げると、銀時と土方は落ち着いた態度で自分なりの答えを返していた。

「そんなの、相性の問題に決まっているだろ。こいつと出くわす度に、ロクな事しか起きてねぇからな」

「同じくだ。その証拠に今も、同じチームに入れられているからよ」

 ため息混じりに話して、簡潔に相性の問題だとまとめている。意見の一致した二人の返答を聞き、ユイはすぐに独自の解釈を広げていた。

「えっと、つまり……喧嘩するほど仲が良い兄弟のような関係という事ですね!」

「って、いや全然違ぇよ!?」

「おい、ユイ!? 変な誤解をするなよ!? こいつと兄弟なんて、真っ平ごめんだからな!!」

「それはこっちの台詞だ、バカヤロー!」

 なんと彼女は満面の笑みで、兄弟に似た関係性だと揶揄していく。当然だが銀時と土方は、ムキになって即座に反論している。誤解を与えぬように、共に必死をかいていた。

「フフ……やっぱり似ているわね。二人って」

「「いや似てねぇよ!!」」

「そう否定しなくても、いいんですよ!」

「なんでてめぇらは、温かい目で笑ってんだよ!? そういうからかいは、もう十分なんだよ!!」

 どちらも似たような反応であり、ユイとシノンはおかしさからか、ついクスッと笑みを浮かべている。垣間見えた二人の関係性を、少しずつ察したようだ。銀時や土方は否定しつつ弁解を続けるが、幾ら言おうとも印象は変わらないだろう。

 万事屋チーム全体の距離は、会話を通して徐々に縮まっていく。(銀時と土方を除く)

 

 その一方で逆に、距離を置かれているのは真選組チームである。

「ゴリラは絶対許さない……」

 二度も近藤に気持ちを踏みにじられたリズベットは、終始しかめっ面で彼を睨み続けていた。しかもアスナの背後から顔を覗かせており、距離を取りつつ恨みを積み重ねていく。

 もちろん当の本人も、この事態には気付き始めていた。

「アレ? 俺ってもしかして、嫌われている……?」

「もしかしなくても、そうですよ! アンタの励ましが、リズさんにヘイトを買っているんですって!」

「何!? だからお妙さんにやった時と、同じく拒絶の反応だったのか……」

「なんでこの人は、同じ過ちを二回も繰り返すんだ……?」

 自身の不器用な対応が仇となったが、実は以前にも妙に対して、同じような励ましを彼はかけていた。当然これも失敗に終わり、今回と同じく仕打ちも受けていたらしいが。近藤の余計なお節介さには、新八も呆れてツッコミすら枯れる始末である。

 そんな男性陣の会話の近くでは、女子陣の会話が静かに続けられていた。アスナの背中を盾にするリズベットに、彼女は寄り添いながら説得している。

「リ、リズ……もう私を盾にしなくても大丈夫じゃない?」

「いいや、アスナ! もうちょっとだけお願い! どうしても近藤さんだけは、受け入れたくないのよ! あの人、乙女心を何だと思っているのよ……!」

「うん……確かにそうよね」

「って、アスナ君まで!? お願いだからもう許してくれって!!」

「これは長く続きそうですね」

 依然としてリズベットの近藤に対する印象は、まったく変わっていない。彼女の赤裸々な主張には、アスナも反射的に頷いている。おかげでこのチームの近藤の立場は、ほぼ皆無に等しかった。真選組チームも、段々と雲行きが怪しくなっていく……

 

 そして妖精チームでは、不思議な事が起こっている。

「いやーそれでですね。大量の隊士が歯向かってきたんで、一発で全て蹴散らしてやったんですよ。あの時は結構ギリギリでしたねぇ……」

「壮絶な経験が沖田さんにあったのか……俺も多人数を相手に戦ったことなら、何度でもあるよ」

「アレは何回斬っても、キリがないですけどね」

「その気持ちは少し分かるな」

 なんと沖田とキリトが過去の戦いを話のタネにして、会話を展開させていた。どちらも戦闘に自信があり、そこで培った出来事を話している。そのせいか、共に表情も楽しそうに見えていた。

 おかげで割を食ったのは、会話する機会を失ったシリカとリーファである。

「まさかのキリトさんが、沖田さんと話が弾んでいます……!?」

「会話のジャンルは違うけど、戦闘スタイルで結構盛り上がっているの?」

「案外相性が良いアルかもナ。年も近いから、すぐに距離を縮めているアル」

 彼女達は男子達の後ろをついていくだけであり、会話に割り込む隙すら無い。(ちなみに神楽は沖田の楽しそうな表情が気に入らず、そこだけ不満を抱えている。)

 それでも諦めずに、男子達の会話を盗み聞きして様子を見たが――

「最近だと音楽プレイヤー入りの刀が、値段を落としているんですよ。もっと挙げるなら、掃除用具付きとか孫の手付きとか」

「そんな刀があるのか!? 一体どこで売っているんだ?」

「あんまり大きい声で言えやせんが、地下都市アキバでね――」

マニアックな刀の話に移り、余計に介入するタイミングを失ってしまった。

「全然会話に入れる隙がないんだけど……!」

「そもそも何の話をしているんですか!?」

「まったく分からないネ……」

 思わぬ沖田からの妨害を受けて、中々イベントを楽しめていないリーファらである。

 数々の変化をもたらして、一行はいよいよ第一地点へと到着していく。

 

 

 

 

 

 フレンドラリーにおけるスタンプの入手には、いくつかの条件がある。地図に示された地点まで向かい、そこで待つ主題者からの試練を達成すれば、一つを獲得できる。しかも場合によっては、主題者次第で試練の難易度も変わっていく仕組みだ。

 イベント開始から既に数十分が過ぎた頃、各チームは第一の目的地へと辿り着いている。まずは刀鍛冶屋前にやって来た、真選組チームから様子を見ていこう。

「ここが第一地点みたいだけど……」

「刀鍛冶屋ってことは、鉄子さんが主題者なの?」

 到着するなりリズベットらは、この地点での主題者を探している。目の前にある刀鍛冶屋から、店の主人である村田鉄子だと予測していた。隈なく辺りを見渡していると――

「その通り。ご名答だよ」

「あっ、鉄子さん!」

鍛冶屋の中から本人が姿を現している。彼女は穏やかな表情で、真選組チームへと話しかけてきた。

「まさか最初の挑戦者が、リズ達だったとはね。驚いたよ」

「それはこっちも同じよ。鉄子さんもイベントに参加していたなんてね」

「密かに町内会から頼まれていたんだよ」

「そうだったのね」

 特に鍛冶屋繋がりで、関わりの深いリズベットと会話を交わしていく。二人の関係性は仲間達にとって周知の事実だが……近藤のみ改めて知らされている。

「えっ? リズ君と鍛冶屋の嬢さんって、知り合いだったのか……?」

「知り合いというか、師弟関係よ。リズは元々、鍛冶が得意分野だし」

「そ、そうだったのか!?」

「って、今更知ったんですか!?」

 彼女の内情を聞き入れて、彼はより大袈裟に驚いていた。(補足を入れると、真選組一行はSAOキャラとの関わりが少なく、思わぬ場で新情報を知ることも多い。故にこの反応は普通である。)

 そんな事情はさておき、鉄子は早速主題者として試練の概要を解説している。

「よし、それじゃここでの試練を紹介しておくよ。みんなも裏に回って!」

 チームを誘導させて店の裏側まで移動させると、そこには白い布で覆われた巨大な物体が姿を見せていた。

「これは巨大なオブジェか?」

「いいや、違うよ。日頃の鉄くずから作り上げた、アタシの遊び心さ。フレンドって名前が付いたら、これをやるしかないでしょ!」

 そう言うと彼女は、意気揚々と布を剥がして、チーム一同に製作物を披露していく。その正体は――

「名付けて第一アトラクション! ウォー〇クラッシュだ!!」

「いやそれ、あの番組のヤツ!? 伏せ字使っている時点で、パクってる気満々だよ! ていうか、アトラクション名を言われても、読者には伝わっていませんよ!?」

まさかのバラエティパロディである。これには新八も、反射的に激しいツッコミを次々と繰り出していく。

 製作物の全貌は、主に二種類へと分けられている。細長い通路が敷かれており、その先にはトランポリンと壁が設置されていた。壁の高さは約四メートルあり、表面には10~50の点数が両端に刻まれている。もちろんこの仕掛けは、某ゲームバラエティ番組を彷彿とさせていた。

 出オチ感がある製作物だが、鉄子は気にせずに試練の解説を続けていく。

「あぁ、そうだったね。実はこの製作物、東京フレンドパー〇のコーナーからパクっ……借りたものであって――」

「今自供しましたよね!? 完全に確信犯ですよね!?」

 しかしツッコミに我慢できなくなったのか、あっさりと番組名を口にしてしまった。若干だが動揺しており、一応罪悪感はあるらしい。

 そんな最中で、アスナやリズベットはある違和感を持ち始めている。

「東京フレンド〇―ク? どこかで聞き覚えがあるような……」

「結構昔にやっていたバラエティ番組よね? シーソーでボールを動かしたり、ホッケーで勝負したり」

「あっ、それよ! また随分と懐かしいわね……」

「って、二人共知っていたんですか!? SAOの世界でも、〇レンドパークって放送していたんですね!?」

 なんとも番組名を聞いて、薄っすらと昔の記憶が蘇ったようだ。似たような番組が、SAOの世界でも放送されていたようで、思わぬ偶然が重なり合っている。元ネタが通じ合う珍しい場面であった。メンバーごとに反応は違ったが、左右されずに鉄子は三度解説を再開させる。

「とにかく、ルールはあの番組の通りだよ。通路を走って、トランポリンで勢いよくジャンプ! 壁に捕まって、書かれている点数の累積で合否を判断するよ。参加人数は二人で、計百二十点を目標にしてね。ちなみに頂点にある「CLEAR」に届けば、即合格だよ」

「ルールまで原典に忠実なんですね……」

「ちなみにアスナとリズは、羽の使用は禁止ね。チーム全体の公平性を守りたいから。降りて来る分には大丈夫だけど」

 大まかなルールを伝えて、真選組チームに参加を促す。壁の高さに比例して、点数配分も高くなっているので、運動神経が必要視される試練であった。チーム一同は慎重になって、参加する二人を決めていく。

「ということは……身長、体格共にぴったりな俺の出番だな! 頂点まで登り切って、さっさと試練を終わらせてやるぞ!」

「はいはい。それ以上言うとフラグが立つから、止めておきなさい」

「って、リズ君はまだ塩対応かい……」

 チーム内の評判を変えようと名乗り出た近藤だが、未だにリズベットからは、冷たい言葉をかけられている。それでも試練との相性は良く、すぐに選出が決まった。残りは後一人である。

「ではもう一人は、誰に行きましょうか?」

「じゃ、アタシがやっても良いかな? あの壁に昇るヤツを、一度だけ体験してみたかったのよねー!」

「へぇー意外ね。それじゃ、リズと近藤さんで決定するわね」

「この二人で、本当に大丈夫かな……?」

 試練に興味のあったリズベットが挙手して、速やかに選出が決まっていた。近藤との相性が不安ではあるが……ひとまずは任せてみることにする。

 その後二人は、壁に触れる粘着性の手袋を取り付けて、装備していた刀や盾も下ろしていく。体を身軽にして、事前準備を整えていた。

「よし、準備は完了だ! いつでも登れるぞ!」

「って、近藤さんは勝手に落ちないように、気を付けなさいよ!」

「分かっているさ。どんと俺に任せておけって!」

「そんな大口叩いて、大丈夫なの?」

 高い自信を持つ近藤の態度に対して、リズベットは皮肉を交えて注意を入れている。彼はこの試練に全力を懸けており、チーム内の評判を上げようと躍起になっていた。

(汚名返上とまではいかないが、せめてきっちり活躍して、リズ君達の印象を変えよう! そうすればいずれ、お妙さんの評価も上がる! 今だ勲! 男を見せつけろ!!)

 回りくどい考え方だが、リズベットらに男らしさを見せて、妙への相対評価を上げようと企てている。内心でそう呟くと、近藤はやる気に満ちた表情で通路に上がっていった。

「それじゃ、行くよ!」

〈ピィー!〉

 仲間達が見守る中、鉄子の持つ笛が勢いよく場に響いていく。試練の幕開けと同時に、彼は真っすぐと通路を走って、助走をつけている。

「オリャャャ!!」

 真剣な眼差しで、ひたすらに頂点だけを目指していた。そして――

「ハッ!」

トランポリンを利用して、勢いを付けたジャンプを繰りだす。近藤の伸ばした手は、頂点に描かれている「CLEAR」をいともたやすく掴んでいた。

「よし、掴んだ!!」

「えっ?」

「おっ!?」

 と誰もが勝利を確信した時である。

「アレ……? ギャャャ!!」

〈ドス!!〉

 なんと彼はうっかりと手を滑らせてしまい、垂直に落下してしまった。一瞬の隙が油断を誘い、本末転倒な結末を迎えている。これには仲間達も唖然としてしまう。

「こ、近藤さんんんん!? 何やっているんですか!? きっちりフラグ回収をしないでくださいよ!?」

 案の定新八のツッコミも激しく決まっていた。一方で女子陣二人も、この結果に思わず不満を抱いてしまう。

「何やってるのよ、あの人は。さっきまでの大口はどこへ行ったの……」

「うーん。これだと一回目は失敗かな。リズだけで頂点を取らないと、難しいかもね」

「そんな……もう! 近藤さんってば!」

 残念ながら鉄子からも失敗扱いされてしまい、合否の行方はもう一人の挑戦者であるリズベットへ委ねられている。仲間達の怒りも余計に高まるばかりであった。

 その落下した近藤も、自身の失態を重く受け止めている。後ろめたさから顔を俯かせて、体も丸く収めていた。そして心の中ではそっと後悔を悟っている。

(やばい……汚名返上どころか、余計に泥を塗る結果に。この後俺はみんなに、どう顔を合わせればいいんだ……穴があったら入りたい)

 精神的なダメージに加えて、落下した時の痛みも襲い掛かり、二重の意味で苦しんでいた。未だに心は立ち直っていないが、状況を受け入れて、ひとまずは新八らの元へ戻ろうとしている。

「仕方ない。一旦戻るか……って、アレ?」

 だがしかし、またも予想外なことが起きてしまう。落下による衝撃のせいか、彼は壁とトランポリンの間にすっぽりと挟まれてしまった。中々抜け出すことが出来ず、思わぬ危機に直面している。

「どうしたんですか、近藤さん?」

「いや、抜けないんだ! 体が隙間に挟まって、ここから出られないんだよ!」

「えっ、そうなの!? どうにかして、抜けられないの?」

「全然……人の手が必要かもしれん……」

 このトラブルは、仲間達にもようやく伝わっていた。試練の失敗に続き、手間を増やす近藤の所業に、一行は情けなさをも感じる始末である。

「また何てトラブルを起こしてんのよ……」

 ただでさえ近藤への信頼が薄いリズベットも、これにはもうお手上げ状態であった。気難しい表情から、彼女の本音が垣間見えている。

 それでも気持ちを抑え込み、今は新八やアスナと言った仲間の為にも、試練の攻略について真剣に考え始めていた。

(結局アタシに全てが懸かっているのね……この壁をどう攻略すれば――あっ、そうだ)

 すると彼女の脳裏には、とある打開策が思い浮かんでいる。体を丸めて挟まっている近藤の姿から、彼を起点にしたある奇策を考え付いていた。

「よし、これならいけるかも!」

「リ、リズ? 一体どうしたの?」

「とっておきの作戦が思いついたのよ! これなら、どうかしら……」

 テンションを高くしながら、彼女はアスナや鉄子らにも自身の考えを説明していく。この会話する様子は、隙間に挟まっている近藤も密かに察していた。

「えっ、何!? 俺にも教えてくれ……って、聞こえない!」

 しかし体を丸めている分、会話の内容はほとんど聞き取れていない。彼が戸惑っている間にも、話は既に終わっていた。

「どう、鉄子さん? これって違反にはならないかしら?」

「まぁ、大丈夫だと思うよ。羽さえ使わなければ、こっちから言う事は何も無いから」

「でもこれで、本当に勝算はあるの?」

「任せなさいって! どうにか勝ち取って見せるから!」

「……じゃ、ここはリズさんの作戦で行きましょうか」

 よっぽどの自信がある為か、リズベットの口調も強気に変わっている。仲間達や鉄子からも了承を得たところで、彼女はいよいよ試練へと進んでいった。意気込んで通路に上がると、ひとまずはうずくまる近藤に向かって、あるお願いを伝えていく。

「ねぇ、近藤さん! お願いがあるの! このまま体を丸めたまま、アタシの踏み台になってくれるかしら?」

「ふ、踏み台!? そんな虐げを俺が受けるのか!?」

「違うわよ!! アンタが代わりに、トランポリンとしてサポートするのよ! いわゆる共同作業よ、分かったわね!?」

「えっ?」

 やりたいことを全て言い切ると、彼女は深呼吸を交わして集中力を高めている。

 リズベットの立てた作戦は、近藤をトランポリン代わりにして、跳躍を補うものであった。サポート込みで壁の頂点を目指すという、傍から見れば無茶苦茶な手法である。それでも彼女は土壇場での可能性を信じて、これまで毛嫌いしてきた近藤に希望を託していた。

「共同作業……と言う事はここでも挽回するチャンスが!? その為にも俺がトランポリンになればいいのか。ならば、受け入れようじゃないか!」

 すると当の本人は、俄然としてやる気が戻っている。断片的な会話でもすぐに内容を理解して、自身の役割を受け止めていた。仲間達の信頼を取り戻す為に、その情熱を再び燃やしていく。

 そして慈悲深くも見えるリズベットの行動だが、彼女の本音はまるで意味が違っている。

(これなら成功しても失敗しても問題ないわね! 気持ちも楽になったし、後は近藤さんに半分丸投げしちゃおう!)

 そう実は、試練に失敗した時の保険として、近藤に協力を持ち掛けていた。形だけを取り繕って、彼と責任を分散する手法をこなしている。もちろん成功することに越したことはないが、いざという時の布石を張っていた。おかげで表情も明るく戻って、気持ちも楽になっている。

 この隠された本音は一斉仲間達に明かしていないが、二人は薄々とその真意に気付き始めていた。

「リズのこの作戦って……近藤さんも巻き込んでいるわよね」

「そういえば……あっちは好感度を気にしているから、それを上手く利用したってことかな……?」

「どっちにしろ、結構巧妙に考えられているわね……」

「近藤さんが気付いていないのが幸いですよ……」

 何とも言えない表情となり、リズベットと近藤の絶妙な協力関係に、つい声を詰まらせてしまう。それでも彼女の立てた作戦を今は信じて、成功することを祈っていた。

 仲間達の信頼を回復するために、トランポリンの代打を務める近藤。チームの命運を背負わされた腹いせに、協力という名の責任分散を行うリズベット。二人の作戦を信じて、見守っているアスナと新八。長くかかってしまったが、いよいよ全ての命運がここで決まる!

「じゃ、行くよリズ!」

「OK! しっかり仕事しなさいよ、近藤さん!」

「お、おう!」

〈ピィー!〉

 再び鳴り響いた鉄子の笛の音と共に、リズベットは勢いよく通路を走り出す。目の前のトランポリンではなく、丸まっている近藤に向かい、気合を込めたジャンプを繰りだした。

「ハァァァァ!!」

 真剣な表情でまずは彼の背中へ乗っかると、

「オリャャ!!」

「行ぇぇぇ!!」

近藤は意図的に体を緩ませて全体で突起を作り、乗っかるリズベットを上へと持ち上げていく。時間にして僅か二秒ほどの出来事である。その反動で彼女は再びジャンプして、頂点を目指して両手を大きく伸ばした。その手の行く先は――

「……アレ? えっ、これは……」

なんとギリギリで頂点を掴んでいる。紛れもない「CLEAR」の文字が、はっきりと目の前で見えていた。そう、作戦は見事に成功を収めたのである。

「おめでとう、リズ! 見事合格だよ!」

「おぉー! やりましたね、リズさん!!」

「時間はかかったけど、成功したわよ!」

 試練の成功を目の当たりにして、地上にいる仲間達からは歓喜の声が湧き上がっていた。思わぬ逆転劇により、みな驚きを隠しきれていない。もちろん本人も、同じように驚嘆している。

「えっ……本当に掴んじゃったの!?」

 困惑気味の表情となり、未だに成功したことを疑っていた。作戦が功を奏したのか、それとも気持ちが楽になったからか、その理由は未だに自身でも理解していない。

「良かったな、リズ君! 君の作戦のおかげだよ!」

 真下では協力してくれた近藤が、同じように成功を祝ってくれていた。恐らくだが近藤の思わぬ力が働いたと、彼女はそっと予測している。いずれにしても、文字通り勝利を掴んだことに間違いはなかった。

「まぁ……成功したし、別にいっか!」

 「終わりが良ければ全て良し」の通りに、リズベットも自身の成功を率直に喜んでいく。こうして頂点まで登った彼女は、その後羽を使って無事に地上へと降りて行った。

「それとみんなー! いい加減に俺を救い出してくれ……!」

 同時にずっと挟まっていた近藤も、ようやく救い出されている。何はともあれ、真選組チームの第一関門は無事に突破できた。

 

「スタンプはしっかり押したよ。よく頑張ったね、次の試練も必ず合格しなさい!」

「分かっているよ! じゃ、ありがとうね鉄子さん! 楽しかったよ!」

 地図の裏側にて念願のスタンプを押してもらい、真選組チームは鉄子に感謝を伝えつつ、刀鍛冶屋を後にする。残る二つのスタンプを目指して、次なる地点まで向かい始めていた。

 そんな中で近藤は仲が深まったと思い、リズベットに快く話しかけている。ちなみに彼女の近藤に対する印象は、試練を通してもそこまで変わってはいない。

「いやー俺とリズ君のおかげで、無事にスタンプをゲット出来たな!」

「って、アンタ忘れたの!? そもそも失敗なんかしなきゃ、簡単にゲット出来たんだからね!」

「そこはもう許してくれって……!」

「ったく、さっきの作戦だって一か八かの賭けだったし、本当に成功なんてびっくりしたからね!」

「そうなのか……? と言う事は、俺はその賭けに勝ったということか! なんて豪運なんだ!」

「どんだけアンタはポジティブなのよ!?」

 前向きに解釈を続ける彼の姿に、リズベットは不満げにも激しいツッコミを繰り出していく。先程までの試練を通じて、二人の間には友情とは違った情が芽生え始めている。相性の良しあしではない、少々変わった関係に落ち着いていた。

「リズさんと近藤さんも、段々と打ち解けてきましたね」

「さっきの試練はどうなるのか不安だったけどね……意外に二人共、気が合うのかしら?」

「いやいや、相性は悪い方だと思いますよ。それでも力を合わせられる関係性じゃないですか?」

「フフ、そうかもね」

 後ろからついていく新八もアスナも、二人の関係性をそっと見守っている。思わぬ縁を紡ぎながら、フレンドラリーの一日はまだまだ続いていく……

「リズ君、頼む! この俺の雄姿をお妙さんに伝えてくれ!」

「どこまで調子に乗ってるのよ!! いい加減にしなさい!!」

 

 




 ここで各チームのこだわりについて紹介します。
 まずは万事屋チームから。銀時と土方の鉄板の組み合わせと、シノンとユイの共演数の少ない二人で成り立っています。特に銀時とシノンは前に共演しているので、あえて二人を組ませました(笑) 女子の方が頼りになるチーム編成ですよね。
 続いては真選組チームです。近藤と新八の多少の因縁がある二人と、アスナとリズベットの旧友二人の組み合わせです。リズベットはこのチーム変更で特に被害を受けているので、リアクション重視で描きました。近藤とは意外に相性が良いのかも……いや、気のせいですね。新八とアスナはどちらかというと、ツッコミポジションです。
 最後は妖精チームです。念願が叶ったリーファとシリカに対して、またも対立を露わにする神楽と沖田が特徴的です。キリトはどちらかと言うと、巻き込まれている方ですね。リーファも沖田に因縁があるので、喜んでいる暇は無さそうです。
 どれもバラエティに富んだチームで、まずは真選組チームが一つを突破しました。次回は万事屋チームと妖精チームの試練をお送りします。二回目の勝負は、ダイジェスト形式になるかもしれません。
 もしも個人的に気に入ったチームがあれば、コメント等で教えてください! では、また次回!







次回予告
近藤「さぁ、久しぶりの次回予告だ! 余すことなく完璧に伝えるぞ、リズベット君!」
リズ「ていうか、なんでアタシと近藤さんなのよ!? どう見ても、ミスマッチでしょ!」
近藤「ミスマッチ!? ならば……お妙さんとならベストマッチと言う事か!?」
リズ「なんでもかんでも、お妙さんに繋げるな!!」
近藤「次回! 思わぬところで、絆は芽生えてくる!」
リズ「芽生えるかぁぁ!!」


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第四十九訓 思わぬところで、絆は芽生えてくる

 ……みなさんお待たせいたしました。リーファ、柳生九兵衛と誕生日ラッシュが続く中で、ギリギリ投稿できました! かぶき町フレンドラリー篇、三回目をどうぞご覧ください。




前回までのあらすじ
 いよいよ始まったかぶき町フレンドラリー。チームワークもほぼ皆無なメンバーと共に、各チームはスタンプ入手の為に、第一関門へ向かっていた。真選組チームは相性の悪い近藤とリズベットが奮闘して、鉄子の試練を達成している。そして今回は、万事屋チームと妖精チームの挑戦から話を進めていこう。



 真選組チームが果敢に試練へ挑戦していた頃。時を同じくしてキリト率いる妖精チームの面々は、地図に記されていた第一関門へ到着していた。その場所は高層のビルが周りに立ち並ぶ、比較的都市部に近いエリアである。現在五人は歩道の脇におり、改めて場所の確認を行っていた。

「えっと、ここで合っているのか?」

「恐らくそうですねぇ。後は近くにいる主題者を、探し出せばいいんだが……」

「一体どこにいるアルか?」

 すると彼らは、このまま試練の説明役である主題者を探していく。だがしかし、辺りを見渡しても、それらしき人物は見つけられなかった。

「まったくいる気配が無いんですけど」

「この場所で本当に合っているのね?」

 事が上手くいかずに、シリカやリーファは早くも不安を悟ってしまう。もどかしさを感じながら、チーム内でも焦りが生まれていた――そんな時である。

「フッ、大丈夫よ。間違いないわ」

 ビル同士の隙間に繋がっていた裏路地から、唐突に野太い男性の声が聞こえてきた。乙女口調が特徴的であり、一行は咄嗟に気配を察していく。

「えっ、今の声って……」

「まさか後ろから?」

「この奥に主題者がいるのか?」

 特にキリト、シリカ、リーファのSAO組三人は、聞き慣れていない声に警戒心を高めている。

 一方で神楽と沖田は、声を聞いた瞬間にある知り合いを頭に思い浮かばせていた。

「おいドS。この声って……」

「間違いなくアイツでっせ」

 共に一人だけ心当たりがあり、自信良く断言までしている。神楽だけは複雑そうな表情を浮かべていたが。

 それはさておき、遂に噂の人物が一行の前に姿を現してきた。

「あら、いらっしゃい。この私が、たっぶりと教えてあげるわ……!」

 裏路地からゆっくりと姿を見せたその正体に、キリトら三人は思わず体が固まり、驚嘆としてしまう。何故なら……目の前にいるのはゴリゴリの女装男性だからだ。

 大柄な体型を包み込む赤い着物に、しっかり整えられた銀髪の髪結い。口元には濃い髭を残しつつ、薄く赤い口紅を塗っている。一言では語れない個性の塊のような人間であった。

 この強烈な見た目には、三人も恐れおののいた反応を露わにしていく。

「キャャャャャ! 変態!!」

「どうしよう、完全に不審者だよ! お兄ちゃん、助けてって!!」

「お、落ち着けって! 俺もこの類を見たのは初めてで、どうすればいいのか分からないのだが……」

「って、アンタ達失礼ね! 私はれっきとした乙女よ! 勝手に変態扱いしないでちょうだい!!」

「乙女……あぁ、そういう設定か」

「おい、小僧! 茶化すのも大概にしろや!!」

 大袈裟に拒絶したキリトらの応対に、女装男性の方も我慢が出来ず、一瞬だけ素に戻ってしまう。場は悲鳴や怒号が飛び交う、ちょっとした混乱状態へと陥ってしまった。

 そんな中で女装男性は、キリトらの後ろにいた神楽や沖田の存在に気付き始めている。

「ん……? なんだ、アンタ達もいるのか。と言うことは、この妖精みたいな天人も連れってことかい?」

「そうアルよ。右からキリにシリ、リッフーって言うアル。かぶき町に来たばっかりの妖精ゲーマーネ! 覚えておくアル、西郷のおっさん!」

「おっさんじゃねぇ! 綺麗なお姉さんと呼びな!」

 彼女は手慣れたように、神楽と冗談を交えて会話を交わしていく。その親しげな様子から、シリカらには再び衝撃が走っていた。

「えっ? 神楽さんって、もしかしてあの人と知り合いなのですか?」

「うん、そうネ。あのおっ……お姉さんは、西郷特盛って言うオカマクラブのオーナーアル。結構万事屋でもお世話になっている、かぶき町の重鎮アルよ!」

「西郷特盛……隆盛じゃないんだな」

 神楽からの返答で、ようやく明かされた女装男性の正体。それは、かぶき町四天王の一角である西郷特盛であった。多くのオカマ達を配下に従えているクラブのオーナーで、かぶき町における重要人物でもある。まさかラリーの主題者として現れるとは、沖田らも予想はしていなかった。

 もちろんキリトらとはこれが初対面だが……詳しい人物紹介をされても、近寄りがたい印象に変わりは無い。むしろ本名を知ったことで、より深い衝撃を受けている。

「あの人がこの世界の西郷隆盛なのですか……」

「信じられないわ……真選組よりも原型がないじゃん!」

「お前等ショック受けすぎだろ。というか、俺達の方が原型あったのかよ」

 偉人特有の印象が覆って、何とも言えない気持ちに苛まれてしまう。ショックを受ける女子陣だが、キリトも同じような想いを感じている。

「やはりこの世界の人達は、一癖も二癖もありすぎるな……」

「そんなのはもう当たり前アル。私みたいな宇宙人がいる時点で、ぶっ飛んだ世界に変わりは無いからナ!」

「そ、そうだよな……」

 自信満々な神楽の一言を聞き、彼もつい返す言葉を見失ってしまう。ここ最近は意識していなかったが、別世界故の相違を改めて思い知っていた。

 そんなSAOメンバーに強烈な印象を与えた西郷本人は、彼らの反応を一斉気にせず、本題である試練の説明に入ろうとしている。

「ふん。いつの間にかかぶき町にも、ファンシーな奴等が住み着いていたとはねぇ……まぁ、いいさ。色々と言いたいこともあるが、まずは試練の方からさっさと始めようか。私の説明をよーく聞きな!」

 チームに呼びかけていき、自身の注目が集まると話を始めてきた。

「いいかい、ここで図るのは着こなしだよ! この裏路地に試着室があるから、私と同じようにとびっきりの和服姿に着替えてきなさい! ただし……女装した男に限るよ! 女共はメイクなりでサポートして、男を上玉美人に染め上げてきなさい!」

「着こなしか……って、えっ!? 女装!?」

「そうきやしたか……」

 意気揚々と伝えた試練内容を聞き、男子陣は思わず耳を疑ってしまう。そうこれは、西郷の趣味を意識した女装がテーマの試練であった。当然妖精チームではキリトと沖田の二人が該当する為、とんでもないとばっちりを彼らは受けている。共に苦い表情となって、この事態を受け入れられずにいた。

 一方で女子陣の三人は、発表と同時にある作戦を思いつき、小声のまま揃って話し合いを始めていく。

「あの二人の女装なら、美少女くらいには出来そうじゃない?」

「キリもドSも、顔だけは中性的アルからナ」

「ここはアタシ達の出番ですよ。存分に二人を可愛く見せましょう」

 意外にもこの試練に肯定的であり、男子陣を可愛く仕立てることに心を一致させていた。思わぬところで団結力を高めている女子陣。その表情もやる気に満ち溢れている。

「さて、制限時間は十五分だよ。合否の判断は私で決めるから、さっさと着替えてきなさい。異論は一斉認めないよ。じゃ、スタートだよ!」

 そして反論する隙を与えずに、西郷は強制的に試練を開始していく。唐突に制限時間まで告げており、男子陣により強いプレッシャーを与えていた。

 もちろんだが、二人はこの試練に納得などしていない。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな急に女装しろって言われても……」

「こっちの気持ちも読み取って欲しいですけどね」

「そ、そうだよな沖田さん! ほら、神楽達からも言ってやれって!」

 特にキリトは思いっきり動揺しており、沖田や仲間達に対して同意を求めている。勢いに乗っかって、神楽ら女子陣にも意見を聞いてみたが――

「いいや、全然。むしろ似合う方じゃないアルか~!」

「……はい?」

煽りを含ませた返答で流されてしまった。一瞬にして場の空気は変わり、女子陣はみな面白がるような笑顔を、ちらほらと浮かばせている。そして、男子陣に向かって好意的に女装を勧めてきた。

「ほらほら! 早く行きましょうよ、キリトさん! アタシ達がとびっきり、可愛くしてあげますから!」

「ちょ、ちょっと!? まさかみんな、乗り気なのか!?」

「いいや、そんなことないよー。ただお兄ちゃんを、可愛く着飾りたいだけだからー!」

「いや、絶対乗り気だろ! 待ってくれ、まだ心の準備が―!!」

 困り果てているキリトの様子を楽しみながら、シリカとリーファの二人は、彼の腕を掴み拘束したまま試着室へと向かわせていく。女子ならではの悪ノリにまんまと乗せられてしまい、キリト本人はようやく彼女達の思惑を察している。抵抗も虚しく、ただ空気を読んで状況を受け入れるしかなかった。

 さらには沖田も、神楽から存分に煽りを入れられてしまう。

「フフフ、さぁドS! 私と一緒に行くアル! 思いっきり女装させて、トシやゴリラにその写真をバラまいてヤルネ! ヒヒヒ!!」

「おい、野望がダダ漏れだぞ。どこまで俺を貶めたいんだ……」

「これが私なりの倍返しアル!!」

「いや、それ古いぞ」

 高ぶった気持ちが収まることは無く、彼女は調子に乗った挑発を続けている。これには沖田も、自然とイライラを募らせてしまう。しかし場の空気を察しており、すんなりと女子達の意向に従うことにした。

「さぁ、ついてくるネ! 総子ちゃん!」

「チッ……後で覚えておけよ」

 こうしたやり取りもあって、妖精チーム最初の試練は、男女間の温度差が鮮明に露わとなっている。

「フッ、意外にも女がやる気だったとはね……これは初っ端から面白くなりそうだわ」

 試練の主題者である西郷も、女子達のノリの良さには、つい期待を寄せていた。今からでも男子陣の女装を、彼女は楽しみに待ちわびている。

 

 

 

 

 

 

 ビルに囲まれた裏路地にある試着室にて、繰り広げられる女装の着こなし。否が応でも着物を着用したキリトと沖田は、後の着付けやメイクをすべて女子陣へ委ねている。限られた時間の中で彼女達は、男子を可愛くするために全力を注いでいた。ノリノリな神楽らとは相対して、キリトら男子のテンションは下がり続けている。

「これはどうでしょうか?」

「うん、いいわね! このロングヘアーのウイッグでいこう!」

「もう勘弁してほしいんだが……」

 中々強気には出られずに、リーファ達の思うままに女装させられるキリト。ウイッグやかんざしまで付けられて、まるで着せ替え人形のように好き放題されていた。

「おい、どうするネ? 性転換した時と同じく、胸の方も盛るアルか?」

「そんなこだわり、いらねぇよ。着物だから、貧乳でもいいだろうが」

 一方の沖田も終始不機嫌なまま、神楽に女装の準備を施されている。こちらも小道具などを使い、準備万全と言ったところだろう。

 そして……指示通りに十五分が経った頃。

「はい、時間だよ! 男共はさっさと晴れ姿を私に見せなさい!!」

 ちょうどよいタイミングで、西郷が集合をかけてきた。妖精チームの方も、既に仕上げの方を整えている。

「ほら、行ってきなよ!!」

「とってもお似合いですから!」

「やっぱり、恥ずかしいんだが……」

「なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねぇんだ……」

 満面の笑みで送りだそうとするシリカらに対して、キリトや沖田は恥じらいを感じてしまい、外に出ようとはしなかった。決心が付かないために、ここで神楽が強硬手段へと移っている。

「もう、じれったいアル! エイ!」

「うわぁ!? 神楽!?」

「おい、お前!?」

 力一杯二人の背中を押して、強制的に試着室から追い出していた。咄嗟の不意打ちにより、男子陣の女装が遂に西郷の元へさらけ出てしまう。

「ほぉ……これは」

 その出来栄えの良さに、彼女は思わず見とれてしまい、つい感心してしまった。

 男子陣の女装を細かく見てみると、色合いを重視していることが伺える。キリトは光沢のある黒と紫が織り交ざった着物をまとって、かんざしも藍色と控えめな色を使用していた。黒髪ロングのウイッグまで被り、中性的な女性を前面に披露している。(かの有名なGGO編のアバターと、その姿は酷似していた。)

 一方の沖田は、相対的に明るい色で全身を着飾っていた。朱色の着物を着こなし、丁寧にもメイクまで施されている。サイドテール型の茶髪ウイッグまで被らせて、大人っぽい女装へと変身していた。(こちらも性転換篇における沖田の女体化、総子と容姿がほぼ酷似している。)

 女子陣の頑張りによって、見事な女装を披露したキリトや沖田であったが――本人達の心に残ったのは、満足感ではなくただならぬ後悔の念である。

「だから俺は嫌だっていったのに……」

「仕方ねぇですよ。あの場で逆らうのは、自傷行為ですから。女共は悪ノリで浮かれているし、西郷の前で断ろうものなら、ロクな目にあいやせんからねぇ……」

「そんな……結局は運負けしたってことか……」

 避けられなかった運命だと思い知り、キリトの心はさらに落ち込みを増していく。数分前のチーム入れ替えと言い、今日のキリトはとことん運がなかった。沖田共々苦い表情を浮かべて、時が過ぎるのをじっと待っている。

 そして気になる西郷の判定はと言うと――

「良いわね、二人共。このままウチの店に出ても、問題ないレベルよ。文句なしで合格にしてあげるわ!!」

目立った指摘も無く大いに絶賛されて、あっさりと合格していた。

「イェーイ! 私達の大勝利ネ!!」

「流石はキリトさんです! 女装でも強かったんですね!」

「沖田さんの方も中々だったわよ! めっちゃ、可愛いよ!!」

 当然ながら裏で頑張っていた女子陣は、一段と盛り上がり、この合格を喜んでいる。みなハイタッチを交わして、喜びを分かち合っていた。

 一方の男子陣も合格だと聞き、一応だが一安心はしている。

「合格か……素直に喜んでいいのかな、これは?」

「西郷が言ってんだから、問題は無いですよ。さて……やることは終わったし、撮られる前にさっさと着替えやしょう」

「とられる……って、まさか!?」

 だがしかし、一息など付いている暇は無かった。彼らにはまた新しい危機が、ゆっくりと近づいている。

「西郷さん! もしカメラを持っていたら、貸してもらえますか!?」

「カメラ? って、あの子達を撮るのかい?」

「そうアル! キリ子や総子の晴れ姿を、アッスーや銀ちゃんにも伝えたいからネ!」

「だからカメラを貸してください!」

 そう、次なる女子陣の企みは写真撮影であった。他の仲間達と共有するために、証拠として彼らの女装写真を残そうとしている。西郷からカメラを借りると、このままキリト達の元へ向かっていた。

「って、この姿で撮るのか!? ちょっと待って……沖田さんは!? って、いない!?」

 ようやく気が付いたキリトであったが、時すでに遅い。近くにいた沖田は既に試着室へと戻っており、場には自分しか残されていなかった。すなわち、女子達の格好の餌食である。

「アレ? キリトさんしかいませんよ」

「あの野郎、先に戻りやがったな……まぁ、いいアル! 代わりにキリを写真に収めればいいネ!」

「さぁ、お兄ちゃん! 覚悟してね!」

 一足行動が遅かった故に、周りを女子達で取り囲まれてしまう。こうしてキリトの健気な女装姿が、写真として残されることになった。

「――も、もういじるのはやめてくれー!!」

 悲痛なる彼の叫びが、路地裏から響き渡っていく。引き続きキリトの運の無さが、より拍車をかける結果となった。今日一日は、やっぱり不憫である。

 そして一足逃げた沖田はと言うと、

「ふぅー危なかった。危機一髪だったぜ」

試着室にて既に隊士服へ着替えを終えていた。キリトを置いてきたことに、彼は何の罪悪感も覚えていない。いつも通りの腹黒さを露わにしている。

 こうして妖精チームの試練は、結局波乱のままで幕を閉じた。撮影を終えてからスタンプを無事貰うと、一行は次なる場所へと足を進めている。

この後の会話でもキリトらがいじられるのは、もはや言うまでもないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 そして残すは、万事屋チームの初試練である。彼らも地図を頼りにして、主題者のいる第一関門まで足を進めていた。そこで待ち続けているのは――

「あっ、お登勢さん。最初のチームがやって来たよ」

「やっとかい……って、銀時じゃないか。初っ端からアイツと、顔を合わせることになるとはねぇ……」

エギルとお登勢のスナックコンビである。二人は自身の店の前にて、今日一日主題者として、イベント参加者を待ち構えていた。

 そして遠目から見えた通りに、銀時ら万事屋チームがスナック前へと到着していく。

「あっ、目的地はここですよ!」

「ようやく着いたか……って、ババァ!? 主題者って、お前かよ!?」

「何を今更驚いているんだい。さっさと気付け、この天然パーマ」

 辿り着くなり銀時は、お登勢と不意に顔を合わせて、反射的に驚いてしまう。彼女からはまたも、軽口で返されてしまったのだが。ここで一行は、ようやくお登勢らが主題者であることに気付き始めていた。

「それと俺もいるんだけどな」

「エギルさん! と言うことは、お二方が試練の主題者ということですね!」

「最初はスナックお登勢組が、相手なのね……」

 同じく近くにいたエギルも、ユイらへ向けて気さくに声をかけている。万事屋チームの中でも、銀時、ユイ、シノンの三人は、お登勢やエギルと親しい関係を築く間柄だが――唯一土方だけは、そのどれにも当てはまっていなかった。さらには、

「スナックお登勢……って、あんな格闘家みたいな奴もあの店にいたのか?」

「格闘家? あっ、エギルのことを言っているの?」

「エギル……あぁ、あの男のことか。そんな名前だったのかよ」

「……はい?」

思わぬ事実がここで発覚してしまう。彼の噛み合っていない反応の通り、エギルと真選組のメンバーが出会ったのは、これが初めてであった。この事実にチームメンバーも、つい驚嘆としてしまう。

「もしかして、エギルさんと会ったのも初めてなのですか?」

「まぁ、そうだな。というか、アイツってお前らの知り合いなのか? にしては、やけに妖精っぽくねぇけどな」

 ユイらが聞けば聞くほど、土方のしっくりきてない返答が返ってくる。驚きのあまり女子陣が言葉を詰まらせていると、ここで銀時が煽りを含めた文句をぶつけてきた。

「おいおい、土方君。勘弁してくれよ。剣魂が始まって二年近く経つのに、SAOのメンバーを覚えていないとは、とんだ恥さらしだぞ。ユイやシノンも反応に困っているし、ここは彼女達や読者に向けて、土下座でもした方がいいんじゃないか? いやむしろ、やった方が良いと思うぞー」

「何をお前は強要しているんだ!? さり気なく俺に、謝罪を促すじゃねぇよ! そもそも知らない奴がいるのも、ほぼ客演の都合じゃねぇか! そんな文句を言う暇があったら、真選組の出番をもっと増やしとけよ! コノヤロー!!」

「そこは俺じゃなくて、投稿者に言っておけよ」

「急な正論もやめろー!」

 憎たらしく言いたい放題に言う銀時に対して、土方もツッコミを交えて強気に対抗している。仕舞いには出番等のメタネタに変わり、エギルの件は置いてきぼりになっていた。

「また喧嘩が始まっちゃいました……?」

「何やってんのよ、あの二人は。ここは私がまた止めに――」

 とまたも対応に困ったユイとシノンは、やむを得ず仲裁に入ろうとした時である。

「いいや、心配ないよ。エギル、さっさとあのバカ共を止めな」

「あぁ、分かったよ。お登勢さん」

 唐突にお登勢が指示を加えて、エギルが代わりに喧嘩の仲裁へ入っていた。その方法とは、

「……とりゃぁぁ!!」

「ん? ギャャャ!?」

「ブフォォォ!?」

単純な力づくで止めに入っている。まんま二人の間に割り込んでいき、自慢の腕力を使って、相手を近辺の壁まで吹き飛ばしていく。強引なやり方だが、これで喧嘩はあっさりと収まっていた。

「す、凄いわ……」

「流石エギルさんです……」

 久しぶりに見たエギルの怪力さに、ユイらも改めて感心している。

「ウチに来てからも、暇さえあれば鍛えていたからねぇ。これで迷惑な客たちも、一網打尽にしたものさ」

「まぁ、俺にも目標が出来たからな。その為にも鍛えているのさ」

 お登勢からも一役を買っており、普段の生活でも存分にこの力を発揮しているようだ。(ちなみにエギルの目標だが、腕相撲で神楽やたまに勝つことらしい。若干無謀な気もするが……)

 それはさておき彼は、吹き飛ばされた銀時や土方の様子も伺っている。

「さて、銀さんに真選組の方も大丈夫か? 頭の方は冷えたかい?」

「……頭どこか、肝の方が冷えたわ」

「上手くねぇんだよ……むしろ壁にぶつかって、熱くなってんだよ」

 互いに体のダメージを負っているが、そこまで重いものではない。対抗心は収まったものの、立ち直るには少しばかり時間がかかりそうだ。

 だがこれでエギルの力自慢な印象は、土方の心にも深く残ったであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、喧嘩を止めてから数分が過ぎ去った頃。

「じゃ、改めてよろしくな。土方さん」

「あぁ、こちらこそな。関わることは、滅多に無いと思うが」

「そう言うなって。気楽に仲良くしていこうじゃないか」

 遠回りとなってしまったが、遂にエギルと土方は握手を交わして、知り合いとなっていた。一ヵ月越しだがこれで、エギルの存在も真選組に知られていくだろう。この珍しい光景には、チームメンバー達も思わず新鮮味を感じている。

「男同士の新しい友情の誕生ですね!」

「それにしても、意外な組み合わせよね」

「関係性はほぼ皆無だけどな。精々ぶん殴られないように、気を付けておけよ!」

「だからお前は、煽りを入れて来るな!!」

 次々と呟いていく中で、やっぱり銀時だけは一言文句が多かった。すかさず土方の、反射的なツッコミも決まっていく。良くも悪くもやはり、二人の方が距離感は近いようだ。そんな挨拶も終えたところで、ようやくお登勢は主題者として、この試練の説明を始めていく。

「まぁ、距離が縮まったなら何よりだよ。それはそうと説明に入るから、アンタら聞き逃すんじゃないよ」

 注意を添えた上で、彼女はエギルと共に本格的な話を進める。

「いいかい……ここでは通称M叩きに挑んでもらうよ」

「M叩き? って、そもそも何なの?」

「まぁ、簡単に言うとモグラ叩きだな。ハンマーを使ってポイントを稼ぎ、一回分当てると一ポイント。合計で百ポイントまで溜めれば、スタンプを一つ上げるよ。ただし! そんじょそこらのモグラ叩きとは、訳が違うぞ! それは、やってみると分かることだけどな」

 二人から告げられたのは、謎のゲームであるM叩きであった。モグラ叩きと似たようなものらしいが、エギルの意味深な言葉や表情から、何かしら裏があるのは間違いないだろう。万事屋チームは一斉に、この怪しげな雰囲気を察している。

「一体どんなゲームなのでしょうか……?」

「怪しさダイマックスじゃねぇか。ババァの事だし、得体のしれないモンが飛び出てくるに違いねぇぞ」

「さぁ、どうだかねぇ……ちなみに参加者は二人までだが、途中で交代しても構わないよ。制限時間は三分までだから、そこだけには気を付けておきな」

 内容には一斉普及せず、お登勢は最低限のルールだけを伝えていく。

 この試練を一通りまとめると、制限時間はあるが自由に交代も出来るルールで、仕組みはモグラ叩きと酷似したモノであった。確実にポイントを稼ぐ正確性も求められるので、チームワークも必須になってくる。

 ひとまず万事屋チームは、この説明を踏まえて先発の人選を始めていく。

「まぁ、モグラ叩きと似たようなもんなら、深く考えなくてもいいだろ」

「疲れたら交代できるからな。じゃ、誰からやってみるか?」

「では、最初に私で良いですか? 状況を判断して、銀時さん達にバトンタッチするので」

「じゃ、私も行こうかしら。男子達の体力は最後まで残した方がいいからね」

 すんなりと話は通っていき、先発はユイとシノンの女子コンビに決まっていた。彼女達の作戦は、終盤に男子陣へ交代する方式である。制限時間も少ないので、如何に交代を決めるのかが重要であった。

「なんならいっそのこと、あの二人だけでポイントを稼いでもいいんだけどな~」

「……って、男としてのプライドがお前には無いのかよ」

 しかし銀時だけは、呑気にも他人任せな一言を呟いている。その表情もどこかお気楽そうに見えていた。これには土方も、辛辣なツッコミを彼にかけていく。

 マイペースすぎる銀時はさておいて、ユイら女子陣の方では早速M叩きへと臨んでいる。

「さて、まずはアンタらでいいのかい?」

「はい、お願いします!」

「よし。じゃ早速、このハンマーを持ってくれ。そしたら店の前にある、ダンボールの手前に立ってもらえるか」

 やる気が高まっていく中で二人は、おもちゃのハンマーを手にして、エギルの言う通りにダンボールで出来た筐体前に移動していた。この装置は手作り感溢れているが、くりぬいてある十五個の穴からは、何かの気配がそっと潜んでいる。より一層の注意を払いつつ、ユイとシノンは徐々に覚悟を決めていった。

「大丈夫ですよ。いざという時は、銀時さんと土方さんもいますから!」

「そうね……。ここは楽しくやりましょう、ユイ」

「はいです!」

 気配に恐れることは無く、女子達は互いに声を掛け合って緊張をほぐしていく。度胸の強い二人にとっては、何のことでもない。真剣な表情に移り変わったところで、いよいよ試練への幕が開いた。

「それじゃ行くぞ……よーい、スタート!」

 エギルの掛け声で始まっていき、その瞬間に穴へ潜んでいた何かが姿を現していく。その正体は――

「ハッハッハッ!! この俺様を倒せるなら、倒してみろよ!! ガキ共!!」

「って、長谷川さんかよ!? 何やってんだよ、アンタ!? Mってそういう意味だったのか!? マダオの意味だったのかよ!?」

「いきなりなんてモンが飛び出てきてんだぁ!?」

モグラ役に扮した長谷川泰三である。そう、M叩きの正体は無職及びマダオのイニシャルであるMから取られていた。呆気ないネタバラシに、銀時らのツッコミもより激しさを増していく。

「って、長谷川さんが飛び出してきましたよ!?」

「しかも、この人……動きが早い!?」

 一方で女子陣もこの正体に驚きつつも、冷静にモグラ叩きの如く長谷川を瞬時に狙っている。だがしかし、彼の素早い動きを中々見抜くことは出来なかった。

 その間でも長谷川は、万事屋チーム一行にここまで至った経緯を、ハンマーからかわしながら説明している。

「エギルの頼みでこの仕事を引き受けたんだよ! 子供達を喜ばせるために、俺が一役を買っているってことだ!」

「いや、子供泣かしにしか見えねぇよ!? 本気でハンマーから、避けているじゃねぇか! どんだけ当たりたくねぇんだよ!?」

「おいおい、この試練とんでもねぇぞ! 初っ端から難易度高くねぇか!?」

 あくまでも子供達のことを想って、モグラ役を引き受けたらしいが、そのやり方は配慮もへったくれもない。意地でもハンマーから当たるまいと、容赦のないスピードで次々と攻撃を避けていく。おかげでユイやシノンは、思ったままに当てることが出来ず、早々に苦戦を強いられてしまう。

「全然当たりませんよー!?」

「この人……なんて速さなのよ?」

 反射的に動いてもかわされてしまい、行動を先読みしても外されてしまう。攻撃を与えた回数は目標の半分にも満たず、彼女達の体力はより削られてしまった。その表情もかなり疲労している。

「さて、残り時間は一分半だよ。このままだと、合格自体は難しいかもねぇ」

 そんな最中でお登勢は、残りの制限時間をチーム一行に告げていた。彼女が時間と獲得ポイントを測っており、合格への難色を同時に示している。

 ユイやシノンの方も、体力の限界やチームの危機を悟ったところで、咄嗟に後続の銀時と土方へ交代を促していく。

「ハァ……銀時さん!! バトンタッチです!」

「私も……! 後は頼んだわよ、土方さん!!」

 まるでリレーのバトンのように、彼女達はハンマーを男子陣へ渡している。残り時間一分弱のところで、万事屋チームの命運は彼らに託されていた。

「ったく、仕方ねぇな。ここは俺達で反撃するか!」

「最初から無職に敗北されちゃ、黙ってなんかいねぇよ。ここは任せておけ」

 途端に二人は目つきを鋭くさせて、表情も真剣さを極めていく。

女子達から繋いだ期待を背負い、素早く避け続ける長谷川に敵対心を燃やしている。多くの想いを重ねた男達の逆転劇が、今まさに始まろうとしていた。

「次は銀さん達が相手か……それでも俺は手を抜かんぞ!」

 依然として長谷川は、止まらずに高速で穴から穴へ移動を続けていく。残り時間も少ない中で彼も、一気にラストスパートをかけていた。しかし――

「ハァ! トウ!」

「セイヤ!」

出てきたところに同時で叩かれてしまった。さらには別の穴へ移動しても、先読みされてしまい、またも連続で攻撃を浴びてしまう。

「グハァァ!? 先を読まれているだと!?」

 思わず動揺をしてしまう長谷川に対して、銀時らは攻撃の手を緩めずに、攻め続けたまま返答していく。

「長谷川さんとは長い付き合いだからな! だいたいの動きは読めるんだよ!」

「それにな、こいつと反対の行動を取れば、お前の裏もかけて攻撃ができるんだよ。これで大量にポイントを狩ってやるぜ」

 知り合い故に動きを見切っていた銀時と、不意打ち要員として獲物を逃がさない土方の攻撃的な姿勢に、彼はまんまとはめられてしまう。おかげで自身の動きも鈍ってしまい、後半からみるみるとポイントを稼がれてしまった。銀時らは共に爽快さを感じており、楽しげな表情でM叩きへ挑んでいる。

「す、凄いです……お二人共」

「力を合わしただけで、あそこまで活躍できるのね……」

 後半からの一方的な攻撃には、仲間であるユイやシノンも圧倒されていた。男子陣の隠れた底力及び、意外なチームワークについ見入ってしまう。

「ほぉー。中々やるじゃないか、アイツら」

「あの素早い長谷川さんを、たった数秒で攻略するなんてな」

 主題者のお登勢やエギルも、みなと同じように感心していた。勝利の風向きは万事屋チームへと向いており、彼らは勢いに乗ったまま長谷川を狙い続けている。

 そして、制限時間まで残り僅かとなった頃。

「これで……仕舞いだ!!」

「ハァァ!!」

 二人の渾身の一撃が長谷川へ当たり、時を同じくして試練もちょうど終了を迎えていた。

「はい、終わりだよ! アンタら!」

「ハァハァ……やっと終わったか……」

 お登勢の合図と共に、モグラ役の長谷川はやっと一息を付いていく。三分間で高速移動を何回も積んでおり、彼も体力的には限度を超えていた。

 一方の銀時と土方は、激しく動いた反動で息切れをしながらも、点数及び結果について気にかけている。

「ふぅ……おい、どうなったんだよ。点数は」

「さぁな……おい、エギル。結局何点を取ったんだよ?」

 さり気なく土方は、エギルらへ点数を聞いてみた。

「あぁ、点数か。お登勢さん、万事屋チームは合格したのか?」

「言われなくてもしているよ。あんだけ必死になれば、合格しない方が無理は無いよ」

「だってさ。とりあえず……良かったな、みんな!」

 その返答は……文句なしの合格である。後半からの巻き返しが点数に響いており、無事に目標までに辿り着いていた。この結果を聞き、誰よりも喜びの声を上げたのは女子陣の方である。

「やりましたよ、シノンさん! 銀時さん達のおかげで、合格ですよ!」

「なんとかやり切ったわね。それにしても、あの二人って意外に相性の方はいいのかしら?」

 無邪気にはしゃぐユイとは対照的に、シノンは冷静にそっと微笑んで喜んでいた。同時に彼女だけは、銀時と土方の意外なコンビネーションに興味を持ち始めている。

 そんな当の本人達だが、彼らも合格への一報を聞いて、達成感に浸っていく。

「まぁ、やったじゃねぇか。これでまずは、最初の試練をクリアしたぜ」

「ひとまず山場は越えたか……これも俺の攻撃のおかげだけどな!」

「はぁ、何言ってんだ? 俺の働きあっての合格だろ? 勘違いするなよ」

「勘違いはてめぇだろ。むしろ足しか引っ張って無かったじゃねぇか」

 土方、銀時と互いの声を掛け合う中で、その雲行きは段々と怪しくなっていく。自身の手柄にこだわり続けるあまり、一斉譲り合おうともしてはいない。故にほんの食い違いから、またも対抗心が再燃してしまった。

「おい、いい加減にしろお前! 折角サポートについてやったのに、なんだその態度は!? フォローしたこっちの身にもなれよ、ゴラァ!!」

「なんだと、てめぇ! そういうお前こそな、サポートって言う割には、何回もぶつかってきたじゃねぇか!! アレが無けりゃ、もっと点数を取れていたんだぞ!」

「もう合格しているから、別にいいだろうが!!」

「何をー!!」

 さっきまでの爽やかそうな雰囲気とは一変して、二人は激しい口喧嘩を三度再開してしまう。共闘中に起きた文句や嫌味も交えながら、あっという間に対立を深めていく。

 もはやお馴染みの光景であり、シノンら仲間達は思わず呆れ果てていた。

「また喧嘩なの……折角いい感じで終わりそうだったのに」

「でも、いいじゃないですか。喧嘩するほど仲が良いって、ママが言っていましたよ! だから、銀時さんと土方さんも本心は仲が良いんですよ!」

「まぁ……そうだといいけどね」

 今後の対応に困る彼女とは異なり、ユイだけは呑気にも軽く受け流している。後者だけはこの展開に慣れ始めており、特に焦っている様子も無かった。

「ヤレヤレ、またアイツらは喧嘩かい」

「どうする、お登勢さん? また俺が止めに行くか?」

「いや、激しくなってからでいいよ。さっきの二倍の力で、止めてきな」

「二倍か……分かったよ」

 一方のお登勢とエギルも、手慣れたように対策だけは打っている。先程の力づくな止め方でも、特に問題は無いようだ。

 最後こそグダグダな結末になった万事屋チームだが、試練を達成したことで、お登勢らからは無事にスタンプを受け取っている。男同士の対立も女子陣が宥めながら、一行は次なる目的地へと向かっていく。

 

「……今度は無駄に頑張らないようにしよう」

 一方で忘れられていた長谷川は、未だに体力が戻らずに疲れて倒れている。初っ端から気合を入れすぎてしまい、彼は深く反省していた。ダンボールにこもって日陰を遮りながら、次の出番まで待ち続けていく。

 

 各チームが一つずつスタンプを獲得して、残すは後二つである。かぶき町フレンドラリーは、まだ始まったばかりだ。

 




 という訳で、かぶき町フレンドラリー篇も三回目ですが、いかがだったでしょうか? 格チームの変わった激闘が、伝わったのであれば何よりです。今回の大まかな流れでは、合格云々よりもそこに至った経緯に、注目していただけるとありがたいです。
 展開としては少し長引いているので、二回目の試練時だけはダイジェストでお届けしようと思います。なので最低でも、後二回くらいで終わる予定です……。
 それと言い訳になってしまいますが、最近ウイルスのせいでスケジュールが狂って、中々上手く作れていません。四月もこの話を含めて二回しか投稿出来なさそうなので、どうにか無理せずに頑張ろうと思います。
 読者の皆さんも体調には気を付けてください! では、また次回お会いしましょう!









真面目な話
 先日ですが、銀魂で服部全蔵役・SAOでゲーム版のPOH役を演じた藤原啓治さんがお亡くなりになりました。未だに亡くなったことが信じられません。言葉では表現しづらいショックを、私も引きずっています。
 ギャグ回やシリアス長篇も含めて、服部全蔵のキャラクター性は好きでした。もう二度とあの演技を見られないと思うと、胸が痛いです。
 いちファンの一人として、ご冥福をお祈りいたします。


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第五十訓 ラストスパートにOPが流れるのは当たり前!

 祝! 番外編を除いて、五十訓目を迎えました!! ここまで続けられたのも、皆さんのおかげです! 本当にありがとうございます!

 さて、三日分遅れてしまいましたが……続きをどうぞご覧ください。



 引き続き行われているかぶき町フレンドラリー。各チームは互いに力を合わせて、順調に第一関門の試練を突破している。

 それからは昼食休憩を挟みつつ、次なる関門へと向かっていた。芽生え始めていたチームワークを糧にして、新たなる主題者からの試練に挑んでいく。第二の試練に挑戦する各チームの様子を見ていこう。

 

 川辺にて催されているのは、たまとキャサリンの試練である。そこでは万事屋チームの四人が挑戦しているが、中々上手く出来ずに悪戦苦闘していた。その試練内容は――ピタゴラ装置の完成である。

「あっ。またビー玉が止まってしまいましたね」

「おい、何やってんだ土方! ちゃんと確認しとけよ、バカヤロー」

「うるせぇ! 結構合わせるのが難しいんだよ! しっかり分かれや!!」

 試運転中にまたもミスが発覚してしまい、思わず銀時のヤジが飛んでいく。

 この試練では予め設置されている未完成のピタゴラ装置に、数か所ほど手直しを加えて、完成させていく内容であった。ビー玉を使いゴールまで運ばせれば、晴れてクリアとなる。

 一見すると簡単そうだが、複雑な装置に未完成な個所と難易度はそれなりに高い。万事屋チームは何度も失敗してしまい、数十分ほど時間をかけてしまった。その苛立ちから、男子陣の対立がまたも浮き彫りとなってしまう。

「もう、銀時さんに土方さん! 後少しで完成しますから、喧嘩は止めてくださいよ!」

「そうよ。時間制限はないから、焦らずに見直せばいいのよ。もう少しの辛抱だから!」

 すかさずユイやシノンのフォローが入って、手慣れたように二人を宥めていく。もはやこのチームとしては、お馴染みの光景になっていた。

 そんなやり取りを続けている一方で、もう一人の主題者であるキャサリンが、厚かましくも二人にちょっかいを入れてくる。

「フン! ソウヤッテフラグヲ立テテイルコトニ、コノ時ノ彼ラハ知ラナイノデス!」

「おい、勝手にナレーションを入れるな!! 余計なお世話だわ!!」

 見下したような態度や表情に、土方のツッコミが激しく決まっていく。彼らの矛先は彼女へと向かい、銀時は皮肉を交えた文句をぶつけてきた。

「って、ウチの女子達とは偉い違いだな。そんなんだから、中々出番が貰えないんだぞ」

「ッテ、ヤカマシイワ! コッチダッテナ、猫耳キャラヲアノ女共ニ取ラレテ困ッテルンダヨ!! アタシノ誕生日回ヲ取ッタノ、今デモ忘レテネェカラナ!!」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいキャサリンさん。SAOの猫耳キャラはどれも可愛いので、立ち向かう方が無駄ですから。ねぇ?」

「ネェジャネェヨ! オメェ!!」

 立場が逆転してしまい、彼女はしかめっ面なまま本音を吐き出していく。同じ猫耳キャラであるシリカやシノンを目の敵にしており、それによる出番の少なさを気にしているようだ。見かねていたたまからも、思わず注意が入っている。

 彼女の隠れた想いに対して、ユイは率直に感じたことを呟いていた。

「そうだったんですか。キャサリンさんも、もっと若ければ対抗出来たと思うのですが……」

「って、さり気なく現実を突きつけてくるのね……」

 元も子もない一言を聞き、シノンは控えめな言葉で返している。久しぶりの天然発言が決まっていた。

 主題者とのトラブルがありながらも、万事屋チームの挑戦は続いていく。

 

 

 

 

 

 さらに吉原方面では、真選組チームの四人が試練へと挑んでいた。主題者は日輪と月詠であり、彼女達は審判を務める傍らでリズベット達を応援している。

「さぁ、後はもう一周だけよ!」

「時間はまだあるぞ。最後まで踏ん張るんじゃ!!」

 ちょうど目の前を通り過ぎたところで、彼女達は一声をかけていた。この四人が挑戦している試練とは、二人乗り自転車を使ったスピードレースである。

「ウォリャャャ! 後何分だ!? リズ君!?」

「もう後二分しかないよ! アタシ達だけだよ! 遅れているの!!」

「何を!? 負けて堪るか!!」

「って、スピード上げないでって!! また重りで転倒しちゃうでしょうが!!」

 前方にはハンドルを握ってスピードを調節する近藤がおり、後方ではリュック型の重りを背負いバランスを調整するリズベットがいた。それぞれが役割を分担させて、吉原歓楽街を自転車で周回している。

 この試練は二人乗り自転車を乗りこなして、指定のエリアを制限時間以内に三周する内容であった。速度を見極める前者と重りで全体のバランスを図る後者。それらを両立させるチームワークが重要な試練でもある。

 それにも関わらず、近藤とリズベットはまたも手を組んだが……案の定上手くはいっていなかった。

「右に曲がるぞ! リズ君、整えろ!」

「えっ、また!? って、もっと早く言いなさいよ!!」

 いまいち指示や行動が噛み合わず、苦戦を強いられている。おかげで同じく挑戦している新八やアスナと、だいぶ距離を遠ざけていた。ちなみに彼らの担当は、運転が新八、重りをアスナが務めている。

「近藤さんとリズさん、また揉めているみたいですね……」

「さっきまでは良い雰囲気だったのに……大丈夫なのかしら?」

「まぁ、何もないことを祈りましょう」

「そ、そうね……」

 走行中に聞こえてきたリズベットらの嘆きに、彼らはつい不安を覚えてしまう。ルール上仕方が無いとはいえ、またあの二人を組み合わせることに、ちょっとした後悔を悟っていた。

「あっ、ヤバい! コケる!?」

「はぁ!? 何を……ギャャャ!!」

「ご、ごめん!! リズ君!!」

「何やってんのよ!! このゴリラァァ!!」

 そう思ったのも束の間。再び二人にはトラブルが起こってしまう。一連の会話の様子から、恐らく誤って転倒したものだと思われる。リズベットの怒りの咆哮が、吉原中に響き渡っていく。

「結局大丈夫じゃなかったわね」

「やっぱり相性悪いのか、あの二人は……」

 この状況に何とも言えない気持ちになった二人だが、気にすること無くレースを続けている。

 真選組チームも懸命に頑張っている……はずである。

 

 

 

 

 

 

 そして、妖精チームの五人は柳生家にて試練を行っていた。主題者である九兵衛や東城の元で、次々とあるモノを斬りまくっている。

「ハァ!」

「セイヤ!」

「ホワチャ!!」

 キリトや沖田らは揃って竹刀を手に持ち、ワラで出来た的を狙い打ちにしていく。彼らのいる広大な庭園には、無数のワラの的が配置しており、これが試練にて大いに関係していた。

「さぁ、まだ当たりは出ていないぞ! 気を抜かずに次々と斬り続けてくれ!」

「そうですぞ! 勢いのまま行ってくだされ! 私のあの時の体験のように――」

「東城……!?」

「ヒィ!? な、なんでもありませぬ!!」

 不適切なネタを言いかけた東城に対して、九兵衛は睨みを利かせながら、威圧的に抑え込んでいく。

 そんな柳生家の一幕はさておき、ここでの試練は竹刀を使った当たりワラ探しである。庭一面に設置された約五百個あるワラのうち、たった一つだけ入っている「当たり」と書かれた札を探さなくてはならない。その為にチーム一行は、一丸となってワラを斬り続けている。ところが――

「って、全然出ないんだけど!?」

「この試練、数が多すぎますよ!!」

「なんでこうも出ないアルか!! ソシャゲのガチャじゃねぇんだよ!!」

数の多さから中々当たりを見つけられずにいた。先行きが見えない中、女子陣は早くも弱音を口にしてしまう。

 だが一方で、相対的にやる気が上がっていたのは、沖田とキリトである。共に竹刀を使いこなしつつ、互いを競うようにしてワラを斬り続けていく。

「ハァ! トワァ!」

「ヘイ、ハァ!」

 キリトは背中の翼を生かしたスピードのある技を。沖田は竹刀を身軽に使用して、ワラを仕留めていく技で挑んでいる。その様子はまさに、人間離れと言うに相応しいだろう。

「中々やるじゃねぇか。黒剣さんよ」

「そういう沖田さんもな!」

 一瞬の隙から生まれた会話でも、二人が互いを意識していることが伺える。表情はどちらとも、生き生きと爽快感に満ち溢れていた。体勢を整え直してから、三度彼らは行動を再開していく。

「何かあっちはあっちで、楽しそうにやっているネ」

「戦いってわけじゃないけど、お兄ちゃんと沖田さんって、共闘したら強いタイプなのかな……?」

「やっぱり意外すぎますって……」

 一連の様子を見ていた女子陣からも、つい驚きの声が上がっている。独自に距離を縮めていたことから、意外な相性の良さを察していた。折角の共闘する機会を彼に取られてしまい、シリカやリーファは少しだけ不満そうではあるが。

 こうして妖精チームも順調に、第二の試練へと挑み続けている――

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時刻が夕方に近づいていた頃。第二の試練を達成した各チームは、いよいよ三つ目に当たる最終試練の場所へと向かっていた。長かったフレンドラリーも、ようやく終わりが見えている。

 そんな中で一足先に辿り着いたのは、万事屋チーム一行であった。

「さて、ここが最終地点か」

「この空き地で行うのでしょうか?」

 彼らが今いるのは何の変哲もない空き地であり、その静けさが漂う怪しげな雰囲気から、みな警戒心を高めていた。

「最後だってのに、やけにしらけてやがるな。本当に合っているのか?」

「間違いないわよ。それにしても……主題者ってどこにいるの?」

 ひとまず辺りを見渡してみるが、主題者と思わしき人物は特に見つかっていない。物静かな様子から、ふと一抹の不安を覚えていた――その時である。

「よくきたわね! 最後の主題者は、この私よ!!」

 遂に噂の主題者が、目の前にて姿を現してきた。空中から舞い降りた正体は、一行がよく知るあの女性である。

「さ、さっちゃんさん!? ですか?」

「まさかこいつが主題者なのかよ!?」

「そうよ! 何か文句でもあるのかしら!」

 テンション高めに現れたのは、さっちゃんこと猿飛あやめであった。満を持しての登場に、彼女は気持ちを舞い上がらせている。その要因は銀時との再会も含まれていたのだが。

「あぁ、銀さんー!! こんなところで出会うなんて、もう運命を通り越して使命ね!! 試練なんてほったらかして、私と恋愛をしましょうー!!」

 彼と目を合わせた瞬間から、咄嗟に態度を豹変させていた。抑え込んでいた想いを爆発させて、勢いのままに飛び掛かっていく。ストーカーとしての片鱗を露わにしている。一方の銀時だが、もちろん迷惑にしか思っておらず、手慣れたように彼女を対処していた。

「誰がやるかぁぁ、ボケェェ!!」

「ブホォォォ!!」

 怒りに満ちた表情で、腰に携えた木刀を引き抜き、まるでバットのようにあやめを跳ね返していく。強硬手段を意地でも捻り潰す、銀時ならではの自衛策である。返り討ちにあった彼女は、悲鳴を上げたまま近場の壁へと叩きつけられていた。

「ハァ……結局襲ってきやがったか」

「って、銀さん!? あやめさんを跳ね返したけど、大丈夫なの!?」

 銀時の無茶苦茶とも言えるやり方に、不安を覚えたシノンだったが、ここで同じ万事屋の一員であるユイがフォローを加えている。

「いえ、何も心配はないですよ。さっちゃんさんが万事屋を襲撃するのは当たり前ですし、その度に銀時さんがあのように追い払うので、これはいつものことなんです!」

「そんな満面の笑みで言われても、いまいち理解出来ないんだけど……」

 屈託のない笑顔で説明していたが、シノンの不安が解消されることはなかった。あやめの襲撃に慣れた様子であり、むしろ心配が積み重なってしまう。この万事屋の不憫さに、土方もつい同情をしている。

「お前も苦労しているんだな。そこだけは理解してやるよ」

「あぁ、あんがとよ」

 銀時に向かって素っ気なく、一言だけを伝えていた。

 一方で吹き飛ばされたあやめだが、仕打ちを受けようとも一途な気持ちに変わりは無い。

「パファー! 今日も中々の痛さね……これも銀さんからの愛のムチだと思えば、何も怖くは無いわ!!」

「おめぇのそういう考え方が、一番怖ぇんだよ!!」

 痛めつけられることに興奮を覚えており、まったく反省の色は無かった。何度退けようとも懲りずに繰り返す、負のスパイラルが密かに成り立っている……。

 

 

 

 

 

 と一悶着も収まり、あやめは気持ちを入れ替えてから、改めて主題者として話を再開させていた。

「さて……気を取り乱したけど、ここからは試練の説明に入っていくわよ!」

「よくあれだけのことがあって、切り替えられるな」

 何事も無かったかのように進める姿勢に、土方はそっとツッコミを呟いている。彼の小言には気にもくれず、あやめは元気よく試練内容を伝えていた。

「まぁ、それはそれとして……この試練はずばりこれよ!」

「これって、空き缶ですか?」

 自信良く彼女が見せてきたのは、まさかの空き缶である。これを見て銀時や土方はある遊戯を思い出していたが、ユイやシノンはしっくりきていなかった。

「えっと……つまり空き缶をどうするのかしら?」

「もう、察しが悪いわね! 空き缶と来れば缶蹴りって、相場が決まっているでしょ! 子供の頃に遊ばなかったの?」

「いえ……私は初めて聞きますが」

「そんな遊びは、私も聞いた事が無いわよ」

「えっ?」

 そう。試練内容は缶蹴りだと判明したのだが、名前を言われても女子陣は微妙な反応しか見せていない。ユイは仕方ないにしても、シノンでさえも聞き覚えがないようだ。

「う、嘘でしょ……アンタ達の世界に、缶蹴りって浸透していないの!?」

「いや、驚きすぎだろうが。今のガキ達ですら、缶蹴りなんて早々やんねぇぞ」

「いわゆるジェネレーションギャップというヤツか。知らない方が当たり前だろうな」

 思わず衝撃を受けているあやめに対して、銀時ら二人は冷めた表情で辛辣なツッコミを浴びせている。年代による環境の変化や、別世界故の相違。様々な要因が重なり、ジェネレーションギャップは生まれていた。(壮大な気もするが、気にしないでほしい)

 そんな彼女の落ち込み具合を見て、ユイやシノンは心配してしまい、思わず気まで遣い始めている。

「そ、そう落ち込まないでください、さっちゃんさん! 知らないだけで、興味はありますから!」

「むしろ私達に教えてくれないかしら? 今後の人生に役に立つかもしれないし」

「そうですよ! だからお願いしますね!」

 彼女を慰めながら、缶蹴りへの興味を存分に示していた。すると……言葉が効いたのか、あやめはたちまちと元気を取り戻している。

「そ、そう? じゃ、私が一から教えてあげようかしら!」

 あっと言う間に態度を一変させると、早速二人へ向けて缶蹴りへのルールを教えていた。分かりやすい気持ちの変化に、銀時や土方は一段と冷めた目線で様子を見ている。

「やっと戻りやがったか。なんで今日のアイツは、いちいちせわしないんだよ」

「缶蹴りをよっぽど楽しみたいんだろ。それはそうと一つ思ったんだが……この試練って、地味じゃねぇか?」

「あぁ、俺も思ったわ。でも絶対アイツには言うなよ。これ以上時間を取られたら、ゴールまでに間に合わないからな」

「分かっているよ」

 どさくさに紛れて言えていなかったが、缶蹴りの印象の薄さを共に気にしていた。珍しくも二人の意見は一致しているが、時間を気にしており、あえて指摘は出来ずにいる。今はあやめが説明を終えるのを、ただじっと待ち続けるしかない。

「鬼に捕まったら、行動不能になるのよ。シノンちゃんには……いや、なんでもないわ」

「あやめさん? 急にどうしたの?」

「いいや、全然! 気にしないでちょうだい!」

 

 

 

 

 

 

 

 ここで改めて、この試練における缶蹴りのルールをおさらいしよう。鬼役であるあやめが置いた空き缶を、彼女から捕まらずに跳ね飛ばせばクリアとなる。捕まった場合は捕虜となり、一定の行動制限がかけられてしまう。だが何故か、この時のあやめはシノンに意味深な一言を言いかけていたが……特に一行は気にしていなかった。

 ルールを振り返りつつ、チーム一行は試練が始まる前から対策を話し合っている。

「つまり、あの缶を見つからずに飛ばせばクリアなのですね」

「まぁ、そういうこった。本当にやったことないんだな、お前等」

「いまいち馴染みがないからね。でも聞いた感じは、獲物を狙う銃撃戦と変わらない気がするわ」

「いや、全然違うと思うが……」

 やはり初挑戦のユイやシノンは未だにイメージを掴めず、後者では銃撃戦と捉える始末であった。特に目立ったルールが無い缶蹴りであるが、侮るわけにもいかない。あやめの俊敏な動きを、彼らは特に危惧している。

「でよ、どうやってあの缶を飛ばすんだよ。アイツは一応忍者だから、そう易々と通さない気もするんだが……」

「さっちゃんさんは、結構素早いですからね」

「シンプルだけど一番手強い気がするわ」

「だから最後に配置したのか」

 ある程度の起点を作らなければ、すぐにやられてしまう。場にいた全員がそう察していた。慎重に作戦を練っているが……中々上手くは思い浮かばない。だがここで、ふとシノンを見た銀時にある秘策が閃いていた。

「弓……あっ、そうだ。お前の弓でどうにか奇襲は出来ないか?」

「えっ? まさか銀さん、奇襲って弓矢で缶を打ち抜くってこと?」

「いや、違ぇよ。さっちゃんの意識を弓矢に持っていくんだよ。つまりこういうことだ……」

 彼は自身の思いついた考えを、仲間達へと伝えていく。

 銀時の立てた作戦では、シノンが弓矢を放って、あやめの意識に隙を生ませる内容だった。気付かれない内に間を置いて次々と矢を放つ、いわゆる起点役を彼女へと委ねている。

「なるほどな。シノンの位置がバレなきゃ、弓矢で威嚇を続けられるってことか」

「その間に私か銀さんか土方さんの三人で、勝負を付けるということですね!」

 この作戦を聞いた仲間達からも、大いに理解を得られていた。肝心のシノン本人も、快く興味を示している。

「要するに起点役ってことだ。お前に頼んでも大丈夫か?」

「まぁ、仕方ないわね。ここは銀さんの作戦に乗る事にしましょう!」

「相変わらず自信ありだな。じゃ任せたぜ」

 二人はあえて多くは語らず、すんなりと考えを一致させていた。目的を一つにした万事屋チームは、いよいよ最後の試練へと挑んでいく。

「それじゃ、もうすぐスタートするわよ!」

 頃合いを見ていたあやめは、大きく声掛けを促しつつ、目を瞑り数字を数え始めていた。

「よし、みんな散るぞ!!」

 そして銀時らも互いの距離を遠ざけながら、それぞれ異なった物陰へと隠れている。銀時と土方は、各々ビルに挟まれた隙間を。ユイは近くにあった自販機の隅っこへ。シノンは土管の裏側へと身を潜めていた。ここからは仲間とも連絡を取る事は出来ない。あやめの行動を含めた全体の把握が、勝負の命運を握っている。そう四人は覚悟していた。

(さっさと蹴って終わらせるか。アイツの油断を見逃さなきゃ、いけるだろ)

(どうせ万事屋は大雑把にしか行動しないからな。とりあえず下手に動かずにするか)

 距離は離れているが、銀時の心の声を土方は見透かしている。

(こうやってドキドキしながら、鬼に近づくのですね。説明では分かりづらかったですが、緊迫感があって楽しそうです!)

(かくれんぼと違って、チーム戦っぽいわね。だからこそ私が、起点を作らないと……!)

 缶蹴り初挑戦の二人も、少なからずワクワク感が生まれていた。昔ながらの遊びに童心を奮わせている。

 そんな心構えをしているうちに、あやめの数字数えが終わって缶蹴りは始まった。

「……じゃ、始めていくわね!」

 そう言うと彼女は途端に目つきを鋭くさせて、辺り一帯を見渡している。人の気配を注視しつつ、警戒心をいつ何時も削がない。万全を期して、鬼役を務めていた。

 チーム一行は彼女の動きを見定めつつ、動くタイミングを見計らっている。すると一足先に動いたのは、シノンからだった。

「今ならいけそうかしら……」

 ちょうどあやめが背を向いているので、起点を作るにはもってこいである。すかさずお馴染みとなった吸盤付きの弓矢を弓に装填して、程なく準備を整えていた。そして、

「……今よ!」

あやめの足元を狙い瞬く間に弓矢を解き放つ。発射後はすかさず土管裏へ戻り、そっと気配を消している。

〈トス!〉

「ん? これは……」

 弓矢は狙い通りに地面へと刺さり、彼女の目線が下に向いていた。思惑通りに隙が生まれており、千載一遇の好機が訪れている。

(よし、今のうちに!)

 このタイミングで動いたのは銀時からであった。足音を立てずにこっそり近づき、一気に勝負を決めようとしている。だがしかし、

「フッ……甘いのよ。アンタ達!」

「ナッ!?」

急に彼女は後ろを振り返って、銀時の肩をさすってきた。最初から気配を見透かしており、渾身の作戦はまさかの失敗に終わってしまう。

「えっ、銀時さんが……」

「アイツ、何やってんだよ」

 一連の会話の様子から、仲間達も現状を理解している。改めてあやめの手強さを思い知っていた。

「銀さんが見つかった? じゃまた注意を引かないと……!」

 起点役であるシノンも不利な現状だと感じており、すかさず第二矢を射る準備を進めていく。ところが……

「そこね。さっき弓矢を射てきたのは!!」

瞬く間に気配をあやめに気付かれてしまう。彼女は猛スピードで土管裏へと向かっており、逃げようとしても時すでに遅かった。

「えっ、早い!?」

「フッ! シノンちゃんには特別に、文字通りの行動不能にしてあげるわ!!」

〈ドロン!!〉

 回り込むと同時に、なんとあやめは煙幕らしきものをシノンへ浴びせていく。彼女の周りだけ、白い煙ようなものに包まれてしまった。

「ケホ! 一体これは何な……」

 煙を浴びてしまい咳き込む中で、シノンにはある変化が起こり始めている。その感覚は懐かしく、途端に意識が遠のいていた。そうこれは、彼女にとっての“弱点”だったのである。

「フフ、決まったわね」

「おい、何したんだよお前。煙幕を放つとか、気合入れすぎだろうが」

「いいや、これは煙幕じゃないわ! シノンちゃんにしか効かないアレよ!」

「はぁ、何を言って……さてはお前!?」

 あやめの意味深な言葉を聞き、ようやく銀時もこの煙幕の正体を察していた。かつて初めてシノンと会った時に起きた、あるトラブルを思い起こしている。それは……

「へへ! なんだかいい気持ちに、なってきちゃいましたぁ~!」

マタタビによる錯乱状態であった。そう煙幕の正体は猫を酔わせるマタタビであり、この作用によって彼女は、普段とは真逆な陽気な性格に変わっている。顔は赤く表情は甘ったるい、フラフラとした足取りの泥酔女子と変わり果ててしまった。

「って、酔いやがった!? 一体どうなってんだ!?」

「シノンさんがまた酔っ払いに……本当に行動不能になるなんて」

 このあまりの変わり様に、仲間達からの衝撃も大きい。特に土方だけは事情を知らない為か、何で酔っているのかさっぱり分かっていない。場はちょっとした混乱状態に陥っている。もちろん銀時もツッコミたい気持ちで一杯であった。

「おぃぃぃぃ!! 何やってんだ、おめぇ!! 途中まで真面目にやっておいて、やりたかったのはこれかよ!?」

「いいや、勘違いしないでちょうだい! アナタ達がシノンちゃんの戦力を失えば、もう勝負はこっちのもんよ! 彼女の酔い狂う姿と共に、敗北を認めることね!!」

「おい、完全に歪んでんぞ!? どんだけ缶蹴りに負けたくないんだよ!? つーかシノンに対して、やりすぎじゃないのか!?」

「そんなことはないわ! 決してこの前の銀さんとの主演回を、羨んでいるわけじゃないから! 妬ましいなんて、思ってもいないからね!!」

「って、本音が漏れているぞ!! どこまで大人げないんだよ!?」

 激しくツッコミを入れると同時に、倍返しの如くツッコミで返されてしまう。

 どうやらあやめは、勝利へのこだわりとシノンへの羨ましさから、またたびを浴びせていたようだ。自身の想いを偽りなくさらけ出す姿は、どこか潔いとも言えるが、邪魔を仕掛けたことに変わりは無い。

 何よりも銀時とシノンが捕まったのは事実であり、あやめはいつの間にか優勢に立っていた。

「とにかく! アナタ達は捕虜だから、何をやっても無駄無駄! シノンちゃんは絶賛泥酔中だし、ここは銀さんと一緒に缶を守――」

 余裕が出来たのか、銀時らにも存分に煽りを入れている。このまま勝負は、彼女の独壇場となってしまうのか? そう頭の中によぎった一行だったが、ここで思わぬ事態が起きていた。

「ニャフー!」

「ギャャャャ!?」

 なんとシノンが、反撃と言わんばかりにあやめを爪でひっかいている。不意打ちを受けた彼女は、そのまま地面へと転倒してしまった。

「な、何するのよアンタ!? 攻撃するなんてこの前と同じじゃないの!?」

 予想外の行動に気を取り乱していると、シノンは泥酔中にも関わらず、銀時の手を握って即座に反論していく。

「銀時しゃんをいじめるな! この人は私たちのチームメンバーにゃんだから、いじめたら許さにゃいよ!!」

「お、お前……」

 あやめには攻撃的な姿勢を見せて、チームメイトである銀時のことを必死に守っている。泥酔中でも仲間への想いは変わっていないようだ。

 この一幕によりあやめには隙が生まれており、土方やユイはこの間にこっそりと缶へ近づいていく。

「飼い猫に手を噛まれるとはこのことね……いいわよ! 歯向かおうものなら、徹底的にやろうじゃ――」

 彼女はつい躍起となっており、後ろの二人には一斉気が付いていない。シノンへの執着心を見せたのが運の尽きであった。

「缶シュート!!」

〈カラカラ!〉

「えっ!?」

 二人が話しているうちに、ユイが元気よく空き缶を蹴って、この勝負を締めくくっている。結果はもちろん万事屋チームの勝利であり、ユイや土方はその余韻に浸り喜びを分かち合っていた。

「缶蹴りクリアです! 私達の勝利ですよ!」

「おう、よくやったなユイ」

「はいです、土方さん!」

 珍しい組み合わせでハイタッチを組み交わしていく。チームとしての勝利に、銀時もそっと微笑んでいた。

 一方の油断負けしたあやめは、結果に唖然としながら、大いなる後悔に苛まれてしまう。

「アレ? これって私の敗北なの?」

「そりゃそうだ。目先の欲にくらんで、罰が当たったんだろ。多分」

「そ、そんな……これじゃ私、良いところなしで終わるじゃない」

「むしろここからどうやって上げようとしたんだよ」

 欲にくらんだ故の皮肉な末路である。まるで悪役キャラのように膝から崩れ落ち、敗北を悔しがっていた。「策士策に溺れる」とはまさにこのことである。

 その一方で、泥酔状態でもチームに貢献したシノンに、銀時もつい感謝を伝えていた。

「とにかく、酔っていても起点作りを果たしてくれて、ありがとうな」

「ヘヘ、こちらこそ! 銀時しゃん!」

 未だに酔いからは覚めていないが、彼からの感謝は伝わっている。無邪気な笑顔を振るまい、さらには銀時へ抱きつき嬉しさを見せていた。

 とそこへ、チームメンバーのユイと土方も駆けつけてくる。

「ところでなんで、シノンはあんなに酔っていたんだよ?」

「それはマタタビによるものですよ。以前にもそれを被って、一日中酔っていましたから」

「そんなにか!? じゃ、結構まずくないか?」

「いえ、甘いモノを食べると元に戻りますから、心配はないですよ。銀時さん! シノンさんを元に戻してあげてください!」

 シノンの弱点事情を土方へ説明したところで、ユイは銀時に元へ戻すように促していく。以前にも使用した甘いお菓子が有効的であり、彼は掲載している小粒チョコをシノンへ食べさせている。

「あぁ、分かってるよ。じゃ、これで……」

「あーん!」

 口を開いたところでチョコを与えると、一分も経たないうちにシノンは元通りの性格に戻っていた。

「アレ? 私今まで何を……」

「おう、ようやく元に戻ったか」

「戻った? もしかして私……」

 冷静になったのも束の間、彼女はとんでもないことに気が付いている。身に覚えが無いが、自身と銀時が抱き合っていたことにだった。これに顔を赤くした彼女は、訳も分からず銀時へ怒りを奮い立たせてしまう。

「って、何で抱きしめてんよ!! この変態!!」

「いや、なんで俺ぇぇ!?」

 理由も効かず突発的に、彼の顔面に向かって強烈なパンチを繰り出してきた。この威力に押されてしまい、銀時はこのまま突き飛ばされている。新たな誤解が生まれてしまった。

「あぁ、銀さーん!!」

 さらにはあやめも駆け寄っており、増々自体が複雑化してしまう。折角の最後の試練でも、様々なトラブルがあって綺麗に終わることは無かった。

「これはまだ長くかかりそうですね……」

「さっさとゴールしたいのだがな」

 いち傍観者でもあるユイと土方は、苦い表情でこの現状を冷静に見ている。誤解や説得が重なり、時間がかかると予想していた。

 こうして万事屋チームは困難を乗り越えて、スタンプを全て入手したのである。その後の一悶着は、未だに続いていたが……

「で、どうして私にセクハラしたのか、言ってみなさいよ!!」

「いや、よく聞けって! マタタビで酔っていたから、そのノリでお前から抱きついてきたんだよ!!」

「そうよ! 銀さんは悪くないのよ!!」

「おめぇは全ての元凶だろうが! 一旦黙っておけ!!」

 静かに怒りをぶつけるシノン。必死に弁解する銀時。横から茶々を入れるあやめ。場が収まらないのも無理はないだろう……




 久しぶりにマタタビで酔ったシノンが出てきました。この設定を覚えていた人はいるでしょうか? 中々披露する機会が無かったので、思い切って出してみました。
ちなみにさっちゃんの試練にあった缶蹴りも、本家の方で出てきた回を元にしています。そちらは彼女の先生が担当していましたが。

 そして、ようやく次回でフレンドラリーは完結致します。同時に今後の展開についても、少しだけお話出来ればなと思っています。次回予告の方も是非ご覧ください!
 では、また次回にお会いしましょう!





次回予告
桂「ハハハ! 遂に我らもフレンドラリーへやって来るぞ!」
クライン「待っていやしたぜ、桂さん!」
桂「ここまで待ちわびたものだ……存分に暴れようではないか!」
クライン「言われなくても分かっているよ!」
桂「次回! ラストスパートにEDが流れるのも当たり前! とりあえず、これに着替えてもらえるか?」
クライン「こ、これは……」















次々回予告
 全ての準備は整った……いよいよあの男が剣魂にやって来る!
「俺はただ壊すだけだ……」
 続報を待て!!


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第五十一訓 ラストスパートにEDが流れるのも当たり前!

出来ました! 色々と遅れてしまいましたが、フレンドラリー篇は今回で完結です! 最後には今後の展開もお伝えしますので、見逃さずにご覧ください。



前回のあらすじ
 いよいよ佳境を迎えているかぶき町フレンドラリー。各チームが最終試練へ挑戦する中、万事屋チームはあやめの試練である缶蹴りをクリアしている。その途中ではとんでもないトラブルもあったが、どうにか乗り越えていた。残すは真選組チームと妖精チームの挑戦である。彼らの辿ってきた戦いを見ていこう。



 万事屋チームと時を同じくして、妖精チーム一行も最終試練の場所へと辿り着いている。そこは古風な民家が立ち並ぶ場所で、周辺にはイベントとは無関係な住人達が通りを行き交っていた。

「ここのようですねぇ。最後の場所は」

「このまま勢いに乗って、さっさと達成させてやるアル!」

「頑張りましょう、皆さん!」

 試練が始まる前から一行は、互いに声を掛け合い、威勢よく気持ちを合わせている。これまでの試練で起きた出来事を振り返って、より強い絆を深めていた。(沖田だけは、そんなこと毛頭ないのだが……)

 すると五人の元に、試練の主題者がそっと近づいてきている。

「おや? ようやく来たのかい、子猫ちゃん達」

「ん? この声は……?」

 彼らの耳に聞こえてきたのは、一段と渋い男性の声。改めて目の前を振り返ると、そこに立っていたのは――

「この試練では俺が題を出してやろう。大人の選択肢を間違うんじゃないぞ」

渋い声質にぴったりのダンディな男性だった。黒いサングラスや和服を身に着けており、髭で覆われた口元には葉巻が銜えられている。全体的に体格も良く、その様子から硬派な大人と言っても過言ではない。

「だ、誰? この人?」

「やけに渋い人が出てきたんだが……もしかして、神楽の知り合いか?」

 当然ながらSAO組の三人は彼を知らず、みな戸惑った反応を示している。一方の神楽は、辛うじてこの男性とは面識があった。

「えっと確か……あっ、そうネ! 〇―キド博士アル!」

「そうそう。みんなもポケモ〇、ゲットじゃぞ! って、違う!! こんなかっこよく現れたのに、中の人ネタは勘弁してないか! 万事屋の嬢ちゃん!」

 中途半端に本名を思い出せず、仕舞いには中の人ネタまで飛び出す体たらくである。これには男性も、激しくノリツッコミを繰り出す。そうやり取りを続けているうちに、神楽は彼について思い出していた。

「まぁまぁ、冗談ネ! 思い出したアルよ、小銭形の親父!」

「ったく、たまにはかっこよく決めさせてくれよ……」

「小銭形? じゃこの人は、銭形平次がモデルなのか?」

 その正体は、ハードボイルド同心として知られる小銭形平次である。万事屋とは顔見知りの仲で、ピンチの時には助け合う関係性だ。

 この名前はキリト達も聞き覚えがあり、有名な小説の主人公銭形平次を連想させている。だがしかし。真選組の時と同様に、雰囲気から別人だと察し始めていた。

「おいおい、勘違いをしちゃいけないよ。小銭を大事にするからこそ、この名前には意味がある。だから俺にはモデルなんて存在していない。この葉巻が起こす煙のように、そんな先入観は忘れてしまいな」

 そう伝えると彼は、葉巻を手に取り口から煙を吐いていく。夕暮れに広がる空模様を目にして、黄昏る姿はどこか哀愁を漂わせている。このような仕草は、小銭形にとっては慣習に等しかった。独特すぎる解釈や行動には、キリト達三人も思わず反応に困ってしまう。

「随分とロマンチックですね……」

「一斉ブレていないのが、凄い気がするわ……」

「やっぱりキャラが濃いんだな……ここの人達は」

 みな苦い表情を浮かべており、つい言葉を詰まらせていた。

 一方の神楽や沖田は、対照的にまったく動じていない。手慣れたようにして、要件を催促していく。

「そんな台詞はいいから、試練の内容をさっさと教えてくれないですかい?」

「あぁ、そうだったな。では早速話そうか……ここでは俺の流儀である、ハードボイルドに関したクイズを受けてもらうぞ」

「ハードボイルドなクイズ? 結構難しそうだな……」

「そう謙遜はするな。君達のような半熟者にも、分かりやすくしているから安心してくれ。全部で三題ほど出題する予定だ。どれか一つでも当てればクリアとなるぞ」

 冷静な振る舞いで、小銭形が告げてきたのはクイズが主題の試練である。半熟者ことキリトらの反応を伺いつつ、細かい説明を続けていく。このままスムーズな流れで試練に移ろうとしていた――その時だった。

「小銭形の兄貴―!!」

 突如として彼の元に、小柄な女の子が大声で駆け寄っていく。青い甚平を着た彼女の名は、相棒でもあるハジであった。

「おぉ、ハジ!? 一体どうしたんだ!?」

「向こうで人が倒れていたんでい! 早く来てくだせぇ!」

「何!? 分かった。よし、ならお前らもついてこい!!」

 江戸っ子口調なハジの知らせによって、事態は急展開を迎えている。どうやら近くで人が倒れているようだが――そのわざとらしい口調から、演技なのはほぼ明白だった。この流れは妖精チームの面々も、うっすらと気付き始めている。

「って、もう試練は始まっているの!?」

「もしかして、この茶番に付き合わないといけないんですかい?」

「多分、そうだと思います……沖田さん」

「とりあえず、行ってみるアルか」

 半信半疑な一行であったが、ここは素直に空気を読んで、走り出した小銭形達の跡を追いかけていく。数秒ほど進んでいくと、ある人だかりの元へ行きついていた。

「もう人だかりが! どいてくだせぇ!」

「それで倒れたのは……この親父か!?」

 小銭形らが人をかき分けて前に向かうと、そこにはホームレスっぽい男性が仰向けのまま地面へと倒れている。その容姿は小柄な老人で、頭にはオレンジ色の帽子をかぶっていた。目元には丸い眼鏡をかけており、服装は上着と白い特徴的なふんどししか身に着けず、全体的に貧しそうな印象を与えている。

 すぐに状況見分をする二人に続き、妖精チーム一行も合流して、その悲惨な姿を目にしていた。

「この人が例の人物か?」

「見るからにホームレスっぽい人ですね……」

「これって演技よね? 普通に倒れている訳じゃないのよね?」

 生々しく倒れている様子に、キリトら三人は思わず戸惑いの声を上げている。いずれにしても、男性への同情を見せていたが――対照的に沖田と神楽は、この男性にある既視感を覚えていた。

「アレ? この男、どこかで見たことある気が……」

「奇遇ネ。私もアル」

 二人が引っかかるのも無理はない。彼の正体は銀魂本編でも見かける脇役、武蔵っぽい人だったからだ。今回はまさかの気絶役として、剣魂にも滑り込みで参戦している。

 とそんな事情はさておき、二人の状況見分は続いていた。

「ふぅ……なんとか息だけはしているようだな。では、ここでクイズだ!」

「って、このタイミングでですか!?」

「あっ、じゃあの男も演技ですねぇ」

 脈を測っていたついでに、唐突にもクイズが出題されている。一瞬にして場の緊迫感が解けていた。驚嘆とする五人だったが、小銭形らは一斉気にせずクイズを進めていく。

「この親父は何故倒れてしまったのか? ハードボイルドな理由を絡めて、答えてみろ!」

 意気揚々と出題された一問目のクイズ。その難易度だが未知数に等しい。質問文を聞いても、五人の頭には何一つ答えが浮かんでいない。

「ハードボイルドな理由ですか?」

「ていうか、ハードボイルドの意味すら分かってないんだけど!?」

「要するに男らしいってことですよ」

「そんなのすぐには思いつかないネ!」

「これじゃほぼノリだけで、やるしかなさそうだな……」

 五人の反応は多種多様であり、意味を分からずに困り果てる女子三人や、真剣に答えを探っているキリトと真っ二つに分かれている。一方の沖田だが多少の軽口は言っても、実はしっかりと答えだけは頭の中で練っていた。

「チクタクチクタク。さぁ、残りは二十秒だぞ」

「って、急かしてくるなネ! さては確信犯アルか!?」

 決め顔のまま答えを急かす小銭形に向けて、神楽は激しくツッコミ返しをしていく。何よりもこの試練は頭を使うが、問題の癖が強い為、中々答えには行きついていない。そんな中、勇気を持って口を開いたのはキリトからだった。

「じゃ……小さい子供をかばって、自分が身を挺して助けたから――でどうだ?」

 不安げな表情で自身の答えを伝えている。果たして小銭形の返答は――

「うむ。残念ながら不正解だったな。良い線は言っていたと思うが」

「そ、そうなのか?」

惜しくも不正解であった。これには神楽も、食らいつく様に反論をぶつけていく。

「って、それはお前の匙加減じゃないアルか!?」

「まぁまぁ、落ち着いてください神楽さん!」

「えっと、じゃ正解は一体何なの?」

 そんな彼女を一旦シリカが抑え込んでいる。一方のリーファは、小銭形へ気になる答えの方を聞いていた。

「ふっ、じゃ教えようか。模範解答は……敵組織から狙われないために、あえて倒れ込み地面と同化したからだ! 本当にハードボイルドな男は、どんな汚れ役でも立派に成し遂げるのさ」

 その返答だが……どうも反応しづらいものである。またも決め顔で伝えているが、チーム一行はなんとも言えない表情をしていた。そして、

「「「「いや、分かるかぁぁぁぁ!!」」」」

「ほぼ気まぐれじゃないですかい」

高らかなツッコミが場に大きく響き渡っていく。キリトや神楽ら女子達はありのままに本音を吐き出し、沖田は冷めた目線で小言を吐いている。案の定問題のみならず、答えすらも癖の強いクイズとなってしまった。

「完全に兄貴の主観ですね。ハハ……」

 相棒役のハジですらも、これには苦めの表情を浮かべている。主題者の立場だったが、感性だけは良心的であった。

 早くも波乱を呼んだハードボイルド系クイズ。このカオスな空気感のまま、続いてのクイズが出題されていく……

 

 

 

 

 それから数分が過ぎた頃。今なおクイズの時間は、しぶとく続けられていた。第二問で出された「男性の目的」についても、場の雰囲気だけは盛り上がっている。やはりツッコミどころが多く、否が応でも笑ってしまうからだ。

 そんな状況下でも、答えへの道筋はようやく見え始めている。それは第三問目が出題されている時だった。

「さてこの親父はなんで、この危機的状況でも一杯を飲もうとしていたのか? 君達に、分かるかな?」

「はい! えっと……それが自分の流儀だから、最後まで貫こうとしたからですか?」

「うむ……」

「あっ、じゃ! 一仕事を終えるために、あえて飲んでやる気を上げようとしたとか?」

「そうだな……」

「それだったら、もう飲むことに理由なんていらない。それが一流のハードボイルドだと自覚しているからか?」

 シリカからリーファ、さらにキリトへと答えを変えて必死に伝え続けていく。果たしてこれらの答えのうち、どれか一つでも当たっているのか? 気になる判定はと言うと――

「よし! 正解と認めようじゃないか! よくやったな、みんな!」

「えっ? ……合格なのか?」

ギリギリで答えを受け入れられている。試行錯誤の末に、ようやくこの難題を突破していた。途端に周りでは、仕込みのように町民達から「パチパチ!」と拍手が送られていく。この結果に妖精チーム一行も、違った反応を見せている。

「一体どの答えが合っていたの?」

「まぁ、意見が重なって出来たと思いますけど……」

「なんかいざ当たると、どうすればいいのか困るアルナ」

「色々とやりづらかったですねぇ。この試練は」

 おめでたいはずの合格もみな乗り気ではなく、疑問点から頭の中が一杯になってしまう。各々が率直な一言を呟き、微妙な雰囲気を出している。これらの反応からまず言えるのは、彼らにとってハードボイルドはまだまだ早かったのだろう。

 温度差が明らかとなったクイズだが、小銭形は気にせず彼らへ話しかけていく。

「これで君達も、ハードボイルドに一歩近づいただろうな。特に黒髪の少年は、存分に頭角を現しているぞ。よくやったな!」

「あ、ありがとうございます……。(一体どこを褒められているんだ?)」

 特にキリトの答えを気に入ったようで、大いに賞賛をかけてきた。肝心の本人からすれば、どこが当てはまるのか分からずじまいだったが……。さらに続けて、試練に協力してくれた町民達にも感謝の言葉を伝えていく。

「それに皆さんも、協力してくれてありがとうな。親父さんの演技も中々だったぞ。あそこまで、動かないとはな。アンタも相当なハードボイルドだよ」

 気絶役を担当した武蔵っぽい人にも、力強く声掛けをしている。すると――彼の表情が急に変わり始めていた。

「って、ハードボイルドうるせぇぇぇぇ!!」

「ブホォォォ!?」

 なんと奇襲と言わんばかりに、強烈な拳を小銭形に向けて振りかざしていく。この攻撃を受けた本人は、勢いよく近場の壁へと叩きつけられていた。一瞬で場は騒然と化してしまう。そのきっかけを作った武蔵っぽい人だが、どうやら彼に一言だけ文句を言いたいようだ。

「何を勝手に決めつけてきてんだ! ハードボイルドってのは人それぞれだから、答えに正解も不正解もないだろうが!」

「って、ここまで来て全否定されるとは……」

「やかましい! 本当のハードボイルドは……自分の信念で決めるもんだ!」

 そう言って彼は眼鏡を取ると、曇りなき真っすぐな目つきを見せつけていく。ハードボイルドに対しての考え方に、自分なりの意見を伝えようとしていた。試練の内容を根本から覆してしまう、まさかのどんでん返しな顛末である。

 この怒涛の急展開には、チーム一行や町民達の衝撃も大きかった。

「人それぞれのハードボイルドってことですか」

「なんだかそっちの方が、分かりやすい気がするわね!」

「それだと小銭形さんが、可哀そうな気もするが……」

 肯定的に見ているシリカ、リーファ、キリトや、

「最終的に答えは無いってことアルナ」

「そう言われちゃ、これまでの字数が無駄になる気がしやすけどね」

メタを踏まえて皮肉気味に呟く神楽や沖田など、その反応は様々である。

 一方のハジは、即座に小銭形の元へと駆け寄ってくる。

「兄貴! 大丈夫ですかい!?」

「あぁ、なんとかな……今回ばかりは俺の負けだったよ。あの親父もハードボイルドの一人……人にはみな自分の信念がある。俺から教えられるとはな」

 新しき考え方を見出して、また一歩成長したと彼は感じていた。その点だけは武蔵っぽい人にも感謝をしている。

 こうして波乱を呼んだハードボイルドクイズは、思わぬ形で幕を下ろすことになった。

「もう黄昏るのはいいから、さっさとスタンプをよこしてくだせぇよ」

「そうアルよ! 反省会は終わってからにするアル!」

「……みんな。少しは待ってくれても、いいんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 そして残るは、真選組チームの最終試練である。このチームでは、近藤とリズベットとの相性が問題点だが、時に見せる根性論で二つの試練を乗り切っていた。

 そんな彼らが行きついた先は、閑散とした細い裏路地である。

「ここだな! 最後の試練場所は!」

「さっさと終わらせて、こんなゴリラとおさらばするんだから!」

「って、二人共落ち着きなさいよ。まずは主題者を探すところから始めないと……」

 早速やる気を高めている二人に、アスナは冷静になるよう促していく。とりあえずはいつも通りに、主題者を探さなければいけないが――

「こんな裏路地で一体何をするんでしょうか?」

案の定すぐには見つかっていない。人の気配もほとんどなく、何も用意されてない裏路地で、果たして何が起こるのか? 言いようもない不安をみなが感じていた――その時だった。

「ハハハハ! よくぞ来たな!」

「ここからは俺達が相手だぜ!!」

「こ、この声って……」

 突如として場に響いたのは、威勢が良い二人の男性の声。これを聞いた新八、アスナ、リズベットの三人は、共に嫌な予感を察していく。頭に思い浮かんでいるのは、“あの知り合い”だったからだ。

「ま、まさかね……」

「ん? 一体どうしたんだ、みんな?」

「近藤さんには分からないことよ! 深くは考えない方がいいわ!」

 この状況でも唯一近藤だけは、あまりしっくりきていない。彼らの引きずった表情と違い、ずっと疑問を感じたままである。アスナは必死に誤魔化していたが、遂にその時が訪れてしまう。

「トウ!」

「トリャ!」

 張った掛け声と共に、試練の主題者が上空から舞い降りてきた。その正体はもちろん、あの侍達だった――

「最後の試練の主題者、配管工のプロ! このカツオと!」

「同じくクライージが相手をしてやるぜ! ヒャッハー!」

のだがその容姿はツッコミどころが満載である。満を持して登場したにも関わらず、場は一段と静まり返ってしまった。

「「「……えっ?」」」

 当然のように近藤を除く三人は、彼らの風貌に唖然としてしまう。ひとまず理解できているのは、この試練の主題者が桂とクラインであること。何故か二人は色が違う帽子やツナギ等で、某ゲームキャラクターを模したコスプレをしていること。しかも共にノリノリで行っていることだった。

(桂さんとクラインさんんんんん!? 何やってんの、あの人ら!? 変装してまで、引き受ける仕事ですか!? それ!?)

(もうどこからツッコんでいいのか、分からないわよ!? しかも、既視感のあるコスプレなんだけど!?)

 有無を言わさずに三人は、思い思いのツッコミを心の中で披露していく。重複した彼らのボケについていけず、あまりのバカさ加減を痛感していた。だが一方で、とんでもない事実にも気が付き始めている。

(このタイミングで侍バカ二人と出くわすなんて……アレ? そういえば桂さんって指名手配されていたんじゃ……って、近藤さんにバレたら不味くないの!?)

 そう。リズベットの思った通り、攘夷志士と真選組との鉢合わせは御法度に等しかった。組織上で対立関係があり、会ってはいけない関係なのだが……現にたった今、遭遇してしまっている。

「おや、君達は……」

 さらには近藤から勘付いたのか、彼の表情がぴたりと変わってしまう。二人を睨みつけるような顔つきで、急に差し迫ってきた。こうなれば正体がバレるのは、時間の問題である。

(うわぁ! 絶対に勘付かれているって!)

(おい、バカコンビ! さっさと逃げろ! このままだと捕まりますよ!)

 今まで黙ってきた新八達にも、この事態をどうすることもできない。必死に桂達へ逃げるよう祈っているが、当然本人が気付くことは無かった。もはや袋のネズミであり、みながそう覚悟していた時である。

「あの配管工じゃないですか!」

「「……えっ!?」」

「はい!?」

 なんと近藤の口から飛び出たのは、予想外の一言だった。桂達のコスプレを別人だと思い込み、快く接してきている。

 これには桂本人も即座に把握して、堂々とした面構えで話を返してきた。

「うむ、そうだな。君は確か……Oveeの新作発売に来ていた、ドンキーコン〇君ではなかろうか?」

「いやいや、流石に違うから! ……というか、あっ! アンタはあの時の!!」

「思い出したか。随分と懐かしいな。あの時の激闘は今でも忘れていないぞ」

「お、おう! 俺もだぜ……!」

 二人は何故だか親しげに会話をしており、知り合いのような振る舞いを続けている。実はこのカツオと言うキャラは、過去に近藤とある対決をした経験を持っていた。

「近藤さんと桂さんが普通に会話しているわ……」

「って、なんであの人はさっきから気付いていないのよ!!」

 その事情を知らない女子達にとっては、何が起こっているのかさっぱり分かっていない。困り果てているところに、新八が小声で補足を付け足している。

「あの、実はなんですけど……以前にもあの格好をした桂さんに、真選組の皆さんは騙されているんですよ」

「えっ、そうなの?」

「はい。新作ゲーム機の発売日にある対決をすることになって、そこで桂さんがあの格好で公に出てきたんです」

「そんなことがあったの……てか、あのクオリティでよく騙せるわよね」

「その点は僕も分からないですよ」

 女子陣も同じく小声に気を遣い、本音を呟いていた。新八の言う通り前例がある為、今回も近藤はカツオの正体に気が付いていない。彼の鈍感さと相まって、むしろ桂達は救われていた。

 その一方で、近藤とカツオとの会話は未だに続いている。

「というか、カツオさん。あの相方さんは、どこに行ったんだ? 見るからに違う気がするのだが……」

「あぁ、そうだったな。今回からルイー〇役には、このクライージ君が務めることになった。かつての彼だが、現在はワリ〇及びワリザべスとして活躍しているぞ」

 すると彼らの背後に、またしてもコスプレした仲間が現れていた。黄色い帽子をかぶって、雷模様の髭を付けたエリザベス――ではなく、ワ〇オの格好をしたワリザべスである。

〔久々の出番! 気合もばっちりだ!〕

「てか、エリザベスさんも来ていたの!?」

「ここまで揃うともう……清々しく感じるわね」

 無表情のまま、お決まりのプラカードで気持ちを表していく。勢ぞろいした攘夷志士達のコスプレを見ていき、リズベットらのツッコミはもう疲れ果てている。彼らの正体を知る者と知らない者で、その反応は大きく異なっていた。

「おぉ! そう来たのか!」

「うむ。そして二代目を務めるクライージも、忘れてはいかんぞ」

「そうだぜ! よろしく頼むな、近藤さん!」

「おうよ! ルライージ君!」

「いや、クライージです」

 クラインことクライージの挨拶も交わされて、近藤との距離を縮ませている。(予め言っておくが、二人の本格的な絡みはこれが初めてだった)

 未だに正体を見破れない彼に、新八らは常に冷や冷やしながら様子を見守っていた。

「ねぇ。さっきからいつバレるのか、不安なんだけど……」

「でも、アレだともう大丈夫ですよ。だってあの近藤さんですから」

「純粋に信じていそうよね……」

 偶然なる出会いから起きた、小さい奇跡を感じ取っている。

 

 

 

 

 カツオ達と出会い数分が経過した頃。ひたすらにツッコミを続けていたリズベット達も、自然と会話に入っていき、いよいよ本題である試練の概要へと移っている。

「それじゃ、カツオさん! そろそろ試練の内容を教えてくれないか?」

「うむ、良かろう。ワリザべス! アレを用意するのだ!」

 この合図とともにワリザべスは、自身の体からある筐体を取り出してきた。それはやたらと年季が入ったブラウン管テレビと、細かい傷の目立つ家庭用ゲーム機である。(ちなみにテレビの電源は、エリザベスの内部を通じて繋がっていた)

「えっ? これは……」

「昔のテレビとゲーム機?」

 物珍しいものに女子達は興味深く眺めていたが、一方の新八はこのゲーム機の正体をすでに察していた。

「これって、ファミコンですか?」

 彼の呟き通り、これは昔懐かしいファミコンである。そのカセット部分には本家の配管工のゲーム(たけしと言う明らかに他人の名前付き)が挿入されており、ここから予測出来るのはたった一つであった。

「さぁ、準備は整ったぞ! ここでの試練はファミコン勝負! 共にゲーマーとしての腕を競おうではないか!」

「俺達と一緒にチーム戦をやろうぜ!」

〔共に童心へ返ろう!!〕

 なんと率直にも、カツオ達の試練はファミコン勝負となっている。よっぽどの自信があるのか、彼らのテンションは大いに舞い上がっていた。爽やかな表情のまま、一行を誘いに来ている。

 男達の高らかな期待とは相対して、新八ら三人の反応はあまりよろしくない。

「ま、まさかのファミコン対決……」

「裏路地まで来て、なんてものを用意しているのよ……」

「そもそもファミコンって、古すぎない?」

 揃って呆れた表情となり、次々と文句を呟いていた。旧世代のゲームとあってか、みな乗り気でない態度を取っている。場の雰囲気にも一斉流されていなかった。

 そんな仲間達の心境はつゆ知らず、近藤だけは純朴にも試練へのやる気を高めている。

「なるほど! 俺にとっては、あの時のリベンジマッチと言う事か!」

「そうだ……ギャルゲーに続いて、勝ちを得るのはこの俺だ!!」

「望むところだ!!」

 カツオと繰り広げたOvee対決を思い起こしており、因縁の対決に再び火を付けていた。思わぬ形でのリターンマッチが、この試練を通じて実現している。

「流石だ、桂さん! ギャルゲーまで得意だとは、やっぱり男の中の男だぜ!」

〔今は桂さんじゃなくて、カツオさんだけどな〕

 二人の熱気と同じくして、クライージやワリザべスも全力であやかってきた。共により激しくボルテージを高めあっている。(ただしクラインの場合は、ファミコンとは程遠い世代のはずだが……何故か桂達と同調している)

 依然として世代ごとに温度差が広がる一方、近藤は仲間達のやる気を上げるべく、意気揚々と話しかけてきた。

「ハハ! いよいよ最後の試練だ! そう鬱々とせずに、俺らのように盛り上がろうじゃないか!!」

「って、言ってもどうするのよ? アタシ達はファミコン世代じゃないのよ! 近藤さん達よりも、上手く扱えるわけがないでしょう!?」

「いいや、心配は無用だ! やっていくうちに、いずれ楽しくなる! ゲームに世代なんて関係ないのさ!」

「そんな根性論、通じるわけがないでしょうが!!」

 彼らしい楽観的な意見に、リズベットは即座に言い返していく。どうしてもファミコンへの抵抗心を、彼女は拭いきれていない。そう言いあう内にも、カツオ達の説明は続けられている。

〔ルールはもう大体分かるな? 二人体制のチーム戦で、先にゴールした方が勝利だ!〕

「さぁ! 君達もコントローラーを握り、配管工の世界へ行こうではないか!」

 あっさりと簡単に伝えたところで、彼らは早くもコントローラーを握り始めていた。熱気が収まらないうちに、さっさと試練に移りたいようである。

「よし、みんな! 俺達と一緒に頑張っていくぞ!!」

「「「お、おう……」」」

 そして近藤を筆頭にして、真選組チームも士気を上げてきた。たった一人しか気持ちが乗らずに、残りの仲間達は微妙な受け答えしかしていないが……。

 懐かしむ男達の想いがぶつかり、瞬く間に始まるファミコン勝負。再戦に心を燃やしている近藤とカツオ。潔く彼らについていくクライージとワリザべス。巻き込まれる形となった新八、アスナ、リズベット。世代ごとに温度差も見事に分かれていく。

 特に未成年組は不安にしか感じていなかったが――ゲームを始めてから数分後にはある変化が起きている。

「よっし! って、いきなり何してくるのよ!?」

「ハハ、見たか! これがカツオスペシャルだ!」

「何を! 巻き返してやる!」

「覚えてなさいよ、カツオさん!!」

 なんと頑なに態度を変えなかったリズベットが、早くもファミコンに熱狂していた。ゲームを続けているうちに、攻略の難しさや相手を妨害する戦略に惹かれて、何よりもレトロな空気感に引き込まれている。数分前の態度とは偉い違いであった。

「って、おい! 何するんだよ、二人とも!」

「ハハ! これがお返しだよ!」

「鍛冶屋とゴリラをなめるんじゃないの!」

「そうだぞ! って、またゴリラ呼びかよ!?」

 さらには珍しくも、近藤とは息ぴったりの協力プレイを見せている。共に上手く立ち回っており、クライージらに妨害を与えて、場を優勢に進めていた。

 生き生きとした彼女の様子に、出番を終えた新八やアスナもそっと見守っている。

「まさかリズさんからハマりに行くなんて……」

「凄く意外よね。しかも近藤さんとは息ぴったりだし……」

「やっぱりあの二人って、元の相性は良いんじゃないんですか?」

「自覚がないベストタッグってことね」

 意外にも作戦が上手くいっていることに、驚きを隠しきれていない。二人の想いとはよそにして、ファミコン勝負はさらに盛り上がりを見せている。そして、

「よし、今だ! リズ君!」

「ハァ!! ゴール確定よ!!」

「な、何だと……!?」

「二回連続で負けかよ……」

あっと言う間に決着が着いていた。結果は、真選組チームの二勝で勝負に幕を下ろしている。これもまた、近藤とリズベットのコンビネーションが招いた奇跡的な勝利であった。

「やったな、リズ君!」

「もちろんよ! こちらこそ、あんがとね!」

 勝利への余韻に浸りつつ、思わずハイタッチを交わしている。良くも悪くも潜在的な相性が、この二人にはあるのかもしれない。互いにありのままの笑顔を見せていた。

〔これはまさか、何かのフラグが立ったのでは?〕

「って、ワリザべスさん! 誤解を招くことはやめてくださいよ!」

「そうよ! リズがこんなゴリラと進展するわけがないでしょ! 私が許さないからね!」

「……って、そこまで言うか。みんな」

「てか。アンタはお妙さんにしか、興味が無いでしょうが」

 折角の良き雰囲気も、エリザベスの冗談によってかき消されてしまう。チームメイトからの本音には、近藤もつい虚しさを感じていく。

 不安もあったカツオ達の試練だが、場はそれなりに盛り上がって、真選組チームも無事に乗り切っている。これで彼らも全ての試練を達成していた。

 そして敗北したカツオ達の方だったが、

「うぐ……では俺達は負けを認めよう。次はスーパーカツオメーカーで待っているぞ!」

「みんな! スイッ〇を忘れずに買っておけよ!」

「って、アンタらはまた再登場する気ですか!?」

最後の最後でこちらも余計な一言を呟いている。果たして再登場する機会は、今後ともあるのだろうか……?

 そして、いよいよかぶき町フレンドラリーは最後に近づいていく――

 

 

 

 

 

 

 遂に全てのスタンプを揃えた各チーム。後はゴール地点のかぶき町公園まで戻るだけとなった。特に順位を争う必要は無いのだが、たった一チームだけは例外である。

「おぉぉぉぉ! 先に着くのは俺だ!!」

「いいや! てめぇなんかに、リーダー面させてたまるかよ! 俺に譲りやがれ!!」

 ほぼ勢いに乗ったまま並走していたのは、銀時と土方の二人であった。最初にゴールする相手を決める為、互いに意地っ張りとなり走り続けている。おかげでチームの一員であるユイやシノンは、半ば置いてきぼりにされていた。

「待ってください、お二人共!」

「最後の最後で躍起になるなんて……」

 並走する二人を見失わないように、頑張ってついてきている。一方の銀時と土方であるが、ゴール手前のところでまたもトラブルが起きてしまう。

「よっしゃー! 後少しだ……って、うわぁ!?」

「な!? ぐわぁ!?」

 不運にも銀時が小石でつまずいてしまい、巻き込まれる形で土方と衝突している。おかげで二人揃って、地面へと転倒してしまった。

「痛ぁ……おい、何しやがるんだ! てめぇ! 折角のゴールが台無しになったじゃねぇかよ!!」

「うるせぇ! お前をゴールさせない為の策だったんだよ! バーカ!」

「なんだと、コノヤロー!」

「おいおい、やんのか!?」

 その途端にまたも口喧嘩が再開してしまう。互いに足を引っ張り合い、意地でも相手を妨害していく。必死な表情で言い争いの絶えない二人の元に、シノンとユイが遅れて合流している。

「あの……銀時さんに土方さん?」

「あん!? 一体何だ!?」

「俺達はゴールを懸けてだな……!」

「それだったら、もうキリト達の方が先に着いているわよ」

「「……えっ?」」

 そしてシノンから一言を聞くと、銀時らは咄嗟に我へ返っていた。一度冷静になってゴール付近へ目線を向けると――

「よし! これでゴールネ!」

「これで土方さんよりも先に着きやしたよ」

「って、沖田さんってば……」

ちょうど妖精チームの五人が一足先にゴールしている。さらに続けて、

「あっ! この公園よ!」

「ようやく戻って来たか」

「やっとみんなと再会できるわ!」

真選組チームの四人もゴールへと着いていた。土方達が言い争っているうちに、身内よりも順位を抜かされる結果となっている。当事者である二人には、地味に心が痛い顛末だった。

「アレ? 俺達ってもしかして、最下位?」

「順位は決まっていませんけど、皆さんの中だと多分そうです」

「そ、そんな……」

「口喧嘩せずにさっさと行けばいいものを」

 さっきまでの高いテンションはどこへやら。だいぶ気持ちを落ち込ませている。そんな大人げない男達を女子達が引っ張り、万事屋チームもようやく到着していく。

 

 

 

 

 それからは他のチームも公園へと戻って来ており、閉会式を前にしてみな広場にて、一息をついている。時刻は夕方となっており、風向きも涼しくなって、参加者達の気持ちを休ませていた。

 一方でようやく再会した三チームは、馴染みがある仲間達の元で、今日一日の思い出話を談笑している。

「いやー! 中々こっちは楽しかったよ! 鍛冶屋のリズ君と一緒に、色んな困難を立ち向かったからなー!」

「そうですかい。こっちも順調でしたよ。(最初の試練を除けばねぇ……)」

「ん? どうした総悟?」

「いいや、別に。土方さんはどうでしたかい?」

「ロクなもんじゃ無かったよ。あの銀髪野郎とは、やっぱソリが合わねぇし……でもまぁ、女子達とは多少話せるようになったな」

「へぇー、良かったじゃないですかい」

 各々印象に残ったことを話している真選組の三人や、

「それでどうだったの? キリトと一緒のチームは?」

「全然上手くいきませんでしたよ。沖田さんに警戒しすぎて……」

「やっぱり私、あの人のこと苦手だよ! でも……意外な一面も見れたから、一応良かったかな?」

「意外な一面って?」

「後で話しておくわ! それじゃ、リズさんやシノンさんはどうだったの?」

「もう近藤さんしか印象に残ってないわよ。話とかは全然合わないのに、妙に相性が良いみたいなのよね……複雑だけど」

「こっちは土方さんの見方が変わったわよ。あの三人だと比較的に真面目だと思うわ。後は銀さんだけど……あの人も相変わらずね。やる時にはやっていたけど」

今日一日の愚痴をぶつけているシリカ、リズベットら女子四人。さらに。

「ようやく六人揃って再会できたネ!」

「結構こっちは大変だったもんな。みんなはどうだったんだ?」

「リズと近藤さんが喧嘩ばかりで、収めるのに大変だったわよ」

「あの組み交わせはもう勘弁ですね」

「そうだったんですか……」

「まぁあのチーム分けじゃ、喧嘩が起こらない方が珍しいだろうな」

万事屋の六人も感じたことを率直に伝えていた。全員に共通して言えることは、道中でもトラブルが尽きずに疲れ切っていたことである。

 それぞれが話を続けていると、急にフレンドラリーの企画者が彼らへ話しかけてきた。

「お疲れ様、みんな!」

 聞き慣れた明るい声に気が付くと、つい目の前を振り向いていく。そこにいたのは、

「あ、姉上!?」

「お妙さんじゃないですか!!」

優しげに微笑んでいる志村妙であった。言わずもがな、シリカ達女子をこのイベントに誘った張本人でもある。

 すると彼女は早速、一段と興奮している近藤にけん制を加えてきた。

「発情しているゴリラは、一旦ひざまずいてから黙ってちょうだい」

「は、はいー!!」

 口調の悪い指示だったが、彼は何の迷いもなく受け入れていく。

「よくもすぐに従えるわね……」

 近藤の潔さに、リズベットら女子達はむしろ気が引いている。それはさておき、妙にはチーム一行にあることを伝えたいようだ。

「さてと、まずはごめんなさいね。こっちのミスで希望通りのチームにならなくて」

「えっ? もしかして姐御、アゴ美のミスに気が付いていたアルか?」

「えぇ。ちょっと問いただしたら、すぐに喋ってくれたわよ。彼女には焼きを入れておいたから、許してちょうだいね!」

「……焼きって、女子が言う台詞じゃないと思うんですが……」

 序盤で起きていたアゴ美のミスも、妙はすでに周知しており、彼女曰く制裁を与えたようである。物騒な表現が続き、シリカらもまた気が引いてしまう。

 だが彼女には、もう一つ聞いておきたいことがあった。

「それでね……みんなはこのイベントを楽しめたかしら? このチームでも大丈夫だったの?」

 どうやら彼女は仲間達の反応を、大変気にしているようである。企画者の立場から、素直な意見を聞き出そうとしていた。

 この妙の質問には、関わりを深めているSAO女子陣がありのままに応えていく。

「色々とあったけど、何だかんだアタシは楽しかったわよ!」

「アタシもです! 西郷さんや小銭形さんとかの、新しい人とも出会いましたし!」

「チーム編成は不安だったけど、みんなで乗り切ったからね!」

「試練も行き当たりばったりで、結構楽しめたわよ!」

 リズベット、シリカ、リーファ、シノンと、みな満足げな笑顔で妙に返答してきた。色々と濃い一日を過ごした彼女達も、総じてこのイベントを好意的に感じている。

 彼女達の言葉に続いて、万事屋一行や真選組の面々も同調するように頷いていた。

「そう、なら良かったわ。みんなにはこれを通じて、もっとこの町を好きになってほしかったのよ。満足できたのなら、それで何よりだわ!」

 妙自身も独自の想いが伝わったようで、思わず一安心をしている。双方共に満足感を得て、かぶき町フレンドラリーは無事に終わっていく……はずだったのだが。

「あっ、そうだわ! みんなにはスタンプを集めたご褒美を上げないと!」

「おっ。このタイミングで渡すんですかい」

「待っていたぜ! こんだけ苦労させたんだ。きっと金目のあるモンと交換してくれるんだろ」

 問題は商品交換の時に発生していた。期待を高める銀時らであったが、彼女から手渡されたのは――

「はい、これよ」

「どんなのか……えっ?」

首吊りをしたクマのキャラクターグッズである。ストラップを始め、マグカップにペンシル、はたまたTシャツと、約十点以上を入った袋と交換していた。その中身は同じく、不謹慎なクマのグッズであった。

「フフ。かぶき町幻のマスコットキャラ、このブラックマのグッズを一式、みんなにプレゼントするわ! これで在庫一掃……じゃなくて、記念品としてとっておいてね!」

 一瞬に本音が漏れたが、どうやら妙のもう一つの目的が明るみになっている。いわゆる在庫処理を手伝わされた一行は、最後に気持ちを合わせて……

「「「って、いるかぁぁぁ!!」」」

「「「「お妙さんってば!!」」」」

「「不謹慎でしょうが!!」」

声高らかに異なるツッコミを浴びせていく。感動的な雰囲気を台無しにした、妙からの商品交換に一喝していた。

 こうして微妙な雰囲気のまま、フレンドラリーは終わっている。

「お妙さん! このプレゼントは大切にしますよ!」

「近藤さんしか喜んでないぞ、おい」

「それより、苦情が来そうですけどね」




後書き
 これにてかぶき町フレンドラリー篇は終了致します。まずは長い事間延びしてしまって、すいませんでした。今年に入ってから投稿ペースが落ちてしまい、何度も遅れを取り戻そうとしましたが、余計に上手くいかず、月目標の三回も達成出来ずじまいです。現在はそれの打開策を模索しているので、どうか投稿頻度が上がるまでお待ちしてください。

 今回のかぶき町フレンドラリー篇は、真選組とSAO女子陣の距離を縮めるために話を作っていました。彼らがこの世界へ来て二ヵ月くらい経つので、一つの区切りとして真選組との信頼を深め合いました。まぁ、彼女達は見直す程度で、根本にある嫌悪感は変わっていませんが……
 本当は他のチームも描きたかったのですが、一つ一つの試練の様子を重点的に描いた為、余裕がなくなってしまい、結果主要チームのみとなりました。試練の方も真面目に描きすぎたのが難点だと感じています。

 さて続けて、今後の剣魂の流れをお伝えいたします。現在は長篇の設定を考えているのですが、もう少し設定を手直ししたいので、次の回からも日常回を続けていきます。フレンドラリー篇でも出てこられなかったキャラクターや、銀魂×SAOキャラの意外な組み合わせを、今後もやっていきたいからです。
 また次回からモチベ向上のために、ある思い切ったことをします。それはトップページに今後投稿する予定の作品タイトルを貼っておきます。銀魂特有の複雑なタイトルなので、予想しながら出来上がるのを待っていただけるとありがたいです。次々回のタイトル横には回りくどいヒントも付けるので、是非予想してみてください。

 それでは最後になりましたが、ここまで見て頂きありがとうございます。世間はウイルスで大変ですが、皆さんも気を付けてください! 今後とも剣魂をよろしくお願いいたします!





次回予告
ユイ「私が出会った男の人はとても怖い方でした。でも何かに囚われている……そんな気がしました。どこかで会ったことがある気が……」
キリト「次回。迷子になったら交番へ向かえ」

「ガキのくせにしっかりしてるじゃねぇか――」


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第五十二訓 迷子になったら交番へ向かえ

 ここで改めて、これまでの時系列をまとめていきます。

第一章 万事との出会い篇 七月上旬
第二章 盛夏の日常回篇 主に七月中旬
第三章 夢幻解放篇 七月下旬
第四章 真夏の日常回篇 八月全般

 という訳で、今回より後半戦の九月上旬へとスタートを切ります。今回の話は次回の長篇にも関わってくるので、是非そこにも注目してください! では、どうぞ。



「おい、アイツは見つかったのか?」

「いいや。この近くにいるはずなんだが……」

 標的の相手が見つからずに、困り果てているのは二人の男達。共にとんがった耳や騎士然とした風貌が特徴的で、いわゆる宇宙人――天人であった。

「何としても見つけ出すぞ! 我が一派にとって妨げとなるからな!」

「あぁ、分かっているよ。いざとなれば、コイツらを呼び出すか……」

 そう言い伝えると二人は、再び標的を探し始めている。彼らは陽の光が届かない地下都市アキバにて、ある総督を狙っていた。

 その人物はたった今、同じ場所で人目を避けて歩いている。

「ふっ……そろそろか」

 ふと彼は不敵な笑みを浮かべていた……

 

 時期はちょうど九月を迎えていた日のこと。夏らしい暑さは未だに続き、残暑の目立つ季節へと変わっている。

 そんな最中、江戸に近い地下都市アキバでは、昼時に多くの人々で賑わっていた。イベントが相次いで行われており、尋常ではない熱気が辺りから巻き起こっている。

 そしてその場所には、現在キリトとユイがある目的で訪れていた。辺りの様子を見渡しながら、二人はゆっくりと町並みを楽しんでいる。

「おぉ……ここがこの世界の秋葉なのですね!」

「オタク文化なのは変わらないけど、地下に建ててあるんだな。結構マニアックな専門店も多くあるし」

「パパの言っていた面白い刀専門店も、ここにあるんですよね!」

「沖田さんからの情報だけどな」

 未知なる町並みに圧倒されており、共にテンションも上がっていた。そんな彼らが目指す場所は、アキバにあると言われている刀の専門店である。以前に行われたフレンドラリーにて、沖田から伝えられた情報であり、そこから興味を持ち現在に至っていた。

 期待を膨らませながら通りを進むと、ユイはある種族を見かけていく。

「あっ、見てくださいパパ! 同じ妖精耳の天人さんがいますよ!」

 それはキリトと同じとんがった耳の天人である。ファンタジーっぽい服装を着た少女で、二人の世界で言うALO系のアバターに容姿が酷似していた。

「ん? 本当だ。妙に服装もALOに似ているし、結構親近感を覚えるな」

「もしかすると、アルブヘイムに似た星がこの世界にあるのかもしれませんね!」

「ハハ。そうだと面白いかもな」

 ほんのりと冗談を交えつつ、彼らは笑みを浮かべている。この世界で長く暮らすうちに、宇宙人及び天人の抵抗心はほぼ無くなっていた。

 楽観的に談笑を交わして、歩き続けていると――あるトラブルに巻き込まれてしまう。

「どいた、どいた!!」

「さっさとどきな!!」

「えっ、キャ!?」

「ユイ!? うわぁ!?」

 後ろから迫ってきたのは、大荷物を持った団体の観光客。ガイドに連れられて移動をしており、横柄な態度で走っている。その大群により、キリトは横道に突き飛ばされてしまい、ユイは団体客の波へ飲み込まれてしまった。

「痛ぁ……何だったんだ、今の。って、アレ? ユイは!?」

 気が付いた時にはもう遅く、キリトが周りを見てもユイの姿はどこにもいない。焦燥感に駆られていき、思わず愕然としてしまった。

 一方のユイは、大群の中から力づくで抜け出して、人気のない小道へと倒れ込んでいる。

「ふぅ……やっと抜け出せました。でも……ここは一体?」

 危機を脱してもなお、彼女にはまだ困難が待ち構えていた。キリトともはぐれてしまい、右も左も分からないアキバの町中で、ただひたすらに戸惑い続けている。俗に言う迷子となってしまった。

「パパとはぐれちゃったんでしょうか?」

 不安な気持ちが収まらずに、表情もどこか悲しく変わってしまう。ひとまずは歩かないことに事態は動かないので、辿ってきた道を戻り始めている。いざという時は、周りの大人に頼ると心に決めていた。

「早く見つかるといいんですが……うわぁ!?」

 そう呟いていた直後である。不運にも一人の男性と衝突してしまった。

「おい、気を付けろ――って、ガキか?」

 男は後ろへ振り返って、ユイの存在に気が付いている。鋭い目つきを向けて、そっと彼女へと近づいてきた。

(こ、怖い人に当たっちゃいました……アレ? この人って……)

 一時は男性に恐怖を覚えたユイだったが、彼の顔を見た瞬間にある人を思い出している。かつて夢世界で起きた戦いにて、出会ったことのある人物だった。もちろん彼とは別人だが、その男の正体は――

「ふっ、迷子かお前? だったら俺が連れて行ってやろうか?」

鬼兵隊の総督高杉晋助である。不敵な笑みを浮かべて、ユイへと話しかけてきた。

 紛れもない現実世界の本人であり、この出会いに彼女は驚きを隠しきれていない。

(やっぱり……本物の高杉さん!)

 彼と目を合わせると、次第に緊張感が高まって、無意識に体が震え始めている。経験したことのない恐怖心を感じて、つい頭が真っ白になってしまう。

「ん? どうしたんだ? 迷子じゃねぇか?」

「えっ、あっ!? その……」

「……ふっ、分かったよ。ついていくならついてこい。テメェの自由に動きな」

 戸惑い続けているユイに何かを察したのか、高杉はあまり干渉せず、素っ気の無い態度で接していく。その突き放したような姿勢に、彼女は恐怖心と共に違和感も覚え始めている。

(なんでしょう、この気持ちは……あの人からは何か独特な雰囲気が伝わってきます……)

 表現しにくいモヤモヤとした気持ちが心を覆っていた。いずれにしても、只者ではない人物だと仮定している。怖く感じてしまう反面、興味も沸いており、彼女は自分から高杉との行動を決意していた。肝心の本人は大して気にもしていないが……

 こうして思わぬ形でユイは、高杉と出会うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! どこへ行ったんだ、ユイ!」

 その一方でキリトは、懸命にもユイの捜索に奔走している。羽を広げて上空から探したり、建物に挟まれた小道を覗いたりしたが、一向に見つかる気配はない。彼は一旦地上に戻ると、改めて情報を整理していく。

(近くにはいなかったし、やっぱりあの団体客に巻き込まれたのか? もっと奥まで探した方がいいのか……)

 数分前の出来事を思い出しながら、彼女の行方を模索している。あらぬ不安が募り始めており、表情もやや強張ってしまう。一刻も早く再会をしたい……その気持ちがキリトをより焦らせている。

(早く……早く見つけないと!)

 一心不乱に再び捜索を始めていた……その時だった。

「おい、貴様動くな!」

「えっ!?」

 ちょうど横の細道から、怒号に近い男性の声が聞こえてくる。その声に反応してしまい、キリトが横を向くとそこには……とんがった耳を持つ二人の若い男達が立ち並んでいた。

「って、アンタ達は誰だ?」

「とぼけるな! 貴様のその黒い羽……さてはスプリガンの女の仲間だな!」

 初対面早々に男の一人が、キリトへ怒鳴り散らしていく。どうやら彼に疑いをかけているようだが……

「はい? 何を言ってんだ?」

キリト自身は表情を崩さず、とぼけた返答をしている。ところが内心では、図星を突かれてやや動揺をしていた。

(スプリガンって……何でこいつら、俺の種族を知っているんだ?)

 ALOにおける種族の一つ、スプリガンを当てられたことに、強い違和感を覚えている。

じっくりと男達の容姿を見ると、サラマンダーやノームの初期アバターとだいぶ似通っていた。喧嘩腰の男が赤髪に細身の体型、その後ろにいるのが茶髪に大柄な体格と、種族の特徴とも一致している。

(まさか俺達の世界から来た、別のプレイヤーか!?)

 仕舞いには、飛躍した深読みまでする始末であった。

 そうキリトが考え込む中で、男達は予測とは的外れだと察している。様子を見ていたノームらしき男が、相方にそう吹き込んでいく。

「おい、アイツ。やっぱり俺達の星とは無関係じゃないのか?」

「チッ……ただの見当違いか。まぁ、いい。聞きたいことはもう一つあるからな。お前……高杉晋助について何か心当たりはあるか?」

 話を替えて続けざまに、サラマンダーっぽい男が高杉へ関する質問を発している。これにキリトは、不意にも動揺を表に出してしまった。

「た、高杉!? って、あの……」

「何か知っているのか、お前!?」

「おい、教えやがれ! 俺達に!!」

 たじろいだ様子に男達は食いつき、まくしたてるように問い詰めてくる。しかしキリトが知っているのは、銀時から聞いた話や夢世界での高杉だけだった。本人への面識はもちろん皆無である。

「いやいや、待ってくれ! 俺はただ聞き覚えがあるだけで、何も知らないよ! だいたいなんで、その高杉さんをアンタ達が探しているんだよ?」

 強く否定した上で今度は、キリトから質問をかけてきた。彼らの高杉への異様な執着心に、ふと疑問を悟ったからである。

「フッ……アイツとは一悶着あってだな。消えてもらわないと、こっちが困るんだよ」

「一刻も早く、口封じをしなければな」

 すると返ってきたのは、何とも物騒な返答だった。

「口封じに消すって……アンタら、何を企んでいるんだよ!?」

「アン? ガキのくせに強気に出るじゃないか。お前とは無関係な話だ! 何も知らないならとっと去りな!」

「そうだぞ。子供が突っ込んでいい話でもないからな……」

 詳しく事情を問い直しても、男達は適当にあしらって、キリトをすぐに追い払おうとしている。自分達から話かけておきながら、この態度はあまりにも失礼極まりなかった。

(何だこいつら……! さっきから消すだの口封じだの、気分の良い口調じゃないな……)

 温厚な性格のキリトだが、彼らの不誠実さには自然と怒りが溜まってしまう。訳があったにせよ、二人への印象は最悪に等しかった。男達の注意から反抗するように、徹底的な姿勢で真意を見出そうとしたその時である。

〈ピー!〉

「おーい。何やってるんでい」

 思わぬ介入者がこちらへと近づいてきた。笛を吹きながら現れたのは、真選組の一番隊隊長沖田総悟である。

「やべぇ! 真選組だ!」

「見つかったら不味い! とっとと逃げるぞ!」

「あっ、待て! お前等!」

 彼を見かけるや否や、二人の男達はこの場からすぐに逃げ出していく。咄嗟に見せた不審さにより、彼らへの疑惑はより強まっていた。何か不都合な事実でも隠しているのか……?

 沖田が到着した頃には、時すでに遅しである。

「あー行っちゃいやしたか。てか、黒剣さんもいたんですねぇ」

「沖田さん! なんでここに?」

「ただのパトロールですよ。にしても、アイツら。あの星にいる一派みたいですねぇ」

「あの星? 沖田さんは知っているのか、アイツらのことが?」

 どうやら沖田には、男達への心当たりがあるらしい。気になったキリトが何気なく聞くと……伝えられたのは意外すぎる新情報である。

「アイツらならALO星の天人ですかねぇ。妖精っぽい見た目もしてやしたし」

「ALO星か……って、はい!? そんな星があるのか!?」

「おや、初耳でしたかい。ここ最近ターミナルから直通で行けるようになった星で、注目度も上がっているんですよ。アルブヘイムっていう文字通り、妖精達の住む星でさぁ」

 この情報にはキリトも、思わず耳を疑ってしまった。冗談で呟いたことが、まさか本当にあったとは思いもしていない。彼によると、ALOに似た星はこの宇宙に実在するようだ。

「本当にそんな星があったのか……じゃ、アイツらが言っていた種族も納得だな」

「まぁ、そっちの事情は知りやせんが、覚えておいて損はねぇですよ。それよりもあの男達なんですが、上の情報だと相当ヤバいらしいですねぇ。なんでも、高杉率いる鬼兵隊と関係があるんだとか」

「また高杉か……」

 さらに沖田からは、男達の詳細までも明かされている。彼らの主張通りに、高杉との関係が噂されているが……断片的なためか、増々謎は深まるばかりだった。

「どっちにしろ、アイツらを見つけないことには分かりやせんよ。こっちも気になる情報があるんでねぇ……」

「まだ情報があるのか?」

「えぇ……最後まで聞いてくれやしたし、一言だけ言っておきやすよ」

 そして去り際に沖田は、キリトの耳元へ近づくと、ある不穏な噂を吹き込んでいく。

「その一派は近々、母国でクーデターを企てているらしいですよ」

「えっ!? それって……」

「これ以上は言えやせん。こっちも未確定なことばかりなんでねぇ……」

 意味深に呟いた後、彼は何事も無かったかのように場を跡にしている。曖昧な情報ばかりであったが、キリトにとっては衝撃の連続であった。

「高杉さんに妖精の星……クーデターなんて、一体全体何が起こっているんだ?」

 神妙な表情となって、これまでのことを思い起こしていく。ひょっとすると自分は、とんでもないことに巻き込まれたかもしれない……その考えが脳裏へとよぎっていた。

「分かんないな……って、そういえば! ユイを探さないと!!」

 すると彼は突然、ユイの捜索についても思い出している。一旦はこの情報を保留にして、再び捜索へと駆けだしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 その一方でユイは、高杉を追いかける提で道を歩いている。近くに彼がいるおかげか、先ほどよりも不安はさほど感じていない。恐怖心も段々と薄れ始めている。

 彼女は今一度、高杉の容姿を確認していた。編み笠を被り、髪色は黒っぽい紫、左目を包帯が覆っており、服装では同じく紫の和服を着こなしている。足元は素足に草履と、涼し気な印象であった。さらには腰元に、鞘で納めた刀を装備している。傍から見た雰囲気もどこか独特で、話しづらい印象を持ち始めていた。

(少し気まずいです……アレ以来、一斉話していませんし)

 気を遣いすぎているせいか、しばらくは沈黙が続いてしまう。話しかけようとしても内心で抑止力が働き、仕方なく諦めている。

 そんな彼女の様子を察したのか、ここで高杉からそっと話しかけてきた。

「ふっ……やけに黙っているな。もっと無邪気に振る舞っても、別に構わねぇよ」

「いや、あの……それは空気を読んで」

「へぇ。ガキのくせにしっかりしてるじゃねぇか。どっかのじゃじゃ馬姫とは偉い違いだな」

「じゃじゃ馬姫?」

 ユイの大人びた対応には、高杉も率直に感心をしている。小難しい例えも発したが、残念ながら彼女には上手く伝わっていない。

 それはさておき、彼は続けざまに会話を進めていく。

「少し俺と話すか? 何か聞きたいもんはねぇのかよ?」

(突然の質問タイム!? ここは話題を作って、少しでも話を続けないと……)

 絶好の機会だと察したユイは、必死に質問を頭に思い浮かばせている。短い時間の中で考え付いたのは、実直な疑問であった。

「じゃ……高杉さんってどんな仕事をしているんですか?」

 不思議そうに聞いてみると、高杉は即座に答えを返していく。

「仕事か。分かりやすく言うなら、世界をぶっ壊すことだな。この天人に迎合する腐った国もろとも、俺の手で破壊すんのが目的だ……」

 ニヤリと笑みを含ませて、平気で恐ろし気なことを発していた。彼の返答に間違いはないのだが……回りくどく言ったせいか、ユイには肝心な部分が伝わっていない。

(いまいち分かりませんが、もしかすると今は爆破解体を仕事にしているのでしょうか?)

 内心では勝手に、土木関係の仕事だと解釈していた。純朴な心構えが、意外な結果を生み出している。

 そう長々と続かない会話の中で、ユイには一つだけ気がかりなことがあった。

(アレ? 今一瞬だけ、悲しそうな眼をした気が……)

 ほんの一瞬だけ見せた高杉の悲しげな目つき。どうしても気になった彼女は、そこから感情の起伏を読み取っていた。想像力を膨らませて、彼の本質を理解しようとしている。と深く考えているうちに、二人はより大きい通りへと到着していた。すると途端に、聞き慣れた声が響いていく。

「おーい、ユイ! どこだ!!」

 それは精力的にユイを探し続けるキリトの声だった。

「あっ、パパの声です!」

「パパ? ようやく見つかったのか?」

 当てが見つかったことで、彼女は思わず心から安心している。一方の高杉も、迷子の親が見つかったことだけは、ユイと同じ気持ちであった。

 声の聞こえた方角へ振り返ると、キリトが走りながらこちらへと向かってくる。

「こっちですよ! パパ!」

「ユイ! 良かった……ようやく見つかって!」

 はぐれてから約数分後。再会を果たした二人は、ぎゅっと強く抱きしめ合っていた。その様子を目にした高杉は、小さく鼻息を吐いた後、何も言わずにこの場を去っている。

「大丈夫だったか?」

「はい、もちろんです! さっきまで助けられて……アレ?」

 ユイも彼のことを紹介しようとしたが、もう既にいなくなっていた。これにはつい戸惑いを覚えてしまう。

「高杉さんがいない……?」

「高杉? って、ユイ!? まさか高杉晋助と会ったのか!?」

「は、はい。先程まで一緒に行動をしていたのですが……」

 高杉と聞いてキリトも、別の意味で動揺を広げていく。彼を狙う一派の男達を思い起こし、まるで何かが繋がったように悟っていた。

「まさか本当に……」

「どうしたんですか、パパ? 何かあったのですか?」

「あぁ、実はなこんなことがあって――」

 そしてユイにも、数分前に起きた出来事を手短に話している。ALO星の存在や高杉絡みの一派などを彼女に教えていた。

「そうでしたか。高杉さんを狙っている怪しい天人さんと会ったんですね」

「あぁ。沖田さんによると、クーデターを企てている噂もあるしな……」

 特に二人が気にしていたのは、一派と高杉の関係性である。なにせ今このアキバに、両方とも来ているからだ。いつ不吉なことが起きても、おかしくない現状である。

 この一件に巻き込まれたキリトだが、傍から見れば自分達にとっては関係のない話かもしれない。だが同時に、真実を知りたい気持ちも少なからず心にはあった。

 キリトは腕を組んで深々と考え込む中で、ユイが彼に向かって、率直な助言を言い伝えていく。

「それで……パパは本当のことを知りたいんですよね?」

「あぁ、そうだが……」

「だったらその気持ちに従うべきですよ! 私も高杉さんと行動して、いくつか分かったことがあるんです。怖い見た目の人だけど、どこか悲しげな眼をしている……完全な悪人ではないと思うんですよ!」

「そ、そうなのか?」

「はいです! 私だって、もっと高杉さんのことが知りたいです! どんな事実だったとしても……知らないより知る方が良いと思いますよ!」

 彼女なりに伝えてきた精一杯の後押し。高杉と共にいたからこその気持ちを、ここで発している。彼をより知りたい想いや、一派との関係を知りたいキリトを、全力で肯定していた。

 この助言によって、キリトにも踏ん切りがついたようで、同時にある強い想いが芽生え始めている。

「そっか……分かったよ。あんなに馬鹿にされて黙る訳にもいかないし、ここは俺達なりに進んでいこう! あの二人と高杉さんを探そう!!」

 そう高らかに決意をして、ぐっと右手を握っていた。釈然としなかった気持ちを晴らすためにも、真実を知りたい想いを優先している。ユイが強調した通りに、自分の素直な気持ちに従っていた。

「それでこそパパですよ! 私も出来る限り手伝いますね!」

「ありがとう、ユイ。でも危険が絡むかもしれないから、いざという時は逃げるんだぞ」

「分かっていますよ!」

 生き生きとした表情へと戻って、ユイも思わず一安心している。しっかりと注意も聞き入れて、二人は揃って高杉らの捜索に目的を変更していた。

 するとユイは、あるとっておきの情報を彼へと教えている。

「それと……高杉さんはもしかすると、廃墟にいるかもしれません」

「えっ? そんなことが分かるのか?」

「はい。あの人の仕事は恐らく、爆破解体ですから!」

「……えっ? 本当に?」

 会話から読み取った重要なヒントだが、これはただの勘違いでしかない。それでも彼女は満面の笑みで伝えており、キリトも正直疑いにくかった。

 

 

 

 

 

 その情報も踏まえつつ二人は、右往左往にアキバを捜索していく。ユイのヒントでもある廃墟も視野に入れながら捜していると……ある天人から有力な情報を得ていた。

「あのとんがった男達なら、取り壊し予定の博物館に向かったよ。ついでに紫髪の男もいたはずだ」

「って、本当に廃墟にいたんだ……」

「これはチャンスですよ! 早速向かいましょう!」

 どうやらユイの読み通りに、廃墟と化した博物館に高杉や一派の男達が来ているらしい。偶然の産物とはまさにこのことだろう。

 とりあえずはこの情報を頼りにして、キリトらも博物館へと向かっていく。その建物が近づくにつれて、とある人影を見かけていた。

「アレです! あの紫の服の人が高杉さんです!!」

「あの人か……ようやく見つけた!」

 後ろ姿からもはっきりと見える紫色の着物。間違いなくユイが見かけていた高杉の姿だ。息を切らしながら入り口前へ辿り着くと、二人は勢いよく高杉へ話しかけている。

「ハァ……高杉さん!」

「あなたに……聞きたいことがあって」

 そう呼ばれた彼はゆっくりと後ろを振り向く。苦労の末にキリトらが目にしたのは――

「おや、私に何か用でしょうか?」

「「えっ?」」

高杉ではない謎のおっさんだった。服装や髪形は本人と同じだが、顔はまったく異なっている老け顔である。

 この予想外の展開は、キリトやユイも唖然としていた。

「高杉さんじゃない!?」

「おっさんだれだ?」

 正直戸惑うのも無理はない。彼の正体は鬼兵隊の参謀、武市変平太である。高杉の仲間の一人で、作戦の中枢を担う年長者だ。時に見せる奇抜な行動から、ボケ要員としても確立をしている……その証拠に高杉の格好でもなんら動じていない。

「何を言っておるのでしょうか。私こそが高杉晋助です。この紫の髪と眼帯を見れば、本物だと分かるでしょ?」

「いや別人さんですよ」

「だよな。ちょっと匂いもするし……」

 意地でも本人だと主張しているが、キリトやユイには伝わっていなかった。冷めた表情のまま、彼の言葉を受け流している。

 だが一方で武市は、ユイを見かけると即座に態度を切り替えていた。

「それはそうと、アナタの妹さんは随分と可愛らしいですねぇ」

「えっ、私のことですか?」

「その通りです。光沢のある長い黒髪に、清楚さを醸すワンピース。それに華奢な体つきは完璧の一言です……あなたなら絶対三、四年も経てば、すんごいことに――」

 垣間見えたロリコンへの片鱗。ユイを目の前にして、密かに彼女へ興味を募らせている。目つきを変えることなく、ゆっくりと近づこうとした時であった。

〈シュ!〉

「えっ?」

 突然にもキリトはエクスキャリバーを引き抜き、武市の首元すれすれに差し出している。彼のことを危険人物だと判断して、存分に敵意を露わにしていた。

「おい! これ以上ユイにふざけたことを言いふらすなら、この俺が容赦しないぞ……!」

 あまり見せない鋭い目つきで、睨みを利かせていく。忠告にしては大胆だが、ユイを守る為ならば容赦は無かった。

「いやいや、冗談じゃないですか! ただのロリコンジョークじゃないですか!」

「今ロリコンって言ったな! アンタ絶対危ない人じゃないか!」

「ロリコンって何ですか?」

「ユイは知らなくていいぞ! まだ覚えるには早い事だから!!」

 暴露をしたり誤魔化したりと、武市との邂逅は思わぬ時間が費やされてしまう。結局は本名を聞かないまま、キリトはロリコンの危ないおっさん、ユイは高杉の格好をした変なおじさんだと印象付けていた。

 そんなグダグダさでも、武市は何事も無かったかのように仕切り直す。

「というか、お二方はもしや高杉さんに用があるのですか?」

「そ、そうですよ! この中に高杉さんはいるんですか!?」

 ユイが即座に反応すると、彼は当然のように誤魔化しを加える。

「いいや。それを教えることは出来ません。なにせ彼は今大事な話の最中ですから、絶対にここを通すわけにはいかないのです」

 はずだったが、あっさりと墓穴を掘ってしまった。高杉の居場所を公言してしまい、キリトやユイもこれを察して、素直に信じ込んでいく。

「やっぱりこの場所ですよ! 行きましょう!」

「あぁ! 強行突入だ!!」

「ちょっと!? なんでバレているの!? 止まりなさい! 無垢なロリ少女!!」

 バレる前に二人は、武市を振り切って博物館へと逃げ込んでいた。未だ失態に気が付かない彼は、驚嘆しつつも止めようとする。しかし、

〈ガシャーン!〉

「あっ、痛い!?」

不運にも付近に放置していた丸型ポストが、足元に倒れ込んでしまう。その重さも結構あり、文字通り足止めをくらってしまった。

「なんでこのタイミングでポスト!? しかも重くて抜けない……!?」

 思わぬトラブルが起きたことで、キリト達は彼の追跡を撒くことが出来ている。

 

 

 

 

 そして二人の行方だが、現在は博物館館内を慎重に進んでいく。道行く先には飾られていた展示物が、どれも埃を被って無造作に放置されていた。

「なんだかレトロなものばかり置かれていますね」

「随分と年月が経っているんだろうな……ケホ」

 以上の状態から長年放置された廃墟だと彼らは予測している。清潔とは言えない環境からか、軽く咳までしてしまう。

 そしてさらに奥へ進むと、とある広場の入り口に行きついていた。そこには、

「あっ、いました。あの人です」

「アレが今の高杉さんか……それにアイツらもいるな」

目当てであった高杉とALO星の天人二人が、ちょうど相対している。キリトとユイは気配がバレないように小声で交わして、入り口前へと立ち止まっていた。適度に距離を置いて、高杉らの様子を伺っていく。

 すると聞こえてきたのは、男三人の怪しげな会話である。

「よぉ! ようやく出会えたな……高杉さんよ!」

「こっちはお前のことを、懸命に探したんだぞ」

 天人達は挑発気味に、高杉へ話しかけてきた。しかし本人はこれに乗らず、冷静な口調で返していく。

「そりゃ、奇遇だな。俺もテメェらのことを探していたんだ。こっちは金や技術を提供してやったのに、何の音沙汰もないとは……お前さん達のリーダーは随分と傲慢なこった」

「やかましい! 我々にとってあのお方こそが、国の頂点に相応しいのだ! その為にも現状を捻り潰す力が必要なのだ!」

「鬼兵隊及び海賊組織からの支援は大変ありがたい。おかげで我が一派には、多大な戦力を得ることが出来た。だが……あのお方は恩を返すつもりはないようだ。この戦力を独り占めしたいようでな」

 彼から核心を突かれたのか、一派の男達は多少だけ取り乱している。

 次から次へと明かされる新しい情報。会話を断片的に聞くと、高杉と一派との繋がりは、ある時を境に見切りがついたらしい。一派の連中は身勝手な理由で、これまで受けていた恩を仇で返している。

 何一つ悪びれない二人の態度には、盗み聞きしていたキリトらも怒りを露わにした。

「あの人達は最初から、高杉さん達を利用するだけだったんですね……」

「なんて奴等だな……恥も外聞もないな」

 一連の被害者が高杉だと知り、共に彼への同情を見せている。しかし同時に怪しげな関係も判明しており、やや感情移入はしづらかった。

 一方の本人は、彼らの裏切りにも動じてはいない。むしろ強気な姿勢で、さらなる挑発を続けていく。

「そうかい。金の横領に力の独占とは……絵にかいたような自己中主義者だな。聞く度に呆れるぜ」

「ハン! なんとでも言うがいい! 偉い口を聞けるのも今の内だからな!」

「あのお方が国の頂点となれば、やがては全てがひっくり返るだろう」

「そうだ! その力の一端をここで見せつけてやらぁ!」

「「エック・カッラ・スヴァルト……」」

 幾ら罵られようとも、男達は一斉引き下がらない。依然として強硬姿勢を続ける最中で、突然呪文を唱え始めている。

 するとどうだろうか。高杉の周りに次々と敵兵が現れており、瞬く間に彼を取り囲んでしまった。

「あ、あれって?」

「世界樹にいたガーディアンか? それともう一体はなんだ?」

 この光景はキリトやユイにも見覚えがある。敵兵の風貌がかつて、ALOの世界樹攻略で対峙した人型の鎧、ガーディアンと瓜二つだったからだ。全ての個体に大剣が装備されて、高杉への戦闘態勢を整えている。

 さらには、異なる風貌の敵兵も現れていた。三つ槍を武器にした金色の鎧の怪人だったが、キリトらには見覚えがない。

 いずれにしても共に多数の個体が現れて、今にも高杉へ襲い掛かろうとしている。もはや彼に、逃げ道など存在していないが――本人はいたって冷静なままだった。

「ほぉー。こいつらがお前らの作り上げた操り人形か?」

「操り人形? 実に面白い例えだ! こいつらは我が戦力のほんの一部に過ぎない! あのお方は次々と、他世界の化け物を復元しているぞ!」

「こいつらの力を使えば、もうじき妖精の国はひっくり返るだろうな……その為にもまず、不要となったお前を抹消させてやる!」

 組織が持つ技術力を見せ詰めて、男達は満足気に秘密を明かしていく。やはり彼らの目的は噂通り、国家転覆のようである。その片棒を担いだ鬼兵隊及び高杉すらも、不要な存在だと割り切り、仕舞いには数の暴力で消し去ろうと企んでいた。

 身の危険が高杉に迫る一方で、隠れたままのキリトやユイは、今後の状況判断を見極めている。

「あの数だと高杉さんが……パパも行った方が――」

「いや、待つんだユイ。まだ高杉さんの様子を見よう……」

 むやみにツッコむべきではないと、キリトは冷静に踏み切っていた。自分が駆けつけなくても、高杉ならば大丈夫――そんな根拠もない勘を悟っている。

 敵兵の大群がゆっくり近づいていくと、ここで高杉はボソッとため息を吐いて、静かに口を開いてきた。

「御託は聞き飽きた……」

「何?」

 この一言により、場の雰囲気は急に変わっていく。

「要するにこの操り人形で、俺を殺すつもりだろ? だったら二つだけ最初に言っておく……一つは喧嘩するなら、テメェの拳でやれ。もう一つは……俺に喧嘩を売るなんざ、まだ早ぇんだよ!」

 そう言い放った直後だった――高杉は咄嗟に刀を抜いて、周りにいた敵兵を片っ端から切り裂いている。途端に数十体が行動不能となり、その場に倒れ込んでしまった。

「何……!?」

「こんなもんか? テメェら自慢の操り人形はよ!!」

 そう彼にとっては、多数の敵兵がいようが関係ない。ただひたすらに斬り続けて、自身の道筋を作ろうとしている。その表情は戦いを楽しむように笑い、鋭い目つきで相手を次々と仕留めていく。真っ向から切り刻み、時に突き刺し、時に相手を攻守として利用する。ありとあらゆる手段を用いて、この戦闘を駆け抜けていた。

 僅か二分にも満たない時間で、敵兵の半数を彼によって破壊されてしまう。

「な、なんだコイツ!? あの数でもやり合っているだと!?」

「えい、構うな! ひるまずに叩き潰せ!!」

 この強さは男達にも予想外だったようで、思いっきり動揺を露わにしていた。彼らが慌てふためくうちに、敵兵は瞬く間に倒され続けている。

「つ、強い……」

「あの数を平然と相手するなんて……やっぱりあの人も、攘夷志士なんだ……」

 この戦い方は、キリトやユイも大いに衝撃を受けていた。高杉個人としての強さを、改めて思い知らされている。

 だがしかし、そんな彼にも背後に危機が訪れていた。倒し損ねた敵兵の一体が、ぎこちない動きで高杉の背中を狙っている。

「あっ! 高杉さんの後ろに」

「くっ……もう行くしか! ユイはここから動くなよ!」

 この危機をキリトがすぐに察しており、彼は何のためらいもなく、広場へ走り出していた。そして、

「ハァァァ!!」

背中に装備した二本の長剣を抜いて、その個体へとどめを刺していく。ここでようやく高杉も、彼らの存在に気が付いていた。

「あん? お前は……」

「高杉さん! 話は後だ! こっちの敵兵は任せてくれ!」

 有無を言わさずにキリトは残った敵兵を、自慢の二刀流で倒している。もはや遠慮などは無く、本気で戦いを補佐していた。

「ハン……あのガキの保護者かい。まぁ、精々くたばるなよ……!」

 彼の乱入にも高杉は寛容に受け入れている。同時にこちらも戦闘を再開して、残りの敵兵を倒し続けていった。

 キリトの介入により敵兵は増々破壊されてしまい、気が付けばもう数体しか残されていない。あっと言う間に立場が逆転してしまった。

「おい、ここはもう無理だ! 一旦星に戻るぞ!」

「クソ……覚えておけよ!!」

 分が悪いと察した一派の二人は、捨て台詞を吐き捨てて博物館を逃げ出している。

一方の高杉とキリトは、

「ハァ!」

「セイ!」

同時に敵兵を切り刻んだところで、ようやく全個体を行動不能にしていた。文字通りに殲滅した瞬間、倒されていた全ての個体が急に輝きだして、跡形もなく消え去ってしまう。

「き、消えた?」

「証拠隠滅ってところか。まったく厄介なもんだぜ……アイツらも逃げたし、元の木阿弥だな」

 高杉曰く、ただの仕様だと予測をしている。何にせよこれで、一時の危機は回避することが出来た。肝心の相手方は逃がしてしまったが……特に気にする素振りも無い。

「それより……中々やるじゃねぇかよ。テメェの剣裁き」

「えっ、俺のことか?」

「お前以外に誰がいるんだよ。一応礼だけは言っておくさ。あんがとよ」

 戦闘を終えてから高杉は、キリトの剣の腕前を褒め称えている。真正面から言われた賞賛に、当の本人は若干照れ臭く感じてしまう。

(なんだろう……すごく複雑な気分だな。素直に喜んでいいのか?)

 戸惑いつつもそっと、心の中で呟いていた。

 そんな最中で高杉の方は、要件を終えており、このまま去ろうとしている。

「まぁ、それだけさ。誰だが知らんが、これ以上はこの件に関わるなよ。今度はテメェらが、狙われるかもしれないからな……むやみに言いふらすなよ」

 一言だけ注意を添えると、刀を鞘へと戻して、一人出口に向かう。無意識に背中を見せるその姿は、どこか哀愁を漂わせていた。

 しかしキリトには、まだ言い残していることがある。これでは納得がいかないので、強引にも伝えようとしていた。

「あの……!」

 即座に大声を発すると、高杉はぴたりと足を止めている。決して振り返ろうとはしないが、それでもキリトは言葉を続けていった。

「俺はキリトって言うから、覚えてくれよ! それと、ユイを連れてきてありがとうな!」

 自己紹介及びユイへのお礼を、爽やかな笑顔で伝えていく。この愚直な気持ちは高杉にもちゃんと伝わり、一瞬だけ小さく笑っている。結局は振り向かずに場を去ったが、キリトには何も後悔は残っていない。

 そして頃合いを見て、ユイも彼の元へ駆けつけてくる。

「パパ! ……これで良かったんですか?」

「あぁ。大体のことは理解出来たからな。あの人は、強い信念を持って戦っている……そう俺は感じたよ」

 キリト曰く、本当の高杉の姿を知れて大方満足はしていた。何よりも高杉との共闘は、彼自身もポジティブに捉えている。

 しかし同時に、怪しげな一面も知ることとなった。

「でも……あの一派と組んでいたのは正直驚いたな」

「相対的には被害者ですが、やはり高杉さんも悪人なのでしょうか……?」

「そこはまだ分からない。だけど、これからも自分の眼で見たものを信じてみるよ」

「そうですね。考えたって分からないこともありますし、ここは時間を置きましょう」

 未だにあの一派との関係性は謎が多いが、現状で分かることは僅かである。これ以上は考えても仕方がないと察して、踏ん切りをつけていた。ユイも優しく彼のことをフォローしていく。

「だな。それじゃ、気を取り直して観光に戻るか」

「もちろんです!」

 こうして二人は、気持ちを入れ替えて再びアキバ観光へと目的を戻している。仲良く手を繋いでいき、アキバの大通りへ戻っていった。

 偶然から起きた高杉との出会いは、キリトらにとっても大きな影響を与えている。

(俺達から見た高杉さんは、怖くて強い人だった。だからこそ、彼が何者なのかまだ分からない。でも俺達は、あの人を信じたいと感じていた……)

 どんな事実があっても、彼のことを信じたい。そんな淡い期待を共に浮かべていく――

 

 

 

 

 

 

 

 その一方で……高杉と武市は、一度仲間達の元へと戻っていた。帰路の中で二人は、今後の鬼兵隊の方針について固めている。(武市は普段の袴姿へとすでに着直していた)

「どうでしたか、晋助さん? なにかあの男達からは聞き出せましたか?」

「あぁ、聞き出せたよ。条約をあっちから破り、喧嘩を売られたなら、こっちが黙っているわけがないだろ。あの星へ殴りに行くぞ」

「やはりそうでしたか。でしたら、私達もついていくしかありませんね」

 相手から裏切りを受け入れて、全面的に争うと覚悟を決めていた。武市もこれには異論がない。鬼兵隊として黙っているわけにもいかないからである。

 さらに高杉は、今日出会ったあの二人にも少し注目を寄せていた。

「ふっ……面白れぇガキ達だったな」

「おや? 随分とあの子らを気になっているようですねぇ」

「あの強さは只者じゃねぇよ。見た目は小っこいのに、戦い方は一筋通っている。あの年であそこまで戦えりゃ、将来は安泰だろうな。貸を作ったのは尺だが」

「仕方がありません。私も参戦出来れば良かったのですが、何せトラブルがあったので……」

 キリトの戦い方を評価して、次第に興味を持ち始めている。心の中ではそっと、再会を心待ちにはしていた。

(キリトにユイ……貸はいつか返すからな……)

 彼らが万事屋の一員であることに、この時の高杉はまだ気が付いていない。

 

 そして二人が到着した先は、鬼兵隊御用達の船が泊まっている一つの港である。

「おっ、やっと来たでござる」

「おーい、晋助様!! こっちの準備は完璧っすよ!!」

 そこには同じ鬼兵隊の重要人物、河上万斉と来島また子が帰りを待っていた。彼らも今後の方針を聞いており、他の構成員と共に船へと乗り込んでいく。

 全会一致でALO星へ向かうと決意をしていた。

「よし、これで大丈夫っす! それにしても……あの妖精王とか言う奴、やってくれましたね!! あんなの晋助様に声が似ているだけの、アンポンタンですよ!!」

「我々にとっては一つの賭けでしたが、見事に外れてしまいましたね。恩を仇で返す輩には、何倍にもして返さなければ……」

 出航前にも来島や武市らは、一派に関する文句を吐き出している。彼らの裏切り行為には、憤りを感じていた。そして彼らが呟く妖精王とは?

「目指すは妖精の国……ALO星でござる」

「ハハ! 首を長くして待っていろよ……オベイロン」

 こうして高杉ら鬼兵隊の一行も、喧嘩を続けるためにALO星へと船を飛ばす。高杉が最後に発していたオベイロンとは誰なのか? この一件はまだ終わらない……




 高杉晋助が剣魂初登場! いかがでしたでしょうか?

 今回では多くの事実が判明しました。
・謎の星 ALO星の存在
・その星で国家転覆を目論む謎の一派
・一派の敵兵の存在
・鬼兵隊も関与していたが、これを機に交渉決裂。敵陣へと乗り込もうとしている。
・そして……高杉の呟いたオベイロンという男。

実はこの一連の出来事は、次回の長篇にも大きく関係していきます! そしてここからはその長篇の予告をお見せいたします……では、どうぞ!












特報!

 数多の戦いを乗り越え、想いを守り続けた江戸の侍達

 信念を貫き、困難を乗り越えてきた令和のゲーマー達

 彼らの元にまた異世界からの使者が襲い掛かってくる

 戦いは次なる舞台……妖精の星へと移り変わる

 剣魂 新長篇 次元遺跡篇&妖国動乱篇 製作開始

 江戸の侍×令和のゲーマー×平成の――

 今度は全員が出演だ! 続報を待て!


 ――という訳で次回の長篇が決まりました! 現在の章が終われば、随時こちらへ移ろうと思っています。
 ちなみに……何故この日に上げたのか分かりますか? 今後の重要なヒントなのかもしれません。
 それではまた次回、お会いしましょう。





次回予告
エギル「たまさんにお願いされて、中古品の店番を頼まれた俺だったが、何故こうも珍客ばかり来るのだろうか……」
たま「仕方がありません。運が悪かっただけです」
エギル「そこはストレートに言うんだな……」
たま「次回は留守番中に限って、鬱陶しい電話がかかってくる」


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第五十三訓 留守番中に限って、鬱陶しい客がやって来る

 前回の話の補足を致します。来島また子が初登場しましたが、来島を木島と誤植していました。現在はすでに訂正されています。誠に申し訳ございませんでした。

 それでは五十三訓の話をどうぞ。



 ガレージセール。それは不要になったものを、庭先や車庫前で売る一種のリサイクル運動。もちろん銀魂の世界にも存在している。

 

 時期は前回と同じく九月の上旬頃。スナックお登勢前では、たまがエギルにある相談を交わしていた。

「えっ? 余った部品をセールに出して欲しい?」

「そうです。源外様の試作品が多くなったので。残念ながら私は明日用事があるので、エギル様に託したいのです」

 彼女が申し出たのは、ガレージセールへの委託である。どうやら自身に用事があり、同じ職場仲間のエギルに助けを求めていた。この提案に当の本人は、やや驚いている。

「別に構わないが……どうしてまた俺なんだ?」

 素朴に質問を返すと、たまは即座に返答していく。

「それはぴったりだと思ったからです。変な輩に絡まれようが、大丈夫そうなので」

「そんな理由なのか?」

「はい。エギル様のタフさであれば、きっと大丈夫ですよ」

 どこか意味深な一言だが、この時の彼は特に不思議に思わず、ただの冗談だと受け流していた。日頃から世話になっている身なので、すぐに委託を引き受けようとしている。

「まぁ……いまいち分からないが、快く引き受けるよ」

「ありがとうございます。では、無事を祈りますね」

「ハハ。いちいち大袈裟だってば」

 たまの真意にも気づかず、呑気に笑って言葉を返していた。こうしてエギルは依頼を引き受けたが――当日を迎えると、ようやくその意味を理解する。

 

 

 

 

 

 

 

 ガレージセールに選ばれた舞台は、多くの船が行き交う江戸の港。当日の天気は快晴で、澄んだ青空が一面に広がっていた。

 数多くの倉庫が並び、手前には個性豊かな商人が自慢の品を売りさばいている。もちろんエギルの姿もあったが、彼は目の前の光景に気が引いてしまう。何故ならば、

「ヒャッハー! 遂に来たぜ、我らがメタルフェス!」

「掘り出し物探して、激しく盛り上がろうぜ!」

辺りには高いテンションの男達しかいないからだ。港を歩く人々はみな、パンクロックな衣装やメイクを施しており、中にはモヒカンヘアーを見せる強者もいる。

 実はこのガレージセールは、ヘヴィメタル系のフェスと合同で開催されていた。遠くを見れば野外ステージが設置されており、多数のバンドが激しい音楽を演奏していく。もはやこちらが本命であり、ガレージセールはオマケのような扱いである。

 こんな如何にも騒々しいイベントに、エギルはたった一人放り出されていた。

(そ、そういうことだったのかー!! どおりで俺に頼んだわけだ!)

 鮮烈なる後悔が彼の心へと襲い掛かる。時すでに遅いが、たまの意味深な言葉をここで理解していた。その表情も途端に苦く変わってしまう。

(と、とりあえず落ち着こう! たかがノリの良い奴等が集まっているだけだ。他にも俺と同じような普通の商人もいるはず……)

 と一旦は心を落ち着かせて、辺りの様子を見ることにする。自分と同じ普通な人を探して見たが、

「おぉ! アンタもあのバンドが好きなのか!?」

「おうよ! 新時代を駆けるのは、アイツらで決まりだろ!」

「いやいや、次に出る女子バンドも負けてねぇよ」

周りはヘビメタ一色で会話が進んでいた。商人や客のみならず、他の星から来た天人も会話に割り込み、より親睦を深め合っている。

 熱狂的な様子を見ても、やはりエギルだけが浮いているのは明白であった。

「ヤバい……話についていけねぇ……」

 話の理解よりも、心の挫折が先である。この流れにうまく乗れず、つい気まずさを感じてしまう。こうなるともう素直に開き直って、周りに左右されないのが最善の手だった。

「はぁ……だったらもう、比較せずに続けるか。地道に待っていれば、一人くらいは訪れるだろ」

 ボソッとため息を吐いて、彼は肩の力を抜いていく。今後の見通しには不安を感じたが、それでも託された役目だけは、最後まで果たそうとしている。販売する品々はヘビメタとは無関係なカラクリだが、物好きな客が来ることへ期待していた。

 そう心を改めていた時。エギルの元には、記念すべき一人目の客が訪れている。

「おい、そこのいかつい男よ。ちといいか?」

「ん? お客さんか?」

 気の抜けた男の声に気が付き振り向くと、そこに立っていたのは――

「ここにカラーひよこが売っているみたいじゃが……お主は知っているかのう?」

「ひ、ひよこ!?」

二人の珍妙な天人だった。頭部に生えた触手が際立つ彼らの正体は、央国星の出身のハタ皇子とその家臣じいである。

(あ、天人……!? しかもヘビメタとは無関係な奴が来たんだが!?)

 当然エギルにとっては初対面であり、彼の容姿には大いに衝撃を受けていた。内心では本音のままにツッコミを繰り出している。思わず表情は固まっているが、ハタ皇子は気にせずに接していく。

「おーい、聞いているのか? カラーひよこはどこにいるんじゃ?」

「……あぁ。実は俺も分からないんだよ。このイベント自体、初めてでさ」

 聞かれていた質問には、エギルも丁寧に返答している。どうやらハタ皇子は、カラーひよこを探索しているようだが――このイベントからすれば的外れでしかない。側についていたじいも、たまらず文句をぶつけ始めている。

「だから言っただろ、バカ皇子。こんな陽キャしか集まらないイベントで、ひよこ売りのおっさんが来る訳が無いと」

「うるせぇな、じい! さっきまで賛同してたくせに、ころころと手のひらを返すんじゃねぇよぉ!」

「それはそれ。これはこれです」

「理由になってねぇよ! 適当に受け返すんじゃねぇよ!」

 ハタ皇子も即座に言い返して、一触即発な雰囲気へと変わってしまう。二人の内輪揉めが始まったことで、エギルだけが会話から置いてきぼりにされている。

(勝手に喧嘩が始まったんだが……てか、バカ皇子って言うのか? 付けられた本人は可哀そうだと思うが……)

 内容を断片的に切り取り、彼はハタ皇子をバカ皇子だと誤認していた。哀れな名前だと信じ込み、つい同情を寄せていく。

 その一方で、喧嘩の最中にじいはある物を発見している。

「とにかく無い物は無い……おや? これはもしや?」

「ん? どうしたんだ、そんなにガラクタなんか見て?」

 偶然にも目を付けたのは、ひよこの形をした鉄くずだった。これを手に取って凝視すると、彼はある策を閃いている。

「ほら、見てみろバカ皇子! これは心の綺麗な者にしか動かないメタルひよこだぞ!」

「メ、メタルひよこ!?」

「はい?」

 咄嗟に鉄くずをメタルひよこだと呼称して、ハタの注目を逸らしてきた。これには彼のみならず、エギルも驚いて首を傾げている。

 現場は微妙な空気となったが、じいは自信良く主張を続けていく。

「この白銀に染まった素体! 手ごろな小ささ! 小柄な足型! これぞまさに、希少種と名高いメタルひよこだ!!」

「いや、ただのガラクタなんだが……」

「メタルひよこは正しい心を持つ者にしか、動きを見せないという。さぁ、皇子! 貴様はどうなんだ!?」

「だからガラクタなんだよ! こんな見え据えた嘘に騙されるわけが……」

 エギルのもっともな指摘にも、彼は構わず無視をしている。意地でも鉄くずをメタルひよこだと通したいようだ。

 この主張に肝心のハタ皇子はと言うと――

「おっ、今動いたぞ! じい! 本物のメタルひよこじゃ!」

「おぉ! でかしたぞ、皇子! 貴様も正しい心の持ち主だったとだな!」

「えっ!? 本当に信じるのか?」

純粋な心構えで信じ切っている。まさかの展開には、エギルのツッコミも追い付いていなかった。するとじいは、エギルへ近づきある口約束を交わしてきた。

「とりあえず、このガラクタの代金は払っておくぞ。あのバカを遊ばせるのに、ちょうどいいからな」

「やっぱり……騙していたのか?」

「絶対に明かすなよ! 分かったな!?」

「は、はい……」

 やはり本音では、嘘と偽ってハタ皇子を手早く満足させたいだけである。代金を渡しつつ、念入りに威圧をかけていた。その必死さから、家臣としての苦悩も垣間見えている。

「よし、それじゃ行くぞ。皇子!」

「あっ、待ってくれ! メタルひよこー!」

 そして彼はメタルひよこ及び鉄くずを掲げて、ハタ皇子を誘導していく。二人は勢いよく走り出して、港の出口方面へと向かっていた。まるで嵐が過ぎ去ったように、何も残さずに立ち去っている。

「……とんでもない客だったな。アレで騙される皇子って、なんなんだ」

 巻き込まれた形のエギルは、彼らがいなくなると同時に疲労を感じてしまう。ハタ皇子らしい個性と相まって、大変な一時だったが、一品売れたことは好意的に捉えている。

「まぁ、一応売れたから結果オーライだろ」

 気持ちを入れ替えつつ、次なる客足に希望を託していた。その矢先に運よく、また新しい客が立ち寄ってきている。

「ほぅ……中々興味深い物を売っているでござる」

「おっ、きたきた。今度は一体……」

 再び目の前を振り向くと、そこにいたのはまたも癖の強い人物だった。

「この鉄の山を見ていると、良い歌詞が浮かんできそうでござるな」

「ござる?」

 口調が特徴的な彼は、音楽家のような佇まいである。さっぱりとした青髪に、サングラスやヘッドフォンを着用しており、これまた青いロングコートを着飾っていた。さらには三味線まで背負っている。

 そう彼の正体は、鬼兵隊の一員の河上万斉だった。もちろんその事情を知らないエギルは、驚きの連続だったが……。

(ほ、本物のバンドマン!? わざわざここに立ち寄って来ているだと!?)

 音楽家を思わせる雰囲気から、プロの方だと錯覚をしている。彼は勝手に勘違いをしていたが、万斉はマイペースに話を進めていく。

「うむ……主も中々の個性でござるな。パワフル系のエンジニアとは、変わり種でござる」

(いや、アンタに言われたくないよ。サングラスに三味線にござる口調って、キャラが渋滞しすぎだろうが!)

 ふとエギルの容姿を見て一言呟いたが、やはりこちらも見た目から誤解をしている。本人もたまらずに、内心でツッコミを繰り出していく。

 少ないやり取りを続けると、万斉にはある歌詞が頭に浮かび上がっていた。

「おっ、閃いたでござる! ちょいと待ってもらえるか?」

「えっ、急にどうしたんだ!?」

 困惑するエギルをよそに彼は地面へ座り込み、紙と筆を構えていく。それからはひたすらに、思い浮かんだ歌詞を紙へと書き綴る。驚異的な集中力を発揮して、自分だけの世界観に入り込んでいた。

「こ、これは、凄いな……」

 才能を感じさせる早業に、エギルも思わず目を丸くする。見慣れない光景に言葉を詰まらせていると、突然にも彼の仲間も合流してきた。

「万斉さーん! って、ここにいたんすか!?」

 大きく声を上げてきたのは、活気のある女性である。片方だけ結いだ金髪と、へそ出し仕様のピンクの和服を着た彼女は、同じ鬼兵隊の来島また子だった。

(こ、今度は女!? あのバンドマンの仲間……いや、カップルの可能性もあるな)

 彼女の登場により、エギルは余計な誤解を増やしてしまう。音楽関係の同僚やカップルだと予想しているが、どれも的外れではある。

 一方の万斉だが、また子と合流しても手を止める様子は無かった。

「また子よ。五分ほど待っていてくれるか。今そこの商人に、ぴったりの歌詞を書き上げている途中でござる」

「またも自由なことを……こっちは予定が遅れているんすよ!」

「構いやせん。船の手配なら多少遅れても影響は無い。今はこっちを優先するでござるよ」

「……これだから、音楽馬鹿は」

 作詞に熱中する姿を見て、彼女は思わず呆れ果ててしまう。冷静に表情を変えない万斉に対して、また子は分かりやすく感情を露わにしていく。

 何にも邪魔をされずに書き続けると、ようやく万斉の筆が止まる。僅か五分の間に、エギルをモデルにした歌詞が完成していた。

「よし出来たぞ。主をイメージしたソングだ。記念に持っておくでござるよ」

「あ、ありがとうな……」

 そのきっかけを作った本人には、大変感謝をしている。そのお礼として歌詞を綴った紙を、エギルへと手渡していた。

「では、失礼するぞ」

 そして反応を伺うことなく、一言だけ言い残して、彼は気ままにこの場を去っていく。

「ちょっと万斉さん!? どこ行くんすか!! アンタばっかり目立ってずるいっすよ! 聞いているんすか!!」

 またも置いて行かれたまた子は、急いで跡を追いかけている。結局ハタ皇子に続き、こちらも素性を聞けずに終えてしまった。

「アイツも何だったんだ……てか、俺のイメージ曲って一体何だ?」

 正体を気にしているエギルだが、同じく手渡された歌詞も気になってしまう。自身をテーマにしたらしいが、果たしてそこに書かれているものとは。

〈ゆりゆららら〇るゆ〇 ゆりゆらららゆ〇〇り 〇り〇ららゆるゆ〇 大事件!〉

「な、なんじゃこりゃゃゃ!! 思いっきりアニソンじゃないか!? 俺にぴったりの曲じゃなかったのか!?」

 エギルの印象とは程遠いアニソンっぽい歌詞である。つられて彼は、型を外したようにツッコミを繰り出す。歌詞の内容すらも、まったく理解が出来ていなかった。

「これは馬鹿にされただけか……? いや、この曲こそがぴったりなのか?」

 挙句の果てには深読みまでする始末である。いずれにしても、書き上げた本人に聞かなければ元も子もない。

 そう考えを巡らせていると、彼はあるメッセージを見つけていた。

「おや、最後に書かれているな」

 そこに書かれていたのは、またも困惑をする一文である。

〈主のオーラから、絶妙な可愛さが湧いてきたでござる。さながらメタルひよこのようだ〉

「またメタルひよこ!? アレって嘘じゃなかったのかよ!? てか例えられても、全然分からねぇよ!!」

 思いもしないメタルひよこの再登場だった。例えとして出てきたが、どんな評価なのかははっきりと分かっていない。余計な混乱を増やしただけである。

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いたところで、エギルは今一度振り返っていた。イベント早々にも関わらず、彼の元にはハタ皇子や河上万斉といった、癖の強い者しか訪れていない。もっと普通の客が来ることを切に願っている。

「って、さっきから訪ねてくるのは変な奴が多いな……ここからは真っ当な客が来てほしいものだ」

 再び気を引き締めていたが――その願いは虚しくも崩れ去る。二度あることは三度あるの如く、またも癖の強い客が近づいていく。

「うわぁぁぁ!!」

「えっ!? どうした、アンタ!?」

 突如として目の前を横切ったのは、衝撃から吹き飛ばされた一人の天人。咄嗟に声をかけると、彼は怯えた表情で声を発している。

「メ、メタルひよこだ……」

「って、またか?」

「メタルひよこを賭けて、負けたんだよ! もうすぐあいつが来る……逃げないと!!」

「おい、待てアンタ!?」

 メタルひよこと口走って、その天人は速足で逃げてしまった。一体何が起こったのかと、エギルの困惑はさらに深まっている。

 そんな彼の近くには、これまた物騒な男達が通りを歩いていた。

「おや? 阿伏兎。あの男、逃げちゃったみたいだね」

「そりゃ、団長の腕っぷしを見れば、逃げたくなるだろ。メタルひよこまで賭けやがってよ……」

「別にいいじゃん。ここの奴等はそれが好きなんでしょ? 喧嘩材料になるから、遊ぼうと思ったのに」

「遊ぶつーか、只の蹂躙だろ。ありゃ」

 不穏な会話を続けているのは、ボロボロのローブを羽織った男達。彼らの正体はそう……宇宙海賊春雨に所属する神威と阿伏兎である。共にローブの下は中華っぽい服を身に着けており、日の光を遮る日傘もさしていた。

神威は赤髪と中性的な顔立ちが特徴的な青年。一方の阿伏兎は三十代だが、髭と老け顔が特徴のおっさんである。彼らは夜兎の血を引き継ぎ、数多の星で反逆活動を続けていた。そしてこのイベントに訪れていた理由は、只の暇つぶしである。次の船が来るまで、騒ぎにならない程度で、片っ端から強い相手を求めていた。

 神威が次なる標的を探していると、偶然にもエギルが視界に入っている。

「おっ、見つけた! ちょっと喧嘩を売ってくるよ」

「おい、団長。騒ぎだけは勘弁しろよ」

「分かっているよ!」

 彼は気持ちを高ぶらせていき、一目散にエギルの元へと走り出す。阿伏兎の忠告も半分聞き流して、喧嘩のことしか考えていなかった。

 その勢いのままにエギルへ話しかけている。

「ねぇ、そこのおっさん!」

「ん、どうした――」

 声をかけられた本人が顔を上げたその刹那――

「俺と勝負しようよ」

不吉な言葉と共に神威が拳を振りかざしていく。エギルの目の前をすれすれで殴り掛かり、真後ろにあるガレージへぶつけてきた。その衝撃からか、ガレージは盛大にへこんでしまう。

 この突然すぎる出来事に、エギルも正直理解出来ていない。

「えっ……?」

 唖然としてしまい、言葉すらも出てこなかった。ただ唯一分かるのは、目の前の青年が好戦的なだけである。

 すると神威は顔をニヤリと笑わせて、睨みつけるように接していく。

「お前が強そうだから頼んでいるんだよ。もし断ったら……どうなるのか分かるよね?」

 自身の強さを見せつけながら、相手に断る隙を失わせていた。脅迫まがいなことでも、難なくこなしている。意地でも狙った相手は逃がさないようだ。

 威圧的な態度から、エギルサイドも内心であることを確信していく。

(ま、また変なの来たぁぁぁ!? もうこれで何回目だよ!? 如何にも不良少年みたいな奴に絡まれたんだが!?)

 赤裸々な想いを叫び続けて、激しくツッコミも繰り出す。彼は神威のことを不良少年だと察しており、無作為に喧嘩を売られたと思い込んでいた。

 一方の神威はエギルの反応などお構いなしに、喧嘩をいち早く勧めていく。

「さぁ、早くやろうぜ……」

 衝動から溢れ出る闘争心を掻き立てて、返答を待ち続けたが――彼の計画も狂いが生じてしまう。

「おい、アイツ。どっかで見た事あるぞ。春雨の一員じゃなかったか?」

「いや、でも普通ここに来るか? 多分人違いだよ」

 ふと耳に聞こえたのは、周りからの商人の声。ローブで変装をしているつもりだが、生憎自分の正体がバレかけている。そうなれば面倒なことになるので、これ以上目立つ行動は控えなければいけない。

「チッ……バレそうだな」

 思い通りにいかず、つい不機嫌な表情へと変わっている。そんな時に、阿伏兎もこの場へ駆けつけてきた。

「おい。だから騒ぎを起こすなって言ったろ」

「なんだよ。ここで終わりなんて、消化不良に決まっているだろ」

「いいから激しい戦いは止めにしろ。お偉いさんに目を付けられたら、困るからな」

 一歩も引き下がらない神威の姿勢には、阿伏兎の説得も中々行き届かない。足並みが微妙に合わず、二人の話し合いも上手くいってはいなかった。

(おっ、これはとうとう諦めたのか!?)

 一方のエギルだが、事情を知らないものの一安心はしている。このまま穏便に済ませば好都合であり、勝負の中止を願っていた。

 だがしかし、神威はとある折衷案を思いついてしまう。

「うーん……だったら別の勝負にしようか。簡単に決められるヤツ……そうだ! 腕相撲はどうかな?」

「えっ?」

「はぁ!?」

 この突飛な提案には、エギルに加えて阿伏兎すらも驚嘆としていた。特に後者は、神威の勝負への執念に呆れを感じてしまう。

「オメェはどんだけ戦いたいんだよ……」

「仕方ないよ。時間を無駄にはしたくないし。さてと、おっさんは俺との腕相撲に挑んでくれるよね?」

 あまり強くは言えず、神威は乗り気なまま腕相撲を勧めていく。さも当たり前のように質問をしてきたが、エギル自身は断りたい気持ちで一杯である。

「いや、それよりも……俺に断るって選択肢は無いのか?」

「無いよ」

(って、どんだけ喧嘩したいんだよ!)

 素直に返しても、即座に拒否をされてしまう。強引なやり方に、心の中でツッコミを返していた。

 またも巻き込まれ気味のエギルへ、神威の側にいた阿伏兎も声をかけている。

「おい、スキンヘッドのおっさん。済まんが付き合ってくれるか? こいつの熱意が収まるまでは、止められないんだよ」

「そうなのか……?。(一体どんなお願いの仕方だよ!?)」

 それでも到底納得はしていなかったが。彼の意志とは反逆して、神威のペースで勝負が進んでしまう。

「フッ……じゃ、さっさとやろうか」

 にこやかな表情となって、膝を地面へと着けている。右腕を差し出して、早くも腕相撲に備えていた。

(なんで俺は見知らぬ不良と腕相撲をしているのか? カラクリを売っていたんじゃないのか? なんでこうも手を合わせるんだ……)

 内心では自問自答を繰り返していたが、それでもここは空気を読むしかない、彼は左腕を前に出して、神威の手を強く握ってきた。

(まぁ、でも付き合ってやるか。見たところ体は細いから、体重をかけたら苦戦することはないだろう)

 嫌々ではあるが、さっさと勝負を終わらそうと決めて、腕に力を溜めている。神威との体格差も考慮して、力の調節を図っていた。ただ一つだけ、彼の自信満々な態度だけは気がかりだが……そう考えを巡らせるうちに、腕相撲はいよいよ始まってしまう。

「それじゃ、いくよ! レディー……ゴー!」

 神威の掛け声と始まり――その瞬間に決着が着いている。

「はぁ!?」

 なんとエギルが力で圧倒されてしまい、思いっきり投げ飛ばされてしまった。空中を一回転した後に、

〈ドシャーン!〉

背中から強く地面に強打している。一瞬の出来事であり、彼にとっては何が起きたのか分かっていない。

「いや……何あの力?」

 神威を夜兎だとは把握できず、ただただ困惑に囚われてしまう。

 一方の神威だが、あっさりした勝利に沿ってリアクションもかなり薄い。

「俺の勝ちだね。おっさんも大したこと無かったね」

「おい、そろそろ気は済んだか」

「もう大丈夫だよ。やっぱり暇が出来ると、それなりに苦労はするね」

「何を今更言ってんだ! お前はもう少し、自重を学んでおけ」

 これと言った礼も言わずに、彼は阿伏兎と共にこの場を去っていく。

 結局エギルは神威の遊び相手として、不条理な戦いに付き合わされただけであった。

「もういい加減にしてくれ……頼むから普通の客が来て」

 疲れ切った表情となり、未だに倒れ込んでいる。悲痛な一言を呟くと、彼は起き上がって体勢を戻すが……その心境は沈んだままであった。

(今日の俺はもしかしたら、運勢が最悪かもしれない。変な皇子に絡まれるは、癖しかない歌詞を渡されるは、不良に腕相撲で負けるは……もう今日は諦めた方がいいのか?)

 連続して訪れてきた強烈な客たちに、だいぶ心をすり減らされている。これも運の悪さだと一括りにまとめていた。

 つい憔悴しきっているエギルの元には、またしても個性的な客が訪れている。

「おぉ、見てみぃ! 陸奥! こっちにはお宝がザックザックあるぞ!」

 聞こえてきたのはテンションの高い男性の声。目の前を振り返ると、そこには土佐弁を使う男女が訪れている。

「高ぶるな、坂本よ。第一お前は快援隊の船長じゃき。きっちりしてもらわないと、こっちが困るぜよ」

「そんな固いことは言わん約束じゃ! 商人は気に入った物には、ゴキブリのように飛びつく! それがワシの流儀じゃ!」

「そんな流儀初めて聞いたぞ。後例えが不潔じゃ。せめて別なものに例えろ」

 余計にテンションを上げる男性に対して、女性は冷静な振る舞いで接していた。二人は態度や容姿も異なっており、男性は茶髪に丸いサングラスをかけて、服装は赤いコートや茶色い野良着を着け、下駄をはいた変わった格好をしている。一方の女性は明るい茶髪を編み笠で隠して、全身を青い野良着やマントで統一させていた。

 彼らの正体はそう――快援隊の船長坂本辰馬と、副船長の陸奥である。共にエギルが売るカラクリ類に興味を持ち、この店へと訪れていた。

「……ア、アンタ達は?」

「おっ、この店の主人か! おまんは良い物を揃えているきに! ちと時間があれば、こだわりとかも聞いていいか!?」

 これまでにはない類の客たちに、エギルはようやく安心感を得ている。ヘビメタ系でも不良でもなく、まともそうな客と彼は初対面をしていた。

(よ、ようやくだ……ようやく話の合いそうな人と出会ったぞ!!)

 今まで感じてきた苦労を忘れ去って、心では大きい歓喜に満ち溢れている。次第に表情も明るさを取り戻して、快く坂本との交流を続けていく。

「あぁ、もちろんだ!」

「おぉ! 力強い挨拶じゃき! ともかくよろしくぜよ!」

 多大なる想いを感じ取り、坂本も元気よく言葉を返していた。こうして初めて対面した二人の商人は、互いの想いを踏まえて、カラクリや流通と言った話で仲良く盛り上がっている。

「坂本と同じ匂いがするが……まぁ、いいか」

 隣では陸奥が小言を呟いているが、特に横やりを入れることはなかった。坂本の楽しそうな様子をそっと見守っている。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてイベント全般が終了して、エギルは売れ残った品を抱えて、スナックお登勢へと戻ってきた。まずは依頼を提案してきたたまから、話しかけられている。

「どうでしたか、エギル様? ヘビメタフェス及びガレージセールは?」

「まぁ、楽しかったぜ。最初は色々あったが、途中で話の合う知り合いが出来てから、行って正解だったよ」

「そうでしたか」

 エギルの満足げな様子を見て、彼女も思わず安心していた。どうなるか予想は付かなかったが、依頼して正解だと括っている。

「やはり任せて良かったですね。もしかすると、エギル様はヘビメタが似合うかもしれませんよ」

「ヘビメタか。あんまり触れてはいなかったが……そうだ。たまさんはメタルひよこの正体を知っているか?」

「メタルひよこ? 聞いたことがありません。一体何ですか?」

 会話の成り行きでエギルは、ヘビメタに関する質問をたまへと投げかけてきた。初っ端から触れてきた、メタルひよこの正体を題にしているが。

「メタルひよこはな……ヘビメタ界の有名マスコットらしいぞ! 坂本さんが言っていたんだよ」

「……はい?」

「いや、なんでしっくりきてないんだよ?」

 自信満々に伝えたが、たまのリアクションはピンと来ていない。彼にとってはずっと抱えていた謎の解消で、盛り上げていたが……やはり温度差が生じている。

 

 その一方で坂本と陸奥は、船内にて会話を交わしていた。

「アハハハ! 良い商売仲間が出来たきに! 今度地球に来る時は、エギルの元へ直行ぜよ!!」

「そうかそうか。それは良かったな」

「そうじゃろ! そうだ! 今度エギルを連れて、すまいるにでも出かけようか――」

「それよりも……買ったカラクリをお前は整理しろ!!」

 こちらもいつも通りの応酬である。能天気な坂本を、しっかり者の陸奥が叱りつけていた。イベントを通じて得を得た両者である。




 今回も初登場のキャラが続々と出てきました! ハタ皇子に河上万斉に神威と……凄いメンツが集まっていましたね(笑) 
万斉がエギルに渡したあの歌詞は……完全に中の人ネタです(笑)

 ちなみに予め言っておきますが、神威や坂本辰馬は次回の長篇とは関係ありません。ご注意ください。折角だし神威達に予告を任せてみるか……





次回予告
神威「どうやら俺達が次回予告を出来るらしいよ。今回は太っ腹だねー」
阿伏兎「何言ってんだ! その分次回からまた出番が無いんだぞ!」
神威「じゃ嘘でもいいから、次の話を俺達からリクエストするか。そうだなー宇宙に名を轟かす力の賢者と戦ってみたいな!」
阿伏兎「おい、やめろ団長! そいつは色々と戦いづらい相手だ!」
神威「賢者の拳を受けてみろ!」
阿伏兎「なんで声まで渋くなってんだ!? 読者には何一つ、伝わってないぞ!!」
神威「次回! おっさんの縁はいつの間にか芽生えている!」
阿伏兎「だから声真似やめろ!!」


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第五十四訓 おっさんの縁はいつの間にか芽生えている

 今回の話でも剣魂に初登場のキャラが出てきます。もしかすると皆さんが待ちわびたキャラかもしれません……では、どうぞ。


 時期は一週間前に遡り、月日をまたいだ八月の終わり頃。静寂が漂う夜を迎えた江戸の町には、桂率いる攘夷党の面々がある宿屋に集結していた。近々実行される潜入捜査の概要を、桂は仲間達へと説明している。

「――以上が作戦の全てだな。オイルマッサージ店に訪れる幕府の重役から、貴重な情報を搾取することが最大の目的だ」

「おぉー! 遂にあの店へ行くんですね!」

「幕府の人間が常連だと噂されていたが……まさか本当だったとは」

 説明を終えると同時に、志士達は次々と声を上げていく。みなこの作戦を好意的に捉えており、場は活気に満ち溢れていた。

 桂の企てた潜入捜査は、幕府関係者が常連として通うオイルマッサージ店が標的である。今後の活動を有利に進めるためにも、貴重な情報を得る算段だった。

 そこで肝心なのは、誰を捜査に任命するのかだが……?

「てか、その役目を一体誰にやらせるんだ?」

 疑問に思った仲間が質問をすると、桂は自信満々に返答していく。

「フッ……それなら安心しろ。この作戦にぴったりの男を、すでに選んでいるからな。さぁ、入って来てくれ!」

「失礼します!」

 どうやらすでに決めているようで、彼の合図とともにその人物が部屋に入ってくる。捜査に選ばれたのは――

「この度! 桂さんからの潜入捜査の命を受けた、クラインこと壺井遼太郎です! 懸命に頑張るので、よろしくお願いします!!」

攘夷志士初心者のクラインだった。有り余る元気で挨拶を交わし、仲間達へ向けて屈託のない笑顔を見せている。

 彼の登場によって、場はちょっとしたざわつきが起こっていた。

「って、お前かい!?」

「どおりでいないと思ったら……」

「新人で大丈夫なのか!?」

 衝撃を受けている者やツッコミをする者など、反応は様々である。新人のクラインが捜査に抜擢されるのは予想外だが……桂にはしっかりと選抜した理由があった。

「うむ。まぁまぁ落ち着いてくれ。クライン殿だが、幸運にもまだ幕府から目を付けられてはいない。さらにはこの容姿から、天人だとも誤魔化すことが出来る。その強みを生かして、俺はクライン殿に任せてみることにしたのだ!」

「おうよ! 初の大仕事だが、しっかり役目を果たしてやるぜ!」

「あぁ! みなも応援してくれよ!」

 処遇や容姿と言った彼ならではの利点を話していき、クラインもまた意気込んで言葉を返している。自身の使命に強い誇りを持っており、大いなるやる気に溢れていた。

 それでもなお、仲間達の反応は微妙なままだったが。

「本当に大丈夫なのか?」

「指名手配されてない限りは、大丈夫だと思うが……」

〔まぁ、クラインも精々頑張りな!〕

 様子を見ていたエリザベスからは、上から目線なプラカードが掲げられている。桂のノリを受け入れるクラインの姿勢に、彼も呆れを感じているようだ。

 仲間達からの期待と不安を背負い、攘夷党の新しい作戦がこうして幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日になると、すでに作戦が決行に移されている。クラインは変装をしており、黄色い眼鏡をかけて、白いバンダナを頭に巻き、クラジと言う出稼ぎの天人になりすましていた。対象のオイルマッサージ店に弟子入りを志願して、店長からは許しを貰い、店に雇われることになる。

 日々雑用をこなして、施術の指導を受ける傍らで、幕府関係者が来客するのをじっと待っていた。店長との関係も上々であり、上手く誤魔化しながら師弟関係を続けている。全ては攘夷党の目的の為に、どんな苦行にも耐え抜いていた。

 

 ――そして潜入捜査から、約一週間が経過した頃。九月へと月日が変わり、クライン自身もこの生活に慣れを覚え始めている。変わらない日常の中で、今日は彼にとって絶好の好機が訪れていた。

 場面はクラインと店長の会話から始まっていく。

「えっとな、クラジ。今日の予約客は一人なのだが、ウチの大切な常連である土方十四郎氏がもうじき来店する。折角の機会だから、俺の施術をしっかりと見ておけよ!」

「はい、分かっています!」

「いい返事だ。それじゃ、よろしく頼むぞ」

 意気込んで要件を伝えると、店長はその場を離れて別室に向かう。一方のクラインだが、一人残された部屋で大いにテンションを高めていた。

(よっしゃー! 遂に幕府の人間がやって来たぜ!! こっそりと情報を掴んでやるぞ!)

 喜びの表情を浮かべて、内心舞い上がっている。幕府の人間である土方の来店をここぞとばかりに嬉しがったが、同時に一抹の不安もよぎっていた。

(でも正体とかバレないよな? 変装もしているから、大丈夫だと思うが……)

 彼とは過去にも対面した経緯があり、正体を見透かされないか気にしている。

 いずれにしても、この機会を逃すわけにはいかない。機密情報を聞き出すためにも、次第に躍起となっていた。

 だがしかし……突如としてその計画に狂いが生じてしまう。

「もしもし。オイルマッサージ店サラマですが……何!? 例の攻略本が、入荷をした!? もう列が出来ている!? 分かった、今すぐ向かう!!」

「えっ、攻略本?」

 別室から聞こえてきたのは、店長の驚嘆とした大声。某ゲームの攻略本の入荷を聞きつけて、彼の気持ちに変化が訪れている。

 そして電話を切ると、急いでクラインの元に戻り、新しい指示を与えていた。

「クラジ……」

「は、はい? 何でしょうか?」

「突然だが、俺には急用が出来た! 土方さんがここに来たら、事情を説明して応対しろ! どうしても俺に用があったら、連絡しろよ!! 後はお前に任せる!!」

「ちょ!? 店長!?」

 なんと今後の応対を、全てクラインへと丸投げしてしまう。自身は一心不乱に裏口から退店して、書店に足を進めていく。常軌を逸した店長の行動力には、彼も止めることは出来なかった。

「絶対に攻略本を買いに行っただろ。そんなにアバウトで良いのか?」

 唖然とした表情で、ボソッと本音を呟いている。店長の変わった趣味には、つい意外性を感じていたが……。

 結果的に店長の不在となったが、これはクラインにとってもよくない状況であった。

「てか、俺だけで土方さんに説得するのか……えっ!? 難しくね!?」

 土方との対面を余儀なくされてしまい、徐々に焦りが生じている。彼の気難しい性格を知っているため、上手く話をまとめられるか、さらなる不安を覚えていた。

 そう心に察していた時には、もう手遅れである。

「頼もうか! 予約した土方だが、誰かいるのか?」

「って、もう来てる!?」

 ロビーから聞こえてきたのは男の大声。なんとも悪いタイミングで、土方が来店してきた。彼との距離はもう目と鼻の先にある。

(し、仕方ない。一人でも立ち向かうか……!)

 もはや説得するしか選択肢は無く、クラインは覚悟を決めてロビーに向かう。がむしゃらな心構えで、土方との対面に挑んでいた。

「い、いらっしゃいませ……!」

 まずは作り笑いをして、真摯な振る舞いで挨拶をする。

「随分と遅かったな。さっきから声をかけて――てか、お前誰だ?」

 若干苛立っていた土方が前を向くと、すぐにクラインの存在に気が付いた。見慣れない顔を凝視しており、彼を怪しむように睨みを利かせていく。

(や、やっぱり聞かれた。ここはもうあの嘘で通すしかない!)

 ここまではクラインも想定内であり、彼は迷いなく偽のプロフィールを元に返答をする。

「お、俺はクラジだよ! 出稼ぎの天人でな、ここの店に弟子入りをしたんだ! 店長とは師弟関係なんだよ!」

 微妙に声色を調整して、陽気な性格の天人を演じていた。弟子の部分を強調して、必死に怪しまれないようにしている。この挨拶に土方の反応はと言うと、

「クラジって言うのか……」

(ヤバい……バレているか?)

「要するに新人かよ。あの店長、また天人を雇ったのか?」

(おっ、これは気が付いていないか!?)

考え込む素振りは見せたものの、特に疑わずに信じていた。内心ではクラインも戦々恐々としていたが、何事も無くて一安心している。下手を踏まない限りは、誤魔化せそうであった。

「そ、そうですよ! 日ごろから店長には、色々とお世話になっているんです!」

「そうかい。それならいいんだが……店長はどこにいるんだよ?」

「あっ店長なら……急用で出かけていて」

「またなのか? あの先走る性格は、どうにかならねぇのか?」

(って、それは日常茶飯事なんだ)

 その後の会話も難なく進んでいき、店長の一件も伝えられている。土方の手慣れた様子からは、彼の突飛な行動は珍しくないようだが。

 適宜心の中でツッコミを入れながらも、クラインは土方の機嫌を伺いつつ、応対を続けていた。

「もし良かったら、店長が来るまでここで待ちますか? すぐに戻ってくると思いますし」

「いやいや、店長ならすぐに寄り道するから、そう早くは戻ってこねぇよ」

「そ、そうですか……では、別の日に予約を」

「今月はもう難しいな。勤務や予定も入っているし……」

(って、全然噛み合わねぇ!?)

 ところが代替案を立てようとも、土方は頑として首を振らない。中々交渉が上手くいかず、クラインももどかしさを感じる始末である。

 このまま穏便に済ましたいところだが――土方にはとある考えが閃いていた。

「何としてもこの時間が良いが……あっ、そうだ。店長の弟子だったら、もうお前の施術でも構わねぇよ」

「そうか、俺のでも良い……って、はい!? それどういうことだ!?」

 どうやら弟子の話を信じており、クラインに向かって施術を委ねてきている。彼の提案には本人も困惑しており、つい耳を疑ってしまった。

「何を驚いてんだよ? 弟子って言っても、多少は教えられているんだろ? 時間もないからアマチュアでもいいんだよ。こっちは」

「いや、そう言われても……俺に何か」

「そう謙遜はするな。下手でも俺は怒らねぇからよ」

(そういう問題じゃないんだけど!?)

 当然クラインは断るのだが、土方も提案を折ろうとはしない。時間の都合もあって、どうしても通そうとしている。

「とりあえず、お前に任せてみるわ。俺は着替えるから、しっかり準備はしておけよ」

 仕舞いには強制的に、自らの足で更衣室へと向かってしまう。もはやクラインの意志とはお構いなく、勝手に話を進めていた。

(いやいや、何で勝手に決まっているの!? さっきから、強引な人ばかりじゃねぇか!?)

 店長の件と引き続き、今日のクラインは変装のせいか押しが弱い。穏便に済ますどころか、予想もしない展開に巻き込まれてしまう。

 この状況下では店長を待たずとも、自分自身で乗り切るしか方法は無かった。

(これじゃ、俺の手でやらなきゃいけねぇだろ……施術なんて、上手く出来るのか?)

 強い責任感を心に感じながら、彼はどんよりした気持ちで施術室に向かう。施術法に関しては、基礎を教えられているだけであり、他はさっぱりである。

 店長の不在が、クラインの活動に大きく影響をしていた。現在の彼の心境では、早く店に戻ってきてほしい。ただそれだけである……

 

 

 

 

 

 

 

 土方の来店から数分が経過した頃。場面はいよいよ施術室へと変わっている。彼は上半身のみを裸にして、診察台の上で背中を向けてうつ伏せになっていた。目も閉じており、早くもリラックスな気持ちに浸っている。

 そしてクラインは、神経質な心構えで準備を施していた。

(この手順で合っているよな? とりあえず、作戦通りにやってみるか)

 本来の予定とは大きく異なるが、それでも作戦の軸だけは忘れていない。油断をしている土方から情報を引き出す……改めてこの一点を意識に入れていた。

 紆余曲折はあったが、遂に施術が始まっている。

「じゃ、始めていきますね」

「おう。最初にオイルを頼めるか? 種類はMのN2で頼む」

「はい、オイルですね! えっと……もう一回お願いできますか?」

「MのN2だよ。右端の棚に入っているはずだぞ。赤いキャップも付いているかな」

「は、はい! 探してきます!」

 開始早々に土方から、オイルの注文が入っていた。聞き慣れない種類に戸惑ったが、一応実在しているものらしい。彼の言われた通りに、右端の棚を隈なく探していく。

「そんな名前のオイル、聞いたことないぞ。えっと……これか」

 注意深く見てみると、すぐに赤いキャップの付いたオイルを発見していた。しかし、

「えっ、これなの!?」

その正体はどこからどう見ても、ただのマヨネーズである。一瞬判断に迷ったのだが、クラインは一応土方へ聞いてみることにした。

「あの……まさかこのマヨネーズじゃありませんよね?」

「いや、それで合っているぞ」

「ハハ、そうですよね――って、えぇぇぇ!? 合っていたのかよ!?」

 想定外の返答を聞いて、思わず一人ツッコミを繰り出す。この見た目そのままのマヨネーズこそが、土方お気に入りのオイルだという。

「あぁ。このオイルは俺の特注で用意してもらった代物だよ。ドロっとねちねちした黄色い液体……限りなくオイルの感触に近づけたマヨネーズだ」

(って、途中からマヨネーズになっているじゃねぇかよ!)

 滑らかな口調で説明をしていたが、要するにただのマヨネーズである。その真意に気が付いたクラインだったが、あえて深くは追及しなかった。

 土方の重度なマヨネーズ愛は、桂からも聞かされていたが、その愛情は度を越している。クラインは思わず気を引かしていたが、土方はさも当たり前のようにマヨネーズを催促していく。

「とにかく塗りながらほぐしてくれ。油で手が滑るから、気を付けとけよ」

 気の抜けた声で注意を加えている。しかしクラインからすれば、オイル代わりのマヨネーズはかなりの抵抗心を感じていた。

(いや……手に付けたくねぇ。普通のオイルならまだしても、マヨネーズって何!? 特殊過ぎて、何も言葉が出てこねぇよ!)

 特殊な相手にぶち当たった故の困難。状況を受け入れられず、体も固まってしまう。

 けれども――覚悟を決めなければ、前に進むことなど出来ない。無理にでも自身の使命を思い起こして、抵抗心を無くしていく。

(――いいや。それでも俺には使命があるんだ! 情報を盗聴するくらい、マヨネーズがなんだ! これに恐れる限りは、本物の侍になんかならねぇよ! やるぞ、クライン! これが俺なりの武士道だぁぁ!!)

 咄嗟に湧き出た気合から恐れを跳ね除けて、がむしゃらにもマヨネーズをまんべんなく手に塗りたくる。そして土方の背中を揉み解すように、塗りたくっていく。

「あー気持ちいいなー」

「そ、そうですか……(こっちは色々と心苦しいけどな!)」

 癒しの一時を楽しむ土方と、苦しさを我慢して涙を飲むクライン。高低差の激しいテンションの施術は、これから三十分間も続いていった。

 

 

 

 

 

 こうして予定通りに三十分が過ぎた頃。施術は何事も無く終わっていた。再び着替えを終えた土方は、ロビーにて支払いを済ましている。最後まで応対をしてくれたクラジことクラインには、彼の施術の腕をべた褒めしていた。

「あぁースッキリしたな! 店長と似た感触で、だいぶ満足したよ。良い腕持っているじゃないのか?」

「そ、それはどうも……ありがとう」

 快く褒められていることには、クラインも愛想よく返している。それよりも今は、未だに手に残っているヌルヌルした感触を、取りたくて仕方が無かった。

(まだ腕がヌルヌルしている……もうマヨネーズは、絶対もう使いたくねぇ)

 これでも入念に手洗いをした方であり、中々落ちずにしばらくはこの感覚に付き合わなければならない。勢いのままに行った施術は、思わぬ結果を生み出している。

 しかし、決して悪いことばかりでは無かった。

(でもこれで、ようやく土方さんとはおさらばできる! 情報もある程度得たし、俺の役目もこれで終わりだな)

 最大の目的だった情報搾取には辛うじて成功しており、潜入捜査の役目を果たしている。この結果には、クラインもこっそりと嬉しく感じていた。店長不在でも良くやったと、つい自画自賛をしている。

「それじゃな。達者でやれよ」

「はい、ありがとうございました!」

 根本の気持ちは異なるが、土方も上機嫌に退店しようとしていた。結局はクラインのことを気付かずに、邂逅を終えている。

 このまま何事も無く終わるはず――共にそう思っていた時であった。

〈ピロロロ!〉

「ん? 電話か?」

 突如として土方の携帯電話が、大きく鳴り響いている。即座に着信へ出てみると、それは上層部からの指示であった。

「もしもし、土方ですが――何!? あのお方がこちらに向かっている!? ついでに、護衛に付けだと!? おい、それ本当なのか……って、もう切ったな」

(な、なんだ今の会話?)

 言うべきことを言った途端に、上層部からの電話が切れてしまう。彼の驚いた反応や口調からは、クラインもどこか嫌な予感を覚えていく。どうやら護衛を任されたようだが。すると土方はクラインの方へ振り向き、真剣な表情でとある仕事を相談してきた。

「おい、クラジ」

「は、はい? 何でしょうか?」

「ちょいと大仕事がお前に入ったぞ。もし成果が出れば、飛び級すること間違いないぜ」

「ど、どういうことだ!?」

「勘が鈍いな……将軍様だよ。今こっちに向かっているそうだ」

「しょ、将軍様?」

 予想外の言葉が次々と飛び出して、またもクラインを困惑させてしまう。特に気にしていたのは、大仕事や将軍様と言ったにわかに信じがたい言葉である。その真意だが、何一つ間違ってはいなかった。

「聞いたことあんだろ。この国を治める上様のことだよ。おっ、もう来たそうだな」

 さらっと重要そうな一言を告げると、彼はその上様を迎える為に外へと出ている。将軍様や上様と言った表現を聞き入れて、クラインはさらなる嫌な予感を察していく。

(う、嘘だろ……将軍って、あの将軍だよな。まさか本物……!?)

 急に緊張感が高まってしまい、心臓の鼓動も早くなっている。自分自身でも必死に衝動を抑え込んでいたが――遂に噂の将軍が目の前にやって来ていた。

「将軍様。ようこそおいでなさいました」

 店に戻った土方は、敬礼で真摯に出迎えていく。そしてやって来たのは、明らかにオーラの異なる若い男性であった。

「うむ。ここが噂のオイルマッサージ屋か。余の心も癒してくれるといいな」

(ナッ!?)

 目に見えない眩い光が、クラインにも襲い掛かっている。来店をしたのは丁髷姿の男性であり、光沢のある派手な法被を着こなし、表情を何一つ変えずに歩んでいた。きっちりとした目つきで、クラインにも目線を向けている。

 その異様な出で立ちの通りに、彼こそがまごうことなき本物の将軍様であった。

(ほ、ほ、本物の将軍かよぉぉぉぉぉ!?)

 もはやお決まりのツッコミも、クラインも内心繰り出していく。話や写真程度でしか触れなかった将軍様が、目の前にいることに驚きが止まらなかった。

(嘘だろ!? 敵の本丸がこんなあっさり来て良いの!? とても大物過ぎて、どうすればいいのか分からないのだが!?)

 次々と思い浮かんでいく激しいツッコミ。心の中にて何度も繰り返しているせいか、表情や外観にも影響が出ている。

 そんなクラインに対しては、土方も小声である助言を告げていた。

「ほら、アレが天下の将軍様だ。店長がいない今は、お前の手にかかっているんだぞ」

「いや……俺に出来るのか!?」

「大丈夫だ、俺が保証する。ただし……将軍様の気だけは損ねるなよ。言われたことは絶対に何でも応じろ。それさえ守れば、無事に生きられるだろうな」

(いやいや、物騒だろ! 生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのか、俺!?)

 明確に伝えていたつもりだが、さらなるプレッシャーを与えてしまう。強ち間違ったことは言っていないが、クラインにとっては刺激的である。

「さぁ、将軍様。ひとまずは更衣室で着替えてもらえるか?」

「うむ、分かった。案内をしてもらえるか?」

「了解だ。俺についてきてくれ」

 そう驚嘆している間にも、着々と準備が進められていた。土方は将軍様を更衣室へと連れていき、着替えの手伝いを行っている。

 もうクラインにとっては、断るという選択肢は残されていなかった。

(ど、どうするんだ!? 俺にこんな大役、出来ねぇって!!)

 軽い潜入捜査のつもりが、とんでもない出来事に繋がっている。豪運なのか不運なのかは、自分でもはっきりと分かっていない。逃げ出したい気持ちで一杯だが、良心が邪魔をして行動には移せていなかった。

 そして時はあっという間に過ぎていき、気が付いた時にはもう遅い。施術室には将軍様が台の上で、うつ伏せに寝ているではないか。もちろんその部屋には、断れなかったクラインもちゃんと同席している。

「では、よろしく頼む」

「は、はい……」

 多くは語らずに将軍様はリラックスな気持ちで、施術を大いに楽しみにしていた。

 だがしかし、一方のクラインは緊張感がまったく解けていない。目には見えないプレッシャーが心を覆っており、一つ一つの行動に重い責任を感じ取っている。

(なんで気付いたら、こうなっているの!? もう訳分かんねぇよぉ!?)

 内心では本音のままに、激しいツッコミを繰り出していく。目の前に将軍様がいることに対して、未だに受け入れられなかった。

(お、お、落ち着け俺!! 下手を踏まない限りは大丈夫だ! むしろこれをチャンスだと思い込め!)

 どうにか落ち着こうとするが、体の震えは止まらない。相手の身分が高すぎる為、神経質にも失敗を恐れてしまう。好機だと思い込んでも、心ではそんな余裕は無かった。

 ただ唯一の救いとしては、お目付け役の土方が部屋の外で待機していることである。

(とりま土方さんも、施術室にはいない! しっかりとやれば、何も怖くはないはずだ! この施術が終わったら、もう何が何でも逃げよう!)

 そう自分に言い聞かせながら、否が応でも意を決していく。この大役を終えた後には、攘夷党に必ず戻ると心に強く誓っていた。

 そんな矢先に将軍様は、早速施術への要望を伝えている。

「それでは一つ、余からも頼めるか?」

「は、はい! 何でしょうか……?」

 肝心である最初の一手。何が来てもいいように、クラインは心構えをしていたが――その要望は明らかに困惑する内容であった。

「この部屋の空気は、中々に心地よく感じるな」

「あーそれはですね、さっきのお客様が使用したオイルなんですよ。いやオイルと言うか、結構特殊なものでして……」

「そうか……では、そのオイルを塗ってもらえるか?」

「かしこまりました、ってはい!?」

 なんと将軍様は、オイルでもないマヨネーズの匂いを気に入っており、直感的にも注文をしている。事情を知っているクラインからすれば、どうしても変更をしたいところだが。

「いや……それよりももっと良い品種もあるので、そちらにした方が」

「いいや。そのオイルで頼む」

「しかし、癖がありまして……」

「構わない。どうしてもそれが良いのだ。素直に聞いてはくれぬか?」

 やはり説得をしても、将軍様の意見が変わることは無かった。彼の表情は見えていないが、気持ちの強さだけはどことなく感じている。先行きが怪しくなる一方で、クラインは土方のある一言を思い出していた。

〈将軍様の気だけは損ねるなよ。言われたことは絶対に何でも応じろ。それさえ守れば、無事に生きられるだろうな」

(ヤバい……これは素直に応じないと、絶対に抹殺される!!)

 将軍様の気だけは損ねるな。この言葉だけが、何度も心の中で繰り返されていく。

未だに抵抗心を拭いきれないが、抹殺されるよりはマシである。そう読み取っていたクラインは、遂に迷いを振り切っていた。

「わ、分かりました! 只今オイルを用意します!」

「あぁ、ありがとう。よろしく頼む」

 彼は逆上されるのを覚悟に、将軍様をマヨネーズまみれにすることを決めている。ここまで来るともう、考えるのを放棄してヤケクソな精神で挑んでいた。先程よりも多くマヨネーズを手に塗りたくり、勢いのままに将軍様の体全体に馴染ませていく。

(もうこの先なんて、知るかぁぁ!! 隙を見て、俺はもう逃げるぞ!!)

 薄っすらと滲み出る涙を堪えながら、彼なりの施術は続いていた。クラインにとってもこれは、精神的にもだいぶ追い込まれている。

 一方の将軍様だが、マヨネーズとは気付いておらず、次第にそっと眠りに着いていく。約束通りに施術を行ったところで、クラインはこっそりと荷物をまとめて、裏口から逃亡している。

 

 

 

 

 

 それから数分が経過した頃。書店にて攻略本を入手した店長は、上機嫌なままマッサージ店へと戻ってきていた。

「いやーようやく買えたな。これで万々歳だぜ……って、アレ? 土方さんか?」

 ロビーから入ると、そこには待機を続けている土方の姿を目にしている。さらに彼もまた、店長の存在に気が付いていた。

「あん、店長か? 随分と遅かったじゃねぇかよ」

「いやそれよりも、施術の方はどうしたんだよ?」

「クラジって言う、アンタの弟子にやってもらったよ。ついでに今は、将軍様の施術を行っているよ」

「何、クラジがだと!? というか、将軍様も来ているのか!?」

 大方の説明を聞き、店長は素直に仰天している。自分がいない間に多くの物事が進んでいたようだ。

「もう数十分も前からだな。そういえばやけに静かだが、もう終わっているのか?」

 その一方で土方は、説明を終えると施術室の様子を気にしている。一段と静まり返っているので、てっきり終わったものだと思い込んでいた。

 二人は揃って、施術室に入ってみることにする。

「おい、クラジ! もう終わったのか? 将軍様は……」

 と声掛けをしつつ周りを見てみると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「こ、これは……」

「どうしたんだい? 一体……」

 さらには店長も見てみると、理解が出来ずに絶句してしまう。

 そこにいたのは――マヨネーズで体全体を乗り固められた将軍の姿である。

「って、何だこれは!?」

「おい、しっかりしろ将軍様!? ていうか、クラジはどこへ行ったんだ!?」

 いまいち事態を飲み込めずに、大きく取り乱している二人。状況を知っているはずのクラジことクラインも、すでに部屋からはいなくなっていた。

 だが一方の将軍様だが、まだ自身の状態には気付いていない。微笑みを浮かべながら、心地よく眠りに着いている。

「重い……けれども心地よい」

 そう言い残すと、また深い眠りに戻っていった。

「将軍様! しっかりしろぉぉ!」

「クラジ!? お前何をやった!? って、どこへ行ったんだ!?」

 てっきり気絶したと思い込んだ土方らは、さらなる混乱に陥ってしまう。理由が分からないままに、まずは将軍を起こすことに躍起となっていた。現場の騒動は続きそうである。

 そして逃げ出したクラインの方だが、

(もう知るかぁぁ! 帰らせてくれぇぇ!!)

目に見えないプレッシャーに押し潰されてしまい、予定より早く潜入捜査から引き上げていた。心の中で叫び続けながら、懸命に桂達のいるアジトへと戻っている。

 

 

 

 

 

 その日の夜頃。無事にアジトへと戻ったクラインは、桂達に向けて結果報告を行っていた。変装もバレずに情報を得たことに、彼は大変褒め称えている。

 ところが途中で逃げ出したことで、面倒くさい状況にも発展していた。

『続いてのニュースです。本日の昼頃、マッサージ店を訪れた将軍公に多量のマヨネーズを塗り付けたとして、自称天人のクラジを指名手配にしました。現在も逃亡しており、真選組は早急な確保と証拠の発見に迅速するとのことです――』

 テレビに映し出された将軍様に関わる騒動。彼をマヨネーズまみれにしたとして、クラインの変装姿が大々的に指名手配となっている。幸いにも自身の変装なので、影響はそこまで無いと思われるが……彼にとっては手痛い失敗ではあった。

 この報道されたニュースに、桂の反応は意外にも喜んでいる。

「良くやったぞ、クライン! 敵の本丸に精神的苦痛を与えるとは大したものだ! これは名誉ある指名手配だぞ! もっと喜んでも良いのだぞ!」

「ハハ……どうせなら、もっとマシな理由で手配されたかったよ」

 将軍様にも攻撃的な側面を知って、よりクラインのことを見直していた。だがそこに至るまでの過程は、過度なプレッシャーから生まれた乱心的な行動だと本人はよく知っている。精神的苦痛を与えられたのは、むしろ彼の方であった。

(桂さんには詳しいことを言うのは止めておこう……しばらくは潜入捜査はやらなくても良いかもな……)

 攘夷浪士や捜査としての苦労や、敵対組織の個性を改めて思い知り、クラインも侍として成長を果たしている。

 こうして彼の初めての大仕事は幕を下ろしていた。

 

 ちなみにこのニュースは、他の仲間達にも伝わっている。

「なぁ、キリト。一ついいか?」

「どうしたの、銀さん?」

「クラインが指名手配されているぞ」

「ふーん。そう……って、ふわぁ!?」

 キリトも当然の反応であった。




 まさかの将軍様参戦! 皆さん、お待たせいたしました! 登場早々にマヨネーズまみれになるなんて……もういつも通りですね(笑)
 そしてクラインも記念すべき指名手配へ! 変装した姿の方だけど、本物だとバレるのもそう遠くはないのかも……





次回予告
たま「そういえばリズベットさんは、普段からどのように生活しているのでしょうか?」
リズ「そんな特別なことはしてないわよ。みんなとご飯食べたり、お風呂入ったり……」
たま「要するに風俗嬢はしていないと」
リズ「って、している訳ないでしょうが!! 流石に遠慮するわよ!!」
たま「次回。地方自慢に限って、穴場スポットは知っていない」


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第五十五訓 地元自慢に限って、穴場スポットは知っていない

 吉原滞在組の四人って、普段どんな生活をしているんだろ? 絶対三日に一回は、キリトの話で揉めていそう……


 穏やかな朝を迎えていたある日の吉原。シリカら女子達が滞在するひのやには、珍しい客が訪問していた。

「何? この荷物を届けたいじゃと?」

「その通りです。かぶき町に間違って配達されたものなので」

 店内にて月詠と会話を交わすのは、カラクリ家政婦のたまである。彼女は手にしていた小包の入手経路を説明していた。どうやらスナックお登勢で、飛脚が誤って届けてきたものらしい。

 月詠が興味深く小包を物色していると、裏側に書かれていた宛先を目にしている。

「うむ……この住所なら、確か町の隅っこにあるな」

「隅っこですか。より詳しく教えてもらえないでしょうか? 私が代わりに届けたいので」

 世話好きなたまは自分から進んで、小包を本来の持ち主へ届けたいようだ。住所までの道筋を、月詠へ詳しく聞いている。

「えっと、ここから右折して――いや、そんな説明よりも案内役を立てた方がいいな」

 しかし、複雑な行程故に彼女は言葉を詰まらせてしまう。そこで思い付きから、代わりの案内役を提案している。

「案内役ですか? 私は一人でも大丈夫なのですが」

「いやいや。いざという時にも、二人の方が大丈夫じゃろ。確か今日空いている者は――」

 たま自身はさほど気にしていないが、月詠は吉原の事情を鑑みて、案内役の適任を考え始めていた。一覧にすると、月詠はこれからリーファやシノンとの稽古の約束があり、シリカは日輪のお使いで店を離れている。消去法から思い浮かんだのは、今日が休日のあの女子だった。

「フワァァァ~おはよう、月姉」

 なんとも絶妙なタイミングで姿を見せたのは、起床したばかりのリズベットである。大きな欠伸を吐いており、まだ意識がはっきりとしていない。少しむくんだ表情で、月詠から話をかけられていた。

「リズ。ようやく起きたのか。休みだからって、だらけてはいかぬぞ」

「いや~ちょっと夜ふかししてね……まずは顔を洗ってくるわ」

「また夜ふかしか――あっ、そうじゃ。主に一つお願いしてもよいか? たまさんと一緒に荷物を届けてほしいのじゃが」

「あぁ~そう。分かったわ。後で詳しく聞くね」

 言われるままに頷いており、あっさりと了承をしている。質問等はまったくせずに、リズベットはひとまず洗面所へと足を進めていた。本当に理解をしているのかは、いささか不安であるが。

「寝ぼけていたそうですが、大丈夫でしょうか?」

「まぁ、心配することはない。リズはしっかりとしているし、仕事も投げ出さないからな。すまないがわっちにも時間が来てしまった。このままリーファ達の元に向かうから、たまさんはリズが戻るまで待っているのじゃぞ」

「分かりました。気を付けていってらっしゃいませ」

 一抹の不安はあったものの、案内の役目は彼女へと委ねている。そしてこのまま月詠は、予定通りにリーファ達の待ち合わせ場所へ向かっていた。場に残されたのは、小包を抱えたたまのみである。

「リズベット様とのマンツーマンですか……」

 考え込む素振りを見せており、ふと思ったことを呟いていく。

 店内にて待ち続けていると、リズベットが洗顔を終えて戻って来ていた。

「あぁーやっと目が覚めたっと! そういえば月姉から、お願いされた気がするけど……」

 眠気はとっくに無くなり、表情も生き生きとしている。歩きがてらに月詠の託を思いだそうとしたが、中々頭には浮かんでこない。

 そんな最中で目に映ったのは、店内で待っていたたまの姿であった。

「アレ? たまさん?」

「おはようございます、リズベット様。ようやく目は覚めましたか?」

「覚めたけど……それより、なんでひのやにいるの?」

 来店するまでの経緯を知らない分、驚いた反応を見せている。不思議そうな表情で、たまとの目線を合わせていた。

 すると彼女は続けざまに、約束通りの案内を促している。

「荷物の住所を知りたくて、ここへと訪れたのです。それでは、案内をお願いできますか?」

「あ、案内?」

「先ほど月詠様から依頼をされたはずです。やはり身に覚えが無いのですか?」

 さも当たり前のように勧められていき、リズベットの困惑はさらに深まってしまう。しかしたまの姿勢に引っかかり、ほんのりと託の内容を思い起こしていく。

(もしかして、たまさんの案内役が月姉からのお願いなの? そういえば、任されたような気が――)

 まだ確証は得ていないが、自然としっくりきている。内心では徐々に、話の本筋を理解していた。

「リズベット様? 大丈夫でしょうか?」

「あぁ、うん。分かっているわよ。えっと……とりあえず、アタシが案内してあげるわね!」

「それはありがとうございます。こちらの住所を教えて欲しいのです」

 ひとまずは場の空気を読み、すんなりと案内役を引き受けていく。元は月詠らの会話から決まったものの、特に投げ出すようなことは無かった。生真面目な一面を目にして、たまもつい一安心をしている。

 一方の本人はと言うと……実はかなりの不安を感じていた。

「ま、任せて頂戴! (吉原のえっと……これはあの場所だっけ?)」

 口では威勢よく返したが、内心にて緊張感に包まれている。住所にしてもうろ覚えであり、不安要素が積み重なってしまった。

 こうして意外な組み合わせの女子二人の、荷物届が幕を開いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「確かこの先を右に曲がった後に、今度は左へ曲がって――」

「なるほどです。確かに道筋は複雑ですね」

 身に着けた知識を頼りにして、リズベットはたまに正しい住所へと案内をしていく。すでにひのやを出発してから数分が経ち、まったりとした雰囲気で吉原の歓楽街を進んでいた。荷物の事情等は適宜たまから聞き、会話を繋げている。

 一見すると順調そうだが、リズベットは少しだけ気を遣っていた。

(道筋はどうにか分かるけど、それより会話のきっかけがないわね……何気にたまさんとの関わりもこれが初めてだし)

 硬く張った表情となり、彼女との接し方に悩まされてしまう。相手の職種は知っているが、内面についてはこれっぽっちも分からない。故に会話も広げられない始末であった。

 慎重に徹したせいで、迷いが生じている彼女に向かって、たまは気がれなく話題を振っている。

「それにしても、吉原の街は相変わらずですね」

「た、たまさん? 急にどうしたの?」

「かぶき町に匹敵するくらい、風俗店が多いと思いまして。やはり吉原の特徴ですね」

「あぁー確かにね。ここはこういう街だから……昼間は問題ないけど、夜は物騒この上ないからね……」

 彼女は周りに立ち並んでいた、風俗系の店に注目を寄せていた。辺りの店では夜の営業に向けて、せっせと準備に取り掛かる従業員の姿が見えている。

 当然リズベットには無関係な話で、思い付きで返答をすると――たまからは無粋な一言が呟かれていた。

「リズベット様達も心配に思えてきます」

「いやいや、大丈夫よ。夜になったらみんな、ずっと部屋に引きこもっているから」

「そうなのですか? 決して働いているわけではないのですね」

「当ったり前よ!! その点はしっかりとわきまえているわよ!!」

 思いもしない一言を聞き、激しいツッコミを反射的に繰り出している。まさか風俗関連の疑いをかけられようとは予想外であった。

「そうでしたか。このご時世に濃厚接触者になると、色々と厄介ですからね」

「濃厚云々じゃないでしょ!! そんな誘いも一斉無いから、勝手に勘違いしないで!!」

 誤解をされていると察して、顔を赤くして否定を続けている。たまの露骨な考え方から、一瞬だけ冗談だとも思い始めていた。

(たまさんって意外にも、冗談を言うタイプなの? 親切で真面目だけど、人をからかうのも好きだとか!?)

 内心では冗談交じりな一面を見て、彼女の印象が変わっている。そう思っていた矢先であった。なんと急にたまは、穏やかな微笑をリズベットへ向けていく。

「フフ。これこそリズベット様ですね」

(えっ? 急にたまさんが笑った!?)

 滅多に見せない感情の起伏に気が付くと、彼女も訳が分からずに動揺が強くなる。するとたまは、隠していたある種明かしを口にしてきた。

「あっ、申し訳ございません。実は緊張をほぐそうと、あからさまな冗談を言っていました。雰囲気が硬そうに見えていたので」

「そ、そうだったの……」

「はい。ですが安心致しました。やっぱり元気で張り切っている姿が、リズベット様にはお似合いだと思いますよ」

 どうやら遠慮な様子を見抜いて、それを把握した上で行動していたようである。先ほどの冗談も、調子を戻してもらう為の算段であった。

 回りくどい優しさだが、この不器用さにリズベットの心は打たれている。

(結局はたまさんの方が上手だったのね。遠慮せずに、アタシもいつも通りで良いのよ!)

 相手を気にしすぎて、本来の自分を出せなかったことに後悔を覚えていく。たまの言葉をきっかけとして、彼女の小さい迷いもすぐに解消されていた。

「まぁアタシも、たまさんとの関わりは初めてだし……これを機に深く知りたいと思っているわよ」

「それならば、よりいつも通りで良いと思いますよ」

 そう言って二人は、互いに笑顔を見せあっている。歩幅を合わせるようにして、二人の間には親近感が生まれていた。

「アナタのことは頼りにしていますから」

「ありがとうね、たまさん!」

「流石は超パフュームのニューリーダーです」

「って、それはお世辞でしょ! アタシがリーダーなんて、まだ早いから!!」

 自然な自分を見せていた途端に、たまからは褒めちぎられる始末である。ニューリーダーの響きに惹かれて、リズベットの気持ちも大いに舞い上がっていた。

 そう会話を弾ませている二人の元に、偶然にもある知り合いが話しかけてくる。

「アレ? リズさんじゃないですか!」

「ナー!」

「って、シリカ? とピナ?」

 元気よく声をかけられたのは、お使いを終えていたシリカとピナだった。例の如く後者は、普段通りに主人の頭へと乗っかっている。

「てか、アンタ達はどこへ行っていたの?」

「日輪さんのお使いですよ! それよりもリズさんこそどうしたんですか? 今日は非番じゃなかったですか?」

「それが道案内を手伝っているのよ。たまさんからの依頼で」

「たまさん? あっ! そういえば」

「ナ!?」

 会話を交わす中でシリカらも、ようやくたまの存在に気が付いていた。滅多にはない組み合わせに、二人を興味深く見つめている。

「これは珍しいですね……そもそもリズさんで大丈夫なのですか?」

「どこの心配しているのよ。アタシくらい、道案内は朝飯前だって!」

 余計な心配をしており、彼女はつい本音を発していく。すぐにリズベットは否定をしたが、ここでたまが事態をややこしくしてしまう。

「その通りですよ。リズベット様は超パフュームのニューリーダーですから、何も心配しなくていいのです」

「ニューリーダー!?」

「ナー!?」

「ちょっと、たまさん! 冗談で言ったことを、急に持ち込まないでよ!?」

 先ほどの冗談を口に出して、無意識に場を混乱させていた。これを聞いたシリカとピナは、共に目つきを細くさせると、リズベットへ向かって不満をぶつけている。

「ふーん。リズさんがニューリーダーって……」

「なんで睨みつけるの!? そんなに納得がいかないの!?」

 とりあえずは即座に反論をすると、シリカからは手痛い一言が飛び出ていた。

「一昨日の風呂上がりのアイス、黙って盗み食いしたのはどこの誰でしたっけ?」

「ギク! そ、それは……」

「しかも先週なんて、ピナのアイスまで食べていましたよね?」

「ナー!〈怒〉」

「え、えっと……」

 不意に発覚したのは、日常生活での卑しい所業である。シリカの言った通りに盗み食いを指摘されると、途端に勢いが無くなってしまった。反論する余裕も無くなり、彼女が出した苦し紛れの行動は――

「ご、ごめんなさい……後でアイスをおごるから許して」

素直に頭を下げて詫びるしかない。

「それはいいですよ。今後は黙って食べるのは止めてくださいね!」

「ナー!!」

「は、はい……」

 ここまで言われると受け入れるしかなく、ただただ申し訳ない気持ちで一杯である。

 猛省する姿を目にすると、シリカも一旦はこの件に区切りを付けていた。

「ふぅ……それじゃ、道案内頑張ってくださいね!」

「ナー!」

 言うべきことを言ったところで、彼女達はさっさと店先に戻っている。結果としてリズベットの一面が明るみになったが、ずっと様子を見ていたたまの態度は何一つ変わらない。

「争いなく事態を静めるとは……流石はニューリーダーと言ったところでしょうか?」

「もう止めて!! アタシはリーダーの器じゃないわ!! 急に恥ずかしくなっちゃったからー!!」

 またも彼女は無意識にも、煽り気味の一言をかけていく。現状のリズベットからすれば、ほぼ悪影響でしかない。

「その苦悩する姿も、リーダーっぽく見えますよ」

「絶対違うって!!」

 しばらくはこんなやり取りが、歩きながら続くのであった……。

 

 

 

 

 

 そしてさらに進んでいくと、またも見慣れた女子達を見かけている。

「おや? あの方々はもしや……」

「あっ、月姉達だ!」

 遠目から見えている広場には、月詠率いる百華の一員が集まって鍛錬を行っていた。約束通りにリーファやシノンも来ており、月詠との模擬戦を始めている。

「ハッ!」 「セイ!」 「ヤッ!」

 各々が得意とする武器を存分に扱い、真剣な面持ちでぶつかっていた。月詠はクナイを生かした身軽い体術、リーファは剣技に集中し、シノンは弓矢を用いた戦法と足技を駆使して戦っている。共に一斉の容赦はなく、本気で相手に立ち向かっていた。

 激しくぶつかりあう鍛錬だが、これはリズベット自身にも何度か経験がある。

「随分と激しく戦っていますね」

「まぁ、月姉の稽古はいつもあんな感じだよ。自衛術とか武器技術の向上を兼ねているから。週に一度くらい行うのよ」

 どうやら吉原滞在組にとっては、習い事感覚で行われているらしい。徐々に実力を身に着けているという。

「そうなのですね」

「うん。ただ、おかげでアタシも大変なのよね」

「大変とは? 過労ということでしょうか?」

「そりゃ鍛錬も疲れるけど、一番は武器の調整よ。戦った後にはみんな、アタシの元にやって来て鍛冶をお願いするのよ」

 しかしリズベットには、とある別の問題が発生していた。鍛錬後には仲間達がよく武器の調整を依頼してくるのだが――そこでいつも悩まされている。

「それはまたご苦労ですね」

「苦労で済めばいいんだけど、中々上手くいかないのよね……修理専用の鉱石があれば楽になるんだけど、割高だから手に届かないのが現状かな。今日だって、夜遅くまで調整していたし」

 金銭的な問題から、鍛冶を有利に進める鉱石が手に入らないことだった。おかげで地道な作業を続けており、時間がかかることに苦労を感じている。その表情もどこか悲しげに見えていた。

 リズベットなりの苦悩を聞き入れたたまは、同情と同時にある考えを閃いている。

「なるほど。それで今は鉱石が欲しいのですね」

「そう。てか、どうしたのたまさん? 急に顔色を変えて」

「いえ、何でもないですよ。先を進みましょうか」

 意味深な表情に気が付かれたものの、すぐにはぐらかしていく。何か考えを含ませてそうだが、最後まで明かされなかった。

(良い情報を聞きました……)

 内心ではそっと本音を呟いている。様々な心境の変化を感じながら、いよいよ目的地へと彼女達は辿り着く。

 

 

 

 

 

 ――そして出発から約二十分が経過すると、ようやくリズベット達は目的地の住所へと到着していた。

「あっ、ここで間違いないわよ」

「この住所なのですね」

 行きついた先は何の変哲もない古風な一軒家である。表札も確認して、宛先と間違いないか確認していた。

「……名前も合っているわね。とりあえず、至って普通の家で安心したわ」

「いえいえ、それは最後まで分かりませんよ。もしかすると、癖のある住人が住んでいるのかもしれません」

「またまた~そんなフラグ立てないでよ。そう思っていても、結局は外れるのよ」

 たまはまたも冗談らしき小言を呟き、リズベットからは受け流されている。段々と彼女との接し方にも慣れている様子であった。

 そう話しているうちに、一軒家からは住人が姿を現してくる。

「あの……ウチになにかようですか?」

 戸が開かれるとそこにいたのは、赤い着物を着た幼い少女であった。その風貌から園児と同じ年齢だと予測される。

「ほら、ただの普通の女の子じゃん。癖云々とか無い気がするわよ」

「そうなのでしょうか?」

「そうそう! あっ、アタシ達は荷物を届けに来たのよ。この小包で合っているかしら?」

 純朴そうな少女を見て、ごく普通の人間だと彼女は断定していた。特に深くは考えずに、荷物の有無を確認していく。

 すると……少女の口からは意味深な一言が呟かれていた。

「あ、とどけものだ! しろいこながついにとどいたんだね!!」

「……白い粉?」

 この一言に、リズベットはつい体を固めてしまう。不穏な空気を察して、つい自ら中身を確認してしまう。小包に入っていたのは……文字通り透明なビニールに詰められた大量の白い粉であった。明らかに怪しそうではある。

「う、嘘でしょ……ま、まさか!?」

 表情が一変してしまい、疑惑が確信へと変わっていく。邪推な考えが彼女の脳裏に駆け巡っている。理解が追い付かない一方で、たまも声を発してきた。

「チャンチャンチャーン! チャチャチャーン!!」

「って、たまさん! 不謹慎なBGMを付けないでって!」

 某サスペンスドラマの有名なBGMで。反射的にツッコミを入れられると、たまはようやく本音を話し始めている。

「申し訳ございません。ついノリから、やってしまいました。まさかあの女の子が、ピエー〇瀧や〇リカ様と同類だったとは……予想もしていませんでした」

「止めて!! まだ決まった訳じゃないから!! きっと何かの勘違いだから!」

 どうやらもう黒であることに確信を得ていた。益々リズベットの心情が追い詰められていく。

「このしろいこながあれば、おかあさんといっぱいしあわせになれるんだよ!」

(なんか別の意味に聞こえる!? きっと違うわよ! 絶対にアレじゃないわよ!)

 とどめと言わんばかりに、少女もまた喜びの声を上げてきた。潜在的なイメージが重なり、もはや黒であることに囚われてしまう。

 疑惑に苦しまされていると、少女の母親らしき人物も姿を現してきた。

「あや。一体どうしたの?」

「おかあさん! しろいこながとどいたよ! しろいこなが!」

「しろいこな? ホットケーキミックスのことでしょ。いい加減にしないと、誤解を生むから止めなさいって!」

「ホ、ホットケーキミックス!?」

 威勢のいい彼女の一言によって、潜在的なイメージが一気に崩れ去る。怪しげな物体と思われた白い粉の正体は、ただのホットケーキミックスのようであった。

「どうやら私達の心配は杞憂だったようですね」

「良かった~とりあえず心がホッと落ち着いたわ」

「ホットケーキにかけてですか?」

「何も関係ないわよ! 狙って言ったわけがないでしょ!!」

 疑惑が晴れて一安心したところで、またもたまからは小ボケが発せられている。お馴染みの流れで、リズベットがすぐにツッコミで返していた。いつの間にか表情も、明るく戻っている。一方の少女は、母親へ荷物について話していた。

「このにもつはねぇ、あのおねえちゃんたちがとどけてくれんだよ!」

「お姉ちゃん……あっ、そういうことね。でもなんで、アナタ方が?」

「こちらに誤送されたので、正しい住所まで届けに来たのです」

「わざわざですか? それはありがとうございます」

「いやいや、大丈夫ですよ。ちょうど時間もありましたし」

 届けられるまでの経緯を知ると、母親からは礼儀正しく感謝を伝えられている。やはりごく普通の親子のようだ――娘の独特な言い回しを除いて。

「しろいこなをとどけてくれてありがとうね!」

「コラ! 止めなさいって!」

 無邪気そうにまた発すると、母親から叱責されてしまう。彼女自身もこの言い方に悩まされているようだ。

「随分とまた独特な呼び方ですね」

「ウチの子が今コナ〇にハマっていて、小麦粉やらも白い粉と呼んじゃうんです……」

「そ、そういうことだったのね……」

 原因もはっきりしており、某探偵ものの影響だという。理由が分かるとリズベットら女子達も、思わず心を落ち着かせている。

「でも良かったではないですか。ホットケーキミックス――いや、白い粉で美味しく作れるのですから」

「たまさん。もうそれ確信犯よね……」

 たまだけは場のノリに乗っかって、わざと言い直していたが。親子側からすれば念願の商品が届いたのだが……実は一つだけ問題が発生していた。

「えぇ、来たのは有り難いのだけど、タイミングがちょっと……」

「おや、どうしたのですか?」

「実はガス栓が朝に故障してしまって、料理が作れないんです。ウチはプレートも無いので、今は作れなくて……」

「そうなの……」

 なんとも運が悪く、ガス系統が故障をしてしまったらしい。家にある備品も少なく、現状ではホットケーキを作れないようだ。楽しみにしている少女の笑顔とは異なり、母親はどこか深刻そうな表情を浮かべている。

 このままだと親子が不憫そうなので、リズベットとたまは同じくして、何か手伝えないかと考え始めていた。

「ねぇ、たまさん! アタシ達で手伝えないかな? 例えば日輪さんから許可を得て、プレートを借りに行くとか?」

「いや、それよりもいい方法があります。お母様は追加で足りない材料を持って来てくれますか?」

「えっ? 何をするのですか?」

「私にお任せください。最高のホットケーキを作ってみせますから」

 するとたまは、あるとっておきの策を考え付いている。以前にも使用した“あの機能”を、この場で披露するらしい。

「えっ!? たまさんがこの場で作るの!?」

「そうですよ。私はカラクリですから、料理くらい火を使わなくても出来るのです」

 もちろんリズベットにとっては初耳であり、料理と言われてもそのような特徴は一斉感じられなかった。

(この自信は結構なものね……でも一体どうやって調理するんだろう? 腕を変形させて、ミキサーやプレートにするとか? そんな機能、たまさんにあったっけ?)

 想像力を働かせていき、思いつく限りのことを頭に浮かべている。ところがこの時の彼女はまだ、その全貌に気付くことは無かった……

 そうこうしているうちに、材料が瞬く間に揃えられている。ホットケーキミックスのみならず、牛乳や卵、砂糖、バターなどが置かれていた。

「うわーい! これからなにをするの!?」

「ホットケーキを作るのですよ。少し待っていてくださいね」

「やったー!!」

 母親の娘も注目しており、無邪気にも喜びの声を上げている。場にいる全員がたまに注目する中で、彼女はそっと座り込み材料を凝視していた。

「それで本当に作れるの?」

「大丈夫です。私はカラクリですから、料理くらい朝飯前なのです!」

 そう聞いていた直後である。たまは豪快にも用意された材料を、手当たり次第に口へと運んでいた。

「た、たまさん!?」

 予想外の行動にはリズベットのみならず、親子の二人も息を呑んでしまう。だがこれこそ、たまの得意とする調理方法である。

(一気に材料を飲み込んだ!? あっ、そうか! 体内で調理するって意味だったんだ! ……アレ? じゃ完成した時、どうするの?)

 勘が良くリズベットも、内心にて調理方法に気が付いていた。大方これで間違いないが、出来上がった際の届け方に疑問を浮かべている。

 するとたま本人は地面に膝を付けて、置かれていた皿に向かって口を開いてきた。

「オウェ! ブホォ! グへェ!!」

 生々しい嗚咽音と共に吐き出されたのは……バターの代わりに黄色いオイルがかけられた熱々のホットケーキである。

「で、出来ました……どうぞ」

「そこから!? なんてところから取り出しているのよ!? 食欲が失せちゃうじゃないの!?」

 ここまでの一連の様子を目にしていき、リズベットは我慢できず激しいツッコミをかけていく。たまの調理法の正体……それは体内で作り出し、嘔吐で提供するという奇想天外な仕組みであった。

 この方法に思いっきり気を引かせるリズベットに対して、たまはさも当たり前のように言葉を返している。

「いえ、これが私なりの方法なので……ほら見てください。メイプルシロップの代わりにオイルがかけられていますよ」

「そんな情報もいらないわよ!? ていうか、オイルって衛生的に大丈夫なの!?」

「心配ありません。無害なので……」

 顔色を悪くしたまま、自身の調理したホットケーキの特徴を発していく。それでもなお、リズベットからの印象が変わることは無かったが。

「こんなホットケーキで満足するわけがない――」

 そして気になる親子の反応を見ようと、彼女が前を振り向いた時であった。

「お、おいしいですよ! いがいに!」

「えっ!?」

 なんとすでに親子は、このホットケーキを食している。抵抗する素振りなどは見せずに、フォークで次々と口にしていた。

「本当だわ。オイルでもおいしく食べれるのね」

「ありがとうね! メイドのおねえちゃん!」

 味についても文句はなく、むしろ絶賛される始末である。見かけによらない技術の高さに、リズベットはもうツッコムことすら諦めてしまった。

「ど、どうなっているのよ……」

「結局料理は味が大事という事ですよ。リズベット様もどうですか?」

「いや……また別の機会にするわ」

 結果や味が重要だということを痛いほど分かっていく。たまからもホットケーキを勧められたが、気持ちの問題ですぐに断っている。

 一件落着となった荷物届だったが、その結末は彼女も予想が出来ないものだった。

「ピンクのおねえちゃんもたべようよ! おいしいって!」

「アタシは大丈夫だから……遠慮せず食べなさい」

 苦い表情を今なお続けている。

 

 

 

 

 

 さらに時が過ぎていき、気付けばとっくに正午を過ぎていた。荷物を届け終えたたまは、リズベットをひのやへと見送っている。

 そして入り口前にて、共に別れの言葉を交わしていた。

「とりあえず、荷物を届けられて良かったわね」

「一件落着ですね。ここまで案内していただき、ありがとうございます」

「いや、アタシはただ人助けをしただけよ。それに何だかんだで結構楽しかったし……」

 数時間ではあるが、どちらとも充実した時間を過ごせたらしい。おかげで互いの距離感も大いに縮まっている。

「それは私もですよ。では何か礼をしたいのですが」

「いやいや、大丈夫よ。礼なんてたまさんの気持ちだけで充分だから」

「そ、そうですか?」

「気にすることないって! じゃ、また何かあればよろしくね!」

 感謝の気持ちとして礼を送りたいたまだったが、リズベットは照れくさく感じてすぐに場を離れてしまう。最後まで優しさに溢れている対応を見せていた。

「そう遠慮しなくても良いのですが……」

 しかしたまは、どこか納得のいかない表情を見せている。出来れば彼女の手助けをしたいと思い始めていた。

 こうして彼女は、ずっと考え込んでいたある作戦に移っている。

 

 ――そして、時間は次の日の朝を迎えていた頃。昨日とは真逆にリズベットが朝一番に起きており、居間へと来ていた。その場には日輪が、ある荷物を持ってきている。

「おはよう~日輪さん~」

「おはようさん。そういえばアナタ宛てに、届け物が来ているわよ」

「こんな朝早くに? 一体誰から?」

「たまさんからね」

「たまさん?」

「きっとお礼の品が入っているんじゃない?」

 荷物を手渡しすると、彼女は居間から台所へと車椅子を進めていく。リズベットは一人になったところで、荷物に挟まれていた手紙に目を通していた。

〔昨日はありがとうございました。リズベット様は、お礼はいらないと言っていましたが、やはり恩返しも込めて贈ろうと思いました〕

「いや、別に良いのに……」

 手紙を読み進めるうちに、徐々に眠気も覚めていく。するとある一文を見つけて、彼女の心境は一変した。

〔アナタの一番欲しいものである、ヨロ鉱石が入っていますよ〕

「えっ!? まさか……」

 そのまさかである。慌てて荷物の中身を確認してみると、そこには朱色に輝く小さい鉱石がたんまりと入っていた。これこそが鍛冶の時に役立つヨロ鉱石である。

「本当に入っている……!」

 念願の品を手に入れて、内心では驚きと動揺に満ち溢れていた。さらに手紙を読み解くと、たまからの粋なメッセージが刻まれている。

〔これで皆さんの武器を鍛え直してください。アナタこそが、超パフュームのニューリーダーなのですから。これからも頑張ってくださいね〕

 それは紛れもない、純粋な気持ちが詰まった荷物だった。手紙を最後まで読み進めていると、リズベットの目には自然と涙が溢れ出している。

「た、たまさん……お礼なんていいって言ったのに。それに、ニューリーダーじゃないわよ。アタシは……」

 思いもよらない優しさに触れて、彼女は温かい気持ちに包まれていた。託された期待を背負って、また一歩だけ心を成長させていく。

 こんな感動的な雰囲気が長く続けばよいのだが――実はこの鉱石にはある秘密が隠されている。

「アレ? まだ書いているの?」

 手で涙を拭きながら再び手紙を見ると、隅っこにてある注意書きを発見していた。

〔PS.こちらの鉱石は自家製です。オイルの付着には気を付けてください〕

「えっ? オイル……」

 自家製やオイルと言った言葉に、嫌な予感を察し始めている。試しに鉱石を握ってみると、

「あっ……」

見たことのある黄色いオイルが付着していた。ここから導き出されるのは、昨日にたまが見せたあの機能しかない。

 思わぬ真実を知ると、一気に涙も引っ込んで気が滅入ってしまう。

「う、嘘でしょ……」

 つまり鉱石はたまの自家製だということだ。効能まで同じかは分からないが、いずれにしろたまの体内を介したことには間違いがない。

 温かくなった気持ちが急に下がっていた時に、仲間達も次々と居間に来ていた。

「ん? どうしたんですか、リズさん?」

「もしかして何か貰ったの?」

「いいな~一体どんな贈り物なの?」

 贈り物に大きく興味を示して、快く話かけていく。だが今の彼女は、そんな気分ではもう言い表せなかった。

「って、流石に抵抗するわぁぁぁ!!」

「「「なんで!?」」」

 本人には届かないであろう、悲しいツッコミを咄嗟に繰り出していく。これはもうリズベットにしか分からない気持ちであった。

 こうして二人は深い縁を築き上げた……はずである。




次回予告(嘘)
たま「私の名前はたま。調理することを得意とするヒューマギ〇の一人です。今日も元気に仕事を……」
リズ「って、ちょっと待ったぁぁ! なんか違うから! 分からないけど、多分ずれているわよ!!」
たま「次はもんじゃに挑戦しましょうか?」
リズ「止めなさいって!!」

※これは嘘予告です







次回予告
リーファ「ねぇ、お兄ちゃん! この世界にトンキーホーテって言うスーパーがあるみたいだよ!」
キリト「あぁ、俺も何度か行ったことがあるよ」
リーファ「そこでね! ウェブ用のマスコットキャラを応募しているみたい! これは絶好のチャンスよ!」
キリト「チャンスって?」
リーファ「トンキーをマスコットにしよう!」
キリト「はい?」
リーファ「次回! 地方営業のコンビニは意外と全国展開している!! って、どういうタイトルなの!?」
キリト「というか、トンキーってまさか!?」


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第五十六訓 地方営業のコンビニは、意外と全国展開している

 今回のお話は以前にノートで前書きしたものを脚色したのですが、何故このタイトルを付けたのか自分でも思い出せません。ただ妙に気に入ったので、そのまま採用しました。改めて書き直すとストーリー性よりも、ネタ要素を楽しんでいただけると幸いです。



「「「ト、ト、トトン! トンキー! トンキーホーテ!!」」」

 館内に流れる専用BGMを口ずさみ、スキップを続けるのは神楽、ユイ、リーファの女子三人組。仲良く手を繋いで、浮かれた気持ちで出口へと進んでいく。

 九月のこの日、万事屋一行はリーファと共に夕食の買い出しに付き合っていた。向かった店は、以前にユイらも訪れたことのあるトンキーホーテ。多くの商品が並ぶ有名な販売店である。

 その帰り際に女子三人が元気に振る舞う一方、銀時、キリト、新八、アスナの四人は後ろから彼女達を見守りつつもついてきていた。アスナを除いて、男子達は荷物持ちと化していたが。

「ったく、すぐに調子に乗るな。あのトンキー娘共は」

「まぁまぁ、銀さん。そう言わずに見守ってあげようよ」

「そうよ。リーファちゃんなんて、トンキーって聞いてからずっとテンションが上がっているのよ」

 文句を呟いた銀時に対して、横にいたキリトやアスナがそっと宥めていく。彼ら曰く今日の買い物では、特にリーファが気持ちを上げているようだ。

「はいはい。つーか、トンキーって一体何だっけ?」

「トンキーは確か、キリトさん達の世界にいたモンスターの一種ですよね」

「そうね。名前自体はリーファちゃんが名付けたけど」

「結構大きくて、移動するときも助かったよな」

 四人の間では、すぐにトンキーが話に挙がってくる。キリトらにとっても思い出深い存在であり、共に懐かしく思い始めていた。

 しかし銀時にはイメージが掴めず、二人の話を聞いてもさっぱり分からない。そこで思い付きから、勝手な予測を立て始めていた。

「そんなに大きいのかよ? あのペンギンマスコット、あっちの世界では巨大化していたのか? ダイマック〇じゃねぇんだからよ」

「あの、銀さん。多分勘違いしていますよ」

「トンキーはクラゲや象と似たモンスターよ……」

「色々とごっちゃになっているよ。というか、〇イマックスって何?」

 有名なトンキーホーテのマスコットと照らし合わせており、次々と仲間達からは指摘を受ける始末である。名前が同じ故に、その捉え方にも相違が起きていた。

 トンキーの話題が続く一方で、先を歩いていたリーファらにも変化が起こっている。

「なんでも揃う買い物天――ん? アレって……」

「どうしたアルか、リッフー? 急に足を止めて」

「何か見つけたのですか?」

 不意にもリーファは足を止めて、自動ドア近くに貼られていた一枚のポスターに注目を寄せていた。ユイや神楽も気になって一緒に見てみると……そこに書かれていたのは、店側の募集広告である。

「トンキーホーテWEBキャラ募集のお知らせ……これって、遂に来たかも!!」

「うわぁ! びっくりしたネ!」

「来たって……どういうことでしょうか?」

 概要を読み進めていき、咄嗟にリーファは大声を上げていく。さらにテンションを高めた彼女は、内心にてある計画を思いついていた。

「そのまんまの意味よ! みんなにも協力してもらえるかしら?」

「「……はい?」」

 戸惑っている神楽やユイにも気にせず、勢いのままに協力を持ち掛ける。ふとした宣伝をきっかけにして、彼女には大いなる目標が立てられていた……。

 

 

 

 

 

 日付は変わって、次の日の正午頃。万事屋銀ちゃんには昨日に続いてリーファが来ており、居間にて思いついた計画を仲間達に向けて説明していた。

「トンキーマスコット化計画? って、なんだよ?」

「そのままの意味だって! トンキーホーテで募集しているみたいだし、私も応募しようと思っているのよ!」

 熱意を持って伝える姿勢には、一行も本気だと捉えている。彼女によるとWEB用の宣伝も兼ねて、トンキーホーテ側が一般からのアイデアを求めているらしい。この公募に共鳴を感じたのか、リーファは思い入れのあるトンキーをマスコットにしようと、強く願っていた。

「つまり俺達も、そのマスコットの設定に考えて欲しいのか?」

「そういうこと! 察しがいいわね、お兄ちゃん! みんなにも手伝ってもらいたいけど、大丈夫かな?」

 その為にも万事屋に、アイデアを含めた協力を持ち掛けている。平たく言えばリーファの依頼であるが、万事屋一行は皆好意的な反応を示していた。

「別に問題ないアルよ、リッフー!」

「力になれるならなんでもするわ!」

「私もママや神楽さんと同意見です!」

 特に女子達は乗り気で、次々と賛成の声を上げる。

「いいですね。僕も協力しますよ」

「もちろん俺もだよ」

「しゃあねぇな。やるからには本気でやるぞ」

 一方の男子陣も、軽口は言いつつも素直に受け入れた。これはリーファにとっても、頼もしい後押しではある。

「みんな、ありがとう! それじゃ……」

 そしてすぐにでも取りかかろうとしたが――その時、思わぬ賛同者が声を上げてきた。

「ちょっとお待ちなさい!!」

「ん? この声って……」

 突如として聞き覚えのある女性の声が響いてくる。皆が気配に気が付くと、その声の主は天井を突き破って姿を見せた。

「とう!!」

「あ、あなたは……」

「あやめさん!?」

 華麗な着地を披露した彼女の正体は、銀時のストーカーとしてお馴染みの猿飛あやめである。自信あり気な表情のまま、彼らの会話にズカズカと乱入していく。

「お久しぶりね、みんな! そしてリーファちゃんも!」

「ひ、久しぶりです……ていうか、あやめさん? 一体何をしに来たの?」

 彼女は話し出した途端に、リーファとの距離を近づかせている。おかげで本人は苦い表情を浮かべてしまう。あやめとの久しぶりの対面に、緊張感を覚えていた。

 一方の万事屋だが、皆そこまで驚いてはいない。あやめの侵入はキリトら加入後も続けられており、故に全員が慣れた様子である。

「またあやめさんが来たのか……」

「今月は初めてでしたっけ?」

「忘れた時にいっつも来るのよね……」

 もちろんキリトら三人も同じ気持ちだった。控えめに理解する彼らとは異なり、銀時らの方は冷めた視線をあやめに向けている。

「どうせまたストーカーだろ。冷やかしだったら必要ないからな」

「そうアルよ! こっちは真剣な話し合いをしているネ!」

「フッ……それもそうだけどね、今日の要件はちょっと違うのよ」

「ストーカーのことは否定しないんですね」

 銀時や神楽から文句を飛ばされても、彼女の堂々とした姿勢は続く。どうやら彼女なりに、別の目的があるそうだが?

「じゃ、何アルか?」

「フフ。簡単な話よ! アナタ達の計画しているキャラ作りに、私も手伝わせてもらえるかしら?」

「えっ!? あやめさんも参加するの!?」

 その目的はあっさりと明かされていた。彼女としては意外にも、自分から進んで協力を申し出ている。予想外の行動には、リーファのみならず全員が驚きの声を上げていく。

「あやめさんがリーファさんの手伝いを?」

「信じられないアル……!」

「あら、何か不服かしら?」

「いや、珍しいと思って……あやめさんにそんなイメージないから」

「失礼ね! 私をどんな人間だと思っているのよ!」

「ただのストーカーだろうが」

 やはり善意ではないと全員が察しており、何か裏の考えがあると勘付いている。アスナの指摘では、あやめもむきになって反論をしていたが。

 とここで銀時が、彼女の真意を探っていく。

「つーかお前、一体何が目的だ? さっさと吐けよ、ゴラァ」

「目的……? そんなのあるわけないでしょ」

 否定はしたものの、顔は僅かながら震えている。怪しいのはもう明白であった。

「怪しいアルナ。なんでリッフーを見つめているアルか?」

「そ、そんなことないわよ! 私はね、あの男殺しの服が欲しいだけ……ハッ!?」

「えっ?」

 とことん突き止めた途端に、呆気なく本音を漏らしている。この一言により、服装の憧れが明るみになっていた。

「そ、そうだったのか」

「あやめさんもファンタジー系の衣装に憧れているの?」

 これにキリトやアスナも、次々に思ったことを発している。ささやかな願望を口にしたあやめは……もう隠すことなく、むしろ気持ちを開き直らせていた。

「ハハハ! バレちゃ仕方無いわね!」

 悪役のような不気味な笑いと、弾けた笑顔を浮かばせていく。そしてリーファに向かって堂々と、約束を宣言してきた。

「リーファちゃん! 私もこのアイデア会議に参加するから、代わりに入賞したら一週間だけ服装を交換しましょう!」

「えっ、一週間も!?」

「いや、驚くとこそこかよ!?」

 限定的な服装の交換を持ち掛けて、より場を騒然とさせている。当の本人は期間ばかりに注目していたが、あやめは口を止めずに理由を語り出していく。

「この服を着れば、銀さんも誘惑すること間違いないわ! 私のボディを強調させて、必ずやメロメロ状態にするんだから!! これが起死回生の一手なのよ!」

「その一手を俺の前で堂々と言うのかよ」

 結局は銀時絡み故の興味だったが、肝心な思惑を本人の前で明かす始末である。身も蓋もないことを彼から言われても、あやめの硬い意志は変わらない。

「……とにかく、良いでしょ! 日ごろからお世話になっているから、そのお礼として!」

「あやめさんから教えてもらうことって、これまでにあったっけ?」

「と、とりあえず、話し合いは多い方が良いでしょ! だからお願い! 交換してよ!」

「で、でも……」

 強引にも服装交換を嘆願して、遂には頭まで下げていた。滅多にはないあやめのお願いに、リーファも対応に困り果ててしまう。そこで仲間達から、意見を聞いてみることにした。

「ど、どうしよう。お兄ちゃん?」

「そこはスグの判断でいいんじゃないのかな? でも交換自体は良いとは思うけどな。忍者姿も結構似合いそうだし」

「決めた! あやめさんとの約束を引き受けるわ!」

「って、あっさり迷いを捨てたよ! キリトさんの影響、どんだけでかいんですか!?」

 さり気なく言ったキリトの助言により、あっという間に正解が決まる。手にひらを返した変わり様に、新八もツッコミを反射的に繰り出していく。

「それでも、いやらしいことには使わないでよ!」

「分かっているから。約束はしっかりと守るわよ!」

 最低限の注意を付け加えて、あやめとの約束を簡単に施していた。彼女は笑顔で受け入れたが……その内心ではふと屁理屈を呟いている。

(行為の時には脱いでいるから、適応外よね……フフ)

 気を早めるように、甘い妄想を次々に浮かべていく。服装交換をきっかけにして、銀時との距離を縮めようとしていた。本人にそんな気は全くないのだが。

 この展開に万事屋一行では、キリト側と銀時側でかなり反応が異なっている。

「やっぱり、あやめさんって不思議な人ね……」

「でもリーファさんも、なんで急に引き受けたんでしょうか?」

「きっと忍者服に実は興味を持っていたからじゃないかな?」

 前者ではあやめの独特な考え方や、リーファの方向転換に驚きを感じていた。きっかけとなったキリトも、自分が原因だとは微塵も思ってはいない。

 そして後者はと言うと、

(やっぱり、ブラコンなのか。あいつは……)

(一瞬で考えを変えましたからね)

(キリが賛成だったら、なんでもいいアルか)

共に内心でありのままの本音を吐いている。特にリーファの分かりやすい行動には、ブラコンだとも揶揄していた。容赦のない毒舌である。

 何はともあれあやめも加わり、計八人による話し合いがこれより始まっていた。

 

 

 

 

 

 そして時間は過ぎていき、およそ一時間が経過した頃。話し合いは着々と進み、現在はトンキーの元のデザインをリーファが説明している。

「これが皆さんの言っていたトンキーなんですか?」

「そうよ! とっても可愛いでしょ!」

 自信満々にノートへ書き記したその風貌は、可愛さとは程遠い白い象のようなモンスターであった。クラゲの触手も加わり、異形さがより滲み出ている。

「あっ、そうだな」

「目以外は可愛いアル」

「なんでそんな微妙な反応なのよ!?」

 全てを察したように、銀時や神楽も反応に困っていた。リーファが強く推している可愛さの要素が、いまいち分からないからである。

 この邪心系モンスターを、如何に馴染みやすくするのかが会議の難点だった。

「それでここから、どうマスコットらしくするのかよね……」

「何か連想を増やして、イメージを決めるのはどうですか?」

 アスナや新八も思いついたことを呟いている。形へと入る前に、特徴を挙げるべきだと発していた。するとあやめは、とある考えを閃いている。

「だったらもう、連想ゲームで言葉を上げて行きましょうか」

「連想ゲーム?」

「つまり、マジカルバナナみたいにやれば良いのよ!」

 自信良く勧めてきたのは、連想ゲームの一つマジカルバナナだった。お題に近い言葉をリズム良く人に回していく、何とも懐かしいゲームである。

 この提案なのだが、実はSAOキャラには違和感を覚えていた。

「マジカルバナナ?」

「聞いたことないアルか?」

「マジカルレモンなら聞いたことがあるけど」

「レ、レモン!?」

「確か昔に流行ったバラエティ番組だよな」

 ユイを除いたリーファら三人は、マジカルレモンの方に共感を寄せている。どうやら世界によって、番組名が微妙に異なるようだ。

「まさか、フルーツの名前が変わるのか?」

「きっと米津玄〇の影響アルよ!」

「いや、多分違うと思いますよ」

 万事屋一行も多少は驚いていたが。それはさておき、さらに話を掘り進めると、バナナでもレモンでもルールに目立った違いはない。互いに確認をすると、このまま連想ゲームでテーマを決めていくようだ。

「じゃ題して、マジカルトンキーにして言葉を挙げていきましょう!」

「言葉を次の人に繋げばいいんだな」

「その通り! なるべく多く挙げましょう!」

 ゲーム名を改めたところで、一行は準備に取り掛かる。公平なじゃんけんの結果、順番はリーファ、あやめ、キリト、銀時、アスナ、ユイ、神楽、新八となった。こうして計画の一端であるマジカルトンキーが始まっていく。

銀時「それじゃ、いくぞ。せーの!」

全員〈〈マジカルトンキー!!〉〉

リーファ「トンキーと言ったら象!」

あやめ「象と言ったら大きい!」

キリト「大きいと言ったらボス!」

銀時「ボスと言ったらフリー〇」

アスナ「フ〇-ザと言ったら氷?」

ユイ「氷と言えばかき氷!」

神楽「かき氷と言ったら鼻が~! 鼻が~!」

新八「鼻……ちょっと待ってください!」

 ところが早くも、新八によりゲームが中断される。銀時と神楽の返答が、明らかにボケを含んでいたからだ。

「あやめさんやリーファさん達はまだ良いですよ。銀さんと神楽ちゃんは、自重をしてくださいよ! 絶対にキリトさん達、元ネタを分かっていませんよ!!」

 そう指摘されると同時に、アスナも引っかかっていたことを口にする。

「結局フリーザって何なの? 冷蔵庫の種類とか?」

「いいや、お前らが知らない超人気敵キャラのことだよ。53万の戦闘力とか聞いたことは無いのか?」

「……特には」

 キリトらの冷ややかな反応を見ると、やはり何一つ伝わっていなかった。

「それと神楽さんの連想は何だったんですか?」

「決まっているアル! かき氷を食べた時の反応ネ! 某文明の末裔っぽくやるアルよ」

「ただのモノマネじゃねぇか! しかも鼻じゃなくて目ですよ!」

「……はい?」

 思いっきりネタを披露する神楽だが、こちらもユイの反応はいまいちである。初っ端からこのゲームは、ネタ要素を交えてよりスムーズさに欠けていた。

「段々とそれているわね……」

「ここは気を取り直しましょう。もう一度行うわよ」

 リーファやあやめが声掛けしつつ、場の空気を整えていく。一通り落ち着いたところで、二回戦目が始まる。

全員〈〈マジカルトンキー!!〉〉

リーファ「トンキーと言ったらクラゲ!」

あやめ「クラゲと言ったら――」

 とあやめが答えようとした時であった。

「触手で目つぶし!」

「えっ?」

 またも聞き覚えのある女性の声が聞こえる。ふと玄関近くの戸を見てみると、そこに立っていたのは、

「偶然来たけど、何だか面白そうなことをやっているわね」

「あ、姉上!」

「お妙さん!?」

満面の笑顔を見せる志村妙であった。突然の彼女の登場により、万事屋一行やリーファらはさらなる驚きに包まれている。

「なんであなたがここに来ているのよ!?」

「さっきも言ったでしょ。偶然通りかかっただけよ。マスコット制作をしているなら、私に任せてちょうだいよ」

「お妙さんも手伝ってくれるの?」

 妙はすぐに状況を理解したようで、こちらも協力的に接していた。すると彼女は、あやめのいる方へ視線を向けていく。挑発的な佇まいを見せており、あやめもまたそれに乗り始めていた。

「ここで出会うなんて光栄ね、お妙さん! まさかアナタも、リーファちゃんの服を目当てに来たのかしら? 絶対ブカブカになるわよ!」

「アラ? 久しぶりに会ったくせして、相変わらず好戦的ね。別に狙ってなんかいないわよ」

「ご愁傷様ね。アナタにはシリカちゃんの服装が似合っているわよ。身長で合わないとは思うけど!」

「遠回しにディスらないでくれるかしら? 何ならもっと似合う服装があるはずよ。血盟騎士団しかり、整合騎士しかり。どれも私みたいな隠れ巨乳にぴったりの服装じゃない」

「隠れ巨乳? そんな話初耳ね。アナタにはあったのかしらね……?」

 互いに意地を張り続けており、大人げない罵り合いを続けていく。共に笑顔を崩さずに接していたが、内心では密かに相手を見下している。再燃する仲の悪さが、キリトらにも露呈していた。

「この喧嘩って、いつまで続くの?」

「あやめさんとお妙さんって、結構バチバチな関係なんだ……」

「意外な発見です……」

 キリトら三人も、次々に思ったことを呟いている。

「ていうか、二人共! 服装如きで争わないでって!!」

 そして見かねていたリーファが、思わず止めに入っていく。一方で銀時ら三人は、冷静に妙達の喧嘩を見定めていた。

「姉御の意地っ張りは健在アルナ」

「また面倒くさい奴が増えたな……」

「これ以上揉め事を起こさないでくださいよ……」

 と速やかに収まれば良いのだが……さらなる火種が万事屋に訪れてくる。

「おっ! 見つけましたよ、お妙さん!!」

「あっ、ゴリラ!」

「って、近藤さん!?」

 何とも悪いタイミングで来たのは、妙のストーカーである近藤勲だった。有無を言わさずに彼は、早速彼女を標的にしている。

「久しぶりの再会! ここは是非、俺のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を受け入れて――!」

 ハイテンションのまま両手を広げて、妙に飛び掛かろうとしたのだが、

「フンス!」

「グハァ!!」

呆気なく返り討ちに合ってしまう。妙の容赦のない拳が近藤の腹部に当たっていた。吹き飛ばされると同時に、彼の仲間も駆けつけてくる。

「おい、ここにいたのか! 近藤さん!」

「土方さんまで……!?」

「お前まで来るのかよ」

 続けざまに土方もこの場に姿を見せてきた。さらなる真選組の登場に、ユイや銀時らの反応も疲れ切っている。場の収集にも不安を覚えていた。

「アラ。ゴリラに続いて、マヨラーも来たのね」

「いや、本名で読めよ!」

 妙だけは相も変わらずに挑発を続けていたが。いずれにしても、より賑やかになったことは間違いない。

「お妙さんや真選組は、聞いてないわよ……」

 予想外の来客者達に、リーファの表情も思わず苦く染まっている。ほのかに浮かぶ嫌な予感を察していく……。

 

 そして時間の経過と共に、まずは来客者達を一行が落ち着かせていた。

「いや~失礼した。お妙さんを見つけたら、つい追いかけてしまってな!」

「ついって、レベルじゃねぇよ」

 あっさりと態度を変えた近藤に対して、土方は小言を呟いている。共にソファー近くに立ち続けながら、どさくさ紛れに会話へと割り込んでいく。

「それでついでに聞くが、一体何をしていたんだよ?」

「何も関係ねぇよ。トンキーについてだよ」

「「トンキー?」」

「つまりですね――こういうことなんです」

 ここで親切なユイが、ここまでの経緯を分かりやすく二人に説明している。マスコットにする為に、連想ゲームを行っていると伝えていた。

「なるほど! それで連想ゲームを行っていたのか!」

「そういうことだから、オメェらはさっさと帰ってくれ。面倒だからよ」

 面倒に感じて銀時が追い払おうとするが……近藤はお節介にも興味を示してしまう。

「いいや。折角だし、俺達も加えてもらおうじゃないか」

「おい、近藤さん。俺達もやるのか?」

「そうだぜ、トシ。リーファちゃんには迷惑をかけたことだし、せめてもの罪滅ぼしで協力しようぜ」

「ほとんどアンタが原因だけどな」

 リーファへの汚名返上も兼ねてゲームにやる気を見せていたが、土方からは手痛い指摘が返ってくる。彼だけはあまり乗り気では無かったのだが。

 妙に続いて真選組の加入は、仲間内でも微妙な反応が見受けられていた。

「どうします、リーファさん?」

「わ、私? まぁ、特に構わないけど……変なアイデアが浮かびそう」

「それは間違いねぇよ」

 主催者でもあるリーファ本人は、可もなく不可もなくである。しかし折角の機会でもあり、わざわざ返さずに残そうと自然に決まっていた。

「それじゃ真選組も参加ってことで良いわね?」

「おうよ! よろしく頼むぜ!」

「一回限りだがな」

 こうして真選組も加わり、また新しくマジカルトンキーが始まっている。

「もう! こうなったらなるべく長く続けましょう! 出来る限り多くのアイデアを浮かばせて!」

「おうネ!」

「任せてちょうだい!」

 あやめも大声で仕切りつつ、ゲームを再開させていく。順番を一新させると、リーファ、あやめ、妙、土方、近藤、キリト、銀時、アスナ、ユイ、神楽、新八と決まっていた。

妙「では始めましょう! せーの……!」

全員〈〈マジカルトンキー!〉〉

リーファ「トンキーと言ったら白!」

あやめ「白と言ったら銀さん!」

妙「銀さんと言ったらクズ人間!」

土方「クズ人間と言えばストーカー」

近藤「ストーカーと言えば俺!」

キリト「俺と言えば一人称!」

銀時「一人称と言えば個性」

アスナ「個性と言えば万事屋!」

ユイ「万事屋と言えばポジティブ!」

神楽「ポジティブと言えばリア充!」

新八「リア充と言えば憧れ!」

リーファ「憧れと言えば芸能人!」

あやめ「芸能人と言えば歌手!」

妙「歌手と言えばBZ!」

土方「BZと言えばバンド」

近藤「バンドと言えばチャゲアス〇!」

キリト「チャゲ〇スと言えばコンビ?」

銀時「コンビと言えば芸人」

アスナ「芸人と言えば高収入!」

ユイ「高収入と言えば難関クエスト!」

神楽「難関クエストと言えばカブト狩りじゃゃゃ!!」

新八「カブト狩りと言えばロクでもない思い出……」

リーファ「ロクでもない思い出と言えばお兄ちゃんのからかい!」

あやめ「お兄ちゃんのからかいと言えば惚気!」

妙「惚気と言えば火種の元!」

土方「火種の元と言えば不祥事」

近藤「不祥事と言えばチャゲ〇スカ!」

キリト「チャ〇アスカと言えば……コン……えっと」

新八「って、ストップ!!」

 ついに我慢できなくなった新八が、半場強制的に止めに入っている。最長記録を達成したのだが、彼にはツッコミたい気持ちで一杯だった。

「アンタら! 逐一ネタを挟まないと気が済まないのか!!」

「何を言ってんだ! 俺はしっかりと答えていたぞ」

「んなわけないだろ! ほぼア〇カじゃねぇか! ミュージシャンの方の!」

 何よりもまずは、狙ったように某歌手の名を挙げる近藤である。カオスな雰囲気をさらに強調させていた。

「そもそもチャゲアス〇って誰なの?」

「アスナさん! そこにピー音入れたら、アナタの名前みたいに聞こえますよ!」

 ピー音が上手く当てはまり、アスナにまで被害が及ぶ始末である。

「アッスー! チ〇ゲアスカっていうのは、この世界のバンドネ! でも今は、すったもんだあって見れないアルよ!」

「ストレートに言うな!!」

「そんなアナタには、BZを推すわよ! リーファちゃん達は知らないけれど、この世界で最高最善の音楽家なのよ!」

「そ、そうなのか? 知らなかったな」

「姉上も! 嘘を吹き込まないでくださいよ!!」

 さらには対抗するように妙まで乱入にして、場の収集をより遠ざけてしまう。各々の主張が飛び交う、混沌とした雰囲気に成り立っていた。

 冷静に見ているのは、銀時、土方、ユイくらいである。

「てか、本当にこんなんで思いつくのか?」

「知るかよ。後はリーファ次第だから、俺達が言えることは何も無ぇよ」

「随分と無責任な……お前はそれで大丈夫なのか?」

「リーファさんの助けにはなったのでしょうか?」

 心配からつい彼女に目線を向けると、そこには意外な光景が映っていた。

「おぉ、来た! とっておきの形が閃いたかも!」

「えっ?」

 あるきっかけから刺激を受けたようで、リーファはノートに向かってマスコットのアイデアを綴っている。表情も生き生きとしており、楽しそうな印象が見受けられていた。

「おぉー。流石よ、リーファちゃん!」

「この調子ね! 入賞させて約束通り、服交換よ!!」

 周りにはおだてるようにして、妙やあやめがよいしょをかけている。結果的には前進した連想ゲーム企画に、仲間達も各々の反応を見せている。

「なんか急にやる気が上がっているんだが!?」

「良かったじゃねぇか。俺達が役に立った証拠だぜ!」

「近藤さんはア〇カしか言ってねぇけどな……」

 一段と喜んでいる近藤には、土方が改めてツッコミを入れていた。

「でも、良かったな。アイデアも浮かんで」

「そうね。どんな仕上がりになるのか楽しみね」

「ところで何がきっかけだったアルかな?」

「ま、まさかな……」

 万事屋一行も一安心をしていたが、彼女を突き動かしたきっかけに少し気がかりである。銀時や新八は嫌な予感を察していたのだが……こうして話し合いは一旦ヤマを越えていた。

 

 

 

 

 

 そして時は一週間が過ぎた頃。万事屋の六人が何気なく休みを過ごしていると、突然にもリーファが訪れてきている。玄関先にいた彼女は、あの格好を早くも用いていた。

「こんにちは! みんな!」

「ス、スグ? その姿って……」

 そうあやめと約束した彼女の忍者服を着こなしている。マフラーやブーツ類もあやめと順当なものに変えて、髪型も自然なロングに変えていた。見違えるようなイメチェンには、皆が目を丸くして驚嘆としている。

「どう、似合っている?」

「結構、目新しい印象だな……髪まで下ろすなんて」

「って、それよりも! 衣装交換ってことは、入賞したアルか!?」

「ううん。落選よ。でも協力してくれたお礼に、交換したのよ」

「そうだったの……」

 一瞬入選したかに思えたが、結局は落選止まりだったらしい。それでも協力してくれた礼として、服装交換を引き受けたようだ。

 そこで気になるのが、トンキーの完成品なのだが?

「それで一体、どんなマスコットにしたんだよ?」

「原案ってもしかして持っていますか?」

「もちろん! これを見てちょうだい!」

 彼女は快く応募した原案を万事屋一行に見せていく。手渡されて見てみると、そこに描かれていたのは……

「えっ!? これって……」

「トンキーとロック系を足したパンクロックキャラ! 名付けてチャアンキーよ!」

実に刺激的なマスコットである。トンキーの要素を加えながら、歌手のようなキャラクターに仕上げていた。一見可愛らしく見えるが、やはりどこか違和感を覚える仕上がりである。あのチャゲ〇スの絡みが、リーファに良くも悪くも影響を与えていた。

「いや~みんなのおかげで助かったわよ! トンキーに足りなかったのは、やっぱり激しさだったね!」

 本人は満足気な表情を浮かべるが、万事屋の反応では……

(どこで間違ったんだ……!?)

全員がツッコミたい気持ちを隠している。彼女には悪いが、落選した方が良かったのかもしれない。そう思わざるも得なかった。

 するとここで、新八があることに気が付いている。

「アレ? てことは今、さっちゃんさんがリーファさんの服を着ているんですよね?」

「その通りよ!!」

 彼の読み通りに、今度は上空からあやめが颯爽と現れていた。こちらも衣装チェンジによって、だいぶ印象が異なっている。眼鏡を除けば髪型も踏まえて、リーファとほぼ容姿を寄せていた。

「またこの流れアルか!?」

「って、イメチェンが意外に似合ってる!?」

「さて! 折角のイメチェンだから……銀さ~ん!! 私を妹に認めてぇぇぇ!!」

 万事屋からも高く評されると、調子に乗った彼女は勢いよく銀時へと抱きつこうとする。興奮状態で突進した彼女であったが、

「バーストストリームゥゥゥ!!」

「ギャャャ!!」

銀時お得意の奇襲技モモバーンで容易く吹き飛ばされていた。玄関を飛び越えて、地上にまで叩き落されてしまう。

「って、さっちゃんさん!?」

「吹き飛ばされてしまいました!?」

「てか、バーストストリームってそんな技じゃないぞ!!」

「って、あやめさん!! 私の服でいやらしいことしないって、約束したわよね!!」

 こうして場はまたも、グダグダとした雰囲気に繋がっている。衝撃や指摘、怒りと激しい感情が散りばめられていた。その一方で、

「衣装チェンジか……」

「ん? どうしたネ、アッスー?」

「いや、何でもないわよ」

アスナにはある考えが思いついている。神楽にははぐらかしたが、一体何を思いついたのだろうか?

 その話はまた別の機会にて。




 トンキーも今とならば懐かしいですね。当時は銀魂にも似た名前があって、かなりテンションが上がっていたのを思い出します(笑)
 なお今回は稀ですが、ゲーム場面のみ台本形式にしました。流石にキャラ名を付けないと、分からないですね……







※第五十七訓は事前に掲示された題名や内容を変更しました。ご了承ください。

次回予告
銀時「なんでプレゼントに花束って送るんだろうな?」
アスナ「それは感謝の気持ちからよ。結構花束を贈る人は多いと思うわよ」
キリト「どうやらリズも探しているみたいだからな」
銀時「マジかよ。じゃあの店に行かないことを勧めるぜ」
キリアス「「あの店?」」
銀時「次回! プレゼント選びは慎重に」


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第五十七訓 プレゼント選びは慎重に!

 今回は皆さんの予想通り、あの天人が登場します。果たしてどうなる事やら……


 九月八日。この日のリズベットは、朝っぱらから手当たり次第に花屋を渡り歩いていた。尊敬している師匠こと村田鉄子の贈り物として、とある花を懸命に探している。しかし……中々見つけることが出来ていない。

「うーん……どこにあるのよ?」

 

 一方で時を同じくして、万事屋一行は全員揃って食材の買い出しに向かっていた。割引価格の商品を目当てに、かぶき町とは多少の距離があるスーパーへと赴いている。

 まばらに雲が浮かぶ晴天の下で、彼らは和気あいあいとした雰囲気で町内を進んでいく。ただ一人、銀時を除いては。

「暑いな……つかーよぉ、俺達まで行く必要あるのか? 家にいた方がまだ涼しいわ」

「銀さん、また文句言っているの? 今日のスーパーは購入制限の商品があるから、どうしても人手が必要なのよ。もちろん荷物持ちも任せてもらうわよ」

「ちゃっかり、仕事を増やすんじゃねぇよ」

 彼は遠出することに気乗りせず、グチグチと文句を吐いていた。言いだしっぺのアスナからも説得されたが、何気にもう一つ仕事を増やされている。今回の買い出しでも、男子陣は荷物持ちとして連れてこられたようだ。

「またトンキーホーテのように、買い溜めするのか?」

「そうネ! 頑張るアルよ、キリ!」

「そもそも神楽ちゃんの大食いも原因なんだけど……」

 人一倍調子に乗ろうとする神楽には、新八の核心を突く指摘が飛んでくる。彼女の大食いな性格も、少なからず食費に影響しているようだ。

「いわゆる成長期ですね! 私も神楽さんほどに食事をしたら、体も大きくなるのでしょうか?」

「いや、ユイちゃん……むしろ体を壊すから止めておいた方がいいよ」

 それを聞いたユイは、思わず無邪気な発想を呟いている。好奇心から食事の量に興味を示したが、すぐに新八から止められていた。

「とにかく! キリト君に銀さん達も、今日は張り切って頼むわね!」

「「は、はい……」」

 そして、アスナの期待を込めた一言が男子陣にのしかかっている。彼女の晴々とした笑顔からは、トンキーホーテの時と同じ荷物量だと薄々察していた。

 適度に会話を交わしながら、ゆったりとした足取りで進むが……そんな彼らには偶然にもある知り合いを見かけている。

「アレ? あの人って……?」

「ん? どうしたアルネ、ユイ?」

「いや、花屋にリズさんが入っていきまして……」

「えっ、リズが!?」

 一足先に発見したユイによると、どうやらリズベットが花屋へと入ったらしい。これを聞いた女子陣は足を止めて、彼女の行方に興味が向けられていた。

「ちょっと気がかりね……見に行きましょうか」

「おいおい、買い出しはどうすんだよ?」

「まだ時間があるから大丈夫よ! それよりもリズの方よ」

「私も気になるネ、行くヨロシ!」

「はいです!」

 あれだけ意気込んでいた買い出しを後回しにして、女子達三人はぞろぞろと花屋へ近づいている。

「おい! ……ったく、今日のアイツら自由奔放過ぎねぇか?」

「まぁ、仕方ないよ。女子同士の再会って、いつもあんな感じだし」

「行動の一つ一つが気になるってことですね。じゃ、僕等もついていきましょうか」

「ちょっと面倒だけどな」

 取り残された男子陣だが、ヤレヤレと思いながらも、アスナ達の跡を追いかけていく。

 こうして六人は日陰にそっと気配を隠して、店内で店主と会話をするリズベットの様子を覗き見していた。

「努力の花、グロウフラワーねぇ……」

「あの、この店には置いてあるの?」

「残念だけど、ウチでは取り扱っていないわ。力になれなくごめんね」

「そんな……これで二十軒目なのに」

 またしても目的の花を見つけられず、落ち込んだ表情となっている。そんな彼女と話をするのは、万事屋とも顔見知りの相手であった。

「二十軒も探して見つからないって……」

「入手が難しい花アルか?」

「いやそれよりも、あの女ってさっちゃんの同期じゃ無かったか?」

「あっ、そういえば……」

 そう。銀時ら三人には見てわかる通り、この店の店主は忍者でもある脇薫である。ただ顔を知っているだけで、そこまで深い接点は無いのだが。

 それはさておき、リズベットと薫の会話は続いている。

「てかアンタ、よくもそんなマイナーな花を探しているのね」

「それは花言葉が気に入ったからよ。アタシの尊敬する人にどうしても贈りたいのよ……」

「ほぉう、そういうことね」

 グロウフラワーと呼ばれる花に並々ならぬこだわりを持ち、しんみりとした表情を浮かばせていく。彼女によると贈り物として、その花を探しているようだ。

「尊敬している人って、一体誰アルか?」

「それは……鉄子さんではないでしょうか? ずっとお世話になっていますし」

 リズベットの尊敬する人に焦点を当てて、神楽やユイは次々と声を上げている。彼女の言い方や雰囲気から、鍛冶屋繋がりの鉄子だと予測していた。

「でもなんで、このタイミングなんだろうな」

「誕生日とかじゃないのか? 確か九月頃じゃなかったか?」

「そんな気がしますけど……」

「しっかりと花言葉にこだわるのが、リズらしいわね」

 他の万事屋メンバーも、思ったことを呟いていく。長い付き合いであるキリトやアスナは、リズベットの粋な優しさに感銘を受けている。このまま様子を見守ろうとしたが……そう長くは続かなかった。

「おや? 何をしているんだ、君達は?」

「って、えっ!?」

「きゅ、九兵衛さん!?」

 こっそりと覗いていた光景を、通りかかった知り合いに見つかってしまう。声をかけてきたのは、散歩の途中だった柳生九兵衛である。

「何を覗いているのだ? まさか花屋に妙ちゃんがいるのか!?」

「いやいや、違いますから! 僕等もたまたま見ていただけで」

「たま投げ!? 一体花屋で何が起こっているんだ!?」

「たま投げじゃなくて、たまたまよ! そこは勘違いしないでって!」

 早とちりから妙のいる前提で話しかけており、会話が噛み合わずにアスナらもタジタジになって応対していた。聞き間違いにより、場はちょっとした騒ぎに発展してしまう。

 当然だがこの騒ぎは、リズベットらにも気づかれている。

「ん? この声は」

「もしかして……アタシの知り合いかも。ちょっと見てくるわ!」

 会話を中断させてから、彼女は様子見として一旦外に出ていた。一方の薫はタイミングが悪いことに、リズベットが退店した途端に、グロウフラワーの心当たりについて閃いている。

「あっ。あの店だったら、あるのかも……」

 跡を追いかけずに彼女は、ひとまず近くにあったメモ帳に情報を書き記していく。そしてリズベットの方では、

「……えっ!? キリトにアスナ!? 九兵衛さんも!?」

「「「「あっ」」」」

「み、見つかっちゃいました……」

万事屋一行や九兵衛らと目線を合わせていた。思わぬ再会に彼女は困惑しており、万事屋側もつい言葉を詰まらせている。

「リ、リズ君? お妙ちゃんでは無かったのか……」

「いや、最後まで信じていたのかよ」

 ただし九兵衛だけは、予想が外れたことに衝撃を受けていた。新八のツッコミも無常に決まっている。

 偶然が重なり合い、リズベットの花探しはさらなる展開を迎えていた。

 

 

 

 

 

「てか、アンタ達につけられるなんてね……」

「だ、黙っていたことは謝るよ……」

「別にいいわよ。銀さんだけだったら、正直許してないけどね」

「おいそれ、どういうことだよ」

 会話の最中に思わぬ飛び火を受けて、銀時は即座に反抗している。

 尾行がバレてしまった一行は、今一度冷静になって互いの状況を説明していた。

「それで、万事屋が買い物で九兵衛さんが散歩の途中だったんでしょ? まさか最初にバレたのが、アンタ達とはね」

「やはり僕等には知られたくなかったのか?」

「いやいや、大丈夫よ。こっちも花探しに息詰まっていたから、むしろ助かったわよ。全然見つからなくて、困ってんだからね!」

 尾行の件は軽く受け流しており、気にしていない様子である。むしろ彼女は花束のことで、ありのままの本音を仲間達へぶつけていく。本命が見つからないことには、だいぶ憤りを感じていた。

「そんなに見つからないんですか?」

「うん。聞くところによると、宇宙からの外来種みたいなのよ。そのせいで流通が少ないだとか」

「結構大変なのね……」

 理由を深掘りするうちに、複雑な事情が明かされている。外来種等の特殊な事情が重なり、グロウフラワーは手に入りにくいものだと理解していた。

 アスナらが同情を浮かべる一方で、リズベットの表情は迷いが生じている。だがそれでも、彼女は簡単に諦めることは無かった。

「でも……見つけたいわよ。今日は鉄子さんの誕生日だし、日ごろの感謝を込めて、どうしてもグロウフラワーを送りたいのよね」

 入手難易度よりも自身の気持ちを優先しており、誕生日プレゼントとしてのこだわりは一斉揺るがない。困難に直面しても、最後まで希望を捨てることは無かった。彼女の“想い”を通す意志には、仲間達にも影響を与えている。

「銀ちゃん、キリ! 私達もリズに協力するアルよ!」

「マジかよ。買い物はどうすんだよ?」

「それはもう後回しです! リズさんの探し物の方が大切ですよ!」

 いてもたってもいられずに、神楽やユイは純朴そうな目つきで手助けを決意していた。彼女達にとってはこちらの方が大事であり、この気持ちは他のメンバーも同じである。

「でも僕らも気になりますから、一緒に行くのもありですよね」

「そうね。リズ、私達も手伝うわよ!」

「えっ? いいの、みんな?」

「別に構わないよ。俺達もその花のことが気になるし」

「僕も時間が空いているからな。是非手伝わせてもらうよ」

 新八、アスナ、キリト、九兵衛と快く協力の声を上げていく。旧友や大人達の親切に触れていき、リズベットの気持ちも前向きに捉え始めていた。

「みんな……ありがとうね。じゃお言葉に甘えて、よろしくお願いね!!」

 迷いも振り切っており、生き生きとした表情で明るく返答している。段々と普段の彼女らしさに戻っていた。

「元気が戻って良かったアルナ!」

「ですね!」

「ったく、後で無駄口を叩いても知らねぇぞ」

 気乗りはしないものの、銀時も渋々協力を引き受けていく。こうしてリズベットの元には、頼もしい仲間達が加わっていた。

 とちょうど良いタイミングで、機会を伺っていた薫が話しかけてくる。

「ようやく終わったのかい。それじゃ、アンタにこれを渡しておくよ」

「えっ? これは……」

 突然にも手渡してきたのは、住所の書かれた一枚のメモ用紙だった。

「私の知っている花屋の住所よ。確か天人が経営していたから、運が良ければグロウフラワーが見つかるかもね。素直に受け取っておきなさい」

 こちらも親切心から行き先を教えており、何気の無い気遣いを見せている。棚から牡丹餅のような幸運な展開には、本人も有り難く感じていた。

「あ、ありがとうございます! そうと決まれば、みんな行くわよ!」

「って、リズさん!? 急に張り切りすぎですよ!」

「おい、置いていくんじゃねぇよ!!」

 嬉しくも気持ちを高ぶらせた彼女は、一度感謝を伝えると同時に、勢いのままにその店へと足を走らせていく。仲間達も急いで、リズベットの跡を追いかけていった。

「フッ、見つかればいいけどね。ってそういえば、肝心なことを言い忘れたような……」

 無事に見つけられるようにと、薫はそっと彼女達の行く末を見守っている。その最中では、伝え忘れたことを思いだそうとしたが。

 しかし彼女は、ある重要な一件を伝えていない。リズベットの無邪気そうな表情や余裕が後に崩されるとは、この時の誰もが思っていないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 それから一行はメモの情報を頼りにして、かぶき町を歩き回っている。懸命に探し続けていると、遂に店の近くまで行きついていた。

「この道を右に曲がれば、ようやく花屋に到着できるわ!」

「今度こそ見つかると良いわね」

「きっと見つかるさ!」

 その中でもリズベットは、仲間達よりも一足早く進んでいる。心地よい風に当たりながら、彼女は大いに期待値を高めていた。

 一方でその跡を追う銀時らは、微かな不安を覚え始めている。

「ねぇ、銀ちゃん! 確かこの道の先にある花屋って……」

「あぁ、そうだな。まさかあの店じゃねぇよな?」

「僕等の予想が外れると良いですけどね」

「ん? どうしたんだ、みんな? そんな浮かない顔をして」

 以前にも関わったことのある某天人を思い起こして、万事屋の三人だけが微妙な表情を見せていた。九兵衛にとっては何のことだかさっぱり分からないが。

 反応は分かれたがリズベット側は気付かずに、大通り方面へと足を踏み入れている。

「よし! この近くね……あっ、あったわ!」

 一足先に着いたリズベットは、周辺にある花屋らしき店を探すと、右折方向にて見つけていた。遠目から見た店の外観は多くの花が飾られており、グロウフラワーの有無にも期待が高まっている。

「このまま行って、手に入れてみせるわよ!」

 単身でも向かおうとした――その時だった。店内から店主らしき天人が姿を現してくる。

「いや~今日は一段と暑いですね~」

「……えっ?」

 リズベットの瞳に映り込んだのは、インパクトの強い天人だった。緑色の体色をしており、体型は二メートル程の大柄。顔つきは厳つく、見る者に多大なプレッシャーを与えている。頭部には二本の白い角と、申し訳程度の一本の花が植えられていた。青いエプロンも着飾った彼の正体はそう……万事屋とも大変関わりの深い屁怒絽である。

 彼の強烈とも言える容姿には、リズベットも思わず心を引かせていた。

(まさか店主なの!?)

 高揚とした気持ちが一変、屁怒絽に対する恐怖で心が染められてしまう。

 予想外の事態に行動が拒んだ彼女は、屁怒絽に気付かれないよう、大通り方面から死角である建物脇に戻っている。そこにユイやアスナらが先に駆けつけてきた。

「アレ? リズさんがあっちで項垂れていますよ」

「どうしたのよ、リズ? もう花屋を見つけたんじゃないの?」

 事情を知らない彼女達は、リズベットの様子に違和感を覚えている。不思議そうに聞いてみると、彼女は感じたままのことをぶつけてきた。

「いや……予想外のことが起きたのよ」

「予想外って?」

「み、見た方が早いわよ。きっと腰を抜かすわよ!」

「もう大袈裟ね。一体何を見たっていうのよ?」

 動揺するまでの経緯を理解できず、キリト達三人も遠目から店を覗いてみる。するとそこには、

「いらっしゃいませー大切な人への花束はいかがでしょうか?」

おどろおどろしい声を発しながら、客寄せしている屁怒絽の姿が見えていた。その恐ろし気な容姿には三人も動揺しており、そっと顔を引っ込めている。

「えっ……あの人が花屋さんなの?」

「思っていたのと、まったく違うんだが……」

「見た目のインパクトが凄かったです……」

「だから言ったでしょ……」

 揃って苦い表情となり、大きな衝撃を引きずっていた。困惑がまったく収まらない中で、銀時らもこの場に到着している。

「って、どうしたアルか? みんなー!」

「いや、ちょっと動揺していて……」

「動揺? って、まさか屁怒絽を見たのか?」

 話を聞くうちに彼らは、その原因が屁怒絽だと理解していた。薄っすらと感じていた嫌な予感が、見事に当たっている。

「てか、みんなはあの天人のことを知っているの?」

「知っているというか……顔馴染みというか」

「どちらとも言えない関係アル」

 アスナから詳しく聞かれても、神楽や新八は曖昧な言葉しか言い切れない。何とも微妙な雰囲気が漂う中で、リズベットが咄嗟に口を開いてきた。

「ていうか、あの人は一体何なのよ!? はっきり言って威圧感しか無いわよ!!」

 自信が思ったことをありのままに吐き出していく。そんな彼女に対しては、銀時が返している。

「そりゃ屁怒絽だからな。アイツは地球に宇宙産の花を売りに来た、多分心優しい天人だと思うぞ。多分そうだよ。多分……」

「さっきから、多分しか繰り返して無いんだが」

 それでも上手く確信が持てずに、言葉を濁したままだったが。これには九兵衛も野暮をぶつけている。

 さらに続けてユイも質問してきた。

「では、あの特徴的な容姿は何か分かりますか?」

「まぁそれは荼吉尼族が関係しているアルよ」

「荼吉尼族?」

「傭兵三大部族の一つですね。鬼のような姿をした種族として有名なんです」

 今度は新八や神楽が返答して、屁怒絽の特徴を簡略的に伝えている。だがしかし、リズベット達の第一印象が覆ることは無かった。

「鬼っていうか、ボスモンスターに見えなくもないが」

「過去に戦った個体とも似ているわね……」

「変な詮索するなよ。屁怒絽がボスモンスターな訳ないだろ。ただの威圧感がある天人――」

 仕舞いにはSAOのボスキャラとして例えられている。冗談だと悟った銀時は、思わず屁怒絽のいる店の方へ覗いていく。すると彼は、

「さぁいらっしゃいませ。今なら限定品として、HPゲージが付いたキャップをプレゼントしていますよ~」

「何か付いてんだけどぉぉ!?」

タイミングの悪いグッズを宣伝していた。HPゲージを模したキャップを被り、付属品として通行人に見せつけている。間接的に自らが、ボスモンスターと印象を付けていた。

「おい、どうなってんだ!? まさかあいつ、SAO出身のモンスターかよ!?」

「落ち着いてください、銀さん! ただの偶然ですから! 関係ない小ボケですから!」

「あの形状はまさしく……酷似していると思います」

「ユイちゃんも余計なこと言わないで! 読者も混乱しちゃうから!」

 おかげで銀時も取り乱してしまい、困惑を大いに深めてしまう。彼を落ち着かせようと、新八が必死に説得を促している。

 屁怒絽の知らない間に、リズベット達には大きな影響を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 それから時間を置くこと、数分が経過した頃。落ち着きを戻した一行は、これからの行動について話し合っている。

 その結果だが、リズベットが単身で店へ向かうことに決まっていた。

「……じゃ、行ってくるわね」

「本当に一人で大丈夫なの、リズ?」

「僕も付いていこうか? 何なら代役で買いに行っても構わないぞ」

 未だに不安を拭いきれない仲間達は、心配の声を上げている。屁怒絽への耐性がまだ十分ではないはずだが……それでも彼女には行くだけの理由があった。

「へ、平気よ。誰かの代わりじゃなくて、アタシ一人の手で手に入れたいから……怖いけど」

「おい、今本音が出なかったか?」

「と、とりあえずアタシに行かして! 大丈夫……慣れれば平気よ!!」

 自らの手でグロウフラワーを手にしたい気持ちから、恐れを跳ね除けて突き進んでいく。がむしゃらな心構えから、勢いよく店へと走り出していた。

「ちょっと、リズさん!?」

「本当に大丈夫なのか!?」

 仲間達の心配をよそにして、あっという間に場を離れている。もう彼らには、見守ることしか方法は残されていない。

 リズベットの決死の覚悟により、屁怒絽との交渉が始まっていた。

「今ならキャップをプレゼン……おや?」

「す、すいません! 一ついいですか?」

 まずは彼女から話を持ち掛けている。なるべく目を合わせないように、下を向かせながら聞いていた。

「お客さん。何をお探しでしょうか?」

(や、やっぱり威圧感が……でもここは乗り切るしか!)

 ふと目線を合わせると、やはり威圧感を覚えてしまう。恐れを我慢しながら、本題へと話を振ってくる。

「あの……グロウフラワーって置いてありますか?」

「グロウフラワー……ちょっと待ってくださいね」

 彼自身の反応は良好であり、さらには一旦店へ戻っていた。圧力から解放された彼女は、思わず深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

(頼むからあって! これだけ精神力を削ってんだから!!)

 後はもうあることを切に願うしかない。表情は変わってないが、心境はかなり必死である。だがここまではほぼ順調だった。

「何とか大丈夫そうね」

「この調子ならきっと乗り切れますよ」

「頑張れよ……リズ君」

 遠目からも仲間達は、切実に応援を続けている。女子陣もここまでの掴みには納得をしていた。だがしかし、ここで思わぬ事態が発生してしまう。

「って、銀さん! アレを見てくださいよ!」

「どうした……って、アイツら!?」

「何アルか?」

「う、嘘だろ……」

 男子陣や神楽が発見したのは、屁怒絽と同じ容姿をした集団である。そう彼らは、以前に銀時らとも邂逅した屁怒絽の親族だった。運が悪くも、彼らの視線はリズベットの方に向いている。

「アレ? 兄さんの店にお客さんが来ているよ」

「本当だ。とんがり耳の天人のようだな」

「これまた地球では珍しいな」

「一体どんな花を買うのだろうか?」

「ちょっと気になるねー!」

 左から次郎、三郎、四郎、五郎、チビと次々に声を上げていた。そしてリズベット自身も、彼らの存在に気が付いている。

(ん? えっ……はぁ!?)

 内心では衝撃を抑えきれない様子であった。もちろん仲間達の方でも。

「へ、屁怒絽一家だとぉぉぉ!?」

「おい!? なんでこのタイミングで来てんだよ!?」

「知りませんよ! というか、リズさんが囲まれてしまいましたよ!!」

 特に関わったことのある銀時と新八が、一段と衝撃を受けている。いずれにしても、この新たな危機をリズベットは乗り切らなければいけなかった。

「もう不憫すぎて、見ていられないわよ……」

「本当に大丈夫なのか?」

 見るのも辛くなってきた仲間達だが……本当に辛いのは彼女自身である。

(だ、誰か助けて……今にも襲われそうなんだけど!!)

 リズベットを取り囲む形で、屁怒絽ファミリーが四方八方にも睨みを利かせていた。逃げたくても逃げられない状況が発生している。精神力もすり減る一方であった。そんな想いとはお構いなしに、屁怒絽ファミリーは何気なく話しかけてくる。

「おや、お嬢さん。どの花をお探しで?」

「グ、グロウフラワーを買いに」

「おぉ、珍しい花では無いか」

「誰かに送るのか?」

「は、はい……師匠さんに」

「何とも健気だな。お前も見習うのだぞ」

「って、僕に言わないでよ!」

 なるべく顔は合わさずに、返答も簡素的に済ましていた。この待っている時間が、彼女にとっては地獄でしかない。

(気まずいを通り越して、もう恐怖なんだけど!! お願いだから、早く確認を済ましてって!!)

 我慢はもはや限界に近く、赤裸々な本音を内心で吐き続けていく。びくびくしている様子は、見守っている仲間達にも伝わっている。

「リズがもう泣きそうアルよ」

「あれだけ囲まれたら、動揺しない方が無理ないだろうな」

 銀時だけはまるで他人事のように、ボソッと呟いていたが。

「いやそれよりも、助けに行った方が……」

「いや、待ってくれ。ようやく事態が動いたぞ」

 見ていられずにキリトが助太刀に向かおうとしたが、九兵衛からは止められている。このまま下手に動かない方が良いと、彼女は思っていた。

 すると、店内で探していた屁怒絽が戻ってきている。

「見つかりましたよ……って、兄さん方ではないですか」

「久しぶりだな。時間が空いたから、遊びに来たんだよ」

「これはまたご苦労で。少し待っていてください。お客様の対応が先ですから」

 再会した兄弟達を後回しにして、彼はリズベットとの応対に接していく。

「探し物のグロウフラワーですが、ウチにはご用意していますよ」

「ほ、本当ですか?」

 なんと嬉しいことに、グロウフラワーがこの店に置いてあった。思わず歓喜に震える彼女に対して、屁怒絽一家は余計なお節介を付け加えてくる。

「だったら花束にした方がいいぞ。どうやらこの子は、師匠にプレゼントするらしいぞ」

「ちょ、ちょっと!?」

「健気に感じるし、オマケしてやってくれ。兄さんよ」

(よ、余計なこと言わなくて良いって!!)

 彼らの方から花束を勧めており、思わず度肝を抜かせていた。それを聞いた屁怒絽は、再びリズベットの方を凝視している。

「ほぉーそれは本当でしょうか?」

「……は、はいそうです」

 顔を近づけており、さらなる圧迫感を与えていた。リズベット自身も平常心を保っているのが、もうやっとである。何を言われるか分からない恐怖に晒されていると……間を置いていた屁怒絽が返事をしてきた。

「でしたら、少しお待ちください。只今施してきますので」

「えっ!?」

 特に文句等は言わずに、すんなりと花束の件を受け入れている。垣間見ていた優しさには、内心にて仰天していた。

「良かったな、嬢ちゃん」

「やっぱり言ってみるもんだね!」

「あ、ありがとうね……」

 取り囲んでいた屁怒絽の一族達からも、気持ちが分かち合っている。この一瞬の優しさをきっかけにして、緊張感が少しだけ和らいでいた。

(アレ? もしかしてあの人って、良い人なのかな?)

 いわゆるギャップを感じており、屁怒絽への印象が変わり始めている。それから二分ほど待っていると、彼は綺麗に飾った花束をリズベットへ渡していた。

「出来ましたよ、こちらでいかがでしょうか?」

「あっ、ありがとうございます」

「いやいや、どういたしましてですよ」

 念願の花束を受け取り、ようやく一安心している。探した甲斐があったと自分に言い聞かせていた。

「ちょうどです。毎度ありがとうございました。またの機会もお越しください」

「そ、そうします……」

料金もしっかりと支払って、これで彼女の買い物は終了となる。後はもう仲間達の元へと帰るのみだ。場から逃げ出すような勢いで、店を後にしている。すると、

「あっ、お客さん!」

「は、はい!?」

唐突にも屁怒絽が声をかけてきた。彼女は不意にも振り返ると、そこには彼とその一家が不敵な笑みを浮かべている。だがそれは、決して無粋な気持ちからでは無かった。

「想いが伝わるといいですねぇ……」

「は、はい……!」

 ただの後押しをしたい気持ちから出来ている。リズベットも真意を悟ったのか、勢いを込めて返答をしていた。そしてまた走り出していく。

「実に清々しい嬢ちゃんだったな」

「あの子ならきっと思いは届くよ」

「私も切に願っています……って。アレ? 何かを忘れているような」

 屁怒絽達からの印象は良好であり、純粋な気持ちから密かに応援している。しかし屁怒絽には一つだけ、忘れていることがあった。

 一方のリズベットだが、花束を抱えたまま仲間達の元に戻ってきている。

「キリト~! みんな~! アタシ頑張ったよ~!!」

 プレッシャーから解放された彼女は、思わずキリトへ抱きつこうとしていた。構わずに抱きついてみると……すぐに別人だと察している。

「アレ?」

「おい、急に何抱きついてきてんだ。コノヤロー」

 そう、誤って銀時に抱擁を仕掛けていた。これに気が付いた彼女は、あっさりと態度を一変させている。

「オメェに用はねぇわ!!」

「ブフォ!?」

 理不尽にもビンタを交わしていき、彼を地面に突き落としていく。ただの殴られ損な銀時であった。

「銀さんってば……」

「ってそれよりも、よくやったアルナ! リズ! 屁怒絽の重圧を乗り切るなんて!」

「アタシも信じられないよ……よくやったと思うわ!」

 一方で神楽達は、リズベットの手に入れた花束に話題を向けている。彼女自身でも耐え抜いたことが信じられずに、自分自身にも褒めていた。

 そしてキリトからも、励ましの言葉がかけられていく。

「十分に頑張ったよ、リズは。後は鉄子さんに届けるだけだよな」

「えぇ、もちろん!」

 満面の笑顔で返しており、満足気な気持ちに浸っている。仲間達からの歓喜と共に、内心では屁怒絽への印象についてそっと呟いていた。

(屁怒絽さんも冷静に話せば良い人だったし……でもやっぱり、見た目は苦手かも)

 やはり内面を見てもなお、外見の威圧さには苦手意識を持ってしまう。それでもだいぶ印象が変わっていた。

「いや、誰か俺の心配しろや……」

「キリトさん達も、銀さんの扱いに慣れてきたみたいですね」

「一応主人公だぞ、俺」

 皆がリズベットに注目したおかげで、銀時だけは最後まで声をかけられずじまいだったのだが。そんな彼女達の元に、さらなる脅威が差し迫ってくる。

「あっ、みんな! こっちに屁怒絽が迫ってきているぞ!」

「えっ、嘘でしょ!?」

 なんと屁怒絽が手渡すのを忘れた限定品を持って、こちらへと走り出していたのだ。

「お客様! 忘れ物がありました! HPゲージキャップを受け取ってください!!」

 その形相は威圧さをより高めており、見る者に恐怖を与えている。当然リズベットにはもう我慢の限界が迫っていた。

「いやいや、もう無理だから! アタシにもう休ませてよ!!」

「ちょっとリズ!?」

「おい、置いていくんじゃねぇよ!」

「待ってくださいよ!!」

 一目散に彼女は逃げ出して行き、その跡を仲間達が追いかけていく。さらに屁怒絽が追いかけていき、混沌とした追いかけっこがいつの間にか完成していた。

「お客さん!! どこですか~!!」

「頼むから、もう今日は追いかけてこないで!!」

 

 

 

 

 

 

 それから屁怒絽を撒いていくと、一行は刀鍛冶屋前まで行きついている。その店内では、リズベットが鉄子に念願の花束を贈与していた。

「鉄子さん! アタシからの心ばかりの贈り物よ」

「あ、ありがとう。まさか自分でももらえるなんて思っていなかったよ……大切に飾っておくよ」

「どういたしまして!」

 心温まるプレゼントを受け取り、鉄子もほんのりと笑顔をこぼしている。それを目にしたリズベットも、つられるようにして笑っていた。

 この光景を万事屋や九兵衛たちは、同じく温かい気持ちで見守っている。

「サプライズ成功で良かったアルナ」

「そうだな。つーかよ、花言葉って結局何だったんだ?」

「確か……「鍛冶を頑張るアナタへ」だったと思いますよ」

「そのまんまじゃねぇかよ!」

 花言葉の意味も明らかとなり、思わず銀時からツッコミを入れられていた。いずれにしても、鍛冶屋にはピッタリの花だったらしい。

 とそこに早くもリズベットが戻ってきている。

「お待たせ、みんな!」

「アレ? もう良かったんですか?」

「うん。また鍛冶作業に戻るんだって。今日までに仕上げる依頼品もあるし」

「そんなに忙しいのね」

「でも大丈夫よ! また明日会うから、今度こそゆっくり話すよ」

「フッ、それならいいかもな」

 鉄子の時間の都合から、また明日へ持ち越しになったようだ。それでも彼女は気にせずに、明るく振る舞っている。自身の気持ちを届けられたことに、満足感を覚えていた。

 こうして今回の大仕事は幕を下ろした。

「それじゃ、みんなはこれからどうするの?」

「僕は柳生家に帰るよ。リーファ君もそろそろ来る予定だし」

「じゃ、俺達は買い物でも戻るか」

 見届けていた仲間達もまた、本来の役目へと戻り始めている。このまま平和的な空気で終わると思いきや……

「そうだな……って、あっ!」

「リ、リズ……」

突如として彼らの顔色が一変していた。リズベットを除く七人が困惑めいた表情を見せている。どうやら彼女の後ろに何かがいるみたいだが。

「うん? どうしたの、みんな?」

 それに気が付かないリズベットは、何のことだかさっぱり分かっていない。だがしかし、声を聞いた瞬間にその恐怖は蘇っていた。

「見つけましたよ、お客さん」

「えっ?」

 肩を触られると同時に、おどろおどろしい男性の声が聞こえてくる。正体を勘ぐった彼女が、恐る恐る後ろを振り返ってみると――

「お忘れ物のキャップですよ……」

にこやかに笑う屁怒絽が目に映っていた。忘れ物のキャップを届けに、ここまで追いかけてきたようである。

「ギャァァァァ!!」

 無情にも彼女の叫び声が大きく響き渡っていく。この後にどうなったのかは、想像に難くはないだろう……





裏話
 元々はフリマを舞台に考えていましたが、この前のエギル回で同じようなネタをやったので、あえて差別化をしてみました。こちらの話でも屁泥絽さんは登場予定でした(笑)

 さて、今年も半分を過ぎたので今後の剣魂についてお知らせします。トップページにも書かれている通り、残りの日常回は三回ですが、五十九訓と六十訓は、前後篇に分かれていて、今の予定では恐らく一話分伸びます。なので次回の長篇は、六十二訓を予定にしています。


 そして! 次回頃にその長篇の予告篇をお出し致します。期待してお待ちください!






次回予告
星海坊主「読者の皆さん、こんばんは。俺が誰だか分かるかな? そう、星海坊主だ。久しぶりに神楽ちゃんの様子を見に来たら、娘と同じチャイナ服を青髪の天人が着ているだと!? 俺が留守している間に、一体何が起きたんだ!?」
銀時「次回、たまにはイメチェンも必要だ」
星海坊主「おい、銀髪! さっさと説明しろ!!」
銀時「って、オメェが主役じゃねぇよ。次の回は」


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第五十八訓 たまにはイメチェンも必要だ

 お待たせしました! 残る日常回も後僅か。今回は滅多に無い衣装交換回をお送り致します。誰が該当するのでしょうか……? 


 時期は前回より進んで九月の中旬頃。ちょうど正午を迎えていた時に、万事屋銀ちゃんでは一人の女性が訪問へやって来ている

「ちょっと、銀時はいるかい? 家賃の件で話があるんだが」

 玄関前にて銀時を呼ぶのは、万事屋の大家であるお登勢だった。どうやら家賃のことで、相談をしたいようだが。

 雲一つない快晴の下で、彼を待ち続けること早三分。一向に現れる気配はなかった。

「また居留守かい。キリト達が来ても懲りないもんだねぇ……」

 徐々にイライラを募らせており、不機嫌な表情に変わってしまう。長年の勘から居留守だと決めつけている。とそんな時――ようやく目の前の戸が開いていた。

「やっとご登場かい。おい銀髪、何故反応しなかった!?」

 反射的にも彼女は、恐ろしい形相で差し迫っていく。てっきり銀時だと思い込んでいたが……

「お、お登勢さん?」

「えっ? なんだアンタの方かい」

残念ながら出てきたのはキリトである。彼の驚嘆とした表情を見ると、お登勢も落ち着きを取り戻していく。

 そして改めてキリトの容姿を見ると、その変貌ぶりに目を疑っている。

「ん? その服はどうしたんだい? まんま銀時と同じ着物じゃないか」

「あぁ、これか。実は今日一日借りることにしたんだよ。この服でこれから、アスナやユイと散歩に出かけるんだよな」

「そりゃまた、変わったことをやるねぇ」

 彼が着ているのは銀時の着物であり、一時的に本人から借りた様子であった。さらにこの格好で、散歩に向かうらしい。

 そう言った直後に、アスナやユイも玄関先に集まって来ていた。

「キリト君! お待たせ!」

「神楽さんからの手直し、終わりましたよ!」

「って、アンタらも着込んでいるのかい」

 もちろん彼女達の衣装も、万事屋メンバーを踏襲している。アスナは神楽のチャイナ服、ユイは新八の幼少期の袴を着こなしていた。

 印象を一新させる衣装姿には、お登勢も僅かに衝撃を受けている。

「アレ、お登勢さんもいるの?」

「こんにちはです! もしかして、銀時さんに用事ですか?」

「まぁ、そうだね。アイツはここにいるのかい」

「もちろん。呼べばすぐに来ると思うよ」

 挨拶や軽い会話を交わすと、彼らは早速出発しようとした。

「それでは、お登勢さん。私達は散歩に出かけてきますね」

「あぁ、そうかい。気を付けて行ってきな」

「もちろん。夕方には戻ってくるわよ!」

「それじゃ、銀さんには優しくな!」

 彼女にもしっかりと言葉をかけてから、三人は階段を下っている。銀時達とは異なる真面目な雰囲気に、お登勢もそっと彼らのことを見守っていた。

「ヤレヤレ……変わった万事屋が出来たもんだねぇ」

 小さい微笑みを浮かべて、満更でもない気持ちを呟いている。

 そんな優しさに触れていた時、それとは真逆の方々がようやく現れていた。

「アレ、お登勢さんが来ていますよ」

「マジかよ。おい、ババア。いつの間に来ていたんだよ」

 随分と間を空けて、呼び続けていた銀時らが姿を見せている。余韻を壊すような一言には、お登勢も一瞬にして態度を変えていた。

「アンタはすぐに来んかい! こっちはさっきから呼んでいたんだよ!!」

「急に大声で怒鳴るな。ていうか、呼びかけるなら今の声量で十分だろうが!」

 先ほどのキリトの助言も虚しく、早速二人は言い合いを始めてしまう。表情でも怒りを滲ませており、数秒前とはまるで異なっている。普段の二人の姿勢であった。と一喝したところで、お登勢はあの件について銀時に聞き出している。

「それはそうと、キリトらはどうしたんだい? 急にアンタらの格好をしてさ」

「あぁ、それには深い訳がアルネ」

「深い訳?」

 どうやらキリト達の衣装変更には、並々ならぬ事情があるようだ。銀時らは数時間前の出来事を思い出している……。

 

 

 

 

 

 

 時は遡ること一時間前。この日の万事屋は、以前に提案があった衣装変更を実行している。きっかけはリーファとあやめであり、彼女達の衣装交換に感化されたアスナが仲間達に嘆願していた。キリトやユイも興味を持っていた為、事前準備を通して今に至っている。

 場面は着替えが終わり、キリト達がオリジナルの決め台詞を披露するところから始まる。

「万事屋一の辛党! ゲーム攻略なら俺に任せろ! 万事屋のニューリーダー、キリト!」

「女子陣の華麗なリーダー! キリト君を支える頼もしい彼女! 万事屋の副隊長はこの私、アスナよ!!」

「頭脳勝負なら任せてください! パパにママ、みんなを助ける為に精一杯頑張ります! 万事屋の新ツッコミ担当、ユイです!」

「「「三人揃って、万事屋キリちゃん!!」」」

キリト、アスナ、ユイ共に、一貫してノリノリな姿勢を見せていた。雰囲気も多少なり掴んでおり、仲間達からも賞賛の声が上がっている。

「うむ、流石だな。アピールポイントを堂々と見せてこそ、万事屋の名にふさわしいからな」

「みんな似合っているネ! 私の目から見ても上出来アルよ!」

「いや、アンタらはどうして上から目線なんだよ」

 褒めてはいるが妙に鼻のつく言い方で接する銀時と神楽。二人に対して新八は、さり気の無いツッコミを入れていた。

 ここからは個人ごとに、着替えた衣装の全体像を言い合っている。

「どうだキリト。俺の一張羅を着てみて」

「うん、思ったよりも着やすいよ。着物にしては通気性も抜群だし、意外と水色の柄もかっこいいと感じるよ」

「それは良かったな。だが一応言っておくと、それは着物じゃねぇぞ。ズンボラ星人の学校指定ジャージだからな」

「えっ!? この衣装、ジャージだったのか!?」

 あっさりと明かされた銀時の普段着の秘密に、キリトはつい耳を疑ってしまった。そんな彼が着こなすズンボラ星人のジャージは、普段とは違った印象を引き出している。

 滅多に着ない和服に加えて、自身のイメージカラーとは反する白い着物は、見る者に新鮮味を与えていた。サイズはブカブカだが、それでもイメチェンにしては成功しているだろう。ちなみにお馴染みの長剣は、変更後もちゃんと背中に装備している。

「やっぱりアッスーにはドレスタイプが似合うアルナ。一段と大人っぽく見えるアルよ!」

「もう~神楽ちゃんってば褒めすぎよ! 照れちゃうじゃないの~!」

「そんなことないネ! この服装だとまるで……そう! 童貞殺しにぴったりネ!」

「って、もっと別の言い方は無かったの……?」

 神楽の言い放った直球的な例えに、アスナもつい言葉を詰まらせていた。それくらい彼女の大人っぽい魅力を感じ取ったのだろう。

 アスナが着用しているチャイナ服は、神楽の所持する中でも露出度の高いドレスタイプである。肩出しのノースリーブや前垂れから伸びる脚線美は、見る者に色っぽい印象を与えていた。これには神楽自身も、羨望の眼差しで彼女を見つめている。

「そして私が、新八さんの袴姿です!」

「うん、とっても似合っているよ。まるで寺子屋の秀才児みたいだね」

「本当ですか!? これで私も、新八さんと同じくツッコミ王になれるのですね!」

「そんなことはないと思うよ……」

 ツッコミの方に興味を示すユイの無邪気さに、新八もそっと宥めていく。彼女は珍しくも、新八が幼少期に着ていた袴を着飾っていた。流石に眼鏡は装備していないが、新八の言った通りに頭脳明晰な印象は持ち合わせている。茶目っ気のある性格が子供らしさを引き立たせていた。

 いずれにしても服装を上手に着こなし、万事屋へなりきる三人。全員がこの衣装変更にご満悦な様子である。

「よし、キリト! 俺の仕草も真似しとけよ。まずは鼻をほじるところから」

「って、人前で出来るか!」

「ちょっと! キリト君になんてこと、教えているのよ!!」

「銀ちゃん! それはダメアルよ! 私だってアッスーに、鼻ホジやゲロの吐き方を教えるのはためらっているのに!」

「いや神楽ちゃんも、十分に失礼なこと言っているよ!」

「これがツッコミの醍醐味……勉強になります!」

「ユイちゃんは何に影響されているの!?」

 いつもの賑やかな雰囲気のまま、しばらくは六人の談笑が続けられていた。

 

 

 

 

 

「――ということがあったんだよ」

「いや、ただの反応集じゃねぇか。こんなに尺を取る必要あったのかい?」

 説明を聞き続けたものの、その大半は着用後の様子のみである。回りくどさには、お登勢からも指摘が飛んでいた。

 この衣装変更を一言でまとめると、些細な好奇心から瞬く間に成立したようである。

「けどまぁ、たまにはこういう気分転換も良いんじゃねぇのか。アイツらも楽しそうだったしよ」

「そうですね。今日はキリトさん達だけの時間を、過ごしてほしいですよ」

「あの三人もある意味、家族アルからナ!」

 快く協力した万事屋一行も、みな満足そうな気持ちに浸っていた。空気を読んで今回は、三人だけの時間を優先にしている。さり気ない気遣いを見せていた。

 もちろんお登勢もその想いに同情したが、彼女の本題は衣装変更ではない。

「家族ねぇ……事情は分かったよ。それはそうと、銀時ィ。今月の家賃分がまだ支払われていないんだが?」

 すかさず彼女は、払っていない家賃の催促を口にした。意地でも目線を合わせようとするが、それに万事屋の反応では、

「さぁ、俺達も家族の時間を過ごすか! ステイホームをするぞ!」

「そうアルナ! アニメ映画でも見て、暇な時間を過ごすネ!」

「一緒に見ましょうよ」

思いっきり現実逃避をしている。

「おい、無視してんじゃねぇ! ステイホームと括って、誤魔化すなよ!!」

「仕方ねぇだろ! 家賃のことはもうアスナに任せているから! アイツが帰ってきた時によろしく!」

「しばらく見ねぇうちに、もっと自堕落になったな! この天然パーマめ!!」

 仕舞いには家計簿を握るアスナへと丸投げをしてしまう。お登勢の怒りもとどまることを知らなかった。

 その後苦心の末に折り合いを付けて、万事屋は事なきを得たという。

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、かぶき町をゆったりと歩くキリト、アスナ、ユイの三人。暖かな陽の光を浴び、久しぶりの三人だけの時間を満喫していた。

「ふぅー。今日は一段と天気が良いですね! 絶好のお散歩日和です!」

「そうだな。秋が近づいている感じがするよな」

「秋か……もう季節が変わっちゃうのね」

 恵まれた天気の下で、彼らは秋らしい空気や時間の流れを感じ取っている。気が付けばこの世界へ来てから約二ヶ月。季節の変わり目に立ち会うのは、これが初めてであった。

 和やかな雰囲気で歩き続けていると、再び着替えた服装について話題にしている。

「それにしても、キリト君が銀さんの服を着ると、印象がだいぶ違うわね。白い着物のせいかしら?」

「それもあるかな。でも印象だったら二人も変わっているよ。アスナは大人っぽいし、ユイは賢くてツッコミが上手く見えるし」

「そうですか? それなら嬉しいですよ!」

 互いに印象や似合っている点を言い合い、総じて良き評価を伝えていた。本家の万事屋とは違った、温かい家族の光景がそこにはある。

 しかし彼らはまだ気が付いていない。後ろからこっそりと覗く、怪しい気な男の存在に。

「やっぱり、アイツらだな……」

 

 

 

 

 

 そこから彼らは、特に目的地を決めずにかぶき町を歩き続けている。するとユイは、あることに気が付いていた。

「そういえば、全然知り合いに会いませんね」

「平日だから、みんな忙しいのかもな」

「それじゃ、吉原に行きましょうよ! この格好で、みんなを驚かせましょう!」

「あっ。それは良いかもな!」

 特に見知ったかと遭遇しないためか、自分達から出向くと決めている。目的地を吉原に定めて、まずは女子陣との再会を視野に入れていた。

 その直後である。

「おーい! 万事屋の皆さん!!」

「ん? 誰だ?」

 突如として、万事屋を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。三人が辺りを見渡すと、車道から一台のワゴン車が急に止まる。その窓ガラス越しからは、一人の女性が話しかけてきた。

「久しぶり……って、アレ? 新八君達じゃない?」

 威勢よく振る舞ったのは良いが、知り合いの万事屋とは違い、彼女は戸惑いの表情を浮かべている。

 一方のキリト達だが、女性の顔にどこか既視感を思い浮かべていた。

「この人、どこかで見たことあるような……」

「あっ、あの子よ! 新八君が好きなアイドルの……えっと」

「お通さんですよ!」

「あぁ、あの子か……って、えっ!? 万事屋のことを知っているのか!?」

 そう彼女の正体は、新八の応援しているアイドルの寺門通である。以前にも見かけたポスターと同じく、紫色のサイドテールや黄色い振袖、何よりも眩しい笑顔が特徴的な女性であった。

 いわゆる銀魂世界の有名人と会った三人だが、特に衝撃を受けたのは彼女と万事屋との繋がりである。すると咄嗟に、お通が返答してきた。

「うん。もちろん知っているよ! 万事屋さんとは何度も手助けさせてもらったし、依頼もたまにする仲だもの」

「そ、そうなの……」

 意外な場面で明かされた関係性。これにキリト達は何も言えず反応に困っている。万事屋の顔の広さを、改めて思い知っていた。

 そしてお通も、万事屋の格好をしている彼らに興味を持っている。

「それはそうと、君達も万事屋のことを知っているの? 服装もだいぶ似ているし」

「あの……これには深い事情がありまして」

「深い事情?」

 不思議そうに聞かれると、一行は手短に万事屋へ加入した経緯を説明していた。

「えぇぇぇ!! 万事屋の新メンバー!? 初耳だよ!」

 話を聞いたお通は、純朴にも驚嘆とした反応を見せている。目を丸くして、改めて彼らをじっくりと眺めていた。

「もうかれこれ、二か月はお世話になっているものね」

「そんなに過ごしているの!?」

「最初は不便なことが多かったけど、だいぶ慣れてきた感じかな」

 自身が知らない間に起こっていた万事屋の変化。未だに信じがたいが、徐々に状況を飲み込んでいく。今一度深呼吸を交わすと、表情を微笑ませて話を再開させた。

「そうなんだ……でも万事屋さんって、結構頼りになるよね。キリト君やアスナさん、ユイちゃんも、助けられたことって多いんじゃない?」

「そうだな……いっつも頼りにさせてもらっているよ」

「三人共、本当に優しい人達だから」

「おかげで、毎日が楽しいですから!」

「フフ。良かった……」

 万事屋が持つ優しさを挙げて、その想いを互いに共感している。三人の温かい返答には、お通もついクスッと笑っていた。新メンバーが増えても、万事屋らしさに変わりがないのは一安心している。

 一方のキリト達も、お通の気さくな優しさに好感を持っていた。

「お通さんも、凄く温厚な方ですね」

「新八が応援しているのも、分かる気がするな」

「ファンサービスも欠かさない子なのね」

 このまま平和的な空気で終わると思いきや……彼女の意外な一面が最後に露わとなっていた。

「あっ、もう時間かな! じゃお礼として、新八君にこのCDを渡してもらえる?」

「CD?」

 新八への贈り物として、お通はCDアルバムを彼らに手渡している。そこに書かれていたのは、何とも意味深なタイトルであった。

「寺門通の新アルバム! 「お前の兄ちゃん、ニートのくせに現実逃避で仮想世界へ!」をプレゼントするね!」

((タイトルの癖が強すぎる!?))

 キリトやアスナも、思わず内心でツッコミを入れる始末である。一癖も二癖もあるお通のタイトルや歌詞センスに、反応を困らせていた。

「それじゃ、またね!」

 彼らの心境に気付くこと無く、お通を乗せた車は再び走り始めている。場に残された三人だが、彼女がいなくなった途端に思ったことを呟いていた。

「随分と奇抜なタイトルですね」

「ユイちゃん……深読みしちゃ、ダメな気がするけど」

「なんだろう……少しだけ心にグサッとする気がする」

 理由は特に無いが、心理的なダメージを二人は感じている。ユイは深読みせずに、ただ分からないままだったが。

 お通との初めての出会いは、一段と印象深い出来事であった。

 そんな彼らの様子を、未だに覗いている男がいる。キリト達が移動すると共に、彼もその跡を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらは地下都市である吉原。シリカら女子陣に会いに来たキリト達は、彼女達の下宿先のひのやを訪れていた。だがしかし、

「えっ!? シリカさん達、ここにいないんですか?」

「そうなのよ。みんな揃って、月詠の知り合いと一緒に特訓しているのよ。恐らくだけど、近くの広場で戦っているはずよ」

ちょうど彼女達は別の場所にいるという。日輪の話によると、月詠の知り合いと共に特訓へ付き合っていると言うが。

「みんなで特訓か……」

「ちょっと見に行きましょうか」

 ちょうど近場にいる為、三人は日輪の教えてくれた広場へと足を進めている。

あっと言う間に辿り着くと、そこでは彼らの度肝を抜く戦闘が取り行われていた。

「あっ、アレじゃないですか!」

「えっ? 本当にみんななのか?」

 その広場では女子達が総出で、長刀を持つ一人の女性に立ち向かっている。羽を使って空中から攻撃を仕掛ける者もいれば、接近戦で技を繰り出す者までいた。

「はぁぁぁ!」

「せい!!」

「ふっ、甘いわね」

 女性にとっては多勢に無勢なのだが、瞬時に攻撃をかわしたり跳ね返したりと臨機応変に対応している。人数差があるにも関わらず、無表情のまま互角に戦っていた。シリカ達が相手にしているのは、白い隊士服を着た若めの女性である。赤く薄い目つきと、背中まである長い藍色の髪が特徴的だった。腰元にはショートパンツ、足元には青いニーハイと白いブーツを履いている。全体的にしなやかな印象だが、それとは裏腹に戦闘には容赦のない本気を見せつけていた。

「えっ、速い!?」

「こんなものかしら? 妖精の力って」

「いや、まだまだよ!!」

 中々行動を読み取れずに、苦戦を強いられる女子四人。がむしゃらに立ち向かうも、劣勢を覆すには困難を極めている。

 激しい戦いを続けている女子達の光景に、キリト達も思わず息を呑んでいた。

「す、凄いです……」

「リズ達を軽くあしらうなんて……」

「あの人は一体何者なんだ?」

 思ったことを声に出していたその時――同じく戦いを眺めていた彼女の仲間が、近づき話しかけてくる。

「彼女の名は今井信女。我が見廻組の大切な副長です。しっかりと覚えておいてくださいね」

「えっ、誰!?」

 声をかけてきたのは、ひたすらに折り畳み式の携帯電話を打ち続ける渋めの男性だった。服装は女性と同じく白い隊士服で、髪の色は白寄りのグレー。右目にモノクルをかけており、全体の風貌はやけに物静かである。表情も一斉動いておらず、 感情の起伏すら読みにくい。そんな彼だが、自らが申した通りに見廻組の関係者であった。

「おや、分からないですか? 私の名前は佐々木異三郎。見廻組の局長をやっています超エリートな警察ですよ。以後お見知りおきを」

「は、はぁ……」

 キリト達とは話しかけているものの、彼はずっと携帯電話の画面を見続けている。相手に無頓着でマイペースな様子から、キリト達の調子もつい崩れてしまう。

「また変わった人が出てきましたね。警察と言うと、真選組の仲間でしょうか?」

「そうね……それに見廻組って、京都で活躍したあの人達かしら? 聞いたことしかないけど……」

 アスナだけは彼らの元ネタを思いだそうとしている。

 情報をまとめると、白い隊士服を着た正体はもう一つの警察組織である見廻組。男性側は局長の佐々木異三郎。女性側は副長の今井信女と言う。どちらも癖のありそうな方々である。

 一方でキリトは、異三郎の声に違和感を覚えていた。

「まさかこの声って……」

「どうしたの、キリト君?」

「いや、佐々木さんって菊岡さんに似てないか? 微妙に声色とか」

「そう言われると……似てなくもない気が」

「確かに理解できます……」

 仲間達も皆微妙に共感したのは、異三郎と菊岡の声色である。後者はキリト達の知り合いであり、普段は政府にて仕事をしている。両者とも雰囲気はまるで違うが、その声色は似ているとキリトは密かに感じている。

「おや、どうかしましたか?」

「いや、何でもないですよ。少し声が知り合いと似ていて……」

「へぇー、それは偶然ですね。是非ともメル友になりたいものです。互いに仕事の愚痴とか言い合いたいですね」

 異三郎の声を聞けば聞くほど、菊岡の声も頭の中をよぎってしまう。やはり違和感を覚えるのも、無理はないかもしれない。

「やっぱり似ていますよね」

「声色だけじゃなくて、公務員なのも共通点よね」

「まさかこの世界の菊岡さんが、あの佐々木さんなのか?」

 仕舞いには互いの共通点まで探り、勝手な憶測まで始めてしまう。佐々木異三郎と菊岡誠二郎。似て非なる者に彼らは遭遇したのかもしれない。

 とそれはさておき、女子達の戦闘に戻ると残念ながら制限時間が来てしまう。

〈ピー!!〉

「終了よ。みんな集まってちょうだい」

 事前に用意したストップウォッチが鳴り響き、信女は戦闘の終了を宣言する。戦闘を交わした女子達を集めていき、全員の総評を語っていた。

「まぁまぁってところかしらね。全員瞬発力には優れているけど、いざという時の切り返しが弱い気がするわ。武器の扱いも存分に出来ていないから、戦略の幅を広げるところから始めた方がいいわね」

「「「「はい!!」」」」

 信女もまた無表情のままで、感じたことを発している。的確なアドバイスも加えて、根本にある優しさを見せていた。シリカ達女子陣も、この言葉を受け止めている。

「強いだけじゃなく、全員の行動まで把握していたのか」

「洞察力も凄いわね。それに落ち着いていて、大人な女性よね」

「まさにクールビューティ―っぽいです!」

 キリト達も信女の指導力にはつい脱帽していた。冷静な佇まいから、生真面目な女性だと見直していたその矢先である。

「信女さん、終わりましたか。差し入れにドーナツを用意したので、是非こちらへ来てください」

「ドーナツ……!」

 用意されたドーナツを聞きつけて、咄嗟に彼女の態度が一変していた。椅子に置かれたドーナツ入りの袋に目を付けて、吸い寄せられるように走り出す。そして袋を勢いよく掴むと、中身を異様に凝視していく。

「ポンデリング……ポンデリングは!?」

「慌てないでください、奥底に入っていますよ。後二個までにしてくださいね」

「分かった」

 一瞬だが彼女は、ドーナツ(特にポンデリング)に執着する一面を見せている。先程までの冷静さとは、まるで異なっていた。

「びっ、びっくりした……」

「信女さんは、とってもドーナツが好きなんですね」

「個性も真選組と負けず劣らずだな」

 キリト達もその変わり様に、つい不意を突かれてしまう。やはり一癖もあるキャラだと理解している。

 そうずっと様子を見守っていた彼らの元に、ようやく仲間達も気付き始めていた。

「アレ? キリトにアスナ? ユイちゃんまで?」

「えっ!? いつの間に来ていたんですか、三人共!」

「それにその格好って……」

「あぁ。みんなが特訓しているって聞いたから、見に来たんだよ。それとこの衣装は、銀さん達から借りてきたんだよな」

「へぇ~。万事屋版の格好も中々似合うんじゃない?」

 突然の再会のみならず、万事屋の服装にも驚きを受けている。思った通りの反応に、三人もつい微笑みを浮かべていた。

「それに、銀時さんの着物姿もお似合いですよ!」

「むしろお兄ちゃんが、万事屋の社長で良いのかもね!」

「えっ、そうか?」

「そうだって! 銀さんなんて自堕落の塊だから、絶対キリトの方が良いって!」

 女子達からも大変好評であり、遂には銀時本人とも比べられてしまう。何の些細もない一言だが――実は銀時本人にも影響している。

 

「ブアックション!」

「銀さん、どうしたんですか?」

「この時期にくしゃみはデリケートアルよ! さっさと洗ってくるネ!」

「二次元なんだから別にいいだろうが。絶対誰か、俺の噂してんだろ……」

 万事屋では激しいくしゃみが繰り出されていた。

 

「アスナやユイも似合っているわよ。まるで本当の万事屋みたいね」

「ありがとうね、シノノン!」

「眼鏡さえあれば、後は完璧ですから!」

 その後も良き感想が飛び交い、キリト達のテンションもより舞い上がっていた。とそこに、異三郎や信女がようやく顔を向けてくる。

「騒がしいですね……って、ん? 何でアナタ方は、万事屋の格好をしているのですか?」

「佐々木さん!? 今気づいたのか?」

「本当だ、万事屋にそっくり。如何にも毒が無さそうな人達ね」

「何か遠回しに指摘されているような……」

 メールやドーナツに夢中だった二人は、今頃になって彼らの服装に気が付いていた。こうして再会を果たした一行だったが……やはり遠くから覗く者はまだいる。

(あの子らは、アイツらの同族か? 増々気になるな……)

 気配を隠して尾行を続けている彼の正体とは?

(えっ? 誰か覗いている?)




 正解はキリアスユイの万事屋衣装でした。たまにはこういう緩い感じで書くのも良きですねー。
 それと一つお知らせがございます。今回の話、話数が伸びました。一話分に収まりきらないので、前後篇に分けてお送りします。と言う事は……予告で出た星海坊主も次回に見送ります。






次回予告
星海「おい、どういうことだ! 俺の出番がほぼ無かったじゃねぇか! 予告で出てきた意味は!?」
銀時「仕方ないだろ。構成に変更があったんだから。その代わり、次回はお前視点から始めるってよ」
星海「本当なんだな!? 信じていいんだな!?」
銀時「なんでそこまで、テメェは疑うんだよ!!」
星海「次回! 気配を消せる奴の大半は無意識!」


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第五十九訓 気配を消せる奴の大半は無意識

 銀魂を見返していて思ったんですけど、神楽って手紙書く時は敬語なんですね。




 とある星にある小さな星間連絡所。星々を繋ぐ港のような役割を持つこの場所に、一人の男が地球行きの船が到着するのを待っていた。

「ふぅー。いよいよ地球に行けるな。神楽ちゃんにも、ようやくこれを渡せる!」

 穏やかに微笑みを浮かべる彼の名は、第一級危険生物の駆除を請け負う星海坊主である。古びたマントを羽織り、中華服に似た服を身にまとっていた。口元にはちょび髭を生やしており、髪型は……残念ながら毛根が死滅している。故に帽子で頭を隠しているのだ。

 そんな彼だが、実は神楽の父親でもある。仕事の関係で会う機会は少ないが、手紙を通して関係を今なお築いていた。今回もあえて連絡はせずに、地球へと向かう予定である。

 船を待つ傍らで彼は、神楽からの手紙を読み始めていく。

『拝啓 お父さん。そっちは元気でしょうか? 毛根はとっくに死滅していますよね。こっちは相変わらず元気です。銀ちゃんをしごいたり、新八の眼鏡をいじめたりと、楽しく過ごしています』

「ふっ、相変わらずだな。神楽ちゃんは……」

 手紙からも伝わる元気そうな様子に、クスッと笑みをこぼしていた。その後も読み進めていると、気になる文章を見つけ出している。

『それと大切な話があります』

「大切な話? 一体なんだ?」

 そこに書かれていたのは……

『この度万事屋に、家族が増えましたー!!』

「はぁ!?」

理解しがたい一文だった。思わず裏返った声が飛び出してしまう。

『写真を送ったので見てください。左からキリ、アッスー、ユイって言います。詳しいことはまた会った時に話しましょう。神楽より』

 さらには写真まで添付している根回しの良さである。入っていた写真に写っていたのは、いつもの万事屋メンバーに加えて、三人の若い男女だった。とんがった耳を持つ黒髪の男子と、同じくとんがった耳の青髪ロングの少女。そして白いワンピースを着た普通の幼い少女である。

 名前まで記載されているが、いまいち理解が追いついていない。何よりも万事屋に新しい仲間が追加された事実に、衝撃を受け続けている。

「ウオォォォ!! どういうことだぁぁぁ!?」

 彼の無常なる叫びが辺り一帯に響き渡っていく。この状況を理解するのは、もはや無謀に近いだろう。

 こうして星海坊主にもキリト達の存在が認知されたが……そう簡単には受け入れられていなかった。

 

 

 

 

 

 

「お父さんは聞いていませんよ!! 万事屋が増えたとはどういうことだ!? まさかあの若僧共と暮らしているということかー!?」

 地球へ着くや否や、収まりきらない嘆きを叫び続けている。日傘をさしながら、彼は一目散にターミナルからかぶき町へと足を進めていた。

 唐突にも訪れた万事屋の一報。神楽の父親として、心配が無尽蔵に湧き出てくる。

(俺の知らない内に何が起きたんだ!? あの童顔男は……まさか神楽の恋人か!? あの青髪女は……まさか神楽の恋人か!? あの女の子は……まさか神楽の子供か!?)

 いや、そんな訳がないだろう。星海坊主の心の中では、あらぬ妄想が頭の中を網羅してしまう。キリトとイチャイチャをする神楽の図。アスナとイチャイチャをする神楽の図。神楽をマミー呼ばわりするユイの図。傍から見ればツッコミどころが満載だが、彼は至って真剣である。

 

 一方で現在の神楽はと言うと、

「ブアックション!」

「どうしたんだよ、神楽? まさか風邪でも引いたのか?」

「いいや、違うネ。急に悪寒を感じたアル。勝手に勘違いをされているような気がしたネ」

「そりゃ、また。沖田さんとかが風潮しているのかな?」

「絶対そうネ! あの腹黒、許さんアル!!」

間接的な影響からかくしゃみをしていた。彼女は沖田だと決めつけていたが、まったくの的外れである。星海坊主が近づいていることにも、一斉気が付いていない。

 

「とりあえず万事屋だ! 神楽ちゃんに聞けば分かるはず! あの三人の正体が……!」

 そして彼は、着々と万事屋へと近づいていく。キリト達の正体を知るべく、躍起となっている。表情でも思わず力んでいた。

 彼はふと立ち止まり、辺りを見渡していると……

「ん!? アイツらは……?」

そこには万事屋の格好をした三人組を見つけている。しかも写真の人物と同じく、キリト、アスナ、ユイの三人であった。

「新万事屋メンバーだと? なんで格好が違うんだ……!?」

 しかもキリト達は、奇遇にも衣装変更した直後である。銀時の格好をしたキリト、新八の格好をしたユイ、神楽の格好をしたアスナ。事情は本人達にしか分からないが、星海坊主にとってはさらなる困難を招いていた。

「何故神楽ちゃんがいない……!? あの若僧共との間に何があったんだ?」

 訳も分からずに、またも勝手な憶測を始めてしまう。動向が気になってしまい、彼はこっそりと尾行を始めることにした。隙があれば話しかけようとも試みている。

「うん?」

「どうした、アスナ?」

「いや、視線を感じたんだけど……多分気のせいね」

「視線ですか?」

「特に無いと思うけどな……」

 キリト達も特に気にする様子はなく、また歩み始めていた。跡を追いかけるように、星海坊主の尾行も進められていく。

(あの三人……万事屋を乗っ取ったのか!?)

 いや、そんな訳がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 それから彼は適宜話を盗み聞きしながら、キリト達に関する情報を集めている。彼らが寺門通と偶然会った時も、見廻組と対面した時もこっそり話を聞いていた。その度に新しい衝撃を受け止めている。

 把握出来たのは、三人が長い間万事屋の世話になっていること。銀時や神楽達とも関係が良好なこと。彼らと同じような風貌の仲間が多数いること。

 この短時間の間に、十分すぎる情報を習得していた。

「あの三人、増々気になるな。万事屋を尊敬しているみたいだが……」

 数時間前よりかは落ち着いたものの、やはり信じがたいことばかりである。何よりも慎重に徹している為、話しかける機会も見つからない。

「ドーナツもご馳走になっちゃいましたね」

「佐々木さんに信女さんか……また知り合いが増えたわね」

「この格好だと、やっぱり間違えられるのかもな。傍から見れば、偽者の万事屋みたいだし」

「確かにそうですね!」

 一方でキリト達は、彼の尾行に気付くこと無く、かぶき町へと戻っている。偶然にも出会ったお通や見廻組を振り返りながら、談笑を続けていた。

 そうまったりとした雰囲気でも、尾行する星海坊主の姿勢は変わっていない。しかし捉え方には変化が起きている。

「やっぱりただの新メンバーなのか? 特に怪しげな様子も無いし」

 抱いていた無粋な考えが、次第に和らいでいた。そう思った矢先である。

「そういえば話は変わるけど、今日は神楽と一緒に寝るのか?」

「そう! たまにはってことで、ユイちゃんと一緒の三人で添い寝するのよ!」

(そ、添い寝!?)

 またも誤解を与えそうな会話が聞こえてきた。どうやらキリト達は、今晩の寝床事情について話題を弾ませている。

「女子同士のパジャマ回だから、キリト君や銀さんは入室禁止よ!」

「分かっているよ。それで一体何をするんだ?」

「もちろん、おしゃべりが中心ですよ! 眠くなるまで、楽しく駄弁るんです!」

「その後は、二人をぎゅっと抱きしめて夢の世界へ――」

 珍しくも女子陣のみで寝るらしく、アスナは赤裸々に添い寝した時の妄想を膨らませていた。決してやましい気持ちからではないが、星海坊主にとっては我慢の限界だったようで……

「いけませんんん!!」

思いっきり表舞台に飛び出してしまった。

「えっ?」

「誰?」

 当然キリト達にとっては、見知らぬ男性の登場に理解していない。

「おい、貴様ら! 俺の可愛い娘に百合を覚えさせようとは、なんとけしからん!! 女子同士のイチャイチャは認めませんからね!!」

 にも拘わらず星海坊主は、そのまんま言いたいことをぶつけてしまう。突然の登場、突然の指摘に、増々理解が追い付かない。

「だ、誰ですか? この人……?」

「ちょっと待って……さっきから感じていた視線って、アナタなの?」

「ずっと俺達をつけていたのか?」

 しかしアスナだけは、薄っすらと感じていた視線を彼と照らし合わせている。尾行だとも思い込んだ彼らは、僅かながらに敵意を向け始めていた。

(えっ、待って? なんで俺が悪者的な空気になっているの!? まさかお父さんだって、伝わっていない!?)

 微妙な空気感を察した星海坊主は、内心にて戸惑いを感じている。娘と言ったつもりだが、意味は伝わっていない様子であった。

 その証拠に、キリトとアスナの目つきは一段と鋭くなっている。

「アンタ、一体何者だ!?」

「なんで私達をつけていたのよ!?」

(完全に不審者扱いされている!? しかも剣を抜く構えだぞ!? 戦う気満々じゃねぇかよ!?)

 彼の思った通り、どうやら不審者と間違われていたようだ。共に所持している剣の持ち手に手をかけ、戦闘準備を施している。ユイを後ろに隠れさせるなど、行動にも抜かりが無い。

「お、落ち着け! 俺は神楽の父親だ! だから気になって、尾行していたんだ!」

「神楽ちゃんのお父さん……?」

「本当か……?」

(いや、疑いすぎだろ! どんだけ信用ないんだよ!)

 疑われている雰囲気を打破しようと、正直に正体を明かす星海坊主。だがしかし、彼らが簡単に信じ込むことは無かった。より目つきも鋭く研ぎ澄まされてしまう。

 いつの間にか窮地に追いやられてしまった彼の元に……予想外の救世主が通りかかっていく。

「おや、何やってんだ。お前達」

「あっ、近藤さんですか!」

「真選組の局長!?」

 彼らの間に割って来たのは、パトロール途中の近藤勲である。キリト達のみならず、星海坊主とも顔見知りの男性だった。一段と陽気に振る舞う彼の登場により、場の緊張感は良くも悪くも緩和されていく。

「おっ! 今日は衣装交換しているのか! 万事屋の格好をして、面白いことでもしているのか?」

「いや、普通の散歩なんだが」

「そうか。って、星海坊主さんもいるのか!? どんな組み合わせだ!?」

 衣装を変更した彼らと接した直後に、星海坊主の存在にも気が付いている。珍しい組み合わせに、近藤は思わず目を丸くしていた。

「えっ? 近藤さんはこの方を知っているんですか?」

「おうよ。この人は宇宙の危険生物を駆除する、有名な掃除屋だよ! しかも! 神楽ちゃんのお父さんなんだよ!」

「「えっ!?」」

 さらにはあっさりと、彼の正体について明かしている。星海坊主の言った通りに、神楽の父親だと快く話していた。

 この一言によって、キリト達には別の衝撃が伝わっている。

「だから簡単に勝負を挑まない方がいいぞ! そんじゃ、またな!」

 言いたいことを言って、近藤は即座にパトロールへと戻っていく。自覚は無いが、殺伐とした雰囲気を変える一役だけは買っていた。

 しかし代わりに、気まずそうな雰囲気に様変わりしてしまう。

「……本当にお父さんだったんですか?」

「あぁ、もちろん」

 星海坊主の言っていることが嘘偽りなく分かると、つい見る目を変えていた。疑っていた姿勢を変えていき、

「「す、すいませんでした!!」」

愚直にもすぐに謝りを入れてくる。

「私からも謝ります。勘違いしてすいませんでした」

 ユイまでもが頭を下げており、揃って許しを請うてきた。彼らの誠実さが見える場面だが、傍から見れば周りに誤解を与えそうな場面でもある。

「いや、今度は別件で勘違いされるから! もう頭を下げなさい! 頼むから!」

「いえ! 失礼なことをしてしまったので!」

「どうか許してください!」

「いや、許しているからね!? いい加減頭を上げろ、若僧共!」

 会話や行動が噛み合わず、中々上手くいかない両者であった。

 こうしてキリト達は、極めて珍しい万事屋の親族との対面をも果たしている。

 

 

 

 

 

 互いの勘違いから、偶然の出会いを果たしたキリト達と星海坊主。丁寧にも謝罪を交わしてから、彼らは揃って近場の公園に移動している。ベンチに腰をかけて、会話を続けていた。

「ハハ。まさか道中で君達と出会うなんて、思ってなかったからね。お父さんもつい早とちりしてしまったよ」

「いやいや! こちらこそ、神楽ちゃんのお父さんと会うなんて予想外だったので」

 思わぬ出会いをしたことに、衝撃をまだ受けている。先ほどよりも雰囲気は和やかであり、両者はゆったりと距離を縮めていく。

 するとユイは、無垢にも思い切ったことを質問していた。

「それにしても、星海坊主さん。なんでそんなに、神楽さんと似てないんですか?」

「って、ユイちゃん! その言い方はストレートすぎるよ!」

「いや、構わないよ。神楽はどっちかって言うと、母親似だからな。そこは仕方ないんだ」

「そ、そうなんだ……」

 一瞬失礼だと思い、アスナが注意を促したが――本人は気にせず返答している。神楽なりの親子事情が明かされていた。

「でも新しい仲間が加わると、神楽もさぞ喜んでいるだろうな」

「そうだな。いつもアスナやユイと、じゃれたり仲良くしているよ」

「って、キリト君ってば!」

 続いて神楽やキリト達との関係を明かすと、またも星海坊主は早とちりをしてしまう。

「じゃれつく? まさかお前さん、神楽に好意があるのか!?」

「いや、違いますからね! 神楽ちゃんとは友達の関係ですから! それに私には、キリト君って言う大切な恋人がいますから!」

「恋人だと!? まさか神楽の目の前で、愛を確かめ合ってはいないよな!? エッチな合体とかしてないよな!?」

「星海坊主さん!? 急になんて質問を繰り出すんだよ!?」

 神楽に好意があると思い込み、躍起になって問い詰めていく。弁解はしたものの、キリトとアスナの恋愛関係を知って、またもあらぬ誤解を与えてしまう。ネタではなく本気で問い詰めており、キリトら二人もタジタジになって応対していた。

「愛を確かめ合う? とは一体?」

「って、それはユイちゃんには早いことだから!」

「星海坊主さん! せめて言葉はオブラートに包んでくれよ!」

「俺のせいなのか!?」

 仕舞いには、ユイにまで飛び火してしまう。愛や合体と言った意味深な言葉に興味を持ち、無自覚に場を混乱させていた。

 そして……キリト、アスナの懸命な説得の元、落ち着いたのはおよそ五分後である。

「とりあえず、安心したよ。君達が付き合っているなら、神楽との恋愛関係は皆無だからな。あー、良かった! 良かった!」

 一安心して満足気な表情を浮かべる彼に対して、

「こっちは説得に疲れたけどね……」

「ユイまでも勘違いするからな……」

二人は疲労困憊とした表情を見せていた。説得する相手が両側におり、より時間をかけたようである。

 一方でユイは、またも質問をしていく。

「星海坊主さんって、とっても神楽さんのことが好きなんですね!」

「ん?」

「だって、心配しているじゃないですか。神楽さんのこと、一途に思っていると感じて」

 彼自身の娘想いな一面を見て、感銘を受けたようである。思ったことをそのまま伝えると、星海坊主は急にしんみりとした表情に変わっていた。

「そりゃそうだな。夜兎ではなく家族として、この気持ちは当たり前だからな」

「夜兎って、確か神楽ちゃんの種族よね?」

「その通りだな。彼女から詳しいことは聞いているのか?」

「いや、軽くだな。詳しいことは聞いてないよ」

「そうか……実は俺達の種族は数が少ないんだよ。この強大な力故に、他者からの潰しや利用なんてざらにある。だからこそ俺は、神楽を大切にしていきたいんだ」

 彼らに言える範囲で、星海坊主は夜兎の現状について話している。種族の運命に関係なく、娘である神楽を第一に考えていた。

 彼女本人からもあまり聞かない裏話に、三人も真摯にこれを受け止めている。

「そんな事情があったんですね……」

「戦闘民族って聞いていたけど、なんか残酷だよな……」

夜兎の事情をあまり知らなかった分、その衝撃は大きいようだ。

「神楽もそんな殺伐としたことは、言いたくないはずだからな。頭の片隅に置くくらいで大丈夫だよ」

「……分かったよ。星海坊主さん」

 同時に星海坊主の気持ちにも理解している。神楽に過度なお節介をかけるのも、彼なりの愛情表現だった。

 こうして、より深く会話を続ける星海坊主とキリト達。今度は後者が自分達を紹介しようとしたが、

「それじゃ私達の話も――」

「いや、大丈夫だ。これから万事屋に向かうから、詳しいことは帰ってからでも大丈夫だよ。万事屋と一緒の方が、話も円滑に進むだろうからな」

「あぁ。それもそうだな……」

あえなく途中で打ち切られてしまう。今後話しておきたいことは、万事屋に帰った時の楽しみとしてお預けとなった。

 すると彼は、ベンチから立ち上がって別れを告げてくる。

「それじゃ、俺はそろそろ万事屋に向かうよ。話が出来て、とても良かったよ」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます!」

「うむ。これなら神楽達にも渡せそ――」

 と発した直後であった。彼はとあることに気が付いている。神楽ら万事屋に渡す予定であったチケットが、キリト達を含めると頭数が合わないことに。

「どうしたんだ、星海坊主さん?」

「……今の万事屋って六人だよな?」

「いいえ、違いますよ! 定春さんも含めて、六人と一匹です!」

「ハハ、そうか。分かった――ちょっと待ってろぉぉぉぉ!!」

「って、星海坊主さん!?」

 彼らには詳しい事情を言わず、一目散に場を走り出していく。万事屋へと立ち寄る前に、チケットを販売している都市部に向かっていた。

「い、行っちゃいました?」

「一体何を思いだしたのよ!?」

「テンションの差が激しかったな……」

 しんみりとした雰囲気で終わると思いきや、急な態度の変化には驚きを隠せない。つくづくと、万事屋に似たテンションだと彼らは察していた。

「でも、神楽ちゃんのお父さんとも出会うなんてね」

「これに関しては、偶然だけどな」

「とっても子供想いのパパさんでしたね!」

 それでも、彼との出会いには奇跡に似たものだと捉えている。服装から勘違いした誤解が、貴重な体験を運んでいた。また一つ、万事屋に帰った時の話のタネが出来ている。

「それじゃ、少し歩いてから万事屋に戻るか」

「そうね。またこの格好のおかげで、珍しい人に出会えるかもしれないし」

「散歩再開です!!」

 星海坊主との邂逅を終えた三人は、公園を出発してまた当てのない散歩に赴く。微かに想う新たな出会いを楽しみに持って、住宅街を突き進んでいる。穏やかな雰囲気で笑いあい、おしゃべりをしながら歩いていった。

 

 

 

 

 

 それから時間は過ぎていき、いつの間にか赤い空が浮かぶ、夕方へと移り変わっている。出歩く人々や子供達が家に帰宅を始める一方で、今日外出した彼らも次々と帰路についていた。

「どうでしたか、信女さん。あの妖精女子達と戦ってみて」

「まぁまぁってところかしらね。武器の扱いには長けてそうだから、鍛えれば隊士くらいにはなるんじゃない?」

 江戸の都市部方面に足を進めるのは、見廻組の佐々木異三郎と今井信女である。前者は携帯電話をいじりながら、後者はドーナツを頬張りながら町を歩いていた。

彼らは月詠から、今回請け負った女子達との特訓について振り返っている。その評価は、可もなく不可もなくらしいが。

「それは良いですね。見廻組の新隊員としての器はありそうですか」

「聞くところによると、真選組にはあまり良い印象を持っていないみたい。これは使えそうじゃない?」

「うむ……まずは時間を置きましょうか。じっくりと判断するべきです」

 個人ごとの実力を見極めた上で、意味深な一言を彼は呟いていた。

 そう見廻組の目的は、女子達の中から新隊員を発掘することである。信女が真摯に彼女達へアドバイスを与えたのも、実力を高めさせるのが魂胆だった。結局は見送りとなったが、いずれは……引き抜くことも視野に入れているらしい。

密かな企みを浮かべている見廻組だった。

 

 一方でその女子陣だが、吉原の広場からひのやへと帰路についている。

「あぁ~疲れた~」

「お腹も空いたし、早く帰ってゆっくりしたいよ~」

 信女との激しい戦闘を経験して、一段と疲れ切っているリズベットとリーファ。共に愚痴をこぼしながら、よろよろと歩いていた。

「今日戦った信女さんって人も、結構な実力者だったわね」

「しかも見廻組の副長も務めているなんて、戦う女子の憧れですよ!」

一方のシノンとシリカは、ずっと信女の話題を続けている。彼女の強さや地位には、憧れをも持ち始めているらしい。

 女子同士の反応が異なる中で、突然リズベットはある提案を持ち掛けてくる。

「それはそうと、今度はアタシ達でもやってみる?」

「ん? 何をですか?」

「だから衣装交換だって! 今日のキリトやアスナみたいに、衣装を一新してみようよ!」

 それは衣装交換についてだった。万事屋の格好をしたキリト達に影響されたようで、今度は女子同士でも行いたいらしい。

「でも、誰と交換するのよ?」

「それは、超パフュームからよ! この中からでもいいし、お妙さんや九兵衛さんからでもどう?」

「いいけど、サイズ合うかな……?」

「細かいことはいいの! いつかやってみましょうよ、ねぇ!」

 例として身近な仲間や知り合いの女性陣を挙げている。それくらい彼女は、衣装変更を切望していた。

「急にやる気になったわね、リズ」

「でも、やりたい気持ちは分かるよ。私もあやめさんと交換したことあるし」

「近いうちに出来ると良いですね!」

 仲間達も快く思っており、彼女の提案に乗っかっている。衣装変更が実現するのも、そう遠くはないだろう。

 各々がゆっくりと会話しながら、女子達はひのやへと帰っていく。

 

 そしてキリト達も、住処である万事屋に戻って来ていた。

「ようやく帰ってきましたー!」

「思ったよりも、長くかかっちゃったわね」

「途中であえなく迷子になったからな」

「それでも、十分に楽しめましたよ!」

 どうやら散歩の道中には、見知らぬ道へと迷い込んだらしい。おかげで帰宅にも、時間がかかったようだ。それもまた、笑い話で済む良き思い出である。

 彼らは階段を上がっていき、万事屋の玄関前にて足を止めていた。すると……急にキリトは「フッ」と笑みを浮かべている。

「アレ? どうしたの、キリト君?」

「いや。帰れる場所があるって、安心するなって思ってさ」

「急にどうしたのよ。そんなに改まっちゃって」

「特に深い意味は無いよ。ふと思ったことを言っただけさ」

「そうですか? でも居場所があるのは、とっても大事だと思いますよ!」

 さも当たり前のような一言を呟き、アスナやユイからは不思議がられていた。彼の改まった態度には、大切にしている万事屋への気持ちが関係している。

(万事屋と出会えて、本当に良かったと思っている。元の世界に戻れるまでは、これからもこの時間を大切にしていきたいな……)

 右も左も分からない別世界で、彼らと出会えた奇跡。面白くて人情味のある万事屋の善意を、大切に心へと残している。またもキリトはそっと微笑んでいた。

「さぁ、入りましょうか」

「そうだな」

「きっとみんな、待っているわよ」

 そう会話を交わした後に、揃って玄関先の戸を開く。最初に言うべきは、あの挨拶である。

「「「ただいまー!」」」

「おっ、ようやく帰って来たか。野郎ども」

「夕食の準備はもう出来ていますよ!」

「さっさと手を洗って、リビングに集合ネ!」

「さぁ、来なさい! みんな!」

「ワン!」

 威勢の良い彼らの声に気が付いたようで、万事屋一行も元気よく言葉を返していく。銀時、新八、神楽、定春のみならず、先に到着していた星海坊主も彼らの帰宅を歓迎していた。

「って、なんでオメェは万事屋ファミリーに混ざってんだよ!」

「仕方ないだろ! 先に来たんだから! むしろ俺も入れさせろよ!」

「茶々入れんなよ! この天然記念ハゲ!」

「ハゲじゃねぞ、おめぇ! せめて短髪さんと呼びなさい!」

「呼べるか! しかも誤魔化しきれるかよ!!」

 何食わぬ顔で振る舞う彼の態度に、銀時からは思わず文句が飛び出る始末である。お決まりのネタから一触即発な雰囲気となり、またも仲間達が二人を宥めていた。

「まぁまぁ、銀ちゃんもパピーも落ち着くアル!」

「そうですよ! キリトさん達の前で、喧嘩はみっともないですから!」

「ワフ―!!」

 仕舞いには定春までもが、仲介に入っている。もはやお馴染みとなった万事屋らしい賑やかしに、三人はそっと安心感を覚えていた。

「こらこら、銀さん! 喧嘩はしないでって!」

「そうよ! 星海坊主さんに失礼でしょ!」

「仲良くしてくださいよ!」

 つられるようにしてキリト達も、仲裁へと入ってくる。万事屋での日常は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

おまけ(食事シーンでの会話)

※ここからはオチも無いので、緩い感じでご覧ください。

 

 本日の万事屋の夕食は、銀問と新八の担当だった。副菜にはみずみずしさのあるキャベツと卵のサラダと、真っ黄色なたくあんの漬物が選ばれている。主菜では豚の肉厚さを閉じ込めた揚げたてのとんかつ。星海坊主もいる為、今回はより枚数を増やしていた。

 主食にご飯を迎い入れて、計七人と一匹は夕食にありついている。もちろん、キリト達は衣装交換した格好のままで。その間にも、次々と話題の種が尽きなかった。

「何!? この子達は、別の地球から来た人間だと!?」

「アレ、知らなかったのかよ? 後リアクションが、今更すぎるぞ」

「キリトさん達はゲームのアバタ―の姿のまま、この世界に来てしまったんですよ」

「だから耳がとんがっていたり、服装がちょっと独特アルよ!」

「私だけは例外ですけどね!」

 時間が経過して判明したキリト達の新事実。万事屋や仲間達にとっては当たり前だったが、星海坊主には衝撃的で大袈裟にも驚きの声を上げている。

「てっきり、ALO星の住人かと思ってしまったよ」

「ALO星って確か、前にキリト君が教えてくれた星よね」

「あぁ、そうだよ。まさか似ている星があるなんて、奇跡的だよな」

「ここの宇宙は、一段とヘンテコのも多いけどな。それが銀魂って特徴だよ」

「銀魂……って、何ですか?」

「別に対した意味は無いよ。ユイは別に覚えなくてもいいぞ」

 一瞬だけ話題に挙がったのはALO星の存在。多様な星があるのも、銀魂世界の特徴だが……その根本的な部分(メタ要素)をユイらはあまり理解していなかった。

 一方でアスナは、星海坊主へあの件について聞いている。

「そういえば、星海坊主さん。どうしてあの時、急に走り出したのかしら?」

「あぁ、アレか。実はな、万事屋にプレゼントがあって……これを見てくれ!」

 そう言って彼が取り出したのは、六枚ほどある遊園地のチケットであった。

「これは、チケットですか?」

「その通りだ! 大江戸遊園地の特別版チケットだよ! 急ではあったが、手に入れられて本当に助かった」

 どうやら神楽へのサプライズとして、密かに遊園地のチケットを手に入れていたようだ。彼女の分のみならず、男子陣やキリト達の分まで用意する粋な計らいである。

「おぉー! ありがとうネ、パピー!」

「おいおい、俺達の分まであるのかよ。本当に貰っていいのか?」

「これも神楽の為だ。俺はまた仕事があるから、代わりにお前達だけで行ってくれ。しかしだ! 換金だけはするなよ!!」

「分かったから! 怒鳴らなくても、ちゃんと行くから!」

 自身には用事が重なっている為、その役目を銀時らへと託していた。だが信用が薄い為か、銀時だけには念入りに注意を加えている。

 このサプライズプレゼントには、仲間達からも喜びの声が上がっていた。

「遊園地か。こりゃまた、嬉しいイベントだな」

「今度の空いている日に行ってみましょうよ!」

「そうね。私達の分もあるみたいだし!」

「みんなで遊園地か……たまにはこういうのもいいですよね」

 特にキリトら三人の方では、舞い込んで来たイベントについ心を弾ませている。よっぽど遊園地に期待値を高めていた。

 そんな温かな雰囲気に変わる一方、星海坊主は銀時に小声である疑問を話してくる。

「それと思ったんだが……万事屋の風紀って大丈夫なのか?」

「風紀?」

「アレだよ。未成年の同居が増えて、問題とかは起きないのか? あの二人、付き合っているんだろ? そういう心配とかしないのか?」

 どうやらキリトとアスナが恋人関係と聞いて、万事屋自体の風紀を気にしているらしい。妙に気にかけている為、銀時は思うままに自身の解釈を伝えている。

「その辺については、アイツらに放任しているよ。ユイもいるんだし、添い寝くらいで我慢しているだろ」

「あぁ、そうか……てか、あのユイって子は一体どんな立ち位置なんだ?」

「そりゃアイツらの――連れ子? 養子? アレ、どれだっけ?」

「オメェもはっきりしていないじゃねぇか!!」

 納得したのも束の間、今度はユイの経緯について思い悩まされていた。銀時も忘れ切っており、つい混乱状態に陥ってしまう。

「銀時さんも星海坊主さんも、込み入った話をしているのでしょうか?」

「保護者同士の話し合いをしているのかな?」

「いやいや、キリ。そんな真面目な話じゃないアルよ」

 そんな二人の様子を、まったりと呑気に見守る仲間達。会話の内容には、一斉気が付いていなかった。

 こうして万事屋の一日は、まだ少しだけ続く。




小ネタ
星海「私には、あらゆる決断が予測出来ている!」
銀時「急にどうしたんだよ。毛根が蘇る道筋でも見えたのか?」
星海「いいや、違う。この俺の中の人も、ついにライダーデビューを果たしたからな」
銀時「ホホーウ。それはご苦労なこった。一体何を企んでいるんだよ?」
星海「フッ、人間の悪意の一つ……毛根いじめをこの俺が殲滅させてやる! フサフサ野郎には即、地獄を見せてやるからな!!」
銀時「テメェのコンプレックスじゃねぇか!! そんな理由で、人類を絶滅させるな!!」

機会があれば本篇とは関係のない小ネタ集を出したいですね(笑)




予告
銀時「次回は今日の話で触れられた遊園地篇をお送りするぞ。しっかし、アイツら俺を置いていきやがったな。寝坊くらい起こしに来てもいいだろうが」
シリカ「銀時さん! キリトさん達いますか!!」
シノン「遊園地へ誘いに来たわよ!!」
銀時「はぁ? アイツらなら先行ったぞ」
二人「「えっ!?」」

銀時「という訳で次回。二兎を追う者は一兎をも得ずだな。まるでオメェらみたいじゃねぇか」
シノン「って、失礼ね!!」
シリカ「そんなんだから、女の子にモテないんですよ!!」
銀時「なんだと、ごらぁ!!」


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第六十訓 二兎を追う者は一兎をも得ず

 ひのやの冷蔵庫には、女子メンバーお気に入りのアイスが保管されている。勝手に食べられないようにと、名前の付いた付箋を付けて、保険をかけていた。それでも勝手に食べられた場合には……

シリカ「これより自白会を始めます。誰ですか! アタシとピナのピオを食べた人は!」
リズ「……ご、ごめんなさい」
シリカ「リズさん!!」
ピナ「ナー!(怒)」

自白会と言う名の犯人探しが始まるのであった。

※最近こういった日常小ネタを思いつきます。



「ヒック……あぁ、楽しかったな」

 近くの酒場から帰ってくるや否や、ソファーへと転がり、酔ったまま眠りに着くのは万事屋の坂田銀時。久しぶりの飲み会にはしゃいだ結果、完全に酔い潰れている。表情も赤く染まり、緩やかな顔つきに変わっていた。

 時刻が十時を迎えていた夜の万事屋では、仲間達が彼の扱いに悩み始めている。

「ちょっと、銀さん。ここで寝ていたら、風邪をひきますよ。ちゃんと布団で寝てください」

「分かっているから……待っていろ。結野アナァー」

「いや、絶対分かってないだろ」

 まるで寝言のように言葉を返しており、新八も呆れ気味だった。彼のみならず、場にいた全員が苦い表情を浮かべて対応に困っている。

「全然進展が無いな」

「もうどうするの? 折角明日は遊園地に行く約束をしたのに」

「これじゃ、明日は寝坊かつ二日酔いアルナ。絶対に」

「まったく、銀時さんってば……」

 キリトや女子陣もこの状況に嘆きを口にしていた。本来であれば、先日に星海坊主がくれたチケットで遊園地に行く予定だったが……銀時の所業を見ると、そう簡単に進まないのが目に見えている。

「ふぅぃ―、規則がなんぼじゃい~」

「急に何を言ってんだ、この男は」

「将来はお酒で潰れないように、よく覚えておくよ」

「その通りネ、キリ」

 酒に酔い潰される姿には、普段よりも自堕落な一面が滲み出ていた。キリトも呆れており、反面教師として捉えている。

 万事屋唯一の大人は、未成年組から冷ややかな目で今日は見られていた。

「まだまだ続くぜ~」

 

 一方でこちらは吉原桃源郷。時を同じくしてひのやでは、女子同士の勝負が取り行われていた。

「いいわね! 負けた方が明日の店番! 勝った方が、休暇プラス遊園地の特別チケット入手で!」

「それで二言は無いわよ!」

「休暇を取るのは、アタシですよ!」

「絶対に負けないんだから! お兄ちゃんと一緒に、遊園地へ行くんだから!」

 パジャマ姿で互いに向かい合わせるのは、リズベット、リーファ、シリカ、シノンの四人。

彼女達は明日の店番と非番を決めるために、じゃんけんで勝負をつけるようだ。特に後者へ選ばれた場合は、常連客から頂いた遊園地のチケットまで貰える仕様である。

 それが懸かっている為、皆表情は真剣さを極めていた。目つきも鋭くさせて、仲間達を睨みつけていく。

 若干ピリピリしている雰囲気の中、様子を見ていた月詠が声をかけてきた。

「本当にこれで良いのか? 必要ならば、百華から借り入れることも出来るのだぞ」

「いいえ! 頼りっきりなのも気が引けるので!」

「これはアタシ達で決めたことですから!」

「それなら、良いのだが……」

 代替案を提案したのだが、すぐに女子陣から断られてしまう。さながら遠慮をしているように見えるが……実はとある裏事情が絡んでいた。

(少数の方がライバルも少ないし……!)

(キリトとの時間も有意義に過ごせる!)

(何よりも、後からみんなに自慢も出来る!)

(この戦い……負けられないわよ!)

 そう、結局はキリトと一緒に楽しみたいのが本筋である。チケットは二枚分しかなく、否が応でも外れ者が出てしまう。ライバルの数を減らす目論見もあり、事前に役割の分担を話し合い、互いに二名ずつと決めたようだ。いずれにしても、運だけでのし上がりたい女子達の意地が垣間見せている。

「何か別の意味があるような……まぁ、良いか」

 一連の様子には、月詠も薄っすらと気付いていたが、特に気にする様子はない。普段の生活から見ても、女子同士で張り合うことは多いからだ。(その半分弱は、キリトが火種なのだが……)

 とそれはさておき、あっという間に決着は付いている。

「それじゃ、行くわよ――せーの!」

「「「「じゃんけん、ポン!!」」」」

 気合を込めた声掛けと共に、各々がじゃんけんの手札を繰りだす。運勝ちを果たしたのは――

「オッ! アタシの勝ちです!」

「よし、勝ったわね!」

シリカとシノンだった。共にグーを繰りだして、仲間達の出したチョキを打ち破っている。勝利を噛みしめた彼女達は、観点喜地の如く大喜びをしていた。

 その一方で、

「ま、負けた……」

「嘘でしょ……この間とまた一緒じゃん!!」

あえなく敗北してしまったリズベットとリーファは、共に強いショックを受けていた。特に後者は前回のフレンドラリーと重なり、二連続で負けを経験している。自身の運の無さには、強い失望を感じていた。

 明暗がはっきりと分かれたこのじゃんけん勝負。敗北してしまった彼女達の元に、気まずくも月詠が声をかけてくる。

「リズとリーファの二人か。じゃ明日は、主たちに任せて良いか?」

「は、はい……」

「快く手伝わせてもらいます……」

「ショックを隠しきれてないぞ。本当に大丈夫か……?」

 悔しさを抑えきれていない表情を見ると、ただただ気が引けてしまう。それでも女子達が決めたことなので、今更どうにかなることではないが。

 そして勝利した側のシリカとシノンは、互いに決意をぶつけていく。

「これでチケットは私達のものね」

「そうですね! ですが、ここからがまた勝負ですよ!」

「キリトを楽しませるかでしょ? だったら最初から容赦はしないわよ」

「望むところです、シノンさん! ケットシー対決です!」

 目線をバチバチと散らせながら、譲れない意地を露わにしている。休暇とチケットを勝ち得た彼女達は、次にキリトへ誘いをかけるようだ。両者共に自慢の猫耳を震わせて、対抗心を燃やしていく。

「ナー……(女子って、めんどくさい)」

 この一直線な気持ちのぶつけ合いに、聞き流していたピナは若干呆れ気味であった。こればっかりは、ご主人様の意見にあまり乗り気では無い。

 だがすでに、万事屋は明日遊園地へ行く準備を施しているのだが……

 

 万事屋の自堕落なリーダーと、超パフュームの猫耳系女子達。今回主役を飾る三人の元に、課せられるものとは?

 

 

 

 

 

 

 そして場面は、次の日に移り変わる。この日は晴天に加えて休日とあってか、朝早くから遊園地に並んでいる者も多かった。もちろん万事屋一行も、出発の準備に取り掛かっている。

 ――ただ一人、銀時を覗いては。

「グォ~スゥー」

 雑音のようないびきを吐き散らしつつ、未だに眠りから覚めようとしていない。あれから結局ソファーで一夜を明かしたようで、朝になっても彼の態勢は昨日と代わり映えがしなかった。

「起きてくださいよ、銀さん。もうすぐ十時ですよ」

「遊園地へ行く時間ですから! ほら、起きてください」

「ちょっと待っていろ……まずプリンを食わせろぉ~」

 新八やユイが声掛けや体を揺らしても、銀時は寝言を吐くだけで、起きる気配すらない。キリト達はもう準備が完了しており、後は銀時のみであるが。

「駄目です。銀時さん、全然起きません」

「もうー仕方ないわね。こうなったら、強硬手段よ。定春! お願いできるかしら?」

「ワン!」

 痺れを切らしたアスナは、とうとう力づくでも起こそうとしている。定春に声をかけると、彼は急に銀時へと近づいていく。そして、

「ワフ―!」

「ギャャャ!!」

彼の上半身を思いっきり噛みついてきた。死なない程度に手加減はしているが、それでも痛みは強烈的である。寝ぼけていた銀時を、一瞬にして目覚めさせていた。

「おっ、やっと銀さん起きたか。大丈夫か?」

「大丈夫かじゃねぇよ! 危うく噛み千切られるところだったぞ! 誰だよ、指示したヤツは!?」

「アッスーアルよ」

「おい、テメェ! よくもやりやがったな! 主人公にしていい態度じゃねぇだろ、コノヤロー!!」

 上半身を痛みやよだれに染められた彼は、抑えきれない怒りをアスナへとぶつけていく。メタ要素を含ませながら、態度を一変させている。

 迫力のある表情で接するが、肝心のアスナには何一つ動じていない。

「こうでもしないと起きなかったでしょ? そもそも銀さんが酔い潰れるまでお酒を飲んだから、自業自得なんじゃないの?」

「そ、それは……」

 彼女は細い目をしたまま、核心を突く一言を発している。ほぼ正論であり、銀時は言い返す言葉すら浮かばなかった。

 そう説教をしていた時である。銀時にはある異変が起こっていた。

「あっ、やべ。ちょっと待って……トイレでぶちまけてくる……」

 急に口を抑え込むと、彼はトイレへと駆け込んでいる。恐らく二日酔いから気分を悪くしたようで、嘔吐行為に及んでいるのだろう。

「ブウォォォ!」

 トイレからは、おぞましい逆流音が響いてきた。

「もう、信じられない。昨日どれだけ、お酒を飲んだのよ……」

「アッスー達が来る前から、こんな感じアルよ。アイツは」

「マイペースと言うか、ろくでなしと言うか……」

「キリトさん達が呆れる気持ちも分かりますよ」

 ダメ人間っぷりを見せる銀時のいい加減さに、アスナやキリトは頭を抱えてしまう。共に生活を始めてから早二ヶ月。たまに見せる彼の所業には、ため息が付くばかりであった。

「銀時さんも自制出来ればよいのですが……」

 ユイだけは無垢にも心配を浮かべる一方で、彼女はある事にも気が付いている。

「あっ、もう時間が! もうすぐ開園時間ですよ!」

「えっ、そうアルか!?」

 遊園地の開園時間が差し迫っていることだ。銀時に構っている時間はもうなく、アスナはやむを得ない決断をしている。

「こうなったら……ねぇ、銀さん! 私達は先に行くわね! チケットを置いていくから、準備が出来たら追いかけて!」

「ハァ!? おい! よだれまみれにしておいて、先に行くのかよ!? 俺が準備をするまで、待っておけよ!」

 銀時を置き去りにすることだった。彼の準備を待たずとも、遊園地へと向かうようである。当然本人は納得しておらず、すぐに呼び止めようとしたが――

「時間が無いです! 急いで行きましょう!」

「そうだな! 銀さん、悪いけど俺達先に行くよ!」

「後で合流パターンにするネ!」

「それじゃ、銀さん!」

「おい、待てコノヤロー! 聞いているのか!?」

勢いのままにアスナら五人は、すぐに万事屋を出発してしまった。銀時よりも遊園地の方を優先したようである。

 おかげで万事屋には、銀時と定春しか残されていない。

「ヤベェ、また来た……ゴロァァァ!!」

 叫び散らしたのも束の間、またも嘔吐を繰り返してしまう。まずは安静さを取り戻すのと、よだれまみれの体を洗わなければならない。彼の準備が完了するのも、まだ先のようである。

 

 

 

 

「本当に銀時さんを置いていって、大丈夫なのでしょうか?」

「まぁ銀ちゃんアルから、全てを吐き出したらすぐに追いかけてくるアルよ」

「だから心配は無用だと思いますよ」

 一方で先に出発した五人は、徒歩で遊園地へと向かっていた。銀時を置いてきたことにユイは罪悪感を覚えていたが、新八や神楽からは説得されている。

「絶対銀さんなら、すぐに追いつくよな」

「そうね……でも、ちょっと言い過ぎたかしら?」

「そんなことは無いと思うけどな」

 強めに言ったアスナも、ちょっぴりだけ後悔をしているようだ。浮かない顔をする彼女に、キリトはそっとフォローを加えている。

 結局は銀時を放っておけない為、五人は足取りを遅くして、隙があれば後ろを覗きついてきていないか確認していた。さり気ない気遣いである。

 そんなゆったりと歩く万事屋一行の遥か上空には、オレンジ色の羽を広げて万事屋に向かう二人の少女が飛んでいた。

((絶対に今度こそ……!!))

 もちろんその正体は、チケットを握りしめているシリカとシノンである。キリトを遊園地に誘うべく、万事屋へと向かっていたが――残念ながら地上で歩く五人には気が付いていない。まごうことなき、すれ違いである。

 

 現在万事屋には、キリトとは程遠い自堕落な主人公とモフモフな巨大犬しかいない。

「ったく……アスナめ。勝手に置いていきやがってよ。何が理想のヒロインランキング上位だ! 何が創世神ステイシアだよ! あんなもん、鬼嫁か破壊者みたいなもんだろ! ディケイド並みの強引さじゃねぇか……!」

 アスナへの文句をずっとグチグチ呟きながら、彼はせっせと準備に取り掛かっている。多量に吐き出した結果、気持ちはスッキリと戻ったようだ。

 よだれまみれの体はすでにシャワーで洗い流し、替えの一張羅へ着替えると、懐には財布を入れている。木刀を腰に帯刀してから、チケットを手にすると、彼は定春に言葉をかけていく。

「まぁ、俺も悪いとこあるんだけどな。それじゃ、定春。お留守番よろしく頼むぜ。暇になったら、たまと遊んでもらえよ」

「ワン!」

 無邪気そうな笑顔につられて、銀時もそっと微笑んでいた。本音を発した後に、彼も万事屋を後にしている。黒いブーツを履いて、玄関を潜り抜けると、欠伸をしながら階段方面に足を進めていく。

「まぁ、スクーターで追いかけるか。そっちの方が早いだろ」

 と今後の予定を立てていた矢先――階段前では、

「遂に勝負の時ですね……!」

「どっちに転んでも、恨みっこなしだけどね」

「当然ですよ! でもまずは、お誘いからです!」

「万事屋に仕事が入ってなきゃ、良いけど」

ちょうどシリカとシノンが万事屋前に到着している。キリトを遊園地に誘って、幸せな一時を過ごすために、両者ともやる気に満ち溢れていた。互いにライバルとして、正々堂々と挑む様子である。キリトと良き思い出を作りたい彼女達が、階段を上がろうとした――その時だった。

「アレ? お前等じゃねぇか」

「あっ、銀時さん」

「銀さん?」

 偶然にも遅れて出発した銀時と、思わぬ鉢合わせを果たしている。突然の訪問に銀時は首を傾げており、一方の女子達は彼の登場につい困惑していた。微妙な空気が流れる中、銀時は自分から話をかけていく。

「一体何しに来たんだ? 猫耳共が揃いも揃って。またウチのキリトを寝取りに来たのかよ?」

「って、違いますよ! ていうか、またって何ですか! またって!」

 お馴染みの挑発についシリカは乗ってしまう。ムキになって頬っぺたを膨らませる彼女に対して、シノンは冷静にも受け流している。

「寝取りじゃなくて、遊園地へ誘いに来たのよ。キリトはここにいるかしら?」

 すかさず本題を聞き出すと……思わぬ事実が明らかになった。

「あっ、アイツと? 残念だが、もう先に行っているよ。その遊園地に」

「「えっ!?」」

 なんと遊園地に誘う前から、すでにキリトを含む一行はそこへ向かったと言う。あまりにもタイミングが悪く、すれ違いだったことに今更ながら気が付いている。

 この事実に唖然とする彼女達に、銀時は証拠として遊園地のチケットを見せびらかしてきた。

「ほらよ。これから俺も、追いかけなきゃいけねぇんだよ」

「そ、そんな~! このチケットを、万事屋も持っていたなんて……」

「予想がつかないわよ、こんなの……」

 さらなる追い打ちを受けてしまい、シリカやシノンは共にがっかりとした表情を見せている。昨日から楽しみにしていた予定が、全て白紙になった瞬間であった。

 ショックからため息を吐いてしまう女子達に、銀時はやけに軽く接している。

「まぁ、そう落ち込むなよ。また別の日にすりゃいいんじゃねぇか?」

「それは難しいのよ。このチケットって休日限定だから、どうしても今日じゃないと予定が合わないのよ!」

「そうかー。じゃ、残念だったなー。ハハ」

「慰める気あるんですか!!」

 棒読みかつ鼻で笑う煽り様に、女子達もムカムカと怒りを感じていた。不機嫌そうな表情となっても、彼の皮肉節はまだ続く。

「だいたい、てめぇらあざといんだよ。恋人がいる奴をデートに誘うとか、どんな神経しているんだ」

「いや、デートじゃなくて遊びですよ! アタシ達は友達として、キリトさんと一緒に行こうと思ったんですから!」

「そうよ! 友情の下で成り立っているんだからね!」

「ムキになっている時点で、もう立派な確信犯だよ。男と女の友情なんざ、ほぼ成立しねぇんだよ。どんだけあがこうと、テメェらは負けヒロイン確定だから、大人しく諦めておけって!」

 相手の傷心をえぐるようにして、小馬鹿にする態度を続けていた。表情からも蔑んでおり、この状況でもサドのように楽しんでいる。

 フォローの一つもない銀時の嫌味ったらしい性格に、彼女達にはただならぬ怒りが沸き上がってきた。黙っているのも限界だったようで、

「な、何ですって……!」

「いい加減にしてください!!」

突然にもその怒りが大爆発している。思いっきり叫ぶと、ここからは女子達も不満をぶつけ始めていく。

「こんなにもひねくれているから、銀時さんはいつまで経っても女の子にモテないんですよ!」

「なんだとー! どういうことだ、ゴラァ!?」

「そのままのことを言っているのよ! ほぼニートでだらしない生活をしている、向上心ゼロの人に女子がどう食いつくのよ!?」

「言わせておけば、好き放題に言いやがって! これでもなぁ、この作品の人気投票は万年一位なんだぞ!」

「何よ、人気投票って! 意味分かんないんだけど!!」

 流れから口喧嘩へと発展してしまい、銀時も意地っ張りに対抗してしまう。メタ発言も吐いており、若干だが興奮状態となっていた。謝る素振りすら見せないので、余計に女子達の怒りを高めている。

 このまま事態が長期化すると思いきや――

「オメェらと比べれば、読者人気も上――」

ここで予想外のことが起きてしまう。

「ん、うわぁぁ!!」

「えっ、キャ!?」

「キャン!?」

 銀時が一歩進んだ瞬間に体のバランスを崩してしまい、思いっきり転倒をしてしまった。女子達にのしかかってしまい、互いに被害を被ってしまう。

「痛ぁ……おい、大丈夫か?」

 目を閉じたまま女子達の無事を確認する銀時だが、彼の両手には柔らかくモフモフした感触が握られている。

(ん? 何か触っているな。毛並みが良くて心地よい――アレ!? 急に嫌な予感が)

 心地の良い毛並みを感じたようで、薄々と嫌な予感を察していた。恐る恐る目を見開いてみると、そこには――両者の猫耳を鷲掴みにする光景が広がっている。自身が押し倒す体で、しっかりと握られていた。

「銀時さん……」

「銀さん……」

(や、やっぱりかー!!)

 もちろん気持ちの良いことでは無いので、女子達は彼の所業にご立腹である。先ほどの煽りと重なって、さらなる怒りを募らせていた。目つきを細めており、表情も不機嫌さを極めている。

「お、落ち着け! お前等! これは完全なる事故なんだよ! ジャンプの世界では、ラッキースケベと言う不慮の事故って言って……」

 彼女達を宥めようと、必死に言い訳をする銀時だったが……時すでに遅かった。

「「サイテー!!」」

「ブフォォォ!?」

 二発の強烈なビンタが、銀時の頬を引っ叩いている。その衝撃から、彼はまた地面へ叩きつけられてしまった。因果応報とはまさにこのことであろう。

「もう! 銀時さんってば!」

「油断も隙も無い人ね! 女子の猫耳を触るなんて、下劣の極みよ!!」

「そこまで言わなくても、良いんじゃねぇのか……」

 一段と厳しい目で見るシリカとシノンに対して、銀時はぼやきを口にしている。彼女達にとっては、改めて銀時と言う男の印象が変わっていた。正直に言うと、さらに見損なっている。本人からすれば、不運が重なっただけであるが。

 とここで、女子達は我に返って大切なことに気が付く。

「って、こんなことしている場合じゃないですよ!」

「キリトがもう先に行っているなら――追いかけないと!」

「そうですね!」

 本命であるキリトらが遊園地へ行っているならば、彼らを追いかけようと決意していた。柔軟に作戦を変更しており、そう簡単には諦めていない。すぐに彼女達は透明なオレンジ色の羽を広げて、遊園地方面へと向かっていた。

「おい、待て! 俺を置いたままにするな! ついでに行かせろ!!」

 一方の本人は、またも置き去りにされてツッコミを叫んでいる。立ち上がると彼は、近くに泊めていたスクーターに乗り出して、エンジンをかけていく。そしてスピードを上げつつ、飛行するシリカとシノンの跡を追いかけていった。

「なんでついて来るんですか!」

「目的地が同じだからだろうが! オメェら、煙たがりすぎだろ!」

「それじゃ、謝ってちょうだいよ! 悪口とセクハラの分、タピオカおごってくれたら許してあげる!」

「さり気なくたかるな! つーか、タピオカ古いよ! 今のご時世、ほとんど誰も飲んでねぇぞ!」

 女子達は未だに不機嫌な様子で、彼のことは許してすらいない。その贖罪として、何故かタピオカが引き合いに出されている。銀時も激しいツッコミで応戦しながら、三人はガヤガヤとした雰囲気で遊園地に突き進んでいく。

 そんな彼らの様子を見て、とある猫耳女性が嘆きを口にしていた。

「エギルサーン」

「どうしたんだ、キャサリンさん?」

 スナックお登勢から出てきたキャサリンである。同時に外へ出たエギルに向かって、素朴な疑問を口にしていた。

「マタハブラレテイルンデスケド……アタシ」

「まぁ、そういう日のあるさ。気にするな」

 この回の主役に選ばれなかったことに、つい不満を抱いてしまう。悲壮感が漂う彼女を、エギルはそっと慰めていた。

 こうして両者の物語が動き始めたが、不運にも三人が進む道筋はキリト達が歩いている道筋とは異なる。ゆったりと進む彼らに対して、銀時らはやや速めに向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、こちらは数多のアトラクションが並ぶ大江戸遊園地。休み時には多くのお客が訪れる、江戸の一大テーマパークだ。銀魂本編でも、松平公が娘の彼氏を射殺しかけた場所として有名である。

 時刻は入園時間を過ぎており、待ちわびた客達はぞろぞろと遊園地に入っていた。そんな人混みが出来ている入場口付近とは変わり、離れた場所にある日陰では、女性が呆然と立ち竦んでいる。

「どうしましょう……遊園地に逃げ込んでしまったわ……」

 とあるトラブルが発生して、困惑している。女性の容姿は艶のあるオレンジ色の長髪と、鋭利にとんがった耳が特徴的な天人である。服装はスポーツウェア風で上下共に統一しており、足元は白いスニーカーを履いていた。また被っているキャップの先端を常に持ち、周りから正体を隠しているようにも見えるが……?

「正直にスタッフさんへ言った方が良いのかしら? でも、時間が全然足りないわ……」

 トラブルを解決するための算段を呟くが、どれも有効的なものが見当たらない。何よりも時間の都合があり、この制約が大いに足を引っ張っていた。

 困り果ててため息を吐く女性だったが――ふと目線を逸らすと、とある知り合いが目に映っている。

「ん? あの子はまさか――」

 偶然にも彼女が見かけたのは、シリカ、シノン、銀時の三人組であった。

「はぁ~道中でもキリトさんはいなかったですね」

「やっぱりもう遊園地にいるのかしら?」

「そうかもな。ただ道筋が違っていたら、まだ来てねぇ可能性はあるけど」

 彼らもようやく遊園地に到着しており、小言を交わしつつ入場口付近に向かう。道中ではキリトらに惜しくも会えず、女子達はがっかりとした表情を見せていた。再会がまた遠のき、やきもきとした気持ちとなるが、それでも今は前を向くしかない。

「どっちにしろ先手必勝です! 行列が少ないうちに、入園しちゃいましょう!」

「そうね。予め遊具を確認して、一歩先を行くわよ!」

「そこまでして、キリトと一緒にいたいのかよ。オメェらのふてぶてしさだけは、一級品だよ」

 気持ちを入れ替えてやる気を高める彼女達に、銀時はまたも皮肉めいた小言を口にする。平常運転とも言える女子のしぶとい根性に、つくづく感服していた。

 そんな銀時であるが、実は向かう道中で女子達とある約束を交わしている。

「それはそうと、銀時さん! あの約束のこと、忘れてはいませんよね?」

「はいはい、覚えているから。タピオカのおごりだろ? 俺の不注意とは言え、タピオカで済むなら安いもんよ。酔い潰れた後に、変な請求が来たあの時と比べればな」

「アンタ、普段からどんな生活しているのよ……」

先ほど話に引き出されていたタピオカのおごりが、正式に決まっていた。あっさりと受け入れた銀時だが、彼のこぼした一言にはシノンも気が引いてしまう。いずれにしても、仲直りのきっかけが出来て何よりである。

 新たな決意や約束を確かめて、いよいよ入園へと足を進めていく。

「よし。それじゃ俺達も入る――」

「シリカさーん!」

 とそんな時であった。突如としてシリカの名を呼ぶ大きい声が聞こえてくる。

「えっ、誰だ!?」

「この声は……まさかあの人!?」

 肝心の本人は、声の主に心当たりがあるようだ。一行が辺りを見渡すと、こちらに駆け寄る一人の天人を見つけている。

「お久しぶりです! シリカさん!」

「やっぱり、ソリートさんですか!」

 そう、女性の正体は以前にシリカが出会ったことのあるソリートであった。ピナと容姿が似ているペット(ロア)を飼うテイマー星の王女である。共にペット関連で気が合い、初対面以降も度々会う彼女の友人だ。

 再会の喜びを分かち合う両者の元に、銀時やシノンも話に介入してくる。

「ねぇ、シリカ? この女性とお知り合いなの?」

「もちろんですよ! この方は、テイマー星の王女であるソリートさんです!」

「って、シリカさん! あまり大きな声で言わないでください! 正体を隠しているんですから!」

「いや、アンタも十分に目立つ声だと思うが」

 ソリートを紹介するつもりが、本人は顔を赤くして咄嗟に話を止めてしまう。自身の正体を公にしたくないようだが、大きい声がそれを台無しにしている。銀時からも思わずツッコミを入れられていた。

「王女様……以前に言っていたペットの飼い主の人よね?」

「その通りです、シノンさん!」

「てか、知らない間にとんでもねぇ人脈を作っていたんだな」

 仲良さげな二人の距離感に加えて、ソリートの正体には銀時やシノンも小さめに驚いている。

 一方でシリカは、ソリートに対して色々と聞きたいことがあった。

「そういえばソリートさん。そのスポーティな格好は一体?」

「あぁ、これですね。実は公務の前にお忍びで散歩をしようと思い、目立たない服装に着替えたのです。後から正体がバレると、色々面倒ですから」

「と言う事は、ロアの弱点を克服したんですか!」

「いいえ、ごめんなさい。残念だけど、ロアはお留守番よ。一緒に散歩していたのは、お父様のペットなのよ」

「お父さんの?」

「はい。数日間だけ預かることになったので。猫に似た宇宙生物で、とっても可愛らしいのですよ! 丸っこくて、しかも兄弟が五匹もいるのです!」

 見慣れない服装は変装用として、日光が苦手なロアはお留守番をしており、今回はまったく別のペットをお世話したと言う。次々と事情が明かされる中、気になったのは父親のペットの件だった。

「それで、その猫達はどこにいるんだよ?」

「えっと……実はですね。少し厄介なことが起きまして……」

「厄介? 一体何のことなの?」

 何か意味を含ませるような素振りには、話を聞いていた銀時やシノンも気になっている。より詳しく促すと、ソリートは急に複雑そうな表情を浮かべていた。

「あまり驚かないでくださいね」

 そう言って彼女は、三人との距離を近づかせていき、小声で先ほど起きたトラブルを打ち明かしていく。

「えっ!? 遊園地に逃げ込んだんですか?」

「そうなのよ。繋いでいた紐がぷつんと切れたら、みんな遊園地方面に逃げてしまって……」

「おいおい、結構不味い状況じゃねぇのか?」

「不味いですよ。どうやって回収するのか、策を練っている途中でしたもの」

 知らされたのは、ペットの脱走である。不覚にも継いでいた紐が引きちぎられてしまい、遊園地を囲っている柵を潜り抜けたという。一匹も連れ戻すことが出来ずに、困っていたところでシリカら三人を見かけていたようだ。

「遊園地に入ることは出来ないの?」

「それも可能ですが、この後に予定があるので、あまり得策ではないです」

「王女って身分だったら、そこら辺の事情面倒くさそうだもんな」

 すぐにでも助け出したいソリートだったが、残念ながら公務の時間が彼女に迫っている。四方八方に策を防がれてしまい、神妙な表情を浮かべる彼女は、覚悟を決めてシリカらに助けを求めることにした。

「そこでですが、シリカさん達にお願いがあります! どうかお父様のペットを、探して来てもらえますか? 私だけではもう、どうにもならなくて……。おこがましいことは承知です。お礼も考えていますので、どうか依頼を受けてもらえないでしょうか?」

 真摯な態度で接しており、ペットの捜索を依頼していく。時間に余裕が無く、断ることを承知でシリカに一か八かお願いしている。

 この気持ちを受けて本人の反応はと言うと、

「だ、大丈夫ですよ! ソリートさん! 事情があるのは仕方ないですし、困っているなら助け合うのが友達ですから! すぐに見つけて、連れ戻しますよ!」

「受けてくれるのですか?」

「はい! ペットは全員分連れ戻しますから! だから一人で悩み込まなくていいんですよ!」

ためらいもなく引き受けることにした。事情を知るシリカだからこそ、ペットの脱走は放っておけないようである。

「……ありがとうございます! シリカさん……」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですから!」

 これには彼女自身も涙を堪えて、シリカの優しさに感謝していた。二人の固い友情が露わになった瞬間である。

 同じくして、状況を把握したシノンや銀時も声を上げていた。しかし、

「私も協力するわよ。人手が多い方が、すぐに見つかりそうじゃない」

「お仲間さん達まで……感謝いたします!」

「そんじゃ、俺も入れてもらおうか。その代わり王女様、一つだけ聞いていいか?」

「はい、何でしょうか?」

後者だけは簡単に引き受ける様子では無い。

「お礼って、いくらくらいだよ? 桁数だけでも、教えてくれないかな~って」

「……お礼?」

「そりゃ、依頼料だよ。こちとらボランティアでやってはいないからな。万事屋の依頼として引き受けるからよ」

 露骨にも金に執着する一面を見せていく。相手が王女と聞くならば、大金が手に入ると彼は安直にも考えていた。いずれにしても、善意からではない卑しい考え方である。

 これにはシリカ、シノンともに、銀時の性格に心からドン引きしていた。

「完全にお金が目的になっていますよ」

「やっぱり銀さんって、生粋のろくでなしね。キリトの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだわ」

「キリトさんはお金目的で動きませんよー」

「うるせぇ! アイツと俺を比べるなよ! 俺は自分流のやり方で、依頼人と接していくんだよ!」

 細い目つきとなり幾ら文句を言われようとも、彼の態度は一斉変わらない。依然としてソリートに、依頼料を聞き出している。すると、返ってきたのは予想外の返答だった。

「でしたら、お礼は皆さんが喜ぶものにしましょうか! そうですねぇ……ドラゴンフーズのマッ〇味かケンタッ〇―味。ロッテ〇ア味にモ〇味、バー〇ン味。どれをプレゼントするか悩みますね!」

「って、姫様!? お礼ってペットフードのことかよ!? しかもどいつもファーストフード味ばかりじゃねぇか! どんな味をチョイスしているんだよ!」

「いえいえ! これは絶対ペット達が喜ぶものですから! そうです! これにしましょう!」

「おい、勝手に決めるな! 俺が求めていたのは、そういうのじゃなくて……」

 ソリートは思い付きから、お礼の品をペットフードに決めている。邪推な考え方ではない、ペット第一に考える彼女なりの答えであった。

 一方で金銭を期待した銀時だったが、彼女の勢いを止められず、その目論見は脆くも崩れ去ってしまう。地味にショックを受ける彼の元に、シリカやシノンがクスッと笑い、からかいを始めていた。

「良かったですね、銀さん! これで定春も大喜びするじゃないですか!」

「そ、そうだな……だが」

「もういい加減、諦めなさい。あらぬ欲なんて、考えない方が良いわよ。フフ……」

「そうですよ。後で恥をかくことになりますから」

「何ちょっと煽って来てんだよ!! そんなに期待したのが悪いのか! つーか、その目つきをやめろ!!」

 期待外れだった反応がよっぽど可笑しいのか、共に口を抑えて笑いを堪えている。からかいを止めない彼女達に、銀時はムキになって反抗していた。数時間前とは真逆の光景である。

 三人の賑やかしい光景を見ると、ソリートもつい一安心をしていた。

「やはり、シリカさんの仲間達は面白い方ばかりですね!」

 その愉快さが、少々笑いのツボになっている。ちなみにだが、お礼の件は特に深くは考えてはいない。見た目通りの天然ぶりである……。

 

 

 

 

 

 こうして託されたソリートからの依頼。詳しく聞くと遊園地に逃げ込んだのは猫っぽい宇宙生物で、合計で五匹程度いるようだ。弱点もあるみたいで、それを活用すれば捕獲すらも容易いという。細かに情報を聞きつつ、銀時ら三人は大まかに把握していた。

「それでは五匹分、よろしくお願いしますね!」

 一方のソリートだが、救出への道筋が見つかり、安心して公務へと戻っている。彼女曰く屋敷のパソコンから、遠隔で会談を行うらしい。ひとまずは一時退場して、夕方頃にはまた遊園地に戻ってくると約束していた。

 新たに約束を交わした銀時、シリカ、シノンの三人。彼らは振り返るようにして、情報を整理している。

「要するに、小さくて丸っこい猫のような生物を見つければいいんだろ?」

「そうですね。見つけたら尻尾をぎゅっと掴むと、体を小さくして眠るみたいです」

「これなら、まとめて渡した方がいいわね。猫探しの最中に、あわゆくばキリト達を見つければ、さらにいいけど」

 弱点や捕獲方法を踏まえつつ、各々が念頭に置いていた。特に女子陣はペット捜索と並行して、キリトらの合流にも心掛けている。

 一方で銀時は、依頼の雰囲気から普段の万事屋と照らし合わせていた。

「なんだか、万事屋っぽくなってきたな。こうなったらアイツらと会う前に、即席で仮万事屋でも作ってみるか?」

「いいえ。丁重にお断りしますよ」

「金に執着して、女子にセクハラする人とは組めないわよ」

「本気で返答するなよ! これ以上言われたら、流石の銀さんでも心に効くぞ」

 冗談交じりに言ったつもりが、本気で女子達から拒まれてしまう。さながら信用がほぼ無いようにも見えたが……

「でも、今日ばかりはお願いしますね。ペットだけじゃなくて、キリトさん達も見つけたいので」

「今回だけは協力してあげるから、すぐに依頼を果たしましょう」

そこまで見損なってはいないようだ。若干微笑みつつ、女子陣は率直な想いを口にしている。銀時には少なからず、期待だけは持っていた。

「オメェら。ったく、素直じゃねぇんだからよ。それじゃ、さっさと入園するぞ」

「って、勝手に仕切らないでくださいよ!」

「そうよ! 銀さんってば、すぐ調子に乗るんだから!」

 この反応には銀時も、彼女達の真意を薄っすらと理解している。何度皮肉を言われようとも、万事屋に入った依頼はしっかり果たそうとしていた。

 こうして即席で出来た仮のチーム、銀時、シリカ、シノンの三人は、ソリートのペット捜索とキリトらの合流を目的に、遊園地へといよいよ歩み寄っていく……。

 

 その一方で噂のキリト達は、

「ヤッホイ―! 到着アル!」

「結局銀時さんとは会いませんでしたね」

「こりゃ、まだ準備に時間がかかっているのかな?」

「もう! 銀さんったら……」

銀時達が入園した途端にようやく到着していた。もちろん銀時が先に入っていることなど知らず、まだ遅れているものだと勝手に捉えている。結局は五人も彼を待つことなく、入場口へと足を進めていた。

 果たしてこの先、無事に合流することは出来るのだろうか?




 今回は銀魂のぐうたらな主人公と、積極的な猫耳女子達が主役の回です。仲間達を探しに来たかと思いきや、まさかの猫探しの依頼まで受ける羽目に。即席の万事屋(仮)は、どちらとも見つけることが出来るのでしょうか?

 SAOの女子達は、割と銀さんに厳しく当たっていますが、そこまで嫌ってはいません。ただどうしてもキリトと比べられるので、相対的に悪く見えてしまうだけなんです。まぁ、今回はワザと煽った節があるけど……

 ちなみに、オリキャラの再登場は私でも予想外でした。当初の予定ではこの回のゲストキャラを用意していましたが、意外にも話の筋と噛み合ったので、再登場してもらいました。今後もペット関連の話には出てくるかも……ハタ皇子とも共演させたい!

 後書いていて思ったのは、獣耳の女子って可愛いですよね!(特に大きめの猫耳が、たまらないと思います!)

 次回投稿は少し遅れます!





次回予告
銀時「やっぱ人気投票一位は伊達じゃねぇからな!」
シノン「そもそも、人気投票って一体何なのよ?」
銀時「そりや、メタを知らないと理解は不能だよ。ちなみにシノンは割と上位にはいるが、シリカはな……」
シリカ「えっ、何ですか!? アタシだけなんで、言葉を詰まらせるんですか!!」
銀時「次回! 猫探しと言う名の運ゲーを攻略せよ!」
シリカ「勝手に話を変えないでください!!」
シノン「私って、上位なの……?」
銀時「一応言っておくが、そこまで低い順位ではねぇからな」


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第六十一訓 猫探しと言う名の運ゲーを攻略せよ!

 お待たせしました。ちょいちょい時間が無く、先週分は見送ってしまいました。友人の猫探しと、はぐれた仲間達との合流に奔走する銀時、シリカ、シノンの三人。そこに別件で真選組も関わることになり……それでは、遊園地篇第二回目スタートです。



 時刻はおおよそ十時半を指し示していた頃。銀時、シリカ、シノンの三人は、無事に遊園地へと入場していた。彼らは先に向かったキリト達との合流、さらに友人の猫探しを目的に動いている。その道中だが、当然普通に進むはずがなく……

 

「さて、ようやく入場した訳だが……」

「まずはキリトさ――いや、猫探しからしましょう!」

「そうね。すぐに見つけて、残りはキリトとの時間に当てるわよ!」

「オメェらの頭の中、そればっかじゃねぇかよ」

 遊園地へと入場するや否や、シリカやシノンは早速近くにキリトらがいないか見渡していた。猫探しも念頭に置いているが、やはり彼女達にとってはキリトとの合流が第一である。

 相変わらずの一直線な気持ちに、銀時も野暮を口にしている。彼は引き続き、猫探しについても皮肉を呟く。

「そもそも猫探しなんて、そう易々と見つかる訳がないだろ? まだ始まったばかり――」

 気だるげな表情で、そう言い切った時だった。

「ねぇ、アレってあの猫じゃない?」

「アレ?」

「まさか……」

 偶然にも周りを見ていたシノンが、とある生物を見つけている。それは付近のベンチの上にいた、丸っぽい形の猫耳が付いた生物だった。小さくて黄色い体色、つぶらな目つきからソリートが伝えていた特徴と一致している。恐らくこれが、彼女の飼う宇宙生物であろう。

「丸っこい猫で――聞いている話とぴったりですよ!」

「おい、初っ端から幸先良いんじゃねぇか!?」

「すぐにでも、捕まえるわよ!」

 情報を読み解き、自信良く確信を得た一行。このまま猫に近づこうとしたが……

「モコ!」

惜しくも彼らの気配に気が付き、高い鳴き声を上げながらぴょんぴょんと逃げてしまった。

「あっ! 逃げ出しました!」

「よし、追いかけるぞ! 俺についてこい!」

「だから、アンタが仕切らないでちょうだいよ!!」

 急いで銀時らも、猫の跡を追いかけていく。右方向にあるアトラクション付近に移動して、ひたすらに猫を捕まえようと試みていた。

 すると猫は、とある屋敷へと逃げ込んでいる。

「この建物に逃げ込んだわね」

「だったら、チャンスですよ! アタシ達も入って、すぐに捕まえちゃいましょう!」

 もはや猫にとって袋の鼠であり、シリカやシノンは勝利を確信していた。この好機をモノにしようと、やる気を高めていく。

 だがしかし、銀時は建物を見てから明らかに様子が変わっている。

「……おい。本当に入るのか?」

「アレ? どうしたんですか、銀時さん?」

「だってここ……お化け屋敷だぞ」

 そう、彼の態度の変化はこのお化け屋敷が原因だった。何を隠そう、銀時は大のオカルト嫌いである。霊や超常現象の類には、人一倍臆病な面を持っていた。例え作り物だったとしても。

 みるみると顔色の悪くなる銀時を見て、シノンらは徐々に疑問を持ち始めていた。

「それがどうしたのよ?」

「だから、怖くねぇのかって! オメェらはそういうの平気なタイプかよ!?」

「私は別に問題ないけど」

「アタシは怖いですけど、ソリートさんの為なら乗り切れます! そういう銀時さんはどうなんですか?」

「(ギク!?) お、俺か……? こういうのは、平気だぜ。ただお前等が怖がってそうだから、気を遣っただけなんだよ……!」

 女子達は特に、お化け屋敷には抵抗心が無いようである。すぐに質問で返されてしまい、銀時はさも平然を装った回答をしていた。引きずった笑顔を見せており、内心では大いなる不安に包まれている。

(ヤベェ! 本当は行きたくなんかねぇよ! 出口付近でのんびりと待っていたいんだよ、俺は! だが、正直に言うのも尺な気が……)

 本音では突入を避けたいが、女子からの冷ややかな反応も気にしてしまう。一応ではあるが、情けない面は見せたくないようだ。

 回避する術を模索する銀時に対して、シリカやシノンはと言うと……

「そうね。じゃ行きましょうか」

「えっ!?」

「大丈夫なんですよね?」

「……そ、そうだな! 行くか!」

考える時間すら与えない。さも当たり前のように参加を促している。

 これには銀時も空気を読むしかなく、つられるままにお化け屋敷へと進んでしまった。

(クソッ! やっぱり見栄なんか張るんじゃ無かったよ! もう見下されてもいいから、ここから逃げ出してぇ~!!)

 急ごしらえの見栄を張った挙句に、自分の首を絞める結果となってしまう。本音を言えるタイミングも逃してしまい、苦悶な表情で多大な後悔を感じている。

 一方のシリカやシノンだが、とっくに銀時の本音を見透かしていた。

「絶対に銀時さん、無理していますよね?」

「素直に言えばいいものを……まぁ、非常口はあるみたいだから、いざという時はそこまで連れていきましょう」

「そうですね」

 逐一見せる挙動不審な反応から、彼の真意を察したようである。彼女達は小声のまま言葉を交わして、銀時の今後の対応を練っていた。

 互いの思惑が交差して、三人はいよいよお化け屋敷に入り込む。

 とその直後である。

「最初はメリーゴーランドに乗るアルよ!」

「って、待ってください! 神楽さん!」

 屋敷の近くでは、奇遇にも神楽やユイらが別のアトラクションに向かっていた。もちろんだが、銀時達が近くにいることは一斉気が付いていない。

「やっぱり、先に来ていませんね」

「銀さんが来るのも、時間がかかりそうだな」

「もう……早く来てほしいのに」

 入場しても銀時の姿が見当たらず、アスナらの気は滅入るばかりである。やはり彼が不在だと、物足りなさを感じるようだ。一行は銀時との合流を切望している。

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、お化け屋敷に入り込んだ銀時達。屋敷の内部はとても薄暗く、何が起こるか分からない静寂に包まれていた。恐怖心を煽る雰囲気に、早速シリカは恐れを感じてしまう。

「……シノンさん。ちょっと怖いので、肩や腕に掴んでも良いですか?」

「もちろんいいわよ。でも見た感じだと、大袈裟に怖い作りは無いわね。今のところは」

 そう言って彼女は、シノンの左腕をぎゅっと掴んでいた。ペット捜索のためと言っても、やはり怖く感じてしまうのは致し方無い。度胸があって堂々としているシノンを頼りつつ、彼女は勇気を持って前に突き進んでいる。

 そして銀時はと言うと……

「それはそうと、銀さん。何で私の肩を、さっきから掴んでいるのかしら?」

シリカが寄りかかる前から、すでにシノンの右肩を掴んでいた。冷静に問い詰めてみると、彼は無意識にも取り乱しながら返答していく。

「……いや、決して怖がっているとかじゃないからな! オメェが不安そうに見えたから、掴んでいるだけだぞ!」

「そんな必死に弁解しなくても……」

「銀時さんの方がよっぽど不安そうですよ」

 もはや何を言っても誤魔化せず、余計に怖がりな印象を与えるだけである。薄っすらと見える彼の必死そうな表情から、並々ならぬ焦りを感じていた。

 意地でも認めない銀時の姿勢に、シリカやシノンは増々彼に呆れてしまう。そっとため息を吐いた……その時であった。

〈モコ―!〉〈ギャャャ!!〉

 突如として聞こえたのは、あの猫の特徴的な鳴き声。何やら男性の悲鳴と合わせて、屋敷内に鳴り響いていた。

「今の叫び声って、あの猫の声よね?」

「この先にいますよ! 急ぎましょう!」

「おい、待てお前等! 俺を置いていくんじゃねぇよ!」

 居ても経ってもいられず、女子達は真っ先に奥へ進んでいく。銀時も置いていかれないように、跡を追いかけていった。

 その道中にて一行は、お化け屋敷の洗礼を受けている。

「あっ、二人共! 右側の扉が開くわよ! 気を付けて!」

「えっ、キャ!?」

「はっ!? ギャァァァ!!」

 仕掛けに気が付いたシノンが、後ろにいる仲間達へ注意を促していた。壁から飛び出してきたゾンビらしき手に、シリカは軽く驚いてしまう。

 そして銀時にも同じ仕掛けが襲ってきたが……彼は大きく悲鳴を上げて、豪快にも大きく転げ落ちている。

「って、銀さん!?」

「大丈夫ですか!?」

 大袈裟すぎる反応に気が付いて、シノンやシリカは思わず彼の元に駆け寄ってきた。

「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「もし怖かったら、あっちに非常口がありますよ。ギブアップしますか?」

 銀時の状態を共に心配しており、寄り添うようにして非常口へ連れて行こうとしている。ところが、

「い、いいや大丈夫だ! 平気に決まっているだろ!」

銀時はすぐに立ち上がって未だに意地を張り続けていた。何としても、自身の物怖じする性格を隠したいようである。

「って、表情は青ざめていますけど」

「怖いなら、素直に言った方が楽になるわよ」

 女子達が幾ら説得を促しても、彼の考えは一斉変わらない。

「そんな訳ないだろが! こういう時はな、根性と歌で乗り切るんだよ! こんな風に! デレレ~デレレ~デレレ~デレレ~!!」

「ちょっと、銀時さん!?」

 仕舞いには、とうとう奥の手で乗り切ろうとしている。以前にも幽霊の恐怖を紛らわすために、歌い続けた「ドラえも〇のうた」を唐突にも繰り出していた。

「ぺぺぺぺぺぺぺぺぺーちゃらららららら――」

 思わぬ奇行に唖然としてしまう女子達を無視して、単身銀時は「ドラ〇もんのうた」を歌ったまま、出口まで駆け込もうとしている。

「こんな事いいなー! 出来たらいいなー! あんな夢―こんな夢―いっぱいあーるけーどぉぉぉ!!」

「なんかどこかで聞いた事のある曲なんですけど!!」

「ここまでして、臆病なのを隠し通したいの……?」

「ある意味、凄い精神力です……」

 この突飛な行動には、シリカとシノン共に心からドン引きしていた。苦い表情を浮かべたまま、彼の歌う「〇ラえもんのうた」が嫌でも猫耳に入ってくる。ひとまずは暴走している彼を追いかけようとした、その時であった。

「空を自由に飛びた――ギャャャ!!」

「って、銀時さん!?」

「今度は何が起こったのよ!?」

 歌のサビに向かう途中で、大きな悲鳴が響き渡ってくる。気になった女子達は、彼の元まで急いで向かっていく。すると見えてきたのは、

「えっ!?」

「これは……?」

銀時を含む三人の人間と追っていた猫が気絶している光景だった。みな揃って白目を向いたまま、仰向けや俯いたまま床に倒れ込んでいる。

 銀時の他に気絶している人を見てみると、そこには意外な人物も紛れ込んでいた。

「銀時さんと、猫とピエロと、土方さん?」

「さっきの悲鳴の正体は、土方さんだったってこと?」

 その正体はなんと、真選組の土方十四郎である。どういう理由で屋敷にいるのかは分からないが、恐らく横で一緒に気絶しているピエロと何かあっただろうと考察していた。

 肝心の猫を一匹捕まえられたのはいいが、横で倒れている三人が気になって仕方がない。

「……改めてみるとカオスですね」

「はぁ……。世話が焼けるけど、まずはみんなを起こしましょうか」

「そうですね」

 とりあえずは、起こさないことには話が始まらないので、女子達は銀時や土方らの気を戻そうと体をさすっていく。

 小さい意地を張り続けた男の、意外過ぎる顛末であった。

 

 

 

 

 

 そして場面は変わって、一行はお化け屋敷の出口前に行きついている。女子達二人は保護した宇宙猫の様子を確認していた。一時は気を失った猫だったが、現在は体を小さくして、ぐっすりと眠りについている。

「グシュー……」

「猫の方はぐっすりと眠っているわね」

「お化け屋敷を探し回った甲斐がありましたね! ただ……」

「うん。そうね……」

 元気そうな猫に一安心する二人だったが、それ以上に気になるのは、真横でどんよりと体育座りする二人の大人――銀時と土方であった。両者共に自身の物怖じする性格が女子達にバレて、大変気にしている。

 銀時は意地を張ったことを後悔して、土方は気絶して助けられたことを情けなく思ってしまう。共に生気がない表情をしたまま、適当な会話を交わしていく。

「土方君。なんで君が、ここにいるのかな……?」

「ちょっとした尾行調査だよ。総悟に言われて屋敷に入ったはいいが……ただはめられただけだったよ。それより、お前もなんで屋敷にいたんだよ? 確かオカルトは嫌――」

「それ以上は言うな。意地を張った結果、無理して入っただけだ」

「そうか。分かったよ」

「察してくれ」

 普段からいがみ合う二人でも、今回ばかりは同じお化け屋敷の被害者と捉えている。対抗心を控えめにしながら、互いの悲壮感を分かち合っていた。

 落ち込み続ける二人の元に、ようやく女子達が声をかけてくる。

「だ、大丈夫ですって! 人には必ず苦手なものがあるんですから、気にしなくていいですよ!」

 さり気の無いフォローで立ち直らせようとするシリカと、

「正直に苦手と言えばいいのに……。強がって情けない姿を見せるのは、男としてはかっこ悪いわよ」

「おいそれ、俺にも言ってねぇか」

直球的な指摘を加えるシノン。どちらも励まし方は異なるが、共に心配していることは明らかである。特に後者の言葉が効いたのか、銀時はすぐに自信を奮い立たせて、真っ先に立ち上がっていた。

「ったく、分かっているよ! チキショー! お化けが苦手だって、いいじゃねぇかよ!」

「フフ、こっちの方が銀さんらしいわね」

「どういう意味だよ!? とにかくだ。猫も捕まえたから、気を取り直して別の場所に向かうぞ!」

「今度は無茶しないでよね!」

 その立ち振る舞いは、どこかヤケクソにも見えなくないが……。いずれにしても、銀時の調子は戻り、彼へつられるようにして土方もキレを戻し始めている。

「ってわけだ。じゃあな、土方君。これ以上は情けない姿は見せるなよ」

「いや、それお前もだろうが! さっきの描写、ほとんどテメェが占めていたじゃねぇか!」

 調子だけではなく、ツッコミの勢いも戻っていた。このまま別の場所に向かおうとした一行だったが、ここでシノンから質問が挙がっている。

「あっ、ちょっと待って! ねぇ、土方さん。この近くでキリトやアスナを見なかったかしら? それと、この猫と同じ宇宙生物も見ていない?」

 僅かな希望から、彼に情報提供を呼び掛けていた。あわよくば決定打となる情報が欲しいところだが……そう上手くはいかない。

「いいや、特には。そもそも来たのが朝一番だったからな。少なくとも、俺は見かけてねぇよ」

「そう……ありがとうね」

 特に目立った成果を得られず、この話は終わってしまった。シノンも若干だが、しょんぼりとした表情になってしまう。

「まだまだ合流まで遠いな」

「はぁー。運よくどっちも、早めに見つかると良いんですが……」

 目的達成までの道のりは長く、銀時やシリカも浮かない顔をしている。今は地道に探し続けるしか、最善の道は無かった。

 すると土方は、ペットに関連して銀時達にある注意を伝えている。

「ていうか、ペットを追っているなら、一応お前等にも伝えておいた方が良いか」

「あん? どうしたんだよ、オメェ。急に改まって」

「俺達が尾行調査している野郎のことだ。ヤツは宇宙で有名な動物ハンターだそうだ。昨今この遊園地での目撃例が多くて、俺と総悟が今探し回っているんだよ」

「動物ハンターですか?」

「また物騒な肩書きが出てきたわね……」

 彼が捜索しているのは、宇宙から来た動物ハンターだと言う。目撃例がこの遊園地にあるらしく、あくまでも任務としてここにやって来ていた。

 藪から棒の如く出てきた物騒な情報に、女子達はつい不安を覚えているが……銀時だけは反応が異なっている。

「おい、お前それ……ハタ皇子じゃねぇの?」

「いや、違ぇよ。そもそもあの皇子、今日地球に来てねぇよ」

 動物と関連付けて、ハタ皇子と勘違いしただけであった。土方からは、冷たいツッコミが返ってくる。

「とにかく、そいつには気を付けておけよ。不審なヤツを見かけたら、俺か総悟に伝えておけよ。そんじゃあな」

 伝えるべきことを伝えたところで、彼はその場を後にしていた。猫探しの障害となり得る動物ハンターの存在は、一行に何とも言えない気持ちを与えている。

「真選組が追う動物ハンターか……関わりたくねぇ野郎だな」

「増々猫が心配になるわね」

「そのハンターさんへ見つかる前に、残りの四匹もすぐに見つけちゃいましょう!」

「そうだな」

 いずれにしても、ゆっくりとしている時間はない。保護した猫は銀時の服の懐に入れて、しばらくの間寝かせることにする。遊園地を彷徨う残り四匹の猫を保護するために、銀時ら一行も別の場所へと走り出していた。今度は北東方面にある、絶叫系アトラクションがあるエリアへと向かっている。

 そこへ向かう最中でも、再び銀時の物怖じする性格が話題に挙がっていた。

「それで銀時さんって、結局幽霊系は苦手なんですか?」

「いや、あんまり大きい声で言うなって。知り合いとかにも、内緒で通しているんだからよ」

「思ったんだけど、そこまでして隠したいの?」

「当ったり前だ! あんな情けない姿、キリトやアスナに知られたら一生モンの恥だからな」

 彼は神経質にも、自身が苦手とするモノを他者に知られたくないようである。一生モンの恥だと例えていたが、女子達にはすぐにその光景が思い浮かんでいた。

(確かにすぐに腰を抜かしたり……)

(ドラ〇もんのうたで恐怖を紛らわすなんて、情けないにもほどがあるわね……)

 ついさっきまで見せた銀時の奇行を知ると、確かに隠したい気持ちも分からなくはない。ちなみに彼が歌った「〇ラえもんのうた」は、未だに女子達の耳元に残っている。

〈みんなみんなみーんな、叶えてくれるー。不思議なポッケェで叶えてくれる~!〉

(全然離れません……)

(微妙に音痴なのが、頭に残るわね……)

 思わぬところで二次被害を受ける二人であった。

 そんな彼女達だが、ちゃっかりとこの機会を利用して、銀時に新たな制約をかけている。

「と言う事は、この件はアタシ達だけの秘密になりましたね!」

「あぁ、そうだな――って、なんだよその表情は?」

 突然にも女子達は、事情を含ませていそうな作り笑いを見せつけていた。彼が忘れているであろう、あの約束を再び提示していく。

「増々タピオカのおごりが重要になってくるわよ」

「とびっきり美味しいのをお願いしますね!」

 もちろんそれは、入場前から言っていたタピオカのおごりである。

「って、オメェら調子に乗るなよ! 思いっきり弱みを握っているじゃねぇか!」

「いやいや、意地を張った銀時さんが悪いんですから」

「そもそも。あの状況だと、どうしても屋敷に入るしかなかったし」

「運が悪かったですね!」

「絶対面白がっているだろ! 薄ら笑いで煽ってくるなや!」

「さぁーどうかしらね?」

 彼女達のおちょくるような素振りに、銀時自身もタジタジになって応対していた。終始話の主導権をシリカ達に取られて、彼は思うように進められない。より調子が滅入ってしまう銀時だったが……ふと視線を変えてみると、

「ん? あっ、オメェらアレを見てみろよ」

「アレ? もしかして、幽霊……」

「その話はいいから! 猫だよ、猫! ちょうど二匹目を見つけたんだよ!」

偶然にも捜索していた猫を発見していた。彼の食いつきように気が付いて、シノンらも視線を同じく合わせていく。

「って、どこにいるんですか?」

「ほら、あそこだ! ジェットコースター側にある骨組みの!」

「あっ、いた……えっ!? なんでそこにいるの!?」

 ようやく猫を発見したのは良いが、彼が現在いるのはなんと、ジェットコースターが設置されている内部である。そこへ至った経緯は分からないが、危機的な状況なのは確かだった。緊迫感が無く、猫は上機嫌なままに登り詰めている。

 このままのペースで登ると、上段の線路付近へと行きついてしまう。これだけは、何としても阻止しなければならない。

「おいおい、不味いぞ。鉄格子越しだから簡単に行けないし、何よりも線路に上がったら、より不味いことに……」

「あの……銀時さん。もうジェットコースターが出発しちゃいました」

「何だと!? バットタイミングすぎるだろうが!!」

 慎重に対策を練っていた銀時だったが、より余裕が無くなる事態が起きてしまった。間が悪くジェットコースターが出発したようで、猫との距離を迫らせている。最悪の場合が重なれば、猫は衝突して大怪我を負うと彼らは予測していた。

「このままだと猫が……」

「こうなったら、従業員に言って止めてもらうか?」

「いいや。ここは私に任せてちょうだい!」

 一刻も早く助け出したい一行だが、中々良い策が思いつかない。すると突然にも、シノンが作戦を思いつき、自信良く声を上げてきた。

「この弓矢で捕まえて、こっちへ連れてくるわよ」

「ほ、本当にそれで大丈夫ですか?」

「時間が無いもの。これに懸けて見せるわ!」

「おい、気を付けろよ!」

 もはや定番技となった、弓矢戦法で決めるという。羽を広げて、なるべく距離を縮めた後、弓矢の先端から縄を放って猫を確保する算段である。

 ジェットコースターが上り始めている今、安全に保護できる手段だと彼女は悟っていた。もちろん、上手くことが進めばの話だが。

「狙いを定めて……」

 空中浮遊をしたままシノンは、すぐに登っている猫へ狙いを合わせていく。数秒後に配置される場所を予測したところで、

「今よ!」

弓矢を離して勢いよく発射していた。彼女の放った矢は、予測通りに猫の位置する場所へと向かっている。

「モコ!?」

 そして作戦通りに縄が飛び出して、猫のみを優しく包み込んでいた。

「おっ、上手く行きましたか?」

「とりあえず、ジェットコースターが来るまでには間に合ったな」

 地上にいる仲間達も、作戦成功に思わず安堵している。ジェットコースターもまだ急降下しておらず、時間的にも間に合っていた。本人もつい笑みを浮かべている。

「よし、余裕で間に合ったわ……」

 このまま彼女は縄を引っ張っていき、確保した猫も無事に手元へと収めていく。そして降りようとした……その時だった。

「シノンさん! 後ろです! 回避してください!」

 突然、シリカがシノンに近づく飛翔体へ気が付き、大声で注意を促している。

「後ろ――キャ!?」

「カー!!」

 その正体は、偶然にも通り過ぎた野生のカラスだった。彼女の羽と衝突してしまい、シノンは飛行バランスを崩してしまう。

(お、落ちる!? 羽が思うように、動かない? まさかあの風なの……!?)

 再度バランスを立て直そうとするも、近くにあるジェットコースターからの逆風が無常にも襲い掛かっている。おかげで彼女は、ただ落下を待つことしか出来ずにいた。

 この危機的状況に、仲間達も咄嗟に動き始めている。

「シノンさん!? ここはアタシが……」

「いや、待て。俺に任せろ!」

「ぎ、銀時さん!?」

 一時はシリカが向かおうとしたが、有無を言わさずに銀時が走り出していく。必死に落下する彼女へと近づき、大きく飛び上がったところで……

「はぁぁ!」

シノンを抱きしめて彼女の身を体当たりで守ろうとした。そのまま銀時は背中から落下していき、自身を身代わりにして彼女と猫を救い出している。

「痛ぇ……背中打ったか?」

 幸いにも背中への痛み程度で済んだ様子だ。この予想外な銀時の行動力には、助けられたシノンも目を丸くして驚いている。

「ん? えっ、銀さん? もしかして、助けてくれたの?」

「あたぼーよ。無茶するなって言ったのは、どこのどいつだよ? オメェも人の事、言えた義理じゃねぇな」

「って、アレはまぐれよ! 普段の私だったら、すんなりと回避していたわ! でも……助けてくれて、ありがとうね」

 彼の調子に乗る姿勢を見ると、シノンもついムキになって反論してしまう。それでも彼女は、助けられたことに感謝していた。

(まるでさっきと大違い……銀さんって、こんな漢気のある人だったかしら?)

 内心でも、銀時の頼れる一面には少しばかり驚いている。これを機に印象が変わりつつあった。

 するとそこへ、シリカも心配して駆け寄ってくる。

「シノンさんー、銀時さんー! 大丈夫でしたか!?」

「おうよ、心配ねぇよ。猫の方も無事だったよ」

「モコ―」

「あー良かったです!」

 彼らの無事を知って、再び一安心していた。このまま温かな雰囲気で終わると思いきや、ここで銀時が余計な一言を呟いている。

「そうそう。てか、お前。そろそろ降りてもらえるか? さっきから意外に重てぇからよ。さぁ、どいたどいた」

「重い……? 失礼ね! これでもこの世界へ来てから、痩せた方なのよ!」

「ブフォ!?」

 冗談で言った一言をシノンが真に受けてしまい、不意にもまた平手打ちを受けてしまう。一瞬にして態度が変わった瞬間だった。

「おい! 命の恩人に反撃するなよ! そんなに腹立ったのかよ!?」

「当ったり前よ! 女子に重いなんて言葉、不謹慎にも程があるわよ! 一瞬でも見直そうとした私の方が、バカだったわ!」

「そんなに言うんじゃねぇよ! ただの冗談だって受け取れよ、バカヤロー!」

 またも始まった銀時とシノンの言い争い。互いの性格が上手いこと噛み合わず、ついムキになっている。

「ハハ……流石銀時さんですね。全然締まらない」

「モコ?」

 この光景にはシリカも簡単に手が出さず、ほろ苦い笑みを浮かべていた。保護された猫も、戸惑う表情を見せている。

 両者の気持ちが一斉譲らない中、ここで意外な人物が彼らに介入していく。

「おや、旦那方じゃないですかい?」

「ん? えっ、沖田さん!?」

「はっ、お前!?」

 場の空気を読まずに声をかけてきたのは、真選組の沖田総悟であった。土方と同じくして、彼も動物ハンターを探索している。その道中にて、銀時達を見かけてきたようだ。

 沖田は銀時とシノンの口喧嘩に茶々を入れていく。

「いやいや、ここで会うなんて奇遇ですねぇ。というか、どうしたんでい? 昼間からSMごっこですかい?」

「って、違うわよ! 私は銀さんを正したいだけよ!」

「また勘違いされることを……だいたい重いって言葉に、引っ張られすぎなんだよ。おめぇは」

「えっ、旦那。そんな下世話な言葉を使ったんですかい? これは市中引き回しの上に、打ち首は免れやせんよ」

「お前も話に乗っかるなよ! そんなに言っちゃダメなNGワードだったのか!?」

 いまいち全体像を把握していないが、適当に銀時が不利になるような素振りで場を誘導している。特に深くは考えずに、雰囲気だけをかき乱していた。その表情も、薄っすらだがコケにしたような笑いを浮かべている。

 増々立場が危うくなる銀時だったが……彼はここで起死回生の一手に出ていた。

「とにかく落ち着けって。あっ、そうだよ。ここで一旦休憩して、タピオカをおごろうじゃねぇか。気分転換にさ!」

 入場当初から念入りに推されていた、タピオカミルクティーのおごりを提案すると、

「……まぁ、そうね。ちょうど時間的にも頃合いだし」

(よし、機嫌が戻ったぞ! ていうか、ほとんどタピオカでチャラに出来るじゃねぇかよ。ブームが去っても、ご機嫌取りには役立っていんのか?)

すんなりと彼女の怒りは収まっている。改めて十代女子のご機嫌取りに苦戦する銀時であった。

 途端に思いついた休憩に、シリカも忘れぬように自身をアピールしていく。

「って、銀時さん! アタシも忘れないでくださいよ!」

「分かっているから! ちゃんと二人分おごってやるからよ」

 欲しい物をおねだりされる光景は、彼氏と言うよりも兄貴や父親の方がぴったりはまる。そう心の中で想う銀時であった。

 すると沖田が、またも彼らの話に介入していく。

「おや? タピオカ屋をお探しですかい? だったら俺が良い店まで、連れて行ってやりやすよ」

「えっ、本当ですか?」

「ちょうど人気の移動販売車が来ているので、そこまで連れていきやすよ」

 なんと意外にも、沖田自身がお勧めの店を案内してくれるらしい。彼が先導に立ち、銀時達も思わずついていこうとする。

「なんだよ。アイツも気が利くじゃねぇか」

「でも、沖田さんについていって良いのでしょうか?」

「あの人のことだから、何か企んでいる可能性も……」

「そうか? 店を紹介するくらいだから、変なことはしないと思うぜ。いざって時は、逃げ出せばいいだけだ」

「それなら、良いですけど……」

 しかし女子達は、沖田のこれまでの所業から、やや半信半疑であった。どちらも浮かない顔をしているが、銀時の一言により警戒心は薄れたようである。

 保護した猫を二匹抱えながら、銀時達は彼の跡についていった。

「フッ……これは絶好の機会ですねぇ。ちょっとばかり、あの猫耳娘共には陽気となってもらいやしょうか。楽しみですねぇ……」

 ところが――銀時の予想は虚しく、沖田はもちろん邪推なことを企んでいる。彼のポケットには、怪しげな茶色い粉の入った袋が入っていた。その正体はもちろん……アレである。

 一方でその一部始終を、木の影から覗く怪しそうな二人の男達がいた。

「チッ。真選組の輩が来ていたとはな」

「どうしますか、兄貴?」

「上手いこと、やり過ごしておけ! どうやら今ここには、珍しいペットもいるらしいからな」

「ヘイ! 分かりました!」

 彼らの正体は、真選組の追っている動物ハンター達である。真選組の姿を目の当たりにしても、一斉行動を変える気はない。銀時達が猫を追う一方で、彼らもまた身勝手に動物達を狙い続けていた。幸いにも、ソリートの猫達にはまだ気が付いていない様子だが?

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこちらは、沖田が勧めるタピオカ屋の移動販売店近く。無事にお目当てのドリンクを買えて、女子達は上機嫌な気持ちに浸っていた。ちなみに銀時は、あまり乗り気ではない為買ってはいない。

「と言う事で、銀時さん! ゴチになりますね!」

「はいはい、ちゃんと味わって飲めよ。つーか、知らない間に高くなってねぇか? 650円もかかるのかよ?」

「そんなものよ。吉原で売っている値段と、そう大差は無いわ」

「いつから吉原は、原宿系に変わったんだよ?」

 銀時だけはタピオカの値段に不服で、調子は上がらずじまいだったが。女子達はそこまで気にしてはいなかった。

 念願のタピオカミルクティーに、女子達が口を通そうとしたその時。沖田がまたも口出しをしていく。

「あっ、待ってくだせぇ。このミルクティーに一味付け加えると、味が一変しやすよ」

「一味?」

「これのことです。店から持ってきたレモンパウダーですねぇ。一度ご賞味しれくだせぇ」

 彼がポケットから取り出したのは、妙な柄の入った袋だった。その中身は沖田曰く、レモンパウダーと言うが……正直女子達にとっては半信半疑である。

「……まさか沖田さん。変な味とか入れていませんよね?」

「何を疑っているんでい」

「だって、これまでの所業を考えたら……」

 思いつくのは、リーファから事前に聞いている酷い仕打ち。今回も裏があると読んでいたのだが、

「やだな。今回ばかりは、俺もおふざけは一斉入れていやせんよ。だから、素直に信じくだせぇ」

「……本当ですか?」

「ならいいけど」

沖田の堂々としている態度からあっさりと受け入れていた。彼の勧めた通りに、パウダーをまんべんなくミルクティーへ入れていく。

(フフ。引っかかってやんの)

 もちろん沖田は最初から騙す気であり、すんなりと策が通ったことに不敵な笑みを浮かべている。これにて彼の計画は、ほぼ確実なものとなった。

 沖田は表情を戻しつつ、効力が効くまで銀時らとの談笑を続けていく。

「いやーにしても驚きやしたね。いつの間に旦那は、雌猫共を手名付けたんですかい?」

「って、全然違いますよ!」

「銀さんとは、仕方なく一緒に行動しているだけよ。本命はキリト達の方なんだから!」

「そこまで言わなくても良いんじゃねぇのかよ?」

 反射的に否定する女子達の態度に、銀時は意外にもダメージを受けている。パウダーの正体に気が付かないまま、二人はより深々と飲み進めていた。

「まぁまぁ、落ち着いてくだせぇ。でも旦那も一変だけ、黒剣さんと同じ待遇を受けたいとは思わないんですかい?」

「いいや、まったく。女が幾ら増えたところで、責任を追及されるだけだからな。オメェは知らねぇと思うが、こっちはいつぞやの飲み会の時に大変な目にあって……」

「もうそんな御託はいいですよ。旦那の願い通りに、ハーレムを形成させてやりやすから。あの雌猫たちは……フッ、もう面白いことになってやすね」

「お前何を言って――って、まさか!?」

 突然にも不穏な雰囲気を醸し始めた沖田。女子達の様子に変化が訪れたことで、その本性を明るみにしている。銀時もタイミングは遅いが、彼の真意について気が付いていた。

「聞きやしたよ、土方さんから。どうやら雌猫共は、マタタビを体に入れると人が変わったように酔うのだとか。とっても便利な弱点ですねぇ……しかも効力は早いと」

「お、お前……」

「もうお分かりですよねぇ。俺が勧めたのはレモンパウダーじゃなくて……マタタビパウダーでさぁ」

 その通り。彼が持ち出した袋の中身は、猫を酔わせるマタタビをすり潰した粉であった。過去にもシノンは何度もこれに酔っており、その情報を聞いた沖田は、暇つぶしの悪戯用として日頃から持ち出していたのである。

 その犠牲者となったシリカとシノンは、当然の如く酔っていた。

「にゃーん! 銀時しゃ~ん!! 遊びましょうぅー!!」

「私達~急に気分が上がって来たわー!!」

「ど、どうなってんだぁぁぁ! これはぁぁぁ!!」

 銀時が振り返った時にはもう遅い。そこには、真っ赤な顔で出来上がっている女子達がいたのだから。彼の無常なる叫びが園内中に響き渡っていく。

 果たしてこの先、どうなることやら?




 今回は銀さんのテンションの差が激しかったですね。ヘタレからの、ちょっとカッコイイところを見せたと思いきや、やはりグダグダにしてしまう。何とも彼らしいと思います。
 そして最後では、またもマタタビ酔い!? 今回はより波乱を起こしそうです……

 さらに今日は偶然にもシノンとキャサリンの誕生日です。これからも剣魂では、誕生日ネタを積極的に取り入れていきたいですね。現在の話の時系列だと、近くてアスナ、シリカ、キリト、銀時……結構多いです(笑) どう構成しましょうか……?
 ちなみに現在の時系列だと、近藤さんとエリザベスさんは誕生日が過ぎているので、ノーカンです……。

・お知らせ
 現在書いている遊園地篇ですが、次回で完結するかやや怪しいです。予想よりも文体が多くなる可能性があるので、字数の平均から判断して一話構成か二話構成にしようと思います。
 また、新長篇の連載も九月へ先延ばしになります。本当にすいません……
 なるべく早く投稿できるように頑張ります!

次回予告
シリカ「ニャンニャン! 銀時しゃーん、遊びましょう―!」
銀時「おい! いいから目を覚ませよ! こんな場面、モロホンの原作者にでも見つかったりしたら……」
シノン「ねぇねぇ、サンドバックにしてもいい? 銀さんでストレス発散したいようー!」
銀時「誰か―! 助けてくれー!!」

土方「次回は……とりあえず、タイトルは未定だ。って、何やってんだオメェ!?」
銀時「お前の部下が原因なんだよ!!」


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第六十二訓 マタタビの与えすぎには注意しよう

 突然ですが、遊園地篇はもう一話分延びます。予想よりも文体が多かったので……。

前回のおまけ・女子達が酔う直前の会話

シリカ「アレ? 急に意識がぼやけて……って、シノンさんもですか!?」
シノン「シリカ……沖田さんにまんまとやられたわ。あのパウダーは恐らくまたた――」
シリカ「シノンさ――あっ。アタシももう無理……」
 こうして二人は倒れてしまい、起き上がった頃にはまたたびが全身に回ってしまった。

 気付いた時にはもう遅かったんですね。ちなみに設定上は、僅かでも体に入ると泥酔しちゃいます。


 大江戸遊園地には現在、多くの事情を抱える者たちが入場していた。キリト達と猫探しに奔走する銀時、シリカ、シノンの三人。銀時を探しているキリトら万事屋の仲間達。辺りで迷子になっているソリートの父の飼い猫達。

 客に紛れ込む動物ハンターを探す真選組の土方と沖田。そして真選組から逃れる動物ハンターの二人。

 まるで追いかけっこのように、誰かが人探しをしたり、逃げ出したりしていた。

 

 そんな状況下でも、キリトら一行は銀時探しと併行してアトラクションを満喫している。現在はお化け屋敷に挑戦しており、長い時間をかけてようやく出口に辿り着いていた。

「キャャャ!」

「やっとゴールに出たネ!」

 一足先に出てきたのは、アスナと神楽の女子二人。前者は怯えた表情で悲鳴を叫んでおり、後者は生き生きとした表情で屋敷の仕掛けを楽しんでいた。

 出口に着くや否や、神楽はアスナの激しいリアクションに驚いている。

「って、アッスー。そんなに怖かったアルか? 結構安い作りだったアルよ」

「それでもこういう類は苦手なのよ!! 私は待つって言ったのに……」

「いやいや、大袈裟ネ」

「私にはどうしても受け入れられないの!」

 彼女曰く、仕掛けの出来は関係無い。オカルト系には敏感に反応しており、誰よりも恐怖に圧倒されたという。あまり仲間には見せたことが無い臆病さに、神楽も驚きを隠せていなかった。

 すると仲間達も屋敷から出てきて、二人の会話に入っていく。

「ママはいつまで経っても、幽霊に抵抗心がありますね」

「この時だけは、普段よりも子供っぽく見えるけどな」

「って、キリト君にユイちゃんもおちょくらないでよ!!」

 ユイやキリトも彼女の弱点を知っており、それを踏まえた上で煽っているように見える。これにはアスナも、タジタジになって困り果てていた。

 神楽らにもバレてしまった弱点。これに新八は、とある人物と照らし合わせている。

「でも幽霊が苦手なら、銀さんも同じですよ」

「えっ、そうなの!?」

「はい。怪談の時でも耳を塞いだり、異様に自分のビビリを隠したりしていますよ」

 それは同じくオカルト系が嫌いな銀時であった。アスナが恐怖におののく様子から、彼の姿を思い起こしている。(その本人もお化け屋敷に入って、シリカやシノンの前で情けない姿を見せたのだが……この時の万事屋は事情を知らない)

 少しでも元気づけようとしたが、むしろ逆効果であった。

「私って、銀さんと同じ苦手意識を持っているんだ……」

「いや、ショックを受けるのそこですか!?」

 銀時の弱点と同類だと分かって別のショックを受けている。物怖じする性格だけは彼に知らせないでおこう。そう心に誓ったアスナだったが、

「あっ、そうアル! 銀ちゃんと合流したら、アッスーも連れてもう一回お化け屋敷に入ってみるネ!」

「おっ! その考えは良いかもな!」

「ママや銀時さんが一緒に驚く姿も見てみたいですね!」

「だからー! みんなで私を追い詰めないでって!!」

意向に反して仲間達は、良からぬ提案ばかり思いついている。無情にも銀時とアスナを同時にお化け屋敷へ放り込んで、反応を見てみたいらしい。彼らの悪ふざけはまだまだ続くようである。

 賑やかな雰囲気で一行が話を続けていると、ある知り合いと遭遇していた。

「ん? なんだよ、オメェらじゃねぇか」

「あっ、土方さん?」

 その正体は、動物ハンターの捜索を続ける土方十四郎である。手には真っ黄色なソフトクリームを持ち、随時食べながら一行へ近づいてきた。

「おぉ、トシネ! お前も遊園地に来ていたアルか?」

「馴れ馴れしくすんな。つーか、そんなに距離感近く無かっただろ」

「それより土方さんも、遊園地へ遊びに来ていたんですか?」

「遊び? 違ぇよ。ただのパトロールだ」

「へぇー。そうアルか」

 神楽や新八は慣れた様子で、遠慮なく話しかけていく。少なくとも仕事の関係で、来ていることが明かされていた。

 だが一方で、アスナは例の件が聞かれてないか心配になっている。

「ま、まさか土方さん。私のあの話、聞いていた?」

「あの話? 何のことだかさっぱりだな。一体何だよ?」

「いいや、何でもないわ! 大したことじゃないから!」

 気になって聞いてみたが、特に目立った反応は無かった。物怖じする性格が知られずに、まずは安心している。

「あっ、アッスーのビビ――」

「神楽ちゃん……!!」

「いや、なんでもないネ」

 余計な一言を発した神楽だったが、アスナからの威圧で口を止めてしまう。彼女の覇気に溢れる姿勢から、つい怯んでしまった。

(ひとまず大丈夫ね。もし土方さんに知られたら、沖田さんにも伝わってめんどくさいことになりそうだから……)

 必死に自分のメンツを守るアスナだったが……実を言うと土方は、先ほどの話の一部は聞いている。

(本当は聞こえていたんだが……俺も人のことを言えねぇからな)

 自分も物怖じする性格なので、あえて深くは追及していない。さり気ない優しさを見せていた。

 一方でユイは、土方が口にしているソフトクリームが気になっている。

「そういえば、土方さん。さっきから何味のソフトクリームを食べているんですか?」

「あぁ、これか? オープンカー限定で売っていたマヨネーズ味だよ。牛乳の代わりにマヨネーズが入っていてな。結構おいしいぞ」

 その正体はやっぱり一味違った。マヨネーズ好きの彼にはぴったりのソフトクリームである。見た目は彼の言う通り、ほとんどマヨネーズで構成されていた。

「牛乳の代わりにマヨネーズって……」

「ほぼ本物では……?」

「オメェらも食うか? 案内してやるよ」

「いいえ、結構です!!」

「土方さんだけで楽しんでください!!」

 土方のマヨネーズ好きは初対面から知っているが、やはり何度見ても受け入れられない。久しぶりにキリトやアスナは、心からドン引きしていた。

 同じくユイも苦笑いを浮かべる中で、ふと視線を外すとある生物を見つけている。

「おや? あの生物は……」

 近くの木々から発見したのは、銀時らが探している宇宙猫の一匹だった。

「どうしたアルか、ユイ」

「いや、なんでもないですよ」

 しかし、事情を知らないユイは特に気にしてはいない。誰かの入場者のペットだと解釈していた。

 一方で話題はさらに変わって、土方が出会った銀時について挙がっている。

「てか、お前等。アイツともう合流したんじゃねぇのか?」

「アイツって……銀さんのことか?」

「そうだな。どういう訳か知らんが、猫耳娘共と一緒に探していたみたいだぞ」

「猫耳娘? シリカちゃんとシノノンのことかしら?」

「って、もう入場していたアルか?」

 ここでキリト達はようやく、銀時がすでに入場している事実を知らされていた。彼と同じくして、シリカやシノンも来ているようだが……。

 より詳しい情報を聞き出そうとした――その時だった。

「ど、どうなってんだぁぁぁ! これはぁぁぁ!!」

 突然にも聞こえてきたのは、聞き覚えのある情けない声。万事屋一行はもちろん、すぐに声の主を理解している。

「今の声って……」

「銀時さんの声っぽかったですよね!」

 特徴のある響きから、すぐに銀時だと理解していた。大声でツッコミをしているようで、増々彼の行方が気になってしまう。

「近くにいるのか? 行ってみようか」

「そうネ! トシもついでに来るアルよ!」

「はぁ? 俺はいい――って、オイ!? 勝手に掴むなよ! 離しやがれ!!」

 そしてキリト達は揃って、声の聞こえてきた広場方面まで走り始めている。神楽は道連れとして、近くにいた土方を連れだした。彼の意志とは関係なく、手を掴んでそのまま引きづっている。

 ようやく動き出した銀時との再会。シリカやシノンを連れた彼の身に何が起きたのか? 仲間達は動向が気になって仕方無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして銀時らは、現在とんでもない事態が起きている。

「ねぇねぇ、銀しゃん! 私達のことを構ってよ~!!」

「猫じゃらしとかで、遊んでほしいにゃ~ん!!」

 そう。シリカとシノンがマタタビで泥酔したのだ。共に赤い表情となり、普段よりも型を外した陽気さを見せつけている。緩めた目つきで甘えており、さながら子供っぽさを彷彿とさせていた。

 この要因を作り出したのは、予めマタタビを仕込んでいた沖田総悟である。上手い事作戦が進み、彼は邪悪な笑みを浮かべていた。

「お、沖田君……これはどういうことだ?」

「何ィ、ただの遊び心でさぁ。俺も一回だけ、猫耳娘共が酔う姿を見てみたかったんでねぇ。

まぁ、こんなもんなんですか。そんじゃ、満足したんで後は旦那に任せやすよ」

「おい、待てこらぁ!! 勝手に逃げ去るんじゃねぇよ!! せめてこいつらを、元に戻してから帰れや!!」

 混沌とした光景に満足したのか、沖田は彼女達を元に戻さず、そのまま場を立ち去ろうとしている。もちろん銀時は到底納得がいかず、彼の跡を追いかけようとしたが……

「ウヘヘ! 逃がしませんよぉ~銀時しゃ~ん!!」

「私達を置いていかないでよ~!!」

「離せ、オメェら!! アイツを逃がすわけにはいけねぇんだよ!!」

シリカら二人が両手を強く掴んでおり、体を動かすこともままならない。意外な障壁に苦戦を強いられている。

(ちなみに保護した猫達は、現在銀時の懐の中で眠りに着いている。幸いにも、マタタビに影響されていなかった)

 酔い続けるシノン達に、たった一人で対抗する銀時。宥めながら彼は、必死に打開策を模索している。すると、ある考えが閃いていた。

「あっ、そうだ! こういう時は甘いモノだ! 飴玉とか与えれば、すぐにでも覚ましてくれて――って、アレ? 無い!?」

 過去の経験から、甘味を与えて酔いを覚まそうと考えている。ポケットに所持しているはずの菓子類を探ったが……何故かどこにも見当たらない。

「ま、まさか……」

 咄嗟に嫌な予感を察して、沖田の方に目を向けてみる。視線に気付いた本人が後ろへ振り返ると、彼はあるモノをちらつかせていく。

「こいつは証拠品として押収しときやしたよ。時期が来たら、返しておきやすね」

 それは銀時の所持していた菓子類だった。対処法もすでに土方から聞いており、分かった上で盗み出している。

 その表情も嘲笑うように銀時を見下していた。完璧に沖田の悪戯に翻弄されている。

「じゃあな」

「おい、ドS!! 何これ見よがしに見せつけているんだぁ!! 立派な窃盗罪じゃねぇかよ!!」

 銀時の激しいツッコミなど無視して、沖田は口笛を吹きながら、本当に去ってしまった。泥酔する女子達の対処は、全て彼へと丸投げしている。

「ねぇねぇ、銀時しゃーん。アタシ達の遊び相手になってよー!」

「はぁ!? 遊び相手!?」

「うんうん! 爪で銀さんのこと、滅茶苦茶にしても良いのね!?」

「駄目に決まっているだろ!! テメェら酔いながら、何とんでもねぇ遊びを提案してんだよ!!」

 子供のようなキラキラとした目つきで、さらっととんでもないことを発する二人。銀時を遊び相手にしたい様子だが、発想が斜め上を行き過ぎていた。

 普段とは違い、これが本音か冗談なのかも分からない。銀時自身も勢いを抑え込むのに精一杯で、ツッコミをする度に疲れを感じていた。

(おいおい、不味いぞ。早く止めねぇと、こいつらだけじゃなくSAOのファンからもボコボコにされるぞ! それだけは避けなくては……!!)

 内心では、熱狂的なファンからの苦情にも怯える始末である。不安と焦りが生じる中で、彼は意地でも行動に移そうとしていた。

(とにかく、近い店から甘いモノを探さねぇと。こんな光景をアスナにでも見られたら……それこそ俺のメンツが壊れる! 早く動け――)

 二人の酔いが覚めるのを優先して、近くで甘味が売っていないか見回している。ちょうどぴったりの店を見つけた時だった。

(よし、あの店なら――)

「こっちから銀時さんの声がしました!」

「ありがとうアル、ユイ! みんなー! こっちへ!!」

「分かったよ!」

(ゲッ!? アイツらかよ!?)

 タイミングが悪く、キリトら一行が近くまで迫っている。もし鉢合わせしようものなら、事態がややこしくなることは想像に難くなかった。

「アレェ……今キリトしゃんの声がしたような?」

「近くまでいるのかなぁ~?」

「ち、ちげーてって! お前等! ただの幻聴だ! とりあえず、こっちへ来い!」

「ぎ、銀しゃん!?」

 薄っすらと声に気付く女子達を誤魔化すと、銀時は彼女達をつれて近くの林まで隠れていた。もちろん自分の身も隠して、茂みの中からキリト達の様子を見ている。

「アレ? さっきまで、銀時さんの声がしたのですが……」

「もしかして、別の場所に行ったのかな?」

「アイツのことだ。まだその辺の近くにいるんだろ?」

 一方で広場に来た土方やキリトらは、早速周りを見渡していた。近くに銀時がいないか、まんべんなく探索している。場を去る気配もなく、見つかるのは時間と運の問題だろう。

「って、なんであいつまでいるんだ……? しかも余計なことを言いやがって」

 彼は意地でも見つからないよう、静かに祈り続けている。土方までいることは、若干不満げであったが。

 銀時のみが緊迫した雰囲気に浸る一方、女子達は能天気にも彼を構い続けている。

「ねぇねぇ、誰がいるんですか~?」

「もしかしてぇ、やっぱりキリトとか?」

「後で教えるから、今は離れて静かにしてろ」

「「はぁ~い」」

 気配を悟らないように、銀時は小声のまま注意を加えていた。この言いつけが効いたのか、女子達は体を丸くして、しばらくの間は静かにしている。

 窮地をやり過ごす銀時だったが、その背後では新たなる脅威が近づいていた。

「モコ……」

「へへ! やしましたね、兄貴! 希少な宇宙猫ゲットですよ!」

「まさか潜伏先で見つかるとはな……このまま脱出して、適当な星へ逃げ込むか!」

「そうしましょう! あわゆくば、もう一匹捕まえたいところだぜ」

 それは同じく気配を潜めていた動物ハンター達である。両者共に軍服のような迷彩服を着ており、顔はヘルメットや季節外れのマフラーで覆われていた。

 そんな彼らは、偶然にも迷子の宇宙猫を一匹だけ捕獲している。猫本人は嫌がっており、口元を無理やり取り押さえられていた。

 現在は遊園地から逃げ出そうとしたが……その道中にて、体を丸めるシリカやシノンの後ろ姿を発見している。

「おっ! この尻尾は、まさか同類か!」

「おい、待て! そいつはこの宇宙猫とは違うぞ!」

 リーダーらしき男が警告したものの、もう一方の男は歩みを止めない。後先を考えずに、女子達の尻尾を力強く掴んでしまった。

「「ニャ!?」」

「あっ」

 彼が正体を分かった時にはもう遅い。

「何すんのにょ!! おじしゃん達!!」

「アンタらには遊びたくないにょよ! ゴラァァ!!」

「ギャャャ!!」

 反撃と言わんばかりに、爪を立てた二人に顔面を引っかかれてしまう。吹き飛ばされると同時に、捕獲していた宇宙猫も手放してしまった。

「おい、逃げるぞ! こいつらヤベェ!」

「あー!! 折角の宇宙猫が!!」

 場が悪いと判断した動物ハンター達は、猫に構うことなく逃げ出している。女子達の野性的な衝動に、つい心を怯ませてしまった。

 彼らが逃亡した途端、銀時もようやくこの騒ぎに気が付いている。

「って、おいどうした! 一体何があった!?」

 問いかけると、女子達は酔ったまま返答していく。

「急に汚いおじしゃん達が、アタシ達の尻尾を掴んだのー!!」

「本当しゃい悪! キリトや銀しゃんの方がまだマシだわ!!」

「いや、俺でもマシな方なのかよ」

 どうやら知らない内に、見知らぬおっさんがセクハラして、自身で撃退したようである。説明を聞いてもさっぱり分からないが、怒りの感情だけは伝わっていた。

 静かに彼女達を宥める銀時が、足元を確認してみると、

「って、猫も増えているじゃねぇか!? どういう訳か知らんが、三匹目もゲットだな」

迷子の宇宙猫を発見している。ハンター達が捕獲したことは知らず、偶然林に紛れ込んだものだと予測していた。これにて、残りの迷子猫は後二匹となっている。

「さて。アイツらはもういなくなったか――」

 しっかりと保護した後に、銀時は後ろを振り返った。仲間達が去ったことに期待したが、

「ぎ、銀さん?」

「あっ」

先ほど起きた騒動によって隠れていた場所がバレている。首を傾げているキリトと、視線が合わさってしまう。

「やっぱり近くにいましたよ!」

「銀ちゃん、今までどこ行っていたアルか!?」

「てか、シリカさんとシノンさんもいるじゃないですか。三人で行動していたんですか?」

 彼に続いて、ユイや新八ら仲間達も集まってくる。数時間ぶりの再会に聞きたいことは山ほどあるが、ひとまずはシリカとシノンの行動理由について聞いていく。

 すると……女子達は誤解されるようなことを言い始めてきた。

「その通りです~! 一緒に猫探ししている内に、気分がハイなんですよぉー! アタシ達!」

「銀しゃんがタピオカをおごってから、ずっとこの調子なのよねぇー!」

「おい、オメェら止めろ! 誤解されるようなことを言うんじゃねぇ!!」

 緩んだ口調で説明したが、肝心の部分(沖田の悪戯)は抜けている。その陽気な風貌から、キリトら側も女子達の酔い具合を理解していた。

 この証言により、誤った捉え方をしてしまったのは――もちろんアスナである。

「へぇー銀さん。もしかして二人に、マタタビを与えちゃったのかな……?」

「って、アスナ!? 何レイピア抜こうとしているんだよ!? これには深い訳があってだな……!!」

 彼女は有無を言わさずに、帯刀しているレイピアに手をかけていた。表情も怒りに満ちた笑顔となり、女子達を酔わせた犯人を銀時だと決めている。

 最悪の予測が当たった彼は、どうにか怒りを抑えようと抵抗していた。

「って、土方! オメェの部下の責任だからな! 俺の代わりに、あのヤンデレ風味の鬼嫁を止めろ!!」

「いや、何で俺だよ!? 原因作ったのは、オメェじゃねえのか?」

 近くにいた土方へ助けを求めるも、まともに取り合ってもらえない。何よりも沖田の一件を知らない為、銀時の主張すら分かっていなかった。

 この余計な一言が、アスナの怒りをより高めてしまう。

「誰が鬼嫁ですって……!!」

「いや、違う! これは言葉の綾で、本当は頼もしいという意味で――」

「問答無用よ!! 恥を知りなさい!!」

「や、やめろ!! ギャャャャャ!!」

 結局は彼女を止められずに、文字通りの制裁を受けてしまった。銀時には死なない程度の、レイピアの攻撃が与えられている。この光景に仲間達は、ただただ複雑な表情で見守り続けるしかない。シリカとシノンを覗いては。

「アレェ~? 銀時しゃんが怒られていますよ?」

「何か悪いことでも言ったのかしら~?」

「……いや、オメェらが誤解を与えたせいだよ」

 今日は踏んだり蹴ったりと、悲惨な目に会うことが多い銀時だった。

 

 

 

 

 

 

 そして時は経ち、互いに落ち着いたところで一行は、ベンチに座ってこれまでの経緯を説明していた。

 万事屋側は遊園地を楽しみながら、銀時を探していたようである。一方の銀時側は、遅れて向かう道中にシリカやシノンと遭遇。共に向かうことになり、万事屋を探しつつ友人からの依頼で猫探しも行っていたという。

「なるほどです。つまりシリカさんとシノンさんが遊園地へ誘いに来て、途中まで一緒に行動していたと」

「そして友人のペット探しで、この宇宙猫達を探していたのか」

「「「モコ―!」」」

 話を聞きつつユイやキリトが頷くと、目覚めた猫達も共感するように飛び上がる。引っかかっていた部分や、互いの身に起こったことが明かされていた。

 大まかな説明を交わした後に、銀時は再度大事なことを主張していく。

「その通りだよ。後予め言っておくが、マタタビを入れたのは俺じゃねぇからな。沖田総悟だからな!」

「まさか知らない内にやっていたとはな……」

 女子達が酔った原因である。土方自身も沖田が真犯人と分からず、控え目に驚いていた。

 すると銀時は、水を得た魚の如く彼を責め立てていく。

「部下の失態は上司の責任だからな。という訳で土方。俺の代わりに、あの店でソフトクリームを買って来いよ。もちろんお前の金だがな!」

「はぁ、ふざけんな! ただたかりたいだけだろうが! そもそも目の前にあるんだから、お前一人で買って来いよ!」

「それが出来ねぇから言っているんだろ! こいつらがさっきから腕を掴んで、離れねぇんだよ!!」

 連帯責任を持ちかけて、パシリのように扱おうとしていた。もちろん本人は拒否しており、激しく声を荒げている。彼に頼みたいほど、銀時はまだ手が離せない状況なのだ。

「ねぇねぇ、いつになったら遊んでくれるの~? 早く引っかかせてよー!」

「キリト達もいるんだし、揃って私達をもてなしてよ~!!」

「あぁ、分かったから! とりあえず、お前等は元に戻れ! いい加減に手も離せ!!」

 未だに女子達は酔いが収まらず、むしろ時間が経つ度に甘えまくっている。銀時の両手を一斉離さず、無邪気にも遊びのおねだりをしていく。

 増々悪化する状況に、仲間達も思ったことを呟いていく。

「まるっきり子供になっているアル」

「シノンは前に見てから分かるけど、シリカも同じように酔うんだな」

「普段よりもさらに明るく、無邪気そうに見えます!」

「二人共酔うなんて、銀さんが可哀そうな気が……」

「お前等も、口だけ言ってないで早く助けろや!」

 酔い続ける姿に興味を持つ者や、銀時への同情を浮かべる者など、その反応は様々である。

 いずれにしても手が離せない銀時だが、ここで状況を見かねたアスナが助け船を出してきた。

「分かったわよ。さっきは間違って攻撃しちゃったし、お詫びに私が買って来てあげるわ」

「本当か、アスナ!? 流石は嫁にしたいアニメキャラ一位だぜ!」

「すぐ調子に乗るんだから……ていうか、その一位って何?」

「いやいや、気にするな。早く行ってきてくれ、頼む!」

「そんなに焦らないでよね」

 誤解から攻撃したお詫びとして、彼女自らが購入に向かっている。さり気無い優しさには、銀時も調子に乗って心から感謝していた。

 彼女が退席した後に、神楽はこっそりとアスナの想いを打ち明かしていく。

「銀ちゃん! ああ見えてもアッスーって、出発した時から銀ちゃんのことを心配していたアルよ」

「俺のことをか?」

「そうネ! 入場してからも、ずっと心待ちにしていたネ!」

「……そんなことがあったのか」

 道中でも、銀時との合流を待ち望んでいたことが明かされている。神楽のたわいない笑顔と共に、彼もまたつられるように微笑んでいた。何度衝突しようとも、アスナを仲間の一人として改めている。

 そう優しい気持ちに浸っていた時、ようやく彼女は多数のソフトクリームを持ってきてくれた。

「はーい、買ってきたわよ。みんなの分も買ってきたから、好きな味を選んでちょうだい」

「おぉー、有り難いネ! アッスー!」

「早速いただきますね!」

 シリカらの分のみならず、仲間の分まで用意している。すかさず一行は好きな味を選び、ゆったりとした雰囲気で休憩に入っていた。

「ほら、甘いモンだぞ。さっさと戻りやがれ」

 もちろん本命はシリカとシノンの酔いを覚ますことで、銀時は上手く食べさせて、手っ取り早く戻そうとしている。

 すると、一分も経たないうちに効果は表れていた。

「……アレ? ここは?」

「私達、今まで何をして……」

 緩んでいた目つきや表情は締まっていき、徐々に冷静さを戻している。彼女達はようやく、マタタビの呪縛から解放されていた。万事屋一行も、これには一安心している。

「ようやく戻ったか。沖田にマタタビを飲まされたことは覚えているか?」

「あっ、そうですよ! 気づいた時にはもう意識が無くて……」

「その間、ずっと酔っていたってこと?」

「だな。まぁ紆余曲折はあったが、ひとまず飼い猫も保護して、残すは後二匹になったよ」

 女子達も少しずつ、自身の身に起きたことを思い出していた。銀時が適宜補足を入れつつ、泥酔中の出来事を説明している。まずは猫の保護について伝えていた。

「「「モコ―!!」」」

 酔いの戻った女子達を喜ぶように、宇宙猫達もぴょんぴょんと跳ねて、嬉しい気持ちを露わにしている。幸せそうな姿を見ると、女子達も心を落ち着かせていた。

「あー、良かったです。全員保護するのも、近づいてきましたね!」

「後はキリト達との合流ね。かろうじて、酔っている姿を見られなくて安心したわ」

「あの、そのことなんだが……」

「ん? どうしたんですか、銀時さん?」

 とここまでは良いが、最大の難所が訪れてしまう。シリカやシノンはまだキリトらの存在に気付かず、あの事実についても知らされていない。どんなに言葉で繕っても、誤魔化すことはもう出来ないのである。

「やぁ……久しぶり。二人共……」

「「えっ!?」」

 聞き馴染みのある声が聞こえて、二人が前を向くと――そこにはソフトクリームを食べ進めるキリトや仲間達の姿があった。周りからの微妙な視線から、女子達は徐々に真実へと察していく。

「キ、キリトさん!? それに皆さんまで!?」

「も、もしかして……私達の泥酔した姿……見てた?」

「うん。しっかりと見たわよ」

「シッリーもシノも、子供っぽくて可愛かったアルよ!」

「とても、子供らしかったです……」

 アスナやユイらの返しに、両者共に猫耳を疑ってしまう。自分では無意識だったが、どうやら自身の泥酔姿をすでに見られたようである。

 途端に二人は恥ずかしさを覚えてしまい、頭の中も急に真っ白になっていた。強いショックが体中を駆け巡り、思考が完全に停止すると……

「「グハァ!?」」

青ざめた表情となって机に顔をうずめている。銀時の予想よりも遥かに大きい、精神的ダメージを受けてしまった。

「おぃぃぃ、なんで項垂れてんだよ!? そんなにショックだったのか!? つーか、シノンは三回目じゃねぇか! 何を今更、引きづってんだよ!!」

 あまりの変わり様に、銀時も思わず激しいツッコミを繰り出す。言いたいことを全て吐き出すと、女子達は気の抜けた表情で後悔を垂れ流している。

「こんな醜態を、キリトさんやアスナさんに見られたなんて……もうお嫁にいけないです……!」

「公の場で酔うなんて初めてだもの……穴があったら入りたいわ……」

「さっきまでのテンションどこ行った!? ちょうどよい調整出来ねぇのか、オメェらはよう!! ていうか、さっさとソフトクリームを食え! 溶けるぞ!!」

 泥酔時の高いテンションとは、まるで態度が一変していた。悲壮感を漂わせながら、計り知れない絶望を味わっている。食欲などとっくに失われており、手にしたソフトクリームは溶け始めてもなお興味が向いていない。

 そんな彼女達を、銀時は激しくツッコミ続けている。彼の苦労が垣間見える場面に、万事屋の仲間達も次々に呟いていた。

「今日の銀ちゃんはツッコミが冴えているアルナ」

「色々と巻き込まれて、仕方のない気がするけど……」

 銀時に肩入れする新八や神楽に、

「別に酔っている姿も問題ないと思うけどな」

「いや、キリト君。必ずしも、そういう問題じゃないのよ」

鈍感らしいことを呟くキリトとそれに注意するアスナ。ソフトクリームを食べ合いながら、多様な感想が出てきていた。いずれにしても、女子達との温度差は広がるばかりであるが。

 そして土方の方は、ソフトクリームを食べ終えてハンターの捜索に戻ろうとしていた。

「俺の出る幕はもう無さそうだな。ここら辺で引き上げるか……って、どうした?」

 だがしかし、彼はユイの考える姿が目に止まっている。実は彼女は、銀時らが保護した宇宙猫を見て、あることがずっと頭に引っかかっていた。

「あの猫って、もしかして……」

「猫?」

「やっぱり同じでしょうか! ちょっとすいません! さっきのお化け屋敷まで見てみます!」

 どうしても気がかりだったユイは、好奇心のままに単身で場を離れている。数分前に見た生物が気になり、居ても立っても居られなかった。

「えっ、ユイちゃん!?」

「一人で行くのは危ないアルよ!」

 飛び出したユイに気が付き、新八や神楽も彼女の跡を咄嗟に追いかけていく。さらにキリトやアスナも、その跡を追いかけようとしていた。

「ユ、ユイちゃんが飛び出しちゃった?」

「猫の方に興味が向いたのか? とりあえず、俺達も追いかけよう!」

「そうね! でも、その前に……」

「あっ、そうだな」

 と出発する前に、まずは落ち込んでいるシリカやシノンに、友人らしい励ましの言葉をかけることにする。

「ねぇ、二人共。そんなに落ち込まないでよ。誰だって恥ずかしいところを、仲間に見られることだってあるのよ(さっきのお化け屋敷みたいに……)」

 アスナは数分前の自分と照らし合わせて、

「そうそう。それに落ち込むほど、二人の酔った姿は悪く無かったよ。むしろ陽気で子供っぽい方も可愛いって思ったし」

((か、可愛い!?))

キリトは無意識にも立ち直りそうな一言をかけていた。このさり気ない言葉が、彼女達の心にある変化をもたらしている。

「じゃ、銀さんに土方さん。後は任せていいかしら?」

「おう、良いぜ。もしユイが猫を見つけたら、この広場に戻って来いよ」

「あぁ、分かっているよ。それじゃ、また後で!!」

 後のことは銀時へと一任して、再び万事屋は分かれて行動していた。ほぼ成り行きだが、キリトらも猫探しに協力するようである。

 約束を交わしてキリトらが一時的に去ると、場に残ったのは銀時、シリカ、シノン、土方の四人だった。土方だけは巻き込まれ気味であるが。

「なんで俺まで含まれてんだよ」

「別に良いじゃねぇかよ。旅は道連れ、世は情けって言うだろ」

「お前、その意味を分かって言っているのか?」

 場が静まり返ってもなお、二人の屈託のない会話は続いている。それから銀時は、未だに項垂れてそうな女子達に声をかけてきた。

「どうだ、お前等? いい加減後悔も薄れただろ? そろそろ普段通りに戻って――」

 軽い感覚で接した――その刹那である。

「「やったぁぁぁ!!」」

「はぁ!?」

「えっ?」

 何と女子達は吹っ切れたように、突然大声を上げてきた。拳を強く握りしめて、共にガットポーズで高らかに喜びを表現している。

 またも態度が一変した要因には、キリトの励ましの言葉が関係していた。

「やりましたよ、シノンさん! キリトさんが酔った姿も可愛いって!!」

「これは嬉しい誤算ね! いざという時は、マタタビで酔って誘惑すればいいのよ!」

「ケットシーならではの利点ですね! これだったらキリトさんにも、新しい魅力が伝わります!」

「上手く体をコントロールして、意識を維持できるようにしましょう!」

「はいです!」

 そう、可愛いという言葉だけで泥酔した印象を一新している。良くも悪くもキリトの言葉を真に受けており、恥ずかしい感情はとっくに無くなっていた。今は酔った姿で魅力を伝えられるかで、話が持ちきりになっている。表情からも喜びに浸り、もう勢いは誰にも止められなかった。

「おい、ちょっと待てぇぇぇぇ!! アレこそただの慰めじゃねぇか! 何本気で間に受けているんだよ!! 図々しいにもほどがあるわ!!」

 当然銀時は、この展開にツッコミを入れ続けるしかない。女子達の態度の一変、キリトの言葉を素直に信じ込む性格と言った点が、気になって仕方ないのである。

 彼のみならず、土方にも思う節があるようだ。

「酒を覚えた女子大生みたいなやり方だな。末恐ろしい奴め」

「テメェも冷静に分析してないで、激しくツッコめや! こいつら勘違いして、ずれた思考になってんだぞ!」

 楽観的な視点から、冷静な佇まいで分析している。それでも銀時のツッコミが収まる気配は無いが……。さらに女子達は、銀時にあるアドバイスを貰おうとしていた。

「早速ですが銀時さん! 泥酔した時の対処法を教えてください!」

「どうやって、酔った体をコントロールするのかしら!?」

「興味深く聞くんじゃねぇよ! オメェら未成年なのに、読者に誤解されるようなことを言うな!! マタタビを自発的に食う猫耳キャラがどの世界にいるよ!?」

「お願いします! 今後のアタシ達の戦略が懸かっているんです!」

「知るかコノヤロー! いいから落ち着け!!」

 泥酔した時の対処法を、彼に直接聞く始末である。酔うまでの過程は異なるが、やはり大人としての意見が聞きたいのだろう。もちろん銀時は返答するはずがなく、感情の赴くままに激しいツッコミを続けている。ボケとツッコミが逆転する珍しい光景であった。

「フッ。こりゃ長くかかりそうだな」

 それでも賑やかな雰囲気に変わることは無く、土方はそっと微笑みを浮かべている。活気のある会話につい共感していた。

 彼はこの空いた時間を利用して、しばらく加えていなかった煙草に火を付けている。口元から煙を吐いて、一服の一時を過ごしていた。

 

 

 

 

 その一方で、シリカらから逃げ出したハンター達は、再度態勢を立て直している。

「チッ! 折角の獲物を手放してしまったぜ」

「あの猫耳天人、許せないっすね! チョイとお仕置きでもしますか!?」

「あぁ、そうだな。ここは並行してやろうじゃねぇか。お前は事前に仕掛けておいた林の方に向かえ。ここからは単独行動とする」

「承知しました!」

 彼らも同じく分かれて行動しており、互いに違う目的地へと向かっていた。取り逃した猫の再捕獲と、猫耳女子達の逆襲を誓っているが……?

「何としても、あの猫だけは捕まえてやる……!」

 いよいよ全てに決着が着くのか?




余談
 最近思ったのですが、SAOのキャラも銀魂らしいボケをするようになりましたね。昔の流れだと、必ずツッコミ役として役割を固定していましたが、条件が揃うとボケ役もこなすようになっていきました。
今回の件で勘違いしているシリカやシノンや、ユイのことであらぬ不安を掻き立てるキリトやアスナ。トンキーホーテのマスコットで誤った影響を受けたリーファなど、少しずつですが彼らの役割も増えたように感じます。
 それでも過剰にはせずに、微妙な匙加減が重要だと思います。機会があれば、ボケとツッコミが逆転するような話も作りたいですね。





 そして次回! 散々伸ばしましたが、遊園地篇の最後を送ります。残りの猫は見つけられるのか! 動物ハンターはどうなるのか! 是非ご覧ください。





次回予告
シリカ「酔う事の大切さを、この話で学ぶことが出来ました!」
シノン「一歩大人になった感覚よね。そうと決まれば、今からマタタビに慣れる必要があるわ!」
シリカ「もちろんです! だから銀時さん、酔いの操り方を教えてください!!」
銀時「だーかーら! 真に受けるんじゃねぇよ!!」
土方「次回、デタラメな男ほど、たまには役に立つ……って、タイトルこれで合っているのかよ?」


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第六十三訓 デタラメな男ほど、たまには役に立つ

 本来は二話で終わるはずだった遊園地篇。事前の予定よりも書きたい事が増えてしまい、またも話数がオーバーしてしまいました。ようやく完結を迎えます。
 そして最後には、今後の投稿予定についてもお知らせします。見逃さずにご覧ください。



 遂に念願の合流を果たした銀時達とキリト達。前者に課せられた猫探しも、いよいよ佳境を迎えている。残る二匹の宇宙猫を発見するために、仲間達もどさくさに紛れて協力をしていた。

 

 その最中で、単独行動を続けるのは沖田総悟。シリカらをマタタビで弄んだ後、彼は遊園地内にある乗り物の貸し出し場に辿り着いている。

「おい、おっちゃん。ここにあるゴーカートを借りて良いですかい?」

「あぁ、好きにしな。ただし三十分後には返せよ」

「へーい」

 管理人らしき男性に許可を取ると、彼は停車していた小型のゴーカートに乗車した。

「さて。ハンターと土方さんを探しに行きやすかね」

 そう呟くと沖田は、早速アクセルを入れてゴーカートを走らせていく。乗車したまま遊園地を巡り、気ままにハンターや土方等を探索するそうだ。緊張感は無く、普通に楽しんでいるようにも見えるが……。

 そんな彼の姿を、背後の柱からこっそりと眺める者がいる。

「ほぉー。これは使えるかもしれんな……」

 その正体は、未だに逃亡を続ける動物ハンターの一人だ。指示を与えた側で、身分は相方よりも高いと思われる。

 ゴーカートの存在を認知した彼は、ふと良からぬ作戦を閃いていた。

「エンジンを多少いじれば、強奪も可能だな」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべた後に、彼はすぐに行動へと移している。

 

 

 

 

 

 

「えっと、ここなのですが」

「この木々の中から発見したアルか?」

「もちろんです! しっかりとこの目で見ましたから!」

 一方でこちらは、銀時達と行動を分担しているキリトら五人。先に走っていたユイと合流した彼らは、彼女の証言を頼りにして、お化け屋敷近くの木々に入っていく。周りをまんべんなく見渡しながら、丸っこい体をした宇宙猫を探索している。

「この辺りのはずですが……」

「もしかしたら、まだ近くにいるかもしれませんね」

「隅々まで探しましょうか!」

 行動範囲を予測した上で、仲間達は互いの雰囲気につられて勢いよく走り出していた。

「って、みんな! そんなに急がなくても」

「いやいや、キリ! ここは急いで探した方がいいネ!」

「そうよ、キリト君!」

「……そう言われてもな」

 キリトが声をかけても、四人はまったく足を止めない。彼はやれやれと思いつつ、マイペースにゆっくりとついてきていた。

 だが――この行動は後の命運を大きく分けてしまう。

「あっ! 避けてください! 皆さん!」

「あい? って、ウワァァァ!!」

「キャャャ!?」

「えっ、みんな!?」

 咄嗟にある仕掛けに気付いたユイが、仲間に呼びかけたものの時すでに遅い。草木に仕込んでいた網が露わとなり、ユイ、神楽、アスナ、新八の四人を捕らえて、木々に吊るしてしまった。

 運良くキリトだけが、この事態を上手く回避している。

「網が隠れていたのか? てか、みんな大丈夫か!?」

「うん……何とか平気よ! でも、狭い!」

「少し息苦しいです……!」

 仲間の元に駆け寄った彼は、すぐに様子を確認していた。幸いにも仲間達に怪我は無いが、

狭い網の中をぎゅうぎゅうに詰められてしまい、皆息苦しさを感じている。抜け出そうと必死に体を動かすが、何度やっても網はびくともしない。

 苦しい表情を浮かべるアスナやユイに対して、神楽は怒りに満ちた表情を見せている。

「うぉぉぉ!! 誰アルか!? こんな姑息な悪戯仕掛けたヤツは!! 早く解放させろヨ! コラァ!!」

「落ち着いて神楽ちゃん! 叫び散らしても何も変わらないから!! だからむやみに揺らさないでって!」

「うるせぇ、新八ぃ! さっきからオメェの足が背中に当たってんだよ! 余計な口出しで怒らせるなアル!!」

「足は関係ないでしょ!! てか、この状況で触らない方が難しいですからね! 一応触らないように、配慮はしていますよ!」

「って、二人共落ち着いてくださいよ!!」

 閉鎖された空間に我慢が出来なくなり、彼女は思わず怒鳴り散らしてしまう。宥めてきた新八にも当たっており、互いにバチバチと険悪な雰囲気に変わっていた。

 言い争いを危惧して、ユイにも一喝される始末である。

「まぁまぁ、みんな落ち着いてって! とりあえず助けるから!」

「お願いするわ、キリト君!」

 とここでようやく、蚊帳の外へいたキリトが動き始めていた。背中に装備した長剣を引き抜こうとした時である。

「待てぇぇ!!」

「モコー!!」

「ん? この声は……あの猫?」

 唐突にも聞こえてきたのは、宇宙猫らしき特徴的な鳴き声。同時にそれを追う男性の声も聞こえており、キリトはその行方を気にしてしまう。

「みんな、ちょっと待っていてくれ。すぐに戻るから!」

「えっ、キリ!? どこへ行くアルか!?」

 仲間の救助を後回しにして、彼は急いで場を去っていく。走り出してから間もなくすると、

「モコモコー!」

「あっ、やっぱり」

読み通りに丸っこい猫が目の前に現れていた。体を上下に激しく跳ねて、彼の足元へとすり寄ってくる。存分に震えた様子であり、何かに怯えているようにも見えるが。

「って、ユイ! 見かけた猫ってアレアルか?」

「はい。あの猫で間違いないですよ!」

 遠くから猫を見ていたユイも、数分前に目にした個体だと判断していた。

「そうか。でも一体、誰に追われていたんだ?」

「モコ……」

 迷子の猫が見つかって、ひとまずは安心する一行。しかし猫が怯えている原因は、よく分からない。ひとまずキリトは、猫に手を差し伸べようとした――その矢先である。

「ようやく追いついたぞ! 希少猫め!」

「えっ? 誰だ、アンタは?」

 続けて姿を見せたのは、迷彩服や季節外れのマフラーを身にまとった謎の男性。彼こそが、相方からの命令で動く動物ハンターの一人だった。

 もちろんキリトらは正体を知らない為、見知らぬ男性の登場に理解が追い付かない。

「いや、本当に誰ですかアレ!?」

「きっと不審者ネ! アッスー、ユイの目を隠すアル! ヤツは絶対に顔芸したまま、女子にいやらしいことをしてくるタイプネ!」

「えっ、そうなの!?」

「いや、違ぇーよ!! そんな描写、一斉無かっただろ!」

 仕舞いには神楽から、思いっきり不審者扱いされてしまう。勝手な憶測に本人は、ムキになって反論していた。

 キリトのみが動ける状況で、目まぐるしく訪れる変化。仲間達や猫を気遣いながら、正体不明の男性に警戒心を高めていく……。

 

 

 

 

 

 

 その一方で、銀時ら四人は未だに広場へと留まっている。彼は暴走気味の女子達を抑え込みながら、ずっと促されていた話にも蹴りを付けていた。

「とにかくだ! こういう話は、俺じゃなくて日輪か月詠にでも相談しろ! アイツらの方が分かってくれんだろ!?」

「……まぁ、それもそうね」

「分かりましたよ、銀時さん!」

「って、本当に酔いは冷めてんのか?」

 結局は二人の保護者である月詠と日輪に、全て丸投げしている。肝心の女子達は妙に納得した表情を浮かべていた。

 あれから数分間、酔い関連について質問攻めされた彼は、少々疲れを感じている。同時にキリトが与える影響力も、痛いほど思い知っていた。

(あの女たらしめ……! いい加減はっきりと答えを言えや! 困るのはこっちなんだからよ……)

 不満げな表情のまま、内心ではキリトに対する文句を吐いていく。

 そんな彼とは対照的に、シリカやシノンは早くも打ち明かす構想を練っていた。

「月姉だったら、私達の気持ちを分かってくれるはずよね」

「だと思いますよ! でも月姉さんは、酔った後が厄介というか……」

「人が変わったように暴れるわよね……」

「まずは日輪さんに話してみますか」

「そうね」

「って、おい。もうその話はいいから、さっさと猫探しを再開させるぞ」

 いつまでも肝心なことが進まずに、痺れを切らした銀時がようやく声をかけてくる。未だに事態が解決してないソリートの猫探しを、改めて二人に提示した。

「あっ、そうでした! まだ二匹とも見つかっていませんよね?」

「内一匹はキリト達が探索しているからな。それが上手く行きゃ、残すは後一匹だろ」

「遂にここまで来たのね。だったら、私達の手で最後の一匹を捕まえましょう!」

「ったく、調子の良い奴等だな」

 女子達はすぐに気持ちを切り替えて、猫探しへのやる気を高めている。銀時からは軽口を言われたが、特に気にしていない。

 すると彼は保護した猫達を落ち着かせて、再度懐へと隠していく。共に準備を整えると、三人は煙草を吸い続ける土方に話しかけてきた。

「という訳だ、土方。俺達はここを離れるからよ。キリト達が戻って来たら、猫探しに行ったって伝えておけよ」

「俺に指示するなよ。大体なぁ、俺も煙草を吸い終わったらハンター探しをしなきゃいけないんだよ。悠長にいる時間はねぇんだよ」

「いや、とても悠長にしているとしか思えませんが……」

 後に合流するキリトらとの伝達役を依頼したが、あっさりと断られてしまう。彼曰く時間は無いと言うが、主張に反して無駄に時間を潰しているように見える。

 これには銀時やシノンも、ぼそぼそと皮肉を口にしていく。

「やっぱり自分に甘く、他人に厳しいヤツじゃねぇかよ。鬼の副長が聞いてあきれるな」

「そうね。土方歳三に土下座してほしいくらいだわ」

「オメェら絶対ワザと言ってんだろ。大体俺は休息しているだけであって――」

 二人の言葉に感化されて、土方も立ち上がり反論しようとした時である。彼の顔色は瞬く間に固まり、あるモノに注目していた。

「えっ?」

「ん? どうしたんですか、土方さん?」

「お前等、後ろを見てみろよ……」

「後ろ? 一体何があるんだよ? マヨネーズか? ニコチンか?」

 彼の様子が気になって、銀時らも冗談半分に後ろを振り向いてみる。そこで目にしたものは……

「モコ―!!」

「えっ、はぁ!? えっ!?」

「ね、猫ですか!?」

まさかの探し求めていた宇宙猫であった。舗装された道にポツンと止まっており、銀時らとの距離はもう目と鼻の先にある。

 自ら公の場に姿を見せており、この急展開には銀時らもまったく理解が追い付かない。

「こんなすぐに見つかるなんて……」

「ということは、これで全匹揃ったんですか!?」

「いやいや、こんなあっさりで良いのかよ!? 絶対に投稿者、展開考えるのを面倒になっただろうが!!」

「って、気にするところそこかよ」

 特に銀時はメタ的な視線から、一人ツッコミをする始末である。あまりの正直さに、土方もさり気なく指摘を入れていた。

「と、とにかく保護しましょうよ!」

「そうね、銀さん行くわよ!」

「おっ、おう! 分かった」

 とりあえずは互いに心を落ち着かせて、三人はゆっくりと猫に近づく。このまま優しく保護しようとした時であった。

「隙あり!!」

「モコ!?」

「えっ?」

「「はい!?」」

「あ、あいつは……!?」

 またも予想だにしない出来事が起きてしまう。彼らの目の前を横切ったのは、猛スピードで園内を走る一台のゴーカート。それに乗車した男によって、発見した猫を略奪されてしまった。

 その正体はもちろん、土方らが追う動物ハンターの一人である。彼はこっそりとゴーカートを盗んだ後に、エンジンを微調整して、逃亡用の車として乗りこなしていた。道中にて偶然猫を見つけて、銀時らの隙を見てから奪い去っている。

「ハハハ! おバカな真選組と猫耳娘共め! こいつは俺が頂いたぜ! あばよ!!」

 余裕が出来た彼は、仕舞いには銀時ら一行を煽り始めている。挑発気味の台詞を吐くと、一目散に逃げ出していた。

 不意に起こった多々ある出来事。これには四人も困惑してしまい、揃って言葉を詰まらせている。

「……おい、土方君。さっきのは何だ?」

「……俺達が追っている動物ハンターだな」

「いや、それは分かるんですけど……なんでゴーカート?」

「そんなもん俺が知るかよ」

「どこかから盗んだのかしらね……?」

 皆が苦い表情を浮かべながら、そのまま思ったことを発していく。ツッコミたいことは山ほどあるが、まずは一度冷静になって心を落ち着かせると――

「って、何で捕まえねぇんだよオメェ!! 警察の仕事どうした!?」

「あのタイミングでしょぴける訳ねぇだろうが!! つーか、すぐに猫を捕まえねぇオメェが悪いんだろうが!!」

「うるせぇ! いちいち伝えるのが遅いんだよ、オメェは!」

「あんだと!?」

ようやく感情を大爆発させていた。銀時や土方は怒りのままに、互いの責任を擦り付けて、喧嘩腰で口論を始めている。

 大ぴっらに文句をぶつけ合う二人に、今度は女子達が落ち着かせていた。

「って、喧嘩している場合じゃないですよ!」

「早く追わないと、逃げられるわよ!!」

 一時の喧嘩よりも、ハンターの追跡に行動を誘導させていく。どちらにしろあのハンターを捕まえないことには、土方の仕事も銀時らの依頼も終わらないのが現状である。

「よし、こうなったら追うぞ!!」

「オメェが仕切るんじゃねぇよ!」

「「いいから、早く!!」」

 四人は態勢を立て直しつつ、皆揃ってハンターの跡を追いかけていった。

好機を掴むはずが、いつの間にか窮地を迎えている銀時達。果たして無事にハンターを、確保することは出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 そしてキリト達の方へと話を戻そう。彼らも動物ハンターの一人と遭遇しており、依然として警戒心を高めていた。

「本当に誰なんだ、アンタは?」

 浮かない表情のまま質問すると、ハンターは自身の本性を露わにする。

「チッ、バレちゃ仕方ないな! 俺は宇宙で名高い動物ハンターのTさ! 俺らの名誉と金の為にも、お前の近くにいる宇宙猫を渡してもらおうか?」

 今まで身を隠していた彼だが、公にバレた反動で堂々と正体を明かしていく。初耳な情報ばかりでキリト達も困惑したが、ひとまず悪人であることに間違いなかった。

「動物ハンターですか!?」

「そんな人が遊園地に紛れていたの?」

「って、犯罪者じゃないですか!」

 ユイ、アスナ、新八と次々に思ったことを呟く。一方の神楽は、網の存在を話の引き合いに出している。

「まさかこの網を仕掛けたのも、お前だったアルか!?」

「そうだな! まさか人間が引っかかるなんて予想外だったが……これはこれで利用できるな」

 怒りながら問いかけると、仕掛けについてあっさりと認めていた。本来は猫を捕らえる罠として仕込ませていたが、会話をする途中である作戦を思いついている。

 ハンターの悪行が浮き彫りになる中、キリトらは彼への敵対心を高めていく。

「さぁ、さっさと渡せ! 黒髪の天人よ!」

「いや……ここまで言って素直に渡すヤツがいるかよ。猫だって嫌がっているじゃないか」

「モコ……」

 要求には一斉応じることなく、断固とした姿勢を続けた。仲間達も息を呑むように、キリトとハンターとの会話を見守っている。

「そうか。なら仕方ないな」

 すると先に動いたのはハンターの方だった。彼はポケットに隠し持っていたスイッチを手にして、勢いよく押してみると、

〈ビリビリビリ!〉

「うわぁぁ!!」

「きゃゃ!!」

「みんな!?」

アスナ達が捕らわれている網にバチバチと眩い電流が流れ込んでいる。その効果はじわじわと現れており、四人の体には痺れるような痛みが駆け巡っていた。何もかもハンターの策の通りに運ばれている。

「この網は電流が流れる仕組みでな。俺の言う通りにしないと、もっとお仲間さんを痛ぶらせてやろうか?」

「お前……」

「さぁ、武器を捨ててそいつを渡してもらおうか!」

 ハンターの狙いは、キリトの仲間達を間接的な人質として扱うことだった。不敵な笑みを浮かばせて、さらなる脅迫までかけている。

 猫と仲間を天秤にかけられたキリトは、彼の狙い通りに行動を抑制されていた。

(どうする……? ここは無視してみんなを助けに戻るか? だけど、電流を強められたら……)

 仲間も救い出したいのだが、相手の出方が読めずに簡単には動けない。

彼が必死に打開策を考えていた時――思わぬ助っ人が場に駆けつけてくる。

「危ねぇですよ。どいてくだせぇ」

「ん? って、ギャァァァ!?」

「えっ!?」

 ハンターの背後に近づいてきたのは、小型のゴーカート。気の抜けた声と共に、ためらいなく突進してきた。

 衝突してしまった彼は悲鳴と共にスイッチを手放して、ゴーカートに乗っていた男が代わりにそれを入手する。

「よっと。何か来やしたね」

「あ、あなたは……」

「お、沖田さん!?」

 そう、運転手の正体はパトロール中の沖田総悟だった。土方とハンターを探す道中にて、キリトらの姿を見かけてここまで来たと言う。

 意外な人物の登場に、五人はただ驚くしかない。対照的に沖田は、何食わぬ顔のままゴーカートを降りて、立ち止まるキリトへ話しかけてくる。

「なんでい。やっぱりお前等も来てたんですかい?」

「あぁ。ていうか、沖田さんはなんでここに?」

「たまたまですよ。パトロール中にお前等を見かけたんでねぇ」

「パ、パトロール中……?」

 一瞬耳を疑ったキリトだったが、沖田の性格を踏まえると妙に納得してしまう。

 一方で網に囚われている神楽達も、沖田の登場には多少なり反応を示している。

「なんでアイツ、急に駆けつけたアルか?」

「しかもゴーカートって……」

「意外な登場よね」

「本当にパトロールしていたんでしょうか……」

 ユイに至っては、沖田の言葉をまるっきり信じていなかったが。そう反応を交わすうちに、吹き飛ばされていたハンターはようやく起き上がってくる。

「おのれ、許さんぞ!! ハァァ!」

 彼は逆上すると共に、隠し持っていたトンファーを手にして、沖田やキリトへと襲い掛かっていく。

「おっと、まだ立ち上がるんですかい」

「沖田さん! ここは俺達で一緒に!」

「まぁ、一緒に仕留めやすか」

 ハンターのしぶとさに辟易としながらも、ここはキリトと沖田の二人で対処することにする。互いに長剣や刀を引き抜いたところで、

「ハァァ!!」

「ハッ、トウ!」

「セイ」

「何!?」

ハンターの突進を素早く回避して、キリトは前方側に、沖田は後方側へとハンターを挟み込んでいく。そして、

「しめぇですよ」

「これでも食らえ!」

「ん!? ブホォ!?」

遠慮はせずに渾身の一撃を同時に与えていた。沖田は背後の背中を一直線上に描き、キリトは真正面から交差するように切り裂いていく。

 相手にはダメージと共に、着ていた迷彩服やトンファーも半壊するほどに破かれてしまった。

「おのれ……幕府の犬め!」

 攻撃のショックから戦意を喪失した彼は、捨て台詞を吐いてそのまま倒れ込んでしまう。強面な見た目や高圧的な態度に対して、何とも呆気ないハンターの末路である。

「ヤレヤレ。思ったよりも呆気なかったですねぇ」

「でも、すぐに済んで良かったけどな」

「そうですねぇ」

 戦いを終えた両者は余裕気味に呟き、互いの健闘をたたえていた。協力したことに関しては、満更でもなく感じている。

 そっと言葉を交わした後に、沖田は気絶するハンターへ近づいて、両手首と両足を手錠で拘束していた。起きたとしても逃げられないように細工している。

 それが終わると二人は、網に捕まる仲間の元へと戻っていた。

「みんな、大丈夫だったか?」

「えぇ、平気よ。ちょっと痺れるくらいだったけど」

「所詮はただのハッタリネ! さぁ、私達を助けるヨロシ!」

 網に痺れたのは一回限りであり、仲間の様子にも変わりは無い。元気そうな素振りを見せると、神楽は沖田らに向かって命令気味に指示している。妙に鼻につく口調だが、沖田は怯まずに堂々と歯向かってきた。

「助ける? あぁーそんな言葉遣いで良いんですかい?」

「はぁ?」

「そこは丁寧な言葉遣いにしてくだせぇよ。なんせ今、スイッチを持っているのは俺ですからねぇ……」

 彼は悪そうな笑みを浮かべて、神楽にハンターから盗んだスイッチを見せびらかす。ほぼ脅しとも言える高圧的な態度からも、素直に応じないのは間違いなかった。

 神楽もこれには、あっという間に怒りが心頭してしまう。

「てめぇ!! 煽るのもいい加減にしろアル!!」

「落ち着いてください、神楽さん!」

「沖田さんの挑発にまんまと乗っているから!」

「うるせぇ! あのドSの言いなりになんか絶対ならないアル!!」

 彼女は怒りに満ちた表情で、沖田へ感情のままに文句をぶつけていく。手を出そうにも網で動けない為、痒い所に手が届かない状態である。網は激しく揺れており、ブランコのように前後へ大きく動き始めたところで、

〈プツン!〉

「えっ、うわぁぁ!?」

「キャ!?」

重みに耐えられなくなった網が木からほどけてしまった。四人は多少痛みを覚えながらも、無事に地上へと解放されている。

「モコ!?」

「えっ、途切れた!?」

「でしょうね。チャイナ娘の馬鹿力があれば、すぐに解けやすからね」

「って、沖田さんはそれを見越して神楽を煽ったのか?」

「さぁ、どうでしょうね」

 意味深にも含みを持たせた沖田だが、この時のキリトは妙に彼の考えを察していた。計算高くも本当は、良心的な人ではないのかと。

 そんな淡い期待は、真っ先に崩れ去ることになったが。

「フハハ! これで遠慮なく、オメェと戦うことが出来るアルナ!」

「ほぉー、やる気みたいですねぇ。いっちょこの場で、蹴りでも付けやすかい?」

「上等アル! 今度はテメェが木に吊るされる番アルよ!」

 網の呪縛から解放された神楽は、早速散々挑発してきた沖田に勝負を申し出ている。互いに相手を見下すような表情を浮かべて、勝負への熱意を脈々と燃やしていた。彼の悪びれなく堂々とした素振りは、良心的な性格とは正反対だとキリトは悟っている。

(やっぱり一筋縄では行かない人だな……)

 ついつい表情も苦く変わってしまう。

「って、神楽ちゃんに沖田さんも喧嘩は止めてよ!!」

「アンタ達がこの場で戦ったら駄目だから! いいから落ち着いてください!!」

 二人のバチバチとした雰囲気を止めるべく、抑え役として新八とアスナが止めに入っている。事態を長引かせずに、必死になって沖田や神楽を説得していた。

 一方のユイは、キリトの元に単身で駆け寄っている。

「相変わらず二人は犬猿の仲ですね」

「喧嘩していても、相性は良い方だと思うけどな」

「ですね! そう言えば、猫さんはどうでしたか?」

「あぁ、特に変わりは無いよ。怪我もしてないみたいだし」

「それは良かったですね!」

「モコ―!」

 保護した猫にも変化はなく、共にほっと一安心していた。すぐにもこの吉報を銀時らに届けたいところだが、今は二人の言い争いが落ち着くまで待つしかない。

「こうなったら、ゴーカートで勝負しやすかい?」

「乗ったネ! 必ず一番乗りは私アル!」

「だから沖田さんはむやみに煽らないでって!」

「とりあえず、戻りましょうって!」

「……まだ続きそうかな?」

「そうですね」

 

 

 

 

 

 そして銀時らの方も、事態は急展開を迎えている。折角見つけた最後の一匹を、動物ハンターに略奪されてしまい、現在はその相手を必死に追跡していた。(銀時や土方は走りであるが、シリカやシノンは羽を広げて、飛行浮遊しながら追いかけている)

「待て、コノヤロー!!」

「逃がすかぁぁあ!!」

 血相をかいた表情で足を走らせる男性陣と、

「猫を返してください!!」

「いい加減、止まりなさい!!」

大声で相手をけん制する飛行中の女子陣。共に目的が一致している為、隊列を乱さずに突き進んでいた。

 それでも、ゴーカートに乗るハンターとは中々距離を縮められない。

「ハハ―! 追い付けるかよ、このスピードに!」

 調子に乗った彼は、さらにスピードを上げて銀時らの追っ手を撒こうとしている。人通りが少ないエリアに逃げ込み、遊園地からも脱出しようと企てていた。

 相手に追いつくことが出来ず、銀時ら四人も苦戦を強いられている。

「おい、中々距離が縮まらねぇぞ!!」

「あのスピード、絶対改造しているだろ!」

 銀時や土方は走りながら、高らかに文句を発していた。このまま追い抜くことは無謀だと察した彼らは、別の方法でハンターを捕まえる策を思いつく。

「こうなったら……タイヤを壊すしか無いわね!」

「おっ、その手しかねぇな! だったらオメェら、耳を貸せ!」

「ぎ、銀時さん? もう考えが浮かんだんですか!?」

 シノンからの提案で、ゴーカートのタイヤを破壊することに決めた一行。瞬く間に銀時はとある作戦を思いつき、仲間達へその手順を説明している。

 それを聞いた一行は二手に分かれて、銀時と土方は先回りが出来る裏口方面へ。シリカとシノンは引き続き、上空からハンターを追っていた。

「どうやら撒いたようだな。随分と呆気なかったぜ!」

 一方のハンターはというと、すっかり勝利の余韻に浸っている。捕獲した猫を抑え込みながら、狸の皮算用のように早くもその後の妄想に腑抜けていた。

「さぁ、Tよ待っていろ! このままこの遊園地ともおさらばして……」

 警戒心も薄れて、油断をしていた直後である。

「それはどうかしら?」

 ちょうど上空には、ハンターに追いついたシノンとシリカが浮遊していた。とっくに追い越した二人は、共に弓やダガーと言った武器を手にしている。そして、

「ハー!」

真っ先にシノンが先端の尖った普通の弓矢を発射してきた。

〈シュ―、プス!〉

「えっ!? って、うわぁぁぁなんだ!?」

 彼女達の気配に気付かず、弓矢は何事も無くゴーカートの後方のタイヤに刺さっている。当然空気は抜けていき、次第にゴーカートの速度は徐々に下がっていく。

「今よ、シリカ!」

「はいです、シノンさん!」

 だが彼女達の作戦はまだ終わらない。今度はシリカが最高速度でゴーカートに近づいて、もう片方のタイヤを自慢のダガー裁きで引き裂いていた。

「はぁぁぁ!」

「ぐわぁ、またか!?」

 またも空気が抜かれてしまい、徐々に制御不能に陥るゴーカート。ここでようやくハンターは、仕掛けた犯人が女子達だと把握していた。

「おのれ……あの猫耳娘共め!」

 奇襲を受けて悔しさを前面に出すが、それでもなお止まることは無い。無理にでも操作しようとした時、彼の目の前にはさらなる脅威が立ちはだかる。

「銀時さん! 土方さん! 今です!」

「後はもう思いっきりやっちゃって!」

「何!? いつの間に!?」

 すかさず前を見るとそこには、木刀や刀を構えた銀時と土方の姿が見えていた。彼らも全力疾走で先回りして、タイヤを破壊しようと懸命になっている。

 ただ先を急ぎすぎたのか、両者共に若干だが息切れしていた。

「はぁ……何とか追い越したな」

「何息切れしてんだよ……はぁ。さっさと態勢を立て直せ」

「うるせぇ! ただ深呼吸していただけだ! そういうお前も息切れすんなよ」

「はぁ!? そんな訳ないだろ、俺だって深呼吸して――」

「そんな喧嘩、どうでもいいですから!」

「さっさと猫を救出しなさいよ!!」

 ハンターが迫る最中でも、二人は見栄を張って、作戦そっちのけで口論を展開している。あまりの緊迫感の無さに、上空から見ていたシリカやシノンからもツッコミを入れられてしまった。

「おっと、そうだった。そんじゃ行くぞ、息切れ副長!」

「指図すんなよ! 息切れニート!」

 それでも二人はすぐに態勢を立て直していく。互いに軽口を叩きあい、操縦不能のゴーカートへと向かっている。

「させるかぁぁ!」

 ハンターは力尽くで避けようとするも、時すでに遅かった。銀時と土方は狙い通りに近づくと、前方部分のタイヤを勢いよく突き刺していく。

「はぁぁぁ!!」

「せいやぁぁ!!」

「な、何!?」

 するとどうだろうか。タイヤに入っていた空気は見る見るうちに無くなり、ゴーカードの速度も失速する一方である。ここまで破壊されると、ハンターにとっては何をしようと無意味だった。そして行動不能に陥ったところで、

「お疲れさんでした!」

「あばよ、三流ゲストキャラ!」

「ブハァァァ!!」

銀時ら二人の力を込めた拳が、彼の顔面にくらわされる。その反動によってハンターは気を失い、抱えていた猫も手放してしまった。相方に引き続き、こちらも呆気の無い顛末を迎えている。

「モ、モコ―!」

「よしよし、もう大丈夫だぞー。お仲間もここにいるからな」

 ようやくハンターから解放された猫は、救い出してくれた銀時に人懐っこく抱きついてきた。彼の懐に隠れていた猫の存在を知り、より嬉しさを露わにしている。

「ったく、手こずらせやがって。後できっちりと吐いてもらうからな」

 一方の土方は小言を吐きながら、ハンターの手首を手錠で拘束していた。逃げられないようにした上で、屯所へと連行する予定である。

 銀時の功を奏した作戦により、場の空気は達成感に満ち溢れていた。とそこへ、ようやく女子達も羽を閉じて地上に戻ってきている。

「やったわね! 銀さんに土方さん!」

「無事に猫を保護出来て良かったですよ!」

「あぁーそうだな。オメェらも援護ありがとよ」

「いえ、アレくらい大したことないですから!」

 彼女達も猫を奪還出来たことには、嬉しく感じていた。同時に作戦へ役立てたことにも、誇らしく思っている。

「銀さんや土方さんも、たまにはかっこいいところがあるのね」

「たまにはは余計だよ! いっつもかっこいいだろ!」

「さぁ、それはどうでしょう? フフ……」

「さり気なく失笑するなよ! そんなに可笑しいこと言ったか、俺!?」

 相変わらずの彼の強気な態度には、思わず失笑していたが。だがしかし、内心では態度には見せない密かな想いがあった。

(でも、頼りにしているのは事実ですよ)

(少し情けない人だけど、素直に信じられるのよね。銀さんって)

 決して一言では言い表せない、確かな信頼性が銀時にはある。今回の一件も含めて、より彼のことを大人として見直していた。

 銀時はそれに気付かないまま、ただツッコミを入れ続けている。

「何をアイツは、ムキになったままなんだよ」

 事情を知らない土方からすれば、まったくもって分かっていない。

 そんな温かな雰囲気が続く中で、タイミングよく仲間達も合流してきた。

「おーい、銀さん!」

「ここにいたのねー!」

「あっ、オメェら。その猫って……!」

「しっかりと保護しましたよ!」

「色々と苦労したけどナ!」

 森での一件を終えたキリトら五人達もやって来て、早速銀時らに保護した猫を見せびらかしていく。

「モコ―!」

「「「「モコココ!!」」」」

 迷子だった猫達は全て集結して、再会を喜んでじゃれ合っている。念願が叶った合流は、猫達のみならず銀時達にも喜びを与えていた。

「ってことは、これで本当に全匹揃ったのね」

「ようやくかよー。あぁーやっと終わったー!」

「これで気兼ねなく、遊園地を遊べます……!」

 長く時間がかかった依頼が達成されて、ようやく一安心する三人。大きく深呼吸をして、再び達成感に酔いしれていく。

「お疲れ様ね、みんな!」

「よく頑張ったと思うよ」

 彼らの頑張りを祝して、アスナやキリトも優しく労いの言葉をかけている。これだけでも、三人にとっては十分なご褒美であった。

 一方でキリトらにさり気なくついてきた沖田は、ゴーカートから降りると真っ先に土方へと話しかけてくる。

「ここにいたんですかい、土方さぁん。探しやしたよ。こっちはハンターを捕まえたのに、どこで油を売ってたんですかい?」

「それはこっちの台詞だ。つーかお前も、どこに行ってんだよ? 俺もとっくにハンターなら捕まえてんぞ」

「あらま。そうでしたかい? そんじゃさっさと、屯所に戻りやしょうや。もちろん俺の手柄ってことで」

「はぁ、ふざけんな! 一人ずつで良いだろうが!! 俺の努力を無駄に済んじゃねぇよ!」

 こちらも相変わらずの手慣れた反応であった。互いの手柄をまったく認めず、仕舞いには沖田の口調に土方はまんまと乗せられている。

「冗談ですよ。本気にしないでくだせぇ」

「ったく。お前よ……」

 冗談だと分かっても、彼の不満そうな表情は続いていた。対して沖田の、ぶっきらぼうな姿勢も変わっていない。それでもハンターを検挙したことは、素直に嬉しく思っているはずだが……

 すると沖田は一度場を離れて、銀時から奪った物を一式返却していく。

「あっ、そういえば旦那。預かったもん返しやすよ。ほら」

「預かったもんって、オメェから盗んだんじゃねぇかよ!」

「まぁまぁ、落ち着いてくだせぇ。その分増量しておいたんで、後はもうチャラってことで」

「からあ〇君みたいに片づけるなよ! ったく、そんなことしても嬉しくねぇんだよ!」

 シリカらを酔わせた隙に奪った菓子類を手渡していた。彼曰く詫びとして増量したらしいが、正直そこまで嬉しくない。グダグダと文句を言いつつも、銀時はすぐに懐へ菓子を戻していた。

「フッ、上手くいくと良いですねぇ」

「あん、何か言ったか?」

「いいや、別に」

 その途端に沖田は、小言で意味深な一言を発している。幸いにも銀時には勘付かれていないが、何を仕掛けたのだろうか? このまま彼は特に目立ったことは言わず、土方の元まで戻っていた。

「そんじゃ、土方さん。まずはゴーカートのおっちゃんに謝りに行きましょうよ」

「そうだな……てかなんでお前は、ゴーカートに乗っていたんだよ?」

「ただの気分ですよ、さぁ行きましょう」

「って、おい!! 俺を置いていくなよ!! ついでにハンターまで置いていきやがってよ!! 待てや、コラァ!」

 今後の予定を把握した後に、沖田は一人ゴーカートに乗って、土方と気絶中のハンターを置いてきてしまう。仕方なく彼は両者を抱きかかえて、沖田のゴーカートに追いつこうとしている。すると彼は最後に、銀時らに向かい一言だけ伝えていた。

「とりあえず、協力した事だけは感謝しているぞ。後、万事屋! あの事だけはあんまり広めんなよ!」

「分かっているよ。だからさっさと行けよ、V字ハゲ」

「うるせぇ! 天パに言われたくねぇわ!」

 結局は最後まで文句をぶつけるだけで、土方はどさくさと場を跡にしている。締まりの悪い真選組との去り際であった。

「じゃあな! マヨラーにドS!! ……ふぅ。ようやく帰ったアルナ」

「変なモンに巻き込みやがってよ、あいつ等」

「まぁまぁ、銀さん。とりあえず依頼も終わりましたし、後はもうみんなで遊園地を楽しみましょうよ!」

 大きな依頼も解決して、枷の無くなった万事屋一行と女子達は、いよいよ待ちに待った遊園地巡りを再開させる。保護した宇宙猫も連れながら、閉園時間まで有意義に楽しむそうだ。

「そうね! それじゃ、再開ついでにどこから行きましょうか?」

 アスナがそう問いかけると、そっとシリカが提案している。

「あの、人数を分けて観覧車はどうですか?」

「観覧車ですか。まだ行ったことが無いので、良いかもしれませんね」

「それじゃ、みんなで乗ってみるか」

「そうアルナ。みんな、ついて来ヨロシ!」

 彼女の一言によって、一行は観覧車へと向かうことにした。もちろんシリカらの狙いは、キリトと一緒に観覧車へ搭乗することである。

「上手くいくと良いですね」

「密室で仲良く話したいわね」

「おーい。願望だだ漏れだぞ」

 まだ確定はしていないが、シノンらは彼との楽しい一時を妄想していた。広大な景色を見ながら、楽しく駄弁っていたい。浮かれた表情で期待値を高めていく――

 

 

 

 

 ところがどっこい。そんな期待は簡単に打ち砕かれてしまった。

「……いや、なんで銀時さんなの?」

「お前等がじゃんけんで負けたからだろうが」

 観覧車に乗った二人の目の前にいるのは、見慣れた銀髪パーマの坂田銀時。彼女達は惜しくもチーム決めのじゃんけんに敗れてしまい、折角のチャンスを無駄にしてしまった。

 手前に見える観覧車には、キリト、アスナ、新八、神楽、ユイの五人が景色を見ながら、おしゃべりを続けている。対してこちらは、銀時、シリカ、シノン、ソリートの飼い猫達と数分前とほぼ見慣れた光景であった。

今回ばかりは女子達も、あまりの引きの悪さに失望してしまう。

「本当はキリトさん達と一緒に乗りたかったのに……」

「はぁー。残念だわ……」

「いや、がっかりしすぎだろうが! そんなに俺じゃ不満かよ!」

 大きなため息を吐く彼女達に、つい銀時も大声でツッコミを繰り出す。ずるずると結果を引きずっているようにも見えるが……実はそこまで深くは思っていない。

「いや、案外そうでもないけどね」

「はい? つまりどういう事だよ?」

 突然顔を上げると同時に、シリカやシノンは銀時に対して、率直な気持ちを伝えていた。

「今回ばかりは、このメンバーで乗るのも悪くないってことよ」

「一緒に猫探しをした仮万事屋ですもんね! アタシ達!」

 そう言って二人は、そっと微笑みを浮かべている。猫探しを通じて芽生えた信頼を、不器用ながら彼へと伝えていた。

 二人の温かな笑顔に触れて、銀時自身もその気持ちを悟っていく。

「お前等……まぁ俺も同じだな。手伝ってくれて、どうもありがとさん」

「どういたしまして!」

「こちらこそありがとうです!」

「モココ!」

 穏やかにも平和な雰囲気につられて、猫達もまた元気よく鳴き声を上げている。昼下がりの青空を窓から眺めながら、三人はゆったりとした安らぎの一時を過ごしていた。

「そんじゃ菓子でも食うか? 小腹も空いたし、ちょうど良い頃合いだろ」

「それはいいわね」

「是非もらいたいです」

 すると銀時は思い付きで、沖田から返却した菓子類を取り出していく。箱詰めされたチョコ類やキャラメルを取り出し、女子達や猫におすそ分けしようとしていた。

 何のためらいもなく箱を空けると、そこには一枚の紙が封入されている。

「あん、なんだコレ?」

 手にして見開くとそこには、沖田からのメッセージが書かれていた。

『旦那へ。お菓子増量の件ですが、アレは嘘ですよ。本当に入っているのは――』

 とその刹那である。

〈ボフゥ!!〉

「な、なんだ!?」

 何の前触れもなくお菓子が爆発して、辺り一面に黄色い粉がばらまかれていく。そして手紙には最後、こう書かれていた。

『マタタビ爆弾でさぁ』

「はぁ、えっ!? てことはまさか……」

 そう。彼の言う通り、この粉の正体は猫を酔わせるマタタビである。運が悪く個室で爆発してしまい、それを浴びたシリカ、シノン、宇宙猫達はもちろん……

「ニャフフー! 銀時しゃ~ん!」

「またテンションが上がってきちゃいました~!!」

「モキョー!!」

思いっきり酔いが体に回ってしまった。銀時を除く全員が顔を赤くしており、女子達は爪を光らせて、猫達は牙を剝き出しにして、ただ一人困惑する彼に狙いを付けている。無意識のままに、襲い掛かろうとしていたのだ。

「ま、マジかよ……落ち着けお前等! さっきまでの感動的な流れでいいだろ! こんな蛇足展開、誰も喜ぶわけが……」

 落ち着かせようと説得する彼だが、何を言われようとも彼女達は止まらない。

「銀時しゃ~ん!!」

「覚悟―!!」

「ギャャャ! こんなオチかよぉぉ!」

 酔った勢いのままに、銀時をサンドバックのように攻撃してしまう。女子達は爪で体をひっかき、猫達は牙であちこちに噛みついていく。地上へと戻るまでに、彼はこの苦痛に耐えなければいけなかった……

 もちろんキリト達は、一斉この状況に気が付いていない。

「おっ! あっちも話が盛り上がっているな」

「でもなんかやけに激しくない?」

「何かあったのでしょうか?」

「まぁまぁ、気にするなアル。どうせ銀ちゃんが失言して、シッリーとシノにボコボコにされてるだけアルよ」

「それもそうね」

 神楽らは呑気にも制裁を受けていると勘違いしたが、新八だけは薄っすらとその変化を察している。

「いや、なんか違くね?」

 結局五人が真実に気付いたのは、地上に戻ってきた時だった。またも仲間達の手を借りて、女子達や猫を元通りにしたという。

その後も遊園地を巡っていたが、銀時が受けた爪痕や噛みつき痕は残ったままであった……




おまけ・ソリートと猫達の再開
ソリート「ありがとうございました! 全員分、見つけていただいて!」
シリカ「……は、はい」
シノン「どういたしまして……」
ソリート「えっ? なんでそんなに落ち込んでいるのですか? それに、銀時さんのその傷は?」
銀時「姫様。察してやってくれ……」

※沖田が仕掛けた爪痕は大きい。銀時に残った爪痕のように。
銀時「いや、上手くねぇよ。勝手に締めるな」





 結果四訓にまで渡った遊園地篇はいかがだったでしょうか? 結局良い雰囲気のままでは終わらせてくれないのが、銀魂らしく思います(笑)
 個人的な意見ですが、ノートに書いたものをパソコンで打つと、自然と文体が増えてしまいます。まさか一ヵ月も続くなんて、自分でも思っていませんでした……

 さて、肝心の次回投稿ですが……実はクラインと桂の出番が本章だと少ないので、もう一訓だけ日常回をやります。七月から再三言っていた長篇は、九月の下旬(最低でも十月中)には投稿出来るので、暫しの間お待ちください。

 そしてちょっとしたご報告です。過去に投稿した話にて、キリトのリーファの呼び方を「スグ」に変更しました。ALOなどのゲーム内だと呼び方に違和感が無いのですが、剣魂では日常での場面が多いので、普段現実で呼んでいる呼び方の方が良いと個人的に思ったからです。ご了承ください。

次回予告
クライン「という訳で次回は俺達攘夷党が主役だぜ!」
山崎「いや、待ってください! 久々に俺の出番ですから、枠を取らないでくださいよ!」
クライン「てか、誰だっけアンタ?」
山崎「山崎退ですよ! 一回会ったことあるでしょうが!」
銀時「ちなみに剣魂での前回の登場は、第二十一訓らしいぞ」
山崎「そんなプチ情報はいいですから!!」
桂「次回! 色恋沙汰は長引かせるなだ! この俺桂小太郎が、クライン殿のコーチを務めるぞ!!」
山崎「アレ? この話、俺の出番本当にある?」


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第六十四訓 色恋沙汰は長引かせるな

 全然SAOの最終回に完成が間に合わなかった……とりあえず今回で第四章は最後です。それではご覧ください。





何故最近桂の出番が少なかったのか?

桂「所沢の病院でずっとスタンバっていたからだ!」
銀時「いや、なんでお前がそこにいるんだよ!! SAOの現実世界に介入してくるんじゃねぇよ!!」
桂「心配するな。ソーシャルディスタンスを保ち、画面には映らないようにしておいたぞ!」
銀時「マジでねつ造するな! 読者が勘違いするだろうが!!」

※一期にてアスナが入院した病院です。ちなみに本当の原因は、本編中に明かされます。


「やい、銀さん!! この俺と決闘で勝負しろ!!」

「……はぁ?」

 昼下がりの万事屋にて、突如申し込まれたクラインからの挑戦状。思いもしない提案に、銀時だけではなく場にいた全員が驚嘆している。

「ク、クラインさんが決闘ですか?」

「急に来たと思ったら、いきなり何を言い出すんだ……」

 長い付き合いであるユイやキリトも、今回ばかりは彼の意図をまったく読めていない。一方の銀時は、何食わぬ顔で淡々と接していく。

「どうしたんだ、お前? アンダーワールドに行ったついでに、頭がおかしくなったのか?」

「いや、時系列的にまだ行っていませんよ!」

「それはともかく、何でクラは銀ちゃんと戦いたいアルか?」

「またウチの銀さんがやらかしたの?」

「いや、やらかした覚えは無ぇよ!」

 女子達も話に加わるも、彼の日頃の行いから悲観的にしか考えていない。銀時もムキになって否定している。

 しかし……クライン本人には、決闘までに至った経緯があった。

「いいや、そんなことは無いぜ! 思い出してみろよ、三週間前のことを!」

「三週間前? 何かあったか?」

 彼の言われた通り、銀時は三週間前の出来事を思い起こしていく。クラインとの思い出で浮かんだのは、親しい友人と集まった飲み会であった……

 

 

 

 

 

 

 時は八月の下旬頃。夜を迎えたスナックお登勢には、銀時と長谷川が酒を飲みに来店していた。戸を開けて店内に入ると、そこで目にしたのは珍しい光景である。

「あぁー……俺はなんて見る目がない男なんだよ」

「そう気を落とさないでください、クライン様。人生に失敗は付き物ですから」

 ソファーに座っていたのは、落ち込んでいるクラインと彼を励ますたまの姿。前者はずっと顔を俯かせており、対して後者は無表情のまま優しく宥めている。

 見るからに訳ありな雰囲気を漂わせていた。

「珍しいな。たまとクラインが会話しているなんてよ」

「一体何があったんだよ?」

 状況をまったく知らない銀時らは、すかさずキャサリンやエギルに理由を聞いてみる。

「イワバ悪イ女ニ引ッカカッタンデスヨ」

「何でもアイツ曰く、ナンパでお近づきになった彼女が、約二十五人も股をかけていてな。それがバレて別れてから、ずっとショックを引きずっているんだってよ」

「二十五人!? どんだけ欲張りな女なんだよ? ヤ〇マ〇にも程があるだろうが!!」

 突拍子も無い返答に、銀時のツッコミも激しく決まる。エギル達の話によると、好意を寄せていた女性の本性が明るみになり、クラインは心に深い傷を負わされたという。まんじりとも気持ちの整理が付かず、今はたまを介してずっと愚痴を吐いていた。

 この不幸話には、お登勢もつい同情を寄せてしまう。

「つくづくあの男は、女運に恵まれないからねぇ。そろそろ運命の女が、すり寄っても良いと思うんだが」

 これまでの失恋話を理解した上で、せめて幸せになって欲しいと思うばかりである。

「運命の女ねぇ……アイツとウマが合う奴なんているか?」

「少なくとも、俺らの知り合いにはいないよな」

 だからこそ気の合う女性がいれば良いが――残念なことに銀時らに思い当たる節がない。妙や九兵衛と言った一癖も二癖もある女性ばかりで、彼との相性は悪いと勘ぐっていた。

 一方でクラインの愚痴話は未だに続いている。

「折角上手くいくと思ったのに……思えば料理も美味しかったな」

「そうですか。料理までご馳走になったんですね」

「あぁ、まだ味は鮮明に覚えているよ。タバスコとデスソースを絡めたお手製のカレーパン……こうも舌に残る辛い感触は、彼女への未練だろうな」

「いや、未練なんかじゃねぇよ。つーか、絶対その組み合わせは嫌がらせだろうが!」

 どうやら手作り料理に思い入れがあるようだが、傍から見れば愛情もへったくれもない。誤った解釈をしている彼に、銀時はまたもツッコミで返していた。純粋なのか馬鹿なのか、もはやその線引きすら難しい。

 皆がクラインの未練に気を引かせる一方で、たまだけはこの話を機にある作戦を思いついている。

「カレーパンですか……ちょっと待っていてもらえますか?」

「たまさん!? どこへ行くんだ!?」

 突然ソファーから立ち上がって、彼女は店の裏口へと入っていく。そこから聞こえてきたのは、

「オェェェ! ブウォ!!」

「だ、大丈夫かよ!? たまさん!?」

意味深な嗚咽音である。苦しんでいるようにも聞こえており、クラインは思わずたまの心配をしてしまう。だが彼を除く全員は、たまの行動を把握していた。

「おいおい、まさかアレって」

「また始まったか」

「無茶なんかして……」

「って、みんなは知っているのか!? 一体何が起きてんだ!?」

 銀時、長谷川、エギル共に、渋い顔を浮かべている。彼らが察している通り、たまは自分なりの調理を行っていた。説明に時間がかかるので、クラインにはあえて事実を伝えていないが。

 すると数分も経たないうちに、たまは表の方へ戻ってきた。手にした皿には、茶色いパンのような料理が乗っかっている。

「クライン様……出来ました。私の作ったカレーパンです」

「えっ!? 俺の為に作ってくれたのか……」

「少しでも元気が出ればと思い……さぁ、どうぞ」

 その正体はカレーパンであった。少しでも元気づけようと、彼女なりの優しさをプレゼントしている。ちょっとした無理を負っても、クラインの気持ちを優先にしていた。

 たまからの粋な計らいに彼は、有り難く感じている。反射的にもカレーパンを手にすると、勢いよくそれを頬張り始めていた。

〈サクッ!〉

「お、おいしいぞコレ!? あの子のカレーパンとは偉い違いだ!」

「だろうな。デスソースが入ってないからよ」

 その美味しさはすぐに伝わったようで、いつの間にかテンションも元に戻り、このままカレーパンを食べ進めていく。銀時の皮肉も気にとめず、あっという間に完食してしまった。

「いやー、上手かったぜ! ご馳走してくれてありがとうよ!」

「いえいえ。元気が戻ったなら何よりです。前を向いている方が、クライン様らしく思いますよ」

「た、たまさん……!」

「辛い事もありますが、これからも頑張ってください」

 立ち直った姿を見ると、たまもつられて微笑みを浮かべている。クラインの気持ちを後押し出来て、役立てたことに達成感を覚えていた。

 そしてクラインの方では、平常心と共に別の想いが芽生えている。

(なんで健気な笑顔なんだ……無理をしてまで俺を元気にしてくれて。こんな優しい子が俺の彼女だったら……いや、たまさんこそが運命の相手じゃ!?)

 自分の気持ちを真正面から受け止めるたまの姿勢に感化されて、より彼女の魅力に惹かれていた。気が付くと彼の心は、たまへの興味で埋め尽くされている。次第に彼女の見方を変えて、真っ先にある決意を固めていた。

「どうかしましたか、クライン様?」

「いや、その……たまさん!」

 たまとの目線や顔を自身に合わせると、彼は思い切った気持ちを伝えていく。

「俺はアンタに一目惚れした! 是非俺と付き合ってください!!」

「ん?」

「えっ!?」

「はぁ!?」

 まさかの一目惚れからの告白であった。顔を真っ赤にしながら、たまにありったけの想いを伝えている。肝心の彼女は意味を理解していないが。

 この急転直下な変わり様には、たまを除く全員が激しく驚嘆していた。

「おい、ちょっと待てお前! 切り替え早すぎだろうが!! 迷いなく告白するなよ!?」

「一回冷静になれって! たまさんも困っているから!!」

 今までツッコミを入れていた銀時のみならず、長谷川さえもこの展開に衝撃を隠せていない。共に血相をかいた表情となっている。

「まさかの展開だねぇ。たまに惚れるとは……」

「アイツ。たまさんがロボットだってことを、分かって告白したのか?」

「絶対勢イ任セデスヨ。後先考エテナイ人ニ決マッテマス」

 お登勢、エギル、キャサリンの三人も、落ち着いてはいるものの、クラインの告白には難色を示していた。たまとの関わりが深いからこそ、恋愛絡みでは難しいと予見している。

 そして告白した本人は、周りから何を言われても自分の想いを変えることは無かった。

「いいや、銀さんに長谷川さん! 俺はもう心に決めたんだ! たまさんと俺なら、最高のベストマッチになれるって!」

「いや、何言ってんだよオメェ! さり気なくボケんじゃねぇよ!」

「さぁ、たまさん! 恋にロボットも人間も関係ない! 俺の気持ちを受け取ってくれ!」

「関係あるから! もっと深く考えた方が良いからさ!」

 勢いに乗ったまま求愛しており、たまへ返答を催促していく。男らしい一直線な姿勢に、彼女の反応はというと――

「すいません。ちょっと何を言っているのか分からないので、とりあえず却下させていただきます」

「えっ、マジかよ!?」

「だろうな。それ以外にどんな返答があるんだよ」

あっさりと断っていた。無表情のまま、適当に話を逸らしている。たまの対応には、クラインを除く全員が一安心していた。本人は納得していない様子であるが。

「……じゃあさ! たまさんはどんな人が好きなんだよ!?」

 彼は厚かましくも、たまの好みを続け様に聞いている。すると彼女は、淡々と返答を告げていく。

「好きですか? やはり銀時様やお登勢様のような、強くて頼もしい大人でしょうか? 彼らの行動力には、今でも学ばせられます。私にとっては憧れの人なのです」

「強くて頼もしい……」

 好きよりも、影響を受けた人物として銀時とお登勢を挙げている。さり気なく言った一言に、クラインはまたも違った解釈を広めてしまう。

「おっ、よくぞ言ったぜ! たまさん! もうそいつのことはいいから、早くビールを持ってきてくれよ!」

「了解しました、少々お待ちください。では、私はこの辺で失礼します」

 すると銀時は、タイミングを見計らいたまへ注文を促していく。この話を長続きさせず、クラインの熱意を冷まさせようとしていた。

 彼女も一旦場を離れたが、それでもクラインはある事が心に引っかかっている。

「たまさんの好きな人……」

「ん、どうしたクライン? まだ気にしてんのかよ。さっさと切り替えようぜ」

「そうそう。こういう時は飲むのが一番だ! 俺達の酒席に入って来いよ!」

「……あぁ、分かったぜ」

 まだ考えが定まらない中で、銀時や長谷川からは飲みに誘われていた。場の空気を読んで彼は、二人の元に合流している。一見すると、たまのことを諦めたようにも見えるが?

「本当に収まったのかねぇ」

「なんだか一波乱ありそうだな」

「絶対アリマスヨ」

 お登勢ら三人だけは、密かに嫌な予感を察していた。クラインの言動から、また違った解釈をしていると予見している。

 その後はおっさん三人で飲み続けて、べろんべろんに酔いまくっていた。気持ちの浮き沈みが激しかったクラインも、今では銀時や長谷川と共に大人の恋愛トークに花を咲かしている。

 こうしてこの日は、何事も無く飲み会を終えていた。

 

 

 

 

 

 

 そして話は現在へと戻る。

「って、ことが前にあっただろ!」

「あぁー思いだした! そんなことあったよな」

 回想を終えた銀時は、ようやくクラインとの一件を思い出していた。それに至る過程まで、彼が適宜補足を加えており、仲間達も断片的にクラインの心境を理解している。

「ていうか、クラインさん? アンタ、たまさんに告白したんですか!?」

「私達の知らない間に、そんなことがあったの?」

「オメェの頭、大丈夫アルか?」

 新八、アスナ、神楽と思ったことをそのまま発していく。やはりたまへの告白は衝撃的であり、思わず疑ってしまう始末である。驚嘆とした表情になる一行に対して、クラインは自信満々な態度で話を続けていく。

「大丈夫だよ! ていうか、ここからが本題だ。俺はたまさんの言う通り、強くて頼もしい男を目指した……そしてようやく、胸を張って言えるまでになったんだ! だから銀さんを倒して、俺は自分の強さを証明するんだ!!」

 会話を交わす中で彼は、たまから言われた言葉を大切にしていた。彼女の言う通り強くて頼もしい男になったと括り、代表として挙がった銀時に勝負を申し込んでいた。

 つまり男らしい強さを証明して、たまの心を突き動かすのが狙いらしい。何とも回りくどい作戦である。

「えっとつまり、クラインさんは銀時さんを一つの壁として捉えているんですね」

「だから決闘を申し込んで勝負か……まぁ、分からなくはない理屈だな」

「おい、納得するなよお前等! 俺は決闘なんて、めんどくさくてやりたくないんだよ!」

 それでも彼の不器用さを知るユイやキリトは、妙にこの作戦に納得してしまう。名指しされた銀時からすれば、迷惑も良いところだが。

 そう彼がイライラしていた時である。

「そう言うな、銀時。ここはクライン殿の依頼に応えてはくれぬか?」

「って……その声はヅラか!?」

 突如として聞こえてきたのは、聞き馴染みのある男性の声。皆がその正体に気付いた時、玄関側の戸からあの男達も駆けつけてきた。

「ヅラじゃない、立花桂兵衛だ!」

「なんで初っ端から変装してんだよ、お前等!?」

 現れたのは桂小太郎……ではなく、白いジャケットとズボンを身に付けた立花桂兵衛である。(要は変装した桂小太郎)

 さらに彼の後ろには、同じく変装したエリザベスもやって来ていた。彼の方は青いバンダナとジャケットを身にまとっている。

「桂さんにエリザベスさん?」

「随分と久しぶりね。てか、その格好は何?」

 気になったアスナが質問すると、彼はお馴染みの腕組みで淡々と返答していく。

「あぁ、これか。クライン殿の特訓に付き合うには、やはりこれに限ると思ってな。昭和に名を残した伝説のインストラクター、立花藤兵衛を模した服装だ!」

「思いっきり他者から借りているけど大丈夫か!?」

 やはり変装にはモデルがおり、桂兵衛は某特撮ヒーロー番組のおやっさんに扮して、特訓に付き合ったそうだ。だからどうしたと言う感は否めないが。

 いつものボケだと銀時らは察したが、ユイだけは別の部分が気になっている。

「昭和? あれでも、この世界の年号はまだ江戸では?」

「ユイ君、細かいことは気にするな。設定の無視は他作品でもざらにあるからな」

「いや、自ら公言しちゃっていいんですか?」

 素朴な疑問にも、桂兵衛は元も子もないことで返答した。思わず新八からもツッコミを入れてしまう。さらにそこへエリザベスも加わってきた。

[細かい事は気にするな! BY 霞のエリー]

「いや、気になりますよ! 何ですか霞のエリーって! 似合ってないですからね!」

 桂兵衛の援護と共に、変装の元ネタまで明かす根回しの良さである。(ちなみにエリザベスが変装している元ネタは、仮面ライダーBLACKRXに登場する霞のジョーだ)

「久しぶりに会ったけど、全然変わってない気がするな……」

「そりゃ、ヅラクラエリだからな。変わらずに悪化し続ける三人アルよ」

「悪化は言い過ぎじゃないかしら……」

 彼らの独特な雰囲気作りには、キリトやアスナも気が引けてしまう。改めて桂兵衛の個性に二人は圧倒されていた。

 それはさておき、インストラクターとなった彼は、銀時らに向かいクラインのこれまでの成果を主張していく。

「さて、俺からも言わしてもらおうか。この数週間の間、クライン殿は誰よりも頑張った方だと思うぞ」

「それ本当のことかよ?」

「あぁ。彼の本気を見て、俺達も手伝いたくなってな。本来であれば第五十六訓のトンキー篇と、第五十七訓のリズ君のプレゼント探し篇にも出演する予定だったが、それを全て蹴って特訓する時間に当てていたのだ」

「そんな裏話いらねぇんだよ! つーかお前等の出番、尺の都合で削ったって投稿者から聞いたぞ! 何を程よく改変してんだよ!」

 途中では、伝える必要性の無い裏話までこぼす始末である。逐一銀時がツッコミを入れて、軌道修正を図っていた。その後も話は続く。

「俺達の地獄のような特訓は今でも覚えているぞ……ジョギングにスクワットにメガドライブ、ギプス装着や剣術修行やメガドライブ、宇野や人生すごろくにメガドライブ。いやー我ながら辛い日々であった!」

「途中から遊びになってんじゃねぇか! つーかお前等、どんだけメガドライブしたいんだよ!」

 修行の苦労話を披露するつもりが、何故か途中から論点がずれてしまう。鍛錬よりもメガドライブを強調しているが、実はこれにもある秘密が隠れていた。

「勘違いするな。メガドライブと言っても、息抜き用のゲーム版と鍛錬に特化した修行版があるぞ」

「なんで二つに分かれてんだよ! つーか、修行版って何だ!?」

「何ぃ、簡単なことだ。霞のエリーが乗りこなすジープに追い回されて、強靭な精神力を鍛える修行さ」

「それ東映じゃなくて円谷の方だよ! せめて制作会社くらいは、ネタとして統一しとけや!」

 どうやらジープを使った鍛錬らしいが、その元ネタは円谷作品からである。統一性の無いボケネタに、銀時のツッコミも激しく決まっていた。

「とにかくだ! 俺達の地獄の特訓によって、クライン殿はさらなる強さを得たのだ!」

[新しいクライン君の誕生だ! ハッピーバース・デイ!]

「いや、それは平成のネタですから! どんだけブレてんだよ、アンタらは!」

 それでもクラインの成長だけは、より強調する桂兵衛達。何度ツッコミを入れられようが、その意志はまったく変わらない。

「だから銀時! 強くなったクライン殿と勝負をしろ!」

「必ず倒して、たまさんの心を射抜いてやるぜ!」

[さぁ、万事屋! 戦え……戦え!]

 成長した強さを証明する為にも、改めて銀時に決闘を申し込むクラインら三人。一歩も引はずに、勢いだけで結び付けようと目論んでいた。

 中々決闘を諦めない彼らに、万事屋一行も各々が思ったことを呟いている。

「そこまでして、銀さんと戦いたいの?」

「ここまで言われると、断りづらい気がします……」

「別に無視して良いんじゃないアルか?」

 アスナ、ユイ、神楽女子三人は、違いはあれど皆微妙な反応を見せていた。一方で新八らも、同じような不安を覚えている。

「どうします、銀さん?」

「多分クラインの事だから、すぐには諦めないと俺は思うが……」

 彼とは長い付き合いのキリトは、しぶとく諦めないと予見していた。いずれにしろ判断するのは、決闘を申し込まれた銀時だが。

「はぁ……しゃあねぇな。気乗りはしねぇが、やってみるか……」

 彼は勢いに押された形で、この決闘を引き受けることにした。クラインを説得しても無駄だと、察したからであろう。上手いこと願いが叶い、クラインや桂兵衛は思わずガッツポーズを見せている。

 こうして万事屋一行は桂兵衛達に連れられていき、決闘場所である川辺まで移動することになった。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらは川辺に近いのどかな一本道。草木が生い茂る急斜面を抜けると、石で覆われている川辺に辿り着く。晴天に照らされた道筋には、散歩やジョギングを楽しむ者たちが行き交っていた。

 そんな活気が満ち溢れる散歩道に、たった一人だけ異様にテンションの低い男が買い物から帰路についている。

「ハァ……今日もあんぱんと牛乳だけ。先が思いやられるよ」

 露骨にため息と弱音を吐く彼の正体は、真選組の監察担当の山崎退であった。彼は副長の土方の指示で、とある指名手配犯の動向を監視している。

 任務を達成するまでは、決まりからあんぱんと牛乳しか口に出来ず、彼にとっては早く仕事を終えたいところである。しかし思う通りに上手くいかず、二週間分溜めていたストックも今日で尽きてしまった。その買い出しを終えても、気分は晴れないばかりである。

「早く犯人動いてくれないかな……たまさんとも最近会えてないし、全然良い事無いな」

 あんぱん等が詰められた紙袋を抱きかかえて、ぶつぶつと小声で文句を発していた。心なしか表情も暗くなる一方である。

 そんな荒み切っている彼の心を支えるのは、たまの存在だ。実を言うと山崎は、彼女に片思いを抱いている。以前にも監察の仕事をそっちのけに、たまへストーカーまがいの監視をした経験があった。

 是非とも彼女と会いたいところだが、今は任務を優先しなければならない。さっさと犯人の尻尾を捕まえないといけないのだが。

「何か面白いことがあればな……って、アレは?」

 そう気が重くなる山崎だったが、ふと視線を逸らすと、川辺に集まっている銀時ら万事屋を発見していた。彼らは決闘に向けて、今一度準備を固めている最中である。

「さぁ、銀さん! いよいよ覚悟は出来ているか!!」

「ハイハイ、出来ているよ。ったく、なんで俺がこんな面倒なことを――」

「おい、銀時ぃ! しっかり本気を出して戦えよ! クライン殿の為にも!」

「分かっているから!」

 適度に距離を離しながら、クラインは刀、銀時は木刀を手にしていた。自信満々の前者に対して、後者は未だにこの決闘に乗り気では無い。桂兵衛からも注意が飛び交う。

「旦那に妖精ゲーマー達!? なんでこの場所に集まっているんだ!?」

 一方の山崎は、久しぶりに見た万事屋やキリト達の様子に驚いている。彼らの一連の会話から、決闘だと予見していた。

 すると彼にとって、寝耳に水な言葉が聞こえてくる。

「いいか! 俺はお前に勝って、たまさんと付き合ってみせる! 俺の力を受け止めてみろよ!!」

「そんな気合入れなくていいよ。どうせ空回りするんだからよ」

「えっ!? たまさんと!? はぁ!? どういうこと!?」

 クラインから飛び出た告白宣言に、山崎は困惑を深めていた。まったくもって状況を理解出来ずに、任務をそっちのけに決闘への興味を寄せていく。

「とうとうここまで来たんですね……」

「本当に銀さんと戦うことになるなんて」

「どうせ銀ちゃんが勝つんじゃないアルか?」

 そんな中で仲間達は、近場のベンチに座り、二人の決闘の様子を見守っている。女子達はどちらかと言うと、銀時の方へ肩入れしていた。

「俺ですらまだ決着が着いていないのに……」

「まぁ、キリトさんが急ぐ必要は無いですよ」

 一方でキリトは、彼と初めて会った時にした決闘を思い起こしている。銀時とはまだ決着が着いていないので、先に勝敗が付くことに少し心をモヤモヤしていた。新八からは宥められているが。

「フッ、いよいよ来るぞ。クライン殿が銀時を越える時が!」

[刮目して見なければ!]

 そして桂兵衛達はもちろんクラインを応援している。旧友である銀時を越えて、好きな人にも認めてもらう。欲張りな彼の気持ちを素直に応援していた。

 様々な想いが混在する中で、いよいよ勝負が幕を開ける。

「それじゃ、そろそろ始めるよ」

「おう! いつでも来い!」

「さっさと始めてくれや」

 キリトの掛け声のもと、各々の武器を握りしめる二人。気乗りしない銀時も、戦闘時には目を鋭く豹変させていた。

「本気で行くぞ、銀さん!」

「あぁ、どっからでも来い」

 そう言葉を交わした直後である。

「ハァァァ!」

 先に動きだしたのはクラインの方だった。赤い羽を広げて、空中浮遊から銀時へ襲い掛かっていく。対して銀時は直立不動のまま、彼の攻撃を受け止めようとしていた――その時である。

「ちょっと待ったぁぁぁ!!」

「えっ!?」

「あん!?」

 遂に我慢できなくなった山崎が、決闘中の二人の間に割って入って来た。彼の登場により、戦闘は一時的に中断。銀時、クライン共に刀等を一旦下げている。

「あ、あの人って……」

「山崎さん!?」

「ひ、久しぶりだな……」

 もちろんキリト達にも、山崎の不意の登場には度肝を抜かれていた。特にキリト、アスナ、ユイにとっては、リーファ回収時にしか彼と出会ってないので、実に懐かしく感じている。

「何!? 何故真選組がここに……」

[こいつはヤバいな!]

「いや、アンタらは変装しているから大丈夫でしょ」

 一方の桂兵衛達は、敵である真選組にただならぬ警戒感を露わにしていた。霞のエリーと共に山崎を睨みつけているが、変装を施している為か怪しまれてはいない。新八からも指摘されている。

 そしてクラインからも、思ったことがささやかれていた。

「お、お前は……誰だっけ?」

「って、俺ですよ! 真選組の山崎退ですよ! アンタとは一回会ったことがありますよね!?」

「つーか、本当に誰だお前?」

「なんで旦那まで覚えてないんですか! 俺正真正銘の銀魂キャラですよ!!」

 すっかり忘れされていた上に、銀時からも冗談半分に忘却される始末である。おかげで山崎のツッコミも激しく決まっていた。

「あぁ、あの人か! ていうか、なんでアンタが俺達の決闘を止めるんだよ?」

 ようやく彼の存在を思いだしたクライン。決闘を止めた理由を聞くと、思いもよらない答えが返ってくる。

「それは……俺もたまさんが好きだからですよ!」

「あぁ、そっか――って、えっ!?」

 突然の告白につい目を丸くしてしまった。山崎の恋愛相手も明るみとなり、キリト達も新しい衝撃を受けている。

「嘘だろ……山崎さんにも好きな人がいたのか?」

「しかもたまさんなんて……」

「何だかドラマっぽくなってきたわね」

 初耳な情報に、クラインと同じく驚嘆するキリトら三人。一方で実は知っていた新八と神楽は、冷めたような目つきをしていた。

「そういえば、そんなことあったアルナ」

「一番面倒な人が来ちゃったよ……」

 いずれにしても彼の告白により、場の雰囲気が大いに乱れたのは事実であろう。

「おいおい、聞いてないぞ! アンタまで好きってことは、俺のライバルってことじゃねぇかよ!」

「いや、それよりも……なんで勝手にたまさんを懸けて勝負しているんですか! 俺の方がよっぽどたまさんのことを理解していますからね!」

「何を知った口を! 真選組の一員だろうが、俺の気持ちは譲らないぞ!」

「こっちだって引きませんよ! たまさんに相応しい男はこの俺です!」

「いや、俺だ!」

「俺です!」

 仕舞いにはたまを話題に挙げて、互いに彼女に相応しい男だと言いあう始末である。どちらも一斉譲ることなく、意地っ張りに口論を吹っかけていた。

 これには見守っていた仲間達も、目も当てられない展開である。

[って、段々と企画からずれているぞ]

「おい、クライン殿! 真選組のことは構うな! 今は目先の勝負にだけ集中しろ!」

 霞のエリーと桂兵衛は、冷静になるようにとクラインへ促していく。

「何とも引かない言い争い……」

「普段のシッリー達と同じ光景アルナ」

「まさかあの二人が恋敵になるなんて……」

 アスナ、神楽、新八と万事屋一行も思ったことを呟いていた。

 二人が口論を続ける中で、唯一置いてきぼりにされているのは、対戦相手の銀時である。彼らの言い争う光景に呆れた彼は、ヤケクソ気味にある提案を持ち掛けてきた。

「あぁ、もういいからお前等! こうなったら決闘で勝負を付けろよ!」

「「……えっ!?」」

「勝った方がたまに告白出来る。それでいいだろ? そんじゃ俺は辞退するからな。お前等で勝手にやってろよ」

 自身の代わりとして山崎を、クラインの対戦相手に任命している。同じ好意を寄せている者同士で、戦わせた方が有意義だと彼は悟っていた。反応を伺う暇も無く、銀時は仲間達の元に戻っている。

「って、銀さん!? 勝手に決めて大丈夫なのか?」

「別にいいだろ。俺よりも山崎と戦った方が、クラインの為にもなるだろうが。そうだろ、ヅラ?」

「あまり気乗りはしないが……ここは様子を見ようではないか」

「つーか、変装したままで正解だったな」

 彼はふてぶてしく座りながら、持論をキリトらにも伝えていく。本筋からは逸れてしまい、桂兵衛や霞のエリーは若干不満げであったが……ひとまずは様子見している。

 一方で勝手に提案された側のクラインと山崎にも動きがあった。

「……こうなったら! おい、山崎って言ったか! 俺と決闘で勝負しようじゃないか!」

「いやでも、決闘すると局中法度に反するんで……」

「じゃ、俺がたまさんとお近づきになっていいんだな?」

「それはダメですよ! ……じゃ、俺も戦いますから!」

「おう! そうこなくっちゃな!」

 早くも決闘する気満々のクラインと、ルール破りに恐れを抱く山崎。前者に言いくるめられる形で、彼もこの決闘を受け入れていく。(ちなみに局中法度は真選組が決めた掟。厳重に守らなくてはいかず、その中には決闘も含まれているが……今回ばかりは好きな人が絡んでいる為、山崎もつい気を緩めてしまった)

 と仕切り直してようやく二人の戦いが幕を開く。

「さて、始めようじゃないか!」

「いいですよ……容赦はしませんからね!」

「こちらこそ!」

 山崎自身も帯刀している刀を引き抜き、クラインの方へ標準を定めている。(お馴染みのミントンは、今回残念ながら所持していない……)

 再び場には緊張感が漂い始めていた。

「一体どんな勝負になるんだ?」

「クラインさんには是非勝ってほしいです!」

 対戦相手が変わると、思わずクラインに肩入れしてしまうユイやキリト達。期待感を高めつつ、彼の勝利を切に願っている。

 一方の銀時達は、若干冷めた見方をしていた。

「つーか、この対決需要あるか?」

「おっさん同士の女の取り合いアルからナ」

 ごもっともな意見には、新八も突っ込まずについ頷いている。

「相手は変わったが、気を引き締めて頑張れよ……」

 そして状況が変わっても、桂兵衛達の応援する立場は変わらない。彼らもクラインを愚直に応援している。

 さらなる思いが混ざり合って、遂に決闘への火蓋が切って落とされた。

「じゃ……」

「始めだ!」

「はぁぁ!!」

「うぉりゃぁぁ!!」

 銀時やキリトの掛け声と共に、相手へ立ち向かう二人の侍。強さを証明したいクラインと、巻き込まれながらもたまの好意を貫きたい山崎。

 多少の年の差があるおっさん同士の勝負は、万事屋や桂兵衛達の予想以上に、泥臭くも長い戦闘を繰り広げていた……

 

 

 

 

 

 

 こうして一時間が経過した頃。肝心の決闘は意外な結末を迎えている。

「はぁ……はぁ……」

「終わった……」

 両者共に戦う気力が尽きてしまい、地面へ大の字になって寝っ転がっていた。ほぼ互角に渡り合ったせいで、勝敗もつかない始末である。

「いや、結局引き分けかよ!」

「散々引っ張っておいて、こんな結末アルか!」

 あまりスッキリしない結果に、思わず文句を吐く銀時と神楽。特に前者はクラインに振り回されているので、優劣が付かないのは若干憤りを感じていた。

「山崎さんって、意外に強い方なのね」

「まぁ、アレでも真選組の一員ですからね。剣術に関しても、高い方だと思いますから」

 一方のアスナは、山崎の実力に目を向けている。クラインの強さは昔から知り得ている為、彼と張り合う山崎を見直していた。さり気なく新八もフォローを入れている。

 いずれにしても、一行にとっては期待以上の戦いだった。キリトもユイも、彼らの姿には感銘を受けている。

「中々迫力のある戦いだったな」

「クラインさんも山崎さんもどっちも頑張っていました!」

「やはり俺の指導力あってだな。さぁキリト君達も、俺の元で学びに来るがいい! ついでに攘夷浪士としても……」

「いや、丁重に断っておくよ」

「えっ?」

 乗っかるようにして桂兵衛が自己主張を始めたが、キリトは構うことはなくスルーしていた。彼の応対よりも、今は決闘を終えたクラインと山崎の会話が気になっている。

「アンタ……見かけによらずに強いな」

「そういうアンタこそ……ゲーマーのくせしてしぶといよ」

「俺は惚れた女の為ならば、命を懸ける人間なんでねぇ……」

「清々しいほどのバカさ加減だよ……でもそういうの、俺は嫌いじゃないよ」

「ヘヘ、あんがとよ!」

 互いの強さを認め合った二人は、クスッと笑った後に両者の手を固く握っていた。二人の間に新しい友情が芽生えた瞬間である。

「えっ!? まさかの友情エンドですか!?」

「恋敵からの良きライバルに……!?」

「この展開は予想外です……!」

 思わぬ結末を目にして、仲間達からも次々に驚きの声が上がった。新八、アスナ、ユイと皆一瞬だけ困惑した表情を見せている。それは桂兵衛も同じだ。

「不味いな。クライン殿と山崎の交流はやや危険だ。下手したら寝返る可能性も……」

「おめぇは何の心配してんだよ」

[しかし桂さん。二重スパイとして活躍させれば……]

「あぁ、その手があったか!」

「いや、活躍させる気あんのかよ!?」

 真選組との友情に危機感を抱いたが、エリザベスの提案で言いくるめられている。またも銀時からツッコミを入れられていた。

「これはこれで良い締め方なのか?」

「まぁ、下手に決着が着くよりかは良いんじゃないアルか?」

 旧友の新たなる友情を見て、若干モヤモヤしてしまうキリト。表情も困り果てている彼に、神楽が適当に促していく。

 だが今回の決闘で、存分に自身のさらなる強さを発揮したクライン。自分でも持てる力を出し尽くして、気持ちの面でも満足していた。

 そのきっかけを作ってくれたたま、特訓に付き合った桂とエリザベス他攘夷党の面々、一時だけ協力してくれた銀時、ライバルとして戦った山崎と、彼は多くの人々に感謝している。

(あぁー、なんかスッキリしたな! 心から楽しめる決闘だったぜ。これでたまさんにも心して会える! 山崎さんに負けてたまるかよ!)

 そっと内心で本音を呟きながら、彼は新たなる目標を掲げていた。強さを確かめた以上は、次にたまから認められたいのである。そんなクラインの願いは、真っ先に叶いそうであった。

「アレ? あの人ってたまさんじゃないですか?」

「えっ、本当か!?」

「ど、どこにいるんだ!?」

「あそこですよ」

 ふと辺りを見ていたユイが、たまの姿を発見している。その一報を聞いたクラインと山崎は、すかさず彼女が指す橋方面に目を向けていた。

「うぉー! たまさ――えっ?」

「あ、あれは……」

 大声で気付かせようとした――その時である。彼らにとっては、衝撃的な光景が目に入っていた。

「ありがとうよ。源外の仕事を手伝ってくれてよ」

「いえいえ、お構いなく。人手が足りないと事前に聞いていたので」

 なんとたまの横には、共に荷物を運ぶ金髪の男性が並んでいる。彼は親しげな雰囲気で、たまとの会話を楽しんでいた。

「「だ、誰だあの男!?」」

 クラインらにとっては当然の反応である。また驚嘆としているのは、キリトら三人も同じであった。

「いや、本当に誰なの!?」

「妙に銀さんっぽいんだが……」

 困惑を深めている彼らに、唯一正体を知る銀時らが補足を加えていく。

「おいおい、このタイミングでアイツが出てくるかよ」

「アイツ? 銀時さんのお知り合いなんですか?」

「知り合いだけど、凄く説明が必要な人で……」

「ユイ達には別の機会に教えるアル」

 説明が面倒で省略しているが、金髪の男性の正体は銀時に似たカラクリロボの坂田金時である。現在は源外の補佐を行っているので、たまとの行動はなんら珍しいことではない。

 その事情を知りもしないクラインと山崎は、早くも行動へと移していく。

「こうしちゃいられねぇぜ! おい、山崎さん! 跡を追いかけようぜ!」

「そうですね! あの男の正体を突き止めましょう!」

 互いの利害が一致した後、二人はバレないようにたまと金時の跡を尾行することにした。真実を知りたいが為に、一段と躍起となっている。

「ちょっと待て、クライン殿! 不覚に真選組と行動を共にするな! 一旦戻ってこい!」

[待て~!]

 さらには尾行した二人の跡を、桂兵衛と霞のエリーが追いかけていく。

 こうして場に残ったのは、巻き込まれた側の万事屋の六人である。

「い、行っちゃった」

「あのまま放っておいていいのかしら……?」

「別に良いんじゃねぇの。アイツらの好きにして」

「そうアルナ。後はあの馬鹿共に任せるネ!」

「それじゃ、僕等は帰りましょうか」

「はいです!」

 クラインや桂兵衛の行方も気になるところだが、後のことは彼らに任しきっていた。やることの無くなった万事屋一行は、六人揃って家路に着くことにする。決闘での感想を言い合いながら、万事屋に続く一本道へと進んでいった――

 

 一方で任務に戻った山崎はと言うと、

「おい、山崎! 張り込みはどうした? 滞在先を訪ねたら、不在だったんだが……」

「いや、あの副長! これには深い訳があって……」

「それとお前が、クラインってヤツと戦っていたと目撃があったが……」

「それも深い理由が……」

「屯所に戻って来たら覚悟しとけよ!」

「いや、話を最後まで聞いてください!!」

携帯電話越しに上司の土方からこっぴどく叱られている。

 

 

 

 

 

 

 

決闘の下準備パート1

 銀時との決闘を決意したクライン。桂に鍛錬を頼み込んで、しばらくの間は彼と共に自身の実力を高めていた。

 そんな彼らのとある日の一幕。柳生家にわざわざ乗り込んで、九兵衛に一日だけ稽古を付けてもらっている。

「行くぞ、九兵衛さん!」

「いつでもかかってこい!」

 お互いに竹刀を持ち、相手に標準を定めるクラインと九兵衛。共に刀の腕に自信があり、一斉手を抜くつもりは無い。辺りは一瞬にして、真剣な雰囲気に変わっていた。

 その様子を見守るのは、変装済みの桂兵衛と霞のエリー。そして九兵衛と共に実力を高めあうリーファの三人である。

「九兵衛さん、いつになく真剣ね……」

「フッ、だが問題は無い。今のクライン殿であれば、九兵衛君も打ち倒してくれるだろう」

「さぁ、どうかしらね……ていうか、桂さんにエリザベスさん!? その格好は何なの?」

〔一般人に紛れ込む為の変装だぞ、リーファ君!〕

「どうやって紛れ込むの!? 色々と古臭くて、むしろ目立っているわよ!」

 やはり彼女も桂達の癖のある格好が気になって仕方ない。二人の一騎打ちに集中したいが、横にいる為かどうも気になってしまう。

 そう気を散らしているうちに、とうとう二人の戦いが始まった。

「いくぞぉぉぉ!!」

「こちらこそ!!」

 同じタイミングで勢いよく走りだし、竹刀を高く振り上げていく。相手に攻撃しようと接近した――その刹那であった。

〈チョン〉

「ハッ!? うわぁぁぁ!! 僕に触るなぁぁぁ!!!」

「なんでえぇぇぇぇ!?」

 不覚にもクラインの肘が九兵衛の脇腹にかすってしまい、本人は反射的に彼を投げ飛ばしてしまう。肝心のクラインは投げ飛ばされた後に、

「グハァ!!」

壁に激突してそのまま倒れ込んでしまった。折角の勝負が彼女の弱点によって、うやむやとなっている。

「ク、クラインさん!? それに九兵衛さんも大丈夫!?」

「おのれ九兵衛め! 自分の弱点でオチを作るとは……あちらが上手だったのか!?」

「上手も何も無いでしょ!! 早く助けないと!!」

「理不尽すぎるぜ、九兵衛さん……」

 この状況に戸惑いながらも、仲間達はクラインの元に駆け寄っていく。一方の九兵衛は、深刻そうな表情で自身の弱点を悔やんでいた。

「……済まなかった、クライン君」

 その後は無事に稽古が出来たらしい。

「こうなったらリーファ君にも出てもらうしか……」

「えっ、私まで!?」

 

 

 

 

 

 

決闘の下準備パート2

 一目惚れした女の為に自身を鍛え続けるクライン。彼は自分だけではなく、愛用している刀も今一度鍛え直そうとしていた。

 今回は桂兵衛や霞のエリーと共に、リズベットと鉄子がいる刀鍛冶屋を訪れている。

「決闘用の刀をすぐに鍛えて欲しい?」

「頼む! 俺の一世一代の決闘が懸かっているんだ!」

「リズ君と鉄子殿なら出来るぞ! この通りだ!」

[是非頼む!]

 攘夷党の三人が揃って、リズベットや鉄子に向かい頭を下げている。彼女達の鍛冶の腕を必要としており、真摯な姿勢で刀鍛冶を委託していく。

 肝心の彼女達はというと、少々微妙な反応を示していた。

「あのね……こっちだって私情に構っている暇は無いのよ。鉄子さんと一緒に打っても、三日は返却出来ないからね」

「いや、頑張っても二日だね。それでもいいなら預かるけど、大丈夫かな?」

「構わないぜ! 俺の刀をよろしく頼む!」

 不満げな表情で文句を呟きつつも、条件付きで委託を受け入れている。知り合いでも特別扱いはせずに、あくまでもお客として彼らを捉えていた。

「分かったわ。そんじゃ、はい」

「はい?」

「依頼料のことよ。知り合いだからって、安くするつもりは無いからね。きっちり耳を揃えて払いなさいよ」

 さらに彼女は続けて、鍛冶の依頼料を請求している。

「だったら心配はない。これで依頼を引き受けてもらおうか」

 すると桂兵衛は自信満々に、懐から封筒を取り出して、リズベットへ手渡してきた。

「これって……こんなにいらないわよ! アンタ達、気合入りすぎじゃないの?」

 その封筒の分厚さは十分にあり、少なく見ても三十万は入っていそうである。驚いた表情のまま彼女は、封筒を開いて中身を確認すると――そこには予想外の代物が入っていた。

「えっ、これって?」

「リズ君専用に作った肩たたき券だ! 俺達が君の疲れを癒してやるぞ!」

「特訓の中で覚えたツボ術を見せる時だぜ!」

[気がれなく申し出てくれ!]

 ご丁寧にも紙に一枚一枚書かれたお手製の肩たたき券である。要するにツッコミありきの小ネタを、彼らは挟み込んでいた。

 だがもちろんのこと、リズベットにとってはストレス以外の何者でもない。三人のバカっぽい発想に、カチンと頭に怒りを沸かしてしまった。

「……アンタら、いい加減にしなさい!! こんなもので騙せるわけがないでしょうが!」

「痛!? 落ち着け、リズ君! 棍棒の先端部分で突っつくな! くすぐったいから!!」

「うっさい!! この三馬鹿トリオ!! 冗談言うなら、もっとマシなことを言いなさいよ!! 余計な小ネタとかいらないのよ!!」

「分かったから、もう突っつかないでって!!」

 彼女は自身のメイスを握りしめて、クライン達に制裁と言う名の罰を与えている。今回ばかりはネタに乗っかる余裕もなく、ただただ怒りとストレスを感じただけであった。

「まぁ、怒るのも無理は無いな」

 一方の鉄子は、冷静に状況を読み取っている。今は彼女の気が収まるまで、ゆっくりと待つしかない。

 結局はちゃんと料金を払い、刀鍛冶の委託を済ましていた。

「なんでこうも、小ネタを挟まないと気が済まないのかしらね……」

「これが俺達の個性だからな!」

「だったらタイミングを見極めなさいよ!!」




 山崎と仲良くなった初めてのSAOキャラがクラインって……。てか山崎って、エギルよりも年上みたいですよ。ちなみに決闘シーンは長くなりそうなので、カットしました。

 そして地味に坂田金時が剣魂初登場! 本当はもっと登場を先にしたかったのですが、オチにちょうどよかったので出演してもらいました!

 ようやくですが、今回で第四章は終了します。まさか自分でも一年近く続くなんて、思いもしませんでした。途中からは投稿頻度が極端に下がってしまいましたが、現在はもう大丈夫です。状況に変化が起きれば、また後書き等で伝えようと思います。
 今回の章では、銀魂世界に来たキリト達と銀さんの日常をより深掘りした話が多かったです。中にはリクエストされた話もあって、ネタ提供には有り難く感じました。
 本章だと銀魂のキャラクターが、次々と剣魂に初登場したのも見どころだと思います。特に高杉客演の回は、今までの話でも一番作業速度が早かったです。彼は長篇にも関わるキャラなので、今後の活躍にも是非期待をしてください
 文体にもまだ悩むことが多い未熟者ですが、今後より精進していくので、これからも応援のほどをよろしくお願いします!!
さて、いよいよ次回からは新長篇が始まります!




さらに余談
 長く続いていたSAOのアニメが遂に終わってしまいました。私は見れていない回もあるので、時間が出来次第一気見しようと思います。(他にも見たいアニメガたくさんあるので、見終わるのは先になりそうですが……)




次回予告!

桂「遂に攘夷党が剣魂を乗っ取るぞ! 次回の日常回からは、お待たせ桂魂を掲載だ!」
クライン「俺と桂さん達が描く日常回を楽しみにしてくれよ!」
桂「それでは早速ユーチューバー篇の構成を練ろうでは――」
銀時「もうテメェらはいいよ! これ以上出てくるんじゃねぇ!!」

※本当は長篇の前に小ネタ集か没ネタ集を出してみたいです。







次回予告!(本当)

2000年―2006年―2012年―2020年

平成と令和の時代を駆け抜けた者たちに、この物語を告げる……。

剣魂 新長篇 次元遺跡篇スタート!

?????「この僕の技術力さえあれば、容易いことさ!」

?・???・?「ゾンドグビリボガギデギギギバ?(本当に見逃して良いのか?)」

????「へぇー。そんなお宝があるんだ」

??「逃がすか!」
??「待ちなさい!!」

????「ここは……どこなの?」

EPISODE 1 始動

セキさん「信じるか信じないかはアナタ次第です!」

銀時「おい、もう幽霊話は終わったか?」
アスナ「前を向いて良いのよね!?」
神楽「いいや、まだアルよ」

2020年 9月下旬or10月上旬より掲載スタート!


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第五章 次元遺跡篇
第六十五訓 始動


9月下旬から10月は誕生日のキャラが多く、誰をネタにするか非常に悩みます。
アスナ「もちろんこの私よね!」
キリト「俺も祝ってほしいよな」
銀時「おいおい、主人公歴の長い俺に決まってんだろ!」

シリカ「……主張しづらい雰囲気です」

 主人公やヒロイン達に挟まれているシリカちゃん。銀さんを抜きにしても、なんでこうも近い誕生日に設定したのだろう。
 とりあえずキリト。まずは誕生日おめでとう!

 茶番はさておき、いよいよ新長篇が始まります! 前回の長編と同じく、今回も新キャラやオリキャラが多めに出てきます。どうぞ、最後までご覧ください!



 銀魂の世界には幾つもの星々が存在している。頭部に触覚の生えた天人が住んでいる央国星、煙草の栽培地として有名なハメック星、ほぼゴリラのような容姿の天人が住む猩々星。どれも尖った個性を持ち、この他にも多くの星々が作中にて登場していた。

 そんな星の中には、SAOの本作に出てきたゲームの世界観と酷似した星も存在している。その内の一つが、地球より遠くにあるALO星。別名アルヴヘイム星と呼ばれるこの星には、原典と同じく九つの妖精種族達が、魔法を使って互いに協力しながら暮らしている。

 自然豊かな風景があちらこちらに広がって、種族ごとの領地には町や村が形成していた。さらに中心では、巨大な神木であるユグドラシルがそびえ立つ。ランドマークのような役割を果たすこの神木の中には、星を収める王女とその一家が暮らしている。

 ユグドラシルの近くには「アルン」と呼ばれる、いわば城下町が星の玄関口として発展を遂げていた。他の星を繋ぐターミナルも近くに常設しており、今日もこの街には多くの観光客が行き交う。ALO星に住む住人達も、昨今の盛り上がり様には嬉しい悲鳴を上げている。

 そんな城下町の日常を少しだけ覗いてみよう。

「あっ、シマノブさーん!」

「カヤノン! 久しぶり!」

 町を巡回していた近衛兵が、本屋で働く知り合いの看板娘に声をかけられている。

 前者は黄土色っぽい髪色をしたプーカの青年。全身に鎧を身にまとっている。一方の後者は、金髪ロングのケットシーの若い女性。ゆったりとした服装とエプロンを着用していた。

 見知ったかである二人は出会い頭に、昨今の事情や出来事について話し始めていく。

「そっちの調子はどう? 確か本屋で働き始めてから、しばらく経ったはずだよね?」

「うん、そうね。全然悪くはないわよ。他の星からもお客さんが来ているから、毎日程よく忙しい感じね」

「そうなんだ。観光客相手にも商売しているのか」

 本屋のアルバイトとして働く彼女は、忙しい日々を送っている様子だ。来店する客は地元住民だけでなく、観光に来ている天人も含まれているという。

 会話の途中で彼らが辺りを見渡すと、町には妖精達に加えて、多種多様な天人達が通りを行き交っていた。観光地としては申し分ない盛り上がりに、二人も満足気な表情を浮かべている。

「僕達の星もだいぶ知られてきたようだね」

「ここ最近のブームのおかげね。でも……良い事ばかりじゃない気がするわ」

「えっ? それってどういうこと?」

 ところが彼女には、一つだけ心配していることがあった。急にしかめっ面な表情を浮かべると、ある人物達に指を差し向けていく。

「例えば、あの人達とか」

「えっと……って、アレは!?」

 二人が遠目から発見したのは――一際異彩を放つ団体の観光客である。

「ヒャッハー! 遂に来たぜ、ALO星へ!」

「最初はどこへ行きまっせ、リーダー!?」

「まずはルグルー回廊だ! その後は領地まで向かうぞ! 挨拶回りだぜ!」

「おぉー! これなら二週間のうちに全て回れそうですね!」

「いや、回るんだよ! そうと決まったら、行くぞ! GO TO アルヴヘイムだ!」

「「オー!!」」

 常時高いテンションでバイクを乗り回すのは、モヒカン姿とジャケットの似合ういかつい男達。彼らは目的地を決めた後に、きちっと隊列を整えながら町中を突っ走っていく。

 恐らく他の星からの観光客であるが、その独特すぎる服装や奇抜な雰囲気には、近衛兵や看板娘もつい気になり見入ってしまった。

「な、なんなんだ。あの人達は……」

「アレはGGO星からの観光客ね。この星とも距離が近いから、最近だともっぱらああいう類の人を見かけるのよ」

「そうだったんだ……モヒカン野郎が増えているのか」

「モヒカンは稀な方よ。奇抜なのは構わないけど、最低限ルールは守って欲しいところね。違法駐車なんてやられたら、町の雰囲気を壊すことこの上ないから」

「確かに」

 どうやら看板娘によると、モヒカン男達の正体はGGO星からの観光客らしい。彼らの大半が移動手段として、バイクを所持したまま来国しているという。妖精らしいファンタジー感が売りのALO星とは、明らかにミスマッチであるが。中でも彼女は違法駐車と言った、町の秩序が乱れる行為を不安視している。

「大丈夫だって! もしそんなことがあったら、僕がちゃんと注意しておくからさ!」

「そう? じゃ、よろしくね」

 すかさず近衛兵がフォローに入って、さり気の無い約束を交わす。頼りになる彼の一言に、看板娘も少しだけ安心感を覚えている。

 一方で今度は、近衛兵の近況に話題が変わった。

「それでシマノブ君はどんな感じなの?」

「そうだな……今は稽古とパトロールくらいだよ。やれることって」

「えっ? でも近衛兵になったなら、姫様の警護とかはしないの?」

「それはもっと階級が上になってから。今じゃその枠は、別のチームが担っているし」

 彼女のイメージとは裏腹に、彼の仕事内容は思ったよりも現実的である。兵に抱いていた役人の警護も、自身の階級によって決まるそうだ。

 現在ではとある六人体制のチームが、姫様直属の親衛隊として役目を受け持っている。

「別のチーム? もしかして、あの人達のこと?」

「そうそう。確かチーム名はス――」

 近衛兵がチーム名を言いかけた――その時だった。

〈キューン――キューン〉

「ん?」

 彼の耳に聞こえてきたのは甲高い耳鳴り。軽い不快感を覚えており、雑音っぽく捉えている。

「どうしたの、シマノブ君?」

「えっと……変な耳鳴りが聞こえなかったか?」

 思わず看板娘にも聞いてみるが、彼女は特に感じていない。

「耳鳴り? いや、全然」

「嘘だろ!? 絶対確かに聞こえて……いや、待てよ。もしかしてモンスターが町に近づいているのか? 僕ちょっと、見回りに戻るよ!」

「えっ、シマノブ君!?」

 耳鳴りの正体を気にしていた彼は、勝手な推測でモンスターの仕業と仮定。居ても経ってもいられずに、場を離れてパトロールを再開している。

「もう……怪我しないように気を付けなさいよ!」

 彼の無鉄砲な性格に苦労を覚えつつも、看板娘は優しく彼のことを見守っていた。穏やかな笑みを浮かべて、彼女は本屋の接客へと戻っている。

 だが二人は気が付いていない。聞こえてきた耳鳴りの正体が、鏡の世界に潜んでいる漆黒の戦士だと言うことに。

「フッ、能天気な奴等め。もうじき僕等の作戦が遂行されるなどつゆ知らずに……!」

 戦士は赤い複眼を不気味に光らせると、鏡の中から姿を消している。

 平和かつ活気に溢れる町アルンに、邪悪な魔の手が少しずつ近づいていく……。

 

 ALO星では最近、星の統治者が変わったことにより、国の体制にも大きな変化が訪れていた。比較的若い女性が女王を継承したことで、各種族の領主のみならず、他の星との関係も一変。国の治安改善や発展のみならず、他の星との交流もより深めていた。おかげで昨今の観光ブームにも、彼女が一役買っている。日々星や国の発展の為に、自分なりの方法で尽力を注いでいた。

 だがしかし、この体制を快く思わない者たちも中にはいる。彼らは町より離れた洞窟内にて、密かにアジトを形成していた。

 その組織の名前はマッドネバー。いわゆる反逆者とも言える彼らの目的は、気に入らない女王を自分達の手で引きずり降ろして、クーデターを成功させること。

 着々と計画を進めていた彼らの元に、突如として転機が訪れていた。それは他勢力との協力である。資金や技術力は、高杉率いる鬼兵隊から援助。しかしこれは一方的な協定であり、途中でマッドネバー側が自らの手で破棄している。

 そしてもう一方は、サイコギルドの資材提供だった。彼らがサイコホールによって集めた怪人達の欠片は、総帥の技術力によって本体を復元しており、これが組織の兵力拡大に繋がっている。

 もはやクーデター実行まで目前と迫る中で、マッドネバーの元にサイコギルドの一員であるアンカーとシャドームーンが、彼らの様子を見に来ていた。

「フッ、来てやったぞ。情報通りに出来たのか? 平成怪人達の記憶と言うのは」

「おぉー。これはサイコギルドの皆さん。よくぞ来てくれた。この僕の研究成果の為に」

「相変わらず自己主張が激しいな。オベイロンよ」

 二人の目の前にいるのは、マッドネバーの総帥兼科学者の――オベイロンである。その姿はかつてキリト達と敵対した須郷信之こと、妖精王オベイロンと酷似しているが、彼とは何も関係はない。いわば銀魂の世界で暗躍する、この世界のオベイロンなのだ。

 その容姿も偶然なのか原典とほぼ酷似している。光沢のある金髪に一段と鋭い目つきやとんがった耳、頭部には金色の王冠を装着していた。全身を覆う緑色の服装は、貴族のような雰囲気を醸し出している。しかし、この世界ではあくまでも科学者の一人だ。

 そんな彼の本性は、原点と同じく傲慢さと野心に満ち溢れている。

「そっちこそ、ふてぶてしい態度は変わらないな。シャドームーンよ」

「やかましい。それよりさっさと、平成怪人達の記憶を渡してもらおうか?」

「まぁ、焦るな。ちゃんとブツは渡すから安心しろ。いやーそれにしても、君達には大変感謝しているよ。君達がくれた怪人の欠片のおかげで、我が組織は飛躍的に進歩した! この戦力ならいずれ、僕がALO星の王として君臨する日も近いな……!」

 長々と自身の想いを語った後に、自信に満ちた表情を浮かべていた。隠し持っていた野望が現実味を帯びて、心の底から気持ちを高ぶらせていく。

(こいつ、まったく変わってねぇな)

 若干慢心気味のオベイロンに、シャドームーンも内心では気を引かせている。

 一方で隣に待機しているアンカーは、彼ともあまり顔を合わさず、今日一日よそよそしい態度を続けていた。

「どうした、アンカーよ。まだあの事を引きずっているのか?」

「別に……なんでもないよ」

 彼から心配されても、冷めた態度で言葉を返す。以前に生じた考え方の違いから、アンカーはサイコギルド自体に不信感を持ち始めていた。

 とそれはさておき、オベイロンは再び自信良く声を上げてくる。

「まぁ、いいさ。約束通りブツを渡す前に、ひとまず僕の研究成果を見てもらおうか」

 彼は指をパチンと鳴らして、復元した怪人の一体を場に呼び寄せた。現れたのは茶色い体色に覆われた、屈強そうなカブトムシ型の怪人である。

「こいつは……グロンギ怪人だな」

「その通り。コイツは僕が最初に復元した怪人でな、戦闘力も高く幹部級に着いてもらっているんだよ」

 オベイロンの言う通り、怪人の正体はグロンギの一種であるゴ・ガドル・バだ。原典でも圧倒的な戦闘力を持ち、最強の戦士として名高い怪人である。そんな彼は現在、復元されるとマッドネバーの幹部怪人として配属されていた。

 このようにオベイロンは、提供された欠片から数多の怪人達を復元させて、マッドネバーの戦力として従えているという。

「ゴラゲロゴセドダダバグバ? (お前も俺と戦うか?)」

「えっ? 何を言っているの?」

 するとゴ・ガドル・バは、濁音を多用した言語を発してきた。これはグロンギの特徴でもあるグロンギ語である。

「アレはグロンギ語だな。まさかここまで再現しているとは」

「当然だ。個の強さを強調するには、完全再現が間違いないからな。この僕の技術力さえあれば、容易いことさ! ハハハ!!」

 その再現度の高さから、シャドームーンは思わず感服していた。機嫌を持ち上げられたオベイロンは、甲高い笑い声を発して、調子に乗っている。自身の才能を自画自賛して、酔いしれているようにも見えなくはない。

(何か分からないけど、すっごくムカつく気がする)

 思い上がる姿に、アンカーも内心では腹を立ててしまう。この数分の間に、彼への印象は最悪なものへと化している。

 だがサイコギルドにとって、肝心なのは彼ではない。マッドネバーとの契約時に結んだ、平成怪人達の記憶の確保が目的だ。

「さてと、話はここまでにしよう。約束通りに平成怪人達の記憶を渡してもらおうか」

「フッ、いいだろう。さぁ、受け取るがいい」

 要件を急かされたオベイロンは、手のひらを広げて禍々しさを放つ緑色の球体を作り出している。それをさっとシャドームーンの元まで飛ばしていた。この球体こそ、圧縮された平成の怪人達の記憶である。

「ありがたい。確かに頂いた」

「それを有効活用してくれよ。なんせ僕の技術力の結晶だからな」

 自分の手柄だと言わんばかりに、研究成果の主張を続けるオベイロンだが――アンカーからは手痛い指摘が加えられていた。

「アレ? でもアンタの手下さんに聞いたら、別組織の資金と技術があったから、出来たって言っていなかった?」

「……ケホン。それはそうと、僕からの約束も果たしてもらおうか」

「いや、なんで無視するの。絶対不都合だったからでしょ」

 核心を突く一言には何も言い返せずに、まるで何事も無かったかのように無視している。意地でも手柄を主張したい、自尊心が垣間見えていた。

 どさくさ紛れにオベイロンは話題を切り替えて、事前に依頼した遺跡の行き方について聞いていく。

「約束? あぁ、あの遺跡の行き方だな」

「そうだ。発見したはいいが、行き方がどうも分からなくてな……何か分かったことはあるか?」

「あの遺跡へ行くには、特定の呪文が必要だ。呪文を唱えながら、ゾロ目が揃う時間帯に近くの扉を開け。そうすれば、行けるはずだろう」

「呪文だと? それも把握しているのか?」

「あぁ、そうだな。確か始まりは――」

 するとシャドームーンは、遺跡へ向かう特殊な呪文をひっそりと教えていた。

「そうか、分かったぞ。これならばも英雄の力も手に入り、僕の研究がようやく完成する……!!」

「それは良かったな。では、もう用が無ければ去るぞ」

「ご苦労だった。サイコギルドよ……」

 マッドネバーとの要件を全て済ますと、彼はあっさりとすぐに場から立ち去っていく。何とも呆気ない別れ方に、アンカーも若干戸惑っている。すかさず彼女もシャドームーンの跡を追いかけていた。

「ちょっと、あれで良いの? あのままアイツを放っておいて?」

「気にするな。俺達が欲しかったのは、平成の怪人達の記憶だけだ。それさえ手に入れば、アヤツのこと等どうでもいい。それにあの男の傲慢な性格は、肝心なところで爪を甘くする。俺達が関わらずとも、簡単に自滅するだろう」

「そうなの……?」

 やはり彼にとっての興味は記憶だけで、マッドネバーには一斉肩入れしていない。仕舞いには自滅するとまで断言している。

 この件からは身を引くサイコギルドだが、アンカーのモヤモヤとした気持ちは未だに収まっていない。

(私もこのまま、シャドームーンと一緒にいていいのかな?)

 徐々に感じている考え方のズレ。それは日に日に大きくなり、彼女の心にも迷いを与えている。それでも今は気持ちを押し殺して、彼についていくしかなかった。

 そんな二人の去り際を、オベイロンとゴ・ガドル・バはじっと見張っている。

「ゾンドグビリボガギデギギギバ?(本当に見逃して良いのか?)」

「ザバデデゴベ。ドブサンロブデビパブビンゲギガヅザ。ゴセザベゾビロビレギジソ(放っておけ。ボクラの目的は国の制圧だ。それだけを肝に銘じろ)」

 彼からの指示を受けて、ゴ・ガドル・バはこくりと頷いた。彼らもサイコギルドには興味を示さず、取引を終えた時から他人事のように片づけている。

 探し求めていた遺跡の行き方を知ると、オベイロンは咄嗟にある計画を打ち立てていた。

「さぁ、次元遺跡への扉は開かれた! この僕も、英雄となるチャンスが巡ってきたのだ! 是非ともお前達には、その調査に向かってもらおうか!」

 そう高らかに声を上げると、彼は後ろへ振り返る。そこには話を聞き流していた手下の天人達がいた。声をかけられて、意気揚々と表舞台に姿を見せてくる。

「フッ、ようやく俺達の出番か」

「いよいよこの力を使えるのね」

「存分に暴れちゃうよ……!」

 彼らの正体は、以前にもサイコギルドと邂逅したことのある辰羅や夜兎達だ。皆その手には、指輪やメダルと言ったアイテムを握りしめている。戦闘への意欲も高めており、テンションも徐々に高めていく。

 しかしその人数は一人だけ欠けている。

「おや? 夜兎が一人足りないぞ」

「あぁ、あいつのことか。早速変身したついでに、鏡の世界へ行ったまま帰ってきてないぞ」

「また勝手なことを……早く呼び戻せ! もうすぐゾロ目の時間帯になるんだよ!」

「はいはい、分かったから」

 どうやら暇を持て余したそうで、命令を無視して無断で行動しているようだ。遺跡へ向かうには時間の条件もあるので、彼は思い通りにいかず、怒りを露わにしている。初っ端から予定を大いに狂わされていた。

 

 だがしかし、彼らは誰一人として気付いていない。アジトへと密かに潜入していた、とある少女の存在に。

(へぇー。そんな遺跡があったんだ。英雄の力か……行ってみようかな)

 遺跡の話を盗み聞きした彼女は、足音を立てずに素早く場を跡にした。彼女は予め外見を透明にする魔法を使用しており、おかげでアジト内に侵入しても、誰にも気配を悟られていない。通路を通りかかる怪人達にも気付かれず、気持ちを浮かせたまま走り抜けていた。

 ところが……魔法は徐々に解け始めている。

「ん? あの女は?」

 姿が消えたり現れたりする中で、走り抜ける姿をあの漆黒の戦士に見つかってしまった。鏡の中から覗いている為、当然少女は発見されたことに気付いていない。

「あいつらにも知らせた方が良いな……」

 そう呟くと彼は、急いで同士のいる研究室へと向かう。

 一方の彼女は人気の無い場所に着くと、近くにあった扉の前に立ち止まる。魔法が解けて実体を戻してから、壁に掛けられた時計で時間を把握していた。

「11時10分か。ちょうどいい時間帯ね」

 ゾロ目の時間帯まで約一分を切っている。盗み聞きから遺跡の行き方は知っているので、後は呪文を唱えるだけであった。

「確か呪文は……クウアギリュファブレヒビカブデンキバディ、ダブオーフォウィガイドラゴーエグビルジオ!」

 ドアノブを手で握りしめてから、呪文をそっと唱えている。全てを言い終えたその途端に、時刻はちょうど11時11分11秒を指し示していた。

 すると扉は眩い光を放ち、遺跡までの通路を繋げている。未知なる地への扉が開かれた瞬間であった。

「おー光ってる! よし、行こう!」

 彼女は好奇心の赴くままに、扉を潜り抜けて次元遺跡へと足を踏み入れていく。

 そして同じ時間帯に、マッドネバーに属する夜兎達も次元遺跡に向かっていた……

 

 場面は変わって、こちらは次元の狭間にあると言われる次元遺跡。一般人が立ち入ることは不可能な場所で、その存在を知る者すらほぼいない。

 しかしオベイロンは、独自の研究から遺跡の存在を確認。侵入方法もサイコギルドの協力によって見つけ出していた。彼はある理由から、遺跡に眠っているとされる強大な力に狙いを定めている。

 そんな未開の地に一足先へ降り立ったのは、会話を盗み聞きしていたとある妖精の少女。興味本位で来ていた彼女は、現在遺跡の奥部へと足を進めていた。

「おっ、また扉? もしかして、この先に秘宝とかあるのかな?」

 すると見えてきたのは、分厚く閉ざされた一枚の扉。行き止まりでもあり、ここが遺跡の奥部だと予測していた。まじまじと周りを眺めると、扉の横に配置された手形の痕跡が目に止まる。

「もしかして手を合わせろってこと? これで扉が開くの?」

 彼女は手形の通りに右手を広げた後、その痕跡に手をかざしていく。てっきりこれで扉が開くものだと、信じ込んでいたのだが――

〈ビリィ!〉

「痛!? 何今の電流!? そういう仕掛けだったの、コレ!?」

残念ながら予想は外れてしまう。手をかざした瞬間に、ちくっと電気ショックのような痺れが体に流れ込んでいた。簡単には人を通さない、いわばセキュリティーの対策は徹底しているのだろうか?

「もう一度やってみようかな……?」

 仕掛けにお見舞いされても、簡単には諦めない。電流による痛みよりも、全貌を知りたい好奇心が遥かに上回っているからだ。また手をかざそうとした――その時である。

「ねぇ、今声がしたわね!」

「間違いなくあいつだ! さっさと捕まえるぞ!」

 彼女はふと耳を澄ますと、こちらに近づく男女の声を聞き入れていた。これでようやく、遺跡には自分以外の人間がいると把握している。

「えっ、なんでバレてんの!? てか、早く逃げないと!」

 咄嗟に危機感を覚えて、すぐに場から逃げ出していく。黒い羽を広げて空中速度を上げると、遺跡へ降り立った扉まで一目散に向かう。常に警戒心を高めて周りを注視していた。

 するとようやく目的の扉が目に入ってくる。

「あった、あの扉だ! アレで元の世界に……」

 誰にも見つからずに、無事に帰れると確信した時であった。

「行かせるか! この盗人め!」

「うわぁ!? って、コウモリ!?」

 突如として彼女の目の前に、奇怪な生物が姿を見せている。小さい羽をパタパタと動かし飛行する、黒色のコウモリだ。しかも厄介なことに、人間と同じ言葉で話せるようである。

「早く来い! 妖精の女を見つけたぞ!」

「って、何を知らせてんの!? いいから黙って……」

 コウモリは冷静な態度で、追っ手に少女の存在を知らせていた。告げ口を聞くと、彼女は必死にコウモリの動きを封じ込もうとしている。迷惑この上ない仕様に、手を煩わせていた。

 だがしかし、少女を追うのはこのコウモリだけではない。

「クワァー!」

「キャ!?」

 突如として横から現れた物体と衝突してしまい、床に叩きつけられていた。ふと足を覗くと、そこには大きく噛みつかれた歯跡が刻まれている。

「痛! 何この跡……って、今度は黒い龍!?」

 軽い痛みを伴いつつも、彼女は自身と衝突した正体を目にしていた。そこには見たことも無い大型の黒き龍が、こちらをじっと睨みつけている。赤い目を禍々しく光らせて、少女に威嚇を続けていた。

「グワァァァ!」

「うわぁ! こっちに来るなー!」

 黒き龍の咆哮に恐れて、取り乱してしまう。右手を上下に振りながら、必死に抵抗した時であった。

〈カチ!〉

「えっ、スイッチ!?」

 壁に手を当てた途端、何かが起動する音が聞こえてくる。嫌な予感を察しているが、それは見事に当たっていた。

〈ヒュル!〉

「えっ!? キャャャャ!!」

 なんと寄りかかっていた壁が回転して、少女はそこに出来た隙間に落下してしまう。その先には次元同士を繋ぐ紫色の歪な空間が広がり、そのうちの一つの世界に吸い寄せられてしまった。

「どこに行っちゃうの、これー!?」

 悲痛なる叫びは空間全体へと響き渡っている。もちろん誰の耳にも聞こえず、彼女は光の彼方へと消えてしまった……。

 

「逃がすか!」

「待ちなさい!!」

 一方でこちらは少女を追跡する追っ手達。彼らが追いついた時には、もうすでに少女は遺跡外に放り出されていたが。

 すると黒いコウモリが、二人に状況を伝えている。

「遅かったな。あの女なら遺跡の外に放り出されたぞ」

「えっ、本当に!? これじゃどこへ行ったか分からないじゃないの……」

 対象の行方が不明となり、がっかりとしてしまう女性。しかし彼女とは対照的に、青年は前向きに気持ちを切り替えていた。

「いや、心配は無用だよ」

「ん? 何か策でもあるの?」

「そうそう。ドラグブラッカーがあの女に噛みついたんだ。この匂いがあれば、どこに行ったのかも分かるかもね」

「へぇー、そうなのね。やるじゃんアンタも」

 どうやら彼によると、黒き龍――いやドラグブラッカーの作戦で、事前に少女へ印を付けておいたらしい。これさえあれば、現在地も特定できるようだ。

「仮にも僕達は異形の力を手にしたんだ。使える者は有効活用しないと。そのコウモリのようにね」

「もちろんよ。ねぇ、キバットバットⅡ世」

「そうだな」

 彼らの柔軟な考え方には、コウモリ――いやキバットバットⅡ世も共感していた。

 夜兎達が手にしたとされる異形の力。それはかつて、別世界で猛威を振るった漆黒の戦士の力である。使役するモンスターらに感謝しつつ、彼らは周到に少女の尾行を再開していく……。

 

 一方で次元の彼方へと消えた妖精少女はというと、

「ここは……どこなの?」

真っ暗な闇が広がる森林にて力尽き倒れこんでいる。落ちていた無数の木の葉を埋もれながら、ひっそりと眠りについていた。

 彼女が辿り着いた世界は、幸いにもALO星と同じ宇宙に存在する地球の某所である……。

 

 再び場面が変わって、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん。時期は九月の中旬頃。秋の夜長にと彼らは夕食を食べ終えた後に、テレビで放送されている特番、カマシスギ都市伝説を興味深く見入っていた。

「へぇー、人間にも生き返る術があったんですね」

「その通りです! 死んでしまった人間は十五人の英雄の力を集めることで、この世に生を戻すのです! この話、信じるか信じないかはアナタ次第です!」

 番組内では話の締めとして、セキさんの有名な台詞が決まっている。彼はゴーストになった人間の隠された蘇生方法について熱弁していた。

 あくまでも噂程度の話だが、ユイはこの話に強い興味を示している。

「十五人の英雄ですか……!」

「おっ、ユイもこの噂が気になったアルか?」

「もちろんです! セキさんの話はどれも不可思議で、とっても興味深いですから!」

 神楽からの問いに彼女は、満面の笑みで返答していた。相当この都市伝説系の番組を気に入った様子である。

「そういえばユイは、オカルト系の番組を見るのは初めてだったな」

「オカルトじゃありません! 都市伝説ですよ、パパ!」

「ハハ、ごめんって」

「でも確かに、ユイちゃんが気に入る理由も分かるよ。どれも意味深なものばかりだし」

「なんたって、都市伝説ですからね!」

 新八ら仲間達とも面白さを共感しながら、彼らは引き続き会話を弾ませていた。より場は賑やかになる一方で、二人ほど会話に入れていない者達がいる。

「あっ、ところで銀ちゃんとアッスーはまだビビっているアルか?」

「そうだな……まだ一向に振り向かないし」

 神楽やキリトが目線を向けたその先には――居間の隅っこで耳を塞ぐ銀時とアスナの姿があった。共に正座をしながら、幽霊系の話が終わらないか、今か今かと待ち続けている。普段から相性の合わない二人だが、今回ばかりは互いに協力しあっていた。

「おい……あの話って、もう終わってんのか?」

「私に聞かないでよ! ずっと耳を塞いでいるんだから、いまいち進行が分からないのよ!」

「それくらい把握しとけや! 仮にもお前、元血盟騎士団の副長だろ? そういう気配りくらいできないのかよ?」

「私に何を期待しているのよ! そもそも銀さんだって、攘夷戦争の英雄の一人なんでしょ? そんな人がお化けくらいにビビって、恥ずかしくないのかしら?」

「あんだと!? そっくりそのまま返してやるよ! ヤンデレ症候群!」

「言ったわね、ニート侍! 私と違っていい大人なんだから、怖いのくらい我慢しなさいよね!!」

「何を……!」

 はずが、途中から不満が爆発して喧嘩寸前の空気に変わり果てている。銀時、アスナ共に互いの顔を睨みつけて、一時の意地を張り続けていた。負けず嫌いな性格が、悪い方向へと向かっている。

 見るに堪えない二人の言い合いに、仲間達も思わず仲裁へと入っていた。

「って、銀ちゃんにアッスー! この辺にしとくアルよ!」

「そうですよ! 幽霊の話はとっくに終わりましたから!」

「えっ、そうなのか?」

「なんだ、良かったわ……」

 新八らからの補足を聞いて、二人はほっと心を落ち着かせていく。次第に冷静さを戻して、喧嘩の予兆もすんなりと収まっていた。

「って、じゃ今は何をやっているの?」

「今は確か、セキさんがロケをしているな」

「空川町ってところで、あるモノを探すみたいですよ!」

 アスナからの質問に、キリトやユイが返答していく。どうやら番組はトーク形式からVTR形式に変わり、またもセキさんが視聴者に概要を語りかけていた。

「おぉー、来たね! 空川町! こののどかな町の奥には、自然豊かな森があるんだよね! 森の奥を潜り抜けると、そこにあるのはそう! 古びた遺跡! 最近皆さんはこんな噂を耳にしたことはありませんか? 次元の狭間にある遺跡の存在を。もしかするとこの二つの遺跡、妙な関係を秘めているのかもしれませんよ! さぁ、早速向かいましょうか!」

 彼が熱弁したのは、密かに噂されている遺跡の存在。次元の遺跡を話に挙げて、ある町の遺跡との関係を示唆していた。

 意味深かつ不可思議な内容に、万事屋一行もつい気になってしまう。

「今度は遺跡の謎ですか!」

「こっちも面白そうアルナ!」

 特にユイと神楽は、好奇心を震わせてテレビに食いついていた。一方の銀時らは、別の視点から遺跡に興味を向けている。

「空川町って、結構近い場所じゃねぇかよ」

「えっ? そうなのか?」

「確か列車で行ける距離なんですよ。キリトさん達の世界で言うと、東京から埼玉に行く感覚なんですよ」

「そんなに近いんだ……」

 空川町の所在地を知って、キリトやアスナは小さくも驚いていた。彼らも元の世界では埼玉県に住んでいるので、妙に距離の説明には納得してしまう。

 するとここで、聞き捨てならない一言が飛び出ていた。

「ハハーン。こちらの方にお伺いしましょうかー。何か最近変わったことはありますか?」

「いやー実はね、最近見たんですよ。銀色の怪獣みたいなやつと、槍を持った女の子をね。アレは幻だったのかなー」

「そうですか! これは貴重な情報ですね!」

 映し出されたのは、セキさんが町の老人から情報を得る一幕。町人が例えた表現に、一行は思わず耳を疑っている。

「えっ? 銀色の怪獣……?」

「槍を持った少女って……!?」

「もしかして、サイコギルドでは!?」

 そうこの情報は、サイコギルドの面々とまるで特徴が一致していた。思いもしなかった情報提供に、キリトら三人は目を丸くしてしまう。

 もちろん銀時らも、多少なりとも驚いている。

「おいおい、まさか本当にあいつらなのか?」

「確かに。次元を行き来する能力があるとしたら、一枚咬んではいそうですけどね」

 特に銀時や新八は、冷静に物事を判断していた。サイコギルドに関する情報がわずかしかない中で、この手掛かりは大変貴重である。無いよりはマシと言ったところか。

 さらに神楽は、早とちりである行動に移っている。

「こうしちゃいられないネ! ねぇ、みんな! 明日は空川町に行ってみるアルよ!」

「って、神楽ちゃん!? 急すぎるって! まだ本人だって、確定してないんですよ!」

「それでも行ってみるべきですよ!」

「そうね。私達から行動して、真実を確かめに行きましょうか!」

「それじゃ、シリカやリズ達にも声をかけてみるか」

「いや、アイツらまで誘うのかよ!? 遠足じゃねぇんだぞ、おめぇら!」

 いてもたってもいられずに、ほぼ決めつけで空川町へ行くことを決めていた。番組そっちのけで、サイコギルド関連にテンションを高めている。

 こうして万事屋一行は、仲間と共に空川町へ行くことを決めていた。サイコギルドの足取りを探すため、各々がやる気を高めている。

 ALO星で暗躍する反逆者。地球に転移した妖精の少女。彼女を追いかける夜兎達、サイコギルドの謎を追う万事屋一行。様々な出来事が重なり合い、新たなる物語が幕を開けた……。




※没になった前書き
今日は10月4日! この日と言えば……

シリカ「はいはーい! アタシの誕生日なんですよ! 皆さん、祝ってくださいね!」

ゴースト「そしてこの俺、天空寺タケルの誕生日でもあるんだ!」

シリカ「うんうん……って、誰!?」

ゴースト「細かい事はいいから! という訳で、剣魂の新長篇が始まるぞ! 読者のみんなもバッチリカイガンして見てくれよな!」

シリカ「だから誰なんですか、アナタは!?」




おまけ予告 カマシスギ都市伝説!

今宵もアナタを惑わす噂の数々をお送りしよう……

「実は一昔前に起こった大量殺人事件は、戦闘民族の人殺しゲームが絡んでいるんですよ」

「本来の人類は一万年前に起きたサバイバルで勝ち残って、地球の支配者となったという記述が最近出てきたんです」

「超能力者が何故公にならないのか? それは神に近づく人間を恐れる生命体によって、抹殺されているから」

「人は絶望すると体の中から化け物を生み出すらしいですよ」

「宇宙を侵食する森が多くの星で持ちきりになっているんですよ」

セキさん「さぁ、これらの噂。信じるか信じないかは、あなた次第です!」








 新たなる長篇はいかがだったでしょうか? ALO星で暗躍する反王権組織、マッドネバーとその総帥のオベイロン。彼に味方するのは数多の怪人達と、ごく少数の天人達。そして後者が従えていたモンスターや、所持していたアイテムとは一体? 次元の遺跡も明らかとなって、増々謎が出てきましたね。今後銀さんやキリト達とどう絡むのか、注目してください!
 そしてこの長篇に関係するのは、話を盗み聞きしていた妖精少女。実はSAO出身のキャラクターなんです! 全貌は次回以降に明かしますが……
 ちなみに冒頭から出ていた近衛兵と町娘は、特に長篇とは関係ないのですが、名前は少し小ネタっぽくしました。分かる人には分かるはずです。
 ではまた次回、第二回目でお会いしましょう!

諸事情でコメントを返すのが遅くなるかもしれません。そこはご了承ください。







次回予告

神楽「電車なんて、物凄く久しぶりアルよ!」

沖田「どうしたんでい、俺に警戒して」
リーファ「いや、だって……沖田さんだし」

ユイ「公衆電話なんて、私初めて見ました!」

銀時「って、まさかの帰宅オチかよ!?」

キリト「君は……?」
フィリア「私は……フィリア」

――目覚めろ、その魂!


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第六十六訓 妖しき少女……

 久しぶりの投稿になります。言い訳になりますが、中々時間が取れませんでした……でもお妙ちゃんの誕生日には間に合った!
 今回は次元遺跡篇の二話目です。空川町にある遺跡に向かった銀さんやキリト達に待ち受けるモノとは? 是非お楽しみください。



 カマシスギ都市伝説の放送から一夜が明けた頃。万事屋一行は番組内で取り上げた謎の遺跡が気になり,ロケ地となった空川町へ向かうことにした。

 組織との関連性が疑われる次元遺跡の存在,目撃される謎の少女と銀色の怪人。サイコギルドの手がかりを見つけるべく,彼らは躍起となっている。

 

 

 

 現在は事前に呼びかけたシリカやリズベットら女子四人と合流して,空川町へと向かう普通列車「イスルギ号」に乗車していた。しばしば一時間弱の電車旅である。

「おぉー! 江戸からどんどん離れていきますね!」

「そうアルナ! 電車で行くなんて,もの凄く久しぶりアルよ!」

 窓際に座るユイや神楽は,遠くから見える江戸の町並みを見て,テンションを上げていた。目つきをキラキラとさせて,好奇心旺盛に眺めている。

 ちなみに電車の席順だが,向かい合わせの二人座席にキリト,ユイ,神楽,アスナの四人が着席。通路を跨いだ横の座席には,銀時と新八が座っている。そして二人の前方にある向かい合わせの座席には,シリカ,リズベット,リーファ,シノンが着席していた。(もちろんピナも同行している)

 仲間達で席を固めて,ワイワイと会話を交わしていく。

「そういえば,キリトさん達が江戸を離れるのって初めてでしたっけ?」

「そうだな。そんなに無かったし」

「強いて言うなら,バスで鶏卵場に行ったくらいかしら? でも大人数で行くのは,これが初めてかもしれないわ」

 新八からの質問に,キリトやアスナは過去を振り返りながら返答していた。彼らの言った通り,キリトらが江戸を離れるのはこれが初めてだという。故に皆が,遠出には期待と不安を寄せ合っていた。

「何かサイコギルドに関する手がかりが見つかるといいアルナ!」

「そうですね。でももし,戦うことになったら……」

「気にするなや。いざと言う時は相手するだけだ。そもそもコイツらだって,百華や九兵衛とかに稽古つけてんだろ? だったら,大丈夫じゃないのか?」

 万が一起きるかもしれない戦闘に杞憂するユイだが,銀時からは軽く一蹴をされている。しっかりと武器も所持している上に、日々修行に励む者もいる為、特に心配していなかった。キリト達の強さを信頼しているらしいが……。

 すると早速、シリカらも声を上げてくる。

「負けて堪るものですか!!」

「ほら、見てみろ。こいつらだってやる気が出て――アレ?」

 意気揚々と負けん気を露わにしたと思いきや、それはまったくの誤解である。女子達が集まる席を覗くと、

「「「「最初はグー! じゃんけんポン!! ポン!!」」」」

四人共に互いを睨みつけて、真剣にじゃんけん勝負へと挑んでいた。「ハァー」とピナだけはため息を吐いて、呆れかえっていたが。

「あーもう! 全然勝敗が付かないんだけど!!」

「なんで今日に限って、あいこ続きなのかしら……」

 中々勝敗の付かない展開に、憤りを口にするリズベットとシノン。

「絶対に勝って、お兄ちゃんと一緒に宇野をするんだから!」

「いえいえ、ババ抜きです! ターンアップですよ!」

 対してリーファやシリカは、再びじゃんけんへの意欲を高めていく。

 どうやら女子達はキリトと遊ぶカードゲームについて、出発直後から言い争っていた。彼女達にとっては真剣な悩みだが、傍から見ればどうでもいい争いである。

「「「「せーのっ!!」」」」

「いやいや、ちょっと待てや!! 何をお前等は緊張感無しで、じゃんけんしてんだよ!! どうせキリト絡みだろ!? キリト案件だろ?」

 我慢が出来なくなり、銀時はツッコミ混じりで介入した。だが案の定、女子達からは文句が返ってくる。

「うっさいわね、銀さん! 邪魔しないでちょうだいよ!」

「そうですよ! 銀時さんにはまったく関係ない話ですからね!!」

「そんなはっきりと言わなくてもいいだろ!! オメェらいちいちリアクションが迫真過ぎるんだよ! つーかじゃんけんって、これで何回目だよ!?」

 不機嫌そうな表情で言われても、倍返しの如くツッコミで返す。ここ最近ではよく見る一対四の構図である。仲間達も介入しづらい雰囲気だ。

「てか、銀さん。僕のツッコミの仕事取らないでくださいよ」

「そういえば、新八。全然ツッコミしてないアルナ。何をさぼってんだよ、ゴラァ!」

「って、何で神楽ちゃんが怒るの!? それほぼ八つ当たりだよね!?」

 ツッコミの役目を取られて、思わず嘆きを口にする新八。そんな彼に神楽は、辛辣な言葉を投げかけている。こちらも相変わらずの応酬だった。

 一方でじゃんけんの発端となったキリト本人はと言うと、

「まぁ、元気なのは良い事だよな」

「そうですね、パパ!」

「いや、アンタが原因って気付いてないでしょ」

やはり鈍感なせいで何も気付いていない。呑気な一言を呟き、女子達のじゃんけんを見守っている。あまりの察しの悪さに、新八も投げやりでツッコミをしていた。

 何はともあれ客車内は、楽しい雰囲気に満ち溢れている。その後のじゃんけんも、あっさりと勝敗が付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 じゃんけんの結果だが、今回はシリカとリズベットに軍配が上がる。勝敗を元にして彼女達は、席替えを行っていた。神楽とユイのいた席に勝者の二人が座り、代わりに神楽達がリーファらのいる座席に座っている。

 気持ちを改めて一行は、約束通り持ってきていたカードゲームに勤しんでいた。

「ドロー2です!」

「ドロー2ね」

「ドロー4アル!」

「……って、また私!? みんなどれだけ、切り札を持っているのよ!」

 面白みのないカードばかりを引くせいか、またも窮地に陥るリーファ。先ほどのじゃんけんと言い、今回ばかりは運が悪い。宇野のルールに乗っとり、山札を増やし続けていた。

 一方でトランプを使用して、ババ抜きを行っているのはキリト、アスナ、シリカ、リズの四人。彼らの勝負の様子を、横から銀時、新八、ピナが観戦している。

「キリトさん。絶対にジョッカーを持っていますよね?」

「さぁ、どうかな?」

「その顔は持っていますね!!」

 シリカは早速、キリトのジョッカー持ちを疑っていたが。そう手札を引いていくうちに、リズベットはアスナにある事を話していた。

「そういえば、アスナ。一つ思ったことを聞いてもいい?」

「どうしたのよ、リズ?」

「この世界へ来てから、怪我ってした事ある?」

「怪我? うーん……そんなにないわよ。料理している時に、指を切ったくらいよ」

 彼女から挙げられたのは、怪我の話題である。たわいなく言葉を返したものの、リズベットは独特な考え方をぶつけていた。

「なんかさ……違和感覚えない? この姿で怪我するのって」

「――そうね。言いたいことは大体分かるわ」

「でしょ! アタシだって何度も鍛冶中に怪我してんだからね! 出血して絆創膏を張る度に、どうもジレンマに陥っちゃうのよ!」

 若干共感されると同時に、まくし立てるように声を荒げていく。このマニアックとも言える話題に、銀時や新八はあまりピンと来ていない。

「どうしたんだ、急に。言ってることさっぱり分かんねぇぞ」

「だからー! 前にも言ったことあるけど、この姿はアバターなのよ! 本来の仕様とは違うから、どうもむず痒く感じるの! アンタ達には分からないかもしれないけど」

「いやでも、なんとなくは分かりますよ」

 どうやらリズベット曰く、アバターのまま怪我や出血をすることに納得していない。微妙な反応だが、新八やアスナらも少しは共感している。けれでも共感しづらい悩みであった。

「とにかく! 最近は特に違和感を覚えて仕方ないのよ! 仲間や月姉に言っても、全然共感してくれないし」

「まぁまぁ、リズさん。落ち着いてくださいよ」

「そうだって。細かいこと気にしたって、変わるわけがないんだから」

 強く訴えかける彼女に、シリカやキリトがそっと宥めている。二人もこの意見に、少しばかり共感していた。

 そうやり取りしていた時である。

「ハハハ! 随分と健気なお悩みじゃないか!」

「そうそう。って、この声は!?」

 近場から聞き馴染みのある男性の声が聞こえてきた。後ろを振り返ると、そこにいたのは――

「なんだよ、てめぇらまで乗っていたのかよ」

「し、真選組の皆さん!?」

真選組に属する近藤と土方だった。共に私服用の和服を着用しており、任務ではなく休暇で来ている事が伺える。いずれにしても一行は、ただならぬ面倒さを察してしまう。

「おいおい、お前等までいるのかよ。こりゃ幸先悪い始まり方だな」

「やかましいわ。それはこっちの台詞だ!」

 特に銀時は早くも嫌味を口にしていた。土方との仲の悪さは、相変わらず健在である。

「ていうか、近藤さんや土方さんもまさか遺跡に向かう予定なの?」

「あぁ? ……まぁ、そうだな。休暇ついでに興味が湧いて、行ってみることにしたんだよ」

 続いてアスナからの質問に、土方は事細かに返答した。やはり真選組の目的地も、空川町にある謎の遺跡のようである。興味本位と括っているが、近藤だけは別の目的があった。

「その通りだ! きっとあの遺跡には、男らしさを磨く秘訣が眠っているに違いない! それを見つければ、絶対にお妙さんと結ばれるはずだ!」

「おい、ゴリラ。願望ダダ漏れだぞ」

「ていうか半分は、アンタの妄想じゃないですか!!」

 ほぼ決めつけではあるが、彼の願望の行きつく先は結局妙絡みである。何度やられても絶対に恋を諦めない、近藤のしぶとさが滲み出ていた。

「相変わらずお妙さんの愛情が凄まじいです……」

「ナー……」

「流石はゴリラストーカー。本当に警察組織の局長なの?」

 一向にくじけない姿には、付き合いの長いはずのシリカやリズベットらも再び気を引かせている。共に苦い表情のまま、ゴミを見るような視線を向けていた。

 すると近藤本人は、即座に反論してくる。

「何を言ってるんだ! これでも俺達は市民の味方だ! 幾らでも頼ってくれと、初対面の時から言っていたじゃないか!」

「どこの誰がストーカーに頼るのよ!! いいから離れなさいよ!!」

 顔を近づけて自己主張をしてきた為に、リズベットは思わず彼を押し倒している。幾ら言われようとも、近藤への印象が変わることは無い。真選組自体を、つい鬱陶しく感じていた。

「ったく、近藤さんも懲りねぇな。これ以上真選組の評判を落とすなよ」

「いやいや。土方さんも人のこと言えてないからね!」

「具じゃ無くて、周りにマヨネーズを付けるんだ……」

 と軽口を叩いていた土方も、マヨネーズまみれになったおにぎりを口にしているが。こちらも彼の偏食ぶりには慣れず、つい気を引かせていた。キリトやアスナが冷静にツッコミを入れている。

 そう会話するうちに、銀時はある事に気が付いていた。

「アレ、オメェら? 沖田はついてきていないのか?」

「ん? いや一緒に来たはずだが……」

「そういえば、どこ行きやがった」

 それは沖田の存在だが、例に漏れず彼も来ているという。辺りを見渡しても姿は見えないが、実はもうこの車両内に彼はいる。

「あー! また負けた!」

「ギリギリ危なかったアル」

「またまた勝っちゃいましたね!」

「今回も手札の運が良かったってことね」

 一方で宇野を続けていたユイらは、すでに決着が付いていた。先乗りした順からユイ、シノン、神楽、リーファと抜けている。結局引き運に恵まれなかったリーファが、最下位となってしまった。

「本当にこのゲーム運ゲーね! 次こそは勝つんだから!」

「同じくネ! 一番乗りを目指すアルネ、リッフー!」

 同じくビリ争いを続けた神楽と共に、彼女は再び一抜けへの意欲を高めていく。やる気に満ちた表情を浮かべて、決意を新たにした時である。

「まぁまぁ、落ち着いてくだせぇ。これで一息ついてくだせぇよ」

「おっ、差し入れアルか!」

「気が利くじゃない。ありがとうね!」

 どこからともなく、飴玉の差し入れが目の前に現れた。反射的に二人が飴玉を手にすると、その包装紙に書かれていたのは目を疑う一言である。

〈騙されたな、バーカ〉

「「えっ!?」」

 と気が付いた時にはもう遅い。

〈バホンー!!〉

「か、神楽!?」

「大丈夫ですか、リーファさん!?」

 突然にして飴玉が大爆発、中に詰まっていた白い粉がリーファと神楽の顔に襲い掛かっていた。幸いにも近くにいたユイやシノンは無事であるが。

「「プホォ!」」

 共に白い粉を被った二人は、口からも粉を吹き出していく。気が付けば顔面の大半が、粉まみれに包まれていた。

 こんな悪戯を仕掛けるのは、二人の知る限りあの男しか浮かんでこない。その予感は現実のものとなる。

「おやおや。お二方とも、粉まみれがお似合いですねぇ」

 不敵な笑みを浮かべたまま煽るのは、もちろん沖田総悟であった。密かに宇野勝負を観戦していた彼は、有無を言わさず敗者に別ゲームと言う名の仕打ちを与えている。結局はいつものいじりであるが。

 突発的に起きた仕掛けに、当然女子達が許すわけもなく――

「てめぇ!! やりやがったナ、コノヤロー!!」

「なんてことしてくれたのよ!? このドS!!」

怒りを露わにした鬼の形相で沖田に差し迫っていく。車内にも関わらず沖田は逃げ出しており、跡を二人が追いかける混沌とした光景に変貌していた。

「って、銀さん! 沖田さんがまた!」

「おい、何やってんだよオメェ。神楽もリーファも、いいから落ち着け!」

 車内での迷惑をかけまいと、即座に銀時が止めようとするものの……

「そこネ!」

「ハァァ!」

「って、グハァァ!!」

「ぎ、銀さん!?」

誤って彼が仕返しを受けてしまう。神楽らは粉のせいで視界が狭まり、目の前にいた銀時を沖田だと勘違いしている。強烈な拳が、彼の顔面に会心の一撃を叩き込む。

「結局俺がオチ役かよ……」

 そう言い残してから、銀時は気を失ってしまう。

 暫しのカードゲームを楽しんでいた一行であるが、真選組の介入により一変。沖田の悪戯等を受けて、場はグダグダとした雰囲気に変わり果てていた。

 空川町への到着は後もう少しである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ドS!! この落とし前はきっちり付けるアルよ!!」

「絶対にアンタのこと、許さないんだからね!!」

「へいへい。お好きにどうぞでさぁ」

 別れ際にも関わらず、一段と沖田に怒りをぶつける神楽とリーファ。これまでの所業を受けてきた分、彼への印象は最悪を通り越して嫌悪に近かった。

 二人の文句を聞き流して、沖田を含む真選組の三人は空川駅を跡にしている。

「おい、総悟。少しばかりは自重しろと……」

「そんな気はねぇですよ。チャイナ娘とブラコン妖精をいじるのが、俺の最近のトレンドなんでねぇ」

「そんなトレンド一回も聞いたこと無いが……」

「まぁまぁ、ひとまず遺跡の方へ向かいましょうや」

 土方からの注意も聞き入れることなく、何事も無かったかのように場を進めている。納得はしないまま、近藤らは山付近へと向かっていく。

 一方で現在万事屋一行がいるのは、空川町の駅の入場口前。規模は小さく素朴な田舎町の駅を彷彿とさせるが、無人ではなく有人で切符のやり取りを行っている。一風変わった駅舎であった。

 とそれはさておき、乗車して真選組と別れてもなお、神楽とリーファの怒りは収まらない。一応付着した粉はタオルで取れたが、それでも気は収まらず悪化している。

「あのドS、油断も隙もないアル!!」

「その通りよ! あんな人がこの世界の沖田総司なんて、絶対に認めたくないんだから!」

「落ち着けって、二人共。気にしすぎたって体に毒なんだし」

「そうだぞ。オメェらの嫌がる様子を、沖田は楽しんでいるだからな。すぐに忘れることが一番だよ」

 怒りを散らす二人に、キリトや銀時が自分なりにフォローを入れてきた。気にしすぎないよう言葉を加えると、神楽らの気は次第に収まっていく。

「そ、そうね……怒ったって仕方ないし」

「ひとまず忘れるアルか……」

「そうだって! さぁ、気を取り直して遺跡へ向かいましょう!」

 冷静さを戻したところで、アスナが食い気味に場を仕切ってきた。雰囲気を入れ替えて、ここからは本題の遺跡捜査への意識を高めていく。

「よし、じゃみんな! 準備は良いか?」

「もちろんです!」

「こっちもよ!」

「そんじゃ、出発するかー」

「「「オー!!」」」

 キリトや銀時が今一度仲間達を確認して、一行はようやく動き出した。古風な民家通りを突き進み、こちらも山辺付近へと向かっている。

 それから数分後。山の入り口付近へ到着すると、ここから先は補装されてない山道を登ることになる。幸いにも遺跡までの距離はそう遠くは無いが。

 歩道と山道の境に差し掛かろうとした時。ユイはふと近くにあった、物珍しいものを見かけていた。

「ん? アレは何でしょうか?」

「アレ? 電話ボックスのこと?」

 彼女が指を指した方向に皆が目線を向けると、そこには古びた電話ボックスがぽつんと置かれている。銀時らにとっては何の変哲もない光景であるが。

「電話ボックス? また随分珍しいものが置いてあるわね」

「そうアルか? こんなのかぶき町だとゴロゴロ見かけるアルよ」

「そういえば……神楽の言う通りね」

 神楽からの指摘を聞いて、思わず納得するリズベットとシノン。彼女達のみならず、何故かSAOキャラだけが、電話ボックスにピンと来ていない。銀時も彼らの違和感に気付いている。

「その反応だと、お前等の世界にはまったくないのか?」

「一応あるけど、あんまり見ないかな……。使う人も全然いないし」

「だからこそ、珍しいんですよ! 電話ボックスなんて、私初めて見ましたから!」

 やはり予想通り、キリト達にとって電話ボックスは希少な存在らしい。ユイの驚き様から察しが付くだろう。

 世界観からの違いのギャップには、銀時ら三人も若干衝撃を受けている。

「妙な時代錯誤を感じるアル……これがジェネレーションギャップネ!?」

「いや、そんな真に受けなくていいから! 何を今更当たり前のように驚いているんですか!?」

 特に神楽だけは、大袈裟にも驚嘆としていた。新八からも激しくツッコミを入れられる。

「……とりあえず、電話ボックスは置いといて先に行くぞ」

「はいです! 山道へレッツゴーです!」

 と話を切り上げて雰囲気を戻すと、いよいよ山道へと足を踏み入れていく。

だがこの時の彼らは思ってもいないだろう。この電話ボックスが後に大きな役目を果たすことに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 山道へと入った一行は、水で湿った地面に気を付けつつ、慎重に奥部へと登り進んでいた。天候は晴れから曇りへと変わり、気温も徐々に寒気を帯びていく。山の天気は変わりやすいと言うが、今のところは雨の降る気配は無い。

 和やかな会話を交わしながら進むこと早数分。遂に目的の遺跡が見え始めていた。

「あっ! あの遺跡じゃないですか?」

「ナー?」

「おっと! いよいよ中に入れるアルか?」

 シリカやピナの一声を聞いて、次々と気付き始める仲間達。皆速足となり、遺跡方面まで突き進む。木々を潜り抜けていき、遂に念願の遺跡へと辿り着いていた。

「着いた――って、えっ!?」

「こ、これって……」

 だがしかし、そこには予想外の光景が広がっている。リーファやアスナに続いて、一行は何とも言えない表情へと変わっていた。

 何故ならば、遺跡には大勢の観光客が押し寄せていたからである。

「えー、次の観光客の方々どうぞー!」

 遺跡の入り口付近では、村の若者達が観光客の整理を行っていた。人数制限を設けているらしく、慎重に場を整えている。それでも行列はズラーと続いているが。

 同じく昨日の番組に影響された人々だと思われるが、まさかここまで多いとは予想外ではある。

「こんなに来ている人が多いのか……」

「これではいつ入れるのやら……」

「まだまだ先になりそうね……」

 キリト、ユイ、シノンと次々に思ったことを口にしていた。あまりの盛況ぶりに、思わず絶句をしてしまう。同じく仲間達も言葉を詰まらせていた。

「この行列……まるで某鬼を斬るアニメの」

「いや、言わせませんよ。そもそもこのネタ、本家でやると思うから安易に言うのは危ないですよ」

「チッ! 投稿者の未視聴が仇となったか」

「余計なこと、言わなくていいですから! むしろよくネタに出来ましたね!!」

 一方で銀時だけは、メタを含めておふざけに走っていたが。すかさず新八からは、冷静なツッコミが降りかかってくる。いずれにしろ銀時らも、遺跡の行列には圧巻されていた。

「ど、どうするアルか?」

「遺跡の捜査は最悪後回しにしても良いけど、テレビで言っていたサイコギルドの手がかりだけは何としても掴まないとね……」

 予想外の事態が起きて、一旦今後の予定について整理するアスナら。行列の様子から遺跡捜査を抜きにしても、サイコギルドの手がかりだけは知りたい考え方であった。

 そう思っていた時、願ってもいない展開が降りかかる。

「おい、アレが昨日言っていた槍の少女か」

「銀色の怪人もいるぞ」

 近くにいた観光客が、証拠を匂わせる一言を発していた。これを聞いた万事屋一行は、すぐに警戒心を露わにしていく。

「おい、マジかよ!? 本当にいたのか!?」

「もう近くにいるんですか!?」

 驚いた表情のまま、注意深く辺りを見渡している。中には武器を構える者もおり、緊迫とした雰囲気へ染め上がっていた。

 サイコギルドらしき人物を探し続けていると……新八は早速その真相に気付いてしまう。

「あの、皆さん……もしかしてあの人達じゃないですか?」

「おっ、新八! もう見つけたアルか?」

「一体どこにいるんだ!?」

「ほら、あそこです……」

 何故か浮かない顔をする新八を気にせず、神楽やキリトらは彼の指を指した方角に目を寄せていく。そこで目にしたのは、またもや予想外の光景である。

「ご唱和ください、我の名をー! 〇ルトラマンZ! いくよ、ウインダ〇!」

「ウィンガー!」

「怪獣かかってこい―!」

 その林内にいたのは、某特撮番組のヒーローごっこをする健気な少年少女達。お面のみならずダンボールで格好を再現しており、ごっこ遊びにしてはかなり本気であった。

 傍から見ると微笑ましい子供達の一幕だが、万事屋側からすれば期待外れの一言である。一瞬だがほとんどの仲間が理解できずにいた。

「おい……なんだよアレは」

「銀色の怪人と槍の少女じゃないですか。目撃されているって言う……」

「う、嘘よね? これが真実じゃないわよね」

 残念とも言える展開に、まだまだ信じ切れていない一行。しばらく体を固まらせていると、またも観光客の会話が聞こえてきた。

「昨日のテレビの情報、やっぱりあの子達らしいよ」

「マジか。てっきり天人が正体だと思っていたぜ」

「あの爺さんが大袈裟にしたんだろ。都市伝説なんてそんなもんよ」

 疑っていた事実を確信させる一言。これにより一行は、遺跡とサイコギルドは無関係であると存分に分からされていた。

「って、結局そんなオチじゃねぇか!!」

「来ただけ損だったアルかぁぁ!!」

 理解すると同時に、肩を外したようにツッコミを吐く銀時と神楽。どうにもできない気持ちを、大声で解消させていく。もちろん他の仲間達も、この真実に拍子抜けをしていた。

「これじゃ有益もへったくれも無いわね……」

「消化不良にも程があるわよ……」

 シノン、アスナと次々に小言を発していく。仲間達も同じ心境で気持ちを萎えさせていた。その表情も暗く落ち込んでいるように見える。

 遺跡は行列、折角の情報は的外れ。骨折り損のくたびれ儲けにも限度があった。落ち込み続けるのと同時に、一行は真剣にこれからのことを悩み始める。

「どうする、銀さん? 多分だけど当ては外れていると思うが……」

「目撃例も違っていたし、このまま帰った方が良いんじゃないの?」

「はぁー、結局帰宅オチかよ。折角遠くまで来たし、遺跡以外の場所で観光でもするか?」

「でもどこがあるアルか、こんな田舎町。私だったらさっさと帰って、ドラマの再放送でも見たいアル」

 話し合いを続けているが、まったく方向性が決まらない。肝心の目的がブレて、数時間前のやる気など消えかけている。やるせない気持ちが漂い、場には重い空気がのしかかった。

 そう悩み続けているうちに、一行の元にはとある少女が近づいてくる。

「ん? あの子は誰でしょうか?」

「あの子?」

 ユイがすぐに彼女の気配に気が付いて、リーファらにもその存在を知らせていた。再び視線を変えるとそこには――おぼつかない足で歩く珍しい格好の少女がいた。

「えっ? 本当に誰だ?」

「私達と同じ年くらいの子よね?」

 見るからに弱っている姿を見て、つい心配を浮かべている。すると彼女は顔を上げ、かすれた声で助けを求めていく。

「ハァ……助けて……」

 そう言い残すと力尽きてしまい、その場に倒れてしまった。

「って、おい! しっかりしろ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 少女の安否を気遣って、ぞろぞろと駆け寄る銀時達。幸いにも気絶しているだけであるが、より彼女の容体を心配していた。応急処置を施して、彼女が目を覚ますまで手助けしていく。

 

 

 

 

 

 

「う、うーん……ハッ! こ、ここは……」

「あっ、ようやく目覚めましたよ!」

「良かったわ……とりあえず一安心ね」

 気絶していた少女がようやく気を戻して、安堵の表情を浮かべる新八やアスナら。仲間達も彼女の目覚めを知って、心を落ち着かせていた。

 肝心の少女からすれば、何が起きているのかさっぱり分かっていない。

「えっと、アナタ達は? てか、ここはどこなの?」

 次々と出てくる彼女からの質問に、近くにいたキリトが応対していく。

「まぁ、当然の反応だよな。ひとまず説明する前に、君の名前を教えてもらえるかな?」

「名前? 私は……フィリアね」

「フィリアさんですか?」

 さり気なく名前を聞いてみると、彼女はフィリアと言うらしい。背丈も小さく、雰囲気はどこか十代っぽく見える。黒髪ショートヘアーに青く輝く目。服装はこれまた独特であり、短めのチョッキを羽織って、体中にはサスペンダーのようなベルトが巻かれている。シャツやパンツもやけに短く、肌の露出度も高い。履いていたブーツも左右でサイズが異なり、見慣れない服装から天人と言っても違和感は無い。

 そんなフィリアだが、彼女の容姿はSAOのゲーム版に登場したオリキャラのフィリアと酷似している。もちろん別人ではあり、本編の時系列から来たキリト達も、フィリアとはまったく接点が無い。もどかしくもこれが、初めての出会いなのである。

 精々裏事情を知っているのは、万事屋の三人しかいない。

「ていうか、アイツ。SAOのゲーム版に登場していたヤツだよな」

「本編外からの登場アルか……どう迎い入れて良いのか分からないアル」

「おふざけは控えめにしてくださよ。真面目な空気なんですから!」

 万が一を考えて、新八は入念に二人へ注意を加えている。場の雰囲気を壊さない為にも、慎重に進めていた。

すると彼女も、ゆっくりとキリトらへ話しかけてくる。

「あの……私も聞きたいことがたくさんあって」

「あぁ、そうだよな。こっちも自己紹介しておくか。俺はキリトで、左からはアスナ、ユイ、銀さん、新八、神楽で――」

「いや、あのそっちも大事かもしれないけど……私が聞きたいのは場所の方だって!」

「場所?」

「そう! ここって一体どこなの? 見るからにALO星じゃない気がするけど……」

 呑気にも自己紹介を促したキリトを遮って、フィリアは一番気にしていた場所について聞いていた。会話の最中で聞こえてきたのは、最近よく聞くようになったALO星である。

「ALO星って確か、前にキリトが紹介した星のことよね?」

「そうだな。ってことは、君はALO星の天人ってことか?」

 彼らの反応から天人と問われて、彼女はようやく自分の立場を理解していく。

「天人……? じゃやっぱり別の星じゃん。はぁー。あの遺跡、行くべきじゃなかったのかな?」

「遺跡? そこに行ってアナタはこの森に流れ着いたってこと?」

「そうなるね。次元遺跡って場所なんだけど、そこが摩訶不思議でね。トラップも多くて灯りも少ないから、逃げ出すのにも苦労しちゃってさ」

 簡略的にここへ来た経緯を呟いたものの、一行にはどうしても聞き捨てならない一言があった。

「えっ? 今なんて言った?」

「はい? だから次元遺跡って場所に行って、色々酷い目にあったって」

「そ、それですよ! フィリアさんは次元遺跡へ行ったんですか!」

「ナー!?」

 そう、次元遺跡の存在である。フィリアの情報を介して、一行はようやく真実に辿り着こうとしていた。特にシリカら女子達は、人が変わったようにフィリアへ詳しく問い詰めてようとする。

「そ、そんなに食いつくことなの?」

「だってすっごく興味があったし! 色々と貴重な情報が仕入れられるかもしれないでしょ!」

「情報? もしかして、マッドネバーのこと?」

「マッドネバー……って誰それ?」

 がつがつと迫ってくる女子達に、フィリアは苦笑いで対応していく。周りの子達が遺跡へ興味を持っていることだけは、よく理解していた。それでも話があまり噛み合わず、今にも誤解が広まりそうな雰囲気である。

 とその場に銀時とキリトが止めに入って来た。

「おいおい、そこまでだ。色々と混乱するから、話をまとめてくれ」

「とりあえずお互いの話を聞っこか」

 女子達を落ち着かせながら、それぞれ詳しい話が出来るようにまとめていく。ここぞという時のリーダーシップを発揮していた。

 

 それからは数十分と時間を費やして、次元遺跡のことやキリト達の境遇や追っている組織について、互いに詳しく説明していた。

「なるほどね。キリト達は別世界の人間で、その元凶の組織を追っているってことか」

「その通りです!」

「一応言っておくが、まだ関連性が分かった訳じゃないからな。可能性としてあるだけだからな」

 説明が終わっても、念のために銀時は補足を加えている。フィリアが理解したのは、キリト達が別世界の人間であること。彼らと因縁のあるサイコギルドを追っていることだった。

「こちらもALO星のことについてだいぶ分かりましたね!」

「話を聞く感じだと、アタシ達のよく知るALOとだいぶ似通っているわね」

「なんだか親近感が沸くね」

 一方でシリカやリズベットら女子達も、フィリアから詳しい事情を聴いている。薄っすらと話に聞いていたALO星が、自分達の知るALOと変わらないことに驚きを受けていたが。

 しかし星の発展と同じくして、密かに暗躍する謎の組織には並々ならぬ嫌悪感を示していた。

「でも怪しげな奴等が蔓延っているなんて、穏やかな話じゃないアルナ」

「そうだよね。クーデターが起きる程、悪い国じゃないと私は思うわ」

 神楽、リーファ共にふとした不安を呟いている。どちらも浮かない表情で、今後の行く末について心配していた。

 そのマッドネバーと言われる組織は、キリトやユイには少しばかり心当たりがある。

「ねぇ、キリト君。その組織って、前に話した人達と関係しているのかしら?」

「アレもALO星絡みだったからな。高杉さんとも関わっていたはずだし、同じだとしても違和感は無いな」

 以前にも地下都市アキバで巻き込まれた高杉との一件。そこで二人は、謎の組織と邂逅を果たしていた。沖田からはクーデターの可能性も聞かされており、増々情報の信憑性が強まっている。

 何か大きな出来事が動き始めようとしている一方で、ユイは引き続きフィリアに質問を投げかけていく。

「つまりフィリアさんは、マッドネバーから次元遺跡を守るため、勇敢に侵入したってことですか?」

「あっと……まぁ半分正解かな。本当は興味本位だったけどね……ハハハ」

 てっきり正義感から勇敢に行動したと思い込んでいたが、フィリア本人はただ単に興味があって潜入しただけである。ちゃっかりと本音を織り交ぜながら、誤魔化し気味に返答をしていた。

「さり気なく否定しましたね」

「興味本位で行くとか、自由奔放すぎだろ。初めてお持ち帰りされた女子大生かよ」

「ちょっとそこの二人! 変な例えしないでよ! 私が勘違いされるでしょうが!!」

 感じたままに発する銀時や新八に我慢できず、フィリアは型を外したようにツッコミで返していく。今回ばかりは意味を理解して、耳に行き届いていたようである。

 とそれはさておいて、彼女はふと我に返ると、今後の行動について悩み始めていた。

「しっかし地球まで飛ばされたけど、この後どうしようかな……」

 行く宛ても分からずに、より考えを煮詰まらせていく。いざとならば宇宙船なりでALO星には帰れるが、それだとやはり味気足りない。何より危険な目に会おうとも、遺跡の全貌が気になる好奇心が今なお勝っているからだ。マッドネバーの動向も気になる分、やはり遺跡を放ってはおけない。

 悩み続ける彼女を見て、キリトはそっとある提案を促してきた。

「なぁ、フィリア。もしもう一度行ける勇気があるなら、俺達も次元遺跡へ連れていくことは出来ないか?」

「えっ? 急にどうしたの?」

「だって悪い奴等に宝が狙われているなら、放っておけないもんな。俺達も協力したいって思っているし。良いよな、みんな?」

 それは善意からの協力である。目的はやや変わってしまうが、敵対勢力がある以上は彼らも遺跡を気にかけていた。守りたいという気持ちが、少しばかり芽生え始めているという。

 もちろんキリトのみならず、仲間達も同じ想いではある。

「えぇ、もちろんよ」

「ここまで来て放ってはおけないもの!」

「旅は道連れ世は情けですから!」

 彼の言葉に続いて、アスナ、シノン、シリカと次々に声を上げていく。彼女に同情しつつも、その純粋な気持ちに共感をしている。

「引き下がるわけにもいかないし、やってやるか」

「マッドネバーだが納豆ネバネバだが知らんが、私達で叩き潰してやるネ!」

「快く協力させてもらいますよ!」

 無論万事屋一行も同じであり、こちらも意気揚々と想いを発してきた。場にいた一行が皆、フィリアに協力を持ち掛けていく。

「本当に信じていいんだね?」

「あぁ、任せろ。仲間の力があれば、きっと守れるからさ」

「だから心配しないでください、フィリアさん!」

 十人と一匹の頼れる返答を聞き、フィリア本人にも気持ちの変化が起きている。親し気な彼らへ信頼を持ちたいと。不安要素を大きかったものの、それでも直感から万事屋一行を信じることにした。

「分かったよ。でも絶対に気を付けてね。マッドネバーの強さは計り知れないと思うから」

「大丈夫ですよ! 私達にはとっても強いパパやママ、銀時さんや神楽さんと言った仲間がいるんですから!」

「それならいいんだけど……」

 一応注意は加えたものの、それでもなお不安は拭えない。自分が味わった恐怖に加えて、マッドネバーの未知数な戦力に恐れていたからだ。

 とここでユイは、フィリアへ次元遺跡への行き方について聞いてくる。

「ところで次元遺跡にはどうやって行くんですか?」

「それが凄く複雑でね……まず扉の前に立って、専用の呪文を唱えるの。そしてゾロ目の時間帯に扉を開けば、遺跡へ行けるんだよ」

「その呪文ってどう言うの?」

「確か……クウアギリュファブレヒヒカブデンキバディ、ダブオーフォウィガイドラゴーエグビルジオだった気がする」

「な、長い!」

「よく覚えていたわね」

 呪文の全貌が明かされると同時に、思わず気を引かしてしまうリズベットとリーファら。覚えづらそうな呪文に、仲間達もつい面倒くささを感じている。

「如何にもALOに無さそうな呪文ね」

「行くにはタイミングが重要な気がするな」

 その複雑そうな仕掛けには、キリトやアスナも頭を悩ませてしまう。

 一方の銀時らは、薄っすらと呪文の意味について理解を深めている。

「その呪文って、やっぱ主役の平成ライダーじゃ……」

「いや、銀さん。ツッコむのは野暮ですよ」

「素直に心へしまっておくネ」

 銀時のみならず新八や神楽も気が付いていたが、真っ先に止められてしまう。そう、呪文の正体は全主役級平成ライダーの名前が関係していたからだ。

 それはさておき、一行にとってまず必要なのは遺跡へ向かう為の経路である。

「だからこの近くに、扉ってない?」

「扉ね。近くにあったかな……」

 フィリアに言われてこれまでの道を思い起こすキリトだが、真っ先にユイがある場所を思い出していた。

「あっ、ありますよ! 電話ボックスなら!」

「あぁ、そうか! あそこまで戻れば、大丈夫だよな」

「意外なところで役に立ちましたね!」

 そう、山の入り口付近に置かれた電話ボックスだ。見た感じ開閉式になっており、侵入しても最適だと判断している。残る条件は時間の把握のみであった。

「後は時間の把握アルナ」

「そうだな……おい、爺さん。今何時か分かるか?」

「はい? 時間かぁ。ワシの時計だと、十三時五十五分を示しておるぞ」

 偶然近くにいた老人に聞いてみると、現在の時刻は二時前である。下りまでは遠くないので、目的の時間通りには間に合いそうだ。

「という事は、十四時十四分十四秒までに電話ボックスへ行けばいいのね」

「歩いても間に合うし、気楽に行こうじゃねぇか」

「そうアルナ」

 と今後の予定を立て始めていた――その時である。

〈ドーン!〉

「えっ、爆発!?」

「電話ボックスの方から聞こえてきましたよ!」

 不意にも電話ボックス付近から、爆発したような音が響いてきた。一行はもちろん気が付いており、次第に不穏な雰囲気を察していく。

「おいおい、いきなり不穏だぞ! まさか爆破とかされてねぇよな?」

「と、とりあえず行ってみようよ!」

「フィリアさんも一緒に!」

「うん。分かった!」

 居ても経ってもいられずに、一行は即座に電話ボックスまで走り出していた。フィリアも連れていき、軽やかに山道を下っていく。

 いよいよ動き出した事態。果たして一行の前に立ちはだかる者とは一体……?




 今回よりサプライズゲストであるフィリアが参戦!! 実は彼女の枠、本来は別のキャラが務める予定でした。フェアリーダンス編で活躍したレコンか、番外編製作を記念してアルゴ等、誰にするのかかなり悩みました。しかし遺跡や宝探しが絡む事から、トレジャーハンター要素を持つフィリアに決まったのです。
 ちなみに僕自身はゲーム版を持っておらず、彼女の口調や性格はネットの情報や実況動画から参考にしました。もし間違っている部分があれば、指摘していただけると有難いです。

 さてさて、次回よりいよいよ敵と衝突か!? あのダークライダー達が、立ちはだかります! その姿は如何に……

 それと報告ですが、ツイッターを始めました。今後はツイートから、投稿日や制作近況、並び小ネタについて話して行きたいです。もしやってる方がいらっしゃいましたら、フォローをよろしくお願いします! では、また次回。

次回予告!

土方「こいつら、中々の手練れか……?」

シリカ「アナタ達が追っ手なんですね!」

フィリア「アイツ等が私を狙って……」

??「アナタ達じゃ敵わないわよ。この力の前では」

??「「変身!!」」

キリト「変身した!?」

リュウガ「これからは俺が最強だ!」

ダークキバ「有り難く思いなさい、絶滅タイムよ!」

銀時「クッ……!」

次元遺跡篇三 漆黒ライダー

戦わなければ生き残れない!


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第六十七訓 漆黒ライダー

 お待たせしました。今回はいよいよ、長篇に関わるメインヴィランが登場! 予告通りにあのダークライダーが大暴れします……どうぞご覧ください!


 テレビで特集されていたとある遺跡が気になり、現地までやって来た万事屋やキリトら一行。サイコギルドの手がかりも踏まえて期待を寄せていたが……残念ながら有力な情報は見つけられなかった。

 半ば心残りを感じる矢先に出会ったのは、ALO星の天人であるフィリアと言う名の少女。彼女によると噂される次元遺跡は存在しているという。ある怪しげな組織も関係しており、キリトら一行は善意からフィリアへ協力することにした。

 いざ遺跡へ向かおうとした時、山の入り口付近から大きな衝撃音が響き渡る。現在は皆が、音の聞こえた方向へ下山していた。降りた先に待ち受ける者は果たして……?

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ出口アルよ!」

「やっぱり電話ボックス付近で起きたんでしょうか!?」

「ナー!」

 団体で行動しつつ、速足で来た道を戻る一行。出口へ近づく度に人の気配を察して、増々衝撃音との関連性を強めている。

 いよいよ山道から歩道へ差し掛かると、そこではとある修羅場が展開されていた。

「皆さん! 見てください!」

「アレって……真選組だよね」

「それと……あの人達は誰なの?」

 ユイが真っ先に声をかけると、リズベットやリーファも察して声を上げる。仲間達も次々と気付いて、すぐに目線を向けていく。

 そう彼らの近くでは、先ほど出会った真選組の三人が謎の男女と戦いを繰り広げていた。近藤ら三人共に、刀を強く握りしめて態勢を整えている。戦況は芳しくなく、深刻そうな表情から苦戦しているように見えていた。

「チッ……こいつら中々の手練れか?」

「少なくとも、並みの人間よりは強いでしょうねぇ……」

「こんなところでまさか衝突するとはな……」

 土方、沖田、近藤と各々が思ったことを発していく。対峙している相手の強さを見切って、攻略法を画策していた。

 彼らは遺跡へ向かう道中に、怪しげな二人組を発見。追いかけたところで戦闘に発展して、現在までに至る。

 一方で真選組に戦いを挑んだ二人も、戦闘自体にはあまり余裕は無い。

「やっぱりしぶといな。地球の侍さんはよぉ……」

「根性だけは一丁前ね。わざわざ手を煩わせてくれるんだから……」

 こちらも苦い表情を浮かべて、戦況展開を物静かに考えている。

 そんな彼らの容姿は、男女共に黒くてぼろいマントを羽織っていた。中には灰色の中華服とズボンを着用しており、足元は黒ブーツを履いている。また日よけ対策として、紫色の日傘もさしていた。この日傘を用いて、真選組と交戦している。

 いずれにしろ、近藤らと互角に張り合える強敵に間違いはない。そう冷静に判断しつつも、銀時ら一行も黙って見ている訳にはいかなかった。

「ったく、しゃあねぇな。貸しを作るのは勘弁だが、アイツらを助けてやるか」

「えっ!? このまま行っちゃうの?」

「もちろんよ。一応土方さん達とは、知り合いだからね」

「僕等も加勢すれば、きっと大丈夫ですよ! フィリアさんも行きましょう!」

「う、うん……分かった」

 全員の考えが一致していると思いきや、フィリアだけは戸惑った反応を示している。その行動は、どこか恐縮しているようにも見えなくない。結局はシノンや新八の説得によって、無理も承知で受け入れていた。一緒に行動しつつ、一行は真選組の元へと駆け寄ってきた。

「真選組の皆さん! 大丈夫ですかー!!」

「ん? この声はまさか、やっぱりお前等か!?」

 ユイの声を聞き入れて、すぐに万事屋一行に気付いた近藤ら。何も言い返せず、目の前へ集結していた。

「おいおい、どうした副長さんよ。こんな奴等に手こずるとは、鬼の副長が聞いて呆れるじゃねぇか。アレだろ、マヨネーズだろ? どうせマヨネーズのせいだろ?」

「やかましいわ! テメェに言われる筋合いはねぇよ! つーか、どこまでマヨネーズのせいにしてぇんだ!?」

 顔を合わせるや否や、真っ先に口論を始める銀時と土方。前者が周到に煽りを飛ばすと、後者はムキになって反論していた。

 もちろん沖田と神楽も、同じような応酬を繰り広げている。

「ブハハハ! お前が苦戦しているだけで、良い様アル! 飴玉の報いを受けるがいいネ」

「お前はどっちの味方だよ」

 小馬鹿にしたような表情で煽り、彼は冷めたツッコミで返す。数分前の悪戯を根に持っており、彼の苦戦した表情が滑稽でたまらないそうだ。

 相変わらずの仲の悪さには、仲間達の反応もバラバラである。

「って、銀さんに神楽も相変わらずね……」

「火に油を注いでる場合じゃないですよ!!」

 シノンのように慣れている者もいれば、シリカのように焦って注意を加える者までいた。どっちにしても、今は戦いへ集中する方が身のためではある。

 一方で謎の男女は、彼らの特異な雰囲気に若干戸惑っていた。

「な、なんだこいつらは?」

「真選組の仲間なんじゃないの? でもどいつも、ALO星の天人っぽいけどね」

 特にキリトやアスナらの特徴的な服装から、思わず天人だと予見している。当然別世界の人間だとは、気付いてすらいない。

 そう考えを巡らせていた時、二人はキリト達に紛れ込むフィリアの存在を発見していた。

「ん? おい見てみろ! あの女もいるぞ!」

「……本当だわ。やっぱりこの地球に流れ着いていたのね!」

 探していた相手が見つかり、怪しげな笑みを浮かべていく。すると二人は自信満々に、当の本人へと話しかけてきた。

「久しいな! 次元遺跡に忍び込んだ盗人め!」

「えっ、私!? って……まさかアナタ達は!」

「そう……ずっと追いかけていたのよ。会いたかったわ……泥棒妖精ちゃん」

 男女の声を聞いた瞬間に、フィリアはつい体を震え上がらせている。それもそのはずだ。彼女が次元遺跡で耳にした声の正体が、あの二人だからだ。連鎖するようにフィリアは、仲間だとされるコウモリや黒龍も思い出して、恐怖心から顔色を悪くしてしまう。

「こ、こんなところにまで来るなんて……」

「フィ、フィリアさん!?」

「ちょっと、大丈夫!?」

 胸に手を当てて動悸を抑え込む彼女に、心配したシリカやリズベットが声をかけてきた。周りにいた女子達で、しっかりと気を落ち着かせていく。

 真選組からすれば、何が起きているのかさっぱり分からないが。

「って、一体何が起きているんだ!? あのフィリアって子は?」

「説明は後だ! ていうかお前等も、今までに起きたこと手短に説明しろや!」

「そうは言っても旦那。俺達は不審者を追いかけたついでに、戦いを挑まれたんですよ。詳しいことは分かっていないんでい」

「えっ、そうだったの?」

 真選組からも情報を聞き入れようとしたが、彼らも二人への情報は乏しかった。沖田からの返答に、アスナも驚いた表情を見せている。

 場にいた誰もがその正体を気にしていた時。当の本人達は空気を察して、真っ先に声を上げてきた。

「フフ。どうやら僕らの自己紹介が必要みたいだね」

「そんなに私達のことを知りたいのね」

「いや、そうでもないですけど」

「どうせ今回の悪役ネ。別に紹介しなくても、支障は無いアルよ」

 共に乗り気だったものの、新八と神楽の冷めた指摘により、折角の雰囲気が崩れてしまう。それでもなお、二人が引き返すことは無かった。

「うっさいわね! とりあえず聞きなさいよ! ……コホン。私達はアルンの反王国組織マッドネバーの一人、亜由伽(あゆか)よ。見ての通り、夜兎の血を引き継いでいるの」

「夜兎? ってことは、神楽と同じ種族なのか?」

「その通りアルナ。まぁでも、傘と服装で全て察していたアルよ」

 取り乱しつつも、女性から自己紹介が上がる。彼女の名は亜由伽で、見た目通りの夜兎族であった。神楽は雰囲気から、すでに正体を察していたという。

 続けて男性からの紹介が上がる。

「そしてこの僕が野卦(のけ)だ。亜由伽と同じ夜兎でマッドネバーの一員だよ。さて、余興は終わりだ。僕達の目的はただ一つ。今すぐにそこの妖精女を渡してもらおうか?」

 手短に話すと同時に、彼はフィリアのいる方角へ指を指していた。二人の探していた相手は彼女であり、次元遺跡からわざわざ地球まで追いかけている。その執念深さは、一級品と言って良いだろう。

 フィリア本人からすれば、恐れおののく事案だが。

「やっぱり、私が狙いなの……?」

「そりゃそうよ。次元遺跡の行き方を知っているもの。ただで返すわけには行かないでしょ。折角匂いを追って、この地球までやって来たのに」

「ここで取り逃すわけには行かないんだよ……さぁ、そいつを渡せ! 早くしろ!!」

 次第に隠された本性を露わにしていく夜兎達。秘密を知ったフィリアを葬るべく、目つきや態度も横柄になっていく。静かなる怒りを見せながら、一行へ脅しをかけていた。

 恐怖心から気持ちが萎縮するフィリアに対して、周りにいた女子達は強気にも夜兎達に反抗している。

「渡せと言われて渡すヤツがどこにいるのよ!」

「どう見ても嫌がっているじゃない! 素直にこの子を渡すわけには行かないわ!」

「ふ、二人共……」

 特に気が強いリズベットやシノンは難なく歯向かっていた。もちろんフィリアのことを守る為である。フィリア本人も気持ちを救われていた。

 万事屋や真選組、キリトらと、増々夜兎達への敵対心を強めていく。

「しっかたねぇ……ここはまた俺達が」

「いいや、お前等は休んでいろ。ここは俺達だけで十分だよ」

 三度土方らが立ち上がろうとしたその時、銀時が彼らに代わって前線に立ち始める。彼に引き続いて、神楽、キリト、アスナの三人も同じように駆けつけた。

「よ、万事屋!? しかし君達だけでは……」

「心配するな、ゴリラ! これでも私達の強さは十二分アルよ! キリやアッスーもいるし!」

「こいつらの相手なら、俺達だけでも大丈夫さ」

 一時は心配していた近藤だが、神楽やキリトの自信あり気な返答から言いくるめられてしまう。体力を消耗していない四人に任せた方が合理的だと、真選組一行は徐々に悟り始めていた。

 とここで、シリカやリーファら仲間達も声をかけてくる。

「アスナさん! アタシ達も加わりますか?」

「いいえ、いいわよ。みんなはフィリアちゃんやユイちゃんを守ってくれるかしら?」

「わ、分かった!」

 自ら加勢を志願したが、ひとまずはフィリアの保護に回された。女子達はそれを素直に引き受けている。

「じゃ新八は、自分の眼鏡でも守っておけ。それで結構だよ」

「いや、僕だけ指示雑すぎませんか!? 要するに出るなってことですよね!」

 一方の新八だが、銀時からあまりにも適当な指示を言われていた。もちろん激しいツッコミで返している。

 紆余曲折はあったが、この場は銀時ら万事屋四人へ任せることにした。

「チッ、仕方ねぇ。ここはお前等に任せやすか……」

「おうネ! その代わり、後でケーキおごれアルよ! 五段くらい重なってるヤツで!」

「何さり気なく取り決めてんだ!? 誰がそんな誘いに乗るかよ!?」

 とは言っても、綺麗に終わらないがオチである。神楽の無茶苦茶な要求には、近藤がツッコミで返していた。

 真選組や女子達が一時場を離れたところで、キリトらは各々の武器を手に持ち、戦闘態勢を整えていく。

「ってことだ。フィリアに手を出そうものなら、俺達が止めてやるよ」

「お前達の望み通りにはさせるかよ!」

「かかってくるネ! 納豆ネバネバ!!」

「マッドネバーよ、神楽ちゃん。もうボケはいいからね」

 意気込みや小ネタを挟みつつ、気持ちを真剣に改める四人。フィリアを守ることで、目的を一致させている。

 一方の夜兎達であるが、対戦する相手が変わろうと心境に変わりはない。むしろ新しい相手に心を躍らせている。

「ハハ。こいつら、僕らの恐ろしさをまだ知らないみたいだね」

「だったら、味合わせてあげましょう。この漆黒の力で! さぁ来なさい、キバットバットⅡ世!!」

 そう彼らも、隠していたある力を披露しようとしていた。亜由伽が右手を勢いよく上げて大声を発すると、彼女の元にどこからともなく黒いコウモリ――キバットバットⅡ世が羽を羽ばたかせて姿を現す。

「了解した!」

「な、なんだ!?」

「コウモリ!?」

 過ぎ去るキバットバットⅡ世に、理解が追い付かない仲間達。その行方を追うと、彼は亜由伽の手元に止まっていた。

「お前等よ、有り難く想え! 絶滅タイムだ! ガブリ!」

 そう発すると同時に、彼女は左手をキバットバットⅡ世に噛ませていく。すると彼女の腰には黒いベルトが出現。不穏なBGMと共に、顔にはステンドガラス状の紋章が出現した。

「そして僕は……これさ!」

 同じくして野卦も、ポケットに入れていた黒いカードデッキを、左手に持ち正面へかざす。デッキが発光すると、腰にはバックルが出現していた。

「「変身!!」」

 そして同じタイミングで二人は、「変身」と意気込んで発声する。

「な、何!?」

「変身って……」

 何が起きているのか分からずに困惑する一行。様子をしばらく見ていると、二人の姿はみるみるうちに変化していた。

 亜由伽はキバットバットⅡ世をベルトへと収めて、緑色のオーラを全身より放っていく。すると体は黒い鎧を装備していき、全身を丸ごと変化させていた。オーラを振り切った彼女の容姿は、数分前と面影も無く変わっている。亜由伽は文字通り、仮面ライダーダークキバへと変貌を遂げたのだ。

 一方の野卦は、カードデッキをバックルにセット。彼の周りでは黒き影が残像のように現れており、次第に体へと重なり合わさる。邪悪な笑みを浮かべたと同時に、彼の姿は変化していた。野卦が変身した姿は……ダークライダーの一人、仮面ライダーリュウガである。

 一瞬にして変わり果てた二人の姿。漆黒とも言うべき変身後には、場にいた全員が驚きを隠しきれていなかった。

「ほ、本当に変身しちゃった!?」

「漆黒の力……奴らの本気ってところですかい?」

 言い知れぬ力のオーラを感じて、思わず目を丸くするリーファら女子達。一方の真選組は、未知の強敵の出現に勝算があるか見極めていく。

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「きっと大丈夫だよ! 銀さんやキリトさん達なら!」

 ユイも思わず心配をかけているが、即座に新八がフォローを加えていた。いずれにしてもダークライダーの出現は予想外で、皆が言葉を失っている。

 その様子を亜由伽達は、仮面の中から愉悦感に浸りながら眺めていた。

「ハハ。どうだ驚いたか? これがマッドネバーの作り出したダークライダーシステムだよ!」

「ダークライダー……!?」

「かつて別世界で暗躍していた戦士のことよ。その欠片や力を一部だけ手に入れて、こんな風に再現できるのよ。さぁアナタ達は……どこまで戦えるかしらね!!」

 自信あり気に声を上げると、両者共に勢いよく銀時らへと向かっていく。

 彼らの普及するダークライダーシステムに理解が追い付かず、困惑してしまう四人。それでも今は、全力で立ち向かう他は無い。未知なる敵に警戒しながらも、気を強く持って応戦していく。

「銀ちゃん! コウモリっぽいヤツは私達で!」

「おう! キリト、アスナ! もう一方を頼むぞ!」

「分かっているわ!」

「こっちも任せたよ!」

 この場は役割を分担して、二対一で勝負を進めていく。銀時、神楽は亜由伽が変身したダークキバを。キリト、アスナは野卦が変身したリュウガと対峙していく。

 マッドネバーとの戦いが、今幕を開いた……。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァ!」

「ハァ!」

「フッ、トワァ!」

 自慢のコンビネーションを武器に、リュウガと張り合うキリトとアスナ。攻撃や防御を使い分けて、リュウガの実力を見極めて交戦していた。

 苦悶の表情を浮かべる二人には、僅かながらに恐れを察している。自分達の経験上から、初めて一線を交える戦闘民族。一瞬にして繰り出される攻撃には、常に注意を払って戦いに挑んでいた。

 一方のリュウガであるが、終始素手のまま戦闘を繰り広げていく。

「ハァァ……トウ!」

「えっ!? キャァァ!!」

「アスナ!?」

 相手の隙を伺った瞬間、上半身へ蹴りを入れられたアスナ。吹き飛ばされた彼女は、森の茂みへと消えてしまう。

「まぁまぁだな。思ったよりも歯ごたえがあると言っておこうか」

「お前……ハァァァ!!」

「クッ!」

 自身の強さを自負していたリュウガだが、その隙にキリトが真っ先に攻め込む。エクスキャリバーを含めた二本の長剣の連撃に、彼は押され気味となる。

「くらえぇぇぇ!!」

「ヘヘ、面白くなってきたじゃないか! だが僕には及ばないよ!」

 と戦いを楽しむような一言を呟いた直後であった。

「ハァ!」

「何!? 消えた……?」

 さらなる一撃を与えた瞬間、リュウガがその場から姿を消してしまう。気配が跡形も無く消えて、不穏さを感じているキリト。警戒心を高めつつ周りを注視していると、

「そこだ!」

「グワァ!?」

 足元にあった水たまりから、リュウガがはいよるように現れていた。不意打ちを食らって、キリトは体勢を崩してしまう。

 そうリュウガは、鏡の世界であるミラーワールドへ行き来する能力を持っている。先ほどの消失は、水たまりの反射を利用して逃亡しただけであった。この時のキリトは、その真実にまだ気が付かないが……。

「僕に勝とうなんて、君達には無理だよ」

 煽るように小言を発する彼の元に、忘れかけていたあの子が近づいていく。

「それはどうかしらね!!」

 青い羽を広げて襲い掛かるのは、森へと飛ばされたアスナ。体勢を立て直して、必死そうな表情でリュウガへと再び立ち向かう。

 彼女の気配へ気が付きつつ、リュウガは動じずにベルトから一枚のカードを取り出して、腕の召喚機へと差し込んでいた。

〈sword bent!〉

 鈍い電子音が響くと、リュウガの手元には龍の尾を模した剣が出現する。これを使い彼は、アスナのレイピアと真っ向から対抗していた。

〈カキーン!〉

 レイピアとドラグセイバーが、勢いよくぶつかり合う。

「ハハハ! やるね、君も!」

「何……!?」

 次々と繰り出される剣撃に、アスナは防御へ徹することで精一杯となる。剣術に関しても互角だが、一つ一つの攻撃が強くて追いつくことが出来ない。一進一退の攻防が続くと、

「そこだ!」

「キャッ!」

またも隙を見透かされてしまい、強力な一撃を受けてしまった。アスナは態勢を崩されて、地へと倒されていく。

「アスナ! 大丈夫か!?」

「な、なんとかね……とてもじゃないけど、防御へ回すことで手一杯だったわ……」

「隙を見て攻撃権を奪うしかないのか……」

「そうね……」

 キリトも駆け寄って、彼女の無事を確認している。戦況はあまりよろしくなく、攻略法も今のところは連続攻撃しか無い。夜兎の力も相まって、間違いなくボス攻略並みの難易度の高さである。さらなる不穏な表情へと二人は陥っていた。

 僅かな攻撃を受けても、リュウガの優位が翻ることは無い。

「ハハハ! これからは僕が最強さ!」

 そう発すると彼は再びベルトからカードを取り出し、召喚機へと差し込む。

〈strike bent!〉

 濁った電子音と共に、今度は左手に龍の顔を模したグローブが装着される。これを一旦後ろに引いて、彼はグローブ内に溜まった黒い炎をキリトらへ解き放っていく。

「ハァァ!」

「くっ……こんなもんで!」

「負けたりはしないわよ!!」

 二人は長剣やレイピアを用いて、炎を振り切りながら抵抗する。そして炎を退けると同時に、がむしゃらに走り出していた。

「「ハァァァァ!!」」

「ハハハ、良いよ! 面白くなってきたね!!」

 しぶとい根性を見せる二人の姿に、リュウガも高笑いが止まらない。

予想を遥かに上回る実力の戦士。夜兎とダークライダーの合わさった力の差には、中々勝負を有利に進められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の銀時と神楽の二人は、ダークキバと激闘を繰り広げている。

「おりゃぁぁ!!」

「いっけぇぇアル!!」

 活気づいた掛け声から、ひたすらに攻撃を繰り出す二人。銀時は木刀を使った確実な一撃を、神楽は日傘から繰り出す射撃と格闘戦でダークキバに応戦していた。

 しかし肝心の彼女は、その大半の攻撃を回避する術を取っている。一貫して自分からは、攻撃を一斉仕掛けてこなかった。

「どうした!? さっさと戦え」

 じらす姿勢にビリビリしながらも、銀時がまたも一振りした直後である。

「な、何!?」

「甘いぞ。こんなものでは!」

 なんと彼の木刀が、ダークキバのベルトに装着されたキバットバットⅡ世の口に阻まれてしまっていた。こちらも隙が出来た瞬間に、

「その通りよ。ほらね!」

「くっ……たぁ!?」

「銀ちゃん!?」

 木刀と共に蹴り飛ばされてしまう。戦況がひっくり返されて、神楽もつい攻撃の手を止めてしまっていた。

 この油断を彼女が見逃したりはしていない。

「あらあら、小娘一人になってしまったわね。しかも見たところ、アナタも夜兎じゃないの……そんじゃ、私の恐ろしさをとくと味わうといいわ!」

 そう言い放った直後である。ダークキバは自身の体格ほどある紋章型の結界を作り出すと、神楽へ向けてそれを差し向けていた。

「グワァ!? ギャァァァ!!」

 何も抵抗できずに紋章へ囚われてしまうと、体中に激しい痺れが襲い掛かってくる。逃げ出そうとしても逃げられない、拘束技に引っかかっていた。

「フフフ、有り難く想いなさい。絶滅タイムよ!」

 優勢した状況を嘲笑うように、ダークキバはさらなる攻撃を仕掛けていく。

「ハァ!」

「ブフォ!?」

 紋章を器用に操りながら、神楽を前後に操作していき、腹部へ向けて強烈な蹴りを与え続けていた。吹き飛ばされると彼女はまた結界に囚われてしまい、そこからさらに操られて蹴りを与えられている。相手の攻撃を完封する連続技に、神楽のダメージは徐々に蓄積されてしまう。

「アハハハ! どうかしら? 同族に蹂躙される気持ちは? とってもみじめでしょ!」

 依然としてダークキバは優位に立ち、高飛車の如く威圧的な言葉を発していく。数秒の間この攻撃を楽しんでいると……

「神楽ぁぁぁ!!」

 彼女の背後からは猛スピードで銀時が駆け寄ってきた。木刀を握りしめながら、彼は大きく飛び上がって、それを背後から振り下ろしていく。

「フッ。どうかしらね!」

 しかし状況を把握しているダークキバは、後ろへ振り返りつつ冷静に木刀を両手で受け止めている。策を封じてまたも愉悦感に浸っていた時だった。

「はぁぁぁ!!」

「何!?」

 銀時は諦めずに右手を強く握りしめて、空元気の如くストレートなパンチを繰り出す。

「クッ……プファ!」

 予想外な動きを読めなかった彼女は、今度こそ体のバランスを崩してしまい、怯みに陥ってしまった。集中力が途切れたことで、神楽を束縛していた結界も効力が途切れていく。

「おい、神楽! 大丈夫か!?」

 必死こいた表情で銀時は、神楽の無事を確認している。幸いにも彼女に深い傷はないが、とある精神的なダメージを与えられていた。

「ぎ、銀ちゃん……まずいネ。お腹を蹴られまくって、今朝のオムライスが出産するネ……」

「おい、やめろよ! やり方間違えると、小説でも注意書きを設けることになるぞ! とりあえず抑え込め!」

 腹部を集中的に攻撃されたせいで、体の調子を悪くさせられている。口で手を抑え込みながら、顔色も次第に悪くなっていた。銀時には二つの意味で心配をかけることになるが。

 一方のダークキバは優勢を崩されてしまい、態度を一変させている。

「お前ら……私の勝ち試合を! 絶対に許すか!!」

 人が変わったように感情を高ぶらせており、冷静さをとうに失っていた。怒りのままに彼女は、ベルトの右側に付属された黒色のウェイクアップフエッスルを取り出す。それをキバットバットⅡ世の口元に、咥えさせていた。

「ウェイクアップ! ツー!!」

 フエッスルを二度吹かせると、ダークキバは必殺技の構えに入っている。全身に満ちた魔皇力を足に集中させて、両手を胸元に交差させていく。勢いよく飛び上がって、キック技のキングスバーストエンドを繰り出してきた。

「滅べぇぇぇぇ!!」

 勢いに乗っかり二人を吹き飛ばそうとした時である。

「あっ、もう無理……ブホォォォォ!!」

「ハァ!? ギャァ!?」

 なんとタイミングが悪く、神楽は我慢できずに嘔吐してしまった。放出された嘔吐物は、ちょうど必殺技を放つダークキバの全身に浴びせられている。おかげで彼女の必殺技は失敗に終わり、地面へと叩きつけられていた。

「お、おい……神楽?」

「あぁ、やっちゃったネ……これじゃ注意書きは不可避アルナ」

「いや……それよりももっと言うことあるだろ? ていうか、この事態気付いているか?」

「はい?」

 嘔吐物を出し切った神楽は、現在の状況を分かっていない。故にダークキバへ確かな一撃を与えたことにも、気付いていなかった。

 銀時が恐る恐るダークキバの方へ視線を向けると、そこには予想通りの光景が広がっている。

「お前ら……よくも私をゲロまみれにしてくれたな!!」

「いや、違うから!! つーかこいつ、キャラ変わりすぎだろ! 怒ると豹変する女かよ!」

「まるで姐御アルナ」

「そんな呑気なこと言ってる場合か! これじゃまともに戦えねぇぞ!」

 さらに怒りを高めたダークキバが、嘔吐物を被りつつも銀時や神楽を周到に追いかけていく。その迫力に押されながら、銀時は神楽と近くにあった傘を抱えて、逃げ出してしまう。神楽の思わぬ妨害によって、勝負を台無しとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 次々と情勢が変化するダークライダーとの戦い。それでも両者の間では、明らかな温度差が広がっていたが……。

「おぃぃぃ! アンタら、何をやってんだよ!! 余計に相手を怒らして、どうするんですか!!」

「吐くだけで相手を混乱状態にさせるとは……アイツ等にしか出来ねぇ芸当だな」

「大丈夫なのかな……神楽ちゃん?」

 反応も多様であり、新八の素直なツッコミや、土方やリーファのような戦況を憂う声も上がっている。どちらかと言うと、神楽の容体についても心配していたが。

「まぁ、アイツなら大丈夫でしょうね。ところで黒剣さん達はどうなんですかい?」

「ちょっと押され気味じゃないでしょうか……」

「あの野卦とか言うヤツ、強すぎない!? キリトやアスナでも押されるなんて……」

「よっぽどの強敵じゃないかしら……」

 続けてリズベットら女子達が不安視しているのは、キリトらの状況である。リュウガの圧倒的な戦力差に苦戦しており、事態は困難を極めていた。皆が不安な表情のまま、勝負の行く末を見守っている。

「このままではパパやママ達が……」

 苦戦する姿を見ていられず、思わず目を覆ってしまうユイ。

 次第に雲行きが怪しくなる一方で、遂には近藤が我慢できずに立ち上がっていた。

「ならば! この俺達も加勢して、援護しようじゃ――」

「いや、待って!」

「アレ?」

「フ、フィリアさん?」

「ナー?」

 だがしかし、同じタイミングでフィリアも声を上げている。仲間達は近藤よりも彼女の方へ注目を寄せていた。自信に満ちた真剣な表情で、彼女は思いついた策を皆に伝えていく。

「あいつらを退ける前に、次元遺跡へ逃げ込もう! そうすれば断然安心だって!」

「遺跡へ逃げ込むってことか……」

「あっ、そっか! ドアさえ締めれば、次の時間帯まで来れない仕組みだっけ?」

 ダークライダー達を退けるよりも、次元遺跡へ逃げ込む判断を促している。この助言に、沖田やリーファらも改めて感心していた。

 上手くことが運べば、相手方には大きなタイムラグを与えることができる。戦いから逃亡することにもなるが、ここで負けるよりは遥かに安全な道筋であった。

「ならもう、そうするしかないですよ!」

「態勢を立て直すには、打ってつけかもしれねぇな」

 シリカや土方ら場にいた全員が、フィリアの考えを徐々に賛同していく。言葉を被せてしまった近藤も、さり気なく彼女の意見へ乗っかっている。

 大方考えがまとまりつつあるが、一つ気がかりなのは現在の時刻であった。

「ていうか、今何時なの?」

「えっと俺の携帯だと……十四時十二分五十五秒を示しているな」

「って、もう近いじゃない!」

 近藤の持っていた携帯電話から確認すると、対象の時刻まで後少しと迫っている。遺跡へ逃げ込むにはゾロ目の時間帯が必須な為、一行の早めの判断に今後が懸かっていた。

「なりふり構わずに行きましょう! パパやママ達にも伝えて!」

「そうですね。とりあえずまずは……」

 ユイや新八が真っ先に声を上げて、早速行動へと移していく。二人をきっかけに、フィリアら女子達も同じように電話ボックスへと向かっていた。

「よ、よし! 俺達もついていくぞ!!」

「あいつ等だけじゃ不安だしな」

「了解でっせ」

 もちろん真選組の三人も同じである。軽口を言いつつも、結局は放っておけないのが本音であった。把握していない部分も多いが、彼らもフィリアの味方へ付いているのが事実ではある。

 計十人と一匹が一直線に進んでいき、妨害を覚悟して電話ボックスまで向かっていた。

「って、新八? みんな!?」

「あいつ等……まさか」

 ダークライダーを相手にする銀時やキリトも、仲間達の行動を目にしており、察しが付いている。適宜様子を伺いながら、戦いを続けていた。

 一方のフィリアサイドは、電話ボックスにあったドアノブに手をかけると、早口で呪文を唱え始めている。

「もう行こう! クウアギリュファブレヒヒカブデンキバディ、ダブオーフォウィガイドラゴーエグビルジオ!」

 時間を確認しながら呪文を唱え終えて、ちょうどよいタイミングで扉を開く。現在の時刻は14時14分14秒。条件通りのゾロ目の時間帯であり、これが次元遺跡とのアクセスを可能にしていた。

 扉は前回と同じく眩い光を放ち、遺跡までの通路を繋げている。この危機を打破する為の道筋が、たった今開かれていた。

「開いた! さぁ、早く!」

 道が繋がったことを確認して、仲間達は一斉に銀時やキリト達へ撤退を呼び掛けていく。

「銀さん! キリトさん! 一旦逃げましょう!」

「早くこっちへ来てください!」

 新八やユイが懸命に撤退を伝えていき、同じくして仲間達がぞろぞろと遺跡内部へと入っている。

 この光景を即座に察したキリトらは、一旦対戦相手との距離を縮めていた。

「やっぱりか……アスナ!」

「もちろん行きましょう。仕方ないけど……」

 勝敗には心残りはあるが、身の安全を考えてキリトやアスナは、速やかに戦線から遠ざかっている。目指すは仲間達の待つ、電話ボックスの扉だ。

「おい、神楽! こっちも戻るぞ!」

「分かっているネ、銀ちゃん……」

「安静にしてろ! 絶対に吐くなよ!」

 引き続き銀時や神楽も、同じように戦況から離れている。神楽は未だに体調が戻っておらずに、傘共々銀時に抱えられているが。いずれにしても、逃亡への道が最優先ではある。

 四人は一斉に仲間達の元まで走り出すが、ダークライダー達がみすみすと、彼らを見逃すはずがない。

「待て、コノヤロー! この私が正してやる!!」

 嘔吐物をかけられて怒りの収まらないダークキバは、無我夢中で拘束技である紋章を作り出そうとしている。しかし集中力が鈍っているせいか、中々上手く作り出すことは出来ていない。

「あぁ、もう! 早くしろ!!」

「落ち着け、亜由伽。そうかんしゃくを立てるな。ここは僕に任せておけ」

 ほぼ冷静さを失っているダークキバに対して、代わりにリュウガが対処していた。彼は再びカードを取り出して、召喚機へと入れていく。

〈advent!〉

 濁った音声と共に、光に反射した水たまりから黒い龍が姿を現していた。

「グラァァ!」

 勢いよく雄たけびを上げたその正体は、召喚獣であるドラグブラッカーである。フィリアを襲った個体と同一のミラーモンスターだ。

「ド、ドラゴンですか!?」

「ナー!?」

 不意に現れた黒龍に、思わず驚きを隠しきれない仲間達。特にピナは、ドラグブラッカーのあまりの威圧さに体を震わせていた。

 襲われた経緯があるフィリアも同じである。

「アイツまで来るなんて……」

「このままじゃ、銀さん達が……」

 妨害を仕掛けてくるだろうドラグブラッカーに、警戒心をより高めていく一行。どうにか回避して銀時らも救いたいと、策を巡らせていたが――ここでシノンがある打開策を閃いている。

「――そうだわ、ねぇ、銀さん! 神楽の日傘、貸してもらえるかしら!?」

 遠目の距離にいる銀時へ声をかけて、彼が抱えていた日傘を求めていた。

「あぁ、これか? ほらよ!」

 要望を聞き入れた銀時は、速やかにそれをシノンへ投げていく。

「ありがとうね! 後は……」

 日傘を手にしたシノンは、目つきを変えてドラグブラッカーへ狙いを定めている。彼女の目的は、日傘を用いた威嚇射撃だった。先端から発車する弾丸で、時間を稼ぐ算段である。

「ラァグゥゥ!!」

「ハァ!!」

「何!?」

 標準を定めると同時に、次々と弾丸を乱射。ドラグブラッカーやダークライダーをけん制していく。初めて使用する異形の銃だが、違和感なく使いこなして、銀時やキリト達に起点をもたらしていた。彼らが電話ボックスに着くまで、後もう少しである。

「今よ、みんな! こっちへ!」

 シノンが強く呼びかけると同時に、仲間達も次々に声を上げてきた。

「キリトさん! 早く!」

「アスナさんも!」

 心配そうな表情を浮かべるシリカやリーファ。

「早く来てくだせぇ」

「いいから駆け込め!!」

 最後まで彼らを信じている沖田や近藤。この時だけは、皆の想いが一つとなっている。

「おう、待ってろ!」

「後少し……!」

 ダークライダー達の妨害を乗り越えて、いよいよ四人は――

「よし!!」

仲間達の元まで戻って来ていた。

 駆け込むように扉を潜り抜けていき、全員が入り切ったところで……扉を勢いよく閉めている。ダークライダー達が入らないように、物理的な圧力を遺跡先の扉にかけていく。

「待て!! ――チッ、逃げられたか」

「クラワァァ……」

 閉められた後も執念深く扉を開けようとしたリュウガだったが、思うように行かずに諦めてしまう。再び戸を開けてみるが、そこにあるのは何の変哲もない固定電話である。

 フィリアの作戦通り、二人には一時間一分のタイムラグが発生してしまった。ドラグブラッカーも、残念そうに鳴き声を上げていく。

 だが一方で、未だに怒りが収まらないのはダークキバこと亜由伽であった。

「あの野郎共……私をこんな姿に変えやがって……!!」

「ていうか、まずは洗い直せ。ちょっと臭いんだよ」

「仕方ねぇだろ! 文句ならあの赤い小僧に言えや!!」」

「はいはい、分かったから」

 神楽によって嘔吐物まみれにされて、まんじりとも怒りが収まらない。かんしゃくを立てながら、より強い怒りを生み出していた。リュウガからは冷静になるよう促されているが……そう簡単に変わらないのがオチであろう。

 ダークライダーとの戦いは、万事屋や真選組、キリト達にも大きな影響を与えていた……。

 

 

 

 

 

「……もういいかな?」

「多分ね。来る気配とかも無いし」

「フワァ~。やっと落ち着けるんですね」

「ひとまずは安心できるな」

 次元遺跡へと逃げ込んだ一行は、扉の具合を確かめつつ、ようやく心を落ち着かせている。リズベット、シリカら女子達は安堵の表情を浮かべており、土方ら真選組もほっと一安心していた。銀時やキリトら万事屋も同じ気持ちではある。

 一方で銀時は、逃げ道を確保してくれたシノンに礼を伝えていた。

「とりまあんがとよ。時間を稼いでくれてよ」

「大したこと無いわよ。アレくらい私には朝飯前よ」

「朝飯アルか……ウッ!? また吐き気が……」

「って、大丈夫なの? 神楽?」

「しばらく食関係は言わないで欲しいアル」

「どんだけデリケートになってんだよ」

 朝飯前と聞くや否や、神楽は再び吐き気を催してしまう。顔色の悪くなる彼女に、銀時やシノンは急いで抑え込んでいた。

 一見落ち着いた雰囲気ではあるが、ダークライダー達と戦った衝撃は今も尚残っている。

「いやしかし……あの夜兎達の強さは只者では無かったな」

「強いだけじゃなく、変身までしやすからねぇ」

「全てを見ない限り、勝算は難しいか……」

 元々変身前と戦っていた近藤、沖田、土方も勝算の見極めには苦言を呈していた。

一方のユイは、戦っていたキリトやアスナへ心配気味に声をかけている。

「大丈夫でしたか。パパ? ママ?」

「なんとかね。大した怪我はないわ」

「こっちもだよ。それよりも……精神的なダメージの方が大きいかな……?」

 彼らにとっても、リュウガとの戦いは悔いが残ってしまう。一時撤退はしたものの、あのまま戦えば負ける確率が高かったであろう。改めて考え直すと、その行く末を恐ろしく感じている。

「確かにあの強さは、桁違いだったね」

「変身までしているから、仕方ないと思いますが……」

「それでも、もっと戦えた気がするけどな……」

 この話を聞き、リーファやシリカも素直に励ましていた。キリトらの苦戦する姿を見ると、ダークライダーの実力がおのずと分かっていくだろう。仲間達もその恐ろしさに、つい共感している。

「と、とりあえず気を取り直しましょうよ!」

「そうだって! 次元遺跡にも来たんだし、色々と探索しようよ! マッドネバーが 狙っている力も、見つかるかもしれないし!」

 気持ちが浮き沈む雰囲気の中で、健気にもユイやフィリアが切り返しを図っていく。時間差がある今この、遺跡を探索できる余裕もあり、それを改めて誇示させていた。

 仲間達もひとまずは、ゆっくりと気持ちを切り返していく。

「あっ。それはそうと、君は一体何者なんだ?」

「ノリでついてきたが、俺達はこれから何を手伝えばいいんだよ?」

「その話は歩きながら説明してやるよ。そう焦るんじゃねぇよ。V字」

「だれがV字だ! つーか俺以外にも、V字キャラ結構いるからな!」

 ノリのままについてきていた真選組にとっては、未だに分からないことだらけではあったが。とりあえずは、探索がてらに色々と知らされる様子だ。

 

こうして一行は、未知なる次元遺跡へと足を踏み入れていた。

 

フィリアは遺跡内にあるとされる、英雄の力を探すため。

 

万事屋やキリトら一行は、マッドネバーからフィリアを守るため。または次元遺跡にて、手がかりを見つけるため。

 

真選組は、フィリアやキリトらを守るため。ほぼ思い付きであるが。

 

各々と目的は異なる十四人と一匹は、遺跡の奥部へと突き進む……

 

その先に待つものとは果たして?




 夜兎が変身したダークライダーはいかがだったでしょうか? 圧倒的な強さに、銀時やキリト達も苦戦した姿が印象的だったと思います。今回の敵は中々の強豪です。果たしてどう攻略するのでしょうか……

 個人的な意見ではありますが、別作品の敵と戦う描写がクロスオーバーの強みだと思っています! 前回の夢幻解放篇と同様に、今回も様々な刺客が登場致します。是非お楽しみにしていてください!

 余談ですが、リュウガとダークキバは変身者の異なる別人設定にしました。それでも決め台詞や戦い方は原作に寄せているので、そこはご了承ください。

 ちなみに僕のお気に入りのシーンは、神楽の日傘を使ったシノンの援護射撃です。レアなシーンだと思います。

 そして次回は! また新たなダークライダーが登場します! 

 そろそろ皆さんも予告の小ネタには気が付いたでしょうか? 法則性が分かる人には、きっと解けるはずです! ではまた次回!








次回予告

Open you Eyes For The Next Sword Soul

フィリア「私はちょっと、戦う勇気が無いんだよね……」

沖田「遺跡には何があるのか分からないから、気を付けてくだせぇよ」

神楽「おい、テメェ! 何する気するか!?」

銀時「いやいや、こんな仕掛けなのかよ」

新八「お、お前は……!?」

??「命乞いはするな。時間の無駄だ!」

??「アタシはねぇ……アンタ達みたいな妖精が大っ嫌いなのよ!!」

キリト「お前らまで変身するのか……!?」

次元遺跡篇四 遺跡の謎


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第六十八訓 遺跡の謎

 前回に引き続いて、また新たなダークライダーが登場します!

 そして遺跡にある仕掛けとは……どうぞ最後までご覧ください。



 次元の狭間にあるとされる次元遺跡。未知なる力が宿るこの地には、現在二つの勢力が侵入していた。

 一つはフィリアの案内の元で動く万事屋や真選組一行。そしてもう一つは、マッドネバーに属する辰羅の二人である。夜兎達とは異なり、時間差で次元遺跡へと来ていた。

 

 現在は遺跡の奥部にある扉の前で、侵入を密かに試みている。

〈ビリィ!〉

「痛!? ……また電流か」

「ありゃゃ。全然上手くいかないねぇ~。中に入るなら、仕掛けとか解かないといけないんじゃないの?」

「……いいや。まだだ! もう一回」

「また痺れるだけだから、止めておきなって」

 電流が流れ続けてもなお、力づくでねじ伏せようとする辰羅の男性。不器用な姿に、辰羅の女性も皮肉を言うように呆れている。

 しばらく侵入を試みていると、二人は徐々に人の気配を察していく。

「ん? これはまさか」

「アタシ達以外の侵入者かな? だったら……」

「徹底して相手になろうじゃないか……」

 そう判断した二人は、場を離れて別々の道を駆け抜けていく。男性はメダルを、女性は指輪を手にして、戦闘態勢を整えていた。

 新たなるダークライダーが、刻一刻とフィリア達に迫っている……。

 

 一方でこちらは、遺跡内をゆっくりと歩くフィリアや銀時、キリトら一行。夜兎やダークライダーの脅威が去っても、内部に敵がいないか、皆警戒心を高めている。周りをキョロキョロと見渡しながら、着実に奥部へ突き進んでいた。

「なんだか暗くて静かな場所ね……」

「海底遺跡と同じで、何が出てくるか分からないわね」

 遺跡内部を確認しつつ、より注意を払うリズベットとアスナ。彼女達の言う通り、遺跡の中は薄暗く、陰湿な雰囲気を漂わせている。キリト達が以前に訪れた海底遺跡とも、様子は酷似していた。いずれにしろ、万が一に備えることに越したことはない。

 現在は先頭にフィリアやキリトらSAOキャラ、後方に万事屋と真選組と言った銀魂キャラに分かれている。慣れ親しんだ仲間と共に、情報交換しながら歩いていた。

「なるほど! 要するにあのフィリアちゃんって子が、夜兎達に狙われているから、みんなで守っていたのか!」

「そういうことですね。それに奴等の狙いは、この次元遺跡に眠る力とも言っていましたし……」

「どっちにしろ、人が多くて損はないだろ。折角だから、俺達も加わってやるよ」

 引っかかっていた謎が解けて、近藤は大きく頷いている。フィリアと出会った経緯、彼女を狙う謎の組織、そして次元遺跡の存在。多くの事情を抱えている銀時らに、真選組の三人も協力する姿勢を見せていた。

「まぁ、俺達に任せりゃ間違いねぇですよ。ゲロインはしばらく休んでいてくだせぇ」

「うるせぇアル。オメェに言われなくても、とっくに治り始めているネ。近寄んじゃねぇ!」

 それでもなお、神楽と沖田の対立は相変わらずであったが。ダークキバとの戦闘で体調を崩していた彼女も、今では軽口を叩けるほど立ち直っている。もちろん銀時も、同じように気持ちを立て替えていた。

「おいおい、静かにしろお前等。一応敵がいるかもしれないからな。警戒心は絶対に怠るなよな」

 と注意を加えると、それを聞いていたシリカとシノンが即座に小言を告げている。

「そういう銀時さんだって、敵だけじゃなくてお化けにも注意した方が良いんじゃないですか?」

「そうそう。だって銀さんは……」

「おい、止めろお前等! こういうところで言うんじゃねぇよ! 無駄に意識するだろうが!!」

「って、銀さん。自白していますよ」

 核心を突くような一言に、銀時も本音をあっさりと発してしまう。潜在的に怖がる様子には、新八も冷静にツッコミを入れていた。彼の弱点をよく知っている二人の、何気無いからかいの一幕である。

 万事屋や真選組がいつもの応酬を繰り広げている中、キリト達はフィリアと積極的な交流を続けていた。

「へぇー。みんなって、別の世界からやって来たんだ」

「そうだな。色々あって今は、万事屋とか百華とか信頼できる人達と一緒に暮らしているんだよ」

「その中で、私達をこの世界に送ったサイコギルドって組織を追っていますが……中々有力な情報が掴めないのが現状なんです」

「結構苦労してるんだね……」

 キリトやユイから聞かされた並々ならぬ事情に、フィリアも同情を見せている。別の世界から来た人間だと知り、驚きを感じていた。彼女達の真剣そうな表情からは、重要な事案であると理解している。

 そう思った途端に、フィリアにはある疑問が浮かんでいた。

「ねぇ、思ったんだけど……みんなは元の世界に帰りたいって思ったことは無いの?」

「そうね……もちろん思うことも多いけど、考えていても戻れるわけじゃないし」

「そういうのは割り切って生活しているかな。今の生活もそんなに悪くないし」

 元の世界へ戻りたい気持ちが強いのかと思いきや、必ずしもそうではない。リズベットやリーファの返答通り、気持ちは割り切って暮らしていると言う。すると仲間達も、同感するように声を上げてきた。

「そうね。手がかりもいずれは見つかると思うから、いつかは帰れると信じているのよ」

「何事も慎重にですよ!」

「ナー!」

「なるほどね。まぁ焦っても良い事は無いし、ゆっくりと探した方が的確じゃないかな?」

 冷静に徹している彼女達の考え方を知って、フィリアも強く納得している。彼らの前向きに生きる姿には、思わず彼女も感心していた。

 その話題が一旦区切られると、今度はお返しにフィリアへ注目が向けられている。

「ところでフィリアは、ALO星でどんなことをしているんだ?」

「えっとね……まぁ勉学と宝探しくらいかな。趣味でよく色んな場所を探索しているんだよね」

「いわゆるトレジャーハンターってわけね」

「そうだね。でもこんな大勢で行くのは、初めてかも」

「えっ? そうなの?」

「うん。普段は一人でやっているからさ……本当は仲間も欲しいけど、全然集まらなくて」

 彼女は自身の事情について、素直にリーファらへ打ち明かしていく。どうやらフィリアの本職は学生らしいが、趣味としてはトレジャーハンターも行っているという。ところが……仲間が出来にくいことに大きな悩みを抱えていた。次第に表情も浮かなくなり、しんみりとした雰囲気で話は続いていく。

「私の星にはね、姫様を守る六人組の騎士団がいるんだよ。私も彼らと同じように同志を集めたいんだけど……上手くいかなくて、結局一人なんだよね。いつかは仲間と一緒に、色んな場所を巡りたいんだけど……」

 本音を言い切った後に、彼女は「ハァー」と重たいため息を吐きだしている。仲間を持つことに憧れを持ち、行動へと移したのはいいが、望み通りに進まずモヤモヤが募っていた。理想と現実の狭間に葛藤を抱き、フィリアは自分を変えようと試行錯誤を続けている。

 初めて明かされた彼女の秘めた気持ちに、周りにいたキリトらは一貫して、次々と後押しするような一言をかけていく。

「そう内気にならない方が良いんじゃないかしら? 今は上手く行かなくても、続けていればきっと集まって来るわよ」

「そんなものなのかな……」

「もっと自信を持ってください! 例えば仲間の集め方を変えたりとか、手段はきっと多くあるはずですから! 諦めずにやれば、フィリアさんの夢も絶対に叶いますよ!」

 アスナやユイの言葉を皮切りにして、女子達も大いに励ましている。「大丈夫」や「応援している」と言った、温かみのある言葉を各々が伝えていた。

「フィリアが言ってくれた通り、焦らない方が近道だと俺も思うよ。自分のペースで無理はせずに、続けていくべきだよ」

「キリト……みんなも」

 次々とその言葉を受け取っていき、フィリアの表情は一変。失いかけていた自信を少しずつ取り戻していく。

「ありがとうね。励ましてくれて」

「いやいや。これくらい、大したことないって!」

「俺達もフィリアのこと、応援しているからさ」

「その言葉だけで、私は嬉しいよ」

 優しくそっと微笑みを浮かべて、彼女はキリト達へお礼を返していた。本音を伝えきったその心境は、見違えるほど変わっている。自身の夢を応援してくれる人達と出会い、心の底から感謝していた。

「他にも聞かしてくださいよ! フィリアさんやALO星のことも!」

「うん、いいよ!」

 こうして悩みが一旦解決されると、さらなる情報をフィリアから聞き出している。ALO星に関連する話題で、キリト側はしばらく持ちきりとなっていた。

 一方の万事屋と真選組は、会話に入らずとも話の内容はしっかりと聞いている。

「フィリアさんもだいぶ、キリトさん達と打ち解けてきましたね」

「あいつは元々ゲーム版限定のキャラだろ? 仲良くなるのは必然的だろ」

「何だか運命のように感じるアルナ。こうなったら私達も、ゲーム版のキャラを導入するアルよ!」

「よし来た! ……って、誰かいたっけ?」

「いや、覚えてないんかい! 色々いましたよ! DS版とかすごろくとかに!」

 話題に一安心したかと思いきや、ノリのままに小ボケを交わす銀時と神楽。謎の対抗心を目の前にして、新八のツッコミもすかさず決まっていた。

 その後ろにいる真選組だが、近藤を除く二人は常に警戒心を払っている。

「ハハハ。万事屋もキリト君達もいつも通りじゃないか!」

「そう呑気にしていて良いのかよ。敵はどこにいるのか分からねぇんだぞ」

「その通りですよ。ほらこんな風に、横側から攻める可能性もありやすし」

 そう言い切って沖田は、無作為に壁の一部へと手を当てて力を入れていく。本人も冗談交じりに押しかけていた――その時である。

〈カチ!〉

「アレ? おっと!?」

「そ、総悟!?」

 何かが起動する音が聞こえた途端、壁が急回転してそこに出来た隙間へ彼が吸い寄せられてしまった。一瞬にして場から姿を消している。

「えっ!? 総悟が消えた!?」

「お、沖田さんが!?」

「おいおい、マジかよ?」

 何が起きたのか分からず、戸惑ってしまう近藤らや万事屋一行。先を歩いていたキリト達もこの異常に気が付き、一旦合流して場の状況を読み解いていた。

「一体何が起こったの?」

「壁を触った途端に動き出してだな……そのまますっぽりと消えたんだよ」

「壁が移動したの?」

「まさか遺跡独自の仕掛けってこと!?」

 近藤の説明を聞いても、さっぱりと理解が追い付かないリズベットやシノン。彼女たちのみならず、場にいた全員が次第に遺跡内の仕掛けだと予見していた。

 するとフィリアが、そっと声を上げていく。

「恐らくそうだと思う」

「えっ? フィリアは何か知ってるアルか?」

「うん。だって私も、この仕掛けに引っかかって外に放り出されたもの。他の場所にあっても、おかしくないと思うけど……」

 彼女曰く壁の仕掛けは経験済みであり、はっきりと断言している。つまりそれは、沖田も彼女と同じ末路を辿ることを示唆していた。

「えっ? じゃ沖田さんは、遺跡の外へ放りだされたってこと?」

「そ、そんな……」

 徐々に不穏な空気が漂っていき、仲間内には不安が募り始める。沖田の安否を気遣って、壁越しに呼びかけようとした――その時であった。

「いやいや、俺は平気ですよ」

 不意にも聞こえてきたのは、余裕を感じさせる沖田の一言。この声と共に、

〈カチ!〉

またも起動するような音が聞こえてくる。すると瞬く間に壁が表裏へ動き出していく。

「えっ? ギャャャ!?」

「うわぁぁ!?」

「ちょっとみんな!?」

 その壁の移動に巻き込まれたのは、近くにいた万事屋と真選組の計五人。沖田と同じく偶然にも出来た壁の隙間に落とされてしまった。

 立て続けに起きる急展開には、シリカやリズベットら残された仲間達も何が何だか分かっていない。

「えっ? 一体何が起きたんですか!?」

「ナー!?」

「ていうか、神楽達は大丈夫なの!?」

 思わず彼らへ無事を呼び掛けてみると、何事もなく沖田が言葉を返してくる。

「こっちは平気ですって。いやー偶然にも、同じ道に迷い込んだだけですさぁ。そっちと同じように通路が続いているんですよぉ」

「同じ道? 隠し通路ってことかしら?」

「そういう認識で合っていやすよ」

 どうやら彼によると、一枚壁を挟んで同じような道が広がっているそうだ。フィリアの時とは違い、遺跡の外にも放りだされていない。全員の無事が確認できたことに、アスナらも一安心していた。

「はぁー、良かったわ」

「何事もなくて、安心しました!」

「壁がスイッチになって、隠し通路を発見するなんて。本物のダンジョンみたいだな。ってことは、こっちの道にも自由に戻れるってことか?」

 ほっと一息をつくと、キリトはさらなる質問を投げかけてくる。すぐに返答が来ると思いきや、聞こえてきたのはまったく関係のないやり取りであった。

「おい、てめぇ!! 何を私達まで巻き込んだアルか!!」

「ちょっと神楽ちゃん、落ち着いて!! 今は喧嘩している場合じゃないから!!」

「おい、ニコチンとゴリラ! あの二人を止めろよ! オメェの部下だろ!」

「ふざけんな! 誰がニコチンだ!! つーか、勝手にチャイナを押し付けるなや!!」

「みんな落ち着いてくれ!! 挑発もやめろ! 総悟にトシも!」

「なんで俺まで括ってんだよ!!」

 次々と聞こえてきたのは、万事屋と真選組による阿鼻叫喚の一幕。沖田に怒りをぶつける神楽。責任を擦り付けあう土方と銀時。場を必死に収めようとする近藤と新八。すぐには収まらないであろう争いが、一枚の壁を通して始まってしまった。声しか状況を読み取れないキリトらだが、普段の彼らのやり取りから大体察しが付く。

「って、喧嘩が始まっちゃったけど……」

「何をやっているのよ。銀さん達は……」

「またいつもの流れなのかな……?」

 見慣れた喧嘩の様子に、つい呆れを覚えてしまうシノンとリーファ。二人だけではなく、場にいた全員が喧嘩の行く末を不安視していた。

「やっぱり始まったか……」

「銀さんも土方さんも、喧嘩なんかしている場合じゃないのに……」

「早く落ち着いてくださいって!!」

 キリト、アスナ、ユイも落ち着かせるよう声かけしていく。全員が苦笑いをして、この状況に気まずさを感じていた。遺跡の仕掛けをきっかけに、事態は変わっている。

 二組の対立が収まるまで皆が静観しようとした――その時であった。

「ディーペストハープーン!!」

「うわぁ!?」

「ギャァ!?」

「えっ!? ちょっと、みんな!?」

「何が起こったのよ!?」

 事態は突如として、急転直下を迎えている。油断していた隙に聞こえてきたのは、銀時や神楽達の大きな叫び声。何らかのトラブルが起きたものだと思われるが……。

 不穏な事態に気が付き、キリト達の表情もまた一変している。

「今の攻撃は……」

「見るネ! あいつは辰羅アルよ!」

 すると真っ先に聞こえてきたのは、新八や神楽の反応だった。二人によれば、何者かを揶揄するような一言を発している。

「しんら? って、誰だっけ?」

「確か三大傭兵部族の一つだったはず……」

「それじゃ、夜兎と同じ強者ってこと?」

 聞きなれない単語にリーファらが疑問を浮かべていると、フィリアは咄嗟に情報を補足していく。彼女によれば辰羅は、夜兎とはまったく違う戦闘民族のようだ。

 いまいち状況を把握できず、今は銀時らの声のみで判断する他は無い。

「一体銀さん達に何が起こったんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 一方で別通路へ来た銀時らは、新たなる危機に直面していた。どこからともなくやってきた衝撃波を受けて、思わず怯みを与えられてしまう。幸いにも大きな傷がなかったが。六人がしぶとくも体勢を立て直していると、ふてぶてしい足音がコツコツと鳴り、目の前には一人の男性が姿を現していた。

「フッ。侵入者と言うのは、お前たちだな?」

 野太い声のまま、威圧的な態度で話している。

「お、お前は……?」

「俺の名は唖海(あかい)。マッドネバーに属する一人だ」

「マッドネバー……ここにもいたんですかい」

 彼は自分の名前や身分を、簡潔に銀時らへ打ち明かしていく。その正体は大方の予想通り、マッドネバーの仲間である。

 辰羅こと唖海の風貌は、大柄な体格の中年男性だ。服装は辰羅特有の白装束で、全身の服装を白色に統一している。髪色は青く、耳もキリト達と同様とんがっていた。また手には、赤色と青色をあしらった長槍を所持している。それを強く叩きつけながら、じわじわとこちらへ近づいていく。その目つきは一点を見るように、鋭利に尖っていた。

 一方の銀時ら六人は、体勢を立て直すと真っ先に戦闘準備を進めていく。

「おい、テメェら分かっているか? この場は何としても、潜り抜けるぞ……!」

「当然だ。夜兎だろうが辰羅だろうが、どっからでもかかってこい」

「今度こそ負けないネ……!」

 先ほどまでのバチバチな喧嘩から切り替えて、皆が戦闘態勢を整えていた。銀時、新八は木刀を。神楽は自慢の日傘、真選組の三人は刀を相手に向けていく。表情も真剣さを戻しており、臨戦態勢は完璧と言ってもいいだろう。

 だがしかし、唖海は動じずに堂々とした態度を続けていく。

「どういう経緯で来たのか知らんが、邪魔者は排除するまでだ。これだけは言っておこう。命乞いはするな、時間の無駄だ」

 そう言い残すと彼は、懐から金色のバックルを取り出して、ベルトとして腰に巻いている。さらに手元では、三枚のメダルを銀時らへと見せていた。

「……まさか!」

「そのベルトって!?」

 既視感のある行動に、六人は嫌な予感を悟っていく。先ほど戦った夜兎と同様に、ダークライダーへの変身を有していると邪推していた。その予感は、次期に現実のものとなる。

「そうさ。俺は変身する力を手に入れた。この大海の力で、お前たちをねじ伏せてやる! 変身!!」

 力強く変身と発声した後、彼はメダルをベルトに装填した。

〈サメ! クジラ! オオカミウオ!〉

 するとベルトからメダルの紋章が露わとなり、周囲を回転していく。唖海と一体化すると、激しく水が噴出して、次第に姿が変貌していた。上半身を青、下半身を赤と言った色が別れた海洋系の戦士……仮面ライダーポセイドンに変身している。

 槍を手にしながら近づく彼の姿に、銀時らも一瞬だけ驚きを感じてしまう。

「やっぱり変身しやがったか……」

「新たなるダークライダー……」

 リュウガやダークキバの時と同様、その強さは未知数に等しい。土方や近藤を初めとして、万事屋や真選組は皆、険しい表情で警戒心を強めていく。

 するとポセイドンは、さらに言葉を続けていた。

「俺の名は仮面ライダーポセイドン。能書きはいい。俺達の相手をしてもらおうか!」

 そう言い切ると彼は、四枚のメダルを手元に出現させる。今度は銀色のメダルで、それを二つにちぎって、破片から八体の伏兵を生成していた。

「ウゥ~!」

 その正体は、下級の怪人屑ヤミー。ポセイドンの使役する、言わば戦闘員の一種である。辰羅らしい集団の戦法を、彼はメダルの特性を用いて再現していた。

 さらなる敵の登場には、銀時達にも若干の戸惑いが生まれている。

「こ、こいつらは……」

「俗に言う戦闘員アルよ! 弱っちぃ癖に、四体も出てきやがって!」

「さて……そいつはどうかな。やれ」

「ウゥ~」

 ハッタリの如く躍起に返す神楽にも動じることなく、ポセイドンは自身の策略通り、屑ヤミーを使役して万事屋や真選組に戦いを仕掛けていく。有無を言わさずに押し切り、彼らの進行を阻むことが作戦であった。

 仕向けられた戦いにも、銀時らは怯むことなく向き合っている。

「おい、お前ら! 絶対にくたばるんじゃねぇぞ!!」

「そんなの分かっていますよ!」

「覚悟して行くぞ! あのダークライダーを捻じ伏せろ!!」

 六人は決して相手に背中を見せず、堂々とポセイドンや少数の屑ヤミーと対峙していく。チームワークを意識せずに、各々が自由に戦う、乱戦状態が出来上がっていた。根気よく相手を攻撃しつつ、付け入る隙を彼らは狙っている……。

 

 

 

 

 

 

 一方のキリト達は、壁越しで銀時らの話の内容を聞き取っていた。マッドネバーの新たなる刺客や、万事屋や真選組が戦い始めたところまでは理解している。

「どうやら戦闘が始まったみたいだね……」

「こうしちゃいられませんよ!! アタシ達も銀時さん達に加勢しないと!」

「ナー!」

「そうね! 壁を使って、向こう側の通路に行きましょう!」

 当然このまま動かないわけにもいかず、アスナらは加勢しようと判断していた。沖田が用いた手法のように、壁に手を当てて向こう側の道へ入り込もうとしている。早速そのスイッチを探し始めた――時であった。

「そうはさせないよ。妖精ちゃん達」

「ん!? 誰だ!?」

 突如として聞こえてきたのは、若くて高めな女性の声。皆が声の聞こえた方角へ目を向けると、そこには一人の女性がおり、こちらへゆっくりと近づいてきた。

 その風貌は平均的な背丈で、体格は細身。服装は白装束をまとい、口元はマフラーらしき布を覆っている。青い髪色ととんがった耳から、ALOにおけるウンディーネにも見えなくないが、殺伐とした雰囲気がその疑惑を打ち消していた。

 そう彼女は、現在銀時達と対峙している唖海と同じ辰羅族の一人である。

 キリトやユイ達も、彼女の正体に気付き始めていく。

「女性のウンディーネか?」

「いや、違います! まさかとは思いますが、辰羅族の一人なのでは?」

「えっ、そうなの!? てことは、マッドネバー!?」

 憶測が錯綜して多少なり困惑をしていると、女性は親切にも自己紹介を始めてきた。

「あら、勘が良いじゃん。その通り。アタシは辰羅でマッドネバーの一人宇堵(うと)だよ。アタシがここに来た意味……アンタ達にはもちろん分かるでしょう?」

 独特な口調のまま、自身の肩書や種族を明かしていく。宇堵はマッドネバーと話した後に、含みを持たせた問いをキリト達に投げかけてきた。

 皆がその返しに戸惑っていると、キリトは落ち着いた態度で積極的に声を上げてくる。

「……俺達の排除か?」

「正解―! 正直作業の邪魔だから、出て行ってほしいのよね~。今だったら、特別に見逃してもいいよ。命が惜しくないならね」

 そういい終えると、彼女は嘲笑うような笑顔を見せつけてきた。脅しとも言える言い分に、もちろんフィリアらも素直には従わない。考える暇もなく、宇堵の意見に反発していく。

「ふざけないでちょうだい! 出ていくのは貴方の方よ!」

「これ以上遺跡で好き勝手にはさせないんだから!」

「私達は絶対に逃げないわよ。正々堂々と戦うわ!」

 シノン、リーファ、アスナと次々に強気な姿勢を見せて、相手側をけん制している。彼女達に続き、仲間達も皆しかめっ面な表情で否定していた。

 一斉従うことない態度を見て、宇堵の怒りはあっさりと沸点に達してしまう。

「はぁ!? 折角のチャンスを無駄にするなんて……ひょっとして馬鹿!? アンタ達、マジで倒されたいわけ!?」

「き、急に変わりました!?」

「ナー!?」

「どんだけ短気なのよ、あの人!」

 余裕そうな態度を一変させて、感情の赴くままに怒りを露わにしていく。その突発的な姿には、シリカやリズベットら仲間達にも衝撃を与えていた。

 いずれにしても、油断ならない相手に変わることはない。相手方に警戒しながら密かに戦闘準備を進めていると、宇堵も温めておいた切り札を切り始めている。

「アタシはねぇ……アンタ達みたいな妖精が大っ嫌いなのよ!! 生意気な口言えるのも、今のうちだぞ!」

〈ドライバーオン! ナウ!〉

 かんしゃくを立てながら、彼女は右手の指輪を腰元にかざしていく。すると起動音が鳴り響き、腰回りには人の手形を模したベルトが巻かれていた。

「べ、ベルト!?」

「やっぱりアナタも……?」

「ダークライダー……!?」

 こちらも銀時達と同様、既視感を覚えており瞬く間に困惑している。そう大方の予想通り、彼女もまたダークライダーの一人なのだ。

「お楽しみはこれからよ!」

 そして彼女は左手に新たな指輪をはめて、ベルトを右向きに回している。

〈シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!〉

 意味深で陽気そうなBGMと共に、はめた指輪を掲げていく。

「変身!!」

〈チェンジ! ナウ!!〉

 力強く変身と発声した後に、指輪をベルトにかざしてきた。すると頭上には金色の魔法陣が出現して、彼女の全身に重なり合わさる。姿は次第に変化していき、金色と黒色をあしらった体色、黒い短めのマントと足を覆うローブ、肩には魔石のような装飾が付けられている。変身したその姿は、魔法使いと差し支えてもおかしくはない。そう彼女は、金色の魔法使いである仮面ライダーソーサラーへと変貌を遂げたのだ。

「ま、魔法使い……!?」

「随分とユニークなダークライダーね……!」

 そのモチーフは仲間達も気が付いており、思わず反応に困ってしまう。それでも相手方が敵であることに変わりはない。見た目に惑わされず、さらなる警戒心を払う。

 すると宇堵ことソーサラーは、早速声を上げてきた。

「改めて言うわ。アタシの名は仮面ライダーソーサラー。アタシの指輪の魔法で、アンタ達を絶望させてあげる!!」

 そう名指しで断言した後に、彼女も伏兵として戦闘員を呼び出してくる。魔石をばらまき現れたのは、灰色の体色をした下級ファントムのグールであった。

「グ~ル!」

「さぁ、やりなさい!」

 合計四体ほど現れたグールを使役しつつ、キリト達に戦闘を仕掛けていく。全ては相手を次元遺跡から追い払う為。抜かりの無い戦力で、ねじ伏せようとしていた。

「伏兵まで召喚するなんて……」

「みんな! この場は焦らず、一体ずつ倒そう! フィリアはユイを頼めるか!?」

「わ、分かった。任せて!」

 一方のキリトサイドは、彼の支持の元で冷静に場を進めている。戦闘に乗り気ではないフィリアにユイの保護を任して、残りの六人でソーサラーとグールを相手にする算段だった。

「さぁ、行くぞ!」

「「OK!」」

「「もちろん!」」

「はい!」

 彼の掛け声と共に、仲間達も自身良く返している。長剣、細剣、ダガー、メイス、片手剣、弓矢と各々が得意な武器でこの戦いに応戦していく。こちらも激しい戦いが幕を開けた。

「皆さん……頑張ってください」

「きっと大丈夫だよ。キリトや銀さん達なら、きっとこの戦いも乗り越えられるから」

 つい心配を浮かべているユイに、フィリアはそっと優しく励ましている。彼女もキリトや銀時らの強さを信じ始めており、心の底から彼らのことを応援していた。戦いを見守りつつ、ユイの保護にも取り組んでいる。

 遺跡内で始まった新たなるダークライダーとの戦い。戦闘員も使役している彼らに、果たして銀時やキリト達に勝算はあるのか?




 夜兎の次は辰羅! また新たな傭兵部族の登場で、銀時達はさらなる苦戦を強いられてしまいます。ちなみにですが、辰羅は集団戦に長けている特性があるので、今回は戦闘員を召喚してそれを再現致しました。気付いた方はいるでしょうか?

 ダークライダー及びオリジナルの敵は、また設定集を出すときに詳しく描くので、しばしお待ちください。

 ちなみに本篇では描けなかったのですが、次元遺跡を介してキリト達が元いた世界へ帰る方法は否定されています。何よりもフィリアのようにどこへ行くのか分からないので、有効的とも言えないからです。やはりサイコギルドを見つけ出すしか、方法は無いと括っています。

 さてちょうどいいタイミングで持ち越しとなりましたが、次回は遺跡での乱闘シーンをお送りいたします。いよいよ遺跡の奥部にたどり着くかもしれません……是非ともお楽しみにしていてください!







おまけ

辰馬「アハハハハ! 今日11月15日はワシの誕生日ぜよ! 次元遺跡篇でも活躍しちょうから、みんな応援を頼むぜよ!」

陸奥「おい、坂本。おまんの出番は今回ないぜよ。ついでにその次の長編もな」

辰馬「なんじゃと!? 折角坂本龍馬関係が出るのにか!? これじゃワシの、ゴーストアイコンが売れないぜよ! どうするんじゃ、陸奥!!」

陸奥「なんちゅうもん作っとるんじゃ。つーかそのガラクタ、どこに需要があるんじゃ?」

辰馬「プレミアム〇ンダイならワンチャン……」

陸奥「ねぇぜよ」

 ――ひとまず、坂本辰馬さん。お誕生日おめでとうございます!







次回予告!

銀時・土方「「うるせぇ! 邪魔するんじゃねぇ!」」

ポセイドン「はぁ?」

シリカ「そんな……効かないなんて!」

ソーサラー「アタシには全てお見通しよ」

フィリア「この扉を抜けないと、向こう側には行けないみたい」

近藤「よし! なら俺が……ギャャャャ!!」

神楽「プププ。アイツ痛いの我慢しているアルよ」

リーファ「案外可愛いところもあるんだね~」

次元遺跡篇五 邪悪な使者

今、その力は全開する!!


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第六十九訓 邪悪な使者

 リュウガ、ダークキバ、ポセイドン、ソーサラー。銀さんやキリト達が今相対しているダークライダー達。もしかすると、本編以上の強敵かもしれません。
 果たして今後どうなることやら……では、どうぞ。



 次元遺跡へ侵入した銀時やキリト達を待ち構えていたのは、マッドネバーの新たな戦士。彼らもまたダークライダーへと変身を遂げて、瞬く間に勝負を仕掛けていた。

 現在は二つの通路にて、銀時らとキリトら六人ずつで戦闘を繰り広げている。

 

 

 

 

 

「行くぞ、新八君!」

「言われなくても分かっていますよ!」

「ウゥー!」

 互いに声掛けをして、多数の屑ヤミーを相手にする近藤と新八。刀や木刀を使いこなして、瞬時に相手へダメージを与えていく。

 現在彼らの戦う屑ヤミーは、寂れた包帯を模した不気味な怪人である。攻撃力は低いが、耐久力には優れており、数の差もあって撃破に手間のかかる相手だ。それでも彼らは諦めず、勇猛果敢に挑んでいく。

「ホワッチャー! ……くっ」

 常時日傘や格闘戦で戦う神楽にも、ちょっとした苦痛に悩まされていた。数分前のダークキバ戦で体力を消耗しており、肝心な状況で力を発揮できていない。

 悲痛な表情で傷んだお腹を抑え込むと、そこへ沖田が駆け寄り茶々を入れてくる。

「大丈夫か、チャイナ? またゲロでも出して、読者を引かせるんですかい?」

「うるせぇ。オメェに言われなくても大丈夫ネ! ほら、そっちの奴は任せたアルよ!」

「へいへい」

 減らず口に怒りを覚えた彼女は、適当な返答で返す。体勢を整え直すと、改めて攻撃を再開していた。つられるように沖田も、刀を振りかざして屑ヤミーを切り倒していく。戦いが激化する一方、銀時と土方は共にポセイドンへ挑んでいた。

「はぁぁあ!」

「たぁぁ!!」

「フッ、ハァ!」

 両者は気合を込めて武器を振るうが、ポセイドンはすぐに長槍で防御に徹している。一進一退の攻防が続く交戦。二対一にも関わらず、やはり苦戦を強いられてしまう。

 すると二人は、一旦場を離れて体勢を整え直す。ポセイドンも同じく身を引いて、戦況を見定めていた。

「中々の手応えだ。だが俺に勝つことは出来ないだろうな」

 有利だと判断して、自身良く言葉で挑発している。勝利の見込みもあり、態度からもその自信が滲み出ていた。

 そんな言動に惑わされず、銀時らは冷静に場を見極めていく。

「……なるほどな。こいつも厄介な相手だぜ」

「一筋縄じゃ行かねぇだろう。こうなったらしゃくだが、お前と手を組んで奴を捻じ伏せるぞ!」

「あたぼーよ! やってやろうじゃねぇか!」

 むやみな攻撃は考えず、互いに協力を心がけることで気持ちを一致させている。

 珍しくも共闘する場面が見られると思いきや、

「というわけだ土方。お前が前線に立って囮になれ! その隙に俺が仕留める。それでいいよな?」

「いや、ちょっと待て!! なんで俺が囮役なんだよ!?」

「俺が嫌だからに決まってんだろ! 四の五の言ってないで、さっさとやれや!」

「ふざけんな!! そういうテメェが囮役をやれや!!」

「何を指示してんだ! 俺の作戦だろうが!」

「関係ねぇだろうが!!」

 作戦の囮役を巡って揉め事を始めてしまう。互いの意見が反発して、意固地にも譲り合おうともしない。戦闘への緊張感は薄れて、場には微妙な雰囲気が流れ込んでいた。

 もちろんポセイドンも、少なからず影響を受けている。

「はぁ? 何を喧嘩している? さっさと俺にかかってこい――!」

 そっと空気を読んで、戦闘へ戻るように促してきた……その時である。

「うるせぇ!」

「邪魔するんじゃねぇ!」

「ブフォ!?」

 なんとも理不尽な拳が、彼の仮面へと当たってしまった。喧嘩へ夢中になるあまり、二人は戦闘のことなどすっかり忘れていた。

 未だに意地を張る彼らに対して、ポセイドンは鮮烈な怒りの感情が湧き上がる。

「お前ら……! 戦いを何だと思っている!!」

 怒号を上げた途端に彼は、次々と槍をぶん回して、青いエネルギー波を解き放ってきた。

「何!? ぐはぁ!?」

「またか!?」

 喧嘩する二人の手前に衝撃波は当たり、両者は壁際に吹き飛ばされてしまう。土方は右側、銀時は左側の壁に叩きつけられていた。中でも後者は、遺跡の仕掛けが隠れている壁である。いずれにしろこれで、喧嘩への対抗心が薄れたのは事実だろう。

「銀ちゃん! 何やってるアルか!」

「土方さんもふざけないで戦ってくだせぇよ」

「うっせぇ! ほぼアイツのせいだからな! 勘違いするなよ!!」

 二人のグダグダな光景には、仲間達からも呆れた声が上がる。神楽、沖田共に冷めたような目線を向けていた。土方は未だに銀時へ責任を押し付けているが……。

 一方の銀時は、首筋を抱えて自身の痛みを確認している。

「痛ぇ……って、この声は?」

 そんな中で彼は耳を澄まして、壁の向こう側にいるキリト達の様子を聞いていた。こちらも苦戦しているようだが……?

 

 

 

 

 

 

 彼女達が相手取っているのは、魔法使いに似たダークライダーのソーサラーと、彼女に呼び出された魔石の戦闘員グール。中でもグールは四体しかいないが、屑ヤミーと同じく耐久力があり、しぶとい相手に変わりはない。

 槍を用いて女子達へと襲い掛かるが、彼女達は恐れることなく立ち向かっている。

「はぁぁ!」

「セイ!」

「フッ、ハァ!」

「いっけぇ!」

 シリカ、リーファ、シノン、リズベットと各々が気合を込めて、戦闘を優位に進めていた。得意な武器を生かして、接近戦や遠距離戦に応対している。

「グ~ル!」

 対してグールは鳴き声を上げながら、愚直に戦闘を続けていく。槍を叩き落とされようが、周到に女子達を足止めしていた。

 グールらが一旦身を引いてきた後、女子ら四人も引き下がり呼吸を整えていく。

「こいつら、中々しぶといわね……」

「着実にダメージは与えているはずなのに……」

 やや苦痛な一言を呟くシノンやリーファに、

「それでも突き進みましょう! アタシ達だって強くなったんですから!」

「ナー!」

「そうね、みんな! 怯まず行くわよ!!」

シリカ、ピナ、リズベットは真逆にも情熱的な掛け声を発している。これまでに培った百華の修行を思いつつ、彼女たちは自信を高めていた。リーファやシノンも二人の考えに乗っかっている。

「分かったわ!」

「もちろんよ!」

 真剣そうな表情を浮かべて、再びグールへ立ち向かう。決着が付くのも遠くはないだろう。

 一方キリトとアスナの二人は、体力の消耗などお構いなしに、ソーサラーと交戦していた。

「ハァ! タァ!」

「ソリャ!」

 接近戦を中心に、長剣や細剣で相手のベルトを狙い続けている。険しい表情で連続攻撃を試みるも、中途半端に集中力が途切れて、上手い具合には決まらない。

 軽い身のこなしでかわすソーサラーにも、二人の現状はお見通しであった。

「フフフ。中々の腕筋ね。でもアンタ達の体力は大丈夫かしら?」

「くっ……気付かれているか」

「さっきの戦いの消耗が響いているのかも……」

 鈍った動きを目にして、すかさず指摘を加えてくる。核心を突く一言に、二人は動きを止めてしまった。その隙にソーサラーは、指輪の魔法を発動させる。

〈コネクト! ナウ!!〉

 ベルトに手をかざして起動音を鳴らすと、目の前に魔法陣が出現。その中から主武装でもある長柄の斧、ディースハルバードを取り出していた。

「今度はアタシの番よ! ハァァ!!」

 その斧を使用して、彼女は早速金色の衝撃波を繰り出していく。

「伏せろ!!」

「フッ!?」

 向けられた攻撃を避けようと、キリト、アスナの両者は横側へと退ける。行き場を失った衝撃波は、床へと落下して消滅した。

 と二人がソーサラーと対峙していた同じ頃。

「「「「ハァァ!!」」」」

「グラァ~!」

 グールを相手にしていた女子達にも決着が付いていた。シリカ、リズベット、リーファは接近戦から、シノンは遠距離から武器を使いとどめを加えている。時間はかかったが、どうにか勝利を勝ち取っていた。

 戦いを終えた四人は、真っ先にキリトやアスナの元へと駆けつけてくる。

「大丈夫ですか、キリトさん!? アスナさん!?」

「あぁ、なんとか」

「でもちょっときついかも……」

 ひとまず様子を確認するものの、二人の調子はあまりよろしくない。心なしか顔色も悪いように見えている。

「大丈夫! ここは私達も加わるから!」

「あんな魔女なんかに、絶対負けないんだから!」

 だからこそ仲間達は、威勢よく元気づけていた。リズベットやリーファの言う通り、仲間の手を借りればなんてことない。自信を高めた彼女達に、恐れるものなど無いと括っている。

 しかし仲間達が加勢しようとも、ソーサラーの気も変わらない。

「フフ。何人かかってこようが、結果は同じよ」

「それはどうかしらね?」

「そんなことはないです! ピナ! ソーサラーの動きを止めてください! バブルブレス!!」

「ナー!!」

 反抗するようにシリカは、お見舞いにピナの得意技を指示していく。相手の動きを止める泡攻撃で、戦況の起点を作ろうとしている。

 するとソーサラーは、

「フッ、かかってわね」

〈コネクト! ナウ!〉

再び指輪の魔法を発動していた。目の前に魔法陣が現れると、泡がその中を通り攻撃を無効化してしまう。さらには……リズベットの目の前にも同じ魔法陣が出現していた。

「うわぁ!? って、なんで!?」

「リ、リズさん!?」

 彼女の目の前には、バブルブレスが魔法陣を通して降りかかり、動きを止められてしまう。攻撃すら回避する魔法に、シリカらにも何が起きたのか分かっていない。

「フフ。無様な姿ね」

 ソーサラーは上から目線で呟き、さらなる魔法を発動していた。

〈ジャイアント! ナウ!〉

 起動音と共に、再びリズベットの前へ魔法陣が出現。動けない彼女の目の前に現れたのは、ソーサラーの巨大化した手だった。

「えっ、嘘!? 何これ!?」

 目の前を覆いつくすほどの大きさに、彼女が圧倒されていると……

「ハァ!」

「キャッァァ!!」

「リ、リズ!?」

「リズさん!?」

 突然繰り出されたデコピンで遠くまで吹き飛ばされてしまった。叫び声を上げながらリズベットは、息を切らせて倒れ込む。思いもしない攻撃魔法を受けて、ダメージを負っている。

「大丈夫!?」

 心配した仲間達も彼女へ駆け寄ろうとした時であった。

「アナタ達も受けるのよ! ハァァ!!」

「ウワァ!?」

「キャッ!?」

 隙を見たソーサラーは魔法を解除させず、巨大化した腕で周りを一掃してしまう。狭い通路の中で攻撃を避けれず、ほぼ全員が彼女の腕に蹂躙されている。各々が床や壁に叩きつけられると、ソーサラーはようやく魔法を解除していた。

 指輪の魔法の未知なる攻撃に、手が出せずじまいにキリトら六人。遠くから見守っていたフィリアやユイも、この現状に憤りを感じている。

「あぁ……みんなが」

「あの魔法をどうにか防がないと……!」

 共に深刻そうな表情を浮かべて、もどかしい気持ちを抑え込んでいた。フィリアに至っては、見ていられずに自ら戦おうとも考え始めている。

 こちらの戦況もあまり芳しくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 引き続き立ちはだかるダークライダー。銀時らやキリトら関係なく、その強さに苦戦を強いられてしまう。

 各々が苦い表情で、対策を練っていると、銀時は壁越しに仲間の気配を察していた。その正体はキリトとアスナである。

「おい、待て! そこにいるのはキリトか?」

「って、そっちは銀さんか?」

「あぁ、そうだよ。ちょいとダークライダーにてこずっていてよ……そっちはどうだ?」

「私達も同じよ。ソーサラーの魔法に翻弄されているわ……」

「苦戦はお互い様だな。どっちにしろ打開策を考えないと、この場は乗り切れないか……」

 相手側の声を頼りに、三人は壁越しにて本音を漏らしていた。勝利の糸口は未だに手探りのままで、自信も失いかけているように聞こえる。今後の対策を考えつつ、リュウガやダークキバ戦のように、撤退の道も視野に入れていた。

 もう一歩と考えを煮詰まらせていた――その時である。キリトはある作戦を思いついていた。

「――そうだ。なぁ、銀さん! そっちのダークライダーを、壁際におびき寄せることは出来るか?」

「急にどうした? 何か良い作戦でも思いついたのか?」

「その通りだよ! だから頼む、俺達はスイッチを探して待っているから!」

 自信良く手短に銀時へ伝えると、彼は立ち上がり行動に移している。その姿に困惑するアスナをよそ目に、無我夢中で壁をまばらに触り始めた。

「ちょっと、キリト君? まさか考えていることって……」

 不思議そうに問いかけると、彼は落ち着いた姿勢で返答する。

「もちろん脱出だよ。スイッチを探して、銀さん達がいる通路に逃げ込むんだ。このまま戦うよりは、撤退した方がまだ勝ち目があるからな」

「なるほどね。でも銀さん達が戦っているダークライダーはどうするの?」

「それも大丈夫だよ。銀さんだったら、俺の真意も分かってくれるから。きっと上手くいくよ」

「真意? ひよっとして……?」

 やはり彼が思いついたのは、壁の仕掛けを使った撤退案だ。敵前逃亡を図るが、アスナは次なる戦闘が始まることを危惧している。それでもキリトには、確実に回避する秘策があるそうだが?

 土壇場にアスナが察していると、壁の向こう側にいる銀時も直感から理解を示していた。

「そういうことかよ……! だったら話は早ぇな!」

 ニヤリと面白がる笑みを浮かべた後、彼もキリトと同じく立ち上がる。木刀を握り直して、作戦通りに動き始めていた。

 一方の新八や神楽らは、真選組と協力して残った屑ヤミーと交戦している。

「「ハァァ!」」

「ウゥー!!」

 新八の振るった確かな斬撃と、神楽の怪力が合わさった拳が屑ヤミーへ致命傷を負わせていた。攻撃に耐えられなくなった彼らは、唸り声を上げてノロノロと倒れ込む。爆発と共に残ったのは、生成時に使用された欠けたメダルのみだ。

「やったな、お前達!」

「これで残るは野郎だけだな」

「覚悟するでさぁ。海鮮丼!!」

 真選組の面々も撃破した二人を激励した後、真っ先にポセイドンへ敵意を向ける。沖田は洒落を交えて威嚇をしていたが。

「海鮮丼だ? 俺はポセイドンだ! その生意気な口も、今すぐに葬り去ってやろう……」

 べたな挑発には乗らず、彼の堂々とした構えは続く。長槍を握りしめて、新八らへ襲い掛かろうとした時だった。

「ハァ!」

「グハァ!?」

「何!?」

「銀ちゃん!?」

 横入りの如く割り込んだ銀時に、その攻撃姿勢を崩されてしまう。彼はとび膝蹴りで衝突して、木刀を構えたまま間髪入れずに次々と攻撃を繰り出してきた。

 咄嗟の行動には、仲間達や真選組も戸惑ってしまう。

「万事屋!? 急にどうした!?」

「一体何をする気だよ!?」

「決まってんだろ! こいつを壁側へずらせ! テメェらも手伝えよ! おらよっと!」

 近藤や土方の問いにも、銀時は簡略的にしか答えない。力づくでポセイドンを押し切る姿に、仲間達も薄々彼なりの策があると悟っていた。

「旦那なりの作戦ってやつか」

「と、とりあえず僕らも手伝いましょう!」

「そうアル!」

 沖田、新八、神楽と次々に仲間達も銀時の流れに乗る。こうして六人はポセイドンの一手を読み、がむしゃらに壁際へ追いつめていた。

 一方のキリトも、真の狙いは明かさずに仲間達へ呼びかけを図っている。

「みんな! 壁側に集まってくれ! ユイ、フィリアも!」

「って、キリトさん!?」

「急にどうしたのよ……?」

 予想の斜め上をいく指示に、仲間達内でも戸惑いが広がる。シリカやようやく立ち上がれたリズベットも、これには戸惑いしか浮かばない。

 もちろんフィリアとユイも同じだ。

「えっ、私達も!?」

「何かの作戦でしょうか……行ってみましょう!」

 半信半疑だが、二人はキリトの指示へ従うことにする。アスナらのいる場所まで駆け寄った途端に、

「とりあえず私達も!」

「……そうね」

リーファら四人も空気を読んで次々に戻ってきていた。

「ふーん。とうとう観念したのかな?」

 その狙いを読めないソーサラーは、てっきり最後の悪あがきだと解釈をしている。好機と捉えて、じわじわとどめを決めようと目論んでいた。

 彼の考えを読めない仲間達は、少なからず不安を露わにしている。一方のキリトは前を向きつつ、後ろでは密かに壁を動かすスイッチを探していた。

「確かこの辺のはずだが……」

「って、キリト? もしかして壁のスイッチを探しているの?」

「あぁ、そうだよ。でも静かにな。バレたら困るか――おっ、あった!」

 シノンからの疑問に小声で返したキリトだが、スイッチを見つけた途端に嬉しい声を上げている。これにて脱出への道筋は一応確保された。

「何をしているのか知らないけど、もうここで終わりよ! 妖精ちゃん達……」

 それにも関わらず、ソーサラーは未だに彼らの行動に気付かない。勝利を確信して、細かいところは見落としていた。

 すぐにでもとどめをさそうとした――その時である。

〈ガタァ!〉

「ん? 今の音は……」

 壁の向こう側から、何かが衝突する音が聞こえてきた。これにキリトは、銀時からの合図だと確信している。

 脱出へのタイミングを見計らう中、ソーサラーは即座に必殺技を構えていく。

〈チョーイイネ! バニッシュストライク! サイコー!!〉

 指輪をベルトへかざすと、彼女の右手からエネルギーをまとった魔法陣が生成。強力な必殺技で、戦いに決着を付けようとしたが――その目論見はすぐに崩れ去ってしまった。

「今だぁ! 来い、キリト!」

「銀さん! よし……みんな! 逃げるぞ!!」

 不意にも聞こえてきた銀時からの合図。これを頼りにキリトは、仲間達へと呼びかけて、発見したスイッチを力強く押していた。

〈カチィ!〉

 しっかりと起動音が鳴ると、壁が急回転して別通路を繋ぐ隙間が出来ている。

「脱出口!?」

「やっぱりこれが狙いだったの!?」

「さぁ、こっちよ!! 早く!」

 僅かに出来た逃げ道を見て、ようやく彼の作戦に気付くフィリアやリズベットら仲間達。驚嘆しつつも時間が限られている為、急いで隙間へと逃げ込んでいく。

 彼らが逃げ出したと同時に、別通路から姿を見せたのは、

「クワァ!? あいつら、何の真似だ……」

壁際に追いつめられていたポセイドンである。移動する壁にまんまと利用されて、状況を理解できないまま別通路へ通されていた。

 困惑する彼に待ち構えていたのは……

「ハァァ!」

ソーサラーの必殺技である。

「ん、何だ――って、うわぁぁ!!」

「あっ」

 気が付いた時には遅く、彼はかわすことなく必殺技を受けてしまった。場には断末魔の如くポセイドンの叫び声が響き渡り、ソーサラーの唖然とした態度が残っている。壁の仕掛けを知らない二人により、作戦は大成功に収められていた。

 一方で別通路に逃げ込んだキリト達は、ひとまず危機を回避できたことに安心している。

「なんとか逃げられたみたいね……」

「良かったです……」

「ナ……」

 シノンやシリカを始め、女子達も安堵の表情を浮かべていた。一方の万事屋や真選組の面々は、急にこちらへ来たキリト達へ驚きの声を上げている。

「アッスー! みんな!」

「こっちの道へ逃げてきたのか?」

「壁の仕掛けを利用したのか?」

 神楽、近藤、土方と質問を投げかけたが、彼らにとってはそれどころではない。

「説明は後! 休んでいる暇は無いわ!」

「とりあえずこの場から離れよう!」

「だな。さっさとずらかるぞ!! オメェら!」

「わ、分かりました!」

「お、おう!」

 質問を後回しにして、仲間達へ撤退を呼び掛けていく。ダークライダー達が困惑している隙に逃げ込むことが、キリトの考えた撤退策だ。銀時も彼の真意を読み取り、効率よく作戦に貢献している。

 おかげでスムーズに成功したことは言うまでもない。一行は走り出して、さらなる奥部へ突き進んでいく。

 一方で作戦にまんまとはめられたソーサラーとポセイドンは、予想外の事態に混乱状態へと陥っている。

「ちょっと、アンタ。大丈夫かい?」

「大丈夫なわけがあるか……何故攻撃を強行した!!」

「だって仕方ないじゃん! まさか扉が開くなんて、思ってなかったから!! アンタが来るなんて、アタシの予想外だったんだよー!」

 ほぼとばっちりな攻撃を受けて、激情に駆られるポセイドン。彼の強烈な怒りを抑えつつ、ソーサラーは必死に弁解していた。それでも上手く話がまとまることはなく、言い合いは何分間も続く……。

「そんなのただの言い訳だ! だからお前は甘いんだよ!!」

「……なんですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、作戦成功を果たした万事屋一行。戦闘に悔いは残りつつも、最悪の事態を回避できたことには気持ちを楽にしている。心なしか皆の表情は余裕を取り戻していた。

「なんとか上手くいってよかったな!」

「そうね。あの二人も、すぐには戻ってこないと思うし」

 銀時やアスナも、作戦成功には安堵の表情を浮かべている。だが一部の仲間達には、不安な気持ちを持つ者もいた

「でも、この先またあのダークライダー達と出会ったら……」

「アタシ達だけで勝てるのでしょうか……」

 リーファやシリカは、浮かない表情で本音を口にする。今後また対峙するだろうダークライダーに、勝てる見込みを見失っていた。どれも規格外の能力を持ち、太刀打ちできるか不安視してしまう。

「心配するな。そん時は全員でぶつけあえば、どうにかなるだろ」

「そうだな! 相手の手の内は明かしているんだ! 後はそれを防ぐために、立ち回ればいいだけさ! ハハ!」

 そんな彼女達へ土方、近藤と真選組の面々が、安心させるフォローを加えていく。難しく考えることなく、柔軟に対応するべきだと教えていた。

 これにそっと表情を柔らかくするリーファらだが、フィリアにはまだ別の不安を抱えている。

(でもまた別のダークライダーが現れたら……)

 研究所を覗いていた分、さらなるダークライダーの存在を危惧していた。その予感は違った形で、後に現実となるのだが……。

 安心と不安が入り交じりつつ、万事屋一行の遺跡探索はいよいよ佳境を迎えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、しばらく走り続けて数分が経った頃。

「あっ、アレだよ! 遺跡の奥部!」

「って、とうとう着いたんですかい?」

 フィリアらの目の前には、いよいよ奥部へと繋がる扉が見え始めていた。一行は扉の前に立ち止まると、その外観をじろじろと眺め始めている。

「これが奥部に繋がる扉なの?」

「そうだね。でも簡単には開かないはずだよ」

「えっ、そうなの?」

「うん。あの手形に手をかざしたんだけど、電流が流れるだけで何も起きなくて……」

 シノンやリーファの問いに、フィリアは事細かに自分の経験を話していた。彼女によると、この扉は簡単には開かない仕組みだという。一筋縄ではいかず、またしても困難に直面している。

 銀時ら万事屋の三人も、苦い表情を浮かべていた。

「また面倒な仕掛けがあんのかよ……」

「あぁーまどろっこしぃネ! こうなったら、力づくでこじ開けるネ! ゴリライズアルよ!!」

「って、ダメだって神楽ちゃん!! 何が起きるのか分からないから!!」

 神楽に至ってはじっとしていられず、仕舞いには強行突入を試みている。近くにいた新八がすかさず彼女の横暴を止めていた。

 一方のキリトやアスナらは、冷静に扉の仕掛けを予測している。

「電流が流れる扉……もしかしたら、指紋認証と同じシステムかもな」

「遺跡自体が人を見極めている可能性もあるわね。あくまで予想だけど……」

 どれも推測論でしかないが、確証がない分は断言も難しい。場にいた仲間達も考察に憤っているが、ここで行動派のリズベットが動き出していた。

「ってことは、こんだけ人がいれば一つくらいは開くんじゃないの?」

「えっ? リズさんが行くんですか!?」

「おいおい、大丈夫か? 電流が流れるかもしれねぇのによ」

「心配無用よ! 何事も挑戦第一なんだから!」

「その自信はどっから出てくるんだよ……」

 シリカ、銀時、土方と心配されるものの、彼女の意思は変わらない。図太いチャレンジ精神で、遺跡の認証に挑む様子である。

「まぁまぁ、見てなさいって! アタシの直感だと、すんなり扉が開いて――」

 そう軽口を叩きつつ、手形に手をかざした時だった。

〈ビリィ!〉

「痛!? えっ、ダメなの!?」

 彼女の思惑とは裏腹に、強い電流が一瞬だけ体に流れ込む。フィリアの時と同じく、侵入は失敗に終わってしまった。

「やっぱり失敗か……」

「こりゃどう開くのか分からないアルナ」

 経験者であるフィリアも、残念がった表情を見せている。

「あ~! なんかすっごく悔しいんだけど!!」

 この結果に納得がいかず、リズベットは悔しさを前面に滲ませていた。今の気持ちを存分に吐き出した時、次なる挑戦者が名乗りを上げてくる。

「ハハハ! そう気にするな! こういう時は、この俺に任せておけ!」

「今度は近藤さんですか?」

 威勢のいい声で前に出てきたのは、真選組局長の近藤勲。彼も自信に満ち溢れた態度で、遺跡の認証に挑もうとしていた。

 ユイら仲間達が不安そうに見守る一方、彼はジェスチャーを使って自身の想いを露わにしている。

「誰で開くのか分からないなら、次々とチャレンジするべきだ! きっと俺が開けた暁には、奥部にお妙さんがウエディング姿で待っているだろうな!」

「いや、そんなわけないでしょ! どんだけお気楽に考えているのよ!」

 ネタか本心かで言っているか分からないが、少なくとも扉を開ける自信は高い。願望を混ぜ込んだ意気込みに、リズベットもつられてツッコミを交わす。

 仲間内でも不安が募るばかりである。

「何を言っているんだ! ほらこのように、あっという間に扉が開いて……」

 と言い続けながら、手形に手をかざした時だった。

〈ビリビリビリビリ!!〉

「ギャャャァァァ!!」

 なんと彼の体には、先ほどよりも何倍も強い電流が、手形を通して流れてきている。当然この痛みに耐えられないわけがなく、危機に迫った表情で大きな叫び声を上げてしまった。

「こ、近藤さん!?」

「ちょっと、大丈夫なの!?」

 もちろんこの光景に、仲間達にも衝撃が走っている。近藤への心配もそうだが、本気を出してきた手形の仕掛けにも驚きを受けていた。

 そして数秒も経たないうちに、近藤はその場へ倒れ込む。

「な、なんで俺だけ高圧電流……?」

 痺れた体のまま呟くと、銀時はためらいもなく指摘を加えてくる。

「やましい考えが原因じゃないのか?」

「いや、本当に関係しているのか……?」

 直球的な返しであった。思わずキリトも、即座に指摘を返す。

 一方で近藤の近くにいたリズベットも、この顛末に彼のことを不憫に思っていた。

「なんか、ごめん。近藤さん……」

「いや、謝らないでくれ!! 余計に心が傷つくから!!」

 苦い表情で謝りを吐き、善意から同情を寄せている。彼にとっては、さらなる追い打ちでしか無いが。

 結局近藤でも開かなかった扉。高圧電流の仕掛けには、名を上げづらい状況と化している。

 そんな中でも、周りの状況に流されない男がいた。

「ったく、仕方ねぇですね。ここは俺に任してくだせぇよ」

「って、沖田さんがやるの?」

 何食わぬ顔で前に出てきた沖田総悟である。彼もチャレンジ精神から、失敗も覚悟で認証に挑む様子だ。

「何ぃ、心配ねぇですよ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言いやすから、この次にはきっと開くでしょうねぇ」

「……例え方が雑だけど、大丈夫なの?」

 ことわざで心境を例えるものの、あまり仲間達には浸透していない。不安を覚えるメンバーがいる中、この二人だけは密かに失敗を祈っている。

 そう、沖田に恨みを持つ神楽とリーファだ。

「きっとさっきよりも強い電流が流れてくるアルよ」

「あの沖田さんだもん……絶対そうに違いないわね!」

「おい、そこの二人。おちょくるのもいい加減にしろよ」

 二人の会話はあえて沖田に届かせており、それを聞いた本人は文句を口にする。

 まばらな反応には気にもくれず、彼はいよいよ手形に手をかざしてきた。

「じゃ、行きやすよ」

 仲間達が見守る中でいよいよ手をかざすのだが……その結果は一行の予想に反するものである。

「アレ、総悟? 大丈夫なのか?」

「あぁ、うん。特に何も起こりやせんでしたよ」

「えっ? 電流とかも流れなかったのか?」

「そうですねぇ。まぁ」

 歯切れの悪い返答だが、沖田曰く何も起こっていない。土方やキリトが聞いても、彼は表情を変えずに接している。しかし違和感のある態度から、一行には不信感が広がっていた。

「扉も開かずに電流も流れないなんて……」

「本当に痺れてないの、沖田さん?」

「特には……」

 シノンやアスナが聞き直しても、彼は頑なに否定を貫き通す。多くは話さないその珍しい姿勢に、神楽やリーファは一層疑惑を強めている。

 すると彼女ら二人は、面白がるように挑発を始めてきた。

「もしかしてお前、痛いの我慢しているんじゃないアルか?」

「あっ、なるほどね! だからさっきから、受け答えがしどろもどろなんだ!」

「アイツもまだまだ意地っ張りアルナ!」

「案外可愛いところもあるんだね~!」

「「フフフ!」」

 今までの仕返しと言わんばかりに、リーファらは仲良く沖田の煽りを楽しんでいる。共に目をニヤニヤさせて、相手にわざと聞こえる音量でからかいを続けていく。

 これを聞いた当の本人は、

「ムカつく女共だな……後で覚えておけよ」

文句を呟いただけで何も反論はしなかった。二人の予見した我慢説は、あながち間違いではない。故に沖田も反撃できず、聞き流しているだけである。不満そうな表情を見て、神楽ら二人は一層面白がっていた。

 いずれにしろ、三人の挑戦は無駄に終わり、銀時らの状況は一向に進展していない。

「三人連続でもダメだったか……」

「これじゃマッドネバーにも追い付かれちゃいますよ!」

「せめてこの認証の謎さえ解ければ……」

 土方、シリカ、近藤と各々が嘆きを呟く。停滞する現状を変えたい気持ちは皆同じだが、手形の謎を解かない限りは前に進めない。残された猶予も少なく、次第に仲間達の間には焦りが生じていた。

「やっぱりどんなことをしても、開かない仕組みなのかな?」

「そんなことは無いですよ! 何かきっと方法があるはずです!」

 弱音を吐くフィリアに対して、ユイは威勢よく否定している。後者は特に頭を使い、謎を解こうと必死に模索を続けていた。

 そんな彼女が、また新たに仮説を立て始めた時である。

「ん!?」

 遺跡の扉から彼女は、何か強烈な波動を感じ取っていた。それは熱気のあるとても温かい感触である。

「どうしたの、ユイちゃん?」

「えっと、直感を感じました! あの中にある何かが、問いかけているみたいで……ちょっとやってみます!」

「って、ユイちゃん!?」

「おい、まさかお前やる気か!?」

 それを直感だと察したユイは、アスナらの静止を振り切り、一人扉へと近づく。真剣そうな表情から、静かに大きな覚悟を決めていた。

「ユイ!? 本当にやって大丈夫なのか?」

「きっと平気です! 今の私の自信なら!」

 キリトらや仲間達が不安を向ける中でも、彼女の意思は一切揺るがない。ためらいはせず、そっと手を手形に合わせている。

 その後のユイの様子は……特に何も異常はなかった。

「えっとこれは……」

「どうなったんだ?」

 変化が起きないことにまたも戸惑いを覚える一同。しばらく様子を伺っていた――その時である。

〈キーン!〉

「ん? うわぁ!?」

 頭に残るような起動音が響き渡り、瞬く間に扉がゆっくりと動き始めていた。ユイの直感通りに、扉の開錠に成功している。

 これには仲間達にも驚きが広がっていた。

「と、扉が……」

「開いているだと!?」

 シノン、近藤と次々に仲間達は言葉を詰まらせていく。開錠した喜びよりも、なぜ開いたのかという疑問が多く残っていた。

 その張本人でもあるユイも、なぜ成功したのかさっぱり分かっていない。

「ユイのおかげで開いたのか……」

「でもなんで、ユイだけアルか?」

「私にも分からないです。でも直感が私を動かしてくれたんですよ!」

 直感を強調しているが、やはり具体的な理由は分からない。増々遺跡の謎が深まっただけであった。

「何かまだ謎は残っていそうね」

「そうですね。でもまずは、遺跡の奥部に行ってみましょう!」

「だな。マッドネバーに先を越される前にな!」

 それでも開錠出来たことは、彼らにとって大きな一歩である。謎解きは後回しにしつつ、万事屋一行は皆、未知の領域である遺跡奥部へと足を進めていた。

 そこで待ち受けていたのは――

「えっ!? これは……」

「この人達は……って銅像?」

二十体ほどそびえ立つ巨大な銅像達である。果たして彼らの正体とは如何に――




 どんどんと物語が動き始めています。遺跡の奥部にあった銅像とは? マッドネバーの狙う力とは?
 そしてユイにだけ反応した仕掛け。この真相とは如何に……。増々見逃せなくなってきました……!



 ちなみに今回のお気に入りは、我慢する沖田を神楽とリーファが煽るシーンです。 とっても可愛げがあったと思います。




 そして次回ですが、12月の投稿を目指しています。恐らくですが、再来週になると思います。予定では次元遺跡篇終了まで後四訓分。今年中には次の長編の妖国動乱篇まで掲載したいです……無理はしないで頑張ります。また報告がありましたら、ツイッターで報告するのでよろしくお願いします!







次回予告

リズベット「これが次元遺跡に刻まれた英雄なの?」

ユイ「タイムブレーク?」

シリカ「何かアタシにも見えたと思います!」

神楽「私にも聞こえるネ! 噂のドンドコドーンが!」

土方「奴等の狙っていた力はこれか?」

ダークキバ「ようやく見つけたぞ、ゲロ吐き娘!!」

ソーサラー「フフ。この方こそが、アタシらにダークライダーシステムを与えたのさ」

?????「僕はダークライダーすらも越える、アナザーライダーとなるのだ!!」

次元遺跡篇六 運命を切り開く者


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第七十訓 運命を切り開く者

 お待たせしました。次元遺跡篇の続きです。今回はいよいよ、マッドネバーの総帥が現れます。そう第六十五訓に出たアイツです。では、どうぞ。


 次元遺跡にてダークライダー達をまいた銀時とキリト達。奥部へと進んだ彼らに待っていた扉も、ユイをきっかけにして開かれている。そこで目にしたのは何と――

「銅像ですか?」

二十体の銅像だった。薄くて明るい奥部にて、悠然と構えている銅像達。その大きさは人の二倍もあり、遠くから見ても姿はくっきりと見えていた。

「この銅像は一体……」

「なんだかヒーローっぽい見た目ね」

 初めて目にする特徴的な銅像に、シリカやリズベットらも圧倒されている。興味深く目を凝らして、銅像を一つ一つ観察していた。

 角を持つ赤い戦士、同じく角を持つ金色の戦士、額に龍のマークを持つ赤き騎士、メカニカルな外見の黒と銀色の戦士、スペードが刻まれた青の剣士、全身が紫の鬼のような戦士、カブトムシを思わせる赤の戦士、電車を彷彿とさせる赤き剣士、鎖が至る所に巻かれた赤の戦士、バーコードっぽい外見のマゼンダの戦士。

 左が緑で右が黒の綺麗に色が分かれた戦士、頭や胴体に足とそれぞれに色が異なる戦士、宇宙服を彷彿とさせる白い戦士、宝石のような輝きを持つ赤い魔法使い、戦国武将とフルーツを合わせた青とオレンジの鎧武者、タイヤを体に巻きかけた真紅の戦士、黒いパーカーを羽織ったオレンジの戦士、ゲームキャラを思わせるピンクの戦士、左右の複眼に兎と戦車を模した赤と青の戦士、仮面の部分にライダーと文字が描かれた黒の戦士。どの戦士も異なった外観で、見る者にかっこよさと衝撃を与えている。

「二十人とも違う風貌ね……」

「中には個性的な銅像もあるわね」

「どれもモチーフがありそうだけど……」

「一体何者なんだ、この戦士達は……」

 リーファ、アスナ、シノン、キリトと次々に戦士達への謎を深めていく。

 だがしかし、銀時ら万事屋の面々は早くも戦士の正体に気付いていた。

「おい、新八……もしかして、こいつらはアレか? あの有名な……」

「間違いないですよ……。だって彼ら、平成ライダーですよね?」

 共に苦い表情を浮かべて、嫌な予感を察している。彼らが言った通り、これらの銅像は他作品である平成仮面ライダーシリーズの、主人公ライダーと姿が酷似していた。いや、ほぼ本家と似ていると言ってもいいだろう。

 パクリやネタでもない本家との邂逅に、彼らも予想外だったようで、あらぬ不安から体を震えさせていた。

 そして――瞬く間に本音を発していく。

「おい、新八。どういうことか説明しろよぉ、ゴラァ!!」

「って、なんで僕に当たるんですか!! 僕だって知りませんよ! こうやって本家が構えているなんて、投稿者からも聞いてませんからね!!」

「あぁー、もうなんでこういうことするかな!! 大体俺達、本家の会社から何度も怒られてんだよ!! それなのに突然のコラボとか意味分かんねぇよ!!」

 抑え込んでいたメタ発言を交えて、銀時は新八へ真相をねだっていく。当然彼も詳しくは知らず、高いテンションで反論している。二人のみがこの展開に、皆と異なった衝撃を受けていた。

 神楽や真選組の面々は至って気にしていないが。

「何をいまさらギャーギャー言ってんだよ。ショッカーやらダークライダーやらと、お前らは戦ってたんだろ? 本家のライダーが出ようが、別に驚かねぇよ」

「そういう問題じゃねぇんだよ! 俺達としてのプライドが絡んでんだよ! 分かってんのか!?」

「そもそもそんなプライド、私達にあったアルか?」

「神楽ちゃん!? 元も子もないこと言わないでって!!」

「何をやってんだ、あいつ等は……」

 彼らなりの混乱は続きそうである。特に土方と沖田は、冷静な態度で割り切っていたが。一方でキリトらは、フィリアからとある情報を聞かされていた。

「そういえば、聞いたことがあるかも……」

「フィリアさん? 何か知っているんですか?」

「うん。昔読んだことのある本で、こう書かれていたんだよ。人々の自由を守るため戦った、別世界のヒーローがいるって……」

「別世界のヒーロー?」

「それがこの銅像の正体なの?」

 抽象的な情報だが、別世界の存在だと知り、キリト達はより興味深く考察を広げている。戦士の銅像をじっと観察していく中、ユイはふと思い切った行動へと出ていた。

「ん? やっぱりさっきの波動って……」

「ユイ? どこへ行くんだ?」

「ちょっと銅像に近づいてみます! このライダーと書かれている方の!」

 彼女だけが感じた波動が気になり、銅像の一体に近づいている。足元付近で見つめたのは、特徴的な紋章であった。

「カメンですか……?」

 その紋章はカタカナで「カメン」と刻まれている。彼女は興味本位で、かざしてみることにした。

「――えっ? この光景は……」

 するとユイの頭には、銅像の戦士が敵と戦う描写が流れ込む。戦士の名は仮面ライダージオウ。数多のライダーの力を有する、最高最善の魔王だという。

 ほんの一瞬の間に、ジオウが辿った戦いを網羅した。

「ジオウ……タイムブレーク?」

「って、ユイ? 何か感じたのか?」

「はい……。この紋章に触れて、仮面ライダージオウさんが戦う光景が見えたんです」

「仮面ライダー……ジオウ?」

「この戦士の名前なの……?」

 仲間達から聞かれて、ユイは神妙な表情で自分の身に起きた出来事を伝えた。紋章の仕掛けを知り、皆不思議そうな表情を浮かべている。

 彼女からの情報は、銀時らも注目を寄せていく。

「おいおい、本当にライダーの記憶が見えるのか?」

「この遺跡ならではの仕掛けでしょうか?」

「いずれにしても、謎を解く鍵はありそうだな。一旦はみんなで触れてみるか!」

「って、なんでゴリラが仕切っているアルか?」

 神楽の辛辣な指摘はさておき、近藤は威勢よく呼びかけを図っている。彼に言われなくても、キリトら一行は独自に動いていたのだが。

「とりあえず俺達も紋章にかざしてみるか」

「遺跡の謎が見つかるかもしれませんからね!」

「ナー!」

 興味本位で彼らも、戦士の銅像にあった紋章へと手をかざしていく。すると微かに、戦士達のビジョンが見え始めていた。

「龍騎さん? ん? リュウガとそっくりで……戦っている!?」

 シリカが見たのは仮面ライダー龍騎の戦い。リュウガとの決着が付く一場面だった。何よりも、龍騎とリュウガの酷似した姿に驚きを隠せていない。

「エグゼイド……? 会心の一発って……」

 リズベットが見たのは仮面ライダーエグゼイドの戦い。決め技で敵怪人にとどめをさす一幕である。トリッキーな彼の攻撃に衝撃を受けている。

「オーズ? って、今の歌は何!?」

 リーファが見たのは仮面ライダーオーズの戦い。メダルを使って姿を変えた途端、スキャナーから流れた奇妙な音楽に戸惑っていた。

「ディケイドね……えっ!? 他の戦士を武器に変えるの!?」

 シノンが見たのは仮面ライダーディケイドの戦い。他のライダーを武器に変えるカード、「ファイナルアタックライド」を使用する場面である。

「アギト……? 姿も変えられるのね」

 アスナが見たのは仮面ライダーアギトの戦い。闇夜の中で姿を自在に変える、フォームチェンジを印象に残している。

「ドライブか……。ん!? タイヤが変わった!?」

 キリトが見たのは仮面ライダードライブの戦い。上半身に巻かれたタイヤを変える戦法に、諸々と衝撃を受けていた。

「wね……やっぱりあの時に見た本と同じかも」

 そしてフィリアが見たのは仮面ライダーWの戦い。彼女の見た本の通りに、怪物から人々を守る光景を目にしていた。

 戦士達……いや平成仮面ライダー達の記憶を知って、増々興味を惹かれていく。

「やはりこの銅像は、平成ライダーと何か関係があるのでしょうか?」

「そうかもな。マッドネバーが遺跡を狙うのも、これが目当てかもしれないな」

 その様子を見ていた銀時や新八は、独自に考察を広げている。マッドネバーも絡めた遺跡の正体について、考えを練っていた。

 そんな二人とは異なり、神楽や真選組一行も銅像へ行こうとしたが――誰にするか正直悩み続けている。

「ところで誰なんだ……一番モテモテになった平成ライダーは! 恋のコツを是非見てみたいのに……!」

「マヨネーズライダーがいたはずだが……ここにはいないのか?」

「暗殺するライダーを見てみたいですがぁ、ここにはいなさそうですねぇ」

「どこにいるアルか! 噂のドンドコドーンは!!」

 どれもその動機は私利私欲が絡み、ツッコミどころも大ありであった。

「いや、どういう基準で選んでいるんだ!? お前らは!?」

「ていうか、まだ行ってなかったのかよ」

「そりゃ、誰なのか分からないアルよ! どれアルか! ドンドコライダー!」

「って、神楽ちゃんはそれが言いたいだけでしょうが!!」

 状況に耐えきれなくなった新八が、反射的に激しいツッコミを繰り出す。それでもなお行こうとはしていないが。

 銀時らとキリトらで行動に差がある中で、フィリアにも動きがあった。

「ん? これは……?」

 彼女は偶然にも、仮面ライダーWの銅像の隅っこにあった輝く物体を発見している。

「綺麗な結晶?」

 実際手にするとそれは、煌びやかな七色の光を放つ結晶だった。触れると温かさを感じて、彼女の心も思わず安らいでいく。

「もしかしてこの遺跡の宝なのかな……?」

 確証はないものの、次元遺跡に眠る宝の一種だと括っていた。

 仲間達にも、発見した結晶のことを伝えようとした――その時である。

「追い付いたぞ、お前達!!」

「ここにいたのね!」

「えっ!? まさか……!?」

 奥部の扉付近から、怒りに満ちた大声が響き渡ってきた。仲間達も異変に気付き、思わず目線を変えている。フィリアは反射的に、手にした結晶がバレないように隠していたが。

「やっぱり、ダークライダー……」

「ったく、もう追い付きやがったか」

 そう新八や土方らの元に現れたのは、これまでに対峙したダークライダー達である。遺跡内部にいたポセイドンやソーサラーに加えて、空川町で戦ったダークキバやリュウガも合流していた。マッドネバーの刺客が勢ぞろいである。

「って、なんであの二人もいるのよ!?」

「いつの間に遺跡へ来たのよ……」

「いちいちしつこいネ! どこまで私達を追ってくるアルか!!」

 しつこく追い回す姿に、リズベット、シノン、神楽の三人もうんざりとした表情で文句をぶつけていく。仲間達も同じく、マッドネバーには鬱陶しさを感じている。

 だがしかし、何を言われようとも彼らは引き下がらない。

「うっさいわね! 途中からしゃしゃり出たアンタらには言われたくないわよ!!」

「一応僕らにも使命があるからな……そう簡単には引き下がれないんだよ」

 激高して逆ギレしたソーサラーと、淡々と冷静に話すリュウガ。より敵対心を剥き出しにするダークライダー達だが、ダークキバとポセイドンだけは別件にて怒りを燃やしている。

「そうだ! それにな……よくも俺を爆発の餌食に仕立てたな!」

「私にもゲロを浴びせやがって……絶対に許さないわよ!」

「いや、アンタらだけただの八つ当たりじゃないですか!! どこに敵意を向けているんですか!!」

 巻き込み被害を受けたポセイドンと、嘔吐物をかけられて恨みを持つダークキバ。両者は別の敵意から、存分に感情を高ぶらせていく。偶然が生んだ事故とも言えなくないが……。

 とは言っても、逃げ場のない遺跡奥部で追いつめられた銀時達。一行は少しずつ警戒心を高めて、武器に手を添えていく。戦う準備を整え始めていた。

「マッドネバーが揃いも揃って来やがって……」

「よっぽどこの遺跡に執着しているようだな」

「戦闘態勢だけは整えておきましょう」

 銀時、キリト、アスナと神妙な表情となって、今後の立ち回りを見定める。ダークライダーとの衝突は目に見えており、圧倒的な力の対抗策を考えていく。もちろん仲間達も同じだ。

 場の雰囲気が切迫していく中、ソーサラーは突拍子もなく疑問を投げかけていく。

「しっかし、アンタ達さぁ。どうして遺跡の奥部へ行けたわけ? アタシ達でさえ、開くことはできなかったのに」

「って、お前らも挑戦していたのか?」

「当然だ。一応侵入も総帥の指示でな。奥部にあるとされる、真の力をこの手で奪うために……! 改めて聞こう、何故お前達は扉を開けたのだ?」

 奥部への侵入方法に興味を持ち、詳しく問いかけられると、萎縮気味にユイが答えていた。

「えっと、私が手をかざしたら扉が開いたんです。でも何故開いたのかは分からなくて……」

「何? お前のような子供が……?」

 この情報には、流石のダークライダー達も耳を疑っている。予想外だったようで、堪らずにソーサラーとポセイドンが小声であることを交わしていた。

「これは摩訶不思議ね」

「あの小僧に秘密があるとでもいうのか……」

 ユイの存在自体を特別視しており、何か秘密があると疑い始めている。

 すると今度は、アスナから力に関する質問が掘り起こされていた。

「ねぇ、さっきから言っている力って何のことなの?」

 彼女の疑問に、リュウガが威勢よく返答していく。

「フッ、どうやら知らないみたいだな。なら教えてやろう――この次元遺跡には、かつて別の世界で戦った英雄の記憶が宿っているとされる。お前らの後ろにある二十体の銅像こそがその英雄――いや、平成仮面ライダーだ!」

「平成仮面ライダー……」

「読み解いた記憶通りになったわね……」

 そう彼が言った通り、遺跡にある銅像は他世界で戦う戦士の記憶が関係していた。キリトやフィリアが読み解いた記憶も、全て別世界の出来事である。

 徐々にマッドネバーの目的が浮き彫りになる中、ダークライダーの説明はまだ続く。

「彼らの戦いは次元を通して語り継がれ、いつしか記憶の塊がこの遺跡を作り出した」

「ライダー達の軌跡を残しておくためにね……」

「その存在を知った総帥は、自身の研究を完成させるために、この遺跡に目を付けたのさ」

「アタシ達が使用しているダークライダーシステムも、いわばただの模造品。この遺跡に眠る力を利用できれば、ようやく本物へと成り代われるのよ!」

 ポセイドン、ダークキバ、リュウガ、ソーサラーと、惜しげもなく秘密や目的を普及している。次元遺跡が他世界の戦士の記憶から出来た産物で、それを知ったマッドネバーは戦士の記憶を根こそぎ奪い、自身のモノにしようと企んでいた。ダークライダーこと夜兎や辰羅達も、強さを求めるあまりに常軌を逸した行動に出ている。

 この数分の間にも、数多の真実が伝えられていた。

「本物の成り代わり……?」

「それがアンタらの目的ってことですかい」

 ひたすらに力を求める意志に、フィリアや沖田も内心気を引かしている。どこか危険な思想を垣間見せており、仲間達もより用心深くなっていた。

 もちろん遺跡の真相にも驚きを示している。

「でもこの遺跡が、記憶で出来ていたなんて……」

「予想が付かないアルよ……」

 リーファや神楽らも、引き気味に事を呟いていた。紋章を通した記憶の干渉が、妙な説得力を彼らに与えている。いずれにしろ、これらの真相には驚かされるばかりだ。

 そんな最中で、フィリアにはとある直感が浮かんでいる。

(もしかして、この結晶が力の一端なの……?)

 偶然にも手にした七色の結晶こそが、遺跡に眠る力だと察していた。彼女は未だにそれを隠し続けているが。

 その事実を知らないダークライダー達は、いよいよ最後の仕上げへと入っていた。

「さて、余興は終わりだ。今すぐその場をどいてもらおうか」

「さっさと私達も力を回収したいからね……今なら手を出さずに、見逃してあげるわよ」

「命が惜しくないならね」

 脅迫のような振る舞いで、速やかな撤退を要求している。意地でも遺跡の力を奪おうと企んでいた。

 無論この要求には、銀時達も受け入れるつもりはない。

「何が見逃すだよ。どうせ倒すのが、お前らの本音だろ?」

「こんな脅しには一切乗らないよ!」

「そうアル!」

「私もですよ!」

 銀時やキリトが真っ先に声を上げると、神楽やユイ達も追尾していく。場にいた誰もが、ダークライダー達に反発心を見せていた。

「そ、そうだよ……絶対に屈したりなんかしないから!」

 不安を覚えていたフィリアも、仲間達につられて声を発する。覚悟を決めた表情で、頑な意志を見せていた。

 だがこの展開は、ダークライダーにとっては想定の範囲内ではある。

「やはり素直には受け入れないか……」

「だったら力づくでも……」

 と即座に襲い掛かろうとした時だった。

「フッ、その辺にしておけ」

 突如として聞こえてきたのは、大人な男性の声。すると扉付近から足音が聞こえてきて、こちらへゆっくりと近づいてきていた。

「おや、この声は……」

「とうとう来たわね。私達の総帥が」

 ダークライダー達はすぐに状況を飲み込み、自分達の総帥だと把握している。敵側の中心人物まで現れて、銀時らもその正体を密かに気にしていた。

「総帥? マッドネバーの……?」

「いよいよ親玉のお出ましかよ……」

 より強い警戒心が彼らの辺り一面へ広がる。同時に扉付近にも注目を寄せていると、総帥の姿がひっそりと明らかとなっていた。

「この僕の計画を邪魔するとは、とんだ度胸の持ち主だ。その心、跡形もなくへし折ってやろうぞ……!」

 物騒な言葉と同時に、表舞台へと姿を見せた総帥。その正体に、何故かキリトとアスナだけが予想外の衝撃を受けている。

「な、何!?」

「ア、 アナタは……!?」

 共に目を大きく見開いており、開いた口もまったく塞がらない。それもそのはず。目の前にいる総帥は――オベイロンと瓜二つだったからだ。

「紹介しよう。僕こそがマッドネバーの総帥……オベイロンだ!!」

 二人の反応など気にすることなく、息まいて自己紹介を交わしていく。顔を一直線に向けながら、その表情は相手を見下している。

 装飾品や服装、鋭い目つき。何もかが須郷信之ことオベイロンに酷似しており、キリト、アスナ、ユイにとっては思い出したくもない相手だろう。

 無論冷静でいられるはずがなく、落ち着いている仲間達に反して、二人は怒りの感情を高ぶらせていく。

「オベイロン……!!」

「なんでお前がここにいるんだ!!」

「って、キリにアッスー!? どうしたネ!?」

「急に怒り出して、アイツのことを知っているのか?」

 敵意や憎しみを向けた途端、近くにいた銀時や神楽も思わず驚いてしまう。彼らへ詳しく聞いてみると、即座に訳を話してくれた。

「あぁ、もちろん。前にも銀さん達に言った、因縁の相手だよ……」

「あの姿を見るだけで思い出したくないのよ……今すぐ叩き潰して上げたいわ!」

「そんなに恨みがあるんですか……?」

 あまりの態度の違いに、新八ら万事屋もよっぽどのことだと括っている。

彼らの言う通り、キリトらが知るオベイロンは外道極まりない男だ。心理的な仕打ちや妨害を受け続けたからこそ、永久に許されざる相手だと認識している。

 仲間達もその気持ちには同情をしていた。

「まぁ、あんなことされたらね」

「絶対に許しがたい相手だと思うし」

「えっ、そうなのか? 一体二人に何があったんだよ!?」

「おい、近藤さん。少しは空気を読め。問いかける方が邪推だろうが」

「詳しくはSAOの本編を見てくだせぇよ」

 シノンやリーファらが想うことを呟くと、実は気にしていた近藤が無粋にも問い直していく。流石にデリケートなためか、土方や沖田からは注意が加えられていたが。

 そんな一幕はさておき、怒りを滲ませるキリトら二人に、ここでシリカやユイが説得を加えてきた。

「でも待ってください! もしかしたら姿が似ているだけで、別人かもしれませんよ!」

「そうですよ! チサさんの時と同じかもしれません! だから落ち着いてください!」

 この世界ではよくある別人説を促すと、本人からは早くも答え合わせが返ってくる。

「何を騒いでいる? 僕とも会ってないくせに、個人的な恨みがあるのか? 少しばかり勘違いしていないか?」

 趣旨を理解していない反応から、別人であると証明された。どうやら二人の早とちりで済んだようである。

「ほら、やっぱり勘違いですよ!」

「きっと私達が知っているオベイロンじゃないんですよ!」

「そ、そう言われると……」

「確かにそうね。あの人はまだ捕まっているはずだし……」

 仲間達の説得と重なり、ようやく二人は冷静さを取り戻した。須郷の現状も思い出して、別人説を素直に受け入れていく。

 一方のオベイロンには、ポセイドンらが小声で補足を加えていた。

「総帥。奴らはもしや、サイコギルドの言っていた別世界の実験体ではないのか?」

「アナタに似た人物と勘違いしているかもよ。一応ALO星の住人と同じ姿をしているし」

「なるほどな。大体理解は出来た」

 サイコギルドとの邂逅で得た情報を頼りに、キリト達の存在を再認識している。別世界のALO関連人物と知り、興味を沸かしていた。

 ちなみにマッドネバーとサイコギルドとの繋がりは、銀時達には知らされていない。この会話も小声のせいか、彼らには聞き取られていなかった。

 と互いに一息ついたところで、ようやく質問が飛び交っていく。

「とにかく! 要するにアンタがマッドネバーの黒幕なの?」

「この遺跡の力を狙ってるんですか!?」

「ナー!?」

 リズベットやシリカらが根気よく問うと、彼が鼻の付いた雰囲気で返答している。

「フッ、貴様らの言った通りだ。僕は研究のため……いやALO星を正すために力を求めているんだよ」

「正すって、一体何をするんだよ……」

「簡単さ。クーデターを起こして、僕の思う通りに星を変えるのさ!」

 さも当然のように発せられたマッドネバーおよびオベイロンの真の目的。それは単純にも過激的な思想であった。

 当人の悪びれない姿勢からも、言いしれない恐怖を引き立たせている。銀時やキリト達も、これには耳を疑って驚嘆としていた。

「それって……ただの反逆行為じゃない!?」

「あの噂は本当のことだったのか……」

 リーファのように驚きを隠せない者や、沖田のように険しい表情を浮かべるなど、反応も多様に異なっていく。特に後者はクーデターの噂を聞いており、それが事実として一層に驚かされていた。

 衝撃のカミングアウトに場が騒然とする中、フィリアはこの計画に一段と怒りを覚えている。

「なんで……なんでそんなことするのよ!! どういう理由か分からないけど、ALO星はとっても良いところだよ! 治安も良くて人も優しいのに……どうしてそんな過激なこと考えるのさ!!」

 堪らずに感情的となり、強い想いをぶつけていく。純粋にALO星へ思い入れがあるからこそ、オベイロンの過激的な思想が理解できない。

 訴えかけながら問いかけ直すと、彼は即座に言い返してくる。

「フッ、お子様や凡人には分からないのだよ。この僕の崇高な考えが」

「はぁ? テロリストもどきが一体何を言ってんだよ?」

「黙っていろ。僕はこれまでに数多の実績を上げてきたのだ!」

 途中で土方から文句が飛ぼうとも、叱責して話を無理やり続けていく。

「周りからはエリートと評され、王国の研究員として何度も採用に挑戦した。だが何度もやっても、僕の研究は認められなかった……そこで確信したのだ。間違っているのは僕じゃなくて、認めない国なのだと! だからこそ僕は、自らの手で見返すのだ。認めない国とその王女にな!!」

 これまでの背景を手短に話しつつ、強烈なる怒りを交えたクーデターまでの経緯。その動機だが、意外にもあっさりしていた。身勝手とも言える彼の言い分には、当然だが仲間達も納得していない。

「って、要するに逆恨みじゃないの!!」

「自分のことを棚に上げて、責任転嫁するなんて何様のつもり!?」

「どこまで傲慢なんですか!!」

「おい、ゴミクズ野郎! いい加減にしろアル!!」

 リズベット、シノン、シリカ、神楽と次々に責め立てている。あまりの自分勝手さに呆れており、好き放題文句を言いまくっていた。

 女子達に続いて、真選組も同じである。

「やーい、ひねくれバカ妖精―。ってそこのV字ヘアーとゴリラが言ってやしたよ」

「いや、何お前俺達のせいにしてんだよ!!」

「お前こそ責任転嫁しているじゃないか!!」

 ところがただ挑発を交わすだけだった。沖田は早速近藤や土方に責任を擦り付けており、彼らからツッコミを入れられている。相変わらずの場違いなやり取りであった。

とそれはさておき、もちろん万事屋もオベイロンには反発心を抱いている。

「あの野郎……いちいちムカつくヤツだな」

「そうだな……俺達の知っているオベイロンとは違うが、危険人物なのは明らかだな」

 銀時、キリト共に気に食わない表情を浮かべていた。特に後者は自分が知るオベイロンの姿と重なり合い、複雑そうな心境へ陥っている。

「あんな人に力を渡すわけにはいかないわ! そうだよね、フィリアちゃん!」

「う、うん。そうだね」

 アスナも近くにいたフィリアへ共感を持ち掛けていく。彼女も内心では、心強い仲間達に安心感を持っていた。

 またオベイロン本人は、文句を言われても何一つ自分の考えを疑ったりはしない。

「所詮何を言おうが、負け犬の遠吠えにすぎん。僕には既に疑似的なダークライダーシステムもあるんだからな」

「そうだな。別に俺達は力さえ手に入れば、国や星がどうなろうがどうでもいいが……」

「面白いから手を貸してるだけだからね。今度はこいつらを、もっと痛ぶっちゃおうか!」

 ダークライダー達も、彼に追随して計画に加担している。一貫して彼らはクーデターに興味がなく、力さえ手に入ればどうでもいいそうだ。

 もはや衝突は免れず、両者は慎重に戦闘準備を整えていく。銀時やキリトらはマッドネバーを遺跡へ退けるため、オベイロンらは平成仮面ライダーの力を手に入れるため。真っ向からその目的がぶつかり合っている。

 いつ戦闘が始まってもおかしくはない中で、オベイロンはある秘策を披露してきた。

「ならば僕も参戦しよう。先ほど作り出した、この力でな!」

 そう言うと彼は、懐から黒くて円状のアイテムを取り出してくる。

「な、何!?」

「あのアイテムって……」

「まさかアナタもあのダークライダーに!?」

 これには一瞬にして、仲間内にも動揺が広がっていた。他のダークライダーと同じくして、変身すると予測していたが……どうやら少しばかり趣旨が違うらしい。

「いいや、違う。僕はダークライダーすらも越える、アナザーライダーとなるのだ!!」

〈エターナル!!〉

 強く言い返した後に、彼はアイテムに付属されたボタンを押していた。おぞましい声が鳴り響くと、

「さぁ、滾れ!! 永遠の力を持つ戦士よ……!! ハハハ……アハハハハハ!!」

奇声と共にアイテム――アナザーエターナルウォッチを肩へとかざしていく。するとウォッチからは黒いオーラが何重にも溢れだして、彼の全身を包み込んでしまった。

「アイツは……」

「オベイロンの姿が変わった!?」

 キリトらが戸惑いを続けている中で、ようやく黒いオーラが振り切られて、その全貌が明らかとなる。

 オベイロンが変貌した姿は、元よりも禍々しく変わっていた。濁った白色の体色に、背中には黒くてボロボロのマントが羽織られている。表面はゴツゴツと突起物に覆われて、顔も怪物のような恐ろしい仮面と化していた。腕や足には緑色の炎のような模様があしらわれている。左足には「2009」、右足にが「2024」と羅列した数字が刻まれていた。

 彼が変身したのは……元の歴史より存在しないアナザーエターナルである。

「ダークライダーじゃないの……?」

「なんだ、あの姿は……?」

「まるで怪物じゃない……」

 改めて感じたその歪な姿には、リーファ、近藤、シノンと仲間達もただならぬ警戒心を抱いていく。皆に共通しているのは、言いようもない恐ろしさである。

 さらなる衝撃が場を駆け巡る一方で、変身したオベイロンは意気揚々と名乗りを上げていた。

「紹介しよう。僕が開発した最高傑作を……その名もアナザーエターナル!!」

「アナザーエターナル……?」

「フッ。かつて別世界で永遠を懸けて戦ったとあるライダーの力を模したものだ。まずはその一端をお見せしよう!!」

 自信あり気に紹介した後、彼は真っ先に一部の力を開放してくる。

「ハァァァ!!」

 覇気に満ちた叫び声を放って、全身を金色のオーラで溢れさせていく。両腕を力強く振るうと、そのオーラを遺跡全体に広げさせている。

「おいおい、なんだよこれは」

「一体何が起きて……」

 オーラは次第に消滅したものの、これと言って銀時達や真選組、ユイには影響が無かった。

 ところが問題が起きていたのは、キリトやフィリアらと言った妖精と関係のある仲間達である。

「うわぁぁ!!?」

「キ、キリト!?」

「くっ……な、なんで!?」

「アッスー!?」

「ど、どうしたんですかパパ、ママ!? それに皆さんも!?」

 なんと彼らのみが、突然苦しみだしてその場に崩れ落ちてしまった。七人は悶えた表情となり、自分の身に起きた苦しみを訴えかけている。

「く、苦しい……」

「急に痛みが……」

「ど、どうしたんだ!?」

「なんでこいつらだけ……」

 訳が分からないまま戸惑いを続けている彼らに、アナザーエターナルは自慢げに種明かしを口にしていく。

「フッ、流石はエターナルの力だな。こいつには、能力を封じ込める効果があるんだ。僕はそれを改良して、同族の特殊能力を封じたのだよ。飛行能力と魔法能力をな!」

「何だと……」

 そうこの力は、元となった仮面ライダーエターナルが関係している。彼が使用するエターナルメモリは、同じアイテムの効果を無力化してしまう。オベイロンはこの特性を改良して、同族の能力を無効にする技を生み出したのだ。別世界から来たキリト達も影響を受けてしまい、苦しみながら飛行能力を封じられている。

早くも彼らの罠にまんまとはめられてしまった。

「は、羽が開かなくなっている……!?」

「私達もよ!」

「苦しんでた理由がこれかよ……」

 リーファやシノンら仲間達もこの事実に気が付き、驚きを隠せずにはいられない。特にフィリアは本来使用できるはずの魔法さえも封じられて、大幅な弱体化を受けてしまった。

「魔法まで……なんて力なの!」

 エターナルの能力で苦しみ続ける彼らの姿に、アナザーエターナルは余計にも調子に乗って、愉悦感に浸っている。

「まさか別世界の同族にまで効くとは思ってなかったがな……まぁ、いい。これ以上抵抗するなら容赦はしないぞ」

 改めて脅迫じみた一言を呟くと、彼らへけん制を図っていく。

 だがしかし、能力を無力化されてもなおキリト達の意思は変わらない。しぶとくも立ち上がって、即座に戦闘態勢を整え直していく。

「それはこっちの台詞よ……」

「お前の好きにはさせるかよ……」

「お、おい? 平気なのか?」

「だ、大丈夫だ。羽が使えなくなったところで、特に支障はないよ!」

「このまま戦うわよ、みんな!」

 キリトやアスナが威勢よく声掛けをすると、仲間達も次々に頷いて同調している。このまま負けるわけにもいかず、全身全霊を懸けてマッドネバーに立ち向かうことを誓っていた。

 これには万事屋や真選組も空気を読んで、同じく気持ちを一つにしている。

「仕方ねぇな。ここはいっちょやってやるか。テメェらもあいつらのこと、守ってやれよ」

「言われなくてもな。ガキだけが参加していい戦いじゃねぇだろ。だから心配しねぇで戦いやがれ」

「あたぼーよ!」

 銀時や土方の何気ない会話から、その意思を確かめ合う。一人の大人として、真選組としても守り抜くことに変わりはなかった。

 もちろんフィリアも同じ想いである。

(絶対に守るんだから……!)

 未だにバレていない結晶を握りしめて、守り切ると心に決めていた。

 数多の想いが遺跡奥部に渦巻いていき、手狭なエリアを戦場へと染め上げていく。互いの敵意が剥き出しになったところで――いよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。

「さぁ、行け!!」

 アナザーエターナルの指示の元、突進していくダークライダー達。

「新八! ユイとフィリアを頼むぞ!」

「は、はい!」

「みんな! こっちも全力で行くぞ!」

「うん!」

「OK!」

 ユイとフィリアを新八が安全地帯まで誘導して、心置きなく覚悟を決めた銀時やキリト達一行。

「はぁぁぁぁ!!」

 勇猛果敢にも彼らは、未知なる強敵に再び立ち向かっていく。

 独善的な正義を押し付ける悪しき使者と、大切な記憶を守るために抗い続ける侍と妖精。それぞれの想いがぶつかり、この戦いに待つものとは果たして……




 遂に一行の前へ姿を現した銀魂世界のオベイロン! 姿が同じとはいえ、キリトやアスナにとっては許しがたい相手でしょう。
 彼はALO星そのものを支配するために、次元遺跡に眠る平成仮面ライダー達の力を狙っているそうです。底知れぬ野心だけは、本家と同等かもしれませんね……。
 本当は色々と彼の身に起きた背景とかを考えていたのですが、結局は自己中で傲慢な性格が性に合っていたので、犯行動機はシンプルにしました。強いて言うなら、挫折したことがない人生を送り、初めて壁にぶつかったことで意固地になり、狂気的な思想に行き着いた感じです。

 そんな彼もダークライダー――ではなく、アナザーライダーへと変身してしまいました。その名はアナザーエターナル。ジオウ本編にも出てきていないオリジナルのアナザーライダーです。
 ここだけの話ですが、実は本作の黒幕に仮面ライダーエターナルである大道克己を他世界からの刺客として構想を練っていました。しかし実際の彼が、外道極まりないオベイロンと共闘するはずが無いと括って、結果オベイロンをアナザーライダー化することで、本来の計画とは違う方向性になりました。
 とは言っても、オベイロンと大道克己だと悪役キャラとして器そのものが違うので、彼がエターナルのアナザーになることはある種皮肉が込められていると思います。

 そしていまさらですが、遺跡の正体はやっぱり平成仮面ライダー達でした! 今後どのような役割を果たすのか……是非注目してください! とは言ってもあくまで主役は銀さんやキリト達なので、そこはご安心ください。
 ちなみにゼロワンとセイバーは、令和ライダーとしてカウントされるので、今回の登場予定はありません。

 さらに今日は銀魂が連載を開始した日です! 劇場版の情報も出てきて、ラストまでに増々盛り上がってきました! 絶対初日に見に行きたい……!

 さてあとがきが長くなってしまいましたが、次元遺跡篇も後わずかです! ダークライダーとの勝負は如何に……

次回予告

アナザーエターナル「僕の開発したガイアメモリを見ろ!!」

リュウガ「龍使いとしては最悪だな!」

ダークキバ「アナタ、戦いを遊びと勘違いしているんじゃないの?」

ソーサラー「アナタ達じゃ勝てないわよ!」

ポセイドン「これで終わりだ!」

 圧倒的な力を持つマッドネバー……彼らは果たして勝てるのか?

次元遺跡篇七 敗れる努力


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第七十一訓 敗れる努力

 ようやく完成……色々と忙しくて今年最後まで伸びてしまいました。しかも内容的にはバットタイミングのような気も……まぁいいか。とりあえずご覧ください。




 次元遺跡内部にて、いよいよマッドネバーと激突する銀時やキリト達。その総帥であるオベイロンは、独自に作り上げたアイテムでアナザーエターナルへと変身してしまう。

 理不尽なハンデに惑わされながら、彼らは懸命に戦いへ赴いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「「ハァァ!!」」

〈guard bent!〉

「フッ!!」

 大きく飛躍して攻撃するシリカとリズベットに、リュウガは黒き盾を召喚して応戦する。彼女達は近藤やピナと共に、この漆黒の龍使いへ戦いを挑んでいた。女子共々真剣な表情で彼を抑え込む一方、シリカにはとある想いが生まれている。

「アナタのような乱暴なドラゴン使いに、アタシ達は負けませんから!!」

「ほぉー。ガキのくせに威勢がいいな。その根性だけは評価してやるよ!」

 同じ龍使いとして納得がいかず、並々ならぬ対抗心を燃やしていた。彼女の強い想いを察しても、リュウガの心には何も動じていないが。

 盾やダガー、メイスがぶつかり合い、膠着状態が続いていた時である。

「そこだぁぁ!!」

「ナー!!」

 四方から隙を伺っていた近藤とピナが、リュウガの背後に這い寄り、奇襲を仕掛けてきた。このまま追い打ちを加えようとしたが、

「かかったな」

彼にはお見通しである。こっそりとカードを引き抜き、腕の召喚機に装填した。

〈adbent!〉

「ナ!? ナァァァ!?」

「ウワァ!?」

「えっ、ピナ!? 近藤さん!?」

 すると近藤らの真横から、召喚獣であるドラグブラッカーが出現。避ける間もなくピナに衝突して、体を口で咥えられてしまう。当然近藤も巻き込まれて尻尾で体当たりされると、そのまま地面に叩きつけられていた。

「くっ……なんてヤツだ」

 手痛いダメージを負い、体を怯ませている。

 場の情勢は一変して、一気にリュウガ側へと傾いてしまった。

「アイツ……なんて卑劣なことを!」

「羽さえ動かせれば……こうなったら!!」

「って、シリカ!? ちょっと待ちなさいって!!」

 一方的に攻撃されているピナを救うべく、シリカは思い付きで場から駆け出してしまう。飛行能力を封じられても、相棒を助けたい気持ちで一杯になっている。リズベットの静止を振り切り、自身の想いを優先していた。

「グラァァ!!」

「ナ……」

(絶対に助けるから、ピナ!!)

 彼の苦しむ姿を見るたび、走る足も速くなっていく。タイミングを見計らった後、シリカは大きく飛び上がって手を伸ばしてきた。必死にピナを掴もうとした時である。

「そういう優しさが甘いんだよ!!」

〈strike bent!〉

 リュウガは待っていましたと言わんばかりに、急遽攻撃姿勢に舵を切った。右腕に龍の顔を模したグローブをはめて、飛び上がったシリカの方角に狙いを定めている。

「シリカ!! 避けて!! 今すぐ!!」

 彼の目的に気付いたリズベットは、シリカに向かい警告を促すも――時すでに遅い。

「くらえ! ドラグクローファイヤー!!」

「バッシュ! ドラァァァ!!」

 技名を言い放ち、グローブからは濁った青い炎を発射していく。すかさずドラグブラッカーも、咥えていたピナを吐き出して青い炎を放出してきた。

「ナァァァ!!」

「嘘!? ……ウワァァァ!!」

「シリカ!!」

「何……!?」

 彼らの連携技にシリカやピナも予測出来ず、彼女はピナを受け止めて、両方向から放たれた青い炎に巻き込まれてしまう。悲痛な叫び声が響き渡り、リズベットや近藤も心配そうに行方を追っている。

 その顛末は最悪の展開を迎えていた。

「ケホ……」

「ナ……」

 炎が消滅したと共に、大きなダメージを負ったシリカとピナが垂直に落下していく。仲間達が急いで彼女の元に駆け寄り、そっと全身を保護した。

「って、しっかりして!! 大丈夫なの!?」

「ウゥゥ……」

「とりあえず気を失っているだけだな……」

 近場で様子を見定めて、シリカらの無事を確認している。丸焦げにはされなかったが、それでも計り知れないくらいダメージは大きい。不安な気持ちが高まり、微妙な心境に苛まれていた。

 一方で奇襲が成功したリュウガは、何食わぬ態度で声を上げてくる。

「結局はハッタリだったな。この女の覚悟も生半可で緩すぎる。このまま消し炭となれば都合が良かったが」

 無情にも手酷い一言を発して、あっさりとシリカやピナをけなしてきた。挑発とも捉えられる彼の言葉に、リズベットはつい真に受けてしまう。

「何ですって……」

「ん? 文句でもあるのか?」

「大ありよ……アンタみたいな卑怯者に、言う資格は無いのよ!!」

「リ、リズ君!?」

 密かに溜まっていた我慢や怒りが爆発して、彼女は怒りの感情のままリュウガへと襲い掛かる。手にしたメイスを強く握りしめて、ひたすらに接近攻撃を繰り出していく。

 対するリュウガはグローブをはめたまま、リズベットの猛攻に対処している。戦闘の最中でも二人の会話は続く。

「僕は正しいことを言っただけだ。所詮はこの程度の力。当然お前も同じだ!」

「黙りなさい!! アタシ達だって、強くなっているはずなのに……!!」

 依然として続く挑発に、彼女は無意識に乗せられてしまう。リュウガにとっては増々都合が良い戦況に変わっていた。

「落ち着け、リズ君! 闇雲に戦っても勝ち目はないぞ! ここは一旦落ち着き――」

「うっさい! あんだけ馬鹿にされて、黙っているわけにもいかないのよ! あのベルトさえ破壊すれば、こっちにだって勝機が……!」

 近藤が駆け寄って説得するも、リズベットの怒りは収まらない。彼の言う通り闇雲に戦い、リュウガのベルトへ狙いを定めている。少しでも戦況を傾かせたいが……そう簡単には上手くいかない。

「仕方ない……さっさと仕留めろ!」

「グワァァ―ン!」

 鬱陶しく感じ始めたリュウガは、手っ取り早く決着を付けようとした。ドラグブラッカーに指示を加えて、彼は先ほどとは違う炎をリズベットへ向かい吐き出していく。

「キャ!?」

「リズ君!?」

 炎は何事もなく彼女の足元に被弾して、瞬く間に異変を生じさせた。

「……ん!? 嘘でしょ……動かない!?」

 なんと炎は粘土のように分厚く固まり、リズベットの足元を固定させてしまう。思うように動かなくなり、次第に焦りが生まれている。

 勢いがなくなると、リュウガは予定通りとどめの構えに入った。

「これでとどめだ。今度は命ごと葬り去る!」

〈final bent!〉

 力強くカードを召喚機に装填すると、両足を大きく開いて、左腕を腹部にかざし、右腕を天高く上げている。そう彼は、最強の必殺技で彼女を葬り去ろうとしていた。

「グラァァ!!」

 リュウガの後ろ側にドラグブラッカーが周り込み、次第に彼も体を浮遊させていく。そのまま蹴りの姿勢に変わり、ドラグブラッカーから放たれた火炎を体にまとう。

「くらえ!! ドラゴンライダーキック!!」

 技名を叫ぶと、速度を上げて降下していく。動きを封じられている隙に繰り出す必殺技、ドラゴンライダーキックをリズベットにお見舞いしようとしていた。

 当の本人は、この光景を目の前にして言い知れぬ恐怖に心が支配されてしまう。

(まずい……このままだとやられる! どうにかして抜け出さないと!!)

 僅かな希望を懸けて体を必死に動かすが、一向に炎はびくともしない。絶体絶命の状況に、彼女はどうすることも出来なくなり、思わず盾を手前に出していた。

(もう駄目なの……)

 もはや耐えることを祈るしかなく、表情もより険しく変わっている。仕舞いには目の前の現実から背けようと絶望した時であった。

「させるかぁぁ!!」

「……えっ? 近藤さん!?」

 咄嗟に近藤が間に割り込み、刀を用いてリュウガの必殺技を力づくで受け止める。

「はぁぁぁ!!」

「たぁぁあ!!」

 リズベットを守るために、彼は身を挺して無茶をしていた。勢いに押されながら、必殺技の威力を軽減しようとしている。数秒の間力一杯に堪えていたが――

「はぁぁ!!」

「ぐはぁぁぁ!!」

「ギャャ!!」

残念ながらリュウガに押し切られてしまう。威力は抑え込んだが、強力な必殺技を共に食らってしまった。その衝撃波から遠くに吹き飛ばされた二人は、体力や気力が尽きてしまい、そのまま場に倒れ込んでいる。

 ボロボロになりながらも、リズベットは近藤にあることを聞いてきた。

「こ、近藤さん……なんで無茶をしてまで庇って……」

「決まってんだろ……俺は市民の味方だからな……絶対に守るんだよ」

「何かっこつけてんのよ――」

 命懸けで守ってくれた理由を知ると、彼女は力尽きて気絶してしまう。同じくして近藤も、意識が無くなり動かなくなっていた。

 シリカやピナも含めて、肉体的かつ精神的なダメージを彼らは負っている。それを全て一人で成し遂げたリュウガは、愉悦感に浸っていた。

「……言いざまだな。何をやっても、僕には適わないってことさ」

 捨て台詞を吐きつつ、彼は次なる対戦相手を探していく。

 

 

 

 

 

 

 

「フッ! ハッ!」

「セイ!」

「そこだ!!」

 一方でこちらは、ダークキバに戦いを挑む沖田とリーファ。共に刀や剣を使いこなして、接近戦を中心に戦闘を展開している。対するダークキバは、終始素手のまま二人の剣士と張り合っていた。

「あぁ、もう! どっちもすばしっこい奴らね!」

 一時後ろへと引き下がり、彼女はマントをなびかせていく。思うように攻撃が当たらず、ついもどかしさを感じていた。

 一方の沖田とリーファも、一歩後ろに下がって態勢を整え直している。

「……アンタに手を貸すのは尺だけど、今はアイツを倒すことに集中しましょう!」

「こっちもでさぁ。あのコウモリをどうにかすれば、こっちにも追い風が吹くはずでい!」

 あくまでも一時的な協力を誓うと、二人は勢いよく走り出し、ダークキバのベルトにぶら下がるキバットバットⅡ世を狙っていた。あわゆくばこのまま打ち倒そうとした時である。

「……させないわ! セイ!」

 一足先に歯向かってきた沖田に、ダークキバは回し蹴りで応戦していく。

「何!? クッ……!」

「沖田さん!?」

 その威力に吹き飛ばされてしまい、彼は強制的に怯まされてしまう。場から沖田がいなくなると、ダークキバはリーファに対して核心を突く一言を投げかけていく。

「フフ、そういえばアンタさ。戦いを遊びと勘違いしているんじゃないの?」

「遊び……? そんなことないわよ! 私だってみんなを守るために――!」

「見た感じ、命を懸けて戦っていなさそうなのよね。隙が多くて、まるで素人みたいね!」

 ほんの数秒の間に彼女の戦い方を見透かしており、思わず揺さぶりをかけている。

この一言に本人は真に受けて、心に迷いを宿してしまう。

(素人なんかじゃない……少しずつだけど、強くなってるはずなのに!)

 これまでの経験を振り返りつつ、自信を保とうとしたが、妙な胸騒ぎが冷静な判断を失わせている。思った通りの反応に、ダークキバも内心では嘲笑っていた。

「あらあら、悩んじゃって。でも私にとっては、好都合だけどね!!」

 即座に彼女は全身を覆うほどの紋章を作り出し、またも相手を拘束する結界を用いて戦いを有利に進めようとしている。

「さぁ、食らいなさい!!」

「えっ――キャ!?」

 一瞬の隙を狙い、結界へと閉じ込めようとしたが――

「ファ!!」

間一髪のところで沖田が割り込み、両者共に上手く避けていた。結界も対象を見失い、そのまま消滅してしまう。

「チッ、失敗ね」

 思う通りにいかず、ダークキバは舌打ち交じりに小言を口にする。

 一方の沖田はリーファを助けた後、彼女の様子をさり気なく伺っていた。

「おい、大丈夫かよ。ブラコン」

「お、沖田さん……?」

「お前、無茶だけはするなよ」

 そうぶっきらぼうに言うと、沖田は刀を握り直して、再びダークキバに立ち向かっていく。

「ハァァ!!」

「しぶとい男だねぇ! どこまで渡り合えるかしら!!」

 攻撃を真っ先に受け止めながら、彼女も戦闘態勢を整えていた。次々と沖田が斬りかかるものの、ダークキバは受け止めて奇襲する隙を伺う。状況を鑑みて、彼もまた相手からの攻撃を予測していた。

 一騎打ちとも言えるこの二人の戦いに、リーファはあることを念頭に起き、またもよどんだ気持ちを整理している。

(アレが命懸けの戦い……やっぱり私の戦い方とは違う。沖田さんと私で、一体何が足りないのよ)

 改めて彼女は、命懸けの戦いについて思い知らされていた。普段は見ることがない沖田の真剣な表情と鍛え上げた剣筋が、妙な説得力を与えている。先ほどの身を挺して守ってくれた姿からも、普段の彼とは違う何かを悟っていたのだ。

 次第に言葉には出来ない悔しさを痛感していく。数か月とはいえ、自分自身でも実力は高めてきたはずだ。それなのに、いざという時には発揮できない。そんな内なる自分の弱さに、打ちひしがれてしまう。表情も徐々に薄暗く変わっていた。

(足りないもの――ひょっとして!?)

 そう考え込んでいるうちに、ふとある考えが浮かんでいる。恐れから得た自分の足りないものに、リーファは内心納得していた。新たなる道を開き、心も冷静さを取り戻していく。

 一方でダークキバと相対している沖田は、徐々に息が荒くなり、相手と張り合うのも限界を感じていた。

「……やっぱり一人だと物足りねぇか」

 苦しそうな表情で似合わない弱音を呟く。そんな彼の様子を目の当たりにして、ダークキバは余裕そうに付け上がっている。

「フフ、闇の力を思い知ったかしら。それじゃ、アナタに地獄を見せてあげるわね!」

「ウェイクアップ! ワン!!」

 好機と捉えた彼女は、ベルトにぶら下がるキバットバットⅡ世へ、ウェイクアップフェッスルを吹かせていく。一度対峙した時とは異なる必殺技で、決定的なダメージを与えようとしている。

 全身の魔皇力を腕に集中させて繰り出すパンチ技、ダークネスヘルクラッシュを発動させた。

「って、させるか!!」

 一早く必殺技に気が付くと、沖田は一心不乱に走り出して、妨害を加えようとしている。だがしかし、

「ハァ!」

「何!?」

彼女は大きく飛び上がって上空に逃げ出してしまう。このまま降下して技を繰り出すのかと思いきや……沖田はある違いに勘付いていた。

「……まさか!? おい、リーファ!! 今すぐ逃げろ!! それか防御を固めろ!!」

「えっ……?」

 そうダークキバの狙いは――リーファである。彼を狙うような素振りを見せて、本心では自分より格下の相手に技を放とうとしていた。

 彼からの注意でリーファも気が付くと、咄嗟に防御姿勢を構えるが……

「ダークネスヘルクラッシュ!!」 

「……ウワァァァァ!!」

当然耐えきることは出来ず、強大な威力の拳を受けてしまう。彼女の悲痛なる叫び声と共に、拳の衝撃波から大きく吹き飛ばされて、そのまま近くの壁に叩きつけられた。

「リーファ!!」

 心配そうに沖田が声をかけるも、彼女の返事は聞こえない。ふらふらとした足取りのまま、ゆっくりと前方から現れた。

「沖田……さん」

 微かに彼を呼ぶ声を呟いた後、リーファは目を閉じて気絶してしまう。またもダークライダーの強大な力の前に、仲間が一人敗れていた。

「てめぇ……! ハァァ!!」

「フッ、敵討ちかい。面白くなってきたじゃないかい!!」

「黙れ!!」

 卑劣にも隙を突いたダークキバの戦い方に、沖田は怒りを覚えて、次々と刀を振りかざしていく。激しく攻める中でも軸は見失わず、常に相手の出方を予見して戦いを進めている。

 必死に彼女を守ろうとする沖田だが、肝心の本人にはその姿が見えていない……。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァ!!」

「ホワチャー!!」

 自慢のコンビネーションで、連携攻撃を次々と決めるアスナと神楽。繊細なレイピア裁きと、剛力を込めた格闘術で相手にダメージを与えていく。

 彼女達と相対するのは、海洋生物の力を操るダークライダー、ポセイドンである。

「ハァ!?」

 彼も素早い身のこなしで対抗するも、二人の連携を前にして悪戦苦闘していた。両者の戦闘スタイルを掴めずに、戦いの主導権を奪うことすらままならない。

「今よ、神楽ちゃん!」

「オッケーネ、アッスー!」

 その間にも二人の猛追は止まらなかった。相手の怯んだ隙に、二人はポセイドンのベルトに焦点を当てている。こちらも変身を解除させて、相手の戦力を削ぐことを考えていた。

 今度こそダークライダーには一矢報いたいところであるが……

「「ハァァ!!」」

「させるか!」

「何!?」

「えっ!?」

 やはりそう簡単にはいかない。彼は隠し持っていたメダルの能力、瞬間移動を使用して危機を脱していた。何が起きたのか分からず、二人が戸惑いを浮かべる時である。

「これでもくらえ!!」

 ポセイドンは二人の後ろ側に回り、水の波動を蓄えたエネルギー波を解き放ってきた。

「な、グファ!!」

「神楽ちゃん!? うわぁ!?」

 不意打ちとも言える戦法に、神楽らはまんまと攻撃を受けてしまう。エネルギー波の衝撃で体を吹き飛ばされてしまった。

「フッ、まぁまぁの強さだな。だがそれだけだ。お前らに俺を倒すことは出来ないだろうな」

 自身の優勢を勝ち得ると、ポセイドンは余裕をこいた一言を投げかけている。彼はひたすらに強さを追い求めており、強い相手であれば特にこだわりは無かった。

 一方で攻撃を受けた神楽とアスナは、ゆっくりと立ち上がり態勢を整え直していく。

「大丈夫、神楽ちゃん……?」

「平気アルよ。そういうアッスーの方は」

「ちょっと肩がかすったけど、問題なく戦えるわよ」

「やっぱりしぶといアルナ、アッスーは!」

「神楽ちゃんもでしょ!」

 互いに軽口を叩きつつ、まんざらでもない表情を浮かべている。これまでにも共闘した経験を思い起こして、共にレイピアや傘と言った武器を握り直していく。

 相手が男性及びダークライダーだろうと関係ない。これまで通りに戦って勝利する。一点の曇りもなく、彼女達は再び気持ちを一つに合わせていた。

「まだ諦めぬか。しぶとい奴らめ」

「あいにく万事屋はそれが売りアルよ。今度は私達の番ネ!」

「絶対に諦めたりなんかしないわ! さぁ、行くわよ!」

 恐れなどとっくに振り切り、アスナらは真剣な表情でポセイドンと戦いを交える。

「愚かな。これでもくらえ!」

「二度同じ手は!」

「受けないわよ!」

 けん制として発射されたエネルギー波にも、二人は武器を振り下ろして薙ぎ払っていく。遺跡を守るため。フィリアや仲間を守るために、想いを途切れさせずに挑み続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くらえ!!」

「フッ、そうはさせるかよ!」

 そして魔法を操るソーサラーと対峙するのは、接近戦で攻める土方と遠距離から相手を狙うシノンの二人。上手く互いの長所を生かして、慎重に戦いを進めていた。だがしかし、戦況は摩訶不思議な魔法を使うソーサラーが上手である。

〈フラッシュ! ナウ!〉

「何!? ……目くらましか」

「その通りよ。ハァ!」

「グワァ!?」

「土方さん!?」

 一瞬の隙を突いて、ソーサラーはすかさず魔法を発動。一時的な強い光を放ち、目くらましから手にした斧で彼を跳ね返していく。不意打ちを受けた彼の元に、シノンも心配して駆け寄ってくる。

「大丈夫!?」

「あぁ、なんとかな。けれども厄介な相手すぎるだろ……」

「一応あのライダーは魔法が使えるからね」

 特に問題もなく土方は、立ち上がって態勢を整え直していく。得意の接近戦だけではなく、相手の特性を封じる戦法も考え始めていた。

「どうにか封じ込めねぇとな……」

 そう詰まるように呟いた時、シノンは真っ先にある提案を促していく。

「だったら私に任せて。弓矢で援護を続けるから、その隙に指輪やベルトを破壊しましょう」

「……なるほどな。それも一理あるな」

 遠距離戦を得意とする彼女と共に、ソーサラーのベルトや指輪の破壊へと重きを置いている。相手の大本の能力を破壊して、戦いの主導権が渡るように考えていた。

 そんな中でシノンには、ある重大な責任を内心にて感じている。

(アイツは攻撃を跳ね返したり、空間も操ることも出来たはず。バレないようにしないと、こっちが返り討ちに合うわね……)

 今までにも戦ったことが無いタイプに、より強い緊張感を覚えていく。何を仕掛けてくるか分からない相手だからこそ、臨機応変な戦いが求められると括っていた。

「何をこそこそ喋っているのかしら!」

〈ボルケーノ! ナウ!!〉

「ハァァ!!」

 二人が作戦を話し込んでいるうちに、ソーサラーの追撃も続く。今度は手から火炎を放ち、土方らをけん制してきた。

「フッ」

「ハッ!」

 二人は火炎を難なく避けると、瞬く間に作戦を実行していく。

「時間がねぇ。とっとと始めるぞ!」

「もちろんよ! 頼んだわよ、土方さん!」

「おう!」

 共に互いの表情を確認して、それぞれの配置に付いている。シノンは大胆にもソーサラーの周りから隙を伺い、土方は魔法攻撃も承知でひたすらに接近戦を展開していた。

「ハァァ!!」

「何を躍起になってんの? こんな戦い方じゃ、アタシには勝てないわよ!」

 彼らの変わらない戦い方を見下しながら、ソーサラーは土方からの刀を全て斧で受け止めていく。自分を優勢だと思い、またも魔法を発動しようとした時である。

「そいつはどうかな?」

 土方の意味深な一言と共に、シノンもようやく動き始めていた。

「そこよ、ハァァ!!」

「何!?」

 周りを移動するうちに彼女は、いつの間にか土方の背後へと潜めている。そこから彼がしゃがんだところ、タイミングよく弓矢が解き放ってきた。

「カキ―ン!」

 弓矢は見事に指輪へと命中しており、真っ二つに壊れて床に転がり落ちてしまう。戦いの掛け合いが作用して、土方らの方へ軍配が上がっている。

「やったわね、土方さん!」

「おうよ、お前も手伝ってくれてあんがとよ」

 作戦が綺麗にはまり、土方とシノンは思わず成功を称えあっていた。なんだかんだで嬉しいことに変わりはない。

 一方で戦力を削がれたソーサラーだが……彼女もどこか様子が可笑しかった。

「まさか指輪を狙うなんてね……あーあこれじゃ魔法が使えないわ」

 と残念がる一言を発したその時である。

「なんて言うと思った!!」

〈ライトニング! ナウ!!〉

 強気な態度に豹変した後、なんと別の指輪を用いて魔法を発動させていた。

「雷だと!? うわぁ!?」

「嘘!? なんで!?」

 シノンらの頭上からは雷が放出され、容赦なく襲い掛かってくる。何が起きたのか分からず戸惑ううちに、ソーサラーは丁寧にも理由を説明していた。

「指輪は一つじゃないわよ。予備用にもう一つ持っているのよ」

「そ、そんな……」

「あの野郎……」

 常備してあった指輪を見せびらかし、余裕綽々に挑発までしてくる。彼らの残念がる表情を見て、クスクスと彼女は仮面の中で笑みを浮かべていた。

 調子に乗ったままいよいよ締めに入っていく。

「それじゃとどめと行きましょうか!」

〈チョーイイネ! ファイナルストライク!! サイコー!!〉

 またも別の指輪にはめ直した後、ベルトにかざして今度は自慢の必殺技を発動している。ただならぬ威圧感を察して、土方やシノンがより強い警戒心を高めていると……

「ハァ!!」

ソーサラーは瞬く間に姿を消してしまった。

「また消えた?」

「どこに行きやがった?」

 周りを用心深く注意しつつ、二人が警戒していると……数秒も経たないうちにソーサラーは魔法陣から出現している。

「さぁ、これで最後よ!! 猫耳ちゃん!」

「えっ!?」

 シノンのちょうど目の前にて。

「キャァァァ!!」

「何!?」

 もちろん避けることなどできず、彼女は素直に必殺技を受け止めてしまった。ソーサラーの必殺技であるファイナルストライクは、全身の力を足に集約して放つ蹴りのことである。魔法陣を用いた変則型もある為、流石は魔法使いと言ったところか。

 この必殺技の餌食となってしまったシノンは、痛々しい悲鳴を上げて、力が抜けるとその場に倒れ込んでしまった。

「おい、しっかりしろ!! 大丈夫か!?」

「……今は無理」

 心配した土方が様子を見るも、彼女は苦しそうに声を返して、とうとう気絶してしまう。現状が信じられずに驚嘆としている彼の元に、ソーサラーは煽るように声をかけてきた。

「この猫耳ちゃんは見どころがあるから手加減しちゃった。でも次こそは……命すら危うくなっちゃうかもね~!」

「てめぇ……よくも!!」

「懲りずにまた歯向かうの? いいよ、付き合ってあげる!!」

 軽々しくも見下した態度が気に入らず、土方は躍起となって見境なく猛撃している。彼女もその反応を楽しむように、拮抗とした戦いを続けていた。

 次々とダークライダー達の前にひれ伏す仲間達。果たして本当に勝算はあるか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァ!!」

「セイヤ!!」

「トウァ!」

 各ダークライダーとの激戦が繰り広げられる中、アナザーエターナルと戦うのはチームのリーダー格でもある銀時とキリト。慣れ親しんだ武器を巧みに扱い、怯むことなく攻撃を続けている。

 だがしかし、肝心の相手にはあまり通用してはいなかった。

「おいおい、全然通用してねぇじゃねぇかよ……」

「あのアナザーライダーって力で、能力が強化されているのか?」

 共に場から引き下がると、一時戦況を見直している。未知数の力を持つアナザーライダーに対して、彼らは段々と脅威を感じていく。

 するとアナザーエターナルは、威張り散らすように大声で返してきた。

「その通りさ! お前達の攻撃に意味はない!! 僕の強さに絶望するがいいさ!!」

 傲慢な態度のまま、彼は手から専用の剣を作り出している。手にしたその正体は、ガイアメモリを入れるメモリスロットが付属された金色の聖剣、ガイアキャリバーであった。優勢さにより拍車をかけるアナザーエターナルだが、銀時やキリトはまったく動じずにしぶとい根性を発揮している。

「どんな能力だろうと関係ねぇよ! テメェの陳腐なバグ技に、正規の俺らが負けるはずがねぇだろ!」

「お前の好きには絶対させないからな!」

 強気な一言を飛ばした後に、両者は一斉に走り出して真っ向から衝突していく。

「ヤァァ!!」

「グラァァ!!」

 まずは銀時とアナザーエターナルがぶつかり、木刀とガイアキャリバーに力を一極集中。相手を押し返そうと試みていた。その後も攻めては守りを繰り返し、拮抗とした現状が続く。

「中々の剣裁きだ! そこだけは評価してやろう!」

「黙れ。上から目線で言うんじゃねぇよ! そういう奴はな、いずれ天罰が落ちてくっぞ」

「何とも面白い冗談だなぁ!」

「冗談? 果たしてそうかな?」

 たわいない言葉を交わした後、銀時は指を用いて合図を出してくる。するとキリトが飛び上がり、上空からアナザーエターナルに狙いを付けていた。もちろん羽を使わず。

「くらえぇぇ!!」

 抜群のコンビネーションで追撃しようとしたが……

「そういうことか」

彼は何一つ驚いていなかった。すかさずあるアイテムを取り出すと、ガイアキャリバーのメモリスロットにそれを装填していく。

〈バズーカ! マキシマムドライブ!!〉

「ハァ!!」

「何――ブハァ!!」

「キリト!?」

 力強い声……いや、マダオっぽい声が響くと、ガイアキャリバーの先端から突如眩い砲撃が飛ばされていた。至近距離で飛ばされたことで、キリトも回避できずそのまま落下してしまう。

 この特殊なガイアメモリが、オベイロンことアナザーエターナルの持つ秘策である。

「貴様にはこいつをプレゼントだぁ!」

〈カラクリ! マキシマムドライブ!!〉

 調子に乗った彼は、さらなるメモリを装填していた。今度は聖剣から歯車に酷似したエネルギー波が二つ出現。それを銀時に向かって飛ばしていく。

「いけぇー!」

「くっ……ハァ!!」

 歯車は銀時を囲うように左右に動き、そこから回りだして彼に断続的なダメージを与えている。トリッキーな攻撃を受けて、銀時も吹き飛ばされていた。

「銀さん! 大丈夫か?」

「何ぃ、どうってことねぇよ。そういうお前は?」

「平気だよ。しかしまた、厄介な技を持っているな……」

 予想外の彼の戦法に驚きを隠しきれない二人。共に険しい表情で睨みつけると、アナザーエターナルは高らかに声を上げる。

「どうだ? 僕の開発した聖剣ガイアキャリバーと、T3ガイアメモリは? 中々の強さだっただろ?」

 どうやらこれも自身の開発品だったらしく、よっぽど自信があったそうだ。キリトらの苦戦する姿に、内心では喜んでいる。

 一方の銀時とキリトは、未知数の能力に怯むことなく、三度戦闘態勢を整えていた。

「関係あるかよ! すぐに攻略してやる……!」

「そう簡単に打ち倒せると思うなよ!!」

「まだ抗うか。いい加減諦めろ!!」

 もちろんアナザーエターナルも引き下がることは無い。またも別のガイアメモリを装填していく。

〈ドラゴン! マキシマムドライブ!!〉

「くらえぇ!!」

 今度は聖剣から、龍の全身を模した青きエネルギー波を生成。そのまま銀時とキリト側に向けて攻撃している。

「「ヤァァァ!!」」

 しかし彼らは、難なくそれを木刀や長剣で跳ね飛ばしてこのまま突進してきた。戦闘はさらに激化しそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 一進一退の攻防が続くダークライダーことマッドネバーの戦い。その様子を銅像の影から見守るのは、ユイ、フィリア、新八の三人。特に後者は武器を構えており、いつでも戦闘準備は可能である。いざという時の伏兵役を兼ねていた。

 彼らは劣勢気味の仲間達に、逆転を祈って応援を続けている。

「皆さん……頑張ってください!」

「ここまで追い込まれるなんて……」

「だ、大丈夫ですよ! 銀さん達なら。それにいざという時は、僕が二人を守りますから!」

 一途にも応援を止めないユイ、ダークライダーの戦闘力に恐れおののくフィリア、状況判断を慎重に見る新八と、反応は異なっていた。

 そんな時である。フィリアはあることを新八ら二人に向けて打ち明かしていた。

「あっ、そうだ。ねぇ、二人共。ずっと黙っていたけど、これを見てもらえる?」

「えっ? これって……」

「フィリアさんが見つけたんですか?」

「そう、さっきね」

 彼女が見せてきたのは、煌びやかに輝く小さな結晶である。ダークライダー達にも存在を知られなかった謎の物質。仲間達にも知らせておこうと思い明かしていた。

「そう。銅像の奥に紛れていたんだよ。ひょっとしたらこれが、アイツらの狙う力の一端じゃないのかなって?」

「この結晶に力が……?」

 結晶の正体を遺跡に眠る力と仮定して、フィリアは話を進めている。段々と仲間達もその存在に怪しさを感じていると、ユイはある違和感と一致させていた。

「さっきの波動って、まさか……これ?」

 扉付近や内部にて感じた波動との調和性を感じて、結晶との関連性を疑っている。不思議そうな表情で、興味本位から結晶に触れた時だった。

「ん? うわぁ!?」

「ユイちゃん!?」

 彼女はふと眩い光に襲われて、目をくらませている。新八らは彼女の動向に気付くも、状況は分かっていない。

 ユイの身に何が起きたのか? マッドネバーとの勝負の行方は? この先に待つものとは……?




 今回は苦戦する描写を多く入れて、より強敵らしさを演出してみました。圧倒的な力に銀時達は押されてしまいます。さらには仲間達も敗れてしまい……タイトル通りの結果となりました。叫び声に差別化入れるのがきつかったです。もしかしたら、細かい変更が後であるかも。
 一方でユイにも動きがあって……そこは次回にて明かします。
 ちなみにアナザーエターナルが使用するガイアメモリは、オベイロン自らが開発したメモリです。この他にも色々とオリジナルメモリはあるので、そこにも注目してください!


 とりあえず早足気味でしたが、これにて剣魂は来年に持ち越します! 自分のペースですが、今後もより多く投稿出来るように頑張ります! 今年もコメント等で応援していただいた方々、本当にありがとうございました!! 来年もよろしくお願い致します!


次回予告!

ユイ「やっぱり都市伝説は、本当だったのでしょうか?」

アナザーエターナル「なるほどそういうことか」

フィリア「ここは私が時間を稼ぐから!」

銀時「絶対に行かせるかよ……」

次元遺跡篇八 認められる少女

※銀魂の劇場版も近いので、それまでには特別篇を上げるかも?


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第七十二訓 認められる少女

 去年から続く次元遺跡篇の続きです。今回はあのヒーロー達が間接的に登場します!
 それとふと思ったのですが、模造品とはいえダークライダーの必殺技耐えるキリト達って地味に凄くないですか?
 ……それはさておきどうぞ!



「……ん? ここは?」

 気が付くとユイは、たった一人荒れ果てた平野に佇んでいた。結晶に触れてから間もなくの出来事で、彼女はただ戸惑いを浮かべている。

「さっきまで遺跡にいたはずじゃ……まさか幻覚?」

 何が起きたのか分からず、辺りをあちこちと見渡してしまう、すると彼女は、ある気配を感じていた。

「えっ……これって!?」

 反射的に後ろを振り返るとそこには――金色の鎧をまとった謎の怪人集団がこちらへと近づいている。どの個体も三つ槍を持ち、それをユイに向かって差し向けていた。

「この怪人達は確か……高杉さんを追っかけた時の!」

 ユイにとっては目の前の怪人達に見覚えがあるようである。それはキリトと共にアキバにて、とある事情から高杉を追いかけていた時だった。彼が怪しげな二人組と対峙した時に現れたのがこの怪人達である。

 彼らの正体は機械兵士であるカッシーン。仮面ライダージオウにて登場した量産型の怪人だった。

 いずれにしても、ユイにとって危機的な状況に間違いはない。

「逃げないと……ってうわぁ!?」

 思わず逃げ出そうとするも、前方からもカッシーンに囲まれてしまう。前門の虎後門の狼のように、彼女は絶体絶命の窮地に陥ってしまった。

「だ、誰か……助けて!!」

 ぎゅっと声を振り絞りながら、藁にもすがる気持ちで助けを求める。そしてカッシーンが一斉に攻めてきた――その時であった。

〈ジオウ! ギリギリスラッシュ!!〉

「ハァァァ!!」

 謎の音声と共に、周りを強力な斬撃が襲い掛かる。カッシーンにも影響が出ており、一部の個体は戦闘不能にまで陥っていた。

「えっ……今のって?」

 一変した状況が気になり、ユイは覚悟して前を向いている。するとそこには、全身が黒い謎の戦士が立っていた。

「大丈夫だったかい、君?」

「は、はい! 大丈夫です」

「良かった。ここは俺達に任せるから、君は逃げてて」

「俺達?」

 謎の戦士はユイに話しかけて、彼女の無事を確認する。一方の本人は、その正体を知って内心驚きを隠せなかった。そう彼は――銅像にあった仮面ライダージオウなのである。仮面に付けられた「ライダー」と言う文字が、妙な存在感を放っていた。

「よし、行くぞみんな!!」

 しかも彼だけではない。ジオウの呼びかけと共に、次々と平成仮面ライダー達が戦場へと乱入。各々が得意な戦闘スタイルでカッシーンの軍団に挑んでいた。

「はぁ! うぉりゃゃ!!」

 徒手空拳の戦いを披露するクウガ。

「ハァァ!!」

 音撃棒を用いて次々に打撃を加える響鬼。

「さぁ、ショータイムだ!」

〈チョーイイネ! スペシャル! サイコー!!〉

 奇想天外な魔法でトリッキーに戦うウィザード。

「ここからは俺のステージだ!!」

〈オレンジスカッシュ!!〉

 フルーツの力で相手を切り裂く鎧武。

 どの戦士も個性豊かに戦い、次々とカッシーンを蹴散らしていた。

「凄い……アレがライダーの戦い方!」

 目の前の光景を信じられず、目を丸くしているユイ。多様な戦い方に、次々と驚きを感じているようだ。

 そんな彼女の元に、またも別のカッシーンが襲い掛かろうとした時である。

「「ハァァ!!」」

 今度はジオウとは別の戦士が、ユイを囲うように守ってきた。戦士の正体は、メカニカルな外見が特徴のファイズと、パーカーを羽織った姿が特徴のゴーストである。

「あ、ありがとうございます!」

「何ィ、気にすんな」

「絶対に君を守って見せるからね!」

 ユイはすぐにお礼を言うと、二人からはたわいのない言葉が返ってきた。すると彼らは、休む間もなくフォームチェンジを始めていく。

「さーて、一気に片づけるか!」

〈スタートアップ!〉

「命、燃やすぜ!!」

〈グレイトフル! 剣豪! 発見! 巨匠に王様! 侍! 坊主にスナイパー! ダーイ変化―!!〉

 ファイズは腕にベルトのギアを装填して、一時的な高速状態になれるアクセルフォームに。ゴーストはベルトを変えて、十五人の偉人の力が使えるグレイトフル魂に。各々が状況に応じた姿へと変化していた。

 そのまま彼らは戦いへと赴き、次々にカッシーンの大軍を薙ぎ払っていく。

「姿まで変えられるなんて……しかも強い!」

 戦いを見守るユイも、彼らのかっこいい姿に注目を寄せている。しばらく戦いに見とれていると、再びジオウが彼女に話しかけてきた。

「これがライダーの力さ。誰かを守るために命を懸けて戦える、どんな困難にだって立ち向かえる戦士なんだよ」

「困難に立ち向かう戦士……」

「そう! 君にもその素質があるはずだ。だからこそ俺達は、この遺跡へ君を通したんだ」

「えっ? 素質ですか? それって……?」

 彼の意味深な一言を聞き、ユイがそれを追求した時である。ふと意識が途絶えて、彼女はようやく現実へと戻ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!? 今のは……?」

「どうしたの、ユイちゃん?」

「何かヒントになるようなものが見えたの!?」

 意識がふと戻ったユイは、遺跡にいたことを思い出している。周りには新八とフィリアがおり、彼らは心配そうに話しかけてきた。

「えっと……実はあるものが見えたんです。あの銅像達……いや仮面ライダー達が戦っていて、私のことを守ってくれたんです」

「ライダー達が?」

「そうです。それで私達をここに通してくれたのは、素質があるからだと……」

「素質? もしかしてユイちゃんが扉を開けられたのも、そのライダー達に認められたからなの?」

 ユイは感じたままのことを、仲間達へ打ち明かしている。曖昧だがユイと平成仮面ライダーとの関連性が、薄っすらと見えていた。やはり結晶には彼らの力がこもっているのか?

 より考察を深めようとしたが、そう余裕な時間は残されていない。

「ほぉー、面白いものを見つけているじゃないか」

「えっ!?」

「お前は……リュウガ!」

「いつの間に!?」

 不穏な気配に気が付き、皆が後ろを振り返るとそこには――戦闘を終えたリュウガが立ちはだかっていた。不覚にも結晶の存在を知られてしまい、彼は徐々に戦闘態勢を整える。

「ちょいと暇を持て余してんだよ。戦うついでにそいつを渡してもらおうか!!」

〈sword bent!〉

 カードを召喚機に装填して、彼は片手剣を右手に装着した。それを新八らに向けて差し出すと、ゆっくり距離を縮めていく。

「新八さん……」

「大丈夫だよ。ここは僕が相手するから、その隙に……」

 不安がるユイに対して、新八は安心させるように説得する。そのまま彼も木刀を差し出して、戦闘態勢を見せていた。彼女と結晶を守るために、真剣な表情を浮かべると……予想外な展開に発展している。

「ハァァ!!」

「何!?」

「えっ!? フィリアさん!?」

 なんと不意打ちを突くように、フィリアが片手剣を持ち、リュウガへと襲い掛かってきた。彼女も真剣な表情を崩さず、強気な態度で歯向かっていく。

「私だって一応戦えるんだから! 守ってばかりじゃいられないよ!!」

「フィリアさん……」

「ねぇ、二人共! 私が時間を稼いでいるうちに、結晶を持ってこの場から逃げて!!」

「わ、分かりました!!」

 自らが囮役として果たし、ユイらを逃がすように手伝っていた。フィリアの想いを汲み取り、新八はユイを連れてその場を逃げ出している。ユイも託された結晶を持ち出して、大切に守っていた。

「待て!」

「させないよ!!」

 後を追いかけようとするリュウガだが、フィリアはがむしゃらにも抵抗を続ける。互いの剣がチャンバラのようにぶつかり、拮抗とした状況を作り上げていた。

 一方の新八とユイは、ひとまず出口へめがけて必死に足を走らせる。戦う仲間達もその様子に気が付くが、アナザーエターナルもまた彼らの不審な動きに気が付いていた。

「何故逃げる? いや待てよ……そういうことか! ならば!!」

 訳アリだと察すると、咄嗟にあるガイアメモリを武器に装填していく。

〈キャリバー! マキシマムドライブ!!〉

「まさか必殺技か!?」

「そうはさせるか――!」

 先ほどとは違う彼の動きに、より警戒心を強める銀時とキリト。アナザーエターナルの持つ聖剣には、電撃のようなエネルギーがまとわり、強力な力を蓄えていると思われている。

 だがその狙いが銀時側へ向いていないことは、当の本人達も薄っすらと悟っていた。

「いや、待って銀さん! アイツが狙っているのって」

「……ハッ。そういうことかよ!」

 彼の目線を追っていると、そこには逃げる新八とユイの姿が見えている。即座に仲間の危機へ気付くと、二人は真っ先に走り出していく。

 その異変は他の仲間達にも影響している。

「ハァァ!」

「「フッ!!」」

 ポセイドンの猛攻を耐えた神楽とアスナが、周りを見渡すと銀時らやユイらの動きを目にしていた。

「えっ、アッスー! アレを見るネ!」

「キリト君に銀さん? それとユイちゃんと新八君……って、待って!! これって……」

「やっぱりアル。すぐに向かうネ!!」

 彼女達もアナザーエターナルの動きに気付くと、ポセイドンの戦いを放棄してユイらの方に足を速めていく。仲間達を守るためにも、四人は無我夢中で駆け寄っていた。

「このままくたばれ!! 僕の邪魔者共よ!!」

 そしてアナザーエターナルは渾身の必殺技を解き放つ。眩いオーラをまとった斬撃の技、「キャリバースラッシュ」でユイらに致命的なダメージを負わせようとしていた。

「あっ、ユイちゃん!!」

「えっ!?」

 こちらへと向かう斬撃を察した新八は、ユイを守るようにして彼女を全身で庇っていく。背を向けて傷つくことも覚悟で、守りの態勢に入っている。思わずユイも目を閉じるが……何も異変は起きていなかった。

「ん?」

「一体何が……?」

 訳が分からずに彼らは目を開けて、現状を把握する。そこには、

「銀さん!? キリトさん!?」

「ママ!? 神楽さん!?」

銀時、キリト、アスナ、神楽の四人が武器を用いて斬撃を受け止めていた。銀時、キリト、アスナは剣や木刀を使い力づくで。神楽は傘を開いて、盾のように使用している。

「「「「ハァァァ!!」」」」

 全身全霊で張り合った結果。見事に斬撃は軌道から逸れて、小さく分散して周りに落下。そのまま何事もなく消滅して、ユイらを守り切っている。

「クッ……」

 だがしかし、その代償も大きかった。斬撃を逸らすと同時に、持てる力を全て出し切ってしまう。もはや立つことすらままならず、苦悶の表情を浮かべたまま、彼らはその場に倒れ込んでいる。

「えっ、みんな!?」

「しっかりしてください!! 大丈夫ですよね!? ねぇ!!」

 ユイや新八が咄嗟に呼びかけるものの、彼らからの反応は返ってこない。次第に不安な気持ちが募り、二人には焦燥感が生まれていた。

 一方のアナザーエターナルは、悪びれることなくユイらの元に近づいてくる。

「愚かな真似を。素直に力を渡しておけばよいのに」

 ゆっくりと足を進めていた時、彼の進行を何者かが妨げてきた。

「ん? こやつは?」

 ふと足元に目線を向けると、そこには銀時とキリトが残った力を振り絞り、彼の足を強く掴んでいる。しぶとくも最後までユイらを守ろうと試みていた。

「悪いがこちとらしぶとくてな……」

「絶対に行かせるかよ……」

 苦しそうな小言を呟き、最後まで抵抗の姿勢を見せる。しかしそれは、ほんの気休め程度でしかなかった。

「邪魔だ。とっとと失せろ!」

 アナザーエターナルはすぐに彼らを振り払い、仕舞いには足で全身を蹴り転がしている。良心の呵責など到底なく、もはや人としても見ていない。

「パパ!! 銀時さん!!」

「どんなに呼んでも無駄さ。お前のお仲間はもう戦うことすらできないからな。命があるだけありがたく思うんだな!!」

「お前……!!」

 あまりの外道ぶりを見せる姿に、新八の怒りも限界に近づく。睨みつけるように抵抗心を露わにするが、それでも彼の態度は変わらない。

「さぁ、邪魔者は消えた! さっさと遺跡の力をこの僕に渡せ!! あのお仲間と同じになりたくなければな……」

 手にしたガイアキャリバーの先端を差し向けて、嫌味な脅迫を仕掛けていく。徐々に距離を縮めながら、ユイらに恐怖を与えて冷静な判断を失わせようとしていた。

 肝心の二人は精神を正常に保ちながら、今なお抵抗の意思を見せている。

「何を言おうが、お前の言う通りにはしないぞ!!」

「そうですよ……絶対に諦めませんから!!」

 新八へ続くようにして、ユイも強く声を上げた――その時だった。

「ん? これは?」

 アナザーエターナルはふと、突発的な予感を察している。それが気になり足を止めると、その予感は現実のものになっていた。

「遺跡の力は、私達が守り切って見せます!!」

 力強く抵抗したユイに目線を向けると、なんと彼女の持っていた結晶が光りだしていく。彼女と共鳴するように変化した結晶は、この戦場にも大きな影響を与えている。

「何!? グワァ!?」

「何これ!? うわぁ!?」

 瞬く間にダークライダー達の真横では、銀色のオーロラが出現。このオーロラによって、この場から強制的に退場させられてしまった。

「これは、まさか……うっ!?」

 もちろんアナザーエターナルも、他のダークライダーと同じく強制退場させられる。

「はぁ!? これは……」

「消えただと」

「あのオーロラにか?」

「一体何が起こって……」

 周りの敵が一斉に消え去り、戦っていた仲間達も困惑を示していた。一応きっかけを作ったとされるユイも、何が起きたのかさっぱり分かっていない。

「これは、結晶の力でしょうか?」

 首を軽く傾げながら、彼女は手にした結晶を見つめていく。数分前に見た幻影と重なり合わせても分からず、より謎が深まったとも言える。

 だがしかし、今の彼らにはもっと大事なことがあった。

「って、それよりも! 銀さん! 神楽ちゃん! しっかりして!!」

「パパやママも! 大丈夫ですよね!?」

 気絶した仲間達を元に戻すことである。どれもダークライダー達の猛攻にやられており、傷ついた様子から必死な戦いだったと分かるだろう。

「近藤さん! それにお前らも!!」

「平気か? おい、返事しろ!!」

 諦めずに戦いを続けていた土方や沖田も、近藤やリーファら女子達四人を起こそうとしている。

 いずれにしても、彼らにとって悔いの残った戦いだった。突然起きた奇跡により最悪の事態は回避できたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 一方でオーロラにより退場させられたマッドネバーらは、いつの間にかALO星にある隠れアジトまで戻ってきている。

「おっと……って、一体何だったんだ。今のは?」

「いつの間にかアジトへ戻ってきているし。あの遺跡の力がアタシ達を退けたのかな?」

 リュウガやソーサラーは戸惑いつつも、すぐに状況を把握していた。

「折角の戦いが台無しだな。どちらにしても、俺の有利に変わりは無かったが」

「あの男の絶望した顔も見て見たかったけどね。ところで総帥。次はどうすんだい? あのガキの始末もしてないし、遺跡の力も手にしてないんだから、次元遺跡に戻った方が良いんじゃないかい?」

 ポセイドンやダークキバも同じようなことを呟く。すると後者はオベイロンに向かい、次なる指示を聞いていた。本来の目的も達成出来ず、引き返そうと彼女は提案している。

 しかしオベイロンは、たった今別の目的が浮かんでいた。彼は変身を解き、表情を一変させて高笑いを発していく。

「フッ、ハハハハ!! これは実に面白いことになってきたな!!」

「って、どうしたのさ? 何かいいことでもあったのかい?」

 ダークキバが再び聞くと、彼はにんまりとした表情で想いを発していく。

「あったさ! 恐らくだがあの結晶は、戦えないあのガキと共鳴を得ている! それだけでも充分な収穫さ!」

「ふっ、なるほどな。それにあいつらが遺跡の奥部に行けたのも、あのガキのおかげらしいからな」

「ってことは、あの女の子に秘密が隠されているのね」

 オベイロンなりの解釈だが、結晶に秘められた力とユイとの繋がりに疑いをかけていた。この考え方はダークライダー達も納得して、大方は共感している。すると彼は真っ先に次の作戦に打って出ていた。

「そうと決まれば、新しい計画段階へと進むぞ!!」

「えっ? じゃもう遺跡に行かなくていいのかよ?」

「あの泥棒妖精はどうすんだい?」

「アヤツなどもうどうでもいい! それよりもあのガキだ! 遺跡の力と共鳴している分、僕が根こそぎ奪ってやるからな!!」

 フィリアの抹消や遺跡への介入を中止して、本格的にユイを今後の組織の標的として定めている。もちろん結晶にも執着して、自身の計画性を強めていた。彼の表情はより不気味な笑みを浮かべていく。

「……まぁ、いいや。どうせ力が手に入るならどっちだっていい」

「そうね。じゃ念入りに計画を組み直さなきゃね」

「だな」

 突然の路線変更に、ダークライダー達も特に異論は無い。あくまでも利害の一致で協力しており、力さえ手に入れば問題は無い。彼らも変身を解いて、独自に作戦を組み直していく。

 銀時らとの邂逅で、最終目的へと近づいたマッドネバーの一味。ALO星の国家転覆及び、平成仮面ライダー達の力を手に入れるために躍起となっている。人々が知らない間に、常軌を逸した計画が物静かに進められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこちらは、必殺技を堪えた途端に気絶した銀時、キリト、アスナ、神楽の四人の一幕である。

「うぅ……ここは?」

「銀さん? 一体どうなったんだ、俺達は……」

「分からないネ。ここはどこアルか?」

「どこって言われても……」

 彼らはふと目を覚ますと、辺りを隈なく確認していた。不穏そうな表情で様子を伺うも、近くには仲間はおらず、代わりに何の変哲もない工場がポツンと建っていた。

「ここって工場なの?」

「はぁ? 遺跡じゃねぇのか?」

「何でいきなり工場前にいるアルか!?」

「もしかして、俺達が見ているのは幻覚なのか……?」

 ここに至るまでの経緯が分からず、つい戸惑いを浮かべている一行。さらなる困惑を深めていたが、キリトは早くも幻覚だと察している

 慎重に場を見定めていた一行だが、咄嗟に工場前ではある異変が起き始めていた。

「おい、アレ見ろよ」

「アレ? えっ!?」

「あの戦士って……!?」

 銀時の呼びかけと共に、次々と異変に気付く仲間達。彼らが偶然にも目にしたものは――数多の怪人達に挑み戦う、平成仮面ライダー達の姿である。

「ハァ! トウァ!」

 慎重に武術を用いて戦うアギト。

「ウェェイ!!」

 醒剣ブレイラウザーで相手に斬撃を与えるブレイド。

「ハッ、フッ!」

 自慢の速さで格闘戦を展開するカブト。

「キバっていくぜ!!」

 蹴り技を中心に攻めを続けるキバ。

「これで決めるよ!」

「あぁ、任せろ!」

〈サイクロン! マキシマムドライブ!〉

 風の力を身にまとい、強力な蹴り技を与えるW

「タイマンはらしてもらうぜ!!」

〈ロケット! オン!!〉

 頭突きや拳で型のはまらない戦いを展開するフォーゼ。

「行くぞ、ベルトさん!」

「OK! これで決めよう!」

〈ヒッサーツ! フルスロットル!!〉

 超高速を展開して、連続して攻撃を与えるドライブ。

「勝利の法則は決まった!!」

〈ボルティックアタック! イェーイ!〉

 兎と戦車の力を合わせて有利に戦うビルド。

 その他にも平成仮面ライダー達は独自の戦闘スタイルで、戦いを展開していた。怪人達を圧倒する光景は、まさに圧巻と言えよう。

「す、凄い……」

「アレが平成ライダーの戦い方か」

「どれも奇抜アル」

「どっからあんな力が湧き出ているんだよ……」

 キリトや神楽らも、次々と現れるライダーの戦いを目で追っている。銀時も口を開いたまま驚きの表情を浮かべていた。

 数分前のことなど忘れて、皆がこの戦いに見とれていると、ある意外なライダーが彼らに話しかけてくる。

「決まってんだろ! 大切なもんを守るその気持ちだよ!」

「ん? アンタは……?」

「赤い戦士?」

 威勢の良い声を聞き入れて、アスナらはその戦士に目線を向かせた。彼の正体は……平成仮面ライダーが一人、電王である。フォームはモモタロスが憑依したソードフォームだ。

「何!? 俺様を知らねぇのか、お前ら!!」

「知らないネ、誰アルか。おっさん」

「おっさんじゃねぇ! 電王だ! もしくはモモタロス様と呼べや!!」

 出会い頭で彼は激しくも自己主張を始めている。神楽が適当に返すも、より反発しながら応対していた。

「って、随分と激しいライダーだな……」

 キリトも引き気味に呟いている。

「威勢の良さはヅラに似ているがな」

「ヅラだと!? こちとら髪の毛なんて元から無ぇんだよ! 喧嘩売ってんのか!?」

「だから! そういうこと言ってんじゃないのよ!!」

 さらには銀時からの例えには、電王も真に受けていた。攻め立てる彼の姿に、アスナもタジタジになって宥めている。

 と会話が続く中で、電王は突然ある意味深な一言を発してきた。

「まぁ、それはいい。一応この際だ。お前等には一つ大切なことを教えてやろう」

「おい、なんだよ急に?」

「大切なこと?」

「そうだよ。まだ完璧とは言えないが、お前らやその仲間にも意思を貫く強さがあることは承知したぜ。今後次第だが、俺達の力を託しても悪くはなさそうだな」

 どうやら銀時やキリトらの強さを認めているようで、最後には力の譲渡もちらつかせている。仮面で表情は分からないが、その様子は先ほどとは違って落ち着いていた。

「えっ!? それってどういうこと?」

「俺達に力を貸してくれるのか?」

「おい、もっと簡潔に説明しろよ!」

 徐々に電王の伝えたいことが分かってくると、彼らは一斉に動揺してしまう。

 さらなる説明を求めたその時である。

「おっと! 時機に分かるんだよ、それが! とにかくお前らは、自分がやるべきことに全力で取り組め!」

「おい、お前! うわぁ!?」

「これは……?」

 そう言い残した電王が再び戦いへと戻った途端、場は眩い光に包まれてキリトらに襲い掛かってきた。彷徨う意識の中で垣間見えた、平成仮面ライダーとの邂逅。彼とのメッセージを汲み取り、彼らは再び現実の世界へと強制的に戻されてしまう。

 果たして電王が伝えていた力の譲渡とは一体……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな平成仮面ライダーとの邂逅は、彼らだけではなかった。

「うぅーん……ここは?」

「シリカ? アタシ達どうなって……」

「ナー……?」

 同じく意識を彷徨っていたシリカやリズベットも、気が付くと工場付近にて目を覚ましている。辺りを見渡しつつも状況を確認するものの、まったく分かっていない。戸惑っているうちに、ふと仲間達の声が聞こえてきた。

「私達もいるわよ」

「シノンさん? リーファさん?」

「って、一体何があったの?」

 近くには同じく目を覚ました、リーファとシノンが声をかけてくる。彼女達も自分らに何が起きたのかさっぱり分かっていなかった。

 共に様子を伺いながら動きを止めていた時である。

「うわぁ!?」

「キャ!?」

「ナ!?」

 突如爆発音が鳴り響き、四人は一斉に防御の姿勢を構えていた。警戒心を高めていると、彼女達の元にとある戦士が流れ込んでくる。

「えっ!? 龍騎さん?」

「エグゼイド!?」

 その正体はシリカが銅像のイメージから見た龍騎と、リズベットがイメージで見たエグゼイド。

「オ、オーズ!?」

「ディケイドよね……?」

「なんでライダー達が……?」

 さらにはリーファがイメージの中で目にしたオーズと、シノンがイメージで触れたディケイドの計四人の戦士が現れていた。彼らは各々の武器を用いて、怪人軍団へ果敢に挑み続けている。女子達の存在には気が付かず、四人間で会話が続いていく。

「絶対にこのまま負けるかよ!!」

「あぁ、俺達のゲームはまだ終わっていない!!」

 しぶとさを意気込む龍騎やエグゼイドに、

「手が届く限り、俺達がその手を掴む!!」

「何度倒れようとも、立ち上がり戦う。それこそが俺達、仮面ライダーの使命だ!!」

 それに同調するオーズとディケイド。誰一人として弱音を吐くことなく、何度追い込まれても諦めずに戦う意思を示していた。

 この根気強さはシリカらにも少なからず影響を受けている。

「絶対に諦めない心……」

「ナー……」

「それこそがあのライダー達の強さなの?」

「今の私達にも言えることよね」

「そうだね……諦めないことが強さの証なのかもね」

 自分が不覚にもダークライダーに負けてしまったこと。ギリギリの戦いを強いられていたこと。悔しさを交えつつも彼女達は、あの平成仮面ライダー達の諦めない姿に心を動かされていた。自分の戦いや失敗を見つめ直しつつ、間接的に背中を押されている。

 そう無意識に勇気づけられた時であった。

「「ウッ!?」」

「「うわぁ!?」」

 彼女達にも眩い光が襲い掛かり、意識が現実世界へと戻されている。僅かな時間の中で四人も、銀時やキリトらと同じく平成仮面ライダーの影響を受けていた。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

「しっかりしてください、銀さん!」

「大丈夫ですよね、パパ!」

 一方で現実世界の次元遺跡では、新八やユイらが倒れ込んだ仲間達へ必死に呼びかけを続けている。心配でたまらずに、無我夢中で声掛けに注ぎ込んでいた。

 そんな最中で、土方と沖田の二人は冷静に状況を分析している。

「どうやらただ意識を失っているようだな」

「命に別条がないだけ不幸中の幸いですねぇ……」

 神妙な表情で気を失っているだけと予見していた。ユイらと比べると落ち着きを取り戻しているようにも見える。

「後は目覚めてくれるだけだが……」

「きっと大丈夫ですよね。それに近藤さんは起きることが確定してやすから」

「なんでそんなことが分かるんだよ?」

「アレを見てくだせぇ」

 すると彼らは、同じく気絶している近藤の姿にも注目を寄せていた。

「お妙さん……待ってくれ! 俺のハニー!!」

 なんと彼は呑気にも、妙との交流を続ける幸せそうな夢に浸っている。明らかに他のメンバーと比べると、浮きまくっていた。

「……なんでこの状況で、一番場違いな夢見てんだよ」

「近藤さんだからですよ。あの人にとっちゃ、恋の方が一大事ですからね」

「せめて真面目な夢にしてくれ」

 普段通りの様子には、土方や沖田も若干だが呆れている。酸っぱげな表情を共に浮かべていた。

 それはさておき、いよいよ仲間達も現実へと戻りだしていく……。




 圧倒的な力の前に、皆さんやられてしまいました。突然発生したオーロラによって、最悪の事態は回避できましたが、それでも悔いが残る戦いだったと思います。戦力差を埋めるには、まだ努力が足りないのでしょうか……。
 しかし、彼らは絶対に諦めません! 必ずやマッドネバー達にリベンジを果たします!是非とも彼らのリベンジにも注目をしてください!


 ちなみにですけど、今回ピックアップされたファイズとゴースト。この両作品の共通点が、後の展開のヒントになっているかもしれません。察しの良い方はお気づきでしょう。

 次元遺跡篇も予定では後二訓。このまま次回の長篇である妖国動乱篇に持ち越します!

 それと明日銀魂の映画に行ってきます!! 思いっきり楽しみです!!







次回予告

リズベット「なんでアタシ達、勝てなかったの……!」

フィリア「落ち込まないでよ! みんなは出来ることをしていたよ!」

ユイ「この結晶が皆さんを守ってくれたんですよ」

銀時「あのライダーの言う通りかもな」

沖田「急にどうしたんだよ」

リーファ「えっと、沖田さんにお礼を言おうと思って……」

????「あなた方にこの一件をお願いしてもよいでしょうか?」

次元遺跡篇九 新たなる道

天の道を行き、全てを司れ!


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第七十三訓 新たなる道

 今回は次元遺跡篇の最後の訓です! と言っても引き継ぎの関係で、一応次回の話までが最後なのですが。そんな細かいことはどうでも良いです! 戦いを通じて生まれた彼らの心境の変化にも注目してください! では、どうぞ。


「ん……? うぅ……」

「アレ? ここは?」

「パパ! 銀時さん!」

 気を失った仲間達に呼びかけを続けて早数分。ユイらの声に気付いた銀時やキリトらは、徐々に目を覚まして体を起こしていく。多少の傷を負っているとはいえ、普段通りの様子にみな安心感を覚えている。

「良かったぁー。とりあえず一安心ですよ」

「えっ……って、私達ずっと倒れていたの?」

「あの赤いライダーはどこネ!? いやそれより、マッドネバーは!?」

 その一方で気を取り戻したアスナや神楽らは、何が起きたのかさっぱり分かっていない。幻想の中で見た光景と、現実で起きた出来事が微妙に混ざっているそうだ。

 やや混乱している彼女達に、ユイが優しく事の顛末を教える。

「えっと、実はあの後に透明なオーロラが現れて、マッドネバーを全員追い払ったんですよ」

「オーロラ? そんなことがあったのか?」

「なんとまぁ、絶妙な奇跡に助けられたこった」

 信じがたい展開に思わず耳を疑うキリトと銀時。微妙な表情を浮かべるも、さっきまでいたはずのオベイロンやダークライダーが周りにいない分、素直に話を括るしかない。

 ユイに続いて新八も声を上げる。

「もしかしたら、あの銅像のライダー達が助けてくれたのかもしれませんね。僕達の危機を察知して」

「確かに……そうかもしれないわね」

 さりげの無い彼の一言にアスナも思わず頷いていた。と優しく呟いた時、ふと神楽は新八へ強烈な視線を向けていく。

「ふーん、そうアルか」

「ん? どうしたの、神楽ちゃん?」

 態度を一変させた様子が気になり、彼が不思議そうに伺うと――

「ホワチャー!」

「グハァ!?」

なんと何の前触れもなく、神楽は新八の腹部にストレートな拳をぶつける。不意打ちをモロに受けた彼は、驚いた表情でようやく事態を把握していた。

「って、急に何するの!? 意味もなく腹パンってどういうこと!?」

 反射的に怒りをぶつけるも、神楽からは不機嫌そうな表情で別の怒りが飛ばされる。

「うるせぇアル! お前私達が命懸けで戦っていたのに、ほぼ無傷って舐めてんのか!? コンニャロー!」

「それは仕方ないでしょ! 僕だってユイちゃんとフィリアさんを守る使命があったんですから!」

 どうやら彼女は、戦いに不参加の新八に文句があるそうだ。本人も反論するも、神楽はメタな視点からも責め立てていく。

「今更言っても後の祭りネ! 読者にも感想欄でツッコまれていたアルよ! 「あの眼鏡はなんで戦わない?」って!」

「そこは言わないお約束でしょ! 僕だって、ちょっと気にしているんですからね!」

「はいはい、二人共落ち着いてって!」

 感想欄も巻き込み口喧嘩が激しくなりそうになった時、近くにいたアスナが二人の間に割り込み落ち着かせていく。理由は分からずとも、この争いを鎮めようと徹している。

 戦いが終わった途端のグダグダな光景は、遠くで見ていた銀時やキリトも口々に呟く。

「寝起き早々、よく元気戻せるな。アイツは」

「まぁ、いつも通りで俺は安心するけどな」

 同じように彼らも、普段と変わらぬ様子に安心感を覚えていた。とそれはさておき、二人は数分前に見た幻想についても話を交わしている。

「ところで、銀さん。気絶している時に、奇妙な幻を見なかった?」

「幻? もしかして、あのライダーのことか?」

「そうだね……やっぱり何か意味があると思わないか?」

「そりゃ、あんなくっきりと見えて、何も無い方が可笑しいだろ」

 僅かな時間の中で目にした平成仮面ライダー達との邂逅。一瞬とは言え、その光景は今でもはっきりと覚えていた。

「幻って……?」

 この話を耳にしたユイも、薄らと興味を持っている。様々な謎が重なり、より気になることも増えてきていた。

 一方のシリカら女子達も、時を同じく気を取り戻している。

「今のって……」

「アレ? 戻ってきた?」

「ナ……」

 ほぼ同じタイミングで四人とピナは、眠りから目を覚ましていた。すると近くにいたフィリアが、心配そうに駆け寄ってくる。

「みんな! 大丈夫だった!?」

「フィリア? ……特に大丈夫だよ」

「多少の怪我をしたくらいかしら……」

 浮かない表情のまま、四人はまばらに自身の状態を確認していた。体のあちこちには黒ずんだ痕やかすり傷が残され、酷い場合には赤い傷跡まで付けられている。仮想世界とは異なり肉体と一体化しているため、現実的な負傷が至る所に見受けられた。

 肉体的な痛みを感じる彼女達だが、それよりも精神的な痛みがよっぽど大きいらしい。

「そうなんだ……ごめんね。私も早々に覚悟が出来ていれば、みんなを助けられたかもしれないのに」

「いいや、フィリアのせいじゃないわよ」

「そうですよ。アタシ達がもっと上手く立ち回れていれば……」

「みんな?」

 突如として四人は悔しそうな表情を浮かべて、抱えていた想いを吐き出していく。

「変身しているとはいえ、私達よりも何倍も強かった……」

「今まで努力したことが、まるで嘘みたいに通用しなかったなんて……」

「ナ……」

 シノンやリーファに続き、シリカやリズベットもさらに表情を曇らせている。ピナも同調するように重いため息を吐いてしまう。彼女達にとっては敗北が屈辱的で、どうしても納得がいかなかった。何よりもこれまでの努力を発揮できず、太刀打ち出来なかったことが悔しいのである。

 各々の精神的な痛みは、フィリアが想像するよりも計り知れない。

「みんな、落ち込まないでよ! あのオベイロンってヤツのせいで、能力も封じられたんだから、不利だったのは仕方ないことだよ! それでも勇敢に立ち向かっているみんなの方が凄いと思うよ!」

 あまりにも重い空気に耐えきれず、フィリアは咄嗟に励ましをかけてきた。これで少しでも風向きが変われば良いが、

「ありがとうね、フィリア。当然よ……ここで諦めるわけにはいかないのよ!」

「えっ!?」

彼女が思ったよりも雰囲気はあっさりと変わっている。女子達は次々に気持ちを振り切らせて、今度は前向きに想いを発してきた。

「次こそは絶対に勝ってみせます! アタシ達の力で!」

「ナー!」

「悔しいままでは終わらせないわ。絶対に攻略するわ!」

「そ、そうだよ!」

 皆が揃って対峙したダークライダーへのリベンジを誓っている。悔しさや迷いを引きずらず、スムーズに気持ちを切り替えていた。これも幻の中で出会った平成仮面ライダーが関係しており、内心でもその覚悟の深さが垣間見えている。

(諦めない限り、勝機はあるのよ!)

(あのライダーさん達が教えてくれました……!)

(その為にも私達が進む道は決まっているわ!)

 意思は強く結ばれて、頑なに示されていく。ただしリーファだけは、三人とは異なり迷いがあるようだが?

(これで合ってるのかな?)

 薄らと生じているが、偶然にも仲間達には気付かれていない。

「みんな……うん! 私も応援するから!」

「よし! 早速帰ったら、武器を鍛え直さないと!」

「アタシのもお願いします、リズさん!」

 フィリアも元気を取り戻した彼女達に一安心している。彼女の後押しで意気込むリズベットやシリカは、武器の強化に一層のやる気を高めていく。

「あのソーサラーの魔法にどう立ち向かおうかしら……」

 シノンも次なる戦闘に向けて、ソーサラーへの魔法対策を練っていた。ふと考え込んでいると、彼女は未だに迷うリーファの様子に気が付いている。

「ん? どうしたのリーファ?」

「あっ、いやなんでもないわ! 気にしないで、ハハ」

「あぁ……そう」

 気になり声をかけたが、本人の返答からつい一歩引いていた。あまり追求せずに、この場は様子見する。

 そんな再起を図る女子達に、なんだかんだ見守っていた土方や沖田も一安心していた。

「すんなり立ち直ったな。まだメンタルがやられると思ったが」

「案外心は強い方かもしれやせんよ。土方さんと違って」

「って、誰が豆腐メンタルだよ!?」

「ほら、そういうところ」

「うっせぇ!」

 会話の最中では相変わらずのやり取りが交わされる。それでも二人の想いは同じだった。その一方で沖田は、一際様子が違うリーファが気がかりである。

(あのブラコン、まだ何か抱えてんのか?)

 内心にて気に掛けていた時だった。

「待ってくれ、お妙さん! 最終回だから、俺と結ばせてくれぇ!」

 タイミングが悪く、近藤が眠りから目を覚ましている。しかも緊張感など無い幸せな夢からの帰還だ。明らかに他の仲間達とは温度差が違う。

「アレ? ここは……」

「おぉ、近藤さん。ようやく起きたか」

「お前ら!? って今まで俺は?」

「今までも何も、ずっと寝てやしたよ」

「何だと!? じゃあのプロポーズは全部夢だったのか!?」

 先ほど命がけで戦った人間とは思えない振る舞いである。あまりのマイペースさに、仲間の土方や沖田からも気を引かされていた。

「近藤さん……よくもそんな呑気な夢を見ている暇があったな」

「少しは空気を読んでくだせぇよ」

「えっ……!?」

 彼が全ての事態に気付くのもまだまだ先だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員の調子が戻ってから数分後。万事屋、真選組、女子達、フィリアと計十四人と二匹は、これまで起きたことを整理しつつ、今後の目標や行動について考え始めている。

「とりあえず。一旦戦いは終わったが、事態はまだ続いているってことか」

「そうだね。マッドネバーはまだ諦めないし、この結晶も狙ってくるだろうね」

 銀時の問いにフィリアがそっと答えていく。無論マッドネバーは偶然退けただけで、その脅威が収まらないのは確かである。結晶も知らされており、狙いへ来ることは明確だろう。特に万事屋は結晶と平成仮面ライダーとの関係に注目を寄せている。

「あいつらが執着するなら、このライダー達とも関係がありそうだけどな」

「絶対に渡すわけにはいかないわね」

 キリトやアスナもこれを守り抜くことを堅く決めていた。

 そして女子達の方は、ダークライダーへのリベンジが誇示される。

「どっちにしろ、このまま負けたままじゃ納得いかないわよ!」

「そうね。次こそは絶対に勝つわよ!」

 諦めない強さを糧にして、さらなる強さを目指そうとしていた。当分の目標が決まった瞬間でもある。

 そんな意気込む彼女達に、沖田ら真選組は緩やかに宥めていた。

「まぁまぁ、落ち着いてくだせぇ。また戦うにしても、まずは休息が前提でさぁ」

「だな。奴等もここに戻るかもしれねぇからな。その前には遺跡を出るか」

「そうですね。元の世界へ戻ってから、対策を立て直しましょう」

 彼らの提案に新八もそっと頷く。再び戦闘が起きる前に、この場を脱することで考えが一致していた。

「よし。ならば扉まで戻るか!」

「了解ネ! あーあ、戻ったら夕食にしたいネ」

「って、神楽さんは食い意地貼りすぎですよ」

「これが私流アル!」

 会話が一旦終わると共に、神楽は早速食べ物のことで頭が一杯になってしまう。シリカからツッコミを入れられるも、素直に割り切っていた。

「そんじゃずらかるか」

「みんな。途中ではぐれるなよ」

「パパと銀時さんについてきてください!」

 そして銀時とキリトを先頭に、一行は遺跡奥部を後にしていく。悠然と佇む平成仮面ライダーの銅像に見守られながら、長い冒険に幕を下ろそうとしていた。

 

 

 

 そこから更に縦長な道を歩むこと数分。とある異変に神楽は気が付いている。

「アレ? リッフーはどこに行ったアルか?」

「リーファさんですか?」

 そう、彼女の後ろをついてきていたリーファが、目を離した隙に姿を消していた。神楽の一言をきっかけに、仲間達も次々にリーファの行方を気にしていく。

「えっ? いないの?」

「てっきり、ついてきているものだと……」

 フィリアやシリカらが辺りを見渡すも、近くにいる気配は無い。皆が立ち止まって改めて仲間の有無を確認すると、姿を消した者がもう一人いた。

「おい、トシ。総悟もいなくなっているぞ」

「はぁ? なんでアイツまでいなくなっているんだよ」

 なんと今度は、近藤らの後ろにいた沖田もいなくなっていた。二人だけがいなくなり、一行は徐々に疑いを強めていく。

「おいおい。最後だってのに、何やってんだよあの二人は。兄貴もちゃんと見張っていなきゃ駄目だろ?」

「いやいや、それは俺の責任なのか? 確かに不十分だったかもしれないけど」

 軽口を叩くように、銀時はキリトに対して理不尽な小言をぶつけていたが。不意の一言により、彼は返答に困ってしまう。

 いずれにしても、仲間が離れたことに一段と困惑する一行。捜索しようかと考えていた時、一足先に神楽が声を上げてくる。

「キリのせいじゃないネ! きっとあのドSが、またリッフーをいじめているに違いないアル! ちょっと見てくるヨロシ! 待っててネ、みんな!」

「か、神楽さん!?」

 いても経ってもいられずに、彼女はそう言い残して走り出した。万が一のことを考えて、沖田が何かやらかした時に制裁を加えようとしている。

 颯爽と走り去る彼女に、ユイら仲間達はただ見ているだけであった。

「えっと、とりあえずここは神楽に任せる?」

「そうしましょうか。沖田さんを止められるのも、神楽くらいだし」

「そうですね!」

 そして場の雰囲気を読みながら、結局は神楽にこの件を一任している。リズベット、シノン、シリカと、次々に賛成していく。誰よりも沖田に慣れている神楽に頼るそうだ。

「しばらくはここで待機か」

「あいつらが喧嘩にでもなったら、何時間かかるのやら」

「なるべく穏便に済むといいけど」

「大丈夫だと思いますけど……」

 それでも不安が拭えない仲間達もいる。特に銀時やアスナは喧嘩の泥沼化を危惧していたが。いずれにしても、もう後の祭りである。

 一方で神楽は、近辺を捜索中に早速二人の姿を発見していた。

「あっ、いたネ!」

 遠目で見えたのは、リーファと沖田が向かい合う光景。さながら会話しているようにも見えるが。とりあえず声をかけることにした。

「おい、ドS! リッフーに何を吹き込んで……」

 と自ら話に割り込もうとした時である。

「ありがとうね。沖田さん……!」

「えっ!?」

 神楽はふと立ち止まり、咄嗟に彼らの死角である壁際に身を潜めた。幸いにも神楽の存在は気付かれていないようである。

「何か込み入った話をしているネ?」

 彼女は密かに感じていた。今までの二人とは何かが違うと。真剣そうな雰囲気に気を引かせている。このままそっと耳を傾けて、二人の会話に聞き入っていた。

「なんだよ、急に。こっそり連れ出してまで、礼を言いたかったのかよ?」

「そうでもないんだけど、今の内に言っておこうと思って」

 一方で二人の雰囲気はこれまた異様である。沖田は変わらず素っ気の無い態度を続けているが、リーファは慎重な面持ちで自信の想いを伝えていた。その想いとは、助けてくれた時のお礼である。

「ダークキバと戦っている時に、手助けしてくれてありがとうね。沖田さんの助けが無かったら、それこそもっと危ない目にあっていたかもしれないし……」

「そうかい。まぁ、大したことじゃないでさぁ」

「それで、沖田さんにどうしても聞きたいことがあったの」

「聞きたいこと?」

「うん。どうしたら、そんなに強くなれるの?」

 会話が進むにつれて、彼女は疑問を沖田にぶつけてきた。彼自身が持つ強さの秘訣。強大な力を持った夜兎にも張り合えた底力。これがどうしても知りたくて、リーファは内緒で沖田を連れ出したのだ。

 彼女は質問に後付けするように、もどかしくも理由を付け足していく。

「悔しいんだけど、沖田さんの方が私よりも上手だし……何倍も実力は上だと思う。だから知りたいの! どうやったら沖田さんみたいに強くなれるの……!」

 そう言った通り、悔しげな表情で沖田に返答を差し迫る。リーファの強い想いを汲み取ったのか、彼はそっと笑ってから自分なりの答えを返していく。

「そうですねぇ。まずは土方を夢の中に出して、何度もそのクローンを切り刻んで……」

「そうじゃなくて! ボケはいいから、真面目に答えてよ!!」

「分かってやすよ。何ぃ、簡単なことでさぁ。自分の守りたいものや譲れないもののために戦えばいいんですよ」

「守りたいもの……」

 途中にボケを挟んだが、すぐに修正してその本音を伝えている。沖田が告げたのは実にシンプルなものだった。だがそれは、個の強さだけではなく自分の気持ちも大切だと間接的に教えている。

 この返答でリーファが再び考え込むと、沖田は適当な言葉で事を切り上げようとした。

「そこはお前にお任せしやすよ。仲間とか兄貴とか黒髪V字とかゲーム廃人とかが当てはまるじゃないですかい?」

「って、後半ほぼお兄ちゃんじゃん! どこまでネタにするわけ!?」

 それでも小さなボケは欠かさず入れていたが。すぐにツッコミで返すリーファを見ると、沖田も少なからず安心感を覚えていた。

「まぁまぁ。とりあえずはそこからですよ。人ってのは大切なもんを持つと、思いがけない力を発揮するらしいんでねぇ」

 そう言って場を跡にする沖田の後ろ姿を見て、リーファも反射的に声を掛けようとした時。彼はふと立ち止まり、後ろを向いたまま最後に一言だけ声をかけていた。

「あっ。言い忘れてやした。一応言っておくと、お前の剣筋は悪くは無かったですよ」

「えっ!? それって……」

「後は自分次第だ。頑張りな」

 何とも沖田には似合わない一言である。突然の褒め言葉には、リーファも思わず驚きを隠せていなかった。より真意を深掘りしようとするも、話す言葉が見つからずに会話は終わってしまう。場に一人残された彼女は、彼の言葉を真に受けてふと考え込んでいく。

(いちいち言葉はむかつくけど、そんなに悪い人じゃないのかも……。私の剣術も見てくれていたし)

 悩み込む表情を浮かべて、沖田に抱いていた印象をだいぶ変えていた。もちろん今まで受けた仕打ちから嫌悪感は変わらないが、それでも新たな一面を知れたのは事実である。嫌みを叩きつつも、しっかり努力は見てくれる人だと理解していた。

(守りたいものや譲れないもの。やっぱり沖田さんの強さはそこなんだ。私にもあるんだから! 絶対に守りたいものが!)

 僅かに感じた彼の優しさを汲み取り、リーファはようやく気持ちを前向きに変えていく。表情もいつの間にか晴れ晴れしくなり、雰囲気も明るさを取り戻していた。この戦いを通して彼女は、本当に守りたいものを理解していく。

 そんな彼女の変化に気付かず、沖田は仲間の元へ戻ろうとしている。すると彼は、壁際に隠れていた神楽を発見していた。

「ん? チャイナ、そこにいたのか?」

「いやー。良いもの聞かせてもらったネ。まさかリッフーを励ますなんて、予想外アル!」

「別に大したことはしてねぇよ。俺はただ本音を言っただけでさぁ」

「またまた~! 本当は心配してたんじゃないアルか!? 素直じゃねぇんだから!」

 鉢合わせするや否や、神楽は面白がるようにからかいを加えている。もちろん挑発も交えており、沖田はその冗談をすんなりと真に受けていた。

「おい、おちょくるのもいい加減にしろよ……何ならこの場で、決着でも付けようか?」

「おぉ、上等ネ! こちとらお前と違って、平成ライダーから激励を貰ってんだよ! 今の私じゃ、全然負ける気がしないアル!」

「関係ないだろ、そこは」

 ほんのちょっとしたきっかけで、彼らのライバル心は再燃していく。共に相手を睨み付けつつ、場違いにも喧嘩の準備を始めていた。あまりにも突飛的だが、二人にとっては当たり前の出来事である。

 この騒ぎを察して、ようやくリーファは神楽の存在に気が付いていた。

「神楽ちゃん!? って、二人共!? 喧嘩は止めなって!」

 咄嗟に声をかけて、対立する二人の間に割り込んでいく。共に沈静化するまで数分ほど時間がかかったそうだ。

 

 その後は無事に仲間達の元へ戻ったのだが、帰りが長かったせいであらぬ疑いをかけられたのは言うまでもないだろう。

「もしかして、リーファ。沖田さんに告白したとか!?」

「んなわけないでしょ! あり得ないに決まっているじゃん!!」

 あまりの荒唐無稽さにリーファ本人も思わず顔を赤くしてしまう。

「えっ、告白!? マジアルか!?」

「おい。てめぇは最初から見てただろうが。今更おちょくんな」

 当の本人達にも思わぬ被害が続いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして再び一段落すると、一行は出口付近まであっという間に到着している。

 元の世界へ戻る前に、フィリアと万事屋は改めて遺跡から持ち出した結晶について話し合っていた。

「この結晶のことだけど、俺達が持っていても大丈夫か?」

「えっ? でもそれじゃ、マッドネバーに狙われるかもしれないよ!」

「それで良いんだよ。お前だけに荷を負わせるわけにはいかねぇだろ。もし襲ってきたとしても、返り討ちにしてやんよ」

「その頃には、万事屋の調子も戻っているからナ。今度は返り討ちするネ!」

 マッドネバーの狙いを踏まえて、万事屋が代わりに結晶を所持すると提案している。最初こそ乗り気では無かったフィリアだが、キリト、銀時、神楽と次々に説得されると次第に考えを変えていく。

「分かった。それじゃ結晶はアナタ達に託すよ」

「ありがとうございます、フィリアさん!」

 彼らの意思を尊重して、手にした結晶をユイに手渡していた。すると結晶はさらに光り出して、まるで共鳴するように輝きを増していく。

「見れば見るほど、不思議な結晶だな」

「そうね。あのライダー達とも繋がりがあるかも知れないし」

 キリトやアスナも結晶の変化をまじまじと見張っている。より平成仮面ライダーとの関連性を疑っていると、銀時は調子の良い一言を発していた。

「あわよくば、ライダーの力も借りれるかもしれねぇからな。いや絶対に借りたいな」

「ちょっと、銀さん。そう簡単にやましいことは言わないでくださいよ」

 それはただの願望論であり、思わず新八からはツッコミを入れられている。それでも夢のある妄想は捨てきれないそうだ。

 一方でアスナら女子達は、フィリアの今後についても聞いている。

「ところで、フィリアちゃんはこれからどうするの?」

「そうだね……まずはALO星に帰って、一連のことを伝えたいけど、この扉からだと地球に行っちゃうから。どうしようか?」

 ひとまずは元の星へ帰りたいが、扉の特性故に少々手間が生じるらしい。帰還方法に困っていた時、リズベットらはすかさず真選組に手助けを薦めてきた。

「こういう時こそ、真選組の出番なんじゃないの?」

「俺達か?」

「そうですよ! 幕府の力で、フィリアさんを送ることは出来ないんですか!?」

「ナー!?」

 幕府の融通を利かせて、フィリアの帰還を手伝えないか提案している。実際には可能だが、それでも気乗りしないのが現状であった。

「まぁ、出来なくはねぇな」

「だがしかし、とっつあんの許しが貰えるかどうか……」

 はっきりしない返答を聞くと、今度はリーファとシノンが念押ししてくる。

「もし許しが貰えたら、きっとお妙さんは見直してくれるわよ」

「そうだよ! 近藤さん、ここは腕の見せ所よ!」

「何!? 本当か……?」

「本当に決まっているでしょ!」

 彼が思い焦がれる妙も話題に入れて、おだてるように説得させる。この執拗な言葉責めが効いたのか、近藤は徐々に自信を高めていった。

「そ、そうか! ならば頑張るしかないな!」

「さらっとやる気になるなよ」

「どんだけ単細胞なんですかい」

「別にこれで姉上は変わりませんよ」

「言いように弄ばれているネ、ゴリラ」

 あまりの変わり様に、仲間達からも呆れの声が飛び交う。特に新八は目を細めつつ、非情な現実へ叩きつけていた。それでも近藤のやる気がそがれることはなかったが。

「「「「よし!」」」」

 一方で後押しした女子達は、皆ガッツポーズを見せていく。してやったりで、作戦成功を節に喜んでいた。

「やりましたね、フィリアさん! 真選組の皆さんが送ってくれるって!」

「えっとこれは、素直に喜んでいいのかな?」

「良いのよ! おこぼれには預からないと!」

 フィリアは苦笑いで遠慮するが、すかさず女子達がフォローを入れてくる。真選組の思い入れの違いから、その反応に異なりが生まれていた。

 とほぼ全員が今後の道筋を決めたところで、ようやく戻る準備が完了している。

「それじゃ、皆さん! 戻りましょうよ!」

「あぁ、そうだな。俺達が今いる世界に!」

 扉に付けられたドアノブに手をかけて、彼らは元いた世界へと戻っていた。結晶を守り切る為に。ダークライダーにリベンジするため。元の星へ帰還して、事の経緯を警告するため。皆が出来る精一杯の為に、それぞれが新たなる道へ進もうとしていた。

 皆が扉をくぐり抜けて、銀魂の世界にある電話ボックスから抜け出した――その時である。彼らの目の前には予想外の人物が佇んでいた。

「ん? 誰か、目の前にいるアルよ?」

「誰って……ゲッ!? アイツ!?」

 そうその正体は、神出鬼没でおなじみの桂小太郎だった。隣にはエリザベスもついてきている。

「か、桂さん!?」

「桂じゃない桂だ! って、アレ? 合っているか。というか、なぜお前らが電話ボックスから出てきたのだ!?」

[まさか、ドッキリか?]

「いや、ちょっと訳があってな。それよりなんで桂さんが?」

 キリトらが冷静に受け答えするも、やはりツッコミどころしかない。何よりも帰還した直後に指名手配犯の人物が出待ちしていたというだけでも、可笑しいことこの上ないだろう。そして何よりも、桂との遭遇はある方々にとっては格好の餌なのである。

「何、桂か!?」

「本当だ! こんなところで出会うとはな!!」

 それは桂を指名手配している真選組の面々だった。見かけると同時に、彼へ狙いを定めていく。

「真選組だと!? 奴等までいたとは。こうしちゃいられん! おい、エリザベス! ヅラかるぞ!」

[任せろ!!]

「待てぇ、桂!」

「神妙にお縄へつきやがれ!!」

 一方の桂も真選組を目にして、反射的に場から走り去っていく。エリザベスの背中に乗せられながら、道路付近を駆け抜けていた。そんな二人を追いかけるように、土方ら真選組の面々も走り出す。

 全員が電話ボックスから抜け出した時には、もう彼らの姿は見えなくなっていた。

「い、行っちゃった……」

「まさか桂さんとここで出会うなんて」

「ていうか、大丈夫なの? 遭遇しちゃって」

 桂の行く末に不安がる女子達だったが、銀時はそんな不安すらも一蹴していく。

「まぁ、ヅラならなんとかなるだろ。悪運だけは強いし」

「確かにそうですね……」

 根拠の無い一言だが、どこかみんな納得していた。もはや何が起きても大丈夫だと察してしまう。そう思った矢先である。

「おーい、桂さん! もうそろそろ、遺跡に入れるってよ!」

「ん? クラインか!?」

 なんと今度はクラインが一行の前に現れていた。突然の仲間との再会に、皆は驚嘆としてしまう。もちろんクライン本人もそうなのだが。

「ありゃ? なんでお前らがここに来てるんだよ?」

「それはこっちの台詞よ! アンタもなんでこの山に来ているのよ?」

「そりゃ遺跡見学に決まってんだろ! 桂さんから頼まれて、ずっと混み具合を様子見していたんだぜ! それで桂さんがどこへ行ったか知らないか?」

 どうやら話を聞いてみると、彼らは空川町にある方の遺跡へ見学に来ただけらしい。随分とシンプルな目的である。

 けれでも一行が驚いたのは、クラインの偶然な強運だった。いや、悪運と言っても代わりは無いだろう。

「……お前も悪運は強いんだな」

「はい? いや、なんでみんな頷いてんの!?」

「知らぬが仏アルよ」

「いや、余計分からねぇんだけど!!」

 桂が真選組に追われていることなど知らず、一行はしみじみと彼の悪運を痛感していた。クラインにとっては何が起きたのかさっぱり分かっていないが。

 こうして紆余曲折はあったが、一行は何事も無く元の世界へとようやく帰還できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時は過ぎていき、約一週間が経過した頃。フィリアは真選組の伝を通して、無事に故郷であるALO星及びアルンへと帰還。特別に快速専用の宇宙船に乗せてもらい、特に問題も無く元の生活へと戻っている。

 さらにフィリアは、自身の身に起きたこと(マッドネバーやオベイロンの陰謀)を王女側の妖精達に報告していた。国家転覆を目論むテロ組織の存在は、ALO星の王女ことフレイアの耳にも届き、早速信頼を寄せる専属の騎士団を自室に呼び出している。彼女らにも事の経緯を説明していく。

「今日皆さんを呼び出したのは他でもありません。実はこのアルンを狙って、暗躍しているテロ組織があると民からの情報が入りました。偵察部隊が調べた結果、町外れの洞窟に身を潜めているようです。あなた方にこの一件をお願いしてもよいでしょうか?」

「もちろんです、姫様! この僕達六人が、必ずや悪を成敗して見せます!!」

 依頼を騎士団に委ねた途端、そのリーダーの女子が元気のある一言で返答している。彼女に引き続き、近くにいた仲間達も同じように頷いていた。強い正義感を垣間見せながら、皆凜々しい表情を浮かべている。この意識の高さに、フレイアも一安心していた。

「では、頼みましたよ」

「任してください! よし、みんな行こう!」

「もちろん!」

「さっさと片付けようぜ!」

「頑張りましょう!」

 そうフレイアから後押しされると、六人は互いに声を掛け合い、指定された洞窟まで勢いよく駆け出す。刀剣や大盾、大剣に両手槍、ハンマーや杖と六人は各々が得意な武器を装備して、戦闘態勢を万全に整えていく。

「あの六人なら、大丈夫なはずです……」

 頼りがいのある後ろ姿を目にして、フレイアも再び安心感を覚えている。彼女らの健闘を静かに微笑みながら祈っていた。フレイアの送り出した騎士団の正体とは……?

 

 

 

 

 

 

 一方でちょうど同じ時刻の頃。オベイロンらマッドネバーが潜む町外れの洞窟では、とうとうクーデターに向けた決起集会が執り行われていた。

「ハハハ……! 遂にこの時が訪れたぞ!! この僕がALO星の支配者に成り代わるこの日が!! 僕を認めない愚かな妖精共と、のうのうと権力にふんぞり返る王女に、目にものを見せてやろうじゃないかぁぁぁ!!」

「グロォー!!」

「オー!!」

「エイヤー!!」

「ギギギ!!」

 壇上にてオベイロンは、私怨を交えた演説を力強く語っている。その表情も迫真さを極めていた。彼の熱意に賛同するように、集結した怪人達は唸り声を高らかに発していく。

 洞窟内に潜む怪人達は皆、オベイロンの手により欠片から復元されたいわば再生怪人である。強靱な戦闘力を持つグロンギ。超能力者を抹殺するアンノウン及びエルロード。鏡の世界を行き来するミラーモンスター。全身が灰色に覆われたオルフェノク。不死能力を持つ動物の始祖アンデッド。自然界に潜む魔化魍。擬態能力を持つワーム。高い実力を誇る未来の怪人イマジン。吸血鬼の如く生命体を襲うファンガイア。ガイアメモリにより変身した化け物ドーパント。人の欲望から生み出されたヤミー。星座をモデルにしたゾディアーツ。人々を絶望に陥れるファントム。独自の植物を操るインベス及びオーバーロード。重加速能力を持つロイミュード。偉人をモチーフとする眼魔。ゲームの悪役に酷似したバグスター。特殊なガスにより改造されたスマッシュ。他にもライオトルーパーやカッシーンなどの戦闘員部隊も復元されており、これまでにも歴代の平成仮面ライダーを苦しめた強敵が、マッドネバーの戦力として配属している。彼らの目的もオベイロンと同じく、ALO星とその中心街アルンの制圧である。

 そんな圧巻とも言える禍々しい光景に、夜兎や辰羅が変身したダークライダー達も驚きに満ちあふれていた。ちなみに彼らは既に変身した後である。

「って、いつの間にここまで復元したんだよ」

「ざっと見て五十体は超えているな。都市の制圧に関しては、申し分ない戦力だろう」

 リュウガやポセイドンはあまりの怪人の多さに感服していた。後者によれば、これだけの人数でも都市の制圧はたやすいと言う。

 一方でダークキバやソーサラーは、とあることが気になっていた。

「アレ? そういえば、アイツに味方していた妖精達はどこに行ったの?」

「あぁ、あの人達か。オベイロンによると、ついさっきミラーワールドへ封じ込めたらしいよ」

「えっ? そうなの?」

「自分が頂点に立つから、もうすでに用済みらしいよ。幸いにも私達は魔力が元々無いから、対象外らしいけどね」

「うわぁー、可哀想。やっぱりアイツ、クズじゃん」

「何を今更。分かりきっていたことでしょ」

 僅かにオベイロンの考えに賛同していた妖精の仲間達だが、どうやら彼らは真っ先に前線から外されたらしい。しかもソーサラーによると、鏡の世界であるミラーワールドを作り出して、そこに仲間をまとめて幽閉しているという。全ては自分がALO星の頂点に立つために。何のためらいもなく、僅かな仲間にすら簡単に裏切ってしまう。あまりの卑劣さに、そばにいた亜由伽ことダークキバもどん引きしている。

 そんな陰口にも一切気付かず、いや聞き入れずにオベイロンの独裁的な考えはさらに強まっていく。そのまま彼は今後の作戦を発表していた。

「これより作戦を発表する! 僕と幹部怪人部隊aと一般怪人部隊、戦闘員部隊aはアルンの襲撃に向かえ! どんな妖精であろうと、倒さずにミラーワールドへと幽閉させろ! 奴らの魔力も奪い去り、二度と抵抗できないようにするのだ! そしてダークライダー部隊と幹部怪人部隊bと戦闘員部隊bは、あのガキの連れ去りを命じる! いるとされる地球まで向かい、何としても捕まえてこい! いいかお前ら!! 抵抗する者を全てねじ伏せて、この僕が正しいことを証明するのだ!!」

 と大まかに分けると、都市の制圧とユイの連れ去りが最初の目的である。未だに平成仮面ライダーの力を諦めきれず、その関連が強く疑われているユイにも容赦のない一手を加えようとしていた。

 このまま順調に集会が収まろうとした――その時である。

〈バーン!〉〈ドガーン!〉

「な、なんだ!?」

 連続してアジトの入り口付近から、大きい爆発音が鳴り響いていく。突然の出来事にオベイロンも戸惑いの表情を浮かべている。皆がその入り口付近に注目していると、警備をしていた一体のカッシーンが内部へ逃げ出すように姿を見せてきた。

「オベイロン様! 何者かがこのアジトに襲撃を仕掛けて……ぐわぁ!?」

 と言いかけた途端、またも大きな爆発がカッシーンに襲いかかる。同時に後ろの燃えさかる炎からは、大勢の人影が薄らと浮かんでいた。

「何が起こっている……?」

「おや、あいつらは?」

 人影の正体を追うダークライダー達は、早くも彼らの正体を把握していく。そう考えを巡らせているうちに、凜とした男性の綺麗な声が場に聞こえてくる。

「久しぶりだな。しばらく見ないうちに、面白ぇおもちゃが増えているじゃねぇか。俺にも遊ばせてくれよ……!」

「た、高杉晋助!?」

 その通り。この爆発を起こした正体は、高杉晋助及び鬼兵隊の面々であった。彼らは以前にオベイロンの一派から喧嘩を売られており、その貸しを返しにわざわざALO星まで向かったのである。全てはオベイロンやマッドネバーに復讐を果たすため。アジトまで侵入して、堂々と宣戦布告を果たしている。

 対するオベイロン本人は、咄嗟の乱入により開いた口が塞がらず、しばらく体を固めてしまった。

「このタイミングで鬼兵隊の乱入か」

「なんだい。面白いことになってきたじゃないか」

 一方のダークライダー達は、鬼兵隊の乱入に少しばかり面白みを感じている。思わぬ対峙が実現しそうで、戦闘に強く渇望していた。

 対する鬼兵隊は、オベイロンの作り出した怪人軍団に驚きを示していく。

「なるほどな。この怪人軍団こそが、奴らの狙いだったのか」

「結局私らは利用されただけってことすか!?」

「そのようですね。ならば私達が後始末をしなければ。一応喧嘩も売られていますからねぇ」

 万斉、また子、武市と次々に思ったことを発していく。元々は正式な契約の元で合意した取引相手。それがいつしか相手側が裏切り、仕舞いには数週間前のような抹消未遂事件に発展するほど両者の関係はこじれていた。いや、元々互いに信頼など無かったと言う方が正しいのかもしれない。いずれにしろ鬼兵隊は、黙って見ている訳にもいかず、文字通り彼らの売った喧嘩を正々堂々と受けることにした。上記の三人のみならず、ついてきていた武士達もまた同じ気持ちである。

 するとオベイロンもようやく事態を把握していく。咄嗟に不気味な笑みを浮かべて、高杉らに話しかけてきた。

「……何と! こいつはたまげた! 用なしとなった君達が、今更僕に何の用だ!?」

「フッ、簡単さ。売られた喧嘩を百倍へ返しに来ただけだ。こちとら黙っている訳にもいかなくてな」

 煽り気味に会話する彼に対して、高杉は一切目線をずらさずに淡々と受け答えしていく。どちらも同じ声質のように聞こえるが、それはただの勘違いであろう。

 するとオベイロンから真っ先に仕掛けてきた。

「そうか。何とも義理堅い連中だ。だったらすんなりと受け入れてやろう。この僕が! 邪魔なお前らに引導を渡してやろうか!」

〈エターナル!〉

 力強くアナザーエターナルウォッチを握りしめて、上部のボタンで起動していく。それを胸元に当てていき、禍々しい光と共にアナザーエターナルへと変貌を遂げたのだ。

「アハハハ! これこそが僕の最高傑作だぁ!! さぁ、この僕に勝てるかな!?」

 同時に現れたガイアキャリバーを強く握りしめて、その先端を高杉に向けて差し出していく。自分が作り上げた偽りの強さに、よっぽどの自信があるようだ。

 対して高杉は彼が変身しても一切動じてはいない。ただただ冷静に受け答えしていく。

「そうかい。喧嘩かと思いきや、ちと違ったらしいな。この大群でドンパチやるなんざ、戦争と言った方が性に合っているな」

 そう発すると彼は目をより鋭く睨み付けて、こちらも帯刀していた刀を引き抜き、オベイロンことアナザーエターナルに向かいそれを差し向けていく。

「オベイロン。一つだけお前に言っておく。喧嘩だろうと戦争だろうと……俺達に売った時点でてめぇらはしめぇだってな!」

 その言葉を合図にして、鬼兵隊は揃って武器を手に取り……このまま敵軍に向かい突進していく。

「行くぞ」

「おう」

「任せるっす!」

「「「おりゃゃ!!」

 対するマッドネバー側も即座に応戦していく。

「やれぇ、野郎ども!」

「やれやれ」

「仕方ないな」

 彼の指示の元、ダークライダーやライオトルーパー、カッシーンが鬼兵隊と勢いよく衝突している。互いの信念がぶつかり、クーデター直前に思わぬ戦いが勃発してしまう。

 さらにはマッドネバーのアジトには、フレイア直属の騎士団も向かっていた。

「……僕達が姫様の使命を果たすんだ!」

 ALO星ではさらなる戦いが始まろうとしていた……!




 これにて長篇の前篇とも言える次元遺跡篇は幕を下ろします。次回の長篇に向けて、大いに事態が動き出しました。

 フィリアから結晶を請け負った銀時やキリトら万事屋一行。未だに謎が残るユイと遺跡との関係。ダークライダー達にリベンジを誓うシリカやリズベットら女子達と、近藤ら真選組の三人。遂にクーデターを実行させるオベイロンらマッドネバー。そして彼らへ報復を仕掛けてきた高杉達鬼兵隊。早くも役者たちが揃いそうです……。

 さらに今回は、ALO星の姫様としてフレイアが初登場しました! SAO本編ではキャリバー編にゲスト出演したキャラですね。ここで注目していただきたいのは、彼女に従える六人組の騎士達。僕と名が付くと、察しの良い方はお気づきかもしれませんね。

 ちなみに今回の話の細かいポイントとして、リーファの描写にこだわりを入れています。彼女は他のキャラと比べて、命懸けの経験を初めてしたので、それも踏まえて戦う意味を改めたのです。守るべきものが出来た彼女の成長にも注目してください!
(本作品はアリシが始まる前の時系列なので、その過程を含めていないのでご了承ください)

 さて次回は今後の戦いに向けた特訓回? をお送りします。

次回予告

シリカ「みんなで強くなるんですよ!」

リーファ「戦いは乗りで決まるのよ!」

銀時「急にどうした、お前ら」

キリト「特訓なら俺達も手伝うよ」

クライン「ちょっと待ったぁ! 俺達も入れさせろ!!」

桂「俺、参上! さぁ、最初から最後まで――」

銀時「言わせねぇよ! お前らをクライマックスにさせてやろうか!!」

妙「あらあら。だったら私達、超鉱石女(ダイヤモンドパフューム).netに任せなさい!」

アスナ「若干名前が違うような……?」

高杉「てめぇの好きにはさせねぇよ」

アナザーエターナル「それはどうかな!?」

???「そう、僕らは姫様直属の騎士団! そして僕がそのリーダー――!」

次元遺跡篇十 実力アップグレート

そして次回! 妖国動乱篇、最重要人物を発表!!


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第七十四訓 実力アップグレート

 皆さんお久しぶりです。色々と忙しくて、投稿が遅くなってしまいました。三月ももしかすると、一、二回しか投稿できない予定です。ご了承ください。
 さて今回は銀さん達の特訓回!……ですが、書いていくうちにわちゃわちゃした日常回のような雰囲気になりました。伏線もあまりない回ですが、ゆるーくご覧いただくとありがたいです。
 そして最後には、あのキャラが登場致します! それでは、どうぞ。
追記 ダイパリメイクを記念して、前々から言っていた剣盾小説を作りたいです。



「えっ? アレからずっと、ここで特訓しているんですか?」

「そうなのよ。みんなすっかり熱が入ってね。道場にも入り浸っているのよ」

 妙の一言に新八も思わず驚いている。どうやらシリカ、リズベット、リーファ、シノンの四人が、日々恒道館に集まって特訓を行っているそうだ。

 次元遺跡を訪れてから、早一週間が経過した頃。マッドネバーとの邂逅で、彼らの心には変化が生まれていた。敗北の悔しさや、無意識の中で見た平成仮面ライダーの激励。様々な要因が重なり、さらなる原動力に繋がっている。

 その証拠にシリカら女子達は、自分を変えようと努力を続けていく。

「ほら、あの通りよ」

「……本当だ」

 妙に案内されて、新八が道場の内部を見ると……そこでは激しい特訓が繰り広げられていた。

「今です! ハァァ!!」

「ナー!!」

 互いのタイミングを合わせて、新技の練習を続けるシリカとピナ。試行錯誤を続けながら、逆境を打破する新技の完成を急いでいる。

「セイ! ハッ!」

「まだまだ!!」

 一方でこちらは、激しく模擬戦でぶつかるリーファとシノン。実戦を意識しつつ、弱点を克服する戦いを目指していた。

「みんな! 武器が鈍ったら、すぐに言ってちょうだい! 超高速で鍛え直すから!!」

 そしてリズベットは、ひたすらに仲間達の武器を鍛え直している。鍛冶屋としての役割を、ここぞとばかりに発揮していた。

 四人ともに真剣な表情を見せており、その本気度の高さは遠目でも伝わっている。

「凄い……ここまで熱中しているなんて」

「流石は超パフュームの一員ね。これくらいしぶとくないと、後継者には相応しくないもの」

「いやいや……いつそんな約束を交わしたんですか? 絶対嘘ですよね?」

「さぁ、どうかしら」

 さり気ない願望を口にした妙に、新八も見逃さずにツッコミを入れていく。ボケを挟みつつも、彼らが女子達の本気に感化されたことは変わりない。

 しばらく特訓を見守っていると、新八は待ち人の存在を思い起こしていく。

「そういえば、銀さん達って来ているんですか? もう先に到着しているはずだけど」

「あら、万事屋なら揃って庭に集まっているわよ」

「庭?」

 先に恒道館へ向かった銀時らの行方を聞くと、もうすでに来ているらしい。

 新八は気になって、言われた通りに一人で庭へ向かった。

「銀さん、キリトさん。そっちももしかして、特訓しているんですか?」

 近づくうちに声をかけると、こちらも予想外の出来事が起きている。

「「魂ボンバー!!」」

「……はぁ?」

 なんと庭には、銀時と神楽がとあるライダーの必殺技の構えを、意気込んで披露していた。二人へ続き、キリトやアスナも恥ずかしそうにポーズを取る。ちなみに肝心のポーズだが、両手を前に突き出した某ジャンプ主人公の決め技と酷似していた。

「こ、こうか?」

「違う、違う! もうちょっと腰を下ろせ! 話はそれからだ!」

「てか、これで本当に強くなれるの?」

「自分を信じるネ、アッスー! 想いを込めれば、きっと出せるようになるネ! 魂ボンバー!!」

「そうだぞ、俺に続け! 魂ボンバー!!」

「「た、魂ボンバー……」」

 傍から見ても分かる両者の温度差には、新八も思わず呆れ返る。銀時と神楽は熱中して再度ポーズを構えるも、キリトやアスナは気乗りせず真似するだけだった。認識や熱意の違いから、場の雰囲気はどこか異質さを放っている。

 当然新八もこれに耐えられず――

「何をやってんだぁぁぁぁ!! アンタら!!」

存分に激しいツッコミをお見舞いした。いつも通りグダグダな雰囲気で、万事屋は再会を果たしている。

「し、新八か?」

「おぉー、いつの間に来ていたアルか」

「ちょうど良いな。ほら、お前も参加しろ。魂ボンバーを習得するぞ」

「何をさらっと流しているんですか!! 完全にネタでやってるでしょうが! ここは吉本の養成所じゃないんですよ!!」

 合流してもなお、銀時らの態度は相変わらずである。さも当たり前のように接して、新八にも誘いをかけてきた。当の本人はツッコミが激しくなるばかりだが……。

 そんな指摘も気にせず、銀時や神楽は普段通りに反応していく。

「誰がピン芸人だよ。そもそも俺達はなぁ、至って真面目にやっているんだぞ」

「そうアルよ。このかめはめ……魂ボンバーも、マッドネバーを倒す為の秘策アルからナ!」

「今完全に本音を言いかけたよね!? やっぱりかめはめ〇を意識しているじゃねぇか!」

 会話を交わすうちに、神楽は無意識にも本音を漏らしてしまう。やはり彼の予想通りに、有名な某ジャンプヒーローを意識していた。分かりやすい小ボケである。

 一方で新八が気になったのは、しぶしぶネタに付き合うキリトやアスナの心境だった。

「というか、キリトさんやアスナさんもなんでボケに参加しているんですか!?」

 ツッコミ気味に聞くと、二人は苦い表情で返答していく。

「実はな……ユイがノリノリで真似していてな」

「どうしてもつられちゃったのよね……」

「ユイちゃんが?」

 二人の言う通りにユイのいる方へ目を向けると、

「魂ボンバー! 魂ボンバー!」

そこではノリノリで練習する彼女の姿があった。その純粋無垢な健気さから練習を断れず、空気を読んでキリトらも加担したらしい。

「ほら、可愛いだろ」

「ユイちゃんが頑張っているから、私達も参加しないと――ね!」

「ねじゃないですよ! 可愛く言ったって、誤魔化されませんよ!」

 穏やかな表情で説得するも、もちろん新八には通じない。結局は二人の親バカさが露呈しただけだった。

「子供の夢を応援する。まるで保護者の鏡だな」

「流石はキリアスネ! 微笑ましい光景は見守るのが筋ネ!」

「アンタらはフォローしなくていいから! こういう時だけ、キリトさん達に味方するのは止めてくださいよ!! 僕のツッコミが持たなくなりますから!!」

 仕舞いには銀時や神楽も、キリトらを調子よく援護していく。もはやツッコミ役が新八しかおらず、彼は次第に疲れを感じ始めていた。

 これ以上負担を負わない為にも、ここは無理にでも話題を変えていく。

「とにかく! 皆さん大真面目にやってくださいよ!! 僕らは結晶も所持しているわけだし、いつマッドネバーが襲っても可笑しくないんですよ! いざという時に備えて、しっかり鍛え直してください!!」

「分かっているから。ここまでは前振りだろ」

「どんだけ長い前振りだよ。もう三千文字も消費しているだろ……」

 言いたいことはまだあるが、彼の呼びかけで万事屋は新八に注目を寄せている。魂ボンバーの練習をしていたユイも、仲間達の元に戻っていた。ようやく集結すると、そのまま話は続く。

「とりあえず、もう魂ボンバーはいいですから。ちゃんと特訓してくださいよ。シリカさん達も頑張っているんだし」

「了解しました、新八さん!」

「特訓たって、そんな地味なこと誰がするかよ。ただでさえ需要が無いのに、残り七千文字もそれで持つのかよ?」

「そんな裏話はもういいですから! そもそもジャンプと小説が違うんだし、きっとやっても問題ないですよ!」

 アスナやユイらの反応は普通だが、またも銀時が文句をぼやいている。メタ要素を踏まえつつ、特訓回への地味さを危惧していた。

 だが一方で、キリトらは気持ちを入れ替えて、スムーズに特訓の準備を進める。

「うん。でもまずは、一旦やってみましょうよ。戦うことで気づくこともあるだろうし」

「そうだな。それじゃ一人ずつ模擬戦をやってみるか」

「分かったネ。じゃキリ! 早速私と対戦するネ!」

 話はとんとん拍子で進み、無難にも模擬戦で一致している。簡単に実力も分かるので、神楽は早速キリトへ勝負を申し出ていた。

「ほら、銀さんも!」

「ったく、仕方ねぇな。そんじゃアスナと戦ってみるか」

「もちろんいいわよ。徹底的にやるから、本気でかかってきなさい!」

「はいはい、そう躍起になるなよ」

 場の雰囲気に乗っかり、銀時はアスナに勝負を申し込む。新八の後押しはあれど、未だに気乗りはしていないが。アスナは対照的にやる気が高まっている。

 この活気さのまま模擬戦を始めようとした――その時だった。

「ハーハッハッ!! この俺の手も必要みたいだな!」

「ゲッ! この声はまさか……」

 ふと聞こえてきたのは、聞き覚えのある甲高い男性の声。皆がその正体を察すると、目の前には二人の男性が勢いよく正体を見せている。

「「トウ!!」」

「桂さんとクラインさん!?」

「このタイミングでですか!?」

 もちろん彼らの正体は、大方の予想通り攘夷党の桂小太郎とクラインだった。神出鬼没な彼らの登場に、アスナやユイも驚きの声を上げている。対照的に銀時らは、面倒さを感じていたが。

 それはさておき、桂とクラインはここへ来た経緯を簡単に話していく。

「その通りだな。新八君を追いかけてみれば、どうやらみんな揃って修業をしているではないか。是非とも俺達も参加させてもらおうか」

「いや、図々しいだろ。そもそもなんでついて来ているんだよ。暇なのか?」

「細かいことは気にするなよ! こういう時こそ、俺達の力を借りろっての!」

「別にそんなもん、必要としてないネ。野次馬はとっとと帰るアル」

 彼らによると、偶然にも新八を見かけて恒道館まで来たらしい。話をこっそりと聞いて、自信満々に協力を持ちかけるが、銀時や神楽の反応は否定的である。新八やキリトでさえも、微妙な反応を示していた。

「と言われてもな……」

「もう特訓内容も決まりましたし」

 しばらく歯切れの悪い反応が続くと、桂達はさらなる一手へと進めている。

「ならば、仕方ない。この俺達も奥の手に出るか」

「奥の手ですか?」

「どうせただのハッタリじゃねぇのか?」

「フッ……そう言えるのも今のうちだぞ。俺達は馬鹿には出来ない強さを手に入れたのだからな!」

「そうだぜ! これを見ろ!!」

「あ、あれは……?」

 無理にでも注目を集めると同時に、桂はクラインにあるものを手渡していた。それを彼は腰に巻いて、さらに小さな図鑑っぽい小物を手にしている。

「攘夷活動黙示録!」

「ん?」

「はい!?」

 小物からは男性の声が鳴り、万事屋一行は薄々嫌な予感を察していた。特に銀時ら三人が。不安さが漂う最中で、クラインは黙々と事を進めていく。

「とある紅蓮をまとった侍が、異世界の侍と出会い、己を高める痛快劇!」

 始まりを告げる前置きが、小物から発せられると、彼はそれをベルトに差し込んでいる。と同時にベルトから、小さい剣を引き抜いていた。

「烈火抜刀! オォーウォーウォー! ジョウイザムライ!! 烈火一冊! 炎の侍と火炎刀(仮名)が交わるときに、攘夷の魂が真っ赤に燃え盛る!!」

 文字通り抜刀した途端、ベルトと小物からはさらなる効果音が鳴り渡る。そう彼は、某聖剣に選ばれた戦士の変身シーンを披露していた。もちろん姿は変わらないが、桂共々満足げな表情を浮かべている。

 肝心の万事屋一行は、揃って困惑した表情を浮かべていたが。

「って、感じだな!」

「どうだ! これで強くなったみたいだろ……」

 そう意気込んで、理由を話そうとした時だった。

「何も変わってねぇじゃねぇかぁぁぁ!!」

「「ブヒォォォ!!」」

 不意にも銀時が勢いよく彼らに近づき、ドロップキックが如く捨て身のツッコミを浴びせていく。もはや呆れを通り越して、怒りを覚える始末である。

「誰がてめぇらのチンケな変身シーンを見せられなきゃいけないんだよ!! 思いっきり時間を無駄にしたじゃねぇか! 付き合った俺が馬鹿だったよ!」

「そう言うな、銀時よ。お前は覚えていないのか? 俺の物真似を褒めてくれたではないか。あの時の言葉は嘘だったのか!?」

「お前のその発言が嘘だろうが! 勝手に虚構を作り上げるなよや!!」

 必死に銀時を宥めようとする桂だが、すぐに嘘だと見破られて、あえなく返り討ちにあう。不毛な応酬が繰り広げられた後、今度はクラインが説得に躍り出ていた。

「どうだ……これで少しでも元気が出たか、銀さん」

「元気どころか殺意が生まれたわ! もうてめぇらまとめて殴っていいよな!?」

「ちょっと待てよ! その前に俺の変身はどうだったよ? あの決め台詞も自分で考えたんだぜ。感想を聞かせてくれよ!」

「感想云々より、なんで令和ライダーの変身を選んだよ!? 俺達が今コラボしているのは、平成ライダーだぞ!!」

 厚かましくも感想を急かし、余計に火へ油を注いでしまう。銀時のツッコミも激しくなるばかりだ。特に彼は題材とのズレを大きく気にしている。

「そこはもう軽く目を瞑れ。気にすることでもない」

「いや、ファンの方が気にするんだよ! せめて平成の方から真似しろや!!」

 毎度のことながら、疲れる相手だと改めて実感していた。

 そんなツッコミに明け暮れる銀時の姿に、万事屋の仲間達は思うことをそのまま呟いている。

「銀時さんも大変そうですね。いちいちツッコミを入れるなんて」

「いやいや、大したことじゃないアルよ。新八に比べたら、マシネ」

「って、マシってどういうことですか」

 ユイ、神楽、新八と続いて、キリトやアスナも発している。

「結局クラインと桂さんがやりたかったのは、一発芸なのか?」

「うーん、モノマネじゃないかしら? ヒーローっぽいベルトも巻いていたし」

「キリトさん、アスナさん……多分どっちもだと思いますよ」

 特に元ネタを知らないキリトらからすれば、銀時の言い分もあまり理解していない。直感からヒーローものだと推測している。ある意味で正解なのだが。

「とにかくお前らは恒道館から出ろ! ここは人力舎のオーディションじゃねぇんだよ!」

「お、落ち着け銀時。俺達にそんな意図は……」

「そうだぜ! おふざけはしたが、本気で協力したくて……」

 一方で銀時は、所かまわず桂達を追い返そうとしている。怒りのままに力づくで行使しようとした――その時だった。

「道場で騒ぐな! この馬鹿男共!!」

「な、ブフォォ!?」

「「グワァァ!?」」

 なんと彼らの言い争いを止めるべく、突如として妙が乱入してくる。彼女は勢いのままに飛び蹴りをお見舞いして、銀時らを揃って廊下の端まで吹き飛ばしてしまった。

「あ、姉上!?」

「突然のお妙さん登場ですか!?」

「これはまた……」

 何の前触れもなく現れた妙には、新八やユイらも困惑めいた表情を見せている。思わず声をかけようとした時、さらなる仲間達が駆けつけてきた。シリカら女子四人組である。

「お妙さん―! 大丈夫?」

「もちろん平気よ。これでやかましい男共は、すぐに息の根を止めたわ」

「って、それは流石にやりすぎですよ!?」

「ナ……」

 物騒な例え方には、リーファやシリカ、さらにはピナまでも気を引かせていた。ツッコミを入れつつも彼女達は、近くにいたキリトらにも話をかけてくる。

「ん? あっ、キリト達じゃない」

「みんなか。そっちも確か特訓していたんだよな」

「そうね。途中でお妙さんが立ちはだかったんだけど、予想以上の強さで驚いたわ」

「えっ? そんなにお妙さんって、強かったんですか?」

 密かに気になった特訓の概要を聞くと、リズベットやシノンから妙との激闘が語られていた。キリトやユイはあまり想像が出来ず、言われてもしっくりきていない。より深堀りしようとした時、妙自らがその真相を語り始めていた。

「当然よ。なんせ私は、かぶき町の女王だもの……」

 そう怪しげな笑みを浮かべて、彼女はどこからともなく取り出したベルトを、腰に巻き始めている。

〈コウドウドライバー!〉

「えっ? またベルトなの!?」

「まさか姉上も……」

 何やら先ほどの桂達と同じ匂いがするが、もはや止めることさえできない。万事屋が唖然となる中、彼女の変身動作は黙々と続く。

〈ダークマター!〉

「男をひれ伏すのはただ一人……私よ!」

 某ギャグがお得意の社長らしき決め台詞を発した後、四角形型のアイテムを鍵状に変化させて、それをベルト開放部分に装填していった。

〈プログライズ! No one can survive from this dish! クッキングお妙!! I am, number one〉

 やけに発音の良い変身音が流れたところで、妙は変身――

「まぁ、変身はしないんだけどね」

「いや、分かっていますよ! むしろ変身する方が稀ですから!」

するはずが無い。こちらも気分だけで変身ポーズを披露したようである。

 ネタとも言える変身ポーズだが、女子達は何故か恐れを抱いてしまう。

「お妙さんが変身……考えただけでも恐ろしいです」

「ナー……」

「多分私達じゃ太刀打ちできないね……どう頑張っても」

「そんなに絶望的なんですか!? どこまで姉上にやられたの!?」

 シリカやリズベット、ピナまでもがさらなる恐怖に陥っている。新八のツッコミなど気にしてすらいない。もはや本気なのか、はたまたネタなのか分からなくなる始末である。

 ちなみに妙の強さは、キリトやアスナも少しばかり気になっていた。

「……物真似はともかくとして、お妙さんってそんなに強かったのか」

「見くびらない方が良いアルよ、キリ! なんせ姉御は乙姫なり怨霊なりにも、一発大きいのぶち込んだことがあるからナ!」

「ねぇ、神楽ちゃん。もうちょっと、良い例えは無かったのかしら……」

 自信満々そうに神楽が言葉を返すが、アスナは反応に困る始末である。半信半疑の彼女だったが、それが全て事実なのは思いもしないだろう。

 披露された変身ネタに反応していると、彼らは忘れかけていたことを思い出している。

「アレ? そういえば、銀時さんに桂さん、クラインさんはどこへ行ったのでしょうか?」

「あっ、そうだ。三人とも吹き飛ばされたままだったんだっけ」

 そう。妙により吹き飛ばされた銀時ら男性組の行方であった。

「おーい、銀ちゃん! ヅラにクラ! 大丈夫アルか!?」

 思わず神楽が呼びかけると、すぐに反応が返ってくる。

「お、おう。どうにか平気だぞ」

「良かったぁー、じゃ早くこっちへ来てくだ――」

 すぐさま銀時の声が聞こえて、思わず一安心する一行。無事だと把握して廊下側に注目を寄せると……そこではまたも予想外の光景を目にしてしまう。

「こいつらを除いてな」

「えっ?」

「はぁ?」

 銀時が重そうに引きずってきたのは、気絶した桂らと……クラインの和服の袖に絡まる近藤である。ちなみに近藤本人も反応はなく、ただ倒れこんでいた。

 情報量の多い不可思議な光景に、一行の困惑もさらに深まってしまう。

「……ど、どうして近藤さんが?」

「気が付いたら、この馬鹿二人と衝突して気を失っていたんだよ」

「いつの間に……」

 もはや何故近藤まで来ているのかは、言うまでもないだろう。いつものように妙にストーカーした結果、この騒動に巻き込まれたと皆が予想していた。

「流石はストーカーというか……」

「この人本当に警察の局長なの?」

 リズベットやリーファも呆れ気味に呟く。改めて近藤の地位についても疑っていた。その一方でシリカやシノンは、ある重要な問題を思い起こす。

「アレ? ちょっと待ってください。確か攘夷党と真選組って、敵対関係でしたよね?」

「そうね。しかもクラインによれば、真選組にはまだ指名手配されていないみたいよ」

 それはクラインと真選組の立場上の問題であった。

「えっとつまりは……近藤さんが起きるとクラインが危ないということか?」

「あら、考えてみればそうね」

「――って、早くほどかないと!!」

 妙は他人ごとのように発するが、キリトらはそうではない。下手を踏めばクラインが確保される可能性があるからだ。起こさないようにと、絡みの原因である和服を解こうとした時である。

「おい、誰かいるか!? ここに近藤さんが来ているはずだが……」

「開けてくだせぇ。ちょいと話がありやすよ」

 なんとタイミングが悪く、土方と沖田が近藤を探して恒道館を訪れてきた。ただでさえ切羽詰まった状況が、さらに悪化の一途を辿ってしまう。

「って、まずいですよ!! 近くに土方さんが来ています!!」

「おい! どうにか誤魔化せねぇと!」

「とりあえず、桂さんは隠しましょうよ!!」

「早く着物をほどくアルよ! ……あっ」

「何やってんの! 神楽ちゃん!? 余計に絡まっているわよ!?」

「もう! 早く、早く!!」

 妙を除く銀時ら十人は、慌てふためき急いで近藤とクラインを引き剥がそうとする。遭遇すると不味い桂も、さり気なく部屋に入れて難を防ごうとしていた。

 皆が分離に躍起となる一方で、一足早くクラインが目を覚ましてしまう。

「ん? なんだ……何が起きて」

 ゆっくりと起き上がり周りを見ようとした時である。

「あっ、やべぇ!」

「なっ、うわぁぁぁ!?」

 不覚にも神楽がクラインの背中を蹴ってしまい、彼は無理に上半身を曲げられてしまう。偶然が重なりその行きつく先は、予想もしない顛末である。

「なっ!?」

「はい!?」

「ん?」

「あっ」

 あまりにも急な出来事に、仲間達も驚いて体を固めていた。彼らが見たのは……クラインと近藤が口づけを交わす一幕である。時を同じくして和服は無事に解けたのだが、さらなる衝撃が仲間達に襲い掛かってきた。

 さらに不幸はこれで終わらない。

「土方さぁん。あっちから声がしやしたよ」

「やっぱりここか。近藤さん、さっさと戻るぞ……」

 今度は土方と沖田が勝手に恒道館へ入り、銀時らと出合い頭に二人の姿を目にしている。こちらも衝撃的な光景により、もちろん体を固めてしまう。

「プハァ……あっ。いやこれは、決してそういう意味じゃ……」

 ふと我に返ったクラインは、一旦近藤との距離を取り、焦り気味に説得を促す。誤解を解こうとするも、もう時すでに遅い。

「総悟。俺分度器忘れたから、ちょっと屯所戻るわ」

「奇遇ですねぇ。俺も笛を忘れたんで、一旦戻ります。あのことは見なかったことにしときやしょう」

「そうだな」

「おい、ちょっと待ってくれ! これは誤解なんだ!! 聞いてるか!?」

 共により一層と無表情になり、適当な理由を付けてこの場から逃げ出そうとする。クラインが必死に呼び止めるも、二人は止まらずに去ってしまった。

 思わぬとばっちりを受けたクラインは、悲しい表情で場にいた仲間達を頼ろうとするも、

「よし。俺達も特訓に戻るか」

「そ、そうだな」

「さぁ、みんな道場に戻りましょう」

気まずい雰囲気に耐えられず、何事も無かったかのように道場へ戻ろうとしている。

「ちょっと待ちやがれ!! 一体何が起きたのか、説明しろって!! なんで俺が近藤さんとキスしなきゃいけねぇんだよ! 不慮の事故だろうが!!」

 当然クラインは納得が出来ず、その場で呼び止めていく。不満を漏らして激しくツッコミを入れると、銀時らからは微妙な反応が返ってきた。

「そう言われてもな。もう不幸が重なったとしか……」

「重なりすぎだろ! 今日の俺の扱いこれで良いのかよ! 折角変身ポーズまでして目立ったのに、こんなオチかよ!」

「まぁまぁ、落ち着けってクライン。桂さんとかに誤解されるよりかは、マシだと思うが」

「そう言われても誤解されてんだよ! 変な噂が広がったら、どうすんだ!!」

「うーん。少なくとも、ここにいるメンバーは大丈夫だと思うけど」

 冗談を踏まえて説得するも、やはり彼の怒りは収まらない。修業を行いたい一方で、皆は説得に時間を割くしかなかった。

 そして肝心の近藤はと言うと、

「うーん。アレ? いつの間にか寝ていたのか」

時間差でようやく目覚めている。密かに恒道館へ侵入した直後、吹き飛ばされた銀時らとあえなく衝突してしまい、何が起きたのかさっぱり分かっていない。

「ん? そうだ! お妙さんは!?」

 ひとまずは妙を探そうとした直後、時を同じくしてクラインにも動きがあった。

「あぁ、もう! せめて最後は報われることが起きても良いんじゃ……」

 どうしようもない気持ちから、だらだらと文句を呟いた時である。

〈ぽろっ〉

「えっ、うおぉぉぉ!?」

 ずっとベルトに収めていたおもちゃの剣が、彼の激しい動きと共に鞘から抜け落ちてしまう。剣に気づかなかったクラインは、足元を滑らしてしまい、今度は自分から転げ落ちていた。

「えっ、ギャァァァ!?」

「痛!?」

 体の融通が利かないまま後ろに転がり込み、巻き込み事故のように近藤にも被害が及んでしまう。不慮の事故によって、またも近藤が被害を受けてしまった。

「えっ、ちょっと!?」

「二人共、大丈夫なの!?」

 咄嗟の出来事に、仲間達も心配して声をかけている。どうやらクラインだけは無事のようだが……

「痛ぇ……って、また気絶してんのかよ! 近藤さん!?」

 痛みの確認と共に、彼は近藤の様子を伺っていた。またも大きな衝撃を受けて、ただ気絶をしている様子である。

「この痛みは、まさかお妙さんか……」

「いや、違うけど!? しっかりしてくれよ! 大丈夫か!?」

 意識が彷徨う中でも、彼の妙への想いは変わらない様子だが。クラインらが増々心配していたその時、ようやくあの男が目を覚ましている。

「でかしたぞ、クライン! まさか真選組の局長をこの手で打ち倒すとはな!」

「か、桂さん!?」

 そう桂小太郎だ。彼はクラインの手柄を褒め称えているが、肝心の本人は偶然の産物が為かあまり実感はない。

「でもこれは、ただの偶然であって」

「偶然でも構わん。今夜はささやかに祝杯を挙げるぞ! さぁ、エリザベスもつれて盛り上がるぞ!!」

「ちょっと、桂さん!? 最後まで訳を聞いてくれって!!」

 理由を説明しようとするも、桂は一人突っ走したようになり、クラインを連れてアジトに戻ってしまった。もはや勢いのままに動く始末である。

 場に残された仲間達にも、絶妙な雰囲気だけを置き土産として残していた。

「な、なんだったんだよ。アイツらは」

「ただ変身ポーズして、ゴリラとキスして去っていったアルよ」

「ていうか、クラインはともかくヅラは何もしてねぇじゃねぇか! 久しぶりの出番、全部任せっきりで良いのかよ!?」

 台風にように去っていった突飛な展開には、銀時も思わず本音を交えたツッコミを入れていく。特に大した活躍もしていない桂には憤りを感じていた。

 その一方でユイらは、近藤の対処について悩んでいる。

「それとどうしましょうか、近藤さんは」

「うーん。気絶しているし、今はそのままで良いのかもな」

「色々と休ませた方が良い気がするわ」

 キリトやアスナの言う通り、ここはそっとしておくことで意見が一致した。後々に説明が面倒になるものの、今起こすよりはマシだと理解している。

 桂一派や真選組に乱入によって、場は一時的に乱れてしまったが、ようやく落ち着いたところで、一行は本来の目的を思い出していた。

「って、こんなところで道草食ってる場合じゃないですよ!」

「そうよ! 喧嘩もとっくに収まっているし、これで遠慮なく練習ができるわね!」

「そうと決まれば、全身進むのみだよ!」

「もちろん、そのつもりよ!」

「あらあら、みんなすっかりやる気ね」

 その通り、中断していた修業の再開である。元々は万事屋の様子を見に行くだけだったが、トラブルも重なってここまで伸ばされていたのだ。

 やる気を取り戻した女子達は、急かすようにキリトらにも誘いをかけてくる。

「それじゃ、キリトさん達も道場に来てくださいよ!」

「俺達もか?」

「そうよ! まだ時間はあるんだし、修業に付き合ってもらうわよ!」

「分かったネ! 遠慮なくかかってくるアル!」

「当然そのつもりよ!」

「ほら、アスナに新八も!」

「分かっているから、そう急かさないでよ~」

「ていうか、僕まで駆り出されるんですか!?」

「とりあえず、道場に向かいましょうー!」

 やや強引に押しつつも、彼女達は万事屋を引き連れて、思いっきり戦える道場まで移動をしていた。こうして彼らの、強くなるための努力は続いていく……。

 その最中で銀時は、妙にある疑問をぶつけている。

「というか、結局お前の変身ポーズの方が必要無かったんじゃないのか?」

「そんなことないわよ。これで良いネタとして練習が出来たから」

「ネタってなんだよ?」

「吉本と人力舎に受かるためのネタよ」

「……いや、嘘だろ」

「さて、どうかしらね」

 変身ポーズを披露した理由について聞くが、意味の分からない返答が返ってきてしまう。流石に嘘だとは思うが、妙の意味深な表情がより真相を有耶無耶にしている。どうせ大した理由は無いと、銀時は密かに括っていたが。

 こうしてグダグダな展開もありつつも、万事屋は女子達は本筋を忘れずに修業へ集中していた。

「結局どこだ。お妙さん……」

 気絶している近藤が目覚めるのは、まだまだ先のようである。

 

 

 

 

 

 

 

 ――その一方で、彼らが知らぬ間にマッドネバーの本拠地へ乗り込んだ奴等がいる。その正体は高杉晋助率いる鬼兵隊だ。元より関係のあった両者だが、オベイロンが一方的な裏切りにより、交わされた交渉は決裂。気付けば一触即発の乱闘騒ぎにまで発展していた。

「おらぁぁぁ!!」

「フッ、ハァ!」

 隊の一員である来島また子、河上万斉を筆頭に、襲い掛かるライオトルーパーやカッシーンへ勇猛果敢に立ち向かう。前者は得手である二丁拳銃を用いた射撃戦を、後者は楽器から引き抜かれた刀を使った接近戦を披露していた。隊員達も二人へ続くよう、マッドネバーの大群に突入していく。

 一方で総督である高杉は、オベイロンが変身したアナザーエターナルと対峙していた。

「ハハハ……消えろ!!」

「フッ、させるか」

 不気味な笑い声で次々と聖剣を振るうアナザーエターナルだが、高杉の洞察力と素早い身のこなしには手を焼いてしまう。何よりも相手側に、動きを読み取られているのは痛手でしかない。

 仮面の中で苦い表情を浮かべる彼に対して、高杉は一切表情を変えずに冷徹にも戦いを進めていた。

「くっ……こいつ!」

「どうした? 変身した割には、前と変わらねぇじゃねぇか。結局てめぇは、偽りの強さしかとりえが無いんじゃないのか?」

「だ、黙れ! この僕を愚弄するならば、貴様とて塵にしてやる!!」

〈ウッドソード! マキシマムドライブ!!〉

 図星を突かれたように怒りへ狂うアナザーエターナルは、自作したガイアメモリをガイアキャリバーへと装填。特殊な技を用いて、形勢を逆転しようとした。

「消えろぉぉ!!」

 と聖剣から木々の力をまとった衝撃波を繰り出したが……

「ハァァ!」

高杉はものともせずにそれを弾き飛ばす。そして怯むことなく、アナザーエターナルへと近づき、勢いよく斬りかかろうとした。

「消えるのはてめぇだ……!」

 鋭い眼光を光らせて、静かに狙いを定めていく。このまま勝負が付くかと思いきや、

「ならば――ええい、やれ!!」

アナザーエターナルもしぶとく奥の手を繰り出した。彼の指示と共に、高杉の目の前に二体のライオトルーパーが出現する。

「何!? こいつらは……!?」

 本人が気づいた時には遅く、高杉の刀は彼らによって相殺されてしまう。すると今度は、身代わりとなったライオトルーパーに代わり、数体のカッシーンが高杉の周りを取り囲む。

「こいつら……」

 マッドネバーの援軍の出現によって、鬼平隊の面々は徐々にその勢いを削がれてしまう。

「急に数が増えただと!?」

「コノヤロ……これじゃ、幾らやってもキリがないっすよ!」

「奴等の兵力はどうなっているのだ……!?」

 万斉、また子、武市と戦況の悪さをすぐに察していく。あまりの戦闘員の多さに、勝機を見いだせずにいる。もちろん鬼兵隊の面々も同じだ。

 多勢に無勢と追い込まれる彼らに、アナザーエターナルはさらなる追い打ちを仕掛けていく。

「力で勝てないのならば、数で勝てば良いのだ! 折角だぁ……僕の作った世界へ送ってやろう!」

 すると彼は聖剣を上にかざして、邪悪なオーラをまとわせる。全身がオーラで満たされたところで、それを鬼兵隊らに向けて投げ飛ばしてきた。

「散れぇぇぇ!!」

「アレは……てめぇら、すぐにかわせ!!」

 オーラを回避しつつ、高杉は仲間に向かって警告を促す。だがしかし、時すでに遅かった。

「危ない!」

「うわぁ!」

「みんな!!」

「一瞬にして消えた?」

 瞬く間にオーラは鬼兵隊と衝突して、それに囚われた者は一瞬にして姿を消してしまう。場に残ったのは高杉、万斉、また子、武市と鬼兵隊の主要メンバーのみである。四人は何が起きたのかさっぱり理解していない。

「お前……何を仕掛けた!?」

「フッ。お仲間ならすべて、鏡の世界へ送ってやったよ」

「鏡の世界だと」

「そうだ。決して自分からは出ることが出来ない、いわば異空間さ。何も出来ずに、ただただ苦しみ続けるだろうな!」

「こいつ……!」

 相手を嘲笑うようなアナザーエターナルの姿勢に、高杉らの怒りも頂点に達してしまう。どうやら消滅した鬼兵隊らは、オーラによって彼の作り出したミラーワールドへと幽閉されているらしい。当然自力での脱出は不可能なので、アナザーエターナルの卑劣な性格が存分に表面化していた。

 仲間を奪われたことでより怒りを燃やす高杉らだが、形勢をひっくり返されてしまい、なす術が無いのが現状である。

「さぁ、奴らはもはや無力だ! 一人残らず、ミラーワールドに送ってしまえ!!」

「「はぁぁ!!」」

 ここぞとばかりに隙を狙って、アナザーエターナルは大量のライオトルーパー達に指示をする。武器であるアクセレイガンを差し出して、高杉らもミラーワールドへ幽閉しようとした。

「仕方ない……一旦引くぞ!」

「流石に分が悪いか……」

「くっ……あぁ、もう!」

 一方で勝ち筋を見失った高杉らは、やむを得ずに撤退を決意している。

〈ババン!〉

また子が拳銃を用いて相手にけん制を加えると、四人は急いで出口からアジトへ抜け出そうとしていた。

「逃がすな、追え!!」

 諦めずにアナザーエターナルも、カッシーンに指示して意地でも捕えようとする。執念深さが垣間見えていた。

 高杉らもアジトから抜け出して、一刻も早く場から離れようとすると、彼らは二つの分かれ道に差し掛かる。すると高杉はとある提案を口にした。

「おい、お前ら。一旦ここで別れるぞ」

「えっ!? ここでっすか!?」

「奴らを撒いてから、この星の中心街に再集結するぞ。そこで体制を整え直す」

「なるほどな。確実な勝率を優先したということか」

 この苦境を突破するためにも、二手に分かれる決断を促している。仲間を取り戻す為にも、新たな体制が必要不可欠だと彼は理解していた。

「大丈夫だ。絶対に仲間を取り戻すぞ」

「晋助様……もちろんっすよ!」

「必ずまた集まろうぞ」

「あぁ、当然だ」

 武市ら仲間達も高杉の説得により、すんなりと事を受け入れている。数分後の再会を約束して、高杉と武市ら三人の二手でこの場を乗り越えようとした。

 一方でアジトでは、今まで様子を見ていたダークライダー達が、アナザーエターナルへと話しかけてくる。

「ふぅー。ようやく終わったね」

「僕等が出る幕も無かったかな」

「そうだな……だが高杉を逃したが痛手だったが……」

 ダークキバやリュウガが話しかけると、今度はソーサラーやポセイドンが声をかけてきていた。

「別に良いじゃん。さぁ、気を取り直して進めよう」

「もはや俺達を邪魔する者などいない。このままクーデターを仕掛けて――」

 この勢いのままに、本来の目的であるアルン制圧に向けて意欲を示す。このまま事を進めようとした――その時である。

「そこまでだよ、アンタ達!!」

 洞窟の奥からは、さらなる先兵がアジトに侵攻してきた。

「何?」

「この声は……!?」

 見知らぬ声に戸惑いつつも、彼らは一斉に出口付近に目を向ける。するとそこには、六人の妖精達がぞろぞろと駆けつけてきた。

「おや? 今度は誰だ!」

「どこかで見たことがあるような……」

 彼女達の姿を目にして、ダークライダーらはどこか既視感を覚えている。

 そのリーダー格とも言える小柄な女子は、はつらつとした印象を持ち合わせていた。小柄な身長に加えて、腰まで伸ばされた紫の長髪をなびかせている。服装はところどころに肌を露出しながらも、色合いは紫と赤の二色に統一。紫がかったブーツを履き、赤いベルトで長いスカートを固定していた。さらにその手には、紫色に輝く鋭利な刀剣を握りしめている。

 そう、その姿はまるでSAOの世界で懸命に生きたあの子と姿が瓜二つであった。

「お前らは何者だ!」

 アナザーエターナルの問いに、リーダーの女子は真剣な表情で返していく。

「そう! 僕らはフレイヤ王女に仕える誇り高き騎士団、スリーピングナイツ!! そして僕がそのリーダー……ユウキだ!!」

 そう彼女達の正体は、銀魂の世界に生きるスリーピングナイツとユウキだった。さらなる戦いの火蓋が斬って落とされたのである……。




妖国動乱篇! 予告!!

新章妖国動乱篇より、ユウキ&スリーピングナイツ参戦!

妖精の国を懸けた戦いが、いよいよ幕を開ける……!

アナザーエターナル「遂にだ。遂にこの僕が王に君臨するのだ!!」

動き出す新たなる陰謀!

ユイ「キャ!?」

新八「ユイちゃん!?」

結晶をきっかけにマッドネバーに狙いを定められるユイ

窮地の中で出会ったのは、とある一匹のウサギである。

神楽「アッスー! このウサギを使って、サンドイッチを作ってほしいアル!」
アスナ「駄目よ、神楽ちゃん! 色々と不味いから!」
銀時「マジでお前、食おうとしているのかよ」

ウサギとの出会いが、万事屋にも大きな影響をもたらす。

そして現れるマッドネバーの追手

リュウガ「逃がさぬぞ!」

ソーサラー「待ちなさい!!」

逆境を生き抜くカギはガイアメモリ!?

オンライン! マキシマムドライブ!

銀時「何も起きないじゃねぇかぁぁぁ!!」

ホームレス! マキシマムドライブ!

新八「見てください! 長谷川さんが!!」

エリザベス! マキシマムドライブ!!

キリト「今度はエリザベスが!?」

激動の中現れる、別世界の強敵たち……

ゴ・ガドル・バ「ゾンデギゾバ(その程度か)」

レオイマジン「もうじきお前らは終わりだ」

フリーズロイミュード「逃がすものか」

ユイ「キャァァァ!!」

新八「ユイちゃん!!」
キリト「ユイ!!」

リーファ「ユイちゃんがさらわれたって本当なの!?」
銀時「こうなったら、俺達で取り戻すぞ」
アスナ「絶対に助けるから!!」

アルヴヘイム! マキシマムドライブ!!

リズベット「これは……」
キリト「行こう。みんな!」

仲間を取り戻す為、一行はALO星に向かう!

シリカ「なんでこんなに静かなの?」

桂「おい、見ろ! 人が囚われているぞ!」

シノン「あの怪人達のせいなの?」

この星で立ちはだかるものとは?

フィリア「お願い! 私も協力するから!」

新八「もちろんですよ!」

アスナ「やっぱりここも同じなのね……」

神楽「どうしたネ、アッスー?」

オベイロン「お前は所詮、ただの模造品なんだよ!!」

ユイ「違います! 私は……」

高杉「それを決めるのは自分だ。てめぇに決められる権利はねぇんだよ!」

激闘の中で出会う、新たなる仲間?

ユウキ「大丈夫かい、アスナ!」
アスナ「えっ……!?」
神楽「あの子って……」

そして目覚める、自由を取り戻す力!

ソイヤ! ドライブ! 開眼! レベルアップ! ベストマッチ! ライダータイム!

キリト「これが俺達の……」
銀時・キリト・アスナ・神楽「「「「自由を守るための力だ!!」」」」

新八「これ以上何も失うものか!!」

妙「私達を忘れるなんて、可笑しいんじゃないかしら?」

たま「私達もここにいます!」

近藤「トシ、総悟! 俺に続け!!」

シウネー「ようやく見つけましたよ、姫様!」

シグルド「真の力を君達に見せてやろう」

フレイア「騙されたのは、アナタの方ですよ」

サクヤ「我らも君達に手を貸そうではないか」

高杉「祭りは多いほうに限るからな。俺も混ぜてくれよ」

銀時「行くぞ、てめぇら!!」

全員「おう!!」

剣魂 妖国動乱篇 次回より連載スタート!!

武市「何故世界樹にあの時の幼女が? まさか私を察して……!?」
また子「んなわけないっすよ! 妄想も大概にしてください、武市変態!!」
万斉「この先大丈夫なのやら」

小ネタ

「魂の色は何色ですか~?」

オーズ「タマシーの色?」

「タカ! イマジン! ショッカー! タマシー! タマシー! タマシー! ライダー……魂!!」

オーズ「えっと、上半身が赤色で下半身が金色だね」

新八「いや、タマシーコンボのことじゃないですよ。オーズさん……」

神楽「これがやりたかったから、魂ボンバーネタをやったアルか?」

新八「いや、これだけの為に!?」

※本当です。やりたかっただけです。

 さて皆さん、妖国動乱篇の予告はいかがだったでしょうか? 今回の長篇によりなんと、SAOからユウキとスリーピングナイツが剣魂に本格参戦致します。舞台がALOに似た星と言うこともあり、チャンスと見越して彼女達の登壇となりました。ここで一つお伝えしたいのは、このユウキ達は本編からの本人ではなく銀魂世界で生きる別人だということです。前作の長篇でもサチのそっくりさんが登場したので、今回もこの設定を応用しました。ただし限りなく本人達に似せているので、そちらはあしからず。是非とも彼らの活躍にもご期待ください。
 本作の長篇では前々よりお伝えしていた、レギュラーキャラ総出の大乱闘となります。活躍するキャラが多いだけではなく、立ちはだかる怪人達にもこだわりを入れています。詳しい小ネタは今後の設定集や、ツイッターでも明かしていく予定です。
 そして平成仮面ライダーも、とあるキーマンとして活躍致します。ただしあくまでも主役は銀さんやキリト達なので、間接的な登場となるのでそこは悪しからず。
 ありとあらゆるキャラが活躍する新長篇、妖国動乱篇をぜひご期待ください。

 ちなみに余談ですが、今回の息抜き回の最大の被害者は近藤さんだと思います……ぜひ新長篇では挽回させてあげたいですね!
 それでは以上となります。最後までご覧いただきありがとうございました!

次回予告

ユウキ「僕に構わず早く行って!」

〈オンライン! マキシマムドライブ!!〉

シウネー「えっ? どこへ行ったの……?」

お登勢「最近の調子はどうだい?」

銀時「順調だと思うがな」

ユイ「嘘……アレって!」

ウェイクアップ! 定めの鎖を解き放て!

妖国動乱篇一 新曲開幕・狙われたユイ


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第六章 妖国動乱篇
第七十五訓 新曲開幕・狙われたユイ


お久しぶりです! では、キバットさん。どうぞ!

キバット「おうよ! みんな、知っているか? 北欧神話ってのは、文字通りノルウェーやデンマーク等で伝わった神話なんだ。幻想的な世界観で、多くの作品で作品性や固有名詞が引用されているんだぜ~。テイルズオブシリーズやソードアート・オンライン。仮面ライダー鎧武に魔進戦隊キラメイジャー。もしかすると、みんなが知っている作品にもモチーフがあるかもな。かく言う俺様キバットにも、実はモチーフが隠されているのかもしれないな!」
銀時「って、待てぇぇ!! なんでお前が前説しているんだよ!!」
キバット「ちょっとしたお遊びだよ。これからの剣魂は前置きにも注目してくれよ!」
銀時「って、待てごらぁぁ!!」

はい、ありがとうございました! と言うわけでお待たせいたしました。妖国動乱篇、間もなく開演致します! 妖精の国で起こる新たな騒乱に、是非心を躍らせてください!!


 これはユウキ達が、四年ほど前に経験した出来事である。チームを結成してから、一年が経過しようとした時だ。

「うーん……結局不合格か」

「案外行けると思ったんだけどな……」

「現実は厳しいみたいですね」

 思い通りの結果を得られず、強く憤りを感じるユウキらスリーピングナイツの六人。各々が暗い表情でため息を吐き、理想と現実の狭間に悩まされている。

 チームを結成してから彼らは、騎士団への全員合格を目指して必要な勉学や実技に力を注ぎ込んでいた。騎士団の試験は毎年開催されており、募集人数もそれなりに多いためか、半年に一度大規模な試験が行われる。そこでの採用をユウキらは狙っていたが……想いとは裏腹に努力の成果は上手く実らない。

 試験会場を後にしつつ、重たい雰囲気のまま会話は続いていく。

「やっぱりチームとなると、難易度が高くなるのでしょうか?」

「そうだね。全員に極端なバラつきがあったら、合格点にすら届かないからね……」

 シウネーのふとした疑問にノリが返答する。彼女が言う通りユウキらはチーム採用を希望しているので、筆記や実技と言った試験も全員の評価が対象だ。故に誰か一人でも及第点に届かなければ、試験自体が失格となってしまう。この仕組みがあるためか、チームでの参加は不向きとも言える。

 もはや残酷とも言える現実に打ちのめされて、六人はなんとも言えない気持ちに包まれてしまう。

「また半年まで待たないといけないとは……」

「まだまだ遠い道のりです……」

 腕組をしながら打開策を考えるテッチや、顔を俯かせて気持ちを沈めてしまうタルケン。その反応は異なるが、一貫しているのはこれからの目標に揺らぎが生じていること。彼らだけではなく、場にいた全員が同じ想いであった。

「なぁユウキ、これからどうする?」

 重い空気に耐えられなくなり、ジュンは思わずユウキに答えを促している。すると彼女は一度顔を上向かせてから、前を向いてある決意を声に乗せてきた。

「こうなったら、徹底的に弱点克服しよ!!」

「はい?」

「弱点克服ですか?」

 突如として飛び出た提案に、仲間達は困惑気味に反応している。彼女はうじうじと結果を引きずらず、今後チームとしてすべき最適な方法を思いついていた。自信満々とした表情で、どんよりとした場の空気を打ち破り、仲間達にその内容を熱弁していく。

「そゆこと! シウネーとタルケンはサポートだけじゃなく、実戦練習をもっと積んで戦闘面を強化すること! ジュンとノリは実戦よりも筆記に力を入れないと! テッチはどっちも平均並みだから、さらに強化すれば大丈夫!」

 仲間達それぞれの長所や短所を織り交ぜながら、的確なアドバイスをスラスラと提案。すると彼女は、優しい表情で心に抱えていたとある気持ちを吐露している。

「かく言う僕も筆記の結果はギリギリだったから、もっと勉強を積まないとね。得意な要素を生かして、苦手なところはみんなで克服しよ! 大丈夫だよ。僕達六人が力を合わせれば、不可能なことなんてないんだから! 絶対に夢を実現しようよ! まだまだ僕達の挑戦は始まったばっかりだからさ!」

 一つ一つの言葉に想いを含ませて、ユウキは皆に屈託のない笑顔を見せていた。その真意は仲間を心の底から信頼しており、彼らと共に騎士団を目指す決意から来ている。巡り巡って出会った運命的な仲間達。今は自身の夢以上に大切な存在だと感じていた。

 チームとして士気を高める熱意に、場にいた仲間達も大いに影響される。

「そうだな。ここで落ち込んでいても、何も変わらないしな」

「今は私達の出来ることをやった方がいいですね」

 自身の課題点を言われて、ふと気持ちが楽になるジュンとタルケン。

「ふぅー、なんか吹っ切れたわ。アタシももっと頑張らないとな」

「みんなで助け合って、今度こそ試験に通ろう!」

 同じくノリやテッチも、モヤモヤした気持ちから抜け出している。皆が今の自分の結果を逃げずに受け止めて、新たな糧にしようと考えていた。ユウキの鶴の一声により、チームの雰囲気は普段通りの活気さを取り戻している。

(やっぱり僕達のチームは、こうじゃなくちゃ……!)

 この光景を見て、本人も思わず一安心していた。一方でシウネーは、ユウキのリーダー性を見て感激している。

「やっぱりユウキは凄いですね……」

「ん? どうしたの、シウネー?」

「いいえ、何でも無いですよ」

 思わず小声で呟き、彼女にも聞かれそうになったが、反射的に誤魔化している。本音を知られることに、若干だが照れているのだろうか?

 とそれはさておきチームの士気が高まったところで、ユウキは再度声をかけていく。

「よしっ! それじゃ、次に向けて頑張ろう!!」

 六人で円陣を作り、彼女は中央に手を添えていく。すると瞬く間に仲間達も次々に手を差し出してきた。六人全員の手が合わさったところで、

「「「「「「オー!!」」」」」」

高らかに心を一つにした掛け声を上げていく。かくしてスリーピングナイツは、また新たな門出を迎えたのである。

 

 

 

 

 

 

 それからというのも、彼女らは血の滲むような修業に明け暮れた。一日の大半を実技や勉学の時間につぎ込み、一か月ごとに計画的な目標を掲げている。

 その最中では目標の達成が不十分だったり、チーム内で亀裂が起きてしまったり、仲直りに時間がかかってしまったり、思わぬ通りすがりの旅人に修業を付けてもらったりと、波乱万丈な日々を彼らは過ごしていく。

 一部の知り合いからは否定的な意見を言われたが、誰一人として諦めることは無かった。戦闘経験を重ねるにつれて、六人には各々の目標が出来たからである。ALO星を守りたい、大切な仲間を守れるようになりたい、この六人で偉業を成し遂げたい。それぞれの強い気持ちが重なり、彼らはさらに絆を強めていく。

 そして時は過ぎて……落選から半年後。再び試験に臨んだユウキらスリーピングナイツは、培った努力を余すことなく発揮して、無事に全員が合格を勝ち取ることが出来た。悲願の達成には、六人全員が大いに感極まって喜びを分かち合っている。その後の研修期間でも実力を着々と身に着けていき、正式な加入から約二年が経った現在では、全員が姫様の護衛や潜入調査と言う最重要な任務もこなすほど立派な騎士団へと成長した。

 これも仲間の絆と続けてきた努力のおかげであろう。現状に満足せず、彼らの挑戦は今もなお続いている。

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女達がたった今対峙しているのは……クーデター直前のオベイロン率いるマッドネバーの大群であった。

「ハァァァ!!」

 襲い掛かる戦闘員の大群にも、怯むことなく蹴散らすのはチームリーダーであるユウキ。原典と同じく愛用する刀剣、マクアフィテルを振るって戦闘を行っている。

「こんなものなの? 怪人達の力は!」

 幾ら大勢で攻めようとも、彼女の余裕な表情は崩れない。短剣を扱うライオトルーパー、素手で戦う屑ヤミー、長槍で襲い掛かるグール……その大半がユウキになす術なく倒されていた。彼女にとって、戦闘員はもう敵ですらない。

「ユウキ! ここの怪人達は私に任して、貴方は首謀者の元へ向かって!」

「了解! 頼りにしているよ、シウネー!」

「……お任せください!」

 ちょうど近くにいたシウネーは、ユウキの役割を引き継ぎ、彼女にはオベイロンと戦うよう指示を加える。柔軟にその指示へと応じて、ユウキはオベイロンことアナザーエターナルの元まで駆けていく。二人の強い信頼が垣間見えた一幕である。

「さぁ、次の相手はこの私です!!」

 一方のシウネーはより真剣な表情となり、無数の怪人軍団へと果敢に立ち向かう。これまでに培った経験や教訓を武器にして、勝利を手繰り寄せると決めていた。

「はぁぁ!! セイ!」

「ウッ!」

「ガラァ!」

 自身の得手である杖を用いて、相手に打撃や一突きを与えていく。その威力は絶大であり、装甲を纏っているライオトルーパーでさえも粉砕することが出来る。隙あらば備えていた魔法を発動させて、体力の回復や一時的な能力の上昇に応用していく。

 彼女の地道な攻撃で、周りの戦闘員達は瞬く間に倒されていった。

「私のこと……甘く見ない方が良いですよ」

 近くにいる残党達にも、シウネーは挑発気味な言葉をかけている。依然として余裕はあり、むしろ現状から勝利を内心で確信した。その挑発に乗せられるかのように、一般怪人や戦闘員が彼女に襲い掛かっていく。無論シウネーは、それらをまた一掃していくのだ。

「はぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 そして仲間達も右往左往に分散して、戦闘員や一般怪人達と雌雄を決している。

「くらえぇぇぇ!!」

 その内の一人であるジュンは、大剣を振り回して辺り一面を巻き込んでいく。小柄な体格に似つかわしくない、豪快な戦いを彼は得意としている。

「邪魔だ! どきやがれ!」

 咄嗟にまた攻撃態勢を整えるが、一瞬の間に彼は周りに仲間がいないか確認した。しっかりと状況判別も行っている。

 そんな彼の辺りに蔓延る戦闘員は、カッシーンと緑色の体色をした不気味な宇宙生命体ワームのサナギ体だ。

「てりゃぁぁ!!」

 勢いよく声を上げながら、まずは大剣を軽く一振り。その後は近くの壁を利用して、上空から相手に飛び掛かっていく。

「ダラァ!?」

「いけぇぇ!!」

 ちょうど群れているところに飛び掛かり、ジュンはワームらに斬撃を浴びせている。この連続攻撃に耐えられなくなったワームは、ひとたび緑色の爆発を引き起こして無惨にも散っていった。

「ヘヘーン、どうよ! チョロい奴らだったぜ」

 多数の怪人を倒したことで、その喜びを強く噛み締めるジュン。すると彼の元に、新たな敵が乱入していく。

(strike bent!)

「ハァァ!!」

「おっと!?」

 突如として放たれた邪悪な炎。嫌な気配を察して彼は即座に炎を回避している。

「なんだ!?」

 もちろん乱入者の正体は、ダークライダーの一人である仮面ライダーリュウガだ。

「浮かれるのも大概にしろ。僕には叶わないんだから」

(sword bent!)

 早速彼は武器であるドラグセイバーを召喚。躊躇いなくジュンに襲い掛かっていく。

「お前が幹部ってところか! だったら返り討ちにしてやるよ!」

 彼もリュウガの立ち位置をすでに見抜き、より強く気を引き締めている。大剣を三度構えなおして、真っ向からリュウガと一線を交えていた。

「はぁぁ!!」

「やぁぁ!! ……中々やるな。だが僕には及ばない!」

 互いの剣がぶつかり合い、刀身からは激しい火花が散っている。このままこう着状態が続くと思いきや、ここでリュウガはとある一手を仕掛けていく。

〈adobent!〉

「うわぁ!? 何だ!?」

 不意打ちの如く何かがジュンに襲い掛かり、彼は怯んでしまった。ふと上を見上げると、そこにはリュウガの召喚獣であるドラグブラッカーが浮遊している。

「ハハ、僕の相棒さ。さぁ、やっつけるといい」

 意気揚々とした態度で、リュウガはドラグブラッカーに指示を加えていく。このままジュンへ追い打ちをかけようとしたが、

「させるかよ! おらよっと!!」

「アイツ!? 飛び掛かっただと!?」

ジュンもそう簡単にはやられない。彼は大剣を殴り捨てると、ドラグブラッカーの首元へ目掛けて飛び掛かる。必死にしがみつきながら、力づくでドラグブラッカーを動かそうとしていた。

「何をしている! いいからガキを振り下ろせ!」

 予想外の行動には、リュウガ、ドラグブラッカー共に困惑して判断が鈍ってしまう。その隙をついて、ようやくジュンも動いた。

「いけぇぇ!!」

「な、なぁぁぁ!?」

 彼は力づくで首元を動かして、暴れまわるドラグブラッカーを利用。その場にいた怪人を一掃した後、リュウガをも巻き込んで体当たりしていく。無論リュウガ自身も回避することはままならず、もろに攻撃を受けてしまう。

「今だ! よっと、はぁぁぁ!!」

 一瞬の隙を見逃さずに、ジュンは一旦地上へと戻り、置いていた大剣に手をかける。彼らが怯んでいるうちに、このままとどめを刺そうとしていた。

「させるか! やぁっ!」

 だがしかし、一歩及ばずにリュウガが攻撃態勢を立て直す。またも互いの剣がぶつかり、結局振り出しへ戻ることとなった。

「小癪なガキめ! 手酷いことしやがって!」

「そっくりそのままお返しするよ! テロリストなんかには言われたくないね!」

「黙れ!」

 劣勢へと追い込まれて怒り心頭のリュウガに対して、一杯食わしたことに達成感を見せるジュン。戦いのペースを慎重に見極め、剣使い同士の戦いは続く……

 

 

 

 

「私も負けてられません! はぁぁ!!」

 一方のタルケンは、仲間達と同じく戦闘員らを相手にしている。彼の周りにいるのは屑ヤミーやカッシーンに加えて、同じく槍を使うバグスターウイルス。歪なオレンジの仮面を付けた人型の戦闘員だ。ランサーとして戦うタルケンにとっては、負けられない戦いであろう。

「セイハァ!」

「ビー!?」

 慎重かつ的確な突きを用いて、彼は堅実な攻撃を続けていく。動きは遅いが一つ一つの攻撃が強く、相手は無意識のまま倒されてしまう。かく言うバグスターウイルスも、タルケンの戦闘リズムに崩されてしまい、次々と槍に突かれて消滅してしまった。

「よしっ、やった!」

 自身の戦闘が上手くいき、つい嬉しく感じている。そんな彼の元に、さらなる槍使いが戦いを挑んでいく。

「はぁぁ!!」

「えっ、何!?」

 突然の殺意に気付き、タルケンはすぐに槍で防御姿勢を構える。そんな彼の目の前には、仮面ライダーポセイドンが近寄っていた。

「お前も強いのか? だったら俺と戦え!」

「一体何なのですか! まさかアナタが、この組織の幹部……?」

「そうでも言っておこうか」

 至近距離で言葉を交わしていた二人だが、タルケンが瞬時に相手へ蹴りを入れて、互いに距離を離していく。

 すると間髪入れずに、ポセイドンがさらなる攻撃を仕掛けている。

「くらえ……!」

 発動したのは長槍から解き放つ青い衝撃波。威力を最大にまで上げて、タルケンに致命的なダメージを与えようとしていた。

「うわぁ!? って、おっ!?」

 事態をすぐには飲み込めず、回避しようとするタルケンだったが、焦りからか何もないところで躓いてしまう。さらには槍まで手放す始末であった。

 だがこの失敗が功を奏しており、衝撃波は彼を素通りして、

〈バーン!!〉

「イィィィ!!」

ちょうど後ろにいた怪人の群れに被弾。巻き込まれた怪人達は爆発を連鎖して、そのまま消滅してしまった。

 さらには手放した槍はポセイドンの真横を素通りして、彼の後ろにいたカッシーンの頭部に突き刺さってしまう。

「機能停止……」

〈バーン!!〉

 手痛い攻撃を受けたカッシーンは、ゆっくりと倒れ込み爆散。周りにいた戦闘員もついでに道ずれとなった。

 一つのトラブルをきっかけに、タルケンは思わぬ漁夫の利を得ることとなる。

「ほぉ……中々の腕っ節だな。ヒョロガキにしちゃ、大したもんよ」

「いやこれは……まぐれと言うか? 奇跡というか?」

「能書きは良い。俺と戦え!!」

「って、待ってください!! 私の武器がまだ!!」

 この豪運とも捉えられる強さは、ポセイドンも強い興味を示していた。思わぬ展開にタルケン自身も困惑しながら逃げ回っている。その後やっと武器を回収して、ようやくポセイドンとの一騎打ちを展開していく。

「戦え……!」

「そう言われなくても戦いますよ! 私達がアルンの平和を守るのですから!!」

 

 

 

 

 時を同じくしてノリも、根気強く戦闘員や怪人を相手取る。彼女の周りにはライオトルーパーのみならず、化け狐に酷似した魔化魍忍群と呼ばれる奇妙な怪人も混ざっていた。

「へぇー、面白い奴らもいるじゃないの。でもアタシの敵じゃないわ!」

 四面楚歌の如く周りを囲まれるも、心境に変わりはない。一段と意気込んでから、武器であるハンマーを持ち次々と殴りかかっていく。ノリの戦い方はジュンと同じく攻撃派で、ハンマーを用いた打撃攻撃を得意としている。また無暗に攻撃はせず、相手の急所ラインを直感で判断。分析力を生かした戦法で敵に立ち向かうのだ。

「ほらぁ! そこ、そこ! いっけぇ!」

「ギィィ!?」

「ウッ!」

 現に魔化魍忍群との戦いでは、狐の仮面に覆われた頭部へ集中攻撃。相手の隙を作り出し、さらなる連続攻撃を与えていく。

 その甲斐もあってか、周りにいた戦闘員軍団は瞬く間に壊滅してしまった。

「ざっとこんなものよ!」

 分析通りの攻撃が成功して、嬉しさからガッツポーズをしている。そう軽い余韻に浸っていると、さらなる脅威が忍び寄っていく。

「それはどうかしらね? はぁぁ!!」

「ん? おっと!?」

 不意打ちの如く現れたのは、緑色の紋章。謎の殺気を感じ取り、ノリは間一髪で紋章と重なり合わずに回避していた。無論紋章を差し向けた相手は……ダークキバである。

「チッ! 勘が良いお嬢ちゃんね!」

 間一髪で回避されて、ダークキバは不愉快そうに捨て台詞を吐く。

「危ないじゃないの! って、アンタ……怪人じゃないわね?」

 一方のノリはすぐに状況を読み込み、彼女の正体を見切っている。

「その通りね。はぁ!」

「また!? そうは行かないよ!」

 会話を交わすことなく、またしてもダークキバから紋章が飛ばされていく。ノリは紋章の仕掛けを知らないが、何か裏があると思い慎重にそれをかわしている。

「ハッ!」

「逃がさないわよ!」

 と何度も紋章を飛ばすうちに、ようやくピタリと動きが止まっていた。

「素早かったお嬢ちゃんね。しっかりと私が痛めつけてあげないと……!」

 彼女は紋章にノリが囚われていると思い、ゆっくりと近づく。無抵抗のままに攻撃を与えようとした――その時である。

「はぁ? 何これ、ハンマー?」

 紋章に封じられていたのはノリではなく、彼女の持っていたハンマーだ。これにはダークキバも困惑して、思わず辺りを見渡している。すると、

「アタシはここよ!」

上を見上げた瞬間に彼女が目の前へと近づいていた。そうノリは、自身の羽を広げてこの窮地を脱していたのである。

「はぁぁぁ!!」

「ぶほぉぉ!?」

 勢いに乗っかったままノリは、拳を握りしめてダークキバに殴りかかっていく。ゼロ距離からのパンチを防げずに、彼女は遠くへと吹き飛ばされてしまった。

「もう仕掛けは分かった! これでもう遠慮なく闘えるってね!」

 一方のノリは、自身の直感が当たり嬉しく感じている。紋章の仕掛けも分かり、この戦いの勝利を確信していた。

「コノヤロー……よくも!」

 そして激高したダークキバは、背後にいた怪人や戦闘員へ指示を加えていく。一斉にノリへ襲い掛かるよう向かわせるが、彼女の自信に揺らぎは無い。

「はぁぁぁ!!」

 調子を崩すことなく、ハンマーを使って怪人の大群へ殴りかかっていく。ノリも全身全霊で、必死に勝利を引き込もうとしているのだ。

 

 

 

 

 そしてテッチも一風変わった戦い方を披露している。

「ふぁぁぁぁ!!」

「まったく、貴方も面白い妖精ね!」

 彼は初っ端から、ダークライダーである仮面ライダーソーサラーと戦いを展開していた。ソーサラーの長斧に対して、彼はメイスや盾を振るって攻守を見極めながら戦っている。

 無論彼らの周りにはまだ戦闘員や怪人がうじゃうじゃとおり、戦闘員ではソーサラーの使役するグールやライオトルーパーが乱立していた。

 当然テッチも適宜彼らからの襲撃を受けていたが、

「邪魔だ! どけ!!」

「ギィー!!」

「ウゥー!」

ものともせずに攻撃を倍にして返している。防御力に優れている彼は自慢の耐久力を生かして、相手に不意打ちを与えるカウンター戦法を得意としていた。つまり周りに幾ら戦闘員がいようが、自身の戦い方に影響は無いのである。

 戦闘員の数が減り始めたのを察して、再びテッチはソーサラーと交戦していく。

「はぁぁぁぁ!!」

「ハハハ! 面白いねぇ! でも私には勝てないよ!」

「ウッ!」

 すかさずメイスをぶつけるが、またしてもソーサラーの持つ斧で相殺されてしまう。さらには蹴りまで入れられて、つい動きを止められている。その隙にソーサラーが動く。

〈ルパッチマジックタッチゴー! チョーイイネ、ブリザード! ナウ!〉

「ハァァ!!」

「くっ……これは氷魔法か!?」

 彼女は指輪の魔法を発動。掌から冷気を放つ氷魔法を、テッチの足元へと浴びせていた。瞬く間に彼の足元は凍ってしまう。

「くっ……動けん」

「これで終わりね。はぁぁ!」

 行動を封印したことで、勝利を確信するソーサラー。大きく飛び上がり、さらなる魔法を発動しようとしたが……

「そう簡単にやられてたまるか! おぉぉぉぉぉ!!」

テッチはそう易々と諦めていない。全身の力を両足に集中させて、この危機を脱しようとしていた。そして、

〈バキンッ!〉

「何だと!?」

間一髪で足元に蔓延っていた氷を砕いている。テッチの粘り強さには、ソーサラーも気を引かせていた。

「ドリャァァァ!」

「ナッ……ぐっぷ!!」

 無我夢中で彼は、氷をまとった回し蹴りをソーサラーへと浴びせていく。不意の攻撃に対処しきれず、モロに蹴りを受けてしまい地面に叩きつけられていた。

「フッ……なめてもらっちゃ困るな!」

 完全に氷の呪縛から解放されたテッチは、今一度武器を握りしめて、力強く檄を飛ばす。しかしソーサラーには到底伝わらず、怒りを買うだけだった。

「へぇー、面白いじゃないの。より一層、痛め甲斐があるわね!!」

 必死に怒りを抑えながら、こちらも武器である斧を構えなおしていく。生き残った怪人軍団と共に、多勢でテッチに襲い掛かっていた。

「いくらでも来い!」

 どんなに敵が増えようとも、彼の意気込みに変わりはない。無数の怪人や戦闘員を薙ぎ払いながら、ソーサラーとの交戦は続く。

 

 

 

 

「はぁ! セイ! はぁ!!」

 一方でアナザーエターナルの元まで近づいていたユウキは、彼の周りにいた怪人の群れを余すことなく倒しきっていた。戦闘員のどころか一般の怪人でも、もう彼女の敵ではない。

「さぁ、残すはアンタだけだよ!」

 勢いを付けた彼女はじっと真剣な表情を浮かべて、アナザーエターナルに刀剣を差し向けていく。数の暴力が効かなくなり、ここでアナザーエターナルはとある刺客を繰り出す。

「流石は騎士団のトップ……ならば、行け! アリエス・ゾディアーツよ!」

「フッ。この僕に任せろ」

 姿を現したのは羊に似た容姿を持つ怪人、アリエス・ゾディアーツ。星座を模した怪人で、中でも牡羊座は強力な力を持つホロスコープスの一種。いわば幹部級の実力を持ち合わせているのだ。

「さぁ、行け」

 彼は早速体内のエネルギーから、漆黒の戦闘員を作り出す。忍者に似た風貌を持つダスタードだ。忍者刀を持ちながら彼らは、大勢でユウキに襲い掛かろうとする。

「また戦闘員? まったく……いい加減にしてよね!」

 こちらへと向かうダスタード及び戦闘員に対して、彼女はやや呆れを感じていた。それでもなお油断は禁物である。気を引き締め直して、確実に倒しきると決めていた。

「はぁぁ!」

「うぅぅ……!」

 身軽さを武器にするダスタードでも、ユウキにはその動きがすぐに読まれてしまう。

「何度だって同じだよ! セイヤァァ!!」

 彼女は素早い剣裁きに加えて、羽を使用した速度調節で柔軟な戦闘に対応。一つ一つの攻撃に力を込めて、次々とダスタードに斬りかかっていく。

「はぁ! これで最後!!」

「くぅぅぅ!!」

 そして数分も経たないうちに、十体ほどいたダスタードを倒しきってしまった。残るは幹部級のアリエス・ゾディアーツのみである。

「中々だな。しかし余はどうかな?」

 意気揚々と呟くと、彼は杖型の武器であるコッペリウスで早速攻撃を仕掛けていく。自身の生体エネルギーを操り、金色に輝く砲弾を幾つも作り出していた。

「何!?」

「くらえ! 被弾しろ!」

 そしてそれらを、一斉にユウキへ向けて投げつけている。大量のエネルギーの塊が辺り一面に飛び散り、連鎖するように爆発していった。

「これでもう、あの女はやられただろうな」

 爆発の規模を信じて、ユウキを葬れたと確信したアリエス。だがしかし、その予想は的外れとなる。

「えいやぁぁ!」

「はぁ!? 何だと!?」

 吹き荒れる爆風の中から、果敢に姿を見せたのはもちろんユウキだ。あの爆撃の中でも、彼女は上手く回避しており、一度も被弾することなく危機を脱している。奇跡的な顛末に、アリエスも思わず動揺を拡げていく。

「この、当たれ! 当たるがいい!!」

「もう効かないよ、僕には!!」

 今一度砲弾を投げつけるが、策を見切ったユウキには何一つとして効いていない。上手く回避しつつ、アリエスとの距離を縮めていく。

「さぁ、終わりだよ!」

 そしてユウキは、勝ちを信じてこのまま技を決めている。まずはみねうちの如くアリエスに斬りかかり、そこから本気の斬撃を幾度にも渡って浴びせるのだ。

「ハァァァァ!!」

「グハァァ!!」

 相手に攻撃する手段すら与えない。まさに必殺技とも言うべき代物であろう。素早い連撃の前にはアリエスもなす術がなく、

「うぅ……」

〈バーン!!〉

力尽きてそのまま爆散してしまった。ユウキの真の強さが垣間見えた一戦とも言えよう。

「フッ、どんなもんよ!」

 強い相手を倒せたことに、本人もご満悦の様子である。

 一方のアナザーエターナルは、ユウキらの強さを目にして激震が走っていた。

「ホロスコープスをほぼ一撃だと!? チッ……少し見誤ったか」

 幹部級とされるアリエス・ゾディアーツが倒されたことで、騎士団の底力を痛感している。気が付けば戦闘員はほぼ壊滅。一般の怪人も、大半がシウネーらによって倒されていたのだ。この実力の差から、騎士団をこのクーデターで一番の邪魔者だと捉えている。

「やはり奴らはミラーワールドへ拘束するだけじゃ足りん! さらなる辺境の地へ飛ばしてやるか……」

 しばらく動けないように策を講じる中で、ふとユウキが話しかけてきた。

「さてと、次はアンタの番……と言っても僕らの勝ちだね」

「勝ちだと……!?」

 そう言われて辺りを見渡すと、そこには手を上げて戦闘を中断するダークライダーの姿が見えている。スリーピングナイツの制圧が成功した証でもあった。あっという間に勝敗が付いている。

「怪人達はもう一掃しましたよ」

「もう観念しろ!」

 シウネーやジュンもアナザーエターナルへ降伏を促す。窮地であることを理解した彼は、これからすべきことを内心で考え付く。

「どうする? 正直に白状するかい? それとも僕らと戦うかい?」

「……仕方ない。白状しよう」

 ユウキにも催促された途端に、彼も手を上げて現状を受け入れることにした。ユウキらはまだ信用しきっておらず、さらに警戒心を強めていく。その最中でも彼らの話には、しっかりと耳を傾けている。

「まず言っておこう。もうすでに、前線部隊がそれぞれの領地に向かっている。そこから制圧して、アルンを落とすのが僕の計画さ」

 アナザーエターナルことオベイロンが語った情報は、前線部隊の存在だ。まったく別の怪人が、それぞれの領地へと進行をしているという。

 この情報を聞いたユウキらは驚きつつも、真っ先に他の部隊にも情報を伝達していく。

「みんな、報告だよ! 敵の先兵が、領地に向かっているみたい! 侵入を絶対に防がないと!」

 魔法の一種であるテレパシーを用いて、すぐに戦力を分散するように伝えていた。この調子で彼を問い詰めようとした――その時である。

「ん?」

 シウネーはユウキの近くにあった光の反射から、謎の人影が映ったのを見かけていた。

「ユウキ、危ない!」

「ん? うわぁぁ!?」

「ユウキ!」

 すぐに彼女へ警告をするも、時すでに遅い。光からは白い体色をしたヤゴ型のミラーモンスター、シアゴーストが襲い掛かっていた。

「ラァァ!」

「また怪人? まだ生き残っていたの!?」

 ユウキは刀剣を振るい、一度シアゴーストを薙ぎ払う。新たな怪人の乱入により困惑していると、アナザーエターナルは突如として笑い始めていた。

「フハハハハ! まんまと騙されたな、騎士団共! 貴様らが戦った怪人共は、ただの出来損ない……いわゆる囮だったのだよ!」

「何だと!?」

「あの数で囮……?」

 突然明かされた真実を聞き、ユウキら六人は動揺して耳を疑ってしまう。今まで戦っていた怪人はいわば前衛部隊であり、本当の怪人部隊は別にいると言うのだ。

「そうだ、フッ!」

「うわぁ!」

 真実を知った途端に動きの鈍ったジュンらに、リュウガらダークライダーが不意打ちを加えていく。あっという間に形勢は逆転。スリーピングナイツ側が劣勢へと陥ってしまった。

「大丈夫!?」

「なんとかな……」

 一旦は六人全員が集まり、アジトの出口前に集まっている。突然の襲撃にも備えて、辺りを隈なく注視していた。

 一方のダークライダー達も、アナザーエターナルの元に集結している。

「本当の怪人軍団は、このアジトの奥に隠れていたのさ」

「折角だし見せてあげるわ。出てらっしゃい、最強の精鋭たちを!」

 彼らは証言通りに、密かに身を潜めていた怪人軍団をユウキらに見せつけていた。奥の扉が開き、魑魅魍魎とした怪人の数々が出てきている。

「ギィィ!!」

「ウ~!」

 ライオトルーパーやグール、魔化魍忍群といったユウキらも戦った戦闘員。バッファローロードやソードロイミュードと言った一般怪人達。さらにはゴ・ガドル・バやレオイマジンと言った幹部級の怪人も、オベイロンの手によって復元されている。

 その数は戦闘員を含めて、前衛部隊よりも遥かに上回っていた。

「まだこんなに居やがったのかよ……!」

「流石に数が多すぎます……」

 怪人達の数々を目にしていき、シウネーらの困惑はより強くなっていく。精神及び体力も擦り減らしている中で、この数の敵を相手にするのは流石に難しいだろう。

 皆がマッドネバーに圧倒される中、ユウキは冷静に考えてこの危機を回避しようとしている。

「……撤退しよう!」

「ユウキ?」

「これ以上の戦闘は危険だよ! 態勢を整え直すために退避しよう!」

 彼女が辿り着いた答えは撤退であった。このままでは勝てる見込みがないと踏んでおり、一度体制を立て直すべきだと括っている。

「分かった。そうしよう!」

「うん」

 仲間達もユウキの意見に賛同しており、このまま出口へと逃げ込もうとしていた。だがしかし、

「ドラァ!!」

「うわぁ!?」

「そうはさせるか。取り囲め、ドラグブラッカー!」

ドラグブラッカーによってその行く手を阻まれてしまう。思うように動けず悪戦苦闘しているユウキらに、アナザーエターナルはとある一手を繰り出そうとしている。

「ちょうどいい! 僕のとっておきの攻撃を食らうがいい!!」

 彼は一本のガイアメモリを取り出して、それをガイアキャリバーへと装填していく。

〈オンライン! マキシマムドライブ!!〉

 接続をまとった聖剣を振りかざして、狙いをユウキらに定めていく。

「サイバー空間へと封じてやる! いけぇぇぇ!!」

 そのまま彼は聖剣から青白いオーラを放出。ユウキら目掛けて一直線に投げつけている。

「危ない!」

「うわぁ!」

「えっ!」

 オーラに一早く気付いたジュンとタルケンは、近くにいたユウキとシウネーを押し倒す。そしてテッチとノリは自身の盾とハンマーを使い、オーラを防ぎ跳ね返そうとしていた。

「ちょっと、みんな!?」

 力一杯に抑え込もうとするも、オーラはより一層強くなっていく。そして遂には、四人を覆うほどの穴を作り出していく。その穴からは猛烈な風が吹き荒れて、タルケンらを吸い込もうとしている。

「くっ……うわぁ!!」

「す、吸い込まれる……!」

「この……ここで!」

「ユウキ! シウネー! 早く逃げて! アタシ達は……絶対にも戻るから!!」

 各々の武器を地面に突き刺し、必死に抵抗するももう限界が来ていた。四人はユウキらに励ましの言葉をかけると――

「「「「あぁぁぁぁぁ!!」」」」

穴に吸い込まれて姿を消してしまう。穴自体も消滅してしまい、アナザーエターナルの目論見通り、スリーピングナイツの幽閉に成功していた。

「みんな!!」

「そんな……」

 仲間が姿を消したことにより、ユウキとシウネーは強いショックを受けてしまう。状況を上手く読めずに、ただただ別れを悲しむことしか出来なかった。

 悲哀に溢れる二人とは対照的に、アナザーエターナルは策が成功したことにただならぬ喜びを感じている。

「アハァァァ!! 見たか、この僕の力を! 二人取り逃したが、これでスリーピングナイツは機能停止だぁ! もう僕を邪魔する者など誰もいない!!」

 不気味な笑い声を高らかに発しながら、挑発するような罵倒を続けていた。もちろんユウキはこの挑発に我慢がならず、怒りの感情を高ぶらせていく。

「よくも……よくもみんなを!!」

「ユウキ! 待って!!」

 シウネーに止められようとするも、ユウキは止まらずに走り出す。刀剣を強く握りしめて、感情に狂ったまま攻撃しようとする。

「ハァァァ!!」

「フッ!」

 次々と攻撃を繰り出すユウキに、アナザーエターナルはガイアキャリバーを用いてその攻撃を防いでいく。余裕を持っていたのは後者だったが、

「セイ!!」

「何!?」

隙を付かれた瞬間にガイアキャリバーが遠くへと吹き飛ばされている。丸腰となったところで、ユウキが渾身の一撃を決めに行く。

「くらぇぇぇぇ!!」

「ダハァァ!!」

 刀剣で強く切り刻んだ途端、彼の体からは携帯していたガイアメモリの一部が飛び出す。それにも関わらず、アナザーエターナルは過剰な反応を見せていた。

「痛い! 痛い! 貫通した! これ絶対に体貫通しているよぉ!!」

 自身の体が傷ついたと思い込み、変身しているにも関わらず痛みを訴えている。この様子には、ダークライダー達も呆れを感じていた。

「また始まった。アイツのリアクション芸」

「変身しているのに貫通しているわけないでしょ」

「まったくめんどくさいご主人さまだ」

「そんなんだから、愛想つかされるのよ」

 彼を心配などせず、ただただ無駄口を叩いている。過剰な反応は何度も見ているらしく、その度にオベイロンの文句を呟くのが通例となっていた。

 一方でユウキらは、彼の体から飛び出たガイアメモリに興味を示している。

「これは……」

「よしっ!」

 何に使えるのかは分からないが、ひとまずは回収することにした。数本のガイアメモリと、そのメモリを入れるメモリスロットを奪取すると、

「いまのうちに逃げよう!」

「……はい!」

ユウキとシウネーはそそくさと一旦アジトを後にしている。

「逃がすな! 追え! 徹底的に追え!!」

「ハハー」

 一方のアナザーエターナルは、一部のメモリを強奪されたことに激怒。冷静さを失って、感情的に近くへいた戦闘員へ命令している。

 ユウキらを追跡するために、数名のライオトルーパーとカッシーンが向かっていた。

「もうじき追手も来るはず! 急ぐよ、シウネー!」

「分かっています!」

 アジトを抜け出してもなお、二人は走り続ける。その最中ではガイアメモリとスロットを、所持していた手拭いに包んでいた。

 いなくなったジュンらのこともあったが、今は彼らの言葉を信じて進むしかない。洞窟を潜り抜けて、緑に生い茂った森の中へ入っている。

「ユウキ……皆さんは」

「大丈夫だよ!」

「えっ?」

「僕の仲間は、こんな簡単にやられたりなんかしないよ! きっと戻って来るから! 絶対に……!」

 心配するシウネーをユウキが強く鼓舞していく。仲間を信じる気持ちが、彼女の心を強く動かしていた。底抜けのない明るさに感化されて、シウネーも気を明るく取り戻している。

「ユウキ……私もそう信じて――」

 と自分の本音をユウキに伝えようとした時だった。

「うわぁ!?」

「えっ?」

 ユウキは足元を滑らせてしまい、崖に落っこちてしまう。幸いにも底は浅く、大した怪我は無かった。

「大丈夫ですか、ユウキ!?」

「平気だよ! 落っこちただけだから! シウネーは早くアルンに戻って!」

「で、ですが……ユウキまで捕まったら」

「そう簡単にはやられないよ! 追手も来るはずだから、ここは僕に任して!」

 助けようとするシウネーだったが、追手のことも考えてユウキが先へ行くように促している。

「分かりました。ユウキを信じます……!」

 彼女もその言葉を信じて、一足先に走り出していた。こうしてスリーピングナイツの面々は、互いの言葉を信じて一度離れ離れとなってしまう。それでもなお、絶対に仲間の無事を信じているのだ。

「とは言ったものの、これからどうしようか? 戦闘員を誘い込んで、一気に仕留めようかな? でも近くにぴったりの場所なんてあったっけ?」

 一人となったユウキは、戦闘員の効率良い倒し方を考えている。倒すのは簡単なものの、体力を無駄に使うので、若干めんどくさく感じているのだ。

「何か危機を乗り越えられるメモリとかあるかな? ん? これは……?」

 起死回生の一手になると思い、奪取したガイアメモリを眺めていると、一つのメモリを彼女は発見する。

〈ラビット!〉

「ラビット? ウサギのメモリかな?」

 見つけたのはRの文字が刻まれたラビットメモリ。興味深く眺めていると、ラビットメモリが強く輝き出していた。

「うわぁ!? 何!?」

 ユウキが困惑しているうちに、メモリは浮遊していき……なんと彼女の体内へと入ってしまう。

「うぅ……!」

 途端にユウキは気分が悪くなり、ゆっくりと倒れ込んでしまった。そして体に著しい変化をもたらしていく……。

 

 

 

 

「おい、アイツはいたか?」

「こちらは見つけられなかったぞ」

「もうすでに森を出ているのかもな」

「広範囲に渡って、くまなく探すぞ」

 ユウキの近くでは、すでにライオトルーパーが彼女の捜索に当たっている。どうやら見つけることが出来ず、より遠くのエリアへと彼らは出向いていた。

 肝心の彼女は未だに崖の下にいるのだが……見つけられないのは、とある理由が絡んでいる。

「うーん……何が起こったんだ?」

 数分の間気絶していたユウキは、ようやく気を取り戻していた。起き上がって見えたのは、メモリを包んでいた手拭いである。

「アレ? メモリってこんな大きかったっけ? ていうか、手拭いもデカくなってない?」

 目の前の光景が信じられずに、彼女の違和感は強くなっていく。

「いや、待てよ。僕が小さくなったのか?」

 手探りに状況を確認してみると。自身の体が小さくなったことを悟る。さらに気絶する前に、体内へと入ったメモリも要因だと括っていた。それらを踏まえて、まずは自分の容姿を確認してみる。近くにあった水たまりに、顔を映してみると……

「って、なんじゃこりゃぁぁぁ!!」

なんとそこには、ウサギとなった自分の姿が映されていた。そうユウキは、ラビットメモリの作用になって本物のウサギに変身したのである。その外見はかつて、キリトとアスナが親交を深めたきっかけでもあるラグーラビットとも瓜二つだ。体色は赤と紫であり、背中には縮小化したマクアフィテルが備え付けられている。

 いずれにしても、突然のウサギ化は本人にとっても衝撃的であろう。

「う、兎!? 僕、妖精ですら無くなっているよ!! どうしてこんなことに……?」

 困惑しつつも彼女は一度冷静となり、自身の行動を振り返ってみる。すぐに体内に入ったラビットメモリが原因だと予測していた。

「あっ、このメモリの影響ってこと? ていうか、どうやって元に戻るのー!!」

 当然元に戻る方法も分からず、しばらくはこのウサギの姿で行動するしかない。しかも不運なことに、シウネーを先にアルンへ向かわせたため、近くにはこの事態を理解してくれそうな仲間すらいない。

「どうしよう。シウネーはもうアルンに向かっちゃったし、ジュン達も呼び戻せないし……ちょっと不味いかも」

 もはや絶体絶命の窮地。思わぬトラップにハマり、打開策を必死に考える中で、とある策を彼女は思いつく。

「そうだ! 通信魔法を使えばいいじゃん! これで助けを呼べば……って?」

 他の部隊との連絡時に使用した通信魔法で助けを求めようとしたが――何故か上手く発動しない。これもウサギになった影響なのだろうか?

「なんで繋がらないの!? さっきまで出来てたのにー!!」

 最後の希望とも言える連絡先も絶たれてしまい、本当に自分の力でこの状況を乗り切るしかなくなった。度重なるトラブルにより、ユウキの精神はより擦り減らされてしまう。

「不幸なこと重なりすぎだよ……今日の運勢最悪だったっけ?」

 ついつい不幸を誰かのせいにしたくなり、今朝の占いを思い起こすほどである。どうにか気持ちを発散したいところだが、ここはグッと我慢して前に進むしかなかった。

「とにかく! シウネーの元に急がないと! きっと僕の事情も理解して……」

 と今後の方針について考え直していた時である。

「ん? アイツらは……!」

 ふと横を見てみると、そこには夜兎と辰羅が二人ずつ、さらには怪人が数名と立ち並んでいた。彼女は直感から、この四人がダークライダーの変身者だと予測している。その直感はもちろん当たっているのだが……。

「何を話しているんだ?」

 彼らの会話内容が気になり、ユウキは可能な限り近づこうと試みる。ガイアメモリをしっかりと手拭いに詰めて、首元に背負ったまま。

「まったく。なんで僕達が誘拐部隊をやらされるんだよ」

「案外信用無いのかもねー。一応私達部外者だし」

「本当は戦いに参加したかったが、これも仕方ないだろう」

「さっさとあの女をとっ捕まえて、すぐに星へ戻ってきましょう」

 四人は乗り気でない作戦を行うようで、態度や口調からも嫌々やっている感が見られる。それでも命令通り、とある女の誘拐を実施するようだが。

「何を話しているんだ? まさか! 姫様を捕まえようとしているのか!」

 断片的に話を聞いていたユウキは、女の正体を姫様であるフレイアだと予見をしている。残念ながらその推測は外れているのだが……本人は自分の判断に自信を持っていた。

 それはさておき、早速辰羅達は行動に移している。

「さぁ、地球へ向かうわよ」

〈ルパッチマジックタッチゴー! テレポート! ナウ!〉

 辰羅の一人である宇堵は、腹部に付けたベルトに指輪をかざす。テレポートの魔法で標的のいる地球へ向かおうとしていた。

「そうはさせないよ!」

 瞬間移動する際に、ユウキもその魔法にあやかって、辰羅達と同じく地球へ移動することになる。彼女がその真実に気付くのは、無論地球に降り立った時だ。

 果たしてウサギと化したユウキの運命や如何に。彼女の少し変わった冒険が幕を開ける……。

 

 

 

 

 一方でシウネーも、態勢を整えるために一度アルンへ戻ろうと企てる。今は木々の中に身を潜めながら、森への脱出を試みていたが……周りにはオベイロンの手先であるカッシーンがうじゃうじゃと彼女を探し回っていた。

「この近くにいるはずだ! 何としても捕まえろ!」

「騎士団を封じるなど奇跡的なのだ! このチャンスを無駄にするな!」

 互いに声を掛け合いながら、必死に森の中を駆け回っていく。

シウネーは上手く死角を利用して、見つからないように息を潜めている。

(どうしましょう……ユウキとは上手く分かれましたが、ここが見つかるのも時間の問題。もう戦って逃げ出すしか方法は無いのでしょうか……)

 危機的な状況を目の当たりにして、つい不安そうな表情を浮かべてしまう。仲間の大半はメモリによって封じられ、ユウキとも全滅を避けるために別々の行動を取ることとなった。もはや近くに仲間などいないこの状況。より多くの時間を仲間と共に過ごしてきたシウネーにとっては、心細いことこの上無いだろう。

(絶対にみんなは戻ってくるはずです……! それまでは私が頑張らないと!)

 強い責任感を心に宿しながら、彼女は真摯に決意を高めていく。ユウキや仲間と再会するまでは、自分が姫様や街を守ると誓っていた――その時である。

「見つけたぞ……!」

「えっ? まさか……」

 ふと後ろを振り返ると、そこには三体のカッシーンがシウネーに近づいていた。槍を構えながら、彼女を一網打尽にしようと企てている。逃げ場のないシウネーにとっては、まさに絶体絶命の状況と言えよう。

「オベイロン様の為に、お前も消えてもらうぞ!」

「いいえ……私は最後まで戦います! 絶対に諦めたりなんかしません!」

「無意味なことを。さっさと消えろ!!」

 三体は勢いよく襲い掛かり、シウネーも杖で抵抗しようとする。だがその時……思わぬ男がこの現場に居合わせていた。

「おい。そこのガラクタ野郎」

 突如として聞こえてきたのは、渋く低い男の声。何者か分からずに、カッシーンは動きを止めてしまう。すると、

「あぁ? ぐはぁ!?」

「何!?」

一体のカッシーンが不意打ちを受けてしまい、その場に倒れ込んでしまった。あまりの急展開に、カッシーンもといシウネーすらも戸惑いを見せている。

 辺りを見渡すと、そこには一人の男が佇んでいた。

「消えるのはてめぇらの方だ」

「な……うわぁぁ!!」

 男は手にした刀を振るい、カッシーンへ向けて斬撃を浴びせていく。何度も攻撃を与えているうちに、場にいたカッシーンは全て倒れ込み爆散してしまった。

 シウネーにとっては思わぬ助け舟だったであろう。

「えっ? 助けてくれたのですか?」

「何ぃ、勘違いするな。気に入らねぇから、ぶっ倒しただけだ」

 男はぶっきらぼうな態度のまま、彼女の問いに返していく。

「あ、ありがとうございます。貴方は一体……?」

「大したもんじゃねぇよ、ただのテロリストさ」

「テロリスト……?」

 男の言った言葉に、シウネーはどこか違和感を覚えてしまう。雰囲気といい顔といい、そう言われても納得をしていたからだ。

 それもそのはず。この男の正体は……鬼兵隊が総督、高杉晋助なのだから。危険な出会いは、彼女の一筋の希望になるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、地球にある江戸はかぶき町。日々波乱が起こるこの場所で、今日もまた様々な人間や天人、妖精達が何気のない日常を過ごしている。

 新八の実家でもある恒道館の道場では、とある稽古が執り行われていた。

「「はぁ、はぁ……」」

「ふぅー」

「ケホッ」

 息を荒くしながら一度体を休めているのは、シリカ、リズベット、リーファ、シノンの四人とピナ。彼女達は休む暇を惜しんで、過酷な稽古に明け暮れていた。無論その理由は、マッドネバーのダークライダー達にリベンジを果たす為である。敗北時に受けた悔しさをバネにして、急ピッチで戦闘の実力を高めていく。

 そんな彼女達の稽古相手に、柳生九兵衛と月詠の二人が付き添っていた。共に四人とも親交が深く、手加減無しに本気で対峙している。

「みんな、一旦休憩にするか?」

「そろそろ限界じゃろ。無理はせずに」

 疲れ切っているシリカらを心配して、休憩を促した九兵衛達だが――依然として彼女達のやる気はさらに高まっていた。

「いえ……まだやらせてください!」

「これくらいで、へばったりはしないわよ!」

 そう言ってシリカとリズベットは、ゆっくりと立ち上がっている。呼吸を無理やり整えると、真剣な表情で各々の武器を構えていく。

「私も同じよ……!」

「全然まだやれるんだから!!」

 二人に引き続きシノンやリーファも同じく立ち上がる。どんなに疲弊していても、今回ばかりはやる気のボルテージが格段に上がっているようだ。ブレーキなんてものともせずに、闘志を加速し続けている。

「ナ……!」

 もちろんピナも同じだ。

 そんなリズベットらの想いを汲み取って、九兵衛や月詠もその想いに応えようとする。

「分かった。ならばもう一度、稽古を執り行おうではないか」

「その分主らも、全力でぶつかってこい!」

「「「「はい!!」」」」

 共に限界値を越える覚悟で、この稽古に臨んでいた。シリカとピナとリーファは九兵衛を。リズベットとシノンは月詠を相手に再び戦闘が展開されていく。

 激しくぶつかり合う稽古に、たまたま見に来ていた妙もその勢いに圧倒されている。

「あらあら、みんな頑張っているわね。今まで以上に本気を感じるわ」

 数か月の間でもシリカ達の様子を見ており、その成長ぶりにはかなり驚かされていた。「あっ、そうだわ。折角だから卵焼きでも作ろうかしら。きっと疲労回復してくれるに違いないわね」

 そんな妙だがふとした閃きで、卵焼きの差し入れを思いつく。早速調理室へと向かうが、リーファらは何も気が付いていない。知らぬが仏とかまさにこのことなのだろう……

 こうして恒道館での稽古はさらに続く。

 

 

 

 

 その一方、対照的に和やかな日常を過ごすのはユイと新八。二人は最近流行のファンタジー小説を目当てに、近場の本屋へと訪れていた。

「やったね、ユイちゃん。ようやく目当ての本をゲット出来て」

「はいです! 今から読むのが楽しみですよ!!」

 予定通りに小説を購入出来て、彼女は嬉しさから満面の笑みを浮かべている。幸せそうな姿に、新八もつい微笑ましく感じていた。余韻に浸ったまま退店して、このまま帰路につく。

「オールマイティセイバー……一体どんな物語なのでしょうか?」

「どうやら色んな剣士が活躍する小説みたいだね。いわゆるヒーロー系なのかな?」

「もしかすると、この剣士さんも仮面ライダーかもしれませんね!」

「フフ、もしかしたらそうかもね」

 ユイはついつい表紙をチラ見しながら、小説の中身に期待を膨らませていた。その表紙にはヒーローのような赤い竜の剣士が描かれており、彼女の知る仮面ライダーとも違和感がまるでない。新八も冗談気味にユイの解釈を受け入れている。

 たわいない会話を交わしながらしばらく歩いていると、途端にユイの表情は曇り始める。神妙な面持ちとなり、彼女は新八にある悩みを吐露してきた。

「新八さん。私ずっと気になっていたことがあって……」

「ん? どうしたの、ユイちゃん?」

「次元遺跡の扉のことです。なんで私にだけ反応したのでしょうか?」

 悩みの正体は、つい最近体験した次元遺跡での出来事である。遺跡の最奥部には平成仮面ライダーの銅像と記憶が祀られていたが、扉の前には厳重な仕掛けがあり簡単には通ることが出来ない。フィリア、リズベット、近藤、沖田と試すも失敗が続いたが、何故かユイだけが扉に反応して開くことが出来た。

 この一件以来ユイは、その仕掛けの線引きが気になって仕方が無いのである。それを聞いた新八は、率直な考えを彼女に返していく。

「なるほどね。僕も分からないけど、きっとユイちゃんの素直な気持ちがライダー達にも伝わったんじゃないかな? 勝手な解釈だけどね」

「そうですか。出来れば明るい理由が良いんですけどね」

「大丈夫だよ。そう思い詰めることは無いって」

「新八さん……ありがとうございます!」

 無用な不安は与えずに、前向きな理由があると促している。励ましを含めた言葉に、ユイも少しだけ安心感を覚えていた。一応だが不安な要素は取り除かれたようである。

 気持ちを切り替えて街中を進んでいくと、今度は電気屋の前を通りかかっていた。

「あっ、新八さん! テレビにお通さんが映っていますよ!」

「えっ、本当!? 本当だ!? お通ちゃん!!」

 電気屋の前にはブラウン管テレビが並んでおり、そこではちょうど寺門通のライブ映像が流れている。お通の大ファンである新八は、早速テレビのライブ映像に食いついていた。

「流石は熱狂的ファンですね!」

 ユイも出会った当初から新八のお通好きは知っており、彼の狂喜乱舞な豹変ぶりもまったく驚いていない。

「放送コードがなんぼのもんじゃい~!」

 興奮のあまりお得意のオタ芸を披露しても、ユイにはとってはもう想定の範囲内である。これも慣れの一種なのだろうか? 彼が落ち着くまではしばらくこの場に留まろうとしたが……ふとユイは妙な気配を察していく。

「えっ? 何この気配……」

 顔色を途端に変えて、彼女は警戒心を強くする。周りをキョロキョロと見渡しながら気配の正体を探すも、何一つ感じ取れない。気のせいだと思いきや、ユイは鏡に映る奇妙な影の存在に気が付いていた。

「まさか!? 新八さん! 避けてください!!」

「ん?」

 と咄嗟に新八へ注意を促していた時である。

「うわぁぁ!?」

「新八さん!?」

 テレビの画面から突然、不可思議な物体が飛び出してきた。急な出来事に新八は驚きつつも、咄嗟に体を避けて接触だけは回避している。

「大丈夫ですか!?」

 心配してユイも駆け寄るも、新八に怪我や異変は無い。

「何とか……って、アレは?」

「怪人? まさかマッドネバーの?」

 そして二人は飛び出してきた物体の正体を、まじまじと凝視した。白い体色に覆われた全身と、機械のような固い外骨格。その正体はミラーモンスターの一種、シアゴースト。恐らくだが、マッドネバーの先兵と言っても過言ではないだろう。

「ギィィ!」

 奇妙な鳴き声を上げながら、周りに不快感を与えていく。

 マッドネバーの脅威が地球にも……いや万事屋にも牙を剝き始めていた。




 いかがでしたでしょうか? 長篇の一発目は。まずは別人とはいえ、スリーピングナイツの強さは圧巻でしたね! ダークライダーの特性をすぐに分析して、相手の有利な状況すら完封する働き。流石は騎士団に選ばれただけありますね!
 そんな彼らを卑劣な手で貶めたアナザーエターナルことオベイロン。正々堂々と戦わずに、数で頼る様は情けないと思います。
 さらにユウキにも動きがありました! 予告で出ていた紫色のウサギ、その正体はガイアメモリで変身させられた彼女だったのです。ウサギに変身したユウキは、ふとしたトラブルでALO星から地球に移動してしまいます。ということは、万事屋とも出会うのかもしれませんね! ホロスコープスを単独で撃破するユウキ、強くないですか?
 仲間達はオンラインメモリのせいで、サイバー空間に囚われてしまいましたが……きっと戻ってきます! 信じて待っていてください。
 もう一つ今後この作品では結構な数の怪人が出てきますが、あまり知らない方もいると思います。その場合名前は気にせず、怪人A、怪人Bと判別する方がいいかもしれません。もし興味があれば、設定集随時記載するのでよろしくお願いします!

次回予告

レオイマジン「お前らはもう逃げられないということだ」

ユイ「このウサギさんが、私達を助けてくれたんです」

アスナ「このウサギの色、どこかで見た覚えが……」

リュウガ「ほぉう。ここが万事屋か」

神楽「なんでこいつがいるアルか!?」

銀時「なんでもいいから、撒いてくれや!」

キリト「どこまで追いかけてくるんだよ!」

新八「おぃぃぃぃ!! なんだよ、このふざけたメモリは!?」

妖国動乱篇二 マッドネバー再来襲!

全てを破壊し、全てを繋げ――






教えて、銀八先生―!

銀八「はーい、突然の銀八先生ですー。読者から来そうな質問について答えるぞ。つーか、剣魂だと初めてじゃねぇ? ではペンネーム、キバットバットⅤⅢ世からの質問―。銀魂世界にあるALO星の騎士団システムが気になります。銀八先生、教えてくださいと。俺もそんなに詳しくないから簡潔に言うと、ほぼ公務員と一緒だよ。姫様を守るだけじゃなくて王族全体を守る必要があるから、それこそ一年ごとに人員を入れ替えたり増やしたりしなきゃダメだろ? だから毎年採用試験を行っているそうだ。ちなみに何度も受験していいが、その間は定職に付けないので、大抵の奴は四年でギブアップするそうだぞ。後はチームでの採用なんて個人と比べたらぐんと難易度が高くなるから、こっちの世界のスリーピング・ナイツが如何に凄いか分かるだろ? と言うわけで、投稿者のトライアル。まったく関係ないが、お前はさっさと就活体験記でも書いてろ」


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第七十六訓 マッドネバー再来襲!

落ち着いたら本格的にツイッター再開したいぞい。






これまでの剣魂 妖国動乱篇は

ユウキ「よしっ! それじゃ、次に向けて頑張ろう!!」

シウネー「ユウキ! ここの怪人達は私に任して、貴方はオベイロンの元へ向かって!」

ジュン「そっくりそのままお返しするよ! テロリストなんかには言われたくないね!」

タルケン「そう言われなくても戦いますよ! 私達がアルンの平和を守るのですから!!」

ノリ「もう仕掛けは分かった! これでもう遠慮なく闘えるってね!」

テッチ「そう簡単にやられてたまるか! おぉぉぉぉぉ!!」

〈オンライン! マキシマムドライブ!!〉

ユウキ「みんな!!」
シウネー「そんな……」

アナザーエターナル「痛い! 痛い! 貫通した! これ絶対に体貫通しているよぉ!!」

高杉「大したもんじゃねぇよ、ただのテロリストさ」
シウネー「テロリスト……?」

新八「何とか……って、アレは?」
ユイ「怪人? まさかマッドネバーの?」



ユウキ「う、兎!? 僕、妖精ですら無くなっているよ!! どうしてこんなことに……?」

ALO星の剣士ユウキ 万事屋のいる地球に移動して、その瞳は何を見る。



「着いたよ。ここが地球のかぶき町さ」

「この町にあのガキがいるのだな」

 突如として地球にあるかぶき町に出現したのは、野卦を中心としたマッドネバーの一味。彼らは宇堵の使用したテレポートリングで、地球まで瞬間移動していた。転移した先は人気のない広い裏路地。到着早々一行は体を伸ばしていく。

「うぅー。なんでこんな面倒くさいことしなきゃいけないのかしら」

「これもヤツの命令だからな。致し方ない」

 亜由伽のふとした愚痴に、近くにいた唖海が返している。

「作戦が終わった後はもう自由なんだし、ここは我慢しとこうよ」

「だな。宇宙中でこの力を使うのが楽しみだな……!」

 二人に続いて宇堵や野卦も声を上げていた。どうやらダークライダーの変身者は、協力者であるオベイロンの作戦が終われば、自由の身となるらしい。ここが踏ん張りどころと一同は鼓舞していく。

「そうね。それじゃ、あの女を捕まえに行くわよ」

 吹っ切れたように亜由伽は、仲間達に改めて今回の作戦を伝えている。

 彼らがわざわざ地球までやって来た目的は、万事屋の一人であるユイを拉致すること。彼女は次元遺跡にて奇妙な力を発揮しており、それをきっかけにオベイロンが研究材料として目を付けていた。おかげでダークライダー達は本来の作戦を離れて、やりたくもない作戦を任されることとなったのだが……

 それはさておき、主に言われたからにはしっかりとやるしかない。念には念を入れて、この作戦には数名の幹部怪人やその配下である戦闘員も引き連れている。大所帯でユイを拉致しようと画策していた。

「ひとまず僕の力でミラーワールドに入ろうか。このまま大勢で行動しても、目立つしさ」

「そうだね。一部は現実世界に残しておこうよ」

「俺はそれで構わないぞ」

 さっさと任務に取り掛かりたい野卦達だが、最初は捜索のための下準備を進めていく。

「ギギ……」

「ほら、さっさと入れ。後が突っかかるんだからさ」

 野卦は連れてきていた戦闘員の一体、シアゴーストに命令。偶然出来ていた水たまりを利用して、無理やりミラーワールドまでの道筋を作ろうとしていた。

 天人が頻繁に行き交う地球では、怪人を連れていても特に問題は無いが、大所帯であるが故に集団での行動はかえって目立ってしまう。そこで一部の怪人達を除いて、大半のメンバーは誰もいないミラーワールドからユイを探索するようだ。

「ウッ!」

「よし入った。後はドラグブラッカーが入り口を繋ぐから、さっさとみんなも入りな」

「了解~! それにしても楽ちんだね。ミラーワールドって」

「まぁな。便利な能力を手に入れたもんだぜ」

 数分ほど時間はかかったものの、ようやくミラーワールドの道筋が開く。今一度野卦はこの能力が手に入ったことを誇らしく感じていた。元を辿れば、この技術力を再現したオベイロンのおかげとも言えるが――彼を見下しているため、その考えには至っていない。

 それはさておき、変身者や幹部怪人、戦闘員と次々にミラーワールドに入り込んでいく。そんな最中。変身者の一人である亜由伽だけは、不意に奇妙な視線を感じ取っていた。

「おや?」

「どうした、亜由伽?」

「いや、何でもないわ。ただの気のせいみたい」

「そうか」

 振り返るとそこには誰もおらず、彼女はただの思い過ごしだと括る。心配して声をかけた唖海にも、何事も無かったかのように言葉を返していた。

 こうしてマッドネバーの通称誘拐部隊は、現実世界と鏡の世界の捜索班に分かれることとなる。

「それじゃ、後は頼んだぞ」

「あぁ……。こっちも行くぞ」

 前者では、レオイマジンとその部下であるレオソルジャーが担当することになった。四人一組で行動して、こちらは地道な手段でユイを捜索していく。このまま町の大通りに踏み入れた彼らだが、町の住人達はどこかの星の天人だと思い込み、不思議そうに見ていたが騒ぐことは無かった。

「さぁ、こっちもよ」

「待っていろよ」

 時を同じくして、ミラーワールドに入った捜索班も動き出す。人がいないことを利用して、好きなように分散していた。適宜周りの鏡や反射物で、現実世界の様子を確認。そこからユイを見つけ出すのだ。

 静かなる捜索が、今まさに始まったのである……。

 

 

 一方でそんなマッドネバーの様子を、近くから様子見していた者がいた。

「危なぁ……! 一足遅かったら、見つかっていたところだよ」

 ぜぇぜぇと息を吐き散らしながら安堵の表情を浮かべるのは、諸事情でウサギになってしまったこの世界のユウキ。どさくさに紛れて一緒にテレポートしており、彼女も地球へと来訪していた。転移後に彼女は近くのドラム缶の影に身を潜めており、幸運にもマッドネバーには存在を悟られていない。何にせよ一安心だ。

「どうやら誰かを探しているみたいだけど……あの怪人を追いかければ大丈夫かな?」

 ユウキは密かに聞いていた会話を元に、情報を整理していく。どうやら地球にいる誰かに狙いを付けている様子だが……?

「とりあえず行こう!」

 ゆっくりと考えている暇もなく、レオイマジンの跡を密かに追いかけていく。そんな彼女の背中には自身の刀剣と、オベイロンから奪った数本のガイアメモリやスロットを包んだ手拭いを背負っている。荷物も肌身離さず大切に運んでいく。ちなみにだがウサギになったユウキに合わせて、何故か刀剣も小型化している。ガイアメモリの影響なのだろうか?

 と独自の行動を続けるユウキだが、内心では想定外の事態に少し困惑気味である。

「ところで姫様じゃなかったんだ……とんだ勘違いをしていたよ。僕、ALO星まで帰れるのかな?」

 数分前のマッドネバーの会話から、てっきりALO星の王女であるフレイアに牙が向くと思いきや、それはただの思い過ごしに過ぎなかった。仲間の幽閉や自身のウサギ化と思わぬトラブルが相次ぎ、ユウキも内心では焦りが生じていたのかもしれない。薄々とそれが原因だと悟っている。

「とにかく今は、あの怪人の跡を追いかけないと!」

 それでもなお、今は迷いを振り切って突き進むしかない。マッドネバーの狙う少女と遭遇すれば、少しでも組織の狙いが分かるかもしれないからだ。周りの住人からも気付かれることはなく、ユウキの尾行は続いている。

 

 

 

 

 

 ユウキが地球へと転移した一方、ALO星でも大きな動きがあった。

「テロリスト……?」

 マッドネバーの追手から逃げていたシウネーが遭遇したのは、テロリストを自称する紫髪の男。女性ものの着物を羽織って、軽装な風貌ながら刀を装備している。妖艶かつ危険な印象を持ち合わせるこの男の正体は――鬼兵隊の総督である高杉晋助だ。

「フッ。知らないならいいさ。それよりお前は……この星で言う騎士団だな?」

「な、何故分かったのですか!?」

「ただの勘さ。特に大した意味は無ぇよ」

 高杉は即座にシウネーの正体を見切って話しかけてくる。怪訝そうな表情を一切変えず淡々と声に出す姿勢は、彼女にただならぬ不信感を与えていた。

(この人、怖すぎます……あのオベイロンとも声が似ているし、テロリストとも自称していますし、味方とも言えなさそうです……)

 少なくとも友好的ではないと察している。声質がオベイロンと似ている部分に関しては、単なる風評被害だが……。

 警戒心を高める彼女だが、ふと頭の中ではとある迷いに苛まれていた。

(でも待ってください。一瞬とはいえあの怪人を一撃で葬れるのは、かなり実力者のはず……この方と一緒ならば、すぐにでもアルンへ辿り着けるのではないでしょうか?)

 その迷いとは高杉との一時的な協力である。彼の戦いぶりを見ると、例え途中でマッドネバーの一味に襲われても、すぐに対処出来ると想定していた。

 こうでもしなければ、いつまで経ってもアルンには辿り着かない。だからと言って、得体のしれない相手に背中を任せるのも抵抗はある。第一この提案すら易々とは受け入れてくれないだろう。様々な葛藤が渦巻く中、シウネーは早急に答えを出そうと考え続けていく。

(通信魔法で助けを呼んだとしても、いつ来るのか分かりませんし……ましてや各領地にもう向かっているかもしれません。ならば……!)

 正攻法とも言える通信魔法での救助要請では、より時間がかかると彼女は予見している。待っている隙を突かれて、マッドネバーの大群に襲われてしまえば、救助に来た仲間にも危害が及びかねない。こちらの手段もリスクが高いと言える。あらゆる策を模索し続けるシウネーなどつゆ知らず、高杉はマイペースにもこの場から去ろうとしていた。

「じゃ、特に無ければ去るぞ」

 軽く挨拶をかわして、ゆっくりと歩き始めている。もはや一刻の猶予も残されていない。シウネーはノリと勢いで、ようやく覚悟を決めていた。

(ここはもう一か八かです……どうにでもなれです!)

 一度深く呼吸を整えた後に、一段と大きな声で高杉を呼び止めていく。

「あの……待ってください!」

「ん?」

 彼女の力強い声に気付き、高杉も歩みを止めている。後ろを振り返ると、そこには真剣な表情を浮かべるシウネーが、こちらの目を合わせつつ自身の気持ちを吐露してきた。

「もし貴方がアルンに向かうようでしたら、一緒に同行してもよろしいでしょうか?」

「同行だ?」

「はい。実は私のチームはとあるテロ組織のせいで、離れ離れになっているのです。一刻も早く姫様の元に戻り、作戦を立て直さなくてはいけないのです! ですが、周りには敵ばかり、とても一人では裁ききれません――ですので、もしよければしばらくの間だけ極力してくれませんか!?」

 正直かつ私情を全面的にしつつ、真っ向から要件をぶつけている。無論この交渉がどちらに傾こうが、チームとして危機的な状況に変わりは無い。それでも一人でマッドネバーに立ち向かうよりは、高杉と組んだ方がマシだと考えている。

(怖いですけどでも! ここはあの人がいないと、アルンに向かえないかもしれません……藁でもなんでもすがります! ユウキ達とも約束したんですから!)

 最終的に彼女を後押ししたのは仲間との約束だ。再会という約束を果たす為、ここでくたばるわけにはいかないのである。リスクの高い賭けだが、自分の直感を信じて決断していた。

 一方でシウネーの提案を聞いた高杉は、フッと笑い満更でもない表情を浮かべている。

「……奇遇だな。俺も仲間とはぐれてんだよ」

「えっ? そうなのですか?」

「オベイロンってヤツの仕業でな。俺の仲間もアイツの奇妙な技で閉じ込められたんだよ」

「わ、私もです。あの人のせいで……」

 高杉からは思わぬ一言が飛び出して、シウネーはつい耳を疑ってしまう。

(う、嘘ですよね!? テロリストさんと同じ状況だったのですか……!?)

 まさかの彼もオベイロンの被害者だった。表面では平然を装っていたが、内心ではバクバクと激しく心が揺れ動いている。表情も徐々に驚きで引きずり始めていた。

 感情の起伏が分かりやすいシウネーとは対照的に、高杉は同じ境遇と分かってもまったく動じない。ほんの少しは親近感を覚えているようだが。

「そうかい。なら同じ境遇同士、分かりあえることもあるかもな」

「は、はい!? そうですね……」

 仕舞いには声をかけられただけで、彼女はビクビクしてしまう。極度の緊張感が生んだ、滅多にない大袈裟な反応である。一瞬取り乱したものの、シウネーはすぐに呼吸を整えて冷静さを取り戻す。

 そして高杉も明確な返答を彼女に伝えていく。

「まぁ。とりあえず、これも何かの縁だろ。お前さんの望み通り、アルンまで同行してやるよ。俺もその道中で別れた仲間と再会する予定だからな」

「ほ、本当ですか!?」

「ただし……牙を剥こうものなら俺は容赦しない。それだけは肝に銘じておけ」

「だ、大丈夫です……私もアナタのことを信じていますから」

「信じるのは勝手にしろ。一緒に向かうだけ。ただそれだけのことだ」

「はい……!」

 交渉の結果はまさかの了承である。意外な顛末を目にして、シウネーも内心では驚嘆としている。それでも高杉は彼女をまったく信用しておらず、あくまでも条件付きだった。大きな後ろ盾が出来たことに変わりは無いのだが。

(やっぱり信用していないですよね……でもこれで、ようやく姫様の元まで向かえます!)

 不安要素がまだ拭い切れない一方、遂に道筋が見えてきたことには素直に嬉しく感じている。仲間の想いを汲み取って、彼女も再び戦う決意を示していた。表情も凛々しく移り変わっている。

 一方の高杉だが、シウネーに協力した理由は特に無かった。強いて言うならば、面白そうだからと言うべきだろうか。

(随分と面白ぇヤツだな。足手纏いにならない限りは大丈夫だろ)

 来る者は拒まずと言った姿勢。意外な場面で彼の懐の広さを発揮していた。

 こうして高杉とシウネーは、しばらくの間は共に行動することとなる。

「ところで、アナタの名前はなんと言うのですか?」

「名前? 高杉晋助だ。お前は?」

「シウネーです」

「そうかい」

 出発早々に二人は、改めて自己紹介を交わしていた。シウネーは高杉の本名をここで知るが、彼女はこの名前に違和感を覚えている。

(高杉晋助? 聞き覚えがある気が……)

 聞いたことはあるが上手く思い出せない。ひとまずはその違和感を、頭の片隅へ置くことにした。

 と出発して間もない頃である。

「見つけたぞ。騎士団の生き残りめ!」

「鬼兵隊もいるぞ! みんな、こっちへ来い!」

 早くも二人の目の前には、マッドネバーの追手が乱入してきた。ここぞとばかりに戦闘員であるライオトルーパーが集結。標的を一網打尽にしようと部隊を整えていく。

「やっぱり来たな。おい、シウネー。お前もきっちり戦えよ。騎士団ならばな」

「言われなくても戦いますよ! 高杉さんこそお願いしますね。テロリストなら!」

「案外口も達者じゃねぇか」

 大群を目にしても怯むことなく、高杉とシウネーは刀や杖と言った武器を構えて、こちらも戦闘態勢を整えていく。軽口を挟みつつも、互いに信じ始めているようにも見えている。その証拠にどちらとも、晴れ晴れしい表情を浮かべていた。

「「はぁぁ!!」」

 そして二人は真っ向から、ライオトルーパーの大群に立ち向かっていく。不穏さの漂う二人の旅路はまだ始まったばかりである……。

 

 

 

 

 

「イィー!」

「ウー!!」

 場面は変わり、こちらはマッドネバーの追手を蹴散らしている鬼兵隊の一行。高杉とは別行動をとっており、後の再会を誓って彼らは前に突き進んでいた。森林地帯から草原地帯へ辿り着いたところで、不幸にもマッドネバーの戦闘員軍団と遭遇してしまう。一念発起と来島ら三人は、この戦いから生き残るため必死に戦っていた。

「くたばれっす!!」

 来島は得手である二丁拳銃を用いて、次々に相手を打ち抜いている。身軽な身体能力を生かしつつ、縦横無尽に戦場を駆け抜けていく。

「フッ……」

 一方の万斉は所持していた三味線から、強度の高い弦を何本も解き放つ。無数の相手に絡ませると、彼は三味線に仕込ませていた刀を抜きだす。そして身動きが出来ない大群に向かって、しなやかに斬りかかっていく。

「甘いな」

 そう吐き捨てると、瞬く間に戦闘員は倒れていき、連鎖するように爆散していた。一方の武市はというと、

「エァ! やっと十体目ですか」

地味ながらも戦いには参加している。ただし戦闘員とはいえ、撃破には時間がかかっていた。辛うじてギリギリ戦えているというべきか……。

 こうして万斉や来島の活躍で、数十体ほどいた戦闘員の大群は瞬く間に壊滅していた。

「ったく。これで全員すっか!?」

「そのようでござる。ようやく追手もいなくなったか」

 ようやく全員を倒しきったことを知り、両者は思わず一安心している。当然だが疲れも感じており、しばらくは全力で戦えそうもない。二人の元には武市も駆け寄ってくる。

「こちらも倒しきりましたよ。まったく厄介な奴等ですね」

「ウチにはただでさえ戦力が削られているのに、これ以上は止めてほしいっす! 二人にしかいないってのに……」

「うんうん。って、また子さん? 私の存在は?」

「戦力外なんでノーカンっす」

「いや、酷すぎませんか!?」

「妥当っすよ」

 鬼兵隊の危機的な状況を憂う来島だが、彼女の認識では現在の戦力に武市は入っていなかった。参謀役故に戦いには慣れていない分、無意識に除外しているという。肝心の本人は納得していないが、来島は一切認識を変えるつもりはない。そんな応酬を続けていく中、万斉が二人に声をかけている。

「それよりも、これからどうするかだ? 仲間を取り返すにしても、高杉との合流は必須だろうな」

「そうっすよ! 絶対に全員を取り返してみせるっす……!」

「まったくだ。奴らを好き放題にされては、鬼兵隊の名が廃るからな」

 鬼兵隊として今後すべき行動や目標を、彼は改めて提示していく。一時的に別れた高杉との合流。幽閉された仲間の救出。そして散々な目に合わせたマッドネバーの報復……この星でやるべきことは残されている。

 だからこそ、全てを果たす為には一致団結しなくてはならない。全員の気持ちを一つに合わせる中で、武市が途端に声を上げてきた。

「しかし同志が捕まっている以上は、こちらの不利に変わりはありません。ここは別の策を講じなくては」

「別の策って、何か良い方法はあるんすか。武市先輩」

 従来の方法ではなく、新しい方法でこの難局を乗り切るべきだと捉えている。来島が詳しく問いかけると、彼は声を高ぶらせながら返答していく。

「ありますよ。まずはプーカ領に行くのです」

「はぁ、プーカ?」

 まさかの話題に上がったのは、ALO星の種族の一つとされるプーカである。

「プーカとはこの星に住む妖精の一種だな。音楽の才能に長けていると聞いたことがある」

「で、そのプーカ領に当てでもあるんすか?」

 何やら嫌な予感のした来島らだが、ひとまずはその理由を武市に問い詰めていく。

「そうですとも。私達が今会うべきは、そうセブンちゃんなのです!」

「セ、セブン?」

「真紅のファイターと呼ばれるアイスラッガー使いのことか?」

「いや、それはウルト〇セブンっす……」

 万斉の珍しい小ボケはさておき、武市の口から出たのはプーカに関係する女子だ。さらに話を深掘りすると、その嫌な予感はものの見事に当たることとなる……。

「セブンちゃんとは、まさにこの星を代表する科学者! 僅か十二歳にして研究所を持ち、なおかつアイドルまでやっているという! この私が知らないわけないじゃないですか! あの子の力を借りるべきなのです。ちなみに私はロリコンじゃありませんーフェミニストでーす」

 余計に声を高ぶらせながら、セブンの魅力を伝えていく武市。その姿は巧妙な作戦を練る参謀ではなく、ただ推しの魅力を延々と語り妄言に浸る厄介なオタクそのものだ。もはや願望と言われても差し支えないだろう。

 作戦とはまったく無関係なことを言われて、来島は次第にイラつき機嫌も悪くなる。万斉の方は怒りこそ湧いていないが、武市のいつもの振る舞いに内心では呆れを感じている。

「つまりアレっすか。ただお前が会いに行きたいだけってことすか!!」

「そうですね」

 正直な気持ちを聞くと、彼女はさらに怒りがこみ上げてしまう。そして拳銃を握りしめて、何のためらいもなく武市の顔面に突き付けてきた。

「覚悟決まってんだろうなぁ……?」

「お、落ち着きなさい! 私はただ場を和ませるジョーク言っただけですよ!」

「うるせぇ! 間違いなく本気で、プーカ領に行こうとしていただろ!」

「仕方ないじゃないですか! ロリ……フェミニストなんですから!」

「言い換えても無駄っすよ! 武市変態!!」

 中々怒りの収まらない来島に、武市は必死に彼女を宥めていく。緊迫とした状況下では、例え冗談でも悪手だったのだろう。ひょっとすると本気だったかもしれないが……

 困り果てて鎮静化を図る武市やツッコミが如く怒りをぶつける来島を見て、万斉は無暗に介入せず、自然に落ち着くのを待っていた。

「やれやれ。いつになることやら」

 三味線を鳴らしつつ、二人の喧嘩が落ち着くのを静かに見守っている。

 果たして鬼兵隊にも、これから逆転の好機は訪れるのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

「グゥゥ……!」

「か、怪人!?」

「鏡の中からですか……?」

 再び場面は変わって、こちらは地球にあるかぶき町。鏡の中から突如として現れた怪人ことシアゴーストにより、新八とユイは恐れおののいてしまう。何故現れたのか模索する一方、二体のシアゴーストは彼らを威嚇するようにゆっくりと距離を縮めていく。

「と、とりあえず逃げよう! ユイちゃん!」

「は、はいです!」

 疑問は色々と浮かぶが、ひとまず新八らはこの場から逃げ出そうとしている。一刻も早く銀時らへ伝えなければ……そう心の中で決めていた時だった。

「そうはさせるか……!」

「何!?」

「こっちにも怪人さんが……!?

 行く道を阻むが如く、別の怪人と戦闘員が姿を露わにしている。その怪人の名はレオイマジン。仮面ライダー電王と戦いを繰り広げた、ライオンをモチーフにしたイマジンの一体だ。幹部級の実力を持ち、レオソルジャーと呼ばれる専用の戦闘員も配下に引き連れている。

 数体の怪人達により、行く手を防がれた新八とユイ。窮地に陥った二人に対して、レオイマジンは手にしていたロッドの先端を差し向ける。そして強気に脅しをかけてきた。

「お前らに恨みは無いが、これも主の命令でな。その小僧を渡してもらおうか?」

「わ、私ですか……?」

 彼らは目線をユイに合わせて、そっと狙いを定めている。彼女を標的にしている点から、新八は怪人達の正体をマッドネバーの一員だと確信していた。

「誰が渡すもんか! お前らの思い通りには動かないぞ!」

「新八さん……」

 一段と頼りになる新八の姿を見て、ユイは安心感を覚えている。新八はさり気なく彼女を自身の背中に移動させて、ユイに危害が出ないように配慮していた。そして強気にも、レオイマジンらへ探りをかけている。

「ていうか、お前らの言う主って……オベイロンのことか!?」

「よく分かったな。主はこの小娘に興味があるそうだ。研究材料としてな」

「何だと……」

「そ、そんな……」

 二人の直感通り、怪人の正体はマッドネバーの一員だ。しかし、ユイを狙う理由が分かると共に強く動揺してしまう。彼らは明確にユイを標的として捉えていた。その為ならばどんな手段を使っても可笑しくはないと察している。

 瞬く間に変わる状況に困惑しながらも、二人は冷静さを保ちつつ、この窮地を抜け出すべく必死に頭を動かしていく。

「大丈夫だよ、ユイちゃん。早く逃げて、万事屋に戻ろう!」

「そうですね……一緒に帰りましょう!」

 新八もユイに過度な不安を与えないように、優しい言葉で希望を繋げていく。本人もその言葉を信じて、所持していた本を強く抱きかかえている。絶対に万事屋の元へ帰ると誓っていた。

「逆らうのならば仕方ない。力づくで奪うまでだ……」

 一方で強硬な姿勢を続ける新八らに、痺れを切らしたレオイマジン達も動き出している。戦闘員に指示を与え、彼らはゆっくりと新八らの周りを取り囲んでいく。逃げ道をさらに狭めて、無理にでもユイを連れ去ろうとしていた。

 徐々に二人も追い詰められていき、深刻そうな表情に移り変わってしまう。そんな中で、ユイはふとある作戦を思いついている。

「……新八さん。ここは私に任せてくださいね」

「ユイちゃん? それって……?」

 そう新八に声をかけつつ、彼女は深く呼吸を整えていく。そして――渾身の嘘を彼レオイマジンらにぶつけてきたのだ。

「あー! あそこに猫さんがいますよ!」

「あぁ? 俺を欺いたつもりか? そんな口車に乗るかよ」

「あー! あそこに仮面ライダーがいます!!」

「何だと!? おい、探せ! まさか電王か!? ちょうどいい、俺が相手になってやらぁ!」

 ――何とも古典的な手段である。最初の嘘は俗にいうブラフであり、本命は次の一言だ。まんまと怪人達はこの嘘に乗せられて、周りをキョロキョロと探し始めている。注意力が散漫となっている隙に、

「今です!」

「ユ、ユイちゃん!?」

二人は勢いよく場から逃げ出していった。

「な、しまった! おい、追いかけろ! もたもたするな! 追え!!」

 レオイマジン側もようやく嘘だと気づき、思わず慌てふためている。引き連れていたシアゴーストやレオソルジャーに、強く叱責しながら二人の跡を追いかけていた。

 一方の新八とユイは裏路地を駆け巡りながら、万事屋まで真っ先に向かっている。逃亡する最中では、先ほどの嘘についても話題にしていた。

「任せるって、このことだったの!?」

「はいです! きっと引っかかると思っていました! 万事休すでしたね!」

「そ、そうだね……」

 にこやかにも作戦の成功を喜ぶユイに対して、新八は苦笑いをしながら言葉を返す。機転を利かした作戦に、彼女のただならぬ底力を感じたからだ。いずれにしても、上手く作戦がハマって何よりである。

 その一方でユイは、自身の存在が狙われていることに少々不安を覚えてしまう。

「でもまさか、私が狙われることになるなんて、思っていませんでした……」

「ユイちゃん……その話は戻ってからにしよう!」

「そうですね。今は逃げ切りましょう!」

 原因はいまいち分からないが、ひとまずは逃げ切るのが先決である。この好機を無駄にすることなく、二人の足取りはさらに早くなっていく。

(奴らの目的は何なんだ……研究材料って言ったけど)

 内心では新八もユイの狙われた理由について考えている。これまでの経験から、やはり次元遺跡での出来事が関係しているのではないか。思い当たる節を踏まえつつ、有力な要因を密かに探していく。そんな時である。

「キャ!」

「うわぁ!?」

 咄嗟にユイが足を止めてしまい、新八もつられて急停止してしまう。目の前の光景を見てみると、そこにはすでにシアゴーストが待ち構えていた。

「もう追いつかれたのか!?」

「ギィィ!」

 鳴き声で威嚇をしつつ、二体の怪人はギョっと二人を睨みつけていく。さらにその後ろでは、レオイマジンとレオソルジャーにも追いつかれてしまう。再びマッドネバーの怪人達に取り囲まれてしまった。

「鬼ごっこはもう終わりだ。再度通告しよう。大人しく小娘を手渡せば、お前の命だけは保障してやる。さぁ、よこせ!」

 レオイマジンは再度新八に向かって脅しをかけてくる。ユイを引き渡すように再三そそのかしたが、彼の意思が変わることはない。

「絶対に渡すもんか! 戦うなら、僕が相手だ!」

 そう言うと新八は、近くにあった鉄パイプを手に取って戦う姿勢を示している。どんなに窮地へ追い込まれようとも、ユイだけは命懸けで守り抜く。侍としての信念を、彼は貫き通している。

「だ、大丈夫ですか?」

「平気だよ。僕も侍だからね。守ると決めたものは絶対に守り通す。だから安心して」

「新八さん……」

 一瞬だけ不安を覚えたユイだが、彼の自信に満ちた表情を見るとどこか安心感を覚えていた。彼とならばきっとこの状況でも乗り越えられる。失いかけていた希望が再燃していた。

 そんな絶対に諦めることのない二人の近くでは、ようやくあの女子がレオイマジンの尾行に追いついている。

「あっ、やっと見つけた――って、何これ!?」

 その正体はもちろんウサギと化したユウキだ。途中でレオイマジンらを見失った彼女は、かぶき町を右往左往しており、ようやくその足取りを見つけている。

 だがしかし。彼女が目にしたのは、今にも少女らに襲い掛かろうとする怪人達の姿だった。一瞬で緊急事態だと察している。

「あの女の子が狙われているってこと? だったら……!」

 するとユウキは体を上手くならして、背中に抱えていた刀剣を一旦地面に落とす。そのまま刀剣を口にくわえて、少女らを助けるべく準備を整えていた。

「仕方ない。やれ」

 一方のレオイマジンらも覚悟が決まった様子である。配下であるレオソルジャーやシアゴーストに指示を与えて、一斉に襲い掛かっていく。

「来い!」

 新八も真っ向から彼らに立ち向かおうとした――その時であった。

「ちょっと待った!!」

 突然場には奇妙な鳴き声が響き渡り、それを耳にした一行は敵味方問わず動きを止めてしまう。

「えっ!?」

「何だ!?」

 皆がその正体を気にして周りを見渡す中、レオソルジャー側に異変が生じていた。

「ハァァァ!!」

「ギィィ!」

「ウゥゥ!!」

 突然何者かに襲われた様子で、当の本人達も何が起きたのか全然分かっていない。

「何をしている!? さっさとあの小娘を捕まえろ! クッ!」

 レオイマジンも謎の存在に襲われており、上手くユイらに近づくことすら出来ない。

 無論新八達も、怪人らの異変を目にして理解が追いついていなかった。唯一理解できることは、逃げ出すには絶好の好機ということである。

「今です、新八さん!」

「そ、そうだね!?」

 この混乱へ乗じることにして、二人は足早にその場を逃げ出した。辛うじて戦わずに済み、新八も内心ではホッと一安心している。

「よし! こんなもんでしょ!」

 二人の逃亡を見届けたところで、ユウキも怪人達への襲撃を止めて、素早く場を立ち去っていく。無事を確認するために、新八らの元に向かっていった。

 一方で思わぬ襲撃に悪戦苦闘していたレオイマジンは、同じく襲撃を受けたレオソルジャーやシアゴーストに対して、理不尽な八つ当たりをぶつけていく。

「お前ら……何をモタモタしていた!?」

 怒りを滲ませながら声を荒げると、レオソルジャーの一体が情報を彼に伝えている。

「何だと? 紫色の兎に襲撃されただぁ? ふざけるのも休み休み言え!」

 がしかし。良い訳とみなされてしまい、彼に受け入れられることは無かった。ユウキの動きが素早かった分、それを認識出来たのはごく僅かしかいない。ましてや怪人側は、その正体がユウキだとは知る由もない。様々な要因が重なり、レオイマジンらはユイらを取り逃がす羽目になってしまった。

 一方でユイと新八は、万事屋付近の路地裏へと到着。辺りを警戒しつつも、ひとまずは休息に付くことにする。

「ふぅー……危なかったです」

「ここまで来れば、もう大丈夫なはずだよ」

 両者共に呼吸を整えて、精神を落ち着かせていく。二度も窮地に追い込まれた中で、敵を振り切れたことは奇跡に等しいであろう。

 ユイはずっと抱えていた本を再度抱きしめると、ここまで自身を支えてくれた新八に礼を交わしている。

「ありがとうございます、新八さん! いつもよりはかっこよかったですよ!」

「いやいや、そんなこと――いつもよりはか……」

 若干とある言葉に引っかかったものの、彼女の素直な気持ちには正直に受け止めていた。その過程で気になったのは、怪人達を襲撃した謎の存在である。

「ところであの怪人さん達には何が起きたのでしょうか?」

「それは……ん? ユイちゃん、アレじゃない?」

「アレ? ウサギさんですか?」

 考えこもうとした時、新八はこちらに近づく一匹の動物を発見していた。紫の体色に小柄な体格。背中には荷物を背負い、口元には艶のある刀剣をくわえている。この一風変わったウサギこそが、先ほどマッドネバーを襲撃した犯人だと考えていた。

「良かったぁ、やっと人に会えたよ。これで僕の事情も話せるし、安心できるね」

 一方のユウキは、ようやく話が通じそうな相手に安心感を覚えている。あわよくば自分の正体を明かして、彼らの力を借りたいと思い始めていた。

 とりあえずユイらにコンタクトをとっていく。

「君がテロ組織に狙われている女の子だね? でも大丈夫! 僕も味方に付くからさ!」

 最初は明るくも親しみやすい雰囲気で、二人と距離感を縮めようとした。ところが……

「なんと言っているのでしょうか?」

「鳴き声だけだけど、少なくともマッドネバーと敵対しているんじゃないかな?」

「ということは、私達の味方をしてくれるということでしょうか!?」

「その可能性があるだけだからね」

「えっ!?」

新八らに微塵もユウキの言葉や想いが伝わっていない。意思疎通すらもままならないのは、ユウキのウサギ化に原因があった。

「ちょっと待って。ひょっとして、僕の言葉通じてないの!?」

 そう。ここで彼女はある重大な真実に気が付いてしまう。ウサギになったせいで、自分の言葉が他者にまったく伝わっていないのだ。幾ら自分が話そうとも、他者にはウサギの鳴き声程度にしか聞こえていない。

「聞こえてる!? 僕はユウキって言って、ALO星の騎士団なんだよ! 今はウサギに変身しているけど……!」

 試しに大声で新八やユイに呼びかけるものの、反応する素振りすら見せていない。

「とりあえず、このウサギさんも万事屋に連れていきましょう!」

「そうだね。何かマッドネバーとも関りがあるかもしれないからね」

 勝手な憶測を立てつつ二人は、ウサギも抱きかかえて一旦万事屋に戻ることにした。

 ユウキ本人の意思とは逸れるように、事態は思わぬ方向に向かってしまう。

「ちょ、ちょっと!! 本当の僕は妖精なんだってば~! 気付いてって!!」

 幾ら抵抗や呼びかけをしようとも、当然二人の耳に届くはずが無い。あまりにも理不尽な出来事に、ユウキの憤りはさらに募っていく。

「って、今日の僕どんだけ不運なんだよー!!」

 誰にも届くことのない悲痛な叫び声を、高らかに上げ続けている。表情も困り果てているが、新八やユイには間違った解釈で伝わっていた。

「何やら渋い顔をしていますね」

「戦って疲れたからかな? 万事屋に戻ったら、すぐに洗ってあげよう」

「そうですね!」

「だから違うんだってー!!」

 果たして、本当の正体が分かる日は来るのだろうか? 受難続きのユウキである。こうして新八とユイは、謎のウサギ(ユウキ)を連れて万事屋へと帰宅していく。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、こちらはかぶき町にある万事屋銀ちゃん。ご存じ銀時やキリト達のいる町のなんでも屋である。

 今日も今日とて仕事……と思いきや、新八、ユイを除く四人が、店の裏側で密かに特訓を行っていた。

「ハァァァ!」

「フッ! セイ!」

 木刀や聖剣を用いて、接近戦及び剣技の練習を行う銀時とキリト。

「ホワチャァァ!」

「セァ!」

 細剣や拳で互いの攻撃を確かめ合う神楽とアスナ。どちらともに現在の自分の実力を確かめ合い、堂々と真剣に戦いを繰り広げていく。

 この特訓を提案したのはキリトとアスナの二人であり、今後の戦いに備えて銀時や神楽に依頼をしていた。元々銀時は乗り気ではなかったが、キリトの強い要望によって渋々付き合っている。現在は熱意が高まり、数分前の素っ気なさは皆無だったが。

「おいおい、中々やるじゃねぇか。てめぇ、いつの間に強くなったんだよ?」

「これでも暇を見つけては練習していてね……それに、銀さんとの決着もまだ付いていないからな!」

「まだ覚えていたのか、そんな前のこと! ったく、どこまでもバカ正直だな!」

 互いの剣をぶつけあい、想いを発したところでまた一歩下がっている。特にキリトは最初に出会った時の決闘を覚えており、その気持ちを馳せつつ戦いに臨んでいた。銀時も思わず軽口を叩きつつ、彼の純粋な熱意は受け止めている。

「やっぱり強いわね、神楽ちゃん……」

「当然アル! そういうアッスーも強くなってるネ!」

「もちろんよ……! 絶対に負けたくないからね!」

「私もネ!」

 一方の神楽とアスナは、互いの実力が向上したことにどちらとも嬉しく感じていた。この二人も未だに決闘の決着が付いていない。いつになるかは不明だが、また本気で戦えることを楽しみにしている。その為にも今から、互いの強さを図っているのだ。

 もちろん本命は、マッドネバーとの戦いに備えた特訓なのだが。

 そんな滅多にはない特訓を続けるうちに、騒ぎを聞きつけたお登勢らが彼らに話しかけてくる。

「おやおや。随分と盛り上がっているようだね」

「あっ? なんだ、ババァかよ」

「一言多いわ。腐れ天パ」

「多くねぇわ。いつも通りだろ」

 いつもの口冗談を交わしつつ、一行は一旦戦闘を中断した。様子を見に来たエギルらの四人と、たわいのない会話を交わしていく。

「久しぶりじゃないか、こんな堂々と戦うなんてさ」

「まぁな。今後の戦いに備えなくちゃいけないからな」

「戦いですか?」

 そうたまがキリトに聞き返すと、今度は神楽とアスナが返答してくる。

「マッドネバーアルよ! きっとまた戦うことになるはずネ!」

「そうね。サイコギルドの件もあるけど、今はそっちが優先かしらね。いずれにしても、あの男の思い通りにはさせたくないわ……!」

 特訓に至った経緯を彼女達は解説した。万事屋としては今後衝突するかもしれないマッドネバーを警戒しており、そのためにも今から実力を上げようとしている。皆その表情は少し深刻そうではあった。

 長時間の戦闘で疲労しているだろう四人に対して、キャサリンやエギルは気の利いた一言を発している。

「熱中シテルノハ良イコトデスガ、休息モ必要デスヨ」

「戦い詰めは体に毒だぞ。あまり無理はすんなよ」

「そうだね。ありがとう、二人共」

 休息をとるように促していき、キリトからは感謝の言葉が返ってきた。すると気を抜かしていた銀時は、その言葉に甘えようとする。

「そんじゃ、ババァの店で一休みっすか。おい、エギル。適当にカクテルでも作ってくれや。もちろんツケでな」

「おい、銀ちゃん! 一人だけズルいアルよ! おい、エギー! 私もニロで何かカクテルっぽいもの作れアル!」

「そう言われてもな……」

 ツケを前提にエギルへ、厚かましくも酒の要求をしていた。銀時のわがままに乗っかり、神楽も無理難題も要求してくる。酒じゃない分、マシとも言えるが……。

 突然の要求にエギル本人も困っており、見かねたアスナがすぐに仲裁へ割り込んでくる。

「ちょっと銀さん! 今週はピンチなんだから、余計な出費はしないでよ!」

「良いじゃねぇかよ、別に。こんだけ特訓に付き合ったんだからさ」

「そうアル! ニロ飲みたいネ!」

「それは買ってあげるけど、銀さんは絶対ダメよ」

「ちょっと待って! なんで俺だけ、冷遇してんだよ!?」

「ロクなことがないからよ! 先月も一杯飲むって言って、二十杯も飲んだのは忘れたのかしら?」

「いやそれは……盛り上がったからであって」

「せめて次の仕事の依頼金が入ってからにしなさい! さもないと……!」

「分かった、分かったから! 武力行使は止めろ! 言うこと聞くからさ!」

 中々引かない銀時に痺れを切らして、仕舞いにアスナは握っていたレイピアを彼に差し出してきた。表情も強張っており、その迫力に圧倒された彼は大人しく飲酒を諦めている。

 この二人のやり取りは、もう万事屋にとって毎度お馴染みの光景だった。

「ハハハ。ったく、アスナには銀さんも叶わないってことか」

「そうネ。もう実質万事屋のリーダーアルよ」

「そうかもな」

 力づくで乗り切るアスナの姿を見て、旧友であるエギルもつい笑ってしまう。神楽からも万事屋のリーダーとして称えられ、増々銀時の立場がなくなりつつあった。

 数分前とはまた違った銀時や神楽、アスナのやり取りを見て、キリトはクスっと笑って安心感を覚えている。

「まったく。戦闘から離れたら、すぐ緩むんだから」

「まぁ、良い意味でも悪い意味でもアイツらしいってことさ」

「仲間ガ増エテモ、アノ男ハ変ワラナイデスネ!」

「銀時様どころか、万事屋はまったく変わっていないですよ。もちろん、キリト様が来てからも」

 お登勢やキャサリン、たまの言う通り、銀時らは昔から何も変わらないという。上下関係が変わろうとも、彼らの根っこにある信念や優しさに揺らぎはないということだろう。お登勢らの言葉を聞くと、キリトも密かに一安心している。

(確かに。銀さん達のことだったら、何があってもいつも通りだと思うけどな)

 情けなさや破天荒さ、かっこよさにぶっきらぼうな優しさ。これまでに見てきた万事屋の姿を振り返りつつ、キリトは彼らへの信頼をさらに深めていく。

 マッドネバーと衝突することがあっても、この五人と一匹なら乗り越えられると確信している。

 そう心の中で想いを馳せていた時だった。

「あっ、皆さん!」

「おや? 新八様とユイ様ですね」

 突然場には、外出していた新八とユイが帰って来ている。何やら二人共息を荒くしており、何者かから逃げているようにも見えるが。

「おっ。新八にユイか」

「何だい。どこか行っていたのかい?」

 エギルやお登勢が声をかけると、続けて銀時やキリトもかけてくる。

「お前ら、随分と遅かったな」

「それにこの紫色の兎は何だ?」

 気になったのは二人の様子だけではなく、新八が抱えているウサギにも一行は注目していた。彼らを落ち着かせながら聞いてみると、やっぱり深い理由がありそうである。

「色々とこっちもあったんですよ……!」

「とにかく今は万事屋に戻りましょう!」

 

 

 

 

 そう二人に言われると、銀時、キリト、神楽、アスナの四人は、一度万事屋に戻っていく。ユイらを再度落ち着かせつつ、気持ちに余裕を持たせたところで、リビングにあったソファーに座らせている。そしてじっくりと、数分前に起きた出来事を聞き出していく。

「えぇ!? マッドネバーの怪人が、地球に来ているってこと!?」

「それでユイと新八を襲いに来たのか?」

「はい。正確には私を標的にしているようで……」

 ようやく明かされた事実を聞き、当然アスナやキリトらは困惑してしまう。マッドネバーの突然の来襲。ユイを研究材料として誘拐しようとしたこと。あまりにも急すぎる出来事に、脳内ではまったく内容が追いついていない。

 驚嘆とする四人に対して、ユウキもちゃっかりと話に聞き入っていた。

「なるほど。やっぱりあの子を標的にしているのか……わざわざ地球まで来るなんて、そんなにあのユイって子が特別なのかな?」

 そう興味深そうに呟くも、他者には鳴き声程度にしか聞こえていない。メモリの使用故に仕方ないが、無視されているようにも思えて、少々寂しい気持ちとなってしまう。

「うーん、誰にも聞こえていないのがこんなに辛いなんて。これだったら、無暗にメモリなんか触るじゃなかったよ……!」

 しょんぼりとへちゃむくれながら、誰にも相手されないことに体を丸くしながら拗ねてしまう。興味本位でガイアメモリに触ったことにも、彼女は後悔していた。ユウキが一人でしょげている一方で、銀時や神楽も新八らの証言に反応している。

「奴らも本格的に動き出したってことか」

「なんて卑劣な奴らアルか! まだ小さいユイを追いかけまわすとか、とんでもない鬼畜ネ!! さっさとチンピラ警察に捕まれネ!」

「落ち着いて、神楽ちゃん。でも一つ気になるのが、なんでユイちゃんをあの男が狙っているのかですよね……」

 特に神楽は一段と、マッドネバー及びオベイロンの姑息さに怒りを露わにしていた。感情的になり、表情も真っ赤になっている。そんな彼女を新八がそっと宥めていく。

 だが万事屋一行が一番に気になっていることは、ユイを標的にした理由付けである。

 すると彼女本人は、唯一心当たりのあった出来事を皆に伝えていた。

「もしかして、次元遺跡の行動が関係しているのでしょうか?」

「次元遺跡のこと?」

「そうです。あの時に私だけが扉の仕掛けを開けたり、マッドネバーを遺跡の外へ追い出すことが出来たと思うんですよ。でもそれしか、私には思い当たる節が無くて……」

 その出来事とは次元遺跡絡みである。彼女の言う通り、そこではユイだけが摩訶不思議な現象を起こしていた。その能力にマッドネバー側が目を付けたと推測している。本人に至っては、肝心の理由がまだ分かってはいないのだが……。

 現段階で推測論でしかないユイの考えに、万事屋一行は妙に納得していた。

「その可能性は大いにあるな。一体何だったんだ、あの力は……」

 再度キリトも考え込む一方で、銀時はありのままに発していく。

「本人すら分かってねぇのによ。随分とせっかちじゃねぇか? 悪徳金融の取り立てじゃあるまいし」

「それとこれとはまったく別ですよ。銀さんの小寒い洒落と一緒にしないでください」

 分かりやすく例えを提示したものの、仲間には一切伝わっていない。新八からも呆れたツッコミが返ってくる。

 とそれはさておき、万事屋一行に今出来ることは、ユイをマッドネバーの脅威から守り抜くことだ。場にいた全員がその方向性で一致している。

「とにかく! 何としてもユイちゃんを守り抜きましょう!」

「もちろんアル! あんなゴミクズ野郎には絶対渡せないネ!」

「そうね。一応真選組にも相談してみましょうか」

 新八、神楽、アスナと次々に声を上げていき、全員で新たな対策も考え始めていく。一段と頼りになる五人の姿を見て、ユイも内心では改めて強い安心感を覚えていた。

(きっと大丈夫ですよね? 皆さんとなら!)

 不安さも拮抗しつつ、この五人となら難局を乗り越えられると思っている。もちろん定春にも、同じくらいの信頼を注いでいた。

「ワン!」

「ありがとうございます、定春さん!」

 頼もしい鳴き声に感謝の言葉で返答していく。

 そんな一体感のある万事屋のチームワークを目にして、ユウキもつい思ったことを呟いている。

「なんだか良いチームだね。こんな状況でも互いに信じあえるって。きっと固い絆で結ばれているんだろうな」

 純粋な気持ちから、万事屋一行の信頼関係を高く評価していた。前向きに脅威へ立ち向かう姿勢に、彼女の心も感化されたという。だからこそ、ユイを守り抜きたい気持ちがより一層強くなっていた。

 そう銀時らが対策を講じる一方、ようやく新八らの持ってきていた謎のウサギに注目が向けられる。

「そういえばずっと気になっていたんだが……このウサギは何なんだ?」

 キリトがそう聞くと、ユイが嬉しそうに答えてきた。

「あっ、このウサギさんのことですね! 実は私達のことを助けてくれたんです!」

「えっ? そうなのか?」

「そうなんですよ。怪人達に取り囲まれているところに乱入してきて、僕達の逃げ道を作ってくれたんです。素性は分からないですけど、少なくとも味方だと思って連れてきたんですよね」

「へぇー、そうだったのか」

 さり気なく新八も話に参加して、ウサギとの詳しい出会いを細かく説明していく。勇敢にもマッドネバーに立ち向かった事から、少なくとも味方だと彼やユイは考えていた。

 二人の説明を聞くと、銀時ら四人もウサギをジロジロと見つめている。

「そんなジロジロ見る!? 特に変わってない普通のウサギだよ……僕」

 一斉に見つめられていることに恥ずかしさを覚えて、ユウキもつい困惑めいた表情を浮かべてしまう。時折毛並みを触られることもあり、改めて自分がウサギになったことを思い知っていた。同時に早く普通の妖精の姿に戻りたいと思い始めている。

「ウヘェ! また? 急にこすらないでって! くすぐったいんだから!」

 まだまだユウキの受難は続きそうである。そんな中、神楽はとんでもないことをアスナに提案してきた。

「ねぇ、アッスー。なんかこのウサギ見ていたら、前に言っていたサンドイッチの話を思い出したネ」

「えっ? あぁーあのラグーラビットのことネ」

「そうネ。と言うわけでアッスー。このウサギを調理してほしいネ!」

「……はい?」

「はぁ!?」

 まさかの暴論にアスナ及びユウキも耳を疑ってしまう。神楽は前に彼女の言っていたウサギの肉で作ったサンドイッチに興味を示しており、何をトチ狂ったのかユイらを助けたウサギで調理をお願いしてきた。

 特にユウキは一番このことに動揺している。

「いやいやいや、何言ってんのこの子!? 野蛮にもほどがあるって! 僕一応妖精なんだよ! 僕なんか食べたって、美味しくないから!! 誰か助けて!!」

 自身の生命の危機を感じ取り、必死に鳴き声を上げて助けを求めていく。無我夢中で抵抗する中、助け舟を出していたのはアスナである。

「いやいや、待って神楽ちゃん! 流石に見知らぬウサギを調理するのは、胸が痛むよ! 私でもそんな残酷なこと出来ないわ!」

「そうアルか、アッスー?」

 今回ばかりは神楽の言い分が理解出来ず、真っ向から否定して、すかさず説得をしていく。表情は若干青ざめていたが。

「よしよし、言ってやってアッスーさん! この野蛮ちゃんを説得しちゃって!」

 無論ユウキもアスナ側に肩入れしており、自身の想いが伝わるように念を送る。そうやり取りを続けていると、アスナが決定的な一言を言い放ってきた。

「それに紫色のウサギなんて、見るからに不味そうでしょ! せめてピンクか黄色じゃないと!」

「確かにそうネ。考えてみたら、紫色なんか食欲沸かないアル」

「野菜や果物なら良いけど、食肉の紫色はあまり良くないからね」

「……色の問題だったの?」

 色彩と言う観点から独断で決めており、それを聞いた神楽は完全に言い包められている。予想外の展開にユウキも少しばかり納得はいっていない。食べられる危機を回避できたことは、素直に喜んでいたが。

「第一ね。ウサギも嫌がってんだから、無理に調理すべきじゃないのよ。それにね……」

 とアスナはそのまま神楽のことを叱ろうとする。わざわざウサギを抱きかかえて、神楽に近づけようとした――その時だ。

「ん?」

 ふと彼女は強烈な違和感を覚えてしまう。顔色も途端に変わっている。

「どうしたネ、アッスー?」

「いや、何でもないわ」

 自分自身でもその違和感が分からず、神楽から聞かれても何事も無く言葉を返していた。ひとまずウサギを床に戻している。

「アレ? なんでアッスーさん、急に口が止まったんだろう?」

 ユウキも突然起きたアスナの行動に、疑問が生まれていた。何があったのか気になって、ジッと彼女の表情を様子見していく。

(この感覚、前にもあったような……)

 一方のアスナは、ウサギとの妙な親近感に強い違和感を覚えている。かつても会ったことのある存在。確証もない自信が心の中では生まれていた。この気持ちの正体が分かる時は来るのだろうか?

「にしても、刀剣で怪人を追っ払うとはな」

「マッドネバーとやっぱり関係がありそうだよな」

 一方で銀時とキリトは、引き続きユイらからウサギの情報を聞き出している。勇敢な戦いぶりや、明確な怪人達との敵対意識等、マッドネバーとの関係を特に気にしていた。

「もしかすると、オベイロンの実験でウサギになった妖精さんじゃないですか!?」

「確かにあり得そうではあるけど……本当かな?」

 ユイはつい思い付きで予測を発したが、皮肉にもその説はほぼ正解に近い。

「いや、本当なんだって! 変なメモリのせいで、ウサギになっているんだって!!」

 もはや彼らに聞こえなくとも、ユウキは諦めずに真実を叫び続けていく。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのように、いつかは伝わると彼女は信じていた。

 とそんなことは知らず、ウサギやマッドネバーについての考察を続ける銀時達。すると彼らは、ウサギの持っていた手拭いに気付き始める。

「そういえば、その手拭いには何が入っているんだよ?」

「手拭い? そう言われれば、何なのかしら?」

 ふと手拭いの中身が気になり、アスナらは結びを解いてその中身を確認してみた。そこに入っていたのは、

「こ、これは!?」

「メモリか?」

数本のガイアメモリである。一見すると大型化したUSBメモリに見えて、中心には妙な形をしたアルファベットが刻まれていた。皆がその存在を不思議がる中で、銀時とキリトはこのメモリに心当たりがあった。

「おいおい。オベイロンも使っていたヤツじゃないか、コレ?」

「確かにそうだな……と言うことはやっぱり」

「僕らの予想は当たってそうですね……」

 二人はオベイロンの変身したアナザーエターナルとの戦闘中に、彼がガイアメモリを使用する場面を何度も目撃している。やはりマッドネバーとウサギには、何かしら関係があるそうだ。

「まさか本当に、アイツの実験でウサギになった被害者じゃないアルか!?」

「実験の最中にメモリを奪って、ここまで逃げ出してきたってこともあり得るわね」

「その仮説は濃厚だと思います!」

 神楽、アスナ、ユイも話に加わり、増々予想合戦が激化していく。これまでの情報からウサギの正体はマッドネバーの被害者。開発中のアイテムを奪って逃亡し、地球にたどり着いたと勝手に推測していた。

 もちろん事実とは違う箇所もあるので、ユウキ本人は訂正したくて体をウズウズさせてしまう。

「もどかしい……今すぐ本当のことを言いたいのに!! なんでこの人達には通じないのー!!」

 悲痛な想いを高らかに放つも、無論彼らには届かずじまいである。またもウサギになったことを強く後悔していた。

 万事屋内でマッドネバー関連の考察が続く中、突然あのアイテムにも異変が起きている。

「アレ? 皆さん、見てください!」

「えっ……結晶が光ってる?」

 なんと銀時の机に置かれていた結晶が、突然眩い光を放っていた。この結晶は次元遺跡にてフィリアから譲り受けたものであり、今まで特に不可思議なことは起きなかったが……何故急に輝きだしたのだろうか。

「こんなこと、今まで無かったよな?」

「あのメモリに反応しているじゃないアルか!?」

「そんなのありえるのか……」

 銀時、神楽、キリトと次々に思ったことを呟く。だがしかし、一行にとっては何故光ったのかまるで見当が付かない。結晶は何事も無く元の輝きに戻ったが、より一層謎の深まる結果となった。

「何だったのでしょうか? 今の光は?」

 ユイも結晶の動向を気にしており、思わず手に取って用心深く確認している。皆が結晶に驚きを示していた――その時だ。

(キーン! キーン!)

「えっ?」

 ふと近くから、不協和音のような耳鳴りが聞こえ始めている。

「ん? なんだこの音?」

「外からか?」

「今度は何だよ」

 耳障りの悪い音が鳴り響き、万事屋一行は思わず不快感を覚えてしまう。この音に鬱陶しく思う一方で、ユイだけは妙な気配を感じていた。そう彼女は、数分前にもこの出来事を経験している。

「いや、違います! 皆さん、気を付けてください!」

 と咄嗟に仲間へ注意を与えていた時だった。

〈ギュイーン!〉

「うわぁ!?」

「何だ!?」

 万事屋にあったテレビの画面から、突然衝撃波が襲い掛かって来る。腕で防ぎつつ一行はゆっくりと周りを見ると、そこにはあの漆黒の戦士が出現していた。

「ほぉー、ここが万事屋だな」

「お、お前は!」

「野卦か!?」

「マッドネバーかよ……どうしてここに!」

 その正体は野卦が変身したダークライダー、仮面ライダーリュウガである。彼はミラーワールドからユイを探索。万事屋にいる彼らを発見して、現実世界へと戻っていた。突然現れたリュウガに驚嘆しつつも、一行はすぐに厳戒態勢を整えていく。

「アレは……!」

 ユウキもリュウガの姿を見て、より強く警戒心を高めていた。表情も強張らせており、唸り声を上げながら威嚇していく。あからさまな敵対意識には、ユイや神楽らも気付き始めている。

「ウサギさんも怖がっているのでしょうか?」

「ってことは、やっぱり予想は当たっていたネ!」

「アンタ達……このウサギに何をしたの!?」

 さり気なくアスナはリュウガに対して、真っ向からウサギとの関係性について問い詰めていく。しかし肝心の本人は、何のことだがさっぱり分かっていない。

「ウサギ? 何のことだ? 僕はそんなこと知らないよ?」

「本当かよ? 生物実験とかしているんじゃないだろうな?」

 リュウガの言い分が信じられず、キリトが再度問いかけようとするも、やはり通じてはいない。

「うるさいな……いい加減にしろよ。僕は知らないって言ってんだろ。いいからさっさと、そこにいるガキを手渡せよ」

 頭にきた彼は逆切れしつつも、手早くここへ来た目的を言いふらす。その真意はやはりユイの誘拐であった。

「……やっぱり私が目当てなのですね」

「そうだ。さぁ、こっちへ来い! さもなければ、お前の仲間も焼き殺してやるよ」

「嫌ですよ! 絶対にアナタ達の思い通りにはさせないです!!」

 強気にもリュウガは脅しをかけてくるが、ユイも強固な意志で一歩も引かない。彼女をかばいつつ、万事屋一行も粛々と戦闘態勢を整えていく。

「アスナ。いざという時は……」

「もちろん。一気に取り押さえるわよ。分かったわね?」

「あたぼーよ。何としても守り抜かねぇとな」

 キリト、アスナ、銀時と小声で交わしている。どんな状況下でもすぐに動けるように、万全の態勢を整えつつあった。もちろん新八、神楽も同じ気持ちである。

「僕も同じ気持ちだよ。万事屋さんと同じくね」

 ユウキもこっそりと自身の想いを呟いていた。

 互いがにらみ合い、一触即発の雰囲気が続く中で、一足先に動いたのは、

「ならば仕方ない。ここは力づくでも……!」

「ワフー!」

「うわぁ!? なんだ?」

「定春さん!!」

まさかの定春である。巨体を生かしてリュウガに突進しており、彼の体にのしかかると、今度は舌を使って全身を嘗め回していく。

「ワフフ!」

「おい、止めろ! この犬! 僕の体を唾液まみれにするな! 汚れるだろうが!」

 思わぬ妨害を受けて、見事にテンポを崩されてしまった。肝心のカード機能ものしかかられたせいで使えず、何も出来ずに足止めされてしまう。

 この隙に万事屋一行は逃亡を図っていく。

「定春! よくやったネ!」

「今の内ですよ、皆さん!」

「よし、逃げるぞ!」

「おうよ!」

 ここぞとばかりに好機だと括り、一行は必要な荷物を手にして寝室に逃げ込んだ。ちなみに荷物の中身は結晶とウサギの持っていたガイアメモリとメモリスロットのことである。

 寝室の窓を上手く利用して、一行は次々と外に脱出していく。

「定春もネ! こっちに来るヨロシ!」

「ワン!」

 神楽も定春に声をかけて、共に逃げるように促した。リュウガを唾液まみれにしたところで、彼は玄関を使って万事屋を抜け出している。

「おい、待て! チクショー……ベトベトじゃねぇかよ!」

 一方のリュウガは、文字通り定春の唾液を全身に塗りたくられていた。追いかけようにも痒みが邪魔をして、中々上手く動けていない。余計な時間をかけてしまっている。

 その間にも、万事屋一行の逃亡準備は完璧に整えられていた。

「しっかり捕まってろよ!」

「はいです!」

 銀時の乗るスクーターにはユイが搭乗して、神楽と新八、ウサギになったユウキは定春にまたがっていた。後者は木刀のみならず、結晶やガイアメモリを所持している。またキリトとアスナは羽を飛ばして、空中浮遊。低空飛行のまま、銀時らの跡をついていくようだ。

「こっちも大丈夫だよ!」

「さぁ、銀さん! 早く行きましょう!」

「おう――てめぇら、行くぞ!」

「「おう!」」

「「うん!」」

 再度仲間達の準備を確認したところで――一行は勢いよく出発している。まだ目的地も決めていない逃亡劇が幕を開いたのだ。

「チッ、逃げられたか。まぁ、いい。追手は僕だけじゃないんだからな」

 リュウガもようやく動けたものの、僅かな時間の差でユイを取り逃してしまう。それでもまだ策は幾度も立てているようで、他のダークライダーや怪人、戦闘員と総動員で彼女を捕まえようと画策していく。

〈adobent!〉

「あいつらを追いかけろ! ドラグブラッカー!!」

「グルァァァァ!!」

 満を持して取り出したアドベントカードでドラグブラッカーを召喚。万事屋を追跡するように指示していく。

 遂に本性を現したマッドネバーの恐るべき計画。彼らが何故ユイを狙うのか? まだまだ謎は隠されている。銀時やキリトら万事屋は、果たしてユイを守り切ることが出来るのだろうか?

「もうこうなったら、乗りかかった船だ! この人達は、僕が絶対に守って見せる!!」

 ウサギになったユウキも元に戻ることが出来るのか?

 様々な想いや策略が混ざり合い、ユイを巡る戦いはより激しさを増していく……。




鬼兵隊の残党を襲撃した戦闘員一覧
ライオトルーパー
カッシーン
屑ヤミー
グール
魔化魍忍群
バグスターウイルス






 さてさて、今回もいかがだったでしょうか? マッドネバーの忍び寄る脅威に、それぞれのキャラクターがどう立ち向かうのか。徐々に物語が動き始めた話だったと思います。
 それぞれを振り返ると、ひょんなことから行動を共にすることとなったシウネーと高杉。これをまた子が見ようものなら……発狂すること間違いなしです。多分次回は発狂します(笑)
 ウサギとなったユウキは紆余曲折あり、万事屋の元へ! アスナは何か違和感を覚えているようですね……
 個人的な感想なのですが、今回は新八が一番かっこよかったと思います! 鉄パイプを握りしめて、ユイを命がけで守ろうとしていましたからね!(どこかの脱獄囚ではないです)
 万事屋の特訓描写も、もしかして始めてなのではないでしょうか。あんまり銀さんが特訓自体乗り気じゃないので、これはこれで珍しい一幕です。
 後言えるのは、セブンちゃんは今すぐ逃げてください(笑)

 それじゃまた次回! 逃亡する万事屋一行に待ち受ける者は果たして!?

※前回の予告のメモリ使用描写は次回の持ち越しとなります。すいません……







次回予告

新八「おぃぃぃぃ!! なんだよ、このふざけたメモリは!?」

長谷川「おい、銀さん。何やってんだよ?」

リーファ「ちょうどいいわ。私達が相手になってあげる!」

近藤「総員妖精達に続け!」

ユウキ「本当に大丈夫かな、この人達?」

銀時・キリト「「俺達が相手だ!!」」

妖国動乱篇三 Aの切り札/万事屋逃走中 

これで決まりだ!


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第七十七訓 Aの切り札/万事屋逃走中

「もう何があっても、不思議はないぜ」
 今回の話はまさにそうだと思います……


前回の剣魂妖国動乱篇は――

亜由伽「そうね。それじゃ、あの女を捕まえに行くわよ」

シウネー「だ、大丈夫です……私もアナタのことを信じていますから」
高杉「信じるのは勝手にしろ。一緒に向かうだけ。ただそれだけのことだ」

来島「うるせぇ! 間違いなく本気で、プーカ領に行こうとしていただろ!」
武市「仕方ないじゃないですか! ロリ……フェミニストなんですから!」
来島「言い換えても無駄っすよ! 武市変態!!」

ユイ「あー! あそこに仮面ライダーがいます!!」
レオイマジン「何だと!? おい、探せ! まさか電王か!? ちょうどいい、俺が相手になってやらぁ!」

新八「平気だよ。僕も侍だからね。守ると決めたものは絶対に守り通す。だから安心して」

ユウキ「君がテロ組織に狙われている女の子だね? でも大丈夫! 僕も味方に付くからさ!」

ユイ「なんと言っているのでしょうか?」
ユウキ「ちょっと待って。ひょっとして、僕の言葉通じてないの!?」

キリト「まったく。戦闘から離れたら、すぐ緩むんだから」

神楽「そうネ。と言うわけでアッスー。このウサギを調理してほしいネ!」

アスナ(この感覚、前にもあったような……)

リュウガ「フッ。ちょいとお前らに用事があってな。このガキを渡せ!」

銀時「しっかり捕まってろよ!」
ユイ「はいです!」


 遂にクーデターへと動き出したALO星の過激派組織、マッドネバー。騎士団や鬼兵隊、さらには万事屋をも巻き込み、事態は急展開を迎えている。

 そんな中で騎士団の一人であるシウネーは、鬼兵隊の総督である高杉晋助と遭遇。ひょんなことで、彼と一時的な協力を結ぶことになる。互いを信じあった共闘ではなく、利害の一致の元で出来た歪な共闘だが。

 シウネーは本拠地への一刻も早い帰還。高杉ははぐれた仲間との合流。最終的な目的も各々異なっている。

 現在は奇襲を仕掛けてきたマッドネバーの伏兵、ライオトルーパーの大群に二人は立ち向かっていた。

「ハァァァ! そこです!」

「ブホォ!」

「グルゥ!」

 数分前の戦闘と同じく、彼女は杖を巧みに扱って、次々とライオトルーパーを薙ぎ倒していく。相手の腹部に突き付けて吹き飛ばす攻撃と、左右から連続して打撃を与える攻撃を駆使して戦っていた。

「スウァ! フッ!」

「ギギ!」

「ウ!?」

 一方で高杉も、容赦なく刀を用いてライオトルーパーに斬りかかる。相手の気配をすぐに察して、背後からの不意打ちすらも相殺。凄まじい洞察力を生かして、赤子の手をひねるように淡々と瞬殺している。

「これで……!」

「しめぇだ」

 そして二人は同時に、残っていたライオトルーパーへ攻撃していく。

「「「ダアァァァ!!」」

 甲高い断末魔を叫びながら、伏兵達はゆっくりと地面に倒れ込んでいた。戦闘の終わった二人は、改めて辺りを見渡していく。そこにはライオトルーパーの残骸が、あちらこちらに転がっている。瞬く間に伏兵部隊を壊滅させていた。

「手ごたえのない奴らだったな」

「そうですね。早くアルンに向かいましょうか」

「あぁ」

 ほんの少しだけ会話を交わすと、高杉とシウネーは休む間もなく森を抜けるために走り出す。各々の目的が最優先であり、余裕があるうちにアルンまで進もうとしていた。

 早々に森を出発していた……その時である。

「ウッ!?」

「おい、どうした? 何かあったのか?」

 突然シウネーに異変が生じていた。彼女は左胸を強く抑えた後、強い痛みを感じてしゃがみこんでしまう。高杉も気にして声をかけるが、

「いえ、平気です! きっとさっきの戦いの傷ですよ……気にせずに行きましょう!」

「そうかい。じゃ、このまま行くぞ」

「はい!」

シウネーはすぐに立ち直っていた。ただの気のせいか強がりかは知らないが、本人の意思を尊重して高杉は気を取り直して走り出す。シウネーも引き続き彼の跡を追いかけるが、内心では複雑な心境を抱え込んでいた、

(何故急に力が抜けたのでしょうか……まさかこれもクーデターの一端? だとしたら、早くアルンに向かわないと!)

 今までに感じたことのない痛みから、彼女はマッドネバーが原因だと察している。クーデターによる影響も予想しており、増々アルンの様子を心配していた。その予想は当たることとなるが――

 乱入してきた邪魔者も片付けつつ、二人の奇妙な旅路はまだ続く……

 

 しばらく走り続けていると、森林地帯から草原地帯に抜け出していた。実はその近くでは、高杉の仲間である鬼兵隊の一員がいる。

「やれやれ。ようやく落ち着きましたか。こんな性格だから、仲間からはイノシシ娘と呼ばれるのですよ」

「やかましっすよ! つーか、その呼び名言ってんの武市先輩だけっすよ!!」

「はてさて、そうでしたか?」

 武市とまた子の口論も、未だに続いている様子だ。不完全燃焼だが、二人の争いはひとまず落ち着く。

 そんな他愛のない口喧嘩はさておき、鬼兵隊は高杉との合流を目途に再出発を試みる。

「ようやく終わったか。またマッドネバーが来る前に、ここを抜け出そうぞ」

「万斉先輩、そんなの分かっているっすよ!」

 万斉からも出発を促されて、また子は反射的に言葉を返していた。再度一行が準備を整える中、万斉は偶然にもある人物を見つけている。

「おや? おい二人共、あれは晋助ではないか?」

「晋助殿ですと?」

「晋助様っすか!? どこにいるっす!?」

 その正体は高杉であり、一早く仲間へ伝えていた。すると案の定、また子は人が変わったように豹変している。テンションを上げて周りを見渡し、高杉の行方を捜していた。

「どこ……?」

「また子よ、あそこでござる」

「あっ! いたぁぁぁ!!」

 万斉からの助言で、ようやく彼女は高杉の姿を捉えている。こちらとは遠い距離にいるが、また子は大声を出して、彼に気付かれるようにと必死のアピールを続けていた。その表情は、どこか晴れ晴れしく感じ取れる。

「晋助様! こっちっす! 早く――」

 と根気よく声をかけ続けていた時だ。また子はある衝撃的な光景を目にしてしまう。

「はぁ!? 誰だ……あの女!!」

 その光景とは、高杉と共に行動する謎の女性だった。彼女の正体は高杉と共闘を結んだシウネーだが……一行はその事情を把握していない。故にまた子はシウネーを見るや否や、あらぬ妄想を掻き立てて、嫉妬心を存分に剝きだしていた。表情も一変して、傍から見ると鬼のような形相である。

「おい、また子。そんなに怒ってどうしたのだ?」

「晋助殿ではなかったということでしょうか?」

 彼女の豹変ぶりには、仲間達もつい心配していた。万斉らは奇遇にも死角にいたせいで、シウネーの姿は見えていない。だからこそ、また子の心情の変化を理解していなかった。

 すると彼女は息を荒げつつ、強い口調のまま仲間達に想いを流布していく。

「いいや、本物っす! あの女、ただじゃすまないっすよ……さっさとついてこい! 男共よ!!」

「えぇ!? ちょっと!? また子さん?」

 断片的にしか事を伝えず、また子は一人で高杉の元まで走り出していた。私怨を剥き出しにして、無我夢中で突進する様は、まさに愛の暴走と言っても差し支えないだろう。

 猪突猛進の如く突き進む彼女を見て、万斉、武市共に困惑めいた表情を浮かべている。

「一体何があったのだ?」

「さぁ? 存じ上げませんが、さっさと追いかけましょうか」

「そうでござるな」

 冷静に対処しつつ、彼らはまた子を追いかけることにした。ひとまずは直接本人に理由を問い詰めることにしている。

 こうして鬼兵隊も動き出しており、アルンへと向かう高杉とシウネー、その跡を必死に追い回すまた子、さらに彼女を追う万斉と武市。重複する尾行の中で、果たして無事に再会を果たすことは出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは地球のかぶき町。そこにあるスナックお登勢では、とあるニュース番組をお登勢らは視聴していた。

「ここで臨時ニュースをお伝え致します。先程ALO星の中心街であるアルンにて、クーデターが発生したとのことです。繰り返します。ALO星にてクーデターが発生しました。現在は邦人及び地球人の安否が急がれるところですが――」

 草野アナは先ほど入ってきた情報を、繰り返し視聴者へと伝えている。どうやら地球より遠く離れたALO星という星で、唐突にもクーデターが発生したとのことだが。

「オ登勢サン。ALO星でクーデターデスッテ」

「なんだい。またどっかの星で起きたのかい。本当懲りないもんだね」

「ドコノ星ニモイマスヨ。コウイウ後先考エナイヤツハ」

 クーデターと聞くと一大事にも聞こえるが、お登勢やキャサリンはまるで日常事のように薄い反応を示していた。日々波乱が巻き起こるかぶき町で暮らす身だからこそ、よっぽどのことじゃない限りは驚かないのだろう。目を細くしつつ、二人は引き続きニュースを見ていく。

 その一方でエギルは、クーデター並びにALO星の存在にも驚きを示していた。

「ALO星なんてあったのか……」

「どうかされましたか、エギル様?」

「いや、実は俺が元の世界でやっていたゲームも通称ALOって言うんだよ」

「そうなのですか。ALO星は妖精と魔法が中心となっている星ですね」

「それ……まんまこっちとそっくりだな」

 たまからALO星の特徴を伝えられると、彼は増々その星に親近感が湧いている。元の世界に存在するゲーム、ALOとも世界観や設定が酷似しているからだ。そんな星でクーデターが起きようならば……彼は気になって仕方が無いのである。

「おいおい、大丈夫かよ……」

 怪訝そうな表情で呟くも、たまが冗談交じりに彼へ返答していた。

「きっと大丈夫だと思いますよ。いざという時は、銀時様達が解決してくれますから」

「ってアイツらまで巻き込んでいたら、もっと大変なことになるよ」

「町ガ余計ニメチャクチャニナリソウデスケドネ」

 万事屋一行を巻き込んだ冗談話に、四人はついクスっと笑っている。何をしでかすか分からない万事屋だからこそ、状況が悪化することは容易に想像が付く。スナックお登勢に加入して間もないエギルすらも、お登勢らと同意見である。

 そんなことは起きるはずが無いと四人は括っていたが――予想とは裏腹に彼らは現在、とんでもない騒動に巻き込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ? 追ってきてないか?」

「大丈夫ですよ。誰も来てません」

「ということは、しばらく安心して良さそうだな」

「ふぅー、良かったです……」

 万事屋を出発してから早数分後。銀時や新八、キリトらは追手が来ていないことにひとまず安堵の表情を浮かべている。それを聞いて、ユイら女子達も同じく一安心していた。

 彼らは現在当てのない逃走をしており、突然襲来してきたマッドネバーの一味から必死に逃げている。マッドネバーの目的はユイを連れ去ることであり、一行は何としてでもそれを阻止しなければならない。

 緊張感がより一層強まる中で、彼らの進む速度は変わらない。スクーターや定春、はたまた背中の羽を使いながら、かぶき町を駆け抜けていく。ひとまずは、今後の目的地だけでも決めようとする。

「ところでどうしましょうか? 避難場所ってもう決めているんですか?」

 ユイの素朴な疑問に銀時が答えていた。

「そんなモン決めてねぇよ。これから決めるんだろうが。ってわけで、誰か良い場所思いついたヤツは挙手な」

「いや、人任せかよ」

 自由気ままな返答に新八も軽くツッコミを入れている。簡単に言うと特に考えておらず、銀時はそのまま仲間達に代案をぶん投げてしまう。

「じゃ、吉原とかどうだ? シリカやスグ達もいるし、月詠さんだっているから頼りになると思うよ」

「ひとまず真選組に相談してみたら? 良い隠れ家を提供してもらえるかもしれないわよ」

「のんのん。みんな甘いネ。こういう時はアパホテ〇に行ってみるネ! 豪華なディナーが待っているアルよ! ウシシ……」

「おい、私情漏れているぞ。神楽だけは却下な」

 キリト、アスナ、神楽と次々に避難先を提案するが、神楽だけは明らかに私情を挟めていた。当然銀時には見透かされており、即答で否定している。

 逃走している身とはいえ、その雰囲気は重くはなく、むしろ和やかそうであった。

「本当に大丈夫かな、この人達?」

 ウサギとなったユウキも、彼らの緩い雰囲気に不安視している。苦笑いを浮かべながら、その流れに飲まれないように気を引き締めていた。

 未だに避難先が決まらない中、逃げ続けている万事屋一行。このまま何事も無く守り切れば良いが……そう簡単には上手くいかない。

「ん? ぎ、銀さん!! 後ろ! 後ろ見てください!!」

「どうした、新八? まさかア〇ホテルの社長でも見つけたのか?」

「そんな小ボケはいいですから、後ろ見てくださいよ!!」

「一体何を焦ってんだよ。後ろに何が……」

 ふと後ろを振り向いた新八は、あるモノを発見して仲間達に慌てて忠告していく。いつものクセで小言を叩いていた銀時だが……彼も後ろを振り返ると、その存在を目にして驚嘆としてしまう。

「な、何じゃこりゃぁぁぁぁ!!」

 銀時及び仲間達が目にしたのは――彼らを追跡する謎のバイク集団であった。

「ターゲット確認。各位スピードを上げて追い越せ! あの少女を捕獲する!」

「「「了解!!」」」

 一人の隊員がそう呟くと、彼らは速度を徐々に上げて、万事屋一行との距離を縮めようとしている。バイク集団の正体は、マッドネバーの戦闘員であるライオトルーパーだ。彼らは専用のバイクであるジャイロアタッカーを乗りこなして、並列しながら銀時らを追跡している。その数はぱっと見ただけでも、十体程度はいた。

 無論ライオトルーパー達の目的はユイの誘拐である。虎視眈々と狙いを定めていき、力づくでも奪い去ろうとしていた。

「アレってまさか……!」

 彼らの姿を見たユウキは、すぐにマッドネバーの戦闘員だと把握している。思ったよりも早く追いつかれて、彼女は困惑めいた表情を浮かべていた。同時にユイを守り切るために、気持ちを強く引き締めていく。

 一方の万事屋側だが、追跡するライオトルーパー達に驚きつつも、各々が思ったことを呟いている。

「兵隊さんですか?」

「ていうか、こっちに近づいているわよ!!」

「俺達が狙いってことかよ……!」

 ユイ、アスナ、キリトは、すぐに自分達が狙われていることに気付いていた。冷静にも現在の状況を読み解いている。

「銀ちゃん、どうするネ! このまま振り切るアルか!?」

「急かすんじゃねぇ! ちょっと待ってろ! 今考えるから!」

「って言っても、もうそこまで近づいていますよ!!」

「ワフフ!?」

 彼らに対して神楽、銀時、新八、定春は、取り乱しながらも必死に打開策を考えていた。危機的な状況を察しているが、焦りへの気持ちが前面に出ている。

 追いつかれまいと少しずつ速度を上げる銀時らだが、ライオトルーパー部隊との距離は縮まるばかりだ。さらには、

「この……ならば!」

ライオトルーパーの一人が奥の手を仕掛けていく。所持していた武器、アクセレイガンを手にすると、

「発射!」

〈バキューン!〉

「「うわぁ!?」」

なんと万事屋一行に向けて発砲。姑息な手で妨害を仕掛けていく。

「いや、発砲までしてくるのかよ!」

「そこまでして、ユイちゃんを連れ去りたいの!?」

「アイツら、危険すぎるネ! 早く撒かないと、こっちの身が持たないアルよ!」

 銀時、アスナ、神楽と悲痛な想いを次々と発していた。意地でも追跡を止めないライオトルーパー達に辟易としながら、一行は今まで以上に危機的な状況だと悟っている。

 飛び道具まで使われれば、被弾した時点で逃げ切ることは難しくなってしまう。一行は知恵を振り絞りながら、必死に打開策を考え込んでいく。もちろんユウキも同じだ。

「このままじゃみんなが……どうすれば。あっ! そうだ!」

 すると彼女はある作戦を思いつく。近くにあった手拭いを動かし、この難局を乗り切る切り札を取り出していた。

「見つけた! もうこれでいいや! 頼む!!」

 ユウキが見つけたのは一本のガイアメモリであり、それを黒いメモリスロットに装填している。彼女の作戦とは、ガイアメモリの力で追手を追い払うものであった。逆転の一手を担うそのメモリの名は――

〈ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲! マキシマムドライブ!!〉

「はぁ!?」

「なんだ今の音!?」

ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲メモリである。あまりにも長い名前にキリトやアスナは微妙な反応を示し、はたまた銀時や新八達は聞き覚えのある大砲に衝撃を受けていた。

「って、おい! どうなってんだよ?」

「銀ちゃん! あのウサギがメモリを使っているネ!」

「いつの間に!?」

「まさかメモリの力を解き放とうとしているのか?」

 一行は状況を一早く察知して、ウサギの仕業だと突き止めている。全員が驚きを感じているうちに、早くもメモリの効果が現実に現れていた。

「よし、決めちゃって!」

 気合の入ったユウキの掛け声と共に、万事屋一行の上空に大砲の幻影が出現する。その形はまごうことなきネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲であり、知らない人から見たら男性の局部にしか見えない。

「な、なによアレ!?」

「ちょっと待て! これはまさかアレなのか……?」

 様子を見ていたアスナやキリトは、大砲の全貌を見て顔が真っ赤になってしまう。彼らからすると卑猥な物体に見えて仕方がなく、何とも言えない気持ちに苛まれている。

 一方の銀時達は慣れているせいか、あまり大きなリアクションはない。何食わぬ顔のまま、キリトらを落ち着かせようとしていた。

「何を勘違いしてんだよ。アレこそネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねぇか。それにしても完成度高ぇな、おい」

「完成度云々じゃないのよ!! あんなのただのわいせつモノでしょ!!」

「何言っているアルか。この大砲は江戸城に攻撃を仕掛けた天人の決戦兵器アルよ」

「そういう細かい事情はいいから! 形に問題があるんだよ!!」

 神楽も加わり説得するも、やはり納得がいかない様子である。さらに二人は、大砲を凝視しているユイにも注意を加えていた。

「てか、ユイ! 今すぐ目を瞑れ! あんなの見たら、汚れるぞ!」

「えっ、なんでですか? ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですよ。ただのこの世界の大砲じゃないですか」

「なんでもう名前覚えてんの!!」

 焦りながらも促すが、当の本人は普通の大砲だと信じている。純粋故に解釈するユイの姿に、アスナは激しいツッコミを入れていた。

 そんな中で銀時は、この状況を利用して悪乗りしていく。

「おい、ユイ。あれは建前で大砲と言っているが、実は違うんだよ」

「そうなのですか?」

「そうそう。本当は……」

「「銀さん!!」」

 にやけながら真実を話そうとするも、怒気の籠ったキリトとアスナに一喝されてしまう。偶然にも選んだメモリのせいで、万事屋一行は混沌とした状況に陥っている。

「えっと……とりあえず! あの戦闘員を蹴散らして!!」

 メモリを差し込んだ張本人であるユウキも、つい申し訳なさそうな表情を浮かべていた。それでも今は、追手を倒すのが先決である。幻影の大砲もエネルギーが充填して、ようやくライオトルーパー達に向けてエネルギー弾が発射されていく。

〈ヒュー ドガーン!!〉

「何だ!」

「伏せ……ギャァァ!!」

「「「うわぁぁ!!」」」

 エネルギー弾は見事に全てのライオトルーパーに被弾。連鎖するように爆発を引き起こし、次々と彼らを吹き飛ばしていく。

 万事屋一行も皆が動きを止めており、神妙な表情を浮かべつつ、ライオトルーパー達の末路を見張っている。

「こ、これは……」

「全滅か?」

「おぃぃぃぃ!! なんだよ、このふざけたメモリは!?」

 その結末は全滅に等しかった。ライオトルーパーはおろかバイクまで消し炭となり、跡形もなく無くなっている。さらには周りに被害は及ばず、綺麗にライオトルーパーだけに危害が加えられていた。高性能すぎる効果に、新八も高らかにツッコミを上げている。

 いずれにしても、万事屋一行の危機的な状況を見事に打破していた。

「とりあえず一安心だな。しばらくは追手も来ないだろ」

 銀時も安堵の表情を浮かべており、そっと心を落ち着かせる。仲間達も同じ気持ちだと思い周りを振り返ると、

「じゃないだろ!」

「じゃないでしょ!」

「うわぁ!? なんだよ!?」

必ずしもそうではない。キリトとアスナは怒りながら、銀時へ迫るように接近。そして数分前の不平不満を、彼にぶつけ始めていく。

「よくもユイちゃんにあんな卑猥な大砲見せたわね……」

「しっかり落とし前は付けてもらうぞ……」

「おい、ちょっと待て! 仕掛けたのは俺じゃねぇぞ! 文句はこの展開を考えた投稿者に……」

「でも、銀さん。ユイちゃんに堂々と下ネタを教えようとしたわよね……?」

「そ、それは……大人の階段と言うかなんというか」

「覚悟しろ……!」

「ま、待て! 話せば分かる……ギャァァァ!!」

 二人はユイに下ネタを教えようとした銀時が許せず、怒りが収まる前に制裁を加えようとした。キリトは目を鋭くさせ、アスナは怒りを滲ませた笑顔で容赦なく襲い掛かる。彼は命に関わらない程度に、手痛いお仕置きを受けてしまった。

 一方のユイは、何故銀時がボコボコにされているのか分かっていない。

「銀時さんは何故パパとママに怒られているのでしょうか?」

「まぁ、大人同士のトラブルというか……」

「結局ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は何なのですか? 詳しく教えてくださいよ!」

「そう言われても……難しいネ」

 邪な深読みは決してせず、純粋な気持ちでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を知りたがっていた。神楽や新八に問い詰めるも、二人もどう答えればよいか反応に困っている。もちろん定春もだ。

 一時的な脅威は去ったが、メモリの巻き起こした波乱で万事屋はグダグダな雰囲気となってしまう。

「ギャァァァ! ウオォォォ!」

 銀時の制裁もまだ続いている。そんな中でユイは、難局を救ってくれたウサギに感謝の言葉を伝えていた。

「それにしても、助けてくれてありがとうございます! ウサギさん!」

「どういたしまして……何かトラブルが起きているようだけど、大丈夫なのかな?」

 有難く気持ちを受け取るも、言葉は通じないため表情で返答していく。密かに万事屋内で起きているトラブルに、彼女は一抹の不安を覚えている。それでも雰囲気的に深刻そうに見えず、すぐに収まるだろうと察していた。

「あっ、そうだ! 今のうちに!」

 そんな中でユウキはさらなる考えを思いつく。またも手拭いを探りながら、今度はOが刻まれたメモリを探している。それはオンラインメモリであり、ユウキの仲間であるジュン達四人を封じ込めた忌まわしきモノだ。このメモリをもう一度使用すれば、元に戻せるのではないかと予測している。

〈オンライン! マキシマムドライブ!!〉

「これで仲間を呼び戻せるかも! お願い! 戻って来て!!」

 早速メモリをスロットに装填して、後は上手く行くように祈っていた。あの穴が出てくることを期待していたが……

「ん? 何も起きないの?」

ユウキの期待とは裏腹に何も起きていない。試しにもう一度差し込もうとしたが、

「あっ、ダメですよ! 勝手に試したら何が起きるか分かりませんから、没収しますね」

「ちょ、ちょっと!!」

ユイに気付かれてしまい取り上げられてしまった。取り返そうとするも、やはり言葉が通じないため願いが叶わずに好機を無くしてしまう。

「アレ? おかしいな……なんで出てこなかったんだろう」

 予想が外れたことに納得のいかないユウキ。その表情も気難しく変わっている。

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし。彼女は気付いていなかった。オンラインメモリが実は役立っていたことを。

「ちょっとみんな! あら……? 見失っちゃったわね」

 場面は変わって、こちらは万事屋とはまったく逆の方角にある住宅街。そこには妙が二重の弁当箱を抱えながら、誰かを探しているようだが?

 彼女へ追いつくように、九兵衛や月詠も妙の元に駆け寄ってきた。

「妙ちゃん! シリカ君達は見つかったのか?」

「それが見失ったのよ。一体どこへ行ったのかしら?」

 九兵衛は妙にシリカらの行方を聞くが、妙曰く見失った様子である。どうやら女子達四人を捜索しているようだが、とある出来事がきっかけで道場を逃げ出したという。

 その理由はもちろん……妙の料理絡みである。

「主が無理やり料理を食わせようとするからじゃろ」

「えー? 折角腕にヨリをかけて作ったのに……」

「妙ちゃんの場合、ヨリをかける方が不味いと思うが……」

「何か言ったかしら?」

「いえ、なんでも」

 月詠や九兵衛からも諭されるも、妙はあまり責任を感じていなかった。彼女曰く自信作のようだが、その実態はいつもの暗黒物質である。リーファやシノン達は自身の命の危険を感じ取り、密かに道場を抜け出したという。

 上手くは見つけられない中で、彼女達は知り合いと遭遇する。

「あら? みんな集まって、何か話しごとかしら?」

「ん? その声は猿飛か」

 近づいてきたのは、道場には訪れていなかった猿飛あやめだ。たまたま近くを通り過ぎて、妙達を見つけたようである。

「もしかしてまた、リーファちゃん達絡み? あの子達ならさっき……」

 とさり気なく目撃情報を伝えようとした時だ。

「あっ、猿飛さん。上、上」

「上って一体何が――うわぁぁぁあ!?」

 唐突にもあやめの頭上に何かが出現している。サイバー空間のような穴が開き、そこから四人の人間と思わしき生物が落下してきた。予想だにしない展開にあやめも回避することが出来ず、その生物達の下敷きになってしまう。ちなみに穴は瞬く間に閉じている。

「痛ぁ……俺達どうなっちゃんだ?」

「恐らくあの怪人のせいで、妙な空間に閉じ込められたものだと」

「早く戻って、ユウキやシウネーと合流しなきゃいけないのに……!」

「ていうか、ここどこだ?」

 落下してきた四人は次々と思ったことを発していた。そう彼らの正体は、オンラインメモリにより幽閉されていたスリーピングナイツのメンバーである。ジュン、タルケン、ノリ、テッチと自身や仲間の無事を確認しつつ、周りの様子を見渡していた。

「だ、誰だ君達は?」

「空から降ってきたじゃと?」

 突然の妖精達の登場により、九兵衛や月詠らも困惑めいた表情を浮かべている。だがしかい、一番困っているのは下敷きにされたあやめであった。

「ちょっと……アンタ達。すぐに離れなさいよ!!」

「おっと、人がいたのか!?」

「これは失敬でした!」

 彼女は力づくで四人を薙ぎ払っていく。ようやくジュンらもあやめの存在に気付き、謝罪の言葉をかけていた。ひとまず彼らは、周りにいた妙達に状況を聞くことにする。

「えっと、アナタ達は? それにここはどこですか?」

「どこってかぶき町よ。地球の」

「さらに付け加えると江戸の町の一部だな」

「「えっ?」」

「「はい!?」」

 妙からの言葉に耳を疑う一行。ALO星から地球に来たとなれば、その過程で何が起きたのかつい気になってしまう。あまりにも衝撃すぎて、開いた口が塞がらなかった。

 こうして幽閉されていたスリーピングナイツのメンバーは解放されたが、状況を理解するにはまだまだ時間がかかりそうである。さらにはこの事実をユウキはまだ知っていない。妙や月詠達の出逢いが、彼らにどんな影響を及ぼすのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは引き続き逃走中の万事屋一行。とあるメモリのせいで波乱が起きたものの、現在は落ち着いて逃亡を再開している。皆に変わりは無いが、銀時だけはキリトやアスナから受けた制裁の跡が残されていた。

「銀ちゃん。ズタズタになっているアル」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけないだろ。こんなのただの冤罪だろうが」

「悪乗りするのがいけないのよ。ユイちゃんにも悪影響でしょ」

「ユイに変なことは教えるなってことだ」

「そんなに変だったのでしょうか?」

「「変だよ!!」」

 銀時は未だに不満げであり、納得がいかない様子である。肝心のユイも何が問題なのかは分かっていない。騒動により起きた余波は、今でも万事屋に影響を与えていた。

「もっと別のメモリにした方が良かったのかな……?」

 ユウキも苦笑いを浮かべたまま、若干の責任を感じている。過ぎたことは仕方がないが。

 ユイの将来を考えて今後は、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲メモリは使わないことに決めていた。代わりに新しく使えそうなメモリを探すことにしている。

 ちょっとした混迷を乗り越え、気持ちを新たに進む万事屋一行。目的地も決まりつつある中で……さらなる追手が姿を現していた。

「ダラァァァァ!!」

「ぎ、銀さん!! また追手ですよ!」

「アイツは……あん時の龍か!」

「ったく、しつこいアルナ!」

 けたたましい鳴き声が響き、一行は後ろを振り向く。そこにはリュウガが使役する黒龍、ドラグブラッカーがこちらに接近していた。距離も徐々に縮めており、いくら速度を上げようとも差は縮まるばかりである。

「このままじゃ、また追いつかれるぞ!」

「早くメモリの力で追い払いましょう! ……もちろん、アレ以外で」

「どんだけトラウマになっているんだよ! とにかく、新八! 神楽! それとウサギ! 頼むぞ!」

 正攻法では振り切れないと察したアスナは、ガイアメモリの使用を仲間達に促していた。入念にも例のメモリは省いており、銀時からはツッコミを入れられている。それはさておき、銀時に言われなくとも新八らは手拭いからメモリを探していた。

「分かってますよ!」

「でもどのメモリが良いアルか!?」

 数本あるメモリを一つ一つ見てみるが、その効果は実際に使わないと分からない。しばらく二人が頭を悩ませていると、ユウキは直感であるメモリを選んでいた。

「だったら……これで!」

「おぉ! ありがとうネ、ウサギ!」

「よし、ならこのメモリで行こう!」

 言葉は通じずとも、素振りで神楽らにメモリを渡していく。彼女が選んだのはHの刻まれたガイアメモリである。

「どうか変な効果じゃありませんように……!」

 直感で選んでおり、正直まともな効果は保障できない。それでも追手を追い払うことを祈って、手を合わせていた。

 そして新八はスロットにメモリを装填していく。

〈ホームレス! マキシマムドライブ!〉

「ハァ!?」

「ホ、ホームレス!?」

「えぇ……嘘でしょ」

 謎に包まれたHのガイアメモリの正体は――まさかのホームレスメモリである。見るからに使えなさそうであり、一行の期待値はガクンと下がっていた。ユウキもつい絶句してしまう。場にいた全員がホームレスメモリに困惑していると、すぐに効果が表れている。

「ん? うわぁ!?」

 メモリスロットから突如として謎の光が放出。その光はドラグブラッカーに直撃すると、

「ダァ? アーア」

「えっ?」

「帰っちゃいました……?」

なんと追跡を止めてどこかへ去っていた。意外にも追手を退けることには成功している。

「とりあえず、危機は去ったみたいだな……」

「良かったわ……でも、まさかホームレスのメモリに助けられるなんて」

「一体どんな効果だったんだよ? つーか、あの龍はどこに向かったんだ?」

「さぁ?」

 キリト、アスナ、銀時、新八と一行は危機を回避したことに安心していた。しかし結局、ホームレスメモリの効果は分からないままだ。ドラグブラッカーの向かった場所も気になるところだが……

 ちなみに万事屋やユウキは知らないが、ホームレスメモリの効果は光に触れた相手のやる気を著しく低下させるものである。眠気をも誘うので、ドラグブラッカーは追跡を止めて眠れる場所を探すことにしたのだ。

 そして偶然にも見つけた場所は、

「ん? なんだ……って、ギァァァァ!!」

公園の隅っこで寝ていた長谷川の寝床である。段ボールで出来ているが、ドラグブラッカーにとっては最高の寝床だった。これもホームレスメモリの作用と言うべきか……

 長谷川を体格差で追い払い、ドラグブラッカーはそっと昼寝に付く。これでしばらくは追ってこないが、思わぬ形で別の被害者が生まれていた。

「な、何だよコレ!? ていうか、俺の寝床から出ていけ!!」

 折角の居場所を奪われた長谷川は、怒りながら突然襲ってきた黒龍に文句を発していく。事情を知らない彼にとっては、たまったもんじゃないだろう。この原因を辿れば万事屋とも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 と長谷川の受難はさておき、万事屋一行はようやく逃亡先の目的地を決めていた。

「とりあえず、真選組の屯所で良いわね?」

「あぁな。納得はしてねぇがな」

「同じくネ」

「って、二人共! 今回ばかりは協力するべきですよ!」

「あまり落ち込むなって」

 相談事も踏まえて、真選組の屯所へ向かうことにしている。一応近藤らを頼ることにしたが、銀時や神楽は少々納得していない。仲の悪い土方や沖田に頭を下げたくない気持ちがあるからだ。テンションの下がる二人に対し、ユイやキリトは積極的に諭していく。

「真選組は確か……この星の警察組織だったはず。てか、万事屋は真選組に何かされたのかな?」

 ユウキもこっそりと話を聞いていたが、真選組に対して悪い反応を示す銀時らが気になっていた。彼らだけは何かしらの因縁があると考えているが。

「そうですよ。今回ばかりは協力しないと、本当にユイちゃんを守り切れませんよ」

「分かっているけど、何か気が進まねぇんだよ。アイツはマヨネーズ臭いし」

「えっ? マヨネーズの匂いするの!?」

「そうアルよ。あのドS男なんか、何してくる分からないアル。こっちにたかって、バカ高い警備料をぼったくるに違いないネ!」

「警察がぼったくり!? ……どんだけ信用されていないの?」

 引き続き話を聞くと、耳を疑うような事例がわんさかと出ている。マヨネーズといいドSといい、本当はネタだと考えてしまうほどだ。つい表情を引きずってしまうユウキである。

 様々な気持ちに葛藤しながらも、結局は屯所へ向かう事にした万事屋一行。気持ちを落ち着かせつつ、着実に目的地へ近づこうとしていた。そんな時である。

〈strike bent!〉

「くらえ!!」

 何の前触れもなく鏡の中から、ダークライダーの一人であるリュウガが現れていた。万事屋の目の前に立ちはだかり、装着していたドラグクローから漆黒の炎を解き放っていく。

「な、何だ!?」

「ダークライダーです!!」

「みんな、止まれ!!」

「ワフー!!」

 リュウガ及び炎の存在に気付くと、万事屋は皆動きを止めている。スクーターはブレーキがかかり、定春は炎に怯えて自主停止。キリトやアスナも炎を避けつつ、羽を閉じて一旦地上に降りていた。目の前に現れたリュウガにより、万事屋は行く道を完全に阻まれてしまう。

「ったく、よくも足止めしてくれたな。さっさとどきやがれや。お邪魔虫」

「早く立ち去れネ! ペッ、ペッ!」

「何とでも言え。何度言おうとも、僕らの目的に変わりは無いからな。さぁ、このガキを渡してもらおうか!」

 軽口を叩きつつ挑発した銀時や神楽だが、彼は気にせずに受け流していた。本来の目的に変わりは無く、一貫してユイの引き渡しを要求している。

 あまりのしつこさに違和感を覚えたキリトとアスナは、リュウガ及びマッドネバーの真の目的を探ることにした。

「……ちょうど良い機会だ。一つ聞かせてもらおうか」

「あん? 一体なんだよ?」

「ユイちゃんのことよ! どうしてアナタ達は、ここまでしつこく追ってくるの! そこまでして、ユイちゃんが欲しいの?」

 やや感情的になりつつも、正々堂々とした態度で本人に訳を問いている。すると彼の口からは、とんでもない計画が明かされていた。

「あぁ、欲しいさ。なんせ実験が上手くいけば、こいつは晴れて兵器として使えるからな」

「へ、兵器だと!?」

「どういうことだよ……?」

「何ぃ、簡単なことさ。こいつには自分でも気付いていない力が眠っているはずだ。次元遺跡の時に、その一端を使っていただろ?」

「あの時に……でもアレは私でも分からないんです! 結晶の力かもしれませんし……」

「そんなのはどっちでも良いんだよ! 僕達が欲しいのは、お前の純粋な生体エネルギーなんだよ! その秘められた力を、マッドネバーが有効活用してやんのさ!」

「それで兵器やテロに利用するってことアルか……?」

「もちろんだとも。この模造品の変身道具だって、本物そっくりに作り変えることすら出来るだろうからな! さぁ素直に話したことだし、とっととこちらに来てもらおうか?」

 厚かましくもリュウガは計画の一端を話した後、ユイを引き渡すように催促している。

 彼らがユイを狙う最大の理由は、彼女に隠されている力にあった。次元遺跡で起きた現象がきっかけで、勝手に確信までしている。

 簡単に例えるのならば、マッドネバーはユイを利用した悪事を企んでいるということだ。リュウガも変身道具を本物そっくりへと仕立てるため、どんな手段でも使う心構えである。あまりにも自分勝手な理由付けに、万事屋一行の怒りはさらに加速していく。

「はぁ? なんだよそれ……!」

「結局はアンタ達の都合ってことじゃない!」

「ユイを何だと思っているアルか!?」

「そんな好きにさせてたまるかよ……!!」

「絶対にお前らなんかに渡すものか!!」

「ウゥゥゥ!!」

 銀時、アスナ、神楽、キリト、新八、定春と皆が明確な怒りを露わにしていた。敵意を存分に剥きだしにして、リュウガへただならぬ睨みを利かせている。

「皆さん……」

 話を聞いて不安な気持ちになったユイも、仲間達の頼りになる姿を見て一安心していた。そんな彼女の近くでは、ユウキも同じように励ましている。

「大丈夫! 僕も絶対に君のことを守るから!」

 言葉は伝わらずとも、守り切る気持ちだけは伝えていた。こうして誓いを新たに、万事屋は気持ちを一つに合わせていく。絶対にマッドネバーには屈しないと。

 一方で敵意を向けられた側のリュウガは、万事屋の抵抗を想定の範囲内だと括っている。

「渡しそうにないか。ならば仕方ない……来い! マッドネバーの精鋭達よ!」

「アァァァ!」

「ハッ!」

「トウ!」

 彼は次なる段階に作戦を進めており、連れてきていた幹部怪人達を呼び寄せていた。話が通じないのなら、力づくで奪うしかない。本性を表したかの如く、強硬手段へと出ている。

 集結した四体の幹部怪人をまじまじと眺めていき、銀時やキリトらには若干の動揺が生まれていた。

「おいおい、なんなんだよ。こいつら」

「マッドネバーの作り出した怪人達なのか……?」

「正確には復元しただな。どいつも幹部級の実力を持っている怪人部隊のリーダー格さ」

「ビガラサバゾ、バンダンビジベシヅヅギデジャス(貴様らなど、簡単に捻り潰してやる)」

 怪人達の登場に誇らしく思うリュウガは、簡単な説明を加えている。さらには怪人の一体であるゴ・ガドル・バは、グロンギ語で万事屋に啖呵を切っていた。聞きなれない言語には銀時達は戸惑っていたが。

「何て言ったんだ?」

「サバはパンダと乳繰り合ってろじゃないアルか?」

「いや、どんな場面だよ!」

 聞き取った言語を思いつきで神楽が訳すも、やはりヘンテコな文章となってしまう。新八からもツッコミを入れられている。

 その傍らでキリトらは、幹部怪人達をしっかりと分析していた。

「アレは……あの時に戦ったショッカーとはだいぶ違います!」

「カブト虫にライオン……それにノコギリクワガタか?」

「ピエロ? って、体に星座が書かれているわ!」

 数か月前に激突したショッカー怪人とも比較するが、やはり見た目からして印象が異なっている。立ち姿からも強者感に溢れていた。

 万事屋の前に立ちはだかる幹部怪人は、グロンギのゴ集団のリーダー格ゴ・ガドル・バ。ギラファノコギリクワガタの始祖であるギラファアンデッド。金色の鎧に覆われたライオンモチーフのレオイマジン。道化師のような姿をしたふたご座の怪人、ジェミニ・ゾディアーツ。以上四体と、レオソルジャーやカッシーンと言った戦闘員も数名集まっている。

 どの怪人も歴代の平成仮面ライダーを苦しめた強者達だ。リュウガにとっても心強い味方であり、安心感からか彼はつい調子に乗り始めている。

「ハハハ! 笑っちゃうね。僕とお前ら、もう勝ちは見えたでしょ? なんせ僕の仲間達にもこの居場所は伝えておいたからな」

「何ですって!?」

「他にも仲間が来てたアルか……?」

「総力を懸けて、ユイを連れ去るつもりかよ!」

「さぁな? どっちだろうね……!」

 唐突に明かされた情報に、アスナやキリトらは耳を疑ってしまう。彼らへ追い打ちをかけるように、強気な発言まで発していく。

 増々危機的な状況を察する万事屋一行に対して、リュウガのハッタリはまだ続いている。

「さてさて、もっと追い込んであげようか! 僕のドラグブラッカーで君達を痛み付けてあげよう!!」

 その言葉と共に彼はカードをバックルから取り出し、黒き召喚機ドラグバイザーに装填していく。

〈adobent!〉

「ま、まさか!?」

「さぁ、来い! ドラグブラッカーよ!」

 そう彼は、自身の契約モンスターであるドラグブラッカーを召喚しようとしていた。万事屋を取り囲んで、数の暴力で一網打尽にする。見事なまでの完封勝利を決めようとした。

 だがしかし……思わぬ事態が彼の元に降りかかっている。

「ん? 何故来ない!?」

 なんとカードで呼び出しても、ドラグブラッカーは一切姿を現さなかった。再度召喚機を動かして、アドベントを発動するものの、

〈adobent!〉

「……だから何故来ないんだ!? 何が問題だ!?」

「おい、落ち着け」

やっぱり何も起きない。取り乱し始める彼に対して、レオイマジンと言った周りの怪人達が落ち着かせていく。数分前までの余裕はとっくに無くなっていた。

 ドラグブラッカーが来ない理由はホームレスメモリによる影響だが、残念ながら彼はそれを把握していない。てっきり故障か何かだと思い込んでいる。さらに不運なことに、万事屋がガイアメモリを所持していること、ユウキと共に行動していることにも気が付いていなかった。

 彼が謎の戸惑いを続けているうちに、万事屋はとある作戦を密かに立てていく。

「銀さん」

「あぁ、分かってる。今がチャンスだろ」

 キリトと銀時が小声で意思疎通をした後、彼らはユイと新八に作戦を話している。

「おい、新八にユイ。今のうちに逃げておけ」

「えっ?」

 それは二人だけがこっそりと逃げるものであった。つまりは残ったメンバーで、怪人相手に時間稼ぎをするのである。

「で、でも銀さん達は?」

「大丈夫だ。さっさと倒して、すぐに向かうから」

「それまでは時間を稼いでおくアル!」

「本当に大丈夫なのですか……?」

「心配するな。こんな修羅場、すぐに潜り抜けてやるよ」

「でも……」

 突然の提案に戸惑った二人だが、神楽やキリトも率直な気持ちで説得を続けていた。何よりもユイらが不安なのは、本当に無事に合流できるのかである。仲間達の行く末をつい心配してしまう。

 中々新八達の決意が固まらない中で、アスナは急に彼の手を掴んでいる。そして真剣な眼差しで新八との目を合わせ、自身の想いを伝えていた。

「ユイちゃんを今連れて行けるのに、新八君が適任なの。希望を託してもらえる?」

「アスナさん……分かりました!」

 新八の強い意志や図太さを信じて、彼に希望を託すことを決めている。それを聞いた本人はようやく万事屋の作戦を引き受けていた。

 一方のユイには、ユウキことウサギが寄り添っている。

「ウ、ウサギさん?」

「心配しないで! 僕も騎士団の一員だから、絶対に君のことも守ってみせるよ!」

 言葉は伝わらずとも、自身の気持ちは伝わるように目を合わせていく。彼女の強い気持ちを感じ取ったのか、ユイもまた決意を固めていた。

「一緒について来てくれるのですね」

「そう! 屯所に向かおう!」

 彼女も真剣そうな表情へと変わり、万事屋の作戦を受けいれる。

 こうして新八とユイ、ユウキは、近くの裏路地を利用して脱走。最終的な目的地である真選組屯所に向かい、走り続けていた。ちなみにガイアメモリや結晶の入った手拭いも、しっかりと所持している。

 場には銀時、キリト、神楽、アスナ、定春の四人と一匹が残っていた。次第に彼らは戦闘準備を整えていく。

「ったく、仕方ねぇな。ちょっくら時間を稼いでやるか」

「ここからは私達の出番アル!」

「特訓の成果を披露してやるよ!」

「さぁ、覚悟しなさい!」

「ワン!!」

 四人は自身の武器をしっかりと握りしめて、表情もより険しく変わっていた。定春も足を慣らして、態勢を整えていく。いつでも戦う準備は万全である。

「おい、お前。標的が逃げているぞ」

「うるさい! 今僕は……えっ? なんだと!? いない……?」

 一方のリュウガは、レオイマジンからの言葉でようやく事態の変化に気付いていた。前を向くとそこにはユイがおらず、隙を見て逃げたのだとすぐに察している。自身の失敗を手痛く後悔していた。

「ようやく気付いたのかよ!」

「でも、もう遅ぇぞ!」

「今度は私達が相手よ!」

「おりゃぁぁぁ!! カチコミじゃ!!」

「ウルウゥゥゥ!!」

 そして銀時達は好機を見失わず、勢いのままに幹部怪人達へ突き進んでいく。仲間の逃げる時間を稼ぐべく、懸命に戦いに身を投じている。

 銀時はゴ・ガドル・バ。キリトはギラファアンデッド。アスナはレオイマジン。神楽はジェミニ・ゾディアーツ。定春は戦闘員の大群を相手にしていた。

「チッ。厄介なことになったな……!」

 その間にリュウガは、物陰に隠れて作戦を組み直している。ドラグブラッカーの件もそうだが、気になるのは呼びかけたダークライダー達ですら来る気配がないことだ。

「何故あいつらは来ないのだ……!」

 じれったくも焦りだしたリュウガは、作戦を変更して再びユイの探索に当たることにしている。この場は幹部怪人達に一任するようだ。

 実はダークライダー達が到着しない理由は、各々がとある事情に巻き込まれているからである。




 さてさて、色んなミラクルが起こりましたが今回も如何だったでしょうか?
 遂に始まったマッドネバーのクーデター。詳しくは次回以降に記載しますが、かなり大変なことになっています。シウネーも高杉と共に急ぎますが、また子にその姿を見られてしまいます。後でドヤされる気がしますね……
 そして集団で追い掛け回すライオトルーパーのバイク隊! ファイズの劇場版を彷彿とさせる一幕でした。
 ガイアメモリも続々と登場して、出てきたのはなんとネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲メモリ! その形にキリアスもドン引き。ちょっとした騒動に発展してしまいました……。
 密かにもジュン達は妙や九兵衛達と遭遇。この出会いが後にどのような影響を与えるのでしょうか……?
 それにしても、ユイを兵器として利用するオベイロンの神経……やっぱり彼は別の世界でも邪悪そのものでした。

 それと皆さんにご報告があります。この続きは延長戦に続きます!
 どういうことかと言うと、実は思った以上に書きたい要素が多くて、中々まとまらずに今回は区切りの良いところで終わることにしました!
 大まかに内容は決まっているので、恐らくですが早めに出せると思います……多分。

 ユイの運命はどうなるか? 是非延長戦に期待していてください!
 ちなみに予告編は次回に持ち越しとなります。
 では!!


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第七十七.五訓 Aの切り札/万事屋逃走中(延長版)

 グラブルの銀魂コラボにネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲があって爆笑してましたw


「フッ。どうやらあの子供を見つけたようね」

 リュウガ(野卦)の連絡を聞きつけて、ソーサラーこと宇堵も動き始めている。彼女は一旦ミラーワールドから出ると、辺りを確認してからソーサラーへと変身。ユイを確保するために、リュウガの元に向かうようだ。

「さぁて、とっとと終わらせますか」

 手っ取り早く彼女は、テレポートの魔法で目的地まで瞬間移動しようと企む。魔法の指輪をベルトにかざそうとした時である。

「あぁ! ちょっとどけてください!!」

「ん? って、ギャァァア!!」

 ふと横の路地から人の気配を察して、ソーサラーの注意はそちらに向いていた。顔を向けた途端に彼女は何者かと衝突。大勢の下敷きとなってしまう。

 ソーサラーとぶつかってきたのは……妙から逃げていたシリカやリズベット達である。

「ナー?」

「痛て……みんな大丈夫?」

「どうにかね。でも流石にもう振り切れたわよね?」

 リズベットからの呼びかけに、シノンが真っ先に返答していた。衝突への痛みを確認すると共に、シリカらは妙の行方を確認している。

「とりあえず一安心ですね。後はお妙さんの熱意が冷めてくれれば……」

「そんな都合よく冷めるのかなぁ? あの人」

「「「「はぁー」」」」

 リーファの言葉と共に、四人と一匹は深いため息を吐いていた。妙の融通の利かないところには、毎度困っている様子である。

 何が起きたのかと言うと、彼女達は修業中に妙から差し入れを貰っていた。当然の如くそれはとても人の食えたものではない暗黒物質だが。危険を察知して逃げたところ、妙が追いかけたせいで現在に至る。要するに妙の料理が原因だ。

 恒道館に戻るべきか悩んでいると、彼女達はようやく下敷きにされている人に気付いている。

「アレ? って、誰か下にいるわよ!」

「あっ、本当です!? ごめんなさい、大丈夫ですか!?」

 四人はすぐに場を離れて、その人の様子を確認した。しかしその正体は、予想外の人物である。

「よくもやってくれたわね……!」

「えっと……やっぱり怒っていますよね?」

「違うわ! これだから妖精はいつもいつも私の邪魔を……許さない!」

 ようやくソーサラーは起き上がり、彼女達に正体を見せていた。その態度は数分前と異なり、激昂に駆られている。妖精の憎しみが怒りの制御を外しているのか?

 ソーサラーの姿を見ると、リーファ達も徐々に表情を一変させていく。

「って、アナタは!」

「マッドネバー!? いつの間に地球へ来ていたの!?」

 険しくなった表情で、マッドネバー及びダークライダーがいることに驚きを感じていた。警戒心も強めており、いつでも戦闘が出来るように準備を整えていく。

「うるさい! もうこうなったら、アナタ達の息の根を止めてやるわよ!! 行けぇ、グール共!」

「ウゥゥゥ!」

 そしてためらう間もなく、ソーサラーは怒りのままに石をまき散らし、戦闘員のグールを生成。自分の気が収まるまで、彼女達を痛めつけるつもりである。

「望むところです! 今度こそリベンジを果たして見せます!」

「ナー!」

 一方のシリカ達も、恐れることなく戦いの士気を高めていた。ダークライダー達との戦いで敗北した経験から、負けられない気持ちが湧いている。

 特にシノンは一段と気持ちが引き締まっていた。

「アナタだけは絶対に……私達の手で倒して見せるわ!」

 ソーサラーを名指ししつつ、自身の想いを伝えている。次元遺跡にてソーサラーと因縁が出来た彼女だからこそ、今度こそリベンジを果たすと強く誓っていた。

 こうしてかぶき町を舞台に、ソーサラーやグールとの戦いが始まる。

「おらおら、行けや!」

「みんな、行くわよ!」

 

 

 

 

 

 一方で亜由伽ことダークキバも、ソーサラーと同じような事態に陥っていた。

「さて、そろそろ行こうかしら」

 頃合いを見ていた彼女は、ミラーワールドから現実世界に戻っている。もうすでにダークキバに変身しており、このままリュウガの元に戻ろうとした時だ。

「ひぃぃ! 助けてくれ!!」

「あぁ? なんだコイツ?」

 彼女の元に見知らぬ男が這い寄って来ている。何者から追われているようで、ビクビクと怯えている様子だ。鬱陶しいと思い、男を掃おうとすると……

「見つけたぜ! 攘夷志士! ドーン!」

「今度は――えっ!?」

〈ドカーン!!〉

男を追ってきた人物が乱入してくる。ためらいもなく彼はバズーカを解き放ち、ダークキバへ命中させていた。その正体は沖田総悟であり、どうやら指名手配の攘夷志士を追う最中で、強硬手段に出ていたようである。

 辺りに黒い煙が噴き出していたところで、他の真選組のメンバーも駆け寄ってきた。

「おい、総悟! またやったのか!?」

「大丈夫ですよ。みねうち程度に抑えてやすから。恐らくあの攘夷志士の体力は一になってやすよ」

「そんなポケモ〇みたいに上手くいくわけねぇだろ!!」

「ちょっと、沖田隊長! 本当に大丈夫なんですか!?」

 近藤、土方、山崎と沖田の所業を心配するが、彼はまったく罪悪感が無い。沖田の容赦のない性格は仕事中でも出ており、今回が特別というわけではなかった。それでも過激なことをすれば真選組の評判も落ちかねないので、近藤らはそれを危惧している。沖田はまったく気にしてないが。

「大丈夫ですよ。あの通り生きてやす……?」

「おい、総悟。まさかやっちまったわけじゃないよな?」

「まぁまぁ、落ち着いてくだせぇ。アレは……」

 一応志士の様子を確認していた沖田は、とある違和感に気付き始める。そのまま煙が消えるのを凝視していると、そこには予想外の人物が立っていた。

「ったく、急に何するのよ」

「アイツは……!?」

「何だと!?」

 煙の中から現れたダークキバを目にすると、近藤、土方、沖田の三人は顔色を変えている。全員の警戒心が強まる中、山崎だけは状況を読み込めていなかった。

「えっ? どうしたんですか、皆さん? お知り合いなんですか?」

「あぁ、ちょっとな。因縁深い相手さ」

 そう近藤から聞かされるも、やっぱり何のことか理解していない。山崎だけは次元遺跡に行っておらず、故にダークキバを見てもピンと来ないのである。

 真選組が戸惑っているうちに、攘夷志士は隙を見て逃げようとした。

「ヒィィィ!」

「あっ、逃げた」

「おい、ザキ! 追いかけろ!」

「は、はい!」

「頼むぞ!」

 逃げた志士は山崎に任せて、三人はダークキバの動向に注意を向けている。

 一方のダークキバは、呼びかけよりも真選組の戦いに興味を示していた。

「どうする、亜由伽よ。こいつらと戦うか?」

「当然。ちょうどあの子もいるしね……!」

 ベルトのキバットバットⅡ世からも聞かれるも、彼女の意思は変わらない。沖田とも戦いを繰り広げた経験があり、今度こそ彼を負かすために歪んだ気持ちが沸き上がる。

 一方の沖田も曖昧になっていた決着を付けるべく、着々と戦闘準備を整えていた。

「面白れぇ。近藤さんに土方さぁん。ここは一緒に戦いやすかい?」

「もちろんだ! ダークライダー達に負けっぱなしだと気が済まないからな!」

「俺も同じだ。ていうかお前、そのねっとりした言い方は止めろ」

 近藤と土方にも戦闘の意思を確認するが、二人ともに相違は無い。土方は沖田の言い方に若干イラついてはいたが。

「フフフ。さぁ、かかって来なさい」

「行くぞ、てめぇら!」

「だからお前が仕切るなって!」

 沖田が船頭を切りつつも、真選組はダークキバとの戦いに身を投じていく。今度こそ勝利を掴むべく、皆全力で突き進む。

 

 

 

 

 

 そしてポセイドンも、まったく別のトラブルに巻き込まれている。

「ようやく見つけたらしいな。さぁ、俺に続け!」

 現実世界に戻ってきた彼は、早速セルメダルを介して屑ヤミーを大量に生成。リュウガの情報を元に、万事屋のいる場所へ向かおうとした。そんな時である。

「ウゥ!?」

「どうした? 何かに当たったのか?」

 屑ヤミーの一体が、突然頭に何かをぶつけていた。手に取るとそれは、何の変哲もない宝くじである。

「なんだ。ただの紙屑か」

 ポセイドンはその券を拾い、地面に捨てようとした――そんな時だ。

「あっ! 桂さん、あそこです!」

「でかしたぞ!!」

 タイミング良く目の前には、刀を携えた侍の集団が現れる。その大半が野武士のような野暮ったい容姿をしており、皆眼光を鋭くさせていた。

 そんな彼らの正体は、桂小太郎率いる攘夷党である。中心にはリーダー格である桂がおり、左右には相棒であるエリザベスと新人攘夷志士のクラインもいた。他にも攘夷党に所属する浪士が出揃い、皆ポセイドンの持つ宝くじに狙いを付けている。

「って、なんだ?」

「皆の共!! あやつの持つ宝くじを奪い返せ! 何としてもこのチャンスを無駄にするな!」

「よっしゃー! やってやるぜ!」

[青っぽい奴よ。大人しくしていろ!]

 桂が勢いよく声を上げると、クライン、エリザベスと仲間達が次々に賛同していた。

(エリザベスはプラカードを上げるだけであるが)

 どうやら攘夷党はポセイドンの持つ宝くじに狙いを付けており、意地でも奪い返すべく躍起になっている。実を言うと宝くじの特別賞に当たり、その券が風に飛ばされて現在に至っていた。もちろんポセイドン側は何が起きているのか理解していない。

「チッ。面倒なヤツに絡まれたな」

 ただ一つ分かることは、そう簡単に事態は片付かないことだ。面倒になって券を捨てようとすると、

「あっ、貴様ぁぁぁぁぁ!!」

「そうはさせるか!!」

[皆の者、続け!!]

「「「おう!!」」」

桂達は急に声を荒げている。エリザベスの指示のもと、全員が券を取り返すべく、ポセイドンに勢いよく駆け寄っていく。

「おい、何をする!? そこをどくのはお前らだ!!」

「じゃ、券をよこせ! 俺達の今後の活動費がかかっているのだ!」

「知るか! いいからどけろ!!」

 全員が束になって突進しており、その様子はまるでおしくらまんじゅうである。桂達は券を取り戻すべく、ポセイドン側は目的地に向かうべく、拮抗とした状況が続く。

 様々な事情が重なり、ソーサラー、ダークキバ、ポセイドンの三人はリュウガの元に向かうことが出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 ちょうど同じ時間帯。幹部怪人に真正面から立ち向かっているのは、銀時やキリトと言った万事屋の面々である。彼らはユイと新八、ウサギ(ユウキ)の逃げる時間を稼ぐべく、懸命に戦いへ挑んでいた。

「そこだぁ!」

「ドゥ! ズッ!」

 木刀を手に取り銀時は、対峙するゴ・ガドル・バに向けて次々と斬撃を浴びせる。しかしそれをギリギリで受け止められてしまい、大したダメージは入っていなかった。

「ボンバロボバ。ビガランボグゲビパ(こんなものか。貴様の力は)」

「何言ってんのか、さっぱり分かんねぇよ。せめて翻訳機使え、コノヤロー!」

 未知の言語に困惑しつつも、銀時は変わらぬ軽口で応戦。そしてガドルが武器持ちでないことを知ると、ある作戦を閃いている。

「ブサゲ!(くらえ!)」

「よっと!」

 渾身のパンチを回避して、相手に隙が生まれているうちに――

「脇ががら空きだぜ! カブト虫さんよ!」

「バビ!? ブッ!(何!? くっ!)」

カウンターのように木刀で打撃技を与えていく。不意打ちを防ぐことが出来ず、ガドルは近くの廃墟にぶつけられている。

「これなら……!」

 確実的なダメージを与えられたと確信する銀時。呼吸を整えて、相手の様子を伺っていく。するとそこには、

「グゥ……」

「な、何?」

唸り声を上げるガドルの姿が見えている。ダメージは受けたものの、そう簡単には引き下がらない。幹部級の強さとしぶとさを発揮していた。

 さらに彼は落ちていた物干し竿を手にして、戦い方を変貌。目の色をオレンジから青に。物干し竿も槍型の武器に。従来の格闘体から身軽さに優れた俊敏体に一新していた。

「こいつ……! 武器を自在に作れるのかよ!?」

 不可思議な能力を目の当たりにして、銀時はつい驚きの声を上げている。冷静さを保ちながらも、変わりゆく状況を見定めていく。

「はぁぁぁぁ!!」

「ガゲスパ!(させるか)」

 

 

 

 

 

「ホワチャー!」

「ヘヘーン! 効かないようだー!!」

「うわぁ!?」

 一方で神楽が交戦しているのは、ホロスコープスの一体ジェミニ・ゾディアーツ。見た目通りの身軽さを武器に戦い、彼女の拳も軽く跳ね返している。何よりも子供っぽい仕草が、神楽の怒りを余計に買っていた。

「って、調子が狂うアルナ! 何様アルか?」

「おっ! 怒った、怒った! じゃもっと痛めつけてあげるよ!」

 激高して怒りをぶつけるも、ジェミニはまったく気にしない。それどころか、神楽を煽るように更なる攻撃を仕掛けていく。

「それ! それそーれ!」

「な、何アルか……うわぁ!?」

 ジェミニが神楽に投げてきたのは、謎の模様が描かれた赤いカード。これはリュンケウスと呼ばれる特殊なカードで、相手に触れるとその瞬間に小さな爆発を引き起こすことが出来るのだ。

「ほらほら! まだ一杯あるよ!!」

「来るなアル! って、中々近づけないネ!」

 まんまとジェミニのペースに乗せられてしまい、神楽は思うように攻撃が出来ずにいる。現在は彼女の飛ばしてくるカードから、必死になって避けていた。それでも攻撃の姿勢は崩さず、

「今ネ! ホワチャー!」

「あっ!?」

相手の隙を見て傘に仕込ませた弾丸を解き放つ。乱射させると瞬時にジェミニの持つカードに命中。数枚ほど持っていたカードは辺り一面にばらまかれていた。

「カードが使えないなら、こっちのものネ!」

「あぁーあ。でも、どうかな!?」

 この勢いに乗っかり攻めの姿勢を取り戻す神楽に対して、ジェミニは無邪気にも格闘戦で応戦している。

 

 

 

 

 

「ヤァ!!」

「くっ、同じ二刀流使いか!」

 そしてキリトは、自身と同じ二刀流を武器にしているギラファアンデッドと一戦を交えていた。彼の武器はヘルターとスケルターと呼ばれるハサミ状の双剣。常時接近戦を展開しつつ、一進一退の攻防が続く。さらには、

「フッ、ハァ!」

「おっと! ……光弾まで放つのか!?」

二本の剣を光らせて光弾を作り出す。思わぬ奇襲にキリトも、羽を広げて回避していた。

「遠距離戦も可能なのか……だったら!」

 空を浮遊しながらキリトは、ギラファの攻略法に知恵を振り絞る。すると彼は一つの策を思いついていた。

「振り下ろしてやる……ハァ!」

 一方のギラファは空を飛ぶキリトに狙いを付けて、再び光弾を解き放っていく。撃ち落とそうとするも、キリトは羽を上手く扱い華麗に回避。手に持っていたエクスキャリバーも巧みに操り、こちらに向かう光弾も切り裂く。

「やっぱり……行ける!」

 僅かな時間の中で彼は、作戦の成功を確信した。するとあえて、光弾が当たりやすいように防御を無防備にしている。

「諦めたか? これで最後だ!」

 好機だと捉えたギラファは、今までよりも強いエネルギーを高めて、キリトに向けて全身全霊の光弾を飛ばしていく。だがこの状況は、ギラファではなくキリトの好機である。

「今だ! ハァァァ!!」

 キリトは光弾に怯えることなく、エクスキャリバーを前に出して勢いよく突進。するとどうだろうか。光弾は消滅せず、エクスキャリバーに受け止められていた。

「何だと!?」

「いけぇぇ!!」

 ギラファが気付いた時にはもう遅い。キリトの作戦はエクスキャリバーの強度を利用して、あえて相手の光弾を利用する作戦だった。飛行速度を上げつつ彼は、ギラファに光弾を返していく。

「はぁ!」

「くっ……トゥ!!」

 一時は光弾に押されたギラファだが、力づくで受け止めて相殺している。ギリギリのところで踏みとどまっていた。

「そう上手くは行かないか……!」

 作戦の失敗を痛感しつつも、キリトは考える間もなく地上に着陸。ギラファとの接近戦を再開する。二人の戦いは激しさを増すばかりだ。

 

 

 

 

 

「ハァァァ!!」

「グワアァ!」

 そしてこちらは、レオイマジンと戦うアスナ。剛烈な力で押し切ろうとするレオに対して、アスナは繊細な動きで攻撃を受け流して応戦する。

 互いに一歩も引かない戦いが続くが、アスナはレオの声に違和感を覚えてしまう

「女にしては中々の腕前だ。こりゃ戦い甲斐がありそうだ」

「くっ……なんかこの声、調子が狂うのよね!」

 直感だが彼女は、レオと自身の父親の声を照らし合わせている。無意識にも声を聞く度に父親の姿が脳裏を過ぎっていた。(実際にも二人の声は同じ声優さんが務めているが……)

「まだまだだ。ハァ!」

「何!?」

 その隙を突きレオは所持していたロッドで、アスナの胴体を目掛けて突き付ける。彼女は相手の殺気を感じて、軽やかな動きで回避。同時に背中の羽を広げて、空中からも攻撃を仕掛けていく。

「ここよ! ハァァァァ!」

「空からの攻撃か。面白い!!」

 右往左往に飛び回るアスナに対して、レオは地上にて一歩も動かずに彼女の攻撃を相殺していた。目立つ特殊能力は発揮せず、ただ己の実力でねじ伏せようとする。ひたすらに攻撃を緩めない姿に、アスナも彼の能力を見透かしていく。

(まさか特殊な能力は持っていないの? いや……使わないほど自分の実力が高いってこと?)

 一つ一つの行動を見落とさず、より強く気を引き締めていた。さらなる手の内があることを考えて、決して攻めを崩さないよう集中力を高めていく。

 こうして万事屋一行は幹部怪人を相手に、真剣勝負を繰り広げている。一方の定春は、

「ワフー!」

レオソルジャーをはじめとした戦闘員の大群を相手にしていた。体当たりや噛み付き、足で引きずりまわすなど、自由奔放に暴れまわっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちだよ、ユイちゃん!」

「はい!」

 一方でこちらは、一足先に逃げていた新八、ユイ、ユウキ(ウサギ)の一幕。マッドネバーと戦う万事屋を心配しつつ、彼らの足取りは早くなる。目指すは真選組の屯所。その一点だけを目指して走り続けていた。

「よし! このまま無事に着けば!」

 徐々に屯所も見えており、ユウキも逃げ切りを確信する。このまま何も起きなければ良いが……そう易々と上手く行かない。

「ハァァァ!」

「キャ!」

「ウワァ!?」

「ユイちゃん!? ウサギさんも!?」

 何の前触れもなく新八らの元に、謎の光弾が直撃してくる。爆発の余波によりユイやユウキは軽く吹き飛ばされてしまう。さらに不運なことに、ユウキの所持していた手拭いも衝撃で破れてしまった。

「あっ、メモリが!」

 縦横無尽に散ったメモリは、周りの地面に撒かれている。さらにメモリの一部とスロットは、近くにあった自動販売機の隙間に入ってしまった。

「大丈夫!? ユイちゃん? ウサギさんも!」

「私は平気です……ウサギさんも無事です。それよりも、メモリが!」

「早く回収しないと……!」

 新八はユイらの無事を確認すると、散らばったメモリを回収しようとする。だがしかし、

「フッ!」

「えっ? 何だ……?」

唐突にも彼は謎の気配を察していた。近くにいるはずなのに、何故か視認できない存在を。皆が戸惑っている時に、あっさりとその正体が明らかとなる。

「まさかメモリを持っていたとは。こいつは返させてもらったわ」

 そう言って彼女は、奪還したガイアメモリを全て見せつけていた。姿を見せたのは幹部怪人の一体であるナスカ・ドーパント。赤い体色をした強化形態であり、光弾や剣技、超加速移動や飛行移動を得意とする。新八らの襲撃には光弾の発射、ガイアメモリの回収には超加速移動を用いていた。いずれにしろ、新たな敵の登場により一行の警戒心は強まっていく。

「メ、メモリが……!」

「まだ敵がいたのか……」

 ユイ、新八共に不安な表情を浮かべて、ナスカを睨みつけている。一方でユウキは、彼女の特殊能力に警戒していた。

「アイツ……結構厄介な能力を持っているよね」

 いざという時は自分が戦えるようにと、そっと剣を口にくわえていく。

 そんな矢先である。

「さて、次は貴方ね。はぁぁぁ!!」

「キャ!」

「危ない、ユイちゃん!!」

 ナスカは不意を突くように、超加速移動でユイを連れ去ろうとした。すかさず新八は木刀を手にして、ナスカからユイを守ろうとする。

「させるか!」

 もちろんユウキも同じだ。彼女は相手の動きを見切りつつ、瞬時の口先の刀剣で攻撃を仕掛けていく。

「エイヤァァ!」

「くっ!?」

 一か八かの賭けだが、ユウキは見事にナスカの動きを止めている。超加速も途切れており、一応は最悪の事態は回避していた。

 その直後である。ユウキの体にある異変が起きていた。

「負けるかぁぁぁぁ!!」

 気合の入った声と共に、眩い光を放ちながら体が変わり始めている。

「ウ、ウサギさん!?」

「アレは……?」

 ユイと新八も固唾を飲みながら様子見すると、ユウキの体からは一本のガイアメモリが抜け出していた。と同時に本来の妖精の姿へと戻りつつある。

「そこだ!」

「何!? くっ……!」

 そして姿が完全に復元されると、ナスカの動きを見切って刀剣を振るっていく。思わぬ伏兵の登場に、ナスカも対処が出来ずに怯んでしまった。

 かぶき町の道端に突如として現れた、別の星の誇り高き剣士ユウキ。彼女の姿を見て、新八とユイは各々違う衝撃を受けている。

「えっ……!? ウサギが人間に?」

 新八は本当の姿を披露したユウキに驚きを示していた。一方でユイは、

「これって……どういうことなのですか?」

この世界のユウキについ戸惑ってしまう。元の世界でも交流があり、ユウキの顛末を知っている分、この場に彼女がいることが信じられなかった。事情を知らずに彼女はより声を震わせていく。

「二人共! ここは僕に任せて早く行って!!」

 彼らの反応などは気にせず、ユウキは新八らへ早く逃げるように促していた。話しつつもナスカ・ドーパントを相手にしている。

「と、とりあえず! ユイちゃん、行こう!」

「はいです!」

 ユウキの言葉を信じた二人は、この戦いを彼女に任して走り出していた。ウサギことユウキの詳しい事情は、後で聞くことにしている。

「ま、待て!」

「行かせないよ!」

 ナスカも彼らを追いかけようとするが、ユウキが必死に足止めしていく。

「この……ならば!」

 けん制されたナスカは、奥の手として再び超加速移動でユイらに追いつこうとした。しかしユウキもそう簡単には諦めない。

「だから行かせないって!」

 彼女は羽を広げて、風の流れに乗っかって上空からナスカに追いついている。そして勢いのまま、

「エイヤァァァ!!」

「ナ……ファ!?」

刀剣で相手に斬撃を与えていく。この攻撃を防ぎきれなかった彼女は、次第に超加速移動が止まり、近くの住宅の壁に叩きつけられた。そのままナスカは行動不能へと陥ってしまう。

「よっしゃ! これでしばらくは追いかけられないでしょ。僕も早くユイちゃん達の元に……」

 気絶したことを確認すると、ユウキはつい達成感を覚えている。にこやかな表情で、心配していたユイらの元に向かうことにした。ところが、

「へ? うわぁ!?」

不意にもまた不幸が降りかかる。ユウキは近くに落ちていた空き缶に気付かず、足を滑らせてしまう。さらに落ちた先には、先ほど外れたばかりのラビットメモリが置かれている。

 そして――

「痛ぁ……って、またウサギになっちゃったの!? 折角かっこよく決まったのに……!」

瞬く間に彼女はウサギの姿に戻ってしまう。安心したのも束の間、またも不穏な雰囲気が漂っている。彼女のテンションもダダ下がりだ。

 失意に暮れながらも、ひとまずはユイらの元に向かおうとした時……彼女はとある物を発見している。

「ん? アレは……?」

 目線が低くなったことで、自動販売機に隠れていたガイアメモリとスロットの存在に気が付いていた。ユウキは体を丸めてそれらを回収している。

「やっぱりメモリとスロットだ。いつの間に……」

 見つかったのは黒いスロットと三本のガイアメモリだ。AとLとOのメモリであり、オンラインメモリを除いて、どんな効果はユウキ自身も知らない。果たしてこれらのメモリはどんな効果だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 一方で新八とユイは、屯所を目指して未だに逃げ続けていた。目的地とも距離も縮まり、この長い逃走劇も終わりが近づいている。

「よし! このまま行けば!」

 新八も逃げ切りを確信するが、対照的にユイはあることが引っ掛かり足が進まなかった。

「待ってください、新八さん!」

「えっ? どうしたの、ユイちゃん?」

 一旦新八を呼び止めると、彼女も足を止めている。そしてずっと気になっていたウサギの件を話すことにした。

「一つ気になっていることがあって……あのウサギのことなのですが!」

 と確信に迫ろうとした時である。

〈strikebent!〉

 ここでまたもあの邪魔者が妨害を仕掛けていた。容赦なく新八らへ漆黒の炎を解き放っていく。

「キャ!」

「今のは……」

 偶然にも攻撃をかわせたが、彼らの近くには誰も人の気配は無かった。それもそのはず。襲撃者は鏡の中にいるからだ。

「流石の俺も我慢の限界だ。もう手段は選ばないぞ」

 ゴミ捨て場に置かれていた鏡には、ドラグクローを装着したリュウガが映っている。ようやく新八らに追いつき、意地でもユイを連れ去るべく息を殺して狙っていた。

「新八さん……」

「大丈夫だよ。僕が絶対に守るから。最後まで諦めるか……!」

 見えぬ脅威に再び恐怖を覚えるユイだが、新八はそっと優しい言葉をかけて安心させていく。その言葉を信じて彼女はゆっくりと頷いていた。期待を一身に背負い、新八の使命感はさらに高まる。侍としての誇りに懸けて、この難局を乗り切ろうとしていた。

 彼は過去の経験から、気配の正体をすぐにリュウガだと確信。近くに反射物が無いか探ると……

「見えた! はぁぁぁ!!」

「何!?」

ゴミ捨て場にあった鏡を見つけている。新八は木刀を振るい、鏡を一突きで破壊。リュウガが現実世界に来ないよう仕掛けていた。

「さぁ、行こう! ユイちゃん!」

「はい!」

 そして更なる反射物に警戒しながら、ユイを連れて屯所まで逃げ込もうとする。もはや逃げ切りは目前。後はひたすらに突き進むだけである。

 一方のリュウガは、襲撃の失敗により大変悔しがっていた――

「ったく、コノヤロー……なーんて言うと思ったか?」

はずだった。そうここまでは彼の想定内。確実にユイを捕まえるべく、最後の手段を打っていたのだ。

「「「ドラァァ!!」」」

「うわぁぁぁ!!」

「新八さん!?」

 突然建物の隙間からゾロゾロと出てきたのは、シアゴーストとその進化系のレイドラグーンの大群。彼らは数の差を良いことに、新八にのしかかって取り押さえていく。

「離せ! 早く離せ!」

 身動きが取れずに抵抗するも、やはりこの状況では押し返せない。ジタバタとこの大群から抜け出そうとした時である。

「キャァァァ!!」

「ユイちゃん!!」

 とうとう隙を突かれてしまい、ユイはリュウガの手により捕まってしまう。彼女の悲痛な叫び声と共に、そこには嫌がるユイを抑え込むリュウガの姿があった。

「ようやく手に入れたぞ。ったく手間をかけさせやがって……どんなに足掻こうと無駄だったな!」

「野卦……お前!!」

 念願が叶って高らかに笑うリュウガに対して、新八はどうすることも出来ないやるせなさを感じている。強く失望はしたものの、まだ完璧には諦めていない。どんな状況になろうとも、助け出そうと最後まで踏みとどまっていた。

「離してください! ……うっ!」

 一方のユイは抵抗して暴れまわったが、リュウガの横にいたライオトルーパーに腹部を殴られてしまう。これにより彼女は気絶してしまった。

「こいつは一旦黙らせたぞ」

「ご苦労。後は連れ去るだけだな」

 ライオトルーパーに軽く礼を伝えると、彼はすぐに散らばった仲間達へユイの確保を伝える。

「全部隊に継ぐ。僕達の目的は達成された。即時ソーサラーの元に集結せよ。ALO星に退却するぞ」

 集合地を独断で決めて、手っ取り早く元の星へ逃げようとした。リュウガの報告を聞いて、地球へ来ていたマッドネバーの一味が応答する。

 

 

 

 

「退避か」

「了解!」

「アレ? なんで急に逃げるんだよ!?」

「もう怖気付いたアルか?」

 万事屋と戦っていた幹部怪人や戦闘員は即座に撤退。あまりの変わり様に、キリトとアスナはユイらの身に何かが起きたと推測している。

「いや、違う。もしかして、ユイと新八に何かあったんじゃ!」

「そんなこと……早く屯所に向かいましょう!」

「ワン!」

 ひとまずは彼らの向かった道筋を追いかけていく。

 

 

 

 

「チッ! 良いところで!」

「って、アレ?」

「逃げた?」

 一方でダークライダー達も、各々頃合いを見て撤退している。ソーサラーは集合役を任された故に、無理矢理戦いから逃げていた。

 

 

 

 

「亜由伽よ。一旦引くぞ」

「分かっているわ」

「おい、何逃げてんだ!?」

「ったく、また勝負つかずか」

 キバットバットⅡ世から促されて、ダークキバも逃亡する。

 

 

 

 

「もう終わりか」

「あぁ、待て!」

「宝くじ! おい、あそこだぞ!」

 ポセイドンも屑ヤミーを率いて逃げるが、桂達は彼らよりも宝くじに躍起となっていた。

 

 

 

 

「おっと!? アレ? 行っちゃった?」

 ずっと倒れていたナスカ・ドーパントも、指示を聞いてすぐに向かう。幸運にもユウキは見つからず、相手にはされなかったが。

 

 

 

 

「さて。シアゴーストにレイドラグーンよ。後は適当に始末しておけ。じゃあな、万事屋よ。フハハハハ!!」

「待て! ユイちゃんを返せ!!」

 そしてリュウガは、新八の後始末を戦闘員達に命令。自分はユイを連れて、元の星に戻ろうとしていた。このまま負けたままではいられずに、新八も気力を振り絞って追いかけようとするも、戦闘員の大群に阻まれて上手く身動きが取れない。

「ウゥゥ!!」

「うわぁ!?」

 幾度も攻撃や不意打ちを受けてしまい、その数の差に押し流されてしまう。気が付けばもうリュウガの姿は目に映っていない。

「そんな……!」

 失意に暮れながらも、ただひたすらに戦いへ身を投じようとした時である。

「「ハァァ!!」」

「ウッ!?」

 ここでようやく仲間が加勢へと入っていた。銀時とキリトはお見舞いがてらに、レイドラグーンへ蹴りを入れている。そのまま木刀や聖剣を持ち、徹底的に斬りかかっていた。

「大丈夫、新八君?」

「アスナさん、神楽ちゃん!」

「ったく、こんな雑魚にやられている暇はないネ!」

「ワン!!」

 さらには神楽、アスナ、定春も同じく加勢に入る。新八を労わりつつ、目の前にいる戦闘員を蹴散らしていく。

 そして数秒も経たないうちに、

「「「ハァァァァ!!」」」

「グルルー!!」

辺りにいた戦闘員は全て倒しきってしまった。

 戦いを終えると彼らは、新八に何が起きたのか聞くことにしている。

「よし、新八。やったネ……って、ユイとウサギはどこに行ったアルか?」

「……ごめんなさい。アイツらに捕まっちゃいました」

「えっ!? 嘘でしょ……」

 彼は一段と落ち込んだ表情で、仲間達にあられもなく真実を話す。それを聞いた万事屋の仲間達は、皆衝撃から表情を暗く一変させていた。

「守り切れなかった。僕らの手で……!」

 特に新八は悔しさからうなだれており、酷く自分を責め立てている。右手を握りしめて地面を強く叩いていた。

 彼の話を聞いた仲間達も、その事実を重く受け止める。気持ちを整理したいところだが、そう上手くはいかない。

「アァ! アイツらめ……!」

「なんてことを。絶対に許さないぞ……!」

 銀時やキリトも、次々と卑劣な手を使うマッドネバーのやり方に強い怒りを覚えていた。だからこそユイを守り切れなかったことに、悔しさも感じている。彼らと同じように神楽、アスナ、定春も失意の底に沈んでしまう。

 とうとう起きてしまった最悪の事態。ショックや悲しみから万事屋全員が打ちひしがれる中、ユウキはガイアメモリを背負ってようやく仲間達の元に戻っていた。

「到着……って、えっ!? この雰囲気ってまさか……あの子捕まっちゃったの?」

 彼女はすぐに万事屋の重たい雰囲気から、静かに空気を読んでいる。どう接したらいいか分からず、息をそっと潜めるが……

「あっ、アッスー! ウサギは無事だったアルよ!」

「ちょ、ちょっと!?」

神楽にまんまと見つかっていた。ユウキは慌てて逃げようとするも、アスナはそんな彼女をギュッと抱きしめていた。

「えっ?」

「……良かったわ。アナタは無事だったのね。もう大丈夫よ……!」

「って、アッスーさん? 泣いてるの? 無理しているのかな……?」

 新八らとはぐれてしまったと思い、心配させないよう温かい言葉で励ましている。慈愛に溢れた行動にユウキ自身は驚いたが、すぐに彼女の心意に気付いていた。本当は不安な気持ちで一杯だが、悟られないように安心感を与えている。アスナの芯の強さ、精神力の強さをユウキは感じ取っていた。

 

 ユイを連れ去られてしまった万事屋一行。依然として気持ちが収まらない中で、徐々にユイを助けるために切り替えなければならない。だがしかし、起死回生の一手はあるのか?

 

アルヴヘイム! 

 

 そんな時。ユウキの背負っていた一本のガイアメモリが輝きだしていた――

 

 ちなみにだが、ドラグブラッカーもリュウガの元に戻っている。

「ちょっと待て! つーか、雰囲気考えろ!!」

 長谷川もそこは空気を読んでいた。




 それにしても、アリエスだのナスカだの幹部級の怪人と対等に渡り合えるユウキ、強すぎんか?
 はいと言うわけで、延長戦も終了して如何だったでしょうか? ダークライダーとの再戦はさることながら、桂さん達は思いっきり私情でしたね……
 バトルシーンは本来文字数の関係で大幅にカットする予定でしたが、延長戦と言うことで伸び伸びと書かせてもらいました。
 特にジェミニ・ゾディアーツは、SAOともだいぶ親和性の高い怪人だと思います! 双子座の怪人かつ変身者がユウキ(本当にカタカナの名前)は見ていて驚きました。まさに今回の長篇に相応しい怪人だと思います。
 そして肝心のユイですが……とうとうマッドネバーに連れ去られてしまいました。失意に暮れる万事屋に果たして希望は見えるのでしょうか? そのカギを握るのは、奪われなかったガイアメモリかもしれません。

 ここで裏話を少々。予告編から本編にかけて、変更された箇所が多数ありました。下記に記しておきますー

・リーファと真選組が共闘してダークキバと戦う場面
・マダオがホームレスメモリでパワーアップする展開
・ドラゴンメモリの力でドラゴン隊長が呼ばれる展開
・フリーズロイミュードがナスカと共に襲い掛かる展開←尺の都合でカット

 と言うわけで次回は! 10月中(もしくは11月上旬)には出せると思います。





次回予告

銀時「アイツは俺達の大切な仲間なんだよ!!」

高杉「バリアが張られたのか?」

ユウキ「僕が何とかしないと!」

沖田「これは……」

リーファ「この世界のアルヴヘイム……?」

キリト「みんな……行こう!」

アスナ「誰もいない……?」

妖国動乱篇四 Aの切り札/仲間を取り戻せ

これで決まりだ!!


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第七十八訓 Aの切り札/仲間を取り戻せ

 プログレッシブ映画は11月6日に直行! それまではネタバレ絶対見ないマン。余裕を持ってツイッターを使える日はいつになるのだろうか……

 そして今日は神楽ちゃんの誕生日! それとお気に入り登録200人越え、ありがとうございます!!



剣魂 妖国動乱篇 今回の出来事は――

シウネー(何故急に力が抜けたのでしょうか……まさかこれもクーデターの一端? だとしたら、早くアルンに向かわないと!)

銀時「何を勘違いしてんだよ。アレこそネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねぇか。それにしても完成度高ぇな、おい」
アスナ「完成度云々じゃないのよ!! あんなのただのわいせつモノでしょ!!」

妙「どこってかぶき町よ。地球の」
タルケン・テッチ「「えっ?」」

リュウガ「……だから何故来ないんだ!? 何が問題だ!?」
レオイマジン「おい、落ち着け」

新八「えっ……!? ウサギが人間に?」
ユイ「これって……どういうことなのですか?」
ユウキ「二人共! ここは僕に任せて早く行って!!」

リュウガ「ようやく手に入れたぞ。ったく手間をかけさせやがって……どんなに足掻こうと無駄だったな!」
新八「野卦……お前!!」

アスナ「……良かったわ。アナタは無事だったのね。もう大丈夫よ……!」
ユウキ「って、アッスーさん? 泣いてるの? 無理しているのかな……?」


 今回の話はALO星の出来事から始まる。

「アレです! あの町です!」

「分かってらぁ。とっとと行くぞ」

 各々の目的を胸にアルンへと突き進むのは、シウネーと高杉の二人。異なる目的や約束を果たすべく、がむしゃらに走り続けている。

「おい、待つっす! コノヤロー!!」

「その距離では届いていないと思うが」

「なんとか近づきたいものですな」

 一方でその跡を追いかけるのは、来島ら鬼兵隊の一行。無我夢中で高杉に声をかけるも、距離が遠いために届いていない。それでも気づいてもらうために叫び続けている。

 そんな応酬が続くうちに、高杉とシウネーはようやくアルンへと到着していた。

「やっと着いたな」

「そうですね。後は姫様の元に向かえば……!」

 呼吸を整えつつも二人は、今後すべきことを思い浮かべている。シウネーは姫様ことフレイアや騎士団、町の住人の安否確認。高杉は仲間との合流だが――

「晋助様ぁぁぁ!!」

「ん? この声は?」

その瞬間は不意にも訪れた。鬼気迫る声が聞こえて後ろを向くと、そこには凄まじい剣幕で近づく来島の姿が見えている。

「やっと見つけたっす! この女は誰っすか!!」

 出会い頭に彼女は、高杉の横にいたシウネーに敵意を向けていた。その正体や関係性をはっきりさせるために、どさくさと詰め寄ろうとした時である。

「ギャフ!?」

「ん?」

「えっ?」

 なんとアルンに踏み入ろうとした途端、来島は何かにぶつかり、顔に強い痛みを受けてしまう。彼女本人も何が起きたのか分からず、顔を手で押さえながらただ困惑していた。

「ちょっとこれどうなっているっすか!? 晋助様! 私の声、聞こえているっすか!?」

 慎重にぶつかった個所を確認すると、そこには目には見えない透明な壁が張られていることに気付いている。辺り一面が覆われ、容易にアルンへ行くことすらままならない。

 焦る来島に反して、高杉とシウネーは冷静に状況を分析している。

「いつの間に出来たんだ、こんな壁?」

「私達が来た時には無かったのに。これでは高杉さんのお仲間とも……」

「少し厄介なことになったな」

 外部からの侵入を阻む防壁だと捉えており、出来たのもほんのついさっきだと推測していた。これでは合流や脱出することも不可能である。

 深刻そうな顔で今後の対策を練る二人に対して、来島は諦めずに壁を壊そうと画策していた。ちなみにだが、来島の声は高杉らにはまったく届いていない。ようやく彼女もこの事実を察し始める。

「って、声も届いていないっすか!? どんだけ私の神経を逆なでするっすか!?」

 余計に怒りを燃やしながら、壁を叩き続けていると――そこに出遅れていた仲間達も駆けつけていく。

「おい、また子よ。何をやっている?」

「何って、壁を壊しているんすよ!」

「壁? こんな罠があったとは……」

 万斉、武市共にこの事実を目の当たりにして、大なり小なり困惑している。高杉との合流も上手くいかず、状況通りに大きな壁へと当たってしまう。

 願うはこの壁が取り除かれるまで待機したいが……高杉側にそんな余裕は無かった。

「おい、侵入者だ! こっちへ来い!!」

 ふとアルンの町中に現れたのは、マッドネバーの怪人の一体エレファントオルフェノク。彼は高杉らを侵入者だと見立てて、戦闘員を呼び寄せながら捕まえようとしている。

「って、また怪人ですか!」

「見つかったか。逃げるぞ」

「は、はい!」

 怪人を発見した二人は、すぐに逃げる準備を進めていく。近くの裏道に目を付けており、この危機を脱しようと考えていた。

「おい、お前ら! ひとまず合流は後だ! ここで待っていろ!」

「晋助様……って、なんて言っているかやっぱり聞こえないっすよ!!」

 壁越しにいる来島らにも指示を伝えたが、肝心の内容は不運にも聞こえていない。本人はその事実に気付かないまま、シウネーと共に場を逃げ出してしまう。

「あぁ、待ってください!! 晋助様ぁぁぁ!!」

 何一つとして言葉が通らないまま、高杉と再び分かれてしまう鬼兵隊一行。来島が悲痛な想いを叫び続ける一方で、万斉と武市は壁の突破方法を考え始めている。

「まずはこの壁をどうにかせねば」

「困ったものですな」

 高杉との合流はまだまだ先のようだ。

 一方で怪人の魔の手から逃げる二人だが、シウネーはアルンの変わり果てた様子に違和感を覚えてしまう。

(町中にまったく人がいない……もしかして、もう制圧されたの?)

 辺りを見渡しても誰一人として人がおらず、ちらほらと荒らされた跡も見えている。いなくなった人はどこへ消えたのか? フレイアや他の騎士団は無事なのか? 彼女の不安は募るばかりであった。

 こうして度重なる妨害に出くわしながらも、遂にアルンへと到着した鬼兵隊一行とシウネー。この先に待つものとは果たして――

 

 

 

 

 

 

 

 場面は地球へと戻り、江戸の時刻は夕方から夜に移り変わっていく。真選組屯所では、局長や副長らが今日起きた事件についてまとめていた。

「以上が今日捕まえた犯人の情報ですね。暗躍している過激攘夷組織と繋がりがあると見て間違いないでしょう」

「ご苦労だった。後は口を割るだけだな」

 報告に来た山崎の話を聞いて、土方は労いの言葉をかけている。単身犯人を追いかけた山崎は、その後無事に捕獲。沖田らが帰ってくるまで、手短に事情聴取まで行ったという。今日の彼は一段と仕事が早い。

 報告を終えた山崎は、部屋にいた近藤、土方、沖田に対して、彼らと戦ったとされるダークライダーの件も聞いている。

「ところで近藤さん達は大丈夫だったんですか? その……コウモリっぽいヤツとは」

「あぁ、あの件か。実はな、戦闘の最中に相手側が逃げてしまったな。結局何が目的なのか分からなかったんだよ」

「えぇ? そうだったんですか」

 あまりにも予想外な返答に、山崎も驚いて目を丸くした。ダークキバが敵前逃亡した理由は分からず、沖田ら三人も頭を悩ませている。

「地球に来た目的も分からずじまいだったな」

「そもそもなんで町中にいたんだよ。誰かを探していたのか?」

「他にも妙な連中がいたと通報もあったみたいですからねぇ」

 経緯はともかく人目の目立ちやすい場所にいたことから、かぶき町に用があったと土方は推測した。同時多発的に不審な人物も通報に上がっており、組織ぐるみで明確な目的があったのだろうか?

 そう考え込む土方に対して、沖田はとある耳寄りな情報を話していく。

「ところで土方さん。実はとある情報を耳にしやして」

「なんだよ」

「ダークライダーの通報が多数ある中で、一つ妙な情報がありましたねぇ。どうやら攘夷党も戦っていたとか」

「なんだと? そんなことが起きていたのか?」

「それも重要なんですが、俺が気になったのはこの情報でさぁ。見慣れない浪士がいたと。赤髪でおっさん顔だったらしいんでさぁ」

「赤髪だぁ? 誰かいたか?」

「さぁ? 俺もいまいち分からねぇんですよね」

 さり気なく戦いに参加した、新たな攘夷浪士がいたとのこと。身体的な特徴も伝えるが、確かに該当する人物は思い浮かばない。沖田自身も目途は立っていないが。

 実を言うとこの一件は、攘夷志士入りしたクラインが初めて真選組に認知された瞬間である。わかりやすく言うと、彼が指名手配されるまでもはや秒読みということだ。

密かな危機がクラインに迫る中、真選組もまた新しい展開を迎えている。

「副長。万事屋から電話が来てますよ」

「はぁ? あいつらが? なんだよ、一体」

 突然部屋に原田が入り、彼は土方に万事屋からの電話を伝えていた。面倒に感じながらも、とりあえず土方は電話に応対する。廊下にあった黒電話を取り、受話器に耳を寄せていく。

「もしもし。てめぇら、何のようだ?」

「あー!! やっと繋がった!!」

「遅いわよ! それでも警察なの!?」

「って、急に大声出すなや!! てか、なんでお前らだよ? 万事屋の電話だろ?」

「細かいことは後で説明するから、とにかく万事屋まで来てよ!」

「私達の力じゃどうにも出来ないのよ! 頼むわよ!」

「ちょ、ちょっと待て! おい、どういうことだ!?」

 電話から聞こえてきたのは万事屋ではなく、意外にもシリカ、リズベット、リーファ、シノンの女子四人である。揃って焦った態度を見せており、肝心の要件も伝えていなかった。電話も途切れてしまい、土方はさらに困惑したが、一つ分かるのは異常事態だということだろうか。

「何があったんですかい、土方さん?」

「電話の相手は万事屋じゃなかったのか?」

「俺にも分からねぇよ。なんでこんな時間にそもそも呼ぶんだよ……」

 ひとまず仲間にも電話の様子を伝えたが、やはり自身と同じ反応である。近藤だけは少々邪な考えを思いついていたが。

「とりあえず行ってみたほうが良いだろう。ワンチャン、お妙さんのボディガードを任せられるかもしれないからな!」

「そんなチャンスねぇと思いやすけど」

「えっ?」

 妙絡みだと期待を膨らますも、沖田はそんな淡い希望も打ち砕く。とそれはさておき、万事屋の要件が気になって仕方がなく、近藤、土方、沖田の三人は万事屋の元へ向かうことにしていた。

「まぁでも、行って損はないでしょうね。俺も興味があるんで、ついていきやすよ」

「ったく……仕方ねぇな。おい、山崎に原田。すぐ戻るから指揮は十番隊が仕切ってくれ。何か異変があればすぐ報告しろよ」

「「はい!」」

 不在中の指揮も近くにいた原田に託して、三人はぞろぞろと部屋を出る。大した用事ではないとこの時の三人は括っていた。後に起こることも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 そして真選組一行は、瞬く間に万事屋へと移動していた。

「ようやく着いたが……結局何の要件なんだよ」

「あいつらのことですよ。どうせまたくだらないトラブルが起きて――」

 玄関前にて戸を叩く前に、ひとまずは事態の予測を立てる三人。深刻そうに見えながら実はしょうもない、拍子抜けのする要件だと読んでいる。そう静かに会話を交わしていた時。

〈ガラガラー〉

「あっ、やっと来たわね!!」

「って、リズ君!? それにみんなまで」

 真選組の気配を察して、玄関からリズベットやシリカら女子達が駆け寄ってくる。皆不安げな表情を浮かべており、雰囲気もどこかぎこちなかった。焦りながらも四人は近藤らの手を掴み、無理矢理にも万事屋の中に入らせようとする。

「さぁ、早く来てよ!」

「真選組の力が必要なんですよ!!」

「ナー!!」

「ちょ、引っ張るな! それに入り口が突っかかるから止めろって!」

 ピナまでもが土方らを引っ張るも、狭い戸によって体が突っかかってしまう。異様な焦りようを見て、真選組一行はただ事ではないと勘ぐっていた。

 彼女らを落ち着かせつつ、万事屋の中にようやく入ると、そこで彼らは残酷な現実を目にすることとなる。

「こっちよ、早く!」

「分かったから! 一体何が……」

 と連れられるままにリビングへ入ると――そこに見えたのは、

「えっ? なんだこれ……」

「空気重くねぇですかい」

失意に暮れる銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、定春の五人と一匹であった。皆暗い表情のまま顔を俯かせており、人によっては生気すら感じられない。万事屋らしからぬ悲壮感に溢れる光景である。

 流石の真選組一行も、この重々しい空気には気が引けてしまう。咄嗟にシノンらに詳しい事情を聞いていた。

「ど、どういうことだ!? 何があったんだ、万事屋に!」

「それがね……」

 そして彼女達は、万事屋に起きたことを簡略的に説明する。

「えぇ~!! ユイちゃんがさらわれたのか!?」

「シー! 静かにしてくださいよ!」

「そうよ! お兄ちゃん達、めちゃくちゃショック受けてるんだからね!」

「いや、そういう君達も声を小さくした方が……」

 驚嘆とする近藤らを落ち着かせるように注意するも、当の本人達もショックで大声を出してしまう。突然のことにシリカやリーファ達も、まだ心の整理が付いていない。

一方で土方と沖田は、すぐに現状を読み込んでいる。

「なるほど。ダークライダーの目的は、あの女だったのか」

「わざわざ地球まで来るなんて、どこに力を入れているんですかね」

 ダークライダー及びマッドネバーの目的も判明して、心の中で引っ掛かっていた違和感が取り除かれていた。同時にユイを誘拐されたことで、悲壮感に浸る万事屋らの気持ちも密かに汲み取っている。

「まさかユイを狙ってくるなんて思いもしなかったけどね……」

「こう見えても結構ショックなのよ。アタシ達の知らない間にさらわれるなんて……」

 シノンやリズベットも神妙な表情で悲痛な想いを呟いていた。自分達の知らない間に仲間を連れ去られたことが、未だに信じられないのである。しかもその相手は、因縁深いマッドネバー。悔しさと苛立ちが余計に高まるばかりだ。

 この重たい雰囲気が漂い続ける中、真選組一行も空気を読んで口数を少なくしている。

「そんなことが起こっていたとはな……」

「ったく、あのテロリスト共。面倒なこと起こしやがったな……」

「絵に描いたような悪役ですねぇ」

 三人共珍しく気を遣っていると、リーファら女子達は唐突にもある提案を彼らにぶつけていた。

「そう! だから真選組にお願いがあるの!」

「お願い? まさかそれが、俺達を呼んだ理由かよ」

「そうですよ! 一刻も早くALO星まで飛ばす宇宙船を飛ばしてください!」

「ナー!」

 なんと彼女らは無理を承知で、ALO星まで向かう宇宙船を希望している。直接敵の本拠地で仲間を取り戻す算段のようだが――土方らは突然の提案に耳を疑ってしまう。

「はぁ!? おい、ちょっと待て。急に言われても、こちとらすぐに用意なんか出来ねぇよ」

「そうでさぁ。例え申請が通っても、手続きなり何なりで、最低でも三日はかかりやすよ」

 沖田も現実的な考え方で否定するも、気持ちが高まっているシノンらには何一つ通じていない。

「それじゃ、間に合わないわよ! いいからすぐに出しなさいよ!」

「いやでも、松平のとっつさんに頼み込んでもなぁ……」

「じゃ、私達が交渉するわよ!」

「そうですよ! 早くその松平さんに会わせてください!!」

「ナー!」

「いや、会えるか!! お前ら無茶を言いすぎなんだよ! 少しは落ち着け!!」

 仕舞いには真選組の代わりに、意気揚々と交渉相手にまで名乗り出ている。もはやなりふり構っている暇はなく、ユイを助けるためにはどんな手段でも使う様子であった。あまりにも強引なやり方に、真選組一行はタジタジとなり気が引いてしまう。それでもなお女子達の説得は続き、互いに一歩も引かないこう着状態が続くことになる。

 そんな騒がしいやり取りが続く一方、未だに気持ちが立ち直らないのは万事屋一行。重い雰囲気が彼らの周りのみに漂い、誰一人として声を発していなかった。ただ一人を除いて。

「ど、どうしょう……凄く気まずい」

 苦い表情でこの深刻な現状を憂うのは、またウサギとなってしまったユウキ。元気そうだった万事屋の暗い姿を見ているだけで、無意識に心が痛んでしまう。

「帰ってきてから、ずっとこの調子だって。ここはメンタルを持ち直さないと!」

 励ましたいが言葉すら通じないため、どう行動すれば良いか悩んでいる。女子達が来たことで空気は和らいだが、それでも気持ちを持ち直すには程遠い。ユウキの心配をよそに、万事屋の重々しい空気は続く。

「俺も一緒に行けば良かったのか……」

「いいや。どっちにしても、数の暴力で連れ去ったんだろうよ。お前のせいじゃねぇよ」

「もう止めて! 自分を責めないで前を見ようよ! 僕の声届いてって!!」

 キリトや銀時も数時間前のことを引きずり、未だに後悔の念に苛まれてしまう。この言葉に耐え切れないユウキは、反射的に檄を飛ばしていく。

 さらに万事屋の辛辣な呟きは続いている。

「ショックでご飯も通らないアル。今日なんて三杯しかおかわりしなかったネ」

「いや、十分食べてると思うけど……」

「今日は本を読みながら、一緒にお通ちゃんの曲を聴くはずだったのに……お前の姉ちゃん〇にお金貢ぎすぎ」

「どんな曲!? 流石に子供と聞く曲じゃないよね!? ボケてんの? この重い空気を壊そうとボケてんの!?」

 神楽や新八もつられて現在の心境を声に出したが、二人に比べるとボケにも聞こえてしまう。ユウキも我を忘れて激しくツッコミを入れる始末だった。

「こういう時こそ前を向きたいのに、そのきっかけすらないなんて……」

「いや、アッスーさん? さっき二人が渾身のボケを繰り出してたよ。空気を変えようとしていたよ?」

 顔を俯かせながらアスナも自身の気持ちを吐露したが、ユウキからはまたもツッコミを入れられてしまう。

 彼女だけは万事屋の無自覚なボケに困惑したが、依然として場面はシリアスかつ重い雰囲気のままである。どんな表情をすれば良いのか、つい困ってしまう。

 そんな中でアスナは、困っているウサギ(ユウキ)を見て、彼女にある言葉をかけていた。

「大丈夫よ。もうすぐ立ち直るから、心配しないで……。もうちょっと待ってね」

 優し気な表情で、率直な思いを発している。ウサギが心配していると思い込み、不安を与えないように接していた。

 気遣いを忘れないアスナの姿を見て、ユウキもその芯の強さに打たれている。

「アッスーさん……ここは僕がどうにかしないと! 残ったメモリなら、必ずどうにか出来る方法があるはずだ!」

 万事屋を立ち直させるためにも、自身がきっかけを作るべきと真っ直ぐな想いに駆られていた。そう決意した彼女は、辛うじて残っていた三本のメモリを取り出している。その中から見つかったのは――

「えっとこれは……A? 妖精の耳?」

とんがった片耳があしらわれたAのガイアメモリだ。直感からこのメモリに可能性を見出したユウキは、勢いのままにそれをメモリスロットに装填していく。

〈アルヴヘイム! マキシマムドライブ!!〉

「うわぁ!?」

 音声が鳴り響くとともに、スロットからは眩い光が解き放たれている。その光は万事屋の壁にぶつかり、とある物体に変わり始めていた。

「えっ!? なんだ?」

「扉が出来ている……?」

 この異様な光景には万事屋の中にいた全員が気付き、落ち込んでいた銀時達も一瞬にして暗い気持ちが払拭される。彼らの心配をよそに光の物体は、オーラをまとったドア状の物体に変化していた。そんな最中に銀時達は、数分前に来ていた真選組の存在にようやく気が付いている。

「ていうか、なんでお前らがここにいるんだよ」

「今気づいたのかよ! 無理矢理この女子共に呼ばれたんだよ!」

「って、それよりも! 皆さん、見てくださいよ!!」

「それよりもってなんだ!」

 土方のツッコミを気にすることなく、一行の注意は光の扉に向けられていた。すると扉が開き、その中に広がっていた光景は――

「アレはアルン?」

「ってことは、元の世界に繋がる入り口なの?」

「いいや、違う! これはもしや……ALO星じゃないのか?」

ALO星の街並みである。シリカやリズベットらは元の世界にあったALOだと予見したが、街並みの僅かな違いからキリトはALO星の方だと理解していた。

「そう言われればそうだけど……」

「でもなんで急に扉が出来たのかしら……?」

 この状況を一旦は飲み込んだ一行だが、まだ扉が出来た原因は分かっていない。リーファやシノンらは周りにきっかけがないか探していると、アスナはメモリを触っているウサギの姿が目に入っていた。

「……まさかアナタの仕業なの?」

 両手でウサギをすくい上げて、真っ直ぐに目を見て問いかける。するとウサギはゆっくりと頷いて返答していた。

「そ、そうだね! いや僕もこんなことになるとは思ってなかったけど……」

 言葉が聞こえていないことを良いことに、ウサギことユウキは照れ気味に本音を漏らしている。彼女自身も確証からメモリを差し込んだわけではなく、いわば偶然の結果であった。しかしユイの救出に希望を差し込んだことには嬉しく思っている。

「このメモリの力で扉が開いたアルか?」

「そんな偶然が起こるなんて……」

 一方の新八や神楽も、偶然に起きた出来事に騒然としていた。しばらく光の扉を眺めている一行だが、徐々にこの扉がユイを救う好機だと考え始めている。

「いいや、これはチャンスだ! ユイを取り戻すための!」

「そうだな……まだ運には見放されてねぇみたいだな!」

 銀時やキリトの一言と共に、その意味を理解していく仲間達。深刻そうな表情も和らぎ、失いかけていた活気が戻り始めていた。

「行こうよ! ユイちゃんを取り戻すためにも!」

「もちろんです! アタシ達も一緒に行きますよ!」

「ナー!」

「リッフーにみんな……ありがとうネ!」

「ワン!」

 シリカやリーファ、さらにはピナの心強い言葉に、神楽や定春も元気よく返答する。女子達は皆ユイの救出に快く賛同しており、果敢にもサイコギルドに立ち向かう様子だ。ダークライダーとの決着も付いていない今、余計にこの好機を逃すわけには行かないのである。

 一方でシノンやリズベットは、やや戸惑っている真選組にも協力を促していく。

「真選組のみんなももちろん来てくれるわよね?」

「お、俺達か? いや急に言われてもまだ心の準備が……」

「何弱腰になってんのよ! 市民の味方だって言ったのは近藤さんでしょ! ここはもう乗り込み一択でしょうが!」

「た、確かにそう言ったが……」

 中々判断の付かない近藤に対して、リズベットは強気に急かしている。以前に彼が言っていた言葉も用いており、上手く言いくるめようとしていた。

「どうしやす、土方さんは?」

「乗り掛かった舟だ。ダークライダーとも決着が付いてねぇし、このまま行ってやるよ」

「奇遇でさぁ。俺も同じでい」

 一方で土方と沖田は、共にALO星に向かう意思を一致させている。ユイの救出の他にもダークライダーとも蹴りを付けたいらしく、概ね目的のために決めていた。

「よし! 一気に空気が変わった!! もちろん僕も行くよ!」

 偶然にも一筋の希望を作ったユウキも、万事屋内の風向きの変化に喜ばしく感じている。バラバラになっていた気持ちをまとめ上げて、この勢いのままに全員がチームとして一致団結すれば良いが……そう易々と上手くいかない。

「って、なんでお前らまで来るんだよ。足手まといだから止めろ」

「うるせぇ! わざわざ協力してやってんだから、少しは感謝しろや!!」

「まぁまぁ、落ち着いて! 喧嘩じゃなくて、ここは協力しようよ!」

 早速銀時と土方が喧嘩寸前にまで衝突してしまう。キリトら仲間達が宥めながら二人を収めたものの、相性の悪さはいつ何時も続いている様子である。

「大丈夫だよね?」

 二人の言い争いを目にして、若干今後の動向を不安に感じてしまう。

 そんな苦笑いを浮かべるユウキに、アスナはそっと彼女の体を掴んで礼を伝えていた。

「ん? アッスーさん?」

「ありがとうね。私達を助けてくれて。アナタが作ってくれたチャンスは、絶対に無駄にしないから!」

「うん。どういたしまして!」

 感極まった表情で感謝の気持ちを告げると、ユウキは屈託のない笑顔で返している。言葉が通じなくとも、自身の想いが伝われば良いと彼女は理解していた。

 そして遂にALO星へ向かう準備を整えた一行。万事屋の五人と一匹、真選組の三人、女子達四人と二匹の合計十二人と三匹で殴り込みするという。ユイを連れ戻すために。はたまたマッドネバーのダークライダーと決着を付けるために。皆が譲れない気持ちを背負って、この不透明な戦いに赴くのだ。

「よし、みんな……準備は出来たか?」

「うん!」

「こっちもよ!」

「同じくな」

 キリトからの掛け声に、仲間達は一斉に声を上げる。後悔など恐れずに立ち向かう、勇気ある者達がここにいた。

「アナタも力を貸してもらえる?」

「もちろんだよ、アッスーさん! 街のことも気になるし」

 アスナはウサギことユウキにも問いかけており、これを聞いた彼女は威勢よく頷く。共に戦う意思を示していた。

 改めて全員の意思を確認したところで、

「じゃ、行くぞ。ALO星に!」

「「「おう!!」」」

銀時の掛け声と共に一行は光の扉を潜り抜けていく。目的に多少の違いはあれど、気持ちだけは一つに合わせている。この先にどんな困難が待ち受けようとも、すべて打ち砕く面持ちであった。

 

 だがしかし……扉が消えようとした途端に、一人また一人とつられて潜り抜けた者がいることを、この時の彼らはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「到着と」

「さて……ここが噂のALO星か」

 光の扉を潜り抜けていき、そのまま地上へと降り立った銀時とキリト。そこに定春やシリカといった仲間達も駆け寄り、周りの様子やアルンの街並みを確認していた。

「街の外観からしてアルンよね? ここ」

「この星での呼び名は分からないけど……中心街であることに間違いないわね」

 元の世界での知識から名前を決めつけるリズベットに、シノンがそっと補足を付け足す。あくまでもここはALO星。街並みが似てようとも、名前が同じとは限らない。

 街の雰囲気は至って西洋的であり、古風な民家や商店が立ち並ぶ中、看板は比較的現代のような電飾が付いたものが多い。他にも観光客専用の看板や注意書きも建てられ、ここがキリト達の知るALOと異なることを示していた。

 皆が不思議そうに辺り一面を確認すると、ある違和感をシリカは覚え始めている。

「何か……おかしくないですか?」

「えっ? 何でだ?」

「だって中心街なのに、誰一人として人がいませんよ」

「ナ?」

「確かにこれは妙だな」

 そう。あまりにも人の気配がないのだ。さらによく見ると、荒らされている場所がちらほらと見受けられる。アルンに異常な事態が起きていることは明白で、一行は得体のしれない恐怖心を感じ始めていく。

 皆が神妙な表情を浮かべる中で、銀時はとある事実に気が付いている。

「アレ? ていうか、全員揃っているのか?」

「そういえば……来た時と人数が足りないな」

 よく見ると周りには、出発前にいた仲間が一部だけいなかった。扉を潜り抜けた後に、別の場所へ飛ばされたのだろうか。

 ひとまず銀時やキリトらは、近くにいる仲間だけでも点呼がてらに確認していく。

「おい、とりあえず点呼とるぞ! 俺はいるぞ」

「俺もだな」

「ワン!」

「アタシとピナもいますよ!」

「ナー!」

「アタシもいるわよ」

「私もね」

「そして俺もだな」

[桂さんに同じく]

「じゃ、扉を抜けた後に離れ離れになったのか……って、ちょっと待てぇ!!」

 点呼に応じたのは、銀時、キリト、定春、シリカ、ピナ、リズベット、シノンと順調に続いたが、突然明らかに違和感のある声が発せられる。銀時もノリツッコミをかまして、前を見ると……そこには万事屋に来ていないはずの桂とエリザベスの二人が立っていた。

「ん? なんだ? 何かおかしいところでもあったのか?」

「おかしいというか……えっ!?」

「か、桂さん!?」

「なんで桂さんも来ているのよ……?」

「ていうか、いつの間に?」

 リズベット、シリカ、シノン、キリトと、目の前の光景が信じられずに驚嘆とした表情を浮かべている。彼らの素直な反応を良いことに、エリザベスもプラカードを上げて反応した。

[おい、俺も忘れるなよ]

 だがしかし、四人の反応は特に無い。

[まさか存在感が薄かったか?]

「いいや! むしろ存在感大アリすぎですよ!」

「久々に見たけど、本当に得体がしれないわね……」

 再びプラカードを上げたところで、ようやくシリカから反応が返ってくる。リズベットも久しぶりに見るエリザベスの圧倒的な存在感に、恐れおののいてしまう。未だにペットとして扱っていいのか、甚だ疑問だった。

 とそれはさておき、銀時はたかが外れたように桂へ激しいツッコミを繰り出す。

「おい、ちょっと待て! なんでお前までALO星に来てんだよ、ヅラァ!」

「ヅラじゃない桂だ! というか、この台詞自体久しぶりな気もするな」

「そうじゃなくて!!」

 桂は依然として冷静さを保っており、お決まりの台詞まで言い放つ。銀時を宥めつつも、彼の言い訳は続く。

「まぁまぁ、落ち着け。俺達も不本意ながら話を聞いていてだな……ユイ君を取り戻すためにも、こちらも手を貸そうではないか」

「どっから話を聞いていたんだよ……」

「天井からだ」

「なんで俺の家の天井にお前らがいるんだよ! やっぱりバカだろ、お前!!」

 どうやら桂によると、たまたま万事屋の天井に潜り込んだところ、ユイやマッドネバーの件を聞いて、自発的に参加したようだ。表に出られなかったのは、途中で真選組が来たことだと思われる。想定外のことが起きて、銀時は不満をぶつけるかの如く桂へ強く当たっていた。しかし一方で、キリトらの反応は少々真逆である。

「ど、どうしましょう……」

「うーん。まぁでも桂さんもそれなりに強いし、一緒にいた方が安心な気もするな」

「あぁ見えても、戦争帰還者だからね。二人とも」

「全然そうは見えないんだけど……」

 かぶき町へ戻そうにもどこかもったいない気もするので、このまま同行することで考えを一致させていく。もし今後戦闘が必要ならば、少しでも戦力が多い方が一安心だからだ。ましてや桂は銀時と同じく攘夷戦争の英雄。濃い性格で微塵もその面影は感じ取れないのだが……そこは彼の実力を信じるしかない。未知数とも言える桂やエリザベスの加入によって、四人は微妙な表情を浮かべてしまう。

「フゥ……」

「ナフ……」

[俺もため息だ]

 定春、ピナ、エリザベスも同じような反応であった。明らかに最後だけは違う気もするが……。と未だに銀時と桂の言い争いが続く中、キリトはある人物の動向が気になっていた。

「アレ? ちょっと待ってくれ、桂さん。まさか……クラインも一緒にいたのか?」

 その人物の名はクラインである。普段から桂と共に行動しており、今回も同じ流れかと思いきや――

「あぁ、クライン殿だ! そういえば見かけないが、途中ではぐれてしまったのか?」

やっぱり合っていた。どうやらクラインも同じようにアルンへ来ているようだが、この近くにはいないらしい。となるとキリトや銀時らの脳裏には、ある悪い予感が思い浮かぶ。

「……もしかして、今アスナや真選組と一緒にいるのって」

「まさか……」

 来訪する最中ではぐれてしまったアスナや神楽らの元に、クラインがいるのではないかと推測した。それだけならまだいいが、最悪の事態は真選組とうっかり鉢合わせすることである。ただでさえいつ攘夷志士とバレるのか分からないため、仲間達はかなり彼の行く末を心配してしまう。

 そんな悪い予感は、ことごとく当たることになるのだが。

 

 

 

 

 

「到着ネ!」

「あっという間だったけど……人数が足りなくないですか?」

 一方でこちらは、同じくアルンへと到着した神楽や新八ら一行。早々に彼らは、仲間と途中で分かれたことに気付いていく。

「途中ではぐれちゃったのかな?」

「だとしてもこの街にいそうな気もするが」

「まぁ、いずれ再会できるだろ」

 つい動向を心配してしまうリーファに対して、沖田や土方は特に気にしてはいなかった。銀時を始め簡単にやられるとは思わず、いずれは再会できると括っている。

「ていうか……沖田さんと一緒なの?」

「何でい。何か文句でもあんのかよ」

「別にないわよ。協力とはいえ、あんまり私をおちょくらないでよね」

「はいはい、分かってやすよだー」

「本当に分かってんの?」

 一方のリーファは、早くも沖田と険悪な雰囲気を作ってしまう。相性のあまり良くない二人だが、今回ばかりは否が応でも力を合わせるのか。

「やっぱり荒らされている……もう遅かったのかな?」

 そしてユウキの方は、変わり果てたアルンの街並みに大きな不安を覚えてしまう。自分が不在の間に果たして何が起きたのか? 考えるだけで気が遠くなるが、しっかりと受け入れる準備だけはしていた。

 多種多様な想いが寄せ合うこちらのチームには、アスナ、新八、神楽、ユウキ(ウサギ)、リーファ、近藤、土方、沖田と実力者が集結している。

ひとまずは街の探索に向かおうとした時だ。彼らはとある人物と遭遇している。

「ど、どひぁぁぁぁ!!」

「えっ? 誰の声?」

 腑抜けた叫び声を聞きつけて、一行が周りを見ると――一人の見知ったかと目を合わせていた。

「こ、こんにちは……」

「ク、クラインさん!?」

「えっ! 来てたの!?」

 控え目そうな表情を浮かべて挨拶を交わしたのは、密かにアルンに来ていたクラインである。意気込んで桂と共に光の扉を潜り抜けたところ、不運にもアスナや神楽側と合流していた。ちなみに彼が普段よりも怯えているのは、真選組が近くにいるからである。幸いにもまだ正体はバレていないが……もはやそれも時間の問題だ。

「おぃぃぃぃ! なんでお前がいるアルか! さては盗み聞きしていたな、コノヤロー!」

「って、止めてくれ! 神楽ちゃん! 急に揺らしたら、酔うだろ!」

 クラインとの再会早々に神楽は、彼の服を掴んで前後に揺らしていく。勝手に盗み聞きと決めつけているが、これは偶然にも間違いではない。しばらく彼は、神楽の釈明に時間をかけている。

 一方で真選組一行は、久しぶりに会うクラインに妙な懐かしさを覚えていた。(実際には何度も会っているが、どれも変装した時の姿である。素の姿として会うのは、実に約一か月振りだった)

「なんか妙に久しぶりに会うな。誰だ、こいつは?」

 土方の素朴な疑問に、リーファと新八が応えていく。

「えっと……クラインさんだね。私達の仲間で、とっても頼りになるお兄さんかな?」

「今はかつ……いや、カツ丼屋で働いているんですよ!」

「何ぃ、カツ丼アルか! どこにアルネ!?」

「いや、ここにはねぇよ! 急に眼の色を変えるな、お前は!」

 空気を読んで彼らは桂や攘夷志士のことは話せなかったが、誤魔化した結果神楽がその話に飛びついてしまう。目の色を変えてカツ丼を探す彼女に対して、新八は高らかにツッコミで返していく。

「ハハ……流石は神楽ちゃん」

 神楽の熾烈な食い意地を目の当たりにして、リーファも苦笑いで呟いていた。

「ヒィ、危なかった……」

 一方で神楽の呪縛から解放されたクラインに、アスナが近づいて話しかけてくる。

「ところで、クラインはどうやってここまで来たの?」

「いや実はな――」

 そして彼も桂と同様、ここに至るまでの経緯を話していた。

「てか、なんでウチの天井にいたのよ」

「まぁ、こっちも色々あったんだよ。それでよ、ユイちゃんがさらわれたんなら、俺達も黙っちゃいられねぇってわけだ! あの人とははぐれちまったが、絶対に探しているはずだ。だからよ、俺も手伝わせてくれよな!」

「はいはい、事情は分かったわ。一応頼りにしているからね」

「おうよ! 一応は余計だぜ、アスナさん」

 天井にいたことは納得していないが、それでも彼なりの優しさと熱意はしっかりと受け止めている。アスナ側も銀時達と同じく、突然やって来た助っ人を受け入れる所存だった。どちらにしても、人数が増えることには有難く感じている。

「頼もしい仲間なのかな? 一見微妙そうに見えるけど……」

 ユウキもクラインの活気のあるやる気に注目しているが、そこまで重要視はしていない。頼もしい仲間である認識に変わりはないが。

 一方で真選組一行も、クラインの加入は好意的に受け止めていた。

「うむ。頼もしい味方が加わったものだな!」

「キリトと仲間らしいが、あんなおっさんと付き合いがあったのか。アイツ」

「一応26みたいですけどねぇ」

「俺の一個下じゃねぇかよ」

 近藤は彼と親近感が湧きつつ、土方と沖田は意外な年齢の発覚に若干驚いている。そう色々と考えを思い浮かべる中で、土方らはある情報を思い起こしていた。

「アレ? そういえば赤髪って……」

「あっ、そうだ。まさかアイツなのか?」

 沖田より聞いた新たな攘夷浪士の件である。赤髪という共通点からクラインとは一致するが、それではまだ証拠は不十分だ。けれでも疑いはそれなりに持っており、今後は彼の動向にも注意を払っていく。知らぬが仏とはまさにこのことなのだろうか。

 こうして新たにクラインも加わり、ようやく探索を開始する一行。まずは人気のない街の探索から始めようとしたが――

「おい、みんな! 一旦隠れるぞ!」

「こ、近藤さん?」

突然にも近藤は何か嫌な予感を察知して、全員を建物に囲まれた裏路地へと避難させる。

 そっと呼吸を整えて街の広場に目線を向けると、

「フッ! ハァ!」

そこには怪人の大群と戦う男の騎士の姿が見えていた。彼は共に逃げていた女性をかばいつつ、懸命に町中を逃げていく。

(ちなみにだがこの二人の正体は、物語の序盤に登場したシマノブとカヤノンである)

「アレは……!」

「やっぱり敵がいたみたいだな。あの奇妙な怪人達もマッドネバーか?」

「大方それで間違いないわね」

 近藤の悪い予感は当たっており、危機を回避したことには一安心している。マッドネバーの脅威をマジマジと眺める一方、クラインは彼らを助け出すために動き出そうとした。

「って、早く助けに行かねぇと!」

「おい、待て! ここは無暗に動くんじゃんぇよ。てめぇまでお陀仏になるぞ」

「で、でもよ……」

 がむしゃらに飛び込もうとした時、土方は彼を間一髪で取り押さえていく。勝てる見込みが無いと察して、冷静に状況を見極めるべきだと説得している。クラインに限らず、場にいた全員が助けるべきか戸惑っていたが。

「シマノブさん!」

「カヤノン……早く逃げろ! 君まで閉じ込められるぞ!」

「で、でも! アナタを置いていくわけには!」

 一方で騎士ことシマノブは、怪人の一体であるゴ・ジャラジ・ダやダスタード、魔化魍忍群の大群を相手にしつつ、守っていた女性ことカヤノンに逃避を促す。このままじゃ共倒れになると考え、僅かでも彼女が生き残る道を選んでいた。だがしかし、

「隙アリ!」

「キャ!?」

「カヤノン!?」

その隙をつかれ、もう一体の怪人であるプテラノドンヤミーにカヤノンは捕まってしまう。もはや二人にとっては一巻の終わりである。

 この絶望的な状況にとうとう我慢が出来ず、様子を見ていたクラインらは勝手に動こうとしていた。

「やっぱりダメだ! 俺は助けに行くぞ!」

「私も行くわ!」

「私もネ! みんな、行くアルよ!!」

「おい、ちょっと待て! 無暗に動くんじゃねぇよ!」

 彼に続いてリーファや神楽も動き出し、揃って二人を助け出そうとする。沖田らは引き止めるものの、もはや衝動的に動いておりブレーキなどは効かない。この判断が不利に働こうとは……三人にとっては思ってもいないだろう。

「さぁ、お前も鏡の世界に幽閉されるが良い! ハァァ!!」

「キャァァ!!」

「カヤノン!!」

 プテラノドンヤミーに捕まったカヤノンは、突如彼の口から発せられた黒い霧を全身に浴びてしまう。すると見る見るうちに、彼女の体はスッと消滅してしまった。

「えぇ!?」

「消えただと……?」

 この予想外の展開には、リーファら三人や真選組、ユウキらですらも驚きを隠せずにいる。同時に街に人がいない理由も、この怪人を始めとした影響だと察していく。

「ゴラゲロビゲスグギギ!(お前も消えるがいい!)」

「ウゥ……うわぁぁ!!」

 ショックを受けるシマノブの隙を見て、ジャラジは容赦のない攻撃を次々に浴びせていた。ヤマアラシの如く針状の物体を被弾させていき、彼に大きな痛みを与えている。そして攻撃を耐え切れなくなったシマノブも、ゆっくりと倒れて体が跡形もなく消えてしまう。

「また消えた!?」

「ってことは、もうあの二人は……」

 一連の様子を見た新八やアスナは、彼らの消滅が死を意味していると推察する。ましてやアスナは何度も同じような光景を目にしているので、余計に心が痛んでしまった。悲しみに暮れる彼らとは対照的に、ユウキはある光景を発見してむしろ驚いている。

「いいや、違うよ! アレを見て!」

「ん? どうしたの――」

 アスナの服を口で引っ張りつつ、周りにもこの事実を伝えようとした。両手を使って向けた先には、広々としたガラスの窓が配置されている。そこに映っていたのは、

「なんだ、ここは。って、ウッ!」

「大丈夫ですか、シマノブさん……って、私も? イヤ!」

先ほど消滅したはずのシマノブとカヤノンだった。彼らは自分達の現状を把握しておらず、さらには謎の痛みに苦しみ続けている。

 あまりにも不可解な光景に、一行の理解も追いついていなかった。

「鏡の中にいるだと!?」

「まさかマッドネバーは、住人を全て鏡の世界に閉じ込めているのか?」

「でも、なんで?」

 段々とマッドネバーの計画が分かり始める中、まだ肝心の個所は分からずじまいである。それでも二人が無事なことは、アスナらもつい一安心していた。

 ところがその脅威が、今度は自分達にまで牙を向こうとしている。

「おや? ここにもまだ反乱分子がいるようだな」

 プテラノドンヤミーは、表舞台に出ていたクライン、リーファ、神楽の三人を発見。先ほどの二人と同じように標的として定めて、同じく鏡の世界へ幽閉しようと企てていく。

「って、おいおい! もう見つかるのかよ!」

「逃げるアルって、ギュフ! コンニャロー、お前! ぶつかるなよ!!」

「えっ!? 俺のせいなのか?」

「って、ここで揉めないでよ! 早く逃げないと!!」

 いち早く逃げようとしたものの、途中で神楽はクラインと衝突してしまい、彼にその責任を擦り付けてしまう。足並みが揃わずリーファが叱責するものの、あまり通じていない。

 混乱のせいで三人は思わぬ窮地を迎えていた。

「おい、何やってんだ! お前ら!」

「早くこっちへ来てくださいよ!!」

「もうこうなったら……」

「僕らがいくしか!」

 近藤や新八らは引き続き声掛けをするも、リーファと同様に効果はない。ここはもう意地でも連れて帰るべく、アスナやユウキが助け出そうと動き出す。そんな時である。

「ジャヅサゾドサゲソ(奴らを捕らえろ)」

「そうはさせない!」

「何?」

 彼らの元に思わぬ助け船が現れていく。上空から華麗に一人の少女が場に降り立つと、

「くらえ!!」

勢いよく丸い球を地上に投げつけている。すると辺り一面に煙が発生して、場にいた全員を目くらましさせていく。

「こ、これは煙幕か……!」

「ボゴブバデゾ!(姑息な手を!)」

 視界を遮られた怪人達は、行動を制限されてしまい、瞬く間に行き場を失う。彼らが怯んでいる隙に、煙幕を仕掛けた少女は神楽らを誘導させている。

「こっちだよ、みんな!」

「えっ? ちょっと!」

「どこへ連れて行くアルか!」

「おい、おいていくなよ!」

 神楽とリーファの二人の手を握って、アスナらの元までに戻していた。それを見たクラインも必死に追いついていく。

 窮地を脱したところで、一行はようやく少女の正体を目の当たりにする。

「って、フィリアちゃん!?」

「そう! 早く逃げよう!」

 突然の再会に驚く一行を気にせず、彼女は歩みを止めなかった。助っ人として現れたのは、以前にアスナや真選組らと共に、次元遺跡を冒険したことのあるフィリアである。

「こっちへ来て! 安全な場所まで逃げよう!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 余韻に浸らせぬまま走るフィリアを追いかける一行。とりあえずは彼女の言う通りについていくことにする。

 ALO星で起きた思わぬ出来事の数々。崩壊寸前のアルン、消えた街の人々、暴れ回る怪人に生き残っていたフィリア。彼女との再会で、その大半は判明するのだろうか?

 

 

 

 

 

 そして銀時達もまた、アルンの真実に直面することになる。

「ん? ちょっとみんな! こっちへ来てくれ!」

「どうしたのだ、キリト殿」

 キリトがある光景を発見しており、桂ら仲間達を呼び止めていた。彼は商店にあったガラス張りの大きな窓に、一行の注目を集めている。

「このガラスを見てもらえるか?」

「ガラスに一体何が……って、えっ!?」

「これは……!!」

 ガラスを凝視していた一行が目にしたのは――幽閉されている街の人々だった。

「おい、出してくれよ!」

「く、苦しい……!」

「誰かぁ! 助けて!!」

 老若男女あらゆる人間……いや、妖精達が鏡の世界に囚われている。皆必死に助けを欲しており、苦しんで徐々に弱まる姿は、一行に多大なる衝撃を与えていた。

「酷い……!」

「街の人達を出られなくさせてるってこと?」

「だからこの街に誰も人がいなかったのか?」

 シリカ、リズベット、キリトと各々が神妙な表情で想いを呟く。街に人がいない理由は分かったのだが、あまりにも酷い仕打ちに一行は思わず憤りを感じている。

「こいつもマッドネバーの仕業なのかよ」

「なんて奴らなのよ! 外道にもほどがあるわよ……!」

 銀時やシノンを始めとして、増々マッドネバーの卑劣な行為に怒りを燃やしていく。定春やピナも苦い表情でこの状況を憂いていた。

「これはとんでもない敵と戦いそうになるな」

[正面では絶対倒せないな]

 一方で桂やエリザベスは、冷静に敵の狙いや規模を分析している。いずれにしろ強敵と捉えており、壊滅させるには手の込んだ手段が必要だと認識した。

 そう考え込んでいた時である。

「ギャァァァ!! 助けてくれ!」

「ん? うわぁ!? モヒカン!?」

 唐突にも彼らの目の前を、バイクに乗った男性の集団が駆け抜けていく。その容姿はカラフルなモヒカンをした癖の強い見た目であり、どうやら何者かから逃げているようだ。

(ちなみにだが、こちらも次元遺跡篇の冒頭で登場したモヒカン観光客の一人である。今回が二回目の旅行のようだが、到着早々にマッドネバーの襲撃に遭い、現在は敵の魔の手から必死に逃げているようだ)

「びっくりさせんじゃねぇよ! なんでこいつだけ世紀末ファッションだよ!」

「恐らく観光客じゃないでしょうか……」

 過激な格好を見て、銀時は激しくツッコミを入れてしまう。シリカは冷静にも彼らを観光客だと決めつけている。ただの勘だがそれは見事に当たっていた。

 一方でモヒカン観光客の集団に続いて、キリト達の目の前にとある脅威が近づく。

「取り逃がしたか。いや……こいつはちょうど良い奴らを見つけたな」

「ん? 誰だ!」

 ノイズのような声が響き渡り、一行は反射的に前を向いている。するとそこには――多数の怪人が群れを成して現れていた。マッドネバーの一員と見て間違いないだろう。

「ワフ……」

「ナ……」

 魑魅魍魎とした怪人の数々を見て、定春とピナは鋭く睨みつけていく。

 彼らの前に現れたのはナイトローグ率いるマッドネバーの部隊の一つ。マグマ・ドーパント、カマキリヤミー、オリオン・ゾディアーツ、ミノタウロス、ビヤッコインベス、アイアンロイミュード、刀眼魔、ソルティバグスター、ストロングスマッシュ、数体のカッシーン。どの怪人も一部を除いて、平成仮面ライダーが最初に戦った敵ばかりである。

 それはさておき、マッドネバーの登場により警戒心を最大にまで強めていく銀時やキリトら一行。慎重に状況を見極めつつ、彼らとの会話に応戦していく。

「お前ら、マッドネバーか?」

 最初はキリトが切り出した。

「ご名答。俺の名はナイトローグ。アルン制圧部隊のトップで、優秀なる科学者だ」

「アルンの制圧だと?」

「見ての通りだな。この街にもはや人など数少ない。ほぼ全てをミラーワールドへと送ってやったのさ」

「ミラーワールド?」

「まさかあの鏡の世界のこと?」

 次々と明かされる事実を聞き入れる一行。怪人を率いるコウモリのような怪人は、疑似ライダーであるナイトローグ。ノイズの混じった耳障りな声が特徴的である。そんな彼は自分の身分を明かした後、ミラーワールド及び真の目的についてもシノンらに話していく。

「そうだ。あの世界には予め魔力を吸収する装置を配置してある。住人の魔力が奪いつくされるのも、時間の問題だな」

「魔力の吸収? だから鏡の中の人達は苦しんでいたの!?」

「その通り。これで誰もオベイロンには逆らえまい。新たな王の前に、障害となるモノは全て排除しなければな! ハハハ!」

 そう豪語したナイトローグだが、傍から見ればキリトらの怒りを買ったに過ぎない。マッドネバーはクーデターとして、ミラーワールドに次々と街の住人や観光客を幽閉。その生体エネルギーや魔力を奪い、逆らえないように仕掛けていた。

 研究成果を世間が認めない故の逆恨みだが、あまりにも度が過ぎている。銀時やキリトらは沸々とさらなる怒りを燃やしていく。

「て、てめぇら……!」

「許さないぞ……どこまで自分勝手なんだ!」

 二人に続き、リズベット、シリカ、シノン、定春、ピナも怒りを声に出している。

「あったまおかしいんじゃないの、アンタら!」

「そうですよ!! 最低最悪です!」

「紛れもなく妖精の敵ね……その根性、叩きのめしてあげるわ!」

「ウゥゥ!!」

「ナァァ!!」

 敵意を存分に剥きだす一行。全員に共通するのは、マッドネバー及びオベイロンに一切の同情の余地がないことだ。自分の利己的な野望を実現させるために、彼らの大切な仲間であるユイや、何の罪もない一般市民すらも巻き込む姿は、暴君と言っても過言ではない。

 全員の気持ちが反マッドネバーに一致する中で、桂も同じ想いである。

「まったく卑劣な奴らめ。おい、エリザベス。天誅を下してやれ」

[了解]

 一段と冷静な振る舞いで、彼はエリザベスに指示を与えていく。すると彼の黄色い口元からは、桂の身の丈ほどあるロケットランチャーがにゅと飛び出していた。

「えっ? 桂さん!?」

「何やってんの、アンタ!?」

 突然すぎる彼らの行動に、驚嘆とする仲間達。それでも桂は、彼らの反応を気にせずに突き進んでいる。

「行け!」

〈ヒュー! ドーン!!〉

「何? くぅ……!?」

 ためらうことなくエリザベスは、マッドネバーにロケットランチャーを発射。彼らに被弾すると同時に、ドカーンという轟音が響き渡る。

 強引すぎる攻撃手段に、銀時らはつい目を丸くしてしまう。

「やったな」

[迎撃成功]

「じゃねぇだろ!! なんでお前、急にロケットランチャー撃ってんだ!?」

 とうとう我慢が出来なくなり、銀時は桂らにツッコミを入れていく。何よりも見せ場を奪ったことが、彼にとっては許せないらしい。桂は一切気にしていないが。

「ハハハ! ヘイトを買うような輩は、スカッとさせた方が良いからな! これで読者も満足しただろう」

「そういう問題じゃねぇんだよ! ここは潔く全面的立ち向かう雰囲気だろうが!」

「ていうか、なんでエリザベスからミサイルが出てんだよ!?」

「一番の驚きですよ!!」

「もう何がどうなってんのよ!?」

 銀時に引き続いてキリトやリズベット達も、この行動に激しくツッコミを入れる。何よりもエリザベスの予想外の攻撃には、どこから突っ込めば良いか分からない。増々と謎が深まるばかりである。

 と桂達へのツッコミが続く中、ミサイルを受けた敵陣営もまた動き出していた。

「おのれ……許さないぞ! お前ら、やれ!」

「「はぁぁぁ!!」」

 やはりあの攻撃だけでは倒されておらず、ミサイルを仕掛けてきた桂らに敵意を向ける。反撃と言わんばかりに、彼らへの集中攻撃を指示していた。

「ワン!!」

「ナ!?」

 先ほどとは異なる殺気を感じ、定春やピナも仲間達に危機を伝えている。そしてようやく一行も、この現状を理解した。

「おぃぃぃぃ!! いつの間にか襲撃しているよ!!」

「早く戦闘準備を――」

 と焦りながらも戦う準備を進めようとした――その時である。

「ハァァァ!」

「アァァ!?」

 彼らの元にも、とある助っ人が駆けつけていた。緑髪の男性のようで、彼は剣を振るって怪人の大群に応戦している。

「えっ? 誰だ?」

「何者なの?」

 到底銀時達には知らない人物であり、マジマジと彼のことを見つめていく。するとキリトは、ある人物を照らし合わせていた。

「早く行け! 右側の路地だ!」

「わ、分かった!」

 一方で男性は戦いつつも、銀時らに逃げ道を教えていく。それを聞いた一行はすぐに戦場を離れて、彼の言う通りに右の路地から脱出している。

「今のは誰だ?」

「生き残りの街の住人でしょうか?」

「にしては、装備もしっかりしていたがな」

 逃げる最中で助っ人の正体を探るが、無論誰の知り合いでもない。装備もしていたことから、この星における騎士の一人と捉えている。

 だがしかし、キリトにとってはとある人物が思い浮かんでいた。

「やっぱりあの人……この世界のシグルドか?」

 そう。かつて彼も元の世界で出くわしたことのある、シルフ族の一人のシグルドである。恐らくはこの世界での彼だと思われるが、どこか嫌な予感をキリトは察してしまう。それは元の世界でのシグルドの所業が原因なのだが……

 思わぬ出会いと真実に出くわした銀時やキリトら一行。この先に待ち受けるモノとは果たして。助っ人に来たシグルドは希望なのか。無事にユイを救出することは出来るのか。

 物語はさらに波乱を迎えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、アルンに侵入していたシウネーと高杉は、中心部へと向かう最中でようやくある人物と再会している。

「あっ、姫様!」

「シウネー!」

 偶然にも合流したのは、ALO星の王妃であるフレイアだった。緑がかった金髪に、程よく露出のある神秘的な服装。そして腰元には、自身の武器である金色のハンマーが付けられていた。

(風貌や雰囲気はまさにSAOのキャリバー編に登場したフレイアそのものだが、あくまでも彼女はALO星の住人。身分や立ち位置もまったく異なっている)

 そんな彼女は別れていたシウネーとようやく再会。互いの無事を喜んで、内心では一安心している。

「やっと見つけられたか。こんな路頭で再会するとはな」

「私も意外でした……大丈夫でしたか、姫様?」

 高杉もシウネーの願いが叶ったことには、少しばかり安心していた。けれでも気になったのは、世界樹にいるはずの王妃が何故城下町であるアルンに紛れていたのかだ。

「私は無事でした。ですが、アルンに残っていた騎士たちは……」

「そうですか。世界樹はどうなったのですか?」

「それもダメでした。生き残った騎士たちが私をかばって、どうにかここまで逃げ出しましたが、恐らく彼らも」

 シウネーからの問いに、フレイアは深刻そうな表情で返答する。どうやらアルンに残留していた騎士はマッドネバーに倒されてしまい、さらには世界樹も混乱の最中で乗っ取られたという。辛うじてフレイア自身は逃げ延びたが、その代償はあまりにも大きかった。

「……そんな。やっぱり戦力を分散させたのか、ダメだったのでしょうか……」

 この話を聞いて、シウネーはつい後悔の念に苛まれてしまう。襲撃前に戦力を分散させたことが最悪の結果を生んだと考えたが、フレイアはまったく彼女のことを責めることは無かった。

「そんなことはないですよ。アナタ達の情報通りに、他の領地にも怪人が進行してきたそうです。事前に返り討ちにしたと、情報も受け取りました。ですので、そう自分を責めないでください」

「姫様……」

「大丈夫です。住人達も皆鏡の世界に幽閉されていると聞いています。恐らくは奴等を倒せば、きっと元通りになるはず!」

「そうですね、まだ頑張れるはずです!」

 数多の情報を基にして、フレイアは前向きに事を捉えている。戦力を分散させてもなお他の領地が攻められたのも事実であり、事前に教えてくれたシウネーことスリーピングナイツには感謝していた。まだまだ逆転できる余地はあると括り、決して諦めない姿勢を見せている。これにはシウネーも大いに共感していた。

「やれやれ。随分とポジティブな騎士と姫様なこった」

 ただ話を聞き流している高杉も、二人の精神力の強さには脱帽している。自身の仲間との再会は遠ざかったものの、面白い見物だと彼は括っていた。

 そんな中でフレイアは、シウネーに他の仲間の動向を聞いている。

「ところでユウキや仲間達はどこへ行ったのですか?」

「えっと、それは……」

 とても言いづらかったが、ここはしっかりとありのまま起きたことを彼女に話していく。

「幽閉された!?」

「そうですね……ユウキは後で合流する予定ですけど」

「敵は思ったよりも強いということですね……」

 ユウキ以外の仲間が幽閉されていると聞き、フレイアはつい衝撃を受けてしまう。同時に敵組織のただならぬ技術力には、大いに危機を感じている。

 一筋縄では勝てないとフレイアが思い浮かべる中、ようやく彼女はシウネーと共にいた高杉に目を付けていく。

「ところでシウネー? この男性は」

「あっ、この方は――」

「おい、ちょっと待て。隠れろ、お前ら!」

「えっ? ちょっと!?」

 と紹介をしようとした時、彼は邪悪な気配を察して二人を裏路地へと誘導させる。息を潜めながら三人が先ほどいた大通りに目を向けると、そこには二体の怪人が現れていた。

「あの怪人達は?」

「恐らくマッドネバーの怪人だろうな。さしずめ、あの野郎のおもちゃってところだ」

「マッドネバー……それが奴らの名前なのですね」

 意外にもここでようやく、シウネーとフレイアは敵対組織の名を知ることになる。だが聞いてもあまり思い浮かばず、名の知られていない組織だと彼らは察していた。

 一方で大通りにいた怪人は、ヨロイトカゲを模したサンゲイザーファンガイアと水牛をモチーフにしたバッファローロードである。二人は連れてきていた少女の今後について話し合っていく。

「少女を捕獲してきたぞ」

「よくやった。後は連れて行くだけだな」

「それをお前に任せる。俺はダークライダーに呼ばれたからな」

「よし、分かった。引き受けよう」

 そう言われてサンゲイザーは、バッファローロードから一人の少女を手渡された。もちろん少女の正体は、リュウガにより誘拐されたユイである。現在は気絶したまま眠っており、お姫様抱っこの如く彼女を両手で持ち上げていた。

 この光景を見て、意外にも高杉に激震が走っている。

「あのガキは……!」

「どうしたのですか、高杉さん?」

 一度声を震わせた後に、彼は一転させて不気味な笑いを浮かべていた。

「なんとまぁ、滑稽なこった。おい、お前ら。この先にその世界樹ってトコに入る入り口はあるのか?」

「確かにありますね……隠し通路ではありますが」

「一体何をするのですか?」

 世界樹の入り口の有無を聞いた後、怪人の動向を見計らいつつ彼は単独で動き始める。

「なら話は早い。行くぞ」

「は、はい!?」

「ちょっと、シウネー!?」

 サンゲイザーらの姿が消えた後に、高杉は迷わず彼の跡を追いかけようとした。彼の行動に戸惑いつつも、シウネーは反射的に高杉を追いかけて、彼女に続きフレイアも追いかけている。あの間にフレイアはシウネーに対して、高杉のことを詳しく聞いていた。

「何を考えているのですか。なんであの人のことを頼るのです?」

「えっ? なんでって……」

「あの人は鬼兵隊の総督、高杉晋助。宇宙を駆ける極悪な過激攘夷浪士よ」

「えっ? そんな大物だったのですか?」

 しばらくの間忘れていたが、高杉は紛れもない過激攘夷浪士の一人。あくまでも目的が一致しているために、行動しているに過ぎない。フレイアは仕事柄宇宙中の出来事の触れる機会が多く、そこで高杉や鬼兵隊の情報についても知っていた。最初こそまだ確証は無かったが、徐々に高杉の正体に気が付き、現在では味方としても認識していない。

 シウネーも彼がテロリストである事実をようやく思い出す。さらにはフレイアの話から、ただのテロリストではないことも理解した。僅かに感じていた信頼が揺らぎ始めている。

 一方の高杉は、ユイがこの星に来ていることに衝撃を受けている様子だ。

(何故あのガキがこの星にいた? てことは、あのキリトって野郎も来てんのか? まだ分からねぇな)

 マッドネバーの陰謀に巻き込まれたのか、まだまだ謎が残るばかりである。それでもその謎を突き止めるべく、彼は動いていた。

 銀時側、キリト側、高杉側、鬼兵隊側。ALO星のアルンを中心に、数多くの想いが渦巻いていく。危機的な状況の中で、彼らはどのような戦いに赴くのか。

 さらに一方で、アルンにはもう一組だけ侵入者がやって来ている。

「着いたわね」

 果たして彼らの正体とは――




マッドネバー怪人軍団

アルン北東エリア組
ナイトローグ
マグマ・ドーパント
カマキリヤミー
オリオン・ゾディアーツ
ミノタウロス
ビャッコインベス
アイアンロイミュード
刀眼魔
ソルティバグスター
ストロングスマッシュ
カッシーン

アルン南西エリア組
ゴ・ジャラジ・ダ
プテラノドンヤミー(オス)
ダスタード
魔化魍忍群

その他
エレファントオルフェノク
バッファローロード〈タウラス・バリスタ〉
サンゲイザーファンガイア



 さて遂にALO星へと皆さんが突入しました! 物語が大きく進みましたね。
 そのカギを握ったのは、アルヴヘイムメモリ。その効果はどこにいても、ALO星に帰れる効果となっています。何気に凄いのでは…… おかげで展開もスムーズに進んだと自負しています!
 前章に出ていたフィリアも再登場。シグルドもまさかの参戦と増々物語が盛り上がっていきます。今回のお話の何気ないこだわりは、平成2期の一話に登場した怪人の集団です。本当はアナザービルドも入れたかったのですが……アナザーライダーは特殊な立ち位置の敵なので、今回はマッドネバーに含まれていません。カッシーンはいるけどね。
 それにしてもオベイロンの計画はつくづく利己的ですね。街の住人達をミラーワールドに閉じ込めて魔力を吸い尽くすとか鬼畜すぎませんか? 怪人達に支配されたアルンを取り戻すことが出来るのか? ぜひ注目してください!
 ちなみにナイトローグの正体は、幻徳さんではないです。
 ではまた次回!

小話
 茅場晶彦は別世界に思いを馳せていたけど、果たして彼はカシワモチトピアやバカンストピア、テニストピアに鬼ごっこトピア等を見て何を思うのだろうか。




次回予告

万斉「領主とな」

フィリア「街はもう制圧されたのよ……」

シグルド「我らと手を貸してくれぬか」

高杉「助けに来てやったぞ」

キリト「オベイロンは絶対に倒す!」
銀時「手伝ってやるよ、俺もよ」

アスナ「神楽ちゃんに話したいことがあるの」

神楽「大丈夫ネ、アッスー!」

ユウキ「そんなことがあったの」

妖国動乱篇五 再会と潜入と危険な男


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第七十九訓 再会と潜入と危険な男

 ALO星にある世界樹は原典と違って、ツリーハウスみたいな木々で出来た城みたいなものです。皆さんはツリーハウスと聞いて、何を思い浮かべますか? 僕はKNDハチャメチャ大作戦です。流石に誰も知らないか……

 後はプログレ映画面白かったです! ツイッターに感想上げてますー

 それとオーズがまさかの新作!? 
 ※この題名は事前に決まっていて、本当に偶然でオーズ新作とぶつかりました……こんな偶然ある?




剣魂 妖国動乱篇 前回の三つの出来事

一つ! ユイを取り戻す為に、万事屋達はメモリの力でALO星に向かう。

二つ! 中心街アルンはすでにマッドネバーに占拠。住人や観光客は鏡の世界、ミラーワールドに幽閉されてしまう。

そして三つ! 万事屋達はバラバラになり、銀時側はシグルドと邂逅。アスナ側はフィリアと再会していた。

カウント・ザ・メモリーズ! 現在ユウキの持っているメモリは……

A アルヴヘイム L リード O オンライン


「うむ。どうやら上空にまで、この見えぬ壁は広がっているようですねぇ」

「はぁ!? なんて面倒なことしやがったんっすか! あのバカ妖精王!!」

「落ち着け、また子よ。嘆いたところで、変わるもんも変わらぬでござる」

 自分達を阻む障壁の存在を再度確認して、来島は人が変わったように怒り狂ってしまう。そんな彼女を万斉はそっと宥めていた。

 結果的に高杉と再度はぐれた来島、万斉、武市の三人は、進行を阻む透明な壁に悪戦苦闘してしまう。抜け穴が無いか探すばかりで、一行に事が進まずにいた。願わくはこの壁ごと破壊出来れば良いが……そう簡単に上手くいかない。

 場にいた全員が途方に暮れる中、武市は諦めずに策を練り続けていた。所持していた望遠鏡で世界樹近辺を覗き込み、事態を解消するヒントを探ると――

「ん? アレは……!」

「どうしたんすか、武市先輩! まさか晋助様を見つけたんすか!?」

幸運にも彼は大きなリアクションを示している。感極まっている様子から、重要なヒントを見つけ出したと、この時のまた子は察知していた。

 ところがそんな期待は、粛々と崩れ去ることになる。

「あの子は……いつぞやの少女ではないですか! でも何故ここに?」

 ……どうやら武市が見つけたのは、ヒントではなくただの幼女だ。しかも以前に出会ったことがあり、何故この星にいるのかは彼自身も分かっていない。驚嘆とする武市とは対照的に、来島はこの言葉を聞いてただならぬ怒りを覚え始めていた。

「って、ロリコンも大概にするっす! 期待して損したっすよ!」

「いや、また子さん!? また銃口を向けないでくださいよ! いつもの私のクセじゃないですか!」

「誤魔化されないっすよ!!」

 ためらいもなく彼女は武市に拳銃を向けていく。それを見た本人は困惑して説得するも、頭に血の上った彼女には何一つ通じていない。この光景を見て、万斉も内心では気が遠くなってしまう。

 もはや三人だけはどうすることも出来ない状況。こう着状態が続く中、突然彼らに助け船が舞い込む。

「おや? 君達もアルンに入れなくて、困っているのかい?」

「って、お主らは?」

「誰っすか?」

 不意にも聞こえてきたのは穏やかそうな女性の声。それを聞きつけて三人が後ろを振り向くと、そこには多彩な色の羽で飛ぶ三人の妖精の姿があった。鬼兵隊一行の目の前で降り立つと、彼らは早速自己紹介を交わしていく。

「知らなかったか。私はサクヤだ」

「俺はユージーンだ」

「でアタシはアリシャ! みんなこの星にいる妖精の領主だね!」

 そう。この窮地に駆けつけたのは、それぞれの種族を束ねる領主達である。原典にも登場した彼らだが、今回はあくまでも別人。立場や個々の性格は似ているが。

 駆けつけた三人は、シルフ族を束ねる緑髪の女性サクヤ。サラマンダー族を従える赤髪かつ大柄な男性ユージーン。ケットシー族を率いる黄髪かつ小柄な女性アリシャ・ルー。

 そんな領主達の登場で、鬼兵隊は皆不可思議なリアクションを浮かべてしまう。

「領主?」

「この格好で漁業関係者とは、たまげたものでござる。いや害獣駆除の方か?」

「いいや、領主っすよ。つーか、今日小ボケ多いっすね……万斉先輩」

 珍しくも万斉がまたも小ボケをかましていく。領主を漁師や猟師と勘違いしていたようだが、恐らく確信犯だ。とそれはされおき、サクヤ達の身分が分かると武市は、彼らの本質について聞いている。

「なるほど。それでアナタ方の目的はなんなのでしょうかね?」

「決まっているだろう。アルンを取り戻すのさ。テロリストの手から」

「こちらも襲撃を受けたが、駆けつけた騎士団と共に返り討ちにしてやった。どうやらアルンがまずいと聞いてな……それで俺達が駆けつけた次第だ」

「なんと。奴等は領地にも敵兵、いや怪人を派遣していたのか」

 三人の目的は一致してアルンの奪還だった。どうやらそれぞれの領地にもマッドネバーが迫っていたようで、アルンより来た数名の騎士と共に打ち返したらしい。そして街の危機を聞きつけて、戦力に余裕のあった三人が合流して駆けつけたのだ。

 武市や万斉はマッドネバーが他の領地に侵攻した事実に、思わず困惑してしまう。するとサクヤやユージーンに続き、アリシャも彼らに話しかけていく。

「着いてみたらバリアはが貼られていて、それで近くにいたアナタ達を見かけたの。ねぇ、鬼兵隊の皆さん」

「って、アタシ達のこと知っていたっすか!?」

「あぁ、もちろんだとも。これでも宇宙中の知識には詳しいのよ」

 なんと領主達はすでに鬼兵隊の正体を見透かしており、分かった上で来島らと話していたという。

「こやつら。隙が無いな」

「伊達に領主をなめてはいけませんね」

 狡猾なやり取りを目の当たりにして、万斉らは領主の話術力に感心していく。彼らの底知れぬ実力に警戒しつつも、トントンと話は進む。すると領主側が急に要件を畳みかけていた。

「さて、無駄な話はここで終わりとしよう。お前らに率直に聞こうか。透明な壁を潜り抜けるために、俺達と協力するか?」

「協力っすか……?」

「残念ながら防衛の関係で、私達の兵は連れてきていなくてな」

「良かったら一緒に協力しないかってこと? 戦力は多い方が良いと思うからさ」

 唐突な提案に来島らは驚き、声も出なくなってしまう。領主達は鬼兵隊の実力を見込んで、協力関係を依頼してきた。この提案は現状の鬼兵隊にとっても、都合の良い案件である。

「もしかして、このヘンテコな壁もアンタらがいれば壊せるってことっすか?」

「あぁ、そうだな。こんな仮初の防壁、五分もあれば破壊出来るな」

「アタシ達がいれば、お茶の子さいさいだよ。その代わり、一緒に世界樹まで来てもらうけどね」

 サクヤ、アリシャ共に自信たっぷりに事を返答していく。来島らの手を煩わせた透明な壁も壊せるようで、増々共闘へのメリットを感じる。代わりとして世界樹に向かわなくてはならないが、運が良ければ高杉とも途中で合流が出来るかもしれない。後はもうプライドの問題である。

 あらゆる可能性を考慮しつつ、鬼兵隊一行は悩み続けていた。

「これは時間を有する質問ですね……」

「いいや。そんなの、三秒で決まるっすよ!」

「右に同じでござる!」

「えっ?」

 と深刻そうに悩む武市とは異なり、来島と万斉はすでに答えを見出していた。共に真剣そうな表情を浮かべて、彼らに返答していく。

「早いな。どうするのだ?」

「私達は――」

「主らの要求を飲んだでござる」

「晋助様と合流できるなら、何だってやりますよ!」

 選んだ手段は、領主との共闘である。高杉といち早く合流するべく、より確率の高い方法を選択した。この判断が今後にどう響くのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

「ここだな。奴らの乗っ取った世界樹の入り口は」

 一方でこちらは、シウネー、フレイアと共に世界樹の隠し通路に着いた高杉晋助。彼は共に行動している二人とは異なり、マッドネバーの復讐のために動いている。仲間との合流も不透明な壁によって阻まれ、紆余曲折あり現在は敵の本拠地となった世界樹に狙いを付けていた。ただ彼の考えは、単身で倒すのではなく壁の除去や幽閉された仲間の救出といった、今後の鬼兵隊が有利になる策を探すために世界樹の中を探索するという。

「行くか」

 意気揚々と中に入ろうとした時、共に行動していたフレイヤとシウネーに声をかけられてしまう。

「ちょっと待ってください!」

「ん? どうした?」

「一つお伺いしたいことがあります……アナタは鬼兵隊の総督と聞いています。宇宙を駆けるテロリストが、何故この星のテロリストに片足を突っ込んでいるのですか?」

 凛とした表情でフレイアが聞いてきたのは、高杉の行動目的である。彼女にとっては有名なテロリストの頭首が、自身の仲間と行動を共にして、今なおついてきていることがにわかに信じ難いのである。世界樹へ入る前に白黒と付けたがったが、高杉はあっさりとその質問に答えていた。

「決まってんだろ。復讐のためだ。いわば私怨だな」

「復讐?」

「まぁな。騙されて資金はふんだくれるわ。仲間は鏡の世界に幽閉されるわ。踏んだり蹴ったりだ。これ以上ヤツの好きにされるのは、癪に障るんだよ」

「そうでしたね。お仲間さんも幽閉されていますよね……」

 改めて高杉や鬼兵隊の境遇を知ると、シウネーは顔をしかめて何とも言えない表情となってしまう。元々は目的が一致した上で決まった共闘。その発端となった出来事を。彼女は深く思い起こしていた。

 一方でフレイアはそんなに話を半信半疑で受け取り、さらに高杉へ探りを入れていく。

「その元を辿ると、アナタとマッドネバーには関係があったということですね」

「随分と鋭いな。そうだよ」

 この事実を確認したところで途端に表情を一変。声をやや上げつつ、彼を糾弾し始めた。

「結局アナタは、このテロリスト達と同じ考えということですか。一歩違えば、アナタもこのテロに加わっていたということですか!」

「そうかもな。だが、どう思うのかは好きにしろ。俺はあくまで利害の一致でお前らと行動しているだけだ。さぁ、行くぞ。怪人共に見つかる前にな」

 責めるフレイアを軽く受け流し、高杉は手短に話を切り上げていく。些細なことで揉めるよりは、前に進んだ方が良いと彼は動いていた。

 そんな彼の跡を渋々とついていくフレイアとシウネー。特に前者は高杉に思うことがあり、まだ共闘することに納得がいかない。

「姫様、落ち着いてください。そこまでお気になさらずに」

「でも……私は許せないのです。何の罪もない人々を巻き込んだマッドネバーが……それと関係があった者も、とても信じきれません」

 シウネーが宥めつつも、彼女は悲し気な表情で率直な気持ちを呟く。多くの民や騎士を傷つけたマッドネバーの悪事を心底憎んでおり、彼らと関係のあった高杉にも少なからず敵意を向けていた。どうすることも出来ない焦燥感から来る想いだが、シウネーも少なからずフレイアの気持ちを汲み取っている。

(油断ならない人かもしれません。でも私は、それなりに情のある人だと信じてます。だって、そうじゃなきゃ私達を追っ払っているはずですから)

 ただ彼女と違うのは、僅かながらも高杉に信頼を寄せていることだ。散々悩んだが、やっぱりただの悪人ではないのがシウネーの結論である。ただ無暗にフレイアを説得はせずに、今後の動向を見守っていく。

 こうして三人は遂に世界樹へと潜入。現在ここを占領しているマッドネバーに真っ向から挑むようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん……ここは?」

 しばらくの間気絶していたユイは、ようやく目を覚ましている。彼女がまず思い出したのは、自身がマッドネバーに捕まったことだ。

「そうだ。私捕まって……アレ? 動けない!?」

 徐々に状況を把握するが、ここで信じ難い事実に直面してしまう。なんと両手を手錠で縛られた上、縄で上半身をグルグルと巻かれていたのだ。これでは逃げ出すことさえできない。

「そんな……でも逃げないと。早く!!」

 危機的な状況に絶望しつつも、諦めずに体を動かしていく。仲間との再会を夢見て、めげずに踏ん張っている。けれども見えるのは、周囲を覆う漆黒の暗闇。現在の場所や時刻を知らないユイにとっては、何が何だか分かっていない。

 それでも無我夢中で逃亡を試みた時。彼女の微かな希望すらもへし折る、絶望的な光景を目の当たりにしてしまう。

「ん? 光――って!?」

 突然場に差し込まれた眩い光。ユイは怯んで目をくらませると、ようやく見えずにいた辺りの様子が浮かび上がっていた。

「「「ウワァァ!!」」」

「キャ!? 怪人……? こんなにたくさん!?」

 そう。彼女の周りには、あらゆる怪人の大群がはびこっていたのである。

 ライオトルーパーやバグスターウイルスといった戦闘員。クラブロードやソードロイミュードといった一般級の怪人。火焔大将やレデュエといった幹部級怪人。全てをひっくるめても、四十体は余裕で越しているであろう。

 魑魅魍魎の数々を目にしていき、ユイは恐れを感じてこわばった表情となっていた。

「そ、そんな……」

 バクバクと高まり続ける鼓動を抑えつつ、冷静になるようひたすらに念じていく。するとその時。彼女の拉致を指示した張本人が、突拍子もなく声をかけている。

「ハハハ。素晴らしいだろう。僕の復元させた怪人達は。楽しんでくれたかな?」

「オ、オベイロン……!!」

 不敵な笑みを浮かべて近づいてきたのは、マッドネバーの首領であるオベイロンだ。彼は自身の作り出した怪人軍団を褒め称えつつ、捕獲したユイを凝視していく。彼女が恐怖でおののく姿を、こっそりと嘲笑っていた。

 一方のユイは真剣そうな表情で、オベイロンをぎょっと睨みつけている。全面的に敵意を向けており、彼を見るたびに不快感を覚えていた。

「早く私を解放してください!! 一体何が目的なのですか!」

「まぁまぁ、落ち着きたまえ。いいか? これからの作戦にはお前が必要なんだよ。人間ではないエネルギー体の力が……!」

「えっ!? どうしてそのことを?」

 慎重に話を交わす中で、彼女に衝撃が走る。いつの間にかオベイロンが、自身の秘密を知っていたからだ。

 補足を加えるとユイは銀魂の世界に飛ばされた際、検索や仮想世界への干渉能力を失い、代わりに純粋なエネルギーを体内に宿していた。簡略的に言うと、人間に限りなく似た普通の少女へと変貌したのである。今までは特に気にすることは無かったが、他者が知っているならば話は別だ。ましてやその相手はオベイロン。得体の知らない恐怖が彼女を襲う。

 するとオベイロンはユイの困惑する様子を楽しみつつ、声を高ぶらせながら話を進めていく。

「ちょいと君の体内を調べさせてもらったよ。そこで僕はある仮説に気が付いたんだ」

「体内って!? それに仮説……?」

「君は確か……次元遺跡で唯一トラップに引っ掛からなかったね。それが何を意味しているか分かるか?」

「分からないです……私には」

 彼が話題に上げたのは次元遺跡での一件だった。ここでのユイは不可思議な事が起きており、開かずの扉の開放や謎のオーロラの出現と本人にも分からない力を発揮している。

 一連の現象に目を付けたオベイロンは、彼女の秘められた力に目を付けていた。連れ去って体を確認したところ、人ではないと分かり現在に至る。

「だろうな。ならば単刀直入に言おう。それは君が、あの仮面の戦士に認められたからだと僕は推測しているよ」

「仮面の戦士。あのジオウさん達のことですね……」

「名前まで知っているのか。増々信ぴょう性が上がるねぇ」

 探りを入れる中で、勝手に独自の解釈まで明かしていく。仮面の戦士こと平成仮面ライダーに認められたことは、ユイ自身も薄っすらとだが感じていた。

ここで話の焦点はユイの特異性及び、認められた要因に移っている。

「それで僕は考えたのさ。僕らと君に何の違いがあるのか? 認められた理由は何なのかね? 調べていくうちに一つの結論に至ったのさ」

「何ですか……その結論は?」

 警戒心を上げながらユイが聞き直すと、彼は息を吸って結論を大声で言い放っていた。

「それはお前がエネルギー体だからだよ!」

「えっ!? なんで……!?」

「そんなの利用しやすいからだろう! 所詮はあの戦士共も、自分を有利に動かす力が必要だったんだ。この僕の目に狂いはない。こんな欠点も少ない完璧なエネルギーは、奴らとて欲しがるだろうからな!」

 その結論はあまりにも抽象的である。要するにユイが平成仮面ライダーに認められた要因は、彼女がエネルギー体だと結論付けていた。自身にとって都合の良い存在だからこそ認めたのだと、オベイロンは勝手な解釈を過信していく。

 一見すると暴論に過ぎないが、ユイ自身もイレギュラーな存在だと自覚があり、最初は素直にも信じ込もうとしてしまう。けれどもすぐにその仮説が誤りだと確信して、勢いよく彼に強気で反論していた。

「それは違います……絶対にありえないです!」

「あん? 何だと?」

「だって私の正体を知らなくとも、ライダーさん達は私を助けてくれました! 幻影の中でしたが……あの時に私は感じたんです。仮面ライダーの本当の強さを! 仮に私がライダーから認められたとしても、別の理由があると思います! だからアナタの考えは、浅はかで大間違いですよ!」

 しっかりとした口調で、言いたいことを全て言い放つ。幻想の中で平成仮面ライダーと出会ったことのある彼女だからこそ、彼らの想いや信念は多少なりとも理解していた。それ故に自身の邪な欲のために、認めるはずがないと括っている。

 瞬く間に反論されたオベイロンは、当然考えを否定されたことにご立腹であった。徐々に怒りを表情に滲ませていき、大人げなく彼女に喚き散らかしていく。

「黙れ……黙れ! 僕に逆らおうな! 人間もどきが!! そんなのはただの思い過ごしに過ぎない! 優秀な僕の考えが間違うはずがないだろう!! 分かってんのか!?」

「分かりませんよ!! どこまで傲慢なんですか……!」

 罵倒しながら怒りに狂うも、ユイは動揺することなくそれらを受け流す。傷つく言葉を言われようとも、精神力で如何にか耐えきっていた。

 一方のオベイロンは、一旦は気を収めていき何食わぬ顔で話を再開させている。

「まぁ、いい。どんな理由だろうと、今の僕には関係ないさ。いずれはそのライダーの力も、僕が独り占めするんだからな!」

 そう言うと彼は、ユイにとある物体を見せつけていた。それはなんと――フィリアから託されたはずの結晶である。

「結晶!? なんでアナタが!?」

「お前を連れて行くついでにかっさらったのさ。落としてくれてありがとうよ」

「そんな……」

 どうやらダークライダー達に連れ去られる直前、戦闘員の一体が落ちているのを見つけたらしく、不運にもマッドネバーの元に舞い込んだという。

 この結晶は次元遺跡にてフィリアが見つけた鉱石であり、ユイがマッドネバーを外部に追い払う際にも使用した重要なアイテムだ。未知の物体だが、少なくとも平成仮面ライダーと何かしらの関わりがあることは間違いない。すなわち切り札とも言うべき代物を、不運にも奪取されたのである。

 これでは増々不利な状況をひっくり返すことが出来ず、ユイも事態を深刻視してしまう。

「これで未完成の兵器も完成するな……さて君には、相応しい舞台を用意してあげよう。それまでは牢屋へ入っておけ! おいお前ら、連れてけ!」

「ハハー!」

 そしてオベイロンは近くにいた怪人、スラッグオルフェノクとフライングスマッシュにユイを投獄するように指示。相応しい舞台が整うまで、牢屋に幽閉させるという。ちなみに縄はほどかれたものの、手錠はしっかりと付けられたままである。

「おい、歩け!」

「もたもたするな!」

 無抵抗なことを良いことに、二体の怪人はユイを乱暴に指示していた。

 もはや彼女にとっては絶体絶命の状況。誰一人として頼れる人もいない窮地でも……決して絶望に浸らず、一筋の希望を信じ続けている。

(私は諦めません……! パパやママ、銀時さんに新八さん、神楽さん達が絶対に助けに来てくれるはずです!)

 万事屋一行や真選組、シリカら女子達に桂一派と、思いつく限りの仲間を次々と頭に浮かべていた。頼りになる仲間が助けに来ることを信じ、どんな困難にも立ち向かう所存である。そう易々と折れることは無い。

 こうしてユイの辛く長い戦いが幕を開けたのである……。

 

 

 

 その一方でオベイロンの元には、ユイの拉致に貢献したダークライダーの変身者がゾロゾロと近づいている。

「ったく、仮にも女児なのにお前は容赦ないな」

「女児ではない。ただのエネルギーだ、あやつは」

「はいはい。分かってますよーだ」

 ユイの兵器利用に熱中する彼に対して、野卦らは興味のない反応を示していた。文字通り彼女がどうなろうとも、そこまで興味はないらしい。あくまでもクーデターに付き合っているだけである。

 オベイロンはそんな塩対応を気にせず、彼らにとある質問を投げかけていく。

「ところでどうだ、街の様子は? もうほとんど人がいないだろ」

「それがな」

「何だ? 歯切れが悪いな」

「ちょっとな……」

 制圧したアルンの様子を聞いたものの、思った通りの返答が得られなかった。じれったさに苛立ち問い直すと、とある事実を知ることになる。

「はぁ!? 万事屋が来ているだと!?」

「そう。しかもあの時と同じメンバーで」

「あっ、でも一部だけ増えていたか」

「何故だ! 地球からALO星まで距離が離れているはず! こんな短時間に来るのは、アルヴヘイムメモリを使わないと不可能だ!」

 想定外だった万事屋一行の潜入が、どうやら現実に起きているらしい。この情報は寝耳に水にだったらしく、オベイロンも人が変わったように発狂していた。

考えられる可能性を声に上げると、亜由伽達はそれが原因だとツッコミを入れる。

「そのアルヴヘイムメモリを奴らが持っていたのではないか?」

「欠けているメモリがあったんじゃないの?」

「あぁ? 確か欠けていたメモリはA……まさかあの騎士団の娘の仕業だな!」

 すぐに考え直すと、ようやく彼は納得していた。行方不明のメモリはまだ三本ほどあり、そのうちの一つはアルヴヘイムメモリ。もはや決定打である。さらには万事屋が所持していた理由には、騎士団の一人であるユウキが関わっていると予測した。彼にしてはやけに鋭い考察である。

 計画が僅かでも狂い始めたことにかんしゃくを起こすオベイロンに対して、横にいた唖海や宇緒達が呆れながらも説得していく。

「落ち着け。誰が来ようと鏡の世界に閉じ込めりゃいいだろ」

「それにもう手なら打っているわよ。私達と同じダークライダーの資格がある者がね」

「おぉ、そうか! それなら頼もしいな。流石は僕の技術力で作ったベルトだ! ハハ」

 その最中で対策案を話に上げると、彼は人が変わったように冷静さを取り戻した。つくづく単純な男だと四人は理解していく。こういう行動を起こす度、彼と組んだことに後悔を感じるようになった。

「あーあ。めんどくさ」

「何故俺達の手を煩わせる……」

 契約切れが近づいているとはいえ、我慢にも限度がある。一行は怪訝な表情で、オベイロンを睨みつけていた。

「あの野郎め……」

「まぁまぁ、落ち着きなって。今は新しいダークライダーの資格者が、対処するはずだから。それまでは休みなって」

 一方で宇緒は気楽にも、皆の気持ちを落ち着かせている。面倒ごとを他の仲間に押し込んだため、オベイロンの言動は特に気にしていなかった。

 こうして万事屋一行の動向が、早くもマッドネバー側に発覚してしまう。その魔の手はすでに迫っているのか?

 

 

 

 

 

 

 

「振り切れたか?」

「どうにかな。しばらくは追ってこないだろう」

 一方こちらは、マッドネバーの怪人軍団から逃げていた銀時、キリト、桂、エリザベス、シリカ、ピナ、シノン、リズベットの一行。彼らはアルンの北東エリアに来ており、そこでとある騎士と遭遇。彼のおかげで危機的な状況を回避することが出来ていた。

 皆がぜぇぜぇと息を整える中で、一行はようやくあの騎士と再会している。

「良かった。無事だったみたいだな」

「た、助けていただきありがとうございました!」

「ところでアナタは誰なの?」

 ひとまずは感謝を伝えたところで、シリカとリズベットは助けてくれた騎士に名前を聞いていた。

「俺か? 俺の名はシグルド。騎士団に所属する騎士の一人だな」

 彼はすぐに返答して名前を明かす。騎士の名はシグルドであり、その風貌はかつてキリトやリーファが出会ったことのある、シルフ族のシグルドと瓜二つだった。

 おおよそ三十代くらいの風格で、体格はやや大柄かつ長身。とんがった耳に防具や剣を装備しており、傍から見ると生真面目な騎士にも見えなくはない。

 やはり名前が同じことに気付くと、キリトは何とも言えない表情となってしまう。ちなみにシグルドのことを知っているのは、このメンバーの中で彼のみである。

「シグルド……やっぱり名前は同じか」

「どうした、キリト?」

「いや、何でもない」

 銀時からは心配されたが、彼は何事もなく言葉を返していた。

 一方で桂は貴重な情報源だと悟り、シグルドに詳しくアルンで起こった出来事を聞くことにしている。

「うむ。ところでシグルド殿、少しばかり聞きたいことがあるのだが」

「この惨状についてだな。良いだろう。でもその前に、一旦は身を隠さなくては。ちょうど横に宿屋がある。そこへ入ろうではないか」

 と本題に入ろうとした時、彼は全員を目の前にあった宿屋に誘導した。外ではいずれ怪人達に見つかる危険性があり、少しでも身を隠せる場所が必要だと促す。

 皆もシグルドの提案に納得すると、急に銀時は突拍子もないことを言い放ってきた。

「おいおい、宿屋って言ってもHな方じゃないよな?」

「って、何いきなり無粋なこと言ってんのよ!」

「ボケだとしても、普通に引くんだけど……」

「引くんじゃねぇよ。どんだけ拒絶を起こしてんだよ」

 宿屋と聞いて性的な場所を呟いたものの、周りの反応はすこぶる悪い。特にシノンら女子達は、細い目つきとなり銀時を思いっきり蔑んでいた。

「と、とりあえず入ろうか、普通の宿屋みたいだし」

[後で俺が銀時にこっぴどく言っておくからな]

「いや、お前がフォローに入るのかよ!?」

 悪くなった空気をキリトとエリザベスが中和していき、一行はゾロゾロと宿屋の中に入っていく。無論ここも荒らされた形跡があり、物品は無造作に床へ転がり、壁にはぶつけられた跡がいたるところに付けられていた。

 こうして銀時やキリト達は、シグルドからクーデターについて聞くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

「こっちだよ、この店なら、しばらく奴等も来ないはずだよ」

「そうアルか?」

 そしてこちらは、アルンの南西エリアに来ていた神楽、アスナ、新八、リーファ、クライン、近藤、土方、沖田、ユウキ(ウサギ)の一行。彼らは偶然にもフィリアと再会しており、彼女の案内の元とある飲食店に案内されていた。無論ここもマッドネバーの襲撃を受けており、当然ながら店内には誰一人としていない。それでも身を隠すには十分な場所だ。

「ここが俺達の隠れ家になるのか」

「分かっていたが、だいぶ荒らされてんな」

 店内に入るや否や、土方と沖田はその荒れ具合から襲撃時の状況を予測する。コップや皿はおびただしいくらい散乱しており、テーブルは真っ二つに割れているモノもあった。無人であることから、店内にいた者は全て鏡の世界に閉じ込められたとみて間違いないだろう。

 一方のアスナは、土方らとは異なり別の気持ちに浸っていた。

「そっか。この店はここだとアルンにあるんだね……」

 そう。実はこの飲食店、元の世界にも実在しているのである。原典のALOにて、アスナがユウキやスリーピングナイツと交流を図った思い出深い場所だ。外装どころか内装もほぼ同じのため、深々と一人感傷に浸っている。

 そんな何気なく呟いた彼女の一言に対して、神楽は誤った捉え方をしていた。

「どうしたネ、アッスー? ギャグアルか?」

「ギャグ? あっ……えっと! そんなつもりで言ったわけじゃないのよ! ただのまぐれであって!」

 てっきりギャグを言ったと思い、それを聞いたアスナはようやく意味を察する。しんみりとした気持ちも吹き飛び、恥ずかしい表情で今はただひたすらに神楽の説得に応じていた。

「アルンにあるん。あぁ、なるほど」

 密かに聞いていたユウキも、つられて意味を理解する。

 それから数分の時間が経ち、一行は無傷だった丸いテーブルに集結した。近くにあった椅子に座り、周りを囲んだところでようやく会話が始まっていく。

「改めて久しぶり、みんな。元気だった?」

「うん、そうだね。フィリアさんも元気そうで安心したよ」

「そう? こんな状況だけど、昨日までは何事もなかったからさ」

 ひとまずフィリアは、リーファら友人との再会を改めて喜んでいた。危機的な状況だが、それでも頼れる仲間と出会えたことは嬉しい。

 互いに元気そうで安心したが――クラインはある事が引っ掛かり、横に座っていた神楽に質問した。どうやらフィリアの名前を思い出せないらしい。一応面識はあるのだが。

「なぁ、神楽ちゃん。あの子って誰だっけ?」

「フィリアアルよ。クラは会ってなかったアルか?」

「いや見たことはあるんだが……名前はちょっと」

「あぁ。あん時にヅラと――」

「神楽ちゃん!?」

「あっ、しまったネ」

 神楽が全てを話そうとした時、新八に大声で止められてしまう。ちょうどすれ違いで桂やエリザベスも出来事に入っており、彼女はうっかり真選組に明かすところだった。ただでさえ彼らが疑いを強めている分、これは明らかに致命的である。クライン自身も血の気が引いたような表情に変わっていた。

 そんな肝心の真選組サイドでは、

「あいつらは何を騒いでいるんだ?」

「クラインがフィリアと会ってないから紹介してんだろ」

「そうでしたかい?」

あまり気にしていない。てっきりフィリアのことを、彼に教えているものだと把握している。危機一髪とはまさにこのことだろう。

(分かれ目となった話題は、第七十三訓の終盤をご覧ください)

 とそれはさておき今度はフィリアが、アスナらがこの星にいる理由について聞き返す。

「ところで、なんでみんながアルンにいるの?」

「それがね……」

 興味深そうに聞くと、アスナを初め一行の表情が複雑そうに変わる。そして一行は、ユイがマッドネバーに連れ去られたことを打ち明かした。

「えっ!? ユイちゃんがマッドネバーにさらわれたの!?」

「そうなんですよ。だからこのメモリの力を使って、ALO星までやって来たんです」

「そうだったんだ……」

 やはりというか、フィリアは聞いた途端に驚嘆とした表情を浮かべている。同時にユイを連れ去られた新八達のやるせない気持ちも、密かに汲み取っていた。

 すると彼女は、メモリという言葉に感心を寄せている。

「それでメモリって一体何なの? もしかして、オーパーツ的な何か?」

「いいや。このウサギが持っていた代物アルよ! もしやフィリアのペットアルか?」

「いやいや、違うよ! でもどこか既視感が……」

 ガイアメモリの出所を聞くと、神楽はウサギ(ユウキ)を持ち上げて、彼女の所持品だと伝えていた。もちろんフィリアとは無関係だが、彼女はウサギの雰囲気から妙な違和感を悟っていく。

(あっ、この子! よくアルンで見かける子だ。アッスーさん達の友達だったのか……)

 一方のユウキも、実はフィリアの顔だけは把握していた。知り合いではないが、アルンでよく見かける顔なじみの印象である。

 断片的だがアスナ側の事情をフィリアが理解したところで、今度は彼女にこの星で起きたクーデターについて聞いていく。

「それじゃ話してもらえますか? この街に一体何があったのか」

「もちろん。それは突然の出来事だったの……」

 新八から改めて聞かれると、フィリアは神妙な表情で事を振り返っていた。

「異変が起きたのは正午に差し掛かった頃だった。突然謎の男の声が街中に響き渡ったと思いきや、無数の怪人達が現れて次々に襲ってきたんだよ」

「謎の男……次元遺跡にいたオベイロンのことね」

「多分そうだと思う。マッドネバーの仕業にしか考えられないよ、こんな事態」

 クーデターが発生したのはほんの数時間前であり、それまでは誰もが普段通りの日常を過ごしていたという。故にあっという間に街は制圧されたようだが。アスナの指摘の通り、フィリアはこのクーデターの原因をマッドネバーだと括っていた。引き続き話は続く。

「怪人はさっきの奴等と同じだな」

「どれくらい怪人っていたの?」

 沖田が呟くと同時に、リーファが質問する。

「ざっとだけど、百人は越えていると思う」

「そ、そんなにか!?」

「雑魚も含めりゃそれくらいいるだろ」

 その問いを聞き近藤は驚いたが、対照的に土方は納得していた。一つの街を制圧した組織ならば、これだけいて可笑しくはないと思っている。

 さらにフィリアは、有益な情報を仲間達に話していく。

「私は上手く逃げることが出来たけど、恐らくほとんどの人達はもう幽閉されていると思うんだ……」

「あの鏡の世界にですかい?」

「正確にはミラーワールドっていう名前らしいの。怪人達の会話を盗聴して、知ったけど」

「ミラーワールド……随分と安直な名前アル」

 逃げ惑う中で怪人同士の会話を盗聴したらしく、そこで多数の情報を得たという。神楽は分かりやすい名称にツッコミを入れていたが。さらに話は続く。

「そのミラーワールドには秘密があって、とある二つの装置で妖精達の魔力を吸い尽くしているみたいなの」

「魔力だ? 何の目的で?」

「恐らくだけど力を事前に奪っておけば、逆らうことも出来ないから、あえて閉じ込めているんじゃないかな」

 土方が聞き直して、フィリアは再度答えていた。彼女の推測によると、マッドネバーは装置を介して住人達を無力化しようと企てているという。これが本当ならば、本気でALO星を乗っ取るつもりなのだろうか。

「なんて野郎だよ……」

「聞けば聞くほど邪悪さが際立っているわね……!」

「じゃあの二人も、魔力が奪われたから苦しんでいたのね……」

 あまりにも非人道的な行為に、新八、リーファ、アスナと仲間達は皆怒りを覚えていく。こんな血も涙もない奴等にユイをさらわれたと思うと、悔しくて仕方がないのである。つい先ほど見かけた妖精の男女も、今頃は魔力が吸われていき恐怖心と絶望感でもがき苦しんでいるに違いないだろう。

 全員の気持ちにやるせなさが生まれたところで、フィリアはさらに有益な情報を彼らに伝えている。

「でも奴らの作戦はこれで終わりじゃないと思う」

「えっ? まだアルあるか?」

 どうやらマッドネバーのクーデターは、これだけに留まらないというのだ。

「うん。これも盗み聞きした情報だけど、特殊な装置が三つあって、一つ目は鏡の世界に幽閉させるための装置。二つ目が幽閉された人の生気や魔力を奪い去る装置。そしてもう一つが、この二つの効果を星中に張り巡らさせる装置みたい。最後のだけは未完成らしいけど」

「この装置がもし完成してしまうと……」

「多分この星はマッドネバーのものになるね。魔力は全てオベイロンに集中して、奴が好き放題に支配する世界。いわばディストピアの完成よ」

 この情報が一行にとっては一番衝撃的で、皆驚嘆とした表情になっている。装置は総じて三つもあり、最後の一種が未完成らしい。これがもし起動するならば、この地獄のような光景が他の領地や街にも広がり、最終的には星中に波及するという。そうなればオベイロン及びマッドネバーに逆らう妖精はいなくなり、全てが彼の手中に収まってしまうのだ。

 もはや事態は一刻を争う状況。皆もこれには思い思いに反発していく。

「そ、そんな……」

「あんにゃろ、なんてことを考えてんだ!!」

「まさに吐き気を催す邪悪じゃないか!!」

 リーファは衝撃から声が滞り、一方でクラインや近藤はマッドネバーの身勝手さに激高している。例え別の星の出来事でも、強い正義感から悪行三昧は許せないのだ。

 その一方、土方と沖田の二人は冷静に現状を分析していく。

「だいぶ悪い状況だな……」

「打ち倒そうにも数が足りないですねぇ。せめてミラーワールドに閉じ込められている騎士がいれば良いが」

 深刻な状況を打開するには数の差が必要だと悟るが、残念ながらアルンにいた騎士もミラーワールドに皆幽閉されている。(ちなみに彼らは知らないが、他の領地から呼び込もうとも、謎のバリアが事前に貼られているので、救援を呼ぼうとも不可能だ)

 そんな中で、新八はある仮説が頭の中で過ぎっていた。

「でも待ってください。まさかユイちゃんを連れ去ったのって……その装置に組み込ませるためじゃないですか?」

「おい、何を言い出すアルか! そんなこと……」

「あくまで可能性の話ですよ。でも奴等があそこまでユイちゃんに執着するのって、よっぽどの理由があると思いますけど」

「もしそうだったら……私が百倍返しにして叩きのめしてあげるわ!」

 自分なりの考えを発すると、アスナは強い怒りを滲ませている。

 彼らにとってはユイを連れ去った理由が分からず、今回の話を聞くならば装置と何かしらの関わりがある事も否定できない。

 いずれにしろ、最後の装置を起動させないこと。起動している二つの装置を破壊すること。ユイを連れ戻すこと。以上の三つがアスナ側及びフィリアにとって、今取り組むべき目標だと一行は認識していく。

「なんて奴等なんだ……ここは僕が絶対に食い止めないと! 早く街中の人達を開放させなきゃ……!」

 話を聞いていき、ユウキも決意を強く固めていた。当然ながら後悔も感じていたが、それよりも前を向くことが大事だと彼女は捉えている。

 こうして皆の方向性が定まりつつある中で、フィリアは再度一行に問いかけていた。

「これで私から話せることは以上だね。みんな……一応聞くけど、これからどうする?」

「そんなの、決まっているでしょ……」

 フィリアからの問いに、アスナが声を震わせながら答えていく。すると皆が一斉に立ち上がり、各々の今の気持ちを示していた。

「私達は戦うわ、マッドネバーと!」

「こんな卑怯極まりない連中に、負ける気はしないネ!」

「何としてでもこの街の人々を……ユイちゃんを助けますよ!」

「流石……それでこそ、みんなだよ!」

 アスナ、神楽、新八の強気な一言に続いて、近藤やリーファ、ウサギになったユウキも賛同するように頷く。期待通りの返答が聞けて、フィリアもつい一安心していた。全員の答えに迷いはなく、皆が反マッドネバーとして気持ちを一致させている。ユイや街の平和を取り戻すためにも、望んでこの戦いに赴くようだ。

「このまま放っておくわけにもいかないでしょ!」

「そうだぜ! ここで諦めたら、侍が廃るってな!」

 リーファやクラインも元気よく声を上げると、続けて真選組一行も続いている。

「クライン君と同じだ! 今こそ俺達の武士道を見せてやろうじゃねぇか!」

「暑苦しいのはさておき、ここまで来たらやってやるよ」

「断ると馬鹿力女とデカ乳女にどやされそうなんで、俺もついてきやすよ」

 さり気なく沖田も発したが、完全に仲間を小馬鹿にした一言だった。無論それを聞いた女子達は、我先に彼へ反発している。

「おい、ちょっと待つアル! 確実に私の悪口言ったアルナ!!」

「ていうか、デカ乳女って私のこと!? どこまでセクハラしてくるのよ!!」

 神楽やリーファは自分が該当していると思い込み、不機嫌そうな表情で沖田に詰め寄っていく。二人は特に沖田を毛嫌いしており、何気ない一言でさえ許せないのである。

 そんな女子達の怒りに臆することなく、沖田本人は飄々とした態度でさらに煽っていく。

「ふーん。お前らもそういう自覚あるんですねぇ。フフ……」

「「黙れ!!」」

 小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、二人の抱えていた怒りは大爆発。決戦前にも関わらず、怒りを発散させるための乱闘が勃発してしまう。もはや彼らにとっての日常だが……

「ちょっと、ちょっと! 三人共、落ち着いてくださいよ!!」

 あまりの緊張感の無さが見るに絶えず、新八は咄嗟に沖田らを落ち着かせようとした。バチバチとした雰囲気を中和しつつ、説得を続けていく。

「あちゃー。これは長く続きそうだな」

「総悟の軽口も災いの元だな」

 一連の様子を見ていたクラインや土方も、事態の長期化を予見している。無暗に止めるよりは、発散させた方が良いと彼らは考えていた。

「うーん……真選組はやっぱり曲者ぞろいみたいだね。この先大丈夫かな……?」

 一方のユウキは、真選組一行の掴みどころのない性格を不安視している。今後もし作戦として敵の本拠地に行くならば、統率力の高さがカギとなるはずだ。だからこそ、些細な喧嘩は避けたいところだが……今の状況では何とも言えない。

 そんな中で彼女は、アスナの動向に注目を寄せていく。

「ん? アスナさん、どうしたんだろ?」

 ふと目に入ったのは、アスナとフィリアが会話する様子だ。それをじっと聞いてみると、

「ねぇ、フィリアちゃん。ちょっと外の空気を吸いたいんだけど、大丈夫?」

「うん、いいよ。この近くには怪人も来ないと思うし」

「ありがとうね」

なんとただの外出許可である。アスナ曰く気持ちの整理がしたいらしく、フィリア以外の誰にも言わず、単身一人で外に出て行ってしまった。

「アッスーさん? 急にどうしたの?」

 アスナの動向が気になり、ユウキもつられて彼女の跡を追いかけていく。さらに神楽も彼女の無断外出に気付いていた。

「あぁ、どこに行くネ! アッスー!」

「えっ、神楽ちゃんも行くの!?」

 反射的に神楽も追いかけていき、結果二人と一匹が店から出て行っている。これには仲間達も唖然としてしまう。

「行っちゃった……」

「どうしたんだろう、二人共?」

「多分だけど、気持ちの整理がしたいんじゃないのかな?」

 リーファ、新八と何故急に出ていったのか、分からずじまいである。フィリアが補足も加えるも、やはり納得していない様子だ。クラインも続けて思ったことを発していく。

「アレはユイちゃんのことについて整理したいのか? なぁ、土方さんはどう見てる……」

 と横にいた土方にも意見を聞こうとした時である。

「って、えっ!?」

 彼は深刻そうな表情で、ある事について考えを煮詰めていた。声をかけても反応がないことから、よっぽど重要な件について考えていると思われる。

(ど、どういうことだ? とうとう俺の正体がバレたのか……?)

 てっきり自分の正体が攘夷志士だとバレたのかと思われたが、土方は別の件で気がかりなことがあるという。つまりはクラインの思い過ごしなのだが。

(何だこの妙な違和感は? なんであの女があそこまで情報を把握してんだ? それに近くに怪人がいないことも分かるのか? おかしい気がする……)

 土方はどうやらフィリアに対して、ただならぬ怪しさを覚え始めている。無論彼女がトレジャーハンター故に情報収集が上手いことは把握しているが、それでも今回の件は詳しすぎると感じていた。ただの考え過ぎかもしれないが、今なお違和感があるのは事実である。

「ありゃりゃ。土方さんも気付いたみたいですねぇ」

 土方の思い悩む様子を目にして、沖田も密かに頷いていた。どうやら彼も土方と同じく、とある違和感に苛まれているという。

 こうしてマッドネバーの野望を食い止めるために、一行は徐々に気持ちを合わせていくが――早々に不穏な空気が漂い始めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、宿屋に逃げ込んでいた銀時、キリトら一行。彼らは南西エリアにいるアスナ達と同様に、シグルドからアルンの現状について聞かされていた。

「というわけなんだ」

「そんなことがあったのか……」

 会話が終了して一行は、その悲惨な現状に深く驚かされている。会話の内容はフィリア側と大して変わらず、アルンの襲撃やミラーワールドの存在。二つの装置の有無に、オベイロンがALO星そのものを手中に収めようとしていること。世界樹もクーデターにより乗っ取られたことなど、まんべんなく自身が得た情報を一行に伝えていた。

 当然この話を聞いて、場にいた全員がマッドネバー及びオベイロンの自分勝手さに怒りを燃やしていく。

「改めて聞くと、本当にひっどい男ね!」

「そうですよ! 一発ぶん殴りたいところです!」

「ナナ!!」

 リズベットやシリカ、ピナは揃って怪訝な表情となり、怒りを声に出している。乱暴な言葉を使うほど、マッドネバーにはただならぬ怒りがあるようだ。

 二人ほどではないが、他の仲間達も現状に憤っているのは事実である。

「話を聞く限りは、その装置が奴らのテロに貢献したということだな」

「そうだな。だけど裏を返せば、装置さえ壊せば囚われた人達も元に戻れると思う」

 冷静にも桂が声を上げると、それにキリトが返していた。クーデターで大いに役に立った装置だからこそ、一つでも欠ければマッドネバーの作戦は没落すると考えている。

「じゃ、今マッドネバーに占拠されてる世界樹に行けば良いんじゃない? ユイも取り返せるかもしれないし」

 シノンが思い付きで呟くと、続けてシグルドも静かに声を上げていた。

「その通りだ。ここで俺からもお願いがある。どうか一緒に手を組んでほしい。アルンをあのような奴等の手に渡したくないのだ……」

 彼は律儀にも礼儀正しく、銀時やキリト達に協力を申し出ている。別世界のシグルドを知っているキリトにとっては、違和感のある行動であろう。

 密かに伝わっていた彼の熱意を感じつつ、ここで銀時がとある問いを投げかけていた。

「シグルドって言ったか? お前よぉ、そんなにこの街や人が好きなのか?」

「あぁ、好きだとも! かつての俺は荒れていたが、この街によって色々と救われたんだ。だからこそ、守りたかったものもある。それを取り戻すためにも……どうか力を貸してくれぬか?」

 シグルドは自身の体験を踏まえつつ、アルンを救いたい想いを訴え続けていく。彼曰くこの街には思い入れがあり、何としてでもその平和を取り戻したいという。一貫しているのは彼がクーデターを許せない正義感と、街を大切に思う情の深さであろうか。

 これを聞いた一行は、半信半疑であったシグルドに少なからずの好意を向け始めていた。

「もちろんだとも。我々とて、取り戻したい仲間がいるのだからな」

[快く引き受けようぞ]

 桂とエリザベスは迷いなく、彼の協力を快く引き受けている。桂を含めて一行もユイを救いたい気持ちで一致しており、多少なりともシグルドの想いは理解していた。

「アタシ達がいれば、百人引きなんだから!」

「そうですよ! それにアスナさんや神楽さん達も加われば、きっとその装置だって破壊することが出来ますよ!」

「だから、協力するわよ。ねぇ、キリトも同じよね?」

 リズベット、シリカ、シノンと女子達も次々に賛同していく。はぐれている仲間と再会すれば、どんな困難にも乗り越えられると強気に括っていた。

 彼らなりに希望が見え始めていたが――キリトだけはどこか乗り気ではない。シノンに聞かれても、曖昧に返答する始末である。

「あぁ、そうだな……」

「えっ? どうしたの?」

「何か歯切れが悪いわね」

「納得いかないことでもあるんですか?」

 言葉を濁す様子から、ついキリトの本音を気にしてしまう女子達。隠し事をしているようで、気持ちの面でも納得していなかった。

「いや、特には……」

「何か怪しいわね……」

「そうですよ。思っていることは言った方が良いですよ!」

「はっきり言わないなんて、キリトにしては珍しいわね……何を隠しているのかしら?」

 シノンらは友達だからこそ、キリトの本音に寄り添いたかったが、若干強気に接してしまい増々言いづらい空気を作り出している。しかも事はシグルドに関することであり、流石に本人の前で言うのも気が引けてしまう。

 気持ちが高揚している女子達を、ひたすらに宥めるキリトだったが……ここで銀時は彼の本音を悟って、さり気なく手助けに加わっていく。

「おいおい、キリトさんよ。もしかしてホームシックになったんじゃねぇんか?」

「ちょ、銀さん!?」

「「ホームシック?」」

 なんとキリトの悩んでいた様子を、勝手にホームシックと決めつけていた。これには本人はおろか、仲間達でさえ困惑めいた反応を見せている。場の雰囲気が一瞬で変わった途端、銀時は強引にもホームシックで押し切ろうとしていた。

「要は恋人と子供が恋しくなったってことだ。そういう時な、外の風を浴びるのが一番だ。おい、キリト。とっとと行くぞ」

「ぎ、銀さん!? 勝手に決めるなって!?」

 そう言うと彼はキリトの手を無理矢理手に取り、

「シグルド。屋上ってあるか? あるなら使っとくぞ」

「あぁ。別に構わないが……」

「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」

勢いのままに屋上へと連れ去ってしまう。要は二人で話せる時間ならば、キリトも気兼ねなく話せると思い、この行動に移ったようだ。

「キリト殿は何か考え込んでいるのか? お前達は何か知って……えっ?」

 突拍子もない銀時の行動や、キリトのウジウジした様子が気になる桂は、一度女子達の方に目線を向けている。すると見えたのは――嫉妬の炎を燃やす、負けず嫌いなヒロイン達の末路であった。

「キリトさんの悩みならアタシが聞いてあげるのに……!」

「なんで寄りにもよって銀さんなの……!!」

「私達の方が付き合い長いのよ! それをあんなぽっと出のボンクラ男に……!!」

「「「ぬぬー!!」」」

 シリカ、リズベット、シノンと三人は鬼のような形相を浮かべて、キリトを強引に連れて行った銀時に、ただならぬ妬みを感じていく。彼女ら曰く折角の話せる好機が失われて、憤りを感じているのだ。

「ワフ……」

「ナ……」

 あまりにも覇気の強い彼女らを目にしていき、定春やピナも気が引けてしまう。特に後者は自身の主が嫉妬に狂う姿は見ていられず、つい目線を逸らしている。

「こ、こわ」

[女豹のような女達だ……]

 桂やエリザベスも一連の様子から、彼女達を末恐ろしく感じてしまう。どちらとも微妙な表情となっていた。(後者はまったく変わっていないが……)

 そんな女子達の様子を見て、シグルドも空気を察していく。

「やれやれ。少し時間がかかりそうだな。俺は席を外しておくよ。街の様子を確認してくる」

「あぁ、分かった」

 自分は街の見張りに行くようで、皆が落ち着いてから今後の方針を決めるようだ。そろりと彼が外に出たところで、女子達の暴走はさらに加速していく。

「みんな、盗み聞きするわよ!」

「OKです!」

「突入じゃぁぁ!!」

 誰一人として思いとどまることは無く、全員が盗聴へと賛同していた。必死こいた表情のまま、彼女達は階段を勢いよく駆けあがっていく。

「まるでボケキャラだな……」

[アンタが言うな]

 その勢いやノリに桂はボケキャラと評していたが、エリザベスからは当然ツッコミを入れられている。これが俗にいう、人の振り見て我が振り直せだろう。

 こうして銀時側も大いに状況が動いていた。果たしてキリトの抱えていた違和感とは?

 

 絶え間なく変わり続ける現状。多くの人間や妖精がこのクーデターに巻き込まれ、その果てに何を見るのだろうか?




オベイロンに従えていた怪人達
ゴ・ベミウ・ビ
クラブロード〈クルスタータ・パレオ〉
ソロスパイダー
レイドラグーン
タイガーオルフェノク
スラッグオルフェノク
ライオトルーパー
カプリコーンアンデッド
火焔大将
魔化魍忍群
コキリアワーム
ワーム〈サナギ体〉
ホエールイマジン
レオソルジャー
ウォートホッグファンガイア
イエスタデイ・ドーパント
エイサイヤミー
屑ヤミー
アルター・ゾディアーツ
ダスタード
シルフィ
ノーム
グール
レデュエ
シンムグルン
ソードロイミュード
ガンマイザー・リキッド
斧眼魔
アランブラバグスター
バグスターウイルス
フライングスマッシュ
カッシーン




 さぁさぁ、事態はまだまだ続きます! 今回も色々とこだわりを詰め込んだ回でした。
 領主組も今回から参戦! 鬼兵隊の服装の色と合わせると、どこか戦隊っぽい……?
 ユイを取り囲む有象無象の怪人達は、ディケイドやオールライダー系の映画を彷彿とさせますね。それはそうと、ユイのエネルギー体設定を覚えている方はいましたか? 一訓の後半にて源外の口から明かされましたが、それ以来あんまり表には出てきていなかったです。(出すタイミングが無かったので) 純粋無垢なユイを利用しようとするオベイロンは……許せませんな!
 さらに今回明らかになったのは、マッドネバーの作り出したとある装置。これらによって、クーデターを成功させたみたいですね……。
 事態はシリアス一色となりましたが、ネタやボケを忘れないのが銀魂流。銀時とキリトの話にやきもきする女子達は、ある意味で健気だと思います(笑)

 それとこれも余談なのですが、勘の良い方はお気づきでしょうが、次元遺跡篇及び妖国動乱篇は平成仮面ライダーのサブタイトルをモデルにしています。つまり本当は両長編合わせて二十訓になる予定だったんですが、書いていくうちに内容が増えていき、一部の話はサブタイトル繋がりを二訓分使ったこともあります。要するに何が言いたいかと言うと、今回の話も予定していた内容が収まりそうにないので、もう一訓サブタイトルに使います! オーズの新作が出たので、大目に見てください……(無理矢理ですが)

 それではまた次回!







次回! 剣魂 妖国動乱篇!

アスナ「神楽ちゃんにまで話してなかったことがあるの」

神楽「きっとどこかで生まれ変わっているアルよ!」

キリト「オベイロンは絶対に倒す……何としてもな」

銀時「そう抱え込むな。俺も同じだ」

新八「ちょっと気になったことがあるんですよ」

ユイ「アナタは……高杉さん?」

妖国動乱篇六 疑惑と転生と平成の結晶


ディアベル?「映画プログレッシブも見てくれよな! 劇場にスイッチオン!!」
キバオウ?「テン・ゴ~~~~カイジャーも忘れずに! 派手に行こうぜ!!」

銀時「おい、てめぇら。ナレーション同じだからって、ここぞとばかりに宣伝するんじゃねぇよ――もっとキラメこうぜ!!」
ミト?「はい! お父様のように眩しくいきましょう!!」
新八「お前もやってんだろうが!! ていうか、アンタも出てこなくていいから!! マブシーナになってるから!!」

※出したかっただけです。


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第八十訓 疑惑と告白と反撃の狼煙

 ゼンカイの感想にて、オーズの新作の反響の多さに改めて驚かされました! 人気がやっぱり凄い!!

 あとこれは余談なのですが、妖国動乱篇の初期案ではALO星に平成仮面ライダーの伝承が伝わっている設定にしていました。しかし妖精と平成仮面ライダーの相性がミスマッチと考え、急遽次元遺跡というまったく別の案に方向転換したのです。ちなみにこの初期案の構成案は――悪名高いとされるあの作品です。

〇モンライド! 約束の地へ駆け抜けろ~~

採用しなくて良かったー。

※諸事情により、タイトルを一部変更しました。

※アリシャの誤植が見つかったので、変更致しました。第七十九訓も同じです。


 これまでの剣魂妖国動乱篇は、

 マッドネバーに連れ去られたユイを取り戻すべく。ALO星に乗り込んだ銀時、キリトら一行。街の惨状に呆然とする中で、友人であるフィリアや新たな仲間のシグルドと遭遇。
 一方のユイは、全ての元凶であるオベイロンと邂逅。彼の自分勝手な意見に反論するが、非常にも投獄されてしまう。
 混沌とした状況下で、鬼兵隊も密かに動き始める。高杉はフレイアやシウネーと、マッドネバーが乗っ取った世界樹に侵入。来島らもサクヤ率いる領主達と対面していた。
 状況は刻一刻と変わり始めていく……!

カウント・ザ・メモリーズ! 現在ユウキの持っているメモリは……

A アルヴヘイム L リード O オンライン


「「「はぁぁぁぁ!!!」」」

 羽で空中浮遊しながら、呪文を唱え続けるのはサクヤ、ユージーン、アリシャの領主達。彼らはアルンに貼られた透明な壁を取り除くべく、魔法を使って対処していた。

 そんな三人の真下にいるのは、来島、万斉、武市の鬼兵隊一行。共闘する運びになった彼らは、サクヤ達の動向を見守っている。すると万斉はぶつぶつと独り言を呟いていた。

「サクヤ。シルフにおける実質的なリーダー。分け隔てなく面倒ごとを請け負う一方で頭も冴えるその様は、繊細さが求められる演歌と言ったところか。対してアリシャ・ルーは無邪気さが目立つケットシーのムードメイカー。隙を見せない猫っぽさは、一流の女性アイドルソングに匹敵するな。そしてサラマンダーの将軍、ユージーン。この星では五本の指に入るほどの実力者。常に激しく大胆に行動する様は、パンクロックに通ずる」

「って、万斉先輩。また音楽で例えるっすか?」

「ただのクセでござる。視聴者に分かりやすく説明したくてな」

「いや、全然通じてないっすよ!!」

 やや満足そうな表情を浮かべる彼に対し、来島は容赦のないツッコミを入れていく。どうやら領主達を音楽で例えていたが、独特なセンスで仲間からは理解されていない。

 マイペースな万斉にため息をつく来島だが、彼女の横ではもっと厄介な男がいる。

「落ち着いてください、お二方。音楽如きで喧嘩はみっともないですよ」

「で、でも武市先輩!」

「音楽ならばセブンちゃんを聞くと良いです。この戦いが終わったら、CDあげますよ」

「いや、アンタもその話に乗るんかい!? 別にいらないっすよ、このロリコン!」

「ロリコンではなくフェミ――」

「どっちでもええわ!!」

 わざわざセブン好きをアピールした武市だ。彼曰く音楽活動もこなすセブンのことを尊敬しており、非常事態でもいつも通りに振舞っている。おかげでまた子からは怒りを買うことになったが。

 と鬼兵隊の言い争いはさておき、領主側にもようやく動きがあった。

「「「はぁ!」」」

 呪文を唱え終えた途端、手元へ溜めていたエネルギーを壁に向かい放出。すると瞬く間に、壁は次々と光の粒子状になり消滅していく。壁に強い衝撃を与えることで、全体像を破壊する作戦だったようだ。

「よしっ!」

「やったな」

「当然よ。これくらい」

 順調に作戦が上手くいき、一旦は喜び合う三人。希望の活路が見え始めたところで――

「おい、伏せろ!」

「ん? キャ!?」

唐突にも予期せぬ事態が起きてしまう。ユージーンは見えぬ脅威に気付いて、急いで仲間に警告。見えぬ脅威とは街に漂う異様な空気であり、それに直撃した三人は飛行状態を保てなくなり、そのまま地上に落下してしまった。

「って、皆さん! アレを!」

「はぁ!? 大丈夫なんすか!?」

 断片的に様子を見ていた来島らは、慌てつつも領主達の落ちた場所まで駆け寄る。幸いにも落下地点には砂が盛られており、辛うじて目立った怪我は無かった。

「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」

「あぁ、なんとかな」

 万斉の呼びかけにユージーンが応える。来島もサクヤやアリシャの無事を確認して、何が起きたのか詳しく聞いていた。

「一体何が起きたんすか?」

「詳しくは分からないけど……恐らくアルンにもう一つの仕掛けがあったと思う」

「もう一つの仕掛け? あの透明な壁以外にも?」

「恐らくあの壁は囮さ。アルンに溜まっていた空気は、私達妖精の能力を封じるものだな」

「おかげで空も飛べなくなったし」

「えぇ……」

 深刻な表情で二人が伝えたのは、アルンに仕掛けられた罠である。正体不明の空気を浴びたことで、自身の保有していた魔法や飛行能力が一切使用出来なくなったという。

(恐らくこの空気は、オベイロン及びアナザーエターナルの能力によるものだ。次元遺跡でも似たような効果を発揮したからである。ちなみに領主や鬼兵隊はこの情報を知らない)

 ただならぬ不穏さを感じ取る中、武市や万斉は必然的にマッドネバーの企みだと見抜く。

「これもマッドネバーの仕業か」

「こんな物騒な仕掛けまであるとは……」

 神妙な表情で今後を憂う一方、来島は領主達の無事を再度確認する。

「と、とにかく領主達は行けるっすか?」

「あぁ、問題ない。魔法が使えなくとも、戦える術は持っているからな」

「ハンデが出来ただけだ。俺達にとってはちょうど良い」

「構わずにこのまま行こう!」

 密かに心配する彼女をよそに、三人は揃って力強い言葉を返す。特殊な力を一時的に失っても、まだ戦う力が彼らには残されていた。そう簡単には諦めない根性を発揮する。

「分かったす」

「なら行くでござる」

 その強い想いを、鬼兵隊一行は受け取っていた。再度サクヤ達の様子を確認して、一行は侵略されたアルンへと突入していく。

 こうして新たな事実に直面しながらも、戸惑うことなく彼らは突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 依然として混沌を極めるアルンの現状。領主や鬼兵隊が果敢に街へ侵入する傍らで、世界樹内でも動きがあった。

 場所は各星の要人達を招き入れる特別な待合室。そこには簡略的に作られた檻が設置されており、ちょうどユイもその檻に囚われていた。

「どうだ? あの子の様子は」

 見回りに来たカッシーンは、門番を務めている怪人達にユイの様子を伺う。門番として選ばれたのは、ホエールイマジンとアリゲーターイマジンだ。

「ずっと~あの調子だ~」

「悲しみに暮れて、ずっとしゃがんでいるよ。アレじゃ心も折られてんな」

「そうか。ならば気を緩めずに見張っとけ」

 そうやり取りを締めくくると、カッシーンは別の場所に移動する。てっきり彼らはユイが挫折していると察して、近づいて様子を確認することは無かった。

 だがしかし、彼らの判断は大間違いである。ユイの目にはまだ光が残されているのだ。

(どうすればここから抜け出せるのでしょうか……)

 真剣な表情を浮かべつつ、ずっと檻から抜け出す術を考えていく。僅かに恐怖心はあるが、そっと抑え込んでいる。

(絶対にこんなところで諦めたくないです。奪われた結晶も取り戻して、早くパパ達の元に戻らないと!)

 どんな酷い目に遭おうとも、必ず仲間が助けに来てくれることを信じていた。一筋の希望は絶対に諦めたくないのである。

 ひとまずは奪取された結晶を取り返したいが……この状態では無暗に動けない。自力で抜け出すのも無理があるだろう。

 状況を上手く掴めずに、やきもきと気持ちを募らせるユイ。不安そうな表情を浮かべていた時、彼女にとっては千載一遇の好機が訪れようとしていた。

「おい。ここはどこだ?」

「ここは確か、待合室ですよ。姫様へ会いに来た要人を迎い入れる場所です」

 ちょうど待合室の近くまで来たのは、密かに世界樹へ侵入していた高杉、シウネー、フレイアの編成チーム。彼らはフレイアの案内の元、敵に見つからずここまで辿り着いたらしい。

 到着早々に一行は、待合室に檻が設置されていることに衝撃を受ける。

「って、檻? なんでこの場所に」

「恐らくあの野郎が作ったんだろうな」

「悪趣味な人ですね……」

 ポツンと置かれた檻には三人揃って不快感を示しており、高杉は皮肉そうに呟き、シウネーも本音をポロっとこぼしていた。

 それはさておき、一行は変わり果てた待合室の様子を探る。するとフレイアは、檻に囚われているユイに気付いていた。

「ん? 皆さん、見てください。檻に誰かいますよ」

「アレは……女の子?」

 シウネーも不思議そうに檻の中を確認した――その時である。

「アイツは檻にいたのか。だったら話は早い」

「って、高杉さん!?」

「急にどこへ行くのですか!」

「何ぃ、ただ知り合いを助けに行くのさ」

 なんと高杉は誰にも話すことなく、単身檻まで突き進んでいた。本心の読めない彼の飄々とした行動には、女性陣も困惑めいた表情を浮かべる。

「これで借りは返したぜ」

 そんな反応などつゆ知らず、高杉は自分なりに動いていく。ユイを助ける理由も、以前にキリトと共に救われた恩があるからだ。不器用ながらも礼は返す律義さを発揮する。

 と私情はさておき、高杉は早速見張りのイマジン達に戦いを吹っ掛けてきた。

「おい」

「ん? 誰だ――うわぁ!?」

「どうした~」

 声をかけると同時に、彼はアリゲーターイマジンへ一発殴りかかる。もう一体のホエールイマジンが驚く中、高杉は構うことなくアリゲーターへ攻撃を続けていた。

「フッ! ハァ!」

「クッ!?」

 自慢の刀技を披露し、相手に攻撃する隙すら与えていない。その眼差しはまさに、獲物を確実に仕留める百獣と言ったところか。突然の襲撃により、アリゲーターやホエールは上手く対処が出来ずに押される一方だ。

「えっ? 誰って――高杉さん!?」

 そしてユイも事態の変化を察していく。目を凝らしながら檻の外を見ると、そこには高杉が乱入していた。思わぬ知り合いとの再会に、つい頭を混乱させてしまう。

「なんであの人が……あっ、そうだ」

 状況を把握できずに困惑したものの、よくよく考えるとこれは好機かもしれない。高杉を説得すれば、奪取された結晶を取り返せるかもしれないからだ。試してみる価値は十分にあるだろう。彼女がそう考えを練り始めていると、さらに予想外の事態が起きている。

〈カチャ!〉

「ん?」

「ようやく開きました!」

「さぁ、お嬢ちゃん。もう大丈夫よ」

 鍵を破壊した音と共に、二人の女性が話しかけていた。高杉が専ら戦う傍らで、密かに檻の鍵を壊していたシウネーとフレイアである。彼女達は少女が無事なことに安堵した。

 ところがユイにとっては、これまた意外な人物の登場に衝撃を受けてしまう。

「えぇ!? フレイアさんにシウネーさん!? なんでここに……?」

「ん? 何故私達の名を?」

「もしかして、この星の住人でしょうか?」

「いや……この子は確かアルンにも他の街にもいなかったはず。とりあえず檻から出てきてください」

「は、はい!」

 互いの記憶に相違があるものの、一旦はユイへ逃げ出すように促す。ユイはてっきりシウネーもフレイアも元の世界の住人と思い込んだが……二人の初対面な反応から、すぐにこの世界の住人だと捉えていた。いわば外見だけ似たそっくりさんだと理解する。

 そんなやり取りを交わす傍ら、高杉の猛攻は未だに続いていた。

「ひ、卑怯だぞ! 不意打ちとは! 戦う準備くらいさせろ!」

「卑怯だぁ? てめぇらには言われたかねぇな。俺は戦いに来たんじゃねぇ。てめぇらを殺しに来たんだよ」

「なんだと!? くっ、うわぁ!?」

 文句を垂れ流すアリゲーターに対して、高杉は虎視眈々と本音で返す。戦いに狂った一面を見せると同時に、目つきを細くして相手を次々に斬りかかっていた。

「はぁぁぁ!」

「な、く……うわぁぁぁ!!」

 そして高杉は倒せる頃合いを見計らい、相手の中心部に刀剣を貫かせていく。この一撃がアリゲーターの急所となり、彼はゆっくりと場に倒れこみ――激しく爆散。高杉の本気が垣間見えた一幕であった。

「ひぃぃ! ここは撤退~」

 あまりにも悲惨な倒された方を目にして、戦意を失ったホエールイマジンはたまらずに場から逃げ出す。もう一体の怪人を取り逃したが、彼は特に気にしていなかった。

「一匹逃げたか。まぁいいか」

 小言を言いつつ刀を鞘に納めると、すぐにシウネーらの元へと戻る。

「ふっ。どうやら助け出したようだな」

「そうですね。高杉さんも流石の腕前でした」

「アレくらい大したことはねぇよ。それよりも俺が気になるのは……地球にいるはずのお前が、どうしてこの星にいるんだよ」

 シウネーからの誉め言葉も気にせずに、高杉は早速ユイに話しかけていた。すると彼女は緊張感を持って言葉を返している。

「久しぶりですね、高杉さん……」

「あん時以来か。借りはしっかり返したぜ」

 その一連のやり取りはどこかぎこちなく、絶妙な関係を一目で物語っていた。

「やっぱりこの少女とアナタは知り合いだったのですね」

「詳しく私達にも説明してくれませんか?」

 シウネーやフレイアも二人の関係性が気になり、質問を投げかけていく。すると、

「おい、何の騒ぎだ?」

「まさか檻からあのガキが逃げ出したんじゃねぇだろうな」

待合室での騒ぎを聞きつけた怪人達が、こちらへと近づいていた。このままでは見つかってもおかしくはない。

「おい、ここに留まるのは不味い。さっさと別の場所に移動すっぞ」

「そうね……行きましょう」

「さぁ、貴方も!」

 危険を察知した高杉らは、ユイを連れてどさくさと待合室を抜け出していく。彼らは裏道を上手く活用して、マッドネバーに気付かれないよう細心の注意を払っていた。

 そんな彼らと行動を共にすることになったユイは、不安よりも期待の気持ちが大きく高まっていく。

(この三人とならば取り返せるかもしれません……これはまたとないチャンスなんです!)

 先ほども頭に過ぎっていた結晶を、彼らとならば取り返せるかもしれないからだ。今後の戦いを左右する大事なアイテム。絶対に取り返したいと気持ちを強く鼓舞する。果たしてその願いは届くのか。

 

 

 

 

 

 

 

 世界樹や郊外付近で動きがある一方、アルンへ密かに忍び込んでいた銀時、キリト、アスナ、神楽側にも変化があった。

「やっぱり懐かしい場所ね……」

 街を一望できる場所に佇み、少し前の思い出に浸るのは、外の空気を吸っていたはずのアスナ。彼女は一人で考え事がしたくなり、仲間のいる場所から遠ざかっていた。(フィリア曰く近くに怪人がいないとのことで、彼女は伸び伸びと振舞っている)

「あっ、あのスタジアムもあるんだ。本当にALOと似ているのね……」

 これまた既視感のある建物を見つけると、やんわりとした表情に移り変わる。先ほどの店を含めつつ、とある人物を思い起こしていた。

 そう穏やかにも黄昏れていた時、彼女を心配した神楽が駆け寄ってくる。

「アッスー、ここにいたアルか」

「神楽ちゃん? って、わざわざ探しに来てくれたの?」

「そうネ! なんかアッスー寂しそうな顔をしていたからナ。一体どうしたアルか?」

 どうやらアスナの心の変化に感づいたようで、素直にも打ち明けるように促していた。

 すると同じタイミングで、ウサギことユウキも駆けつける。

「やっと見つけた――ん? 何か話している最中かな?」

 彼女は密かに二人の雰囲気を悟り、一旦は近くの物陰に身を潜めることにした。あまり趣味ではないが、こっそりと話を盗み聞きしていく。

「少し昔の思い出に浸っていたのよ。この街並みや風景って、私の遊んでいたゲームとほぼ同じだもの」

「そうアルか? アッスーも元の世界だと、こんな中二病の塊のようなゲームを遊んでいたアルか?」

「とんでもない偏見に聞こえるけど……こういう妖精とかファンタジー系ってむしろ好きな方なのよ」

「へぇー」

 二人の会話は、緩やかにもテンポ良く交わされている。そんな最中にユウキは、会話のある部分に注目を寄せていた。

「アレ? アッスーさんってまさか……別の世界の住人だったの?」

 元の世界と言う言葉から、アスナがこの世界ではない別次元の人間だと捉え始めている。不思議そうな表情で、さらに会話へ耳を傾けると――ユウキはさらにとんでもない情報を知ることになった。

「あっ、だから懐かしんでいたアルか?」

「うーん、それとはまた違うことかな。ねぇ、神楽ちゃん。折角だから、まだ話していなかった私の友達の話をしていいかしら?」

「おぉ、友達アルか。めちゃんこ気になるネ! どんな子アルか?」

「私にとって最高の友達……ユウキって名前の子なの」

 突然アスナは自身の友達を話題に上げており、神楽は興味津々に話へ食いつく。終始しんみりとした雰囲気のアスナに対して、神楽は周りに警戒しつつも普段と変わらない元気さで振舞っている。

 二人の激しい温度差も気になるが、ユウキはアスナが上げた名に衝撃を受けていた。それもそのはず。自身の名前とまったく同じだからだ。

「えっ? ユウキ……僕と同じ名前じゃん!! いやでも、男子でもユウキって名前の子がいるし……絶対勘違いだって、多分!」

 最初は大いに驚嘆したものの、次第に冷静さを取り戻す。ユウキという名は男女問わず付けられており、必ずしも自分ではないと持論を諭していく。この時点ではまだ半信半疑だったのだが、

「へぇー、そんな子がいたアルか。どんな特徴があるアルか?」

「えっと、一人称が僕の女の子で、紫色の髪に赤いバンダナを付けて、小柄で剣の達人だね。一度はキリト君を打ち破ったこともあるのよ」

「えぇ!? キリを倒すなんて、中々の強者アルナ~」

アスナからの情報をきっかけにその疑惑は確信へと変わった。一つ一つ内容を聞くにつれ、ユウキの心には強い衝撃が走ってしまう。

「う、噓でしょ……ほぼ僕じゃん!! まさか別の世界の僕ってこと!?」

 彼女は独り言の如く本音を吐き散らしていた。別世界と言う情報から察しがよく、アスナの知っているユウキが別世界の自分だと捉え始めている。この認識が後に彼女を苦しめることになるのだが……。

 とそれはさておき、アスナと神楽は次々にユウキ(SAO)の話題を続けていく。

(ここから原典に登場したユウキは、地の文でのみ(SAO)と表示される)

「ねぇ、もっとユウキの話を聞きたいネ」

「もちろんいいわよ。ユウキとはある決闘で出会ってね、そこで強さを認められて彼女のチームに参加することになったのよ」

「チームって、パーティーみたいなモノあるか?」

「その認識で合っているわよ。スリーピングナイツって言って、ユウキの他にもシウネーやジュン、テッチやタルケン、ノリって仲間もいて、どのパーティーメンバーも個性派ぞろいだったのよ」

「個性派アルか。銀ちゃんや真選組、ヅラに姉御みたいなキャラ達アルか?」

「流石にそこまで濃くはないわよ……」

 ユウキ(SAO)と重ねてスリーピングナイツも紹介しており、ご丁寧にチームメンバーも紹介している。個性派と称して神楽が例えの人物達を上げるも、アスナからは苦笑いで却下されていた。流石に根本が違うからであろう。

 次々と明かされる別世界のユウキ(SAO)の情報だが、こちらのユウキはあまりの共通点の多さに段々と恐怖を感じていた。

「いやいや、おかしいでしょ!! なんでチームメイトと名前まで同じなわけ!? 偶然の一致で寒気がするのだが!?」

 やはり名前まで同じなのは、運命的と言っても過言ではないだろう。

 彼女の大袈裟な反応に気付くことなく、二人の会話はさらに続く。

「それでメンバーと一緒に難関のクエストや攻略に挑んだり、キリト君達も集めてパーティーをやったりとか。ユウキやみんなと出会えて、たくさん最高の思い出が出来たのよ」

「へぇー、良いアルナ。てことは、もしかしたらユウキもこの世界に来ていたかもしれないアルか?」

「う、うん……それはどうかな?」

 楽しそうに思い出を語る中、突然アスナの表情が急変してしまう。下を向いたまま静かに黙り込んでしまった。

「アレ? アッスーさんの態度が変わった?」

 細かな気持ちの変化には、ユウキや神楽も薄っすらと気付いている。

「どうしたネ。何か急に歯切れが悪いアルよ」

「いや……本当は来てほしいけど、それはもう無理なのよ。そもそもこの話も、あんまり神楽ちゃんには話してなかったでしょ」

「そうアルナ。結局どういうことアル?」

 慎重に問い直す神楽だが、徐々に嫌な予感を察していく。今このタイミングでユウキ(SAO)の件も話したのも、よくよく考えると不自然である。

 そして彼女の口からは――ユウキ(SAO)の顛末が語られた。

「率直に言うとね――ユウキは病気で亡くなっちゃったのよ」

「えっ……?」

「はぁ!? そんな……」

何の脈略も無かった告白に、神楽、ユウキ共に大きく驚嘆してしまう。特に後者は、別世界の自分の最期を知って言葉を失っていた。

「ど、どういうことネ、アッスー!? 展開が早すぎて、さっぱり分からないアルよ!」

 神楽は血相をかいた表情となり、アスナへ激しく問い詰める。彼女は体を揺らされながらも、しんみりとした表情で事を深堀りしていく。

「元々ね……ユウキって体が弱かったのよ。私と出会った時にはもう、自分が死ぬ運命を受け入れていたみたい。それでも諦めず、頑張って戦い続けたんだけど……」

「――無理だったアルか」

 神楽の問いにアスナはこくりと頷いた。

「旅立ったのはつい最近のことよ。過ごせた時間は少なかったけど……私は、ユウキと出会ったことが最高の幸せだったの。絶対にあの子のことは忘れない。そう心に誓ったから!」

 途端に彼女は悲しみを堪えた表情に変わっていく。ユウキ(SAO)とは永久の別れになったが、アスナはそれを受け入れて前に進んでいる。

 この思い出話を通して彼女は神楽に、ユウキの生きた想いを伝えたかったのだ。全てが伝わらなくても良い。少しでも感じ取れるものがあるならば良いと割り切っている。そんな強い気持ちとは裏腹に、神楽は言葉が詰まって下を向いてしまった。

「神楽ちゃん? やっぱり重かったかしら……」

 ついアスナも心配して声をかけるも、神楽から返って来たのは意外な一言である。

「いや、違うネ……分かるアルよ! アッスーの気持ち! 大切な人が自分の前からいなくなったら、どれだけ寂しいか」

「神楽ちゃん……?」

「重くなんかないネ。むしろアッスーの大切な友達を知れて、とっても良かったネ。絶対に無駄じゃないアル!」

「そっか……ありがとうね」

 彼女は感情を搔き立てつつも、しっかりと自身の本音をぶつけていた。アスナの気持ちに共感しており、同じような経験があるからこそ、辛さや悲しみも一通り理解している。すなわち、伝えたかった想いはちゃんと伝わっているのだ。

 そんなアスナの切実な気持ちを目の当たりにして、ユウキも深い感傷に浸っていく。

「アッスーさんにとってのユウキは、大切な人だったんだ。別世界の僕の、かけがえのない友達……」

 別世界の自分と括り、彼女の真摯な気持ちを理解していた。考えれば考えるほど、何とも言えない不可思議な想いに浸る。そう深く考え込んでいた時、ユウキはとある不安に苛まれてしまう。

「でも、待って。もし僕が元の姿に戻ったら……アッスーさんのことを傷つけちゃうんじゃないのかな」

 それはアスナと出会うことだった。もしウサギの姿から元の姿に戻れば、まったく違うユウキに困惑することは間違いない。はたまた精神的な苦痛を与えてしまうと、良からぬ考えを煮詰めてしまう。

 そんな不安に駆り出されてしまうユウキに反して、神楽とアスナはようやく気持ちを落ち着かせていく。

「とりあえず、ありがとうネ。アッスーの大切な思い出を話してくれて」

「ううん、いいのよ。神楽ちゃんにも、ようやく伝えられたし」

「上手くはいえないけど、きっとそのユウキもアッスーと友達になれて……幸せだったと思うアルよ!」

「うん……そう言ってもらえるだけで嬉しいわ」

 神楽からの素直な一言に、アスナもつい微笑みをこぼしている。

「それじゃみんなの元に戻りましょう」

「そうネ。ユイを絶対に取り戻すアルよ!」

「もちろん!」

 会話を上手く締めくくりつつ、二人は改めて気持ちを一つに合わせていく。凛とした表情に移り変わり、ユイの救出に再び情熱を注ぎこむ。感情を込めた話し合いが、より良い気分転換に繋がっていた。

 そのまま帰宅しようとした矢先、彼女らはようやくウサギことユウキを目撃する。

「あっ、あのウサギも来ていたネ」

「心配して来てくれたの? じゃ、一緒に戻りましょうか」

 てっきり様子を見に来たと思い、軽くお礼を交わしてからウサギを抱えていく。心配そうな表情をしているのは、周りの様子を警戒しているからか。それは全くの見当違いだが。

「どうしよう……これから」

 アスナに本当の姿を見せることに、ためらいが生まれているユウキ。未だに悩み続ける中、果たして彼女なりの答えは導き出せるのだろうか。

 アスナの発したユウキ(SAO)の話題は、神楽やこの世界のユウキにも大きな影響を与えていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子達がしんみりと会話を交わす一方、アルン北東部にいる銀時とキリトらにも動きがあった。

「ワフフフーフ」

「ナナナ!」

[今度はこっちだ]

 仲睦まじくも定春、ピナ、エリザベスの通称ペット組は、宿屋にあったボールを用いて、室内でバレーの如くボール遊びをしている。緩急や変化を適宜付けつつ、ボールを落とさないように皆が奮闘していた。滅多にはないペット組の癒される一幕である。

 その一方で銀時とキリトは揃って屋上におり、二人だけで話し合いを行っていた。

「「「じー」」」

 そんな二人のいる屋上をこっそりと覗くのは、シリカ、リズベット、シノンの三人。彼女達は、キリトと話す銀時の様子が気になり密かに盗み聞きしていた。

「一体二人は何を話しているんですか……?」

「ていうか。なんでアタシ達じゃなくて、銀さんなのよ……」

「納得いかないわね……」

 皆が揃って悔しそうな表情を浮かべながら、じっくりと二人の様子を見張っている。あわよくばキリトの相談相手に乗りたかったが……その役目を銀時にかっさらわれてしまい、若干不満げであった。

 そんな覗き見をしている女子達には気付かず、銀時はキリトに本音を打ち明けるために画策している。

「それで一体何を悩んでんだよ。まさか本当にホームシックじゃあるまいな」

「いやいや、違うって。シグルドの件で思うことがあって……」

「あぁ、あいつのことか。俺から見りゃ胡散臭ぇ野郎だよな。表面が良いだけで、裏じゃ絶対救急車を蹴ってるに違いねぇよ」

「何そのピンポイントで、誰かを明らかにディスっている例えは」

「おっ。お前も新八並みにツッコミが上手くなったじゃねぇか」

「それは褒められてんのか?」

 時事ネタや軽い話題を挟みつつ、キリトの本心を探っていく銀時。彼の予想通り、やはりシグルドが関係しているようだが。

「んで、シグルドに言いたいことがあったのかよ? まさかお前の知り合いなのか?」

「厳密には知り合いではないけど……とりあえず俺が説明するよ」

「おう。任せたよ」

 核心を突くような質問を投げかけると、キリトは率直にも応じてくれた。こうして彼は複雑そうな表情を浮かべつつ、とある過去の経験を銀時に明かしていく。これが自身の抱えていた悩みにも繋がっている。

(この場面でも時の文でのみ、SAO世界のシグルドに(SAO)が付属される)

「シグルドは元の世界にもいて、俺の知っている彼はスグの知り合いだったんだよ」

「何? お前の妹、あんな胡散臭い野郎と顔見知りだったのかよ。絶対ヤ〇目的で近づいただろ」

「んなわけないだろ!! ただ種族が同じなだけだよ。それにスグには、中学からの付き合いのレコンって子の方が仲は良いよ」

「はいはい。どんだけ男が群がろうとも、お前の妹がブラコンなのは周知の事実だからさ。近づいても無駄ってもんよ」

「って、話が脱線しているから!」

 まずは手短に自身の知るシグルド(SAO)を、簡略的に解説していた。リーファ経由で知ったらしいが、何故か話題は彼女に逸れてしまう。仕舞いには本人のいないところで、とばっちりまで受けていた。

「いや、キリトになんてこと言ってんのよ!」

「話題にしているリーファさんが不憫ですよ……」

「まぁ、ブラコンなのは事実だけど」

「「うんうん」」

 女子達も銀時に思うところはあれど、リーファのブラコンには否定していない。こちらも本人の不在を良いことに、素直な気持ちを露わにしている。

「クッション!」

「どうしたんだ、お前? 飛沫かけてくんなよ」

「流石にかけないわよ! 誰か私の噂でもしているんじゃないの?」

 アルンの南西エリアにいたリーファは、ちょうど同じ時間帯にくしゃみをしていたが……とそれはさておき、銀時のキリトの会話は続いていく。

「まぁ銀さんにも分かりやすく言うと、シグルドは表面上種族や組織のために活動していたけど、その実態はスパイに近いものだったんだ」

「スパイ? 山崎と同じタイプってことか?」

「山崎……まぁ、そんなところだよ」

「お前絶対分かってないだろ」

 続けて彼が打ち明かしたのはシグルドの正体だが、銀時は近しい例えとして山崎を名に上げていた。しかしキリトの反応はいまいちであり、分かったかのような反応である。少なくとも二,三回は出会っている真選組の一だが……影の薄さはキリトらにも有効的だった。

「山崎って誰だったっけ?」

「それは……思い当たらないわね」

「会った事はある気がするけど……アレ? 本当に誰ですか?」

 女子達も揃って何者なのか理解していない。

「ブアックション!」

「おい、山崎。かけてくんなよ」

「あっ、すいません。って、そんなに今日寒かったかな?」

 これには地球にいる山崎も、不意にくしゃみする始末である。ちょうど近くにいた原田からも、飛沫を気にして煙たがられていた。

 と話を銀時とキリトの会話に戻そう。

「まぁ山崎の件はさておき、お前の世界のシグルドが卑怯者ってことは理解したよ」

「そう。だからあの人を信じることにも抵抗があるんだ。もちろんただの杞憂かもしれないけれど、オベイロンも元の世界では極悪非道だったからな……無暗に信じられないんだよ」

「前にも言っていたことか」

 まとめとしてキリトは、元の世界で暗躍していたシグルドの所業を語っていた。裏切りまで仕掛けた卑屈さが印象的で、その経験から彼はこの世界のシグルドもあまり信用していない。一連の話を聞いていき、銀時は自分なりの意見をキリトへと返答していた。

「なるほどな……じゃ、正体を現すまで疑い続けることで良いんじゃねぇのか。そう気に病むことじゃねぇよ」

「そうかもな。今の段階じゃ、それが最善だと思う。でもこの俺の勝手な決めつけを、みんなは信じてくれるのか?」

「そりゃ信じるに決まってんだろ。ヅラはともかく、女子共は誰よりもお前のことを信用しているぞ。そうなんでもかんでも、一人で抱え込むなや。俺も人のこと、言えねぇけどな」

「信用か……確かにそうだな」

 大雑把にも答えを導いたが、責任感の強いキリトはまたも自分だけで抱え込もうとしている。そんな自己犠牲の強い彼に対して、銀時は軽く注意を加えていた。かくいう彼も人のことは言えないのだが。

 何気のない一言だが、女子達にも思わぬ影響を与えている。

「ぎ、銀時さん。珍しく良いこと言いますね!」

「アタシ達は何があってもキリトの味方……分かってんじゃないの」

「ストレートに言われると、心にくるわね……」

 キリトとの強い信頼関係を改めて誇示されると、揃って照れ気味な態度を表す。都合の良い時に限って銀時を見直す、ちゃっかり屋な一面を披露していた。それでも嬉しいことに変わりはないのだが。

 そんな素朴な反応はさておき、銀時は突然にも二人の共通点について話題を上げる。

「なんかよ、俺とお前って結構似ているよな」

「って、急にどうしたんだよ。改まって」

「この機会だし、言っておこうと思ってよ。闇雲に一人で抱え込んだり、大切なモンは何が何でも守ったりよ」

「フッ……そう言われるとそうだな。それに銀さんとは、気兼ねなく話せるからな」

「年はこんなに離れているのにな」

「自然と歳の差は感じないけどな」

 キリトとも概ね共感できる個所が多く、話を弾ませつつ二人はクスっと笑っていた。共に声は出していないが、他にも共通のクセや正反対の趣向など、思い起こせば次々と浮かび上がる。緩い雰囲気の中で本音を語り合えるのも、信頼の強い二人ならではの光景だった。

 無駄話を踏まえて気持ちを一新させたところで、二人は話をまとめ上げている。

「シグルドの件はまぁいいよ。どっちに転ぼうが、俺達の目的は変わらねぇ。あの馬鹿げた野郎から、ユイを取り戻す。もちろんこの街も救うけどな」

「俺も同じ気持ちだ。あの男の好きにはさせないよ……!」

 マッドネバーの野望も打ち破り、ユイも絶対に連れ戻すと共に強く誓ったところで――銀時は目線をドア付近へと向けていく。

「そんじゃ話も終わったし、出てきていいぞ。覗き屋ども」

「覗き?」

〈ギク!?〉

 なんと彼は全てを見透かしたかのように、ドア裏にこっそりと隠れていた女子達に声をかけてきた。シノンらを呼んでいることは明白で、呼ばれた女子達は次第に焦り始める。

「まさかバレていたの……?」

「銀さんめ……もう気付いていたのね」

「ど、どうしますか? 素直に出ますか?」

「でも出たところで、銀さんにおちょくれるのがオチでしょ」

「た、確かに……」

「下に逃げましょうか?」

 迷っている時間は無いに等しいも、中々決断が定まらない三人。恥を忍んで屋上に出ようものなら、キリトはともかく銀時には小馬鹿にされる未来しか見えないからだ。それだけは何としてでも避けたい。とりあえずペット組のいる一階へ戻ろうとした――その時である。

「何故ためらうのだ。ここはもう勢いのままに行くべきではないか?」

「ん?」

「「うわぁぁ!?」」

 急に距離を縮めて声をかけてきたのは、アルンにて行動を共にしていた桂だ。神出鬼没が如く現れて、空気を読まずに女子達へ声を上げている。

 不意の声掛けにより、女子達は驚天動地のように緊張感が途切れてしまう。さらにはその弾みで、微かに開いていたドアに体重がかかり……案の定外部へ追いやられていた。すなわち桂の乱入で、女子達が積み立てていた計画は全て失敗に終わったのである。

「あっ、やっぱりみんなだったのか」

「覗きなんざ、悪趣味じゃねぇか。どこまでキリトと話したかったんだよ」

「えっ? 俺なのか?」

 心配そうに声をかけるキリトに対し、銀時は皮肉そうに呟いていた。彼ら二人のみならず。シノンら女子達も思わぬ再会に困惑してしまう。

 場が微妙な雰囲気と化してしまう中、きっかけを作った桂は態度を変えずに話しかけていた。

「ハハハ。何を黙り込んでいるのだ。銀時にキリト殿、女子達もどうやら会話に入りたかったらしいぞ。俺に構わず会話を再開させるといい! ハハ……」

 意気揚々と笑った表情を浮かべながら、一行に快く会話を勧めている。無論こんな乱雑なやり方では、女子達も納得するはずがなく……

「「「じゃ、ないでしょ!!」」」

「ブフォ!?」

見事に返り討ちを受けてしまう。シリカ、リズベット、シノンは揃って桂に一発の拳をぶつけていく。ドア付近まで吹き飛ばされた彼は、反論する暇もなく彼女達の軽い仕打ちを受けることとなった。

「お、落ち着け君達! 俺はただ手助けをしたかっただけであって……」

「手助けじゃなくて、邪魔でしたよ!」

「なんでアンタはいちいち空気が読めないのよ!」

「少しは自分をわきまえなさいよ!!」

 俗に言う「大きなお世話」とはまさにこのことだろう。もちろん桂に悪意はないが、強引なやり方が彼女らに逆鱗に触れてしまったのである。しばらくは怒りも収まらず、女子達の気が済むまでこの争いは続きそうだ。

 突然の乱入からのグダグダな喧嘩を見て、銀時、キリト共にその反応に困ってしまう。

「一体何が起きたんだ……?」

「知らね。どうせヅラが適当に吹っ掛けて、総スカンを食らっているだけだろ。放っとけ、放っとけ。時機に収まるよ」

「本当に大丈夫なのか?」

 適当に受け流した銀時とは異なり、キリトは桂の様子を心配している。桂に対する認識が、二人の反応に違いを与えていた。それでもこの喧嘩は見るに堪えなかったので、潔く止めようとした時である。二人はこの場にいなかった仲間達に気付き始めていた。

「アレ? そういえば、エリザベスはいないのか?」

「本当だ。ていうか、定春もピナもいないぞ」

「どこに行ってんだ……?」

 いつも桂の横にいるはずのエリザベス、シリカのパートナーであるピナと万事屋のペットの定春。いわゆるペット組の姿が見えないのである。本当は一階で待機しているが、ふと二人は辺りを見渡していると、

「あっ、銀さん。みんな外にいるよ」

「外だ? こんな時に何をやってんだよ。散歩か?」

三匹は揃って外部に出ていた。南西エリア組とは違って、周りの安全はまだ確証されていない状況。マッドネバーの怪人に見つかる可能性もある中で、何故彼らは外に出ているのか。危険を伝えるために、定春らへ声をかけようとした時である。

「ちょっと待って、銀さん。ここは声をかけないでおこうよ」

 急にキリトは銀時を止めに割り込んでいく。

「えっ? じゃアイツらが、何かを見つけたのかよ」

「多分そうだと思う。隠れて覗いているんじゃないかな?」

 彼はペット組なりに考えがあると悟り、冷静にも状況を様子見していた。銀時も渋々キリトの考えに応じていく。

 改めてペット組の行動を見ると、皆が壁際に寄せ集まり、死角を利用して何かを覗いているようだ。奇しくも先ほどのシリカ達と状況は同じである。

「ワフ……」

「ナ……」

[ごくり]

 定春やピナは真剣な表情で固唾を飲んでおり、エリザベスも何一つ表情を変えずにじっと探っていく。(表情が変わらないのはいつもことであるが……)

 とそれはさておき、彼らはとある衝撃的な場面を目撃してしまう。

[これはまずいぞ。仲間に伝えるぞ]

 エリザベスの指示のもと、定春やピナも静かに頷いていく。彼らは足音を立てぬまま、そろりと仲間にいる宿屋へとこっそり戻っていた。

「あっ、こっちに戻って来るよ」

「よし、俺達も降りるぞ」

 何か重要な情報を掴んだと察して、銀時とキリトは急いで屋上から一階に向かう。

「あっ、待ってください!」

「ちょっと! 戻っちゃうの!?」

「おい、銀時にキリト殿! 俺を置いていくな!」

 彼らの跡をついていくように、シリカらや桂も一階へと戻る。彼らがそこに集結すると、そこには神妙な表情で呼吸を整える定春とピナ。

[お前らに伝えなくてはいけないことがある!]

 血相さをプラカードでアピールするエリザベスのペット組が、外部から帰って来ていた。あまりの焦りように、仲間達もつい心配してしまう。

「おいおい、どうしたお前ら。揃いも揃って」

「一体何を見たの?」

 不思議そうな表情でシノンが聞き返すと、定春やピナは一目散に声を上げていく。

「ワフワフ! フフフ!!」

「ナナナ! ナーナナ!」

 しかしもちろん鳴き声なので、銀時やキリトらにはあまり伝わっていない。

「えっと、どういうことだ?」

「お前飼い主だから、分かるんじゃねぇのか?」

「いや、分かりませんよ! でも良い知らせじゃないのは明らかですね……」

 飼い主を理由にシリカへ通訳を丸投げした銀時だが、当然本人からは反対されてしまう。それでも落ち着きのない雰囲気から、重要な情報を握っているのは明白である。その意味を理解しようとした時だった。

[おい、お前ら。俺のプラカードで通訳できるか]

「おっ、そうだ。みんな! エリザベスのプラカードに注目するんだ!」

「その手があったわね」

 二匹の代わりにエリザベスが前に出ている。自身の伝達手段であるプラカードを介して、定春やピナの代わりに入手した情報を伝えるようだ。

 一行はエリザベスの周りを囲いながら、彼のプラカードに注目していく。

「えっ? 嘘!?」

「それ本当かよ……」

「まさかな」

「よく見つからなかったわね」

 その全貌を目にして、シリカ、銀時、桂、シノンと次々に驚きの反応を示していた。場にいた全員がペット組の得た情報に絶句しており、何とも言えない表情になってしまう。特にキリトは、誰よりも複雑そうな表情を浮かべている。

「……そうか」

 彼はあることを悟り、静かに覚悟を決めていた。

 新たな事実に困惑しつつも、対処するために一行が考え始めた時である。

「すまない! 少々遅れてしまった……って、どうしたのだ? 皆で集まって」

 外部の警備を行っていたシグルドが、ちょうど宿屋に戻って来ていた。彼は出会った仲間達が密集している場面を見て、つい不思議がっている。気になって聞いてみると、

「ううん。なんでもないわよ!」

「アンタが来る前に、ちとこちらで作戦を話し合っていたんだよ」

[今すぐにでも出発できるぞ]

「そうか。これは心強いな。では今一度作戦を立ててから、世界樹に侵入しようではないか」

リズベットや銀時らは穏やかにも補足を加えていく。この返答も間違ってはいないが、答え方や素振りはどこかぎこちなかった。

 シグルドはあまり気にしておらず、黙々と作戦の話し合いに参加していく。この状況を打開するためにも、マッドネバーが乗っ取った世界樹に狙いを付けていた。密かに忍び込み、こちらの有利な状況を作り出すことが今後の命運を担っている。

 真剣な表情で作戦を熱弁するシグルドに対して、キリトやシノン、銀時らの表情は緊張感に満ちていた。何故ならばペット組の得た情報は、シグルドが関係しているからである。故に全員が彼に怪しまれないよう、水面下である事を進めていく。

 果たしてペット組の得た情報とは? シグルドは本当に裏切ったのか――

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、アルンの南西エリアにいる新八ら一行。とある飲食店に身を隠していた彼らにも、銀時らと同じく動きがあったようだ。

「ごめん。ちょっとトイレに行ってくるね」

「うん、分かった」

 フィリアは周りの目を気にしつつも、単身トイレのために席を外している。彼女が場からいなくなった隙に、土方と沖田は二人だけである話を交わし始めていた。

「おい、総悟。その顔つきはお前も気付いているのか?」

「そうですねぇ。ちなみに土方さんは、確証ってどれくらいですかい?」

「四割程度だ。まだ情報も不十分だからな」

「そうですかい。じゃどこで判断を付やすかい?」

「ヤツが不審な動きをした時だな。十中八九やるとみているぜ」

「なるほどねぇ……この事はみんなに教えなくていいんですかい?」

「余計な混乱を生むからな。俺達だけでとどめておくよ。総悟も口出しはするなよ」

「分かってやすよ」

 共に神妙な表情のまま、自身の抱えていた違和感を打ち明かしていく。どうやらフィリアに疑いの目をかけており、以前の彼女とは少々雰囲気が異なるらしい。もちろんただの杞憂かもしれないが、心配するに越したことはない。

 今は土方と沖田しか感づいておらず、あまり仲間達にも大っぴらにはしなかった。下手な混乱を生ませないためである。洗脳や憑依、はたまた擬態した偽物とあらゆる可能性を踏まえつつ、二人はフィリアを注視していく。

 そう決意を新たにする者がいる傍らで、新八はある事実を仲間達へ打ち明けようとしていた。

「あの……皆さん」

「ん? どうしたんだ、新八?」

 彼の言いたげな雰囲気を察して、クラインや近藤が声をかけてくる。

「おっ。まさかトイレに行きたいのか?」

「いや、違いますよ! 皆さんに伝えたいことがあって……」

「伝えたいこと?」

 ツッコミを入れつつも、話題は逸らさずに続けていく。彼は真剣な態度を続けていき、場にいた仲間達にあのウサギの秘密を打ち明かしていた。

「実は――」

 そしてものの数分、新八はウサギの正体が少女(ユウキ)であることをリーファや沖田らに伝えていく。

「というわけなんですよ」

「そ、それは本当なのか!?」

「えぇ……!?」

 特に近藤とクラインは、揃って大きなリアクションを繰り出している。彼らに限らず、場にいた土方、沖田、リーファも反応に差はあれど驚嘆していた。

「まさかあのウサギの正体が人間だったなんて……」

「人間というよりかは妖精っぽかったですけど」

「どっちでも同じだろ。だがお前らを助けたってことは、少なくとも味方と見ていいか」

「回りくどくマッドネバーの自演ってのも、可能性は低いでしょうからね」

 疑り深い土方や沖田でさえも、一連の描写からウサギのことを信じている。

 すると新八は、途端にウサギの正体について探り始めていた。

「そういえば、あのメモリを持っていたのもウサギだったはず……ってことは、あの子は。やっぱりマッドネバーから逃げ出したのか?」

 ガイアメモリを所持していたこともあり、ウサギこと少女とマッドネバーの関係性をも気にしてしまう。一人でこっそりと考えようとした時。リーファがふと思った疑問を、彼に投げかけていた。

「ねぇ、新八君。その妖精って、どんな姿をしていたの?」

「えっと確か……紫髪の女の子で剣を使っていましたね。背は小さくて、髪には赤いバンダナを巻いていました」

「へぇー。女だったんですかい」

 ウサギの正体は女性であり、それを聞いた沖田ら真選組は淡々と反応する。

「そいつは意外だな」

「女の子とは……触らぬように気を付けなくては」

「いや、気にするとこそこかよ」

 近藤だけは神経質にも、心配事を浮かべていたが。珍しく繊細さを見える彼に、新八はツッコミを入れていた。

 だが一方で、リーファはまったく異なる反応を示している。

「えっ? 本当にその外見だったの?」

「そうですよ。どうかしましたか?」

 改めて確認すると、彼女はクラインの元に駆け寄っていく。そして彼に向けて、小言で自身の感じた疑問について交わしていた。

「ねぇ、クラインさん。もしかして、あの子じゃないの?」

「なんだ、なんだ?」

「だからあの子だって。ユウキさんと外見がそっくりじゃないの?」

「あぁ、確かにな。でもあの子はもう……」

「いや、この世界の住人って可能性もあるのよ。だとすると問題は……」

 リーファなりの推測を耳にして、クラインも複雑そうな表情を浮かべている。二人が把握したのは、ウサギの正体がこの世界のユウキである可能性だった。あくまでも推測の域に過ぎないが、もし当たっているのならば、とある問題が生じてしまう。

(もしこの世界のユウキさんなら、アスナさんと出会うと……)

 アスナの精神的なダメージである。この世界のユウキと同様に、遭遇した際の混乱が目に見えているからだ。あくまでも仮定の話なのだが、リーファはその対面を不安視している。クラインも同様だ。

「珍しいな。お前ら二人で話すなんて」

「一体どうしたんですか?」

 真選組や新八からしてみれば、リーファとクラインが積極的に話す様子は珍しいという。この懸念や不安が彼らに伝わるのかは不明だが、ひとまずは感じたことをそのまま伝えてみることにする。

「新八君……この事はアスナさんに言わない方が良いわよ。きっと、驚いちゃうし」

「えっ? なんでですか?」

「それがな……」

 と二人がユウキ(SAO)の件を説明しようとした時だった。

「ただいまネ!」

「ちょっと遅くなってごめんね」

 タイミングが悪く神楽とアスナ、ユウキが隠れ家に戻ってきている。アスナの声を聴いた瞬間にリーファやクラインは、ドキッと内心驚いてしまう。

「おっ、二人共! ようやく戻って来たか」

「うん! こっちも気が収まったアルよ!」

「って、みんなで何を話していたの?」

「いや、それが……」

 気になったアスナから問われたものの、リーファやクラインは適当にはぐらかしていた。

「実はウサギのことについて――」

「うわ! うわわわわ!!」

 新八がウサギの件を言おうとした時は、リーファは体を張って場の注意を引かせている。そして至近距離で新八に近づき、小声で厳重に口封じを促していく。

「絶対に言わないで……って! お願い……!!」

「は、はい……なんでそこまで必死に?」

「デリケートなことだからよ!」

 彼女は怒りに満ちた表情を滲ませつつ、力強く言い張る。それほどアスナとユウキ(SAO)の絆を重要視しているのだ。あまりの覇気の強さに、新八も気が引けてしまう。

「土方さんに近藤さん。あまり言わない方が良いみたいでさぁ」

「何を必死になってんだ、アイツは」

「うむ……複雑な事情なのか?」

 流石の真選組一行も、今回ばかりは空気を読んでいる。

 だが一方で、不自然な態度をとるリーファらにアスナや神楽は不自然に感じ取っていた。

「一体なんなのかしら?」

「何か焦っているし怪しいアル」

「まるで数分前の僕みたいだ」

 若干怪しむものの、そこまで重要視はしていない。ユウキは先ほどの自分と照らし合わせて、少しばかり共感はしていたが。

 そんな波乱が起きた時である。ようやくフィリアがトイレから帰って来ていた。

「おっ、やっとみんな戻って来たね」

「あっ、フィリア! ただいまネ」

「うん。じゃそろそろ、世界樹に向かう作戦を立てようか」

 彼女が席に着くや否や、本題である世界樹の侵入へ話題を進めていく。シグルド側と同じく敵の本拠地へ忍び込み、逆転の一手を見つけ出す算段のようである。こうして彼らも事態を本格的に動き出していた。

 

 

 洗礼を受けながらも、構わずに世界樹まで向かう領主と鬼兵隊一行。

 仲間との合流と結晶の行方を不安視するユイ。

 マッドネバーに悟られることなく、世界樹内を駆け回る高杉ら混合チーム。

 いよいよ敵の乗っ取った本拠地に向かう銀時やキリトら北東エリア組とアスナや神楽ら南西エリア組。

 

 多くの人間や妖精がマッドネバーの野望に巻き込まれる中、ただ一つ共通しているのは、皆がその野望を止めるために動いていること。決戦の地は、マッドネバーが乗っ取った世界樹へと移されていく……。

 

 だが彼らは気づいていなかった。この戦いにさらなる参加者がいることに。その正体は……次回へと続く。




 さて……今回は遂にユウキのことを初めて普及しましたね。しかも別世界のユウキまで聞いている始末。タイミング悪! 神楽もアスナの気持ちに共感することが多く、改めて二人の心を打ち明けた場面でもありました! でも……ユウキはアスナの本心を知って、ためらいが出来てしまいましたね。果たしてどうなることやら……
 ちなみにいずれアスナは、ミトのことも神楽に話せると思いますね。
 キリトと銀時の本音トーク。出会ってしまった高杉とユイ。新八の告白で気を遣うクラインやリーファと、前回に入りきれなかった展開も多く盛り込みました。いよいよ一行は決戦の地とされる世界樹へと向かいますよ!

 それと次回についてですが、過去回想を含めて話を進めていきます。振り返るとオベイロン及び須郷のことを万事屋に話している場面が無かったので、取りこぼした分を含めて製作したいと考えています。余裕があれば、次回の話でストーリーも多少進めていきたいです。また内容がマシマシになるのか……では。

次回予告

次回! 剣魂妖国動乱篇!

銀時「なんでそんな屑野郎なんだよ」
アスナ「そういう人間性だからでしょ」

妙「大人しく食えや! 小僧め!!」
ジュン「ブフ……」
ノリ「ジュン!?」

長谷川「俺達も助けに来たぜ」
タルケン「誰ですか、この方は?」
あやめ「ホームレスよ」
テッチ「えっ?」

妖国動乱篇七 秘・蔵・回・想

回想も含めて、青春スイッチオン!!


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第八十一訓 秘・蔵・共・演

 今回は妖国動乱篇の振り返りです。中盤にかけてキャラクターの心情の変化や、新たなキャラが次々と参戦したので、一旦まとめていこうと思います。
 ただ総集篇ではなく、補足部分も含めた過去回想が主軸となります。最近大っぴらにギャグ描写をかけて無かったので、今回のお話で補完したいと思います(笑)
 さぁ、お妙ちゃんの料理の犠牲になるヤツはどいつだ!?







これまでの剣魂 妖国動乱篇は(全章から)

シウネー「ユウキ! ここの怪人達は私に任して、貴方はオベイロンの元へ向かって!」

新八「平気だよ。僕も侍だからね。守ると決めたものは絶対に守り通す。だから安心して」

アスナ「完成度云々じゃないのよ!! あんなのただのわいせつモノでしょ!!」

ユウキ「二人共! ここは僕に任せて早く行って!!」

銀時「なんで俺の家の天井にお前らがいるんだよ! やっぱりバカだろ、お前!!」

ユイ「だからアナタの考えは、浅はかで大間違いですよ!」

キリト「俺も同じ気持ちだ。あの男の好きにはさせないよ……!」

高杉「何ぃ、ただ知り合いを助けに行くのさ」

神楽「重くなんかないネ。むしろアッスーの大切な友達を知れて、とっても良かったネ。絶対に無駄じゃないアル!」




そしてこれが、現在の勢力図だ!!

アルン北東エリア 坂田銀時・キリト・桂小太郎・エリザベス・シリカ・ピナ・リズベット・シノン・定春→アルンにいた騎士シグルドと出会い、彼と共に行動する。ユイや街の人々を助けるために、世界樹へ突入する計画を立てるも、シグルドの秘密を知ってしまい信頼が揺らいでいる。

アルン南東エリア アスナ・神楽・ユウキ(ウサギ)・志村新八・近藤勲・土方十四郎・沖田総悟・リーファ・クライン→生き残っていたフィリアと再会。彼女からアルンの現状を聞かされ、こちらも北東エリア組と同様に世界樹へ突入する計画を立てている。しかしメンバーごとに心情の変化があり、複雑に絡み合っていく。

アスナ→ユウキ(SAO)のことを思い出して、神楽に自身の大切な思い出を話す。
神楽→アスナからユウキ(SAO)との思い出を聞かされ、感傷的に浸っている。
ユウキ→二人の会話を盗み聞きしてしまい、アスナの気持ちに気を遣ってしまう。
土方・沖田→謎の違和感を覚えており、フィリアの振る舞いを疑問視している。
リーファ・クライン→新八からウサギ(ユウキ)の正体を知って困惑。

アルン郊外エリア 来島・万斉・武市・サクヤ・アリシャ・ユージーン→高杉を捜索する鬼兵隊と一部の領主達が合流。利害の一致で一時的に協力する。

世界樹内 高杉・ユイ・シウネー・フレイア→偶然にも遭遇した者達で寄せ集まる。各々目的は違えど、マッドネバーの監視を上手く回避しつつ、世界樹内を移動する。

高杉→強いて言う目的はマッドネバーの復讐。のらりくらりと自分の興味の向くままに動いている。
ユイ→目指すは奪われた結晶を取り返すこと。高杉らと合流し、彼らに頼み込もうと考えている。
シウネー→星を守るために高杉と共闘。彼への信頼を芽生えさせている。
フレイア→信頼を寄せるシウネーと行動を共にするも、高杉はあまり信用仕切っていない。それでも囚われた民を救うために、彼らと行動を共にしている。

マッドネバー側 オベイロン・野卦(リュウガ)・亜由伽(ダークキバ)・唖海(ポセイドン)・宇堵(ソーサラー)→アルンの掌握を著しく喜ぶ。侵略範囲を広げようとしていた。ちなみにダークライダーの変身者はあくまで対外協力者であり、このクーデターが終わればまた別の星で暴れ回るという。


 そんな多くの者達がクーデターに巻き込まれる中、さらにもう一つの勢力が密かにアルンへと忍び込んでいた。それは……

 

「ねぇ、この戦闘員の残骸使えそうじゃないかしら?」

「それで忍び込むってか?」

「おいおい大丈夫かよ」

 

 ユイを救出するため。はたまたユウキと合流するために行動していた、超パフューム組と残りのスリーピングナイツである。どうやら妙が到着早々に、戦闘員の装飾品を見つけて、仲間に変装を提案してきたのだ。長谷川やジュンはやや抵抗気味であったが……。

 

 何故彼らが共に行動して、瞬時にALO星へ来れたのか? 事態は数時間前に遡る。

 

アルン裏道エリア 志村妙・柳生九兵衛・猿飛あやめ・月詠・ジュン・テッチ・タルケン・ノリ・エギル・長谷川泰三・たま→密かにアルンへと忍び込む……

 

 

 

 

 

 

 

 時系列はちょうど万事屋や真選組が、マッドネバーと乱戦を繰り広げていた時。恒道館の一室では、妙らが偶然にも遭遇したジュンらスリーピングナイツの面々を迎えており、彼らなりの事情を聞こうとしていた。九兵衛、あやめ、月詠が情報を集めているうちに、妙はジュンら四人に料理を振舞っている。

「さぁさぁ、疲れているでしょうからたんと食べて頂戴ね」

「はぁ……」

 もちろんお馴染みのダークマターであるが。四人の目の前に置かれたのは、どう見ても焦げた謎の残骸。はっきりと分かることは、到底食べ物と認識していないことだ。

 にこやかにも料理を勧めてくる妙に対して、ジュン、テッチ、ノリ、タルケンの四人は彼女の対応に困り果ててしまう。

「あの……これは何ですか?」

「卵焼きよ。ちょっと焦げちゃったけど」

「いや、焦げたってレベルじゃないんだけど!? 原型をとどめていないよ!?」

 ノリが激しくツッコミを入れようとも、彼女は調子を崩さずに振舞っていく。

「あら、いけないわ。そっちは目玉焼きだったわ。卵焼きは一番右端にあるわよ」

「いやいや、どっちも同じだろ」

「料理をいただけるのはありがたいのですが……流石に抵抗心があるというか」

「そもそもこれ料理なのか――」

「いいから黙って食えやぁぁぁ!! 百聞は一見に如かずだろうがぁぁ!!」

「ブフゥ!?」

 ぐちぐちと文句を垂れ流すジュンらに痺れを切らしたのか、妙は黒焦げの卵焼きを握りしめた後、ジュンの口へ無理矢理詰め込んでしまった。先ほどまでの穏やかさが微塵に感じられないほど、粗暴な性格へと豹変している。突飛な行動に仲間達は困惑しつつも、すぐにジュンの容態を心配してきた。

「ジュ、ジュン!?」

「お、おい! しっかりしろ!?」

「あっ。アレは女神様だ……」

「いや、どこにもいないって!? アンタまさか、幻覚見てるの!?」

 いくら体をゆすっても、彼から聞こえてくるのは戯言のみ。心なしか表情もやつれており、目の光もスッと抜けていた。

「と、とりあえず助けを呼ばないと!」

 事態を重く見たタルケンが、勢いよく部屋を出ようとした時である。

「妙ちゃん。どうやらALO星の剣士達で間違いないようだ」

 ほぼ同じタイミングで九兵衛が、ゆっくりと部屋に入り込もうとしていた。もちろん共に立ち止まることが出来ず、

「えっ?」

「あっ……!?」

やむを得ずに衝突してしまう。ただ不幸なのはここからであった。

「うわぁぁぁぁ!? ぼ、僕に触るなぁぁぁぁ!!」

「な、なんで!?」

 男に触れられることが苦手な九兵衛は、即座にタルケンの腕を掴んで、勢いを付けて背負い投げしていく。吹き飛ばされた彼は、そのまま近くの壁に激突してしまった。

「タルケン!? しっかりしろ!?」

「ちょ、ちょっと……これからどうなるの!?」

 ジュンに続いてタルケンも被害を被ってしまい、増々混乱状態に陥ってしまうスリーピングナイツ。テッチはタルケンの様子を探り、ノリは断末魔の如く叫び声を上げていく。

 まさに地獄絵図のような光景である。

「あらあら。元気が良い子達ね。神楽ちゃんとも仲良くなれそうな雰囲気だわ」

「そ、そうか……?」

 妙は事態を重く見ず、呑気にも小言を呟いていたが。九兵衛も苦い表情で反応に困ってしまう。

 こうしてスリーピングナイツ一行は、早くもこの星にいる強烈な人間達の洗礼を受けてしまった。

 

 それから数時間が経った頃。ようやく事態の混乱は収束したものの、その代償として無駄な時間を過ごしてしまった。辺りはすっかり夕暮れ時に染まっている。(ちなみに同じ時間帯では、銀時らは万事屋へと帰宅。ユイを連れ去られて失意に暮れる中、女子達がたまたま訪れている――と言った一幕がある)

 部屋にはあやめや月詠も集結しており、長い時間を得て遂に話し合いが始まろうとしていた。

「アンタ結局あの卵焼き用意したの?」

「だって、シリカちゃん達が食べなかったもの。人に出しても文句ない出来だったわよ」

「その高い自信はどこから来るんじゃ……」

 焦げた卵焼きこと通称ダークマターを客人へ提供したことに、一段と驚きを覚えるあやめと月詠。それらを口にしたジュンらの様子は、想像に難くなかった。とりあえずは無事でいることに一安心している。

「ぼ、僕、生きているよな?」

「私も大丈夫……ですよね?」

「あぁ、問題ないぞ」

「心配しなくても、大丈夫だって」

 一方のジュンやタルケンは、自身の様子を改めて仲間に確認していた。疑心暗鬼と化しており、一段と用心深くなっている。特に二人は手酷い目に遭っているため、心配で仕方がないのだ。

 それでも場が一段落したところで、本格的な話し合いに突入していく。

「さて、ようやく話が出来るな。君達の言う通り、ALO星の剣士だということが分かった」

「一応だけど、改めて名前を教えてもらえるかしら?」

 集めてきた情報を頼りに、九兵衛は話を振っている。身分等は柳生家や江戸の情報網から把握したらしい。すると再度確認するために、妙は四人の名前を聞いてきた。

「あぁ、うん。僕はジュンだ」

「俺はテッチ」

「私は……タルケンと言います」

「はいはい、人見知り発動しないの。アタシはノリね。それでアナタ達は?」

 彼らは順序良く名乗るが、タルケンだけは目の前の女性陣に萎縮して、尻すぼみをしてしまう。こちらの世界の彼もあがり症はあるようだ。

 とそれはさておき、ノリも改めて妙らに名前を聞いていく。

「そうね。私がかぶき町の女王、志村妙よ」

「僕は柳生家の当主、柳生九兵衛だ」

「わっちは吉原の番人、月詠じゃ」

「そして私は、銀さんのメス〇タよ!!」

「でこの変態は猿飛あやめじゃ」

 こちらも調子よく名乗ったものの、あやめだけはズレた返答をしている。ふざける彼女を仲間達は一斉にスルーして、月詠が代わりに名を伝えていた。

 明らかにクセの強い女性陣を目の当たりにして、ジュンらにはとある迷いが生じる。

「おいおい、こんな訳アリな人達を頼っていいのかよ?」

「いきなりメ〇ブタはドン引きだろ」

「〇スブタとは一体……?」

「そこ掘り下げなくていいから! ていうかアンタら、メス〇タっ言葉を言いたいだけでしょ!?」

「ノリも言っているぞ」

「うるさい! とにかく、事情だけでも話してみようよ。協力してくれるかもしれないし」

「そうかな……?」

 本当に信じて良いのかだ。正体不明の物体を作る女性に、恥ずかしげもなく変態チックな一面を披露する女性。ぱっと見ただけでも半々が一筋縄ではいかない相手で、正直ためらいが生まれている。雰囲気につられて、何故かメスブタを連呼していたが……。

 とりあえずは否が応でも事態を飲み込み、事情だけは話すことにしている。すると空気を察したのか、月詠から話しかけてきた。

「ところで主らは何故、この地球へと来たのじゃ?」

「えっと、私達も何が何だか分からないのですよ」

「気が付いたらここにいたって感じだ……」

 彼女の質問にタルケンとテッチが答えている。地球へ飛ばされた訳は詳しく辿ると万事屋が絡んでいるのだが、場にいた全員は残念ながらその事実を知らない。

「じゃ、それまではどこにいたって言うのよ?」

「それはテロリストのアジトだよ!」

「テロリスト?」

「そう。アタシ達は姫様の命を受けて、奴らの蔓延るアジトに向かったの。でも途中で策に落ちて、ずっと謎の空間に囚われたってこと」

 トントンと話は進み、今度はジュンとノリがここに来る前に起きた出来事を語っていた。これらの情報から妙らは、四人が窮地に陥っていた事実を知ることになる。

「うむ。なるほど……」

「元いた星では、大切な任務があったということじゃな」

 その壮絶そうな戦いから、女性陣はジュンらの苦労を痛感していく。一方の妙も自分なりの言葉で彼らを励ましてきた。

「なるほどね。過程はどうであれ、術から脱せられたことは良いことじゃないの。腹も満たせたし、一石二鳥じゃないの」

「そ、そうですね……ハハ」

 先ほどの料理を通して元気を分け与えたと勝手に思い込んでいた。優し気な微笑みを浮かべる妙に対して、タルケンやノリらは皆苦笑いかつ上っ面な言葉で反応していく。

((((腹を下すの間違いだろ!?))))

 しかも四人揃って、心の声を合わせる始末である。それくらい妙の黒焦げの料理が悪い意味で印象に残っているのだろう。

 そう四人が腹の中に本音をため込んでいるうちに、あやめと月詠はあるニュースを思い出している。

「アレ? そういえばツッキー。さっき見たニュースって」

「ま、まさか?」

 話を聞くうちに思い当たる節があり、すぐに彼女らは部屋にあったテレビを付けていた。チャンネルを変えていくうちに、とある報道番組が目に留まる。

「現地の情報によると、アルン及び他の街も混乱状態に陥っているようです。辛うじてテロ組織の進行は防げたようですが、アルンには謎のバリアが張られていると情報が入ってきています。未だに地球人の安否が分かっていません。こちらのニュースも、速報が入り次第お伝えしたします。次は――」

 こちらの番組では結野アナが最新の情報を伝えており、ちょうどALO星で起きたクーデターを紹介していた。

 あやめや月詠は「やっぱり」とと顔をしかめており、さらにそのニュースを見た妙らやジュン達も思わず衝撃を受けてしまう。

「お、おい、ちょっと待って!?」

「今のニュース、本当ですか!?」

「やっぱりクーデター関係のニュースはアルンだったのか」

「随分と大きな騒動になっていたわね……」

 ここで四人はようやく、自分達の星が最大の危機を迎えている事実を知ってしまう。九兵衛や妙も改めて真実を知ると、何とも言えない表情を浮かべていた。

 どうにも出来ない状況に皆が憤る中で、ジュンやノリらは早速動き出そうとしている。

「って、こうしちゃいられないって!?」

「そうそう! 早くアタシ達の街に戻らないと!」

「えっと、み、皆さん!? どうすれば良いですか!?」

「って、投げやり!?」

 揃って四人は盛大に焦っており、所かまわずあたふたとしてしまう。仕舞いにはあやめら女性陣に事を投げ出している。それくらい頭が混乱しているのだ。

「落ち着きなさい、みんな。ここで焦っても何も解決しないわよ」

「で、でも……アルンが制圧されては!」

 妙も優しく声をかけるが何一つ効果は見受けられなかった――はずだが。

「あっ、そうだ! みんなを落ち着かせるためにたまごプリンでも作ろうかしら。甘いものを食べれば、きっと落ち着――」

〈バサァ!?〉

「アレ? みんな?」

 妙が料理を口走るや否や、途端に四人は冷静さを取り戻して、すんなりと座り込む。いわば妙の料理に危機感を覚えており、本能的に避けたいがために回避行動を繰り出していたのだ。

「も。もう落ち着きました!」

「たまごプリンなんかなくても、とっくに冷静さは戻ってるから!」

「あら、そう? 折角作ろうと思ったのに……」

「作らなくても、大丈夫ですー!」

 四人は落ち着いたことを必死にアピールしており、否が応でも妙から卵料理を遠ざけている。ここまで来るとほんの短い時間の中で、トラウマを植え付けることが出来る妙の料理の凶悪さがしみじみと伺えるであろう。

((((もう卵料理は勘弁して……))))

 またも四人の気持ちは一つに一致していた。

「妙ちゃん。知らぬうちに手名付けてないか……?」

 隣で一連の様子を見ていた九兵衛も、ついつい唖然としてしまう。

 ――そして数分が経ち、本当に一行が落ち着いた頃。現実的な考えを踏まえつつ、ALO星に向かう手段を画策していた。

「じゃが真面目な話、ALO星に向かうには、宇宙船が必要ではないか?」

「柳生家の力で如何にか出来ないの?」

「流石にすぐには無理だな。出来たとしても数日はかかる」

「うーん、難しい状況ね……」

 月詠やあやめらも如何にか彼らの力になりたいが、やはり別の星になると話はそう簡単に上手くはまとまらない。権力でどうとでもなりそうな柳生家でも、すぐに宇宙船を出すことは無理だそうだ。この点は真選組側も同じと言えよう。

 中々しっくりくる案が浮かび上がらない中で、ジュンら四人も反応を返そうとした――その時である。

「おい! おっ、ここにいたか。アンタら!!」

 突然にも部屋の襖が開いて、勢いよく一人の男が場に乱入してきた。その正体はエギルであり、彼は血相をかいた表情で女性陣に話しかけてくる。

「あら。これまた珍しい客人ね」

「えっと……月詠さん達の知り合いか?」

「そうじゃな。確か、えっと……」

 あまり会うことのない彼の乱入には、ジュンらのみならず月詠らも反応に困ってしまう。仕舞いには思う付きで名前を当てる始末である。

「あっ、遠軽じゃな!」

「違う違う、エボラよ!」

「エボルじゃないのか?」

「ボギー・オロゴ〇だったはずよ」

「全然違ぇよ!! ていうかお妙さんは、原型すら残ってねぇじゃねぇか!」

 月詠、あやめ、九兵衛、妙の順で発するも、どれも大外れだ。妙に至っては名前の原型すらとどめていない。あまりの横暴さに、エギルもたかが外れたようにツッコミを入れていた。自身の扱いを不憫に感じながらも、正しい名前を言おうとした時である。

「エギル様です。お間違いないのないようにお願いしますね」

「た、たまさん」

「おっ。たまさんも来ていたか」

「あぁ、そういえばそんな名前だったわね」

 エギルに続いてたまも顔を出していた。彼女の解説によって、ようやく女性陣はエギルの名前を改めて知る。

 一方のジュンらも空気を読みつつ、事態を理解しようとしていた。

「エギルさんにたまさん?」

「ど、どうしたんだ? そんなに血相を書いて」

 ひとまずはエギルやたまに、何が起きたのか詳しく聞いてみる。

「そうでした。実は皆さんの力が必要でこちらに駆けつけました」

「僕たちにか?」

「あぁ。落ち着いて聞けよ……ユイが誘拐されたんだ!!」

「えっ!? ユイちゃんが?」

 その情報は青天の霹靂の如く、不意に降りかかっていた。万事屋の一人であるユイの誘拐は、微かに信じ難いものである。ユイを知る女性陣は、皆困惑めいた表情になってしまう。

「それ本当なの!?」

「本当です。残念ながら……」

「一体何が起きたのじゃ?」

「詳しくは分からないが、一応万事屋にみんなが集まっているみたいだ」

 次第に彼女達は事態の深刻さを把握して、その内心をやきもきとしている。

「ユイちゃん?」

「九兵衛さん達の知り合いかな?」

 タルケンやノリらも薄っすらとだが、重々しい事態に勘付いていた。場の空気がまたも新たな情報に右往左往とする中、さらなる乱入者がこちらに近づいていく。

「た、大変だぁぁぁ!!」

 盛大に焦りながら駆けつけてきたのは、無職である長谷川泰三であった。

「今度は長谷川さん?」

「またクセの強い人が来た!?」

 サングラスに不潔な風貌と、ジュンらは見た目を見ただけで一癖もある人物だと察する。肝心の長谷川は彼らを気にせずに、しゃしゃり出ながら話を始めていた。

「大変なんだ、聞いてくれよ!」

「分かっているわよ、グラサン! ユイちゃんが連れ去られたことでしょ!」

「えぇ、そうなのか!? マジかよ!?」

「アレ? 違うの?」

 どうやら伝えたかったことは、ユイの一件ではないらしい。さらなる緊急事態が起きたと思い込み、皆が彼の話を注視してみたが――

「俺が伝えたかったのは、就職が決まってんだよ! 悪のショッカー幹部としてな!」

その内容は割とどうでも良いことだった。いわばネタとして言っており、長谷川ではなく彼の中の人がとある映画で個性的な役を務めるようである。はっきり言うと私情だ。

 拍子抜けした話の内容に、場にいた全員の緊張がスッと抜けてしまう。

「アレ? どうした、みんな?」

「どうでもいいわ!! てめぇの内輪ネタはぁぁぁ!!」

「ブフォォォ!!」

 ほぼ蛇足だった長谷川の話に怒りを覚えた妙は、容赦なく彼にドロップキックを繰り出していく。ツッコミを混ぜつつ攻撃をしたが、完全なオーバーキルである。

 こうして妙ら女性陣の元には、意外な協力者達が集結していく。銀時らが悩み続けるその傍らで、密かに特別なチームが出来上がろうとしていた――

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、万事屋へ向かうことにしたけど……」

「君達も付いてきて良かったのか?」

「あぁ! むしろ行かせてくれ」

「このまま動かずにいるのも気がすまないからな!」

 エギルやたまからの情報を聞いて、妙ら女性陣一行も事態を確認するために万事屋へと向かうことにしている。現在は一刻も早く到着するために、目的地まで走り続けているのだが……乗り掛かった舟が如く、ジュンやタルケンらスリーピングナイツらも妙らについてきていた。皆じっとしてはおられず、気がかりのためについてきているという。

(ちなみにだがあらゆる事態を想定して、女性陣はしっかりと武器を所持している)

 総勢十一人が万事屋へとがむしゃらに走り続けていた。そんな中で月詠は、たまにユイをさらった大本について聞いている。

「ところでたまさん。ユイをさらった奴等って、結局誰なんじゃ?」

「私も話を断片的にしか聞いていませんが、どうやらマッドネバーという組織で間違いないようです」

「マッドネバー? 聞いたことがない組織ね」

「地球ではなくALO星で暗躍しているみたいですね。今あの星で起こっているクーデターは、奴らが大いに絡んでいるそうです」

「「「「えっ!?」」」」

 彼女からの情報をきっかけに、一番肝が冷えたのはスリーピングナイツの面々であった。ちょうど彼らが敵対しているテロ組織と、情報が一致しているからである。急いで四人は、たまにさらなる情報を聞き出そうとしていく。

「おいおい、マジか!?」

「それ本当なのか!?」

「そうですよ。どうしたのですか、急に?」

「いや、アタシらが戦っている組織と同じに聞こえるのよ」

 情報の正確さは不明だが、これが事実ならば彼らにとっても都合が良い。タルケンはすぐに、その事実に気付き始めている。

「ちょっと待ってください! と言うことは私達と妙さん達の目的は、ここで一致するのではないでしょうか?」

「全ては繋がったってことか……!」

「ならば話は早い! このままついていくまでだ!」

 そう。事件の元を辿ればどちらも元凶はマッドネバーだ。ならばこのままユイの一件を追えば、いずれはALO星に戻れる可能性もあると括っている。俄然としてやる気を取り戻した四人は、その情熱を燃やしつつ、万事屋へ突き進むことにしていた。

 一方のエギルは、そんな四人の姿に既視感を覚えている。

「うむ……似てるな」

「どうしたんだ、エギル? そんな辛気臭い顔して」

「いや、あの四人が俺やアスナの知り合いに似ているんだよ。さっき話しかけたが、一応違うみたいだ。にわかに信じられないが……」

 興味本位で長谷川も聞いていると、どうやら元の世界にいたスリーピングナイツを思い起こしたらしい。それなりに繋がりはあり、雰囲気も把握していたことから、先ほど会った四人が別人だとすぐに理解したようだ。

 小難しい話のためか、長谷川もあまり理解はしていない。

「えっと、つまり……ドッペルゲンガーや双子って話か?」

「いや、全然違ぇよ」

 エギルもボソッとツッコミを入れている。

 それはさておき、一行はようやく万事屋及びスナックお登勢の前に到着していた。ちょうど目の前には、お登勢とキャサリンが心配そうに佇んでいる。

「ようやく来たのかい、アンタら?」

「ナンカ見慣レナイ奴等モイマスネ」

「お登勢様、キャサリン様。訳は後でお伝えいたします。それよりも銀時様方は?」

「さぁね。妖精の女子共と真選組が入ったっきり、特に変わった様子は無いよ」

「何? リーファ君達に真選組も来ているだと?」

 彼女らに話しかけると、どうやら知り合いが万事屋に集まっているらしい。九兵衛も小さく驚いている。シリカら女子陣や真選組のみならず、実は桂やクラインらもいるのだが……流石にお登勢らもそこまでは把握していない。

 すると妙が質問を投げかけてくる。

「とりあえずは部屋に入ることは出来るのかしら?」

「さぁね。だが入ったところで、奴等は落ち込んでいるに違いないよ。そこは注意するこった」

「はい……銀時様やキリト様も一段と元気が無い状態でした」

「それだと、入るのにためらいますね……」

 やはり今万事屋へ入るには罰が悪いらしい。仲間をさらわれた喪失感は、予想以上に彼らの心に傷跡を付けているようだ。皆はその気持ちを密かに汲み取っていく。タルケンも小言のように事を呟いている。

 折角頼りがいのある仲間が揃ったものの、万事屋の出方を伺っていては、いつまで経っても事態は進展しないだろう。割り込めるようなきっかけが欲しいと皆が思い始めていた――そんな時である。

「ん? 皆様、アレを見てください」

 ふと上を見上げたたまがある光景を発見していた。それはなんと、万事屋から漏れている謎の光である。

「なんだあの光は……」

「行ってみよう!」

 不審な光に違和感を覚えた一行は、すぐに万事屋へと向かう。勢いよく扉を開くと、そこには奇妙な光景が広がっていた。

「えっ、なんだアレ?」

「光の扉……?」

 不可思議な物体を見るや否や、長谷川やテッチは早速声に出している。一行が目にしたのは、万事屋の部屋の中心にあった謎めいた光の扉であった。興味深そうに扉の中を凝視してみると、ジュンら四人はある事実に気付いていく。

「おい、見ろってみんな! 扉の中を!」

「中って……えっ!? アレって」

「アルン? 私達の街ですよね!?」

 テッチが指をさした方向に目を向けると、扉の奥に広がっていたアルンの街並みを発見していた。これにはノリやタルケンも、驚きでつい声を上げてしまう。

「何ですって? それって本当なの?」

「あぁ、間違いないよ! まごうことなく僕らの街さ!」

 あやめからの問いに、ジュンが勢いを付けて返答していく。やはり彼ら妖精達の故郷と見て間違いないだろう。そんな故郷と万事屋が何故繋がっているのか疑問は浮かぶが、九兵衛や月詠らは別の観点からとある事実に気付いている。

「そういえば、万事屋や真選組は全然いないな」

「確かに……まさかあやつらも?」

「扉をくぐって、ALO星に向かったのか?」

 つられてエギルも声を発していた。万事屋の中にいたはずの万事屋や真選組、シリカやリズベットと言った女性陣が、まったく気配を見せていないのである。一連の様子から、扉を通してアルンへ乱入したと推測していく。

 そう考えを巡らせているうちに、扉にも重大な変化が起きていた。

「おい、見ろ! 扉が閉じかけているぞ!」

「えっ、本当だ!?」

 長谷川が気付き、すぐに仲間達へ気付かせている。よく見ると扉が徐々に消えかけており、心なしか入り口も狭まっているように見えていた。このままではいずれ、完全消滅するのも時間の問題であろう。そう考えるのであれば、彼らがやるべきことはたった一つである。

「こうしちゃいられないって!」

「そうですね。私達も行きましょう!」

「あぁ、もちろんだ!」

「いくよ!!」

「って、みんな!?」

 一切の迷いもなく、ジュン、タルケン、テッチ、ノリの四人は途端に走り出した。衝動的に動いており、ALO星及びアルンの危機を救おうと画策している。騎士団としての責任を胸に、意地でも使命を全うしようとしていた。

「どうする、妙ちゃん?」

「決まっているでしょ。このままALO星に向かうのよ。祭りは多い方が楽しいでしょ」

「アンタらしい返答ね。でも嫌いじゃないわよ」

「わっちも同じだ。ユイだけに限らず、シノン達も心配だからのう」

 一方の妙、九兵衛、あやめ、月詠の女性陣も、次第に突入する覚悟を決めていく。恐らく万事屋や仲間達はユイを取り返すために、アルンへ向かったと思い込んでおり、彼らの助けになれば良いと考えていた。ちょうど皆武器も所持しているので、戦闘があってもすぐに適応できるだろう。覚悟の決まった表情を整えていく。

 そしてたまとエギルには、お登勢とキャサリンが背中を押している。

「たまにエギル。行ってやりな」

「お登勢様。本当に良いのでしょうか?」

「お店のことは良いんだよ。今はあの馬鹿共を連れ戻してきな。折角払うようになった家賃、まだ取り立てていないからさ」

「テメェラハ気ニセズニ行ッテ来ルニュ!」

「二人共……ありがとう!」

「ありがとうございます」

 不器用ながらも彼女らなりの言葉を投げかけていた。その本音は万事屋やユイを心底心配しており、普段通りの日常を取り戻してほしいからである。二人らしい粋な計らいを受け取って、たまとエギルは素直にその好意を受け止めていた。

「さぁ、長谷川さんも行くぞ!」

「えぇ、俺もか!? 足手まといにならないか!?」

「そんなことはありません。せいぜい囮役として頑張ってください」

「使い捨てる気満々じゃねぇか!!」

 ついでと言わんばかりに、長谷川もこの事態に巻き込もうとしている。ほぼ非戦闘要員である彼だが、何かしら役には立ってくれると二人は勘ぐっていた。たまは囮役にしようとしていたが――単なる冗談であろう。

 こうして偶然にも出会った十一人が、銀時やキリトらに続いてALO星のアルンに突入しようとしていた。ユイを取り戻すため。仲間に加勢するため。マッドネバーの野望を砕くため。各々の想いを胸に、未来を懸けた戦いに彼らは身を投じようとしていた。

「それじゃ、みんな。行くわよ!」

 妙の掛け声を筆頭に、周りの仲間達は頷いていく。狭くなった入り口を注視しながら潜り抜けつつ、彼らは遂にALO星へと進行していた。全員が通り抜けたと同時に……扉はスッと雪が解けるように跡形も無く消滅してしまう。

「大丈夫デスカ、アイツラ」

「心配はしないでいいよ。あの妖精達はともかく、地球の馬鹿共が向かったんだ。必ず成し遂げるさ」

 ずっと様子を見守っていたお登勢らも、後はたまやエギルらを信じ切るしかない。そわそわ心配しても仕方がないので、二人は普段通りに呑屋の仕事へと戻っていく。

 こうして銀時やキリト、ユウキらが知らないうちに、彼らの仲間達も密かにアルンへと忍び込んでいたのだ。新たな参加者がいることは、万事屋一行のみならず、鬼兵隊やシウネー、はたまたマッドネバーにも気付かれていない。ダークホースのような存在の彼らは、どんな活躍を見せてくれるのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからは回想の数々をご覧ください。

 

回想一 ふとした時に嫌な思い出が蘇るから、あぁ辛い。

 

 時系列は万事屋一行が次元遺跡から帰還して、しばらく過ぎた頃である。とある話を伝えたいらしく、キリト、アスナ、ユイは銀時らをリビングに召集。思い切ってある話を、三人に打ち明けようとしていた。

 時刻はちょうど夕食を終えた時間帯である。

「んで、急にどうしたんだよ?」

「珍しいですね。三人で話があるって」

「一体どうしたアルか? あっ、まさか!? できちゃった結婚の報告アルか!?」

「いや、違うから! そういう話じゃなくてだな……」

「銀時さん達に伝えておこうと思う話があるんですよ」

「伝えておきたいこと? 一体なんだよ?」

「次元遺跡の時に出会った、あのオベイロンについてよ……」

 緩めの雰囲気で接する銀時、新八、神楽に反して、キリト、アスナ、ユイの三人は揃って神妙な表情を浮かべていた。気まずそうな雰囲気のまま彼らが話題に上げたのは、自身の知るオベイロン(SAO)の一件である。

「そういえば、お前らの世界にもいたんだっけか? こっちから聞かなくとも、ロクでもない奴に変わりは無さそうだけどな」

「あんなゴミクズ野郎は、アッスーのいた世界だとどんな感じだったアルか?」

「はい……こちらのオベイロンとも似たり寄ったりのゴミクズ野郎でした」

「ユイちゃんがそんな粗暴な言葉遣いまでするって……どんだけ最低な人だったんですか」

 比較的良心的なユイでさえも、乱雑な扱いをされるオベイロン(SAO)。これだけでも彼らの恨みを買っていることがひしひしと伝わる。銀時らは覚悟して聞くことにした。

「アイツと出会ったのはSAOから帰還した時。まだアスナが眠っている時だったんだ」

「現実での名前は須郷で、ALO内ではオベイロンと名乗っていたわ」

「意地でも名前なんか呼びたくなかったけどな……」

 共に神妙な表情で語り始める中、銀時には疑問が浮かんでいる。

「アレ? でもなんで、ここじゃオベイロンって言ってんだ?」

「それはそもそもあの男の本名だからじゃないのか?」

「あぁ、そうか」

 意地でも呼びたくない名をこの世界で呼んでいるわけは、その呼び名しかないからだという。至極当然な理由だった。

 それはさておき、キリトらの話は続く。

「アイツはALOのゲームを裏で操っていて、密かに人体実験までしようとしていたんだ」

「マジアルか。どんな実験アルか?」

「簡単に言うと人間の感情や意思を、自分の思うままに操る研究ね。言うまでもないけど、非人道的よ」

「って、どっかの宗教団体かよ。〇〇ムと差し支えても可笑しくないだろ」

「おい、それは言うなよ」

 次々と明かされていくのは、彼らの世界のオベイロンの自己的な一面。銀時も思わずブラックジョークを口ずさむほどである。新八からも冷静にツッコミを入れられてしまう。

「さらにはママに対する執着心が異常でした。一歩間違えば、強制的に結婚させられていたかもしれないので……」

「そんな切羽詰まった状況だったんですか?」

「そうね。逃げられないように、ゲーム内の鳥籠に閉じ込められていたもの」

「ただアイツはアスナにこだわり過ぎたせいで、隙が出来たのも事実だからな……」

「お前ら……改めて思うが、壮絶な人生歩んでいるんだな」

 さらに続けて話したのは、オベイロン(SAO)の異様な執着心である。いわばNTRをされる直前だったと聞き、銀時らは思わず心を引かせていた。彼らから見ても、キリトらが壮絶な修羅場を経験していることが伝わってくる。

「とりあえずゴミクズ野郎が、変態ゴミクズクソミソ男ってことは理解したアル」

「いや、ゴミクズは外さないのかよ」

 神楽の毒舌も一段と鋭さが増していた。頑なにゴミクズは付けており、またも新八が静かにツッコミを入れる。

 その後もキリトらは、アップデート前のALOで起きたことを大方話尽くしていた。総じて分かるのは、僅かな時間のうちに多くの困難を乗り越えたことである。

「――って、感じだな」

「分かったよ。お前らが妬む理由もよく分かったさ」

「私らがあの場にいたら、須郷にヘリコプターをぶつけてやったアル! ゴラァ!」

「落ち着いてって、神楽ちゃん。でも卑劣なヤツってことに変わりはないな……」

 銀時らも須郷ことオベイロン(SAO)の醜さを嫌と言うほど知り、神楽も無茶苦茶な例え話をするほどだ。いずれにしてもキリトらには同情しかない。

「こちらの世界のオベイロンは、過程は違えど邪悪さは似てますよね……」

「野心はあの人以上だけど」

 そして自分達の知るオベイロンと、こちらの世界のオベイロンをユイやアスナらは比較していた。性格に多少の違いがあり、特に野心は本人以上に貪欲だと分析している。

 そう感想を言い合ううちに、一行はこの会話をまとめていく。

「とりあえず分かった。話してくれて、ありがとうよ。少しはすっきりしたか?」

「うん、そうだな。分かってくれる人がいて、安心したよ」

「そりゃ誰が見ても、あのゴミが悪いアル!」

「とうとう略しやがったよ」

 キリトらは打ち明けたことで気持ちが整理出来たようで、これには銀時らも一安心していた。神楽の怒りはより高まっていたが……それでも決めるべき時は決めている。

「何があっても、私達はアッスー達の味方アルよ!」

「そうですね。だから心配しなくても、大丈夫ですよ」

「皆さん……ありがとうございます!」

「勇気を持って話せて良かったわ」

 神楽、新八共に確かな信頼関係を改めて誇示していく。長い時間の中で築き上げた信頼はそう簡単に揺らぐものではない。三人の苦労を労わりつつ、そっと安心させている。

「いつかはあの話も……」

「どうしたネ、アッスー?」

「いや、なんでもないわ」

 そんな最中にアスナは、まだ話していないことを頭に思い浮かべていた。それはユウキやスリーピングナイツとの一件だが、真剣な話がためにやはり雰囲気を気にしている。いつかは話せることを願って、今は心の奥底にそっと閉まっていた。

 和やかな雰囲気でこのまま話が終わると思いきや、銀時は途端に不意の一言を発する。

「ところでよ、この話のオチってどうするよ?」

「えっ、オチ?」

「こんな良い話系で終わる訳にはいかないだろ。この後に笑い話とかもあんだろ?」

「えぇ……そんな急に言われても、笑い話なんて思いつかないよ。言うほど爆笑する話も無いからな」

 この雰囲気を良い意味で破壊する笑い話を要求したが、急に言われたキリトは当然困惑めいた態度を示していた。無論アスナやユイにも聞いてみるが、彼女達も首を振ってすぐには話が思いつかない。

 やや微妙な雰囲気に変わり果てたところで、銀時は新八にとある相談を交わしていく。

「おい、新八。この話はNG集に入れるぞ」

「えっ、なんでですか!?」

「こんなしんみりした話じゃ、一話分もたねぇよ。投稿者だって、困っているに違いないよ。だから四月頃を目途にNG集で出すぞ」

「そんなこと勝手に決めて良いんですか!?」

「良いんだよ。どうせキリト達は何が何だか分かっていないんだし」

「そんな無茶な!」

 メタもへったくれもなく、この会話の収録話を考え始めている。おまけのような立ち位置と彼は仮定しており、投稿者の許可も無しに決めようとしていた。あまりの横暴に、新八は激しくツッコミを入れていた。

 そんな二人の話す様子を、キリトらは不思議そうな表情で聞いている。

「何を話しているのですか、銀時さん達は?」

「また訳の分からない話?」

「結局何の話なんだ?」

「いや、やっぱりアッスー達には説明しづらいことネ」

 神楽にも聞いているも。彼女はやれやれとした表情で適当に受け流す。メタネタはこれまでも触れてきたが、何度説得してもキリトらに通じない分野だった。これも世界観が違う故の宿命なのだろうか……。

 こうして四月の投稿を目標に作られた今回の話だったが――投稿者の就活時期と重なり、粛々と投稿が伸びていくのだった。

「後に投稿者の諸事情によって、話の投稿が伸びたことを、この時の彼らはまだ知る由もないのである」

「おい、アンタがそこもナレーションするのかよ」

 

 

 

 

 

 

 

回想二 悪党の高笑いなんざ、たかが知れている

 

 時系列はマッドネバーのクーデターが完遂しきった頃である。

「ハハハ……!! 遂に制圧したぞ。思い知ったか、僕の底力を!!」

 誰もいなくなったアルンの中心街にて、高らかに笑い声を上げるのは、マッドネバーの首領であるオベイロン。彼の仕掛けたクーデターは見事に功を奏しており、ほぼすべての住人や観光客をミラーワールドに幽閉させていた。これも復元された再生怪人軍団によるおかげだろう。

「流石は僕の芸術品だ……今頃は他の街でも暴れ回っていることだろう」

 ふとオベイロンは後ろの怪人達を見つつ、自身の再現力の高さに酔いしれていた。

 彼の背後にはいわゆる戦闘員タイプの怪人が列を成しており、ライオトルーパー、カッシーン、レイドラグーン、魔化魍忍群、ワーム(サナギ体)、レオソルジャー、屑ヤミー、ダスタード、グール、バグスターウイルスと多種多様に集結している。ちなみにオベイロンが開発した装置や未完成の研究材料は、一式戦闘員達が運搬していた。いわば雑用係として働かされており、粗暴な扱いをしている。

 クーデターの成功を内心嬉しがっているオベイロンの元に、一体のライオトルーパーが報告にやって来ていた。

「オベイロン様。世界樹の制圧も成功致しました」

「ハハ……当然だろう。僕の怪人達がいれば、たやすいことさ!」

 鬼門であった世界樹の乗っ取りも上手くいき、さらに彼は気持ちを浮かれさせる。世界樹内にいた妖精も追い払えば、もはや自分の所有物にしたも当然だからだ。ここを拠点にして、未完成である装置を完成させるつもりである。

「ただし……姫様だけは発見できませんでした」

「はぁ? なんだと、それは本当か!?」

 浮き足だっていたオベイロンだが、この一言をきっかけに態度を豹変させてしまう。姫様はいわばALO星の最高権力者でもあり、彼にとっては性格も処遇も真逆の存在と言えよう。故に王室関係者の中では、一番妬んでいた人物なのだ。彼女の安否が不明なことを知ると、瞬く間に声を荒げていく。

「ほ、本当です……はい」

「ふざけるな!! いいから何としても探し出せ! でなければ貴様を……木っ端微塵にしてやるぞ!!」

 勢いに余ってライオトルーパーの首も絞めており、理不尽にも恐喝まがいな一言で脅していく。その姿はまさしく、利己的な独裁者そのものと言えよう。必死に脅しを続けていくオベイロンに、戦闘員達も困惑してタジタジになってしまう。

 そんな修羅場の中で、彼に声をかけていた人物がいた。

「落ち着け。いずれ見つかる事だ。それよりもあのツリーハウスを俺達好みに整えようではないか」

「お前は……シグルドか」

 その正体はなんとシグルドである。後に銀時やキリトらと協力関係を結ぶ彼だが、その正体はマッドネバーの協力者だった。騎士でありながら仲間や姫様を裏切っており、所謂スパイのような活動を裏で行っていたという。(奇しくも原典のシグルドと同じような行動をしていた……)

 そんな彼は堂々とした態度のまま、オベイロンを説得していく。

「八つ当たりは無用だ。今のうちに難攻不落の城を作れば、姫様とて敵ではないだろう?」

「……確かにそうだな」

「ならばすぐにやるべきだろう。それと覚えているよな? 俺が情報を提供する代わりに、お前の研究したベルトを譲渡する約束を」

「分かっている。今日中には渡すから安心しろ」

「頼んだぞ。俺は街を見廻っておくよ。じゃあな」

 終始辛辣な雰囲気のまま、二人の話し合いは終わる。目的は一致しているが、性格や相性の面で二人の仲はそれほど良好ではない。いわゆる事務的な関係性なのである。

 そんな彼との約束はさておき、シグルドに諭されたオベイロンは一段と落ち着いていく。そして自身の目的を改めて誇示してきた。

「さて、行くぞ。俺達の新たな城へと……!」

「「「ウウー!!」」」

 連れてきていた怪人達にも彼は扇動をかけていく。アルンを自身の手中に収めたと悟り、この調子でALO星の全てを支配しようと企てていた。その布石を早くも撒いていく。

〈エターナル!!〉

「ハァ!!」

 手始めにオベイロンは、自身の製作したアナザーエターナルウォッチを起動。体内へと取り込み、戦闘形態であるアナザーエターナルへと変身していた。彼から放たれる特殊な波動によって、妖精達の魔法や飛行能力をまんべんなく封じていく。

「おい、貴様! 早くあの装置を起動させろ!」

「ハハ!」

 途端にアナザーエターナルは、真横にいたカッシーンに指示。彼が運搬していた装置を、即座に起動していた。すると街一体に透明なバリアが仕掛けられていく。

「これでこの街には、魔法の幕が包まれていく。姫様とてこのバリアからは逃げられないだろうな! さぁ、世界樹へ向かうぞ」

 逃げ道及び援軍の進行すらも封じたところで、アナザーエターナルは戦闘達を連れて世界樹へと向かう。抜かりなく準備を整えており、本気でこの星を乗っ取ろうとしているのだ。そのためならば、どんな犠牲や迷惑も承知のようである。単なる自己中野郎なのだが。

 もはやオベイロンやマッドネバーの独壇場。彼らを止めるモノはもういないのだろうか。

 

 

「アイツら……私達の街をめちゃくちゃにして!」

 傍若無人な彼らの姿を、裏路地からそっと覗いている少女がいる。彼女の名はフィリア。銀時やキリト達と心を通わせたALO星のトレジャーハンターである。次元遺跡にてマッドネバーの脅威を知り、騎士団にその情報を伝えたのも彼女だった。しかし脅威を封じ込めるには一歩遅く、現在のアルンは無法地帯へと変貌している。

「もっと早く伝えられていたら……でも今は、如何にか奴等を追い払う術を考えないと!」

 強い責任は感じているものの、それでも今は前を向くしかない。例えアルンに一人しか残らなくとも、最後までマッドネバーに抗う意思を示していた。絶対に諦めないと強く鼓舞していく。

 そう動き出そうとした彼女に――タイミングが悪く、新たな脅威が迫ろうとしていた。

〈バット! ミスト……マッチ! バット、バット……ファイヤー!!〉

「フッ!? 何!?」

 謎めいた起動音が聞こえたと同時に、後ろを振り返るとそこには黒い影が襲い掛かろうとしている。フィリアはすぐに武器である片手剣を抜き、相手からの攻撃を相殺していた。

「だ、誰なの……!?」

「俺か? 俺の名は――ナイトローグだ」

「ナイトローグ? まさかあのダークライダーの仲間なの?」

「ライダーとはまた違うな。いわば疑似ライダーだ!」

 警戒しながらもフィリアは、襲ってきた相手の情報を探っていく。襲撃相手の名はナイトローグ。原典では仮面ライダービルドと相対したファウストの幹部だが……恐らくこちらも複製品であろう。しかし気になるのは変身者である。声で判断しようとも、ノイズがかかっており誰かは判断できない。だとすれば、力づくで見分けるしかない。

「アナタは誰なの! 答えなさい!」

「まだ言えないな」

〈エレキスチーム!〉

 ひとまずは彼の道具をはぎ取ろうとするも、即座に行動を見破られてしまう。ナイトローグは自身の武器であるスチームブレードのバルブを回す。搭載された技の一つ、「エレキスチーム」を発動させていた。

「くらえ!!」

「うっ、うわぁぁ!?」

 強力な電流を浴びせられたフィリアは、そのまま床に叩きつけられてしまう。さらには体にも異常が起きてしまった。

「この……えっ!? 動けない?」

 立ち上がろうとするも、体に電流が走ったせいで上手く出来ない。いわば麻痺状態に陥ってしまい、この上ない窮地を迎えてしまう。

 苦悶な表情を浮かべるフィリアに対して、ナイトローグは冷静にも淡々と対処していく。

「案外チョロいな、次元遺跡のお邪魔虫め」

「わ、私のことを知っていたの……?」

 第一に彼はボソッと文句を呟いている。フィリアの存在は認識しており、彼女に接触した理由もある目的が絡んでいたからだ。

「お前は利用する価値がありそうだ。怪人の研究材料としてな」

「研究材料……? って、何すんのさ!?」

 そう話しかけると彼は、フィリアを抱きかかえてどこかに連れ去ってしまう。

 果たしてフィリアの身に何が起きたのか。アスナらが会ったフィリアは、逃げ出した本人なのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

回想三 異文化交流はペットの方が優れている

 

 時系列はアルン突入後。シグルドと邂逅したキリトに悩みが生じていた時、銀時が屋上に連れて行って、女子陣が密かに覗いていた頃である。同じくついていった桂と、外に出向いていたシグルドを除いて、彼らの隠れ蓑だった宿屋の一階にはペット組しかいなかった。

「ワフフーフ、ワーフフ!」

「ナナナーナ、ナーナナ!」

[エリリーリ、ザーベス]

[あっ、俺は普通に話せるんだった]

 互いに鳴き声で会話するも、読者からすればチンプンカンプンだろう。辛うじて通じても、プラカードで会話するエリザベスくらいだろう。

 ここからは翻訳込みでお楽しみください。

「ワフフ(僕らだけになって暇だね)」

「ナナ……(ご主人様ったら、変なところでスイッチが入るんだから……)」

[まぁ、そう気に病むな。いつものことだ。俺の桂さんだって、奇々怪々な行動はとるぞ]

「ワフ?(それは慰めているの?)」

 やや落ち込んでいるピナに対して、エリザベスや定春が慰めていく。本当にその意思があるのかは不明だが。

 するとエリザベスは突拍子もなく、良い時間潰しを提案してきた。

[折角だしどうだ。ご主人様のアピール込みでボール遊びをするのは]

「ナ!?(そのボールどこにあったの!?)」

[細かいことは気にするな。そこらへんにあった]

「ワフ……ワフ?(えぇ……じゃやる?)」

 適当にその辺にあったボールを手にすると、ゲーム性を加えた疑似バレーボールへ二匹を誘う。二匹は突然の提案に困惑しつつも、他に代案が無いので素直に乗ることへした。

 互いに周りを囲むと、すぐにゲームを始めていく。

「ワフフフーフ(破天荒!)」

「ナナナ!(女子力が高い!)」

[今度はこっちだ。頼りがいのあるリーダーシップ]

 テンポよくリズムを刻みながら、皆頭部を突出させてボールを弾ませていく。最初こそはトントンと言葉が頭に浮かび、楽しみながらボールゲームを遊んでいた。

 だがしかし、何度も続けるうちにマンネリさを感じていき、言葉のレパートリーも減り続けていく。要するに皆飽き始めていたのだ。

「ワフ……(下剤で体重を減らしたこと……)」

「ナ……(恋に一途……)」

[ボケしかしない]

 互いに元気が無くなり、鳴き声やプラカードの文字にも張りが失われている。そもそもペナルティすら決めていなかったため、終わりどころを皆失いかけているのだ。

 そう惰性のまま続けていた時である。

[あっ]

 不運にもパスしたボールの連鎖は途切れて、外へと転がって行ってしまった。ゲームが終わったのは良いが、皆はボールの行方を気にしてしまう。

[外にボールが行ってしまった]

「ワフ!(行かないと!)」

「ナ!(敵に気を付けて!)」

 怪人達に悟られることを心配して、ペット組は揃って外に出てしまった。周囲の気配を警戒しつつ、そっとボールを回収していく。

[あった、あった]

 このまま誰にもバレずに、宿屋へ戻ろうとした時である。

[ん?]

 エリザベスはある不穏な気配を察して立ち止まっていた。

「ナナ?(どうしたの?)」

[静かに。これは衝撃的だ]

「ワフ?(えっ、なんで?)」

 ピナや定春も、エリザベスの様子に違和感を覚えて声をかけている。すると彼は厳重に戒厳令を敷き、二匹を南方へと向けさせていた。静かに息を殺して、目に見えたものは――なんとシグルドとダークライダーの変身者が会話する光景である。

「例の物は持ってきたか?」

「もちろんだ。ほれ」

 変身者の一人である唖海は、彼に漆黒のショルダーケースを一つ渡していた。早速中を開けてみると、そこには変身用のベルトと小型のアイテムが内包されている。

 そう。彼は密かに、マッドネバーと内通していたのだ。

「これが変身するためのアイテムか……」

「そう。この小物をベルトに装填すれば、アンタもダークライダーになれるのよ」

 変身アイテムを見るや否や、シグルドは不気味な微笑みを浮かべている。新たな力を手に入れたことを心底喜んでいた。

 にやけるシグルドを末恐ろしく思いつつ、ペット組の監視は続いていく。

「どうだ? 奴らの調子は?」

「完全に俺のことを信じ込んでいるな。同情に焚きつければ、もう一発よ。だが……黒髪と銀髪の野郎共は少々怪しいな」

「あの二人ね。特に曲者だから、気を付けなさい」

「分かっている。だが容易いさ。この俺がバレるわけないだろ、ハハハ!」

 シグルド自身は正体を隠していることに大変な自信があるようで、ダークライダー達にも強気で豪語している。彼の予定ではこのまま白を通すつもりのようだが――

[伝えに行こう]

「ナナ(そうだね)」

「ワフ(こっそり静かに)」

不幸にもその予定は総崩れとなってしまう。驚愕の事実を知った定春、ピナ、エリザベスは忍び足で静かに宿屋へと戻る。そしていつの間にか一階に集結していた仲間達に、事の顛末を話し始めていた。

 こうして場面は八十訓の銀時、キリトパートへと繋がっていく。これは前回の場面の補足である。

[シグルドは裏切者だったぞ]

「えっ? 嘘!?」

「それ本当かよ……」

[ヤツはマッドネバーと繋がっていた。俺達に接触したのも、後に利用するつもりだったからだろう]

「まさかな」

「よく見つからなかったわね」

「ワフフ!!」

「ナナナ!!

「……そうか」

 無論彼らはこの情報に驚嘆して、大なり小なり絶句していく。伝わりづらかった情報通達も、エリザベスのプラカードを介して上手く伝えていた。

 この情報により、一番ショックを受けていたのはキリトであろう。元の世界でもほぼ姿が同じのシグルドと出会い、そこでも彼の裏切りを経験しているからだ。嫌な予感は正当に当たったとも言えよう。

「はぁ……やっぱりか」

 そんな複雑な想いを苛まれるキリトを、銀時はそっと様子を見ていく。先ほどシグルドの件で語り合ったからこそ、やはり彼にも心に来るものがあった。一行が密かに内容を整理していくと、

「すまない! 少々遅れてしまった……って、どうしたのだ? 皆で集まって」

「ううん。なんでもないわよ!」

「アンタが来る前に、ちとこちらで作戦を話し合っていたんだよ」

[今すぐにでも出発できるぞ]

絶妙なタイミングでシグルドが戻ってきている。その手にはケースを所持しておらず、その代わり何かを隠しているように腰元には手を当てていた。銀時やキリトら一行は気付いていないフリをしつつ、今後は彼と接触することになる。互いの顔の表情でコンタクトを取りながら、シグルドの対策を練っていく。

 こうしてシグルドの裏切りが判明したことで、皮肉にも彼以外のチームメンバーに一体感が生まれている。この事実を彼本人はまだ知らないのだ――




周知
 前回及び前々回で「アリシャ・ルー」を「アルシャ・ルー」と誤植していました。現在は訂正されているのでご安心ください。また七十五訓で、整合性を合わせるために台詞の一部変更を致しました。ご了承ください。

下書き
 さて、出す機会を伺っていた話をようやく出せることが出来ました。幽閉されていた残りのスリーピングナイツは、お妙さん達と接触。後に卵焼きの犠牲となりました……個人的にはタルケンと九兵衛の異性人見知り組のやり取りが好きでした。
 彼らだけじゃなく、エギル、たま、長谷川もALO星に向かいました。ということは……予定している最終決戦には、彼らも加わるかもしれないですね~(ほぼ確定だけど)

 回想場面では特に気がかりだった三つの場面を掘り下げてみました。オベイロン(SAO)のことを万事屋に話す場面は振り返ると無かったので、今回製作しました。ちなみに最後のグダグダなシーンは、アドリブです(笑)
 そして本性を現したのは、やっぱりシグルド。実は内通者だったんですね~。「知ってた」って人がいるかもしれませんが……。本人はバレない自信があったようですが、あっさりペット組にはバレていました。なので次回からは、ドッキリ番組が如く正体を知った上で接することになります。ちなみに彼が手に入れたダークライダーの力は……次回以降のお楽しみと言うことで。
 フィリアの行方も気になるところですが、こちらも次回以降の活躍をお楽しみください。物語もいよいよ佳境。この先の冒険に待つ結末とは――では!!





次回予告

次回! 剣魂 妖国動乱篇

近藤「ここは俺の裸芸で気を引かせている!」
新八「おい、止めろ! ゴリラ!」

キリト「俺達の思った通りだ!」
銀時「本性を見せやがれ!」

ユウキ「僕はもう……覚悟を決めたよ!」

ユイ「お願いします! 私を何故認めてくれたのですか?」

妖国動乱篇八 伝・説・降・臨 青春スイッチオン!!


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第八十二訓 伝・説・降・臨

 今年はツイッターを使いこなせなかった一年でした。社会人になってからも、一応僕なりに続けていく予定です……。

これが前回の剣魂 妖国動乱篇
妙「いいから黙って食えやぁぁぁ!! 百聞は一見に如かずだろうがぁぁ!!」
ジュン「ブフゥ!?」

たま「そうでした。実は皆さんの力が必要でこちらに駆けつけました」

タルケン「そうですね。私達も行きましょう!」
テッチ「あぁ、もちろんだ!」
ノリ「いくよ!!」

お登勢「お店のことは良いんだよ。今はあの馬鹿共を連れ戻してきな。折角払うようになった家賃、まだ取り立てていないからさ」

シグルド「ならばすぐにやるべきだろう。それと覚えているよな? 俺が情報を提供する代わりに、お前の研究したベルトを譲渡する約束を」

フィリア「だ、誰なの……!?」
ナイトローグ「俺か? 俺の名は――ナイトローグだ」

エリザベス[伝えに行こう]
ピナ「ナナ(そうだね)」
定春「ワフ(こっそり静かに)」


 アルンの東西南北に渡って、密かにアルンの世界樹へ忍び込もうとしている二つの勢力。南西にいたフィリアらは、ようやく侵入する計画をまとめていた。正面から隙を見て侵入、その後に作動している装置を破壊する算段である。

「それじゃ、この作戦で良いかな。みんな?」

 彼女は元気よく場にいた仲間達に、改めて内容の確認を促す。だがしかし、その反応はまちまちだった。

「あぁ、良いぜ」

「こっちもでさぁ」

「って、なんで私のことを睨みつけているの……?」

「いや、気のせいだ」

 神妙な表情のまま、土方と沖田は変わらずにフィリアの正体を怪しんでいる。本人は困惑めいた反応をするも、二人は気のせいと適当な言葉で受け流す。

「なぁ、どうする?」

「それは出会ってしまった時にしようよ……」

 一方でクラインやリーファは、アスナとこの世界のユウキが遭遇した時の気まずさを気にしている。そわそわと心を焦らせていた。

「どうしよう……全然覚悟が決まらない!!」

 彼らに続いてユウキも心に迷いが生じてしまう。自身がウサギから妖精に戻った際、どんな顔でアスナと顔を合わせれば良いか分からないのだ。

「なぁ、新八君! この星の平和が戻ったら、お妙さんをデートに誘おうと思うんだが、了承してくれるかな!?」

「無理に決まってんだろ、このゴリラ」

 緊迫感に包まれる彼らとは相反して、近藤は新八にしつこい恋愛相談を繰り返す。近藤には謎の自信があったが、新八は毎度のように冷めたツッコミで受け流していた。

 仲間達の大半が、フィリアの反応を素通りしている。

「なんだかみんな落ち着きがないわね」

「銀ちゃんみたいなまとめ役がいないからじゃないアルか?」

「うーん……ねぇ、みんな! 一旦落ち着きましょう。フィリアちゃんも困っているから」

 まとまりのない仲間達の様子を心配して、アスナや神楽が率先して話に折り合いを付けようとする。彼女らの働きかけで、フィリアのまとめた作戦がようやく一行へ伝わることになった。

 その一方でアルンの北東部にいるシグルド側では、

「では、この突入作戦で問題はないな」

「「「「もちろん!!」」」」

「……全員一致か」

対照的に全員の想いが一つになっている。これもシグルドの正体を知った上のリアクションで、密かにアイコンタクトを取りながら七人と二匹は気持ちを合わせていた。

「ハハ、流石は騎士の一人だな。君を仲間にして、本当に助かっているよ」

「そ、そうか?」

「そうです! もっと自信を持ってください!」

「ナナ!」

 桂やシリカは和やかな雰囲気で、シグルドを調子良く持ち上げる。無条件で肯定された彼は、まんざらでもない表情を浮かべていた。愉悦に浸る彼とは対照的に、銀時やキリトらの内心はある一点に集約されている。

(とりあえず、世界樹までは共に行動するぞ)

(怪しい動きを見せたら……一気に歯向かう!)

 銀時やキリトがこっそりと本音を発すると、考えを悟ったリズベットやシノンは心強く頷く。仲間達は皆シグルドに反旗を翻すつもりで、それまではとことん利用する算段だ。定春やエリザベス、ピナのペット組の活躍により、有利な状況へ場を進ませている。奇しくもフィリア側とは正反対の一体感だ。

 こうして二組の世界樹侵攻が実行に移されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 密かな侵入計画が立てられていく中、世界樹内でも大きな動きが生じている。

「どこだ、あの小娘は!」

「急げ! オベイロン様の気付く前に!」

 ライオトルーパーやカッシーンと言った戦闘員達は、辺りを右往左往と駆け抜けていく。その根本にはユイが絡んでおり、なんと謎の侵入者によって檻を抜け出したという。原因は高杉ら混合チームだが……この時の彼らは混乱状態にあり、情報の判別が付いていない。とにかくユイを見つけ出すことに躍起となっている。

 そんな慌てふためく彼らの様子を、混合チームは死角からそっと覗いていく。

「良い様だな。このままくたばりやがれ」

 高杉は相変わらず皮肉を発していたが。それはさておき、そんな彼に対してユイはひとまず感謝を伝えていく。

「あの……ありがとうございます、高杉さん。助けてくれて」

「だから言ってるだろ。借りを返しただけだ、俺は」

 ゆっくりと真剣な表情で伝えるも、高杉はぶっきらぼうな態度で返す。建前としてはただの恩返しで、そこに善意が含まれているかは未知数である。

 そうやり取りを続けていると、シウネーとフレイアも話に割り込んできた。

「ところで高杉さん。この少女とはどんな関係なのですか?」

「ただの見知ったかだ。そんなに深い縁じゃねぇさ」

「なるほど……では、この世界樹にいたのも心当たりがないということですね?」

「だな。俺もまさか、あの野郎が子供すら利用するなんて思ってなかったよ」

 彼女達が気になるのはユイとの関係性だったが、高杉曰く大した仲では無いと言い捨てている。これに関しては何一つ間違っていない。

 挙動や態度からシウネーらも、高杉に嘘偽りがないと確信していた。すると今度は、ユイにマッドネバーとの関係性を詳しく聞いている。

「では何故、アナタがマッドネバーに捕まっていたのですか?」

「はい。話すと長くなるのですが……簡単に言うと、私に秘められた力を利用しているみたいです」

「秘められた力?」

「私にも分からないのですが、どうやらあるみたいです……この星の全てを乗っ取るために」

「なんて男なの……」

 連れ去られるまでの過程を省略して、彼女は三人に自身の捕まった訳を話していく。そこで見えたのは、野心のために何でも利用するオベイロンの卑劣な一面である。

 星ごと自分の手に収めようとする暴挙に、フレイアらは体を震え上がらせていた。意地でも彼にこの街や星は渡さないと強く誓う。

「早くあの男を止めないと……でも、どうすれば?」

 それでも状況を逆転させるには、まだまだ難しいことに変わりはない。幾ら考えを立てようとも、少数のままでは無理が生じてしまう。皆が状況打開に頭を悩まされる中で、高杉はある事に気付く。

「おい、お前。この状況にしちゃ、やけに落ち着いているじゃねぇか? まさか秘策でもあるのかよ?」

「秘策ですか……一応あります」

 ユイの落ち着き様だった。不安と言うよりは希望を見出した雰囲気を悟り、率直にも理由を探っていく。するとユイは神妙な表情となり、ゆっくりと事を呟いている。

「それって本当なのですか?」

「一体どんな秘策なの?」

 秘策の存在を知ると、シウネーやフレイアも内容を問い詰めていく。注目が集まる中でもユイは冷静さを貫き、自身の知る結晶を打ち明かしていた。

「結晶です。次元遺跡で得た結晶を取り返せれば、状況は変わるかもしれません」

 こうして彼女は場にいた高杉らに、次元遺跡で得た結晶を事細かに明かしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ALO星にある世界樹には、四つの入り口が存在している。東西南北とそれぞれの方向にあり、一部の場所には一般人でも入ることが可能だ。ただし今はクーデターの最中。入り口には門番が用意されており、ライオトルーパーが二体と怪人が一体と見張りの役目を全うしている。おかげで世界樹には、容易に入る事すら出来ない。

 そんな難攻不落の城と化した世界樹に、二組の勢力が侵入を試みていく。

「着いたよ。ここが世界樹の南門だね」

「やっぱり門番はいるのね……」

 フィリアの案内の元、南門の近くまでやって来たのは、アスナ、神楽、ユウキ(ウサギ)、新八、近藤、土方、沖田、リーファ、クラインの一行。まだ各々に抱えている者はいるが、アスナの仕切りで一応はまとまっている。そんな彼らは世界樹内部へ侵入するために、近くへと這い寄っていた。

「うぅぅ……」

 唸り声を上げながら辺りを見渡すのは、怪人の一体であるオウルロード(ウォルクリス・ウルクス)。白いフクロウを模した超越生命体であり、飛行戦を得意としている。侵入者を見つけた際には、自慢のカギ爪で仕留めるつもりだ。

 睨みを利かせるアンノウンを警戒しつつ、フィリアらは隙を見ている最中である。

「おい、なんか白いヤツがいるぞ」

「アレは……アンノウンだね」

「アンノウン? どこにアルファベットがあるんだよ」

「いや、それはアンノーンアルよ。ドS」

 怪人の姿を見極めつつフィリアが固有名を発するも、沖田はポケモ〇の名前と混同していた。神楽は呆れながらも彼にツッコミを繰り出す。

「なんでお前がその名前を知っているんだよ?」

「これも怪人同士の会話から聞いたんだよ。どうやら超能力者を根絶するために生み出された生命体みたい」

「……やけに限定的な怪人ね」

 怪人に詳しい一面を目にして、土方はまたもフィリアに疑いをかけるも、彼女からはすぐに否定される。これも怪人の会話から盗み聞きした内容らしい。アンノウンの特異な生態を知ると、リーファはボソッと小言を呟く。

 超能力者は妖精をも含まれると悟り、新八らは条件に該当しそうなアスナやリーファ達を不安視している。

「と言うことは、アスナさんやリーファさんが行ったら危ないかもしれませんね」

「えっ? そうかしら……?」

「間違いないネ。飛行能力があるから危険かもしれないアルよ。こういう時はクラを囮に使うネ」

「って、俺かよ!? それはねぇぜ、神楽ちゃん」

「うるせぇよ。恋愛音痴」

「いや、それはただの悪口じゃねぇか!?」

 中でも神楽は傍にいたクラインだけに当たりが強く、冗談半分にも囮に仕立てようとしていた。本人からツッコミを入れられるも、神楽の雑な接し方に変わりはない。門番を突破する方法を一行が模索する中、ユウキは単身で立ち向かう意思を示し始める。

「ここは僕が気を引かせるしかないか……?」

 密かに彼女が刀剣を口にくわえようとした時だった。

「みんな、落ち着け! 怪人の囮ならこの俺だけで十分だ」

「こ、近藤さん!?」

 意外にも声を上げてきたのは近藤勲である。自信満々な表情をしており、この状況を打開する術でもあるのか?

 唐突とも言える彼の行動には、クラインら仲間達も驚きを隠しきれていない。

「えっ? アンタで大丈夫なのかよ?」

「心配は無用だ。ここは俺なりに考えがある」

「考え?」

 探りながら質問を投げかけると、近藤はオウルロードの肉体に指をさしてきた。

「あの怪人の腹部を見ろ。バキバキに鍛えているだろ?」

「確かに立派な腹筋アルよ」

「でもそれがどうしたの?」

「アンタ、まさか……」

 未だに本心を見抜けていない神楽やアスナに対して、新八は途端に嫌な予感を察してしまう。その予感は当たることになるのだが……。

「そうだ! あの筋肉ならば、俺も同族だと欺けるかもしれねぇ! 気を引かせること間違いないだろ!」

「それってつまり……?」

 もはや答えは出たも当然だろう。怖気づきながらフィリアが慎重に問い直すと――近藤は遂にその本性を露わにしていた。

「身も心も裸になるということだ!! 俺の演技で気を引かせてやる!」

「こ、近藤さん!?」

「おい、止めろ! ゴリラ!」

 勢いよく外へ飛び出したと思いきや、なんと彼は恥じらいもなく服を全て脱ぎだしてしまう。そして素っ裸になったところで、

「やぁ、そちらの調子はどうだ? ゴリラ怪人が見廻りの報告に参ったぞ!」

自身をゴリラ怪人と呼称。同族に溶け込むかのように、オウルロードと接していく。

 そう近藤の狙いは、全裸になることでアンノウンと偽る陽動作戦なのだ。一見すると奇行で相手の注意を逸らす作戦に思われるが、近藤自身は本気でアンノウンに化けられると思い込んでいる。もはや勢いでこの窮地を乗り切ろうとしていた。(ちなみに原典のアンノウンでは、ゴリラモチーフのアンノウンは登場していない)

 それはさておき、傍から見ると奇行にしか見えない近藤の作戦に、仲間からは否定的な意見が相次ぐ。

「おぃぃぃぃ!! あのゴリラ、やっぱやりやがったよ! 誤魔化されるわけねぇだろ!」

 行動を分かっていても、新八は激しいツッコミを繰り出す。もうお構いなしである。

「あ、あ、あの人何やってんの!?」

「いつものゴリラアルよ」

「いや、そう言われても私には分からないから! てか、理解しようともしないから!!」

 フィリアは顔を赤くして、思わず手で目を覆ってしまう。動揺しながら神楽に理由を聞くも、適当な言葉が返されていく。なお動揺が収まることは無かった。

「土方さぁん。ここはアンタも参加する流れでさぁ」

「誰がやるか!! あんな奇行、俺には出来ねぇよ!」

「マヨネーズ塗りたくれば、良いじゃないですかい。あのカブト狩りの時みたいに」

「俺は体に塗ってねぇわ!!」

 一方の沖田や土方はいつもの行動と括り、特に動揺はしていない。仕舞いに沖田は、土方もこの雰囲気に巻き込もうとしていた。変わらぬ応酬である。

「おぉえ……あの時のトラウマが脳裏に……」

「ちょっと、リーファさん!?」

「大丈夫なの!?」

 その中でもリーファは近藤と初対面した記憶が蘇り、つい気分を悪くしてしまう。あの時も実は、近藤とは全裸のまま出会っていたのだ。無論リーファにとっては最悪の記憶であり、無意識に吐き気を催してしまう。近くにいた新八とアスナが、彼女の容態を気遣っていく。

「えぇ……」

「何を見させられているんだ、僕は」

 当然クラインやユウキも、フィリアらと同じく気を引かせている。特にユウキは口をポカンと開いたまま、ただ唖然とするしかない。

 仲間達からも大不評の近藤の作戦。やはり独断で行ったのが不味かったか。肝心の本人は本気であり、このまま話を通そうとしている。

「おい、怪しいヤツだぞ」

「どうする、オウルロードよ?」

 傍にいたカッシーンでさえも、目の前にいる全裸男性には困惑をしているようだ。ひとまず場を仕切るオウルロードに、彼の対処を促していく。気になるアンノウンの返答は、

「……うぅ」

「えっ?」

ゆっくりと首を振り否定する素振りを見せる。てっきり敵対意識を向けたと思いきや、実はそうではなかった。

「何? 無視か?」

「能力は持ってないと。はい」

「えっ? 相手にしないのか!? 俺はアンノウンだぞ!」

 カッシーンが耳打ちで聞いたところ、まさかの無視で結論が一致している。アンノウンの特性上、超能力を持たない人間には興味が無く、全裸男性こと近藤の対処も特に重要視していない。いわば放っておく結論に至っている。その姿はさながら、現実に変質者が現れた時の対処とも言えよう。

 しかしこれで、僅かながら入り口に一定の隙が生じることになる。

「アレ? どういうこと?」

「もしかして、アンノウンって超能力を持ってない人間には興味が無いんじゃ……?」

「マジアルか?」

 ずっと様子を見ていたフィリア側も、思わぬ結果に驚きを感じていた。その理由を探りつつも、密かに出来た好機も見逃していない。

「とりあえず、今が侵入するチャンスよ」

「このまま行きましょう」

 見張りの目線を警戒しつつ、遂に外へと駆け出した一行。親切にも近藤の服装一式も途中で拾っている。

「おい、ブラコン? 大丈夫か?」

「なんとか……ゲホ」

 未だに調子が戻らないリーファには、珍しくも沖田が心配の一言をかけていた。

 こうして一行にとって鬼門だった世界樹の侵入は、近藤の奇行とアンノウンの特性によって、如何にか成功へと結びついている。

「あっ、待ってくれ――お、俺は巡回に戻るぞ!」

「どこにでも行け、変態」

 設定を崩さずに通す近藤に対して、カッシーンらは冷たくあしらっていく。ここまで来ると厄介者の領域である。近藤本人も後味の悪さを感じつつも、こっそり仲間達の元についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこちらは、世界樹の北門。こちらにもカッシーンが二体、怪人が一体、見張り役として配置されている。

「もう来なさそうね。侵入者は」

 門番を務めていたのは、プテラノドンヤミーのメス個体。オスと同様に黒い煙を吐き出し、妖精や観光客をミラーワールドに幽閉させた恐ろしい怪人である。

 静かに周りを監視する怪人達に悟られず、銀時、キリト、桂、エリザベス、シリカ、ピナ、リズベット、シノン、定春はシグルドの案内の元、その死角まで近づいていた。

「あそこが世界樹に繋がる北門だな」

「って、案の定門番がいるわね」

「おい、シグルド。お前アイツの正体とか知らねぇのかよ?」

「し、知らないな。ただ見た目から、プテラノドンに似ているな」

 大胆にも銀時は、さり気なくシグルドへ探りを入れている。小さくも本人は動揺したが、すぐに切り替えていた。と彼の反応はさておき、一行は門番の怪人達の突破方法に頭を悩ませていく。

「二体は雑魚だったとしても、問題はあのプテラっぽい怪人よね」

「どう見てもメスですよね、アレ」

 リズベットやシリカは、特にプテラノドンヤミーへ警戒心を高めている。ちなみに後者は、怪人の胸部や体格をこっそりと気にしていたが……流石に仲間内では本音を明かしてはいない。

 メス個体と言う観点から、銀時はキリトに思いついた作戦を言いふらしている。

「おい、キリト。ここはお前の出番だぞ。あのメス怪人を口説いて来いよ」

「お、俺なのか!? いやいや、無理だってば」

「そんなことねぇよ。お前のコミュ力があれば、十分に気を引かせられるって。そう思うよな、シノンも?」

 キリトのポテンシャルでプテラノドンヤミーを口説き落とす作戦だった。本人は謙遜して拒否するも、銀時は折れることなくこの話を通そうとしている。即座に近くにいたシノンにも共感を求めたが、

「はぁ? 何か言ったかしら?」

「えっ?」

何故か一言で片づけられていた。しかも銀時へ容赦なく、弓矢を差し向ける始末である。

 どうやら銀時の立てた作戦に怒りを覚え、後はもう態度で反抗するようだ。怒ってはいるのだが、シノンはにこやかな笑顔のまま銀時をじっと見ている。ある種の恐怖心を彼に与えていた。

「な、なんでもいいです……」

「よろしい」

 とうとう彼は圧力に屈してしまう。妙と同様に余計な怒りを買えば、さらなる仕打ちを受けることは目に見えているからだ。穏便に済ませたことには、共に一安心している。

 そんな銀時の様子を気にすることなく、キリトはエリザベスと会話を交わしていく。

[ここはもう強制突入するか?]

「いや、待ってくれエリザベス。騒ぎを起こせば、こっちが見つかる危険性も高い。ここは慎重に見よう……」

 咄嗟に先走ったエリザベスに、キリトがそっと諭している。敵側の増員も考えられるので、確証のない行動は危険だと彼は考えていた。

 それからも仲間達の話し合いが続く中、途端に桂が声を発していく。

「フッ、ならば俺の出番だな」

「か、桂さんがですか?」

「ちょっとアンタ。まさかふざけた作戦をやるわけじゃないでしょうね?」

「心配するな、シリカ殿でリズ殿。俺は至って真面目だ。ふざけたことなんて一度も無かっただろう?」

「……いや、大有りなんだけど」

 自信満々に呟く桂だったが、シリカ、リズベット、シノンら女子らの反応は総じていまいちである。彼のセンスを信じておらず、むしろ危なっかしい考えでは無いかと不安な心を募らせていく。無論銀時も同じだ。

「良いから、ヅラ。さっさと作戦を言えよ」

「フッ、いいか。念には念を入れて、五つも思いついているぞ。まずは桂ップで相手をラップバトルに持ち込む作戦だ。ノリに乗っているうちに、皆が世界樹へ忍び込むのだ。二つ目の作戦は、ヅラ子に化けて色気でもてなす術だ。準備はかかるが、効果は絶大だな。三つ目は――」

「おい、お前ら。桂の作戦は無視で話を進めるぞ」

「「「「はーい」」」」

「ちょっと、みんな!?」

 試しに桂の立てた作戦を聞いてみるも、どれも危なっかしいものばかりである。早々に銀時が彼を見切ると、仲間達に次なる作戦を促していく。

「いいか! 俺の作戦があれば、君達を世界樹へ連れ込むことが出来るのだぞ!」

「お前のチンケな作戦なんざ、すぐにバレるのがオチに決まってんだろ!」

「だいたいなんですか、桂ップにヅラ子って!」

「ここはネタ見せ番組じゃないのよ!!」

「ここは桂さん、考え直した方が良いと思うぞ」

「同じくね」

 その途中では言い争いが起きたのだが……。早々にまとまらない北東側の陽動作戦。内通者であるシグルドからすれば、いつまでも続く話し合いにじれったさを覚えていた。

(まだ決まらぬのか。後は俺が合図をすれば、通れると言うのに)

 あくまでも銀時やキリトらを世界樹へ招くための行動。隙を見て通そうとするも、中々タイミングを掴めていない。

 そう深々と頭を悩まされているうちに、実は怪人側にも変化が起きていた。

「ワフワフ!」

「ナナ!」

「ん? どうしたのだ?」

 シグルドが気付いたのは、定春とピナが何者かを応援している場面。彼らの目線に目を向けてみると、

「ここまで私を手玉にするなんて……アナタって魔性ね」

[君のような女性がいれば、俺はなんだってするさ]

「……はぁ?」

なんとエリザベスがプテラノドンヤミーを口説く様子が見えていた。しかも上手くいっているようで、あまりの歪な光景にシグルドの体は固まってしまう。

[さぁ、行こうか]

「行きましょう。私達の愛の巣へ!」

 いつの間にか倒されているカッシーンを踏み台にしたまま、エリザベスはプテラノドンヤミーを別の路地裏に誘っていた。そして数分も経たないうちに、エリザベスだけがこちらに戻ってきている。

「ナナナ?(どうだった?)」

[食べちゃった]

「ワフフ!(流石~!)」

「……はぁ?」

 思ってもいない急展開に、シグルドの脳内はハテナマークで埋め尽くされていた。そもそもエリザベス自体に謎が多くあり、この「食べちゃった」も正直理解が出来ない。物理的に捕食したのか、はたまた性的な意味で食べたのか。どちらに転んでも、恐ろしいことに変わりはない。

 ちなみにこの事実を知っているのは、ペット組とシグルドのみである。

[おい、みんな。門番は全て俺が倒したぞ]

「何? 本当か、エリザベス!?」

「いつの間に……?」

 嬉しそうな雰囲気で、エリザベスは仲間達に敵の討伐を告げていた。思ってもない気前の良さに、仲間達も大なり小なり驚いている。

「お前より有能じゃねぇか」

「うるさい! 俺のタイミングが悪かっただけだ!」

「と、とにかく! このまま先に進もう!」

 ムキになって反抗する桂を宥めつつ、一行は世界樹へと侵攻しようとした。千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないのである。

 一方でシグルドはと言うと、

「……まぁ、いいか」

細かいことを気にしないことにした。ただ一つ分かるのは、エリザベスとの戦闘は極力避けることにしている。

 こうして手段は違えど、無事に世界樹へ侵入した一行。マッドネバーとの決戦が徐々に迫っていく――

 

 

 

 

 

 

 

 一方の高杉やユイら混合チームは、結晶の正体を知ると新たな目的地を定めていた。

「フッ。つくづくこいつらはいい加減だな。自分勝手にもほどがあるだろ」

 その先頭を歩くは、小言を発している高杉晋助。辺りを警戒しつつ、ゆっくりと世界樹内を探っていく。彼らが目指すは、結晶の保管されている部屋だ。高杉の後ろには、ユイ、シウネー、フレイアと女子陣で集まりながら、ゆっくりと場を進んでいる。

「なるほどです。その英雄達の力を、マッドネバーは利用しているというわけですね」

「そうです。あくまでも私の仮説ではありますが……」

「大丈夫です! 私達が絶対に取り返しますから」

「……ありがとうございます!!」

 結晶の件を踏まえた上で、シウネーはユイの願いを聞き入れていく。マッドネバーを倒すためにも、結晶の奪還は重要だと考えている。頼もしい彼女の返答に、ユイは安心感を覚えていた。

 その一方でフレイアは、結晶の件から高杉により警戒心を高めていく。

「ううん……」

「どうしたのですか、姫様?」

「いえ、なんでもないです。ただあの人ならば、結晶を横取りするとも考えているのです」

「そ、それは……流石にないと思いますけど」

 高杉の裏切りを脳裏に浮かべるが、シウネーからは苦笑いで否定されている。雰囲気や行動から、彼に姑息な手段は似合わないと思い込んでいた。シウネーと同じくユイも同じ気持ちである。

(私もです。高杉さんはそんな姑息な手は使わないですよ、多分……)

 確証は無いのだが、それでも素直に彼を信じていた。

 そう四人の間で気持ちの違いが生じるうちに、一行は怪しげな光の漏れる部屋に行きついている。

「おや? ここは……?」

「覗いてみますか?」

 高杉に続いて、ユイらもこっそりと部屋を覗き込む。すると見えてきたのは、透明な球体に閉じ込められている結晶だった。部屋の内部にはライオトルーパーが二体おり、逐一結晶を分析している。どうやらここは突貫で作った研究室のようだ。

「どうだ? 結晶の様子は?」

「確かに凄まじい力を感じるぞ。オベイロン様の言っていた通りだ」

「ならばこの結晶に、英雄の力が秘められているのか?」

 二体のライオトルーパーは、結晶の変化からある仮説を見出していく。多種多様な力が組み込まれているようで、次元遺跡にあった英雄との関係性を示唆している。

「この結晶を上手く活用すれば、この道具も完成するな」

「さぁ、急げ。今日中には完成させるぞ」

 そして彼らは、近くにあった未完成の道具に手をかざしていく。ベルト型とブレスレット型の二種があり、その両方を付けて結晶の力を開放するらしい。いずれにしても、研究の進み具合は大幅に進んでいると見て間違いないだろう。

「あの結晶で間違いないです」

「二つの道具を組み合わせるようだけど……」

「結晶で悪用していることに違いはないわね」

 ユイの証言を受けて、改めて事態の深刻さを悟るシウネーとフレイア。このまま道具が完成すれば、こちらの敗北は確定的であろう。だとすれば、やはり結晶を取り返さなくてはいけないが……彼女達はある変化に気が付く。

「そういえば、高杉さんは?」

「えっ? いない?」

 ふと辺りを見渡すと、先ほどまでいた高杉がいなくなっている。まさかと思って再度部屋に目線を向けてみると、

「うゎぁぁ!!」

「どうした、ウッ!?」

「てめぇらは弱そうだな、失せろ!」

「ギャァァ!!」

雰囲気をお構いなしに高杉がライオトルーパーに斬りかかっていた。すっと相手の背後に這いよって、有無を言わさずに倒している。だがこれで、遠慮なく結晶を奪い返すことが出来るようになった。

「た、高杉さん!?」

「邪魔者は始末したぞ。さっさと結晶を奪取しようじゃねぇか」

「つくづく大胆な人ね……」

 突拍子もない行動に、フレイアはまたも驚かされている。それはそうと、ユイらも部屋に入り込んでいた。こじんまりとした内部には、結晶に関する資料や道具の設計図が乱雑に置かれている。どうやら結晶関連の研究しか、この部屋では扱っていないようだ。

 そしてユイは、ようやく結晶を取り返す寸前まで来ている。だがしかし、肝心の結晶は透明な球体に閉じ込められたままだ。

「何一つ変わっていないです……」

「良かったです。でも、どうやって取り出しましょうか?」

「私の杖で破壊しますか?」

 シウネーは力づくで取り返そうと提案するも、ユイはすぐに結晶の扱い方を理解していく。

「いえ、大丈夫です! このままで……」

「ふっ。どうやら何かを察したようだな」

「分からないですけど、このまま祈れば通じるはずです。私の想いが!」

 彼女なりの決意には、高杉も察しが良く汲み取っている。彼の後押しと共に、ユイは球体越しに結晶へそっと手を触れていく。

 それからだった。彼女の意識に異変が起きたのは。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ? ここは……?」

 気が付いた時には、辺りに異変が生じていた。物々しい個室から真っ白い空間へとユイは移動している。いや、精神世界に送り込まれたとも言うべきか。

「さっきまで世界樹にいたはずなのに……もしかして空間が歪んだのでしょうか?」

 ボソッと思ったことを呟くも、その捉え方は誤りではない。故に近くには高杉やシウネーらもいないからである。

 何が起きるか分からない状況に、そっと身を委ねていると――目の前にあの戦士達が集結していた。

〈ヒューン!!〉

「うわぁ!? 仮面ライダーさん……?」

 風を吹かせた音と共に姿を見せたのは、クウガからジオウの平成仮面ライダーの主役二十人である。四方八方にまとまっており、皆ユイの方をじっと見ていく。するとライダー達は、次々にユイへと話しかけてきた。

「よくぞ。ここまで辿り着いたね」

「俺達の見込んだ通りだ。君ならば出来ると信じていたよ」

「えっと……一体どういうことですか?」

 まずはクウガとアギトが話しかけており、彼らはユイが要件を把握した上でこの空間に来たと思い込んでいる。肝心の本人は突拍子もないことに困惑していたが。戸惑いを続ける彼女を見て、ライダー達も接し方を変えようとした。

「ったく。こりゃ、一から説明が必要だな」

 ファイズがボソッと呟くと、いけしゃあしゃあと電王が前に出てくる。

「しょうがねぇ。だったら俺が――」

「ここは俺で十分だろ」

「いや、被るんじゃねぇよ!」

 自信良く説明しようとしたところ、言葉を被せるが如くカブトが割り込む。場の雰囲気はお構いなしに、二人のみが険悪な雰囲気となってしまう。するとブレイドが二人を落ち着かせてきた。

「落ち着け。この子も困っているだろ」

「まぁ、適当に俺らが話すことでいいだろ。そんでお前。俺達に聞きたいことがあるなら、遠慮なく聞けよ」

 彼に続きディケイドも発する。尊大な態度のまま、ひとまずは彼女へ質問を促す様子だ。その雰囲気を悟り、ユイは遠慮なくぶつけていく。

「分かりました。では何故……私をこの空間に連れてきたのですか? 次元遺跡での不可解な現象は、アナタ達の仕業ですか?」

 感じた疑問は主に二点。自身をこの空間に連れてきた経緯と、次元遺跡で起きた現象の数々である。神妙な表情で発すると、最初にW(翔太郎とフィリップ)が反応していく。

「うむ。理詰めした内容だね」

「それじゃまずは、次元遺跡が出来た経緯から話すか。えっと……」

「翔太郎。ここはディケイドに話を渡した方が良いんじゃないか?」

「あぁ、分かった! 後は頼んだぞ」

 どうやら上手く答えがまとまらず、フィリップは翔太郎に他のライダーへ回答件を譲ろうと提案。すかさず翔太郎も察して、ディケイドに返答を託していた。そしてすぐに彼が答える。

「任せろ。そもそもこの次元遺跡ってのは、俺達平成仮面ライダーの記憶や想いを集めた、いわば博物館のような場所だ」

「博物館ですか?」

「要するに、俺達のことを覚えている人々の記憶が寄せ集まった場所なんだ。この力を次世代へと繋ぐために、本来は誰にも立ち寄れないはずだったんだが……」

「あの男のせいで、予定が狂っちまったんだよ」

 彼の説明に龍騎や電王が補足を加えた。ライダー達が語ったのは、次元遺跡が作られた経緯。人々の記憶や思い出が具現化された場所であり、本来は次世代の戦士に力を託す場所であった。(この件で言う次世代は、令和仮面ライダーを指しているとされる)

 次元の狭間に出来た場所で、誰にも踏み入られないはずが……その法則を壊したのがオベイロンである。

「そうだったのですか?」

「まぁな。マッドネバーによって、半強制的にこの場所が見つかってな」

「力を奪われることを危惧した俺達は、一時的に力を託せる適任者を急遽探すことにしたんだ」

 会話は続き、響鬼、オーズと順に話していく。彼らは平成仮面ライダーの力を悪意ある者に奪われないよう、一時的に力を託せる適任者を探すことに決めていた。

「そこで偶然にもやって来た君達に目を付けたんだ。その結果、君を一番相応しい適任者だと俺達は見抜いたんだ」

「えっ!? 待ってください! 私が適任者!?」

「そう驚かないでくれ。君のような善悪の区別が付き、純粋な優しさを持つからこそ、相応しいと私達は思っているのだよ」

「べ、ベルトが喋った!?」

「って、やっぱり驚くか……」

 ユイを適任者へ選んだ事実を知ると、本人は当然の如く驚嘆としてしまう。そんな彼女にドライブと、彼が付けているドライブドライバ―(ベルトさん)も説明していく。だがベルトと話せることにも、さらに驚いていたが。

(じゃ、今までの現象もライダーさん達の仕業だったんですね)

 ユイも次第に状況を理解していく。次元遺跡で起きた現象(ユイにのみ開く扉。マッドネバーを外部に退去させたオーロラ)や、この空間に連れてこられたことも、間接的にライダーが関与している。全てはマッドネバーの思い通りにさせないため。ライダーなりの苦労を彼女は感じ取っていた。

「でも、なんとなくですが分かりました。ライダーさん達の守りたかったものが」

「分かってくれたなら、何よりだよ。けれど……君を危険な目に遭わせたことには、申し訳なく思っているよ」

「えっ? それって……」

「まさかアイツらが、ここまで力に強欲だとは思わなかった。行く道さえ防げば、大人しくなると思ったが……どうやら俺達の考えが甘かったようだな」

「ライダーさん……」

 終始明るい雰囲気で話は続いていたが、途端にビルドやウィザードが彼女に謝りを入れている。自身の勝手な都合で、ユイを過酷な運命に巻き込んだことを申し訳なく思っていた。これは二人のみならず、全てのライダー達も同じ想いである。

 気まずい雰囲気から皆が口をすぼめる中、ユイは思い切って自身の気持ちを伝えていく。

「そ、そんな責める気持ちなんて全くないですよ! 悪いのは全部、あの人なんですから! ライダーさん達が決めた決断は、間違っていないと思います!!」

 真剣な表情で、一切の後悔が無いことを明かしていた。事情を理解した彼女にとっては、この事態は致し方ないと括る。むしろこんな危機的状況で、僅かな時間でもライダー達の本音を聞けたことが何よりも嬉しいのだ。

 慈愛の一面を見せる彼女の姿を見て、アギトやキバが話しかけていく。

「ありがとう。本当に強いな、君は!」

「やっぱり君には資格があると思うよ。ヒーローとしての」

「そ、そんなことは無いですよ」

 率直に二人はユイを褒めており、真に受けた彼女は思わず顔を赤くして照れている。本物のヒーローから褒められることに、つい気持ちを舞い上がらせていた。すると、キバの相棒であるキバットも話しかけてくる。

「流石は適任者だな~。寛大な心の持ち主だぜ~!」

「って、銀時さん!? ……の声?」

「えっ? 俺はキバットだ! 間違えるんじゃねぇぞ!」

「ギンバットさん?」

「キバットだ!」

 当然の如く、銀時とキバットの声を混在してしまった。いわゆる中の人ネタである。つい可笑しさを感じてしまい、ユイはクスっと笑いをこぼしていた。

 場の雰囲気が明るさを取り戻したところで、ユイは結晶の件もライダー達に聞いていく。

「あの……結晶についても質問して良いですか?」

「結晶? あぁ、あのことか。アレは俺達の力の一端だよ」

「あの結晶にそんな力が秘められているのですか……?」

「いずれは君や仲間達に託そうと思っていたものだからな。ライダーの力を全て奪われないように、あらかじめ力の半分をこの結晶に分けておいたんだ」

「……重要な代物だったのですね」

 返答をくれたのは、ゴーストとエグゼイドだった。どうやら結晶の正体は、ライダーの記憶が刻まれた一種の囮だったという。もう半分を次元遺跡に隠すことで、マッドネバーの注意を逸らす作戦だ。ユイや仲間達を巻き込んだものの……この作戦は功を奏した結果を残している。

 ユイ自身もこの事実には素直に驚いていた。同時に危険を冒してまで結晶を取り返せたことに、ただならぬ達成感を覚えている。

「どっちにしても良かったです……取り戻せることが出来て」

 依然として不利な状況に変わりはないが、それでも一筋の希望を取り返せたことには間違いない。安堵の表情を浮かべていた。

 この彼女の健気な様子を見て、ライダー達は締めとして最後にある質問を交わしていく。

「それじゃ、お前に最後の確認をするぜ!」

「えっ、確認?」

「そんな大したもんじゃないよ。君はもし俺達の力を手に入れた、どんなことに使いたい?」

 聞いてきたのはフォーゼと鎧武である。彼らはライダーの力を入手した際の使い道を聞いており、ユイの意思を改めて試そうとしていた。

 無論彼女にとっては、すでに答えが決まっているようなものだが。

「もちろん決まっています。この星を守るために使います! あの人の暴走を止めるためにも……!」

 声を震わせながら、しっかりと平和を取り戻すために使うと誇示する。ユイの確かな一言を聞き入れると、平成仮面ライダー達はゆっくりと首を頷いていた。すると今度はジオウが話しかけてくる。

「よしっ! その気持ちがあれば十分だよ。君と君を信じている仲間なら……俺達ライダーの力を立派に使いこなせるはずだ!」

「はい……ありがとうございます!」

 彼はユイに駆け寄っていき、丁寧にも目線を合わせるためにしゃがんでいた。そっと気持ちに同調していると、彼女はふと微笑みを浮かべている。

 こうして意思を確認したところで、ライダー達の計画はいよいよ仕上げに進んでいく。

「みんな、行くぞ!」

「「「おう!!」」」

 突如ジオウがライダー達に声をかけると、仲間達はそれぞれ自身を象徴するアイテムを取り出していた。カードやフェッスル、アイコンにウォッチと手にすると、

「うわぁ!? アレって……」

ユイの目の前には二つの物体が出現する。そう、研究室で見た結晶と未完成の道具(ベルト型とブレスレット型)であった。そして、

「いけぇぇ!!」

ライダー達は手にしたアイテムを一斉に、二つの物体に投げつけていく。

「これは……?」

 途端に眩い光が解き放たれて、ユイはつい目をくらませる。光は次第に落ち着き、彼女がゆっくりと目を向けると――そこには見たことも無い物体が宙に浮かんでいた。未知なる物体、いやアイテムを受け取ると、ライダー達が作り出したアイテムの解説を加えていく。

「結晶とドライバーを、使いやすいように改良しておいたよ。名付けてヘイセイジェネレーションメモリと、アルヴドライバー! 天才的でしょ!?」

「この二つを組み合わせれば、俺達の力を一時的に使えるようになるぞ」

「これで君も、運命を変えられるはずだ!」

 ビルド、ゴースト、エグゼイドが従順に解説した通り、新たなアイテムには平成仮面ライダーの力が刻まれているようだ。結晶の変化したヘイセイジェネレーションメモリと、ベルトやブレスレットを改造したアルヴドライバー。この二つのアイテムを組み合わせて、一時的にライダーの力を行使できるという。一発逆転が出来る絶好のチャンスを、彼女は手にしたと言っても過言ではないだろう。

「あの……ありがとうございます! こんな大いなる力まで貸してくれて……」

「そう謙遜するな! 適任者なんだから、もっと堂々としろよ!」

 感極まってお礼を交わすと、またも電王が自信良く声をかける。全ては彼女の覚悟によって託されたもの。真摯な想いを信じて、ライダー達は力を貸すと決めていた。

 さらに次々とライダー達が補足を加えていく。

「このアイテムは状況に応じて、複数に分けられることも出来るんだ!」

「いざという時は、お前の仲間にも使えるかもな」

「君の認めた仲間なら、使いこなせるはずだ」

「なら……パパやママ。銀時さんに新八さん、神楽さんにだって……!」

「お前が信じる限り、不可能は無いだろう」

 龍騎、ファイズ、響鬼、カブトの順に話しかけていた。どうやらこの二つのアイテムは、任意で増やせることが出来るらしい。つまりは万事屋やキリト達にも使えるかもしれないのだ。もちろん使用するには、ユイと同じく優しさと正しさを兼ね備えた気持ちが必須だが。

(あっ。銀時さんは大丈夫でしょうか……?)

 特に彼女は銀時が使えるか不安視している。日頃の行いから、使用不可になっても可笑しくないからだ。

「フッ……無事に渡せて良かったな」

「俺達は訳あって、こっちの世界には来れないからな。彼女がこの星の、最後の希望となるだろうな」

「大丈夫だよ。彼女ならばな」

 一方で鎧武、ウィザード、ドライブの三人は、練られた計画がようやく実を結び、安心している。とある事情から直接他世界へ行けない分、その希望や力を正しき者に渡せたことが嬉しいのだ。大役だがきっと彼女なら乗り越えられる。これがライダー達の総意だ。

 こうしてようやく要件を終えたユイと平成仮面ライダー達は、最後にメッセージを交わして事を終えていく。

「俺達からの伝言はこれで以上だ。本当の強さを分かっている君なら、きっと大丈夫だと思うよ」

「もっと自信を持って! 君ならどんな手も掴めるよ」

「俺達の力をありったけ! 平和を脅かす連中にぶつけるんだ!」

「はい、分かりました!!」

 ブレイド、オーズ、フォーゼと熱いメッセージを受け取り、ユイも力強い一言で返答していく。それくらいユイには強い期待が寄せられているのだ。

「頑張ってください!」

「街を泣かせる野郎は、お前の手でとっちめてやれ!」

「大丈夫。絶対に……!」

「遠慮なく使えよ。俺達の力」

「奪われた未来を取り戻すんだ!」

 キバ、W、クウガ、ディケイド、ジオウも彼らなりの言葉をかけていく。こちらも存分な期待と励ましが込められていた。ユイも真剣な表情で頷き、しっかりと反応している。

(当然です。私と仲間達なら……絶対に出来ます!)

 その心には一切の迷いは無かった。

「それじゃな~。後もキバっていけよ!」

「スタートユアエンジン! 君の走りに期待しているよ」

 こうしてキバットとベルトさんの一言を機に、ユイの意識は次第に現実へと戻っていく――

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!? 今のは……」

 しっかりと意識が現実へ戻ったユイは、ふと辺りを確認している。そこは紛れもない研究室であり、近くには高杉、シウネー、フレイアと先ほどまで行動を共にしていた面々が心配そうにこちらを見ていた。

「ようやくか」

「ユイさん? やっと気が付いたのですね」

「何があったのですか?」

「あ、はい。確か仮面ライダーさん達と出会って、彼らから力を借りることで出来たんです。ちょうどこのアイテムに……えっ!?」

 自身の身に起きたことを説明する中で、彼女は自身の手元にアルヴドライバーとヘイセイジェネレーションメモリがあることに気付いていく。幻影の中の出来事は、しっかりと現実にも作用していた。

「あの、ユイさん……? 結晶と道具が急に手元に来たのですよ。信じられないですけど」

「本当だ……あの出来事は夢じゃなかったんですね」

「つまりはお前を、持ち主として認めたってことじゃねぇのか? いわば継承者だ」

「継承者……良い響きですね」

 未だに驚きを隠しきれないシウネーや、すんなりと察しの良い高杉と仲間内の反応にはばらつきがある。だが総じて言えることは、皆がこの出来事を好意的に受け止めていることだった。

(ちなみにユイがライダー達と邂逅したことはほんの一瞬であり、シウネーや高杉らは目撃していない)

 一方のフレイアはその驚きを隠しつつも、高杉へ無粋な質問をぶつけている。

「アナタは奪わないのですか、この結晶を?」

「随分とストレートだな。誰が奪うかよ。そういう気分でもねぇからな」

「そうですか……」

 てっきり高杉の裏切りを予見していたが、本人からはすぐに否定されてしまう。ここまで来ると、彼には彼なりの信念があると思い始めていた。

 マッドネバーに立ち向かえるほどの力を得たユイら一行。希望を見出した期待と、未知なる力への不安が混在する中で、彼らはひとまずこの場を去ろうと決めている。

「と、とりあえず! 早くここを抜け出しましょう」

「そうだな」

 全員が辺りを警戒しつつ、そっと研究室から脱出していた。部屋の中に残ったのは、倒されたライオトルーパーの残骸と、壊された結晶の保管場所である。この惨劇にマッドネバーが気付くのは、まだまだ先のようだ……。

 こうして迷いや疑念が取り除かれたユイは、新たな力を手に反撃の一口を探っていく。共に行動する仲間と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 ユイが平成ライダーと邂逅したその一方で、世界樹には多くの仲間達が侵入しようとしていた。

「ここが世界樹内部だね」

「分かっていたけど……やっぱり私達の知る世界樹とは違うわね」

「ツリーハウスみたいだな」

 南門の受付場にやって来たのは、フィリア、神楽、アスナの南西組。彼女らは辺りを警戒しつつも、慎重に自分達が行くべき道を探っていく。(この受付場は北門とは通路で繋がっておるが、現在は破損しており通り抜けすることは出来ない。故に銀時やキリトらは再会することは難しいのだ。この事実はどちらのチームも気付いていないが)

 アスナや近藤らが次々に呟くと、フィリアは仲間達に道しるべをしてきた。

「あっ、あそこだよ! 上に繋がる階段は!」

「アレは……非常階段っぽいな」

「とにかく! 敵に見つからないうちに進んじゃおうよ!」

「そうね」

 指をさした方向には非常用の階段があり、一行はそこから最上階まで向かう予定である。敵に悟られないよう周りを警戒しながら、ぞろぞろと足を進めていく。とりあえず皆はひたすらに階段で上がっていると――一旦五階で階段が途切れている。

「こっち! 別の階段を使うよ」

 どうやらフィリア曰く、ここからは違う階段で最上階に向かうようだ。連絡通路を利用して、皆が五階のエリアに入り込もうとした時である。

「サメ! クジラ! オオカミウオ!」

「ガブッ!」

「えっ!?」

 何の前触れもなく、一行の目の前にあのダークライダーが姿を見せていた。唖海の変身するポセイドンと、亜由伽の変身するダークキバである。さながらこの道を通ることを見越して、先回りされたようだ。

「ダークライダー!?」

「なんでここに……!?」

 思わぬ再会に、つい戸惑ってしまうアスナ達。そんな彼らとは対照的に、二体のダークライダーは余裕そうな態度を続ける。

「なぁに。これも作戦の一環ということさ」

「にしても、久しぶりね。あの時無様にやられたお嬢ちゃん」

「アンタ……!!」

 中でもダークキバはリーファを見つけるや否や、嫌みったらしく煽りを入れていく。彼女と一戦を交えたことがあり、その時の様子を鮮明に覚えているのだ。

 一方のリーファは宿敵の登場により、沸々と怒りが込み上げている。あの戦いの時に受けた屈辱を果たそうと気持ちを整えていた。

「とりあえず、貴様らは俺達で始末してやろう」

「さぁ、どこからでもかかってきなさい」

 そしてダークライダー達は、相手を挑発するように戦いを吹っ掛けていく。どうやら彼らを撃退しなければ、この先を進めないようだ。強制的な戦闘開始に憂いを感じつつも、一行はこの戦いを受け入れようとする。

「みんな! ここはやむを得ん! 戦闘態勢を構えるぞ!」

「やっぱり強硬突破しかないのか……!」

 近藤の強気な掛け声に反して、クラインはつい弱音を口走ってしまう。素直に交戦しても勝てる見込みのない相手。苦戦を強いられることが予測されてもなお、目的を達しなくてはならない。乗り気ではなかった仲間達も、その使命や責任を思い出していき、真剣な気持ちに移り変わっていく。

「今度こそは私の手で倒すんだから!」

 特にリーファは一番、戦いに闘志を燃やしている。今度こそダークキバにリベンジを果たそうと躍起になっていた。

「ここは僕も……!」

 もちろんユウキも同じ想いである。こっそりと刀剣を口にくわえて、ダークライダー達に狙いを定めていく。

 新八、神楽、アスナ、クラインと次々に武器を構えて、このまま戦闘に入ろうとした――その時である。

〈カキーン!!〉

「えっ?」

 皆にとって予想外の事態が発生してしまう。なんとフィリアが自身の剣を手にしたまま、ユウキに襲い掛かろうとしていたのだ。その表情は狂気に満ちており、とても本人とは思えない様子である。

 そんな彼女を間一髪で止めたのは、土方と沖田だった。

「フィ、フィリアちゃん!?」

「えっ、なんで!?」

 突然の裏切り行為に、いまいち事態を理解できないアスナや新八達。目を丸くして、ただただ驚くしかない。

 一方の土方と沖田は冷静さを保ったまま、フィリアらしき人物を対処していた。

「チッ! やっぱりお前らにはバレていたか!!」

「ようやく姿を現したな、このニセモノめ」

「……どうして気が付いたんだい?」

「簡単なことでさぁ。やけに怪人側に詳しいことと、こないだのような無鉄砲さが感じ取れなかったんでねぇ。本物なら自分から進んで動くんでさぁ!」

 二人はすでにフィリアが別人だと確信しており、思いつく限りのことを彼女にぶつけている。危機的な事態にしてはやけに豊富な怪人への知識量と、似つかわしくない慎重な行動が疑惑の確信に繋がったとのことだ。

「「ハァァ!!」」

「くっ……うわぁぁぁ!!」

 偽者だと分かったのならば、もはや容赦はない。土方と沖田は刀を用いて、フィリアの偽者を次々に斬りかかっていく。怯む隙すらない連続攻撃を受けて、フィリアの偽者はとうとう自身の正体を明かして――断末魔と共に爆発してしまう。

 それは……擬態能力を持つ怪人、ワームのサナギ体であった。

「うわぁ!? 何だアレ!?」

「気持ち悪!! 虫アルか!?」

 一瞬だけ見えた怪人の容姿に、神楽やアスナら女子陣は体を震え上がらせてしまう。虫のサナギをモチーフにしており、事情を知らない者からすれば不気味さを感じるからだろう。

「どうやら擬態する怪人みたいでしたねぇ」

「小賢しい真似を。要するにお前らの仕業だろ? マッドネバー!」

 そして土方と沖田は、目の前にいたダークライダー達に真実を問う。言われなくとも、彼らの仕業である事は間違いないのだ。

「あらあら。気付かれてしまったみたいね」

「残りのガイアメモリを奪う予定だったが、これも仕方ないだろう」

「これが狙いだったの……!?」

 その通り。彼らが密かに狙っていたのは、現在ユウキが手ぬぐいに入れているガイアメモリ三本。とある装置を完成させるために必要な道具で、否が応でも奪おうとしていた。彼らは手の内をさらっと明かし、こうなれば意地でも奪取しようと画策していく。

 次々と発覚するマッドネバーの企み。自分達に好機が訪れているはずが、全ては裏で仕向けられていた最悪の展開である。敵の本拠地と化した世界樹にて、彼らは袋の鼠と言っても過言ではないだろう。

 さらに追い打ちをかけるように、ダークライダー達へ援護が二匹駆けつけてくる。

「案ずるな。こやつらをこの場所に仕向けただけで、十分に仕事をしてくれたよ」

「ここからは僕達も加わろう」

 ねっとりとした口調のまま、ダークライダーの背後に来たのは……

「フィリアちゃん!」

「フィリア!」

「あんなところに!?」

触手に囚われたフィリアだった。目を閉じたまま気絶しており、さながら弱っているようにも見える。そして彼女を捕えているのは、

「とアレは……」

「ナ、ナメクジ!?」

なんとピンク色の巨大なナメクジだった。全身をくねくねさせながら移動しており、見る者によっては強烈な嫌悪感を与えている。

「えっ!? まさかこの世界のナメクジなの……? って、どこかで見覚えが……」

 特にアスナはナメクジを見るや否や、過去のトラウマを思い起こしてしまう。彼女が元の世界のオベイロンの監視下に幽閉されていた際、密かに逃げ出した先で出会ったのがこのナメクジである。ご丁寧にも当時と色合いや大きさもほぼ同じだ。アスナにとっては会いたくもない相手だろう。

 だが彼女はトラウマと共に、どこか既視感を覚えている。元の世界ではなく、この世界としての。その予感はアスナよりも、神楽の方が確かに覚えていた。

「ん? あぁー! お前は!!」

「えっ? 私アルか?」

 なんとナメクジは神楽を目にした途端に、体を震え上がらせている。焦ったような態度となり、彼女に向かって盛大に文句をぶつけてきたのだ。

「お前は……数か月前に出会ったポテチ娘!!」

「よくもあの時は塩を振りまいてくれたな!!」

「ポテチ? あぁー! アッスーと初めて会った時にいたヤツアルか!」

「嘘!? じゃあの時と同じナメクジなの……?」

 そう、彼らの正体は一訓に登場したモブのナメクジである。神楽と定春、アスナ、ユイが初めて出会ったきっかけであり、この時の彼女はたまたま持っていたポテトチップスでナメクジ達を撃退していた。いわば因縁の相手と言っても差し支えないだろう。肝心の神楽やアスナは、微塵もそんなこと思っていないのだが……。

 思わぬ遭遇に神楽らが驚嘆とする一方、近くで見ていた仲間達もナメクジに多様な反応を示していく。

「ていうか、めちゃくちゃ気持ち悪いな」

「一体どういう経緯で生まれたのよ……」

「いや、触手を出したかっただけだろ」

 嫌悪感を存分に口に出す土方、リーファ、新八。

「うわぁ、戦いづらそう……」

「面倒な相手だ……」

「こんなのやられちゃ、真選組の名が廃りやすよ」

「おのれ、ヌメヌメ野郎! そんなのはズルズルボールだけで十分なんだよ!」

「近藤さん。それ土方さんの管轄でさぁ」

 戦いづらさを声に発してしまうクライン、ユウキ、近藤、沖田。小ボケには沖田が対応している。どちらにしろ感じ取れるのは、気持ち悪さと戦いづらさであろう。何よりもフィリアが囚われているため、彼女の救出も優先的にしなければいけない。

「とにかく、たかがナメクジにビビるなよ!」

「そうアル! また前みたいに、コテンパンにやっつけるネ!」

「フィリアちゃんも絶対に取り返すわ!」

 土方、神楽、アスナが仲間を扇動するように、意気揚々と戦う意思を示していく。見掛け倒しの敵に恐れる必要はないと、皆を安心させようとしたが――ナメクジ達には当然秘策があった。

「フハハハ!! お前らは何も分かってないな!」

「なんだと?」

「こないだの俺達とは何もかもが違うんだよ! ここは俺が変身する。お前はこの女を持っていろ」

「アイアイサー!」

 高笑いをしたかと思いきや、片方のナメクジは戦闘から離脱。気絶するフィリアを見張るようだ。一方もう片方のナメクジは、とある片手銃を手にしている。

「オベイロン様と共に開発した、この道具の餌食となるがよい!」

 そう自信良く言うと彼は、一本の筒状のアイテム――いやロストフルボトルを、片手銃改めトランスチームガンに装填していた。

〈バット! This is but! This is but! ミスト……マッチ! バット、バット……ファイヤー!!〉

 ノイズの走った変身音と共に、ナメクジは突如トランスチームガンから発せられた煙に包まれていく。次第に姿が変化していき、人間と同じサイズに変わっている。特殊なスーツを身にまとい、コウモリの力を宿したダークライダー……いや、疑似ライダーへと変貌していた。そう彼が変身したのは、ナイトローグである。

「へ、変身した!?」

「バット? コウモリの戦士?」

 あからさまな変化に、アスナ達は皆困惑してしまう。そもそもナメクジ状の生物が、人間が変身するであろう戦士になっていることから、いまいち理解が追い付いていない。

「いや、ナメクジのくせしてコウモリですかい」

「そうはならんやろ」

「設定ガバガバアル」

「ツッコミどころ多くてさばききれねぇよ」

 仕舞いには沖田、土方、神楽、新八と冷めた言葉を連続でかけられてしまう。特に新八はツッコミの多さに耐え切れず、匙を投げだす始末であった。

 好き放題言われているナメクジことナイトローグは、まんまとその言葉を真に受けてしまう。

「うるさい! ナメクジの戦士がいないから、その代用だ!」

「そうだ! そうだ! 俺達の科学力を結集すれば、どんな生物でさえもダークライダーや疑似ライダーに変身できるのだよ」

「いや、お前は変身してねぇだろ」

 変身していないナメクジもヤジを飛ばすも、沖田からは正論を言われてしまった。彼にも変身する力があるのかは、正直不明である。

 それはさておき、ダークライダー側は気負いせずにこのまま勝負を仕掛けていく。

「そう軽い口を叩けるのも、せいぜい今の内よ」

「ここを通りたければ、俺達を倒すことだな」

 ナイトローグを加えた上で、完膚なきまでに倒すとのことだ。また堂々と勝負はせず、状況によっては卑怯な手も使うようである。

「亜由伽よ。分かっているな」

「当然。あの女が目覚めたら、プランを変えるわよ」

 こそこそと言葉を交わしていき、その意思を疎通させている。

 一方で勝負を仕掛けられたアスナ側は、皆思い思いの気持ちを呟いていた。

「ダークライダーが二体。疑似ライダーってヤツが一体か」

「一人増えようが、こっちは問題ねぇですよ」

「同じくだ。どっちにしろ、叩き斬ってやらぁ」

 真選組の三人は油断することなく、刀を構えていく。各々がダークライダーに苦戦した経緯があり、リーファ同様その屈辱を果たすとのことだ。

「絶対にお前らをねじ伏せてやるぞ!」

「今度こそ、負けないんだから!」

「このまま戦いましょう!」

「言われなくても、分かっているアル!」

 クライン、リーファ、神楽、新八も怖気づくことなく、強気に立ち向かおうとしている。あわよくばフィリアも取り返すつもりだ。そしてアスナはと言うと、

「アナタは隠れてて。大丈夫よ、すぐ終わるから」

ウサギを一旦階段付近に移動させている。マッドネバーの狙いはガイアメモリであり、少しでも彼らから遠ざけようとしていた。不安を与えないようにと、そっと優し気な表情を浮かべている。

 だがユウキには――もうすでに決めていたことがあった。

「アッスーさん……いや、平気だよ。僕はもう……覚悟を決めたから!!」

 いつまでもこの姿のままではいられない。例え彼女に驚かれようとも、共に戦う決意をしている。要するに本当の姿に戻ると決めたのだ。肝心の方法は本人もあまり分かっていないが……ここはもう気合で乗り切るしかない。

 こうしてユウキを勝負の場に遠ざけたことで、いよいよ戦いが始まっていく。マッドネバーの姑息な手段に警戒しつつも、皆真剣に戦いへと駆り出していった。

 

 一方のシグルド側はと言うと、

「この先はワナが仕掛けられているかもしれん。ここは君達を先頭にして、進んでもらえないか?」

「あぁ、分かっているよ」

「言われなくてもな」

「えっ? うゎぁぁ!?」

早々に裏切りが発生していた。果たしてシグルドの身に起きた出来事とは? 増々事態が進展するアルンの情勢。そして遂に……あの二人が邂逅する!




 今回はユイの出番が多めでしたね。何よりも彼女が精神世界で出会ったのは、二十人の平成仮面ライダー達! 各々の想いが託されて、新たなアイテムを生み出しました! アルヴドライバーは今後の戦いで大いに活躍する重要なアイテムですね。(本当はユイと出会うのはオーマジオウの予定でしたが……平成ライダーがわちゃわちゃ喋った方がしっくり来たので、こちらにしました。ちなみにオーマジオウ版はNG集で出す予定です)
 そして次に衝撃的だったのは、フィリアの正体だと思います。彼女はナイトローグに連れ去れた後、密かに世界樹で閉じ込められていました。アスナや神楽が出会ったフィリアは、擬態したワームだったのです。しかも作戦を指示したナイトローグの正体は、まさかのナメクジ研究員!? こちらは剣魂の一訓に出やナメクジと同じ個体です。
 では何故ナイトローグに変身したのか? ナメクジ研究員の原点での本名は柳井。ヤナイ。ヤナイトローグ。ナイトローグ。はい、アルトじゃないと!!
 と言うのは冗談で、本当に意識せずこの変身者にしました。ナメクジがコウモリの戦士になったらツッコミどころが多くて、面白いと思いまして……
 さらに激化する世界樹での戦い。そして次回! 遂にあの二人が出会います……ご期待ください。
 多分ですが、次回の投稿が今年最後です。やっぱり今年中に長篇は終わらなかったか……。









次回 剣魂 妖国動乱篇

来島「とにかく忍び込むっすよ!」

ユイ「お願いです、助けてください!」

シグルド「ならば、この力でねじ伏せてやろう!」

リーファ「アンタの事、絶対に許さないんだから!!」

新八「神楽ちゃん!!」

妖国動乱篇九 アルヴヘイムの奇跡

遂に邂逅する――

ユウキ「大丈夫!? アッスーさん!」

アスナ「ユ、ユウキ……?」
















例の件について

 つい最近のことですが、SAOでユナ/重村悠那役を演じていた神田沙也加さんが急死したと報道がありました。突然の出来事に正直信じられませんでした。特に歌手として活動していたイメージが大きかったので、もう二度と本人からの歌が聞けなくなると胸が痛いです……
 ご冥福をお祈りいたします。


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第八十三訓 アルヴヘイムの奇跡

 今年も色々ありがとうございました!! 就活もあって一時期更新できませんでしたが、12月には多く投稿出来て良かったです! 長編は来年に跨ぎますが、いよいよクライマックスを迎えます! 来年も何卒、よろしくお願いします!!

 さて今回はいよいよ、あの二人が出会います……。運命はどのように傾くのか、楽しみにしてください!






あらすじ
 ユイを救うために世界樹へと侵入した仲間達。しかし侵入を手配したフィリアは、彼女に擬態したワームだった。本物のフィリアは人質となり、ダークライダー達の監視下に置かれている。彼女を救うべく、アスナや神楽らはダークライダー軍団に戦いを挑むのだった。
 一方でユイは平成仮面ライダー達と邂逅。彼らから託された力を受け取り、手に入れたアイテムを銀時やキリトらに渡すことを誓っている。
 そして場面は、シグルドと共に行動する銀時やキリトらに移っていく。

 逆境を打開する力、ヘイセイジェネレーションメモリ。今を生きる少女は、その強大な力の意味を知り、絶望を希望に変える――


「ここが……この星の世界樹の中」

「なんだかツリーハウスみたいね」

 アスナや神楽達が偽者のフィリアの正体を知る傍らで、ちょうど同じ頃に銀時やシノンらも世界樹へ忍び込んでいる。彼らが現在いるのは北口であり、アスナらの現在位置とは正反対に離れていた。辺りを警戒しつつも、ここはシグルドの案内を頼ることにしている。表向きには……。

「やはり人はいないな。みんな! 敵にバレないうちに、二階へ駆け寄るぞ」

「おぉ、分かったぞ」

「ワン!」

 彼らもまたアスナらと同じく、階段を用いて最上階に向かう様子である。一旦は二階へ駆け寄り、そこから非常階段を使用するとのことだ。(世界樹ことツリーハウスの構造上、南口とは設置されている階段が異なっているらしい)

 それはさておき、辺りを警戒しつつひとまずは二階へ駆け寄る一行。上がった先に見えたのは、二手に分かれていた通路だった。

「何? 道が二つだと?」

「一体どっちへ行けば良いのですか?」

 早くも訪れた選択肢に困惑する桂やシリカ達。思わずシグルドに聞いてみると、彼はとある推測を大っぴらにしていた。

「どちらに行こうが、階段には辿り着くのだが……」

「どっちも間違いじゃないってこと?」

「いや、どちらが罠の可能性も高いな」

「そうか? 考え過ぎではないのか?」

「奴等を甘く見るな。どんな手段を使っても、おかしくない連中だからな」

「確かにそうかもしれないけど……」

 シグルドなりの考えに、つい疑問を浮かべてしまうリズベット、桂、シリカら一行。万が一を考えて罠の可能性を示唆するが、どうも疚しさを勘ぐってしまう。慎重に彼の本心に気を付けていると、

「ここは俺と君達とで、二手に分かれるか。俺の経験だが、左の道が複雑かつ時間のかかる方だ。だとすると、スムーズな右の道があえてワナの可能性も高いな。俺は思い切って、左に向かう! 君達は右に進んでくれないか?」

早くもその疑惑は確信へと移り変わっていた。シグルドは二手に分かれることを提案するが、何故か自分一人だけ片方の道へ進む様子である。明らかに銀時らを誘導する気満々のようだ。こうなれば彼らも黙って従うわけもない。皆が仲間の目を見てアイコンタクトを取りつつ、シグルドに不意打ちを仕掛けていく。

「あぁ、分かっているよ」

「言われなくてもな」

「えっ? うゎぁぁ!?」

 そっと彼に近づいたと思いきや、銀時と桂はシグルドを無理やり右の通路に追いやっていた。指示には応じない彼らの反骨的な行動に、シグルド自身も何が起きたのかさっぱり分かっていない。思わず情けない叫び声を上げてしまう。

「な、何をする!?」

 つい怒りを覚えて、銀時らを りつけようとした時だった。

〈カチッ!〉

「ん? くわぁ!?」

 なんとシグルドの頭上から、重厚感のある檻が勢いよく投下。どうやら右の通路に入った途端に、ひっ捕らえるマッドネバーの罠だったらしい。奇しくもその罠に、事情を知っていたシグルドが入るとは――何たる因果応報だろう。

「お、檻ですか!?」

「ワナが仕掛けられていたのは、こっちだったのね」

 一方で檻の存在を知り、シリカやリズベットは思わず驚いている。同時にシグルドの言っていたことが、真っ赤な嘘なのもしみじみと理解していた。彼女らのみならず、場にいた全員が同じ気持ちである。

「えぇい! 貴様ら!! 何故俺のことを裏切ったのだ!?」

 しかしシグルドは厚顔無恥が如く、開き直って銀時らの裏切りを糾弾していく。自身のやっていることを棚に上げるとは、どこまで自分勝手なのだろうか。

「この期に及んで白々しいぞ、シグルド」

「大体バレバレなのよ。あからさま過ぎて、笑っちゃったわよ」

「お前絶対ドッキリ下手なタイプだろ。自己中すぎて、友達もいねぇんじゃねぇのか?」」

 キリト、シノン、銀時と彼を蔑みながら、その言い分を言い返していく。特に銀時の一言には、シグルドも相当心に来ているようだ。

「うるさい! 友達ならいるぞ、ペットがな!」

「いや、そういうことじゃねぇよ」

 苦し紛れの言い訳には、銀時も反射的にツッコミを返している。それはさておき、銀時らはシグルドに種明かしを始めていく。

「つーかよ、俺達は全て知ってんだよ。お前がマッドネバーの一員だってな」

「何!? どこで知ったのだ!?」

「ピナや定春のパートナー達のおかげですよ!」

「ワフ!!」

「ナ!!」

[俺も忘れるな!]

 ここでようやく彼は、自身がマッドネバーと話していた内容が全て筒抜けだったことを知る。どうやら本当にピナや定春らペット組の気配には気付かず、警戒心を皆無で話し込んでいたらしい。爪の甘さや浮き足だった気持ちが、存分に露呈したと言っても過言ではないだろう。

「くっ……まさか貴様らのペットにしてやられるとは!!」

 檻の中から彼は悔しさを滲ませていた。

「さて、折角の機会だ。お前の目的を洗いざらい吐いてもらおうではないか」

「さぁ、言いやがれ!」

 そして状況が一変した桂や銀時らは、この立場を利用してシグルドに情報を吐かせようとする。マッドネバーの邪魔さえなければ、もはやこちらに風が向くのだが――そう上手くいかなかった。

〈コネクト! ナウ!!〉

「フッ!」

「何!?」

 突如聞き慣れた起動音と共に、シグルドは魔法陣を介して檻から抜け出してしまう。彼の窮地を救ったのは……マッドネバーのダークライダー達だった。

「ふぅ、救出完了!」

「まったく手間をかけさせやがって」

「あぁ、すまない」

 顔を合わせるや否や、黙々と文句を発するリュウガとソーサラー。変身者はすでに変身済みのようだ。そんな彼らにシグルドも恐縮してしまい、つい平謝りしている。

 一方銀時らは、唐突に出現したダークライダー達へ真っ先に敵意を向けていく。

「お前らは……!」

「リュウガにソーサラー!」

「やっと会えましたね……!」

「アタシ達の宿敵……!!」

「今度こそは……!」

 皆が強敵の出現に鮮烈なる脅威を感じる中、特にシリカ、ピナ、リズベット、シノンの三人と一匹はただならぬ敵意を燃やしている。彼女らはダークライダーに敗北した経緯があり、リーファ同様その屈辱を果たしたいのだ。表情も真剣そうに研ぎ澄まされている。

 そんな中でダークライダー達も、ようやくシリカらの存在に目を付けていた。

「おや? 誰かと思えば、軟弱な妖精共か」

「ってことは、アタシ達の敵じゃないわね。あぁ~あ。楽ちんで助かったわ」

 二人はあえて煽るような振る舞いで、余裕綽々な態度を見せつけている。完全に彼女達のことをなめ切っているようだ。

 そんな挑発に乗せられることも無く、リズベットやシノンらは強気に言い返していく。

「無駄口を叩けるのも今の内よ!」

「あの時の私達とは大違いなのよ!」

「そうです! 今度こそ、アナタ達のことを負かします!!」

「ナー!!」

 そう豪語すると三人は、早くも装備した武器を所持している。戦闘態勢を整えており、今にも飛び掛かりそうな覇気であった。無論ピナも同じ想いである。

 一方の銀時ら男性達は、ダークライダーよりもシグルドの裏切りを気にしていた。

「はいはい、とりあえず落ち着け。ところでよ――シグルド。裏切るのは分かっていたが、何でマッドネバーに加担したんだよ」

「アンタの話した通りなら、この星の騎士なんだろ? そんな簡単に仲間を裏切っていいのかよ?」

 キリトはやや感情的になって問う。元の世界で会ったシグルドの所業と照らし合わせており、少しでも裏切りに意味があることを模索していたが――そんな僅かな希望は、いとも簡単に崩れ去ってしまう。

「騎士か……あんなのはただの金稼ぎに過ぎない。俺は常に強き者しか興味がないからな。順応に環境を生き抜くのが俺の流儀だ。間違った考えじゃないだろ」

 ほくそ笑んだ表情を浮かべながら、自身の本音をありのままに吐露している。もはや彼には騎士としての誇りは無く、自分勝手さを嫌と言うほど態度に示していた。合理的な生き方だが、同時に薄情的とも言える。

「ぶりぶりざえも〇か、お前か」

「こっちの世界のアンタもそうなのか……」

 銀時は蔑んだ目でツッコミを入れ、キリトも悔やんだ表情のまま失望してしまう。皆がシグルドの自分勝手さに言葉を失う中で、桂は正々堂々と言いたかったことをぶつけていく。

「確かに間違ってはいない。しかし、醜い生き方だな。信念も無ければ、根性もない。意気地なしと言った方が最適か。貴様の生き方を、俺は絶対に認めないぞ!」

 しっかりと目を合わせながら、シグルドの目に余る部分を羅列している。もう完全に彼のことを見捨てており、説得する価値も無いと判断したようだ。無論桂のみならず、仲間達もまたシグルドとの敵対関係を明確化していく。

 一方のシグルド本人はと言うと、図星を突かれたことで沸々と怒りが込みあがっている。

「うるさい、うるさい!! 俺はお前らと違うのだ!! 折角だ。捕獲失敗した腹いせを、お前らにぶつけてやろう!!」

 存分に取り乱しながら、彼は懐に所持していたドライバーことゲネシスドライバーを腰に装着。同時にチェリーエナジーロックシードを手に取り、それを開錠していく。そう彼は、マッドネバーから譲り受けたアイテムで、ダークライダーに変身しようとしていた。

〈チェリーエナジー!!〉

「おっ。変身するのか」

「やっちゃいなよ! きっと病みつきになっちゃうよ!」

 着々と変身の準備を進めるシグルドに対して、横にいたリュウガやソーサラーは調子よく変身を促していく。その言葉に乗っかって、彼は意気揚々と決意を新たにしていた。チェリーエナジーロックシードを、ゲネシスドライバーに装填していく。

〈ロックオン……〉

「ヤツもまさかライダーに変身するのか!?」

[みんな、止めるぞ!]

 新たに訪れようとする脅威に、桂やエリザベスは一段と警戒心を高めている。仲間達も同じ想いであり、意地でも変身を食い止めようとしたが――時すでに遅かった。

「もう遅いわ!」

〈ソーダ!! チェリーエナジーアームズ!!〉

 シグルドはゲネシスドライバーに手をかけて、レバーを強く引っ張る。すると頭上からサクランボ状の物体が頭部に装着。その内部にて仮面が形成されていき、サクランボ状の物体が左右に解放。上半身を守る装甲に変化している。

「変身した……?」

「何なの、あのサクランボは……?」

 これまでとはまた違ったダークライダーの変身方法に、つい困惑するリズベットやシノンら。特に唐突に出現したサクランボ状の物体が、いまいちよく分かっていない。

「サクランボって……!」

「銀さん?」

 ただ銀時だけは、サクランボ状の物体に笑いを堪えている。緊迫感漂う状況下での似つかわしくない物体に、可笑しさを感じていたようだ。キリトはその姿を見て、何とも言えない気持ちになっていたが。

 それはさておき、とうとうダークライダーに変身してしまったシグルド。新たな姿を見せびらかすように、まずは銀時達へ自己紹介を交わしていく。

「見ろ。これが俺の新たな姿だ……! その名も仮面ライダーシグルドと呼べ!」

 彼の変身したライダーは、仮面ライダーシグルド。仮面ライダー鎧武に登場した新世代ライダーの一人で、当作品に登場したライダー達を苦戦させた強敵である。奇しくも名前がまったく同じライダーに彼は変身していた。新たに手にした弓型の武器、ソニックアローを銀時らに向けて、自信良く自分をアピールしていた。

「仮面ライダーシグルド……」

「ワフ?」

「アイツ専用のダークライダーってことか……?」

 名前が明かされると共に、さらなる警戒心を高めていくシリカ、定春、キリトら。未知なる脅威にまた気を引き締める中、銀時や桂は違った角度からシグルドの隙を突いている。

「おいおい、勝手に名付けたらダメだろ」

「えっ?」

 予想外の一言に、シグルドは困惑した反応を示す。

「お前よ……自分がライダーになれて嬉しいのは分かるよ。でも流石に、自分の名前を勝手に付けるのはどうかしてると思うぜ。二次創作だとしても、やっちゃいけないことくらい分かっているだろ?」

「いやあの……この名前は公式のはずだが」

「とぼけるなぁ! あんなサクランボを身にまとって、シグルドと名が付くはずが無いだろう! 精々仮面ライダーチェリー、仮面ライダーツイン、仮面ライダーヤマガタの方が合っているだろう!!」

「いや、合っているかぁ!? 途中から連想ゲームになっているではないか!?」

 どうやら二人は仮面ライダーシグルドを勝手に自称していると思い込み、メタネタを込みで彼を責め立てようとしていた。所謂いちゃもんでしかないのだが、シグルド自身には割と効いている。大っぴらなツッコミで二人に返していた。

「って、どこを指摘してんのよ! アンタらは!」

「そうですよ! 名前なんて別にどうだっていいじゃないですか!」

「そうかぁ?」

 事細かな指摘には、リズベットやシリカも激しくツッコミを入れている。気にしているのはやはり二人だけであった。

 名称による捉え方の違いから、緊張感が途切れた現在の状況。仲間内での言い合いが過熱する中、痺れを切らしたダークライダー達が彼らに声をかけてくる。

「おい、お前ら! 自分達の現状を分かってんのかぁ!?」

「そうよ。アタシ達を倒さない限り、最上階なんて行かせないんだから」

「さっきは取り乱したが……覚悟しろ、貴様ら」

 三人共に戦闘態勢を整えており、こちらも戦う意思を示していた。シグルドを含め、戦いたくてうずうずしているのである。やはり障壁として彼らが立ちはだかっていた。

 一方で戦いを仕掛けられた銀時側は、各々が異なった反応を見せている。

[結局こうなるか]

「ナ!」

「否が応でも戦うしかないか」

 いち早く世界樹にある装置を破壊したい桂やエリザベスは、戦闘が長引くことをやたら気にしていた。援軍も加勢した場合、気合で突破することも難しくなるからである。

 一方で女子陣は、この戦いをむしろ好機と捉えていた。

「いえ、これで十分ですよ!」

「折角リベンジする機会が巡って来たからね……チャンスは無駄にしないわよ!」

「今度こそは絶対に勝つわよ!」

 因縁の相手と決着を付けたいらしく、一念発起が如く闘志を高めている。表情も凛としており、すでに覚悟は決まっていた.いわば感情論で乗り切ろうとしている。

「みんな! 無理はするなよ」

「「もちろん!」」

「分かっているわ!」

 一応キリトは注意を加えるも、リベンジに燃える彼女らの想いは止まらない。そっと気持ちを読んで、三人の熱意を信じることにした。

「やれやれ……定春。お前も無茶するなよ」

「ワン!」

「分かってんなら、大丈夫だ。さて……ここからは気合入れていくぞ、てめぇら!!」

 無論銀時もキリトと同じ想いである。ここからは自身の好きなように戦っていい。そう彼は捉えていた。定春やピナも唸り声を上げて、早くも自身の標的に狙いを付けている。

 それぞれの想いが交差しあう、世界樹でのもう一つの戦い。情熱に溢れる銀時やキリトらと異なり、ダークライダー達はただマッドネバーの目的のために戦うのだ。

「面白い」

〈sword bent!〉

「かかってきなさい」

 リュウガ、ソーサラー、シグルドと彼らが武器を差し向けたところで……とうとう戦いが始まってしまう。閉ざされた通路にて始まるマッドネバーとの戦い。果たして銀時側に勝機はあるのだろうか……?

 

 世界樹の状況が刻一刻と変化する中で、南口付近の通路では早くも戦いが起こっている。そう、アスナや神楽、新八側とポセイドン、ソーサラー、ナイトローグ側だ。捕虜にされたフィリアを取り返すべく、八人の精鋭達がしのぎを削っている……。

「フッ、ハァ!」

「あらよっと!!」

 槍を振るって襲い掛かるポセイドンに対して、志村新八とクラインは木刀や刀を用いて積極的な接近戦を持ちかけていく。侍を志す二人の男達。意外にも息のあったコンビネーションを披露していた。さらには、

「そこだ!」

「くっ!?」

好機と言わんばかりに近藤もこの戦いに乱入してきた。力強く刀を握り、ポセイドンを斬りかかる。

 三人の愚直な攻撃の数々を受けて、ポセイドンも思わず押され気味となってしまう。

「ふざけるな! この程度で倒れる俺ではないわ!!」

 自分の思い通りに戦いを展開できず、彼には鬱憤が溜まっている。それを晴らすかのように、槍を構え直してその先端から水をまとった衝撃波を解き放っていく。

「ふわぁぁ!!」

「かわせ、二人共!」

「フッ!」

「おっと!?」

 いち早く攻撃の気配を察した近藤は、前方にいたクラインと新八へ回避を指示。二人は即座に、その衝撃波を受け流している。

「チッ! またか……」

 渾身の攻撃もかわされてしまい、ポセイドンは余計に苛立ちを募らせていく。しかしこの状況下でも冷静さは失わず、ひとまず心を落ち着かせている。

 一方の新八、近藤、クラインは、自分達に追い風が向いていることを自覚していた。

「やりぃ! あんがとよ、近藤さん!」

「アレくらい朝飯前だ! ヤツの攻撃も段々読めてきたな」

「そうですね。技さえ分かれば、もうこっちのものですよ!」

 率直に感謝を伝えるクラインに、近藤は意気揚々と二人を鼓舞している。新八は厚かましく感じながらも、元気よく声を出して返していた。上手く戦いのペースを掴みながら、三人の侍達はこの有利な流れへ乗っかっている。

「歯ごたえはありそうな奴等だな。だが、俺に勝つことは出来ねぇがな!」

 一方のポセイドンも調子を取り戻しつつ、近藤らへ自信満々に挑発していた。勝てる算段が付いたかららしい。

「軽口叩けるのも今の内だぞ!」

「俺達、純情ブラザーズを甘く見るなよ!」

「そうですよ――って、何を変なチーム名付けてんだ! 名付け親が一番純情に相応しくねぇよ! 欲まみれだろ!!」

 対する近藤は仲間内の指揮を高めて、勝手にチーム名を名付けている。あまりの風変わりな名前に、新八は反射的にツッコミを入れていたが。

 しぶとくも戦い続ける新八、近藤、クラインと相対して、ポセイドンは勢いを失わずに力づくで彼らをねじ伏せようとする。まだまだ男同士の戦いは続くようだ……

 

 

 

 

 

 

 一方のリーファ、沖田、土方は、因縁の相手とも言えるダークキバと交戦していた。

「待て、コノヤロー!」

「逃がすかよ!!」

「フフ……良い気味ね!」

 自身を自在に浮遊させながら、ダークキバは彼らからの攻撃を軽々と回避していく。中々思い通りに進まない戦いに、土方らは四苦八苦してしまう。ダークキバも調子に乗り、このまま自分のペースに相手を誘おうとしたが、

「そこだ!」

「こんにゃろ!」

「何!?」

油断が生まれているうちに沖田と土方が手痛い一撃を与えている。背後から刀で斬りかかり、無理矢理にでも地上へ引きずりおろしていく。相手がちょうど体をよろけたところで、二人は近くにいたリーファを扇動する。

「今だ! 行け、ブラコン!!」

「この隙に攻めやがれ!」

「言われなくても、分かっているわよ!」

 好機と括っており彼女は、剣を握りしめてダークキバに襲い掛かっていく。その表情は屈辱を果たすべく、より真剣そうに変化していた。しっかりと標的を定めていき、そのまま剣を勢いよく振るう。

「はぁぁ!!」

「何……またか!」

 間一髪のところでリーファの気配にダークキバは気付き、早くも防御姿勢を構えていく。両腕を目の前に上げて、手の甲からリーファの猛攻を防いでいる。

「フッ!」

「セッ……!」

「ヤァ!!」

 何度も繰り返しては防がれてしまう攻撃。ダークキバは反射神経をいかんなく発揮しており、軽々しくその猛攻を避けていた。

「へぇー。この前よりはやるじゃないの。少しは成長しているのかしら?」

「当然よ! 全ては……アンタを倒すためなんだから!」

 肝心の復讐相手から褒められるほど、リーファの実力はメキメキと上達している。やはり月詠や九兵衛との特訓が功を奏したのだろう。本人も教えを武器にしつつ、毅然とした態度で立ち向かっている。

 しかし幾ら攻撃を浴びようとも、ダークキバには状況を有利に変える秘策があった。そう、相手の行動を封じてしまう紋章である。

「あらあら、残念ね。そんな見え透いた希望は、永遠に来ないことを教えてあげるわ!!」

 余裕綽々に彼女は任意で紋章を召喚。リーファに差し向け、以前と同じく捕えようとしたが……もちろんリーファにも対策があった。

「どうかしらね!!」

「はぁ? 髪飾り!?」

 そう豪語すると共に、彼女は自身の髪型を留めていた葉っぱを模した髪飾りを、紋章に向かって投げ捨てていく。するとどうだろうか。紋章は髪飾りのみに作用して、いとも簡単に捕縛対象を誤認している。いわばバクのようなやり方で、ダークキバの紋章をリーファは意地でも防ごうとしていた。

 一方のダークキバは、リーファの思いもよらぬ行動に愕然としてしまう。

「あの小娘……何やってんのよ! 折角のチャンスを!!」

 怒号を上げながら、そのまま突撃してくるリーファを相手取る。ここからは互いの威信を懸けた、接近戦が展開されていく。

「セイ、ハァ!」

「くっ! そう易々とやられないわよ!!」

 相手の動きを見切りながら、回避や攻撃を上手く使い分けるリーファ。その猛攻ぶりに増々鬱陶しさを感じるダークキバ。場の雰囲気は二人の独壇場と化している。

 そんな彼女の勇姿を見て、様子を見ていた沖田や土方もようやく戦いへ加わろうとした。

「土方さん。俺達も行くでさぁ」

「分かっているさ。ただアイツの様子を見ていただけだ」

「あのままブラコン女に見せ場を譲るのも、なんだか納得がいかないんでねぇ」

 共にダークキバの放つ紋章を警戒しつつ、お構いなしに女子同士の戦いへと割り込んでいく。

 

 

 

 

 そしてナイトローグに対しては、アスナと神楽の二人が対峙していた。

「ハァァァ!!」

「ホワチャー!!」

「フッ、ハァ!」

「おっと!?」

 細剣で的確に攻めるアスナと、徒手空拳でがむしゃらに攻撃を続ける神楽。二人の特性を活かして、戦いを有利に進めようとしたが――やはりそう上手くはいかない。

「チッ……こいつ! 見た目に反して強いアルよ!」

「変身しているからかしらね……油断は禁物よ!」

「もちろんネ!」

 彼女達はナイトローグの未知なる力に警戒しており、より確実的な攻撃を用いてこの難敵を打破しようとしていた。何よりも相手は、以前に不快感を与えたナメクジの一体。意外にもアスナにとっては因縁深い相手である。

 一方でナイトローグは一定の余裕を見せつつも、隠し持っていた技の数々で二人を迎え撃つ。

「甘いな……! 俺を見くびるなよ」

〈アイススチーム!〉

 ナイトローグは武器として使用していた、スチームブレードのバブルを回転させて、秘められた属性の力を発動させる。

「くらえ!」

「ホワチャー!」

 この攻撃に神楽が、力づくで受け止めようとした時だった。

「えっ!? 何こ……うわぁ!?」

「神楽ちゃん!?」

 アイススチームの効果で彼女の拳がバキバキに凍り付き、氷の塊となったところで瞬く間に爆発。凍り付いた腕は元に戻ったものの、神楽は手痛いダメージを受けてしまう。

 アスナも神楽の様子に心配して、駆け寄ろうとした時だった。

「お前にはこれをお見舞いしよう」

〈エレキスチーム!〉

 またもバルブを回転していき、今度は電撃をまとったエレキスチームを発動。

「ふわぁ!」

「な……くっ! キャッ!?」

「アッスー!!」

 ためらいなく彼女へ電撃技をぶつけると、アスナは直線状に吹き飛ばされてしまう。こちらもダメージを受けたものの、めげずに立ち上がろうとした時である。

「こんなところで……えっ? 体が痺れてる……?」

 なんと体に力が上手く入らなかった。先ほど受けたエレキスチームの効果によって、一種の麻痺状態に陥ってしまったのである。苦悶の表情を浮かべながら、如何にか立ち上がろうとするも……やはり今の彼女には難しかった。

 幾度も立ち上がろうとするアスナに対して、ナイトローグはスチームブレードを構えながら、彼女へ質の悪い脅しを仕掛けていく。

「これで貴様はしばらく動けない。あの女のようにな」

「フィリアちゃんにも、同じことをしたの!?」

「そうだ。これで捕虜は二人となるな。もし俺達に捕まりたくなければ、残ったガイアメモリを全て渡せ。さすればあの女も解放してやろう」

「くっ……誰が渡すものですか!」

 そう。ナイトローグの狙いは、やはりガイアメモリにあった。欠けていたガイアメモリを全て集め、マッドネバーの最終的な目的に使用するのである。この目論見には、絶対に加担してはならない。

「アッスーから離れろ! この外道!!」

 卑怯なやり方に激高した神楽は、勢いよくナイトローグへ襲い掛かろうとするも……

「やれ!」

「アイアイサー!!」

「うぅ!? うわぁぁ!?」

「神楽ちゃん!?」

間一髪でその動きを封じられてしまう。ナイトローグは仲間のナメクジに合図をして、触手を巧みに振るい神楽を捕えてしまった。数か月前の復讐と言わんばかりに、神楽を力一杯に締め付けていく。

「ヒヒヒ! あの時はよくも塩を振りやがったな! 十倍にして、この悔しさを返してくれようぞ!!」

「や、止めるネ! とっとと離せアル!!」

 自慢の怪力を奮って強引に脱しようとするも、ヌメヌメした体が彼女の調子を狂わせる。こちらも苦しみの表情を浮かべたまま、ただじっと締め付けられる痛みを我慢するしかなかった。

「神楽ちゃん! 待ってて、今助けに……!」

「無駄だ。痺れた体では立ち上がることも出来ない。お前らは俺達に負けるのだよ」

 アスナも自身の力を振り絞りしながら、神楽を助け出そうと試みる。しかし体を動かす度に痺れが襲い掛かり、もう動かすことも難しくなっている。動きを封じた二人の姿を見て、ナイトローグは実質的な勝利を確信していた。

「神楽ちゃん! アスナさん!」

「行かせねぇぞ! まだまだ俺達を楽しませろよ!」

「私らがたくさん遊んであげるからさぁ!」

「うっ! 助けに行けないなんて……」

「チッ! どうすれば……」

 新八やリーファ、土方ら仲間達も二人を助けたかったが、ポセイドンやダークキバの相手をするのに手一杯となってしまう。人数差ではアスナ達に軍配が上がるが、やはりダークライダー達の実力から複数人で相手にしないと張り合えない。

 言うならば、今彼らは危機的な状況に直面しているのだ。フィリアも依然として気絶しており、起きる気配もない。このままマッドネバーの思い通りになってしまうのか……。

 だがしかし、まだ希望は残されている。誰もその気配を察していないが、物陰に隠れていたユウキは密かにある計算を行っていた。

「見つけた。あそこに敵を放り投げれば、しばらく時間は稼げるはずだ!」

 彼女が目を付けていたのは、通路に設置された隠し穴である。普段は物資を運ぶのに使用しており、これを活用すればダークライダーをこの場から退却出来るのかもしれない。だがその作戦を遂行するには、ウサギから元の姿に戻らなくてはいけないのだ。アスナの目の前で――しかし、ユウキはもうすでに覚悟を決めている。

「もう時間は無い……例えどんな反応をされようとも、僕は僕なんだ! アッスーさんは……僕が助ける!」

 誰であろうと全力で助けて、絶対に守り抜く。騎士の誇りを心に灯していた。そう誓った彼女の表情は、凛々しく変わっている。迷うことなんてもうない。騎士として……そして一人の仲間として……本当の姿で助けると決めていた。

「今、行くよ……!」

 背中にはガイアメモリを入れた手ぬぐい。口には自身の刀剣を咥えて、全速力でアスナの元まで駆け寄っていた。

「さて、今度は特殊なガスで苦しませてやろうか」

〈デビルスチーム!!〉

 一方のナイトローグは、アスナの体が痺れている隙にとどめを刺そうとする。バブルを最大限に回し、暗闇に染まった煙をまとうデビルスチームで、この戦いに決着を付けようとしていた。

「うぅ……動いて! 私の体!」

 アスナ自身も最後まで諦めずに立ち上がろうとするも、未だに痺れが効いている。もはや絶体絶命の状況。必死に抵抗も虚しくここで折れてしまうのか。その表情は数多の苦しみに苛まれていた。

 彼らの要求通りに、ガイアメモリを引き渡す苦渋の決断を下そうとした――そんな時である。

「ハァ!」

「えっ……嘘? あのウサギ!?」

 なんと彼女の目の前には、階段近くに避難させていたウサギが、自らを省みずに刀剣でその攻撃に真っ向から挑む。刀剣マクアフィテルとスチームブレード。闇の力に秀でた武器が、互いに火花を散らしながらこう着状態を作り出している。

「ほぉ。俺に立ち向かうとはいい度胸だ。このシステムの餌食となるがいい!!」

 思わぬ邪魔が入ってもなお、ナイトローグの態度は変わらない。何よりも相手はただの小動物。力でねじ伏せればよいと、この時の彼は頭の片隅に置いていた。

「危ないわよ! 早く逃げなさい!」

「……逃げないよ。僕は決めたんだ。君も守るって!!」

 その一方でアスナは、無茶をしているウサギことユウキに早くも退避命令を出している。彼女の身を案じての指示だったが、当然ユウキはそれに応じていない。意地でもアスナのことを守ろうと躍起になっている。

「ハァァァ!!」

 体格差なんてもはや関係ない。どんなに不利な状況に立たされても、諦めずに突き進むしかない。そんなユウキの正しい心としぶとさが、遂に事態を大きく進展させていた。

〈ヒューン!〉

 何の前触れもなく、彼女の体からはラビットメモリが抜け出している。数時間前にあったように、新八らを助けた時と同じ状況であった。

「まだだ! まだいける!!」

 まるでリミッターが解除されたかのように、ユウキには今まで抑え込まれていた力が解放されていく。そしてとうとう……ウサギの姿から妖精の姿に戻り始めていく。

「えっ? うわぁ!? 何これ……?」

 唐突に訪れたウサギの変化に、目の前にいたアスナはただただ困惑するしかない。無論彼女のみならず、場にいた敵味方全員がこの展開に戸惑っていたが。

「な、なんだ!?」

「アレはウサギか?」

「ま、まさか……」

 ここで勘の冴えている土方や沖田らは、ウサギが本当の姿に戻ることを確信していた。皆が未知なる展開に息を殺す中、ユウキは遂に元の姿に戻っていた。

「えっ……」

 そして何よりも、この展開に驚嘆しているのはアスナであろう。目の前にはかつての親友……いや、生き別れた大切な人がいるからだ。思い起こされるのは懐かしい記憶。元の世界で出会った彼女との思い出が、まるで走馬灯のように蘇っている。この時のアスナは本当に、かつてのユウキが助けに来てくれたと僅かな希望に揺られていたのだ。

 開いた口が中々塞がらないアスナに対して、ユウキは構わずにこのままナイトローグを相手にしていく。

「はぁぁぁ!!」

「何!? 貴様は確か……あの騎士団の!?」

「そうだ! 僕はスリーピングナイツのリーダー、ユウキだぁぁぁ!!」

 予想外の援軍にナイトローグは調子が狂い、行動もつい鈍くなっている。一方のユウキは、気合を込めて自己紹介を交わしつつ、ナイトローグに連続して斬りかかっていた。

 思わぬ助っ人の登場により、仲間内でも様々な反応が声に出ている。

「ユ、ユウキ……?」

「スリーピングナイツって確か、この星の有名な騎士集団だったよな」

「まさかウサギの正体が、そのリーダーとは驚きだぜ」

「あの剣の動き、並大抵の人間じゃ出来ねぇですよ」

 新八や真選組らは、ユウキ及びスリーピングナイツがウサギの正体と知って、大変驚いていた。特に沖田はユウキの一瞬の立ち回りから、彼女がかなりの強者だと見抜いている。

「まごうことなき、ユウキじゃねぇか……」

「やっぱりね……」

 一方のクラインとリーファは、不安視していたことが見事に命中していた。気になるのはアスナの反応であり、やや複雑な想いを感じている。

「ユウキって……スリーピングナイツって」

 さらに神楽も唐突に登場したユウキに、アスナから聞いたユウキの件を照らし合わせていく。名称も一致しているが、ユウキの顛末も知っているためか、彼女がまったくの別人である事を早くも推測している。

(本当にあのユウキなの……?)

 それはアスナも同じであった。内心では冷静さを装っているが、それでも今は感情的になっている。タイミングが良いのか痺れもようやく消えており、ゆっくりと立ち上がってユウキの様子を都度確認していた。

「こりゃ面白い展開ね!」

「まさか取り逃した魚にここで出会えるとはな。今度こそ、仕留めてやろう!」

 一方でダークキバやポセイドンらダークライダー達は、ユウキの出現をむしろ好機として捉えている。先ほどまで戦っていた相手を放棄してまで、共にユウキへ襲い掛かろうとしていた。その根底にあるのは、逃がした魚を意地でも仕留めること。そしてリーファやクライン程度ならば、いつでも倒せると高を括っているに違いないだろう。

「邪魔だよ! アンタ達は、とっととこの場から去って!!

 だがしかし、今のユウキにとっては彼らをお邪魔虫にしか見ていない。密かに立てた作戦通りに、ダークライダー達を隠し穴へ吹っ飛ばそうとしていた。

「ハァ!!」

「うゎぁ!?」

〈カチッ!〉

「えっ!? なこ!?」

 全身全霊で込めた刀剣の一刀で、カウンターをするが如く二人を斬撃で後方まで吹き飛ばしていた。するとちょうど隠し通路のスイッチが起動。木々で出来た壁が一回転して、彼らをより上のフロアへ誘導させることが出来た。同じ場所へ戻ることも出来ないため、ダークライダー達の脅威は去ったとも言えよう。

「ダークライダーが!」

「どっかに送りやがったのか?」

 彼女の機転を効かした行動には、仲間達も率直に驚くしかない。だが一方でナイトローグは、人手が減ってもなお自身の力を用いて、逆転の一手を狙っていく。

「くっ……だが、俺にはまだこれがある!」

〈エレキスチーム!〉

 再びバルブを回して、電流をまとったエレキスチームを発動。ユウキも先ほどのアスナと同様に、麻痺状態にしようとしたが――

「効かないよ、僕にはね!!」

「何!?」

 当然この手段を目の当たりにしていたユウキには効かない。彼女はすっとナイトローグの前方に現れると、

「ハァァァ!!」

「うわぁぁ!?」

今度は連続した斬撃で相手に次々とダメージを与えていく。相手の隙を作らせない彼女なりの素早さを活かした攻撃に、ナイトローグはただただ受け止めるしかない。さらにはその際に、彼の持っていたスチームブレードが手元を離れて、ちょうどユウキの手に渡っている。

「これでどうだぁ!」

「うぉぉ!?」

 まるでお返しと言わんばかりに、ユウキは電流をまとったスチームブレードでナイトローグを一刀。アスナの仕返しが如く、今度は彼を麻痺状態にさせていた。

「動けぬ……!」

「動けないならこっちのもの! アンタはこっち!」

「ウグ!?」

 その間にユウキは、床に仕掛けられていたスイッチを起動。ナイトローグの周りのみ床がぱっくりと割れており、彼は遥か地下の階に誘導させた。

 ユウキにしてやられたマッドネバー達。残るは変身していないナメクジのみである。

「えぇ、俺だけ!? こうなったら、奥の手だ! こいつらがどうなっても――」

 苦し紛れに彼は、神楽とフィリアを人質にして難局を乗り切ろうとするが、

「ハァ!」

「アレ? ギャァァァ!? 裂かれてる!?」

ユウキがその僅かな希望すらも粉砕していた。いつの間にか触手は刀剣によって斬られており、フィリアも神楽もユウキが無事に保護している。つまりはもう彼らに、立ち向かう術などほぼ無いのだ。

「人質はみんな救出したよ。さぁ、アンタも戦う?」

「ヒィ、ご勘弁を! 助けて~!!」

 ユウキは余裕に満ちた表情でナメクジへ聞くも、当然彼は弱音を吐きながらその場を跡にしていた。これにて一時的ではあるが、マッドネバーの脅威は去ったに等しいだろう。

「ふぅ……如何にか窮地を脱することが出来たね。大丈夫だった、みんな?」

 全員を守れたことに一安心したユウキは、仲間達に改めて無事を確認している。だがしかし、場の雰囲気は妙な静けさを漂わせていた。

「……やっぱり、こんな反応になるよね。致し方ないけど」

 ユウキ(SAO)の件もそうだが、何よりもウサギが突然見ず知らずの妖精に変われば、驚かない方が無理だろう。

 そして何よりも、この状況下で一番に話しかけられたのは……もちろんアスナである。

「ユウキ……」

「あっ、アッスーさん……」

 彼女はしんみりとした表情のまま、ユウキに近づきながら話しかけていく。一方のユウキもアスナの気持ちを理解しており、何を言われても受け止める所存である。

「アッスー!」

「ちょっと待て、神楽ちゃん」

「何するネ、クラ!」

「話したい気持ちも分かるが、後は二人に任せておこうぜ。そんな気がするんだよ」

「でも……」

 その気を察した神楽がアスナへ近づこうとするも、クラインに呼び止められてしまう。彼もアスナの気持ちは理解しており、だからこそここは当人で解決すべきと考えている。

 皆がアスナとユウキの動向を見守る中、先に前者が感極まって動き出していた。

「ユウキ!!」

「ごめん! アッスーさん!!」

「えっ……?」

 すると我慢が出来ずに、ユウキも大きく声を上げていく。どんな反応をされても、彼女は洗いざらい正直なことを話すことにしていた。

「やっぱり僕と姿が似ているんだね。君の知っているユウキと」

「そ、それって……」

「全部聞いちゃったんだよ、あの時。アッスーさんの知っているユウキがとっても大切な人で、かけがえのない親友だってことも」

 やや答えづらそうに顔をしかめるも、しっかりとアスナの目を見て、柔軟に会話を進めていく。一方のアスナは密かに抱いていた予感が当たり、より一層言葉を詰まらせてしまう。

「はっきりと言うよ……僕はこの世界のユウキなんだ! 本当は僕自身も驚いているけれどね。まさか別の世界にも、僕とほぼそっくりの人がいたなんてね」

 ユウキは次々にアスナへ言いたかったことをぶつけていく。別の世界にも自分とよく似たユウキがいること。

「だから、正直に言うと元に戻るのが怖かったんだよ。アッスーさんの前に姿を見せたら、思わぬ形で君の心を傷つけちゃうんじゃないかって」

 そして話を断片的に理解した上で、アスナの前に姿を見せるのをためらうことも。彼女のユウキ(SAO)に対する気持ちを知った時から、この世界のユウキは複雑な感情に囚われていた。それでもしっかりと前を向き、真正面から気持ちを受け止める。正々堂々とアスナに接すると決めていたのだ。

「それでもねぇ、君とは――!」

 と続けて言おうとしたその時である。

「えっ!? アッスーさん……?」

 アスナは気持ちの赴くままに、ユウキを突如抱きしめてきたのだ。唐突な行動にユウキが困惑していると、アスナは泣きじゃくりながら自分が感じたままの想いを吐露していく。

「ごめんなさい……アナタは何も関係ないのに、気を遣わせちゃって。私もどう反応したらいいのか分からないのよ! 折角また別の世界で出会えたのに……別人なのは薄々気付いていた。でもなのに! 心が追い付かないの……!」

 その言葉にまとまりは無く、嬉しさと寂しさが相まった、様々な気持ちが集約されている。アスナ自身もユウキを見た時から、以前の彼女とは別人だと自覚していた。それなのに性格や戦い方も似ており、本人もどんな顔で接すれば良いのか分からなくなったのである。それに追い打ちをかけるが如く、ユウキに気を遣わせてしまったことを申し訳なく感じていた。本人も涙が止まることは無く、本当の自分をさらけ出したまま、ユウキに泣きついている。

 そんな感傷に浸るアスナの姿を目にして、ユウキは彼女をそっと優しく慰めていく。

「分かるよ、アッスーさんの気持ち。大切な人とまた出会えたらとっても嬉しいよね。今はただ、思う存分泣いてすっきりしよう。大丈夫。アッスーさんはきっと強いはずだから……」

 自分に出来ることは限られている。それでも今はアスナの気持ちを十分に理解して、優しく受け止めることが最適だとユウキは考えていた。その表情は優しく、そしてアスナに安心感を与えている。複雑に絡み合った運命は、たった今一つの道に繋がった。

 

 そんな二人のやり取りを見ていた神楽ら仲間達も、彼女達の想いをじっくりと受け止めている。

「アッスーの気持ち、十分に伝わったアルよ」

「ウサギ……いやユウキさんも悩んでいたんですね」

「アスナさんだけじゃなく、この世界のユウキさんも優しいから、あんなにも人の気持ちに寄り添えるのね……」

 神楽、新八、リーファと二人の優しさを汲み取っていた。共に真面目で友達想いだからこそ、素直に互いの言葉を受け止められると感じている。

 そしてアスナだけではなく、クラインも感動して涙を流していた。

「あっ、ごめん。俺泣いちまったわ……」

「もらい泣きアルか」

「クラインさんにしては珍しいですね」

「いや、俺よりもずっと泣いているぞ……近藤さんが」

「えっ? 近藤さんが!?」

 さらには彼に続いて、近藤まで泣いているのだが……

「トシィィィ! 総悟おぉぉ!! 俺は今猛烈に感動しているぞ!!」

その様は周りが引くほど号泣している。

「いや、涙流しすぎだろ」

「一応敵のアジトにいるので、少々声のボリューム下げてもらっていいですかい?」

 ちょうど近くにいた土方や沖田が落ち着かせようとするも、話はあらぬ方向に向いてしまう。

「そんなこと言うなよ! 見ろよ、この鼻水の束! 俺が号泣している証だろ!」

「いや、見せてくんなよ!! 汚ねぇだろ!」

「そんなこと言うなよ! 台無しになる前に見ろって!」

「アンタの発言が全てを台無しにしてやすよ」

「って、お前は何をやってんだ!! 良いからその物体を捨てろ!」

「うわぁ!? 近寄らないでよ!! ばっちぃわね!!」

 近藤は突然自分の鼻から出てきた鼻水の塊を、土方や沖田に見せびらかしてきた。言語道断で不衛生な物体であり、二人は厚真かしく事を受け流している。新八やリーファも近藤の突拍子もない行動には、ただただ気を引かせていた。

 そんな騒動が起きてもなお、ユウキとアスナは気にせずに感傷の気持ちに浸る。一方でずっと気絶していたフィリアはと言うと、

「う、うーん……えっ? みんな? って、何この状況?」

ようやく目を覚ましたが状況をあまり理解していない。見えるのはアスナがユウキを抱きしめている光景。その光景を見て、クラインがクスっと涙を流す光景。そして近藤の出した鼻水を巡って、波乱が起きている真選組や新八、神楽、リーファの光景である。一つだけ言えることは、話を聞かない限りは真実へ辿り着けないことだ。

「一体何が起きているの……?」

 気絶していた間は何も覚えていないので、彼女はただ困惑するしかない。やんわりと苦笑いを浮かべたその時である。

「あっ、危ねぇ!」

「えっ? ……ギァァァァ!!」

 近藤は気を緩めてしまい、鼻水の束を手放してしまう。その物体は左方に曲がり、ちょうどフィリアの元へぶつかろうとしていた。果たして彼女は無事なのだろうか……

 頼もしい仲間も加わり、彼らはマッドネバーの野望を食い止めるべく再び動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうとう始まった世界樹内の戦い。銀時やアスナらが、ダークライダーや疑似ライダーと戦いを繰り広げる中、世界樹入り口の東口と西口でもある変化が生じていた。

「隙あり!」

「うっ!」

「しばらく大人しくしてもらうぞ」

 見張りをする怪人達の隙を密かに伺い、みねうちや腹パンで彼らの気を失わせたのは、サクヤ、アリシャ、ユージーンの領主達。場所は世界樹の東の入り口。彼らはそこへ侵入するために、やや手荒な手段を実行していた。

 事が上手く進んだことに一安心する中、場には鬼兵隊の面々も駆け寄ってくる。

「騒ぎを起こさないためとはいえ、本当に倒さなくて良いんっすか?」

 早々に来島が疑問を投げると、ユージーンとサクヤが返答していく。

「心配は無用だ。こんな雑魚に付き合っているほど、俺達は暇では無いのだ」

「本丸は世界樹内にいるはず。とっとと倒して、囚われた人々も解放しなくてはな」

 下手な騒ぎは起こさずに、なるべく早く敵の本丸を叩く。一切の無駄を省くことが、領主達の総意でもあった。

 彼らなりの考え方に、鬼兵隊はバラバラな反応を示していく。

「これが領主の余裕か。まったく面白い奴等でござる」

「そうっすか? 何か釈然としないっすよ、こっちは」

「まぁ、また子さんは派手にやるのが好きですからね。戦いも晋助殿のことも」

「おい、てめぇ。今何って言ったすか……?」

「いえ、何でも」

 万斉は感心していたが、来島はじれったいやり方にやや不満を持っている。そこに武市が余計な言葉を発して、彼女の怒りを買うことになったが。そんな変わらぬ応酬を目にして、万斉並びに領主たちすらも呆れかえっている。

「ほら、行くよ。来島さんも」

「すぐカッとなって自滅だけはするなよ」

「わかっているっすよ!!」

 仕舞いにはアリシャやサクヤからも注意を加えられるほどだった。

 気を引き締めつつ領主達と鬼兵隊一行は、マッドネバー側に気付かれることなく、上手く世界樹へ忍び込んでいた。

 

 

 

 

 一方で西口はと言うと、

「パトロール終わりました! 即時帰還します!」

「ご苦労。入っていいいぞ」

こちらは妙やジュンらが世界樹へ侵入しようとしている。彼らは道端に転がっていた怪人の残骸をかき集めて、ライオトルーパーやカッシーンといった戦闘員に変装。門番を務めていた怪人達の目を欺く作戦だった。

 一か八かの賭けではあったが、その結果は無事に成功。戦闘員を装ったまま、十一人はいよいよ世界樹へ入り込んでいく。

「なぁ、本当に気付かれてないのか?」

「反応を見るにそうでしょうね」

 テッチからの問いにたまが返答する。彼女は門番の怪人達の挙動から、大方騙し通せていることを察していた。即席で思いついた作戦は、意外にも上手く作用している。

「とりあえず、最初の山場は越えたわね」

「そうじゃな。だが本当に、この世界樹とやらに侵入してよいのか?」

 そっと落ち着きを見せるあやめに対して、月詠はふと思った疑問をスリーピングナイツらに聞いていた。その問いにノリやタルケンが答えていく。

「平気よ。そもそもここは元々、姫様達の居場所なんだから」

「敵が乗っ取っていることは確かですし、現状を見る上でも侵入は大切ですよ」

「そうか。確かにこの場所なら、銀時やキリト君が来ていても可笑しくはないな……」

 彼らは世界樹に敵の本丸や重要な情報が紛れていると考え、この侵入作戦をより重要視している。彼らの考え方は、同時期に侵入した領主達と近しいものだった。九兵衛らも徐々にその考えに納得していく。

「とにかく、さっと進もうぜ。もしかしたら、シウネーやユウキもここにいるかもしれないからな」

「お互いに仲間と合流出来たらいいわね」

 様々な考えをひっくるめつつ、ジュンや妙は後ろにいた仲間達に鼓舞している。ユウキや銀時と言った、彼らが再会を待ちわびている仲間達も、世界樹へ密かに潜り込んでいると願っていた。一筋の希望に想いを馳せつつ、一行は自分達の出来ることに全力を注いでいく。

 その一方で、エギルはある事を不安に思っていた。

「ところでさっきから思っていたんだが……長谷川さんはどうやって戦うんだ?」

「どうって……この槍だな」

「いや、それは戦闘員が持っていたものでは」

 そう。長谷川の実力である。今後ともに戦いは避けては通れぬ道だが、正直長谷川に何が出来るのかはさっぱり分かっていない。固有の武器も所持しておらず、増々彼の行く末を不安視してしまった。妙らがそれを指摘しないのもどこか気がかりである。

 こうして多くの期待と不安を背負いながら、こちらも世界樹へ侵入した妙ら一行。その先に待つものとは果たして――

(ちなみに東口と西口も構造が異なっているため、領主側と妙側はまったく異なる通路や階段を通ることになる)

 

 

 

 

 

 そして高杉、ユイら一行は、

「おい、いたぞ!」

「さっさと来い!」

とうとうマッドネバーの戦闘員達に発見されていた。またも撒くためにも、今はただ闇雲に通路を駆け抜けるのみである。

「遂に見つかってしまいましたか……」

「分かっていたことだ。とっとと撒くぞ」

「二手に分かれたら、良いのではないでしょうか?」

「そうだな。おっ、ちょうど分かれ道だ」

 四人は敵を撒くために、二手に分かれることで考えを一致。するとちょうどよく、目の前には二つの通路が用意されていた。

「私はこっちです!」

「私もです!」

「なら俺は……」

 事前に打ち合わせをしていなかったので、皆が直感で左右の道に進んでいる。シウネーとユイは左側、高杉とフレイアは右側だった。

「アナタはあの子を守りなさい。私は大丈夫だから」

「姫様……分かりました!」

 分かれる最中にフレイアは、シウネーにユイの護衛を命じている。彼女の行方を心配するシウネーだったが……すんなりと言付けを飲み込んでいた。こうしてまたも、彼女達は離れ離れになってしまう。

「結局お前がついてくるのか」

「当たり前です。危なっかしくて、見てられないですからね」

「それは信用してんのかよ」

「信用していないから、ついていくのですよ」

 高杉は憎まれ口を発するも、フレイアは意地でも彼についていこうとする。彼を監視するために、その道を突き進む様子だ。

 一方でユイとフレイアが左側の通路を進んでいくと、一つの隠し穴を見つけている。

「こちらですよ、ユイさん!」

「ここは?」

「隠し穴です。ここを通れば、下の階にすんなりと行けるはずです!」

 どうやらシウネー曰く、一部の人しか知らない隠れた通路だという。敵の追手から身を守るべく、使用を提案していく。

「さぁ、こっちです!」

「は、はい!」

 ユイは平成仮面ライダーから託されたアイテムを抱きかかえながら、その穴へと入り込む。シウネーと共に。その穴は滑り台状となっており、空気の噴射で二階まで下りられるとのことだ。一瞬にして二人は二階へ移動している。

「ふぅ……大丈夫でしたか?」

「大丈夫ですよ。って、アレは……!」

「アレ?」

 到着するや否やユイは、目の前にいた人物に驚きを感じていた。そう、この階では銀時やキリトらがダークライダー達と対峙していた階なのである。

「パパ!! 銀時さん!!」

 またも運命が交差していく――




 遂に出会いました……銀魂世界のユウキとアスナが! 凄い感慨深いです。実は一訓の前半でユウキの話を設けていたので、いつか出したいと思っていて、ようやくその願いが叶いました。あくまでも平行世界で生きるユウキなんですけど、それでもあっさりと再会させるのではなく、じっくり時間をかけることが良いと思い、ここまで時間がかかってしまいました。一応断言はしないのですが、SAO世界のユウキの生まれ変わりという可能性も仮説としては良いかもしれませんね。こういう展開が出来るののも、二次創作の強みだと思っています! 近藤の鼻水のせいで途中から空気が一変しましたが(笑)
 さらに注目すべき点は、シグルドが変身した仮面ライダーシグルド……まんまやないかい! これも既定路線でした。

 とうとう色んなキャラ達が、世界樹へと集結。オベイロンの野望を食い止めるために、今後さらに奮闘していきます!

 と言うわけで、皆様、よいお年をお迎えください! では!






次回予告 

とうとう物語はクライマックスへ――

アスナ「行くわよ、ユッキー!」
ユウキ「もちろん! アッスー!」

新たな仲間と共に最悪の敵を倒せ

来島「ここは自分達が時間稼ぎするっす!」
サクヤ「さぁ、行くんだ!」

現れるマッドネバーの怪人達

新八「パ、パズル!?」
神楽「ここはお前らが任せろネ!」
沖田「いや、投げやりかよ」

そして姿を現す――かつての友

高杉「久しぶりだな。いつの間にかこんなガキをつれるようになったとは……」
銀時「高杉!?」

逆境をはねのけるのは、ライダーの力!

キリト「これが自由を取り戻すための力だ!!」

妖国動乱篇 佳境へ――!

次回 妖国動乱篇十 決戦の幕開け


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第八十四訓 決戦の幕開け

 あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします!!
 新年一発目は長編の続きからです! ユイに託されたアイテムの一端が、遂にその正体を現します……それではどうぞ!




前回のあらすじ
 マッドネバーの野望を食い止めるべく、世界樹へ忍び込んだ銀時、キリトら一行。本性を現したシグルドが、仮面ライダーシグルドになりダークライダーと共に彼らへ襲い掛かる。
 一方のアスナ、神楽一行には、遂に騎士団の最強格であるユウキがその姿を現す! 真実を知りながらもアスナは、この世界のユウキの気持ちを受け止めていく。
 世界樹には次々と仲間達が侵入しており、総勢三十七人と二匹が打倒マッドネバーの溜めに動いている。
 以上。ここまでのナレーターはこの俺クラインが伝えたぞ。
新八「いや、アンタのナレーションだったんかい!?」

※ウィザードのナレーションでも、クラインを演じた平田広明さんが演じられていたので。



 場面は世界樹の五階通路。ここではつい先ほどまでアスナやユウキがダークライダー達と交戦した場所であり、現在はユウキの機転によりダークライダー達は追い払われている。

 元の姿に戻ったユウキは、アスナとの気持ちを分かち合い、再び会話を交わしていく。

「どう? 落ち着いた?」

「うん。もう平気よ。ユウ……」

「もし呼びづらかったら、あだ名でも良いよ。僕は気にしないし!」

「じゃ……ユッキーで」

「おぉぉ! アッスーと同じイントネーションアル!」

 アスナの気持ちを察して、ユウキは気を利かせた一言をかけている。ユウキをユッキーと呼び名を変えて、本物のユウキと区別するために配慮していた。ちなみにユッキーと名付けたのは、単純にアッスー呼びされているからである。

「でも、なんでアッスーと呼んでいるの? 私の名前はアスナよ」

「アスナ……えぇ!? そうだったの?」

「今気づいたの?」

 気になって本人に理由を聞くも、神楽の呼び名から誤って伝わったからだという。これにはユウキだけではなく、アスナも少しばかり驚いていたが。たわいないやり取りを後に、二人は可笑しくなってクスっと笑っている。

 皆が二人のやり取りに一安心すると、ユウキは改まってアスナや仲間達に自己紹介を交わしていく。

「えっと……皆さん初めまして。僕はユウキって言います。訳あってウサギの姿に変えられていたけど、こっちが本当の僕だから。普段は姫様を護衛したり、街の平和を守ったりしているよ。みんな、よろしくね!」

「おう! よろしくアル、ユッキー!!」

 彼女の簡単な自己紹介に神楽が元気よく反応している。だが一方で仲間内では、反応が三分割化していた。新八や神楽のように初めてユウキの存在を知る者や、真選組のように噂は一通り知っていた者。そしてクラインやリーファのように、アスナと同じく元の世界のユウキと姿を照らし合わせている者。皆が違った反応を露わにしている。

「まさかこの星の騎士団の一人と出会えるとはな」

「こりゃ面白ぇ。いっちょ手合わせしてみたいですねぇ……」

「総悟。今は空気を読んどけ」

 ユウキが強者だと知るや否や、沖田は刀を構えて早速彼女に睨みを利かせていた。先走る彼に対して、土方はそっと注意を加えていく。

 一方でリーファやクラインも、優し気な気持ちでユウキと接していた。

「よろしくね、ユッキーさん!」

「うん! って君達も、別世界の僕のことを知っているの?」

「まぁ、ややこしいけどな。すまないが、俺達もこの呼び方にするぜ」

「全然構わないよ。何なら別の呼び方でも良いし。アントニオユッキーとかジミーユッキーとか、ガッツユッキーにピエー〇ユッキーでも良いよ」

「なんで名前のチョイスが、全部古臭いんだよ! ていうか、最後のだけピー音出てたぞ! まだ許されてないのか!?」

 ユウキの心遣いからか、次々と代わりのあだ名を羅列しているが、どれも懐かしさを感じる芸能人ばかりである。これにはリーファやクラインも共に苦笑いを浮かべ、すかさず新八が激しいツッコミを入れていた。銀魂世界の住人特有の片鱗を、真っ先に披露していく。

 そんな中でユウキは、散々な目に遭ったフィリアに声をかけている。

「ところで君は大丈夫だった? あの……鼻水は」

「ギリギリ大丈夫だったよ。正直に言うと奇跡だけどね、回避できたのは……」

 自身の無事を改めて奇跡的に感じていた。どうやらフィリアは近藤が落とした鼻水の束を、ギリギリで回避したという。九死に一生を得るとはまさにこのことに違いない。別に死ぬわけではないが、一生の恥を被ることは確かである。

「いやー、大変な目に遭わなくて本当に安心したよ! ハハ!」

「って、元を辿ればアンタの鼻水が原因なのよ!!」

「ブフォ!?」

 さり気なく近藤も彼女へ元気づける一言をかけるが、今はタイミングが悪かった。元も子もないツッコミに加えて、フィリアは近藤へ不意打ちが如く腹に力強い拳をぶつけていく。思わず苦しそうな表情を浮かべる近藤に対して、フィリアは満足そうな表情となっていた。彼女の気は済んだようである。

 共に話が一旦区切りを付けたところで、ユウキは今後の目的を仲間達へ伝えようとしていた。

「あっ、そうだ。みんな! これを見て」

「これは……メモリ?」

 ひとまずは注目を集めると、彼女は現在所持しているメモリを明かす。アスナらをALO星へ導いたAのアルヴヘイムメモリ、未使用のLのリードメモリ、ユウキの仲間達を一時的にサイバー空間に封じたOのオンラインメモリ、そしてユウキをウサギに変身させたRのラビットメモリの合計四種類である。

「そういえばこれって、結局どんな物体アルか?」

 神楽からの素朴な問いにユウキが返答した。

「僕もあんまり分かっていないんだけど、恐らくこの他にもメモリがたくさんあるんだと思う。アルファベット通りに行けば、二十六本とか?」

「それが全部揃うと……奴等の思惑通りになるってことかい」

「そうだと思う!」

「だから血眼になって探していたのか」

「絶対にこのメモリは奪われないようにしないと!」

 彼女はこのガイアメモリが、マッドネバーにとって重要な代物だと予測。この四本のメモリを奪われないことが、今後の戦いにて必須になると伝えていく。沖田や土方らも薄々その情報に注視している。

 はっきりと仲間達に伝える様を見て、横にいたアスナはそっと一言だけ呟いていた。

「ユッキーも強い意志を持っているのね……」

「ん? どうしたの、アッスーさん?」

「なんでもないわ。ユッキーのリーダーシップに感激していたのよ」

「別に褒められるほどじゃないよ! でもありがとう! アッスーさん!」

 アスナはユウキのリーダーとしての才を見抜き、率直に思ったことを彼女に伝える。ありのままの言葉を受けて、ユウキは思わず照れて感謝を返していた。その素直さには、アスナもそっと笑みを浮かべる。数分前の出会いを通じて、二人の距離感はグッと縮まっていた。

「アッスーも元気になっているアルナ」

「もう心配しなくても大丈夫そうですね」

 その幸せそうな光景には、神楽や新八、リーファらの仲間達も一安心している。もう気を遣わなくても良いようだ。

 こうして彼らはユウキとフィリアをチームに迎い入れ、打倒マッドネバーに向けて行動を共にしていく。

「さぁ、敵がいつ来るか分からないしこのまま進んじゃおう! ユイちゃんも取り戻して、街の人々もみんな救おう! 準備は良い? みんな」

「行こう!」

 威勢よく仲間達を引っ張っていき、敵の存在を警戒しながら彼らは、最上階を目指して上に駆けあがっていく。困難を共にしたユウキらにとっては、もう怖いものは無いのである。

 

 一方で世界樹のとある場所では、殺伐とした戦いが繰り広げられている。そう、銀時やキリトらがダークライダー達と交戦しているのだ。

「「ハァァァ!」」

「フッ!! ……前よりは歯ごたえがあるじゃねぇか。ちっとはマシになったようだな!」

「アタシ達だって前より強くなっているんですよ! 

「全てはアンタにリベンジを果たすためよ……!」

 全身全霊を懸けて攻めの姿勢に徹するのは、シリカとリズベットの二人。彼女達は以前に敗北したリュウガに屈辱を果たすべく、協力して彼と対峙していた。各々の武器であるダガーやメイスを用いて、確実な攻撃を次々に与えている。その様は以前に戦った時と見違えるほど異なっていた。それでも戦況はリュウガが上であるが。

〈adobent!〉

「ならこいつはどうか?」

 有利な状況を作り出すべく、リュウガはアドベントカードで召喚モンスターであるドラグブラッカーを呼び出す。体格差で彼女らを封じ込もうとする。

「ピナ! 頼みます!」

「ナー!!」

 そんなドラグブラッカーに対抗するべく、シリカは共に戦っていたピナで応戦していく。ただドラグブラッカーとは体の大きさが異なり、前回のように蹂躙されるだけと思いきや、

「ナァァァ!!」

「グルォォォ!!」

ピナはほぼ互角に立ち回っていた。小柄な体格を生かして、素早く攻撃を回避。周りの壁も余すことなく利用して、ドラグブラッカーの放つ火球も相殺や打ち返すなどで対処していたのだ。ピナも負けた悔しさを晴らすように、今度こそ勝利を掴むべく動いている。

 ほぼ互角に立ち回っている姿を見て、リュウガも若干困惑めいた反応を示す。

「何だと?」

「見ましたか! これがピナの底力ですよ!」

「今度はアタシ達の番よ! ハァァ!!」

 シリカ、リズベット共に追い風が来ていると予見して、この勢いのままリュウガを倒そうと駆け出していく。ようやく勝機が見えた――そんな時である。

「甘い!」

「えっ!? 消えた……!?」

「また鏡の中に逃げたのね……!」

 リュウガは奥の手として残していた鏡への侵入能力を使い、一旦場から姿を消していた。当然この能力も二人にとっては想定内で、共に不意打ちを警戒しつつ辺りを見渡している。

そんな時であった。

「フハハハ! 俺も戦わせてもらおうではないか!」

「か、桂さん!?」

「びっくりした!? 急に出てこないでよね!」

 彼女達の元に助っ人として桂小太郎が乱入している。癖の強い高笑いを上げながら、周りをまんべんなく注視していた。

「そう言うな。この俺に任せておくが良い。相手が反射を利用して奇襲しようものなら……」

 リズベットからの文句を一蹴しつつ、桂は意気揚々とある場所に狙いを定めている。そのまま懐から、隠し持っていた時限爆弾を取り出すと、

「馬鹿め! 俺はここだ!」

「見えたぞ!」

光の反射から抜け出したリュウガにぶつけていた。

「ぐはぁ!?」

 偶然とも言える攻撃にはリュウガも避けることが出来ず……

〈ドカーン!!〉

ちょうど時限爆弾の時刻がゼロになり、周囲には爆発が起きている。桂なりの返り討ち攻撃は、彼の動体視力を活かしたとっておきの作戦だったのだ。

「爆発!?」

「アンタ、そんなものまで隠し持っていたの!?」

「フッ、俺の十八番だな。さて、やったか?」

 初めて目にする桂の爆弾攻撃には、シリカ、リズベット共に戸惑う。一方の桂は爆発に巻き込まれたリュウガの行方を追っていたが、

「……や、やってくれたなぁぁ!!」

「何!?」

「やっぱりしぶとい……!」

不運にも致命的な攻撃は与えられなかった。彼は爆弾を差し向けられたことに激高して、桂をも標的に向けている。一進一退の攻防は、まだまだ続くようだ……。

 

 その傍らでは、シノンとエリザベス、定春がソーサラーを相手に立ち回っていた。

「ハァァ!」

「おやおや。自慢の遠距離戦は諦めたのかい?」

 シノンはなるべく体力を温存しつつ、ソーサラーへの積極的な攻撃は控えている。相手の発動する魔法や衝撃波を警戒しながら、じわじわと距離を近づけていた。

 得意の遠距離戦を展開しない理由には、ソーサラーの魔法が関係している。以前に対峙した際にも、コネクトの魔法で解き放った矢が全て防がれた事があるからだ。魔法を発動する指輪を壊そうとも、代用があるのならば破壊する意味を成さない。

 だとすれば、彼女が出すべき答えはただ一つである。

「違うわよ! ハァァ!」

「こんな弓矢……何!?」

 一瞬の隙を突いて渾身の矢を放つシノンだが、やはり簡単に見抜かれてしまう。容易くもソーサラーが手に取った時――矢の先端から真っ白い粉が辺り一面に飛び散り、彼女の視界を遮っていた。

 シノンが長い時間をかけて思いついた対策は、接近戦に加えて多種多様な矢を用いて確実な攻撃を与えることである。自分にとって苦手な分野だが、ソーサラーと決着を付けるために何度も努力を重ねていた。文字通り一矢を報いたことには、シノン自身も満足げな表情を浮かべている。

「この距離なら魔法で防ぎきれないわよね! 対策も用意したから、そう簡単に私は倒せないわよ!」

 勝利への道筋がようやく見えたことで、自分自身への自信にも繋がっていた。弓を相手に差し向けながら、高らかに思ったことを相手にぶつけていく。

 だがしかし、ソーサラーもただの不意打ち如きでは怯まない。

「おのれ……! たかが小娘が……生意気なこと言うんじゃないわよ!!」

〈ルパッチマジックタッチゴー! ジャイアント、ナウ!〉

 お返しと言わんばかりに彼女は早速魔法を発動。自身の体の一部を一時的に巨大化させるジャイアント魔法で、シノンへ物理的なダメージを与えようとしていた。左腕の一部を大きくさせている。

「うっ!? 間に合わない……?」

 彼女は即座に攻撃を避けようとするも、近くに仲間が別のダークライダーと戦っているためか、彼らを巻き込むことを危惧していた。行く手を阻まれながらも、最後まで最善策を考え続けていた――そんな時である。

「ワフ!」

[ここは俺に任せろ!]

「定春!? エリザベス!?」

 シノンの目の前には、定春とエリザベスが助っ人として駆けつけていた。前者はシノンを背中に乗せて、比較的安全な場所まで移動させている。

 一方のエリザベスはぶっきらぼうな表情のまま、その目線はソーサラーが巨大化させた腕に集約されている。そっとシノンと定春がエリザベスの動向を見守る中、彼はとある打開策を閃いていく。

[見えたぞ!]

「見えたって、何か対抗する術を見つけたの?」

[あぁ。グーにはパーだ!]

「……はぁ?」

「ワン!」

 一瞬だけ興味を寄せたシノンだったが、思いもよらぬ一言につい唖然としてしまう。何を言っているのか正直分からないが、プラカードにはちゃんとその言葉が書かれている。それから間もなくして……彼女は信じ難い光景を見ることとなった。

〈ウィーン! ガシャーン!!〉

「何……押し返しただと!?」

 巨大な拳が衝突する直前に、エリザベスの黄色い口からは、手を広げたパーの形をした鉄の拳が飛び出ている。もはや力業でソーサラーの拳を跳ね返したのだった。

 無論エリザベスの予想外の行動には、ソーサラーのみならずシノンも大きく驚嘆としている。例え説明があろうとも、十分な理解は出来ないと心の中で思い始めていた。ちなみに定春は、エリザベスの様子からこの行動は予見出来ていたという。

 するとエリザベスは即座に鉄の拳を、体内にさり気なく戻している。そして何事も無かったかのように、シノンの無事を確認するのだった。

[大丈夫だったか?]

「大丈夫なんだけど……今の何!? 明らかに体よりも大きい腕だったよね……?」

[無事なら何よりだ。さぁ、油断せずに行くぞ!]

「ちょっと!? ……黙ってた方が良いのかしら?」

 気になって聞くもやはり詳しくは答えてくれない。いや、あえて黙秘を貫いているのかもしれない。どちらにしてもシノンは問い詰めることを諦めて、彼や定春と共にソーサラーとの戦闘を再開していく。意外なところで、エリザベスの謎を知った彼女だった。

 

 そして銀時とキリトは、シグルドが変身した仮面ライダーシグルドと真っ向から対峙している。

「はぁ!」

「ふっ!!」

 相手の未知なる能力に警戒しつつも、攻めの姿勢を崩さない二人。隙あらば攻撃を与えており、戦況を見極め自身の優勢を作れるように奮闘していく。

 一方のシグルドは、次々と浴びせられる斬撃に怯むことなく、自身の戦いへのペースを保っている。

「今だ!」

「何!? かわせ!!」

「あぁ!」

 タイミングを見計らって、シグルドは武器であるソニックアローに溜めたエネルギーの矢を解き放つ。銀時やキリトらに狙いを付けたものの……ギリギリで攻撃をかわされてしまう。だがしかし、

「甘い! もう一つあるぞ!」

「うわぁ!?」

「銀さん!? ウッ!?」

シグルドは攻撃の手を緩めることなく、今度はソニックアローの刃付近から衝撃波を解き放っている。所謂囮だった連続攻撃を受けてしまい、銀時、キリトと共に否応なしに後退してしまう。

 攻撃が綺麗に決まったことにより、シグルドは早くも調子に乗り始めていた。

「フハハハ! これがライダーの力と言うものか。お前らとはまるで雲泥の差だな。これでは俺を倒すことも出来ないだろう!!」

 仮面の中ではにやけた笑みを浮かべながら、存分に二人を嘲笑っている。挑発のような振る舞いで、精神的にもダメージを与えようとしていた。

 ところが二人には、この挑発すらもまったく通じていない。

「フッ……たかが変身しただけでここまでイキれるとは、お山の大将気分ですか。コノヤロー!」

「何だと?」

「どんなに力を過信しようとも、アンタは自分の力は信じていないはずだ……こんなことじゃ、俺達には絶対に勝てないよ!!」

 手痛い一言を向けられてしまい、思わずシグルドは黙り込んでしまう。銀時やキリトの指摘通り、強い力に固執するシグルドは自分の事すらも信じていないのだ。

「うぅ……そんなのはただの戯言だ! 所詮は強大な力の前には、何もかもが無力なのだよ!!」

「そうやってアンタは、適当な理由を付けて逃げ続けているんだろ!」

「お前のようなヤツに俺達は絶対負けねぇよ。馬鹿共の底力、見せつけてやらぁ」

 無我夢中で反論するシグルドだが、瞬く間に二人からは正論を言われている。銀時やキリトらと決定的に違うのは、培われた精神力なのであろう。先ほどまで余裕を持っていたシグルドも、この会話を通じて態度が豹変している。一方で銀時とキリトは真剣な表情を浮かべたまま、依然として諦めることなくシグルドに何度でも挑む所存だ。

 各々がダークライダー達と激しい戦闘を展開していく……。

 

 そんな彼らの様子を、二階通路の死角からそっと覗いている者がいた。そう、隠し通路を伝って来ていたユイとシウネーである。

「あぁ……皆さんが!」

 ダークライダーを相手に互角に立ち回る仲間達だったが、次第に劣勢へと追い込まれてしまう。厳しい戦いが続き、いつ戦況が悪化しても可笑しくないところまで発展していた。苦戦するキリトらの姿を見て、シウネーもただ黙って見ているわけにはいかない。

「もう我慢が出来ません! 私も戦いに参加します!」

 と後先を考えずに戦地へ向かおうとした時――思わずユイが止めに入っていた。

「いや、待ってください! ここは……このアイテムが使えるかもしれません」

「えっ?」

 彼女はシウネーを説得しつつも、手にしていたアルヴドライバーに再び目を通している。平成仮面ライダーの力を宿したこのアイテムを使用して、彼らを救おうと考えていた。

 しかしユイには、一つだけためらっていることがある。

「はい。ですが……本当に私にも使いこなせるのでしょうか?」

「ユイさんはそのことを心配しているのですか?」

「はい……」

 シウネーからの問いにユイはこくりと頷く。彼女はライダーの力を使用することに今更ながらためらいを覚え、力や自身を信じ切れずにいる。深刻そうな表情を浮かべ、じっとアルヴドライバーの方に目を向けていた。

 そんな彼女の迷う様子を目にして、今度はシウネーが励ますように説得していく。

「大丈夫ですよ。私は断片的にしか分かりませんが、ユイさんはそのライダーさん達に認められたのですよね。でしたら、後は自分を信じるだけだと思いますよ」

「自分を信じる……」

 シウネーの言う通り、ユイに足りないのは自身の可能性を信じる姿勢だった。仲間を助けたい気持ち。それを自分自身が実現させることは、特段難しいことではない。

 次第に彼女は、自分やライダーの力を改めて信じ始めていく。

「そうですね。きっと今の私なら出来るはずです。ライダーさん達も……私の想いに答えてくれますよね」

 優し気な表情を浮かべつつも、すぐに表情をキリっとさせる。どうやら彼女なりの覚悟は決まった様子だ。

 するとユイは手にしていたアルヴドライバーを、自身の体に装着する。一つはブレスレット型として左腕に。もう一つはベルト型として腰に巻いていた。手探りで行っていたが、これにて準備は万全である。

〈ヘイセイジェネレーション!〉

「えっと……こうです!」

 そして仕上げとして、ユイはヘイセイジェネレーションメモリを起動。ちょうどメモリを入れる窪みがある、ブレスレット型に装填していく。

〈ヒューン! ブゥーン! ファイナルベント! エクシードチャージ! ライトニングソニック! ――〉

 するとドライバーからは音声が鳴り響き、ライダーの必殺技音声が次々に発せられた。

「えっと……次に何をすれば」

 アルヴドライバーの仕様に困惑するも、ユイは次なる行動を模索していく。正解の行動が見当たらない中、シウネーはある考えを閃いていた。

「あっ。このブレスレットとベルトを合わせれば良いんじゃないでしょうか」

「二つを……こういうことですか?」

 よく見るとブレスレットとベルトの液晶部分が半々に分かれており、これを一つに合わせることで動作が完了すると予見している。ユイもその考え方を信じて、二つのアイテムを合わせて一つの液晶に組み合わせていく。

 液晶には平成仮面ライダー二十人分の紋章が浮かび上がっていた。どうやらこの行動で間違いなかったようである。

「出来ました! って、キャ!?」

「ユイさん!?」

〈ヘイセイタイム! 全ての力を今! 一つに……! ヘイセイジェネレーションズ!! フィーチャリング……ユイ!!〉

 大いに喜ぶその傍らで、二人の周りには眩い光が襲い掛かっていた。共に目をくらませる最中で、威厳のある声と変身音に合わせて、ユイは金色のオーラをまといながら平成仮面ライダーの力をその身に宿していく……。

「ん……? って、ユイさん! 見てください、そのマントを!」

「マント? って、これは!?」

 気が付いた時には、ユイにのみ変化が生じていた。彼女は各ライダーの紋章が随所にあしらわれたピンク色のマントを羽織っている。マント以外は外見や服装にも変化は無いようだ。一応変身した設定で、変身前に比べると静かに力の鼓動をユイは感じ取っている。

「こ、この姿は……」

「ライダーさん達の力が伝わってきます……名付けてヘイセイジェネレーションと言うべきでしょうか」

「な、長い名前ですね……」

 思い付きで放った名称を聞き、シウネーは若干反応に困ってしまう。それでも今は、この新たな姿に希望を見出していく。ユイも自分自身をしっかりと信じ込んでいる。すると彼女の心には、ライダー達による数多の戦いの記憶が刻み込まれていた。

「ハッ!? 今のは……」

「今度はどうしたのですか?」

「戦いの記憶を感じ取ったのです。ライダーさん達の……」

「やっぱり強大な力を秘めているのですね」

「でもこれならば、きっと行けます!!」

 大いなる戦いの記憶に体を震わせながらも、次第にその覚悟を決めている。再び真剣そうな表情を浮かべると、すぐにアルヴドライバーのブレスレット型を操作していく。

「えっと……ここを押せば」

 液晶部分を動かしていくと、彼女は手始めにとあるライダーの力を解き放つ。

〈ゴースト! 闘魂ブーストパワー!!〉

「ハァ!!」

 対象のライダーを選択すると同時に、再びブレスレットとベルトの液晶を合わせていく。液晶にはゴーストの紋章(ライダーズクエスト)が映し出されており、この紋章を完成させることで、対象のライダーの力を行使出来るらしい。

 ユイが最初に使用したライダーの力は、仮面ライダーゴースト。偉人の力を宿すライダーであり、彼女はゴーストの中間フォームである闘魂ブースト魂の力を開放していた。

〈サングラスラッシャー!〉

 召喚したのは闘魂ブースト魂の武器であり、サングラスを模した炎の刀剣サングラスラッシャーを装備していく。

「あの時の炎の剣みたいです……ハァァ!」

「って待ってください、ユイさん!」

 勢いに余ってユイはシウネーの静止を振り切り、単身キリトらを手助けするべく動き出している。敵への恐れを振り切りつつ、大切な人を助けたい気持ちで体を押していた。そんな彼女をシウネーが心配して追いかけていく。

「フッ!」

「ここだ!」

「ヤァ!」

 一方で銀時とキリトは、猛攻の末にようやくシグルドとの戦いで優勢を保つ。相手の動きや攻撃方法、果ては癖まで瞬時に見抜き、途中からは器用な立ち回りで戦いを有利に進めていた。それでも油断大敵な現状なのだが。

「うぅ……押されてたまるかよ!!」

〈ロックオン!!〉

 一念発起が如くシグルドは、ここで大胆な動きに出ていた。ソニックアローにチェリーエナジーロックシードを装填しており、サクランボ状のエネルギー波を解き放つ必殺技、ソニックボレーを二人にお見舞いしようとする。

「これでもくらえ!」

 即座にエネルギーを溜めており、相手の隙を突くように必殺技を発動していた。瞬く間にエネルギー波は、銀時らの元に向けられていく。

「おい、かわすぞ!」

「いや、ここは受け止め……」

 強力な技を目の前に、二人の意見が真っ二つに分かれてしまう。僅かな時間の中で必殺技の対処を考えていた――その時である。

「私に任してください!!」

 何の前触れもなく彼らの目の前にて、聞き覚えのある仲間の声が聞こえていた。ふと目線を向けると、そこには探し続けていたユイの姿が見えている。

「おいおい、まさかこの声は……」

「ユイなのか……?」

「はい! やっと再会出来ましたね、パパ! 銀時さん!」

 予想外とも言える再会に、銀時、キリト共に驚きから体も口も固まってしまう。動きの止まってしまった彼らとは対照的に、ユイはサングラスラッシャーを用いて、シグルドの必殺技に対抗。サクランボ状のエネルギーを力づくで相殺してしまった。

「何だと!?」

 渾身の必殺技を打ち消されたことに、シグルドも素直に動揺している。だが彼とは異なり、他のダークライダーや銀時らの仲間達はユイの存在に衝撃が走ってしまう。

「はぁ!? なんであのガキがいるのよ! 檻に閉じ込めておいたはずでしょ!」

「僕だって知らないよ。さては門番がしくじったな……」

 捕らえていた人質がいつの間にか逃げ出したことには、ソーサラーも大いに取り乱してしまう。話しかけられた側のリュウガは、冷静にも門番の責任だと見抜いていたのだが。

「ユ、ユイちゃん!?」

「えっ、嘘!?」

「なんでここにいるのよ……!?」

 シリカ、リズベット、シノンら女子達も同じように困惑しており、戦いの熱気もいつの間にかユイの登場によって打ち消されてしまう。

 一方で桂とエリザベスは、ユイの羽織っているマントに注目を寄せていた。

「あのマントはなんだ? ただの布切れには見えぬのだが……」

[とんでもないオーラを感じるぞ!]

 エリザベスの一言はあながち間違いではないが。

 そしてシグルドからの必殺技を相殺したユイは、戦闘中にも関わらずキリトや銀時との再会を喜んでいる。

「どうですか、このマント! 似合っていますよね?」

「あぁ似合っている……って、それよりも! 一体どうしてここにいるんだ!? オベイロンの元から逃げてきたのか!?」

「えっと、これには深い事情があってですね……」

「いや、それよりもこの武器はなんだ! なんでお前が長谷川さんを武器にしているんだよ!?」

「長谷川さん……? いや、これはサングラスラッシャーですよ!」

「長谷川さんじゃねぇかぁ!」

 キリトはユイとはぐれていた時間に起きた出来事を気にしているが、銀時はユイの持っていた武器サングラスラッシャーに興味を寄せていた。文字通りのサングラスを模した武器なのだが、銀時からするとサングラスを常にかけている長谷川のイメージしか頭に残らない。何ならこの武器も長谷川の専用武器だと思い込むほどだ。

 緊迫感漂う戦場下で、彼らに訪れたたわいないひと時。本来ならばこの後もユイから詳しい事情を聞きたいところだが、切羽詰まった状況のためにあまりゆっくりと話せない。故にダークライダー達は、早くも標的をユイに定め直していく。

「何を呑気に話しているんだよ」

「アンタが逃げたら、こっちはあの男から大目玉を食らうのよ」

「とっととまた捕まってもらおうか!」

「グルァァ!!」

 リュウガ、ソーサラー、シグルド、そしてドラグブラッカーまでもが、先ほどまで戦っていた桂やシノンらを放棄して、ユイを再び捕まえるべく躍起となっている。

 四方八方から狙われており、ユイにとっては絶体絶命の危機――とまでは行かなかった。

「おい、ユイ! お前は下がってろ!」

「ここは俺達が引き受けるから、シリカやリズの元に向かって……」

 まだユイの事情を知らないキリトらは、彼女を安全に保護しようと誘導する。だがしかし、ユイからの反応は想定外のものだった。

「大丈夫ですよ」

「大丈夫って何が?」

「私達には……一緒に戦ってくれる仲間がいるんですから!」

 そう自信満々に言うと、ユイは恐れることなく前線に立っている。彼女の言葉をいまいち理解できず、銀時らが力づくで守ろうとした――その時だった。

「ハァ!」

 ユイはアルヴドライバーから二つのアイテムを取り出していく。闘魂ブースト眼魂とムサシ眼魂である。それらをサングラスラッシャーに装填して、必殺技の構えを始めていた。

〈メガマブシー!! メガマブシー!!〉

「うわぁ、何だよ!? びっくりした」

「眩しい……?」

 奇抜な待機音を耳にして、思わず首を傾げる仲間達。依然としてダークライダーが迫る中、ユイも渾身の一撃を披露していく。

〈闘魂大開眼!!〉

「オメガシャインです!! ハァァァ!!」

 燃え盛る刀身を一面に振り回し、こちらに這いよるダークライダー達へ一斉に炎の斬撃を浴びせていた。

「うわぁぁ!!」

「うぅ……!!」

「なんだ……この力は!!」

 無論ユイに油断していたダークライダー達は、思わぬ必殺技を受けて皆が勢いのままに吹き飛ばされている。この行動には敵側のみならず、味方側にも衝撃が走っていた。

「な、何が起きたのよ!?」

「ユイちゃんが必殺技を……?」

「ナー?」

 驚嘆とした表情のまま、言葉を詰まらせるリズベットとシリカ。ピナも首を傾げて、ユイの新たな力を不思議がっている。一方で銀時はと言うと、

「お……おぃぃぃぃ!? なんだ今の技!? お前、俺を差し置いて必殺技なんか獲得しやがったのか!? 一体どこで手に入れてたよ!?」

冷静さを失って大いに取り乱していた。かっこいい必殺技を解き放ったユイに、大人げなく文句をぶつけていく。

「ちょっと、落ち着けって銀さん! 怒るとこそこなのか!?」

「あぁ、そうだよ! だって羨ましいじゃねぇか!」

「やけに素直だな!」

 咄嗟にキリトが止めに入るも、本心をさらけ出す彼に対処が追い付かない。しばらくは落ち着きそうにも無かった。

 他の仲間達もつい呆気にとられる中、ユイは構わずに次の準備を進めている。

「まだです! 今度はこれですよ!」

 再びユイはブレスレットを操作。今度は仮面ライダーグランドジオウの力で、一時的に他のライダーを召喚するようだ。

〈ジオウ! グランドパワー!!〉

「ハァァ!!」

〈龍騎!!〉

〈ウィザード!!〉

〈鎧武!!!〉

 ためらいなくその力を解き放つと、ユイの周りを金色の扉が複数に渡って並び立つ。扉には赤字で西暦が刻まれており、2002からは仮面ライダー龍騎。2012からは仮面ライダーウィザード(インフィニティ―スタイル)。2013からは仮面ライダー鎧武(ジンバーレモンアームズ)がそれぞれ登場していた。

「しゃ!」

「さぁ、ショータイムだ」

「ここからは俺のステージだ!!」

 登場と共にそれぞれの決め台詞を発していく。

「なんだと……!?」

「アレは遺跡にいたライダー達!!」

「召喚までするとは……もはやなんでもアリじゃねぇか!」

 駆けつけたライダー達を目にしていき、再び驚愕するダークライダー達。偽者か本物かは分からないが、ただ一つ言えるのは彼女にとんでもない力が宿っていることだった。

「一緒に戦ってください!」

 一方のユイは、召喚したライダー達に協力を要請していく。三人のライダーはすんなりと賛同して、各々の武器を構えて自身と同じ能力を持つダークライダー達と対峙するのだ。

 突如現れたユイによる一方的なワンサイドゲーム。自信と力を見極めた彼女にとっては、もう敵なしなのである。

「も、もうアイツ一人で良いのではないか……」

[右に同じく]

 ライダーの力を使いこなす様を見て、桂は正直な一言を呟いていた。

 女子達や銀時、キリトも同じ気持ちである。

「おい、どうなってんだ!? お前の娘、いつの間にライダーの力を使えるようになったんだよ! とうとう石ノ〇プロをも手中に収めたのか!?」

「俺も知らないってば! まさかマッドネバーに何か変なことをされたんじゃ……」

 依然として落ち着かない銀時に対して、キリトは戸惑いつつも冷静に状況を分析していた。見違えるほどの力を使用する様子から、彼はマッドネバーが関係していると思い込んでいたが……そう考えを練るうちに、ようやくあの女性が彼らに話しかけていく。

「いいえ、違います。彼女は本物のライダー達に認められたのですよ」

「あん? アンタ誰だ?」

 優し気な口調で近づいたのは、ユイと一時的に行動を共にしていたこの世界のシウネーだ。銀時は何食わぬ顔で彼女に聞くも、キリトは思わぬ人物との再会に目を疑う。

「えっ!? シウネーさん……?」

「あら? どうして私の名前を?」

「いや、それよりも! なんでこの世界に来ているんだ……!?」

「この世界……? 私はこの星の住人ですよ。一体何を話されているのですか?」

 気になって問い詰めるも、シウネーからはとぼけた反応が返されていく。これらから、すぐにキリトは自分の知っているシウネーとは別人だと察していた。

「おいおい、お前の知り合いかよ」

「知り合いだけど……違う。この世界で生きる彼女かもしれない」

「まーた平行世界の人物かよ」

 銀時も特に驚く様子は無く、淡々と一言で片づけている。(彼らにはチサと言う前例があるので、今更別のそっくりさんが現れても驚かないのである)

 とシウネーの件はさておき、二人は彼女の言葉を深く掘り下げていく。

「ていうか、それよりもライダーに認められたって何だよ?」

「あっ、そうでした。ユイさんはここに来る前に、結晶を通じて平成仮面ライダーという英雄達に、僅かながら会ったと聞いています」

「ユイがライダーと……」

「どういう経緯かは知りませんが、彼女の勇気が認められて、結晶を二つのアイテムを変化させたのです。それらを用いてユイさんは、ヘイセイジェネレーションに変身したのです」

「ヘイセイジェネレーション……もっと如何にか出来なかったのか、その名前」

「私に言われても……」

 断片的ではあるものの、シウネーからは彼女が間近で見たものや、ユイから聞いた話を銀時らへ伝えていく。話をまとめると、ユイの積極的な頑張りによって、この逆境を覆すほどの強力なライダーの力を手に入れたという。銀時は直球的な名前のセンスに、つい苦言を呈していたが。

 いずれにせよキリトは、ユイが無事だったことにひとまず胸をなでおろしている。

(俺の知らない間に、ユイがここまで体を張っていたなんて。無事で安心したけど……って、それよりも戦いはどうなってんだ!?)

 ほっと心を落ち着かせたのも束の間、彼はユイが召喚したライダーとの戦いを気にしていく。再び戦いに目線を向けると、特に心配もいらない光景が広がっていた。

〈strike bent!〉

「ハァァァ!」

「フッ!!」

 龍騎はドラグクローを装備してリュウガに対抗。

「もういっちょ!」

「させるか!」

 鎧武もソニックアローを巧みに使用しつつ、シグルドに応戦する。

「今です!」

「任せろ」

〈インフィニティ!〉

 そしてユイはウィザードと共に、ソーサラーと戦いを繰り広げていた。瞬時に彼はインフィニティースタイルの能力である加速魔法を発動。自慢のスピードを生かして、ソーサラーを翻弄していく。

 圧倒とまでは行かないものの、召喚したライダー達はダークライダーと互角に張り合っていた。度重なる連戦が重なり、ダークライダーにも疲れから動きに鈍さが生じてしまう。

「チッ! ここは一旦撤退よ!」

「何で本物のライダーがここにいるんだよ!」

「流石に分が悪い……」

 ライダー達に加えて、再びシリカや桂が戦闘に加わると増々勝利が遠のく。そう判断した彼らは、一時撤退を決断する。

〈テレポート! ナウ!!〉

 ソーサラーの瞬間移動魔法で、魔法陣を介してオベイロンのいる部屋まで戻っていた。連戦ではあったものの、彼らとしては初めてマッドネバーを追い払うことに成功している。

「よしっ! 皆さん! ありがとうございました!」

 すんなりと勝利を確信したユイは、協力してくれたライダー達にお礼を伝えていた。彼らも相槌をしつつ、金色の扉を介してこの場から姿を消している。

 こうして場にはようやく、仲間達しか残っていなかった。殺伐とした雰囲気がようやく薄らいだのである。ユイも変身を解除していく。

「ふぅ……やっと終わりまし――」

 と再びキリトらの元へ駆け寄ろうとした時だった。

〈バタン〉

「ユイ!?」

「ユイちゃん!?」

「おい、しっかりしろ!?」

 急に彼女は前方へ緩やかに倒れこんでしまう。一瞬の出来事であり、仲間達も何が起きたのかさっぱり分かっていない。皆が神妙な表情を浮かべながら、ユイの容態をゆっくりと確認している。

「だ、大丈夫です……ちょっと力を使い過ぎただけですよ」

「やっぱり負担を抱えていたのか?」

「で、でも……敵も撤退したことですし、悪い事ばかりじゃなかったですよ」

「いや……ユイが苦しむくらいなら、やっぱり控えた方が良いよ。あの力は」

「ったく。無茶しやがってよ」

 僅かに顔色が優れないものの、ただの疲労ということで皆の推測が一致していた。やはりユイ自体が戦いに不慣れであり、そのしわ寄せが現在の状況に繋がっているかもしれない。強力なライダーの力とは言え、やはりすぐには使いこなせないのだろう。

 ユイなりの苦労は銀時、キリトのみならず、仲間達にも伝わっている。

「び、びっくりしましたよ。急に仮面ライダーさん達が現れたんですから」

「強力な力を出せる分、その反動も大きいってことね」

 シリカやシノンも思っていたことを声に出していた。ユイの様子を心配しつつも、そっと見守っている。リズベットも同じ気持ちだったが、それよりも彼女はシウネーの存在に注目していた。

「ねぇ、キリト。この人ってまさか……」

「いや、違うよ。恐らくこの世界のシウネーさんだと思う」

「えっ!? こんなに似ているのに本人じゃないの……?」

 キリトへ思わず聞いてみるも、彼も推測を踏まえつつ返答している。限りなく本人に似たそっくりさんと知り、リズベットもつい耳を疑っていた。無論シリカやシノンも「嘘!?」や「信じ難いわね……」と驚いた反応を示していく。よっぽど目の前にいる別人のシウネーが衝撃的なようだ。彼らの反応は本人の耳にも入っている。

「そんなに私と似ている人がいるのですか?」

「アイツらの反応的にそうだろ。アンタもユイと会った時、そんな反応をされなかったか?」

「確かに……驚かれましたね」

「だろ」

 ちょうど同じ時間帯に遭遇したアスナとユウキとは事情が異なり、シウネーはSAO世界での彼女の話を聞かされていないので、どうもいまいちしっくり来ていない。故にキリトらがどんなに戸惑っても、その意味を理解していないのだ。だが銀時からも補足があり、薄っすらだが理解しつつある。

 ユイの手に入れたライダーの力、銀魂世界で活躍するシウネーの登場と、新たな情報が次々に入るキリトらだったが、たった一人だけまったく異なる反応をしている者がいた。

「ワフフ!」

[おい、万事屋。桂さんの方を見てくれ]

「どうした? ヅラのヤツ、また変に勘違いを……って?」

 話しかけられた定春やエリザベスに促されていき、銀時は桂の方へ見線を向ける。するとそこには、明らかに目の色を変える桂の姿があった。

「う、美しい……なんて素敵な人なんだ。まごうことなき、人妻ではないか」

 彼はシウネーを魅力的な女性と見ており、一目惚れに似た感情に駆り出されている。表情も緩んでおり、傍から見ても分かりやすい反応だった。

「なーにやってんの、アイツ」

[さては人妻みを感じたのだな]

「言うほど人妻でもねぇだろ」

「フ……」

 彼と長らく付き合いのある銀時は、桂の好みである人妻好きが関係していると思い込む。エリザベスや定春もその意見には同調していた。

彼らのみならず、女子達も同じように桂へ呆れている。

「分かりやーすい」

「潜入中に何をやってんのよ……」

「桂さんが好きなタイプなんだ。シウネーさんって……」

 シリカ、リズベット、シノンと女子達は揃って細い目をしたまま、棒読みで事を呟く。敏感にも反応しており、別に知りたくもなかった桂の好みに衝撃を感じている。

 こうして時は順当に過ぎるのだ……。

 

 それから数分も経たないうちに、ユイは自身の調子を取り戻していく。皆がマッドネバーの気配を気にしながら、密かに死角のある場所まで移動している。辺りを警戒しつつ、まずはやり損ねていたシウネーの自己紹介を始めていく。

「申し遅れました。私の名前はシウネーと言います。この星の騎士団に所属していて、紆余曲折あって今は、ユイさんとアルヴドライバーの護衛に付いていました。一応言っておきますが、皆さんのそっくりさんとは違いますからね。よろしくお願いします」

 キリト側の事情を考慮した上で、堂々と改めて別人と言い張っていた。ところが口調や雰囲気も、彼らからするとSAO世界にいたシウネーそのものだという。

「立ち振る舞いも口調もそっくり……」

「なんたる偶然ですね」

「ナー!」

「そんなに似ているのですね……ハハ」

 リズベットやシリカの呟きに、シウネーは苦笑いを浮かべながら言葉を返していく。そこまで言われると、別世界の自分が気になってしまう。そう彼女は考えていた。

 一方の桂は周りの反応など気にせずに、シウネーへ照れつつもお礼を伝えている。

「ユ、ユイ殿を守ってくれてありがとうな」

「いえいえ、そんな大したことはしていませんよ。騎士として困っている人を助けたまでですから」

「なんと素晴らしい志だ! 実は俺も……世のため人のために活動していてな」

「そうなのですか?」

 さり気なく共通点を聞き出しながら、距離を徐々に縮めようとする桂。そんな彼の思惑など気にすることなく、シウネーはしっかりと受け答えしていた。彼女は鈍感にも気付いていないが、女子達はあからさまな態度にその真意を見抜いている。

「はいはい。交流会はまた後にしなさい」

「お、お前ら!? 急に何をするか!?」

「それはこっちのセリフですよ。一応敵の本拠地にいるんですから」

「少しは緊張感を取り戻しなさい」

「ま、待て! 俺はまだ……」

 揃って呆れた表情をしたまま、シリカ、リズベット、シノンの三人は、強制的に桂をシウネーから離していた。ユイが戻って来たとはいえ、まだ予断を許さない状況。彼へ緊張感を取り戻してもらうためにも、女子達は活を入れようとしていた。

「幾松に怒られちまえや」

 そんな様子を見て、銀時も思わず一言呟く。ここは一度、桂と親しい女性から一喝された方が良いと捉えていた。

 桂の介入によって、場の雰囲気は微妙なものとなったが、ここでキリトが立て直していく。

「変な人かもしれないけど、結構頼もしいから。それだけは覚えておいて」

「そうなのですね。分かりました」

 さり気なくシウネーへ桂のフォローを加えていたのだ。その言葉を素直に信じ込む彼女だったが、桂よりも近くにいるエリザベスがどうも気がかりのようである。

(もっと目の前に変な人がいるのですが……アレは何なのでしょうか)

 ゆるキャラっぽい出で立ちにも関わらず、強者のような雰囲気を醸し出す姿勢。プラカードで会話と謎は多くあるが、誰一人として気にしていないのでどうも聞きづらい。

[ここに喫煙所は無いのか]

「ナーイ!」

「ワフフ……」

 ペット達との会話を目にしても、増々謎が浮かんでしまう。素直に聞くべきか、それとも時間を置くべきか。増々悩みを続けるシウネーであった。

 その一方でユイは、キリトに対してある重要な事を伝えていく。

「あの、パパ。これを託しても良いでしょうか?」

「これ……って、良いのか?」

 彼女が手渡してきたのは、先ほど使用していたアルヴドライバーを一式。急に託され驚くキリトに対して、ユイはしっかりとした理由を伝えていく。

「はい。ライダーさん達の力はきっと、パパや銀時さん達が使った方が良いと思いますから。私の代わりに、ぜひお願いします!」

 彼女は自身が前線に立つよりも、キリトや銀時が使いこなした方が頼りになると判断している。元々そのつもりであり、先ほどの戦いも緊急事態だった故の対応だった。体力も異様に消耗するので、ユイ自身も戦いには向かないと括っている。

 仲間達も慎重に耳を傾ける中、シウネーはあることが気になってしまう。

(パパ……? あの方は一体何歳なのでしょうか……?)

 キリトの呼び方から、ユイとの関係に興味を寄せていた。明らかに年齢とは釣り合わないからである。だがしかし、場の雰囲気を乱さないためにも、ここは一度心の中に留めておくことにしていた。戦いが終わったらエリザベスの件も含めて、気になることを全て聞くようである。

 シウネーが心の中で気持ちを整理する中、銀時はユイから託されたアルヴドライバーに興味津々となっていた。

「おぉ、マジか。これさえ使えば、俺もとうとう必殺技持ちに……!」

「銀さん!」

「分かってる、分かってる。冗談だよ」

 自身もかっこいい必殺技を使えると思い込み、若干だが顔もにやけている。そんなやましい気持ちに浸る銀時に対して、キリトは反射的に注意を加えていた。

 そんなやり取りがありつつも、改めてユイからアルヴドライバーを託されるキリト。その未知なる力の重みに責任を感じながらも、彼にはその力を使いこなすほどの自信が無かったのだ。

「でも俺達に使いこなせるのか? 一応使用するには、ライダーから認められなきゃいけないんだろ?」

「大丈夫だと思いますよ。ライダーさん達も言ってましたから。君が認めた仲間なら、同じように使えるって!」

「それだったら、有難いが……」

 ユイの素直な言葉を信じたいところだが、事はそう易々と上手くいかない。そんな予感をキリトのみならず、銀時もひしひしと感じていた。

 仲間達もまた二人の複雑な気持ちを汲み取る中で、桂やシノンらは思ったことを声に出している。

「しかし不思議だな。敵が蔓延るこの場所で、そんな貴重な出来事を経験するとはな」

「よく無事でいられたわね」

「シウネーさん以外にも、誰か協力者がいたのですか?」

 マッドネバーに一度囚われていたとはいえ、ユイを奪還できたことに改めて驚いていたのだ。気になって護衛をしていたシウネーに聞いてみると、彼女は惜しげもなくあの人物の名を話に上げようとしている。

「はい、いましたよ。私や姫様をここまで連れて行ってくれた方が。確か名前は――」

 と高杉やフレイアの事も話題に上げようとした時だった。

「ん? キャァァァ!?」

「ユイ!?」

「ユイちゃん!?」

 なんとタイミングが悪く、ユイは突然結晶に拘束されてしまう。無論このような芸当が出来るのは、あのダークライダーしかいない。辺りを見渡すとそこには、つい先ほどユウキと交戦したはずのダークキバとポセイドンがいた。

「やれやれ。飛ばされた先に、まさかアンタがいたとはねぇ」

「いつ脱走したかは知らぬが、今度こそ大人しくしてもらうぞ」

 いとも簡単にユイをまた連れ去られてしまい、連れ戻そうにもすぐにダークライダー達の手元に捕らわれてしまう。

「離してください! 私はもう……アナタ達に協力するつもりは無いですよ!」

「いいや。無理やりにでも協力してもらうぞ」

「ウゥ!?」

 暴れ回るユイに対して、ポセイドンは即座に力づくでねじ伏せていく。ユイにためらいなく、腹部へ拳を突き付けていた。すかさず彼女もショックから気絶してしまう。

 だが何よりも不幸なのは、キリトらにアルヴドライバーを託された直後に連れ去られたことだ。これでは平成仮面ライダーの力を行使できず、マッドネバー側の思う通りになってしまう。(ちなみにだが、ポセイドンやダークキバはアルヴドライバーの存在を一切認知していない)

「ユイ!」

「そんな……」

「……こうなったら!」

 再びユイを連れ去られてしまい、ショックを受けてしまう仲間達。そこでキリトは、ユイから託されたばかりのアルヴドライバーを装着して、一か八か助け出そうとしていた。

〈ヘイセイジェネレーション!〉

「こうすれば!」

 とヘイセイジェネレーションメモリをブレスレット型に装填した時である。

〈エラー! エラー!〉

「使えない……!?」

「なんだと!?」

 アルヴドライバーはまったく反応せず、むしろエラー表記を鳴らし続ける始末であった。密かに感じていた悪い予感が見事に的中した瞬間である。これでは到底、満足に使用はできない。

 一方でダークライダー達はそんなキリトの様子に目もくれず、オベイロンから届いたメッセージに注目していた。

「全ての装置が揃ったらしい。これより最終段階に入るぞ」

「あら、そうなの。じゃ、執務室に戻るわよ」

 どうやら計画の準備が全て完了したらしく、交戦せずにそのまま指定された場所まで戻るという。

「おい、待て!」

 と反射的に銀時らも追いかけようとした時である。

「させるか! ハァァ!」

「くっ!?」

 ポセイドンは足早に撤退するため、長槍を奮って衝撃波を解き放つ。銀時らを一斉に怯ませており、彼らが気付いた時にはもう姿すら見当たらなかった。

「……逃げたか」

「なんて逃げ足が早いのよ」

 再びユイが敵の手に渡ってしまい、失意に暮れる仲間達。それでも立ち直るにはそう時間はかからず、前向きにも敵の居場所を突き止めていく。

「だが、場所は特定出来たな」

「執務室って、一体どこなのかしら?」

 ダークライダー達がボソッと言葉にした執務室について、シノンはシウネーへと聞いてみる。すると彼女はすぐに返答した。

「執務室は姫様のいた場所……この世界樹の最上階です!」

[そこまで向かえば、問題ないということか!]

 場所がより鮮明になると同時に、一筋の希望を灯す仲間達。もはやマッドネバーとの距離は目と鼻の先。俄然としてやる気が高まっていく。

 一方でキリトは、ユイに託されたアルヴドライバーを使用できなかったことに、気持ちを悔やんでいる。

「やっぱり使いこなせないのか……」

「気にするな。薄々分かっていたことだ。今はユイを取り戻すことだけに集中しとけ」

「あぁ、分かっているよ」

 やはり使用するには段階を踏むべきだと括り、慎重に様子を見ることにしていた。キリトはアルヴドライバーを一式、懐へと隠していく。彼らは再びユイを救出するために、気持ちを一つに合わせていた。

「みんな……行こう!」

「途中でくたばるんじゃねぇぞ」

「私が案内します。みなさん、ついてきてください!」

 キリトや銀時から掛け声に、仲間達は元気よく返事していく。そしてシウネーの案内の元、足早に執務室のある最上階まで駆け上がるのだった。

 やはり今後の戦いのカギを握るのはアルヴドライバーであり、それらを本当に使いこなせるかが重要となるだろう……。




 祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え仲間を救う純粋な少女を! その名も、ユイ(ヘイセイジェネレーションフォーム)。まさに今生誕の瞬間である!

 と言うわけで、遂にその正体を現したヘイセイジェネレーションフォーム。その強さは全ての平成仮面ライダーの力を行使できる、まさに夢のようなアイテムです。
 実はユイが使用する展開は、当初の予定では無いものでした。しかし展開が少しずつ変わっていき、満を持してユイが本格的に平成仮面ライダーの力を行使することになりました。おかげで物語を進められず、本来予定していた展開は次回に持ち越しとなりましたが……

 それでもユイの使用するライダーの力には、こだわりを注ぎ込みました。サングラスラッシャーは1期の12話で使用した両手剣のオマージュで、ライダー召喚もグランドジオウが意識されていますが、オーディナルスケールで仲間を呼んだ時の演出のオマージュとして演出しました。(後者は分かりづらかったかもしれません……)

 それじゃもうユイが戦えば解決するじゃん。と思った方もいるでしょう。しかしユイが使用した際には、極端に体力を消耗するのでそう易々と使えるものではないのです。これはライダーの力を使うのも相性があり、ユイはどちらかと補助技の方が得意だからです。条件を付けないと、この時点で物語が終わりそうですからね……

 キリトに託されたものの、彼にはまだ使えないようです。果たして次に力が解放されるのはいつなのでしょうか。
※ビヨジェネを見た後にアルヴドライバーを見ると、ジョージ狩崎が作っても可笑しくないな。これ。

 ユイがまた捕まってしまい、今後はどうなるのでしょうか……
 では、また次回!

次回予告

ユージーン「ここからは俺達の出番だ!!」
来島「なんか微妙に違うっすよ!!」

領主と鬼兵隊参戦!

オベイロン「おやおや、虫けらが来たか」

オベイロンの最終計画が遂に動く……!」

ユウキ「止めるよ、僕達……」
銀時・キリト・新八・アスナ・神楽・ユウキ「「「「「「万事屋がな!!」」」」」」
定春「ワン!」

万事屋はユイを取り戻すために戦う!

剣魂 妖国動乱篇十一 侍、妖精の友情タッグ!


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第八十五訓 侍、妖精の友情タッグ!

週一投稿間に合った……か?


前回のあらすじ
 世界樹にて起きる様々な騒乱。アスナがユウキと気持ちを分かち合う傍らで、ユイは意を決して英雄達から託された力を行使していく。しかし体力の消耗が激しく、彼女は力の保有者をキリトらへ託すことにした。そうやり取りを続けるうちに、ユイは無防備のままマッドネバーにまたも捕まってしまう。果たして彼らの野望を防ぐことは出来るのか……
阿伏兎「って、俺出てないのにナレなんかやっていいのかよ」
新八「今度はアンタかい」
※鎧武のナレーションは阿伏兎役の大塚芳忠さんが担当されていたので。



 再び連れ去られたユイを取り戻すべく、銀時、キリトらはシウネーと共に世界樹の最上階まで恐れぬことなく突き進む。

 一方でアスナ、神楽、ユウキらも同じく最上階を目指して駆けあがっていた。

 共に同じ目的地を目指す二つのチーム。様々な要因からはぐれてしまった彼らは、遂に――再会の時を迎える。

「おい、銀時にキリト殿! アレを見ろ!」

「アレ?」

「って、アイツらは……!」

 最上階まで向かう分かれ道に差し掛かった時、桂は遠目に見えた集団の存在を、仲間達へ真っ先に伝えていく。銀時やキリトらが思わず彼の指した方向に目をやると、そこにははぐれていた神楽やアスナらの姿が見えていたのだ。

 一方でユウキ達も、銀時らの存在に気付き始めていく。

「ん? ねぇ、みんな! あの人達って……」

「どうしたアルか、ユッキー?」

「って、えっ!? キリト君にみんな!?」

「銀さんも! えっと……流石に本物ですよね?」

「大丈夫ネ、あのバカな面は本人に間違いないアル!」

 思わぬ再会に驚嘆とする一行だったが、フィリアの件を踏まえてか、彼らを怪人に擬態した偽者だと疑ってしまう。それでも銀時のぶっきらぼうな態度から、本人だと神楽は見抜いていた。

 長く続いた階段はようやくここで途切れており、分かれ道の境目付近で……遂に万事屋、超パフュームのSAO女子陣、桂一派、ユウキとシウネーが数時間ぶりに再会する。(真選組だけは誰ともはぐれていないため、除外している)

「おぉ、やっぱりお前らか」

「銀さん! やっぱりここに来ていたんですね」

「紆余曲折あったがな。お前らもくたばってなくて安心したぜ」

「私らはそう簡単にやられないネ! 銀ちゃんとは場数が違うアルよ!」

「さり気なくディスるなや!」

「ワン!」

 出会い頭に銀時、新八、神楽、定春の三人と一匹は、たわいないやり取りを交わしていた。お互いに憎まれ口を叩きつつも、仲間が無事な事には素直に安心している。それは万事屋のみならず、キリトやアスナらも同じだったが。

「良かった。みんなが無事で……」

「そうね。後はユイちゃんだけよ!」

 しんみりとした表情のまま、共に一言だけ言葉を交わしていく。彼らが果たすべきはユイの奪還であり、仲間達もその目標で一致している。

「このまま取り戻――」

「私達も遠慮なく手伝――」

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 続いてリズベットやリーファも、威勢よく声を出そうとした時だ。彼らにとって見覚えのない人物がおり、思わず皆が驚きの声を上げている。

「ユ、ユウキさん!?」

「ナ!?」

「嘘でしょ……!?」

 シリカ、ピナ、シノン、リズベット、キリトはユウキの存在を。

「シウネーさん!?」

「おいおい、マジかよ!」

 リーファ、クライン、アスナはシウネーの存在を。それぞれ出会っていない彼女らに愕然としてしまう。特にユウキの事情を知らないキリト側にとっては、何が何だかさっぱり分かっていない。

「ハハハ……それくらいみんなにとっては衝撃的なんだ」

「あっ、フィリアもいたの!?」

「いつの間に……」

 一方で気にかけてもらえなかったフィリアは、やや落ち込み気味に呟く。彼女の確かな一言で、キリトらはようやく彼女の存在に気付いていたが。

 そんなアスナ達の反応はさておいて、ユウキとシウネーはようやく叶った再会を喜んでいる。

「ユウキ! やっぱりもうここに来ていたのですね」

「あっ、シウネー! そうだよ! 僕だって大変だったんだから。急にウサギになっちゃったり、地球へ飛ばされたりさ」

「そんなことがあったのですね……」

「だから僕を慰めてって!」

「って、ちょっと! 急に抱き着かないでくださいよ」

 久しぶりに出会えた仲間へ嬉しさを覚えて、周りの反応など気にせずユウキは、シウネーへ甘えるが如く抱き着いている。シウネー自身も恥ずかしさを感じつつも、まんざらではない表情を浮かべていた。

 そんな二人の様子や会話を目の当たりにして、キリトらはようやくウサギの正体がユウキだと察していく。

「えっ? ということは、あのウサギがユウキだったのか?」

「そうね。正確に言うとこの世界で生きるユウキよ」

「つまり……平行世界のユウキってこと?」

「こんな偶然があるのね」

 思わぬ巡りあわせに、不可思議さを覚えるシノンやリズベットら。別人とは言え、平行世界のユウキと出会えたことに運命を感じていく。無論シウネーに対してもだ。

「でもまさかシウネーさんまでいたなんてね」

「この調子じゃ、他のスリーピングナイツのメンバーがいても可笑しくないな」

 リーファやクラインも思い思いに呟く。シウネーに続き、他のスリーピングナイツもいると彼らは予見している。その予感は後に当たるのだが……。

 するとクラインは、ふと同志である桂の事を思い起こす。

「アレ? そういえば桂さんは……」

「おーい、クライン殿!」

 そっと呟いた最中、桂やエリザベスがクラインの姿を見て声をかけている。その声に気付いて、クライン自身も嬉しそうに反応した時だった。

[ようやく見つけたぞ]

「おう、俺も嬉しいぜ――って、あぁぁ!!」

「ん? どうしたのだ?」

 彼はとある肝心なことを思い出してしまう。今更警告しても時すでに遅く、顔からは冷や汗が滲み出てしまう。顔面蒼白となるクラインに対して、桂は彼の急激な反応の変化に首を傾げている。

「おい、クライン殿。何か不味い事でもあったのか?」

「いや、不味いというか……元も子もないというか……」

 気になって問いかけるも、クラインからは歯切れの悪い回答が返っていく。それでも桂は察しが悪く、そのまま近づこうとした時だった。

「誰かと思えば、指名手配中の桂とはなぁ!」

「……その声は」

 怒号を込めた一言が響き渡り、ここで桂はようやく全てを察していく。後ろを振り返るとそこには――威圧感漂う真選組の三人が佇んでいた。長らく正体を隠していたクラインだったが、遂に真選組一行へ攘夷志士だとバレた瞬間である。

「真選組でさぁ」

「しかもなんだってか。そこのクラインと繋がっていたとはな!!」

「えっ? そうなのか、トシ!」

「気付いてなかったのかよ」

 三人の反応もまばらであり、淡々とクラインに標的を定める沖田。怒りを露わに、今にも容赦なく確保へ踏み込もうとする土方。そしてこの事態にあまりしっくりきていない近藤と様々である。

 一貫して言えることは、桂一派の仲間と知ったクラインさえも、確保しようとする姿勢だ。特に土方は前々から感じていた嫌な予感が当たり、これまで溜まった鬱憤を理不尽にもクラインへぶつけようとしている。

「やっぱりお前が、桂一派のニューフェイスだったのか! 例え別世界の住人だろうと……攘夷浪士に入ったからには容赦しねぇぞ!!」

「ひぃぃぃ!! いやいや勘弁してくれって! それに今は、ユイちゃんを取り戻すのが先決だろ! 仲間割れは不味いだろって!」

「仲間……誰がだぁぁ!!」

「いやぁぁぁ!! 話を聞いてくれって!」

 必死にも説得を試みるクラインに対して、頭に血が上った土方はもう止まらない。怒りを滲ませた表情のまま、桂、エリザベスをも含めてひっ捕らえようとしている。おおよそ大っぴらに動けない狭い通路にて、真選組と桂一派の不毛な追いかけっこが始まったのだ。

「ちょっと!! 敵の乗っ取った世界樹で何を追いかけっこしてんだ!! 少しは緊迫感を持てや!!」

 本来の目的を忘れて世界樹内部を走り回る彼らに、新八は激しいツッコミを入れている。正体が分かったとはいえ、現在は非常事態だからこそ力を合わせるべきと考えるが……その理想が叶うのも難しいのかもしれない。

「待て、コノヤロー」

「おのれ、幕府の犬め! こんなところまで追いかけ来るとは!」

「ト、トシ! 一回落ち着けって!」

 土方に続いて沖田もクラインや桂らを標的に定めていく。桂は適宜後ろを振り返りながら、密かに真選組の体力が切れるまで、持久戦に持ち込もうとしていた。そんな最中に近藤は一度落ち着くように促すのだった……。

 ALO星にて偶然にも邂逅した桂一派と真選組。中でもクラインにとっては、自身の正体が発覚した忌まわしき瞬間とも言えよう。(むしろ今まで正体をバレていなかったのが奇跡的だが……)

 そんな追いかけっこを続けるクラインや土方達の姿を目にして、仲間達は何とも言えない気持ちと化してしまう。

「まさかこんな場所で、真選組にバレるなんてね……」

「クラインさんが不憫に見えます……」

「ナ……」

「ワフ……」

 苦い表情のまま呟くリズベットやシリカに対し、ピナや定春も同じ表情で同調する。

「これからどうするのよ……」

「さぁ……?」

 一方でリーファとシノンは、今後のクラインの行方を気にしていた。彼が選んだ道とはいえ、長い付き合いのある仲間が幕府から目を付けられると、こちらとしては何も出来ない。複雑な心境に駆られてしまう。

「いやー、やっぱり地球の侍って仲良しだね」

「仲良し……? 揉めているようにか見えませんが」

「えっ? そうなの?」

 ところがユウキは真選組と桂一派の関係を知らないがために、呑気な一言を発していた。冷静にもシウネーが訂正するものの、彼女自身はあまりピンと来ていない。

 そして肝心の万事屋やキリト達の反応はと言うと、はっきり二つに分かれている。

「銀さん、ここはクラインを助けに行くか?」

「流石にこのままじゃ、チームワークも減ったくれもないわよ」

「んなこと言われても、所詮はクラインの自己責任だろ。俺達が助ける義務なんてねーよ」

「アイツが一人欠けたって、ソードアート・オンラインの物語に変わりはないアル。もういっそのこと、ウチの銀魂の管轄に異動すれば万々歳じゃないアルか?」

「いや、ダメだろ! 色々と偉い人に怒られちゃうから! それはそうと、こんなところを敵に見つかったら袋の鼠ですよ! 早く土方さん達を落ち着かせないと――!」

 善意から助け舟を出そうとするキリトとアスナ。そんな二人とは異なり、銀時らは気にもしていなかった。仕舞いにはクラインが真選組に逮捕されても、SAOの物語自体に変化が無いと言い切ってしまう。暴言にもほどがあるだろう。流石に言い過ぎたのか、新八も焦り気味にツッコミを入れていた。

 この短時間で一行は、ユウキやシウネーとの出会い。クラインの正体が真選組に発覚と、濃密な出来事が立て続けに起きていた。現在はまさに混沌としているが、彼らの最終的な目的はユイの奪還とマッドネバーの撲滅である。だからこそ互いの事情を置いといて、力を合わせなくてはいけないのだが……

「待てぇぇ!! 桂ァァァ! クラァァ!」

「略さないでって、土方さん!!」

未だに落ち着く様子も無かった。

 とりあえず話し合わないことには先へ進めないので、仲間達が揃って彼らを静止させようとした――その時である。

「ん!? みんな、避けて!!」

 ユウキはとある不穏な気配を察して、仲間達にすかさず警告していく。すると、

〈ヒュー……〉

「うわぁ!?」

「なんだ!?」

「パズル……?」

頭上からはパズル型のエネルギー波が降りかかっていた。次々とエネルギー波は小規模の爆発を起こし、彼らへ襲い掛かっている。動き回っていた桂や近藤らも、この緊急事態には目の色を変えて冷静に対処していく。

 仲間達は反射的に爆発を避けていき、ようやく場は静まり返っている。

「な、何が起きたの?」

「まさか敵襲ですか!?」

 即座にフィリアやシリカが声を出すと、仲間達は揃って辺りを見渡していく。十中八九マッドネバーの仕業に変わりはないが……。ここで彼らはようやく最上階へと繋がる通路で、怪しげな気配を察していく。

「おい、見ろ!」

「あ、アイツらは……」

「怪人?」

 近藤が指を指した方向には、数十体の怪人がこちらへゆっくりと近づいていた。その中には、地球にて銀時やキリトらが相手取った怪人達も紛れている。

「あん時に戦った怪人共じゃねぇか」

「明らかに覇気が違うわね……」

「差し詰め、幹部怪人と言ったところでしょうか」

 アスナらの呟きに、シウネーは怪訝そうな表情で怪人達の実力に警戒していた。どれも威圧感が強く、総じて苦戦する相手と括ったからである。

 一行の目の前に姿を現したマッドネバーの先兵。シウネーの予想通り、そのどれもが数多のライダー達を苦戦させた強敵だ。

 形態を変化させ、あらゆる状況に応戦するゴ・ガドル・バ。大地の力を持つ超越生命体の一体、地のエル。強靭な力を振るうドラゴンオルフェノク(魔人態)。ハサミ型の双剣で相手を仕留めるギラファアンデッド。火炎を操り戦国時代で暴れ回った火焔大将。シオマネキの力を宿したウカワーム。槍を用いて豪快に戦うレオイマジン。加速と飛行能力を併せ持つナスカ・ドーパント(レベル3)。特殊なカードを用いて爆発攻撃を操るジェミニ・ゾディアーツ。毒手や槍技で狡猾に攻めるレデュエ。冷気で記憶すらも操作するフリーズロイミュード(超進化態)。液状化や水の波動を使用するガンマイザー・リキッド。パズルゲームを基に集中攻撃を得意とするハテナバグスター。そして幹部級の怪人を束ねる疑似ライダーのナイトローグ。

 そう彼らはオベイロンの指示のもと、銀時らを足止めするべく最上階まで向かう境目までやって来たのである。意地でも最後の計画を邪魔されたくないようだ。

「とうとう敵も本腰を入れてきたのね……」

「ここからは総力戦ですかねぇ」

 未知なる怪人達との遭遇に、険し気な表情を浮かべるシノン。対し沖田は新たな敵の登場に、静かに闘志を燃やしていく。

 想定外の敵の乱入によって、先ほどまで行われていたグダグダなやり取りは一瞬にして打ち消されていた。今は皆がマッドネバーの怪人達へ敵意を向けていく。

「よしっ! 今こそ力を合わせる時だ!」

「調子の良いヤツめ。まぁ、これが終わったら確保してやるから覚悟しとけよ」

「おう! 絶対に逃げ切ってやるからよ!」

「いや、ストレートに言うのか」

 この場で争っても仕方ないと踏まえた土方は、素直にクラインの意見へ合わせる。ただ彼らを許したわけではないので、一時休戦で一致していた。クラインは謎の逃げ切りを宣言して、土方らを困惑させていたが……。

「うむ。流石は俺の見込んだ侍だ!」

「感心しなくていいですから!」

 桂だけはクラインの威勢の良さに共感している。余計に話がややこしくなると括り、シリカは反射的にツッコミを入れていた。

 と奇跡的にも桂一派と真選組がまとまりを見せたところで、場にいた全員が対幹部怪人へ向けて気持ちを整えていく。数分前とは見違えるほど真面目な光景がそこには広がっていた。怪人達も銀時らとの距離を保ちながら、彼らをぎょっと睨みつけていく。

 するとユウキは、恐れることなく強気に歯向かっている。

「アンタ達……マッドネバーの怪人達だよね? 僕らに勝負を挑む気?」

 そう聞くと真っ先に答えてきたのはゴ・ガドル・バだった。

「ヅグギバギヅロンザバ。ゴセダヂパゴラゲサゾギドレスダレビボボゼビダ(無粋な質問だな。俺達はお前らを仕留めるためにここへ来た)」

 彼は独自のグロンギ語で返答している。だが当然のことだが、グロンギ語を理解できる人物はここにはいない。故にこの言葉の意味を誰一人として理解していないのだ。

「何て言ったの?」

「ヒポポタスのドレスは五千ペソって言ったんじゃないですかい?」

「絶対違うネ」

 皆が気になっていたところに、沖田が適当な言葉で翻訳する。完全に的外れなのだが……。とそれはさておき、ゴ・ガドル・バに代わってレオイマジンとジェミニ・ゾディアーツ、そしてナイトローグが意気揚々と宣戦布告していく。

「おめでたい奴等だ。要するにお前らは俺達には勝てないと言うことだ」

「こんだけの数がいれば、オベイロン様の元には辿り着けないでしょ!」

「このままマッドネバーの餌食になるが良い……!」

 彼らは数の暴力を宣言してくるが、これは特に間違った意味ではない。人数差ではキリトらに劣るが、何よりも高い実力といざという時の加勢勢力があれば、彼らをねじ伏せることも容易くないからだ。

 この場は闇雲に戦うべきではない。銀時やユウキ達の間では、微かにそんな雰囲気が漂っていく。

[やはり穏便には済まされないか……]

「こうなったら、強行突入しか無さそうね」

「慎重に作戦を練らないと……でもどう行けば」

 エリザベス、アスナ、ユウキと思ったことを声やプラカードに上げている。仲間達も揃って頭を捻り出そうとするも、ちょうど良い妙案が思い浮かばないのだ。やはり戦況を覆すほどの戦力が足りていないのが欠点である。

 あわよくば新たな味方の登場を期待したいところだが……そう上手くはいかない。はずだった。決戦の火蓋が落とされそうな中、確かに変化は起こりつつある……。

 

 

 

 

 

 

 

 正式な通路の頭上には、一部の関係者しか知らない手狭な隠し通路が設置されていた。この通路も隠し穴と同じ役割を持ち、緊急時の脱出通路として位置付けている。そこを通して密かに最上階まで突き進むのは、鬼兵隊及び領主達の連合チームだった。

「……おや? 皆さん、アレを見てください」

 皆が口を閉ざしながら進む中で、突然武市が声を上げている。彼らのちょうど真下にいた銀時やユウキの存在を、仲間達へ伝えようとしたのだ。

「アレは……万事屋に幕府の犬、さらに桂までいるとは」

「マジっすか。一体どんな組み合わせすか」

 その呼びかけに従い、来島や万斉が下を見ると、そこには見知ったかが群を成している。万事屋一行に真選組の主要三人。さらには桂一派と、傍から見ると説明の必要な組み合わせであった。ちなみにキリトらについては、武市以外は初めて見るので、特に言うことは無い。

「おや。誰かと思えば……誰でしたか?」

「いや、覚えてないんすか」

 そもそも武市もキリトと話したのは一瞬なので、あまり覚えてはいないのだが。

 とそれはさておき、世界樹にいたマッドネバー以外の人物には、領主たちも興味津々でそっと覗いていた。

「君達の知り合いなのか?」

「知り合いではあるが、ちと違うでござる」

「むしろ敵対中ですね。分かりやすく例えるならば、現在の雨上が〇決死隊と言うべきでしょうか」

「えっと……壊滅的と言うことか?」

「意味合いは違うんじゃないの? それに後で怒られそうだしさ」

 サクヤが聞くと、万斉や武市が返答していく。だがしかし、後者の例えはあまりにも分かりづらいものだった。ユージーンもアリシャも困り気味に反応している。

 密かに万事屋らと怪人達の行方を気にする中、来島はとある人物を発見していた。

「ん? アレは……」

「どうした、また子?」

 来島の異変を察して万斉が声をかけるも、彼女からの反応は無い。何故ならば、来島にとって最も糾弾したかった人物を発見したからだ。その正体は、高杉と共にいたシウネーなのである。

「晋助様と一緒にいた女じゃないっすか……!! ここで会ったが百年目! アタシは行くっすよ!」

「ちょっと、また子さん!?」

 無論彼女の興味はシウネーへ一極集中しており、高杉の事を諸々含めて問い詰める所存だった。武市らの静止を振り切り、単身下の階へと飛び込んでいく。もはや気持ちのままに暴走する始末だ。

「ど、どうしよう!?」

「俺達も後を追うぞ!」

「了解だ」

 想定外の行動に一度困惑する仲間達だったが、ユージーンの指示で来島を追いかけることを決意。どんな状況下であれど、連れ戻すことにしている。

「……こうなったら、隙を見て隠し通路から」

 一方のシウネーはこちらへ向かう来島へ気付かず、真面目にも怪人達の突破方法を仲間へ伝えていた。撤退を視野に入れて、別の通路から最上階へ向かうことを提案する。

 ちょうど仲間達からの反応を伺っていた時だった。

「待つっす! コノヤロー!!」

〈ババン! ババン! ババン!〉

 不意に聞こえていた女性の声と共に、辺りには銃声が響き渡っていく。一行は新たな敵襲だと察して、皆反射的に身構えている。

「うわぁ!? なんだ……?」

「今のは弾丸?」

「この銃声は……リボルバー?」

 近藤や新八が冷静に状況を見極める中で、シノンは銃声だけで銃の種類を見抜いていた。GGOでの経験が意外なところで活躍している。

 とそれはさておき、一行の目の前にはピンクの振袖を着た金髪の女性が舞い込んでいた。鋭い睨みを利かせたまま、シウネーへ勢いよく近づき、彼女に拳銃を差し向けていく。

 ここまで僅か一分にも満たない行動である。

「えっ? わ、私……?」

「シウネー! ちょっと! なんで彼女を狙うのさ!」

 銃口を向けられたことに、思わず困惑するシウネー。そして突如襲ってきた来島に対して、堂々と理由を問い詰めるユウキ。

 場は突如として急変しており、キリトやアスナ、フィリアは見たことも無い女性の存在に首を傾げてしまう。

「だ、誰だ……?」

「この星の住人じゃないの……?」

 勢いに圧倒され呟くキリトやアスナに対して、

「き、綺麗な人だ……」

「いや、思うところそこなんですか!」

クラインは素直な一言を呟く。あまりの正直さに、シリカもツッコミを入れる始末である。

 一方で万事屋、真選組、桂一派は彼女の存在をもちろん知っており、思わぬ乱入に皆が驚いていた。

「お、お前は……!」

「確か……児嶋〇ん美!」

「来島だよ!! つーか、アタシの名前の原型すらねぇじゃねぇかよ!!」

 銀時も彼女の名を声に出すも、何もかもが間違っている。受けを狙ったとしか思われない反応にイラつき、来島は高らかにツッコミを入れていた。一瞬にして緊張感が解けた瞬間でもある。

 一方の銀時は何食わぬ顔で、彼女へ反抗していた。

「別に良いだろ。このネタ洛陽決戦篇でもあったんだしさ」

「そうアルよ。丸々パクる訳には行かないネ」

「だからって原作より酷い呼び方にする必要は無いでしょうが! ていうか、時系列がごっちゃになる発言は止めるっすよ!」

 神楽をも加わり言い訳を発するも、当の本人は納得していない。メタ発言もためらいなくぶつけていた。どちらにしても、元も子もない発言の数々である。

「えっと……これはつまり、銀さん達の知り合いなのか?」

「知り合いというか……敵対している相手と言うか」

「ワフ……」

 距離感の近い反応から、キリトらは来島を仲間だと思い始めるが、それは大きな間違いだ。新八も彼女との関係を話したいが、一言では語れないので悩んでしまう。定春も新八と同じ想いである。

「って、鬼兵隊の一人がなんでここにいるんだよ!」

「落ち着いてくだせぇ、土方さん。ここは様子を見やしょうぜ」

 真選組も思わぬホシの登場に困惑するも、沖田の言う通りまずは様子を見ることにした。

 桂一派も同じ反応である。

[意外な客人だな]

「あぁ。さては高杉のヤツもこの星に来ているのか」

 特に桂は鬼兵隊を率いるかつての友、高杉晋助の行方を気にしていた。

 と仲間内で反応がばらつく中、来島は依然としてシウネーへ敵対姿勢を向けながら、ゆっくりと問い詰めていく。(ちなみに先ほど集結した怪人達も、来島の動向が気になり一度襲撃を諦めている)

「それはそうと、アンタにはたくさん聞きたいことがあるっすよ!」

「な、なんでしょうか……」

「とぼけるな! アタシは知っているすよ! アンタが……アンタが晋助様と行動していたことが!」

 鬼気迫った表情のまま来島は、ためらいもなく言いたかったことをぶつけていく。あまりにも率直な言葉に、シウネー自身もつい拍子抜けていたが。

「……そんなことですか?」

「いや、重要なことっすよ! 何とぼけているんすか!」

 天然にも本音をポロっと零すと、またも来島がかんしゃくを立ててしまう。異性への認識の違いから、話は徐々にねじれを帯びていた。

 一方で高杉の存在を知り、一部の仲間達は驚嘆とした態度を示していく。

「な、何だと……!?」

「えっ? 知っているの、キリト君?」

「一応会ったことがあるんだ。話してはいなかったけど」

 以前にも高杉と遭遇したことのあるキリトは、突然の展開に耳を疑っていた。

「晋助……って誰?」

「昔にそんな司会の人がいた気が……」

 だがフィリアやリーファ女子達は、名前を聞いてもしっくり来ていない。そんな彼女達に、沖田や近藤が補足を加えていた。

「違いやすよ。高杉ってのは、鬼兵隊の総督でさぁ」

「要するに過激派テロリストの大ボスだな」

「えっ? そんなに危険な人なの?」

「おいおい。噂には聞いていたが、そんな人がこの星に来ているのかよ!」

 簡略的に高杉の概要を聞くと皆が驚き、シノンはついその事実を疑ってしまう。一方のクラインも、噂通りの人物に前々から感じていた脅威を察していく。

 そして万事屋一行も、因縁深い高杉の存在を知ると、険しそうな表情に変わっていた。

「高杉……ってあの野郎もここにいんのかよ」

「意外な人がまた出てきましてね」

「無理して出てこなくても良いアルよ!」

 彼らは幾度となく高杉と衝突した経験があり、彼と邂逅することもためらっている。何よりも今はやるべきことが多くあり、そもそも鬼兵隊の相手をしている場合ではないのだ。

 来島の登場、高杉の存在と先ほどに続いて、増々の情報量が多くある現状。皆に驚きを与える最中でも、来島は依然としてシウネーから銃口を向けたままである。

「さぁ、どんな関係か言うっすよ!」

「何もありませんから!」

 双方の話の解決に糸口が見つからない中、二人の会話に割って入って来たのは――なんと桂だった。

「おい、ちょっと待て! ということは、アレなのではないか!」

「ヅラ? 何か言いたいことでもあんのか」

 突如来島に言い寄って来た桂の姿を目にして、銀時は彼なりの狙いがあると思い込んでいたが――それはただの見当違いだった。

「つまりは……俺が高杉の女を寝取ったのか!」

「いや、どういう解釈してんだよ! 一気に攻めすぎなんだよ! 少しは空気を読めや!」

 やや恥ずかし気な表情で語ったのは、NT〇要素を含めた予想である。どちらにしても桂の思い過ごしではなく、存分に自身の性癖を露呈させていた。だがこの一言が、来島の怒りを余計に駆り出すことになる。

「はぁ!? お前……!! 晋助様と一戦を越えたのかぁ!!」

「一戦は越えていませんって! 一緒に共同作業をしただけですよ」

「共同作業だと!?」

「余計にややこしくなっているんですけど!! とんでもない勘違いを生んじゃっているよ!」

「って、シウネー! 火に油を注ぐような言葉は止めなって!」

 シウネーの言い方も相まってか、さらなる誤解を生み続ける二人の会話。もはや来島も暴走寸前であり、仲間にすら止めらない状況にある。シウネーも誤解を解こうとするも、運悪く解決まで遠ざけるばかりだ。新八やユウキも激しくツッコミを入れている。

 来島の乱入によって増々混沌と化す場の状況。そんな収集不可能な雰囲気をぶち壊したのは、まさかの怪人達である。

「えぇい! いつまで待たせる気だ!」

「とっとと戦わせろ! ハァァ!」

 いつまでも状況が進展しない銀時らに痺れを切らしており、とうとう一斉攻撃で彼らをけん制していく。各々が武器や体から衝撃波を放ってきた。

「ナー!」

「あっ、不味いアル! こっちに光弾が……!」

「えっ!?」

 急な攻撃に気が付いて、仲間達へ警告を伝えていく神楽やピナ。言い争いはさておき、衝撃波に気付いた一行は、反射的に武器や両腕で身を守ろうとしている。

 そんな時であった。

「「「「フゥゥゥゥ! ヤァァ!」」」」

 彼らの元には、またも意外な乱入者が駆けつける。現れたのは四人の男女で、彼らは剣や刀を用いて衝撃波を受け止め、そのまま相殺したのだ。

「な……アレは!」

 一瞬の出来事により、仲間達も何が起きたのかさっぱり分かっていない。だがふと前を見ると、そこには河上万斉、サクヤ、アリシャ・ルー、ユージーンの、連合チームの面々がいたのだ。遅れて武市も入り込んでいる。

「万斉先輩! 武市変態!」

「変態ではない。フェミニストです。最近暴れている方ではなく」

「一言余計っすよ!」

「フッ、無事ならば何よりでござる」

 いつも通りのやり取りに、つい安心感を覚える鬼兵隊の方々。

「あっ! サクヤ! アリシャ! ユージーン!」

「すまぬ。遅くなったな」

「騎士団もここに来ていたんだね」

「連絡が途絶えていたが、無事で一安心だ」

 そしてユウキやシウネーは、思わぬ助っ人の登場に心を躍らせていく。領主達とも交流が深いため、彼らの力を存分に頼ろうとしていた。

 鬼兵隊に続き、新たに登場したこの世界の領主達。これにはキリトらも、また驚きの反応を示している。

「この世界にも領主がいたのか……」

「本当に本人達と見分けが付かないわね」

「偶然ね」

 キリト、アスナ、リズベットと、領主達の見た目や雰囲気の一致に驚かされるばかりだ。

 一方で銀時はと言うと、急に増えた登場人物へ神経質な心配を浮かべていく。

「おいおい、人数増えすぎだろ。大して物語も進んでいないのに、もう一万字を越えているじゃねぇか」

「いや、気にするとこそこかよ」

 登場人物の増加故の文字数を何気なく気にしていた。無論そんなことを気にするのは、彼と投稿者のみであるが……。

 とそれはさておき、鬼兵隊や領主達の登場は、マッドネバー側にとっては想定外のことらしい。

「面倒な奴らが来たな」

「まぁ、良い。全て仕留めるまでだ」

 それでも戦うことに変わりはなく、標的が増えようともまとめて相手する心構えである。迷いなど到底無かった。

 一方でシウネーは、領主達へ怪人や現在のアルンを説明しようとしている。

「あの皆さん! これには理由が……」

「説明は後だ! 要するに、あの怪人共を取り押さえれば良いのだろう」

「ならアタシ達が手伝うよ! 鬼兵隊の皆さんと一緒にね!」

 しかし彼らは話を後回しにして、早くも幹部怪人達へ対峙することを決めていた。さらには鬼兵隊の意見も聞かずに、勝手に巻き込ませようとしている。

「ハァ!? ちょっと待つっす! 晋助様も見つかっていないのに、勝手に決めないで欲しいっすよ!」

「そう焦るな。つまりは晋助と言うヤツの居場所が分かれば良いのだろう」

「ねぇ、シウネー。どこか知っている?」

 やっかみを飛ばしながら来島がサクヤへ文句を言うも、彼女はアリシャと共にシウネーへ高杉の行方を聞いていた。威勢よく脅すよりも、慣れ親しんだ人物から聞く方が気兼ねなく答えられると二人は踏んでいる。

「えっと確か……世界樹内には確実にいます! 姫様と一緒に」

 その狙い通り、シウネーは言いたかったことをようやく伝えられていた。やはり来島の圧迫とした態度が、状況を長引かせていた要因なのだろう。

「よしっ! なら……」

「だそうだ。それじゃ、俺達の作戦を手伝えよ」

「って、勝手に連れ出すなっす! ちょっと、せめて力加減をしろや!」

 高杉の居場所が判明すると、来島はそっと場を抜け出そうとする。だがしかし、ユージーンによって強制的に戦場へ戻されるのであった。明らかに人員の少ない領主達の数合わせとして、駆り出されようとしている。

「やれやれ。晋助殿の無事がとれて良かったですが、ここは領主に協力しますかな?」

「拙者は乗るでござる。何事もタイミングが大事だからな」

 一方で武市と万斉は、来島の反応とは大いに異なり、この戦い自体は了承していた。万事屋やユウキらの雰囲気から、彼らもマッドネバーとの敵対者だと推測しており、ならば適材適所で協力すべきと括っている。いつになく素直な万斉だった。

 彼らの反応は置き去りにして、領主や鬼兵隊はマッドネバーの幹部怪人達の前に立ちはだかる。行動目的に違いはあれど、その想いは意外にも一つなのだ。

「おい、万事屋。真選組、そして攘夷党。一応言っておくが、主らを助けるためではないのでござる」

「全ては晋助殿との再会のため。ここは上階へ向かってくださいな」

 万斉や武市は要所をかいつまみつつ、敵対意識を保ちつつも、一度限りの協力に賛同する。一方で来島はと言うと、

「おい、青髪! 後で洗いざらい、晋助様との関係を吐くっすよ! 忘れんなよ!」

「まだ気にしていたのか」

「ほらほら! もう怒らないの」

「戦いは近いのだ。一回深呼吸すると良いぞ」

未だにシウネーへの疑いを強めていく。こうしつこくやられると、話し合ったとしても上手くまとまらない気がしてならない。領主達はそんな彼女をそっと落ち着かせるのだった。

「……高杉さんも、個性的な仲間を率いていたんですね」

 本性を露わにする来島の姿を見て、シウネーは苦笑いで思ったことを呟いている。やはり有無を言わさない勢いに圧倒されていたようだ。シウネーに限ったことではなく、来島の姿を初めて見るキリトやアスナらも彼女とは同じ想いである。

「と、とりあえず……協力してくれるってことで間違いないんだよな?」

「恐らくですけど」

 気持ちをそっと落ち着かせて、キリトは仲間へ気になることを質問していく。確証は無いものの、新八がその問いに返答していた。

 領主の件はさておき、鬼兵隊からの協力にやや半信半疑となる真選組や桂一派。その思惑を探っていたところに、銀時がさり気なく来島らに確認していた。

「要するにだ。お前らを信じて良いってことか?」

「一応貸しっすよ。全ては晋助様と鬼兵隊のためっす……」

「そうかい。ちなみによ、お前らはどこからここに来たんだ? 確か一本道しか無かったはずだが」

「えっ? ひょっとして……」

 手探りのまま質問を交わす銀時を見て、ユウキ、シウネーは彼の言いたいことを事前に察していく。それは彼らが通ったとされる、執務室までの秘密の通路だ。そっと会話に耳を向ける傍らで、その推測は確信に移り変わっていく。

「どこって? この上の通路っすよ。あっちの白黒のタイルを押せば、行けるとこっす」

「そうかい……あんがとよ。よし、このまま行くぞ!! てめぇら!」

「えっ、ちょっと銀さん!?」

 来島から隠し通路の行き先を教えてもらったところで、銀時は威勢よく来た道を戻っている。そう彼の狙いは、勢いのままに幹部怪人の大群を乗り切る算段だった。例え鬼兵隊や領主がサポートしたとしても、戦いに巻き込まれる可能性は否定できない。だからこそ敵すらも思いつかない方法で、この窮地を脱しようとしていた。予め敵の目の前には鬼兵隊や領主がおり、まずは彼らに矛先が行くだろう。そこで十分に時間を稼いで、自分やその仲間達は安全に執務室へと向かう新手の作戦である。

 敵の意表をも突く破天荒な作戦には、銀時を除く場にいた全員が驚嘆としてしまう。反応も千差万別だ。

「おぃぃぃ! 流石に急すぎるんだろうが!!」

「銀ちゃん、待つアル!」

「野郎……事前に伝えとけや!」

「ハハハ……!! 銀時ぃ、俺を置いていくな!!」

 即座に彼の意思を汲み取って、そのノリについていこうとする新八、神楽、定春、真選組に桂一派。関わりが特に深い者は、この作戦にも臨機応変に対応している。一方で、

「えっ!? 隠し通路から向かうの!?」

「おいおい、ちょっと待てよ!」

「幾ら何でも決めつけすぎない!?」

「僕らを置いていかないでって!」

キリトやアスナ、シノンにユウキと言った、SAO世界の住人とALO星の騎士団は急な作戦変更に対応し切れていない。最初はギャグかと思いきや、実は本気と言った私生活でもよくあるような勘違いで、桂達とは一歩出遅れている。いずれにしても、急いで彼の跡を追いかけるしか方法は無かった。

 不意打ちが如く仕掛けられた銀時の強行作戦。行く道を阻めたはずの幹部怪人達も、これには一杯食わされてしまう。

「おい、ちょっと待て!」

「そっちか!?」

「行かせないよ!!」

 ご丁寧にも全員が同じ道を阻めていた為か、これにはすぐに対処できない。慌てて銀時らの跡を追いかけようとした時だった。

「それはこっちの台詞でござる!」

「さぁ、アタシ達が相手だよ!」

「覚悟しろ!」

 当然目の前には戦闘態勢を整えていた領主達と鬼兵隊がおり、予定通りに幹部怪人達の足止めを行っている。彼らは思い通りに進むことが出来ず、執務室までの行く道を許してしまったのだ。

 しかしナイトローグだけは、しぶとくも最後まで諦めていない。

「ふざけるな!!」

〈デビルスチーム!!〉

 手にしていたスチームブレードのバルブを回し、闇のオーラをまとった衝撃波をキリトらへぶつけようとしていた。あわよくば隠し通路すら壊そうとしている。ところが、

「フッ!!」

フィリアがその邪悪な波動に気付いていた。彼女は片手剣を構え直すと、ナイトローグの放ったデビルスチームを打ち消している。

「何だと!?」

 思わぬ邪魔が入り、ナイトローグも愕然としてしまう。

 一方のフィリアはある事を、仲間達へ手短に伝えていた。

「みんなはさっきに行って! ここは私も戦うよ!」

「えっ!? フィリアちゃんは残るの?」

「うん! あのコウモリ野郎は、どうしても私の手で決着を付けたいの……だからさ、お願い!」

「……分かった。頼んだぞ!」

 それは自身も怪人達の足止めに加わることである。特にナイトローグには一度敗れており、その悔しさを果たすべく、今度は勝利を収めようとしていた。仲間達も彼女の意思を信じて、置いていくことにしている。

「さぁ、百倍にして返してあげるよ!」

 残ることを決意したフィリアであるが、その目に迷いは無かった。自分が出来ることを精一杯尽くす。足止め及びリベンジに彼女は心を燃やしていた。

 こうして執務室までを繋ぐ境目の道では、領主のユージーン、サクヤ、アリシャ。鬼兵隊の来島、万斉、武市。そしてフィリアの計七人が、幹部怪人達との乱戦を繰り広げていく。果たして戦いの行方や如何に……。

 

 

 

 

 

 

 思わぬ協力を得ることになった銀時、キリトら一行は、隠し通路を使って足早に執務室まで走っていく。自主的に戦う道を選んだフィリアを除いて、ほぼ全員が襲撃される間もなく、安全に逃亡することが出来ていた。

 これも銀時の強引な作戦変更によるおかげだが……当の本人は作戦が上手くハマったことに若干浮かれている。

「いやー、さっきの俺やたら主人公補正かかってなかったか!? かっこよかったよな、なぁ? なぁって?」

「はいはい。凄かったですよーだネ」

 しつこく感想を聞いてくる銀時に対して、神楽は塩対応で適当に言葉をかけていく。頼りにはなるものの、どこか肝心なところでしまらない。銀時らしさを仲間達は察していた。

「ちょっと、銀さん! そう言うのはあまり自慢しない方が良いのよ!」

「そうですよ! キリトさんを少しは見習ってくださいね!」

「うるせぇ! これが俺の流儀なんだよ、コノヤロー!」

「この強情さ……土方さぁんと同じですねぇ」

「てめぇ、喧嘩売ってんのか?」

 キリトのかっこよさと見比べるリズベットやシリカに対して、構うことなく反抗していく銀時。彼の強気な姿勢を見て、沖田もいらぬ一言を土方へ伝えてしまう。いつ起きるか分からない戦場の渦中でも、仲間達は自分らしさを一切忘れていない。

 その和気あいあいとした雰囲気は、ユウキやシウネーにももちろん伝わっている。

「中々に愉快な仲間達だね、アッスー」

「そうね……私にとって最高の仲間達よ!」

「うん! 僕らのチームと同じだね!」

 ユウキは思わずアスナに話しかけていき、彼女達はその想いをそっと共有していた。互いに頼りがいのある仲間がいる者同士、確かな友情を感じ取っていく。

 仲睦まじい姿には、横で見守っていたキリトも一安心している。

「良かった……って、シウネーさん? もうそろそろ着くのか?」

 すると彼はシウネーに残りの距離を聞いてきた。

「はい! もう目と鼻の先です! あの扉をくぐれば……!」

「そこにユイがいるのか……!」

 ちょうど執務室へ入る扉が遠目で見えており、あそこまで行けばようやく目的地に到着できる。長かったここまでの道のり。全てはユイとこの星の未来を救うために、彼らはいよいよ最後の戦いへと臨むのである。

「みんな、もうそろそろだ!」

 改めてキリトが仲間に呼びかけていき、各々に戦う覚悟を促していく。仲間達も了承して、気持ちを整えていた。

 もはや彼らに迷いなどない。全身全霊でこの戦いに決着を付けると心に決めている。全員が自身の得意とする武器を構え直したところで、

「ハァァァ!」

勢いよく執務室の扉を壊していた。言わずもがな鍵がかかっていたので、強制突破が如く無理矢理に部屋へと割り込んでいる。

「おい、どこだ! オベイロン!」

「さっさとユイを返すアル!」

 到着早々に銀時と神楽は、威勢よく怒号を上げていく。辺り一面にオベイロンやユイがいないか、彼らは注視していた。

 執務室の内装は異様に広く、例えるならばSAOやALO内で見受けられたボス部屋と広さはほぼ同じである。他には何段にも積み重なった本棚には、資料やALO星関連の本が綺麗にまとめられていた。机や椅子と言った仕事で必要な物品は全て、女王及びフレイアの私物と言っても過言ではないだろう。

 そんなことはさておき、一行は近くに人の気配がないことを察していく。

「いないだと……」

「そんなことはないはず! 絶対近くに……」

 キリトやユウキが声に上げていた――その時である。

「ん? なんだ!?」

 急に辺りの照明が眩く光り、ある一点に集中している。そこを目にすると、

「ユイちゃん!?」

「なんだと!?」

椅子に腰をかけて、気絶しているユイの姿があった。その表情はどこか苦しそうにも見えている。また彼女の近くには、禍々しさを放つ装置が不自然に置かれていた。この装置こそが、フィリアの話していたマッドネバーの重要な装置なのかもしれない。

「待ってろ! 今、助けに――」

 と銀時らがユイの元まで駆け上がろうとした時だった。

〈adobent!〉

「バリア! ナウ!!」

「えっ? キャ!?」

「うわぁ、何だ!?」

「みんな!?」

 状況は瞬く間に一変してしまう。奇襲と言わんばかりに隠れていたドラグブラッカーが仕掛けており、万事屋とユウキを除く全員を遮らせてしまう。しかもソーサラーの魔法によって、彼らの周りにはバリアが張られている。これではこちらから、助けることも出来ない。

「おい、どうなってんだ?」

「まさか今度はこっちが罠にハマったってこと?」

「すでに知られていたのか……?」

 根回しの良い行動の数々から、ユウキはマッドネバー側の策略だと推測。幹部怪人の内の誰か一体が、ダークライダーに連絡したと考えていた。これにはキリトも納得してしまう。

 一方でバリア内に閉じ込められたシウネーや真選組らは、目の前に五人のダークライダーがいることに気付いている。

「また会ったな。軟弱な妖精どもめ」

「騎士団の一人も合流してたなんてね……」

「前座は終わりだ。思いっきり戦わせろ!」

 リュウガ、ダークキバ、ポセイドンと相手を見下しながら、各々が標的を定めていく。彼らに限らず、横にいたソーサラーとシグルドも同じ気持ちである。

 一方のシウネーらは現在の状況を見極めつつ、皆が柔軟に対応していた。

「またアンタ達なの!?」

「ったく、しつこいわね!」

 リズベットやシノンら女子達は、またも妨害してきたダークライダー達にうんざりしてしまう。ピナも怒りを滲ませながら、「ナー!」と威嚇する始末だった。

 そんな女子達とは対照的に、男性陣は揃ってやる気を高めている。

[しかし言い換えれば、また仕留める好機が出来たということだ]

「どこまでも邪魔しようものなら、とことん付きやってやんよ」

「そうでさぁ。今度こそ決着を付けてやりやすよ。なぁ、ブラコン」

「と、当然よ!」

 エリザベス、土方と躍起を飛ばす一方で、沖田はさり気なくリーファへ自身の調子を確かめていく。彼女も問題なく答えており、今度こそは打ち勝つ所存である。

 各々が文句を声に出したところで、シウネーは改めてダークライダー達に宣戦布告をぶつけていく。

「アナタ達がどんな手を使おうと、私達は負けません! ここにいる妖精と侍が!」

「そうだ、そうだ! これでタイトルの伏線回収にもなったからな! シウネー殿、よくぞやった!」

「って、急に変なこと言わないでくださいよ!!」

 率直な一言に桂も事を加えるが、メタ要素を含めていたため、大半の仲間が理解できていない。シリカもツッコミを入れる始末だった。

 それはさておき、一行は自身の対峙するダークライダー達に目を付けている。バリアで範囲を狭まれている以上、今はここで戦うしか道は無いようだ。

「どうやらもう覚悟はしているようね」

「素直に降伏すればいいものを」

 ソーサラーやシグルドが自信良くぼやくと、近藤や桂がそれに言い返していく。

「残念ながら、お前さん達の思い通りにはならんよ」

「あぁ、そうだ。今度こそ貴様らに勝つ! ここにいる精鋭達でなぁ!」

 珍しくも共感できる一言に、仲間達も一安心していた。恐れを跳ね除け、勇気を心に灯し、彼らは今度こそ決着を付けようとしている。

「いくぞ!」

「「はぁぁ!!」」

 そして彼らはダークライダー達に敢然と立ち向かうのだった。こちらもいよいよ決着は着くのか……?

 

 

 

 

 

 

 一方でバリア外にいる万事屋とユウキ達は、薄っすらではあるが仲間達がダークライダー達と交戦する場面が見えている。

「ど、どうするアル?」

「ここはみんなに任せよう! 僕達はユイちゃんを取り戻さないと……!」

 心配ではあるものの、ここはバリア内で戦う仲間達を信じることにしていた。彼らは囚われているユイの救出に着手しようとするが……タイミングが悪く、あの男が一行の前に姿を見せている。

「おやおや。誰かと思えば、お邪魔虫に騎士団のリーダーではないか。ここまで来るとは大したものだよ」

「……てめぇか、オベイロン!!」

「久しぶりの再会だな。僕はまぁまぁ嬉しいよ」

「俺達はちっとも嬉しくないけどな……!」

 スッとユイの背後から現れたのは、マッドネバーのリーダーであるオベイロン。万事屋からすれば、次元遺跡以来の再会である。彼を見るや否や、皆鋭い目つきのままで敵対心を剝き出しにしていく。特にキリトは元の世界で戦ったオベイロンの姿と照らし合わせており、増々彼の敵対心を高ぶらせていた。

 場の緊張感が一気に高まったところで、ひとまずは彼とのやり取りに注視する。

「ユイちゃんを返してよ!」

「そうアル! ユイをこれ以上、利用させないアルよ!」

 存分に怒りを含ませながら、想いをぶつけていくアスナと神楽。ユイの身柄を要求するが、無論オベイロンもそう易々とは渡さない。

「ハハ、何を言っているのだ。こいつはこれから起こす僕の作戦で、最も重要な要素だ。返すつもりなんて毛頭ないよ」

「重要の要素だと……!?」

「ユイちゃんを利用して、一体何を企んでいるんだ!?」

 彼はユイを作戦の要として位置付けており、返す余地すら考えていなかった。強情なオベイロンの態度に、増々怒りを募らせていく万事屋達。定春も「ウゥ……!」と唸り声を上げながら、彼に威嚇していく。

 するとユウキは何かを察したのか、オベイロンに向けて所持していたガイアメモリを見せてきた。

「アンタの言う作戦って何? もしかして、このメモリに関係すること?」

 真剣な表情で聞くと、彼はクスっと笑い最終計画の全貌にユウキらに披露していく。

「やはり貴様が持っていたか……そうだな。このメモリさえ揃えば、後はもう起動するだけだな。このアルヴビッカーをな!」

「アルヴビッカー……?」

「その装置が起動すれば、どうなるアルか!?」

「簡単さ。今アルンで起きていることを、星全体に巡らせるのさ!! つまり僕の意思次第で、人も魔力も操れることが出来る……僕はこの星の妖精王となるのだよ!!」

「はぁ!?」

「なんだと!?」

 狂気的とも言える計画の全貌に、銀時やキリト達は大いに困惑していた。話をまとめるとユイ、ガイアメモリ、エクスビッカーの三つを利用して、ALO星を自身の都合が良い星に変えるとのこと。要するに最終計画が実行されれば、ALO星の未来が奪われることに間違いはない。

 オベイロンもニヤリと笑みを浮かべており、このまま詳しく作戦を解説している。

「現在アルンには二つの装置が作動している。一つ目は鏡の世界に幽閉させる装置。二つ目は幽閉された下僕の生気や魔力を奪い去る装置。だが僕はこの効果を、星中に広げたいと思っているんだよ……誰も僕に逆らえなくするためにな!!」

「そのためにユイを利用するのか!!」

「そうだよ! ヤツはエネルギー体として、とても素晴らしいものだよ。装置を起動すれば、瞬く間にその効果を発揮するだろうね……」

「……てめぇはユイを道具としか思ってねぇのか!」

 やはり偽者のフィリアの情報通り、マッドネバーのクーデターには装置が関係していた。現在起きている効果を星中に波及するために、ユイとガイアメモリの力が必要不可欠だという。どちらとも道具としか見ておらず、その乱雑な態度に彼らの怒りは限界値に達してしまう。

 するとユウキはガイアメモリを奪われないためにも、手にしていたメモリを全て壊そうと試みるが……

「おっと。ちなみに言っておくが、壊したって無駄だよ。欠片が一つでもあれば、僕の変身したアナザーエターナルの力で復元出来るからねぇ。君達にとっては、この装置を破壊することしか方法は無いよ」

「ダメか……」

オベイロンの注意によって諦めてしまう。この言葉が真実かはさておき、メモリを破壊しても大したことではないことが伺える。これでは彼の言う通り、戦うしかユイを救う道は無いようだ。

 何の罪もないユイを己の願望のために利用するオベイロンに、仲間達は皆怒り心頭している。そして高らかに、心に感じていたことを相手にぶつけていく。

「なんて卑怯極まりない人なの……!」

「結局この世界のお前も、自分の事しか考えてないじゃないか!」

 元の世界のオベイロンと照らし合わせて、彼よりも外道さや卑劣さをひしひしと感じていくキリトやアスナ。

「要するにその装置を壊せば、お前の計画もおじゃんになるんだろ? だったら話は早い」

「ユイちゃんは絶対に僕らが取り戻しますよ……!」

「どんな手を使ってでもなぁ!」

「ワン!!」

 そして力づくでもユイを取り戻すとする銀時ら万事屋一行。真正面から戦い、計画すらも粉々に壊すと決意している。

 一方でユウキは、今まで心に感じていたことを声に出していた。

「色んな人を巻き込んで悲しませて……その果てに力へ溺れるなんて。僕の仲間にも怖い想いをさせて……はっきりと言うよ。アンタは絶対に僕らが確保する!! 自分の犯した罪と、しっかり向き合ってもらうよ!!」

 オベイロンに思うことは多々あれど、倒すのではなく確保で気持ちを一致させる。たくさんの人に迷惑をかけてきた分、その償いを果たすべきと彼女は考えていた。事を防げなかった悔しさを滲ませながらも、今度こそはやり切ると決意していく。

(因みに言うと、この時のユウキはまだジュンら仲間達がてっきり囚われていると思い込んでいる。本当はすでに解放されているのだが……)

 それはさておき、オベイロンは改心することなく、意地でも自身の計画を実行しようとしていた。

「僕が罪を償う? 何を言っているのだ。王たる僕にそんな必要は無い!!」

〈エターナル!!〉

 すると彼は懐から取り出したアナザーエターナルウォッチを起動。それを体内へと宿し、再び怪人態であるアナザーエターナルに変貌している。長剣であるガイアキャリバーを手に、キリトらと戦う準備を整えていた。

「さぁ、メモリを渡せ!! さもなければ、貴様らを抹殺してやる!!」

 どんな手段を使おうと、実行へと移す所存である。

 そう脅されようとも、万事屋やユウキは怯むことは無かった。

「てめぇのチンケな厨二病計画もここでしめぇだ!」

「メモリは渡さないし、ユイは返してもらうぞ!」

「全力で返り討ちにするアル!」

「ワン!!」

 銀時、キリト、神楽、定春と真っ向から戦うことを露わにしていく。

 一方のユウキは、アスナとの共闘を改めて確かめている。

「一緒に戦おう、アッスー!」

「もちろん……! 協力してアイツを倒すわよ!」

 共に剣を手に取り、標的をオベイロンことアナザーエターナルに定めていく。

 いよいよ始まるマッドネバーとの最終決戦。皆が呼吸を整え、全力で戦い抜く意思を露わにしている。

 そして――新八の掛け声のもと、遂に戦いが始まろうとしていた。

「皆さん、行きましょう!」

「あぁ!」

「OK!」

「うん!」

「「「「「「「はぁぁぁ!!」」」」」」」

 こうして銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユウキ、定春と言った精鋭達は、対アナザーエターナル戦に身を投じるのである。果たして勝機はあるのだろうか……そのカギを握るのは、ユイとキリトが現在所持しているアルヴドライバー……かもしれない。




 とうとうバレましたね。真選組にクラインが攘夷志士であることが。戦いが終わったらどうなる事やら……

 とそれはさておき、遂に別れていた仲間達と再会! このワチャワチャ感、なんだか久し振りな気がします。幹部怪人達が現れても、その雰囲気は健在みたいです(笑)

 それにしてもこんな強敵を本物そっくりに復元するこの世界のオベイロン……何故その頭脳を良いことに役立ってなかったのか。あっ、平行世界の須郷だからか! (何の解決にもなっていない)

 窮地に陥るユウキ達でしたが、上手いことに鬼兵隊と領主が駆けつけてくれました! シウネーを巡って、場は一段と混乱していましたが。おい、桂! お前は黙ってろ!

 一方でオベイロンはユイの純粋なエネルギー(分かりやすく言うと精神力?)を自身の欲望のために使用しようとしています。自分で作った設定ですが、気持ち悪いですね(笑)装置の力を最大限にして、ALO星全土の掌握を目論んでいるそうです。もちろん万事屋達が全力で止めにかかります!


 後はこれも余談なのですが、フィリアは執務室に向かわせるべきか悩んでいました。理由としては、これからの展開で彼女に見せ場があるか無いか決まるからです。考え続けた結果、ナイトローグとの決着を付けるために残すことにしました。もしも今後変更の可能性がある時は、かなり強引な手を使わないといけないかもしれません……その点はご注意を。

 そんなわけで次回はいよいよオベイロンことアナザーエターナルと決着……果たして本当にそうでしょうか? では、また!

次回予告

遂に決着か――?

銀時「ここはてめぇの遊び場じゃねぇんだよ!」

アナザーエターナル「僕は敵なしだぁ!」

一か八かの作戦……

ユイ「お願いがあります……」
キリト「でも、そんなことしたら!」

そして現れる――危険な男

高杉「祭りでもやってんのか? いや……ただの三流劇場か」
銀時「た、高杉!!」

妖国動乱篇十二 激突!妖精王と悪しき戦士


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第八十六訓 激突!妖精王と悪しき戦士

 前回言うのを忘れていましたが、ユージーン(赤) 万斉(青) アリシャ(黄) サクヤ(緑) また子(桃) フィリア(黒) 変平太(茶)って、戦隊っぽいですよね(笑)



前回のあらすじ
 遂にマッドネバーの親玉であるオベイロンの元に辿り着いた万事屋一行。彼の打ち立てた最終計画を食い止めるべく、六人と一匹は全力でオベイロンの変身したアナザーエターナルに挑んでいく。
 一方でシウネー、真選組、桂一派、超パフューム(SAO女子陣)一行は、幾度と戦ってきたダークライダーと再び対峙。今度こそ決着を付けるべく、激闘を繰り広げていた。
 さらにはフィリア、領主達、鬼兵隊の面々は、マッドネバーの幹部怪人達と一戦を交わしている。復讐、奪還、正義、因縁の決着と、世界樹内にて様々な想いが交差しながら、各々が全力の戦いに身を投じるのである。


 場面は執務室へと繋がる通路の分かれ道から始まる。ここでは鬼兵隊、領主、フィリアの連合チームが、集結した幹部怪人達と壮絶な戦いを繰り広げていた。彼らの目的はいわば時間稼ぎが主であり、怪人達の撃破ではない。故に体力を温存させながら、戦況を見極めつつ戦うのだった。

「フッ、ハァァ!!」

 手始めに来島は辺りへ二丁拳銃を乱射し、自身は勢いよく後退していく。彼女は近距離戦をなるべく避けながら、相手のけん制や怯みを与える補助的な役割に徹していた。

「今っすよ! 万斉先輩!」

「了解した」

 その隙に彼女は、仲間である万斉に指示を加えていく。彼はこちらへと歯向かう幹部怪人に対して、相手の動きを封じる強固な糸を三味線から放出。

「ハァ!」

 複雑に絡み合わせて、徐々にダメージを与えている。

 鬼兵隊の二人が上手く立ち回っている中、武市はと言うと……

「お二方、頑張ってくださいー」

「って、何一人休んでいるっすか! 武市先輩!」

「こう見ても戦闘向きでは無いのは、アナタ方も分かっているでしょう。少しばかりの休憩です」

「そんな暇があるなら、アンタだけでも晋助様を探してこいや!!」

物陰に隠れてひっそりと休んでいた。自分なりの言い訳を羅列するが、来島はもどかしさを感じつつツッコミを入れている。

 無論戦っているのは、彼らだけではない。武市とやり取りする傍らでも、領主達は果敢に足止めを行っている。

「って、油断していると危ないよ!」

「すかさず周りを見ろ! こやつらを止めるだけで良いのだ!」

 鬼兵隊に対しても躍起を飛ばすアリシャとサクヤ。そんな二人は接近戦を展開しながら、相手の動きを止めることに注視している。前者は小刀やカギ爪、後者は刀で幹部怪人の大群に応戦していた。

「フッ! ハァァ!!」

 一方のユージーンも、容赦のない攻撃を次々に繰り出していく。大剣を振るいつつ、確かな攻撃を怪人達に与えていた。

 そしてフィリアも、宿敵とも言えるナイトローグを相手取っている。

「ヤァ!」

「くっ! この小娘……本気を出しおったか?」

「私の怒りはこんなもんじゃないよ! 絶対に……許さないんだから!」

 勢いに押されるナイトローグに対して、彼女はその流れを完全に自分のものにしていた。自身を勝手に研究材料にされたこと。勝手に擬態され、仲間を欺かれたこと。思い返すとロクな目に合っていない。だからこそ、その悔しさを果たすためにフィリアは戦うのだ。

 

 

 

 

 

 

 足止めを行う幹部怪人と戦いを続けるフィリア達。だがその傍らでは、密かに世界樹へと侵入していた妙らに大きな動きが起きている。

「ん? おい、みんな。アレを見ろよ」

「アレ? そこにある部屋のことか?」

 世界樹内の廊下を渡り歩く過程で、長谷川がとある部屋の存在に気付く。九兵衛ら仲間達にも伝えた矢先、部屋のドアが勢いよく開いていた。

「おい、緊急の招集がかかった。ここは置いて行くぞ」

「あぁ。だが本当に良いのか?」

「反乱分子の排除が先らしい。最上階に全て集まっているとのことだ」

「了解」

 その正体は部屋の見張りをしていたライオトルーパーが二体。共にオベイロンの指示を優先して、指定された場所まで向かうという。折角の任された仕事を放棄してまで。

「何だ、今の?」

「戦闘員さん達が慌てているように見えましたが……」

「だがこれで部屋に入れるようになったな」

 ライオトルーパー達の不可解な行動に疑問を覚えつつも、部屋ががら空きになったことは好機として捉えている。ジュン、タルケン、テッチらが次々に声を上げると、仲間達もその声に賛同していた。

 こうして一行は周囲に気付かれないよう、がら空きになった部屋に忍び込んでいる。そこで彼らが発見したものは、マッドネバーの研究材料の数々。どうやらここは倉庫として使われている場所のようだ。(厳密に言うと、ユイらが訪れた部屋と同じである)

「これは……倉庫?」

「こんな早くに改造していたとはな」

「どうやら装置や兵器の設計図が多数を占めているようですね」

 見るからに怪しそうな物の数々に、疑問を強めていくあやめ、月詠、たまら。興味深く辺りを見渡していく中で、妙はとある資料を見つけ出す。

「ねぇ、これって。相手を脅すのにぴったりじゃない?」

「脅すだと?」

「いきなり物騒な言葉が出たわね。何を企んでいるの?」

「フフ。それはね……」

 切り札とも言うべき代物が見つかり、薄ら笑いを浮かべる妙。そんな彼女に若干引き気味となるエギルやノリら。果たして彼らが見つけたものは……?

 

 

 

 

 

 

 そして執務室では、マッドネバーの長ことオベイロンとの、ユイを懸けた戦いが繰り広げられている。彼と対峙するのは、銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユウキ、定春の六人と一匹。仲間達がダークライダー達と交戦する中、彼らは全身全霊でオベイロンの変身したアナザーエターナルと一戦を交えていく。

「はぁぁぁぁ!!」

「やぁぁ!!」

「フッ……こんにゃろ!!」

 勢いに乗って攻撃を与えるのは、銀時とキリト。共に木刀や長剣を振るいながら、アナザーエターナルへ次々とダメージを与えていく。それでも致命的なダメージは振るえず、どちらも互角の戦いを展開していたが……

「いい加減諦めやがれ!」

「諦める……そんな言葉は僕の辞書には無い!」

〈インセンス! マキシマムドライブ!!〉

一念発起が如くアナザーエターナルは、Iのイニシャルが描かれたメモリの力を発動。武器であるガイアキャリバーに装填して、その力を遺憾なく行使していく。

「ん? うわぁ!?」

「銀さん!? くっ……」

 すると彼の頭上には、巨大なハンマー型のエネルギー波が出現。銀時とキリトに襲い掛かり、彼らを場から遠ざけてしまった。(イノセンスの意味は無罪。ハンマーを使用した攻撃から、判決及び裁判に関係したメモリだと思われる)

「フハハハ! 君達には何をしても無駄だ! 僕にはこのメモリがあるのだからな!!」

 多彩な技を放つガイアメモリの力を過信して、存分に自身へ陶酔するアナザーエターナル。早くも一方的な勝利を確信した時である。

「それはどうかな!!」

「ワフフ!」

「ウッ!?」

 彼の背後からは、定春に乗った新八が勢いよく突進。定春の体当たりと同時に、新八の振るった木刀によって、やむなしに後退させられてしまう。

「今です、銀さん! キリトさん!」

「おう、任せろ!」

「分かっているよ!」

 その隙に新八は、銀時とキリトへ絶好の機会を伝えていた。彼らは武器を握りつつ、アナザーエターナルとの距離を詰めていき……

「「はぁぁ!!」」

「何!?」

不意打ちが如く斬りかかる。攻撃する隙すら与えない男達の連携攻撃に、彼は思わずたじろいでしまう。

「くっ……小癪な!!」

 しかしこれしきで怯む彼ではない。またもガイアメモリの力を発動し、この逆境を跳ね除けようとしている。

〈クロス! マキシマムドライブ!〉

 次に使用したのは、Xのイニシャルが描かれたガイアメモリ。ガイアキャリバーに装填すると、自身を中心に真下には交差した火柱が豪快に立ち始めていた。

「こ、これは!?」

「さぁ、奴らにダメージを与えろ!!」

 万事屋一行が困惑する中、火柱は何の前触れもなく連鎖するように爆発する。彼らは被弾しないよう、火柱を避け続けるしかなかった。このままでは、彼に攻撃することもままならない。

「フハハハ! 地獄の業火に焼かれるが良い!」

 とてっきり自身の攻撃が成功したと確信するアナザーエターナルだが、

「さて、ここで態勢を――」

「「「甘い!!」」」

「ん? はぁ!?」

意外にもこの爆発を上手く潜り抜けた者がいた。彼が振り返るとそこには、神楽、アスナ、ユウキの女子達が、アナザーエターナルに向かって襲い掛かろうとしている。どうやら神楽の持っていた仕込み傘が、火柱や爆発から身を守ったのだ。どちらにしろ、アナザーエターナルの思い通りにはさせないのだ。

「ホワチャァァ!」

「いっけぇぇ!!」

「グフ!?」

 先制攻撃と言わんばかりに、まずは神楽とユウキが傘や片手剣を用いて、左右にそれぞれ斬撃を浴びせていく。

「ユイちゃんを……返しなさい!!」

 そしてアスナは自身の想いを高ぶらせながら、アナザーエターナルへ次々にレイピアで刺し続けている。ヤツを倒すためならば、徹底的に張り合う所存だ。

「そうアル! テメェの野望には使わせないネ!」

「降伏しないなら、僕らは最後まで抗うよ! アンタにね!」

 さらにはアスナの猛攻に加えて、神楽やユウキも応戦していく。女子達の隙を与えない攻撃の数々に、押され気味のアナザーエターナルだったが、

「ふざけるなぁ!」

〈アンブレラ! マキシマムドライブ!〉

ここでまたもメモリの力を解き放ってきた。Uの描かれたガイアメモリを、ガイアキャリバーに装填すると、

「キャ!」

「うわぁ!?」

アナザーエターナルの目の前に傘で出来た防壁が出現。どうやら一時的に、自身の身を守る効果のようだ。だがこれによって、彼女達の勢いは一瞬にて途切れてしまう。

「うぅ……やっぱりあのメモリも如何にかしないと!」

「幾ら攻撃をしても、メモリの力で遮られちゃ意味はないわね……」

「アレを奪い取るアルか?」

 一連の戦いを鑑みて、ユウキ、アスナ、神楽らは、アナザーエターナルの持つメモリを最大の脅威として捉えていく。願わくば剣こと奪い去りたいが……事はそう簡単には上手くいかない。神楽もその厳しさを理解している。

 一度万事屋一行は体制を立て直すために集結する中、アナザーエターナルはまたもメモリの力を行使していく。

「ここで決めてやらぁ!」

〈ヤト! マキシマムドライブ!!〉

「夜兎アルか!?」

 次に使用したのは、Yのガイアメモリ。ヤトとはもちろん夜兎のことであり、神楽の種族でもある。皆が未知なる攻撃に警戒する中、アナザーエターナル渾身の攻撃が遂に繰り出されていく。

「くらえぇぇ!!」

「って、みんな! 避けろ!」

「まさか!?」

 彼はガイアキャリバーを縦横無尽に振るい、強力な力をまとった衝撃波を辺り一面へとぶつけている。万事屋一行はその衝撃波から避けるために躍起となるが、広範囲に衝撃波が渡っているためか、大なり小なり被害を被ってしまった。

「うわぁ!?」

「きゃ!?」

「くっ!?」

「うぶ!?」

 四方八方に皆は吹き飛ばされてしまい、思わぬ怯みを与えられてしまう。銀時やキリトはユイが囚われている装置の手前まで飛ばされていた。

「おい、大丈夫か。キリト!」

「なんとかな……だがあのメモリをまずは如何にかしないと」

「このままユイも連れて行けねぇからな……どうすれば」

 互いに目立った外傷はないものの、このまま戦えば勝ち目は遠いのも無理はない。仲間達がめげずに戦いを再開していく中、二人はじっくりと作戦を練り始めていく。

 そんな時である。

「パパ……銀時さん……」

「ユ、ユイ……!? ユイなのか?」

「起きたのか?」

「はい。でもそのままにしてください。あの人に気付かれないように……」

 なんと気絶していたはずのユイが、二人に話しかけてきた。思わぬ展開に困惑するキリトらだったが、一切顔色を変えずに話しかける彼女の行動から、二人も空気を察する。彼女の言う通り、アナザーエターナルへ気付かれないように話しかけていく。

「分かった。何を言いたいんだ?」

「私に考えがあるんです。アルヴドライバーを使えば、この状況を打破できるはずです」

「だがそれは、お前にしか使えないんじゃ」

「だから私が使うんです。この装置を内側から破壊するんです」

「本当に良いのか……? それじゃユイの体力は、持たないんじゃないのか?」

「大丈夫です。自分の限界を越えないようにしますから。私を信じてください……パパ、銀時さん」

「……分かったよ。無理だけはしないでくれ」

 簡略的な話し合いの末に見えたのは、ユイの確かな覚悟である。ただ守られるだけではなく、きちんと役割を全うする仲間としての使命を露わにしていく。何よりもアルヴドライバーを使用できるのは現時点で彼女のみであり、その仕様を存分に生かそうとしていた。

 ユイなりの覚悟にキリトや銀時は最初こそ受け止められなかったが、彼女の愚直な想いを信じ、隠し持っていたアルヴドライバーとヘイセイジェネレーションメモリを渡す。これにて全ての準備は整う。

「よし、キリト。後は時間稼ぎだ!」

「ユイの覚悟は、絶対無駄にはするか……!」

 こうして二人は、再びアナザーエターナルとの戦いに身を投じていくのだ。ユイの事情を知っているのは二人のみであり、より一層彼女の作戦を守ることに一つ一つ隙間なく注視していく。

 一方のアナザーエターナルは、万事屋との人数差をガイアメモリで補いながら、有利に戦いを進めようとしていた。だが若干慢心しているせいか、ユイが目覚めたことや一人で作戦を遂行していることには一切気付いていない。

「今です……!」

 ユイは警戒心を震わせながら、単身ヘイセイジェネレーションフォームへと変身。変身音が漏れないように、一生懸命ドライバーの音声発生部分を抑え込んでいる。マントをまといつつ、次なる作戦の準備に取り掛かっていた。

 そんな最中に、アナザーエターナルとの戦いにも大きな動きが生じている。

「はぁぁ!」

「うっ……! あっ、しまった!!」

 度重なる猛攻に押されてしまったユウキの懐から、一本のガイアメモリが彼の手に渡ってしまう。奪われたのは、Lが描かれたリードガイアメモリ。このメモリの効果はと言うと、

「貴様が持っていたのか……このメモリは!」

〈リード! マキシマムドライブ!!〉

「えっ!? なんで!?」

「メモリが飛んで行った……?」

バラバラのメモリを自身の手元に全て集めることが出来るものだ。さながら原典の仮面ライダーエターナルが所持していた、ゾーンメモリと同じ効果を発揮している。ユウキが隠し持っていたメモリも、リードメモリによって全て彼の手元に戻ってしまった。

 アナザーエターナルの持つガイアキャリバーには、とうとう全てのガイアメモリが装填される。

〈Aアルヴヘイム! Bバズーカ! Cキャリバー! Dドラゴン! Eエリザベス! Fフェアリー! Gゴリラ! Hホームレス! Iインセンス! Jジョウイ! Kカラクリ! Lリード! Mマヨネーズ! Nネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲! Oオンライン! Pピクシー! Qクエスト! Rラビット! Sソード! Tトレード! Uアンブレラ! Vバーチャル! Wウッドソード! Xクロス! Yヤト! Zゼッカイ! マキシマムドライブ!!〉

 装填と共にガイアキャリバーからは、有無を言わさずに音声が鳴り響いていく。壮観……と言うよりは雑音に近しいものだろう。

「って、やかましいアル!」

「何か変な音声も混ざっていませんでしたか!?」

 神楽は耳を抑えて文句をぶつけており、対して新八も一部の変てこな音声を聞いてついツッコミを入れてしまう。そんな感想はさておき、万事屋にとっては恐れていた最悪の結果を迎えてしまう。

「ごめん、アスナ。僕の不手際で……」

「気にすることは無いわよ。今はあの剣を破壊しないと……!」

 最後の一手を許してしまいユウキは責任を感じるも、そんな彼女をアスナが優しく励ましていく。いずれにしろ、この展開は予期されていたこと。皆はアナザーエターナルの好きにさせないよう、必死に妨害しようとする。

「てめぇら! 意地でもあの野郎に食らいつくぞ!」

「何としてでも、時間を稼ぐんだ!」

「おうネ! って、時間稼ぎ?」

 銀時やキリトの指示の下で、仲間達のそれに賛同していく。神楽はキリトの言い方に少しばかり引っ掛かっていたが……。それはさておき、六人と一匹は一心不乱にアナザーエターナルの元まで走り出す。

「小癪な奴等め……最強の力を手に入れた僕の攻撃を受けるが良い!!」

 鬱陶しく感じながらも彼は、渾身の一撃で万事屋全員を倒そうと試みている。ガイアキャリバーにまとったオーラを振るい、金色の衝撃波を彼ら一帯に浴びせていく。

「「「はぁぁぁぁ!!」」」

「「「やぁぁぁぁ!!」」」

「ワフフ!!」

 各々が武器を盾にして、この衝撃波を押し返そうと踏ん張りを見せている。定春も頭突きをするように、応戦していた。いわば根性論で乗り切ろうとしており、度重なる戦いからきっと打ち倒せるとアナザーエターナルは思い込んでいたが……

「無駄だ! 無駄だ! 全てのガイアメモリを込めた、僕のとっておきの一撃だぞ! お前達が勝つなど、これっぽっちも無いはずだ!!」

「これしきで俺達が……!」

「負けてたまるかよ……!」

「僕達はこの星の希望だ!」

「諦めないわよ……絶対に!!」

彼らは予想以上に踏ん張りを見せている。キリト、銀時、ユウキ、アスナと次々に自身の決意を声に上げると、次第に衝撃波の勢いは弱まっていく。そして、

「これで終わりネ!」

「「「はぁ!!」」」

なんと彼らは強力な衝撃波を相殺。見事にそれを受け流している。辛くも体力は消耗したものの、大きなダメージを受けることなく、難を逃れることに成功していた。

 万事屋やユウキの踏ん張りには、アナザーエターナルにとっても想定外であり、思わず困惑を口にしている。

「な、な、何だと!? 僕の最高火力の必殺技だぞ!! 計算上はどんな相手だって……!」

「ギャギャー、やかましいわ。机上の空論で語るから、テメェはダメなんだよ!」

「理屈ばかりじゃ出来ないこともアルネ! それをお前は分かってないアル!」

「ワン!」

 言い訳ばかりを呟く彼に対して、銀時や神楽らは率直な一言で返していく。能力値で誇るのではなく、それを上手く使いこなすことが重要だと彼らは説いていた。アナザーエターナルとの明確な考え方の違いを、この場で露呈している。

 だが肝心の本人は、事の本質を理解せずに自分勝手な解釈で自身を都合よく肯定化していく。

「おのれ……おのれ! おのれ! 良いから黙って、僕の前に跪むけ!! このポンコツ共が!!」

 万事屋やユウキに罵倒の言葉を投げかけながら、またしても衝撃波を解き放とうとした――その時である。

〈ジオウ! スレスレシューティング!!〉

「ハァ!」

「ん……ぐはぁ!?」

 彼の真横から飛んできたのは、正体不明の光弾。ふと振り返るとそこには、ヘイセイジェネレーションフォームに変身したユイの姿があった。彼女の手には、ジオウの武器であるジカンギレード(ジュウモード)が握られている。先ほどの光弾はこの武器から発射されたもののようだ。

 ここでアナザーエターナルはようやく、ユイが自身のまったく知らない力を使用している事実に気付いている。覚悟を決めた表情となるユイに対して、アナザーエターナルは仮面の中で取り乱した表情と化していた。

「お、おい……! なんだその力は……!! これは僕の開発した装置じゃないか……! この盗人!! これは僕の……!」

「いいえ、違います!! この力は……ライダーさん達が私に託してくれた希望なんですよ! アナタの自己満足のためのおもちゃじゃないんです!!」

 動揺しつつも薄汚い言葉を羅列していくアナザーエターナル。哀れさを漂わせる彼に対して、ユイはしっかりとした決意を声に出していく。

 形勢逆転。アナザーエターナルに真っ向から言いくるめるユイの姿に、万事屋一行やユウキも感銘を受けている。

「ユイちゃん……って、あの姿は何なの?」

「アレは、ユイなりの覚悟の姿だよ」

「覚悟の姿……」

 ところがアスナ、ユウキ、新八、神楽の四人は、ユイがヘイセイジェネレーションフォームに変身出来ることを知らないため、感激と同時に困惑も覚えている。彼らには銀時、キリトが説明に当たった。

 万事屋側からすれば希望。アナザーエターナル及びマッドネバー側からすれば絶望の、ヘイセイジェネレーションフォーム。するとユイはためらうことなく、とあるライダーの必殺技でこの戦いに終止符を打とうとしている。

〈オーズ! タマシ―パワー!!〉

〈タカ! イマジン! ショッカー! タマシー! タマシー! タマシー! ライダー……魂!!〉

 左腕に付けられたブレスレットから選んだのは、仮面ライダーオーズのタマシ―コンボの必殺技。両手にエネルギーを溜めていき、それらを解き放つ一撃で目の前にいる装置を粉砕しようとしていた。

「な、何をする!! ふざけた真似は止めろ!!」

「止めません! アナタの野望は……私達の手で終わらせます!!」

 一段と動揺するアナザーエターナルは、ユイに必殺技の停止を促していく。だがしかし、当然ながら彼女の意思は変わらない。

「このクソガキ……! 良いから僕の言うことを聞け――」

「させるかよ!」

「彼女の邪魔はさせないよ!」

「ワフフ!!」

 苛々を募らせていき、アナザーエターナルは力づくで彼女を止めようとする。ところがそんな彼を、万事屋やユウキは必死に食い止めていた。ユイの行動を信じて、彼女の補佐に準じていく。

(この装置は研究室の資料通りなら、恐らく限界値があるはずです。だとすれば最高火力のこの必殺技ならば、受け止められないはず……大丈夫です!)

 ユイも心の中にて、自身の作戦を振り返る。彼女は研究室に忍び込んだ際の資料を基に、この作戦を思いついていた。本来はガイアメモリと自身の持つエネルギーを利用して作動する装置。だとすればその装置に負荷がかかるほどのエネルギーを与えれば、むしろ破壊が可能だと推測している。僅かな時間の中で万事屋らが時間稼ぎしたことで、ユイにとってぴったりの方法が見つかったのだ。

 そして遂に――作戦は実行へと移されていく。

「行きます……必殺! 魂~ボンバー!!」

 ユイの両手から解き放たれたのは、メダルの形をした眩い衝撃波。

「セイヤ―!」

 それは彼女の掛け声と共に、二枚追加されていく。タカ、イマジン、ショッカーのタマシ―コンボを形成する三枚のメダルの紋章が重なり合い……オベイロン傑作の装置へと直撃。無論この膨大なエネルギーを受け止められることが出来ず、

〈バ、バ、ババドーン!!〉

「あっ……あぁぁっぁぁ!!」

豪快な音を立てながら破壊されてしまった。装置一面に火炎が散っており、傍から見ると面影すらない。自身の製作した装置が粉々に破壊された様子に、アナザーエターナルは大発狂してしまう。

 一方で万事屋やユウキは、ユイの安否が気になって仕方がなかった。

「ユイ!?」

「ユイちゃん!? 大丈夫なの!?」

 目に見えるのは装置から炎々と舞う火の粉。それらが辺りに飛び散り、世界樹にも燃え移ろうとした時だった。

〈フォーゼ!!〉

〈キバ!!〉

 突如として、またも金色の扉から二人の仮面ライダーが出現する。前方に年号が描かれており、2008からは仮面ライダーキバ(バッシャーフォーム)。2011からは仮面ライダーフォーゼ(ファイヤーステイツ)。属性は違えど、消火に適したライダー達が登場している。

「ウェイクアップ!」

〈リミットブレイク!〉

「いけぇぇ!!」

 キバは武器である片手銃バッシャーマグナムから水疱を連射。フォーゼも消火器を模した銃、ヒーハックガンで辺りに消火剤を散布していた。彼らの手早い消火活動によって、火の粉は瞬く間に鎮火。世界樹へと燃え移る前に防ぎきることが出来ていた。

「こ、これって……」

 またも登場したライダー達を見て、呆気にとられる万事屋やユウキ達。特にアスナ、新八、神楽、ユウキは初めて平成仮面ライダーが召喚する様を見て、増々驚きを見せている。

 気になって声へかけようとした時、ようやくユイが姿を見せていた。

「ありがとうございます、ライダーさん!!」

 鎮火した装置からひょっこりと出てきている。彼女は必殺技を放った直後、消火に適したライダーを召喚していたのだ。危機管理もしっかりとこなす、彼女の気真面目さが垣間見えた瞬間でもある。ライダー達もしっかりアイコンタクトをとり、金色の扉を介して姿を消していた。

 ようやく一つの区切りが付いた、マッドネバーの恐るべき計画。その顛末は強大な力に自惚れたオベイロンと、最後まで諦めることの無かった万事屋やユウキ達によって、呆気なく失敗に終わっていた。計画を阻止するために第一線で活躍していたユイは、その役目を終えて安どの表情を浮かべている。

 一安心した彼女は変身を解除。羽織っていたマントが消失したところで……

〈バサァ!〉

「ユイ!」

「ユイちゃん!!」

力を使い果たして倒れこんでしまう。すかさずキリトやアスナが心配して、一目散にユイの元に駆け寄っていた。そのまま彼女へ話しかけてみたところ、すぐに本人は調子を取り戻していく。

「大丈夫です、さっきよりは。ちょっと張りすぎちゃいましたかね……」

「そんなことは無いわよ。助けてくれてありがとうね……」

「よくここまで頑張ってくれたな」

「もちろんです! だって……絶対助けに来てくれるって信じていましたから!」

 ユイのあどけない笑顔並びに普段通りの優しさに触れていき、キリトやアスナは安心感を覚えて、感涙に浸っている。ようやく叶った大切な子との約束。三人はそっと抱きしめあい、少しの間だけ素直な気持ちで触れ合っていた。

 感極まった三人の再会を、万事屋やユウキは遠くからそっと見守っている。

「いやー良かった、良かった! アッスーさん達の探し人と再会できて」

「一時はどうなるかと思ったけどな」

「これもユイが踏ん張ってくれたからネ!」

「怖かっただろうに。よく耐えてくれましたよ」

「ワン!」

 互いに心地よさを覚えつつ、一つの壁を乗り越えたことに達成感を覚えていく。ユイの勇気に感服しながらも、彼らは残された問題を片づけるべく、憔悴しきっているアナザーエターナルに目を向けている。キリト、アスナ、ユイも万事屋らと同じ方向を向いていた。

「これでアナタの計画は終わりよ! オベイロン!」

「いい加減お縄に付くアル!」

「囚われた人達も返してもらうよ!」

「そうだ、そうだ! テメェが諦めたら長編も綺麗に終わるから、とっとと心を折りやがれや! もうこちとら、働きたくねぇんだよ!」

「って、どさくさ紛れに何本音をぶちまけてんだ! そんなことで、あの男が諦めるわけないでしょうが!」

 威勢よく断念を促すアスナ、神楽、ユウキに対して、銀時は元も子もない本音で、マッドネバーの野望を諦めさせようとしている。その理由はただめんどくさくなっただけであり、あまりの正直さに新八もすかさずツッコミを入れていた。

 ただどんなに冗談を言おうとも、アナザーエターナルいやオベイロンは簡単に諦めない。彼は一度変身を解除すると、声高らかに開き直っていた。

「……まだだ! まだ僕は終わっていないぞ!」

「何!?」

「例え装置が壊されても、また作ればいいではないか! それに僕には作り出した怪人達、果てはダークライダーまでいるのだぞ! これしきの事でくたばる我ではない!!」

「……どこまで往生際が悪いんだよ」

 自身に都合の良いことを羅列するオベイロンの態度に、キリトも思わず呆れ果てている。だが彼の言ったことにも一理あり、装置を破壊したところでまだアルンに脅威が消えたわけではない。幾らでも再興する可能性はあるのだ。

 さらに彼は隠し持っていた切り札を、万事屋一行に惜しげもなく見せびらかしている。

「それにこれを見ろ!」

「あん? なんだソレ? どっかのカギアルか?」

「そうだ! これは二つの装置を保管している部屋のカギだ! いわば僕は、この街の住人を全て人質に取っているようなものだ!」

「てめぇ……今更そんな姑息なやり方使うのかよ」

「どこまで卑怯な手を使うんだよ!」

「うるさいっ! 所詮は勝てば良いのだよ、勝てば! さぁ、今すぐ僕に降伏しろ! さもないと……こいつらの命は無いぞ!」

 その正体は装置を保管している部屋のカギだった。彼はこれを人質として活用しており、恥もへったくれもなく万事屋一行へ脅しをかけている。あまりにも傍若無人な態度に、銀時、キリトらはもう呆れを通り越してしまう。それでも人命が懸かっているので、険し気な表情は浮かべている。彼が調子付く前に、カギを奪還しようとした時だった。

〈ヒューン!〉

「ん? 何!?」

 オベイロンの手元に突如として、金色の物体が襲い掛かってくる。不意に彼はカギを落としてしまい、それは金色の物体に乗っかったまま、入り口付近まで運ばれていた。

 金色の物体の正体は煌びやかなハンマーであり、とある人物の所有物である。その人物は手元に戻ったハンマーを持ちながら、不意打ちが如く奪ったカギを手にしていく。

「なるほど。どうりで装置が見つからなかったわけですか。しかし……これで民達の安全は確保できそうですね」

「き、貴様はぁぁ!!」

 ハンマーの持ち主を目にした途端、オベイロンは人が変わったように発狂して いる。一番目の敵にしていた人物が、自分の前に姿を現したからだ。

 その正体は……ALO星の王女であるフレイアである。彼女は真剣な表情を浮かべながら、オベイロンの姿をぎょっと睨みつけていた。

「王女様! ご無事だったのですね!」

「ユウキも、よくぞここまで頑張ってくれましたね」

「はい! ですが姫様。道中までまさか一人で来られたのですか?」

「いいえ、そんなことはありません。私にも手助けしてくれる方がいたのです。」

 一方でユウキはフレイアを見るや否や、彼女に寄り添いつつ、丁寧に無事を確認している。多少の汚れはあれど、大きな怪我は無かったことに一安心していた。普段通りのユウキの優しさを目の当たりにして、フレイアもつい安心感を覚えている。

 二人の妖精達が会話を交わす中、一行はフレイアの存在に多少なりとも驚いていた。

「王女ってどう見ても……」

「フレイアさんよね?」

「やっぱり似ていますよね」

 キリト、アスナ、ユイは元の世界で出会ったフレイアを思い起こし、

「なんだ、お前らの知り合い……いや、そっくりさんか?」

「またアルか。どんだけで偶然が重なるアルか!」

「まぁ、ALO星ですからね……」

「ワフ?」

銀時、新八、神楽、定春は、またもそっくりさんが登場したことにツッコミを入れている。キリトらは素直に驚けるから良いが、万事屋にとっては何のこっちゃまったく分からないので反応に困ってしまう。

 とそれはさておき、王女様が来たとならば頼もしいことに変わりはない。ましてやオベイロンの渾身の切り札も隙を見て奪取し、早くも大金星を彼女は上げていた。

 流れが万事屋側に吹く中、オベイロンは地団太を踏みながらフレイアを糾弾する。

「おい、何故お前がここにいる! どうやってここに忍び込んだ! なんでここまで辿り着くことが出来たのだ!!」

 言葉の一つ一つに必死さがひしひしと伝わっている。窮地に追いやられている彼に、フレイアは冷静沈着に対応していた。

「言ったでしょう。あるお方の力を借りたと。私も気乗りはしませんでしたが……これも民を守るためだったです。きっとアナタにも縁のある人物でしょう」

「何?」

 彼女曰く、とある協力者の手を借りてここまで来たらしい。縁がある人物だと聞き入れ、オベイロンは微かにある男を頭に浮かべていた。その予感はすぐに当たる事となる……。

 するとフレイアに続いて、執務室に彼女の協力者が堂々と入り込んでいく。

「その通りだ。けれどまぁ、来てみれば見知ったかまでいるとは思わなかったぜ。こりゃ楽しい祭りになりそうだ。いや、血祭の違いか?」

 聞こえてきたのは、艶のある低い男性の声。物騒な言い回しを口にして、場を一段と騒然させてしまう。

「この声ってまさか……!?」

 その声を聞き入れると、一行は各々がまばらの反応を示す。キリト、ユイはどこか懐かしさを感じ取り、アスナやユウキは目の前にいるオベイロンと声質が似ていることへ密かに驚く。そして万事屋は、

「はぁ!?」

「おい、ちょっと待つアル!」

「やっぱり近くにもういたのか……」

珍しい客人の登場に心を震わせている。ちょうど目の前にて見えたのは、過去に一戦を交えた相手。一言では語りつくせない因縁の相手であり、ただならぬ警戒心を灯している。

 その男の名はと言うと、

「た、高杉晋助ぇぇぇぇ!?」

「久しぶりだな、オベイロン。ようやくテメェの無様な顔芸が見れて、俺も嬉しいぜ」

鬼兵隊の総督高杉晋助だ。彼の姿を見るや否や、オベイロンは気が狂ったかのように発狂。一方の高杉は顔色を一つ変えることなく、冷血な表情でオベイロンを睨みつけていた。

 唐突な危険な男との遭遇。場に緊張感が走る中、万事屋内でも反応は様々である。

「高杉さん……」

「本当に久しぶりに会うな……」

 キリト、ユイは以前に会った出来事を頭に浮かべつつ、変わらぬ彼の雰囲気に何とも言えない気持ちを浮かべていた。

「アレが鬼兵隊のリーダー……」

「何か知らないけど、危険な雰囲気がするよ……」

 さらにアスナやユウキはと言うと、一発で高杉が理解しがたい人物であると察し。険しい表情を浮かべて、彼の行動に注視していく。(因みにアスナは次元遺跡篇にて、別の世界の高杉と出会った経緯がある。密かに頭の中で思い浮かべたものの、声に出すことは無かった)

 そして万事屋はと言うと、例に漏れることなく嫌悪感を示す。

「あの野郎……どういうつもりだ?」

「気を付けるアル、銀ちゃん! アイツなら何をしでかすか分からないネ! きっとあのゴミクズ野郎と手を組むに違いないネ!」

 先走った神楽はほぼ決めつけで、オベイロンと高杉の繋がりを予測。より一層警戒心を高めていたものの……本人から直々に否定されてしまう。

「何を勘違いしてやがるんだ? ここにいるゴミと、俺が再び手を組むなんてことはねぇよ」

「いや、ご丁寧に答えてくれたよ。ていうか、アンタもゴミ呼ばわりかい! どんだけ嫌っているんですか!?」

 あまりにも率直すぎる一言に、新八も高らかにツッコミを入れている。高杉もオベイロンを否定的に捉えており、不機嫌そうな表情から真に嫌っている節が見受けられた。この一言には、万事屋一行も素直に驚いている。

 とそれはさておき、高杉は銀時との距離を保ちながら、彼の視線を睨みつけていく。銀時もまた彼に睨みを利かせており、絶妙な雰囲気を醸し出している。

 一言では語り尽くせない二人の関係。思わぬ場所で再会した彼らは……意外にも冷静さを保ちつつ、言葉を交わしていく。

「まぁ、いいさ。銀時ィ……テメェと話したいことは多々あるが、ちとこちらもやりたいことがあってなぁ。今回ばかりはテメェに関わっている暇は無いのさ」

「うるせぇよ。わざわざ言わなくても、こっちから願い下げだ。チキショー」

「分かっているじゃねぇか」

 肝心の決着を付けたいところだが、共に今はそれどころではない。どちらともオベイロンを敵視しており、彼を倒すために躍起となっている。意外にも目的が一致している二人の侍。だがそれでも、そう簡単には共闘しない。

 そんな最中に高杉は、キリトやユイに向けてボソッと声をかけている。

「まぁ俺も、とんだ腐れ縁に引っ掛かっちまったけどなぁ。これで貸しはチャラにしてやらぁ」

「えっ? 高杉さん……!?」

 その真意は貸しを返すことにあり、少なくともキリトらには約束を果たす模様だ。銀時へツッコミを入れられないように、擦れた小声で発していたが。

 とその一件はさておき、高杉は再びオベイロンへ目を向けている。

「おい、オベイロン。俺の仲間を幽閉させたこと、身をもって償ってもらうぞ。命を懸けて勝負するか、自ら首を斬られに来るか……どっちでも好きな方を選びやがれ」

 しっかりと自身の目的を語った上で、仲間を苦しませた罰を与えようとしていた。幽閉された仲間を解放すること。それこそが彼の目的である。ユイやフレイアと出会い、道中で寄り道はしたものの、その意思は決して揺らぐことは無かった。

 そう真剣な表情で高杉が発すると、フレイアも続けて声を上げている。

「どちらを選ばなくとも、アナタはすでに終わっています。アルンに住む民や仲間。訪れた観光客を危険な目に遭わせたことを……私は絶対に許しません! さぁ、降伏しなさい!」

 悔しさを滲ませながら彼女は、奪ったカギを握りしめて、オベイロンへまくし立てていた。こちらも高杉と同じく民の解放が目的であり、それが果たされようとしている今、原因を作り出した彼に降伏を持ちかけている。

 星を支配するために作った装置も壊され、人質として利用しようとしたカギも隙を見て奪われ、この数分の間に踏んだり蹴ったりなオベイロン。彼の味方は現在近くにはおらず、時間を稼ぐことすらままならない。だとすれば、オベイロンが出すべき答えはただ一つだ。

「やむをえん……降参しよう」

 そう。言われたとおりに降参である。やけに素直な彼の行動に、一行は皆違和感を覚えて疑っていた。

 顔をしかめるオベイロンの本心を探ろうと、ゆっくり距離を縮めようとした――その時である。

〈カチ〉

「ん? 危ねぇ!」

「避けろ!」

「きゃ!?」

「うわぁ!?」

 状況は一瞬にして一変していた。突如として天井から出現したのは、細長き電流を帯びたオーラ。それにいち早く気付いた銀時、キリト、アスナ、神楽の四人は、近くにいた新八、ユイ、ユウキ、定春ら仲間達を押し出している。その代わり彼ら四人が、オーラ状の物体に捕らわれて身動きがとれなくなってしまった。

「銀さん!? 神楽ちゃん!?」

「パパ!! ママ!!」

「どうしちゃったの!?」

「ワン!?」

 ほんの数秒の間に何が起きたのか変わらず、困惑してしまうユウキら仲間達。心配をよそに、アスナや神楽らは体中にオーラがまとわりつき、麻痺に似た状態異常に苦しめられてしまう。

「こ、これは……ワナか!」

「あの野郎……まだ仕掛けていたアルか!」

「う、動けない……!」

「蜘蛛の巣みたいに絡まりやがって!」

 自力での脱出はほぼ不可能であり、無事だった仲間の手を借りようとも見通しはあまり見えない。ほんの一瞬の隙を突かれて、危機的な状況に陥ってしまった。

 そんな状況下にてフレイアはと言うと、咄嗟に近くへいた高杉のことを手助けしている。

「大丈夫ですか!?」

「急に庇うなや。びっくりす――って、銀時!?」

 どうやら彼はフレイアの手助けによって、オベイロンの罠を危機回避したらしい。だがしかし、高杉はオーラに捕らわれた銀時の姿を見て、思わず困惑を口にしてしまう。

 一瞬の判断が命運を分けたオベイロンの姑息な罠。仕掛けた張本人は反省した様子を前言撤回して、開き直った態度でこの状況を嘲笑っていく。

「フハハ! そうだよ! 僕がこれしきでくたばるわけがないだろう! 捕らえたのは本命ではないが……まぁ良い。僕に逆らったらどうなるのか、とくと味合わせてやろうぞ!」

 可笑しくも高笑いを浮かべながら、今度こそ自身の勝利を確信していた。動けないうちにとどめを刺すべく、彼はとある合図を交わす。

 オベイロンがパチンと指を鳴らした直後である。バリアに隔たれた空間にて、シリカや桂らと戦闘を行っていたダークライダー達が程なく準備を進めていく。

「おい、やるぞ」

「あぁ!」

〈FINALBENT!!〉

〈ウェイクアップ! ツー!〉

〈イエス! フィナーレストライク!〉

〈チェリーエナジースカッシュ!〉

 リュウガ、ポセイドン、ダークキバ、ソーサラー、シグルドと力を合わせた一斉攻撃の構えを繰り出していく。俗に言う連続したライダーキックであり、その標的を現在対峙する侍や妖精達に向けていた。

「みんな! 奴らの必殺技が来るぞ!」

「避けて、受け流してください!」

 ダークライダー達の分かりやすい行動を察して、近藤やシウネーは仲間達に危険を伝えていく。皆もその言葉を信じて、ダークライダー達の次なる行動に注視する。

 だが彼らは気付いていなかった。標的が自分達ではなく、バリアを介した側にいる銀時達へいることに……。

「いくぞ、はぁ!」

「させるか! って……えっ?」

「そっち!?」

 必殺技が来ることに身構えていたクライン達だったが、ダークライダー達が一斉にバリア側へ向いたことには驚嘆している。

 最初こそ想定外な行動に疑問を浮かべていた一行だが、土方はその狙いが自身の仲間へ向けられていることに気付く。

「いや、待て! おい、お前ら! アイツらを止めろ!」

 土方は焦ったように仲間へ呼びかけたが――時すでに遅かった。

〈パキーン!!〉

 魔力で覆いかぶさっていたバリアは瞬く間に消失。大きな音が鳴り響くと共に、バリアの向こう側にいた銀時らの姿が見えていた。

「「「「「ハァァァ!!」」」」」

「「「「うわぁぁ!?」」」」

 ダークライダー達の必殺技を受けて、銀時、キリトらが吹き飛ばされる姿が……。

「……おい、銀時ぃ!」

「キリト!」

「アスナ!?」

「チャイナ!」

 あまりにも 突然の出来事に、仲間達は皆騒然としてしまう。助け出そうともタイミングが間に合うはずもない。

 行動不能を良いことに、五体のダークライダー達の一斉攻撃を受けた銀時ら四人は――凄まじい勢いに押されながら壁を突き破ってしまう。世界樹の最上階から落下した彼らの運命や如何に――




NGシーン

ユイ「いいえ、違います!! この力は……ライダーさん達が私に託してくれた希望なんですよ! アナタの自己満足のためのおもちゃじゃないんです!!」
〈ビルド! ハザードパワー!!〉
新八「おい、なんか色々不味そうだから止めろ!」

ハザードユイちゃん……最恐の鬱展開を起こしそう(笑)





 あー! 良いところで終わってしまいましたね。屋上から落下してしまった銀時、キリト、神楽、アスナの四人はどうなってしまうのでしょうか……?

 今回はアナザーエターナル戦が中心でしたね。これまで苦戦していた万事屋一行でしたが、相手の手の内や癖が分かると状況が一変するところは、数多の戦いを潜り抜けた彼らなりの度胸を感じられたと思います。力を過信して、自身の身勝手な野望のために行使するオベイロンとは大違いですね。

 書いていて分かったことがあるのですが、オベイロンって本当に書きやすいキャラしていますよね。分かりやすい小物というか、幾ら邪悪な事をやっても違和感が無いというか……ある意味素晴らしい悪役だと思います(笑)

 そして今回ユイが装置破壊に使用した技は「魂ボンバー」。実は七十四訓にて練習している様子がありました。まぁ、この技を選んだのはたまたまなんですけれど……

 後は個人的な余談なのですが、この小説の時系列は将軍暗殺篇の前でして、その前に高杉と銀時や万事屋がいつ出会ったかと言うと、紅桜篇が最後なんですよ。結構話数が空いているので、意外に感じました。ということは、結構稀に見る再会だと思っています!(あくまでも二次創作なので、こだわっているわけでは無いのですが……)
 過去の話を見返してみたら、キリトやユイが高杉について銀時らへ話す場面が無かったので(多分そのはず)、どこかの話でこの件について取り上げようと思います。

 さぁさぁ、高杉も戦いに加わろうとしている中、次回はどうなってしまうのでしょうか……? お楽しみに。





次回予告

ドライブ「人々の平和を脅かす悪を倒すために……!」

キリト「あぁ、分かったよ!」

彼らにも託される――自由を守る力!

妙「私達も加わらせてもらえるかしら?」
新八「姉上!?」

ジュン「ようやく参戦ってね!」
ユウキ「みんな!」

集結する仲間達!

高杉「二十九人じゃねぇ……三十人目。俺も戦わせろ」

妖国動乱篇十三 何故万事屋は英雄に認められたのか?


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第八十七訓 なぜ万事屋は英雄に認められたのか?

少し遅れてしまいましたが、ようやく出来ました!




「銀さん! 神楽ちゃん!」

「パパ! ママ!」

 銀時、キリト、アスナ、神楽の四人は今、危機的な状況に直面している。ダークライダーの解き放った渾身の合体必殺技を、身動きが取れないまま受けてしまい、およそ高層ビル五十階近くに該当するだろう世界樹の天辺から勢いよく降下していたのだ。

「「「「うわぁぁ!?」」」」

 現在は敵の策略により、キリトやアスナらの羽も使えない始末。無論重力に逆らうことも出来ず、助かる手段など毛頭ない。このままオベイロンの思惑通り、四人は倒されてしまうのだろうか……。

 仲間達が彼らの安否を気遣う中、オベイロンはたった一人でこの状況を嘲笑っていた。早くも勝利の余韻に浸っていく。

「フハハハ! これは滑稽だぁ! もうあやつらに助かる手段は無い! 僕に逆らったことを、死後も後悔するが良いぃ!!」

 彼の頭に思い浮かぶのは、数分後の光景。ユイらの悲しむ姿を想像するだけで、大いに愉悦さを感じていた。仲間の存在を弱みとしか考えていない、彼ならではの短絡的な思考が伺える。

 そんな高笑いを続けるオベイロンに対して、

「てめぇぇぇ!!」

「ん? ぶほぉぉ!?」

なんと高杉が感情のままに彼の頬を殴りかかっていた。自身の決着を付けるべき相手(銀時)を葬り去ろうとする行動に、今までにない怒りを彼は覚えている。数分前の余裕など感じ取れないほど、その表情は切羽詰まっていた。

 すると高杉は、ユイに対して思い付きである提案を促す。

「おい、ユイ! そのドライバーをアイツらに投げろ! 早く!」

「は、はい!」

 それは彼女の手にしていたアルヴドライバーを、落下する四人の元へ投げることである。確証は無いものの、奇跡の代物であるこの道具ならば、きっと四人を助け出してくれると予測している。ユイも言われるがままに応じていく。(因みにこの時彼女が変身しなかったのは、冷静な判断が出来ていなかったからである。藁にも縋る気持ちで、高杉の言う通りに動いていた)

「お願いします……皆さんを助けてください。ライダーさん!」

 静かに祈りを捧げながら、ユイは勢いよくアルヴドライバーを外部へ投げ出す。急降下したそれは、まるで落下する四人を助けるかの如く、光となって追尾していた。

 一方の銀時、キリト、アスナ、神楽は、体を束縛していたオーラから解放されたものの、今は必死に助かる手段を模索している。

「おい、おめぇら! やっぱり羽は開かねぇのかよ!」

「ダメだ! 遺跡の時と同じで封印されている!」

「うぅ……こんなところで諦めるかアル!!」

「最後の最後まで諦めないわよ! 意地でも生き残るわよ、みんな!!」

 肝心の羽を封じられた今もなお、彼らは依然として踏ん張りを見せていた。その表情も一人一人険しさを滲ませている。理屈ではない根性論で、この難局を乗り切ろうとした。

 そう易々と心を折らない彼らの元に、ようやくアルヴドライバーが追い付く。

「ん? 銀ちゃんにみんな! アレを見るアル!」

「アレは……ユイの持っていたドライバー?」

 光を帯びながら近づくアルヴドライバーの存在感に、困惑めいた表情を浮かべる神楽やキリトら。ふとそれに手を伸ばそうとした時である。

「えっ、何!?」

「うわぁ!?」

 光は急に輝きだし、彼ら一帯を包み込んでいく。皆が目をくらませながら、両腕で顔を覆っていると……場面は瞬く間に変化している。奇跡は再び起きるか……?

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

「俺達はどうなってんだ?」

 ふと四人が気を取り戻すと、そこには真っ白な空間が辺りに広がっている。まるで先ほどまでの落下が嘘だったかのような場面転換。音すらも響かないこの場所に、四人は不気味さを感じ取る。

「もしかして、私達死んじゃったアルか?」

「そんな縁起でもないこと言わないでよ」

「だがよ。急にこんな場所へ来ることなんてあんのか?」

「俗に言う天国なのか。ここは……?」

 仕舞いには自分らが死亡したことで勝手に話が進んでしまう。キリトも最悪の事態を仮定した上で覚悟していた。

 静寂が漂う空間にとうとう耐えられず、銀時らが誰かを呼ぼうとした――その時である。

「ビューン! そいつは違うぜ~!」

 突如として陽気そうな男の声が、後ろの方から聞こえてきた。その声はどこか銀時とも似ており、場にいた全員が騒然としてしまう。

「って、銀ちゃん! 何ふざけた声出しているアルか!?」

「はぁ!? 俺じゃねぇだろ! 違うからな!」

「確かに銀さんは、この状況でふざけるほどおちゃらけてはいないからな」

「そうそう。分かっているじゃねぇか……って、さり気なくディスるんじゃねぇよ!」

 神楽はてっきり銀時が発したものだと思い込んでおり、八つ当たり気味にツッコミを入れている。即座に否定する彼に続いて、キリトも本音を交えた補足を加えていた。銀時からすれば、余計なお節介とも言えるが……。

 とそれはさておき、銀時らしき声に一同が注視していると――声の張本人がようやくその姿を披露していた。

「こっちだよ、こっち!」

「こっち?」

「って、コウモリ!?」

 その正体はなんと、変わった形をしたコウモリ……ではなくキバットバットⅢ世である。仮面ライダーキバの仲間でもあり、変身アイテムとしても活躍するコウモリ型のモンスターだ。無論そんな素性を知らない銀時らは、怪しさをより一層強めることになるが。

「おうよ! 俺様もライダー達の仲間の一人ってことさ」

「ライダーの仲間だ? こんなコウモリがか?」

「人は見かけによらないぜ、兄ちゃん」

「人じゃなくてコウモリだろうが」

「それはそうとお前。俺と随分声が似ているじゃねぇか」

「いやそれは、俺とお前の中の人が同じだけだろ!」

「中の人? 何言ってんだ?」

「今更とぼけんなや! 何肝心なところで常識キャラ装ってんだよ!」

 キバットは特に銀時へ向かってちょっかいをかけており、歯切れの良いテンポで会話を交わしていく。所謂中の人ネタも無自覚で披露しており、事情を知る銀時からはツッコミを入れられる始末である。一人二役の苦労を露わにしていた。

 そんな瓜二つの声で交流する二方に、仲間達もややこしさを覚え始める。

「にしても、銀さんと声が似ているな……」

「声だけじゃなくて性格も」

「自分でやってて恥ずかしくないアルか?」

「うるせぇ! また俺にスケットダン〇の時と同じ羞恥心を味合わせる気かよ! つーか、今が緊張感漂う場面だってこと忘れてねぇよな!?」

「あぁ、そうだったアル!」

「急に思い出すなよ!! こちとら眼鏡が不在のせいで、俺がツッコミを入れ続けなきゃいけないんだよ! そういえば、なんでアイツは万事屋なのに巻き込まれてねぇんだよ! よくよく考えたら、ムカついてきたぞ!」

 特に神楽は冷めたような目つきで、淡々とツッコミを入れていく。思うままに呟く三人に対して、銀時は新八の如く激しいツッコミで返していた。こんな状況下で新八が不在なことにも、彼は理不尽な怒りを感じ取っていく。

 とキバットの登場によって辺りの緊張感が解けたところで、彼らの目の前には灰色のオーロラカーテンが展開されていた。

「その辺にしておきなよ。キバット!」

「おっ、そうだったな!」

「って、おい! 待てや!!」

 ご主人様の声が聞こえて、キバットはそのまま彼の手元に戻っていく。その行く道を目で追いかけてみると、オーロラカーテンからはようやくあの戦士達が姿を露わにしていた。

「君達は死んでなんかいないよ。一時的に特殊な空間に連れてきただけさ」

「あ……あなた達は?」

「仮面……ライダー?」

 そう。出現したのは二十人の平成仮面ライダー達。アルヴドライバーを通じて四人を特殊な空間に連れ出した張本人であり、彼らにとっては次元遺跡で垣間見た幻以来だった。

 歴戦を乗り越えていった猛者達は、ユイに続いてキリトや銀時らにも、自身の力を託そうとしている。

「おいおい、マジかよ」

「こう並ぶと圧巻アルナ……」

 てんでばらばら。いや、皆が自分にしかない存在感を解き放つ。その様は銀時や神楽らにもひしひしと伝わっていた。

「おい、どうすんだよ。誰から話しかけるんだよ?」

「こういう時はキリの出番ネ! 自慢のコミュ力でライダー達に話しかけるアルよ!」

「って、急に言われても困るって。大体誰に話しかければ――」

「さっきのコウモリで良いだろ? ノリが良いヤツじゃないと、すぐに話は回ってこねぇぞ」

「そんな大雑把で良いの?」

 ライダー達が立ち止まった途端、その反応に困ってしまったキリトらは、小声のままその対応策を考えていく。あまりいい案がまとまらず、このまま時間だけが過ぎようとしていた時である。ご丁寧にもクウガやアギトから話が振られていた。

「そう恐縮しなくて良いよ。俺達はこの力を、君達にも託すために来たのだから」

「って、随分とあっさりと言うな」

「ねぇ。本当に良いのかしら……?」

「大丈夫! 君達なら、十分に使いこなせると判断したからね!」

 率直な一言には、キリトやアスナも思わず困惑を口にしてしまう。ライダー達が後押しするのも、やはりまだ信じ切れていない様子だ。

「じゃ、ライダーさんよぉ。その判断の基準は何だったんだ?」

 試しに銀時が疑問をぶつけると、その問いに龍騎が答えていく。

「それは簡単さ! 迷いなく自身の力を信じ切れるかどうかなんだ!」

「自身の力アルか?」

 抽象的な内容に首を傾げてしまう神楽。彼に続いてファイズやブレイド、響鬼の三人が補足を加えていた。

「まぁな。確かあん時にお前さんらは、すぐに俺達の力を頼ろうとした。まるで自身の力を否定するようにな」

「でもさっきまでの戦いは、装置の破壊を除いて、アナザーエターナルの攻撃を乗り切ったじゃないか」

「我ながら天晴れな戦いだったぜ。自分の力を信じて、成長した証ってところだな」

 そう。ライダー達にとって重要な判断材料は、自分自身を信じ切れるかである。一時にキリトが変身しかけた時は、焦りからすぐにライダーの力を頼ろうとしていた。その本質を見抜かれてしまい、力を行使出来なかったのが先の結果である。

 しかしアナザーエターナルとの戦いでは、自身の力を信じて最大の危機を彼らは乗り切っていた。アナザーエターナル渾身の必殺技を、皆が協力して防ぎ切ったのが証拠である。この行動がライダー達にとっては、銀時やキリトらを信じるきっかけになった。(ユイとの邂逅の際に、彼女の仲間も同じように力を使えると伝えていたが、それはあくまでも可能性の話。ところがライダー達の見込んだ通り、その期待にキリトらは応えることが出来ていた)

 この一件を簡潔にまとめると、銀時やキリトらもユイと同じく、平成仮面ライダー達に認めてもらえたということ。次第に四人もその意味を理解していく。

「確かにあの時の俺は焦って、冷静な判断が出来なったと思う……」

「そう過ちを認めることが重要だ。おばあちゃんが言っていた……敗北を知る者は勝利しか知らない者よりずっと賢いってな」

「まぁ要は、今のお前らなら俺達の力を託しても良いってことだ。分かったか!?」

「分かったよ……って、なんで俺のことを見てんだよ?」

「たまたまだ。気にするなよ、天パ野郎」

「おい、絶対俺の気に障ることを言っただろ!! 聞いてんのか!?」

 自分自身の不甲斐なさを自覚するキリトに対して、カブトや電王は励ましの言葉をかけていく。特に後者の分かりやすい一声には、銀時もすぐに反応している。電王のぶっきらぼうな態度には、イラついてしまったが。

 男性陣がライダー達の想いを汲み取る中で、アスナや神楽ら女子陣も会話の意味を深々と理解していく。

「自分自身の力ね……」

「私だって分かっているネ! 力を振るう理由も……その力で成しえたいことも!」

「私も同じよ。この星の自由を取り戻したいもの!」

「それが分かるなら十分だよ」

「だな。今のお前らに俺達の力が加われば、しっかりこの戦いも乗り切れんだろ」

「それって本当なの?」

「あぁ。俺が言ってんだ。間違いはねぇよ」

「随分と生意気な言い方アルナ」

 率直に感じた気持ちを吐露すると共に、キバやディケイドが反応している。後者は鼻に付くような態度だったものの……素直に後押しはしていた。

 ライダー達に自分達の想いを肯定されて、ついもどかしさを覚えてしまう四人。嬉しいことに変わりは無いのだが。するとWに変身する二人からは、アルヴドライバーに秘められた力について話題が上がっていた。

「さて。そんじゃ改めて力を託すぜ」

「貸すって、このドライバーを付けるんだよな?」

「でも一人用しかないわよ」

「実は違うんだよね。それ……!」

 W(フィリップ)がそう発すると、アルヴドライバーが瞬く間に四つへ増えていき、四人の手元にそれぞれ贈られている。この展開には、神楽らも驚きを隠せずにはいられなかった。

「ん!? 増えたアルよ!」

「その通り。使用する人数によって、アルヴドライバーはその数を増やすことが出来るんだ!」

「これで俺達仮面ライダーの力を全員が発揮できるぞ!」

「差し詰め最後の希望ってヤツかな……」

「最後の希望か……」

 アルヴドライバーの真価をオーズ、フォーゼ、ウィザードが解説していく。特にキリトは、ウィザードの発した最後の希望と言う言葉に重みを感じている。その名の通り、自分達が希望を背負っていることに間違いないからだ。キリトのみならず、仲間達もその確かな想いを悟っている。

 これにて全ての準備は整った。後は一歩を踏み出すだけ……ライダー達も次々に後押ししていく。

「もう心配することはない! 君達ならこの星を、最低最悪なテロリストの手から救えるはずだ!」

「人々の平和を脅かす悪を倒すために……!」

「あぁ、分かったよ!」

「任せろ……!」

 鎧武やドライブの力強い一言に、キリトも真剣な表情で応えていく。銀時らも同じように頷くと、ゴースト、エグゼイドも声をかけてきた。

「うん! ユイちゃんが認めた仲間ならば、きっとうまく使いこなせると思うよ」

「ただし、無理だけはするなよ。己の限界を知るのは自分だけだからな」

「自分だけね……肝に銘じておくわ」

「もちろんネ!」

 二人からのさり気ない注意に、アスナや神楽が反応していく。次第に四人の自信が付く中で――ビルドとジオウが会話を締めくくっていた。

「よしっ! ならば勝利の法則は決まった! この戦いも君達ならば乗り越えられるさ」

「存分にライダーの力を思い知らせてやれ! なんか……出来そうな気がする!」

 その言葉と同時に、改めて自分達の力を託すライダー達。正式な継承を行ったことにより、ついに万事屋にもライダーの力が使用可能となった。

「さぁ、現実の時間軸に戻るぜ~! 地上に落下する前に変身しとけよ~! じゃあ、キバッていけ!」

 彼らが反応するよりも先に、キバットが陽気な口調で注意を加えていく。あくまでも今は時空を歪ませている状態で、現実に戻れば落下途中の場面に戻ってしまう。慢心しないように促していた。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてキバットの声と共に……四人は現実の世界にいつの間にか戻っている。

「い、今のは……」

「幻覚……? って!?」

 ふと起きた出来事に困惑はするものの、耳を澄ますと謎の待機音がアルヴドライバーから鳴り響いていた。すでに四人の左腕や腹部に付けられているのも驚きである。

〈ヒューン! ブゥーン! ファイナルベント! エクシードチャージ! ライトニングソニック! キィーン! 1!2!3! フルチャージ! ウェイクアップ! ファイナルアタックライド――〉

 鳴り続ける音はライダー達の必殺技待機音。それはまるで秘められた力が解放するのを待つかのように、音それぞれに強弱を付けつつ繰り返されていく。

「おい、なんかベルトから鳴っているぞ!」

「後はブレスレットとベルトを合わせればいいだけか……!」

 ライダー達との邂逅を得て彼らが判断したのは、託されたライダー達の力の重み。その期待に応えるべく、彼らが出すべき行動はもう一つである。

「もう時間が無いネ!」

「こうなったら一か八よ!」

「野郎ども、行くぞ!」

「「「おう!」」」

 地面へと落下する前にライダーの力を解き放つこと。ブレスレットとベルトの液晶部分を重なりあわせ、そこに紋章を浮かび上がらせていく。一か八かの変身。地面へ衝突する時が刻一刻と迫る中で、四人はすでに覚悟を決めていた。

「「「「変身!!」」」」

 そして威勢よく発声した掛け声と同時に……

〈ドカーン!!〉

「パパ!! ママ!! 銀時さん!! 神楽さん!!」

「そんな……」

彼らは勢いよく地面に落下してしまった。無論平成仮面ライダーとのやり取りを知らないユイや新八からすれば、四人は重傷……いや最悪の場合死亡していても可笑しくはないであろう。見えるのは地上から土煙の舞う一幕。遠目からでもはっきりと見える点から、その悲惨さが目に見えて分かる。

「噓でしょ……?」

「旦那……」

「いや、銀時やリーダーがこれしきでくたばるはずが無い!」

 次第に仲間達も最悪の事態を想定しており、心の中を大いに震わせていた。生きていると信じたい。けれども現実的に見れば、運が良くても重傷が目に見えている。仲間達の中には、衝撃のあまり言葉を見失う者もいた。

「……大丈夫だよね。彼らなら」

 そんな中でもユウキは、最後の最後まで希望を信じていたが。

 皆に衝撃を与えたダークライダー達の奇襲攻撃。その指示を仕向けたオベイロンは、絶望感に浸る新八やユイらを大いに嘲笑っていた。

「フハハハ……! どうだ、お前達の仲間が死にゆく様を見て。たかが一人や二人を失ったところで戦意喪失するとは……随分と弱い連中だな! 結局世の中は、自分と強大な力さえ信じていれば強いってことさ!! ハハハ!!」

 彼らが言い返さないことを良いことに、好き放題言いまくる。ユイらの神経を逆なでした不貞な言葉の数々に、仲間達は悔しさと怒りを募らせていく。

 本当に彼が言った通り、銀時やキリトらは死んでしまったのだろうか……? いや。そんなことは無い。彼らは土煙を払いつつ、自身や仲間の無事を確認していた。

「平気だな、みんな」

「間一髪で間に合ったわね」

 変身は無事に完了しており、キリト、アスナの二人はユイと同じくライダーの紋章があしらわれたマントを装着。対し銀時と神楽は、ライダーの紋章がまばらに描かれた陣羽織をまとっている。どうやら装着する人間により、その形態を微妙に変えているようだ。

「銀ちゃん。世界樹に戻るアルか?」

「だな。こいつで上昇してやらぁ!」

〈龍騎! カモン! ドラグレッダー!〉

〈響鬼! カモン! 茜鷹!〉

 全員の状態を確認したところで、早速銀時はブレスレットを用いてライダーの力を一部だけ行使。使用したのは巨大戦力召喚。龍騎が使役する赤龍ドラグレッダーと、響鬼の使役するディスクアニマルの茜鷹を呼び出していた。前者には銀時とキリト、後者には神楽とアスナが乗っかっている。

「行くぞ!」

 この掛け声と共に、彼らは最上階まで勢いよく上昇していた。

 一方の最上階では、悲観的な雰囲気が流れ込んでいる。

「どうだ!! 僕の開発したダークライダーシステムは! お前らの仲間も容易く葬り去ることが出来るのだぞ! あの大馬鹿者共と同じになりたくなければ、今すぐ降伏しろ! そして一生、僕に従うのだな! アハハハ!!」

 銀時らが倒されたことを確信した上で、盛大に侮辱的な言葉をオベイロンは思うままに羅列していた。挙句の果てに戦意喪失する彼らを、マッドネバーに取り込もうとする卑劣ぶりを見せている。オベイロンの挑発にとうとう我慢が出来ず、一部の仲間達が彼にやり返そうとした――その時だった。

「誰が大馬鹿者だって?」

「ハハ……何?」

 状況は瞬く間に一変する。聞き覚えのある声に反応し、ふと崩壊した壁付近を見てみると……そこにはドラグレッダーや茜鷹に乗り込んだ銀時、キリト、アスナ、神楽の四人がいたのだ。ライダー達の手助けにより、間一髪で助かったことを全員にマジマジと見せつけている。

「テメェの勝利フラグもここでしめぇだ」

「倍にして返してやるよ……!!」

 真剣な表情を浮かべながら、再び宣戦布告する銀時やキリトら。ユイを始め仲間達を悲しませたことに怒り心頭の様子である。

 彼ら四人が無事だったことは、仲間達も大いに安堵し歓喜を態度で滲ませていく。無論高杉も。

「銀時……!?」

「神楽ちゃん!!」

「パパ!! ママ!! 無事だったのですね!!」

「もうーハラハラさせないでよ!」

 ユイ、新八、ユウキと希望に満ちた表情で、四人の帰還を祝福していた。何はともあれ大切な人が無事なことに安心感を覚えていく。

「よしっ!」

「良かった……!」

「ったく、心配かけさせやがって」

 彼らに引き続いて、仲間達も次々に思ったことを呟いていた。近藤、リーファ、クラインと大袈裟にリアクションする者や、土方、沖田、エリザベス、シウネーと小さめに反応する者もいる。どちらにしても嬉しいことに変わりはないのだ。

「ねぇ、アレって……」

「ユイちゃんの時と同じマント?」

「えっ?」

「と言うことはまさか……?」

 一方でシノン、シリカ、リズベット、桂は銀時らが装着しているマントや陣羽織に既視感を覚えている。数時間前に見たユイの姿と酷似しており、その関係性に興味をそそられていたのだ。

 絶望的な状況から一変。仮面の戦士達の力を得たキリトらにより、追い風は見事に彼らへと吹き始めている。オベイロンらマッドネバーも薄々雰囲気は察していたが、意地でも認めたくはないようだ。

「何をしてる!! 今すぐ奴等をあの変てこな化け物ごと叩き落とせ!」

「はいはい」

「分かっている」

 苛々を募らせた表情で、乱雑にもダークライダー達に指示を与えるオベイロン。本人達からは呆れながらも、言う通りにはしていた。数分前の余裕などはどこへやら。今はただ自分の感情の赴くままに右往左往している。

 当然ながら自分を見失った者に勝機など振り向くはずもない。アスナや神楽らは、オベイロンの心境を察して、冷静沈着にダークライダー達の対処に当たっていく。

「させないアル! ドラグレッダー!」

「茜鷹も頼むわ!」

 まずは一度世界樹の最上階に降り立つと、ここまで連れてきてくれた巨大戦力のドラグレッダーと茜鷹に指示をしている。

「ドラァァァ!!」

「キィィ!!」

 すると二匹は彼女達の言う通り、こちらへ向かう五体のダークライダーに対して、とっておきの技で追っ払おうとした。ドラグレッダーは口からの真っ赤な火炎、茜鷹は嘴からの衝撃波を相手全体へ解き放っていく。

「うぅ!?」

「熱波に衝撃波!?」

 この特殊な攻撃の数々には、ダークライダー達もすぐには対処しきれない。特に衝撃波は、自身の体が後退するほどに弄ばれていた。

「何をしている! 早く対処しろ!!」

 彼らが苦戦する様子を見て、オベイロンは余計に苛立ち、自分勝手に命令していく。冷静さを失い、銀時らを倒すことだけに躍起となっていた。その周りを判別できない癖は、キリトに早くも見抜かれている。

「オベイロン……お前にはこれをプレゼントしてやる!」

〈ドライブ! カモン! トライドロン!!〉

 彼がこちらの行動に気付かぬうちに、キリトはとあるサポートマシンを召喚。仮面ライダードライブが愛用しているハイテクマシン、トライドロンを用いて有言実行通りに倍返しを仕掛けていく。

「行け!」

〈タイヤフエール!!〉

 キリトがそう指示すると、トライドロンは自立走行で走り出す。アクセルを入れていき、後部のタイヤから未知なるエネルギーをまとったタイヤを生成していく。おぞましい顔の付けられたマッシブモンスターのタイヤと、重力を操作するローリンググラビティのタイヤである。それらを保持したまま、オベイロンへ勢いよく急接近していくのだ。

「早くし……ん? ぎゃぁぁぁ!! 痛い!? それに重た!?」

 彼が気付いた時にはもう遅く、トライドロンは勢いを衰えぬまま突進。見事にオベイロンへ衝突し、想定以上のダメージを与えることに成功していた。さらにはオベイロンが怯んでいる隙に。生成した二つのタイヤをぶつけていく。モンスタータイヤは彼の上半身にかみつき一定の痛みを与え、グラビディタイヤは数分間彼の周りのみに重力負荷をかけていた。泣きっ面に蜂とはまさにこのこと。十分すぎるほどの仕打ちを受けてしまう。

 いとも簡単に平成仮面ライダーが使役してきたモンスターやマシンを従え、ダークライダー達に応戦していく銀時、キリト、アスナ、神楽の四人。未知なる力を目の当たりにして、仲間達もその強さに圧倒されてしまう。

「おぉ! なんか分からないけど凄いって!!」

「落ち着いてください、ユウキ。でもあの力は確かユイさんも使えていたはず……もしかしてその英雄さん達が彼らも認めてくれたのでしょうか?」

「そう難しいことは後にして、僕らも戦おうって!」

「そ、そうですね。加勢しましょう!」

 目新しい力を行使する神楽やアスナの姿を見て、ユウキもその興奮を抑えられない様子だった。それでもただ黙っているわけには行かず、シウネーと相談して自分達もその戦闘に入ろうと試みている。

「新八さん!」

「う、うん! みんなを助けに行かないと!」

 ユウキの行動を察して、ユイも新八に加勢を促していく。この流れに他の仲間達もついていこうとした時である。

「みんな! 今は戦うべき時じゃないわ! ここは移動するわよ!」

 突然アスナが大声で注意を促していき、それと同時に仲間達の周りのみに、幻影の中でも登場したオーロラカーテンを展開していく。

「ん? 何!?」

「こいつは……?」

 オーロラカーテンはスライド移動するように横へと流れていき、彼らの仲間を余すことなく取り込んでいた。彼らは現在いる世界樹の最上階から、アルンの中心街である広場までオーロラカーテンを通して瞬間移動する。

「ありがとうな、アスナ」

「どういたしまして。さぁ、私達もみんなの元に戻るわよ」

「もちろんネ」

「じゃ……助けてくれてあんがとよ!」

 全員の移動を確認したところで、四人もまた仲間達の元へ戻ろうとしていた。そんな最中に銀時は、この奇襲に参加してくれたドラグレッダー、茜鷹、トライドロンにお礼を交わしていく。彼らが鳴き声やクラクションで反応すると同時に、四人はオーロラカーテンを介して移動していた。同じくサポートキャラ達もスッと姿を消していく。

 絶好の好機にも関わらず、何故一時撤退と言う判断に至ったのか? それは数秒後に証明されることとなる。

「オベイロン様! 大丈夫ですか!?」

「今加勢に……ってアレ?」

 唐突にも扉が開き執務室に入って来たのは、ライオトルーパーやカッシーンを始めとする戦闘員達。そうアスナらは、敵の気配を見越して一時撤退を決めていた。フレイアが奪還した装置を保管する場所のカギも、多勢に無勢では奪われてしまう可能性が高い。最悪の場合人質としてまた卑怯な手を使っても可笑しくないので、引き際を見極めていたと言うべきだろうか。

 そんな事情を知らないライオトルーパー達は、部屋に突入して早々異様な光景に愕然としてしまう。部屋にはオベイロン、リュウガ、ポセイドン、ダークキバ、ソーサラー、シグルドとマッドネバーの主要キャラしかおらず、皆何かに攻撃された跡が見受けられている。はたまたオベイロンに至っては、地面に這いつくばり確実に何かをされた形跡が残されていた。

「おい、どうなってんだ?」

「さぁ?」

 到着早々にライオトルーパー達が困惑する最中に、ようやく重力の罠から解放されたオベイロンが立ち上がる。すると彼は怒りに満ちた表情のまま声を荒げていく。

「おのれ……おのれ……おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! 何故奴らが英雄の力を手に入れた!! 何故この僕が英雄に認められぬのだ!」

「お、落ち着いてください! オベイロン様!!」

 嫌と言うほど平成仮面ライダーの力をぶつけられて、とうとう彼は我慢の限界に達してしまう。八つ当たりからか、近くにいたライオトルーパーの首を持ち上げて、理不尽にも彼に殴りかかろうとする。あまりの横暴に、戦闘達も必死になって彼を止めようとしていた。どうしてもオベイロンは、自身が劣勢に追い込まれたことが許せないのである。

 すると様子を見ていたダークライダー達が彼に声をかけていく。

「まぁ、手に入れちゃったもんは仕方ないよ。俺達に出来ることはもう全面戦争しか無いんじゃないのか?」

「全面戦争だぁ!?」

「恐らくだが、奴らはこの星をまだ離れていない。装置を解放するにも、この世界樹に戻ってこないといけないからな」

「だったら簡単だよ。連れてきた怪人を一斉に集めて、彼らと戦わせるんだよ。カギを奪うなり姫を人質にするなり、勝機はこっちに向くと思うけどな~」

 リュウガ、ポセイドン、ソーサラーと連続して伝えてきたのは、最後まで諦めない姿勢である。今ある戦力を容赦なくぶつける、いわば人海戦術で銀時らを押し返そうとしていた。鬼門となったヘイセイジェネレーションフォームも、奪還なり卑怯な手を使えば対処出来ると彼らは括っていく。

 ちょこまかしいことは捨て、総力を挙げて反逆者を叩き潰す。意気消沈したオベイロンにとっては、まさに打ってつけの作戦である。

「フハハハ……そうかい。ならばアイツらと真の決着を付けようではないか! この僕が人を支配するに十分な器であることをしらしめてやらぁ!! アハハ!」

 根拠はないものの、自身の勝利を見通せたことに彼は気持ちを高ぶらせていく。逐一気持ちの移り変わりが激しい彼だが、本人はまったくそのことを気にしていない。自分本位な考え方をこれでもかと露呈している。

 そんな王とは程遠い彼の傍若無人ぶりに、ダークライダー達は辟易しながらも、最後まで彼の計画には乗ろうとしていた。

「チッ……まぁいいわ。最後の宴に付き合ってあげようじゃないの」

「同じくだ」

 ダークキバがそう呟くと、シグルドも同調していく。何度も掘り起こしている通り、この作戦が終わればダークライダー達は晴れて自由の身となる。そのためにも今は、マッドネバーの作戦に乗るしか無いのだ。

 こうして一念発起が如く、ALO星征服のために最後まで戦うオベイロンらマッドネバー。自身が作り出した怪人達を集結させていき、いよいよ最終決戦に持ち込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方でこちらはアルンの中心街である広場の一角。怪人達に荒らされた箇所が幾度とあるこの場所に、オーロラカーテンを介して銀時やキリトらの仲間達が世界樹最上階からこちらに移動していた。

 降り立ったのは新八、ユイ、定春、ユウキ、シウネー、フレイア、桂、エリザベス、クライン、近藤、土方、沖田、シリカ、ピナ、リズベット、リーファ、シノンの十五名と二匹。彼らは自分達の身に起きたことを理解できず、ただただ困惑めいた反応を浮かべるしかなかった。

(因みに高杉は、まったく別の場所に移動している。恐らく銀時の仕業であろう)

「えっ……? ここは?」

「街って……いつの間に下へ降り立ったんですかい」

 到着早々に思ったことを呟くシリカや沖田。他のメンバーも同じく辺りを見渡してみるが、敵の気配はまったく無かった。さらには銀時、キリト、アスナ、神楽の四人も見当たらない。

「ねぇ、アッスー達がいないよ!?」

「まだ来ていないのか?」

 ユウキや新八が心配そうに呟いた時である。彼らの目の前にまたもオーロラカーテンが出現。ヘイセイジェネレーションフォームから一旦変身を解除した、銀時、キリト、アスナ、神楽の四人が姿を見せていた。

「みんな! 無事で何よりだよ」

「あっ、銀さん! キリトさん!」

「私達もいるアルよ!」

 長いこと時間はかかったものの、場にいる全員が無事なことに安堵するキリトら。新八側も銀時達の無事に安心している。仲間達も四人に駆け寄り、次々と気になることを声に出していた。

「って、よく無事でいられたわね!」

「本当に何も怪我とか無かったの?」

「別に何ともないわよ。ライダーさん達が落下する直前に手を貸してくれたもの?」

「ライダー?」

「やっぱり、ママ達も使えるようになったのですね!」

 リズベットやリーファらに質問攻めされてしまい、若干タジタジとなってしまうアスナやキリトら。素直に平成仮面ライダーの件を伝えると、ユイは共感するように喜んでいた。初めてその存在を耳にするクラインにとっては、何が何だかさっぱり分かっていないようだったが。

 一方で銀時や神楽側は、桂一派や真選組に軽口を叩かれていた。

「いやー、びっくりした。びっくりしたよ」

「ったく、てっきりくたばっちまったと思ったぜ」

「誰がくたばるかよ、あんな状況で」

「お前の場合は、一辺死んだ方がマシだった気がするがな」

「地獄少〇みたいなこと言うんじゃねぇよ。そもそもまた会えて嬉しいんだろ? なぁ、なぁって?」

「うるせぇ」

 沖田や土方からのちょっかいに、ツッコミを入れつつ返す銀時。これでも普段通りの会話である。

「フッ。流石はリーダーだな。未知なる力も難なく使うとは……どうだ? このまま攘夷志士にでもならんか?」

「うるせぇ。テロリストに片棒を担ぐつもりはないアル」

「ぐはぁ!?」

[桂さん!?]

「何やってんだ、あの人は」

 一方で桂は神楽に近づき、さり気なく攘夷志士への誘いを持ちかけていた。無論彼女にそんなつもりは毛頭なく、堂々と彼の腹部に自身の肘を突き付けている。一部始終を見て、新八は冷めた目つきで小さくツッコミを入れていた。

 そしてユウキやシウネーは、フレイアの近くに居座って、アスナらの様子をそっと見守っていく。フレイアのみはあまり浮かない顔だったが。

「いやー安心感があるね……って、姫様? どうかされたのですか?」

 ふとユウキが聞いてみると、彼女は自身の思いの丈を余すことなく露わにしていく。

「本当に……あのような方々を巻き込んで良かったのですか? 無事だったにしても、一歩間違えていたら死んでいたはず。悲しくなるような犠牲は……払いたくないのです」

「姫様……」

 その気持ちは、銀時やキリトらを不用意に巻き込んだ責任感から来ていた。奇跡が起きたにしても一歩間違えば死んでいた先ほどの展開を目の当たりにして、つい心を痛めてしまう。誰かを犠牲にしてまで平和を勝ち取りたくない。優しすぎるが故に苦悩するフレイアの繊細な心が伺える。

「大丈夫ですよ。そう自信を喪失しなくても、彼らを絶対に死なせたりはしませんから」

「何たって僕達は騎士団だから! 姫様もアッスーやその仲間達も、僕らスリーピングナイツがきっと守り切ってみせますから!」

「ユウキ……ありがとう。励ましてくれて」

「いえいえ。だから姫様も気を落とさずに自信を持って。カギさえ手に入れれば、後はもう民を救うだけですよ!」

 そんな彼女にフォローを加えるかのように、シウネーやユウキは持ち前のポジティブさを活かして説得させていた。騎士団と言う立場を自覚した上で、誰一人欠けることなく守ることを決意している。頼りがいのある一言に、フレイアもつい勇気づけられていた。自然に微笑みを浮かべていく。

 するとフレイアは、ふと感じた疑問を声に出している。

「そういえば、何故この場所なのですか? 瞬間移動出来るならば、世界樹内でも良かったのでは?」

「アレ? 確かにそう考えたら……アッスー? もしかして何か狙いがあるの?」

 瞬間移動した行先を何故街中に指定したのかだ。ユウキやシウネーもそう言われると気になってしまい、ついアスナやキリトらに真相を聞いている。するとアスナらが聞きつけて、仲間達にも聞こえるような声で説明を加えていた。

「それはね……ユッキーの言う通り、こっちにも狙いがあったのよ」

「どんな狙いなの?」

「あの場で留まったり、世界樹内を移動したとしても、その至るところに怪人がいることは目に見えているはずだ」

「……確かにそうですね?」

 キリトが補足した通り、例え世界樹内に到着先を割り振ったとしても、怪人がいたら元も子もない。ましてや折角手に入れたカギを用いて、人質を解放するとならば、意地でも怪人達はそれに反発するだろう。だとすれば、より安全性を高めた上で世界樹に侵入するしかない。その方法をちょうど銀時らは持ち合わせていたのだ。

「おい、ちょっと待て。ってことは……俺達がこの場にいるってことは、敵も追いかけてくるってことか?」

「あっ、そっか! あのまま引き下がる訳もないものね……」

 話を聞いていた土方が思い付きで呟くと、シノンも納得したように頷いている。他の仲間達も共感する中で、ようやく銀時らの真意が見え始めていた。

「ご名答アル、マヨにシノ」

「勝手に略すなや」

「良いだろ別に。んで、頭に血が上ったアイツらは、意地でも俺達を叩き潰すべく総攻撃を仕掛けてくるはずだ」

「総攻撃って?」

 キリトに続き、神楽や銀時も全てを分かったかのように解説していく。反乱分子は徹底的に叩き潰すオベイロンやマッドネバーならば、こちらを必要以上に追いかけてくると予見していた。しかも総動員で。さらに持論を続けようとした――その時である。

「こういうことよ!!」

〈コネクト。ナウ!〉

 ふと前を見てみるとそこには、何の前触れもなく登場したオベイロンやダークライダー達がとある集合住宅の屋根に佇んでいた。彼らの出現と共に、ソーサラーは指輪を用いて空間を操る魔法を発動。すると辺り一面に魔法陣が無数に現れていき……

「ウゥゥゥゥ!!」

「イギィィィ!!」

そこを介してマッドネバーの怪人達が登場していた、一般級に幹部級、戦闘員級……全てをひっくるめても余裕で二百体は越えているだろう。アルン街中の通路、家屋や商店の屋根に せめぎ合う光景は、魑魅魍魎と言っても差し支えない。その全ての個体が、銀時やキリトらを葬るべく狙いを定めているのだ。

「貴様らの最後だ!」

「皆殺しにしてやる……!」

「アァァァァ!」

 ポセイドンやソーサラーの一言に、怪人達の唸り声が続いていく。文字通りマッドネバーの総力を挙げて、彼らに抗う反乱分子を力づくで抑え込もうとしていた。

 強硬的とも言えるマッドネバーの最終手段。多勢に無勢な光景に、仲間達の反応も様々である。

「ほらな。やっぱり現れやがった」

「うわぁ!? な、何アレ……」

「怪人達の群れじゃないか!!」

「まるで地獄絵図ね……」

「こんなにいたなんて……」

[これが敵軍の全てか!!]

 ユウキ、近藤、リーファ、新八、桂は揃って驚嘆の一言を声に出していた。仲間達も怪人の数々には、つい圧倒されて言葉を失ってしまう。一方で銀時、キリト、アスナ、神楽の四人はこの状況を見越したかのように、冷静さを保ちつつ対処している。

 一方で出現した怪人達を見てみると、実にバラエティに富んだ顔ぶれであった。

 ゴ・ガドル・バ、レオイマジン、ジェミニ・ゾディアーツ、フリーズロイミュードと言った幹部級の怪人達が七名。ファルコンロード、リザードアンデッド、キャマラスワーム、ビヤッコインベス、斧眼魔、ストロングスマッシュと言った一般級の怪人がおよそ五十体以上。ライオトルーパー、魔化魍忍群、レオソルジャー、グール、バグスターウイルス、カッシーンと言った戦闘員級の怪人がおおよそ百体以上。総じて言えるのは、皆今にも襲い掛かりそうなほど殺意を滲ませていることだろう。

 全ての怪人達の召喚が終わると、すかさず敵側の中心にいたオベイロンもキリトらにふてぶてしく話しかけていく。

「ようやく見つけたぞ! やはり遠くには逃げていなかったようだな!」

「オベイロン……!!」

「今更後悔しても遅いわ! 僕の作り出した怪人達で、貴様らを圧倒してやろうぞ!!」

 彼の声には確かな怒気が込められており、意地でも自身に反乱する者を倒す執念が感じ取られる。迫真の表情を見せながら、感情の赴くままに態度を荒くしていく。自分の本性を惜しげもなく披露していた。

「当然アル! 今度こそお前らを壊滅させてやるネ!」

「ワン!」

 一方の神楽ら一行も、果敢に立ち向かう所存である。定春も周りに威嚇を入れながら、いつでも戦える準備を整えていた。仲間達も同じくである。

 もちろんそれはマッドネバー側も変わらない。

「やれるもんならやってみろっての」

「アンタ達を倒すために、こちとら街や世界樹から兵力を余すことなく集めてきたのよ」

「総勢二百体を越える怪人軍団で、お前らを完膚なきまで叩き潰してやろう!」

 リュウガ、ダークキバ、シグルドが次々に威勢よく声を上げていく。どれも自信満々な態度から、よっぽどこの人海戦術には自信があるようだ。

 場がまたしても緊迫感に包まれてきたところで、ユウキらもその張り詰めた空気を感じ取っていく。表情も皆険しいものに変化していた。だが一方で、銀時、キリト、アスナ、神楽の四人は皆と反応が異なっている。

「やっぱりか」

「全戦力で間違いないようだな」

「銀さん? って、あっ」

「そうこうことでしたか?」

 こっそり小声で呟く二人の姿に、ふと疑問を覚える新八とユイ。だがここでようやく四人の狙いを察することになる。全ての戦力が集まるのならば、肝心の世界樹は警備が疎かになってしまう。つまりはスムーズに、ミラーワールドに閉じ込められた人々を解放することが出来るのだ。

 そんな彼らの真の狙いに気が付くことは無く、マッドネバーやオベイロンの煽りは続いていく。

「たかだか十九人では、この数を相手するのは不可能に近いかもな」

 そうポセイドンが発して、オベイロンがそれに続く。

「これが僕の本気だ! さぁ、絶望しろ! そして今すぐに降伏しろ!! この僕がこの世で一番優れていると、今認めるのだ!!」

[アイツ……増々狂っているな]

「どんだけ悪目立ちしてえんだよ、お前は!!」

 もはや恥も減ったくれもなく、感情的なままに言葉を発していた。強情かつ横暴な態度に、エリザベスやクラインを始め仲間達は皆気を引かせてしまう。

「こいつ本当にこの章のラスボスなんですかい?」

「言うな総悟。ああいうやつは、ボコボコにする時がスカッとするんだよ」

 仕舞いには沖田が元も子もないことを発してしまう。すぐに土方が訂正気味に補足を加えたが。

 とは言っても、これだけの数を相手取るには正直人数が足りないのも事実である。加勢に加わるならば領主や鬼兵隊の面々、フィリア等が思いつくものの、彼女らはまだ世界樹内で幹部怪人と戦っているに違いないだろう。だとすれば今ここにいる十九人と二匹で、この状況を打破するしかない。ヘイセイジェネレーションフォームがあるとはいえ、厳しい戦いになると見て良いだろう。

「さぁ……銀時よ。ここは素直に戦うか?」

「こんな大群……真っ向から立ち向かわないと、突破出来ないよ!」

「アッスー……! 僕らはいつでも戦う準備は出来ているよ」

 桂、リズベット、ユウキが思い思いに呟いている。仲間達の総意としても変わりはなく、全員がこの戦地を戦い抜くことを決意していた。後はこの少ない人数配分で、如何にして姫様を守りつつ世界樹へ侵入するかである。やるべきことが次々と重なり合う中で、そっと作戦を考えていく銀時やアスナら。もう残された時間は無く、早急な判断が不可欠である。

「ここまでは想定内だ。みんな! 恐れることなく立ち向かうんだ! 重要なのは……」

 そうキリトが威勢よく言葉を続けようとした時だった。

「この敵の大群を薙ぎ払う数でしょ?」

「なんだ?」

「この声はまさか!?」




 万事屋一行もようやく平成仮面ライダーに認められたことで、彼らの力を一時的に借りることが出来ました。これでオベイロンをぼっこぼこに出来るぞ(笑) 余談ですが本当は新八も手に入れる予定でしたが、諸事情により彼は対象外となりました。またこのアイテムに出番があったら……その時は使えると思います!(おかげで万事屋にてライダーの力を行使出来ていないのは彼だけに……まぁ、後々ネタに出来るからいっか)

 それにしてもキリト君……倍返しとはいえ、生身のオベイロンにドライブのトライドロン(多種多様なタイヤで相手を攻撃するスポーツカー型のスーパーマシン)で轢こうとするとか、殺意マシマシですね。自分でも作っていて怖いと思いました。ちなみに重力操作をした場面は、原典のフェアリーダンス編でも登場したので、別人とはいえやり返しています。

 打つ手の無くなったオベイロンは、自身の作り出した怪人軍団を率いて総攻撃を仕掛けていきます。新旧の怪人達が集結する様は、ライダーの集合映画を見ているような感覚ですね。彼らとどんなバトルを繰り広げるのでしょうか……?

 少し余談なのですが、今回の投稿が長引いたのはこの話を前後篇にするか悩んでいたからです。だがしかし文字数の関係で、別々の話として分けることにしました。なので次の話の投稿は、若干早くなるかもしれません……
 レジェンドアルセウスの図鑑埋めが順調にいけば。レジアル、楽しいぞぞい!!

 一応今回の予告は無しです! では!


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第八十八訓 だれがこの星の未来を救うのか?

いよいよです……僕の描きたかった夢の競演がこの話で実現します!!


 それはマッドネバーが全ての戦力を懸けて、怪人達をアルンに召喚した時である。

「えっ……何!?」

「消えた?」

 世界樹内にて幹部怪人の足止めを行っていたフィリアらは、ふとした異変に気付く。なんとこれまで戦っていた怪人の一部が、魔法陣を介してその場からスッと姿を消えてしまったのだ。あまりにも突然の出来事にフィリア、領主、鬼兵隊一行は皆驚きを隠せていない。

「どうなっているのだ!?」

「さぁな。だが……敵側にも良からぬ状況が起きたと言えるか」

「戦力を拡充する魂胆っすかね……!」

 ユージーンの疑問に万斉が答え、それに来島が反応していく。彼らは幹部怪人に召集がかかったと理解し、マッドネバーが追い込まれている状況だと察している。いわばこの展開を好機として捉えていた。(その予想はほぼ当たっているのだが……)

 そして引き続き残された幹部怪人は、地のエル、ドラゴンオルフェノク(魔人態)、火焔大将、ウカワーム、レデュエ、ガンマイザーリキッド、ナイトローグの計7体である。彼らは突然他の幹部怪人が消えた理由を、まったく把握していなかった。

「いつの間に……!?」

「急すぎるぞ! もっと丁寧に扱わんか!!」

 特にこの怪人達を仕切るナイトローグ(ナメクジ)にとっては、まさに青天の霹靂のような気分である。連絡も無しに決めつけで強行となれば、不利益を被るのはこちらだからだ。幹部怪人達も突然の変更に戸惑ってしまう。

 一方でフィリア達は、残った幹部怪人の数を鑑みて、足止めから撃破に目的を変更させている。

「おい、みんな! 今が好機かもしれん! ここは撃破に目的を変えるぞ!」

「了解したでござる」

「わ、分かった!」

「うん!」

 サクヤからの指示に、万斉、フィリア、アリシャが返事した。皆体力も精神力もまだ十二分にあり、その闘志を沸々と燃やしていく。フィリアは少しだけ無理を感じていたが……

「さぁ、いよいよ私も加わりましょうかね」

「もっと早く加勢しろや、武市変態!」

 敵の陣営が少なくなった状況に乗っかって、ずっと隠れていた武市もようやく戦線に参加していく。ちゃっかりな一面を見せる彼の姿に、来島は怒りを交えたツッコミを向ける。

 ちょっとした戦況の変化により、敵味方両者共に目的や心境が大いに移り変わっていく。悪しき者達を彼らは打ち倒すことが出来るのだろうか?

 

「この敵の大群を薙ぎ払う数でしょ?」

「なんだ?」

「この声はまさか!?」

 ふと一行の耳に聞こえてきたのは、聞き馴染みのある女性の声。聞こえた方角に皆が振り向くと、そこにはやたら数人に固まって行動するライオトルーパーの姿があった。

「あん? おい、貴様ら! 誰が前に出ていいと言った! 戦闘員は戦闘員らしく、後ろで待機しろ!!」

 命令を無視する彼らに怒りを覚えて、またもオベイロンは怒り散らしていく。そう偉そうに警告するも、ライオトルーパー達はまったく従わない。それもそのはず。その正体は……

「戦闘員らしく? 残念ね。私達はそんなちっぽけなものじゃないのよ」

変装している妙達だったからだ。着用していた装甲を剥がすと、そこには着物や野良服と言った普段の身なりをしている妙、九兵衛、あやめ、月詠、エギル、たま、長谷川の七名が姿を見せている。

「私達はいわば助っ人ね。さーて、このドリームチームに入らせてもらおうかしら?」

「はぁ!? 何!?」

「あ、姉上!?」

「九ちゃんにさっちゃん! ツッキーもいるネ!」

「それに……エギルとたまさんと長谷川さん!?」

「おいおい、どうなってんだよ!? いつの間にこっちの星に来てたんだよ!?」

 まるで最大の見せ場と言わんばかりに、自身の存在感を惜しげもなく強調する妙。唐突とも言える彼女達の登場には、神楽やキリトら仲間達のみならず、オベイロンやマッドネバー側にも衝撃を与えている。

「どういうことだ? 奴らの他にもまだ仲間がいたのか?」

「私が知る訳ないでしょう!? まさか知らないうちに侵入していたなんてね……」

 何よりも自分達が知らないうちに、欺かれていたことがダークライダー達へ何気ない心の傷を負わせていた。この一件によりマッドネバー側の計画が、ぐちゃぐちゃに崩れ去ろうとしている。

 一方で銀時らの元に集結していた妙らは、女性陣と男性陣に分かれて、それぞれが集まる場所に留まっていた。そしてこれまでに起きたことを簡略的に伝えていく。

「って、姉御達には一体何があったアルか?」

「話すと長くなるからかいつまんで言うが、とある探し人に協力して万事屋に向かった矢先、不可思議な穴を通じてこの星へ来てしまったというわけだ」

「えっ? お妙さん達も、あの穴を潜り抜けたの?」

「そういうことになるわね。でこの星の状況を大体把握して、世界樹にも忍び込んだのよ」

「この戦闘員の格好をしてな。じゃが、まさか主らとこの場で再会できるとは……何たる偶然じゃ」

 九兵衛、あやめ、月詠と次々に話していき、アスナらにもこれまで起きたことが断片的に伝わっていた。要約するとこちらの星に来たのは偶然であること。そして誰にも知られることなく、勝手に隠密行動をしていたことである。

「エギルさんもお妙さん達と行動を共にしていたのですか?」

「まぁ、そうだよ。ほとんど成り行きだけどな」

「元々許可を下さったのも、お登勢様のおかげと言うべきでしょうか」

「お登勢さんが? こりゃまた意外ですね……」

「それだけ私達のことを心配していたのかしら?」

 一方でエギルやたまも、自身の身に起きたことを話していた。ユイ、新八、アスナと話を聞くうちに深々と驚いている。

 そう話が続く最中……銀時は長谷川に厳しく当たっていく。一人だけ非戦闘向きであり、何故この場に来たのか理解できないからだ。

「んで。テメェはなんで来たんだよ?」

「なんでって、ユイちゃんのことが心配だったからだろ! こちとらいつでも戦う準備は出来てんだ。遠慮なく頼ってくれよ」

「お前の紙装甲でどうやって戦うんだよ! 明らかに場違いじゃねぇか! 何なら変装していた時の方がまだマシだったよ!」

 彼が脱ぎ去ったライオトルーパーの装備を見せびらかしながら、銀時は容赦のない言葉をかけ続けていく。そう指摘される通りなのだが、長谷川は断じて引くことは無かった。

 すると長谷川の意思をフォローするかのように、桂、クライン、エリザベスが説得を促してくる。

「そう悲観的に見るな、銀時よ。長谷川さんにだって、彼にしか出来ない役目があるかもしれぬぞ」

「そうだぜ! 例えば……例えば、ペンライトで応援してもらって、俺達にバフをかけられるかもしれないだろうが!」

[そうだ! そうだ!]

「誰がプリキ〇ア映画をやれって言ったよ!! 出来るわけねぇだろ! いい加減にしろや!!」

 意気込んで発したものの、三人は話の途中で言葉が煮詰まってしまう。クラインの苦し紛れの一言には、銀時も反射するようにツッコミを入れていた。

 だが彼を差し引いたとしても、頼もしい味方が加わったことに間違いはない。特にシリカら女子陣は、妙達の加勢を大いに喜んでいた。

「まさかこの場で共闘できるなんてね」

「遠慮なく頼ってくれ、みんな」

「お妙さん……! 九兵衛さん……!」

「ナー!」

「もちろん! 存分にお言葉に甘えるわ!」

「一緒に戦いましょう!」

 妙や九兵衛は早速、シリカやリズベット、リーファに頼もしい一言をかけている。彼女達が言うように、今回が初めての共闘だった。妙達とは関わりが深く、何よりもその強さを信頼しているリーファらにとっては有難いことである。ピナも喜びの鳴き声を上げていた。

「シノンよ。主との共闘も初めてか?」

「そうね……月詠さんとの特訓の成果。ここで発揮するわ!」

「楽しみじゃな……!」

 一方の月詠は、親しげにもシノンに声をかけている。気が合い信頼している者同士、素直に互いの背中を預ける所存であった。特にシノンはこれまでに培ってきた特訓の成果を、戦闘の先生とも言える月詠に見せようとしている。

 思わぬ助っ人の登場により、仲間達は皆今後の戦いに希望を見通していく。素直に喜ぶ者達もいたが……特に恋焦がれる者達は反応も格別である。

「お妙さん!! こんなところで会えるとは、実に運命的じゃないか!! ここは一緒に共闘して、それから……」

「言わせねぇよ!! ゴリラがぁぁぁあ!!」

「ブほぉぉぉ!!」

 妙を見るや否や、すかさず近藤は助走を付けて彼女に抱き着こうとしていた。無論そんな行動などお見通しの妙は、ためらうことなく近藤の局部に膝蹴りをかましていく。彼は苦痛を味わいながら、地面へと倒れこんでしまった。もはや二人の恒例行事とも言える。

「何か久しぶりに見やしたね」

「ったく……今が開戦間近だってのに」

 大袈裟に痛がる近藤の様子を見て、沖田と土方は淡々と言葉を呟く。長いことストーカー行為を間近で見ているせいか、慣れどころか呆れているが……。

 さらに再会で浮かれているのは、近藤だけでは無かった。

「銀さん!! 風の噂で聞いたわよ!! どうやらとんでもない力を手に入れたらしいわね!! これで私を……ハァ、洗脳しても良いのよ!!」

「じゃからしいわ!!」

「ブホォ!!」

 あやめもまた同じような行為を繰り返しており、過程は違えど銀時に無理矢理キスをしようと企てていく。瞬く間に豹変した彼女に対して、銀時は手慣れたかのように対処する。木刀を用いて、まるで野球のバットのようにあやめへ容赦なく打ち返していく。

 手酷い攻撃を受けてもなお、あやめの表情はどこか満足げなように見える。マゾヒズムな一面を、惜しげもなく披露していた。

 緊迫した状況下にも関わらず、いつも通りの振る舞いを見せるストーカーの二人。この行動にはほぼ全員が彼らの行動に驚嘆、もしくは呆れを覚える始末である。

「ず、随分と個性的な仲間達だね……」

「気にしないでユッキー……あの二人だけが変にネジが外れているから」

「なんとまぁ。地球でのストーカーって、あのように対処するのですね」

「あながち間違いでは無いのだが……」

「二人共引いちゃっているよ」

 ストーカーと言う存在を初めて目の当たりにするユウキやシウネーは、当然の如く心を引かせている。共に苦笑いを浮かべながら、アスナやキリトに気を遣うような会話を交わしていく。答えを求められた側の二人も頭を抱えたが。そんな二人の苦悩を新八が突っ込む、まさに混沌と化した状況がそこにはあった。

 仕舞いにはフレイアまで不安を覚えてしまう。

「だ、大丈夫なのですね……? このような方々で」

「クセはとっても強いと思いますが、頼りになる方々で間違いは無いと思いますよ。多分……」

 ユイが苦笑いで補足すると共に、エギルやたまも話しかけていく。

「まぁ、否定はしねぇよ」

「良くも悪くも己の欲に忠実的な方々ですから。要するに大馬鹿者です」

「そんな率直に言っちゃって良いの!?」

 彼女の的を得るような一言には、ユウキも反射的にツッコミを入れてしまった。でもその言葉には、何故か納得をしてしまう。

 しかし場が幾ら取り乱そうとも、現状は敵に囲まれている状態。いつ開戦しても可笑しくない中で、銀時は妙に気になっていたことを伝えていた。

「そんでよ、お妙。お前はなんで世界樹に侵入していたんだよ」

「そんなの証拠集めに決まっているじゃない。あっ、そうだわ。銀さん達に渡したいものがあるのよ」

「渡したいもの?」

 彼女に即答されると同時に、妙は銀時らに何の変哲もない紙切れを渡す。そして小声でスッと、彼の耳元にささやくのである。

「この部屋の中に囚われた人達を閉じ込めている装置があるわ。敵に気付かれないうちに、誰か行ってきなさんな」

「いつの間に……」

「たまたまよ。この苦労を水の泡だけにはしないで頂戴ね」

「あぁ」

「よろしく」

 どうやら紙切れの正体は、世界樹にある装置を書き記す地図らしい。妙らは研究所だけに飽き足らず、密かに装置の保管場所まで特定していたのだ。わざわざ小声で伝えてきたのも、敵側に悟られないためである。

 これでマッドネバーの戦闘と並行して、人々を解放する手立ても可能になった。銀時はその紙切れを、こっそりとフレイアの手元に渡す。

「これって……」

「アンタの望んでいたものだ。お前さんの部下にも任して良いと思うぜ」

「いえ……ここは私がやり遂げます。民や仲間を……自分の手で救わなくてはならないのです」

 銀時も小声で彼女と今後の作戦について話を交わすと、フレイア本人が人質の解放を請け負っていく。この件ばかりは自分の手で蹴りを付けたい、彼女なりの責任感の強さが垣間見える。銀時もこれには特に否定しなかった。

 徐々にキリト側にも有利な状況が出揃う中で、マッドネバーは肝心の話が聞き取れずにもどかしさを感じてしまう。

「おい、奴等。急に声を小さくしやがったぞ」

「一体何を話しているのよ!!」

 妙が装置の在処を仲間達に伝えていることも、彼らは知る由も無い。文句を呟くダークライダー達に対して、オベイロンは感情を剝き出しにして苛立ちを覚えてしまう。

「ええい! 何を話している!! 幾ら抗おうとも、僕の前では無力に過ぎん! おい、奴らの隙を突いて今すぐ攻撃しろ!!」

「……誰が?」

「誰でも良いだろ! おい、そこの戦闘員共! さっさとやれ!!」

 無責任なままに彼は、遠くから目に見えていた戦闘員達に指示。急に行動を割り振られた戦闘員ことカッシーンは、彼の怒りに戸惑いながらも、言われた通りに動こうとしていた。

「ハハ! 覚悟しろ!」

 と無理にでも彼らに発破をかけようとした時である。

「そうはさせないよ!」

「今度は私達の出番です!」

「えっ……? この声は!?」

 ふと聞こえてきたのは、どこか懐かしさを覚える四名の声。反応は微妙に違えど、キリトらやユウキらにも一定の衝撃を与えている。

 彼らが驚くのも束の間、ユウキ達の目の前にまたも変装したライオトルーパーが降り立っていた。四名の精鋭達は、惜し気もなく自身の存在を彼らに披露。

「ハァァァ!!」

 そして大剣、長槍、ハンマー、メイスを用いて、一瞬にしてカッシーンへ斬りかかる。

「グゥゥ……」

 不意を突かれてそのまま倒れこんでしまい、四人の襲撃は見事に成功していた。突如として現れた彼らの正体は――

「久しぶり! ユウキにシウネー!」

「ようやく再会ってね!」

「ご無事で何よりですよ」

「み、みんな!」

「やっぱり、この世界のスリーピングナイツか……!」

オンラインメモリに幽閉されていたはずのジュン、タルケン、テッチ、ノリの四名である。妙の連れていた探し人は、まさしく彼らだ。ユウキらとは敵のアジトで離れ離れになった以来であり、予想もしなかった再会に仲間達は大いに喜んでいる。

 一方のキリトらも、ユウキ達が無事に再会出来たことを嬉しく感じていた。例えそっくりさんであれど、大切な仲間と合流する姿を見ると、こちらまで微笑ましくなってしまう。

「随分と待たせてしまいましたね」

「本当だよ~! って、みんなはどうやって元の世界に戻ってきたの?」

「それがアタシらにも分からないのよ。気付いたら地球のかぶき町に来ていたし」

「えっ? どういうことなのですか?」

「こっちが聞きたいぜ。んで、そこで出会ったお妙さんやたまさんって人達と行動を共にしてここまで戻って来たってわけだ」

 テッチ、ノリ、ジュンと彼らは次々に、ユウキやシウネーにこれまで起きたことを話している。元の世界に戻れたのはある意味で銀時のおかげなのだが、当人達はおろか本人もまったく気付いていない様子だ。地球に降り立った彼らは、そこで妙らに接触。合流に至るまでの数時間は、彼女達と行動を共にしていたことが明かされていく。

「なるほど……そんなことがあったのですね」

「お妙さん達の言っていた探し人って、彼らのことだったのか」

「この世界でも、六人は仲良しなのね……」

 彼らの理由を聞くと共に、深々とその苦労を感じ取るユイやキリト。一方のアスナは例え別人であれど、スリーピングナイツの面々が仲睦まじく話す様子に心から安堵していた。この心境はアスナのみならず、元の世界のユウキ達を知るキリトらにも言えるが。

 一方の銀時らは、スリーピングナイツの参戦をメタ的な視点から捉えていた。

「とにかく……頼もしい奴らも加わって良かったじゃねぇーか」

「本当にドリームチームが出来上がるアルよ! これでファンサも十分だし、後は適当に勝利シーンを流せば良いネ!」

「いや、ダメだろ!」

 銀時が適当に呟くその傍らで、神楽が元も子もない発言を繰り出してしまう。横暴とも言える言動に、新八が反射的にツッコミを交わしていく。真選組や桂一派も、新たなるユウキの仲間に興味をそそられている。

「……良かったですね」

 そしてフレイアも、再度集まったスリーピングナイツの姿に安心感を覚えていた。そっと微笑みを浮かべながら、彼女達の様子を見守っている。

 仲間達からその再会を、大いに祝福されているスリーピングナイツの面々。彼らは浮足立った気持ちをそっと抑え込み、即座に戦闘態勢へ気持ちを切り替えていく。

「って、みんな! ここは気持ちを切り替えないと!」

「そ、そうですね。今はここにいる怪人達を片づけるのが先です」

 ユウキやシウネーが仲間達へ切り替えを促すと、ジュンら四人もすぐに応じてくれた。

「よしっ! ならとっとと片づけちゃおうぜ!」

「アタシらも加われば、なんてことないでしょ」

「油断は禁物ですが……みんなで力を合わせれば大丈夫だと思います」

「こ、この心意気で頑張りましょう!!」

 ジュン、ノリ、テッチ、タルケンと皆が威勢の良い一言を声に出していく。やる気は万端のようで、その姿勢からも彼らの本気度が伺える。最後に発したタルケンが、勢いからか腕を上げようとした時だった。

「へッ? うわぁ!?」

 ふと彼はバランスを崩してしまい、後ろへ倒れこんでしまう。その先にいたのは……

「あっ」

「う、うわぁぁぁぁ!! 僕に触るなぁぁぁぁ!!」

「ギァァァァ!!」

なんと柳生九兵衛である。初対面で会った時同様に、タルケンは即座に彼女によって体を掴まれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。彼は木々で出来た民家に衝突し、不可抗力で手痛いダメージを受けてしまう。完全にとばっちりなのだが……

「って、タルケン!?」

「何やってんのよ! 九兵衛さんに触ったら、投げ飛ばされるくらい分かっていたでしょ。なんでまたやるのさ?」

「す、すいません……つい足が滑ってしまい」

「しっかりしてくださいね」

 彼の仲間達も心配して、近くに駆け寄ってくる。ジュン、テッチ、ノリの三人は、九兵衛の特性を知っているため軽口を叩くのみで済んだが、その件を知らないユウキやシウネーは本気で心配してしまう。仲間達の解説を踏まえつつ、二人は彼女の特性を後に知るのであった。

「何やってんだ、アイツら」

「九兵衛さんの投げ飛ばしを経験していたとはな……」

「パパも経験済みですよね!」

「ワン!」

 やや混乱状態に陥るスリーピングナイツに対し、銀時やキリトは思っていたことを呟く。特に後者はタルケンと同様の経験があるので、その気持ちは痛いほど理解している。

 

 と一悶着はあったものの、場はすぐに落ち着きを取り戻していた。約十一名の味方がキリトらに加入して、総勢三十人の精鋭達がオベイロンの悪行に反抗しようとしている。

「くっ……まさか! 世界樹に侵入者がいたとは……だが! 幾ら隙を突こうとも、僕に叶うはずが無い!! 僕の作り出した技術がある限りな!!」

 一方のオベイロンは不穏な雰囲気を感じながらも、傲慢かつ強がりな性格から、見栄を張り続けていた。

「それしか誇るもんないのかよ……」

 自分のことしか棚に上げない様子から、彼の近くにいたリュウガは小声で本音を呟いている。元来より信頼はしておらず、ダークライダー達も呆れつつ彼の戯言に付き合っていた。仮面の中では皆が苦い表情を浮かべている。

 そんな反応などつゆ知らず、自身の自尊心を存分に高ぶらせていくオベイロン。その根拠とも言える技術力をアピールした矢先である――妙が彼に対して、世界樹で入手したあるモノを見せびらかしていく。

「技術? もしかして、これのことかしら?」

「ん……あっ! そ、それは!!」

 そのモノを見た途端、オベイロンの表情は顔面蒼白となってしまう。衝撃からか顔のみならず、頭の中までまっさらに移り変わっていた。妙が手にしたモノの正体は……彼が手塩にかけて作り上げた装置の設計図の束である。

「お妙さん? それって……」

「装置の設計図よ。偶然入った研究室で見つけてね……これで全てじゃないかしら?」

 彼女の言う通り、偶然にも入った部屋でこの資料の束を入手したらしい。脅しとして提案したのも妙であり、彼女のしたたかな一面が垣間見えていた。所謂精神的な攻撃を仕掛けようとする姿に、仲間達のほとんどが何とも言えない気持ちと化してしまう。

「いつの間に……」

「うへぇ。地球の女性って、とんでもないこと考えつくなぁ」

 シウネーやユウキもこの作戦には驚かされていた。自分達でもこんな行動は出来ないと思い浮かべている。

 一方で大切な資料を奪われたオベイロンは、やや軽い混乱状態に陥っていた。

「おい、返せ! それは僕の捻りだした英知の数々だぞ! 無くせば、科学の喪失に繋がりかねんのだぞ!! おい、あやつからとっとと奪え! いや、待て!」

「どっちだよ!」

「お前が落ち着け」

「うるさい!! 僕に指図するな!!」

 大いに心を取り乱しており、右往左往と言動がとっ散らかる。見るに堪えぬ行動の数々に、ダークライダー達が注意を加えるも、自分勝手なままに言い返されてしまった。指示もあやふやなためか、戦闘員や怪人達も動くことにためらいが出来ている。これだけの数を集めておきながら、一切活かすことが出来ていない。オベイロンの器の小ささが露呈していた。

 未熟なリーダーによって混乱状態に陥るマッドネバー。そんな彼らに対して、たまははっきりとした口調で言い返していく。

「そうですか……ですが悪いですね。人を不幸にして苦しませる使い方しかないのなら……これは必要無いのですよ!!」

 自身の想いを含ませながら事を発した後、妙は所持していた設計図を上空へと飛ばしている。時を同じくしてたまは、手にしていた箒の先端から火炎を放出。

〈シュー……!〉

「あっ……あぁあぁぁぁ!!」

 設計図を一瞬のうちに燃やし尽くし、消し炭へと変えられてしまった。自身の努力の結晶が燃えカスと化したことで、オベイロンは瞳孔を開いたまま大袈裟に発狂。妙の狙い通り、精神攻撃がまんまと成功してしまう。怪人達の邪魔が入らなかったのも、事がスムーズに進んだ要因である。

「ありがとうね、たまさん」

「いえいえ。お掃除なら任してください。ですがこれで、この有象無象の化け物達と戦う道しか手段は残っていないようですね」

 だがしかし、この一件によりマッドネバーとの全面的な戦いは避けられぬものになった。この大群を相手にすることへ一抹の不安を覚えるたまだったが……そんな彼女を銀時やキリトが強気な姿勢で説得させていく。

「いいんだよ。どうせ戦うしか方法は残されていないんだろ?」

「最初から俺達はそのつもりだったさ……ここにいるみんなと一緒なら!」

「……そうですね」

 二人が言った通り、仲間を信じあえるならばこの戦いもなんてことない。たまの返事と共に、仲間達も覚悟を決めた表情や態度で返している。この場にいる全員が、今再び一つの目的の為に一致した瞬間でもあった。

 結束力を深める三十人に相対して、オベイロンらマッドネバーは皮肉なことにまとまりがまったくない。ダークライダー達もシグルドを除くと、あくまでも部外者だからか、この件を他人事のように受け取っていた。

「踏んだり蹴ったりだな」

「資料は粉々になるわ。密かに世界樹には侵入されるわ」

「言っておくけど、アタシ達のせいじゃないからね。責任はこいつらを世界樹に通した戦闘員達に言いな」

 ポセイドン、ダークキバ、ソーサラーと容赦のない一言を、オベイロンに向かって飛ばす。そしてこの言葉が引き金になったのか、彼は急に態度を豹変させてしまった。要するに逆切れである。

「ええい! うるさい! うるさい! 僕のことをけちょんけちょんにしやがって! いいか!! お前らは全員僕の科学力でボコボコにしてやるぞ!! たかだか三十人風情が、この大群を相手できると言うのか!!」

 散々売り文句として使っていた大群及び数の差で、真っ向から戦う決意していた。相手を数の差で疲弊させて、その隙を狙う算段のようである。

 そう高らかにまたも宣戦布告を行った時だ。

「三十人じゃねぇよ」

「……はぁ?」

 またしても銀時らの元に、とある助っ人が駆けつけてくる。そう素っ気なく呟いた彼は、眼前にした戦闘員達を自身の得手である刀でしなやかに一刀。

「ぐはぁ!」

「ウグゥ!」

 ほぼ一撃でおよそ五体程度の戦闘員達を倒しきってしまう。

 突如として現れたこの侍の正体は……なんと遠くに飛ばされていた高杉晋助である。

「三十一人だ。この大馬鹿者共の祭りに、俺も入らせてもらおうじゃねぇか」

「高杉さん!?」

「はぁ!?」

「えっ!?」

 そうしっかりとした口調で呟くと、彼は刀を一度鞘に納めながら万事屋の近くに移動していた。思わぬ人物の登場により、一段と警戒心を高めていく銀時達。一方で高杉に少しでもゆかりのあるキリト、ユイ、シウネー、フレイアの四人は、微かな期待を彼に持ち始めていく。それはもちろん高杉の加勢である。

「おい、てめぇ……どういうつもりだ? 折角あの場から引き離したのに、結局戻ってくるのかよ!?」

「フッ、やっぱりテメェの仕業か。だが安心しろ。今回ばかりはテメェとの決着に興味はねぇよ。俺はただ……仲間を取り戻してぇだけだ」

「仲間だぁ?」

「俺の仲間も、ミラーワールドってやらに閉じ込められてんだよ。そいつを解放するためにも、俺はテメェらに加勢した方が得だと判断したまでさ。テメェに手を貸すつもりはねぇから、安心しろよ」

「ハァ! 言ってやがるぜ……コノヤロー」

 到着早々に銀時は、高杉とのたわいない会話を交わしていく。どうやら彼の目的は、囚われた仲間を解放することらしい。あくまでも銀時に協力する姿勢ではなく、それを確認した彼は素直に納得していた。

 現状は味方とも言えず、むしろ互いを叩きのめしたいほど敵対する二人。しかしオベイロンと言う共通の敵が出来た今、この場はわだかまりを一旦忘れて、協力した方が良いと両者は括っている。(実を言うと高杉は、オベイロンが銀時を殺しかけたことに怒りを燃やしていた。共闘する理由はもしかすると、些細なきっかけからの復讐が理由かもしれない。本人が気付いていないだけかもしれないが……)

 それに加えて高杉は、もう一つだけ彼らに共闘する理由があった。

「まぁ、借りを返すことだと思っておけ。あくまでも俺は義理を通すだけさ」

「高杉さん……」

 その理由は、キリトへ借りを返すことである。彼の言った通り受けた恩は返す、義理難い一面を発揮していた。この決意にはユイも、内心そっと喜んでいる。思いっきり彼のことを頼ろうとした。

 高杉が仲間に加わろうとしている中で、仲間達の反応はどれも千差万別である。

「どうします、銀さん……?」

「ヤツがそう言うなら、素直に受け入れるしかねぇだろ。こっちは一寸も期待してねぇけどな」

「絶対オベイロンにムカついているから、こっちに付いたアルよ。アイツもきっと、あのゴミクズ野郎が嫌いネ」

「ワフ……!」

 万事屋は臨機応変に状況を受け入れており、高杉との共闘を決意していた。銀時と神楽の二人はあまり気乗りせず、モヤモヤとした気持ちを軽口として発していたが。定春も威嚇気味に、彼を睨みつけていく。

「おい、そこ。俺の本音を代弁するんじゃねぇよ」

「いや、当たっていたんかい」

 どうやら高杉の気持ちはあながち間違いではないらしい。

「本当に良いの、キリト君?」

「うん。ここは高杉さんを信じよう。絶対頼りになるはずだと思うから……!」

「パパのいう通りです。ママ、信じましょう!」

「ユイちゃんまで言うなら……」

 キリトやユイは高杉の加勢を歓迎するも、アスナは関わりが少ないせいか、少しばかりためらいを覚えてしまう。ユイに強く押されて、言いくるめられたようだが。

「何とも複雑なところだな。だが、ここはヤツの言葉を信じるとするか」

[襲いに来たら、俺が守るぜ。桂さん]

「あぁ、ありがとうよ」

 さらには桂、エリザベスは、素直にも彼の言葉を信じることにしていた。それでも完全に信じ切ったわけではないが。

「高杉か……」

「どうしやすか、土方さん? 俺は別にアイツと共闘しても良いんですが」

「ここは様子を見るか。見た感じ、奴らの味方ではないからな」

「うむ……お妙さんが心配だ!」

「いや、アンタの頭の中そればっかりかよ」

 真選組も桂一派と同じような反応をするも、近藤は妙ばかりを気にしている。普段通りの彼の姿に、土方は思わずツッコミを入れてしまう。

「やっぱり来てくれたのですね……」

「あの人……今は情で動いているの?」

 そして途中まで共に行動していたシウネーやフレイアも、ユイらと同じく高杉の加勢を素直に受け入れていく。前者はホッとしたような表情を。後者は彼の本心を見切ったような表情を浮かべている。

 皆が思い思いに気持ちを呟く中で、大半のメンバーは同じような反応を示す。

(えっ……誰?)

 妙、九兵衛、あやめ、月詠、たま、長谷川、クライン、エギル、シリカ、ピナ、リズベット、リーファ、シノン、ユウキ、ジュン、タルケン、テッチ、ノリの十七名と一匹は、高杉が登場してもまったく反応に困ってしまう。銀魂世界の住人である妙やALO星のユウキは薄っすらと理解しているが、リーファやシノンらにとってはこれっぽちも把握していない。まったく見ず知らずの相手、もしくは銀時の知り合いらしき人が手を貸している。そんな大雑把な感覚で、高杉のことをマジマジと見ていた。

 その中でも長谷川は、高杉に特別な感情を抱いている。そう、人気投票篇にて明らかとなった高杉との格差故の嫉妬だ。

「おい! とうとう姿を見せやがったな! ここで会ったが百年目だ! どっちの出番が多いのか、白黒付けようじゃないか!」

 と対抗心をメラメラと燃やす長谷川に対して、高杉の反応はと言うと……

「何言ってんだ、お前? そもそもそんな軟弱な格好で戦えるのかよ」

至極まっとうな事を発する。彼にとっては人気など争点にすらなりえない。ただ眼前の敵を叩き斬る事しか今は頭に無いのだ。

「おい、こいつの意見は気にしなくていいぞ」

「あぁ」

 銀時からも促されていき、高杉はまったくもって気にしないことにする。

「って、ちょっと待て!! まだ話は終わってないぞ!」

「まぁまぁ、長谷川さん。落ち着いて!」

 依然として長谷川は自身が納得するまで話しかけようとするも、近くにいたエリザベスや新八に止められてしまった。例え敵同士とはいえ、無用な争いは現状では禁物だと彼らは悟っている。本人は本気であるものの、周りからしてみればただネタに走っているようにしか見えなかった。

 とあらゆる視点から知り合い以外に不思議がられようとも、高杉は普段通りの自分で場を振舞っていく。

「まぁ、いいさ。俺はただ壊すだけだ……あの腐ったクズ妖精の計画をな!!」

 鞘に納めていた刀を再び抜刀し、それをオベイロンに向けながらそう豪語する。彼の決め台詞の通り、徹底的にオベイロンを叩き潰す所存だ。

「そうだ! この三十一人の精鋭達ならば……!」

 マッドネバーに抗う者達が一通り集まり、キリトも高杉に続いて声を上げている。

 アルンの街中にて集結していた三十一人の反逆者達。

 左から近藤勲、エギル、沖田総悟、クライン、土方十四郎、ジュン、桂小太郎、テッチ、エリザベス、タルケン、長谷川泰三、志村新八、キリト、坂田銀時、高杉晋助の男性陣が十五人。

 右からリズベット、柳生九兵衛、リーファ、猿飛あやめ、シノン、月詠、シリカ、ピナ、志村妙、シウネー、たま、ノリ、ユイ、定春、神楽、アスナ、ユウキの女性陣十五人とペットが二匹。

 物陰からはそっとフレイアが見守っている。

 多くの出会いと奇跡が重なり合い、実現したこのドリームチーム。万事屋、真選組、桂一派、超パフューム、スリーピングナイツ、鬼兵隊の総督……立場も身分も違う三十一人は、この星を恐怖に陥れようとするマッドネバーに立ち向かうことで目的を一致させていた。

 追い風は確実に彼らに吹いている。その一方で、逆風が吹いているであろうマッドネバーでは、オベイロンの苛立ちがまたもピークに達していた。

「……黙れ! 黙れ! こんだけ長尺を取りやがって……! 結局集まったのは、これっぽちじゃないか! こんな数の差で見えるのは、お前らの敗北しかないだろう!!」

 子供ながらにかんしゃくを飛ばしながら、またも数の差を誇張しようとした時である。

「そいつはどうかな?」

「なんだと!?」

 急に高杉が彼の主張に反抗していた。凛とした表情を浮かべながら、高杉は悠々自適にユイらが言いたかったことを代わりに代弁していく。

「俺が言える義理じゃねぇが、こいつらに希望を託してくれた奴らがいることも忘れるんじゃねぇぞ。そう……仮面の英雄達がな」

 その言葉の通り、ここにいるのはキリト達だけではない。彼らに希望を託してくれたライダー達も、表では見えないがしっかりとこの場にいるのだ。

「高杉さん……!」

 想いを代わりに伝えてくれた高杉に、ユイは内心で感謝の気持ちを伝えている。そう躍起を飛ばした時だった。銀時、キリト、アスナ、神楽が手にしていたアルヴドライバーが、急に光り出したのである。

「銀さん! またベルトが!」

「パパやママ、神楽さんのも光っていますよ!」

「ワン!」

 新八、ユイ、定春がいち早く気付き、彼らにベルトの変化を伝えていく。この眩い変化を彼らは、またとない好機として捉えていた。

「やっぱり私達に力を貸してくれるのね……!」

「勝利フラグがビンビン立ってきたアル!」

 きっとライダー達が力を貸してくれる。またも希望を託してくれたのだと、神楽やアスナは悟っていた。だとすれば、四人のすべき行動は一つである。

「オベイロン! お前にもう一度だけ見せてやるよ!」

「これが俺達に託された……」

「「「「自由を取り戻すための力をな!!」」」」

 キリトや銀時がそう豪語すると同時に、四人はアルヴドライバーを腰に装着。ブレスレット型も腕に装着していき、

〈ヘイセイジェネレーション!!〉

力を解放するに必要なヘイセイジェネレーションメモリを起動。ブレスレットの窪みに装填していくと……瞬く間に変身待機音が辺り一面に鳴り響いていく。

〈ヒューン! ブゥーン! ファイナルベント! エクシードチャージ! ライトニングソニック!〉

 歴代平成仮面ライダーの必殺技待機音を模した音が、次々にベルトから発せられる。さらには、周囲にも異変が生じていた。

「おい、見てみろ!」

「アレは……ライダー達の銅像!?」

「あの遺跡と同じ……」

 近藤やユウキが気付いたのは、背後にいた巨大な仮面ライダーの銅像。待機音が鳴り響くと共に、その音に相応しいライダーが地上から出現していく。次元遺跡で目にしたライダーの銅像と、ほぼ同一と見て間違いはないであろう。

〈キィーン! 1!2!3! フルチャージ! ウェイクアップ! ファイナルアタックライド!〉 

「おいおい、銅像がはがれてきているぞ!」

「本当の姿を見せてきているの?」

 さらに桂やシノンら仲間達が気付いたのは、銅像のメッキがメキメキと剝がれてきていること。本当の姿が露わとなり、仲間達も大いに驚かせていた。

「何をしている! 変身の隙を襲え!」

「いや、出来ません! 謎の障壁によって、破壊が不可能です!」

「何だと!?」

 卑劣にも変身する隙を狙うオベイロンだったが、彼の妨害を見越してか、銀時らの周りに光の障壁が現れ、彼らやその仲間達の身を守っている。誰にも妨害されることは無く、変身の準備は着々と進められていた。

〈マキシマムドライブ! スキャニングチャージ! リミットブレイク! ルパッチマジックタッチゴー! オレンジスパーキング!〉

「風に火……?」

「何かを解き放とうとしているの!?」

 するとメッキが完全に外れた銅像は、水を得た魚のように機敏に動き出す。まるで彼らも技を解き放つため、密かな準備を始めているようだが。新八やリーファらも、その様子をじっと見守っている。

〈ヒッサツ! ダイカイガン! キメワザ! レディーゴー! フィニッシュタイム!〉

「「「「変身!!」」」」

 そして平成仮面ライダー二十人分の待機音が流れ切ったところで、四人はブレスレットとベルトの液晶部分を重ね合わせ……溜めていた力を存分に解放していく。

〈ヘイセイタイム!!〉

 ここからそのままド派手な変身シーンに移り変わる……と思いきや、

「アレ?」

「えっ?」

「なんで?」

急にその勢いは止まっていた。後ろを振り向いても、さっきまでいたライダー達の幻影はどこかに消えている。予想外の展開に、銀時、キリトらは思わず困惑してしまう。

「おい!? 何も起きねぇじゃねぇかぁぁ!! どうなってんだよ!!」

「そんなこと僕に言われても、困りますよ!!」

「でも、さっきは確かに変身出来て……」

 特に銀時は八つ当たりも兼ねてか、新八の体を揺らしてその理由を問い詰めようとする。そんなこと彼が知る由も無いのだが……

 皆がライダーの行方を気にかけていた時だ。ユイはようやく彼らの行方を掴めている。

「違います! 見てください、皆さん!!」

「ん!? アレって……!!」

 彼女が指を指した方向には、なんと各々がキックの構えをしながら上空に浮かぶライダー達の姿があった。発見と同時に、ベルトからは途切れていた変身音が再起動していく。

〈クウガ!! アギト!! 龍騎!! ファイズ!! ブレイド!!〉

「うわぁ!? びっくりした!?」

「こっちに来るのか!?」

〈響鬼!! カブト!! 電王!! キバ!! ディケイド!!〉

「後ろから!?」

〈W!! オーズ!! フォーゼ!! ウィザード~!! 鎧武!! ドライブ!!〉

「さっきの風と炎じゃん!」

〈ゴースト!! エグゼイド!! ビルド!! ジオウ!!〉

「おっと!? びっくりした!?」

〈全ての力を今! 一つに……! ヘイセイジェネレーションズ!! フィーチャリング……銀時!! キリト!! アスナ!! 神楽!!〉

 ――それはまさに一瞬の出来事であった。突如として現れた銅像は力をまとった幻影となり、変身音と共に銀時やキリトらに向けて渾身のキックを解き放っている。それらを一斉に受けた四人は怯むことなく、強大な力を手にする覚悟を決めていた。すると彼らの周りにライダー特有の紋章が浮かび上がり、それらが刻まれたマント及び陣羽織が四人の体に付着していく。

 銀時はマゼンダカラーの陣羽織、キリトはグリーンカラーのマント、アスナはオレンジからのマント、神楽はブルカラーの陣羽織と色彩もメンバーごとに異なっていた。ユイが変身した時と同じく、外見の変化は一切見受けられない。強いて言う違いは、変身音や演出がユイの初変身に比べるとだいぶ豪華に仕上がっていることであるか。

 新八やユイら仲間達はライダー達の行方を追いつつ、銀時やキリトらが特殊なマントや陣羽織をまとったことに驚嘆。新たな力をまとったことに、さらなる希望を見出していく。

 一方でマッドネバー側も同じく驚いているものの、アスナや神楽らが得た力を脅威として捉えている。変身も防げなかった今、窮地に追い込まれていると見て間違いないだろう。

「……お、終わった?」

「お兄ちゃんや銀さん達に……ライダーが!?」

「これが英雄に認められた力……」

「神々しいと言うべきか……」

 ようやく変身が完了し、仲間達は改めて騒然としている。新八やリーファのようにただただ驚きで口を開く者や、桂やエギルのように未知なる力への興味を向ける者など、その反応はまちまちだ。

 その一方でヘイセイジェネレーションフォームへと変身した四人は……強大な力をまとってもなお、普段通りの振る舞いを見せている。

「おぉ! 来た来た、やっぱコラボはこうでないとな!」

「まるで異世界転生した主人公アル! このまま無双してやるネ!」

「ちょっと二人共! 何分かりやすい浮かれ方しているんですか!!」

「よぉ、新八? 羨ましいか?」

「なんで僕に言ってくるんですか! 絶対分かって言っているでしょうが!!」

「そう落ち込むなアル。初期案だとお前も変身出来る予定だったけど、すったもんだあって白紙に戻ったらしいネ。プッ……! まぁ、元気出せアル」

「なんで没案を解説しちゃうの!! そういう案はいつか絶対採用されるからな! もうこれ以上煽るんじゃねぇぞ!!」

 銀時や神楽は新たな力に浮かれつつ、さらには新八へ煽りとも言えるからかいを入れていた。小馬鹿にしたような態度には、彼も私怨を交えつつ激しいツッコミを加えていく。

「落ち着いてください、新八さん!!」

「銀さんに神楽も急に浮かれすぎだよ!」

「そうよ! もうちょっと自覚を持ちなさいよ! 折角ライダー達から認められたんだから!」

「ワフフ!!」

 そんな三人の様子に、ユイ、キリト、アスナ、定春と言った他の万事屋メンバーが会話へ割り込み、銀時らを宥めようとしている。開戦間近にしてこの体たらく。まさにいつも通りの万事屋であった。

「ったく、何やってんだ……」

 緊張感を漂わせない彼らの姿に、高杉も不機嫌そうな顔で本音を発してしまう。思うことは多々あるが、今はそっと心の中へ留めておくことにしている。

 そしていよいよ手段が少なくなったオベイロンらマッドネバーは、ヤケクソになりながらも、本来の予定通り総力戦を仕掛けていく。

「……何が英雄だ!! 何がライダーだ!! いいか! どんな手を使おうと、奴らを叩きのめせ! もう一斉に突撃しろ!!」

「いぃぃぃ!!」

「うぅぅぅぅ!!」

 大いに精神を取り乱したまま、オベイロンは感情を剥き出しにして怪人達へ指示。その命令に乗っかり、無数の怪人達は銀時らを倒すべく勢いよく走り出していく。

「って、もうこちらに敵が迫っていますよ!」

「おっと! 口喧嘩している場合じゃなかったな」

「もう……とりあえず、このまま応戦するわよ!」

 銀時ら本人もようやく異変に気付き、気持ちを切り替えて戦闘態勢を整えていた。彼に続いてアスナら仲間達も戦闘に順応していく。

「みんな! 今こそ力を合わせる時だ!」

「このまま突っ込むよ! いいね!?」

「「おう!」」

「「了解!」」

「「もちろん!」」

 キリトやユウキが率先して声を上げながら、仲間達の士気を高めていた二人が発すると同時に、仲間達は各々の武器を手にして目の前に入った怪人達に狙いを定めていく。

「頼みましたよ……皆さん!」

 フレイアも物陰にスッと隠れ込み、彼らの戦いを見守る。隙あらば世界樹へ忍び込み、人質を解放することが彼女の使命だった。

「「「「ハァァァ!!」」」」

 こうして遂に、アルンの未来を懸けた戦いが幕を開ける。無数の怪人達を薙ぎ払いながら、己の信念を貫き通す侍と妖精の大乱戦の果てに待つものとは……?




後書き
 いやー本当にこういう展開を描きたかった!! 万事屋、真選組、桂一派、超パフューム、キリトのギルドメンバーにスリーピングナイツ! さらには高杉まで加わるなんて……まごうことなき夢の競演ですよね!!

 そして注目すべきは銀時、キリト、アスナ、神楽のヘイセイジェネレーションフォーム! ただでさえ強い四人がライダーの力を得たとなると……誰が勝てるんでしょうか?
 ちなみにSAOキャラが変身するとマントを身にまといますが、銀魂キャラが変身するとマントではなく陣羽織に変化します。ちょっとしたこだわりです(笑)

 仲間達も続々と集結する中で、なんと高杉も緊急参戦! 打倒オベイロンに向けて、銀時達へ一時的に協力することになります。いやー、感慨深い! ただしおかげで、集結したメンバーのうち高杉を知る者が半数のために、知らない人からすればチンプンカンプンでしょうね……ちなみに長谷川と高杉が共演及び共闘するのは今回が初めてです。(当たり前だろうが)

 ちなみに近々設定集を更新予定です。

 さぁさぁ、これから三十人による大合戦が始まります! 次回も二部に分けてお送りする予定です!

次回予告

アルンの未来を懸けた戦い――

命を燃やす彼らの勇姿を――

特と見よ!!

ユルセン「みんなもユウキ達の戦いを応援してくれよな!」
新八「って、アンタが予告に出るんかい!」

妖国動乱篇十 集結!王に抗う者たち!
妖国動乱篇十六 無限!馬鹿共の力!


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第八十九訓 集結!王に抗う者たち!

 今回から三部に渡って大乱闘をお送りします!!




「「「「ハァァァ!!」」」」

 勢いよく声を上げながら、銀時、キリトら三十人の戦士達は、こちらへ突入してくる無数の怪人達に真っ向から立ち向かっていく。襲い掛かる戦闘員を薙ぎ払い、得手を用いて容赦なく攻撃を仕掛けている。アルンの未来を懸けた戦い。皆が負けられない勝負に身を投じていくのだ。培われた経験を基に、戦いはより激しさを増していく!

 

 

 

 

 

 

 

 住宅街を潜り抜けた先にあるのは噴水路。一定の時間になると水が舞い、舗装された通路の窪みに水がしたたかに溜まる。凸凹した道は歩いた人達を立ち止まらせ、見た者に楽しみを与えていた。

 そんな場所で戦うのは四人の精鋭達である。

「あらよっと!」

「ハァ!」

 噴水路を境に左側で怪人達と対峙するのは、坂田銀時とシノン。両者共木刀や弓と言った得手を用いて、こちらに向かう混成の戦闘員軍団(カッシーンやバグスターウイルス、ライオトルーパー、レオソルジャー等)を次々に倒していく。

「行って!」

「ナァ!」

「おっと!」

 一方で右側では、月詠とシリカが戦闘員軍団を蹴散らしている。前者はクナイを手に格闘戦を。後者はダガーを用いて、ピナとのタッグ戦法を。両者共に苦戦することなく、足元の水たまりを弾けさせながら、有利に戦闘を行っていた。

「フッ! そこじゃ!」

 両者をさらに分析してみると、確かな違いが見えてくる。月詠は足蹴りを多用しつつ、衣服に仕込ませていたクナイを余すことなく使用。次々と戦況を変化させていき、自分好みに戦いを進めていた。

「ナー!」

「よくやりました、ピナ! やぁぁ!」

 一方のシリカは、相棒であるピナとのタッグ戦法を遺憾なく発揮。相手の注意を引かせて、その間に彼女自身が戦闘員の大群を一網打尽にしていく。リアルでの戦闘が不慣れながらも、自分が出来ることに全力を尽くしていた。

「どうじゃ! って……何!?」

「月姉さん!? うっ!?」

 と戦闘員を粗方一掃したところで、彼女らにさらなる刺客が襲い掛かる。月詠にはシャムネコをモデルにしたシャムネコヤミー。シリカにはヨロイトカゲをモデルにしたサンゲイザーファンガイアが勝負を仕掛けてきた。

「ミャオーン!!」

「くっ……なんてはしたない怪人じゃ! じゃが、わっちを倒すことは出来ぬぞ!」

 相手に首根っこを掴まれてしまい、月詠はそのまま水たまりへ沈められそうになる。個人の感覚だが、彼女はシャムネコヤミーの奇抜な姿に嫌悪感を抱いていたようだ。

 水が振袖に入り込み、動きを制限されてもなお、月詠はシャムネコヤミーの隙が出来る瞬間を虎視眈々と狙っている。

「ニャ!!」

「今じゃ!」

「オン!?」

 そして密かに手元へ忍ばせておいたクナイを、相手の右手の甲に突き付けていく。ちょうどすっぽりとクナイが入り込み、思わぬ怯みを受けてしまうシャムネコヤミー。つい注意が手に刺さったクナイへ向けられていた時である。

「ハァァァ!!」

「ウッ!? ミャオーン!!」

 月詠は一念発起が如く両手にクナイを持ち、ここぞとばかりに相手の皮膚に向けて、集中的に斬りかかっていた。自身の長身を存分に生かし、体全体を使って軽やかに攻撃している。隙あらば蹴りで追加分の攻撃を与えており、一方的な戦いを展開していく。遂に、

「これでとどめじゃ!!」

「ウゥ……ゴロニャァァァ!!」

とうとう攻撃に耐えられなくなったシャムネコヤミーは、月詠の渾身の一撃を受けて爆発四散してしまう。撃破と同時に辺りには、彼女の体を構成していたセルメダルが飛び散っていく。当然月詠には、このメダルの正体が何なのかさっぱり分かっていない。

「ん? なんじゃ? この灰色のメダルは……?」

 不可思議そうな目つきでセルメダルを凝視しており、つい気になった月詠は数枚ほど所持することにしていた。

 そして時を同じくして、シリカも奇襲してきたサンゲイザーファンガイアと一戦を交えていく。

「ドラァァ!」

「って、ピナ!? に似ている怪人!?」

「ナー?」

 両腕に装着された盾を構えながら、どっしりと態勢を整えていくサンゲイザーファンガイア。さながら威嚇をしているように見えるが、シリカはそれよりも彼の顔つきが気になって仕方がない様子だ。そう。この怪人は若干ではあるが、ピナとの類似点が多くあるのだ。特に頭部はピナが凶悪化したような厳つい顔つきをしており、シリカはおろかピナ本人すらも困惑を与える始末である。

 だが疑問に思っていても、当の怪人は攻撃態勢を緩めることは無い。

「ウゥ!」

「キャ!?」

「ナァ!!」

 相手の隙を突いて瞬時に動き出し、サンゲイザーファンガイアは突進攻撃をシリカらに与えていた。無論避けられるはずもなく、シリカ、ピナ共に思わぬ不意打ちダメージを食らってしまう。

「やってくれましたね……今度はこっちの番です!」

「フッ!」

 反撃と言わんばかりに彼女は、ダガーを用いて怪人の皮膚に攻撃を加えようとする。だがしかし、彼は相手の出方を見て的確に防御姿勢を構えてしまう。

〈カキーン!!〉

「えっ、硬!? こんなに強度があるの!?」

 勢いあまって斬りかかったせいか、ダガーでは盾を壊すことは出来ず、余剰したエネルギーは彼女の全身に降りかかってしまう。思わぬ痛みを感じながらも、目的を見失うことは無く、シリカはすぐに対抗策を閃いていた。

(あっ、そうです! 後ろを狙えば……!)

 その通り。前方で防がれるのであれば、死角となる後方を狙えば良い。勝利を見込んだ彼女はピナと共に、早速実行へ動き出していく。

「ウゥ!」

「させません! よっと!!」

 またも繰り出してきたサンゲイザーファンガイアの突進攻撃を、彼女はギリギリのタイミングで軽やかに回避。小柄な体格を生かして、素早くでんぐり返しをしたことで事なきを得ていた。

「今です! ピナ! バブルブレス!!」

「ナァ!!」

 そして獲物を仕留めるかのように、シリカはピナへ泡攻撃を指示。相手の動きを一定の時間だけ止めるバブルブレスで、この戦いに決着を付けようとした。

「ウグ!?」

「さぁ、終わりですよ! やぁぁぁ!!」

 狙い通りサンゲイザーファンガイアの動きが止まったことで、そのまま彼女は猛攻を仕掛けていく。ダガーで次々に背中へと切り刻み、連撃の最中に蹴りまで加える月詠と同じ戦術で応戦していた。百華として鍛錬を積み重ねた技を、この場で存分に発揮している。

 こうしていよいよ……戦いに決着が付く。

「ハァァァァ!」

「ダラァ! ウググ……!」

 とどめの一刀を加えたことで、サンゲイザーファンガイアは悲痛な断末魔を上げている。バブルブレスの効力が切れた頃にはもう遅く、耐え切れなくなった体は眩い光を放ちながら、欠けたガラスのように周りへと飛び散ってしまう。炎々と燃え盛る爆発をバックに、シリカとピナは凛々しい表情を浮かべながら、勝ち取った勝利をかみしめていた。

「やりましたね! ピナ!」

「ナー!!」

 とその余韻に浸っていた最中、怪人の群れにいた一体フリルドリザードオルフェノクが、剣と盾を用いて襲い掛かろうとしていた。そんな時である。

「仕舞いだ!」

「させるか!」

「何!?」

「つ、月姉さん!?」

 瞬時に月詠がクナイを飛ばし、フリルドリザードオルフェノクに想定外の怯みを与えていく。相手の動きが鈍ったところで、月詠はシリカへクナイを投げ飛ばしている。

「これを使うんじゃ!」

「は、はい!!」

 素直にそれを受け取った彼女は、右手にダガー。左手に受け取ったクナイを握りしめ、月詠から教わった体術で、フリルドリザードオルフェノクへ攻撃を仕掛けていった。

「行きますよ!! やぁぁぁ!!」

「させるか! って!?」

 彼女の猛攻に備えて、盾を構えたフリルドリザードオルフェノクだったが――瞬時にその盾をはたき落とされてしまう。防御姿勢が崩れた彼は、到底シリカの攻撃を防ぎきることが出来ず、成すがままにダメージを受けていく。

「はぁぁ! はぁぁ!」

「くっ……! うるぁぁぁ!!」

 ダガーとクナイ。二つの斬撃を受け続けながらも、最後まで所持していた剣でフリルドリザードオルフェノクは攻撃を仕掛けようとする。けれどもやはり……蓄積されたダメージに耐え切ることが出来ず、彼は後方に倒れこんでしまった。

〈ドカーン!!〉

 オルフェノク特有の青白い炎をあげながら、その灰色の体は本物の灰となり崩れ去ってしまう。

 数多の怪人達による連戦が続いたものの、月詠、シリカ、そしてピナは難なく乗り切ることが出来ていた。

「やったな、シリカよ。一昔前よりも強くなったのう」

「ありがとうございます! これも月姉さんの特訓のおかげです!」

「ナー!」

「どういたしましてじゃ」

 強くなった自分を師匠である月詠に褒められたことで、つい嬉しさを覚えてしまうシリカとピナ。率直な気持ちで礼を交わすと、月詠もフッと笑って軽く言葉を返している。

 共に強さを分かち合った二人は、再び呼吸を整えつつ、加勢してきたマッドネバーの戦闘員軍団を相手取っていく。

「行くぞ」

「もちろんです!」

 確かな絆と共に戦場を駆け抜けていった。

 

 一方でちょうど横隣りで戦闘を行っていた銀時、シノンにも大きな動きが生じていた。

「このやろ! どきやがれ!」

「ウゥ!!」

 周りに蔓延る戦闘員達を一蹴しつつ、銀時は特殊な攻撃を仕掛けているとある怪人に狙いを定めている。その怪人はゲームの敵キャラをモデルにしたソルティバグスターだ。

「フフフ……行くが良い!」

 彼は手下であるバグスターウイルスを中心に、集団戦術で銀時を打ち倒そうとしている。密かに彼を取り囲もうとするも……銀時はこの状況を気負いせずに、高い自信を持ち続けていた。

「やれやれ……だが乗り切るしかねぇな!」

 そう威勢よく呟くと彼は、足元にあったカッシーンの三つ槍を蹴り飛ばし、それを左手へと装備していく。

「ヤァァァ!!」

 そして木刀と共に、力強く周りへ振り回していた。

「ザク!」

「ウル!?」

 当然近くにいた怪人達は否応なしにダメージを受けてしまい、次々に倒されてしまう。近づく暇もなく、ただ一方的にやられていく戦闘員達。軟弱な彼らにとうとう我慢できなくなったのか、ソルティバグスター自らが動き始めている。

「小賢しい真似を! これでも食らうが良い!!」

 彼は左手に装備した装飾品から、光り輝く電流を放出。銀時へと被弾させ、彼の体を痺れさせようとしたが……

「フッ、よっと!」

本人にはすでにその真意を見抜かれていた。銀時は気高くジャンプをして、まだ生き残っているバグスターウイルスらを足場として利用。電流が発射するタイミングで足場を変えていき、ついでにまだ残っている戦闘員達も倒すトリッキーな戦法で対処していた。

「ええい! 何故当たらぬのだ!!」

 自分の思い通りにいかず、つい焦りをちらつかせてしまうソルティバグスター。彼の心の焦燥を察して、銀時は大胆な攻撃を仕掛けていく。

「今だ! はぁぁ!」

「グハァ!? 何!?」

 なんと左手に装備していたカッシーンの三つ槍を、ソルティバグスターの腹部に向けて投げ飛ばしていたのだ。無論この突飛な行動を彼が予見できるはずもなく、三つ槍は上手いこと自身の体に突き刺さってしまう。(怪人なので特に流血する様子は無いのだが)

「このやろ……!!」

 思わぬ攻撃を受けて、ソルティバグスターはつい注意を三つ槍に向けている。自らの手で引き抜こうとした時だ。

「おりゃぁぁぁ!!」

「な……ぐはぁぁぁ!!」

 銀時はとどめと言わんばかりに、彼に突き刺さった三つ槍へ向けて、覇気をまとった飛び蹴りを繰り出していく。三つ槍はソルティバグスターの体を貫通していき、致命的なダメージを与えていた。飛び蹴りを繰り出した後、銀時はそのまま地面へと着地していく。

「おのれぇぇぇ!!」

 と同時にソルティバグスターは断末魔を上げながら爆散。真っ赤に燃える火炎の中からは、「GAMECLEAR!」と銀時の勝利をたたえるメッセージが浮かぶ。これは恐らくこの怪人特有の演出であろう。

「よっしゃ! って、ゲームクリア……この怪人はキリト共に任せた方が良かったか?」

 このメッセージを見て銀時は、勝利への喜びではなく、ゲームに適したキリトやシノンへ倒した方が盛り上がると、変に気を遣った考えを浮かべてしまう。彼は釈然としないまま、次の戦いに挑むのである。

 果敢に銀時が激闘を繰り広げる最中で、近くにいたシノンも積極的な戦いを戦闘員らに向けて仕掛けていく。

「そこよ! はぁ!」

「グル!!」

 大きく飛び上がり弓矢を相手に射ると同時に、彼女は弓の先端を地面へ突き刺していた。

「まだよ! やぁぁ!!」

「ダラァ!?」

「ウグ!?」

 そしてシノンは弓を媒体として、縦横無尽に辺り一面へと蹴りかかる。勢いに乗っかったまま体を振り回す型破りな戦法に、レオソルジャーやライオトルーパーは近づくことも無く翻弄されてしまう。

「さぁ、今よ!」

 そしてその隙にシノンは、弓を地面へ突き刺したまま、とある弓矢を装填していく。その正体は、濃縮した爆薬を詰め込んだ特殊な弓矢である。

「吹き飛べ!!」

 彼女はためらうことなくその弓矢を射ると、爆発のエネルギーを上手いこと利用して、弓矢を引き抜きつつその場から綺麗に撤収していた。周りの戦闘員らが彼女の行方を追う頃にはもう遅く……

〈ド、ド、ドバーン!!〉

放射した弓矢は連鎖するように爆発を何度も繰り返していく。その爆炎に巻き込まれたレオソルジャーやカッシーンらは、なすすべもなく倒されてしまった。辺りに残ったのは戦闘員達の燃えカスのみである。

「ふっ、やったわ!」

 自らが前線に立ち、近距離戦をも取得したシノンならではの突飛な攻撃方法。本人も満足げな表情を浮かべている。

 だがしかし、余韻に浸るのはまだ早い。さらなる刺客が彼女に奇襲を仕掛けていく。

〈キーン〉

「……ん!? フッ!? 何なの……?」

 微かな銃声が聞こえて、シノンは横へと逸れて辺りを警戒していく。先ほどまで自分がいた場所に目を向けると、そこには大きな弾丸が刻み込まれていた。

「異様に大きい弾丸……? まさか銃の怪人!?」

 そう。シノンの予見通り、目の前には狙撃手をモデルにした怪人であるトリガー・ドーパントが近づいていた。

「ゲームスタート……!」

 そう厳かに呟くと、彼は右腕に付けられた大型のライフルをシノンへ向けていく。

「そう簡単にやられないわよ!」

 ライフルからの発射のタイミングを見極めつつ、彼女は早くもこの怪人の攻略方法を見出していた。相手の出方を伺いつつ、こちらから勇猛果敢に距離を縮めていく。

「……発射」

 一方のトリガー・ドーパントも攻撃姿勢を崩すことは無い。シノンへ狙いを定めて、次々に弾丸を解き放っていく。

「ん!?」

そして、一発の弾丸が地面へと着弾。「ゴォォン!」と言う轟音と共に、辺りにはもくもくとした煙が上がっている。

「……死んだな」

 とシノンの敗北を確信したトリガー・ドーパントだったが、

「はぁぁぁぁ!!」

「何!?」

彼女はまだ生きていた。煙をかいくぐっていき、真剣な表情でトリガー・ドーパントへ向けて飛び上がっている。

「させるか!」

 と反射するように彼は、シノンへ向けて近距離から今度こそ銃殺しようとするが……

「それはこっちの台詞よ!!」

シノンもそう易々と無鉄砲には飛び込まない。彼女は弓を構えており、瞬時にトリガー・ドーパントの銃口に向けて弓矢を射ていた。

「発……何!? 防がれた!?」

 弓矢は見事に彼の銃口を防いでおり、銃として機能を丸々と失わせている。力を入れても弾丸を発射できず、むしろ不発した弾が銃内部で熱を帯びて暴発しようとしていた。

 これこそがシノンの密かに練っていた作戦である。

「さぁ、とどめよ! はぁ!」

 こちらの勝利を確信したシノンは、暴発寸前の銃内部へ向けて、追い打ちをかけるように弓矢をまた一矢解き放っていた。

「グハァ!? 貴様ぁぁぁぁ!!」

 この一矢が勝負の決め手となり、トリガー・ドーパントは最後まで攻撃が出来ぬまま爆死。彼の体を構成していたトリガーメモリも砕け散り、シノンは完膚なきまでに彼を叩きのめしていた。銃系統に詳しい彼女だからこそ、成しえた戦い方だったのかもしれない。

「フゥ……あんな怪人。私にとって、どうってことないわ!!」

 一度呼吸を整えていき、しっかりと勝利を感じ取るシノン。このまま次なる戦いへ向かおうとした時である。

「グハァ!!」

「えっ、キャ!?」

 なんと背後から気付かれることなく、次なる怪人が這い寄っていた。その怪人の正体は、超越生命体の一種クラブロード。神に近づこうとする人間を排除する怪人のようだが……

(補足を加えると、恐らく未来の時系列で太陽神ソルスのアバターを借りることを暗示していると思われる。しかしこの時系列では、知らないのも当たり前である)

「離しなさい!! この!!」

 それはさておき、クラブロードの強固な腕に掴まれてしまい、中々解放することが出来ないシノン。絶体絶命の危機に、近くで戦っていたあの男が助け船を出す。

「はぁぁぁ!」

「ウグっ!?」

 クラブロードの隙が出来ている背中に斬りかかるは、木刀を得てにする坂田銀時。文字通りの不意打ちが成功する共に、

「こっちだ!」

「銀さん!」

すかさずシノンを救出している。一度クラブロードから距離を離れて、二人は互いの無事を確認していた。

「おいおい、大丈夫か。怪我とかねぇのかよ」

「平気よ。そんな心配しなくても。ていうか、もっと早く手助けしてくれても良かったんじゃないの?」

「こっちだって、そんな暇は無かったんだよ。分かるだろ? てか、助けたヤツがキリトだったら、お前は首ったけになってただろ」

「うっさいわね」

「痛! 何しやがるんだ! 命の恩人によ!」

「そういう皮肉ばっかり言うから、キリトと違ってかっこよくないのよ! 少しは分かったらどうなの?」

「テメェのかっこいいの基準はどうなってんだよ! 図星突かれて焦ってんじゃねぇよ!」

 互いに軽口を交えながら話していると、いつの間にか険悪な雰囲気と化してしまう。シノンも本音を突かれたことで、反射的に銀時の腹部へ肘を突き付けていく。二人は不機嫌そうな表情を浮かべながら、喧嘩腰な態度を続けてしまう。

 ほんの些細なことから始まった二人の対立だが……その火種は一瞬にして鎮火する。

「ウググ!」

 調子を取り戻したクラブロードが、態勢を立て直して銀時やシノンへ標的を定めていく。それを察した二人は、難なく気持ちを切り替えていた。

「おっと、まずはアイツを倒さねぇとな」

「そうね……さっさと決めるわよ。銀さん!」

「あたぼーよ!」

 共に闘志を確かめ合いつつ、再び武器を構え直していく。幾ら文句を言おうとも、確かな絆を彼らは築いているのだ。

 すると銀時は早速、手に入れたライダーの力を一部だけ解き放っていく。

「じゃ、コイツで決まりだ!」

〈アギト! フレイムパワー!!〉

〈ビルド! 海賊レッシャーパワー!!〉

〈定刻の反逆者! 海賊レッシャー!! イェーイ!!〉

 アルヴドライバーを操作していき、二つの武器をベルトから召喚していた。一つは仮面ライダーアギト(フレイムフォーム)が使用する長剣、フレイムセイバー。もう一つは仮面ライダービルド(海賊レッシャーフォーム)が使用する弓、カイゾクハッシャーである。

「おらよ」

「えっ!? 何よこれ?」

「何って弓矢だよ。適当にイメージしたら出て来たんだ。有難く使えよ」

 と銀時はシノンに適した武器もついでに召喚したのだが……当然彼女は突飛な弓を目にして、困惑してしまう。

「いやいや、待ちなさいよ!! こんな変てこな弓矢、見たことないわよ!!」

「俺に文句言うなって! 一応英雄達の武器だから、お前にも使いこなせるんじゃないのかよ?」

「それとこれとは話が別よ!」

 カイゾクハッシャーを見れば見るほど、疑問が浮かんできて素直に使えない様子だ。船の錨にしか見えないデザインに加えて、弓矢ではなく小型の電車が弓の中心部に装備されている。とてもじゃないが使用するのにためらっていた。

 とまたしても話が揉めていた時である。

「ウゥゥ!!」

「おっと!?」

「キャ!?」

 その雰囲気を無視して、クラブロードが二人に向かって突進をしていた。銀時、シノンはそれぞれ左右に分かれており、攻撃を回避している。各々がライダーの武器を所持しており、シノンがカイゾクハッシャーを手探りで動かした時だった。

〈各駅電車~! 出発!!〉

「ウッ!?」

「えっ!? これで発射するの?」

 突如弓からは音声が鳴り響き、それと同時に光弾が発射されている。どうやら中心部の列車を動かすことで、それに準じた光弾を放つことが出来るようだ。また偶然にもクラブロードに、光弾が当たったようである。

 カイゾクハッシャーの使い方を理解したシノンは、俄然としてやる気を高めていた。

「へぇ~、面白そうじゃないの。ありがとうね、銀さん!」

「別にいいさ。さぁ、とっととこいつをやっつけちまおうぜ」

「そうね!」

 満足げな表情で銀時にお礼を交わすと、彼もフッと笑って返答する。こうしてライダーの武器を借りた二人による、反撃がとうとう始まった。

「行くぞ! オリャァ! とう!!」

「グル!! ウゥゥ!!」

 手始めに銀時がフレイムセイバーで、次々にクラブロードへと斬りかかる。その切れ味は十分にあり、彼の皮膚にはっきりとした傷跡を残していた。

〈急行電車~! 出発!!〉

「フッ!」

「ウグ!?」

〈快速電車~! 出発!!〉

「ヤァ! って、段々グレードが上がっている?」

 さらに追い打ちをかけるが如く、シノンがカイゾクハッシャーを使いこなして、クラブロードの傷を狙って光弾を射ている。弓の電車を引っ張る度に違った音声が流れて、それと同時に威力も上がることに、彼女はつい驚きの声を上げていた。

 完成されたコンビネーションの前に苦戦するクラブロード。彼の動きが鈍った隙に、銀時らはとどめを仕掛けている。

「今よ、銀さん!」

「おう、任せろ!!」

 シノンは掛け声を上げると同時に、カイゾクハッシャーを手前に出して、銀時へ差し向けていく。彼はそのまま近づくと、踏み台としてカイゾクハッシャーを利用。シノンは力一杯に銀時を投げ飛ばし、すかさずカイゾクハッシャーを構え直していく。

〈海賊電車~! 発射!!〉

「やぁ!!」

 電車を動かしつつ彼女は、最高火力である光弾を発射。それはまるで電車のような形をしており、クラブロードへ垂直に被弾している。

「ウゥ!」

 さらなる追加ダメージを負ったところで……

「食らえぇぇぇ!!」

「ン!? ダラァァァ!!」

銀時がフレイムセイバーで彼の体を一刀していた。その剣は一瞬だけ炎をまとっており、攻撃にさらなる拍車をかけている。

 無論この連続攻撃にクラブロードが耐えられることが出来ず……

〈ドガーン!!〉

スッと倒れこみそのまま爆死。銀時とシノンのコンビネーションの前に敗れ去っていた。

「ふぅ……やったな」

「そうね。さっきよりはかっこよかったわよ」

「ったく、もっと素直に言いやがれや」

 戦闘が終了し、シノンは銀時へ感謝しつつイゾクハッシャーを返している。普段通り落ち着いた態度で接するものの、内心ではより強い信頼を寄せていた。両者共にクスっと可笑しさを感じつつ、彼らは次なる戦いに臨む。

「まだ終わってないぞ!」

「次は俺達が相手だ!!」

 周りの戦闘員が倒されたと思えば、今度は一般級の怪人がこちらへと威勢よく近づいていた。妖精猫をモデルにした怪人ケットシーと、サソリをモデルにした怪人のスコーピオンイマジンである。

 両者の気配を察して、二人が再び戦闘態勢を構え直そうとした時だ。

「一気に仕留めましょう! 銀時さんにシノンさん!」

「って、シリカに月姉?」

「いつの間にこっちへ来たんだよ」

「ちと雑魚共は片付いてな。ここは四人で一気に片づけるぞ!」

「ナー!」

「……すまぬ。四人と一匹じゃったな」

 ちょうど戦闘員達を片づけていたシリカ、ピナ、月詠が銀時達に加勢している。共に体力は十分にあり、存分に戦う意思を示していた。

 すると彼女らは、銀時にある要望を促してくる。

「あの……銀時さん! アタシ達にも使わせてください。ライダーさん達の武器を!」

「って、お前も気になっていたのかよ。はいはい、じゃ……ライダー達に後で感謝は言っておけよ」

「はい、もちろんです!!」

 その要望は武器の貸し出しだった。どうやらシリカも、仮面ライダーの力が気になって仕方ない様子である。期待を込めた表情で相談すると、銀時はめんどくさがりつつも素直に応対していく。

〈電王! ソードパワー!!〉

〈カブト! ライダーパワー!!〉

〈W! ルナトリガーパワー!!〉

〈鎧武! イチゴパワー!!〉

 なんと欲張りにも、一気に四体分のライダーの力を解放する。四人それぞれに応じた武器を召喚しており、月詠には鎧武(イチゴアームズ)の使用するイチゴクナイ。シノンにはW(ルナトリガー)の武器である片手銃のトリガーマグナム。シリカにはカブトの専用武器のカブトクナイガン(クナイモード)。そして銀時には、電王(ソードフォーム)のメイン武器デンガッシャー(ソードモード)を手にしていた。まさに大盤振る舞いな光景である。

「……って、随分と変わった武器じゃな」

「でも、さっきよりはシンプルね」

「このまま一気に片づけちゃいましょう!」

「ナー!」

「おうよ。いくぜ、いくぜ、行くぜ!!」

 四人はそれぞれに適した新たな武器をしっかりと握りしめて、こちらに襲い掛かる怪人達へ真っ向から立ち向かう。手始めに月詠とシノンが仕掛けている。

「フッ! セイ!!」

「ウグ!?」

 前者はスコーピオンイマジンに対し、彼の腹部へ集中的な攻撃を与えていた。イチゴクナイを華麗に振るいつつ、敵の動きを見透かして行動している。仕舞いにはスコーピオンイマジンの武器である斧も、月詠の不意打ちによって叩き落とすことに成功していた。

「ハァ! そこよ!」

「何!?」

 一方でシノンはトリガーマグナムを巧みに操り、発射した光弾を着実にケットシーへと被弾させている。相手がどんなに俊敏な動きをしても、移動する位置をすぐに把握。スナイパーとして才を惜しげもなく発揮していた。そして相手の動きが鈍った隙に、次々に光弾を打ち込んでいく。

 そう。月詠とシノンの狙いは、部分的な攻撃を得て、強制的に弱点を植え付けるものだったのだ。

「今じゃ、シリカに銀時!」

「このままとどめを刺しなさい!」

 そして頃合いを見た二人は、即座に後ろでこっそりと控えていた銀時とシリカに役割を仰いでいく。両者はライダーの武器を握りしめたまま、それぞれ標的とした怪人達へ向かい、必殺技を繰り出していた。

「行きます! やぁぁぁ!!」

「ウゥゥ!?」

 早速シリカは素早さを活かした必殺技を、ケットシーへと浴びせている。カブトクナイガンをまるでダガーと同じ手法で扱いながら、次々にシノンが光弾を撃ち込んだ個所へと斬り刻んで行ったのだ。

「フッ! 俺達の必殺技……パートキンテキ!!」

「何を!! って、グッ!?」

 その傍らで銀時も、デンガッシャーを用いた必殺技をスコーピオンイマジンへ繰り出している。適当に名付けた必殺技名であるがそれはさておき、こちらはまず敵の腹部へ向けて一刀した後に、電王の必殺技が如く剣の先端を自由に動かして、追い打ちとも言える追加ダメージを与えていた。その先端の行先は……スコーピオンイマジンの局部である。

「悶絶しやがれぇぇぇぇ!!」

「ギャァァァ!!」

 そして仕舞いには、先端を怪人の局部に突き刺したまま、遠距離から力づくで持ち上げていく。もはやノリと勢いだけで突き進み、持ち上げた後にはそのまま突き放し、地上へ容赦なく叩き落としている。彼だから出来る戦法と言ったところか……。

 仲間達の補佐を基にして、確実的に仕留める四人の作戦。言葉を交わさずとも息の合った手段に……

「「くっ……おのれぇぇ!!」」

二体の怪人達はなすすべもなく倒されてしまった。撃破と同時に怪人側は体を爆破させている。燃え盛る炎を背景に、四人と一匹が再び集結すると、彼らが手にしていた武器はスッといつの間にか消失していた。

「ん? もう消えちまったか」

「でも、とっても助かりました。ありがとうございました、ライダーさん!」

 シリカは銀時の言う通り、しっかりとライダー達に感謝を伝えている。

 一方でシノンと月詠は、銀時なりの必殺技に注目を寄せていた。

「ところで銀さん? あの必殺技は一体何なの?」

「あぁ、アレか? ただのノリと勢いでやってんだよ」

「そんなのであそこまで集中的にやるか?」

「ナー?」

「ちょっとドン引きです」

「仕方ねぇだろ! お前らライダーの事情知らねぇから、そう好き放題言えるんだよ! 良いだろ、別に!」

 どうも銀時のやり方に納得がいかない様子である。ピナまでもが微妙な反応を示しているが、彼本人はすぐに反論していた。中々意見の嚙み合わない四人である。

 そう戦闘終了時にささやかな会話を交わしていた時だった。

「ん? アレは……?」

 銀時はふとある怪人の姿を発見している。それは一度襲撃を仕掛けてきた幹部怪人の一体であるゴ・ガドル・バだ。彼はこちらへ気付くことなく、別の場所へと移動しているようだが……。

「ちょうど良い。おい、お前ら。ちと用事が出来たから、ここはお前らに任せるわ。後は頼んだぞ」

「って、銀時さん!?」

「急にどこへ行くのよ?」

 銀時は反射的にゴ・ガドル・バを追いかけることにしており、適当な理由を付けて仲間達の元から離れていた。特に理由を聞かされていない三人は困惑こそするも、銀時なりの考えがあると後に括っている。

「まぁ、ヤツなりの狙いがあるのじゃろう。ここはわっち達で任せるか」

「そ、そうですね!」

「気を取り直していきましょうか」

「ナナ―!!」

 銀時の代わりに月詠がリーダーシップを取り、シノンらを上手く引っ張っていた。誓いを新たに三人と一匹は新たな敵がいないか、近くを見廻ることにしている。

 こうして噴水路及び水辺での戦いは、一旦幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 次なる場面はアルン中心街から程なく離れた街路。そこには町民ご用足しの鍛冶屋があり、その隣では武器庫が建てられている。強者が多く足を運ぶエリアであり、通称「ALO星の鉄の町」と非公式ながら称されていた。

 そんな場所で物騒にも刀や斧を交えて怪人軍団に立ち向かうのは、近藤勲、エギル、土方十四郎、クラインの屈強かつ信念を貫く大人の男達である。

「おりゃぁぁ!!」

「そこだ!!」

 こちらも二手に人員を分けており、通路付近では近藤とエギル。

「おらよっと!」

「フッ……ハァ!」

 そして半壊した武器庫付近には、土方とクラインが対処に当たっていた。どの男達も容赦のない一撃で次々に戦闘員を蹴散らし、歯向かう者達を一瞬にして放り去っている。

「チッ! まだこんなにいるのかよ!!」

「俺達が倒したと言っても、所詮は雑魚共だ。まだまだ先は長いってところだな……!」

 土方、クライン共に一度背中合わせとなり、周りにいる敵の人員を把握していく。現在両者は武器庫の中心におり、ちょうど数十名の戦闘員達に囲まれている状況だった。彼らに標的を向けるは、カッシーン、ライオトルーパー、魔化魍忍群、シアゴースト、レイドラグーンと言った戦闘員の大群。並びに彼らを指揮する、三体の一般怪人達である。

「ウゥ……!」

「覚悟しろ……!」

 彼らは武器や腕を、クラインらに向けて威勢よく差し向けていた。一般怪人の正体はイカをモデルにしたミラーモンスター、ウィスクラーケン。タコをモデルにしたオクトパスオルフェノク。トカゲをモデルにしたリザードアンデッドの計三体である。奇しくも三体中二体が軟体動物関係だった。

 とそれはさておき、敵に囲まれている状況下でも二人の心境は一切変わっていない。両者は互いの想いを確かめ合うように、背中越しで話していく。

「なぁよ、土方さん。ちょいと厚かましいが、俺の背中を守ってくれねぇか?」

「文字通り厚かましいな。まぁ、いいぜ。その代わり俺の背中も守ってくれや」

「言ってくれるじゃねぇか。もちろんそのつもりだぜ」

「「だからここでくたばるんじゃねぇよ……!!」」

 そう言葉を交わすと、二人は各々が持つ刀を強く握りしめていた。数時間前に敵対すべき相手と分かったにも関わらず、土方は一切ためらうことなく、クラインとの共同戦線を望んでいる。理屈からか情からは不明ではあるが……恐らく後者であろう。

 一方でクラインも、土方の心情を見越して一時的な共闘を持ちかけていた。正体がバレる前からごく僅かではあるが関わりがあり、彼なりの優しさがあれば大丈夫と心の中では自信があったようである。

 刀に誓って、新たな可能性を見出す二人。戦闘への呼吸を整いつつ……その目を輝かせて、得手を構えていく。

「行くぜ!!」

「おう!!」

 クラインが先走ると共に土方も動き出す。目指すは怪人達のせん滅。容赦のない一刀を繰り出し、二人の侍は自身の本領を発揮していく。

「ヤァ! フッと」

「ウゥ!?」

「ギィ!?」

 手始めに土方はなるべく自身の自由が利く場所へ移動。戦闘員達をおびき寄せた内に、倒しやすい最適な順番を瞬時に逆算。そのまま自信を持って斬りかかっていく。

「そこだ! この……!!」

「アギャ!!」

「ギギ!」

 当然次々と不意を突かれたライオトルーパーやレイドラグーンは、なすすべもなくそのまま傷を刻まれる。土方の瞬時な判断が功を奏したのか、数十体ほどいた戦闘員は瞬く間に壊滅。跡形も無く倒れていってしまった。

「フッ……山は越えたか?」

「まだだ!!」

「おっと!? いつの間に……!」

 目の前の大群を倒しきり、改めて土方は近くにいる怪人を探っていく。すると背後から足音を立てずに、オクトパスオルフェノクが襲い掛かろうとしていた。彼は瞬時に敵意を察して、一度距離を遠ざけていく。そのまま刀で応戦しようとするも、土方の頭にはある事が過ぎっていた。

(いや、待て……! ヤツの頭部はタコの触手か? だとすると……)

 オクトパスオルフェノクの外見を見て、早くも彼の形状がタコと同一であると予見。そこから思い浮かぶは、ヌメヌメした体と伸縮可能な触手。武器を持っていないことから、格闘戦が主力であるとも考えつく。多くの危険的な要因を脳内で整理していた。

 だとすれば、彼が出すべき答えは一つである。

(これなら行けるか? ちょうどブツもあるしな)

 土方はある閃きから、周りに弱点を突くための必要な物が無いか注視していた。その目途が付くと彼はフッと笑い、オクトパスオルフェノクをそこへ引きずりこもうとする。

「何を考えている!? 貴様も倒れるが良い!」

「よっと! そうはいくかよ!!」

 土方の企みなどつゆ知らず、オクトパスオルフェノクは腕を伸縮しながら、彼へ意地でも殴りかかろうとしていた。土方本人は間一髪で攻撃を避けつつ、そのまま起死回生の一手を手にしている。その正体は……鍛冶屋が火を起こすために必要な薪や炭だった。

「よし……これでも食らいな!」

「ハァ? これだけで何をしようと言うのだ?」

 土方はそれらを惜しげもなく、オクトパスオルフェノクへ向けて飛ばしていく。当の怪人側は彼の狙いが分からずに、余裕そうな態度で接していた。第一火を起こせる物が周りに見当たらないので、薪や炭を投げつけられても痛くもかゆくもないのである。

 と余裕そうに振る舞えていたのもここまでの話。土方にはちょうど簡単に火を起こせるものを常備していたのだ。

「こうするんだよ!」

 と作戦がもう悟られないと括り、土方は懐から取り出した……簡易的なライターを、オクトパスオルフェノクへ向けて投げ飛ばしていく。

「ん? ラ、ライター!?」

 ようやく土方の狙いを理解出来たオクトパスオルフェノクは、戸惑いつつも必死に逃げ出そうとする。けれでも時すでに遅く……

〈フッ〉

「ギャァァァ!!」

ライターが火元となり火柱が上がっていた。辛うじてオクトパスオルフェノクは瞬時に逃げ出したものの、軽い火傷状態となり上手く動くことが出来ていない。土方の狙いとはまさに火責め。圧倒的な火炎を用いて、彼に攻撃する隙を与えないようにしている。

(余談だが、脳内ではたこ焼きから連想してこの作戦を思いついていた。誰にも言えない秘密とも言える)

「待っていたぜ……このまま燃え尽きろ! ヤァァァァ!!」

 そして土方はとどめと言わんばかりに、刀を構えて彼へと斬りかかっていく。その一刀が勝負の決め手となっていた。

「お、おのれ……!!」

 そう悔しがるように叫んだ後に……青い炎を上げながら、体を灰にして砕け散っている。一方の土方は斬りかかる最中に、火を付けていた煙草の味を確かめつつ、勝利の余韻へと浸っていた。

「折角火を起こしたってのに、なんかしょっぱいな」

 特別な味がするのかと思いきや、特に自分好みでは無かったらしい。苦い表情のまますぐに口元から取り出して、先ほどの火と共に鎮火しようとした時である。

「ん? スプリンクラーか? えっ? ここ常備していたのかよ」

 なんとちょうど良いタイミングで、天井からスプリンクラーが噴射。薪で燃やした火や土方の煙草もろとも、一瞬にして鎮火してしまう。土方は一応スプリンクラーが設置されていることにも驚きを受けていたが。こうして文字通りヤマを乗り越えた土方は、水に濡れながらクラインの元へ戻っていく。

 そしてちょうど土方がオクトパスオルフェノクと対峙していた時に、クラインもある怪人との激闘を繰り広げていた。

「ったく、ちょこましいぜ! これでも食らいな!!」

「ギィィ!」

「クッ!!」

 手始めに彼は手段で襲い掛かる魔化魍忍群やシアゴーストの大群を一掃。自慢の刀を振り回しつつ、バッサバッサとなぎ倒していく。土方とは異なり無鉄砲に突っ込んでいるものの、着実へ相手を斬りかかる戦法から、戦闘員達は彼の気付かぬままに次々と倒されている。元の世界にいた時と比べて、攘夷志士として培った経験をこの場で発揮。いつの間にして強固となった刀戦術で、怪人達を圧倒していく。

 そしてこちらも戦闘員を大方倒した時だった。

「よっしゃー! これで後は……」

「シュシュウ!!」

「うわぁ!?」

 彼の首根っこを掴み、奇襲を仕掛けていた怪人がいる。その名はウィスクラーケン。特殊な槍を装備しており、あわよくばその武器でクラインを打ち倒そうとしていた。

「シュシュ!!」

「ってコイツ……言葉が通じないのか? 見た目通りのモンスターかよ!」

 奇妙な鳴き声を発することから、クラインはウィスクラーケンをただのモンスターだと把握。無論倒すことに変わりはないのだが……首根っこを掴まれている今、上手く動くことはままならない。

(これじゃどっちにしろ刺されるか……いや、待て!)

 絶体絶命の窮地の中、クラインはふと我に返りある作戦を思いつく。それは床下に散らばる武器の数々を見たのがきっかけであった。

「おっ、そうだ!」

 考えがまとまった彼は、早速実行へ移そうとしている。

「シュシュウ!」

「そうはいくかよ!」

「シュ!?」

 まずは槍を差し向けようとしたウィスクラーケンに、辛うじて動いた足を使って思いっきり邪魔を企てていく。意表が付かれた彼は困惑して体の力が急に緩み、クラインを解放させてしまった。さらには、

「今だ!!」

「シュシ!?」

戸惑っている隙にクラインが刀を用いて、ウィスクラーケンの槍を弾き飛ばす。これにて難関だった問題の一つを突破することが出来た。

「シュ!!」

 武器を理不尽にも飛ばされて、ウィスクラーケンは素直に激高。頭上にある口から、イカ特有の煙幕を放射していく。だがしかし、

「これも対策済みなんだよ!」

「シュ!?」

クラインにはもう通じない。彼は足元にあった盾を装備しており、そのおかげで煙幕を弾き返すことに成功している。煙幕はちょうどウィスクラーケンの頭部に被弾しており、彼の視力を失わせることに成功していた。

「シュ!? シュ!?」

 と彼が戸惑っている隙に、クラインがとうとうとどめを仕掛けていく。

「行けぇぇぇ!」

「シュ!? シュゥゥゥゥ!!」

 彼は真剣な表情のまま、刀を用いてウィスクラーケンへ連続攻撃を与えている。体全体へまんべんなく切り刻み、このまま難なく撃破しようとしていた。

 用いるものを全て使ったクラインなりの作戦。それにハマったウィスクラーケンは……

「ウ……」

唸り声を上げたまま爆死してしまう。一人の侍の前に、彼はなすすべもなく倒されていた。

「よっしゃー! 一体撃破だ! って、雨!?」

 早くも勝利を噛み締めるクラインの前に、唐突な場面の異変が起きている。それは土方が仕掛けた火災にスプリンクラーが反応しているだけであり、事情を知らない彼からすれば何のことだがさっぱり分かっていない。

 と油断している背後に、怪人達で生き残ったリザードアンデッドが奇襲を仕掛けようとした時である。

「ウゥ!」

「ん!?」

「フッ!」

 そこへちょうど良く土方が割り込んできてくれた。

「ハァァ!」

「キュウ!?」

 土方はリザードアンデッドを瞬く間に一掃し、彼を刀だけで弾き飛ばしている。物理的な意味となったが、これで背中を預ける約束は果たされたとも言えるか。

「おい。約束は守ったからな……!」

「フッ、おう! サンキューな、土方さん!」

 ふてぶてしくも律義に事を返す土方と、彼の素直さを受け入れてクスっと笑うクライン。敵対すべき相手にも関わらず、こうも相性がそれほど悪くないのは、互いの年が近いのも関係しているのか?

 とそれはさておき二人は、倉庫内に残ったリザードアンデッドに向けて、最後の攻撃を仕向けていく。

「そんじゃ、とっとと決めるぞ……!」

「おう、任せろ!!」

 軽く言葉を交わした後に二人は、勢いよく走り出す。そして自身の刀を構えたまま……

「「はぁぁぁぁ!!」」

「ウゥ……グハァァァ!!」

リザードアンデッドへ向けて力強く切り裂いていく。互いに全力を込めた一刀。リザードアンデッドも一度右腕に装着された剣で応戦するも……すぐに押し切られていた。

 彼は倒された直後に後ろへ倒れこみ、腹部のバックルがシュと開錠する。他の怪人に比べると、何故か爆発せずに体を残したままだった。

「よっしゃーやったー!! って、なんで体が残ってんだ?」

 一度勝利を喜んだクラインも、これには疑問を覚えてしまう。不思議そうに見つめる中で、土方がある予測を立てていく。

「姿が丸々残る怪人じゃないのか? とりあえず武器庫から出るぞ」

「おっ、おう! そうだな……待ってくれよ、土方さん!」

 てっきりこれまでとは違うタイプの怪人だと悟り、クラインと違って特に不安視することは無かった。それよりも土方は水で冷めた武器庫から脱したいがために、近藤やエギルのいる外部へと移動しようとしていた。クラインも彼の跡を追いかけようとする。

 だが二人はまだ気付いていない――アンデット全体の特性が不死であることにも。

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃぁぁ!」

「フッ、ハァァ!!」

 一方でこちらは、武器庫近くの街の通路。穏やかそうな街並みを感じさせるこの場所に、二人の屈強な男達が戦闘員達を次々に倒していく。そう、近藤とエギルの二人だ。

「おい! 確かエギルって言ったか! そっちの怪人共は任しても良いか?」

「もちろん良いぜ……!確か近藤さんか? そういうアンタも、クライン共が来る前に怪人の一掃を頼むぞ!」

「任せておけ! お互い年長者同士……豪快な戦いをしようじゃないか!」

「その考え……乗ったぜ!」

 二人は適度な距離を保ちつつ、自身が相手すべき敵の範囲を割り振っていく。近藤は主に右側を。エギルは左側を対応するようだ。

 近藤の提案した豪快なやり方にエギルも賛同しており、ここからは互いの力を活かした戦闘が始まる。

「行くぞ!!」

 手始めに近藤が刀を構えて、こちらへと向かうカッシーンらを次々に斬りかかっていた。

「おぉぉぉ!!」

「ギィィ!」

「ウグ!?」

 一つ一つの容赦のない一撃の数々を受けていき、戦闘員達は攻撃する暇もなく翻弄されてしまう。多勢で襲い掛かってこようとも、

「ハァァァ!!」

「ギィィ!!」

刀を振り回していきそのまま倒されてしまう。勢いを付けた彼の猛攻には、誰一人として手出し出来ない。本気の近藤として戦いに順次していく。

 そんな彼の前に、次なる刺客が襲い掛かろうとしていた。

「ウゥゥ!」

「おっと、何だ!? 真っ黒い怪人か?」

 彼の隙を突こうとしたのは、ストロングスマッシュ。岩の特性を有しており、頑丈さを武器に戦う厄介な怪人だ。そんなストロングスマッシュは早速、自身の体を用いて近藤を押さえつけようとしている。

「フゥゥ!」

「おっと!?」

 不穏な動きを察して、近藤はすかさずそれを回避した。だがストロングスマッシュもそう簡単には攻撃を諦めない。

「ウゥゥ!!」

「ん!?」

 今度は相手の隙を見て、勢いよく近藤へと突進している。このまま押し倒そうとしたのだが……

「ウゥ!?」

なんと近藤はストロングスマッシュから繰り出された腕を、歯を用いて力づくで食い止めていた。意地でも倒れることは無く、自身が有利なうちに怪人を倒そうと踏ん張りを見せている。

「ッシャァァ!!」

 無我夢中なままストロングスマッシュを投げ飛ばすと同時に、その隙を見て近藤は刀を強く握り直していく。

「悪いが頑丈ってなら……俺の方が上だぁ!」

「グゥゥ!!」

 そう想いの丈を存分に発した後、怯むストロングスマッシュへ向けて次々と自身の刀で切り刻む。

「ハァァ!」

「ウゥ……グルルゥゥゥ!!」

 そしてとどめとして刀を彼の腹部に向けて突き刺すと同時に、ストロングスマッシュの体に火花がバチバチと走る。自身の勝利を確信した近藤は刀を引き抜き、一度場から離れる。

 一方のストロングスマッシュは――緑色の炎を上げながら、無残にも体を散らせていた。異様な踏ん張りを見せた近藤が、一歩上手だったようである。

「ふぅ……厄介な怪人だったな。だが……俺の方が堅かったってことだ!」

 そう意気揚々と勝利について語ると同時に、近藤はそのままエギルの加勢に加わろうとしていた。

 一方のエギルはと言うと、順調に戦闘員の大群を蹴散らしている。

「よっしゃ、行くぞ!!」

「ギィィ!!」

「ウグ!?」

「トゥ!?」

 彼の雄たけびとも言える大声と同じくして、斧を力強く振り回していき、向かい来るライオトルーパーやカッシーンを次々に薙ぎ払っていく。近づこうにもそのまま勢いで倒されるので、戦闘員達の中には彼との戦闘を放棄して、別の戦闘場所へ移動する者も少なくないようだ。

 と思ったよりも戦闘員を一掃したと思えば、二体の重量級の怪人が彼に勝負を仕掛けている。

「次は俺達が相手だ!!」

「覚悟するんだな!!」

「ん!? ほぉ……俺に相応しい相手だな!」

 エギルに標準を定めてきたのは、オリオン座をモデルにした怪人のオリオン・ゾディアーツと、牛をモデルにした怪人のミノタウロス。前者はこん棒と盾。後者は長斧と重量感のある武器を持っており、まさにエギルとも互角に張り合えそうな怪人達である。

 彼らは一度互いを睨みつけると……各々の武器を用いて殴りかかっていた。

「ハァァ!」

「させるか、フッ!」

「どうだ!!」

 最初は互いの武器を振るわせつつ、拮抗とした戦闘を続ける三名。エギルも攻撃と防御の姿勢を入れ替えながら、慎重に相手を倒すべく状況を見定める。

 拮抗とした戦況が続く中で――一足先に動いたのはエギルだった。

「だったらこれだぁぁ!!」

「そうはい――って、何!?」

 彼は手にした斧を怪人達の足元へ向けて攻撃しており、それを予想出来なかったミノタウロスらは転倒してしまう。思わぬ不意打ちを受けて、態勢を立て直そうとした――その時である。エギルが一か八かの攻撃を仕掛けようとしていた。

「まだまだ終わらないぞ! ヤァァァ!!」

「うわぁぁぁ!!」

「えぇぇぇぇ!?」

 なんと彼は、転倒したオリオン・ゾディアーツの両足や体を力づくで持ち上げており、それを武器代わりとして活用しようとする。

「吹っ飛べぇぇぇ!!」

「ぎゃぁぁぁ!!」

「や、やめろぉぉお!!」

 力んだ表情を浮かべながらもエギルは、己の力を限界まで振り絞り、持ち上げたオリオン・ゾディアーツを力づくで振り回していく。予想外の攻撃には怪人側も上手く対処できず、どちら共に物理的にも精神的にもダメージを与えていた。

「おりゃぁぁ!」

 そして成すがままに、オリオン・ゾディアーツを振り下ろしたその時である。

「これでとどめだぁぁぁ!!」

 間髪入れずに彼は自身の斧を持ち直し、二体が混乱している隙にとどめを刺そうとしていた。

「うぉぉぉぉ!!」

 斧の切れ端に力を込めて、相手の体へ当たるように斬りかかっていく。無論振り回し戦法によって、動きが十分にままならない二体の怪人達は……

「「グハァァァ!!」」

エギルが斬り逃げすると同時に爆発。断末魔を上げながら、木っ端微塵に倒されてしまう。剛力で押し切ったものの、やはりエギルにとっては少々無理の生じた戦いだったようだ。

「はぁ……やったか?」

 荒くなった息を整えつつ、彼は周りの状況を分析する。自身の戦った怪人は無事に倒されており、激闘を制したことにエギルは少しだけ安堵を覚えていた。

 だが安心するのはまだ早い。敵はまだ潜んでいるのだ。

「ハァ! そこだ!!」

「何!?」

 目を離した隙にまたも怪人が襲い掛かり、エギルは反射的に斧を構えて、彼からの攻撃を防いでいく。その怪人の名はシンムグルン。玄武をモデルにしたオーバーロードインベスだ。こちらも斧を所持しており、エギルへ容赦なく斬りかかろうとする。

「オリャ!」

 一度体制を立て直すためにエギルは、斧で一勝しシンムグルンとの距離を開けようとしていた。けれども彼の猛攻は終わらない。

「甘いは! フッ!!」

「何!?」

 シンムグルンは背中に装備された甲羅から、蛇を伸ばしてエギルへ差し向けていく。いわば触手のように用いて、彼の体を拘束しようとしたのだが……

「させるか!」

〈キーン!〉

「何!?」

ちょうど良いタイミングで近藤が加勢に入って来てくれた。シンムグルンから発せられた蛇は、彼の刀技によって瞬く間に斬られて、その効力を失っている。颯爽と現れた彼は、早速エギルの無事を確認していた。

「おい、大丈夫か?」

「あぁ、何とかな。あんがとよ、近藤さんよ」

「おっ、覚えてくれてありがとよ! そんじゃ……一緒にあの化け物を倒すか! エギルさん!」

「任せろ!」

 互いの状態を確認出来たところで、エギルと近藤は遂に共闘戦線を結ぶ。協力してシンムグルンを倒すことを決意していた。

「行くぞ!」

 刀や斧を握りしめて、真っ向から立ち向かう二人。シンムグルンも斧を構えつつ、彼らと同じく接近戦に応じていく。

「フッ、ヤァ!」

「トゥ! またか!」

「ハッ! 俺の甲羅はどんな攻撃を当たらねぇよ!!」

 次々と斬りかかろうとするも、シンムグルンはすぐに防御姿勢を構える。そう背中の甲羅を用いて、彼らからの攻撃を無効化していた。これでは倒すのにも時間がかかってしまう……かと思えば近藤はある打開策を閃く。

「あっ、そうだ! おい、アレで行くぞ!」

「アレ……? あぁ、なるほどな!」

 近藤はエギルへ簡略的に仰いでおり、エギルもまた近藤の刀を見て、彼の言いたかったことを理解したらしい。そう考えを一致させた二人は、勇猛果敢にまたもシンムグルンへ真っ向から立ち向かう。

「何度やっても、無駄だ!!」

 とシンムグルンがまたも防御姿勢を構えようとした時である。

「させるか!!」

「こっちもだ!!」

「ハァ!? 何!?」

 なんと近藤とエギルは、自身の持っていた刀や斧をシンムグルンへと投げつけ、彼の上半身へ突き刺していたのだ。これではとても背中を丸めることも出来ず、シンムグルンの注意は突き刺さった刀や斧へ向けられている。これこそが二人の狙いでもあったのだ。

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

「なぁ!? ブフォォォ!!」

 シンムグルンが怯んでいる隙に、二人は拳を握りしめて容赦なく彼に殴りかかっている。防御姿勢を整えていない彼にとっては思わぬダメージであり、パンチを受けたと共にそのまま吹き飛ばされてしまう。

 まさに脳筋ならではの痛恨の一撃。シンムグルンもこれには一杯食わされてしまい……

「ギャァァァ!!」

そのまま勢いよく爆発してしまう。それと同時に近藤の刀とエギルの斧は空中を舞い、ちょうど良く彼らの手元へと戻っている。

「おっしゃ! あの化け物も倒せたぜ!」

「アンタの作戦のおかげだな」

「いやいや、エギルさんも中々強かったぜ!」

 両者は戦闘が終わると同時に、互いの健闘を称え合っていた。思わぬ絆が芽生えた瞬間でもある。

 そう会話を交わすうちに、唐突にもクラインと土方が彼らの前に吹き飛ばされてきた。

「うわぁ!?」

「くっ……!?」

「って、トシ!? クラインさんも!?」

「一体何があったんだ!?」

 両者共に何かの攻撃を受けた様子であり、近藤らは土方に何が起きたのか素直に聞いてみる。すると二人が言う間もなく、とある怪人が一行の前に出現していた。

「ムフフ~~あらあら、ゴリマッチョもいるよね! でも……赤のイケオジが良いかしら? アタシと遊ばない~?」

 体をくねくねさせながら、オカマ口調で話したその怪人の名は……ルナ・ドーパント。幻影の力を宿しているが、その性格とは裏腹に性格は乙女。イケメンを求めて戦場を這い回る、ある意味で恐ろしい怪人だった。

「おいおい、こんな欲望剥き出しの怪人をいるのかよ……!」

「あぁ、そうだぜ! こっちの調子が狂うから、かなり厄介だぜ!」

 エギルが恐ろし気に呟くと、クラインも威勢よく答えていく。どうやら土方と共闘してもなお倒せないようで、かなりの強敵として捉えていた。

「あの野郎……急に抱き着いてくるは、腕を伸ばして拘束してくるはで滅茶苦茶だぞ!」

「えぇ? そうなのか!? 嫌だ! 抱き着くなら絶対お妙さんが良い!」

「そういうことを言っているんじゃねぇよ!」

 土方もルナ・ドーパントの実力に恐れを成しており、その情報を聞いた近藤は何故か妙のことを思い出す。思わぬ解釈違いに、土方は激しくツッコミを入れていたが。

 とそれはさておき、厄介なことが起こる前にルナ・ドーパントは倒しておきたい。作戦を練る土方は、一か八かの賭けに動こうとしていた。

「おい、お前。しばらく歯を食いしばれるほど、我慢できるか?」

「急にどうしたんだよ? まぁ、特に俺は問題ないが」

「そうかい……じゃ、行ってこい!!」

「えっ!? ちょ、ちょっと!!」

 一応クラインに確認を取ったところで、彼は無理矢理クラインの背中を強く押している。前方に思わぬ形で出たクラインは、そのままルナ・ドーパントと接触してしまった。

「あらあら~! 自分から来てくれたのね~! イケメンで素直な子は……嫌いじゃないわ!! アタシが抱きしめて、あ・げ・る!」

「ひぇぇぇぇ!! こんなヤツに好かれても、俺は嬉しくねぇって!! おい、土方さん! どういうことだよ!!」

 ルナ・ドーパントはクラインを好意的に見ており、腕を自由に伸ばして、そのままガッチリと掴んで離さない。このまま何をされるのか分からない恐怖に、彼は引きずった表情を浮かべてしまう。土方への信頼が揺らいでいるが……当然これには彼なりの狙いがある。

「いいか? 近藤さん達は左右に分かれて、あの触手をぶった切れ! 俺はこのまま前方から斬りかかり、とどめを刺す!」

「わ、分かった!」

「任せておけ!」

 そう彼は手短に、エギルと近藤の作戦の概要を打ち明けていた。土方の狙いはあえて囮を作ることで、怪人を四方八方から一撃で仕留める。所謂有利な状況を作ることだった。全員分の力が合わせれば倒せると見込んでいる。(因みにクラインを囮にした理由は、ルナ・ドーパントの受けが誰よりも良かったことにあった)

 自身の真意が相手側へ気付かれないうちに、エギルと近藤は土方に指定された場所まで移動。ルナ・ドーパントを取り囲むように包囲網を作っていく。

「あらあら? いつの間にか取り囲まれているわ! 良いわよ~一緒に遊びましょう!」

 と浮かれたような口をするルナ・ドーパントだが、その言動とは裏腹に彼は左右の腕を触手のように伸ばして、クラインと同様にエギルや近藤も捕縛して、彼らの動きを封じようとしている。

「フッ、ハァ!」

「トシ! 自分のタイミングで行けぇ!」

 ところが二人は怯むことなく、斧や刀を用いて次々と襲い掛かる触手を叩き斬っていく。両者共触手の動きを目で追うことが精一杯で、それらを斬り続けることで相手の注意を向けさせている。

 その最中に土方は、がら空きになった正面に一刀を切り刻もうとしていた。

「はぁぁぁ!」

 そして頃合いを見定めながら、彼が勢いのままに斬りかかろうとした時である。

「ん? 邪魔よ!」

「うわぁ!?」

「トシ!?」

 あと一歩手前で気配を悟られてしまい、土方は触手の不意打ちを受けて、そのまま怯まされてしまう。さらには構えていた刀まで落とすなど、一気に窮地へと叩き落とされてしまう。

「悪い子にはお仕置きよ! 最高に締め付けるわ!!」

 ルナ・ドーパントは土方の行動に激高し、クラインと同様に触手で行動を制限しようと企てていく。現在武器を叩き落とされた今、土方にとってはまさに絶体絶命の状態。エギルや近藤も自分のことで手が回らない。

 そんな彼を手助けしたのは……まさかのクラインであった。

「土方さん!! これ使え!!」

「これは……!」

 拘束されながらも必死になって彼に投げつけたのは、クライン自身が持つ刀。それを受け取った彼は、素直に想いを汲み取ってその期待に応えていく。

「おりゃぁっぁぁ!」

「な、何!? そんな!?」

 ルナ・ドーパントの伸ばしてきた触手を、土方はクライン愛用の刀を手にして一刀。即座に切り刻んだ後、彼は大きく飛び上がっていた。

「はぁぁ!」

「ギャァァ! 取れちゃった!!」

 彼が狙うはクラインを拘束する触手であり、勢いよく斬りかかることでそれを解放している。彼が地面へ着地すると共に、偶然にも落ちていた土方の刀を装備していく。意外な形で武器交換が実現している。

「あんがとよ、土方さん!」

「あぁ! 行くぞ、てめぇら!」

「おう!」

「了解!」

 ルナ・ドーパント側が怯む隙に、四人の男達は一気に蹴りを付けようとしていた。目指すは無防備とも言える上半身である。

 一方で妨害されたルナ・ドーパント側は、自暴自棄と化し腕を伸ばして彼らに叩きつけていく。

「この! この!!」

「させるか!」

「行くぞ!」

「「「「はぁ!!」」」」

「キャ!?」

 それらを瞬時に避けつつ四人は、同じタイミングで四方八方からルナ・ドーパントへと斬りかかっていた。この攻撃が致命傷となり、耐え切れなくなった彼は……

「イケオジ達の友情……嫌いじゃないわ!!」

と叫び声を上げながら爆死している。他の怪人に比べると個性的であり、撃破しても近藤らには疑問が浮かぶばかりだった。

「結局何だったんだ、あの怪人は」

「モチーフもまったく分かんなかったな」

 特に外見のモチーフが未だに分かっていない。

 一方でクラインと土方は、互いに借りた武器を返却している。

「ったく、無茶苦茶やるぜ。土方さんはよぉ!」

「俺はただ最適な手段を選んだだけだ。ほら、刀返すぞ」

「おう。どうだったよ、刀の使い心地は?」

「まぁまぁだ。可もなく不可もなくだな」

「そういうことじゃなくてさ、もっと言うことあるだろう!」

「うるせぇ。ごたごた言っていると、この場で確保すんぞ」

「いやいや、それだけは勘弁を!」

 その最中に会話を交わすも、調子に乗ったクラインが馴れ馴れしく土方へ話しかける。少しばかり不満に思った土方は、温存させていた海保をチラつかせて彼を脅していた。

 立て続けに起きた戦闘が一旦終了し、気持ちを落ち着かせる四人。だが安心するのはまだ早い。怪人達を倒そうとも、まだ戦闘員の大群が残されているのだ。

「穏やかに話す時間はまだまだのようだな……」

「ったく、先が見えねぇな!」

「よしっ! この調子で倒そうぜ!」

「同じくだ」

 四人は再び戦闘態勢へと入り、刀や斧を構えていく。そしてこちらへと突撃する戦闘員の大群に真っ向から立ち向かうのだ。

 だが彼らは気付いていない。土方とクラインの倒したリザードアンデットが、息を吹き返していることに。

「……ウゥゥ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 続けての戦闘場面は、アルンの街中にポツンと佇む聖なる教会。とある宗派が祈りを捧げる場所であり、こじんまりとした内部にはパイプオルガンや聖杯など儀式に必要な物品やオブジェが大方揃っている。

 そんな神聖な場所も、今ではマッドネバーの襲撃を受けて建物が半壊。無残にも変わり果てたこの教会で……四人の精鋭達が戦闘員達と一戦を交えていた。

「フッ! セイヤ!」

[これでどうだ!!]

「ギィィ!!」

 教会内部の中心に戦闘を行うは、テッチとエリザベス。前者は盾とこん棒を用いて力一杯に戦い、対してエリザベスは黄色い口元にガトリングを装備して周りに乱射。初対面ではあるが、無口な性格者同士。意外にも息の合ったコンビネーションを披露していく。

「おい、アンタ! 中々面白い戦い方をするな!」

[そういうお前もな。後ろは任せてたぞ]

「オーケー、オーケー。任しておきな!」

 テッチはエリザベスの戦い方並びに、彼なりのコミュニケーション方法に驚きつつも、スッと彼なりのやり方に順応していく。互いに約束を交わしつつ、確かな信頼関係を築いていたのだ。

「行くぞ!」

[行くぞ!]

 こうして彼らは再び戦闘員の大群を蹴散らしていく。

 一方で教会の入り口付近では、たまとリズベットが同じく多数の戦闘員と交戦していた。

「ヤァァァ!!」

「ウゥゥ!?」

「ヒィ!?」

 たまは手にした箒から、盛大に豪快な火炎を放出。周りにいるライオトルーパーやワーム(サナギ体)を次々と消し炭に変えていく。火炎放射器や格闘戦を交えて、自身に有利な状況を作り上げていく。

「よっと! この!! しつこい!!」

「グル!?」

 一方でリズベットは、攻守に優れた戦い方を展開している。左手に丸い盾、右手に打撃武器であるメイスを手にしながら、次々と襲い掛かるライオトルーパーやグールと言った戦闘員の大群を確実に倒していく。攻撃と防御の態勢を見極めながら、戦場と化した教会を駆け抜けていった。

 ここでリズベットは大群を蹴散らす切り札を繰り出してきた。

「フッ、いけぇぇぇ!!」

「ギィィ!!」

「グルル!!」

 彼女は左腕に装備した盾を、ブーメランの如く戦闘員らの方へ投げ飛ばしていく。この盾は特殊な糸で左腕のアクセサリーと繋がっており、すぐにリズベットの手元へと戻る仕様なのだ。(補足を加えると百華にて教わった技で、原典にこの技は登場していない)

 投げ飛ばした盾のおかげで、散らばっていた戦闘員達が無理矢理集まったところで……

「今よ! ハァァ!!」

「……ダラァァァ!!」

「ギィィ!!」

リズベットがメイスでとどめを刺していく。大群を集結させて一気に仕留める。百華で教わった手法をこの戦いで発揮していた。戦闘面でも彼女が大いに成長した証である。

「ふぅ……どんなもんよ!」

 とこの戦い方を自身でも自画自賛して、満足げな表情を浮かべた時だった。

「さえせるか!」

「ヒャッハー!!」

「何!? フッ!?」

 油断している隙を見て、三体の怪人が彼女に襲撃を仕掛けていく。リズベットは敵意を察して、すぐに防御姿勢を構えて事なきを得ていた。

 リズベットへ襲い掛かって来た怪人は、オクラの特性を持つオクラオルフェノク。ツタ植物をモデルにしたアイビーイマジン。鉄の力を持つアイアンロイミュードの計三体である。上から斧、両手鎌、手甲を装備しており、それらをリズベットへ差し向けていく。積極的な接近戦で、じわじわ体力を削ろうとしていた。

「フッ!」

「この……!」

「食らえ!」

「ウゥ……!」

 最初こそ瞬時に攻守を使い分けて上手く戦えていたリズベットだったが、次第にその動きに鈍さが生じてしまう。怪人達はその隙を上手く突いており、狙い通り彼女を疲弊させることに成功している。

「さぁ、仕上げだ! ウッと!?」

「ん、うわぁ!? しまった……!」

 そしてここでアイビーイマジンが、一種の作戦を仕向けていく。両手からムチ状のツタを長く飛ばし、リズベットの体を拘束してしまったのだ。彼の思うままに体を持ち上げられてしまい、リズベットの自由は徐々に失われてしまう。

「動けない……こんなところで!!」

 彼女は苦悶の表情を浮かべながら、必死にこの拘束を解こうと必死になっていた。そんな努力を嘲笑うかのように、三体の怪人は増々リズベットを痛めつけようとする。

「今だ! あの小娘を徹底的に痛めつけてやれ!!」

 と集団的に攻撃を仕掛けようとした時だった。

「させません!」

「ん? うわぁぁぁ!?」

「何!?」

「キャ!?」

 拘束されたリズベットを助けるべく、近くで戦闘していたたまが彼女に加勢する。箒から火炎を放射し、アイビーイマジンのツタを丸々燃やしてしまったのだ。

 だがそれと同時にリズベットを拘束していたツタも効力を失い、そのまま垂直に降下してしまう。そんな彼女を――たまがお姫様抱っこするように受け止めていたのだ。

「大丈夫でしたか? リズベット様」

「た、たまさん……って、この抱っこは色々誤解を生みそうだから離してって!」

「そうですか?」

 状況が次第に分かると、リズベットはつい顔を赤くしてしまい、たまへ降ろすように催促してしまう。たま本人は何故照れているのか分かっていないものの、すぐに要件を飲んで地上に降ろしていた。

 一方で思わぬ邪魔が入った怪人軍団にも、加勢が入ってくる。

「チッ! 折角の獲物を……!」

「おい、集まれ! 奴らを意地でも捻り潰せ!」

 とオクラオルフェノクらは、近くにいた戦闘員達や一部の怪人へ指示。数十名ほどすぐに現れると、颯爽とリズベットとたまに向かって襲い掛かってくる。

 だがしかし、

「「フッ!!」」

そこへ二人の男達が動き出す。彼らは盾を用いて戦闘員の動きを止め、

「「ヤァァ!!」」

「ウゥゥゥ!!」

そのまま押し返してしまったのだ。

「何だと!?」

 力づくでねじ伏せる男達に、愕然とする怪人達。その正体はもちろん、同じく教会内で戦闘していたテッチとエリザベスだった。

「大丈夫でしたか、お嬢さん?」

「って、アンタは確かこの世界のテッチ?」

[俺もいることも忘れるなよ]

「エリザベス様まで」

 どうやら二人も大方戦闘員を片づけたようであり、次なる敵を探すべくリズベットらに加勢するようだ。

「フッ、どうやらやる気みたいだな!」

「俺達が相手になってやる!!」

 そんなテッチらの闘志を見越して、戦闘員に紛れていた怪人達も動き出す。斧をモデルにした斧眼魔と飛行能力を持つフライングスマッシュである。

「さぁ、行くぞ! エリザベスさん!」

[お前も遅れるなよ! テッチ!]

「って、ちょっと二人共!?」

「これは……意外なコンビですね」

 勝負を挑んでいた怪人の姿を見るや否や、テッチとエリザベスもさらなる闘志を燃やしていく。こん棒や盾、プラカードと言った武器を握りしめて、怪人や戦闘員と存分に張り合うのだった。

 珍しき共闘にたまは少しばかり興味を示す一方、リズベットはエリザベスの戦い方へ大いに唖然としてしまう。

「フッ、ヤァ!」

「くはぁ!?」

 標的を斧眼魔に定めつつも、テッチは周りに蔓延る戦闘員にも敵意を向けている。彼は自身の大柄な体格を生かして、主に盾で押し切る戦法を駆使していた。集団戦にてその真価を発揮しており、彼の周りには倒されたライオトルーパーや屑ヤミーが無数に転がる。

[貴様をこちらへ引き寄せてやる!!]

 一方でフライングスマッシュと対峙するエリザベスは、黄色い口元から何故か掃除機の先端を登場させる。

〈ヒュイィィィン!!〉

「ん? うわぁぁぁ!!」

 それを起動すると同時に、なんとフライングスマッシュをいとも簡単に吸い寄せてしまったのだ。そう。エリザベスの戦法は何をするか分からないトリッキーさにある。周りを戦闘員が取り囲もうとも、

[しつこいな!]

今度は目元を鋭くさせてそこから細長いビームを射出してきた。

「うわぁぁ!!」

 そのビームに当たったものは次々と倒れていき、そのまま動かなくなってしまう。まさに未知なる存在。フライングスマッシュも密かに恐れおののいてしまう。

 若干恐怖を覚えているのは、リズベットもだが……。

「いや……何アレ?」

「何ってエリザベス様なりの戦い方でしょうか?」

「いや、なんでたまさんは冷静に振る舞えてんのよ!! 口から掃除機は出るし、目からビームは出るし、一体何なのよ! あの生物は!!」

「気にしたら負けですよ」

「そうかもしれないけれども!!」

 表情を取り乱しながら自身の想いの丈を吐露するが、たまは無表情のまま冷静に対処していく。カラクリ人形かつエリザベスのことも大方理解している節はあるが、それに至っては実に落ち着き過ぎだ。気になることが多すぎて仕方ないリズベットだったが……たまに諭された通り、一旦は気にしないことにする。今は目の前の怪人の対処が先だからだ。

「フッ。戦闘員共は奴等に任せるか」

「俺達と戦え! 小娘どもよ!!」

 そう言うと三人は、意気揚々と武器を構え直していく。意地でも自身の獲物を倒したいご様子だ。

 易々と煽りを入れられてもなお、二人は冷静さを保っていく。そして彼らが望む通りに戦うことを決意していた。

「ねぇ、たまさん? 一緒に戦ってくれる?」

「もちろんです、リズベット様。アナタのことは私がお守りしますから……!」

「奇遇ね……アタシもアンタのことを守るわ! 絶対に容赦しないんだから!」

 リズベットが持ち掛けた共闘に、たまは素直に応じていく。両者共互いを守ることで、戦う意思を強く高めていた。二人が協力するのは実に数日ぶりである。

「行くわよ!」

「はい!」

 こうしてリズベットの掛け声と共に、敵味方両方が動き出す。リズベットは果敢にもオクラオルフェノクとアイアンロイミュードの二体を相手にしており、対してたまはアイビーイマジンを相手にしていた。

「ファハ!」

「フッ!?」

「ん!? 体は柔らかいのですね……!」

 たまはひとまず接近戦で箒をぶつけようとするも、アイビーイマジンの体質のせいで中々物理的なダメージを与えることが出来ない。ならば火炎攻撃……と使いたいところだが、技を見透かされている以上は不必要には打てない。

 それらの状況を鑑みて、たまは大胆な行動をとっていく。

「ならば……やぁ!!」

「おっと? 急にどうした? ご乱心か?」

 彼女は教会にて残っていた五人掛けの椅子を持ち上げ、それをアイビーイマジンへ向けてぶつけようとしている。けれでもアイビーイマジンの両手鎌により、瞬く間に投げられた椅子は粉砕されてしまった。にも関わらずたまは、何度も何度も椅子も持ち上げてはアイビーイマジンへと投げている。怪人側にとっては彼女の狙いがつかめず、ただの悪あがきだと括っていたが。

「ハァ? 幾らやろうとも俺には通じないぜ!」

 と余裕そうな態度を取り続けるアイビーイマジンだが、彼はまだ気付いていない。椅子を投げるたび、たまとの距離が近づいていることに。

「おっと? これも俺には効かねぇよ!」

 彼がちょうど十個目の椅子を破壊した時である。

「その時を待っていましたよ!!」

「何だと!?」

 なんとたまは至近距離から、アイビーイマジンへ攻撃を仕掛けようとしていた。すでに箒は火炎をまとっており、沸々と火の粉を散らしている。彼女の狙いはゼロ距離から、アイビーイマジンへ攻撃を仕掛けることにあったのだ。当然そんな攻撃を防ぎきることも出来ず……

「はぁぁあぁ!!」

「ウゥ!? ……ギャァァァ!!」

 アイビーイマジンはそのまま体中に火が燃え移り、そのまま爆破してしまう。植物型の怪人故に火に弱いのが弱点だったようだ。たまの機転の効いた作戦が見事に功を奏している。

「ふぅ……雑草処理は完了しましたね」

 意外な強敵並びに、リズベットを苦しめた敵を倒せたことにたまは思わず安堵の表情を浮かべていた。

 一方でリズベットの方も、悔しさをバネに戦っているためか、数分前よりもその実力を遺憾なく発揮している。

「フッ! ハァ!」

「ウグ!?」

「そこよ!」

「ん!?」

 彼女はメイスを巧みに使用しており、先端の突起を用いた突き攻撃と、横部分の平たい個所を用いた打撃攻撃を使い分けて、根気を持ちながら戦闘を行っていた。やはり集団で狙われたことには、度し難い怒りを覚えているようである。

 そんなリズベットもたまと同様に、機転を活かして戦いを有利に進めていた。

「うぅ……食らえ!」

 分が悪くなったオクラオルフェノクは、隠し持っていた粘着性のあるネットを投げ飛ばして、リズベットの動きを封じ込もうとする。だがしかし、

「そうはいくか!!」

リズベットは瞬時に盾を投げ飛ばして、ネットを真っ向から打破しようとした。盾は勢いよく回りつつその威力を増していき……彼女の狙い通りにネットを破くことに成功している。

「何だと!?」

 これにはオクラオルフェノクも思わず驚嘆としてしまう。だが驚くのはまだ早い。リズベットはアクセサリーから繋がった糸を利用して、瞬時に大きく飛翔していく。彼女が降り立った先は、なんと投げ飛ばした盾の上部である。

「このまま行くわよ! やぁぁぁ!!」

 リズベットは盾が向かうままにメイスを構えていき、そのままオクラオルフェノクへ突っ込もうとしていた。

 ようやくその狙いを悟れたオクラオルフェノクだが……時すでに遅い。

「はぁぁぁ!!」

「何だと……!?」

 勢いよく向かってきた盾は、彼の下半身に必中。さらに同じくして、リズベットの構えたメイスも首元へ見事に当たっていた。

 不意打ちとも言える二つの個所の攻撃に、オクラオルフェノクの堅固な皮膚を耐え切ることが出来ず……

「うわぁぁぁ!!」

断末魔を上げながらそのまま青い炎を上げて灰となってしまった。全てはリズベットを甘く見たところが敗因であろう。

 一方の彼女は、一応の屈辱を果たしたことについ達成感を覚えていた。

「よっしゃ! 女をバカにすると恐ろしいのよ!」

 その表情も随分と生き生きしている。よっぽど嬉しいのであろう。

 一方でテッチとエリザベス側にも、ようやく決着が付こうとしていた。

「はぁぁぁ!」

「うぅぅ!! くうう!!」

[消し炭としてやる!!]

「何!? ぎっぁぁぁ!!」

 テッチは撃破までのダメージ蓄積を鑑みて、力強くこん棒を振り下ろしている。その読みは見事に当たり、斧眼魔はそのまま爆死してしまった。

 一方のエリザベスは口元からバズーカを装備し、フライングスマッシュが動けないうちに恐らく威力の高い砲弾を放ってそのまま爆発に巻き込ませている。テッチとは異なり、こちらは完全に脳筋ではあるのだが。

「やったな、エリザベスさん!」

[俺にかかればお茶の子再々だ]

「これが強者の余裕か……」

 エリザベスの余裕ともとれる態度に、増々尊敬を感じていくテッチ。意外なところでその縁を深めている……。

 そんな彼らがリズベットらの加勢に戻ろうとした時だった。

「ウゥゥ!!」

「何!?」

[また新たな敵襲か!?]

 彼らへ奇襲を仕掛けるか如く、アンデッドの一体ディアーアンデッドが七支刀を振るって攻撃を仕掛ける。電流をも操っており、二人へ未知なる脅威を感じさせていた。さらにはもう一体敵兵が現れる。

「そこだ!!」

「何!?」

[地面からだと!?]

 地中を移動しながら攻撃を仕掛けてきたのは、地霊をモデルにした怪人のノーム。頭部をドリルのようにして自由自在に地面を移動し、その厄介さを惜しげもなく披露していた。

 新たな二体の怪人達に手を煩わせながらも、エリザベスらは撃破の為にまたも戦いへ身を投じていく。

 その一方で、リズベットの元にはたまが再び駆けつけていた。

「リズベット様!」

「たまさん! こっちは片づけたわよ!」

「こちらもです。さぁ、残るはあの怪人のみですね」

「協力して倒しちゃいましょう!」

「そうですね!」

 彼女達は残された怪人であるアイアンロイミュードに目を付けている。この勢いのまま彼をも倒そうとしていた。

「おのれ……!」

 一方で怪人側のアイアンロイミュードは、自身の窮地につい弱音を口にしてしまう。味方の増援も無いまま、単身で張り合おうとした――そんな時である。

「俺に任せろ!!」

 何とも絶妙なタイミングで、新たな怪人がこの戦場に割り込んできていた。援軍として駆けつけたのは、アイスエイジ・ドーパント。氷河期をモデルにした怪人であり、氷を自在に操ることが出来る。彼は手先から冷気を解き放ち、リズベットやたまへそれらを吹きかけていた。

「えっ!? 何!?」

「吹雪ですか……?」

 氷をまとった冷気に押されてしまい、つい後退してしまう二人。新たな怪人が氷属性だと分かるや否や、両者共その厄介性を酷く痛感している。

「雪男!?」

「氷を操る怪人のようですね」

 リズベットはアイスエイジ・ドーパントの奇抜な姿に仰天していたが。それはさておき、怪人側が増えたことで気を引き締めるたまら。このままでは一体ずつ相手にしなければいけないからだ。

「おっと。俺に加勢してくれるのか?」

「そうだな。共に分からせてやろうじゃないか」

「真に強いのはどっちなのかな!」

 一方でアイスエイジ・ドーパントは余裕綽々のまま、アイアンロイミュードとの共闘を締結させる。新たな仲間に彼は心強く感じていた。

 瞬く間に変わり始める戦場。リズベットやたまは、判断を見定めながら慎重に応じる。

「どうする? たまさん?」

「リズベット様は紫の怪人を相手にしてください。私はあの氷の怪人を」

 と考えられる手段を模索し始めていた時だった。

「ギャァァ!!」

「えっ?」

「これは?」

 ふと足元を見ると、そこから大穴を開けてとある怪人が飛び出てくる。それはエリザベスやテッチと対峙していたノームであり、彼は口元にドリルを装備したエリザベスへ追いかけられていたようで……

[とどめだ!!]

「うわぁあ!!」

そのまま追いつかれてドリルで粉砕されてしまう。空中で起きた爆発を背景にして、エリザベスは無事着地。満足げな表情を浮かべながら、プラカードを掲げていた。

[やっとヤツを仕留めたぜ!]

「エリザベス様?」

「ちょっとアンタ!? 何やってんのよ!?」

 思わぬ瞬間を目にして、ついエリザベスへ駆け寄っていく二人。特にリズベットは若干取り乱したまま、彼に話しかけていた。

 するとエリザベスに続いて、テッチも駆け寄ってくる。

「いやー、まさかエリザベスさんがここまで芸達者とは思わなかったよ」

「なるほど。いわば臨機応変に対応されていたということですね」

[あぁ、そうだ。ちなみにもう一体の怪人は、風を起こして遠くへ吹き飛ばしておいたぞ]

「いやいや、ツッコミどころありすぎでしょ! なんで二人共、妙に納得しているのよ! ていうか、なんでさも当たり前のように吹き飛ばしてんの! 他の仲間に迷惑じゃないの、ソレ?」

[まぁ、大丈夫だろう]

 彼らは二人で戦った状況を簡略的に話すが、やはりリズベットにとっては色々と信じ難いのである。仕舞いには対峙した怪人の一体(恐らくディアーアンデッド)を吹き飛ばすなどと、彼にしか出来ない芸当をも明かしていた。何故か理解するテッチやたまとは異なり、リズベットはただひたすらにツッコミを入れてしまう。四人の温度差が浮き彫りとなった瞬間でもあった。

 とそれはさておき、事態はまだ戦いが続いている最中。彼女達が話している最中でも、怪人達はその攻撃の手を一切緩めない。

「何をごちゃごちゃ話している!!」

「お前達も氷漬けとなるのだな! フゥゥぅ!!」

 そう大声を上げながら彼らは、渾身の技を繰り出していく。アイアンロイミュードは足場にあった瓦礫を投げつけ、同時にアイスエイジ・ドーパントは冷気攻撃で彼らを氷漬けにしようとする。

「やったな!」

 辺り一面が氷に覆われていき、先走って勝利を確信した怪人側だったが……

「「はぁぁぁ!!」」

「何!? うぐ!?」

「おい!?」

四人はしぶとくも生き残っている。瓦礫や冷気と言った攻撃は、リズベットとテッチの盾によって強固に防がれており、ダメージを何一つ受けていない。そのまま二人は突進していき、前者はアイアンロイミュード。後者はアイスエイジ・ドーパントに勝負を仕掛けていく。

「エリザベスさん!」

「たまさん! 頼んだわよ!」

 ある程度彼らの動きを防ぎ切ったところで、二人は待機していた仲間を仰いでいく。テッチにはエリザベス。リズベットにはたまが加勢に加わっていた。

「了解しました……発射!」

「うぎぃぃぃ!!」

 たまはすぐに箒から、溜めに溜めた膨大な火炎を一気に放出。アイアンロイミュードの全身にぶつけていく。

[氷には爆弾だ! 食らえ!!]

「ア、 ババ!?」

 一方でエリザベスは、口元からバズーカを固定すると、そのまま火炎弾を数発アイスエイジ・ドーパントへ発射していた。彼の冷気攻撃よりも先に火炎弾をぶつけており、次第に対処しきれなくなった彼は防戦一方となってしまう。

 仲間の補佐も加わり、遂にとどめを刺す時が来た。もちろんその役目は、接近戦を展開するテッチとリズベットが果たしていく。

「「ヤァァァ!!」」

 二人は自身の得意とするこん棒やメイスをしっかりと握りしめて、勢いよく前進。

「「ウギッァァァ!!」」

 標的に定めた二体の怪人の隙を突いて、容赦なく斬りかかっていく。全員が一丸となって奮闘したこの作戦。決めつけであったが、効力は十分にあり――

〈ドァァァァン!!〉

そのまま勢いよく爆死してしまった。燃え盛る爆発を背景に、四人の精鋭達は長き戦いが一旦幕を締めたことに一段落している。

「よっしゃ!」

「終わった……?」

 それでもまだ実感は湧かないようで、つい困惑を口にするメンバーもいたのだが。

[俺の補佐のおかげだな]

「おうよ、エリザベスさん!」

 エリザベスとテッチは早速、互いの健闘を称え合い固い握手を交わしている。初対面ではあったが、それを感じさせないくらい息の合ったコンビネーションを披露していた。

「お疲れさまでした、リズベット様。とても強くて、かっこよかったですよ」

 一方でたまは穏やかな表情を浮かべながら、リズベットをスッと激励する。その言葉を素直に受け止めて、彼女は思わず照れてしまう。

「たまさん……ふぅ。あんがと!」

「どういたしまして」

 反応の困ったリズベットは、ふと屈託のない笑顔を浮かべて言葉を返している。たまもリズベットの素直な気持ちを察して、優しい微笑みを浮かべていた。こちらも戦闘を通じて、より互いの仲が深まった様子である。

 このまま気を抜きたいところだが……現実はそう上手くはいかない。

「ギィィ!」

「うぃぃ!」

 彼らの目の前には、またも無数の戦闘員が結集。こちらへと大群を成して突撃している。

[おっと、まだいやがるのか!]

「鬱陶しい奴らだな!」

 テッチやエリザベスが敵の気配にいち早く気付き、リズベットやたまにもそれを呼び掛けていた。

「みんな! ここは協力して、奴らを撃退しよう! ねぇ?」

「もちろんです。共に力を合わせましょう!」

 するとリズベットは、自分から自信良くリーダーシップをとっていく。チームの士気を高めており、仲間達は素直に彼女を承諾していた。そのまま武器を構え直していき、

「「「ハァァ!!」」」

[かかってこいやぁ!]

戦闘員の大群に真っ向から立ち向かっていく。気が休まるのもまだまだ先のようだ……。




対戦表1

坂田銀時・シノン・月詠・シリカVSクラブロード・フリルドリザードオルフェノク・スコーピオンイマジン・サンゲイザーファンガイア・トリガードーパント・シャムネコヤミー・ケットシー・ソルティバグスター
戦闘場所:噴水と水溜めのある広場

土方十四郎・クライン・近藤勲・エギルVSウィスクラーケン・オクトパスオルフェノク・リザードアンデッド・ルナドーパント・オリオンゾディアーツ・ミノタウロス・シンムグルン・ストロングスマッシュ
戦闘場所:街の通路+多くの武器が飾られている工房の保管庫

たま・リズベット・エリザベス・テッチVSオクラオルフェノク・ディアーアンデッド・アイビーイマジン・アイスエイジドーパント・ノーム・アイアンロイミュード・斧眼魔・フライングスマッシュ
戦闘場所:半壊した教会






 どうでしたか? 怪人軍団との戦いは! 今回は夢幻解放篇時の最終決戦時と違って、戦わせたい敵キャラが多くいて、この分量でもまだ半分も進んでいない事実……ストーリーは進まないものの、なるべく早めに投稿しようと思うので、どうか気長にお待ちください。

と言っている最中、次回投稿が来週には間に合いそうにはない件。

 味方サイドも人員多いので、致し方ないのです……

 と言うわけで、僕的オススメシーンをピックアップ!

月詠とシリカの短剣コンビの共闘
カイゾクハッシャーを使用するシノン
銀さんなりの俺の必殺技(金〇狙い)

土方とクラインの歪な共闘
おおよそ230kgの怪人を持ち上げるエギル
近藤とエギルの剛烈パンチ
ルナ・ドーパントの存在感

何かと氷関係に縁のあるリズベット
やりたい放題のエリザベス
テッチとエリザベスの相性の良さ
意外と接近戦もいけるたま

 こんな感じでしょうか?


 結構な分量ではありますが、それでも書いていて楽しいので特に苦ではないのです。後は読者さんが読みやすいように調整するだけなのです……これが意外と難しい。

 さてさて。次回予告は無いので、次回に活躍するメンバーを紹介するところで今回は終わります!!

キリト/リーファ/ジュン/ノリ/ユイ/神楽/沖田総悟/柳生九兵衛/定春/長谷川泰三/猿飛あやめ

 さぁ、この中からどんな組み合わせが出来るのでしょうか! ちなみにアスナ、ユウキ、高杉は次々回です。もう少々お待ちください


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第九十訓 無限!馬鹿共の力!

 今回も増々激しくなる戦いの数々をお送りします。怪人側の組み合わせだけではなく、彼らをどう突破するのかにも注目してください。


 場面は変わって、こちらはアルンの商店街。二手に分かれた分かれ道が特徴的で、左側には食関係の通り。右側には小物や自然由来の名産品関係が主に売られている。平日休日問わず人が賑わうALO星の名所なのだが……現在はマッドネバーの襲撃を受けて、人っ子一人いない閑散とした場所と化していた。

 そんな静かなる場所で戦うのは……接近戦を得意とする四人の戦士達である。

「「「「はぁぁぁ!!」」」」

「ギィィ!!」

「グルァァ!!」

 大量の戦闘員を相手取りながら、勢いのままに前進するはキリト、沖田、神楽、ジュンの四人。彼らは各々が手にしている武器を振るいながら、勇猛果敢に立ち向かっていた。

 彼らが相手する戦闘員は、カッシーン、ライオトルーパー、レイドラグーン、グール等である。密かに他の怪人達も割り込む中で、戦いはさらに激しさを増していく。

 一行に敵が片付かないことから、四人は分かれ道を利用して二手に分かれることを頭へ思い浮かべていた。

「おい、チャイナ! この数じゃ、埒が明かないぞ!」

「そんなの私に言うなアル! テメェの事はてめぇで片づけるネ!」

 会話の最中では、神楽と沖田は相も変わらず喧嘩寸前にまで仲が険悪となっていたが……もういつものことである。

「って、お前ら! 落ち着けって!」

「いや、あの二人はアレで大丈夫だから!」

 戦闘員を次々と斬りかかる最中で、ジュンは神楽と沖田の雰囲気を気にしてしまう。しかしキリトが補足を加えていき、彼の心配を払拭しようとしていた。

「あんだと? このやろ!!」

「うわぁ!? 何しやがるネ!」

「てめぇこそ、撃ってくるんじゃねぇよ!!」

 そう口にしたのも束の間、神楽らのいがみ合いが遂に堂々と衝突してしまう。沖田が戦闘員を斬りかかる傍ら、スレスレで神楽へ当たりそうになり、逆に神楽が傘の先端から弾丸を発射していき、戦闘員へ被弾させるついでに沖田にも弾丸を当てようとしていた。敵を倒す最中に見えた二人のライバル心。堂々と対立するその姿に、キリトはさておきジュンはつい言葉を失ってしまう。

「……本当に大丈夫なのか?」

「多分……」

 苦そうな表情で呟くジュンに対して、キリトも固まった表情で言葉を返していく。こればっかりはフォローのしようもないからだ。

「ギィィィ!!」

「グルルル!!」

「何!?」

 だが彼らには油断している暇などない。またも戦闘員の大群が乱入していき、多勢で攻め込んできている。またしても戦闘員や怪人を相手取る中で、ジュンとキリトは思い切った行動に出ていた。

「沖田さん! こっちだ!」

「はぁ?」

「君も僕に来い!」

「ん!?」

 なんと分かれ道を利用して、対立する神楽と沖田を引きはがしたのである。キリトは沖田を。ジュンは神楽を無理矢理連れ出していた。こうして同士討ちの可能性はなくなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前! なんで急に連れ出すアルか!」

「お前じゃない、ジュンだ。よーく覚えておけよ」

「うるせぇ! お前みたいなガキに指図される覚えはないネ!」

「そういうお前だって、ガキじゃないのか?」

「はぁ? 私はもうレディーネ! コロナミンCもしっかり飲めるアルよ!」

「それが飲めるなら、僕だってジェントルマンだぞ」

 未だに興奮状態の神楽に、ジュンは呆れ顔のまま落ち着かせようとしている。話は二転三転していき、いつの間にか大人の証明的な話に変わっていた。本筋から思いっきり外れてしまっている。

 そんな彼らの元に、追いかけて来た戦闘員の大群が襲来。怪人達と共にこちらへと突撃してきた。

「チッ、もう来たアルか!」

「そうみたいだな。ていうか、お前なんて名前だよ?」

「私は神楽ネ! 覚えておくヨロシ、ジュンゴロウ!」

「って、思いっきり名前間違えるなよ! いちいち言葉遣い変じゃないか?」

「それはもう個性ネ。順応するネよ、ジュンサブロウ!」

「もうわざと言っててんだろ! 僕の名前はジュンだよ! しっかり覚えておけって!」

 敵の気配を察知して、ようやく二人は戦闘態勢を整えていく。神楽は恐らく確信的にジュンの名前を間違えており、彼女が発するごとにジュン本人がツッコミを入れている。若干ふざけた雰囲気ではあるが……これこそが彼女なりの距離の縮め方なのだ。

「分かったネ! このまま行くアルよ、ジュン!」

「お、おう! って、しっかり言えているじゃねぇかよ! 神楽!」

 ようやく本名を呼ばれたことに一安心するジュン。神楽も彼の威勢の良さを汲み取って、引っ張れるように補佐していた。二人の間にようやく信頼感が生まれたところで……襲来してきたマッドネバーの戦闘員の大群へと立ち向かうのである。

「ふゎぁぁ! ホワチャァァ!!」

「ギィィ!!」

「ウゥゥゥ!」

 大胆にも神楽は大きく飛び上がり、上空から標的を定めて乱射していく。ライオトルーパーらを怯ませた後、すっと地面に降り立つと、彼女は休む暇もなく激しい格闘戦を展開している。

「くたばれぇぇ! 雑魚共がぁぁぁ!!」

「グラァァァ!!」

「ギィィ!!」

 真剣な表情のままに傘を振るって、打撃攻撃を繰り出した後には、拳や蹴りを用いた徒手空拳な戦いを展開していた。容赦のない連続攻撃を繰り返して、カッシーンやレイドラグーンと言った戦闘員は次々と倒されてしまう。まさに彼女を中心にして戦いは動いていた。

「フッ! どんなもんネ!」

 辺りにいた戦闘員達を全て倒し切り、神楽は達成感を覚えている。そんな彼女の元に、二体の女怪人が背後から奇襲を仕掛けていた。

「「ハァ!!」」

「何!?」

 一瞬の覇気に気が付いて、神楽は横へと逸れて攻撃を回避している。先ほどまで自分のいた場所を改めて見ると、そこには地面が焦げた跡と氷結した跡が交互に残されていた。

「こ、これは……」

「私らの仕業だよ! ハァ!」

「フッ!」

 驚くのも束の間、二体の女怪人は意気揚々としたまま、神楽へ向けて積極的に攻撃を繰り出している。奇襲を仕掛けてきたその正体は、グロンギ怪人であるゴ・ベミウ・ビと炎を操る怪人のヒート・ドーパントだった。恐らく氷結した跡は前者が。焦げた跡は後者が大いに関係しているであろう。

 そんな二体の怪人が神楽を葬るべく、自身の能力を生かしながら、有利に戦いを進めようとしていた。

「ハァ!」

「トワ!」

「くわぁ!? ……くっ。流石に雑魚共とは一味違うアルナ!」

 彼女らは交互に入れ替わりながら続々と攻撃を加えており、神楽へ隙を与えないように仕向けている。その作戦に乗せられてしまい、神楽は反撃する隙すら無い。ちょうど彼女が追い込まれている隙に、ベミウらは遂にとどめを刺そうとしている。

「くたばりなさい……ハァァ!」

「フッ!」

「な……うわぁぁぁ!!」

 冷気をまとった鞭と火力の増した火炎弾が神楽へと被弾し……彼女は燃え上がった爆発の中に巻き込まれてしまった。傍から見ても重傷は免れないだろう。

「たわいもなかったわね」

「フッ」

 自身の攻撃が成功し、早くも勝利を悟る二体の怪人。このまま別の相手を探し始めようとした――その時である。

〈W! ヒートメタルパワー!!〉

「ハァ!!」

「ん? って、何!?」

 爆発の中から姿を現したのは、なんと攻撃が被弾したばかりの神楽だった。どうやら彼女は仮面ライダーWのヒートメタルの力によって、防御力を上げてどちらの攻撃も受け流したという。彼女の手にはいつもの日傘ではなく、アルヴドライバーから召喚したメタルシャフトを手にしていた。

 神楽の想定外の行動で、若干戸惑ってしまうヒート・ドーパントら。その密かにできている隙を、彼女本人が見逃すはずも無かった。

〈メタル! マキシマムドライブ!!〉

「今度はこっちの番ネ!! ……メタルブランディング!!」

「ウグッ!?」

 神楽はメタルメモリをメタルシャフトに装填。これの両端に炎をまとった必殺技であるメタルブランディングを発動した。怪人達と距離を容赦なく縮めてから、まずはゴ・べウミ・ビに対して腹部へ突き刺すようにぶつけていく。さらには、

「もういっちょオマケネ! ヤァァァ!!」

「ギャァァァ!!」

ヒート・ドーパントにも炎をまとった攻撃を繰り出していた。相手よりもさらに強力な火炎を繰り出すことで、敵の勢いを抑え込む力づくな戦法を披露している。

 神楽らしい不意打ちに加えて、Wの力も合わさったこの攻撃によって……

「ヅゥゥ……」

〈ドガーン!!〉

ヒート・ドーパント並びにゴ・ベミウ・ビは倒れこみ、そのまま爆破してしまった。盛大に燃える爆発を背景に、神楽は傘を握り直してガッツポーズを構えている。

「やったネ! 私の力たとライダーの力が合わされば、もう無敵アルよ!」

 嬉しさをきゅっと抑え込むと、彼女はそのままジュンの加勢に入ろうとしていた。

 

 

 

 

 神楽が激しい戦いを繰り広げる中で、ジュンも同じくたった一人で困難に立ち向かっている。

「そこだぁ!」

「ギィィ!」

 彼は得手である大剣を起用に扱いながら、多彩な技を繰り出して戦闘員らを蹴散らしていた。時に勢いのままに斬りかかり、時に相手を貫くように突き刺し。さらには防御としてもこの大剣を用いている。まさに攻守に優れた戦法を披露していた。

 次々と戦闘員を倒す中で、彼にも神楽と同じく怪人がいつの間に加勢している。

「とりゃゃ!!」

「ん!? 危な!?」

 ふと目の前にて現れたのは、ジュンの持つ剣と同じくらいの大きさを持つ大剣。それが否応なしに彼へと襲い掛かり、ジュンは反射的に大剣でその攻撃を防いでいた。

 ジュンに勝負を仕掛けてきた怪人の正体は……星座の怪人であるペルセウス・ゾディアーツである。

「フッ……固まれ!」

「何!?」

 剣に火花を散らせながら、ジュンはペルセウス・ゾディアーツの発した意味深な言葉に警戒していた。むやみに接近戦を仕掛けず、一度距離を離れて様子見しようとした時である。「ハァ!」

「うわぁ!? って……アレは石になったのか?」

 ペルセウス・ゾディアーツは突如左腕に装備された蛇型の装飾品から、対象を石化させる特殊な光線を放っていく。その光線が解き放たれるタイミングで、ジュンはギリギリでその光線を回避しており、代わりにまだ生き残っていたカッシーンが光線を受けてしまう。彼の体はみるみると石に変化していき、そのまま倒されたかのように動かなくなっていた。

 この一連の変化を見て、ジュンはペルセウス・ゾディアーツの能力が石化光線だと理解。厄介な技に引っかかることなく、倒す方法について考え始めている。

(どうすれば……あっ、そうだ!)

 深刻そうな表情で考え始めるも、その妙案はすぐに思いついていた。必要なのは短時間で倒し切ること。下手に長引かせてはいけないことを悟り、根気強く自らが思いついた作戦を実行していく。

「お前も固まれ! そして砕け散ろ!!」

「おっと!? そうはいくかよ!」

 丸々とジュンを標的に定めたペルセウス・ゾディアーツは、大剣を振るいながら容赦なく石化光線を彼に向けて発射している。一方のジュンも光線が発射されるタイミングを見越して、自身の俊敏な運動能力を生かして回避していく。光線を防ぎながらも実は、ペルセウス・ゾディアーツを密かに誘導しており、彼は大剣を所持したままとある商店の屋根によじ登っている。

「フッ。何のつもりか知らんが、俺からは逃げれるぬぞ!」

「よっ……あぁ!」

 無論逃げ場所など無くなったジュンは、光線を自身の大剣で防ごうとするも、着弾した大剣はそのまま石化してしまい、思わず手を離してしまう。大剣は上空を舞い、そのまま地面へと降下していくはずだ。ジュンはもう丸腰状態となり、所謂絶体絶命の危機を追い込まれているはずだが……?

「これで最後だ! 固まれ!」

 自身の勝利を確信したペルセウス・ゾディアーツは、今度こそジュンを石化するべく光線を発射する。とそんな時だった。

「させるかよ!」

「何!?」

 ジュンはまたも回避行動をとっており、光線を避けた後はすかさずペルセウス・ゾディアーツに向けて飛び蹴りをかましている。

「はぁぁ!」

「うぐ!?」

 一瞬の隙を突き、ジュンの渾身の一撃は邪魔されぬことなく成功。ペルセウス・ゾディアーツが手にしていた大剣も、先ほどの攻撃によって彼の手を離れてしまう。

 するとジュンはすかさず、敵の手元を離れた大剣をどさくさ紛れで奪っていた。さらには空中を舞っていた自身の大剣もちょうどよく掴んでおり、二本の大剣を力強く構えている。これこそがジュンの狙い。敵の武器すら奪い、自身の勝利を掴むべく躍起となっていた。

「こいつらでとどめだぁぁあ!!」

「うぅ……!!」

 そしてペルセウス・ゾディアーツが怯んでいる隙に、ジュンは二本の大剣を彼の腹部に突き刺している。彼なりの渾身の一撃。これを受けた怪人側は、到底耐えることは出来ず……

「ぐわぁぁ!! おのれぇぇ!!」

大剣を引き抜かれた後に倒れこんでしまう。断末魔と共に彼は爆発してしまった。

「ふぅ……騎士団を舐めるなっての!」

 爆発を背景にジュンは、労いの言葉を自らにかけている。厄介な能力に苦戦したものの、見事に回避を繰り返して掴んだ勝利。自画自賛しつつ、自身を強く鼓舞していく。

 彼もまた戦闘を一度終了しており、このまま神楽の元へ戻ろうとした――その時だった。

「キィィ!!」

「ん? うわぁ!?」

 なんと彼の背後からスッと、ミラーモンスターの一種であるソロスパイダーが這い寄っていた。彼はジュンの体を掴むと、近くにあった店先の鏡を通して、ALO星の住人が閉じ込められているミラーワールドへと連れていかれてしまう。

「おい、ジュン! って、鏡に連れ込まれたアルか……?」

 神楽が声をかけた時にはジュンの姿がなく、ちょうどミラーワールドへと連れ出された瞬間を彼女は目にしている。

「ならば……こうネ!」

 このまま放っておくことは到底できず、神楽も龍騎の力を介してミラーワールドへと侵入していく。ベルトとブレスレットに浮かんだ紋章の形を合わしていき、任意でミラーワールドへ忍び込んでいた。

 

 

 

 

 

「おぉ!? なんだ?」

「騎士団だ! って、怪人に囚われているぞ!」

 一方でこちらは、ALO星の住人や観光客が囚われているミラーワールド。文字や物体が反転した世界であり、現実世界に任意で戻ることは出来ない。まさに奈落の落とし穴的場所である。

 そんな場所にソロスパイダーはジュンを連れ出し、大勢の人の前で処刑しようと企んでいた。

「キィ……!」

「離せよ……! 卑怯なマネするな!!」

 現在彼は首根っこをソロスパイダーに掴まれており、身動きが取れない状況である。ALO星の住人からも心配される中、必死に抵抗を試みるも上手くはいかない。このまま怪人側の思い通りになりかけた――その時である。

「ホワチャァ!」

「キィ!?」

「おっと!?」

 なんとソロスパイダーの背後から、神楽が奇襲を仕掛けてきた。ジュンを即座に解放させた後に、神楽は彼の手を掴んでソロスパイダーから距離を遠ざけている。

「大丈夫ネ!? ジュン?」

「全然大丈夫じゃなかったよ! でも、あんがとよ。助けに来てくれて」

「当然ネ! 一応仲間アルからナ!」

 様子を確認したところ、特に問題は無かった。心配してくれる神楽に優しさを感じて、ジュンは素直な気持ちで感謝を伝えている。

 ふと想いを分かち合った二人は、このままソロスパイダーを倒そうと決意を固めていた。

「さーて……こいつでとどめを刺すヨロシ!」

〈ビルド! ラビットラビットパワー!〉

〈紅のスピーディージャンパー!! ラビットラビット!! ヤベーイ! ハヤーイ!〉

 すると神楽は、またしてもライダーの力の一部を行使。紋章を合わせて解放させたのは武器の召喚。仮面ライダービルドが所持するフルボトルバスターと、技の発動に必要なフルボトルを四本、ベルトから召喚していた。

「これは……?」

「英雄達の武器の一つネ。こいつを装填するヨロシ」

「えっと……小難しいことは分からないが、とりあえずやってみるよ!」

 突然フルボトルバスターを渡されたジュンは少しばかり戸惑うも、すぐに状況を飲み込んでいき、意欲的に武器を手にしていく。町の住人達が彼らの戦いを見守る中、二人の共同作戦が幕を開けている。

「キィィ!!」

「邪魔はさせないネ!」

 ひとまず神楽がソロスパイダーの気を引いていき、そのまま時間稼ぎに身を投じていく。その間にジュンが次々と神楽から渡されたフルボトルを武器に装填していた。

「こうか?」

〈消防車! フェニックス! ドライヤー! エンジン! アルティメットマッチデーース!〉

 フルボトルの共通点はどれも赤系の色かつ、炎に関係したものばかりである。四本すべて入れ切ったジュンは、持ち手を構えつつ早速ソロスパイダーに向けて必殺技を繰り出していく。

「行くぜ! トウ!」

 と身構えていた後に神楽もすかさず動いていた。

「今ネ!」

「キィ!?」

 作戦を悟られないように神楽がソロスパイダーの背後につき、そのまま殴り蹴って彼を否応なしに前進させてしまう。そう。ジュンの必殺技が当たりやすいように、わざわざ仕向けたのであった。

〈アルティメットマッチブレイク!!〉

「ハァァ!!」

「キィィ!?」

 神楽の補佐も相まって、二人の共同作戦は無事に成功。炎をまとったフルボトルバスターがソロスパイダーへと被弾し、彼に想定外のダメージを与えている。

「キィィィゥイ!!」

 そして威勢の弱くなった鳴き声を上げて……ソロスパイダーはそのまま爆死してしまう。

「やったアル! ジュン!」

「おう、ありがとうよ!」

 作戦が上手く成功したことを喜び、思わず握手を交わす神楽とジュン。屈託のない笑顔を見せあいつつも、彼らは気持ちを切り替えて、次なる戦いに進もうとしている。

「さぁ、戻るアルよ!」

「あっ、待って! 皆さん!! 絶対にこの戦いを終わらせますから、後は俺達に任してくださーい!!」

 そのまま元の世界へ戻ろうとした矢先、ジュンは最後まで見守ってくれていた住人達に勇気づける言葉をかけていた。騎士団として必ず住人達を助けることを表明している。

「さぁ、行こう!」

「おうネ!」

 そう言葉をかけた後に、二人はこちらの世界の鏡を通して、元の世界に戻っていた。一瞬の出来事ではあったが、この言葉は住人達にとっても頼もしいことに間違いはない。

「「「おぉぉ!!」」」

 大きな歓声と共に、騎士団やその仲間達を応援する声が次々に上がっていた。希望を灯されたことで、ミラーワールドの雰囲気は一変。鏡を介して彼らを熱く激しく応援するようになっている。

 ジュンを倒して絶望感を与えようとしたソロスパイダーだったが、その目論見からは外れてしまい、結果的に真逆の希望を与えることとなった。

 

 

 

 

 

 一方でこちらは、商店が並ぶもう一つの一本道。そこでは沖田がキリトに連れられており、否応なしに共闘を持ち掛けられている。

「ったく、なんでい。無理矢理連れてくるんじゃねぇよ、黒剣さんよぉ」

「いやいや、だってアレで止めなかったら、本気で神楽のことを倒そうとしていたんじゃないのか?」

「やだなー、そんなの冗談に決まってやすよ。ただ半殺しにするだけでい」

「全然穏やかじゃないんだが……」

 不機嫌そうな表情で沖田が呟くと、苦い表情でキリトがツッコミを入れていた。彼の言葉を半信半疑で受け止めており、本気ではないかとつい心配をしてしまう。

 だがそれでも、沖田は気持ちを切り替えて今自分がすべきことを思い起こしている。

「まぁ、いいでっせ。どうせ怪人共を倒すことに変わりはねぇですから。黒剣さん、一緒に戦ってくれやすかい?」

「それはもちろんだよ。俺も沖田さんと同じ想いで戦っているからな」

「そうですかい……なら話は早いですねぇ」

 改めて共闘を持ち掛けると、キリトもすかさず了承していた。共に誓い合った後に、彼らはふと刀や長剣を手にしている。

 そして、

「「はぁぁぁ!!」」

上空から飛来してきたレイドラグーンを瞬く間に一刀したのだ。大きな爆発と共に、彼らの元には追いかけてきた戦闘員や怪人の軍団が集結している。二人を取り囲むほどの軍勢だが……これもキリトや沖田にとっては想定の範囲内なのだ。

「あらら~もう来ちゃいましたね。じゃ、俺は右側を担当しやすぜ」

「それじゃ俺は左側だな。このまま叩き斬ってやるよ!」

「随分と血気盛んですねぇ……まぁ、俺もですけど。いざという時は加勢しやすよ」

「あぁ、よろしくな!」

「こちらこそ……!」

 二人は真剣な表情を浮かべながら、たわいのない会話を交わしていく。共に戦闘態勢は万全であり、今すぐにでも戦えるとのことだ。一応の約束を交わしたと同時に――

「「はぁぁぁあ!!」」

二人は左右に分かれて戦闘員の軍勢に対峙していく。互いの横槍が入らぬうちに、敵を大方仕留めることを決意していた。

「おっと!? フゥゥ!!」

「ガァァア!?」

 まずは沖田が勢いよく、ライオトルーパーやグールといった戦闘員を一瞬の太刀で斬りかかっている。彼から見れば雑魚など眼中になく、いちいち倒れたかも確認せずにただひたすらに前進していた。

「邪魔だ! どけぇぇ!」

「ブホォォ!!」

 戦闘員が行く手を阻むのならば、彼は落ちていた土産物を乱雑にぶつけ、半強制的に怯みを与えてそのまま倒していく。手段を一切選ばない沖田ならではの戦法であった。

 そんな彼の元に、一体の怪人が勝負を仕掛けている。

「ハァァ……フッ!」

「何? こいつは……?」

 沖田を斬りかかろうとしたその相手は、タイガーオルフェノク。虎の特性を備えた怪人であり、その手には原典では使用しなかったサーベルを所持している。接近戦を展開しつつ、沖田を蹴落とすべく真っ向から立ち向かっていく。

「はぁぁあ!!」

「って!? こんんゃろ……中々隙の無い奴でさぁ……」

 ふと手から衝撃波を解き放ったと思えば、タイガーオルフェノクはその隙に沖田に連続で斬撃を与えている。これには沖田も素直に受けてしまい、つい体を後退させてしまう。

 正攻法では勝てないと悟った沖田は、何か不意を突く方法を練り始めている。すると彼の目に入ったのは……商店にて散らばる雨傘だった。

「こいつは……フッ。そういうことですかい!」

 どうやら不意を突く目星はついたようで、地面に散らばる雨傘を活用するようだ。

「フッ、ハァ!」

「よっと!」

 ひとまず沖田は相手から解き放たれる衝撃波を回避しつつ、そっと相手の背後に回り込んでいく。後ろから不意打ちかと思えば、沖田には別の考えが思い浮かんでいた。

「ん? ……そこだ!」

 とタイガーオルフェノクが後ろを振り向くと、そこには至近距離で迫る沖田の姿がある。避けようもない瞬間を見て、彼が手から衝撃波を解き放とうとした――その時だ。

「させるか!」

「何!? うわぁ!?」

 なんと沖田は密かに手にしていた雨傘を勢いよく開き、それにより衝撃波を受け流すことに成功していた。無論こんな行動などタイガーオルフェノク側は予測できず、そのまま自身の放った衝撃波を受けてしまう。

 まさに返りうちな戦法。意地でも好機を作りつつ、沖田は刀を握ってそのままとどめを刺そうとしている。

「とどめだ……はぁぁぁ!!」

「う……ぐわぁぁあ!!」

 彼はそのまま刀を正面に傾け、相手の上半身に向けて力強く一刀していた。沖田の渾身の一撃を受けたタイガーオルフェノクは、抵抗しようとするも力尽きてしまい……沖田が切り裂くと同時に体を爆発させてしまう。青い炎を上げながら、その身を灰に変えている。

「ったく……まさかチャイナ娘と同じ戦法を取ろうとはな」

 相手の撃破をしっかりと確認した沖田は、ボソッと小言を呟く。そのまま刀を構え直しながら、キリトの元へと戻っている。

 

 

 

 

「フッ! ヤァァ!!」

 一方でキリトも、沖田に引けを取らないほどに奮闘していた。次々と襲い掛かるカッシーンやレイドラグーンを斬り続け、容赦のない戦いを展開している。

「ギィィィ!」

「ヤァ!! まだだ!! ……フッ!」

「ナ!? ダラァ!?」

 彼の周りを取り囲もうとも、キリトの手段は変わらない。キリトは体を大きく飛び上がらせて、背を向かせながら二本の長剣で戦闘員達を一瞬にして一刀。

「……ギリギリィィ!!」

 斬られた彼らは一瞬にして戦闘不能となり、すぐに倒れこんでしまう。本気となったキリトに手も足も出せていなかった。

「ふぅ……こんなもんか? マッドネバーってのは!」

 ライダーの力も借りて、増々調子を高めているキリト。その表情も凛としたものに移り変わっている。

 そんな彼に勝負を挑むのは、上位の力を持つ不死生命体だ。

「くらえ!」

「ん? 何!?」

 とある気配に気づくと、キリトはこちらに飛ばされてきたブーメラン状の物体を長剣で跳ね返している。物体が飛ばされた方向を振り向くと、そこには山羊の姿を模した怪人が姿を見せていた。

「お前は……」

「俺の名はカプリコーンアンデッド! お前を倒してやるよぉ……オリャ!」

「フッ!」

 彼に襲撃を仕掛けてきたのは、カプリコーンアンデッド。山羊の始祖であり、不死生物であるアンデッドの一種だ。その特性を彼はすでに把握しており、倒されない安心感からキリトへ容赦なく襲い掛かっている。

 一方のキリトは彼の三日月型のブーメランに注意しながら、密かな隙が出来るのを虎視眈々と狙っていた。それまでは上手くやり過ごそうと思っていたが……

「今だ!」

「なっ!? ……しまった!」

不運にも隙を突かれたのはキリトである。彼は長剣を二本とも叩き落とされてしまい、丸腰状態となってしまう。そんな絶体絶命の機会を、カプリコーンアンデッドが見逃さすはずもない。

「これでとどめだぁ!」

「な!?」

 彼は手にしたブーメランを小刀のように扱い、キリトの首元に向かって斬りかかる。短期決戦で勝負を付けようとしており、抵抗すら見えなかったことから、実質的な勝利を密かに確信していた。

「勝ったな」

 と意気揚々と声を上げた時である。

「何!?」

 ふと目線をキリトへ戻すと、そこには彼が新たな武器を手にして、ブーメランから身を守ろうとする光景が見えていた。そう彼は、咄嗟にライダーの武器を召喚して難を逃れていたのである。

 キリトが召喚した武器はウィザーソードガン。剣にも銃にもなる変形型の武器で、彼は剣状にてブーメランを力強く受け止めていた。

「はぁぁ!」

「くふぅ……!?」

 そしてお返しと言わんばかりに、ブーメランをそのまま弾き返してしまう。思わぬ攻撃を受けて、つい怯まされるカプリコーンアンデッド。彼が怯んでいる隙に、キリトはすかさず勝負を仕掛けていた。

〈ウィザード! ハリケーンドラゴンパワー!!〉

〈ビュー、ビュー!! ビュービュービュービューン!!〉

 ドラゴン系の力を経由して、ウィザーソードガンをもう一つ召喚している。二刀流の構えをしつつ、目つきを鋭くさせていた。

「フィナーレだ……はぁ!」

 決め台詞のような言葉と共に、真っ向からカプリコーンアンデッドへ立ち向かう。すると両手に装備したウィザーソードガンは緑色に輝き、風の力をまとっていく。

「くらえ!!」

「ううぅ!? グルァ!?」

 宿した風の力によって速度を上げていき、俊敏な動きから連続攻撃を繰り出すキリト。しっかりとダメージを与えつつ、無駄のない攻撃で押し通そうとしている。

 そして遂に……

「はぁぁぁ!!」

「ぐわぁぁ!!」

とどめとして決めた斬撃が見事に、カプリコーンアンデッドを打ち倒していた。斬撃に吹き飛ばされたカプリコーンアンデッドは、体を残したままベルトのバックルが途端に開錠している。するとキリトが装着するベルトも、一風変わった反応が起きていた。

「ん!? なんだ?」

 ベルトの中心部から突如として飛び出たのは、アンデッドを封印する専用のラウズカード。それがカプリコーンアンデッドに付着すると、彼の体を吸い込んで、一枚のカードとしてキリトの手元に戻っている。

「Qのハート……あの怪人は、こうやって倒すのか?」

 どうやら彼はアンデッドの撃破方法を知らされておらず、興味深そうにカードを見つめていた。

 そう気を休めているうちに、タイガーオルフェノクを倒した沖田が戻ってきている。

「なんでい。もう倒しちまったんですかい?」

「沖田さん? そっちはもう済んだのか?」

「とっくのとうにでっせ。さて残るは……アイツらか?」

 二人はすぐにこちらへ近づいてきた怪人の存在を認知。近くに残っていた怪人は、ファントムの一種であるスプリガンと、鋭い剣先を右腕に宿すソードロイミュードだ。

 すると後者が早速自身の能力を露わにしていく。

「この力に翻弄しろ! フッ!!」

「な……!?」

「こいつは!?」

 ソードロイミュードが左腕を上げた途端、周囲の時間が止まったかのように重力へ負荷がかかっていく。この能力の正体は重加速。ロイミュードが使用できる固有能力であり、周囲の時間にズレを生じることが出来る。おかげでキリトと沖田は、体を動かすことすらままならない。

「はぁ! どうだ! 俺の力は! さぁ、お前も来い!」

 絶好の機会と括り、一段と調子に乗るソードロイミュード。共に行動していたスプリガンにも発破をかけようとした時である。

「アレ? おい! お前も効くのかよ! ったく!」

 なんとスプリガンも重加速の影響を受けており、キリトや沖田と同じように行動への制限がかけられてしまう。これにはソードロイミュードも想定外だったらしく、キリトらをそっちのけで対処している。

 一時の猶予は出来たものの、窮地な状況に変わりはないキリトや沖田。限られた時間の中で打開策を捻る中……ふとキリトのベルトからとあるライダーの力が解放されていく。

「ん? 車!?」

 何の前触れもなくベルトから出現したのは……ロイミュードと敵対するシフトカーの面々だった。

〈マックスフレア! ファンキースパイク! ミッドナイトシャドー! ジャスティスハンター!!〉

 その種類は四台ほど出現しており、専用の道路を作り出しながら、ひとまずはソードロイミュードらに手堅い体当たり攻撃を繰り出していく。

「うわぁ!?」

「くわぁ!?」

 襲い掛かってきたシフトカーにどうすることもできず、なすがままに攻撃を受ける二体。特にスプリガンは動きも制限されているので、ほぼ無防備の状態である。

 一定の攻撃を加えたところで、四台のシフトカーはキリトや沖田の手元へ戻っていた。すると、

「おっと、戻った?」

「このミニカー達が、俺らを助けてくれたのか?」

重加速をあっさりと打ち消してしまう。詳しい仕組みはいまいち分からないが、このシフトカー達がキリトらを味方してくれることは確かである。キリトにはマックスフレア、ファンキースパイク、ミッドナイトシャドーの三台が。沖田にはジャスティスハンターが付いてきている。

 風向きが自分達に向かっていることを確信した二人は、この流れのまま一気に怪人達を仕留めようと試みていた。

「行くぞ、沖田さん!」

「おう。存分に使わせてやりやすよ」

 共に真剣な表情を浮かべたまま、自身の標的を定めていく。キリトはソードロイミュードを。沖田はスプリガンを相手にするようだ。

 一方で怪人側も、ようやく調子が整ったらしい。

「ほら。これでどうだ?」

「よし。ようやく本調子が……ぐぷ!?」

「えっ!?」

 ソードロイミュードの助けによって、ようやく重加速の中で動けたスプリガンだったが、早速彼はジャスティスハンターから作り出された牢屋に囚われてしまう。無論この攻撃を仕掛けたのは沖田である。

「おっ!? これは牢屋……!?」

 と彼が武器を構えながら戸惑っているうちに、沖田も実は牢屋へ入ってきていた。その表情は薄ら笑いを浮かべつつ、獲物を狙うかのように眼光を鋭くさせている。要するにドSな一面を、この状況で露わにしていたのだ。

「さぁ、俺とお前だけになりやしたね……たんまりと戦いましょうや」

「えっ……って、ギャァァァ!!」

 そう一言だけ声をかけると、沖田は次々と容赦のない一撃をスプリガンに繰り出していく。牢屋の内部という限られた空間の中で行われるのは、一方的な拷問であろう。刀を振りつつ、しっかりと敵を撃破しようとする沖田であった。

「おい、どうなってんだ!?」

 一方のソードロイミュードは、この急展開に上手く対応しきれていない。何よりも彼らがシフトカーの能力を使えていることに、今更ながら驚いているからだ。そう警戒心を高めていた時……キリトが隙を見て、とある攻撃を繰り出していく。

「ここだよ!」

「ん!?」

 声が聞こえた方角を振り向くと、そこには四体に分身したキリトが、四方八方から彼を取り囲んでいた。さらに彼が手にしている聖剣エクスキャリバーは、炎をまといつつトゲトゲした物体を付着させている。これも恐らく、三台のシフトカーによる効果なのだろう。

「ハァァ!!」

「うぐっ!?」

 ソードロイミュードの動きが鈍る隙に、キリトはシフトカーの力を宿した斬撃を相手へ容赦なく浴びせていく。辺りには土煙が舞い、炎と同時にトゲトゲした物体も小規模ながら、ソードロイミュードにダメージを与えていた。

「おのれ……くらえ!!」

 連続した攻撃に怒りを覚えて、すかさずソードロイミュード側も反撃。次々と右腕から衝撃波のような斬撃を繰り出すも、

「やっと!」

キリトにはその全てを避けられてしまう。また彼は斬撃を回避しながらも、ソードロイミュードとの距離を大胆に縮めていく。

 そして遂に……待ちに待った決着を付けようとする。

「フレア! スパイク! シャドー! スペシャルスラッシャー!!」

 彼は二本の長剣を構えながら、その片方(エクスキャリバー)にシフトカーの力を解放させていく。炎、トゲ、影の三つの力が合わさった聖剣を……

「はぁぁぁ!!」

「うぅ!? くっ!?」

お得意の連続切りで相手へとぶつけていく。反撃する隙すら与えないキリトの猛攻。これには到底耐えきることも出来ずに……

「き、貴様!! うわぁぁぁ!!」

ソードロイミュードは倒れこんで、そのまま爆発してしまう。と同時に周囲の重加速現象も収まり、役割を終えたシフトカーはベルトへと戻っていた。

「シフトカー……だったか? 助けてくれてありがとうな」

 戻る途中でキリトがお礼の声をかけると、シフトカー達はクラクションを鳴らしながら意思疎通を図っていく。彼らもキリトを助けられたことが嬉しいとのことだ。本人も微かに彼らの優しさを汲み取っていく。

 一方でちょうど同じ頃、

「これで……とどめでさぁ!」

「ぐはぁぁあ!!」

沖田の一刀が上手く決まって、彼はスプリガンを見事に打破している。彼が断末魔を上げながら爆発すると同時に、囲い覆っていた檻は解除されていた。残っていたジャスティスハンターも沖田の手元を離れて、キリトのベルトへと戻るのである。

「ふぅ……大したヤツじゃなかったですねぇ」

「って、沖田さん? 檻の中で一体何をやっていたの?」

「何ィ、ただ痛めつけていただけでさぁ。そういう黒剣さんは、ちゃんと勝ったんですか?」

「あぁ、もちろん。さっきまで一緒に戦ってくれたシフトカーのおかげでな!」

「なんか、随分嬉しそうでっせ」

「そうかな?」

 戦闘が終わった沖田に、キリトがちょうど良いタイミングで話しかけていく。沖田の堂々とした一言に、彼は思わず気が引けてしまったが。それでもお互いが無事で苦難を乗り越えたことには、共に嬉しく思っているのだが。

 怪人達と激闘を繰り広げたキリト、神楽、沖田、ジュンの四人。彼らはこのまま合流しつつ、また新たな戦いへ身を投じることとなる……。

 

 

 

 

 

 

 

 多くの戦士達が勇猛果敢に怪人達へ立ち向かう最中、彼女らもまた自分なりの戦いでマッドネバーに立ち向かっている。

「行ってください、定春!!」

「ワン!!」

 ユイは定春へと乗っかり、彼に指示を加えながら戦闘員の大群へ体当たり攻撃を続けていた。

「ガァァア!!」

「ギィィィ!!」

 もちろん戦闘員と定春には体格差があり、対峙しようとも一瞬にして蹴散らされている。怪人ではなく戦闘員を周到に狙い、戦力をどんどん削ぐ作戦に出ていた。

 ユイや定春が一戦を交えるその一方で、近くの建物の裏路地ではフレイヤがとある怪人にその身を追われている。

「見つけたぞ! ハァァ!」

「ヤァ! しつこいですね!!」

 追手として付け狙うは、溶岩の特性を持ったマグマ・ドーパント。彼は濁った火山弾をフレイアへと飛ばして、彼女の動きを封じ込もうと企てていた。フレイアはハンマーで火山弾を追い払いながら、どうにか追手を巻こうとしている。

 狭い路地の中で繰り広げられる逃走劇。このまま状況が拮抗化しようとした時……思わぬ助っ人がフレイアを助けている。

「とりゃぁぁ!」

「何!?」

「えっ!?」

 ふとマグマ・ドーパントに抱き着いてきたのは、たまたま近くで戦闘員達を一掃していた長谷川泰三。彼はフレイアの窮地に気づくと、すぐに路地裏へと駆け寄り、ずっと彼らが来るのを待ち伏せしていた。

「おい、なんだコイツ! 離れろ!!」

「誰が離れるかよ!! 無職の底力、舐めるんじゃねぇぞ!!」

 長谷川を鬱陶しく思い、力づくで追い払おうとするマグマ・ドーパントだったが、彼は意地でも離れようとしない。険しそうな表情を浮かべながら、彼から滲み出る高温にも根性で耐えている。

 長谷川の忍耐力に驚嘆するフレイアだったが、彼女はすぐに長谷川の真意に気付く。

「あっ、そういうことですね……はぁぁぁ!」

 するとフレイアはハンマーを握りしめて、力強くマグマ・ドーパントに向けて殴りかかっていた。

「何……ぐわぁぁあ!!」

「キャ!?」

「おっと!!」

 相手の全身へ響き渡るように、体の中心に向けて殴打すると……マグマ・ドーパントの体に負荷がかかり、そのまま体を発火させながら爆発させてしまう。その勢いに押されてしまい、体を吹き飛ばされるフレイア。そんな彼女を長谷川は即座に抱きかかえ、自らの身を挺して守ったのであった。

「ふぅ……おい、大丈夫か?」

「えっ? アナタが守ってくれたのですか?」

「言っただろう。無職の底力は果たしねぇってな!」

 マグマ・ドーパントの高温に加えて、爆発の衝撃波を間近に受けながらも、平気そうな顔で受け流す長谷川。しぶとさを見せる彼の姿を目の当たりにして、フレイアもその強さを信じて長谷川のことを頼ろうとしている。

「……地球の侍は本当に頼もしいですね。でも無理だけはしないでくださいね」

「わかっているよ! さて、アンタはこれから……」

 彼女に褒められたことで、つい嬉しさを感じて表情が緩む長谷川。気持ちを弾ませながら、フレイアに改めて手を貸そうとした時だった。

「させるかぁぁぁ!!」

「えっ? ……ギャァァァァ!!」

「ん!?」

 なんとちょうど彼らの上空から、羽根を伸ばして上空を滑空していたプテラノドンヤミー(オス)が来襲。すぐに長谷川を上空へと連れ去り、彼に想定外の恐怖を与えていた。あまりにも突然の出来事に、フレイアも口を開けて体を固めてしまう。

「た、助けてくれぇぇえ!!」

「ええい! 暴れるな! お前は俺が仕留めてやる!!」

 必死に抵抗を試みる長谷川だったが、体をがっちりと掴まれているために上手く対処できない。脅しまでかけられているため、下手をするとこのまま上空から落下してもおかしくない。

 甲高い悲鳴を上げながら助けを求める長谷川に……救いの手を伸ばしたのは意外な人物である。

「あっ! 定春! 長谷川さんを助けてあげてください!!」

「ワン!!」

 ちょうど空を見上げて長谷川の窮地に気付いたのは、ユイと定春だった。彼女らは道中のゴミ捨て場で見つけたトランポリンを利用して、長谷川を助けようと画策している。

「いっけぇぇ!」

「ワフゥゥ!!」

 タイミングを調整しつつ、定春はトランポリンのバネを利用して大きく飛び上がった。目指すはプテラノドンヤミーの背後。気配を悟られぬよう、静かに迫っていき……

「今です!」

「ワフゥゥィ!!」

見事にその不意を突くことに成功している。

「何だ!?」

「うわぁぁぁあ!!」

 飛行の態勢を崩したプテラノドンヤミーは、訳も分らぬままに垂直へ墜落してしまう。

 一方の長谷川も、その流れに巻き込まれて共に落下していた。だが落下の途中で、彼の態勢は大いに変わっている。プテラノドンヤミーの両足を掴み、彼を勢いのままに自身の背中近くへ移動させると、掴んだ足を引き裂くように開き……

「ぎぁぁぁあ!!」

そのまま地上へと着地していく。幸いにも落ちた先にはゴミ袋が密集しており、それらがクッション代わりとなって大事には至らずに済んだ。ところがプテラノドンヤミーにとっては、思わぬダメージを被ることになっている。

「な……」

「えっ?」

 ふと冷静になって、後ろを恐る恐る見てみると……そこには筋肉バスターではなく、長谷川バスターをかけられているプテラノドンヤミーがいた。どうやら落下の最中、奇跡的にこの態勢となったようである。当然プテラノドンヤミーからすれば、肉体的及び精神的なダメージは相当なものであり……

「コノヤロー!!」

「ん!? うわぁ!?」

悲痛な叫び声をあげながら爆死してしまう。爆発によりまたも吹き飛ばされた長谷川だったが、大したダメージは受けていなかった。この短時間の間に、強固な頑丈さを露わにしている。ちなみに長谷川が長谷川バスターをかけたことは、あまり身に覚えにないらしい。

「痛……って、なんだ? メダル?」

 自身の無事を入念に確認する長谷川だったが、彼は近くに落ちていた一枚のメダルを発見している。これもセルメダルであり、月詠と同様に直感からこのメダルを所持することにした。

 一方でユイと定春は、長谷川を助けられたことに一安心している。

「やりましたね、定春!」

「ワン!」

 互いに優し気な笑みを浮かべながら、アイコンタクトをとっていた。そうお互いを信じて、次なる戦いに身を投じようとした時である。

「ウゥゥ!」

「ワフ!?」

「キャ!?」

 彼女らに目を付けた二体の怪人が、お返しと言わんばかりに襲撃をかけていた。ユイにはクジラをモデルにしたホエールイマジン。定春にはイボイノシシをモデルにしたウォートホッグファンガイアが攻撃を仕掛けている。

「貴様……!」

「ワフ……ウゥゥゥ!!」

 スッと睨みを利かせるウォートホッグファンガイアに対して、定春も対抗して怪訝な表情で雄たけびを上げていた。二匹はそのままいがみ合いながら、力の赴くままに衝突する。

 一方でユイは、丸腰のままホエールイマジンと対峙していく。

「お前~倒すぞ~!」

「ク、クジラさん!? いや、邪悪なクジラさんですね!」

 ユイは体の装飾品や特徴を元に、ホエールイマジンをすぐにクジラモチーフだと理解。自身と縁の深い動物と知り、何やら運命的に感じている。とそれはさておき、標的を定められたユイはホエールイマジンからの攻撃を次々に回避していく。

「くらえ~!」

「そうはいきません! フッ、ヤァ!」

 彼女は自身の身軽な身のこなしを生かしながら、ホエールイマジンの打撃攻撃を軽やかに受け流す。動きが鈍いホエールイマジンは決まった攻撃しか繰り出さず、ユイにすかさず手の内をバラしてしまう。

「今です! ハァ!」

「あっ。何~?」

 そして一瞬の隙を突いた後に、所持していた杖型の武器をユイに奪われていた。思わぬ鈍器を手にした彼女は、

「エイ!!」

「うぐっ!?」

ためらう暇もなくホエールイマジンの下腹部にそれを当てている。要するに股間を狙った攻撃であり、それを受けたホエールイマジンは存分に痛がる反応を見せていた。

「くっ……き、貴様~!」

 どうにか態勢を整えて、ユイに反撃を加えようとした時である。

「うわぁぁあ!?」

「ん? ぐはぁ!!」

 ふと彼の真横から、高らかな悲鳴が聞こえていた。つい横へ振り返ると、そこには定春によって吹き飛ばされたウォートホッグファンガイアの姿が見えている。どうやら突進対決は、定春の方に軍配が上がったようだ。

 定春によって投げ飛ばされたウォートホッグファンガイアは、ホエールイマジンに衝突すると、彼を巻き込んだまま遠くへと飛ばされていく。結局撃破が分らぬまま、この勝負は一旦幕を下ろしていた。

「か、勝ったんですか? 定春?」

「ワン!」

「凄いです! 助けてくれてありがとうございます!」

 定春はすぐにユイの元に駆け寄り、元気よく声を上げて返事している。威勢の良い返事を聞けたユイは、満面の笑みを浮かべながら彼に抱き着くのであった。互いのことを思いやる彼女ならではのスキンシップである。抜群のコミュニケーションを披露していた。

「はぁ……やっと着きました。って、これは……?」

 一方でフレイアは、長谷川を追いかけたところでようやくこちらに到着。けれども状況を飲み込めず、つい首を傾げてしまう。無論長谷川も同じような反応である。

「痛……って、嬢ちゃん達がやったのか?」

「あっ、長谷川さん! もちろんです!」

「ワン!!」

 近づいて問いかけると、ユイと定春共ににこやかな笑顔で事を返していた。よっぽど嬉しいことが、フレイアや長谷川にも伝わっている。緊迫が続く戦場でも、クスっとつい暖かな気持ちを察していた。

 思わぬ危機に直面しながらも、根性や知恵を用いて乗り切った四人。この流れに乗っかり、さらなる行動に取り掛かろうとしたところ……事態は急展開を迎えている。

「「うわぁ!!」」

「えっ? 今の声は……パパと神楽さん?」

「ワフ!?」

 神楽とキリトの悲痛な声に気付いたユイと定春は、じっとすることが出来ず声の聞こえた方角へと歩みを進めていた。突発的な行動に、フレイアや長谷川も止めることが出来ずにいたが。

 絶え間なく変化を続けるマッドネバーとの闘い。フレイアの元にも、新たなる刺客が忍び寄ろうとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらはアルンの街中に設置されたレンガ状の橋。高架された場所を繋ぐ役目を持ち、その全長はビルの三階建てにも及んでいる。また橋の下にはサイクリングロードに似た道が舗装されており、休日には妖精達が羽根を用いて飛行レースをするほど住人達から親しまれている場所だ。

 そんな平和な場所も、現在は戦場と化している。ここではリーファ、ノリ、柳生九兵衛、猿飛あやめの四人が、戦闘員や怪人達を相手取っていた。

「フッ、ヤァ!」

「ギギギ!!」

 サイクリングロード状を駆け抜け、堅実的に戦闘員をなぎ倒すは柳生九兵衛。重ねてきた剣技を余すことなく披露し、相手よりも先に行動してその息の根を止めている。現在この道で戦闘員と戦うのは九兵衛だけであり、誰にも邪魔されることなくライオトルーパーやワーム(サナギ体)を倒していった。孤軍奮闘とは、まさに現在の彼女のことを表しているのだろう。

 一方で架けられた橋の通路では、リーファ、ノリ、猿飛あやめの三人が、戦闘員達と激闘を繰り広げている。

「ハァァ!」

「ヤァ!!」

「セイ!!」

 三人は各々の武器を巧みに使いながら、自分の得意な戦いを展開していた。あやめは手裏剣と素早さを生かした俊敏な戦闘を。ノリはハンマーを振り回して力強い打撃戦を。リーファは片手剣と蹴り技で、次々に戦闘員の大群を薙ぎ払っている。

 橋の上で展開されていく戦い。誰もが果敢に立ち向かう中で、突如として新たな敵が乱入していく。

「キュユ!!」

「ぐわは!?」

「えっ? キャ!?」

 その怪人の正体はエビの特性を持ったキャマラスワーム。高速での移動を得意とするワームの一体であり、右腕に装備されたハンマーに似た腕を振るいながらリーファとノリに襲撃をかけてきたのだ。

 当然あやめにも襲い掛かろうとしたのだが、

「キュユ!」

「ふっ!」

「キッ!?」

彼女は寸前でその奇襲を手裏剣で受け流す。どうやらキャマラスワームの動きをおおよそ把握して、手の内をすでに見透かしていたようだ。

「甘いわね……アナタのような姑息な攻撃が、忍である私に通じるわけ? そんなの何十年も早いのよ!!」

「キュィ!!」

 あやめは即時臨戦態勢を整え、真っ向からキャマラスワームの高速移動に対処していく。一方のキャマラスワーム側も、変わらずにあやめを標的として定めていく。二人は互いの素早さを限界にまで高めて、誰の目にも止まらぬ高速の戦いを始めていた。

 常人にはついていけないスピードを目にして、リーファやノリは大小なり驚いている。

「す、凄いスピード……」

「まぁ、あやめさんは忍者だからね……にしても、怪人と張り合うだけで凄いと思うけど」

 ノリの率直な反応にリーファが補足を加えていた。かくいう後者もあやめの知られざる実力には驚きを隠せないのだが……。

 と気休めに会話を交わす二人に、さらなる別の怪人がこの戦場に乱入していく。

「フッ、貴様らの相手は俺達だ!」

「覚悟しろ!!」

「って、何!?」

 意気揚々と交戦を仕掛けてきたのは、メタル・ドーパント、カマキリヤミー、シルフィの三体。前者の二人はノリを集中的に狙い、後者はリーファを周到に攻めていく。また同じタイミングで、九兵衛も一体の怪人と対峙する。

「勝負だ!」

「貴様は……一角獣をモデルにした怪人か!」

 剣を構えて標的を九兵衛に定めるは、一角獣の星座をモデルにしたユニコーン・ゾディアーツ。騎士然とした風貌をしており、動きのキレからも相当な手練れだと彼女は予見する。

 それはさておき、売られたからには真っ向から立ち向かう意思を見せる九兵衛。両者共に呼吸を整えて、長く続いていく道中で遂に戦闘が開始される。

「ならば……行くぞ!」

「フッ!!」

 声を荒げながら真っすぐに刀を構える九兵衛。彼女に対してユニコーン・ゾディアーツも、手にした長剣を改めて整える。

「はぁぁ!!」

「フッ! とわぁ!!」

 両者ともに最初から全力を注ぎ込み、相手へ容赦のない一刀を繰り出す。刀と剣がぶつかり合い、攻守がせめぎ合う勝負。九兵衛も真剣な表情のまま、ユニコーン・ゾディアーツを撃破するために躍起となっている。

 一見彼女が冷静さを欠けているように見えるが、決してそんなことはない。

「そこだ!」

「ウッ!?」

 拮抗した戦いの中で、一足早く動いたのはユニコーン・ゾディアーツ。自身の剣をフェンシングのように振るい、九兵衛の心臓にめがけてそれを勢いよく突き刺す。

「勝ったな……」

 彼女の弱った唸り声を察して、自身の勝利を高らかに確信するユニコーン・ゾディアーツ。そのまま九兵衛の体から剣を引き抜こうとした時である。

「何!? いない?」

 なんとふと我に返ると、そこにはすでに九兵衛の姿そのものが消えていた。はっきりと倒した覚えはあるはずだが、やはり辺りを見ても一切見つからない。

 思わず上空を見上げようとした――その時だった。

「ここだぁぁ!! やぁぁぁ!」

「うぐっ!?」

 そこにはちょうど九兵衛がおり、刀を構えながら有無を言わさずにユニコーン・ゾディアーツへ斬りかかっている。そう彼女は一瞬の判断から、大きく飛び上がり自らの危機を回避することに成功していた。ユニコーン・ゾディアーツが刺した九兵衛は、いわば彼女の残像ともいえよう。

 満身からか思わぬ攻撃を受けてしまったユニコーン・ゾディアーツ。そんな隙が出来ている彼を、九兵衛が見逃すはずも無い。

「まだだ! はぁぁ!」

「くわぁ!?」

 上下に一刀した後、今度は真横へと斬りかかり、所謂十字を描くようにユニコーン・ゾディアーツへとどめを刺していく。素早い連続攻撃を受けた彼は、体にも限界が来てしまい、

「この……!!」

九兵衛を道ずれにすらできず、そのまま倒されてしまう。盛大に燃え上がる爆発を背景に、九兵衛は戦いにて感じたことを赴いたままに呟く。

「戦う理由を持たぬ奴に、僕らが負けるはずは無いんだ……!」

 信念がある者とない者の戦い。自身や仲間とマッドネバーとの戦いを、この一言で締めくくっている。

 そして時を同じくして、ノリやリーファにも戦況に異変が生じていた。

「ねぇ、君! アタシが二体の怪人を相手にするから、君はあの青い怪人を相手にして!」

「えっ!? でも、大丈夫なんですか!?」

「平気! 平気! こう見えても、騎士団はとっても強いんだから! さぁ、頼むわね!」

 襲撃を行った三体の怪人を倒すために、役割を分担するとのことだが、ノリは威勢よく二体分を相手にする。リーファは思わず彼女を心配するも、当の本人はまったく気にしないまま、有言実行の通り二体の怪人を相手取っていく。

「わかったわ……!」

 少しばかり不安はあるものの、リーファもノリの言葉を信じて、言われた通りに一体の怪人と対峙している。こうしてリーファはシルフィを。ノリはメタル・ドーパントとカマキリヤミーを対処することになった。

「フッ、ハァ!!」

 自身の愛用するハンマーを振るいながら、ノリは二体の怪人へ攻撃を続けていく。彼女は通常攻撃を挟んだ上で、とある共通点に気付いていた。

「こいつら……さては飛び道具を持っていない? だとしたら……!」

 その通り。彼女が相手をする二体の怪人は、どちらとも接近戦しか行わず、ビームや光線といった類は持ち合わせていないと推測している。だとすれば、打撃系の技を多用するノリにとっても都合が良い。ひとまずは欲張らずに、一体の怪人を標的にして堅実的に倒そうと作戦を練っていく。

「そこだぁ!」

「って、アンタは邪魔!」

「ブヒォ!?」

 背後から奇襲を仕掛けてきたカマキリヤミーに対しては、攻撃を受け流しつつ隙が出来たところを殴打するカウンター戦法で完封していく。不意な攻撃を受けた彼は、体に内包されたセルメダルを弾けさせながら、橋の隅っこまで飛ばされてしまう。

 ノリが狙うは、同じく打撃系の武器を得手にするメタル・ドーパントである。

「フッ。やってやろうじゃねぇか!」

「随分と威勢が良いね! でもアンタは、アタシが倒すから!」

 一対一の勝負が出来上がったことに、メタル・ドーパントは一段と気合を入れていた。一方のノリも彼と同じくらいのやる気を滲ませている。

「はぁぁ!!」

「フッ!!」

 互いのハンマーやロッドをぶつけあいながら、積極的な接近戦を展開していく両者。その実力はほぼ互角であり、一進一退の攻防が続いていく。

 そして、戦況は咄嗟に移り変わる。

〈カキーン!〉

「何!?」

「しまった!」

 両者の勢いに余った攻撃から、互いの手にしていた武器が思わず手元を離れていた。互いに丸腰となり、普通ならば武器を回収するはずだが……ノリらの戦いはまだ終わってない。

「なら……!」

「こちらも!」

 二人は咄嗟に拳を握りしめて、相手の顔面へ目掛けて殴りかかろうとする。判断への切り替えはほぼ同一であり、先に相手へ拳が当たったのは……

「うぅ……」

「ふぅー、間に合った」

ノリの方だった。彼女はメタル・ドーパントから向けられた拳も、すかさず左手で受け止めて無事に攻撃を回避している。一方のメタル・ドーパントは、まんまとノリの拳を顔面に当てられてしまう。

「くっ……」

 この渾身の一撃は相当効いたようで、動きが鈍ったうえにそのまま倒れこむ。爆発こそしなかったが、ノリの勝利で間違いはないようだ。

「よっしゃ! アタシの勝ちね!」

 右手で大いにガッツポーズを構えながら、嬉しさを存分にアピールするノリ。同じ実力の敵を打ち破ったことに、相当な達成感を感じていく。

 しかし、彼女は気付いていない。先ほど退けたカマキリヤミーが近づいていることを。

「さっきはよくも!!」

 と不意打ちを仕替えようとした時である。

「キュユ!!」

「えっ?」

「何!?」

 突如として場に現れたのは、高速移動を解除したキャマラスワーム。その体には至るところに傷があり、動きも相当鈍っているように見える。その原因はもちろん、あの忍者と一戦を交えたからだ。

「はぁ! これでとどめよ!」

「キュユウ!!」

 時を同じくして現れたのは、忍らしい動きで高速的に橋を駆け抜ける猿飛あやめ。彼女は手裏剣を手に持ちながら、大きく飛び上がってそれらをキャマラスワームの傷目掛けて投げつけていく。この攻撃があやめの言う通りとどめとなり、キャマラスワームは鳴き声を上げながら爆散。青白い炎を上げて、その身を散らせている。

「始末屋を……舐めないで頂戴!」

 あやめは凛々しい表情を浮かべると、決め台詞のような言葉を発して戦いを締めくくっていた。本気を出したあやめの戦いに、カマキリヤミーは恐れおののき、逆にノリには絶大な希望を与えている。

「す、凄い!! これが地球の忍者の戦い方ね!」

「そうよ! 忍者は速さが命なんだから! さて……ここは一緒に共闘しましょうか?」

「同じく! さぁ、一気に片づけちゃおう!」

 そう言葉を交わすと、ノリは落ちていた自身のハンマーを手に取り、それを構えていく。あやめもまた手裏剣を手に装備し、標的をカマキリヤミーへ定めようとしていた。橋を戦場に一直線な戦いがまたも開戦する。

「この……調子に乗りやがって! フッ!!」

 一方のカマキリヤミーは奥の手と言わんばかりに、手からエネルギー状の刃を生成し、ノリやあやめの元へ投げつけていた。あわよくばそのまま彼女達を切り裂こうとしたが……

「そんな攻撃……最初からお見通しよ!」

「効かないっての!!」

「えっ!?」

まったくもって奥の手は通じていない。二人はカマキリヤミーの姿から、鎌や刃を模した攻撃が可能だとすでに予見しており、さも当たり前のように手裏剣やハンマーを用いてエネルギー刃を相殺している。

 奥の手が不発に終わり、あたふたとしてしまうカマキリヤミー。隙が出来ているうちに、あやめとノリが渾身の一撃を繰り出していく。

「今よ!」

「うぐっ!?」

 手始めにあやめがカマキリヤミーの全身に手裏剣を突き刺す。相手の動きを封じた後に、ノリが力を込めてカマキリヤミーへ殴りかかろうとする。

「これでとどめよぉぉ!!」

「う、うわぁぁぁぁ!!」

 相手の全身へ響き渡るように、カマキリヤミーの腹部を狙って繰り出した一撃。ノリとあやめの読みは見事に功を奏しており、二人が背を向けたところで……

〈ドカーン!!〉

彼の体は大爆発を起こしていた。火炎と共に体内を構成していたメダルも吹き飛び、辺り一面に散らばっていく。

 とそれはさておき、ノリやあやめは撃破を確認した後にそっと会話を交わしている。

「やったわね」

「これもアンタのおかげだって! そういえば、なんて名前なの?」

「よくぞ聞いてくれたわね。私の名前は猿飛あやめ! みんなからはさっちゃん、メス豚、マゾヒストなんて言われているけど、本当は銀さんの運命の人と言われたいのよ! 数々の依頼をこなしつつ、普段は銀さんを追いかけ――」

「いやいや、落ち着いてって! なんか途中でとんでもないことも言っているし!」

 改めて自己紹介を話題に上げるも、あやめは聞いていないことまでベラベラと声に出してしまう。緊張感の解けた彼女の素な一面に、ノリはタジタジとなり困惑してしまう。ひとまずは彼女を落ち着かせようとする。

 意外な組み合わせによる共闘であった。

 

 

 

 

 

 その一方で、ファントムの一体であるシルフィと交戦するのは、同じく風属性を持つリーファである。

「フッ、ハァ!!」

「うわぁ!?」

 シルフィは武器を持たず、常時素手を用いて攻撃を繰り出していた。彼はつむじ風を自身で発生させながら、リーファへトリッキーな戦い方を仕掛けていく。リーファも彼の飛行能力に対抗しようとするも、現在はアナザーエターナルによって飛行能力は封じられている。つまりは本来自分も得意とする飛行戦を展開できないまま、シルフィを倒し切らないといけないのだ。

「うっ……これじゃ防戦一方だよ! でも……どうにか乗り切れるかも!」

 苦悶の表情を浮かべているリーファだったが、それでも勝機は十分にある。実はシルフィが突進攻撃を繰り出すその傍らで、リーファは密かに彼の全身にバツ印を刻むように傷跡を残していたのだ。しかも本人には一切この件を悟られていない。

「さぁ、これで終わりにしてあげましょう~!」

 シルフィは傷跡に気付かぬまま、リーファと遂に決着を付けようとする。彼女をつむじ風へと連行し、高所から地面に叩きつけようと考えていたが……

「ハァ!!」

「何!?」

咄嗟にリーファは回避行動をとり、シルフィから作り出された風を受け流していた。シルフィはそのまま真っすぐ進んでいき、飛行状態のまま地面から遠ざかったところで……

「今よ! はぁぁぁ!!」

「ぐふぅ!?」

リーファが一か八かの行動へと移っている。彼女は自身の剣を構えた後に、シルフィに刻まれたバツ印へ重なり合うように、剣を彼の体にぶつけていく。その勢いのまま彼を上空から、橋下の地面まで墜落させていた。

 リーファの狙いとは密かに刻んでいた蓄積ダメージを、強制的に追撃することである。繊細な剣術のみならず、百華や柳生家でも培った無茶苦茶さをこの場で発揮していた。

 そんな彼女の狙いに気付かぬまま、シルフィはただなすがままに地面へと叩きつけられてしまう。

「くっ……お見事!」

 と悔しさを滲ませた一言を呟いたところで……

〈ドーン!!〉

体を爆発させていた。積み重ねた経験の数が勝利を左右した戦いでもあった。

「ふぅ……なんとか倒せた―」

 爆発の最中に脱出したリーファは、ようやく安堵の表情を浮かべている。彼女自身もこれで倒し切れるのかは不安があり、自分の思い通りに進んだことが嬉しいのだ。

 そう一瞬だけ気を休める彼女の元に、さらなる怪人の群れがこっそりと奇襲を仕掛けていく。

「はぁぁ!」

「えっ、キャ!?」

 不穏な気配に察したリーファは、すかさず剣を握り直して、目の前にある三つ槍を受け流している。彼女を襲撃してきたのは、水牛をモデルにした超越生命体のバッファローロード。象をモチーフにしたエレファントオルフェノク。クラゲの特性を持つシームーンファンガイアと計三体である。ちなみに後者の二体は、奇しくもリーファが気に入っている邪心型モンスターのトンキーとモチーフが被っていた。

 とそれはさておき、一気に三体も攻められてしまい、リーファは険しそうな表情を浮かべている。徹底的な交戦を構える一方で、バッファローロードは意味深な一言をリーファに投げかけてきた。

「人の子よ……人間が神になど近づくな!!」

「神? って、私はそんなものに興味はないわよ!」

 彼もまたリーファを神に近しい人間(恐らく後にアバターを借りるテラリア)と察しており、存分に彼女へ敵意を向けている。事情を知らないリーファからすれば、さっぱり分からないことなのだが……。

 とそれはさておき、謎に因縁を付けられたからには挑む心意気のリーファ。三体を上手く対処するための策を講じる中……バッファローロードらは多勢で彼女を追撃していく。

「うるさい! やれ!!」

「キィィ!」

「ハァ!」

「うわぁ!? キャ!?」

 手始めにシームーンファンガイアとエレファントオルフェノクが、半強制的にリーファへと突撃していく。その衝撃から彼女は地べたに倒されてしまい、なおかつ手にした武器も手放してしまう。

「しまった!」

 と起き上がろうとして、剣を戻そうとした時である。

「させるか!」

「えっ!? うわぁぁぁ!!」

 あと一歩及ばぬうちに、シームーンファンガイアの触手がリーファに絡みつく。手足を拘束されてしまい、そのまま空中へと持ち上げられていく。このままでは反撃することもできない。

 無防備となった彼女を、バッファローロードが三つ槍を用いて、とどめを刺そうとする。

「さぁ、散れ!」

 彼は勢いよく三つ槍をリーファへと投げ出していく。彼女の体に突き刺し、完膚なきまでに絶命させようと企てていた。

「うぅ……! こんなところで!!」

 絶体絶命の状況下でもリーファ自身は最後まで諦めず、必死に触手を解こうと抵抗している。最後まで自分自身の力で、この苦境を乗り切ろうとしていた。けれでも思い通りにはいかず、三つ槍は刻一刻とこちらに迫っている。もはやどうすることもできない――と思いきや、ギリギリのタイミングで助っ人が駆けつけていく。

「リーファ君!!」

「何だと!?」

「き、九兵衛さん!?」

 リーファの目の前で身を挺して守ってくれたのは、橋の下付近で戦闘を行っていた柳生九兵衛。彼女は自身が持つ刀のみならず、リーファが落とした片手剣も手にしており、所謂二刀流でバッファローロードから放たれた三つ槍を力づくで防いでいく。

「はぁぁ!」

「うっ!?」

 ぶつかり合いの末に、軍配が上がったのは柳生九兵衛である。勢いを失った三つ槍は二本に分断され、前後の地面に突き刺さってしまう。いずれにしても、もう武器としての役割は果たせなさそうだ。

「さらに……やぁ!」

「おっと!?」

 さらに九兵衛は、地面へ落下する前にリーファを覆っていた触手を一刀。彼女を拘束状態から無事に解放している。

「と……セーフ?」

 特に目立った怪我もなく、リーファは無事に地面へと降り立っていた。そんな彼女の元に、ようやく九兵衛が話しかけてくる。

「リーファ君! 大丈夫だったか?」

「九兵衛さん。なんとか平気ね。これも九兵衛さんのおかげだよ!」

「僕は君の師匠として、当然のことをしたまでだよ。ほら、これも君のだろう?」

「あっ、ありがとう!」

 リーファの安否を確認した後に、九兵衛は先ほどまで手にしていた剣を彼女へと返している。危機を救ってくれた九兵衛に、リーファは元気よく感謝を伝えていた。

 と温かな雰囲気が流れる彼女らに対して、撃破が失敗した怪人らは一段と激高している。

「恐れ……神に逆らうなど許さぬぞ!」

 三人は臨戦態勢を構えており、意地でもリーファらを倒すことを決意していた。

 敵意を向けられた九兵衛達は、こちらも相手の撃破を試みている。特に変な因縁を付けられているリーファは、思うままに感じた怒りを爆発させていた。

「って、さっきから何訳分からないこと言ってんの! 私を苦しめたこと! 何十倍にして返してあげるんだから!」

 自身を貶めようとしたことに到底納得がいかず、鋭い目つきをしたまま彼らへ反撃するとのこと。リーファのみならず九兵衛もその意志に加担していく。

「この調子ならいけそうだな」

「もちろん! 一緒に倒しましょう! 九兵衛さん!」

「そうだな……!」

 両者は刀や剣を構え直すと、標的を三体の怪人に定めていく。神速の剣使いに倣い、速攻で戦いを終わらせるとのことだ。奇遇にも師弟の共闘がこの場で実現している。

「さぁ、やってしまえ!」

 一方のバッファローロードは、ひとまずエレファントオルフェノクとシームーンファンガイアに指示。真っ向から彼女らを叩きのめそうとしたが、

「「はぁぁぁ!!」」

「グル!?」

「ウッ!?」

戦いの先導を取ったのはリーファ達である。彼女らは二体の怪人の攻撃を軽やかに回避しつつ、その間にも剣や刀を用いた斬撃を相手へ刻んでいく。リーファはエレファントオルフェノク、九兵衛はシームーンファンガイアを対処しており、相手が怯んでいる隙に、

「まだだ!」

「いっけぇ!」

二人は連続的な斬撃を怪人達へ刻み込んでいた。目にも止まらぬ速さと剣術。二つを組み合わせた怒涛の攻撃の数々に、当然怪人達は受け止めきれず……

「「ダラァァァァァ!!」」

断末魔を上げながら爆死してしまう。エレファントオルフェノクは青い炎を上げて体を灰化させて、シームーンファンガイアはガラス状の破片となり辺りへかけらを飛び散らせている。

 あまりにも一瞬の出来事に、様子を伺っていたバッファローロードはさらなる脅威を感じ取っていた。

「何だと!? おのれ……!」

 分が悪くなった彼は、三つ槍から紋章を放出。差し向けた相手の周囲に爆発させる攻撃を繰り出してきたが、

「なんの!」

「やぁ!」

すぐに見破られて紋章攻撃を回避されてしまう。彼女達は颯爽と走り出し、今度はバッファローロードとの決着を付けようとしている。

「はぁぁ! どうだ!!」

「うぐっ!?」

 一足先に九兵衛が全身へ斬りかかった後、彼の左腹部に刀を差しこんでいく。

「今だ、リーファ君!!」

「はぁぁぁ!!」

 そしてリーファへ指示を加えていき、彼女も全身に斬りかかった後、彼の右腹部に剣を差し込んでいた。その通り。彼女らの狙いは……

「これで最後だ!」

「これで最後よ!」

「うっ!? うゎぁぁぁ!!」

同時に斬りかかることで撃破する寸法である。この連携された攻撃はバッファローロードにはかなり効いており、ダメージを耐えられなくなった彼は……

〈ドカーン!!〉

頭に天使の輪っかのような光を出しながら、スッと爆死してしまう。リーファと九兵衛の完成されたコンビネーションの前では、怪人達もなすすべもなく倒されたようだ。

「やったな、リーファ君。随分と成長がしたじゃないか」

「ありがとうございます、九兵衛さん! これも努力の成果かな~!」

「本当にそう思うよ」

 長く続いた戦闘が一旦幕を下ろして、一安心する九兵衛とリーファ。前者は自分が育てた教え子が成長したことに感服し、後者は尊敬する師匠と戦えて困難を乗り越えたことに満足げな表情を浮かべていた。この世界にて培った縁の強さを、遺憾なく発揮していく。

 彼女たちは調子を整えていき、次なる戦いへ向かおうとした時である。

「「グフッ!?」」

「えっ?」

「この声は?」

 ふと聞き覚えのある男の声が聞こえ、近くを見渡してみると……そこにはリザードアンデッドやディアーアンデットと対峙する近藤、土方、クライン、エギルの四人の姿が見えていた。皆アンデッドの不死能力に苦戦している様子だが?

「真選組にクライン、エギルだと?」

「みんな苦戦してる? 行ってみましょう!」

「そうだな」

 彼らの戦いが気になったリーファと九兵衛は、このまま土方達の加勢に入ることにする。

 一方であやめやノリも、近くで戦っていた仲間の存在に気付いていた。

「ん? アレは、たまにリズちゃん? それにエリザベス!?」

「テッチまで……って、アタシ達も加勢しないと!」

「あっ、待ちなさい!! もう、なんで銀さんと共闘できないのよ!!」

 ちょうど目にしたのは、教会近くで戦っていたリズベット、たま、テッチ、エリザベスの計四名。彼らは戦闘員の大群を相手取っており、やや押されている様子から、ノリ達も助けに加わろうとしている。あやめは銀時と共闘できないことを嘆いていたが……とそれはさておき、素直にノリへついていこうとする。

 大方の怪人を一掃し、戦いはさらに激しさを増していく……!




対戦表2

キリト・沖田総悟・ジュン・神楽VSゴ・ベミウ・ビ・ソロスパイダー・タイガーオルフェノク・カプリコーンアンデッド・ヒートドーパント・ペルセウスゾディアーツ・スプリガン・ソードロイミュード
戦闘場所:二つの方向に分かれた商店街

長谷川泰三・ユイ・定春VSホエールイマジン・ウォートホッグファンガイア・マグマドーパント・プテラノドンヤミー(オス)

リーファ・柳生九兵衛・ノリ・猿飛あやめVSバッファローロード・エレファントオルフェノク・キャマラスワーム・シームーンファンガイア・メタルドーパント・カマキリヤミー・ユニコーンゾディアーツ・シルフィ
戦闘場所:公園にかけられた西洋風の橋





 今回も中々に手ごわい相手達との闘いでした!

またも僕的おすすめシーンをピックアップ!

ジュンと神楽の赤コンビ
フルボトルバスターに装填される赤系のフルボトル
ミラーワールドに閉じ込められた人々の声援
傘を武器に使う沖田
アクロバティックな剣技を使用するキリト
ピンチに現れるシフトカー
長谷川バスター
イルカと縁のあるユイ
姫様も強い
定春も強い
ノリとあやめの紫色コンビ
クロックアップに対抗する忍 さっちゃん
リーファと九兵衛の師弟コンビ
怪人のモチーフにもこだわり

 こんなところでしょうか。
 さて次回は、大乱闘の最後! アスナ、ユウキ、高杉や桂や出陣します! そろそろ日常回にも戻りたいけど、もうすぐ完結! それまでは戦闘シーンをとことん頑張ります!


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第九十一訓 世界を越えたSWORD SKILL!!

これにて一般怪人との闘いは一旦終了です。戦闘シーンやオベイロンとの決着は最低でも後二訓程度続きますが、ようやく終わりまで目途が付きました。それではどうぞ、ご覧ください。


 場面はアルンの中心街よりも離れた階段付近で起こっていた。高台と平地を繋ぐ場所であり、高低差は少ないものの距離はだいぶ長く設計されている。ここでは一定の位置に小さなスペースがあり、左手には商店、右手には木々があり、比較的穏やかな印象を訪れた者に与えていた。

 そんな平穏な地も今では戦場と化し、四人の戦士達が混成の戦闘員軍団と一戦を交わしていく。

「新ちゃん! 奥に回ってちょうだい! 高台は私達が相手するわ!」

「お願いします、姉上!!」

「タルケンさんは新八さんをアシストしてください! 私は彼女と共に戦いますから!」

「は、はい!」

 階段を下りつつも、妙とシウネーは仲間である新八やタルケンに、戦力を分散させるように指示。それを聞いた新八とタルケンは、意気揚々と階段を下っていき、下にいる戦闘員らを標的として定めている。

「よろしくお願いします……! 新八さんでしたか?」

「そう! ところで君は?」

「タルケンと言います! もちろん指示通り、アナタのことはしっかりとアシストしますから!」

「そうかしこまらなくていいよ。ほら、さっさとこいつらを倒そう!」

「はい!」

 共に闘志は十分にあり、互いに眼前といる戦闘員や怪人へ早速自身の武器を差し向けていく。眼鏡が共通点である二人は、初対面にも関わらずかなり距離感を詰め寄らせている。

「行きましょう!」

「はい!!」

 そして強く意気込んだと同時に、新八は木刀を。タルケンは長槍を手にしながら、ひとまずは周りに蔓延る戦闘員(カッシーン、ライオトルーパー、屑ヤミー、シアゴースト等)をがむしゃらに蹴散らしていく。

「じゃぁぁぁ!!」

「ギィィィ!!」

 目つきを真剣そうに変えながら、新八は周りの状況から堅実的な攻撃を仕掛ける。木刀で次々と相手へ斬りかかり、猛攻状態を維持したまま戦い続ける。

「ぐわぁ!」

「そこ! 舐めると痛い目にあいますよ!!」

 その一方で、新八と同じく接近戦を展開するタルケン。彼は槍を縦横無尽に振るい、体全体を使った豪快な技を繰り出す。騎士団として培った武道を存分に発揮させていた。

 互いの強さを信じあい、いつの間にか背中合わせで戦う新八とタルケン。一通り戦闘員を蹴散らしていると……一般級の怪人が彼らに勝負を仕掛けている。

「今度は俺だ!」

「グウゥゥ!」

「うわぁ!?」

「何!?」

 両者共に二人の視界から不意打ちを仕掛けており、一定の怯みを与えていた。勝負を仕掛けてきたその正体は、刀を右手に宿す異形の怪人である刀眼魔。彼に加えて、先端がハサミ状になった杖を得手にするレイヨウ型ミラーモンスターのオメガゼール。系統は違えど、二人が得意とする武器を用いて、似たような戦法で彼らを追いつめている。

「さぁ、お前も斬られるが良い!」

「って、誰がお前の言うとおりにするか! ハァ!!」

 いきなり担架を斬られた新八は、即座に反抗しつつ刀眼魔の連続した刀の攻撃を、木刀で受け流していく。だがしかし、一つ一つの攻撃を防ぎきるのに手一杯となり、思わぬ苦戦を強いられてしまう。表情も険しく移り変わっている。

「ギィィ!!」

「うぐっ!! って、早い!? あんなに重そうなのに!」

 そしてタルケンも、オメガゼールとの戦闘に悪戦苦闘してしまう。何よりもオメガゼールの俊敏な動きを上手く読むことが出来ず、槍を振るってもすでに彼の姿は消えている。慎重さで入念に相手を探るタルケンにとっては、相性の悪い相手なのかもしれない。

 本来の自分の良さを発揮できないまま、やや押され気味となる新八とタルケン。二人は息を荒くしながらも、一旦後退して体制を整え直そうとしている。その直後。二人の背中は意図せずにぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

「いや、大丈夫です! って、どうやら苦戦しているみたいですけど……」

「そういう新八さんも。あっ、そうです! これなら倒せるかも……!」

「ん? どうしたんですか、タルケンさん?」

 互いに追い込まれていることを悟った二人だったが、突如タルケンがある妙案を閃いている。新八が気になって問いかけると、彼はすぐに行動へと移していた。

「こうするんです! ヤァ!」

「くっ!?」

「さぁ、今度は私が相手です!」

 勢いよく声を荒げながら、タルケンは刀眼魔へ槍を振るっていく。そう彼は、対峙する怪人を変えることで、この逆境を乗り切る作戦へと出ていたのだ。

「なるほど! じゃ僕は……こいつを!」

「フッ!!」

 彼の意志を汲み取った新八は、すかさず木刀を握りしめて、こちらはオメガゼールへ攻撃対象を変えている。やはりタルケンの読み通り、相手をする怪人にも有利不利があったようだ。劣勢を巻き返しつつ、二人は怪人を撃破するために次々と猛攻を仕掛けていく。

「はぁ!」

「うぐっ! 中々やるな……だが、これはどうだ!」

「って、消えた?」

 槍を用いて有利に相手の隙を突いていたタルケンだったが、刀眼魔は突如自身の存在を消し、態勢を整え直す。タルケンが戸惑っている隙に、背後から彼を斬りかかろうとした時である。

「いや、そこです!」

「ぐはぁ!!」

 なんと襲撃を仕掛ける直前で、タルケンが後ろを振り返って、不意の一突きを刀眼魔へ浴びせていた。僅か数秒の判断。刀眼魔にとっても、何が起きたのか分かっていなかった。

「なぜ分かった……!?」

「姿は消せても、存在感は消せないものなんですよ! さぁ、これでとどめです!!」

 と真剣そうな表情で理由を発していくタルケン。彼にとって姑息な手など、一切通じないのである。そして優勢さを感じつつ、タルケンはこのままとどめへ駆けていく。

「はぁぁぁ!!」

「……ぐはぁぁぁ!!」

 彼は刀眼魔の前後や左右へ移動しながら、相手の攻撃を避けつつ槍で次々と切り裂くなり接近戦を展開していく。あまりの猛攻に刀眼魔は攻撃を設けることも出来ず、叫び声を上げながら崩れ去ってしまう。彼が爆発したと共に、タルケンはようやく呼吸を整えていた。

「ふぅ……やっぱり相手を変えて正解でしたね」

 多少の苦戦を強いられたものの、自身の考え通りに事が進み、タルケンは安堵の表情を浮かべている。

 その一方でオメガゼールと対峙する新八も、戦いを優勢的に進めていた。

「ググ!」

「はぁ!」

 杖を用いて襲い掛かるオメガゼールに対して、新八は木刀を使ってそれらを受け流す。俊敏な動きで相手を惑わそうとしても、新八には一切通じていない。彼なりの洞察力を発揮して、大まかに動きを読めているからだ。

「キュル!!」

「何の!」

「フル!?」

 思い通りにはいかず、しびれを切らしたオメガゼールは、腕に備えていたカッターを展開。新八へ致命的な傷を与えようとしたものの……こちらも彼にとっては想定内の行動である。すぐに木刀を用いて、カッターそのものを切り落としてしまった。思わず戸惑っている隙に、

「これで……とどめだぁぁ!!」

「ぐはあっぁぁ!!」

 気合を込めた一刀で、オメガゼールの全身へ斬りかかっている。彼の隙を見逃さなかった一撃に、オメガゼールはとうとう耐え切ることが出来ず……そのまま爆発してしまう。

「か、勝った……?」

 勝ち取った勝利に、新八はまだ実感が湧かない様子である。背後に舞う爆発を見て、ようやく撃破したことを確認したようだ。

 

 

 

 

「さぁ! 次です!」

「どんと来いや! 邪魔するんじゃねぇ!!」

 一方で階段の天辺近くでは、シウネーと妙が戦闘員の大群と対峙していく。両者共に杖や薙刀と言った長物の扱いに長けており、こちらは格闘戦を交えつつ戦闘員達を薙ぎ払っている。

「フッ!」

「オリァァァ!!」

 シウネーは緻密な計算から、自身が与えるダメージを逆算して応戦。常に頭を動かして、スマートに戦っていた。

 対して妙は後先を考えることは無く、ただ眼前の敵を叩きのめすのみである。粗暴に戦い続ける様は、男性陣よりも激しさを増していた。

「フッア! さっさと倒れなさい!」

「ハァ? 倒れるのはアンタでしょ……! 今すぐ地獄へ送り返してやるわ!」

 突如襲い掛かって来た三つ槍を避けつつ、お返しに妙は怪人へ向けて薙刀を差し向けている。怪人の正体はシルクモスファンガイア。蚕をモデルにした女怪人で、幻術を得意としている。そんな彼女は早速妙に標的を定めていく。

「ハァ!」

「ウッ!?」

 一度妙に蹴りかかると同時に体を後退させると、シルクモスファンガイアはお得意の幻影を作り出していく。

「これならどうかしら? ハァ!!」

 彼女は自身の槍を地面へ突き刺すと、手を動かしながら近くにあった影を介して、巨大な幻影を作り出している。所謂妙へ脅しをかけようとしていた。

「くたばれ!!」

 と強気にもその影を振るいながら、妙へ襲い掛かろうとした時である。

「ハァァ!!」

「……何!?」

 なんと妙は影そのものを片手で掴んでおり、しかも余裕そうな表情を浮かべていた。幻影とは言え一切恐れを感じていない、彼女らしい肝っ玉を発揮している。

「こんなの作り物に決まっているじゃない……私を騙すなんて100年早いのよぉぉぉ!」

「くっ!?」

 そう感情を込めて呟いた後、妙は丸々影を消滅させてしまう。仕舞いには残った幻影の塊を、シルクモスファンガイアに投げつけていく。相手が思わず怯んだ後に……

「ハァァァ!!」

「な……うわぁぁぁ!!」

妙は一瞬の迷いもなく薙刀をシルクモスファンガイアへ突き刺していく。容赦のない一撃に……彼女の体は耐え切れず、そのまま倒されてしまう。ガラス片が砕けたように、体の一部が辺りへ散っていく。

「ふぅ……どんなものよ!」

 一度呼吸を整えて、妙はようやく勝利を実感していた。

 

 

 

 

 その一方で、シウネーは火炎を操るアルター・ゾディアーツと対峙している。

「くらえ……!」

「フッ! ハァ!!」

 彼女が解き放つ炎の弾を次々と回避していき、虎視眈々と攻撃の機会を伺っていくシウネー。表情を強張らせながらも、その目つきは凛と研ぎ澄まされている。

(ヤツの攻撃の大半は杖……ならば!)

 シウネーは戦う傍らで、アルター・ゾディアーツの持つ杖の重要性を理解していた。その杖から炎が放たれるならば、彼女のとるべき行動はただ一つである。

「そこだぁ!」

「何の! お返しです!」

「はぁ!? うぐっ!?」

 軽やかに火炎の弾を回避したと思えば、シウネーは即座に自身の持っていた杖を槍の如く投げ飛ばしていた。その杖はアルター・ゾディアーツの手元へ直撃しており、彼女は思わず杖を手放してしまう。

「今です! はっ!」

 するとシウネーは、すかさずその杖を掴み取っていく。彼女の狙いはアルター・ゾディアーツの杖であり、いわば得手を奪うことで弱体化を図る寸法である。

「おのれ……貴様!!」

 一方で杖を強奪されたアルター・ゾディアーツは激高。今度は自身の頭部を燃やし、火の粉をシウネーへ向けて飛ばそうとするも、

「なんの! 効きませんよ!!」

彼女は一切怯まない。回避行動を続けるうちに、投げ飛ばした自身の杖も回収し、長物を両手に携えた今までにない戦法で、このままとどめを刺すことを決意している。

「さぁ、そこです!」

「ぐはぁ!?」

 シウネーはアルター・ゾディアーツとの距離を縮めたかと思えば、またしても杖を彼女の体に突き刺していた。自身の思惑を悟られぬように、近づいた直前で攻撃の手段を瞬時に変えたようである。相手の行動を一時的に封じた後……

「行きますよ……キ、キックー!!」

「うっぷ……グッ!?」

思い切って飛び蹴りを繰り出していく。この攻撃に関しては不慣れだったようで、自信もなく勢いのままに突き抜けていた。けれでも結果的には良かったようで、思わぬ攻撃を受けたアルター・ゾディアーツは……

〈ドカーン!!〉

体中の炎を暴発させながら爆死してしまう。連続した攻撃が勝負の決め手となったようだ。爆発と同時にアルター・ゾディアーツへ突き刺さっていた杖も、シウネーの手元へと戻っている。

「や、やりましたか……?」

 本人も今一度撃破を確認しており、ようやく心を落ち着かせていた。同じ杖使いとして、勝負に勝てたことが何よりも嬉しいのである。

 そんな彼女の元にまた、新たなる刺客が割り込んでいく。

「グフゥゥ!」

「キャ!? えっ……?」

 高速移動をしたままシウネーへ不意打ちを仕掛けてきたのは、コキリアワーム。カタツムリの特性を持った怪人で、両腕に付属された触手を鞭のように使いながら、シウネーへ目にも止まらぬ攻撃を仕掛けている。

「グフフ!!」

 と奇声を発しながら、さらなる攻撃を仕掛けようとした時だった。

「はぁ!」

「ムフ!?」

 不意打ちの直前に、なんと妙が薙刀を用いて、コキリアワームの動きを強制的に食い止めている。動きが見えないのならば、武器で封じてしまえば良い。妙ならではの強引さが露見した瞬間である。

「悪いわね……私はアンタみたいな、軟体系が大ッ嫌いなのよ!!」

「シュフフフ!!」

 妙はここぞとばかりに私情を声に出すと、コキリアワームを薙刀で振り回しながら、遠くへと吹き飛ばしていた。シウネーを苦しませた高速攻撃を、意図も簡単に打破した妙の秘策。中々強引なやり方に、間近で見ていたシウネーは……素直に感心してしまう。

「す、凄いです……とってもお強いんですね」

「当然よ。なんせ私は、かぶき町の女王だからね」

「はい! かぶき町の女王さん!」

 調子に乗った妙の戯言にも、シウネーは一切疑うことなく信じてしまう。純粋無垢な彼女の信じる姿に、妙も満更ではない表情を浮かべていた。密かに友情が育まれた瞬間でもある。

 と怪人達との戦闘が収束し、四人が再び合流しようとした時だった。

「「「ハァァ!!」」」

「って、何!?」

「上空から!?」

 なんと長い階段の中心付近にて、上空から新たなる怪人が襲来。現れたのは魔化魍の類であるウブメの怪童子と妖姫と、合成型ヤミーのエイサイヤミー。三体は颯爽と新八らを標的に定めて、彼らの息の根を止めるために動き出している。

「ハァ!」

「ウッフ!? って、空から!?」

 手始めにウブメの怪童子と妖姫が、空を飛びつつ突進攻撃を新八や妙らに繰り出す。羽根を持たずに飛び回る彼らに悪戦苦闘する中、エイサイヤミーも動いていた。

「ハァァ!!」

「って、避けてください!」

「おっと!? 危なかった……!」

 彼はサイの特性を生かしつつ、勢いを付けた突進攻撃を展開。タルケンがこの動きに間一髪で気付き、新八へ回避を指示している。ほんの数秒の判断で、大ダメージを負わずに済んでいた。

 空中や陸上から大小なりの攻撃を続ける三体の怪人。シウネーやタルケンらの飛行能力も封じられている中で、新八は一か八かの行動を決意している。

「……こうなったら!」

「って、新八さん!?」

 どうやら撃破への目途が立ったようで、彼はタルケンに詳しい説明をしないまま、本能的に動いていた。新八がまず標的に定めたのはエイサイヤミー……

「たぁぁ!」

「ウグッ!?」

ではなくウブメの怪童子である。彼はエイサイヤミーを踏み台として利用しており、彼の背中を用いて飛び上がると、空中を舞うウブメの怪童子へ飛び掛かっていく。

「そこだ!」

「ナ!?」

 ちょうど彼の背後へ抱きかかっており、自分自身を重りとしてウブメの怪童子を落下させようと踏ん張っていく。銀時や神楽以上の無茶で、彼らを倒そうとしていた。

「かぁぁ!!」

 一方でウブメの妖姫は怪童子の異常事態に気付き、新八を振り下ろそうと彼に近づこうとする。ところが、

「ちょっと待った!!」

「ウグッ!?」

注意が散漫になっている彼女へ妙が容赦のない一撃を加えていた。ウブメの妖姫に対してぶつけたのは、シウネーの持っていた杖である。要は不意打ちのような攻撃を用いて、弟のサポートを行っていたのだ。

「どうじゃ、われ!!」

「あの……かぶき町の女王さん? 私の杖は……?」

「あぁ? これで代用しろや!」

「いきなりですか!?」

 一方で勝手に杖を使われた側のシウネーは、つい困った反応を示してしまう。恐縮しながら聞くと、妙は代わりに自身の薙刀を一方的に彼女へ貸している。急な振られ方に、シウネーはついタジタジになって余計に困ってしまうが。

 と志村姉弟によって変わり始めた戦況。落下する新八らに対して、妙はタルケンとシウネーにとある指示を下す。

「さぁ、早く! あの化け物も落下地点に引き寄せなさい!」

「落下……あっ、そういうことですね!」

 ようやく妙の真意について分かったシウネーは、タルケンとアイコンタクトを取りつつ、薄っすらと伝えられた作戦に向けて動き出す。そう彼女らは、落下の衝撃を利用して三体同時に倒そうと画策していたのだ。落下までの時間は残り僅かしかなく、二人は長槍と薙刀を用いて、精力的にエイサイヤミーをおびき寄せていく。

「えぇい!」

「うっ!?」

「さぁ、こっちです!」

 二人は斬りかかるなり挑発するなりして、エイサイヤミーをウブメらの落下地点までおびき寄せる。そんな単純な手に気付かないままの彼は、あっさりとその挑発に乗ってしまう。階段を上がらせていき、ちょうど中心部まで誘導した時である。

「さぁ、今です!」

「新八さん!」

「ん? ……ハ!?」

 タイミングが良くちょうどエイサイヤミーの真上に、新八の抱えたウブメの怪童子と、撃墜させたウブメの妖姫が迫っていく。避けようとも時すでに遅く……

「はぁぁ!!」

「ぐ、ぐはぁぁぁ!!」

新八が彼を手放したと同時に三体は思いっきり激突。ぶつかった衝撃で軽い混乱状態へ陥ると――

〈ドカーン!!〉

一気に彼らは爆発及び消滅してしまった。ウブメらは粉々となって吹き飛び、エイサイヤミーは体に内包していたセルメダルを飛び散らせながら爆発している。長い時間をかけたが、ようやく周りの怪人達を全て撃破させることに成功していた。

「って、新ちゃん?」

「タルケンさんも大丈夫ですか?」

 一方で撃破の直前まで踏ん張っていた新八と、爆発から逃げ遅れたタルケンの安否が分からず、つい行方を心配してしまう妙とシウネー。しばらく目で探っていると、ちょうど彼らの姿がはっきりと見えていた。

「あっ、この眼鏡です! 新八さん!」

「良かった! はい、これは多分タルケンさんのだね」

「あっ、そうです!」

 どうやら爆発の衝撃で大事な眼鏡が吹っ飛んでいたようで、それらを探すのに時間がかかったらしい。ようやく自分の眼鏡が返ってきたことに、二人は心を落ち着かせていた。

 こうして二人は爆発の中から、妙やシウネーらのいる階段の上層付近へ上がっている。

「って、アレ? なんか違うような……」

「もしかして、逆ではないでしょうか?」

 ところが二人はかけた眼鏡に、ある違和感を悟っていた。度数がいまいち合わず、恐らく互いに違う眼鏡を着用しているらしい。すかさず元の持ち主へ帰そうとした時である。

「新ちゃん! 大丈夫だった? 特に怪我は無かったの?」

「えっ、えっ?」

「良かった。無事ね!」

「いや、姉上!? 僕はここですよ!! 何またお決まりのネタを交わしているの!!」

 タイミングが悪く妙とシウネーが駆けつけており、妙は何のためらいもなくタルケンを新八と誤認していた。所謂新八の本体は眼鏡にあると認識しており、タルケンが新八の眼鏡をかけていることから、このような事態に至ったらしい。

「あ、あの……急に近づかれたら困りますよ! シウネーさん……」

「いや、アンタも間違えるんかい!! どんだけ度数合ってないんですか!!」

 一方のタルケンも眼鏡の度数が合っていないことから、妙のことを丸々シウネーと勘違い。思わぬ誤解が余計に場を混乱させている。

「私はここなのですが……もしかしてボケ大会が始まったのでしょうか? 私も何か小粋なことを言わないといけないのでしょうか?」

「いやいや。大丈夫ですからね、シウネーさん!! 姉上とタルケンさんが誤解を生んでいるだけですからね!」

 シウネーも思い詰めて勘違いしており、新八は息を散らせながらもさらにツッコミを入れていく。勘違いがさらなる勘違いを呼び、収集不可能な光景がそこには広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 と撃破から約三分が経って、ようやく事態が落ち着いた四人。新八とタルケンの眼鏡も、無事に元の持ち主へと戻っている。

「ふぅ、ようやく戻ってきました」

「これで元通りですね。では……次は皆さんの加勢に行きましょうか!」

「そうですね」

 スッと呼吸を整えつつも、四人は休む間もなく仲間の助けへ向かうことを決意。この場を離れて、新たなる戦地へ向かおうとした――その時である。

「えっ? 定春にユイちゃん?」

 新八はふと階段の下部に目を向けると、そこにはどこかへ勢いよく進む定春とユイの姿が見えていた。つい彼女らの行方が気になった新八は、一人で跡を追いかけようとする。

「新ちゃん? どこへ行くの?」

「ユイちゃん達の加勢に行ってきます!」

 妙らにも一言だけ言い残して、彼は階段を下りつつユイらを追尾するのであった。

「い、行っちゃいました……?」

「新ちゃんったら、私達も巻き込まめば良いのに」

「焦って余裕が無かったのかもしれませんね。では私達も行きますか?」

 単身別の場所へ向かった新八の様子が気になり、シウネーらも彼らの後を追いかけようとした――その時である。

「皆さん!」

「えっ……? 姫様!?」

「はい!?」

「なんですって」

 突如階段の上部付近から、シウネーらが従えるフレイアの声が聞こえてきた。思わず上に上がってみると、ちょうど通路ではフレイアと長谷川がとある怪人に追いかけられている最中である。

「さぁ、パズルの時間だ……!」

 と周到に付け狙う怪人の正体は、ハテナバグスター。ゲームをモデルにした怪人の一体であり、こちらはパズルゲームをモデルにしている。攻撃方法もパズルにちなんだもので、パズルのピースを模したエネルギー波をフレイアや長谷川へと仕掛けていく。

「うわぁぁぁ!!」

「こっちへ!」

 情けない叫び声を放つ長谷川に対して、フレイアは澄ました表情で華麗に攻撃を回避していく。長谷川もエネルギー波を命がけで避けており、もはや自分のことでしか手が回っていない。

 間一髪で危機を回避しつつ、フレイアらはシウネー達の元へ合流していた。

「大丈夫でしたか、姫様?」

「どうにか……乗り切りはしたけど、アイツが襲ってきて中々進めなかったのです」

「そんな……やっぱり私達が護衛に付きましょうか?」

「それは有難いのですが……やはりアナタ方は怪人の撃破を優先的にしてください!」

 オベイロンから奪ったカギで、民の解放を目的にしているフレイアだったが、やはり敵からもその命を狙われている。改めて護衛を説得するシウネーやタルケンだったが、本人からは怪人の撃破を優先に命じられてしまう。戦力を削ぐことが状況から察して良くないと、フレイアは括っていたようだ。

 その一方で、妙は長谷川に理不尽な怒りをぶつけていく。

「おい、グラサン。男なら身を投げ出してまでも、お姫様のことを助けろや!」

「いやいや、俺無防備だから! 分かって言ってんのか?」

「おうよ! てめぇなんか死んでも、ご都合主義で生き返るなりすれば良いんだよ!」

「この人、とんでもねぇこと言ってねぇか!?」

 ほぼ恐喝のような立ち振る舞いで接しており、挙句の果てには元も子もないことも言い出す始末である。事情や状況にも寄るので、一概にも長谷川のみに責任が覆いかぶさることではないのだが……。

 と話し込んでいるうちに、またもハテナバグスターが攻撃を仕掛けている。

「はぁぁ!」

 彼が手に持つ特殊な杖から、電撃を帯びたオーラを解き放った時だった。

「「「ヤァ!!」」」

 なんとちょうど良いタイミングで、新たな仲間が駆けつけてくる。オーラを防ぎ切ったその正体は、数分前まで銀時と戦っていたシリカ、シノン、月詠、ピナの三人と一匹である。

「って、あなた方は……」

「シリカちゃんにシノンちゃん! それにツッキーも来たのね」

 妙らはようやく月詠らの存在に気付き、彼女らの加勢を大いに喜んでいた。あまり素性を知らないフレイアやシウネーも、この出来事に希望を感じている。

「大方片付いたからな。それよりも、今はヤツを倒すことに集中するんじゃ!」

「アタシ達も戦いますよ!」

「ナー!」

「覚悟しなさい!」

 三人と一匹はすぐに臨戦態勢へと入り、武器を力強く握りしめていく。早くもハテナバグスターに標的を定めていた。彼女らに即発され、妙やシウネーらもフレイアを守るために戦闘態勢を整えていく。

「よし、俺だってやってやるぜ!」

「だ、大丈夫なのですか……?」

 一方の長谷川も足元へ落ちていたカッシーンの槍を拾い上げて、共に戦う姿勢を見せていた。近くにいたフレイアは、彼の安否を素直に気遣うのだが……(ただただ危なっかしいからである)

 こうして総勢七人の精鋭達が、とうとう幹部怪人の一体に挑むのであった。

 

 

 

 

 その一方で、キリト、神楽、沖田、ジュンが戦っていた場所にも異変が生じている。

「ったく、ようやく戻ってきたか?」

「おうネ! くたばってなかったアルナ!」

「まぁ、協力して倒したからだよ!」

「おう! こっちもだぜ!」

 合流早々に減らず口を発する神楽と沖田に対して、密かに互いの健闘を称え合うキリトとジュン。同じ仲間内でも反応の違いは一目瞭然である。

 と彼らも次なる戦いに向けて、新たな一歩を踏み出そうとした時だった。

「ん? この声は近藤さんか?」

 沖田はふと遠くから、近藤と土方の苦戦する声を微かに聞き取っている。ただならぬ予感を悟った彼は、衝動的に助けへ加わろうとしていた。誰にも事情を伝えることなく。

「ったく……!」

「って、沖田さん?」

「おい、どこ行くアルか!?」

 故に沖田の心境を知らない神楽達から見れば、その行動の意味をあまり理解していない。ただ無意味なことはしないと把握しているので、きっと沖田なりの狙いがあると括ってはいたが。

「僕が追いかける! 二人は別の仲間達の加勢に入ってくれ!」

「お、おう!」

「分かったネ!」

 すかさず心配になったジュンが沖田を追いかけるようで、神楽やキリトには別の仲間達の加勢を命じていく。ライダーの力も借りているため、きっと頼りになると考えていたからだ。何気に彼も戦力の分散を考えて行動している。

 とジュンが去った後に、入れ替わりでキリトらの元には銀時が駆けつけていた。

「おっ、お前らがいたのか」

「銀ちゃん! いつのまに来ていたアルか?」

「ちょいと見覚えのある怪人を追いかけていてな。おっ、ちょうどいるじゃねぇか」

「ちょうど?」

 どうやら彼は怪人を追っている最中であり、偶然にもキリトらとばったり遭遇したらしいのだ。手短にここまで来た理由を説明すると、タイミングが良く銀時の追う怪人が前方に姿を見せている。

 ――仲間の幹部怪人を引き連れて。

「はぁ!」

「フッ!」

「おっと!?」

「避けろ!」

 目が合ったと同時に、一斉に遠距離型の攻撃を仕向けていく幹部怪人達。銀時、キリト、神楽はすかさずそれらを避けつつ、すぐに臨戦態勢を整えていた。

「てめぇら、行くぞ!」

「分かっているネ!」

「もちろんだ!」

 互いに声を掛け合いつつ、一斉に幹部怪人の大群へと立ち向かっていく。ライダーの力も後押ししているためか、自信をもってこの戦闘に臨んでいた。さらには、

「ワン!」

「パパ! 銀時さん! 私達も加わります!」

「待ってください! 僕もいますよ!」

定春、ユイ、新八もこの乱戦に加わろうとしている。奇しくも万事屋関係者のみが幹部怪人を相手取っており、ライダーの力の有無に関係なく、皆が懸命に怪人らを倒すために戦っていた。特に銀時やキリトらは一度戦闘を交えたこともある幹部怪人もおり、より一層闘志に拍車がかかっていく。

 こうしてアルンの街中を中心に、幹部怪人との戦闘が始まっていた。戦いはいよいよ佳境へと移っていく。

「はぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、こちらはアルン近郊にある花畑。大規模な公園に植えられた花々は五百種にも及び、訪れた者に安らぎと美しさを与えている。アルン有数の憩いの場であり、観光地としても有名な場所だ。

 そんな安息の地で戦うは、刀や剣を得手にする四人の戦士達である。

「はぁぁぁ!」

「ヤァ!」

「フッ」

「トワァ!」

 街中に植えられた草道や舗装された道路にて戦闘を行うは、ユウキ、アスナ、桂小太郎、高杉晋助の四名。彼女らはライオトルーパーやカッシーン、屑ヤミーと言った戦闘員らをまとめて相手しており、赤子の手を捻るように意図も簡単に蹴散らしている。ちなみに通路付近を高杉と桂。草道方面をアスナとユウキが主に戦っていた。

 戦闘員のみならず怪人達とも対峙する最中で、桂と高杉はボソッと小言を交わしていく。

「なぁ、高杉よ……改めて聞こう。なぜ俺達に手を貸す?」

「簡単さ。あの妖精王に引導を渡すためだ……。決しててめぇらと組む気はねぇよ」

「なら安心した。貴様とて……このような茶番など造作もない。すぐに倒し切ると信じているからな」

「おいおい、俺を過信しすぎじゃねぇか? 一応敵対しているんだろ?」

「そうだったな……まぁ、俺から言うことはたった一つだ」

「奇遇だな、俺もだぜ」

「「こんな雑魚共、とっとと片づけておけ」」

 互いに神妙な表情をしたまま発したのは、敵対しながらも信じぬく覚悟である。険悪になろうとも相手の強さは認めており、こんな状況でも負けることは無いと高をくくっていた。小粋な言葉を浮かべながらも、二人は標的をこちらへと近づく戦闘員の大群へと捉える。

 そして、

「はぁぁ!」

「行くぞ……!」

瞬く間に乱戦が幕を開けていく。密かに意地を張っている二人は、相方よりも手早く敵を倒すことだけに熱中していた。例えるならば競争の類に当たるが、事態はそう生易しいものではない。先に敵をせん滅した方が有利に振る舞いる。たったそれだけのために、二人の侍は初っ端から本気で相手へと斬りかかるのであった。

「フッ、ハァ! そこだぁ!」

「ウグ!!」

「ギィ!」

 力強く刀を振るいながら、一刀一刀に信念を込めるは桂小太郎。大群を相手にしてもなお、動きを大まかに予測して、無駄のない攻撃を披露する。攘夷戦争を生き抜いた彼からすれば、この戦闘員の数は楽勝に値するであろう。

 それでも油断は一切せずに、次々と戦闘員を倒していく桂。そんな彼の元に、二体の一般怪人が忍び寄る。

「フッ!」

「な!? って、これは刻印か……?」

 不穏な気配を悟った桂は、すかさず場を離れて回避行動をとっていた。ふとそれまで自分がいた個所を見ると、そこには砂時計を模した刻印が地面に刻まれている。興味深そうにそれを見ていると、刻印を放ってきた張本人が攻撃を仕掛けていた。

「ハァ! 貴様も昨日に戻るが良い!」

「って、おい……! 貴様は!?」

 盾を振るいつつ接近戦を展開してきたのは、イエスタデイ・ドーパント。昨日及び一定の時間を操ることが出来る特殊な怪人の一体だ。さらには、

「逃がさぬぞ! ハァァ!」

「ぐはぁ!? ん? 砂時計の次はナメクジか!」

ナメクジを模した怪人のスラッグオルフェノクも乱入していく。こちらは大した特殊な能力は持たず、徒手空拳な格闘術で桂を追いつめていく。

 一通り戦闘員を撃破したかと思いきや、今度は実力のある二体の怪人に無理矢理苦戦を強いられてしまう。攻撃を受け流しつつ、密かに怪人らの隙を狙っていた時だった。

「ハァ!」

「くわぁ!? ……しまった!?」

 なんと隙を突かれたのは桂の方であり、彼の拳に砂時計型の刻印が刻まれてしまう。嫌な予感を察したと共に、イエスタデイ・ドーパントはすぐに作戦を実行へと移していた。

「さぁ、昨日に囚われなさい!」

「うっ!?」

 彼女は体に備えられた時計を用いて、刻印に隠された効果を発動。ちょうど桂の行動のみを二十四時間前に戻す特殊な技で、彼の動きを封じようと企んでいた。

「うまくいったな」

「そうね。じゃ、このまま仕留めるわよ!」

 絶好の好機と捉えて、二体の怪人はすかさず桂へと標的を定めている。一方的な攻撃を仕掛けて、このまま桂の息の根を止めようとしたのだが……

「この宇宙ゴキブリがぁぁあ!」

「えっ?」

「ぐはぁぁ!!」

その途端に桂が懐にしまっていた爆薬を一つだけ周りへとぶつけていた。その反応の通り、彼が二十四時間前にしていたことは、遠出している時に現れた巨大な宇宙ゴキブリとの激しい戦いである。爆薬や刀を用いて意地でもゴキブリをせん滅させる行動を、イエスタデイ・ドーパントは呼び起こしてしまった。刻印の効果もあってか、彼の暴走を止めることはもうできない。

「おい、何が起こった!?」

「私にも分からないわよ!」

「見つけたぞ、害虫!!」

「うわぁと!?」

 あまりの迫力に圧倒されてしまい、つい逃げ出すスラッグオルフェノクら。だがしかし、向かった先にも桂が上手く追いかけており、中々思う通りにはいかない。

 そして遂には……この戦いに決着がつく。

「今だ! はぁ!!」

 桂はまたも所持していた時限爆弾の起動スイッチを入れると共に、それを地面へと転がして、自身は刀を握りしめながら、宇宙ゴキブリがいる場所まで走り出していく。無論彼が向かう場所には、二体の怪人が運よくいるのだが。

「……えっ!?」

「はぁぁぁ!!」

「う、うわぁぁ!!」

 彼は刀を握りしめて、スラッグオルフェノク及びイエスタデイ・ドーパントへ向けて一刀。彼らを宇宙ゴキブリと勘違いしたまま、とどめを刺してしまう。さらには、

〈ピピ……ドーン!!〉

タイミングが良く仕掛けていた時限爆弾も爆発。追い打ちと言わんばかりの猛攻に、到底怪人達が耐えきれるはずも無く……爆発と同時に彼らも倒されてしまう。爆発の跡に残ったのは、二体分の屍である。

「フハハハ! 見たか! この俺、桂小太郎の底力を!」

 一方の桂はまだ刻印の効果が切れておらず、てっきり宇宙ゴキブリを倒した体で愉悦さを感じ取っていた。高らかに笑い声をあげている途中で……ようやく刻印が取れて、効果が徐々に薄らいでいく。

「って、アレ……? 俺は今まで一体?」

 ふと我に返ると、目に入ったのは先ほどまで対峙していたはずの怪人の屍。刻印の効果もあるのだが、やはり覚えていないらしい。

「何があった……?」

 知らぬうちに実力を発揮していた桂だった。

 一方の高杉はというと、こちらも無数の戦闘員達を相手取っている。

「ウゥゥ!!」

「ギィィ!!」

「フッ、どいつもこいつも……俺の敵じゃねぇな!」

 有無を言わさずに彼は戦闘員達を斬りかかり、彼らに攻撃させる余裕も与えないまま無双していた。自身の実力を存分に発揮しており、高杉の思うままに攻撃態勢を続けていく。これも全てマッドネバーを壊滅させるための行動で、銀時らとは微妙に戦う理由が異なっているが。

 とそんな些細なことは気にせずに、戦闘員達を一気に倒してしまった高杉の元に、こちらも二体の怪人が奇襲を仕掛けていく。

「はぁ!」

「フッ!」

「とう! って、また雑魚共のおでましか?」

 減らず口を呟きながらも、高杉はそっと相手を睨みつけながら、呼吸を静かに整えている。強く睨みを利かせている先には、白虎に似た怪人のビヤッコインベス、とRPGゲームをモチーフとしたアランブラバグスターが立ちはだかっていた。両者共高杉を倒すために、こちらも慎重な行動で相手を見極めている。

「だらぁぁ……」

「ふっ……今すぐにでも倒してやろう」

 そう唸り声や戯言を聞いた途端に、高杉の表情は一変。より一層目つきを鋭くさせながら、本気で二体をせん滅させることを強く誓っていく。

「そうかい……俺を見極めようとしているのか? だが甘いな。お前らが分析を終わっている頃には……もうこの世にはいないけどな!」

 その強気な言葉と共に、高杉は勢いよく担架を切っている。彼は勢いよく走り出すと、二体を上手くひきつけ合いながら、舗装された道から木々が生い茂る草道へと誘っていく。走る抜ける傍らで、高杉には自身の勝機が見えていた。

「フッ!」

「くらえ!」

 一方で二体の怪人は、自身の体や杖を用いて、体色と同じ色のビームを解き放っていく。遠距離から高杉を怯ませ、有利に戦いを進めようと企てていた。

「ヤァ!」

 だがしかし、高杉には一切攻撃が当たっていない。と同時に彼は、思い描いていた勝機に手堅い確信が生まれている。

「やっぱりな……だったら!」

 すると彼は方向を変えて、いきなり怪人達との距離を縮めていく。勢いよく木々を駆け抜けながら、真っ向から斬りかかろうとしていた。

「そこだ!」

「ウゥ!」

 彼の行動を好機として捉えて、アランブラバグスターは杖からありったけのエネルギーを作り出し、それを高杉へと差し向けている。一方のビヤッコインベスも、右手の鋭利な爪を振るって、高杉を切り裂こうと試みていた。一見高杉が窮地に追い込まれているように見えるが……決してそんなことは無い。高杉は目をより鋭くさせながら、一か八かの賭けに出ていたのだ。

「かかったな……!」

「ウゥ!?」

 そうビヤッコインベスに向けて発すると、彼はアランブラバグスターから放たれたエネルギー波を、自身の刀へと浴びせていた。すると瞬く間に、刀は強大なエネルギーをまとっていく。そう高杉は、怪人達から放たれるビームやエネルギーをむしろ利用しようと画策していたのだ。

「何だと!?」

 この荒業には、アランブラバグスターも思わず声を失ってしまう。ビヤッコインベスも驚嘆とする中、引き返すことなく爪で高杉を切り裂こうとする。しかし、

「ウゥゥゥ!!」

「おっと! ……はぁ!」

「ウグッ!?」

渾身の一撃はかわされて、さらにはその隙を、エネルギーをまとった刀で一刀されてしまう。こちらの一撃はだいぶ効いたようで、動きが鈍る様子から高杉はビヤッコインベスの撃破を密かに察していく。

 と同時に勢いよく走り出して、アランブラバグスターをも一刀で切り裂こうとした。

「終わりだ……!」

「……うわぁ!?」

 それは一瞬の出来事である。標的が変わったかと思えば、アランブラバグスターは防御の構えをとることなく、高杉の刀で全身に傷を負わされたのだ。高杉がアランブラバグスターを切り裂くと同時に、彼の刀に宿っていたエネルギーも次第に消滅していく。

 そして瞬く間に決着が着くことになった。

「「アッギッァァァ!!」」

 悲痛な断末魔を上げながら、二体の怪人は倒れこみ爆発四散。真っ赤な火炎と共に、アランブラバグスターの跡からは「GAME CLEAR」の文字が浮かんでいた。高杉はこの演出を気にすることなく、そっと一言だけ声に出していた。

「戦いは、理屈だけじゃねぇよ……」

 時に運や強引さで判断するのも、戦場には重要だと思い更けている。戦いの終わった高杉は、さらなる相手を求めて、その場を跡にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 花畑を通り抜けていき、アスナとユウキがたどり着いた先は、広大な緑が一面に広がっている野原。戦闘を行うには十分な場所であり、戦闘員達を蹴散らしつつ、近くで戦っていた怪人をもこの場所へ引き連れていた。

「ハァ!」

「ヤァ!」

 互いに剣を振るって戦闘員を斬りかかっている。ユウキは自慢の刀剣を用いて、アクロバティックな攻撃を。アスナは細剣を突き刺し、連続した攻撃を戦闘員らに与えていく。

「ギィ!」

「ウゥ!」

二人の猛攻を受けて、ライオトルーパー、カッシーン、バグスターウイルス、ダスタードらはなすすべもなく倒されてしまう。周りの戦闘員を大方倒し切った後に、アスナとユウキは一度野原の中心に集まっていた。

「アッスー! こっちにいた敵は全部倒したよ!」

「私もよ、ユッキー。残るは……あの怪人達ね!」

 互いに戦闘員を全て撃破したことを伝えると、彼女達は残った怪人達に目を付けている。こちらへと歯向かうは、ハヤブサ型超越生命体のファルコンロードとハチを模したワスプイマジン。前者は素手、後者はレイピアを用いてアスナやユウキを標的にしている。

 さらなる戦いに身を引き締める二人だったが、僅かな時間の中でアスナはユウキに小声でとあるお礼を伝えていく。

「一緒に戦ってくれて、ありがとう……ユッキー!」

「ん? アッスー?」

 それは共闘故の感謝である。紆余曲折はあれど、しっかりと自身の気持ちを受け止めてくれたユウキの姿に、アスナは心ばかりの感謝を伝えていた。彼女の素直な気持ちをそっと察して、ユウキもまた気持ちを改めて一言返していく。

「……分かっているよ。一気にこいつらを倒して、未来を取り戻そう!」

「そうね!」

 決意を新たに、二人の戦士は自身の得手を握り直していた。この星の未来を救うためにも……最後まで全力を駆けて戦うのである。

「「ハァァァ!!」」

 勢いよく走り出していき、彼女達は一体ずつ怪人を相手にしていく。互いが勝利することを信じて。

「ハァ! フッ!」

「ユュ! クフッ!?」

 アスナが細剣を振るうはファルコンロード。彼の異様な殺意に警戒しながら、軽やかに攻撃を回避しつつ、細剣で相手の体を突いていく。無論この怪人もシノンやリーファが相手した個体と同様に、神に近づく人間を抹消するためにアスナを攻撃している。(恐らく後に使用するステイシア関連だと思われる)

 とそれはさておき、ファルコンロードは素手や嘴を用いて、積極的に攻撃を展開していく。

「ファハ!」

「フッ! こいつ……全身を使って攻撃しているの?」

 しばらく一戦を交えるうちに、アスナは段々とファルコンロードの攻撃手段を把握していく。嘴や爪が武器だと察すると、すぐに対処法が思い浮かんでいた。

「だったら……!」

 アスナは目つきを鋭くさせた後に、彼の嘴へ狙いを付けている。細剣を向けて相手に真意を悟られぬように、あえて大胆な行動を起こすのであった。

「はぁぁ!」

 こちらへと駆けるアスナに対して、ファルコンロードは何も疑いをかけずに、むしろ勝機として捉えている。嘴や腕を広げて、またしても同じ攻撃でアスナを仕留めようとした時だ。

「かかったわね! ハァ!」

「うぐぅ!?」

 なんと彼女は一瞬にしてファルコンロードの鋭い爪を切り落とし、さらには嘴も突き攻撃で機能を停止させている。大いに隙を見せるこの瞬間を狙って、アスナは一か八かの賭けに出ていた。その成果は成功と言っても過言ではない。

「ウゥ!!」

 一転して不利に陥ったファルコンロードは、態勢を立て直すために羽根を使って空へと飛び去ってしまう。

 だがしかし、アスナもそう簡単には諦めない。

「逃がさないわよ!」

〈エグゼイド! アクションパワー!!〉

〈ジャンプ強化!!〉

 アルヴドライバーを操作して、使用した力はエグゼイドの力。特殊なチップであるエナジーアイテムを用いて、跳躍力を強化。疲弊しているファルコンロードへ向けて、とどめを刺していく。

「ハァァ……!!」

 角度を付けて,細剣を相手の中心へ定めていき……アスナは派手なエフェクトを付けながら、勢いよく飛び上がっていた。

「そこよ!」

「な……うわぁぁぁ!!」

 ファルコンロードが気配に気づいた時にはもう遅く、後ろを振り返るとすでにアスナに追いつかれていた。渾身の一撃を回避することが出来ず、ファルコンロードがなすがままに斬撃を与えられて、空中より爆発四散してしまう。一瞬にして燃え上がる火炎を背景に、アスナは地面へスッと降り立っていた。

「よし! やったわ!」

 強力な怪人の一体を倒したことに、アスナはグッと力強い一言を声に出している。だが彼の異様な殺意だけは、最後まで分からなかったのだが……。

 

 その一方でユウキは、レイピアを巧みに使うワスプイマジンと戦っていた。

「そこ! なんの!」

「クッ! ハァ!」

 互いに持つ武器をぶつけあいながら、一進一退の攻防を続ける二人。互角に張り合っているが、ユウキだけは相手の手の内を見るために、最初から全力は出していない。戦況を上手く見極めながら、軽やかに立ち回っていた。

「貴様……! これが全てか?」

「どうかな……? そんなの自分で確かめな!」

 と自信良く声を発した後に、ユウキはワスプイマジンへ垂直に一刀。

「ウグッ!?」

 不意打ちとも言える攻撃を与えて、一度彼との距離を離れている。

「この……!」

 するとワスプイマジンは、激高しつつ奥の手だった額の大きな針を乱射していく。針は地面へ被弾すると、盛大に爆炎を上げていく。ユウキもその炎の中に巻き込まれてしまう……。

「フッ、覚悟するが良い!」

 絶好の好機と捉えたワスプイマジンは、レイピアを構え直すと、炎の中へいるとされるユウキを仕留めようとする。実質的な勝利を確認していた……その時だった。

「どうかな!!」

「何!?」 ウッ!!」

 なんとユウキは炎の中から舞い上がっており、がむしゃらに駆け抜けると ワスプイマジンの腹部へ向けて斬りかかっている。思わず怯みを与えられた隙に、ユウキはさらなる猛攻を仕掛けていく。

「はぁぁぁぁ!!」

「ウウル!! ぐわはぁぁ!!」

 強制的に付けた傷跡を中心にして、突きや斬撃を与え続けるユウキ。この一つ一つの攻撃こそが彼女の本気であり、勢いを付けて押し切ろうとしていた。その表情もさらに真剣さを極めている。

 そして……遂に決着の時が来た。

「ハァァ!」

「ウッ…この小娘がぁぁぁぁ!!」

 悲痛な断末魔を叫びながら、ワスプイマジンは倒れこみ爆死。ユウキの全力を込めた連続の攻撃の数々には、太刀打ちできずにやられてしまった。

 一方のユウキだが、撃破と共に清々しい表情を浮かべている。

「ふぅ……どんなもんよ!」

 そう元気よく事を発すると、彼女はさらなる戦いへ向けて後ろを振り返っていく。このまま残った敵や怪人を探そうとした時である。

「「「ヤァァ!」」

「えっ!? ウッ!?」

 彼女の隙を見計らって、二体の怪人が突如奇襲を仕掛けていく。襲い掛かるはヤマアラシの特性を持ったグロンギ怪人、ゴ・ジャラジ・ダとサソリとカメレオンの合成アンデッドのティターンである。特に後者はカメレオンの特性を生かして、ユウキが気付かれないうちに背後へ居座っていた。

 ジャラジは小さい刃物を手に。ティターンは斧を振るって、ユウキへ襲い掛かる。

「くっ……流石にまずいかな?」

 二体を同時に相手するうちに、ユウキもつい弱音を吐いてしまう。この流れを一人で巻き返すほどのビジョンが見えず、つい八方塞がりとなっている。

 窮地に陥ってしまうユウキの元に、異変に気付いたアスナが動き始めていく。

「ユッキー! これを使って!」

〈クウガ! タイタンパワー!〉

 次にアスナが使用した力は、クウガのタイタンフォーム。クウガ特有の武器を変化させる術を使い、地面に落ちていたライオトルーパーの武器をタイタンソードへ変えていた。そしてその剣を、ユウキへと投げつけている。

「アッスー……? なるほど!」

 しっかりとタイタンソードを受け止めたユウキは、自身の刀剣マクアフィテルと共に二刀流を構えていく。態勢を整えた後に、二体の怪人へ挑み直すのであった。

「ハァ! フッ!」

「おっと! そんなのもう効かないよ!」

 ジャラジから次々と飛ばされる刃物の破片も振り払いつつ、距離もどんどんと縮めていくユウキ。彼女は周到に攻めてきたジャラジを標的にしていく。

「フゥ……! ん!?」

「アナタの相手は、この私よ!」

 一方のティターンには、援軍に駆けつけたアスナが勝負を仕掛けていた。彼が持つ斧に警戒しつつ、順当に戦いを進めていく。

 アスナによって風向きが変わったこの戦い。両者共に接近戦で攻めていくうちに……とうとう決着が着いている。

「そこ! はぁぁ!」

「ギィ!?」

 力強くユウキがマクアフィテルでジャラジを一刀した後に、今度はタイタンソードを使って華麗に切り裂いていく。所謂二本の剣で十字を描くように攻撃しており、会心の一撃とも言える技を受けたジャラジは……

「ドカーン!」

地面へ倒れこむと共に爆発してしまう。過程は違えど、原典と同じくタイタンソード(厳密に言えばライジングタイタンソード)で倒されたジャラジである。

「……凄い! ライダーの力って!」

 戦士達の力の一端を疑似的に使用できたことに、つい気持ちを浮足出させるユウキ。彼女が率直にお礼を伝えると、タイタンソードは元の形に戻ってしまう。

 時を同じくしてアスナとティターンの戦いにも決着がついている。

「はぁ!」

「ナ!?」

「そこ!」

 またしても姿をくらましたティターンだったが、すぐにアスナが見破ってしまう。透明な相手にも関わらず、彼女は相手の全身に向かって細剣で突き続けていく。

「このまま……やぁぁぁ!!」

「ウグッ!! ぐぅぅぅ!」

 相手に攻撃を与える隙も与えずに、容赦のない攻撃をアスナは繰り出していく。たまらずティターンも反撃しようと試みるが、時すでに遅かった。

「しゅ……」

 意気消沈した声と共に、彼はのっぺりとしたまま地面へ倒れこむ。すると同じくしてベルトのバックルが二つ開錠。アスナのベルトからはラウズカードが飛び出し、二体のアンデットをカードと封印してしまった。

「えっ? あっ、この怪人はカードで倒したことになるのかしら……?」

 無論この光景を初めて見るアスナにとっては、何が何だかさっぱり分かっていない。ひとまずはこのカードを素直に所持することにしている。

 戦いを終えた二人は互いに呼吸を整えつつ、再度一つの場所に結集していた。

「ありがとう、アッスー! 手助けしてくれて。本当に助かったよ」

「ううん。当然のことよ。って、ん?」

「どうしたの、アッスー?」

 素直に話を交わすその傍らで、彼女はある光景を目にしている。それは桂と高杉が、同じくしてどこかへ向かう光景であった。

「追いかけましょう、桂さん達を!」

「ううん、分かった!」

 何か狙いがあると悟り、アスナとユウキも高杉らの跡を追いかけようとする。こうして彼女達も花畑付近を離れて、また市街地へと戻っていく。

 一方の桂と高杉は、銀時の声が聞こえた方角へ向かっていた。

「おっ、見つけたな」

「ったく、アイツ……何をてこずっているんだ!」

 彼はちょうど幹部怪人の一端を相手取っており、よく見ると怪人達へ少し押されている。苦戦する彼の元に、颯爽と友たちが駆けつけてきた。

「「ハァ!!」」

「何……お前らか?」

 二人は幹部怪人達へと斬りかかり、まとめて一旦吹き飛ばす。遠まわしで銀時を助けた後に、高杉らは減らず口で彼に話しかけていく。

「ったく、こちとら手間をかけさせるんじゃねぇよ」

「うるせぇ。誰もてめぇらに助けなんか求めてねぇよ」

「そうかい。だったら通りかかった船だ。手は貸すぞ、銀時!」

「はいはい」

 互いに皮肉を呟きながらも、素直にも共闘を受け入れていく三人。この時ばかりはこれまでのいざこざを気にせずに、オベイロンやマッドネバーを撃破するために動いていた。歪とも言える共闘がこの場で実現している。

 桂や高杉に引き続いて、アスナやユウキもこの幹部怪人達との闘いに加勢していく。

「キリト君! 大丈夫!?」

「アスナ!? あっ、こっちは平気だ! アスナ達はあのピエロみたいな怪人を頼む!」

「了解! 僕らに任して!」

 ギラファアンデットと対峙するキリトだったが、彼曰くこちらは十分とのこと。すかさずキリトは、戦闘中の自身や神楽らを邪魔するジェミニ・ゾディアーツの討伐をアスナらへ伝えていた。

 すると彼女からユウキ達へ攻撃を仕向けられていく。

「フフフーン! これでもくら~え!」

「避けて、ユッキー!」

「うん!」

 ジェミニ・ゾディアーツは自身の特殊なカードを投げつけ、小規模の爆発を次々と起こしている。アスナやユウキは必死にそれらを避けるが、怪人側にとっては二人の緊迫した様子を楽しんでいるように見えていた。

「アレェ? 全然効いてないの? だったらもっとカード投げちゃう! エイィ!」

 無邪気さを存分に表しつつも、ジェミニ・ゾディアーツはアスナらを倒すために攻撃態勢を続けていく。赤いカードを次々と飛ばし、集中的に二人へ爆撃を浴びせようとする。

 だがしかし、

「フッ!」

「おっと!」

アスナとユウキは軽やかな身のこなしで、それを回避していく。アスナはすでに神楽からジェミニ・ゾディアーツの術を理解しており、有利に戦いを進めている。一方のユウキも鋭い洞察力を生かして、一切の彼女の特殊な攻撃には当たっていなかった。

「もう! こうなったら……!」

 自身の思い通りにはいかず、しびれを切らしたジェミニ・ゾディアーツは早くも奥の手に打って出る。体から溢れ出る星々のエネルギーを利用して、時限爆弾付きの分身を生成したのだ。

「このままやっつけちゃうんだから!!」

 二体はそれぞれ別々に動きつつ、アスナ及びユウキの周りを取り囲む。そして容赦のない格闘術を展開していく。

「フッ! ヤァァ!」

「何の……そこよ!」

「ウグッ!?」

 だが一体ずつ攻め続けても、アスナらの有利に変わりは無かった。アスナは彼女の攻撃を把握しつつ、上手くかわしながら細剣で隙を突いていく。

「よっと! はぁぁ!!」

「うきゃ!!」

 一方のユウキはジェミニ・ゾディアーツの周りを取り囲みながら、縦横無尽に相手へ斬りかかっている。相手の攻撃が当たらぬうちに回避して、距離を縮めながら上手く立ち回っていく。

 奥の手を使用してもなお、状況を覆せないジェミニ・ゾディアーツ。追いつめられた彼女はとうとう秘策を仕掛けていた。

「ん!! だったら!!」

 と指を鳴らしつつ、もう一人の自分へ爆破を指示した時である。

「ユッキー! 気を付けて! 何か仕掛けが……!」

「うん、わかった!」

 アスナは嫌な予感を察して、ユウキへすかさず警告を促していく。それを聞いたユウキはジェミニ・ゾディアーツの異様な光へ気付いて、彼女に斬撃を浴びせて吹き飛ばしてしまう。

「はぁ!」

「うっ!?」

 近づこうとするジェミニ・ゾディアーツを追い返しつつ、彼女が勢いよく後退したところで……

〈ドドーン!!〉

もう一体の分身は激しい爆発を起こしてしまった。

「やった! やったぁ!」

 この状況にジェミニ・ゾディアーツ本人は歓喜。てっきりアスナとユウキが爆発に巻き込まれたものと思い込んでいる。

 そう気持ちを弾ませていた時だった。

〈キューン!!〉

「うっ!?」

 爆炎の中から飛び出してきたのは、アスナの細剣レイグレイスとユウキの刀剣マクアフィテル。ちょうどジェミニ・ゾディアーツの中心部へ突き刺さり、彼女へ想定外の怯みを与えている。行動に制限がかかっているうちに、

「「ハァァァ!!」」

ユウキとアスナが爆炎の中を潜り抜けていた。真剣な表情のまま二人は、彼女に突き刺さった武器を引き抜くと……

「今よ!」

「もちろん!」

「これでとどめよ!」

「これでとどめだ!」

二人は次々と連続してジェミニ・ゾディアーツに斬りかかっている。両者共軽やかな身のこなしを生かして、四方八方から隙間なく斬撃を与えていく。その姿はさながら、SAOの世界で生きたユウキと同じ技「マザーズ・ロザリオ」のように……!

 そして長く続いた戦いに、とうとう終止符が打たれていく。

「「はぁ!!」」

「あぎゃぁぁぁぁ!! 楽しかったかなぁ……?」

 とどめの突きを決めた途端、ジェミニ・ゾディアーツは力尽きて倒れこんでしまう。そう微かな声を響かせて、

〈ドカーン!〉

大きな爆発を延々と上げていく。燃え盛る炎を背景に、二人はようやく掴んだ勝利を深く噛み締めるのである。

「よしっ! やったね、アッスーさん!」

「ふぅ……そうね。ユッキー!」

 強敵を倒した喜びからユウキは舞い上がり、浮かれる彼女をアスナがしっかりと宥めていく。元気よく振る舞うユウキの姿を見て、アスナは心の中で元の世界にいたユウキのことを思い出している。

(さっきの技、ユウキにも届いたかな……?)

 がむしゃらなままに解き放った技を、ユウキから託されたソードスキル、マザーズ・ロザリオと照らし合わせていく。過去に思いを馳せつつも、しっかりと気持ちを入れ替えて、彼女らは仲間の様子を見に行くことにする。

「さぁ、みんなの様子も見に来ましょう!」

「もちろん!」

 そう言葉を交わして、二人は場を跡にするのであった。

 

 

 

 

 

 

「よしっ! なら……!」

 ジェミニ・ゾディアーツの撃破を確認したキリトは、こちらも戦闘の決着へと心構えを整えていく。相手は地球でも対峙したアンデッドの一体、ギラファアンデッド。ギラファノコギリクワガタの角を模した双剣に警戒しつつ、キリトは真っ向から彼に立ち向かっている。

「はぁぁ!」

「ギフゥゥ!」

「くらえ!」

「砕け散ろ!!」

 互いの剣がぶつかり合い、一歩も引かぬ戦い。キリトは有耶無耶となった勝負に決着を付けるため、自身の全力を一刀一刀に尽くしていく。その真摯な想いから、彼はあえてライダーの力を借りずに、この難局を乗り切ろうとしていた。

「ならば……はぁ!」

 一方のギラファアンデッドは、早速とっておきの技を繰り出す。自身の双剣を照らし合わせて、ブーメラン状の光弾をキリトへ解き放っていた。手痛い攻撃を浴びせようとしたが、

「させるか! ヤァ!!」

キリトはすかさずその光弾へ飛び上がっていく。所謂ジャンプ台として光弾を利用しており、足で光弾を弾きながら彼は両手に携えた長剣を構える。

「いけぇぇぇ!」

「うっ……!!」

 そしてギラファアンデッドの腹部へ向けて、垂直に斬りかかっていった。この一撃を防ぎきることが出来ず、ギラファアンデッドはつい体を怯ませてしまう。この隙をキリトが見逃すはずも無い。

「今だ! やぁぁぁあ!!」

「うっわ! くっ……!!」

 彼は好機と言わんばかりに、ギラファアンデッドへ連続して斬りかかっていく。相手に攻撃する隙すら与えず、勢いのままに押し切ろうとしている。ギラファアンデッド側も諦めずにキリトを双剣で退けさせようとした時だ。

「はぁ!」

「な!?」

 彼はすかさず、ギラファアンデッドの所持していた刀剣すら弾き飛ばしてしまう。一瞬だけ彼が丸腰となった隙に、

「とどめだぁ!」

「うぐっ!?」

ありったけの力を込めた斬撃をキリトは切り刻んでいた。強烈な一撃を受けて、ギラファアンデッドは悶えながらも……ゆっくりと前方に倒れこんでしまう。と同時にベルトのバックルも開いていた。

〈シュ!〉

 と同時にアルヴドライバーからは、一枚のラウズカードが出現。すぐにギラファアンデッドをカードの中に封じてしまう。

「ダイヤのKか……これにはどういう効果があるんだ?」

 もう一枚のラウズカードと照らし合わせながら、キリトはそっと意味を探っていく。

 

 

 

 

 

 時を同じくして、ユイ、定春、神楽、新八にも戦況に動きが出ていた。

「させるか!」

「ウッ!」

「ワフ!!」

「くらえアル!」

 三人と一匹が協力して立ち向かう相手は火焔大将。鎧武者を模した魔化魍の一体であり、大剣を振るいながら接近戦を有利に展開。新八、神楽、ユイ、定春が力を合わせて、やっと互角に立ち回っている。

「ルゥゥ!」

 すると火焔大将は自身に有利な状況を作るべく、全身を砂のような状態に変貌させる。場を自在に駆け巡りながら、ユイらをかく乱させようとした時だった。

「今です!」

「ワフ!」

「何!?」

 定春に乗ったユイが彼に指示を加えており、定春は勢いよく鼻息を散らしている。その余波が火焔大将にも響いており、彼はすんなりと姿を現していた。

 思わず体が怯んでいる時である。

「さぁ、行ってください! 新八さん! 神楽さん!」

「ワフフ!!」

 ユイと定春はすかさず新八と神楽に攻撃役をバトンタッチ。無理矢理にでも好機を作り出したことで、それらを生かそうとしている。

「おうネ! ほわちゃぁぁ!!」

「ナ!? くっ……!」

 手始めに神楽が傘の先端から勢いよく弾丸を放出。距離を縮めつつ、火焔大将へさらなる怯みを与えていく。

「今度はこっちです! はぁぁ!」

「ぐはぁ!」

 さらには新八も追い打ちをかけていき、木刀で力強く一刀する。強烈な一撃を相手に浴びせていた。

 畳みかける猛攻に我慢できず、火焔大将も反撃を仕掛けていく。

「ハァァ!」

「フッ!」

「おっと!?」

 彼は口から放った炎と共に、出現した大剣を装備。力強く神楽らへ斬りかかろうとするも、

「ははぁ!」

「ほわちゃ!!」

「何!?」

神楽が自慢の怪力を発揮して彼の攻撃を受け止めてしまう。微動だにしない神楽の防御姿勢に、火焔大将も思わず驚嘆としている。

 そんな時であった。

「今ネ!」

「もちろん!」

「はい!」

 背後にはすかさず、新八と定春に乗ったユイが駆け寄っている。がら空きとなった背後に全身全霊の攻撃を彼らは与えていく。

「「はぁぁぁ!!」」

「うっ……ぐはぁぁぁ!!」

 新八の与えた斬撃と定春の体当たり攻撃が戦いの決め手に繋がった。次々と猛攻を受けた火焔大将はとうとう体が耐え切れず……そのまま倒れこみ爆発してしまう。

 火焔大将の撃破を見届けた三人は、ようやく心を落ち着かせるのであった。

「やりましたね、新八さん! 神楽さん!」

「ワン!」

「もちろん定春もですよ~!」

 二人を激励しつつもユイは、定春にも感謝を伝えている。彼の頭をさすり、ほんの少しの間だけじゃれついていた。

「どうネ! 私がこの戦いにMVPアルよ!」

「はいはい、分かっているから。そう易々と浮かれないでって」

 一方の神楽は自慢げに成果を主張しつつ、そんな彼女を新八が優しく宥めている。どちらにしても、強敵を撃破したことには嬉しいのだ。

 

 

 

 

 

 そしてこの三人の志士達も、いよいよ闘いに決着が付こうとしている。

「ファハ!」

「何の! そこだ!」

「ウッ!!」

 三人は一体ずつ幹部怪人を相手にしており、桂小太郎はナスカ・ドーパントと対峙。彼女が仕掛ける超加速移動にも、勘で対抗している。意外にも善戦しており、ナスカ・ドーパントの持つ片手剣(ナスカブレード)とも互角に張り合っていた。

「フッ! 貴様らには消えてもらうぞ!」

「消えるか? そっくりそのまま返してやんよ!」

「何!?」

 一方の高杉はレオイマジンと一戦を交えている。ロッドやかぎ爪で力強く戦うレオイマジンに対して、高杉は真っ向からその攻撃に立ち向かっていた。決して避けたりはせずに、堂々と己の実力のみで撃破しようとしている。

「ボンボグゲビゾグベソ(この攻撃を受けろ!)」

「はぁ! てめぇの好きになんかさせるかよ!」

「ウグッ!?」

「ヤァァ!」

 そして銀時は一度相対したことのあるゴ・ガドル・バへ再び挑んでいた。ゴ・ガドル・バは剛力体となっており、剣を用いて銀時と剣術のみで勝負している。己の力のままに銀時を押し切り倒そうとするも、銀時本人は効いていなかった。ライダーの力も掛け合わせているが、今回は己の実力のみでゴ・ガドル・バを倒そうとしている。

 そしてとうとう……戦いに大きな動きが出ていた。

「悪いな……こういうもっさりした戦いは嫌いなんだよ!」

「ナ!? ウッ!?」

 その言葉と共に銀時は、ゴ・ガドル・バに木刀を投げつけていき、彼を力づくで後退させている。ちょうど彼が建物の壁際にぶつかった時だった。

「ハァァァ!!」

「グ!?」

 銀時は飛び蹴りの構えを繰り出しており、ゴ・ガドル・バの腹部に向かって強烈な一撃を繰り出していく。勢いを付けたせいか、ゴ・ガドル・バは銀時の蹴りと共に建物の内部まで入り込み、そのまま反対方向へ貫かれてしまう。

 そこには桂と高杉が、ちょうど幹部怪人と戦闘を行っていた。

「銀時ぃ!?」

「おい、お前。どっから出てきてんだ?」

「うるせぇ! いいから、さっさと倒すぞ。コノヤロー!」

 その言葉と同時に、銀時の意志を読み取る二人。顔を合わさずとも三人は、自分にすべき行動が分っていた。

「そこだ!」

「ウッ!?」

「ハァ!」

「何!?」

 桂と高杉は自身が相手していたナスカ・ドーパントやレオイマジンに斬りかかり、彼らを勢いのままに後退させている。ちょうどそこに吹き飛ばされたゴ・ガドル・バも集まり、銀時らにとっては絶好の機会が訪れていた。

「ハァァァ!」

「タァッァア!」

「フッ!」

 銀時、桂、高杉は同時に根気よく走り出していき、密集した幹部怪人らへ向かい最後の一刀を繰り出していく。

「これで終めぇだ!」

「この一刀で最後だ!」

「こいつで終わりだな……!」

 最後の最後で掛け声はバラバラだったが。

「ボセグガルサギボヂバサ……!(これが侍の力……!)」グロンギ

「地球人め……!」

「うぅ……!」

 三体の怪人達は各々の気持ちを吐露しながら、倒れこみそのまま爆発してしまった。結果論ではあるが、銀時、桂、高杉の三人が力を合わせたからこそ、手にした勝利とも言えるであろう。

「ったく、いちいち無茶すんな。尻ぬぐいするこっちの身にもなれよ」

「うるせぇよ。俺がいたからこそ、手にした勝利に決まってんだろ?」

「まぁまぁ、落ち着け銀時よ。正確には貴様に味方したライダーの手柄とも言えるな」

「いや、さっきの戦いに限っては俺一度も使用してねぇからな! ちゃんと見ていたのかよ!?」

 戦闘が終わって間もなくして交わされるは、不満や文句の言い合い。どうも素直にはなれず、皮肉交じりな小言を三人は各人にぶつけていた。この時ばかりは、子供の時代に戻ったような感覚を三人は掴んでいる。だがこれも、一つの目的のために出来た奇跡的な光景なのだが……。

 こうして大方の怪人を倒し切り、一部の幹部怪人もとうとう倒すことのできた銀時やキリト達。残るはオベイロンとダークライダー……戦いが加速するにつれて、ライダーの力はさらに本領を発揮していく。




対戦表3

志村新八・タルケン・志村妙・シウネーVSオメガゼール・ウブメの怪童子・ウブメの妖姫・コキリアワーム・シルクモスファンガイア・エイサイヤミー・アルターゾディアーツ・刀眼魔
戦闘場所:段差の少ない階段通路

アスナ・ユウキ・高杉晋助・桂小太郎VSゴ・ジャラジ・ダ・ファルコンロード・スラッグオルフェノク・ティターン・ワスプイマジン・イエスタデイドーパント・ビャッコインベス・アランブラバグスター
戦闘場所:多様な花が咲く花畑の通路

坂田銀時・高杉晋助・桂小太郎VSゴ・ガドル・バ・レオイマジン・ナスカドーパント(レベル3)

キリト・アスナ・ユウキVSギラファアンデッド・ジェミニゾディアーツ

志村新八・神楽・ユイ・定春VS火焔大将





現在の勢力図

エリアA(仮名)
坂田銀時・キリト・志村新八・アスナ・神楽・ユイ・定春・ユウキ・桂小太郎・高杉晋助

エリアB(仮名)
リズベット・たま・エリザベス・テッチ・ノリ・猿飛あやめ

エリアC(仮名)
近藤勲・土方十四郎・沖田総悟・リーファ・クライン・柳生九兵衛・ジュン・エギル

エリアD(仮名)
志村妙・タルケン・シウネー・月詠・シリカ・シノン・ピナ・フレイア・長谷川泰三





 今回も中々骨太な戦いの連続でした! 一応またもまとめてみます!

お妙ちゃんの腕っぷし
シウネーの天然ボケ
眼鏡ネタ
タルケンの勘違い
新八のツッコミ
高杉の根気強さ
桂の昨日の行動が役に立った?
ユウキとアスナの共闘
幹部戦のたわいないやり取り
久々にソロで戦うキリト
攘夷志士達の掛け合い

こんな感じでしょうか?

特にユウキとアスナの共闘にはこだわりを詰め込んでいて、両者が放つ技は中々のものだったと思います!


 戦闘シーンを振り返って思うのは、やっぱり怪人を出し過ぎちゃいましたかね……(汗) モチーフ被りやALOに関係した怪人を集めるうちに結構な数になって、しかも怪人ごとに見合った要素や特徴も出したら、こうも長引いたというか……まだ物語は終わってないのですが、見通しが甘かったことは反省したいと思います。申し訳なかったです。

 さて今後の予定ですが、戦闘パートは後2話くらいで終わる予定です。最後の決着のシーンは大幅に文字数を超えてでも戦いに引導を渡そうと思います。なのでまた、気長にお待ちください。

 さて次回は色々と控えめだったライダーの力を存分に行使! 怪人や戦闘員の残党を倒していき、各々が最後の戦いに赴く予定です。4月3日までには上げたいですね……多分。
 では、また!




次回予告

本領を発揮するライダーの力!

銀時「ちょっとくすぐったいぞ!」

神楽「みんなの想い、しかと届いたネ!」

紡がれていく正義の系譜!

キリト「超強力プレイでクリアしてやるぜ!」

アスナ「みんなの絆で勝利を掴む!」

妖国動乱篇十八 完全無敵のDREAM POWER!


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第九十二訓 完全無敵のDREAM POWER!

 ちょっとした報告ですが、この度社会人となりました。今後は職務を全うしつつ、小説を鋭意製作する予定ですので、今後とも応援をよろしくお願いします。また今年中には一次小説にも挑戦してみたいです!


 ALO星にて繰り広げられているマッドネバーとの戦い。多くの妖精や侍達を巻き込み、戦いはさらに過熱していく。

 戦闘が開始されて、早数十分が経った頃。仲間達の尽力もあり、マッドネバーが仕向けた戦闘員や怪人の大半は撃破に至っている。

 現在銀時やキリトらの仲間達は、四つの集団に分散していた。マッドネバーの壊滅を目標に、誰しもが諦めずに戦いを続けていく。

「銀さん! 桂さん!」

「高杉さんも!」

「ん? お前らか?」

 幹部の怪人達を撃破したばかりの銀時達の元へ、近くで戦っていた仲間達が集結。キリト、アスナ、ユイ、ユウキ、新八、神楽、定春の計六人と一匹である。合流早々に彼らは、今一度互いの状況を共有していた。

「近くにいた怪人達は私達で処理したわ」

「そうそう! 僕とアッスーの力でね!」

「んでも、ダークライダーやあのゴミクズ野郎はどこにも見当たらないアルよ!」

「ここはもう僕達だけで捜索しますか?」

「どうすっか……」

 アスナ、ユウキ、神楽、新八と次々に声を上げていく。怪人を撃破したことには申し分ないが、マッドネバーの中心核とも言えるダークライダーやオベイロンの姿は一切見当たらなかった。彼らを見つけるのも重要な役目だと皆が悟っていく。

 また新しく作戦を立て直す中で……高杉は一人場を離れようとしている。

「ん? おい、高杉? どこへ行くんだ?」

 桂が問いかけると、高杉は後ろを向いたまま答えていた。

「ちょいと野暮用を思い出してな。お前らと組むのはここまでだ」

「って、待てよ! おい!?」

 ボソッと呟くと同時に、彼はそのまま去っている。高杉なりの狙いか、はたまたプライドによる意地なのかは知らないが、一行は彼の行動に疑問を浮かべてしまう。

「い、行っちゃいました?」

「まったく不愛想な男の人だね」

「相変わらずマイペースな人だな……」

「ほっとけ、ほっとけ。アイツのいない方が気楽で良いんだよ」

 ユイ、ユウキ、キリトと不可思議そうに思ったことを発する中、銀時だけは特に気にしていない。適当にあしらっているが、本心では彼を一応……信じているはずである。

 と去り行く高杉は気にせずに、簡易的な作戦会議を始めようとした時だった。ユイがある異変に気付き始めている。

「ん? 見てください、皆さん! アレを!」

「アレ?」

 彼女が指を指した方向に振り向くと、そこにはまだ生き残っていた怪人が群れを成してこちらに近づいていた。ワーム(サナギ体)とレイドラグーンである。所謂戦闘員ポジションの彼らだが、その挙動はどこか不審さを極めていた。

「まだ生き残っていたアルか!?」

「ワフ……!」

 と警戒しつつも様子を伺っていた時である。怪人達の体に異変が生じていた。

「ダラァァ!!」

「ギィィィ!!」

「うわぁぁ!? 進化した……?」

「怪人にも成長する特性があったのか?」

 耳障りな唸り声と共に、怪人達は孵化及び進化を始めている。レイドラグーンは自身の体を捨てて、トンボのような姿になったハイドラグーンへ。一方ワームはサナギから孵化するが如く、成虫型のワームへと進化。クモの特性を持つブラキぺルマワームが二体生まれてしまう。

 怪人達の突然の変化に驚きを隠しきれない一行。唖然とする中で、怪人達は襲撃する間もなくその場を逃げ出してしまった。ハイドラグーンの群れは上空へ。ブラキペルマワームは高速で移動して場を離れている。

 難を逃れた銀時達だったが、いずれにしろこれは彼らにとっても由々しき事態であった。驚きを感じつつも、一行はすぐに冷静さを取り戻していく。

「そ、空に逃げちゃいました……?」

「早く追いかけないと!」

「でも、僕らは今飛べないし……地上からなら!」

 仲間達が襲撃を受ける前に対処したいユウキ達だが、残念ながら追うのに最適な羽や魔法は封じられている状態。それでも諦めずに対抗する術を絞り出そうとする。

 そう皆が新たな脅威に対抗しようとする中……突然銀時らが付けているベルトから、キバットバットⅢ世と彼の仲間であるタツロットが幻影として登場していた。

「おいおい! こんな時こそ、俺達の出番だろうが!」

「そうですよぉ! ドラマチックに行きましょう!」

「って、何をいきなり出てきてんだよ! つーか、お前はどっから出てきた!」

「いや、解説に二人分必要ないでしょうが!」

「そんなこと言うなって! ファンサだよ、ファンサ!」

「ファン〇ではないですからね~!」

「さり気なくとんでもないこと言うんじゃねよ! 絶対銀魂と関わっているから、ボケただけだろうが!」

 ライダーの力を使用するように催促したが、銀時や新八のツッコミも相まってか、肝心な情報はあまり伝わっていない。終始おちゃらけた雰囲気のキバット達は、言うことだけ言うとそのままベルトの中に戻ってしまう。

 皆がやや微妙な反応を浮かべる中で、桂だけはタツロットの声に注目していた。

「おい、ちょっと待て! 銀時ィ! こいつ……俺に声がそっくりだぞ!」

「だから、間を溜めてまで言うことかよ!! いちいちテメェは大袈裟だってんだよ!」

 所謂中の人ネタを見抜き、大っぴらにツッコミを入れる銀時。話がよりややこしくなるためか、桂から再度言われようとも頑として無視を決めている。

 構いたがりそうに話しかける桂はさておき、銀時は仲間達へ的確な指示を加えていく。

「ったく、しゃあね。おい、キリトにアスナ。空中戦はお前達に任せた。俺達はあの虫見たいなヤツを追いかける」

「わ、分かったわ」

「俺も同じくだ。飛行での殲滅戦なら任せろ!」

 空中を飛び回るハイドラグーンには、キリトやアスナが対抗するようだ。日々飛行している彼らだからこそ、出来る役割だと捉えている。キリトらも概ね納得していた。

 するとすかさず、キリトやアスナもユウキや新八達にある役割を振る。

「それじゃ、ユイに新八。定春とユッキーは、ダークライダーやオベイロンを捜索してもらっていいか?」

「あの人達を見つけない限りは、この戦いに終わりは無いと思うの。だから……アナタ達にお願いして良いかしら?」

「もちろん大丈夫ですよ、パパ! ママ!」

「ワン!」

「僕らに任してください! ……あの、桂さんもついでに連れて行っていいですか?」

「おう、良いネ。さっさとあのバカを黙らせるアル!」

「随分と直球だね……」

 姿をくらませたマッドネバーの重要人物の捜索を指示し、それを聞いたユイ達は素直に請け負っていく。会話の最中に新八が、桂の連行も確認していた。神楽の裏表のない一言に、ユウキは苦笑いで事を返していたが。

 ちなみに桂は未だに、銀時へ同じような質問をしつこく投げかけている。肝心の本人はまったく気にしていない。

「よしっ、役割も決まったし……俺達はあの昆虫野郎を追いかけるぞ」

「もちろんネ、銀ちゃん!」

「おい、銀時! いい加減あのドラゴンみたいな魔物の正体を教えてくれ!」

「はいはい、アンタは僕達と一緒に探索する側ですよ」

「ワフフ!」

 銀時、神楽両者共にワームの尾行を決意する中で、新八と定春は桂を宥めつつ、彼を強制的に探索側へ引きずり込む。

 とそれはさておき、銀時、神楽、キリト、アスナの四人は、新たな敵を倒すためそれに準じたライダーの力を選択する。アルヴドライバーのブレスレット部分を操作し、尾行に適した力を見つけると、勢いよくベルト部分と紋章を重ね合わせていた。

〈カブト! ライダーパワー!!〉

〈ファイズ! アクセルパワー!!〉

 まず銀時、神楽が引き出したのは、高速移動が出来るライダーの力。銀時はカブトのクロックアップ能力。神楽はファイズのアクセルモードを発動。瞬時に態勢を整えていき、ワームが逃亡したとされる北東方面に狙いを付けていく。

「こう言うんだっけか? クロックアップ……!」

「スタートアップネ!」

 と二人が決め台詞のような事を発すると、目にも止まらぬ速さで場を去っている。彼らは高速状態となり、新八らが肉眼で見ることはほぼ不可能であった。

「えっ? いつの間に!?」

「アレがライダーの力……?」

「本当に一瞬でしたね」

 気が付いた時にはもう銀時らはいなくなっており、改めて平成仮面ライダーの力を痛感したユウキら。新八やユイも驚きの声を上げている。

 と休む間もなく、キリトやアスナもライダーの力をすかさず解放していく。

「キリト君! 私達も!」

「あぁ! えっと……空を飛べるライダーの力は」

 ブレスレットを操作していき、飛行用に適した力を二人は見つけていた。

〈オーズ! タジャドルパワー!!〉

〈タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャ~ドル!!〉

 キリトが使用したのは、オーズのタジャドルコンボの力。鳥系の力が合わさっており、彼の背中には赤い大型の羽根が生えている。

「クジャクの羽根か……悪くはないな!」

 本人もこの仕様には満足の様子だ。

〈ウィザード! オールドラゴンパワー!!〉

〈ファイナルタイム! オールドラゴン!! プリーズ!〉

 続けてアスナが使用したのは、ウィザードのオールドラゴンの力。火、水、風、土と言うウィザードを構成する四つのエレメントが融合した姿であり、胸部、両腕、臀部、背中には、それぞれウィザードラゴンの頭、爪、尻尾、羽根が付属されている。所謂てんこ盛り系の姿なのだが、全身が変わった姿にはアスナもやや困惑気味のようだ。

「えっ? 何これ!? 羽根だけじゃなくて、爪やしっぽまで生えてる!?」

 全身を見渡しつつ、変わった個所を入念に確認している。羽根以外は一切慣れておらず、特に臀部へ生えた尻尾と両腕に備わった爪には早くも鬱陶しさを感じてしまう。

「こんな重装備にするはずじゃなかったんだけど……」

 先行きが不安となる彼女に対して、ユウキやキリトはそっとアスナを宥めていく。

「そう落ち込まないでって! ドラゴン姿のアッスーも、十分にかっこいいから!」

「そうだな。とっても強そうで凛々しく見えるよ」

「そ、そう? 二人に言われると、まぁこの姿でも問題ないかしら」

「あっさり納得しちゃったよ!」

 二人の素直な感想を受け取ると、アスナの悩みも吹っ切れて、つい浮かれたような表情を見せている。土壇場での変わりように、新八も反射的にツッコミを入れていた。

 と反応は色々あれども、ライダーの力で飛行能力を取り戻したキリトとアスナ。空中へと逃げた敵を追うべく、二人は颯爽と羽根を広げていく。

「それじゃ、俺達も追いかけよう! 行こう、アスナ!」

「もちろんよ、キリト君!」

 そう言葉を交わしていき、二人は難なく空へと舞い上がる。形状の違う羽根だが、すぐにコツを掴んで我が物にしていた。空中へと散ったハイドラグーンの群れを追いかけるため、スッと二手へと分かれていく。

 一方で地上に残された新八、ユイ、ユウキ、桂、定春も、新たな役目のために動き出す。

「じゃ、僕達も行こう!」

「桂さんも、しっかりと付いてきてくださいね!」

「任せろ! さぁ、皆の者俺についてこい!」

「アンタが仕切るなよ」

「ワン」

 やや空回りしている桂は気にせずに、ユイらは集団となって場を跡にしている。ここはアルンの街並みにも詳しいユウキが、先導して案内していた。

 こうして新たな役目の元に動き出した銀時やキリト達。しっかりと任務を遂行する中で、一人単独行動をとる高杉もオベイロンの行方を密かに追っていた。

「あのバカはどこにいる……?」

 

 

 

 

 

 

 

 レイドラグーンから進化したハイドラグーンは、数十体ほど群れを成して街中を飛び回っていく。誰にも邪魔されないことを良いことに、彼らは段々と調子に乗り始めていた。

「フッ! ハァ! って、何アレ!」

「おい、みんな! 避けるぞ!!」

 無鉄砲にスイスイと駆け抜ける中で、ハイドラグーンの群れはリズベット、たま、ノリ、あやめ、エリザベス、テッチがいる場所まで遭遇している。彼女らはちょうど周りにいた戦闘員達を、大方一掃したばかりであった。不穏な羽音に気が付くと、六人は一斉に近くの物陰に身を潜めていく。

 するとハイドラグーンは、彼らを襲撃しないまま上空へと飛び去るのであった。

「って、何なのよ。あの化け物は?」

「トンボみたいだったけど……」

「まだマッドネバーにも敵が残っていたのですね」

 困惑するあやめやノリに対して、たまはそっと自身の推測を話していく。マッドネバーの伏兵と予見していたが、あながち間違いではなかった。

「どうすんの、アレ……アタシ達じゃ羽根も使えないし」

 あわよくばハイドラグーンの群れを撃破したいリズベットだったが、羽根が使えない以上は何も有効打がない。苦い表情を浮かべながら、ウズウズとした気持ちを堪える。

 とそんなリズベットに、エリザベスが気を利かせた一言を投げかけてきた。

[空を自由に飛びたいな~]

「はい、エリザベス? まさか……タケコプターでも出すんじゃないでしょうね?」

 嫌な予感を感じつつも彼女は、エリザベスへその本意を聞いてみる。すると彼の口元からは、思った通りの代物が登場していた。

[ほらよ、ジェットエンジン!]

「……って、何現実的なものだしてんのよ! ていうか、そのジェットエンジンどっから出したの!! そんな得体のしれないもの、使えるわけがないでしょ!!」

 エリザベスの手元には濡れたジェットエンジンがあり、不完全ながらもリズベットにそれを手渡そうとしている。どう見ても不潔な存在に、リズベットは恐れおののいてしまう。エリザベスとの距離を遠ざけながら、ひたすらに嫌がる表情を見せている。

 一向にハイドラグーンへの対処が進まない中……場にはとうとうあの戦士が助っ人として駆けつけていく。

「みんな! ここは任せて!!」

「えっ? この声って……」

「アスナ!?」

 頼りがいのある声に気付き皆が後ろを振り向くと、そこにはアスナが自在に空中を駆け抜けていた。オールドラゴン状態のまま。

「うわぁ、何アレ!?」

「アスナ―! その姿、どうしたのー!」

「後で話すわ! 今はあのモンスターをチャチャとやっつけるから!」

「えっ?」

 リズベットら六人は当然、全身にドラゴンのパーツを装備したアスナの姿に困惑気味である。本人に理由を聞こうとも、遮断され詳しくは聞けなかった。

「もしかすると、アスナ様はライダーの力を使用したのかもしれません」

「あぁ、なるほど……確かにそれだと説明が付くけど」

「中々衝撃的な姿ね」

 たまの推測に、リズベットやあやめが会釈しながら納得している。恐らくは推測通りだが、だとしてもオールドラゴン状態が衝撃的で、そちらのインパクトに一行は引っ張られてしまう。

 いずれにしても、この場は空中を飛行できるアスナへ討伐を任せることにした。

 一方でアスナはハイドラグーンの群れに追いつくと、勇猛果敢に接近戦を試みている。

「ハァ! この!!」

 ハイドラグーンが密集している群れの中心まで到達すると、手始めに背中の羽根であるオールドラゴンウィングで緑色の竜巻を発生させていた。

「ギィィィ!」

 竜巻に巻き込まれたハイドラグーンは、自身の体の自由が効かないまま、竜巻の流れへ乗っかってしまう。戦いの主導権を取りつつ、アスナはさらなる追撃を与えていく。

「次はこれよ!」

 今度は自身の臀部より生えた尻尾、オールドラゴンテイルに氷の属性をまとわせていく。大胆に尻尾を振り回し、竜巻に閉じ込められているハイドラグーンへ打撃を与えている。

 さらには、

「ハァァァ!」

「ギィィィ!!」

有無を言わさずに胸部のオールドラゴスカルから強力な火炎を解き放っていた。竜巻と炎が合流し、辺りは熱波と化していく。そしてそのまま仕上げへと移っている。

「さぁ、フィナーレよ!」

 アスナは真剣な表情を浮かべたまま、両腕が変化した爪オールドラゴクローに全身の力蓄えていく。土のエレメントをまといながら、竜巻を漂うレイドラグーンの群れに対して、

「やぁぁぁぁ!!」

交差するように切り刻んでいった。上空から地上へ降下するように一刀しており、アスナの渾身の必殺技を受けたハイドラグーンの群れは……

「ギィィ!!」

けたましい鳴き声を上げながら連続して爆破している。垂直のまま倒されていくハイドラグーンの群れの爆発を背景に、アスナはそっと地面に降り立っていた。

「ふぅい~」

 戦闘が終わると同時に、彼女は大きく呼吸を整えていく。強大な力を制御しつつ怪人達を倒せたことに、どことない満足感をアスナは感じ取っていた。

「この姿でも……まぁ、悪くは無いかな?」

 最初こそ違和感を覚えていたオールドラゴン状態だったが、数分ほど戦うにつれて段々と愛着が湧いている。あくまでも戦闘時のみに限ったことなのだが。

 そんなアスナの元に、仲間達がゾロゾロと駆け寄っていた。

[おぉ! 見事に倒し切ったか!]

「やりましたね、アスナ様」

 六人が思い思いに話しかけようとした――その時である。

「ん? えっ、みんな! 伏せて!!」

「はい!?」

 アスナは背後から這い寄る気配に気づき、仲間達へ咄嗟に警鐘を促していく。その予感通り上空には、ギリギリで攻撃を回避したハイドラグーンの群れが、新たに襲撃を仕掛けようとしていた。

「ギィィィ!!」

 耳障りな鳴き声と共に、ハイドラグーンは手からビームを一斉に発射。アスナらの周りをくまなく襲撃していく。

「フッ!」

「何!?」

「うわぁ!」

 次々と地面に被弾するビームを回避しつつ、必死に身を守っていく七人。辺りには砂煙が舞い、一向に視界が遮られる状態となる。

「ギィィ!」

 アスナらの戸惑う声を聴いて、随分と手応えを感じているハイドラグーンら。この流れに乗ってとどめを刺そうとした時であった。

〈フォーゼ! コズミックパワー!!〉

〈スクリュー! エアロ! オン!!〉

「ハァァァ!!」

「ギィ!?」

 アスナは瞬時に新たな平成仮面ライダーの力を解放。数多の装備を武装する宇宙系ライダーのフォーゼの最強フォーム、コズミックステイツの力で二つのモジュール(装備)を組み合わせて、その効果を遺憾なく発揮していた。

「おい、今度はなんだ?」

「砂煙が消えていく?」

 突然の変わりように声を上げるテッチやノリ。彼らが目にしたのは、アスナの左足に装備されたエアロモジュールが辺りの土煙を吸い込む様子である。掃除機のような役割を果たすエアロモジュールは、スクリューモジュールの回転率も合わさって、さらなる効力を発揮していた。

 皆がアスナのサポートに驚く中で、彼女は気合を入れつつさらなる必殺技の準備を進めていく。

「最後にこれよ!」

 アルヴドライバーを操作していき召喚したのは、大型剣であるバリズンソード。レバーを動かして、刀身が展開されたスラッシュモードをアスナは構えている。

〈リミットブレイク!!〉

 後方に備わったスイッチスロットへコズミックスイッチを装填。強大なエネルギーをため込み、とっておきの必殺技を繰り出していた。

「みんなの絆で勝利を掴む!」

 決め台詞と共にバリズンソードを投げまわし、強大なエネルギー波を上空にいるハイドラグーンの群れへとぶつけていく。

「ライダー超銀河フィニッシュ!!」

「ガァァア!!」

「ギィィィ!!」

 その必殺技が決まるまでは……ほんの一瞬の出来事。脅威を感じてエネルギー波から逃げ出す個体。意地でも致命傷を負わせようと突き進む個体。そのどれもがアスナの必殺技に巻き込まれてしまい、爆発の中へと姿を消している。

 フォーゼの力も相まって放たれた渾身の必殺技は、無事に周りへいたレイドラグーンを全滅まで追い込んでいた。

「お、終わったの?」

「アレだけの群れを一撃で……?」

 本気を出したアスナに、あやめやリズベットらはただただ驚かされるばかりである。いずれにしても、空からの脅威は去ったと言えるだろう。

「……さぁ、厄介な敵達は排除したわ。リズ達は他の仲間達の加勢に向かってもらえるかしら?」

「わ、分かった! って、アスナはどこへ行くの?」

「私はこの手で懲らしめたい相手がいるの。だからその人の探索に戻るわね!」

〈ウィザード! オールドラゴンパワー!〉

〈ファイナルタイム! オールドラゴン!!〉

 アスナはリズベットやたまらに軽い指示を加えると、自身の倒すべき敵を明かしたまま、再びオールドラゴンの力で空中へと飛び去っている。戦い故に仕方がないことだが、詳しい事情はまた先延ばしにされてしまった。

「い、行っちゃった……」

「本当にあっという間だったな」

[ライダーの力を借りると、あそこまで容易くなるのか!]

 ただただ唖然とするノリやテッチに対して、エリザベスは一人ライダーの力に興奮する。

「アスナのあの眼は……本気で倒しにかかる眼ね」

「えっ? そうなのでしょうか?」

「確かに殺気がやばかったわね」

 一方でリズベットは、さらっと片鱗の出たアスナの信念に一人で戦慄していた。たまは終始気付かなかったようだが、あやめの方は薄々分かっていたようである。

 と危機を救われた六人は、アスナの指示通り仲間の加勢へ赴こうと決意していく。

[おい、とりあえず仲間達の加勢に向かうぞ]

「そうですね。皆さんの動向も心配です」

「もちろん、行こう!」

 アルヴドライバーへの好奇心を抑えつつ、今はマッドネバーの撃破へ向けて動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、パズルの時間だ! フッ!」

「ヤァ!」

「よっと!?」

 一方でこちらは幹部怪人の一体、ハテナバグスターと対峙する者たち。戦っているのはシウネー、タルケン、妙、月詠、シリカ、シノン、ピナ、長谷川の七人と一匹。そして物陰では、フレイアがそっと戦いの様子を見守っている。

「み、皆さん!」

 しかし、状況は一段と芳しくない。全員が一丸となって立ち向かおうとも、ハテナバグスターの有利に変わりはないからだ。

「はぁぁ!」

「よっ!?」

「きゃ!?」

 妙やシウネーらが苦戦を強いられている理由は、ハテナバグスターの多彩な技が影響している。パズル型のエネルギー波を避けることへ必死となり、攻撃を仕掛けるどころではないからだ。さらにはフレイアも狙われており、彼女も守りながらハテナバグスターを撃破する他は無い。

「どうした? この程度か、貴様達の力は?」

 自身の有利を自覚した上で、さらなる煽りを振る舞うハテナバグスター。言い返す気力もなく、妙らは煽りにも耐え忍び呼吸を整えていく。

「うぅ……思ったより強いわね」

「遠距離でも近距離でも隙が無いなんて……!」

 思わぬ苦戦を強いられて、苦悶を口にする妙とシノン。二人のみならず、皆が苦々しい表情を浮かべており、ハテナバグスターの撃破への道筋を手繰り寄せている。

「このメダルが逆転の一手に繋がらぬのか?」

「えっ? 私も持っていますよ、その銀色のメダル!」

「俺もだぜ。何かに使えそうじゃないのか?」

 ふと月詠が隠し持っていたセルメダルを手にすると、タルケンと長谷川の二人が食いつくように反応していた。彼ら二人もセルメダルを所持しており、何かの攻撃に使えないか模索している。

「と、とにかく果敢に立ち向かいましょう! きっと勝機が訪れるはずですから!」

「ナー!」

「そうですね……諦めちゃだめです!」

 セルメダルの件は一旦さておき、シリカやピナ、シウネーは仲間達を力強く鼓舞していく。彼女達の言葉につられて、妙らもまた決意を新たに再度戦いへと身を投じている。

 

 

 その傍らにて近くでは、ブラキペルマワーム(オーランタム)と高速対決を繰り広げている神楽の姿があった。

「ホワチャァァ!」

「ウゥゥゥ!!」

 限られた制限時間の中で、必死にワームを追いかける神楽。アクセルフォームの力で高度な高速移動を展開するも、時間は合計で十秒程度しか猶予がない。そんなデメリットも神楽は使用した時から把握しており、ここで一気に攻撃を仕掛けようとする。

「今ネ!」

「ウゥ!?」

 彼女はブラキペルマワームの腹部目掛けて、不意打ちが如くストレートなパンチを繰り出していく。その攻撃を受けたブラキペルマワームは、つい体を怯ませてしまう。

 隙が生じているうちに、神楽はアルヴドライバーからファイズポインターを召喚。ファイズが必殺技を放つ上で必要なアイテムであり、神楽はそれを右足に装着させている。

〈レディ?〉

「アクセルクリムゾンスマッシュネ!」

 高らかに必殺技名を上げると、ブラキペルマワームのあらゆる範囲から赤く染まったポインティングマーカーが複数出現。彼が困惑する隙すら与えずに、神楽は四方八方からマーカーを潜り抜けて、連続したキックを叩き込んでいく。

「ハァァァ!!」

「ウゥゥ!!」

 目にも止まらぬ速さで必殺技を繰り出していく神楽に、もはや成す術のないブラキペルマワーム。逃げ出す隙も無く受け続けた連続技により……とうとう体に限界がきてしまう。

〈タイムアウト……!〉

「ウゥ……うわぁぁぁ!!」

 神楽が高速移動から解放されたと同時に、ブラキペルマワームは断末魔を上げながら、爆死してしまう。緑に燃える炎を背景にして、神楽は深く呼吸を交わしている。

「ふぅ……とりあえず、やったネ!」

 満足げな表情を浮かべつつ、一時だけ力を貸してくれたファイズにも感謝を伝えていた。撃破早々に彼女が周りを振り返ると、そこにはハテナバグスターに苦戦する妙やシリカ達の姿が見えている。

「あっ、みんな! 大丈夫アルか!!」

 彼女らの窮地を悟った神楽は、すかさずハテナバグスターへ襲撃しようと走り出す。もちろん新たなライダーの力を解放して。

〈オーズ! プトティラパワー!!〉

 使用したのはオーズのプトティラコンボの力。古代に生きた恐竜の力を秘めている斧型の武器、メダガブリューを彼女は右手に装着していく。

「ホワチャァァ!」

「うぐっ!?」

「えっ?」

「神楽?」

「神楽さん!?」

 背後から勢いよく斬りかかり、思わぬ攻撃を受けて怯んでしまうハテナバグスター。メダガブリューの切れ味と、神楽の怪力が相まって攻撃力はさらに増したようだ。

 一方で仲間達は、神楽の突然の乱入に多少なりとも驚いている。皆が動きを止めている間に、彼女はメダガブリューを振るい続けていた。

「これでも食らうネ!」

「何! させるか!」

 次々と振るわれる斬撃に負けじと、ハテナバグスターはまたもパズルを模したエネルギー波を、神楽へと集中的に仕掛けていく。

 だがしかし、

「ハァァァ!」

「何!?」

全てのエネルギー波をメダガブリューの振るった斬撃によって相殺されていた。得意げに振る舞っていたハテナバグスターも、これにはただただ唖然とするしかない。

 一方で神楽は、アルヴドライバーからメダガブリューのさらなる使い方を把握していく。すると脳内に浮かんできたのは、大量のメダルを元に相手へとぶつける一撃級の必殺技である。

「これネ!! みんな! この斧に銀色のメダルを入れるアルよ!」

「銀色のメダル? これのことか?」

「そうネ!」

 勝利への道筋を確信した神楽は、仲間達が手にしているメダルを譲渡するように呼び掛けた。神楽の愚直な想いを汲み取って、月詠やシリカらは神楽へ手にしていたメダルを全て渡すことにする。

「分かった! 神楽、頼んだぞ!」

「お願いします!」

「こっちも!」

「頼んだぞ!」

 みんなが思い思いに呟きつつ、神楽の持つメダガブリューへセルメダルを次々とぶつけていく。するとメダガブリューはセルメダルを一枚残らず飲み込み、エネルギーを少しずつ蓄えていく。

〈ゴックン!〉

「みんなの勝利への欲望……しかと受け止めたネ!」

 そう凛々し気な表情で呟くと、神楽はメダガブリューを構えたまま、ハテナバグスターへ突進していた。

「おのれ!」

 すかさず彼もエネルギー波を飛ばし続けている。けれども神楽は一切怯まない。

「これなら、どうネ!」

「な!?」

 がむしゃらに突き進むうち、神楽はとっておきの一撃でハテナバグスターを切り刻む。彼の体に鈍さが生じているうちに……

「セイヤァァァ!」

「ぐっ……だらぁぁぁ!!」

ありったけのセルメダルを入れて解き放った斬撃型の必殺技「グランド・オブ・レイジ」を発動していた。セルメダルによって破壊力を増した必殺技は、ハテナバグスターをほんの一撃で大破させている。

 断末魔と共に飛び出た爆発を背景に、神楽はグッと勝利を噛み締めていく。もちろん仲間達も同じだ。

「か、勝った?」

「あの強敵を……」

「やっぱりメダルが打開策だったじゃねぇか!」

 突然の出来事には、仲間達もまたその衝撃を受け止めきれていないようだが。いずれにしても、密かにとっておいたセルメダルが勝利を導いた珍しい結果となった。

 すると戦闘が終わった神楽は、妙らのいる場所まで戻っている。

「やったネ、みんな! 大勝利アルよ!」

「そ、そうですね! 神楽さん!」

「ナー!」

「やっぱりライダーの力って、凄いのね」

「いやいや、あのメダルを持っていたみんなのおかげでもあるネ!」

 プトティラコンボの凄まじい力に驚くシリカやシノンらだったが、神楽は仲間のサポートがあってこそ成しえた勝利だと括っていた。彼女の率直な言葉を、仲間達は相応に優しく受け止めていく。

 一つの脅威が去ると、ずっと物陰に隠れていたフレイアも公の場に姿を見せていた。

「ありがとうございました、皆さまを助けていただき」

「おうネ! お安い御用アル! あっ、そうだ! どうせなら姫様を守る護衛も召喚するアルか?」

「えっ? そんなことも出来るのですか?」

「で、でも……わざわざライダーさんに来てもらうのも、申し訳ないですよ」

 神楽は話がてらに、フレイアの身を守る護衛役の召喚を提案している。アルヴドライバーを使えば可能なのだが、シウネーらは揃ってわざわざライダーを召喚することへおこがましさを感じてしまう。

 乗り気ではない仲間達の心境を悟った神楽は、ライダーではなくとあるサポートメカを召喚することにしている。

「そこは大丈夫ネ! あっ、ちょうど良いバイクがあるアル!」

 ふと彼女が見つけたのは、商店前に駐車していたオートバイク。恐らくGGO星から来た観光客の私物である。このバイクを目にして、神楽はあることを思いついていた。

〈ファイズ! サモン! オートバジン!〉

〈オートバジン! バトルモード!〉

 アルヴドライバーを操作して、ファイズの力を解放。するとオートバイクは瞬く間に、ファイズの専用マシンオートバジンと変化していた。このオートバジンはバイク型のビークルモードと、人型ロボット型のバトルモードに変形が可能なハイテクマシンである。

 神楽は専用のボタンを押すと、オートバジンをバトルモードへと変形。人型に変化させて、彼をフレイアの護衛役として任命していた。

「なんじゃと? バイクがロボットになったのか?」

「これはまた滑稽ね」

 オートバジンの姿を見るや否や、月詠や妙は驚嘆とした声を上げている。彼女達のみならず仲間達は、多少なりとも驚いているのだが。

 するとオートバジンは、神楽の指示を受けると長谷川の近くまで寄っていた。

「ん? なんだ……って、ブハァァ!」

 話したそうな素振りを浮かべていたが、なんとオートバジンは長谷川へためらいもなく殴りかかっている。そのまま壁際まで吹き飛ばされてしまい、思わぬダメージを受けてしまった。長谷川にとっては、何が起きたのかさっぱり分かっていないが。恐らくは神楽の横槍であろう。

「おい、何すんだ!」

「しっかりやれって言う、オートバジン様のお達しネ。マダオはこいつと一緒に姫様を守るアルよ!」

「なんだ俺が下に見られてんだよ! そもそもこんなカラクリを、姫様が信用するわけが……」

 説明など軽く一蹴して、神楽は長谷川にも姫様との同行を指示している。肝心の長谷川は自分よりもオートバジンの扱いが良いことに納得がいかないようだが……。

 ふとフレイアの様子を見てみると、

「中々かっこいいですね。頼りにしていますよ」

「えっ?」

彼女はオートバジンのことをかなり気に入っていた。尊敬の眼差しで信頼しており、まるで長谷川との扱いは雲泥の差である。(長谷川の場合は戦闘能力が皆無なため、信頼よりも心配が勝るように見えるが)

「さぁ、行きましょう!」

 気合を込めたフレイアの一言に、オートバジンは心強く頷く。彼はフレイアを自身の背後に移動させると、世界樹に目掛けて走り出していた。今度こそミラーワールドに囚われた民を救い出すため、世界樹に設置された制御装置まで果敢に向かう。

「おい、ちょっと待ってくれよ!」

 一方で置いて行かれた長谷川は、焦りながらもオートバジンらの跡を追いかける。ここまで来れば、もう流れに乗っかるしかないようだ。

 大きな後ろ盾を貰い、意地でも使命を果たそうとするフレイア。オートバジンや長谷川も護衛に付くようだが、やはり仲間達は彼女の動向が気になってしまう。

「本当に大丈夫なのでしょうか?」

「姫様が心配ですよ」

「大丈夫ネ! バジンちゃんを信じるアル」

「バジンちゃんって……」

 特に騎士団であるシウネーとタルケンは大きな不安を抱えていたが、それらを払拭するべく神楽が念押しする。それでも心境に変わりはなかったようだが……。

 少しずつだが事態が動き始めていく中で……シリカとシノンはとある不穏な気配を察していく。

「ん? 皆さん、伏せて!」

「えっ?」

「何!?」

 二人は背後から這い寄る敵に気付き、すぐに戦闘態勢を整えている。ダガーや弓を握りしめて、襲い掛かってきた剣や斧を真っ向から防いでいた。襲撃を仕掛けてきた敵の正体は……二人の因縁なるダークライダー、リュウガとソーサラーである。

「チッ。寸でのところで気が付いたか」

「当然です! ずっとアンタのことは探していました! 今度こそリベンジの時です!」

「ナー!」

 自身の思い通りにはいかずイライラを募らせるリュウガに対して、シリカ及びピナは大いに闘志を燃やしていた。同じ竜使いとして敗北した経験から、今度こそ倒すべく躍起となっていく。

「あらあら。少しはマシになったんじゃないの?」

「それくらいしぶとくなったってことよ! さぁ、決着の時かしら!」

 一方でシノンも、弓を構え直しつつソーサラーへ鋭く狙いを定めている。こちらも一度と敗北を味わったことから、リベンジに沸々と熱意を投じていた。

 宿敵の登場に一段と目の色を変えるシリカとシノン。二人の稀なる決意を目の当たりにした神楽は、心配してつい二人へ声をかけている。

「シッリー! シノ! 大丈夫アルか!?」

 すると彼女には、妙と月詠がシリカらに代わって事を返していた。

「いいや、神楽ちゃん。ここは私達に任してちょうだい」

「わっちらさえいれば、戦力は十分じゃ! 主はオベイロンとか言うバカを探しに行きなんし!」

「本当に良いアルか?」

「もちろんよ。任してちょうだい」

「姉御にツッキー……分かったネ!」

 戦力は十分だと伝えて上で、加勢よりも騒動の元凶たるオベイロンの捜索を彼女らは促している。確か意志を汲み取った神楽は、妙らの言う通りにオベイロンの行方を追うことにしていた。再びアクセルフォームの力を発動して、高速移動で場を跡にする。

 そしてちょうど同じタイミングで、まったく別の勢力が加勢に入ってきた。

「こらぁ! アタシ達を置いて、勝手に幹部戦なんか始めるな!」

「リ、リズさん!?」

 リュウガへ斬りかかるように駆けつけたのは、シリカと同じくリュウガと因縁のあるリズベット。彼女もまた宿敵へリベンジを果たすべく、大いに熱意をたぎらせていた。

 もちろん駆けつけたのはリズベットだけではない。

「私達もいるわよ!」

「加勢に来ました! 一緒に戦いましょう!」

「分かったわ!」

 同じくしてあやめ、たま、エリザベスもこの戦場に乱入していく。ようやく見えてきた戦いの終わりへと辿り着くためにも、皆が躍起となっている。

 こうしてリュウガにはシリカ、リズベット、ピナ、妙、たまが。ソーサラーにはシノン、エリザベス、あやめ、月詠が討伐へと当たっていた。

 一方でノリとテッチは、同じスリーピングナイツであるシウネー及びタルケンと再会している。

「皆さん!」

「アタシ達も加勢に入るわよ!」

 と一致団結して、シリカらの戦いに加わろうとした時だった。

「おっと、そうはさせねぇよ」

「って、アンタは……!」

 有利な流れを遮るように姿を見せたのは、シグルドが変身した仮面ライダーシグルド。武器であるソニックアローを差し向けながら、シウネーらへ今にも襲い掛かろうとしている。

「よくも騎士団を裏切ったな……!」

「アナタの罪は重いですよ!」

「覚悟してください!」

「さぁ、どうかな?」

 四人はフレイアや騎士団を裏切ったシグルドに怒りを覚えており、受けた屈辱を果たすべく皆が戦闘態勢を新たに構えていく。強い気持ちを存分に露わとしたまま、真っ向から立ち向かうのであった。

 こうして集団戦を潜り抜けて、とうとう訪れたダークライダーとの決戦。譲れない気持ちを前面に出し、皆が全力を尽くしていく……!

 

 

 

 

 

 

 

 とうとうダークライダー達との戦闘も始まる中で、ユイ、新八、桂、ユウキ、定春一行は、気配をくらましたオベイロンを密かに追っていた。

「おい、どこへいる! オベイロン! さっさと姿を見せろ!」

「って、そんな大っぴらに言っても出てきませんよ!」

 桂は堂々と声を上げて捜索しているが、むしろ逆効果なようにも見える。新八から止められようとも、彼の心意気は変わらない。

 そう大っぴらに行動する桂に対して、ユイ、ユウキ、定春は独自の方法でオベイロンの行方を追っている。

「ねぇ! 君のこの犬でさ、あのオベイロンってヤツの行方を追えないかな?」

「分からないですが……でも、やってみます! 定春は出来ますか?」

「ワン!」

 ユウキからの提案に理解を示したユイは、早速定春へ指示を加えていく。彼女らの気持ちを汲み取った定春は、期待へ応えられるようにオベイロンの匂いを微かに思い出しながら、どこへ逃げたか推測している。

 すると間もなくして、定春には心当たりのある場所が思い浮かんでいた。

「ワフ!」

「えっ、見つけんですか!?」

「と、とりあえず、行ってみようよ! おーい、二人とも! 見つかったかも!」

「何だと!?」

 異常を知らせる定春の鳴き声に気付いて、ユウキやユイも彼の考えへ乗っかることにしている。すかさず桂と新八にも伝えていき、準備の整った一行は今いる場所から世界樹方面へと移動していく。

 すると間もなくして、定春の考えは確信へと移り変わっている。

「ワン!」

「あそこです!」

「あっ、アレは……!」

 彼が指を指した方向に目を向けると、そこには世界樹内部へと戻るオベイロンの姿があった。どうやら彼は怪人の大群がほぼ倒されたことで、自身の作戦を一度修正しようと本拠地に戻ろうとしている。

「まだだ! まだ僕の計画は終わっていない! ガイアメモリの力は残っている……これさえあれば、逆転だって可能さ!」

 そう微かな希望にがめつきながら、ゆっくりとその足取りを進めていた。しぶといとも往生際が悪いとも言えるが、まだ自身の野望を諦めようとはしていない。

 そんな彼の元へ、ずかずかとユウキらが介入しようとする。

「そこまでです! オベイロン!」

「何!?」

 彼女の声に気付きオベイロンが振り向くと、そこにはすでに戦闘態勢を整えている新八、桂、ユウキ、ユイの四人がいた。(ユイは定春に乗っかっている)

「もうアンタの好きにはさせませんよ!」

「さっさとお縄に付きな!」

「いい加減降伏しろ!」

 新八、ユウキ、桂と一行は、威勢の良い言葉でオベイロンと対峙していく。そう簡単に諦めずはずがなく、このまま否が応でも戦闘に入るとユイらは察していた。対するオベイロンも苦い顔を浮かべつつ、戦闘か逃亡か思い悩んでいた時である。

〈エレキスチーム!〉

「うわぁ!?」

「何!?」

 何の前触れもなく、マッドネバーの一人が新八らへ向けて襲撃を仕掛けていた。電気を模した衝撃波が周りへ降り注ぎ、ユウキらにも強制的に怯みを与えている。

 オベイロンの手助けをしたその正体は……辛うじて生き残っていたナイトローグと、彼が集めていた残党のライオトルーパー達だ。

「お、お前は!」

「さっさと行け。ここは俺が引き受ける」

「フハハ……流石だ! 頼んだぞ」

 手短に言葉を交わすと、オベイロンは不気味な笑い声を上げながら、世界樹の内部へと入っていく。足止めを任されたナイトローグは、武器であるスチームブレードを握り直して、怯んでいる桂らへ向けている。

「待て!」

「おっと。ここは行かせぬぞ!」

「くっ……ここは!」

「全員で倒すしか無さそうだね!」

 肝心なところで足止めを受けて、悔し気な表情を浮かべるユイら四人。敵の大元を倒すには、目の前へ立ちはだかるナイトローグやライオトルーパーらを撃破しなければいけないようだ。

 皆は呼吸を整えつつ、ナイトローグやライオトルーパーらへと標的を変えて、果敢に立ち向かおうとしている。

「行くぞ!!」




 さてさて、また分割系となってしまいました……それでもダークライダーとの決着が目前となっているので、GW前には決着を付けたいです。
 今回は平成仮面ライダーの能力を存分に使用していましたが、いかがでしたか? アスナはウィザードとフォーゼの力。神楽はファイズとオーズの力を使用していましたね。
 選んだ理由としては、アスナとウィザードは魔法繋がり。フォーゼはスリーピングナイツと仮面ライダー部の友情繋がりとなっています。あのALOのアバターから、ウィザードラゴンの頭部や尻尾等があるなんて、中々シュールですね笑 でも強い!
 神楽の場合は、ファイズが連続系の技繋がり。オーズが暴走繋がりですね。特に再生怪人からメダルが飛び出た理由は、メダガブリューの必殺技を解き放つためでした。中々に珍しい光景だったと思います。
 やっぱりそのキャラに関連した技や武器を使用すると、こだわりを感じられて良いかもしれませんね! 響く人には響くってスタンスですね……

 さて次回はこの続きです。決戦に向かって、物語はクライマックスを向かいます。どうぞ、お楽しみに。






次回予告

試されるライダーの力

キリト「これでどうだ!」

銀時「ったく、やってやらぁ!」

オベイロン最後の悪あがき

オベイロン「これで終わりだ!」

ユウキ「もうアンタの好きには絶対にさせない!」

新八「みんな、行きましょう!」

妖国動乱篇二十 ヘイセイは止まらない


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第九十三訓 ヘイセイは止まらない

あらすじ

銀時「この俺!! 坂田銀時は新たな力を受け取り、怪人の大群をバッタバッタとなぎ倒していた! そしてとうとう姿を見せたのは、マッドネバーの大幹部どもだ!」

新八「って、何をアンタは不釣り合いなあらすじ紹介してんすか!」

銀時「なんたって、ビルドをもじったタイトルだからな。これくらい、はっちゃっけても良いだろ?」

神楽「そうアルよ! 捏造して、読者に受けが良いようにしないと今後もやっていけないアル!」

新八「そんなこと言うな!!」

アスナ「って、みんな! そんなふざけないの! もうそろそろ、戦いに決着が付くんだから!」

ユイ「次の戦いは、パパと銀時さんが大活躍! どんなライダーの力を使うのか、私楽しみです!」

アスナ「キリト君、みんなにネタバレはしないことよ」

キリト「分かっているよ。でも、まさかあんなことまで起きるなんて、俺も驚いたよ」

神楽「それを言うなら、銀ちゃんも無茶苦茶さも含まれているネ!」

キリト「だな。じゃ、最終決戦に向けた戦いを早速お届けするよ!」

銀時「心してみろよ!」

新八「あぁ、ちょっと!! まだ一言だけ……!」


「フッ、ハァァ!!」

 オーズのタジャドルコンボの力により、飛行能力を疑似的に取り戻したキリト。空を自由自在に飛び回りながら、集団で行動するハイドラグーンの群れを追いかけていく。

「そこだ!」

「ギィィ!」

 群れへ近づくや否や、キリトは長剣やエクスキャリバーを振るって、次々にハイドラグーンを斬り落とす。地道に倒しつつ、自身に有利な状況へ場を変えようとしていた。

「よしっ!」

 と精力的に攻撃を仕掛けていた時。

「グハラァァ!!」

「何!?」

 突如として地上から新たなる異形のモンスター、ウブメが這い上がる。外見は細長い魚の体に鳥の羽根がくっついた摩訶不思議な姿をしていた。出現早々にウブメは獰猛な性格を露わにして、キリトへ容赦なく襲い掛かる。

「ガハァ!」

「って、こいつ……! 離れろ!!」

 自身の危機を察したキリトは、すかさず回避行動をとって難を逃れようとした。次々とかわしていくが、攻撃が手薄となっている分、ハイドラグーンからも攻め立てられてしまう。

 四方八方から攻撃を受け続けるキリトは、長期戦を避けるべく、一気に勝負を決めようと覚悟を決める。

「こうなったら……これだ!」

 彼はアルヴドライバーを操作して、オーズのタジャドルコンボの必殺技を発動。

〈タカ! クジャク! コンドル! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!!〉

 オーメダルの力を炎として全身に宿すマグナブレイズで、空中に漂うウブメやハイドラグーンを一掃する作戦のようだ。

 必殺技音声が鳴り響くと同時に、キリトの全身は真っ赤な炎へと包まれる。その姿はまるで凛と輝く不死鳥のように。

「ハァァァ! セイヤァァァ!!」

 二本の長剣を両手に握りしめていき、炎をまとったまま彼は敵の群れに突進。対するウブメらもキリトの勢いに怯まず、一斉に真っ向から立ち向かう。

 互いの全力を懸けた一戦。軍配が上がったのは……

「グラァァ!」

「ギィィ!」

キリトである。斬撃と炎を浴びせられたウブメやハイドラグーンの群れは、悲痛な断末魔を上げながら、連続した爆発の中に姿を消していく。

 一か八かの一撃を決めたキリトは、その羽根を閉じつつ地上へと舞い戻っる。

「か、勝ったのか……?」

 がむしゃらに戦ったせいか、自身の必殺技が成功したこともあまり実感がない。勝利に気付いたのも数秒経ってからだ。

 と一度呼吸を整えつつ、さらなる戦いに赴こうとした時である。

「ん? スグ!?」

 ちょうど近くにて、僅かではあるがリーファの声を聞き取っていた。直感から危機を察したキリトは、声が聞こえた方角まで走り出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼の予想通り、アルンの一角では近藤、土方、沖田、九兵衛、リーファ、クライン、エギル、ジュンの八人が不死生物であるアンデッドと一戦を交えている。リザードアンデッドとディアーアンデッドの二体で、彼らはいわば封印を損ねた個体達だ。無論ブレイドの力が無ければ封印することが出来ず、八人は撃破方法が分からぬまま、戦い続けている。

「うわぁ!?」

「キャ!?」

 戦闘を続ける最中に、リザードアンデッドから解き放たれた刃の衝撃波と、ディアーアンデッドから放たれた電流により、近藤らは一斉に吹き飛ばされてしまう。幾度と攻撃を与えようとも、一向に倒される気配のないアンデッドらを目にして、一部の仲間達はつい心が折れかけている。

「おい、どうなってんだ! 全然倒せねぇぞ!」

「ここまでしぶとい敵だったかしら……?」

 勝利を中々見通すことが出来ずに、つい弱音を吐いてしまうクラインとリーファ。刀や剣を構え直しつつも、共に苦い表情を浮かべている。そんな二人に対して、九兵衛と沖田らが檄を飛ばしてきた。

「弱音を吐くな、二人共! 挑み続ければ、きっと勝利を掴めるはずだ!」

「そうですねぇ。まだ諦めるのは早いってことでさぁ」

 両者は最後まで諦めることなく、突き進むことが重要だとリーファらに諭している。仲間からの想いを汲み取ったのか、二人の表情は先ほどよりも若干和らいでいた。

「こうなったら……とことん付き合うしかねぇな!」

「そうだ! 真選組を甘く見るんじゃね!」

 するとジュンや近藤が、一段と熱気を込めた気持ちを声に荒げていく。何事にも全力投球する二人ならではの気持ちの吹っ切れ方だった。

「おしっ! 気合入れていくぞ!」

「勝手に仕切るな! お前らはこれまで通りの役目に精を出せ!」

 突然声を上げたエギルに対して、土方はツッコミを入れるかのように荒ぶる。それでも冷静さは失わず、仲間達にも的確な指示を引き続き与えていた。

 決して闘志を諦めることなく、アンデッドらに敢然と立ち向かう八人の戦士。そんな彼らの近くでは、クロックアップ状態の銀時がブラキペルマワームを必死で追いかけていた。

「はぁぁ!」

「ハカァァ!?」

 誰の目にも触れられない状況下で、繰り広げられる高速の応酬。攻撃しては防ぎを繰り返し、ほぼ互角に戦っていく。全ては相手の隙を見逃さないために……そして狙っていた瞬間は遂に訪れた。

「そこだぁ!」

「ギィ!?」

 先に動いたのは銀時であり、彼は飛び膝蹴りのように足を突き出して、ブラキペルマワームを近くの壁際まで吹き飛ばしている。(所謂洞爺湖仙人から伝授されたももバーンのようだが……)

 そして銀時は一気にとどめへと準備を進めていく。高速状態のままブラキペルマワームの真横まで近づき、彼はアルヴドライバーを操作した。

「こいつで決めてやる!」

〈1! 2! 3!〉

「ライダーキック……!」

〈ライダーキック!〉

 解き放ったのは仮面ライダーカブトの必殺技。全身のエネルギーを足に込めて放つ、ライダーキックでブラキペルマワームに引導を渡そうとする。

「ハァァ!」

「ギィ……? ギヤッヒィィィ!!」

 相手へ最接近したところで、銀時は軽やかに回し蹴りを繰り出す。破壊力抜群の技を受けてしまったブラキペルマワームは、またも吹き飛ばされてしまい、空中にて爆死。断末魔と共に緑色の爆発が辺り一面を覆っていた。

「ふぅ……やっとか。ったく、手間のかかる野郎だったぜ」

 自身が想定したよりも時間はかかったものの、しっかりと撃破出来たことには自画自賛する銀時。ライダーの力も上手く使いこなせていることにも彼は満足げではある。

「さ~て、次はだれを倒すかって、アレ?」

 体を伸ばしつつ、次なる戦いに赴こうとした時。ちょうどよく近くでは、アンデッドと戦う土方やクラインらの姿が目に見えている。

 詳しい状況は把握出来ていないが、戦いを断片的に見ると苦戦を強いられているようだ。本能的に危機を察した銀時は、自身のセンスを信じてこの戦いに割り込もうとする。

「しゃあね。ちょっくら、暴れてくるか」

 そう呟くと彼は木刀を握りしめていき、勢いよくその場から駆け出していく。無論心配などではなく、あくまでも手を貸すのみであるが。

「おいおい、俺も加えさせろ!」

「えっ!? って、銀さん?」

「旦那!」

「なんで、お前が駆けつけてんだよ!」

 銀時の加勢を目にして、皆は十人十色な反応を示していく。リーファやエギル、九兵衛のように安心感を覚える者、クラインやジュンのように安心感と共に出番を奪われることへ若干納得のいかない者、真選組のように横槍を入れられたことへ不満な様子を浮かべる者など様々である。

「ウグ!?」

 彼はアンデッドを一旦場から叩き飛ばした後に、仲間の元へと何食わぬ顔で駆け寄っていた。そして飄々とした態度のまま、普段通りに振る舞うのである。

「何をお前らは苦戦してんだよ。ここは俺とライダーの力に任せておけよ」

「いや、それは有難いんだが……なんというか俺達のメンツが立たないというか」

「どうせだったら、俺達も活躍させてくれって! このままフェードアウトなんて、なんか納得いかねぇよ!」

 心強く加勢を表明するも、出番を取られそうなことに危機感を覚える近藤とクライン。

 どうせなら仲間達も加えて戦わせたい。その思いに気付いた銀時は、ふとあるライダーの力が頭をよぎっている。

「あっ、そうだ。これを使えば良いんだ」

 ある程度の見通しが立った銀時は、すぐにアルヴドライバーを操作してとある平成仮面ライダーの能力を解放していた。

〈ディケイド! ブレイド! ファイナルフォームパワー!!〉

〈ファイナルフォームライド、ブ、ブ、ブ、ブレイド!〉

 使用したのはディケイドの能力であるファイナルフォームライド。他のライダーを武器やサポートマシン等に強制変身させる一風変わった能力であり、銀時はこの力を応用してある手段を企んでいる。

 ちなみに選んだのは、ブレイドを大型剣であるブレイドブレードへと変化させる力だ。

「ちょっとくすぐったいぞ」

「はい? てか、俺に言ってんのか?」

「いいから、さっさと俺の言うことに従えや!」

「グハァ!?」

 彼はちょうど近くにいたクラインへ話しかけており、当人の反応など無視したまま勝手に準備を進めていく。詳しい説明は一切伝えておらず、銀時はクラインの背後へ回り込むと、彼の背中に向かって手で内部を開きこむような仕草を繰り出していた。

「う、うお!? なんだ!?」

「クラインさん!?」

「おい、コイツの体変わり始めているぞ!?」

 するとクラインの体は瞬く間に変化し始めている。彼の背中にはブレイドの武器であるブレイラウザーを模したパーツが出現。その後は自分の意志とは無関係に、体が宙へ浮かび上がっていく。上半身が回転すると、足とクラインの刀(龍牙焔封刀)が一体となり鋭利な刀身が完成。持ち手部分を銀時が持ち上げていき、ブレイドブレードならぬクラインブレードとも言うべき武器が仕上がっている。形状はブレイドブレードと酷似しているが、色合いや炎のエネルギーを操れることから、まったくの別物とも捉えることが出来るだろう。

「よしっ、完成した」

「完成したじゃないだろ!! おい、どうなってんだ! 俺の体!? 銀さん、一体何を仕掛けたんだよ!」

「ちょっとくすぐったいって言ったろ。読者の記憶にはしっかり残るから、しばらくこの姿のまま我慢しとけよ」

「いや、待っててって! ちょっとおぉぉ!!」

 淡々と事を進める銀時に対して、クラインは大いに焦りながらツッコミを入れ続けていく。無論自分の体が勝手に大型剣となれば、焦るのも無理はない。そんな嫌がる反応を気にせず、銀時はクラインブレードを手にしたまま、アンデッドらに真っ向から対峙する。

「おいおい、どうなってんだよ!」

「アレもライダーの力の一端なのか?」

「仲間を強制的に武器へと変えるとはな……英雄のすることか?」

 一方でその様子を間近から見ていたジュン、エギル、九兵衛らは次々と思ったことを声に上げていた。総じて言えるのはディケイドの無茶苦茶な能力であり、あまりの奇抜さに状況を上手く読み込めないのである。

 と皆の反応はさておき、クラインブレードを所持した銀時は、ためらうことなくそれをアンデッドらへ向けて振り回していく。

「あぎぁぁぁぁ!!」

「うぐっ!?」

 斬撃を次々と繰り出すうちに聞こえてくるクラインの悲鳴。甲高い声にアンデッドらも思わず怯み、その隙に攻撃がいとも簡単に成功していく。大型の武器を巧みに操りつつも、着実にアンデッドらへダメージを与えていく銀時。ディアー並びにリザードの動きに鈍さが生じた時、銀時は好機と捉えて温めていた必殺技を繰り出すことにした。

「よっしゃ、今だ!」

〈ファイナルアタックライド、ブ、ブ、ブ、ブレイド!!〉

 アルヴドライバーを操作して、必殺技の準備を構えている。と同時にして、クラインブレードには火焔のエネルギーが宿っていく。十分に剣が温まったところで、

「いけぇぇ!!」

「うわぁぁぁ!!」

「ウグ!?」

「グル!?」

とっておきの必殺技「ディケイドエッジ」を発動していた。相手の周辺全体に炎の渦を作り出して、小規模の爆発を何度も浴びせていくオリジナルの技である。その策にはまった二体のアンデッドは、爆発に巻き込まれつつ、近くの壁際まで吹き飛ばされていく。すると腰部分に付属されたバックルも開き、絶好の封印状態となる。

「よっしゃ! って、おっと!?」

 倒し切ったと確信する銀時だったが、アルヴドライバーから出現したラウズカードには思わず驚いていた。二枚のラウズカードはアンデッドをカードの中へ封印した後に、銀時の手元へと自動的に戻っている。

「こいつは……カードで封印するタイプの敵だったか?」

 ようやくではあるが、彼もアンデッドの特性に気付いた様子だ。何かに使えると察して、二枚のラウズカードは懐へとしまうことにしている。

 一件が落着した彼は、ここまで世話になったクラインブレードを、乱雑に扱うが如く周辺へ投げ捨てていた。同時にクラインも元の姿に戻っていく。

「あぁぁ! って、痛い!? おい! せめて優しく扱ってくれよ、銀さん!」

「別に良いだろ。高所に落とすよりはよっぽどマシだろうが」

「比べる対象おかしくないか! そもそも俺の刀が折れたらどうするつもりだったんだ!」

「そうならないように優しく扱っただろ」

「どこがだ!!」

 再会早々にクラインは怒りを露わにしており、かんしゃくを立てつつ赤裸々な気持ちを銀時へぶつけていた。対する本人は誠意など一切見せることなく、適当な言葉で受け流している。相容れない気持ちが明確化した瞬間でもあった。

 そんな二人の応酬を目の当たりにして、仲間達は思わず止めようと話に割り込もうとしている。

「って、止めなさい! 二人共!」

「まだ戦いは終わっていないのだから……」

 リーファや九兵衛らが駆け寄り、言い争いを止めようとしたその時だった。

「みんな! 無事か!」

「って、お兄ちゃん?」

「黒剣さんですかい?」

 偶然のタイミングでキリトも、銀時らの元へ合流していく。危機を察していたようだが、どうやら杞憂のまま終わったらしい。仲間達は久しぶりに会ったキリトとの再会に懐かしむが、本人は敵の動向が気になって仕方がない様子である。

「なぁ、銀さん。空に漂っていた敵やモンスターは大体倒したんだが、どこを見渡してもオベイロンの姿は見えなかったぞ」

「こっちもだな。こうなったらもう一回空から追跡するか。今度はゴリラに頑張ってもらおうじゃねぇか」

「いや、待ってくれ!! なんでそこで俺! 完全にとばっちりじゃないか! つーかお前も空を飛べるライダーの力使えよ!」

 オベイロンの行方について問いかけるも、やはり銀時も心当たりがない。そこでまたもファイナルフォームライドを使用しようとするが、巻き込まれた近藤は意地でも阻止しようと話しかけている。

「うるせぇよ。お前も武器にとっととなれっての」

「なるかって! お妙さんに使われるならともかくだが!」

 と謎のこだわりを露わにする近藤だったが、その気持ちが飛び火したせいか、九兵衛も良からぬ世迷言を頭に浮かべていく。

「何!? もしかして……妙ちゃんなら武器化した僕を使いこなせるのか? 中々に特殊な性癖だな」

「って、九兵衛さん!? 何変な趣味に目覚めようとしてんの!? 色々とおかしいことに気付いてって!!」

 もし自分がファイナルフォームライドした場合、使用者が妙なら満更でもない気持ちを感じてしまう。思わぬ満足感に心を揺さぶられる彼女を目にして、横にいたリーファは必死に説得し直していた。何故か武器化がこの集団の中で流行り始めようとしている。

「えっと……つまりどういうことだ?」

 一連の様子を知らないキリトからすれば、何が起きているのかさっぱり分からない。

 と場の緊張感が緩和され始めていた――その時である。

「フッ、ハァ!」

「ん? この声は……妙ちゃん?」

「えっ?」

 ふと辺りを見渡してみると、そこには妙、シリカ、リズベット、たま、ピナの四人と一匹が、ダークライダーの一人リュウガと一戦を交えていた。総力を挙げて対峙するも、リズベットらは苦戦を強いられている様子である。

 さらに正反対の方角には、また仲間達が強敵と戦っていた。

〈チェリーエナジースカッシュ!〉

「くらえ!」

「うわっぁ!?」

「って、シウネー? てか、みんな!」

 今度はシウネー、タルケン、テッチ、ノリの四人がシグルドを相手取っており、こちらも戦況はやや劣勢に見える。

 間接的に仲間の危機を察した九兵衛とジュンは、咄嗟に関わりの深い仲間達へ加勢しようと決意を固めていく。

「すまない! 僕は妙ちゃんとリズ君達の元へ行く!」

「僕もだ! このままみんなを放ってはおけないからな!」

「おいおい、お前ら!?」

「行っちゃった……」

 銀時やキリトらの反応などつゆ知らず、感情的なままに先走る二人。そのタイミングはほぼ同一であり、あまりの速さにリーファらは思わず反応に困ってしまう。

 その一方で加勢に入った九兵衛とジュンは、

「助けに来たぞ!」

「九兵衛さん!?」

「九ちゃん! 頼んだわよ!」

「もちろんだ!」

早速仲間達から頼りにされている。

「みんな! 大丈夫か!」

「ジュン! アナタも来てくれたのですね!」

「よしっ! 反撃開始だ!」

 共にチームの士気がより高まり、劣勢を巻き返そうと皆が躍起になっていた。闘志を存分に燃やしたまま、勝利を手繰り寄せるべく皆が真剣に強敵達へ立ち向かっていく。

 その一方で場に残された銀時、キリト、近藤、土方、沖田、リーファ、クライン、エギルの八人も、二人に準じて加勢をすべきか悩み始めていた。

「って、俺達も加勢に加わるか?」

「そうする方が効率的なんですかね」

 と迅速に動き始めようとした時だった。

「おっと。お前らの相手は俺達だ」

「探したわよ。おまぬけな妖精達」

「……その声は!」

 まるで銀時らを足止めするかのように、別の歩道から新たな強敵が出現している。その正体はダークキバとポセイドン。共にマッドネバーの最高戦力であり、特に前者はリーファを存分に打ち負かした最恐の敵と言えよう。

 そんな二人は堂々と宣戦布告しつつ、真選組やリーファらを真っ向から挑発している。

「どうやら骨のあるヤツはいそうだな。楽しませてくれよ」

「それにあの時の妖精もいるじゃない。懲りずにまたやられて来たの? 今度は顔に大きな傷を与えちゃおうかしら?」

 仮面で覆われているため、細かな表情は見られないのだが、恐らく内心では一行を嘲笑っているに違いない。特にダークキバはリーファへ分かりやすい挑発を仕掛けて、その反応を楽しんでいるようにも見える。

 無論リーファも黙っているわけにはいかず、怒りの表情を浮かべたまま、名指しで反論していく。

「そんなわけないでしょ!! アンタを倒すために精一杯特訓してきたんだから! 今度こそ……リベンジを果たすわよ!」

 と自身の剣を構え直して、即時戦闘態勢を整えてきた時だった。

「落ち着けよ、ブラコン。リベンジって言うなら、俺も同じでさぁ。ここはまた共闘しやすかい?」

「えっ……!? 沖田さん?」

 彼女へ追随するように沖田も臨戦態勢を構えており、リーファと同様にリベンジを決意している。乗り気な彼の姿に、リーファ本人は思わず困惑した反応を示していた。

 すると沖田へ続き、近藤と土方も声を上げていく。

「総悟の言うとおりだな。ここは真選組総出で、リーファ君のリベンジを手助けしようじゃないか!」

「乗りかかった船だ。最後までお前のアシストはしてやるよ。その代わり、手は抜くなよ」

「近藤さん……土方さんまで!」

 場の雰囲気を汲み取り、二人もリーファを手助けする所存である。心強い言葉をかけられたリーファ本人は、つい心から感激していた。思いっきり真選組を頼ろうとしていた。

 すると近藤らに続くように、クラインやエギルもキリトらに粋な一言を投げかけていく。

「おい、キリトに銀さん。俺は分かるぜ。お前らの言いたいことが。どうせ手を貸すべきか悩んでいるんだろ?」

「ク、クライン?」

「おい、何言ってんだ。急にかっこつけか?」

 そう銀時からヤジを飛ばされようと、二人は変わらずに言葉を続ける。

「そう思ってくれても良いぜ。あの海洋生物もどきは、俺達が相手をするからよ!」

「だな。あわよくばもう二人ほど欲しいが、きっと加勢が来てくれるだろうからな」

 両者はダークキバと同じく襲撃を仕掛けたポセイドンに狙いを付けており、彼を返り討ちにするべく戦意をたぎらせていた。真選組やリーファの混合チームと比べると、若干人数に物足りなさを感じるのだが……二人は確信していた。きっと別の仲間が駆けつけてくれると。その予感はすぐに当たるのだが。

[俺のことを呼んだか!]

「うわぁ!? びっくりした?」

「エリザベスか?」

 突如として上空から現れ、豪快にクラインらの元へ着地したのはエリザベス。どうやら阿吽の呼吸が如くクラインらの意志を察したようで、早くもポセイドン撃破に向けた心構えを彼は整えている。

[遅くなってすまない。他のチームのアシストにいたが、俺がいなくても大丈夫そうでな]

「おう! お疲れさん、エリザベス! 折り入って悪いんだが、俺達の手伝いもしてくれないか?」

[任せろ。その代わり、やるからにはきっちり勝つぞ!]

「もちろんだ! 分かっているさ」

 そうプラカードを掲げると共に、エリザベスは口元から刀を取り出していた。ぎゅと手で握りしめて、それをポセイドンへと差し向けている。同時にクラインやエギルも、刀や斧を差し出していた。

 こちらも臨戦態勢が整った後に、銀時、キリトへ労いのメッセージを投げかけていく。

[万事屋。桂さんを見かけたら、こっちに戻るように伝えておいてくれ]

「わ、分かった」

「ってことだ。お前ら二人はあのバカな妖精王もどきを、とっとと倒して来いよ」

「俺達だけじゃない。英雄たちもいるんだ。きっと大丈夫だよ」

 普段通りの健気な表情を浮かべつつ、堅苦しくない挨拶のまま二人の背中を押している。そう素直なやり取りを交わせるのが、心から信頼している証拠なのかもしれない。それはクラインらのみならず、リーファ達も同じ想いである。

「私達も絶対に負けないから! お兄ちゃんも銀さんも頑張って!」

「気に食わねぇが、これだけは言っておく。この勢いに乗ったまま倒せ。それだけだ」

 照れくさそうに土方も後ろを向いたまま、銀時らへ想いを投げかけていく。最後に放った言葉はまさしく嘘偽りのない本心であろう。

 仲間達の確かな想いを汲み取った銀時とキリトは、託された気持ちを大切にしつつ、新たな一歩を踏み出そうとしている。

「みんな……ありがとう!」

「そんじゃ。お言葉に甘えさせてもらうぜ」

 キリトははつらつした元気な表情を。銀時はクスっと笑いつつ照れくさそうな表情を浮かべていた。言われた通り、オベイロンとの決着は自分達の手で付ける所存である。

〈カブト! ライダーパワー!〉

〈ドライブ! フォーミュラパワー!〉

「「ハァ!!」」

 すると二人は咄嗟にライダーの力を解放しており、銀時は先ほどと同じくカブトのクロックアップ能力。キリトはドライブの最速形態であるタイプフォーミュラの力を発動。素早さを高めつつ、一瞬の速さで場を跡にしていた。

 銀時らが立ち去ったことを確かめつつ、リーファ達は再度仲間達との連携が取れているか確認していく。

「これで本当に良かったのね?」

「もちろんでさぁ。誰にも縛られずに復讐を果たそうじゃないですかい」

「随分と物騒だが……まぁ、小娘の晴れ舞台を祝ってやるか」

「小娘じゃないな。リーファ君だ! よろしく頼むぞ!」

「……もちろんよ!」

 互いに軽口を交わしながらも、皆の譲れない気持ちを察したリーファと真選組。依然として確かな意思に変わりはない。

「桂さん……絶対に来てくれると信じているぜ!」

[アイツならすぐ来るだろう]

「だな。それまでは、俺達で場を盛り上げようじゃないか」

 一方でクラインやエリザベスらは、肝心の桂が来るまで戦い抜くことを決意。心強い仲間との合流に想いを馳せながら、沸々とさらに戦意を燃やしていく。

「さて、いよいよか」

「どんなに結束しようと、所詮勝つのは私達だけどね!」

「そいつはどうですかい?」

「そいつはどうかしら?」

 挑発気味に呟くダークキバに対して、沖田とリーファが即座に反論していく。二人の自信に満ち溢れた表情には、ついダークキバも怯まされてしまう。

「って、そう簡単に倒せると思わないことね!」

「みんな、行くぞ!」

「「ハァ!!」」

 彼女らが放った衝撃波と共に、颯爽と動き出す七人の戦士達。後ろで轟轟と燃える爆発に怯むことなく、敢然とした態度でダークライダー達へ斬りかかっていく。

 こうしてリーファもようやく、宿敵とも言えるダークキバとの再戦が始まっている。新たに真選組一行と共闘しながら、彼女はリベンジを果たすことが出来るのか。また桂は本当に助けに来るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 銀時、キリト、アスナ、神楽が仲間達の元へ戻ろうとしている中で、世界樹の入り口付近では新八、ユウキ、桂、ユイ、定春が必死にナイトローグ率いる残党との戦いに躍起となっていた。

「ハァ!」

「ヤァ!」

「セイ!」

 ユウキらは自慢の武器を振るいながらも、堅実的に戦闘員を倒し続けていく。ところがその数は範囲内を超えており、いくら裁こうとも依然としてその底が中々見えない。数で押され気味な状況に、皆はなんとも言えない表情を浮かべている。

「おい、どうなっている!? 倒して倒してもキリがないぞ」

「こりゃ、まだまだかかりそうかな?」

「僕らだけじゃ限界があるのか?」

「そんな……」

 桂、ユウキ、新八、ユイと思い思いにことを発していた。現状は優勢とも言えず、敵の数からも全滅はまだまだ程遠いであろう。

「終わりだな。とっとと降伏しろ!」

 一方で対峙するナイトローグは、ふてぶてしくもユウキらに降参を命じている。実質的にも勝利を確信しており、存分に威勢の良さを披露していた。

 もはや絶体絶命とも言える状況の中……一早く危機を察して、駆けつけてきた者がいる。

「おっと! ここは俺に任せろ!」

「って、キリトさん!?」

「パパ!?」

「何!?」

 その通り。加速状態のまま、戦場を駆け抜けていったキリトだった。突然の彼の乱入によって、場の雰囲気は瞬く間に一変。新八やユイらは頼もしい味方の登場により、心から安心している。

 キリトはすぐにドライブの力である加速状態を解除すると、すかさずアルヴドライバーを操作。残党狩りにぴったりなライダーの力を解放していく。

「これだ!」

〈エグゼイド! ダブルアクションパワー!!〉

 彼が解放した力はエグゼイドのダブルアクションゲーマー。この力は二人に分身することが可能で、さらには各々の意志のままに動く、分身形態の中でも一際変わった立ち位置なのである。

 キリトはエグゼイドの力を解放した後、眩い光に包まれながら二人へと分裂していた。

「だーい、変身!!」

〈ダブルアップ! 俺がお前で~! お前が俺で! ウィアー!! マイティ! マイティ! ブラザーズ……ダブルエックス!!〉

「おい、キリト君が分身したぞ!?」

「アレは……昔のパパ?」

 突然の出来事につい戸惑いを覚えていく仲間達。最初こそ大いに驚いていたものの、すぐにライダーの力によるものだと理解していく。一方でユイは、もう一人に分裂したキリトの姿にどこか見覚えを感じていた。

 それもそのはず。出現したキリトの風貌は、かつて旧ALOで使用していたアバターとほぼ同一だからだ。前髪は跳ねておでこが出ており、服装や武器も若干現在と異なっている。ユイはどこかその姿に懐かしさを心に宿していた。

 仲間達が多少なり驚く中で、キリトは分裂した自身の存在を十重に理解しており、気さくに会話を挟みつつ意思疎通していく。

「さぁ、行こう!」

「おう! 超強力プレイでクリアするぞ!」

 アイコンタクトで再度闘志や想いを確かめると、新キリトがアルヴドライバーを操作していき、自分らに相応しい武器をベルトから召喚していた。

〈ガシャコンブレイカー!〉

〈ガシャコンキースラッシャー!〉

「「はぁ!!」」

 旧版のキリトはブレードモードを展開しているガシャコンブレイカーを。新版のキリトはキー操作が可能なガシャコンキースラッシャーを装備。本来所持している長剣と合わせて、二刀流戦法で蔓延る戦闘員の大群に挑んでいく。

「フッ!」

「なんの!」

 手始めに新キリトがガシャコンキースラッシャーとエクスキャリバーを振るいつつ、大胆にも接近戦も展開。すぐにコツを覚えていき、戦況を有利に進めていく。

〈ジャジャジャキーン!!〉

「ハァ!!」

「ギィ!?」

 武器に装備されたキーを巧みに操り、連続攻撃を繰り出す。相手の動きに鈍さが生じた時には、

「今だ!」

「任せろ!」

「ウグ!?」

背後からもう一人のキリトが斬りかかる。ガシャコンブレイカーと大型の剣を力強く振るって、戦闘員を大方薙ぎ倒していく。

「ハァァァ!!」

「ガラァァァ!?」

 攻撃を設ける手段を一切与えることなく、次々と相手の策を封じる二人のキリト。超強力プレイと謳っているが、その実態は二人の自分によるソロプレイと言っても差し支えない。

「おい、貴様! 何をしている! 数の差ではこちらが優勢だ! どんな手を使ってでも奴らを倒せ!!」

 一方でナイトローグは、一瞬にして状況が劣勢と化したことに焦り気味な様子であった。未だに撃破されていない戦闘員らに向けて、自分勝手にまくしたてている。だがしかし、

「そうはさせるかよ!」

「うっ!? なんだ!?」

彼にとってはさらに都合の悪い事態が起きていた。この戦場に次々とキリトらの仲間達が駆けつけていく。颯爽と最初に現れたのは坂田銀時。高速状態を解除した後に、彼は木刀を振るって周りの戦闘員を蹴散らしている。

「みんな! お待たせ!」

「さぁ、雑魚共を片づけるアルよ!」

 さらには神楽とアスナも駆けつけ、彼女達もすぐに銀時やキリトらへ加勢していく。特に後者はまだオールドラゴン状態を解除しておらず、重装備した尻尾や爪を巧みに操りつつ、豪快に戦いを進めていた。

 まさに大盤振る舞いな戦い。様子を見ていた新八やユウキらも、圧倒的な力の前に驚かされるばかりである。

「す、凄い……」

「やっぱり四人とも、しっかりと使いこなしている!」

 窮地を助けてくれたことには、変わらずに皆が感謝を感じていた。

 とそれはさておき、猛追を重ねた結果、遂に戦闘員の大半を撃破出来た四人……いや、五人の戦士たち。ナイトローグを含めて残った怪人らを一掃するべく、各々が必殺技の構えを始めていく。

〈龍騎! アドベントパワー!!〉

〈電王! ガンパワー!!〉

 銀時と神楽はアルヴドライバーを操作して、竜を模したライダーの力を解放。銀時は右手に龍騎がよく使用していたドラグクローを装備。ドラグクローへ炎のエネルギーを溜めこんでいく。

 一方の神楽は武器である日傘をナイトローグらへ向けて、エネルギーを充填。電王がフォームチェンジした姿、ガンフォームの必殺技であるワイルドショットを発動。日傘の先端に電撃エネルギーを溜めこみ、一つの光弾として解き放とうと差し向けていく。

「今だ! これを使え!」

「もちろん!」

 一方で新キリトは旧キリトへと、必殺技を発動するためのライダーガシャットを渡していた。ゲームを模した能力を秘めており、旧キリトにはギリギリチャンバラガシャット。新キリトはタドルクエストとバンバンシューティングのガシャットを手にしていく。それらを自分が今所持している武器の窪みへと装填する。

〈ガシャット! キメワザ!!〉

〈ギリギリ! クリティカルフィニッシュ!!〉

〈クエスト! クリティカルフィニッシュ!!〉

〈シューティング! クリティカルフィニッシュ!!〉

 必殺技を発動するためのエネルギーが剣へ宿っていき、旧キリトにはチャンバラゲームの力が。新キリトにはファンタジーゲームとシューティングゲームの力が。ゲームに準じたエフェクトを放ちながら、標的をナイトローグらへ定めていく。

「さぁ、フィナーレよ!」

 無論アスナも銀時やキリトらと同じように、必殺技へ向けて準備している。胸部に装備されたドラゴスカルへ火、水、風、土のエレメントを集結させていき、彼女なりの「ドラゴンブレス」を放出しようと企てていた。

「何!? 囲まれただと!?」

 敵側のナイトローグにとってはまさに絶望的な状況。気付いた時にはもう遅く……打開策を練ろうにも、そんな時間など無かった。

「「クリティカルフィニッシュ!!」」

「ワイルドショット!!」

「ドラゴンブレス!!」

「か~め~は~め~波!!」

「「えっ!?」」

「はぁ!?」

 各々が解き放つとっておきの必殺技。二人のキリトはゲームを模した技を。アスナ、神楽、銀時の三人は、奇遇にもドラゴン系統の技で一掃していく。ところが銀時だけは遊び心なのか、龍騎ではなく某ジャンプ主人公の必殺技名を叫んでいる。予想外の反応に皆が驚嘆する中で、一行の放った技は見事に残党達へ命中していた。

「ギャァァァ!!」

 悲痛な叫び声と共に、次々と倒されていく戦闘員達。軍団の中心核であったナイトローグも、必殺技を防ぎきることが出来ずに力尽きてしまう。変身状態も解除されてしまい、元のナメクジの姿が戦場にさらけ出された。

「参った……!」

 その呟きと同時に、巨大なナメクジはぐったりと倒れこんでしまう。眼からも生気は感じられず、しばらくはこの状態が続くと見て間違いないだろう。

 大方の戦闘員や怪人達を倒し切ると、銀時は大ぴっらに喜びの声を上げていく。

「よっしゃ! これで全員分、撃破したぜ!」

「って、何ぼんくら決めているアルか! 確実に何か言っていたアルよ!」

「つーか、なんで台詞通りに言わないんですか!!」

「ごめん、魔が差しただけだ」

「言い訳になってませんよ!」

 嬉々とする銀時に対して、新八や神楽はあの件についてツッコミを入れていく。理由を問いただそうとも、彼には深い理由は無かった。

「もう銀さんったら……なんで肝心なところでふざけるのよ」

「それがいつもの銀さんらしさだからな」

「肝心なところで締められないのが、通例になっているしな」

「そうね。って、キリト君!? いつの間に二人へなっているの!?」

「えっ? 今気づいたのか!?」

 肝心なところでふざける銀時に、苦い表情を浮かべているアスナ。キリトが補足を加えるも、彼女はここでようやくキリトが二人に増えている事実へ気付く。後から加勢したとはいえ、中々に時間差のかかった反応である。

 戦闘が終わって、ユウキや桂、ユイらも駆け寄る中で、キリトはもう一人の自分に対して些細な感謝を伝えていく。

「とりあえず、ありがとう。ここまで一緒に戦ってくれて」

「おう! 必ずマッドネバーに勝てよ!」

「もちろんだ!」

 もう一人の自分の背中を押すように、心強い言葉をかけた旧キリト。新キリトへ向けて固く手を握ると、旧キリトは光のエフェクトと共に姿を消していく。

 一時だけ叶った珍しい共闘に、仲間達も多様な反応を示している。

「すっごい違和感のある光景よね……」

「パパが二人に増えるなんて」

「それだけ聞くと、語弊もある気が……」

 アスナやユイは旧キリトのアバターとも面識がある分、新キリトのアバターと立ち並んでいることに、かなり違和感を覚えている様子だ。ユイも素朴な一言には、新八もボソッとツッコミを入れたのだが。

 その一方でユウキは、窮地を助けてくれたアスナや神楽らにとびっきりの感謝を伝えている。

「みんな、ありがとう! 僕達のことを助けてくれて!」

「そんなことないネ! 仲間として、当然のことをしたまであるヨ!」

「ハハハ! 流石だな。持つべきものは古き友だ。俺は心底感動しているぞぉ、銀時!」

「何でテメェが威張ってんだよ」

 ユウキに続いて桂も声を上げたが、鼻に付く言葉の数々であった。銀時からは案の定ツッコミが入れられている。

 とそれはさておき、彼は桂へ向けてエリザベスから言われた託を伝えていく。

「あっ、おいヅラ。そういや、クラインとエリザベス達がお前のこと呼んでいたぞ。さっさと助けに来いって」

「はい? おい、銀時! そういうことは早めに言え!」

「って言われてもな、こっちはこっちで戦っていてよ」

「言い訳は後だ! 待っていろ、クラインにエリザベス!!」

 加勢の件を桂へ伝えると、本人は顔色を変えて見切り発車で場を跡にしている。必死そうな表情で走っていくが、具体的な場所は彼にはまだ伝えていない。本当に肝心なことは聞いていなかった。

「ついでにエギルもな。後場所は……」

「って、もう聞こえていないですよ。きっと」

 補足を加えようにも、もうすでに桂の姿はない。終始彼のマイペースさに翻弄された一行であった。

 そんな桂は、ほんの数分で仲間達と合流していたのだが。

「おい、貴様ら! 苦戦などしていないだろうな!」

「か、桂さん!?」

「やっと来たか」

[遅いぞ]

「すまぬな! だが俺が来たからには安心しろ! 必ずこいつを討ち返してやるからな!」

 威勢の良い言葉を投げかけた後、挨拶代わりとして時限爆弾を一発、ポセイドンへ向けて投げつけていく桂。

「何!? うっ……」

 爆発によって、ポセイドン本人が怯んだと同時にして、

「「「ハァァ!!」」」

「フッ、させるか!」

一致団結した桂ら四人が共闘して、さらなる追撃を与えようとしている。当然ポセイドンも槍で防御姿勢を構えつつ、ギリギリとも言える戦いを展開していった。他のダークライダーと比べて因縁は特にないが、悪意ある者に天誅を下さんと、攘夷志士達やエギルは強大な敵に立ち向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 その一方で世界樹入り口前に集結するは、万事屋やユウキ達。彼女らは仲間達の動向を互いに報告しつつ、肝心のオベイロンの行方についても情報を共有していく。

「んで、ダークライダー共はどうやらポリ公や騎士団が相手するそうだぞ」

「えっ? そうなの!? みんな大丈夫かな」

「心配は無用だと思いますよ。だってユッキーさんの仲間達は、皆さんとっても強いですから!」

「それもそっか。大丈夫だね、みんななら!」

 特にユウキは自分以外の仲間が、ダークライダーの相手をしていると聞いて、ほんの僅かに不安な気持ちを思い浮かべてしまう。それでもユイに諭された結果、杞憂のままに終わったのだが。

 報告を重ねるにつれて、仲間達がダークライダーを相手にしている事実へ、皆が気付き始めている。

「じゃ、大方みんなはダークライダー達を相手にしているのか」

「確かにリズ達も、敵視している敵がいたはずよね」

「ってことは、ダークライダーの討伐はみんなに任せた方が良いかもしれないアルナ」

「ワン!」

「右に同じく」

 アスナや神楽らは仲間達の気持ちを汲み取りつつ、ダークライダーへの介入は無用と結論付けている。やはり決着は自分自身で付けた方が良いと、皆が括っていたからだ。

 となれば、残る敵は世界樹最上階へと逃げ込んだオベイロンのみである。

「そんじゃ、俺達が相手するのはあのバカ男で良いのか?」

「いやいや、銀ちゃん。ゴミクズ野郎の方が合っているアルよ」

「ワフクーズ!!」

「あだ名付けはどうでもいいですから。ていうか、定春も何言ってんの!」

 銀時や神楽、定春はノリに乗っかって、オベイロンの呼称付けに躍起となっていく。本題から外れていることに、新八が随時修正を加えていた。

「まぁ、とにかくアイツを倒せない限りは、この星の未来を取り戻すことは出来ないからな」「そうね……ユッキーも一緒に来てくれるかしら?」

「もちろん! 僕だって、みんなと気持ちは同じだから! 一緒に戦うよ、アッスー!」

 時を同じくして、キリト、アスナ、ユウキらは仲間達への士気を高めていく。アスナは今一度ユウキへ同行を確認するも、本人は迷うことなく共に戦うことを決めていた。

 これにて総勢七人と一匹で、オベイロンの元までカチコミを入れる所存である。

「また協力お願いしますね、定春!」

「ワン!」

 ユイも改めて定春に共闘を要請していた。彼は元気よく返事をすると、ユイに向かって顔をじゃれつかせている。

 すると彼女は、銀時やキリトに最上階まで向かう術を聞いていた。

「それじゃ、パパ。どのライダーさんの力を使用しますか?」

「えっと、それは……」

「そんなもん、こいつで良いだろ」

 と割り込みつつも銀時はアルヴドライバーを操作。

〈ディケイドパワー!〉

 ディケイド固有の能力である、瞬間移動型のオーロラを展開。これで一瞬にて、世界樹最上階まで向かう様子である。

「これなら行けるアルナ!」

「おう。それじゃ、準備は出来ているか?」

 念のために仲間達へ確認を促すと、彼らからは十分な反応が返っていく。

「了解!」

「もちろん!」

「大丈夫!」

「任して!」

「よしっ、なら行くぞ!」

「こいつが正真正銘の……最後の戦いだ!」

 皆の心の準備が整ったのと同時に、キリトが決意を込めた一言を声に上げていた。こうしてオーロラが横方向に流れつつ、万事屋達を目的の場所まで移動させていく。全てはこの戦いに決着を付けるためだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 皆が宿敵との決着に向けて、いよいよ最後の戦いに赴こうとしている中で、オベイロンはただ一人世界樹内へと戻って来ている。自身の乗っ取った貴賓室にて、作りあげた装置を見上げながら、しぶとくも逆転の一手を仕掛けようとしていた。

「まだだ! 奴らが持つライダーのエネルギーを利用すれば、この装置を疑似的に作動出来るかもしれん! そうすれば……僕は勝てるぞ!」

 壊れかけた装置に修正を加えながら、未だに勝負を諦めていない。どうやら銀時やキリトらが手にしたライダーの力を利用して、装置を疑似的に再現しようと企てていた。すると彼は瞬時にアナザーエターナルへと変身している。

〈エターナル!〉

「ハァ! ……これで完成だ。後は奴らが来るのを待つだけ……さぁ! さっさとネギを背負ってこい! 鴨ども!」

 戦う準備を整えつつも、密かに装置を起動させることへ気持ちを高ぶらせるオベイロンことアナザーエターナル。相当な自信があるようで、否が応でも銀時らを欺けることへは、内心ゾクゾクさせている。そう自分に酔いしれていた時だった。ちょうど良いタイミングで、銀時らが最上階まで駆けつけていた。

「見つけたぞ、テメェ!!」

「覚悟するアルよ!」

「はぁ? ぐはぁっぁぁ!!

 飛び蹴り付きで。あまりの不意打ちにアナザーエターナルも一杯食わされてしまう。

「えっ!? 銀さん!?」

「神楽ちゃんまで!?」

「おぃぃぃぃ!? 何をやってんだ、あんたらぁぁぁ!!」

 二人の行動は仲間達にとっても予想外だったらしく、キリトやアスナらは驚きのあまり体が固まり、新八はカタを外したようにツッコミを加えていく。

 無論一方的な攻撃を受けたアナザーエターナルも、ツッコミを入れているのだが。

「おい、何をする! 正々堂々と勝負をしないのか!?」

「うるせぇ! テメェが言う言葉じゃねぇだろ! ここまで散々苦しめやがって!」

「敵の数が多すぎるネ! バトルシーンに四週もかけるとか、正気の沙汰じゃないアル! 少しは投稿者の気力も考えるアルよ!!」

「さっきから何を怒ってんだ!! お前らは!!」

 二人が襲撃を仕掛けたのは、個人的な怨恨に加えて、メタ的な視点も含まれている。特に大勢の敵を用意したことは、倒すにも手間がかかったせいか、あまり良い想いはしていない。感情的なままに気持ちをぶつける銀時らに、アナザーエターナル本人もつい反応に困ってしまう。

 そんなグダグダとした様子を見る仲間達だったが、ユウキはふとした勘違いを勝手に浮かべていた。

「あっ、なるほど。何をしでかすか分からないから、このまま取り押さえれば良いってことだったのか」

「って、ユッキーは無理矢理納得しなくていいから!」

「あの二人はそんな深い理由でやっていないですから!」

 別の視点からすれば理にかなっている考察だが、神楽達がそこまで先読みしている可能性は皆無に等しいだろう。アスナや新八は言動を訂正するかの如く、激しいツッコミを加えていく。

 最終決戦にも関わらず、閉まらないスタートを迎えたこの戦い。終始文句をぶつけられているアナザーエターナルは、とうとう我慢が出来ずに本領を発揮させていた。

「って、いい加減にしろ!」

「うわぁ!?」

 手にしたガイアキャリバーを振るって、周りにいた銀時らを遠くへ飛ばしていく。仲間の元まで戻されたが、二人は特に傷は負っていない。

「大丈夫ですか、銀時さん! 神楽さん!」

「何のこれしき、平気ネ!」

「あの野郎……逆切れか?」

 バチバチと戦闘態勢が整ったことへ、徐に警戒心を露わとする一行。怪訝な表情を皆が浮かべる中で、アナザーエターナルは気持ちを高ぶらせたまま、勝利宣言を声に上げていく。

「僕はまだ終わっていないぞ! この装置だって、再興するかもしれんのだぞ! そうすれば、僕は実質的に勝つ! なんとしてもな!!」

 あまりにも自分勝手な考え。組織にも仲間にも愛着は無く、そこには全てを踏みにじろうとも、星の頂点に立とうとする愚かな妖精……いや醜く化した怪人の姿があった。

 強欲の塊とも言える化け物の戯言を耳にすると、万事屋達も対抗するかのように、臨戦態勢を瞬く間に整えていく。

「ウゥ……!」

「ゴキブリ並みに諦めが悪いアルナ!」

「平和を取り返すには、真っ向から立ち向かうしか無さそうですね……!」

 予想はしていたものの、やはり相手しなければならない状況に、一段と苦難を感じる神楽やユイ。定春も終始にらみつけており、彼女らは厄介な能力を持つアナザーエターナルそのものに、警戒心を漂わせていく。

 だが一方でユウキは、自然と恐れなど感じていない。仲間への強い信頼からか、絶大なる自信を徐々に感じ取っていた。

「そんなの僕達の専売特許だよ! 大丈夫だって。ここにいるみんななら!」

「そうですね……ユッキーさん」

「私も同じ想いよ!」

 僅かな時間で築いた万事屋との絆。特にアスナとは関わりが深く、本音で語り合った後もその思いは変わらない。ユウキの想いを汲み取った新八やアスナらは、そっと彼女へ賛同をしていく。

 こうして皆が、アナザーエターナル撃破に向けて気持ちを一つにする。悪質かつ傍若無人な科学者を倒すために。

「てめぇら。この戦いでいい加減締めにすっぞ!」

「一気に決めよう! 俺達には……みんなから託された想いがあるんだ!」

 締めとして銀時やキリトも、仲間達へ向けて声を出していた。託された気持ち……共に戦ってくれた仲間や、力を貸してくれた平成仮面ライダー達。そして元の世界へ戻るためにも、未だに希望を諦めないアルンの人々のためにも……この戦いに決着を付けることを固く誓っていく。

 何としてでもこの戦いに勝つ。いや、絶対に勝たなくてはいけない戦いなのだ。

「行くぞ!」

「「「「「「ハァァァ!!」」」」」」

 こうして万事屋一行も、全力で最後の戦いに挑んでいく。

 総勢三十人以上が協力した、このマッドネバーとの戦い。果たして本当に、このALO星の平和を取り戻すことが出来るのだろうか。長く続いた戦いの行方や如何に――。





※現在の所在地

・世界樹最上階
 坂田銀時・キリト・志村新八・アスナ・神楽・ユイ・定春・ユウキVSアナザーエターナル(オベイロン)

・世界樹内部
 フィリア・来島また子・河上万斉・武市変平太・サクヤ・アリシャルー・ユージーンVS幹部怪人軍団

・アルンの街中①
 シリカ・ピナ・リズベット・志村妙・柳生九兵衛・たまVS仮面ライダーリュウガ

・アルンの街中②
 桂小太郎・クライン・エギル・エリザベスVS仮面ライダーポセイドン

・アルンの街中③
 リーファ・近藤勲・土方十四郎・沖田総悟VS仮面ライダーダークキバ

・アルンの街中④
 シノン・月詠・猿飛あやめVS仮面ライダーソーサラー

・アルンの街中⑤
 シウネー・テッチ・ノリ・ジュン・タルケンVS仮面ライダーシグルド

・世界樹内部へ侵入した者
 フレイア・長谷川泰三・オートバシン

・どこに向かったか不明
 高杉晋助


 いやぁ、やっと完成しました。
 今回は銀さんとキリトの戦闘シーンが多め。まずキリトが使用したのはオーズとエグゼイドの力。前者はただただ空中を飛べる繋がり、後者はゲーマー繋がりでしたね。特に今回使用したのは一風変わったダブルアクションゲーマーの力。フェアリーダンス編にて活躍していたキリトのアバターも出てきて、ある意味でこの作品でしか味わえない特殊な再登場でしたね笑 ちなみに使用したガシャットはSAO、GGO、サムライがモデルとなっています。
 一方で銀時が使用したのは、ブレイドと龍騎、ディケイドの力。偶然にもカードライダーズ統一となりました。銀時の小生意気な性格から、他人をファイナルフォームライドしても違和感が無かったと思います。剣にされたクラインが可哀そう……ちなみに尺の都合でカットしたのですが、近藤さんはアギトトルネイダーならぬイサオトルネイダーに変形する予定でした。人間ボードがここに復活! 後に出すNGシーンで収録したいと思います。
 ちなみに神楽が電王(ガンフォーム)を選んだのは……縁ですかね笑

 こちらも余談ですが、ウィザードにはドラゴタイマーと呼ばれるアイテムで、四人に分身することが可能となるのですが、と言うことはオールドラゴンの能力を使ったアスナも……四人に分身出来るはずですよね?

フレイムドラゴン=SAO版アスナ
ウォータードラゴン=ALO版アスナ
ハリケーンドラゴン=GGO版アスナ
ランドドラゴン=ステイシアアスナ

こんなところでしょうか

 さぁさぁ、長く続いた戦いもいよいよクライマックス!! それぞれが強敵との決着を付ける見逃せない回に仕立てる予定ですので、どうか気長にお待ちください。出来ればGW中前には投稿したいです。個人的に旅行へ行くので……

 では!


次回予告

妖国動乱篇……長き戦いにいよいよ決着!

平和を願う者は最後に――強大な力を持つ悪へ打ち勝つことが出来るのだろうか?

「これは俺達が託された……」

「自由を取り戻すための力だ!!」

妖国動乱篇二十 マッドネバーの最期


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第九十四訓 マッドネバーの最期

投稿遅れてすいません! 旅行していました!!

 装置を再興して、何としてでもALO星支配へ向けて動くマッドネバー。極悪非道な彼らへ地球の侍、別世界のゲーマー、ALO星の妖精、そして仮面ライダーが立ちはだかる!



 ALO星にて繰り広げられている、反逆者マッドネバーとの戦い。総勢三十人が奮闘して立ち向かったこの戦いも、いよいよ終わりが見え始めている。組織が用意した戦闘員や怪人達は、銀時やキリトらその仲間達が大方一掃。残るは強敵とも言えるダークライダーとの決着のみである。

 

 

 

 

 

 最初の場面は世界樹の内部。ここでは密かに潜入していたサクヤ、アリシャ、ユージーン、万斉、来島、武市の領主や鬼兵隊の一味が、フィリアと共に幹部怪人の足止めを行っている。オベイロンことアナザーエターナルがその一部を強制的に連れ出したため、最初に相手していた数とはごっそりと個体を減らしていた。

 現在もなお戦闘は続行中である。

「くらえ!」

「これもだ!」

「フッ! ヤァ!」

「なんの! よっと!」

 怪人達の周到な攻撃の数々に、軽やかな回避を続けるはサクヤ、アリシャ、来島の三人。攻撃を受けては回避を繰り返し、手慣れた様子で戦いを自身のペースで進めている。

 そんな彼女達と相対するは竜の特性を備えたドラゴンオルフェノク(魔人態)とオーバーロードと呼ばれる高位な生命体のレデュエの二対だ。共に遠近両方を得意として、こちらも攻守を使い分けながら対峙していく。

 長く続いている戦闘に辟易としながらも、勝利を信じて立ち向かう三人。一定の攻撃を怪人達へ与えた後に、三人はスッと軽い作戦会議を始めていた。

「どうするっすか? このまま突き進むっすか?」

「いいや、ここは慎重に見極めようよ! まだまだ相手の能力だって分からないんだし」

「はぁ!? もう十分にこっちは見極めているんすよ! 領主はもっと大胆に――」

 思慮深く偵察力を大事にしたいアリシャに対して、来島はせっかちにも行動力を突破口として考えている。両者の意見が真っ向から対立して、早くも話し合いが長引くかと思われた時だった。仲介役としてサクヤがそっと話しかけてくる。

「いや、どっちも採用しよう!」

「へ?」

「えっ? どういうこと、サクヤちゃん?」

「まぁ、そう慌てるな。互いの良いところを掛け合わせれば良いのだよ」

 彼女は喧嘩が始まる前に二人の意見を上手く組み合わせている。想定外の返答に、両者はまだ飲み込めていない様子だったが。

 とそれはさておき、話し合いが行われている時もなお幹部怪人達の猛攻は続く。

「くらえ!」

「よっと!?」

「避けろ!」

 またも繰り出してきた光弾を華麗に交わして、サクヤらは四方八方に分散している。その最中で来島はと言うと、サクヤの指示を否応なしに実行しようとしていた。

「ったく、とりあえず攻めれば良いんすんよね!? どりゃ!!」

 未だに納得していない表情を浮かべつつ、二丁拳銃を手に攻めの姿勢を貫く来島。なるべく相手の攻撃を避けつつ、大胆にも接近戦を展開していく。その一方でサクヤとアリシャは、怪人らのいる前後を取り囲みながら、相手の隙が出来る瞬間を伺っていた。

「……よしっ! 見えた!」

「私もだ。行くぞ!」

 ほんの数分の間に、二人は幹部怪人達の急所と思われる個所を発見。該当する場所を集中的に攻撃すれば、勝機があると捉えている。

「はぁ!」

「フッ!」

「うわぁ!?」

 ちょうど同じ頃、来島は幹部怪人達の攻撃に悪戦苦闘してしまう。ドラゴンオルフェノクの角から放たれる電撃と、レデュエの持つ槍から生成される緑色の光弾を受けて、手痛いダメージを彼女は負ってしまった。

「うぅ……こんなところで!」

 それでも一切諦めることなく、しぶとくも再び立ち上がろうとした時である。

「お待たせ!」

「そこだ!」

「えっ!?」

 ちょうど良いタイミングで、アリシャとサクヤが乱入。二人は読み通りの急所を自慢の武器で斬りかかっている。

「グッ!?」

「何!?」

 その予想は見事に当たっており、意表を突かれたドラゴンオルフェノクとレデュエは次第に勢いが止まってしまう。

「って、今っす! ハァァ!」

 またとない好機と捉えた来島は、力を込めた弾丸を二体の幹部怪人へと打ち込む。もちろん急所を狙って。

「ダァ!? 貴様もか!」

「おのれ……!」

 弾丸が見事に被弾すると、幹部怪人の両者はその身を耐え切ることが出来ず、そのまま力尽きて倒れこんでしまった。しっかりと幹部怪人らの撃破を確認したところで、三人は自らの勝利を確信している。

「ふぅ……やったね!」

「あぁ、これも三人が力を合わせたおかげだな」

「……私も入っているんすか?」

 皆の頑張りのおかげとサクヤやアリシャは括っていたが、来島はその中に一括されていることがどうも不満そうであった。強敵を倒し切ったことには素直に納得していたが。

 

 

 

 

 

 ちょうど同じ時間。ユージーンは幹部怪人の一体、地のエルと一戦を交えていた。

「ハァァ!」

「フッ!」

 互いの剣が火花を散らす激しき戦い。両者共似た掛け声を上げながら、全身全霊の力を注ぎ込んでいく。

「しぶといな……ならば!」

 決め手に欠ける地のエルは、ここで相手へ怯みを与える熱砂をユージーンに向けて投げ飛ばす。勝利の起点を作ろうとしたものの……

「ハァァァ!」

「何だと!?」

なんとユージーンの覇気と根性によって全て相殺されてしまった。この流れは地のエル自身も読めておらず、思わず声を上げている。

 と勢いに乗ったまま、地のエルへさらなる攻撃を加えようとした時だ。

「フッ!」

「何!? ウッ!?」

 彼の周りを見知らぬ水の物体が襲い掛かる。その正体はガンマイザー・リキッド。水の力を宿した不可思議な存在で、彼女は自身の体を液状化させて、ユージーンの動きの自由を防いでしまう。

 瞬く間に状況が変化する中、地のエルは好機と捉えて畳みかけようとする。

「今だ!」

「何を……!」

 拘束されてもなお、ユージーンは解放されようと必死に力を振り絞り。しかしそれでもビクともしない中、一度防御姿勢を構えようとした時である。

「今です!」

「グハァ!」

「ウッ!?」

「えっ!?」

 二人の間に突如として割ってきた武市変平太により、状況はまたしてもひっくり返されていた。彼が刀を用いて回りながら一刀を繰り出すと、地のエル及びガンマイザーにもその攻撃が当たっている。所謂隙を突く攻撃で、武市ユージーンの危機を救い出すことに成功していた。

「アンタは……?」

「こう見えても人並みには戦えるのでね。さぁ、アナタがとどめを刺してください」

「わ、分かった!」

 多くは語らずにそう言葉をかけた後、ユージーンは攻撃姿勢を構え直す。自身の持つ大剣を力強く握った後、彼は勢いよく駆け出していった。

「はぁぁぁ! やぁぁぁ!」

「うぅ……ぐっ!」

「させ……ハァァ!?」

 瞬時に狙いを定めて、全力を込めた斬撃を二体同時に浴びせている。自身の全力を込めた絶対的な一撃。力強い攻撃を前に地のエルらは深い傷を負ってしまい……

〈ドーン!!〉

倒れこむとそのまま爆発してしまった。幹部を前に実力以上の力を発揮した領主のユージーン。唯一の負け筋だった拘束も武市の介入で事なきを得て、難なく乗り切っていた。

「あんがとよ。手助けしてくれて」

「いえいえ。むしろ好都合でした。ずっと隠れてばかりでは、私の見せ場も無いまま終わってしまうますからね」

「……そんなことを気にしていたのか?」

 激闘を潜り抜けたユージーンにとって、武市の気にしていることはなんとも小さいものである。やや微妙な表情を浮かべてしまうが、当の武市はまったく気にせずに接していた。

 

 

 

 

 

「ハァァア!」

「くっ! ヤァァ!」

 そして一段と気合を高めて幹部怪人と戦うのはフィリア。彼女は密かに鍛え上げた剣裁きを生かしながら、ウカワームやフリーズロイミュードと対峙している。どちら共人に擬態出来る能力を持ち、フィリアにとっては因縁深い相手とも言えるだろう。

「コウモリ野郎はいなくなったけど……せめてアナタ達だけでも私が倒す!」

 怪人にはあまり詳しくないフィリアだったが、直感から自身に擬態したワームと同じ存在だと勘づいている。確かな予感を闘志に変えながら、堅実的な戦いを続ける。

 そんな彼女の勢いに押される二体の幹部怪人は、ここで大胆な動きを仕掛けていく。

「なら……これよ!」

「同じく! フッ!」

「なんの……って!?」

 先制してウカワームが腕からエネルギー弾を作り出し、それをフィリアへとストレートに投げ飛ばす。その攻撃に気付いた本人が華麗に避けるものの、背後からはフリーズロイミュードが解き放った吹雪が襲来。寒波と共にフィリアを氷漬けにしようと試みている。

 だがしかし、

「フッ!」

「キャ!?」

ここで思わぬ助け舟が現れていた。三味線から強固な糸を放出し、天井へ吊るすと同時に、空中遊泳の如く動いていたのは河上万斉。彼は寒波に襲われる寸前のフィリアを抱きかかえて、その場から難を退けている。豪快な立ち振る舞いには、幹部怪人らも思わず唖然としてしまう。

「えっ……アンタが助けてくれたの?」

「そうでござる。残るは僅かだからな。貴重な戦力を失えば、こちらが不利になるやもしれぬからな」

 ただただ驚嘆とするフィリアに対して、万斉は淡々とした口調で理由を述べる。自分の立場をわきまえた上での行動であり、決して情が動いたわけではない。それでもフィリアにとっては頼もしいことこの上なく、今は存分に万斉を頼ることにしている。

 すると万斉は、とある作戦をフィリアへと持ち掛けていく。

「さて。実力者が二体もいるのは、こちらとしては不利でござるな。ちとこちらに作戦があるが……主は乗ってくれるか?」

「作戦? も、もちろん! なんだってやるわ!」

「じゃな――」

 怪人達へ気付かれないように、万斉はそっとフィリアへと教え込んでいた。彼女自身も大方納得しており、打合せする間もなく作戦が静かに遂行されていく。

「今じゃ」

「うん! はぁぁ!」

 糸から手を離したフィリアは、瞬時に片手の剣を構える。すると彼女は二体の幹部怪人を取り囲むように、周りを走っていく。

「何のつもり?」

「こんなので、私らに勝てると?」

 無論フィリアの考えなど見当もつかない幹部怪人らは、その狙いへ気付くことなくまたしても衝撃波や吹雪を浴びせようとする。そんな時だった。

「今! やって!」

「了解したでござる!」

 頃合いを見てフィリアが万斉に声をかける。彼は瞬時に動き出すと、二体の幹部怪人らの腕に三味線から放った糸を巻き付けていた。

「何!?」

「こ、これは……!?」

 腕の自由が効かなくなったことで、幹部怪人らは攻撃手段を狭まれてしまう。解こうにも中々対処が上手くいかず、余計な時間を費やしていた。その隙にフィリアと万斉は、互いの呼吸をそっと合わせていた。

「行くぞ」

「もちろん!」

 そしてウカワームやフリーズロイミュードに狙いを定めると、

「「はぁぁあ!!」」

「ウッ!?」

「くっ!?」

勢いよく二人は斬りかかっている。フィリアは片手の剣で。万斉は三味線に仕込んでおいた刀で一刀。強烈な一撃が綺麗に決まり、大きなダメージを受けた二体の幹部怪人は……

〈バタァ!〉

スッと前方に倒れこんでいた。よっぽど二人の一撃が効いた様子である。

 長期戦にはなるべく持ち込まず、手早く強敵の撃破に成功した二人。特に関わりは無かったものの、意外な相性の良さを発揮している。

「……って、もう撃破したの?」

「やっと気づいたか。反応が鈍いでござる」

「いや、しょうがないでしょ! 加減が分からないんだし」

 一度共闘が途切れると、早くも口喧嘩の兆候が見られたが。いずれにしても、倒し切ったことには共に一安心している。

 こうして歪な共闘ながらも幹部怪人を撃破した領主、鬼兵隊、フィリアら。強敵達を知恵や根性で押し切り、見事に自身の役目を全うしていた。

 

 

 

 

 

「こっちです!」

「オラオラ! どきやがれ!!」

 ちょうど同じ頃、世界樹へと侵入したフレイア、長谷川、オートバジンの三人は隊列を組みながら、装置が保管されている部屋まで向かう。まだ世界樹内をうろついていたライオトルーパーの大群も、オートバジンの腕から放つ弾丸で一掃。皆が後ろを振り返ることなく、突き進んでいく。

 そして長い進行の末に……一行はとうとう部屋の前まで辿り着いていた。

「ここで間違いないようですね」

「扉は開くのか?」

 と試しに長谷川が開閉を試みた時である。

「へ? グハァァ!?」

「えっ?」

 長谷川を押しのけて、オートバジンが扉の前に立つと、彼は自慢の馬力を存分に発揮して扉ごと吹き飛ばしてしまう。その余波は長谷川にも影響して、不可抗力で破片が被弾する。あまりにも突然のことに、フレイア自身も何が起きたのかさっぱり分かっていないようだ。

「だ、大丈夫でしょうか……」

「な、なんとかな。ハハ……」

 フレイアに心配される長谷川だったが、彼は気負わずに事を流している。それでも痛みは十分に感じているのだが。

 とそれはさておき、オートバジンのおかげで辿り着いたこの部屋には二つの奇怪な装置が配置されていた。一つは人々を鏡の世界、ミラーワールドへと封じ込める装置。もう一つはエターナルメモリの効果、所謂魔力や飛行能力を封じる装置である。紫色を帯びた真っ白い不気味な光が灯っており、今なおその役目を静かに遂行させていた。

「んで、こいつか。マッドネバーが重宝している機械ってのは」

「こんなもので民を苦しめていたなんて……許しません!」

 改めて目にする非人道的な装置に、フレイアは怒り心頭。ずっと手に握っていた金色のハンマーを構えて、装置諸共破壊しようと決意している。

「よしっ! じゃ俺も……」

〈カシッ!〉

「へ? なんだ?」

 同じく手助けしようとした長谷川だったが、彼の目の前にはオートバジンが割り込んでいた。てっきり自己主張していると思いきや、彼の肩から常備していたファイズエッジがコロッと落ちている。

「えっ!? もしかして、俺に使えってことか?」

 戸惑いながらも長谷川が問いかけると、オートバジンはコクリと頷く。どうやら武器を持たない長谷川のために、最後の最後で見せ場を作ろうとしていたのだ。

「……おいおい。なんだよ、お前優しいじゃねぇか。良いぜ、共に決めようじゃないか」

 長谷川自身もオートバジンの好意を大変気に入っている。屈託のない笑顔を見せながら、感謝の気持ちを伝えていた。オートバジンも小刻みに震えながら、意志を返していく。

 こうしてすべての準備が整ったフレイアら。各々が武器等を構えていき、

「「ハァ!」」

一斉に打撃を与えることで二台の装置を一遍に破壊していた。装置は次第に機能を失っていき、放っていた光も徐々に消えかけていく。

「やった?」

「じゃないのか?」

 あまり実感の湧かない二人だったが、装置の破壊をもって縛られた拘束や条件は全て解除されていた。皆がそれに気づくのも時間の問題だろう。

 こうしてオートバジンの助けも借りて、やるべきことを果たしたフレイアと長谷川であった。

 

 

 

 

 

 

 そしてこちらは、仮面ライダーシグルドと対峙するシウネー、ジュン、タルケン、ノリ、テッチの騎士団基スリーピングナイツの五人。フレイアを裏切ったシグルドに五人は怒り心頭しており、互いの連携を大事にしながら仮面ライダーシグルドとの戦いに挑んでいた。

〈ロックオン!〉

「くらえ!」

「フッ! なんの!!」

「ヤァ!!」

 必殺技であるソニックボレーを発動し、周到にエネルギー波を連射するシグルド。慎重に狙いを定めてはいるものの、中々に標準が安定しない。攻撃の回避を続けていく五人だったが、決して逃げ続けているわけではない。シウネー以外の四人は、この戦闘が仮面ライダーシグルドとの初対戦であり、シウネーの指示のもと無暗にリスクの高い戦いは避けていたのだ。

 両者共に慎重へ相手の見極めを続けていく中、咄嗟に大きな動きをしたのはシウネー一人のみである。

「そこです! ハァァ!」

「何!? フッ!?」

 杖を突きつける不意打ち戦法に、シグルドが反射的にソニックアローで防いでいく。急に動き出した戦況。シウネーは真剣な表情のまま、シグルドへ思いの丈をぶつけている。

「なぜ私達を裏切ったのですか……! なぜ悪魔なんかに手を貸したのですか!」

「なんだ? まだそんなことを気にしているのか? 俺はただ有利になるヤツを選んだまでよ。世の中ってのは蜜蜂のように花から花へと移る方が利巧的ななんだ。お前に分かるか、それが」

 仮面の中でにやけながらも彼が発したことは、利己的な考え方。要するに自分さえ良ければ良い自分勝手な思考を惜しげもなく披露している。悪びれることない言い方からも、シグルドの本音が垣間見えていた。

 傍若無人ぶりを披露するシグルドに対して、シウネーは怯むことなく思ったことをそのままぶつけていく。

「残念な人ですね……!」

「何だと? どういうことだ?」

「そのまんまの意味ですよ! アナタはただ逃げているだけです! 己からも、世の中からも! 決して自分とも向き合うともせずに……!! そんなのは利巧的じゃないですよ。愚か者って言うんですよ!」

 やや感情的になりがらも彼女がぶつけた気持ちは、本当に強い者への考え方。元来より騎士団へあまり興味の持ってなかった彼女が、現在の地位にいるのは己の弱さを受け入れたからこそ。曲がったことが嫌いなシウネーにとって、シグルドなど対極的にすぎない。だからこそ本気で、彼を倒そうと躍起となっていく。

 一方のシグルドだが、本心を突かれたことで若干取り乱してしまう。

「愚か者……ふざけるな! 俺は断じて正しいことをしている! 邪道なのは貴様らの方だぁぁ!」

 ソニックアローを固く握りしめて、シウネーもろとも吹き飛ばそうとする。そんな時であった。

「今です! 皆さん!」

「はぁ!? 何だと」

 タイミングを見計らって、彼女は近くで待機していたジュンら四人へ加勢を指示。すると四人の戦士は武器を握りしめたまま、次々とシグルドへ対峙していく。

「お前の手は見切った! あとはこっちの番だ!」

「戯言を! 調子に乗るな!!」

 手始めにジュンが大剣を振るって、豪快な一撃を何度も繰り出す。場の主導権を握りつつ、シグルドへ攻撃させる余裕すらも失わせている。

「おっと、アタシらも忘れちゃ困るよ!」

「そうです!」

「フッ! 次から次に……!」

 ジュンの背後からは、タルケンとノリが息ぴったりに攻撃を繰り出す。二人の分の攻撃には、シグルドも対応が追い付いていない。

「この……よくも!」

 攻撃する術すら与えてもらえず、激高したシグルドは今度こそ必殺技を必中させるべく、ソニックアローからエネルギー波を放っていく。だがしかし、

「よっと! お返しだ!」

「何!? ウッ!?」

寸手のところでテッチが割り込み、彼の持つ大盾でエネルギー波は弾き返されてしまった。返り討ちにあって、思わぬダメージを受けてしまうシグルド。彼が怯みを与えられている隙に……スリーピングナイツの面々がとどめを刺していく。

「今です! はあっぁあ!!」

「やぁぁ!!」

「うぉぉぉ!!」

「よくも……うぉ!? グハァァ!!」

 五人が最後に繰り出した技は、辻斬りが如く斬りかかる一撃。阿吽の呼吸のように、各々が狙う位置を的確に見出しており、シグルドが装備している弓矢やベルトも強力な一撃を受けてヒビが入ってしまう。最後の最後で仲間の絆にまんまとしてやられていた。

「これで終わりです……さようなら」

「チキショーめ……」

 互いに目を合わせることなく呟いた一言。と同時にシグルドは変身が解除されてしまい、そのまま力尽きたかのように眠りへとつく。彼の周りには使い物にならなくなったゲネシスドライバーとチェリーエナジーロックシードが、無残にも転がっていた。

 互いの意地を懸けた戦いは、シウネーらスリーピングナイツの面々が勝利を収めている。

「よっしゃ、やったぜ!」

「勝ちましたね!」

「何のこれしき! アタシ達の絆のおかげよ!」

「しっかりと息が合っていて、びっくりしましたよ!」

 ジュンら四人は無邪気にも勝利を掴んだことに浮かれており、先ほどまでの緊迫感がまるで感じられない。素の自分を出したまま、和やかな雰囲気に場は包まれていく。

 一方のシウネーは仲間達の様子を優しく見守りつつ、別の強敵と戦っているであろうユウキをそっと気遣っていた。

「私達は勝ちましたよ。さぁ、ユウキも頑張って!」

 勝利はもはやすぐそこ。現状が分からなくとも、シウネーはユウキらの勝利を願う。

 

 

 

 

 

 

「フッ! ハァ!」

「なんの! よっと!!」

「そこよ!」

 皆がダークライダーとの戦いに赴く中で、シリカ、リズベット、ピナは、妙や九兵衛、たまの協力の元、因縁とも言える相手リュウガと戦闘を交わしていく。残虐かつ粗暴な戦い方を好むリュウガにとっては、弱者など取るに足らない相手。

 だがしかし、状況は以前と比べ物にならないくらい異なっている。なんと――リュウガがシリカやリズベットらに押されていたのだ。

「そこです!」

「そこよ!」

「くわぁ!? なんだと……」

 多勢に無勢とも言えるが決してそんなものではない。積極的に攻撃を仕掛けるはシリカとリズベットであり、二人は息の合ったコンビネーションを披露。次々と相手の隙を突いて、無駄のない動きを確立させていた。これも百華で鍛えられた努力の賜物。悔しさをバネにして前へ進む少女達の姿がある。

「今です! お妙さん!」

「九兵衛さんにたまさんもお願い!」

「任して!」

「任せろ!」

「了解です!」

「何だと!? ウッ!?」

 さらに彼女達は今回心強い仲間がいた。妙、九兵衛、たまの三人であり、シリカらとは深い関わりの女性達である。妙は薙刀、九兵衛は刀、たまは火炎放射器付きのモップで接近戦を展開。

「フッ!」

「ハァ!」

 斬撃なり火炎をまとった打撃を浴びせるなりで、リュウガへさらなる追い打ちをかけていく。

 先ほどとは打って変わり、防戦一方となったリュウガ。分が悪いと思った彼は、ここで逆転の一手を切る。

「チッ……だったら!」

〈adobent!〉

 カードを召喚機へと装填して、呼び起こすはドラグブラッカー。万能な大型黒龍を呼び、強大な力で場を蹴散らそうとする。

「行け!」

「させません! ピナ!」

「ナー!!」

 するとブラッカーへ対抗するが如く、シリカは共に戦うピナを使役。以前に打ちのめされた屈辱を果たすべく、ピナ自身も沸々と闘志を燃やしていく。

「ナナナー!!」

「ダラァァァア!!」

 天空へと舞い上がるピナを猛追していくドラグブラッカー。以前と同じく口で捕縛して、致命的なダメージを負わせようとしている。周到に追いかけまわすドラグブラッカーだったか……ピナもそう易々と、以前と同じ策にハマるほど間抜けではない。

「ナ……ナァァァア!!」

 ふとピナは後ろへと振り返り急停止。お得意のバブルブレスで、ドラグブラッカーの動きを封じ込めようとしている。危機を察知したリュウガが、機動力を生かして後退しようとした時であった。

「ドラァ!?」

 なんと彼の細長い体は、リボン結びのように固く縛られている。ピナの狙いはドラグブラッカーを行動不能にさせることで、物理と技の両方の側面から作戦を考えていた。これもご主人であるシリカと共に思いついたこと。小さき者ならではの意地を披露していた。

 当然ながらドラグブラッカーは、戦闘不可能になった時点で場からフェードアウト。苦痛に満ちた鳴き声を上げながら、そっと鏡の世界に戻っている。

「ブラッカー!? き、貴様ら!!」

 相棒を封じられてしまい、高らかにリュウガは声を荒げていく。一応伝えておくが、これは愛情による怒りではない。武器や能力を封じられた時と同じ反応であり、要するにその程度の愛情でしか持ち合わせていないということだ。

 激高したリュウガが再び襲い掛かろうとした時である。

「今です! フッ!」

「ふわぁぁ!?」

 たまが不意打ちがてらに自身の箒から火炎を放射。リュウガを強制的に怯ませた後、

「これで……!」

「仕舞いだ!」

「くっ!? うっ!?」

妙と九兵衛が同時に斬りかかっていた。二人が狙ったのはリュウガのベルトであり、彼のベルトのバックルには若干のヒビが生じている。

 良いように攻撃を受け続けて、増々弱体化してしまうリュウガ。もはや手札が僅かしかない中、彼は一念発起が如く最後の手段へと打って出ていた。

「おのれ……お前ら! 好き放題僕にやりやがって! こうなりゃこれだ!」

〈final bent!〉

 濁った音声と共に発動した最終兵器。必殺のドラゴンライダーキックで、五人諸共場から吹き飛ばそうと企てる。ドラグブラッカーがいなくとも、構えだけはしっかりと行っていた。

 そんな彼に最後へ対抗するは、因縁を付けられたあの二人である。

「行きましょう、リズさん!」

「もちろん! 成長したアタシ達の力で、アイツを倒すわよ!」

「存分にやりなさい、二人共!」

「頼んだぞ!」

 真剣そうな表情でそう呟いたのはシリカとリズベット。彼女らはリュウガが力を貯めこんでいる隙に、こちらも精神を研ぎ澄ましてしっかりと準備を整えている。二人の確かな意思を汲み取って、妙ら三人は最終的にリズベットらへ決着の全てを一任させていた。空気を読んだとも言えるが、それよりかはもう二人ならば大丈夫と言う信頼の深さが関係しているのだろう。

 この一撃で全ての決着が付く……負けられない戦いの中で最初に動いたのは……ほぼ同じタイミングで両者だった。

「ハァ!」

「「ヤァ!!」」

 一斉に飛び上がり、相手に向かって衝突。リュウガは蹴りを。シリカとリズベットはダガーやメイスを握りしめて、全面的に立ち向かっている。己の全力を懸けた最後の一撃……軍配が上がったのは、

「「セハァッァア!!」」

「何……グハァァァ!!」

シリカとリズベットだった。全力でぶつかる中で彼女らは、妙らが事前に付けてくれたベルトの傷跡を集中的に狙っていたのである。力負けを恐れて不安を覚えていた二人だったが、決してそんなことは無かった。頼りになる姉御達が繋いでくれたバトンを、無駄なく生かしていたのだ。

 一方でリュウガはベルトを破壊されたことで変身の意地が難しくなり、一旦は大きな爆発を起こしてしまう。空中で燃え上がった炎の中からは、リュウガの変身者である野卦が随分久しくその姿を見せていた。

「か、勝った……?」

「嘘……!? 本当に?」

 シリカやリズベットも背後に浮かんだ爆発を目にしたことで、自身の勝利をようやく自覚している。それでもなお実感は湧かず、困惑めいた表情を浮かべていたが。

 そんな二人の元へ、妙、九兵衛、たま、ピナら仲間達が駆け寄ってくる。

「本当です。お二方は自らの手で、悔しさを晴らすことが出来たのですから」

「よくやったわね、二人共!」

「これも君達が真摯に己の弱さと向き合った証だ。もっと誇って良いと僕は思うよ」

「ナナー!!」

 ピナも鳴き声で祝福の一声を上げた。皆温かい想いでシリカやリズベットの成長を認めており、これを聞いた当人達もやっと率直な気持ちを解放させている。

「や、や……やりましたよ! リズさん!!」

「本当に……本当にやったのね!!」

 嬉しさを存分に爆発させた二人は、大きくハイタッチ。緊張感もほぐれたことで、妙やピナらともじゃれ合っていた。

「おのれ……僕が。この僕が!!」

 一方でリュウガこと野卦は、負け惜しみを声に上げながらスッと気絶してしまう。戦闘民読である自身の力とダークライダーの高性能さを過信した男の末路は、リベンジを誓い実力を急成長させた二人の女子とその仲間達によって撃破されている。

 

 

 

 

 

 一方でこちらは仮面ライダーソーサラーと対峙するシノン、月詠、猿飛あやめの三人。特殊な武器を使用する三人は、未知なる魔法で戦場を引っ掻き回すソーサラーと互角に張り合っていた。

「ハァ!」

「セイ!」

「フッ!」

「ヤァ!」

 遠距離戦の両方を使い分けながら、攻めの姿勢を続ける三人。特にシノンはソーサラーに敗れた経験があり、この戦いでリベンジを果たそうと闘志を燃やしている。弓で射てからの格闘戦で、ソーサラーのベルトを周到に狙っていた。そんな彼女をアシストするように、月詠やあやめもクナイや手裏剣を相手へ投げつけていく。

「アンタみたいな卑怯者に……私達は負けないわよ!!」

「へぇ~中々に強く育っているじゃないの。でも、私の魔法の前には意味がないのよ!」

〈サンダー! ナウ!!〉

 急激に接近すると同時に、改めて敵意を露わにしていくシノン。強気な彼女にソーサラーは大変面白がっており、その意志を嘲笑うかのように電撃の魔法を発動している。

「月姉! あやめさんも離れて!」

「了解じゃ!」

「分かったわ!」

 魔法の兆候を見切っていたシノンは、すぐに月詠とあやめへ警告を促す。三人は軽やかな動きのまま、辺りへと降り注ぐ雷を回避していく。一定の距離まで離れると、一度三人は互いの顔を見ながら、アイコンタクトを取り始めていた。それはまるで、何かの作戦を実行するかのように。

 ソーサラーが気付かぬうちに、三人は各々の武器を握り始めていた。

「今よ!」

「そこじゃ!」

「行きなさい!」

 解き放ったのは弓矢、クナイ、手裏剣の遠距離型武器。それらをソーサラーのベルトへと向けており、今度こそ魔法を発動する手立てを封じ込めようとしている。だがしかし、

「フッ!」

〈コネクト! ナウ!〉

ソーサラーは瞬時に空間を操作するコネクトの魔法を発動。弓矢、クナイ、手裏剣を全てシノンらの背後へ差し向けていく。

「さぁ、自滅しなさい!」

 と自傷する光景を楽しみにしていたソーサラーだったが……

「かかってわね」

「えっ?」

この行動も全てシノンらの範囲内である。三人は後ろに武器が迫っていることを確信した上で……

「「「はぁぁ!!」」」

「はぁ!? って、うっ!?」

後ろに回って武器へさらなる勢いを付けていた。シノンは蹴り、月詠は持ち手へ拳を突き付けて、あやめはもう一方の手裏剣で弾き返し。武器が通じないことを想定した上で、彼女の意表を突く攻撃を繰り出していた。

 文字通りの不意打ちを食らったソーサラーは、ベルトはおろか両手に付けていた魔法の指輪さえも弓矢や手裏剣、クナイで破壊されてしまう。この攻撃によって、ソーサラーは大幅に弱体化。得意の魔法すらも使用が不可能となる。

「おのれ……かくなる上は!」

 それでも彼女はまだ諦めず、ベルトが壊れてもなお予備の魔法リングを指にはめ直して、劣勢的な自身を立て直そうとした時だった。

「させない! はぁ!」

「うあわぁ!?」

 すかさずシノンが弓矢を発射して、予備の魔法リングすらもソーサラーの手元から離してしまう。一段と猛攻姿勢を続けるシノンは、ここで勝機を見出しいて、月詠とあやめにも最後の手段を呼び掛けていく。

「月姉! あやめさん! 今度こそ……!」

「もちろんじゃ! 猿飛、行くぞ!」

「分かっているわよ! はぁ!」

 そう軽快な言葉で交わすと、三人は再びクナイや手裏剣を投げ飛ばして、ソーサラーのベルトにまたも突き刺している。動きが鈍くなっているうちに、三人は四方八方から……力を込めた飛び蹴りを繰り出すのであった。

「「はぁぁ!!」」

「ウグッ!? ギャカ!?」

「これ最後よ!!」

「お前……ウゥ!! クワァァァ!!」

 交差するようにあやめと月詠が飛び蹴りを放った後、シノンが垂直にベルトへ向かって蹴りかかっている。無論弓を構えたままであり、飛び蹴りと同時に弓矢で敵を射る二段構えで、ソーサラーに追い打ちをかけていた。

 強烈な一撃に思わず防ぎ切ろうとするソーサラーだが、魔法の発動も出来ずに彼女はただただこの一撃を受け続けるほかはない。とうとう我慢が出来ず……シノンらが地面へ着地すると同時に倒れこみ、ソーサラーはとうとう敗れ去ってしまった。辺りには小規模の爆発が燃え広がっていく。

「……やった? やったの?」

 後ろを振り返って、ようやくソーサラーの撃破を確認したシノン。自分でも未だに信じられず、つい体が固まってしまう。そんな彼女を月詠やあやめが励ましていく。

「あぁ、主はやったのじゃ。己の力だけでな」

「まったく大した者ね。こんな短期間で目標を楽々超えちゃうもの」

「そっか……私越えられたんだ。自分の限界を」

 二人の言葉でやっと勝利を自覚出来たシノン。悔しさを晴らせた勝負の結末に、今一度彼女は安堵していた。

 一方で変身が解けたソーサラー及び変身者の宇緒は、地に這いつくばりながらも、自身の敗北を未だに受け入れられずにいる。

「なんで……アンタ如きの妖精に……敗れなきゃいけないのよ」

 そう力尽きながら呟くと、シノンは彼女に目線を向けつつ、思ったことをそのままぶつけていた。

「一つだけ言っておくわ。アナタの敗因はただ一つ。魔法……いや力を過信し過ぎたことよ。真に強い人はいかなる時も、自分を信じているのよ!」

「……アタシには理解できないねぇ」

 シノンの言葉を聞き入れると、宇緒はそっと気絶してしまう。己の実力を高めた者と無下にした者の戦い。この二人は最終的にそこへと行きつくのかもしれない。

 いずれにしてもリベンジを果たせたことで、晴れ晴れしい表情を浮かべているシノン。勝利の余韻にしばらく浸っていると、あやめが冗談交じりに話しかけてきた。

「なるほどねぇ~。そうやってあの童顔男に口説かれたのね!」

「えっ? って、何言い出すの! あやめさん!」

「赤くなっちゃって。本心なんじゃないの!?」

「やめんか猿飛。シノンが困っているじゃろ」

「でも、アンタだって気になるでしょ?」

「……まぁ、そうじゃな」

「月姉まで!!」

 思わぬからかいを受けて、シノン本人はつい反応に困ってしまった。月詠も調子に乗るあやめへ落ち着かせるが、彼女の質問は同じように気になってしまう様子である。戦闘も一時的に終了したことで、場の雰囲気は徐々に緊迫感が薄れていた。

 

 

 

 

 

 

 皆が強敵との因縁に決着を付けていく中で、それらとは一切関わりがないのは桂、クライン、エリザベス、エギルの四人。彼らは強敵とも言えるポセイドンを相手取っている。

「はぁ!」

「フッ!」

「セイっと!」

 容赦のない接近戦を展開しながら、精力的な攻撃を続けていく四人。決して引き下がることはなく、各々が自身の全力を注いでいる。

 その一方でポセイドンは、洞察力を発揮しながら幾度も彼らの攻撃を防いでいた。

「フッ、ハァ!」

「伏せろ!」

「ウッ!?」

 彼は雑念を振り払うが如く、槍から水流をまとった衝撃波を解き放つ。まともにその攻撃を受けたクラインや桂らは、耐え切ることが出来ずに近くの壁際まで吹き飛ばされている。四人が力を合わせてやっと互角に張り合える相手。皆がポセイドンの強さに戦々恐々とする中で、張本人は自身の強さを惜しげもなく誇示していく。

「こんなものか? もっと俺を楽しませろよ……!

 元は過激な戦闘民族の一人。その本能に抗うことなく、血気盛んな一面を露わにする。

 一方で桂達は態勢を整えながらも、劣勢を打開する一手を考え始めていた。

「奴め……やはりしぶといか」

「あのベルトを狙わない限り、こっちに勝利は無いんじゃないか!?」

「一理あるな。同じタイミングで粉砕して、一気に蹴りを付けるぞ!」

「短期決戦と言うわけか……!」

 三人は揃ってポセイドンの力の源と言えるベルトに目を付けており、長期戦よりかは短期戦で決着を付けようと考えを一致させている。故にきっかけを作り出そうとする中で……エリザベスが咄嗟にプラカードを掲げてきた。

[だったら俺に任せろ!]

「エリザベス? 何か手はあるのか?」

[それはだな]

 エリザベスは小さなプラカードを見せて、桂らに思いついた作戦の概要を明かしていく。三人も敵に悟られぬように小さい反応を示しているが、概ね彼の考えに賛同していた。手際よく四人は、すぐに即興の作戦の準備に取り掛かる。

「何をコソコソとしている? いい加減強大な力の前にねじ伏せろ!」

 不穏な動きに気が付いて、苛立ちを覚えていくポセイドン。思わずまたしても槍の衝撃波を放とうとした時であった。

「フッ、ハッ! ハッ! ハッ! そうは行かぬのが侍の真骨頂よ!」

「何だと?」

「特と見るが良いぜ! これが大和のしぶとさってもんを!」

 威勢よく桂やクラインが声を上げると、なんと二人はエギルと共にエリザベスの全身を持ち上げていく。すると勢いに乗っかったまま、エリザベスをポセイドンの元へと投げつけていったのだ。

「「「ハァァァ!!」」」

「って、血迷ったか! こんなことをして、何になるというのだ!!」

 彼らの作戦の意図が全く読めず、反射的に衝撃波を飛ばしていくポセイドン。しっかりと狙いを定めていたはずなのだが。

[なるさ]

 エリザベスには彼なりの意図がある。衝撃波が飛ばされてもなお、彼は口元から盾を取り出して装備。軽々と衝撃波そのものを封じていく。

「何だと!?」

 奇抜な回避行動に思わず絶句してしまうポセイドン。彼が怯んでいる隙にも、エリザベスとの距離は刻一刻と迫っていく。

 そしてちょうど、目と鼻の先まで差し迫ろうとした時だった。

「今だ! エリザベス!」

「そのままやれぇ!」

「任せろ! フッ」

「えっ? ブフォォォ!!」

 桂やエギルの合図と共に、エリザベスはまたしても口元から逆転の一手を取り出す。その正体はなんと……中の人らしき片腕である。拳を強く握りしめながら、ポセイドンに向かってストレートなパンチを繰り出していた。

 誰だって予想のつかない一撃。まんまと策にはまったポセイドンは、思いっきり態勢を崩してしまう。

「今だ!」

「よっしゃ!」

「おう!」

 強制的に作り出した隙を三人が見逃すはずも無く、ポセイドンが態勢を崩したうちに反射的へ走り出す。すでに全員の想いが一致している状態。言葉を交わさずとも、自身が斬りかかるべき位置は決まっている。

「「「そこだぁぁぁ!!」」」

「な……させるか!!」

 こちらへと襲撃を図る桂らの姿に気付いて、ポセイドンはすぐに長槍でこの危機を回避しようとした。ここからは単純な力と力のぶつかり合い。ほぼ拮抗とした状態が続くと思われたが……

「「「ハァ!!」」」

「くっ……フッ!!」

僅かな差で桂達が押し切っていた。三人はポセイドンのメダルへ斬りかかっており、桂はサメメダル。クラインはクジラメダル。エギルはオオカミウオメダルを破壊していく。

 一瞬のうちにポセイドンのベルトにあったメダルは奪取されて、三人はその破片をそっと手に掴んでいた。

「うおぉ……ここまでか!」

 メダルを奪われたポセイドンは強制的に変身解除。唖海の姿となり、眠りへ付くようにゆっくりと倒れこんでしまう。力や強さを追い求めた男の末路は、信念を志す侍達の活躍によって野望を砕かれてしまった。

[お見事!]

「何ィ、大したことはないさ! これもエリザベスと俺達のチームワームのおかげだ」

「そうそう! ところで気になったことがあるんだが……あの腕はどこから」

「おい、それについては触れるな! 嫌な予感がするから」

 存分にエリザベスの活躍をべた褒めする桂に対して、クラインは触れてはならない領域に踏み込もうとする。エギルの咄嗟の注意で彼は事なきを得たのだが。

 いずれにしても皆、この勝利を深々と体に染み込ませていく。

 

 

 

 

 

 

 

「フッ!」

「そこよ!」

「テメェ!」

 そしてこちらも、とうとう決着が付こうとしている一戦。亜由伽の変身したダークキバに立ち向かうは、リーファ、近藤、土方、沖田の四名。各々が自身の使い慣れた刀や剣を振るって、勝利をもぎ取るべく奮闘いている。特にリーファにとっては一度敗北を喫した因縁の相手。シリカ、リズベット、シノンら同様に、闘志を存分に滾らせていた。

「ハァァァ!」

「くっ……中々強くなったじゃないの! でも私には! 叶わないけどね!!」

「なんの!!」

 前回以上に攻めの姿勢を崩さず、ダークキバへ猛追するリーファ。九兵衛や月詠から教わった剣裁きや、体術で戦いを有利に進めている。だがしかし、ダークキバも押されっぱなしではない。力を込めたストレートなパンチをリーファへ繰り出そうとするが――寸でのところで相殺されてしまう。

「チッ! 良いから黙ってひれ伏しなさいってば!!」

 中々自身の思い通りにはいかず、痺れを切らしたダークキバは激高。感情のままに紋章を繰り出して、リーファを拘束しようと目論む。

「もうその手は食わないっての!」

 一方のリーファもここぞとばかりに奮起し、軽やかな身のこなしで紋章攻撃を回避していく。そう自分なりの攻撃を続けていた時である。

「ハァ!」

「うわぁ!? って、しまった!?」

 無鉄砲に放ったダークキバの紋章がリーファの片手剣に命中。彼女ではなく武器が拘束されてしまい、否が応でもリーファは丸腰となってしまう。

「フハハ! 言ったでしょ! 私が勝つってね!」

 勝利を悟ったダークキバは、丸腰状態のリーファを痛めつけようと、覇気の籠った声で急接近。戦う術を一時的に失った彼女は、思わず目をつぶってしまう。そう諦めかけようとした時である。

「そうは行くかよ!」

「みんな! リーファ君を守るんだ!」

「もちろんでさぁ!」

「何!?」

「えっ!? 沖田さん……みんな!?」

 すぐに窮地へ駆けつけてくれたのは、共に戦う真選組の面々。近藤、土方、沖田の三人がリーファの目の前に現れると、力づくで紋章と激突。そして……瞬く間に紋章そのものを刀で切り裂いてしまった。

「破られた……!? 私の術が!?」

 初めて紋章が打ち破られた光景を目にして、ついショックを受けるダークキバ。動揺している隙に、沖田はリーファへ自身の刀を手渡していた。

「ほらよ、使え。とっととお前の魂、取り返してこい」

「沖田さん……分かったわ!」

 いつになく優しい沖田に違和感を覚えつつも、リーファは彼の好意を素直に受け取っている。そして彼女は沖田の愛用する刀を手にして、紋章に囚われた自身の刀を解放しようと再び奮起していく。

「はぁぁぁ!」

「させないわよ!」

 立ち直ったダークキバも再び立ちはだかり、飛び上がるリーファに向かって、紋章と衝撃波を同時に放っていく。何が何でもリーファの思い通りにはさせないと息巻いていたが、

「なんの!」

「うわぁ!? アンタまで……!!」

彼女自身も紋章を切り裂き、さらには衝撃波をダークキバの元まで返り討ちにしている。徐々に自身の劣勢的な状況を感じ取りながら、苛々を募らせるダークキバ。彼女はまだ理解していない。リーファの実力がこの数日の間、急激に成長したことを。

「いっけぇぇぇ!!」

〈パーキン!〉

 そしてリーファは気合を入れながら、紋章に囚われていた自身の剣を救出。同時に彼女は貸してもらった沖田の刀を手早く、本人の元へと返却していた。

「沖田さん! これ!」

「分かっていやすよ! さぁ、一気に決めますかい?」

「上等だ! やってやる!」

「リーファ君も一緒に!」

「もちろん! 全員で決めましょう!」

 ようやく本人達の元へ本来の刀が戻され、四人は勢いに乗っかってダークキバを一気に倒そうと覚悟を決める。リーファ自身も真選組のことを信じて、想いを一致させようとした。

 次なる一撃に全力を注ぎ込む四人。そんなリーファ達に対して、ダークキバも同じ心構えで応戦していく。

「調子に乗らないでちょうだい! 弱者共!!」

〈ウェイクアップ! ワン!!〉

 フエッスルをベルトのキバットバットⅡ世に突き刺し、発動するは強力なパンチ技のダークネスヘルクラッシュ。紋章が通じなければ力でねじ伏せてしまえば良い。土壇場での彼女は考えることを諦めた脳筋な一面を披露していた。

「ハァァァ! いい加減に砕け散れ!!」

「な!?」

「うっ!?」

 一足早く動いたのはダークキバの方であり、彼女はパンチを繰り出しつつ、周りを囲うように残像のような衝撃波も放ってきた。綺麗にリーファら四人にも被弾しており、彼女らはすぐ爆発の最中に巻き込まれてしまう。

「ハァ! どうだ!」

 今度こそ相手を仕留められたことに愉悦さを感じていくダークキバ。その余裕からか、四人の倒された様子を確認しようとした時である。

「「「「フハァァァ!!」」」」

「何!? 生きている!?」

 爆発の中を駆け抜けてきたのは、なんと近藤、土方、沖田、リーファの四人。彼らは衝撃波など諸共せずに、攻めの姿勢を変わらずに続けていた。真選組と同等に、リーファも秘められた根性を思う存分に発揮させている。

「ヤァァァァ!」

「ウッ!?」

 四人が四方八方から切り裂いた自慢の一刀。ダークキバの後方には土方と近藤が。前方には沖田とリーファが、刀や剣を構えたまま立ち止まっている。

 気になる勝負の行方はと言うと、

「機能停止……」

「そんな……ことが!」

ダークキバ及び偽者のキバットバットⅡ世の敗北。すなわちリーファと真選組が、とうとう勝利を掴んだのであった。リーファ自身にとっては悲願の達成であり、本人はすんなりとこの結果を素直に受け止めている。

「やった……勝ったんだ! 私……!」

 胸に手を当てつつ、そっと彼女は顔を上げていた。自信に満ちた表情は、迷いの無い真の強さを誇示しているようにも見える。いずれにしても、全力を懸けて勝ち取った勝利。嬉しくないわけがないのだ。

 そんな彼女の勇姿を称えるように、真選組の面々もリーファらを褒めていく。

「おぉ! とうとう撃破出来たな、リーファ君!」

「大したもんだぜ。まさか一緒に倒すなんてな」

「まぁ、これも俺のおかげでしょうに。おい、ブラコン。刀のレンタル料、とっととよこしてくだせぇ」

「えっ? はぁ!? ちょっと、急に何血迷ったこと言ってんのよ!! 感動的なムードが台無しでしょ!」

「落とし前を付けない方が台無しかと思いやすが。そんなこんなで合わせて、一万六千円をとっとと払ってくだせぇ」

「だーかーら! なんで払うことが前提になっているのよ!!」

 沖田だけは冗談なのか本気か、定かではないがリーファへ刀の貸し料金を請求していた。有無を言わさずに彼のペースへ乗っかってしまい、リーファは高らかにツッコミを入れていく。さっきまでの緊張感や雰囲気はどこへやらである。

「ったく、総悟のヤツ。こういう時でも素直じゃねぇんだからよ」

「まぁ、いつものことだろ。時機に収まるさ」

 近藤や土方もいつもながらの雰囲気と括って、特に介入する間もなく二人へそのまま任していた。二人ならではの風物詩が完成しつつあるのかもしれない。

 ……その一方で敗北を喫したダークキバこと亜由伽は、変身を解除されて地面へと倒れこんでいる。変身の要だったキバットバットⅡ世も破壊されて、文字通り打つ手のない状況に陥っていた。

 息が詰まる中で最後に彼女は、リーファへと話しかけていく。

「やるじゃないの……アンタ」

「えっ? ……私に言ってんの?」

「そうよ、なんたって私ら夜兎すらも互角に張り合えているからね……アンタがそんなに強くなった理由はなんだい?」

 と掠れた声で問いかける亜由伽。するとリーファは真剣な表情で、思ったことをそのまま返していた。

「守りたいものがあるからかな……この世界に来てからも! 大切なものが増えたから」

「それが強さの秘訣ね……」

 返答を聞いた亜由伽は、そっと顔を地面に下げていく。その表情はまだ納得しておらず、彼女にとっては理解しがたい概念だったのかもしれない。

「ど、どうしよう……?」

「そのままにしておけ。ありゃ死んでねよ。ただの気絶だ」

「そうでさぁ。後はウチラの管轄じゃなく、この星の野郎共に任せるべきでっせ」

「そ、そうだね」

 倒れた亜由伽を心配するリーファだったが、土方や沖田らのアドバイスの元、今はそっとしておくことにする。微かに呼吸が残っていることから、まだ生きていることは確定的だ。いずれにしても、彼女の処置はこの星の人々に判断を委ねることにしている。

 こうしてリーファも自身の因縁にとうとう決着を付けることが出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……とうとう残るは長のオベイロンのみ。地上の状況を知らぬ中、彼は虎視眈々と勝ち筋を手繰り寄せていく。

 ところがそんな暴虐を万事屋やユウキが許すわけもない。七人と一匹は己の全力を懸けて、最低最悪の妖精に真っ向から立ち向かう。

「はぁぁぁ!!」

「くたばれぇぇ!! コノヤロー!!」

〈カラクリ! マキシマムドライブ!!〉

 ガイアキャリバーを振るい、次々と技を発動するアナザーエターナルに対して、新八は怯むことなく突き進む。彼の聖剣から放たれるカラクリのエフェクト(歯車状のエネルギー波)を木刀で破壊しつつ、標的から目を一切離していない。

 後ろから吹き上がる爆炎を潜り抜けていき、

「そこだぁぁ!」

「ウグッ!?」

ひとまずは木刀で一突きしていた。気合を込めた一刀に、狙い通りの怯みを受けるアナザーエターナル。だが彼の攻撃はまだ終わっていない。

「まだまだ!」

「ぐはぁぁ!! うぅ!?」

 攻撃を仕掛ける前に、豪快な斬撃を次々とアナザーエターナルへ浴びせていく。切迫とした表情のまま、持てる力を存分に発揮する新八。全てはユイやアルンの人々を苦しめた怒りから……非道な悪に対抗する正義の魂を沸々と燃やしていた。彼なりの侍の戦い方である。

 猛攻を受け続けたアナザーエターナルだったが、無論彼も黙っているわけがない。

〈ソード! マキシマムドライブ!!〉

「いい加減にしろぉぉ!!」

 瞬時にアナザーエターナルは、またもガイアメモリの力を行使。聖剣ガイアキャリバーの切れ味を上げるソードメモリの力で、お返しと言わんばかりの斬撃を新八へと解き放っていく。

「よっと! ふっ!!」

 ところが新八は、その攻撃を受ける前に飛び上がって、何の傷も負わずに回避へ成功している。手の内を見せた攻撃や技ならば、彼にとってはもう絣にすら及ばないのかもしれない。攻守を上手く使い分けた新八は、無理することなく次なる仲間へ攻撃役を交代する。

「銀さん! 頼みます!」

「おう! 任せろ!」

 背中越しに合図を交わしたのは坂田銀時。彼はすでに準備を整えており、アルヴドライバーを操作して、とっておきの必殺技を発動していた。

〈キバ! キバパワー!!〉

〈ウェイクアップ!!〉

 選んだのは仮面ライダーキバの必殺技。何かと縁の深いキバットと協力して、闇夜の中で決めるキック技、ダークネスブレイクを構えていく。

「おい、なんだ!? 急に夜へ!?」

 必殺技の仕様を知らないアナザーエターナルにとっては困惑する光景。先ほどまで見えていた青空は真っ暗に変わり、浮かんでいた星々の代わりに、神々しく光る三日月の主張が激しく浮かんでいる。(ALO星は地球とはまったく違う星のため、月が浮かんでいる事態が可笑しい光景なのだが)

 とそれはさておき、アナザーエターナルが困惑しているうちに、銀時は腕を交差した後に右前足を突き出して、豪快に片足を上げていく。するとキバットがエネルギーを解放するかのように、銀時の黒いブーツをキバのヘルズゲートのように変化させていく。

「ったく、こんな無茶な体系にさせやがって……ふっ!」

 現在の態勢に若干の不満を口にしながらも、銀時はゆっくりと片足でジャンプしている。狙いをアナザーエターナルへと定めながら、上空から降下していき――

「キバっていくぜ!!」

「くっ……何を!!」

エネルギーを込めた右足で大胆にキックを繰り出す。必殺技を受けた衝撃で後退するアナザーエターナルはその勢いを止められず、

「はぁぁ!」

「ぐはぁ!!」

世界樹の壁際まで吹き飛ばされてしまう。壁面にはキバの紋章が浮かび上がり、壮絶な威力を仲間達にも見せつけていた。

 ところがアナザーエターナルは、まだ倒れる様子がない。

「このやろ……! 僕を痛めつけるな!!」

 自分のことを棚に上げながら、やはり自己中さを存分に滲みさせている。接近した銀時を切り殺そうとしたものの、彼は勢いよく飛び上がって、斬撃を隈なく回避していく。

 もちろん攻撃はこれで終わらない。次なる仲間へ彼は攻撃役を交代させる。

「よっしゃ! キリト、いけぇ!」

「おう!」

〈ドライブ! スピードパワー!!〉

〈ヒッサツ―! フルスロットル!! スピード!!〉

 目の前へいたキリトへバトンタッチをすると、彼はすぐにアルヴドライバーを操作。選んだ力はドライブであり、基本形態であるタイプスピードの必殺技、スピードロップを構えていく。するとアナザーエターナルの周りには、四つの巨大なタイヤが彼を取り囲んでいた。

「おい、来るな! 消えろ!!」

 次々とガイアキャリバーを振るって抵抗するも、タイヤは依然として消滅しない。そんな応酬を繰り返しているうちに、キリトはようやく必殺技への準備が整っていた。

「オベイロン……ひとっ走り付き合えよ!」

 ドライブの決め台詞と共に、彼は勢いよく飛び上がる。その表情は獲物を仕留めるかのように、殺気がより際立っていた。さらに彼をサポートするかの如く、エネルギー状のトライドロンもこの必殺技に参戦していく。

「おい……って、あぎぁぁぁぁ!!」

 一方のアナザーエターナルだが、四方八方からタイヤに取り囲まれると、全体をタイヤで圧迫された後に吹き飛ばされてしまう。気が付くと彼は、キリトとトライドロンが取り囲む異様な空間に囚われていた。

「フッ! ハァァ!!」

「グハァァ!! うぐぅぅ!!」

 攻撃の手段を見失ったアナザーエターナルに対して、超高速移動で切り刻んでいくキリト。周囲を回るトライドロンが壁の役割を果たし、その勢いを失わずに怒涛の追撃を行う。原典のドライブとは異なり、蹴り技ではなくエクスキャリバー等を用いた双剣の斬撃で、疑似的なスピードロップを再現していた。

 そして、

「ハァ!」

「ギァッァア!!」

渾身の一撃が見事に決まっている。エクスキャリバーの一刀に加えて、エネルギー状のトライドロンもアナザーエターナルへ体当たりを繰り出していく。二重の追い打ちを受けたアナザーエターナルは、断末魔を上げながら大ダメージを負う。

 必殺技を解き放ったキリトは、すぐに相手の様子を伺いながら、次なる仲間へ役割を交代していく。

「神楽! 今だ! 行け!!」

「任せるヨロシ!!」

 彼が指名したのは神楽であり、呼ばれると同時に本人は背後から大きく飛び上がる。その瞬間にも彼女は、アルヴドライバーからライダーの力を解放していた。

〈アギト! バーニングパワー!!〉

「バーニングライダーパンチネ!!」

 使用したのはアギトの強化フォームであるバーニングフォームの力。右手に強烈な炎のエネルギーを宿すバーニングライダーパンチを繰り出す。接近戦を得意とする神楽にとっては、この上ない相性の良い必殺技だ。

「ハァァ!!」

「うぐっ!?」

 無論防御姿勢が整っていないアナザーエターナルには有効の一撃。ストレートな拳が腹部へ的中し、彼は思わず後退してしまう。

 目立った攻撃が出来ぬまま、次々と攻撃を受け続けるアナザーエターナル。確かな怒りを覚えながら、ガイアメモリを使って反撃に出ようとするも、

「僕を……なめるな!」

〈響鬼パワー!〉

「何!? ウッ!?」

咄嗟に神楽が彼の動きを封じていく。続いて使用したのは響鬼の力。アルヴドライバーから音撃鼓・火炎鼓を取り出して、アナザーエターナルの中心へ差し向けると、彼は瞬く間に動きを封じられてしまう。このアイテムは太鼓の筒部分を模しており、原典の響鬼でも必殺技を放つ際に使用した大事な代物だ。

 すると神楽は自身の雨傘を垂直に構えた後、これで打撃を行うかのように、アナザーエターナルへ狙いを定めていく。

「清めの音を叩き込むアル!」

 勢いを込めた言葉と同時に、彼女はさらなる必殺技を繰り出す。

「音撃打! 爆裂強打の型アル!!」

「ウゥ!! この……ぎぁっぁぁ!!」

 真剣に研ぎ澄ました表情で打ち込んだ清めの音。悪しき魂を浄化させるかのように響いた音撃で、邪悪そのものとも言えるアナザーエターナルを粉砕しようとした。

 だがしかし、まだまだアナザーエターナルはくたばらない。

「いい加減に……しろや! ポンコツども!!」

〈クエスト! マキシマムドライブ!!〉

 幾度も必殺技を受けてさらに苛立ちを募らせる中、彼はさらなるガイアメモリの力を発動する。クエスト……所謂発掘の記憶を模した力で、神楽の周りには盾やピッケル、スコップと言った古風な武器が出現。アナザーエターナルの指示と共に襲い掛かっていく。

「さぁ、行け!」

「何!?」

 息も休める暇もなく出現した武器の数々に、つい動きを鈍らせていく神楽。殺気を察して逃げ出そうとするも、逃げ切れる場所など近くにはない。思わず無計画なままにライダーの力を探し始めようとした――その時だった。

〈鎧武! 極パワー!!〉

〈火縄橙々DJ銃! メロンディフェンダー! マンゴパニッシャー! 影松!〉

「はぁ!?」

 彼女の背後から後方支援をするが如く、鎧武の最強フォーム(極アームズ)の力が発動。ハンマーや長槍、盾や大剣が出現した武器の数々を相殺。神楽の危機を一瞬にして救い出している。あまりにも突飛な出来事に、アナザーエターナルは目を丸くしていたが。

 神楽を手助けしたのは、あの二人であった。

「ここは僕達に任して!」

「よくも神楽ちゃんを……許さないんだから!」

「アッスー! ユッキー!」

 彼女の真横を駆け抜けたのは、攻撃を繰り出す隙を伺っていたユウキとアスナ。特に後者は神楽を痛めつけようとしたアナザーエターナルに激高。ユイの件も相まって、ずっと感じている鬱憤を滲ませながら、彼に真っ向から立ち向かう。

「はぁあ!」

「そこだ!」

 二人が繰り出すは抜群のコンビネーション。共に想いを分かち合ったからこそ成せる技の数々に、さらなる自信を付けていく。ユウキは反撃を恐れぬ一刀を。アスナは相手の隙を突く戦法で、戦いを進めている。

「うっ!? って……この小娘共がぁぁ!」

 さらなるダメージを受けるアナザーエターナルだが、彼もやられっぱなしではない。反撃ともとれる斬撃を余すことなく繰り出し、ユウキやアスナを倒そうと目論んでいる。だが、

「なんの!」

「ハァ!」

二人は軽やかな動きでアナザーエターナルの反撃を回避していく。立て続けに起こる爆発に巻き込まれることなく、しっかりと壁際ギリギリまで後退する二人。

 するとユウキからアスナへ話しかけている。

「大丈夫かい、アッスー?」

「平気よ。そういうユッキーは?」

「もちろん! まだまだ戦えるから! とっとと決めちゃおうよ!」

「そうね……一緒に決めるわよ!」

「うん!」

 互いの様子を心配しつつも、強い闘志を再確認した二人。決して揺らぐことない絆の強さを露わにしていく。

 その言葉と共にアスナは、アルヴドライバーを操作。感情の高ぶりをエネルギーに変えるゴーストの最強フォーム(ムゲン魂)の技を発動していた。

〈ゴースト! ムゲンパワー!!〉

〈イノチダイカイガン! イカリスラッシュ! ヨロコビストリーム!〉

「こ、これは……?」

「とっておきの必殺技よ。さぁ!」

「分かった!」

「さぁ!」

 未知なる力に困惑するユウキだったが、アスナの力強い言葉によって、そんな不安も吹き飛ばしている。屈託のない笑顔で合図すると、二人は真剣な目つきでアナザーエターナルへ狙いを定めていく。

「今よ!」

「はぁ!」

 そして神秘的な音声と共に、左右からアナザーエターナルへと斬りかかるのであった。

「させるか――な、ウルッグ!?」

 強気にも必殺技を封じようとしたアナザーエターナルだが、反撃する暇もなく失敗に終わっている。

「「さぁぁ!!」」

「ギャァッァア!!」

 丸腰となったところを、ユウキとアスナの二人が勢いを込めて斬りかかっていた。ユウキは喜びの感情を力に変えたヨロコビストリームを。アスナは怒りの感情を力に変えたイカリスラッシュを相手に浴びせていく。いずれにしても、強力な一手に間違いはないだろう。

 度重なる攻撃を受け続けて、徐々に動きにも鈍さが生じているアナザーエターナル。万事屋一行も間髪入れずに、攻撃の手を一切緩めることは無かった。

「今だよ、二人共!」

「キリト君にユイちゃん! 定春も頼むわ!」

「ワン!!」

 二人はちょうど近くにいたキリトやユイらに交代。前者は勢いよく走り出して、また後者は定春に乗っかる形で、アナザーエターナルに狙いを定めていく。

〈W! ファングジョーカーパワー!!〉

「ユイ! 定春! 一緒に決めるぞ!」

「任してください、パパ!」

 互いに意思疎通を図りながら、動きを一致させていくキリト、ユイ、定春。彼が解放した力はWの中間フォームであるファングジョーカー。牙と切り札の記憶が力として宿り、色彩もちょうど白や黒と二人のイメージカラーを彷彿とさせている。

 とそれはさておき、必殺技を繰り出す前に二人は、あの決め台詞を披露していた。

「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」

「ワン!」

 片方の手の指をアナザーエターナルへ差し向けながら、言い放ったWの決め台詞。多くの罪を重ねてきた彼――いや、オベイロンにとってはぴったりの言葉だろう。定春も二人へ続くように鳴き声を上げている。

「罪だぁ? そんなのは僕にはない!!」

 けれどもアナザーエターナルは真っ向から否定。罪を自覚せずに、自己中な性格を露わにしていく。そのまま彼がガイアキャリバーから衝撃波を放った時である。

「「フッ!!」」

 キリト、ユイ、定春はタイミングに合わせながら上空を一回転。策を見破ったかのように衝撃波を回避していた。

 するとキリトは、アルヴドライバーを操作して、Wの必殺技を発動していく。

〈ファング! マキシマムドライブ!!〉

「はぁ!」

「せい!」

 両者共に息を合わせながら、標準をアナザーエターナルへと向ける。その瞬間にキリトの右足には、ファングジョーカーの武器の一種である白い刃、マキシマムセイバーが付け加わっていた。これにてすべての準備は整った。

「「ファングストライザー!!」」

「ファフ~~!!」

 その掛け声を合図にキリトは、両手に長剣を構えながら回転。巨大な牙の紋章を描くように、アナザーエターナルへ急接近する。一方のユイも定春に指示しながら、真っすぐに降下していた。これこそ両者が協力して完成する特殊なファングストライザーである。

「させるか!! って、アギァァァァ!!」

 懲りずに強気でこの必殺技を討ち返そうとするが、すぐに姿勢を崩されてしまい、大きく彼は吹き飛ばされてしまった。ここまでまともに必殺技を防ぎ切ったことはなく、銀時やキリトらにしてやられている。

 両者は安全に着地しながらアナザーエターナルの様子を伺うが、依然として彼の変身はまだ解けない。彼のしぶとさにうんざりとしながらも、攻撃の一手は一切緩めないのだ。

「行ってください、銀時さん!」

「今度こそ撃破するぞ!」

「おう、任しておけ!」

〈ブレイドパワー!〉

 キリトやユイらは、目の前へちょうどいた銀時へ攻撃役を交代。彼は意気揚々とした表情で、アナザーエターナルへまたも挑んでいく。

 すると彼はすぐにブレイドの力を発動。彼が持つ醒剣ブレイラウザーをアルヴビッカーから召喚しており、自慢の木刀も含めた二刀流戦法で、今度こそアナザーエターナルを撃破しようと躍起になっていく。

「はぁぁ! おっ!」

「ぐはぁ! 貴様ぁ!!」

 相手の隙を次々と突く戦法で、戦いを自身の思い通りに進める銀時。使い慣れた木刀に加えて、新たなる武器のブレイラウザーをも自分のものにして、アナザーエターナルへ強力なダメージを与えている。

 一方的な攻撃に激高しているアナザーエターナルは、逆転の一手を必死に模索していた。

〈マヨネーズ! マキシマムドライブ!!〉

「こうなりゃやけだ! これでも食らえ!!」

 思わずためらっていたガイアメモリの力を彼は解放する。使用したのはマヨネーズメモリであり、その効果はなんとねっとりとしたマヨネーズのエネルギー波を剣先から解き放つことが出来るようだ。どこぞのマヨラーが聞けば、泣いて喜びそうな必殺技だが。

 一方の銀時はトンチキな技を繰り出されてもなお、一切動じることなく事を進めていく。

「ったく……ん? まさかこのカード共、この剣に使えるのか?」

〈スラッシュ!〉

〈サンダー!〉

〈ライトニングスラッシュ!〉

 ちょうど銀時は数分前に手に入れたラウズカードと、ブレイラウザーの関連に気付き始めており、素直にも二枚のカードを中心部のスラッシュリーダーに読み込ませていく。使用したのは電撃と切れ味を高める技の一種、ライトニングスラッシュである。

「おっと!? なるほど、こりゃちょうどいい!」

 要領よく技の本質を飲み込んだ銀時は、フッと笑いつつもすぐに二本の剣を構えていた。襲い掛かるマヨネーズの衝撃波にどう対処するのかと言うと、

「テメェにお返しだぁ!!」

「何……ギャァァァァ!! 全身にマヨネーズがぁぁぁぁ!!」

自身に被弾する前に相殺。並びに残った衝撃波を丸々アナザーエターナルへと討ち返している。その効果は絶大であり、全身がマヨネーズで覆われたアナザーエターナルは肩を外したように発狂。全ての方角から隙を見せている。

 もちろんこんな絶好の機会を、場にいた全員が見逃すはずがない。

「今だ! みんな!!」

「うん!」

「オーケー!!」

「おう!」

 キリトの掛け声を合図に動き出す七人と一匹。新八とユウキは刀や刀剣を構え、ユイと定春はまたも突進攻撃を繰り出そうとする。

〈クウガ! マイティパワー!!〉

〈ディケイド! ファイナルアタックライドパワー!!〉

〈ビルド! ラビットタンクパワー!!〉

〈ジオウパワー!!〉

「「「「ハァ!!」」」」

 一方で神楽、銀時、キリト、アスナの四人は。一斉にライダーの力を発動。

 

 神楽は右足に炎の力を宿すクウガの必殺技マイティキックを。

 銀時は前方に無数の巨大なカードを出現させながら、相手へ向かって蹴りかかるディケイドの必殺技ディメンションキックを。

 キリトはグラフ型の標的固定装置を展開。グラフ上を滑りながら加速してキックを放つビルドの必殺技ボルティックフィニッシュを。

 アスナは戦場全体に巨大な「キック」の文字を作り出し、一つの文字へと集結させて、それらを右足のブーツの底へと刻み込み相手へ飛び蹴りと同時に浴びせるジオウの必殺技タイムブレークを。

 

 四方八方からの一撃で、今度こそ勝負に蹴りを付けようと皆が全力を注ぎこんでいく。

「「「「「「「はぁぁぁ!!」」」」」」」

「ギャハ!! ぐふぅ!! うぐっ!? キィ!?」

 休む間もなく繰り出されていく七人と一匹の一撃。新八やユウキが斬りかかると、追随するようにユイと定春が体当たり。さらには銀時、キリト、神楽、アスナの四人が個性的なライダーキックを繰り出していく。連続した攻撃を受け続けたアナザーエターナルは、情けない声を上げながら、つい肘を地面へと付けてしまう。

 幾度も必殺技を打ち込んだのだが、それでもアナザーエターナルは一切倒れる気配がなかった。だがしかし連続した必殺技がようやく効いたのか、彼の体からは電撃のような痺れが何度も発生している。アナザーライダーとはいえ、強力な必殺技を受け続けてしまえば、体にもガタが来ているのかもしれない。

 呼吸を整えつつも万事屋一行は一度集結して、冷静に現在の状況を確認している。

「ったく、しぶとい野郎め!」

「まだ諦めないアルか!」

「二人共、焦っちゃダメよ! 相手の手の内は、もうほぼ見切ってんだから!」

「今のペースで攻撃を続けるぞ! 大丈夫……流れはこっちに向いている!」

「油断せずにガンガン行くってことだね!」

 苛立ちを覚える銀時や神楽に対して、アスナが威勢よく宥めていく。彼女の言う通り、アナザーエターナルの攻撃方法はすでに大方把握している。だとすれば後は相手の行動を先読みしつつ、しっかりと好機を掴むだけ。ようやく見えてきた勝機に、キリトやユウキは一段と気合を高めていく。

 そう皆の心が一致しようとした時。ユイはある違和感へ気付き始めていた。

「ん? ちょっと待ってください!」

「えっ? どうしたの、ユイちゃん?」

 新八が問い直すと、彼女は怪訝な表情で思ったことをそのまま話していく。

「何か嫌な予感がするんです……こんな一方的に攻撃を受けるのも、敵の策略ではないでしょうか?」

「そ、そうアルか!?」

「まさか……?」

 盲点を突いた指摘には、つい目を丸くしてしまう神楽、キリトら一行。よくよく思い返すとガイアメモリで抵抗はしても、致命的な攻撃は彼から与えられることは無かった。

指摘が徐々に確信へと移り変わる中、アナザーエターナルは万事屋一行を嘲笑うかのように、その本心をさらけ出していく。

「フッ、勘の良いガキだな。仕方ないな、教えてやろう!」

 すると彼は破壊された装置の亡骸に指を指していた。

「この破壊された装置にはなぁ……ある仕掛けを組み込んでおいたのだよ! ライダーの持つ無尽蔵のエネルギーを利用するとっておきの秘策がな! 要するにだ!! お前達が幾ら攻撃をしようとも、全て装置の再始動に利用するまでってことなんだよ!! あははははは!!」

「何ですって……!」

「俺達が良いように利用されていたってことか!」

「テメェは……」

 自身の勝利を鼻っから確信していたのか、簡略的に最後の悪あがきを繰り出すアナザーエターナル。やはりユイが不安視していた通り、攻撃や必殺技を受け続けていた理由は、全て装置の再興が目的だったという。ある意味で彼の目論見を見透かすことが出来なかった銀時らは、存分に悔しさを表情へと滲ませていた。

「後は受けたエネルギーをこのまま移動させるだけ……残念だったな! この戦いも僕の勝利――」

 笑いの止まらないアナザーエターナルは、早速装置を起動しようとした時である。

〈ガジャーン!!〉

「へ?」

「何だ!?」

 ふと後ろを振り向くと、そこには彼にとって信じがたい光景が広がっていた。轟音と共に目にしたのは、残っていた亡骸さえも木っ端微塵に破壊される瞬間である。

「そ、装置が……ハァ!? おい、どうなっているんだ!! なんでまた!!」

 準備さえも完璧に施していた装置の破壊には、アナザーエターナルも困惑。焦燥しながらも犯人を突き止めようとしていた。その正体は無論あの男の仕業である。

「なるほどな……残骸をかき集めてまで野望を遂行するとは、とんだ醜い野郎だな。テメェのハイライトショーはここで終わりだ。しっかりと己の運命を受け入れるこった」

 小粋な冗談を交えながらアナザーエターナルに話しかけてきた一人の男。装置からモクモクと舞う煙に包まれながら、彼の前に姿を現したのは、

「た、高杉晋助ぇぇぇぇ!! 貴様かぁぁぁぁ!!」

高杉晋助である。ずっと行方をくらませていたが、密かにフレイアや来島達のサポートもしつつ、そのままアナザーエターナルのいる屋上まで駆けつけていた。決して銀時らを手助けしたわけではなく、あくまでもオベイロンを倒すために起こった算段である。

「言っただろ。俺はただ壊すだけだ。テメェの腐った計画をな」

 鋭い眼光を光らせながら言い放った宣告。その心情に一切の偽りはないという。

 その雰囲気のまま、高杉は銀時らにも一声だけかけている。

「銀時、後は好きにしろ」

「おい、待て! 高杉! おい!」

 多くは語らぬうちに彼はとどめを銀時らへ譲った後、まるで何事も無かったかのようにその場を奇麗に立ち去っていた。最初こそ呼び止めていた銀時も、次第に高杉の性格からすぐに心を納得させていく。

 一方のオベイロンは最後の悪あがきすら台無しにされて、言いようもない怒りが全身を滾らせている。

「許さないぞ……よくも。よくも僕の最後の計画を邪魔したなぁぁぁ!!」

〈……マキシマムドライブ!〉

 八つ当たり気味に彼は、全てのガイアメモリをガイアキャリバーに装填。手際よく衝撃波を銀時らへ向けて投げ飛ばしていく。だが、

「「「「はぁ!!」」」」

銀時、キリト、アスナ、神楽の四人が難なく衝撃波を弾き飛ばした。四人にとってはこの技も既に見切っている。彼らは目線をアナザーエターナルへと向けており、ライダーの力を使わずとも互角に張り合える実力を、まぢまぢと見せつけていた。

「あぅ!?」

 自身の最大級の必殺技を防がれて、つい変な声を出すアナザーエターナル。もはや彼にとって打つ手のない状況。巡り巡った勝機を無駄にすることなく、銀時、キリトらは遂に彼へとどめを刺していく。

「オベイロン……もうここまでだ!」

「迷惑をかけた分、きっちり落とし前は付けてもらうぞ!」

 そう二人が発すると、仲間達も順応するように頷く。全員の気持ちを一つにして、四人はアルヴドライバーを操作。とどめを刺すに相応しい最高の必殺技を発動した。

〈フィニッシュライダーアタック! ……平成ライダー! ソードパワー!!〉

〈ヘイセイ! ヘイセイ! ヘイセイ! ヘイセイ! ヘヘヘイセイ!! ……〉

 アルヴドライバーから流れてきたのはライドヘイセイバーの待機音。妙に耳へ残る個性的な音と共に、万事屋一行の周りには金色の扉が出現。それぞれに年号が描かれており、扉が開くとそこから年号に準じた平成仮面ライダーが登場していた。

 ライジングタイタンソードを構える仮面ライダークウガ(ライジングタイタン)。

 フレイムセイバーを構える仮面ライダーアギト(フレイムフォーム)。

〈ソードベント!〉

 ドラグバイザーツバイをブレードにして構える仮面ライダー龍騎サバイブ。

〈エクスチャージ!〉

 ファイズエッジを構える仮面ライダーファイズ。

〈ライトニングスラッシュ!〉

 醒剣強化型ブレイラウザーを構える仮面ライダーブレイド(ジャックフォーム)。

 装甲声刃を構える仮面ライダー装甲響鬼。

〈マキシマムハイパータイフーン!〉

 パーフェクトゼクターをソードモードにして構える仮面ライダーカブト(ハイパーフォーム)。

〈フルチャージ!〉

 デンガッシャーをソードモードにして構える仮面ライダー電王(ソードフォーム)。

〈ウェイクアップ!〉

 ガルルセイバーを構える仮面ライダーキバ(ガルルフォーム)。

〈ファイナルアタックライド……ディ、ディ、ディ、ディケイド!!〉

 ライドブッカーをソードモードにして構える仮面ライダーディケイド(コンプリートフォーム)。

〈サイクロン! ヒート! ルナ! ジョーカー! マキシマムドライブ!!〉

 プリズムビッカーを構える仮面ライダーW(サイクロンジョーカーエクストリーム)。

〈トリプル! スキャニングチャージ!!〉

 メダジャリバーを構える仮面ライダーオーズ(タトバコンボ)。

〈エレキ! リミットブレイク!!〉

 ビリーザロッドを構える仮面ライダーフォーゼ(エレキステイツ)。

〈ウォーター! スラッシュストライク!! ジャバジャバ、バッシャーン!!〉

 ウィザーソードガンをソードモードにして構える仮面ライダーウィザード(ウォータードラゴン)。

〈ロックオン! 一、十、百、千、万、億、兆、無量大数!!〉

 火縄橙々DJ銃を大剣モードにして構える仮面ライダー鎧武(カチドキアームズ)。

〈ヒッサーツ! フルスロットル、ワイルド!!〉

 ハンドル剣を構える仮面ライダードライブ(タイプワイルド)。

〈メガマブシー! 闘魂ダイカイガン!!〉

 サングラスラッシャーを構える仮面ライダーゴースト(リョウマ魂)。

〈ダブルガシャット! キメワザ!!〉

 ガシャコンキースラッシャーを構える仮面ライダーエグゼイド(マキシマムゲーマーレベル99(分離状態))。

〈レディゴー! ボルティックフィニッシュ!! イェーイ!!〉

 4コマ忍法刀を構える仮面ライダービルド(ニンニンコミックフォーム)。

〈ジオウサイキョウ!!〉

 サイキョ―ジカンギレードを構える仮面ライダージオウⅡ。

 全ての平成仮面ライダーが剣を得意とするフォームで登場。この戦いに決着を付けるべく、悪しきアナザーエターナルへ標的を定めていく。

 神々しい英雄達の共演に浮かれることなく、銀時やキリトらも同じように各々の技を構えていた。合計で二十七人と一匹の総攻撃。確かな本気を感じ取ったアナザーエターナルは、その勢いに押されて弱腰となってしまう。

「や、止めろ……止めてくれ!! 僕をいじめるな!! 僕は……この星の頂点に立つ者だぞ!! なぁ!!」

 自分が今までにしたことを棚に上げて、無様にも命乞いをするアナザーエターナル。保身にも走る姿は、彼の自分勝手な性格を濃縮していると言えよう。

 そんなアナザーエターナルに、ユウキが一喝していく。

「違う!! アンタは……僕らから自由を奪った、最低最悪の科学者だ! みんなが味わった苦しみや悲しみを……今ぶつけてやる!!」

「ひぃぃ!!」

 ユウキにとっては大切な仲間や守るべき町人の気持ちを踏みにじったことがどうしても許せず、仲間達と共に彼へ引導を渡す決意を固めていた。互いにアイコンタクトを交わしつつ、二十七人の戦士は全ての準備が完了する。

「これが俺達から受け継がれた……」

「「「「「「「自由を取り戻すための力だ!!」」」」」」」

 想いを一つにして、全員が真っ向から走り出す。切羽詰まった表情で、感じたままの想いを剣や武器に宿していた。

〈ライダー! ソードスクランブル!!〉

 アルヴドライバーからも待機音から必殺技音声に移り変わる。この声と同時に、召喚された平成仮面ライダー達は順々にアナザーエターナルへと斬りかかっていた。

「ライジングカラミティタイタン!!」

「セイバースラッシュ!!」

「ドラグブレードスラッシュ!!」

「スパークルカット!!」

「ライトニングスラッシュ!!」

「音撃刃 鬼神覚声!!」

「マキシマムハイパータイフーン!!」

「俺の必殺技! パート1!!」

「ガルル! ハウリングスラッシュ!!」

「ディメンションスラッシュ!!」

「ビッカーチャージブレイク!!」

「オーズバッシュ!!」

「ライダー100億ボルトブレイク!!」

「ウォータースラッシュ!!」

「火縄橙々無双斬!!」

「ドリフトスラッシュ!!」

「オメガシャイン!!」

「マキシマムクリティカルフィニッシュ!!」

「ボルティックフィニッシュ!!」

「キングギリギリスラッシュ!!」

「あう! あぎゃ! ぎぃ!! ぐはぁぁぁっぁあ!!」

 立て続けに必殺技を食らい続けて、大ダメージを負うアナザーエターナル。今までにない感じたことがない痛みが、次々と襲い掛かっている。さらには仮面ライダージオウⅡの技の効果によって、アナザーライダー特有の特性も破壊。彼が体内に宿しているアナザーエターナルライドウオッチにもヒビが生じている。

 徹底的な必殺技を受け続けたアナザーエターナルだったが、これで終わったわけではなかった。

「「「「「「はぁぁぁぁ!!」」」」」」」

「うわぁあ!!」

 とどめと言わんばかりに銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユウキがタイミングを合わせて彼に斬りかかる。その後ろでは定春に乗ったユイがおり、六人を支えつつアナザーエターナルへ押し通そうとしていた。

「おのれ……よくも! よくもぉぉぉぉ!!」

 自身の敗北を悟ったのか、悔しながらも悲痛な叫び声を上げるオベイロンことアナザーエターナル。仮面によって表情は見えぬが、苦し悶えていることは間違いないだろう。

 そんな彼に向けて、キリトらは最後に事を投げかけていく。

「さらばだ……別世界のオベイロン!」

「ユイちゃんを苦しめた天罰よ! 恥を知りなさい……!」

「テメェの天下も、これでしめぇだ!」

「「「「はぁ!!」」」」

「あぎゃぁぁっぁあ!!」

 キリト、アスナの怒りの感情と共に、力強く斬りかかった六人。おまけにとユイや定春が突進攻撃で追い打ちをかけていく。皆が動きを止めて後ろへ振り返ると……

「僕は諦めないぞ!! いつか……いつかすべての生物が、僕の前に跪かせてやる!! アハハハ……アカラァァァァァァァァァ!!」

アナザーエターナルの体が限界を迎えて大爆発を起こしていた。断末魔と共に迎えた彼の顛末。人々を支配したかった男は、最終的に英雄たちへ認められた勇敢なる者たちへ引導を渡されている。

 一方で爆発の規模は想定以上に激しく、一部のライダー達が万事屋達を守るべく盾等で余波を防ごうとしていた。

〈シールド オン!〉

〈ディフェンド! プリーズ!〉

〈メタル! マキシマムドライブ!〉

 フォーゼ、ウィザード、Wの三人が咄嗟に魔法や盾で爆発を防ぎ切り、場にいた全員を傷一つなく守り切っている。場がようやく落ち着き、改めてアナザーエターナルのいた場所を見てみると、そこにはぽっかりと丸い穴が出来ていた。どうやら変身の解除されたオベイロンが落とされた跡だと思われる。さらにその近くには、アナザーエターナルライドウオッチが破壊された状態で転がっていた。

 要するにこの状況はと言うと、長い戦いにとうとう決着が付いたということだろう。

「か、勝った……?」

「勝ちましたよね……?」

 まだ現実が受け止めきれず、困惑気味に呟く新八やユイら。仲間達も反応につい困っているが、ここでライダーの一人ジオウⅡが一行に話しかけてくる。

「そうだよ。君達は最高の未来を取り戻したんだ! だから安心して!」

 彼の発した言葉にライダー達もスッと頷く。ここでようやく銀時達は、マッドネバーを倒し切った事実へ気付いていた。

「やっ……やったぁぁぁぁ!!」

「おぉ!! ようやくアルか!!」

 真っ先に喜びの声を上げたのはユウキと神楽。思わず二人は手を繋いで、周りを小刻みにスキップしている。

「はぁ……やっとですか」

「長い戦いだったな」

「おうよ。ったく、投稿者の野郎。時間かかりすぎだったてーの!」

 新八、キリト、銀時もホッと一息つくが、銀時だけはややメタ寄りに呟いていた。

 そしてユイ、アスナも皆と同じように喜んでいる。

「良かったですね、ママ!」

「そうね! みんな……ありがとう!」

 彼女は改めて協力してくれた平成仮面ライダー達にお礼を伝えていた。ライダー達は拳を握りしめながら、力強く彼らの勝利を祝福している。

 

 各々がリベンジを果たして、共闘したこのアルンでの戦い。マッドネバーは壊滅し、人々を閉じ込めていた装置も解除。誰一人として犠牲者を出すことなく、この戦いは幕を閉じている。これも全て万事屋やキリト達の諦めない精神、並びに銀時達へ手を貸してくれた平成仮面ライダー達のおかげだろう。

 今は皆がただ勝利への余韻へと浸っていく……。




今回の登場キャラクター

・世界樹最上階
 坂田銀時・キリト・志村新八・アスナ・神楽・ユイ・定春・ユウキVSアナザーエターナル(オベイロン)

・世界樹内部
 フィリア・来島また子・河上万斉・武市変平太・サクヤ・アリシャルー・ユージーンVSウカワーム・レデュエ・フリーズロイミュード(超進化態)・ガンマイザー(リキッド)・ドラゴンオルフェノク(魔人態)・地のエル

・アルンの街中①
 シリカ・ピナ・リズベット・志村妙・柳生九兵衛・たまVS仮面ライダーリュウガ

・アルンの街中②
 桂小太郎・クライン・エギル・エリザベスVS仮面ライダーポセイドン

・アルンの街中③
 リーファ・近藤勲・土方十四郎・沖田総悟VS仮面ライダーダークキバ

・アルンの街中④
 シノン・月詠・猿飛あやめVS仮面ライダーソーサラー

・アルンの街中⑤
 シウネー・テッチ・ノリ・ジュン・タルケンVS仮面ライダーシグルド

・世界樹内部へ侵入した者
 フレイア・長谷川泰三・オートバシン・高杉晋助





 遂に戦いが終わった!! ここまで長いこと付き合っていただき、本当にありがとうございました!! この話をもってマッドネバーは壊滅。ALO星も無事に平和を取り戻すことが出来ました。
 さぁ、今回の見どころはなんと言ってもダークライダーやオベイロンとの決着。皆が己の全力を懸けて、リベンジを果たすことが出来たと思います。皆さんは誰との決着シーンがお好みだったでしょうか?
 そして! オベイロンことアナザーエターナルとの戦い。アナザーライダーの特性上、すぐには倒せない彼相手に銀さんやキリトは必殺技を連発! とどめには二十人の平成仮面ライダーが幻影として参戦。総勢二十七人と一匹でフルボッコ。高杉も美味しい場面をとっていきましたね。

PS フィリアの対戦相手を間違ったかもしれません……すまぬ。

 では今後についての報告。一応残り2話を予定していて、できれば5月中には全てを終わらせたいです。全ては研修次第。いよいよ日常回へも戻りそうなので、今後も頑張っていきたいです!
 ちなみに投稿が遅れた理由ですが、旅行していました。折角休みをもらったので……。





次回予告

ユウキ「ありがとう、僕らに力を貸してくれて!」

邂逅する平成仮面ライダー達!

高杉「テメェには良い末路だな」

高杉がとどめを刺す相手はオベイロン?

銀時「なんで俺達が手伝う羽目になるんだよ」

アルンは再興へ!

剣魂 妖国動乱篇二十一 自由を取り戻した者たちへ:2003


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第九十五訓 自由を取り戻した者たちへ:2003

 タイトルの2003年は銀魂が連載された年を意識しています。というか、素直な疑問で銀魂世界の西暦って何年? 確か明かされたことは無かったはず……。




 遂に戦いへ決着が付いた。己の限界を越えて、リベンジを果たした者。使命を全うし、苦難を乗り越えた者。最低最悪の科学者を撃破した者。総勢三十人を超える精鋭達は、この戦乱に見事勝利を収めていた。

 そして今……散り散りになっていた仲間達が集結する。

「フッ!」

 世界樹の最上階にいた銀時、キリトらはディケイドの力オーロラカーテンを介して、アルンの市街地へと戻っていた。するとそこには、

「み、みんな……!?」

「もしかして勝った!?」

既にクラインや土方、妙ら仲間達が全て集まっていた。皆それぞれに埃や土跡、傷を体に付けられているも、その表情は清々しく変わっている。ユウキが食い気味に問いかけると、シウネーは力強く頷いていた。

「そうです。やったんです、私達!」

 この一言でユイやユウキらも一安心。仲間達の勝利を思う存分喜んでいる。

 さらに場には、あの仲間達も駆けつけていた。

「アギァァァァ! ウグッ!?」

「えっ? って、マダオアル!」

「姫様もいますよ!」

 地面へと叩きつけられたその正体は長谷川泰三。派手に落下したものの、すぐに立ち直っている。一方でその横を無事に着地するはフレイア。オートバジンに抱えられながら、スッと地面に降り立っていた。

「だ、大丈夫でしょうか?」

「平気、平気……気にするな」

 と引きずった表情で平静を装う長谷川だったが、痛みを感じていたのは事実。誤魔化したのはただの強がりであろう。

「何やってんだか……」

 銀時も呆れた表情で事を呟いていた。

 そんな中、世界樹の上部からあの仲間達が声をかけてくる。

「おーい! こっちも片づけたよ!」

「ん? この声はフィリアか?」

 聞こえた方角にキリトらが目を向けると、そこにはフィリア、ユージーン、アリシャ、サクヤの四人が、辛うじて残っていた窓から手を振っていた。どうやらこちらも、自身に課せられた任務を無事に遂行したらしい。晴れ晴れとした表情から、皆が彼女らの想いを察していく。

「こっちは無事に片づけたぞ」

「そう! ここにいる鬼兵隊の人達と……って、いない?」

「いつの間にかいなくなっているな」

 ユージーン、アリシャ、サクヤと次々に声を上げるが、彼女らが言っていた鬼兵隊の面々はすでに場から消えていた。誰にも一言言わず去る姿に、領主達はやや不満げな表情を浮かべている。

「チェ。少しくらい残っても良かったと思うのに」

「まぁ、そう言うな。奴らにも事情があるのだから」

「確かにな。仮にもテロリストなのだから」

「あっ、そっか」

 長い時を過ごしていたせいで鈍っていたが、来島らは紛れもない反逆者。利害の一致で共闘していたことを、アリシャはようやく思い出していた。

 いずれにしても、フィリアらも困難へ打ち勝ったことに変わりはない。

「とりあえず、フィリアちゃん達も無事で一安心ね」

「そうだな」

 アスナがフッと安心した表情を浮かべると、キリトもつられて同じような表情を見せている。仲間達が皆無事であることに、万事屋は心から嬉しく感じていた。

「フハハハ! 我らの手にかかれば、怪人もダークライダーもお茶の子さいさいだからな」

「そうだぜ! 俺達攘夷志士を甘くみんなってことだ!」

[同じくだ!]

 その一方で盛大に高笑いを上げるは、桂小太郎ら攘夷党の面々。三人揃って満更でもない表情のまま、下品な笑い声をあげている。

 と誰よりも己を誇張する桂らに、水を差す者が後ろから近づいていた。

「ほぉ……それでお前らは捕まる覚悟は出来たか?」

「もうマッドネバーはいないんでねぇ……次はお前らでさ」

「ゲッ……!? 忘れた!!」

 土方や沖田の声に気付き、クラインの表情は顔面蒼白と化してしまう。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには刀を構える近藤、土方、沖田の真選組一行が立ちはだかっていた。三人とも不機嫌な表情をしており、確保する気が皆満々である。

「桂ァ! それにクライン! テメェら全員捕まえてやるぞ!!」

「ひぃぃぃ!? いや、許してくれって! 戦いも終わったばかりなんだから!!」

「そうだぞ! 貴様らとて体力が持たぬだろう!!」

「うるせぇ。こちとら執念で動いているんでさぁ」

「さぁ、捕らえろ!」

「こっちに来るな!」

「おい、お前ら! 俺を盾にするな!」

 疲弊しきっていてもなお、真選組は執念で桂一派を確保しようと発破をかけていく。異様な粘りを目の当たりにして、桂達は恐れながらも逃げ出している。仕舞いにはエギルの後ろへ隠れたりと、姑息な一面をも披露していた。先ほどまでの緊張感は、とっくにそよ風と共に流されていた様子である。

「また始まったの……」

「いい加減にしてほしいわね……」

 グダグダな追いかけっこにはリーファやシノンら女子陣も呆れかけており、苦い表情でため息を吐いてしまう。

 一方でスリーピングナイツは、まったく異なった反応を示していた。

「おいおい、また喧嘩か?」

「いえ、アレはきっと喧嘩するほど仲が良いってパターンですよ」

「そっか! だから些細なことで言い合っているのね?」

「流石に違うと思いますが……」

 真選組と桂一派の因縁には疎いせいか、各々が自由に事を呟いている。勝手に想像を膨らませるジュンやノリの姿を見て、シウネーは困った表情で話を受け流していた。

 瞬く間に場は渾沌と化してしまう。

「あちゃ……これどうする? アッスーに神楽ちゃん?」

「んなもん、ヅラとクラの自業自得ネ。ほっとくがヨロシ」

「えぇ!? 本当に止めなくていいの?」

「う……ん。私も答えづらいわね」

 心配したユウキが騒動を止めるように促すも、神楽は一蹴、アスナは反応に困るなど複雑な心境を露わにしている。恐らく初めて目の当たりにする状況に、どう反応すれば良いのか分からないのであろう。皆が戸惑っているうちにも、追いかけっこはまだまだ続いている。

 とグダグダした雰囲気に我慢ならず、銀時や新八らがツッコミを入れようとした時だ。

「ん? 皆さん、アルヴドライバーが!?」

「へ? って、なんだ!?」

「光っている……?」

 ユイがアルヴドライバーの異変に一早く気付き、キリトらにそれを伝えている。この異様な光は仲間達も察しており、追いかけっこをしていた桂一派や真選組一行も、アルヴドライバーの光に注目を寄せていた。

「おい、タンマだ! アレを見ろ!」

「はぁ? 何を言って……えっ?」

「何だありゃ?」

「あのベルトが光っているのか……?」

 桂の必死こいた説得によって、真選組の面々もアルヴドライバーの異変に気付いている。場にいた全員が体を固める中、光はさらに輝きを増した後、銀時らの目の前に移動していた。地面へ降り立つと同時に、ようやくその正体を披露している。

「ありがとう。君たちのおかげで、この星の未来は取り戻せたよ」

「この声は……仮面ライダーさん!?」

「えっ!?」

「本当か?」

「嘘!?」

 眩い光の中から出現したのは、二十人の平成仮面ライダー達。基本フォームのまま現れた彼らは、光を振り払った後に実態として銀時らの前へ姿を見せていた。

 壮観な光景を目にして、銀時、キリトらは状況を読み込むと同時に、ライダー達の存在感に気持ちを揺さぶられている。皆がその雰囲気に圧倒される中、平成仮面ライダー達は次々と銀時らに話しかけていく。

「何ィ、驚いてんだよ。散々こっちは力を貸しただろ。いい加減慣れろっての」

「いや、だって驚きますよ! こんなに来てくれるなんて」

 とユイはわざわざ駆けつけてくれた電王達に驚いていたが、銀時は別の理由から心をびくびくさせている。

「おい、ちょっと待って! あの白空間じゃなくて、わざわざこっちまでやってきたのか……? 予算とか大丈夫かよ?」

「って、アンタは何を心配しているんですか!」

「大丈夫ネ。別に映像化するわけじゃあるまいし、予算がガタガタキリバになることは無いアルよ!」

「いや、神楽ちゃんもぶっちゃけすぎでしょ!」

 彼は予算面を何故か心配しており、青い顔をしたまま体を静かに振るわせていた。無論杞憂であり、新八は大ぴっらに銀時や神楽にもツッコミを入れていく。いらぬ心配をしているのは、銀時のみであったが。

 とそれはさておき、平成仮面ライダー達は改めてキリトらにしっかりとお礼を伝える。

「まぁ、しっかりと俺達の力を使いこなせたことには感謝しているぜ。中々の戦いぶりだったぞ」

「こちらこそ、力を貸してくれて感謝しているわ。ちょっとヘンテコなのもあったけど……」

「まぁ、驚くのも無理はない。戦いには奇抜さも必要だからね」

 ディケイドからの一言にしっかりと返答するアスナ。素直な気持ちで返すも、一部のライダーにあった奇抜さをも本音として発している。そんな彼女に対して、W(フィリップ)が優しく事を返していた。

 さらに話は続く。

「改めてお礼を言うために俺達はここへ来たんだ。違う星に生まれた者同士、ここまで力を合わせるなんて、最高じゃないか?」

「違う星同士か……確かにね」

 率直なビルドの一言に、ユウキはしっかりと言葉を受け止めていた。思えばここにいる者達は生まれた星も違えば、所属している勢力も異なる。それでも強大なる悪意に全員が一丸となって立ち向かえたことは、傍から見ると偉業なのかもしれない。平成仮面ライダー達は銀時やキリトらが持つ団結力にも感心していたのだ。

 そんな彼らが実態となって現れた理由はたった一つ。力を正しきことに使用した戦士達へ、ライダー達なりの感謝を伝えることである。

「そういうこと! それじゃ、感謝のしるしに」

「しるし? って、うわぁ!?」

 ジオウが発すると、彼はユイの手を強く握っていく。この行動を皮切りに、他のライダー達も近くにいた者達へ固い握手を交わしている。

「握手?」

「そういうことだ」

「じゃ、俺達も」

「頼むぜ」

 温かな雰囲気を察して、皆が好意的にライダー達との握手を受け止めていた。軽い挨拶や反応を含ませながら、一言ずつ手短な会話が次々と交わされていく。

「いつか誰も拳を振るうことなく、笑顔に溢れる世界を君達は作ってほしい」

「笑顔に溢れる世界か……どこまで進めるか分からないけど、やってみるよ!」

 クウガから伝えられた平和への想いを、しっかりと受け止めていくユウキ。重みのある言葉に感銘を受けつつ、自分なりの回答を繰り出している。

「本当に面白かったよ。君も君の仲間達も!」

「ありがとうね。って、私も!?」

「そう! だって自信を持って戦えていたじゃないか」

「なるほどね……ハハ」

 アギトの思わぬ一言につい困惑を示すアスナ。好意的な言葉だからこそ、余計に反応には困ってしまう。

「アナタが本物の龍騎さん……!」

「あぁ! 君も龍使いかい?」

「はい! 相棒のピナと一緒に戦い抜きました!」

「ナー!」

「そうか。じゃ、可能性は無限大だな! もっと成長出来ると俺は思うぜ」

 幻影の中でしか会えていなかった龍騎と、ようやく出会えて嬉しく思うシリカとピナ。同じ竜使い同士、早くも意気投合している。

「なんだか素直じゃなさそうな顔だな。少しは愛想良くても、良いんじゃないか?」

「うるせぇよ。なんでアンタにそう言われないといけないんだよ」

「俺と似た雰囲気をしているからな」

「話聞いているか!?」

 ファイズのマイペースさについ翻弄される土方。図星を付かれたのか、ツッコミもより激しさを増していた。

「どんな運命も変えられる。人が持つ想いさえあればね」

「想いが変える運命……私もそう思います!」

「俺達もだ!」

「わ、私もです!」

 戦いの最中で感じたことを代弁してくれたブレイドに、つい共感を覚えているシウネー。彼女が反応すると、横にいたジュンやタルケンらスリーピングナイツの面々も事を返していく。

「随分と鍛えているな。これだけたくましかったら心配ないだろ」

「ハハハ! 常時健康じゃなきゃ、好きな人を追いかけられないからな」

「……何言ってんだ?」

 近藤の体格を見て率直に褒めた響鬼だったが、当人からのストーカー発言にはすぐ難色を示している。こればっかりは何のことかさっぱり分かっていない。

「おばあちゃんが言っていた。本物を知る者は偽物には騙されないと」

「良い言葉ね。しっかりと受け止めるわ……銀さん!」

「……まるでお家芸だな」

 自分なりの語録を伝えたカブトだが、あやめには何故か銀時と間違えられている。ふとしたことから彼女の眼鏡は外れており、目の悪さからカブトを銀時と認識。折角のセリフも台無しになっていた。

「まぁ、力を貸してくれたことは感謝でさぁ」

「って、おめぇの声洟垂れ小僧じゃねぇかよ。生意気さも似ているじゃねぇか」

「どういうことですかい? そういえばお前、俺の部下に声が似ているな。変わらず間抜けそうだが」

「あんだと、テメェやる気か!?」

 互いに知り合いと声が似ていることから、握手をしつつもいがみ合いを始める沖田と電王の二人。沖田は神山を。電王は同じイマジンのリュウタロスを思い出したようだ。

「よぉ、兄ちゃん。上手く扱えたみたいで良かったな」

「たまたま順応しただけだよ。けれどよ……窮地を救ってくれたことは感謝しているぜ」

「当然だよ。僕達にとっては」

「改めて感謝するぜ」

 照れくさく接しつつも、力を貸してくれたことに改めて感謝する銀時。近くにいたキバやキバットバットと力強い握手を交わしている。

「随分と派手な色ね。ピンクのヒーローって」

「ピンクじゃない、マゼンダだ。でもまぁ、お前の戦い方も中々良かったぞ。泥棒猫以上に」

「ありがと……って、もうちょっといい例え無かったの?」

「さぁ」

 尊大な態度に違和感を覚えながらも、ディケイドと親しく接するシノン。彼が最後に言い放った台詞には一瞬だけイラっとしたが。

「君は姉との関係が良好みたいだね。その関係を今後も続けていくと良いよ」

「もちろん! そうよね、新ちゃん!」

「そ、そうですね……ハハ」

「仲睦まじい光景だぜ」

 Wと親睦を深める志村姉弟。W(フィリップ)の誉め言葉には妙も舞い上がっている。新八はやや苦い反応を示していたが、そこも含めてW(翔太郎)は二人の仲の良さをより認めていく。

「俺から言えることは一つだ。助けられるなら絶対に手を伸ばして救い出す。それだけは、覚えておいてほしい」

「手を伸ばすね……分かったわ。しっかりと心に刻むよ!」

 固く握手を握りながら、想いを誓いあうリーファとオーズ。彼女は誰かを助ける慈愛の心を深く胸に刻んでいた。

「これでお前ともダチになれたな!」

「おうネ! よろしくアル、とんがり頭!」

「もちろんだ! って……俺のはスペースシャトルなんだが」

 握手がてらにフォーゼと共に友情の証を行う神楽。親しく接していたが、神楽のフォーゼに対する第一印象は、本人も苦い反応をしてしまう。

「信じるなら絶望より希望。アンタならどんなことがあっても乗り越えられそうだけどな」

「まぁ、精神力なら誰にも負けない自信はあるぜ」

 ウィザードの希望を秘めた一言に、クラインは威勢よく反応していく。彼の物分かりの良さなら大丈夫だとウィザード自身も感じていた。

「その姿……まさか貴様も侍か?」

「侍と言うかは神様だな」

「……はい?」

 鎧武と交流する桂だったが、彼の神様発言にはつい疑問で頭がいっぱいになってしまう。納得しようにも中々飲み込めない様子である。

「君のバディも大変優秀だね。仲間がいるからこそ、君は光輝くのかもしれないな」

「バディ? アスナやユイのことか」

「うん。それと君の仲間達全般さ。いつだって君は一人じゃないことを忘れないでくれ」

「そうだな……もちろんだよ!」

 ドライブやベルトさんから言われた一言をそっと受け止めるキリト。彼らの言う通り、仲間の存在があるからこそ強くなれることを、彼は改めて感じていた。

「人との可能性は無限大だ。君ももっと色んな人とのつながりを大事にしてくれ!」

「なるほど……つながりか。でもお妙ちゃんに群がる悪縁は断ち切るがな!!」

「……凄く固い意志をしているね」

 ゴーストに人との繋がりを諭された九兵衛だったが、お妙と関連付けて強烈な執念を彼に見せつけている。あまりの迫真さにゴーストは気が引けていたが。

「運命を変える力。それは君にもきっとあったはずだ」

「運命って……壮大だけど、言いたいことはよく分かるわ」

 やや大袈裟に表現するエグゼイドに、少しだけ反応を困らせるリズベット。それでも運命を変える力には概ね賛同していた。

「愛と平和を大切にしている君達ならば、これからも俺達の力を使えるはずだ」

「愛と平和じゃな……中々心地よい言葉じゃ」

 ビルドの信条を耳にして、つい共感を覚える月詠。固く握手を交わしながら、平和への意気込みを二人は語っていく。

「君達だったら最高最善の未来に辿り着けると思うよ。当然君の未来だって」

「ジオウさん……はい! 私達も絶対に元の世界へ戻って見せます!」

 そしてユイにはジオウが話しかけていた。彼に未来や目標について後押しされると、ユイはとびっきりの笑顔で返答する。自分達の本当の目標に達するため、これからも全力を懸けていくようだ。

「なんとも壮観な光景だぜ」

「だな。俺達はとんでもない奴らの後ろ盾を貰っていたのか」

「有難い限りですね……」

 握手を交わせなかったものの、長谷川、エギル、たまの三人は改めてライダー達の力強さを間近で感じている。彼らの協力があったからこそ、思う存分戦えたと括っていた。

 こうしてライダー達と僅かながら繋がりを見いだせた一行。まだまだ話したいところだったが、どうやら時間が来てしまった様子である。

「そんじゃ、俺達は行くぜ」

「また会える時があれば、そん時は協力するからよ」

「じゃあな。小さき勇者達!」

「またね!」

 ライダー達は揃って別れの挨拶を交わすと、ディケイドが展開したオーロラカーテンの中に消えていく。ほんの僅かな時間の中で垣間見えた平成仮面ライダー達の想い。銀時、キリト、アスナらは確かな気持ちをしっかりと受け止めていく。

「行っちゃった……」

「本当に僕達、間近でライダーに会えたんだね……」

 ユウキも今更ながら呆然としつつ呟く。皆が不思議な気持ちへ浸る矢先、突如として目の前には、ずっと願っていたことがようやく叶っていた。

「ん? ねぇ、みんな見て!」

「あ、あれ……」

 一行が目にしたものは……ミラーワールドから帰還するアルンの民達や観光客達の姿である。幽閉された人々に怪我は無く、皆が無事なまま現実世界に戻って来ていた。

「民達が戻って来ています!」

「きっと装置が完全に効力を失ったのでしょう」

 悲願の達成にフレイアは歓喜して、そんな彼女にたまがそっと補足を加えている。いずれにしても人質を解放できたことは、皆にとっても喜ばしいことであろう。

 そして助けられた民達は、目の前にいた銀時やユウキらに向かって次々と感謝の言葉を投げかけるのであった。

「ありがとう!!」

「君達のおかげだよ!!」

「かっこよかったよ!!」

「流石騎士団!」

「誰だか知らないけど、君達も感謝しているよ!」

 種族や立場の垣根を越えた祝福の声。救われた者達の感謝の言葉が次々と投げかけられて、一行はその反応に追われてしまう。それでも皆がその温かな気持ちを受け止めている。彼らこそこの街の窮地を救ったヒーロー……所謂英雄なのだ。

「姫様もご無事で」

「すいません。私達が不甲斐なくて……」

 一方で他の騎士団の面々は、フレイアと再会するや否や、自身の不甲斐なさに謝りを入れている。ずっと幽閉されて何もできなかった自分が相当悔しいのだ。それでもフレイアは慈愛の心で、騎士団を励ましていく。

「良いのです。未知なる脅威に対抗できなかった私のやり方にも責任はいます。今はしっかりと休んでくださいね」

「「はい!」」

 懺悔よりも心の安息を得ること。優先すべき点を明確にして、ちゃんとフォローを加えていく。

 こうしてアルンには、再び人々の活気が戻っている。全体が落ち着くのも少々時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし一方で、世界樹内部の瓦礫跡では、あの男が息を荒くしながら立ち上がっていた。

「だぁ……ハァァァ! ハァ……ぜぇ!」

 瓦礫や木々を振り分けながら、自身の状態を確認するはマッドネバーの長オベイロン。強烈な攻撃の数々を受け続けてもなお、精神力を強く発揮して生き残っている。表情は憔悴しきっているが、まだ自身の野望は一切諦めていなかった。

「良くもやってくれたな……あいつら! 僕はまだ諦めないぞ……この星の全てを手にするまでな!」

 意地でも目的にしがみつく姿は頑固そのもの。いや、拗ねて喚き散らす子供と言っても差し支えないであろう。彼の手にはアナザーエターナルウォッチが握られているが、先の戦いにより半壊。使用不可能となったが、オベイロン自身は作り直せばよいと思っている。

「覚えてろよ! いつか僕は……!」

 誰の声も届かぬ場所で発せられる虚しき野望。犬の遠吠えの如く中身の無い一言だが、オベイロンはまったく悪びれない。

 そう感傷の時に浸っていた時だ。

「いつか? そんなのもう来ねぇよ」

「はぁ? って、グハァァ!?」

 オベイロンの背後を何者が勢いよく斬りかかっている。その正体は……高杉晋助。彼は殺意に満ちた表情で、オベイロンをギロッと睨みつけていた。標的としてすでに定められており、静かなる衝動は対峙するオベイロンにも深く伝わっている。

「た、高杉晋助!? なぜ貴様が!?」

「決まってんだろ。テメェの末路を見に来ただけだ。けれどまぁ、ここまでしぶといとは」

「な、な、何をする気だぁ!?」

「俺が引導を渡してやるのさ。歯を食いしばれ」

 終始彼は体を震わせながら、鼓動が増々早くなっていく。折角生き残れた命を、目の前の天敵に仕留められようとしていたからだ。

 怪訝かつ恐ろし気な表情を浮かべるオベイロンに対して、高杉は不気味な笑みを浮かべながら淡々と事を進めていく。距離を縮めるにつれて、そろりと後ろ足を進めるオベイロン。気が付けば彼は壁際まで追いつめられていた。

「く、来るな! 良いか、来ると貴様も!!」

 窮地に陥ったオベイロンは辛うじて所持していたガイアキャリバーを振るって、抵抗を試みるのだが……

〈カキーン!!〉

「へ!?」

一瞬にして手元から離されていた。何が行ったのか当人も分かっていないが、恐らく高杉が自身の刀で弾き飛ばしたのであろう。いずれにしても高杉の異様な執念によって、オベイロンはもう抵抗する術すら消失している。

「これでテメェも終わりだな……」

「や、止めろ……止めてくれ! これ以上は!」

 彼は腰を落としており、そこから一切動けなくなってしまった。全身が恐怖に支配されてしまい、思わず現実から目を背けたくなるほど精神が弱体化している。眼前に立ちはだかるは刀を構えた高杉晋助。刀身を向けられた今、彼に待ち受ける運命はたった一つだ。

「さようなら。裸の王様よ……!」

「あぁ……ギァァァァァァァ!!」

 無残にも斬り捨てられること。高杉が力強く一刀した途端、オベイロンは反射的に大きく発狂。非常な叫びを上げながら死を覚悟している。

 数分後。高杉の前に広がっていたのは、オベイロンの死体――ではなく、失禁した彼の恥ずかし気な姿である。そう彼は、斬りかかる寸前でオベイロンにとどめを刺すこと自体を諦めていた。

「変わったよ。テメェは斬る価値すらねぇ。せいぜい自分の愚かさに苦しむこった」

 ほんの僅かな時間の中で変わったことは、オベイロンに対する認識。意地でも残酷な最期へ誘おうとしたものの、必死に命乞いをする姿から、生かした方が面白いと改めていた。一度の痛みを与えて死を与えるよりも、幾度の痛みで生き地獄を与える。彼が邂逅したフレイアやシウネーならば、しっかり罰を与えると察していく。結果的に命を拾われたオベイロンだが、彼に待ち受けるは悲惨な未来であろう。

 こうして高杉は刀を鞘へ戻すと、そのまま何事も無かったかのように場を跡にしている。ちょうど彼が世界樹を抜け出した時だった。

「晋助様!!」

「ん? なんだ、テメェらか」

 近くにて高杉を探していた来島、万斉、武市ら鬼兵隊の面々が到着。ミラーワールドに囚われていた同志達も全員帰還しており、これにて高杉がALO星でやり残したことが全て実現していた。

「鬼兵隊の同志は全てこの通り全員帰還したでござる」

「この件については万事屋達にも感謝しないといけないですねぇ」

「さぁ、晋助様。これからどうするっすか?」

 来島らは仲間達が帰ってきたことに嬉しさを感じており、少しばかりテンションも上がっている。勢いに余って高杉にこれからの目的を聞いてみると、彼はフッと笑った後に前方へと振り返っていた。

「決まってんだろ。行くぞ」

「はい! もちろんっす!」

 決して多くは語らずに前へと突き進む。信頼故に仲間達は自信を持って、高杉の跡を追いかけていく。大いに寄り道をしてしまった鬼兵隊だったが、本来の目的を達成させるために、またも宇宙中を放浪するのだ。

 密かに停めていた宇宙船へと戻る最中に、高杉はそっと小言を呟いていく。

「まぁ……楽しかったぜ」

 数時間前に共闘した銀時、桂、ユイらにも少しばかり感謝はしている。その想いが肝心の本人には届くことは無いのだが……。

 こうして全てを取り戻した鬼兵隊は、誰にも別れの言葉など告げることなく、ひっそりとALO星を跡にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 激闘から一夜が明けた今日。怪人達により荒らされたアルンでは、住人達が協力して町の復興作業に勤しんでいた。

「そう、そこ!」

「オーライ!」

「これ頼む」

「分かったわ」

 そこにはあらゆる種族、天人達が壊された日常を一早く取り戻すため、懸命に奮闘する姿が垣間見えている。町はまた違った形で人々の活気に満ち溢れていた。

 無論真選組や桂一派達も、地球へと戻る前にアルンの復興作業を手伝っている。万事屋一行も同じだ。

「みんな! 手伝いに来たよ!」

「おぉ! ユッキー! そっちは大丈夫アルか?」

「うん。僕達が任された場所は、もうすでに片付いたからね!」

 万事屋達が作業している世界樹の入り口付近にて、すでに片づけを終えたユウキが駆けつける。彼女は一段と元気を振る舞いながら、神楽やアスナらに話しかけていく。

「ねぇねぇ、アッスー。そっちはもう終わりそう?」

「うーん……もうちょっとかな。でも順調よ!」

「そっか! じゃ僕も手伝っていいかな? 人数が多ければ、すぐに片付きそうだからさ」

「もちろん! よろしく頼むわ」

「任して!」

 アスナから了承を貰ったユウキは、すぐに近くへ落ちていた箒を手に取り、一緒に付近の掃除へと勤しむ。戦いを通して絆を深めた二人は、すでに親しい友人関係に落ち着いていた。まだ込み入った話はしていないが、この掃除が終わればもしかするとするかもしれない。

「ママもユッキーさんもだいぶ距離が縮まりましたね!」

「そりゃ、アッスーは誰とでも仲良くなれるからナ! そうアルよな、キリ?」

「あぁ、そうだな。ちゃんと別人としてアスナは接しているからな」

 二人の仲睦まじい光景に思わず声を上げるユイと神楽。共に大きな安心感を覚えている。キリトもまたアスナの優しさ改めて実感していた。

 そう温かな雰囲気の中、新八がある吉報を持って仲間達の元へと戻っている。

「皆さん! どうやら明日にはもう地球へ戻れるみたいですよ」

「えっ? そうなんですか!?」

「はい! 真選組の皆さんが掛け合ってくれたみたいで」

「へぇ~。アイツらもたまには役に立つアルナ」

 彼が嬉嬉しく伝えたのは地球への帰還方法。どうやら真選組の面々が上層部に要請したところ、明日には専用の宇宙船が迎えに来てくれるらしい。はっきりと帰路への道筋が見えて安堵する一行だったが、ユイには一つだけ不安なことがあった。

「アレ? ちょっと待ってください。公的機関で帰るということは、桂さんやクラインさんはどうなるのでしょうか?」

「「「あっ」」」

 不思議そうな表情で呟くと、周りにいた仲間達もハッとなって気付かされている。真選組が用意した船ならば、桂、クライン、エリザベスは立場上乗車することは難しい。要するに彼らだけが地球へ帰還する方法がまだ見当たらないということである。

「まぁ……どうにかするんじゃないか?」

「流石のバカトリオでも、そう易々とお上の船に乗ることはあり得ないアル」

「うーん……ちょっと不安です」

 苦そうな表情でキリトや神楽が呟く。せめてクラインだけでも帰らせてあげたいが、真選組に正体がバレた以上は難しい。立場故のもどかしさを皆が感じ取っている。

 一難去ってまた一難を体感する万事屋一行だったが、そんな中で新八は銀時の行方が気になっていた。

「アレ? そういえば銀さんってどこに行ったんですか?」

「銀さんか? 確か階段付近を片づけているはずなんだが」

 キリトが辺りを見渡しつつ返答するも、先ほどまでいた場所に彼の姿はいない。不思議に感じたキリトらは、近くを隈なく探すことにしていた。するとその話を耳にしたユウキらも探してみると……あっさりと銀時の姿を発見している。

「ん? みんな! あそこにいるよ」

「本当だわ……こっちに来て!」

 ユウキは銀時のもじゃもじゃした頭部を見かけて、みんなに呼び掛けていた。彼は別の階段付近へ居座っており、てっきり掃除を真面目に行っていると思いきや……

「えっ? 銀さん?」

「いや、アンタ何をサボっているんですか!?」

あくびをしながらゆったりと休憩している。彼がいた周りにはまだゴミや汚れがまばらに散らばっており、掃除すらしていないことに皆が気付いていた。めんどくさがり屋な一面に皆が辟易としている中、銀時は相も変わらず気だるげな表情で皆と接していく。

「ふわぁぁぁ~。なんだお前らか。そっちは終わったのか?」

「まだに決まっているでしょ! ていうか、この数十分の間に、アナタは何をやっていたのかしら……!」

 食い気味にアスナがツッコミを入れて、銀時へ休んだ理由を問い詰めている。怒りから顔を強張らせる彼女だったが、当の本人は緊張感が無く、またもあくびをして思うままに返答していた。

「そう怒るなよ。どうやったら効率よく片づけられるか、こう時間をかけて考えていただけだからよ」

「だとしても時間がかかりすぎアル」

「言い訳はかっこ悪いですよ、銀時さん!」

 適当に言い訳を垂れ流すも、やはり仲間達には見抜かれている。神楽やユイが素直に指摘を入れると、銀時は先ほどまでの話を続けていく。

「まてまて、最後まで話を聞けって。長いこと考えを煮詰めた結果だな、俺はとっておきの方法を思いついたんだよ」

「着実に嫌な予感しかいませんが……それでとっておきの方法ってのは?」

 ただ無策に休んでいたわけではなく、常に効率化を考えていたことを主張する。それでも新八らからすれば、半信半疑なのだが。

 とそれはさておき、銀時の思いついた方法について皆が耳を傾けると、その突拍子の無さに全員が騒然としてしまった。

「こうすんだよ」

〈ヘイセイジェネレーション!〉

「はぁ!?」

「えっ!?」

 彼が腹部に付けたのは、ずっと所持していたアルヴドライバー。昨日までマッドネバーとの戦いを支えたかけがえのないアイテムである。薄々と嫌な予感を察していく一行は、念のため銀時へ使い道を聞くことにした。

「ぎ、銀さん? ま、まさか……」

「こうなったらライダーの力でも借りて、チャチャと終わらせようぜ」

「最低のやり方しようとしているんですけど、この人!! 敬意や慈悲とかアンタにはないのか!?」

 予想していた展開が浮き彫りとなり、新八は声高らかにツッコミを入れている。銀時の考え付いた方法は、ライダーを召喚して人手を借りること。要するに他力本願である。

「本当にライダーの力借りるの?」

「正気銀さん?」

「うるせぇな。アイツらだって言っていたろ、困った時はいつだって力になるって。だからこういう使い方も受け入れるだろ」

「拡大解釈しすぎアル」

 ユウキやアスナらからも心配されたが、銀時の意志に変わりはない。まったく悪びれることのない考え方に、神楽ら仲間達は存分に心を引かせている。何故彼がライダーに認められたのか? 今思うと謎ばかりが浮かんでしまう。

「俺もあんまりこの考え方には乗れないんだが」

「やっぱり止めておいた方が良いですよ、銀時さん!」

 やはり納得がいかずキリトやユイも、銀時の無茶な使用を止めようと試みる。それでもやっぱり真意は変わらなかったが。

「まぁ、なるようになれだろ。とにかく手伝えそうなヤツ、出てこい!」

 とアルヴドライバーを動かしつつ、彼は掃除を手伝ってくれそうなライダーを召喚しようとした。仲間達は皆心配そうな表情を浮かべており、銀時の様子をそっと見はっている。

 だがしかし……アルヴドライバーからの反応は一切なかった。

「アレ?」

「えっ? 何も起きない?」

 沈黙の後に聞こえてきたのは、銀時の拍子抜けした声。思い描いていた理想と異なり、つい彼は焦りを感じている。一方でユウキやアスナらは、恐れていたことが起きずに一安心していた。当選だが互いの温度差はかなり激しい。

「なんでだ。気合入れてやってんのに」

「どの口が言ってんだ……」

「ライダー達も邪なやり方は好まないんじゃないの?」

「素直に諦めた方が良いんじゃない?」

「いや、今度こそやれるって! よしっ! ここだ」

 新八らはライダー達が、銀時の下心丸出しな考え方を察して、アルヴドライバーを使えないようにしていると理解。良識なやり方に皆が感心している。一方の銀時は未だ諦めておらず、手探りでアルヴドライバーを操作していた。

 すると彼の背後に金色の扉が出現。とある平成仮面ライダーが、この現場に召喚される。

「よしっ! 誰か来たみたいだな」

 と喜びに浮かれる銀時に対して、仲間達の反応は異なっていた。それは納得できない有耶無耶とした気持ちではなく、強大な者に恐れる恐怖心を全身で露わにしている。表情もどこか引きずったものとなっている。

「えぇ……」

「ふへ?」

「えっと……」

「ん? どうした、お前ら。まさかとんでもなく強いヤツを召喚した反応か? こりゃ掃除が進むぜ」

 背後にいるライダーの正体へ気付くことなく、呑気にも頼ることに話を進めてくる銀時。戦々恐々とするキリトらとは違い、まだ事の重大さをはっきりと理解していない。

 そして遂に――その瞬間が訪れた。

「ほぉ……ライダーの力をこんな容易いことに使うつもりか?」

「ん? なんだ……って、グハァァァ!?」

 後ろを振り向いた直後に銀時は、何か強大な力の前に体を拘束されてしまう。それもそのはず。彼が召喚したライダーの正体は……オーマジオウ。全ての平成仮面ライダーの力を使える最高最善の魔王である。要するにライダーの頂点に立つ者など。どうやらライダー達は銀時の甘ったれた考えを矯正すべく、このチートライダーを召喚した様子である。冷静に考えればやりすぎな気もするが……それだけ安易な考え方は許さないと捉えるべきだろう。

「お前にはお仕置きが必要か? たるみ切った心を今叩きつけてやる!」

「ちょ、ちょっと待て! 上手くしゃべれないから、とりあえず解放してくれ!」

「どうかな? フッ!」

「アギァァァァ!!」

 オーマジオウは威圧感を露わにしながらも、銀時を空中で拘束したまま実力行使に移っている。聞く耳は一切持っておらず、意地でも反省させようと怒りを強めていく。

 現在銀時はオーマジオウの念動力で拘束されたままであるが、より一層苦しめられてしまい、悲痛な叫び声をまたも大きく上げている。

 返り討ちにあってしまい、なんだか可哀想にも思えてくるが……仲間達はまったく心配してなどいなかった。

「自業自得ね……」

「甘えた考えを思いつくから、自ら痛い目に合うネ」

「これで反省してくれると良いけど」

 アスナ、神楽、ユウキと女子達が思い思いに呟く。特にアスナは長いこと銀時の気だるさに付き合わされている経験から、一段と重いため息を吐いていた。

「このくらいで銀時さんは直らない気がします」

「良くも悪くもひねくれているからな……」

「段々と分かってきていますね、二人共……」

 一方でキリトやユイは全てを察したかのように、銀時の本性を声に出している。こちらも長く同居している関係から、そう簡単に性格が矯正しないと理解していた。同居故の考え方が根付いた瞬間でもある。新八も二人の考え方には素直に同情していた。

 しばらくはオーマジオウによって矯正されそうな銀時は気にせず、このまま付近の片づけを再開しようとする一行。そんな時であった。

「ワン!」

「ん? 定春? 何かあったアルか?」

 次に場へと駆けつけたのは万事屋の仲間である定春。彼は別の場所で片づけの手伝いをしているはずだが……何やら銀時達へ伝えたいことがあるらしい。

「ワフフ」

「ついてきてほしいんじゃないでしょうか?」

「誰が呼んでいるのか? 行ってみようか」

 定春のジェスチャーから、ユイは誰かに呼ばれていることを理解。掃除や片づけを一旦中断させて、彼の案内の元呼ばれた場所まで向かおうとする。

「おい、待てお前ら……アぎぁぁぁあ!!」

 銀時も共に行きたいところだが、現在はそんな状況ではない。またしてもお仕置きと称して、オーマジオウの念動力に随分と苦しめられていた。彼が解放されるのは一体いつになるのだろうか……。

 こうして皆がアルンの復興作業に身を投じる中、万事屋一行は呼びつけられたあの人の元へと向かうのである。




 と言うことで、戦いが終わった銀時達に待ち受けたサプライズ。まさかの本物の平成仮面ライダーが登場。勇猛果敢に立ち向かったキリト達に対して、固い握手を交わしていきました。実は握手したライダーとキャラも関係性がある組み合わせでまとめてみました。
 その一覧がこちらです。

クウガとユウキ
アギトとアスナ
龍騎とシリカ
ファイズと土方
ブレイドとシウネーら
響鬼と近藤
カブトとあやめ
電王と沖田
キバと銀時
ディケイドとシノン
Wと新八・妙
オーズとリーファ
フォーゼと神楽
ウィザードとクライン
鎧武と桂
ドライブとキリト
ゴーストと九兵衛
エグゼイドとリズベット
ビルドと月詠
ジオウとユイ

どうでしょうか?

 そして辛うじて生きていたオベイロンも、高杉によって完璧に打ちのめされました。このシーンはテレビ版の須郷と和人のやり取りを少しだけ意識しました。高杉もあえてとどめは刺さず、オベイロンを生きて苦しませる選択を取りましたが……これは賢明な判断だったと思います!

 またこれもサプライズとオーマジオウが登場! わざわざ銀時へ喝を入れるべく登場するとは、なんとも豪華な気がします笑

 それはそうと、桂とクラインらはどうやって地球に帰還するんだ……まぁ大丈夫でしょう。

 そして次回は妖国完結篇! マッドネバーの末路や復興したアルンをお送りいたします。投稿予定は5月下旬。さぁさぁ、お楽しみに!

次回予告

フレイア「アナタ達に伝えたいことがあります……」

マッドネバーの末路!

ユウキ「さぁ、楽しもうよ!」

アルン復活を祝う宴?

キリト「俺達で決めたことがあるんだ」

彼らが決めたこととは。

妖国動乱篇二十二 2026:最高のパーティー


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第九十六訓 2026:最高のパーティー

 歴戦を潜り抜けた妖精と侍達。戦いが終わった彼らに待ち受けるのは、新たなる決意の始まりか。そして今始まる激励を労う宴。祝え! アルンを救った最高のチームを!


 マッドネバーからアルンを守り切った万事屋一行は、現在全員が協力して街の片づけを手伝っている。皆があくせくして働き続ける中で、キリトらの元には別の場所で手伝いしていた定春と合流。彼の案内の元、とある場所まで移動していた。

「あっ、こちらです! 皆さん!」

「姫様!?」

「まさか私達を呼んだのって……」

 世界樹内にある案内所まで移動すると、そこにはフレイアが一行の到着を今かと待ちわびている。不意の再会に、ユウキや神楽らも思わず驚いてしまう。どうやら定春を介して万事屋一行を呼んだのは彼女らしい。

 フレイアは一行の反応を吟味しつつも、優しくキリトらへ話しかけていく。

「お待ちしておりました。案内ありがとうございますね、定春さん」

「ワン!」

「って、いつの間にか定春を手懐けている……?」

「只者じゃないですね、姫様は……」

 途端に彼女が定春の頭を撫でると、彼はまんざらでもない表情を浮かべている。あまりにも心地よさを感じて、つい心を許してしまったのだろうか。あまりの懐き具合の早さには、新八やユイも困惑めいた感情を露わにしていた。

 そんな反応など気にすることなく、フレイアは話を続ける。

「さて……急な呼びかけに答えてくださり、ありがとうございました」

「いやいや、姫様のご用とあらば僕はいつだって駆けつけるから!」

「そうですね……って、アレ? 万事屋さんはもう一方いませんでしたか?」

「そ、それは……」

 感謝の言葉と同時に彼女は、周りへ銀時がいないことに気付く。すかさずアスナが、銀時不在の件を答えようとした時だ。

「痛てて……俺ならここにいんよ」

「うわぁ!? びっくりしたアル!!」

「ぎ、銀さん……いつの間に?」

 彼らのすぐ後ろには、銀時が重苦しい表情で立ちすくむ。先ほどまでオーマジオウの念動力により、体全体を拘束されていたはずだが……いつの間にか解放されたようだ。それでも痛みはまだ残っており、まるで二日酔いをしたみたいにげっそりしている。

「な、何があったのですか……?」

 心配気味にフレイアが問いかけると、銀時は元気を失った声で再び返答した。

「何ィ……大したことねぇよ。ただ魔王のお仕置きを受けていた――ブロォォォ!!」

「えっ!?」

「ちょっと! 何やってんのよ!!」

「アンタ、最後の最後で何を吐いているですか!!」

 すると何の前触れもなく銀時は、顔をうつむかせた後に周りへ構うことなく、口から激しく嘔吐している。その勢いはすさまじく、あまりの変貌ぶりにキリト、アスナ、ユイ、ユウキ、フレイアの五人はドン引き。新八は久しぶりに激しいツッコミを繰り出す。そして神楽は違った形で思わぬ影響を被ってしまった。

「うわぁ、気持ち悪――ブロォォォ!!」

「いや、なんで神楽ちゃんまで吐くの!! そんな兆候無かったでしょ!!」

「ブロォ! きっと食当たりネ……今日の朝飲んだコーヒーがきっと原因アル」

「絶対違うでしょ! 原因はすぐ横にいるバカのせいだから!」

 匂いに影響されてか、神楽も銀時と同じで容赦なく嘔吐してしまう。新八に心配されてもなお、神楽の嘔吐は一切止む気配は無かった。さらには彼女の仲間達にまで、一抹の不安を与えることになる。

「コーヒー!? 私、飲んじゃいましたよ……」

「それを言うなら僕もだよ! まさか僕まで嘔吐しちゃうの!?」

「落ち着けって、みんな! かく言う俺も飲んだけど、全然気持ち悪くはないぞ」

「超迷惑かけているんですけど! 姫様やユッキーさんまで心配かけてどうするの!?」

 銀時や神楽の吐き様や証言から、フレイアやユウキも同じような目に合うのではないかと焦燥に駆られていた。キリトまで反射的に説得へと加わり、事態は思わぬ方向へと傾いている。

「おい、ここで合っているか」

「騎士団の伝手を辿って、俺達に何の用だよ?」

「あの……私達まで呼ばれたけど」

「一体何の用かしら?」

 一方でちょうど同じ時間、万事屋と同じくフレイアに呼ばれた真選組とシリカ、リズベット、リーファ、シノン、フィリアの女子達が現場に到着していた。一行は揃って何の用で呼ばれたのか分からず、早々に近くへいた仲間達へ問いかけようとしたが……

「「ブロォォ!!」」

「だからせめて、トイレに移動しろって!」

「ごめん、キリト君……しばらく地べたに座らせて」

「アスナ!? おい、大丈夫か!?」

「無理しちゃ、ダメだって! アッスー!!」

明らかにバツが悪い。目の前にて広がるは、嘔吐をきっかけに混乱する万事屋やユウキの慌てふためく姿。銀時や神楽は依然としてうつむいたまま、さらにはその匂いに悪寒を覚えたアスナが気分を悪くする始末。

傍から見ればカオスな光景がそこに広がっていた。

((((何が起きてんの……!?))))

 理由を知らないシリカやリズベット女子らは、内心で大いに困惑。苦い表情を浮かべたまま、今はただ立ちすくむしかない。

「ありゃ、旦那のせいですねぇ」

「間違いないな」

 一方の真選組はすぐに銀時の仕業だと断言。長い付き合いからすでに確証を得ている。もしかすると、消去法で選んだのかもしれないが……

 こうしてフレイアの呼び出した仲間達が集結したものの、場が収束するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「部屋は変えてもらいましたが……本当に大丈夫ですか?」

「平気ネ。でも吐いた分お腹が空いたから、せめてハッピーターンを食べたいアル……」

「厚かましいにもほどがあるだろ」

 部屋を変えて早々、厚顔無恥な態度をとる神楽にツッコミを入れる新八。ここに至るまでの苦労を考えると、粛々と怒りがこみあげている。

「元はと言えば銀さんが悪いんだからね! あんな簡単な掃除、力を借りなくてもやれるでしょ?」

「うるせぇな……何事もノリとテンションが大事って言うだろ」

「銀時さんはそのセンスがずれているんですよ!」

「ユイの言う通りのような……」

「勝手に賛同するな、テメェら」

 一方でアスナが入念に注意を加えるも、銀時はたらたらと否定。言い訳を羅列するも、ユイによってすぐ論破されてしまう。これにはキリトも納得していた。

「って、もうその話は良いから!」

「そうだぞ! 今は姫様の話が先決じゃねぇか」

 そんな話をまだダラダラと続けているうちに、近藤やリズベットが万事屋一行を一喝。さっさと要件に進むよう促していく。

「分かったから」

 グダグダと続いていた無駄話もようやく落ち着き、話題はいよいよフレイアの一件に移り変わろうとしていた。

「それじゃ、姫様。みんなも集まったことだし、例の話をよろしく!」

「やっとですね……では、皆さん。改めてアルンを救ってくださりありがとうございました。アナタ達の協力が無ければ、きっと今頃あの男が好き放題していたことでしょう」

 ユウキが声をかけると同時に、フレイアは改まって銀時やキリトらに話しかける。まずはマッドネバー壊滅へ協力してくれたことへ感謝を伝えていた。

「だな。俺達だけじゃなくて、力を貸してくれたライダー達にも感謝を伝えておけよ」

「はい、もちろんですよ」

「アンタがそれを言うのか」

 気をよくして銀時が言葉を発するも、先ほどまでの所業を鑑みるとあまりに都合が良い。新八もついツッコミを入れている。

 そんな軽口はさておき、一行はフレイアの話に自然と注目を寄せていく。

「さて、皆さんを集めたのは他でもありません。アナタ方にマッドネバーの処遇について、お伝えしたいので。つい先ほどその対応が全て終わりましたので」

「えっ? そうなの?」

「随分と対応が早いな。一日も経っていないぞ」

 彼女の口から語られたのは、マッドネバーの対処について。組織を壊滅させてから早一日で、関係者の対応を全て終わらせたと言う。あまりにも手早い対応には、リーファや土方を始め仲間達は大いに驚かされていた。フレイアを始め、王族関係者が本気を出していると見て間違いないだろう。

「それくらい、姫様達が怒っているってことさ!」

「まぁ、気持ちは痛いほど分かるけどね」

 ユウキの強い気持ちにフィリアもすかさず納得していく。自身の故郷を無茶苦茶にした相手ならば、怒らない方が無理だろう。

「その通りです。では、皆さんに内訳をお話ししますね」

 話はとんとん拍子のように進められていき、フレイアは詳しい処遇について一行へ簡略的に伝えていく。

「まずはマッドネバーの構成員について。彼らは襲撃前には、もう鏡の世界に囚われていたと報告が上がっています」

「えっ? 仲間なのに幽閉していたの?」

「そのようですね。利用するだけ利用して、反撃する可能性がある者は排除したと思われます」

「今更だが、自分勝手な野郎だな」

 マッドネバーに賛同していた妖精達だが、彼らはこの戦いが始まる前からすでに鏡の世界に閉じ込められていたという。所謂オベイロンの策略であり、あまりの自分勝手さにはシノンや土方も苦言を呈していた。

「構成員については随時調査を進めていますが、テロに加担した罪で全員にそれなりの罰は与える予定です」

「これは……妥当だと思います」

「そうアル。仮にもオベイロンにきょうりょくした奴らネ。しっかりと反省するヨロシ」

 構成員に関しても何かしらの罰は与える様子で、これにはシリカや神楽らも納得している。例え幽閉されていたとしても、国家転覆に加担した面々。反省の念も込めて、罰は与えるのは当然だろう。

「次はダークライダーの変身者についてですね。夜兎である野卦と亜由伽、辰羅である唖海と宇緒の計四名は、真選組へ引き渡すことになりました」

「えっ? 近藤さん達が引き取るか?」

「まぁな。こいつらはベルトを手にする前から、宇宙中で暴れまわっていたならず者でさぁ。余罪や加担した他の夜兎や辰羅もいるかもしれないんで、一旦預かることにしたんすよ」

「こいつらだけはALO星の部外者だからな。明日とは別の便で地球へ送ることになったんだよ」

 フレイアに続き、沖田と土方が続けざまに声を上げる。変身者に関しては余罪を追及するために、真選組がその対処を任せられたという。スムーズに他の星々の公安にも引き渡す予定となっているが、もう一つ彼らにはある狙いがあったのだ。

「それにあの夜兎共を追及すれば、キリト君達が追っているサイコギルドにも近づけるかもしれんからな」

「確かにそうですね……」

「意外とアタシ達のことを考えてくれているのね」

「意外とは余計だよ」

 珍しい気の利かせ方に驚きを覚えるユイやリズベットら。キリト達を始め、やはり驚きを隠せない様子である。彼らをこの世界へ送った張本人、マッドネバー。図らずとも野卦達とは大いに関係があり、真選組の面々は彼らを問い詰めてその正体を具体的に暴こうとしているのだ。

「おいおい、どういう風の吹き回しだよ。まさか後で金でも請求するんじゃあるまいな?」

「んなわけねぇだろ……仕事の次いでに問い詰めるだけだ。ボケがぁ」

 異様な優しさに違和感を覚えて、つい疑ってしまう銀時。嫌そうな表情が鼻に付き、土方は苛々しながらも静かに事を呟く。

 と夜兎達の対応が話終わると、最後にフレイアはマッドネバーの張本人……オベイロンらについて話していく。

「では、最後に組織の長であったオベイロン。そして内通者であったシグルドの判決についてお伝えしますね」

「あぁ、あの二人か」

「二人に関しては、より一層重い罰が下っているからね……」

 ユウキが苦笑いで目線を横に向ける様子から、オベイロンやシグルドの判決は相当なものと見て間違いないだろう。皆が息を飲みつつ、二人の行く末に注目を寄せていく。

「シグルドに関しては情報の流布、度重なるスパイ活動が発覚したため、シルフ領の投獄所でしばらく働かせることにしました。そしてオベイロンについては……反省の色が全くなく自分勝手、構成の余地など見えず、より一層重い最下層での牢屋に閉じ込めることにしました。まったく色々と大変でしたよ」

 彼女の口から語れた二人の刑罰。シグルドはまだ優しい方であり、オベイロンに関しては慈悲もない決断である。補足を入れると、星やアルンを混乱に陥れ、非人道的な技術で人々を苦しめ続けた時点で、もうその未来は決まっていたのかもしれない。このフレイアの決断に一行の反応はというと、

「妥当だな」

「当然アル」

「だと思った!」

「仮にもテロリストだからね。それくらい厳罰化しないと!」

「結局元の世界のアイツと、同じ末路を辿ったのか……」

概ね肯定的であった。シグルドに関してはあまり反応が無く、むしろヘイトを買い続けたオベイロンに各々が反応を示していく。特にキリトにとっては、元の世界で対立した須郷とその末路を照らし合わせており、両者共最後まで改心することが無かったことに憤りを覚えていた。別人とはいえ、やはり根本の部分は変わらないのかもしれない。

 とそれからも話は続いたが、後は被害状況や修復にかかる点などを簡潔にまとめていた。教会と言った大きく破損した建物は除き、八割方は今日一日で修繕が終わるらしく、これも銀時らが手伝ってくれたおかげらしい。

「いやぁ~照れるな」

「って、アンタは途中から何もやっていなかったでしょうが」

 気をよくした銀時に、新八が本音を込めたツッコミで返していたが。

 とそれはさておき、真面目な話が一通り終わると、フレイアは顔色を変えて今度は明るい話題を挙げていく。

「さて……! 話すべき内容は大方終えましたし、後は今日の夜の予定をお話しますね」

「今日の夜って……何かありましたか?」

 ユイが問い直すと、フレイアは一息ついてから返答していた。

「祝賀会ですよ。言い直すならば……打ち上げですね!」

「祝賀会……? 打ち上げ……?」

「急にか」

 明らかになったのは、片付けが終わった後に開催される祝賀会と言う名の打ち上げ。アルンの片付け具合を見て、フレイアが急遽思いついたイベントのようだ。突飛な提案にユウキ以外の全員が、つい反応を困ってしまう。対するフレイアはだいぶノリノリであるが。

「そうですよ! なんたって民達全員で祝えるのですから。復興を祝った大事な祭りにしたいのです」

「……でも、いくらなんでも早すぎじゃないかしら?」

「まぁ、ウチの姫様は何事も迅速にが第一だから。そんな珍しいことじゃないんだよ」

「そうなんだ……」

 ユウキ曰く、この手早い対応はこの星ならではのこと。本人らは何一つ不自然に思っていなかった。

 と最初こそ戸惑っていた万事屋一行であったが、徐々にこのフレイアの提案に納得していく。

「でもまぁ、良いんじゃないのか。たまにはよ」

「そうだな。色々と疲れたし。こうやって新たな平和を祝うのも良いかもな」

 銀時、キリト両者が好意的に発すると、仲間達も静かに賛同している。

「じゃ、夜の祭りに向けてラストスパート! このまま片付けも頑張っちゃおう!」

「「「オー!!」」」

 ユウキが勢いよく腕を上げて、つられて仲間達も声を上げていく。新しく出来た楽しみに向かって、一行は中断していた掃除にまた取り組む。もちろん自分達の力で。

「また魔王にどやされたら、溜まったもんじゃないからな」

「だからそんなことで頼るなって」

 

 

 

 

 

 

 

 掃除や片づけへ取り組むうちに、時刻はすっかり夕方から夜に差し掛かっていく。フレイアの読み通り、アルン全体の清掃は民や万事屋達のおかげでほぼすべてが片づいている。大きな被害を受けた建物も、復建に向けてその見通しが立て始められていた。

 そんな一日の苦労を労うが如く、急遽開催されることになった復興のお祭り。世界樹真下の広場にて 王族関係者、騎士団、アルンの民達、各地の領主、そして銀時やキリトらいつもの面々が集結していく。

 場面が喜々とした雰囲気に染め上がろうとする中で、フレイアが中止部にて登壇。騎士団に守られながらも、開催の挨拶を交わしていく。

「それでは、皆さん! 今日一日お疲れさまでした。皆さんの協力のおかげで、アルンはここまで復元することが出来たのです。まだまだ直すべき場所はありますが、今後完全に戻るよう頑張りましょう! では新たな平和を願って……この祝賀会を開催します!」

「おぉぉ!」

「おめでとう!」

「お疲れ!」

「まだ頑張ろうぜ!」

 彼女の言葉と同時に、次々と発せられる感謝の言葉。種族も所属も関係なく、この祭りに参加している全員が互いの頑張りを称え合っていた。これこそがフレイアの臨んだ平和への一歩なのかもしれない。民達の嬉しそうな光景に、彼女はそっと微笑みを浮かべている。

 と祭りならではの料理やドリンク、お酒類をたしなみながら、銀時達も各々が存分にこの祭りを楽しんでいく。

 

「あんだよぉ。アタシの酒が飲めねぇってのか?」

「いえ、そんなつもりじゃ」

「遠慮はするなしぃ~。さっさと主も飲めやぁ、ゴラァ」

「だ、誰か助けて……!」

 左右を酒好きのノリ、酒乱の月詠に取り囲まれて必死に助けを求めるタルケン。身の危険を感じていたが、傍から見ればただの酒の席。誰の目にも心配がられることなく、彼はただ酒の酔いに飲み込まれてしまう。

 

「お妙さん!! ぜひ俺とこの祭りを楽しみま――」

「ゴリラは動物園に戻りやがれぇ!!」

「グハァァ!!」

 開催早々に近づいてきた近藤に対して、ストレートなパンチを繰り出す妙。あまりにも乱雑な扱いだったが、横にいたシウネーは妙の度胸を大いに称えていた。

「なんたる根性……これが地球の乙女なのですか!」

「そうね。貴方にもきっちり教えてあげるわよ」

「はいです!」

「いや、待ってくれ……」

 褒められて気持ちをよくした妙は、シウネーを連れて二人で酒を飲もうと企てている。喜ぶシウネーを尻目に、近藤はただ立ち上がれずに嘆くしかなかった。

 

「はぁ!」

「おうネ!」

「ウグッ!?」

「何!?」

 一方でたまと神楽は、腕相撲を申し込んできたテッチやエギルと交戦。長く続いた力勝負も、二人の踏ん張りによって勝敗を喫していた。勝者は紛れもなく、たまと神楽である。

「いや~相変わらず強いわね、二人共」

「もちろんアル! この私がむさい男共に負けるはずがないネ!」

「私はカラクリですので、あまりこういった勝負は好まないのですが……エギル様やテッチ様の気持ちを考慮して、本気で行かせてもらいました」

「いや、アンタらが本気を出したまずいから……」

 カラクリ故に生真面目な態度をとるたまに、リズベットは苦笑いを浮かべたままツッコミを入れている。二人の底力を事前に知っている分、その恐ろしさについ気を引かせていた。

 一方でエギルとテッチは、顔を合わせつつ共にまだ諦めていない様子である。

「まだ、やれるか?」

「もちろん! 今度こそ二人に勝つぞ!」

「俺もだ! さぁ、来い!」

「おっ! また受けてたつアル!」

「お任せください」

「ちょっと二人共! あまり困らせないようにしなさいよ!」

 互いに気持ちを鼓舞しながら、踏ん張りを見せつけていく。どうやら自分が納得するまで、まだまだ諦めないとのこと。二人の強気な想いを汲み取って、神楽やたまは再び腕相撲へと挑む。そんな四人の光景を、リズベットはまた見守るのであった。

 

「ほーら、美味しいですか?」

「ナー!」

「ワフフ!」

 そしてこちらは、ペットたちに餌を与えているシリカ。細かく刻んだフーズを、ピナと定春に与えている。両者共まんざらでもない笑顔を見せつけていた。

「あら、シリカちゃん。ピナ達に餌を与えているのかしら?」

「アスナさん! そうですよ。ピナだけじゃなくて、定春もじゃれついてきているんですよ」

「ワフフ~」

 場にはアスナも駆けつけており、彼女は定春とじゃれ合うシリカの姿に驚く。日々ピナと接するシリカだからこそ、動物とのふれあいにも長けているのだ。

とそこに、もう一体のペットが近づいている。

[だったら俺にもくれ]

「ん? うわぁ!? びっくりした!?」

「エリザベス……?」

 唐突に現れたのは、桂のペットであり相棒のエリザベス。彼はシリカに向けて餌を求めていたが、その意志として口から人間の片腕が差し出されている。中の人を彷彿とさせる一場面だが、傍から見ればただの恐怖映像でしかない。

「腕? どういうこと?」

「私にも分からないわ……どうなっているの?」

 両者共心からドン引きしており、どう反応すべきか悩んでいる。定春やピナも不思議そうに顔を傾げており、しばらく摩訶不思議な雰囲気が場に流れ込んでいく。

 

「どぅ? 楽しんでいる? って、うわぁ!? 何これ?」

「マヨネーズかけてんだよ。どいつもこいつも少なめに盛りやがって」

 土方へと話しかけたアリシャであったが、彼女は土方の作る土方スペシャル(別名、犬の餌)につい驚いてしまう。皿に盛られた料理を覆いつくすほどの大量のマヨネーズ。未知なる光景を目にして、少なからず興味を持っている。

 すると場にシノンも話に割り込んできた。

「この人重度のマヨラーなのよ。大盛にしないと気が済まないみたいで」

「へぇー、そうなんだ。でもなんか……良い感じかも!」

「へ?」

 きっとドン引きしていると思って話しかけたシノンだったが、アリシャの好意的な反応にはつい言葉を詰まらせてしまう。どうやら彼女は、土方スペシャルにただなるぬ興味を持ち始めている。

「おっ、分かってくれるじゃねぇか。お前もかけてみるか?」

「うん! 興味が湧いたし、やってみるよ!」

「……噓でしょ。こんな偶然のあるのね……」

 事態を上手く飲み込めずに戸惑うシノンを尻目に、アリシャは土方のマヨネーズ作法を学んでいた。あらゆる衝撃が降り注いだ一場面である。

 

「地球の侍とは、随分面白い奴らだったな。どうだ? 我がシルフの配下として所属してみないか?」

「いいや、俺は興味ねぇしパスで。それよりここに置いてある料理、なんで小豆ないんだよ。宇治銀時丼、作れねぇじゃねぇかよ」

 興味深そうに銀時をシルフへ勧誘するサクヤだったが、銀時本人は食べることに集中していた。土方の時と異なり、近くには好物である小豆やそれに似た食材も無いので、大変困っている。銀時のマイペースさに驚くサクヤだったが、そんな彼女の元にあやめが怒り散らしながら話しかけてきた。

「ちょっとアンタ! 色仕掛けを使って、銀さんを誘うの止めてもらえるかしら!」

「ん? どうしたんだ、君は? まさかこの侍の彼女さんか?」

「そうよ! 私は銀さんと切っても切れない恋仲――」

「ただのストーカーがしゃしゃり出るなよ!」

「グハァ!?」

 意気揚々と彼女宣言をしたあやめだったが、すぐに銀時から激しいツッコミが繰り出されてしまう。誤解が生まれる前に止められて銀時は一安心していたが、あやめはまたしても否定されて内心で小さく嘆いていく。

「ストーカーとは?」

「気にするな。こいつの別称だよ」

 サクヤからすれば二人の関係は未知数であったが、少なくとも友達以上恋人未満と把握している。これが合っているのかは、些か疑問ではあるが。

 

「おい、ユウキ君!」

「ん? 君は確か九兵衛さんだっけ?」

「そうだ! 僕と……僕っ娘を懸けて勝負しろ!」

「……はい?」

 町人達と会話を楽しんでいたユウキの元に、突然勝負を持ち込んだのは九兵衛。彼女は僕っ娘に相応しい者を決めるため、ユウキと戦いたいようだ。申し込まれた側にとっては、迷惑この上ないが。

「えっと、九兵衛さん? つまりは僕と戦いたいってことかな?」

「そうだ! 真の僕っ娘がどちらなのか、白黒付けようじゃないか!」

「……普通の勝負なら良いけど、僕っ娘云々は違うかな? だって、そんな珍しいものじゃないでしょ?」

 真っ当な勝負を望む九兵衛だったが、対してユウキは苦笑いで本音を口にしている。志が大いに異なり、温度差が鮮明に滲み出ていた。

 異様な執着心を見せる九兵衛の姿に、近くで見ていたユージーンもつい感心している。

「フハハ! 随分と血気盛んなお嬢さんだな。俺と勝負してみるか?」

 と彼が九兵衛の肩に手をかけた時だ。

「うわぁぁぁ!! 僕にさわるなぁぁあ!!」

「ぐはぁぁぁ!?」

 反射的に彼女がユージーンの腕を掴み、力づくのまま投げ飛ばしてしまう。無抵抗だったユージーンは、そのまま近くの壁まで叩き潰されていた。

「す、凄」

 一部始終を見ていたユウキも、これにはつい言葉を失ってしまう。

 

「ほーれ、料理盛ったんで食べやすかい?」

「いいや! だって沖田さんが優しくするの、どう考えたって裏があるんだもの!」

 そしてこちらは、リーファへと話しかける沖田の場面。どうやら彼が盛った料理をリーファへ譲ろうとしたが、案の定信頼が無いために彼女は疑っている。

 すると彼らの元にユイが駆けつけてきた。

「どうしたんですか、リーファさん?」

「あっ、ユイちゃん! 何か沖田さんが急に優しくしてきたのよ。これって裏があると思うわない?」

「確かに怪しいです」

 リーファの気持ちはユイも重々承知しており、二人揃って沖田を睨みつけていく。不利な雰囲気を察してか、沖田は不満そうな表情で自分から動いている。

「そんなに俺って信用無いんですかね。試しに食べてみやしたが、何もないでっせ」

 試しに自分から食事を口にして、手を一切加えていないことをアピールしていた。彼の行動には、リーファらも素直に信じ込もうとする。

「一回信じてみてはどうでしょうか?」

「そんなに言うなら……」

 迷いはあったものの、そこまで変な仕込みは無いと括り、リーファは思い切って皿にあった料理を口にしていた。すると瞬く間に、

「うっ! くはあぁ!?」

「リーファさん!?」

口の中が経験したこともない辛さで満たされてしまう。無論これは沖田が仕込んだことで、リーファを誘導するが如くすでに策を打っていたのだ。ただただからかうためだけに。

「ありゃ……結局騙されちゃいましたね」

「沖田さん……って!!」

「今回は裏が無いと思ったのに……」

 激高したリーファは周到に沖田を追いかけ、肝心の本人は何食わぬ顔で人ごみの中に紛れていく。ユイは苦い表情で事の顛末を嘆いていたが。戦いが終わってもなお、二人の印象に変わりは無かった。

 

「アレ? 何やってんだ」

 祭りを楽しむ中新八が目にしたのは、桂とクラインがジュンと仲良く交流する光景。珍しい光景を不思議がりながら、彼らの会話にそっと耳を傾けている。

「ハハハ! 君の活躍ぶりは重々に知りえたよ」

「おっ! 分かっているな、二人共!」

「本物の侍が言うんだから間違いないぞ! ところでどうだ? お前も攘夷志士にならないか?」

「攘夷志士……? それも侍の名前か?」

 てっきり互いの戦いを健闘していると思いきや、途中から勧誘へと話題がすり替わっていた。突飛な会話の変更にジュンは気付いていないが、近くで聞いていた新八は桂達の真意をしっかりと見抜いている。

「って、アンタら何を勧誘しているんですか!!」

 すかさずにツッコミを入れに割り込み、ジュンへ桂達の真意を話したのであった。

 

「へぇー、そうなのか。期間は短かったけど、フィリアも変わっていったんだ」

「そうだね。私のトレジャー趣味に共感できる人も出来たし、いざという時に備えて戦闘の実力も高めていたからね。まぁ、実践だと全ては上手くいっていなかったけどね!」

 そしてこちらは、フィリアに起きた話を適宜聞いているキリト。次元遺跡からALO星に帰還した後、フィリアは自分の出来ることを精一杯取り組んでいたという。新たな仲間と交流を交わしたり、自身に足りない戦闘力を補ったりと充実した日々を過ごしていたという。本人は謙遜としているが、キリトはフィリアの努力を素直に称えている。

 すると二人の会話に、近くを通りすがったフレイアが話しかけてきた。

「アナタにも随分と助けられました。本当にありがとうございました」

「ん? ひ、姫様!?」

「い、いつの間に……?」

 予想だにしない人との接触に、つい声を上げてしまうフィリア。自身の立場上、こんな機会はそうそう訪れるはずがない。本人が何を言うべきか戸惑っていると、フレイアはそっと優しく話しかけている。

「盗み聞きして大変申し訳なかったですが、アナタも大変苦労されているのですね」

「い、いや~他の人達に比べたら、私の悩みなんて小さいものですから」

「そんなことはありませんよ。何か困りごとがあれば、私達にお申し付けください。出来る限りのサポートはしますから」

「姫様……! ありがとうございます!」

 あまりにも心強い言葉を聞き入れ、つい頼もしく感じているフィリア。思わずフレイアの両手を握り、盛大に感謝を伝えている。一方のフレイアも民の喜ぶ姿に、安堵の表情を浮かべていた。

「こんなにも人に寄り添える姫様なら、ALO星も大丈夫だろうな」

 横で様子を見ていたキリトも、フレイアの優しさに一安心している。彼女ならばこの星も任せられると、しみじみと理解していた。

 こうして新たな交流を深めつつ、祭りはゆったりと進められていく。

 

 

 

 

 

 

 祭りも順調に進んでいき、いよいよ佳境へと差し掛かろうとした頃。ユウキとアスナは広場の外れにおり、夜の空を眺めながら自身の過去の話に花を咲かせていた。

「それでさ、どっかの星の皇子が放ったモンスターが砂漠で暴れまわって、みんなと協力してやっつけたんだよね。思えばあれが、僕達の始まりだったかもしれないね~」

「そんなことがあったのね。ねぇ、ひょっとしてその皇子ってハタ皇子?」

「そう! って、なんで知っているの!?」

「私が会ったことがあるからね。あの人、他の星でも迷惑なことしていたのね」

「何年経っても、同じことしているんだねぇ~」

 意外な共通点を知り、ついクスっと笑ってしまう二人。可笑しさを感じて、つい場は和んでいる。話している話題は日常的な出来事、これまでに自身が戦った経験、仲間との友情や滑稽な話と、思いつく限りのことを次々と語っていく。

 時間を忘れるほど会話を交わすユウキとアスナ。ある話が一段落したと同時に、ユウキが込み入った話をアスナへ打ち明けていく。

「ねぇ、アッスー。ちょっといいかな?」

「ん? どうしたの、ユッキー?」

「大した話じゃないけど、改めて僕と友達になってくれるかな? もっとアッスーのことを知りたいからさ!」

 照れくさい表情のままユウキは、改めてアスナに友達として情を結ぼうとしている。戦いもあって有耶無耶となっていたが、ユウキは当初アスナに本当の自分をさらけ出すことに抵抗を覚えていた。事前にアスナが知るユウキ(SAO)の話を聞いていたからである。

 そんなユウキの一言を聞き、アスナはきっぱりとした表情で事を返していく。

「そう改まらなくても、私達はもう友達よ。ユッキーはユッキーって、しっかり見ているんだから。地球に戻ったとしても、交流をもっと深めましょう。ユッキー!」

「アッスー……ありがとう! それじゃさぁ、手紙でやり取りしようよ! あっ、そうだ。折角だし、アッスーの知っているユウキの話も聞きたいな!」

「はいはい、そう急かさないの。一つずつゆっくり話しましょうよ」

「うん、うん!」

 アスナから友人として認められて、つい嬉しさを態度に表すユウキ。浮かれた彼女は無邪気さを振る舞いながら、突発的に思いついたことを話していく。アスナはそんなユウキの姿に既視感を覚えつつ、彼女との会話を楽しむのである。

 例え離れようとも、積極的な交流を続けていく。奇跡的に巡り合った縁を、二人は今後とも大事にしようと考えていた。

 そんな微笑ましい光景に、銀時、キリト、新八、神楽、ユイ、定春の万事屋の面々も、遠目からしかと見守っている。

「なんだか順調そうで安心しましたね」

「そうアル。アッスーも、この世界のユッキーともっと仲良くなれそうネ!」

 新八、神楽も元気そうなアスナの姿が見れて何よりだと感じていた。一行が温かく見守る中で、ユイとキリトは銀時にある決意を伝えている。

「あっ、そうです! 銀時さん! 一つよろしいでしょうか?」

「なんだよ。急に改まって」

「大した事じゃないよ。このアルヴドライバーの件だよ」

 そう言ってキリトが見せてきたのは、戦いにて散々お世話になったアルヴドライバー。二人は今後の運用方法について、アスナやユウキと相談してある一つの結論を導いていた。

「俺やアスナ達と勝手に決めたんだが……これは俺達で管理した方が良いと思うんだ」

「元をたどればマッドネバーが開発した兵器かもしれませんが、同時に私達を救ってくれた大切な代物だと私は思っています。だからこそ、今後いざという時に備えて、大切に保管した方が良いと思うんですよ。ユッキーさんやフレイアさんも勧めてくれましたから!」

 それは簡潔にまとめると、所有者を万事屋が管理すること。いつの未来かは分からぬが、このライダー達の力が必要になる日はあるとキリトらは見込んでいる。すでにユウキ達とは話も付けており、後は銀時らの反応次第であった。

 この結論に銀時ら三人も概ね納得している。

「なるほどな……まぁ、良いんじゃないか。俺は別に構わないぜ」

「僕も同じですね」

「私もアル! どうせ普段じゃ使えないし、やっても銀ちゃんみたくボコボコにされるのがオチネ!」

「あんだとゴラァ? アレはただ運が悪かっただけだよ」

 神楽のからかいには、銀時も反射的に言い訳をぶつけていたが。

 万事屋の好意的な反応には、ユイやキリトも一安心している。

「とりあえず、了承を貰えてよかったですね。パパ!」

「そうだな。随分と長い回り道になったけど、きっと俺達の最終的な目標には繋がっているはず……だよな」

「絶対繋がると思いますよ!」

 この経験も最終的な目的に繋がればいい。この星で経験したことや出会いは、きっと今後対立するであろうサイコギルドとの戦いにも役立つと、二人は密かに感じ取っていた。

 しみじみと物思いに更ける中で、突然万事屋一行を発見したユウキが元気よく声をかけてくる。

「あっ、みんな! 折角だからこっち来て! アッスーとユウキの武勇伝が聞けるみたいだよ!」

「って、ユッキー! 変にハードル上げないでって!」

「おぉ! それはマジアルか!」

「素直に聞こうじゃねぇか」

「だな。二人共! 俺達も話に混ぜてくれよ!」

「ワン!」

 彼女の謳い文句に惹かれていき、万事屋一行は揃って二人の元へと駆け寄っていた。一行は仲睦まじく、過去の思い出話を次々と披露していく。

 

 こうしてALO星で繰り広げられた戦いは、この日をもって終結したのであった。新たに紡がれた絆をしっかりと胸に刻み、万事屋達は次の日には、帰還用の船で元いた地球へと戻っていたのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ALO星にて盛大な祭りが開催されている一方で、地球にある山の奥ではあの組織が秘密裏に話し合いを行っている。

「平成の記憶は全てこの玉に抑え込んだ。平成に続き二つ目だな……アンカーよ。試しにお前の笛の音色を聴かせてみろ」

「分かったよ」

 その正体はもちろんサイコギルド。彼らはとある計画を遂行させるために、誰にも気づかれることなく着々と準備を進めている。

 現在一行が所持しているのは二つの濁った玉。前回呼び起こしたショッカー関連の騒動で生成した昭和の記憶が詰まった玉と、今回の暗躍で作り出した平成の記憶が詰まった玉の二種。今後の計画に必要な代物であり、シャドームーンは試しにアンカーへ演奏を持ち掛けている。

 するとアンカーは彼の指示に従い、彼女の武器でもある特殊な三つ槍を口元に近づけていた。この槍は管楽器としても使用可能であり、アンカーはフルートを奏でるが如く手慣れた手つきで音色を奏でていく。

〈キィィィ! キィィ!〉

 何とも言えない不協和音。聞く者に恐怖を与える邪悪な音が辺り一面に響き渡っていた。すると玉は何の前触れもなく霧を放出し、その中から数十体の人影が出現する。

「イィィィ!」

「ギィィ!」

「ウゥゥ!!」

 人影の正体はなんと戦闘員の大群。ショッカー戦闘員、コンバットロイド、ライオトルーパーにカッシーン。かつて銀時やキリト達が、夢の中やALO星で撃退したはずの怪人達が呼び出されていた。これも実はシャドームーンが生成した玉と、アンカーの奏でた音色が大いに関係している。

「フッ、見事だ。お前の恨みを込めた音色さえあれば、きっと我が組織の計画は成功するだろうな」

「……これが玉の力なの?」

 アンカー自身も初めて玉の真の力に触れたようで、思わず驚きの表情を浮かべていた。彼女が力を抜けると同時に、召喚した怪人達はまた霧の中へと姿を消している。構成員など見当たらなかったサイコギルドだったが、玉を介して幾らでも戦力が拡充出来たとなると、その脅威はさらに増したと言えるだろう。

 するとシャドームーンは、一時的に協力したマッドネバーの末路についてアンカーへ教えている。

「どうやら案の定、奴らはしくじったらしいな。所詮あんな器の小ささでは、やられるのが目に見えていただろうに。さて、我らは次なる作戦に向かうぞ」

 私情を挟みつつも、次なる計画に気持ちを切り替えるシャドームーン。アンカーへと仰いでいた――その時である。

「ねぇさ! いい加減に教えてくれない?」

「ん? どうした、そんな気を立たせて」

 彼女は真剣そうな表情で、強気にシャドームーンへと問いかけた。今まで教えられなかったことを、この場で白黒はっきり付けようとしている。

「アンタが恨みだの怨念だのにこだわっているのはよくわかったよ! でも、本当にこんなんで私の願いは叶えられるの!? アンタが悠長にしているうちに、あの万事屋って奴らは英雄達の力を手にしたんだよ! もうちょっと危機感を持ったらどうなの!? これじゃ私の世界は……いつ復讐することが出来るのさ!」

 やや感情的になりながらもアンカーが吐露したのは、じれったく続くサイコギルドの計画。自身が強く渇望する願い……SAOの世界全体に復讐するための見通しが未だに見えてこず、アンカー自身がやきもきしているという。さらには追い打ちをかけるが如く、対抗勢力であろう万事屋が英雄(すなわち平成仮面ライダー)の力を手に入れたとならば、焦っても仕方のないことではある。

 と事態の手詰まり感に焦るアンカーだが、シャドームーンは一切態度を変えないまま彼女に返答していく。

「何を焦っている。いずれ勝利するのは我々の方だ。英雄の力を手に入れようが、奴らは太刀打ちできるはずがない。俺は何度も言っているぞ……ノロイドさえ復活すれば、お前が望む復讐も叶えれるとな」

 その自信は孤高のように高く、しっかりと最後まで言い切っていた。サイコギルドにとって重要なのは、やはりノロイドの復活。この存在を再興することが出来れば、世界そのものを相手にすることが可能だという。

 シャドームーンの説得もあってか、アンカーは徐々に心を落ち着かせていた。

「そのためにもお前の音色がこの先の計画でも重要だ。姉をSAOで失った悲しみ、彼女を蔑み否定した無知な連中、お前はただ誰かを憎むだけで良い。その恨みの力が、ノロイドにとって最高の養分となるのだからな!」

 再度彼はこの計画にアンカーが必要だと訴えかけている。詳しくはまだわからずじまいであるが、アンカーにもただなるぬ過去が関係している様子だ。これまでの人生で感じてきた恨み辛み。底知れぬ闇の深さに価値を見出して、シャドームーンはアンカーをサイコギルドに誘い込んだという。歪な関係は出会って早々から始まっていたのか。

 続けざまにシャドームーンは、アンカーに向かって次なる計画を討ち明かす。

「さて、残す力は令和のみ。それにそろそろ奴らが芽を出す頃だろう」

「奴ら……って、誰のこと?」

「お前には言っていなかったな。ノロイドを復活……いや肉体を得るためには、次元に干渉するほどのズレが必要だ。要するに本来二つの世界が歩む未来を、少しばかり変える必要がある。そのための布石を、前々から打っているのだよ」

「布石ってなんなのさ?」

「何ぃ、特殊な力を与えたり、本来出会うはずが無かった者を出合わせたりとかだ。ちょうどいい機会だ。アンカーよ。お前にはその付き人になってもらおうか」

 急な提案を耳にして、アンカーは若干嫌そうな表情を浮かべていた。

 とそれはさておき、サイコギルドの次なる計画は主に二つ。一つは未だ獲得していない令和の力の獲得。もう一つはノロイドの復活に必要な歴史のズレを作ること。所謂歴史改変に似たことを企んでおり、それに必要な手もすでに打っているという。

 そう彼が告げると同時に、アジトにて一人の男が入り込んできている。

「ここが所謂異世界ってところか。本当に俺のいた世界と違うのか?」

「って、アンタは……?」

 突然の来客に驚きを隠しきれないアンカー。その正体は新たなサイコギルドの構成員か、はたまたシャドームーンの用意した布石か。ただ唯一分かるのは、男はダークライダーに変身するためのベルトを所持していること。そしてアンカーと同じく、時代の被害者でもあること。

 果たして彼の正体、目的とは。万事屋が知らぬうちに、サイコギルドの作戦も最終局面へと突入している……。




 あとがき

 ここまで応援してくださり、本当にありがとうございました! 遂に長かった長篇を終わらせることが出来ました!! 通算約一年半……本当に長かったです。
 まず本来の予定では次元遺跡篇と合わせても二十訓弱で終わらせようと構想を練っていましたが、思ったよりも描きたい描写がどんどんと増えてしまい、結果ここまで長引いてしまいました。やっぱり予定通りに進めるのは難しいです……!
 それでは折角の機会なので、この小説の総括を行います。
まずは僕的にグッと来た点から。まず書いていて一番楽しかったバトルシーン。魑魅魍魎とした怪人軍団に敢然と立ち向かう銀時やキリト達。彼らをかっこよく魅力的、ちょっとお茶目さや個性を際立たせた戦闘シーンは、自信を持ってよかった点だと思います! さらには銀魂世界で生きるユウキやスリーピングナイツの登場。本物のユウキらとは違いますが、アスナとの出会いは丁寧に作れたと思います。アスナも新しい友人として友情を築き始めたので、今後は準レギュの立ち位置になりそうです! どれくらい出番があるのかと言うと、辰馬や陸奥と同じ頻度? 要するにそんな簡単には出せ無さそう。それでも今度は日常回で再登場させたいです。
 そして微妙だった点は、長引いてしまったこと。所謂こだわりを詰め込み過ぎたことで、展開が長引いたのは欠点だと思います。人数が多い分、その調整を上手くできなかったです。振り返ると、怪人の総数は少なくした方が良かったと思います。それに加えて本筋の話が進まなかったこと。サイコギルド云々は別の長篇に回されたため、今回の長篇は盛大に回り道した感じが否めません。
 ……まぁ、二次創作なのでそこまで深刻には考えていないですが!

 良い点や悪い点をひっくるめて、無事にグランドフィナーレを迎えた次元遺跡篇および妖国動乱篇。キリト達はALO星の頼もしい味方と縁を結んで、また地球の日常へと戻っていきます。先ほどもお伝えしましたが、ユウキやシウネー、ユージーンやフィリア達も今後の単発回で再登場する予定です! アレ? そういえば最後まで登場しなかったALO関連のキャラがいたような……落ち込むなレコン。日常回には出してやるからな、多分。

 そして気になる方に向けて、サイコギルドの次なる出番を。今度は今年中に投稿されるだろう中篇に彼らが登場する予定です。ずっと暗躍していたアンカーの目的や詳しい事情が、とうとう分かるかもしれません! さらにサイコギルドが用意した歴史を変えるやもしれない男の正体とは……。ぜひ楽しみにしてください。(中篇と位置付けているのは、そこまで登場キャラが少ないから。銀魂の死神篇、SAOのキャリバー編のような短さを予定しています。絶対3話じゃ収まらないけど笑)

 さぁさぁ、次回から季節は秋へ! 衣替えや新設備、見知ったの誕生日も交えたドタバタ日常回が帰ってきます。ぜひ今後とも応援のほどをよろしくお願いします!

※次回の投稿とついでに、NGシーンや出番表、小ネタ一覧系を投稿する予定です!

次回予告

銀時「ようやく普通の次回予告に戻れるな」

神楽「あんな堅苦しい予告、もうやりたくないネ!」

ユイ「って、皆さん! 地球に戻ったら、早速不思議なことが起きたみたいですよ!」

新八「そんな浦島太郎じゃあるまし。もしかして今度はRXとコラボとか?」

アスナ「洞爺湖仙人って人が会いに来ているみたい」

キリト「ついでにエクスキャリバー師匠もいるみたいだが」

銀時「えっ? 日常回初っ端からアイツら出てくるのかよ!」

次回! 長篇明けの日常回は連休明けの仕事並みにめんどくさい

テロップ風

長篇お疲れさまでした! 次回からまた始まりますね、日常回!

次の長篇まで場繋ぎです。ところでエクスキャリバー師匠って誰?


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第七章 秋晴の日常回篇
第九十七訓 長篇明けの日常回は連休明けの仕事並みにめんどくさい


久しぶりの日常回! あの意外なキャラが登場します……どうぞ!


「目覚めよ……万事屋に生きる者達よ!」

 銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユイの脳内に話しかける謎の男の声。

現在六人は真っ暗な謎の空間で寝かされており、すやすやと呑気に寝言を吐いている。

「ウヘヘ~パパったら甘えすぎですよ~~」

「銀ちゃんー一発覚悟決めとけアル~」

「今日の夕食は手作りハンバーガーよ……」

「お通ちゃんが新曲かぁ」

「預けた武器取りに行かないと……」

「長篇明けくらい休ませろや。ボケ……」

 幸せそうな表情を浮かべる者。夢の中でも愚痴を呟く者。ただただぐうたらに一息つく者。その反応は千差万別である。

 ただ重要なのは万事屋一行の寝言ではない。彼らをこの空間に呼び寄せた男は、いつまでも夢を見続けているキリト達に業を煮やし始めている。

「目覚めろ……二つの世界の運命を背負う勇者達よ!」

「うるせぇ。文言変えたって、起きないアル……」

「だからとっとと休ませろ。こちとら宇宙船に揺られて、昨日から調子悪いんだよ……」

「おい、お前ら。完全に起きている反応だよな、それ。もう一回寝ようとしているよな?」

 相も変わらずに聞こえの良い言葉で囁くも、神楽や銀時からは否定的な寝言が返されていた。具体的すぎる一言には、男も内心すでに起きていると予見する。

「パパ、ママ、いっぱいちゅき~」

「私も同じよ、ユイちゃん……」

「俺もだよ……」

 一方で聞こえてきたのは、キリトら三人の幸せそうな寝言。家族のカタチを披露しているが、傍から見ればただの親バカ子バカ。男は感情をむき出しにしながら、キリトらの惚気に嫉妬していた。

「んで新人共はのろけやがって……。地べたで寝ているのに、ラブ〇感覚とは良い度胸じゃねぇか」

「いやいや、旅館の方ですよ」

「寝ながら訂正するな! どっちでもええわ!!」

 声が覆いかぶされるように、新八の寝言が男の声と合わさってしまう。彼は増々不機嫌になり、万事屋に対しての怒りが徐々に高まっていった。

「あぁ……今日はもう寝るだけでいいか」

「そうだな。たまにこういう日があってもいっか」

「良くないわぁぁぁ!! 良いから起きろぉぉ!! この怠け者!!」

 またしても深い眠りに就こうとした万事屋達に降りかかる大きな怒号。場全体に響き渡ると、眠気に浸かっていたキリトらも流石に目を覚ましている。

「おいおい、なんだよ。急に怒鳴るヤツは」

「って、銀さん? なんかこの場所変じゃない?」

「アレ? 万事屋じゃないですね」

 目が覚めたと同時につい辺りを見渡す一行だが、彼らはすぐに現在いる謎の空間に気付き始めていた。見渡す限りの真っ黒な空間が広がり、異質かつ違和感のある印象を皆に与えている。

 キリト、アスナ、ユイの三人は心当たりのない光景につい戸惑っていたが、一方の銀時、新八、神楽の三人はすぐに事態を把握していた。

「このパターン、まさかアレアルか」

「久しぶりにあの人と再会するのか……」

「あの人? 新八達は誰か心当たりがあるのか?」

「あたぼーよ。めっちゃくちゃめんどくせぇ変人だぞ」

 キリトが興味深そうに問い直すと、神楽らは揃って苦い表情を浮かべていく。特に銀時は一段とうんざりしており、顔に手を当てるほど男との再会に悩まされている。

 さらなる補足を仲間達全体へ教えようとした時だ。声の主である男が、何の前触れもなく一行の元に近づいてきている。

「そんなことを言うな! 前にも言っただろう。俺はお前のことをずっとそばで見守っていたと!」

 一段と張り切った振る舞いで話しかけてきた男の正体。特徴的なサングラスをかけており、その下には尖った顎鬚を蓄えている。黒服を着こなし、首元には赤いマントをマフラー状にして巻いていた。

 彼とは初対面になるであろうキリト、アスナ、ユイの三人は、怪しげな風貌の男に一段と困惑している。

「だ、誰……!?」

「おひげのおじさん?」

 三人が驚嘆とした表情を浮かべている中、銀時らはすぐに男の正体を察していた。

「やっぱりお前か、洞爺湖仙人」

「洞爺湖? って、銀さんの持っている木刀と同じだよな?」

「まぁ、半分合っていて半分違うよ。胡散臭さの塊だからな」

 銀時は苦い表情のまま頭をかき、この状況にもどかしさを感じている。

 男の名は洞爺湖仙人。彼の主張によれば、銀時が持つ木刀にずっと憑いている精霊的な何かであるが……ぽっと出に出てきたのでいまいち信用しづらい。そもそも会えるのが夢の中や精神的な空間のせいか、銀時ら三人は彼のことをまったくもって意識したことがない。要するにどうでもいいと思っている。

 銀時の言っていた胡散臭さに共感したのか、アスナらも薄々と洞爺湖仙人にマイナスなイメージを持ち始めていた。

「そう言われると……」

「確かに信用できなそうね」

「だろ。そういうことだから、さっさと俺達を元の世界へ戻せよ」

「そうアルよ。どうせ今回も夢オチなのは目に見えているネ! さぁ、早くしろアル」

 面倒ごとが起きる前に銀時や神楽は、洞爺湖仙人へ元の世界へ戻すよう急かす。

ギャーギャーと万事屋達に文句をぶつけられようとも、対する洞爺湖仙人は臆することなく話を続けていく。

「まぁ、慌てるな。今回この私が来たのは他でもないことだ」

「えっ? そうなのですか?」

「って、ユイちゃん。何で食いついてんの?」

 洞爺湖仙人の奥の手を隠すような振る舞いに、ユイはつい反射的に反応。子供っぽい純粋無垢さに手ごたえを感じたのか、洞爺湖仙人は自信を持って話を続けていく。

「俺はずっと見ていたぞ。お前たちが困難に直面し、見事乗り切る瞬間を。別の世界から現れた脅威や兵器にも、果敢に立ち向かったな。感動した!」

「って、ネタが古いんだよ」

「今の子らに分かるわけねぇーだろうガ」

 感極まって褒めたたえたのは良いが、銀時らの冷たい態度は未だに続く。狙ったかのような流行語を発しても、万事屋からツッコミを入れられる始末である。

「知ってる、キリト君?」

「なんか聞いたことあるような気も……」

 キリトやアスナでさえも元ネタは分からない始末だ。ネタが滑ったかのような反応を受けても、洞爺湖仙人は変わらずに話を続ける。(内心では恥ずかしさを感じていたが)

「まぁ、いい! とにかく俺が言いたいことはただ一つだ。お前たちはもっと強くなれる! この先に待ち受けるさらなる強敵にも、敢然として立ち向かわなければならない。新たな万事屋に俺から言えることは、必殺技の――」

「却下だ」

「へ?」

 待ちに待った本題を意気込んで遂に発表しようとした時。割り込むように銀時が拒否している。突然の返答に洞爺湖仙人は開いた口が塞がらず、つい衝撃を受け止められずにいた。一方で拒絶した側の銀時に続き、新八や神楽も否定的な意見を示していく。

「別に僕ら、今はそんなに困っていないので」

「そうアルよ。お前くらいアルよ。必殺技でいちいち口出してくるヤツ」

「いやいやいや! ちょっと待てよ、お前ら! 折角新人も入ったってのに、その態度はねぇんじゃねぇか? きっとお前らの目的にだって役に立つぞ! サイコギルドの足取りだって、まだ掴めていないだろ? 敵の戦力だって分からない中、必殺技を覚えることは悪いことではないと思うぞ!」

 微妙な雰囲気を察してか、洞爺湖仙人は一段と焦った反応で万事屋達の心変わりを狙っている。サイコギルドと言った万事屋達が今抱えている課題も織り交ぜながら、意地でも必殺技の習得へと舵を切らせようとした。それでも銀時達の意志は変わらないのだが。

「んなこと言われたって、サイコギルドとか投稿者の匙加減だろうが」

「そうだーよ。お前の技なんか借りなくても、こっちはライダー達が付いているからナ」

「それに情報収集にも手は打っているので、仙人さんが心配しなくても大丈夫ですよ」

「お前等……」

 適当な理由を付けて拒否の姿勢を続ける三人。こちらは意地でも現実世界に戻りたい様子である。

 温度差がくっきりと分かれる中、平行線を辿ったまま交わされる仙人との話し合い。痺れを切らした銀時は、ここで白黒はっきり付けようと仕掛けていく。

「分かった、分かった。じゃ判断はこいつらに委ねよーや。おい、キリト、アスナ、ユイ。こいつの必殺技教わりたいか?」

 さっきから話の輪に入ってこれないキリトら三人に、必殺技の習得をするか否か委ねることにした。彼らの素直な反応で、洞爺湖仙人の今後を決める算段である。

 そんなキリト達の答えはすぐに返されていた。

「俺は別にどっちでも良いんだが」

「銀さん達の話を聞く感じ、あんまり頼りにはならなそうだけど……」

 キリト、アスナ両者共に微妙な反応を示す中、ユイだけは皆と真逆の返答を出している。

「でも、少しだけ私は気になります! 教えてもらえないでしょうか?」

「おっ!? えっ? 本当に!?」

 たった一人だけの賛成を耳にすると、洞爺湖仙人の鬱々とした気持ちは一転。水を得た魚のようにテンションが急に上がっていく。

「って、ユイ?」

「マジアルか!?」

「おいおい、よりによってアイツが興味持ったのかよ……」

 ユイの返答には万事屋一行も予想外だった様子で、驚嘆とした反応や何とも言えない表情を浮かべていた。

 一方で唯一受け入れてくれたユイに、洞爺湖仙人は優しく話しかけている。

「ほぉ……話の分かるお嬢ちゃんだ。そんなに必殺技を習得したいか?」

「はい! 習得と言うよりは、本当にパパやママ達の今後に役立つか判断したいのです! 百聞は一見に如かずですから!」

「そうか……! 君はきっと大成するぞ。俺の必殺技に期待しろ!」

「その自信はどっから来るんだよ……」

 より期待値を上げる洞爺湖仙人だが、その自信満々な姿は新八からツッコミを入れられてしまう。果たしてユイの期待に見合う必殺技は見られるのだろうか。

 と万事屋全員が期待や不安を織り交ぜながらも、とうとう洞爺湖仙人は本題へと移り変わっている。

「フフフ……ならばその期待に沿ってやろう。今回は君達にぴったり合いそうな俺の仲間と共に教わるぞ」

「仲間ですか?」

「二人掛かりで教わるの……?」

 話を進めていくと、どうやら洞爺湖仙人は自身の仲間もこの場に呼んでいるという。突然の宣言にはアスナのみならず、万事屋達も嫌な予感を感じていたが。

「そうだ! それでは紹介しよう。その黒髪! ……いや、キリト君が持っているエクスキャリバーに宿る意志よ!」

 そんな反応はさておき、意気揚々と仲間を呼ぶ洞爺湖仙人。話の途中ではキリトと彼が持つ聖剣エクスキャリバーを名指しており、何やら関係性を示唆していたが……?

 とキリトらの反応など伺う間もなく、近くにあった扉から洞爺湖仙人の呼んだ仲間――エクスキャリバー師匠が登場していた。

「来たな。俺こそがエクスキャリバー師匠だ!」

「師匠……なのか?」

「キリト君の持っている聖剣の精霊なの?」

「パパの剣にも宿っていたのでしょうか……?」

 彼の姿を見るや否や、妙な親近感を覚えるキリトら三人。エクスキャリバーと名乗っている以上は、信じるほかないのかもしれない。

 そんなエクスキャリバー師匠の風貌は、年老いた男性である。髪は薄めだが、顔つきは歴戦の強者。キリト、アスナ、ユイはエクスキャリバーが擬人化したものだと思い込み始めている。

 一方で銀時、新八、神楽の三人は、初対面の相手に半信半疑……ではなく、エクスキャリバー師匠の雰囲気に既視感を覚えていた。

「おい、ちょっと待てよ。お前よぉ、それ父ちゃんじゃねぇ?」

「あぁ、そういえば」

 頭の中で引っかかっていた違和感の正体。それは洞爺湖仙人の父親が原因である。服装は若干変わっているが、薄い毛量が銀時達にとって決め手となったようだ。要するに友人ではなく、ただの親族である。

 そう指摘されると、洞爺湖仙人は図星を突かれたかのように大きく動揺していた。

「な、な、何を言っているのかさっぱりだな!! エクスキャリバー師匠と俺の父ちゃんが似ているだと!? 絶対気のせいだろ……」

「おい、誤魔化せてねぇぞ」

「目線そらしてる時点で察しですね」

 分かりやすく慌てふためき、新八や神楽からもツッコミを入れられている。言い訳する様子から察するに、誤魔化し通せると思っていたのかもしれない。

「えっ? 仙人さんのパパなんですか?」

「ってことは、俺の聖剣とは無関係なのか?」

 銀時達の指摘を皮切りに、薄々と真実に気付き始めるキリト達。親近感から一転。出会い早々に感じていた胡散臭さがまたしても蘇っている。

 盛り上がった場が白けたことに危機感を覚えた洞爺湖仙人は、何食わぬ顔で次の打つ手に事を進めていた。

「ごほん。では彼に続いて、二人目の仲間を紹介しようか」

「おい、無視しているんじゃねぇよ」

「このまま進めるのか!?」

 無論神楽やキリトからは、ツッコミや指摘が飛び交っていたが。勢いのままに進める中、扉を開けて新たな仲間が合流してきた。

「お初にお目にかかるわ! 私がレイグレイス先生よ!」

「お前の母ちゃんじゃねぇか!! もうちょっと工夫凝らせよ! 父親の時と比べて、がくんと落ちているぞ!」

 やって来たのはレイグレイス先生――という名の洞爺湖仙人の母親である。父親の時と比べて衣装も特にこだわっておらず、普段着のエプロンに申し訳程度のウンディーネのマークが付けられていた。

要するに手抜き衣装である。銀時のツッコミも収まる様子が無い。

 家族揃っての登場。だがそこに温かい光景はなく、嘘を通せなかったが故の口喧嘩が途端に勃発している。

「おい、父ちゃんに母ちゃんいい加減にしろ! 俺の用意した衣装はどうした!? おかげでバレちまったじゃねぇかよ!」

「だって、仕方がないさーね! 私だって家事が溜まってんだから。着替える時間が無かったんだよ」

「そうだぞ。大体お前は急に決め過ぎだ。父さんだってな、本当は今日ゴルフをする予定があったんだ。わざわざ断ってお前の用事を優先したんだから、こっちの事情も汲んでくれよ」

「うるせぇよ! そもそも父ちゃん、今日R18映画見に行くって言っていただろ!」

「おい、お前! それどっから聞いた!」

「電話の声が駄々洩れなんだよ!」

「アンタ! それ本当なの!? だとしたら、今日の夕食は抜きよ!」

「はぁ!? 今日ジンギスカンだろ!? 俺の分まで余計に食うつもりか!!」

 互いに文句をぶつけあう中で、いつの間にか暴露にまで発展。思わぬ流れ弾がさらなる怒りを運び、収集不可能な現状に陥っていた。

 仙人達の醜い争いには、さっきから蚊帳の外の銀時らにも飽きられている。

「け、喧嘩が始まっちゃいました……?」

「気にしないでください。あの親子にはよくあることなので」

 心配してつい止めようとするユイに対して、新八はため息をついたまま彼女を止めていた。不可思議そうな目で喧嘩を見つめるユイである

「結局あの二人は、私達の武器と無関係ってことよね?」

「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりどうする? 例年稀に見るグダグダぶりだぞ」

 一応気がかりであった武器との関連性を確かめるアスナに対して、銀時は適当な態度で一蹴。彼は喧嘩が収まらず、オチが上手くまとまらないことを危惧している。

「喧嘩を止めてあげるべきか……」

「別に放っておけば収まるアルよ。それまではアイツの部屋で適当にくつろぐネ」

「部屋もあるのか、この空間……」

 心配して仲裁に入ろうとしたキリトだったが、一方の神楽はそこまで重く考え込んでいない。喧嘩が長引くと見込み、洞爺湖仙人の自室に邪魔をする様子だ。あまりのお気楽さにキリトは、思わず苦い表情を呟いていたが。

 と万事屋一行が親子の説得を諦めて、神楽の言う自室へ向かおうとした時である。

「えぇい! この分からずや! これでも食らえぇぇ!!」

 怒りを高ぶらせた洞爺湖仙人が、突然勢いを付けて体を大回転させていく。風力をまといながら、彼の両親に突撃しており……

「「アギャァァ!!」」

力づくでダメージを与えていた。思わぬ不意打ちを受けて、両親達は地面に倒れこむ。唐突とも言える展開には、近くで見ていた万事屋達も衝撃を受けていた。

「えっ? 何が起きたの!?」

「おいおい、アンタ何したんだ!?」

 まったくもって状況が見せずに、取り乱していくアスナや新八ら。しばらくツッコミを入れ続けていると、倒れこんでいた仙人の両親がスッと起き上がっていく。

「い、今の技は……」

「へ? いや、お前らの反応含めての茶番か!?」

 二人のわざとらしい反応には、銀時も思わずツッコミを入れていたが。とそれはさておき、問いを投げかけられた洞爺湖仙人は意気揚々と事を言い放つ。

「そうだ。これぞ万事屋達に教えるはずだった新必殺技……回ればなんとかなるだ!」

「おっ、おぉぉ!」

「流石は我が息子だわ!」

 自信満々な表情で解き放った必殺技。安直なネーミングセンスに万事屋達はまたしても反応に困っているが、両親達は微妙な雰囲気を打ち消すかのよう懸命に盛り上げていく。

 だが肝心の本人達には、あまり真剣には伝わっていない様子。

「えっ? もう必殺技発表されたのか?」

「これだと必殺技とは言えない気もします……」

 ダラダラと文句を発する銀時らとは異なり、ユイだけは何とも言えない表情を浮かべていた。洞爺湖仙人の必殺技に期待していた分、その期待を大いに下回ったのが要因であろう。建前ばかりを発するせいか、洞爺湖仙人の勘違いは増々広がり始めていた。

「フハハ! どうだった? ズバリ最高の必殺技に違いないだろう?」

「どこがですか! 実戦で役立つかもわかりませんよ」

「そうだな。俺も正直厳しいと思う――」

 立ち直った態度には新八がツッコミを加えており、キリトも反応に困ったまま苦言を呈している。万事屋達全員が感じていたことは、ただ回っただけでは役に立たないこと。地団太を踏むが如く、一行は次々と文句をぶつけていく。

 とグダグダした雰囲気のまま、元の世界へとようやく戻れる――かに思われた時だ。

「ん? おい、見ろ! アイツらは!?」

 仙人の父親がある気配を察して、大声で指を指している。彼が向けた方角に皆が目を向けると、

「おやおや、ここで出会うとは。何とも都合が良いじゃないか。この俺が、今度こそ貴様に引導を渡してやろう!」

「「「フフフ!! キキキ!!」」」

何の前触れもなくある集団が万事屋達に向かって敵意をむき出しにしていた。

 計四名ほど群がるその集団の名は悪の組織。銀魂本編でもかつて銀時に立ちはだかった組織であり、その実態は謎に包まれている。(そこまで重要な役柄ではないのだが)

 そんな集団を仕切るは軍服風の男性幹部と、全身赤タイツで奇声を発する戦闘員ポジションの男達。何一つ初登場から雰囲気は変化していない。

 と意気揚々と登場した悪の組織だったが、万事屋や仙人からすればあまりにも唐突な展開にどう反応すれば良いかさっぱり分かっていない。

「えっと……今度は誰ですか?」

「もしかして、あの夢の中で戦ったショッカーの生き残り?」

「でも微妙に服装が違うような……」

 キリトらはてっきりショッカーの一味と勘違いしており、その関係性を密かに伺っていた。 一方で銀時は苛立ちを露わにしながら、洞爺湖仙人に悪の組織が現れたことへ文句をぶつけている。

「おい、仙人よぉ……なんであんなめんどくさい奴ら登場させた!? どういう魂胆だ、チキショー!?」

「お、俺に聞くんじゃない……! これに関してはまったくの予想外だ! 投稿者の独断に決まってる!」

 つい胸ぐらを掴みながら怒号を飛ばすも、当の本人はあまり心当たりがない。仕舞いには投稿者に責任を擦り付ける始末である。異様に焦る姿から、本当に心当たりがない様子だ。

「なんでまたあんなマイナーキャラを」

「覚えている人がどれくらいいるのか……」

 言い争いを続ける銀時らとはさておき、神楽や新八はただただ呆れている。厄介者が増えたことで、本当にオチが片付くのか心から心配していた。

 悪の組織の登場によって、さらに渾沌と化す現場。妙な雰囲気を作り出した張本人らは誰からも相手にされず、とうとう強行突入へと打って出ている。

「ええい! 何をビビっておるのだ! ならばこちらから行くぞ!」

「キィィィ!」

 幹部らしき男がそう指揮を執ると、戦闘員の群れはキリトらに向かって走り出す。

 一見すると危機的状況に見えなくないが、銀時らは皆余裕を持って対処していく。

「おい、適当にこいつら倒すか?」

「そうだな。これくらい一斬りで行ける!」

 と万事屋全員が武器を構えようとした時である。

「油断する出ないぞ、キリトよ」

「ん? って、俺に言っているのか!?」

「そうだ! ヤツらを倒して、今こそ己の真の力を解放するのだ!」

 ふと洞爺湖仙人の父親が、キリトに向かって助言を促していく。その姿は師匠の名に恥じぬ、弟子を信じるような佇まいで接している。

 同じくアスナも同じような場面に出くわしていた。

「私も同じだ。今こそ息子から教わった技を開眼する時よ!」

「わ、私に!?」

「そうよ。アナタの実力ならきっと大成するわ!」

 彼女は仙人の母親に諭されている。レイグレイス先生と名乗る通り、自信を持ってアスナの背中を後押ししていた。

「君達ならば出来る。俺達の代わりに羽ばたけ! いざ!!」

 続き洞爺湖仙人も心強い言葉を二人に向かって投げかけていた。悪の組織を起点として、己の実力を昇華させる心意気。どうやら二人にも、その気持ちは伝わった様子である。

「ここまで言われたら仕方ないか……行こう。アスナ!」

「もちろんよ、キリト君!!」

 無論アスナらも先生や師匠が、自身の武器と無関係なのは知っていた。それでも先ほどの言葉に嘘偽りは無いと深々と信じ込んでいく。場の雰囲気からただ流されているのかもしれないが。

「おしっ! 今のうちに音楽を変えろ。あの二人のボルテージを極限にまで高めておけ!」

「「ハハ!」」

「ていうか、バレバレなんだよ……」

 キリトらのやる気を見越した洞爺湖仙人らは、事前に用意していたプレイヤーに自前のカセットを装填。戦闘が盛り上がりそうなBGMをわざわざ選曲していた。銀時らからはツッコミを入れられることになったのだが。

 とそれはさておき、戦いに向けてテンションが上がっているのもまた事実。キリト、アスナの両名はその勢いに乗っかりながら、武器を構えて走り出していく。

「「はぁぁぁ!!」」

「って、おい! そのまま突っ込むんですか!?」

「頑張ってください、パパ! それにママも!」

 無策にも突き進む姿に、激しくツッコミを入れる新八。彼の反応に対してユイは、天真爛漫に二人のことを応援していく。

 キリト、アスナの特攻に反応がまばらな万事屋達とは異なり、悪の組織らは俄然として引き下がらない。

「フハハハ! ここで会ったが100年目! 今度こそ、貴様らにリベンジを果たしてやるのだ!!」

「「「キキキ!!」」」

 とこちらも真っ向から突撃。多勢に無勢が如く、キリトらを抑え込もうとしたが……

「はぁぁ!」

「フッ!」

「ヒヒヒ!!」

「ギャァァア!!」

あっという間に返り討ちを受けてしまった。キリトは回転を生かした斬撃を。アスナは中心に沿いながら突く一撃を。どちらとも一瞬で相手を戦意喪失させており、悪の組織らは地べたに這いつくばって痛みにただ悶絶している。

「参った……!」

 そのまま何も起きることなく倒れこむ四人。結局はやられ役としてただ登場しただけであった。

 そんな悪の組織等にはもう誰も気にせず、洞爺湖仙人らは技の習得に成功したキリトらに注目を寄せていた。

「えっ……? 成功したアルか?」

「うむ。見事であった。流石は俺達が教えた甲斐があるな」

「どさくさ紛れに成功しただけじゃないかよ」

 銀時から皮肉を言われようとも、仙人らは一切気にしていない。今はもう教えていた技が成功したことに、高揚とした達成感を覚えていたからだ。

「おーい、どうだお前等。何か変わった様子はあるか?」

 とにこやかな笑顔で、仙人はキリトらへと呼びかける。

 そんな二人が皆の方に振り返ると、

「うぅ……」

「回りすぎた……」

〈バタッ!〉

「えっ?」

「ちょっと二人共!?」

目を回してこちらも崩れ落ちるかのように倒れこんでしまった。その原因はもちろん洞爺湖仙人一家が教えた技のせい。体全体が回ったことによって、立てないほど安定感が削がれてしまったらしい。

 駆け寄ってくれた神楽達に心配されながらも、キリト、アスナは必死に調子を取り戻そうと接していく。

「こんなに気分が悪くなったの久しぶりかも……」

「吐き気までするし……ケホ!」

「落ち着くアル、二人共! こういう時は呼吸を整えるネ! ヒーヒーフーとリズムを刻みながら言うネ!」

「えっと、ヒーヒーフーってウッ!?」

「アレ? どうしたネ?」

「いや、神楽ちゃん!? それ出す時の方法だから! 使用方法も間違えているって!」

 対応に困った神楽が思ったことをそのまま声に出す。二人の気を紛らわせるために誘導するが、こちらは妊婦等に有効的なおまじない。吐き気に悩まされているキリトらにとっては、逆効果であろう。

 一方で銀時は、このきっかけを作ったとも言える洞爺湖仙人へすかさず文句をぶつけていく。

「……おい! 何が必殺技だ!! こうなることは予想出来ていただろうが! キリトとアスナを巻き込ませやがって!」

「おっ、落ち着け……父ちゃんに母ちゃん! 助けてくれ!」

 分が悪くなった仙人は、すぐに両親へ助けを求める。きっと構ってくれると思い、どうにか穏便に済まそうとしたが……

「おっと! テレワークの時間だ!」

「夕飯の準備をしなくちゃ!」

「無視してんじゃねぇよ! 元はと言えば、お前らがきっかけでもあるからな! 分かってんのか!?」

二人は何食わぬ顔で無視していた。適当な理由を付けて逃げ出し、全ての責任を洞爺湖仙人へ押し付けていた。本人からすれば、溜まったもんじゃないのだが……。

 怒りを露わにする仙人に対して、銀時はこのままとどめの一撃を食らわせていく。

「そういうお前もな!!」

「へ? グハァ!?」

 不意打ちのように攻撃を仕掛けており、これを受けた洞爺湖仙人は余波によって吹き飛ばされてしまう。無論彼が受けたのは、以前銀時へと教えた相手の背後のスネを強く打撃させるももバーン。飼い犬に手を嚙まれるが如く、教え子からの報復を見事に受けてしまった。慈悲など一切ない。

 こうして夢の中で起きた特殊な出来事がぷつりと消えていく。

 

 

 

 

 

 

「はっ!? ……って、なんだ夢か」

 目が覚めた銀時が辺りを見渡すと、そこは何の変哲もない自身の家の中。洞爺湖仙人云々の話は、どうやら夢の中だったと改めて実感していた。

「なんだ夢かよ。安心したは良いが、この先のオチどうすんだ? また銀八先生でもぶっこんでお茶でも濁すか」

 夢オチでホッとした銀時だったが、代わりにこのオチで読者的に満足できるか不安視している。割とどうでもいいことをしばらく考えているうちに、銀時の元には起きたばかりのユイが駆け寄ってきていた。

「た、大変です!!」

「あっ? ユイ、どうしたんだよ。そんなに慌てて」

「パパとママがフラフラして、外の階段から転げ落ちました!!」

「……はぁ?」

 深刻そうな表情で伝えてきたのは、キリト、アスナの身に起こったこと。どうやら起き上がったと同時に二人は玄関まで向かい、フラフラした足取りのまま転倒してしまい、そのまま階段をゴロゴロと転がったらしい。

 ここまで調子が悪いのも、恐らく夢の中で出会った洞爺湖仙人が原因に違いない。銀時はこの話を聞いた瞬間、頭が痛くなってついうずくまってしまった。そんな彼の苦労とは裏腹に、リビングにて立てかけられていた木刀には謎のヒビが生じている……。

 こうして洞爺湖仙人が起こした騒動は、有耶無耶のまま幕を閉じたのだった。




 まずはSAO新作映画公開日、おめでとうございます!!
 いやぁ、まさかの9月公開。てっきり11月かと思っていました。

 久々に一話完結を描きましたが、ちょっとだけ慣れなさを感じました。何回も重ねるうちに、調子を戻していきたいと思います!
 今回は洞爺湖仙人とその一家、さらには悪の組織が初登場! マイナーすぎて、覚えている人がどれくらいいるか……。

 こんな感じで、今後もゆるゆるな日常回を作っていきます!

 それと三つ報告です。一つは長篇の小ネタ集が遅れること。これは単純に間に合わなかったからです。
 二つ目はツイッターのアカウントを変更します! 色々とやり方を変えたくなったので……!
 そして三つ目は今度の土日に開催される洞爺湖マンガアニメフェスタに参加致します! 剣魂の初期に描いた万事との出会い篇を収録。さらにこの本でしか見れないオリジナルのお話も掲載するので、もしイベントに参加される方がいましたらよろしくお願いします!

 もっともっとさらなる挑戦をするので、今後もよろしくお願いいたします!

 PS.今気づきましたが、洞爺湖のイベントがあるからと言って、洞爺湖仙人を出したつもりは無かったです。本当に今気づきました……。





次回予告

ユイ「ついに万事屋にパソコンがやってきます!」

キリト「これでアナログ生活ともおさらばだな」

アスナ「さぁ、これからはネットを使って依頼も受けていくわよ!」

銀時「その前によぉ、サイト作らないといけないんじゃねぇか?」

新八「それもそうですね。じゃ、僕らの知り合いのサイトを覗いてみましょうよ」

神楽「え~なんか嫌な予感しかしないアル」

キリト「次回! クレカだけは最低限レジに用意しておけ」

銀時「使いすぎるなよ!」


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第九十八訓 クレカだけは最低限レジに用意しておけ

 完全に声優ネタ。近藤、沖田、九兵衛、ユウキの中の人が一堂に介するチャンピオンカップがあるという。(未視聴です)


 時は九月の下旬。依頼数がちまちまと増えてきた万事屋にとって、歴史的な瞬間が訪れている。それは……待ちに待ったパソコンの設置が完了したのだ。

「おぉ! これが噂に聞くノートパソコンアルか!」

「ウチにもやっと導入されたんですね。これでネット茶屋通いしなくても済みますね」

 待ちに待ったパソコンが設置された光景に、つい感慨深い想いを呟く神楽や新八。今までにも感じた不便さを振り返りつつ、今後はネットを通じた情報収集が容易になったと喜んでいる。

 そんな二人とは対照的に、銀時はパソコン自体を購入したことにあまり納得はていない。

「今更いうのもなんだが、本当に購入して良かったのかよ? だいぶ高く付いたんじゃねぇのか?」

 そう気だるそうに呟くと、アスナがはきはきとした声で返していく。

「貯金もあったから、特に問題なく購入できたわよ。銀さんは少しくらいアナログ派な思考から脱却した方が良いんじゃないの?」

「それにインターネットが使えるようになったら、サイコギルドの情報だって来るかもしれないだろ?」

「便利になること間違いないですから! もっとポジティブに考えましょう、銀時さん!」

「はいはい、分かったから! お前たちの言いたいことは」

 彼女に続いて、キリト、ユイもテンションを上げながら、銀時をまくしたてるように説得している。彼ら三人もパソコン及びインターネットが使用できることには、かなりの高揚感を覚えていた。銀時は未だに乗り気ではないが……。

 温度差がはっきりと浮き彫りになる中、万事屋達は着々とパソコンやインターネットが使える環境作りを整えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから初期設定を入力していき、インターネットに繋げたことでいよいよ操作に本腰が入る。

「それじゃ、まずは俺達のホームページを作ろうか」

「おっ、キリが作れるアルか?」

「まぁな。作り方自体は知ってるから、難なく要望してくれよ」

「流石ですね! どこかの皮肉屋とは偉い違いですよ」

「それ俺に言ってんだろ。目線を合わせんじゃねぇよ!」

 ひとまずは前々から決めていた万事屋のホームページを製作することに。製作者としてキリトがさり気なく名乗りを上げており、見切り発車の如くもう下準備を進めている。デジタル関係に詳しく、頼りになる姿に新八や神楽もつい感心していた。あらぬ文句が、銀時へ飛び火していることなど知らず。

 彼の反射的なツッコミはさておき、万事屋のホームページ作成に向けて捜査を続けているキリト。そんな彼に対して、ユイがとある提案をぶつけている。

「それでは、パパ。まずはこの世界の色んなホームページを、大方参考にしてはいかがでしょうか?」

「確かに。私達の世界とは特色が異なっているかもしれないわね」

「それもそうだな。それじゃまずは、どこのホームページから見に行くか?」

 それは参考程度に他のホームページを見学すること。自分らが持ち合わせている知識のみならず、この世界ならではの手法や特徴を学ぼうとした。

ユイの提案には、アスナやキリト、他万事屋メンバーも好意的に反応している。さすれば肝心なのは、どのホームページを参考にするか。早とちりのように、面々が次々と事を発している。

「そりゃあれだよ……結野アナのタレントページに決まってんだろ! 今すぐテレビ局のホームページにアクセスしろ!」

「ちょっとアンタ! 何欲望ダダ洩れにしているんですか! こういう時は、お通ちゃんの公式ホームページの方がまだ参考になるわ! 急にしゃしゃり出ないでくださいよ!」

「そういうお前もナ! ここは中間択をとって北島五郎にするネ! 聞いたことアルよ! 通信制限でも必ず見れるページだって!」

「神楽ちゃん! それ別の人だから!」

「良いから、さっさとホームページまで飛ばせ!」

 三人ともあれよあれよと仲間を押しのけるかのように、自分の主張を通そうとしていた。銀時は結野アナが掲載されているテレビ局、新八はお通の公式ホームページ、神楽は北島五郎の自己紹介ページと提案がてんでばらばらである。

 あまりの横暴さには、ユイらもつい反応に困り果てていた。

「ど、どうしましょう、パパ……」

 心配そうな表情で呟くユイ。キリトも苦い表情のまま、万事屋達を落ち着かせる方法について悩み始めていた。

 するとアスナが、こっそりと彼の耳元で囁いていく。

「ねぇ、キリト君。こにょこにょ」

「あぁ、分かった」

 すんなりと彼女の伝えたいことは分かった様子で、キリトはすぐにとあるホームページにアクセスしていた。

「おっ!」

「どこにアクセスしたアルか!?」

「見せやがれ!」

 と反射的にパソコンの画面に映し出されたホームページを、まじまじと見つめる銀時ら。キリトがアクセスしたサイトは……

「えっ……真選組?」

「芸能人よりも組織のホームページがよっぽど有意義でしょ。後で色々と検索してあげるから、今は我慢してね」

「まぁ、最初はこれでも良いんじゃないかな?」

真選組の公式ホームページである。画面には格式さを感じられる市松模様と、名も知らない真選組の隊士が何枚にも渡ってスライドしていた。

 拍子抜けた反応を示す万事屋達に、アスナは自信満々で一行を説得させている。キリトも一声だけ加えていた。

「チッ、分かったよ。そんであの税金ドロボー共のホームページには一体何が書いてんだよ?」

「ちょっと大方見てみるか」

 否が応でもアスナの説得に納得する三人。今回ばかりはキリトらに主導権を渡す様子であった。

 とそれはさておき、一行は真選組のサイトに注目を寄せている。掲載していたのは仕事内容、隊士募集の説明、これまでに上げた実績と何の面白みもない要素ばかりであった。

 適当にサイトを周っていると、一行はある特集ページに辿り着く。

「あっ、自己紹介が書いていますね」

「近藤さんに土方さんに沖田さんね」

「いつものメンツアルナ」

 それは真選組の重要メンバーへのインタビュー特集。局長の近藤勲、副長の土方十四郎、一番隊体調の沖田総悟と、万事屋とは切っても切り離せない面々が特集に記載されている。案の定、山崎はいなかったが……。

「当然のごとく、山崎は対象外だと」

「ちょっと、銀さん。山崎さんが可哀そうでしょ」

「んなこと言われても、ヤツはまだ名前が出るだけましだよ。名前すらないモブと、名前があるのに目立っていない中途半端な奴らと比べてな」

 銀時の持論には、新八もつい反論が出来ずにいた。確かに一番最初に見えた隊士の写真と比べれば、山崎など存在感が濃いに等しいであろう。

「はいはい、そんな話は良いから。ところで、三人共意気込みが書かれているみたいね」

 と話は逸れてしまったが、ひとまずはインタビュー内容を閲覧していく一行。見れたのは何の変哲もない三人のインタビュー。割とどうでもよさそうな内容に、万事屋達はつい眠気を覚えてしまう。

「ふわぁ~眠くなってきたな」

「案外見物はなさそうだな」

 大きなあくびを出す銀時と、つまらなそうな目で操作するキリト。真選組らしからぬ生真面目な記事に皆が辟易している。

 そんな中でユイは、三人のインタビュー記事に隠された秘密へ気付いていた。

「アレ? ちょっと見てください、皆さん!」

「ん? どうしたアルか、ユイ?」

「写真にアイコンを合わせると、どこか別のページに飛べませんか?」

「本当かユイ? ……って、本当みたいだな」

 彼女の言う通り、真選組それぞれの宣材写真にカーソルを合わせると、どこか別のページで飛ばせるらしい。彼らの遊び心か知らないが、疑問に感じた銀時らはすかさずそれぞれのアイコンにクリックしている。

「土方さんから……うわぁ!?」

「えっ、どうした?」

 土方の写真をダブルクリックした途端、キリトは思わず驚いてしまった。皆がパソコンに映し出された画面に注目を寄せる。そこには、

「マヨネーズ王国……?」

「マヨリン?」

「って、アイツが好きなマヨネーズのサイトじゃねぇーか」

土方が好きなマヨネーズ商品の公式サイトに飛ばされていた。サイト内ではクセのあるテーマソングが流れており、カルト的な雰囲気を感じた一行はすぐにサイトを消している。

 案の定、みんなの僅かな予感が的中した瞬間でもあった。どうやら写真を押すと、添付されたサイトへ移動することが出来るらしい。

「次だ、次。沖田は何のサイトへ飛ぶんだよ」

「沖田さんのことだから、変なサイトに飛びそうだけど」

「気を付けてください、パパ! もしかすると、変なコンピューターウイルスでパソコンが壊れるかもしれませんよ」

「いやいや、公式サイトでそんな嫌がらせするはずが」

 続けては沖田の写真をダブルクリック。土方以上の地雷を皆が察し、ユイに至っては用心深くコンピューターウイルスまで予測している。

 そんなスリルを感じさせる沖田の添付サイトは、

「えっと真選組裏サイト……?」

「へ?」

中々に闇を感じさせるサイトであった。サイト内は真っ暗かつ赤文字でびっしりと恨みつらみが刻まれ、一昔前の古めかしい印象を見た者に与えている。パッと掲示板の題名を見るだけでも、相当な怨念が込められていると皆が感じていた。

「……見なかったことにしましょうか」

「そうですね」

 反応に困った一行は、そのまま何も言わずサイトを閉じてしまう。土方の時と同様、中々に衝撃を与えていた。

 そして一行は、最後に近藤の添付サイトを覗くことに。

「それじゃ、近藤さんも……」

「って言っても、この流れはどうせお妙関係だろ? むしろそれ以外何があるんだよ、なぁ新八?」

「僕に言わないでくださいよ。僕だって薄々感づいているんですから」

 皆が予想する通り、近藤の添付サイトは恐らく妙絡み。ストーカー行為に日々悩まされている新八にとっては、この流れも普通に予想出来ていた。

「じゃ試しに……本当だ」

「あのゴリラ、恒道館のサイト貼っつけていたアルか?」

 実際写真をダブルクリックすると、案の定恒道館のサイトに飛ばされている。サイト自体は妙も移っておらず、必要最小限のことしか書かれていない簡素な仕様だが、それでも添付として登録しているのは、今でも妙を思い続けているメッセージ故なのだろうか。万事屋からすればしつこいに他ならない。

「前々から思っていたけど、近藤さんってどうしてここまでしぶといのかしら……?」

「しらね。バカだからじゃねぇのか?」

 アスナの投げた問いを銀時はすぐに一蹴。少なくともバカとも言えず、皆は妙なもどかしさを感じていた。

 これにて真選組のサイト調査は終了……かに思われたが、実は妙のサイトにも知られざる秘密が隠されている。

「それじゃ次のサイトにするか」

「……って、待ってください! 恒道館のサイトにも、どこかへ繋がっているみたいです」

「えっ? そうなのか?」

 どうやらユイの読み通り、恒道館のサイトも真選組と同じく、画像を押すとどこか別のサイトへ飛ぶことが出来るらしい。気になった一行はすぐに、恒道館サイトに掲載された写真をダブルクリックした。

 すると画面に映し出されたのは、

「……害獣駆除会社?」

「凶暴な野生動物を退治しますって」

あまり耳馴染みがない害獣駆除業者である。サイト内には宇宙中に蔓延る凶悪生物を退治しますと謳っていた。中にはゴリラっぽい生物も……。

 ここから導き出される答えは一つ。妙はいざとなれば、近藤をゴリラとして駆除しようとしているのかもしれない……。

「見なかったことにしようか」

「そうアルナ」

 こちらも反応に困ってしまい、沖田の時と同様にノーコメントで貫く。何の変哲もないサイトと思いきや、あらぬ地雷を目の当たりにした一行である。

 

 

 

 

 

 

 

 それからもサイトの閲覧は順調に進み、時には一行の興味あるサイトを覗きながら、着々とホームページの構成を練っていく万事屋達。

 すると銀時が、とある店名を思い浮かばせていた。

「あっ、そうだ。あの茶屋って、サイトあんのか?」

「茶屋? もしかして、リズ達がいる のこと?」

「そうだよ。ていうか、アイツらも公式サイトあんのか?」

 その店の名はひのや。ご存じシリカ、リズベット、リーファ、シノンらが下宿している場所でもある。新たな仲間も出迎えたことで、てっきりサイトもあるのかと思いきや……どうやらその予想は外れていた。

「銀さん。茶屋は無いみたいだが、代わりに超パフュームってサイトはあったぞ」

「はぁ!? マジかよ」

 予想と反して、彼女らが一応所属している超パフュームのサイトは作られているらしい。気になった一行は、すかさずそのサイトを画面上へ映し出していた。

「うお? って、シルエットだけアルか?」

「名前も明かしていないみたいね」

「また随分とミステリアスな」

 一風変わったサイトの作りに、驚きの声を上げる新八ら。サイトを読み進めると、それぞれの紹介分が掲示されていた。

「え~何々、かぶき町や吉原で活動する華麗な女子集団。もしかしたら、通りすがったあの子がメンバーかも……って、地下アイドル気取りかよ」

「姉御達に地下アイドルは似合わないアルよ! せめて純烈くらいターゲット層を特価するべきネ」

「いや。話がずれていない、神楽ちゃん?」

 神楽の勘違いに新八がツッコミを入れている。それはさておき、超パフュームのサイト内は皆黒いシルエットで統一。名前も姿も伏せており、真偽不明な情報しか載せていない。

 恐らくこの仕様になったのは、始末屋として活動するあやめの要望が入ったからかもしれない。とそれはさておき、真偽不明な情報のため、各メンバーは好き放題に紹介文を盛っていた。

「ドラゴン大好き女子。体型はモデル体型かも。結構みんなからチヤホヤされています……って、これはシリカちゃん?」

「とある人が大大大好き。好きすぎてストーカーになっちゃいそう。胸には自信があります。これは……さっちゃんかリッフーアルナ」

「スグか? そんな感じは無いけどな……」

 神楽の予測にすかさず否定するキリト。ストーカーと言う一文で、リーファではないと見抜いていたが……強ち間違いではないのも事実であろう。

 と各メンバーが思い思いに描いた紹介文。シリカや妙らを知っている万事屋からしてみれば、どれが嘘で本当か全て把握していた。

「うーん……全員分紹介していたけど」

「結構みんなネタで書いている感じアルナ」

「んなことならよ、いっそのことキャバ風に仕立てても良いんじゃねぇか? 顔出しとかして、男を釣りまくってイチコロだっての」

「ちょっと銀さん。流石にリーファさん達に失礼じゃないですか?」

 何の面白みも無いと感じた銀時は、ふざけ半分でサイト自体を茶化していく。傍から見れば大人げない意見で、新八もつい苦言を呈している。

 それでも銀時の文句は続く。

「別に良いんだよ、アイツらは。恰好からして痴女っぽいだろ。ギリギリを攻めるコスプレイヤーとして掲載すれば大繁盛だろ?」

「もう……後でシノノン達に怒られても知らないわよ」

「大丈夫だよ、どうせ聞いていないから」

 とアスナから諭されてもなお、余裕綽々な態度を見せる銀時。近くに当事者達がいない分、好き放題言いまってくる。

 仲間達も説得に半ば諦めかけていた時だ。

「へぇ~随分と卑猥な文句を言うじゃない……」

「銀さん……!」

「へ? ま、まさか……?」

 ふと聞こえてきたのは、声を震わせていく女子達の一声。声質からリーファとリズベットに似ており、その声を聴いた銀時は思わず体を固まってしまう。

 皆が声の聞こえた玄関先まで目を向けると、スッと扉が開き、その中からシリカ、リズベット、リーファ、シノンが立っていた。四人共怒りの表情を滲ませており、片手にはそれぞれ自慢の武器を装備している。

 要するにおふざけで言い放った銀時の文句は、全て筒抜けだったということだ。

「よくも私達のアバターを小馬鹿にしてくれましたね……」

「誰の服装が痴女ですって……!」

 目つきを鋭くさせながら、自身の武器を銀時へ差し向けるシリカとシノン。よっぽど銀時の文句が気に食わなかった様子だ。

 四人の怒りの覇気は見事に銀時を震え上がらせており、彼の顔色は勢いを失くしている。

「お、お、お、落ち着け! お前等!! ただの冗談に決まっているだろ! 痴女なんかじゃねぇよ、ソシャゲキャラSSSR級だぞ!」

「今更誤魔化したって無駄よ」

「覚悟しなさい……!」

 慎重に女子達を宥める銀時だが、所詮は焼き石に水。むしろ怒りを沸々と高めながら、標的を銀時に差し向けている。

 もはやボコボコにされるのも時間の問題。自分の失態なためか、擁護してくれる仲間も到底いない。だとすれば、行動すべき答えは一つである。

「……さらばだ!」

「あっ、逃げた!」

「この!! 待ちなさい!」

「逃がさないわよ!!」

 隙を見て逃げること。後ろにあった窓を開けて、銀時は恐れなど知らぬまま飛び降りていた。途中壁際を力づくでつたりながら、すんなりと着地。そのまま闇雲になって、万事屋から逃走している。シリカら女子達は、逃げ続ける彼を追いかけようとした。

 数分の間に起きた波乱。これに何一つ関係ないアスナらは、ただただ反応に困っている。

「に、逃げちゃいました……?」

「どうします、アスナさん?」

「知らないわ! 一回リズ達にボコボコにされれば良いのよ。さぁ、変わらず続けましょう」

 呆れ果てたアスナは、銀時を手厳しく一蹴。抱えていた不満を爆発させながら、事を一掃させている。

 こうして仲間達は変わらずに作業していく。

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで……俺はギリギリ逃げ延びたわけだ」

「いや、確実に報復受けましたよね?」

「リッフー達を怒らせた天罰アル。しっかり反省するヨロシ」

 それから銀時は数分経った後に、万事屋の元へと戻ってきたが……その姿はボロボロと傷が至る所に付けられている。恐らくシリカら女子達に報復を受けた証拠であろう。

 いずれにしても仲間達は、銀時の軽率な態度には反省してほしいと切に願っていた。

「まぁまぁ、銀時さんの件は一旦置いといて……次のサイトを見学しましょうよ」

「そうね。それじゃ次は、スナックお登勢が合ったらみましょうか」

「それにするか」

 とそんな不安はさておき、一行は次なる検索ワードに注目を寄せていく。続いては万事屋の下の階に位置するスナックお登勢。そのホームページがあれば閲覧したいのだが……キリトはここでとある事実に気付き始めていた。

「えっ? なんだこれ……?」

「どうしたんですか、パパ?」

「いや、スナックお登勢を調べたら、検索してはいけない言葉って関連ワードに出て」

 検索サイトの関連ワードを見るや否や、そこにはまったく関連性の無い「検索してはいけない」の文字が。

 万事屋一行も、この結果にはあまりしっくりきていない。

「なんだよその検索してはいけないってのは」

「確かネット用語の一つね。怖い画像とか、精神的なショックを与えるような動画によく付けられるのよ」

「一体どういうことでしょうか?」

「婆さんやキャサリンが何か驚かすんじゃないアルか?」

 アスナの解説を聞いても、いまいち感覚を掴めない銀時や神楽。怖いもの見たさでもあるが、ここは「百聞は一見に如かず」。キリトはそのままスナックお登勢のサイトにアクセスしてみる。

「とりあえず、見てみるぞ」

「サイト自体は……至って普通ですね」

 意を決してアクセスしたものの、画面に映し出されているのはただの店舗案内。取り扱っている酒類や字面のみの客員紹介(丁寧にたまやエギルも追加されている)と、味気ない印象を一向に与えている。

 しばらくキリトらがサイト内を操作していると、とある項目に目が付いていた。

「そういえば動画って項目があるぞ」

「動画? 外観とかを紹介しているんでしょうか?」

 それは動画紹介の欄。興味本位で一行がその動画を開いてみると……

「そう……!」

「二人は……!」

「「魔法熟女!! 二人はババキュア!!」」

見るもおぞましい光景が映し出されていた。そう検索してはいけないの正体は、サイト内で掲載されているたまキュア動画。以前にもおふざけ半分で思いついた企画が、ひっそりとネットの中で公開されていた。(本家から怒られた様子を見るに、広い括りでは検索してはいけないとも言えるが)

 動画の一部始終を見た万事屋一行の反応はまばらである。

「ナ、ナニコレ……」

「えっと……ネタ動画か?」

「お登勢さんとキャサリンが……まさかあんなことを?」

 アスナ、キリト、ユイは初めて目の当たりにするお登勢らの姿に戦慄を覚えていた。皆困ったような表情を浮かべており、体も固まってしまう。

 一方で銀時らはと言うと、

「そういえば、銀さん達はどこ行った?」

「銀時さん達なら、動画を見た瞬間にトイレへ駆け寄りましたよ」

「トイレ……まさか?」

アスナの予想通りに気分を一層悪くしていた。

「オロロロロ!」

「早く変われアル!」

「やばい……無理」

 三人は押せよ押せよとトイレの内部にこもって、存分に嘔吐を続けていく。久しぶりに見たたまキュアの姿に、体が耐え切れなかったらしい。最初の時とほぼ同じ反応である。

「そ、そこまでか?」

「よっぽど気分を悪くしたようですね……」

「ある意味で検索してはいけない言葉なのかも……」

 銀時達の壊滅的な姿から、キリトらもたまキュアの破壊力を痛いほど感じていた。キリトもそっとスナックお登勢のサイトを閉じている。

 

 

 

 

 

 

「おい、そろそろサイト閲覧も最後にすっか?」

「ていうか、三人共大丈夫なの?」

「平気ネ。ここ最近は吐いたり戻したりの繰り返しだから、もうとっくに慣れたアルよ」

「例えが不潔ですよ、神楽さん!」

 未だに調子が戻らない神楽の一言に、反射的ながらツッコミを入れるユイ。

 数分休憩をとった今でも、気分を悪くした銀時ら三人の調子は中々戻っていない。たまキュアが与えた心の傷は相当なものである。

 と仲間達を宥めながらも、サイト製作に向けてアイデアをまとめていくキリト。これまでに閲覧したサイトを参考にしていた。

「うーん……これまでのサイトを見ると、結構インパクトの大きい要素も必要になるか?」

「別に僕らのサイトには不十分な気もしますけどね」

「分かりやすく簡潔的な方が、私は重視すべきだと思うけど」

 数々のクセの強さから考えをより煮詰めてしまうキリトに、新八やアスナが冷静に説得していく。彼らはやはり見栄えやインパクトと言った話題性よりも、要所がしっかりと固められている生真面目さが重要だと伝えている。

 サイト製作がより難航と化す中、神楽はあることを閃いた。

「あっ、そうアル。もしあったら、ヅラのサイトとかあるんじゃないアルか?」

「ヅラって、桂さんのことか?」

 それは桂達攘夷党のサイトについて。これまでにも深く関わりのある仲間達のサイトを閲覧したが、思い返すと桂達はまだ一切見ていない。そこで最後の一押しとして提案したのだが……よくよく考えるとサイト自体皆無に等しい。

「でも攘夷党ってサイトは無いんじゃないの? 指名手配されているし」

「奴が大っぴらに身分を明かすわけがないだろ。ここはフルーツポンチ侍って調べておけよ」

「何ですか、その芸人さんのような名?」

「ヅラが以前に使っていたネットネームだよ。どうせこっぱずかしいやり取りしか出てこねぇがよ」

 攘夷党が幕府から危険視されているため、公式サイト自体は無い。代わりに銀時が提示したのは、ヅラが隠れて使っていたニックネーム、フルーツポンチ侍。とある掲示板に現れて、名前が微妙に似ているフルーツチン〇侍(正体は近藤)と論戦を繰り広げていた。

 そんな事情はさておき、何かしらのきっかけを作れると思い、キリトをスレに誘導させる銀時。珍妙な言葉が気になったキリトは、そのまんまフルーツポンチ侍と検索してみる。

「本当に桂さんのニックネームか……って、こんなものが見つかったんだが」

「ほら。くだらないやり取りが――えっ!?」

 文字を打ち込んで一番上に掲載されたサイトにアクセスしてみると……そこには予想外の光景が目に映っていた。桂の事情を知る銀時ら三人も、これには驚きを隠せずにいる。

 彼らが目にした光景は――フルーツポンチ侍の模倣犯が何人も現れていたことだ。

「なんでこんないっぱいいるアルか!?」

「丸々じゃない丸々だ! が定着していますね」

「桂さんに松岡さん、伊藤さんに戸松さんって……」

「悪ふざけしている人がこんなにもいるの?」

 神楽、ユイ、新八、アスナと思ったことを発していく。フルーツポンチ侍じゃない桂だ!がもはや定型文と化しており、これらを置き換えてスレの題名にするのが掲示板の常識となっている様子だ。

 元の世界のネット文化に多少精通しているキリトやアスナも、このネットネームには衝撃を隠せない。しばらくスレの題名を閲覧していると、ユイがまたしてもあるものを発見していた。

「あの、皆さん……もしかしてこの方って」

「えっと……フルリン火山侍じゃない、壺井だ! えっ……」

「壺井って」

「まるっきしアイツじゃねぇかよ!」

 スレの題名の見出しを見てみると、それは風林火山を思い起こすフルリン火山侍の名前。しかも名前が壺井という点から、一行はすぐにクラインだと把握。(彼の本名が壺井のため)

 恐らくは桂の影響で、スレを始めてみたに違いない。いずれにしても、この常識には銀時らも到底ついていけず、深堀さえすることは無かった。

「なぁ、銀さん。詳しく見てみるか?」

「却下に決まってんだろ! どうせ「切腹しろ」とかって単語が並んでいるに違いねぇよ! 無視だ、無視!」

 即刻サイトを消して、スレ自体を見なかったことにしている。そもそもが公式サイトでないため、主題からもズレていることに気付き始める一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして数多のサイトを参考にして、自身のサイトを作りあげるのに半日が経った頃。辺りが夜を迎える頃には、もうすでに万事屋の公式サイトが完成しきっていた。

「これで良しと……!」

「おっ、ようやく出来たアルか。キリ!」

 主にキリトが尽力して製作した万事屋のサイト。店の外観や仕事内容、各メンバーの紹介をコンパクトにまとめている。(超パフュームのサイトを参考に、影や文字のみで紹介している)

 他にも公式サイトには、メンバー特有の小ネタが盛り込んでおり、実際に仲間達が作ったサイトも少しばかり参考にしていた。

 サイトの完成と共に、仲間達はキリトを大いに労っていく。

「お疲れ様です、パパ!」

「なんとか今日一日で終わったわね」

「あんがとよ。デジタル関係は俺達疎いから、助かったよ」

「いやいや、これも万事屋のためだからさ。さぁ、今日はもうご飯食べて明日に備えよっか」

 ユイ、アスナ、銀時と続けて声をかけていた。

 充実たる達成感を覚えながら、キリトは大きく腕を伸ばしている。大きくあくびを上げながら、ゆっくり休もうとしていた。

 仲間達も彼に続いて、風呂なりご飯の準備を始めようとした時である。

「アレ? ちょっと、皆さん。もう依頼が届いていますよ」

「えっ!? マジアルか?」

 新八はふとサイトを覗いてみると、依頼受付のメール欄に一通の着信があった。早くも依頼が来ている事実に驚く一行。

 再びパソコンの画面に目をやると、そこに書かれていたことは――

「えっと、何々……しばらく民泊させてください。フルーツポンチ侍とフルリン火山侍より……って」

「アイツらじゃねぇかよ!!」

まごうことなき桂とクラインからである。二人のネットネームとほぼ同じであり、宛名を見た時間で皆が察していた。銀時も大いにツッコミを上げていく。

 こうして遂に公式サイトを開設した銀時ら万事屋。インターネット環境も使えるようになった今、これで依頼がより増えるのだろうか? そしてサイコギルドの情報収集は捗るのだろうか? ……恐らく暇つぶしは捗りそうである。




おまけ あのサイト

アスナ「ねぇ、銀さん? 万事屋って検索したら、変なサイトが出てきたわよ」
銀時「ハァ? ……ちょっと待て! まさか!?」
 アスナからの情報に、つい心当たりのあった銀時。パソコンを操作すると、画面に映し出されたのはあのサイトである。
銀時「やっぱりか……」
キリト「えっ? 俺達以外にも万事屋がいたのか?」
銀時「元万事屋だ。プロトタイプだよ」
ユイ「プロト? 旧メンバーでしょうか?」
銀時「あたぼーよ。腕にサイコガンはめ込んだ金丸と古橋、常時アルコール口調の池沢だよ」
キリト・アスナ・ユイ「「「……どういうこと?」」」

※アニオリにて実はサイトを作っていた万事屋プロトタイプの元一員。本編にて組み込めず、おまけで採用致しました。




 万事屋にパソコン及びインターネットが到着。これでキリトの暇つぶしも解消されるかも。ちなみに普段のキリトは、フェル通を始めとしたゲーム誌を読み漁っていました。

 色々と衝撃のあったサイト製作。本編の銀魂では中々描写されていなかった公式サイトをテーマに作りました。
 中には懐かしいネタもありましたが、実は最近銀魂を一気見していて、その影響かもしれません笑 次回もまた意外なキャラが出るかも。
 もしも銀魂の世界に動画投稿サイトがあるなら、フルーツポンチ侍の掛け合いは動画化されているかもしれませんね。もういっそのこと長谷川さんをユーチューバーにする話も作ってみたいです。

 そして次回は百訓突入を記念して、あの回をやります! 現在の時系列は9月下旬……アスナ、シリカ、キリト、銀時の誕生日が近づいていますね~~




次回予告

シリカ「アタシの誕生日が目前に迫っているのに、キリトさんやアスナさん、銀時さんと一緒にまとめて祝うなんて……なーんか納得できません!」

陸奥「誕生日を祝えるだけありがたく思うきに。それはそうと主に頼み事があるが」

シリカ「アタシはもう見えても忙しい……って、誰!?」

陸奥「今気づくか」

シリカ「次回! 結婚式の余興に本気出す奴は良縁だから末永く友情築いとけ!」

陸奥「おまんの想い人とではないぞ」

シリカ「わ、分かっていますよ!!」

完全に声優ネタ。近藤、沖田、九兵衛、ユウキの中の人が一堂に介するチャンピオンカップがあるという。(未視聴です)


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第九十九訓 結婚式の余興に本気出す奴は良縁だから末永く友情築いとけ

今回より誕生日ウィーク開始。この勢いのままに百訓まで突入しちゃいます。


「はぁ……どう思いますか、ピナ?」

「ナップー!!」

「そうですよね。一気にまとめられたこっちの身にもなってくださいよ!」

 港近くにある広場の椅子に座り、不機嫌にふてくされるはシリカ。共に連れてきていたピナに対して、タラタラと不満を共有する。ご主人様の言い分に、ピナも久しく共感していた。

 一体何が起きたのか? 時は前日の夜へと遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「そうなの? だったら全員を巻き込んで、盛大なパーティーを開こうかしら?」

 ちょうど店を閉めた直後。ひのやの主人である日輪は、黒電話を介して誰かと相談をしている。

 談笑しつつも通話を終えると、ちょうど良いタイミングでシリカが話しかけてきていた。

「あの、日輪さん? 一体誰とお話していたんですか?」

「あら、シリカちゃん。ちょうど良かったわ、話したいことがあったのよ」

「急に何なんですか」

 こちらへ優しい微笑みを見せる日輪に、シリカはつい警戒心を露わにする。微妙な表情を浮かべながら、後部にある尻尾もくにゃりと曲げていく。

 とそんなことはつゆ知らず、日輪が話しかけてきたことは……

「明日ね、シリカちゃんの誕生日会をしようと思うのよ!」

「……へ?」

唐突な誕生日会の開催である。予想外な展開には、シリカ本人も一段と困惑していた。

「誕生日って、アタシはまだ一週間近くありますよ?」

「それはもちろん知っているわよ。リズ達からも聞いたし。でもさっき、銀さん達と話してみた感じね、どうやらキリト君やアスナちゃん達も誕生日が近いらしいのよ」

「あぁ、確かに二人共アタシと近いですよね――アレ?」

 最初こそ日輪の先走りかと思いきや、段々とその本筋を理解していく。だがそれは同時に嫌な予感を想起させていた。

(ま、まさかまとめて誕生日会をする気じゃ……)

 誕生日が近い故の同時開催を、シリカは僅かながら恐れている。シノンの時とは違って主役が多くなるため、特別感が薄れることを危惧していた。

(嫌な予感が当たりませんように……! スリザリンは嫌だ! スリザリンは嫌だ!)

 ネットで目にしたおまじないを参考に、内心では祈りを続けている。そんなシリカの狙いなど知らず、日輪はようやく本題を彼女へ打ち明かす。

「それとシリカちゃんは知らないと思うけど、銀さんも実は誕生日が近いのよ。だから四人分まとめて、明日誕生日会を開くことにしたわ!」

(グハァァ!!)

 見事にスリザリン(嫌な予感)が当たって、シリカは精神的なダメージを負ってしまう。キリトやアスナと誕生日が近いことを知っていた彼女だが、まさか銀時とも近いのは想定外であった。

(ちなみにアスナが9月30日、シリカが10月4日、キリトが10月7日、銀時が10月10日とほぼ三、四日感覚で誕生日が決められている)

 合同誕生会の確定に激しくも苦い表情を浮かべるシリカに対して、日輪は気合に満ちた表情で張り切りながら、明日の誕生日会の準備をもう始めている。

「さて、そう決まったならもう支度をしないと! シリカちゃんは、明日一番に何を食べたいかしら?」

「チ、チーズケーキで……」

「分かったわ。特別に作っておくから待っていてね!」

 シリカの悲哀を察することなく、冷蔵庫の中身を確認していく日輪。もう準備のことで手一杯となっている。

 一方のシリカ本人は本音をぶつけたいところだが、正直には言えなかった。理由は色々とあるのだが、何よりも日輪の熱意を削がしたくないこと。下宿先の保護者とは言え、ここまで手厚くもてなしてくれるのも有難く思っている。だからこそ、余計な贅沢は言いたくないのであった。

(本音と建前って難しい……)

 今日しばらくは立ち直りそうがないシリカである。

 

 

 

 

 

 

 それから一日が経ったこの日。正確に言うと九月の三十日当たり。

 今日一日シリカには何も予定がなく、誕生日会本番は夕方から下宿先にて開催される。肝心の仲間達はと言うと、リズベットは鍛冶屋、リーファとシノンは野暮用、月詠と晴太は買い出しと皆がまばらに行動していた。

 折角の誕生日会の主役にも関わらず、暇を大いに持て余しているシリカ。万事屋に行こうにも、あちらは誕生日の準備をしているに違いない。様々な不満を抱きかかえながら、彼女は頼れる相棒のピナに愚痴を漏らすだけである。

「はぁあ~もうこうなったら、ソリートさんのところに行って時間潰しましょうか」

「ナー!」

 不機嫌さは未だに直っておらず、少しでも気を紛らわせるために場から動き出そうとしていた。

 と港付近から抜け出そうとした時である。

「はぁ!? おまん、何を考えているきに!? 結婚式の引き出物を貸し忘れただぁ!?」

「ん?」

 ふと猫耳に聞こえてきたのは、土佐弁で話す女性の怒号。その力強い一声に、シリカらは辺りを反射的に見渡している。

 すると多くの倉庫が配置されている商店沿いに、青い野良服を着用した女性の姿が見えていた。彼女は編み笠を頭にかぶっており、左手には携帯電話で何者かと話している。素朴な佇まいから、かぶき町や江戸には住んでいない者などシリカは推測していた。

「九兵衛さんと同じ服? でも笠を付けていますね」

 彼女はこっそりと物陰から様子を伺うことにする。

 一方で女性の怒りは収まらず、電話相手に向かって怒りをぶつけていた。

「良いか? 今すぐ港へ戻るきに! おまんが……って、用がある? またどうせおりょうとかいうキャバ嬢に会う気じゃろ! おい、待つ……チッ! あの唐変木!」

 怒鳴り散らす中で通話が切れてしまい、女性は大いに地団太を踏む。方言の効果もあるが、それでも言いたいことをはっきりと言う姿に、シリカやピナも遠目ながら感心していた。

「ナ……」

「凄い迫力の女性ですね……」

 一方の女性だが、怒りを抑えつつも今後について考えている。

「どうするんじゃ……今更結婚式の引き出物など用意できるか。近くに代わり……ん?」

 と深刻そうな表情で考えを煮詰めていた時。女性は遠目から見ているシリカとピナに気付いていた。

「ナ!!」

「ん? って、近づいています!?」

 ピナの呼びかけで、ようやく女性の行動に気付くシリカ。殺気だった覇気を感じ、思わず体を震え上がらせてしまう。表情もびくびくと怖気づいていた。

「あ、あの! ごめんなさい!! 別に盗み聞きしていたわけじゃないんです! たまたま土佐弁が耳に残って! とにかくすいません!」

 怒り心頭だと思われる女性の気を紛らわせるため、謝罪をするシリカだが、どれも空回りしている。慌てふためくご主人様の姿に、ピナもつい心配していた。

 そしてとうとう女性は、シリカへ話しかけていく。

「おまん……」

「ひっ!? 何ですか!?」

 肩をも掴まれてしまい、とうとう逃げ場がなくなった彼女は、怒られる覚悟で目を瞑る。必死に歯を食いしばっていた時だった。

「このペット、借りることは出来ぬか?」

「……えっ!?」

 投げかけられたのは怒りではなくお願い。想定外の展開には、シリカはおろかピナでさえも首を傾げている。

 このきっかけが、シリカと陸奥の初めての出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

「申し遅れたきに。ワシの名前は陸奥じゃき。普段は快援隊と言う貿易商売を営んでおる」

「アタシはシリカです! 色々あって今は吉原で下宿していまして……あっ、でも怪しい店にはいませんよ! 健全にこの街で暮らしているんですから!」

「ナー!」

「ほ、ほら、ピナも同じように言っていますし」

 出会いから数分が経ち、互いの心境が落ち着いた頃。シリカと陸奥は一旦呼吸を整えて、簡単な自己紹介を交わす。シリカは下宿先が遊郭で有名なためか、一応誤解が起きないように補足を加えていた。

「まぁ、そんなことはないじゃろ。寺子屋通いの娘に、遊郭など酷に等しいからな」

「ハハハ……って、寺子屋通い?」

 よぎっていた誤解は無かったが、この一言には新たな誤解が含まれているかもしれない。聞こうか悩んだシリカだったが、一旦は聞き流すことにした。

 改めてシリカの出会った女性の正体は陸奥。快援隊の副艦長であり、組織の中枢を担っている人物である。

 万事屋とも何度も交流を重ねているが、実はキリトらが加入してからは一切音沙汰が無かった。故にシリカが銀時らと知り合いなのは分からず、対するシリカも陸奥が銀時の顔見知りなのは知らない。

「まぁ、そんなことはどうでもいい。先ほどの要件に話を戻していいか?」

「は、はい、大丈夫ですよ! 確かピナを借りたいって話でしたよね?」

「ナー?」

 陸奥が強制的に話題を戻し、シリカが素直に応じる。彼女からの提案はピナのレンタル。流石にこれだけでは理由も分からず、シリカやピナは一旦陸奥の話に耳を傾ける。

「実はな……今快援隊はとある客に商品を手渡すところじゃった。だが坂本のミスで、今日の配送には間に合わないらしい」

「坂本さん?」

「ウチのバカ艦長じゃ。あの男……仕事を放っておいて、キャバクラに行っておってな」

「えぇ……信じられないですよ。本当に艦長なんですか?」

「まったくじゃき。後でボコボコにしないとな」

「そんな物騒な……」

 またも怒りが再燃する陸奥に、どこか気持ちを同情させるシリカ。自由奔放な姿に振り回されている陸奥には、怒鳴っても仕方がないと感じていた。

(いますよね、そういう人。銀時さんみたい……)

 シリカは類似する人物で銀時を上げており、坂本とのいい加減さを照らし合わせている。どこの知り合いにも似たような人物はいると思い知っていた。

 坂本の一件も気になるが、それよりも彼女は陸奥の言っていた商品に注目を寄せる。

「それでその商品はどんなものだったんですか?」

「商品か? 結婚式の引き出物きに。とある国の縁起物で、古いもの、新しいもの、借りたもの、青いものが必要なんじゃ」

 明確となった引き出物の正体は主に四つ。古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの、この四つが揃うと夫婦は新たな門出を祝うことが出来るという。

「あっ! それでピナを借りたいと言ったんですね」

「じゃき。青いものと借りたもの、どちらにも該当するからな。じゃが……難しそうなら、大丈夫きに。強制するつもりはないからな」

 そういって陸奥は一旦一息ついている。

 ピナを求めた理由について納得をしたシリカだが、流石に訳を聞いても貸すことは出来ない。けれどもシリカには別の気持ちが芽生えていた。

「やっぱりピナを貸すことは出来ませんよ。アタシの大切なパートナーですもの」

「そうか……」

「でも、陸奥さんに協力することは出来ますよ! 今からでも引き出物を探してみませんか?」

「何? それは本当か?」

「はい! 乗りかった船ですから。一緒に協力しますよ!」

 それは陸奥を手助けする心意気。艦長の坂本云々で苦労していると察し、陸奥を手伝いたい想いが生まれていた。所謂同情心からだが、その本心は純粋な優しさから来ている。

 シリカの気持ちを聞いた陸奥本人は思い悩んだものの、彼女なりの優しさへ甘えることにした。

「ならば……恩に着る。おまんには後で借りを返さないとな」

「いえいえ、大丈夫ですよ! 困った時はお互い様ですから!」

 謙遜しつつも、陸奥を励ますように言葉をかけるシリカ。一方の陸奥も改めて彼女の優しさに礼を口走っていた。状況が前向きに傾いたことで、二人は表情を和らげている。彼女達に確かな情が芽生えた瞬間でもあった。

(随分と素直な子じゃき。ここは彼女に乗ってみるか)

(誕生日会まで時間がありますし、一気に集めちゃいましょう!)

 内心を探るとやや方向性は異なるが、二人の想いは同じ。仕事を遂行したい陸奥とは対照的に、シリカは気晴らし程度に捉えていた。

 と互いの本音はさておき、シリカは早速陸奥に現状を聞いている。

「ところで引き出物の中には、何か代替できるものってありますか?」

「そうじゃな……手頃な水槽があったな。上手く活用できるかもせん」

「水槽……魚とか入れると結構見栄えが良いかもしれませんね」

「渡すまでは二時間ある。それまでに埋め合わせを探すきに」

 合計で四つの物品を用意しなければならないが、現在陸奥が用意出来るのは余っていた水槽のみ。こちらは古いもの、もしくは借りたものとして活用できそうである。

 それでもまだ三つ、条件に沿った物を用意しなくてはいけない。制限時間は僅か二時間。時間が刻一刻と迫る中で、シリカらは一段と気を引き締めていく。

 陸奥が対策案を練る一方で、シリカは再度ピナに協力を持ち掛けている。

「ピナも協力してくださいね!」

「ナー! ……ナ?」

「ん、どうしたんですか?」

 と元気な返事を聞いたその時。ピナはある気配を察し、不思議そうな表情に変化。様子が気になったシリカが再度聞いてみると、

「ナ!!」

「ちょ、ちょっと!?」

ピナは勢いよく場から飛び去っていた。彼の突飛な行動に、シリカも何があったのかさっぱり分からない。

「何か見つけたのもしれんな。とりあえず跡を追うぞ!」

「ちょ、ちょっと!? 待ってくださいよ!」

 戸惑うシリカとは裏腹に、陸奥はピナが何か手がかりを見つけたと察する。一足先にピナを追いかけ、つられてシリカも走り出す。

 彼女らの予感は見事に当たっており、ピナは自身の直感を信じて引き出物を探している。港を離れて彼はとある森近くまで飛翔。建物のある手前まで止まり、ちょうどそこにシリカと陸奥も追いついていた。

「ハァ……やっと追いつきました」

「おまん、ここに何があると言うんじゃ?」

「ナー!」

 陸奥が早速ピナへ聞くと、彼は西の方角に指を向ける。

 するとそこには、とある人物が建物に寄りかかってうずくまっていた。その正体はなんと、

「どうせ俺は前時代の遺物だ……」

「って、長谷川さん!?」

マダオこと長谷川泰三である。シリカの知り合いであり、思わぬ再会に彼女は大いに驚嘆していた。

「なんじゃ、おまんの知り合いか?」

「いや、知り合いというか……顔見知りと言うか」

 一方の陸奥は長谷川とは初対面で、すかさずシリカに何者か問いている。シリカ自身も長谷川とはあまり面識がないので、ただのホームレス。もしくは銀時と同じ適当なおじさんくらいしか思っていなかった。その証拠に苦い表情を浮かべる始末である。

「ナー、ナー!」

「って、分かっていますよピナ。手伝ってくれてありがとうだけど……なんで長谷川さん?」

 微妙な反応を示すシリカとは違い、ピナは長谷川を見つけたことを誇らしく感じていた。ご主人様にも礼をねだっている。

 その狙いをいまいち理解出来ず、ひたすらに首を傾げるシリカ。自分なりの考えを練っていたその時。陸奥はある答えを閃いていた。

「……分かったきに!」

「む、陸奥さん!? どうしたんですか?」

 気になって聞き返すと、彼女はとある例え話を声に上げている。

「確かとある星でこんな言い伝えがあるぜよ……一番古き者に漆黒のサングラスを与えると。これぞまさに古きもの……まさかおまんは、この伝承を見越してここまでわし達を連れてきたのか?」

「ど、どういう伝承ですかソレ!? ていうか絶対今思いついたお話ですよね!? 勢いで乗っかろうとしていませんか!?」

 勝手な推測で納得する姿に、シリカはタカを外したかのようにツッコミを入れた。どうやら思いつく限りの伝承で、長谷川自体を引き出物に出来ないか画策しているようである。 シリカからしてみれば、唐突な昔話に全然理解が追い付かない。むしろ陸奥の言ったことが嘘っぱちだと疑りをかけている。

 としばらくツッコミを入れ続けるシリカに、ピナがふと鳴き声をかけていた。

「ナーナー」

「どうしたんですか、ピナ……って、陸奥さんはどこ!?」

 呼び止められてふと周りを見ると、すでに近くには陸奥の姿がない。軽く辺りを見渡してみると、ある会話が聞こえてきた。

「それ本当かよ!? 俺の欲しいもんがもらえるのか?」

「そうきに。ワシの知り合いに人手を募集しているヤツがいてな。今日一日協力すればな、おまんの願いは叶えておくぜよ」

「おぉ! どこの誰だか知らんが助かったぜ! ほら、このリヤカーで運んでくれよ」

「任せろ。こんなの快援隊にとっちゃ、朝飯前きに」

 そこには長谷川と会話する姿が。何やら交渉を持ち掛けており、すんなりと上手くいった様子である。長谷川の喜々した反応も妙に印象的だった。

「あ、あの……陸奥さん? 長谷川さんとどんなお話をしていたんですか?」

「何ぃ、簡単な取引ぜよ。こう見えてもワシは商人じゃ。慈善事業じゃなく、ちゃんと対等な関係の元で話し合うのが筋ってもんぜよ。今しがた長谷川という男に、夜のお店を紹介してきたところじゃ」

「って、何教えてんですか! 陸奥さん! 流石にまずくないですか?」

「まずいも何もこれがデフォルトじゃき。ヤツも困っていたからな。しっかりと働ける場所を提示したまでじゃ」

「ハハ、そう……ってお客さんじゃなくて店側!? さっきよりもヤバくないですか!」

 すぐに陸奥へ理由を聞くと、その返答は斜め上に傾いている。陸奥が長谷川に紹介したのは、なんと夜の仕事。職に困る長谷川にとってはまたとない話だが、そもそも初対面の相手の話を信じる長谷川の危機感の無さにシリカは驚嘆している。

 交渉も上手くいき安心した表情を浮かべる陸奥に対して、シリカは彼女の巧みな話術並びに長谷川の不用心さに苦い表情を浮かべてしまう。だがこれで古いものの代わりが見つかり、残りは新しいものと青いもののみである。

「ねぇ、ピナはどう思いますか……って、またいない!?」

 ふとため息をつきながらピナに話しかけるシリカ。ところがまた彼の姿は見当たらない。近くを見渡すと、ちょうど森の中へ入る光景が見えていた。

「ま、まさかまた代わりを見つけたんじゃ……」

「そうやもしれぬな。とりあえず追いかけるぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 恐らくはまたも代わりを見つけたのかもしれないが、長谷川の前例を見ると期待よりも不安が勝ってしまうシリカ。またも変なもの、もしくは変な人物を見つけるかもと肝を冷や冷やとさせている。

 そんな不安など一切感じない陸奥は、何の恐れも抱かずにピナを追いかけていった。シリカも彼女へ反射的についていく。彼が突き進むままに森の奥の中へ入ると、一行の目の前に澄んだ青い湖が現れていた。

「ナー!」

「おぉ。ここに代わりがあるんか?」

「湖の中に? って、陸奥さん! もし海洋生物だったら、あの水槽に入れられんじゃないですか?」

「おっ、それは妙案じゃき。だとしたらやることは一つきに」

 湖に関連して、水槽に入れられる生物を捕まえられると期待を高める二人。シリカからそう提案されると、陸奥は早速行動に移す。彼女は突如片腕をまくって集中力を高めると、

「ハァァ!」

「えっ!? ちょっと陸奥さん!?」

素手を湖の中へと突っ込む。手探りかつ力づくで捕まえようとする姿に、シリカらは騒然となってしまった。あまりの強引さから彼女は、大雑把さが目立つ神楽の性格と照らし合わせている。(シリカが気付いていないだけで、陸奥も神楽も同じ夜兎なのだが……)

「ちょいと待つきに。すぐに相応しい代わりを見つけるきに」

「いやいや! 探すのは良いんですけど、流石に強引すぎませんか!? もうちょっと道具を使った方が……」

「おっと、かかったぜよ」

「早!? こんなすぐに!?」

 平気な顔で探索を続ける陸奥を止めようとするも、そんな暇もなく彼女は湖の中にいる何かを見つけたらしい。勢いのままに引っ張って、湖の中からすくい上げる。

「ハァァ!」

「あ痛痛痛!!」

 大きな水しぶきを上げながら地上に現れた正体は……海洋生物ではなく、なんとカッパらしき生き物。古びた眼鏡をかけており、傍から見ると怪しさが満点である。

「ほぉ……どうやら大当たりを引いたようじゃき。ん? どうしたシリカ? あまりの喜びに腰を抜かしておるのか?」

「カッ、カッ、カッパ!?」

「ナナナ!?」

 唐突なカッパの出現に、異なった反応を示す二人。度胸の強い陸奥は何一つ動じることはなく、真逆にカッパもとい妖怪の類を始めて目にするシリカやピナは、開いた口が塞がらずにただただ困惑してしまう。

 引き出物の代わりを探すどころか、思わぬ未知との遭遇を現在進行形で体験する二人。一方のカッパらしき生物は、未だに頭を陸奥に掴まれたままである。

「おい、離してくれよ。姉ちゃん」

「おっと、そうじゃき。フッ!」

「グハァァ!!」

 一旦下ろすように要求したカッパだが、陸奥は乱雑にも地面に叩きつけていた。力の調整が明らかに間違っている。

「も、もっと安全に接した方が良いんじゃないですか?」

「ワシはそんなつもりじゃき。さっきのは手が滑っただけじゃ」

「いや、思いっきし地面にぶつけていましたけど!? 陸奥さん、目線逸らさないでくださいよ!」

 控えめにシリカが指摘すると、陸奥から返って来たのは誤魔化し切れていない言い訳。目線をも逸らしており、自覚があるのは明確的である。シリカのツッコミも新八並みに激しくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分が経った頃。場が一度落ち着いたところで、シリカらは互いの素性を交えた会話を交わしていく。

「てなわけだ。俺の名は海老名。この湖に長く住む天人よ」

「天人? 宇宙人だったんですか?」

「何ィ驚いているんだ。そういうお前さんだって、天人じゃねぇかよ。ふさふさの猫耳生やしやがって」

「あっ、これは色々と理由がありまして……」

 その話の中で彼は、シリカを勝手に天人だと思っていた。彼女の猫耳から判断したらしい。(ちなみに補足すると、この場にいる地球人はシリカのみである)

 そんな反応はさておき、陸奥は早速海老名へ引き出物の一件を持ち掛けている。

「さて、本題へ入るきに。おまんには今日限り、結婚式の引き出物として協力してほしいんじゃ」

「引き出物? そんなの俺なんかで務まるのかよ?」

「大丈夫ぜよ。ワシの推測じゃが、おまんの皿は最近綺麗に磨き上げているな。これは十分な縁担ぎになるきに」

「おぉ……お前さんよく分かったな」

 常時相手の出方を伺いながら、話を円滑に進める陸奥。彼女は海老名の頭に乗っかっている皿に注目を寄せていた。所謂新しいものとして代替しようとする。

 臨機応変に話のリードを引っ張る陸奥に対して、シリカは彼女の考えていることがあまり分かっていない。つい気になって陸奥へ耳打ちしていく。

「ねぇ陸奥さん? 本当にこのカッパさんに協力してもらうんですか?」

「こちとら時間が狭まっているからな。上手いことこっちの話に乗っかったきに」

「で、でも協力してくれるか分かりませんよ……!」

 自信満々に回答する陸奥だったが、シリカからすれば確証の無いことにさらなる不安を募らせている。その証拠に海老名は、話を聞いてもなお気難しい表情を浮かべていた。

「とは言ってもな、俺も近くに水が無ければ干からびるしな」

「その点についても安心ぜよ。おまんにぴったりの水槽を用意済みきに」

「で、でも流石にタダで協力は出来ねぇな」

「そうか。じゃこれでどうきに?」

 中々気が乗らない海老名を引き寄せるためにも、陸奥はここで温めておいた切り札を切っていく。そっと海老名の耳元に囁いて、一気に勝負を決めようとした。長谷川の時と同じやり方である。

「ま、また……でもそう簡単に決まるわけが」

 と二度の奇跡は起きないと括っていたシリカだったが、

「よしっ、協力しようじゃないか」

「恩に着るぜよ」

「えっ!?」

予想とは真逆に事は進展していた。海老名は今までに見せたことが無いほどはつらつとした笑顔を見せており、すんなりと陸奥の要求にも乗っかったらしい。

 この形勢を一気に覆す様はまさに一流の商人。さも当たり前のように笑う陸奥を横目に、シリカは彼女の底力を目の当たりにしていた。

「ちょ、ちょっと! この数秒で一体何が起きたんですか!?」

「さぁな。こればっかりは企業秘密きに。そうじゃろ、海老名」

「だな! 残念だが理解してくれや、猫耳の姉ちゃんよ」

「って、別に教えてくれたって良いじゃないですか! 一体全体どういうことですか!!」

 いくら聞いても二人から返ってくるのは、抽象的な一言。頑なに本題を発しないことから、余計に気になって仕方がないが……結局シリカは聞くのを諦めてしまう。

 一方の陸奥は海老名の協力により、残す引き出物の捜索に一層の気を引き締めていた。

「落ち着くぜよ。そうこうしているうちに結婚式は目前ぜよ。残るは青いものでフィニッシュきに」

「青いものって……アスナさんやシノンさんくらいしか思いつきませんよ!」

「誰じゃ? おまんの知り合いか?」

 残るは青いものただ一つ。シリカは人物だけだとアスナやシノンを例に挙げたが、残念ながら陸奥には伝わっていない。

 と時間が無い中でどこまで行くか悩んでいた時。ふとピナが大きく騒ぎ立てていく。

「ナー!」

「ん? ピナ? どうしたんですか?」

 指を指している仕草から、何かを見つけた様子だが……?

「どうやら青いものを見つけたらしいか?」

「そうなんですか、ピナ?」

「ナー!」

 とピナの行動を察して、陸奥とシリカは試しにその方角に目を向けている。

「ん!?」

「こいつらは……」

 そこにいたのは、なんと文字通りの青い人物だった。果たしてその正体は……?

 

 

 

 

 

 

 そして遂に約束の時間となった。かぶき町にある一つの結婚式場では、とある花嫁が今か今かと引き出物の到着を待ちわびている。そう彼女が依頼主なのだ。

 ウエディングドレスを着たまま、そわそわと場外を行き来していると、ちょうど陸奥とシリカが到着。花嫁へと話しかけていく。

「はーい! って、アナタ方は?」

「快援隊副官の陸奥ぜよ。本日の結婚式に相応しい引き出物を届けに来たぜよ」

「あら~。わざわざ届けてくれるなんて、どうもご苦労様です。ちゃんと相応しいものは盛って来たかしら?」

「えぇ、ちゃんと、一つずつ紹介するぜよ」

 待ちわびた引き出物の到着に期待を膨らませる花嫁。

 一方の陸奥は堂々とした態度で接し、決してトラブルなど無かったことを表現している。そのままシリカに説明役をバトンタッチした。

「シリカ。おまんの番じゃき」

「あっ、はい! えっとまずは……古いもの代表の古のサングラスとおじさん」

「おっす。結婚おめでとうな!」

 まず紹介されたのは古いものとして選出されたグラサン。をかけた長谷川泰三。

「次に新しいもの代表の綺麗な皿とカッパ。借りたもの代表の大きな水槽です」

「ぶくぶくぶくぶく(おめでとう)」

 続けて新しいものと借りたもの代表。ピカピカの皿をつけた海老名と、彼が浸かっている借りた水槽。ご丁寧に水槽にはタイヤが付けられている。

 それはさておき、遂に青いもの代表が紹介されていた。

「そして最後に青いもの代表です……どうぞ来てください」

 と震えた声でシリカが呼び掛けると、現場に現れたのは……

「どうも~~! それでは行きましょう!」

「結婚式の、なんでだろう!!」

「「なんでだろう~~なんでだろう~~! なんでだなんでだろう~!」」

どこかで見たことのあるお笑いコンビである。何歳にもなっても元気に動く赤ジャージの男性と、ギターと歌でネタを披露する青ジャージの男性。その通り青いものとは、この青ジャージの男性のことを指していた。

 総評すると、とても結婚式とは思えない人選のラインナップ。華やかさや縁担ぎどころか、ただの余興集団にしか見えない。

(どこが結婚式の引き出物なの……)

 勢いに任せたまま紹介したシリカも、いざ振り返るとツッコミどころの多さに開いた口が塞がらないようだ。逆にこの状況下でも、淡々と冷静でいられる陸奥の度胸強さに心を打ちひしがれている。

 こうなると花嫁の反応が心配であり、てっきり期待が外れて怒っていると予想していた。恐る恐る花嫁の顔を見ると、

「フフ……アハハ! これは面白すぎでしょ……!」

「えっ?」

彼女ははつらつとした表情で爆笑している。どうやら引き出物として用意した面々のクセの強さがツボにハマったらしい。

 あまりにもバカ笑いする様子から、シリカは再び唖然としてしまう。一方の陸奥は、何一つ動じずに花嫁と話を交わしていく。

「お気に召してこちらも嬉しいぜよ。改めて結婚を祝うきに。どうか末永く幸せに」

「あはは、ありがとうございますす! ではこの人達を、しばらふふふ借りますね~!」

 礼儀として祝福のメッセージを投げかける。素直に言葉を受け取った花嫁は、笑いをこらえながら長谷川、海老名、テツアンド〇モの四人を結婚式場まで案内している。彼女にとっては最高の引き出物として間違いなかった。

 終始冷静さに徹する陸奥を目の当たりにしつつも、シリカは思ったことを彼女へぶつけていく。

「本当にあの人選で良かったのでしょうか……?」

「良かったも何も集めないことには始まらないきに。それに今回の依頼主はユニークなものが好きと聞いておった。あの組み合わせで間違いは無いぜよ」

「もしかして事前にそれを分かった上で?」

「商人は如何なる場合でも、客のために全力を尽くす。それはワシだけじゃなく、快援隊全てに通ずるぜよ」

 一貫しながらも晴れ晴れとした表情を浮かべる陸奥。彼女の商売人としてのプライドが垣間見えた一面でもある。

 それは今日一日行動を共にしたシリカにも伝わっていた。

(確かに陸奥さんは交渉も上手いし、ちゃんと時間通りに代わりも用意出来ていた……本当に有言実行できる人なんですね)

 彼女は内心にて陸奥への想いを発する。面と向かって言えないためか、あまり態度には示さずにいたが。ピナも微かにその気持ちへ反応している。

 長くかかった引き出物探しもこれにて終了。最後に陸奥はシリカへ、ここまで手伝ってくれたお礼を返そうとしている。

「さて、これ依頼は終わりじゃき。次はおまんの番ぜよ」

「えっ? アタシですか?」

「ここまでつきあわえた礼に、何か送るぜよ。おまんは何が欲しい?」

 しっかりと約束は覚えており、急に言われて驚きの声を上げるシリカ。所謂欲しいものを頭の中に思い浮かばせるが、中々思いついていない。

 そこで彼女にはある妙案が閃く。

「じゃ……今日アタシの誕生日なんですよ。だから、一緒に誕生日会に来ませんか?」

「ナー!」

 それはなんと誕生日会の誘いである。

「ワシが来ても良いのか?」

「はい! だって陸奥さんともっとお話ししたいですから!」

 思わぬ提案につい驚きの声を上げる陸奥。それでもシリカは好意的に彼女を誘っている。もちろんもっと仲良くなりたい純粋な気持ちからであった。

「分かったぜよ。おまんの言葉に乗るきに。案内は頼むぜよ」

「は、はい! ありがとうございます!」

 シリカの素直さを汲み取った陸奥は、すんなりと誘いに乗っかる。彼女もまたシリカと仲良くなることを悪くないと考えていた。願いが叶って、シリカ、ピナ共に一安心している。

 こうしてシリカの案内の元、陸奥は彼女の住む下宿先及びパーティー会場のひのやへと足を進めていく……。

 

 

 

 

 

 穏やかに談笑すること早数十分。二人は吉原へと到着し、そこからひのやへと行きついている。ひとまずは戸を開けて中に入ると、出迎えてくれたのは……

「ん? なんだお前かよ?」

「ぎ、銀時さん!?」

まさかの銀時であった。彼はシリカを見るや否や、大きなあくびを浮かべながら何とも言えない表情を浮かべている。相変わらずの失礼な態度に、シリカは不満げな表情を見せていた。

「って、いきなりあくびですか! まったくだから銀時さんは……!」

 だが次の瞬間。彼の表情は急に変わっていた。

「ん? いや待て、なんでお前陸奥と一緒にいるんだよ」

「へ……? 知り合いだったんですか?」

「ほぉー。これは何とも数奇な巡りあわせじゃき」

 その原因は陸奥と再会したからである。ここでシリカはようやく銀時と陸奥が顔見知りである事実に気付いていた。意外な繋がりに今日一番の驚きを感じていく。

「おまんも大変だな。坂本と同じろくでなしと知り合いだとは」

「おいおい言わせてくれるじゃねぇかよ。そういうお前んとこの艦長は一緒じゃねぇのかよ?」

「アイツは今頃キャバ嬢共に踏みつけられるきに。とっととくたばってくれると良いが」

「って、二人で勝手に話さないでくださいよ! アタシも混ぜてくださいって!」

「ナー!」

 再会早々にテンポよく話を交わす銀時と陸奥。置いてきぼりにされていると感じて、シリカは無理矢理にでも話に割り込んでいく。

 と大袈裟に騒いでいた時だった。

「あら? ようやく帰って来たわね。今日の主役が」

「ん? って日輪さん!」

 三人の声を聞きつけて、ちょうど日輪が顔を出している。穏やかにも優し気な雰囲気を見せる彼女に対して、シリカは唯一心に引っかかっていたことを言うべきか悩んでいた。

「あ、あの……その」

 もじもじと言うのをためらっていた時。彼女の背中を強く後押しする者がいた。

〈パシッ!〉

「えっ?」

「もごもごするなき。言いたいことがあるなら、はっきりと言え。溜めるのは体に毒だからな」

「む、陸奥さん……」

 その正体は陸奥である。今日一日で親交を深めた彼女だからこそ、シリカにははっきりと気持ちをぶつけてほしいと思っていた。

 頼りになる後ろ盾を貰ったところで、シリカは日輪にずっと抱えていた疑問をぶつける。表情を真剣に研ぎ澄まして。

「ひ、日輪さん! 今日企画してくれた誕生日も嬉しいんですけど……やっぱり当日の誕生日も祝ってほしいんです! だから!」

「あら? 言ってなかったかしら? 四日後も誕生日会はやるわよ」

「……へ?」

「大勢で集まれるのが今日だけだったから、当日は当日で誕生日を行う予定よ。その時もチーズケーキで良いかしら?」

 意気込んで発していた途中に明かされた真実。日輪が伝え忘れていたのかもしれないが、どうやら十月四日にも誕生日会は開催されるらしい。つまり今日一日シリカが抱えていたことは、ただの思い過ごしだった様子だ。

 このあまりのあっけない結果には、シリカ、ピナ共に微妙な気持ちに苛まれてしまう。折角の気合がひょろひょろと抜けていった。

「どうした急に? そんな細かい心配していたのかよ?」

「これもこれでシリカには一大事だったようじゃからな。じゃが良かったな。もう一度誕生日会が出来て」

「そ、そうですよね……! 単なる思い過ごしでしたよね! ハハ……」

 陸奥のフォローもあったが、それでもシリカは急に恥ずかしい気持ちを感じてしまう。アレだけ気合を込めて発した思いが、一瞬にして水の泡と化してしまったのだ。

 それでももう一度誕生日会が開催されることはとても嬉しく感じている。

「日輪さん。アタシはその日もチーズケーキで大丈夫ですよ!」

「分かったわ。今日に続いてとっても美味しく作るから楽しみにしてね!」

「はい!」

 改めてお礼を返すシリカと、優しく微笑みを浮かべる日輪。二人の間に出来た微かな繋がりを共に感じ取っていく。

「ナー!」

 もちろんピナも同じ気持ちだった。この温かな雰囲気は、銀時や陸奥も遠くから感じる。

「やれやれ。最後に友人のわだかまりが解けて良かったぜよ」

「友人って、もうお前等そんな仲になったのかよ」

「そうきに。ワシとシリカは……ベッ、マブダチじゃき」

「なんで言うのに迷ったんだよ」

 陸奥も茶目っ気を出しながらも、シリカとの繋がりをマブダチと称していた。彼女の背中を後押し出来たことに、陸奥はクスっと笑いを浮かべる。

 そんなやり取りがあった直後。ひのやには買い物に行っていたメンバーが帰宅していた。

「ただいまです~」

「飲み物買って来たわよ~」

「おぉー来たな。じゃんけん負け組共」

「って、いつまでその呼称引きずるのよ!」

「運が良かったくせに!」

 帰宅したのはユイ、リズベット、リーファ、シノンの四人。銀時の挑発から、どうやらじゃんけんで買い出し班を決めていたらしい。彼のからかいにはすぐ怒り心頭であったが。

(ちなみにこの五人はシリカが引き出物探しに躍起となっていた時、誕生日会の料理作りに時間を費やしていた。その話は次の次の機会で)

 と帰宅直後に女子達は、いつの間にか帰ってきていたシリカと、初めて目にかかる陸奥に注目を寄せていく。

「シリカ? いつの間に戻ってきていたの?」

「戻ってきたのはさっきですよ。陸奥さんと一緒にです」

「陸奥さん? シリカさんが連れてきたお友達ですか?」

 ユイが不思議そうに聞くと陸奥が答える。

「そんなところか。というか、随分と賑やかそうな奴らじゃき」

「じゃき? 土佐弁で話すのね」

「ってことは、高知の人なの!?」

 シノンやリーファはてっきり陸奥の喋り方から出身を推測。しかしその真実は大いに異なっていた。

「いや、ワシは天人じゃき。言うならば宇宙人ぜよ」

「えぇ~! そうなの!?」

「そうだったんですか!?」

「って、シリカも知らなかったんかい!」

 この一言に驚きを浮かべる女子達。もちろんシリカも初耳だったようで、反射的に驚きの声を上げている。

 人一倍大人びていて話も合いそうな陸奥にさらなる注目を寄せる女子達。さながら転校初日の学校での一場面のようだ。

「なぁにやってんだよ……ていうか、月詠達はどうしたんだ?」

「あぁ、月姉ならお妙さん達を迎えに行ったわ。ていうか、キリトやアスナ達はまだ来てないの?」

「まだだよ。アイツら誕生日プレゼント買いに行くって言ったのに、どこで道草食ってんだか」

 そう苦い表情で銀時が呟くと、彼は月詠らの動向をシノンらに聞いている。どうやら他の仲間達を呼びに行ったらしい。

 一方で質問返されたのはキリトらの動向。思えば朝出かけたっきり、一向に連絡が無いとのこと。当然連絡もつかず、そろそろ心配する仲間達であったが……そんな時だった。

「ただいま……」

「おっ、やっと来たか……って!」

「パパ? ママ?」

「どうしたんですか……!?」

 ようやくキリトらの声が聞こえて、一行が入り口付近に目線を向けると、想定外な光景に愕然としてしまう。果たして彼らの身に何が起きたのか? このお話はまた次回へと続く。




 というわけで、本編内で2回目の誕生日会ネタ! シリカ、アスナ、キリト、銀時の9月~10月にかけて誕生日を迎えるキャラが主役です!
 てか……銀魂出身の銀さんは除いても、なんで三人をぎちぎちに詰めたんだろうか……?

 とそれはさておき、今回の主役はシリカと陸奥でした。強いて言う共通点は出番が少ないこと? 中の人の共演作もそこまで多くなかったはず。

 終始ツッコミ役で不満もあったシリカでしたが、最終的には悩みも解決して良かったと思いたい! 陸奥はシリカ達女子陣と仲良くなれそうでヨシ!
 冷静に考えると日輪、月詠、晴太と陸奥も初対面になるのか……中々見ない絵面だ。

 さてさて次回はキリト、アスナが主役! でも色々とボロボロだったけど大丈夫かいな……?





次回予告

辰馬「とうとう剣魂も百訓に突入じゃき! わしら快援隊もビシバシ出番を増やしていくぞ!」

神楽「んなわけないアル!」

新八「ていうか、次回の主役はキリトさんとアスナさんですよ」

キリト「って、大変だ! 新八に神楽! プレゼントが無くなっているぞ!」

アスナ「一体誰が盗んだのよ!」

辰馬「次回! 記念日は何を食べても美味しいから! だから安心してマッ〇に行け! アハハ! 何とも愉快なタイトルぜよ!」

銀時「いや、なんでお前が百訓のゲストキャラなんだよ」


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第百訓 記念日は何を食べても美味しいから! だから安心してマッ〇に行け!


 ドドンと百訓突入! そして剣魂も四周年を迎えました!!

 銀魂はもう完結してしまいましたがソシャゲコラボや公式CHで今もなお活動して、SAOはセレクト放送や劇場版を控えて、どちらともまだまだ盛り上がりが続きそうですね!
 今後も二つの世界を織り交ぜたクロスオーバー作品をゆるゆる製作しますので、どうか今後とも宜しくお願いします!

 そんな記念すべき回の主役は誕生日を控えるキリトとアスナと……辰馬?



「えっと……つまりこの剣のレプリカが欲しいのかい?」

「そうアル! キリとアッスーの誕生日に渡す代物ネ!」

「リズさんや鉄子さんなら出来ると思って、相談しに来たんですよ」

「またまた無茶な要求してくるわね、アンタたち」

 刀鍛冶屋にて交わされる四人の会話。鉄子、リズベットの二人は、客として来た新八と神楽の要件について耳を傾けていた。

 彼らの依頼はキリト、アスナの誕生日プレゼントとして、かつて二人が愛用していた武器のレプリカを製作してほしいとのこと。所謂サプライズとして企画を進めており、ちょうど一か月後に開催されるであろうアスナの誕生日には間に合わせたいという。

「私は別に問題無いんだが、リズ君は大丈夫か? スケジュールとか含めて」

「アタシも平気よ。ていうか、二人のためなら断る理由が無いわよ。しっかりと任せておきなさい!」

 話を大方聞いた上で、鉄子、リズベットの両者は、依頼を引き受けることを決めている。特にリズベットは二人の喜ぶ姿が見たいので、神楽らの依頼を好意的に受け止めていた。

「おぉ! 流石アル! 超パフュームのアネゴネ!」

「はいはい、神楽。お世辞は良いからさ」

 心強い一言を聞いて、すかさずおだてていく神楽。控えめに反応するも、リズベットは満更でもない様子である。

「一応オーダーメイドの扱いになるけど、料金の方は大丈夫かい?」

「もちろん持ってきてますよ、見合う値段を」

「おぉ、いつの間に」

 一方の鉄子は新八と料金について相談。こちらも事前に把握していたので、しっかりと資金は持ってきていた。プレゼントに関しては抜かりの無い準備である。

「じゃ、よろしくネ。リズに鉄子!」

「任せて頂戴!」

「責任持って製作するよ」

 こうして依頼が確定し、一か月後の誕生日に向けて製作を始めるリズベットら。新八達もすんなりと企画が進められて一安心している。当日がより楽しみとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから約一か月が経った頃。新八、神楽は本日のパーティーの主役でもあるキリト、アスナを刀鍛冶屋まで案内していた。

 かぶき町の街並みを歩む中で、現在四人はたわいのない会話に花を咲かしている。

「本当、銀さんとユイちゃん、上手くやっていけてるかしら」

「ちょっと心配だよな……変なことを教えてなきゃいいけど」

「大丈夫ですよ。リーファさんやシノンさんも付き添ってくれるみたいですし」

「そうネ! なんかあっても二人が抑え込むアルよ」

 二人は別行動をとっているユイと銀時の行方を気にしていた。

 現在この二人は誕生日会の料理を作るために、吉原のある場所で準備を進めているという。気だるさが取り柄の銀時にユイが振り回されていないか心配だったが、彼のお目付け役としてリーファやシノンも合流しているらしい。期待と不安が今もなお混ざり合い、しっかり出来ているのか。心配の尽きないキリトらである。

 そうたわいのない話をしているうちに、四人は遂に刀鍛冶屋へと到着していた。

「さぁ、着いたネ!」

「って……ここに私達のプレゼントがあるの?」

「そうですよ。すいませんー! 鉄子さんにリズさん、いますかー?」

 着くや否や新八は早速鉄子らを大声で呼んでいく。すると店の奥から二人が姿を見せたのだが……何やらどちらとも浮かない顔をしている。

「リズ? それに鉄子さんも一体どうしたんだ?」

 深刻そうな表情を心配してキリトが興味本位で聞くと、二人はようやくその重い口を開けていた。

「実はな……」

「えっ!? 盗まれたの!?」

 予想もしなかった展開に驚嘆とした声を上げるキリトら。これにはリズベットらの申し訳なさそうな態度も頷ける。

 単刀直入に言うと、折角製作した剣がどちらも盗まれたと言うのだ。ひとまずは詳しい事情をリズベットらに聞いてみる。

「本当一瞬目を盗んだ隙にな。こちらとしても申し訳ない限りだよ」

「ごめんね二人共。とびっきりのレプリカをプレゼントする予定だったのに……」

 二人の何とも言えない表情から、言葉にはし難い悔しさがひしひしと伝わっていた。ほんの目を離した隙に。しかもピンポイントでちょうど製作した剣を奪う行為に、新八達は犯人の狙いについて独自の考えを煮詰めていく。

「リズ達のせいじゃないわよ。結局盗んだ犯人が原因なんだから」

「でもこんな局所的に剣を狙うアルか?」

「考えすぎかもしれないが、本当にたまたまかもしれないからナ……」

「とりあえず近くを探してみましょうよ。まだいるかもしれませんから」

 剣を狙った犯人の狙いも気になるところだが、それでも今はしらみつぶしに探すべきだと新八らは察していく。絶対に探し見つける気持ちを奮起して、意気揚々と刀鍛冶屋から出ようとした――そんな時である。

「何ぃー! それはまっこと本当か? そりゃ助かるぜよ!」

「ん? 誰だ、あの人?」

「どこかで見たことがあるような……」

 一行の目の前に突如として謎の男性の姿が目に入った。土佐弁で話す長身の男性であり、口調からも陽気そうな一面が伺える。キリト、アスナの二人は男性の雰囲気から謎の親近感を感じていたが、対して新八や神楽はまったく異なった反応を示していた。

「いやぁ~本当はキャバクラに行くつもりじゃったが、これは見逃せないぜよ。すぐ向かうぜよ」

 そう言って男が一旦通話を切ると、彼は辺りをサラッと見渡す。するとすぐに、新八やキリトらの存在に気付き始めている。

「ん!? おぉー、これは万事屋の嬢ちゃん達じゃなか! こんなところで会うとは偶然ゼよ!」

「やっぱり坂本さんでしたか!」

 何のためらいもなく陽気に話しかけてきた男の正体は坂本辰馬。銀時と共に攘夷戦争を戦い抜いた英雄の一人である。無論新八や神楽も彼とは顔見知りであり、緊張感が解かれたように親しく話していく。

「おぉー、なんじゃ。金時は今日居らんのか? もしかしてとうとう逮捕されたきに?」

「んなわけねぇだろ、ちくしょーめが。今日は別行動アルよ」

「実は今日なんですけど、銀さんや知り合いの誕生日会を一気にやる予定なんですよ」

「なんと! それはめでたいぜよ! ぜひワシも参加させてほしいぜよ!」

 終始金時と誤って呼称しているが、いつものことなので新八や神楽は修正することなく話を続けていた。誕生日会と聞き、どうやら坂本も興味を持ったらしい。

 久しぶりに坂本と交流を交わすその一方で、キリトとアスナの二人は何やら浮かない表情を見せている。

「えっと……坂本さんってどこかで見覚えがあるような」

「キリト君。もしかして夢の中で会ったあの人じゃない?」

「夢の中……? あっ! チサの一件の時か!」

 初対面にも関わらず抱いていた坂本への親近感。その正体は次元遺跡でかつて出会ったことのある別世界の坂本辰馬にあった。姿や格好はまるで違うが、喋り方や雰囲気はまさに面影がある。本人には話が通じないかもしれないが、それでも点と点が繋がったことに二人は安堵していく。

 そんなやり取りがあった一方で、新八や神楽は早速キリトらのことを坂本に紹介する。

「そういえば坂本さん。紹介がまだでしたね。こちらが」

「おぉ、分かっているきに。キリト、アスナ、そしてユイちゃんって子が万事屋に入ったんじゃなか」

「えっ? なんで知っているアルか?」

「何でも何も風の噂で聞いたぜよ。それにホームページもしっかり見たからな。フハハハ! まっこと変わったのう、万事屋も」

 自己紹介がてらにキリトらを紹介するも、坂本はすでにユイを含めて三人のことを把握していた。噂及びホームページで新たなメンバーのことは耳に入っていたらしい。新八や神楽は改めてホームページを製作したことで、知り合いにも影響が波及することを理解していた。

 とそれはさておき、坂本は改まって初対面となるキリトやアスナに丁寧な挨拶を交わしていく。

「改めてご挨拶じゃ。ワシの名は坂本辰馬。宇宙で商いをしている商売人じゃ。おまらんとも大変お世話になることがあるきに。以後よろしくぜよ」

「よ、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 手を差し出して、手堅い握手を交わしていく三人。陽気な面も踏まえて、坂本とは仲良く出来るとキリト、アスナらは確信していた。

「いやぁ~清廉潔白な若人達ぜよ。早速プレゼントでも送るきに。特製〇ンガと電気〇ンマを……!」

「おめぇはリア充になんてもう送ろうとしているアルか!」

「二人の純愛を汚すな!」

「プハァァ!」

 と信頼を寄せていた矢先に、発せられた直球な下ネタ。神楽や新八がツッコミを入れたことで、事なきを得ている。所謂冗談で済ましたいところだが、そうも言っていられない。反応に困ってしまったキリトやアスナは、ただただ引きずった笑いを浮かべる他無かった。

 そんなやり取りも落ち着いた直後に、坂本はずっと気になっていたことをキリトらへと聞いている。

「そういえばおまんら。こんなところで何をやっておったんじゃ?」

「えっと、それは……」

 彼らが単独行動をしているについてだが、その問いを聞いた四人はさっきまで自分達の身に起こっていたことを坂本へと要約して説明していく。

「何!? 誕プレのレプリカ剣が何者かに盗まれたと!」

「そうだな……」

「一瞬目を離した隙に無くなったみたいなのよ。犯人も見つかっていないみたいだし……」

 中々進展しない事態に、複雑そうな心境を抱えるキリトやアスナ。二人の表情は一段と暗く落とされていた。

 この不運とも言える万事屋の出来事には、坂本もつい息を詰まらせてしまう。

「なんてことぜよ。ワシが吉報を受けたと同時に、おまんらは悲劇に見舞われていたとはな。世の中全員が上手くいかなか」

「吉報って……坂本さんはどんなことが起きていたんですか?」

「どうせキャバ嬢に口説かれたとかじゃないアルか?」

 彼の言葉から出たのは同情心だけではなく、吉報と言う気がかりな二文字も。すかさず新八や神楽が問い返すと、坂本はその概要を余すことなく明かしていく。

「何ぃ。マニアックな情報ぜよ。実はこの近くで開かれている露店で、平行世界の剣が売られていたぜよ。一変この目で確かめようと思って、現地まで向かおうとしたところぜよ」

 そして手に取ったデバイスから、露店と思わしき写真を万事屋の面々に紹介していた。そこに映し出されていたのは……

「ア、 アスナ……これって」

「間違いないわ。これよ!」

「ん? どうかしたんか?」

なんと盗まれたばかりのレプリカ剣である。坂本はあまり実感が無く、万事屋が騒ぐ理由も分からなかったが、キリト側からすれば一大事に間違いない。

 意外なところで繋がった点。顔色をまるっきし変えた万事屋の面々は、すぐに坂本を案内役としてまくしたてていく。

「おい、もじゃ! この場所まで案内するアル!」

「痛! ちょっと嬢ちゃん、引っ張らないで……かなり痛いぜよ!」

「と、とにかく早く急がないと!」

「だから急かすな! 落ち着くぜよ!」

 未だに詳しい訳を知らない坂本にとっては、万事屋が何故焦っているのかまるで分からない。とにかく移動がてら詳しい理由を聞こうと試みている。神楽に耳をつまれている以上は、痛みの方に神経が集中しそうではあるが。

 坂本との出会いをきっかけに、事態は大きく進展していった。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、こちらはかぶき町公園付近。普段は元気一杯の子供達や、失意に暮れたホームレスが行き交う二面性を持った通路である。

 そんな場所で一人のネズミに似た天人が、勝手に露店を開き商売を始めていく。

「さぁ、買った! 買った! 今回紹介するのはこれだ! かつて別世界で因縁を撃ち断った伝説の剣だよ! お値段はたったの五万円! 今話題の商標利用権よりも安いよ! さぁ、買いだ!」

「「おぉー!!」

 まるで通販番組のセールスマンのように巧みな話術を扱い、客達を商品へと誘導させるネズミ型の天人。ここからは値切りだの値上げだの交渉に入り、増々活気づくことを彼は目論んでいる。

 もちろん正式な許可は取ってないため、この店自体はただの違法営業。それを分かった上で、天人は客から大金をせしめようとしていた。

 そんなオークションとも思わしき光景を、坂本と万事屋達は傍からそっと見張っている。

「二人の誕生日プレゼントなのに……!」

「あのネズミ、どつきたいネ!」

 さも当たり前のように商品を売り込む天人の厚顔無恥さに二人は激昂。表情を滲ませて、ぎょろと鋭く睨みを利かせていく。よっぽど思うところがあるのだろう。

「あの状況だと、強制的には奪えないわね……」

「あんなに客がいたら、多勢に攻められるかもしれないからな……」

 一方でキリト、アスナは冷静に状況を分析。奪還をも考えたが、客もいるため強引な一手は使用できない。下手をすれば、こちらが悪者として扱われてもおかしくないからだ。

 皆が慎重に状況を見定める中で、坂本は思いつく限りのネズミ型天人の情報をスラスラと羅列させる。

「良い判断ぜよ。アレがヤツの狙いじゃき。」

「えっ? 坂本さんはあの天人のこと知っているんですか?」

「ワシの同志も被害を起きたと聞いておる。アイツの名はテン・ネズヤー。新手の転売業者じゃき」

「おぉ! アレが世を騒がす転売ヤ―の正体アルか!」

「いや、全員が全員あんな姿じゃないから!」

 神楽の勘違いに、新八がすかさずツッコミを入れていた。坂本が言い放ったネズミ型天人の正体はなんと転売者。さらに詳しい情報を仲間達に伝えていく。

「ヤツはネズミの如く這い寄り、ネズミの如く仕留める新手の転売ヤーじゃき。盗んだものを一日のうちに売りさばき、証拠を何一つ残さない精神で商いを続けているぜよ」

「一日のうちに?」

「相当タチが悪い天人みたいね……」

 その容姿を彷彿とさせるように、一瞬のうちに物品を奪い売買するのが彼の十八番。坂本の知り合いにも被害が及んでいるらしく、あまりにも悪質なやり方にキリトやアスナは思う存分に気を引かせていく。

「値切ることは出来ないのか!」

「いいや! 俺は五万よりも多く出すぜ!」

「俺もだ!」

 そんな仲間達の感想はよそに、未だに続けられる値段交渉合戦。このままではテン・ネズヤーの思惑通り、折角の誕生日プレゼントが無駄になってしまう。

「って、もう動かないと売れちゃうアルよ!」

「突入以外の方法は無いのか……」

「ネズミなんだから、餌にでも引っかかればいいのに!」

「そんな上手くいくわけが……」

 神楽、キリト、アスナ、新八の順で思うことを言い放つ。もはや一刻の猶予もない中、果たして無事に取り戻すことが出来るのか。皆が頭を悩ませる中、坂本はアスナの一言である作戦を閃く。

「そうぜよ。ちょうど良いものがあったぜよ」

「坂本さん? 何か打開策でも思いついたのか?」

「とっておきのな。キリトにアスナ。ここはワシに全て任せるぜよ!」

「ちょ、ちょっと!?」

 詳しい理由など説明しないまま、単身テン・ネズヤーの元まで走り出す坂本。皆は彼を止めることが出来ず、このまま坂本の動向を見守るしか術はなくなった。

 こうして始まるレプリカ剣の奪還劇。全ての運命は宇宙の商人、坂本辰馬に委ねられていく……。

「おぉ! こんなところに、物珍しい物が売っているきに。ワシも参加するぜよ」

「ん? いやいやお客さん。今更来てもお手頃には買えないよ。十万は最低でも積まないと」

 途中参加した坂本に撤退を促すテン・ネズヤー。値上げ合戦と突入しており、並みの金額では購入出来ないと括っている。だがそれでも坂本は怯まない。

「何とも強気な値段設定ぜよ。じゃがこれなら心変わりするんじゃなか?」

「フッ。無駄だよ。俺の心を射止めようたってそうはいかねぇよ」

 奥の手があると評し、坂本は懐からあるものを取り出す。テン・ネズヤーは鼻っから期待せず、余裕綽々な態度を続けていた。仲間達も坂本の動向を見守り、他の客人も坂本の奇抜な行動に注目を寄せていく。

 彼が取り出した逆転の一手は、

「ならば、これはどうじゃ?」

「はぁ? これはチーズ?」

何の変哲もない手頃な黄色いチーズであった。

「おいおい、受けるな!」

「そんなもんで買えるわけがねぇのによ!」

 ハッタリのような予想の斜め下を行く坂本の一手に笑いをこみ上げる客人やテン・ネズヤー。てっきりネタとして思い込み、周りにいた全員が坂本を小馬鹿にしている。

 もはや万事休すな状況……かに思われたが、坂本は一切動じていない。この事態でも自身に流れが来ていると信じ続けている。

「言えるうちに言っておくぜよ。おまんらはこのチーズに、こんな背景があることを知らないじゃろーて」

「何だと?」

 すると彼は手短な昔話を話し始めていく。

「昔々のことじゃ。一人の家族がとある星で牛乳を売り続けていたぜよ。じゃが時代と共に牛乳よりもチーズの需要が高くなっていったんじゃ。移り変わる時代の中で一家はある決心を固める。そうだ、牛乳の風味を残したまま新しいチーズを作ろうと。あらゆる試行錯誤を繰り返していき、何時しかそのチーズはこんな異名で言われた。十九年の奇跡と。今ワシが持っているのがその奇跡のチーズよ」

 とある一家を前例に語られたチーズの誕生秘話。坂本の語りも相まって、客人やテン・ネズヤーも素直に信じ込んでいく。

「おぉー」

「で、そのチーズは何円するのだ?」

「少なく見積もっても十万ぜよ。滅多にない取引じゃ。どうかの、店主さん」

 話へのめり込んだ隙に、どんどんと畳みかけていく坂本。要するに等価交換として、レプリカ剣とチーズを交換させようと考えていた。テン・ネズヤーにとってもまたとない機会。未知なるチーズの誘惑に、彼はどうするべきか思い思いに悩んでいたが……

「分かった。そのチーズと交換しようじゃないか」

「「えっ!?」」

「まっこと大感謝ぜよ!」

意を決して坂本の交渉に乗っかることにした。結局は強烈なる興味が、テン・ネズヤーの心を動かしたと思われる。予想外の返答に客人達は驚き、対して坂本は納得した表情を浮かべていた。

「ほれ、チーズぜよ。ぜひ奇跡をアンタの舌自身で味わうきに」

「あんがとよ。こんな貴重な代物を」

「ワシも商人じゃ。届けるべき客に渡すのが仕事じゃ。おまんも頑張るぜよ」

 早速チーズを渡した後、何故か二人は固い握手を交わしている。商人通しでどこか親近感を持ったからだのだろうか。その表情も温かく移り変わっていた。

 こうして坂本は無事にレプリカ剣を抱えながら、足早にその場を去っていく。仲間達の元へと合流していった。

「ほら。ワシにかかればこの通りぜよ」

「こんなあっさりと……」

「凄いですよ、坂本さん!

「おい、もじゃ! 見直したネ! よくやったアルナ!」

 あっという間にレプリカ剣を取り返した坂本の度胸に、皆は往々と彼を称えていく。新八や神楽も思わず見直すほどの活躍であった。

 これも坂本がたまたま持っていたチーズがきっかけとも言えるであろう。

「ここまで出来たのも、坂本さんの持っていた奇跡のチーズのおかげね」

「はて? 奇跡のチーズ?」

「何言ってんだ。さっき懐に持っていたチーズじゃないのか?」

 坂本へ再度聞き直していく仲間達。ついでに奇跡のチーズの詳細も深堀りしたかったが……

「あぁー! あのことじゃな! 実はな……あの話は全て嘘っぱちきに」

「えっ?」

「はぁ!?」

「へ!?」

その真実はあまりにも残酷的である。坂本の口から飛び出したのは真っ赤な嘘。つまりはでまかせであの苦境を乗り切ったというのだ。

「あんな転売野郎に大金なんて積むのは馬鹿馬鹿しいぜよ。だったらこっちも同じような手を使うまでじゃ。バレるかと思っておったが、案外信じてくれたぜよ! さぁ! 本人にバレる前にすたこらさっさぜよ」

「えぇ~」

「本当に大丈夫なの!?」

 そう本音を赤裸々に話しつつも、彼は一早く場から逃げ出していく。真相を知ったテン・ネズヤーが仕返しにくる可能性があったからだ。坂本の突飛な行動につられて、万事屋の面々も戸惑いつつも彼の跡を追いかけていく。

 その一方で、

「痛!? 急にお腹が……!」

「おい、どうした!?」

「あまりのうまさに体が耐え切れないのか!?」

「いいや……まず! てか腐ってね、これ!?」

テン・ネズヤーはようやく奇跡のチーズの正体に気付いていた。口にするとそのチーズは腐り果てており、急にお腹を下してしまう。様子を見ていた客人達は、むしろ好意的な反応だと最初は勘違いしていたが。

 こうして無事に転売騒動は収束を迎えている。

 

 

 

 

 

 

 

「無事にレプリカも取り戻せてよかったな」

「リズ達が折角作ってくれたもの。大切にしなきゃね」

 それぞれのレプリカ剣を持ちながら、改めてリズ達へ感謝を示すキリトやアスナ。かつての愛剣を丸々再現しており、共にとびっきりの笑顔を見せていた。

 さらに二人は新八や神楽にも率直な感謝を伝えていく。

「新八に神楽も、改めてありがとうな」

「最高の誕生日プレゼントよ! 大切にするわね」

「おうネ! 二人の笑顔が見れて、こっちも嬉しいアルよ!」

笑顔には笑顔で返しており、温かな雰囲気がそこら一面中に広がる。ついでに坂本も高笑いで雰囲気に乗ろうとしていた。

「ハハハ! やっぱりこっちの笑顔が似合うぜよ。何ならもっと褒めても良いきによ」

「はいはい、分かってますから」

「あんまり調子に乗るなアルよ」

「アハハハ! ちょっと手厳しくない?」

 優しく接していたキリトやアスナとは異なり、乱雑な言葉をぶつける新八や神楽にはついツッコミを入れてしまう。明らかに異なる対応の温度差に、坂本はつい苦い表情を浮かべてしまった。

 とそんな一行だが、現在向かっているのは誕生日会が行われる会場のひのや。ついでに坂本も同行するようで、同じく回に参加したいとのこと。

 若干の厚かましさを覚えながらも、ひのやこと吉原に向けて進む一行。追手も回避して一安心な彼らの元に、あの男達と偶然にも遭遇してしまう。

「おーい。何やってんだおめぇら?」

「ん? って、土方さんに沖田さん?」

 声をかけてきた正体は土方と沖田。ちょうどパトカーに乗車しており、そのまま話しかけてきたのだ。パッと見て真選組としてのパトロール活動だと思われる。

 そんな彼らだが第一に気になったのは坂本辰馬であった。

「パッと見珍しい組み合わせだな。んで、その怪しげな野郎だ?」

「怪しげなって……坂本辰馬さんだよ」

「真選組の皆さんは知らないの?」

「坂本? 何か聞いたことある名前ですねぇ」

 どうやら彼らもキリトやアスナと同様、坂本とは初対面の様子である。もの不思議そうに坂本をジロジロと眺めていく。

「真選組なのに坂本さんのことを知らないなんて……」

「やっぱり全然歴史が違うのね」

 本来の歴史を知るキリトやアスナにとっては馴染みのない光景。言葉にはし難い違和感を察している。

 そんな中、神楽は真選組に要件を聞いていく。

「ところでどうしたアルか、税金ドロボー。銀ちゃんなら今日別行動でかぶき町にはいないアルよ」

「別に旦那には用はねぇよ。用があるのは転売ヤーの方でさぁ」

「転売ヤー?」

「この近くで違法な商売をしている輩がいると聞いてな。誰か情報とか持ってねぇか?」

 土方、沖田の二人の口から出たのはお尋ね者の質問。彼らは巷で噂になっている転売ヤーを事情聴取するために、この付近をパトロールしていたという。

 万事屋一行にとっては実にタイムリーな話題である。

「おう、ちょうど良かったぜよ。それなら……」

 と二人を現場近くまで案内しようとした時だ。

「こいつだ!」

「へ!?」

「えっ?」

 ちょうどそこに元凶たるテン・ネズヤーが来襲。ほぼ当てつけで坂本を名指ししており、そのまま自身の怒りを発散させていく。

「俺の商品を勝手に盗んだんだよ! ほら、こいつを早く捕まえろ!」

「って、何適当なことを言っているか。そもそも原因はおまんぜよ! 通りかかった虫の如く捕まえるぜよ!」

「何を!!」

 チーズにお腹を下した当てつけか、坂本が犯人だと意地でも誘導させている。それに対して坂本は、至極真っ当な反論で応戦していく。

「あ、あの……真選組の皆さん。これには深い訳があって」

「はいはい、その話は署で聞いてやるよ」

 不穏な雰囲気を察した新八らは真選組へフォローを入れるも時すでに遅い。これ以上口論が発展しないように、真選組がやるべきことは一つである。

〈かちゃ!〉

「「えっ?」」

「面倒くさいんで、まとめて連行しやすよ」

「どっちが正しいか、徹底的に追及してやんよ」

「お、おい! 待つぜよ! ワシは至って無実……!」

 二人にまとめて手錠をかけて、そのままパトカーまで詰め込んでいた。坂本にとってはただのとばっちりでしかなく、説得する間もなく連行されてしまう。あまりにも突飛なことに、仲間達はただ唖然として真選組は止めることは無かった。(例え陸奥や銀時が近くにいても、坂本を庇うことは無い気もするが……)

 と坂本の悲痛な訴えも虚しく、テン・ネズヤー共々真選組に連れられていく。

「行っちゃったアル」

「まぁ、でも坂本さんだったらすぐ釈放されるわよね?」

「犯人はあのネズミだから」

「ですね。じゃ僕らは戻りましょうか」

「そうアル!」

 一見可哀想に思える坂本だが、彼の性格や饒舌な一面から、仲間達はすぐ戻ってくると信じている。謎の信頼を確認した後に、一行はパーティー会場であるひのやへと足を進めていく。きっと仲間達も集結しているに違いない。

 無事に終わったレプリカ剣の奪還。功労者とも言える坂本の無事が少しばかり心配である……。

 

 

 

 

 

 

「へぇ~そんなことがあったのですね」

「ていうか、坂本と会っていたのかよ」

「あの唐変木。とうとう逮捕されたか」

「誤認逮捕ですけどね」

 キリトらの身に起きたことを知り、異なった反応を見せるシリカ、銀時、陸奥。坂本を知る陸奥らにとっては、逮捕されても特段驚いていない。

 現在キリト達はひのやへと戻って来ており、到着早々に仲間達へ質問攻めにあっている。やはり彼らを驚かせているのは、リズベットらが製作したレプリカ剣だった。

「それにしても、こんな精巧に作られているのね」

「これもリズと鉄子達のおかげアルよ。感謝なら彼女にするヨロシ」

「いやぁ~照れるわね。これもキリトやアスナのためだもの!」

「めっちゃ嬉しそう……」

 シノンや神楽ら仲間達からの公表を受けて、つい照れてしまうリズベット。浮かれ気味の彼女に、リーファがこっそりとツッコミを入れていく。

「でもよかったですね! 無事にレプリカを取り返せて!」

「そうだな。でも坂本さん大丈夫なんだろうか?」

「すぐに釈放されると良いけど」

 プレゼントことレプリカ剣を取り返せたことで、思わず一安心するユイ。一方のキリトやアスナは、坂本のその後を気にしている。取調べで理不尽な扱いをされていないか心配であった。

 そんな時である。

「なんじゃ? ワシを呼んだかのう」

「えっ? うわぁぁ!?」

「い、いきなり!?」

 なんと坂本は唐突に一行の背後へと戻って来ていた。あまりにも突飛なことにキリトらは困惑。同時に坂本を初めて見たリーファやシノンらは、その見た目とのギャップに驚かされている。

「こ、この人が坂本辰馬さん?」

「全然龍馬感ない人ね」

 やはり自分達がよく知る偉人、坂本龍馬との違いを見分けていく。

 一方無事に戻って来た坂本に、銀時が声をかけている。

「よくお前戻ってこれたな」

「ハハハハ! あのネズミがへまをしたおかげぜよ! いやぁ~心配かけてすまんかった。陸奥もさぞかし心を揺さぶられたんじゃなか?」

 どうやらあの後テン・ネズヤー側が白状したようで、坂本は無罪放免ですぐ釈放になったとのこと。仲間達に心配をかけて申し訳なさを前面に出すが如何せんノリが軽い。故に話しかけてられた陸奥は、とても嫌そうな表情で事を返していく。

「はぁ? おまんなんか誤認逮捕でそのまま死刑にされても、ワシは驚かんぜよ」

「……ハハハ! 急に辛辣すぎない?」

 不機嫌そうな態度には坂本もつい怯んでしまう。そもそもが急に仕事を放り投げたのが原因であり、やはり時が経った今でも根に持っている様子である。

 とりあえずは無事にトラブルも解決して、再び安堵する仲間達。

「じゃ姉上達が来る前に、席へ付いちゃいましょうか」

「そうですね! 私達が作ったごちそうもありますし」

「おぉー! ワシも入ってよか?」

「好きにしろ。その代わり、主役はちゃんと祝っておけ」

 気分を一新させて、誕生日会らしい緩い雰囲気へと変わっていく。坂本や陸奥も同行することなり、このままごちそうの待つ居間へと皆が移動している。

 そして戸を思い切って開いた時だった。

「さぁ、こちら……」

「って!?」

 そこにはまたしても想定外の光景が。果たして何があったのだろうか……? この真相も次回へと続く……。




陸奥に続いて坂本辰馬も久々に登場! 見事な交渉術でキリト達のレプリカ剣を奪還! でも中々綺麗には締めさせてくれない……

 後意外な点で言えば、坂本と真選組の共演。本家だと中々見られなかったので、結構レアなシーンでしたね。

意外と今回はサクサクと進んだ回でした。さてシリカ、アスナ、キリトと続き、次回は銀時が主役。仲間達と一緒にあることに挑戦します!





次回予告

ユイ「銀時さんはどんなゲームで遊んでいましたか?」

銀時「そりゃファミコンとかだろ。そもそもお前らの世界のゲームとは比べ物にならないくらいレトロだぞ。そんな質問で良いのか?」

ユイ「大丈夫ですよ! だって次回はDSを使うんですから」

銀時「DS!? お前等動かせんのかよ?」

ユイ「次回! なんでもかんでも説明書通りにはいかない!」

銀時「で、次回は結局何の回だよ?」


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第百一訓 なんでもかんでも説明書通りにはいかない!

 今回の話、本当は料理回にするはずでしたが……上手くまとまらなかったので、路線変更致しました。なので前回の予告とは違うかもしれません。

教えて、銀八先生―!

銀八「はい、ペンネーム。レコンを剣魂に出させろさんからの質問。ユイちゃんって8月1日が誕生日ですよね? だとしたら、なんでその回をやらなかったんですか? 時系列を見ても8月はとっくに終えていますよね? ぜひ答えてください。はい、よーく見つけてくれましたね。ずばりお答えしましょう。完全に忘れていました。ていうか投稿者が、SAOキャラの誕生日全般を知ったのは最近だから許してやってくれ。数年前までは未設定のキャラもいたから、こっちもこっちで驚いてんだよ。ちなみにユイと誕生日が同じ銀魂のキャラクターはデルデらしいでぞ。誰って? 土方が禁煙する時に登場した神楽と同じ声のキャラだよ。分からなくなったら調べろよ。と言うわけで無関係だが、妖国動乱篇でALOキャラでありながら出番を貰えなかったレコン。いや、長田! なんで出番を貰えなかったのか考えながら、廊下に立ってなさい」


「それじゃお使い宜しくね」

「任してください! 私と銀時さんで探してきますよ!」

 そう日輪から一言声をかけられると、ユイは満面の笑みで返答してきた。

 現在彼らはひのやの入り口前におり、日輪、リーファ、シノンの三人は、お使いへと出向く銀時、ユイに再度買い物の中身を確認している。

「普通の塩じゃなくて、最強塩だからね! 伯方星特有の」

「間違って買ってこないでよね! そうじゃないとあのパエリアは完成しないから」

「もう分かったから! そんな入念に言うなよ。てか、そっちも分かっているよな? 買い物行く代わりに、俺の分のケーキを増量するって約束」

「勿論覚えているわよ。甘さマシマシにしてあげるね!」

「なら大丈夫だ! 任しておけ」

 銀時は改めて日輪に約束の内容を確認。彼好みの甘さたっぷりのケーキを作ることで了承している。糖分を求める彼の甘党ぶりに、日輪の横にいたリーファやシノンは何とも言えない表情を浮かべていた。

「本当単純なんだから」

「相変わらずいつも通りね。銀さんは……」

 数か月経とうとも、印象はまったく変わっていない。

 とそれはさておき、ユイは銀時の乗るスクーターへと乗車。ヘルメットを着用して、

「行ってきます!」

「うん! 気を付けていってらっしゃい」

そのままお使いへと出発していた。目指すは伯方星生産の最強塩。吉原には流通していない特殊な塩を、江戸中を駆け抜けて探すという。

 ユイらを見送ったリーファ、シノンは、二人の今後をやや心配していた。

「行っちゃった」

「ねぇ、あの二人に任して大丈夫なのかしら? やっぱり私達が代わりに行ってきた方が」

「良いのよ。どっちにしろ人手は助かっていたから、料理よりも買い物の方に任せたかったからね。それに銀さんとユイちゃんって良いコンビじゃない? きっと買ってきてくれるわよ」

「そうかな……?」

 日輪につい不安をこぼすも、彼女は一切動じていない。むしろ二人へ大きな期待を抱いている。

 若干の温度差を感じながらも、彼女らはすぐにパーティーの料理作りに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 キリトらがレプリカ剣を取りに行っていた時、銀時、ユイの二人は日輪に頼まれて、パーティー料理の手伝いに駆り出される予定だった。しかし着いた矢先に調味料が足りないことに気付き、ユイが自ら名乗りを上げて二人揃ってお使いに行くこととなった。銀時は当初乗り気では無かったものの、日輪との約束を得てどうにか了承している。それでもまだ納得のいかない様子だが。

 場面は吉原から江戸へ。江戸の住宅付近を走行するシーンから始まる。

「なんだよ~。今日誕生日だぞ、俺。なんでお使いに駆り出されているんだよ」

「文句を言わないでください、銀時さん! 日輪さんからたっぷりお礼もあるので、良いじゃないですか」

「んなこと言われても、こちとら調子が出ねぇよ。あーあ、なんで普通の塩じゃダメなんだよ」

 一応誕生日パーティーの主役にも関わらず、働かされてつい不満を呟く銀時。そんな彼をユイが優しく宥めていく。未だに気持ちが変わらない中で、ユイはふと話題を変えてきた。

「そういえば銀時さんって、今度何歳になるんですか?」

「何歳って〇〇歳だよ」

「はい? えっ!?」

「どうした、聞こえなかったか?」

「いや、〇〇歳ってなんですか!? 以前二十七歳と聞いていたので、二十八歳ではないのですか?」

「お前んは分からねぇと思うけど、この世界はサザエさん方式だから年は取らないんだよ。だから〇〇歳なの。分かったか?」

「いや、まったく分からないです……」

 年齢を聞きたかったものの、理解不能な常識で返されて、消化不良のまま話が終わってしまう。銀魂特有の年を取らない設定(所謂サザエさん方式)にいまいち理解を示せなかったユイであった。

 しばらく近場の商店まで走り続ける中で、銀時はユイにある質問を投げかけていく。

「ところで折角だ。聞いていいか?」

「はい、なんでしょうか?」

「この世界での生活って、お前にとってはどうだ?」

 やや真剣そうな表情で聞いたのは生活云々。思えばこの世界に彼等が来てから早三ヶ月弱。情報収集も呼び掛けているものの、未だに有力な情報は見つかっていない。それでもこの世界で生活を続けるユイらに、銀時は密かに気にかけているのだ。

 素直な優しさを受け止めて、ユイは満面の笑みで元気よく返答する。

「私は楽しんでいますよ! 現実世界でもパパやママ達と一緒に過ごせますし、万事屋での生活も刺激的で飽きないですから!」

「そうかい……なら一安心だな」

 彼女の一言に銀時もすんなりと納得していた。ユイ自身も多少の不安はあるものの、それでも銀時らと過ごす生活は楽しんでいる。この気持ちに嘘偽りは無いのだ。互いの希望を確かめながら、彼らは気持ちを買い物へと戻していく。

 するとユイがあることに気付いていた。

「ところで銀時さん」

「あんだ?」

「行く店もう通り過ぎてますよ」

「おっとぉぉぉ!?」

 もうすでに目的地を通り過ぎていたのだ。急な出来事に銀時はつい急ブレーキを踏んでしまう。

「もうちょっと早く言えや!」

「でも黄昏ていたので、言うのにためらっちゃったんです!」

「どこで天然発揮してんだ。お前は……」

 ちゃっかりな一面を見せて、無邪気な笑顔を浮かばせるユイ。一方の銀時はツッコミを入れながらも、タジタジとした反応を示す。

 こうしたやり取りを交えつつ、一行は気を取り直してとある一軒のスーパーに足を運ばせていく。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、これで何件目だ?」

「えっと、スーパーが三店。小売店が五店。コンビニが六店ですね!」

「俺達ゃ食玩探し回っている親子じゃねぇんだぞ! 一向に見当たらないじゃねぇか!」

 最強塩を探して一時間半。二人は早くも息詰まっていた。合計で十四店舗も周ったものの、手掛かりすら一切見つかっていない。パーティー開始の時間を逆算すると、もうそろそろ見つけないと間に合わない。徐々に焦りを覚え始める銀時だったが、ユイはマイペースにも時間を気にしていなかった。

「大丈夫ですよ! 日輪さんが見つかるって言ったんですから、きっと手に入れますって!」

「だとしても雲行き不安定だぞ。あーあ、何時ぞやのケーキ探しに行った時と同じ展開じゃねぇか」

 過去に体験したキリトとのケーキ探しを照らし合わせつつ、今後の展開を予測する銀時。同じく余計な時間がかかると察している。この嫌な予感が当たらなければ良いが……。

 と一行は次なるコンビニへと到着し、その店で最強塩を探そうとした時だった。

「ん? あっ! 晴太さん! 月詠さーん!」

「おっ? ユイちゃんじゃん!」

 なんと偶然にも、別件で外出していた月詠と晴太にばったりと遭遇している。ユイを見るや否や、晴太はやや照れ気味に挨拶していた。四人は一旦合流して、お互いの状況を話していく。

「なんじゃ。お主も買い物か?」

「お前の恩人からな。そういうお前らはどうしたんだよ」

「パーティーグッズの買い出しじゃ。日輪に頼まれてな」

「ぴったりのものをトンキホーテで買ってきたから!」

「そうだったんですか」

 どうやら月詠達も買い出しに行っていたようで、手にしていた袋からは余興で使えそうなゲームやら仮装グッズが詰まっていた。これも日輪からのお使いの一つらしい。

 一方で銀時らも、ひとまず月詠らに最強塩の情報を聞き出すことにする。

「それでお主らは何を探しているんじゃ?」

「最強塩って商品探してんだが、お前等知らないか?」

「最強塩? 月詠姉。もしかして……」

「さっきいたところにあったな」

「本当ですか!?」

「おいおい、マジかよ。どの店だ?」

 予想とは裏腹に、彼女達は最強塩の在処を知っているらしい。急に事態が好転して、銀時らのテンションは急に高まっている。興奮を抑えられぬまま、月詠らに売っていた店を聞き出していく。

「トンキホーテ。○○支店じゃな」

「トンキホーテにあったんですか!」

「あの店かよ……。まぁいいや。とにかく見つかったら向かうまでだ!」

 販売場所はまさかのトンキホーテ。あやめの一件やユイのお使いでもお世話になった店と同じ場所である。灯台下暗しのように、近場で売っていたことに拍子抜けしてしまう銀時。それでも事態が好転したことには手ごたえを感じていた。

「行きましょう、銀時さん!」

「任せろ! この買い物に終止符を打ってやる!!」

「ゴーです! お二人共、ありがとうございました!!」

 落ち着くことも出来ずに、銀時、ユイの二人はすぐにスクーターへと乗り込み発車。北上しながら、トンキホーテまで突き進んでいく。

「い、行っちゃった……」

「どれだけ焦っていたんじゃ、奴らは」

 途端に去ってしまった銀時らの姿を見て、つい言葉に詰まってしまう月詠ら。見切り発車する様子から、相当な執念を二人から感じ取っていた。

 こうして頼りになるアドバイスをした月詠らだったが……ふと晴太はある大事なことを思い出してしまう。

「あっ!?」

「どうしたのじゃ、晴太?」

「大切なこと言うの忘れてた……」

「あっ。そういえば最強塩は、目玉商品じゃったな」

 彼らの言う通り、最強塩は今日トンキホーテの目玉商品なのである。この言葉が指し示す意味は。銀時、ユイの二人は何一つ気付かぬまま、必死になってトンキホーテまで突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「着いた――って、えっ!?」

「どうしたんですか、銀時さん? ん!?」

 数分かけて、ようやくトンキホーテ前まで到着。意気揚々と店内へ入ろうとした銀時だったが……見慣れない光景につい体を固めてしまう。ユイも同じ方角を見ると、そこには異様な光景が広がっていた。

「なんだこの殺気……!」

「トンキホーテが人でごった返しています……?」

 そう。トンキホーテ前には多くの買い物客が集まっていた。屈強な男達や、買い物かごを持った主婦。どこかで見たことある天人と多様な人物が集結している。そのどれもが、皆集中力を研ぎ澄ましているのだ。トンキホーテ前ではあまり見かけない光景である。

「凄い密ですね……」

「まさか転売ヤーの連中か? 規制はどうなってんだ、規制はよ!」 

 二人の中でも様々な憶測が飛び、イベント参加者、転売ヤーの集団、不良達の喧嘩など想像力を豊かに膨らませていた。(残念ながら、そのどれもが外れなのだが……)

 しばらく様子を伺っていた時、銀時らはとある知り合いと遭遇する。

「おっ、万事屋! お前等も来たのか」

 聞き覚えのある威勢の良い声。その正体は真選組の局長、近藤勲であった。

「誰かと思えばゴリランダー近藤じゃねぇか」

「いや、せめてゴリラにして! ていうか、詳しくない読者には伝わっていないよ、そのネタ!? 本当に大丈夫?」

 出会い頭に銀時は、近藤ととあるゲームモンスターを組み合わせた造語で話しかける。普段通りのいい加減さに、近藤は反射的にツッコミを入れてしまう。

 それはさておき、ユイは彼がトンキホーテに来た理由を聞くことにする。

「ところでゴリラさんは、なんでトンキホーテにいるのですか?」

「ユイちゃんまで言うの!? ……まぁ、それは置いといて。一言で表すならば、ずばり! 戦いへ勝つために来たんだ!」

「はぁ? 戦い?」

 凛とした表情に一変させて、彼が明かしたのは勝利への意気込み。意味深な一言に、銀時らはつい首を傾げてしまう。

「なんだ、お前等。最強塩を求めて、ここにやってきたんじゃないのか?」

「おい、なんでお前がそれを」

「やっぱりな! だってチラシに書いてあっただろ。本日の限定品として」

 そう言って彼は持っていたチラシを見せてきた。そこには紛れもなく、限定品として最強塩がでかでかとアピールされている。

「ほ、本当だ……」

「まさか広告商品だったなんて」

 このチラシをきっかけにして、二人はようやくトンキホーテに集まった人々の熱意を理解した。彼らも最強塩を求めるライバルであり、決して油断してはならない相手なのだと。

「この機会にと思ったな。どうにか手に入れて――」

「どうせお妙にプレゼントするだろ」

「えっ……なんで分かった!?」

「お前が行動する理由の九割なんて、もう妙絡みしかないだろ」

「はい。そうだと思います」

 日頃の行いからまたしても妙絡みと推測する銀時とユイ。もはや近藤にとっては通常運転であり、むしろ安心感を覚えている。

 異様な熱気に両者共固唾を飲む中で、二人は近藤以外の知り合いを発見している。

「ん? 見てください、銀時さん! あの人って」

「はい? って、お前等!?」

 後ろを振り向いてきたその正体は服部全蔵。青い忍者服がトレードマークだったようで、ユイはすぐに気付いていた。

 一方の全蔵は、銀時らを見ると段々嫌な予感を察し始めていく。

「おいおい、どうした? そんな嫌そうな顔をして」

「いや……絶対ロクなことないだろ。お前等と会ったら」

「はっきり言ってくれるじゃねぇーかよ。今までのことはたまたまだろ?」

「たまたまで済まないこともあったはずだが……」

 話しかけられるや否や重いため息を吐く全蔵。銀時とのろくでもない思い出を浮かべるうちに、今回も先行きが不安になってしまう。

 と全蔵の反応はさておき、ユイは気になったことを彼に聞いている。

「忍者さんも最強塩目当てで来たんですか?」

「最強塩? あぁ、そうだが。別にこれと言ってやる気じゃないが、中々お目にかかれないから、手に入れようって考えだな」

「なんだよ。ただの野次馬じゃねぇか。だったら俺達の代わりに行って来いよ」

「誰がやるか。そこの嬢ちゃんならともかく、お前に頼まれるなら速攻で断るぜ」

 全蔵も最強塩が目的だったが、どちらかと言うと消極的だった。銀時は冗談半分で全蔵に事を丸投げしようとしたが、肝心の彼からは反射的に断られている。

 すると彼はとある悪知恵を思いついていた。

「おい、ユイ。思いっきりアイツにお願いしてこい! またとないチャンスだぞ」

「えぇ……上手くいきますか?」

「何事も挑戦だ。大丈夫だよ。あのフリーターは案外ガキに弱いからな」

「おーい。全部筒抜けだぞ」

 ユイに話しかけて、彼女から同情を誘う作戦だったが、全蔵には全てを見透かされている。ユイ自身も乗り気では無かった為、どちらにしても叶うことは無かった。

 近藤、全蔵と見知ったかに次々と会う中、さらに二人はある知り合いを発見する。

「ん? 銀時様?」

「えっ? たまか?」

 話しかけてきた正体は、スナックお登勢に所属するたま。買い物かごを持っている姿から、彼女も買い出しに来ていることが分かる。

「たまさん! 来ていたんですね!!」

「はい。買い物へとやって来たもので。最強塩が安く手に入るとのことで」

 淡々とユイに向けて説明するたま。どうやら彼女も目玉商品である最強塩目当てでトンキホーテを訪れていた。

「何だよ。お前も最強塩目当てで来ていたのかよ」

「そうですね。どうかされましたか?」

「まぁ、俺達もなんだが……おい。ここはよぉ、俺達の分も買ってきてくれねぇかよ。こんな客数じゃ購入するのも至難の業だろ? ここは互いに協力しようぜ」

 たまの目的を確認すると同時に、銀時はまたしても協力を持ち掛ける。ただの下請けとして自分だけ楽しようと言う魂胆なのだが……。

 無論たまには、彼の真意が見破られていた。

「了解しました。では仲介手数料として、高級オイルを要求しますね」

「はぁ? おい、ちょっと待て! 金かかるのかよ!」

「当然です。お登勢様にも言われましたから。銀時様への甘えは皆無だと。なのでどうしてもと言うなら、等価交換でお願いしますね」

「ふざけんな! あのババア! 余計な入れ知恵入れやがって……!」

 何一つ表情を変えないまま、自身の条件を投げ返すたま。等価交換を持ち掛けられて、銀時はつい頭を抱えてしまった。これもお登勢から得た銀時への対処法らしい……。

 結局たまへの依頼は白紙となり、二人だけでこの難所を攻略しなければならなくなった。

「中々厳しいですね。銀時さん」

「厳しいも何もタイミングが悪いんだよ……どうすんだ。こんな人数じゃ力づくで奪うしか方法はねぇぞ」

 当然ながら動けるのは銀時とユイの二人。こんな人混みで目的の物を手に入れるには運も絡んできてしまう。ここで手に入れなければ、また最強塩探しに奔走しなければならない。

 折角巡って来た好機を、こんなところで見捨てるわけにはいかない。確実に手に入れるため、懸命に考えを巡らせていく二人。開場時間が差し迫る中、ユイはふと店前に貼られた店内図に目を向けている。

「どうした、ユイ? 何見てんだ?」

「フロアマップですよ。入り口前に飾られている」

「フロアマップ? そんなんで何か思いつくのかよ?」

 何一つしっくり来ていない銀時とは異なり、ユイはフロアマップからある道筋を思いついていた。しばらく考えを煮詰める中で、彼女の遂に勝機を確信した。

「そうだ! 銀時さん! 思いつきました!」

「はぁ? 何をだ?」

「とっておきの作戦ですよ! えっと、ひそひそ――」

 咄嗟に彼女は銀時へ小声で耳打ちしている。ユイの立てた作戦に銀時も納得しており、彼も同じく勝機に確証を得ていた。こうして二人の中だけで、独自の道筋が立てられていく。

 

 

 

 

 

 

 それから間もなくして……タイムセールの時間が差し迫っていた。

「それではお待たせ致しました。タイムセール、後十秒で始まります!」

 メガホンを持った店員の呼びかけによって、皆が真剣な顔つきに変わる。老若男女問わず、皆がお得な最強塩目掛けて一直線に目つきを鋭くさせていた。そして、

「3……2……1……はい、開場です」

「どけぇぇ!」

「いけぇ!!」

「いったぁぁ!」

とうとう競争が始まってしまう。全員がほぼフライング状態で、もはやそこにルールなんてものは存在しない。所謂無法地帯で行われるは早い者勝ちの奪い合い。当然遅れた者から脱落していく。

「避けろ! 俺は最強塩を手に……お妙さんの元へ帰らなくちゃいけないんだ!」

 道中で転んでしまい人混みに押される近藤。息巻いていた姿はもうどこにもない。

「はぁ! こんなのちょろ……ん? グハァァァ!?」

 一方近くまで辿り着いたは良いが、中々目的の物を手に入れられない全蔵。最初こそ自慢の速さで距離を離していたのだが、客達の執念により距離を縮められて、後一歩のところで手が届かずにいる。

「ふぅ~。間に合いました」

 男性陣が苦戦する中で、たまはただ一人人混みの中を描き分けて手に入れていた。何も気にかけないまま、そのままレジへと向かっている。

 そして……あっという間にタイムセールは終了した。売り場近くにいるのは、力尽きた近藤と全蔵のみである。参加者はほぼ撤退していた。

「はぁ……はぁ。無くなってやがる」

「一瞬で終わっちまうとは」

 改めて陳列棚を見て、失意に暮れる近藤と全蔵。全力を尽くしたものの一歩及ばず、悔いの残る結果を残してしまった。

 共に溜まらずため息を吐く中で、彼らはある事を思い出す。

「そういえば万事屋は?」

「アレ? いねぇな」

 それは同じ志を持っていた銀時の存在。気が付いた時には、彼の姿は見当たらなかったのだが……

「おい。避けろ、テメェら」

「ん? はぁ!?」

「下にいたのかよ!」

なんと奇遇にも二人の真下に彼はいた。スッと立ち上がって、服に付いた汚れを払う銀時。だがしかし、体のあちこちに靴跡があり、近藤らに押し倒される前から被害を受けていたことが伺える。

 痛みをひしひしと感じながらも、銀時は普及することなく呟く。

「ったく、酷い目にあったな」

「いや、全身靴跡だらけじゃねえか!」

「よくそれだけで済んだな」

 たった一言で済ます銀時の態度に、ついツッコミを入れる近藤と全蔵。負け姿と言い悲壮感と言い、同じく最強塩を手にそびれたと、この時の二人は思っていたが……

「まぁ、良いじゃねぇか。最強塩も手に入ったんだしさ」

「はぁ? どこにあるんだよ?」

本人からは思わぬ一言が飛び出してきた。彼の手元には肝心の最強塩が見当たらず、てっきりでまかせを発しているかと思いきや……急に売り場のテーブルにかけられた布がバサッと動く。

「ここですよ! はい!」

 その正体はユイだった。彼女は満面の笑みで、嬉々として最強塩を一行に見せびらかしている。

「えっ!?」

「万事屋のがきんちょ……?」

 想定外の出来事に、驚嘆とする近藤と全蔵。彼らが驚くのを尻目に、ユイと銀時はさも当たり前のように会話を交わしていく。

「おぉ。流石だぞ、ユイ。しっかりキャッチしたな」

「はい! 誰にも見つからなかったんですよ!」

「そうか、そうか。やっぱりお前の作戦で正解だったな」

 ユイの立ててくれた作戦に対して、素直に感謝を伝える銀時。目的の物が手に入ったからか、いつもよりも優しそうな笑みが印象的である。つられてユイも無邪気な笑顔を浮かべていく。

 二人の幸せそうな雰囲気とは対照的に、近藤らは銀時達の立てた作戦が気になって仕方がなかった。

「って、万事屋! ずっとユイちゃんは隠れていたのか?」

「そうだよ。こいつの作戦でな」

「ちょっとでも手に入れる確率を上げるためですよ! それに銀時さんなら、こんな人混みでも耐えられると思ったので」

 さり気なく銀時遣いの粗さを露わにするユイ。

 そんなことはさておき、テーブルの下に隠れる作戦は、彼女からのとっておきの作戦であった。人混みの中で密かに潜り込み、銀時がわざと床下に落として確実に入手する。一風捻った作戦は、二人にしか出来ないことでもあった。

「まるで兄妹みたいですね」

「ん? たまか」

 と説明している間に、もうすでに最強塩を購入したたまが話しかけてくる。

「後付けにはなりますが、私は二人ならきっと手に入れると思いましたよ」

「そ、そうなんですか?」

「はい。だって息ぴったりだったじゃないですか」

 どうやら彼女はタイムセールが始まる前から、こうなることを予想していたらしい。二人ならではの化学反応を信じて、あえて協力を断ったのかもしれない……。

「まぁ。今回だけだ。私生活ではそう簡単にはいかねぇよ」

「って、銀時さんってば。もうちょっと素直になってくださいよ! パパやママのように!」

「分かった、分かったから! だから背中押すなっての!」

 最後にはまたしても皮肉を呟く銀時に、ユイは反抗するように彼の背中を押す。じゃれ合っている様子は、まさに兄妹のような間柄を感じさせる一幕である。仲睦まじい二人の絆が発揮された出来事だったのかもしれない。

「一本取られたな」

「今日はアイツらの作戦勝ちってところか」

 説得力のある二人の光景に、つい感心してしまう近藤と全蔵。ユイの無邪気さも相まって、今回ばかりは素直に万事屋を称えていく。

「とにかく! 早く買いに行きましょう!」

「そうだな。このままレジ行くか」

 そして見事に最強塩を掴み取った銀時とユイは、このままレジまで向かおうとする。高揚感を高めたまま向かおうとした時だった。

「あっ、いた! 銀さん!」

「ん? お前等? なんでここにいるんだよ」

 突然彼らの元に、リーファ、シノンの二人が急いで駆け寄って来ている。息を荒くしながら、二人は銀時らに話しかけていく。

「月姉達に言われて急いで来たのよ!」

「最強塩は……?」

「この通り、しっかり手に入れましたよ!」

「労力かかったからな。なぁ、しっかりとケーキ増量してんだろうな?」

 銀時らはてっきり心配して駆け寄ってきたと思い込んで、共に余裕の表情を見せてきた。ちゃっかり増量の件も普及する中、リーファらは何故か気まずそうな表情を浮かべている。

「そのことなんだけど……」

「どうした? まさか今度はケーキの材料足りないって言うんじゃないだろうな?」

 二人の心情が読み解けない中、覚悟してシノンが大事なことを吐露していく。

「そうじゃなくて……最強塩のストック。探してみたらあったの」

「……へ?」

「えっ?」

「そう……だから買わなくても良かったんだけど……」

「もう遅かったね」

 目線を外しながら明かしたことは、最強塩が実はまだあったこと。つまり苦労して手に入れなくとも、大丈夫だったと言うのだ。

 拍子抜けも甚だしいこの結末。完全に後の祭りであり、さっきまで高揚感に浸っていた銀時らも、こればっかりはテンションが下がってしまう。購入前だったのが唯一の救いか。

「ぎ、銀時さん……?」

 反応に困ったユイが苦笑いで話しかける中、彼は大きなため息を吐いてふと近藤らの方に目を向けていた。

「お前等、いるか?」

「えっ!?」

 疲れた表情のまま、全蔵ら二人に最強塩を押し付けようとする。無論二人も突飛な方向展開に、ついていけない様子であった。受け取ろうにも気まずさが勝るからである。

 こうして結局は、ストックを確保したとのことで、銀時らが塩を購入することに決まった。流石の近藤らも譲り受けることは出来なかったのだろう。最強塩を購入した銀時らは、そのままひのやまで戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれぞれの一日が過ぎ去り数時間後。とうとうパーティー参加者が皆集まり、今にも誕生会が始まろうとしていた。

「ってことがあったから、お前等ありがた~くパエリア食っとけよ」

「何を偉そうにしているアルか。銀ちゃんは何も調理していないアル」

「うるせぇ! こっちの苦労も考えろってんだよ!」

 一段と息巻く銀時に対して、冷めた口調でツッコミを入れる神楽。そもそも料理自体は日輪が作っているので、神楽の方にも分があると思うのだが……。

 と野暮なやり取りはさておき、このパーティーの参加者は主役のアスナ、シリカ、キリト、銀時。新八、神楽、定春、ユイ、ピナ、リズベット、リーファ、シノン、妙、九兵衛、あやめ、月詠、日輪、晴太、長谷川、エギル、桂、クライン、エリザベスの仲間達。坂本、陸奥の飛び入り参加者など、かなり広範囲に渡っている。

 全員が開始を今か今かと待ちわびる中、キリトは銀時にそっと気になっていることを話しかけていた。

「それで銀さん。その……あの三人にはいつ触れるんだ?」

「アイツらか? まだ放置で良いだろ」

「「んなことないだろ!!」」

 それは桂とクラインのことだったが……彼らは事前にスタバっていたのだが、なんと服装はそれぞれ銀時、キリトを模した服装に変わっている。要するにただの主役食いであり、最初こそどうツッコミを入れるか悩んだ一行だったが、結局は彼らを放置することにしたのだ。とうとう我慢が出来ずに自分達から話しかけて今に至る。

「おい、銀時! 折角の親友が誕生日会に来ているのに、無視とはどういう神経しているんだ!」

「じゃ、まずテメェの恰好から説明しろ! なんで俺と同じ着物着ているんだよ! 確実に成りすましていただろ!」

 悪びれることなく注意を加える桂だが、銀時の恰好をしていては説得力に欠けてしまう。銀時も激しくツッコミで返していく。

「そんなことはねぇぜ! これは俺達なりのリスペクトだよ! 折角思い出しながら、昨日一日かけて作ったのに……!」

「……労力の無駄じゃない?」

「攘夷活動しろ、アンタら」

 一方のクラインも言い訳を述べるが、アスナや新八からは辛辣な言葉が投げられていた。とてもじゃないが、国家を変えようとする侍集団には似つかわしくない行動である。

 二人に続いてエリザベスも変装しており、お手製の被り物でピナに擬態していた。隠れているのは頭部だけで、他はバレバレなのだが……。

「エリザベスさんに至っては、ピナ風の被り物をしているだけっていう」

「ナ……」

[今日限りは君の弟だ。遠慮はするな]

「圧が凄いので、勘弁しておきます~」

 苦笑いでシリカは、エリザベスのことを受け流す。見た目のインパクトが強く、とてもじゃないが弟には思えなかったからだ。

 とパーティーを前に一波乱を起こした攘夷組である。

「アハハハ! これで全員揃ったかぜよ?」

「ワシらが仕切るわけじゃないきに。じゃが、もうそろそろ初めてよさそうか」

 空気を読まずに開始を急かす坂本に対して、陸奥は冷静にツッコミを入れていく。場がようやく一段落したところで、新八が咄嗟に音頭を取っていた。

「じゃ、皆さん! 行きましょう!」

「銀さん! キリトさん!」

「アッスー! シッリー!」

「「「誕生日おめでとう!!」」」」

 遂に始まったてんびん座だけの誕生会。近しい四人の生誕を仲間達が盛大に祝う。元の世界では中々起きなかった光景に、全員が喜びに満ち溢れていく。

「いやぁ~やっと祝えたか」

「ここまでの道のりが長く感じたわね」

「現に投稿まで二ヶ月経ってんだけどな」

「……どういうこと?」

 ふと呟いた銀時のメタ発言に、アスナは意味が分からずに聞き直してしまう。説明しても分からない為、銀時は適当にはぐらかしていく。

「誕生日会はシノンの時以来か」

「皆さんと一緒に祝われる日が来るなんて」

「こういうのもたまには良いんじゃないか?」

「そうですね!」

 同じく主役扱いをされて、若干照れを覚えるシリカ。キリトに後押しされて、急に自信が付いていた。今日起こった出来事も話題にしつつ、皆が誕生日会を楽しむ。

「アハハ! さぁ、宴じゃ! 飲んで食ってを繰り返すぜよ! 金時の為にもな!」

「だから銀時だって言ってんだろ! ていうか、お前が仕切るな! ほぼ初対面なんだから、挨拶の一つでも入れておけ!」

「そんな固いこと言うな、金時……アレ? 金時が二人おる!?」

「今更騙されるな! お前の横にいるヤツはヅラだ!」

 酒を飲んでいないにも関わらず陽気な態度を続ける辰馬。桂の変装も見破れず、早くも勘違いしてしまう。銀時もすかさずツッコミを入れていた。

「もうシリカとはマブダチじゃからな」

「そ、そんなことないですよ!」

「へぇ~。陸奥さんとそんなことがあったんだ」

「もっと聞かせてくれないか?」

 一方で陸奥はシリカの親友を自称。彼女やアスナ、キリトらからも気にかけられて、主役達を差し置いて次々と話しかけられていく。坂本よりも場に馴染んでいた。

 こうして多くの仲間達を集めて開かれた誕生会は、和気あいあいと夜遅くまで続いたのであった……。




今回の登場キャラクター
坂田銀時
ユイ

服部全蔵
近藤勲
たま

月詠
晴太

日輪
リーファ
シノン

キリト
アスナ
シリカ
ピナ
志村新八
神楽
定春
志村妙
柳生九兵衛
リズベット
猿飛あやめ
エギル
長谷川泰三
クライン
桂小太郎
エリザベス
坂本辰真
陸奥





まずは皆さま、お久しぶりです。完全に間が空いてしまいました。元々誕生日会を描く予定だったのに、気付いたらその日付を過ぎ去ろうとして……時の流れって怖。

ここ一か月実は別作品を製作していまして、今後ネットに上げるか今考え中ではあります。忙しくてロクに宣伝していないという……。

さてさてお話の方ですが、銀さんとユイの友情を感じられたお話でしたね。ユイが年を離れた人とここまで仲が良いのは結構珍しいことかもしれません。SAO内だと限られていますからね。今更ですが、アスナ、シリカ、キリト、銀さん。誕生日おめでとう!

現実だとSAOの映画公開が迫っていますが、行く日が結局当日にならなさそうなのが心配。予定が空き次第映画館へ行きたいと思います。

今年ももう後3ヶ月弱。投稿頻度を上げて、来年の最初には次の長篇に入りたいですね~。それではまた!





次回予告

アスナ「とうとう季節は秋真っただ中。それなのに私はノースリーブ。ユイちゃんは半そでワンピースなんて……ここは冬着を購入しないと!」

銀時「つーか、またトンキーホーテ行くんじゃないだろうな!?」

アスナ「次回! オシャレなんて自分が着たいものを着たらいいんだよ!」


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第百二訓 オシャレなんて自分が着たいものを着たらいいんだよ!

 お久しぶりです。ようやく完成しましたが、久しぶり過ぎて正直自信はないです笑 それでも投稿してみないと分からないので、どうぞ!


「こらー! さっさと起きなさい!」

 万事屋のとある朝の風景。一足先に早く起きたアスナは、八時を過ぎても未だに寝ている銀時、キリト、ユイ、神楽を順々に起こしていく。

 何てことないいつもの風景だが、今日ばかりはいつもと違っていた。

「むにゃむにゃ」

「やかましい……二日酔いなんだからまだ眠らせろよ」

「そうだらけてどうするの! 何事も気の引き締めが肝心よ!」

「寒いのでもう少しだけ……」

 彼女が幾ら呼び掛けても、一向に布団から抜け出さない三人。特にユイは全身を布団でくるまって、まったく手放さそうとしない。

 その原因は寒気。なんせ今日のかぶき町は今シーズン一番の冷え込み。秋を通り越して、冬の朝とまったく変わらない気温なのである。

 だからアスナを除いた全員が、寒がって中々布団から出ようとしない。

「うぅ……寒。もう! 寒いんだから、さっさと起きなさいって!」

「嫌アル。もう半日だけ布団に入りたいネ」

「お昼になっちゃうでしょ! さっさと出なさい、神楽ちゃんも!」

 寒さを感じて身構えるアスナ。再度忠告してもまったく出てこない。押し入れで寝ている神楽も、気だるさを口にする始末である。だらける仲間達の姿を見て、アスナはため息を吐きながら辟易としていた。

「おはようございますー!」

 起こしに息詰まっていた時である。普段通りに新八が万事屋へやって来ていた。

「あっ、新八君。って、どうしたの? その恰好?」

「いやぁ~今日は寒いので厚着してきまして。思わず冬の恰好で来ちゃったんですよね~」

 彼の姿を見るや否や、アスナは驚いたような表情を浮かべる。新八はマフラーやら手袋を身に着けており、しっかりと防寒着を着用していた。さながら冬の服装である。

「そうなんだ……って、外そんなに寒いの?」

「はい。だって今日が今シーズン一番の冷え込みで、冬と変わらない気温みたいですよ」

「えっ? そうなの?」

 新八から気温情報を教えられて、またも驚きを感じるアスナ。一旦冷静に考えると、確かに今日の寒気が昨日よりも増していることを理解した。だからこそ、銀時やキリトらが布団から中々出てこないかもしれない。

 点と点が繋がった途端、彼女は咄嗟にあることを思い出していく。

「これじゃ秋なんてあっという間に終わ――アレ? どうしたんですか、アスナさん?」

「どうしよう……冬服買うの忘れてた!」

「えっ?」

 急に焦ったような表情を浮かべていたのは、肝心の衣類を買い忘れていたから。

 そう。アスナらは現在万事屋でお世話になっており、衣類も彼等から支給されているものを使っている。故に冬服はまだ購入しておらず、日々の生活から無意識に後回しにしていたのだった。

「だってこの服装じゃ、秋どころか冬を乗り越えられないでしょ! まだいつ帰るのかも分からないままだし……!」

 アスナからの嘆きを、新八は苦い表情のまま聞いている。無論彼女が焦っているのは自身の服装が原因であり、所謂肩出しのノースリーブでは冬を越すには難しい。さらにユイ用の冬服も用意していない為、このままではシーズンに間に合わなくなってしまう。

 ふと訪れた課題に頭を悩ませるアスナだったが……ここで彼女はすぐにあることを決意していく。

「決めたわ! みんな! 今日は衣替えに出発するわよ!」

「えぇ!? 急にですか!?」

 それは冬服の買い出しであった。

「おぉー! アッスー! 今日は朝から天ぷら作ってくれるアルか?」

「そっちの衣じゃないわよ!」

 高らかに宣言したものの、神楽は衣にだけ反応している。一瞬にして目が覚めてアスナに詰め寄っており、あまりの変わりように彼女は激しくツッコミを入れていた。

「何? ところてんだ?」

「今日の朝食のことか?」

「私はフレンチトーストが良いです!」

「だーかーら! 衣替えだってば、みんな! なんで食べ物のことになったら、すぐ起きるのよ!!」

 釣られて銀時、キリト、ユイもようやく起床。揃って朝食について興味を示している。

 アスナの意志は何一つとして伝わっておらず、憤った彼女のツッコミはさらに激しさを増していく。

 その一方で、

「アレ? ツッコミ役変わっていない? 今回大丈夫?」

本来のツッコミ役である新八は、たった一人置いてきぼりにされていた。アスナが冬服の存在に気付いたきっかけにも関わらず、この仕打ちである。

 こうして今日一日予定の決まっていなかった万事屋だったが、アスナの鶴の一声をきっかけに、冬服を買いに行くこととなった。

 ちなみに朝食は、ユイの希望で本当にフレンチトーストに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は江戸にある複合ショッピングセンターへ移動。ここでは飲食店やら服屋やら染物屋まで、あらゆるジャンルの店が営業している。若者も数多く訪れているこの施設で、万事屋は冬服を探すつもりだ。

「おいおい、いつの間にあのステーキ屋無くなってんだよ。いきな〇ステーキにでもやられたか?」

「そのいきなり〇テーキも別のライバル店が近くに出来て、今大苦境アルよ。まったく弱肉強食の世界アルナ。と言うことで」

「言わせないよ神楽ちゃん。どうせアスナさんに頼んで、ステーキをおごろうとしているんでしょ」

「チェ。バレたか」

「いや、大バレだよ」

 店へと向かう傍ら、早くもランチのことで頭がいっぱいになる神楽。乗りよくアスナへおねだりしようとしたものの、寸前で新八に止められていた。思い通りにいかず、早くも不満そうな表情を浮かべている。

 そんなことはさておき、アスナはキリトやユイに冬服の希望について聞いていた。

「キリト君はどんな上着が良い?」

「俺は別にマフラーくらいで良いよ。このコートも結構保温効果あるし」

「そう……って、よくそれで夏を乗り切ったわね!?」

「今更なツッコミだな……。俺は別に問題無かったけど」

 数か月ぶりに再燃した疑問に、キリトは苦笑いでアスナへ事を返す。夏の時期でも所謂厚着だったのが、キリトは何不自由なくそのまま過ごしていた。故に冬服も特に必要ない様子である。

「ってことはよ、アスナとユイだけで良いんじゃないのか?」

「そうですね。二人共夏服っぽいですから、イメチェンも兼ねてまったく新しい服装に試してみてはどうですか?」

「そうね……確かにイメチェン要素は必要かも」

 銀時、新八に諭されて、つい納得してしまうアスナ。やはり半袖等が目立つ二人にぴったりの、冬服を選ぶことが本日の目標となった。

 イメチェンを勧める新八に対して、神楽はふとあることを思い出す。

「まぁ、新八ばりに大滑りしないように気を付けるアルよ」

「大滑り?」

「おっ? その話まだしていなかったのか? 実はな――」

「って、何を言うとしているんですか!! あの件はきっぱり無かったことにしたでしょうが!!」

 嫌な予感を察して、話へ無理して割り込む新八。それもそのはず。以前に新八はイメチェンと称して、仲間達からひんしゅくを買った経緯があるからだ。その件を一切知らないキリトらからすれば、何のことだかさっぱり分かっていないが。

 と上手く話を逸らしたところで、話題は再びアスナらの冬服決めに移行している。

「それで。何か欲しい服とか決まっているのかよ?」

「そう急かさないでよ。服選びって、簡単に決まることじゃないのよ」

「そうアルか? こんなの自分の直感で、一気に決めた方が良いんじゃないアルか?」

「直感も大事だけど……もっと大事なのは流行よ! 今何が流行っているのかを、見極めるのが重要だと思うわ」

 銀時、神楽に急かされてもなお、自身のペースを保つアスナ。ファッションのことになると、やたら流行りを気にしている。服選びにおいて、一切の妥協もしない心構えだ。

 キリトも彼女の意見に賛同している。

「確かに、アスナの言い分も分かるな。銀さん達は、流行とかこだわったことあるか?」

 と軽く質問がてらに、銀時らにも意見を聞いてみると、

「流行? なんだそれ。食えるのか?」

「アタイらにそんなのは微塵も興味無いネ」

「僕もですね。お通ちゃんがオススメするものなら良いけど」

「えっ……? 全然興味ないのか?」

「「「おう」」」

頑なに拒否されてしまう。皆渋い表情を浮かべており、流行に関しては気にも留めていなかった。断言する三人に、キリトも返す言葉を失ってしまう。

 その一方でユイは、興味津々にアスナへ最近の流行を聞いていた。

「えっと。ちなみにママ。今回はどんな流行が流行っているんですか?」

「フフーン! 任して! 今年は白が流行ると聞いているわ! 純白清廉な雪みたいで、冬コーデにもぴったり! だからユイちゃんにも、ピッタリのものを探してあげるわね」

 自信良く言い放った正体は白色。どうやらアスナ曰く、今年の秋冬は白物が流行るとのこと。ちょうど自身やユイとのイメージカラーも同じ為、俄然と彼女の気合が高ぶっていた。

「白アルか?」

「おい、もしかしてあの服装かよ」

「あの……えっ!?」

 色の件を聞き、銀時らの視界にある集団が目に入ってくる。気になったアスナが振り返ると、そこには……

「な、何アレ……」

「何って昔懐かしスーパースターアルよ!」

「いや、そうじゃなくて!!」

奇妙な服装を着た人達がちらほらと見受けられていた。両袖に巻き付けられた細長いフリンジが特徴的で、さながら昔懐かしい男性アイドルの衣装そのもの。老若男女問わず、ショッピングセンターにいた大半の人達が着込んでいた。

 無論この光景に、アスナはだいぶ気を引かせてしまう。

「えぇ……今アレが流行っているの?」

「アレは確か……フリンジ星の天人が服屋を始めて、最近この近くで流行っているんですよ」

「所謂密かなブームってことアルよ」

 新八や神楽からの説明で、ようやく状況を理解するアスナ。要するにこのショッピングセンター近くで流行っている服らしい。真相を知った途端、選ぶ店を間違えたと後悔の念に苛まれる彼女であった。

「そうだったのか」

「ってことはよ、自称ファッションリーダーが言うんだから、フリンジを取り入れて、流行に乗っかるしかねぇんじゃないのか?」

「えっ? でも流石に白とはいえ、あの服装じゃ動きづらいんじゃ……」

「そう! 保留で! さぁ、別の店行くわよ!」

 悪乗りをした銀時が、面白半分でフリンジを勧めていき、咄嗟に話題を変えるアスナ。

 結局はまったく別の店で、冬服を探すことに決めていた。早々に思わぬ流行へ惑わされた彼女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 一行はショッピングセンターの別の館内へ移動。ここは子供服の専門が多数取り揃えており、まずはユイの冬服を購入することに決めている。

「ユイちゃんの服だけど……何かぴったりのものがあるかしら?」

 ユイにぴったりの服が無いか、目を点にして探してみるが……中々しっくりくるものは見つからない。

「ユイはどれか欲しい上着はあるか?」

「私はなんでも大丈夫ですよ! でも出来れば、もこもこした服を着てみたいです」

 キリトがユイに服装の要望を聞くと、彼女は元気よく返答。強いて言う要望は、ユイの興味があったもこもこした上着だった。

 すると銀時はとある考えを閃く。

「なら手軽にぴったりの服があるだろ?」

「ぴったりの服?」

「銀さん。何か心当たりがあるんですか?」

 彼からの提案に、一同はつい驚きの声を上げる。同時に新八ら仲間達は、何やら嫌な予感を感じ始めていたが……恐る恐る聞き返していた。

「まぁな。こんくらいのガキにはこの服が頃合いだろ?」

 そう言って銀時は、心当たりのある上着やら防寒具やらを見つけて、ユイに試着を促していく。とりあえずユイは言われるがままに試着室へ入り、一人で銀時オススメの服装に着替えていた。

 そして……

「じゃーん! どうですか?」

「うん。ぴったりだ。良く似合っているぜ」

とうとうその姿がお披露目される。白いワンピース姿から一変。薄いピンク色のケープ付きコートに、白いマフラー。頭には某寒冷地仕様の四角い帽子。足元はコートと同じく薄いピンク色のブーツを履いている。

 可愛さと大人っぽさを併せ持った冬服に、ユイは大方満足していた。

「銀ちゃんにしては中々良いセンスアルナ」

「だろ。俺だって進歩しているってことだよ」

 神楽も銀時らしからぬセンスの良さに、つい本音で褒めている。鼻を高くして歓喜に浸る銀時とは対照的に、新八はどこか浮かない顔をしていた。嫌な予感が的中したからだ。

「あの銀さん……これって」

「言っておくが既視感はねぇぞ。投稿者はFGO全然興味ないからな」

「いや、〇のところ意味ないだろ! 思いっきり他作品を意識してんじゃねぇか!!」

 本音を漏らした銀時につい激しくツッコミを入れてしまう。そう。銀時の思いついた衣装は、某ゲームの白髪の女子がモデルであった。要するにただの思いつきである。

 毎度ながら開き直った態度に、新八は少しばかり怒りを募らせていた。

「ったく、この男は……どう思いますか。キリトさんにアスナさん」

 不機嫌そうなまま、キリトやアスナにも意見を聞いてみる。ゲームキャラの衣装を丸々模しているので、自身と同じように憤っていると思いきや……

「結構良いんじゃないか、銀さんにしては」

「へ?」

キリトはまったく気にしていなかった。対するアスナはと言うと、

「悔しいけど……銀さんにしてはセンスが良いわね。似合うし、可愛いし!」

「いや、アスナさん。めっちゃ悔しそうな顔しているじゃないですか。そんなに認めたくないんですか!?」

複雑そうな表情でユイの冬服姿を褒めちぎっている。彼女も内心では銀時のことを認められず、照れくさいまま言葉を選んで発していた。悶絶するアスナの姿に、新八は高らかにツッコミを入れていく。

「やっぱり良いですよね~。銀時さんにしてはセンスアリですよ!」

「そうそう。こんな御似合いの冬服、選んでくるとはな」

「おい、テメェら。さっきから俺のことけなしすぎだろ! どんだけ信用していなかったんだ」

 野暮なツッコミを交えながら、銀時はユイらの会話に割り込んできた。それからはただ冬服についての談議が止むことなく続いていく。

 皆が浮かれきる中で……ただ一人新八だけは微妙な気持ちに苛まれている。

「神楽ちゃん……これって良いの?」

「気にすんな眼鏡。バカと親バカが上手く組み合っただけアル」

 神楽のツッコミにも、彼は苦笑いで返していた。遠目から見る二人の姿を尻目に、アスナらの余韻はまだ続いていく。

 こうして早くもユイの冬服選びが終了。購入して、すぐに着替えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、忘れていた。どうせならあの服にもフリンジでも付けておくべきだったな」

「どこに付けるんですか、ソレ。場違いにも程がありますよ」

「そもそもコートにフリンジは無いだろ」

 冗談気味に発した銀時の一言に、新八とキリトがツッコミを入れていた。ショッピングセンター付近で流行しているフリンジを取り入れるつもりだったようで、もし実現していればアスナから大ひんしゅくを買っていたに違い無かった。幸いにもアスナら女子陣には聞かれていない。

 一方で女子陣は、まったく別の話題を交わしていた。

「似合っているアルよ、ユイ」

「へへ。ありがとうございます~」

 神楽にも褒められて、増々高揚感に浸るユイ。自身に似合う冬服が購入出来て大満足であった。

 一方でアスナは、一応神楽に冬服の購入について聞いている。

「ねぇ。神楽ちゃんは、新しい冬服って買わなくて良いの?」

「私は別に大丈夫アルよ。上着も持っているし、寒さにも慣れているからナ」

「それなら良いけど、欲しくなったら無理はしなくて良いのよ」

 神楽は特に必要ないと感じていたが、遠慮していると思ったアスナはごく自然に気を遣っていた。さり気ない優しさを見せる中、ふと神楽はあるものを見つけている。

「そうアルか。じゃアレが欲しいネ!」

「どれって……フリンジ!?」

 その正体はなんとフリンジ。このショッピングモール内で流行っているもので、色は光沢のある紫色。隅から隅まで紫色に染まり、見た者に刺々しい印象を与えている。

「なんかかっこよさそうアル。相手をボコボコにする時、ちょうど良くないアルか?」

「いやいやいや! 幾ら流行っているとはいえ、紫なんて品が無いわよ! まんま埼玉のヤンキーじゃないの!」

「そうアルか?」

 当然フリンジに否定的なアスナは神楽のおねだりを却下。冬服と言う枠組みからも外れていることを指摘していた。

「どうしたんですか」

「何か良いのが見つかったのか?」

「見つかったも何もフリンジよ! ここにもあって……」

 騒ぎを聞きつけて、離れていた男性陣も集合。なんとなくだが、フリンジ絡みで揉めていたことだけは理解していた。

「本当に色んな種類のフリンジがあるのですね……」

「こりゃもう神の思し召しじゃねーか。素直に受け入れるのもアリだと思うぜ」

「そんなわけないでしょ! そもそもこんな服、一体誰が着るのよ!」

 何かの運命だと察して、銀時はアスナへまたしても悪乗りでフリンジを勧める。それでもアスナはただならぬ拒絶反応を示していた。

 意地でもフリンジを嫌がる彼女に対して、銀時がまたしてもからかおうとした時である。

「お客様、お似合いですよ」

「そうか? いや~、たまには流行に乗ってみるもんだな」

 見知ったかの声が聞こえて、ふと後ろの方を皆が振り返っていた。するとそこには、

「えっ?」

「長谷川さん!?」

フリンジに着替えた長谷川泰三の姿が見えている。彼は普段着ている赤茶色と同じフリンジを購入しており、本人もだいぶ満足げな表情を浮かべていた。

 ちなみに銀時ら万事屋の気配は一切気付いていない。

「またのお越しをお待ちしております」

「よしっ! 流行にも乗ったし、これで就職活動頑張るぞ!!」

 そう言って彼は、意気揚々と店を跡にする。一段とノリに乗った長谷川の姿を後ろから眺めていた銀時らだったが、あまりの変貌ぶりに皆が気を引かせていた。

「どこに就職する服装だよ」

「錦野〇の物真似芸人目指しているんじゃないアルか?」

「ニッチすぎるでしょうが」

 似合うか否かよりも、銀時ら三人は長谷川の就職活動の方を心配している。フリンジが必要な仕事が本当にあるのだろうか。

「少なくとも長谷川さんには需要があったってことか……」

「……本当に流行っているのでしょうか?」

 キリトやユイらも何とも言えない表情を浮かべており、銀時らと同様長谷川の行く末を気にしていた。そもそも流行を気にしていることにも、実は驚いていたが……。

「次のブーム間近ってことなの……?」

 アスナも段々と流行に過敏となり、次第に迷いが生じている。

 と長谷川の一面を目の当たりにして、場の空気が微妙になっていた時。またしても万事屋の元に、知り合いが近寄ってくる。

「アレ? キリト達じゃない」

「その声は……お前等か」

 話しかけてきたのはシリカ、リズベット、リーファ、シノン、月詠の女子陣。所謂いつもの女子達と奇遇にも遭遇している。

「ここで会うなんて偶然だな」

「そうですね、キリトさん!」

「てか、アンタ達も冬服買いに来たの?」

「私達は違うネ。アッスーとユイの分を買いに来たアルよ」

「えっ? あっ。二人だけなんだ」

 思わぬ場所での遭遇に、若干嬉しさを覚える女子達。同じ冬服探しと知って、すぐに神楽らへ共感していた。

「そういうお前等も同じか?」

「じゃな。冬が近づく前に買い出ししていたところじゃ。コートやら帽子やら、センスには大分自信があるぞ」

 そう月詠が銀時へ返答すると、彼女は手にかけていた紙バックの中身を見せていた。言った通りのコート他防寒着が多く詰められている。

「結構買いましたね」

「まぁ、セールもやっていたからね。飽きが来ないように、みんなで数種類分も購入したのよ」

 さり気なく彼女らが買った防寒具の中身を見ていると、神楽はついフリンジの有無を確認してしまう。

「フリンジは入っていないアルな」

「フリンジ? 何それ?」

「このショッピングセンターで流行っている商品のことだよ。スグ達の行った店には置いていなかった?」

「絶対あったアルよ」

 ピンと来てないシノンらに対して、神楽やキリトが軽い補足を加えていく。すると、すぐに反応が返って来た。

「あぁ~アレね」

「迷ったんだけど、結局止めたのよね~。流行っているって言っても、一年後にはブームが去ってそうだし」

「それに無利して、流れに合わせる必要も無いからね~」

 女子達は一貫して、フリンジのことを気にしていなかった。シノン、リズベットとありのままに受け流す。(実は試着してしっくりこなかった為、ブームには乗らないことにしたそうだが)

「そう……」

 一方でアスナは、シリカ達の反応を見て余計に悩んでしまう。ブームと言うものを意識しすぎたせいで、乗っかるべきか悩んでいたのだ。

 分かりやすく表情も気難しく変わり、それに気づいたリズベットが彼女へ声をかける。

「どうしたのアスナ? まさかフリンジに興味があったの?」

「そういうわけじゃないわよ! ただ流行しているから、一応買うべきか悩んでいて……」

 迷いながら今の自分の気持ちを赤裸々に語ると、リズベットら女子達は一息付けつつ、再びアスナへ話しかけていく。

「なんかアスナらしくないわね」

「そうです、そうです」

「み、みんな!?」

 急な態度の変わり様に、アスナは素直に驚いてしまう。唖然とする彼女に対し、女子達の激励は続く。

「流行とか無理に合わせなくても、アスナさんはアスナさんらしく自分の好きな服を買ったら良いと思いますよ」

「アンタの恰好は無条件で可愛いんだから、もっと自信を持ちなさいよね」

「そ、そんなことないって!」

「それに……正直この世界の流行って、ヘンテコなのも多いじゃん。私達の世界とだいぶセンスが違うから、何も無理に合わせる必要はないと思うわよ」

「私も同じ意見よ。自分の個性を大事にすべきなのよ。それこそアンタが所属する万事屋みたいにね」

 シリカ、リズベット、リーファ、シノンと順々に声をかける。温度差に違いはあれど、一貫してアスナへ自信を取り戻させることは共通していた。

「だって皆さん、流行なんて気にしませんよね?」

「そうアルナ。いちいち変えるのもめんどくさいし」

「ブームなんていつか過ぎ去るものだろ。俺が言ったのも冗談だから、全然お前の好きな服を買えよ」

 シリカらの想いは銀時達万事屋も同じである。銀時もさり気なくアスナへフォローを入れている。すると彼は、あることを思い出していた。

「アレ? 思い悩んでいたのって、俺のせいだった?」

「銀さん……一応謝った方が良いんじゃないですか?」

「誤解は早いうちに解消していた方が良いぞ」

 てっきりアスナが悩んでいた原因が、自分にあると思い始めている。自覚した彼と同時に、新八やキリトが念のため、謝るように諭していく。

「分かったから。じゃ――ご」         

「大丈夫。もう大丈夫だから!」

「おい、ちょうど良いタイミングで被るなよ!!」

 と意気込んだのも束の間、途中でアスナが言葉を重ねていく。謝りを気にしていないことから、どうやら銀時が原因ではないらしい。

「そうよね。流行にばっかり左右されず、自分の感性も大事にしないとね。みんな、ありがとう!」

「そうそう。こうでなきゃ!」

「吹っ切れたみたいで良かったですね!」

 アスナ自身の迷いも晴れた様子であり、表情も一変。清々しく切り替わっている。普段と同じ振る舞いを見せるアスナの姿に、仲間達も一安心していた。

(彼女自身も迷いの原因は未だに掴めていないが、恐らくは予想以上に流行っていたフリンジブームと長谷川の生き生きとしたフリンジ姿が原因だったかもしれない)

「さぁ、みんな行こう!」

「おいおい。そんな気合入れて大丈夫かよ?」

「平気だって! もう私に迷いなんて無いから」

 一息着くのも束の間、アスナは一目散に目的の服屋に向けて駆け出していく。テンションも高くなり、仲間達を無意識に置いていってしまう。

 だがユイらは、普段と同じ雰囲気のアスナが見れて、むしろ安心感を覚えていた。

「それでこそママですね」

「そうだな。じゃ、俺達もついていこうか」

「そうアルナ」

「あっ、皆さん。ありがとうございました」

 キリトや新八らは冷静に、アスナの跡を追いかけていく。その前にシリカらにお礼を言い残して、その場を去っていった。

 一段と元気になった万事屋達の後ろ姿を目にして、女子達もやっと不安を払拭している。

「この調子じゃ、もう平気そうじゃな」

「だね。とりあえず一安心」

 一部始終を見守っていた月詠も、ふと笑みを浮かべていた。

 こうして大切な仲間を励ました女子達は、住処である吉原へと帰っていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 流行を気にせずに気持ちを割り切ったアスナは、自身の思い描くままに好みの防寒具を選び抜き、ようやくとっておきのコーディネートが決まっていた。

「じゃーん! どう?」

 試着室でてきぱきと着替えて。早速仲間達に披露していた。流行色通りの白コートに、薄いオレンジ色のマフラーを羽織るシンプルな冬服である。これでも体型や丈の長さを慎重に調整したので、約一時間かかっているのだが。

「おぉー! 似合っていますよ!」

「良いセンスアル。流石アッスーネ!」

「二人共ほめ過ぎだってば~」

 自信のある服装だったが、仲間達は概ね好評。神楽やユイからはべた褒めされている。

「十分似合っていると思うよ。やっぱりこっちの方がしっくりくるな」

「ありがとう、キリト君!」

「まぁ。ユイ共々良いんじゃねえか?」

「ですね。アスナさんにぴったりだと思いますよ」

 無論キリトからも称賛され、嬉しくなって照れを覚えるアスナ。銀時や新八からも褒められて、より気分は有頂天に上っていく。

 この高揚とした気分のまま、お店の会計に向かおうとした時である。

「あっ! 見てください! ママと同じ服装の女子が居ますよ」

「本当……って、アレ? 告白じゃない?」

「マジアルか!?」

 なんと奇遇にも、アスナとほぼそっくりの防寒着を着た女子を発見。その手前には同年代っぽい男子がおり、何やら特別な雰囲気を感じ取れるが……?

「ずっとアナタが好きでした! ファッションも思い切って変えたし、アタシと付き合ってください!」

「こ、告白!?」

 やはり予想通りに訪れた唐突な告白。あまりの急展開に、万事屋の面々は陰からそっと

「おいおい。間近じゃねぇかよ」

「雰囲気も良さげだし、ひょっとして上手くいくんじゃ……」

 思わず女子を応援したくなり、このまま結果を見守ろうとした時であった。

「ごめんなさい!!」

「「「へ?」」」

 雰囲気とは反転して、彼から告げられたのは拒否。想定外の顛末に万事屋のみならず、告白した女子も唖然としてしまう。

「はっ?」

「その嬉しいんだけど……今の俺はフリンジを着た君が好きなんだ!」

「フ、フリンジ……?」

「まさかあの恰好が好きアルか!?」

 男子の癖のある好みに、再び心を引かせる万事屋一行。彼の好みのタイプは、フリンジを着た女子らしい。かなり癖の強い趣向のようだ……?

「流行に乗り遅れて欲しくないんだよ! だから新しく着直して……」

 と現在の彼女のファッションを全否定した時、

〈バシッ!!〉

「へ?」

彼は思いっきりひっぱたかれていた。

「サイテー!! だったら別の女と付き合えや! ボケェ!!」

「ちょっと!! シホってば~!!」

 気分の冷めてしまった女子は、振り返ることなくそのまま場を去ってしまう。一方の男子は、立ち去る彼女の跡をしっかり追いかけていた。

 急転直下な告白劇。その結末はフリンジによって振り回されている。いずれにしても、ロクでもないものであった。

「こんなこともあるんだ……」

「結局、何もかも流行に囚われたら、大事なものも見えなくなるってことか?」

 女子を不憫に思う者や、男子の敏感すぎる流行感覚など、いざ冷静になると違和感が次々と浮かび上がる。

 服を購入する前に、テンションが下がってしまった一行であった。

「まぁ、今回はこれで締めようか。てめぇら、買って帰るぞ」

「いや、オチがこれで良いのかよ!? 最後の最後で締まりが悪くなっているんだけど!」 

 

 

 

 

 果たしてこの作品のオチはどこにあったのか。それは流行に囚われることなく、自分の直感を信じた方が良いのだ。そう、坂田銀時も言っていた。

「言ってねぇよ! 何急にタローマ〇ってぽく締めているんですか!」

「仕方ねぇだろ。大したオチもねぇんだから。さぁ、帰った帰った!」

 

 

 

 こうして波乱に巻き込まれながらも、万事屋はアスナ、ユイの防寒着を無事に購入。衣替えも済み、六人はお喋りを交わしつつ万事屋へと戻るのであった。




 今回はこの時期、ぴったりの衣替えをテーマにしたお話を作成しました。今回はノリ良く書いたので、勢いのままに作成しています。もし何か引っかかることがあれば、感想欄等でご連絡ください。
 アスナとユイは一式、キリトはマフラーや帽子で防寒する予定です。

 そしてついこの前、SAOのサービス開始と同じ生年月日を迎えましたね。果たしてSAOみたいなゲームが現実でも出来るのか。気になるところではあります。ここまで年号が決められているのも珍しいですよね。

 後は……映画も見てきました! いやぁ~戦闘シーン最高でしたね! 二人も安定的に活躍していたので、中々に良かったと思います。来年の新作も楽しみですね~。

 もう一つご報告があるのですが、リアルでの仕事の影響で今後も投稿は不定期になります。出来れば月3回投稿を目標にしているので、無理が無いように執筆活動も続けていきます。なんなら本家の作品だって一気見したいので。

 では頑張れば11月中に投稿したいと思います。それではまた次回!






次回予告
近藤「何!? 真選組に散歩番組のオファーだと!」
土方「しかも俺達だけで回して良いみたいだ」
沖田「そりゃ面白そうですねぇ。マドンナとして、あのブラコン女も呼んできやしょうか」
リーファ「誰がブラコンよ!!」

沖田「次回。旅に厄介者は付き物。厄介者は……」
リーファ「アンタでしょうが!!」


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剣魂 第百三訓 旅に厄介者は付き物

SV楽しい~。


 さぁ、本日も始まりました。ふらふら途中下車の旅。今回旅する一般ゲストは、普段江戸の治安を守る特殊部隊のお三方です!

「真選組局長の近藤勲だ!」

「副長の土方十四郎だ」

「一番隊隊長の沖田総悟でっせ。そして」

「はーい! 今回旅のマドンナに選ばれたリーファって言います。一生懸命頑張るので、よろしくお願いします!」

 黒と緑の配色がとても綺麗ですね~。真選組に加えて、どうやら縁の深い天人女性が旅に加わるみたいです。

 それでは、一日の珍道中を宜しくお願いします~。

 

 

 

 

 

 

「はい、カット!  じゃ、このままバスに乗り込むので、その場で待機していてください」

 スタッフの掛け声により、ようやく気を抜かす近藤ら四人。現在彼らは大江戸バスターミナル付近におり、そこでテレビスタッフに囲まれながら旅番組の撮影を行っていた。

「いやぁ~。にしても、作り笑顔が一段と上手いっすね。普段から愛想よくすれば良いのに、ブラコン女」

「誰がアンタなんかに振る舞うのよ! 大体その態度が気にくわないのよ!」

「残念ですねぇ。それが俺なんで」

「はぁ!?」

「まぁまぁ、落ち着け二人共! 折角のロケなんだし、ここは一回因縁を忘れて楽しもうじゃないか!」

 撮影が一旦中断すると同時に、沖田、リーファ共に本音を交えた口喧嘩が始まってしまう。あまりの険悪さに、たまらず近藤が駆けつける始末である。

「おいおい。本当にこの先、上手くいくのかよ」

 相変わらずの仲の悪さを間近に、つい憤りを感じてしまう土方。撮影は始まったばかりであり、正直二人のいがみ合いがこれで終わるとは思えない。表情にも不安が滲み出る始末である。

 果たして真選組の身に何が起きたのか? 時系列は昨日にまで遡る……。

 

 

 

 

 

 

 とある日の真選組屯所。いつもと変わらぬ日々を送っていた真選組の元に、とある知り合いから一通の手紙が届けられる。

「何? 真選組に番組の出演依頼だと?」

「そうでっせ。路線バスで巡る散歩番組に呼ばれましてね」

「あのゲストだけで旅する番組にか。一体何故俺達に……?」

「さぁ。本来のゲストが欠席なり逮捕したから、依頼が来たんじゃないですかい?」

「縁起の悪いこと言うなよ」

 この手紙をきっかけにして、悩みを膨らませる近藤、土方、沖田の三人。手狭な部屋で密談を繰り広げていた。

 手紙を送って来た相手は大江戸放送局。以前にも、真選組密着24時などを担当したテレビ局である。色々揉めごとはあったものの、まさかの旅番組の出演オファーに驚きを隠せない近藤や土方。対して沖田は淡々と話を勧めていく。

「さて、どうしやすか。まぁまぁウチも好感度が悪くなってきているんで、以前のお通ちゃんコラボみたいにイメージアップを図りやすかい?」

「イメージダウンをしてるやつが言うことか……まぁ、俺は別に良いが。近藤さんはどうなんだよ?」

 沖田に小さくツッコミを入れる土方だったが、出演には渋々了承。土方も僅かには世間体を気にしている様子である。沖田はただ面白そうだからという理由で参加したい様だが。

 一方の近藤はと言うと、

「俺も大丈夫だが、一つだけ条件があるぞ」

「条件? 何かあったのか?」

「そうだ! この手紙に書かれている旅のマドンナに、お妙さんを連れてきてもらおうか」

「マドンナ?」

途端に条件を突き付けている。彼の言ったマドンナと言うのは、手紙の最後の部分。どうやら出演者をもう一人募集しているようで、真選組の三人に加えて紅一点の女子が望ましいとのこと。

 真選組側が決められるので、近藤は意気揚々と片思い相手の妙を指名していた。実現するかは分からずじまいなのだが。

「おい、近藤さん。流石に無理だろ。諦めろ」

「いや、最後まで分からないだろ! 番組出演と聞けば、お妙さんも目の色を変えて、来てくれるかもしれないだろ!」

「どっからその自信は湧くんだよ」

 土方から悟られてもなお、謎の自信で言い切る近藤。無意識に距離も近づかされており、意地っ張りな態度を続けている。

 対応に困った土方が頭を抱えながら、近藤の説得を続けようとした時だった。

「近藤さぁん。残念ながら拒否されました」

「へ?」

「ゴリラはバスじゃなくて、旭山動物園号に乗車してろって言われやした」

 携帯電話を持った沖田から、唐突にも出演拒否を伝えられている。どうやら沖田が直接妙に聞いたらしく、ありのままに思ったことを話していた。

 あまりにもあっけない結果に、近藤のテンションは急激に下がり、目も点に変わる。

「えっ? 無理なの?」

「いい加減諦めろ」

 現実を突きつけられて呆然とする近藤に、土方は容赦のない一言をかけた。彼が落ち着きを取り戻すには、まだまだ時間がかかりそうである。

「しかしどうすんだよ。マドンナって言っても、ロクなのが見当たらねぇぞ」

「最悪ザキを女装化させて、女って誤魔化しても良いですが……ちょうど良いヤツを見つけやしたぜ。今」

「何? 本当か、総悟」

「えぇ。じゃ、とっとと捕まえてきやすね」

 落ち込み続ける近藤を尻目に、マドンナ探しについて話す土方と沖田。無論真選組屯所には女子が居ないので、この時点で見つけ出すには難しい。さらに見知ったかの女子達は、一癖も二癖もある者たちばかりなので、とてもじゃないが頼りにはならない。

 最悪女装した山崎で通そうとも考えたが……沖田にはある妙案が浮かんでいた。彼は間髪入れずに、バズーカを手に外へ駆けだし、大空に向けて標準を定めていく。

 するとそこには、

「はぁ……今日の占い最下位だったし、朝からドンよりした気分なんだけど」

低速飛行で浮遊するリーファの姿が。彼女は柳生家の道場に向かう最中、今日の朝に見た占いの結果を異様に気にしていた。不運なことが起きるのではないかと、戦々恐々と気持ちを身構えている。

「こう憂鬱だと、悪いことが起きて欲しくないけど……ん? ぎゃぁぁぁあ!!」

 ため息を吐いて、ふと真横を向いた時であった。彼女の目に入って来たのは、こちらへ襲い掛かる黒色の網。見事に体へ絡みつき、瞬く間に身動きが取れない状態となっていた。

 もちろんこのトラップを仕掛けてきたのは、あの男しかいない。

「とったどー」

 そう。バズーカから網を放出した沖田総悟である。

「な、なにやってんだ!! 総悟ぉぉぉぉ!?」

 あまりにも身勝手な暴挙に、土方のツッコミも激しさを増す。それでも沖田は何食わぬ顔で接しており、申し訳ない気持ちがまったく湧いていなかった。土方と口論が巻き起こる一方で、リーファは状況を未だに分からず、網から必死に逃げ出そうとする。

「ちょ、誰!? 私を捕まえたのは!!」

「あぁ~俺でっせ。ちょいと黙っていてもらいやすか?」

「はぁ!? そっちから仕掛けてきて、何を言ってんのよ! 良いから出しなさい!!」

 沖田の声を聴くや否や、彼の怒りを滲ませるリーファ。何度も沖田の横暴に付き合わされている経験から、怒りの限界値がとっくに振り切れている。

 そんな最中、

「局長! ALO星から家出した男子の目撃情報が出ていて……」

タイミング悪く山崎が報告の為に部屋へ入って来た。彼は長らく行方が分かっていない天人の調査報告を、近藤らに向けてするつもりだったが――

「えっ?」

「お妙さん……来れないのか」

「うるせぇ。ブラコン。とっとと言うこと聞いてくだせぇよ」

「だったら網から出しなさいよ!」

「ていうか、この網! 首絞め用って書いているじゃねぇか! まさか俺か!? 標的は俺かよ!?」

現場は怒号が飛び交うカオスな光景に。山崎も報告どころではないと悟り、そっと扉を閉めて、何事も無かったかのように去っている。

 こうして旅のマドンナ決めは大いに難航したのだが、ある条件をきっかけにして、リーファは渋々承諾することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 場面は現在へと戻る。着々と撮影準備が進む一方、リーファは沖田に対して、昨日提案してくれたある条件のことを、念のために確認している。

「ねぇ、本当なの? お兄ちゃんの女装姿の写真をくれるって」

「もちろんでさぁ。まぁ、撮影が終わった時に渡しやすから」

 そう言うと沖田は、懐にしまってあった数枚の写真をリーファにちらつかせた。

 その正体は、なんとキリトの女装姿の写真。これは以前行われたかぶき町フレンドラリーで密かに撮られた写真で、彼の困惑する姿があられもなく残されている。

 どういう経緯で手に入れたかは分からないが、恐らく沖田はかまっ娘の面々を通じて、密かに入手したのだろう。

 その姿は意外にも可愛く、貴重な写真とのことで、リーファはまんまと彼の条件に乗せられてしまったのである。

「やっぱり可愛い……!」

「なんでい。お前そんな趣味あったんですかい?」

「ち、違うから! お兄ちゃんに変な噂が広まらないように、妹として尻ぬぐいしているだけよ!」

「いやぁ~。本音と建前が一丁前ですねぇ」

 沖田に煽られ続けるリーファだったが、本当のことなので上手く言い返すことは出来なかった。沖田も彼女の本音を見透かしており、写真を渡すまでまんまと遊ぶつもりである。

「おい、総悟にリーファ君! もう出発するぞ」

「とっとと来やがれ。早く終わって、ドラマの再放送に間に合わせるぞ」

「はいはい。じゃ、行きやしょうぜ」

「わ、分かっているから!」

 と二人が話している間にも、バスが到着。近藤、土方に呼び掛けられて、沖田らは急いで仲間達の元に向かう。

 こうしてリーファは、半ば強制的に真選組のイメージアップの為に巻き込まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ~最初に真選組がやって来たのは、かぶき町。こちらのバス停からは住宅街が広がり、何やら珍しい店がわんさか構えているんだとか」

 別録りしているナレーションと共に、一行が降り立った場所はスナックお登勢近くのバス停。ここはかぶき町でも物静かな場所であり、個人商店がちらほらと見受けられる。

 無論真選組が訪れたのは、毎度おなじみのスナックお登勢であった。

「毎度お馴染み、スナックお登勢でさぁ」

「よりにもよってここかよ……」

 折角の撮影にも関わらず、変わり映えのしない場所に降り立ち、頭を抱える土方。何よりも銀時らと遭遇するのではないかと、内心冷や冷やしていた。

「ってことは、お兄ちゃんやアスナさんがいるのかな?」

「まさか万事屋へ行くのか? それはご勘弁ですねぇ」

「てか、目的はスナックお登勢だろうが」

 思いつき気味に呟くリーファに、沖田がそっと訂正を加える。沖田も今回ばかりは万事屋に邪魔されたくないようだ。主にリーファをいじる目的で……。

 そう店の前で、ぶつぶつと話していた時である。

「おい。店の前で騒いでいるヤツはどいつだい?」

「って、お前等は……」

 騒ぎを聞きつけたお登勢、キャサリン、たま、エギルの四人が、わざわざ店の戸を開いて、様子を見に来ていた。ここでようやく両者が目を合わせている。

「み、皆さん?」

「全員集合ってか。ん? まだ店ってやっていないのか?」

 近藤が問いかけると、たまがすぐに返答した。

「はい。スナックお登勢は本日も夕方から営業していますよ」

「いやいや、昼からやってなかったか?」

「ソレハタダノ勘違イデスネ」

 ついでにキャサリンも事を返す。

 どうやらスナックお登勢の営業時間は、夕方から夜のみだという。普段なら何事もなく引き下がれるのだが、今回ばかりはテレビロケが絡むため、簡単に諦めることは出来ないのだ。

「おいおい、どうすんだ。このままだと取れ高が皆無になるぞ」

「どうしゃしよう。俺が計画した「ブラコンを酔っぱらわせよう作戦」が、このままじゃお蔵入りになっちまいやすよ」

「って、沖田さん!? 何やらかそうとしていたの!? 警察が未成年飲酒を勧めるとか、イメージアップもへったくれもないでしょ!!」

 沖田の溢した計画に、盛大なツッコミを入れるリーファ。凶悪どころか、国の治安を守る警察らしからぬ暴挙に、彼女のツッコミもさらに激しさを増していく。

 と真選組が揉め始める一方で、たまらは徐々に真選組の背後に付いていたカメラマンやスタッフの存在に気付き始める。

「お登勢様。まさか真選組の方々は、テレビ番組のロケをしているのではないでしょうか」

「へぇー意外だね。それでウチの店を訪れたわけかい」

「だとしたら、何か持て成した方が良いんじゃないか? ウチの宣伝にもなるしな」

「ダッタラ試作品ノ料理ヲ、食ベサセルノハ?」

「そうだ。それにしよう」

 映りを気にしていたお登勢らは、宣伝も兼ねてちょうど作っていた新メニューの試食を思いつく。リーファらが言い争う間に、たまは新メニューの料理を真選組に向けて披露していた。

「真選組の皆さん、リーファ様。こちらを試してみてください」

「ん? 何だこの赤い串?」

「ALO星で仕入れた特殊なスパイスを用いた、特辛焼き鳥です」

「って、たまさん!? さり気なくとんでもないこと言わなかった!?」

 彼女が持って来たのは、明らかに危険な匂いが漂う焼き鳥。まんべんなく赤い粉が降りかかっており、見た目からも抵抗心を感じさせる。

 たまは平然とした表情で渡してきたが、真選組の面々は嫌な予感を察して、皆が渋い表情を浮かべてしまう。

「よりにもよって、辛い料理か……」

「土方さんならマヨネーズかけてペロリですよねぇ」

「誰がやるか! 明らかに危険だろ!!」

 沖田のいらぬ一言に、土方は反射的にツッコミを入れる。さり気なく土方へ試食係をやらせるつもりだったが、すぐに計画はバレてしまう。

「あの……たまさん。ご厚意は嬉しいけど、流石にこれは厳しいんじゃ」

「そうでしょうか。エギル様も食べましたが、あまりの美味しさに先ほどまで倒れこんでいましたよ」

「それ絶対辛くて気絶している方でしょ! 従業員からも被害が出ているってば!!」

 一方のリーファは慎重に焼き鳥の試食を回避しようとするも、たまは一切表情を変えずに試食を勧めていく。どうやらエギルも試しに食べた様子だが、美味しい……というよりはあまりの辛さに気絶したみたいだ。

 リーファのツッコミもさらに激しさを増していく。

「まだヒリヒリするな」

「大丈夫かい」

 疲れた表情で辛さが残っていないか確認するエギル。まだ取れていないようで、隣にいたお登勢からは心配される始末である。

 こう拒否を続けるうちにも、カメラは止まらずに撮影を続けていた。映りを気にするお登勢らに対し、辛いことは避けたいリーファら。なんだか旅番組よりは、芸人お約束のバラエティ番組っぽく雰囲気が変わっている。

「試作品なんだし、気張らずにここはスルーで……」

 とリーファが力押しで、試食を止めようとした時だった。

「ったく、情けないですねぇ。ここは俺がいただきやすよ」

「お、沖田さん?」

 後ろから這い寄るように、沖田が話に割り込む。一向に進展しない状況に痺れを切らしたのか、彼が試食役を名乗り出ていた。

「平気なの? めちゃくちゃ辛そうだよ!」

「大丈夫でさぁ。ここでたくましさを見せないと、イメージアップも遠のくんでねぇ」

 何気に心配しているリーファに対して、覚悟の決まった表情を見せる沖田。真選組のイメージアップの為にも、キツイことにも体を張る姿に、リーファも思わず見直そうとした時だ。

「いっけねー。手が滑った」

「へ? ……ギャァァァ!!」

 そんな期待は一瞬にして砕け散った。

 沖田は焼き鳥を手にすると、脱力感のある呟きと同時に、リーファの口元に無理矢理押し込む。当然この事態を予測出来ていなかったリーファは、なすがままに焼き鳥を口にしてしまい、あまりの辛さに叫び声を上げてしまう。その後も沖田のせいで無理矢理食べさせられてしまい、結局彼女だけが被害を受ける形となった。

「やっちゃったね」

「マジかよ……」

 受け狙いでやったとはいえ、本当に激辛焼き鳥を食べたことに、お登勢やエギルらはドン引き。思わず言葉に詰まってしまう。

 こうしてスナックお登勢で起きたハプニングは、全てカメラに収まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~。さっきのハプニングは良かったね! この調子でどんどんやっちゃって!」

「あぁ……」

「了解しやした」

 次のバス停まで移動中、テレビディレクターに先ほどの撮れ高を聞かされる近藤ら四人。沖田が一人で行った横暴だったが、彼は何事も無かったかのように当たり前に事を返す。

「ところでお前、大丈夫かよ」

「大丈夫なわけないでしょうが!! そこのドSにまたいじめられたんだけど!!」

「人聞きの悪いこと言うなよ。俺は番組を盛り上げるためにやってんですぜ」

「余計だわ!」

 リーファは未だに激辛焼き鳥の後遺症が残り、口の中ではヒリヒリ感に悩まされている。沖田からの謝りもなく、彼への不信感は募るばかりであった。

 一触即発な雰囲気に、近藤らが話に割って宥めようとした時である。

「それじゃ撮影しまーす! よーい」

 突然カメラマンが撮影を指示。この険悪な雰囲気をカメラに収めようとしたところ……

「いやぁ~。中々に辛かったですねぇ」

「本当! 辛党派にも大満足のお店でした~!」

 沖田、リーファ共に態度を急変させていた。沖田は一段と馴れ馴れしく。一方のリーファは、にこにことした笑顔を振る舞う。それから二人は距離を縮めながら、店の印象やら宣伝を露骨に始めていく。目は頑として笑っていなかったが。

「なんだこの変わり様」

「トシ。リーファ君も映りを気にしているんだよ」

「だとしても早すぎだろ」

 所謂気を遣ったのように思われるが、それにしても変わり身は早い。二人の性格は違えど、根本の部分は似ていると近藤、土方は密かに感じていた。

 場の空気を読みながら、一行は次なるバス停へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「続けてやって来たのは大通〇番地。甘味処が集まる、女子達注目のスポットです!」

 次に真選組の面々がやって来たのは、かぶき町近くのとある大通。ここでは甘味処(スイーツ店)が集い、若者からも最近注目されているとのこと。

 早速四人は、近くで撮影出来そうなお店を選別していく。

「この近くにあるのは……」

「確か前に言った団子一筋の店があったな」

「おっ! そこにしやしようぜ」

 近藤らが目に付けたのは、目の前にある団子屋。ここはかつて閉業する寸前まで追い込まれたが、とある番組をきっかけに経営が持ち直されたお店なのだ。以前にも近藤が訪れたらしく、全員がこの団子屋へ興味を持ち始めている。

「すいませーん。いるか?」

 のれんをくぐり抜けて、全員が店内へ入った時だった。

「なんだ? 今親父は大量注文で忙し――はぁ?」

「お、お前!?」

 なんと彼らは、思いもしない見知ったかに遭遇していた。目にしたのは、割烹着姿の坂田銀時。真選組にとっては会いたくもない相手である。

「なんでてめぇがここにいるんだよ!」

「それはこっちの台詞だ。なんだよ、こんなにモブを連れてぞろぞろと。レイドバトルでもする気か、コノヤロー」

「んなわけないだろ! つーか、ロケ中だって分かれや!」

 その証拠に、土方は銀時を見るや否や機嫌を悪くする。両者共喧嘩腰のまま接しており、相変わらずの罵倒合戦が始まってしまう。

「あの人は知り合いなんですか?」

「知り合いというか……会いたくなかった人というか」

 上京を飲み込めず、テレビスタッフの一人が近藤に話しかける。近藤本人も銀時らとの関係は複雑だと理解している為、思ったままのことをテレビスタッフに返していく。

「へぇ~。これは面白いことになりやしたねぇ」

「そんな呑気なこと言っている場合!? 早く止めないと喧嘩が……」

 一方の沖田は不謹慎にも、この状況を面白がっていた。笑いを堪える姿をよそに、リーファは心配して、喧嘩寸前の二人を止めようと試みる。

 すると、

「どうしたんだ銀さん?」

「何か迷惑なお客さんでも来たの?」

「あぁ! リッフーに税金ドロボーがいるアルよ!」

「随分と変わった組み合わせですね」

銀時だけではなく、キリト、アスナ、神楽、ユイ、新八ら万事屋の面々も次々に入り口前まで駆けつけてきた。

「お兄ちゃんにアスナさんまで!?」

「万事屋全員集合かよ」

 薄々感じていた予感が当たり、改めて驚きの声を上げるリーファ。一方で真選組の面々は、揃いも揃った万事屋に土方と同じく嫌な予感を察し始めた。

「てか、みんなはここで何をやっているんだ?」

 ひとまず近藤が、団子屋に万事屋がいる訳を聞いてみる。

「何って、団子屋の手伝いですよ。今日の夜開催される近くの結婚式場で、団子を四百個作らなくちゃいけないんですよ」

「どんな結婚式だ」

 新八からの返答に、土方はボソッとツッコミを入れた。どうやら万事屋は、団子屋の大量発生の手伝いに駆り出されているらしい。どれも結婚式に仕入れる団子らしい。

「というわけだから、テメェらの相手をしている暇はねぇんだよ。ほら、帰った。帰った」

「いや、待てや! こちとら手ぶらで帰るわけにはいかないんだよ!」

「そうそう! テレビカメラもあるし」

「旦那ぁ。一本くらい分けてくれやせんかねぇ」

「カメラ……? あぁ、そういうことか」

 任された仕事を優先的に考えて、真選組を追っ払おうとした銀時だったが、リーファらの一言で彼はようやくテレビカメラの存在を改めて知る。

 取れ高を意識始めた銀時は、ここである妙案を思いつく。

「じゃ、しょうがねぇ。ここはクイズに正解したら、団子を食わしてやるよ」

「クイズだぁ!? 素直に渡せや、天パ!」

「番組を盛り上げる為にもイベントは必要だろ? 良いからとっとと答えやがれや」

 なんと意外にもクイズ形式で団子の試食を決めることに。雰囲気もバラエティ寄りに変わっている。

 気が進まない土方らだったが、空気を読んで銀時からのクイズを受けて立つことに。彼らしい意地悪な問題が無いことを祈るが……。

「それじゃ問題はこれだ。ダックの正式名称を答えやがれ」

「ダックって誰だよ」

「それはテメェらで考えろ」

 クイズの内容は実にシンプル。正式名称を答えるようだが、そもそもダックが何なのか、真選組やリーファらは分かっていない。

「普通に考えたら、某夢の国のキャラクターじゃないの?」

「そうですねぇ。てか、お前の世界にも存在してたんでい?」

「えっ? この世界にもいるの!?」

 リーファは素直にも某世界的に有名なキャラクターを思い浮かべていた。沖田らにも通じていることが、今日一番の衝撃である。

「じゃ、もう確定だな。正解はドナルドダッ……」

「待て。ヤツは正式名称を答えろと言った。ってことは、そう簡単な問題じゃないはずだ」

 先走って土方が答えようとしたところ、近藤から食い気味に止められてしまう。彼の言う通り、クイズの出題者は銀時。素直に正解を出さないのは目に見えている。だからこそ、予測の予測まで考えなければならないのだ。

「となると?」

「おい、リーファ。お前のいた世界では、ダックの本当の名前はなんだった?」

「えっと……確か間に、フォントルロイだったはず。これで合っているかは、分からないけど!」

 リーファは持てる知識を武器に閃き、ドナルドダッ〇の本名を思い出す。果たしてこの名称で合っているのか。

「なら、そいつで行くぞ。おい! 正解はドナルド・フォントルロイ・ダッ〇だ!」

「本当に良いのか?」

「あぁ、二言はねぇ!」

 迷いなく言い切った土方。銀時のにやにやした顔つきにイラつきを覚えながらも、リーファから託された答えを信じ切る。

 すると銀時はキリトに話しかけてきた。

「おい、キリト。お前が答えを発表しろ」

「俺か? えっと確か……モンタギューだったか?」

「へ?」

「はぁ!?」

 正解発表を伝えたキリトだったが、予想外の返答に驚きを隠しきれない一行。少なくとも某夢の国のキャラクターでは無さそうだ。

「お前等分かってねぇな。正解はモンタギューだ。ダックって言ったら、緑色の機関車に決まっているだろ」

「いや、初めて聞いたわ! モンタギューって誰だよ!! つーかお前、最初から答えさせる気無かっただろ!!」

「ダックって聞いて、某夢の国を連想するのが間違いなんだよ! 少しは深読みしろ」

「うるせぇ! どこまでひねくれてんだよ、てめぇは! その腐れ切った根性を、叩き直してやる……!!」

「あんだとごらぁ!!」

 銀時からの正解発表に、盛大なブーイングを上げる土方。意地悪を通り越した盛大な勘違いには納得がいかず、あまりのひねくれぶりに激昂を上げる。今回も二人の喧嘩は一向に収まりそうにはない。

「どういうことなの、お兄ちゃん?」

「いや、俺も最近知ったんだが、あの機関車の本名ってモンタギューって言うらしいな」

「機関車……? 夢の国のキャラクターじゃないの!?」

「えっ? 同じ名前のキャラがいるのか?」

 一方でリーファは、キリトに答えの真相を突き止めていた。どうやらキリトは本気で誤解していたらしく、認識の違いを彼女は間近で痛感している。むしろ夢の国のキャラクターが思いつかない方が衝撃的だったが。

「私は知っているけどね」

「たまたまキリが知らなかっただけアル」

「運が悪いというか。タイミングが悪いというか」

 アスナ、神楽、新八と往々に苦笑いをしながら声を上げている。何気に仲間達もリーファと同じ衝撃を感じていた。

「こんなのズルいぞ! 不戦勝で団子は頂こうか!」

「そうでっせ。流石の俺もここまでやる……」

 そして近藤や沖田もクイズの結果には納得がいかない。銀時にケチを付けながら、団子をさり気なくたかろうとした時である。

「ん? どうした総悟?」

「いや、気のせいですねぇ」

 近藤は沖田の急に澄ました表情が気になっていた。沖田はなんでもないと括っていたが、当の本人は薄々と嫌な予感を察し始めていく。

(今の気配は……)

 テレビスタッフではない人物が近くにいる? 果たして沖田が気付いた気配は……?




 思ったよりも早く作成できたので、11月中に投稿出来ました!
 今回は真選組の旅番組。と言っても行き当たりばったりのゆるーい旅ですが笑

 お話もいつもよりはテンポよく進めていて、コンパクトにまとめました。それにしても、真選組のイメージアップに付き合わされるリーファが可哀そう。不憫な目しか合っていないし。

 そして謎の人影の正体は、次号明かされます。

 後は余談ですが、当初の予定ではリーファだけ初の真選組女性隊員として、基本は真選組に所属で考えていました。しかし女子一人をあの屯所にぶち込むのは鬼畜だの、女子メンで揃った方が楽しいだの、色々考えた結果今の形になりました。逆に三期終了以降ならアリスが入ってそう……。

 さて、次回は12月公開予定。同人イベントもあるので、併せて頑張ります~。






次回予告

リーファ「何か追いかけている人いない?」

沖田「ファンなんじゃないですかい?」

近藤「何!? 俺の真似事をしているヤツがいるのか!」

土方「近藤さん。少しは自重しろ」

リーファ「次回! 旅にハプニングは付き物!」


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