ヤンデレ艦娘集 限定編 (夜仙)
しおりを挟む

 一寸先は闇の中

他の作品と両立できるよう頑張ります。


「ここだ」

 

 一人の少年が夜中に懐中電灯を持って、コオロギが鳴く静かな世界に足を踏み入れている。

 

 空は藍色に塗られていて、シールに貼られているような感じの星たちが光っている。

 

 そんな中少年が来ていたのはとある洞窟。これは先日彼が発見したものだ。しかも、ただ自然にできた洞窟ならまだしも突如としてできた大穴。これに対して少年は好奇心を燃やした。もしかしたら、宇宙人がいるかもしれないし、お宝があるかもしれない。

 

 そんな淡い希望を心に持って少年は穴へと入る。

 

 

 少年の姿はやがて霧に包まれ、その影も形も分からなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか、例の神隠しを引き起こす洞窟というのは」

 

 三人の少年達の一人の真ん中を歩いている少年が言う。赤いジャンバーに青いジーンズを着て、スマホを片手に洞窟を見ている。その顔色はわくわくとしているように見える。

 

「あぁ、ここだぜ兄ちゃん」

 

 真ん中の少年に向かって言う少年。どうやら彼の弟らしい。緑色のジャンバーに青いジーンズを着ていて、こちらも何処か好奇心旺盛の顔をしている。

 

「ねぇ、やめとこうよ。ここ心霊スポットで有名な所なんでしょ?」

 

 兄と呼ばれている男の右隣にいる少年が言う。緑色のジャンバーに長ズボンを着ているが、兄弟と違って何処か不安げな顔をしている。

 

「おいおい、永倉。今になってビビったのか?『おまえが面白い動画のネタがないか?』って訊いてきたから来たのによ〜」

 

「そうだぜ〜お前のためにわざわざ友達であり、同じ人気動画投稿者が来たのによ〜」

 

 そう。彼らは幼馴染であり、人気動画投稿者である。共にホラゲーをしていて、時たまコラボもしたりする仲だ。

 

「よし、行くぞ。お前ら!」

 

「待って、藤堂!‼」

 

 永倉は二人を静止させると、スマホの電源をつける。そして今話題のゲーム、艦これを開くと癒やされている顔になって、

 

「あぁ、可愛いなぁ長月は〜♪」

 

 と、さっきとは打って変わって嬉しそうにする。これに二人は呆れたような顔をし、

 

「お前、どんだけヨメ艦のこと好きなんだよ」

 

「俺も兄ちゃんもお前のヨメと同型のヨメ艦で可愛がったりするけど、お前のその愛情は異常だよなぁ」

 

 と、ため息をついた。

 

 

 この時、彼らは気がつかなかった。この森全体、いや彼らと洞窟の周りが霧が包まれ始めていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウヒ〜、中が暗いなぁ〜。これじゃあ、カメラに何映ったか分からねぇよ」

 

 そんな愚痴をこぼしつつ藤堂·弟はカメラを持って中を映す。

 

 通常動画投稿は一つの動画を一人の、一つのチャンネルが一本の動画を使う。今回の場合は弟のチャンネルでやる事になったのだろう。

 

 そんな弟を尻目に藤堂•兄はスマホを使って、この洞窟の情報を仕入れている。

 

 

 そもそも始まりは九ヶ月前。この洞窟を発見したという少年が行方不明になった事から始まった。

 

 警察の懸命な捜査にも関わらず、何一つ証拠が残っていなかった。警察はこれを失踪事件として済ませた。

 

 

 だが、これに違和感を感じていた人がいた。それは少年の同学年の友人二人だ。彼らは少年が行方不明になる前に電話で話しており、直前ガッという何か鈍い音が聞こえたと同時に少年の声が聞こえなくなったという。そして、その後ズリズリという引きずる音がし、意図的にしか感じられない切り方をされたからだという。

 

 その二人がこの洞窟へと行き、手がかりを探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、友人二人もまた行方不明になった。これまた同じで本人達の物などは何一つ見つからなかった。

 

 

 これにネットは大騒ぎした。

 

 そして、いつしか『神隠しの洞窟』と呼ばれるようになった。

 

 これに興味本位で行った少年一人もまた行方不明になり、さらに肝試しで行った青年達四人もまた同じようになった。

 

 

 

 

「兄ちゃん、どうだった。何かいいネタは見つかったか?」

 

「いいや。ただ、この洞窟ガセネタである可能性が高いぞ」

 

 そう言って、永倉と弟に兄はスマホを見せる。

 

 それはインターネットのブログや動画などだが、霊っぽいものは何一つとして出てこず、むしろやっている人達が不満げになるくらい何もなかった。

 

「ハッハー……これはガセかもな」

 

「でも、本当かもよ……現に起きているし」

 

 そんな永倉の台詞に藤堂·兄は鼻で笑う。

 

「んな訳ねぇだろ!それより行くぞ。なんにしてもネタは必要だからな」

 

「だな〜♪」

 

「そうだね……うん、そうだ!ネタは必要だからね!」

 

「アハハ!その調子だぜ、永倉!」

 

 アハハハ

 

 三人の笑い声が洞窟内にこだます。人がいないこともあってかよく響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時誰も気がつかなかった。

 

 

 そんな三人を見ている存在がいることに……

 

 

〈 ● 〉 〈 ● 〉    〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこまで続くんだろうね」

 

 懐中電灯をつけながら永倉は呟く。

 

 その顔には不安げな顔色が出ている。

 

 それにさぁな、と藤堂·兄は言う。 

 

 実際のところ、三十分経っても深層についていない。一体どれだけ歩けばいいのか彼らも分からない。

 

 しかし、そう考えると、ここで遭難する、というのもあるかもしれない。だとしたら、やっぱりガセネタかもしれない、藤堂•兄はそう考える。

 

「やっぱガセか……」

 

 そう呟くと共に永倉の方へと顔を向ける。同意を得るためだ。

 

 しかし、彼にその同意が来ることはなかった。

 

 

 何故なら、そこに永倉の姿はいなくなっていたからだ。

 

 

 これに目を丸くして藤堂·兄は弟に目を向ける。そして、兄は目が張り裂けんばかりに見開いた。対する弟はかなり冷静そうにしていて、余裕もどこか本人にはありそうだ。それどころか目を大きく見開いている兄を鼻で笑うような目をしている。

 

「どうせ、怖くなったから先に戻ったんだろ。行くぜ兄ちゃん」

 

「あ、あぁ」

 

 そう言って後ろを振り返るのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この時藤堂·兄が目を大きく見開いていたのは永倉がいなくなっただけではなかった。

 

 実は藤堂·弟の後ろに緑色の髪の毛のようなものが見えたのだ。

 

 しかし、それはほんの一瞬。しかも緑色の髪の毛なんて、この現実に染めない限りいる訳がない。そう考えると、気のせいかと思い彼は歩を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、そろそろ最深についてもいいと思うが……」

 

「そうだな」

 

 かれこれ、兄弟は三十分以上この気味の悪い洞窟を歩いていた。懐中電灯で辺りを照らさない限り視界が真っ暗で何も見えない。

 

 ヒタ、ヒタ…ツカ、ツカ…

 

 足音が密室のせいかよく響く。

 

 ヒタ、ヒタ…ツカ、ツカ…テク、テク…

 

「ん?」

 

 足音が一つ増えた。永倉が戻ってきたのだろうか……そう思っているとガシャンという機械が落ちる音がする。カメラの手渡しをミスったのか。そう思い、藤堂•兄は振り返る。

 

「おい、永倉やっと戻って……え?」

 

 そこには永倉はいない。それどころか、藤堂•弟の姿がすっと消えている。ただ、あるものといえば彼が持っていたカメラだけだ。

 

 藤堂•兄は恐る恐るそれを取る。カメラは録画画面から再生機能になっている。恐らく落ちた反動で録画ストップボタンが押され、再生ボタンもまた押されたのだろう。彼はそれを見る。何か分かるかもしれない、そう思ったからだ。そして、あわよくばこれが自分に対するドッキリであることを願った。

 

 しかし、その期待は裏切られた。

 

 映ったのはただ自分達を映した映像と、カメラが落ちる前に撮られた最後の瞬間に映っていた謎の髪の毛だった。その髪の色はさっき彼が見た緑色ではなく、綺麗な水色の髪だった。

 

「ひっ!」

 

 恐怖で彼はカメラを落としてしまう。ガッシャンとまた音がする。

 

 しかし、そんな音は今の彼には聞こえない。

 

 藤堂•兄は今、恐怖に支配されていた。

 

 この謎の恐怖現象。彼はようやく、ここの危うさを知った。しかし、彼は一方で何かこの先に秘密があるのでは、という思いが出てくる。それは好奇心に近いものだったが、そうでもなかった。

 

(ここで仮に逃げたとしても助かるとは限らない。もしかしたら逃げたところをやられるかもしれない。それだったら裏をかいて、ここで奥に進めれば道があったりして助かるのでは?)

 

 彼はそういう思いに徐々になっていく。

 

「そうだ。そうすれば……助かるかも!」

 

 そう思い、藤堂•兄は奥へと進む決意をした。

 

 

 

 

 

〈 ●  〉 〈  ●   〉  

 

 

 ザッザッ

 

 砂を踏む音がする。

 

 

 藤堂•兄は慎重に後ろを見ながら進む。

 

 彼には最早当初の勢いがなく、どこか子犬のような臆病さが彼に出ている。

 

 

 ザッザッ

 

「どこまで進むんだ。これ?」

 

 恐怖に支配された顔をしながら彼は行く。

 

 そんな彼にいよいよ訪れる約束の時……

 

「ん?あれはまさか!?」

 

 藤堂•兄は懐中電灯によって解明された最深に辿り着いた。彼は希望に満ちた目で駆け寄った。

 

(やった、助かる!)

 

 藤堂•兄は最深へと光を照らす。

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガン……ドサッ、ズリズリ

 

 何かを引きずる音が洞窟の最深からする。

 

 そして、カチッと懐中電灯の光がつく。

 

 懐中電灯を持っていたのは少女だった。茶色い長い髪の毛を後ろに結び、身長は小学生か中学生ぐらいだが、何かを引きずっている。

 

 やがて少女はある場所につくと、それを置いた。

 

 トサッ

 

 それは藤堂•兄だった。どうやら気絶しているようでぴくりとも動かない。。

 

 しかし、その横、斜め右には何かある。

 

 それは藤堂•弟と永倉だった。

 

 この二人もまた気絶している。藤堂•弟なんかは目を開いて、気絶している。

 

「あ、やっと来た!もう待ってたよ!」

 

「さっさと行こうぜ。提督の意識が戻る前にさ」

 

 そう言っているのは緑色の長い髪の少女と水色の少女だった。

 

「ごめんね。二人共」

 

 そう言って、ちらっと藤堂•兄を見る。

 

 その目は獲物を捕らえた猛獣の目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ネタバラシをしよう。

 

 きっかけはとある艦娘のいる世界で十一人の少女達、睦月型の会議から始まった。

 

 彼女達は全員ケッコンカッコカリをそれぞれの提督達とやっていた。

 

 しかし、それは所詮二次元と三次元のもの。そのため彼女達は自分達の提督と話すこともできないし、触れることもできない。

 

 そこで彼女らは会議の末、一つの解決策を見出した。

 

 それは提督をこっち、二次元に無理矢理住ませわせてしまうことだ。

 

 そうすれば触れ合えるし、一緒にいられる。

 

 そう思った彼女達の次の行動は素早かった。

 

 明石に頼んで、二次元と三次元が行き来できる穴を作ってもらった。

 

 それがあの洞窟。すなわち、あれは睦月型の提督を捕まえるための罠だったのだ。しかも、この洞窟は自分たちの提督かどうかを測ってくれる便利機能があり、それによって提督かどうか見極めることができるのだ。

 

 さて、そんな罠に最初に嵌った少年(冒頭にでていた)は菊月のケッコンカッコカリの提督で彼は洞窟に入ってしまい菊月に連れて行かれてしまったのだ。

 

 さらに、その後に来た友人二人は三日月と望月の提督で、連れてかれ、それからは順に皐月、睦月、卯月、弥生、如月と過去に来た青少年達は連れて行かれた。

 

 そして、今。

 

 藤堂兄弟、永倉は連れて行かれようとしている。

 

 ついでにだが、三人の相手もそれぞれ言うと、永倉は彼自身が好きな長月、藤堂•弟は水無月、そして藤堂•兄は文月と言った具合だ。

 

 

 そんな事を知らず彼女達を前に気絶している三人。かたやそれを値踏みするかのように見る彼女達。

 

 

 

「もう、司令官は何も無い最深に希望を見出していた時の姿は可愛らしかったですよ」

 

 文月がボソリと言う。

 

 その目にはハイライトがない、ブラックホールのような暗さがどこか目にはあった。それは全員同じだった。

 

「これからよろしくね、提督」

 

 最後に誰かがそうつぶやいた。

 

 




週いちで出したいな〜と思っています。
それと良ければ感想も送ってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

 ずっと見ている

すいません。宣言通りにはいけませんでした。


「暑い!暑い!」

 

 僕は家に帰ってくると急いでエアコンをつける。エアコンはウィーンという音と共に開くと、ゴーという音をたてて冷風を吐く。

 

「気持ちい〜!!」

 

 思わず叫んでしまう。でも、それぐらい外は暑かった。外の気温は三十五度を超えていて時おり涼しい風が来るが、それはほんの一瞬。すぐ暑さが来る。

 

 

 そんな猛暑だったのでエアコンから来る風は天からの救いのように感じられる。

 

 僕はスーツ姿のままソファに寝転がる。

 

 そしてバッグにあるスマホを取って、とあるサイトを開く。

 

 それはパクシブという投稿サイトで、沢山の人達が漫画や小説を投稿している。まぁ大体は二次創作ものだが。そこには傑作もあれば駄作もあり、それを探すのもまた楽しみだ。しかし、今僕はそんなことをしない。それは仕事や生活の支障のことも考えてだが、大きな理由としてはなっていない。じゃあ何なのか?それはこのサイトで楽しみができたからだ。

 

 

 僕はサイトを開き、それを見る。それは『明秋 石雲』さんが描いている恋愛漫画だ。そう。僕の楽しみはこれだ。この人の恋愛漫画を読むことだ。

 

 ここでだが、ざっと内容を伝えよう。

 

 主人公である女子が憧れの男性と出会い、恋に落ち、男性に必死にアピールする。しかし男性は振り向きもしない。それどころか彼はいつも無表情だった。まるで、そこに女子はいないような素振りを見せる。

 

 今回もそうだった。男性は女子を無視し、家に友達を招き入れてゲームをしているのだ。それを彼女はこっそりリビングから見て悲しそうにしている。

 

「クソ〜!この男ホントクズだな!おい」

 

 僕は独り言とは思えないぐらい大きな声で言う。

 

 これを外でやっていたら僕は変人扱いされるのだろうが、あいにくここは僕の家。誰からも僕がそのようなことをしているとは気づくまい。

 

 それにしても、この女子は可愛そうだな。いつもいつも男性に無視されているんだから。

 

 しかも、この話はリアルであったことを書いているらしい。

 

 まぁ、そう考えると作者に対して少し同情してしまう。

 

 

 そんな事を思っているとプルルルとスマホから着信音が鳴る。

 

 スマホを見ると友達からだった。

 

「もしもし」

 

『おう!明石出たか!』

 

 向こうから僕のテンションの倍以上の元気な声が返ってくる。 

 

 それに僕はため息をついてから要件を訊く。

 

「で、何のよう?」

 

『ゲームでもして遊ぼーぜー!』

 

「それ昨日もやったじゃん」

 

 実は昨日あいつは僕の家で『ゲームでもして遊ぼー!』とか言って遊びに来たのだ。本当に押しかけは良くない。しかも、その挙げ句に夜の十二時まで家に居た。……まぁ楽しかったからいいけど。

 

「分かった。んで今日は何処で遊ぶんだ?」

 

「あぁ、今日は俺んちで遊ぼーぜ」

 

「あぁ、分かった」

 

 僕は電話を切ると、軽い準備をしてから家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 僕は歩いて十分の友達である島田のいるマンションに来た。まだ起きている人がいるらしく、上を向くとところどころに灯りがついている。僕はマンションのロビーに入る。すると、自動ドアの前にいる男性に気づいた。パジャマ姿でロビーの椅子に座っている男がいる。彼こそが友達の島田だ。

 

 

 

「お〜い、島田。来たぞ〜」

 

「おう!ちょっと待ってくれ!」

 

 僕の呼びかけに彼は応じ、自動ドアを開けさせる。そして、僕が入ってくると笑顔でもてなしてくれた。

 

 島田の住んでいる部屋は1LDKで、あちらこちらに彼が買ったゲーム機やCDがびっしり棚にある。

 

 

 僕は島田の部屋に入り、部屋に薄く広がる座布団に腰掛ける。

 

 一方の島田はビール缶を二本持ってきて、机に置く。そして一本を僕の方に向ける。あいつなりのもてなしなのだろう。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。では……カンパ〜イ♪」

 

 プシュと音をたてて開くビール缶。それをよそに島田と僕はカンと音を鳴らして缶と缶をぶつけ合わせる。

 

 そして、一口味わって飲む。

 

「クゥー!仕事終わりのビールは上手いぜー!」

 

「島田、お前、今仕事なにしてんの?」

 

「ん?あぁ、本屋で働いてるよ。今は」

 

 そう言って、ずり落ちそうな丸眼鏡を上に上げる。

 

「それよりゲームだ、ゲーム」

 

 島田は棚からゲーム機を二人分出す。それはテレビゲームですぐ側にはパソコンが開いたまま持ち主がいじるのを待っている。

 

 僕はそれを懐かしそうに見る。……懐かしい。昔はパソコンゲームにハマっていた時期があった。

 

 その中でも艦これが一番だったと思う。

 

 

 艦これとは軍艦を擬人化させて深海凄艦という奴等と戦うゲームで、これに僕はかなりの時間を使っていた。最盛期だと一日の内三分の一ぐらいしたと思う。それぐらいハマったのだが、だんだん飽きてきてやらなくなっていた。そういえば、島田もやっていたな……。今でもやっているのかな?

 

「なぁ、島田?」

 

「ん?」

 

「お前って、まだ艦これしているのか?」

 

「一応しているよ。やっぱあのゲーム面白いからなぁ」

 

 そう言って島田はニコッと笑って、「それよりゲームだ。ゲーム」と言って先を促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜!!また負けた〜!!」

 

「ふん。お前なんて俺の足下にも及ばないぜ!」

 

 僕は島田とあれからゲームをしているのだが中々勝てない。昨日は僕の全勝だったのに……。 

 

「悔しい」

 

「ふん。所詮はお前は俺の神レベルのプレイにはついていけないのさ!!」

 

「その割には昨日、意味わからないジャンプをし続けていたのは何処の紙プレイヤーさんかな〜」

 

「ぐっ!何も言い返せない」 

 

 そうして、僕とこいつは冗談を言い合って笑った。島田と出会ったのは高校生の時だが、大人になって働くようになった今でもこうして遊んだりするのはそれだけ仲良しなんだな、と思う。これが世にいう竹馬の友というやつか。

 

 そう思っていると、あいつは何かを思い出したようにして、僕の方を向く。

 

「そういえば、お前にオススメの本を紹介してもらうのを忘れていたぜ」

 

「そんな約束していたっけ?」

 

 記憶にないんだけどなー。

 

「したよ、覚えてねえのかよ」

 

「……すまん」

 

「まぁ、いいけどよ」

 

 それにしても島田に紹介する本か……。何も思い浮かばないな。そもそも僕はそんなに読書はしない。だから余計に思い浮かばない。……というか、こいつって読書するの?そんなところ見たことも聞いたこともないけど。

 

 そう思って島田を見ると、僕の視線の意味に気づいたのかハハッと笑って、

 

「確かにお前が思っている通り、あまり読書はしないほうだが、最近ゲーム以外にもなにかあるんじゃないか、と思ってな。ほら、多趣味な方が幅広く人生楽しめるじゃん」

 

 意外だな、こいつの口からそんな言葉が聞けるなんて。にしても、本か……うーん。

 

「それって本じゃなきゃ駄目か?」

 

「いや、別に」

 

「漫画はいいか?」

 

「いいよ」

 

 うーん。本じゃなくても良くて、漫画もいい……中々広いな。

 

 僕はそう思い、スマホを手にとって調べることにした。まず目を向けたのはパクシブだ。ここには多くの漫画や小説があり、もしかしたらこいつに合うものが見つかるかもしれない。そう思って、おびただしい漫画をかたっぱしから見ていく。雲を掴むようなやり方だが、これが一番手っ取り早い。

 

 だが、なかなか見つからない。というか、そもそも島田の好きそうな漫画が分からない。そう思ってパラーッと見ていく。

 

「あ、これ面白そう!」

 

 島田の大声が僕の耳もと近くで聞こえてきた。キンと耳の奥がなり、顔を一瞬しかめる。島田は自分のしたことに気づいたのか「ごめん」と言って、謝った。

 

「それよりさ、これ面白そうじゃん!」

 

 島田がそう言って、画面を指さす。指した先にあったのは、とある一つの漫画。それは、なんと僕が読んでいた漫画だった。

 

(ん〜!?!?)

 

 思わず目を剥いてしまった。なんで島田がこの漫画を選んだんだ!?そう思うと、驚かずにはいられない。僕の心境なんていざ知らず、あいつはきょとんとした顔をしている。

 

「どうした、そんな顔して?」

 

「いや、なんでそれを選んだんだよ」

 

「面白そうだから」

 

 まじかよ……こいつも恋愛漫画を面白いというようになったか……。

 

「まぁ、お前が良いと言うならいいけど……」

 

 こうして、島田もこの恋愛漫画を読むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、僕は島田に電話をすることにした。

 

 理由としては現段階で、どのくらい読んだか気になるからだ。

 

(『面白くなかった』なんて、言われたら……)

 

 そんな想いが一瞬頭をよぎった。勧めてはいないとは言え、ファンである自分にその一言は一番聞きたくない言葉だった。

 

(しかし、もしそう言われてとしても、それはあいつとあの漫画は合わなかった、そう思えばいい。それに聞いてきたのはこっち側だ。それなのに島田を怒ったりしたら、可愛そうだ)

 

 冷静に頭がそう告げる。確かにそのとおりだ、そう思い、自分にその言葉をかける。

 

 意を決した僕はマンションのロビーへと入って行った。

 

 

 

 

 

 

「面白かったよ」

 

 島田が何も興味なさそうに淡々と告げる。

 

 その一言は意外にして、呆気ないものだった。しかし、次の瞬間島田の顔は怪訝さを帯びた顔になった。その視線は何故か僕に注がれる。

 

「どうした、僕が何かしたか?」

 

「いや、違う。お前じゃない」

 

 顔を若干下を向いて、横に降る。

 

「じゃあ、何だよ」

 

「それは……」

 

 島田はどこか言うのをためらっているように見える。それに僕は好奇心と苛立ちを覚える。そこまで、焦れったくしなくてもいいだろうに……。

 

「なんだよ、言ってみろよ!」

 

「……笑わないと約束するか?それと後悔するなよ?」

 

「別にいいよ」

 

 どうせ、何もないだろ。それにさっさと話さないと焦れったくて焦れったくて堪らないからな。

 

「これはあくまで、俺の仮説だが、この漫画変なんだ」

 

「変?」

 

「あぁ、これってさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、お前の日記みたいな感じがするんだよ」 

 

   




ちょっと長くなりそうなので分けます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

 ハッピーエンド

『ずっと見ている』の続きです


「はぁ!?僕の日記!?」

 

 島田の驚くべき仮説に目を剥いてしまう。なんと『明秋 石雲』さんが僕の日記を漫画にしているというよく分からない事を言ってきたのだ。これには流石に呆れ果ててしまう。

 

「何言ってんだ、お前。僕は日記なんか書かないし、この漫画を描いた人とは縁もゆかりもないよ」

 

「そりゃあ、そうだろうな」

 

 彼は相変わらず擦り落ちそうな眼鏡をかけているが、当の本人はそれがないかのように深刻そうな顔で話す。

 

「だが、気をつけた方はいいと思うよ。もしかしたら、ストーカーかもしれないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、あいつ」

 

 島田の家を出て、帰路につく。

 

 あの後、僕はきちんとその結論に辿り着いた理由を島田に訊いた。

 

 彼が言うには、明秋さんの漫画で主人公が友達の家に行ったり、遊んだりしている漫画が出ているのは、島田と僕が遊んだ日によく書かれているという。

 

 確かに言われてみれば、そういう感じがするがよく分からない。何しろ、そんなストーカーを受けられるような行為を僕自身したことはないからだ。それにこの漫画だと女の子が男性に恋をしている。仮にその男性が僕だとしたら、それは違う。僕は女の子を今まで家に上げたことがないし、好意を寄せられたような覚えがない。

 

「まぁ、どうせガセか……」

 

 そう思って帰路についた。

 

 

 次の日、パクシブを見ると早速明秋さんの漫画が出ていた。

 

 開いてみると、漫画の閲覧表示の下に一言メッセージ的なのがある。

 

 そこには

 

 『記念すべき百六十五話目!いやぁ〜、ここまで来ると何かずいぶん書いたな〜、相変わらずほとんど進展しないな〜、と思います。あっ!でも今回ちょっとは進展します』

 

 と書いてある。

 

「へぇ〜、どんな風に進展するんだろうな〜?」

 

 期待に胸を膨らませ、僕は漫画を読んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜、いい話だったな〜♪」

 

 今回もやっぱり男性が女の子を置いてけぼりにして、友達の家に遊びに行く。

 

 そうしてビールを飲んだり、ゲームをしたりと、楽しんでいる男性に友人が女の子のことについて触れ、『少しは考えろ!』と一喝して終わるという何とも昼ドラチックな展開だった。だが、またそこが良かった。

 

「なんか、この展開だと終わりが近いな〜。それにしても……」

 

 顎に手をあて、考える。考えていることはもちろんあのことだ。しかし、何回考えても島田の一言はやっぱり違うのではないか、あいつはやっぱり法螺を吹いたのだ、とやはり頭が結論づける。

 

 そう考えると、後はもう単純だった。いつもどおり寝室に行き、寝る準備を済ませ、明日の仕事の予定を確認してから寝た。重い目蓋の主張はかなり激しく、意識が落ちるのもそう遠くはなかった。

 

 

 

 

 ふと目蓋が開く。

 

 辺りは真っ暗で、何があるか分からない。どうやらまだ夜は明けていないらしい。漆黒とも藍色とも言える室内をキョロキョロと見回す。闇に慣れたのか、物の形がぼんやりと分かるようになってきた。そして、近くに置いてある目覚まし時計を見つけ、手に取る。明かりをつけていないとはいえ、目の近くにぐっと寄せるとなんとなくだが分かった。午前三時。まだ、起きる時間じゃない。

 

(寝よう)

 

 そう思い、薄い掛け布団を掛けようとした時だった。

 

 

 

 この部屋から誰かの視線が感じられた。

 

「誰だ!!」

 

 大声を出し、あたりを素早く目だけ動かして探す。だが人の輪郭と呼べそうなものは何一つもなく、変わりに僕の出した大声だけが残る。

 

「気のせい……なのか?」

 

 僕はビクビクと怯えながら夜を明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜、僕はあの視線に対する恐怖でほとんど寝れず、結果寝不足の状態で仕事に行く羽目になった。

 

 

 

 

 仕事がなんとか終わり、帰路につく。

 

 眠気がかなりあり、目蓋はいつ閉じてもおかしくはない。

 

 多分、クマも酷いぐらい濃いのだろう。仕事場の上司に『大丈夫?』と心配された。

 

 そう考えると、よく仕事ができたものだと、つい自画自賛したくなってくる。

 

……それにしても、あの視線は何だったのだろうか?単なる神経の過敏さから出たものなのか、それともやっぱり……。駄目だ、頭がぼんやりする。これ以上考えても特に何もならない。早く家に帰って寝よう。

 

 

 

 家になんとかして着いた僕は鍵を閉めて、まっすぐ自室に行き、ベッドに身を投げた。

 

 そして、スーツ姿から着替えることなく、ぐっすり眠った。

 

 

 朝日を感じて目を覚ます。時計の針は七時を指している。かなり熟睡していたのか、起きていてもまだ若干眠気が残っていた。

 

 ふと、体を見ると、自分がスーツ姿のまま直接寝ていたのが分かり、やっちまったな〜と一人で思い、はぁ、とため息が口から漏れる。

 

 そんな喪失感を埋め合わせようと脳が働いたのか、僕の指はパクシブを開く。画面を見ると、明秋さんの漫画が更新されていた。

 

「おっ!」

 

 僕はそう歓声を上げると、漫画を読んだ。

 

 

 

 

 

 

「どうなるんだろう、このあと」

 

 僕は胸を弾ませている。今、漫画では男性が散々自分が振り回してきた女の子のことを気にして、葛藤していて、それを部屋の扉から女の子がじっと見ている様子が描かれている。正直言って、この後どうなるか分からない。

 

「なんか、閲覧表示のところでなんかないかな〜」

 

 そう思って見ていると、僕は次の瞬間ぎょっとした。それは明秋さんの一言メッセージ的なものだった。

 

『次回で最終回です!まぁ、ちょうど記念日の日にやるので自分的にはいい感じです』

 

 

 

 

「そうか、次回で最終回か……」 

 

 ……寂しいな。次回で終わるなんて。この漫画は去年から始まった。ちょうど艦これにあきていた時期だっただろうか。それから毎日毎日更新されていた。第一話からのファンである僕としては少々寂しい。

 

「まぁ、最終回はいずれ来るものだから……な」

 

 

 

 

 その日はあっという間に夜になった。

 

 僕は家に帰ると、すぐ寝室に行き、寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャ

 

 近くの扉が開く音がする。

 

 その音共に意識が曖昧ながらも覚醒する。誰だろうか?そう思って、ぼんやりと見る。明かりもつけず真っ暗な一部屋なこともあって、見えるのは動く影。その影はこちらに向かっていく。ここで僕の意識は完全に覚醒し、素早くベッドから転げ落ちるようにして、ベッドから降りる。そして、影と相対するかのようにまっすぐ影のいる方向に体を向け、その場にかがみこむ。パジャマが体から出た汗を吸い取って、背中に張り付いてくるようになる。その感触は僕をとてつもなく気持ち悪い気分にさせる。

 

 僕はじっと声を押し殺して、影がいなくなるのを待つ。

 

 しかし……

 

 

 

 

 

「酷いなあ……そんな反応させられると、流石の私でも傷つくって」

 

 影はいなくなるどころか僕の姿を捉え、話しかけてきたのだ。これに僕はますます恐怖を感じる。何故なら影の最後の言葉らへんはほぼドスのきいた声で喋っていたからだ。これに僕は若干後退りする。しかし、すぐ寝室にある机の壁が出てきて、退路は塞がれた。僕はこの時はっとする。

 

(そうだ!助けを呼ばないと!!)

 

 そう思って、机に置いてあるスマホに手を伸ばす。しかし、それよりも早く影がスマホを手に取る。その時、一瞬だけだが影の手と思われるものが窓から入る月光に照らされ、見えた。それは少女のような手だった。はっと影の方を見ると、なるほど確かに夜目を通して見ると、影は小柄で大きさから推定するに大体中学生ぐらいだろうと思われる。さらに、声の高さからして女性であろう。

 

 そんな見た目をした影はスマホを取ると、それを思いっきしスマホを足元へと強く投げ捨てる。バンと強い音が鳴る。しかし、これで影は終わらなかった。そこから足と思われるものが上へと行くと、そこからはジェットコースターのような速さでスマホを踏み潰した。

 

 スマホは一瞬悲鳴を上げると、何も言わなくなる。

 

「助けは呼ばせませんよ」

 

 影の冷ややかな一言。それは僕自身に破滅に近い感じを身体に与える。

 

 だが、それにしてもこいつは一体何なのだろうか?この部屋とかには心霊現象が起きたりということは聞いたこともないし、見たこともない。

 

「お……お前は一体……」

 

 かすかすの声で恐る恐る影に訊く。

 

 すると、影はくすくす笑う。

 

「分からないですか?いつもあなたは私の日記を、漫画を読んでいるのに……」

 

 この時、僕に衝撃が走る。

 

 まさか……

 

 まさか……

 

 お前は……

 

 その時、窓から入ってくる月光が影の姿を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島田はふと、パクシブを開く。

 

 すると、明秋石雲さんの漫画の最終回が出ていたのに気づく。

 

 島田はそれを速読すると、大きなため息をついた。

 

 さて、肝心の最終回の内容はというと、扉の隅にいた女の子が男性に愛の告白をし、それを男性が受け入れ、結婚する、そんな内容だったという。

 

  




なんかやっとホラーっぽくなったかなと思います。

さて、影の正体は誰か?ヒントとしては『名前』です。

ただ、これは前編である『ずっと見ている』を読まないと分からないと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

 真夜中の徘徊者

(注)今回少しサイコパス要素を入れました。苦手な方はブラウザバック。


 俺は最近一つの悩みに直面している。

 

 夜になったら、この家に誰かが居るのだ。

 

 そして、決まって廊下で足音を出してウロウロし、俺の部屋の扉に来ると、ピタリと足音が止まる。それが何分間か続くと、また足音を出してウロウロする。その繰り返しだ。

 

 俺はこの事を親に話したが、「それはきっと聞き間違いだ」と言われ、相手にもしてくれない。

 

 霊のせいかもと思い、知人のつてを辿って、霊能者の人に見てもらったりもしたが、何もないと言う。

 

 だが、俺はその足音が何か人為的なものだと言う考えがどうしても捨てきれなかった。

 

 

 まず、どうやって足音の主はこの家に侵入してくるのだろうか?

 

 考えられるのは三つ。

 

 一つは窓から入ってくることだろう。

 

 家は二階建ての一軒家で、俺や両親の部屋は二階だ。

 

 もし仮に窓から来ているのだとしたら、俺や両親がいる二階ではなく、一階から入ってくるだろう。

 

 何故って?答えは単純だ。

 

 犯人が何らかの物、或いは人をターゲットにしているのだとしたら、それの様子を見に行くためにわざわざ一階より見つかるリスクが高いうえ上に上がるために体力を削ってまでして、するだろうか?

 

 そこで、俺はこの日の夜にドアにチェーンロックをかけることにした。

 

 もちろん、この場合は窓も鍵を閉めたほうがいいのだろうが、取り敢えずドアだけ固く閉める。そうすると、犯人は窓からしか来れなくなる。そうしたら、人に見つかる可能性が高くなる上、窓の閉め忘れなどの証拠が見つかるかもしれない。

 

(今度こそ犯人の尻尾をあぶり出してやる!)

 

 そう思い床についた。

 

 

 スタスタ……スタスタ……

 

 

 

 

 

(失敗か)

 

 次の日、家族の誰よりも早く起きて、家中を歩き回ったが犯人の残した手がかりは何一つなかった。まさに完全犯罪だ。

 

 だが、これは一応予測の範囲内である。それに収穫はあった。犯人は窓から出入りする、ということがこれで立証できたのだ。あとはこれを裏付ける証拠さえ見つかれば、こちらのものだ。しかし、だからと言って、窓だけ閉じるのは駄目だ。恐らく犯人は特殊な方法で出入りする奴だ。だから、今日は昨日みたいに片方だけ閉じるのではなく、両方ドアと窓で閉じることにする。そうすれば、流石の完全犯罪をし続ける犯人も証拠を残すに違いない。

 

(今度こそ犯人の尻尾を掴んでやる!!)

 

 そう思い、ドアと窓を固く閉じた。

 

 

 スタスタ……スタスタ……ガチャ……バタン

 

 

 

 

(な、なんだって……!?)

 

 今度こそいけると思い、昨日と同じように早起きして、見回りしたが証拠が何一つとして見つからなかったのだ。

 

「一体どうやって……」

 

 なんだって、入ってきそうなところは両親と俺の部屋を除けば全ての部屋の窓を閉じた。そのため、普通入ってこれないはずだ。なのに、犯人は悠々といつも通り入って来たのだ。 

 

 

 まるで幽霊のようだ。犯人は実は俺を何かの目的で付け狙う地縛霊はないのか。

 

(だが、そんなのはただの非現実的な妄想の塊だ)

 

 首を振り、先程の考えをリセットする。それにしても、どうやって犯人は侵入してきたのだろうか?

 

 推理小説にでてくる密室状態にあったこの家に侵入するのは容易ではない。ましてや、この家の奴じゃないため、鍵も持っていない。それを仮に糸やらピックやらで開けようと思ってもチェーンロックが邪魔して開けることができない。

 

 だが、犯人はそんな状況を軽々と乗り越え、チェーンロックを切ったりすることもなく、悠々と入ってきた。

 

「分からない」

 

 俺は頭を抱えながら、自室へと戻っていく。やはり、ここ数日早起きしたり、寝れなかったりするため、かなり寝不足だ。それがたたって、日々の生活にも少々支障が出てきた。だから今少しでも自室で仮眠をとり、眠気を吹き飛ばそうとした。

 

 俺は自室に入り、寝転ぼうとしたとき昨日までには自室の机の上に無かったものに気づく。それは一枚の紙で何かが書かれている。それを俺は読んでみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方は一生懸命に、一生懸命に扉などを閉めていましたね。……フフ、無駄ですよ。だって、そんな所から私は出入りしていないんですもの』

 

 

 俺は読み終わると、気が狂いそうになり、吐き気を催す。

 

(何処から見ていた……!?)

 

 キョロキョロと誰もいるはずのない部屋を見回した。

 

 もちろん、そこにあったのは一般家庭でも使われるような机や本などしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから俺は必死になって入り口を探した。そして、それらしきちょっとの床や天井の隙間をきちんと塞ぎ、防御体制を整えていった。それは一ミリの隙間も許されない。どんなものでも、場所でも全部、全部、ゼンブ、ゼンブ塞いだ。

 

 だが、それに対し両親は激怒し、なにか隙間を塞ぐたびに怒られるようになっていく。終いには俺のことを『変人』と呼ぶようになった。そして、それは外でも同じようになっていく。それまでずっと遊んでいた友達とも不仲になっていって、ついに絶交状態になった。

 

 そして、いつからか皆が俺の事を異星人を見るかのような目になってきた。

 

 なんで分からない。俺はただ、侵入者を入ってこさせないようにしているだけなのに。

 

 だが、侵入者は余裕で入ってくる。

 

 そして、置き手紙を残す。

 

 それを見る度に吐き気を催す。

 

 その繰り返し。

 

 

 

 

 

 もう嫌だ。もう沢山だ!こうなったら、この手で侵入者を殺してやる。あいつが、廊下を歩いているときに刺してやる!

 

 俺は決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になり、辺りは真っ暗となる。だが、静けさは訪れない。バクンバクンという心臓の音で満足に虫の声など聞けない。

 

 俺は片手に包丁を持ち、待機している。それはもちろん犯人を殺すためだ。もう、俺にはこれしかないのだ。

 

 今、俺はあいつがここの廊下を通るのを待っているのだ。

 

 そして、その時は間もなく訪れた。

 

 スタスタ……スタスタ……

 

 足音が聞こえてくる。

 

 犯人が来た。俺は包丁を真っ直ぐ犯人の方に指し向ける。そして……

 

「ウリャァァ!!」

 

 犯人目掛けて刺した。

 

 しかし、俺は刺した感触がしなかった。

 

(あれ?)

 

 そう思い、顔をあげようとしたときだった。犯人が俺を背負い投げしてきた。突然の反撃に俺は何もできず、ただ受ける。背負投げされたときのガンとくる衝撃はかなり背中に響く。

 

 

「提督、大丈夫ですか?」

 

 犯人がいる方向から声が聞こえてくる。声からして女性だろう。だが、俺はそこまで女性と関わるような感じではないから、こんな事をされる覚えがないのだが。……ん?提督?

 

 犯人の方を俺は見る。

 

 そこにいたのは、ピンク色の髪のセーラー服を着た、俺と同じ年ぐらいの少女だった。そんな少女を俺は知っている。だが、そいつは本来ここにいる筈のないものでもあった。

 

「ゆ、由良?」

 

「えぇ、私ですよ、提督♪」

 

 由良はそう言って、自分の存在を肯定した。

 

「ど、どうやって……」

 

 上手く言葉が出ない。それもその筈だ。ゲームに出てくるキャラクターがいきなり出てくるなんて全くもって非現実的だからだ。驚いて吃ってしまうのもしょうがない。

 

 だが、彼女はそれを嘲笑っているようで、なんだと言わんばかりの勢いで口を開く。

 

「それはですね、ここと私達のいる世界をループできるようにしたからですよ」

 

 訳のわからない言葉が出てくる。……いや、分かるのだが今は頭が別の質問をしたくてしたくて、うずうずしている。そのため、由良の言葉なんてほとんど頭に入らなかった。俺は二つ目の質問を投げかける。

 

「毎晩、家の廊下でうろうろしていたのはお前なのか?」

 

「えぇ、そうですけど」

 

 きょとんとした顔でこちらを見つめる由良。それはぱっと見、可愛いものなのかもしれないが今の俺にはそれが獲物をじっくり見る恐ろしき魔物にみえてくる。ゾッとしながらも、俺は最後の質問を由良に投げる。

 

「お前は一体どうやって家に入ってこれた?」

 

「あぁ、それはですね。提督の家の一階にあるパソコンからですよ」

 

 由良は右手の人差し指で下を指す。なるほど確かにちょうど真下にはリビングがあり、そこには一台パソコンがある。……懐かしい。中学生の頃、俺は深夜、リビングで密かに『艦これ』などといったゲームをやっていたっけな。その時、主力の一翼を担わせていたのが目の前にいる由良だった。まさか、そんな由良がここに来るなんて……。

 

 物思いに耽っている間に由良はあるものに目をつけた。それは俺が持っていた包丁だった。由良はそれを手に取ると、まじまじと両目を見開いて観察する。動きもしない、ただ見ているのだ。その姿は何処かホラー映画の怪物のようなオーラが何処か出ている。

 

「提督」

 

 由良の言葉に反応し、彼女の方を見る。その瞬間、俺の額から冷や汗が一筋流れた。目の前に包丁を突きつけられたからだ。

 

「提督はこれをどうして持っていたのですか?もしかしてですが……」

 

 由良は以前と包丁を突きつけ、ゆっくり喋る。それが俺にとっては滅びのカウントダウンのようにチクタクチクタク何かが鳴っている。

 

「私を刺し殺すためですか?」

 

 何も言えなかったし、体も容易に動かない。まるで金縛りにあっているかのようだ。

 

「沈黙は肯定とみなしますよ?」

 

「……」

 

「そうですか、なら……」

 

 彼女はスッと包丁を引く。助かった、と思い安堵する。が、すぐに寒気が全身から込み上げてきた。それは由良が再びあの恍惚とした笑みを浮かべたからだ。

 

「提督を教育しなければいけませんね♪」

 

「はっ?」

 

 教育?なんの……

 

「文字通りですよ、あなたを善良な人間にするためのものです」

 

 俺の本能の中にある警告ランプが真っ赤になって、点滅し始める。まずい。このままだと俺は彼女に何かヤバイことをされる。その一言が脳に伝達される。

 

「さぁ提督、こっちに来てください♪」

 

 由良は俺に手を差し伸べる。だが、それは何処かシューベルトの『魔王』にでてくる魔王のような甘いようで恐ろしい手だった。

 

「!!うっうわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 その手を俺は払い除け、逃げる。慌てて走ったせいか、つまずきそうにもなるが堪え、走る。

 

(取り敢えず助けを呼ばなくては!‼)

 

 

 俺はその一心で両親の寝ている部屋の前に行く。しん、と静まりかえる部屋の前にあるドアを必死にたたく。

 

「父さん、母さん!ここを開けて!」

 

 だが、応答はない。それでも必死にノックし続け、助けを求める。

 

「お願い早『いい加減にしろ!!』えっ?」

 

 部屋の中から父の声がする。だが、それは何時もの優しそうな父の声ではなく、威厳に満ちた、ライオンのようなものだった。

 

『お前は毎度毎度ありもしないことを延々と喚き続け、うるさいったらありゃあしない!それに今だから言わせてもらうが、お前のあの家の隙間を防ぎまくっているせいで、家の見た目も悪いし、時々修復した場所で木のささくれで刺したり、角でぶづけたりするんだよ!お前は一体何なんだ!これじゃあ、お前は疫病神だ!だから、お願いだ!俺達を苦しませるような真似をしないでくれ!!』

 

 父の怒号が外からでもよく聞こえてきた。だが、聞こえてほしくなかった。俺はその言葉で奈落に突き落とされたからだ。

 

 

(俺のした事は無駄なことだったのか?)

 

(ただ、俺は両親を苦しめていたのか?)

 

(これじゃあ、俺はまるで……厄介者じゃないか)

 

(これじゃあ……これじゃあ……)

 

 音もなく、ガッシャーンと壊れる何か。その崩壊の反動で俺はその場に崩れ落ちた。涙が自然と出てくる。声は出ない。ただ目頭から涙が込み上げて流れるのみだった。

 

 そのうち、ポンポンと肩をたたく者がいる。くるっと振り向くと、そこにいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは何処かの海辺に建てられている一軒の家。静かに漣をたてる海の声を聞きながら、家にいる二人の男女がいる。だが、その様子は何処かおかしかった。女性はソファでぽっこりと突き出ているお腹に気をつかいながら座っているが、男性はというと、そんな女性の膝で顔を埋めてシクシクと泣いている。

 

 女性は男性の頭を優しく撫でる。それは聖母にも似た母性を感じさせるもののように傍から見たら、そう感じるだろう。だが、膝の隙間から見える男性の目と彼を撫でる彼女の目は底がない穴のように黒ぐろとしている。

 




評価感想お待ちしています。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

 何気ない一日(夕日から朝日へと)

夏休み限定っていったのに……と思った方すいません。一応終わりのところまで書きたかったから書きました。許してください。


ー追記ー

今回は分かりにくいヤンデレ艦娘を書きました。良ければ予想しながら読んでください。

自分的には分かりにくくしたつもりです。






「朝だよ、起きてお兄ちゃん!」

 

 妹の声に俺は目蓋を開ける。 

 

 クーラーからくる風が心地よい。やはり、直に風を感じるのはいいもんだ。

 

 そう思いつつ、俺は布団を抜け出す準備をする。だが、如何せん、密室にした状態で二十八度に設定したため、部屋の中が冬のように寒い。だから、布団から出ようと思っても中々抜け出せないのだ。そうやって、俺はぐだくだとやっていくうち再び眠気が来る。やはり二度寝が起きてしまうのは必定か。

 

「起きて!お兄ちゃん」

 

 ついにバンと音を立ててしびれを切らした妹が部屋に入ってくる。

 

 妹は綺麗な黒色の髪を垂らして、ピンク色のエプロンの後ろには全く着崩れのない制服がある。右手には料理で使ったと思われるお玉が銀色に輝やいている。

 

「すまんすまん、夕子。今行くから待っててくれ」  

 

 俺は妹が部屋の外に出ると同時に制服に着替える。そして、それが終わると今日の学校の用意をする。これらが終わったのは起きて十分ぐらいだった。

 

 

 

 

 

 朝ごはんを妹と食べたあと、少し時間に余裕が持てたため俺は部屋に戻り、パソコンを開く。目的はパソコンの中にある『艦これ』というゲームをすることだ。

 

 このゲームは俺が中学生ぐらいのときに出来たゲームで、かなり人気をよんだゲームだ。俺も例外ではなく、やり始めてからずっとはまっている。そんな中でもやはりお気に入りなのは……。

 

 

 ピンポーン

 

 

 家の前のインターホンが鳴る。

 

(誰だろう?)

 

 窓から玄関を見下ろすと、下に少女がいる。

 

 その姿を俺は知っている。

 

 幼馴染の潮崎花蓮だ。

 

 彼女は俺の幼馴染で、数少ない友達だ。そんな彼女がここで待ってくれるのは、いつも彼女と一緒に学校に行くからだ。……え?女子との登校はうらやまけしからん?知るか、友達と通うのに悪いことに文句ある?

 

「……お兄ちゃん、潮崎さんが来たよ」

 

 妹の声がする。

 

 俺は返事を返すと、勉強道具が入った鞄を持って出て行った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!遅〜い!!」

 

「ごめんごめん、潮崎」

 

 玄関前で待っている潮崎が俺に気づき、プクゥと頬を膨らます。潮崎は俺の一つ下の学年で、夕子とは同級生。このようにちょっとばかし茶目っ気がある娘だが、その可愛らしさや胸の大きさなどから、かなり男子にモテる。そして俺はこの娘のことを心の中で『潮二世』とあだ名をつけている。まぁ、これはただ単純に彼女が『艦これ』の潮というキャラクターに似ていることからつけたのだが……。そうそう、似ているといえば夕子もそうだ。あいつもかなり男子にモテるような顔をして、さらに『艦これ』のキャラクターに似ているのだ。しかも、それは俺のお気に入りの娘と来る。名前は……

 

「月夜君、なにぼーっとしてんの?」

 

 潮崎が心配そうに顔を覗き込む。少しだけだが、髪からいい匂いがする。

 

「あぁ、すまんすまん。行こうか」

 

 意識を現実に戻すと、俺は速足で歩き出した。

 

 

 

……  

 

………

 

…………

 

……………

 

 

 四時間目の授業がチャイムの音と同時に終わる。俺はふと、スマホをつける。目的はと言えば、スマホの中に入れてある『艦これ』をすることだ。

 

 これをスマホにも入れた理由は四年前にパソコンが一時壊れかけたからだ。その時の俺はずっとやり込んでいた『艦これ』のデータがなくなるのを悲しみ、せめて、新しいデータでまた一から……と思って、スマホに『艦これ』を入れたのだ。まぁ、その二日後にはパソコンは直ったんだけども。だから俺には二つの『艦これ』のデータがある。

 

 

 俺はこの二つの内メインでやっているのはパソコンにし、スマホの方はサブでやる事にした。そして、やる時間も決めた。メインのパソコンの方は家で暇したときに、サブのスマホの方は学校の昼休みとかにやる。

 

 まぁ、そんな訳で俺は今日もいつも通りアプリを開く。

 

(おっ!イベント海域が出てる)

 

 見てみると、今日の昼過ぎにやることになっていたイベントが始まっている。

 

(やってみようっと!……あ!そうだ!三ヶ月ぶりにケッコン艦であるあの娘を入れよっと!)

 

 俺は自分の一番好きであるケッコン艦の娘を入れた編成を組み、出撃させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 カァカァと鳴く烏。時刻は午後四時。六時間目がちょうど終わろうとしている。

 

 担任の先生は必死に今やっている単元を説明している。

 

 しかし、その声は右耳からスーッと通って、スポッと左耳から落ち続ける。

 

 何故なら俺の心は今喪失感に支配されているからだ。

 

 理由は昼休みにやっていた『艦これ』だ。

 

 俺はあの時、満身創痍の気持ちでやっていた。実際ケッコン艦を入れた編成で今までどんなステージでも負けた事はない。それだから、と思い俺は慢心していたのかもしれない。だが、その代償は計り知れなかった。 

 

 

 

 予想外の敵の強さを前にケッコン艦であった艦娘が撃沈してしまったのだ。

 

 これに俺は多大なる喪失感と罪悪感を覚え、今こうなってしまったのだ。

 

 

 そんな心を誰かが洗い流してくれる筈もなく、時間はチクタクチクタクと、どんどん進んでいく。

 

 やがて、授業の終わりを告げるチャイムが教室に響いた。

 

 

 キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

 

 

 

 

 だが、それはゆっくりと何かが始まる音にも俺には聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

 トボトボと歩く俺の前に夕子が出てくる。

 

 どうやら校門の前でずっと待っていてくれていたらしい。周りを見渡しても彼女の友人や潮崎もいない。

 

「もう!ずっと待っていたんだよ〜!!」

 

「ごめんごめん」

 

 ハハッと誤魔化し笑いをして追求から逃げようとする。これに夕子は「もう!」と言いながらも、顔に笑みを浮かべる。

 

 俺はそんな夕子の様子をジッと見てみることにした。

 

 

 長い綺麗な黒髪、凛としている真面目そうな顔、中学生ぐらいの身長(まぁ、高校一年生だから、普通このぐらいなのかな?)、心を見透せそうな青い目、少しずつ大きくなっていっている気がするお腹……

 

「ちょっと、今失礼な事を思っていたでしょ?」

 

「なんでバレたし」

 

「お兄ちゃんの視線なんて全てお見通し何だから♪」

 

 そうか。俺、もうお前に嘘をつけないや。 

 

「まぁ、反省してくれるならいいけど」

 

 チラッとこちらを見る夕子。あっ、謝れって意味ですか、はい。

 

「すいませんでした」

 

「分かればよろしい」

 

 満足そうな笑みを浮かべる夕子。その顔は夕日に照らされ、綺麗に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ご飯が出来たよ〜♪」

 

「おう!」

 

 階段を降りてダイニングに向かうと、美味しそうな匂いがする。匂いの元に目を向けると、そこにあるのは俺の大好きなハンバーグだった。

 

「お!俺の今日の夕飯はハンバーグか!」

 

「うん!」

 

 いやぁ〜久しぶりに食えるなぁ、夕子のハンバーグ。

 

「さ!早く食べようお兄ちゃん!」

 

「あぁ」

 

 俺は席に着く。妹もまた席に着く。

 

「「いただきます!」」

 

 その言葉と共に一口ハンバーグに箸をつけ、口に頬張る。

 

 うん、美味い。やっぱり夕子のハンバーグは美味い。

 

「どう?」

 

 顔を少し赤くしながら夕子は訊く。俺はそれに対して微笑みで返して、

 

「美味いよ」

 

 そう一言言う。

 

 夕子はそれを聞いて嬉しそうな表情を浮かべる。

 

 

 この時、ふと三ヶ月前のことを思い出した。

 

 

 三ヶ月前まで夕子は俺に怒ってばかりいた。恐らく、学校とかで上手くいかず、ささいなことでむしゃくしゃしていたのだろう。それを誰かに打ち明ければ彼女は楽になれたのかもしれないが、あいつには俺を除く家族は他界してしまっているため、それを打ち明けることが出来なかったのだ。

 

 打ち明けることが出来なければ一人でストレスを貯め込むことになり、結果的に夕子の唯一人の家族である俺に怒りの矛先が向かってのだろう。

 

 あいつは俺に罵声を浴びさせたり、時には暴力もしたりした。俺はそれに逆上して、彼女に罵声を浴びせたり、彼女のミスを嘲笑したりした。

 

 今思えば、これ等の行為は全部行き過ぎていた。だが、当時の俺等はそれが普通だった。当然、俺等は事実上この時にはもう絶縁状態どころか犬猿の仲となってしまった。

 

 

 

 

 そんな俺等に転機が訪れた。それが三ヶ月前だ。

 

 夕子が今までの行為について謝ってきたのだ。俺は当初これを嘘か何かだと思い、受け取らなかった。だが、次第に誠意だと分かってきて、俺も夕子に今までの行為を全て謝り、晴れて仲直りした。

 

 

 長々と回想を終えた俺はハンバーグに再び齧り付く。その時だった。ふと、俺はあることに気づいた。

 

(そういえば……)

 

 俺はふと今日の『艦これ』をやっている時の事を思い出す。

 

 イベントをやっている時なのだが、今思えば変な事が一つあった。

 

 それは例の沈んだケッコン艦のことだ。

 

 彼女を入れた編成は皆練度は限界のところまでちゃんといっているパーティーだ。それはケッコン艦も同じだ。

 

 だが、その時のケッコン艦はどうもおかしかった。

 

 攻撃は外しまくるわ、回避も全くできないわ、すぐ大破になったりと、とてもじゃないが練度と強さが釣り合っている気がしなかった。

 

 あれはバグだったのだろうか?

 

「あれ、お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 夕子が小首を傾げて、こちらを見る。

 

 そんな妹の顔を見ていると、なんだか微笑ましくなってきた。

 

「なんでもない」

 

 俺は再び夕飯に箸を伸ばした。

 




これで終わりです。今までありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。