死神と妖精の尻尾 (夜月ライト)
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前奏曲

初投稿です。

この話は俗に言うプロローグというやつです。


イーファの樹を脱出したクジャとジタンは黒魔導士村を目指していた。

そして今日も黒魔導士村を目指して歩いていたのだが、クジャが急に止まった。

 

「どうしたんだよクジャ、さっさと歩かねーと今日は洞窟にすら入れねーぞ」

「ジタン、まさか気づいてないのかい?」

「ん?何にだ?」

「囲まれてるよ」

「ッ?!」

 

クジャの言葉にジタンは急いで臨戦態勢を整える。

クジャも手に魔力を集め、いつでも魔法を放てる準備をする。

その時、クジャの方からは植物のツタ、ジタンの方からはイノシシの様な魔物が飛び出してきた。

 

「ファイガ!」

「おらよっと!」

 

クジャとジタンは冷静に有効な魔法や急所を切り裂いたりする事で対処する。

すると茂みから次々と多種多様な魔物が一斉に姿を現し、クジャとジタンを取り囲んだ。

本来、この様に多種多様な魔物が襲ってくる事は普通ならばありえない。

そのありえない状態にクジャ達は戸惑いながらも迎撃していく。

しかし、いくら倒しても次から次へと集まってくる魔物に、ジタン達は病み上がりという事もあり、追い詰められていく。

そしてとうとう、クジャとジタンは度重なるダメージに地に膝をついてしまった。

 

「くっそ...どうなってんだコイツら...一向にへりやしねぇ」

「霧がなくなった事で...魔物にも何か異常が起こってると考えるべきだね...」

 

近づいてくる魔物に2人は下がり、距離を取ろうとするが、魔物に囲まれているため、それも意味をなさない。

 

(クッソ...一体どうすりゃ...)

 

焦るジタンと対照に、クジャは何か意を決した様に顔を上げ、ジタンを呼ぶ。

 

「ジタン」

「なんだよ、今こっちは考えて...」

「スリプル」

「て......め...なにす...」

「安心しなよ。起きたら全て終わってるからね」

 

ジタンはクジャの言葉を聞きながら、就きたくもない眠りに就いた。

ジタンが倒れた事で、勢いづいた魔物達はクジャに総攻撃を仕掛けようとするが...。

 

「トルネド!」

 

クジャは残ったなけなしの魔力でトルネドを発動し、ジタンとクジャの周りに竜巻を起こした。

しかし、魔力が少ないからか、長くは持ちそうにない。

だが、クジャにとっては『少しだけ』時間を稼げれば良かった。

彼は自身の少ない生命力を魔力として補い、人1人をテレポートさせるだけの魔力をなんとか確保した。

彼はジタンに手をかざし、詠唱を始めた。

 

「導きの光よ」

 

彼が詠唱を始める頃には、竜巻も勢いを失い始めていた。

 

「聖なる導きにより」

 

彼が一節詠唱を紡ぐ事に、竜巻は消えてゆく。

 

「彼の者を安寧の地へ いざなわん」

 

とうとう、竜巻は消え失せ、魔物達は獲物を逃がさんとするように攻撃を飛ばす。

 

「テレポ!」

 

間一髪、クジャの方が早く詠唱が終わり、ジタンは魔物の攻撃を受けずに済んだが...

 

「ぐっ...ガハ...」

 

クジャはその白い肌が赤く染まるほどの酷い致命傷を受け、そこに倒れた。

 

薄れゆく視界の中、彼は何処か遠くで自分の相棒とも言えた竜の鳴き声が聞こえた気がした。

 




これから少しずつ書いていきたいと思います。


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序章:守竜の村
白い死神と銀の竜の再開


今回からしばらくは原作とは関わらない序章というものになります。
原作との絡みは今しばらくお待ちください。


何も見えない、真っ暗の世界の中に、クジャは立っていた。

クジャはふと、気配を感じて後ろを振り返る。

そこには、死んだはずで、クジャの一番嫌いな男で生みの親である、ガーランドが立っていた。

ガーランドはクジャに温度の無い目を向け、口を開いた。

クジャは咄嗟に耳を塞いだが、ガーランドの言葉がまるで関係の無いようにハッキリと聞こえてきた。

 

『クジャ、貴様にはもう、存在する価値はない』

 

それを歯切りに今まで誰もいなかったはずの空間に沢山の見たこともない人達、はては彼が作った黒魔導士兵までもが彼を取り囲み、口々に言い出した。

 

『お前さえいなければ...』

『アンタさえいなければ私達はこんな思いしなくて良かったのに』

『痛い、痛い、痛い』

『私達はお前の道具じゃない』

『どうして俺たちがお前みたいな出来損ないの糧にされなきゃならなかったんだ』

『『お前なんて、価値はない。存在する意味すらもない』』

 

頭のいい彼は、理解してしまった。この声は、自分が取り込んだガイアの人間や、黒魔導士兵の魂の声なのだと。

だからこそ、死人達の声は、彼を余計に苦しめた。

そしてクジャは、耐えられずに叫ぶ。

 

「もう...もうやめろ!」

 

クジャは息を荒くしながら周りを見渡す。

そこはもう暗い世界ではなく、自分に恨みつらみを言ってきていた死人もいない。

あるのは木で出来た家具ばかり。

そこで彼はやっと自分が知らない所にいる事を理解した。

そして、自分はさっきまで多数の魔物に攻撃され、死にかけていた事も。

彼が自分の体を確認すると、血が滲んではいるが、しっかりと治療されている事と、なぜか体が子供の体型になっている事が分かった。

そこで彼はパニックになり掛けたが、部屋に人が入って来たことでパニックにならずにすんだ。

 

「おや、やっと目が覚めたみたいだねぇ」

 

部屋に入って来たのは随分と年をとった老婆だった。

老婆はクジャを見た途端、顔を青くしてまくし立てた。

 

「アンタ何やってんだ!まだ起きちゃいけないだろうに。ほら、キョトンとしてないでさっさと傷を見せな!」

「い、いえ、もう大丈...」

「ええい!死にかけの子供がごちゃごちゃうるさいよ!黙って治療を受けてな!」

 

老婆の勢いにクジャは押され、治療を受けた。

老婆はクジャの治療を終えると、さっきの迫力が嘘のように優しい雰囲気に戻った。

 

「これでよし。まったく、目が覚めてすぐに動くもんじゃないよ。ただでさえアンタ1週間も生死の間行ったり来たりしてたんだからねぇ」

「1週間も...ご迷惑をかけてすみませんでした」

「別にいいよ。それにしても、幸い傷跡は残らなそうだけど、どうしてそんな怪我を負ったんだい?」

「それは...盗賊に襲われたんですよ。弟は逃したんですけど、僕は手酷くやられまして...」

 

クジャは何処かも分からない所でさっきの出来事を話さない方が得策だと考え、一番無難そうな答えを答えた。

そしてクジャは、一番気になっていた事を聞いた。

 

「あの...1つ聞いてもいいですか?」

「1つじゃなくったって、聞きたいことは何でも聞きなさいな。子供が遠慮するもんじゃないよ」

「では、お言葉に甘えて。僕は盗賊に囲まれていた筈なんですが、貴方が助けてくださったんですか?」

「いいや、私じゃないよ。アンタを助けたのは守竜様さ」

「守竜様?」

「ああ、この村には昔から村の守り神とも言われる竜がいるのさ。それが守竜様さ」

「そんな守竜がどうして僕を?」

「それは、アンタが守竜様の主人に選ばれたからさ」

「僕が...選ばれた?」

 

クジャは老婆の言葉が納得出来なかった。なぜなら、自分は世界に戦争の種を蒔き、沢山の人を殺した。

そんな自分が、この村の守り神のような存在である竜に選ばれる資格がある訳がない。

クジャが納得の言っていないのを察したように老婆は話し出した。

 

「アンタが何を考えてるのかは分からないけど、アンタがここにいるのは守竜様に選ばれたからなんだよ。その事実は受け止めな」

「..........はい」

 

実際はまったく納得出来ていなかったが、クジャは現実を受け止めることにした。

そこまで話した頃、2人のいる部屋の扉を開けて、『何か』が入ってきた。

その『何か』は中型犬程の大きさで、全身が銀色の鱗に覆われた竜だった。

その竜はクジャの相棒であった竜に酷似しており、クジャは固まった。

そして老婆は、その竜を見た途端急いで礼を取った。

竜が老婆を見た後、扉の方へ視線を向けると、老婆は部屋から出ていった。

老婆が出て行くと、竜はクジャに近寄り、クジャのよく知る声で話しかけた。

 

『やっと会えましたね。クジャ』

「その声、銀竜...だよね?」

『ええ、そうです。そして、貴方の事をこの村に連れて来たのも私です』

 

クジャは相棒が生きていた事に少なからず嬉しさを感じながら、銀竜に質問した。

 

「それにしても銀竜、ここは一体どこなんだい?」

『その前に、クジャ、これから私が言う事はとてつもなく突拍子も無い事です。それでも、信じてくださいますか?』

「理解出来る事なら信じられるだろうね」

『相変わらずですね。わかりました。理解出来ないと思われますが、言わせていただきます。まず前提として言っておきますが』

 

クジャは銀竜が言う『突拍子無い事』をある程度想定しながら話を聞き出したが、その想定とは、的を大きく外したものだった。

 

『この世界はガイアでも、テラでもない全く別の世界なのです』

「......え?」




大体2〜3000文字程度で1話としていくつもりです。
(これからどんどん触れるのだろうけど)


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今終わる平和

今回、書いてた自分もよくわからない話になりましたorz


クジャがこの世界に来てから半年の時間が過ぎた。

銀竜からこの世界がガイアともテラとも違う世界と言われ、最初は戸惑っていたが、今では村の住人の1人として、自分の看病をしてくれた老婆ーバニラの家に居候しながらある時を待っていた。

今までわかった事はこの世界の魔法はクジャ達の世界の物とは別物だという事、この世界にはすべてのものに魔力がある事、そして、銀竜と共に村を出るには、『守竜の卵』が孵化するのを待たなくてはならない事だった。

そして、今は早朝。

クジャは部屋で『何か』の準備をしていた。

 

『クジャ』

「銀竜?キミがこの時間に来るなんて珍しいじゃないか」

『私を茶化している場合ですか?貴方も気づいているでしょう』

「ああ、ネズミがまた入り込んだことなら、わかっているよ。丁度準備も終えたところだしね」

『なら、早く駆除しに行きましょうか』

「そうだね」

 

銀竜は外に出ると馬程の大きさになり、クジャはその上に乗った。

クジャを乗せた銀竜は村の南側の森へと飛び立った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

南の森では、盗賊達がこれから襲う村の偵察に行った仲間を待っていた。

そんな中、盗賊の1人が不安そうに質問した。

 

「なあお頭、ホントにあの村を襲うんすか?」

「あ?タリメーだろ。あの村にある『守竜の卵』を手に入れて差し出せば俺達はクセェ牢屋になんか入らなくて済むんだからな」

「で、でもあの村の卵は守竜自身が守ってるんでしょ?俺達竜なんかに勝てませんって」

「だから今偵察飛ばしてんじゃねぇか。隙みて守竜から奪い取って逃げりゃいいんだよ、それに、守竜様はお優しいらしいからな、村人を盾にすりゃ案外簡単かも知れねぇぞ......にしてもおせぇなアイツら」

 

盗賊の頭が偵察に向かった部下の遅さに悪態を吐くと、目の前に『何か』が降って来た。

それは傷だらけになっている盗賊の部下だった。

 

「う、うわああああああ!」

「だ、誰がコイツらを...」

「僕達さ」

 

頭が声が聞こえた方を向くと、そこには凄まじい殺気を放ちながらも笑顔で立っているクジャと、臨戦態勢を取っている銀竜がいた。

頭はクジャが子供にしては似つかわしくない殺気に怯みながらも話しかけて来た。

 

「おいガキ、コイツらやったのはテメーか?」

「だからさっき言っただろう?『僕達』がやったってね」

「なんで俺達がここにいるのがわかった」

「ああ、馬鹿なネズミが無断で領域に入ってきたからね。位置なんてものはバレバレだよ。いくら気配を消しても生命反応までは消せないからね」

 

頭は焦っていた。このくらいの子供ならば話している間に隙が生まれるはずなのだが、クジャからは一向に隙が出来ないことに。

それと同時に、話している間に自分が追い詰められているような感覚にすら陥っていくことが頭をさらに焦らせる。

 

「へえ...んじゃお前がナニモンかしらねぇが、俺達の邪魔をした事を後悔するんだな。やれ!」

 

頭の合図により、盗賊達は一斉にクジャに襲いかかる。

頭は子供が大人相手に勝てるわけがないとタカをくくっていた。

しかし、盗賊達が相手にしているのは子供であって、子供でない存在だった。

 

「はあ、逃げてれば全員助かったのに」

 

クジャは盗賊達に向かって手を向ける。

そして、無詠唱で魔法を発動した。

 

「ホーリースター」

 

クジャの手から眩しいくらいの光の球体が放たれ、盗賊達に向かっていく。

盗賊達はその球体に引っ張られ、球体に極限まで近づいた時、球体は大きな衝撃波を出しながら爆発した。

光が収まると、そこには傷だらけの盗賊達が山になって倒れていた。

クジャは盗賊達に近寄り、1人1人に何かの薬を飲ませた後、テレポを唱えてどこかへ飛ばした。

盗賊の姿がらどこにもないのを確認して、銀竜に乗り、村へと飛び立ったのだが。

 

「『?!』」

 

2人が村の近くまで来た時、村は大火事になっていた。

2人は急いで村に向かった。

村に着くと、ありえない光景が広がっていた。

クジャを看病してくれたバニラが無残な姿で転がっていた。

その周りには、農具や包丁などを持った村人達の姿があった。

村人達の目は光がなく、どこか虚空を見つめた目をしていた。

村人達はクジャがいるのも御構い無しといった様子で村の奥の『守竜の卵』の方へ歩いていく。

クジャと銀竜は村人達を止めようと声をかけるが、全く聞こえていないようだった。

クジャは一か八か村人達に魔法効果消去の魔法をかけた。

 

「ディスペル!」

 

すると、村人達の数人は糸が切れたように倒れた。

それをみて、クジャは魔法で操られているとあたりをつけ、村人達に魔法をかけ続けた。

しかし、先程までの盗賊との戦闘により、魔力が足りなくなり、魔法が発動できなくなった。

 

「ちっまだ全員じゃないのに」

『クジャ、もうこれ以上は村人を救うことは出来ません。残りの村人は抹殺します』

 

銀竜はそう言うと、クジャの返事を待たずに村人達に向かっていった。

銀竜は己の爪や尻尾を使い、出来るだけ苦しまぬように殺した。

クジャは銀竜にのみやらせる事が出来ず、この世界でバニラに教えてもらった武器や防具などを自分の魔力空間から召喚する魔法『換装』でナイフを召喚し、まだ操られている村人達を殺して回った。

2人は何も考えず、ただ作業の様に、村人達に爪やナイフを振り続けた。




今回の話の補足です。

守竜についての設定
・ 銀竜は村で守竜として崇められており、守竜は自分の主人としてふさわしい者が存在する事が分かると、主人を探しに行く。
・主人が見つかると、村の祭壇に卵がいつのまにか置いてあり、守竜はその卵が孵化すると、主人と共に村を出て行く。
・守竜と主人は命を共にする為、片方が死ねばもう片方も死ぬ。
・守竜の主人に選ばれる為だけに卵を盗もうとする人間がいる。(今回の盗賊の雇い主など)
・守竜は自分の思う姿に大きさを変える事ができる。

今回お見苦しいお話でした。
次回は頑張ります。


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死神と妖精の出会い

 

2人が最後の操られた村人を殺した後、強い憎悪の気配を察して2人が振り返ると、そこには魔法を解くことが出来た村人達がいた。

クジャが言葉に迷っていると、村人の1人が口を開いた。

 

「...恩知らず...」

「え?」

「この恩知らず!バニラさんや私達が助けてあげたのに、殺すなんて!」

「そうだ、それに、お前を選んだ守竜も村の守り神でもなんでもねぇ!」

「こうなるんだったら助けなければよかった!」

「違う!みんなは誰かに操られて...」

「そんな言い訳は聞きたかねぇ!さっさとこの村からでてけよ!」

 

村人達はクジャの説明を聞く気はなく、2人に対して「出て行け」と石なども投げ出し、クジャは銀竜に飛び乗り、村を飛び立った。

 

しばらくして、2人は村からそう遠くない洞窟にやって来た。

銀竜はクジャがここに来た理由が分からず聞いた。

 

『クジャ、あの村はもう放って置いて他の所へ行かないのですか?』

「本当はそうするべきなのかもしれないけれど、僕はせめて、卵が孵るまで、ここにいようと思う」

『なぜです?いつもの貴方であれば早々に捨て置く村のはずです』

「さあ?僕にもよくは分からない。ただ、罪滅ぼしのつもりか、単なる気まぐれか、自分にも分からないんだ」

『......分かりました』

 

銀竜はクジャにも分からない何かを察したのか、クジャの希望に沿ったのか、残る事にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時は流れ、ここはフィオーレ王国にある魔導師ギルド『フェアリーテイル』

そこは人が多く、大いに賑わっていたが、特に賑わっている所があった。

そこでは桜色の髪の少年が黒髪の少年と睨み合っていた。

 

「俺の方が強いに決まってるだろ!」

「いーや、俺の方が強いっての!」

「嘘付いてんじゃねぇよ、グレイ!」

「おかしな事言ってんのはテメーだろーが!ナツ!」

 

そう言って、とうとう桜色の髪の少年ナツと黒髪の少年グレイは殴り合いの喧嘩を始めてしまった。

そこへ、赤い髪の少女がやって来て、2人を殴り倒した。

 

「「え、エルザ...やっぱつぇぇ...」」

 

赤い髪の少女エルザは2人を叱る。

 

「全く、いい加減にしないか!お前達はいつもそうだな。仲良く出来ないのか?」

「「いえ!出来ます!」」

「お、俺達仲良いよなーグレイ」

「そ、そうだよなーナツ」

 

お互いに肩を組み、引きつった笑顔で話しているが、裏では互いの二の腕を抓るという小さな争いが起こっていた。

そこへ、1人の男性がやってきた。

 

「よう、ナツにグレイ、今日はヤケに仲良いなあ」

「そ、そんな事ねぇよ、ギルダーツ」

 

ギルダーツと呼ばれた男性は3人に一枚の紙を見せた。

 

「あ!その依頼って...」

「おう、ナツが行きたがってた依頼だ。マスターに俺が連れてくならって許可貰ったし、一緒に行くか?」

「行く!」

「待てよナツ、そんな面白そうな依頼、お前だけズリィぞ!ギルダーツ!俺も連れてってくれ!」

「おう、そう言うと思ってたぜ。エルザはどうする?」

「なら、私も行く」

「おっしゃ、決まりだな」

「いよっしゃあ!」

 

そう喜ぶナツが手に持っている紙には『守竜の卵の護衛(こちらが追加で討伐を依頼する対象を討伐した場合は追加報酬を支払います)』

その下には『討伐対象』と書かれた文字の下に、クジャと銀竜の写真が貼り付けてあった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルダーツ達は3日掛けて依頼主の居る村にやって来た。

ギルダーツ達が村に入ろうとすると、見張りの村人が止めた。

 

「この村に立ち入るのはやめていただきましょうか」

「俺達はフェアリーテイルのもんだ。依頼を受けて来た」

「...ギルドマークを見せてください」

「ほらよ、ほら、お前らも」

 

そう言ってギルダーツ達がギルドマークを見せると、見張りの1人が何処かへ行き、1人の男性を連れてきた。

男性は笑顔で歓迎した。

 

「いやー、依頼を引き受けてくださり、ありがとうごさいます。さ、まずは私の家へ来てください」

 

そう言われ、ギルダーツ達は男性について行き、一軒の家の一室に通された。

男性は一度退出し、飲み物を用意し、ギルダーツ達を座らせた。

 

「どうぞ、粗末な村なもんであんまりいいお茶ではありませんがね」

「いえ、どうも。それで、詳しい内容を聞かせていただけますか?」

 

ギルダーツに諭され、男性は話し出した。

 

「はい。実はこの村は昔から守竜と呼ばれる守り神の様な存在に守られているんです。そして、その守竜はある日この村を離れ、自分にとって相応しい主人を連れて帰ってきます。その時、誰も知らないうちに次の世代の守竜の卵が祭壇に置かれているんです。そして、現役の守竜は卵が孵るまで、自分の主人と共に村と卵を守ります。そして卵が孵ると守竜は主人と共に村を離れます。ただ、卵が孵るまでは自分が主人に選ばれたいからと卵を盗み出そうとする人間もいます。なので、皆様には卵が孵るまでの間、卵の護衛をしていただきたいのです」

 

話を聞き、エルザとギルダーツが疑問に思った事を質問する。

 

「卵とやらは守竜が守っているのではないのですか?」

「依頼書に乗ってた討伐対象ってのはなんなんだ?」

 

2人の質問に、男性は憎しみのこもった顔をしながら話し出した。

 

「その事ですか。...あれは半年くらい前の話です。先代の守竜が連れてきた主人はとても傷だらけでいつ生き絶えてもおかしくない状況でした。なので、私達は前の村長を中心に治療を施しました。しかし...半年前、ソイツは村を焼き、バニラさ...前の村長を殺して、村人の大半も守竜と一緒に虐殺したんです...なんとか村から追い出すことは出来ましたがまだ近くに潜んでいるんです。私達はアイツを許す事が出来ません。なので、皆さんに、アイツを討伐して欲しいんです」

 

男性が話終わった後、ちょうど部屋の扉が開き、男性が呼ばれた。

男性は出て行くときに、ギルダーツ達を振り返り言った。

 

「貴方達に討伐の無理強いはしません。もし討伐に行かれるのなら、誰かを残していただければ、村の外に出るのも自由ですので。あと、この家は自由にお使いください」

 

男性が出て言ったあと、ギルダーツは全員を集めた。

 

「ようし、お前等、集合ー」

「ギルダーツ!もちろん討伐行くよな!」

「待てナツ。お前、さっきの話を聞いてなんも違和感無かったのか?」

「?なんかあったか?」

「バカだなナツ、違和感ありまくりだろうが」

「んだとグレイ!」

「お前は少し聞いていろナツ」

「んだよみんなして」

 

エルザがナツを黙らせた後、ギルダーツが違和感を挙げる。

 

「いいか、ナツ。この依頼の疑問点は3つ」

 

ギルダーツは指を3本立て、エルザ達と一緒にナツに疑問点を教える。

 

「まず一つ目、ソイツは村人の大半を虐殺したらしいが、それならなぜ村人を残したのか」

「そして二つ目は村を守るはずの守竜という奴がどうして守る対象を殺したのか」

「最後に三つ目、なぜソイツは村を追い出されたのにもかかわらず村の近くに潜伏しているのか」

「よく出来ました。ナツ、理解出来たか?」

「なら、ただソイツがまだこの村狙ってるって事じゃねぇか?」

「それならもうこの村は無くなってるっての」

「わっかんねぇよ!分かるように説明しろ!」

「はあ、要はソイツの行動が分からないから話が通じるなら話を聞いた方がいいという事だ」

「んー、要はぶっ飛ばすのをちょっと待てばいいんだな?」

「大まかに言えばそうだな」

「分かった」

 

ギルダーツは微妙な顔をしていたが、とりあえず話を打ち切った。

 

「そんじゃ、まずはコイツら探しに行くぞー」

 

そうして4人は森へと繰り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、クジャと銀竜は村の周りに仕掛けてある索敵用の魔法石を交換していた。

そこで、一箇所魔法石が壊されているのを見つけた。

 

「壊れてる」

『急いで村へ向かいましょう』

「ああ」

 

クジャは簡単に索敵用の魔法石を設置し、村人に見られても大丈夫な様に換装でフード付きのローブを取り出して銀竜に乗って村へと向かった。




更新が大変遅くなり申し訳ありませんでした。

本当は次話の部分と一緒に書いていたんです。

でも長いかなと思って切るところを探していたら夏休み中に一度も更新できないという体たらく...誠に申し訳ございませんでした。


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死神VS妖精の尻尾

今回は前回に比べて短く、前話から即投稿です。


ギルダーツ達は森の中を歩いていた。

すると、ギルダーツは何かに気づき、ナツ達に叫んだ。

 

「下がれ!」

 

3人が下がると同時に、そこに白い魔力弾が撃ち込まれた。

ギルダーツが弾の飛んで来た方向に魔法を放つと、銀色の竜とローブに身を包み、尋常じゃない殺気を放つ子供が出てきた。

ギルダーツは挑発する様に言う。

 

「討伐対象のお出ましってか」

 

それに子供は口を開いた。

 

「 今度のネズミは索敵用魔法石を壊すほどだからどんな人間かと思ったけど、まさか子連れとはね。子連れの方が怪しまれないとでも踏んだのかい?」

「俺達は盗みじゃなく、護衛をしに来たんだよ。『守竜の卵』をな」

 

ギルダーツの言葉に子供は明らかに殺気を強くし、竜も臨戦態勢になった。

ギルダーツはこの状態での対話は無理だと判断し、戦うことにした。

 

「ナツ、グレイ、エルザ、今の状態じゃ話せそうにない。軽ーく戦闘不能にするぞ」

「やっと出番だ!」

 

ギルダーツの言葉にナツはすぐに子供に向かって飛び出し、手に炎を纏って殴り掛かった。

 

「火竜の鉄拳!」

「!」

『ーッ』

 

ナツの攻撃は竜が防いだ。竜の反応を見て子供が竜に指示を出す。

 

「銀竜、ソイツとは相性が悪い。他の子供の相手を頼むよ」

 

子供の指示を聞くと、竜はエルザとグレイに向かって行った。

ギルダーツとナツはエルザ達の元へ向かおうとしたが、子供が放った白い魔力弾によって邪魔をされる。

ギルダーツ険しい顔をしていると、子供が挑発してきた。

 

「おやおや、ネズミにも仲間意識って言うのがあるんだね」

「なんだとこの!」

 

挑発に乗ったナツがまた殴り掛かるが、今度は軽く避けられ、逆に投げられた。

 

「キミ、攻撃は早いけど単調だからすぐ見きれるんだよね。それと、キミ達の相手は僕だ。抜けられると思わないことだね」

 

そう言って子供が何かを唱えると、雷や炎や氷がギルダーツ達を襲った。

ギルダーツ達はそれを避け、攻撃するが、子供は羽でも付いているかの様に宙を飛び、ひらりひらりと躱すか、見えない壁の様なもので防がれてしまい、攻撃を当てることが出来ずにいた。

子供の隙のなさにギルダーツは苦虫を潰した様な顔をし、ナツは1人で怒鳴っていた。

 

「降りてこいやこのやろー!」

「誰が自分で仕掛けた罠に自分から引っかかる様な真似しなくちゃならならな...」

「ハア!」

「ッ!プロテス!」

 

子供が話している最中に、エルザが奇襲を仕掛けたが、子供は見えない壁で防いだ。

子供がエルザのいた方に視線を向けると、竜は氷で出来た檻に閉じ込められていた。

チャンスと判断したギルダーツは一気に勝負を決めに行く。

 

「ナツ!」

「火竜の...鉄拳!」

「ぐっ」

 

エルザの攻撃を防ぐ事に集中していた為、ナツの攻撃は子供を見事に捉え、子供は地面に叩き落とされた。

ギルダーツは起き上がるかと警戒しながら近づいたが、子供は気絶していた。

ギルダーツが子供の被っていたローブのフードを外すと、子供は討伐対象の少年だった。

 




前回が長かったので今回短くなりました。

そして戦闘シーンが残念な事に。

次話はそんなに開けないで書いてみせます。


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死神の語る真実

今回短めです。


ギルダーツ達がグレイの魔法でクジャを拘束した少し後、クジャが目を覚ました。

目を覚ましてすぐに警戒と殺気を出し始めるクジャにギルダーツが話し掛ける。

 

「待て待て、俺達はお前と話をしに来たんだ」

「話だって?卵を盗みに来たんじゃないのかい?」

「だから最初っから言ってんだろ。俺達は卵の護衛に来たギルドの魔導士だ。お前に質問がある」

「...銀竜を檻から出すなら答えてあげるよ」

「グレイ」

「はいよ」

 

クジャの要望にギルダーツはグレイに檻を消すように言う。

グレイが檻を消すと、銀竜はクジャの所へ行き、クジャの後ろについた。

ギルダーツはクジャに質問をぶつける。

 

「で、質問って言うのはだな、半年前に起こったあの村の事件の真相を聞かせてくれ」

「半年前...アレか。もうそんなに経ってたんだ。いいよ、話すさ」

 

クジャはそう言うと銀竜にもたれかかり話し始めた。

 

「半年前、僕と銀竜は今回の様に守竜の卵を盗もうとしていた盗賊を撃退してたんだ。撃退が終わって村に帰ると村が火事になってた。僕達は急いで村に戻ってそこで見たのは村人達がバニラさんを八つ裂きにしている所だった。 バニラさんを殺した後、彼等は守竜の卵の所へ歩き出した。僕は彼等の目に光が無かったから洗脳されてると思って魔法効果を打ち消す魔法を掛けたんだ。そしたら魔法は解けたんだけど、僕の魔力が足りなくて半分の村人は洗脳状態のままになってしまったんだ。魔力が無ければ魔法は使えない、だから、卵を守るには洗脳された人達を殺すしか無かったから、僕達は彼等を殺したんだ」

 

クジャはそう言うと口を閉じた。

ギルダーツ達はクジャの話を聞き、思い思いに思案する。

そんな中、ナツがクジャに近づいてクジャを拘束している氷を溶かす。

それにグレイは怒り、クジャは驚いた顔をする。

 

「ナツ!テメー何やってんだ!」

「あ?別にいいだろ。コイツもう戦う気無いだろうし」

 

ナツの答えにクジャは呆れた様に言う。

 

「はぁ...僕が言うのもなんだけどここで僕が君を襲ったらどうするつもりなんだい?」

「しなさそうだったから取ってやったのに嬉しく無いのかよ」

「そうは言ってないよ。銀竜、もういいよ」

 

クジャがそう言うと、銀竜は小さくなり、クジャの膝の上に乗った。

ギルダーツ達は驚いたり目を輝かせたりしているが、クジャが話しかけて来た。

 

「キミ達は害がなさそうだから少し僕の頼みを聞いてくれないかな?」

「ああ、で、頼みってのはなんだ」

「守竜の卵を近くで守れない僕達に変わって守って欲しいんだ。僕達は村にあまり近づけないから。後の細かい話は銀竜に聞くといいよ」

「銀竜って、その竜だろ?竜と言葉が通じるわけ『通じますよ』え?」

 

ギルダーツ達は突如聞こえた声に周りを見渡したが、どこにも人影が見当たらない。

するとまた声が聞こえた。

 

『目の前にいるんですから、そんな反応しないでください』

 

その声はクジャのいる方から聞こえ、声の方を向いてみると、銀竜がギルダーツ達を見つめていた。

 

「りゅ、竜が喋ったー?!」

「お前すげえ!イグニールみたいだ!」『それよりも、本題に移りたいのですがよろしいですかね?』

「あ、ああ、頼む」

 

銀竜が話した内容はギルダーツ達が依頼された事と同じ事と、また村人に異変があれば連絡を送ってほしいとの事だった。

銀竜達の頼みにギルダーツは了承する。

 

「そんな事なら俺達の依頼だから問題ねぇよ。それに、お前達みたいに強い奴がいてくれた方が俺達も気が楽だしな」

「だが、守竜の卵がいつ孵るのか分からないのが難点だな」

「それなら心配いらない」

『卵は早くて2、3日、遅くても5日後には孵化すると思われます。なので、半年前の敵がまた仕掛けてくるとすればそろそろかと』

「分かった、なんかあったらコッチから1人連絡に送る」

「頼んだよ。じゃあ、僕達は見つかる前に行くよ」

 

クジャ達が去ろうとすると、ギルダーツが待ったを掛ける。

 

「お前、名前は?」

「ああ、そう言えば名乗ってなかったね。僕はクジャ、そしてコッチは相棒の銀竜さ」

「俺はギルダーツ、こっちの女の子がエルザでお前を殴ったのがナツ、半裸がグレイだ」

「うお!いつのまに!」

「気づいてなかったのか、グレイ」

 

クジャはギルダーツ達を見渡した後、今度こそ森の奥へ姿を消した。




相変わらずぐだぐたですなぁ。


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半年前の再臨

遅くなりましたー

そして、今回場面転換が激しいです。


ある月夜の深夜、村の中央広場に1人の男が立っていた。

男が地面に手をかざすと村全体を囲うような魔法陣が展開され、少しの間光った後、見えなくなった。

魔法陣が消えると、男は怪しく笑い、1人呟いた。

 

「ククク...これで準備完了だ。ババアに印をつけれなかったりあのガキが時間を掛けて村人に施した印を壊されて失敗したのは驚いた。だが、お陰でババアは始末出来たしガキと邪魔な竜はいなくなったし、半年掛かったが村人達の印もつけられた。もう邪魔する奴は居ない...明日だ、明日で全て終わる...クククク...」

 

男は不気味に笑い、夜の闇に紛れて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルダーツ達と協力関係となった次の日、クジャと銀竜はいつもの様に見回りをしていた。

2人は世間話をしながら歩いていたのだが、突然止まり顔を顰めた。

 

「ズル賢いネズミが入ってきたみたいだね」

『3箇所から入られたなら昨日までの私達なら守れなかったでしょうが、運が悪かったですね』

「銀竜、キミはギルダーツ達に応援を頼んで貰えるかな。僕は一番遠い地点の奴を叩く」

『分かりました』

 

2人は二手に分かれそれぞれの仕事をしに行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルダーツ達が朝食を食べ終え、部屋でくつろいでいると窓が叩かれた。

 

「なんだ?村のちびっ子達のイタズラか?」

「ふんふん...この匂い、銀竜だ!」

「は?!」

「バカ、声が大きいぞ」

 

エルザにナツとグレイが注意されながら4人が窓に近づくと、虫程度の大きさになった銀竜が窓を叩いていた。

ギルダーツが窓を開け、銀竜を中に入れると、銀竜は通常生活サイズになり、応援を頼んだ。

 

『突然すみません。先程三方向から外部の人間が侵入しました。私とクジャだけでは対処しきれないので手伝ってもらえないでしょうか』

「分かった」

「よっし!じゃあ俺がいく!」

「待てよナツ、俺が行く」

「なんだとグレイ」

「やんのかナツ」

「やめんか!」

「はあ、たくお前らは...」

『侵入者は近くまで迫っています。早く決めてください』

「エルザ、お前が行け」

「分かった」

「なんでエルザなんだよギルダーツ!」

「お前ら2人は連絡係だ。ナツの鼻は連絡に必須だからな。グレイはなんかあった時に手数があるから残れ」

『決まったのでしたらエルザさんは村の外に。私が近くまで乗せて行きます』

「分かった」

 

エルザは銀竜と共に侵入者の排除に向かった。

それを物陰から見ていた男はニヤリと笑い、その場を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーー数時間後

 

戦闘を終えたクジャ達は傷の手当てをしていた。

 

「すまないな」

「協力してもらってるのはコッチだからね。この位はするさ。ケアル」

 

クジャが魔法を唱えると、エルザは黄緑色の光に包まれ、あっという間に傷が治った。

そこに、ナツが走ってきた。

 

「ナツ?何かあったのか?」

「む、村の奴らが、急に襲ってきて、卵のある祭壇の方に向かったんだ。今はギルダーツ達が食い止めてる!」

「半年前と同じ...銀竜!」

『はい!』

「乗って!」

 

クジャが銀竜に呼びかけると、銀竜は大きくなり、クジャ達は背に乗ったのを確認し、銀竜は村へ向けて飛び立った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

村ではギルダーツ達が村人の進行を食い止めていた。

 

「なんなんだよコイツら一体!」

「クジャの言ってたやつだろうな。また洗脳されたんだろう」

「エアロ!」

 

ギルダーツ達がそんな話をしていると、村人が吹き飛んだ。

振り返ると、銀竜に乗ったナツ達を見てギルダーツはニヤリと笑った。

 

「やっと来たか」

「僕が洗脳を解くからキミ達は足止めを、銀竜は祭壇の近くを頼むよ」

「分かった」

『はい』

「ディスペル!」

 

クジャが魔法を唱えると、村人達は糸が切れたように倒れた。

村人はそれを気にせず、光の無い目で詠唱をしているクジャに近づいていくが、ナツ達が食い止める。

 

「オラ!」

「はあ!」

「アイスメイクフロア!」

 

ナツ達の連携により、村人は全員洗脳が解けて地面に横たわっていた。

事態が終息し、ナツ達が息を吐くと、物陰から1人の男がヒステリックに叫びながら出てきた。

 

「なんでだ!半年前より強力に!強固に!コイツらの奥深くにまで張り巡らせたのに!なぜ!なぜお前は解けた!ギルドの連中はどうして邪魔なコイツを殺さない!お前達にも仕込んだ筈なのに!どうして言う通りに動かないんだ!」

「あ?お前誰だ?」

「バカかナツ、俺達に依頼してきた村長だろ」

 

ナツ達の前に姿を現したのは村の村長だった。

村長は何も聞こえていないかのようにヒステリックに叫び続ける。

 

「なぜだ!なぜだあなぜだなぜだ!ボクはただ誰にも裏切らないボクだけの世界を作りたかっただけなのに!どうしてみんな邪魔をする!どうしてみんなボクを拒絶する!あと少しで、あと少しでボクだけの世界が完成したのに!なぜみんなボクの邪魔をするんだ!ボクの言う通りにならないんだ!」

「......お前が、みんなを操ったのか?」

 

クジャが感情のこもっていない声で呟くと、村長は聞こえたようでニヤニヤと笑いながら種明かしをしていく。

 

「クハハハハ...そうか、お前はなぁんにも知らないんだったなぁ。そうさ、ボクがやったんだ。こんな能の無い連中や化け物に村を支配され、それを崇拝する無能に管理されるこの村に価値はない。本当に価値があるのはボクの様な有能な人間による化け物と人間の管理だ!化け物にボクの印を付けさえすればボクの下僕!ボクによるボクの為のボクだけの世界ができたんだ!それなのに、なぜ邪魔をする!」

 

村長の話を聞き、クジャは酷く起こっていた。

彼がいくら冷静になろうと思っても感情は高まり続け、クジャが一瞬光に包まれた。

全員が驚きクジャの方を見ると、そこには赤と白の体毛に覆われ、赤い尻尾のある獣人と化し、今までで一番の殺気を発しているクジャがいた。

トランスー感情の爆発により自身の力が跳ね上がる現象。

村長はそんなクジャに腰を抜かし、それでもなお、生き残ろうと後ろに後ずさった。

それを追う様にクジャが一歩ずつ距離を縮めていく。

 

「ひっや、やめろ...近寄るな、バケモノめ!」

「バケモノねぇ...その呼び方はやめてもらおうか、ボクは...」

 

クジャは村長との距離を縮め、耳元でこう言った。

 

「...死神さ...」

 

それは、クジャから村長に当てた彼なりの死刑宣告であった。

 




次で守竜の村編はラストです。


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守竜の誕生と死神の旅立ち

ぐ、グダッタ...
会話文多めです。


事件から3日後、クジャと銀竜は守竜の卵の祭壇の前に来ていた。

今日これから、守竜の卵が孵るのだ。

3日前の事件の元凶である村長はトランスしたクジャにより瀕死まで痛めつけられたが、正気に戻ったクジャが回復させ、真実を知った村人達により王国兵に引き渡された。

クジャが祭壇を見守っていて、ハッとすると、周りが白くなり、目の前には死んだ筈のバニラが居た。

バニラはクジャに優しく語りかける。

 

「久しぶりだねぇ」

「どうして...貴方は死んだ筈だ」

「確かに、私の体は死んじまったね。でも、アイツが何かしようとしてるのは察してたから、奥の手を打っておいたのさ」

「奥の手?」

「ああ、本来村長は守竜様によって選ばれて、次世代の守竜様を守る為の魔法を教えられるのさ。それがこの魔法さ。この空間に守竜様に危害を加えようとする奴を引きずりこんで殺すのさ。まあ、私が仕掛けた所で必要無かったようだけどね」

「その魔法の効果が発揮される期間は?」

「次に使う者が現れるまで、永遠にさ。私の前の奴なんて400年も此処に居たらしいよ。まだ若かったのに、何人手にかけたのやら...。私は次に使う者が現れるまで、転生出来ない。けど、この村の行く末を見守る事が出来る。案外良いかもね」

「バニラさん、ボクは...」

「アンタは最善を尽くした。私はあの魔法を解く事が出来ないから、術者を殺して止まらなければ村人全員殺さなきゃならなかったんだ。でも、アンタが救ってくれたおかげでまだこの村はやって行ける。だから、そんなに気にすることないんだよ」

「......」

「納得してないねぇ。まあいいさ。それよりも、アンタに渡したい物があるんだ。私の部屋にある小箱の中に入っている宝石。アレをこの村から出る時に持って行ってくれるかい?」

「なぜですか?」

「あの宝石の中には主人を探してる精霊達がいるのさ。主人を探してやってくれるかい?」

「......分かりました」

「じゃあ、頼んだよ」

 

その声を最後にクジャは元の所へ戻された。

クジャを見て、銀竜が話かける。

 

『クジャ、一体何処へ行って居たのですか?』

「バニラさんと話してた」

『?!そうですか。あの者は使ったのですね』

 

そう言うと銀竜はしみじみと話し出した。

 

『バニラは、私が初めて選んだ村長でした。選んだ時はまだ14の娘で、慣れない村長の仕事にオロオロしていました。それでも、彼女は60年もの間、最後まで自分の仕事をしっかりとこなしたのですね』

 

そこまで話し終わると、祭壇の卵にヒビが入った。

それを見た銀竜が村全体に響く声で言う。

 

『新たな守竜が誕生します!』

 

それを聞いた村人達は家から続々と出てきて祭壇の周りに集まった。

卵のヒビはだんだんと全体に広がり、等々新たな守竜が卵から顔を出した。

 

「あ!」

「守竜様の誕生だ!」

 

村人達は新たな守竜に歓喜し、ナツ達も守竜が無事生まれたことでホッとしていた。

そんな中、クジャと銀竜はその集団から抜け出し、バニラの家に向かった。

バニラの家に着くと、クジャはバニラの部屋へ行き、小箱を開けた。

小箱の中には手の平に乗るくらいの大きさの宝石が入っていた。

その宝石は一定の時間で色が変わる不思議な宝石だった。

クジャが宝石を手に取ると、宝石が緑色に輝き、強い風を起こした。

風が収まると、目の前には小さな妖精がいた。

妖精は見た目にあった可愛らしい声で怒鳴った。

 

『ちょっと!貴方誰よ!なんでバニラじゃない奴がこれを持ってるのよ!』

 

クジャと銀竜は固まっていた。

その妖精はクジャにとって見覚えがあったからだ。

 

「シルフ...」

 

クジャの言葉を聞いて、妖精ーシルフは怒鳴っていたのをやめた。

 

『貴方、私の事を知ってるの?』

「知ってると言うよりも、なぜ召喚獣のキミがこんなところに...」

『なんでって言われても、私だけじゃなくて他にもいっぱいいるわよ?コッチに来たのは契約者について来たからだから理由なんてわかんないわよ。それよりも貴方、死神さんよね?私、貴方を向こうで見たことあるわ。マダイン・サリで』

「...そうさ、マダイン・サリに攻撃したのは僕だ」

『やっぱり、でも、ここには何しに来たの?バニラはどこ?最近出してくれなかったのよ。せっかく出て来れるようになったから姿を見せてあげようと思ったのに』

 

そう言いながらシルフは周りを見る。

すると、クジャ達が暗い顔をしているのを見て、察した。

 

『もしかして、バニラ、死んじゃった?ここの風も埃っぽいし、しばらく誰も来なかったのよね?』

 

クジャが無言で首を縦に振ると、シルフは残念そうな顔をした。

 

『そう、やっぱり、人間の寿命は短いわね。なら、貴方はバニラに言われてここに来たんでしょう?』

「まあ、そうだね」

『じゃあ、この村から連れ出してくれるのよね。良かった』

「そういえば、君は他にもいるって言ってたけど、召喚獣は宝石の原石に一体しかいないはずじゃないかい?」

『ああ、私達がこっちに来た時はまだ小さなカケラだったのよ。それに、この世界の召喚魔法はアッチと違ったの。だから一つの原石に一気に詰め込まれて封印されてたの。で、その封印されてるのを見つけたのがバニラって訳ね』

 

シルフが話をすると、家のドアが開いた。

シルフは急いで宝石へと戻り、クジャはそれを隠した。

クジャのいる部屋に村人が入ってきた。

 

「ああ、ここに居たんですか。もう出発されるんですか?」

「はい、新しい守竜が生まれた事ですし、ボク達は早めに出た方がいいでしょう?」

「その件なんですが、明日まで待って貰ってもいいですかね?守竜様のお力がまだ安定されて居なくて、先代の守竜様に少し馴らしていただきたいんですよ」

『私は構いません』

「分かりました。では、あと1日滞在させていただきます」

「ありがとうございます。それじゃ!」

『私も行ってきます』

「ああ」

 

そう言って銀竜と村人が出て行った。

それからクジャは何か考える様な仕草をしていたが、その後何かを思いついた様に自室に篭り、何かを作り始めた。

 

 

翌朝早朝、銀竜がクジャの元へ戻ると、クジャが換装空間に何かをしまった後だった。

銀竜が疑問に思って尋ねる。

 

『クジャ?なんですかさっきのは』

「ああ、すぐに分かるさ。バニラさんの所へ行こう。銀竜」

『え?...分かりました』

 

クジャが魔力を辿りながらバニラの空間の切れ目とも言える場所を見つけ、手をかざし、魔法を唱えた。

 

「見つけた。...テレポ!」

 

クジャと銀竜は光に包まれ、一瞬の引っ張られる様な感覚の後、あの白い空間に居た。

バニラは驚いた様子でクジャを見つめた。

 

「アンタ、どうやってここを見つけたんだい?それよりも、一体何の用だい」

「貴方に合わせたい人...精霊と、持ってきた物があります」

 

そう言って、クジャは宝石を取り出し、呼びかけた。

 

「シルフ、出てきてくれるかい?」

『ハイハイ、何よ、一体何の......バニラ?』

「アンタは...でも、一体どうして...」

『やっぱりバニラじゃない!貴方、死んだなんて嘘だったのね!もう、なんでそんな嘘なんて...』

 

嬉しそうだったシルフの声は、バニラが寂しそうな顔をしているのに気がつき、真実だと察した。シルフはそのままバニラの額に口づけをし、宝石に戻った。

バニラは少し寂しそうに言った。

 

「アンタはわざわざ合わせに来てくれたのかい。さぁ、もう良いだろう?早く帰りなよ」

「いや、まだ帰りません。貴方に持ってきた物があると言ったでしょう?」

「なんだい?まさか体を持ってきたなんて突拍子も無い事言うんじゃ無いだろうね?」

 

バニラが茶化しながら話すが、クジャはそれを余裕の笑みを浮かべ、舞台役者の様に語り出した。

 

「それもそのまさか。今日貴方にお届けするのはボク、クジャめが腕によりを掛け作らせていただいたバニラさん、貴方の魂の器。即席で作ったのでデザインは少々アレではありますが、品質は十分な物と自負し、贈らせていただきます」

 

そう言ってクジャが出現させたのは世界を混沌へと貶めた黒魔導士兵のプロトタイプであり、クジャの弟ジタンと共に戦い、世界を救った英雄の体だった。

青のコートにシマ模様のズボン、皮の手袋と大きな三角帽子が特徴で、瞳は金色に輝いている人形が居た。

バニラはそれを見て、笑いながら喜んだ。

 

「ハハハハハ!確かにこのデザインは酷いね。男の子っポイじゃないか!でも、私のために用意してくれたんだろう?コレを使えば1人じゃ無くなるわけだ。私はトコトン恵まれてるね。クジャ、ありがとう」

 

クジャはそう言われて、嬉しかったが、表に出すのは苦手なため、演技口調に言った。

 

「お褒めに預かり光栄です」

「ふん!素直じゃないね」

 

クジャとバニラはお互い笑い合い、クジャは出口へ向かった。銀竜は2人の様子を見て、バニラに優しく微笑み、出て行った。

 

 

ーー数時間後

 

クジャと銀竜、ギルダーツ達は村の出口に立って居た。

そこには数名の村人が見送りに来ていた。

 

「フェアリーテイルの皆様、此度は誠にありがとうございました。フェアリーテイルの皆様、これは今回の報酬です。お受け取りください」

「おう、しかと貰ったぜ」

「先代様、これまでありがとうございました。これは少ないながらの門出金です。どうか、お納めください」

『ありがとうございます。皆、新たな守竜をよろしくお願いします』

「お世話になりました」

 

そう言ってクジャ達が歩き出そうとすると、少年の声が飛んできた。

 

「クジャー!ありがとうー!」

 

その声にクジャが驚いて振り向くと、バニラに渡した人形が大きく手を振っていた。

他の村人達が見たことがない少年が村にいるのを見て警戒しながら近づいていくと、少年はイタズラのバレた子供の様にトテトテと走って行った。

村人達は少年を追いかけて行き、フェアリーテイルの面々は呆気に取られているのを他所に、クジャはクスリと笑い村を出た。




グダリにグダッテグダッタよ...
今回で守竜の村編は終了となります。
次回からは本編に入る前にもう一章挟むつもりです。


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第零章:精霊魔導士の少女編
死神の新天地


今回でようやくクジャがフェアリーテイルに入ります。


村を出たクジャと銀竜は誰かに付けられているのが分かり、足を止めた。

 

「用があるなら言いなよ」

「まぁバレるわな」

 

そう言いながら姿を現したのはギルダーツ達だった。

クジャはつけられたことに対して不機嫌そうに聞いた。

 

「それで?わざわざ僕達をつけてきて、一体なんの用だい?」

「ああ、それなんだけどよ、お前、行くとこあんのか?」

 

クジャはギルダーツの質問に対し少々疑問に思う所もあったが嘘を吐く必要はない為、正直に答えた。

 

「ないけど」

「そうか、ならフェアリーテイルに来いよ」

 

ギルダーツの提案はクジャ達にとって良い提案だったが、クジャ達は自分の素性を考え、難色を示した。

 

『私達にとっては嬉しい誘いなのですが...』

「僕達の様な人殺しで素性もハッキリしない人間を入れて大丈夫なのかい?」

「ああ、フェアリーテイルは身寄りのない孤児や訳ありのやつも多い、それに、お前は本意で殺しをしたわけじゃねぇしな。大丈夫だろ」

 

まだ悩むクジャはナツ達にも目を向けたが、ナツ達も頷いた為、決断した。

 

「分かったよ、そこまで言うならフェアリーテイルに身を置くのも悪くないかもね」

「よっし!それじゃあさっさと行こうぜ。ここから3日は掛かるからな」

 

グレイの言葉にクジャは呆れた様に言う。

 

「まさか歩いて行くつもりかい?」

「他にどうやって行くんだよ」

「空からさ。キミ達を特別に空の旅へ招待してあげるよ。銀竜!」

『はい!』

 

クジャの掛け声に銀竜は全員が乗れるほどの大きさになった。

クジャはそこに飛び乗り、ナツ達に乗る様に諭す。

 

「ほら、コッチの方が速いだろう?乗りなよ」

「すっげえ!ドラゴンにまた乗れるんだ!」

 

ナツ達はそれぞれはしゃいだり恐る恐る乗ったりした。

クジャは全員が乗ったのを確認し、銀竜を飛ばす。

 

「すっげえ!イグニールと同じくらい速え!」

「たっけえ」

「これが空の景色か。綺麗なものだな」

「いやぁなかなかいい風だな」

 

銀竜の乗り心地にナツ達はご満悦の様だ。

クジャはフェアリーテイルの場所を聞く。

 

「で、フェアリーテイルは何処にあるんだい?」

「ああ、ここから北西に行ったマグノリアって街の所だ。あるのは街中だから街の近くで降ろしてくれ」

「分かったよ。それまで空の旅を楽しみなよ」

『落とさない様ゆっくり飛んでいますが危ないので気をつけてくださいね』

 

銀竜とクジャはナツ達を乗せ、マグノリアに向かって飛んだ。

数十分程飛ぶと、フェアリーテイルのギルドマークを銀竜が見つけ、街の郊外に着地した。

その後、銀竜は手の平に乗るサイズになり、クジャの肩に乗った。

ギルダーツはまだはしゃいでいるナツ達に声を掛けてギルドに向かって歩いた。

その途中、クジャは元いた世界とこの世界の街の様子の違いを横目で観察しながら歩いた。

街の中央を抜け、少し行ったところに魔導士ギルド『妖精の尻尾ーフェアリーテイルー』があっり、中からは賑やかな声が聞こえてくる。

ギルダーツがギルドの扉を開けると、ギルドメンバーの視線が入り口に集まる。帰ってきた仲間にメンバー達は労いの言葉をかける。

 

「おお、ギルダーツ達帰って来たのか」

「おかえりー、どうだった?」

 

そんな中、1人がクジャの存在に気づいた。

 

「あ?誰だ?ソイツ、見ねぇ顔だな」

「ああ、コイツは新しく入る奴だ。マスターは?」

「ああ、マスターならカウンターの方にいるぞ」

「分かった。クジャ、コッチ来い」

 

ギルダーツに呼ばれクジャはカウンターに座っている老人の元へ歩いて行く。

 

「マスター、戻りました」

 

マスターと呼ばれた老人ーマカロフーはおちゃらけた感じで話しだした。

 

「おお、よく戻ったのぉ。それと、お前さんはギルドへの加入希望者かの?」

「はい、それと、僕だけではないですけどね。銀竜」

 

クジャの言葉にマカロフは不思議そうな顔をしていたが、銀竜がクジャの肩から降り、少し大きくなった事で納得したようだ。

するとマカロフはカウンターの奥からスタンプの様な物を持ってきて質問した。

 

「分かったぞ。お前さん達、どこにギルドマークを付ける?」

 

そう聞かれ、クジャは右手を、銀竜は尻尾を差し出した。

マカロフはそれぞれにギルドスタンプを押し、快く歓迎した。

 

「ガキ共、ようこそフェアリーテイルへ。これからお前達はギルドの仲間じゃ!」

 

マカロフは新たな仲間の誕生を高らかに告げた。




次回からまた新章です。


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護衛依頼

遅くなり申し訳ありません。
やっと1話できました。


クジャがフェアリーテイルに入って1週間が過ぎた。

この1週間、クジャは住居を構え、いくつか依頼もこなしたが、子供という理由から雑用が多かった。

雑用も仕事と割り切りやっていたが、同じような依頼ばかりでクジャも飽きてきていた。

 

「流石に毎日同じような依頼ばかりだと飽きるね」

『ですが、ただの雑用にしては報酬もいいですし、依頼なのですからやった方がいいでしょう』

「まあね」

 

クジャと銀竜が会話をしていると、マカロフがやって来た。

 

「おお、クジャ、銀竜、ここにおったか」

「マスター?どうしたんですか?」

「実は少々面倒な依頼が来ておってのぉ。お前さんが良ければ受けてもらいたいんじゃが」

『どんな依頼なのですか?』

「これじゃ」

 

そう言ってマカロフが見せて来た依頼書にはこう書かれていた。

 

『護衛任務

1ヶ月程屋敷を留守にする為、屋敷と娘の護衛を頼みたい。

人数 娘と年の近い者1〜2名(10歳前後)

条件 最低限のマナーを身につけ、実力のある者』

 

依頼書には簡潔に住所と地図もあった。

依頼書を読み、クジャは納得したように言う。

 

「たしかに、これは面倒な依頼ですね。それに、条件も僕や銀竜寄りですし。分かりました。僕達で良ければ受けますよ、この依頼」

「そうか、では早めに準備をして向かってくれ」

「はい」

 

そう言うと、クジャは家に荷物を取りに行った。

部屋に入るとシルフが不満そうに話しかけて来た。

 

『おかえりなさい。まだ外に出ちゃいけないの?それとクジャ、貴方が新しく入れた子達愛想悪すぎるわ!』

「今日から長期の依頼で外に行くよ。それと、彼等はまだ作りたてだからね。ある程度育ったら愛想は出来るんじゃないかな?」

『まあいいわ。今日からやっと外に出れるのよね。久しぶりの外、楽しみねー』

 

シルフの独り言を無視し、クジャは準備をするとペンダントに加工した召喚獣の宝石を首に掛けて家を出た。

 

 

ーー数時間後

 

クジャと銀竜は依頼書に付いていた地図を頼りに依頼者の屋敷まで飛んで来た。

銀竜が屋敷の門の前に着陸すると執事服を来た男性が出てきた。

 

「どちら様でしょうか」

「フェアリーテイルの者です。依頼を受けて来ました」

「そのマークはたしかに。少々お待ちください。旦那様にお話を通してまいります」

 

執事はそう言うと屋敷に入り、少ししてから戻ってきて門を開けた。

 

「旦那様がお待ちです。付いてきてください。そちらの竜は...」

『私の事はお構いなく。こうして小さくもなれますから』

 

銀竜が小さくなって見せると、執事は驚いたがまた屋敷へ向かって歩き出した。

 

「なんと不思議な...。いえ、どうぞこちらへ」

 

執事について行くとある一室に通された。

そこには1人の男性がいた。

男性はクジャが室内に入ると執事の人を下がらせた。

 

「ようこそ、我が家へ。私はジュード・ハートフィリア。キミが私の依頼を受けてくれたフェアリーテイルの子か」

「はい。マスターからの推薦もあり、この依頼を受けさせていただく、クジャという者です。先程共に来た竜は我が相棒たる銀竜です」

「そうか、私はこれからすぐに此処を出る。私が帰るまでの間、娘の護衛と子守をしてもらいたい。期間中、屋敷内はこの部屋以外自由に行き来してもらって構わない。スペット」

「失礼いたします。およびでしょうか旦那様」

「この子を部屋とルーシィの元へ連れて行ってくれ。私はすぐに出る」

「かしこまりました」

 

クジャは執事について部屋を出る時に

執務机の近くにジュードを模したおにぎりと、皿が転がっているのを目にし、ジュードに対し少し嫌悪感を抱いたのだった。

執事にクジャはハートフィリア家での自室となる客間に通された。

クジャは荷物を置くと、執事に質問した。

 

「僕の護衛対象であるルーシィってどんな人ですか?」

「お嬢様はとても明るくお転婆な方です。星霊魔法を使えます。とても優しい方で、星霊と本がお好きな方ですが、旦那様がお仕事が忙しい為、常に寂しい思いをされている事でしょう」

「...分かりました。ありがとうございます。それでは、会いに行きましょうか」

「かしこまりました。こちらです」

 

クジャの部屋から左程遠くない所にルーシィの部屋はあった。

執事がルーシィの部屋をノックし、声をかける。

 

「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」

「...うん、いいよ」

「失礼いたします」

 

クジャと執事が室内に入るとクジャより少し幼い程度の少女が行儀よく座っていた。

少女はクジャを見ると不思議そうに首を傾げる。

 

「だぁれ?」

「旦那様がお雇いになったギルドの方です。旦那様はこれから1ヶ月程お仕事で留守にされますので。それでは、私は下がらせて頂きます。何かございましたらお呼びください」

 

そういうと執事は部屋から出て行った。

クジャと少女は2人きりになり、クジャは小さい子を相手に話しかけることをした事がないため、どうすればいいのか考えていると少女が話し掛けてきた。

 

「私ルーシィ、あなたはだれ?」

「僕はクジャ、今日からキミのお父様が帰ってくるまでの護衛です。どうぞお見知り置きを」

 

クジャは芝居掛かった様に自己紹介をしたが、ルーシィは不満そうにお願いしてきた。

 

「ねぇ、クジャはこの屋敷の人じゃないでしょ」

「そうですね。ギルドから来てますし」

「だったらふつうに話して。私、今までお友達いなかったから...」

「......分かった、これからしばらくよろしく、ルーシィ」

「うん、よろしくね!クジャ!」

 

2人の距離が縮まったのが分かった銀竜は少し大きくなってルーシィの前に着地した。

 

『私は銀竜、クジャの相棒です。私もよろしくお願いしますね。ルーシィ』

「わぁ!ドラゴン?!」

「ああ、銀竜はドラゴンの一種だよ」

「はじめて見た!さっき大きくなってたけどやっぱりもっと大きくなれるの?!」

『ええ、なろうと思えばおそらくですがこの屋敷位の大きさになれると思えますよ』

「すごーい!見せて!」

『さすがにそれは無理ですね』

「ざんねん、でも、いいや。あ、そうだ!私ね!星霊魔法使えるの!」

「へぇ、どんなのが居るんだい?」

「えっとね、アクエリアスと、キャンサーが居るよ!」

「もう既に2体と契約してるのかい?」

「うん!お母さんと元々けいやくしてた星霊なんだ!それでね!アクエリアスとキャンサーは黄道十二門の星霊なんだよ!」

「黄道十二門ってなんだい?」

「えっとね...世界に一本しかない黄道十二星座の星霊!」

「へぇ」

 

クジャとルーシィの出だしは上々で依頼1日目を終えた。

クジャが1日を終えて部屋に戻ると、シルフがそわそわしながら部屋の中を行ったり来たりしていた。

 

「どうしたんだい?」

『この家から懐かしい匂いがするのよ』

「懐かしい匂い?」

『一体なんの匂いなんですか?』

『私達の契約者の匂い。でも、これはコッチで出来た子供かしら...とにかくこの家の中にいるわ!』

「子供...子供って言ったらこの家だとルーシィ1人だけど、彼女に角は無かったよ」

『私達の契約者はこの世界に紛れ込む為に角を切り落としたのよ。だから多分ないのね。でも、私達は角が無くても話せるように工夫してるから大丈夫よ!』

『そういう問題ではないと思うますが...ですが、契約者になれる者がいるのであれば良かったではないですか』

「それでも、探すのは明日からだ。今日はもう遅いから歩き回ってたら無駄な誤解をうむ」

『むぅ...分かったわよ。明日から探しましょ』

 

こうして依頼1日目は終わった。



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少女と星霊と召喚獣と死神と

今回次の話の都合上凄く短いです。
そしてタイトルのネタ切れ感が...どうしよう...。


クジャがハートフィリア家に来てから1週間が経った。

この1週間で、クジャとルーシィの仲は兄弟に見える程にまで深まった。

今、2人は庭でルーシィの契約している星霊を見に来ていた。

ルーシィは金色の鍵を掲げて誇らしげに言った。

 

「じゃあみててね、クジャ」

「うん、ちゃんと見てるよ」

「いくよ...開け、宝瓶宮の扉、アクエリアス!」

 

ルーシィが鍵を噴水の水に浸けながら鍵を捻ると、人魚の様な星霊が出現した。

 

「人魚...」

「ああん?一体なんの用だ、小娘」

「あのね、クジャに私の友達のアクエリアスをしょうかいしようと思ってね...」

「ああん?!私とお前は友達なんかじゃないよ!」

 

アクエリアスがそう言い放つと、ルーシィはシュンとした表情をしながら俯いた。

それに対しクジャが何か言おうとする前に一陣の風が通った。

 

『ちょっと!その言い方はないんじゃない?!それでも私の契約者の星霊?!』

「ああん?なんだこのちびっこい星霊は。それと、私の契約者ってなんだ?!」

『失礼ね!私は星霊じゃなくて召喚獣よ!貴方みたいなオバさんと一緒にしないでよ!』

「オバさんだって?!いい度胸してるなこの虫!」

『誰が虫ですて?!』

 

シルフとアクエリアスの一触即発な雰囲気にルーシィがクジャの所へやってきた。

 

「クジャ、あの子は何?」

「彼女はシルフ。星霊とは違う...そうだな、妖精...みたいなものだよ。彼女は君と契約したいみたいだけど、私のって言うには早いと思うんだけど...」

 

クジャがルーシィにシルフの説明をしていると、シルフ達が構え出した。

 

『もう怒ったわ!貴方の性根叩き直してあげる!』

「上等だ、私がオバさんじゃないって認めさせてやる!」

『クジャ!ルーシィ!乗って下さい!ここは危険です!』

「分かった。ルーシィ、コッチへ!」

「え、うん」

 

クジャがルーシィを連れて銀竜に飛び乗り、銀竜が飛んだ瞬間、アクエリアスの水とシルフの風がぶつかった。

2つがぶつかり合うと、力は拮抗し、飛び散った水が庭に虹を作った。

2人の衝突が収まったのを見計らって銀竜が地面に降りると、アクエリアスは消えていた。

クジャが疑問に思ってシルフに聞く。

 

「シルフ、アクエリアスは?」

『知らないわ。舌打ちしたと思ったら消えちゃったもの』

「多分、私が開いた時に使った魔力が切れたんだと思うよ」

『それよりも貴方、名前、なんて言ったかしら』

「え、る、ルーシィだよ」

『ルーシィね!ルーシィ、私達と契約して!やっと見つけたの!』

「私はいいよ。クジャ、契約してもいい?」

「僕は彼女達が契約者を探したいと言ってたから連れてきただけだからルーシィの好きにしていいよ」

「じゃあ、契約しよ!」

『じゃあさっそく...て、え?!』

「どうしたの?」

『みんな、契約するのはいいけど貴方の事認めないって言ってるわ。契約するんだから認めればいいのに!』

「私、嫌がられてるの?」

「まあ、契約出来るならしておけばいいじゃないか、後々ルーシィが認められれば力を貸してくれるんだろう?」

『そうだと思うわ。まったく、素直じゃないのが多すぎるのよ!だからルーシィは気にしないで!ルーシィ、手を出して』

 

シルフの指示にルーシィは恐る恐る手を出す。

 

「こう?」

『ええ、ルーシィ、ちょっと痛いけど我慢してちょうだいね』

 

シルフはそう言うと、ルーシィの指を噛んで血を出した。

シルフはルーシィの指から出る血を掬い、クジャの持っている宝石にそれを垂らした。

シルフはそれを終えると笑顔で言った。

 

『ルーシィ、これで契約完了よ!これからよろしくね!』

「う、うん」

「はぁ、シルフ、せめて説明してからやりなよ。ルーシィ手を出して、治療するから」

「はい」

 

未だ血が出ているルーシィの手にクジャは手をかざして魔法を唱えた。

 

「ケアル」

 

すると、クジャの手から緑色の光が出て、収まるとルーシィの傷は完全に治っていた。

 

「すごーい!」

「このぐらい対した事ないよ。じゃあ、そろそろ戻ろうか、ルーシィ」

「うん!銀竜、また今度乗せてね!」

『ええ、またいつか...』

 

戻る直前、クジャがある事を思い出した。

 

「おっと、忘れるところだったよ。ルーシィ、この首飾りがシルフ達がいるものさ。これは肌身離さず持ってなよ」

「うん、ありがとうクジャ!」

『私はいつでもルーシィの力になるわ!』

「ありがとう、妖精さん」

『妖精じゃないわ。私は風の召喚獣シルフよ』

「そっか、よろしくね!シルフ!」

『ええ、よろしくルーシィ』

 

クジャと銀竜が見守る中、シルフとルーシィは笑いあった。




次はちょっと長くなるので更新が遅れるかもしれませんがあしからず...


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少女に迫る闇

学校で忙しくなり、更には書いた話が吹き飛ぶという事が起こり、前回から1カ月もの期間が空いてしまいました。
本当にすみませんでした。


ルーシィとシルフが契約を交わしてから早3週間。

クジャと銀竜がルーシィと入れるのは後1週間程度となっていた。

今日とて朝食を摂り終え、ルーシィと歩いているとスペットが手紙を持ってやってきた。

 

「ああ、クジャ殿、ここにおられましたか」

「スペットさん?何か御用でしょうか?」

「ええ、旦那様が近況を聞きたいとの事ですので旦那様の元へ向かっていただけないでしょうか」

「...分かりました。今から出発します。銀竜、キミは残ってルーシィを頼んだよ」

『はい、クジャも気をつけてくださいね』

 

クジャと銀竜の間で話がまとまるとルーシィが不安そうな顔をした。

それを見てクジャは言い聞かせるように言った。

 

「大丈夫だよ、用が終わったらすぐに帰ってくるから」

「絶対?」

「ああ、だから銀竜と待っててくれるかい?」

「わかった。いってらっしゃい」

 

ルーシィの返事にクジャは笑いかけてからスペットに話を聞く。

 

「それで、場所は書かれてますか?」

「はい、この手紙に地図が付いていますので」

「では、すぐに行ってきます」

「どうか、お気をつけて」

 

スペットから手紙を受け取り、クジャは出発した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

残されたルーシィと銀竜はルーシィの部屋でシルフも交えて話をしていた。

 

「ねえねえ、シルフが言ってた『しょうかんじゅう』って言うのと星霊って、なにがちがうの?」

『よく聞いてくれたわねルーシィ!いーい?私達召喚獣は自分が認めた召喚士としか契約しないの!星霊は自分を呼び出した星霊魔導師とホイホイ契約するみたいだけど、私達は自分が認めた召喚士とだけ契約して力を貸すのよ!』

「しょーかんしって何?」

『そうねぇ、召喚士って言うのは私達召喚獣を呼び出すことができる人間よ!元々は別世界の種族なんだけど、ある事件があって数名の生き残りがこの世界で生きていく為にツノを切り落としちゃったの。で、私達を今ルーシィが持ってる召喚石の中に閉じ込めて置いてかれちゃったのよ!酷いわよね!世界が違っても私達は簡単に切ったりしないのに!』

「べつせかい?しょーかんせき?」

 

ルーシィはシルフから聞かされた話の内容が殆ど理解出来ておらず混乱している。

シルフが更にマシンガントークを続ける前に銀竜は釘をさす。

 

『はいはい、シルフ、ルーシィが話についていけてませんよ。まだルーシィ程の年齢だとついて行けるわけがありません。もう少し大きくなってから話した方がいいでしょう。ただでさえ、コッチの魔法とアッチでの魔法は違うのですから』

『むぅ...分かったわよ...』

 

シルフがむすっとしていると、ルーシィが空気を読んだのか話掛けた。

 

「ねぇシルフ、シルフの話だとまだほかにもしょーかんじゅう?っているんでしょ?」

『いるわよ。まぁ、殆どが姿を見せる気は無いみたいだけど』

 

そう言いながらジトーっと召喚石を睨みつけていたシルフがハッとして中に戻った。

 

「どうしたの?シルフ」

『出てきてくれそうなのが1組いたわ!』

「え?!だれ?」

『待って、今だすっ...から!』

 

シルフのえーいと言う声が聞こえたかと思うと、召喚石から黒い翼と杖を持った黒魔導士が3体出てきた。

ルーシィよりも背が高く、何も話さない彼等を見て、ルーシィは怖がりながらも話しかけた。

 

「えっと...はじめまして。私ルーシィ」

「「「...」」」

「貴方達はなんて言うの?」

 

ルーシィがそう問うと、黒魔導士は抑揚のない声で話しだした。

 

「「「我らは黒のワルツ」」」

「私は黒のワルツ1号機」

「我は黒のワルツ2号機」

「我は黒のワルツ3号機」

「「「我らの主人、ルーシィ・ハートフィリア。命令はなんでしょう」」」

 

黒のワルツにそう問われ、ルーシィが戸惑っていると、部屋の扉が叩かれた。

 

「お嬢様、お時間、よろしいでしょうか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

現在、クジャはヘイストをかけ、グライドをフル活用しながらハートフィリア家に向かっていた。

1時間前、彼はスペットから渡された手紙が偽物だという事を聞かされた。

それを聞いた彼はすぐにテレポを使って戻ろうとしたが、テレポは発動しなかった。

それが分かった彼は自身の出せる最大の速さで屋敷に向かっていた。

 

(やられた...偽物をつかまされるなんて...でも、僕にこの手紙を渡して屋敷から出して何をしようとしてるんだ...?あそこに今いるのはルーシィに数人の使用人、銀竜と召喚獣...成体となり、主人を見つけた守竜をわざわざ狙う奴なんていない...召喚獣についてはこの世界の人間は知らない、なら今あの家が襲撃されたと仮定した時の敵の狙いって...)

 

そこまで考えた時、彼は1つの可能性に気づいた。

 

「ハートフィリア家の1人娘である、ルーシィか...?」

 

その可能性に思い立った時、クジャは効果の切れてしまったヘイストをまたかけ、先ほどよりも焦りながら道を急いだ。

クジャが屋敷に着くと、屋敷が異様に静かだった。

クジャが急いで屋敷の扉を開けると、玄関ホールに現在屋敷に残っていた執事やメイド全員が倒れていた。

クジャがメイド達の容態を見ると、ある事に気づく。

 

「外傷は無し。だけど、この魔力...アイツの魔力か...」

 

メイド達の体から少量ではあるが、守竜の村で王国兵に引き渡したはずの男の魔力があった。

クジャは全員にディスペルをかけ、ルーシィの部屋へ向かった。

部屋の扉を開けると、ルーシィと銀竜の姿はなく、黒のワルツだけが待機状態で立っていた。

クジャは黒のワルツの前に立ち、全て見ていた彼等に聞く。

 

「黒のワルツ、ルーシィ・ハートフィリアおよび銀竜、シルフはどこだ」

「「「行方は存じておりません」」」

「ここで何があった」

「ハートフィリア家に使えている執事の1人が部屋を訪れ」

「それに続き複数の人間が部屋に入り」

「ルーシィ・ハートフィリアを拘束、シルフは召喚石の中に我々と交代しており召喚石の中、銀竜はルーシィ・ハートフィリアを人質に取られ無抵抗で捕縛」

「「「以上にございます」」」

 

抑揚のない、淡々と語られた話にクジャは舌打ちをしながら行動した。

 

「これより黒のワルツの主導権をクジャに移行、ルーシィ・ハートフィリアおよび銀竜を探しダテレポにて現場に僕を呼べ」

「「「了解しました」」」

「行け、黒のワルツ!」

 

クジャの言葉に黒のワルツは飛び立ち、三方向に別れた。




次回は出来るだけすぐに投稿出来るように頑張ります。


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死神の逆鱗

今回時間かかった癖にめちゃくちゃ短いです。



黒のワルツが捜索を開始して1時間後、クジャがイライラしながら待っていると、足元に魔法陣が浮かんだ。

クジャが魔力を流すと、魔法陣が光った。

クジャが目を開けると、古い要塞が目の前にあった。

要塞の入り口には黒のワルツが集合し、クジャを出迎えた。

 

「ここかい?」

「「「はい、この要塞の最奥にルーシィ・ハートフィリア、及び銀竜を確認いたしました」」」

「状況は」

「敵の数はおそらく30人前後」

「ルーシィ・ハートフィリアの状態は気絶」

「銀竜はリーダーらしき男に魔法をかけられていました」

「「「どうされますか」」」

 

黒のワルツの報告を聞き、クジャは数秒で作戦を立てた。

 

「救出には僕が行く。お前達は僕がルーシィ達の部屋に入ったと同時に窓から侵入。ルーシィを連れて外へ。銀竜は可能な場合は指示を出す」

「「「承知しました」」」

 

返事をした黒のワルツ達は飛び立ち、クジャは苛立ちを込めた魔法を要塞の扉へとぶつけた。

 

「フレア」

 

扉は凄まじい爆発を起こし、木っ端微塵に吹き飛ぶ。

扉の近くにいたであろう洗脳された王国兵をも気絶させていた。

クジャは不憫な彼らには見向きもせず、要塞の中を進む。

途中、洗脳されている王国兵が襲ってきたがクジャは3つの魔力弾を操り、自身に寄せ付けずに無力化した。

要塞の最奥まで来たクジャは最奥の部屋の扉を開けた。

扉を開けると、気絶しているルーシィ、赤い魔力を纏い、何かに必死に抵抗している銀竜、そして、守竜の村で人々を操り、事件を起こし、クジャや村人達によって王国兵に引き渡された男がいた。

クジャは苛立たしそうに声をかける。

 

「おい」

「ちっ、アイツらも全く役に立たない」

「お前、今度は何をするつもりだ」

「何?何かだって?決まっているだろう。僕はここでお前に復讐し、村に戻って僕だけの国を作るんだ!この竜はその為の護衛。お前は必要ない」

「随分と調子のいい事を言うねぇ。村ではせっかく助けてやったのに、その恩を仇で返すのかい?牢屋で暮らしていれば、まだ生きて入られたのにねぇ」

「なんだと?偉そうな事を言えるのも今のうちだ。コッチには人質だって」

「人質?あぁ、その子かい?床に放置しているだけなら人質とは言わないよ。回収しろ!」

「「「承知」」」

 

クジャの声と共に黒のワルツは部屋に入り、ルーシィを奪還した。

黒のワルツはそのままルーシィを連れて外へ出て、それを見ていることしか出来なかった男は叫ぶ。

 

「なんなんだあの人形は!僕の計画を邪魔しやがって!従うなら生かしてやろうと思ったがやめだ!やれ!守竜!」

「銀竜、君がこんな奴に言いなりになる必要はないよ。ディスペル!」

 

クジャの唱えた魔法で男がかけた魔法は解け、銀竜は大人しくなった。

 

「僕の邪魔ばかりして!解呪魔法なんて聞いたことがない!なんなんだよお前は!」

 

そう叫ぶ男にクジャは温度のない目を向け、嘲笑い、呆れた様に死刑宣告をした。

 

「はぁ..本当に学習能力のない奴だね。一度自分を半殺しにした人間の名前も分からないだなんて。最後にもう一度だけ教えてあげるよ。僕は死神さ、覚えておくれよ?あぁ、覚えるだけ無駄か。もう前回の様な失敗はしない。ここで芽は摘んでおかないとね」

 

男はクジャの殺気に当てられ、尻をつき、後退りながら震えることしかできない。

クジャは男の命を奪う魔法を唱える。

 

「安心しなよ。苦しませはしない。君には死への恐怖よりも、魂への、そうだね、簡単に言うならば死後の苦痛がお似合いだよ」

「や、やめろ...やめろ!」

「死への導き手 生者を恨む亡者 ここにあるは生の冒涜者 これは導き手への供物 これは亡者への贄 導き手よ 怒れる亡者よ 冒涜者を重き罰の間へ連れて行け デス」

 

クジャが魔法を唱えると、男にかざしていた手から黒い風が吹き、風に吹かれた男は糸が切れた様に倒れた。

クジャは脈を確認し男が死んだのを確認すると、銀竜、黒のワルツ、ルーシィを連れて屋敷へと帰った。




次回でこの章が終わるので、やっと原作に入ります。


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一時の別れ

今回でこの章は終わります。
そして短い...


クジャがルーシィを連れ戻して2週間。

ハートフィリア家の主人であるジュードが帰ってきた。

 

「「お帰りなさいませ」」

「ふむ、変わりないな」

 

ジュードは周りを見回し 異常が無いことを確認すると、執務室へ行った。

1時間後、クジャはジュードの呼び出しを受けて執務室に入った。

クジャが執務室に入るとジュードは話し出した。

 

「あの後、特に何もなかったかね?」

「はい、なにも」

「そうか。これにて契約は完了だ。流石に今日はもう遅い、明日にでも報酬を渡したら出てくれ。それと、契約後は一切こちらに干渉しないでくれ」

「はい。了解しました」

 

クジャはそう言って執務室を後にした。

クジャが執務室を出て荷物をまとめに自室へ行くと、ルーシィが中にいた。

 

「ルーシィ?なんでここに...」

「ねぇクジャ、帰っちゃうの?」

 

クジャの言葉を遮ってルーシィは質問した。

クジャは少し困ったような顔をした後、本当の事を言った。

 

「ああ、明日には帰るよ」

「そっか...また、会いに来てくれる?」

「それは難しいかな。ルーシィのお父さんは僕に今後一切干渉するなって言ってきてるから」

「....やっと友達が出来たと思ったのに...」

 

そう言って俯くルーシィにクジャは迷ったが、ルーシィの頭を撫でて優しく言った。

 

「君の友達になれて嬉しいよ。でも、僕は契約で来ているからね。契約者からの言葉には従わないと。安心しなよ。ここで会ったのも何かの縁、またいつか会えるさ」

「ここに住めないの?」

「悪いね。僕はフェアリーテイルの人間だから」

 

クジャがそう言うと、ルーシィは何かを決めたような顔で頭を上げた。

そして、笑顔で一言。

 

「じゃあ、私が会いに行く!私も魔導師になって、フェアリーテイルの魔導師になる!」

 

ルーシィがそう言うと、クジャは少し笑って言った。

 

「ふふふ...なら、待ってるよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、朝早くにクジャはハートフィリア家の門前にいた。

門前には初日と同じようにスペットがいた。

スペットはクジャに近づくと、袋を差し出した。

 

「こちらが、今回の報酬となります」

「たしかにいただきました。それでは、僕達はこれで」

「...お嬢様にお会いにならなくてもいいのですか?」

「会ったら彼女が辛くなるだけですよ。それに、置き土産はしておいたので、問題はないかと」

「左様ですか」

「それでは」

 

クジャはそう言うと銀竜に飛び乗り、銀竜はクジャが乗ったのを確認してフェアリーテイルへ飛び立った。

 

 

それを窓から見ていたルーシィは様々な色に変わる宝石の首飾りと金色の鍵を握りしめた。




今回でこの章は終わり、次回からは原作に入っていきます。


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第1章:少女と死神の再会
出会う少女とサラマンダー


今回からやっと原作に入ります。


潮風と潮の香りが心地よい、それなりに活気のある港町。

そんな港町を、1人の少女が歩いていた。

その顔は不満そうで、先程購入した銀色の鍵を睨みながら悪態をついていた。

 

「まったく、私の色気は2000Jだって訳?!」

 

そう不満を漏らす少女の首飾りには色が変わり続ける宝石がついており、その首飾りから羽のついた妖精が出てきて慰めた。

 

『きっとルーシィがタイプじゃなかっただけよ。あんな老いぼれのお爺さんの言う事、気にしなくていいわ』

「うーん...まあいっか。それとシルフ、勝手に出てきちゃダメだって、ここ外よ」

『あ、ごめん、戻るわね』

 

そう言って、シルフと呼ばれた妖精は宝石の中に戻り、ルーシィと呼ばれた少女は町を歩く。

その最中、女性の人だかりを見つけて立ち止まった。

人だかりは1人の男性を中心に展開されていた。

 

「キャー!♡サラマンダー様よー!♡」

「サラマンダー?あの?」

 

人だかりの1人が発した声に気になってルーシィが近づくと、サラマンダーと呼ばれた男性を見た瞬間、異変が起きた。

 

「な、何...この胸のドキドキは...カッコイイ♡」

 

ルーシィは何かに取り憑かれたようにサラマンダーに近づいて行く。

その最中、何者かに突き飛ばされた。

 

「いった!」

「イグニー...ルじゃない...」

「人違いだったね」

「僕が子猫ちゃん達に囲まれてるからってがっかりしないでくれたまえ。ホラ、僕のサインをあげよう」

「いらね」

 

ルーシィを突き飛ばした桜髪の少年はサラマンダーから渡されたサインを即答でいらないと答えた。

すると、サラマンダーの周りにいて羨ましがっていた女性達が少年に激怒し、少年は訳がわからない間に女性達にボコボコにされた。

サラマンダーはそれを気にもとめずに魔法を使って去った。

 

「今夜、僕の船でパーティーをやるから是非来てくれたまえ!」

 

そう言って去っていったサラマンダーを追いかけるようにして女性達は少年を殴るのをやめて走っていった。

殴る蹴るの暴行を受けていた少年に青い猫とルーシィが近づく。

 

「ナツ、大丈夫?」

「おぉ...」

「最っ低よね。あそこまでしてモテたいのかしら」

 

そう言って不機嫌なルーシィにナツは聞く。

 

「お前誰だ」

「私はルーシィ。さっきはありがとう。お陰で助かったわ。そっちは?」

「俺はナツ。コッチは相棒の」

「ハッピーだよ」

「喋った!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3人が出会った数分後、3人は近くの飲食店で一緒に食事を取っていた。

 

「さっきは本当にありがとうね。お陰で助かったわ」

「俺なんかしたか?」

「あの男がしてた指輪、チャームって言う人を魅了する魔法をかける指輪なの。もう販売も禁止されてる物なのよ」

「へぇ、ねぇルーシィはなんでこの街に来たの?」

「私ね、フェアリーテイルに入りたいんだ。ある人と約束したの。でも、小さい頃に会ったキリで、もう名前も姿も殆ど覚えてないんだけど、フェアリーテイルまで私が会いに行くって約束だけは忘れてないんだ!あ!フェアリーテイルって言うのは魔導師のギルドでね!スッゴイ人達が集まるところで...!きっと入るのも厳しい試験とかあるんだろうなぁ!」

「いや、そんなのないぞ」

 

ナツの言葉は聞こえていない様にルーシィはマシンガントークを続ける。

しばらくして何かを思い出した様に机にお金を置いて立ち上がる。

 

「助けて貰ったお礼に私が払うわ。これで足りると思うか...」

「「ごちそうさまでした!!」」

「やめて恥ずかしい!!」

 

ルーシィの言葉にナツとハッピーは土下座し、ルーシィは叫ぶ。

ナツ達が起き上がってまた食べだしたのを見て、ルーシィは店を出た。

先程までのルーシィの話を聞き、ニヤリと笑った者がいることに気づかずに。



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フェアリーテイルのサラマンダー

リアルが忙しく、なかなか執筆出来ず、申し訳ありませんでした。
しばらく不定期になりそうです。


ルーシィはナツと別れた後、公園で雑誌を読んでいた。

雑誌の名前は『ソーサラー』

ソーサラーには先程ルーシィが話していたフェアリーテイル等の魔導士についての情報が記載されていた。

 

「村を半壊ってやりすぎ。相変わらずぶっ飛んでるわね。あーあ、フェアリーテイル、入れるかなぁ」

「フェアリーテイルに入りたいのかい?」

「?!」

 

突如聞こえた声にルーシィが視線を投げると、そこには先程違法な魔法道具を使っていたサラマンダーがいた。

ルーシィは軽蔑の視線と共に言葉を投げかける。

 

「なに?言っとくけど、私にはもうチャームは効かないわよ」

「おやおや、気の強いお嬢さんだ。」

 

ルーシィが警戒して腰の鍵ホルダーと首飾りに手を持っていくと、サラマンダーは両手を上げて降参のポーズをした。

 

「なにもしないよ。それよりもキミ、フェアリーテイルに入りたいんだっけ?」

「それがなに?」

「僕がマスターに言って入れてあげようか?僕にかかればキミを入れるのなんて雑作もないよ?」

「サラマンダー様♡」

「君変わり身はやいね?!」

 

サラマンダーの言葉にルーシィは即座に食いつき、猫撫で声で接した。

サラマンダーは若干引きつつもルーシィに笑顔で言う。

 

「じゃあ、今日の9時に僕の船のパーティーに参加してね。待ってるよ」

「はーい♡」

 

サラマンダーが片手を上げて去っていくとルーシィは冷めた顔をしながら宿に戻った。

宿でルーシィがパーティーに参加する為の服を来ていると、宝石からシルフが出てきた。

 

『ねぇルーシィ、本当にあの男についてくの?』

「なに?シルフは不満?」

『だって、ルーシィはあんなにフェアリーテイルに入るために頑張ってたのに、最後の最後で人の力を借りるなんて』

「たしかにそうだけど、私はどうしてもフェアリーテイルに入りたいの。どんな手を使っても、絶対に」

 

そう言うルーシィの瞳はどこか曇っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時刻は夜10時

パーティに参加する人は皆船に乗り込み、船は出航した。

ルーシィはサラマンダーと2人きりで食事を楽しんでいた。

 

「いやぁ、それにしても、君はどうしてフェアリーテイルに入りたいんだい?」

「フェアリーテイルは私の憧れなんです。それに、フェアリーテイルでどうしても会いたい人がいて」

「へぇ、まあ、フェアリーテイルにはたくさんの魔導士がいるからね。探すのも大変だろう。僕が探し人までエスコートしてあげるよ」

「あ、ありがとうございます〜」

 

サラマンダーの馴れ馴れしさに嫌悪感が顔に出そうになったルーシィだが、自分に言い聞かせて押し込める。

そんなルーシィに構わずサラマンダーがグラスに入った飲み物を魔法で浮かせ、ルーシィの口元へ飛ばす。

 

「ほぉら、口を開けて。フルーティーで美味しいよ」

 

サラマンダーに言われ、ぎこちなく口を開けたルーシィだったが、飲み物が口に入りそうになった瞬間手を振るって飲み物を弾き、怒りを表した顔で問い詰めた。

 

「どういうつもりかしら?睡眠薬よね」

「ほぅ、よく分かったね」

「勘違いしないでよね。私はフェアリーテイルには入りたいけどアンタの女になる気はないのよ」

「しょうがない娘だなぁ。素直に眠っていれば痛い目みずに済んだのに...」

 

ルーシィの言葉に本性を表したサラマンダーが仲間に声を掛けると十数名の男達が出てきた。

ルーシィがすぐに鍵のホルダーに手を伸ばすが、すぐに仲間の1人に捕まってしまう。

 

「くっ、離して!!」

「兄貴、コレ、どうします?」

「女の方に傷は付けるなよ。なかなかの上玉だ。ふーん、星霊魔導士か。その鍵は捨てていい。契約者にしか使えないからな」

 

サラマンダーの言葉を聞いた男はルーシィの鍵を海に投げ捨てた。

ルーシィは恨みを込めた目で睨みつける。

それをサラマンダーは勝ち誇った顔で眺める。

 

「他の乗客達は?!」

「全員、コレから奴隷になるのさ。キミも含めてね」

「ほんっとに最低ね!コレがフェアリーテイルのやる事か!」

「おおっと、何を勘違いしてるか知らないけど、俺はフェアリーテイルの人間じゃないんだぜ?変な言いがかりはやめて貰おうか」

 

サラマンダーの言葉にルーシィは騙されていたと知り、悔しそうに顔を歪める。

その時、船の甲板にいた男を空から降りてきたナツが殴り倒した。

ナツは怒りに満ちた目でサラマンダーを見る。

 

「フェアリーテイルの名を騙ったのはてめぇか!俺はお前なんて知らねぇぞ!!」

「なんだ?...ああ、キミ、昼間のか。なんだい、生憎今は忙しいからねえ。熱狂的なファンなら後から...」

「が!」

「きゃあ!」

 

サラマンダーの話を聞かずにナツはルーシィを拘束していた男を殴り、ルーシィを空に投げ飛ばした。

咄嗟のことにルーシィは目を閉じるが、何かに掴まれた感覚で目を開けると、羽を生やしたハッピーがルーシィを掴んで飛んでいた。

ナツはハッピーに叫ぶ。

 

「ハッピー!」

「あいさー!」

「え!ちょっと、ナツはいいの?!」

「ナツは強いから大丈夫だよ」

 

ハッピーの言葉にルーシィがナツを見ると、ナツは乗り物酔いで船に沈んでいた。

 

「ちょっと?!アレ大丈夫なの?!」

「...........多分」

 

ルーシィがナツの状況に焦っているとハッピーが話しかけた。

 

「ねぇルーシィ」

「なに?!」

「魔力切れた」

「え?!」

 

ハッピーが言い切ると、ハッピーの羽が消え、2人は海に落ちていく。

海に落ちる衝撃に備えた2人は何かに受け止められた。

2人が恐る恐る目を開けると、そこには紫色のローブを着て黒いリボンを巻き付けたトンガリ帽子を被った黒のワルツがいた。

黒のワルツは呆れたように言う。

 

『ルーシィ、貴方は我々がいる事を忘れていたな?』

「ご、ごめん!すっかり忘れてたわ」

「ルーシィ、この人誰?ルーシィの恋人?」

「違う!!」

『違う。我は黒のワルツ1号機ことアインス。ルーシィと契約している召喚獣だ』

「召喚獣ってなに」

 

アインツが自己紹介し、ハッピーが更に質問していると、ルーシィは思い出したように叫ぶ。

 

「あ!私の鍵!!」

『問題ない。私が持っている』

「増えた!!」

ルーシィが声を上げると同時に今度は青いリボンを結びつけたトンガリ帽子を被った黒のワルツが飛んできた。

その手には鍵束が握られている。

 

『私は黒のワルツ2号機ことツヴァイだ。ルーシィ、ドライはあの男を助けに行った』

「そっか、ありがと」

 

4人がそうやって話していると、3人目の黒のワルツが飛ばされて来た。

ツヴァイは慌てて受け止め、どうしたのかを聞く。

 

『おい、どうした』

『あの方...加勢に来たと言っても聞く耳を持ってくださらなかったですが、何故でしょう』

『敵味方の区別がつかない程の興奮...バーサクでも使ったのか?』

『それならば我々はもう近づかぬ方が得策か。バーサクを使われたのであれば味方は近づかぬ方がよかろう』

「ナツはバーサクとかいう魔法を使わないよ?」

「ワルツ達、考察始めると長いから...あ!そうだ、あの船には女の子達が乗ってるの。どうにかして押し返せないかしら...」

 

ルーシィはしばらく考え込んだ後、アインスに指示を出す。

 

「アインス!あの船を押し返すから海に降ろして!」

『承知』

「ツヴァイ、ドライは船がの方向が港に向かうように誘導して!」

『『承知した/承知しました』』

「ルーシィ、何するの?」

「まあ見てて」

 

ルーシィはそう言ってアインスに海に降ろしてもらい、金色の鍵を取り出した。

 

「開け!『宝瓶宮の扉 アクエリアス』!」

 

ルーシィが言うと鍵が輝き、美しい人魚が出てきた。

ルーシィは人魚に支持する。

 

「人魚!!」

「アクエリアス!あの船を港に押し返して!」

「ああん?!それよりも小娘、今度鍵落としたら...ぶっ殺す」

「は、はい!!」

『正確にはツヴァイが間に合ったから落としてはいないぞ』

「小娘が落とした事には変わりないだろ!!お前らはそういう所だよ!!」

 

アクエリアスの低い声にルーシィは顔を青くし、アインスは冷静に返した。

アクエリアスはアインスに言い返すと手に持っている瓶を振りかぶった。

 

「小娘、1つ言っておく。今度鍵落としたら殺す」

「ご...ごめんなさい...」

「オラァ!!」

 

勇ましい声と共に瓶から大量な水が勢いよく飛び出し、ルーシィとハッピーを巻き込みながら船を港に押し返した。

港で目を回しているルーシィを見てアクエリアスは言った。

 

「チッ船まで流しちまった」

「アタシを狙ったのか!!」

「じゃあな、1週間は呼び出すなよ。これから彼氏とデートだ、彼氏とな」

「2回言うな!!」

 

彼氏と言う言葉を強調してアクエリアスは帰って行った。

そこに黒のワルツ達が飛びよる。

 

『ルーシィ、問題ないか?』

「アインス!アンタ1人だけ逃げたでしょ!!」

『我はツヴァイ達の補助に回っただけだ』

 

ルーシィの追求にアインスは目を逸らしながら答えた。

ルーシィはため息を吐きながら思い出したように言う。

 

「あ!ナツは?!」

「ふっかーつ!!」

 

ナツは船が止まったことにより乗り物酔いから解放され、大きな声を上げた。

船から港に投げ出されたサラマンダーも呻く。

 

「いった...何が起きてるんだ」

「お前がフェアリーテイルの魔導士か?」

「それがどうした?!」

「よォくツラ見せろ」

 

ナツの言葉にサラマンダーは顔を見せた次の瞬間。

 

「オレはフェアリーテイルのナツだ!!おめェなんか見た事ねェ!!」

 

そう言いながら取り巻きを殴り倒した。

ナツの右肩にはフェアリーテイルの紋章があり、そこにいた一同は驚く。

 

「ナツがフェアリーテイルの魔導士?!」

「あの紋章、本物だぜボラさん!!」

「バカ!その名で呼ぶな!」

 

サラマンダーの本当の名前を聞いたハッピーがボラについての話をした。

 

「ボラ、プロミネンスのボラ。数年前『タイタンノーズ』っていうギルドから追放された奴だね」

「おめェが悪党だろうが善人だろうが知った事じゃねぇが、フェアリーテイルを騙るのは許さねぇ」

「えぇい!ゴチャゴチャうるせえガキだ!」

 

ナツがボラに激怒した時、ボラはナツに炎を放つ。

ナツは炎に呑まれたが、燃えていた炎はある1点に集まり消えていく。

炎が無くなった時、炎が集まっていた所にはナツの口があり、炎を食べたナツはボラに文句を言った。

 

「まずい。なんだコレ、お前本当に火の魔導士か?こんなまずい火は初めてだ」

「はぁ?!」

 

一同がナツに驚く中、ハッピーは言った。

 

「ナツに火は効かないよ」

『炎を食す人間がいるのか』

『興味深い』

「食ったら力が湧いてきた!!いっくぞおおおお!!!『火竜の」

 

ナツが魔法を放つ体制をとると、ボラの手下の1人が叫ぶ。

 

「ボラさん!俺はコイツ見た事あるぞ!!桜色の髪に鱗みてぇなマフラー...間違いねぇ!コイツが本物のサラマンダーだ!!」

「咆哮』!!」

 

ナツの口からボラのものよりも強力な炎が吐き出され、ボラ共々吹き飛ばされた。

ナツはボラに近づき、ボラに言う。

 

「よーく覚えとけよ。これがフェアリーテイルの....魔導士だ!!」

 

そう言って炎を纏った拳や足でボラ殴り、蹴りを繰り返す。

ナツの魔法を見ていたルーシィは戸惑う。

 

「本当にこれ、魔法なの?!」

「竜の肺は焔を吹き、竜の鱗は焔を溶かし、竜の爪は焔を纏う。これは自らの体を竜の体質へと変換させるエンシェントスペル」

「なにそれ?!」

「元々は竜迎撃用の魔法だからね。滅竜魔法。イグニールがナツに教えたんだ」

「竜が竜退治の魔法教えるってのも変な話ね」

 

ルーシィが呟くと、ハッピーは今気づいたと言うような顔をし、それに呆れたアインスがツッコム。

 

『気づいていなかったのか』

「ドラゴンスレイヤー...凄いけど...やりすぎよぉ!!!」

 

そのルーシィの叫びと共にナツの強い魔法が放たれ、港が半壊した。

無残な港の姿にルーシィは叫ぶ。

 

「港がめちゃくちゃー!!」

「あい!」

「あいじゃない!」

『見事に1人でここまで破壊したものだ』

『やっぱりバーサク使ってたんですね』

『恐ろしい奴だ』

「アンタ達も呑気にしないで!!」

 

ルーシィが全員にツッコんでいると、軍隊がやってきた。

 

「軍隊!」

 

ルーシィが言った時、ナツはルーシィの腕を掴んで走り出した。

 

「やべ!!逃げんぞ!」

「なんで私までー?!」

 

ルーシィの叫びに、ナツは笑顔で言う。

 

「だって俺達のギルドに入りてんだろ?来いよ」

 

ナツの言葉にルーシィは笑顔で返事をし、しっかりとした足取りではしりだした。

 

「うん!!」



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