陸戦専門の提督が鎮守府に着任するそうですよ? (人民の敵)
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《第1話》陸戦隊司令官、鎮守府へ赴任す

 どうも、カルマー少佐改め人民の敵です。つい最近艦これを始めて、大鳳や第61駆逐隊とか阿武隈が可愛すぎて衝動的に作ったのがこの作品です。かなり文章などが酷いものになるような気がせんでもないですが、できれば読んでいただけるとありがたいです!!


 その者は、ある時は海兵きっての秀才と呼ばれた。ある時は海軍の宝刀とも呼ばれた。しかし、彼は海で戦うことをよしとしなかった。そんな彼につけられた異称(コードネーム)は、《陸戦の鬼》。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大日本帝国海軍陸戦隊第1陸戦師団師団長、潮峰海翔海軍少将。参りました」

 

 帝都東京にある海軍軍令部、そこの最高責任者である軍令部長のもとに、俺は呼び出された。しかもカナダ西部バンクーバーでの強襲作戦中にだ。作戦司令官であった俺は部隊の指揮を副官に任せ、急遽戻ってきた。

 

「ようやく来たか」

 

 俺の目の前で椅子に腰かけている人物、大日本帝国海軍軍令部長の古賀智樹元帥は険しい目をこちらに向けた。

 

「申し訳ありません。それで、用件というのは?」

 

「潮峰少将、貴様に異動を命じる」

 

「………は?」

 

 俺は相手が元帥だというのも忘れて聞き返していた。

 

「聞こえなかったか。異動を命じるといったのだ」

 

「いえ、なぜこのタイミングで異動を命じられるのかと思いまして。よろしければ、異動の理由と異動先をお教えいただけますか」

 

「よかろう。貴様の異動先はトノアス海軍基地、そこの司令官だ。その意味が、分かるな?」

 

 言われなくとも一瞬で理解した。トノアス基地、大日本帝国領チューク諸島の中心に位置する海軍基地は帝国海軍の基地のなかでも、とある目的に特化した基地である。

 

「艦娘を指揮して深海棲艦と戦えと、そういうことですね?閣下」

 

「その通りだ」

 

 太平洋戦争で辛くも敗戦を免れ、強力な海軍を保持し続けた大日本帝国は帝暦72年、西洋暦でいうところの2017年にその強力な海軍力をもって『新大東亜共栄圏』の実現のために周辺各国に宣戦布告、第2次太平洋戦争が始まった。先の大戦の教訓を生かし堅実に戦線を広げていく日本軍に、大陸諸国は次々降伏。共栄圏の最大の障害であるアメリカとも有利に戦局を展開していた。ここまでは良かった。

 

 今から5年前の帝暦81年に、太平洋及び大西洋上に『深海棲艦』と呼ばれる海底種族が出現した。深海棲艦は圧倒的な軍事力を有し、各国の船舶、特に太平洋で激しい戦いを繰り広げていた日米両海軍の艦艇を次々と沈めていった。大西洋でも欧州諸国の連合艦隊を易々と壊滅させ、瞬く間に世界中の制海権は深海棲艦に握られた。

 

 深海棲艦に蹂躙される帝国海軍。その状況を打破したのが、かつての第1次太平洋戦争の折りに沈んだ艦艇に人間の魂が宿った存在、通称『艦娘』だった。彼女らは深海棲艦に対抗しうる戦士たちとして、太平洋上の海軍基地に配属され、今や帝国の海防を一手に担う重要な存在となっていた。

 

 深海棲艦に対抗しうる術を見つけた海軍は、陸軍にアメリカとの戦争を続行するように進言。太平洋上の輸送ルートが使えなくなった陸軍、それに俺が率いていた海軍陸戦隊はアラスカ経由でアメリカに侵攻し、現在カナダのバンクーバーあたりで攻防戦を繰り広げている。

 

「………そもそも私は陸戦専門の将校です。艦娘たちの指揮を執れるわけがありません。というか、他に適任者はいなかったのですか」

 

 俺はいった。それもそのはず、海戦が華である海軍において、俺が選んだ兵科は陸戦科。当然同期でそんなものを選ぶのは他におらず、周りからは完全に変人扱いされた。今でこそ弱冠20歳で少将という普通ならあり得ない出世コースを歩んでいるものの、これも陸戦科があまりにも不人気すぎて、海兵を卒業したら即少佐になり、他の科よりも速い昇進があるというのに助けられた結果だ。

 

「君はアラスカ沖海戦で、僅か重巡2隻、軽巡1隻の戦力で米海軍の機動艦隊から陸戦隊輸送部隊を1隻の損害も出さずに守りきったじゃないか。そして、他に適任者がいなかったのかという質問だが、彼の地の艦娘たちは生半可な司令官には従わないという掟があるらしいのだが、候補者のなかで唯一彼女たちのお眼鏡にかなったのが君だったのだよ。ここまで来て、拒否することもあるまい」

 

「………分かりました。その任務、引き受けます」

 

 俺はそう一言だけいうと、一礼してから軍令部室を退出した。

 

 

――――――――――

 

 

「潮峰少将、間もなくトノアス基地に到着します」

 

 原子力潜水艦『ひめじ』に乗艦した俺は、途中フィリピンのレイテ島で補給を済ませた後、チューク諸島に向かった。

 

「そうか」

 

 俺は原潜から外の海を見ながらいった。これまでの航海で、少なくとも5隻の沈没艦艇を見つけた。それは海軍にいながら1度も海戦に加わったことがない(アラスカ沖海戦のように護衛対象として参加したことはある)俺にすら、海戦がいかに惨絶なものかを知らしめていた。

 

「トノアス基地まで距離2000。減速します」

 

 艦長の高野中佐の声が艦内に響く。

 

「距離1500、1200、900、600、300。浮上、今!!」

 

 原潜が停止し、その場に浮上する。目の前の桟橋に原潜が投錨し、扉が開かれた。俺は高野中佐に礼を言う。

 

「ありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ。頑張って下さい」

 

「もちろんです」

 

 俺と高野中佐は固く握手をし、そして手を振って別れた。俺を降ろした『ひめじ』は、再び潜行し、戻っていく。

 

「さて、基地に向かいますか」

 

 そう呟いた瞬間だった。

 

「新しく着任された、潮峰少将であられますか?」

 

 少女の声がした。声の方を向いてみると、やや茶色がかった黒髪をショートボブにし、茶色い瞳を持った少女がそこにいた。

 

「ああ、そうだ。君は?」

 

「提督の秘書艦を務めさせていただきます。大鳳型装甲空母1番艦の大鳳です」




 投稿ペースは遅くなると思います。気長にお待ちいただけると幸いです。


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《第2話》海戦のいろは

 大鳳と名乗ったその少女、『艦娘』は、俺を基地まで案内した。

 

 トノアスについての最初の感想は、暑い。とにかく暑い。海兵を卒業して以来、アリューシャン・ダッチハーバー・アンカレッジ・プリンスオブウェールズ、そしてバンクーバー。北の大地でしか戦った事のない俺には、南太平洋の気候はきつかった。

 

「お疲れさまでした。ここが提督の執務室になります」

 

 大鳳に先導され歩いてきた先には、淡い水色の装飾が施された建物だった。

 

「大鳳、一応聞いておくがここは……」

 

「ええ、提督が考えているようにこれは核反射防壁です。現在深海棲艦に核搭載艦は確認されていませんが、彼女らが海底に放置された核兵器の残骸を見つければ即攻撃に取り入れてくるものと思われていますから」

 

 大鳳は俺の質問を予期したかのように答えた。核反射防壁とは、第2次太平洋戦争中に帝国海軍が開発した、元々は航空母艦の甲板に装備する防御装備である。しかし深海棲艦の出現前後から陸上用に改良され、帝都や重要な軍事基地の外壁には、殆どこの核反射防壁が使われている。

 

「では、中にどうぞ」

 

 大鳳は中に待機していた連絡役らしき艦娘に一言二言耳打ちすると、前を歩き出した。

 

 用意されていた執務室は、英国風のアンティークで設えられた中々お洒落な部屋だった。1陸団(第1陸戦師団)時代が嘘のような豪華さだ。

 

「改めて、私が提督の秘書艦を務めさせていただきます、大鳳型装甲空母1番艦、大鳳です。よろしくお願いします」

 

「では僕も。今回新しくこのトノアス鎮守府提督に就任した、元大日本帝国海軍陸戦隊第1陸戦師団師団長の潮峰海翔だ。階級は海軍少将。よろしく」

 

「では提督にここでの任務の内容を伝え………るべきなのですが。まずは着任式に出席してもらいます」

 

「そうか」

 

 俺は応えた。新しく部隊の指揮官になったのなら着任式なり引継式なりがあるのが普通だ。青春の全てを軍隊に捧げた俺にとって着任式なぞ造作ない、そう思っていた。

 

 

――――――――――

 

 

「てーとく、何で提督って陸戦専門なのにこの鎮守府に来たのー?」

 

「あー、暁ばっかずるーい。ねぇねぇ提督、提督ってどんな人ー?」

 

「………なあ、大鳳?」

 

「何でしょうか?」

 

 首を傾げる大鳳に、俺は聞いた。

 

「何でただの着任式でこんな状況になっているんだ?」

 

 俺は着任式の会場である鎮守府大広間に向かい、そこに集まった艦娘たちに対して自己紹介兼決意表明のようなことをして、お開き―――という流れを想像していたのだが。

 

 蓋を開けてみると、挨拶を終えた瞬間に艦娘たちがわらわらと俺のところにやって来て質問攻めにあった。特に背がちっちゃい艦娘、いわゆる『駆逐艦』の艦娘たちに。

 

「………提督は、この鎮守府の状況を、聞きましたか」

 

「僕がここに赴任する前は、長い間提督がいなかったというのは聞いた」

 

 大鳳は、こくりと頷いてから言った。

 

「そうです。この鎮守府では、初代提督が戦死して以降、提督が空位の状態が続いていました。もちろん私たちは、その間も深海棲艦と戦っていましたが、私たちは戦術レベルでの作戦は長門さんや陸奥さんと言った艦娘の司令塔の方々が立てていただけるのですが、それ以上、つまり戦略レベルの作戦ともなれば如何ともしがたい所がありました」

 

「それで僕が?」

 

「はい。私たちは大本営に提督の派遣を要請する際に、条件を出しました。1つ、少なくとも将官以上の実戦経験が多く、戦闘に関する頭脳が優れている将校であること。2つ、25歳以下であること。3つ、その将校が()()()()()()()()()()()()()

 

「は……?」

 

 俺は耳を疑った。

 

「いや、少し待ってくれ。何故、海戦と完全に無縁であることが条件なんだ。海戦に熟達した将校の方が、指揮は的確になるはずだと思うが」

 

「それについては、提督にはまだ説明できないのです。申し訳ありません」

 

 大鳳の顔が一瞬翳る。俺はそこに聞いてはならない闇を感じた。

 

「そ、そうか。それで、任務の内容について教えてもらえるか?」

 

「はい。基本的に提督には、作戦の立案と参加する艦隊の選定、書類処理、大本営との折衝、周辺諸基地の提督との外交、管区司令が開催する定例軍会議への出席。この5つが主な職務になります。その職務を補助させて頂くのが、秘書艦、つまり私です」

 

「了解した」

 

「では、次に作戦の立案についてですが………提督は海戦の知識は……?」

 

 大鳳が心配そうに聞いてくる。

 

「6年前に海兵の1年次で習っただけ。艦の種類と基本陣形程度しか分からない。海軍に入ってからというもの、陸戦隊以外の部隊に所属したことがないもんでね」

 

「そうですか………では私から軽く説明させていただきます」

 

 大鳳はそう言うと、机の中から地図と艦の駒を取り出し、机の上に並べた。

 

「基本の5陣形は分かりますか?」

 

「ああ、単縦陣・複縦陣・輪形陣・梯形陣・単横陣の5つのことだね」

 

「ええ、それぞれ、火力や防御、対潜哨戒などの陣形です。提督には、作戦艦隊と、この陣形を決めていただくことになります。もちろん深海棲艦も、陣形を組んで戦闘に挑んできます。我が艦隊と敵艦隊の陣形によって、同航戦・反航戦・T字戦の状況が生まれます。もちろん、状況によって同じ艦隊でも発揮できるポテンシャルが違います」

 

「その分陣形の決定は重要になるということだね?」

 

「はい。提督には実戦や演習を通じて経験を積んでいただきます。それでは次に補給についてですが――――」

 

 

――――――――――

 

 

「ふぅ………」

 

 俺は寝室で1人息を吐いた。あの後様々な知識を大鳳から叩き込まれ、その後も1陸団から拝借してきたOSV-96対物狙撃銃の手入れ、荷解きなどであっという間に夜を迎えた。

 

 しかし、きちんと組まれた部屋で寝るのなどいつぶりだろう。基本的に北米戦線では雪で作ったテントで夜営なんて当たり前で、しかも俺たち1陸団は常に敵地の奥深くに浸透しているため、まともな補給なぞ受けずに戦っていたから余計にだった。逆に、違和感すらある。

 

「明日から激務なんだろうな………」

 

 今更ながら(軍令部)に恨み言を言いたくなってきた。どんだけ俺のこと嫌いだったんだ上の連中は………。陸戦隊一筋の俺に艦娘の指揮をさせるなんて、考案した奴は中々ブラックユーモアのセンスがあると思う。

 

 その日はすぐにベッドに寝転がり、久方ぶりの安眠を得た。明日からの激務に思いを馳せながら………



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《第3話》旧友との再会

 みっちりと艦隊指揮のいろはを叩き込まれ、諸々の用事を済ませた昨日。久々に快眠を得た俺は、執務室の隣にある寝室で起床した。

 

「ん……」

 

 ベッドから起き上がり、海軍の軍服に着替える。これもまだ慣れない。当たり前だが潜水上陸、空挺降下などをこなす陸戦隊では通常の水兵服とは違い、基本的にはネイビーカモ(海軍迷彩服)を着用するため、着なれていない海軍の礼服は、違和感があった。

 

「おはようございます、提督」

 

 執務室に入ると、先に執務室に来ていたらしい大鳳が俺に一礼する。

 

「おはよう、大鳳」

 

「それで、今日することは?」

 

「本日は提督に、書類の処理をしていただきます。何しろ、提督が着任されるまでの間にかなりの決済書類が」

 

 そういって大鳳が指した執務机上の書類は、少なくとも15cm近い幅があった。

 

「……分かった」

 

 俺は椅子に座ると、書類を1枚手に取った。内容は『南太平洋方面に於ける艦娘の戦略的展開に関する意見書』。いきなりめんどい奴が来た。

 

「さて、始めるか」

 

 俺はペンを片手に書類の処理を始めた。陸戦隊時代はこんなことには無縁だった分、良い経験だと思って丁寧に書類を読み、ペンを走らせる。

 

「……字、綺麗ですね」

 

 ペンを走らせていると、大鳳がボソッと言った。

 

「そうか?あまり言われたことはないんだがな」

 

「いえ……海軍の方々は、大概適当な字で書類を処理するのが普通ですから……」

 

「ああ、そういうことか。それなら何処も変わりない。陸軍だろうが陸戦隊だろうが親衛隊だろうが、大概の文書は書きなぐりで処理する」

 

「そうなんですか」

 

「ああ、それじゃ、さっさと処理するか」

 

 俺は次の書類に手を伸ばした。

 

 

――――――――――

 

 

 私はこのトノアス鎮守府に配属されている艦娘の1人、吹雪です。この鎮守府には、長い間提督がいませんでした。というよりも、実質的に提督の業務を代行している長門さんや陸奥さんが海軍に提督たる人物として出した要求を満たすことが出来る将校がいなかったというのが正確なのですが……

 

「へ、新しい提督……ですか?」

 

 出撃が終わり、入渠を済ませた後、長門さんによって鎮守府にいる艦娘全員に招集が掛けられました。私は夕立ちゃんと睦月ちゃんとともに慌てて集合場所へ向かいました。

 

「夜分遅くに皆には集まってもらい、感謝する」

 

「それで、今日は皆に重大発表がある」

 

 ざわっと周りの駆逐艦の娘たちが騒がしくなりました。

 

「ねえ夕立ちゃん、睦月ちゃん。重大発表ってなにか知ってる?」

 

「ううん。なにも知らないっぽい」

 

「私もなにも知らないよ」

 

「だよね」

 

 私は長門さんの方を向きました。

 

「それでは………この度、このトノアス鎮守府に、新しい提督が着任されることとなった!!」

 

 今度は、集まった艦娘全員がざわっと騒がしくなりました。

 

「着任される提督は明日、原潜に乗ってこちらに到着されるとのことだ」

 

「各自、この鎮守府の艦娘として、ふさわしき態度で新たな提督をお迎えするように。以上、解散」

 

 しばらく、艦娘たちは各々驚いていました。

 

「驚いたね………」

 

「そうっぽい」

 

「でも、どんな人なんでしょうか」

 

 

――――――――――

 

 

「……という訳で、明日、新たな提督が派遣される」

 

 トノアス鎮守府筆頭艦娘、というより提督代行の長門は、駆逐艦娘や軽巡艦娘などが寝静まった深夜、地下の臨時用司令部で、口を開いた。

 

「ホントに………信用出来るんでしょうね」

 

「潮峰海翔海軍少将。大日本帝国海軍陸戦隊陸戦戦闘部隊群司令兼第1陸戦師団長。確かに私たちが出した要求は全て満たしている。なにか問題でもあるのか、陸奥」

 

「いえ別に、前任のようにならないかということよ」

 

 長門の相棒である陸奥が答える。この場所には、長門・陸奥の2人の他に、正規空母娘である赤城と加賀、鎮守府の秘書艦であり装甲空母娘の大鳳が参加している。

 

「もしそうなれば……前任のように海に沈めればよいだけです」

 

 大鳳が言う。

 

「そうです。歴戦の将校とはいえ所詮海軍の人間。我々艦娘に白兵戦で勝てるわけがないでしょう。もし前任の二の舞になったり、無能だと我々が判断したときには、始末すれば問題ありません」

 

 加賀も同調する。

 

「しかし、前任の件でも、憲兵の査察は相当なものでした。また同じことが起きれば、さすがに無能な軍令部も腰をあげて対策を取ると思いますが」

 

 赤城が言う。

 

「そうなれば、無能な海軍に従う必要などない。我々のみの独立した軍隊を作ればよいだろう」

 

 この長門の言葉に、全員が頷いた。

 

「よし、それでは今日はこれで解散。くれぐれも、着任する提督に勘づかれないように、よろしく頼む」

 

 

――――――――――

 

 

「……………」

 

 起床して早6時間。書類の束は着実に薄くなり始め、今では6cmほどの幅になっている。久々な事務仕事に慣れない部分があったが、少しずつ、事務仕事をこなしていた少佐だったころの勘が戻って来たため、比較的楽に処理が出来るようになっていた。

 

「少し、休もうか」

 

 俺は1人呟いた。大鳳は先に休憩で出ていってしまったので、執務室には俺だけしかいない。

 

「着替えるか」

 

 俺は寝室に一旦戻り、アイロン掛けしておいた迷彩服を身に纏い、OSV-96対物狙撃銃を手に取る。腰のホルダーにP9拳銃を差し、演習用弾薬を持って鎮守府から少し離れた渓谷へ向かう。執務室には『外出中』の札を掛けておいたので、大丈夫だろう。

 

「ここら辺でいいか」

 

 俺は適度に開けた場所にレーダーを設営した。これで、俺から半径100mに近づく物体は全てレーダーに捕捉されるようになる。

 

 俺はOSV-96ネイビーカスタムを構える。有効射程2000mを誇るロシア製の対物狙撃銃の改造型。対米戦でロシア中枢連邦とレンド・リース協定を結んだ大日本帝国に供与されたものを、陸戦隊が水上戦闘用に独自改良し、陸戦戦闘部隊群に配備されたのがこのOSV-96ネイビーカスタムだ。個人での揚陸を容易にするために軽量化が施された他、内部機構を改造して水中戦にも対応している。代償として射程距離と威力は若干下がったものの、それでも対潜哨戒ヘリや海上掃討ヘリを撃墜できるなど、陸戦隊にとって威力は十分な重火器として運用されている。上陸作戦を基本とするため携行できる重火器が少ない陸戦隊においてこの狙撃銃は相棒ともいえるものであり、陸戦隊員は各々のOSV-96に自分なりのカスタムを加えるなどこの狙撃銃に並々ならぬ愛着を持っていた。

 

 スコープに覗く景色に意識を集中させる。そして――――

 

スパンッ!!

 

「弾着、確認。あー、評定手もやらないといけないのか」

 

 1kmほど先にあった木を狙い撃った。非動目標を狙撃しても、本来なら何の訓練にもなりはしないのだが、やらないよかマシだろう。潜水狙撃も長いこと訓練できていないな。

 

「もう少し訓練するか」

 

 俺は次の目標を照準に入れる。その瞬間――――

 

「潮峰、久し振りだな」

 

「……………!!」

 

 後ろから声が聞こえ、思わず俺は銃座を転換させ、その人物に銃口を向ける。

 

「おいおい潮峰、忘れたとは言わさないぞ」

 

「………桧山か」

 

「いかにも、桧山誠一帝国海軍大佐であります。帝国海軍陸戦隊陸戦戦闘部隊群総司令官兼第1陸戦師団長………いえ、今は帝国海軍南太平洋軍管区第1機動艦隊司令兼トノアス基地司令、潮峰海翔帝国海軍少将」

 

 帝国海軍南太平洋軍管区第3邀撃艦隊司令兼コスラエ基地司令の桧山誠一大佐は、わざとらしく敬礼をして見せた。俺の海兵時代の同期。最初は内局勤務で軍令部で事務仕事をこなしていたが、俺がダッチハーバーに移った辺りから南方戦線に配属され、しばらくの間原子力潜水艦『いき』の艦長として仏領オールドカレドア攻略戦に参加。空母1隻、軽巡洋艦1隻、輸送船多数を撃沈する大殊勲を上げた。その後抜擢されこの基地のやや西方に位置するコスラエ基地の提督に任じられたと聞いていた。

 

「陸戦隊一筋のお前がどうして提督になるとは、どういう風の吹き回しだ?」

 

軍令部()に聞け。というか、なんでお前がここにいるんだ、お前の任地はコスラエだろ」

 

「応援の要請に来たんだよ。いつもなら艦娘が対応してくれるのだが、提督に言ってくれと言われたもんでな。聞いてびっくり、お前が新しい提督だったわけだ」

 

「そうか。それで、応援部隊が必要だと」

 

「ああ。1個駆逐艦隊ほど応援で頼む。この基地には南太平洋軍管区随一の数の艦娘が駐屯している。いつかこの借りは返す。応援を送ってくれるか?」

 

 俺はしばらく考えた。

 

「分かった。ただ、少し時間をくれ。応援部隊の人選を決めるのに少し時間がかかる。それで、どうして応援部隊が必要なんだ?確かコスラエ基地に駐屯している艦娘は2個艦隊の常設部隊と、3個艦隊の予備部隊。深海棲艦の掃討には十分なはずだ」

 

「ああ、いつもならな。今は本国で陛下の継承式典があるだろ。継承式典の警備艦隊にうちの基地の艦隊が駆り出されてさ……さらにこの時期は深海棲艦の潜水艦隊の活動が活発化。うちの主力艦隊は戦艦と重巡洋艦で、対潜攻撃能力が低いんだ。本国に向かった艦隊が対潜部隊、基地に残ったのは練度の低い娘たちの部隊で、このままじゃ物資の輸送がままならなくなるんだ」

 

「了解した」

 

 俺はレーダーを片付け、狙撃銃を肩に担いだ。

 

「しかし、相も変わらずお前は優秀だな。もう自分のとこの戦力だけでなく周辺の基地の戦力まで把握するとはな」

 

「これでも陸戦隊の元司令官だ。これくらい麾下(きか)の部隊を把握するより容易いさ」

 

 俺は言った。

 

「ま、頑張れよ。俺の時はまだマシだったが、新しい提督が着任するときには艦娘は程度はあれどその提督に懐疑的な態度で接してくる。彼女たちの信頼を得ることが先決だ。間違っても効率重視でいきなり敵の撃滅に挑もうとするなよ」

 

「肝に銘じておくよ。嫌われるのには慣れてる」

 

「陸戦隊にいる時点で何故か目の敵にされるからな、海軍って組織は。大丈夫、信頼されるようになれば大分気は楽になる」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 俺は肩をすくめながら答えた。

 

「アラスカはどうだった?」

 

「どうだったと聞かれても困るが、あまり良い思い出はないな。ただ………戦場としては上々だ。雪に覆われて吹雪があったりして視界が悪いから、小規模な部隊でのゲリラ戦がしやすい。1個旅団で敵の軍集団を阻止することも出来る。物量で押して来る自由連合軍と戦うには、うってつけの場所だ」

 

 桧山はふむ、と頷いた。

 

「潜水艦は中々にハードだぞ。片道4時間の航路を対潜爆撃機や駆逐艦の爆雷攻撃と機雷原を避けながら進んで、敵艦に魚雷を撃ち込んだ後はまたその航路を帰らなきゃならない。しかも敵も潜水艦がいることに気付いているから、行きの航路以上に警戒が厳しい。ま、艦内の設備は海兵時代の砲撃潜水艦より大分ましだがな。自由連合軍は大型艦中心で、対潜部隊が少ないのが救いだったね」

 

「艦長ともなれば随分楽なのかと思いきや、そうでも無さそうだな」

 

「そういうお前はどうだ。師団長は、楽か?」

 

 俺は首を振った。

 

「楽なわけがないだろ。場合によっては師団司令部に突撃命令が下されるんだぞ。まぁ、それは第1陸戦師団(うちの部隊)だけかも知れんが………」

 

「そいつは大変だな。おっと、迎えの潜水艦が来る時間だ。ここらで失礼するよ」

 

 桧山はそう言うと、一礼して小走りに去っていった。

 

「そろそろ執務室に戻るか」

 

 俺は、執務室への道のりを歩み始めた。

 

「信頼を得る………ね」



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《第4話》艦娘との関わり方

 随分投稿が遅れてすみません人( ̄ω ̄;)学業に艦これに忙しくて……
 前の話となってしまいますが初秋イベお疲れさまでした(。*・д・。)ノ自分は初イベながらも完走することができ、初月をお迎えすることができました!!
 これから冬イベもあります。頑張っていきましょー!!


「提督、鎮守府には、慣れましたか?」

 

 提督になってからはや2週間が経ち、暑さでぶっ倒れたり食事が喉を通らなかったりとアラスカの気候にすっかり馴染んだ俺に様々な苦難が待ち受けていたが、何とかこの気候にも慣れ、提督としてのスタートを切った。

 

「うん、暑いのは相変わらずだけど」

 

「そうですか。それなら良かったです」

 

 俺のそばで控える秘書艦、秋月型防空駆逐艦の3番艦である涼月がにこやかに答える。確か俺が着任した際に大鳳は『秘書艦を務めさせていただきます』とか言ってたから秘書艦は固定なのかと思いきや、1週間経ったころに『私は提督へご説明させていただくために秘書艦を臨時的に引き受けたので、これからの秘書艦は別の娘に任せております』と言って秘書艦を外れ、代わりに秘書艦となったのがこの涼月というわけだ。

 

 防空駆逐艦涼月、1945年の坊ノ岬沖海戦で艦首を切断されるという大損害を受けるも佐世保へと帰還した強運艦として知られる。艦娘としての涼月は………うん、何というかとても御淑やかな娘だ。艦娘の性格というのは前世……つまり艦としての史実に沿っているらしく、彼女の姉妹である秋月型姉妹、秋月・照月・初月は大戦後期…つまり大日本帝国の物資輸送が困難となってきた時期に建造されたためか、食生活が質素だ。まぁ俺も陸戦隊時代に絶食訓練して普通の食事が食えないようになってるから、野菜中心で低カロリー高栄養価な涼月の料理はありがたい。

 

ピピピピッ

 

「失礼、無線が来たみたいだ」

 

「はい、分かりました」

 

「はい、コードナンバーExe。中部太平洋軍管区トノアス海軍基地司令の潮峰海翔陸戦……いえ失礼しました。海軍少将です」

 

『軍令部特殊作戦局の今津だ』

 

「……今津中将、お久しぶりです」

 

 無線の相手は軍令部特殊作戦局長の今津稔彦中将だった。俺の陸戦隊時代の上官で、ホノルル上陸戦までは指揮下にあった。俺がアラスカに向かい、第1陸戦師団長になったのと同時に軍令部に異動となり、対深海棲艦の作戦指揮を執る特殊作戦局長となった。海軍兵学校の頃から世話になっているが、相当な切れ者であることが当時軍隊の酸い甘いも分からなかった俺でも分かるほどに知的なオーラをまとっていた。

 

『元気そうで何よりだ。そっち(トノアス)の気候には慣れたか?』

 

「えぇ、なんとか」

 

『それなら良かった。さて、彼女たち(艦娘)とはうまくやっているか?』

 

「うまくやっているも何も、基本的に僕が関わるのは秘書艦だけですよ。僕と彼女たちは上官と部下、それ以上でもそれ以下でもない。そして僕にとって彼女たちは帝国の海防を担う上で必要不可欠な戦闘行動を行うための作戦兵力の基幹戦力、そう考えています。……作戦行動を行う上で必要最低限の信頼関係を結ぶのがうまくやっているというならまだですよ。まだろくにコミュニケーションを取れてないので」

 

『相変わらずの堅物だな。その様子じゃ、君にとって彼女たちは単なる駒か』

 

「さすがにそれは言い過ぎですよ。彼女たちは我々の敵に対抗する唯一無二の能力を持つ特殊な兵士、そう考えていますよ」

 

『私は特殊作戦局長として様々な提督を見てきたが、君のような提督は初めてだよ。それも、弱冠20歳の提督にしては君はやたらと考え方が大人びているというか随分と割りきっている』

 

 俺は一旦目を瞑った。

 

「中将、僕はあの地獄の北アメリカ戦線で4年も戦い続けたんですよ。もうそんなレベルになると同年代の若者のような考え方は出来ません。それに……自分が生きているのは僕のそばで散っていった同期の連中や部下たちがいるからです。甘えた考え方なんかしていたら彼らに向ける顔がないですよ。366891、この数字を僕は一生忘れる気はないですから」

 

『そうか。だがくれぐれも艦娘に疎まれることだけは避けなさい。彼女たちは極めて優秀な分、反逆されると面倒だ』

 

「彼女たちは深海棲艦(連中)に対して特殊な戦闘力を有しますが、対人白兵戦では多分僕より圧倒的に劣りますよ」

 

 俺は淡々と言った。事実そうなのだ。世間では大日本帝国の最終兵器と言われている艦娘も、中身はただの少女たち。深海棲艦に対して極めて高いレベルの戦闘力を発揮するが、対人戦は無理だ。人を殺すことに慣れていない兵士は訓練では高いポテンシャルを示すが実戦では役に立たないのと同様に、彼女たちは人を殺せるが殺せない。

 

『潜水上陸部隊員かつ空挺降下部隊員として特殊訓練を受けた君を比較対象とするのはどうかと思うがな……まぁいい、ともかく、作戦遂行に支障がない程度には彼女たちとのコミュニケーションを取ってくれたまえ。では、これで失礼する』

 

「はい、失礼します」

 

 俺は無線を切った後、しばらく考え込んだ。果たして俺に彼女たちと関わる資格があるのか。

 

「提督?どうされましたか」

 

「ん、ああなんでもないよ。確か次は管区司令への報告書類作成だったね。さっさと終わらせよう」

 

 涼月が心配そうにこちらに話し掛けてくれなければ、答えのない問いに悩むところだった。

 

「艦娘との交流……か」

 

 俺は書類を(したた)めながら呟いた。正直、今津中将にはああ言ったものの、接し方が分からないというのが本音だ。血腥(ちなまぐさ)い地獄のアラスカ戦線での戦いに青春を捧げた俺にとって、うら若き少女たちとの接し方なぞ分からない。海軍初等科から海軍大学校、前線部隊に至るまで女性との接点が一切ない俺に提督をやらせるとは……大本営の罠としか思えない。

 

「涼月、少し教えてくれないか?」

 

「ん……何をですか?私でよければお教えします」

 

「艦娘との関わり方を聞きたい」

 

「私たち艦娘との関わり方、ですか。そうですね……あまり、上官と部下だという意識を持たないで接すればいいのではないかなと私は思います」

 

「ふむ………」

 

 一番苦手なことを言われ、俺は首を振った。というか、そう思っていないと精神が持たなかったのだ。アラスカ戦線では兵士の損耗率が日米両軍ともに極めて高く、部隊がまるごと全滅などというのは珍しい話ではなかった。比較的損耗率が低かった海軍陸戦隊陸戦戦闘部隊群でもそれは日常茶飯事で、出撃を命じた部隊がその日のうちに壊滅し、隊長以下部隊員がまるごと全滅なんていう報告もよくある光景だった。部下に感情移入していてはとてもじゃないが師団の指揮は出来ない。

 

「上官と思わずに接する……か」

 

「ええ、提督はこの鎮守府が初めての着任地でしたよね」

 

「うん、以前はアラスカ戦線で陸戦隊を指揮してたから、海との縁もほとんどない」

 

「陸戦隊、ですか?」

 

 涼月は首を傾げた。

 

「アメリカの軍隊と戦争の毎日。疲れたね、あれは」

 

 俺は半ば独り言の様に呟いた。

 

 今、日本とアメリカは戦争状態にある……否、アメリカとイギリスを中心とする国家連合、通称『自由連合国』と北太平洋及びその沿岸部を中心に戦乱を繰り広げている。この戦争、『第2次太平洋戦争』とヨーロッパで起きた大規模紛争『中央動乱』が一体となり、第3次世界大戦が始まった。

 

 我が大日本帝国はプロイセン国家社会主義連合共和国、通称『ナチス・プロイセン』やロシア国粋中枢連邦、通称『ナチス・ロシア』と連合し『統制枢軸国』を結成。大日本帝国はアジア各地を、ナチス・プロイセンとナチス・ロシアはヨーロッパ大陸部の過半を制圧。ヨーロッパ統制枢軸国軍は中東侵攻を開始し、大日本帝国を中心とするアジア統制枢軸国軍は北米・ハワイ侵攻を開始するなど、現在統制枢軸国軍優勢で戦争は続いている。

 

 が、主に大日本帝国は深海棲艦との戦いが激化し、自由連合国軍との戦争も少しずつ戦線が膠着し始めた。今は圧倒的な戦力差を兵士の質で覆せているが、そのうち劣勢に転じる可能性は十分にある。引き際を弁えなければはるか70年前の先人の轍を踏むことになる。

 

「……もう過去の話さ。今の敵は自由連合軍ではなく深海棲艦。自由連合軍との戦争は後任に任せておけばいい」

 

「提督は、まだ私たち艦娘と接したことがほとんどないんですね」

 

「うん、まだまだ分からないことも数多い。よろしく頼むよ、涼月」

 

「はい、提督」

 

 涼月はにこやかに頷いた。なぜかその笑顔が、儚く見えたような、そんな感じがした。



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《第5話》執務室への召集

「新しく着任された提督って、どんな人なんでしょうか」

 

 私は部屋で一人呟きました。

 

「吹雪ちゃん、どうかしたっぽい?」

 

 夕立ちゃんが12.7cm連装砲を磨きながら言いました。本来なら寮内の部屋に艤装、特に砲や魚雷を持ち込むのはダメですが、駆逐艦娘の扱う小口径主砲に関しては、中の弾薬を抜いた状態でなら特例としてオッケーとされています。弾薬は自己管理で、大体は部屋に予備弾薬入れがあります。これは、深夜に深海棲艦の敵襲があった際に機動力が高い駆逐艦娘が即座に武装、邀撃に上がることができれば武装に時間のかかる巡洋艦娘や戦艦娘の準備が整うまでの時間稼ぎができるという理由です(最も私自身、配属されてからいまだに鎮守府で敵襲にあったことがありませんし、戦力に比較的余裕のあるこの鎮守府では二個水雷戦隊と基地航空隊の対潜哨戒機部隊からなる夜間哨戒部隊が組織されて鎮守府周辺を哨戒しているため、鎮守府で戦闘が起こる可能性はかなり低いのですが)。

 

「前に長門さんが言っていた新しい提督って、まだ私たち見たことがないよね」

 

「確かに、まだ見たことがないっぽい」

 

「ただいまにゃしい~。吹雪ちゃんに夕立ちゃん、もう帰っていたのかにゃし?」

 

 その時、輸送船団護衛に参加していた睦月ちゃんが帰ってきた。彼女をネームシップとする睦月型駆逐艦は前線での戦闘が苦手で、基本的には輸送護衛部隊に所属し船団護衛や後方支援に従事している。私たち吹雪型や夕立ちゃんたち白露型、隣の部屋の雪風ちゃんや天津風ちゃん・時津風ちゃんたち陽炎型、上の階の朝潮ちゃんたち朝潮型、そして私たち吹雪型と同じ特型駆逐艦の綾波ちゃんや暁ちゃんをネームシップとする綾波型・暁型の六つの型に属する駆逐艦娘は水雷戦闘部隊、いわゆる水雷戦隊に所属し、軽巡洋艦娘の方の指揮下で敵艦隊と交戦します。後1つ、秋月さんをネームシップとする秋月型駆逐艦がいますが、彼女たちは艦隊防空に特化した艦娘のため、水雷戦闘部隊ではなく機動護衛部隊、要するに空母機動部隊の随伴部隊として敵の空襲から空母艦娘を護る任務についています。

 

「お帰り睦月ちゃん、怪我とかしなかった?」

 

「ふふん、ばっちりにゃしい」

 

「そういえば、新しい提督のこと、睦月ちゃんは何か聞いた?」

 

「んーあんまり聞かなかったにゃし。ただ、大鷹さんが言ってた話を聞くと、すごい提督らしいにゃし」

 

「すごい提督?」

 

 私は思わず聞き返しました。

 

「うん、なんでも北の方で陸軍を指揮していたとか言ってたにゃし」

 

「陸軍?」

 

 私は聞き返しました。提督は海軍の人間なので、陸軍なはずはないのですが……

 

「失礼しますね」

 

 その声にドアに目を向けると、涼月さんが立っていた。秋月型姉妹の三女で、今の提督の秘書艦だったはず。

 

 私たち3人は慌てて立ち上がり、敬礼をした。水雷戦闘部隊と機動護衛部隊とでは格式が違い、しかも涼月さんは提督の秘書艦。鎮守府では出来るだけ身分序列がないようにはなっているが、自然と敬礼をしてしまう。

 

「楽にしてもらって構いませんよ。提督のご指示を伝えに来ました。一八○○、執務室へ集合せよとのことです」

 

 私たちは時計をちらりと見ました。現在一七二○。まだ大丈夫でしょう。

 

「分かりました。有難うございます」

 

 涼月さんは、ではと言って部屋を出ようとし、一度振り返った。そして意味深な笑みを浮かべ、出ていった。

 

「後40分しかないよ2人とも、ほら早く準備するよ」

 

「え~もうちょっとゆっくりしたいっぽーい……」

 

 夕立ちゃんは床に突っ伏してじたばたしながら言いました。

 

「鎮守府では10分前行動が基本だよ。遅れたらまた怒られちゃうよ」

 

「涼月さんなら問題ないっぽーい……」

 

「睦月も早く行った方がいいと思うにゃし」

 

 

――――――――――――――

 

 

「提督、鎮守府内に駐屯している全駆逐隊の召集が完了しました」

 

「そうか、ご苦労様」

 

 俺は鎮守府の資材管理と物資及び武装の貯蓄状況についての報告を見ながら言った。このトノアス鎮守府の資材は比較的余裕があるものの、周辺の小規模泊地の資材状況はお世辞にも良いとは言えない。輸送船団と護衛部隊を組織して小規模泊地に定期的に物資輸送をする必要がありそうだ……

 

 

―――――――――――

 

 

「ふぅ……間に合った」

 

 私と夕立ちゃん、睦月ちゃんはギリギリの時間に執務室前に着きました。私は一応第11駆逐隊の旗艦なので、僚艦の白雪ちゃんと初雪ちゃんの所に行きます。

 

「遅れてごめん!」

 

 私は白雪ちゃんと初雪ちゃんに遅れたことを詫び、他の駆逐隊の娘達と整列しました。

 

 すると、ドアが開き、中から涼月さんが出てきました。

 

「全員集まったようですね。では、執務室へ」

 

 涼月さんは私たちを執務室に導き、私たちは隊列を組みながら後に続き執務室に入ります。そこには若い男性が腰掛けていました。

 

「提督、鎮守府に駐屯する全駆逐隊の召集が完了しました」

 

 窓の方を向いていた提督と思わしき男性は私たちの方に振り返りました。

 

「ご苦労様。改めて、トノアス鎮守府に所属する駆逐艦娘諸君、一部のものは初めまして」

 

 その男性は私たちに話し始めました。

 

「一応自己紹介しておくと、僕の名前は潮峰海翔。元帝国海軍陸戦隊陸戦戦闘部隊群総司令官兼独立戦闘第16空挺大隊長。階級は海軍少将。この度この鎮守府の提督として赴任した。以後よろしく」

 

 その言葉を聞いて、私は何故かゾクッとしました。それが何故なのかはよく分かりませんが、この提督が普通の提督ではないという、そんな予感がしました。

 

「一つ言っておくと、僕は一切艦隊の指揮を執ったことがない。まだまだ拙い指揮ではあるが、どうぞよろしく」

 

 その一言に、執務室に集まった艦娘はざわつきました。すると、第8駆逐隊旗艦の朝潮ちゃんが挙手しました。

 

「潮峰少将……いえ、提督。一つ、質問をしてもよろしいでしょうか」

 

「構わないよ。どうぞ」

 

「では失礼して……提督の海戦の経験がないというのは、どういう意味でしょうか。まさか、一度も海に出たことがないということではないでしょうが……」

 

「ふむ、いい質問だね。お答えしよう。正確に言えば、海戦に参加したことはある。今から3年前、第28海上機動旅団の旅団長時代にホノルルからダッチハーバーへの兵員輸送作戦、『ヒ号輸送作戦』の際に輸送部隊の指揮権を保有していた。その時に起きた米国海軍機動部隊との戦闘、『アラスカ沖夜戦』で輸送部隊の護衛を務めていた巡洋艦戦隊の指揮を執ったことはある。だがまぁ、あの海戦の公式な指揮官は第7巡洋戦隊司令官の但野大佐になっている。そういうわけで、僕が公式に海戦の指揮を執ったことはない」

 

 提督は飄々と言いました。

 

「他に僕に対する質問はないかな?」

 

 それからは誰も質問をせず、提督が解散の指示をし、各々は部屋に戻りました。

 

「夕立ちゃん…睦月ちゃん…どう思った?」

 

 部屋に戻ってから私は2人に聞きました。新しい提督にそこはかとない恐怖を抱いたのは自分だけなのかを確認するために。

 

「格好よかったっぽい!!」

 

「……へ?」

 

「睦月もそう思ったにゃしぃ~!」

 

 私は2人の予想外の返答に困惑しました。

 

「ど、どういうこと?」

 

「だってあの提督さん、すごく頼りになりそうだったっぽい!!」

 

「そ、そうなの?」

 

 私はますます困惑しました。それと同時に、私以外に恐怖を抱いた艦娘はいなかったのだろうか、と疑問を抱きました。



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《第6話》水雷戦闘総隊第1中隊、出撃す!

『鎮守府西方約200kmのプルワト島沖にflagship級多数を擁する敵水雷戦隊が接近中。水雷戦闘総隊第1中隊及び第1潜水隊は直ちに出撃し、プルワト島に駐留する友軍部隊と連携しこれを迎撃・補給基地攻撃を阻止せよ』

 

 鎮守府にその報が届いたのは起床後の点呼が終わった瞬間だった。出撃命令が出された水雷戦闘総隊第1中隊及び第1潜水隊の娘たちは急いで出撃準備に取り掛かります。

 

 水雷戦闘総隊第1中隊第2分隊に所属する私、綾波は僚艦の長波ちゃん(水雷戦闘総隊では艦型や駆逐隊を出来るだけ分解して編成されています)と共に出撃地点に向かい、水雷戦闘総隊旗艦及び第1中隊長を務める阿武隈さんの所に向かいました。

 

「第1中隊、点呼します!!」

 

 私たちが着いた時には既に第1分隊・第2分隊・第3分隊の全員が揃っていました。

 

「第1分隊、旗艦朝潮、2番艦不知火。出撃準備完了!」

 

「第2分隊、旗艦綾波、2番艦長波。出撃準備完了!」

 

「第3分隊、旗艦雪風、2番艦時雨。出撃準備完了しました!!」

 

 全員の返答を聞いた阿武隈さんは、海を向き言いました。

 

「よし、水雷戦闘総隊第1中隊、出撃します!!」

 

 

――――――――――

 

 

「水雷戦闘総隊第1中隊及び第1潜水隊、全員出撃しました」

 

 部隊の出撃を見送った涼月が執務室に戻ってきた。

 

「了解。では作戦指令室に移動する」

 

 俺は机から立ち上がり執務室を出る。涼月を伴い、地下3階の更に深部にある作戦指令室に向かう。作戦指令室に続く通路にはパスワード付きの扉が3つあり、しかもそこにはそれぞれ常に2人ずつの艦娘が警備し、さらに機関砲まで配備されている。

 

「提督、お待ちしていました。どうぞこちらへ」

 

 作戦指令室付の大淀が室内へ導く。俺は机に座り、ヘッドフォンを装着する。すると、目の前の液晶に当該作戦水域の衛星画像と進軍中の我が水雷戦隊の画像が出てくる。作戦水域の衛星画像には我が方の電探の索敵範囲が表示されている。

 

「作戦指令室より作戦行動中のスコードロン1へ。これより作戦指揮を開始する」

 

『スコードロン1、了解。よろしくお願いいたします』

 

 第1中隊長の阿武隈が答える。

 

「スコードロン1はそのまま西進し、プルワト基地の第8補給線守備隊と合流。ただし、Dトルーパー1は途中でスコードロン1と分離し、侵攻中の敵部隊に長距離雷撃を実施した後、可能であればスコードロン1と再合流し反復攻撃を実施せよ。分離のタイミングについては別命する。どうぞ」

 

『スコードロン1、了解』

 

 俺は作戦部隊との無線を一旦切り、プルワト島の補給基地本部へ連絡した。

 

「トノアス基地作戦指令室よりプルワト補給基地本部へ。応答を求む。どうぞ」

 

『こちらプルワト補給基地本部。敵水雷戦隊の接近により補給線を喪失。Gゲリスン8が出撃し、補給線を再確保したものの、敵部隊の攻勢により撤退し、プラップ環礁に一時避難中。直ちに救援を求む』

 

……既に敵部隊に攻撃され、包囲されたか。

 

「トノアス基地了解。そちらに1個水雷戦隊及び1個潜水隊を基幹とする救援を送った。到着までプラップ環礁を死守せよ」

 

 俺は再び作戦部隊へ無線を送る。

 

「作戦指令室よりスコードロン1へ。状況が変わった。作戦計画を変更し、スコードロン1及びDトルーパー1は全速力で西進、プラップ環礁で包囲されている第8補給線守備隊を救出、その後包囲線を瓦解させ撤退する敵部隊を追撃、これを撃滅せよ」

 

『スコードロン1、了解。前進速度を最大戦速に変更し、プラップ環礁へ向かいます』

 

 

―――――――――

 

 

「艦隊最大戦速!!目標、プラップ環礁沖」

 

 鎮守府を出発し、少ししてから阿武隈さんがそう指示を出しました。

 

「阿武隈さん、目標はプルワト島沖では!?」

 

 朝潮ちゃんが阿武隈さんに言います。確かに、私たちはプルワト島沖に接近した敵水雷戦隊を叩くために出撃しました。

 

「友軍が包囲されたの!」

 

 その言葉で私たちの顔から表情が消えました。深海棲艦に包囲されたということは敵部隊と交戦し、敗走。その後追撃を振り切れなかったということ。つまり救援を急がなければその部隊は―――

 

「……補給線を確保する部隊と、友軍を救援する部隊。第1中隊を二手に分けるというのは」

 

 第1分隊の不知火ちゃんが言いました。確かに、そうすれば友軍を救援し補給線を奪還するという2つの任務をこなすことが出来ます。

 

『残念だがそいつは無理さ』

 

「「「!!!」」」

 

 突然提督の声がして、私たちは驚きました。周りを見回しますが、提督はいません。すると―――

 

『上を見て』

 

 その言葉を聞き上を向いてみると―――1機の偵察機が飛んでいました。

 

『百式司令部偵察機を無線式に改造してスピーカーとカメラを取り付けた代物さ。何しろ僕は直接前線の様子を見ないと気が済まない性分でね』

 

『それで話の続きだが――部隊を二分し、別々の任務を遂行するというのは愚策だ』

 

「しかし……作戦を遂行するなら―――」

 

『もちろん―――充分な兵力、武器弾薬及び補給線が確保され、部隊の隊員の練度が高い場合は有効な作戦だが、今回のように敵の具体的な兵力も分からずこちらの兵力及び兵站が充分とは言えない状況でそれを行えば―――待つのは部隊の壊滅さ』

 

 壊滅、というところを提督は強調しました。

 

『よって君たち第1中隊には、全力でプラップ環礁に向かい友軍を救出して欲しい。出来る限りのことはする。リミットは第8補給線守備隊が壊滅した時。恐らく―――彼女たちが壊滅したが最後、プルワト島の補給基地は陥落する』

 

「………私たちには水雷戦闘総隊の最精鋭部隊としてのプライドがあります。絶対に友軍を救出し、敵を撃滅してみせます」

 

 阿武隈さんは提督にそう応えました。私たちはその言葉に各々目を見合わせ、頷きます。

 

『その覚悟、天晴れだ。未熟な指揮になるが、君たちなら必ず作戦目標を達成し、プルワトを救ってくれると期待しているよ』

 

 阿武隈さんは一度百式司令部偵察機をキッと見つめた後、私たちの方を見ました。

 

「第1中隊及び第1潜水隊へもう一度告げます。私たちの目標はプラップ環礁。敵水雷戦隊を捕捉攻撃し包囲下にある友軍を救援、敵を追撃しこれを撃滅します!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 私たちは敬礼で応えました。

 

「行きます。艦隊西へ!!」

 

 第1中隊の戦いが今、始まりました。




……トノアスの阿武隈は凛々しいですね(・・;)
本家の「あたしの指示にしたがって下さい……したがってくださーいぃぃ!!Σ(ノд<)」はどこへ行ったのやら


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