黒騎士は勇者になれない (断空我)
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黒騎士は告白される

ギンガマンをみていて、急に黒騎士愛に覚醒しました。

お試しなので、こんな感じです。

著しいキャラ崩壊があります。


「俺はバーテックスを根絶やしにする」

 

 

 

 

 西暦2015年、世界は天の神という存在によって生み出されたバーテックスによって滅ぼされるはずだった。

 

 だが、それを良しとしない一部の土地神などの神々によって人類全滅は逃れる。

 

 穢れのない純粋な少女が武器を持って戦う“勇者”という存在が現れた。

 

 勇者は人類の兵器を受け付けなかったバーテックスを倒すことができた。

 

 人々を守る存在としてあがめられるようになった。

 

 そんな少女達と俺は戦っていた。

 

 勇者ではないが勇者に近い。

 

 それが俺の状態だ。

 

 勇者は清らかな少女しかなれないといわれている。なのに、どうして俺が勇者になったのか。

 

 バーテックスが現れた日に崖の裂け目に落ちた俺はそこである存在と出会う。

 

 星の守護者、ブルブラック。

 

 俺達が住まう星とは別の星を守護していた騎士。

 

 彼は過去にこの星へきてある存在と戦い、瀕死の重傷を負い、崖の裂け目で動くことなく傷を癒していた。だが、三千年という月日をもっても彼の傷は癒えることがなかった。

 

 そこで、天の神が人を滅ぼそうとしていることに気付いたブルブラックは俺にある契約を持ち掛けた。

 

 

――俺の復讐を果たした後で、体を渡すということ。

 

 

 この時の俺はバーテックスに復讐することだけしか頭になかったことからその契約を飲んだ。

 

 後でわかったことだが、ブルブラックも目的があって地球へやってきたという。その目的を果たすために俺の体を必要として、契約を持ち掛けたのだという。

 

 

 ブルブラックの力を貰うことで俺はバーテックスと戦うことができるようになった。

 

 

――黒騎士ブルブラック。

 

 

 瀕死の彼から貰った力で俺はバーテックスと戦える。

 

 奴らに復讐できるのだ。

 

 初めてバーテックスと戦った時、あの時の気持ちは今でも鮮明に覚えている。

 

 ようやく奴らに復讐できるという歓喜。

 

 戦えるという気持ちは今でも忘れられない。忘れてはいけない。

 

 バーテックスの手によって俺の大事な弟は命を奪われたのだ。

 

 神という存在が人間を見放したという理由で弟の命は失われた。そのことを俺は忘れない。決して、天の神を許さない。

 

 そして、四国。

 

 唯一残されたこの土地こそが、人類の生活できる楽園だった。

 

 そんな場所を俺は出ていこうとしていた。

 

 最低限の道具を背負い、腰には愛剣を携えて、香川の丸亀城を抜け出す。

 

 四国を出て、バーテックスを殺す。

 

 そして、いつかは天の神を叩き潰す。

 

 復讐のために俺は生きている。

 

 安住の地など必要ない。

 

 俺は復讐者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そのはずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにいくつもりだ?黒騎士」

 

 城を抜け出したところで俺の前に現れる少女。

 

「乃木若葉か」

 

「若葉さんだけではありませんよ?」

 

 いつの間に現れたのか俺を包囲するように複数の少女がいた。

 

「黒騎士さん!どこにいくつもりですか?」

 

「高嶋か、前にも言ったはずだ。俺はバーテックスをすべて滅ぼす。そのために、外へ出ると」

 

「で、ですけれど、ここで待ち構えていれば」

 

「現れるだろう。だが、外に出れば、嫌でもバーテックスは俺を襲いにやって来るだろう。その方がより、奴らを滅ぼせる」

 

「だから外に出るっていうのか!?自殺するようなもんだ!」

 

「奴らを滅ぼせるなら構わない」

 

 少女達は言葉を詰まらせる。

 

 このまま、俺は外に出ていく、はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乃木若葉のあの一言がなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は黒騎士のことが好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言を皮切りに次々と起こる告白という名の攻撃。

 

 

 

 

「黒騎士君、えっと、その、私、キミのことが大好きです!最初は大切な友達だったんだけど、えっと、その、助けられて、触れられて、励まされて、ドキドキさせられて、だから、この気持ちを伝えます!大好きだよ!」

 

 

「高嶋さんと同じよ。私もあなたのことが好き。いえ、愛しているわ。あの時、貴方が偶然とはいえ、階段から落ちた私を助けてくれたから今の、関係がある。私には貴方が必要なの。もう、貴方がいない生活を考えられない。おかしいと思う?そうね。貴方に出会う前の私なら否定していたと思う。でも、私と貴方は出会った。きっと、貴方に出会った時からどこか狂っているのよ。拒絶しないで、お願い、私を受け入れて」

 

 

「いやー、こういうことタマは無縁だと思っていたんだけどなぁ。でも、お前が悪いんだぞ!あの時、本当なら死ぬかもしれないってところをお前が助けたからさ。最初は気に入らない奴って思っていたんだが、いつの間にか頼りになる存在に見えて、仕方がなくて、どうしようもないくらい大事に見えて、いつの間にか目で追いかけて、気になって仕方がなかった。今もその気持ちにウソ偽りはないぞ。タマはお前のことが好きだ!」

 

 

 

「私も、最初はとても怖い人だと思っていました。でも、貴方は深い悲しみに沈んでいただけなんです。だって、ただ復讐に支配されているのなら、私とタマっち先輩を助ける事なんて、絶対にありませんでした。あの時、貴方は体を貫かれながらも私達を守ってくれました。だから、惚れてしまいました。その小説や物語であるような展開が、目の前で起こって、それが私だったことで、もう、自分を抑えられなくて、いつからか、黒騎士さんのことを目で追いかけて、そして、気付いたんです……タマっち先輩と、私と、黒騎士さん、皆さんと一緒ならきっと幸せになれます。貴方の傷を癒すことだって、絶対、できます」

 

 

 

「おかしいですよね。私、若葉ちゃん一筋だったのに、いつの間にか、貴方のことを目で追いかけるようになって、どこかで気づいていたのかもしれません。貴方がいれば、若葉ちゃんやみんなを守ってくれるって……ですから、貴方を一人で四国の外に出すなんてことは絶対にさせません。何があろうと貴方やみんなと一緒に居たい。くすっ、狂っていると言いますか?きっと、他の人がみたらそういうでしょう。ですが、私達はこれでも一途です。何年、何十年、何百年経とうとこの気持ちは決して薄れることはありません」

 

 

 

 

 

「最後は私だ。黒騎士。お前と私はどこか似ていると、前に言ったな。今はわかる。きっと、同じ理由でバーテックスを憎んでいたからだ。最初は同胞ができたと思っていた。だが、お前は私と異なり、目の前に復讐する存在がいながらも傷つくかもしれない者がいれば、そちらを優先する。とても心の優しい存在だ。他のものと違って特別な絆があるわけじゃない。だが、私はお前のことが好きだ。好きになることに大きな理由などはいらない。その言葉は本当だったな。私、乃木若葉は黒騎士、お前のことが大好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国にいる勇者と巫女。

 

 その連中に俺はどういうわけか告白された。

 

 しかも、一人一人がわざわざ、俺の前に立って。

 

 目をまっすぐに見つめてくるが、いつもと異なって全員が不安に揺れている。

 

 この告白が異常だということを理解しているのだろう。だが、それよりも気持ちが勝って止められない。

 

 相手が暴走しているから逆にこちらが冷静になってしまっていた。

 

 

 

 

――なんだ、これは?

 



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黒騎士が生まれた日

このシリーズは短編のつもりです。

今回は黒騎士誕生のお話なので、のわゆ話皆無です。




「俺はバーテックスをすべて殺す」

 

 廃墟の街中。

 

 腰には一振りの剣を携えている。

 

 剣の中心に埋められている緑色のクリスタルが光の反射で煌めく。

 

 そして、全身を黒い鎧を纏っている。

 

 頭部には金色の角があり、顔はバイザーのような兜で隠されていた。

 

 この世界は滅びの危機を迎えている。

 

 天の神という存在が人間を見限り、滅ぼすために生み出した存在“バーテックス”。

 

 バーテックスによって世界中は火の海と化して、生き残っている人間は日本の四国しか存在しない。

 

 だが、俺は四国ではなく、諏訪の方にいた。

 

 俺の後ろには諏訪から四国へ向かおうとしている普通の人々がいる。

 

 大人が少しとたくさんの子供。

 

 誰もが疲弊した表情をしながらも助け合い、四国を目指す。

 

「隠れろ」

 

 俺の言葉に大人たちが子供を廃墟の中に隠す。

 

「出てきたな?」

 

 目の前に白い怪物が現れる。

 

 目や鼻はない、人を食らう口のみが存在する怪物。

 

 

――バーテックス。

 

 

 人を滅ぼすために神が生み出した存在。

 

 そして、俺の憎むべき存在。

 

 俺は腰の剣を抜く。

 

 奴らを根絶やしにすることが今の俺の生きる理由。

 

 そのために、俺は生きている。

 

 腰から愛剣となったブルライアットを引き抜く。

 

 漆黒の肩から後ろへ伸びるマントが風で揺れる。

 

「黒騎士様!」

 

 隠れていた子供の一人が叫ぶ。

 

「隠れていろ」

 

 ちらりと俺は一瞥して冷たい声で告げる。

 

 ブルライアットをショットガンモードにして目の前のバーテックスを射抜く。

 

 すぐにわらわとバーテックスが現れてくる。

 

 セイバーモードに切り替えるとともに逆手に持ち替えながらバーテックスの体を切り裂く。

 

 背後から迫るバーテックス。だが、遅い。

 

「黒の一撃!」

 

 叫びと共に放たれた一撃でバーテックスは両断される。

 

 バーテックスはまだまだいる。

 

 地面を蹴りながら宙へ舞い上がるとそれをチャンスと見て口を開けて襲い掛かる個体がいた。

 

「甘い!」

 

 

 

――黒の衝撃。

 

 

 放った必殺ともいえる一撃で大型バーテックスは地面に落ちた。

 

 着地するとともにマントを翻す。

 

 バーテックスの群れは既にいない。

 

「ちまちまと倒しているだけでは意味がないか」

 

 黒騎士の姿から人の姿に戻った俺は悪態をつく。

 

「本当ならこのまま攻め込みたいところだが」

 

 ちらりと廃墟から顔を出している連中の姿を見る。

 

「無視してやりたいが……アイツらが枕元に立たれても面倒だ。約束を果たすとしよう」

 

 諏訪にいた時、俺は勇者と巫女という存在と知り合った。

 

 こんな世界になった時に俺と“似た”ようにバーテックスと戦う力に覚醒した者。それを勇者、人間を滅ぼすことを反対する神の声を聴く巫女。

 

 そんな二人の少女と出会い、彼女達に頼まれて俺は生き残りを四国へ連れていくことを約束させられた。

 

 四国には諏訪よりもたくさんの人達が“神樹”という存在によって守られ、複数の勇者がバーテックスと戦っているという。

 

 誰かと関わることに興味のない俺だが、四国に行けば無数のバーテックス、そして、生み出している天の神とやりえるチャンスがあるかもしれない。

 

 だから、俺は四国を目指す。

 

 ついでにこいつらを届けてやる。

 

 それなら、死んでいったあの二人も文句を言わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蔵人……あれから、もう何年経つんだろうな」

 

 

 

 鎧に包まれた手の中、小さなペンダントだった欠片をもちながら俺は空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーテックスが現れた日。

 

 俺が復讐者になった日を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーテックスが現れるまで、俺はどこにでもいる普通の子供だった。

 

 少し違いがあるとすれば、親が転勤族だったということだろう。

 

 学者で各地を転々としていた。

 

 二年くらいその地にとどまっていればいい方だった。

 

 俺は気にしなかったのだが、幼い弟は辛かった。幼いながらに各地を転々として友達ができない。そのことからいつからか、弟の表情に笑顔が消えていった。

 

 気付いた俺は、両親に頼み込んで親と離れて暮らすことにした。

 

 研究ばかりだった両親も弟の表情から流石にまずいと感じたのだろう、だが、研究を止めることができないということから離れることを決める。

 

 勿論、最初は苦労ばかり、慣れない料理や家事などで悪戦苦闘しつつも弟の、蔵人(クラウト)のために頑張ってきた。

 

 仕送りももらえたからなんとか生活をしてきた。

 

 生活が安定してくると弟の笑顔も増えてくる。

 

 これでよかった。俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーテックスが現れた日。

 

 あの日のことを俺は鮮明に思い出せる。

 

 俺は弟と一緒に海の方へ遊びに来ていた。

 

 弟が俺に海を見に行きたいといいだしたからだ。近くに海があることから、俺は弟と電車でいくつかの駅を乗り継いで海へやってきた。

 

 海を見て弟はとても興奮する。

 

 俺も海を楽しもうとした時、その時だ、悲鳴が聞こえた。

 

 悲鳴の方を見ると白い怪物が人を食べている。

 

 そう、人を食べていたのだ。

 

 むしゃむしゃと頭を丸かじりにしている。

 

 その光景に俺は弟の手を引いて走り出す。

 

 逃げ出した俺達に気付いた怪物が追いかけてくる。

 

 白くて細長い虫のような怪物は信じられない速度で迫ってきた。

 

「蔵人!逃げろ!」

 

「兄さん!?でも!」

 

「いいから!」

 

 弟を逃がして俺は転がっていた木の棒で怪物を引き付ける。

 

 しかし、怪物は木の棒で殴った程度で傷つくような存在じゃなかった。

 

 尻尾で叩きつけられただけで俺の腕はマッチ棒のようにへし折れた。

 

 激痛で涙を零しながらも蔵人を、弟を守るために奮闘する。

 

 だが。

 

「兄さん!!」

 

 聞こえた声に俺は顔を上げる。

 

 そこにいたのは別の“白い”怪物。

 

 口を開けて弟に迫っている。

 

 泣きそうな顔をしながらも蔵人は傍にあった石を投げていた。

 

 蔵人を守ろうと立ち上がる。

 

 けれど、俺の手は弟に届くことがない。

 

「兄さん!」

 

 白い怪物が口を広げて弟を飲み込んだ。

 

「あ」

 

 バクンと弟の手から先が怪物の中に消える。

 

 俺の前にとんでくるのは弟の手だったもの。

 

「ああ」

 

 ベチャッという音と共に目の前に手が落ちてくる。

 

 顔に数滴の血がかかった。

 

「あぁあああ、ぁああああああああああああああああああああああああ!」

 

 救えなかった俺は叫びをあげた。

 

 そんな俺も食らおうと怪物が迫って来る。

 

 白い怪物に食われて、俺も――。

 

 絶望で動けない、その時、赤い光と共に何かが落ちてきた。

 

 衝撃と地割れで吸い込まれるように俺は裂け目の中に消える。

 

 これで、死ねる。

 

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この時、俺の運命が決まった瞬間だと、わかっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裂け目の中は光も差し込まない闇に支配されている。

 

 そんな中に落ちた俺の体はボロボロだった。

 

 片腕は折れて、足もおそらくひびが入っている。動くたびに激痛が起こる。

 

「一思いに死ねないっていうのも、案外、辛いんだなぁ」

 

 体が全く動けない闇の中で自虐的な笑みを浮かべる。

 

 弟を救えなかったという事実が頭からこびりついて離れない。

 

 深い闇の中で俺はひたすら後悔する。

 

 どうして、海に行くことを了承したのか。

 

 弟を逃がさなければよかったとか。

 

 もっと俺が強かったら。

 

 力があれば。

 

 奴を殺せるほどの力が俺に、もっとあれば!!

 

 後悔から次第に俺の気持ちは殺意、復讐という感情に染まっていく。

 

 どうして、俺が殺されかけなければならないのか。

 

 どうして、弟が、蔵人が死ななければならないのか。

 

 その理由は、決まっている。

 

 奴らだ。

 

 あの白い怪物、

 

 あれがいたから、俺達はこんな目にあったんだ。

 

 

――赦さない。

 

 

「俺は、奴らを殺す」

 

「そうか」

 

 暗闇の中で声が響いた。

 

「誰だ!?」

 

 警戒するように叫ぶ。

 

「警戒するな。お前の敵ではない……姿を見せてやりたいが、生憎、お前と同じくらい私も傷だらけだ」

 

「……誰なんだ」

 

「私はブルブラック、この星とは別の星を守っていた騎士だ」

 

「騎士?やべっ、幻聴か?」

 

 直後、頭の中にある映像が流れ込む。

 

 地球とは違う別の惑星。

 

 緑あふれる綺麗な星。

 

 星を巨大な影が覆いつくし、そして、飲み込まれる。

 

 そんな映像が流れ込んだ。

 

「今の……」

 

 

「私の記憶だ。信じてもらえたか?」

 

「こんなことされたら信じるしかないだろ……それで、俺に何の用だよ」

 

「バーテックス」

 

「は?」

 

「私の記憶を流し込むと同時にお前の記憶を覗かせてもらった。お前を襲った存在はバーテックス。天の神が作り出した先兵だ」

 

「天の神?」

 

「どうやら、奴は人類を見限ったようだな」

 

「どういう、ことだよ」

 

 ブルブラックから伝えられたのは腸が煮えたぎるような話だった。

 

 天の神が人類を滅ぼすことにして、生み出した存在。

 

 それがバーテックス。

 

 バーテックスは人を、世界を滅ぼすために生み出されたらしい。

 

「勝手過ぎる」

 

「神という存在はそんなものだ。自分勝手に生み出して、勝手に消し去る。そういったものだ」

 

「……ふざけんな」

 

 拳を握り締める。

 

 神だが、なんだか知らない、そんな奴の勝手で、蔵人は……弟は命を奪われたというのか?

 

 赦せない。

 

 俺は天の神を赦さない。

 

「落合日向……お前は天の神に復讐をしたいか?」

 

「ああ、したい。だけど、俺は」

 

 悔しいが俺じゃ、天の神に太刀打ちできない。

 

 先兵のバーテックスすら戦えなかったんだ。

 

 そんな俺が奴らと戦うなんて、夢物語もいいところ。

 

「復讐を望むというのなら……私と契約しろ」

 

「契約?」

 

「そうだ、私の力をお前に与えよう。そうすれば、お前でもバーテックス、もしかしたら天の神と戦えるかもしれない」

 

「……どうして、そんな提案を俺にする?」

 

 ブルブラックの話が本当なら俺は望んで受け取るだろう。

 

 だが、そうする理由がわからない。俺に与えなくてもブルブラックが戦うことも出来るはずだ。

 

「私は過去の戦いにおいて受けた傷が癒えていない。今のままではバーテックスにすら苦戦するだろう。だから、お前に持ち掛けた。私の力を与える。だが、条件がある」

 

「条件?」

 

「お前が天の神を倒した時、その体を私に与えること。それが条件だ」

 

「……わかった」

 

 ブルブラックがどういう理由で俺の体を求めるのかわからない。

 

 だが、応じれば力が手に入る。

 

 奴らを殺せる力が手に入るというのなら、俺は喜んで体を差し出そう。

 

 弟が死んだ今、俺に生きる理由はない。

 

 あるのは、身勝手な理由で弟を殺した天の神に思い知らせてやること。

 

「ならば、ブルライアットを受け取れ。お前に黒騎士ブルブラックの力を授ける」

 

「ああ、ブルブラック。アンタの力を受け取る!」

 

 暗闇の中から現れた黒い鞘に納められた剣。

 

 緑色の宝石が輝く剣を手に取る。

 

 握り締めた時、俺の頭に浮かんだ単語を紡いだ。

 

「騎士転生……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーテックス達が跋扈する海岸。

 

 そこに人の姿はない。

 

 生きていた人たちは根こそぎバーテックスに食いつくされてしまった。

 

 突如、裂け目から光があふれる。

 

 その中から飛び出したのは漆黒の鎧にマントを纏った騎士。

 

 頭部の左右に伸びる金色の角、そして、額と胸部に輝くクリスタル。

 

 腰に愛剣、ブルライアットを携えた黒騎士ブルブラック。

 

 ブルブラックの力を手にしたヒュウガはブルライアットを抜いた。

 

 彼に迫るバーテックス達。

 

 近づいてくるバーテックスの一体を鞘から抜いたブルライアットで切り裂く。

 

 両断されたバーテックスは消滅。

 

「ガンモード」

 

 ブルライアットを鞘に戻してショットガンモードにすると遠くにいたバーテックスを狙撃する。

 

 撃ち抜かれたバーテックスは消えさった。

 

 次々とバーテックスが迫って来る。

 

 セイバーモードにブルライアットを切り替える。

 

「黒の一撃!」

 

 近づくバーテックスはブルライアットの斬撃で切り伏せる。

 

 目の前に巨大な口を開けて迫るバーテックス。

 

「邪魔だ」

 

 

――黒の衝撃!

 

 

 放った一撃で巨大なバーテックスも切り伏せる。

 

 その時、揺れが起こった。

 

「……これは」

 

 衝撃と共に地面の中から巨大なバッファローのような生物が現れる。

 

「……そうか、お前はゴウタウラス」

 

 唸り声を上げながら姿を見せたのは巨大な星獣。

 

 火山の星、タウラスに住まい、黒騎士ブルブラックと共に戦ってきた。

 

「重星獣、ゴウタウラス」

 

 頭の中に流れる情報。

 

 ブルブラックから教えられた相棒の存在を見る。

 

 現れたゴウタウラスは残りのバーテックス達を踏みつぶして、目の前にやってくる。

 

 彼の中にブルブラックの存在を感じ取ったのか、嬉しそうな声を上げた。

 

「ゴウタウラス……俺はブルブラックではない。だが、ブルブラックの力を宿している。だから、というわけじゃないが俺に手を貸してくれ。俺は天の神を滅ぼす!」

 

 風でマントが揺れる中で黒騎士となった彼はゴウタウラスに己の覚悟を告げる。

 

 ゴウタウラスはそんな彼の覚悟に答える様に空へ吼えた。

 

「……感謝する。ゴウタウラス、行こう」

 

 歩き出そうとした黒騎士、その足元で何かが当たる。

 

 視線を向けると光を受けて反射する割れたペンダントのようなものがあった。

 

「これは……」

 

 ペンダントの欠片を手に取る。

 

「間違いない……蔵人が持っていたものだ」

 

 欠けているが、黒騎士は見間違えることがない。

 

 それは両親と別れて生活する際に母親が蔵人へ渡したもの。

 

 お守りとして母が蔵人にプレゼントしたものだ。

 

「……蔵人」

 

 壊れたペンダントを俺は手の中で握り締める。

 

「俺は必ず、復讐を果たそう!必ず、バーテックスを、天の神を殺すと!」

 

 兜などで顔は隠れてみえないが、彼の顔は泣いていたことを知るものは誰もいない。

 

 

 

 

 そして、戦いの舞台は四国へ。

 

 

 



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黒騎士と乃木若葉の決闘

「黒騎士!いるか!」

 

 香川の丸亀城。

 

 バーテックスによって世界が蹂躙されている現在、この城こそが勇者の住まう場所であり、人々を守る最後の砦でもある。

 

 一室。

 

 そこに勇者のリーダーである乃木若葉がノックもせずに中へ入った。

 

 本来ならそんなマナー違反のようなことをしない彼女なのだが、今回はそのようなことをしなければならない事態だった。

 

「チッ!いない!」

 

 手に刀袋を握り締めた彼女は室内に誰もいないことを確認すると外へ飛び出す。

 

 本来なら彼女と共に上里ひなたも一緒に居るはずなのだが、彼女は先日の疲労が残っており、部屋で休んでいた。

 

 ちなみに現在時刻、朝の五時。

 

 早朝から乃木若葉は元気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国の結界の近く。

 

 そこに黒騎士はいた。

 

 彼の傍には重星獣ゴウタウラスの姿もある。

 

「バーテックスの姿はなかったか」

 

 黒騎士の問いかけに答えるゴウタウラス。

 

「すまなかったな。今は休むといい」

 

 その言葉に頷いてのしのしとゴウタウラスは離れていく。

 

「四国周辺を狩るだけでは意味がないな。やはり」

 

 外に出るべきか。

 

 考えていたことをそろそろ実行に移すべきかもしれない。

 

「見つけたぞ!」

 

 そんなことを考えていた黒騎士は聞こえた声に振り返る。

 

 現れたのは木刀を手にしている乃木若葉。

 

 あちらこちら走り回ったのか少しばかり呼吸が乱れている。

 

「乃木若葉、何のようだ?」

 

 彼女は呼吸をすぐに整えるとビシッと黒騎士を指さす。

 

「決闘だ!忘れたのか!?」

 

「……何のことだ?」

 

 いきなりのことに流石の黒騎士も困惑する。

 

 乃木若葉とは仲がいいわけではない。衝突もあるが、いきなり決闘と言われるような覚えはなかった。

 

 異変に気付いたのか戻ってきたゴウタウラスも不思議そうにしていた。

 

「お前!二日前に、私が置いた手紙を読まなかったのか!?」

 

「……手紙というのはこれのことか?」

 

 黒騎士は懐から取り出したのは白い封筒。ただし、今時の若者が使うような便箋でなく、時代劇でみるような形のものだ。

 

「そうだ!届いているではないか!」

 

「いや、お前」

 

 怒っている乃木若葉に珍しく、固い口調が崩れている黒騎士は中身を見せる。

 

「決闘じゃなく、デートの申し込みになっているんだが」

 

「…………なに?」

 

 黒騎士から渡された手紙を覗き込む若葉。

 

 しばらくして、顔が面白いくらいに真っ赤になった。

 

 目がグルグルと渦を巻いている。

 

 ゴウタウラスが黒騎士に問いかける。

 

 

――彼女は大丈夫なのかと。

 

 

 鳴き声からそのことを察した黒騎士はため息を零しながら若葉に近づく。

 

「乃木若葉、大丈夫――」

 

「この勝負は預けた!」

 

 一言告げると信じられない速度で海岸から離れていく。

 

「…………鉄砲玉か」

 

 残された黒騎士はぽつりと呟いた。

 

 小さく同意するようにゴウタウラスも鳴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひなた、どういうことだ!?」

 

「何のことです?」

 

「手紙のことだ!」

 

「ああ、それですか?若葉ちゃんが忙しいということで私が代わりに嗜んでおきました」

 

「頼んでいないのだが?」

 

「そうでしたか?ほら、好きだという気持ちはちゃんと伝えないと」

 

「自分でできる!私はアイツを外へいかせないために決闘を申し込んだつもりだったのに……あんな、恥ずかしいことになるなど」

 

 顔を赤らめて、あの時の出来事を思い出している若葉。

 

 にこりとほほ笑みながら心の中では若葉フィーバーを起こしているひなた。

 

 片手で巧妙に若葉の恥じらう姿を写メに納めている。

 

 気付かない若葉は拳を握り締める。

 

「こうなったらもう一度、決闘の申し出を」

 

 

「若葉ちゃん、少し聞いていいですか?」

 

「なんだ?」

 

「どうして、黒騎士さんに決闘を申し込むんですか?」

 

「……なぜ、か。奴が実力者だからというのもある。何より、アイツをそのままにしておくと遠くに行ってしまう。それは嫌だとなぜか私は思うんだ」

 

「……あらあら」

 

 若葉が悩む様な表情をしていることに、ひなたは嬉しそうにしていた。

 

「なんだ、ひなた?」

 

「いえいえ、若葉ちゃんもそういう表情をするんですねと思いまして」

 

「からかわないでくれ……問題は黒騎士だ。今日も結界の近くを歩き回っている。バーテックスが現れることを待っているのだろう」

 

「彼はバーテックスを滅ぼすことを強く望んでいますから」

 

「だから、心配だ」

 

 若葉は黒騎士のことを思い出す。

 

 はじめて会った時、彼は諏訪から逃げてきた人たちと共に姿を見せる。

 

 重厚な鎧に剣と携えた姿に勇者たちや大社の人間は困惑した。だが、彼の話を聞いて、驚き、そして、共に戦う仲間とみていた。

 

 だが、彼は若葉達の歩み寄りを拒絶。

 

 一人で戦うことを選んでいた。

 

 バーテックスは日に日に強大になっていく。

 

 今は一人でもいずれは、という可能性もある。だから、共に戦うことを黒騎士に望む。

 

「私は黒騎士を一人にすることを良しとしない。だから」

 

「決闘を申し込むわけですね?わかりました。じゃあ、協力しますよ」

 

「すまない。ひなた」

 

「若葉ちゃんの親友ですもの」

 

「そうだな。助かる」

 

 そうして、二人はある計画を練る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またか」

 

 黒騎士は届いた手紙を見る。

 

 それは決闘の申し出。

 

 手紙の内容を一度、みて、溜息を吐きながらも丸亀城にある訓練エリアにやってくる。

 

「来たな、黒騎士」

 

「何の用だ」

 

「勿論、決闘だ!私が勝ったら、これから仲間として共に戦ってもらうぞ!負けたら……お前のやることに口出しはしない」

 

「……そもそも、俺がここにいるのはバーテックスを殺すためであり、仲間になった覚えはない」

 

「そうだろうな。だが、私達は既に黒騎士、お前を仲間とみている」

 

「…………」

 

 沈黙する黒騎士に若葉は木刀を向ける。

 

「お前がどう思っていようと私たちの想いは変わらない。押しつけと言われても、自分勝手と言われても構わない。お前を独りにはさせない」

 

「うるさい」

 

 バンと黒騎士は拳を近くの壁に叩きつける。

 

「俺に仲間などいらない。俺はバーテックスを滅ぼす。そのためだけでいい。ここにいるのもそれだけ……それだけでいい」

 

 叫びながら黒騎士は置かれている木刀を手に取る。

 

「構えろ、乃木若葉。俺が勝てばお前は俺に関わるな!それが俺の望む勝利条件だ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒騎士の振るわれる木刀と若葉の木刀がぶつかりあう。

 

 勇者の少女と黒騎士の刃は常人には捉えることが難しいほどの速度になっていく。

 

 ひなたは目の前の二人が立っているだけにしかみえない。

 

 だが、わかるものがみれば、高速で竹刀がぶつかりあっている。

 

 若葉は一歩も引かない、黒騎士を独りにさせないために。

 

 黒騎士は前に進む、己の復讐を果たすために。

 

「「これで、終わらせる」」

 

 一度、距離をとり、二人は木刀を振るう。

 

 バッキャアンと音を立てて木刀が握り手から先まで砕け散った。

 

「これは……」

 

「引き分けだな」

 

 ため息を零す。

 

 お互いの一撃で木刀が限界を迎えた。

 

「木刀を代えるという手もありますが?」

 

「同じ結果だ。完全に決着をつけるというのなら、勇者の力を使う必要があるだろう……それを乃木若葉は本意ではないだろう?」

 

「その通りだ。私と黒騎士、貴方はもう仲間だ。勇者装束を纏ってまで決着をつける必要は」

 

「甘いな」

 

 黒騎士は態度を一転させて告げる。

 

「乃木若葉、お前は甘い……俺は復讐者だ。何を犠牲にしても、俺は天の神を滅ぼす。お前のように仲間を大事などしない。お前達がどれだけ仲間だと告げても、俺はお前達を仲間とみない」

 

 拒絶の言葉を吐いて、黒騎士はその場を離れる。

 

「……若葉ちゃん!?」

 

 何も言わない若葉の姿を見てひなたが驚きの声を上げた。

 

 若葉は黒騎士がいなくなると涙をこぼしていた。彼女が泣いていることに気付いたひなたは慌てて駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺は何を悩んでいるのか」

 

 誰もいない場所で黒騎士は空を見上げる。

 

「揺らぐな、忘れるな、俺はなんのためにこの力を手にしたのか、絶対に忘れてはいけないのだ。俺は、勇者ではないのだから」

 

 手の中にある砕けたペンダント、そこに刻まれているものを見つめながら黒騎士は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、黒騎士が合流する直前に下っていた神託によってもたらされていたバーテックスの大規模な侵攻が起こる。

 

 後に“丸亀城の戦い”として記録される出来事。

 

 その中、作戦と連携で戦う勇者とは別に黒騎士は自身の武器で無数のバーテックスを蹴散らす。

 

 途中で集合体のバーテックスが現れるも、背後で控えていた重星獣ゴウタウラスの参戦によって勇者たちは被害者をだすこともなくバーテックスを倒すことに成功する。

 

「おぉ!?凄いな、あの牛!」

 

「タマっち先輩、バッファローだよ」

 

「それって、どっちが違うのかな?」

 

 ゴウタウラスがゆっくりと確実に角でバーテックスを蹴散らしていく姿を見て勇者たちも心強い仲間を得たと思う。

 

 その中、バーテックスの群れの中、敵の返り血で汚れまくっていた黒騎士がいた。

 

「この程度か!バーテックス!」

 

 叫びながらブルライアットでバーテックスを切り裂いていく。

 

 大型バーテックスはゴウタウラスが相手をしていることで黒騎士に小型のバーテックスが集中していた。

 

 そこに乃木若葉が黒騎士を助けるために割り込んだ。

 

「黒騎士!無事か!」

 

「余計なお世話だ。小型は俺が始末する。貴様は仲間の心配でもしていろ」

 

「私が心配しなくてもみんな、自分のやるべきことをやっている。お前は私達と違って休憩もなく長時間、戦闘を――」

 

「奴らを滅ぼすためなら、この程度、問題ない」

 

 ショットガンモードでバーテックを撃ち抜きながら黒騎士は答える。

 

「ゴウタウラス!叩き潰してしまえ!」

 

 黒騎士の叫びと共にゴウタウラスは雄叫びを上げて前足で集合体バーテックスを叩き潰す。

 

「黒の衝撃!!」

 

 ゴウタウラスの強力なパワーで強固な外皮を砕かれた集合体バーテックス。

 

 そこに黒騎士の必殺の一撃が炸裂。

 

 集合体バーテックスは爆発を起こす。

 

「黒騎士……お前は」

 

 樹海化と呼ばれる現象が解除されていく中で、若葉は返り血で汚れている黒騎士の後姿をみているだけしかなかった。

 

 

 

 



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黒騎士が欲しい

ねつ造設定、そして、衝撃的な人物達、登場です。


薄いですが、ヤンデレです。


 

 丸亀城の近くにある寄宿舎。

 

 そこで勇者たちは生活をしている。

 

 勇者とはいえ、彼女達は中学生。当然のことながら学業もある。

 

 他の生徒達とは離れた形で授業を受けていた。

 

 そして、その中に黒騎士の姿はない。

 

「なあ、黒騎士っていくつなんだ?」

 

 ふと、何気ない疑問を球子は漏らす。

 

「そういえば、知らないね」

 

 球子に同意する様に杏も首を傾げた。

 

「年齢もそうだけど、私、黒騎士さんの素顔、みたことないなぁ」

 

 高嶋友奈の言葉に全員が「そういえば」という表情を浮かべる。

 

 自分達が出会ってからというものの、黒騎士は樹海化以外の時はほとんど丸亀城に足を運ぶことはない。

 

「偶に見るとしても海岸とか人がほとんど立ち寄らないところにいることが多いな」

 

 思い出すように若葉が黒騎士を見たところを思い出す。

 

「そもそも、アイツは本当にタマ達の味方なのか?」

 

 疑問を球子は呟く。

 

「タマっち先輩、それは……」

 

「だって、アイツはバーテックスと戦うことにしか興味がないんだぞ!?そもそも、タマ達と戦うっていうんなら素顔くらいはみせるべきだ。いつも真っ黒な鎧に身を包んで、会話もしない。協調性の欠片もない!そんな奴と戦い続けていたら、いつか、誰かが傷つくかもしれない」

 

 球子の不安は勇者たちの中に少なからずあった。

 

 黒騎士は何があっても勇者たちと共に戦うことはしない。

 

 いつも独りだ。

 

 独りでバーテックスの群れの中に飛び込み、全てを蹴散らす。

 

 勇者たちですら疲労を感じるときがあるというのに、黒騎士はそういう感じを全く見せない。それどころか、嬉々として戦場の中を駆け回っている。

 

 

 

 

 

――俺は復讐者だ。

 

 

 黒騎士は挨拶の時に勇者へそう告げた。

 

 自らの言葉を体現するように黒騎士はバーテックスと戦う。その戦い方は己の憎悪をぶつけたやり方。

 

 仲間を大事に思っているからこそ、球子は黒騎士と共に戦うことに抵抗があった。

 

「でも、黒騎士さんは諏訪の人達を四国まで連れてきたんだよ?」

 

 友奈はこの空気をなんとかしたいという気持ちから一つの事実を告げる。

 

 黒騎士は諏訪から逃げてきた人たちを連れて四国にやってきた。

 

「でも、諏訪のことを何一つ、話さないんだよね」

 

 杏の言葉もまた、事実。

 

 黒騎士は諏訪で何が起こったのか、その事実を話さない。

 

 大社の人間は詰問したが逆に黒騎士から刃を突き付けられて、それ以上の追及ができなかったということをひなたは言わなかった。

 

 それをいってしまえば、黒騎士と彼女達の軋轢は決定的なものになってしまう。

 

 ひなたとしても、それは避けなければならない。

 

「(何より……)」

 

 今の自分達に黒騎士は必要な戦力。

 

 それがわかっているからこそ、ひなたはこれ以上の軋轢を生む様な発言はしたくなかった。

 

「……人気のいないところ」

 

 皆が黒騎士に対して議論を重ねる中、一人だけ話に参加しないものがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴウタウラス、体の調子はどうだ?」

 

 誰もいない森林。

 

 俺は休んでいるゴウタウラスへ声をかける。

 

 結界の外に姿を見せるバーテックス。

 

 それらを殺すためにゴウタウラスにも動いてもらっている。

 

「傷が痛むなら無理はしないでくれ」

 

 俺は「大丈夫」だと伝えてくるゴウタウラスに無理だけはするなという。

 

 少し前に結界の外へ抜け出した愚か者がいた。

 

 好奇心に駆られて結界の外に出た愚か者はバーテックスに命を狙われた。

 

 そこにゴウタウラスが現れる。

 

 ゴウタウラスは愚か者を守るために巨体でバーテックスの攻撃を受け続けた。

 

 重星獣ということで小型バーテックスの攻撃など屁でもない。

 

 俺はすぐに駆けつけて、バーテックスを蹴散らし、ゴウタウラスに愚か者を連れて立ち去れと伝える。

 

 戦いが終わった後、ゴウタウラスは少しばかり傷を負っていた。

 

 自然治癒で傷は癒える。だが、無理をさせてはいけない。

 

「ゴウタウラス、俺の力もお前に与える。それで、傷を癒せ」

 

 腰のブルライアットを抜く。

 

 ブルライアットの結晶が輝いて光がゴウタウラスへ向かっていった。

 

 同時に俺の鎧が解除される。

 

 バサッと視界を覆うように前髪が降りてきた。

 

「……この姿へ戻るのも久しぶりだな」

 

 手で前髪を払いのける。

 

 もし、鏡があれば、普通の人間の素顔がそこにあっただろう。

 

 パチン。

 

「誰だ!」

 

 

 すぐ近くで枝の折れる音が聞こえた。

 

 音の方にブルライアットを構える。

 

「……」

 

 木々の中からゆっくりと姿を見せたのは制服の上からワインレッドのカーディガンを羽織り、鞄を肩から下げている女の子。

 

 丸亀城で勇者として戦っている一人。

 

 ふと、その姿を見て、俺の古い記憶が刺激される。

 

 学校。

 

 空から降ってきた女の子。

 

 周りから虐められていながらも当たり前のようにそれを受けて入れていた子。

 

 俺と出会って、笑顔が増えて、

 

 最後に悲しい別れをした。

 

「…………ちぃちゃん」

 

 ぽつりと、無意識に俺はその子の名前を告げた。

 

 どさり、と鞄が地面に落ちる音。

 

 鞄を見て、少女を見た俺は絶句する。

 

 ぽろぽろと少女は涙をこぼしていた。

 

 ゆっくり、ゆっくりと少女はこちらへ駆け寄って来る。

 

 驚きながらも俺は突っ込んできた少女を受け止めた。

 

「生きていた……やっぱり、日向、生きていた」

 

 

「いきなり、何を」

 

「私、私よ。日向」

 

「何を言って……」

 

「私は郡千景」

 

「……ち、か、げ?まさか」

 

「そうよ、私……私よ、ちぃちゃんよ」

 

 涙を零しながら見上げる少女は、間違いなく、幼いころに俺が出会った子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

「謝ることはない」

 

 ゴウタウラスが見下ろしている中で俺と郡千景……ちぃちゃんは横に並ぶ形で話をする。

 

「背、超えられたのね」

 

「そうだな、昔はちぃちゃんが上だった」

 

 出会った時は俺よりも彼女の背が高かった。

 

 いつの間にか彼女よりも身長が伸びていたらしい。

 

「あれから、もう七年くらいになるのね」

 

「そうだな。あの時のことは今でも覚えているよ。空から女の子が降ってきたと」

 

「……あれはいま、思い出すと恥ずかしいからやめて」

 

「無理だ」

 

 俺の言葉にジト目でこちらをみてくる。

 

 昔よりも表情が豊かになったんだな。

 

「……もしかしたらと思ったけれど、本当に日向が黒騎士だったのね」

 

「俺だと思っていたのか?」

 

「ええ、根拠はなかったけれど。黒騎士の後姿とどういうわけか貴方の姿が重なったの」

 

「……そうか」

 

 何か、くすぐったいな。

 

 こんな俺を、俺だとわかってくれる人がいることが。

 

「俺は――」

 

 その先の言葉を遮るような大きな音が響いた。

 

 俺の腹から。

 

「……」

 

「……」

 

 俺とちぃちゃんは沈黙する。

 

「そういえば」

 

 ふと、思い出す。

 

 黒騎士になってから俺は食事を全くしていなかった。

 

「そうか、これは空腹か」

 

「……なに、それ?」

 

 小さくちぃちゃんが笑う。

 

「街へ行きましょう。服も色々とボロボロよ」

 

 ちぃちゃんに言われて服を見る。

 

 黒騎士になってから着替えることがなかったから、当時のままで色々と酷いことになっている。

 

「今はこれを着て、お金はなんとかするなら」

 

「金なら問題ない」

 

 懐からお札の入った財布を取り出す。

 

「紙幣は当時のものを使っているんだろう。問題はない」

 

「そう、なら、行きましょう」

 

 ちぃちゃんに手を引かれて俺は街へ繰り出す。

 

 ゴウタウラスは傷が癒えるまで大人しくしているということだ。

 

 バーテックスも現れない。

 

 休むか。

 

「(何より)」

 

「どうしたの?」

 

 不思議そうにこちらをみてくるちぃちゃんに俺は首を振る。

 

「何でもない」

 

 楽しそう。

 

 心のどこかで俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(デート……)」

 

 千景は日向の手を引いて店の中を歩く。

 

 

――七年ぶりの再会。

 

 

 もう死んだと思っていた大事な人が生きていたことを千景は心の底から喜び、そして、一緒に居られることが嬉しい。

 

 何より。

 

 自分の隣を歩く彼の姿をもう一度見る。

 

「どうした?」

 

「何でもないわ。それより」

 

 ちらちらと彼の服を見る。

 

 ボロボロだった服をすべて一新、ほとんどを黒で統一しているがそれがより、彼らしさを表しているような気がする。

 

 腰から下げている剣がなければ。

 

「それ、肌身離さずもっているのね」

 

「ああ」

 

 腰の剣は目立つから布で隠している。

 

「今の俺があるのは、これのおかげだ。放すことは考えられない」

 

 大事そうに剣へ手を伸ばす彼の姿を見て、千景は思う。

 

 昔の彼と今の彼。

 

 千景の知らない七年の間にどんなことがあったのか、想像できない。

 

 もしかしたら、自分より過酷だったのだろうか。

 

 自らを復讐者というなど。

 

「ちぃちゃん?どうした」

 

「え?」

 

「辛そうな顔をしている」

 

 そういうと彼の手が伸びて、千景の口を左右に伸ばす。

 

「ふぁに」

 

「やっぱり、ちぃちゃんは笑っている方がいい」

 

 小さく微笑みながら告げた日向の言葉に千景の頬が真っ赤に染まる。

 

「や、やめて!」

 

 手を払いのけて、少しばかり距離をとる。

 

 すぐに頬の熱は冷めるが、心臓はバクバクと音を立てていた。

 

 ふと、千景は思い出す。

 

「このやり取り、昔にもあったわね」

 

「……ああ、泣いているちぃちゃんを笑顔にしようとして」

 

 思い出すように彼は言う。

 

 郡千景と落合日向。

 

 彼らの出会いは唐突だった。

 

 階段から落ちてきた千景をたまたま通りがかった彼が助けたことが切欠。

 

 後ろから突き落とされた千景を偶然にも助けた日向。

 

 それから、彼女と接していく。

 

 最初は自分を虐めようとしている相手だと警戒していたが、そうではない。心の底から自分のことを心配していることを千景は後に知る。

 

 その事件の時。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

 立ち止まった日向はある一角を見ている。

 

「ゲーム……」

 

 遠くを見て懐かしむ様な表情。

 

 それをみて、千景は日向の手を引っ張る。

 

「ちぃちゃん?」

 

「いきましょう。今日くらい、息抜きしたってバチは当たらないわ」

 

 そういって、千景と共にゲームブースへ向かう。

 

 段々と聞こえてくるゲームの稼働音。

 

 その時、日向の耳にある会話が聞こえてきた。

 

「やっぱり、メガレンジャーはこうでなきゃ!」

 

「健太相手にこのゲームじゃ、俺に勝ち目ないって、どうせだし、投球で」

 

「それされたら力の圧勝じゃんかぁ!」

 

 ゲームブースの入り口。

 

 そこで学生服姿の二人の男子の姿があった。

 

「……健太、力?」

 

 茫然と日向は呟いた。

 

 彼の呟きが偶然か、不運か、二人に届く。

 

 一人が顔を上げて、訝しむように日向をみる。

 

 しばらくして、目を見開いて、駆け寄ってきた。

 

「なーなー!お前、もしかして、日向か?落合日向」

 

「え?」

 

「俺!俺だよ!伊達健太!昔、いじめっ子たちに俺達三人で挑んだ、ほら!」

 

「本当だ!俺だ、力!炎力だ!」

 

 二人は嬉しそうに日向に駆け寄って来る。

 

「俺のこと、覚えていたのか?」

 

 おそるおそるというように日向は尋ねる。

 

 その問いに対して二人は笑顔で答えた。

 

「当然だ!」

 

「ダチのこと、忘れるなんてありえねぇぜ!」

 

 ポン!と二人に肩を叩かれて、日向は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊達健太、炎力。

 

 彼らは俺と同い年の友達で、一年間だったが、親友といえる関係を築いていた。

 

 何より、ちぃちゃんのいじめをなんとかするために助けてくれた。彼らがいなかったら俺はちぃちゃんを助けることは出来なかっただろう。

 

 あの日、ちぃちゃんと二人で帰った日。

 

 俺はいじめっ子達の不意打ちを受けた。

 

 背後から木製バッドで殴られて、ボコボコにされる。

 

 もしかしたら、殺されるかもしれないという瞬間、二人に助けられた。

 

 ゲームが得意で、焼き肉が大好きな伊達健太。

 

 プロ野球を夢見て、地元の小さな野球チームのエースピッチャーでもあった炎力。

 

 その二人に俺は助けられた。

 

 二人はもともと、俺が何かヤバイことに首を突っ込んでいることに気付いて、尾行していたという。

 

 助けられた俺に事情を尋ねられて、最初は沈黙していたのだが。

 

「俺達も手助けさせて欲しい」

 

「もう、俺達は親友なんだ!手助けさせろよ!」

 

 二人の言葉に俺は頼った。

 

 思えば、誰かを頼るというのは今回がはじめてだったかもしれない。

 

 三人でちぃちゃんがいじめられていた場所へ助けに向かった。

 

 俺達は辛うじて、ちぃちゃんを助けることができた。

 

 いじめっ子たちは逃げ出して、泣きじゃくるちぃちゃんに抱き着かれて困惑する俺、ボロボロだけど、笑顔を浮かべる健太、俺達の肩を叩く力。

 

 この時、俺達、三人は親友になって、ちぃちゃんも大事な仲間になった。

 

 たった一年、けれど、俺にとって、おそらく、ちぃちゃんにとっても大事な日々だったと思う。

 

 そんな俺のことを健太と力は覚えていてくれていた。

 

 とても嬉しい反面、今の俺の姿を二人に見せたくはなかった。

 

 

――また、会おう。

 

 

 二人は笑顔を絶やすことなく言ってくれた。

 

 そのことはとても嬉しい。

 

 だが、俺は復讐者だ。

 

 バーテックスを根絶やしにする。

 

 そんな俺が彼らの傍にいられるわけがない……はずだった。

 

「どうしたの?」

 

「いや、嬉しいって、こういう気持ちだったんだな」

 

 夕方、俺はちぃちゃんを丸亀城へ送り届けていた。

 

 あの後、四人でひたすらゲームなどで遊び続けた。驚く事に健太以上にちぃちゃんがゲームが上手く、悔しそうにしている姿をみて、俺と力は笑う。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 

 ゴウタウラスの傷も癒えている。

 

 明日からは黒騎士として俺は戦う。

 

 バーテックスを、天の神に報いを受けさせるために。

 

 ギュッと手に温もりが伝わる。

 

「ちぃちゃん?」

 

 視線を向けると彼女は真っ直ぐに俺を見ていた。

 

「貴方は私が守る」

 

「急に、何を」

 

「貴方の復讐が完遂するまで、私が貴方を守るわ」

 

 ぎゅっと俺の両手を握り締めて、ちぃちゃんは見上げる。

 

 瞳は強く、そして、何かの感情を含んでいるように見えた。

 

「だから」

 

 何かの気持ちを込める様に彼女は俺へ顔を近づける。

 

「私が必要だと、言って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者たちの戦装束はそれぞれ花をモチーフとしている。

 

 千景の戦装束は彼岸花がモチーフ。

 

 多くの花言葉がある。

 

 再会といったものから、その中の一つが。

 

 

――想うはあなた一人。

 

 

 本来なら勇者という存在に固執するはずだった郡千景。

 

 だが、彼と出会ったことで彼女が求めるのは大事な人。

 

 周りの都合で引きはがされながらも七年という、短くも長い時間の中で一つの感情を大事に温め続けてきた。

 

 再び、出会えたことから、彼女の気持ちは燃え盛る。

 

 強く、強く、消えることを知らない、強い思い。

 

 今度こそ、離れない。

 

 目の前に伸びてきた運命という名前の糸を手繰り寄せて、強く、逃さぬように千景は握り締める。

 

 清らかで、純粋すぎる強い思いが今の彼女を突き動かしていた。

 

 




タグの一つ、スーパー戦隊をこういう形でだしました。

ちなみに彼らの年齢=落合日向の年齢になります。
つまるところ、彼の年齢は。

ちなみに、次回は四国外遠征。

さらに驚く敵が出る予定。

それにしても、黒騎士、やっぱりいいなぁ、ヒュウガも大好きだけど、ブルブラックも大好き。



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黒騎士と滅んだ諏訪

今回、グダっています。

次回はより、混沌になるかと思います。


「……四国の外に出ることが決まったわ」

 

 海岸で俺にちぃちゃんは告げる。

 

「そうか」

 

「貴方はどうするの?行先は諏訪よ」

 

「……諏訪か」

 

「できるなら、貴方に案内をしてもらいたいと大社は考えているわ」

 

「興味ないな」

 

「今、神樹の許可がなければ外に出ることは出来ないわ」

 

「そのようだな。俺もゴウタウラスも外に出られなくなった」

 

 少し前、俺とゴウタウラスは外に出ようとした。

 

 だが、突如、強まった結界によって抜け出せなかった。上里ひなたの話によると神樹がバーテックスの侵攻を防ぐために不用意に外へ出られないように結界を強めたという。

俺とゴウタウラスは樹海化が起きないとバーテックスに戦えないという状況に陥っていた。

 

「諏訪へ同行してくれれば、貴方も外へ出られる。バーテックスと戦う機会もあると思うの」

 

「……ちぃちゃん」

 

 兜の中で俺は顔をしかめる。

 

「日向、私は貴方とこんな堅苦しい会話をしたくないわ」

 

「……わかった」

 

 ちぃちゃんの前で俺は鎧を解除する。

 

「俺にどうしてほしいんだ?ちぃちゃん」

 

「一緒に諏訪へ来て、貴方の助けが必要なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇええ!?黒騎士がオーケーした!?」

 

 丸亀城、そこで球子が驚きの声を上げる。

 

 大社から四国の外に遠征する話がでた。

 

 そのため、勇者たちは遠征の準備をしていたのだが、千景からもたされた黒騎士が同行するということに球子が驚きの声を上げる。

 

「信じられない……バーテックス殺しにしか興味のない黒騎士が、タマ達に同行することをオーケーするなんて」

 

「……うん、私も驚いた」

 

 球子に同意するように杏も頷いた。

 

「千景、助かった。だが、どうやったんだ?」

 

 不思議そうに若葉が尋ねる。

 

 誰が頼み込んでも首を縦に振らない。それどころか会話すらしなかった黒騎士がオーケーしたことが気になった。

 

 誰もが気になるという視線を向ける中で千景は小さく微笑む。

 

「内緒よ」

 

 えぇー!という声が室内で広がる中、不思議そうに高嶋友奈は千景をみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

『お前の深層世界だ』

 

 背後に現れるのは黒騎士ブルブラック。

 

『私とお前が唯一、会話を交えられる場所だ』

 

「……俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

『迷っているのか?』

 

 ブルブラックの問いかけに俺は沈黙する。

 

『落合日向、お前の目的は何だ?』

 

「言うまでもない!バーテックスを皆殺し、そして、天の神を滅ぼす!」

 

『ならば、迷う必要はあるまい』

 

「俺は迷ってなどいない!」

 

『そうか?私はお前に力を与えている。だが、同時に私はお前でもあるのだ』

 

「……それは、どういう意味だ?」

 

『力を貸している間、私とお前は感情を共有している。お前の感情も私の中に流れ込む』

 

「それは……」

 

 ブルブラックは告げる。

 

『お前は迷っている。復讐者としてあり続けることに、出会った者達を守りたいと……嘗て、貴様が少しばかり抱いたあの時の気持ちが再び、芽生えつつある』

 

「そんなことはない!」

 

 ブルブラックの言葉を否定する。

 

「ブルブラック、わかっているはずだ。俺は切り捨てた!諏訪の連中も!勇者と巫女も捨てた!そんな俺が再びそんな気持ちを抱くわけがない!俺は俺だ!復讐者だ!黒騎士ブルブラックから力を受け継いだ復讐者だ。決して、勇者ではない!」

 

 俺の叫びにブルブラックは何も言わない。

 

『忘れないことだ。お前の目的を……』

 

 警告のように告げられた言葉が脳裏にこびりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついにやってきた遠征任務。

 

 若葉を筆頭にした勇者、そして巫女であるひなた、最後に外の世界を知る者として参加した黒騎士を含めたメンバー。

 

 久しぶり、初めて、四国の外に出るということで黒騎士を除くメンバーはどこか浮ついた空気を出している。

 

 俺はため息を吐きたい気持ちになった。

 

「あの!黒騎士さん!」

 

「……」

 

 呼ばれて俺は視線を向ける。

 

 笑顔でこちらに歩み寄ってくる少女は高嶋友奈だったか?

 

「ありがとうございます!」

 

「何のことだ?」

 

「今回の遠征、ついてきてくれてありがとうございます!」

 

「そのことか、俺はバーテックスを倒すことができるから同行しているだけだ。お前達を連れていくのはおまけだ」

 

「でも、助けてくれてありがとうございます!」

 

「……そう明るい顔をしていられるのも今だけだな」

 

「え?」

 

「お前達が思っているほど、外は甘くないということを知るんだな」

 

 高嶋友奈に背を向けて距離をとる。

 

「なんだ!アイツ!」

 

「タマっち先輩、落ち着いて……でも、今の言い方」

 

「ああ、外を知っているからこそ、黒騎士の言葉がひどく気になるな」

 

「でも!このままじっとしても何も変わらないよ!」

 

 強い言葉で言い放った高嶋友奈の言葉に全員は頷いた。

 

 さて、どこまで保てるやら。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 俺はゴウタウラスを呼ぶ。

 

 地響きと共に俺の前に現れるゴウタウラス。

 

 勇者たちは何度もゴウタウラスをみているから驚く事はない。

 

「え、でも、どうして、ゴウタウラス?」

 

「徒歩で移動するのは時間の無駄だ。ゴウタウラスの背中に乗れ……小さなバーテックスならゴウタウラスが蹴散らす」

 

「「「「え?」」」」

 

 困惑したような勇者たちの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、杏、これって、どうなんだ?」

 

「まあ、私達は体力が温存できるからいいんじゃないかな」

 

 困ったように漏らす球子に杏は苦笑する。

 

「ゴウタウラスって、温かいんだね!動物さんだって、わかってはいるんだけど、なんか、信じられないや」

 

「そうね、バーテックスと戦って平然としているんだから、生き物と思うことは出来ないかも」

 

 ペタペタとゴウタウラスの背中を触る友奈。

 

 そんな彼女の姿を見て、千景も小さく微笑んでいた。

 

「まさか、ゴウタウラスに乗って遠征をおこなうことになるとは」

 

「これはこれで、驚きですね?」

 

 若葉とひなたは少し驚きつつも、周りの景色を見ていた。

 

「黒騎士のいっていた意味がわかった」

 

「やはり、というわけではないですけれど、酷いものですね」

 

 ゴウタウラスに乗って主要都市の状況、そして、生存者がいないかどうかの確認も行いながら進む。

 

 尤も、ゴウタウラスが鳴き声を上げて移動する中、バーテックスによって嘗ては人類の住んでいたという痕跡を残す都市は瓦礫の山しかなく、人の姿はまったくみられない。

そんな光景を見て、遠足前という雰囲気を出していた自分達が恥ずかしいという気持ちすら沸き起こる。

 

 勇者たちの心をさらに落とす出来事が大阪で待っていた。

 

 バーテックスの蹂躙後に生き残っていたであろう少女が書いた日記。

 

 そこにはバーテックスに対する恐怖、そして、生き残った人間達が引き起こした出来事などが鮮明に描かれていた。

 

「こんなこと……」

 

「酷い、酷すぎる!」

 

 拳を握り締めて球子が叫ぶ。

 

「……この程度、序の口だ」

 

 誰もが沈痛した表情を浮かべる中、黒騎士は淡々と告げる。

 

 その言葉に球子が顔を上げた。

 

「序の口!?これが!ふざけるな!」

 

「ふざけていると思うか?お前達がどうだったかは知らないが、こんなことはバーテックスが現れてから各地で起こっていたことだ」

 

「だからって!そんな、他人事みたいにいっていいわけがない!」

 

「そうだろうな。だが、俺にとっては他人事だ」

 

 火に油を注ぐように球子に冷たい言葉を吐く黒騎士。

 

「そこまでだ」

 

 二人の間に若葉が入ることで会話が止まった。

 

「球子、落ち着けとはいわない。これからもこのような光景を見るかもしれない。私達は覚悟する必要があると黒騎士はいいたいんだ」

 

「……わかっている!でも!」

 

「タマっち先輩」

 

 怒りをぶつける行先がないことで球子は顔をしかめる。

 

「俺は外にいる。これから先を見るのが辛いなら帰るといい」

 

 どこまでも突き放すようにして黒騎士は出ていく。

 

 しばらくして、遠征は続けるということで彼女達は再び移動する。

 

 道中、黒騎士はバーテックスの卵のようなものをみつけるとゴウタウラスの進路を変えて、その足で卵のようなものを踏み砕いた。

 

 最悪な出来事ばかりに遭遇する勇者たち。

 

 そして、彼らは黒騎士がいたという諏訪までやってきた。

 

「えっと、黒騎士さん……」

 

「なんだ?」

 

 高嶋友奈がおずおずと黒騎士へ言葉を投げる。

 

 ここは黒騎士がいた場所。

 

 その場所はバーテックスによって蹂躙を受けて、廃墟、そして、緑は失われていた。

 

 言葉を失っている勇者、なにより諏訪から人を連れて四国にやってきた黒騎士。

 

 彼は廃れた地をみて何も言わない。

 

「ゴウタウラス、周囲にバーテックスがいないか確認してくれ」

 

 控えているゴウタウラスが頷いたことを確認して、彼は歩き出す。

 

「あ、黒騎士さん!」

 

「高嶋さん……」

 

 歩き出した黒騎士を追いかける友奈と千景。

 

 進む黒騎士は作物が枯れて台無しになっている畑の前に立つ。

 

「黒騎士さん……どうしたんですか?」

 

「それは、鍬?」

 

 畑に突き刺さっているのは農具。

 

 かなり年季が入っている中で運よくバーテックスの襲撃を逃れたようだ。

 

「友奈!千景!」

 

「そんな急ぐなよ……これは?」

 

 遅れてやってきた若葉達も農具をみる。

 

「これは諏訪の勇者が使っていたものだ」

 

「諏訪の、勇者?」

 

「あれ、何かついている?」

 

 驚く若葉達、その中、杏は農具に何かがついていることに気付いた。

 

 それは手紙だった。

 

 手紙は四国の勇者たちに向けられたもので、自分の遺志を託すといった内容。

 

「あれ、何か落ちましたね」

 

 ひなたははらりと落ちた紙きれのように小さなものを拾う。

 

「なんだ、それ?メモ?」

 

 同じようにのぞき込む球子と若葉。

 

 小さな紙をみた若葉はそれを黒騎士へ差し出す。

 

「なんだ?」

 

「白鳥さんから、黒騎士、お前に宛てられたものだ。読まなくていい。目だけでも通してやってほしい」

 

「……」

 

 何も言わず若葉から紙を受け取る。

 

 目を通すとそのまま黒騎士は懐に仕舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか!絶対に覗くんじゃないぞ!そんなことしたらタマは容赦しないからな!」

 

「俺を何だと思っているんだ」

 

 俺は兜の中でため息を零す。

 

 はっきりいって、どうでもいい。

 

 ゴウタウラスが綺麗な川をみつけたということで、泥まみれになっている乃木若葉達は水浴びをすることになった。

 

 女子だけの中で唯一の男。

 

 その俺が覗きをしないか土居球子や伊予島杏は不安なのだろう。

 

 彼女達に歩み寄らない俺を信じるということはない。

 

「ゴウタウラス、どうした?」

 

 目の前にやってきたゴウタウラスの言葉に俺は疑問の声を上げる。

 

「人が生活していた痕跡がある?それは当然だ。諏訪は少し前まで人が」

 

――違うとゴウタウラスが言う。

 

「まさか、本当に少し前まで、人がいたというのか?」

 

 その指摘に俺は周りを見る。

 

「……なんだ、これは」

 

 注視したことでようやく俺は気づいた。

 

 諏訪を放棄してから生存者はバーテックスに食われたはずだ。なのに、このあたりだけじゃない。至る所に誰かが生活していたような痕跡がある。

 

 それも、ごく最近まで。

 

「っ!」

 

――いる!

 

 誰かがこの近くにいる。

 

 その近くには。

 

「くそっ!」

 

 俺は駆け出す。

 

「いやぁ、楽しかったな」

 

 目の前にやってきた勇者たちを押しのけて俺は向かう。

 

 川の近く。

 

 バーテックスによって穢された自然の中で唯一、残っていた場所。

 

 俺は水の中に飛び込み、周りを睨む。

 

 あそこか!

 

 気配の場所にブルライアットのショットガンを放つ。

 

 だが、躱された。

 

 いや、俺が来る前に逃げたのか。

 

 ブルライアットを鞘に納める。

 

 誰かは知らないがこちらに敵対する存在と考えておいた方が良いかもしれない。

 

「…………ひ、日向」

 

 後ろから聞こえた声に俺は自然と振り返る。

 

 振り返らなければよかった。

 

 敵がいるかもしれないということで俺は周りを見ることを怠っていた。

 

 だから、振り返って俺はわかった。後ろにはちぃちゃんがいる。

 

 生まれたままの姿で。

 

 水浴びをするということで衣服を脱いだ状態、そんなところに現れた俺を見て、茫然としている。

 

「……す、すまない!」

 

 慌てて、俺は前を向く。

 

 一瞬で全部、みちまった!

 

「すぐに立ち去る」

 

「なんだ、今の音!」

 

 近くから聞こえるのは勇者の声。

 

 ああ、これは覚悟しないとダメか。

 

「日向、隠れて」

 

「え、あ、おい」

 

 後ろからやってきたちぃちゃんが俺を近くの茂みに隠す。

 

 すぐにちぃちゃんはタオルを体に巻いた。

 

「千景!大丈夫か!?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 気配を殺す。

 

 少しでも余計な動きをすれば、乃木若葉などに感付かれるかもしれない。

 

 いや、待て。

 

 そもそも、どうして、俺が悪いことをした前提なんだ?

 

 わけがわからない。

 

 しばらくして、乃木若葉達は去っていく。

 

「もう、いいわよ」

 

「ああ……」

 

 ちぃちゃんに言われて俺は茂みから出てくる。

 

「一体、何があったの?」

 

「諏訪には俺達以外の何かがいる」

 

「何か?」

 

「その何かはわからない。だが、そいつは勇者たちを監視していた。敵意ある者とみておくべきかもしれない」

 

「わかった。私から乃木さん達には話すわ」

 

「その方がいい」

 

 俺が話せば、余計な騒動を呼ぶかもしれない。

 

「ところで、ちぃちゃん」

 

「なに?」

 

 心なしか嬉しそうな声を出すちぃちゃんに俺は視線を外す。

 

「そのままだと、風邪をひいてしまう、服を着た方がいい……あと、他の連中がみたら誤解をするかもしれない」

 

「誤解って?」

 

 不思議そうに首を傾げるちぃちゃん。

 

「え、その……俺とちぃちゃんがそういう関係だという」

 

「どういう関係かしら?」

 

 微笑みながらちぃちゃんがこっちにやってくる。

 

 俺はみないように視線を逸らす。

 

 その態度に何か勘違いしたのか、ちぃちゃんはため息を零す。

 

「やっぱり、私みたいな傷だらけの体はみたくないわよね」

 

「そんなことない!」

 

 沈んだようなちぃちゃんの声に俺は否定する。

 

「傷だらけって、勇者として頑張っているからだろう。それに、ちぃちゃんは俺から見て、十分、いや、とっても魅力的だと思う。だから、そんな沈むことはない」

 

 これ以上は俺がどうにかなりそうだ。

 

「先に戻る」

 

 そういって、俺はちぃちゃんから離れる。

 

「……ふふ、それなら、もっと、みていいわよ?」

 

 ちぃちゃんの言葉から俺がみたことがばれていたようだ。

 

「そういうことは、相手を選ぶべきだ」

 

「ちゃんと選んでいるわ。私は日向以外にいうことは絶対にないわ」

 

「……信頼していると思えばいいのか、男とみられていないのか」

 

「(ちゃんと、男としてみているわよ)」

 

 何かちぃちゃんがいっていたような気がするけれど、水の音で聞き取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変わらない夜空」

 

 夜、勇者たちが野営地で眠る中、俺は夜空を見ていた。

 

「そういえば、空を見上げていたな。昔は……」

 

 結界の残滓のおかげなのか、別の理由か、綺麗な星空がそこにある。

 

 蔵人と一緒に色々な星を見ていたな。

 

「俺は、必ず復讐を果たすぞ。蔵人」

 

 お前の無念を俺は決して忘れない。

 

 バーテックスを、天の神を俺は決して赦さない。

 

 必ず、復讐を果たす!

 

「黒騎士……さん?」

 

 見上げていた俺を呼ぶ声。

 

 振り返ると目をこすりながらこちらへやってくる高嶋友奈の姿がある。

 

「高嶋友奈、何をしている?」

 

「休んでいたんですけれど、黒騎士さんの姿がなかったから」

 

「俺を探しに来たのか?」

 

「はい……その、心配で」

 

「心配?」

 

「大丈夫、ですか?黒騎士さん」

 

「俺の心配をするより、自分達、いや、自分の心配をすべきだな」

 

 高嶋友奈から少し距離をとる。

 

「私?」

 

「他人の心配ばかり、自分のことは後回し、そんなことで、自分を抑え込んでいる奴ほど、危険だ」

 

「……えっと、私のことを心配してくれているんですか?」

 

「そうかもしれないな」

 

「え!?」

 

 驚いた表情を浮かべる高嶋友奈。

 

 短い期間だが、勇者の中で一番、自分という存在を前に出さないのはこの高嶋友奈だ。

 

 他人を優先して、自分のことは後回し、そして、自分のことを全く話さない。

 

 ちぃちゃんも危ういが、コイツも色々な意味で危険だ。

 

 だから、俺はあまりコイツと会話をしたくなかった。

 

「ちょっと、嬉しいです。黒騎士さんに心配してもらえるの」

 

「甘い奴だ。いや、それは俺も同じか」

 

「黒騎士さんも?」

 

「……諏訪で俺は迷った。お節介な勇者と巫女のおかげでな」

 

「それって、あの手紙の」

 

「……余計なことを話し過ぎたな。明日も早いだろう。戻れ」

 

「あの、私、頑張ります!」

 

 背を向けた俺に高嶋友奈は言う。

 

「私、もっと、もっと、頑張って、バーテックスから皆を守ります!そうしたら、平和になって……黒騎士さんと色々とお話できますよね?」

 

「俺と話?」

 

「はい!私はもっと黒騎士さんとお話したいです!仲良くなりたいです!で、できるなら、自分のことも話したいです。だから!」

 

「……」

 

 真剣に、けれど、おそるおそるというように高嶋友奈は俺に言葉を投げる。

 

 何故だろう。

 

 ちぃちゃんと話をしている時は別の意味で俺は落ち着かない。

 

 何か、心臓が音を立てている。

 

 俺は――。

 

「っ!」

 

 地面を蹴り、高嶋友奈の傍に向かう。

 

「え、く、黒騎士さん!?」

 

 驚く高嶋友奈を守るようにしながらブルライアットを抜く。

 

「出て来い。隠れているなら射抜く」

 

 暗闇の中、何かを感じ取った俺は警戒を強めてブルライアットの剣先を向ける。

 

 何かの音が聞こえてきた。

 

「これって、何の音?」

 

「蹄の音だ」

 

 戸惑う高嶋友奈に俺は警戒心を強める。

 

 バーテックスに蹂躙された世界で生き物は存在できない。

 

 諏訪の結界はまだ残っているとはいえ、生き物がいることなどありえないのだ。

 

 風を切るような音と共に闇の中から純白の馬、そして、白い衣服の男が現れる。

 

 白と赤の髪、顔の上半分をバイザーのようなもので隠されていた。

 

 男は馬を止めると少しの距離を開けて、降りる。

 

「人?」

 

「いいや、違う」

 

 高嶋友奈と違い、俺は警戒する。

 

 目の前の男は人間じゃない。

 

 色々と混ざり合った何かだ!

 

「貴様、何者だ?人ではない。ましてやバーテックスというわけでもない」

 

「凄いな、俺がどういう存在かわかるのか」

 

 男はバイザーを外して面白いものを見つけたというように笑みを深める。

 

「俺のことがわかるということは、お前が黒騎士か」

 

「……俺のことを知っているのか?」

 

「天の神だったか?それから聞いた。つまらない復讐のために牙をむいている小さな存在だってな」

 

「なんだと」

 

 挑発だとわかっていても、怒りの気持ちが沸き上がる。

 

 何より、コイツの後ろには天の神がいる。

 

 俺の敵だ。

 

「俺の名前はキロス。それにしても」

 

 キロスと名乗る相手は俺を、いや、高嶋友奈をまっすぐに見ている。

 

 困惑している高嶋友奈を庇う様に前に立つ。

 

「やはり、貴様は邪魔だ」

 

 顔に怒りを歪めてキロスは笑みを深める。

 

「今日は挨拶に過ぎない。四国の勇者、黒騎士。これは挨拶だ。そして、俺は欲しいものを手に入れる」

 

 にやりとほほ笑むとキロスは馬に乗り込もうとする。

 

「逃がすと思うか!」

 

 地面を蹴り、ブルライアットを振り上げる。

 

 バーテックスの仲間というのなら、俺の敵だ。

 

 殺す!

 

 黒の一撃!

 

 ブルライアットを振り下ろす。

 

 だが、その攻撃は防がれる。

 

「なっ!」

 

「おいおい、真っ黒とはいえ、騎士だろ?そんな奴が不意打ちなんてせこいマネをするなよ」

 

 笑いながら鎌でブルライアットは受け止められた。

 

 ブルライアットを弾かれて、距離をとる。

 

「どうせだ、俺の実力を見せてやろう」

 

 キロスは鎖鎌を振り回す。

 

「受けてみろ。風地獄を抜け出すために俺が編み出した技を!」

 

 突然の衝撃と強風で体の自由が奪われる。

 

「黒騎士さん!」

 

 高嶋友奈の悲鳴で俺は彼女の近くまで吹き飛ばされたことにわかった。

 

 全身に激痛が走る。

 

 先ほどの攻撃で黒騎士の鎧が解除されてしまう。

 

「おいおい、この程度か?噂の黒騎士も大したことないなぁ。まあ、挨拶だといっただろ?その程度で済んでよかったな。俺は欲しいものを必ず手に入れる。それだけは覚えておくといい」

 

 キロスはそういうと馬に乗って姿を消す。

 

「黒騎士さん!黒騎士さん!大丈夫ですか!?」

 

「……耳元で叫ぶな。俺は無事だ」

 

 むくりと体を起こす。

 

 黒騎士の鎧が解除されたようだ。

 

「キロスの奴に手加減されたようだ」

 

「本当なんですか?」

 

「だから、そんな心配そうな顔をするな」

 

「え、えっと、大丈夫なんですよね」

 

「ああ」

 

 ブルライアットを握り締めて、俺は黒騎士になる。

 

 その姿を見て、安心したのか、高嶋友奈は笑みを浮かべた。

 

「とにかく、今は休め」

 

「黒騎士さんも休んでくださいね!」

 

「……わかっている」

 

「約束ですからね!」

 

「煩い、俺は行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、これって?」

 

 野営地へ戻ろうとした高嶋友奈は地面に落ちているメモ用紙を拾う。

 

 それは諏訪の勇者が残した手紙に挟まっていたものだ。

 

 申し訳ない気持ちをもちながらも友奈はメモを見る。

 

「うぅ……グスッ」

 

 友奈はメモをみて、涙をこぼす。

 

 メモに記されていたのは黒騎士を思った手紙。

 

 諏訪の勇者と巫女は復讐に走る黒騎士の身を案じていた。そして、彼に自分達の命を背負わせることに申し訳ないということ、そして、黒騎士が復讐だけに支配されないことを願うというもの。

 

「決めた!私!黒騎士さんと話をする!もっと、もっと、黒騎士さんのことを知るんだ!」

 

 

 

 




今回、少ししかでていませんが、スーパー戦隊から登場です。

キロス。
フルネームでいくと盗賊騎士キロス。
光戦隊マスクマンに登場する敵。
欲しいものは必ず手に入れるという人物。


次回、より、混沌とした事態が起こる……予定。



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勇者、求婚される

ある意味、オリジナル展開。


警告します。あるキャラの心がズタズタフラグが立ちます。



 

 四国の外から戻ってきて、数日後。

 

 若葉達は食堂でうどんを啜りながら報道されているニュースを見ていた。

 

「なーんか、ウソというか、嫌だなぁ、こういうの」

 

「事実を混ぜているとはいえ……全部がウソじゃないけれど、流石に、これはねぇ」

 

「……すべて、日向のやったことなのに(ボソッ)」

 

「ぐんちゃん?」

 

「何でもないわ。高嶋さん」

 

「球子達の言いたいことはわかる。私達が黒騎士のやったことを横取りしているように感じるのだろう?」

 

 不満な声を漏らす球子の気持ちを理解している若葉が頷く。

 

 テレビでは若葉達が四国に諏訪の人達を連れてきたということ、丸亀城の戦いなど、全て勇者が奮闘した結果のように語られている。その中に黒騎士の存在はなかった。

 

 黒騎士のことを信用していない球子だが、功績を横取りしたような気分だった。

 

 球子の不満は千景や友奈、杏も同じ。

 

「残念なことは、黒騎士がこれに関して何も感じていないということだな」

 

「バーテックスを滅ぼすことにしか、興味がないという感じですからね。おそらく、今回の報道に何も思っていないでしょう」

 

 若葉達も彼が思うのならなんとかしたいと考えるが、当人がそれを望んでいない。

 

 故に不満を零すことはあっても、それ以上は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらない」

 

 偶然にも黒騎士はニュースを見ていた。

 

 報道では勇者が今回の遠征で諏訪の生き残りを見つけて、連れて帰ってきたとあり、その中に黒騎士の存在は一切ない。

 

「……不満か?ゴウタウラス」

 

 頭上で唸る相棒に黒騎士は問いかける。

 

 納得できないという風にゴウタウラスは唸った。

 

「気にするな。俺は賞賛が欲しいわけではない。諏訪の人間を此処へ連れてきたのもバーテックスとより戦えるという理由に過ぎない」

 

 黒騎士の言葉に小さくゴウタウラスは唸る。言いたいことはわかるようだが、それでも思うところがあるようだ。

 

「俺の存在が抹消されている?別に構わんさ。むしろ、どこぞの神樹のように崇められたとしても行動に制限がかかる。そんなことは御免こうむる」

 

「……日向」

 

「ちぃちゃんか」

 

 後ろからやってきたのは千景。

 

 周りに誰もいないことを確認すると彼女は尋ねる。

 

「ゴウタウラスも元気そうね」

 

 千景の言葉に鳴くゴウタウラス。

 

 小さく微笑む彼女。

 

「日向の姿になってくれないの?」

 

「ああ、わかっ――」

 

「ぐんちゃん!黒騎士さん!」

 

 聞こえてきた言葉に俺は鎧を解除することをやめる。

 

 顔を上げるとこちらに元気よく手を振って来る高嶋友奈の姿があった。

 

「高嶋さん、どうしたの?」

 

 不思議そうに千景が振り返る。

 

 勇者の面々の中で一番、千景が心を許している相手は友奈だ。

 

 その彼女がここへやってきたことに不思議そうにしている。

 

「黒騎士さんを探していたの!ぐんちゃんは?」

 

「私は散歩よ。彼とは偶然、ここで会ったの」

 

「そうなんだ!」

 

「高嶋友奈」

 

 黒騎士は短く彼女の名前を呼ぶ。

 

「はい!高嶋友奈です!」

 

「何の用だ?」

 

「実は若葉ちゃんから提案があったんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 丸亀城の訓練スペース。

 

 そこで俺は勇者の面々と一緒にいた。

 

 用事もなく、こんなところにやってこない俺なのだが、ちぃちゃんと高嶋友奈に引きずられる形でこの場に来ている。

 

「黒騎士、お前も参加してもらうぞ」

 

 釘をさすように乃木若葉が言う。

 

 なんでも、これから勇者たちとプラス俺によるバトルロイヤルの模擬戦がはじまろうとしていた。

 

 何でも勝利した者が可能な限り皆に命令できる権利が与えられるという。

 

 俺はそういうものに興味がないんだけどな。

 

 断ろうとしたのだが、ちぃちゃんの無言の視線と「絶対参加です!」と高嶋友奈に腕を掴まれてここまで連れてこられた。

 

 振り払おうとしたらちぃちゃんに泣かれそうでできなかった。

 

 俺は彼女にとことん甘いようだ。

 

 そうして、はじまるバトルロイヤル。

 

 なんでも、レクリエーションの一環ということらしいが、前の四国外遠征の色々とみてきた嫌なものを振り払うために乃木若葉が企画したという。

 

 黒騎士である俺は最後まで動かないようにしていた。

 

 していたのだが、土居球子や高嶋友奈が集中的に俺を狙ってくるものだから、少しばかり本気を出してしまう。

 

 その結果、勝者は俺なのだが、命令権は二番目に残っていた伊予島杏に与えた。

 

 余談だが、俺も一歩、間違えたら伊予島杏に敗北する手前だった。

 

 戦う前に勝利を狙う、中学生の女の子が選ぶようなものとは思えない作戦の数々に勇者たちは敗北、作戦を先読みできたことで、俺は勝利をもぎ取れた。

 

 命令する権利を与えられた伊予島杏は自分のやりたいことを実行する。

 

 

 その内容というものが。

 

 

 

 

 

 

 

「私のものに、なれよ。球子」

 

「わ、若葉君……そ、そんなことを言われても、た、私には好きな人が」

 

「待ちなよ!若葉君!球子さんが困っているじゃないか!」

 

「あ、高嶋君って、なんじゃこりゃあああああああああああ!」

 

 手を上げて叫ぶ土居球子。

 

 はっきり指摘するのもなんだが、顔が真っ赤だ。

 

 なんとか、踏ん張ってきたが、壁ドンなどでとうとう限界を迎えたようである。

 

 伊予島杏が命令してきたのは即興の恋愛シチュエーションを勇者たちが行うというもの。

 

 ちなみに、内容は乃木若葉が土居球子に詰め寄って、壁ドン、愛の言葉をささやくところで、友奈が間に割り込む、という少女漫画でみるような三角関係だ。

 

 乃木若葉は背が高く、男勝りというところもあったことから役はぴったりだった。

まさかの高嶋友奈が優等生を演じている姿に違和感がなかったことに驚いた。根が真面目だからか?

 

 最後に、ヒロインを演じる土居球子だが、今までもわんぱく姿からは想像ができないほど、伊予島杏の手によって“美少女”に変身していた。

 

 誤解のないようにいっておくが、勇者たちは誰もが整った顔立ちをしている。だが、土居球子は男勝りな性格をしていることから、その点が薄すぎた。だからこそ、ちゃんと女の子らしい格好をすると可愛いのだということを……俺は何を熱く語っているのだろうか。

 

 くいくいと手を引かれる。

 

 視線を向けるとちぃちゃんがこちらをみていた。

 

「どうした?」

 

「黒騎士はあれを、できるかしら?」

 

 あれといわれて、乃木若葉の方を指さすちぃちゃん。

 

 まさか。

 

「俺に、あれをやれと?」

 

 コクコクと頷くちぃちゃん。

 

 今のやり取りを聞いていた若葉が「ふむ」と言葉を漏らす。

 

「どうせだ、黒騎士、お前も参加しろ」

 

「断る」

 

「杏」

 

「え、あ、あの、命令権を行使します。黒騎士さん、タマっち先輩に壁ドンとアゴクイをしてください」

 

「……はぁああああああああああああ!?なんで、タマがこいつにされないといけないんだ!」

 

 納得できないという言葉をあげる土居球子。

 

 俺としてもこういうことは遠慮したいのだが。

 

 すこーし、みてみたくなった。

 

 俺は鎧を解く。

 

「なっ!?」

 

「え、えぇええええ!?」

 

「うそ……」

 

「……」

 

 鎧を解除した俺の姿にちぃちゃんと高嶋友奈を除くメンバーが驚きの声を上げる。

 

 茫然としている土居球子に俺は無言で近づく。

 

「え、あ、その」

 

 無言で近づく俺に後ろへ下がっていく。土居球子。

 

 だが、すぐに教室の壁にぶつかってしまう。

 

 少し力を抑えながら土居球子の近くの壁に手をドンと叩く。

 

「うっ!?」

 

 もう片方の手で土居球子の顎を少し持ち上げる。

 

「土居球子、俺のものになれ」

 

 耳元でささやくというオマケまでしてやる。

 

「ひゅっ」

 

 小さな悲鳴を漏らしてぺたんと土居球子は座り込む。

 

 俺は鞘に納められているブルライアットの力で鎧を身に纏う。

 

「伊予島杏」

 

「は、はい!」

 

「満足したか?俺はそろそろ行く」

 

 短く告げて、教室の外に出ていく。

 

『…………』

 

『千景?おい、拳を握り締めて、どうした、少し怖いぞ』

 

『し、仕方ありませんよ。素顔を知らなかったとはいえ、まさか、あそこまでインパクトがありましたなんて……友奈さんも茫然としていますし』

 

『カッコイイ……かも』

 

『み、認めない。タマは認めないからな!こんなこと、ぜぇええったいに!』

 

 しばらくして、教室内からは黄色い悲鳴のようなものが聞こえたような気がした。

 

 そんな騒動がありながらの四月。

 

 黒騎士はある樹木の傍に来ていた。

 

「春……あれから、また、月日が流れたのか」

 

 桜のつぼみが芽生えつつある樹木を見ながら俺は呟く。

 

 バーテックスの小さな襲撃は何度もあった。

 

 だが、大規模な侵攻はない。

 

 まるで嵐の前のような静けさだ。

 

「ゴウタウラス、俺達は覚悟をしておく必要があるぞ」

 

 体を休めている相棒に伝える。

 

「く、黒騎士さん」

 

「伊予島杏と……土居球子か」

 

「タマをおまけみたいにいうなよな!」

 

 怒りながら言う球子。

 

 先日の演劇もどきから、少しだけ、刺々しい態度が球子から抜けていた。そして、杏もおずおずとだが、黒騎士をみれば、声をかけていた。

 

 人としての姿を晒したからだろうか?

 

「黒騎士、お前は花見をしたいか?いや、したくないならいいぞ!ちなみに、私達はしたい!」

 

「……伊予島杏、コイツは何を言いたいんだ?」

 

「えっと、あの、花見をしようといいたいんです」

 

「俺がいては楽しめないだろう。勇者と巫女たちで楽しむといい」

 

「あのなぁ、お前はなんでそう距離をとりたがるんだよ!少しはタマ達と一緒に騒ぎタマえ」

 

「……興味がないだけだ」

 

 面倒そうに答えた時、頭上からゴウタウラスが唸る。

 

「……花見をしたいだと?」

 

 ゴウタウラスが言うには花見とやらをしてみたいのだという。

 

「よし!ゴウタウラスは参加だ!そして、お前も参加だからな!黒騎士」

 

「何を言って」

 

「楽しみだな!杏」

 

「うん、タマっち先輩!」

 

「おい、俺を勝手に」

 

 間に割り込もうとしたがやめる。

 

 姉妹のように仲睦まじい二人の姿を見ているとかつての自分と蔵人の姿を思い出したのだ。

 

 その光景を壊したくなくて、彼は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花見の話をした夕方。

 

 事前に神託がくだされていたバーテックスの襲撃が起こる。

 

 今回の侵攻は今までのものと異なり、何かが起こるという不気味な予言がだされていた。

 

 事前に聞いていた黒騎士は少し前からのバーテックスとの戦いからありえると思っている。

 

 警戒するも、思う以上にバーテックスとの戦いは順調すぎるほどに進んだ。

 

 前衛である若葉と友奈、千景の三人は油断せず、迅速に通常のバーテックスを倒していく。

 

 球子と杏は二人一組で行動。

 

 広範囲の敵を球子が旋刃盤で切り裂き、後方から杏が狙撃でカバーをしていく。

 

 順調だと思っていた戦いの中、それはやってくる。

 

「何の音だ?」

 

「これって……蹄の音?」

 

「はぁ!?何だって、樹海の中で!?」

 

 驚く勇者たち、身構える三人の前に白馬が現れる。

 

 現れた白馬の上に跨る男の姿に友奈と黒騎士を除く面々が驚愕した。

 

 にやりと笑いながら男は白馬から降りる。

 

「な、何だ。お前は!」

 

 警戒しながら若葉が尋ねる。

 

「俺の名は盗賊騎士キロス!欲しいものは必ず手にする男さ」

 

「……ふざけているの?」

 

「本当さ。俺は欲しいものがある。そのために、ここへ現れたのさ。天の神と契約をして」

 

 鎖鎌を取り出すキロスに三人は身構える。

 

 キロスの放った衝撃に若葉達は吹き飛んでしまう。

 

「天の神とやらの力は凄いな。風地獄で鍛えた力をさらに強化させてくれた。これなら、狙った獲物は絶対に逃さず、欲しいものは必ず手に入れる男だ」

 

「お前は、何を狙っているっていうんだ!」

 

 球子が旋刃盤を振り下ろしながら叫ぶ。

 

 キロスは鎌で受け止めると近づいてきた球子を蹴り飛ばす。

 

「タマっち先輩!」

 

 杏が狙撃するもキロスはナイフで矢を弾く。

 

 

「弱いな。これが勇者の力か?」

 

 キロスは指を鳴らす。

 

 すると白馬がベームドグラーと呼ばれる地底獣に姿を変える。

 

 ベームドグラーの周りにバーテックスが集まり、集合体バーテックスへ変化させていく。

 

「こんのぉおおお!」

 

 起き上がった友奈が拳を振り上げる。

 

「勇者パァアアアンチ!」

 

 叫びと共に放つ渾身の一撃をキロスは正面から受け止めた。

 

 向き合うキロスと友奈。

 

「どうして、こんな」

 

「言っただろう?欲しいものは必ず手に入れると……ああ」

 

 友奈を見て微笑むキロス。

 

「やはり、美しい!高嶋友奈!俺はお前を妻として手に入れる!」

 

「つ、妻!?」

 

 突然の言葉に戦場でありながら友奈は素っ頓狂な声を上げる。

 

「友奈!」

 

「高嶋さん!」

 

 左右から二人が奇襲を仕掛ける。

 

 キロスは後ろへ下がった。

 

「邪魔だな。吹き飛べ!この俺が地底の風地獄を抜け出すために編み出した技を!」

 

 キロスは鎖鎌の鎖を振り回す。

 

 高速で振り回すことで起こる突風が若葉、千景、友奈を襲う。

 

「クレセントスクリュー!」

 

 鎖鎌を高速回転させることで放つ必殺技を受けて吹き飛ぶ、三人の勇者。

 

「俺の下にきてもらうぞ、高嶋友奈」

 

 ゆっくりと倒れている友奈の傍に近づいていくキロス。

 

 彼が友奈に触れられる距離にきたところで、後ろへ下がる。

 

 少し遅れて、キロスのいた場所にバーテックスの残骸が降り注いだ。

 

 友奈の目の前に黒い影が降り立つ。

 

「黒騎士、さん」

 

 彼女の言葉に黒騎士は答えることなくブルライアットを抜く。

 

「現れたか、盗賊騎士」

 

「来たのか、黒騎士。俺の邪魔をすると死ぬぞ」

 

「知らんな。俺は貴様を含めたバーテックスを滅ぼすのみだ」

 

 キロスクレセントを構えるキロス。

 

 ブルライアットを構えた黒騎士。

 

 二人は同時にぶつかりあう。

 

「どうやら、お前は中々にやるようだな。前の不意打ちで底を見たと思っていたんだが、間違っていたようだな!」

 

「盗賊騎士キロス。貴様はどうして天の神に加担する」

 

「契約したのさ。天の神がこの地を支配したら、好き勝手にしていいと!わかるか?仄暗い地の底じゃない。この大地を好き勝手にできる、想像できるだけで悪くない!そこに欲しい女も一緒なら尚の事ぉ!!」

 

「……欲しい女?」

 

「そうだ、俺は欲しい。高嶋友奈を妻として手に入れる!」

 

「何を馬鹿な」

 

「フッ」

 

 笑いながらキロスが蹴りを放つ。

 

 その蹴りを受け止めて黒騎士は後ろへ下がる。

 

「チッ!ゴウタウラス!」

 

 ある方向をみた黒騎士はゴウタウラスを呼びよせた。

 

 地割れと共に現れたゴウタウラスの出現にキロスはバランスを崩す。

 

 その隙に黒騎士は走る。

 

 視線の先にいる二人の方へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、伊予島杏と土居球子はベームドグラーを核として合体したサソリ型バーテックスと戦っていたが、どの攻撃もサソリ型バーテックスに通用しない。

 

「くっ、ここは切り札で」

 

「待って!タマっち先輩!ここは私がやるから!」

 

 勇者には切り札が存在する。

 

 神樹に霊的つながりによって精霊を宿し、力を纏うというもの。

 

 使用することで体に膨大な負荷がかかる力を球子ではなく、杏が使う。

 

 氷と雪の化身、白い死の象徴、雪女郎。

 

 味方を巻き込まず猛吹雪による攻撃で通常型バーテックスは氷漬けになる。

 

 だが、サソリ型バーテックスは全くの無傷だった。

 

「え?」

 

「杏!」

 

 体表に霜がついた程度のダメージしか受けていないサソリ型バーテックスは巨大な尾を振るう。

 

 咄嗟に精霊、輪入道を宿した球子が杏を抱き寄せ、旋刃盤で攻撃を防ぐ。

 

 しかし、今までにない衝撃とダメージが球子を襲う。

 

 派手に吹き飛んだ二人。

 

 ダメージが大きくて、満足に動けない。

 

 球子は気絶してしまった杏を守っていたがサソリ型バーテックスの攻撃によって傷だらけになっていく。

 

 気絶している杏を必死に守る球子。

 

 そんな彼女達をまとめて貫こうとサソリ型バーテックスの尾が迫る。

 

 今までのように攻撃を防ごうとした球子。

 

 旋刃盤をサソリの尾が貫いた。

 

「ぇ」

 

 そのまま、彼女の体に尾が迫るという瞬間、何かが球子を後ろから引っ張った。

 

 後ろから引っ張られた球子はそのまま、倒れている杏の上に覆いかぶさる。

 

「タマっち……先輩?あれ、私」

 

「杏!大丈夫か?」

 

「う、うん、大丈夫……どうして」

 

「よかった、よかっ――」

 

 小さな衝撃で気絶していた杏が目を覚ます。

 

 喜びながら顔を上げた球子は言葉を失う。

 

「タマっち先輩?」

 

 不思議そうに、そして、彼女と同じ方向を見た杏は限界まで目を見開く。

 

 彼女達の前、自らを盾にしてサソリ型バーテックスの尾に貫かれている黒騎士の姿があった。

 

「黒騎士ぃぃぃいいい!」

 

「グッ」

 

 黒騎士は貫いていた尾を掴む。

 

 貫かれた場所からボタボタとおびただしい量の血が流れていった。

 

「……い、いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 悲鳴を上げる杏。

 

 倒れそうになりながら黒騎士は振り返る。

 

「奪う……というのか」

 

 兜で顔は隠れているがその目は激しい怒りを抱いていた。

 

 グググと自らを貫いている尾を握り締める。

 

「奪うというのなら、俺は許さない!」

 

 怒りが熱を放つかのように黒騎士の全身から白い煙のようなものを吹き出し始める。

 

 同時にドロドロとバーテックスの尾が融解をはじめた。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 黒騎士の叫びと共に現れたゴウタウラスがサソリ型バーテックスに突進する。

 

「黒騎士さん!その傷!」

 

 一足早く、復帰した友奈は黒騎士の傷に気付く。

 

「俺のことは良い……ゴウタウラス!行くぞ!」

 

 黒騎士の叫びでゴウタウラスは雄叫びを上げながら赤い瞳から光を放つ。

 

 光を浴びた黒騎士は赤と黒の騎士、重騎士に巨大変身する。

 

 重騎士はゴウタウラスに跨りサソリ型バーテックスとぶつかりあう。

 

 サソリ型バーテックスの尾と重騎士のブルソード、そして、ゴウタウラスの角が激しくぶつかり合う。

 

「私も!」

 

 その姿に友奈は切り札の一つである精霊を宿す。

 

 鬼の中で最強と言われる酒呑童子。

 

 精霊を宿した彼女は重装甲の中で柔らかい腹部に接近。

 

 巨大化した籠手で強力な一撃を放つ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 気合の乗った声と同時に嵐のような連続の拳がサソリ型バーテックスの体を宙へ舞いあげる。

 

「ゴウタウラス!行くぞ!」

 

 重騎士ブルソードを用いて、むき出しになっている柔らかい部分にXの字を描くように刃を振るう。

 

 地面に落ちたサソリ型バーテックスの顔に重騎士はブルソードの刃を深く突き立てた。

刃が核となっていたベームドグラーを貫く。

 

 体を炎に焼かれて消滅するベームドグラー。

 

 核を失ったことでサソリ型バーテックスの合体は解ける。

 

 残りのバーテックスを友奈、重騎士の手で倒されていく。

 

 バーテックスを殲滅したことで重騎士から黒騎士の姿へ戻る。

 

 友奈も精霊を纏った姿から元の戦装束に戻った。

 

 その時、彼女の体から何かがブルライアットのクリスタルに吸い込まれていく。

 

 友奈は気づかず、黒騎士に駆け寄る。

 

 ふらふらしていた黒騎士が友奈に視線を向けようとした時。

 

 その体をキロスの刃が貫いた。

 

「ぐぁっっ!」

 

 黒騎士の体から飛び出す刃、そこから飛び散った血が友奈の頬にかかる。

 

「黒騎士さん!?」

 

「グッ……ウォオオオオ」

 

 振り返りながらブルライアットで奇襲をしたキロスの胴体を斬る。

 

「さ、流石といったところか、だが、貴様の命は貰うぞ!」

 

「貴様ぁああああああああ!」

 

 キロスがとどめを刺そうとした時、若葉が太刀を振り下ろす。

 

 刃を背中に受けたキロスは顔をしかめる。

 

「邪魔だ!」

 

 若葉を蹴り飛ばすが二撃目の斬撃がキロスの片腕を切り落とす。

 

「……赦さない」

 

 仰け反ったキロスの背後から千景の鎌が迫る。

 

「クレセントスクリュー!」

 

 千景と若葉の二人をまとめて狙う様にキロスのクレセントスクリューが放たれる。

 

 突風で視界が奪われる二人。

 

 その隙をついて、キロスは逃げ出す。

 

「待て!」

 

 追いかけようとした若葉だが、同時に樹海化が解けていく。

 

「日向!」

 

 キロスの姿が見えなくなったことで千景は黒騎士の方へ向かう。

 

 立っていた黒騎士だが、樹海化がなくなったことで膝をついた。

 

「大丈夫?」

 

「こんなもの、かすり傷だ……すぐに」

 

 治るといおうとしたところで黒騎士の鎧が解除されて落合日向の姿へ戻り、そのまま千景の横に崩れ落ちるように倒れた。

 

「日向……、日向!」

 

 千景の悲鳴と共に地面におびただしい量の血が広がっていった。

 

 




ちなみに、前編で、次回は後編となります。


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黒騎士と盗賊騎士の決着

後半です。


言えることは一つ、とにかく、詰め込みまくった。

そして、イレギュラー沢山、

一人の心、ズタズタっしてやったりなどなど。

とにかく、読んでください。



 

「……日向」

 

 大社の手配した病院、その一室で死んだように眠る落合日向の姿がある。

 

 千景はぴくりとも動かない彼の姿を見て泣きそうになるのを堪えていた。

 

 キロスとサソリ型バーテックスの襲撃から五日。

 

 未だに彼は目を覚まさない。

 

 今までにない激闘、本来なら死者でてもおかしくはなかった戦い。幸いといえばいいのか、勇者は大きな負傷はなかった。

 

 そう、勇者は――。

 

 運び込まれた日向はすぐに緊急手術が行われた。

 

 大社の医師によると既に峠は越えたと言われているのだが、目を覚ます気配がなかった。

 

「……千景」

 

「千景さん」

 

 呼ばれた千景が振り返るとそこには球子と杏の姿があった。

 

 二人は寝ている日向の姿を見る。

 

「黒騎士は、まだ、目を覚まさないか?」

 

「ええ」

 

 球子の問いかけに少し硬い態度で千景は答える。

 

 千景は友奈以外の勇者と仲がいい……わけではなかった。

 

 何より、今の彼女は抱いてはいけない感情をもちかけていて、自分を抑えるのに精いっぱいだった。

 

 二人は花束を置くと日向に声をかけて、そのまま帰る。

 

 千景はため息を零す。

 

「最低ね。二人にこんな気持ちを抱くなんて……彼が知ったら幻滅するかも」

 

 もし、

 

 もし、という感情が千景の中で沸き上がって止まらない。

 

 

――もし、あの子達が死んでいたら日向は傷つかなかった。

 

 

 こんな最低な気持ちを少しでも抱いているという自分がとても嫌になる。

 

「貴方がいないと……ここまで揺れるなんて」

 

 七年という人生において短くも、千景にとって長い時間をおいての再会を心の底から喜んでいた。

 

 自分をどん底から救い上げてくれた大切な人。

 

 そんな彼にもう会えなくなる。

 

 最悪の未来を考えただけで弱くなる自分がいた。

 

 その事実に千景は強く拳を握り締めてしまう。

 

 そんな千景へ窓の外から呼ぶ声が聞こえた。

 

「……ゴウタウラス」

 

 外には彼の身を案じるゴウタウラスの姿があった。

 

 本来なら人のいる近くに来られないゴウタウラスなのだが、ひなたが大社に掛け合い、特例として認められたのである。

 

「貴方も心配なのね」

 

 窓の外でひたすら相棒の身を案じるゴウタウラスをみて、千景は振り返る。

 

「早く、目を覚まして、日向」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ!」

 

 闇の中を高嶋友奈は走っている。

 

 何か……から逃げる様に、どうして、走っているのかわからないが、友奈はひたすらに逃げていた。

 

 そんな彼女を追いかけるのは白馬に乗った盗賊騎士キロス。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 振り返るとともに友奈は戦装束を纏い、キロスへ拳を振るう。

 

 だが、キロスはにやりとその拳を受け止めた。

 

「美しい……」

 

 微笑みながらキロスは拳を友奈の鳩尾に叩き込む。

 

 鋭い一撃を受けた友奈は地面に倒れる。

 

 倒れて動けない友奈に近づいていくキロス。

 

「う、うぅ」

 

 動けない友奈。

 

 そんな彼を守るように現れたのは黒騎士。

 

「く、黒騎士さん!?」

 

 驚く友奈を余所に黒騎士とキロスは激闘を始める。

 

 加勢したい友奈だが、体が締め付けられているように動かない。

 

 やがて、キロスの一撃が黒騎士を射抜いた。

 

 いつの間にかキロスはサソリ型のバーテックスに姿を変えて、長い尾で黒騎士の体を貫いた。

 

「あ、だ、ダメ!」

 

 宙づりになった黒騎士にサソリ型バーテックスのハサミが迫る。

 

「アイツを助ける方法は一つ」

 

 必死に黒騎士へ向かおうとする友奈にキロスが傍に立つ。

 

「俺のものになることだ」

 

「い、嫌!」

 

「じゃあ、あれは死ぬ」

 

 キロスが指を鳴らし、動けない黒騎士の首にサソリ型バーテックスのハサミが伸びていく。

 

「ああ、ダメ!いや、やめて!やめて!」

 

 友奈の必死の声に止まることなく、サソリ型バーテックスのハサミが黒騎士の首を切り落とす。

 

 ざくんと首が落ちて、友奈の前に転がって来る。

 

「あ、あぁ」

 

 目の前に転がって来る黒騎士の首。

 

「い、嫌だ、嫌だよ……黒騎士さん、黒騎士さぁん!」

 

 黒騎士の首に向かって声をかける友奈。

 

 そんな黒騎士の首をキロスは蹴り飛ばす。

 

「あーぁ、死んじまったなぁ」

 

 転がっていった首へ手を伸ばす友奈にキロスは残酷な言葉を吐く。

 

「あの時、お前がちゃんと俺と戦えていたらこうならなかったんだろうな。お前が俺を止められなかったからこういうことになったのさ」

 

「あ、あぁ」

 

 こと切れた黒騎士の遺体。

 

 無残な姿を見せられて、動けない友奈。

 

「すべてはお前が俺のものにならなかったことが招いた結果だ。俺のものにならなかったことが」

 

 そういって、キロスは闇の中に消えていく。

 

 友奈は最早、立ち上がる気力も戦う勇気すら失われていた。

 

「うっ、うぅっ…………ぁああああああああああああああああああああ」

 

 夢の中でありながらやけに現実味を帯びた世界の中で、友奈は自分を責め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景は部屋を出る。

 

 あれからさらに数日が経過した。

 

 未だに日向が目を覚ます様子がない。

 

 ふと、千景は高嶋友奈の部屋を見る。

 

 日向が目を覚まさなくなってからというものの、友奈の様子もおかしくなっていた。

 

 日に日に元気がなくなっている。

 

 終にはバーテックスと戦う時に戦装束すら纏えなくなった。

 

「高嶋さん」

 

 部屋の向こうにいる友奈に声をかける。

 

 しかし、反応がない。

 

 嫌な予感がした千景は申し訳ない気持ちを抱きながらドアを開けた。

 

「!?」

 

 床に置かれている手紙とスマホをみて、千景は限界まで目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景は勇者全員を友奈の部屋に呼び寄せた。

 

 運よく、全員が寄宿舎にいたことで、数分で友奈のいる場所にやってくる。

 

 呼ばれた全員はいきなりのことに困惑するしかない。

 

「千景、どうしたんだ?大至急こいというのは」

 

「これよ」

 

 千景が若葉に差し出したのは友奈が書き残した手紙。

 

 その内容を見た若葉達は目を見開く。

 

「これは……」

 

「友奈さん、ここまで思いつめていたなんて」

 

「一人で背負いすぎだ。友奈の奴!」

 

「友奈さんを探さないと」

 

 手紙の内容は黒騎士が意識不明になった原因は自分にあるという謝罪、自分がちゃんとキロスやバーテックスと戦えていればという後悔。その内容は最早。懺悔のような内容のものばかり。

 

「最後に気になることが書いてあるの」

 

 千景の指す内容。

 

「自分があの人のものになれば、全て解決する?」

 

「あの人って?」

 

「おそらく、盗賊騎士と名乗ったキロスだ」

 

 若葉の言葉に千景は思い出す。

 

 キロスは友奈に告白をしていた。

 

 しきりに自分のものになれといっていた。そんな相手の下へ友奈は向かったのだろう。

 

「友奈の奴!なんで、一人で抱え込むんだよ!タマ達に相談しろよな」

 

「まず、友奈を探そう。今の友奈は変身も出来ないんだ。本当にキロスのところへ向かったとなれば、危険すぎる」

 

「若葉ちゃんのいうとおりですね」

 

 捜すために外へ出る若葉達。

 

 千景はスマホを開いて、ある人物達へ連絡を取る。

 

「……お願いがあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友奈はふらふらとおぼつかない足取りで黒騎士の眠る病院へ来ていた。

 

 どうして、彼の下へ足を運ぶのか。その理由も定まらない中で友奈は死んだように眠る黒騎士の病室にやって来る。

 

 

 悪夢を見るようになってからというものの、友奈に安息の日々はなかった。

 

 眠れば当然のようにキロスが現れて、戦うために黒騎士が姿を見せて、殺される。

 

 そして、キロスが自分の耳元でささやく。

 

――自分のものになれ。

 

――お前は俺のものだ。

 

 耳元で囁かれたところで友奈は目を覚ます。

 

 そんな日々。

 

 悪夢の中で友奈の目の前で死ぬ黒騎士、次第に殺される人が増えていく。

 

 若葉、ひなた、球子、杏、千景。

 

 友奈は食事をすることも、眠ることも満足にできず、いつの間にか戦うことすらできなくなっていた。

 

 そんな友奈は一目、黒騎士の姿をみたくて、ここへやってくる。

 

 

「あ、この子じゃないか?」

 

「そうみたいだ。ねぇ、キミが高嶋友奈ちゃんだよね」

 

 病室のドアを開けようとしたところで二人の男性に呼び止められる。

 

 病人のように顔色が悪い友奈。

 

「貴方達は……」

 

「千景ちゃんに頼まれたんだ。キミを探してほしいって」

 

「俺は伊達健太!こいつは炎力。日向の親友なんだ」

 

「ひゅうが?」

 

「ああ、黒騎士のことだよ」

 

 千景から日向の正体を聞かされていた二人が話す。

 

 行方不明になった友奈を探すため、千景は日向の親友だった二人に事情を話すことで協力を仰いだ。

 

 友奈を見つけるために。

 

「黒騎士さん……会わないと」

 

 健太ち力、そんな二人の話を右から左へ流しながら友奈は歩き出す。

 

 ふらふらと幽霊のようにおぼつかない足取りで友奈は病室のドアを開ける。

 

 その時、樹海化が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海の中。

 

 本来なら友奈だけがその場にとばされるはずだった。

 

「あれ、なんだ、ここ?」

 

「病院じゃないのか?」

 

 どういうわけか健太と力の二人も樹海の世界に飛ばされている。

 

 こんなことはありえないはずだった。

 

「来たか、高嶋友奈」

 

 聞こえた声に友奈は体を震わせる。

 

 近くの岩にもたれるようにして、キロスがそこにいた。

 

 キロスの姿を見て、体を震わせる友奈。

 

「誰だ、アンタ」

 

「俺の名前は盗賊騎士キロス。欲しいものは必ず手に入れる男だ。そして、お前達を樹海の世界に招き入れたのは俺の力だ」

 

「樹海?」

 

「に、逃げて」

 

 体を震わせながらも友奈は前に立つ。

 

 彼女の様子を見て、健太と力は頷いて前に出る。

 

「な、何をしているんですか!あの人は危険で――」

 

「よくわかんえぇけど、怯えている女の子を置いて逃げるわけねぇだろ!」

 

「健太の言うとおりだ!何ができるわからないけれど、俺達が好き勝手させない!」

 

「いいねぇ、男前の発言だ。だが、力のない奴がそういうことを言うと、命を落とすっていうことを知れ」

 

「や、やめて!」

 

 キロスの言葉と共に小型バーテックスが現れる。

 

 足が地面に縫いつかれたように友奈は動けない。

 

 震える手でキロスを止めようとする。

 

 健太と力が身構える中、千景が鎌を振り下ろして、現れたバーテックスを切り裂く。

 

「ぐんちゃん……!」

 

「高嶋さん、見つけた……それに!」

 

 怒りで顔を歪めながらキロスの姿を見る。

 

「お前さえいなければ!」

 

 鎌を向けて千景はキロスへ斬りかかる。

 

 振るわれた鎌を鎖でキロスは防ぐ。

 

「お前さえいなければ!日向は!高嶋さんは!!」

 

「俺は欲しいものを手に入れる。それだけだ。邪魔なものはすべて蹴散らしてなぁ!」

 

 叫んでキロスは千景を蹴り飛ばす。

 

 そんな彼女の周りに群がろうとする小型バーテックス。

 

「……邪魔!」

 

 全てを倒すために千景は精霊を宿す。

 

 七人御先を纏い、鎌を振るう。

 

「他の勇者も使っていたな。切り札といっていたか?」

 

 キロスは指を鳴らす。

 

 いつの間に用意していたのか合体しているバーテックスが千景を囲む。

 

「そいつらを倒せたら相手してやる」

 

 キロスはそういうと千景から視線を外して友奈達の方に向かった。

 

「待て!」

 

 千景がキロスを追いかけようとするも、バーテックスに阻まれてしまう。

 

 友奈を守ろうと力や健太が迎え撃とうとするが、所詮は人。

 

 キロスの起こした衝撃波に吹き飛ばされる。

 

 衝撃波が友奈の傍を通過して、彼女の結っている髪がはらりと解ける。

 

 驚いて後ろ見る友奈。彼らにもバーテックスが迫っていく。

 

「あいつらを助けたいか?」

 

 動けず、怯えてしまっている友奈にキロスは問いかける。

 

「ならば、俺のものに、俺の妻になると言え、そうすれば、お前の大事な親友やあの男達も助けてやろう」

 

「ぇ」

 

「高嶋さん!駄目よ!そいつが約束を守るとは思えない!」

 

「俺達なら大丈夫だ!頷いたりししちゃだめだ!」

 

「そ、そうだぜ!破る可能性だって」

 

「こいつらの命はお前が握っている。お前の返答次第では」

 

 

――どうなるかわかるだろう?

 

 

 囁くような言葉に友奈のハートは拘束される。

 

 この場でどうすればいいのか。

 

 もっといえば、拒絶したらどうなるか。

 

 その姿を散々、悪夢の中でみせられた友奈に選択肢は一つしかなかった。

 

 もし、いつもの彼女なら違う選択肢も考えただろう。

 

 だが、長い悪夢によって衰弱している今の彼女は、目の前に提示された条件以外を選べない。

 

 選べば、あの悪夢が本当に起こってしまう。

 

 そんなことはあってはいけない。

 

 自分なんかのために大事な人たちが傷ついてしまうくらいなら。

 

 自分を捧げればいい。

 

「私は……」

 

 にやりとキロスが笑おうとした時。

 

 ポンと後ろから友奈の肩を叩く手があった。

 

 見上げた友奈は目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はある夢をみていた。

 

 一つの惑星。

 

 地球とは別の、人類と別の種族が住まう場所。

 

 そこを巨大な影が襲った。

 

 巨大な影には宇宙を荒らす海賊が乗っていた。

 

 海賊たちによってその星の人達の命は奪われていく。

 

 星を守るために戦う騎士達も、一人、また一人とその命を散らす。

 

 その中で黒騎士ブルブラックは孤軍奮闘していた。

 

 だが、彼も満身創痍と言える中。

 

「兄さん!戦って、星を守って!」

 

 彼の大事な弟も戦う。

 

 だが、海賊の手によってその命は奪われ、星は滅びた。

 

 黒騎士ブルブラックは復讐者となり地球へやってくる。

 

 地球で彼は海賊の一人の手によって崖の裂け目に叩き落とされた。

 

「……アンタも、俺と同じだったんだな」

 

「そうだ、私は宇宙海賊を滅ぼすためにこの星へやってきた。弟……クランツの仇をとるために」

 

「……俺と同じ復讐者」

 

「三千年」

 

 ブルブラックは俺を見る。

 

「私は三千年、深い闇の中で復讐することだけを考えてきた。だが、その復讐は思いがけない形で果たされた」

 

「どういうことだ?」

 

「天の神、天の神がこの星を滅ぼすために行った行動によって、この地に封印されていた宇宙海賊は滅んだ。私の復讐は果たされてしまったのだ」

 

「つまり、天の神はアンタの復讐を手助けした相手、そんな奴を滅ぼそうとしている俺に力を貸しているのか」

 

「そうなる」

 

「なぜ、俺に力を貸してくれる?」

 

「お前が私と似ているからだろう」

 

「俺と、黒騎士が」

 

「元のお前も純粋な存在だった。だが、バーテックスによって弟を殺され、復讐者になった。私と同じ、私も弟を殺された。似ているのだ。どこまでも、私とお前は」

 

――似ているのだ。

 

 ブルブラックの言葉に俺は何も言えない。

 

 言われてみれば、確かに俺達は似ているのだ。

 

 弟を殺されて、復讐者になったこと。

 

 復讐の炎は止まることがない。

 

「だが、お前は揺れている」

 

「俺は……」

 

「わかっているはずだ。かつての友、そして、お前を慕う者達……お前は復讐とは別の道を選ぼうとしている」

 

「……俺は」

 

 脳裏を過るのは四国の勇者たち、小さい頃の親友の二人、そして、大好きだった弟の蔵人。

 

 そして、バーテックスに無残にも食いつくされた蔵人の最後。

 

 忘れられない。

 

 忘れてなるものか!

 

 俺は絶対に忘れてはいけないのだ。

 

 

「そうだ、その炎を忘れるな。お前は私と契約したことで絶対に逃れることは出来ない。一時の安穏があろうと、最後は復讐の道を歩む」

 

 忘れるな。

 

 お前は復讐者なのだ。

 

 黒騎士ブルブラックの言葉が浸透していく。

 

 そして。

 

「ああ、そうだ、俺は復讐をする。過程なんか、どうでもいい。必ず果たす!」

 

「外ではバーテックスと混ぜ合わされた盗賊騎士が勇者を狙っている」

 

「わかった。バーテックスは滅ぼす……そのついでに勇者を助けても、問題ないだろう」

 

「貴様の決めたことだ。私は何も言わない。だが、後悔はするだろう」

 

「いいさ」

 

 薄暗い闇の中が赤く染まっていく。

 

 目を覚ますと、病室だった。

 

 体を起こすと少しばかり激痛が起こる。

 

 腹部をめくると傷は綺麗になくなっていた。

 

 すぐ近くにブルライアットが置かれていた。

 

 ブルライアットを手に取る。

 

 窓を見るとゴウタウラスがこちらをみていた。

 

「行こう……」

 

 ブルライアットを握り締めて、俺は刃を空へ掲げる。

 

 緑色の光と共に俺は黒騎士の鎧を纏う。

 

 

「ゴウタウラス!」

 

 ゴウタウラスが喜びの声を上げる。

 

 俺はゴウタウラスと共に樹海へ突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒、騎士さん」

 

「泣きそうな顔だな」

 

 今にも泣きそうな顔をしている高嶋友奈。

 

 何が彼女を此処まで追い詰めているのかわからない。

 

 だが、

 

「お前に涙の顔は似合わない、笑顔の方がいい」

 

「え」

 

 驚いている高嶋友奈を置いて、俺は盗賊騎士キロスと向き合う。

 

「またきたのか、死に損ない」

 

「黙れよ。死人」

 

「気付いたか」

 

「ああ、貴様は既に死んでいる」

 

 バーテックスと混ざり合っていてはっきりわからなかった。だが、ブルブラックと会話をして、力が増した気がする。

 

「その通り!俺は死んでいる。だが、天の神と契約したことで力を手にしたのさ。前よりも、さらに、さらに強くなった!そして、俺は欲しいものを手に入れる。高嶋友奈を!」

 

「そうか」

 

 俺は理解する。

 

「お前、高嶋友奈に何をした?」

 

「正しい選択をさせる様にさせた、それだけだ」

 

 何をしたのか想像できない。

 

 周りを見れば、伊達健太や炎力の姿もある。

 

 少し離れたところではバーテックスと戦う千景の姿があった。

 

 高嶋友奈は酷く怯えている。

 

 だが、この少女をここまで追い詰めさせたことで俺の中に怒りと同時にどす黒い炎が沸き上がる。

 

「俺はバーテックスを滅ぼす。貴様も同じだ!盗賊騎士キロス!」

 

「やってみろ!貴様を殺して、俺は高嶋友奈を手に入れる」

 

「や、やめてください!」

 

 前に踏み出した俺の腕を高嶋友奈が掴む。

 

 涙を零しながら必死に彼女は俺を止める。

 

「私が……私が行けば、皆が傷つくことはないんです。だったら、私が」

 

「ふざけるな」

 

 拳を握り締める。

 

「コイツは誰のものでもない。コイツ自身のものだ。ましてや、盗賊騎士キロス、貴様のものでは決してない!」

 

 俺の叫びにキロスは笑みを浮かべて。

 

「殺す」

 

 ぞっとするほど冷たい声を告げる。

 

 その声に友奈は怯える。

 

「高嶋友奈、怯えるな!」

 

 俺は後ろへ下がろうとしていた友奈に叫ぶ。

 

「前を向け、お前は勇者だ」

 

 ブルライアットを抜いて俺はキロスとにらみ合う。

 

 地面を蹴り、俺とキロスは刃をぶつける。

 

 互いにぶつかりあう刃。

 

「お前は独りで戦っているわけではない!お前には大事な仲間がいる!俺と違う!貴様は独りではない!」

 

 キロスクレセントとブルライアットの刃が斬りあう。

 

 下がることは決して許されない。

 

 俺が下がれば、大事なものが奪われる。

 

 奪われてたまるか。

 

「貴様、何が!」

 

 キロスが戸惑った声を上げる。

 

 鎖鎌がブルライアットに絡みついて奪われた。

 

 だが、止まらない。

 

 止まるわけにいかない!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 拳を握り締めてキロスへ振るう。

 

「なっ、貴様の拳は一体!」

 

 戸惑うような声を上げながら吹き飛ぶキロス。

 

 気のせいか、全身が燃えるように熱い。

 

 だが、俺は止まらない。

 

 止まることは絶対にないのだ。

 

 俺は復讐者であり、奪うものを赦さない!

 

 地面に落ちたブルライアットを拾い上げる。

 

「はははっ」

 

 瓦礫の中からキロスが姿を見せた。

 

「この鎧は返り血で汚れたことはあっても、埃で汚れたことはない」

 

 キロスはブーツから赤い布を取り出して、鎧についた汚れを拭う。

 

「黒騎士、貴様は俺を本気にさせたようだ」

 

 人を小馬鹿にしたような笑みを消して、キロスは顔から表情を消す。

 

 吹き飛んだキロスは鎖鎌を振り回す。

 

「クレセントスクリュー!」

 

 襲い掛かる風の攻撃。

 

 迫る攻撃を前に俺はブルライアットを鞘に納める。

 

 攻撃を受けて吹き飛ぶ。

 

 くるくると回転する中、俺は目を見開く。

 

「そこだ!」

 

 ブルライアットをショットガンモードにして、狙い撃つ。

 

 狙撃によってキロスの肩を撃ち抜く。

 

「な!」

 

 撃たれたキロスは信じられないという目で見開きながら後ろへ下がる。

 

 近くの壁を蹴って、俺はブルライアットをセイバーモードにして、一気にキロスへ距離を詰めた。

 

「覚えておけ」

 

 間合いへ入り込みながら俺はキロスへ、その向こうにいる天の神へ告げる。

 

「俺の大事なものを潰すなら、何があろうと容赦しない!何であれ、倒す!」

 

 黒の一撃。

 

 放った一撃がキロスの体を切り裂く。

 

 切り裂かれたキロスの体が地面へ落ちた。

 

「ありえん、この俺が……貴様を潰すぅぅぅ!」

 

 叫びと共にキロスの周りに群がる小型バーテックス。

 

 キロスを中心に魚を模した巨大バーテックスへその姿を変える。

 

 魚型のバーテックスの前に千景がやってきた。

 

「日向!」

 

「……ちぃちゃん、彼女達を守ってくれ」

 

「貴方は?」

 

「バーテックスを滅ぼす。それが俺の目的だ」

 

 ちぃちゃんに告げて、俺は前を見る。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 やってきたゴウタウラスの光を受けて俺は重騎士に姿を変える。

 

 ブルソードを振るう。

 

 ゴウタウラスに跨って、俺はブルソードを魚型バーテックスとぶつかりあう。

 

 熱を持つゴウタウラスの角によってバーテックスの体の一部が融解した。

 

 そのまま、ゴウタウラスと共に突撃すれば――という瞬間。

 

 魚型バーテックスが変貌する。

 

 魚の姿を模しながらも人に近い姿。

 

 半魚人のような姿に変身したバーテックス。

 

 人の形のような中心、そこに顔の部分が現れた。

 

「貴様は!」

 

 現れた顔は盗賊騎士キロスのもの。

 

 キロスの刃が俺とゴウタウラスを襲う。

 

 強力な太陽のような熱にゴウタウラスが後ろへ下がっていく。

 

 仕方ない。

 

 奥の手を使おう。

 

「騎獣合身!」

 

 俺とゴウタウラスの最後手段。

 

 重騎士とゴウタウラスが合体することで至る最強の姿。

 

 赤と黒の巨人。

 

「合身獣士!ブルタウラス!」

 

 半魚人バーテックスが鋭い爪を振り上げる。

 

 向かい合うブルタウラスはツインブルソードで爪ごと、手を斬り落とす。

 

 襲い掛かる半魚人バーテックスを殴り飛ばす。

 

 距離が開いたところでツインブルソードを構えた。

 

「野牛鋭断!」

 

 ツインブルソードを構えて、回転しながら敵に突っ込む。

 

 必殺の野牛鋭断を受けて半魚人型バーテックスを切り裂く。

 

「まさか、俺にも奪えなかったものがあるとは……だが、貴様のいく道は地獄だぜ。何も蘇ったのは俺だけじゃない。他にもいるはずだ。むごたらしく死ねばいい!」

 

 キロスの顔が呪いの言葉を紡いで、体をドロドロに溶かして消滅する。

 

 俺はツインソードを構えたまま、消滅したバーテックスを見続けた。

 

 ブルタウラスから重騎士、そこから黒騎士、本来の姿へ戻る。

 

 全身へ襲い掛かる疲労感にふらつきそうになるのを堪えた。

 

 まだ、やることがある。

 

 ふらふらになりながら俺は茫然とこちらを見ている高嶋友奈の傍に立った。

 

「あ、黒騎士、さん」

 

「……」

 

 信じられないという目で見上げてくる少女。

 

 大方、あのキロスに何かされたのだろう。

 

 それが今も彼女を縛っている。

 

「俺は何があろうと負けない。お前が何を見たのか知らない。だが、これだけははっきり言ってやる」

 

 泣きそうな顔をしている高嶋友奈にはっきりと。

 

「俺は死なない。バーテックスを、天の神を滅ぼすまで死ぬことはない!何より……」

 

 ポンと頭に手を置く。

 

「すべてが終わったら俺と話をするんだろう。こんなところで立ち止まるな」

 

「……ぁ、あああ」

 

 俺の言葉で瞳が潤み、涙をこぼす。

 

 そのまま、俺に抱き着いてきた。

 

「うわぁぁあああああああああああああああああああ!ごめんなさい、黒騎士さん!ごめんなざぁああああああいい」

 

「何だよ……全く」

 

 泣く元気はあるのかよ。

 

 ため息を零しながら駆け寄って来るちぃちゃんや力、健太達がやってくるまで、高嶋友奈は泣き続けた。

 

 この時、俺は気づかなかった。

 

 ちぃちゃんが戦装束を解除した時、彼女から何かがブルライアットに入っていくことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後のことを少しだけ話そう。

 

 やってきた乃木若葉達の手によって俺は病院へ戻された。

 

 病院で大社や関係の医師たちに怒られたが、傷が塞がっている腹を見せると大人しくなる。

 

 そして、二日後に退院という約束を取り付けた。

 

 病院内では黒騎士の姿にならないでくれという条件の下、医療費は不要ということで、俺は今日、退院する。

 

 腰に下げているブルライアットをみながら、病院の出口へ向かう。

 

「待っていたぞ!」

 

「よう!日向」

 

 外に出たところで待ち構えていたように力と健太がやっていた。

 

「なんだ?二人とも」

 

「何って、決まっているだろ?」

 

「退院祝いだよ!退院祝い!ほら、勇者の子達も待っているぞ!」

 

 力と健太に手を引かれて俺はある場所に連れていかれる。

 

 桜が満開している木の下。

 

 そこに勇者たちがいた。

 

 ブルーシートを敷いて、様々な食事の入った重箱、お菓子、飲み物などを用意して笑顔を浮かべて、待っている。

 

 少し離れた場所ではゴウタウラスがこっちをみていた。

 

「なんだ、これは?」

 

「花見だ!」

 

「勇者主催の花見だぜ!」

 

 笑顔で言う力と健太の言葉に俺はますます困惑する。

 

 どういうことだと思っていると俺の前に勇者たちがやってきた。

 

「鎧のない状態でちゃんと話をするのははじめてだな。私は乃木若葉。礼を言わせてくれ。球子や杏、そして、友奈を助けてくれてありがとう」

 

「上里ひなたです。ありがとうございます。みんなを守ってくれて、本当に」

 

 乃木若葉と上里ひなたが俺に感謝の言葉を告げる。

 

「黒騎士」

 

「黒騎士さん」

 

 俺の傍に土居球子と伊予島杏がやってくる。

 

「「ありがとう」」

 

 二人は俺に頭を下げる。

 

「杏を助けてくれて感謝する」

 

「タマっち先輩を守ってくれて、ありがとうございます」

 

「……別に、偶然だ」

 

 感謝の言葉がくすぐったくて、俺は視線を逸らす。

 

 視線を外したらぐぃっとちぃちゃんに顔を掴まれる。

 

「今度、無茶したら……許さない」

 

「は、はい」

 

 本気で怒っている目にガチでびびってしまった。

 

 間近で見ていた力や健太も引いている。

 

「おかえりなさい」

 

 最後に微笑んで、離れる。

 

 そうして、俺の前にやって来るのは高嶋友奈。

 

「……顔色、よくなっているな」

 

「は、はい!」

 

 目を左右に動かしながら高嶋友奈は答える。

 

 それから、手で髪を触り、前を向く。

 

「わ、私!高嶋友奈っていいます!黒騎士さん、貴方の本当の名前を教えてください!」

 

「……もう、過去のものだ」

 

「バーカ」

 

 横から健太が小突く。

 

「なぁに、変なこといってんだよ。お前はお前だ」

 

「健太の言うとおり。お前は俺達の大事な親友なんだからな」

 

 続く力に言われて、俺は肩をすくめる。

 

 そうして、じっと、こっちを待っている高嶋友奈と向き合う。

 

「落合日向、それが俺の名前だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騒ぎすぎだ」

 

「そんなことありません!だって、黒騎士……日向さんの退院祝いなんですから!」

 

「わかったから、そんなに近づくな」

 

 力説するように距離を詰めてくる高嶋友奈に俺は躱す。

 

 なんというか、前よりも距離感を縮められている気がするぞ。

 

 ため息を吐きながら俺は高嶋友奈と夜道を歩いていた。

 

 少し、話をしたいと言われて、こうしているのだが。

 

「(ちぃちゃんの目が怖かったな)」

 

 去り際にこっちをみているちぃちゃんの目、あれはヤる目だ。

 

 阿呆な考えをしていることに気付いてため息を漏らす。

 

「どうしたんですか?溜息を吐いて」

 

「別に」

 

「溜息を吐くと幸せが逃げますよ?」

 

「逃げ出すような幸せもない」

 

「なんといいますか、黒騎士さんの時よりも口調に親しみが持てます」

 

「そうか?」

 

「はい!できれば、ずっと、その姿でいてほしいです」

 

 友奈の視線から目を逸らす。

 

「明日も学校があるだろ。そろそろ、帰れ」

 

「はい!高嶋友奈!帰ります」

 

 敬礼して、高嶋友奈は寄宿舎の方へ向かう。

 

 俺はブルライアットを抜く。

 

 夜空の光で輝くブルライアットを握り締める。

 

「俺は必ず、復讐を果たすぞ。蔵人」

 

 緑色の光と共に黒騎士の鎧を身に纏う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒騎士、落合日向さん」

 

 日向と別れた筈の友奈。

 

 彼女は黒騎士の姿になった彼を遠くから見ていた。

 

「好き……大好き」

 

 気付かれないように電柱の影に隠れるようにしながら真っ直ぐに、面と向かっていえなかった言葉を紡ぐ。

 

「黒騎士さん、日向さん、好き、こんな私を守ってくれて、ありがとう」

 

 潤んだ瞳で空を見上げている黒騎士の姿を見続ける。

 

 彼が居なければ、自分がどうなっていたのかわからない。

 

 IFはわからない。

 

 今の彼女は自分を救ってくれた大事で、愛しい、とても大切な人のために戦う。

 

「いつか、この気持ちを正面から伝えるから……私が死んでも、永遠に、ずっと、大好きです」

 

 そう言って、彼女は黒騎士が動くまで後姿を見続けた。

 

 




これ、病んでいるといっていいのか、怪しいなぁ。

後二人ほどの話をやって、過去は終わりかなぁ?





おそらく、知っているだろうと思ったけれど、結構昔だからキャラ紹介。


炎力

高速戦隊ターボレンジャー、レッドターボ。
高校三年生、野球部所属でピッチャー四番。
魔球を使える人物。
リーダーシップもあり、どんな敵であれ、話し合えるのならそれで解決できることを望む人物。
ターボレンジャーではないけれど、原作のような人物。
幼いころに黒騎士になる前の日向と親友だった。

伊達健太

電磁戦隊メガレンジャー、メガレッド。
高校三年生、大好きなのは焼肉、得意なのはゲーム、ちなみに得意なゲームは「メガレンジャー」である。
能天気だけれど、仲間を大事にしている人物。
彼もメガレンジャーではないけれど、仲間や人を大事に思えるところは変わらない。
黒騎士になる前の日向と親友であり、今もそう思っている。


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黒騎士と怨念

今回、新たな敵第二弾です。

それが終われば、番外編でもやろうかな?

ちなみに、かなり短いです。


――この怨み、消えぬ!赦さぬ、必ずやこの怨みをぉ。

 

 深い闇の中、肉体を吸いなったそれはただ、呪詛を吐き続ける。

 

 長い年月、果てることのない怨み、消えることのない黒い感情は止まることを知らない。

 

 

――根絶やしにする。人間を、醜い人間を滅ぼすぅ。

 

 

決して消えることのない憎悪。

 

 

そこに天の神は目をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?」

 

 上里ひなたは偶然にも古本屋に黒騎士の姿を見つける。

 

「黒……落合日向さん、何をしているのですか?」

 

 今の彼は黒騎士としての鎧を纏っておらず、人の姿をしていた。

 

 後でわかったことだが、元は普通の人間で、バーテックスと常に戦うという意識から鎧を纏っていたという。

 

 今は黒で統一した上着とジーンズ、ソフト帽をかぶっている。

 

 そんな彼が古本屋で本を読んでいることに少なからず興味があった。

 

「上里ひなたか」

 

「ひなたと呼んでも構いませんよ?」

 

 ひなたの言葉に日向は一冊の本をみせる。

 

「これは?」

 

「文献だ」

 

「随分と古いみたいですね」

 

「ああ、二万年前に起こっていたとされる出来事の記録だ」

 

「に、二万年ですか」

 

「ああ、その時期にある帝国と種族の存在が記されている」

 

 日向の言葉にひなたは首を傾げた。

 

「地底帝国チューブ、暴魔百族」

 

「何ですか、その物騒な名前」

 

「あくまで存在していたかもしれないという記録だ。その中で、ああ、あった」

 

 目を細めて彼はあるページをみている。

 

「コイツだ」

 

「これって……」

 

 ひなたは目を見開く。

 

 そこには盗賊騎士キロスの姿が描かれている。

 

「どうして、ここに」

 

「乃木若葉からの報告を聞いているだろう?奴は既に人としては死んでいる存在だ。魂をバーテックスと融合して生み出された存在……だが、その基がなんなのか、気になっていた」

 

「……あの、日向さん」

 

「なんだ?」

 

「どうして、ここにキロスの記録があると?」

 

「昔、読んだだけだったのだが……奴の言葉の端々を思い出して、至ったんだ」

 

「まるで考古学者ですね」

 

 ひなたの感想にぴくりと日向の手が止まる。

 

「日向さん?」

 

「何でもない……後で伝えようと思っていた情報だが、そっちから乃木若葉達に伝えてくれ」

 

「え、あ」

 

 止めるひなたの言葉を聞かずにそのまま日向は姿を消す。

 

「困った人です」

 

 盗賊騎士キロスとの激闘から少なからず、距離感が縮まったと思っていたのだが、未だに溝のようなものがある。

 

 深くも浅くもないそんな溝。

 

 どうすれば埋められるのか。

 

 ひなたは姿のない彼の姿を見て、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、樹海化が起こる。

 

 

 

 

 いきなりのことに勇者たちは戸惑う。

 

 何より。

 

 巫女であるひなたも樹海の中に呼ばれてしまっていた。

 

「どうして、私まで」

 

 何が起こっているのかわからないひなたは勇者たちと合流しようとする。

 

 ひなたを狙う様に次々と小型バーテックスが姿を見せた。

 

 戦う力のないひなたはひたすら逃げるしかない。

 

 だが、所詮は人。

 

 バーテックスの速度に彼女は追いつかれてしまう。

 

 巨大な口を開けて迫るバーテックス。

 

「若葉ちゃん!」

 

 親友の名前を呼んだその時。

 

「黒の一撃!」

 

 バーテックスの背後から黒騎士が現れ、ブルライアットで切り裂く。

 

 周りにいたバーテックスは黒騎士、そして、やってきたゴウタウラスが蹴散らす。

 

 敵がいないことを確認して、黒騎士はブルライアットを鞘に納める。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、はい」

 

「どうして、お前が樹海の中にいる?」

 

「わかりません。ですが、ここのところ、今までにないイレギュラーのようなものが起こっています」

 

「イレギュラーか、それはあれも同じか?」

 

 黒騎士はある方向を指す。

 

「え?」

 

 先を見たひなたは言葉を失う。

 

 樹海の中、彼らの視線の先に何かがいた。

 

 まるで陽炎のように揺らめいて、姿をはっきりと捉えることができない。

 

 だが、巫女であるひなたはそこにいる存在がとても危険であることがわかる。

 

 どこからかバーテックスが現れてそこに群がっていく。

 

 集まることで合体していくバーテックスだが、それは大きくなることはなく、人の形へ変えていく。

 

「大復活」

 

 鎧武者のような風貌、腰に携えている刀。

 

 なにより素顔が見えない。

 

 素顔がみえないから、より相手が危険であることが嫌でもわかってしまう。

 

「暗闇暴魔……ジンバ!」

 

「暴魔って」

 

 ひなたは先ほど、黒騎士と読んでいた文献を思い出す。

 

「キロスと同じ……」

 

「貴様、黒騎士でござるな?」

 

 ジンバの言葉に黒騎士はため息を零す。

 

「だったらなんだ?」

 

「貴様を殺す。そして、四国の勇者も殺す。某の目的でござる」

 

「そうか」

 

 ジンバが二本の暗黒魔神剣へ手をかける。

 

 黒騎士がブルライアットに手を伸ばす。

 

「しかし」

 

 突如、ジンバがその手を戻す。

 

「今宵は挨拶のみ。これから、我が復讐がはじまる」

 

「……復讐だと?」

 

「左様、某は人間を滅ぼす。だが、まだ復活したばかりで力が足りない……我が分身の封印も解かねばならない……」

 

 ジンバの様子を伺う黒騎士。

 

 そこに乃木若葉達、勇者もやって来る。

 

「ふん!」

 

「チッ!」

 

 ジンバが繰り出した斬撃が迫る。

 

 黒騎士は咄嗟にひなたを庇う。

 

 球子達が攻撃を防ぐ。

 

「再び、姿を見せるとき、お前達の最後でござる」

 

 そういって、ジンバは姿を消した。

 

 同時に樹海の現象もなくなる。

 

「ひなた!無事だったか!」

 

「ええ、若葉ちゃん。黒騎士さんがきてくれたおかげで」

 

「よかった。お前に何かあれば、私は……」

 

「大丈夫ですよ。若葉ちゃんの親友である私は、若葉ちゃんを置いていなくなったりしません」

 

「ああ」

 

 若葉はひなたの無事に安堵すると離れようとしていた黒騎士に声をかける。

 

「ありがとう、貴方がいなかったら、ひなたはどうなっていたか」

 

「心配するなら、傍にいてやれ。俺はたまたまいただけにすぎん」

 

 ちらりと若葉を見て、黒騎士は去ろうとした。

 

「待ってください」

 

 そんな黒騎士にひなたが声をかける。

 

「ひなた?」

 

「黒騎士さん、明日、勇者の皆さんとあの件のことで話をします。絶対にきてください」

 

「……バーテックスはより脅威になる。警戒は続けることだ」

 

 黒騎士はゴウタウラスと共に姿を消す。

 

「ねぇねぇ、ぐんちゃん」

 

「なに?高嶋さん」

 

「気のせいかな?日向さん、笑っていたような気がするんだけど」

 

「奇遇ね。私もそう思うわ」

 

「ひなたちゃんと何かあったのかな?」

 

「そうね、後でしっかりと問い詰める必要があるわね」

 

「うん!そうだね!ぐんちゃん!」

 

「……なあ、杏」

 

「タマっち、先輩、言わない方がいいよ」

 

「いや、あの二人、なんか、怖いんだけど」

 

「知らない方がいいこともあるよ……きっと」

 

 

 




今回の敵

暗黒暴魔 ジンバ

高速戦隊ターボレンジャー、初期から中盤まで登場した幹部。
下は人ながら、最愛の人に裏切られ、魂を暴魔に売った戦士。
かなり強く、中盤ではターボレンジャーの主力ロボだったターボロボを合体解除まで追いやった人物。
そんな彼の半身ともいえる暴魔が今回のボスみたいな感じになるかと思います。

ちなみにチョイスは作者の好みから。


あと、色々とやりたいことのチョイスで選びました。



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黒騎士と恋人

今回はネタとギャグと、シリアスが一割ほどです。

ちなみに、次回は番外編。

ゆゆゆいの話になります。


 

 丸亀城の一室。

 

 そこで、ひなたと勇者、壁にもたれている黒騎士の姿がある。

 

「今回、集まってもらったのは黒騎士さんが発見してくれた情報をお伝えするためです」

 

「情報?」

 

「先日、現れたジンバ、そして、その前の盗賊騎士キロス……それらは過去に死亡した存在なのです」

 

「どういうことだ?」

 

「あの時も盗賊騎士キロスはいっていたけれど、自分は死んでいて、天の神と契約をしたって」

 

「そうです。杏さんの言葉通り、キロス、おそらく、ジンバも既に死んでいます。すべてはこの書物に記されていました」

 

 分厚い本をひなたは取り出す。

 

「それは?」

 

「学説も、たいして研究もされていないおとぎ話とも言われている類の話が集められたものだ。その中にかつて、存在していたであろう地底帝国チューブ、暴魔百族といった、人間に敵対する存在のことが記されている」

 

「そんなものが?」

 

「ですが、確固たる記録や証拠もないことから、誰も信じていません」

 

 驚く千景にひなたが言う。

 

「だが、こうして、キロスやジンバは復活している。天の神の手先として」

 

 黒騎士の言葉に全員の視線が集まる。

 

「どうして、一気に復活しないのか、なぜ、一体ずつなのかはわからない。だが、この書物に幸運にもジンバのことが記されていた」

 

 

――暗闇暴魔ジンバ。

 

 太古の争いで多くの人を殺した狂戦士。

 

 数えきれないほどの人を、兵士を滅ぼし、最後は見るも無残な姿になりながらも戦いを続けた。

 

「どうして、そこまで」

 

「一説で、ジンバは仕えていた主である姫に恋をしていたという。姫のために戦い続けたが最後は言葉にするのも嫌な裏切りを受けたらしい」

 

「酷い……」

 

「それで、どうなったんだ?」

 

 言葉を詰まらせる杏。

 

 続きを球子は尋ねた。

 

「死してもなお、恨みが消えなかったジンバの魂は暴魔へ姿を変えて、自らの分身と人々を苦しめ続けたという」

 

「愛が反転して憎しみに変わった……なんだか、酷い話」

 

「ジンバ……さんは、何をしようとするのかな?」

 

「変わらない」

 

 友奈の疑問に黒騎士は言葉を漏らす。

 

「奴は人を恨み続けている。ならば、やることは一つ、人への復讐。それだけだ」

 

「何か……悲しいね」

 

 杏の言葉に誰も答えない。

 

 黒騎士は何も言わず、外の景色へ視線を向けた。

 

「まずはジンバ対策、奴の分身を探すことだろう」

 

「え、分身を?どうしてだよ」

 

「……球子さん、ジンバは強敵です。そのジンバだけで苦戦することがわかっているならば、対策としては分身を見つけて、阻止することです」

 

「おぉ!成程」

 

「……だいじょうぶなのか?」

 

「黒騎士ィ!お前、タマをバカにするのか!?」

 

「……」

 

「なんで、沈黙するんだ!?杏!杏も何か言ってくれ!」

 

「えっと、タマっち先輩はそのままでいいと思うよ!」

 

 その場に球子は泣き崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒騎士ぃ!お前のせいだから!罰として、タマ達とご飯を食べるんだから!逃げたら、タマは大きな声で黒騎士に襲われたというからな!」

 

 というわけのわからない脅迫で俺は鎧を解除して食堂に来ていた。

 

 そこで、小さな騒動があった。

 

「なぜ、蕎麦なの」

 

「……安いから?」

 

 目の据わったちぃちゃんに俺は問い詰められていた。

 

 昼に何を食べるかというところで蕎麦を選んだらうどんが大好きなちぃちゃんに目をつけられてしまう。

 

「四国のうどんを食べるべき……」

 

「別に何を食べても変わらないだろう」

 

「いいえ、変わるわ。うどんを食べるべきよ」

 

「千景の言うとおりだ、落合日向!お前にうどんの良さを教えてやろう!」

 

「本当に、本当に不本意だけれど、乃木さんと同意見だわ」

 

 どうでもいいという態度をとっていたら急に乃木若葉とちぃちゃんが詰め寄って来る。

 

 その姿に危機感を覚えた俺は下がろうとした。

 

 がしりといつの間にか背後に回り込んだちぃちゃんに掴まれる。

 

 あ、これは嫌な予感。

 

 逃げることも出来ず、近づいてくる二人。

 

 そこから延々とうどんについて語られた。

 

 しばらく、うどんはみたくねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者たちが騒いでいたころ。

 

 桜の樹がある場所。

 

 そこに一人の男が立っていた。

 

 白い刀袋を手にして、手入れされていない髪を無作法に伸ばした男。

 

「成程……ここに眠っているのか」

 

 男の目は桜の木の下。

 

 その下に施されている封印へ目を向けている。

 

「仕方ない。契約を果たすとしよう」

 

 袋から白い鞘に納められている刀を取り出す。

 

 カチンと鞘に刀を戻す。

 

 時間にして数秒。

 

 一瞬で男は刀を抜いて鞘に戻した。

 

 常人にはみえない速度。

 

 “居合斬り”

 

 男はそれをやった。

 

 一瞬の動作で木の下に施されていた封印を切り裂いた。

 

 斬られた封印の中からそれは現れる。

 

「大復活!」

 

 現れた異形は細長い手を広げて叫ぶ。

 

「アギトボーマ!」

 

「……おい、契約は果たしたぞ」

 

 男はどこかへ声をかける。

 

「ご苦労、後は某が果たす」

 

 聞こえた声に男は小さく鼻音を鳴らしながらその場を離れた。

 

「アギトボーマ、桜の木に酔っていたか……だが、お前はこれから恋や愛などに現を抜かす人間どもに思い知らせてやるのだ。いいな」

 

 どこからか囁かれる声にアギトボーマは体を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人が消えた?」

 

「行方がわからないんだ」

 

 力から呼び出された俺は話を聞いていた。

 

「実はクラスでアツアツなことで有名なカップルがいたんだけど、昨日から彼女の行方がわからないみたいって、彼氏の方から相談を受けたんだ」

 

「喧嘩したとか、そういうものじゃないのか?」

 

「普通はそう思うんだけどさぁ。他にもいるみたいなんだって」

 

 健太が俺に携帯をみせる。

 

 そこには行方不明になった人たちの数が表示されていた。

 

「しかも、彼女の側が行方不明なんだ。流石にこれはおかしいだろ?」

 

「……行方不明になっているのは全員、女性で、カップルなのか」

 

「そうなんだ……何か心当たりあるか」

 

 力と健太の言葉に俺はあることを考える。

 

「アギトボーマか」

 

「アギト、なんだって?」

 

「いや、忘れてくれ。後は俺に」

 

「待てって!」

 

 去ろうとした俺の肩に健太が手を置く。

 

「俺達も手伝う!行方不明になっているのは俺らのクラスメイトなんだ、放っておくことはできねぇ!」

 

「健太の言うとおりだ。俺達も協力させてくれ!」

 

「……危険だと判断したら逃げろ。俺が言えるのはそれだけだ」

 

「おう!」

 

「任せてくれ!」

 

「まずは……アギトボーマについてだが」

 

 俺は二人に情報を話す。

 

 おそらく、行方不明になっている人達はアギトボーマに食われたのだろう。

 

 文献によれば、アギトボーマに食べられた人達は徐々にその命を奪われるという。幸いにもまだ時間はある。

 

 アギトボーマに対する策はある。

 

 問題は、いかにアギトボーマを呼び出すかだ。

 

「じゃあさ」

 

 健太の提案に俺は嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはいはい!私がやります!」

 

 丸亀城にこの提案を持ってきたのは間違いだったかもしれない。

 

 俺は教室内に手を上げて宣言する高嶋友奈の姿を見て、そう思った。

 

「人をさらうなんて……いけません!そんなこと勇者が見逃しちゃダメです!私がひ、日向さんの“恋人”役として立候補します!」

 

「いいえ、高嶋さんを危険にさらすわけにはいかないわ。ここは心のバディ、いえ、仲の良い私と日向が一緒に行動すべきだわ。そして、あわよくば」

 

「私はタマっち先輩がいいと思います!ちゃんと女の子っぽい格好をしているタマっち先輩を見たいという気持ちもあります。けれど、日向さんの役に立てるなら、協力は惜しみません!」

 

「ちょ、ちょっと待って杏!そりゃ、困っている人を放っておくわけにはいかない!だけど、にゃんで、なんで!タマが黒騎士と恋人の振りなんてしなければならないんだ!?」

 

「あらあら、皆さん、立候補していますね」

 

「立候補している者とそうでないものに別れているぞ」

 

 冷静に言う乃木若葉の言葉に俺は同意する。

 

 復活しているアギトボーマを見つけるために健太が思いついた手段。それは俺と勇者の一人が恋人のふりをしてアギトボーマをおびき寄せるというもの。

 

 俺の恋人役なんて、だれでもいいだろうに。

 

「ここは日向さんの気持ちが大事だと思います!日向さんに選んでもらうというのはどうでしょう!……できれば、私がいいです」

 

「高嶋さんの言うとおりかもしれないわね。ここは日向が誰と恋人になりたいかが重要だと思う。さぁ、日向、誰を選ぶかわかっているわよね」

 

「くじ引きで決めてくれ」

 

 ぐいぐいやってくる二人に俺は辟易と答えた。

 

「「「「駄目です!」」」」

 

 即座に否定する四人。

 

 何気に土居球子も参加していたが何も言わない方がいいだろう。

 

 目の前に地雷があるような気がした俺は沈黙する。

 

「では、一日ずつ、交代で恋人役をやってみてはどうでしょう?」

 

 タイミングを見計らってのように上里ひなたが告げる。

 

 その言葉に全員がぐるんとこちらをみた。

 

 逃げるか。

 

 黒騎士の鎧を纏っているから問題ない。

 

 連中には少し頭を冷やしてもらう。

 

 気配を消して、外へ出てしまえ。

 

「どこへいかれるんですか?」

 

「!?」

 

 背後から囁くように伊予島杏に問われて動きを止める。

 

 いつの間に!?

 

「皆さん、黒騎士さんが逃走を図りましたよ」

 

 グルンとこちらへ向けられる複数の視線。

 

「日向、どこにいくのかしら?」

 

「駄目ですよ!日向さん!これは私達にとって大事なことです!そうです!お役目なんですから!」

 

 そういって俺の左右の腕を掴むちぃちゃんと高嶋友奈。

 

 凄く、痛い。

 

「いいか!タマは興味がないんだからな!すべてはお役目のためだ!……お前だけ逃げるなんて、許さないからな。わかったら、素直にタマと共にお役目を引き受けタマえ!」

 

 どこか諦めたような、けれど、生贄は絶対逃がさないというようにこちらへ詰め寄って来る土居球子。

 

「ささ、話し合いを続けましょう」

 

「よくわからないが、逃げる黒騎士が悪い」

 

 なぜか、背筋が凍る笑みを浮かべる上里ひなた、首を傾げる乃木若葉。

 

 本当に、面倒だ。

 

 話し合いは長い時間、行われて一日ごとにカップルで囮をするということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははは!」

 

「笑いごとじゃない」

 

 日向の姿で俺は力と健太と共に焼き肉屋にきていた。

 

 勇者たちと共に行うことになった囮作戦について話し合うためである。

 

 ちなみに、ここの食事は俺持ち。

 

 これくらいは別に問題なかった。

 

「でも、日向はたくさんの子達に愛されているんだな」

 

「……どうだろうな」

 

 力の言葉に俺は言葉を濁す。

 

 横で健太はがっつりと肉を食べていた。

 

「それにしても、恋人を狙う怪物か」

 

「暴魔獣という……愛する人に裏切られた男が怨念となって、面倒をみた獣に愛する人を食らう様にしつけたらしい」

 

「ってかさ、その裏切られた男って、今もその愛していた人のこと好きなんじゃないの?」

 

「どうだろうな。知るのは当人のみだ」

 

 力の言葉に俺は疑問の声を漏らす。

 

 その人のことを今も愛しているのかどうか、それはジンバ当人にしかわからないだろう。

 

「愛か」

 

 俺にはもっとわからない感情だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから四日が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分とやつれていませんか?」

 

「この作戦が穴だらけだということを嫌というほど思い知らされたからな」

 

 上里ひなたはどことなく疲れた様子の日向をみて、首を傾げる。

 

「とても楽しんでおられましたよ?」

 

「勇者たちが、という前置きがないぞ」

 

 くすくすと笑う上里ひなたに日向は自然と半眼になる。

 

 彼女が企画した勇者との恋人(仮)作戦。

 

 既に四日が経過したが日向はとても疲れていた。

 

 

 

 

 

 初日は伊予島杏と本屋で話し合い、いつの間にか夜になってしまい、作戦失敗。

 

 

 

 二日目、女の子らしいコーディネートされた土居球子と話をしていたら顔を真っ赤にして逃げ出してしまい、転ばないように追いかけていたらいつの間にか一日が終了、作戦失敗。なぜ、球子が逃げたのか日向わからず仕舞い。

 

 

 

 三日目、高嶋友奈と共に街を散策。

 

 途中で陽の光が気持ち良すぎたことで高嶋友奈が舟をこいだことから公園のベンチで膝を貸した。

 

 夕方ごろ、目を覚ますと顔を真っ赤にさせながらこちらの手を握って来る。

 

 デートらしいことをしたような気がするがアギトボーマが姿を見せなかったために失敗。

 

 

 

 

 

 

 四日目、乃木若葉と共に行動したのだが、デートなんてできたものではなかった。

 

 次々と町中で発生する窃盗や不良の暴力、迷子といった様々なことを自称“おしおきコンビ”として、手助け。結果、失敗。

 

「とても楽しい毎日じゃないですか!」

 

「振り回される方の身になれ!」

 

 ひなたの羨む言葉に流石の日向も周りの目を気にせずに叫ぶ。

 

「ま、皆さん、年頃の女の子ですけれど、勇者としてのお役目ばかりで、普通とかけ離れていますから」

 

「……後々に問題になると大社にでもいっておけ」

 

 肩をすくめながら日向が歩き出そうとした。

 

「待ってください」

 

「なんだ?」

 

「恋人なのですから手をつなぎましょう」

 

「…………」

 

 舌打ちしたい気持ちを必死にこらえながら日向は手を差し出す。

 

 その手をひなたはそっと握り締める。

 

 少しばかりの距離を作りつつも二人は歩き出す。

 

「デートプランは考えていますか?」

 

「今回は」

 

 短く答えて二人が向かったのはショッピングモール。

 

「買い物ですか?」

 

「ああ、こういうことをするのも手だろうと」

 

「成程……では、日向さんの服のセンスの見せ所ですね」

 

「こんな格好だ。あてにするな」

 

 黒いジャケットをひらひらとみせる。

 

 ジャケットの中に来ている白いシャツにはデフォルメされたオオカミ、サメ、ワニがプリントされていて「ブルァアアアアア!」と叫んいた。

 

「こ、個性的ですね」

 

「俺の趣味だ」

 

 少し困ったような表情を浮かべるひなたに日向は「冗談だ」と返す。

 

「俺は不器用だからな。こういうところでネタにできるだろうと健太にアドバイスをもらった」

 

「そ、そうですか」

 

 黒騎士こと落合日向と普通に接する炎力と伊達健太の二人。

 

 樹海に巻き込まれたがその後、巻き込まれることがなかったことから大社の監視から外されたことをひなたは知っている。

 

 何より。

 

「(この人は大社の監視に気付いていたようですし)」

 

 日向の姿で、大社が余計な手出しをしないように学校、家など以外は大社の監視を警戒していた。

 

 ひなたもそれとなく、やめるように話をする。

 

 もし、日向の、黒騎士の怒りをかってしまえば、相手が人間であろうと牙をむく。

 

「(この人は奪われることを許さない)」

 

 ひなたは落合日向に対して警戒をしていた。

 

 彼が勇者に、もし、親友へ牙を向けることになったらと考えるとそれはとても恐ろしい。

 

 黒騎士の力はおそらく勇者より強大なものだ。

 

 バーテックス相手でも引くことを知らない力。

 

 何より、黒騎士の姿の他に重騎士、合身獣士といった姿もある。

 

 そんな力を人に振るわれてしまったら、天の神、バーテックスとの決戦よりも前に人は滅んでしまうだろう。

 

 だが、今は違う。

 

「日向さん、似合いますか?」

 

 ひなたは試着した服を日向にみせる。

 

「……良いんじゃないか?」

 

「そこで疑問形では女の子に好かれませんよ?」

 

「好かれてどうするんだ」

 

 本当に言っているのだとわかって、ひなたは呆れる。

 

 彼自身はわかっていないのだろう。

 

 落合日向は既に三人の人間に好かれている。

 

 そのことに気付いていないだろう。

 

 約一名、愛を超えたとんでもないものになりかけているような気がするけれど、それは考えない方がいい。

 

 ひなたは自分の安全を考えてそれをいわないことにした。

 

「恋人になって、結婚して、子供を作ってとか、色々と楽しいこととかあると思います」

 

「……別に俺はいい」

 

 日向は首を振る。

 

「俺は復讐者だ。そういう普通の将来に興味はない」

 

「そんな悲しいこといわないでください。貴方だって人なんですから」

 

「……どうだろうな」

 

 日向の言葉にひなたは言葉を詰まらせる。

 

 何を言うべきか悩む彼女は続きがでない。

 

「すまない、言いすぎた。この場でいうべきことじゃないな」

 

「……いえ、私も無神経でした」

 

「……お相子にしないか?」

 

「そうですね。では、お昼にしませんか」

 

「ああ」

 

 頷いてモールの飲食エリアに向かう。

 

「日向さんはうどんを選ばない理由でもあるんですか?」

 

 ひなたは蕎麦を食べている日向へ問いかける。

 

 若葉や千景が暗示のようなものでうどんを食べる様に追い詰めていた……だが、日向は気にせず蕎麦をすすっていた。

 

「いきなりなんだ?」

 

「だって、あれだけ若葉ちゃんは千景さんに詰め寄られたんですよ?普通、うどんを食べる様にしませんか?」

 

「……さぁな、自然と蕎麦を選んでしまった」

 

「ウソですね。何か思い入れでも?」

 

「……思い入れか」

 

 日向は思い出す。

 

「やたらと俺に蕎麦を熱く語った奴がいたせいかな、それが染みついて離れないだけだ」

 

「……それって、諏訪の勇者の」

 

「ああ、お節介な奴だった。毎日、毎日、俺に蕎麦の良さを語り続けて……この姿に戻るようになってからは蕎麦を食うようになった」

 

 それって、とひなたは出そうになった言葉を飲み込む。

 

 ずるずると日向は蕎麦をすする。

 

「あら?」

 

「どうした?」

 

「いえ、多分、気のせいかと」

 

「?」

 

「(今、若葉さん達がいたような?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「己、おのれぇ!なぜ、蕎麦を食べる!そこはうどんだろう!日向め、まだ、うどんの良さがわからないとみえる」

 

「……怒るところ、そこなのかな?」

 

「諦めろ。タマはそうしたぞ。杏」

 

「ひなたちゃん、楽しそうだなぁ」

 

「そうね」

 

 日向とひなた。

 

 二人をこっそりと尾行する勇者たち。

 

 アギトボーマは現れる様子を見せない。

 

「しかし、ひなたも意外とのりのりだな、なんというか、楽しそうだ」

 

「そうだね。囮っていう感じが全然しないよ!もっと、日向さんがアタックすれば完璧なのに!」

 

「……アタック?」

 

「日向さんが……アタック」

 

「日向がアタック」

 

 三人の少女の脳裏にあの時の姿が過ぎる。

 

 壁ドンされて、顎を掴んで持ち上げられて、そして。

 

「「「!?」」」

 

「杏、三人が座り込んでしまったぞ!?」

 

「ど、どこかで休ませないと!」

 

 そんなやり取りがあったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからあっちこっちを冷やかしたり遊ぶなどをして満喫していた。

 

 しかし、アギトボーマは現れない。

 

「囮、失敗ですかね?」

 

「そうかもしれないな。だが」

 

 ちらりと日向はひなたをみる。

 

「息抜きはできただろう?」

 

「え?」

 

 日向の言葉に目を見開く。

 

「汚い大人だらけの場所で、お前みたいな奴が必死にやっているんだ。こういう息抜きもいいだろう?」

 

 驚きながらひなたはもしかしてと考える。

 

「私のこと、心配してくれていたんですか?」

 

「……そうだろうな」

 

「日向さんって、天邪鬼ですね」

 

「どうだろうか、わからないな」

 

 他人事のように答える日向の姿にひなたは小さく笑みを浮かべてしまう。

 

――この人の心はとても綺麗なんです。でも、復讐がそれを隠してしまって、あらぬ誤解を与えてしまっている。

 

 ひなたはそのことをとても悲しく思う。

 

 彼がもし、復讐に囚われず、清らかな心で黒騎士としての力を手にしていれば勇者となっていたかもしれない。

 

 何より。

 

「(この人は愛するということを失っている……だから、人を愛するということがきっと――)」

 

「下がれ!」

 

 気付いた日向が叫ぶとき、何かがひなたの体に覆いかぶさる。

 

 悲鳴を上げる暇もなく、ひなたは闇の中に消えた。

 

「樹海化か」

 

 同時に周囲を樹海化が起こる。

 

 日向が周りを見ているとゆらりとジンバが現れた。

 

「囮など、無駄なことを」

 

「だが、貴様と、アギトボーマが現れた」

 

 包帯を解いてブルライアットを取り出す。

 

「戦うつもりか……アギトボーマの中には大勢の人がいるぞ。その人ごと、斬るか?」

 

 ジンバの問いかけに日向は笑みを浮かべる。

 

「騎士転生」

 

 輝きと共に黒騎士へその姿を変える。

 

 無言で鞘からブルライアットを構える姿にジンバは驚きながらも武器を抜いた。

 

「驚きだ。黒騎士、お前は人を見捨てるか」

 

「待て、黒騎士!」

 

 黒騎士の前に若葉達、勇者が間に入る。

 

「そこまでだ、今、不用意に攻撃すれば……ひなたたちに!」

 

「……お前は奴の親友だったな」

 

「そ、そうだ」

 

「だったら、待っていろ。すぐに――」

 

「危ない!」

 

 友奈の叫びに黒騎士と若葉が離れる。

 

 攻撃を仕掛けたのはアギトボーマ。

 

 繰り出される攻撃を友奈は真っ向から拳でぶつけた。

 

 衝撃で吹き飛ぶアギトボーマ。

 

「おい!友奈!そんな風に殴ったらひなたたちが危ないだろ!」

 

「あ、そうだった!?」

 

「でも、このままじゃ、ひなたさん達がアギトボーマの胃の中で溶けちゃうよ」

 

「その心配はない」

 

 不安の声を漏らす勇者たちにジンバがほほ笑んでいた時、黒騎士が不安を打ち消す言葉を告げる。

 

「なに?」

 

 戸惑いの言葉を漏らすジンバだが、異変はすぐに起こった。

 

 勇者たちに攻撃をしていたアギトボーマがふらふらと足もとがおぼつかなくなる。

 

 そして、変な声を上げて体を左右に揺らす。

 

「な、なんだ!?」

 

「動きが鈍くなっているけれど……」

 

「あの姿、もしかして、酔っ払っている?」

 

「え、どうして!?」

 

 戸惑う球子、杏、千景、友奈。

 

 若葉も動揺しているが、すぐに黒騎士へ視線を向ける。

 

「もしや、黒騎士」

 

「そうだ。上里ひなただ」

 

 黒騎士の言葉にジンバが気付く。

 

「まさか、アギトボーマの腹の中に桜を!?」

 

「そうだ、事前に上里ひなたには桜の花びらが詰まった袋を忍ばせておいた。アギトボーマは上里ひなたを食べたと同時に桜を取り込んだのだ」

 

「そうか、だから、アギトボーマは」

 

「そら、吐き出すぞ」

 

 黒騎士の言葉と同時にアギトボーマの体内から囚われた人達が吐き出されていく。

 

 その中にひなたの姿もあった。

 

「ひなた!」

 

 若葉は座り込んでいるひなたを見つけて駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

 

「はい、日向さんのおかげです」

 

「そうか無事でよかった」

 

 助けを借りて体を起こすひなたに若葉は安堵の声を漏らす。

 

「ひなた、下がっていてくれ。アギトボーマ、貴様を斬る!」

 

 乃木若葉は切り札“源義経”の力を発動する。

 

「させんぞ!」

 

 ジンバが若葉の刃を止めようとした。

 

 だが。

 

「黒の一撃!」

 

 目の前に現れた黒騎士の刃を受けて吹き飛ぶジンバ。

 

「黒騎士……貴様!邪魔」

 

「お前が邪魔だ」

 

 黒騎士の頭上を越えて、乃木若葉が酔って動きの鈍っているアギトボーマに一撃を振り下ろす。

 

 必殺の一撃がアギトボーマの体を切り裂いた。

 

 切り裂かれたアギトボーマは炎に焼かれる。

 

「アギトボーマ!勇者、貴様、我が半身を!!」

 

 激怒するジンバ。

 

 彼は己の分身であるアギトボーマを倒されたことで激怒する。

 

 倒れたアギトボーマにバーテックスが群がり……アギトボーマが巨大化した。

 

「消え去るがいい、勇者ども!」

 

 ジンバはそういうと姿を消す。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 黒騎士はゴウタウラスを呼ぶ。

 

 雄叫びを上げながら現れるゴウタウラスのタックルを受けて吹き飛ぶ、アギトボーマ。

 

 ゴウタウラスの光を受けて重騎士へ姿を変える。

 

 ブルソードを振るい、アギトボーマを切り裂く。

 

 横からゴウタウラスが騎獣激突する。

 

 アギトボーマが光線を放つ。

 

 重騎士とゴウタウラスは攻撃を受けてダメージを受けた。

 

「騎獣合身!」

 

 ゴウタウラスと合体して重騎士は合身獣士ブルタウラスへその姿を変える。

 

 ツインブルソードを回転させながら突風を巻き起こす。

 

 突風で動きを鈍らせるアギトボーマ。

 

「野牛鋭断!」

 

 動けないアギトボーマにブルタウラスが必殺技を放った。

 

 攻撃を受けたアギトボーマはドロドロに溶けて消滅する。

 

 アギトボーマが消滅すると樹海がなくなっていく。

 

 黒騎士の姿に戻る。

 

 淡い輝きを放っているブルライアットを鞘に納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「日向さん」

 

「……何か用か?上里ひなた」

 

「安全な場所を教えてあげますから、男子トイレから出てきてください」

 

 男子トイレ、そこの隅っこに隠れていた日向にひなたは携帯で連絡を取る。

 

「だが、外には」

 

「大丈夫です、今なら安全に出られますから……私を信じてください」

 

 ひなたの言葉に日向はおそるおそる言われた場所に出ていく。

 

 幸いにもひなた以外に誰もいない。

 

 周りを確認して息を吐いた。

 

「大変ですね」

 

「そう思うならお前の親友の天然をなんとかしろ」

 

 どことなくげっそりした表情で日向は言う。

 

「そこが、若葉ちゃんの素敵なところです」

 

「オーケー、何も言わない」

 

 アギトボーマを倒して勝利気分だった勇者たち、しかし、一人だけ気持ちが沈んでいる者がいた。

 

「私……デート、なかった」

 

 郡千景。

 

 不運にも五日目にデートの囮役をするつもりだった彼女、しかし、アギトボーマを撃退したことでその囮役はなくなってしまう。

 

 囮といえ、彼とデートできなかったことのショックは計り知れない。

 

 そんな千景に無自覚にも乃木若葉があることを告げた。

 

「では、今から千景も日向とデートをすればいい」

 

 火に油……油にダイナマイトを押し込んだように千景はダン!と立ち上がり、恐ろしい速度で日向に迫る。

 

 その気迫に振り返ることなく逃走、街中を全力で逃げるという。

 

 女の子が唯一、入られない場所に隠れたところでひなたの支援を受けて脱出。

 

「(無言でドアをノックし続けるあれは、怖かった)」

 

 バーテックスと戦うようになってからなくなっていたはずの恐怖を思い出して、寒気を覚えた。

 

「千景さんはすぐに戻ってきます。離れないと」

 

「そうだな。少し冷静になってもらおう」

 

「(一回りして、冷静を通り越してヤバイことになっていることは黙っておきましょう)」

 

「何か、隠していないか?」

 

「そんなことはありませんよ。とにかく、千景さんには冷静になってもらうとして、貴方も安全のため、しばらく人ごみの中に隠れましょう」

 

「そうするしかないか」

 

 ため息を零しながら頷いた日向。

 

「あと、若葉ちゃんが謝りたがっていましたので話を聞いてあげて下さい」

 

「前向きに検討しておく」

 

 今回の件で被害をうけたことで少し乃木若葉に文句はいいたかった。

 

 だが、そんな子供じみたことはしない。

 

 しないったらしない。

 

「っ!」

 

「日向さん?」

 

 ぴたりと立ち止まった日向にひなたは首を傾げる。

 

「いや、何でもない…………気の、せい……」

 

 ある方向を見た、日向はぴたりと動きを止める。

 

「日向さん?」

 

 同じくそっちをみたひなたは目を見開く。

 

 人ごみの中、周りになぜかぶつからず、幽鬼のような足取りでこちらへ向かってくる少女。

 

「ちぃちゃん」

 

 ぶつぶつと何か言葉を紡ぎながら近づいてくる彼女に日向はわき目も降らずに走り出す。

 

「ニガ、さない!」

 

「あらあら」

 

 逃げ出す日向と追いかける千景。

 

 そんな二人の姿を見て、ひなたは残念そうに言葉を漏らす。

 

「もう少し、お話していたかったのに……残念です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐ろしいな。あれが黒騎士か」

 

 人ごみの中、男がぽつりと呟く。

 

「油断していれば、こちらの存在を嗅ぎつけられていただろう。全く、とんでもない奴だ」

 

 去っていく日向たちの姿を見ながら男は呟く。

 

「言っただろう。アイツは油断してはならないとな」

 

 男の言葉に学ラン姿の男が答える。

 

「そのようだ。残念だ。俺が獲物を定めていなければ、相手をしてもらいたかったところだ」

 

「わかっているな?黒騎士は俺の獲物だ」

 

「わかっている」

 

 男と学ランの男は離れていく。

 

 ふと、立ち止まり、学ランの男は冷たい目を去っていった日向の方へ向ける。

 

「流れ流れて……ようやく、見つけたぞ、黒騎士」

 

 



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番外編:目玉の王子様

番外編です。

タイトルは忍者戦隊カクレンジャーから、つまるところ、それが答えです。

次回は本編ですが、とにかく、混沌の一言です。

今回の話はゲームのゆゆゆいです。

ただし、登場するキャラはかなり少ないです。ちなみに少ない理由は後に判明。




 神樹の中において発生した造反神による叛乱、それを阻止するために自らの中に歴代の勇者を呼び出して鎮めさせようとする。

 

 しかし、造反神は西暦の時に起こった別世界の繋がりを利用して、本来なら存在しない存在を呼び出す。

 

 対抗するため、神樹も黒騎士、そして、別の世界の英雄たちを呼び寄せる。

 

 そう、“スーパー戦隊”と呼ばれる者達を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜闇の世界。

 

 郡千景はどういうわけか白いドレス姿で橋の前に立っていた。

 

「ここは?」

 

 周りを見渡している彼女の前に馬車がやって来る。

 

「千景」

 

 馬車の中に乗っていた王子が千景を呼ぶ。

 

 声に導かれて千景は馬車に乗り込む。

 

 王子と共に千景は宮殿へ入る。

 

 宮殿内はドレスやタキシードを着た者達が楽しそうに踊っていた。

 

 その中で千景は王子と一緒にいた。

 

 楽しそうに踊る二人。

 

 やがて、ベンチで横並びに座る。

 

「千景、これをプレゼントしよう」

 

 王子が千景へ差し出したのは白いダイヤがちりばめられたペンダント。

 

 驚きながらも千景はペンダントを受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッドモーニング!朝ですよ!起きてください」

 

 カンカンとフライパンで鳴らす音で千景は目を覚ます。

 

 周りを見ると親友の高嶋友奈が寝ている。

 

 場所は丸亀城ではない。

 

 設置されているテントの中。

 

 目を覚ました千景はふと、胸元に何かがあることに気付く。

 

「これ」

 

 夢の中であったペンダント。

 

 それがどうして?

 

「あー、ぐんちゃん。おはよう」

 

 首を傾げながらも千景は慌ててペンダントをポケットの中に隠す。

 

「おはよう、高嶋さん」

 

「おはよう!ぐんちゃん!ふぁわぁ、いやぁ、今日もいい天気だね~!」

 

 間延びしたような高嶋友奈の挨拶に答える。

 

「そうね」

 

「二人とも!朝デス、起きてください~」

 

 カンカンという音と共に聞こえる声に友奈は答える。

 

「あ、はーい!ぐんちゃん。行こう。ジライヤさんが待っている」

 

「……そうね」

 

 頷いた千景はちらりとポケットへ視線を向けてから外に出る。

 

 四国奪還のため、勇者たちは協力者達と共に行動をしていた。

 

 西暦の勇者は別世界から召喚された“スーパー戦隊”の一つ、忍者戦隊カクレンジャーと共に四国の一角を占拠しているバーテックス、妖怪という勢力と戦っている。

 

 千景と友奈がテントから出ると別のテントからサスケ、サイゾウ、セイカイ、鶴姫が出てきた。

 

 西暦の他の勇者と巫女であるひなたは忍風戦隊ハリケンジャーと五星戦隊ダイレンジャーという集団と別行動している。

 

 この地域の討伐を千景と友奈の二人が請け負っていた。

 

「あー、腹減った!飯飯!」

 

 そういってテーぶるに着くのは帽子をかぶった男、セイカイ。

 

 おっちょこちょいにみえるが実はかなりのおっちょこちょいな男だ。

 

「お前、本当に食うことしか考えないのね」

 

 オネェ言葉を混ぜながら話すのはサイゾウ。

 

 本人はイケメンを称しているが、色々と抜けているところがある。

 

 この前も財布を落として妖怪の企みに巻き込まれたばかりだ。

 

「友奈ちゃんと千景ちゃん達も休めたか?」

 

 二人に声をかけるのはサスケ。

 

「はい!テント生活も慣れてきました!」

 

「……問題ないわ」

 

「ホント、二人がいるだけで、助かるわぁ」

 

 二人に鶴姫が「助かる」と繰り返す。

 

 

――忍者戦隊カクレンジャー。

 

 

 戦国時代に現れた妖怪ぬらりひょんを封印の扉に封じ込めて二百年ほど過ぎ去った現代において、先代カクレンジャーの子孫であるサスケとサイゾウがうっかり封印の扉を開いてしまったことで、力を失っていた妖怪たちが復活。

 

 妖力を取り戻した妖怪たちは現代で悪さをはじめる。

 

 妖怪たちの悪事を阻止するために先祖からカクレマルとドロンチェンジャーを受け取り、子孫である五人は忍者戦隊カクレンジャーとして活動をしていた。

 

 今は四国にはびこる妖怪討伐のため勇者たちと行動をしている。

 

「しっかし、神樹っていうのはすっげぇな。こんなに街並みを再現するってな」

 

 周りを見ながらサスケと友奈は町中を歩いていた。

 

 妖怪がこの町にいることを突き止めた彼らはネコマルに乗ってこの地にきている。

 

「しっかし、バーテックスも何にも姿をみせねぇな」

 

「諦めずに探しましょう!」

 

 今までと異なり、解放するためにはそこを仕切っている存在を倒さなければならない。

 

 カクレンジャーと勇者はその根源を倒すためにドロンチェンジャーに搭載されている妖怪レーダーで探していた。

 

「そういえば、友奈ちゃんと千景ちゃんは、いつもどこで何やっているんだ?」

 

「え?」

 

「いや、なんていうか、西暦の勇者っていうの?みんながそれぞれ、どこかへ向かうといつも誰かを探しているように見えたからさ」

 

 サスケ達は西暦の勇者がいつもどこかへ向かう時、いつも誰かを探している。

 

 そんな気がしていた。

 

 彼女達の必死な姿が気になって、サスケは尋ねたのだ。

 

「はい……その、会えるかわからないんですけれど、もしかしたら、ここで会えるかもしれないって、私は、私達は思います!」

 

「そっか」

 

 彼女達がどれほど、その人のことを思っているのか、わかったサスケは思う。

 

 この世界で巡り合えるようにと、願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにもいないようね」

 

 鶴姫の言葉に千景は無言で頷く。

 

「この前の妖怪、どこに逃げたのかしら」

 

「街のどこかにいるのは確かよ。連中もあまり逃げられないようだから」

 

「……そう」

 

 周囲へ視線を向ける千景に鶴姫は気になっていたことを尋ねる。

 

「ねぇ、千景ちゃん」

 

「何かしら?」

 

「前から気になっていたんだけど、千景ちゃんって、人が苦手なの?」

 

「……そうね、苦手……高嶋さんともう一人を除いてね」

 

「もう一人?」

 

「ええ」

 

 そういって景色を見る千景は笑みを浮かべる。

 

 昔を懐かしむ様な笑顔。

 

 それをみた鶴姫は「なんか、恋をしている顔だな」と思ったが言わないことにする。

 

 自分より年下の子が恋をしていることに嫉妬しているわけではない。

 

 決して、そんな小さな気持ちなど抱いていなかった。

 

 抱いていないったらない!

 

「今日はネコマルに戻りましょう」

 

「わかったわ」

 

 鶴姫の言葉に千景は頷いた。

 

 そんな二人の姿をはるか後方からみている者がいた。

 

「いいか、今度こそ、勇者とカクレンジャーを倒すぞ!」

 

「わかっているよ、ヌリカベの兄さん。でも、千景ちゃんは殺しちゃダメだよ?」

 

「わかっているって、お前の頼みだからな」

 

 一人は頬にペイントをしている男、もう一人はサングラスで目を隠している。

 

 この二人の片割れこそ、先日、サイゾウによってボコボコにされた妖怪ヌリカベ。

 

 そして、相方も妖怪である。

 

「千景ちゃん、素敵です」

 

 何より、相方の妖怪は郡千景にメロメロだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が寝静まった夜。

 

 千景は寝ていた。

 

 そこに妖怪が近づく。

 

 人の形はしているが顔のところに目や口はなく、巨体はコートのようなもので隠れている。

 

「さぁ、来るんだ。千景ちゃん!」

 

 妖怪、モクモクレンが自らのコートを広げる。

 

 そこにあったのは無数の目玉。

 

 モクモクレンの妖力によって寝ていた千景は目を覚ます。

 

 胸元には夢の中でつけられているペンダントがあった。

 

 ふらふらと歩き出す千景。

 

「んぁ?ぐんちゃん?」

 

 千景が出ていったことに気付いた友奈も外に出る。

 

 その時、たまたま、テントの外にいたジライヤも気づいた。

 

「タイヘンだ!」

 

 ジライヤはテントの中で寝ているサスケ達を起こそうとした。

 

 しかし、サスケ達は目を覚ます様子がない。

 

「ジライヤさん」

 

「ハリーアップ!」

 

 やってきた友奈はジライヤと共に走る。

 

「邪魔させるかぁ!」

 

 その時、地面から飛び出したヌリカベの拳がジライヤと友奈を狙う。

 

 二人は殴られながらも空中でスーパー変化、戦装束を纏う。

 

「ニンジャブラック!」

 

「ジライヤ!」

 

 異変に気付いたサスケ達もスーパー変化してヌリカベに武器を構えた。

 

「邪魔はさせねぇぞ!いけ!ドロドロ!」

 

 ヌリカベの言葉と共に配下の青タイツに、ムンクの叫びのような顔をしたドロドロが剣を手にして、襲い掛かる。

 

「勇者パァァンチ!」

 

「カクレマル!」

 

「手裏剣!」

 

 友奈達が戦っている間にふらふらと千景は森の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐんちゃん……」

 

「妖怪の野郎!千景ちゃんをどこに連れて行きやがったんだ!」

 

「手分けして探すしかねぇ、サイゾウは俺と、ジライヤは友奈ちゃん、鶴姫はセイカイで」

 

「何かあればすぐに連絡するのよ」

 

「オーケー!レッツゴー!友奈!」

 

「はい!ぐんちゃん、必ず助けるからね!」

 

 

 

 

 その頃、郡千景が目を覚ますと、どこかの廃墟にいた。

 

「ここは?」

 

「目を覚ましたね!千景ちゃん!」

 

「貴方は!?」

 

 千景の目の前にはコートを羽織った、サングラス姿の男。

 

「誰……」

 

「僕はキミのことが、大好きで、大好きで、たまらないんだ」

 

「ふざけているの」

 

 眉間へ皺を寄せながら千景は尋ねる。

 

「本気さ。その証拠にそれをプレゼントしたじゃないか!僕の愛の証さ」

 

 男の指さすのはいつの間にか千景がつけていたペンダント。

 

「これを、貴方が?」

 

「そうだよ!」

 

「どうして……」

 

「キミが好きっていっているじゃないか、だから、受け取ってください!僕の愛をぉ!」

 

 男が叫ぶとともにサングラスを外して、モクモクレンとしての姿を晒す。

 

 咄嗟にスマホを取り出そうとする千景。

 

 しかし、ポケットにスマホがなかった。

 

「どうして!?」

 

「これなら没収だよ!」

 

 モクモクレンの手の中にあるのは千景のスマホ。

 

 勇者の力を使うための道具を奪われていた。

 

「これから、結婚式だよ!千景ちゃん!」

 

「そんなこと」

 

 千景は外に逃げ出そうとした。

 

 しかし、

 

「駄目だよ!ドロドロお!」

 

 モクモクレンの言葉と共に湧き出すドロドロ。

 

 勇者としての力を使えるならドロドロを倒せただろう。しかし、戦うための力がない、今の千景は瞬く間にドロドロによって動きを拘束されてしまう。

 

「は、離して」

 

「もう!逃げることはないじゃないかぁ!僕はキミのことが大好きなのに!」

 

「私は――」

 

「いつまでもいない人のことを考えていても仕方ないよぉ」

 

 モクモクレンの言葉に千景は言葉を詰まらせる。

 

 いない人。

 

 この世界に“彼”はいない。

 

 何度も探した。

 

 残っていた連絡先にかけてもみた。

 

 しかし、反応はない。

 

 心当たりのある場所も探した。

 

 でも、いない。

 

「いない人のことなんか考えても仕方ないさ!だからさ、僕の愛を受け取ってよ!僕はいない奴なんかと違う。キミのことなんか絶対、独りにしないからさ」

 

 そういって手を差し伸べるモクモクレン。

 

 腹部のモクモクレンの瞳が怪しく輝いた。

 

 胸元のペンダントも輝く。

 

 千景の瞳に光が失われる。

 

 ゆっくりと彼女は手を伸ばす。

 

 その手がモクモクレンへ触れるという時、

 

 どこからか小さな短剣が飛来する。

 

 短剣は千景の首元にあったペンダントを弾き飛ばす。

 

「…………っ、私は、なにを」

 

「ああ!ペンダントが!誰だ!」

 

 千景が元に戻ったことでモクモクレンが叫ぶ。

 

 目を覚ました千景が周囲を見る。

 

 しかし、誰もいない。

 

 だが、不思議と千景の中に喜びの感情が広がる。

 

 理由はわからなかった。

 

 だが、嬉しさと同時に愛しいという気持ちも強くなる。

 

「あああ!その目!恋する目!僕じゃない別の奴を思っている目だぁ!許さない!許さないよぉ!裁判だ!妖怪裁判!!」

 

「え?」

 

 困惑している千景をドロドロが連行して、裁判所へ連れていかれてしまう。

 

 裁判長が座る場所にはヌリカベがいた。

 

「郡千景、お前は弟モクモクレンの求愛を断るわけだな?」

 

「ええ」

 

「そうか、そうか、なら、判決を言い渡す!処刑だ!目玉焼きの刑とする!」

 

「め、目玉焼き!?」

 

「僕、目玉焼きが大好きなんだぁ!」

 

 ヌリカベの言葉に千景は驚きのあまり叫んでしまう。

 

 モクモクレンが嬉しそうにナイフとフォークを取り出す。

 

 逃げたい千景だが、ドロドロに拘束されていて動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイフとフォークが千景に迫る、その時。

 

 シュシュシュ!と無数の手裏剣がモクモクレンに炸裂した。

 

 倒れるモクモクレン。

 

「勇者キィィィック!」

 

 千景を拘束しているドロドロへ壁を壊して飛び出した高嶋友奈のキックが直撃する。

 

「高嶋さん!」

 

「ぐんちゃん!無事でよかったよ!

 

「ええ!」

 

「千景ちゃん!」

 

 サイゾウがモクモクレンから奪い返したスマホを投げる。

 

「色々やってくれたわね。お返しさせてもらうわ!!」

 

 鎌を構える千景。

 

 友奈と千景の傍にやってくるサスケ達。

 

「この!よくも千景ちゃんの恋心をもてあそんだわね!許さないわ!」

 

 鶴姫が握りこぶしを作りながら叫ぶ。

 

「うるせぇ!弟をよくも失恋させやがったな!許さねぇぞ!」

 

「ハッ、一方的で独占な思いなんてとおらないもんだぜ」

 

「うるさぁい!」

 

 サスケの言葉に怒るモクモクレン。

 

「皆、行くわよ!」

 

「「「おう!」」」

 

 鶴姫の言葉で全員がドロンチェンジャーを取り出す。

 

「「「「「スーパー変化!」」」」」

 

 光と共に目の前に赤、青、白、黄、黒の戦士が立つ。

 

 忍者を模した戦士たち。

 

 彼らこそが現代によみがえった忍び。

 

「ニンジャレッド、サスケ!」

 

「ニンジャブルー、サイゾウ!」

 

「ニンジャホワイト、ツルヒメ!」

 

「ニンジャイエロー、セイカイ!」

 

「ニンジャブラック、ジライヤ!」

 

「人に隠れて悪を斬る!」

 

「「「「「忍者戦隊カクレンジャー!見参!」」」」」」

 

 それぞれがポーズをとり叫ぶ。

 

 彼らの姿を見て友奈は思った。

 

 

――カッコイイ!

 

 

「やっちゃえ!」

 

 モクモクレンの叫びで走り出すドロドロ。

 

「成敗!」

 

 親指を逆さまにしてサスケ達は戦闘を開始する。

 

 カクレマルや手裏剣、変わり身の術などを使ってカクレンジャーはドロドロ達を倒していく。

 

「勇者パンチ!!」

 

 ドロドロ達を薙ぎ払い友奈の拳がヌリカベに直撃する。

 

 自らの体を削って戦闘用に特化したヌリカベは正面から友奈とぶつかろうとした。

しかし。

 

「ぐんちゃんをいじめたから許さない!」

 

 大事な親友を虐められたことで怒っていた友奈の拳はヌリカベに直撃。

 

 廃墟の天井を突破してそのまま、空の中に消えていくヌリカベ。

 

「押忍!」

 

 構えた友奈の姿にドロドロ達は腰を抜かす。

 

 友奈に怯えるドロドロ達とは別のドロドロが転がり込む。

 

 別の方へ視線を向けると、ドロドロした漆黒のオーラのようなものを放ちながらモクモクレンに斬りかかる千景。

 

 そんな千景にカクレンジャーも、手出しできない。

 

「許さない!」

 

「千景ちゃん!僕のフィアンセぇええええ!」

 

 飛びかかろうとするモクモクレン。

 

 千景は切り札を発動して切り刻む。

 

 連続攻撃を受けて吹き飛んだモクモクレン。

 

「今だ!」

 

 距離が開いたのをみて、カクレンジャーは専用乗り物、シャークブリッダー、シャークスライダー、シャークランチャーを合体させた必殺の“シャークドライバー”をモクモクレンに放つ。

 

 

「……こぉなったら、巨大化してやるぅぅぅぅぅうう!」

 

 怒ったモクモクレンは妖力によって巨大化する。

 

「行くぞ!」

 

 カクレンジャーは巻物を使って、隠流巨大獣将之術によって、五体の獣将が合体して無敵将軍に姿を変える。

 

「無敵将軍参上!」

 

「このぉ!」

 

 巨大化したモクモクレンが巨大な眼球になって無敵将軍へ攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、無敵将軍の拳を受けてモクモクレンは逆にダメージを受けた。

 

「火炎将軍剣!」

 

 シャチホコ型の柄を備えた炎の刃――火炎将軍剣を無敵将軍は構える。

 

 炎を放つ刃を構えて、円形に振るいながら必殺の一撃をモクモクレンへ放った。

 

「南無三」

 

 攻撃を受けたモクモクレンは大爆発を起こす。

 

「千景ちゃああああああああん!愛しているよぉぉっぉぉぉぉォ!」

 

 肉体を失ったモクモクレンの魂が空へ浮遊して、さらに爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 戦いが終わった千景の手の中にはモクモクレンの与えたペンダントがあった。

 

 彼女はペンダントを小さく握りしめると……そのまま近くの川へ投げる。

 

「ふぅ」

 

「ぐんちゃん……」

 

 千景が振り返ると心配そうにみている高嶋友奈の姿があった。

 

「大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫。高嶋さん」

 

 小さく微笑みながら千景は頷く。

 

「私は諦めないわ。必ず、どこかにいるはず……絶対に、見つけ出す」

 

 強く拳を握り締めて、千景は宣言する。

 

 そんな親友の姿に友奈は頷く。

 

「うん、うん!絶対に見つけ出そう!諦めずに探したらみつかるよ!」

 

「ええ、絶対」

 

 二人は拳を握り締めて頷く。

 

 そんな二人の姿をネコマルの傍でみていたカクレンジャー達。

 

「なんかさ……あの子達、恋人というか、すっげぇ、執着しているような気がするな」

 

 サスケの言葉に男たちは頷く。

 

「愛は一転すれば憎しみに代わるっていうけれど、あの子達はどうなるかわからないわ」

 

 鶴姫は思う。

 

「あそこまで好かれている人って、一体、どんな人なのかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふーんふふーん」

 

 カクレンジャー達が戦っていた廃墟。

 

 そこに少女がやって来る。

 

 鼻歌を奏でながらくるくると回転して、少女はある方へ向かう。

 

「あ、あったあった!」

 

 少女は壁に突き刺さっている細長い短剣をみつける。

 

「やーっぱり」

 

 刺さっていた短剣を抜いた少女は笑顔で顔を近づけた。

 

「くんくん」

 

 短剣に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。

 

「間違いない……あのお方の匂い」

 

「おい、お前!」

 

 うっとりしていた表情から一変して少女の顔から感情が消えた。

 

 振り返ると高嶋友奈に殴られて空の彼方に消えたはずのヌリカベがいる。

 

 幸いなのか、重傷でヌリカベは無事だったのだ。

 

「どういうことだ!お前の作戦通りにやったのに、なんで」

 

 ヌリカベの叫びに少女は答えない。

 

「アイツらのせいで、弟が!許さない!仕返しして――」

 

 ヌリカベは最後まで言葉を発することがなかった。

 

 少女が一瞬でヌリカベの後ろに立っている。

 

「もう要らないの。貴方は用済みなんだ」

 

 小さく微笑む少女。

 

 その背後でヌリカベが大爆発を起こした。

 

「あーぁ、姿はみせないのに、あの人達を助けたりするんだね」

 

 手の中の短剣を弄りながら少女はため息を零す。

 

 死んだヌリカベのことは既に眼中にない。

 

 赤い髪を揺らしながら彼女はため息を零す。

 

「どうすれば、私の前に姿を見せてくれるのかなぁ?はぁ、早く会いたいなぁ」

 

 笑顔を浮かべながら手の中にある短剣を握り締める少女。

 

 その姿が恋する乙女のようなものだった。

 

「あぁ、逢いたいです。落合日向様」

 

 

 ”赤嶺友奈”は恋焦がれる表情で手の中の短剣をぺろりと舐める。

 

 




ゆゆゆいではいくつかのスーパー戦隊がでてくるはず……。

本格的に描くとしたら、とんでもないレジェンド大戦が起こるでしょう。


次回は本編、黒騎士と勇者たちの間に亀裂が入る、かも?


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乃木若葉の無自覚な恋心

タイトルは別のものにする予定でしたが、急きょ、変更。




 

「落合日向!今日こそ、手合わせ願うぞ」

 

「断る」

 

 丸亀城の近く。

 

 ゴウタウラスが休んでいる傍で乃木若葉は“今日”もやってくる。

 

 俺はため息を零す。

 

「いつもいっているはずだ。理由がない」

 

「いいや、ある!共に戦う仲間として必要だ!」

 

「俺とお前達は仲間ではない。ただ、共通の目的で行動しているに過ぎない」

 

「だが、行動しているなら互いの動きを把握しておくことは必要だ」

 

「……はぁ」

 

「あ!なんだ!?そのため息は!」

 

 わからないのか?と俺は素直に言いたい。

 

 だが、そうすれば、余計に面倒なことになる。

 

 何度もやりとりしているから、俺は言わない。

 

 とにかく、

 

 乃木若葉はとにかく、今の俺にとって面倒な相手だ。

 

「こうなったら、無理やり!」

 

 振るわれる木刀を躱す。

 

「お前は辻斬りか?」

 

「何を言う!私の模擬戦の申し込みを拒み続けるお前が悪い!」

 

 無茶苦茶だ。

 

 振るわれる木刀を躱して、握り締めている手に手刀を振り下ろす。

 

 痛みで乃木若葉は木刀を落とした。

 

「むむ!卑怯だ!」

 

「何を言う。問答無用で斬りかかって来るお前が悪い」

 

 肩をすくめる。

 

 乃木若葉がこのように問答無用で俺に模擬戦を仕掛けるようになったのはジンバが現れてから、いや、デートもどきをしてからだ。

 

 その時から乃木若葉は模擬戦を挑み、断れば木刀で攻撃を仕掛けるということをするようになった。

 

 今のところ、乃木若葉の親友である上里ひなたに相談はしていない。

 

 しばらく様子を見てから話をしようと思っている。

 

「くぅ、なぜ、私と模擬戦をしない」

 

「する理由がない」

 

「酷いぞ!私は――」

 

 続きを言おうとした乃木若葉と俺は同時に身構える。

 

「気付いたか?」

 

「ああ、なんだ、この視線は」

 

 俺の言葉に乃木若葉は頷いた。

 

 こちらへ向けられる視線。

 

 悪意、憎悪の類ではない。

 

 純粋な戦意。

 

 俺達と戦うというもの。

 

「そこだ!」

 

 俺は懐から細長い短剣を放つ。

 

「流石は勇者と黒騎士……というわけか」

 

 放った短剣を木々の隙間から伸びた手が掴んだ。

 

 現れたのは赤と白を基調とした服を纏った男。

 

 髪や髭は手入れが施されていない。

 

 その中で俺と乃木若葉が注視したのは刀袋に納められているもの。

 

 おそらく、刀だ。

 

 木刀などではない、本物の真剣だ。

 

「落合日向」

 

「ああ、バーテックスが混ざっている」

 

 

「だが、どうやって結界の中に!?」

 

「結界は人や神樹に敵意あるものに反応する。だが、そういったものに敵意をもたないのであれば簡単に入れる。そう、人ならぬ存在であろうと……そうだろう?黒騎士」

 

「お前は何者だ?」

 

「名乗らせてもらおう。俺の名前は腑破十臓という。元は人、今は天の神という存在と契約している……尤も、既に役目は果たしているが」

 

「役目?」

 

「この地の下に眠っていたアギトボーマ、それの封印を解くこと……役目を果たした俺は俺の目的のために行動する」

 

「貴様の目的?」

 

「……強き者と骨の髄まで斬りあう」

 

「なんだと?」

 

「俺と裏正は強いものと戦いたい。今までも、これからも変わらない。そして、今の俺から見て、強者といえる存在は二人」

 

 十臓は指さす。

 

「乃木若葉と黒騎士……貴様らのどれか、いや、二人と骨の髄まで斬りあいたい!」

 

 ぞっとするほどの純粋な戦意。

 

 神樹も判断できないわけだ。

 

 身構える乃木若葉の前に俺は立つ。

 

「落合日向、何を」

 

「貴様にバーテックスの一部が混じっているなら、俺の敵だ。貴様は俺が」

 

「おっと、待ってもらおうか」

 

 聞こえた声に俺は振り返る。

 

 口笛を吹きながら学ランの男が立っていた。

 

 学ランと学帽、学ランの背中には流れ星のような刺繍が施されている。

 

 学帽の向こうからは冷たい瞳が俺に向けられた。

 

「そうか、お前か」

 

「流れ流れて、四国までやってきたが……こんなところで、人間としての貴様の姿を見るとは驚きだ。黒騎士」

 

 目の前に現れた相手と俺は懐かしむ様な会話をする。

 

 しかし、少しでも変な動きをすれば互いに殺しあう準備は出来ていた。

 

「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」

 

「落合、日向」

 

「そうか、俺の名前は……流星光、さすらい転校生にして、お前を殺す男だ」

 

「邪魔をするのか?流星」

 

「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ?十臓さんよ。アンタの相手はあっちの勇者さんにしてもらうという話をしていたじゃないか」

 

「ああ、だが、お前の殺意を受けても平然とするどころか、より精錬された殺意をみて、気が変わった」

 

「……二人まとめてかかってきても構わないぞ」

 

「バカなことを言うな!落合日向!あの二人はどちらも強敵だ。いくらお前でも」

 

「敵がなんであれ、バーテックスだというのなら、俺は斬る。それだけだ」

 

 鞘からブルライアットを抜く。

 

「まぁ、待て」

 

 今にも戦いの空気になろうとしていた時、流星が手で制する。

 

「今日は顔合わせだ。久しぶりの再会だ。すぐに幕引きすることもないだろ?お前がしでかした罪を思い出しながら決闘を迎えようじゃないか……なぁ、落合日向」

 

「……仕方ない。今は下がろう。だが、裏正と全力で振るう時を楽しみにしているぞ」

 

「じゃあな、あの二人の苦しみを貴様に味合わせてやる」

 

 流星と腑破十臓は姿を消した。

 

「逃げたか……」

 

「落合日向!待て!」

 

 去ろうとした俺に乃木若葉が呼び止めた。

 

「答えろ、なぜ、流星光はお前を恨んでいる?一体、奴と何があったんだ?」

 

 乃木若葉に俺は短く答えある。

 

 俺と流星光。

 

 その間にある因縁。

 

 あれは――。

 

「奴は恨んでいるのさ」

 

「恨んでいる?」

 

「俺が諏訪で勇者と巫女の二人を見殺しにしたと恨んでいるのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん?」

 

 乃木若葉は上里ひなたの言葉にハッと周りへ視線を向ける。

 

「す、すまない」

 

「どうしたんですか?いつも真面目に授業を受けているのに、ここのところ上の空が続いています」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「そういわれても、無理だぞ!数日も若葉が上の空なのはタマ達もわかっているんだ。何か悩みがあるならタマ達に相談しタマえ」

 

「タマっち先輩の言うとおりだよ」

 

「若葉ちゃん!相談してよ!」

 

 若葉に集まる勇者たち。

 

 そのことに嬉しく思いながらもこのことを話すべきか悩んでいた。

 

「もしかして、日向さんのことですか?」

 

「それは……」

 

「何があったの?」

 

 若葉に千景が詰め寄る。

 

「答えて、乃木さん、日向に何があったの?」

 

 ぞっとするほどの冷たい声に球子と杏が下がりそうになった。

 

「落合日向が言っていたんだ……自分が諏訪の勇者と巫女を見捨てたと」

 

「え、でも、あの時の手紙には」

 

「そのようなことは一切、書かれていませんでした」

 

「ああ、だが、諏訪についての全貌を彼は話していないのも事実だ。もしかしたらということも」

 

「そんなこと!絶対にないです!」

 

 至りそうになった考えを友奈が否定する。

 

「日向さんは私達を助けてくれました。キロスに狙われていた私だって…………だから、きっと、何か、間違いがあったんだよ」

 

「間違いねぇ……どうやら勇者さん達の心奴は掴んでいるようだ」

 

 聞こえた声に全員が立ち上がる。

 

 若葉は窓際を見る。

 

 窓に腰かけるようにしている学ラン姿の男。

 

「流星光……」

 

「光栄だねぇ、勇者さんに名前を覚えてもらっているとは」

 

「どうやって、ここに!?」

 

「流れ流れて二万年、この程度の場所に入り込むなんて俺には造作もないことさ」

 

「乃木さん、彼が?」

 

「ああ、流星光、黒騎士を恨んでいる者だ」

 

「その通り、俺は奴を許さない」

 

「なぜ、日向を恨んでいるの?」

 

「諏訪の勇者と巫女を奴は見捨てたのさ。二万年という長い年月の中で俺を受け入れてくれた大事な存在を奴は見殺しにした。だから、許さない。シンプルだろう?そもそも――」

 

――お前達は奴のことをどれくらいわかっているんだ?

 

 その言葉に勇者たちは言葉を失う。

 

「アイツの表面的なことしか理解していないんじゃないか?アイツの本質を“本当”に知っているのかな?」

 

 流星光の言葉に誰も言葉を発しない。

 

 千景や助けられた友奈すら言葉を失っている。

 

 その姿に流星光はため息を零し。

 

「そこまでだ」

 

 教室のドアに落合日向が立っていた。

 

 いつでも攻撃できるようにブルライアットへ手をかけている。

 

 日向が現れたことでからかっていた流星の表情が消えた。

 

 いつでも互いが攻撃できるような状態。

 

 その時、樹海化がはじまる。

 

「救われたな。落合日向」

 

「どちらが、だろうな?流星光」

 

 樹海の世界に包まれて勇者たちと共に日向の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者たちは現れたバーテックスと戦う。

 

 しかし、彼らはちらりと視線を動かす。

 

 互いに連携を取りながらも彼らの動きはどこかぎこちなかった。

 

 勇者たちは戦いながらバーテックスを一掃している黒騎士へ視線を向ける。

 

 黒騎士は勇者たちに気にすることなく、ブルライアットでバーテックスを射抜き、切り裂さいていく。

 

 周りのことなど気にしない、周りなど眼中にない。

 

 彼の態度に少なからず勇者たちは動揺していた。

 

 その事に気付いていた若葉が叫ぶ。

 

「今は目の前のバーテックスに集中だ!」

 

 彼女の一言に勇者たちは先ほどまでのぎこちなさがウソのように連携を始める。

 

 十分もせずに勇者たちはバーテックスを倒し、樹海化も解除されていく。

 

 元の世界に戻ってきた彼ら、しかし、いつもと異なり、彼らの中に会話はなかった。

 

 黒騎士はブルライアットを鞘に納めて歩き出す。

 

「あ、く」

 

「黒騎士!」

 

 声をかけようとした友奈よりも大きな声で乃木若葉が呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「諏訪のことだ」

 

「話すことはない」

 

 乃木若葉はすぐに動けるようにしながら険しい表情で声をかける。

 

「流星光」

 

 彼女の言葉に黒騎士は歩みを止めた。

 

「彼はいっていた。お前が諏訪で勇者と巫女を見殺しにしたいと……私は知りたい。お前が本当に諏訪で二人を見捨てたのか、その事実を知りたい!教えてくれ」

 

「教えて、何になる?」

 

「知りたい。私は、いや、私達はお前のことを知りたい」

 

 どこまでも冷たい声に乃木若葉は表情を変えず、真っ直ぐに黒騎士を見る。

 

 その姿に黒騎士はある姿を連想させた。

 

 だからこそ。

 

「流星光の言葉は事実だ。俺は諏訪の勇者と巫女を見殺しにした」

 

 彼の告げられた言葉に勇者たちは何も言えない。

 

「忘れているようだな」

 

 冷たい、突き放すような言葉に杏は怯えてしまう。

 

「俺は復讐者だ。バーテックスに殺された弟の仇をとるまで止まるつもりはない……何を犠牲にしたとしても、俺は止まらない。すべてのバーテックスを滅ぼす」

 

 普通に握っていたら血が滲み出そうなほど力を込めて、黒騎士は言う。

 

 素顔は隠れていてみえない。

 

「(泣いている……みたい)」

 

 千景と友奈は黒騎士が泣いているように見えた。

 

「これが事実だ。俺が諏訪の二人を見捨てたことは消えない。話は終わりか?俺は行く」

 

 一度も、振り返ることなく黒騎士は去っていく。

 

 そんな彼を、誰も、追いかけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、間違えたのだろうか?」

 

「そう思いますか?」

 

 乃木若葉は上里ひなたと歩いていた。

 

「私は彼と決定的な亀裂を作ってしまったのかもしれない」

 

 黒騎士が現れなくなって既に二週間が経過した。

 

 ゴウタウラスは勇者たちが心配なのか、定期的に姿を見せるが、黒騎士どころか、落合日向の姿すらみせなくなった。

 

「彼が姿を見せなくなってから千景と友奈は探し回っている。杏や球子も気になるのか、町へ出ている……だが、私は」

 

「彼のことが信じられませんか?」

 

「信じたいとは思っている……だが」

 

 若葉は迷っていた。

 

 黒騎士のこと、落合日向のこと。

 

 流星光が告げた諏訪の二人を黒騎士が見捨てたという話。

 

 その話がなぜか棘のように抜けない。

 

「もしかしたらと思うと、疑ってしまうんだ。勇者の仲間達信じているというのに、彼のことになると、私は疑っている。そんな自分が、私は」

 

――もっと嫌いだ。

 

 若葉の話をひなたは最後まで聞いていた。

 

 そして、思っていることを言う。

 

「若葉ちゃんは、日向さんのことが大好きなんですね」

 

「え?」

 

「だから、嫌なんですよ。彼が……日向さんが人を助けずに見捨てたかもしれないという話を聞いて、否定したいけれど、事実がわからないからモヤモヤして、答えが出ないままだから、余計に気持ちが焦って」

 

「……そうか、私は焦っているのか」

 

 ひなたに指摘されて若葉は理解する。

 

 自分は、乃木若葉は黒騎士のことが大好きだから、彼の告げた事実を認めたくなくて、否定したくて、どうにかしたくて、何とかしたくて、気持ちがグチャグチャになって、焦っていた。

 

「ひなた、私はどうすればいいのだろうか?わからない。こういう時にどうすればいいのか、答えがでないんだ」

 

「うーん」

 

 ひなたは考える。

 

 そして、閃いた。

 

「日向さんとしっかりお話すればいいと思います」

 

「話……か」

 

「ええ、しっかり、ねっとりと骨の髄までとことん、語り合うべきです。彼が根をあげるまで」

 

 やるなら徹底的にするべきだ。

 

 彼が逃げるならそれを封じ込めて、周りこんで。

 

 囲めばいい。

 

「私は」

 

 若葉が何かを言おうとした時、樹海化が起こる。

 

 樹海による現象で傍にいたひなたが消えた。

 

 代わりに、目の前に現れたのはジンバ。

 

「乃木若葉……ここで斬る」

 

 ジンバの言葉に若葉は静かに太刀を手に取る。

 

「今の私はいつもより冷静ではない。目の前の敵は容赦なく切り伏せる!」

 

 叫びと共に乃木若葉とジンバは斬りあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海が起こる少し前。

 

 落合日向は目の前の少年に困惑していた。

 

「ねぇねぇ!黒騎士なんだよね?私服もカッコいい!」

 

 目の前ではしゃいでいる子供の姿に日向は困った表情を浮かべていた。

 

「風太郎だったか、はしゃがないでくれないか」

 

「えぇ!なんで!黒騎士って、諏訪の人達を四国まで連れてきた凄い人なんでしょ!?興奮するのは当然だよ!」

 

 これである。

 

 何とか遠ざけようとしているのだが、こうやって近づかれてしまう。

 

 年は弟の蔵人に近いから、どうすればいいのかわからない。

 

 昔のように優しくすることに抵抗がある。

 

 悩んでいた俺は気配を感じた。

 

「風太郎」

 

「なに?」

 

「俺の後ろに隠れていろ」

 

「え!?」

 

 日向はそういって、風太郎を隠す。

 

「出て来い、流星」

 

「流石は落合日向、俺の存在に気付いたか」

 

「当然だ、お前の気配は間違えない」

 

「嬉しいねぇ、だが、そういうのも最後だ」

 

 流星は笑みを浮かべながら、手を振るう。

 

 日向は咄嗟に風太郎を庇う。

 

 少し遅れて、爆発が周囲に広がった。

 

「いきなりだな」

 

「ほう、そこにいた餓鬼を庇うか。その優しさを少しでもあの二人に向けるべきだった!!」

 

「……風太郎、二度は言わない。隠れろ」

 

「う、うん!」

 

 頷いた風太郎が遠くへいったことを確認して腰からブルライアットを抜き出す。

 

「やる気になったか、さぁ、始めようぜ」

 

 そういう流星の手には剣を持っている。

 

「さぁ、始めようぜ?」

 

 にやりと笑いながらヤミマルの剣とブルライアットで斬りあう。

 

「どうしたぁ?黒騎士の姿にならないのかい?」

 

「そういうお前こそ、流れ暴魔の姿にならないのか?」

 

「ここの結界は面倒でねぇ、暴魔みたいな力を使えば、弾かれちまうのさ。しかし、お前みたいな奴をよく神樹とやらは受け入れたな」

 

「そこは、俺も思うよ!」

 

 突き飛ばしてブルライアットをショットガンモードにする。

 

 放たれた弾丸を流星はひらりと躱す。

 

「おーおー、相変わらずえげつない強さだな」

 

「本気を出していないくせによく言う」

 

 互いを称えながらも油断せずに動きを注視する。

 

 少しでも怪しい動きをすればすぐに行動を起こす。

 

 二人の間にはただならぬ空気が漂っていた。

 

 直後、二人の周りを樹海化が広がっていく。

 

「おいおい、随分としらけさせることするな」

 

「チッ」

 

 流星が周りを見上げた時、日向は黒騎士の姿となって駆け出す。

 

 何も言わずに駆け出した彼の姿に流星は舌打ちする。

 

「チッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ!」

 

 乃木若葉は近くの壁に体を打ち付ける。

 

「笑止、勇者、弱い!」

 

 笑い声をだしながら武器を構えるジンバ。

 

 斬りあってどのくらいの時間が警戒しているのかわからない。

 

 若葉は太刀を握る手を強めた。

 

「まだ、やるか?」

 

「当然だ、お前達を倒すために我々はいる。四国を、そこに住まう人を守るために!」

 

「だが、黒騎士は違うでござる」

 

 ジンバの言葉に若葉は動きを止める。

 

「黒騎士はためらわない。目的のためならば大勢の命を奪う。そういう男だ。お前達勇者とは違う。アイツは拙者と同じ、目的のためなら手段を択ばない“修羅”なり」

 

「……最初は、私も……そう思っていた」

 

 ゆっくりと若葉は立ち上がる。

 

 俯いている彼女の表情を読み取ることは出来ない。

 

 だが、ジンバを前に覇気は衰えていない。

 

「だが、今は違う!」

 

 力強い声で若葉は否定する。

 

 顔を上げたその目に迷いはない。

 

 強い意志を宿している。

 

「私にとって黒騎士は……落合日向は大切な人だ。最初は怪しい気持ちもあった。だが、彼がいなければ、私は仲間を失っていた。それに」

 

 サソリ型バーテックスに球子と杏。

 

 盗賊騎士キロスに友奈が。

 

 アギトボーマにひなたが。

 

 黒騎士が、落合日向がいなかったから確実に若葉は仲間を失っていた。

 

 短い時間けれど、彼のことを理解するには十分。

 

 何より、言葉にすることは恥ずかしいが、彼と一緒に気持ちが昂る。

 

 心臓がバクバクと音を立てて、落ち着かない。

 

 だが、彼といるととても嬉しい気持ちになる。

 

 乃木若葉は無自覚だが、落合日向に恋心を抱いていた。

 

 それだけで、彼を信じるに十分。

 

 太刀を握り締めて姿勢を落とす。

 

 ジンバも武器を抜いた。

 

 二人は同時に駆け出す。

 

 神技、そういうべき、彼女の一撃がジンバの武器を砕く。

 

「な、にぃ!?」

 

 武器が破壊されたことにジンバが驚きの声を上げる。

 

 自慢の武器が破壊されたことにジンバが戸惑いの声を上げる中、その場に一人の男が現れる。

 

「やはり、骨の髄まで戦う相手は」

 

「貴様、なぜ、ここに」

 

 驚くジンバに現れた十臓は鞘から裏正を解き放つ。

 

「な、なにを」

 

「お前の恨み、憎しみ、負のエネルギーを貰うぞ」

 

 斬られた個所から怨念のようなエネルギーが噴き出して十臓の裏正に吸い込まれていく。

 

 裏正に吸い込まれていったマイナスのエネルギー。

 

 それは腑破十臓を外道としての姿へ変える。

 

「これで、俺も骨の髄まで斬りあえる」

 

 十臓は裏正を握り締める。

 

「貴様、何の……」

 

「ジンバ、お前は用済みだ。消えろ」

 

 十臓の放った一撃。

 

 その一撃がジンバの命を奪い取る。

 

「お前達、仲間ではなかったのか……」

 

「仲間?俺にそのようなものはない。俺にあるのは、骨の髄まで斬りあうという本気の斬りあい!それをするために天の神と契約を結んだというのに……力を封印されてしまった」

 

 人の姿に戻った十臓は裏正を鞘に納める。

 

「乃木若葉、黒騎士、俺は強き者と戦いたい、骨の髄まで!」

 

 ぞっとするほどの狂気に乃木若葉は自然と後ろに下がってしまう。

 

「時間切れか」

 

 樹海化が解除されていく。

 

 同時に十臓の存在が薄れ始めた。

 

「完全になったことで神樹の結界に阻まれるか……乃木若葉、今は体を癒せ。時がくれば、貴様か黒騎士、本気の勝負を楽しみにしているぞ」

 

 そういって十臓の姿が消える。

 

 若葉が立ち上がろうとした時、彼女の体を刃が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん!?」

 

「な!?」

 

 樹海化が解けて、ひなたたちは乃木若葉を探していた。

 

 ようやく、彼女達は若葉を見つけたのだが――。

 

「お前、何をしているんだよ!何をしたのか、わかっているのか!?」

 

 球子が叫ぶ。

 

 その目は激しい怒りで燃えていた。

 

「ウソ、だよね?何かの……間違いだよね!」

 

 信じられないと高嶋友奈は叫ぶ。

 

 その目は否定してほしいという気持ちで揺れていた。

 

「間違いだっていってよ!日向さん!!」

 

 乃木若葉をブルライアットで貫いている黒騎士に友奈は叫んだ。

 




次回の本編が終わったら、番外編をやる予定です。


キャラ紹介


腑破十臓

最近、見た人もいるかもしれないですけれど、侍戦隊シンケンジャー、シンケンレッドの宿敵。
裏正という逆刃の刀で強い相手と骨の髄まで斬りあいたいと望む外道。
ちなみに元人間。
今回は乃木若葉と黒騎士のどちらかにするか絶賛、悩み中。


流星光

高速戦隊ターボレンジャーの初期?~終盤まで出てきた人物。
人間の時は「さすらい転校生、流星光」という名乗りがある。
ちなみに成績優秀かつ色々と特技豊富。
その正体は流れ暴魔ヤミマル。
人でも暴魔でもないことから差別を受けてきたが、今回では?







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たった一度の奇跡

色々とやらかしました。




「なぁ、どういうことなんだよ!」

 

「お、落ち着いてください。今、大社も調べていますから」

 

「そんなこといわれても落ち着けるわけねぇだろ!?アイツがそんなことするわけないだろ!何かの間違いだって!」

 

「健太!俺も同じ気持ちだ!でも、ひなたちゃんに当たるのは間違いだろ!」

 

 力に言われて健太は小さく、謝罪して離れる。

 

「いえ、私も、信じられないという気持ちは同じです」

 

 ひなたは俯く。

 

 黒騎士が乃木若葉を襲撃したという事件から数日が経過した。

 

 幸いにも若葉は一命をとりとめている。

 

 だが、勇者を黒騎士が襲ったという事件は止めることもできず、瞬く間に四国中に報道されていた。

 

「何だよ。今まで日向の存在を否定していた癖に……こういうところだけは信じるっていうのか?」

 

「まるで、黒騎士の悪評を広めようとしているみたいだ」

 

 力の言葉にひなたも少なからず思っていた。

 

 情報拡散が早すぎる。

 

 大社は今まで黒騎士の情報拡散を抑えていた。そのために、四国中で知っている人間はほとんどいなかった。

 

 だが、今回の悪評によって彼の悪い情報だけが物凄い速度で広まっていく。

 

 この数日という期間で黒騎士は悪という情報だけが人々に認識されてしまっていた。

 

「なぁ、日向は、今どこに?」

 

「行方不明です。大社の人達が探しています」

 

「俺達も探そうぜ!」

 

「待ってください」

 

 探しに行こうとした健太をひなたが止める。

 

「今は、探さないでください」

 

「どうしてだよ!俺達はアイツの親友だぞ!」

 

「だからです」

 

 ひなたは周りを見る。

 

「今は監視されていませんが、大社の一部は貴方達を利用して日向さんをおびき出そうとするかもしれません」

 

「不用意な行動はしないほうがいいってことか?でも……」

 

「くそっ!」

 

 苛立つ健太は拳を壁に叩きつける。

 

「親友がピンチだっていうのに俺達は……俺は、なんもできねぇのかよ!」

 

 悔しさに顔を歪める健太。

 

 だが、事態はさらなる悪化を辿る。

 

 急患として伊予島杏と土居球子が運ばれてきた。

 

 彼女達は黒騎士の襲撃を町中で受けたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――勇者を狙う黒騎士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その情報によって四国の民は黒騎士を悪として認識した。

 

「ふーん、変なことになっているねぇ」

 

 流星光は町中に広まっている情報を見て吐息を漏らす。

 

 黒騎士をみつけたら即射殺という嘘か真か怪しい情報まである。

 

「アイツを始末するのはこの俺だ。誰の邪魔もさせない」

 

――だが、この状況は面白くない。

 

 顔をしかめながら流星光は歩き出す。

 

 学ランの流れ星がキラリと輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒騎士が他の勇者を狙ったということで大社は即座に彼を危険指定、勇者にも接触しないようにと強く告げてきた。

 

 ひなたはそれを無事な二人、高嶋友奈と郡千景に伝えるも、二人の表情は反発の色が強い。

 

「切り捨てるの?大社は」

 

 ぞっとするほど、冷たい瞳で千景はひなたへ問いかける。

 

 普通の人なら腰を抜かしてしまうほどの視線、だが、ひなたは臆さない。

 

 彼女の気持ちを自分も痛いほど理解できるのだ。

 

「答えて、上里さん、大社は黒騎士を、日向を切り捨てるの?」

 

「今のままだと、そういうことになるかもしれません」

 

「そんな!」

 

「ですが、まだ、希望はあります」

 

「なんだよ、それは!」

 

「真相を突き止める事……それも急ぎ足で」

 

「真相を?」

 

「黒騎士さんが本当に若葉ちゃんを襲ったのか、別のものの仕業なのか、それを突き止めることです……ですが」

 

「やろう!」

 

 高嶋友奈が立ち上がる。

 

「日向さんが若葉ちゃんを殺そうとするなんて絶対にありません!だって、バーテックスを滅ぼすために戦っています。その人が……人を殺すなんて、おかしいです。絶対、絶対に何か理由があるはずです!」

 

「私は何があっても日向を信じる。大社が彼を排除しようとするなら、私は許さない」

 

 勇者としては問題のある発言だが、千景は暗い影を持ちながらも強い決意で告げる。

 

「私も日向さんを信じています。まずは、彼を探すことが必要です……そこで」

 

 ひなたは声を落とす。

 

「危険ですが、作戦があります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひなたの考えとは勇者や巫女である自分達を囮として黒騎士をおびき出す。

 

 大社に感づかれないように少しばかり変装をして街を歩く。

 

「でも、こうして出てくるのかしら?」

 

「勇者を狙っているというのなら、必ず現れるはずです」

 

「絶対、みつけよう!」

 

 やる気に満ちている友奈。

 

 ひなたは千景にこっそりと声をかける。

 

「千景さん」

 

「何かしら?」

 

「実は前から聞いてみたいことがありまして」

 

「……聞きたいこと?」

 

「ズバリ、日向さんのどこに惚れているんですか」

 

 ブフゥ!と飲んでいたドリンクを吐き出す千景。

 

「え!?ぐんちゃん!どうしたの?」

 

「何でもないわ。だ、大丈夫よ……高嶋さん」

 

「そ、そう?」

 

 首を傾げる友奈に微笑んでから振り返る。

 

「何を言い出すの?」

 

「いえ、敵情視察です」

 

「は?」

 

「実は……」

 

 ちらりと視線を逸らしながらひなたは千景に爆弾を投下する。

 

「私、日向さんのことを好きになりまして」

 

「……渡さないわ」

 

「大丈夫です。奪いますから」

 

「そう、宣戦布告というわけね」

 

「はい……ただ、知っておきたくて、彼のどこが好きなのかと」

 

 ひなたにとって強敵は千景であると思っている。

 

 だから、なるべく相手の気持ちの度合いを知っておこう。

 

 そんな気持ちがあった。

 

「(ぐんちゃんとひなたちゃん、何の話をしているのかな?あぁ、それにしても、日向さん、どこにいるんだろ。心配かけて、もう!お話しないと)」

 

 尤も、二人の知らないところに伏兵がいるということを気付いていなかった。

 

「彼は私を短い期間だけど、地獄から救ってくれた。私にとっていることが当たり前の相手、そして、死んだと思っていた。だから、絶対に今度は離さない。ずっと、傍にいてもらう」

 

 髪で隠れている耳元を触りながら千景は今までに見せたことのない表情で答える。

 

「(これは、強敵です。流石は千景さんです)」

 

 感心しつつ、相手が強敵であることを理解して、ひなたは闘志を燃やす。

 

 しかし、黒騎士は姿を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向さん、姿を見せなかったね」

 

「ええ、でも、見つけ出す。必ず、どこにいても」

 

 友奈と千景はそういって頷きあう。

 

 何が何でも黒騎士と出会う。そうして、真相を突き止める。

 

「でも、ぐんちゃん」

 

「なに?高嶋さん」

 

「今のままじゃ、日向さんは遠くにいっちゃうよね」

 

 しゅんとうなだれている友奈。

 

「……高嶋さん、少し話をしない?」

 

 千景に言われて友奈は頷く。

 

 友奈の部屋に向かう。

 

「きっと、日向は今のままだと何もかも捨ててしまう」

 

「そう、だよね。なんとなく、わかったんだ。日向さんって、生きているようで生きていない人なんだって」

 

「昔はそんな人じゃなかったわ。誰よりも明るくて、正義感に燃えていた。こんな私でも傷だらけになって助けてくれる……素敵な人」

 

 今も素敵だけど……心の中で千景は微笑む。

 

「でも、今の彼は昔と違う……いいえ、少し残っているだけ、ほとんどはバーテックスを滅ぼすことに意識を向けている……彼の言葉を借りるなら」

 

「復讐者だよね」

 

「ええ、でも、私は彼を今のままにしておきたくない」

 

「私も!私も……同じ気持ちなんだ」

 

 友奈は拳を握り締める。

 

 自分を助けてくれた黒騎士、盗賊騎士の悪夢から自分を救い上げてくれた彼。

 

 彼がいない日常など考えられない。

 

 遠くへ、彼が遠くに行こうとするのなら。

 

 何が何であろうと、彼の傍に居続ける。

 

「ねぇ、高嶋さん、一緒に……頑張らない?」

 

「一緒に?」

 

「ええ」

 

 千景は微笑む。

 

 彼女にとって高嶋友奈という少女は日向と同じくらい大切な存在だ。

 

 だから、彼女と日向をかけて取り合うなどということはできるならばしたくない。ならば、どうすればいい?

 

 答えは簡単だ。

 

「いいね!一緒にやろう!ぐんちゃんと一緒なら大丈夫!」

 

「そういってくれると嬉しいわ」

 

 二人は微笑みあいながら強く、とても強く、互いの手を握り締めあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で乃木若葉が血まみれで倒れている。

 

 驚きながらもすぐに手当てをすれば、助かる。俺は黒騎士の力を使って彼女の傷をふさいだ。

 

 だが、そこを何かにつけこまれる。

 

 脇腹に走る激痛。

 

 刺されたと理解する暇もないまま、俺は襲撃者にブルライアットを繰り出す。

 

 手ごたえを感じないまま、強力な一撃を受けて、俺は樹海の外まで飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 突如、目の前の映像が切り替わる。

 

 

 

 

 

「ノー!貴方は農業というものが全く分かっていないわ!」

 

「興味がない」

 

 ああ、懐かしいものをみているな。

 

 俺は目の前の光景がすぐに夢だとわかる。

 

 だって、前にいる相手は既に死んでいるのだから。

 

 諏訪の勇者。

 

 幼いながらも一人で鍬を振り下ろし、畑を耕す変わった少女。

 

 今までなら鮮明に思い出せた顔も今や朧気だ。

 

 名前も思い出せない。

 

 そもそも、俺は何をしているのか?

 

 四国にとどまっていたのが原因かもしれない。

 

 

「それは、お前の記憶が摩耗していっているためだ」

 

「ブルブラック……」

 

「復讐という道を進むものは心や精神が次第に摩耗していく。弱い人間であれば、尚のことだ」

 

「俺を弱い人間というのか?」

 

「それはお前が一番、わかっているはずだ」

 

 ブルブラックの問いかけに俺は言葉を失う。

 

 わかってはいた。

 

 覚悟はしていたのだ。

 

 だが、こんなことであっさりと揺らぐ自分が酷く滑稽で、惨めだ。

 

「だが、それがお前の良さなのだろうな」

 

「どういう意味だ」

 

「お前がどこまで、いや、果たせるのかどうか……私は見守る。時がくるまで」

 

 ブルブラックが背を向ける。

 

「あの人間に感謝することだな……どうやら、人間というのはすべて同じというのではないらしい」

 

「……わかっている」

 

 短く返して、すぐに視界が暗くなっていく。

 

 ああ、目を覚ますのか。

 

 

「あら、目を覚ましたの?」

 

 体を起こしていると引き戸が開いておばあさんが姿を見せる。

 

「助かりました」

 

 短く答えて、体を起こそうとするがおばあさんにやんわりと押し戻された。

 

「無茶しちゃダメよ、傷だらけだったんだから、もう少し休みなさい」

 

「だが」

 

「無理し、な、い、で!」

 

 やんわりと、けれど強い力で押し戻された俺は大人しく横になる。

 

「何か必要になったらいってね。すぐ、用意してあげるから」

 

 そういうと部屋の奥に向かうおばさん。

 

 残された俺は天井へ手を伸ばす。

 

 袖から伸びた手は傷だらけだった。

 

 頭上には鞘に納められているブルライアットがある。

 

「……」

 

 横になりながら俺はため息を零す。

 

 街では黒騎士の悪評が広まっている。

 

 今すぐにでも奴を倒しに行きたいのだが、体の傷が深すぎた。

 

 少し治癒させないと、いや、万全の状態で挑まないと奴と戦えない。

 

「問題は」

 

 傷が癒えたとして、背後から斬られないかどうか。

 

 今の俺は勇者を殺そうとした犯罪者というレッテルが貼られている。

 

 黒騎士としての姿と、おそらくだが、落合日向としての俺の姿も大社は掴んでいる。いずれ、ここへやってくるかもしれない。

 

 いつでも動けるようにしておいた方がいいだろうな。

 

 置かれているブルライアットへ手を伸ばす。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 慌てて、俺は手を戻した。

 

「何だ?」

 

「食事、お腹空いていない?」

 

「空いています」

 

「うどんでいいかしら?」

 

「ええ」

 

 蕎麦と口に出そうとした自分を殴りたい。

 

 最早、名前も思い出せない相手が好んでいたものを食べて、どうしたいのだろうか?

 

「俺は、俺が、わからない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海化が発生した。

 

 神樹すら予期していなかった事態に無事な勇者の友奈と千景はバーテックスと戦うために出迎える。

 

「あれ?」

 

「……バーテックスが、いない?」

 

 覚悟して外に出た二人の周りにバーテックスの姿はない。

 

 しかし、一人いる。

 

 刀袋を握り締めて、鋭い瞳で二人を見ていた。

 

「人?」

 

「いいえ、あれは」

 

「成程、樹海ということをやってみたが、乃木若葉は現れず……か」

 

 ため息を零しながら十臓は刀袋から刀を取り出す。

 

 同時に彼の姿が白を基調とした外道へその身を変える。

 

 裏正を抜いたと同時に千景と友奈に襲い掛かる。

 

「高嶋さん!」

 

「うん!」

 

 千景が裏正を鎌で受け止めたところで友奈が拳を放つ。

 

「勇者パァンチ!」

 

 放った一撃は裏正で受け止められてしまう。

 

「ウッ」

 

 千景を弾き飛ばし、裏正を回転させながら拳を受け止めていた。

 

 一瞬の動作で攻撃を防いだ十臓の姿に二人は思う。

 

 

 

――強敵だ。

 

 

 

 今までのバーテックス、敵において、強敵過ぎる。

 

 勝てるかわからない。

 

「負けない!みんながいないんだ!私とぐんちゃんで守る!」

 

「ええ、必ず勝つ」

 

 友奈の言葉に千景は頷く。

 

 二人に十臓はため息を吐きながら裏正を構えようとして、動きを止める。

 

「来たか」

 

「え?」

 

 一陣の風が吹いた。

 

 二人の横を黒い影が通り過ぎる。

 

 黒いマントを揺らしながら十臓と向かい合う。

 

「ウソ……」

 

「日向さん!!」

 

 現れた黒騎士は振り返らずに鞘からブルライアットを引き抜いた。

 

「貴様か、黒騎士」

 

「バーテックスは倒す、そういったはずだ」

 

「成程、貴様は俺の相手になり得るか?」

 

 同時に裏正とブルライアットがぶつかる。

 

 二つの刃は火花を散らしながら攻撃を繰り出す。

 

 裏正の刃が黒騎士の肩を、ブルライアットが十臓の腹部を切り裂いた。

 

「お前、怪我をしているな?」

 

「そういう貴様も、万全ではいな?」

 

 互いの状態を察しながらも武器を下げる様子がない。

 

 くるくると回転しながら振るわれる刃を黒騎士は弾く。

 

 ブルライアットの光弾を裏正で十臓は切り裂いた。

 

 二人の戦いに勇者の二人は割り込むことができない。

 

「私達は……何もできないの?」

 

「ぐんちゃん……」

 

 崩れ落ちそうになる千景、友奈はそんな彼女に何と声をかけていいのかわからない。

 

「チッ、時間切れか」

 

 十臓は距離をとる。

 

 裏正を鞘に納めた。

 

 同時に樹海が崩壊していく。

 

「黒騎士、貴様との斬りあいはとても楽しめるものだった。次の戦いも楽しみにしているぞ……今度は」

 

 十臓は闇色の斬撃を放った。

 

 黒騎士はギリギリのところで躱す。

 

 放った斬撃は空をも切り裂く。

 

「貴様」

 

「次は完全の状態で挑む。それまでにもう少しなんとかしておくことだな。黒騎士」

 

 警告のようなものを告げて、十臓の姿が消える。

 

 同時に元の世界に戻された。

 

 だが、場所は最悪だった。

 

 人が大勢いる町中。

 

 座り込んだ千景と友奈、少し離れたところにいる黒騎士。

 

 そんな彼らの姿を見て町の人達は理解する。

 

 黒騎士が勇者を襲うとしていると。

 

「黒騎士が勇者を殺そうとしているぞ!」

 

「化け物が!勇者から離れろ!」

 

 街の人達が石や色々なものを投げてくる。

 

 黒騎士は飛んでくるものを払わず、されるがまま。

 

 彼は何も言わずに離れていく。

 

 千景は手を伸ばそうとした。

 

 しかし、その手は届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ……何なんだよ!」

 

 今の光景を見て、健太は拳を壁に叩きつける。

 

 力は何も言わない、けれど、拳は血がでてくるほど握り締めていた。

 

 二人は目の前の光景に言葉が出ない。

 

 樹海の中でどのような戦いがあるのか、力たちは知らない。彼らがどれだけきつい戦いをしているのか、知っている人間はいないのだ。

 

 だから、大社からの情報だけを信じるしかない。

 

「これは、酷すぎる」

 

 本当かウソなのかもわからないのに黒騎士が悪人扱いされていることが許せなかった。

 

 親友があんな誹謗中傷を受けることが許せない。

 

「俺達も、何とかできたら」

 

「いや、するんだ!」

 

 力の言葉に健太が叫ぶ。

 

「俺達で、真犯人を見つける!黒騎士を、俺らの親友の日向を苦しめる奴を見つけ出して、謝らせる!俺達だって、できることをやろうぜ!!」

 

「ああ!やろう!日向を助けるために!」

 

 叫ぶ二人をみている者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、私が意識を失っている間に、そんな事態になっていたのか」

 

 乃木若葉はひなたからの報告に顔を歪める。

 

「若葉ちゃん、傷の方は?」

 

「大丈夫と言いたいが、戦闘は長時間不可能、できたとしても五分間が関の山だろう」

 

「五分間……」

 

 ひなたは繰り返す。

 

 若葉が目を覚ましたという報告を聞いたひなたは急いで向かい、彼女の様子を見て、不覚にも涙を流してしまった。

 

 親友のひなたの様子がおかしことに気付いた若葉は事情を聴く、そこで事態を知る。

 

「すまない、本当なら否定したいのだが、背後からいきなり貫かれて動けなかった……だが、あれは黒騎士ではない」

 

「どうして、そう思うんですか?」

 

「どんな存在であろうと何かをする瞬間、気持ちが入るものだ。だが、私を背後から襲撃した者にはそういう感情めいたものが全く感じられなかった。まるで“感情を持ち合わせていない人形”のように背後から現れて、私を斬った……そう感じたんだ」

 

「背後から……そんなことが」

 

「私の直感めいたものだ。根拠の類はない」

 

 そういいながら若葉はシーツを握り締める。

 

「自分が許せない。余計な重荷を私は……彼に背負わせることになるんだ!」

 

「若葉ちゃん」

 

 悔し気に顔を歪める若葉の手をひなたはそっと握り締める。

 

「まだ、大丈夫です。彼は生きています。若葉ちゃんも生きています。ここで諦めなければいいんです。絶対!彼の無実を晴らしましょう」

 

「ああ、まずは体を万全にしなければ!」

 

 頷いて若葉とひなたは動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くの?」

 

 外に出ていこうとした俺におばあさんが声をかける。

 

「世話になりました。何のお返しもできないですが……ありがとうございます」

 

「お礼なんて、とんでもない。私は貴方のおかげで普通の生活が送れるのよ」

 

「?」

 

「その様子だと、憶えていないみたいね……私は孫たちと一緒に諏訪から四国へ移り住んだ者です」

 

「……」

 

 おばあさんに言われるも思い出せない。

 

 

 四国へ連れてきた人たちの顔を覚えていなかったというのもある。何より、バーテックスと戦うことばかりでいちいち、意識していなかった。

 

「やっぱり、憶えていないのねぇ。でも、私は、いえ、私達は憶えているわ。あの子達のために戦ってくれた貴方ともう一人のこと」

 

「それで?俺を助けたのか?」

 

「私は貴方のことを他の人達へ伝えないことを条件として、四国に住まわせてもらっている。とてもつらかった……だから、自己満足と言われてもいいから、貴方に少しでも恩返しをしたかったの」

 

「別に、俺はついでで運んだだけに過ぎない……本当に感謝されるのは諏訪の勇者と巫女の方だ」

 

「……貴方、本当に二人のことが大好きなのね」

 

「そんなことは」

 

「でも、自分を犠牲にすればいいという訳じゃないわ……貴方のことを大事に思っている人達もいるのだから、そのことを忘れないで」

 

「……そんな奴はいない。俺は独りだ。弟を失った俺は……」

 

「そんなことないわ」

 

 おばあさんはそういうと俺に服を差し出す。

 

「手助けはできない……でも、私や貴方に助けられた人達は感謝している。貴方が無事に帰って来ることをいつも願っている……それは忘れないで」

 

 服を受け取ると強くその手を握り締められる。

 

 しわくちゃの手。

 

 けれど、不思議と俺にとってとっても温かいものに感じられる。

 

 自然と俺は黒い上着を受け取った。

 

「気を付けてね、今度はお茶でも飲みに来て」

 

「……ありがとう」

 

 小さく、俺は返すしかなかった。

 

 不思議と脳裏に彼らの姿が過ぎる。

 

「そうか、俺はあいつらが大事だから、こんなに怒っているんだよな」

 

 何を忘れていたのだろうか。

 

 本当に嫌になってしまう。

 

 ため息を吐きつつ、外へ出る。

 

「落とし前はつけてやる……偽物」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、四国の町に何の前触れもなく黒騎士が姿を現す。

 

 黒騎士はブルライアットを抜いて、町中の人達を襲い始める。

 

 突然の事態に誰もが悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

 一部の人間が抵抗を試みるも振るわれた刃に次々と倒れていく。

 

 逃げ惑う人たち。

 

 逃げていた風太郎は躓いて、地面に倒れる。

 

 黒騎士はブルライアットを振り上げた。

 

 その時、細長い刃が黒騎士の肩に刺さる。

 

「あ!」

 

 風太郎が喜び声を上げる。

 

 人の波を逆らう様に落合日向がやってくる。

 

 黒い上着を羽織り、腰にはブルライアットを下げて、彼の視線は人を襲っている黒騎士へ向けられていた。

 

 気づいたのか黒騎士は近くの人間を蹴り飛ばして、彼に視線を向けた。

 

「お前に色々と邪魔されて迷惑だ。ここで潰す」

 

 ブルライアットを抜いて空へ掲げる。

 

「騎士転生!」

 

 緑色の光と共に日向は黒騎士へその姿を変える。

 

 二人の黒騎士が同時に駆け出す。

 

 二つのブルライアットが派手に火花を散らしていく。

 

「黒騎士が二人?」

 

 その光景に誰もが困惑していた。

 

 中には大社の人間もいるようで驚いている。

 

「グッ」

 

 互角に見えた戦いだが、片方の黒騎士が脇腹を抑えた。

 

「(傷がまた!)」

 

 最初の襲撃で受けた傷がまだ癒えていない。

 

 痛みをこらえながらブルライアットをショットガンモードにして放つ。

 

 攻撃を受けた黒騎士はのけ反りながらも“黒の一撃”を繰り出す。

 

 日向は派手に吹き飛び、地面に倒れる。

 

「(くそっ、不意打ちを受けた時の傷が……)」

 

 痛みに顔を歪めながらもブルライアットを振るう。

 

 空ぶった隙をつくように偽黒騎士の刃が黒騎士の腹部を貫く。

 

「ぐぅ」

 

 とどめというように殴られて倒れた黒騎士、鎧が解除されて落合日向の姿へ戻ってしまう。

 

「黒騎士!」

 

 倒れた日向に風太郎が駆け寄る。

 

「逃げろ……邪魔だ」

 

「でも、血だらけで!」

 

「……いいから、逃げろ!」

 

 この子だけは守らないといけない。

 

 蔵人のような子を増やしてはいけないと考えながら遠ざけようとするも腹の傷が邪魔をする。

 

 逃がそうとしている間に偽黒騎士が目の前にやってきた。

 

 偽黒騎士がブルライアットを振り上げる。

 

 日向は咄嗟に風太郎を抱きしめた。

 

 その時。

 

「「うぉおお!」」

 

 偽黒騎士に健太と力の二人が飛びかかる。

 

 横から不意打ちのような衝撃を受けた偽黒騎士の刃が地面を抉った。

 

「無事か!日向!」

 

「ようやく見つけたぞ!」

 

「……力、健太」

 

 二人は日向の姿を見て、笑みを浮かべる。

 

「何をしに来た、すぐに」

 

「ここは任せてくれ!」

 

「何を言って……」

 

「いいからいいから、一回だけの奇跡って奴をみせてやるから!」

 

 日向に健太はそういうと力を見る。

 

「行くぜ」

 

「ああ」

 

 よくみると二人の腕にはブレスレットのようなものが巻かれていた。

 

「インストール!」

 

「レッドターボ!」

 

 それぞれが叫ぶと眩い光と共に二人は赤いスーツを纏っている。

 

 顔を仮面で隠し、赤い特殊素材でできたようなスーツ。

 

 ここではない別の世界。

 

 そこで地球を狙う強大な敵と戦うために高校生である彼らが手にした力。

 

 炎力が手にした力は「高速戦隊ターボレンジャー」のレッドターボ。

 

 伊達健太が手にした力は「電磁戦隊メガレンジャー」のメガレッド。

 

 本来なら存在しない筈の力。

 

 たった一度だけの奇跡が解き放たれる。

 

「すっげぇ、体に馴染むぜ」

 

「全身から力を感じる!」

 

 二人が感嘆の声を出しているところで偽黒騎士の拳が直撃した。

 

 吹き飛ぶ二人。

 

 だが、

 

「いってぇなぁ!この野郎!」

 

「くらえ!」

 

 メガレッドは“メガスナイパー”を、レッドターボは“ターボレーザー”を抜いて狙撃する。

 

 攻撃を受けた偽黒騎士はのけ反る。

 

「この野郎!いきなり攻撃とはやってくれるじゃねぇか!ドリルセイバー!」

 

 メガレッドはドリルを模した剣“ドリルセイバー”を抜いて走り出す。

 

 偽黒騎士はブルライアットで斬り返した。

 

「舐めるなよぉ!」

 

 叫びと共にドリルセイバーの一撃が偽黒騎士へ直撃した。

 

 続けて、高速移動してきたレッドターボの拳を受けて仰け反る。

 

「GTソード!」

 

 ターボレッドの専用武器、GTソードがメガレッドと入れ替わる形で刃が偽黒騎士を狙う。

 

 振るわれる攻撃に偽黒騎士は対応できず、圧され始める。

 

「力!」

 

「健太!」

 

 偽黒騎士の黒の衝撃が振るわれる瞬間、二人は互いの足を蹴って、その場を離れる。

 

 反対側にあった壁を走るようにしながら頷き――

 

「セイバースラッシュ!!」

 

「GTクラッシュ!」

 

 二人の必殺の一撃が偽黒騎士の両手を切り落とす。

 

 斬られた両手から泥のようなものが零れていく。

 

「コイツ、人間じゃないのか」

 

「うえぇえ、何か、気持ち悪いぃ」

 

 目の前の光景を見て、吐き気を催すメガレッド。

 

 両腕を切り落とされた偽黒騎士はふらふらと起き上がりだす。

 

 続けてもう一度、放たれた一撃によって偽黒騎士は原形を保つことができなくなり、その体が崩壊した。

 

「コイツ……泥だったのか?」

 

「やっぱ、気持ち悪い。駄目だ、これ」

 

「それよりも、お前達、それ」

 

 日向が二人に近づく。

 

「ああ、これなんだけど」

 

 光と共に二人の赤いスーツが消える。

 

 同時に腕に巻かれていたブレスレットも消失した。

 

「ああ、本当に一度だけみたいだな」

 

「くっそぉ、日向の手助けをしたかったのになぁ」

 

 二人は残念といいながら日向に駆け寄る。

 

「まあ、一度だけの奇跡だからさ……ごめん、こんなところで使っちまって」

 

「別に………………助かった」

 

 日向は最後に感謝の言葉を継げる。

 

 聞こえた二人は嬉しそうにほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国の空。

 

 そこに二つの光が向かっていく。

 

 光を掌の中に納めると彼、アカレッドは肩をすくめる。

 

「やはり、同じ存在であっても、別世界だと、完全に使いこなすことは出来ないか」

 

 彼の手の中には先ほどまで力と健太が変身していたレッドターボとメガレッドの“レンジャーキー”があった。

 

 伊達健太と炎力。

 

 スーパー戦隊といわれる存在の力をアカレッドは二人に貸し与えた。

 

 本来、別世界だが、彼らが使っていた力を与えることで一時的に、彼らは変身することが可能となった。

 

「しかし、この世界……天の神か……どこでも、世界を滅ぼす敵というのは存在しているようだ」

 

 アカレッドはそういいながら目の前の裂け目をみる。

 

「腑破十臓が開いた一時的な裂け目も閉じるか……できるなら、もう少し手助けをしたかったのだが、限界か……もう少し、彼らの手助けをしたかったが、後は彼らを信じることにしよう」

 

 ちらりと海の方を見て、アカレッドは裂け目の中に飛び込む。

 

 最後まで彼の視線は海に向けられていた。

 

 

 

 




今回、思い付きでやってみました。


簡単な登場人物紹介

偽黒騎士

前話で若葉を襲撃した張本人。
姿形は黒騎士と同じなれど、能力は大きく異なる。
その正体は何者かが作り上げた粘土人形。
二人のレッドの攻撃を受けたことで原形を保てず、粘土となり、崩壊する。



アカレッド
スーパー戦隊の記念で登場するある意味、番外戦士。
初登場はボウケンジャーから、その際には歴代レッドに変身する力があったはず、
その後、出番がなくて……海賊戦隊ゴウカイジャーにて、再登場。
その際はすべてのレンジャーキーを集めるために赤の海賊団を結成、マーベラスとバスコの三人で行動するも、バスコの裏切りにあい、マーベラスを活かすために生死不明の事態に。
最終回で姿を見せたことから生存はしていると思われる。
今回は偶然、この世界に出現しただけであり、別世界でスーパー戦隊である力と健太が使っていた力を一回だけの奇跡と称して、貸し与えた当人。
次回から登場するかは不明。
ちなみにこの騒動が原因でゆゆゆい世界はとんでもないことになるという。


次回、黒騎士とヤミマル、十臓の間に決着がつく……予定。
予告します。勇者の一人が、病むかも。


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登場! 力の戦士

今回、勇者が病むといったな、本格的にやむのは次回だぜ。

タグを追加しました。

感想がもっと欲しいと思うのは罪だろうか。

のわゆの話が終わるまで、あと、三話から四話ほどです。



 黒騎士は偽物という情報が一部の人達から広まり、大社も少しして認めた。

 

 その情報が広まった理由はひなたが裏で手を回したのだが、誰もその事実を知らない。

 

 負傷していた球子や杏達も無事に戻ってきた。

 

 しかし、彼女達の傍に黒騎士、落合日向の姿はない。

 

 誤解がとけたというのに、彼は勇者の前に姿を見せなかった。

 

 されど、バーテックスは姿を見せる。

 

 若葉が万全ではないため、友奈、千景、球子、杏の四人で連携しながらバーテックスと戦っていたのだが。

 

「なに、あれ?」

 

 杏が戸惑った声を漏らす。

 

 蝶を模したバーテックスは紫色の鱗粉をまき散らしながら勇者に攻撃を仕掛ける。

 

 問題はそのバーテックスが千景を注視していたということだろう。

 

 無事にバーテックスを撃退することは成功した。

 

 だが、降りかかった鱗粉が勇者に悪影響を与えないかということで精密検査を彼女達は受けることになった。

 

 長い検査だが異常なしということで勇者たちは解放される。

 

「しっかし、何だったんだ?あの蝶みたいなバーテックス」

 

「何か作戦とかだったら、まずいよね……向こうは天の神だけじゃなくて」

 

「腑破十臓がいる……んだ」

 

 友奈は拳を作った。

 

 あの強さを目の当たりにしたことで彼女は強敵だとわかっている。

 

 ちらりと友奈は隣の千景をみた。

 

 千景は外の景色を見ていて、上の空だ。

 

「ぐんちゃん?」

 

「……」

 

 友奈が呼びかけるも千景は答えない。

 

 ぼーっと外を見ている。

 

「おい、千景?」

 

「千景さん?」

 

 ひらひらと球子や杏が呼んでも反応する様子を見せない。

 

「千景!」

 

 流石に様子がおかしいと思って球子が大きな声で叫んだ。

 

 しばらくして、ハッとした表情で周りを見る。

 

「あ、ごめんなさい……なに?」

 

「大丈夫か?タマ達がずっと呼んでいたのに、無反応だったぞ?」

 

「ごめんなさい、少し考え事をしていたの」

 

「悩み事か?悩みならタマ達に相談しタマえ」

 

「いいえ、大丈夫だから」

 

 千景は首を振って立ち上がる。

 

 そういって千景は部屋を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、面白いことになっているなぁ」

 

 勇者たちの同行を伺っていた流星光は口笛を吹く。

 

 彼の視線は治療を受けた勇者の中の一人、郡千景をみていた。

 

 千景の体から漂うオーラ。

 

 常人にはみえることのできないオーラを流星光は捉えていた。そして、もう一人もそれに気づいていた。

 

「お前はどうする?“また”見捨てるのか、助けるのか…………どちらにしろ、お前を殺すのは俺だ」

 

 流星光は決意する。

 

 黒騎士とヤミマルの決戦の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風太郎、帰れ」

 

 その頃、落合日向は風太郎という少年に絡まれていた。

 

「えぇ!嫌だよ!俺、もっと日向と話をしていたい」

 

「なぜ?」

 

「だって、カッコいいし!」

 

「カッコイイ……それだけか?」

 

「うん!それ以外、理由ってないと思う!」

 

「わからないな」

 

 日向はため息を零す。

 

 子供の純粋な心。

 

 それは若き日向が黒騎士として、復讐者になったことから失われたもの。

 

 ただバーテックスを滅ぼすため、今までのすべてを捨て去ることで闘いの日々で生きるのみ。

 

 それ故に風太郎のような純粋な子供に接することで失われた何かを思い出そうとする。

ズキズキと心の奥底が痛みを訴えていた。

 

 日向の気持ちを知らず、風太郎は話しかけてくる。

 

 幸か不幸かわからないが風太郎の姿が弟の蔵人と重なってしまう。

 

 だから、邪険にすることも出来なかった。

 

「ねぇねぇ、黒騎士と勇者って一緒に戦うの?」

 

「いいや、一緒に戦いはしない」

 

「どうして?」

 

「俺と彼らでは敵を倒すということは同じだが、倒す目的が違うのさ」

 

「結果?」

 

「勇者は四国を守るためにバーテックスを倒す、俺は天の神に復讐するためにバーテックスを倒す……違うから一緒に戦えないのさ」

 

「じゃあ、黒騎士が一緒の目的を持ったら戦えるの?」

 

「……一緒の?」

 

「そう!だったら、勇者と一緒に戦えるよね?黒騎士が四国を守るって目的をもつようになったら」

 

「……」

 

 風太郎の言葉に日向は沈黙する。

 

 少し考えようとしてもノイズが走ったように思いつかない。

 

「ねぇ、どうかな?」

 

「さぁな、そろそろ夕方だ。帰れ」

 

「ちぇっ、また明日!」

 

 ひらひらと手を振る風太郎を見送り、黒騎士は無表情になる。

 

「誰だ?」

 

「警告するよ」

 

 日向の背後に白髪の少年がいた。

 

 ただ、いるだけなら日向は気にしないだろう。

 

 そう、少年が宙に浮いていない限り。

 

「本体は別の場所にあるな?」

 

「流石だね……神樹も警戒を強めているようだけど、まだまだだね。だから、天の神に負ける」

 

「お前は天の神の使いか?」

 

「どちらかというと協力者さ」

 

 いつでもブルライアットを抜けるようにしながら日向は問いかける。

 

「いっておくけれど、この姿は投影しているだけだから攻撃したところで無意味だから」

 

「……かといって、そちらが攻撃できないという保証はない」

 

「うん、惜しいね。本当に惜しい。そこまで頭が回るのに人間なんて、そうじゃなかったら天の神が勧誘していたよ」

 

「吐き気を催すな」

 

 苛立ちを隠さずに日向は尋ねた。

 

「警告と言ったな。何に対しての警告だ?」

 

「この世界の終わりまでだよ。天の神はいつまで経っても滅びない人間に業を煮やしたみたいだね。最強の闇を呼び寄せることにしたのさ。代償として自らの命を縮めているけれどね」

 

「最強の闇……だと?」

 

「いくらお兄ちゃんや星獣が強くても滅びることは変わらない。それまで怯えていることだね」

 

 挑発してきた少年に我慢の限界を迎えた日向はブルライアットをショットガンモードにして放つ。

 

 光弾は少年の額を通過した。

 

 どうやら言葉通り、実体がないようだ。

 

 姿が見えなくなったことでブルライアットを鞘へ納める。

 

「ゴウタウラス……どうやら最後の戦いが近づいているようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海岸、

 

 そこで落合日向は人を待っていた。

 

「驚いたねぇ、まさか、お前から呼び出しを受けるとは……」

 

 砂浜を歩きながら姿を見せるのは学ラン姿の流星光。

 

「色々と俺もやることがある。これ以上、お前に付きまとわれても迷惑だ……だから」

 

「素敵だねぇ、ここがお前の墓場になるわけだ」

 

 にやりと笑い、流星光は流れ暴魔ヤミマルの姿になる。

 

 日向も黒騎士の姿へ変わる。

 

 流星剣とブルライアットを構えて、二人は砂浜の上でぶつかりあう。

 

 一旦、距離をとれば、ブルライアットのショットガンモードと流星銃が火を噴いて、二人を撃ち抜く。

 

「くそっ、腐ってもバーテックスを殺し続けた男か、中々に手を焼かされるぜ」

 

「流石は二万年も生きている男だ」

 

 二人は互いを賞賛しながらも確実に殺すための手を考える。

 

 ブルライアットで斬りかかれば流星剣で弾かれ、

 

 流星銃を使えば、ブルライアットのショットガンモードで撃ち返される。

 

「ならば、流星剣の奥の手をみせてやる!」

 

 黒騎士の目の前でヤミマルが複数に分身する。

 

 分身が剣を構えて襲い掛かって来る。

 

 その斬撃を黒騎士はその体に受けながらブルライアットを繰り出す。

 

「黒の一撃!!」

 

 黒騎士が放った必殺の一撃が本体のヤミマルを貫く。

 

「ぐっ!」

 

 ヤミマルの一撃、

 

 黒騎士の一撃、

 

 互いの攻撃を受けた二人は同時に吐血する。

 

 衝撃で後ろに吹き飛び、ヤミマルは砂の中へ、黒騎士は水の中へ倒れこんだ。

 

 今の一撃によって二人は人間の姿へ戻る。

 

「まだだ、俺は、お前を許さない」

 

「流星ィ」

 

 二人はずるずると体を引きずりながら近づいていく。

 

 同時に拳を振るう。

 

 流星の拳が日向の頬を殴る。

 

 殴られた日向も反撃して、流星の腹を殴った。

 

 二人は砂の上で取っ組み合いながら転がる。

 

 やがて、二人は海水の中に飛び込む。

 

 日向の拳によって流星の学帽が飛ぶ。

 

 やがて、二人が争っているという情報が大社から、そして、勇者に伝わる。

 

 彼女達が海岸へ駆けつけるとずぶぬれになりながらも殴り続けている二人の姿がそこにあった。

 

「アイツら!」

 

「待つんだ」

 

 止めに入ろうとした球子を若葉が止める。

 

「若葉ちゃん!?」

 

「おい!なんで止めるんだよ!あのままじゃ」

 

「だが、止めたとして二人はすぐに始めるだろう。それに、あの二人のことを止めることは私達にはできない」

 

「ど、どうして!?」

 

「あの二人の溝は諏訪の出来事が原因だ。何も知らない私達が止めに入る権利がない」

 

 若葉の言葉に千景は拳を作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ、男の顔は履歴書、ここまでボロボロにしたのはてめぇが初めてだぜ」

 

「いちいちキザなセリフを挟まないといけない病気か?お前は」

 

 日向の言葉に流星が殴りかかろうとした時。

 

 ~♪

 

 どこからか笛の音のようなものが流れ出す。

 

 突然、聞こえてきた音色に彼らは動きを止める。

 

 それは勇者たちも同じだった。

 

「なんだ、この音!?」

 

「笛の音のようだが、どこから?」

 

「でも、何か……」

 

「すごく温かい……」

 

 バシャァァァァン!と海面から巨大な怪獣が姿を見せる。

 

「あれは!」

 

「ドラゴンシーザー!」

 

 現れたのはドラゴンの姿をした黒と緑のロボットのようなもの。

 

「バカな!なぜ、ドラゴンシーザーが!」

 

「……」

 

 驚いている流星と日向の二人。

 

 ドラゴンシーザーは二人を見下ろして雄叫びを上げる。

 

 咆哮したドラゴンシーザーの上から降り立つ影。

 

 その影は二人の前に降り立つと同時に。

 

「鉄拳制裁!!」

 

 迷うことなく二人の頭にゲンコツを叩き込んだ。

 

「「「えぇえええええええええええええ!?」」」

 

 突然の事態に球子、友奈、杏が驚きのあまり叫ぶ。

 

 殴られた二人は大きな水柱を立てながら海面に沈む。

 

「全く!せっかく、華麗に登場しようと考えていたのに!なに二人で喧嘩をしているわけ!?折角の私の苦労が水の泡なんですけど!なんですけど!」

 

「ば、バカな!その声は歌野!?なぜ、生きている!」

 

「シャラップ!失礼な言い方ね!私が死んだような言い方じゃない!」

 

 流星光の言葉に反論したのは歌野という少女。

 

 ジーンズに「にだいめ!」と描かれている独特なデザインのシャツを着ていた。

 

 彼女を知る者なら、白鳥歌野であることに気付くだろう。

 

 諏訪の勇者としてバーテックスと戦ってきた少女。

 

「いや、その恰好……間違いない。お前は白鳥歌野……だが、どうして」

 

「歌野ちゃん~」

 

 頭上からもう一人、大人しそうな少女がドラゴンシーザーの手にのっていた。

 

 ドラゴンシーザーが少女を歌野の傍に下ろす。

 

「危ないよ、いきなり飛び降りるなんて」

 

「ソーリー!人の華麗な登場を台無しにしてくれた男二人に制裁したくて……あぁ、時を戻せるならもう一度、やり直したいわ。そうよね!ドラゴンシーザー!」

 

 歌野の言葉にドラゴンシーザーは困ったように体を傾ける。

 

「どういうことだ!歌野だけじゃない、水都も生きているだと!?お前達は諏訪で死んだんじゃないのか!?どうして、どうして、生きているんだ!?」

 

「それは私達も知りたいな」

 

 ひと段落ついたとみたのか、若葉達がやってくる。

 

「こうして、顔を合わせるのははじめてだな。私は乃木若葉だ」

 

「オウ!貴方が四国の勇者ね!こうして、顔を合わせるのははじめまして、私は白石歌野……諏訪の元勇者で、今は二代目、力の戦士よ。よろしくね!」

 

 笑顔を浮かべる歌野に続いて、水都も挨拶をした。

 

「私達が生きている……まぁ、それはとんでもない奇跡とか、色々なものがあったのよね。落ち着いて話したいから、どこか話ができる場所はないかしら?」

 

「ああ、案内をしよう」

 

「ほら、貴方達もついてくる!」

 

「お、おい、俺達は自分で歩ける!落合日向!お前も何かを……コイツ、気絶してやがる!」

 

 先ほどから無言の日向の方を見ると歌野のゲンコツの当たり所が悪かったようで意識を失っていた。

 

 歌野は二人をひきずりながら歩きだす。

 

 水都は苦笑しながら後に続く。

 

「日向は……渡さない、私の、もの」

 

 そんな彼女達の様子を見ていた千景がぽつりと呟いた。

 

 千景の瞳はどす黒い何かが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、丸亀城。

 

 ドラゴンシーザーは中に入れないため、ゴウタウラスが休んでいる森で待機している。

 

 教室内には若葉、球子、杏、千景、友奈、そして、巫女のひなた。

 

 壁際に流星光と落合日向。

 

 若葉達と向かい合う形で歌野と水都の二人が座る。

 

「さて、私達のことだったわね」

 

「ああ。我々は諏訪まで訪れた。だが、あそこに生存している者は誰もいなかった。黒……落合日向の言葉からキミ達は死んだと聞かされていた」

 

「「落合日向?」」

 

 若葉の言葉に二人は首を傾げる。

 

「ああ、お二人はもしかして、黒騎士さんの中身を知らないんですね?あそこにおられる方が黒騎士さんの正体である落合日向さんです」

 

 ひなたがすぐに察してフォローを入れる。

 

 人の姿をとるようになったのは四国からだと聞いていたことをひなたは思い出したのだ。

 

「ワッツ!?」

 

「……ウソ、カッコイイ」

 

 驚いている歌野、水都はぽつりとつぶやいて頬を赤くしていた。

 

 水都の態度に千景はギリリと拳を握り締める。

 

「って、私達が死んだ!?酷いわね!ちゃんと足があるでしょ!」

 

 歌野が叫ぶも日向は目線を合わせず、言葉を発しない。

 

「オーウ。その態度、間違いなく、アンタは黒騎士ね……殴りたいわぁ」

 

「話を戻して構わないか?」

 

「ソーリー……どこから話そうかしら、そうね。四国の勇者たちは諏訪を守っていた人たちのことについて、どれだけ知っているかしら?」

 

「いや、白鳥さんと黒騎士しか、知らないな」

 

「まずは、そこからね」

 

「勇者として戦っていたのは歌野ちゃんです。でも、他にも戦ってくれている人はいました。一人はそこにいる黒騎士さんと流星さん」

 

「あともう一人、自分の命を削りながら戦ってくれた人がいたわ」

 

 歌野は思い出すように彼の名前を告げた。

 

「“ドラゴンレンジャー ブライ”私達を守るためにその命を散らした人」

 





ドラゴンシーザー

 恐竜戦隊ジュウレンジャーに登場した六番目の守護獣。
 見た目はドラゴン、単体でもドーラモンスターとやりあえる力を持つ。
 この世界においても存在していらしく、バーテックスなどを自慢の尾で貫きまくった。


次回、なぜ、諏訪の二人が生きているのかわかります。
今回の話で大体の想像がついている人がいるかもしれませんけれど。

次回も楽しみにしていてください。



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心の支え

今回、ヤンデレ?だよ!

そして、諏訪の話が歌野の口から話されます。


 ドラゴンレンジャー ブライ。

 

 彼は太古に存在していたヤマト族プリンスを名乗り、地底深くにおいて眠りについていた人物。

 

 しかし、天の神が起こした騒動により、彼の眠っていた場所が倒壊、その命を散らしてしまう。

 

 天の神と戦うために諏訪の土地神や他の神が死を司る神に協力を依頼することで、ブライは限られた時間だけ現世に生きることができた。

 

 当初は激しい怒りをもって、人間に協力することを拒みバーテックスを倒すためだけに戦っていた。

 

 しかし、歌野の説得と彼女の行動から怒りを収め、歌野や諏訪の人達を守るためにドラゴンレンジャーとして、バーテックスと戦う。

 

「でも、彼の命は限りがあった。それは天の神の猛攻で諏訪の土地神の力が弱まっていくほどに早まっていった……」

 

「私達は話し合い、神樹様からのお告げで、生き残りの人達を四国へ連れていくことにしました」

 

「その誘導を本来なら、ミーたちがするつもりだったんだけど、ブライさんを延命できるかもしれない方法があって、それを見つけるために黒騎士に誘導をお願いしたの」

 

「……では、コイツはお前達を見殺しにしたのではないのか!?」

 

「ワッツ!?誰もそんなことをいっていないわよ!」

 

 流星は信じられないという表情で日向をみる。

 

 しかし、日向は目を閉じて、腕を組み、会話に参加しない。

 

「でも、その延命する手段は使えなかったんです」

 

 水都の話によると延命のための場所はバーテックスの侵攻によって破壊されていて、何もなかった。

 

「そこで、ブライさんは歌野ちゃんに自身の力を継承させることにしたんです」

 

「まぁ、目的地にたどり着くまでに満身創痍になっていたことと、勇者の力を失っていたから条件に合致していたというのもあったのかもしれないけれどね」

 

 歌野は懐から力の象徴を表す金色のコインをみせる。

 

本来ならダイノバックラーと呼ばれるアイテムの中心にはめ込まれているコインなのだが、どうわけか、ダイノバックラーがない。

 

「力を継承はしているけれど、ブライさんみたいにドラゴンレンジャーになることはできないのよねぇ。でも、戦えることはできるから!これから四国のために頑張るわよ!」

 

「それは心強い。よろしく頼む」

 

 歌野と若葉は握手を交わす。

 

 その光景に水都やひなたたちは笑顔を浮かべる。

 

「さて、話はここまでにして、流星!日向!二人はなんで喧嘩をしていたのかしら!?」

 

 全員の視線が流星と日向に向けられる。

 

 歌野に至ってはウソを言えば、ゲンコツと目が語っていた。

 

「喧嘩?違うな、俺はこいつを殺そうとしていた!」

 

「……」

 

「ど、どうして、ですか?」

 

 流星の言葉に怪訝な声を水都はあげる。

 

「落合日向が…………黒騎士がお前達を見捨てたからだ!」

 

「さっきも話したけれど!私達の意思で諏訪に残ることを決めたの……だから、貴方がそこまで気にする必要はナッシングよ!」

 

「だが!」

 

「……別に俺を恨みたいなら、恨み続ければいい」

 

 目を閉じていた日向が口を開く。

 

「な、何を」

 

 彼の言葉に勇者たちが目を見開く。

 

「どういうつもりだ?」

 

「俺がそこの二人を助けずに見捨てたのは事実だ。その事で俺を恨むなら恨み続ければいい。俺はそうしている」

 

 少し間をおいて、日向は告げる。

 

「バーテックスを滅ぼす、俺はそのためにここにいる……話は済んだな?失礼する」

 

「ウェイト!」

 

 出ていこうとした日向を歌野が掴む。

 

「なんだ?」

 

 首を掴まれたことで不機嫌な表情で日向は歌野をみる。

 

「シャラップ!約束を果たしてもらうから!あ、乃木さん、食堂ってどこ?」

 

「え、あぁ、あっちだ」

 

「オーケー、レッツゴー!水都も行くよ!」

 

「え、あ、歌野ちゃん!?」

 

 二人の手を引いて走り出す歌野。

 

 突然の事態に誰もが困惑していた。

 

 あの流星光ですら、言葉を失ってしまうほど。

 

「………………チッ」

 

 ただ一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何をやっているんだ!」

 

 追いついた若葉は目の前の光景に叫んだ。

 

「ワッツ?」

 

「落合日向!貴様、どういうつもりだ!」

 

「……」

 

「なぜ、なぜ!」

 

 沈黙して答えない日向、目の前の事実を否定したいのか、慟哭しながら若葉は叫ぶ。

 

「なぜ、貴様は蕎麦を食べている!?」

 

 机の上に置かれている三つのどんぶり。

 

 そこには若葉の好きなうどん……ではなく、蕎麦が入っていた。

 

「うーん!ヤミィ~」

 

「乃木若葉、うるさいぞ」

 

「なぬ!?」

 

「俺が何を食べようと俺の自由だ」

 

「裏切るつもりか!?私がいかにうどんのすばらしさを教えたというのに!」

 

「フフフ!乃木さん、諦めなさい。彼は私達、蕎麦のシンパなのよ!」

 

「認めぬ!認められないぞ!貴様はうどん派閥なのだ!絶対に、抜け出すことなど許さぬ!」

 

「なぁ、杏」

 

「なに?タマっち先輩」

 

「なんだ、これ?」

 

「多分、考えたら負けだよ?」

 

「おぉ~、若葉ちゃんと歌野ちゃんが火花を散らしている」

 

「まぁ、その原因は日向さんのようですけれど」

 

 目の前で繰り広げられる蕎麦派VSうどん派の対決。

 

 苦笑している水都の横で蕎麦を食べ終えた日向は音を立てずにその場を去った。

 

 若葉と歌野が日向のいないことに気付いたのはそれから三十分後のことだったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに静かな時間だ」

 

 ゴウタウラスが休んでいるところへ足を運ぶとそこではドラゴンシーザーと楽しそうにじゃれている姿があった。

 

 流石に邪魔する気分になれず、ぶらぶらと四国の海岸を歩く。

 

 思えば、こうして、独りっきりになるのはいつ以来だろうか。

 

 四国に来てから勇者や風太郎、力、健太といった面々といることが多くなっている。

 

「……復讐者の道を選べば、独りになるはず、それなのに……俺の周りにはいつも誰かがいる。これが、良いことなのか……どうか」

 

 復讐者としてバーテックスと戦う。

 

 蔵人が死に、ブルブラックとの契約を選び、バーテックスと戦い続け、より多くのバーテックスと戦えるということと勇者と巫女の二人に頼まれたことで仕方なく四国までやってきた。

 

 孤独の道を進むことになると思っていたというのに、俺はどうして、こんなにも人に囲まれているのだろうか?

 

「俺は」

 

「発見!こんなところにいたのね!」

 

 聞こえた声に振り返ると白鳥歌野と水都の二人がいた。

 

「何の用だ?」

 

「失礼な態度ね!一緒に戦ってきた仲間じゃない!」

 

「……何度も言うが、俺は勇者の仲間になった覚えはない」

 

「どこまでもクールな態度ね!だから、貴方にはっきりと伝えておきたいことがあるのよ!」

 

「伝えたいこと?」

 

 歌野と水都の二人は互いを見る。

 

 何だろうか?

 

「「私達は貴方のことが大好きです」」

 

「……は?」

 

 突然の事態に俺は困惑するしかない。

 

 好き?

 

 好きというのは、どういう意味なのだろうか。

 

「フフフ、驚いているようね。サプラーイズは大成功のようだわ」

 

「歌野ちゃん、それだと誤解されちゃうよ」

 

「おっと、それはいけないわね!勘違いされないように伝えるわ。ミーとみーちゃんの好きはラブという意味だからね」

 

「なに」

 

「私とうたのんは黒騎士さん、いえ、ひ、日向さんと恋仲になりたくて、告白したんです」

 

 恋仲?

 

 

 俺の頭は混乱してしまう。

 

 いや、わかってはいるんだ。単に理解が追いついていない。

 

「俺は……その告白を受け取ることは出来ない」

 

「理由を聞いても、いいかしら?」

 

「……俺は復讐者だ。天の神を滅ぼすために戦う。そんな俺に告白してもそっちが不幸になるだけだ」

 

 今の俺が誰かと一緒に幸せになるなど、できない。

 

 誰かと一緒になっても他人を不幸にするだけだ。

 

「話はそれだけか?なら、俺は――」

 

「シャラァアアアアアアップ!」

 

 叫びと共に歌野に殴られた。

 

 もう一度、言おう。

 

 殴られたのだ。

 

 わけがわからん。

 

「何をするんだ」

 

「シャラップ!出会った時からアンタ、少しは変わったと思ったのに、全然!変わっていないみたいね!決めたわ!普通に振られたら諦めようと思った。宣戦布告よ!」

 

「はぁ?」

 

「ミーは全力でアンタにアタックする!アンタのその性根を叩きなおしてみせる!そして、今度はアンタから私やみーちゃんに告白するようにしてみせるから覚悟しなさい!」

 

「……おい、藤森水都、コイツを止めろ」

 

「ごめんなさい、黒騎士さん、ううん……落合日向さん。私も本気だから」

 

 コイツもダメか。

 

 俺はため息を零して立ち上がる。

 

「勝手にしろ」

 

「勿論、勝手にするわ!覚悟しなさい!」

 

 ビシッと指を突き付ける歌野に俺はため息を零す。

 

 どうして、俺の周りにはこうも強い奴らがいるのだろうか。

 

 ため息を零しながら俺が立ち上がろうとすると左右から手が伸びて立たされる。

 

「さ!これから親睦を深めあうわよ!」

 

「えへへ、これからよろしくお願いします」

 

 笑顔を浮かべて歩き出す二人。

 

 俺はため息をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奪われる……私の大事な日向が奪われる。

 

 駄目、そんなことがあってはならない。

 

 彼は私のものだ。私が彼を愛して、彼が私を愛する。

 

 小さい頃からずっと、彼のことを思っていた。彼だけを思ってきた。

 

 地獄の中で、彼だけが手を差し伸べてくれた。

 

 そんな彼が奪われる?

 

 

 ああ、ダメだ、ダメだ。

 

 

 許せない。

 

 許せるわけがない。

 

 奪われるというのなら、どこかに閉じ込めてでも、いいえ、いっそのこと、私と二人で深い海の底に沈もう。

 

 そうすれば、私達は、永遠にいられるのだから。

 

 邪魔する奴はすべて消し去る。

 

 そう、全て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 俺はゴウタウラスのところへ向かっていた。

 

 隣にはなぜか、白鳥歌野がいる。

 

「なんでついてくる?」

 

「オウ!ドラゴンシーザーに会いに行くの!それと、畑を耕す人手が必要なの」

 

「流星にでもやらせろ」

 

「捜しているんだけど、みつからないのよ!もう!誤解も解けたのに!」

 

「理解できても、心の整理ができていないんだろう。そっとしておいてやれ」

 

「おっどろき、貴方が他人の心配をするなんて」

 

「心配なんてしていない。それなら、お前が探しに行け」

 

「ノンノン!そういって逃げるつもりでしょ?駄目よ!貴重な人材を手放すつもりなんてナッシングなんだから」

 

「だからって、腕に抱き着くな。重い、自分で歩け」

 

「重いなんてレディーに失礼よ!」

 

「はいはい」

 

 コイツは喋らなければいいのに。

 

 ため息を零しながらゴウタウラス達のいる場所へ向かおうとしていた時。

 

――殺気!

 

 俺は歌野を突き飛ばす。

 

 少し遅れて襲撃者の振り下ろした斬撃が地面を抉る。

 

「っ!?」

 

「襲撃!?神樹の結界の中で!!」

 

「なっ」

 

 土煙の中、姿を見せた相手に俺は驚きの声を漏らす。

 

 襲撃者はちぃちゃんだった。

 

「ちぃちゃん?」

 

「貴方、四国の勇者ね!?いきなり何のつもり」

 

 歌野の問いかけにちぃちゃんは答えない。

 

 それどころか殺意の籠った目で睨んでいる。

 

 どういうことだ。

 

 茫然としていると、俺に向かってちぃちゃんがほほ笑む。

 

「探していたわ。日向、さぁ、一緒に行きましょう」

 

 笑顔で俺に手を差し伸べるちぃちゃん。

 

 だが、その目はいつもと違う。

 

 光がなく、濁っている。

 

 体中から漂うオーラも勇者が放つようなものではない。

 

「これは……」

 

「ちょっと!いきなり襲い掛かるなんて、一体、どういう――」

 

「よせ!“歌野“近づくな」

 

 ビクンとちぃちゃんが体を揺らすと同時に鎌を振るう。

 

「あぶなっ!?」

 

 振るわれた鎌を白鳥歌野は咄嗟に笛と短剣が一体化した武器、獣奏剣で防いだ。

 

 小さな火花を散らしながら歌野は後ろへ下がる。

 

「ちぃちゃん、一体、何を!」

 

「あぁ、私を見てくれた」

 

 ちぃちゃんに問いかけると俺に笑顔を浮かべる。

 

 だが、その笑顔は今までにみたことがない種類のものだ。

 

 小さな笑みを浮かべているがその瞳は俺を見ているようでみていない。

 

 ドロドロしている瞳と笑顔でこちらをみていた。

 

「ちぃ、ちゃん?」

 

「嬉しい、嬉しいわ、貴方が私を見てくれている。それだけで、今の私はとても満たされた気持ちになる」

 

「何を言っている。それに、どうして、こんなことを」

 

「貴方のため、いいえ、私と貴方のためよ」

 

「俺とちぃちゃんのため?それはどういう――」

 

「ヘイ!私のことを無視して何勝手に話をしているのよ!」

 

 俺とちぃちゃんの間に割り込む形で白鳥歌野が立ちはだかる。

 

 その途端、ちぃちゃんの顔から笑顔が消えて、激しい怒りの感情が浮き上がった。

 

「お前、お前、お前、お前……お前がいるから!日向が、日向が私から遠ざかる!遠ざけようとする!」

 

「ワッツ!?一体、何の」

 

「下がれ!」

 

 ブルライアットを抜く。

 

 衝撃で後ろに下がりそうになりながら目の前のちぃちゃんをみる。

 

「何を考えている!今、白鳥歌野を!」

 

「ええ、殺そうとした」

 

「なぜ、なぜ!」

 

「だって、日向に色目を使うんだもの」

 

「なっ、それだけの理由だっていうのか!?」

 

「それだけ?違うわ!決して許されないことをそこの女はやったの!私の大事な日向を奪おうとしている!あまつさえ、告白なんてして、許さない……殺す、殺してやる!!」

 

 叫びと共にちぃちゃんの体からどす黒い何かが噴き出す。

 

 何だ、これは?

 

 驚いていると黒い衝撃波によって俺と白鳥歌野は吹き飛ばされる。

 

「うふふふ、傷つけて、ごめんなさい。でも、少しの辛抱よ。貴方の周りに沸く邪魔者をすべて排除して、戻って来るから、それまで、待っていて、そのあとは私にどっぷりと染めてあげるから」

 

 ニコリと不気味な言葉を告げて、ちぃちゃんが去っていく。

 

 追いかけようとしたが白鳥歌野を庇ったダメージが大きくて、俺は意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中で声が聞こえる。

 

 邪魔者を蹴散らせ、

 

 そうすれば、日向は私だけを見てくれる。

 

 ならば、私はすべてを潰す。

 

 全てが終わったら、きっと、

 

 きっと、貴方は私だけをみてくれるのよね?日向。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ、くそっ」

 

「無様だな。落合日向」

 

 体を起こした俺の前に流星光が立っていた。

 

 流星を睨む。

 

「ほぉ、流石は黒騎士様だ。女心はわからなくとも、タフなようだ」

 

「お前、何か知っているのか?」

 

「知っているともいえるし、知らないともいえる」

 

「答えろ!」

 

 俺は流星の胸倉を掴む。

 

「熱血だな。そこまであのお嬢ちゃんが大事か?」

 

「……」

 

「そこで詰まるか、お前、本当に重症だよな」

 

「いいから、答えろ!」

 

「おそらくだが、あのお嬢ちゃんは邪気に取りつかれているのさ」

 

「邪気?」

 

「人のマイナスの感情、怨念ともいっていいだろうな。この前のバーテックスの戦いであのお嬢ちゃんに寄生していたんだろうな。今はまだ小さいが、怨念が大きくなればなるほど、厄介なことになるぜ」

 

「どういうことだ」

 

「今は死滅しているが、鬼、妖怪、古い言い方をすれば、オルグなんていう存在になる。まぁ、どちらにしろ、人じゃなくなるということは変わらないな」

 

「くそっ」

 

 俺はちぃちゃんを探すために走りだす。

 

「捜すつもりか?戻す方法もわからないのに?」

 

「今のちぃちゃんは他人を平気で傷つけてしまう。そんなこと、させちゃいけない」

 

「お優しいことで、その優しさを俺にまで向けたってことかい?」

 

 無視していこうとしたら流星に掴まれる。

 

「先を急いでいる。放せ」

 

 無理やり放そうとしたら流星に殴られる。

 

「貴様ぁ」

 

「自惚れるなよ。この流れ暴魔ヤミマル。お前みたいな男に慰めてもらうほどおちぶれちゃいねぇよ。それと……お前を倒すのはこの俺だ。変なところでうじうじ悩んでいられても困るのだ」

 

「何だと」

 

「お前があのお嬢ちゃん達をどう思っているか、その気持ちをぶつけてやれ、そうすれば、あのお嬢ちゃんの邪気は消える。元の状態に戻せるだろう」

 

「……なぜ、俺にそのことを教える?」

 

「別に、男の気まぐれというものさ。早くいかないと……お嬢ちゃんが人じゃなくなるぜ?」

 

「…………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうねぇ、よせやい、お前に感謝されると蕁麻疹が出るぜ」

 

「なーに、キザな態度をとっているのよ」

 

 日向がいなくなり、肩をすくめた流星光に気絶していたフリをしていた白鳥歌野が呆れた声を出す。

 

「よくいうぜ、あのお嬢ちゃんに花を持たせるのか?」

 

「冗談!そんなことするわけないじゃない。私やみーちゃんは幸せになりたい。だけど、そこに四国の人達をいれてあげるかどうかはあの人次第、そこまで私の器は大きくないもん」

 

「やれやれ、アイツもとんだ相手に惚れられたもんだ」

 

「ふふん!」

 

 嬉しそうに胸を張る歌野。

 

 その姿に流星は小さく笑う。

 

「流れ流れて二万年、こんな面白い奴らは初めてだ。本当に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景はふらふらと戦装束姿で鎌を振るう。

 

 彼女の目は激しい憎悪に支配されていた。

 

 最初は丸亀城を目指していた千景。

 

 だが、道中でみつけた。

 

 見つけてしまったのだ。

 

 かつて、自分達をいじめていた女子たちを――。

 

 自分を醜い、呪われた子だと、背中に火傷の傷や、耳に切り傷などを作った原因。

 

 その存在を見た時、千景の中のどす黒い炎が一気に燃え上がった。

 

 普段は日向や友奈たちとの思い出で蓋をされていた。しかし“邪気”がその蓋を取っ払ったことで、長年、抑えつけていた感情が炎となって一気に爆発する。

 

 “怒り”“憎しみ”といった感情。

 

 鎌を振るう千景に女子たちは悲鳴を上げて、逃げる。

 

 中には命乞いをしてくる者達もいる。

 

 ざまぁみろ。

 

 そう、心の中で吐きながら千景は鎌を振り上げる。

 

 今までの恨みを晴らすように。

 

 自然と笑みがこぼれる。

 

 だが、その笑みは三日月のように裂けていて、歪すぎた。

 

「やめるんだ!」

 

 そんな千景を止めるために炎力が抑え込もうとした。

 

「邪魔を、するなぁ!」

 

 力を千景は殴り飛ばす。

 

 殴られた力はコンクリートの地面に体を打ち付ける。

 

 偶々、千景をみつけて、女子たちに鎌を振るっている姿を見つけた力は止めようとしたが相手は勇者、普通の人間である力では歯が立たない。

 

 普通なら自分に被害が及ばないように逃げるべきだろう。

 

「だとしても、こんなこと、させるわけにいかないだろ!」

 

 叫びながら力は置かれていた角材を手に取って千景に振るう。

 

 振り返ることなく千景は鎌で角材を切り落とす。

 

「邪魔、するなら、殺す!」

 

 瞳が赤くなっている千景の鎌が力に迫る。

 

 斬られるという瞬間、ブルライアットを構えた日向が千景の鎌を受け止めた。

 

「日向!」

 

「……力、下がっていろ」

 

「でも!千景ちゃんが」

 

「ちぃちゃんは……俺が止める!だから…………他の人達を逃がしてくれ」

 

「任せてくれ!」

 

 頷いた力に任せて、日向は千景の前に立つ。

 

 千景は目の前にいる相手が日向だと気付いていないのか憎悪に顔を歪めている。

 

「ちぃちゃん」

 

 名前を告げるも、鎌が振るわれる。

 

 ブルライアットで弾いて呼びかけるも彼女は反応しない。

 

 黒騎士に変身はしない。

 

 黒騎士の力は天の神やバーテックス達と戦うための力。

 

 決して、目の前の少女と戦うためのものではない。

 

「鎌を下すんだ。そんなことをしちゃだめだ」

 

「こいつら、殺す、生きている価値がない……ただ、弱い奴を虐めて、喜んでいるような奴ら、こっちの気持ちも知らない。そんな奴ら!みんな、みんな、みんな!」

 

 ただ、ただ、激しい憎悪に支配されている。

 

 だが、まだ間に合う。

 

 千景は必死に最後の一線を超えないようにとどまっている。

 

 日向にはそうみえた。

 

「ちぃちゃん、俺は」

 

 振るわれる鎌を受け止める。

 

 このままでは神樹によって勇者の資格をはく奪され、千景の勇者装束が解除されるのも時間の問題だ。

 

 どうすればいいか、振るわれる鎌を受け止めながら日向は考え続ける。

 

 そして、答えを出す。

 

 日向が持っていたブルライアットを地面に突き立てる。

 

 両手を広げて千景の方に歩み寄る。

 

「日向!?何を」

 

 力が叫ぶ。

 

「ちぃちゃん、俺はずっと逃げていた」

 

 しかし、日向は何も言わず手を広げて歩み寄る。

 

 鎌が日向の肩に突き刺さる。

 

 刺さった刃を手で抑え込むようにしながら日向はそのまま千景を抱きしめる。

 

 腕の中で暴れる千景に日向は己の気持ちを吐き出す。

 

「俺は、ずっと、わかってはいたんだ。ちぃちゃんが俺のことを好きなこと、俺との日々をとても大事に思っていたこと、けれど、俺は怖くて、それを言えなかった。認めれば、俺が認めてしまえばそれは本当に大事なものになってしまって、また、奪われてしまうのではないかって」

 

 大事なもの、かつての落合日向にとっては弟の蔵人。

 

 だが、蔵人はバーテックスによって死んだ。それも、日向の目の前で。

 

 黒騎士になってからも心の底で日向は恐れていた。

 

 自分が大事なものを作ればそれは壊れてしまうのではないだろうかと。

 

 もしかしたら、自分が何か大事なものを作れば、それは目の前で壊れてしまうかもしれない。

 

 だから、日向は今まで拒絶してきた。

 

 自分に大事なものなど必要ない。

 

 心の底から大事なもの、愛しいものなど、絶対に作らない。作ってはいけないと。

 

 だから、歌野や水都の告白も断った。

 

 何より、千景や友奈の気持ちも漠然と気づいてはいた。だが、摩耗した心や受け入れることができない。本能的に恐れて受け付けない。

 

 

 だが――。

 

 

「ちぃちゃんをここまで追い詰めて、苦しめていたのは俺だ。すべて、俺が悪いんだ。ちぃちゃん、ごめんなさい。それと――」

 

 

――こんな俺を好きになってくれて、ありがとう。

 

 

 そういって日向は千景を強く抱きしめる。

 

 抱きしめられていた千景の瞳が元に戻る。そればかりか、彼女の中にとどまっていた黒いモヤのようなものが消滅していく。

 

「私……は」

 

 ハッと千景は日向に鎌を突き立てていることに気付いた。

 

 鎌を放り投げてそのまま離れようとする。

 

 しかし、日向は離さない。

 

「放して!私は、最低な、ことを」

 

「最低じゃない。これはちぃちゃんが抱いていた怒りだ。それを受け止める責任が俺にはある」

 

「何を言って、こんな、こんな醜い気持ちを私は」

 

「……人は誰だって、醜い気持ちを持っている。俺だって、誰だって……今回、ちぃちゃんのそれは悪意で噴き出してしまっただけだ……ちぃちゃんが自分の意思でやったわけじゃないんだ。だから、気にしないで」

 

「無理よ、私、私は貴方を傷つけた!一番、大事な、大好きなあなたを、こんなことをした私を……自分が許せるわけがない!」

 

「じゃあ、俺からのお願い」

 

 強く千景を抱きしめたまま、日向は言う。

 

「まずは、自分のことを好きになってくれ」

 

「自分を?」

 

「ああ、ちぃちゃんは自分が嫌いなんだろ……まずは、そこから、そうすれば、いつか、いつかは、俺にしたことも許せるようになる」

 

「できるかしら……」

 

「できるさ。ちぃちゃんは独りじゃない。高嶋友奈や勇者の仲間、それに力や健太、俺も、いる」

 

「日向も?」

 

「ああ、いる」

 

「……それなら、頑張れる……と思う」

 

「……うん」

 

 放そうとしたら千景がさらに抱き着いてくる。

 

「しばらく、こうさせて……くれないかしら?」

 

 顔を赤らめながら見上げてくる千景に日向は笑みを浮かべる。

 

「いいよ」

 

 嬉しそうに――今の気持ちを忘れないように千景は日向と抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談ながら、騒動に気付いてやってきたひなたがその光景を写真に収めために丸亀城で騒ぎが起こったことは別の話である。

 

 




次回は番外編、ガチでヤバイ赤嶺友奈がみれるはず。



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番外編:ゾクンゾクン!赤嶺友奈の執着

評価をみたら、えらいことになっていたこととあまりの嬉しさに番外編を投稿します。

今回は前回と別の戦隊が登場します。

一応、最後の方に補足説明していますので。



あと、ゆゆゆのネタバレも混じっているので要注意を。


 

 神樹内で起こっている造反神との戦い。

 

 自らの内部に歴代の勇者を呼び寄せた神樹に対して、造反神は一度だけ接続された異世界の脅威を召喚して、勇者と対抗する。

 

 また、神樹も別世界から世界を救った者達を呼び寄せる、そう“スーパー戦隊”と呼ばれる者達を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香川奪還から少しの時間が流れて。

 

 勇者たちは休息を挟みながらも次の土地の奪還を目指していた。

 

 しかし“謎”も増えていた。

 

 讃州中学の校舎のグラウンド。

 

 そこで大きな声が響く。

 

「こら、ユーナズ!ぼーっとしてどーした!」

 

 結城友奈は漢堂ジャンに指摘されて顔を上げる。

 

 だが、それは隣にいた高嶋友奈も同じだったようだ。

 

「二人ともグラグラだな!」

 

「「ご、ごめんなさい!」」

 

「そこは息ぴったりなのよね」

 

 ジャンに指揮されて謝る友奈ズの姿を見て、休憩をしていた夏凜は驚きの声を上げる。

 

 ゲキレンジャーの一人、漢堂ジャンは独特な言語を使う。

 

 “ニキニキ”や“ホワホワ”といった言葉に最初は戸惑っていた勇者たちだが、今は慣れていた。その中で一番、ジャンの弟子として指導を受けているのが高嶋友奈と結城友奈――通称、友奈ズである。

 

「じゃあ、続けるぞ!」

 

 彼女達がいる四国は神樹が作り上げた世界だが、肉体があるため鍛えれば鍛えるほど強くなれる。

 

 そのため、神世紀と西暦の勇者たちは一度、勇者部のある学校へ戻って、二つのスーパー戦隊から修行を受けていた。

 

 一つは獣の力を心に感じ、獣の力を手にする拳法、獣拳。

 

 一つは極限まで体を鍛えることで強くなるオーラパワー。

 

 戦隊を師匠として修行に励んでいた。

 

「それにしても……」

 

 夏凜は視線を動かす。

 

 音楽室では東郷美森と犬吠埼樹、鷲尾須美が深見レツの指導でピアノを弾いている。

 ただし、足でやっていた。

 

 果たしてあれは人間ができるものなのだろうかと夏凜は本気で思う。

 

「あれは、あれで、凄いわよね」

 

 別の場所では宇崎ラン指導のもとで土居球子と三ノ輪銀が落ちてくる葉を拳で掴むという凄いのか、凄くないのかわからない修行をしている。

 

 本来なら後二人、ゲキレンジャーがいるのだが、どういうわけか神樹に召喚されていなかった。

 

「あっちはあっちで奇天烈なのねぇ」

 

「おい!さぼるなよ!」

 

 驚いた声を上げていた夏凜の頭を後ろからポコンと殴る者がいた。

 

「ちょっと!殴ることないでしょ!」

 

「抜け出したそっちが悪いんだろ!」

 

「抜け出していません!少し休憩したら戻るつもりでしたぁ!」

 

「なにをう!」

 

 やってきたアキラと夏凜はにらみ合う。

 

「ちょっと!こんなところで喧嘩するんじゃないの!」

 

「アキラは本当に女心がわかっていないわねぇ」

 

 喧嘩寸前の二人のところへハルカとモモコがやってくる。

 

「何だよ!夏凜が抜け出したから俺は捕まえに来ただけだよ!」

 

「だから、逃げ出してないから!アンタみたいなおこちゃまに逃げるなんて勇者としてあり得ないから」

 

「なにをう!年下のくせして!」

 

「年上っていうんのなら、もう少し年上らしさをみせたどうなのよ!林檎ばっかり齧って」

 

 にらみ合う二人。

 

 その光景にハルカとモモコの二人はため息を零す。

 

「こっちの師弟関係は大変ねぇ」

 

「私達は私達の指導に戻りましょうか」

 

 現在、二つのスーパー戦隊“光戦隊マスクマン”と“獣拳戦隊ゲキレンジャー”を師匠として勇者たちはオーラパワーと獣拳を学んでいた。

 

 それぞれが素質のありそうな方の戦隊から技術を学んでいた。

 

 ちなみに、光戦隊側は犬吠埼風、乃木若葉、郡千景、伊予島杏、W園子、白鳥歌野、古波蔵棗、秋原雪花であり、他が獣拳である。

 

 余談だが、アキラと喧嘩している夏凜もオーラパワーを学んでいる。ちなみに同じ二刀流ということからアキラが師匠であった。

 

 残念な話だが、勇者たち全員が獣拳やオーラパワーを会得できているわけではない。そのため、最低限の基礎を学びつつ、開花を目指している。

 

「ハルカ、幼い方の園子ちゃんはどう?」

 

「ハイテンションで修業を受けてくれるわ、ただ、二人とも同じタイミングでお昼寝しちゃうのよねぇ……杏ちゃんが起こそうとしてくれているからまだいいけれど」

 

「そう、こっちも大変、皆個性的だから」

 

 二人は話し合いながら体育館へ向かう。その後ろでは張り合いながら走るアキラと夏凜の姿がある。

 

 直後、体育館から巨大な音が聞こえてきた。

 

 あまりに大きな揺れのためにアキラの手の中にあった林檎が転がる。

 

「な、なによ!」

 

「今の、体育館だけど」

 

 四人が体育館の中に入ると、大太刀を構えている乃木若葉と拳を構えるタケルの姿があった。

 

 そして、周囲には倒れている千景やケンタ、園子達の姿がある。

 

「ちょっと!」

 

「これって、どういう状況!?」

 

 流石に見過ごせないため、モモコやアキラが叫ぶ。

 

「流石はタケル師匠です!師匠のゴッドハンドはとても素晴らしい!」

 

「若葉ちゃんの居合は凄いよ。少しでも当たり所が悪かったら俺がダウンしていた」

 

 二人はそういって構えを解く。

 

 少し離れたところで観戦していたひなたは口を開けて苦笑している。

 

「ひなたちゃん、これ、どういう事態?」

 

 事態が飲み込めないアキラが傍にいたひなたに尋ねた。

 

「えっと、タケルさんがゴッドハンドと呼ばれる技をもっているということで、若葉ちゃんがそれを見てみたいといいだしまして、何がどうなったのか、タケルさんのゴッドハンドと若葉ちゃんの居合による勝負が始まり……その余波で周りの人たちが被害を受けました」

 

「「「えげつない」」」

 

「「え!?」」

 

 夏凜達の言葉にタケルと若葉が首を傾げた。

 

 ちなみに被害を受けたケンタたちはしばらくして回復して、目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁーぁ、それにしても勇者たちの快進撃っていうのかな?そのために、多くのバーテックスや呼び寄せたヴィラン達が倒されちゃっているよぉ」

 

 神樹の世界の中、一人の少女が中学校を眺めながらため息を零す。

 

「本当なら勇者たちを半分くらい潰して、大事な人を探すつもりだったのになぁ……手がかりはこれだけだもんなぁ」

 

 少女は手の中にある黒い短剣をぺろりと舐める。

 

「うん、そろそろ動かないと色々と煩いからなぁ、動くとしますかぁ」

 

 大きく背伸びしながら少女は不気味な笑みを浮かべる。

 

「あの人が気にかけていた子を殺せば、姿を見せてくれるかなぁ?」

 

 パチンと少女は指を鳴らす。

 

 直後、勇者たちの所持している携帯から樹海化警報が鳴り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海化が起こったことで勇者たちは訓練を中断して、迫るバーテックス達を迎えうつ。

 

 戦闘にはゲキレンジャーとマスクマンのメンバーも参加する。

 

「「「「「「オーラマスク!」」」」」」

 

 五人は左腕に装備しているマシキングブレスによってマスクマンに変身する。

 

「「「たぎれ!獣の力!ビースト・オン!」」」

 

 ゲキレンジャーの三人もゲキチェンジャーで変身して、駆け出す。

 

 しかし、今回の戦いはいつもと違うことがあった。

 

「何だ、こいつら!?いつもより連携ができている!?」

 

 ブルーマスクの言葉通り、バーテックスはどういうわけか連携して勇者はマスクマン、ゲキレンジャーを狙ってくる。

 

 勇者たちは戸惑いながらも連携して、バーテックスと戦う。

 

 戦うのだが。

 

「このバーテックス達……東郷さんを狙っている!?」

 

「だが、どうして!?」

 

「もしかして、だが、巫女である東郷を狙えば、我々の移動手段などがなくなることをわかっているのか?」

 

「そんな、私を?」

 

「だったら、皆で守ればいい!」

 

 驚く東郷に対して、銀が叫んで攻撃する。

 

 杏も狙ってくるバーテックスを射抜く。

 

 その時、ゲキヌンチャクで戦っていたゲキレッドが叫ぶ。

 

「何か……何かくる!」

 

「何か?」

 

「ジャン師匠!何かって、なんですか?」

 

「ゾワゾワと違う……別のものだ。でも、冷たい!」

 

「へー、わかるんだ。流石は獣を心で感じる拳法の使い手だねぇ」

 

 ゲキレッド達の近くに音を立てずに少女が現れる。

 

 桃色の髪に褐色の肌、そして、黒や白などを基調とした勇者衣装。

 

 腰には細長い短剣のようなものをぶら下げて、背中には布用に包んだ何かを背負っている。

 

「「三人目!?」」

 

 友奈ズが同時に叫んだ。

 

 そこに立っていたのは高嶋友奈、結城友奈に似ていた。

 

「違う!」

 

 友奈ズの言葉にゲキレッドが叫ぶ。

 

「コイツ、友奈達と違う!ゾワゾワでもない、ゾクンゾクンだ!」

 

「あははは、まぁ、そう思うよねぇ、正解だよ?ゲキレッドさん」

 

 にこりとほほ笑みながら友奈そっくりの少女は指を鳴らす。

 

 直後、地面や空からリンシーやアングラー兵が湧き出した。

 

「わっ、こんな沢山!?」

 

「友奈ちゃんのそっくりさんが呼び出したっていうの?」

 

「まずは御挨拶、頑張ってねぇ」

 

 驚くブルーマスクとピンクマスク。

 

 拳でアングラー兵を殴りながらレッドマスクが叫ぶ。

 

「今は目の前の敵に集中するんだ!ジャンと友奈達はあの子を追いかけるんだ!」

 

「わかった!タケル!行くぞ、友奈!」

 

「「はい!」」

 

「待つんだ!ジャン!」

 

「待って!」

 

 走り出すゲキレッドと後を追いかける友奈ズ。

 

 その後をゲキブルーとゲキイエロー、神世紀勇者と若葉、千景が追いかける。

 

 湧き出すバーテックスにレッドマスクが拳を構える。

 

「ゴッドハンド!!」

 

 レッドマスクの得意としている必殺拳“ゴッドハンド”がバーテックスを貫く。

 

 貫かれたバーテックスはドロドロとその体を消滅させる。

 

「一気に倒すぞ!雪花たち、ジェットカノンを使う!」

 

「うげっ、離れないと」

 

「わわっ!」

 

 雪花と棗が慌てて、離れる。

 

 五人のマスクマンの必殺武器である“ジェットカノン”。

 

 マスクマンのオーラパワーを流し込んで放つもので、マスクマンが装備しているレーザーマグナムという装備の45倍の威力を持つ。

 

 その威力を知っている棗たちはその場を離れる。

 

 レッドマスクの叫びと共に放たれたジェットカノンを受けたバーテックス、リンシー、アングラー兵は跡形もなく消滅した。

 

「いつも思うけれど……スーパー戦隊だけは敵に回したくない」

 

「手合わせとしては申し分なし」

 

 冷や汗を流している雪花に対して、淡々と棗は言う。

 

「よし、ジャン達の後を追いかけるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てぇ!ゾクンゾクンの友奈ぁ!」

 

 ゲキレッド達に呼ばれたのか、別の理由があるのか、友奈のそっくりさんは立ち止まる。

 

「あ、貴方は一体、誰なの!」

 

「私?私は赤嶺友奈っていうんだぁ」

 

「あ、赤嶺……赤嶺って、まさか」

 

「そう、大赦の中でそこそこの地位のある赤嶺さんちの友奈さんなんだぁ」

 

 大赦のことに詳しい園子や夏凜たちは彼女の告げた名前に驚きを隠せない。

 

「その赤嶺さんの友奈さんは何者なんだ」

 

「まー、簡単に言えば、今日は自己紹介なんだけどねぇ、私、造反神側の勇者なんだぁ」

 

「……それって」

 

「僕達の、敵というこか」

 

 驚きを隠せないゲキイエロー。

 

 ゲキブルーが小さく呟く。

 

 にこりと赤嶺友奈は微笑む。

 

 それだけのことなのにゲキレンジャー達はおろか、勇者たちも後ろへ下がりそうになる。

 

 ゲキレンジャーは本能的に相手が脅威であることを理解した。

 

「えっと、はじめまして、結城友奈です」

 

「うんうん、はじめまして、結城ちゃん。私の後輩だねぇ」

 

「後輩?」

 

「うん、私、神世紀の初期の勇者なんだぁ」

 

 驚く友奈に赤嶺友奈は挨拶する。

 

「はじめまして、高嶋友奈です」

 

「ああ、お会いしたかったんだぁ、高嶋先輩~、貴方のおかげで私は生まれたからぁ」

 

「え、どういうこと?」

 

「貴方がいたから、私は生まれたんだ……尤も、心の支えはあの人だけどねぇ」

 

 最後の方は勇者たちやゲキレンジャーにも聞こえなかった。

 

「ああもう、頭が痛くなってきたわ」

 

 犬吠埼風が頭を抱える。

 

 友奈が二人いるだけでも大変だというのに、敵側にいるという赤嶺友奈の存在に誰もが混乱していた。

 

「色々と話しているところ悪いけどさぁ、アンタ、私達の敵?味方?」

 

 少し遅れて、マスクマンと雪花たちがやってくる。

 

 雪花が槍を構えながら問いかけた。

 

 その目は警戒している。

 

「私、わかるんだよねぇ、敵意を持っているかどうかとか」

 

「え、私、全然、わかんないんだけど」

 

 雪花の言葉に風は驚く。

 

「残念ながら、私は造反神側、そっちとは敵なんだぁ」

 

「何でですか!もし、神樹様が分断されてしまえば、私達の生活の危機だというのに」

 

「うーん、残念だけどねぇ、私達の時代で造反神側につくことに意味があるの。そっちの時代の人達は理解できないだろうけれどぉ」

 

 叫ぶ杏に赤嶺友奈は飄々とした態度で答える。

 

「まあ、そっちはどうでもいいんだけどね」

 

「何か、違うこと言い出したぞ!?」

 

 急に違うことを告げた赤嶺友奈に球子が叫ぶ。

 

「まぁ、本当は私の時代の思惑のために動かないといけないんだけどさぁ、私個人の目的があってねぇ……そうだなぁ、聴いてみようかな」

 

 口元に指をあてながら赤嶺友奈は微笑む。

 

「うん、そうだな、聴いておこうか」

 

 ニコリと笑みを浮かべた赤嶺友奈は問いかける。

 

「高嶋さん、結城ちゃん、貴方達は黒騎士様がどこにいるか知っているかなぁ?」

 

「「え?」」

 

「黒騎士……?」

 

「待って、貴方がどうして、彼のことを知っているの!」

 

 赤嶺友奈の問いかけに驚いた声を上げたのは千景だ。

 

 敵である彼女が告げた存在にゲキレンジャーやマスクマンは首を傾げる。

 

 だが、西暦、神世紀の勇者たちは驚きを隠せない。

 

 全員が戸惑っていた。

 

 表情の変化が少ない棗も目を見開いている。

 

「うんうん、皆さんの表情を見ただけで、理解できたよぉ~、皆さんがどれだけあの方のことを思っているのか……だぁからぁ」

 

「危ない!」

 

 ゲキレッドが叫び、ブルーやイエロー、マスクマンたちが勇者を抱えてその場を離れる。

 

 少し遅れて上空から巨大な影が落下した。

 

 それはリンシーやアングラー兵、大型バーテックスが混ざり合った歪な存在。

 

「ちょっ!これはデカすぎでしょ!?」

 

 風が叫ぶ。

 

「お姉ちゃん、落ち着いて、確かに大きいけれど、妖怪やジャカンジャが巨大化したくらいの大きさだよ」

 

「だが、そうなると我々では対処が難しい」

 

「ここは、ゲキレンジャーさんやマスクマンの皆さんにお願いするしか」

 

 顔をしかめる若葉。

 

 杏の言葉にマスクマンとゲキレンジャーが前に出る。

 

「ターボランジャー!」

 

 レッドマスクが叫ぶことで神樹の世界に移動基地兼巨大母艦であるターボランジャーが現れる。

 

 ターボランジャーの中からランドギャラクシーが姿を見せた。

 

 マスクマンが乗り込み、ランドギャラクシーはギャラクシーロボへ姿を変える。

 

 ゲキレンジャーはゲキビーストのタイガー、チーター、ジャガーの三体を召喚“獣拳合体”によりゲキトージャになる。

 

 二体のロボと対峙するのはジャン曰く“混ざりもの”

 

「いやぁ、ようやく邪魔者が消えたよぉ」

 

 傍らで戦うロボットを眺めながら赤嶺友奈がほほ笑む。

 

「皆さんはさぁ、考えたことがないのかなぁ?どうして、黒騎士様が姿を見せないのかなぁって」

 

「どういう、意味?」

 

 赤嶺友奈の言葉に千景が問いかける。

 

 確かに、彼女も疑問は抱いていた。

 

 黒騎士は勇者ではない。だが、英雄として後の世の四国で崇められてはいる。

 

 神樹の中にスーパー戦隊が呼ばれている以上、彼もくるはず。

 

 だというのに。

 

「彼は一向に姿を見せない。そうだよねぇ、西暦、神世紀に深いかかわりを持っている、炎力さん、伊達健太さん、大神月麿さんも召喚されているというのに、彼だけ、落合日向様だけがいない」

 

「あーもー!何が言いたいの!?確かに日向がいないことはクエスチョンだけれど!貴方が気にしていることがもっとミステリーよ!」

 

「ああ、そっか、まだ、ちゃぁんと話していなかったね」

 

 小さな笑みを浮かべる赤嶺友奈。

 

 さっきまでもつかみどころのない表情から一転して、まるで恋する乙女のように瞳が輝き始める。

 

 彼女は西暦、神世紀の勇者たちにとって爆弾を投下した。

 

「だって、私は落合日向様にすべてを捧げるんだぁ。この体も、全て、何もかも、あの方のものになるの。それが私の夢、目的、存在しているすべてなんだぁ」

 

 自らの体を抱きしめながらとんでもないことを告げる赤嶺友奈。

 

「「……え!?」」

 

 戸惑いの声を上げる友奈ズ。

 

「ブフッ!」

 

「ゴフッ!」

 

「ああ!千景が血を吐いた!」

 

「東郷も!?」

 

 風と球子の傍にいた美森と千景が血を吐いて倒れた。

 

「お~、これは衝撃の展開だねぇ~」

 

「いや、そのっち、これ、結構、とんでもないことなんじゃ?あと、体も捧げてどうするんだ?」

 

「さ、さぁ?」

 

 驚くちび園子、首を傾げる銀と少し頬を赤らめている須美。

 

「雪花、放して」

 

「落ち着こう!私も落ち着けないけれど、棗さん、人を殺しそうな顔をしているからすぐにやめよう!樹さんとか、杏さんとかがすっごい怯えているから!あと、無言で抜刀しないで!そこ!」

 

 暴走寸前の棗と夏凜を抑える雪花。気のせいか涙目である。

 

 若葉に関しては口から魂が出ていた。

 

 自らが引き起こした光景にくすくすと笑う赤嶺友奈。

 

「って、そんなウソで私達を騙そうたって、そうは――」

 

 ズゴォンと風の傍の壁が吹き飛んだ。

 

 突風と轟音が過ぎ去った後、ゆっくりと風は後ろを見る。

 

 不気味な形をしていたオブジェのような壁が瞬く間に消滅している。

 

 口を半開きで目の前の光景をもう一度見る。

 

 そこにあったものが綺麗さっぱりなくなっていた。

 

 ゆっくりと風は前を見る。

 

「今、なんていったのかな?」

 

 眼前に赤嶺友奈の顔があった。

 

 心の中でギャーーーーー!風は悲鳴を上げる。

 

 辛うじて、叫ばなかったのは勇者部部長、リーダーとしてのプライドがあったからだろう。

 

 それがなければ、恥も外聞も投げ捨てて悲鳴を上げていた。

 

 確実だ。

 

 何せ、赤嶺友奈の瞳から光はなくなっている。加えて、彼女の機嫌を損ねることを言ってしまえば、間違いなく、自分の首が刎ねられる。

 

 そんな未来すらみえた。

 

「ねぇ、今、なんていったのかな?私の聴き間違いじゃなければ、ウソ……ウソっていったよねぇ?あははは、嫌だなぁ。何がウソなのかなぁ?もしかして、私が落合日向様のことを愛しているっていうことをウソだっていうのかな?いやぁ、そんなことないよね?まさか、そんなことをいったわけじゃないよね?神世紀の勇者さんも面白い冗談をいうねぇ……もし、本当にそう思っているんだったら、悲しいなぁ、私は卑怯な手を使いたくないよ。でも、私の……落合日向様の気持ちをウソといったり、落合日向様を侮辱するなら戦闘開始前に叩き潰さないといけないなぁ、こう、原形を保てないくらいブチ!ゴッシャ!ズチュルルルルゥ!って、ねぇ、もう一度、聴くよ?私の気持ちをウソっていったのかな?正直に答えてね?」

 

「滅相もございませぇええええん!」

 

 訂正、犬吠埼風は頑張った。

 

 だが、今の赤嶺友奈の眼光とその他のオーラのようなものに負ける。

 

 土下座する勢いで謝罪した。

 

「わーお、あれは凄いな」

 

「うん……あれは怖い」

 

 赤嶺友奈の行動に球子と杏が驚きの声を上げる。

 

「暴走した時の高嶋さん以上ね」

 

「暴走した時の友奈ちゃん以上ね」

 

「「ええ!?」」

 

 千景と美森の言葉に友奈ズが叫ぶ。

 

 その時、大きな音が響いた。

 

「あーぁ、倒されちゃったか」

 

 音の方へ赤嶺友奈がみるとギャラクシーロボとゲキトージャによって混ざりものが倒されるところだった。

 

「ま、いいや、今日は挨拶だけのつもりだったし、じゃあね~」

 

 ひらひらと手を振って赤嶺友奈は突風と共に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部部室。

 

「まさか、造反神側の勇者が現れるなんて」

 

 話を聞いたひなたが信じられないという表情で告げる。

 

「でも、ありえることなんじゃないの?ここって、神樹とやらの中なんだし、相手も神なんだから、それぐらいできてさ?」

 

「可能性はあったとしても、まさか、実際に召喚されるなんて誰も思わないさ。神樹が分裂したらこの世界の危機なんだぞ?」

 

 アキラの言葉にケンタが言う。

 

 別世界の人間であろうと世界の危機は見過ごせない。

 

 彼らがスーパー戦隊だからだろう。

 

「その話も分かるんだけどぉ」

 

「あの、風ちゃんはどうしたの?」

 

 ハルカとモモコは部室の片隅で樹に抱き着いて泣いている風のことを尋ねる。

 

 いつもは部長として凛々しいのにそんな雰囲気を台無しにするような状態になっていた。

 

「グズグズだな!」

 

 風の姿をみてジャンが言う。

 

「えっと、事情を言うなら、赤嶺友奈さんが原因です」

 

 美森が事情を話す。

 

 彼女の目的を風がウソだと判断したらとんでもないことになりかけたということを。

 

「うわぁ」

 

「そりゃねぇわ」

 

「恐ろしいな」

 

 アキラ、ケンタ、レツが美森から聞いた話に青ざめる。

 

 まともにその狂気を浴びた風はブルブルと体を震わせていた。

 

 いつも言う「女子力!」という言葉も出てこない。

 

 風の状態に苦笑いをしていた時。

 

「ゾクンゾクンだ!」

 

 ジャンが真剣な表情で叫ぶ。

 

 突然の言葉に困惑する勇者たち。

 

 だが、ランとレツの二人は身構える。

 

 ガラララと部室のドアが開いた。

 

「こんにちは~~、きちゃったぁ~」

 

 ドアを開けて“赤嶺友奈”が入ってきた。

 

「はぁ!?」

 

「ウソ!!」

 

 彼女の出現に勇者とマスクマンたちは驚きの声を上げる。

 

「へぇ~、ここが部室なんだぁ。いやぁ~、ここに巫女の上里ひなたさんがいるって聞いたからさぁ、一目見たくて、後をつけたんだぁ」

 

 驚いている皆に赤嶺友奈はニコニコと話す。

 

 身構えるジャン達の横からひなたが前に出る。

 

「貴方が、赤嶺友奈さんですね?」

 

「はーい、そうでーす。初めまして、上里ひなたさん、うわぁ、伝説と言われるだけあって凄いねぇ」

 

「本当に友奈さんそっくりだ」

 

 赤嶺友奈の姿を見て藤森水都が驚きの声を上げる。

 

「ゲームでいえば、オルタ……ダークサイドみたいな存在みたいね」

 

 実際にみていない中学園子や水都、ひなたは驚いている。しかし、そういう状態ではない。

 

 ここに造反神側の勇者がいるということは――。

 

「あー、そんな身構えなくていいよ。私は背後から襲撃とか、不意打ちとかそういうことはしないから、ちゃんと戦闘開始のゴングがなったら、戦うから……勿論、戦うことになったら手加減とか、そういうことは一切しないから全力で挑みに来てねぇ」

 

「つまり、ここで戦闘する意思はないということか?」

 

 タケルの言葉に赤嶺友奈は頷く。

 

「そうだよ。ただ、勝負するだけじゃつまらないよねぇ?私に勝てたら色々と教えてあげる。造反神のこととか、どうして、この世界にヴィラン達がいるのか……そして、友奈の秘密とかねぇ」

 

 にこりと友奈は微笑みながら「だからぁ」と続ける。

 

「私が勝ったら、落合日向様のすべてをもらう」

 

 突然の言葉に室内の時が止まった。

 

 正確には勇者と巫女の時である。

 

「「「「「は?」」」」」」

 

「「は!?」」

 

「?」

 

 マスクマン、ゲキレンジャー達が困惑した声を漏らす。

 

「貴方達が彼をどう思っているかは知っているよぉ、でも、私の想いが一番強いんだぁ。だから、勝利したらあのお方は私のものになるんだ」

 

「ち、ちょっと――」

 

「ふざけないで」

 

 赤嶺友奈の言葉に千景がぴしゃりと言い放つ。

 

「貴方がどういう目的で彼に近づくのかはしらない。けれど、貴方に彼は渡さないわ」

 

「ふぅーん、じゃあ、郡千景さん、彼がどこにいるのか、知っているの?」

 

「……それは」

 

「知らないんでしょ?」

 

「じゃあ、そっちは知っているっていうの?」

 

 言葉を詰まらせる千景。

 

 雪花が逆に赤嶺友奈へ尋ねる。

 

 情報を引き出すつもりで挑発したのだろう。

 

「当然だよ。検討はついている。け・れ・ど、貴方達に教えてあげなぁい。だって、貴方達のことは勇者として尊敬はしているけれど、愛のライバルだもん。あの人に関する情報は一つたりともぜぇったい教えてあげなぁい」

 

 ぞくりと勇者と巫女が後ろへ下がる。

 

 頬を赤らめながら話す赤嶺友奈。

 

 だが、その目はどうしょうもないほどの闇がみえた。

 

「(この人は一体、どんなものを抱えているのでしょうか……どうして、日向さんに固執しているの?)」

 

 ひなたは赤嶺友奈に警戒を高める。

 

「さて、挨拶はほどほどにして、そろそろ帰るね。次の戦闘で会うけど、油断しちゃダメだよ?全力で挑むから」

 

「って、逃がすかぁ!」

 

 赤嶺友奈に夏凜、棗、雪花、球子、杏、銀、須美、千景、歌野が飛びかかる。

 

 手や足などを拘束して彼女の動きを封じ込めた。

 

 囲む形でレツやケンタたちが立ちはだかる。

 

 

「ふっふっふー!こうすれば、アンタは逃げられないでしょ!さぁ、色々と教えてもらおうかしら!アイツのこととかねぇ!」

 

 笑みを浮かべる雪花。

 

 だが、赤嶺友奈の表情は崩れない。

 

「だから、無駄だって、いっているじゃない」

 

 巻き起こる突風。

 

 瞬く間に赤嶺友奈の姿が消えた。

 

「ウソ、手足とか、ちゃんと掴んでいたのに」

 

「……自信満々なわけだ」

 

 驚いている千景と彼女の余裕が崩れないことを理解した棗。

 

「どーでもいんだけどさぁ!重たいからどいてくんない!?」

 

 アキラが叫ぶ。

 

 衝撃によって勇者たちが吹き飛ばされて、何人かを抱き留めたマスクマンたちだが、アキラだけは運悪く、夏凜や棗たちの下敷きになっていた。

 

「重いっていうなぁ!」

 

「ぶへぇ!」

 

 額に青筋を浮かべた夏凜は勢いを利用してアキラを殴り飛ばした。

 

「女子に重たいは厳禁」

 

 殴られたアキラをみて、棗はぽつりと漏らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高嶋さん、大丈夫?」

 

 各自、部屋で休んでいる中、千景は高嶋友奈に問いかける。

 

「千景の言うとおりだな。お前のことだ。あの赤嶺友奈のことが気になっているだろ」

 

「うん……でも、大丈夫!正面からぶつかっていく!それが私の良いところだって日向さんもいっていたもん!」

 

 笑顔を浮かべる友奈。

 

 千景もほっこりとした表情になるもすぐにドロドロした闇色の感情を浮き出す。

 

「あの赤嶺友奈、高嶋さんと同じ顔をしていたけれど、私達の大事な日向を奪うというのなら容赦しない」

 

「うん!赤嶺ちゃんには悪い気がするけれど、日向さんは私達と一緒だもんね!」

 

「そうだな、赤嶺友奈の目的はわからないが落合日向は絶対に他の連中に渡さない……私達が愛する」

 

「流石、若葉ちゃんです。頑張りましょう!」

 

 笑みを浮かべながらもどこかぞっとする表情の友奈、千景、若葉。

 

 ちなみに離れたところで同じように杏や球子、ひなたも頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神世紀の勇者たちが休んでいる場所。

 

「友奈ちゃん、大丈夫?」

 

「東郷さん、うん!大丈夫!赤嶺友奈ちゃんのことは気になるけれど……卑怯なことはしないって言っているから全力で挑むんだ!」

 

「その意気よ!」

 

 沈んだ様子もなくやる気に満ちている友奈の姿を見て美森や夏凜は喜ぶ。

 

 謎はあるが、今は造反神から四国を取り戻す。

 

「それに!」

 

 えへへと笑顔を浮かべながら友奈は言う。

 

「赤嶺ちゃんに勝ったら日向さんのこと!何かわかるかもしれないもん!」

 

「……そうね、あのお方が戦ってくれるのならすぐに四国解放も夢ではないわ」

 

「まぁ、完成形勇者よりも最強だものね……」

 

「うん!それに、再会したらいぃっぱい!甘えたいんだ!」

 

「……そうね」

 

 はにかんだ笑顔を浮かべる友奈に同じような気持ちを抱きながらも表に出さないようにする美森。

 

「ところで、あれ、大丈夫なの?」

 

 夏凜は部屋の隅で樹の傍で黒騎士くんぬいぐるみを抱きしめている風の姿を見る。

 

 樹が傍であやしているが、風が元に戻る様子はない。

 

「赤嶺友奈のあれに触れたんだから、仕方ないわよね」

 

「そんなに怖かったの~?」

 

 唯一、赤嶺友奈の狂気を真っ向から受け止めてしまった風。

 

 その時のことを思い出してしまうのか風は樹の愛用している黒騎士くん人形を強く抱きしめる。

 

「……そういえば、友奈の次か同等くらいあの人への想いが強いのよね。風って」

 

 変形するくらい黒騎士くん人形を抱きしめる風。

 

 神世紀において伝説と言われていた最強の黒騎士。

 

 どういうわけか神樹の中に存在しない彼に会いたい。

 

 自然と彼女達は同じ気持ちを抱いていた。

 

「「「「「日向さんに会いたい」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神樹の中のどこかの町。

 

 その片隅で一台の焼き鳥の屋台があった。

 

 炭火焼で焼き鳥を調理している中年オヤジ。

 

 そんな店にいる客は人間ではない。

 

 別の世界で冥王と呼ばれたスーパー戦隊の敵であり弟や妹たちを愛していたジルフィーザ。

 

 屋台で彼は焼き鳥を食べている。

 

 そんな彼の傍には世紀末覇王にでてきそうな凶悪な顔をしたアラクレボーマの姿があった。

 

「やはり、解放のカギは勇者が握っているのか」

 

 ジルフィーザの言葉に大将が頷く。

 

「色々と調べてまわったんだがな……インフェルシアの呪いについては魔法使い、もしくは清らかな少女の〇〇が必要らしい」

 

「……では、早くすべきではないのか?」

 

 焼き鳥を食べながらスモウボーマが言う。

 

「そうは問屋がおろさねぇ、早く旦那は解放すべきなんだろうが……造反神側の勇者、さらに巨獣ハンターの姿もある……旦那を解放したら厄介な敵を二つ三つ、相手にしなきゃならねぇ……呪いから解放されたばかりの旦那にはきついだろうねぇ」

 

「しかし!」

 

「今は様子を見なければならぬということだ。我々もすぐに彼を解放させることを望んでいる……だから、危機に貶めるようなことは避けなければならぬ。我々は造反神を裏切った者達……ゆえに全力を振るえるという訳ではない。今の我々では造反側の勇者や巨獣ハンター……貴公子もいる」

 

「歯がゆいものだ!」

 

 アラクレボーマは机をたたく。

 

 コロコロと置かれていた樽が地面へ落ちそうになる。

 

「おい、気をつけろよ!」

 

 慌てて大将とジルフィーザが樽を掴む。

 

「ああ、すまない!!」

 

 大将に怒られてアラクレボーマは謝罪する。

 

 そんな彼らを見守るようにゲコッと黒いカエルが鳴いた。

 

 

 




軽く戦隊紹介です。

この紹介を見て、また、見直すと色々と違うかも?



光戦隊マスクマン

スーパー戦隊の一つでオーラパワーと呼ばれる力を引き出して戦う戦隊。
地底帝国チューブと戦った。
初の五体合体ロボがでてきた戦隊でもある。
マスクマンのブルーは最年少の十六歳設定。そのため、ヤンチャな面も目立つ。
今回はあまり前面に出ていないけれど、レッドマスクのタケルは恋人を第一話で失ったことで地底帝国に憎しみのようなものを抱きつつも、のちに恋人が地底帝国の姫君であることを知るなど、恋愛面の要素もありました。


獣拳戦隊ゲキレンジャー

戦隊としては敵味方でドラマが用意されていた戦隊、商業などは仮面ライダーに負けたといわれるけれど、話などはとても面白い。
ちなみに声優陣が当時と今においても、超豪華です。
今回は途中参加した二人はおらず、初期の三人のみ。
詳しい設定とかはウィキさんなどを調べてみるといいかも。



冥王ジルフィーザ

救急戦隊ゴーゴーファイブに出てきた敵幹部。
初期から中期、終盤に登場しており、敵兄弟のトップという設定(テレビ版において)
最後にラスボスの情け容赦ない策略により弾丸扱いでゴーゴーファイブへ挑まされ、最後はゴーゴーファイブの家族の愛情を称えて死亡するも最終回とその前の話で操り人形として復活。
報われないキャラです。
今回はヴィランとして登場しているもある人物のために奮闘している模様。

ちなみに作者の好きなキャラです。


アラクレボーマ

高速戦隊ターボレンジャーに登場した暴魔。
実は過去の出来事から改心して戦いをやめていたのだが、暴魔の幹部に騙されて街を破壊、レッドターボに説得されて、争いをやめるも操られて巨大化。
ターボロボによって宇宙へ連れられて星座になるという結果。
今回はヴィランの立場で召喚されているが、叛逆してジルフィーザ達と行動している。


焼き鳥屋の大将

名前はないですけれど、百獣戦隊ガオレンジャーに登場しています。
ちなみに今回は人間ですけれど、この人、オルグです。
ちなみにめっちゃいい人、焼き鳥は最高らしい。


黒いカエル

ヒント、インフェルシア



ヒント、星獣戦隊ギンガマン。


赤嶺さんの暴走はこれくらいでいいのだろうか?やりすぎると淫乱っぽくなるから難しい。
次回も番外編、赤嶺さんのターンは続きます。



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番外編:赤嶺友奈の手駒

次回は本編に戻るつもりです。

うーん、思った以上にキャラ崩壊ができなかったなぁ。

あれは夜のテンションだからできたのだろうか。




 

「さぁ!この調子で次の土地も取り戻すわよ!」

 

「風、キラキラだな!」

 

 拳を空へ突き上げる風の姿をみてジャンが言う。

 

「いつまでも落ち込んでいるわけないでしょ!赤嶺友奈めぇ、この私の女子力でぎゃふんといわせてみせる!」

 

「その意気だぞ!」

 

「……女子力って、こういう場面で使うもんなの?」

 

「「「違うと思う」」」

 

 アキラの疑問にマスクマンとゲキレンジャーの女性陣はなんともいえない表情をしていた。

 

 これから彼らは樹海の中へ向かう。

 

 造反神から奪われた土地を取り戻すための戦いだ。

 

 樹海の中にはおそらくバーテックスの他に赤嶺友奈やヴィランがいる。

 

 狂的を倒さないと次の土地の奪還を望めない。

 

 やる気を見せる勇者たち。

 

 今回は巫女と中学園子を除くフルメンバー、マスクマン、ゲキレンジャーに加えて。

 

「俺達も行くぜ!」

 

「ああ!」

 

 西暦で一度だけスーパー戦隊の力で変身した伊達健太と炎力。

 

 この二人も戦いに参加する。

 

 勇者でも巫女でもない二人だが、スーパー戦隊の力を使用したことからか、彼らはこの神樹の世界に呼ばれていた。

 

「赤嶺の友奈さんがどういう手を使ってくるかわかりません、戦力を集中させて挑むべきです」

 

 ひなたの言葉に若葉も同意する。

 

「相手は造反神側の勇者、どんな力があるのかわからない。全力でいく」

 

 若葉の言葉の合図とともに彼女達は突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ!讃州中学勇者部!スーパー戦隊がきたわよ!赤嶺友奈!勝負!」

 

 夏凜が大きな声で叫ぶ。

 

 しかし、赤嶺友奈の姿はない。

 

「赤嶺友奈さんが居ません……何かの作戦でしょうか?」

 

「うーん!」

 

「ジャン師匠、どうしたんですか?」

 

 唸るゲキレッドに高嶋友奈が尋ねる。

 

「モヤモヤだ、何か、モヤモヤする」

 

「遠くからバーテックスが来るわ」

 

 ジャンの言葉を気にしながらも美森が敵の襲来を告げる。

 

「姿を見せないのは気になるけれど、今はバーテックスを倒すべきだわ。乃木さん」

 

「三ノ輪銀がお供します千景さん。コンビ名は銀影隊というのはどうでしょうか!」

 

「……悪くないわね。三ノ輪と千景で三千世界の使者というのも」

 

「……」

 

「健太、いいか、余計なことは絶対に言うな。絶対だからな」

 

「わーっているって」

 

 二人のやり取りを見て微笑ましい目を向ける若葉。

 

 笑いを必死にこらえているメガレッドと釘を刺しているターボレッド。

 

 ここまで砕けた千景をみるのが珍しいのだろう。

 

 視線に気づいた千景が鋭い目で三人を睨む。

 

「な、何を微笑ましい目でみているの。号令よ、号令をかけて」

 

 千景の言葉と共に戦闘が開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゲキレッド」

 

 

「さぁて、久しぶりの再会だ」

 

 その光景を遠くから漆黒の獅子と盗賊騎士が眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者部の部室。

 

 戦えないひなた、水都、勇者衣装を纏えない園子が部室で待機していた。

 

 戦えないことで園子は不安そうに外の景色を見ている。

 

 かくいうひなたも今回の戦いではとんでもないことが起こるかもしれないということで心配をしているが勇者を信じるしかない。

 

 何より今回はスーパー戦隊もいる。

 

 きっと、大丈夫のはず。

 

 そう、考えていたが世の中、甘くない。

 

 ガラガラと部室のドアが開く。

 

「こんにちはぁ~」

 

 ドアを開けて入ってきたのは赤嶺友奈。

 

 彼女の出現に三人は驚きを隠せない。

 

「まさか、直接ここを攻めるなんて」

 

「いやぁ、言ったじゃない。開始直前までは何もしないけれど、ゴングがなったら徹底的にやるって~」

 

 のびのびした口調で話す赤嶺友奈だが、その目は油断なく周囲を警戒している。

 

「ああ、ちなみにだけど、樹海の方も手加減していないよ?一応、役立つ駒は用意しているから」

 

 ひらひらと赤嶺友奈は言う。

 

「そのために、こっちはこういうことをするんだけどね。ほれ、どーん!ばーん!出番だよぉ~」

 

「ラーメンにトッピングするみたいにバーテックスを呼び出している!」

 

 驚く水都の前に現れる小型バーテックスたち。

 

「いやぁ、本当は手駒を使うつもりだったんだけど、アッチに回したからねぇ、こうやって数で勝負しようかと」

 

「手駒?」

 

「あっちが戻って来るのを期待しているようだけど、それは無理だから……手駒の中でそこそこ強い奴、用意してきたんだぁ」

 

 不敵に赤嶺友奈は微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海

 

「うわぁ!」

 

 衝撃を受けて吹き飛ぶブルーマスクとブラックマスク。

 

 吹き飛んだ二人の下へ駆け寄るイエローマスク、ピンクマスク。

 

「くそっ、何て奴だ!」

 

 レッドマスクは相手を睨む。

 

「フン、どうした?マスクマンとやら、お前達の実力はこの程度か?」

 

 鎖鎌を振るいながら不敵にほほ笑むのは盗賊騎士キロス。

 

 ただし、マスクマンたちの世界にいるキロスではない、西暦の時代、天の神と契約して高嶋友奈を妻として娶ろうと暗躍し黒騎士に倒された存在。

 

 それが、マスクマンと戦っているキロスである。

 

「レッドマスク、我が技に吹き飛ぶがいい!」

 

 キロスの放つ技に対して真っ向から挑むレッドマスク。

 

 剣を構えるレッドの拳が金色に輝く。

 

 

「クレセントスクリュー!」

 

「ゴッドハンド!」

 

 二つの技が同時にぶつかり合い、爆発が起こる。

 

 吹き飛ぶレッドマスクとキロス。

 

「うわぁ、すっごいわね」

 

「だが、こちらが不利なのは変わらない」

 

 二人の戦いを見て驚きの声を漏らす雪花。

 

 近くのバーテックスを蹴散らしながらも状況は変わっていないと棗は言う。

 

 離れた所でも爆発が起こる。

 

 高嶋友奈と結城友奈の二人が同時に「勇者パンチ」を放つ。

 

 その二人の拳を“黒獅子リオ”が正面から受け止める。

 

 臨気凱装し二人の拳を受け止めつつ、勢いを利用して投げ飛ばす。

 

「こんのぉぉぉぉぉ!」

 

 風と千景が同時に大剣と鎌で攻撃を繰り出す。

 

 黒獅子リオは臨気を足に込めて放つ烈蹴拳を放つ。

 

 攻撃を受けた千景と風が吹き飛ぶ。

 

「風ちゃん!千景ちゃん!」

 

 二人をゲキイエローが抱き留める。

 

「このぉぉおお!」

 

「狙います!」

 

 球子の武器と杏の狙撃、樹のワイヤーが美森の狙撃などが行われるがみえているのか黒獅子リオは拳や足で弾き飛ばす。

 

「コイツ、固すぎる!」

 

 大剣を構えながら風は叫ぶ。

 

「固いだけじゃない、技の切れ味も凄い」

 

 風の隣に着地して棗が忌々し気に言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うわぁ!!」」

 

 別の場所で大きな爆発が起きる。

 

 爆炎の中から転がり、倒れるレッドターボとメガレッド。

 

 そんな二人を炎の中から二つの剣を抜いて近づいてくる存在は暗闇暴魔ジンバ。

 

 ジンバの斬撃によって飛ばされた二人は起き上がる。

 

 勇者ではない彼らだがその力は勇者を超えるほどのものだ。

 

 そんな二人の攻撃を受けても暗闇暴魔ジンバは二刀流で弾き、斬り返す。

 

「くそっ、何て奴だよ!」

 

「だからって、止まるわけにはいかない!」

 

 起き上がるメガレッドにレッドターボ。

 

 武器を構えて立ち上がる二人とジンバがぶつかりあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、樹海の外のある場所では小さな騒動が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!いたか!」

 

「いない!まずいぞ!樽はここにあるというのに!」

 

 焼き鳥の屋台。

 

 そこで焼き鳥屋台の店主とアラクレボーマが必死に讃州中学校の周辺を走り回っていた。

 

「まずい、まずいぞ!ジルフィーザが探し物をしているという時に、奴がいなくなるとは」

 

「おそらく、本能的に自分を解放してくれるであろう存在に気付いたのかもしれねぇ、いそがねぇと……!」

 

 慌てた様子で“何か”を探し始める二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、かつて、四国を襲った敵も……」

 

「そのとぉり、造反神も性質が悪いよねぇ?一歩間違えれば四国を滅ぼしていた敵も駒として利用するなんて、まぁ、私の目的のために使えるからいいけれどぉ」

 

 にこりとほほ笑みながら赤嶺友奈は拳を握り締める。

 

「ここはみんなの帰る場所なんだぁ、絶対にやらせないよ!」

 

 赤嶺友奈の前に乃木園子が立ちはだかる。

 

「へぇ、どうするのかな?乃木さん。勇者にもなれない貴方に」

 

 投げられた言葉に園子はたじろぐ。

 

「どうして、それを」

 

「赤嶺さんの友奈は何でも知っているんだぁ……まぁ、知らないのはあの人の場所なんだけれどさぁ」

 

「どうして」

 

 ひなたは少しでも時間を稼ぐために尋ねる。

 

「どうして、貴方はそこまで日向さんに執着するんですか?」

 

「うーん?」

 

「貴方は勇者にしては異常です。なぜ、そこまであの人に」

 

「時間稼ぎのつもりかなぁ?本当ならそんな話にのらないんだけどねぇ……どうせだし、話をしようかなぁ?」

 

 乗ってきたとひなたは心の中で思う。

 

「やっぱりやーめた」

 

 次の瞬間、赤嶺友奈が態勢を落としてひなたの前に立つ。

 

「前も言ったけれど、貴方達のことは尊敬しているよぉ。でも、彼のことにおいては別……あの方を手に入れるためなら邪魔者は潰すし、余計な情報は与えない」

 

 にやりと赤嶺友奈が拳を振り上げる。

 

 ひなたにとってその動きはスローモーションにみえる。

 

 彼女の放った拳は確実に自分の心臓を捉えるだろう。

 

 赤嶺友奈の拳が心臓に迫るという瞬間、ピョンと彼女の顔に何かが飛び移る。

 

 突然のことに赤嶺友奈はバランスを崩して近くの机に頭から突っ込む。

 

「……え?」

 

 驚きながらひなたは目の前を見る。

 

 何か小さなものが通過するもその正体がわからない。

 

「今の……間違いない!」

 

 ふらふらと赤嶺友奈は体を起こす。

 

 ちらりと周りを見渡す赤嶺友奈。その視線は何かを探しているように見えた。

 

「ここを滅茶苦茶にはさせないよぉ!」

 

 その時、巫女を守るように園子が前に出る。

 

 赤嶺友奈は肩をすくめた。

 

「何ができるのかなぁ?勇者になれないのにぃ」

 

「ちっちっち!甘いなぁ」

 

 園子は勇者アプリを起動する。

 

 光と共に乃木園子は勇者装束を纏う。

 

「今、この瞬間、勇者に変身できるようになったのだぁ!」

 

 そういって槍を突き上げる園子。

 

「へぇ、タイミングがいいねぇ、じゃあ、私の相手をしてもらおうかぁ」

 

 笑みを浮かべて園子に接近する赤嶺友奈。

 

 二人は狭い教室内でありながらぶつかりあう。

 

 最初は赤嶺友奈が優勢のようにみえた。

 

 しかし、徐々にエンジンがかかりはじめたのか園子が圧倒し始める。

 

「凄い……ねぇ!」

 

「あれが、切り札といわれる園子さんの力ですか……」

 

 攻撃を捌く赤嶺友奈、

 

 驚きの声を上げる水都。

 

 乃木園子は槍を突き出す。

 

 攻撃を受けて吹き飛ぶ赤嶺友奈。

 

「あーあぁ、流石は乃木さんってことかぁ……仕方ないなぁ、こんな早くにこれに手を出すことになるなんてなぁ」

 

 ため息を零しながら赤嶺友奈は手を叩く。

 

 すると、彼女の前に怪しい輝きを放つ一振りの剣が現れた。

 

「剣?」

 

「何ですか、その禍々しい力は……」

 

 巫女であるひなたと水都は彼女の持つ剣がただのものではないことを見抜く。

 

「魔剣ヘルフリード……地獄最強といわれる剣だよ?持つ人はぁとてつもない執念が必要らしいんだけどさぁ、うふふふ、私ってそういうところの素質はあるみたいなんだぁ」

 現れたヘルフリードを赤嶺友奈は握り締める。

 

 同時に彼女から放たれるオーラのようなものが増す。

 

 魔剣だけではない別の力も彼女は放っていた。

 

「さぁ、行くよぉ?乃木園子ちゃん」

 

「……」

 

 無言で自身の武器を構える園子。

 

 しかし、ヘルフリードから放たれた衝撃波で園子の体は壁にめり込んで動かなくなる。

 

「あれれ?もう終わりィ?ヘルフリードは全力じゃないし、私は少ししか臨気を使っていないんだけどなぁ」

 

「臨気?」

 

「アクガタともいわれているんだぁ、そっちのビーストアーツの対極にある獣拳だよぉ?まだまだ初手の方なのになぁ……がっかりだよ」

 

 肩をすくめながら赤嶺友奈はヘルフリードを構える。

 

「もう少しは相手になるのかと思ったけれど、がっかり……じゃあ、そろそろ消えてもらうね?」

 

 にこりと笑みを浮かべる赤嶺友奈。

 

 園子は壁から抜け出してふらつきながらも槍を構える。

 

「皆だって、頑張っているんだもん、私も負けない……!」

 

「バイバイ」

 

「園子さん!」

 

 ひなたが叫んだ時、園子の顔に何かが覆いかぶさる。

 

「わっぷ!?」

 

 突然のことにバランスを崩した園子。

 

 それが彼女を救った。

 

 直撃するはずだったヘルフリードの刃は園子を外して、背後の壁を貫く。

 

 衝撃と爆発で吹き飛ぶ勇者部の部室。

 

「え?」

 

「何が……?」

 

「わっふぅ~、びっくりしたよぉ」

 

 横に倒れたことで助かった園子は自分に覆いかぶさった存在を見る。

 

「わ~カエルさんだぁ~」

 

 園子の傍にはぺちょんと座り込んでいる“黒いカエル”がいた。

 

「貴方が助けてくれたの?ありがとう~」

 

 カエルを掌にのせて園子は感謝の言葉を告げる。

 

 ゲコゲコと黒いカエルは小さく鳴いた。

 

「カエル?どうやってここに」

 

「で、でも!カエルのおかげで園子さんが無事だったんですからよかっ――」

 

 バゴン!

 

 ひなたと水都は音の方を見る。

 

 赤嶺友奈は足で小さなクレーターを作っていた。

 

 瞳はどす黒い闇に染まって、視線は園子の手、その中に座っている黒いカエルをみている。

 

 

「それを、寄越せ」

 

 ヘルフリードを持っていない方の手を伸ばして赤嶺友奈は言う。

 

「な、何か様子がおかしいです!園子さん!ひとまずここから逃げ」

 

「寄越せぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 

 今までの飄々とした態度から一転して底冷えする声で園子に迫る赤嶺友奈。

 

 ヘルフリードを振り上げて園子の手を切り落とそうとする。

 

 逃げようとする園子。

 

「あ、カエルさん!」

 

 掌からカエルが跳んで赤嶺友奈の顔にとびつこうとする。

 

 しかし、その動きを読んでいた赤嶺友奈はひらりと躱しながら自身の手でカエルの足を掴む。

 

 暴れるカエルを覗き込む赤嶺友奈。

 

 しばらくして。

 

「ふふふ!うふふふ、うひひひ、ふふふふふ!アッハハハハハハハハハハハハ!」

 

 小さく笑いだし、それから大きな声をあげる。

 

 突然の奇行に園子達は動けない。

 

 カエルを注視して不気味な顔をしている。

 

「何が、おかしいの?」

 

 園子がおそるおそる問いかけた、その時。

 

 園子を始末しようと拳を振るう。

 

 茫然としていた園子は反応ができない。

 

 彼女の命を捉えるという瞬間。

 

 どうやって抜け出したのか、赤嶺友奈の手からピョンとカエルが園子の顔にとびかかる。

 

 突然の事態に対応できなかった園子の口とカエルの口がぶつかった。

 

 瞬間、まばゆい光が室内を照らす。

 

 あまりの輝きに赤嶺友奈は愚か、全員が動きを止めてしまう。

 

「くぅ~~~」

 

「え、えぇ!?」

 

 光が収まった時、園子が戸惑いの声を上げる。

 

 自分の膝の上に小さな男の子が寝ていた。

 

「え、え、えっとぉ、この子はどこの子なのかなぁ?」

 

 混乱している園子。

 

 茫然としていた赤嶺友奈はため息を零す。

 

「あーぁ、時間切れかぁ、今日は引き下がるしかないよねぇ」

 

 ガラガラと部室のドアを開けて勇者たちがやってくる。

 

 続けて、満身創痍ながらもマスクマンやゲキレンジャーのメンバーも現れた。

 

 流石にこの数の相手はしんどい。

 

 そう考えて赤嶺友奈は撤退することにする。

 

 だが、去り際に彼女はねっとりするほどの視線で園子の膝の上ですやすやと寝ている男の子をみた。

 

「(必ず、必ず、手に入れて見せるから少しの間、待っていてね?)」

 

 光のない瞳で笑みを浮かべながら赤嶺友奈は突風と共に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのっち!大丈夫!?」

 

「みーたん!エネミーは!!」

 

「ひなた!ケガはないか!?」

 

 美森、歌野、若葉が必死の表情でやって来る。

 

 荒れている部室。

 

 その中心で座り込んでいる園子と膝の上で寝ている男の子。

 

「これって、どういう状況?」

 

 困惑した様子で夏凜は呟いた。

 

 戸惑う勇者たちの視線は幸せそうに寝ている男の子に向けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけたぁ!」

 

 赤嶺友奈は誰もいない部屋、そのベッドの上で嬉しそうに笑みを浮かべながら同じ言葉を繰り返している。

 

 部屋の中には赤嶺友奈以外に誰もいない。

 

 しかし、その部屋は歪だった。

 

 部屋の至る所に貼られている写真。

 

 そこにある写真は誰が、どのように撮影したのか不明だが、黒騎士、落合日向が収められている。

 

 ゴウタウラスと共にいる黒騎士。

 

 誰かと楽しそうに話をしている日向。

 

 バーテックスと戦う黒騎士。

 

 蕎麦を食べている日向。

 

 相手や周囲をくりぬいたような写真もあるが、そのすべてが落合日向のものだった。

 

 彼女は一枚の写真を眺めながら嬉しそうにしている。

 

「見つけたよぉ……ようやく、ようやくだぁ」

 

 ポロポロとベッドの上で彼女は涙をこぼす。

 

 笑顔を浮かべながら涙を流していた。

 

 しばらくして涙を拭い、彼女は体を起こす。

 

「でも、まだ、私の傍にいてくれるわけじゃぁない」

 

 赤嶺友奈は知っている。

 

 彼の傍には多くの雌猫がいる。

 

 今のままだと自分はその取り巻きの中に埋もれてしまう。

 

 一番ではない。

 

 彼にとって一番で、大事な存在じゃないのだ。

 

「駄目だ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ!絶対、絶対、私が一番になる!高嶋さんじゃない、結城ちゃんでもない、そう、あの人にとって一番は私になる……絶対に逃さない。何があろうと手に入れて見せる……うふふ」

 

 手の中の写真を眺めながら赤嶺友奈は微笑む。

 

「待っていてね。落合日向様、私がすぐに迎えに行くから……そうしたら」

 

――永遠に一緒だよ?

 

 

 




簡単な紹介です。

魔剣ヘルフリード

登場は恐竜戦隊ジュウレンジャーから。
ドラゴンレンジャーブライが登場した時に魔女バンドーラから与えられた魔剣。
後に獣奏剣と二刀流も行うも、改心すると同時に砂となって消滅した武器。
信じられるか?本来の専用ウェポンよりも先に出てきて、大活躍しているんぜ?




黒獅子リオ

獣戦隊ゲキレンジャーに登場した主人公達のライバルキャラ。
強さを求めて、激獣拳から臨獣拳へ移り、トップに君臨した人物。
今回は鎧を纏った状態のみで登場。
しかし、その強さはかなりのものである。


番外編は本編やってからやる予定。

次回の番外編は激走戦隊カーレンジャーを出す予定、ただし、あくまで予定のため、別の戦隊になるかもしれません。

てか、戦隊が多すぎて、どれを出すのか悩んでしまうんですよねぇ。

選定が難しい。




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黒騎士と恋する乙女たち

本編です。

おそらく、病みは薄い。

次回は番外編。


尚、今回の話から第一話の続きになっていきます。



「はぁあ!?マジかよ!?」

 

「声がでかい」

 

「いや、いやいやいや!驚くって!」

 

「健太ほどじゃないけれど、俺も驚きだ。全員から告白されるなんて」

 

「お前達だって告白くらいされているだろ」

 

 俺達、三人しかいない銭湯。

 

 そこで俺は二人にこの前起こった出来事を相談していた。

 

「いやいやいや!流石に諏訪と四国の勇者と巫女に告白されるほどの展開はねぇって!!漫画じゃないんだからな!力はともかく」

 

 バシャバシャと湯水を跳ね飛ばしながら健太が叫ぶ。

 

「その漫画みたいなことが起こって困っているからお前達に相談しているんだ」

 

「相談してくれるのは嬉しいけれど、俺達も協力できないぞ?」

 

「おいおい、そういうこというか?お前、月影さんといい雰囲気じゃないか」

 

「健太だって、この前、小さい子に弁当を貰ったって聞いたぞ?」

 

「いやいや!人気者の力には及ばないって!」

 

「人気者はお前もだろ!」

 

「互いの褒めあいはいい。どうすればいい?」

 

「「うーん」」

 

 困ったように二人は唸る。

 

 場所を変えてサウナで話をしているが結論が出る様子がない。

 

 

「しかし、急にどうしたんだ?」

 

「何だ?」

 

「いや、少し前の日向ならそういうことに興味はない、どうでもいいっていいそうだからさ」

 

「……心境の変化みたいなものだ」

 

 あの頃なら告白など一切、無視していただろう。

 

 だが、少し前の事件から俺の中で小さな変化が起こっている。

 

 それは俺だけじゃない。

 

 だから、困っていた。

 

「よし!牛乳!牛乳!」

 

「風呂上りは牛乳!これは譲れないな」

 

「そこは同意だ」

 

 健太が牛乳を俺や力に差し出してくる。

 

 ここでフルーツ牛乳やコーヒー牛乳で争いになるのだが、俺達は風呂に入る際の牛乳は入るたびに変えている。

 

 今回はシンプルに普通の牛乳だ。

 

「でもさ」

 

 俺に牛乳を渡して健太が言う。

 

「いいじゃねぇか!どういう変化かわからないけれど、今の日向はとても活き活きしているぜ!」

 

「そう、みえるか?」

 

「ああ!いいじゃん、告白がどうなるかなんてわからねぇけどよ!」

 

「そうだな、健太の言うとおりだ。悩むよりかは彼女達と話してみたらいいんじゃないか?」

 

「話すか……全く、面倒だ」

 

 肩をすくめた俺を見て力と健太がほほ笑んだ。

 

 三人で飲んだ牛乳はとてもおいしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、これからカラオケでも行こうぜ!」

 

「いいなぁ!男三人で仲良く!」

 

「……俺は構わな――」

 

「ウェイト!」

 

 了承しようとしたところで目の前にビシッ!と白鳥歌野が現れた。

 

 傍にはおずおずと顔を出す藤森水都の姿がある。

 

「何だ?」

 

「探しまくったわよ!日向!」

 

「あの、炎さん、伊達さん……日向さんをお連れしてよろしいですか?」

 

「「どうぞ」」

 

「お前ら!?」

 

「いいか?日向、お前の悩みを解決できるのは彼女達と触れ合うことだけだ……だから、しっかりと遊んでくるんだ」

 

「そうそう!邪魔者は静かに立ち去るのみ」

 

「……本音は?」

 

「「お前の後ろ二人の目が怖い」」

 

 振り返ると二人は光のない瞳で笑顔を浮かべている。

 

 ちなみに日向が振り返ると瞳に光が戻っていた。

 

「よくわからないが……二人と遊んでくればいいんだな?」

 

「ああ」

 

「楽しんでこい!」

 

 力と健太に背中を押されて日向は二人と共に歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、俺は風呂に入った直後なんだが?」

 

「ノープロブレム!また入ればいいわ!」

 

「……まぁ、お付き合いお願いします。私達の告白を保留にしているんですから」

 

 痛いところを突かれた日向は静かに畑を耕すことに力を入れる。

 

 現在、日向、歌野、水都の三人で土地を借りて畑を耕していた。

 

「農業ソウルは不滅よぉ!」

 

「……おい、藤森水都」

 

「……」

 

「……おい」

 

「つーん」

 

「水都」

 

「はい?何ですか?」

 

 ファーストネームだけで呼ぶと嬉しそうに水都は笑顔で答える。

 

「どうして、ゴウタウラスとドラゴンシーザーの近くの森で畑を耕しているんだ?」

 

 見上げるとこちらを見つめているゴウタウラスとドラゴンシーザーの姿がある。

 

 二体は不思議そうにこちらをみていた。

 

「うたのんは多分、ドラゴンシーザーさんと長く居たいんだと思います」

 

「まさか、ブライのことか?」

 

「はい、今は普通そうにしていますけれど、ドラゴンシーザーは時々、ブライさんのことを思い出して遠くを見ている時があるってうたのん、言っていたので」

 

 ドラゴンシーザーのパートナーだったドラゴンレジャー ブライ。

 

 彼と共に戦った期間は少なくとも強い絆があったのだろう。

 

 二代目、力の戦士として継承した歌野は少しでもパートナーとしてドラゴンシーザーとも共にありたいということだ。

 

「ドラゴンシーザーは良き相棒に巡り合えたということか」

 

「当然です。うたのんですから」

 

「ワッツ?二人して何の話をしているのかしら?」

 

「白鳥歌野がいかに素晴らしい存在かを語っていただけだ」

 

「て、照れるわね!?そんなことをしても何にもないわよ!」

 

「何も求めてない」

 

「それはそれで納得できないわ!」

 

「理不尽すぎるだろうが」

 

「あははは」

 

 楽しい会話をしながら三人は畑を耕し続けた。

 

 そうしている間に三人とも汗びっしょりとなり、銭湯……ではなく、丸亀城にある浴室にきている。

 

 逃げようとしていた日向を連行して。

 

「俺は銭湯でいい!」

 

「ここまできた以上!一蓮托生よ!」

 

「その使い方は違う!断じて違う!」

 

「あ、諦めてください!わ、私も恥ずかしいですけれど!告白を保留にしているんですから!」

 

「それをいえば、何をしても許されると思うなよ!」

 

 流石に我慢ができずに日向は叫ぶ。

 

 尚、勇者と巫女の二人は恥ずかしいのかタオルを巻いている。

 

 日向は私服のままで抵抗していたのだが、いつの間にかタオル一枚にされていた。

おそるべしコンビネーション。

 

 とどめを刺すべく水都が囁く。

 

「そんな大きな声を出すと他の人がきちゃいますよ」

 

 ぴたりと動きを止める日向。

 

「ここは大人しく入って終わらせるべきだと思いますよぉ」

 

 悪魔のささやきともいえる言葉に日向は渋々、頷いた。

 

 後ろで歌野と水都がハイタッチしたことに気付かない。

 

 浴室内で水滴の滴り落ちる音が響く。

 

 三人でお風呂に入りながらも会話がない。

 

「(何か話すべきかしら?でも、どんな話題を?あぁ、もう、こういうことなら少しくらい、農業以外にも力を入れておけばよかったぁ!)」

 

「(い、勢いとはいえ……男の人とこうしてお風呂に入るなんて、心臓が口から出てきそうだよぉ)」

 

「……悪いな」

 

「「え?」」

 

 突然、日向が謝ったことで二人は戸惑った声を出す。

 

「俺が答えを延ばしているからこんなことをしたんだろう」

 

「「(ばれている!?)」」

 

「すまない、いつかは答えを出せるようにしたいと思っている……だから、もう少し、待っていてほしい」

 

 日向はそういって体を湯船に沈める。

 

 しばらくして、反応がなさすぎることから横を見た。

 

「!?」

 

 どういうわけか歌野と水都の二人は顔を真っ赤にして湯船の中に沈んでいた。

 

「何なんだ?」

 

 首を傾げながら二人を介抱する。

 

 幸か不幸か、四国の勇者たちにばれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて、思っているなんてな!」

 

「甘いです!」

 

 翌日、海岸へ向かっていたら待ち構えていたように土居球子と伊予島杏の二人に連行されて、俺はショッピングモールにあるフードコートへきていた。

 

 外に出たところでいきなり左右から掴まれて現在になる。

 

 

「いきなりこんなところへ連れてきてなんだ?」

 

 

「歌野さんと水都さんの二人とお風呂に入りましたね?」

 

「タマ達は知っているんだ。観念しタマえ」

 

「知っていることはどうでもいい。お前達の目的は何だ?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべている土居球子、申し訳なさそうにしていない伊予島杏の二人。

 

 ここは逃げるようなことはせずに真っ向から聞くとしよう。

 

「脅しなんてことはしません。ただ、私達とデートをしてください」

 

「いいぞ」

 

「いいか、もし……って、なにぃ!?」

 

 驚いた表情で二人がこちらをみている。

 

「何だ?」

 

「いや、あっさりと受け入れるから」

 

「……告白を保留にしているんだ。デートくらいはする」

 

 全員からの告白を保留にしているのだ。

 

 何もかも拒絶していたら流石に申し訳がない。

 

 だから、二人の提案を受け入れることにした。

 

「これはこれで……いいのかな?」

 

「そうかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありじゃなぁああああああああい!」

 

 数分後、土居球子の後悔した声が響く。

 

「素敵だよ!タマっち先輩!」

 

「杏!どうして、どうして、タマがこんなフリフリしたスカートをはきゃねばならんのだぁああああ!」

 

「似合うからだろ」

 

「日向ぁ!お前は黙っていタマえ!」

 

 訳が分からない。

 

 いつもズボンしかはいていないコイツがスカートをはいている姿を褒めただけだというのに、なぜ、ここまで言われなければならないのだろう。

 

「伊予島杏、俺はおかしなことをいったのだろうか?」

 

「全然!当然のことです!」

 

「ならば、どうして俺は怒られた?」

 

「タマっち先輩は素直じゃないから」

 

「成程」

 

「納得するんじゃなぁぁぁあい!おかしいぞ!当初の予定では日向のコーディネートのはずだ!どうして、タマのコーディネートに!?」

 

「デートなんだし、こういうことをしてもいいんじゃないかな?」

 

「うっ、デートのことに疎いから杏の言うとおりなのだろうか」

 

「俺もわからないから、その通りなのじゃないか?」

 

「うぅ、そもそも、タマにスカートとか、女物が似合うなんて」

 

「何を言っている」

 

 俺は真っ直ぐに土居球子をみる。

 

「少しガサツなのかもしれないが、お前は誰よりも優しい、他者を心配できる素敵な女の子だ。そんな女の子がオシャレをすれば可愛いというのは当然のことのはずだ。何も周りはお前をからかっているわけじゃない。伊予島杏も本心からお前のことを可愛いと言っている。素直にその言葉を受け取ればいい」

 

「…………あの、その」

 

 俺の顔を見て、視線をさ迷わせる土居球子。

 

「その、さ」

 

「なんだ?」

 

「ひ、日向も、タマがその、女の子らしい格好をすれば可愛いと、その、本当に思うか?」

 

「当たり前だ。お前は可愛い。少しは女の子らしい格好をしてみるといい」

 

「よ、よし!言ったな!責任を取るんだぞ!」

 

「……?よくわからないがいいだろう」

 

 俺の言葉に“なぜか”やる気を出した土居球子は試着室の中に消えた。

 

「グッジョブだよ!日向さん」

 

 隣を見ると滅茶苦茶笑顔の伊予島杏。

 

 何かしたのか?

 

「俺は何かしたのか?伊予島杏」

 

「うん!とても素晴らしいことを……あとぉ」

 

「なんだ?」

 

「そろそろ、私達のことをフルネームじゃなくて、名前だけで呼べませんか?」

 

「……わかった」

 

 俺の言葉に伊予島……杏は笑顔を浮かべる。

 

 その後、女の子らしい格好をした球子と杏、その二人と一緒に楽しくショッピングをすることになった。

 

 道中で俺の服装について色々と二人が意見をしている間、立ちっぱなしでとても疲れてしまった。

 

 たかが、俺の服で何をヒートアップしているのだろうか?

 

 最後まで、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デートは楽しかったですか?日向さん」

 

 夕方。

 

 二人と別れて、丸亀城にある訓練場へ俺は来ていた。

 

「ひなた、機嫌が悪そうに見えるが?」

 

 目の前で笑顔を浮かべているがどこか不機嫌なひなたに俺は問いかけることにする。

 

「……」

 

「おい?」

 

「ハッ!いえいえ、こちらへ来てください」

 

 帰り道に勇者たちから渡されていた端末にメールが届いた。

 

 送り主はひなたでここへくるようにと記されていたのだ。

 

 中に入ると道着姿で大太刀を目の前において正座している乃木……若葉の姿がそこにある。

 

「何の用だ?」

 

「来たな?落合日向」

 

 真剣な表情で彼女は俺を見る。

 

「私と模擬戦だ。勝利すれば、夕食は私とひなたの三人で共にしてもらうぞ!」

 

「別に夕食くらい誘われれば同席する」

 

「今まで断っていた癖に何を言うか!」

 

「……おい、ひなた」

 

「……」

 

「む?どうしたのだ?ひなた」

 

 俺が呼ぶと反応しなかったひなたに若葉が不思議そうに視線を向ける。

 

「あ、ごめんなさい、考え事を……とにかく、若葉ちゃんは日向さんを信じたいので、ここはひとつ、模擬戦を引き受けてください。でないと、梃子でも動かないので」

 

「……わかった」

 

 少し前なら断っていたが……俺はこいつらに甘くなったのだろうか。

 

 そんなことを思いながら腰からブルライアットを取り出す。

 

「攻撃が相手へ直撃したと判断すれば、その時点で止めます。いいですね?」

 

「ああ」

 

「構わない」

 

 互いに頷いて得物を構えあう。

 

「はじめ!」

 

 合図とともに俺は前に踏み出す。

 

 若葉の大太刀の居合の脅威を知っている。だが、ここで踏みとどまっていても俺に勝利はない。ならば、どうするか?

 

 正面から挑む。

 

 何より若葉の大太刀や動きは奴を連想させる。

 

 奴との戦いの参考になるかもしれない。

 

「私を前に考え事とは余裕だなぁ!」

 

 叫びと共に放たれる居合。

 

 直撃すれば大ダメージだっただろう。

 

 俺はギリギリのところで回避する。

 

 居合の後はわずかに隙ができる。

 

「甘い!」

 

 俺の予想に反して若葉は大太刀を自分の体の一部みたいに操っていた。

 

 本来なら居合をした後はわずかなスキができるというのに彼女にそれがない。

 

 強敵だ。

 

 腑破十臓が目をつけるだけはある。

 

「だが!」

 

 俺はすべてのバーテックスを滅ぼすために戦っている。

 

 こんなところで立ち止まっている暇はない!

 

 振るわれた大太刀を上空へ薙ぎ払う。

 

 そのまま彼女目がけてブルライアットを振り下ろす。

 

 が、眼前で止める。

 

「そこまで!」

 

 ひなたの声で俺はブルライアットを鞘に納めて、落ちてくる大太刀を掴んで若葉へ差し出す。

 

「俺の勝ちだ」

 

「ああ、私の、負けだ」

 

 悔しそうな表情を浮かべる若葉を見て、少し考える。

 

「俺が勝利した時のことを決めていなかったな。若葉、俺とひなたの三人で夕食を取ろう」

 

「……なぬ!?」

 

「あら?」

 

 驚いた表情をする二人。

 

「ど、どういうことだ?そもそも、先ほどからお前はなぜ、名前だけで呼んでいる」

 

「……杏に言われたんだ。そろそろ名前を呼んでほしいとな」

 

「杏が……そうか、だが、嬉しいな。日向に名前を呼ばれると温かい気持ちになる」

 

 胸元に手を当てながらはにかんだ表情を浮かべる若葉。

 

 いつも凛々しい姿か険しい表情しかみてこなかったからだろうか。

 

 その姿はとても。

 

「可愛いな」

 

「!?」

 

「あらあら!」

 

 ボン!という音が聞こえたような気がした。

 

 前を見ると口をパクパクして、目をぐるぐると回している若葉の姿がある。

 

 隣では嬉しそうに目を細めているひなたの姿があった。

 

「な、な、何を、何を言っているのかわかっているのか!?」

 

「素晴らしいです!日向さんもようやく若葉ちゃんの素晴らしさに気付いてくれたみたいでとても嬉しいです!ええ、とても!」

 

「ひなた!少し、黙っていてくれないか!?」

 

「……夕食にいかないのか?いかないなら」

 

「行こう!今すぐだ!」

 

 嬉しそうに俺の手を掴んでくる若葉。

 

 だが、すぐに慌てて手を放そうとした。

 

 俺はその手を掴んで歩き出す。

 

「お、おい!手を」

 

「夕食を食べに行くんだろう?早く行こう」

 

「……まさかと思うが蕎麦ではないだろうな?」

 

「朝昼晩も蕎麦を食べるほど、蕎麦好きじゃない」

 

「そ、そうか……まて、まさか、朝か昼に蕎麦を食べたんじゃないだろうな?」

 

「さて、夕飯は何だろうな」

 

「待て!まだ話は終わっていないぞ!!」

 

「うふふ、楽しそうでよかったですね。若葉ちゃん」

 

 足早に歩き出した俺を追いかける若葉と嬉しそうについてくるひなた。

 

 夕食は騒がしくもとても楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで!」

 

「夜は私達のターンよ」

 

 丸亀城にどういうわけか存在する俺の部屋。

 

 その部屋で俺はちぃちゃんとたかし……友奈の二人に見つめられていた。

 

 夕食の後、ゴウタウラスのところへ向かおうとしたらいきなりこの部屋へ連れてこられてしまう。

 

 少し前に部屋を用意したといわれていたが滅多に足を運ばなかった。

 

 室内は最低限の家具と一人が寝るにしては少し大きい目のサイズのベッドがある。

 

 そのベッドの上で寝間着姿のちぃちゃんと友奈がこちらをみていた。

 

 どうでもいいことだが、ちぃちゃんは赤色のパジャマで友奈は桃色のパジャマである。

 

 俺は何を実況しているんだ?

 

「二人のターンといのは?」

 

「昨日と今日!日向さんはみんなと楽しく遊んでいました!」

 

「まぁ、そうだな」

 

「私達はその間、寂しくしていたわ……ねぇ、高嶋さん」

 

「ぐんちゃんの言うとおり!日向さん!私達は寂しかったんです!」

 

「……つまり、構えと?」

 

「言い方が幼くて嫌なのだけれど、夜は私達と一緒に寝るのよ」

 

「このベッドにか?」

 

 俺の言葉に二人は迷わずに頷く。

 

「それは流石に問題があるんじゃないか?」

 

 十四、五歳の少女達がこんな男と一緒に寝るなど、大社知れば問題になる。何より世間のマスゴミという存在が騒ぐ格好のネタになってしまう。

 

 それは不味いと思って断ろうとしたら。

 

「しくしく……」

 

「ああ!ぐんちゃんが泣いている!」

 

 目の前でちぃちゃんが泣きだした。

 

 ウソ泣きじゃない、本当に泣いている。

 

「悲しいわ。他の皆とは素敵な時間を過ごしているというのに、私や高嶋さんとは過ごしてくれないのね?そうよね……所詮、私は噛ませのような存在よ。恋愛ゲームでも幼馴染が噛ませなことが多い……どうせ、私もその種類なのよ。こんな私を、日向は好きになってくれるはずがないわよね、そうよね。こんな私なんか……」

 

「ああ、ぐんちゃんが!?困ったなぁ、誰かぐんちゃんと私の心を癒してくれる素敵な人はいないかなぁ?」

 

 チラチラとこちらをみてくる友奈とちぃちゃん。

 

 俺はため息を零す。

 

「わかった。二人と一緒に寝る。これでいいか?」

 

「「うん!」」

 

 嬉しそうにほほ笑む二人はすぐに一人分がすっぽりと収まるスペースを作る。

 

 ここでウジウジしていても仕方ないから真ん中に入ると待っていたように左右から抱きしめてきた。

 

「三人で寝るのは狭くないか?」

 

「そんなことないよ!とぉっても暖かいもん!」

 

「高嶋さんの言うとおりね、ポカポカしていて気持ちいい」

 

 嬉しそうに二人はこちらへ顔をうずめてくる。

 

 たった寝るだけのことなのによくわからない奴らだ。

 

 そんなことを思いながら俺は睡魔に襲われて瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、視線を感じて目を覚ます。

 

 すると、こちらをじぃっと覗き込んでいるちぃちゃんの姿があった。

 

「ちぃちゃん?」

 

 目を覚ました直後、だからか頭がぼんやりする。

 

「日向って、寝起きは弱いのね」

 

 ぼんやりみていると急にそんなことをいってちぃちゃんが頬を突いてくる。

 

「にぁにぃ?」

 

 普通に尋ねたつもりだったのだがのんびりした声になっていた。

 

 俺の姿にちぃちゃんが笑みを浮かべる。

 

「可愛いわね」

 

「そんにゃこと」

 

 指を突いてくるちぃちゃんを払いのけようとするが、やんわりとその手を掴まれてしまう。

 

 手を重ね合わせるようにして握り締めあっていた。

 

 ちぃちゃんは顔を近づけてくる。

 

「ありがとう、日向、大好き」

 

「……」

 

「そんな困った顔をしないで、貴方のおかげで私は私をもっと好きになれた。高嶋さんも貴方に好意を寄せている」

 

 ちらりと隣で寝ている高嶋友奈をみる。

 

 すやすやと気持ちよさそうに寝ているが両手は俺の腕を掴んで離さない。

 

 大事なものを扱う様に大事に、とても大切そうに俺の腕を抱きしめている。

 

「俺は……」

 

「無理に答えを出す必要はないわ……いつか、貴方の中で自然と答えが出るはず……ただ、できれば」

 

 ちぃちゃんがそこで笑顔を浮かべる。

 

 魅入られるほどの綺麗な笑顔。

 

 もし、月の光が差し込んでいたら女神と錯覚していただろう。

 

 それほどまでに綺麗だった。

 

「できれば、私と高嶋さんを選んでほしいわ」

 

 そういってほほ笑んでくるちぃちゃん。

 

 いつかは答えを出してあげたい……不思議と、そう思うようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それは叶わぬ願いだと俺は知っている。

 

 はじまりがあれば、終わりがある。

 

 この日々に終わりが近づいていた。

 

 




本編はおそらく、後二話ほどで終わり。

ゆゆゆはやるかどうか未定……なんだよなぁ。

次回の番外編は幼子のために起こる暴走が予定。


ところで、アキバレンジャーは非公認だけど、スーパー戦隊にカウントすべきだろうか、

非公認だからいれなくてもいいのかなぁ?


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番外編:驚愕!敵になった黒騎士!?

病みは薄い……いえ、変な方向にいくかもしれません。


 

 ジルフィーザはため息を零す。

 

 場所はとある焼き肉屋。

 

 炭で焼かれている肉をいつものメンバープラスと囲みながら食べていた。

 

「奴の復活は完全ではない」

 

「それはどういうことだ?」

 

「勇者か巫女にキスされたらもとに戻るんだろ?」

 

「本来ならばな」

 

 大将とアラクレボーマの言葉にジルフィーザは続ける。

 

「インフェルシアの魔法ならば、それで解除されていた。しかし、そこの造反神が手を加えた。キスを一回すれば呪いは解ける。だが、記憶やそのほかの力に関してはもう一度、キスしなければならない。そのキスにも厄介な条件がついている」

 

「面倒な」

 

「まーまー、難しい話もそうだけど、まずは腹ごしらえだぜ?」

 

 腹部にエプロンをつけながら元ボーゾック総長ガイナモが皿を机に置く。

 

「これはサービスだ。受け取りな」

 

「すまないな。ガイナモ」

 

 頭を下げる大将はそういいながら本来の姿、炭火焼オルグへ姿を変えた。

 

「いいってことよ!炭火焼オルグには良い炭をもらっているからな!何より、俺達は助け合わないといけねぇからな、何でもいってくれ」

 

「では、そちらの伝手で探してもらいたいものがある」

 

「おう!何だ?」

 

 ジルフィーザは真剣な表情で告げる。

 

「癒しの鹿を探してほしい。それが見つかれば、なんとかなるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?この男の子が黒騎士さんなのでございますか?」

 

 讃州中学勇者部部室。

 

 室内で土門直樹の驚きの声が響いた。

 

 赤嶺友奈の襲撃から少しばかりの日が流れている。

 

 あれから部室の護衛ということで時々、自動車会社ペガサスで働いている五人、激走戦隊カーレンジャーのメンバーが数人やってきていた。

 

「ところで、あれは、どうなってんの?」

 

 陣内恭介はおそるおそる部室の端を指す。

 

 犬吠埼風、結城友奈、秋原雪花、東郷美森が正座させられて、その上に巨大な石を乗せられている。その傍ではなぜか気絶している郡千景と高嶋友奈の姿もあった。

 

 騒がれないように口は布で塞がれている。

 

 さらに胸元には「私は勇者としてあるまじき姿をさらしました。反省しております」というプラカードが下げられていた。

 

 だが、目が恐ろしい。

 

 目を限界まで見開いて、瞳に光が失われている。

 

 視線は楽しそうにしている日向と園子ズに向けられていた。

 

「……聞かないでください。できれば……彼女達の名誉のために」

 

「いや、いやいや!名誉いうたかて、既に色々失われとると思うんやけど!?」

 

 目をそらしたまま言うひなたに上杉実が叫ぶ。

 

「「シッ!静かに!」」

 

「す……すいません」

 

 乃木園子ズに言われて実は頭を下げる。

 

 彼女の膝の上ではすやすやと寝ている男の子がいた。

 

 落合日向、西暦、神世紀の時代において天の神を恐れさせたといわれる存在。

 

 そんな彼がどういうわけか小さな男の子の姿ですやすやと少女の膝の上で寝ている。

 

「女の子の膝の上で寝ているなんてうらやましいわぁ」

 

「そういう問題じゃないでしょ!?問題はどうして、彼が幼い姿なのかってことなんだろう?」

 

「そうです。私達の知っている限り、神樹様は勇者として戦っていた者達を読んでいます。それなら日向さんも黒騎士として戦っていた時の状態で呼ばれているはずなんです……どうして、こんなに幼いのかわかっていません」

 

「わかっておられないのですか?」

 

「はい、それと問題が」

 

「問題?」

 

「えっと、別室へ」

 

 ひなたに言われて男子三人は隣の部屋に。

 

 そこで言葉を失う。

 

「え?」

 

「なんでございますか?」

 

「全員、ぶったおれとるやん」

 

 実の言葉通り、別室では満足したような表情で西暦、神世紀の勇者たちが幸せそうに倒れている。

 

 ちなみに幸せそうに寝ている歌野に苦笑いしたように水都が介抱していた。

 

「え、どうなってんの?これ」

 

「あの幼い日向さんをみて、このように」

 

「補足すると笑顔を見て倒れちゃいました」

 

「「「うそぉ」」」

 

 三人の声が教室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神樹の作り出した世界は四国とほとんど同じである。

 

 しかし、別世界からスーパー戦隊が呼び出されたことで一部に変化が起こっていた。

本来なら存在しない自動車会社ペガサスがその例だ。

 

「それって、ギャップ萌えじゃないかしら?」

 

 スパナ片手にペガサスに勤務する女性志乃原菜摘は指摘する。

 

「キャップ燃え?帽子燃やすんかい?」

 

「いや、違うでしょ」

 

「勇者の子達が惚れている男の子は普段、冷静でカッコイイ子。そんな子が幼くなって無邪気にほほ笑む。惚れた弱みっていうのもあるかもしれないけれど、相当インパクトあったんじゃない」

 

「言われてみれば確かに!」

 

「でもさ!なんでその日向って子、小さくなっちゃったのかな?」

 

 疑問を八神洋子は尋ねる。

 

「さぁ?巫女さんも原因はわからないっていっていたなぁ」

 

「謎は深まるばかりでございます」

 

「謎はわかったけど、俺らどないすんねん?」

 

「そのことだけど、ひなたちゃんから頼まれていることがあるんだ」

 

 恭介の言葉に全員の視線が集まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーぁ、今頃、あの人は勇者たちに色々されてしまっているのかなぁ?」

 

 赤嶺友奈はとある民家の屋根の上で両手の上に頭を乗せて呟いていた。

 

「うーん、それを考えると色々と不愉快な気持ちになるなぁ」

 

 ぶつぶつといいながら赤嶺友奈は体をひねらせて民家の中に入る。

 

 中に入ると人だったものの無数の残骸が転がっていた。

 

「あーぁ、派手にやっているなぁ」

 

 ため息を零しながら彼女はそのまま中に入る。

 

 この惨劇を引き起こしたのは赤嶺友奈ではない。

 

 別の存在だ。

 

「あーぁ、派手にやっているねぇ」

 

 彼女の視線の先、そこでは細長い剣を構え、漆黒の鎧を纏った存在が立っていた。

 

 動作をみせずに赤嶺友奈に刃を突き立てようとする。

 

 しかし、横から現れた黒獅子リオの手が刃を阻む。

 

 ギロリと鎧越しに相手がリオと赤嶺友奈を睨んだ。

 

「私を狙うのもいいけれど、貴方は倒したい存在がいるんでしょ?」

 

「――――――――」

 

 獣のような声を上げる相手。

 

「今なら倒せるよ?私にちゃんと協力してくれるならね?」

 

 悪魔の微笑みにその存在は静かに剣を下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、子供の御守ってどうなのよ?」

 

「仕方ないですよ。私達以外のメンバーがその、全滅しておりますから」

 

 三ノ輪銀の言葉に鷲尾須美がうんうんと頷いた。

 

「でも、意外です。先輩がみんな全滅するなんて」

 

「恋する乙女にとって超危険ってことやなぁ」

 

 実は缶コーヒーを飲む。

 

 視線の先では園子に手を振って遊んでいる落合日向と振り回されている陣内恭介と土門直樹の姿があった。

 

「子供は風の子いうけれど、元気やなぁ」

 

「なーんか、本とかで聞いている黒騎士のイメージとは全然、違うなぁ」

 

「銀、どうしたの?」

 

「いや、アタシさ、弟とかに黒騎士様の本を何度も読んで聞かせたんだよ。その本の内容と目の前の子のイメージがどうしてもかち合わないんだよなぁ」

 

「絵本は絵本やと思うで?本の中のあの子がどうであれ、実際はあんな元気で明るい子っていうこともありえるやん!」

 

「そうかも、しれませんね」

 

 鷲尾須美と銀は楽しそうにしている二人の様子を見る。

 

 尚、小学生園子はベンチで寝ていた。

 

「それにしても大人のそのっちがああも懐かれるなんて、どうしてかしら?」

 

「ふっふっふっ~私の溢れる母性に惹かれたんだよぉ~」

 

 手を引いてやって来る園子のどや顔に銀と須美は苦笑する。

 

「あ、どこいくんや!」

 

「トイレ~」

 

 走り出した日向はそういうと男子トイレの方に向かう。

 

 十分後。

 

「いくらなんでも長すぎるわぁ!」

 

 トイレの中で実は叫ぶ。

 

 すぐに。

 

「どっかいっておらん!」

 

「ああ~」

 

「そのっち!?」

 

「わわ、急いで探さないと!」

 

 複数に別れて探すために彼らは公園内を走り出す。

 

「あ、あれって、交番じゃないのか?あそこで聞こうぜ!」

 

 銀が青く細長い交番のようなものを見つけた。

 

「あれって、おーい、シグナルマン~」

 

 実は移動式の交番、コバーンベースの前で仁王立ちしている警察官、シグナルマンへ声をかけた。

 

「む?どうされました?チーキュの一般市民さんとお嬢さん」

 

「ち、チーキュ?」

 

「それは置いといて、あのさ、ここら辺にこれくらいの男の子通らなかった?」

 

「む?ああ……そういえば、数十分ほど前に赤い髪の女の子と共にあっちへ、いや、こっちかな?そっちの方へいったような」

 

「どっちやねん!?」

 

「待って、赤い髪の女の子って……まさか!!」

 

 銀は焦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん……どこまでいくの?」

 

「大丈夫、大丈夫、もうすぐ着くから」

 

 三ノ輪銀の予想通り落合日向は赤嶺友奈に手を引かれて森の中を歩いていた。

 

 不思議そうにしている日向にニコニコと赤嶺友奈は答える。

 

 しかし、日向にとって目の前の赤嶺友奈は結城友奈の姿をしていた。

 

 そのために、日向は疑うことなくついてきていた。

 

「ねえ、日向さ――君」

 

「なぁに?」

 

「お姉ちゃんのこと、好きかな?」

 

 笑顔を浮かべて日向に目線を合わせながら赤嶺友奈は尋ねる。

 

 問われた日向は首を傾げた。

 

 赤嶺友奈は目を閉じているが瞳はドロドロと濁っている。

 

 少しして、日向はにこりと笑顔を浮かべる。

 

「大好きだよ!」

 

 元気よく答えたことで赤嶺友奈は笑顔を浮かべる。

 

「そっか、そっか、それは嬉しいよ!」

 

「お姉ちゃんは僕のこと、好き?」

 

「うん、大好き、そりゃもう、ずぅっとこうしていたいくらい」

 

 聴くものが聞けば震えるような言葉を伝えながら赤嶺友奈は優しく抱きしめる。

 

「あ、日向!見つけた!」

 

「一緒におるんは……え、友奈ちゃん!?」

 

「違う!お前は赤嶺友奈だな!」

 

 銀はビシッと指を突き付ける。

 

 日向は赤嶺友奈に抱きしめられて振り返ることは出来なかった。

 

 だから、知らない。

 

 顔を上げた赤嶺友奈の瞳から感情の色が失われ、激しい怒りの炎が噴き出していた。

 

「な、なんや、あの顔、友奈ちゃんやないんか」

 

「実さん、すぐにみんなへ連絡を」

 

 銀の指示で実がアクセルチェンジャーで仲間を呼び出した時。

 

 上空から黒い影が刃を振り下ろす。

 

「あぶなっ!」

 

 実が銀を抱えて横に飛ぶ。

 

 少し遅れて襲撃者の刃が地面にめり込んで爆発を起こす。

 

「な、なんちゅうことをするんや!」

 

 目の前に現れた存在はアンモナイトを連想させるような漆黒の鎧を纏っている。

 

「こぉらぁ!」

 

 実がアクセルチェンジャーを構えた時、ポリスビーダーに乗ってシグナルマンがやってくる。

 

「本官の許可なく!戦闘を行うではない!」

 

「シグナルマン!?」

 

 やってきたシグナルマンは漆黒の鎧を纏っている人物を見て叫ぶ。

 

「誰だ!本官のいる地域で破壊活動を行うなど!断じて」

 

 シグナルマンは最期まで言葉を発することはなかった。

 

 襲撃者が刃の斬撃をシグナルマンに放つ。

 

 シグナルマンは衝撃波を受けて飛んで行った。

 

「退場、はや!?」

 

「何だよ、アイツ、あんな禍々しい姿、バーテックスと同じかそれ以上じゃないのか」

 

 銀は襲撃者の存在に恐怖する。

 

 身構える二人。

 

 そこに恭介たち四人がやってきた。

 

「実!」

 

「めっちゃええところにきてくれました!」

 

「あれが赤嶺友奈?」

 

「うわっ、結城、高嶋ちゃんにそっくり!」

 

 驚きを隠せない菜摘と洋子は驚きの声を漏らす。

 

「まずはあの黒いのを倒すぞ!激走!」

 

「「「「「アクセルチェンジャー!」」」」」

 

 五人はクルマジックパワーによって激走戦隊カーレンジャーにその姿を変える。

 

「レッドレーサー!」

 

「ブルーレーサー!」

 

「グリーンレーサー!」

 

「イエローレーサー!」

 

「ピンクレーサー!」

 

「戦う交通安全!」

 

「「「「「激走戦隊カァアアアアアアアレンジャー」」」」」」

 

 五人はポーズをとる。

 

「いくぞ!」

 

 レッドレーサーの叫びと共に黒い襲撃者とぶつかりあう。

 

 しかし、すぐに五人は吹き飛ぶ。

 

「何やねんあいつ!?固すぎだろ!」

 

「こっちの攻撃は弾かれるのに、向こうの攻撃は通るなんて最悪じゃない!」

 

 叫ぶグリーンレーサーとイエローレーサー。

 

 目の前の襲撃者は剣先を五人へ向ける。

 

 銀は勇者の姿になって赤嶺友奈に迫った。

 

「いけないなぁ」

 

 友奈は日向を抱えながらひらりと躱す。

 

「日向君の見ている前で暴力振るっちゃダメだよぉ?」

 

 日向の目元を隠すようにしながら蹴りを放つ。

 

 攻撃を受けた銀は吹き飛ぶ。

 

「うーん、流石は暗黒の鎧だよねぇ。何もかも破壊することを目的としている力だけあって凄いなぁ……それにしても、理性が失われるのが欠点だよねぇ」

 

 ため息を零す赤嶺友奈。

 

 起き上がろうとする銀の前に暗黒の鎧が立ちはだかる。

 

「まずい!」

 

「銀ちゃん!逃げて!」

 

 レッドレーサーたちが起き上がろうとするがダメージが大きすぎて立てない。

 

 近づいてくる暗黒の鎧。

 

 刃が銀に迫るという瞬間……。

 

「させないわ」

 

 千景の鎌が暗黒の鎧を貫く。

 

「勇者ァパァァァァンチ!」

 

 仰け反ったところで高嶋友奈の拳が打ち抜いて、相手を吹き飛ばす。

 

 殴られた暗黒の鎧はキリモミ回転しながら地面に倒れた。

 

「うわーぉ、凄い力だねぇ、最初から切り札を使っているわけだ」

 

 郡千景と高嶋友奈の二人は切り札を発動していた。

 

 その攻撃によって暗黒の鎧は傷だらけになっている。

 

「赤嶺の友奈ちゃん!日向さんを返してもらうよ!」

 

「高嶋さんの言うとおり!日向は私達と一緒にいるの」

 

 身構える二人。

 

 その目はとても強い意志が宿っていた。

 

「返す?一緒?あは、あははははははははは」

 

 小さく笑う赤嶺友奈。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザッケンなぁあああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叫びと共に放たれた気迫に全員が動きを止める。

 

 あまりの気迫にグリーンレーサーは腰を抜かしてしまう。

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!お前達と日向様が一緒に居るのが当たり前?そんなこと、誰が決めた?私が一緒にいる。私が一緒に居ればいい、私だけが彼を理解してあげられるんだ!」

 

 ぞっとするほどの叫びに誰もが言葉を失っている。

 

「お姉ちゃん?」

 

 抱きしめられている赤嶺友奈を落合日向が見上げた。

 

 ニヤリと赤嶺友奈は銀や高嶋友奈、千景達を微笑む。

 

 膝を落として日向と目を合わせる。

 

「乃木園子ちゃんが封印を中途半端に解いたようだけど、重要なのは最後が誰なのかということ……私が」

 

 逃げられないようにがっしりと掴みながら顔を近づける。

 

「日向様、私と永遠に一緒だよ」

 

 ぽかんとしている日向に赤嶺友奈はキスをした。

 

 直後、まばゆい光が空に広がる。

 

 全員が驚いている中、赤嶺友奈を抱きしめる様に一人の男が立っていた。

 

「俺は……」

 

 彼は驚いた表情で周りを見ていた。

 

「「ウソ……」」

 

 千景と友奈は彼の姿を見て、驚きの声を漏らす。

 

 二人の知っている時代の彼より少しばかり老けているが見間違えるわけがなかった。

見間違えるなど決してない。

 

 落合日向がそこに立っていた。

 

「日向さん!」

 

「……ひゅう――」

 

 駆け寄ろうとした二人の足元に銃弾が直撃する。

 

「ど、どうして」

 

「……なんで?」

 

 戸惑いの声を漏らす友奈と千景。

 

 レッドレーサーが叫ぶ。

 

「おい!何をするんだ!彼女達はキミの帰りを待って――」

 

「危ない!」

 

 返事は銃撃だった。

 

 カーレンジャーのメンバーは三人の勇者たちを庇って銃弾を受ける。

 

「何するんや!お前!この子達の仲間やないんか!」

 

 流石に我慢できなかったグリーンレーサーが叫ぶ。

 

 日向はブルライアットを腰に戻す。

 

 酷く冷めた目のまま彼は口を開く。

 

 勇者たちにとって絶望の言葉を。

 

「お前達は俺の敵だ。そうだろう?友奈」

 

 にこりと笑みを浮かべて日向は赤嶺友奈に問いかける。

 

「うん!その通りだよ!日向様!」

 

「わかった」

 

 ブルライアットを抜いて空に掲げて日向は黒騎士にその姿を変える。

 

「ウソ、なんで……日向!」

 

「日向さん、どうして!?」

 

 叫ぶ千景と友奈。

 

 しかし、黒騎士は答えずにブルライアットを振るう。

 

 次々とカーレンジャーを斬り、レッドレーサーとぶつかる。

 

「オイ!お前!なんでこっちに刃を向けているんだ!お前は友奈ちゃんと千景ちゃんの、仲間だろ!?」

 

「“友奈”の敵なら、俺は斬る!黒の一撃!」

 

「うわぁ!」

 

 叫びと共に放たれた一撃でレッドレーサーは吹き飛ぶ。

 

 そのまま黒騎士がとどめを刺そうとした時。

 

「やめろぉ!」

 

 ゲキレッドがゲキセイバーで黒騎士を攻撃する。

 

 攻撃を受けた黒騎士はのけ反りながらもゲキレッドの振るう二つの刃と切りあう。

 

「皆さん!大丈夫ですか!」

 

「すまん、助かったわ」

 

 やってきたゲキレンジャーのメンバーとマスクマンたちにカーレンジャーのメンバーは助け起こされる。

 

 回るようにゲキセイバーを振るうゲキレッドと黒騎士は互角に渡り合っていた。

 

「レッドレーサー、彼が?」

 

「ああ、彼が黒騎士だ」

 

 レッドマスクの言葉にレッドレーサーが頷く。

 

「あ、あれをご覧になってください!」

 

「黒騎士ィィィィィィィイ!」

 

 暗黒の鎧が体から黒いオーラを放ちながら黒騎士に迫る。

 

 その速さは先ほどまでの比ではない。

 

「なんだ、ありゃ!?」

 

「めっちゃ早いやん!」

 

「さっきまでの実力じゃなかったってことね」

 

 暗黒の鎧が刃を黒騎士へ振るおうとした時。

 

「黒の衝撃!」

 

 振り返ることなく必殺の一撃が暗黒の鎧を切り裂く。

 

 切り裂かれた暗黒の鎧はドロドロに溶けて消滅する。

 

 黒騎士は鞘にブルライアットを収めた。

 

「うわぁ~!流石は黒騎士様だよぉ!私が用意していた駒を倒しちゃうんだからぁ」

 

 笑顔で彼の傍に近づく赤嶺友奈。

 

 彼女はちらりと高嶋友奈や郡千景に笑みを向ける。

 

 その笑みは相手を挑発するような嘲笑だった。

 

「ささ、今日は帰りましょう!目覚めたばかりで疲れているでしょうから」

 

「……わかった」

 

 頷いた黒騎士の腕に赤嶺友奈は抱き着く。

 

 突風が巻き起こり、彼らの姿は消えた。

 

 手を伸ばしていた郡千景と高嶋友奈の手は届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、面倒なことばかり起こるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々の隙間から学ラン姿の男が小さくため息を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今はゆっくり休んでください、日向様」

 

「……ああ、すまない」

 

 何もない部屋。

 

 そこは赤嶺友奈の部屋、ではなく。彼女が密かに用意していた部屋。

 

 ベッドのみの部屋で黒騎士から日向の姿に戻って横になる。

 

「ゆっくり休んでください」

 

 微笑みながら日向の頬へキスを落とす赤嶺友奈。

 

 反応することなく日向は深い眠りにつく。

 

「目覚めてすぐに強敵と戦ったから、疲れているんだね……今は休んでね」

 

 微笑みながら赤嶺友奈は部屋を出ていく。

 

「やった!やったぁ!」

 

 外に出たところで我慢の限界が出たのか両手を空に掲げてくるくると回る。

 

 回りながら彼女の部屋に入り込む。

 

 無数の落合日向が貼られている写真。

 

 彼女はベッドの上に飛び込みながら抑えきれない喜びを噛みしめていた。

 

 

 

――ようやく、ようやく手に入れた。

 

 

 ベッドに置かれている抱き枕。

 

 側面には落合日向の顔写真がプリントされている。

 

 明らかに盗撮されているような角度のものの抱き枕を赤嶺友奈は強く、強く抱きしめた。

 

「貴方達じゃない、彼は私を選んでくれた。もう、貴方達が彼に付け入ることなんてない。もう、出来ないんだよ」

 

 勝ち誇ったように呟きながら赤嶺友奈は立ち上がる。

 

 無数に貼られている写真。

 

 それらを眺めながら赤嶺友奈は微笑む。

 

 これからのことを考えると楽しみが広がる。

 

 いや、まだだ。

 

 赤嶺友奈は拳を握り締める。

 

「まだ、足りない。ちゃあんと私色に染め上げないとね。今はまだ無色だから……これから、これから、私色に染める」

 

 にこりと笑みを浮かべて赤嶺友奈は微笑む。

 

 拳はギリリと力強く握りしめたままだった。

 

 




というわけで、黒騎士は赤嶺友奈の手に堕ちました。


簡単な補足説明。

激走戦隊カーレンジャー。
おそらく、戦隊でかなり、いや、唯一といっていいギャグの多い戦隊。
知らない人は戦う交通安全という意識が高いだろうけれど、どちらかというとレースや車の方で有名な戦隊である。
ちなみに、戦隊において、唯一、ヴィランの初期幹部メンバー、誰も死亡しなかった戦隊作品でもある。途中参戦した敵幹部などはことごとく散っております。
視聴したことがない人はみてみてもいいかもしれない。
最初に出てきたガイナモがカーレンジャーの敵、ボーゾックの頭を務めていました。



暗黒の鎧。
登場作品は爆竜戦隊アバレンジャー。
第一話からその姿を見せて、中盤、終盤と登場していた存在。
ちなみに中にいた人は神世紀において、黒騎士と色々あったかもしれないモブ。
復活した黒騎士によって瞬殺された。


次回は本編、もしくはギャグの番外編の予定。
どちらかになるかはまだ不明です。







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黒騎士と最後の戦い

なんとか、書き上げた。

誤字脱字があるかもしれませんが、本編、最終話手前の話です。

色々詰め込み過ぎて、遅くなってしまった。





 

 

「お前が俺に話っていうのは珍しいな」

 

 俺は白鳥歌野が耕している畑の近くで流星光と向き合っていた。

 

 前に水都に見かけたら声をかけてほしいと頼んでおいた。場所と時間を指定して、その場で待っていると奴が現れる。

 

「お前に頼みがある」

 

「こりゃ、天変地異の前ぶれか何かかねぇ?」

 

「ふざけるな……わかっているだろ」

 

 俺の言葉に流星光が目を細める。

 

「この世界の終わりねぇ」

 

「いずれ、いや、近いうちに俺達の前にヤツは姿を見せる。そうなれば、勇者の連中は“死ぬ”。その未来を俺は、変えたい」

 

「変えたいかぁ、お前にどういう変化が起こったのやら、まぁ、話は聞いてやろう。お前の頼みとはなんだ?」

 

「ああ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?日向?」

 

 昼休み、高校でお昼を食べようとしていた力は校門の前に立っている日向を見つけた。

 

「どうしたんだ?日向!」

 

「ああ、力か。高校をみておきたいと思ってな」

 

「高校を?」

 

「ああ、色々あってちゃんと通えなかったからな」

 

「そっか」

 

 日向は黒騎士になる前は学生。

 

 しかし、復讐者になってからというものの、彼はまともに学生生活を送ってこなかった。

 

 そんな彼が高校にどうして興味を示したのだろう。

 

 不思議に思いながらも力は高校の中を案内することにする。

 

 許可を取らなければならないのだが、一緒に同行していた上里ひなたの言葉によってすんなりと許可が通った。

 

「力!何やっているんだ?」

 

「お!誰だよ!その人」

 

「みたことないな!力の友達?」

 

「はじめまして!私達、力の友達です!」

 

 笑顔を浮かべて力のところへやってくる四人のメンバー。

 

 高校で力と仲良しの友達だ。

 

「日向は初めてだよな。俺の友達だ。みんな、彼は落合日向だ。俺の友達」

 

「落合日向だ、力とは小学校の時からの付き合いだ」

 

「へー!あ、俺は山形大地!陸上部所属だ!」

 

「俺は浜洋平!水泳部に所属しています!ちなみに高校生ながらにインストラクターの資格もっております!」

 

「自分でいうか!?俺は日野俊介!体操部なんだ!」

 

「最後は私ね?森川はるなよ。生徒会長でバトン部に属しています」

 

 力の仲間達の自己紹介。

 

 彼らを見て、日向は一言。

 

「お前の友達は個性的すぎないか?」

 

「ごめん、日向……お前も人のこといえない」

 

 ポンと力が日向の肩を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お!日向じゃん!こんなところで何してんだ!」

 

 ある教室から飛び出した健太が力たちと一緒に歩いている日向の姿を見つけて声をかける。

 

「いや、少し、高校をみておきたくて」

 

 日向は健太に小さく微笑む。

 

 その時、大きな声が響いた。

 

「おい!テスト勉強中だろうが!何やっているんだ!」

 

「健太!補習を受けているとまずいから助けてくれっていったのはお前だろう!」

 

「もう!健太ぁ!」

 

「あ!イケメンがいる!」

 

 教室の窓から顔を出している生徒たち、

 

 次々と顔を出したことからぎゅうぎゅうと窓に挟まり、最初に顔を出していた一人が顔をしかめていた。

 

「あれ、大丈夫なのか?」

 

「いつものことだ」

 

 日向の質問に力は短く答えた。

 

「デジ研はあの通りだからな」

 

「…………デジ研?」

 

 大地の言葉に日向は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ!ここがデジタル研究会だ!」

 

 健太が両手を広げて部室に入る。

 

「デジタル研究?パソコンとかだよな。健太……お前、パソコンできたのか?」

 

 日向は知っている。

 

 健太はゲームができるけれど、パソコンを触ろうとすれば蕁麻疹がでていた。

 

 そのことを覚えていた日向は不思議そうに健太をみる。

 

「ま、まぁ、最初は出ていたけれど、今は、ほら、なんとかできる!」

 

「手が震えているし、タイピングできていないぞ」

 

 日向の指摘に周りが笑う。

 

「しっかし、炎と健太のバカが仲良しなのに疑問だったが、これで謎が解けたな」

 

 並樹瞬が二人のやり取りを見ながらうんうんという。

 

「確かに……おっちょこちょいの健太と成績優秀で野球部のエースである炎力の組み合わせには誰もが疑問を抱いていたが……間に一人いたわけだ」

 

「納得だけれど、でも、あの三人のやり取りを見ているとすっごいぴったりだと思う」

 

 彼の言葉に続けて遠藤耕一郎と城ケ崎千里が同意する。

 

「やっぱり、イケメンだよなぁ……彼女とか」

 

――彼女とかいるのかなぁと言おうとした今村みくは背中に寒気を感じて、続きを言うことをやめる。

 

 ちなみに彼女の言葉に四国に住まう勇者と巫女が前触れもなく殺気を出したことで周囲の一般人は寒気を覚えたらしい。

 

「力たちもそうだが、健太も部活に入るんだな」

 

「そりゃな!この学校は入部絶対だからな」

 

「入部の後に幽霊部員になる奴もいるが」

 

「全くだ」

 

 瞬の言葉に耕一郎が同意する。

 

 この学校は全校生徒部活に加入する校則が設けられていた。

 

 そのため、必ずどこかの部活に在籍する必要がある。

 

 入った後にこなくなり、三年間を過ごすといった幽霊部員も当たり前に存在する。

 

「健太もそうなるかと思ったんだが、意外と根性がある」

 

 デジタル研究会の会長を務める耕一郎が感心!感心!というように頷いた。

 

 その姿に健太は調子に乗っていたが誰も反応しない。

 

「それよりさ!今日は日向君と出会ったことを記念して打ち上げしない?」

 

「あー!賛成!いいかも!」

 

 はるなの言葉にみくが同意した。

 

「いいかも!やろうぜ!力!」

 

「おいおい、日向の許可を取ってやれよ」

 

やる気になる洋平に大地が待ったをかける。

 

 そこで全員の視線が日向に向けられた。

 

「俺なんかのためにやってくれるのか?」

 

「当然だって!」

 

「皆、日向と仲良くなりたいんだよ」

 

 左右から健太と力が肩を叩く。

 

 二人に言われて日向は頷いた。

 

「よし!」

 

「早速、準備を!」

 

「貴方達!」

 

 デジタル研究会のドアが開いて教師の女性が姿を見せる。

 

「ゲッ、山口先生!」

 

 俊介がやってきた女性を見て驚いた顔をした。

 

「貴方達!もう授業ははじまっているのよ!すぐに教室へ戻りなさい!」

 

「はい!申し訳ありません」

 

 耕一郎は頭を下げると出ていく。

 

「あら?貴方は?」

 

「俺は学校の見学を」

 

 日向は問われて胸元のプレートを見せる。

 

「そう、じゃあ、授業も見学していく?」

 

「いい……んですか?」

 

「当然よ!」

 

 山口先生に言われて日向はその日、授業を見学する。

 

 黒騎士になってからというものの勉学から離れていたが、すんなりと理解できた。

 

 それは教師である山口先生の教えが良かったからなのかもしれない。

 

 放課後、掃除まで参加した日向は健太と力に連れられて校舎の外に出る。

 

 そのまま近くのファミレスで大地や瞬たちと楽しく会話や食事を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ~~!日向君!連絡アプリ使っていないの!?」

 

「インストールしましょ?みんなで連絡を取るのも楽しそうだもの!」

 

「ほとんどの人が利用しているのに珍しいな」

 

「もし、高校へくるならデジタル研究会に入ってほしい!キミなら大歓迎だ!」

 

 みくの言葉にはるなが促し、大地と耕一郎が会話に参加する。

 

「おい!お前、ファミレスで焼肉なんか頼むなよ!」

 

「そうだぜ!割り勘なんだからなるべく、みんなで味わえるものを選べって!」

 

 瞬と洋平が焼肉を頼んだ健太に叫ぶ。

 

 その光景を千里が写真に収めて、俊介が偶に写真に割り込んだ。

 

 高校生十人以上ということでファミレスの中はとても騒がしかった。

 

 だが、日向は不思議と楽しい時間に思えた。それは高校生活を復讐者になる際に捨ててしまったからなのかもしれない。

 

 満喫したことで彼らはそれぞれ解散する。

 

 日向は力と健太の三人で夜道を歩いていた。

 

「なぁ、日向」

 

「なんだ?」

 

「本当はさ、何で高校にきたんだ?」

 

 力が日向へ問いかける。

 

「あ、それ聞くんだ。まー、俺も気になっていたんだけどね!」

 

 健太も同意した。

 

「やっぱり、二人に隠し事はできないな」

 

「当然だって!俺ら親友なんだからよ!」

 

「短い付き合いかもしれないけれど、俺達は強い絆で結ばれている。そう、俺は信じているんだ」

 

 二人の言葉に日向は嬉しく思えた。

 

 もしかしたら、自分が復讐だけに走り切れないのはこの二人がいてくれたおかげなのかもしれない。

 

 勇者たちの関りもあっただろう。だが、彼らが自分のことを覚えていてくれたからこそ、四国に来て自分は人間らしさを出せるようになったのだろう。

 

「なぁ」

 

 日向は夕焼け空を見上げながら二人へ声をかける。

 

「俺は、お前達にとって親友なんだよな」

 

「当然だ」

「当たり前だっての」

 

「そっか」

 

 迷わずに肯定してくれる彼らの姿に日向はとても嬉しく思えた。

 

「話しておきたいことがある――」

 

 日向は大事な話を二人に切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは一体、どういうことなの!?」

 

 白鳥歌野は目の前の光景に息をのむ。

 

 ドラゴンシーザーたちが住まう森。

 

 その前に作られた歌野のための、歌野による、歌野のための畑。その名も“うたのんファーム”。

 

 “のうぎょうおう!”という文字がプリントされて、愛用している鍬を手にしてやってきた歌野は叫ぶ。

 

「どうして、誰もいないの!」

 

 歌野は叫ぶ。

 

 彼女の言葉にドラゴンシーザーは首を傾げた。

 

「ドラゴンシーザー!奴は!奴はぁ、どこにいったぁ!」

 

 ドラゴンシーザーが怯えるほどに歌野の目は必死だった。

 

「日向はどこいったぁああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、俺は歌野に呼び出されて」

 

「知らないな。何より!お前は私を蔑ろにし過ぎだ!」

 

「そんな覚えはないのだが」

 

 日向は若葉と共に歩いていた。

 

 彼は歌野に呼び出されて森に向かっている途中、待ち伏せしていた若葉によって別の場所を目指している。

 

「どこにいくんだ?」

 

「貴様をうどん派に染め上げる」

 

「洗脳のようなことをいうな」

 

 さらりと告げた本気の言葉に日向は真面目に答える。

 

 事実、この前は五円玉に紐を通して古典的な催眠術を行おうとしていた。

 

「何より、これ以上、白鳥さんと藤森さんのコンビにリードされるわけにはいかない」

 

「ん?」

 

「いや、何でもない。今日は一緒に昼食を取ろうと思う」

 

「そうか」

 

「では、行くぞ」

 

 日向と若葉はあるうどん屋にきていた。

 

「そういえば」

 

 椅子に腰かけたところで日向は気になっていたことを尋ねる。

 

「……ひなたは来ないのか?姿を見ないんだが」

 

「む?ひなたは来ないぞ」

 

「そうなのか?」

 

「そうだ、なんだ……その、私と二人っきりのデートは嫌なのか!?」

 

 後半は大きな声で日向に向かって若葉は叫んだ。

 

「……そんなことはないさ」

 

 少し顔を赤くしながら若葉は日向を見つめる。

 

 見つめられた彼は小さく笑みを浮かべて首を振った。

 

「座ったらどうだ?周りの視線を集めているぞ」

 

「……うむ」

 

 頷いた若葉は座る。

 

「その、すまない」

 

「謝ることはないさ。俺もすまない……その、デートだということに気付けず」

 

「いや、私がもっと普通の女の子らしくあれば、よかったのだ……こういう時にひなたを羨ましく思う……私はとても不器用だ」

 

「それは俺も同じことだ」

 

 俯いた若葉に日向は優しい言葉をかける。

 

「俺だって、不器用だ。お前達の好意へ答えることもなく、ぶらぶらと……普通なら嫌われて当然なのに、お前たち、いや、お前はそれでも俺に好意を寄せてくれる。そのことがとても嬉しい」

 

「は……」

 

「は?」

 

「恥ずかしいことを言うな!」

 

「……すまない」

 

 日向の言葉に若葉は顔を赤らめながら叫ぶ。

 

 その後、食べたうどんの味を二人は覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、日向さん」

 

「杏か、そこで何をしているんだ?」

 

「ゴウタウラスさんとドラゴンシーザーさんをスケッチしていました」

 

 森の中でのんびりしているゴウタウラスとドラゴンシーザーを眺めながら杏はスケッチしている絵をみせる。

 

「中々にうまいな」

 

「ありがとうございます。実は、絵本でも書いてみようかなと思っていまして」

 

「絵本?」

 

「はい!この星には不思議な生き物がいるってことで、色々な伝承とか、神話を調べて、そういう絵本を」

 

「そうか、いい物ができるといいな」

 

「はい!あ、そうだ。少し、教えてもらっていいですか?」

 

「なんだ?」

 

「ゴウタウラスさんって、別の星の生き物なんですよね?ドラゴンシーザーさんって?」

 

「ドラゴンシーザーはこの星の生き物、太古の時代に人や生き物を守護していた存在の一体、守護獣だ」

 

「そうなんですね、じゃあ、他にも?」

 

「いるだろうな」

 

「そうなんですね。会ってみたいなぁ」

 

「いつか会えるだろう」

 

「そうだったら嬉しいなぁ」

 

 遠くを見る杏に日向は言う。

 

「杏、頼みがあるんだが」

 

「頼み、ですか?」

 

「ああ、お前や俺達のことを記録した話をいつか、書いてくれないか?」

 

「え、わ、私がですか!?」

 

「ああ」

 

「そんな、私なんか」

 

「これだけ綺麗な絵をかけるんだ。きっとできるさ。そして、いつか、みんなに伝えてやってほしい」

 

「……頑張ってみます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、日向」

 

「球子か……どうし」

 

 振り返った日向は言葉を詰まらせる。

 

 目の前にいた球子はいつものズボンや動きやすさを重視した格好ではなかった。

 

 スカートなどを履いて、フリルなどがついた服を着ている。

 

「に、似合うか?」

 

「……」

 

「は、速く、答えタマえ!」

 

「ああ、似合う。とても可愛いぞ」

 

「!!」

 

 ボン!とわかりやすいくらい顔を真っ赤にする球子。

 

 その姿に日向は小さく笑う。

 

 

「な、わ、笑うんじゃない!」

 

「すまない、あまりに可愛かったからな」

 

「むぅ、杏もお前も、タマを何だと思っているんだ」

 

「可愛い女の子」

 

「そういうことじゃない!もうぅ!」

 

「その服を見せたかったのか?」

 

「ま、まぁな!いいか!今度はお前がタマ達にコーディネートされるんだからな!それを忘れるんじゃないぞ!」

 

 ビシッと指を突き付けて球子は去っていく。

 

「なんだ?一体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向さん!お、お背中を流します!」

 

「……友奈か」

 

 丸亀城の入浴施設。

 

 そこで日向が入っているとタオルを巻いて、高嶋友奈がやってきた。

 

 彼女が来ることを分かっていたのか、日向はあまり驚く様子を見せない。

 

「あ、あれ、驚かないんですか?」

 

「緊張しているのはいいが、メールを送る相手はちゃんと確認した方がいいな」

 

 日向の言葉に友奈は顔を真っ赤にする。

 

「え、えぇ!?私!日向さんに送っていたんですかぁ!?そんなぁ……」

 

 座り込みながらもすぐに高嶋友奈は立ち上がる。

 

「でも!やることは変わりません!日向さん!お、お、お背中をお流ししますぅ!」

 

 顔を赤らめて緊張しているのか上ずった声で話す友奈に小さく笑いそうになりながらも日向は背中を預けた。

 

 今までの生活ならそんなことは決してなかっただろう。

 

 それだけ、高嶋友奈にも気を許していた。

 

「うわぁ、日向さんの背中って大きいんですね」

 

「そうか?普通の人と変わらないだろう」

 

「そんなことないですよ!とぉっても大きいですほら、私よりも大きいんですから!」

 

「おい、何を抱き着いているんだ」

 

「えへへ、温かいなぁ」

 

 背中にぴったりと抱き着いてくる高嶋友奈。

 

 伝わってくる温もりに日向は少し驚いた声を上げた。

 

「日向さんの背中はやっぱり大きいです。それに、とぉっても安心します!」

 

「そういわれるとくすぐったいな」

 

「えへへ!」

 

 笑顔を浮かべる高嶋友奈。

 

 それから二人は湯船に体を鎮める。

 

 少しばかりの距離を開けようとしていたのだが友奈が日向に近づいたために、肌と肌が触れ合う距離だ。

 

「日向さん、ドキドキしています?」

 

「そうか?」

 

「はい、日向さんの心臓の音が聞こえます」

 

 コトンと日向の肩に頭を乗せながら友奈は言う。

 

 その顔はどこかほっこりしたような表情だ。

 

「友奈、お前もドキドキしていないか?」

 

「ふぇ?」

 

 日向に指摘されて友奈は自分の胸に触れる。

 

「あ!本当だ!ドキドキしています!おそろいですね!」

 

「そういうおそろいってどうなんだろうか」

 

「いいことですよ!絶対!」

 

 そういう友奈の笑顔はとても綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思ったが、ちぃちゃん、キミが計画の立案者か」

 

「提案者は上里さん、考案者は私よ」

 

「……どちらにしろ、加担しているということか」

 

 肩をすくめた日向。

 

 ゴウタウラスのいるところへ向かおうとしたのだが、友奈から「ぐんちゃんが待っています!」といわれてこの部屋へ来ていた。

 

「日向ももう少し、この部屋に家具とか置くべきだわ」

 

「……家具、ねぇ」

 

「必要ないと思っているの?」

 

「あくまで、ここは借りているところだ。俺が住むという訳じゃない。なら、家具なんか置かない方がいい」

 

「そう……わかった」

 

「一応、聴くがちぃちゃん、もしかして」

 

「ええ、一緒に寝るわ。二人でね」

 

 “二人”を強調して答える千景に日向は苦笑する。

 

 なんとなく、そんな流れになるという気はしたのだ。

 

 朝から勇者たちと遭遇して何かしらのことが起こっている。もしかしたら、千景ともという予感は見事に的中する。

 

「さぁ、明日も早いのだからそろそろ寝ましょう」

 

 そういって一人が入るスペースを作る千景。

 

 ここで逃げるという選択肢をとった場合。

 

 翌日、ガチ泣きして、皆の前で報告する姿が何故か日向は鮮明に想像できた。

 

 

――別に断る理由もないか。

 

 

 千景にはとても甘い日向はそう考えるとベッドへ横になる。

 

 寝るとすすすと彼女が抱き着いてきた。

 

「寝にくくないのか?」

 

「いいえ、とても気持ちよく寝られるわ……日向と寝ていると嫌な夢も見ないから」

 

「……」

 

 彼女の言う嫌な夢。

 

 それはバーテックスによって彼女のトラウマを刺激されてから時々あるらしい。

 

 小学校時代のいじめなど、彼女にとっての嫌な記憶が夢となって現れる時があるという。

 

 それだけ、彼女の傷が深いということ。

 

 日向にできるのはなるべく、彼女が気持ちよく寝られるようにすること。

 

 果たして、それを自分がやっていいのか?

 

 疑問を抱きながらも苦しそうな表情をしている千景をやさしく抱きしめる。

 

 抱きしめただけで千景の険しい表情が消えていく。

 

 日向に眠気が襲う。

 

 自然と日向はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しして、千景は目を覚ます。

 

 嫌な夢を見てしまった。

 

 昔の嫌な記憶を思い出した千景は体を起こす。

 

 すぐ隣では静かに寝ている日向の姿があった。

 

「日向……」

 

 手を通して感じる日向の温もり。

 

 もし、彼がいなかったらどうなっていただろうか。

 

 何かに固執していただろうか?

 

 それとも、何もかも諦めてバーテックスの餌食に?

 

 もしもの未来を考えるもどれも暗いものばかり。

 

「私は暗い性格だから、碌でもないものばかり考えるわね」

 

 小さく、千景はため息を零す。

 

「けれど」

 

 千景の傍には日向がいる。

 

 温もりを感じて彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「貴方のことが大好き、いつまでもこの思いは消えないわ……絶対」

 

――だから、私はちゃんと生きる。

 

 千景の両親は駆け落ちをして、自分を生んだ。

 

 その後の人生は語るまでもない。愛が消えると、二人は冷めきってしまった。

 

 だから、あの二人にならないようにしたい。

 

 その気持ちがあるからこそ、彼を永遠に愛し続けると自らに誓う。

 

 

 後悔しない道を選ぶ。

 

 そうして、幸せになる。

 

 千景は小さな誓いを抱きつつ、愛しい日向の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しい日々も終わりか」

 

 俺の言葉にゴウタウラスが悲しそうな声を上げる。

 

「別れ……確かに別れかもしれない、だがな……ゴウタウラス」

 

 相棒に俺は告げる。

 

「この別れは彼女達が幸せな日々を送るためのもの……そして、俺の復讐を果たすための戦い……この戦いに正義や義といったものはない。それでも、俺と共に来てくれるか?ゴウタウラス」

 

 バカにするなというようにゴウタウラスが吼える。

 

 振り返るとこちらへ近づいてくるゴウタウラス。

 

「ありがとう、ゴウタウラス」

 

 感謝の言葉を告げながら俺とゴウタウラスは四国の外へ出る。

 

 目的を果たすため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ!ひなた!」

 

「みーちゃん!どういうこと!」

 

 丸亀城の一室。

 

 そこに集められた勇者たちは巫女であるひなたと水都へ叫ぶ。

 

 集められた彼女たちはそこで衝撃的な事実を告げられる。

 

「黒騎士、落合日向さんが四国の外に出ました」

 

「外に出て……天の神と戦うために」

 

 ひなたと水都から告げられた言葉に彼女たちは茫然としたがすぐに感情が沸き上がる。

 

 怒りと戸惑いの感情が。

 

「どうして、どうして、日向が!」

 

「……そうだ、何も言わずに姿を消すなど、どうして」

 

「お前達のためさ」

 

「貴方は!」

 

「流星光……!」

 

「待ってください。今、私達のためっていいましたよね?一体、どういうことですか」

 

 杏が流星光へ尋ねた。

 

「まずは、お前達が知らないことが二つある。一つは大社が神の怒りを鎮めるためにある儀式を行おうとしていること……もう一つは大サタンが四国を滅ぼそうと近づいているのさ」

 

「鎮めるための儀式?」

 

「大サタン?」

 

「どういうことなの?」

 

 突然、告げられた知らないワードに勇者たちは困惑する。

 

「まず、一つ目の儀式、それは神話の国譲りとやらに則って六人の巫女を生贄して行う奉火祭を行うことで天の神に赦しをこおうとしているのさ」

 

「なっ!」

 

「そんなことって……」

 

「なぜ、天の神に赦しなど!」

 

「その理由が大サタンさ」

 

 流星は話す。

 

 大サタンとは悪の根源、太古の昔、恐竜と共に住まう種族たちを滅ぼそうとした“史上最大の悪”。

 

 その悪が天の神に加担して四国を滅ぼそうとしている。

 

 大サタン接近を知った大社は勝ち目がないことを悟り、天の神に人類存続の許しを請おうとしていた。

 

「バカな!助かるために他者を犠牲にして生き残る?天の神に屈することなど、あっていいわけがない!」

 

 若葉が拳を壁に叩きつける。

 

 皆が同じ気持ちだった。

 

 友奈も、球子も、千景も、杏も、歌野も。

 

 誰もが認められない。

 

「だから、奴が動いたのさ」

 

 彼女達の気持ちを察して流星が言う。

 

「奴は奉火祭のことをしった。それを阻止するためにゴウタウラスと共に戦いに出向いた……そして、お前達、勇者にあることを託した」

 

「託した?」

 

「どういうこと?」

 

 若葉と千景が尋ねる。

 

「お前達は本当に幸運だな。天の神、大サタンを何とかする方法がこの四国にあるのさ」

 

 流星光は笑みを浮かべる。

 

 方法がある。

 

 その言葉を聞いて若葉は前のめりながらも尋ねた。

 

「どういうことだ!奉火祭と大サタンを何とかする方法があるのなら教えてくれ!」

 

「……“究極大獣神”を目覚めさせるのさ」

 

「究極?」

 

「大獣神って、何だ?」

 

「太古の昔、大サタンと戦った神さ。天の神と違い、この星の命を守るために戦う六大神の一つさ。かつて、大サタンと戦い……退かせることに成功した」

 

「そんな存在が四国に?」

 

「正確に言えば、四国に究極大獣神を“復活させる方法”があるということだ」

 

「どうやって?」

 

「白鳥歌野」

 

「ワッツ!?どうして、ミーに話が振られるの!?」

 

 流星に呼ばれて歌野が戸惑った声を上げる。

 

「お前がそのカギの一つを持っているからさ」

 

「ど、どういうことよ!?そんなもの、持っている憶えなんてないわよ」

 

「“ダイノメダル”」

 

「ダイノ……メダル?何それ?」

 

「こ、これ!?」

 

 歌野はポケットからドラゴンレンジャーブライから授かった“三つ又の槍のようなマークが描かれているメダル”を取り出す。

 

「このメダルと残り五つのメダルを用意して、ある場所へ行けば究極大獣神を呼び出すことができる。だが、その前にお前達はやらなければならないことがある」

 

「やらないといけないこと?」

 

「魔法の世界だ」

 

「はぁ!?魔法の世界?何だそれ!」

 

 球子が叫ぶ。

 

 既に彼女の頭は混乱を始めていた。

 

 神様の存在からさらには魔法とまできている。

 

 混乱するのは当然だった。

 

「残り必要なダイノメダルは魔法の世界に封印されている。その封印をお前たちが解かなければならない。そうしなければ、究極大獣神は目覚めない」

 

「行こう!」

 

 流星が話し終えると高嶋友奈が叫ぶ。

 

「行こう!みんな!日向さんが私達に黙っていったのは辛いけれど、私達にもやれることがあるのならやろう!」

 

「……高嶋さんの言うとおりね」

 

「タマっち先輩!やろう!」

 

「そうだな!タマ達にこういうことを任したのなら、やってやろう!タマ達に任せタマえ!」

 

「そうだな。日向が私達に頼るというのなら……その思いに応えなければ、いや、応えない。何より大社のやろうとしていることは認められない。天の神に必ず報いを受けさせよう」

 

 五人の勇者たちは頷いた。

 

「こりゃ、強敵ネ!」

 

「頑張ろう!うたのん」

 

「あらあら」

 

 決意の表情を見せる勇者たちに巫女と元勇者は微笑む。

 

「全く、ここまで真面目に愛を語る連中がいるとはなぁ……染みるぜ」

 

 背を向けながらも流星光は小さく笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国の外。

 

 神樹に守られた世界以外に人は住んでいない。

 

 全ての人がバーテックスによって食い尽くされた世界。

 

 それがこの世のすべて。

 

 人の住まう場所は天の神によって奪われた。

 

 荒廃した世界に次々と爆発が起こる。

 

 廃墟と化した大地の中を二つの影が突き進む。

 

 黒騎士とゴウタウラス。

 

 うなりを上げて小型バーテックスを踏みつぶすゴウタウラスの上で黒騎士はブルライアットで近づいてくるバーテックスを切り裂く。

 

 二つの存在を滅ぼそうと至る所から現れる小型バーテックス。

 

 離れたところでは小型バーテックスが集まり、巨大なバーテックスへその身を変えていく。

 

「ゴウタウラス!」

 

 黒騎士は叫び宙を飛ぶ。

 

 そんな彼にゴウタウラスの光が降り注ぐ。

 

 重騎士へ姿を変えて、目の前の合体バーテックスをゴウタウラスと共に蹴散らす。

 

「!」

 

 ほとんどのバーテックスを蹴散らした時、重騎士とゴウタウラスの周囲で地震が起こる。

 

 揺れと共に地面の中から巨大なバーテックスが六体、現れた。

 

『合体型じゃないよ。完成した個体だ』

 

 どこからか子供の声が響く。

 

 四国に現れた大サタンの使者であることに重騎士は察する。

 

『勝てるかな?』

 

 挑発するような声を戦闘開始の合図として六体のバーテックスが襲い掛かって来る。

 

「行くぞ!ゴウタウラス!」

 

 重騎士の言葉と共に雄叫びをあげて突き進むゴウタウラス。

 

 相手は完成した六体のバーテックス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から魔法の国の扉を開ける……だが、油断はするなよ」

 

 流星光と勇者と巫女がやってきたのはゴウタウラスとドラゴンシーザーが住まう森。

 

 そこで彼らは戦装束で準備をしていた。

 

 謎の呪文を流星が呟くとともに目の前にドアが現れる。

 

「ドアだな」

 

「ドアだ」

 

「これが魔法の国に繋がる扉だ。それと」

 

 流星は近くの太い木に複数のロープを用意した。

 

「このロープは?」

 

「お前達が無事に帰ってこられるようにするための繋ぎだ」

 

「どういうことだ?」

 

 疑問を若葉はぶつける。

 

「魔法の国といっているが、あそこは何でもありの世界だ。怨念が現れることもあれば、摩訶不思議な存在が姿を見せることもある。そんな世界に勇者とはいえ、普通の人間が入ればどうなるかわからない。最悪、その世界の住人になる危険もある。無事にお前達が帰ってこられるようにこのロープで体を縛って進め。安心しろ、魔法のロープだ。目的地につくまで永遠に伸び続ける」

 

「便利だな、魔法って」

 

「魔法って素敵!」

 

「けれど、地味ね」

 

「そういうなら、お前達も魔法を取得することだな」

 

 球子、杏、千景に流星は言う。

 

「私と水都さんはここで皆さんの帰りを待っていますね」

 

「うたのん!気を付けてね」

 

「オフコース!必ず帰って来るからね!」

 

「ひなた、必ず帰るから、待っていてくれ」

 

「はい!」

 

 歌野と若葉は体にロープを巻き付けて、扉の前に立つ。

 

 並ぶ勇者たち六人。

 

 互いの顔を見ながら彼らは扉の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛び込んだはいいけれど、真っ暗じゃないか」

 

 魔法の世界。

 

 そう呼ばれる空間に飛び込んだ勇者たち、しかし、そこには何もない真っ暗な空間が広がるのみだ。

 

「タマっち先輩、何が起こるかわからないから油断しない方がいいと思う」

 

 全員が武器を構えながら警戒をしている。

 

「白鳥さん、残りのメダルのある場所は?」

 

「ミーの持っているダイノメダルが示してくれるから迷う心配はないと思うわ。光の強くなる方向にあるはず」

 

 歌野の手の中にあるダイノメダル。

 

 輝きが増す方向へ彼女達は歩いていた。

 

「もっと、いきなりドバーっと何かが出てくるもんだとタマは思っていたんだよなぁ」

 

「気持ちはわかるなぁ、でも、何も無い方がいいよ!」

 

 球子の言葉に同意しながらも厄介な敵が出てこない方がいいという友奈。

 

「高嶋さんの言うとおりね。でも、こういう空間だといきなりトラップが起こる可能性もあるから注意を」

 

 ぴたりと千景たちは立ち止まる。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

 球子は急に前のメンバーが止まったことで尋ねる。

 

 前を見ると青いタマゴのようなものが沢山、置かれていた。

 

「何だあれ?タマゴか?」

 

「そうみたいだけど」

 

「こういう展開の場合に出てくる卵っていうのは決まって」

 

 千景が最後まで言葉を発する前にタマゴに亀裂が入ってそこから不気味な人型の怪物“ヒドラー兵”が次々と現れる。

 

「キモ!何だ、この気持ち悪さ!」

 

「数は多いが知能は低い!今は先を急ぐ、一点突破で先を急ぐぞ!」

 

 球子が武器でヒドラー兵の顔を叩き潰しながら叫ぶ。

 

 若葉が刃で切り伏せながら指示を出す。

 

「じゃあ、私が行くよ!勇者パァアアアンチ!」

 

 叫びと共に放たれた友奈の一撃によって宙を舞うヒドラー兵。

 

 勇者たちはダッシュでその場から離脱する。

 

 だが。

 

「あ、あれ?」

 

 突如、勇者たちは都会の地下へきていた。

 

「え、どうなってんだ?」

 

「私達、真っ暗な空間にいたはずなのに……」

 

 戸惑った声をあげる球子と杏。

 

「考えていても仕方ない。先を急ぐしか私達には方法がないんだ」

 

 誰もいない広い通路を勇者たちは進む。

 

「さっきのおぞましい怪物は何だったのかしら?」

 

「わからない、だが、油断はしない方がいいだろう……流星光がいっていた。ここは何が起こるかわからない」

 

「そうよねぇ、いきなり壁が爆発なんて笑えないわ」

 

 けらけらと歌野が言った直後。

 

 彼女達のすぐそばの壁が音を立てて壊れた。

 

 その壁の中から現れた妖怪ヌリカベ。

 

「「「「…………」」」」

 

「そ、ソーリー」

 

 咎めるように視線を向ける五人に歌野は申し訳ないと謝罪する。

 

 近づいてくるヌリカベに友奈のパンチが振るわれる。

 

 直後、ヌリカベの姿が消えた。

 

「あ、あれ?」

 

 突然の事態に困惑する声を上げる友奈。

 

「高嶋さん!」

 

 何かに気付いた千景が友奈の腕を掴んで引き寄せた。

 

 直後、彼女のいた場所にキュウリ爆弾が落下する。

 

 少し遅ければ友奈は爆弾の餌食になっていただろう。

 

「ありがとう!ぐんちゃん!」

 

「どういたしまして……高嶋さんを狙うなんて許さない!」

 

 千景は目の前に現れたカッパに鎌を振り下ろす。

 

 カッパが刀で防ごうとするも――。

 

「甘い!」

 

 鎌を操り、刀を弾き飛ばしてがら空きの胴体に刃を振るう。

 

 しかし、その刃は空を切った。

 

「また……どうなっているの?……あら?」

 

 千景は周りを見る。

 

 いつの間にか、他のメンバーが消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐんちゃーん!若葉ちゃーん!みんなぁ~!」

 

 友奈は薄暗い地下洞窟の中を歩いていた。

 

 連絡も取れず、仲間の行方がわからないため、前に進むしかない。

 

 皆の無事を願いながら友奈は地下を歩く。

 

 光の差し込まない世界はとても暗く、肌寒い。

 

 戦装束を纏いながらも体に伝わってくる寒気に友奈はなんともいえない感情を抱く。

 

「どこなんだろう、ここ」

 

「ここは地底帝国チューブ」

 

「!?」

 

 聞こえた声に友奈は体を震わせる。

 

 否定したい。

 

 しかし、悪夢として友奈を蝕んでいたあの声を忘れることは出来なかった。

 

「貴方は……」

 

 高嶋友奈の前に現れたのは死んだはずの盗賊騎士キロスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分断されてしまったか」

 

 若葉は誰もいない森の中を進む。

 

 腰に巻いてあるロープを辿れば元の世界に帰れる。

 

 だが、それは黒騎士を助けることを諦めることに繋がってしまう。

 

「皆も目的地に向かっているはずだ。真っ直ぐ、この道を突き進む!」

 

 ふと、若葉は歩みを止める。

 

 目の前に立っている存在に気付いた。

 

「待っていたぞ、乃木若葉」

 

 目の前に現れたのは腑破十臓だった。

 

「腑破…………十臓」

 

「言ったはずだ。俺は強き者との戦いを望む……黒騎士がいないのなら乃木若葉、お前が俺の相手だ」

 

 裏正を抜いて十臓が若葉の前に立ちはだかる。

 

「悪いが、お前の相手をしている暇はない」

 

「そうはいかん、貴様が戦わぬというのなら、この足で俺は四国の人間を切り伏せるまでだ」

 

「なに!」

 

「何を驚く?俺は外道に身を落とした存在だ。目的のためなら手段を択ばない。そう同じ人間であろうと俺は斬る」

 

「……貴様は既に死んでいるのだったな」

 

「その通りだ」

 

「私は勇者として、一人の女としてやらなければならないことがある。だが、腑破十臓、お前は乃木家の者として、いや、人間としてお前を放置するわけにはいかない!」

 

「やる気になったか、待ち望んでいたぞ」

 

 大太刀を抜いた若葉に十臓は嬉しそうにほほ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒廃した大地に爆発が起こる。

 

 煙の中から姿を見せたのはブルタウラス。

 

 彼の手の中には倒された六体のバーテックスだった亡骸。

 

 ブルタウラスは亡骸を投げ捨てる。

 

『流石は黒騎士っていうことだね』

 

「いい加減に姿を見せたらどうだ?大サタンの使者!」

 

『使者っていう言い方はやめてほしいね。僕にはカイっていう名前があるんだ』

 

 ブルタウラスの前に現れたのは大サタンの使者、カイ。

 

 そして、彼の操るドーラタロス。

 

『本当は真っ向から叩き潰したかったんだけどね。大サタンと天の神からあることを試すように言われていたから』

 

「何を」

 

 眩い閃光がブルタウラスを包み込んだ。

 

 それは黒騎士、落合日向の意識すら飲み込んでしまう。

 




今回、スーパー戦隊の方でも色々でてきたので補足説明を。

次回も本編……のわゆの最終回です。

山形大地

浜洋平

日野俊介

森川はるな

四人とも高速戦隊ターボレンジャーのメンバー。
今作では普通?の高校生。力とは仲良しメンバー。
ちなみに個々人の個性がとても高い。


遠藤耕一郎

並樹瞬

城ケ崎千里

今村みく

四人とも電磁戦隊メガレンジャー。
今回は普通の高校生で、原作と同じデジタル研究会に所属している。


ちなみに上から黒、青、黄、桃と戦隊の色が同じという。







山口先生
高速戦隊ターボレンジャーに出てきた主人公達の担任。
担任のため、主人公達の身を案じて、事件に首を突っ込んでひどい目にあったりなどしているが生徒を思っている心優しい人物。
どんな人だって話し合えばわかると思っている。
今作ではただの教師。けれど、生徒達に慕われている。



大サタン
恐竜戦隊ジュウレンジャーに出てきた真のラスボスのような存在。
神に近い存在であり、一度はジュウレンジャーに撃退されるも最終決戦に登場。
最後は倒される。
今作では天の神と同等の立場にあり四国を滅ぼすために活動を開始しようとしていた。


究極大獣神
恐竜戦隊ジュウレンジャーに出てくる最強ロボット。
神様でもあるため、ロボットという言葉に語弊があるけれど、とにかく強い。
出番は少ないけれど、負けなし。
太古の戦いで大サタンと戦い、傷を負い、本来の姿を保てなかった。
原作で、ジュウレンジャーの手によって復活。大サタンと戦いを繰り広げる。






ヒドラー兵

電撃戦隊チェンジマンにでてきた戦闘員。
卵から生まれて襲い掛かる恐ろしい存在。初登場シーンを見た時、恐怖する人がほとんどだと思う。
ちなみに最終回で強敵としてチェンジマンを苦しめてもいた。


ヌリカベ
番外編でも登場したがカクレンジャーに出てきた妖怪


カッパ

忍者戦隊カクレンジャーにでてきた妖怪。ちなみにコイツがカクレンジャーはじまりの元凶。人間姿は特撮でも有名な人物。
カッパなのでキュウリを模した爆弾などを使ったり、忍者刀で攻撃をするなど。
ロクロクビと夫婦らしい?



カイ
恐竜戦隊ジュウレンジャーに出てきた敵対組織のボスの息子。
大昔に死亡しているが大サタンの手によって復活。
しかし、死んでいるために体は冷たい。
今回も大サタンの使者として登場。
黒騎士を翻弄する。




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黒騎士の願い

最終回です。泣いても笑っても乃木若葉の章終わります。

ベースをジュウレンジャーにしていたけれど、いくつかの候補がありました。




 

勇者たちが魔法の世界で苦戦したころ、現実世界の四国では小さな騒動が起こっていた。

 

「凄い力です!」

 

「どうやら魔法の世界の連中が勇者たちを向こうの世界へ連れ込もうとしているようだ」

 

「そ、そんなこと、ダメ!」

 

 引っ張られるロープを掴む水都。

 

 同じようにひなたや流星も掴むがその力はとてつもない。

 

「ど、どうにかできないんですか!?」

 

「無理だ、そもそも、俺は魔法が得意ではない」

 

 叫ぶひなたに流星が言う。

 

「冷静に言わないでください!」

 

「ひなたちゃん!」

 

「見つけたぜ!」

 

 焦るひなたたちのところに炎力と伊達健太たちがやってくる。

 

「お二人とも、どうして!?」

 

「俺達だけじゃないぜ!」

 

「おい!いきなりこんなところへ連れてきてなんだよ!」

 

 健太の後ろから瞬、耕一郎、千里、みくが。

 

「みんな、事情を説明している暇がないんだ!手伝ってくれ!」

 

 力の後ろには大地、洋平、俊介、はるなの四人。

 

 戸惑う八人を前に力と健太の二人はひなたと水都が握り締めているロープを掴んだ。

 

「力!よし、俺達も!」

 

「ええ!?何が何だかわからないのに!」

 

「いいから、やるんだよ!」

 

「ええ!」

 

 力の掴んでいるロープに大地、洋平、俊介、はるなが掴む。

 

「何が何だかわからないけれどさ、そんな真剣な顔をされたら放っておくわけにいかないだろ」

 

「後でちゃんと説明するんだぞ!」

「そうよ!健太!」

 

「頑張ろう!」

 

 同じように瞬、耕一郎、千里、みくが健太の掴んでいるロープを握り締める。

 

「悪いな!みんな」

 

「すまねぇ!本当に助かる!」

 

「後で、ちゃんと事情を説明しろよなぁ!」

 

 瞬が叫びながら全員でロープを引っ張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中、乃木若葉と十臓の刃がぶつかりあう。

 

「どうした?全力で来ないのか?」

 

 距離をとりながら若葉は顔をしかめる。

 

 十臓の剣技は自分よりもはるかに精錬されたものだ。

 

 今の技量ではどうあがいても勝つことができない。

 

 精霊の力を使うしかないが、ここでそれを使うかどうか躊躇っていた。

 

「こないのなら、斬られるだけだ」

 

 裏正が怪しく輝いた。

 

 悲鳴のような音と共に刃が若葉を掠める。

 

 少し遅ければ片腕が落ちていた。

 

 片腕から流れる血をみる。

 

「どうした?この程度か?お前の強さを俺に見せろ。余計な考えを捨てろ!目の前の敵を斬る事だけ意識を向けろ!互いに切りあい、何も考えず、縛られず、ただ、斬りあうのみ!」

 

「違う!」

 

 若葉は顔を上げる。

 

 その目は真っ直ぐに十臓を見ていた。

 

「お前の考えは修羅に堕ちた。だが、私は違う。私は、四国に住まう人、多くの人を守らなければならない。何より」

 

 強い意志を宿した瞳で彼女は精霊を呼び出す。

 

 源義経と大天狗。

 

 彼女は精霊の力を借りて態勢を落とす。

 

 居合い。

 

 動きを見て、十臓は裏正を鞘に戻して身構える。

 

 両者からオーラのようなものが放たれた。

 

 同時に二人が刃を振りぬく。

 

 煌めく二つの斬撃と場所が入れ替わる。

 

 ズザザザと立ち位置が変わった若葉が振り返った。

 

 若葉の大太刀はボロボロになっている。

 

「まだだ!」

 

 ゆらりと十臓が起き上がった。

 

 そのことに若葉の顔に驚愕が走る。

 

「バカな!手ごたえはあった!」

 

「終わらぬ……強き者との戦い、俺は、まだだぁ!」

 

 叫びと共に十臓が外道の姿になった。

 

「今度は邪魔されぬ。天の神の力によって裏正に封じ込めてある魂も抵抗できない。満たされるまで斬りあう。さぁ、来い、乃木若葉」

 

 裏正を構えて近づいてくる十臓。

 

 その姿に若葉ははじめて、恐怖を覚える。

 

 だが、下がるわけにいかない。

 

 呼吸を整えて、彼女は大太刀を握り締めた。

 

 ブン!若葉の腰あたりに力が入る。

 

 視線を下すと腰に巻かれているロープが引かれていた。

 

 ロープを見て、若葉は思い出す。

 

 黒騎士のこと、落合日向が一人で四国の外で戦っていることを。

 

 その事を思い出して、若葉は目的を思い出す。

 

 鞘に大太刀を戻した若葉に十臓は叫ぶ。

 

「どこにいくつもりだ!まだ、斬りあいは終わっていないぞ」

 

「悪いが、貴様に付き合うつもりはない」

 

 十臓へ視線を向けながらも若葉は森の奥を目指す。

 

「待て、逃しはしない!貴様は俺と斬りあい続けるのだ」

 

「いいや、終わりだ。十臓、貴様は既に……死んでいるのだから」

 

 若葉の言葉と同時に十臓の体に十字の斬り跡が浮き上がる。

 

 突然のことに目を見開きながらも彼は笑う。

 

「素晴らしい戦いだった……できるなら、まだ」

 

 ドロドロと十臓の体から白い液体のようなものが噴き出して消滅する。

 

 手の中にあった裏正も地面に落ちて、光とともに消えた。

 

「さらばだ、腑破十臓、願わくば……安らかに眠れ」

 

 消えた十臓へ言葉を残して乃木若葉はその場から離れた。

 

「む?」

 

 しばらく森の中を進んでいた若葉は手の中に何かを感じた。

 

「これは?」

 

 若葉の手の中には金色に輝くメダルがあった。

 

「これがメダル……一つは手に入った。みんなは無事だろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、逢えたな。高嶋友奈よ」

 

 高嶋友奈は恐怖で後ろへ下がってしまう。

 

 現れたキロスはにやりと笑みを浮かべて近づいてくる。

 

 刻まれた恐怖は黒騎士によって消された。

 

 だが、友奈自身はその恐怖を乗り越えられたかどうかと問われると難しい。

 

「高嶋友奈よ。今度こそ、俺のものになってもらうぞ」

 

 近づいてくるキロスの姿に友奈は怯えそうになりながら前に出る。

 

「俺のものになる決意をしたか?」

 

「違う!私は、私のもの!」

 

 友奈は叫んで拳を握り締める。

 

 恐怖がありながらも高嶋友奈は立ち向かう。

 

 目の前の相手の実力は知っている。だが――。

 

「(黒騎士……日向さんから勇気をもらったんだ!だから、私は止まらない!真っ直ぐ、突き進む!)」

 

 友奈は決意して拳を振るう。

 

 にやりとキロスは笑った。

 

「本当に、欲しいものが届かないほど、素晴らしい……ああ、本当に素晴らしい」

 

 精霊を呼び出して友奈が繰り出した一撃はキロスを飲み込んだ。

 

 キロスが消滅した場所で友奈はぺたんと座り込んだ。

 

「怖かった……でも、私は前に進めた」

 

 嬉しそうに友奈は自分の拳を握り締める。

 

 喜んでいた彼女の手の中が輝く。

 

 掌をあけると金色に輝くダイノメダルがあった。

 

「これが、ダイノメダル?」

 

 輝くメダルを握り締めながら友奈は地底の道を歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、しつこいぞ!」

 

 回旋刃で攻撃を防ぎながら土居球子は叫ぶ。

 

 彼女の周りにはバーロ兵が現れていた。

 

 電磁棒や破壊光線を回避しながら次々とバーロ兵を倒していく。

 

 しかし、至る所から湧き出してきて、球子は防戦一方になっていった。

 

「いい加減、諦めたらどうだい?」

 

 聞こえた声に球子は顔を上げる。

 

 貴公子を模したようなロボットが球子に言う。

 

「キミがどうあがいてもこの数には勝てない。滅びる運命なのさ」

 

「滅びるか……タマはそうは思わない」

 

「何だって?」

 

 驚いたような声を漏らすロボットに球子は真っ直ぐな瞳を向ける。

 

「確かに、こんな最悪で、最低な状況が続けば、滅びるなんてこと、考えちゃうだろうな。でも、タマは考えない。だって、タマ達は独りじゃないから……仲間がいる。若葉、ひなた、杏、友奈、千景、歌野、水都…………それと、日向」

 

 にこりと球子は笑う。

 

「ほら、これだけの仲間がいてくれる。タマは独りじゃないんだ。だから、怖くないし、諦めるなんてことはありえない!タマは前に進むぞ!」

 

「生意気な!この数にどうすることもできまい!圧倒してくれよう!」

 

 集まって来るバーロ兵を前に球子は希望を捨てない。

 

 その時、球子の前に顔を模した奇妙な置物が現れた。

 

「は?」

 

 突然の事態に困惑する球子。

 

 彼女の手に金色の鍵が現れる。

 

「な、なんだ?」

 

 戸惑っていた球子の頭にある呪文が流れ込む。

 

「えっと、ガンマガンマドンドコガンマ!」

 

 呪文を唱えると顔を模した像がみるみる巨大化して魔神へ姿を変えた。

 

「ガンマジン!ご主人様、どのような願いも叶えますぞ」

 

「え、あ、じゃあ、あいつらを倒すために協力してくれ!えっと、お前の名前は?」

 

「あいわかりました。拙者の名前はガンマジンと申します」

 

「そ、そうか、じゃあ、頼む!ガンマジン!」

 

 球子は輪入道を召喚してバーロ兵を倒す。

 

 ガンマジンの参戦によって周囲の敵は一掃されるばかりか貴族風のロボットもいつの間にか姿を消した。

 

「えっと、ありがとうな!ガンマジン」

 

「どういたしまして」

 

「えっと、もう一つ頼んでいいかな?」

 

「なんなりと」

 

「じゃあ、タマの仲間たちがどこにいるか、一緒に探してくれないか?」

 

「かしこまりました。ご主人様、ではこちらへ」

 

 頷いた球子の手の中には金色に輝くダイノメダルがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊予島杏は現れる敵を矢で射貫きながら目的地を目指す。

 

「これは、迷路?」

 

 杏はいつの間にか迷路の中にいた。

 

 どうして、迷路の中にいるのかわからないが杏は知恵を絞る。

 

 木造の迷路。

 

 ルールを探りながら杏はゴールを探る。

 

 道中、明らかに人の命を狙うようなトラップも存在していたが、杏は勇者としての力を使いながら無事に切り抜けた。

 

 しばらくして、彼女は出口を見つける。

 

「よし、これで脱出」

 

「させるかってぇのぉぉおおお!」

 

 杏の後ろから怪物たちが現れる。

 

「お前をこれ以上、いかせるわけにいかないんだよぉ!」

 

 無数の妖怪たちを前に杏は精霊を呼び出す。

 

 呼び出した精霊の力で目の前の敵をすべて氷漬けにする。

 

「悪いけれど、皆が待っているから先を急がないといけないの……ごめんなさい」

 

 ぺこりと頭を下げて杏は迷路から脱出する。

 

「おーい!杏!」

 

「タマっち先輩と…………えっと、ロボット?」

 

 球子と一緒に現れたガンマジンを見て、杏は戸惑った声を上げる。

 

「初めまして、綺麗なお嬢さん、某はガンマジンと申します」

 

「無事だったんだな!」

 

「うん、タマっち先輩も無事でよかったよ!」

 

「当然だ!タマはタマなんだからな!」

 

「うん!」

 

 二人は嬉しそうにハグをする。

 

「なんと、感動的な場面でござろうかぁ~~!拙者、こういうのに弱いのでござる」

 

 その光景にガンマジンは感動していた。

 

「あれ、杏、そのメダル」

 

「え?あ、タマっち先輩も」

 

 二人は互いの手の中に輝くダイノメダルに気付いた。

 

「あとは若葉たちだな」

 

「うん」

 

「では、某が案内を」

 

 ガンマジンに連れられて二人は魔法の世界を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景は攻撃を受けて吹き飛ぶ。

 

 精霊を呼び出しながらも彼女の攻撃は相手に届いていない。

 

 鎌を構える千景に攻撃をした相手は呆れたように声を出す。

 

「まだやるつもりか?お前は俺に勝てない。諦めて俺のものになれ」

 

 全身を漆黒の鎧に身を包んだ戦士。

 

 その名を冥獣人バーサーカー グルーム・ド・ブライドン。

 

 最恐の戦闘民族バーサーカーの王である彼は千景をみて一目ぼれ、彼女を手中に収めようとしていた。

 

 そんな相手に対して千景は一歩も引かない。だが、精霊の力をもってしても、勝てない。

 

 強敵を前に千景は鎌を握り締める。

 

「足掻くか、仕方ない。傷をつけたくはないのだが、痛い目を見て、俺のものになると言わせるしかないようだ」

 

 剣を構えて千景に迫るバーサーカー。

 

 その攻撃を鎌で受け止めようとするも強力なパワーに押し負けて吹き飛ぶ。

 

 近くの岩壁に体をうつける。

 

 その際に手から鎌を零してしまう。

 

 激痛で意識が朦朧としながらも千景は鎌へ手を伸ばす。

 

 だが、その手をバーサーカーが掴む。

 

「まだ抗うか、何をそんなに抗う?何がお前を駆り立てる?」

 

「私は……日向のために……」

 

 攻撃によって意識が朦朧としているのか、千景はうつろな瞳で彼の名前を呼ぶ。

 

「日向がいたから、私は生きていられる……だから、今度は、私が……彼を」

 

「ええい!貴様は俺の花嫁になるのだ!そんな男のことなど忘れろ!!」

 

 バーサーカーが怒りながら千景を持ち上げる。

 

 仮面に隠れている醜悪な顔は激しい怒りに染まっていた。

 

 首を絞められてさらに意識が朦朧とし始める千景。

 

 意識が遠のいていく中で千景はただ、ひたすらに日向のことを思っていた。

 

 彼のことを、大好きな彼のことだけを彼女は思い、そして、彼の助けになりたいと願った。

 

 彼を愛しているからこそ。

 

 だから、こんなところで終わることを千景は望まない。

 

 諦めない。

 

 自分は彼と、みんなのために戦いたい。

 

 ようやく、自分が変わる切欠を手にしたのに。

 

「な、なんだ!?」

 

 バーサーカーが戸惑った声を上げる。

 

 急に千景を苦しめていた力から解き放たれた。

 

 倒れこんだ千景はそのまま意識を手放してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーサーカーの目の前に現れたそれは神々しい輝きを放つ巨神だった。

 

 五つの獣の力を持った巨神は矢を射る。

 

 バーサーカーは驚きながらも自らの武器を振り下ろそうとした。

 

 それよりも早く巨神の放った光の一撃がバーサーカーを飲み込んだ。

 

 バーサーカーは自分の眷属を呼び出す暇もないまま、その体が消滅する。

 

 巨神は倒れている千景へ光を流し込む。

 

 傷だらけだった彼女の体が回復していく。

 

「愛の勇者よ。目的地はもう少し先だ……頑張るのだ」

 

 巨神――ガオゴッドは告げるとそのまま陽炎のように消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千景、大丈夫か?」

 

 体を揺らされて千景は目を覚ます。

 

「乃木さん?」

 

「ああ、怪我はないか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 体を起こした千景へ若葉が心配そうに声をかける。

 

「その、無理はしていないか?」

 

「大丈夫。それより、乃木さんはどうしてここに?」

 

「道を真っすぐ進んだらここへきたんだ」

 

「そう、なら、行きましょう」

 

「本当に大丈夫、なのか?」

 

「心配してくれているの?」

 

「当然だ、その、仲間だからな」

 

 若葉の言葉に小さく千景は頷いた。

 

「ありがとう、でも、心配しないで、大丈夫だから…………その、嬉しかったわ。私のことを仲間と言ってくれて」

 

 顔をそむけたままいう千景に若葉は喜びを感じてすぐに彼女の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、四国の森。

 

 必死にロープを掴んでいる力たち。

 

 ぎりぎりと引き寄せられそうになりながら堪える彼らの傍に危機が近づいていた。

 

「おい!扉から何かでてきたぞ!」

 

 瞬の言葉通り、扉からぞろぞろとバーロ兵、ウーラ、ドロドロ、リンシー、ナナシ、ゾーリ魔と様々な怪物が姿を見せる。

 

「ま、不味くないか!?」

 

 洋平が近づいてくる敵の姿を見て叫ぶ。

 

 近づいてくる敵を前に流星が流れ暴魔に姿を変えようとした時。

 

「まてまてぇええええええい!」

 

 雲に乗って青い何かが現れる。

 

「また、何かが出てきたぞ!?」

 

 大地が叫ぶ。

 

「俺の名前はニンジャマン!お前達の味方だ!ここは俺に任せろ!」

 

「味方って、味方なのか?」

 

 耕一郎が戸惑った声を上げる。

 

 当然の反応だろう。

 

 いきなり変な格好をして「味方だ」と言われても信じることは出来ない。

 

「ありがてぇ、文字通り天の助けだな」

 

「どういう意味、ですか?」

 

「さっき話しただろ?人類の味方をする六大神の話、あれはその中の三人の神様の弟子だ。はっきりいえば、俺達の味方さ」

 

 水都に流星が説明する。

 

「あれが?」

 

「どういう経緯で俺達の前に姿を見せたのかはわからないが、今は好都合だ。連中が戻って来るまでの時間稼ぎになる」

 

 流星の言葉通り、現れたニンジャマンによってドロドロ達は倒されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで、いいのか?」

 

「洞窟……ですよね」

 

 ガンマジンによって案内された球子と杏。

 

 洞窟内の奥。

 

 やってきた場所を二人が見まわしていると、先客がいた。

 

「待っていたわよ!」

 

「歌野!」

 

「歌野さん!」

 

 にこりとほほ笑む歌野。

 

「若葉達は?」

 

「まだ来ていないわ。それよりも、お二人の後ろにいるビッグマンは一体?」

 

「拙者はガンマジンでございます」

 

「お、オウ。私、白鳥歌野といいます」

 

 ガンマジンが挨拶したことで歌野も挨拶を返す。

 

「それより、残りのメンバーは?」

 

「まだみたいです」

 

「いいえ、来たようですぞ」

 

「とうちゃーく!高嶋友奈!やってきました!」

 

「遅くなったな。乃木若葉と郡千景も到着だ」

 

「遅れてごめんなさい」

 

 ガンマジンの言葉通り、友奈、若葉、千景のメンバーがやってきた。

 

「では、これにて、某はさらば」

 

 ガンマジンは顔を模した石像のような姿に変えるとそのままどこかに飛んでいく。

 

 球子が握り締めていた鍵も消えていた。

 

「球子、杏、今のはなんだ?」

 

「顔のロボットさん?」

 

「ここにきて新キャラ登場」

 

「まー、その、後で話すって」

 

 説明ができない球子は誤魔化して前を見る。

 

 洞窟の奥。

 

 そこには六つのメダルをはめ込む箇所が収められた石板がある。

 

「これが、究極大獣神を目覚めさせるための石板」

 

「皆はメダルを手にしているのかしら?」

 

 歌野の言葉に全員がそれぞれのダイノメダルを取り出す。

 

「……あの、これって、どうすればいいのかな?」

 

 石板を見て友奈が困った声を漏らす。

 

「そうね、石板にははめ込む箇所があるけれど……どこにどのメダルをはめるのかはわからない……間違えたらトラップがあるとかも考えられるわね」

 

「オウ、ここで問題発生!?」

 

 困った困ったと全員が悩んでいた時。

 

『勇者達よ』

 

 突如、暗闇の中で目の前に巨大な三体の巨神が現れる。

 

「何者だ!」

 

『我らは三獣将……天の神と敵対する者だ』

 

『乃木若葉、高嶋友奈、伊予島杏、土居球子、郡千景、そして、白鳥歌野、キミ達の覚悟、心を見せてもらった……』

 

『今のキミ達なら、その石板を見て、どこにダイノメダルをはめ込めばいいかわかるはずだ』

 

「わかるはずって……」

 

『自らの心に従うのだ』

 

『そうすれば、メダルがキミ達に教える』

 

『信じるのだ』

 

 三獣神に言われて全員がメダルを見る。

 

 先に動き出したのは歌野。

 

「わかるわ……私のメダルは“力”。ここね」

 

 彼女は手の中にあるメダルを石板にはめ込む。

 

 力のメダルをはめ込むと石板が緑色の輝きを放つ。

 

 続いて、球子と杏がメダルをはめ込む。

 

「タマは希望」

 

「杏は知恵……」

 

 球子はサーベルタイガーを模したメダル。

 

 杏はマンモスを模したメダルをはめ込む。

 

 黒と黄色の輝きを石板が放つ。

 

「私は……愛」

 

 千景がプテラノドンを模したメダルをはめ込む。

 

 石板に桃色の輝きが放たれる。

 

「……私、高嶋友奈は勇気!」

 

 友奈はトリケラトプスが描かれているメダルをはめ込み、石板が青く輝いた。

 

「最後は私……乃木若葉」

 

 若葉はティラノザウルスが描かれているメダルをはめ込む。

 

「私は、正義……これで」

 

 最後のメダルをはめ込んだ瞬間、石板が虹色に輝きを放つ。

 

 あまりの輝きに全員が視界を覆う。

 

 地震と共に石板から光の竜巻のようなものが外へ放たれていく。

 

 同時に魔法の世界から飛び出す二つの光があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚ましの音に目を覚ます。

 

 時間を確認して俺はリビングに向かう。

 

 部屋では弟の蔵人が気持ちよさそうに寝ている。

 

 弟を起こさないようにしてキッチンで弁当を作っていく。

 

 俺と蔵人の二人分。

 

 弁当が出来上がって朝食の準備をしているころ合いに蔵人が起きてくる。

 

「兄さん~」

 

「起きたか、ほら、顔を洗ってこい。そうしたらご飯だ」

 

「うん~」

 

 寝ぼけているのかどこかぼんやりしながら蔵人は答える。

 

 顔を洗ってきた蔵人と共に朝食を食べた。

 

 そうして、二人で家を出る。

 

「パパとママって、今どこにいるのかな?」

 

「海外じゃないかな?研究が楽しいって言っていたから」

 

「ふーん、あ、千景姉ちゃんたちだよ!」

 

 蔵人の声に視線を向けると幼馴染の千景と友奈の姿が見えた。

 

「日向さーん!蔵人くーん!おはよう!」

 

「おはよう、日向、蔵人」

 

 笑顔でこちらに手を振る二人。

 

 近くの中学校まで一緒だ。

 

「まてまてー!」

 

「私達も一緒に行きます!」

 

「当然ですが、私と若葉ちゃんもです」

 

「おい、ひなた」

 

 次々と現れる球子や杏、ひなたや若葉。

 

 いつの間にか俺の周りは大所帯になっていた。

 

「ねぇねぇ、兄さん」

 

「なんだ?蔵人」

 

「兄さんはこの中の誰と付き合うの?」

 

「は?」

 

 蔵人の言葉に全員の視線が集まった気がする。

 

「人をからかうんじゃない。それに彼女達の気持ちも考えろよな」

 

「……兄さん、人のこといえないよ」

 

 俺の言葉にため息を漏らす六人。

 

 傍で蔵人が呆れていたがどういうことだ?

 

 彼らと別れる。

 

「オウ!日向!見つけたわよ!」

 

「日向さん、こんにちは」

 

「ああ、うたのんとみーちゃんか、どうしたの。二人とも泥だらけじゃないか」

 

「何を言うの!?貴方が今朝の農業をさぼったからよ!」

 

「うたのんに巻き込まれて泥まみれになりました」

 

「弟優先です」

 

 文句を言う歌野に俺は短く返す。

 

 楽しそうに農業にいそしむ二人の少女に俺は言う。

 

「時間、大丈夫か?」

 

「「ああ!?」」

 

 二人は叫び声をあげて走り出す。

 

 見送ってから俺は学校へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう!」

 

「よぉ!日向!」

 

「おはよう、力、健太」

 

 教室に腰かけると親友の二人が俺の前にやってくる。

 

「なぁ!放課後!ゲーセンに行こうぜ!」

 

「そうだな、蔵人も学校の行事で遅くなるっていっていたし、いいな!」

 

「俺は野球部の部活が終わってからなんだが……健太、お前、大丈夫なのか?」

 

「え?」

 

「そうよ!伊達君!貴方は補習です!」

 

「ゲッ!?山口先生!」

 

「ほら!HRが始まるからみんな、席について!」

 

 やってきた山口先生に言われて俺達は席に着く。

 

 授業を受けて、放課後。

 

 俺は力や健太たちと楽しくゲーセンで遊ぶ。

 

 そんな当たり前で楽しい日々。

 

 みんなといつまでも楽しく、当たり前の日常を行っていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、こんなものはまやかしに過ぎない」

 

「その通りだ」

 

 俺の背後にブルブラックが現れる。

 

「これはカイが見せた幻覚。お前が心のどこかで望む……もしかしたらという日常。しかし、これは幻影。ウソ偽りだ」

 

「わかっている。俺は俺のやるべきことを果たす」

 

「そう、貴様の果たすべき復讐。その相手は目前だ。今こそ、ため込んだアレを使う時だ」

 

 ブルブラックの言葉に俺は頷く。

 

 頷いて、手の中に現れたブルライアットを手に取る。

 

 輝きと共にブルブラックが消えて、俺は黒騎士になる。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 叫びと共に偽りの世界にゴウタウラスが姿を見せた。

 

 重騎士へ姿を変える。

 

「騎獣合身!」

 

 叫びと共に俺とゴウタウラスは一体化してブルタウラスになる。

 

 目の前に現れるのは大サタンの使者、カイの操るドーラタロス。

 

 白い機械的な巨人と向き合うブルタウラス。

 

 ツインブルソードを構えると相手も武器を構える。

 

『どうして、夢だとわかったの?気付かなければ滅びる瞬間まで幸せでいられたのに』

 

「夢は所詮、夢。いつかは覚めるものだ」

 

 振るわれる攻撃を躱して刃を放つ。

 

「何より、蔵人は死んでいる!俺の目の前で!弟が偽物か本物であるかどうかなど、すぐにわかる!」

 

 怒りの拳をドーラタロスへぶつける。

 

 拳を受けながらもドーラタロスの蹴りが直撃した。

 

 下がることなく俺は前に踏み出す。

 

「俺は天の神を赦さない。復讐を果たす!」

 

 刃を構えて目の前の敵を見据える。

 

「野牛鋭断!」

 

 叫びと共に繰り出す一撃を受けて爆発を起こすドーラタロス。

 

 そのままブルタウラスは幻影の世界を抜け出して天の神のいる次元へ姿を現す。

 

 ブルタウラスが天の神へ斬りかかろうとした時、その足を掴む者がいた。

 

「っ!」

 

 振り返るとともにブルタウラスの足をドーラタロスが掴んで引きずり込む。

 

『我は……大サタン!』

 

「なに!」

 

 ドーラタロスの体に大サタンが降臨していた。

 

 強化されたドーラタロスの放つ衝撃波にブルタウラスは吹き飛ぶ。

 

「このタイミングで大サタンだと……なぜ」

 

 俺は驚きながらも刃を構えようとした時。

 

『黒騎士、落合日向よ』

 

 眩い輝きが周囲を照らす。

 

 俺と大サタンが見上げると光と共に巨大な白い恐竜に乗った巨神が現れる。

 

 

――究極大獣神。

 

 

 現れた究極大獣神の姿を見て恐れる様に後ろへ下がる大サタン。

 

『落合日向よ。ここは我に任せて、先を行け。己のやるべきことを果たすのだ』

 

 究極大獣神はそういうと強化ドーラタロスと戦いを始める。

 

 全ての武装を一斉発射する“グランバニッシャー”がドーラタロスを飲み込む姿を横目に見ながらブルタウラスは空間を飛び込む。

 

 飛び込むと同時に天の神が落雷を放つ。

 

 体に受けた落雷にゴウタウラスが悲鳴を上げる。

 

「堪えるんだ、ゴウタウラス!あと少しだ!」

 

 長い戦闘を繰り広げたことで俺とゴウタウラスは限界が近づいていた。

 

「終わりだ。天の神!」

 

 叫びと共に天の神へ刃を振り下ろす。

 

 放った斬撃を銅鐸のような姿をしている天の神に直撃。

 

 しかし、相手は腐っても神、こちらの攻撃よりさらに強力なものを放つ。

 

 攻撃によって合身が解除される。

 

 重騎士になりながらそのまま突っ込む。

 

 雷撃のダメージから重騎士から黒騎士へ姿が戻る。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 

 叫びと共にブルライアットを突き立てる。

 

 銅鐸の体に亀裂が入る。

 

 さらに、深く、ブルライアットを深く突き立てた。

 

「今だ!」

 

 俺の叫びと共にブルライアットのクリスタルが輝く。

 

 クリスタルから刃にどす黒い瘴気のようなものが集まる。

 

「どうだ、苦しいだろう?これがお前と戦うために代償がありながらも力を使った少女達の痛み、苦しみだ。何より、蔵人を。俺の最愛の弟を殺した、貴様への俺の恨みだぁああああああ」

 

 刃から染みこむ“呪い”が天の神を蝕む。

 

 苦しみに声を上げながら雷撃を放つ。

 

 その中の一発が俺に直撃して、刃が抜ける。

 

 衝撃で落ちていく。

 

 見上げると恐怖している天の神の姿がある。

 

「ハハッ」

 

 天の神をみて、俺は笑う。

 

「何だよ、神様といわれながら俺ごときに怯えているのか?ハハッ、傑作だ!いいか、忘れるな!天の神!貴様は神でも何でもない。俺達人間に劣る存在だ。いつか!いつか、貴様にもう一度、俺は刃を突き立てるぞ!人間を不要だと奢る貴様を!忘れるな!」

 

 天の神が渾身の一撃を俺とゴウタウラスにむかって放たれる。

 

 その時、まばゆい光が俺達を包み込んで――。

 

 俺の意識はなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勇者たちよ』

 

 四国、魔法の世界から戻ってきた若葉たちをひなたたちは喜び、出迎える。

 

 そんな彼女達の前に複数の巨神が姿を見せた。

 

「あれは……」

 

「究極大獣神……ガオゴッド、三神将……ゴセイアルティメット、六大神だ」

 

 現れた神々は天の神と敵対し、人類の存続を望む神。

 

「うっわ、こんなメカみたいな神いるんだな」

 

「タマっち先輩、聞こえちゃうよ!」

 

「六大神様、どうして、このような場所へ」

 

『四国の巫女、そして、勇者よ』

 

『伝えなければならないことがある』

 

『天の神は黒騎士によって深い傷を負い、人間を滅ぼすことを断念した』

 

『だが、それは一時的なもの、蝕まれた呪いと傷が癒えた時、天の神はもう一度、人を滅ぼすために活動を起こす』

 

『およそ、三百年……人類は平和を約束される』

 

『だが、それは仮初のもの。決して、忘れてはならない。いずれ、人類はもう一度、天の神と戦わなければならない』

 

 神々から伝えられる言葉に勇者と巫女、健太達は困惑する。

 

 少しして。

 

「つまり、タマ達は一時的だが、勝ったってことか?」

 

「そーいうことになるね」

 

「……夢じゃないわよね」

 

「うん!夢じゃない!本当だよ!ぐんちゃん!」

 

「ひなた……信じられるか?」

 

「本当なら難しいです。ですが、神々がウソをつくことはありません」

 

 ひなたの言葉に力や健太たちは喜びの声を上げる。

 

「あれ、待って……黒騎士、日向はどうなったの!」

 

 喜ぶ中で千景は叫ぶ。

 

 天の神が人を滅ぼすことを中断したことは喜ばしい。

 

 一時的とはいえ、平和が約束されたのだ。

 

 だが、黒騎士は?

 

 彼はどうなったのかと千景が問いかける。

 

『黒騎士は天の神との戦いで眠りにつくことになった』

 

『彼がこの時代に目を覚ますことは絶対にないだろう』

 

「え?」

 

「ま、待ってくれよ!それじゃあ、タマ達はもう日向と会えないってことなのか!」

 

『残酷な話だが、それだけ彼と重星獣の受けた傷は深いのだ』

 

「そんな、ウソ、ウソよ!もう彼に会えないというの!?折角、せっかく……」

 

 ゴセイアルティメットの言葉に納得できないように千景は叫ぶ。

 

 全員が同じように悲しみに沈む。

 

 もう、彼と会えない。

 

 その事実が重くのしかかりつつあった。

 

『短い時間だけ、彼と話させよう』

 

 ガオゴッドの言葉と共に若葉達の前に光の粒子が集まる。

 

 そこに現れたのは落合日向だ。

 

「日向!」

 

「日向さん!」

 

 全員が日向へ手を伸ばす。

 

 しかし、その手は空を切る。

 

「……ごめん、俺の肉体はここにないんだ」

 

 全員へ日向は謝罪する。

 

「どうしてなんだ…………どうして、お前がこんな目に」

 

「俺の選んだ道だ。俺が復讐者として天の神に思い知らせるために……蔵人を奪った報いを受けさせるために……その結果、俺は奴に傷を与えた。代償がでかかったけれど」

 

「なぜ、笑顔なんだ、お前は!お前は永遠の眠りにつくんだぞ!?知っている人間が誰もいない……そんな世界にまた目覚めることがどれほどのことか」

 

「ありがとう、でも、今は清々しい気分なんだ。何があろうと生きていける気がする」

 

 日向の今までに見たことがない表情に誰も、何も言えなかった。

 

「若葉、ひなた、頼みがあるんだ」

 

「な、なんだ?」

 

「……弟の、俺の弟の蔵人の墓を作ってほしい……俺さ、復讐でそういう当たり前のことを忘れていたんだ。だから、代わりに頼む」

 

「ああ、わかった」

 

「任せてください。必ず作ります」

 

 ありがとうといってそれから球子と杏へ視線を向ける。

 

「球子、杏、ごめんな、二人の約束、守れそうにない」

 

「バカ!謝るくらいなら約束を果たしに来いよ!タマはずっと待つからな!お前が約束を果たすまでタマは許さないからな!覚悟しタマえ!」

 

「日向さん、私、約束した絵本を書く!必ず、書くなら!必ず帰ってきて!私の書いた本を絶対に読んでもらいたいから!」

 

 二人は泣きながら叫ぶ。

 

「友奈」

 

「日向さん!嫌だよ!私、まだ、ちゃんと……ちゃんと、言いたいことが言えていないのに!こんなことって」

 

「ごめん……本当にごめん」

 

 友奈の言葉に日向は謝罪することしかできない。

 

 日向は千景へ視線を向ける。

 

「ちぃちゃん」

 

「日向、私は精一杯、せいいっぱい、生きるから……だから、必ず帰ってきて、そうでないと、許さないから」

 

 涙をこらえながら千景は真っ直ぐに日向を見つめた。

 

「歌野……水都」

 

「許さない!私は許さないから!帰ってこないと……永遠に恨み続けるから!」

 

「日向さん、私達の告白、ちゃんと返事していないんですから、絶対、帰ってきてください!待っていますからね!」

 

「流星光」

 

「やめろ、お前のそんな綺麗な目なんざ、見たくない」

 

 目を背けながら流星光は言う。

 

「みんなを頼む……お前なら、守れるはずだ」

 

「……流れ暴魔と人間の寿命は違う。お前が戻って来るまで位ならやってやる。だが、お前が帰ってこなかったら俺はまた流れるからな」

 

「ありがとう」

 

「やめろ、蕁麻疹が出る」

 

「おい!待てよ!そんなことってねぇだろ!」

 

「日向!これでお別れなんて!」

 

 納得できないように二人が叫ぶ。

 

 後ろでは瞬や大地たちが涙をこぼしているが必死にこらえていた。

 

 力と健太は涙を零しながら叫ぶ。

 

「健太、力……ごめん、でも、俺はお前達と親友でいられて、とても嬉しい。ありがとう、俺の親友でいてくれて」

 

 日向の体が透け始める。

 

「バカいうなよ!俺達は、これからも、何があろうとずっと親友だ!」

 

「当たり前だ!お前のこと、絶対に忘れねぇからな!」

 

 我慢できず、力と健太が抱きしめようとするも。

 

 日向の体を二人は通り抜けてしまった。

 

「時間だ……ごめん」

 

 そういって、日向の姿は消えた。

 

 彼が消えたことで必死に涙をこらえていた者達も涙を流し始める。

 

 

――こんな結末があっていいのだろうか。

 

 

 

 悲しいことに誰もが同じ気持ちだった。

 

 だが、忘れてはならない。

 

 これは一時の、仮初の平和に過ぎない。

 

 本当の意味で平和になったわけではないのだ。

 

 物語は300年後。

 

 西暦から神世紀300年先の時代まで黒騎士の話は進む。

 





これにて乃木若葉の章は終了、この後の話は結城友奈の話まで飛びます。

こういう結末はみんな、予想していたのではないだろうかと思っています。

次回は息抜きにギャグ番外編。神世紀のメンバーと日向のお話を予定しております。


前書きでも話していましたがこの話ではいくつかのルートというか、異なる結末を練っていました。
敵は天の神であることにかわりありませんが、出てくる敵が違います。


ルート1

無間龍
獣拳戦隊ゲキレンジャーに出てくるロンが暗躍、そのために流星光ではなく黒獅子リオが出てくる予定でした。この話では歌野と水都は死んでいます。代わりに四国組は死者ゼロです。


ルート2

ラディゲ
超人戦隊ジェットマンに出てくるラスボスが暗躍。最初は人の姿で接して勇者たちと仲よくしていたが途中で本性を現し、杏と球子を殺害、その後、乃木若葉を狙い、黒騎士と死闘。
最終的に黒騎士が勝利して帰還するも、大社の一派によって殺害されるという結末。


ルート3

妖怪大魔王
忍者戦隊カクレンジャーより。
そのため、出てくる敵が妖怪ばかり。
大魔王復活のために若葉とひなたを除くメンバーが生贄にされて途中退場。
最終的に天の神と黒騎士は戦わず、自らを犠牲にして妖怪大魔王と封印の扉の中に消えるという展開。

ルート4

ギエン
未来戦隊タイムレンジャー。
黒騎士をプロットにするより前に考えていた企画。
この時は黒騎士ではなくタイムファイヤーを主人公に据える予定でした。
そのため、主人公はゴウタウラスではなくブイレックスを操る予定だった。
最終的な結末は別の時間軸への接続。
タイムレンジャーに出てきたリュウヤの計画と似ており、天の神が存在しない西暦の時代を作り出す。
その結果、主人公以外のメンバーは記憶などをすべて失ってしまうという結末。
全員、死んでいないが、ハッピーエンドとは程遠い展開。

代表的なものをいくつか出しました。






以下、スーパー戦隊関係の補足説明。



バーロ兵
超力戦隊オーレンジャーに登場した戦闘員。
全てがロボットで人間よりも強敵、ただし、超力を手にした人間相手だとあっという間に倒される。個々の力も脅威ながら集団であればあるほど、その力はより発揮される。
尚、劇場版ではレポーターなど、様々なバーロ兵が姿を見せていたらしい。



ガンマジン
同じくオーレンジャーに登場した謎の存在。
出自なども不明。
ただ、わかっていることは鍵を手にして開けた者をご主人様としてその願いをかなえる事。
尚、鍵を奪われたりするとその願いは中断される。あと、お化けが嫌い。
お化けに遭遇すること願いを果たさずに姿を消してしまう。


バーサーカー
劇場版 魔法戦隊マジレンジャー インフェルシアの花嫁に登場した敵。
尚、眷属と共にマジキングを撃退した。
映画ではマジレッドが恋している女の子を花嫁として拉致。
心清らかな乙女と口づけを交わすことで最強の軍団を手にすることができるという、力目当てでヒロインに手を出した敵であり、最後はマジレッドにより倒されるという。
普段、顔は仮面で隠されているが長い戦いの末 傷だらけでおぞましいものになっている。



ニンジャマン

忍者戦隊カクレンジャーに登場。
全身が青いロボットのような忍者。
登場するときは雲に乗ってやってくる。
かなりのお調子者で初登場時は妖怪大魔王に騙されて人を怪我させたということで壺に閉じ込められていた。
お調子者だが、正義感がとても強い……が空回りも多い。
尚、「青二才」は禁句。バカにすると怒って手が付けられない。



六大神

今作、オリジナル設定。
人を滅ぼそうとする天の神に対抗して、人の可能性を信じている神々。
基本的に天の神へ手を出さず、人間が乗り越えるべき試練と考えており、手助けをする程度。
以下、簡単な説明


究極大獣神
恐竜戦隊ジュウレンジャーに登場。この世界では過去の戦いで大サタンにより重傷を負わされて半身が魔法世界に囚われていた。
乃木若葉達の手によって完全復活。大サタンを撃破。

ガオゴッド
百獣戦隊ガオレンジャーに出てくる文字通り神。
過去の戦いで死亡したかに思えたが人の姿をとって、ガオレンジャー達の前に度々姿を見せていた。今作でも手助けはするが直接的な戦いはしない模様。

三神将
忍者戦隊カクレンジャーより、無敵将軍、ツバサ丸、隠大将軍の三体。
それぞれが心技体を表しており、最初はカクレンジャー達が操っていたが後半からは自らの意思で行動するようになる。
この世界においては自らの意思で動いて、勇者たちにアドバイスなどをしていた。

ゴセイアルティメット
天装戦隊ゴセイジャーより登場。
本来はマスターヘッドが生み出した存在のため、神ではないけれど、今作はマスターヘッドの意思が宿っているということで神格扱い。
特に乃木若葉の章では活躍などの類はなし、ただし?





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番外編 神世紀組の王様ゲーム

ある意味、グダグダ王様ゲーム!
いや、台風怖いですね、

大阪に住んでいるのですが、周囲は停電や物が吹き飛ぶなどとても怖かったです。



 

「王様ゲーム!」

 

「「「「「「「イェエエエイ!」」」」」」」

 

 畳が敷かれている教室内。

 

 そこで勇者部と日向のメンバーが手を上げて声を上げる。

 

「まずはルールを説明するわよ!ここにあるくじを引いて赤いくじを引いた人が王様!王様は他の番号のくじに好きな命令をすることができる。ちなみに王様の命令は――」

 

「「「「「「絶対!」」」」」」

 

 風の説明に全員が叫ぶ。

 

「ちなみに、くじの番号を聴いたり、応えたりすることは駄目だから。あと、過剰な命令をしたりすると罰を受けてもらうからね。具体的に言うと日向が作ったこの激辛うどんを食べてもらうことに」

 

「「ひっ!」」

 

 風の指した方向をみた夏凜と樹が小さな悲鳴を漏らす。

 

 そこではグツグツと湯気を立てている真っ赤なスープに、これまた真っ赤なうどんがあった。

 

 過去に食べたことのある樹と夏凜が小さな悲鳴を漏らす。

 

「まぁ、えげつない命令をしなければいいだけだから……わかったわね?」

 

 

 

 

 

と、楽しいノリで始まったはずだった。

 

 

「王様の命令!2番が4番をハグ!」

 

「はい!私2番!」

 

「友奈ちゃん、ウェルカム!」

 

 

「王様の命令です!5番さんが3番さんをアゴクイしてください!」

 

「3番は私だけど、って、夏凜!口を開けて何を!」

 

「動かないで、今からアゴクイするから!」

 

「意味合いがちがぁああああう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなったのか、俺は少し前を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がかまっていない?」

 

「その通りなんよ!」

 

 ビシッとこちらへ指を突き付けてくるのは乃木園子。

 

 少し前まで色々あった少女だ。

 

 色々という一言で済ますには無理があるかもしれないがそのくらいでいいのかもしれない。

 

「日向さん!最近、みんなの相手をしていないでしょう~!特に私を放置がいけませんなぁ~」

 

 指を左右に振って言ってくる園子に俺はなんともいえない表情を浮かべているだろう。

 

 先日の風暴走事件(命名、樹)によって起こった騒動からというものの勇者部の面々は俺に対して少しばかり距離をとっていた。

 

 いや、牽制しあっているということが正しいのだろう。

 

 そんな日々の間、俺はせっせとバイト先で修業に励んでいた。

 

 園子の提案はそんな日々が少し進んでからのことである。

 

「構えといわれるが具体的にどうすればいいんだ?」

 

「フッフッフッ!そこは乃木さん家の園子さんにお任せなんだよ!」

 

「いいのか?では、任せていいか?」

 

「うんうん!あ、ただではやらないよぉ」

 

「報酬を希望と?」

 

「そんなたいそうなものじゃないよぉ、ただ、今度、私と買い物にいってほしいなぁ~って」

 

「それくらい問題ない」

 

「約束だからね~~、破ったら……許さないよ?」

 

「破るわけがないだろ」

 

 そういって園子と指切りを交わして現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王様ゲームか」

 

「日向さんはやったことありますか?」

 

「全くない」

 

「私もです!楽しみですよ!」

 

 俺の隣にいる結城友奈が笑顔で言う。

 

 西暦のころに出会った高嶋友奈と似ていて、最初は戸惑ったが今は違う。ちゃんと彼女を彼女と見れていると思う。

 

「そうよね。王様ゲーム、ふふ、どのような命令をしようか楽しみです」

 

 反対側で少し黒い笑みを浮かべているのは東郷美森。

 

 笑顔だが、その瞳は俺と友奈を捉えて離さない。

 

 少し前の騒動から俺に対しての警戒心がなくなり、今は心を許してくれていると思う。

 

「こらそこ!いつまでもいちゃつかないでくじを取る準備をしなさい!」

 

 勇者部部長の風の言葉に俺達はくじへ手を伸ばす。

 

「さぁ!行くわよ!」

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

 引かれたくじで王様になったのは。

 

「私よ!完成型勇者の実力!」

 

 喜んでいるのは三好夏凜。

 

 途中参加した勇者だが、今は勇者部の一員。

 

 出会った際、俺とガチの剣の切りあいがあったがそれも良き思い出になるだろう。

 

「さぁ、王様の命令を始めるわよ!」

 

「夏凜さん、ノリノリですね」

 

「楽しみにしてたかもしれんよ~」

 

「そこ!静かに!」

 

 ビシッと樹と園子へ叫んで夏凜はこちらをみた。

 

 ちなみに、俺のくじの番号は2番だ。

 

「決めたわ!」

 

 夏凜の言葉で前を見る。

 

「2番は自分の好みのタイプをいう事!」

 

「さぁ!2番は誰かなぁ!」

 

 笑顔で促す園子に俺はくじの番号を見せる。

 

「さぁ、2番の日向!自分の好みのタイプを言いなさい!……不用意な発言をしたら、折るわ」

 

 何を!?

 

 心の中で思いながら日向は考える。

 

 少しして。

 

「髪の長い、大人しい子……だろうか」

 

 思い出すのはもう会えない幼馴染。

 

 髪が長くて大人しいけれど、とても強い子。

 

 もう会えないのはとても悲しい。

 

「なんだ?」

 

 俺が周りを見るとショックで地面に手をついている樹と友奈、夏凜、風の姿がある。

 

 どういうわけか園子と美森が余裕の表情だった。

 

「つ、次よ!くじを戻しなさい!」

 

 全員がくじを戻して、再度、くじを引く。

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

「あ、私です!」

 

 王様のくじを引いて手を上げるのは樹。

 

「流石は樹!さぁ、王様としての命令を下すのよ!」

 

 風の言葉に樹は頷くと再びこちらをみた。

 

 ちなみに俺のくじは4番である。

 

「じゃ、4番の人は王様を膝の上にのせてください」

 

「わかった」

 

 俺の言葉に全員が衝撃を受けたような表情をする。

 

「ち、ちょっと、樹!それは」

 

「え?何もルールに触れるようなことはしていないよ?」

 

「そ、そうだけど」

 

「風、諦めなさい。こういうところで樹は上よ」

 

「やるねぇ~」

 

「そうね…………やるわね、樹ちゃん」

 

 動揺しているメンバーに俺は首を傾げる。

 

「ささ!日向さん、来てください」

 

 笑顔を浮かべて床を叩く樹に従って座る。

 

 その上に樹が座った。

 

「そ、その、重たくないですか?」

 

「いいや、むしろ軽すぎて大丈夫か心配になる」

 

「えへへ、嬉しいです!」

 

 樹の姿に自然と俺も笑みを浮かべてしまう。

 

「ところで、いつまでこの状態が続くんだ?」

 

「ずっとでいいんじゃないでしょうか!」

 

「「「「「駄目!」」」」」

 

 俺と樹を除くメンバーが同時に叫ぶ。

 

「次の王様の命令があるまで~でいいかなぁ?」

 

「はぁい」

 

 園子の言葉に渋々と樹は了承する。

 

 くじを戻して次に進むのだが……空気が少し、重たくなった気がした。

 

「では、次よ!王様だぁれだ!」

 

 叫ぶ風を皮切りにくじを引く。

 

「うふふ、私です」

 

 にこりとほほ笑むのは東郷美森。

 

 彼女なら大丈夫だろう。

 

 ちなみに俺のくじは6番だ。

 

「では、行きます」

 

 にこりとほほ笑みながら彼女は俺を見た。

 

 嫌な予感がする。

 

「6番の人、王様を膝枕してください」

 

「わっしー!!」

 

「ちょっ!」

 

「いいな~!」

 

「東郷……恐ろしい」

 

 笑顔を浮かべて俺を見てくる東郷。

 

「膝枕でいいのか?」

 

 やるだけなら問題はない。

 

 樹と入れ替わる形で東郷が俺の膝の上へ横になる。

 

「これ、やる意味あるのか?」

 

「ええ、とても意味があります。ああ、人間国宝にしたいくらいです」

 

「大げさだ」

 

 確かに年齢は300超えている時点でなってもおかしくはないけれど。

 

 しばらく満喫した東郷の声で次の王様ゲームが始まる。

 

「さぁ!やるわよ!」

 

「どうでもいいが、風、目が血走って」

 

「あぁん!」

 

「何でもない」

 

「私達がやるまで終わらないんだよ!これはもう既に戦争なんだ!」

 

 目が血走っている風と園子。

 

 女の子がしてはいけないような目をしているんだが。

 

 それに対して、どこか満足したような東郷と樹、夏凜は王様の命令の内容について少し不満がある様子。

 

「さぁ、王様だぁれだぁ!」

 

 風の叫びと共に抜いたくじ。

 

「あ、私だ」

 

 くじを引いたのは友奈だった。

 

 ちなみに俺のくじは――。

 

「5番目の人、私に愛の告白をしてください!」

 

「「なぁあっ!?」」

 

 風と園子がありえない叫び声を上げる。

 

 対して俺は少し困った表情だ。

 

「……告白をするのか?」

 

「はい!」

 

「流石にそれは」

 

「王様の命令は絶対です♪日向さん」

 

 王様の命令なら仕方ないか。

 

 諦めて俺は友奈と向き合う。

 

 少し緊張しているのか友奈の頬は赤い。

 

 覚悟を決めよう。

 

 俺は息を吐いた。

 

「結城友奈さん、俺は明るくて、誰よりも他人のことばかりを考えている強くて、優しいお前が大好きだ」

 

「っ!は、はい!私も日向さんのことが大好きで――」

 

「はい!次、行くわよ!」

 

「風先輩!ひどいですよぉ!」

 

「シャラーップ!次よ!」

 

「その通りなんだよ!」

 

 気のせいか二人の背後から炎がみえる。

 

 大人しく従った方がいいようだ。

 

 俺達はくじを引く。

 

「きたんだよぉ!私の時代が~!」

 

 王様のくじをひらひらと振って笑顔を浮かべる園子。

 

 どうでもいんだが、俺の方をまっすぐに見つめないでくれ、少しばかり怖い。

 

 もう、いうのも嫌なのだが。

 

「3番の人は王様である私を抱きしめて、頬にキスをしないといけないんだよ」

 

「ぬがぁあああああああああああああああああああああ!」

 

 我慢できないという様に風が叫ぶ。

 

 これは早く終わらせよう。

 

 風の目の瞳孔が開き切っていて、とんでもないことになっている。

 

 目の前で向き合う園子、

 

 いつもの態度と違って、少ししおらしくみえる。

 

 俺は正面から園子を抱きしめて、そのまま頬へキスを落とす。

 

 気のせいか背中に寒気を感じた。

 

「さぁ、さぁ、さぁ!次よ!!」

 

 叫ぶ風に樹は最早諦めの表情。

 

 俺は何も言うまい。

 

 その後、何回か友奈や夏凜、他のメンバーが王様になった。

 

 最後に。

 

「よし!女子力をみたかぁあああああああああああああ!」

 

 王様のくじを引いた風の姿がそこにあった。

 

「王様の命令よ!4番は私の目の前でこれに署名と捺印をすることぉぉおおおおお!」

 

 叫びと共に一枚の用紙を机に叩きつける風。

 

 その用紙には「婚姻届け」と書かれていた。

 

 ブッブー!という音が鳴り出す。

 

「アウトだよぉ~ふーみん先輩」

 

「へ?」

 

「流石にこれはアウトだろ」

 

「風先輩……」

 

「お姉ちゃん、やりすぎ」

 

「ご愁傷様」

 

「え?」

 

「骨は拾います」

 

 暴走した風に合掌する一同。

 

 茫然とする彼女の目の前にはグツグツと煮えたぎっているうどん。

 

 

 その日、風は一言も言葉を発することができなかった。

 

 




次回は番外編、ゆゆゆいの予定?もしくは棗、雪花たちの番外編をやるかも?




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番外編:Extra組との鬼ごっこ

カオスです。

この話は時系列、人間関係、キャラの性格、設定。

その他、もろもろを無視して読んでください。


「えぇ~、鬼ごっこのルールを説明します!参加者は鬼として標的である日向さんを捕まえる事!禁止事項は勇者装束を纏うこと、それ以外は手段を問いません!」

 

 薄暗い暗闇の中、上里ひなたっぽい少女がマイクを片手に叫ぶ。

 

「し、勝利した鬼は日向さんを一日……いえ!二日も好きにできる権利を得ます!」

 

 司会者であるひなたと水都っぽい少女の言葉に日向は茫然としていた。

 

 ここは、どこだ?

 

「尚、標的である日向さんは黒騎士になること、両手を使うことを禁止します!制限時間は夕方になるまで!」

 

 視線を下ろせば、何者かがつけた手錠+お札。

 

 ブルライアットは勇者部に奪われて取り戻すことは不可能。無理矢理すればできるだろうが、涙目の樹と園子に勝てる確率ゼロ。

 

 一体全体、どうしてこうなったのか、

 

 

 日向は記憶を回想する。

 

 

 ことのはじまりは……あれ、思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、良いころ合いですので参加者の紹介です!」

 

 ひなたの言葉で俺は顔を上げる。

 

 バン!とライトアップされて姿を見せるのはメガネに不敵な笑みを浮かべている秋原雪花。

 

「やるからに徹底的に、追い詰めて、追い詰めて必ず勝利する。腹黒メガネこと秋原雪花さんです」

 

「司会者……後で覚えていろ」

 

 小さく毒を吐きながら笑顔を浮かべる雪花。

 

「では、次の参加者です!」

 

 続いてライトアップされるのは褐色の肌に無表情ながらの決意のある瞳をしている古波蔵棗。

 

「言葉は不要!すべては肉体言語という名の体当たりで突撃する!冷静アタッカーガール!古波蔵棗さんです!素敵ィ!」

 

「なんか、照れる」

 

 水都の歓声に無表情ながらも照れた様子の棗。

 

「以上!――名の参加者になります」

 

「……少なくないか?」

 

 一瞬、ノイズが混ざりながらも他に現れる様子がないことから彼らだけなのだろう。

 

 

「他にもいたのですが、体調不良、時間切れ、色々な理由によりなくなりました!」

 

「(他のプレイヤー達は私が計画的に邪魔したんだけどねぇ)」

 

「(参加者は少ない方がいい)」

 

 

 ひなたの言葉にそれでいいのか?と思いながら開始のブザーが鳴る。

 

「開始です!まずはえも……標的である日向さんがダッシュ!その一分後に参加者の鬼である二人がスタート!見事、逃げ切ってください!」

 

 開始が告げられたため、日向はダッシュ。

 

 かなり離れたところでブザーの音が聞こえた。

 

「さて、鬼ごっことはいえ、これからどうする――」

 

 背後から気配を感じて回避。

 

 少し遅れて何かが着地する音が聞こえた。

 

「やられた!」

 

 目の前に降り立ったのは古波蔵棗だ。

 

 無表情ながらもその目は獲物を狙う狩人のもの。

 

「逃がさないよ。今日こそは日向に勝利して、私のものにする」

 

「本気か、悪いが俺も捕まるつもりはない」

 

 伸びてくる棗の手を躱す。

 

 パンチやキックも放たれるが手を使えない以上、逃げるしか俺に選択肢はない。

 

「逃がさない!逃がさない逃がさない!必ず捕まえる!」

 

「何だ」

 

 今回の棗はやたらと執念めいたものが感じる。

 

 このまま捕まるととんでもないことが起こるのではないかと本能が告げた。

 

「フッ」

 

 棗が一瞬だが、笑みを浮かべた。

 

 俺は彼女の横をすり抜ける。

 

 少し遅れて、俺がいた場所に網が落ちてきた。

 

「トラップ……雪花だな」

 

「チッ、躱されたか」

 

 棗の傍に現れるのは雪花。

 

 いつもの周りへ振りまく笑顔ではない、悪人が浮かべるような笑みだった。

 

 互いに潰しあってくれた方が嬉しかったのだが。

 

「そんなことをすれば、日向さんが得するだけじゃん。だったら、協力しながらどちらかが捕まえるという方が日向さんを追い詰められるでしょ?」

 

 雪花の言葉に俺は舌打ちする。

 

 流石は腹黒メガネ女verといわれるだけはあるな。

 

「その呼び名、広めたの日向さんだったんだぁ。あー、酷いな!心が傷ついちゃったよ。これは必ず捕まえて、二日間自由にさせてもらうしかないなぁ、一日目はホテルで、二日目は式場探しとかでさぁ」

 

「なぜ、ホテル?」

 

「さぁ?」

 

 雪花の言葉に俺と棗は首を傾げた。

 

 西暦の時代、黒騎士として各地のバーテックスを狩っていた時に北海道に立ち寄った時からだが、この子は本当にわからない。

 

 他人へ本心を見せないようにしていると思ったら俺の前では偽りのない姿を見せてくるなど、雲を掴むみたいに捉えきれなかった。

 

 それに比べたら、棗はわかりやすかった。

 

 無表情だったが、何をしたいのか、何を考えているのか伝わってきて、戦う時も互いの邪魔をすることがなく、滞りなく進められる。

 

 もし、パートナーとして行動するなら棗の方が良いかもしれない。

 

「照れるな……」

 

「ちょっとぉ!私の前で他の子を褒めるなんていただけないなぁ」

 

 そういって距離を詰めてくる雪花と棗。

 

 油断を見せればタッチされてアウト。

 

 だが、

 

「俺が何の策もなく、ここへ来ると思ったか?」

 

「え?」

 

「……」

 

「ゴウタウラス!!」

 

 俺の叫びで背後から現れるのは相棒のゴウタウラス……!?

 

「なっ!?」

 

 後ろから現れたのは人よりも巨大な重星獣……ではなく、小さなブリキのおもちゃだった。

 

「甘いね、日向さん、私が何の策もないまま。誘導させると思った?」

 

 チッチッチッと指を動かしながら雪花は言う。

 

「そっちがそういうことをいうならで、こっちも手段を択ばないのさ!ギガバイタス!」

 

「なっ!?」

 

 雪花の言葉で現れるのは巨大なサメを模した戦闘母艦ギガバイタス

 

「さらに!ギガライノス!」

 

「……ギガフェニックス」

 

 二人の言葉でギガバイタスから姿を見せる赤と青の鋼星獣。

 

「装束はまとえないけれどさ、手段は問われないんだよねぇ!だから!」

 

「どんな手段を使ってでも捕まえる」

 

 笑顔、かつ瞳から光を失った状態でこちらをみてくる二人に本能的な恐怖と危機感を覚える。

 

 打開策が思いつかないその時。

 

「勇者パァーンチ」

 

 どこか間延びした声と共に目の前で爆発と土煙が広がる。

 

「こっちだよ!」

 

 聞こえた声の方に俺は走る。

 

 振り返るとこちらを探している雪花と棗、ギガフェニックス達の姿があった。

 

 そのまま導かれるように俺は走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここまでくれば、もう大丈夫だよ」

 

 しばらくして、光の差し込まない深い森の中に入る。

 

 するとどこからか声が聞こえてきた。

 

 その声に俺は覚えがあった。

 

「赤嶺友奈」

 

「正解、正解、大正解~~」

 

 くるくると回転しながら俺の前に降り立つのは赤嶺友奈。

 

 笑顔を浮かべて、こちらに近づいてくる彼女。

 

 俺は後ろへ下がる。

 

「どうして、下がるの?」

 

 不思議そうにこちらへ視線を向ける赤嶺友奈。

 

 だが、油断してはいけない。

 

 彼女がこの鬼ごっこに参加していないという保証がない以上。

 

「さっすが!日向様!予想している通りだよ!」

 

 何より俺を狙っているような視線を向けている彼女に警戒をしないという方が無理だった。

 

「私も鬼ごっこの参加者!しかもエクストラプレイヤーなんだ!」

 

「そうか……」

 

「おいしい話だよね。日向様を一日……ううん、二日間も好きにしていいなんて、何が何でも手にするよ。そうして、うふふ、呼び名はあなた?それともダーリンの方がいいかな?」

 

「悪いが、俺はどちらも御免こうむる」

 

「どうして?可愛い女の子の告白を断るの?貴方のことを何百年も思ってきたのに、それとも、滅びをもたらす勇者は嫌いかな?」

 

「はっきりいって、お前個人のことは嫌いじゃない」

 

「本当に?嬉しいなぁ」

 

「だが、ゲームで好き勝手にするという話は嫌いだ」

 

「そっかぁ、でも、私は日向様を狙っている人が多いからどんな時でもチャンスがあるなら掴むよ。何が何でもねぇ」

 

 じりじりとよってくる赤嶺友奈。

 

 いつの間にか俺は木々に追い詰められていた。

 

「じゃ、早速」

 

 視界一杯に広がる赤嶺友奈の顔。

 

 艶やかに光る唇。

 

 光のない瞳。

 

 俺が覚えていたのはそこまでだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 慌てて体を起こす。

 

 全身が汗でびっしょりだった。

 

 周りを確認するとそこは寝室。

 

「夢、か」

 

 やけにリアリティのある夢だった。

 

 おかげで汗びっしょりだ。

 

「シャワーでも浴びるか」

 

 部屋を出て風呂場でシャワーを浴びて部屋に戻る。

 

「ん?」

 

 さっぱりしてもう一度、寝ようと考えていると布団が盛り上がっている。

 

 気のせいか揺れているようにも思える。

 

「まさか、な」

 

 嫌な予感を感じながら布団をめくりあげた。

 

「あ、おかえり~~」

 

 布団の中では笑顔を浮かべている赤嶺友奈の姿があった。

 

 俺の意識は真っ暗になった。

 




次回も番外編。

今回、特に紹介はなし。


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番外編:かみ合わない歯車

鋼星獣の出現が意外に受けていてびっくり。

今回はゆゆゆいの続き。

次は西暦のギャグを予定していたのですが、思いつかないのでゆゆゆに行こうと思います。

展開が唐突でついてこれる人だけになるかもしれないが、頑張ろうと思います。

あと、今回は少し薄目のコーヒーを用意しておいた方がいいかも?


 

 薄暗い蔵で女の子が泣いている。

 

 声を押し殺しながら涙をポロポロとこぼしていた。

 

 俺はその子を放っておくことができなかった。

 

 彼らの言葉を破って、俺は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きた?」

 

 目を覚ますと目の前に友奈の顔がある。

 

 俺が起きたことに気付いた彼女は笑顔でこちらをみた。

 

 友奈。

 

 俺にとって大事な存在。

 

 いなくなった〇〇と同じくらい、いや、それ以上に。

 

「無理はしないでね?」

 

「大丈夫だ。体の疲れもとれた」

 

 体を動かして、傍に置かれているブルライアットを手に取ろうとすると友奈はそれを遠ざけた。

 

「おい」

 

「今日はお休み!私とデートだよ!」

 

 笑顔で言う友奈に反論する暇もないまま手を引かれて立たされる。

 

「デートって、やることが……あれ?」

 

 俺は何をやろうとしていたんだっけ?

 

 考えようとすると頭に靄がかかっているように何も出てこない。

 

 どうして……?

 

「ほら、元に戻ってまだ日が浅いんだからね!服も新調しないといけないし、今日はデートです!」

 

「わかった、わかったからそんなに引っ張らないでくれ」

 

「じゃあ、こうする!」

 

 嬉しそうに俺の腕に抱き着いてくる友奈。

 

 抱き着かれたことで彼女の温もりが伝わってきて……。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

 首を振りながら俺は友奈に手を引かれて部屋を出る。

 

 今の奇妙な感覚は何だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、鬱だ、死のう」

 

「ぐんちゃん、私達、どうしょうもないよね。こんな私達、もう、ダメだよ」

 

「ええ、私達のライフはゼロよ。でも、高嶋さんと一緒ならもう、何も怖くないわ」

 

「おかしいわね、うふふ、ここに日向がいるのに、みんな、いないなんていうのよ?ねぇ、日向ぁ」

 

 上から雪花、高嶋友奈、千景、風といった面々が瞳から光を失った状態で座り込んでいる。

 

 その光景に誰もが距離をとってしまう。

 

 棗が冷静に雪花の自殺を阻止していた。

 

 彼らがショックを受けている理由。

 

 それは黒騎士、落合日向が赤嶺友奈の手に堕ちたという話を聞いてから……何より、千景と友奈はそれを目撃していたことからショックが大きい。

 

 実際、彼が敵になったということでショックを受けて寝込んでいる勇者もいる。

 

 巫女であるひなたも少なからずショックを受けているようで元気がない。

 

 恭介や実、菜摘達もケアを試みているがあまりうまくいっていなかった。

 

 それほどまでに黒騎士が敵になったという事実は勇者たちにとってショックすぎた。

 

「痛々しいな」

 

「……」

 

 寝ている彼女達の姿を見て力は呟く。

 

 健太は拳を握り締めて外へ出ていこうとする。

 

「健太!」

 

「何だよ!」

 

「何をするつもりだ?」

 

「決まってんだろ!あの野郎を見つけて連れ戻すんだ!」

 

「それはどういうことを意味するかわかっているのか!?」

 

「日向と戦うことだ。それはわかっている」

 

「できるのか?」

 

「できるとかできないとかじゃねぇよ。俺達がやるしかねぇだろ?もし、日向を元に戻すことができず倒すことになったら……誰かに背負わせられるか?られねぇだろ?だったら俺達がやるしかねぇ!」

 

 壁に拳を打ち付けて健太は叫ぶ。

 

 自分達は彼がどうなったかという結末の記憶がない。

 

 結末についても誰も教えてくれなかった。

 

 だが、力と健太はわかる。

 

 日向は神世紀の時代でも戦っている。ならば、彼は西暦で最悪の別れを自分達としているはず。

 

 二人はその記憶がない。

 

 だから日向がどんな悲しみを背負って神世紀の時代を生きていたのかわからない。

 

「アイツが暴走しているなら止めるのは俺達の役目だ」

 

「そう、だな」

 

 デジタイザーとターボブレスをみながら彼らは頷く。

 

 たった一度だけ、彼の汚名を晴らすために戦ったことが認められて神樹の世界に呼ばれた二人、今度は日向を止めるため、彼と戦う決意をした。

 

 彼らの決意を古波蔵棗がこっそりみていたことに誰も気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国の町中。

 

 造反神と神樹が争っている世界において、赤嶺友奈は神樹側に勝利しなければならない。

 

 だが、彼女はそんなことお構いなしにショッピングモールに来ていた。

 

 浮き足たっている彼女は更衣室の向こうにいる相手へ声をかける。

 

「まだかなぁ?」

 

「ああ、出るぞ」

 

 カーテンが引かれて落合日向がそこから姿を見せる。

 

 赤を中心にした色合いに黒が混ざった服。

 

 赤嶺友奈がチョイスした服はとても似合っている。

 

「うんうん、素敵だよぉ!似合っている!」

 

「コーディネートはお前がしたからな」

 

 日向の言葉に赤嶺友奈はうんうんと頷いた。

 

「やっぱり、日向様は赤を中心とした色合いが良いよ!」

 

「そうか?まぁ、お前がそういうのならそうなのかもな……ところで」

 

「?」

 

 首を傾げる赤嶺友奈に日向は真っ直ぐに見つめる。

 

「俺のことを様付けするの、そろそろやめたらどうだ?」

 

「え?」

 

 突然のことに茫然とした表情を浮かべる友奈。

 

 すぐに輝くような笑顔を浮かべて日向にだきついた。

 

「お、おい……危ないだろ」

 

「嬉しい」

 

 ぽつりと胸元に顔をうずめながら赤嶺友奈は喜びの声を漏らす。

 

「ねぇ、日向様」

 

 抱きしめたまま赤嶺友奈は顔を上げた。

 

 頬が赤みを帯びて真っ直ぐに彼女の瞳は日向を見つめている。

 

「なんだ?」

 

「ずっと……ずぅっと、私の傍にいてくれるよね?」

 

「当然だ。俺はお前の――」

 

 続きを言おうとした日向は言葉を詰まらせる。

 

 その姿に赤嶺友奈は背伸びして、彼の唇にキスをした。

 

「ああ、そうだ。俺はお前を守る。そのために生きているんだ」

 

「嬉しい、嬉しいよ。日向様」

 

 微笑みながら赤嶺友奈は日向の手を引いて歩き出す。

 

 その手はとても強く掴んで離さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひなた、私達はどうすればいいのだろうか」

 

「若葉ちゃん」

 

「日向が敵になったというだけでここまでボロボロになって追い詰められている…………ここまで弱い存在だったのだろうか?私達は」

 

「違います。こうなるほどまでに私達は日向さんを支えにしていたんです。西暦の時代も……神世紀の勇者たちも……みんな、日向さんを支えにして戦ってこられたんです」

 

 だから、彼が敵になっただけで皆の心はボロボロになった。

 

「わかっていなかったようだ。我々はどれだけ彼に助けられていたか…………そして、どれだけ彼のことを思い続けていたか……ということを」

 

 若葉の言葉にひなたは何も言えなかった。

 

 自分も同じように彼のことを思っていて、少し……少なからず深い傷を負っているのだから。

 

 どうすればいいのか。

 

 その答えをひなたや若葉達は持ちえていない。

 

 今の彼女達はどうしょうもないくらい無力だった。

 

「やれやれ、女が涙を流すようなところはみたくないんだがねぇ」

 

「その声は!」

 

 聞こえた声に若葉とひなたは振り返る。

 

 そこにいたのは黒い学ランに学帽。

 

 厳つい表情で学ランの背中には流れ星が描かれている。

 

 彼を知っている。

 

 西暦の時代。

 

 若葉たちと出会い、四国を守るために協力してくれた存在。

 

「流星光……」

 

「三百年と少しぶりだな。乃木若葉、上里ひなた」

 

 彼らの前に現れたのは流れ暴魔 ヤミマルこと流星光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに買い物する必要あるか?」

 

「あるよ!私達のこれからの生活に必要だもん!」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものだよ!」

 

 笑顔を浮かべて腕にだきついてきた友奈に嫌な顔を一つもせずに合わせて町中を歩く。

 

 赤嶺友奈と落合日向の手の中には大量の買い物袋がある。

 

 彼らが住まう場所に必要な道具などが詰まっている。

 

「だって、これから私と日向が生活する新居だよ?色々と揃えたいんだもん」

 

「……俺にはわからないな」

 

「大丈夫!大丈夫!これから色々と教えていくから、うん、色々と」

 

 ニコニコしている彼女の姿を見て日向も笑みを浮かべようとした。

 

 だが、すぐに表情が険しくなる。

 

「見つけたぞ!」

 

「…………日向」

 

 二人の前に現れたのは険しい表情をしている伊達健太と炎力。

 

「あれぇ、西暦のお二人様だぁ~」

 

「誰だ?」

 

「おい!赤嶺の友奈!日向を返せ!」

 

「日向を元に戻すんだ!俺達はそれを望んでいるんだ」

 

 健太と力の言葉に指を顎に当てて考える仕草をする友奈。

 

「不思議なことをいうねぇ~、日向は自分の意思でここにいるんだよぉ?それに元に戻すってどういうこと?私は何にもしていないよ?」

 

「とぼけんじゃねぇ!お前が日向に洗脳か何かしたんじゃねぇのか!西暦の時代。彼女達を大事にしていた日向が、簡単に手のひらを返してあいつらに敵意を向けるなんてありえねぇんだよ!そもそも、お前は西暦の時代じゃないんだろ!日向と接点なんかないはずだ!」

 

 健太の叫びにぴくりと赤嶺友奈の体が動く。

 

 

「同じ勇者で、人であるキミと俺達はできるなら戦いたくない……日向のことについて、何か知っているなら教えてくれ……元の日向に戻したいんだ」

 

 

 力は戦わずに済む道を模索しているのか、懇願するように赤嶺友奈に訴える。

 

 

「…………あぁ、もう」

 

 手で顔を隠して赤嶺友奈は呟いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいつもこいっつも本当に鬱陶しいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞっとするほどの冷たい声で言い放った。

 

 

「元の日向?みんなのことを守っていた?色々というけれどさぁ、ここにいる日向を否定するっていい加減にしてほしいなぁ……そう思わない?日向」

 

 苛立ちを隠さずに言葉を吐きながら友奈は日向に体を寄せる。

 

「友奈、こいつらは敵か?」

 

 

 嫌がる表情せずに日向は問いかける。

 

「うん、叩き潰していいよ」

 

「わかった」

 

 荷物を置いて、日向は腰からブルライアットを抜いた。

 

「騎士転生」

 

 身構える二人の前で日向は黒騎士へ姿を変える。

 

「日向!やるしかないのか……健太」

 

「おうよ!」

 

 黒騎士を前に二人は身構える。

 

「レッドターボ!」

 

「インストール!」

 

 二人はレッドターボ、メガレッドに変身してGTソード、ドリルセイバーを構えて走る。

 

 黒騎士のブルライアットとGTソード、ドリルセイバーが火花を散らす。

 

「なぁ!本当に忘れちまったのか!?」

 

「日向!俺達のことを、憶えていないのか?」

 

「何を言っている?俺はお前達のことなど知らん!」

 

 叫びと共に二つの刃を弾いてレッドターボとメガレッドを切り裂く。

 

 斬られた二人は派手に吹き飛ぶ。

 

 刃を振るいながら黒騎士はゆっくりと吹き飛んだ二人へ向かう。

 

 起き上がったレッドターボ。

 

 目の前に立つ黒騎士が刃を振り下ろしてくるがGTソードで防ぐ。

 

「やめろぉ!」

 

 斬りあっているところへメガレッドがドリルセイバーで黒騎士の背中を斬る。

 

 黒騎士はのけ反り、前からレッドターボの刃を体に受けた。

 

 ダメージを受けて後ろに下がったところで

 

「GT……クラァァァッシュ!」

 

 レッドターボの必殺の一撃が黒騎士を切り裂いた。

 

「(なんで、なんでなんだよ!)」

 

 メガレッドのドリルセイバーが黒騎士を貫く。

 

「(どうして、どうして、お前を斬らないといけないんだ!)」

 

 攻撃の手を緩めることがないまま、黒騎士へ二人のレッドは攻撃を続ける。

 

 仮面の中で二人は悲しみに顔を歪めたまま。

 

 吹き飛び倒れた黒騎士。

 

「(頼む、頼むから!)」

 

「(もう、起き上がんな!頼む!)」

 

 二人の願いも空しく黒騎士は立ち上がる。

 

「ああ、俺……は」

 

 だが、先ほどと異なり様子がおかしかった。

 

 頭を抑えながら黒騎士は周りを見る。

 

「おい……」

 

「もしかして」

 

 黒騎士の様子から二人は武器を下した。

 

 瞬間。

 

「勇者パーンチ」

 

 横から飛来した一撃を受けて二人は倒れる。

 

 同時にダメージが大きすぎて変身が解除された。

 

「滅茶苦茶なことをするねぇ、自分達の都合で私の日向を……黒騎士を殺そうとするなんてさぁ」

 

 地面に降り立った赤嶺友奈は勇者装束の姿で力と健太を見下ろしている。

 

 その目は恐ろしいほどに冷たい。

 

 ダメージが大きすぎて動けない二人に彼女の言葉は届いていなかった。

 

「本当なら肉片も残さないくらい粉々にしてやるつもりだったんだけどさぁ……そんなことして、余計なショックを与えるのも嫌だし、そのままボロ雑巾のように転がっているといいよ」

 

 笑みを浮かべて赤嶺友奈は振り返る。

 

 だが、日向の姿はそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、俺は、何を忘れているんだ?」

 

 日向は頭を抑えながら町中を歩いていた。

 

 おぼつかない足取りのまま、彼は宛てもなく進む。

 

 頭の中では映像が消えては現れるということが起こっている。

 

 自分の知らない筈の相手の笑顔。

 

 悲しい顔。

 

 怒っている顔など、

 

 色々な表情を浮かべる少女達の顔が現れては消える、現れては消える…を繰り返していた。

 

 

「誰だ!誰なんだ!?俺の頭の中に出てくる奴らは…………そして、お前は誰なんだ!?なぜ、そんな、そんな悲しそうな顔をしている!?」

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになっていて落ち着かない。

 

 そんな日向はバランスを崩して倒れそうになる。

 

「……危ない」

 

 日向の腕を横から誰かが掴む。

 

 見上げるとこちらをみている少女がいた。

 

 カチリ。

 

 頭の中でかみ合う音が聞こえた。

 

「古波蔵棗……」

 

「そうだよ、日向さん」

 

 小さく微笑む彼女の顔を見て日向は意識を手放した。

 

 

 

 

 




今回はひたすらに赤嶺の友奈さんのターン。

実のところ、ゆゆゆいは色々あってデータがなくなったので、最新までいけていない。

なので、ゆゆゆい編は終わるかどうか未定なんだよなぁ。


次回は本編、ゆゆゆ編。

頭から色々と展開が進む予定です。



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黒騎士 再び

気付けば週末。

ゆゆゆ編の一話をのせます。

何かダイジェストみたいなことになっているけれど、楽しんでもらえると嬉しいです。


番外編は合間合間で挟んでいこうと思います。

各キャラの個別番外編でも書こうかなぁ。



 

 

 

 遠い遠い昔、世界を滅ぼそうとする闇がいました。

 

 闇の前に多くの人達が苦しみ、嘆き悲しみました。

 

 しかし、そんな闇を振り払うように勇者と騎士が現れます。

 

 勇者は魔王を倒し、騎士は愛馬と共に多くの人達を守りました。

 

 戦いを終えて勇者はお役目を終えて、騎士は来るべき時が来るまで深い眠りにつきました。

 

 

 こうして、世界は平和になりました、とさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神世紀300年、讃州中学校勇者部の部室で部長である犬吠埼風は机に置かれている一冊の本を眺めていた。

 

「これを今度の文化祭でやろうと思うんだけど、どうかしら?」

 

「問題ないと思います」

 

「はい!私、この話大好きです!」

 

「お姉ちゃん、本当に大好きだよね。その本」

 

 風の言葉に同意する東郷美森、結城友奈、犬吠埼樹。

 

 そんな彼女達がいる場所は勇者部。

 

 文化祭で行う劇の内容について話し合いをしていた。

 

 作者は不明、本のタイトルは「勇者と騎士の物語」である。

 

 幼い子供たちが童話として一度は読んだことのある絵本。

 

 勇者部の文化祭の内容としては素晴らしいものだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 打ち合わせを終えた風と樹は自宅であるマンションへ歩く。

 

「でも、お姉ちゃん、前の文化祭でどうしてあの絵本の話をしようとしなかったの?」

 

「え?まぁ、色々あったのよ。ほら、友奈と東郷がまだ部に馴染めていなかったこととか、人数の足りなさとか」

 

 風の言葉に樹は納得する。

 

「あー、お腹空いたわ」

 

「あれだけのうどんを食べておいて、お姉ちゃん、元気だね」

 

「当然よ!あの人の料理は格別だもん!」

 

「そういうものなのかなぁ?」

 

 嬉しそうに答える風に樹はなんともいえない表情を浮かべる。

 

 実際、うどんを何杯も食べておいて夕食もがっつりと食べていた。同じ女性としてどうして太らないのか怪しく思うほどだ。

 

「(まぁ、太るってなったら死ぬほどダイエットするから大丈夫かな?)」

 

 二人は楽しそうに話しながらマンションのドアを開ける。

 

 彼女の両親は少し前に他界していない。

 

 本来ならドアは鍵がかかっていて開かない。

 

 しかし、彼女達はそんなことはないという風にドアを開けた。

 

「やぁ、お帰り……風ちゃん、樹ちゃん」

 

 ドアの向こうから出迎えるのは黄色いエプロンをつけて笑顔を浮かべる青年。

 

 少し白髪混じりながらも笑顔を浮かべている。

 

 彼の姿を見て風と樹も笑顔で返す。

 

「ただいま!“蔵人”さん!」

 

「ただいまぁ!いやぁ、お腹空いたわ!今日の夕飯はなにかしら?蔵人さん」

 

「サンマが安かったから塩焼きにしたものとサラダとみそ汁」

 

「おぉ!おいしそうだ!ってか、漂ってくる臭いでお腹が……」

 

「お姉ちゃん……」

 

 女子力離れているよと心の中で樹は思う。

 

「ほら、手を洗って先にご飯にしょうか」

 

「「はーい!」」

 

二人は元気よく手を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 食後、入浴などを済ませて樹は既に就寝。

 

 リビングで風と蔵人は向き合うように座っている。

 

「はい、お茶」

 

「ありがとう~いやぁ、蔵人さんのご飯はおいしいわぁ、いくらでも食べていられるし」

 

「食べ過ぎはよくないからね?」

 

「大丈夫!蔵人さんの料理はデザートと同じくらい別格だから!」

 

「……どういう理屈?」

 

 苦笑しながら蔵人は腰かける。

 

 笑顔で二人を出迎えてくれる今は家族同然の関係を築いている蔵人。

 

 彼がいることで風と樹は寂しさを感じることなく生活できていた。

 

 しかし、そんな日々も一カ月後、バーテックス襲来のために崩壊することを風や樹は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お役目とは樹海と呼ばれる空間に姿を現すバーテックスから神樹を守るために選ばれた者、勇者たちの使命。

 

 讃州中学校勇者部の彼女達はお役目をする勇者に選ばれた。

 

 一回目、二回目の戦いで危ないところはありながらも彼女達はバーテックスを撃退していく。

 

 だが、三回目。

 

 そこで勇者部の前に強大な敵が現れる。

 

「我が名は狼鬼!勇者を滅ぼす者だ」

 

 狼のような鬼。

 

 荒ぶる攻撃の前に勇者たちは苦戦を強いられる。

 

 バーテックスを撃退することは成功するも狼鬼の猛攻に勇者たちは敗北寸前まで追い込まれてしまった。

 

 次の戦いで狼鬼に勝てるだろうか?

 

 そんな不安を抱きながらも勇者たちは日常の生活を送る。

 

 普通の人々は勇者の活動について知らない。

 

 姿を消しても大赦の人達がお役目ということで学業に影響がでないようにしてくれているという。

 

「お邪魔しまーす」

 

 ある日、勇者部の部室に来客があった。

 

「あ、蔵人さん!」

 

 部室内にいた友奈が笑顔で出迎える。

 

 傍にはパソコンでサイトの設定をしている東郷美森の姿もある。

 

「あら、どうされたんですか?落合さん」

 

 笑顔を浮かべて東郷が彼の方を見た。

 

「差し入れだよ」

 

 そういって蔵人は手の中にある小さな箱を見せる。

 

「もしかして!」

 

 受け取った箱の中を覗いて友奈は目を輝かせる。

 

「プリン!?」

 

「そうだよ」

 

「もしかして、落合さんの手作りですか?」

 

「うん。口に合うかどうかは、その、自信がないけれど」

 

「そんなことないよ!蔵人さんがこの前作ってくれたクッキー、おいしかったし!絶対、このプリンもおいしいです!」

 

「友奈ちゃんにそういってもらえると嬉しいかな」

 

 苦笑しながら友奈と話す蔵人。

 

 そこに風と樹が部室にやってきた。

 

「あれ、蔵人さん、どうして?」

 

「差し入れだよ」

 

「うわぁ、ありがとう!女子力が高まるわ!」

 

「お姉ちゃん、蔵人さんの料理大好きだもんね」

 

「風先輩、彼に胃袋を掴まれているんですね」

 

「そ、そういう皆だって、大好きでしょ!?」

 

 顔を赤らめながら叫ぶ風。

 

 指摘されて恥ずかしいのだろう。

 

「はい!大好きです!」

 

「私も、その、はい」

 

 周りへ叫ぶ風に友奈が同意する。

 

 和気藹々とした空間に蔵人も含めて皆が笑顔を浮かべていた。

 

 そのタイミングで樹海化警報が発令する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようし!やるわよ!」

 

 勇者装束を纏い大剣を手にした風はいつになくやる気に満ち溢れている。

 

 それは樹も同じだった。

 

「風先輩に樹ちゃん、いつもよりやる気ね」

 

「当然だよ!樹海化する前に蔵人さんに会ったんだもん!私もやる気に満ち溢れているよ!」

 

「そう、そうね。私も頑張るわ」

 

 頷いてやる気を出す勇者部一同。

 

 そんな彼女達と向かい合う様に立つのは漆黒の狼鬼。

 

「勇者、貴様らを滅ぼす!」

 

 黄色い瞳を輝かせて狼鬼は三日月形状の剣――三日月剣――を構える。

 

 狼鬼を前に勇者たちはそれぞれの武器を構えて駆け出す。

 

 風の大剣を三日月剣で受け止め、友奈の拳を弾き飛ばし。

 

 東郷の銃弾を躱し、樹の操る糸を三日月剣で切り裂く。

 

「やっぱり、強い!何なのコイツ!」

 

 吹き飛んだ風は大剣を構えながら息を整える。

 

「(奥の手段を使う?でも、まだバーテックスがいるわけじゃない)」

 

 敵が狼鬼だけとは限らない。

 

 ここで全力を出して神樹様を守れないとなれば本末転倒だ。

 

 風は大剣を構える。

 

 その時だ。

 

「……なんだ?」

 

 狼鬼は掴んでいた友奈を投げ飛ばして周りへ視線を向ける。

 

「なに?」

 

 相手の様子がおかしい。

 

 狙撃していた東郷は周りを見る。

 

 何か、何かが狼鬼の集中を乱すような何かがあるんだ。

 

 そう考えていた彼女は見つける。

 

 ゆっくりと樹海の中を歩く存在。

 

 風で揺れるマント。

 

 全身を漆黒の鎧に身を包んだ存在。

 

 狼鬼とは異なる覇気を感じた。

 

 スコープ越しにみている東郷ですら体の震えが止まらない。

 

「何なの……あれは」

 

 驚きの声を漏らす東郷。

 

 それはゆっくりと勇者たちと狼の前に姿を見せた。

 

「貴様かぁ!」

 

 狼鬼の叫びに友奈たちも戦いを中断する。

 

「あれ……」

 

「なに?」

 

「ウソ……」

 

 勇者たち三人も手を止める。

 

 両者の間に立った存在はゆっくりと左右を見た。

 

「貴様は、貴様だ!何だ、貴様を見ているとイライラする!」

 

 乱入者の存在に狼鬼は苛立った声を上げる。

 

「貴様は一体、なんなんだぁ!」

 

 叫びながら三日月剣を振り下ろす。

 

 繰り出される剣を乱入者は腕で受け止めた。

 

「私は――」

 

 

 

 

 

 刃を腕で受け止めたまま乱入者は名乗る。

 

 

 

 

 

「黒騎士、ブルブラック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び、伝説がはじまる。

 

 

 






補足説明、


狼鬼
登場は百獣戦隊ガオレンジャーにおいて。額に角を持つ狼を模した姿をしたハイネスデュークオルグという上級存在。
太古のガオレンジャーによって封印されていた存在でオルグ達の手によって封印を解かれる。
その存在はとても強く、初登場時、ガオレンジャーを圧倒してガオホワイトからガオの宝珠を奪うほど。
登場期間は短いものの、視聴者にかなりのインパクトを与えた人物。
ちなみに声をあてていた人物は仮面ライダーでいうとスコーピオンゾディアーツとベテラン声優でもある。




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魔獣合体と重星獣と重騎士

次回くらいからオリジナル展開になっていきます。

ちなみに次回は番外編、ようやく西暦組のギャグ?をできそうです。



「えっと、どういう展開?」

 

「わかりません……でも、あの人は味方なんでしょうか?」

 

「…………凄い」

 

 風が驚きの声を漏らす。

 

 目の前で爆発が起こる。

 

 煙の中、吹き飛んで姿を見せるのは狼鬼。

 

 勇者たちの攻撃を受けても平然としていたあの狼鬼。

 

 圧倒意的な強さをみせていた狼鬼が圧されている。

 

 黒騎士ブルブラックを名乗る存在によって。

 

 ブルブラックは水晶のようなものが埋め込まれている剣を逆手にもってゆっくりと煙の中から姿を見せた。

 

 ゆっくりと姿を見せたことでより狼鬼が苛立ちの感情を吐き出す。

 

「苛立つ!何故かはわからないが黒騎士、貴様の存在が俺を苛立たせる!」

 

 叫びながら狼鬼は懐から三つの宝珠を取り出そうとして手を止める。

 

 彼の体が徐々に粒子を放っていた。

 

「貴様!まさか」

 

「ああ、お前と共に進軍していたバーテックスはすべて倒した」

 

 黒騎士ブルブラックの言葉に狼鬼は顔を歪める。

 

 そうしている間も体は粒子を放っていた。

 

「赦さん!この怨み!必ず晴らすぞ!ハイネスデュークオルグ!狼鬼が!」

 

 怨念の声を放ちながら狼鬼は消える。

 

 徐々に崩壊を始めていく樹海。

 

 その場にいるのは勇者部と黒騎士ブルブラック。

 

 沈黙が場を支配している中、東郷はいつでも狙撃できるように武器を構えている。

 

 風も警戒しているのか大剣を握り締めている。

 

 状況がわからず困惑している樹と友奈。

 

「私は」

 

 そんな空気が漂う中、黒騎士が言葉を紡ぐ。

 

「黒騎士ブルブラック……バーテックスとはわけあって敵対関係にある」

 

「じゃあ、私達の」

 

「だが、俺は勇者の味方でもない」

 

「え?」

 

 驚きの声を漏らすメンバー。

 

「時間か」

 

 崩壊を始める樹海を見上げて黒騎士は呟く。

 

 白い世界に勇者たちの視界が包まれる中、黒騎士の言葉を友奈は訊いた。

 

「300年の月日が流れても勇者は相変わらず清い乙女か」

 

 その言葉の意味を理解する暇もないまま、友奈達は元の世界に戻される。

 

「何なんでしょうか?あの黒騎士っていう人」

 

「声からして男の人みたいですけれど……勇者とも違うみたいでした」

 

「あの狼鬼を追い詰めていました……とてもすごいです」

 

「あぁああああああ!」

 

 疑問を浮かべている勇者たち。

 

 だが、そこで風が叫ぶ。

 

 唐突ながら風達のいる場所は学校の屋上。

 

 樹海が起こる前は勇者部の部室にいたのだ。

 

 つまり。

 

「ヤバイ!蔵人さん、部室に置いてきちゃっている!」

 

「急いで戻らないと!」

 

「わわ!急ごう!」

 

「うん!」

 

 勇者部一同が屋上から部室へ戻ろうとした時。

 

「あれ、ここにいたんだ?」

 

 扉の向こうから蔵人が姿を見せる。

 

「あ、く、蔵人さん」

 

「驚いたよ。急に部室から大急ぎで飛び出すからさ、何かあったのかなって」

 

「だ、大丈夫!ほら、勇者部に急な依頼の相談があってね」

 

「そっか、勇者部も大変だねぇ」

 

 朗らかな笑顔を浮かべる蔵人に風は苦笑いを浮かべる。

 

 神樹のおかげというべきなのか、全くの疑いを持たない彼に助かったと一同は心の中で思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 いつもはうどんを食べるために寄り道をしているのだが、蔵人がきていたことで勇者部のメンバーは学校で別れて、風と樹の二人と共に蔵人は歩いていた。

 

「風ちゃんに樹ちゃん、笑顔だけれど、いいことでもあった?」

 

「え?そうみえるかしら?」

 

「うん」

 

「お姉ちゃん、蔵人さんと帰れて嬉しいんですよ」

 

「え、僕と?」

 

「わーわー!樹!変なこと言わないの!蔵人さんに迷惑でしょ!」

 

 顔を赤らめながら叫ぶ風に樹は苦笑する。

 

 蔵人はわかっていないのか首を傾げていた。

 

 心が落ち着ける距離感。

 

 それが落合蔵人と犬吠埼風と犬吠埼樹の関係だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 風は大赦に連絡を取っていた。

 

 連絡の内容は黒騎士ブルブラックが樹海の中に姿を見せたということ、強敵、狼鬼を退けてくれたということ。

 

 それらの内容を報告して大赦からもたらされたことを風は勇者部の部室で話す。

 

「黒騎士ブルブラックについては発見次第、撃破、もしくは不要な接触を禁止する……だって」

 

「そ、それだけですか?」

 

「ええ、どうやら大赦も黒騎士ブルブラックについて、詳しいことはわかっていないみたいなの」

 

 東郷が尋ねると風は肩をすくめた。

 

「あまり良くない結果ですね」

 

 樹も趣味でやっているタロットカードの結果を見る。

 

 カードの結果はこれから良くないことが起こることを示していた。

 

「でも!私、黒騎士さんが悪い人だなんて思えないんです」

 

 友奈の言葉に全員の視線が集まる。

 

「何ていうか、まだ一回しか会っていないですけれど、狼鬼とは違う……悪い人とは思えないんです!」

 

「友奈ちゃん」

 

「まぁ、それぞれが思うところがあるかもしれないけれど、今はバーテックスと狼鬼のことを考えましょう……黒騎士のことについて警戒はしましょう。最低限、ね」

 

 風の言葉に皆が色々と思いながら頷いた。

 

 同時に樹海の出現を知らせる警報が端末に鳴り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、勇者部に新しい子が入ったの?」

 

「はい!三好夏凜さんっていうんです」

 

「かなり個性的なんだろうね……」

 

「蔵人さーん?どうして、私を見ながら笑顔で頷くのかその理由を色々と問い詰めたいところなのだけれど?」

 

「さて、何のことやら?」

 

 風がニコニコと笑みを浮かべて手招きをするが蔵人は近づかず、樹の横へ腰かける。

 

「その言い方だと、私は面白い人たちしか勇者部にいれているみたいな言い方じゃない!」

 

「言い方はともかく、みんな、個性的だと思うよ?」

 

「あー、うん、否定できません」

 

「樹!?」

 

 妹の言葉に叫ぶ風。

 

「まぁ、ほら、皆ならすぐに仲良くなれるんじゃないかな……懐が広いというか、みんな良い子達ばかりだし」

 

「そうですね」

 

「まー、友奈たちは良い子だから!」

 

「風ちゃん、そういう言い方はお母さんみたいだよ」

 

「ちょっ!?」

 

 叫ぶ風の声を聴きながら蔵人と樹は笑いあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、なに?」

 

「え?」

 

 勇者部のボランティア活動に参加している蔵人。

 

 そこで初対面の三好夏凜に挨拶をしたわけだが、眉間へ皺を寄せながら蔵人に尋ねた。

 

「えっと、なにっていうのは?」

 

「アンタ、気持ち悪いわね。笑顔が偽物くさい」

 

「夏凜ちゃん!?えっと、ごめんなさい、蔵人さん」

 

「いや、いいよ。彼女の言っていることはその、事実だしね」

 

 首を傾げる夏凜に蔵人は困ったような表情を浮かべながら。

 

 一瞬で無表情になる。

 

 その顔を見た夏凜は目を見開く。

 

 無表情だった蔵人の顔はすぐに困った様な表情になった。

 

「ごめんね。気を張っていないとすぐにこうなるから……ごめん、僕はあっちにいくよ」

 

 頭を下げて蔵人は離れていく。

 

「何だったの、あれ」

 

「夏凜ちゃん、蔵人さんは記憶喪失なんだ」

 

「記憶喪失?」

 

「うん……風先輩達と出会うまでの記憶が何もないんだって、自分が誰で、どこで生まれたとか……その、名前も」

 

「え、じゃあ、あの名前は?」

 

「蔵人さんが持っていたペンダントに名前が掘られていて、その名前を使っているの」

 

「そ、そう……」

 

「あー、その話しちゃったのね」

 

 夏凜の後ろから風が現れる。

 

 困った様な、悲しいような表情で風は話す。

 

「蔵人さん、出会った時は全く笑わなかったの……さっきみた無表情で会話とかも全くない……そんな人で、私は樹が何度も話をして、色々なところを見て回ったりして今みたいな表情を浮かべるようになったのよ」

 

「……」

 

「でも、それでも、時々、気を抜くとあぁいう無表情になっちゃうのよ。だから、友奈とか、夏凜みたいな直感タイプはすぐに感じ取っちゃうのよね。気持ち悪い笑顔だって」

 

「私……」

 

「まぁ、初対面だから仕方ないわよ。これから、うまくやっていけばいいから」

 

「え?謝りに行けとかいわないの」

 

 風の言葉に夏凜は尋ね返す。

 

「それさ、嫌がるんだ」

 

「どういうこと?」

 

「自分のために、誰かが謝罪されるってこと、あの人は苦手みたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者部のメンバーは樹海で狼鬼と戦っていた。

 

 二刀流の夏凜の斬撃を狼鬼は三日月剣で防いでいく。

 

 横から風と友奈の斬撃と打撃が行われるが狼鬼はひらりと躱す。

 

「何よ!コイツ……」

 

「狼鬼よ」

 

「とっても強いんだ!」

 

「狼鬼……報告にあった鬼」

 

「どうした?この程度か?勇者ァ!!」

 

 叫びながら狼鬼の斬撃が襲い掛かる。

 

 樹が攻撃を防ぐが衝撃で吹き飛んでしまう。

 

「樹!大丈夫!」

 

「お姉ちゃん……うん」

 

 起き上がった樹をみて風は考える。

 

 奥の手を使おう。

 

 風が奥の手である満開を使おうとした時。

 

 ふらりと彼女達の前に黒騎士が現れる。

 

「黒騎士さん!?」

 

「……お前は?」

 

「あ、私!結城友奈といいます!」

 

 名前を聞いた時、ブルブラックが一瞬、動きを止める。

 

「そうか、結城友奈。下がっていろ……狼鬼は私が相手をしよう」

 

「ちょ、な、何よ。コイツ!」

 

 黒騎士ブルブラックをみた狼鬼が苛立った声を上げた。

 

「貴様、また、貴様だ!なぜだ、なぜ、貴様をみているとこうも苛立つのだ!」

 

「……」

 

 狼鬼は黒騎士を睨む。

 

 向かい合う両者をみて夏凜は叫ぶ。

 

「な、何なの、アイツ。まるで隙がない」

 

 ブルブラックと狼鬼。

 

 両者は驚くほどに隙がない。この中に夏凜が突撃してしまえば……すぐに二人の手によって倒されてしまう。

 

 ギリリと拳を握り締める。

 

 彼らは強い。

 

 その事実を夏凜は思い知る。

 

「黒騎士ィ、貴様を潰す!」

 

 狼鬼は懐から三つの宝珠を取り出す。

 

 小さな魔笛を取り出すとそこに三つの宝珠をはめ込み音色を奏でる。

 

 どこか不気味で悲しい音色に勇者たちは周りを見る。

 

「あ、あれ!」

 

 樹が空を指す。

 

 樹海の空。

 

 そこから複数の影が姿を見せる。

 

「デカ!?」

 

 風が叫ぶ。

 

 彼らの前に現れたのは巨大な動物たち。

 

「ガオウルフ!ガオハンマーヘッド!ガオリゲーター!」

 

 狼鬼は叫ぶ。

 

「魔獣合体!」

 

 叫びと共にガオウルフ、ガオハンマーヘッド、ガオリゲーターが一つになることで生まれる邪なる王がその場に姿をみせた。

 

「ガオハンター!」

 

 狼と鬼を重ねた巨大な存在に勇者部の面々は息をのむ。

 

「……あれ」

 

 遠くからみていた東郷はその姿に何か違和感を覚えた。

 

 全員がガオハンターの前で臆している中でブルブラックが前に出る。

 

「ゴウタウラス!!」

 

 ブルブラックが叫ぶ。

 

 直後、地面が揺れる。

 

「え、地震!?」

 

「じゅ、樹海の中で!」

 

「あ、あれ」

 

 巨大な地割れと共にそこから巨大な影が現れる。

 

「う、牛?」

 

「で、でかい……」

 

 ガオハンターに匹敵するほどの巨体に勇者たちは息をのむ。

 

「ゴウタウラス、行くぞ!」

 

 ブルブラックの叫びにゴウタウラスは雄叫びを上げると赤い光と放つ。

 

 光に包まれたブルブラックは重騎士ブルブラックへ姿を変える。

 

「さらにでっかくなった!」

 

「もう、ついていけない……」

 

 目の前の光景に風や夏凜は声を漏らす。

 

 ブルブラックはゴウタウラスに跨りガオハンターに突撃する。

 

 ガオハンターの攻撃をものともせずにゴウタウラスの一撃を受けて大きくのけ反った。

 

「くそっ、なぜだ!なぜ、俺は貴様を見るとこうも苛立つのだ!」

 

 リゲーターブレードにガオハンターは邪気を込める。

 

 ガオハンターは必殺技“リゲーターブレード魔性十六夜斬り”を放つ。

 

「騎獣合身!」

 

 爆発の中、ゴウタウラスはブルブラックに姿を変えて必殺の一撃を繰り出した。

 

 攻撃を受けたガオハンターは姿を消す。

 

 同時にブルブラックもいなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦の一室。

 

 そこで祭られている少女がいた。

 

 全身を包帯で巻かれている痛々しい姿ながらも顔立ちが整っていることで儚い印象がより増している。

 

「誰、かな?」

 

 少女は部屋に入り込んだ存在に尋ねる。

 

 異変に気付けば大赦の人間がすぐに駆けつけてくるだろう。

 

 御神体に何かあれば一大事だといって。

 

 しかし、人がやってくる気配はない。

 

 コツコツと靴音を鳴らしながらその人物はやって来る。

 

「お前が乃木園子だな?」

 

「……誰?」

 

 現れた人物はかぶっていたフードを脱いだ。

 

「俺は落合日向……西暦の時代に黒騎士として戦っていた男だ」

 

「黒騎士……様?」

 

 驚いた表情で園子は見上げる。

 

「大赦が抹消した存在が目の前に現れると驚くか?」

 

 ニヤリと日向は笑う。

 

 園子は身構える。

 

 大赦は西暦の時代に戦っていた勇者と異なる存在の記録を抹消している。

 

 その彼が勇者たちのまえに姿を見せているという報告も聞いていた。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい」

 

「え」

 

「俺は名誉や栄光が欲しかったわけではない……俺はあるものを探している。乃木園子。その場所をお前は知っているか?」

 

「何を、探しているの?」

 

「…………ギンガの光」

 

「え?」

 

「ギンガの光。それの居場所をお前は知っているか?」

 

 日向はそういって顔を近づける。

 

 

 



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番外編:西暦勇者と惚れ薬

感想100件突入したので記念として投稿します。


次回は神世紀のお話……ヤンデレが起こるかも?


もしくはゆゆゆいの編、赤嶺友奈の暴走があるかもしれない。

てか、ゆゆゆいは終わらせられるかわからないんだよなぁ。



 

「ジルフィーザ殿、これはなんだ?」

 

「人の心を自分に向けさせる薬だ」

 

「それはほ、ほ、ほ、惚れ薬というのでは!?」

 

「人の心を自分に向けさせる薬だ」

 

 乃木若葉はジルフィーザから与えられたものをみて目を見開く。

 

 紫色の液体が入っている小瓶。

 

「この瓶の中に自分の体の一部を入れて飲ませることで、飲んだ相手は飲ませた相手のことを考えるようになる。ただし、相手に飲ませるだけではない。半分ほど残して自分も飲まなければ意味がないのだ」

 

「……だが、それは」

 

「そうか、では、西暦の他の勇者に与えることに」

 

「私が手にする!」

 

 ジルフィーザが瓶を片付けようとしたら信じられない速度で若葉が回収する。

 

 一瞬、驚きながらもジルフィーザは頷いた。

 

「よかろう、だが、気をつけろ?狙うものが多い薬だからな」

 

「わかっている。だが、負けぬ。それが私だ」

 

 乃木若葉にジルフィーザは頷いて立ち上がる。

 

「惚れ薬…………これで日向を!」

 

 力拳を作る若葉の姿を遠くから見ている“者達”がいることに若葉もジルフィーザも気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたわよ!日向!」

 

 早朝、歌野は水筒を手に日向の家へ突撃しようとしていた。

 

 水筒の中に入っているのはジルフィーザから強奪した惚れ薬。

 

「フフフ!みーちゃんがいないのは残念だけれど、今は日向を独占するチャーンスを逃すわけにいかない。覚悟!」

 

「させん!」

 

 背後から襲撃を受けて歌野は地面に倒れた。

 

 歌野を襲撃したのは大太刀を構えている若葉だった。

 

「日向をやらせはせん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日向はふらふらと四国の町中を歩いていた。

 

「さて、今日はゴウタウラスの様態を」

 

「日向さーん!」

 

 向こう側から日向に手を振ってやって来るのは高嶋友奈。

 

 笑顔を浮かべて彼女はこちらにやってくる。

 

「何だ?友奈か」

 

「はい!高嶋友奈!参上しました!」

 

 ビシッとポーズをとる友奈。

 

「それで、俺に何の」

 

「あ、はい、実はこの飲み物をどうぞ!」

 

 水筒から友奈はハイッと飲み物を差し出す。

 

 中を見ると桃色の液体だった。

 

「……なんだ、これ?」

 

「あ、えっと、ピーチジュースなんです!ですから、えっと、飲んでもらえませんか」

 

「……なぜ?」

 

 本当に疑問だった。

 

 喉が渇いていないというのにどうしてか?

 

「えっと、ほら、私の愛が詰まっているので!」

 

「飲むな!日向!」

 

 ブン!と日向が飲もうとしたところで上空から大太刀が振り下ろされる。

 

 ギリギリのところで日向は回避した。

 

「な、なんだ?」

 

「日向!まだそれを飲んでいないな!」

 

 目の前に現れたのは若葉だった。

 

「一体、どういうことだ」

 

「若葉ちゃん!邪魔しないで!」

 

 何やら必死な様子の友奈に日向は首を傾げる。

 

 若葉は太刀を構えて日向を、正確には日向の手にしている水筒へ狙いをつける。

 

「日向、大人しくその飲み物を捨てろ」

 

「駄目!ちゃんと飲んでください!日向さん!」

 

 真剣な目で言う若葉と友奈。

 

 二人に見られて、日向は仕方なく。

 

 飲み物を飲もうとしたところで横からやってきた球子と杏に拉致される。

 

「日向!」

 

「邪魔はさせないよ!若葉ちゃん!」

 

 若葉を阻むように攻撃する友奈。

 

 これは一体、何が起こっているのだろうか?

 

 困惑している俺は杏と球子によって近くの公園へ連れ込まれた。

 

「さぁ、日向。これを飲むんだ」

 

「飲んでください。日向さん」

 

 そう言って飲み物を俺に差し出す球子と杏。

 

 中の液体は紫と黄色が混ざり合っている。

 

 香りもしないから怪しさ満点だ。

 

「なんだ、これは?」

 

「いいから飲むんだ!タマ達のために!」

 

「飲んでください。私とタマっち先輩のために!」

 

 必死さを通り越して不気味さが漂い始めている二人。

 

 逃げようとするとベンチの左右に腰かけて逃げられないように腕をがっしりと掴む。

あまりの痛みに顔が歪む。

 

「仕方ない。お前が悪いんだぞ。タマ達から逃げようとするんだから、なぁに大丈夫だ。痛みを感じることはない、目を覚ましたら幸せな日々が待っている。タマと杏達のなぁ」

 

「あまり乱暴なことをしたくなかったけれど……仕方ないよね。日向さんが拒否するのが悪いんだもん」

 

「おい、何をぐぅ」

 

 そういって無理やり俺の顎を押さえて口を開ける。

 

「大丈夫!大丈夫!」

 

「タマっち先輩の言うとおり、全ては私達に任せて、ね?」

 

 球子が俺の口に何かを飲ませようとしてきた。

 

 このままではマズイ。

 

 無理矢理逃れようとした時、バチバチという音を立てて二人が崩れ落ちる。

 

「日向!大丈夫!」

 

 二人を気絶させた本人であるちぃちゃんがやってきた。

 

 その手にはスタンガンが握られている。

 

「ちぃちゃん、その手にあるのは」

 

「恋する女の子の必須アイテムよ」

 

「いや、それはスタ――」

 

「恋する女の子の必須アイテムよ」

 

 光のない瞳で真っ直ぐに見つめられて俺は言葉を失う。

 

 これ以上の追及は命がないことを知った。

 

 バチバチとスタンガンが雷撃を放っているのだから。

 

「ところで日向、今、喉が渇いていないかしら?」

 

「唐突の話だな、目の前で気絶している二人については」

 

「何の事かしら?私の前には愛しい愛しい日向の姿しかみえないわ」

 

 俺の足元で気絶している球子と杏のことはみえないらしい。

 

 尚、余計なことを言えばバチバチとスタンガンを当てられるかもしれないのは明白。

ならば、沈黙しよう。

 

 二人には申し訳ないけれど。後で謝罪でもしよう。

 

 そう考えているとがしりと腕を掴まれる。

 

「ところで日向、喉は乾いていないかしら?」

 

「いや、大丈夫だと」

 

「そう、喉が渇いているのね……これを飲んで」

 

 腕を掴んだままこちらへ差し出してくる飲み物を見て俺は言葉を失う。

 

 何をどうやればこんなものが生まれるのか。

 

 コップの中には真っ黒で何が温めたのか、何か特別なことをしたのかグツグツと水泡を立てている。

 

 いや、これ、飲んだらお腹壊すんじゃないかな?

 

 躊躇っているとちぃちゃんが俯く。

 

 経験上、この時のちぃちゃんは。

 

「私が作ったの……飲んでくれないの?」

 

「ぐふぅ」

 

 涙目+上目遣いというコンボに俺は大ダメージを受ける。

 

 元からちぃちゃんに弱い俺は抵抗できない。

 

「飲んでくれないの?日向は私のこと……嫌い?」

 

「そんなことは」

 

「じゃあ、飲んで」

 

 差し出される黒い飲み物。

 

 これを飲まなければちぃちゃんは泣いてしまう。

 

 俺に残されている選択肢は一つしかなかった。

 

 いや、一つしか元からなかったのだ。

 

 差し出された飲み物を受け取る。

 

 グツグツと湯気を立てていた。

 

 ちらりとちぃちゃんをみる。

 

 未だに涙目だ。

 

 飲まなければ本当に泣いてしまうだろう。

 

 覚悟を決めよう。

 

 俺は飲み物を口へ近づける。

 

 ニヤリとちぃちゃんが笑った気がした。

 

「させん!!」

 

 上空から現れた若葉の手によってドリンクは宙を舞う。

 

「させないわ!」

 

 ちぃちゃんが俺の口を掴んで上へ持ち上げる。

 

 開けた口の中にドリンクが入り込む。

 

「う、ぐぅ!」

 

 見た目と裏腹にとてもおいしい味だった。

 

 ぐるぐると視界が揺れて、地面に膝をつく。

 

「日向!しっかりしろ!大丈夫か!」

 

「あ、あぁ」

 

「赦さんぞ!千景!」

 

「何を許さないのかしら?貴方も同じ穴の狢の癖に」

 

「な、何を」

 

「惚れ薬」

 

「!?」

 

 ちぃちゃんの言葉に若葉が動揺していた。

 

 惚れ薬?

 

「貴方だけじゃないの、話を聞いていたのは……私達は脅……お願いして薬を手にしたの……貴方だけに日向を独占させないわ」

 

「わ、私はそんなつもりは」

 

「どうであれ薬を手にした時点で同じ穴の狢なのよ。他の人を潰して回ったようだけれど……彼が飲んだ時点で結果は見えているのよ。あとは私が」

 

「ならば!」

 

 若葉は青い液体の入った飲み物を俺の口中に押し込んだ。

 

 少し苦みがあったような。

 

「乃木さん!貴方!」

 

「誰か一人に独占させるくらいなら!」

 

 若葉は次々と俺に液体を飲ませる。

 

 色々な味で俺の舌は狂ってしまいそうだ。

 

「こうすればいい!」

 

 次々と飲まされたことで意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、これってさぁ。今までと変化ないんじゃないか?」

 

「うーん、そうかもね」

 

 球子と杏は目の前の光景をみて呟く。

 

「日向さん!ケーキ食べにいきましょう!」

 

「え、あぁ」

 

「待って高嶋さん、日向は今日私と一緒にゲームセンターに行く予定なの」

 

「そんなはずはない、今日は私と鍛錬の予定だ」

 

 騒がしくも日向は彼女たちに囲まれている。

 

 そこに他の誰かが入って来ることはないだろう。

 

「まぁ、この結果でいいんだろうな」

 

「うん!私達も行こう!」

 

「だな!」

 

 

 

「あ~、嫉妬する若葉ちゃんも戸惑う日向さんも素敵です」

 

 

 彼らの様子を遠目から視ていたひなたがいたとかなかったとか。

 

 

 ちなみにジルフィーザが惚れ薬を若葉に差し出すように仕向けた張本人はひなたであることを後に知ることとなる。



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黒騎士と偽りの終わり

ダレた。

更新が遅かった理由はその一言です。

ゆゆゆの展開が思う通りに進まず、番外編は筆が進むという悲しさゆえにダレました。

ちなみにヤンデレ予備軍がでてきます。




 

「ギンガの光って、何かな?」

 

「そうか、お前は知らないのか」

 

 園子の表情と声からわかったのだろう。

 

 日向は肩をすくめた。

 

「お前が知らないのならいい……大体の目星もつけていたからな」

 

「それは、どういう」

 

「知らない方がいい。御神体が黒騎士に加担していると知ったら大赦も黙っていないだろう」

 

「何を、するつもりなの?」

 

 日向の言葉からよくないものを感じ取ったのだろう。

 

 園子は尋ねる。

 

 同時に彼女から重圧が放たれた。

 

 普通の人なら腰を抜かして謝罪を求めてしまうだろう。

 

 実際、何度かこれを行って大赦の人間を謝罪させている。

 

「成程、御神体とあがめられるだけはあるな。だが」

 

 ヒュンと園子の横を短刀が通過した。

 

 ナイフは壁に突き刺さる。

 

「自分が勝てないような相手に敵意を向けない方がいい」

 

「ヒュ!」

 

 園子の横を通り過ぎてナイフを引き抜いた。

 

「私の大事な人に手を出したら許さない」

 

 ちらりと日向が視線を向けると園子は気丈ににらんでくる。

 

 その姿が不思議とある人物と重なった。

 

 近づいてきた日向が手を伸ばす。

 

 ビクッと身構える園子だが、その頭の上に日向は手を乗せた。

 

「安心しろ。俺はお前の大事な者達……勇者を傷つけるつもりはない」

「え?」

 

 驚いた表情を浮かべる園子の頭をポンポンと日向は撫でる。

 

「俺は勇者を殺すようなことはしない……俺の目的というものがあるけれど……俺は、それだけはしない」

 

 辛そうな表情を浮かべながらも日向は視線を外す。

 

「どうやら時間か……乃木園子、一つ警告しておく」

 

「な、何かな」

 

「狼鬼を倒すな」

 

「え?それって」

 

「狼鬼は人間だ。奴を殺せばお前達は後悔することになる」

 

「どういう……」

 

「神樹を通して、六大神に呼びかけることだ。奴らなら知恵を与えるだろう。何よりガオゴッドが狼鬼の存在を無視することはない」

 

「それはどういう、ことなの?」

 

「知らない方がいい……まだ、あんな醜い世界に足を突っ込まない方がいい」

 

 日向は幽霊のようにその場から消えた。

 

 少し遅れて大赦の人間が園子の身を案じてくるが、彼女の耳に言葉が入って来ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新月の日、落合日向は四国の町を見渡していた。

 

「楽しかった日々も終わりか」

 

「後悔しているのか?」

 

 日向に問いかけるのは黒騎士ブルブラック。

 

 しかし、彼の姿はどこにもない。

 

 ブルブラックの声だけが響いていた。

 

「後悔はしていない。あの日、お前と契約しなければ……野垂れ死んでいた。何より、あんな日々を送ることもなかった。だから感謝はしていてもアンタを恨むことなんて絶対にない」

 

「そうか」

 

「だが、本当にやるのか?」

 

「くどい、私は目的を果たす。ギンガの光を手にする……それがお前との契約の内容だ」

 

「だが、ギンガの光の行方はわからない。アンタがこの星に来てから長い時間が過ぎているし。何者かが持ち出している可能性もある」

 

「いいや、わかる……ギンガの光の場所……何があろうと邪魔はしない」

 

「……」

 

「あのつまらない“ままごと”も終わりだ。わかっているな?」

 

「わかっているさ……だが、忘れてもいないだろう?俺達が三百年、生きて居られているのは勇者がいたおかげというのも」

 

「……」

 

 それっきりブルブラックの声は聞こえなくなる。

 

「ああ、わかっている。俺は何年、何十年、何百年過ぎても変わらない。俺の目的はただ一つだ」

 

 空を見上げる日向の目は燃え滾る憎悪の炎が消えずにいた。

 

「だが、だとしても、俺は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者部の部室。

 

 送られてきたメールをみて風は声を漏らす。

 

「ウソ、何、これ?」

 

 風は大赦から送られてきたメールに目を見開く。

 

 ウソだと思いながら何度も確認するがメールの文面に変化は起こらない。

 

「ウソ、ウソでしょ?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「風先輩?」

 

「どうしたのよ。そんな真っ青になって」

 

 様子のおかしい風の見ている端末の画面をのぞき込む。

 

 覗き込んだ夏凜は目を見開いた。

 

「何、これ?」

 

「え?夏凜ちゃん」

 

「……失礼します」

 

 様子のおかしい二人の横から端末を取って覗き込む東郷と友奈。

 

 二人は目を見開く。

 

 少し遅れて樹が画面を見た。

 

「なに、これ?」

 

 怯えた声で樹が呟いた。

 

 端末に表示されているのは大赦からの指示。

 

 

 

 

――落合蔵人は危険人物、撃退、もしくは捕縛して大赦に引き渡すように。

 

 

 そういう内容だった。

 

「ど、どういうことなの!お姉ちゃん!」

 

「今すぐ確認する!」

 

 震える手で風は端末で連絡を取ろうとする。

 

 しかし、大赦からの応答はない。

 

「行きましょう!蔵人さんのところに!」

 

 友奈の言葉に一同は頷く。

 

 頷いた中で風だけは体を震わせていた。

 

 彼女達は勇者部の部室を出て犬吠埼姉妹が住んでいるマンションへ向かう。

 

 鍵を回そうとするとドアが開く。

 

「…………ぁ」

 

 ドアの向こうにいたのは落合蔵人だった。

 

 彼は風達をみると小さく頷いて中へ促す。

 

「来ると思っていたよ」

 

 蔵人は小さく笑顔を浮かべてリビングへ通す。

 

 勇者部のメンバーは緊張しながら中へ入る。

 

 住み慣れているはずの風と樹もかなり緊張している様子だ。

 

 対して蔵人は彼女達へお茶を出す。

 

「急いできたから喉が渇いているでしょ?まずは水でも」

 

「落合蔵人、アンタは何者なの?」

 

 飲み物を促そうとする蔵人に夏凜は話を切り出す。

 

「夏凜ちゃん!」

 

「アンタ達はなまじ付き合いがあるからストレートに聞けないでしょ?だったらアタシが聞く」

 

 鋭い目で夏凜は蔵人へ問いかける。

 

「アンタは何者なの?」

 

「俺が何者か……一言で説明すれば、俺は――」

 

 少し間をおいて俯いていた蔵人が顔を上げる。

 

 その顔は一つの感情が浮き出ていた。

 

「俺は復讐者だ」

 

 憎悪と怒り。

 

 それらの感情を乗せて告げられた言葉に誰も言葉を発しない。

 

「今より三百年ほど前、俺はある存在と契約をした。バーテックスを根絶やしにすると、そのために力を手にしてバーテックスを倒した。だが、最後の戦いで俺は不意打ちを受けて深い眠りについた。眠りと言っても俺ともう一人の意識のみが封印されて記憶を失った人間として三百年……神世紀の時代を生きてきた」

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ!三百年!?アンタ、本当に人間なの!!」

 

「残念ながら俺は人間だよ。ただ悲しいことに体の成長が止まった。見た目は十八歳だが、中身は三百歳以上の爺さんだ」

 

 そこで苦笑する。

 

 本人は冗談のつもりで言ったのだが誰もが言葉を詰まらせていた。

 

「アンタは何をするつもりなの?」

 

「俺がやることはバーテックスを滅ぼすことだが、もう一人は違う」

 

「もう一人?」

 

「俺に力を与えてくれた存在さ。ソイツは今も俺と共に生きている。ブルブラックの目的は四国のどこかにあるギンガの光を手にすること」

 

「ギンガの光?」

 

「待って、いま、ブルブラックって、アンタ、まさか!アンタ」

 

「う、ウソだよね?」

 

 樹が震える声で問いかける。

 

「ウソだよね?蔵人さんが黒騎士ブルブラックだったなんて」

 

「残念だが、事実だ」

 

 今にも泣きそうな樹に彼は無情にも事実を告げた。

 

「そして、大赦の連中は俺を始末しようとしているらしい。どうやら神世紀に入って連中はどんどん愚かな道を選んでいるようだ」

 

 ため息を零して彼は立ち上がる。

 

「アンタ、どこへいくつもり?」

 

「俺は俺の目的のために行動する。今度会う時は敵かもしれないな」

 

「ま、まって、待って!蔵人さん!」

 

 今まで黙っていた風が叫ぶ。

 

 その目は揺れていた。

 

 頭の中はぐちゃぐちゃで何を言えばいいのか思いつかない。

 

 だが、今は引き止めないといけない。

 

 そんな気持ちに風は包まれていた。

 

「違う」

 

 風に蔵人は冷たい言葉で言う。

 

「蔵人は死んだ弟の名前だ。俺の名前は日向……落合日向が俺の名前だ……さようなら」

 

 小さく笑みを浮かべる蔵人……日向。

 

 彼女達が瞬きしている間に彼の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外だ。お前は最後まで別れることを渋ると思っていた」

 

「ブルブラック。俺は記憶を失っていた時間のことは知らない。俺は俺の目的のために動いている……お前との契約を果たすことも行動の一つだ」

 

 ブルブラックと落合日向が向き合う。

 

 向き合い問いかけるブルブラックに日向は表情を変えなかった。

 

「もう会えないなんていう辛い別れなんかしたくないしな」

 

「ギンガの光の居場所もそうだが、どうするつもりだ?」

 

「狼鬼のことか?」

 

「そうだ」

 

「奴は俺達が生み出したようなものだ。その責任は果たすつもりだ……ブルブラックは」

 

「ギンガの光が見つかるまでの間ならお前が好きにすると言い。私は目的が果たされるとわかれば行動を起こす」

 

「そうか」

 

 ブルブラックの言葉に日向は小さく頷いた。

 

「まずは狼鬼を倒す……それをやろう」

 

 日向の問いかけにブルブラックは答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、いない、いない!」

 

 真夜中。

 

 樹が寝ている中で風は誰もいないリビングでぶつぶつとつぶやいていた。

 

 彼女手の中にはエプロン。

 

 蔵人……日向が使用していたものだ。

 

 しかし、ぬくもりを感じない。

 

 彼はもういないのだ。

 

 その事実が風を後になって襲い掛かって来る。

 

 胸にどうしょうもない空虚のようなものが突き抜けていく。

 

「辛いよ……悲しいよ……」

 

 




次回は番外編、書いているけれど、赤嶺さんは絶賛、暴走中。


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番外編:赤嶺友奈は暴走した

 

「古波蔵棗……なんだよな」

 

「そうだよ」

 

 頭痛は収まり、俺は古波蔵棗という少女と共に場所を変えて人が行き交うショッピングモールの中にいた。

 

 誰かに聞かれても困らないような場所を選んだ。

 

「覚えていないの?」

 

「すまない、名前と顔は思い出せるんだが、他にどんなことをしたのかは思い出せない」

 

「特に、私と日向さんがしたことはないよ」

 

「え?」

 

「だって、日向さんは私と出会った時はずっと黒騎士の姿だったから」

 

 古波蔵棗の話によると彼女と俺が出会った時、俺は黒騎士の姿のままで住民や棗と語り合うようなことはともかく、共に食事をすることもしなかったという。

 

「ほとんど接点がないというのに、どうして、キミは俺を気に掛ける?」

 

「……多分、日向さんは覚えていないよ。一度だけ、たった一度だけ、日向さんが私を助けてくれた時があったんだ」

 

「俺がキミを?」

 

「思い出せていないから仕方ないんだろうけれど、私は覚えている。あの時のこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦の時代。

 

 勇者として戦う古波蔵棗の前にフラリと姿を見せたのは黒騎士。

 

 常に鎧へ身を包み、彼は剣でバーテックスを滅ぼしていく。

 

 その姿に住民は戸惑いと恐怖の感情を浮かばせていた。

 

 しかし、棗は不思議と彼に対して恐怖を覚えず安心感しかなかった。きっと、彼が敵意をもっていなかっただろう。

 

 そんなある日。

 

 襲来したバーテックスが意図的にサトウキビ畑を破壊しながら進軍するということを行った。

 

 祖父のサトウキビ畑を荒らされたことで激昂した棗は冷静さを欠いて敵と戦い、命を落としそうになる。

 

 そんな時だ。

 

 攻撃をバーテックスから防いだ黒騎士。

 

 彼はブルライアットでバーテックスを射抜くと振り返ると同時に棗を殴った。

殴ったのである。

 

 突然のことに目を白黒させていると黒騎士は叫んだ。

 

「奪われたくないなら戦え!それがお前にできることだ!」

 

 今にして思えばあれは激励だったのかもしれない。

 

 黒騎士はすべての敵を滅ぼすとやるべきことがあるといって別れを告げて沖縄を離れた。

 

 別れる直前に互いの本心を打ち明けて会話をした。

 

 それから二度と日向と棗が出会うことはない。

 

「でも、私は救われた……黒騎士、ううん、落合日向、貴方に救われた。だから、心の底から感謝している。そして、私は貴方が大好きだ」

 

「……俺は、覚えていない」

 

 日向の言葉に棗は表情を変えない。

 

 だが、その目は少しばかり沈んでいた。

 

「だが、何も知らないからと拒絶するのはいけないことなんだと思う」

 

 続けて告げられた言葉に棗は顔を上げる。

 

 そこにいたのは先ほどまでの弱弱しい表情じゃない。

 

 彼女の知らない……けれど、兜の中に隠れていた“強い彼”にとても似ている気がした。

 

「古波蔵棗、俺は俺の知らない記憶を……知らないと言っている記憶を知りたい。助けてくれないか?」

 

 彼の目をみて棗は小さく微笑む。

 

 表情の変化が乏しいと言われている彼女だが、その目はとても朗らかで見る者を見惚れさせるものであった。

 

「うん、助けるよ。私を助けてくれたように、私も日向さんを助ける」

 

 伸ばされた手を棗は掴む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 棗が連れてきたのは清州中学校勇者部の部室。

 

「神世紀と呼ばれる時代に日向さんが訪れていた場所だって、風から聞いている……そこにいる勇者部の彼女達とバーテックスと戦ったって」

 

 かいつまみながら自分の過去を聞いた日向は校舎を見上げる。

 

 不思議に思いながらもその中に足を踏み入れようとした時。

 

「日向さんだよぉ~~~~!」

 

 学校の窓から少女が飛び出した。

 

 もう一度、言おう……学校の窓から飛び出したのだ。

 

「え?」

 

 茫然とする棗。

 

 だが、日向は予想出来ていたかのように駆け出して落下する少女を抱きかかえる。

土煙が舞う中で彼は茫然と落下してきた乃木園子を見下ろす。

 

「お久しぶりなんよぉ!日向さぁん」

 

 ぽろぽろと涙を零しながら園子は日向に抱き着いた。

 

 戸惑いながらも彼女が泣き止むまで日向はそのままでいることにした。

 

 乃木園子から自分の神世紀における自分のことを聞く。

 

「俺はキミと新婚だったのか」

 

「その通りなんよ!」

 

「ウソだよ。日向さんは誰とも結婚していなかった……恋人もいなかったはず」

 

「そうか、少し安心した。俺がこんな可愛くて幼い子に手を出していたのかと思うと不安だった」

 

「酷いんよぉ!そこは愛している!園子とかいってくれてもいいのにぃ」

 

「無理だ」

 

「即答!?記憶がなくても日向さんは日向さんなんよ」

 

「そうか」

 

 サンチョさんぬいぐるみを抱きしめる園子の姿を見て少しばかり安心した。

 

 記憶がないが、不思議と彼女達と接していくことに心が安らぐような気がする。

 

 おそらく、自分は本当に彼女達と親しかったのだろう。

 

 記憶がなくとも、体や心が覚えている。

 

 そんな気がした。

 

「でもぉ、ここからは覚悟した方がいいんよ」

 

「覚悟?」

 

「日向さんが敵対する相手の方にいっちゃってから、みんな、そのショックを受けていたの。だから、その状態の前に日向さんがでてきたら」

 

 話を最後まで聞こうとした時、ドアが音を立てて開いた。

 

 物凄い音に日向が視線を向ける。

 

 ドアの前には一人の少女がいた。

 

 腰にまで届きそうな黒い髪。

 

 耳元などを髪の毛で隠しながらも整った顔立ちの少女。

 

 限界まで目を見開いていた少女は下から上まで日向を見つめていた。

 

 自分の記憶が確かなら友奈と共にいた時にいた少女だ。

 

 チクリと頭の中に言葉が浮き上がる。

 

「ちぃちゃん……」

 

「ッ!」

 

 日向の言葉に少女、郡千景はぽろぽろと涙をこぼす。

 

「え、どうし」

 

 最後まで言う前に千景が日向を抱きしめた。

 

「えっと、どうしたの……」

 

「やっと、やっと会えた……もう、離さない。離したくない……私の、大事な日向」

 

「落ち着くんよぉ」

 

「気持ちはわかるけれど、事情を説明させて」

 

 棗と園子が泣いて離さない千景に事情を話す。

 

「ごめんなさい。一方的に………………貴方と会えたことが嬉しくて」

 

「そうか、すまない。俺はキミのことを覚えていない」

 

「仕方ないわ。徐々に思い出してもらうから。それと、私のことは千景と呼んで。貴方のことはダーリンと呼ぶから」

 

「わかっ……え?」

 

「千景さんの冗談だから真に受ける必要はないんよぉ」

 

「そうか」

 

「……いつもよりネジが飛んでいる……注意した方がいいかも」

 

「会うことに少し抵抗が出てくるんだが――」

 

「日向さん!」

 

「日向さんだ!」

 

「日向ァ!タマは会いたかったぞタマはぁあああああ!」

 

「オウ!日向!ここで会ったが百年目!今度こそ、農業に!」

 

「うたのん、落ち着いて~」

 

「あれ、どういうこと?棗さん」

 

 ぞろぞろと教室にやって来る高嶋友奈、伊予島杏、土居球子、白鳥歌野、藤森水都、秋原雪花というメンバー。

 

 泣きながら抱き着いてくる友奈や杏、噛みついてきた球子。嬉しそうにこちらへ拳を繰り出してくる歌野。なだめる水都、ニヤニヤとみてくる雪花。

 

 そのような事態から解放されたのはそれから三十分ほどだった。

 

「おかしい、まだ一日が終わっていないのに、すごい疲労感でいっぱいだ」

 

「お疲れ様」

 

 ポンと屋上で休んでいる日向の肩を棗が叩く。

 

 西暦組というメンバーと出会ったはいいが彼女達のトッツキ具合はすさまじかった。

 

 日向自身、記憶がなくて戸惑うばかりでしかない。

 

 彼女達に記憶がないことを伝えたのだが、余計にこじれてしまうばかり。

 

 終いにはウソの記憶を吹き込んで来ようとした。

 

 「婚約者」「嫁」「夫婦」「奴隷関係」など、後半のは流石にウソだということはわかったが真顔で詰め寄られたことで流石に恐怖を感じてしまった。

 

「俺は彼女達と長い時間共にしていたんだが」

 

「うん……私は知らないけれど……そうだと思う」

 

「そんな人達のこと……キミのことを俺は忘れているんだな」

 

「……何があったの?」

 

「わからない。俺は思い出せないんだ。何があったのか……」

 

 額へ手を当てながら日向は顔を歪める。

 

 どれだけ思い出そうとしても記憶が蘇らない。

 

「焦らないで」

 

 棗が真っすぐに日向を見る。

 

「いきなりのことで戸惑っていると思うけれど……そんな一気に記憶を取り戻そうと焦らないで……みんなが……私も心配する」

 

「すまない」

 

 日向は小さく謝罪する。

 

 少しして、日向は言葉を漏らす。

 

「今日は謝ってばかりだな」

 

「そうだね。でも、そんな日向さんも素敵かな?」

 

「おいおい、謝ってばかりだぞ」

 

「だとしても、日向さんのその姿は人間らしいよ」

 

「…………人間らしいか」

 

 日向は自分の手を見る。

 

 全てを思い出せない。

 

 どうして自分が黒騎士になれるのか。

 

 何を望んで力を欲したのか。

 

 根源のすべて。

 

 自分のルーツを思い出せないというもどかしさがある。

 

「俺はなんなんだろうか」

 

 葛藤している日向の姿に棗が言葉を発しようとした時。

 

「日向さんは私の大事な人だよ」

 

 夕焼け空の下。

 

 日向と棗の前に赤嶺友奈が現れた。

 

「……っ!」

 

 棗が日向を守るように立つ。

 

 赤嶺友奈を見て日向は驚いたような顔をしていた。

 

「友奈……」

 

「探したよ。日向……なんでここにいるのかわかんないけどさ、ほら、私達の新居に帰ろう。料理は……できないけれど、頑張るからさ!」

 

 前髪に隠れて表情は見えない。夕焼けの光加減のためか表情は見えなかった。

 

 棗が守ろうと前に出る。

 

 それを日向はやんわりと止めた。

 

「日向さん!?」

 

「大丈夫…………二人にしてくれないか?」

 

「でも!」

 

「大丈夫だ」

 

「わかった」

 

 頷いた棗は渋々という形で離れていく。

 

 会話が聞こえない場所まで離れたことを確認して日向は赤嶺友奈の傍に行った。

 

「探したよ」

 

「ごめん」

 

「あっちこっち探した」

 

「本当にごめん」

 

「さぁ、帰ろう!」

 

「すまない」

 

 手を伸ばす赤嶺友奈に日向は申し訳なさそうに謝罪する。

 

「友奈、俺は自分の失われている記憶を知りたい……取り戻したいと思っている」

 

「どうして?どうして?取り戻す必要なんてないよ」

 

 己の気持ちを伝えようとした日向。

 

 しかし、友奈は彼と目を合わせない。

 

「取り戻してどうするの?また苦しむだけだよ。日向が苦しむところなんてみたくない。ほら、私とずっと、ずぅっと、一緒にいようよ!そうすれば、辛い時間なんて、過去なんて考える必要がない。私達だけの幸せな未来をみようよ!」

 

「それは、できない」

 

「どうして?」

 

 そこから先の言葉を日向は伝えることができない。

 

 自分もわかっていないのだ。

 

 ただ、記憶を知る必要があると自分の中の何かが訴えていた。

 

「俺もわかっていない。でも、必要なんだという自分もいるんだ。俺はわかりたい。俺が何なのか」

 

「知る必要はないよ」

 

 淡々と機械のように友奈は“否定”した。

 

 言葉の意味を理解する暇もないまま、赤嶺友奈の手が日向の手を掴む。

 

 万力に捕まれたみたいに痛みが走る。

 

「友……奈?」

 

「どうして、どうして、日向はそんなことをいうの?私との幸せな時間だけを考えてよ。余計なことなんて必要ない。そんなものを考えても幸せなんて来ないよ。痛みや悲しいことなんて要らないよ。そんなもの、あるだけ辛いだけだ……だったら幸せなことだけ考えた方がいいに決まっている。ね、だから、私と一緒にいようよ。そうすれば、日向は幸せなんだよ?ううん、私も幸せ。日向と一緒に生きることが私の幸せ、何があろうとこれは不変で絶対……私のすべてなんだ」

 

 顔を上げて日向を覗き込む赤嶺友奈。

 

 その目に光はなく底なしの闇が広がっていた。

 

 彼女の目を見た時、日向はどうしょうもない恐怖を覚える。

 

「どうして、逃げるの?」

 

 一瞬の動きを察した友奈によって引き寄せられた。

 

 逃げないよう拘束するように抱きしめながら日向の目と赤嶺友奈は合わせる。

 

 深淵。

 

 ふと、日向の脳裏にその言葉が浮かんだ。

 

 なぜということを理解する暇もないまま唇が触れ合うという瞬間。

 

「一閃緋那汰ぁあああああああああ!」

 

 その瞬間、赤嶺友奈は離れる。

 

 少し遅れて大太刀を振り下ろした乃木若葉が日向の前に立つ。

 

「……キミは」

 

 ちらりと若葉は日向をみやるもすぐに正面を見た。

 

 目の前を見て息をのむ。

 

 赤嶺友奈は顔から表情、感情、すべてが失われていた。

 

 どす黒い臨気を放っている。

 

「赦さない。奪うなら、何があろうと赦さない。西暦の勇者であろうと伝説の乃木若葉様であろうと容赦しない………………潰す!」

 

 弾丸のように飛び込んでいく友奈。

 

 若葉が大太刀を構えようとした時。

 

「やめろ!」

 

 二人の間に日向が割り込んだ。

 

「っ!」

 

 ギリギリのところで若葉は刃を止めようとする。

 

 しかし、間に合わず彼女の刀は日向を斬る。

 

「ぐっぅうう!」

 

 ギリギリのところで日向は若葉の刃を掴み、友奈の拳を体で受け止める。

 

「つぅう」

 

 痛みで膝をついた日向に若葉は駆け寄る。

 

「違う……違う!」

 

 日向を傷つけようとしたことでショックを受けたのか同じ言葉を繰り返しながら後ろへ下がっていく。

 

「違う、違う!違う!違う!私、私はぁあああああああああああああああ!」

 

 叫びながら赤嶺友奈は姿を消した。

 

「友奈……まっ」

 

 最後まで言い切る前に日向は地面に倒れた。

 

 倒れた彼に離れたところにいた棗、若葉が駆け寄っていく。

 




次回は神世紀編……の予定。


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黒騎士と負の遺産

次回は個別番外編、酔った力で筆が進んだけれど、とんでもないものになっています。
ちなみにイニシャルはY・Tさんでいきます。




 

「待って、待ってよ!」

 

 犬吠埼風は目の前へ進んでいく彼を追いかけていく。

 

 しかし、どれだけ走っても、追いかけても風の手は彼に届かない。

 

「なんで、なんでよ!」

 

 叫びながら風は走る。

 

 追いかけていく中で距離はどんどん離れていく。

 

 つまずき倒れる風。

 

 彼は振り返ることもないまま、先へ向かう。

 

「待って、待ってよぉ!蔵人さん!」

 

「違う」

 

 立ち止まった彼は振り返る。

 

 その目は冷たい。

 

「俺の名前は落合日向、蔵人は死んだ弟の名前だ」

 

 拒絶して風の前から彼は消える。

 

 風は涙をこぼして地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、蔵人君!蔵人君じゃないか!」

 

 俺が四国の町中を歩いていると声をかけられる。

 

 西暦と比べて大差ないようにみえる町。

 

 神世紀300年という時代において、俺は落合蔵人と名乗っていたようだ。

 

 スルーしようとすると相手は回り込んで話しかけてくる。

 

「……蔵人君、だよな?」

 

「申し訳ないんだが、蔵人は死んだ弟の名前だ。俺は落合日向だ」

 

「え!?」

 

「アンタは俺が記憶を失う前に関わっていた人だろうか?」

 

「あ、そ、そう!俺の名前は天火星亮!近くで中華料理屋をやっているんだ!あれ、風ちゃんと樹ちゃんは?」

 

「あの家は出ていった。話はそれだけか?失礼―」

 

「なぁ!」

 

 自転車を止めて天火星亮が呼び止める。

 

「俺の店で餃子、食べないか?」

 

 いきなりの提案だが、ここで拒絶して大きな騒ぎを起こすのも面倒なため、ついていくことにした。

 

「俺の夢はさ、世界で一番、うまい餃子を作ることなんだ」

 

「……そうか」

 

「食べてみてくれ!」

 

 そういって彼が机に置いた餃子を食べる。

 

 一口。

 

 目を見開いてぱくぱくと餃子を食べ始めた。

 

 満足したのか全てを食べ終えると手を合わせる。

 

「御馳走様、とてもおいしかった」

 

「そういってもらえると嬉しいよ……なぁ、日向君」

 

「なんだ?」

 

「行く宛はあるのか?」

 

「……それを聞いてどうするつもりだ」

 

 警戒しながら日向は問いかける。

 

 記憶を取り戻した日向をどこで大赦が狙っているかわからない。

 

 すぐに対応できるように隠しているブルライアットへ手を伸ばした時。

 

「よかったらうちでしばらく生活しないか?」

 

「なぜ?俺はアンタと記憶を失っている間は面識があったのかもしれないが……何も知らない。そんな俺を住まわせる理由があるのか?」

 

「うーん、放っておけないんだ」

 

「だから、住まわせると?」

 

 問いかけに亮は頷いた。

 

「行く宛ないんだろ」

 

「……わかった、ただ、住まうだけじゃない。店の手伝いもさせてもらう」

 

「よし!決まりだ!部屋に案内するよ!」

 

 そういわれて後に続く日向の表情は先ほどより険しさが抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬吠埼樹は人前に立つことに緊張する少女である。

 

 彼女は勇者部のメンバーと共にカラオケに来ていた。

 

 近づいている歌の試験をなんとかクリアするために彼女の上がり症を治すため。

治すためなのだが、どことなく交流会のようなものになっていた。

 

 カラオケに来たことのない夏凜は戸惑い、友奈や風は楽しそうに、美森の場合は全員が立ち上がって敬礼するということになりながらもみんな楽しそうにしている。

 

 しかし、肝心の樹の上がり症はどうしょうもなかった。

 

「あれ、みんな?」

 

「あ!天火星さん!」

 

 彼女達の前を出前の帰りだった天火星亮と出会う。

 

「カラオケの帰りかい?」

 

「はい!」

 

「樹ちゃんの上がり症を治そうとしたんですけれど」

 

「あがり症?」

 

「樹ちゃん、人前で歌うのが苦手みたいで」

 

 友奈の説明に亮は納得する。

 

「成程ぉ」

 

「天火星さんは緊張とかしないんですか?」

 

「ちょっと!」

 

 夏凜が友奈へ声をかける。

 

「どうしたの?夏凜ちゃん」

 

「あの人、誰よ」

 

「天火星亮さん!赤龍軒っていう中華料理屋さんをやっているんだ!あそこの餃子はとぉってもおいしんだよ!」

 

「いつでもおいで!サービスするから!」

 

「ふーん」

 

 天火星亮の言葉に夏凜は半ば興味なさそうに頷いていた。

 

 のちに店へやってきて、餃子にヤミツキになるのはそう遠くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 風が隣で寝ている中、樹は目が覚めてリビングへ向かう。

 

 喉が渇いた彼女は飲み物を飲んで部屋に戻ろうとした時、外に何かがみえた。

 

「!」

 

 正体に気付いた樹は外へ飛び出す。

 

「く、蔵人さん!」

 

 樹が見つけた存在、それは落合日向だった。

 

 彼は振り返ると訂正を入れる。

 

「俺は日向だ」

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

「別にいいさ……俺は記憶を失っていた」

 

「あ、はい」

 

 沈黙が広がる。

 

 そもそも、自分達の前に姿を消した彼がどうして目の前にいるのか。

 

 もう、一緒にいられないのか。

 

 その疑問を樹はぶつけるべきか悩んだ。

 

「歌の試験、あるそうだな」

 

「え、はい……でも、私、自信がなくて」

 

「樹ちゃんは歌がうまいよ」

 

「え!?」

 

「一人で歌っている時は上手だ。俺はそれを知っている」

 

「あ、あの」

 

 いきなり褒められて戸惑う樹。

 

 彼はあの時みせた表情と違い、蔵人の時のように優しく思える。

 

「全力で挑め」

 

「え?」

 

「歌の試験、周りの目とか、そういうものを気にせず、全力で挑むといい……そうすれば、きっと大丈夫」

 

「……あの!」

 

 樹は意を決して尋ねることにした。

 

「く……日向さんは私達の敵なんですか?もう、一緒にいられないんですか?」

 

 尋ねられた日向は表情を変えずに近づいていく。

 

 樹の方へ手を伸ばしてその頭を撫でる。

 

「悪いが一緒にいることはできない……ただ、できるなら俺は勇者と敵になりたくはない……だが、大赦は気をつけろ」

 

「え?」

 

「あそこは信用できない……何より、やってはいけない領域へ手を出した……いつか報いは受けるだろう」

 

「どういうことです」

 

 問いかける樹に日向は考えながらも告げることにした。

 

 本来なら知らない方がいい事実を。

 

「狼鬼を生み出したのは大赦だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

 彼女は奥歯を噛みしめた。

 

 ギリリと歯が音を立てる。

 

 小さな痛みを感じながらも彼女は瞬きせずに彼を見つめた。

 

 どうして、自分とは逢わず、妹と話をしているのか。

 

 妹の方が大事で、自分のことなどどうでもいいのだろうか?

 

 そう考えると心の中が黒い気持ちで支配されそうになる。

 

「バカなこと考えるな!」

 

 体を震わせるようにしながら今の思考を外へ追いやる。

 

 こんな黒い気持ちを抱いているから彼は自分と会わないのかもしれない。

 

 それか、自分が大赦との連絡役だから?

 

 疑問を浮かべながらも彼と樹の会話へ耳を澄ませる。

 

 だが、頭の中の疑問は消えない。

 

「どうして、どうして、どうして、私を……私も………私のことも」

 

 そこから先の言葉を風は飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことですか?大赦が狼鬼を生んだって」

 

「樹、一つ、頼まれてくれるか?」

 

「え?」

 

 問いかけを躱すように彼が頼みごとをする。

 

「次の戦い、おそらく大きな戦いになるだろう。その際に狼鬼が現れたら一時的でいい。動きを封じ込めてほしい」

 

「動きを?」

 

「……勇者の中で頼めるのはお前だけなんだ」

 

「私、だけ?」

 

「ああ、おそらく他の勇者だと動きを封じ込めるということは難しいだろう。だから、キミにしか頼めない」

 

「わかりました!私にできることなら!」

 

「すまないな」

 

 笑みを浮かべる樹をみて日向はポンと頭を撫でる。

 

 蔵人の時と似ていると思いながらも不思議と今のほうが心地よく思えた。

 

「悪いが、少しの時間、バーテックスは任せる。俺は、俺が生み出してしまったものに決着をつけないといけないから」

 

 微笑みながら日向は背を向ける。

 

 彼が去っていく。

 

 もう会えないかもしれないという不安にかられながらも樹は叫ぶ。

 

「また、会えますよね!」

 

 彼はその問いに答えない。

 

 けれど、樹は不思議とまたこうして会えるような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、犬吠埼樹へ話した?」

 

「話す必要があったからだ」

 

 ブルブラックの問いかけに日向は答える。

 

 彼らは向かい合いながら話をしていた。

 

「狼鬼は俺が……黒騎士が生み出してしまった。そんな存在を野放しにしたままなんてできない。俺はアレをなんとかしたい」

 

「前にも話したように生み出したのは大赦の連中だ。愚かにも黒騎士のような力を欲した一部の人間が精霊の力を借りて、生み出そうとした失敗作。それが狼鬼……わかっているだろう。お前はその尻拭いをしようとしている」

 

「そうかもしれない、だが、俺達が居なければ狼鬼も生み出されることはなかった。だったら、それをなんとかするのも俺の、俺達の責任じゃないのか?」

 

「……責任か」

 

「なんだ?」

 

「お前の口からそんな言葉を聞くことになるとはな……だが、忘れるな」

 

 警告するようにブルブラックが告げる。

 

「ギンガの光の場所はもうすぐわかる……その時は私の目的を果たさせてもらう」

 

「何を、考えているんだ?」

 

「最初から私の目的は変わらない。やるべきことは一つだ」

 

「……ブルブラック」

 

 日向の言葉にブルブラックは沈黙で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「樹ちゃん、歌の試験どうなったかな?」

 

「さぁな」

 

 赤龍軒。

 

 そこで皿洗いをしていた日向に天火星亮が話しかける。

 

 居候ということで何もしないということは問題があるということで皿洗いなどをしていた。

 

 そんな彼に亮が話しかける。

 

 皿を洗う手を止めず彼はどうでもいいと答える。

 

「なぁ、日向はどうして二人に会おうとしないんだ」

 

「……別れがはっきりと決まっているのに会う必要があるか?ないね。余計に辛くなるだけだ」

 

 淡々と話す日向に亮はなんともいえない表情を浮かべていた。

 

 その時、彼の中で黒騎士が告げる。

 

 

――樹海化が起きたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、西暦から神世紀に変わった時代。

 

 大社も大赦と名を改め、西暦で戦った勇者たちはお役目の終わりを告げられて普通の生活に戻っていたころ。

 

 一部の大赦の人間がある実験を行った。

 

 それは人工的にバーテックスと戦える存在を生み出すこと。

 

 勇者とは異なる別の存在。

 

 西暦の時代、勇者と共に戦い天の神に大打撃を与えた存在……“黒騎士”のような英雄を生み出すこと。

 

 上層、特に乃木と上里家にばれないように連中は行動を起こす。

 

 なぜにそんなことをしたのか。

 

 行動を起こした存在は偶然にも目撃していたのだ。

 

 赤い姿になった二人の人間。

 

 黒騎士と異なる姿だったが、研究を続ければ第二の黒騎士が生み出せるかもしれない。

そんな愚かなことを考えた彼らは黒騎士と縁のあった二人を拉致して、研究の限りを尽くした。

 

 結果、偶然にも彼らは第二の黒騎士といえる存在を生み出すためのアイテムを生み出すことに成功する。

 

――闇狼の面。

 

 そう呼ばれるアイテムを彼らは作り出す。

 

 強大な力を与える面だが、使用した者にどのような代償を生み出すかわからなかった。何より、その存在を乃木家と上里家の当主が気付き、封印を施されることになり闇狼の面は大神家という存在が保管することになった。

 

 勇者部が戦う数年前。

 

 三人の勇者がバーテックスと戦った。

 

 過酷な戦いでバーテックスを追い払うだけで精一杯だった彼女達を守りたいと望んだ一人の男が保管されていた闇狼の面をかぶり、戦いに挑んだ。

 

 幸か不幸か彼はとても清らかな心の持ち主であり、勇者を守りたいという純粋な思いに三体の精霊が応え、彼に協力した。

 

 その結果、三体の精霊が一つになった巨人の手によってバーテックスは倒される。

しかし、代償があった。

 

 膨大な力を秘めた闇狼の面は使用者を呪い、その体を邪悪な存在へ変貌させる。

変貌させるだけに終わらず、使用者の記憶、心すら蝕んで別の感情へ塗り替えていく。

 

 激しい怒りと憎悪。

 

 勇者を滅ぼす存在として彼は新たに生まれ変わった。

 

 狼鬼という存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海化した世界。

 

 その中で狼鬼は進軍するバーテックスを眺めていた。

 

 今までと比べ物にならない数。

 

 全ての勢力で勇者を叩き潰す。

 

「そして、俺は貴様を滅ぼす!」

 

 狼鬼は振り返る。

 

 その背後には狼鬼をみている黒騎士の姿があった。

 

 狼鬼は三日月剣を構えて剣先を黒騎士に向ける。

 

「決着だ。俺の憎悪、邪気を以て貴様を滅ぼす!」

 

「……狼鬼、俺はお前を止める。それが俺の償いだ」

 

 ブルライアットを鞘から抜いて黒騎士は刃を構えた。

 




次回は初の試みで個別番外編。


その後は番外編をやるか、本編をやるか、検討中です。


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個別番外編:ウェディング体験

個別番外編です。

次回もそれでいくつもりです。

ちなみに皆さんはバニーガールとメイド服、どっちがすきですか?

僕は今のところバニーガールが大好きです。


「日向さん!デートしましょう!」

 

「……ノックくらいしたらどうだ?」

 

 各時代の勇者たちが集まって西暦を取り戻そうと造反神と戦う神樹の中。

 

 用意された自室で休んでいた日向のところに高嶋友奈がやってくる。

 

「駄目、ですか?」

「いや、行くとしよう」

 

 笑顔で出かけようと言ってくる彼女の提案を断る理由はなかった。

 

 嬉しそうに引っ張って来る友奈についていく形で日向は部屋を出る。

 

 その十分後くらいに複数の勇者と巫女が日向の部屋へ突撃するが、既にもぬけの殻だった。

 

 街中にでたところで日向は目的地を聞いていなかったことに気付いた。

 

「そういえば、高嶋友奈」

 

「ツーン」

 

「……友奈」

 

「はい!なんでしょうか!」

 

「行先を聞いていなかったんだが、これからどこへ向かうんだ?」

 

 ぴたりと友奈は立ち止まる。

 

「なんだ?聞いてはいけないことだったのか?」

 

「い、いえ、その……えっと、うわぁ」

 

 何やら困ったという表情で友奈は右往左往していた。

 

 自分は何か彼女を困らせるようなことを言ってしまったのだろうか?

 

 疑問を抱いているところで意を決した友奈が顔を上げた。

 

「日向さん!」

 

「なんだ?」

 

「わ、私と一緒に結婚してください!」

 

「………………は?」

 

「あ!?ち、違います!いえ、違わないんですけれど、えっと、将来的には結婚したいと思っているんですけれど、今回はそういうことじゃなくてぇ、えぇっと、うわぁあああああああああ!」

 

「落ち着け」

 

 ポンと彼女の頭を撫でる。

 

 茫然とした友奈だが、次第に目をトロンとさせた。

 

「落ち着いたか?」

 

「ふにゃ~」

 

「……やりすぎたか」

 

「ハッ!危うく日向さんの手籠めにされるところでした」

 

「色々と誤解を招く発言をやめろ。ちぃちゃんに殺される」

 

 少し前に乃木若葉と風呂場にいた時を目撃されたことがあった。

 

 その際、若葉が誤解を招く発言をしたために鎌を振り回す千景から逃げるという騒動があったのだ。

 

 どこで千景がきいているかわからない以上、日向は油断できない。

 

「それより、さっきの話の続きだが、どこへいくんだ?」

 

「えっと、その、ついてからのお楽しみってことで!」

 

 頬を赤らめて上目遣いでいってくる友奈に日向はそれ以上、聞くことができなかった。

 

 そうしてやってきたのは結婚式場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ?」

 

 あれよあれよという合間に日向は白いタキシードを身に纏う。

 

「彼女さんがもうすぐきますからね」

 

 式場のスタッフが笑顔で日向へ告げる。

 彼女ではないのだがという言葉を必死で飲み込む。

 

 ここで余計なことを言えば後々、面倒なことになってしまう。

 

 しかし、この格好をして何があるのだろうか?

 

 その疑問はすぐに解消される。

 

 広場の入り口が開かれてそこから高嶋友奈が現れた。

 

 彼女の姿を見た日向は言葉を失った。

 

 現れた友奈は普段の服装と大きく異なっている。

 

 純白のドレス、プーケ。

 

 結婚式で女性が纏う姿。

 

 うっすらと化粧をしているようでいつもの彼女と大きく異なる。

 

 その姿を見て日向は言葉を失ってしまった。

 

「日向さん、そ、その、どうかなぁ?」

 

「…………」

 

「あれ、日向さん?」

 

「綺麗だ」

 

「!?」

 

 ぽつりと漏らした言葉はしっかりと友奈に届いていた。

 

 トマトのように真っ赤な顔をした彼女に気付いて日向は失態に気付く。

 

「すまない、驚いて」

 

「嬉しいです」

 

 にこりとほほ笑みながら友奈は近づいた。

 

 片方の手で日向の腕を抱きしめる。

 

「友奈?」

 

「嬉しい、私、嬉しいです!日向さん!」

 

 この後、二人は結婚式で行うようなことを一通り行った。

 

 帰り道、友奈から「結婚を体験できる」ということでこの場に日向を連れてきたという。

 

「なぜ、このイベントに俺を?」

 

「だって、日向さんともう会えないんですよ?」

 

 手を後ろへ回しながら友奈は微笑む。

 

 いつもの笑顔と異なるどこか悲し気なものだった。

 

「西暦の時代だと日向さんがどうなったか、皆、知っているんです。ただ、ちゃんと思い出せないだけで」

 

 遠くを見ながら友奈は言う。

 

 西暦の時代、落合日向はゴウタウラスと共に天の神に挑んだ。

 

 その結果。

 

「私もまだ、思い出せないです。でも、日向さんとはもう会えない。そのことだけは嫌でもわかっちゃうんです……だから、全てが終わって西暦の時代に戻っても、私が日向さんを忘れられないように強い結びつきが欲しいなぁと思って……無理やり日向さんを連れてきちゃいました……ごめんなさい、私の勝手で」

 

「別にいいさ」

 

 驚いた顔をしている友奈に日向は言う。

 

「俺がどうなったかは俺がわかっている。みんなに寂しい思いをさせてしまったことも……少しくらいの我儘がどうした?俺はお前達に迷惑ばかりかけてきているんだ。これくらい問題ない」

 

 そっぽを向きながら告げた日向に友奈は笑顔を浮かべて。

 

「じゃあ、誓いのチューを」

 

「やりすぎは駄目だ」

 

 ペチンと友奈の額を叩く。

 

「ぶーぶー!」

 

 文句を言う友奈から足早に離れながら日向は小さく呟いた。

 

「それにしても、指輪交換までなんてやりすぎだろ?」

 

 銀の指輪を手の中で遊びながら日向は言葉を漏らす。

 

 

「えへへ、次は本当の結婚式をしたいです!」

 

「あと二年は待て、あと、いい男をみつけることだな」

 

「ブーブー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、落合日向と高嶋友奈が結婚式をしたという少し歪んだ情報が西暦、神世紀のメンバーにばれた。

 

「高嶋ちゃん、羨ましいなぁ!」

 

「綺麗です!」

 

「結婚……いつか、タマっち先輩も」

 

「おい、杏、なんで、タマをみて手をにぎにぎさせる!?こっちにくるなぁああああ!」

 

「あらあら、これは面白いですわね」

 

「むぅ、私もこれくらい!」

 

「うーむ、結婚式をするなら農場でも!」

 

「うたのん……それは無理だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祝福、羨ましいといっている者もいれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルバルバルバルバルバルバル!」

 

「最早、雪花が言語を話していない」

 

「そういいつつ、アンタ、その手の中にある藁人形と五寸釘、どうするつもりよ。さっき誰かの髪の毛をいれたわよね?今すぐにそれを手放しなさい!!」

 

 人としての存在を保っていない雪花。

 

 冷静なようにみえて、嫉妬に狂っている棗。そんな彼らを見たがためになぜか一番の常識人みたいなことになっている夏凜。

 

 

「あらぁ?おかしいわねぇ、日向は私とずっと、ずぅっと傍にいないといけないのにぃ、どうして、高嶋友奈とぉ、結婚なんてしているのかしらぁ?信じられないわぁ、そうね、これは夢よ。夢なんだわ?だから、日向、今すぐ、どこまでも、神速の如く!!私と結婚をするのよ!」

 

「いいえ、風先輩!日向さんは私と友奈ちゃんと結婚するんです!そうすれば、私は友奈ちゃんと日向さんの二人と結婚をしたことに……おっと、鼻血が、さぁ、日向さん、今すぐにでも指輪交換をしましよう。今すぐに!私と友奈ちゃんの分を!」

 

 

「うふふふ~、おかしいんよぉ、私を抱き留めてくれた日向さんが~、たかしーと結婚?そっかぁ、いますぐ法律をなんとかしないといけないよねぇ~、私と結婚させるんよぉ!よぉし、乃木パワーが火を噴くんよぉ!うふふふふふふ」

 

 

「おかしいわね、私と日向は将来を約束しあった関係。何があろうとその絆は未来永劫、決して切れることはないはずよ……高嶋さんと結婚したことは素直に祝福したい。けれど……そうだわ、日向、今から私の部屋へ来ない?え?目が笑っていない?そんなことないわ。私は寛大よ?最初はふらふらしているかもしれないけれど、最後は私のところへ帰ってきてくれるでしょ?ねぇ、ソウダトいってよ」

 

 何も言わずに日向は全力で走る。

 

 逃げる彼を犬吠埼風、東郷美森、乃木園子、郡千景が追跡していた。

 

 それぞれの武器を手にして捕まえた先の未来を想像しながら迫る姿は恐怖しかない。

 

「最悪だ。全く」

 

 そういって走る日向の首元にはチェーンで繋がれた銀の指輪があった。

 

 

 

 




ちなみに皆さんはバニーガールとメイド服。どっちが好きですか?

これ、次々回のヒントです。



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個別番外編:混浴

「ふぅ~」

 

 風呂は良い。

 

 俺は誰もいない浴場の中にいた。

 

 本当なら普通の人もいるだろう。

 

 しかし、この世界においてどういうわけか彼の使う浴場は他に入って来る者がいない。

あまり他人と関わることの少ない日向にとって、この場は憩いの場所ともいえた。

 

 いつもなら力や健太もいるのだが、今日はどういうわけか姿を見せない。

 

 勿論、それは今日までの話だった。

 

 ガララと湯気の向こうでドアが開かれる音がする。

 

「誰か入ってきたのか」

 

 日向は意識を向けるもすぐに興味をなくした。

 

 誰が入ってきたところで気にしなかった。

 

 そう、相手が男だったら。

 

「……」

 

「おい!?」

 

 やってきた人物に気付いた日向は目を見開く。

 

 目の前に現れたのは乃木若葉だった。

 

 彼女はタオル一枚の姿で真剣な表情でこちらをみている。

 

「お前、ここは!」

 

「ここは現時刻をもって混浴となった!いついかなることがあろうとその事実は消えることがない!」

 

「なにぃ!?」

 

 突然の若葉の言葉に日向は叫ぶしかない。

 

「わけのわからないことをいうな。混浴というなら俺は――」

 

 ザクンと目の前に大太刀が突き刺さる。

 

「もし――」

 

 ぞっとするほど低い声と光のない瞳で乃木若葉は日向を見上げた。

 

「もしも、今から上がるという愚かなことを言うものがいるなら」

 

「……いるなら?」

 

 続きを聴きたくないと思いながら日向は尋ねることにした。

 

「そいつの社会的地位を完膚なきまで破壊して最後に食べる!」

 

「しばらく湯船につかることにしよう」

 

 背筋が凍った様な気がして日向は肩まで湯船につかる。

 

 いつの間にか大太刀がなくなり、若葉は少しばかりの距離を開けて湯船に入った。

 

 湯船で何も考えずに天井を見上げる。

 

 ポツポツと天井から落ちる水滴の音だけが浴室内響いた。

 

 ふと、隣が気になって視線を向ける。

 

「!?」

 

 同じタイミングで目が合う。

 

 慌てて若葉は視線をそらした。

 

 日向は少し驚きながらも彼女を見る。

 

 長い髪は頭で束ね、タオル一枚という姿だが、それでも彼女を嫌でも美少女なのだと認識させられた。

 

「どうしてこう」

 

「な、なんだ?なぜ、こっちをみている」

 

「別に、どうして、お前達はそうも無防備なのかと思っただけだ」

 

「む?」

 

「俺がお前達を襲わないと思っているのか?」

 

「襲ってくれるのか!?」

 

「嬉しそうな顔をするな。勇者や女として色々と問題だろ」

 

 立ち上がろうとした若葉をやんわりと制す。

 

 気のせいか先ほどよりも距離が近い気がする。

 

「私は……魅力がないのだろうか」

 

「今度はなんだ」

 

「ほら!それだ!」

 

 日向の態度に気にいらいないところがあったようで若葉は指さす。

 

 今日は一体、どうしたのだろうか。

 

 色々と絡んでくる。

 

 普段の凛々しく、どこか天然な乃木若葉はどうしたのだろうか。

 

「一体、なんなんだ?」

 

「私のことなんかどうでもいいという態度だ!友奈や千景、球子や杏……白鳥さん達には優しいのに、私の扱いはどうしてこんなにも雑なんだ!?」

 

「……そのつもりはないんだが?」

 

「いいや!ある!そうだな……どうせ、私は筋肉バカさ。私みたいな脳筋は相手にされない。そうさ、告白してもちゃんとしたデートなどもしてくれない。そんな私なんか、好きになってくれるわけがない……ハハッ」

 

 悲しそうにうつむく若葉。

 

 いつもと違う彼女の姿に面食らいながら日向は考える。

 

 何があったのかわからないが彼女は気持ちが沈んでいるようだ。

 

 今のままだとよくない気がする。

 

「……乃木若葉」

 

「……………………」

 

「若葉」

 

「…………なんだ」

 

「俺はお前といると緊張をしない」

 

「それは私に女らしさがないといいたいんだろう」

 

「違う。お前は綺麗だ。他の勇者や巫女たちとは違う。綺麗で凛々しいんだ」

 

 これは事実だ。

 

 綺麗で凛々しい。

 

 戦場で、普段の生活で。

 

 日向が乃木若葉をみていていつも思うことだ。

 

「それが女の子らしさになっていないというのなら……悪いがどうかければいいかその答えはみつからない……けれど、いつも冷静で、自分らしさを貫いているお前といると不思議と落ち着くんだ。ちぃちゃんといる時と違う。お前といるときだけ、落ち着いていられるんだ」

 

 日向の言葉に若葉は顔を上げる。

 

 その顔はゆだっていた。

 

「おい!?」

 

「うにゃ~~」

 

 普段、聴くことのない言葉とフラフラしている若葉に気付いた日向は謝罪しながら彼女を抱えて外へ出る。

 

 うちわであおぎながら彼女が元に戻るのを待つ。

 

「……日向」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、私としたが不甲斐ない……だが、お前の本音がきけて嬉しいぞ」

 

「本音を聞くためにあんなことしたのか?」

 

「……千景にいわれたんだ」

 

「ちぃちゃんに?」

 

 手で顔を隠しながら若葉は話す。

 

――「乃木さんのことを日向は好きなのかしら?」

 

 千景は若葉をけん制するつもりでいったのだろう。

 

 ならば、その効果はてきめんだった。

 

「私は女の子っぽくない。それを考えると日向もただ、仕方なく告白を受けいれたのではないかと考えてしまって……それで、ひなたに相談したら」

 

「こうすればいいと言われたのか?」

 

「あぁ」

 

――奴の仕業か。

 

 日向は心の中で思いながらここにいない相手へ恨みを込める。

 

「日向、私は……」

 

「変なことを言うようだが」

 

 若葉の悩みを遮るようにしながら日向は告げる。

 

「もし、一緒の墓に入るなら誰がいいというなら俺はお前を選ぶ」

 

「!?」

 

 視線を合わさないようにしながら日向は答える。

 

「そんな重たく考えるな。人はそれぞれだ。お前みたいなのもいれば、活発なのもいる。その人と波長が合うか合わないなんて、時間などが解決するだろう」

 

「決めたぞ、日向」

 

 立ち上がって問題がないくらい回復したのか、乃木若葉が立ち上がる。

 

 はらりとバスタオルが落ちて日向は視線を外そうとした。

 

 しかし、若葉が両手で掴んで元に戻す。

 

「決めたぞ、日向」

 

「何かわからんがすぐに前を隠せ、お前」

 

「今すぐ夫婦になろう」

 

「!?」

 

 驚く日向、その時、風呂場のドアが開いたことに二人は気づかない。

 

「一緒の墓に入るために努力をする!だから夫婦になろう!そうしよう!よし!私は頑張るぞ!」

 

「そう、それは素敵なことね」

 

 日向、若葉でもない第三者の声。

 

 その声に日向はさび付いた機械のように首を動かす。

 

 興奮している若葉は気づかない。

 

 ニコニコと笑顔を浮かべている千景がいる。

 

 笑っているのに目は全くというほど光がない。

 

「ちぃちゃん、これは」

 

「ええ、わかっているわ。日向」

 

 ニコリとちぃちゃんの笑みが深まる。

 

 気をつけろ。これはよくないパターンだ。

 

 日向は服を着ていてよかったと心の中で思う。

 

「乃木さんを亡き者にすれば、貴方と一緒の墓に入るのは私になるもの」

 

 

 

――全く、わかっていない!

 

 

 心の中で叫びながら日向は茫然としている若葉にタオルを巻いて走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、結果としては大成功ですね」

 

 追いかける千景と若葉を抱えて逃げる日向。

 

 そんなやりとりを双眼鏡片手に緑茶を飲みながら観察する諸悪の根源という名前のひなたはニコニコしていた。

 

「これで若葉ちゃんもより日向さんにアタックするでしょう」

 

 笑みを浮かべながら彼女は計画を練ったことは間違いではないと悟る。

 

 乃木若葉は不器用、こと恋愛に関してはそれがより強く出ていた。

 

 そんな彼女の後押しをするためにひなたはこの計画を実行する。

 

 唯一の誤算があるとすれば、千景が乱入したことだろう。

 

「少しだけお酒を飲ませてしまいましたが……まぁ、今度はシラフでよりアタックしてもらえるように頑張ってもらいましょう」

 

 ひなたの名誉のために語るが意図的に乃木若葉へ酒を飲ませたわけではない。

 

 結城凱が飲んでいたウィスキー。

 

 その残りが入っていることに気付かずに彼女がお茶を入れて飲んでしまった。

 

 計画のためにひなたはそのまま実行する。

 

「日向さんを狙っている人は多いですけれど、親友のため、私のため、頑張らせてもらいます」

 

 幸せになるため。

 

 ひなたは抱えられて幸せそうにしている若葉の姿を見て深い笑みを浮かべた。

 

 ラスボスは次の計画を練る。

 

 すべては自分と親友が幸せになるため。

 

 他のメンバーの幸せはその後、考えることにしよう。

 

 瞳から光をなくした状態でひなたは微笑んだ。

 

 

 




次回も個別番外編、おまちかねのCシャドウだ。

知っているだろうけれど、補足説明。

結城凱
鳥人戦隊ジェットマンのブラックコンドルの一人。
二枚目キャラとして登場。
レッドと仲が悪く。終盤間際の和解をするまでしょっちゅうぶつかりあう人。ちなみにめっちゃいい人でもある。
ギャンブルなどにおいてイカサマは当たり前のようにする。
ちなみに神様とゲームをして勝てるほどの実力?はある様子。
今回、名前だけ登場。




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個別番外編:千景ちゃんは愛を叫ぶ

今回は千景ちゃん、果たして芸人気質から脱出できるかどうか。






「日向さん!はい、どーぞ!」

 

「え、あぁ、どうも」

 

 

「日向、これも食べるといい」

 

「あぁ」

 

 食堂。

 

 そこで日向は左右を乃木若葉と高嶋友奈に挟まれて食事をしていた。

 

 蕎麦を食べようとしたら二人にうどんを選ばれてしまう。

 

 天ぷらうどんを食べている友奈が天ぷらを。

 

 肉うどんを食べている若葉がうどんの肉を。

 

 釜あげうどんを食べている日向へ「あーん」をして食べさせている。

 

「杏」

 

「タマっち先輩……」

 

「なんなんだ!あれは!タマの目がおかしくなったのか!?目の前で桃色の空間ができている気がするんだが!」

 

「気のせいじゃないよ。タマっち先輩!羨ましいね!素敵だよ!あんなことを私とタマっち先輩でやりたいね!フリフリの服をきたタマっち先輩と一緒に、うふふふ」

 

「駄目だ、杏も壊れている……そういえば、千景はどこにいったんだ?」

 

 球子は周りを見るも千景の姿はなかった。

 

 

 

 

 

「このままでは……マズイわ」

 

 千景は自室でゲームを手にせず呟いた。

 

 焦燥感に包まれている彼女の手の中には複数の写真がある。

 

 写真には乃木若葉、高嶋友奈、土居球子や伊予島杏、白鳥歌野といった西暦組の勇者たちが写っていた。

 

 そして、もう一人。

 

 服装は変わらず、表情に変化のない男の子。

 

 名前を落合日向。

 

 黒騎士として勇者と戦った者。

 

 誰よりも強くて、誰よりも優しい。

 

 そして、勇者と巫女から好かれている者。

 

「……マズイわ」

 

 もう一度、同じ言葉を漏らして千景は写真を見る。

 

 写真の日向の表情に変化はない。しかし、一緒に居る者達は違う。

 

 誰もが幸せそうに笑顔を浮かべている。

 

 もう一度、言おう。

 

 落合日向は勇者と巫女に好かれている。

 

 そのため、様々なアプローチで彼女達は気をひこうとしていた。

 

「私だけ……遅れている」

 

 少し前に乃木若葉が日向とお風呂に入って「夫婦」になろうと叫んだ。

 

 高嶋友奈が日向と「結婚式」をした。

 

 千景は決意する。

 

「日向……待っていて」

 

 そういう彼女の手の中のゲーム機。

 

 ゲーム機の中ではヒロインの「幼馴染」がバニーガールを着て主人公に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ」

 

 悩みながら落合日向は四国の町中を歩いていた。

 

 少し前に赤嶺友奈に拉致されてとんでもない目にあいかけもしてからというものの彼女達のアプローチはすこしばかり過激なものになりつつある気がする。

 

 この前の乃木若葉然り、高嶋友奈然り。

 

 彼女達の好意に気付いてはいる。

 

 しかし、猛烈なアプローチは流石に困っていた。

 

 誰か一人でも受け入れれば変わって来るだろう。

 

 だが、踏み出す勇気が日向にはない。

 

 この世界の日々はいつか終わりが来る。

 

 神世紀組ならともかく、西暦組とはこの日々が終われば二度と会うことがない。

 

 そんな状況下で誰か一人と関係を結ぶことに抵抗があった。

 

「そういって、踏み込むことが怖いだけかもしれないが……」

 

 ため息を零しながら日向は指定された部屋に向かう。

 

 少し前に日向は千景から「大事な話がある」ということで指定された部屋に呼び出されていた。

 

 夕方だった空は既に夜空に変わっている。

 

 こんな時間に呼び出されることで少しばかり警戒するところなのだが、付き合いの長い彼女に断りをいれることに抵抗があった。

 

 色々と迷惑もかけていることだし、こういうことくらい付き合ってもバチは当たらないだろう。

 

 どうせ、彼女のことだしゲームの攻略を手伝ってほしいとか、そういうものだろう。

 

 呼び出された部屋の前で日向はノックした。

 

「ちぃちゃん、俺だ、日向だ」

 

「…………入って」

 

 

 言われて中に入った。

 

 しかし、千景の姿が見えない。

 

「ちぃちゃん?」

 

「中に入って、ドアに鍵をかけて」

 

 どこからか千景の声が聞こえる。

 

 日向は少し考えながらドアに鍵をかけた。

 

「部屋の中央にきて」

 

 声に言われるまま日向は部屋の中央に行く。

 

 しばらくして、暗闇の中から毛布で全身をすっぽりと包んだ千景?らしきものがいた。

 

「えっと、ちぃちゃん?」

 

「そうよ」

 

「どうしたの?」

 

 毛布ですっぽりと包み込んでいる姿に日向は戸惑い電気をつけようとする。

 

「つけないで」

 

 止められた日向が振り返る。

 

「どうして?」

 

 バサッと音を立てて毛布が地面へ落ちる。

 

 その中から現れた千景の姿を見て日向は言葉を失う。

 

 ぴょこんと天井へ伸びる二つの白い耳のような布。

 

 細身の体を包み込んでいる露出度の高い服。

 

 すらりとした足を包み込んでいるタイツ。

 

 いわゆるバニーガールという格好の千景がそこにいた。

 

「ち、ちぃちゃん?」

 

「変かしら?」

 

「そんなことはない……ただ、驚いているだけで」

 

 千景が自分から進んでバニーガールの格好をしている。

 

 性格からしてありえないと思っていた日向は少し衝撃を受けていた。

 

 茫然としている間に信じられない力で千景に引き寄せられて日向はベッドの上に倒れこむ。

 

 その上からのしかかるように覆いかぶさって来る千景。

 

「ち、ちぃちゃん」

 

「重たいかしら?」

 

「むしろ軽すぎ、心配なんだけど」

 

 のしかかってきた千景はちゃんと食事をとっているのか心配になるくらい軽い。

 

 いきなりのことで頭が混乱している日向。

 

 その間に千景はすりすりと自らの体をこすりつけてきた。

 

 両手は彼女によって抑え込まれていて抵抗すらできない。

 

「ちぃちゃん」

 

「なぁに?」

 

「その、どうして、こんなことを」

 

「……私のことをちゃんとみてもらうため」

 

「え?」

 

 ウサミミを揺らしながら千景は真っ直ぐに日向を見る。

 

 暗闇でありながらどういうわけか千景の目を日向は真っ直ぐみることができた。

 

「日向はちゃんと私を見てくれている?」

 

「それは」

 

「ただの友達として?幼馴染として?」

 

「え?」

 

 驚いている日向に千景は顔を近づける。

 

「私は貴方のことを一人の男として愛しているわ」

 

「それは……」

 

「でも、貴方は私を女として愛してくれているかしら?」

 

 千景の言葉に日向は沈黙してしまう。

 

 彼女の求める答えはとても重たい。

 

 日向はそう感じていた。

 

「貴方は答えられない。それは貴方が私のことをちゃんとみてくれているか怪しいから……だから、ちゃんと意識してもらいたいの。私を、ちゃんと……みて」

 

 瞳を見つめながら千景は日向に顔を近づける。

 

 そして、キスをした。

 

 抵抗しようとする日向だがそれを許さないように千景のキスによる猛攻は続いた。

 

 キスによって彼の呼吸ができないようにしていく。

 

 息を求めて暴れる日向。

 

 しかし、千景はそれを許さないようにキスで彼の抵抗力をそいでいく。

 

 少しして千景は口を離す。

 

 つぅーと日向と千景の間に糸のように唾液が伸びる。

 

 空気を求めていた日向へ千景は冷静に攻めていく。

 

「日向、ちゃんと私を見て、これはそのために必要なこと」

 

「ちぃちゃん……」

 

「貴方のことを好いている人は多い。でも、一番を私にしてほしい。ちゃんと、私を意識して」

 

 ぎゅっと上から覆いかぶさるようにして千景は抱きしめる。

 

「ねぇ、知っている?」

 

 耳元で千景は日向に囁く。

 

 その声はねっとりと何かが含まれていた。

 

「ウサギって、性欲が盛んな生き物なの」

 

「それは」

 

 にっこりと微笑みながら千景は告げる。

 

「私は世界で誰よりもあなたを愛しているわ」

 

 

 

 

 

 翌日から千景も他のメンバー同様、日向へ猛攻撃するようになる。

 

 

 




次回と次々回は本編の予定。



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黒騎士と閃烈の銀狼

本編です。

今回の話、タイトルでネタバレですな。

勇者の出番が少ないけれど、バランスが難しいのは仕方ない。

次回は本編だけれど、あるキャラにスポットライトが当たります。


「消えろ!黒騎士!」

 

 狼鬼の振るわれる三日月剣をブルライアットで受け流す。

 

 攻撃を受け流された狼鬼の懐へ入り込み、一撃を放った。

 

「憎い!貴様の一撃を受けるたびに俺の中の憎しみが増す!」

 

「……それは違うだろう」

 

 瞳をぎらつかせる狼鬼へ俺は否定する。

 

「なに!」

 

「お前は自分を見失っている」

 

「バカげたことを!俺はデュークオルグ――」

 

「貴様はオルグではない。人間だ!」

 

「黙れ!」

 

 俺の叫びを狼鬼は否定した。

 

「貴様が憎い!俺は貴様と勇者を滅ぼすために存在している!貴様も俺の敵だ!黒騎士ィ!」

 

「ならば、どうして今すぐ勇者を手にかけない?」

 

「……!?」

 

「お前は強い。その力は勇者たちを凌駕している。だが、お前は全力を出さない。いや、全力を出せないんだ。勇者たちを手に欠けることを恐れている」

 

「そんなことは――ガァアアアアアアア!?」

 

 否定しようとした狼鬼は激しい頭痛に襲われたように頭を抑え込む。

 

 まだ、彼の中に人としての魂が残っている。

 

 狼鬼の中で勇者たちを手にかけまいと抗っていた。

 

 だから、まだ、彼は助かる。

 

「黙れ!黒騎士!貴様は倒す!ガオウルフ!ガオリゲーター!ガオハンマーヘッド!」

 

 戻せる。

 

「今だ!樹!」

 

「はい!」

 

「なにぃ!?」

 

 異変に気付いたが既に遅い。

 

 隠れていた樹の力によって狼鬼の動きが封じ込まれてしまう。

 

「貴様!何のつもりだ!」

 

「呪縛から解き放つ。そのために勇者の力を借りた……すまないな。樹」

 

「い、いえ!お役に立ててよかったです!」

 

 事前にこっそりと抜けるように指示をしていたとはいえ、こうして駆けつけてくれたことに感謝している。

 

「貴様ぁ!」

 

「お前は完全な鬼になっていない。今ならまだ、人間に戻れる――そうだろう、ガオゴッド」

 

 上空からまばゆい輝きが降り注ぐ。

 

 突然の事態に狼狽える狼鬼。

 

 樹も驚いて上空を見上げている。

 

『やめるのだ。狼鬼……否、大神月麿』

 

 上空から降り立ったのは精霊王 ガオゴッド。

 

 ガオゴッドは輝きを放ちながら黒騎士の後ろに降り立つ。

 

「何だ、貴様は!」

 

『思い出すのだ。お前の本当の姿を、そして、本来の想いを』

 

「黙れ!俺は復讐の鬼!狼鬼!勇者と巫女、そして、黒騎士を!」

 

『本当の自分を思い出すのだ』

 

 狼鬼の言葉を遮るように残りの五大神が姿を現す。

 

 揃った六大神から光が狼鬼、ガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッドへ降り注いでいく。

 

 光を浴びた途端、苦しそうに狼鬼は暴れる。

 

 狼鬼の体から噴き出す黒い邪気。

 

『黒騎士よ』

 

 俺の前にガオゴッドが姿を見せた。

 

『黒騎士よ。お前の剣で邪気を断つのだ』

 

 ガオゴッドの言葉に黒騎士はブルライアットを構える。

 

 暴れる狼鬼をみながら駆け出す。

 

 狼鬼が三日月剣を振るおうとする。

 

 その斬撃を正面から受け止めた。

 

 しかし、ブルライアットの刃は狼鬼の額、顔を覆っている面を破壊する。

 

 砕け散り、地面へ落ちた面。

 

 同時に狼鬼の体から黒い邪気が空に向かって消えていく。

 

 完全に邪気が消えるとそこには一人の男が立っていた。

 

「狼鬼が……人になった」

 

 年齢は俺より少し上か同じくらい。

 

「ガオゴッド、彼こそが」

 

『そうだ、彼こそが大神月麿……闇狼の面の邪気を全身に浴びてしまい、狼鬼となってしまった者だ』

 

「俺は、俺は一体、何を」

 

 自身に何が起こったのか理解できていないのか大神は茫然としている。

 

「自分の名前はわかるか?」

 

 鎧を解除して俺は大神へ問いかけた。

 

「大神月麿……そうだ、彼女達は」

 

 戸惑う様に周りを見る大神。

 

 しばらくしてここが樹海の中だと気付いた。

 

「樹海……なぜ、バーテックスは」

 

「また現れた。お前が闇狼の面を使って倒した存在とは別のバーテックスが今も神樹を狙い、そして別の勇者が戦っている」

 

「また?また、戦っているのか」

 

 大神は地面へ手を叩きつけると起き上がった。

 

「精霊王よ!」

 

 目の前にいるガオゴッドへ大神は叫ぶ。

 

「お願いだ!俺に戦う力を与えてほしい!俺は、勇者たちを守りたい!そのための力を望む!」

 

「……何を言っているんだ。お前は」

 

 ガオゴッドへ叫んだ大神に俺は呆れた声を出す。

 

「お前は既に力を手にしている」

 

「なに?」

 

 俺の言葉に大神は驚いたように尋ねる。

 

「後ろをみろ」

 

「……後ろ?」

 

 言われて振り返る大神。

 

 そこには大神を守るようにしている三体の精霊がいる。

 

「ガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッド……」

 

 先ほどまでの邪悪がウソのようになくなり、彼らは清らかな瞳で大神を見ていた。

 

「彼らはお前が闇狼の面を手にしたから力を貸しているわけじゃない。お前の勇者を守りたいという気持ちで動いている」

 

「守りたい……気持ち」

 

「大神月麿、お前はどうしたい?何を望む?」

 

 問いかけられた大神は顔を上げる。

 

 先ほどまでよりも強い決意を込めた瞳を俺に向けた。

 

「俺は勇者を守る。そのために力を望んだ。彼女達を守りたいと!」

 

 叫んだ大神の手の中に銀と青のアイテムが現れる。

 

「Gブレスフォン!」

 

 大神が叫ぶとともに変身する。

 

 青と銀の狼を模した戦士。

 

「閃烈の銀狼!ガオシルバー!」

 

 ガオシルバーになった大神を見ながら俺はブルライアットを掲げて黒騎士へ姿を変える。

 

「カッコイイ……」

 

 名乗りを上げたガオシルバーの姿を見て樹は声を漏らす。

 

 樹海の奥ではバーテックスと勇者たちが戦っていた。

 

「黒騎士」

 

 俺にガオシルバーが声をかける。

 

「俺とバーテックスを倒すために戦ってくれ」

 

「……わかった。俺の目的も今は同じだ。バーテックスを滅ぼす」

 

「すまない、それと、ありがとう」

 

 頷いた俺は相棒を呼ぶ。

 

「ゴウタウラス!」

 

「ガオウルフ!ガオリゲーター!ガオハンマーヘッド!」

 

 俺とガオシルバーの叫びに精霊と重星獣が雄叫びを上げる。

 

 雄叫びに気付いたのかバーテックスの一部がこちらへ視線を向けた。

 

 同時に頷いて三体の精霊と重星獣が近づいてきた小型バーテックスを踏みつぶし、かみ砕く。

 

「行くぞ!」

 

「勇者のところへ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者たちは大勢のバーテックスと戦っていた。

 

 今までと異なり超音波やレーザーなどを放つ個体が現れて勇者たちは苦戦を強いられている。

 

 圧されている中で風は満開を使うことを決意。

 

 満開とは勇者アプリに入っている機能で奥の手ともいえる力。

 

 他の勇者たちも満開を使って戦っている中。

 

 地響きと共に地面が陥没する。

 

 二足歩行のバーテックスは地面の陥没により動きを止めてしまった。

 

「な、なに?」

 

 突然の事態にバーテックスも勇者も動きを止めてしまう。

 

 勇者たちはある方向を見る。

 

 地割れの中をゴウタウラスが突き進む。

 

 ゴウタウラスに気付いた二足歩行型バーテックスは逃げようとする。

 

 しかし、地割れの合間を飛び交うガオウルフによって体に食らいつかれる。

 

 空中へ投げ飛ばされたところでガオハンマーヘッドのタックルを受け、とどめにガオリゲーターが長い尾で叩き潰す。

 

「え?どういうこと」

 

「なんで、狼鬼の獣が黒騎士達と共に?」

 

 突然の事態に困惑する風や東郷たち。

 

「お姉ちゃん!皆さん!」

 

「樹!アンタ、今まで」

 

「狼鬼さんが味方になったよ!ガオシルバーさんになって」

 

「は?あ、アンタ、何を言っているの?」

 

「彼女の言うことは本当だぞ!」

 

 スタッと樹の後ろに青い人?のようなものが降り立つ。

 

 大剣を構えようとする風だが、樹が止める。

 

「待って!この人は味方なの!えっと……」

 

「俺の名前はニンジャマン!三神将の弟子!黒騎士の仲間だ」

 

 挨拶をしたニンジャマンは手短に伝える。

 

 狼鬼は元人であり今はガオシルバーとして勇者たちと共に戦うと。

 

 その証拠のように黒騎士と共にガオシルバーはバーテックスと倒していた。

 

「…………」

 

「お姉ちゃん!行こう!」

 

 樹に言われて風は頷いた。

 

「わかったわ」

 

 飛び出す風。

 

 樹も満開を使おうとした時。

 

「ちょっと待った」

 

 その手をニンジャマンが止める。

 

「え?」

 

「樹はまだ満開を使っていないな?」

 

「あ、はい」

 

「だったら使わない方がいい」

 

「え、でも、お姉ちゃんや皆さんが」

 

 樹と夏凜を除くメンバーは既に満開を発動させている。

 

 自分も使わなければと樹は思っていた。

 

 しかし、ニンジャマンは警告する。

 

「満開は使うな。なぁに、俺がいるから任せろ!」

 

 叫ぶとニンジャマンは巨大化する。

 

「え、えぇええええええええええ!?」

 

 驚く樹だが、ニンジャマンはバーテックスをパンチと忍者刀で切り裂いた。

 

「黒騎士さん!」

 

 満開した友奈はゴウタウラスの上にいる黒騎士へ声をかける。

 

「結城友奈、か」

 

「はい!あの、助けてくれてありがとうございます」

 

「バーテックスを倒すために過ぎない」

 

「それでも、ありがとうございます!」

 

 感謝する友奈の姿があの子と重なってしまい、日向は顔を歪める。

 

「厄介なバーテックスは俺とガオシルバーが倒す。お前達は神樹に到達されないように気をつけろ」

 

「私も行きます!」

 

「……勝手にしろ」

 

 短く言って黒騎士は重騎士へ、そして合身獣士ブルタウラスへ姿を変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に信じて大丈夫なんですね?」

 

 満開した東郷美森はガオシルバーへ問いかける。

 

「わっしー?」

 

「え?」

 

 不思議そうに首を傾げる東郷にガオシルバーは首を振る。

 

「……何でもない。俺のした過ちは俺がただす。だから、その結果で信じてほしい」

 

「もし、貴方が友奈ちゃんやみんなに危害を加えたらすぐに倒します」

 

 そういって離れる東郷。

 

 ガオシルバーは小さく拳を握り締めて叫ぶ。

 

「百獣合体!」

 

 ガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッドの三体は合体する。

 

 しかし、狼鬼の時と異なり、頭部の角はなくなり、狼の顔から人に近い存在“ガオハンター ジャスティス”へと至った。

 

 ガオハンターは目の前の巨大バーテックスを叩き潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ」

 

 ブルタウラスは舌打ちをして上空を見る。

 

 上空では一体のバーテックスが太陽のような輝きを放ちながら地上へ落下しようとしていた。

 

「あの力で神樹の世界ごと叩き潰すつもりか」

 

 ブルタウラスがツインブルソードを構えようとした時。

 

『待つのだ。ブルタウラスよ』

 

 眩い輝きと共に六大神が現れる。

 

「何の用だ」

 

『ここは我らに任せよ』

 

 ガオゴッドはそういうと実体化して彼らの前に降り立つ。

 

「綺麗……」

 

 ガオゴッドの放つ神格に友奈はぽつりと言葉を漏らす。

 

 その隣に究極大獣神。

 

 無敵将軍。

 

 ツバサマル。

 

 隠大将軍。

 

 ゴセイアルティメット。

 

 彼らは太陽のような輝きを放つバーテックスへ一斉に攻撃する。

 

 その威力は太陽に匹敵する力を持ったバーテックスを一瞬で消し去るほどのものだった。

 

「うわぁ、凄い」

 

「神々しい力を感じます」

 

「ウソ、でしょ?」

 

「ふわぁ」

 

「……ウソ」

 

 勇者たちも信じられないという表情で目の前の光景を見ていた。

 

『勇者たちよ』

 

 六大神は呆然としている勇者を見下ろす。

 

『バーテックスの戦いはこれで終わりではない』

 

『いずれ、そう遠くない未来、大きな試練がお前達の前に現れるだろう』

 

『だが、お前達の絆が切れぬ限り、その試練は乗り越えられると信じている』

 

『迷った時は自分の守りたい者、大事なものを思い出すのだ』

 

『我々は人間の可能性を信じている』

 

 そういういと六大神は姿を消す。

 

「一体、あれ、なんだったの?」

 

 樹海化が解けていく中でぽつりと風が漏らした。

 

 




すっかり紹介を忘れていた人物。

天火星亮

知る人は知る。五星戦隊ダイレンジャー、リュウレンジャーの人。
この世界においては普通の人。餃子で世界一になることを夢見ている。


大神月麿

百獣戦隊ガオレンジャーのガオシルバー。
本名はシロガネなのだが、この世界においては大神月麿が本名に当たる。
ちなみに彼は数年前、瀬戸大橋の戦いにおいてバーテックスを倒すも闇狼の面の力によって狼鬼へその姿を変えてしまった。
今回、ガオゴッド達の力添えによって人間へ戻る。



オリジナルがこれから混じっていきます。
その分、キャラのヤンデレも増えるかも?





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黒騎士と恋煩い?

しばらく本編更新に力を入れることになると思います。

ぶっちゃけ、個別などの展開もいいものが思いつかないので。





「えっと、大神さんだっけ?」

 

「お世話になります」

 

 赤龍軒にて大神月麿は頭を下げる。

 

 元々、住んでいた家があるようなのだが、数年前の騒動でなくなっているらしく行く宛てのない彼は天火星亮の赤龍軒で居候することになった。

 

 ちなみに俺は勧めるだけ勧めて、大した説得はしていない。

 

 あっさりとオーケーした天火星亮の懐の大きさに感謝しるしかないだろう。

 

 お客も去り、天火星亮が作ったまかないの餃子とチャーハンなどを食べる。

 

「黒――」

 

「落合日向、それが俺の名前だ」

 

「では、落合。お前はどうして、バーテックスと戦う?」

 

「……復讐」

 

 短く答える。

 

 幸いにも天火星亮は町内会の会合でいない。

 

「復讐?」

 

「俺は西暦の時代、バーテックスに大事なものを奪われた。奪ったバーテックスの親玉に思い知らせるために黒騎士の力を手にした」

 

「……そうなのか」

 

「わかりきっているが、お前は勇者を守りたいだったな」

 

「ああ……俺は、彼女達を守りたいと思った。だから」

 

「闇狼の面に手を出した」

 

「禁忌といわれていた。だが、俺はそれを使ってでも彼女達を犠牲にしたくないと思った。だが、俺は……」

 

 悔しそうに大神は拳を握り締める。

 

「その時のことを俺はしらない。だが、今のお前には戦う力がある」

 

 大神は腕についているGブレスフォンをみる。

 

「今までのことは変えることができない。お前が考えることはこれからだ……俺は用事がある」

 

 皿を片付けて俺はちらりと大神を見る。

 

 彼はまだ悩んでいた。

 

 何も言わずに俺は外へ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーテックスは再び攻めてくる」

 

「わかっている」

 

 俺にブルブラックが語り掛けてくる。

 

「それまでに探すんだろう。ギンガの光を……」

 

「協力するのか?」

 

「アンタは俺にバーテックスを滅ぼす力をくれた。その恩を返すだけだ……たとえ」

 

 例え、それが間違っていたとしても。

 

 俺の言葉にブルブラックは答えない。

 

 その代わりに問いかける。

 

「どこへ向かうつもりだ?」

 

「少し、聴きたいことができた」

 

 そういって大赦に侵入。

 

 二度目の侵入だが、前よりも少し期間をおいたことからか警戒は薄かった。

 

 あっさりと目的の場所へ到着する。

 

「……ぁ」

 

 俺の姿に気付いたのか包帯の無い方の目が見開いていた。

 

「また会えたな。乃木園子」

 

「……き、今日はどうしたのかな」

 

 緊張しているのか少し声が上ずっていた。

 

「話をしたいことがあってきた」

 

「お話?」

 

「ああ、迷惑なら出直すが?」

 

「そ、そんなことないんよ!う、嬉しい……し」

 

「そうか」

 

「な、何を話すんかな?」

 

「話をする前に確認したいことがある……」

 

「ふぇ?」

 

「大神月麿。その名前に憶えは……あるようだな」

 

 乃木園子は名前を聞いて驚いたように目を見開く。

 

「どうして、貴方がそれを」

 

「大赦の連中から報告が来ているか知らないが伝えておこう。大神月麿は闇狼の面から解放された」

 

「本当に!?」

 

「ああ、ウソは言わない」

 

「……よかったんよぉ」

 

 ポロポロと乃木園子は涙をこぼす。

 

「やはり、知り合いだったんだな」

 

「うん、私と他の勇者の面倒を見てくれた人なんよ……私が意識を失っている間に闇狼の面を使って……行方不明に」

 

「そうか」

 

「黒騎士様」

 

 乃木園子は涙を零したまま俺へ視線を向ける。

 

「ありがとうございます」

 

「別に、俺が原因で生まれたものを排除したかっただけだ」

 

「うふふふ」

 

 俺の言葉に乃木園子は微笑む。

 

「なんだ?」

 

「何もないよぉ、その、優しいですね。黒騎士様」

 

「その言い方、やめてくれ」

 

「ふぇ?」

 

「俺はそんな大層な存在じゃない。名前呼びでいいし、敬語はやめろ」

 

「ええん?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、日向さんで」

 

 頷いたら嬉しそうに乃木園子は微笑んだ。

 

 その笑顔に日向は微妙な表情をしている。

 

「どうしたの?」

 

「別に、何でもない」

 

 首を振りながら日向は立っていた。

 

「その、あの、日向さん」

 

「なんだ?」

 

「お願い、きいてもらえる?」

 

「内容による」

 

「えっと、その、傍に来て、私の手を握ってほしいんよ」

 

「わかった」

 

 もじもじしながらお願いする乃木園子に俺は頷いてベッドへ腰かける。

 

 ギシッと小さな音を立てながら俺は包帯が巻かれている乃木園子の手を握り締めた。

 

「これでいいか?」

 

 顔を上げると乃木園子はぽろぽろと涙をこぼしている。

 

「……ぐすっ!うぅ、ううぅうううう」

 

 しばらく声を押し殺しながら乃木園子は泣き続けた。

 

 彼女が落ち着いたころ合いをみて、尋ねる。

 

「すっきりしたか?」

 

「……うん、ありがとう」

 

 日向は手を伸ばして乃木園子の瞳に溜まっている涙を拭う。

 

「え、ぁ」

 

 顔を真っ赤にして視線を逸らした。

 

「……どうやら時間のようだ」

 

 日向は誰もいない通路へ視線を向ける。

 

 大赦の人間が日向の存在に気付いたようだ。

 

「俺はもう行く」

 

「ぁ、ま……」

 

 乃木園子は呼び止めようとする。

 

「また、来る」

 

 振り返らずに日向は姿を消す。

 

「園子様」

 

 室内へ大赦の人間がやってくる。

 

 しかし、そこに日向の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日向がいなくなってから乃木園子の心はぽっかりと何かが抜けたような気分。

 

 大赦の人間から勇者部のメンバーは病院で検査中という報告を受けている。

 

 その際に大神月麿についての報告はなかった。

 

 おそらく、意図的に報告を伏せているのだろう。

 

 大赦は黒騎士やその関係の存在を黒歴史としている。表に出てくることで問題になると考えているのだ。

 

 その時に園子が考えたのは日向の安否。

 

 今のところ大赦の人間は彼らの居場所についてわかっていないようだ。

 

 彼が無事であるということに乃木園子は安心している。

 

「?」

 

 どうして自分は彼のことを気にかけているのか?

 

 そのことを不思議に思いながら乃木園子はいつ日向が来るか待ち望む。

 

 一週間と少しして、彼は約束通り乃木園子の前に現れる。

 

「日向さん!」

 

「嬉しそうだな」

 

「久しぶりなんよ!会えて嬉しいんやから!」

 

「……一週間ほどだぞ?」

 

「一週間も!」

 

 頬を膨らませながら園子は怒る。

 

「それは悪かった。だが、毎日来ていると大赦の警備が厳重になるからな。何かある時にこられなくなるのはマズイ」

 

「それは、そうやけど」

 

 しゅんとうなだれる園子の頭に日向はポンと手を乗せる。

 

「そう暗い表情をするな。俺は毎日こられるわけじゃないが、来られる限りは足を運ぼう」

 

「本当!?」

 

「お、おう」

 

 包帯で顔のほとんどが隠れてわからないが嬉しそうな声を園子はあげる。

 

「約束なんよ!」

 

「わかった……」

 

「じゃあ、今日も一杯、お話するんよ!だから、傍にきて」

 

「……ベッドに腰かけろということか?」

 

「そうなんよ!」

 

 喜びの声を上げる園子にいわれて日向は腰かける。

 

「はぁ~」

 

「どうした?」

 

「触れられないのが残念なんよ」

 

「そうか、だったら」

 

 日向は手を伸ばす。

 

 伸ばした手は包帯越しだが、園子の頬や手に触れる。

 

 最初は驚いていた園子だが、次第に嬉しそうに目を細めていく。

 

 しばらくして、日向は手を放す。

 

「ぁ」

 

 名残惜しそうに園子は声を漏らす。

 

「乃木園子」

 

「園子って呼んで」

 

「……園子は満開を使ったこと、後悔しているか?」

 

「後悔はしてないんよ。みんなを、大事な友達を守るために使ったんだから……ただ、できるなら……日向さんとちゃんと触れ合いたいなぁ」

 

「そうか……」

 

 日向はそれ以上を言わなかった。

 

 満開した彼女達の体は神樹に捧げている。

 

 神樹が返さない限り彼女の捧げた部分が動くことはない。

 

「でも、このおかげで日向さんと話ができると考えると少し複雑なんよ」

 

「……そうか」

 

「日向さんさっきからそうかしかいっていないんよ!」

 

「そうだな」

 

「むぅ!」

 

「……俺はそろそろ行く」

 

「楽しい時間はあっという間なんよ」

 

「……これを渡しておく」

 

 日向は園子へ割れたペンダントを渡す。

 

「これは?」

 

「死んだ弟の形見」

 

「え!?」

 

 驚いた園子は割れたペンダントをみる。

 

「預けておく。大事なものだから必ず俺は取りに行く……いいな」

 

「うん」

 

 そういうと日向は出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日向がいなくなってから園子の心はぽっかりと穴が開いたような気分になる。

 

 大赦の人間が勇者部の健康状態などを伝えてきても、今までと何かが違う。

 

 その理由がわからず乃木園子は毎日、日向のことを考えるようになる。

 

 いつもいつも日向のことを思う。

 

 次はいつ会えるのか。

 

 今度はどんな話をしようかな?

 

 色々なことを考えながら園子は毎日を過ごす。

 

 次に日向がやってくる日を待ち続けた。

 

「(でも……)」

 

 園子はうつむく。

 

 彼は自分以外の勇者のことも気に掛けるだろう。

 

 わっしー、勇者部のメンバー。

 

 彼の居場所は大赦も把握していない。

 

 もしかしたら他の勇者部のメンバーも自分と同じように触れ合っているのだろう。

 

 それを考えたらドロドロしたものが園子の中を流れていく。

 

「(嫌だなぁ…………日向さんにはずっと、ずぅっと、私の傍にいてほしいなぁ)」

 

 俯いていた園子の瞳から光が失われていた。

 

「(日向さん、次にくるのはいつかなぁ~)」

 

 動けない体で園子はいつも思う。

 

「(きっと、初恋なんだ。日向さんのこと……)」

 

 彼がここにやってきて色々な話を聞かせてくれることを。

 

 




次回の本編は海水浴を予定。


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黒騎士と海

明日、投稿できそうにないので今日やります。

明日はヴァンガードの発売日、友達とエイゼルをあてるまであがくつもりです。





「海に行く!」

 

「は?」

 

「海……か?」

 

 天火星亮の言葉に俺と大神は首を傾げた。

 

「実は町内会の話し合いで海の家を行うことになって、準備をしないといけないんだ。店もしばらくお休みにするから二人も手伝ってくれないか?」

 

「……ここの家主はアンタだ。俺達はそれに従うだけだ」

 

「落合の言うとおりだ。家主は天火星さんなんだ。貴方の決めたことなら俺達は従うよ。居候だ」

 

 大神の言葉に天火星は嬉しそうにほほ笑む。

 

「ありがとう!ありがとう!二人とも!」

 

 嬉しそうに俺と大神の手を握り締める。

 

 季節は夏。

 

 俺達は海の家が設置されている場所へ向かうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ~~~、海へ行くのぉ?」

 

「海の家の手伝いだ。仕事であって遊びにいくわけじゃない」

 

 大赦の一室。

 

 そこで祭られている乃木園子へ俺は会いに来ていた。

 

 彼女と話をするため大赦へ侵入している。

 

 大赦の警備も強化されているのだろうがどうも温い。

 

 包帯で顔を隠しているが彼女は嬉しそうにしていた。

 

「嬉しそうだな」

 

「だって、日向さんとお話できるもん!」

 

「……その程度しかできないが」

 

「そんなことないよ!私は日向さんとお話できるのが嬉しいから~」

 

「……そうか」

 

「でも、しばらくはお話できないんだよねぇ」

 

「……そうなるな」

 

 しゅんとうなだれる園子。

 

「海かぁ……いいなぁ」

 

「気休めにしからないかもしれないが、いつか、お前もまた海にいけるようになる」

 

「もし、そうなったら日向さんと海にいきたいよ!」

 

「……そうだな、そうなったら海へ行こう」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

 短く、俺は短く答えた。

 

 これがウソなのか、本当なのかどうなるのか。

 

 それはわからない。

 

 俺は何をしたいのだろう?

 

 乃木園子と話をしている中で俺は自分の心にトゲが刺さった様な気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで海だ!」

 

「……海だー」

 

「だー」

 

 元気よく叫んだ亮、続いて大神、そして、日向が叫ぶ。

 

「天火星、そろそろ現実逃避はやめるべきだと思う」

 

「そ、そうだよなぁ」

 

「これが海の家か」

 

 三人の目の前にあるボロボロの家屋。

 

 これが海の家だという。

 

「前の人がちゃんと手入れをしていなかったみたい……こんなことになっているなんて」

 

「手入れからのスタートだな」

 

 日向の言葉で彼らは家屋の手入れからはじめた。

 

「ブハッ、ゴホッ!」

 

 せき込みながら日向は箒でほこりや汚れをはたき落とす。

 

「……どうでもいいんだが、ここは人が来るのか?」

 

 海辺を見渡して日向は呟く。

 

 夏で、海開きから既に一週間が経過している。

 

 だが、この海へ人がくる気配がない。

 

「どうやら、この近くに新しい海の家ができているみたいで、利用者のほとんどが流れているみたいだ」

 

「まぁ、こんなボロ家屋なら仕方ない」

 

 大神の言葉に日向も亮も答えられない。

 

「でも、俺達は味で勝負だ!」

 

「……どう思う?」

 

「俺に質問するな」

 

 日向が問いかけると大神は短く答えた。

 

「よぉ!来たぞ!」

 

「……お前はなにをしているんだ?」

 

 海の家を開いて一時間。

 

 客足がこないことで暇をしていた俺達の前に意外な来客が現れた。

 

 ニンジャマン。

 

 青いロボットのような姿に大神は動きを止めて、俺は微妙な表情をしている。

 

 実際、こんな奴が町中を歩いているとなれば、動揺する人も出てくるだろう。

 

「お師匠様にいわれたんだ。人間の世界に対して見聞を広めろと!そこでお前の下へ行けば勉強になると思ったのさ!」

 

「……お前の師匠ということは」

 

「そうだ!」

 

 六大神の三体。

 

 彼らはどういう意図でコイツに見聞を広めろと言い出したのだろうか?

 

 疑問が尽きないが問題は。

 

「あれ?お客様?」

 

「えっと」

 

「よぉ!俺はニンジャマン!ここにいる日向と月麿の知り合いだ!」

 

「ああ、そうなんだ。よろしく。俺は天火星亮だ」

 

 あれ、普通だ。

 

「実はお師匠様から認識阻害の術を施してもらっているんだ」

 

「成程……今のお前は普通に見えているという訳か」

 

「その通り!」

 

 頷くニンジャマンの姿に俺はなんともいえない表情を浮かべてしまう。

 

 その時、元気な声が聞こえてくる。

 

「あ!海の家だよ!」

 

「本当ね。こんな廃れたところにあるなんて」

 

「そういえば、町内会でこの場所に海の家をもっていたと思います」

 

 ヤバイな。

 

 俺は置かれている狐の面をかぶる。

 

「ん?どうした?」

 

「別に」

 

「焼きそばありますかぁ!」

 

 店の入り口に姿を見せたのは勇者部のメンバー。

 

 彼らがどうしてここにいるのか?

 

「よぉ、勇者たち」

 

「あれ?」

 

 入り口にいた結城友奈がニンジャマンをみて首を傾げる。

 

「何よ、アンタ」

 

「え、あぁ、そうだった」

 

 ニンジャマンがパチンと指を鳴らすと本来の姿へ戻った。

 

「あ、ニンジャマンさん!」

 

 犬吠埼樹がニンジャマンをみて叫ぶ。

 

「アンタ、なんでこんなところに!?」

 

「お師匠様たちからの指示で日向に会いに来たんだ」

 

「っ!?」

 

 俺は店の奥へ逃げようとしたが既に手遅れ。

 

 狐の面が乱暴に取り払われる。

 

 取り払った本人は三好夏凜。

 

「アンタ!こんなところで何してんのよ!」

 

「仕事だ」

 

「お、お久しぶりです!くら……じゃなかった日向さん!」

 

「お久しぶりです」

 

 元気よく答える結城友奈とおずおずと話しかける犬吠埼樹。

 

 三好夏凜は人を殺せるような鋭い目線をこちらへ向けていた。

 

 大赦の勇者である彼女は俺のことを敵視している様子。

 

 はっきりいって他の人がみたら怯えるレベルだろう。

 

 俺は“そういう感覚”が薄れているため、全く気にならなかった。

 

「とりあえず、焼きそば!」

 

「どうぞ」

 

 夏凜の言葉に俺は用意していた焼きそばを差し出す。

 

 焼きそばをみた三好夏凜は疑う目を俺に向ける。

 

「……これ、大丈夫なんでしょうね?」

 

「安心しろ。毒は入っていない」

 

「そういう問題じゃないと思うんですけれど」

 

 樹が俺にツッコミをいれる。

 

 差し出した焼きそばをおそるおそる食べる三好夏凜。

 

 すぐにおいしそうに表情をやわらげた。

 

「夏凜ちゃん?」

 

「な、中々やるじゃない!」

 

「俺もくれ!」

 

 ニンジャマンに焼きそばを差し出す。

 

「うめぇなぁ!」

 

 どうやって食べているのか全員が気になりながらも友奈が焼きそばを欲する。

 

「あ、あの、私も!」

 

「どうぞ」

 

「私も……あ、財布!?」

 

「お代は結構だ」

 

「え、でも」

 

「町民はサービスで初回はタダだ」

 

「ありがとうございます!」

 

 笑顔を浮かべて結城友奈は頭を下げる。

 

 ふと、大神が奥で縮こまっていることに気付く。

 

「何をやっているんだ?」

 

「別に……気にしないでくれ」

 

 問いかけるも大神は何も言わない。

 

 無理に言わない方がいいか。

 

 そんなことを考えると樹がこちらをみていた。

 

「なんだ?」

 

「いえ、日向さんが台所に立っている姿を思い出して」

 

「そういえば、残りの二人は?」

 

「呼びましたからそろそろ来ます」

 

「……」

 

 そろりそろりと置かれている天狗の面をとる。

 

「顔を隠すんですか?」

 

「余計な騒動を招きたくない」

 

 樹の言葉通り、少し遅れて犬吠埼風と東郷美森がやってきた。

 

 彼女達はニンジャマンの姿に驚き、おそらく天狗の面をしている俺に驚きながらも焼きそばを味わい、そして海へ遊びに繰り出していく。

 

「おい、いいのか?あの子、お前の妹みたいなもんだろ」

 

「……彼女は色々と背負っているものがある。俺と関わりすぎると大赦に目をつけられかねない。それは避ける必要がある」

 

「心配しているのか」

 

「どうだろうな。そこはいつまで経ってもわからんよ」

 

 ニンジャマンの言葉に俺は苦笑しながら答える。

 

「……ちゃんと声はかけてやるべきだと思うがなぁ」

 

 ちらりとニンジャマンがどこかをみていたような気がするが俺は焼きそばを作ることに忙しくて対して気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――どうして、彼は私だけに声をかけてくれないのだろう。

 

 樹やみんなと海で遊びながら犬吠埼風は暗い瞳で天狗の面をしている彼をみていた。

 

 風はお面をしている人物が日向であることを見抜いている。

 

 樹が楽しそうに話をして答えてくれるのに対して、彼は私にそっけない。

 

 私のことが嫌いだから?

 

 そんなはずはない。

 

 だったら、私達の面倒をみずに拒絶しているはず。

 

 きっと、何か理由があるに違いない。

 

 そう、もしかしたら恥ずかしがっているのだろうか?

 

 

……それか、女子力が足りないのだろうか。

 

 

 こんなことをいうと尻軽に思われるかもしれないが男子には人気がある。

 

 それを考えたら彼のような年上へ魅了するような力がまだまだ足りないのだろうか?

 

 あぁ、もどかしい。

 

 とてももどかしい。

 

 彼と話をしたい。

 

 

 彼と触れ合いたい。

 

 

 彼を抱きしめたい。

 

 彼に抱きしめてもらいたい。

 

 彼と、色々なことをしたい。

 

 でも、

 

 ああ、

 

 どうして、彼は私に声をかけてくれないのだろうか。

 

 私はこんなにも思っているのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞっとするような視線を感じながら夕方になると勇者たちは用意されている旅館へ帰っていった。

 

 樹の話によるとバーテックス掃討のご褒美ということで大赦が用意したという。

 

 相変わらず、こういうところのケアはしっかりやっているようだ。

 

 

 

 ニンジャマンは行くところがあるといって姿を消した。

 

 大神は天火星と泊まっている宿へ戻っている。

 

 そして、日向は。

 

「来たわね」

 

 海岸。

 

 そこで三好夏凜が待っていた。

 

「……何の用だ?」

 

「黒騎士、アンタに決闘を申し込むわ」

 

 三好夏凜はそういうと木刀を日向に投げる。

 

 受け取った日向は木刀を静かに構えた。

 

「理由を聞かないわけ?」

 

「聞いたところで俺の理解できるものではないかもしれない。そんなものなら聞かない」

 

「あ、そう!完成型勇者の力、みせてやるわ」

 

 先手をとったのは夏凜。

 

 二つの木刀が日向を狙う。

 

 振るわれる斬撃を日向は木刀で受け止めることなく右、左へ躱していく。

 

「(コイツ、無駄な動きを全くしない!)」

 

 連続攻撃を仕掛けるも日向はすべてを回避する。

 

 ひらりと躱して距離をとりながら夏凜は睨む。

 

「アンタ、一体……何を考えているの?」

 

「どういう意味だ?」

 

「勇者でもないのにバーテックスと戦う。それだけじゃない、勇者を守る……アンタに何のメリットもないのに、どうして戦うの?」

 

「……俺はバーテックスをすべて滅ぼす。復讐を果たす。そのついでにお前達を助けているだけに過ぎない。おまけだ」

 

「おまけ?アンタは私達を何だと思っているのよ!」

 

 怒りで振るった一撃。

 

 しかし、怒りのあまり先ほどの洗練さはない。

 

「どこにでもいるお節介で、他人の中にずかずかと入り込んでいく。他人のために命を散らすことを厭わない清らかな少女。それがお前達だ」

 

 この時になってようやく日向は動いた。

 

 日向の木刀と夏凜の木刀がぶつかる。

 

 くるりと操った木刀が夏凜の木刀を宙へ弾き飛ばす。

 

 木刀を目で追いながら片方で攻撃をしようとした時。

 

「ここまでだ」

 

 夏凜の喉元に木刀の先端が突きつけられていた。

 

「まだやるか?仕切りなおしても構わない」

 

「上等!」

 

 上から目線(本人に自覚なし)の言葉に夏凜のやる気魂に火が付いた。

 

 そこから三時間ブッ続けて日向と夏凜は木刀を振るい続ける。

 

 最終的に夏凜は地面に大の字で寝転がった。

 

「ハァ……ハァ……なん、なのよ。アンタ」

 

「元・人だ」

 

「今はなんなのよ!?」

 

「さぁな。俺もわかっていない」

 

 叫ぶ夏凜に日向は淡々と返す。

 

「帰るのか?」

 

 木刀を回収して立ち上がった夏凜をみて日向は声をかける。

 

「えぇ、アンタのことがよくわかったし」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ!」

 

 つかれた様子で三好夏凜はこちらをみた。

 

「アンタは友奈達以上にお人好しで大馬鹿だってこと!」

 

 眉間へ皺を寄せているが三好夏凜の表情は少し、本当に少しだが柔らかいものになっていた。

 

 日向は短く答えて彼女に背を向ける。

 

 しかし、すぐ背後に感じた気配にため息を零す。

 

「(今日は来客が多いな)」

 

 呆れながら振り返る。

 

 後ろには車椅子に乗って、こちらをみている東郷美森の姿があった。

 

 こちらを探るように鋭い目をしている彼女に日向は何とも言えない表情を浮かべてしまう。

 

「今度は東郷美森か」

 

「お久しぶりです。蔵人さん……いえ、日向さんというべきですね」

 

「そうだな。蔵人は死んだ弟の名前だ。なぜ、俺がそれを名乗ったのかわからないが、できれば、日向と呼んでくれ」

 

「はい」

 

 頷いた彼女は車椅子でこちらへやってくる。

 

「用件はなんだ?」

 

「貴方は何のために戦うんですか?」

 

 また、それか。

 

 ため息を吐いてしまう。

 

 前を見ると眉間へ皺を寄せる東郷の姿があった。

 

「すまない、侮辱するわけじゃないんだ」

 

「……だったら」

 

「いや、どうして、皆、似たような質問をしてくるのかと思っただけだ」

 

「え?」

 

「何人も俺に戦う理由を問いかけてくる」

 

「それは貴方がどうしてバーテックスと戦うのか、命を失う危険だって」

 

「それはお前達勇者も同じ事だろう」

 

「……お役目だからで」

 

「お役目ならお前達は命を迷わずに差し出せるのか?」

 

「……」

 

「俺は違う。俺は俺の目的があってバーテックスと戦っている」

 

「それは復讐……ですよね?」

 

「そうだ」

 

 東郷の問いに迷わずに答える。

 

「何年、何百年という時が過ぎても俺のバーテックスの憎しみは消えない。奴らが存在し続ける限り俺は戦う。勇者が違おうと、周りの人がいなくなろうと俺は戦う」

 

「……地獄の道です」

 

「そうだとしても俺は止まらない」

 

――もう止まることも出来ない。

 

 口から出そうになる言葉を飲み込む。

 

「話がそれだけなら戻らせてもらう」

 

「待ってください」

 

 無視していこうとしたら腕を掴まれる。

 

「風先輩やみんなが心配しています」

 

「だから?言ったはずだ。俺は戻ることはない」

 

「どうしてですか!?バーテックスはもう滅びたんです!お役目はもう――」

 

 日向は東郷を抱きかかえてその場を離れる。

 

「きゃっ!」

 

 東郷が小さな悲鳴を上げた直後、何かが地面を抉る。

 

「何が……」

 

「俺から離れるな」

 

 日向はブルライアットを抜いて何もいない空間を睨む。

 

「いつまで姿を隠しているつもりだ?」

 

「流石は、黒騎士というわけか」

 

 暗闇の中から“何か”が現れる。

 

「あれは、何ですか?」

 

 正体がわからず戸惑った声を漏らす東郷だが日向は無言でブルライアットの剣先を向けたまま動かない。

 

「わからない」

 

「……え?」

 

「だが“よくないもの”ということはわかる」

 

 ブルライアットを向けたまま相手の動きを伺う日向に対してパチパチという手を叩く音が響く。

 

「流石だ。黒騎士、我が主が貴様を危険視するわけだ。本当なら姿を見せるべきなのだが、神樹の結界もなかなかの強さを持っている。こういう形でしか俺は姿を見せられないのさ」

 

「貴様……一体」

 

「なぁに、慌てることはない。いずれ俺は貴様の前に姿を見せる……その時に改めて名乗らせてもらおう……尤も、俺が姿を見せる前にお前が死ななければ……という話だがなぁ」

 

「なに?」

 

「フッフッフッ」

 

 正体不明の相手は不気味に笑ってそのまま姿を消した。

 

 しばらく周囲を警戒したが完全に気配を感じなくなったところでブルライアットを仕舞う。

 

「あ、あの」

 

 下から聞こえた声に視線を向ける。

 

 日向のすぐ目の前に東郷美森の顔があった。

 

「あぁ、すまない。ずっと抱きしめたままだったな」

 

「い、いえ……………心臓が爆発しそうです」

 

「?」

 

 ゆっくりと東郷を下ろそうとするが。

 

「……あ」

 

 先ほどの攻撃で彼女の使っている車椅子は壊れていた。

 

「すまない、車椅子のことを失念していた」

 

「い、いえ、助けてくださってありがとうございます……部屋まで行けば、予備で置いてある車椅子があるので、なんとかなるかと……」

 

「わかった」

 

 日向は頷くと東郷を抱えなおして歩き出す。

 

「え、あの!?」

 

「歩けないだろう。ここから部屋までもそこそこの距離がある。俺が運べば済む」

 

「そ、そうかもしれないですけれど、勇者部の誰かを呼べば」

 

「夏とはいえ、夜は冷える。お前が風邪を引けばせっかくの休みも台無しになるだろう……何より、俺が車椅子のことを考えていれば起こらなかったことだ」

 

「そ、そうですけれど」

 

「周りに頼られてばかりなんだ。こういう時くらい年上を頼れ」

 

「…………はい」

 

 俯いた東郷は部屋の前につくまで終始無言だった。

 

 

 




約300歳以上差のある年上へ頼ってしまってドギマギしている美森ちゃん。

誰受けだろうか。

次回も本編。

とあるキャラに視点がいきます。



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黒騎士と芽吹く感情

今回、とあるキャラに焦点をあてます。




「乃木園子、話がある」

 

「おぉ!今日は日向さんからお話なの!どんな話なのかな?楽しみだよ!」

 

「楽しい話ではないのだが…………お前は天の神について知っているか?」

 

「うん」

 

「じゃあ、次の質問だ。勇者部の連中は前回の戦いでバーテックスをすべて滅ぼしたと思い込んでいる……大赦の連中は天の神について、話していないのか?」

 

「多分、話していない」

 

「そうか、お前は知っているのか?」

 

「うーん、私も勇者だったころは知らなかったんよ。この状態になって六大神様が教えてくれたの」

 

「あいつらが?」

 

「うん……大赦の人達は深い絶望を与えないようにしたいみたいだけど」

 

「…………そうか」

 

 大赦は勇者を思っているのか、それとも戦える駒を失いたくないのか。

 

 わからないが、俺にとってはどうでもいい。

 

 そう――。

 

 既にギンガの光の在り処がわかった“私”にはどうでもいいことだ。

 

「日向さん?」

 

「いや、何でもない。すまなかったな」

 

 ポンポンと乃木園子の頭を撫でる。

 

「?」

 

「どうした?」

 

「うーん、一瞬、日向さんが日向さんじゃなかった気がするんよ」

 

「そうか?」

 

「気のせいかな?」

 

 首を傾げる乃木園子。

 

 その後、少しばかり話をして俺は大赦を抜け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ギンガの光の目星はついた。あとは手に入れるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結城友奈は悩んでいた。

 

 少し前、彼女は野球部の男子から告白を受けてしまう。

 

 クラスメイトの東郷は知らない。

 

 悩みながら友奈は帰路についていた。

 

 そのためか彼女は一日の部活に集中できず、東郷や夏凜が心配してしまう。

 

「はぁ……どうしようかなぁ」

 

 答えが出ない。

 

 そもそも、異性からの告白など受けたことがなかった。

 

 友奈はどうすればいいのかひたすらに考える。しかし、答えは出ない。

 

 彼女はそういった経験など皆無。故に答えがすぐにでるわけがなかった。

 

「はぁ、こういう場合、相談できるような人がいればなぁ」

 

 少し前なら彼女はある人に相談を仕掛けただろう。

 

 しかし、その人はいない。

 

 風が行方を捜しているもみつからないという。

 

 ため息を零している友奈の傍を自転車が通過する。

 

 赤龍軒と書かれている宅配用の自転車に乗っている落合日向の姿――。

 

「ま、待って!!」

 

 彼の姿に気付いた友奈は声を上げて追いかける。

 

 しかし、相手は反応することなく自転車をこぐ。

 

 自転車は手入れがされておらずペダルを漕ぐたびにギシギシとさび付いた音を立てている。

 

「待って、くだぁさああああああああああああい!」

 

 叫んで友奈が自転車を掴む。

 

 全力でつかんだために衝撃で自転車が揺れた。

 

「危ないぞ」

 

「あ、ご、ごめんなさい」

 

 淡々と言われて友奈は自分がやりすぎたことに気付いて謝罪する。

 

「結城友奈か、何の用だ?」

 

「えっと、その」

 

 問われた友奈は慌てる。

 

 恋愛相談に乗ってください!

 

 なんていうのもどうかと思ってしまったのだ。

 

「ふむ」

 

 彼女の表情を見た日向は自転車を隅へ止める。

 

「そこに座って待っていろ」

 

「え、あ、はい」

 

 言われた友奈はベンチに座る。

 

 少しして缶ジュースを手に日向は戻ってきた。

 

「これでも飲め」

 

 渡されたジュースを友奈は受け取る。

 

「え、でも」

 

 友奈は満開の後遺症で味覚を失っている。

 

 飲んだところで味はわからない。

 

「あと、これを握れ」

 

 日向が取り出したのはブルライアット。

 

 いきなり武器を取り出したことで友奈は驚く。

 

「いいから握れ」

 

 言われた友奈は渋々握る。

 

「そのまま、飲み物を飲んでみろ」

 

 友奈はちびちびとジュースを飲む。

 

「え!?」

 

 驚いた表情で友奈はジュースを飲む。

 

「味が、する!」

 

「そうだろうな」

 

「どうしてですか!?」

 

「……ガオゴッドの加護だ」

 

 どうでもいいように日向は言う。

 

 前の戦いの後、ガオゴッドがブルライアットに加護を与えた。

 

 ブルライアットに勇者が触れれば、満開で失っている部位を日向と共有することができる。

 

 つまり、日向の味覚を友奈は一時的に借りているようなものだ。

 

「でも、どうして」

 

「神様の考えることなど知らん」

 

 そういいながらも友奈がジュースを飲み終わるまで日向はブルライアットから手を離さない。

 

「(優しい人……なんだろうなぁ)」

 

 記憶を失う前の彼は誰にでも優しかった。

 

 勇者部のメンバーもそうである。友奈にも彼お手製のプリンを作ってくれる。

 

 今はどうだろう?

 

 友奈は探るように日向の顔を見る。

 

「なんだ?」

 

「あ、いえ」

 

「……さっき、俺に何か相談をしようとしていたな」

 

「は、はい」

 

 友奈は頷く。

 

 それから沈黙が続いた。

 

「話さないのか?」

 

「え!話していいんですか?」

 

「相談してすっきりすることもある」

 

 面食らいながら友奈は意を決して話すことにする。

 

「実は男の人に告白されて――」

 

「他の人を当たれ」

 

「即答!?」

 

 ガビーン!とショックを受ける友奈。

 

 驚いていると日向が苦笑していることに気付いた。

 

「冗談だ」

 

「ひ、日向さんでも、冗談を言うんです、ね」

 

「昔は冗談も言っていた……今は、ほとんどないな」

 

「どうして、ですか?」

 

「一言で済ませば、復讐のために俺は普通の人が当たり前だというものを捨てた。それだけのこと」

 

「……辛く、ないんですか?」

 

「わからない」

 

 日向は表情を変えずに答える。

 

「三百年前は違ったかもしれない。今は本当にわからないんだ」

 

 自らの手を見ながら日向は言う。

 

「三百年前は俺のことを好きだっていう子もいた……俺も大事にしたいと思った。だが、会えない。もう会うことはないんだ」

 

 友奈はそこで異変に気付く。

 

 目を見開いてそれを注視する。

 

 気付かなかったら彼女はこれからもいつも通り、元気で明るい少女でいられただろう。

 

 だが、見てしまったことで彼女に変化が起こる。

 

 どうすればいいのか悩みながら友奈は意を決して日向を抱きしめた。

 

 ベンチに半立ちで彼の頭を抱きしめる。

 

 強く抱きしめた。

 

「いきなりなんだ?」

 

 抱きしめられた日向は表情を変えない。

 

 しかし、友奈は笑みを浮かべる。

 

「いえ、ありがとうございます!」

 

「……?俺は何もしていないぞ」

 

「そんなことないです!日向さんのおかげで悩みが吹っ切れました!」

 

「それなら結構。暗くなる。そろそろ帰れ」

 

「はい!あ……今度、赤龍軒へ行ってもいいですか?」

 

「俺はバイトだ。好きにしろ」

 

 そういって彼は自転車に乗って去っていく。

 

 残された友奈はちらりと視線を下す。

 

 

――震えている手。

 

 

 淡々と話している彼の手は震えていた。

 

 自覚していないのだろう。

 

 そんな彼を見ていた時、支えたい、なんとかしてあげたいという気持ちが強くなった。

 

 同時に、男子生徒に告白されたときよりも心臓がバクバクと音を立てていく。

 

 その感覚がくすぐったくても、嬉しくて、友奈はその気持ちがなんなのかわからないが大事にしたいと思えた。

 

「頑張るぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、友奈は告白を断った。

 

 その際、男子生徒は縋ることなくすんなりと終わる。

 

 

――もしかしたら断られるかもしれないと思っていた。

 

 

 彼はそういってにっこりと微笑んだ。

 

 友奈はいつものように部活に励んだ。

 

 その姿に心配していた東郷も樹も夏凜も嬉しそうだった。

 

 ただ、風は何かを探るような目をしていたが。

 

 彼女はふわりと浮かぶような足取りで赤龍軒に向かう。

 

 店の前では淡々と箒で掃除をする彼の姿がある。

 

 彼の姿を見た途端、友奈は言葉に表せない気持ちになる。

 

 それを探るように、答えを求める様に友奈は声を出す。

 

「こんにちは!日向さん!」

 

 

 




次回、ヤンデレ爆発かも。




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黒騎士と爆発する感情

明日と明後日、パソコンが触れなさそうなので投稿します。




「大赦が再び動き出したバーテックスのことを勇者部に伝えたみたいなんよ」

 

 大赦に侵入した俺に乃木園子は話す。

 

 西暦の時と異なりバーテックス関係の情報を大赦はほとんど秘匿している。

 

 そのため、大赦の上層部でない限りバーテックスを生みだしている天の神の存在なども知らないのだろう。

 

 天の神が存在する限りバーテックスは生まれる。

 

 この戦いに終わりはない。

 

 前回はなんとかなったかもしれない。しかし、次はわからない。

 

 それが勇者とバーテックスの戦い。

 

「……そうか」

 

「日向さんも戦う?」

 

「バーテックスは俺にとって復讐の対象だ。現れるなら潰す……だが」

 

「?」

 

 そこから先の言葉を飲み込んだことで園子は不思議そうに首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

「何でもない……それより、何か話したいことでもあるのか?」

 

「え?」

 

「悩んでいるようにみえるぞ」

 

「うん、実はわっしー達に会おうかなと思って」

 

「そうか」

 

「止めないの?」

 

「止めてほしいのか?」

 

 問いかけに園子は困ったような表情を浮かべている。

 

「嫌な質問だったな」

 

「ううん、これくらいは先輩勇者としてやるべきなんだよ」

 

「そうか」

 

「でも、不安なんだ。日向さん、私を抱きしめてくれないかな?」

 

「抱きしめるのか?」

 

「うん」

 

 言われた俺はベッドの上から覆いかぶさるように乃木園子を抱きしめる。

 

 動くことができない園子はスンスンと匂いを嗅いでいた。

 

「匂いなんて嗅いでもいいものじゃないぞ」

 

「そんなことないんよ。幸せな気分になるよ~」

 

「そうか」

 

 よくわからないものだ。

 

「できれば、日向さんにも一緒に居てほしいって思うのはずるいかな?」

 

「どうだろうな、俺にはわからない」

 

「もう少し、日向さん、強く抱きしめてほしいかな」

 

「良いのか?痛がるかもしれないぞ?」

 

「うーん、強く日向さんを感じたいの」

 

「そうか」

 

 言われて俺は強く抱きしめる。

 

 小柄な園子の体は強く抱きしめてしまえばそのまま腕の中でつぶれてしまうのではないかと思ってしまう。

 

 しばらくして、園子が満足したような息を吐く。

 

「勇気をもらったよ!ありがとう!日向さん」

 

「俺は抱きしめただけだ」

 

「もう!乙女心がわかっていないなぁ~」

 

「俺にとって永遠の謎だ」

 

「そんなことないよぉ~………………日向さんは私と付き合えばそれくらいわかるよ」

 

「何か言ったか?」

 

「ううん!」

 

 首を振る園子。

 

 大赦の人間の来る気配を感じて立ち上がる。

 

「はぁ、次はどのくらいかかるのかなぁ?」

 

「すぐに会えるかもしれないぞ」

 

「え?」

 

「俺も立ち会おう」

 

「えぇ!?」

 

 驚いた声を上げる園子ににやりと笑う。

 

「少し勇者たちに用事もあるからな」

 

 小さく告げて俺はその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嬉しいんよぉ、嬉しいんよぉ、日向さん、日向さんは私のことを思ってくれている。もう私、日向さんなしじゃいきていけないよぉ、はぁ、嬉しいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、落合!」

 

「なんだ?皿洗いの途中だ」

 

 赤龍軒で仕事をしていると大神に腕を掴まれる。

 

 皿を落としそうになり文句を言うと焦ったような表情でこちらをみていた。

 

「どういうことなんだ!」

 

「だから、何の話だ?」

 

「どうして讃州中学校勇者部の連中がいるんだ!」

 

「……知らん」

 

 この前に結城友奈と出会って働いていることがばれたなど口が裂けてもいえるわけがない。

 

「本当だろうな?」

 

「ああ」

 

 ウソをつく。

 

 だから俺は勇者になれない。

 

 心の中で笑いながら俺は大神へ視線を向けた。

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「あるに決まっているだろ、俺達の居場所が大赦にばれでもしたら」

 

「その心配はない」

 

「なに?」

 

 俺は外に置かれている奇妙な置物を指す。

 

「なんだ、あれは?」

 

「ニンジャマンが用意した特別なアイテムだ。あれがある限り敵対している人間がこの店を襲撃することはない。襲撃した途端、変な場所に転移されるようになっている……らしい」

 

「頼りになる……な。だが、別の問題がある!」

 

 大神は店内を指す。

 

「彼女達が頻度を増せば、いずれ、俺達の正体がばれてしまうぞ!そうなると――」

 

「そうなると何が困る?」

 

「……それは」

 

 俺の問いかけに大神は詰まる。

 

「居場所の心配か?それとも大赦に正体がばれて追い詰められることの恐怖か?そんなことなら今すぐにでもブレスレットを捨ててここへ出ていけ」

 

「……」

 

「店内に戻るぞ」

 

 沈黙する大神を残して俺は店内の中に入る。

 

 中へ入ろうとした時、樹が俺の姿を見つけた。

 

「日向さん!」

 

「もう少し静かにしてくれ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 申し訳ない表情になる樹の頭へ手を伸ばす。

 

 ポンポンと彼女の頭を撫でる。

 

「えへへへ」

 

「女子というのはどうして撫でられると喜ぶんだ?」

 

「誰でも!という訳じゃないです!日向さんだからいいんです!」

 

「そうか」

 

 よくわからない。

 

 俺はため息を零す。

 

「ところで、いつまで撫で続ければいいんだ?」

 

「ずっと!」

 

「……」

 

「じ、冗談です」

 

 目が本気だったぞなど口が裂けてもいえない。

 

 俺は手を放す。

 

 樹は名残惜しそうにこちらをみていた。

 

「最近、この店へ来ることが多くないか?」

 

「えっと、友奈先輩がいきたいって……それで、日向さんがいることをお姉ちゃんも知ったみたいで」

 

「…………犬吠埼風か」

 

「あ、あの……」

 

 おずおずと樹がこちらをみる。

 

「なんだ?」

 

「お姉ちゃんと話をしてもらえませんか?」

 

「……なぜ?」

 

「その、お姉ちゃん……ずっと、日向さんを探しているんです」

 

「俺を?」

 

「はい…………あの日からずっと」

 

「そうか」

 

「だ、だから」

 

「悪いができない」

 

「どうして、ですか?」

 

「わかっているはずだ。俺は黒騎士、犬吠埼風は大赦に従う勇者。敵対はしていないが、大赦に従っている以上――」

 

「だとしても!お姉ちゃんは日向さんに会いたがっています!会いたいと望んでいるんです!」

 

「……」

 

「お願いです!一日だけでいいんです!お姉ちゃんと会ってくれませんか?」

 

 樹に言われて俺は少し悩み。

 

 その結果。

 

「わかった……一日だけ、彼女と会おう」

 

 樹にそういって俺は彼女と会うことを約束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が私と会うことを約束してくれた。

 

 樹から伝えられて私は喜んだ。

 

 心の底から嬉しいと思う。

 

 でも、樹に言われて会うということに納得できない。

 

 まるで樹の言葉なら従うように思ってしまって不愉快だ。

 

 樹は家で大人しく待っていてくれるようだ。

 

 日向と会うことを楽しみにしよう。

 

「私の女子力で彼を虜にして見せる」

 

 大赦など関係ない。

 

 自分の魅力で彼と一緒にいてもらう。

 

 鏡を見て私は微笑む。

 

 楽しみだ。

 

 あぁ、本当に、楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなことをして意味があるのか?」

 

 私服姿で日向は待ち合わせ場所の公園に来ていた。

 

 店は休むということで天火星亮に話をするとすんなりと通ってしまう。

 

 大神は複雑そうな表情でこちらをみていた。

 

 先日の会話のことを気にしているのだろう。

 

 日向がそんなことを考えていた時だ。

 

「ごめんなさい、待たせたかしら!」

 

 手を振ってこちらへやってくる犬吠埼風の姿があった。

 

 フリルのついたスカートを揺らして笑顔で彼女はやって来る。

 

「(見よ!これが私の全力よ!)」

 

「(いつもよりファッションに力を入れているな、そんなに気合を入れてどうするんだ?)」

 

 風の考えなど知らず日向は首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くか」

 

「うん!」

 

 日向がそういうと風は腕を掴もうとした。

 

 スカッ。

 

 しかし、風の伸ばした手は空を切る。

 

 もう一度、手を伸ばすもその手は彼の腕を捕まえることができない。

 

「もう!せっかくのデートなんだから腕を組みなさい!」

 

「……はぁ」

 

 ため息をついた日向にムッと思いながらも風は腕に思いっきり抱き着いた。

 

 その際に自分の胸を当てるように抱きしめる。

 

 大好きな相手に思いっきり行ったことで心臓が爆発しそうになるほど鼓動を増す。

 

 ちらりと上を見ると日向は全く気にした様子を見せない。

 

 

 

――むむっ!

 

 

 視線を感じたのか日向が風をみる。

 

「なんだ?」

 

「べーつーにぃ」

 

 見る限り不機嫌ですとわかりやすい態度をとる風だが、日向は気にした様子を見せない。

 

 モヤモヤと苛立ちが風の中に生まれていく。

 

 この時、デートと言うことに意識を向けすぎていて風は気づかなかった。

 

 日向の口調がいつもより硬いこと。

 

 そして、彼が本当は落合日向ではないということに。

 

 デートの直前まで日向は悩んでいた。

 

 風と会う時にどんな顔をすればいいのか、記憶を失っていた間、家族として曲がりなりにも接していたことでどうすればいいかわからなかった。

 

 その時、『ならば、私が変わろう』と彼の頭にブルブラックが声をかける。

 

 了承する暇もないまま日向の意識は闇の中に消えて、ブルブラックが表へ出ていた。

 

 最初は日向がちゃんとデートに行くつもりだったのだが、急なブルブラックの提案につい、了承してしまう。

 

「(しかし、デートをやったことがない私にとっては中々に難しいものだな)」

 

 ブルブラックが日向の体を使用しているが彼自身、まともにデートをしたことがない。

 

 真面目で彼は星を守る騎士として戦い続けた者は恋愛などまともになかった。

 

 故に風の猛烈アタックに対して彼はちぐはぐな対応しかできない。

 

 そのため、彼女の不満はより高まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねえちゃん、大丈夫かなぁ?」

 

「樹、アンタが心配する気持ちはわかるけれど、アタシ達を巻き込む理由があるの?」

 

「え、だって……」

 

「夏凜ちゃん!樹ちゃんが困っているんだから助けてあげないと!」

 

「友奈ちゃんの言うとおりよ!それに、風先輩が日向さんに何かをしでかさないか監視……見張っておかないと」

 

「今、本音がでていなかった?まぁ……いいわ」

 

 此処で一人が何かいったところでどうにかなるわけがない。

 

 何より猪突猛進の友奈が燃えている以上、巻き込まれることは目に見えている。

 

 夏凜は諦めて彼女達の後を追いかけた。

 

 不思議と悪い気分ではなかった。

 

 しかし、途中で彼女達は尾行することをやめて四人で遊び始めてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デートはとにかく散々なものだった。

 

 風がどれだけアプローチしても日向はなびかない。

 

 それどころか全く自分は興味なしという態度をとるばかり。

 

 興味なしという態度で淡々と風と話をする。

 

 前のように目を合わせてもくれない。

 

 そんな事態に風の心の中は荒れ狂っていた。

 

「(こうなったら!)」

 

 風は一世一代の行為。

 

 

 

――告白を決意する。

 

 

 

「さ、こっち!」

 

 日向の手を引いて風は歩き出す。

 

 場所は誰もいない公園。

 

 夕焼け空の下で風は意を決した表情で日向と向かい合う。

 

「お話があります」

 

「……なんだ?」

 

 もじもじしている風に対して日向は興味がないという表情。

 

 緊張していた彼女はそのことに気付かない。

 

 そんな状況のまま、トリガーは押された。

 

「私は貴方が好きです」

 

「……そうか、だが“私”はお前に何の感情も抱いていない」

 

「……………………………ぇ?」

 

 呆然とした風に対して日向は背を向ける。

 

「話がそれだけなら、私は行く」

 

「ま、待って!」

 

 戸惑いながら風は叫ぶ。

 

 告白をして躊躇いもなく降られたことで風の頭はごちゃごちゃしていた。

 

 縋りつくように彼女は問いかける。

 

「どうして、ダメなの!私のどこが」

 

「お前は大赦に属している勇者だ。“私”はそんな人間と共にいることは出来ない。何より私はやることがある。お前の気持ちに応えてやることはできない」

 

 そういって今度こそ日向は去っていった。

 

 残された風はぺたんと座り込む。

 

 呆然としていた風だが、やがて顔を上げる。

 

 その目に光がなくなった。

 

「なんで……なんでぇええええ!」

 

 叫びながら風は勇者装束を纏う。

 

 大剣を構えた彼女の狙い先は日向。

 

 

 

――気絶させて、部屋へ連れていく!

 

 

 

 暴走した風の大剣は日向の後頭部へ迫る。

 

 振るわれるという瞬間、ブルライアットで大剣を弾き飛ばす。そして、剣先を風へ向けた。

 

 その時、風は日向と目が合う。

 

 

――無。

 

 

 彼の目は全くというほど何の感情も映していない。

 

 風自身すら興味ないという目だった。

 

 

――だれ?

 

 

 その目を見た時、風は思った。

 

 彼は誰だ?

 

 自分の知っている日向じゃない。

 

 じゃあ、誰だ?

 

 ぺたんと座り込んでしまう風に日向は興味なしというようにブルライアットを鞘へ納める。

 

「大赦の命令か……やはり、このデートも企みだったわけだ」

 

「ち、ちがっ――」

 

 否定しようとした風だが、日向は彼女を見ていない。

 

 彼女をみないまま日向は去っていく。

 

「あ、あ、あ!」

 

 風は気づいてしまう。

 

 彼がいなくなってしまう。

 

 自分は嫌われた。

 

 もう、彼と会えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ァっぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 目を見開いて風は限界まで叫ぶ。

 

 ぽろぽろと涙をこぼしながら風は悲しみの声を上げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大赦は私を排除したいようだ。ならば、仕方あるまい」

 

 道を歩きながら日向は――ブルブラックは目を細める。

 

「小を犠牲にして大をとるか……ならば、私も行動を起こさせてもらおう」

 

 ブルライアットを抜いて彼は黒騎士へ姿を変える。

 

「さぁ、ギンガの光を手に入れるとしよう」

 

 




次回、次々回くらいで第一期の話は終了予定。


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黒騎士とギンガの光

どうやら完全にパソコンがいかれたため、ノーパソで投稿します。

なるべく早めに修理をしてもらうつもりですが、時間がかかるかも。

なお、一期の話は書きあがっているので投稿はできると思います。


 

「わっしー……会いたかったよ」

 

 再び現れたバーテックス。

 

 それと戦った勇者部。

 

 樹海が崩壊して元の世界へ戻った。

 

しかし、友奈と美森の二人はどういうわけか違う場所へ飛ばされて、包帯に巻かれた少女、乃木園子と出会う。

 

「あなたが戦っているの……ずっと感じていた。呼び出しに成功したよ」

 

「わっしー?」

 

「えっと、東郷さんの知り合い?」

 

「いいえ、初対面の筈よ」

 

「っ!」

 

 初対面。

 

 この言葉に乃木園子はショックを受けながらも話を続ける。

 

「ごめんね、わっしーっていうのは私の大切な友達の名前なんだ。それと、バーテックス退治お疲れ様」

 

「あなたは、バーテックスを知っているんですか!?」

 

「知っているもなにも私は勇者として戦っていたから、名前は乃木園子っていうんだ」

 

「勇者として、戦っていた?」

 

「うん、そうだよ~、一応は先代の勇者なんだ」

 

「先代……」

 

「私はね、大切な友達と一緒に戦ってたんだ、まぁ、今はこうなっちゃったんだけどねぇ」

 

「まさか……」

 

「友奈ちゃんは満開したんだよね?」

 

「はい、しました」

 

「咲き誇った花はどうなると思う?」

 

 何か思うところがあったのか美森はリボンを握り締めていた。

 

「散華……神の力を振るった人間への代償」

 

 乃木園子は話を続ける。

 

 満開をするたびに散華として体の一部を神樹へ捧げる。

 

「じゃあ、その体は」

 

「うん、代償の影響だよ~」

 

「どうして、私達が」

 

「神が選ぶのはいつだって無垢な少女。汚れがないから神の力を振るうことができる。だからこそ、黒騎士さんの存在を大赦は邪魔だと思っているんだろうねぇ」

 

「黒騎士さん……」

 

「そして、俺のことも邪魔に思っているのだろう」

 

 雲に乗ってニンジャマンとガオシルバーが降り立つ。

 

「ガオシルバーさん!」

 

「貴方が二人目の黒騎士さんと同じ戦える人なだね~」

 

「ガオシルバー……大神月麿だ。そのっち」

 

 ガオシルバーの言葉に乃木園子は目を見開いて、小さく笑みを浮かべる。

 

「あはは」

 

 笑みを浮かべた園子。

 

 ニンジャマンは傍観していたが急に身構える。

 

 視線を向けると大赦の人間が友奈たちを囲んでいた。

 

 包囲するような彼らの動きにニンジャマンとガオシルバーは身構える。

 

「私を連れ戻しに来たみたい……抜け出したのがばれちゃったから」

 

「そのっち……」

 

「この子達を傷つけたら許さないよ。私が呼んだ大切なお客様だから」

 

 園子の言葉に大赦の人間は頭を垂れる。

 

「ごめんね、怖い思いをさせちゃってシステムのことを隠したのは大赦なりの優しさだと思うんだよ……でも、私は、そういうことをいっておいてくれたほうが良かったと思うなぁ……そうだったら、あの人と会った時に」

 

 最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかった。

 

「ウソつき……」

 

 誰にも聞き取れないくらい園子は小さな声で呟く。

 

 ガオシルバーとニンジャマンの二人は大赦の人間がいなくなって友奈と美森へ近づいた。

 

「二人とも大丈夫か?」

 

「ケガとかはないか!?」

 

「は、はい!色々あって驚きましたけど……その、ニンジャマンさんとガオシルバーさんはどうしてここに?」

 

「お師匠様に呼ばれたんだ」

 

「お、お師匠様?」

 

「おう!六大神の中で三神将と呼ばれているんだ!」

「あの、ニンジャマンさん!」

 

「おう!」

「お願いがあります!」

 

 東郷美森はあることを考えていた。

 

「ニンジャマンさん、お願いです。六大神様に会わせてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日向が海岸沿いを歩いているといきなり背後から襲撃を受ける。

 

 ひらりと躱すと目の前に現れたのは木刀を構えた三好夏凜。

 

「何の用だ?」

 

「アンタ、風に何をしたのよ!」

 

「何のことだ?」

 

「とぼけるなぁああああああああ!」

 

 叫びと共に振るわれる木刀を躱す。

 

 繰り出される一撃を日向は回避して距離をとる。

 

「俺は何の覚えもない」

 

「ふざけんな!アンタとで、デートをしてから風の様子がおかしくなったのよ!うどんなんて一杯食べてお腹いっぱいだっていうし、独り言も増えたんだから!」

 

「……独り言はともかく、うどん一人前でお腹いっぱいは普通じゃないのか」

 

 日向の問いかけに夏凜は視線をそらす。

 

 正論ではあった。

 

「だとしても!アンタが風に何かを言ったから症状は悪化したのよ!責任をとりなさい」

 

「どうしろというんだ?」

 

「風に会いに行くこと」

 

「それはできない」

 

「なんでよ!?」

 

「俺は俺でやることがある」

 

 そういうと日向は歩き出す。

 

 夏凜が追いかけようとする。

 

 くるりと日向は向きを変えて近くの茂みの中へ入っていった。

 

「あ、こら!」

 

 茂みの中に入った日向の視線は木の傍で腰かけている少年へ向けられていた。

 

「久しぶりだね!日向」

 

「……そうだな、風太郎。いや――」

 

 鋭い瞳で日向は告げる。

 

「ガオゴッドと呼ぶべきか?」

 

「ううん、風太郎って呼んで!日向とは風太郎として接したいから」

 

「そうか……何の用だ?」

 

「会いたかったから……それと、警告だよ」

 

「警告?」

 

「日向…………ううん、黒騎士ブルブラックに」

 

「私だと?」

 

「警告する。ギンガの光に手を出すな。あれに手を出すということは人が滅びるということにつながる」

 

「フッ」

 

 一瞬で日向は深層意識へ沈み、ブルブラックが体を支配する。

 

 日向が消えたことで子供だった風太郎から神格が放たれた。

 

 普通の人なら吐き気を催して気絶してしまうほどの神格を前にしてブルブラックは臆することがない。

 

 それどころか風太郎へブルライアットを突き付ける。

 

「私はお前達のように人間に可能性を見出してなどいない。人間は醜い、私は私の目的のために行動する。そのためにギンガの光は必要だ」

 

 風太郎を前にブルブラックは揺るがない。

 

 日向を通してブルブラックの瞳を見た風太郎ことガオゴッドは理解してしまう。

 

 彼の信念は揺らがない。

 

 決して彼は諦めない。

 

 ブルブラックはギンガの光を手に入れるためなら手段を択ばない。その気になれば人間を滅ぼしてしまう。

 

 黒騎士ブルブラックは決して止まらない。

 

 理解してしまった。

 

「私はクランツを生き返らせる。そのためにギンガの光を求める」

 

 風太郎は去っていくブルブラックを追いかけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬吠埼家。

 

「お姉ちゃん……」

 

 樹は部屋に閉じこもっている風の身を案じる。

 

 日向とデートをしてからというものの様子がおかしい。

 

 友奈や夏凜、皆が心配しているが風は部屋から出てこなかった。

 

「お姉ちゃん……どうしたら」

 

 彼女の脳裏を過ったのは“彼”のこと。

 

「日向さんなら……」

 

「今、なんていった?」

 

 ガラリと扉が開かれる。

 

 ドアの向こうから顔を出したのは風だった。

 

 彼女は瞳孔を広げた状態で樹に歩み寄る。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 いつもと違う風の様子に樹は後退る。

 

「樹、今、なんていったの?」

 

 ゆらゆらと体を揺らしながら風は樹へ近づいていく。

 

 その姿に樹は恐怖してしまう。

 

 

――大好きなお姉ちゃんと何かが違う。

 

 

 ジリジリと下がって行って樹は壁へ追い込まれた。

 

 バンと風は樹のすぐそばに手を叩く。

 

 びくぅ!と樹は体を縮こませた。

 

「樹……彼はどこ?」

 

「ぇ?」

 

「彼がいない……いないの、どこにも、私は、独り」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 風の様子に樹はどう、声をかけていいのかわからない。

 

 その時、風の後ろから黒いモヤモヤした何かがみえた。

 

「え?」

 

 その正体を確認しようとした時、俯いていた風が顔を上げた。

 

 瞳から光は消えて、その顔は幽鬼を連想させる。

 

 怯えてしまった樹を前に風の姿が変わった。

 

 黒い鬼のような姿に樹は息をのむ。

 

「フッフッフッ」

 

 不気味に笑いながら外へ飛び出す。

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

 樹は慌てて外へ飛び出す。

 

 目的地は赤龍軒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、美森と友奈達はニンジャマンと大神と共に六大神に会うためにある場所へ訪れていた。

 

「……ニンジャマンさん、ここは?」

 

 四国の中に樹海のように広がる森があったことに彼女は驚いていた。

 

「勇者の森だ!」

 

「勇者の森?」

 

『そうだ』

 

『ここは西暦の時代、バーテックス、そして、天の神と戦った者達が眠る場所』

 

『神樹がいる場所と同じくらい神聖とされる場所である』

 

「お師匠様!!」

 

 友奈と美森達の前に無敵将軍、ツバサマル、隠大将軍が現れる。

 

 幻影のように揺らいでいるが彼らの放つ神格に友奈達は驚く。

 

 ニンジャマンは彼らに頭を下げる。

 

『怯えることはない。神世紀の勇者よ』

 

『我々はキミ達、それより前の勇者や巫女たちを見守ってきた……』

 

「お願いがあります」

 

 車椅子を押して美森が前に出る。

 

「私の失われている記憶、それを取り戻す方法を教えてください」

 

「東郷さん!?」

 

 驚く友奈を余所に美森は叫ぶ。

 

 少し離れたところで様子を見ていた大神は顔をしかめていた。

 

『大神よ』

 

 拳を握り締めていた大神へ現れたガオゴッドが問いかける。

 

『今こそ、話すべきだ』

 

「ガオゴッド……」

 

『東郷美森よ。お前の隠された真実を知るべき時だ』

 

「私の……隠された真実?」

 

 ガオゴッドの言葉に美森は戸惑った声を上げる。

 

 周りを見て、彼女は大神へ視線を向けた。

 

 その目は震えている。

 

 大神は少し考えて。

 

 

「東郷美森……キミは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴウタウラス、時はきた」

 

 ブルブラックは樹海の中にいた。

 

 彼を見下ろすゴウタウラス。

 

「今こそ、ギンガの光を手に入れる!そのためにこの大地を破壊する!」

 

「!!」

 

 ゴウタウラスは体を左右に揺らす。

 

「なにを躊躇う?誓ったはずだ!復讐を果たすと、そしてギンガの光の力でクランツを蘇らせると!」

 

 ブルブラックにゴウタウラスは吼える。

 

「昔に戻りたい?何を言う!昔に戻ってどうする?昔へ戻ったとしても私の周りには誰もいない!わかるか?復讐を果たせなかった現在!私にはもう、クランツを取り戻すことしか意味がないのだ!」

 

 黒騎士ブルブラックの慟哭ともいえる叫びにゴウタウラスは何も言えなくなる。

 

 三百年、それ以上の長い時間を黒騎士ブルブラックは思い続けた。

 

 弟のクランツを生き返らせること。

 

 復讐の相手である宇宙海賊が天の神、バーテックスによって滅ぼされてしまった今、彼はたった一つの願いを果たすために行動を移す。

 

 全ては愛しい者との再会を願って。

 

「ゴウタウラス!行くぞ!」

 

 その願いと思いを知っているからこそ、ゴウタウラスは否定することはできなかった。

 

 ゴウタウラスは赤い光を放つ。

 

 光を浴びたブルブラックは重騎士へ姿を変えるとともにゴウタウラスと合身して、合身獣士ブルタウラスとなった。

 

「今こそ、手に入れる!ギンガの光!そのために消えてもらうぞ!神樹!」

 

 樹海の中、ブルタウラスが叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東郷美森……いや、キミは乃木園子と同じ先代の勇者の一人なんだ」

 

 大神は覚悟を決めて話す。

 

 数年前、神樹によって勇者を集めることになった大赦は適性検査の末、三人の勇者を呼び集めた。

 

 乃木園子、

 

 三ノ輪銀、

 

 そして、鷲尾須美。

 

 小学生という幼い彼女達は大赦からの特訓を受けながらお役目を果たすための準備をつづけた。

 

 そして、来るバーテックスの戦い。

 

 突然でありながらも三人の勇者はバーテックスに挑み、追い払うことに成功した。

 

 しかし、犠牲もあった。

 

 勇者の一人、三ノ輪銀。

 

 彼女は戦いの最中に行方不明になった。

 

 大赦は彼女を死亡として処理する。

 

 残り二人という事態になりながらも勇者はバーテックスに挑んだ。

 

「俺は二人を死なせないために闇狼の面を使うことにした。闇狼の面はかつて、奇跡を呼び起こしたといわれる者達の力をたった一度だけ使えるアイテムだと俺は聞いていた。結果的に俺はガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッドという精霊の力を借りてバーテックスを倒すことに成功した……代償として人としての記憶を失い、狼鬼として俺は姿を変えてしまったのだが」

 

『そして、勇者の二人も無理な満開をつづけた結果、乃木園子は大赦によってご神体とあがめられた。もう一人の勇者……鷲尾須美は名前を変えて別の人間として生活を送ることに』

 

『しかし、バーテックスの再びの襲来により勇者として選ばれてしまった。つまり』

 

「私の失われた記憶というのは勇者として満開を使ったためによる後遺症?」

 

 究極大獣神の言おうとしたことを美森は先に言う。

 

『その通りだ』

 

 頷く究極大獣神。

 

『戦いはまだ終わりではない』

 

 ガオゴッドの言葉に友奈と美森、大神の視線が向けられる。

 

『バーテックスはあくまで先兵、真に倒すべき敵がいる』

 

 六大神は告げる。

 

 人を滅ぼすことを決めた神を名乗るもの。

 

 バーテックスを生み出し、人を消し去ろうとする悪意。

 

 その名を――天の神。

 

「ウソ……」

 

 美森は俯く。

 

「そんなことが」

 

「……えっと、東郷、さん」

 

 友奈は言葉を詰まらせる。

 

 目の前の美森は美森ではない。

 

 何より戦いがまだ終わっていないというダブルパンチに友奈自身もダメージを受けていたのだ。

 

『自分がどういう存在であるかは自分で決めることができる』

 

 沈黙していたゴセイアルティメットの言葉に美森や友奈が顔を上げる。

 

『キミ達がどうありたいか、それが重要なのだ』

 

『キミ達は大赦に選ばれた。しかし、今までの行動、覚悟、全ては決められたものではないはずだ』

 

『決められた運命だとしても、最後まで決められているわけではない。すべては自分の選択が全てなのだ』

 

 無敵将軍、ツバサマル、隠大将軍が友奈達を見下ろす。

 

「そんなこと……あるわけがない」

 

 ぽつりと美森が言葉を漏らす。

 

 顔を上げた彼女の顔は蒼白になっている。

 

 

絶望、

 

 

 その一色に東郷美森の顔は支配されつつあった。

 

「こんなことなら……みんな、何もかも、消えてしまえば」

 

「と、東郷さん」

 

 友奈は彼女に違うと叫びたかった。

 

 しかし、その言葉が出てこない。

 

『可能性はある』

 

 究極大獣神が二人を見下ろす。

 

「か、可能性?」

 

『そう』

 

『終わりの見えない戦い。だが、その戦いを終わらせられる可能性が存在している』

 

『人でありながら神を殺す禁断の領域、神殺しに至れる可能性を秘めたもの』

 

『だから、我々は彼を未来へつなぐことを決めた』

 

「何を、何を言っているの!?」

 

 叫ぶ美森。

 六大神の言いたいことがわからず錯乱したように顔を振って叫ぶ。

 

『黒騎士、落合日向』

 

 ガオゴッドがその名を告げる。

 

「日向、さん?」

 

 ピタッと美森が動きを止めた。

 

 友奈も信じられないという表情で六大神をみる。

 

『かつて、落合日向は天の神を傷つけた。その時、わずかながら神殺しとしての力を得た』

 

『だが、天の神は落合日向を恐れて永遠の呪いを与えようとした』

 

『我々は後の未来、人を守る者、そして、落合日向を守るために永い眠りにつかせた……だが、そのために落合日向の人格は不安定になり、深層意識に沈んでいたもう一人の存在が表に出始めている』

 

『今のままでは、人類を滅ぼす脅威となるだろう』

 

「もう一人の存在だと?」

 

「お、お師匠様!それは一体、どういうことなんだ!」

 

 大神とニンジャマンが真意を問いかけようとした時。

 

 友奈と美森の端末が警報を鳴らす。

 

「え、なに、これ?」

 

 突然のことに友奈と美森が戸惑いの声を漏らす。

 

『起こってしまったか』

 

 ゴセイアルティメットが悲しむように見上げる。

 

 同じように無敵将軍、カクレマル、隠大将軍、ガオゴッド、究極大獣神も似たような反応をしていた。

 

「お師匠様!どうしたんだ!」

 

 問いかけようとした時、地震が起こる。

 

 直下型だったために全員の体が少しばかり揺れた。

 

「な、何が?」

 

『これを見るのだ』

 

 無敵将軍が四人の前に映像を見せる。

 

 樹海の中。

 

 四国と外の世界を囲んでいる壁を壊し、ブルタウラスが地面へ雷撃を放っている。

 

「ブルタウラス?」

 

「何をやっているの?」

 

『外と四国の境界を壊してバーテックスを呼び寄せ、神樹を滅ぼすつもりだ』

 

「神樹様を!?そんなことをしたら大勢の人が!」

 

「何だって、そんなことを!」

 

『ギンガの光』

 

 隠大将軍が告げる。

 

『ブルブラックはバーテックスと重星獣の力を借りて神樹の中に宿っているギンガの光を取り出すつもりだ。その代償として今の人々は滅びてしまう』

 

「そんなこと!させるわけにいかない!」

 

 拳を握り締めて大神は叫ぶ。

 

 大神は外へ出るために走り出そうとして立ち止まる。

 

 ちらりと美森と友奈をみた。

 

「俺は狼鬼として勇者を傷つけようとした過去がある……過去を変えることは出来ないのだろう」

 

 でも、と大神は言う。

 

「俺は戦う……勇者を、キミ達を守りたかったという気持ちを“なかった”ことになんてしたくはないから!」

 

 森の中を大神は走る。

 

「東郷さん」

 

 彼の姿を見て友奈は思い出す。

 

 友奈は東郷の前に立って彼女の手を握り締める。

 

「友奈ちゃん?」

 

「東郷さん、私、戦うよ?」

 

「どうして!そんなことをしたら友奈ちゃんが!傷ついちゃう!」

 

「だけど、困っている人を見捨てるなんてできない」

 

 叫ぶ美森を前に友奈はにこりとほほ笑む。

 

「勇者部五ヶ条!一つ!なるべく諦めない!」

 

「おわっ!?」

 

 ニンジャマンが驚きの声を上げる。

 

「勇者部五ヶ条!一つ!よく寝て!よく食べる!」

 

「ゆ、友奈ちゃん?」

 

「勇者部五ヶ条!一つ!悩んだら!相談!」

 

「え?」

 

「勇者部五ヶ条!なせば大抵!なんとかなる!」

 

 戸惑う美森の前で友奈は叫ぶ。

 

 一通り叫んだ友奈は笑顔で美森を抱きしめる。

 

「私は犠牲になるために戦う訳じゃない。私は東郷さんや風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃん、みんなを守りたい。普通に暮らしている人達を守りたいから勇者として戦うんだ!」

 

「でも、戦えばまた記憶を失うかもしれない!嫌なの!大事な人、大好きな人を忘れるのが!」

 

「私は忘れない!」

 

「ウソよ!」

 

「ウソじゃないよ!」

 

「ウソよ!」

 

「ウソじゃない!!」

 

 美森より大きな声で友奈は叫ぶ。

 

「絶対!何があっても私は東郷さんを忘れない!そして、皆を守るんだ!」

 

「……本当に?」

 

「うん、勿論!」

 

「友奈ちゃん……」

 

 二人は互いを抱きしめあう。

 

 その姿を見てニンジャマンは涙をこぼしていた。

 

「くぅぅぅ!なんて感動的な光景なんだ!」

 

 バン!とニンジャマンは拳を叩く。

 

「友奈!美森!俺がお前達を樹海へ連れていく!」

 

「ありがとうございます!」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 三人の姿がみえなくなってから六大神は互いをみる。

 

『可能性は一つではない』

 

『人間それぞれが可能性を秘めている』

 

『悪意ある者もいるだろう、しかし、そうでない者もいる』

 

『黒騎士ブルブラックの願いが全てを滅ぼすか、人の可能性、否、互いを思いやる気持ちが勝るか……』

 

『だが、このままではすべてが滅びてしまう』

 

『天の神の使いが動き出している』

 

 六大神は樹海の方をみる。

 

 瘴気を放つ存在が彼らに向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落合!!」

 

 バーテックスを踏みつぶしながら目的地を目指すブルタウラスの前にガオハンターが現れる。

 

 ガオハンターにバーテックスが襲い掛かろうとするが踏みつぶされていく。

 

「どういうつもりだ!なぜ、壁を壊した!」

 

「邪魔をするな」

 

 近づこうとするガオハンターをブルタウラスは殴り飛ばす。

 

「私はギンガの光を取り戻す。邪魔をするならガオシルバー、貴様も倒すぞ!」

 

「なぜ、なぜなんだ!」

 

 ガオシルバーは叫ぶ。

 

 しかし、ブルタウラスは攻撃してくるだけで答えはしない。

 

「戦う、しかないのか!」

 

 ガオシルバーはガオハンターを操り武器を取り出す。

 

「そうか、邪魔をするか、ならば、貴様は敵だ!」

 

 ツインブルソードを構えるブルタウラス。

 

 同じようにガオハンターもリゲーターブレードを構えた。

 

「ど、どうなってんのよ」

 

「黒騎士さんとガオシルバーさんが、どうして?」

 

 少し離れたところで樹と夏凜はその光景を見ている。

 

 二体が戦う光景を見て二人は戸惑いの声を上げるしかない。

 

「夏凜ちゃーん!樹ちゃーん!」

 

「友奈!」

 

「友奈先輩!?東郷先輩!」

 

 彼女達の前にニンジャマン、友奈、東郷が姿を見せた。

 

 雲から降りた三人に夏凜と樹が問いかける。

 

「何が一体、どうなってんのよ!?バーテックスが大量にいて、ブルタウラスとガオハンターがどうしてやりあっているの!?」

 

「実は」

 

 友奈は二人へ話す。

 

 天の神のこと、戦いのこと。

 

 そして、黒騎士の目的。

 

「そんなこと!したら普通の人が死んじゃうじゃない!」

 

 叫ぶ夏凜。

 

 その顔は裏切られたという表情をしている。

 

「だから、ガオシルバーさんが止めようとしているんだ」

 

「ようし!俺も」

 

「見てください!」

 

 ニンジャマンも加勢しようとした時、異変が起きる。

 

 樹の言葉に全員が視線を向けるとブルタウラスがバチバチと火花を散らすと爆発を起こす。

 

 爆風と共に合身獣士からゴウタウラスと黒騎士へ分離する。

 

「何が」

 

 戦っていたガオシルバーも戸惑いの声を上げた。

 

 地面へ落ちたブルブラック。

 

「ゴウタウラス!どういうつもりだ!」

 

 起き上がったブルブラックへゴウタウラスは一鳴きするとそのまま破壊した壁の方へバーテックスを蹴散らしながら向かう。

 

 ゴウタウラスの叫びに何かを感じたのかガオハンターも歩き出した。

 

「なぜだ!誓ったはずだ!復讐を果たすと!」

 

 叫ぶブルブラックにゴウタウラスは振り返ることなく去っていった。

 

「ならば、私一人でも!」

 

「黒騎士ぃぃぃいいいいいい!」

 

 振り返りながらブルブラックは距離をとる。

 

 彼の前に風を除く勇者部が現れた。

 

「今すぐ立ち去りなさい!」

 

「日向さん!どうして、こんなことを!」

 

「……なんだ、まだ気づいていないのか?」

 

 樹の言葉にブルブラックは笑う。

 

「何が、おかしいの!?」

 

 東郷の叫びに笑うことをやめてブルブラックは告げる。

 

「日向の意識は奥底に眠っている。契約を果たしてもらうためにな!」

 

「え!?」

 

「じゃあ、貴方は」

 

「私はブルブラック、落合日向に力を与えた者でありギンガの光を手に入れる者だ!」

 

 ブルライアットを抜いて勇者達へ斬りかかる。

 

 ガオハンターから飛び降りたガオシルバーがその刃を受け止めた。

 

「大神さん!」

 

「やめろ!彼女達を傷つけるつもりか!?」

 

「ギンガの光を手にするために邪魔をするなら斬る!」

 

 振るわれるブルライアットの一撃がガオシルバーに炸裂する。

 

 攻撃を受けたガオシルバーが倒れた。

 

「やめて!」

 

 東郷が銃口をブルブラックへ向ける。

 

「ブルブラックさん!どうして、どうして、ギンガの光を手にしようとするんですか!?」

 

「ギンガの光は元々、この私が地球へ持ち込んだ。本来の持ち主が取り戻そうとして何が悪い?」

 

「じゃあ、どうして、アンタの手元にないのよ!」

 

「三千年と三百、遠い昔、私はギンガの光をこの星へ持ち込んだ。だが、それを狙ってやってきた宇宙海賊に深手を負わされて一時的に手放す他なかった。そして」

 

――私も地割れの中で深い眠りについた。

 

「三百年前、私はある青年と契約を結んだ」

 

「契約?」

 

 夏凜の問いかけにブルブラックは小さく笑う。

 

「バーテックスに殺された弟の復讐を果たすこと、その契約が果たされた際にその肉体を私に与える事、私は奴の体を手にしてギンガの光を取り戻す」

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ!アンタ、落合日向の体を奪っていることじゃない!?」

 

「そういう見方もある。だが、私の力を与えたことで落合日向という人間は再び生きる意味を得た……といってもお前達に理解はできないだろうな」

 

 ブルブラックは剣先を勇者達へ向ける。

 

「勇者よ。俺はお前達にとっての魔王だ。邪魔をするというのなら斬る。どうする?」

 

「上等!アンタを、ブルブラックを倒すわ!」

 

「夏凜ちゃん!」

 

 友奈の呼ぶ声に応えず夏凜は二つの刃でブルブラックへ挑む。

 

 振るわれた斬撃を受け止めてブルライアットで弾き飛ばす。

 

「何なのよ。アンタは」

 

「既に名乗っている」

 

「そういう意味じゃない!アタシ達を助けたと思ったら今度は敵になって、何が目的なのよ!」

 

「……それをやってきたのは落合日向に過ぎない、私は力を貸していたのみ。目的のために時を待っていたに過ぎない」

 

「じゃあ、今までアタシ達と接してきたわけじゃないの」

 

「そうだ。どうだ?迷いは晴れたか?」

 

 ブルブラックの問いかけに夏凜はちらりと後ろを見る。

 

「夏凜ちゃん?」

 

 友奈と目が合う。

 

「ええ、迷いが晴れたわよ。私は大赦から派遣された勇者、ただ、お役目を果たすため……そう思っていた。でも、勇者部と、友奈達と知り合って触れ合い。わかった!私が戦うのは大赦のためじゃない!私の守りたいもののだめだ!」

 

 夏凜は叫ぶと同時に満開する。

 

 満開の力は黒騎士を圧し始めた。

 

「満開、神樹の加護か…………確かに、その力なら私を倒せただろう。だが!」

 

 とどめをさそうと夏凜が一撃を繰り出そうとした時、ブルブラックの掌から火焔が放たれた。

 

「!?」

 

 繰り出された一撃を防いだ。

 

 しかし、既にブルブラックは夏凜の背後に回り込んでいる。

 

「黒の一撃」

 

 ブルライアットの一撃が満開していた夏凜の体を斬る。

 

「夏凜ちゃん!」

 

「やめてください!」

 

 我慢できず樹が飛び出す。

 

 彼女の力をブルブラックは弾き飛ばしてブルライアットをショットガンモードにする。

銃口を彼女へ向けようとした時。

 

 

――やめろ!

 

 

 ブルブラックの動きが止まり、樹を気絶させるにとどまった。

 

「夏凜ちゃん!樹ちゃん!」

 

「殺しはしていない……チッ、日向め、未練があるというか」

 

「ブルブラックさん!」

 

 一歩、友奈が前に出る。

 

 拳を握り締めていた友奈。

 

「憎いか?」

 

 彼女へブルブラックが問いかける。

 

「お前の友を、仲間を傷つけたこの私が憎いか?ならば、戦え、そうすることでしか憎しみは止まらない。私のこの願い、阻むものは何があろうと許しはしない、叩き伏せる!」

 

「私は――戦いません」

 

「―――なに?」

 

 ブルブラックが問いかけようとした時、背後から刃が貫いた。

 

「!?」

 

 後ろで東郷が悲鳴を漏らす。

 

「ブルブラックさん!?」

 

 驚いて友奈が叫ぶ。

 

「貴様……」

 

 ブルブラックは襲撃した相手をみる。

 

 黒い鎧に体を包み込んだ風の姿がそこにあった。

 

「風先輩!?」

 

「違う……貴様は!」

 

 刃を抜きながら襲撃した風は笑みを浮かべる。

 

「愚かなり、黒騎士」

 

 笑いながらさらに一撃、ブルブラックに繰り出す。

 

 攻撃を受けて倒れるブルブラック。

 

「そうか、貴様……ジンバだな」

 

「いかにも、暗闇暴魔ジンバ……だ」

 

 風の体が完全に鎧に包まれて、三百年前、四国の勇者と戦った天の神の配下、暗闇暴魔ジンバに姿を変える。

 

「貴様、勇者の娘を依り代に」

 

「三百年、黒騎士、貴様への憎しみのみで俺は生きてきた。精神だけとなり、恨みのみ!丁度いいところに貴様への憎しみを抱く小娘がいた。体のいい依り代になったぞ」

 

 とどめをさそうとジンバが刃を振り上げる。

 

「待て待てぇえい!」

 

 ニンジャマンが刀でジンバの攻撃を受け止めた。

 

「貴様の相手はこの俺が相手だ!」

 

「邪魔立て、無用!」

 

「ブルブラックさん!」

 

 戦い始める二人を余所に友奈がブルブラックを抱えて歩き出す。

 

 しかし、そこにバーテックスが近づこうとしていた。

 

「友奈ちゃん!」

 

 銃を構えた東郷がバーテックスを射抜く。

 

「東郷さん!」

 

「ここは私に任せて!」

 

「俺も、残る!」

 

 起き上がったガオシルバーが東郷を狙っていたバーテックスを切り伏せる。

 

 友奈は傷ついたブルブラックを抱えて離れた場所へ向かう。

 

「なぜ、私を助ける」

 

「前に私を助けてくれましたから!」

 

「それは落合日向がやったことだ。私ではない」

 

「でも、貴方の力があったから日向さんは私達を助けてくれたんです!」

 

「……」

 

 友奈の言葉にブルブラックは沈黙する。

 

「お前は私のやることを肯定するのか?」

 

「それは」

 

「ギンガの光は神樹の中にある。私が神樹からギンガの光を奪えば神樹は弱まり、この四国は滅びるだろう。それでも肯定するのか?」

 

「……私はわかりません、でも間違っているなら止めないといけないと思います」

 

「フッ」

 

 ブルブラックは座り込む。

 

「私、行きます」

 

「結城友奈よ。貴様は何のために戦う?」

 

「皆を、大勢の人たちを守るため、私は勇者ですから!」

 

 そういって友奈は戦いに向かう。

 

 彼女の姿を見てブルブラックは近くの岩場にもたれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニンジャマンは吹き飛ばされる。

 

 彼の周りに無数のバーテックスがいた。

 

 少し離れたところでジンバが笑う。

 

「青二才、貴様も終わりだ」

 

「今、なんといったぁ!俺のことを青二才といったなぁあああああああああああああああああああああああ!」

 

 ニンジャマンは叫びと共に変身する。

 

「サムライマン!」

 

 肩や脚部などを展開して変身したサムライマンは目の前のバーテックスを切り裂いてジンバへ迫った。

 

「俺を殺せば、中の女は死ぬぞ?」

 

 ジンバの言葉にサムライマンは動きを止める。

 

 その隙をついてジンバの一撃がサムライマンを蹴散らした。

 

「風先輩を返せぇえええええええええええええ!」

 

 直後、バーテックスの群れを蹴散らして友奈が満開した状態でジンバとぶつかる。

 

 ジンバと共にいくつかの樹海の壁を壊しながら友奈は拳を振るう。

 

「返せ!風先輩を!」

 

「断る。依り代、手放すつもりなし」

 

 振るわれる斬撃が友奈の体を傷つける。

 

「勇者パァアアンチ!」

 

 振るわれた一撃がジンバの体を傷つけていく。

 

 そのままジンバの中へ手を伸ばして風を取り戻そうとする。

 

「お前も、我が一部になれ!」

 

 ジンバの体からどす黒い手のようなものが噴き出して友奈を飲み込もうと迫る。

 

「グッ!」

 

 阻もうとする友奈だが、伸びてくる無数の手は友奈の手足を拘束する。

 

「諦めろ。お前も我が一部に」

 

「諦めない!勇者部、五ヶ条!一つ!なるべく、諦めなぁああああああああああい!だから、諦めるもんかぁあああああああああああああああ」

 

 眩い光が友奈の中から噴き出す。

 

 その輝きにジンバは苦しみの声を上げる。

 

 輝きが増して友奈は風の手を掴んで離れた。

 

「え?何、これ?」

 

 離れた友奈は自分が金色の光に包まれていることに気付く。

 

 しばらくして、友奈の腕には緑色の宝石が埋め込まれた金色の腕輪――獣装光輪、籠手には赤い爪のようなもの――獣装の爪が装備されている。

 

「これは…」

 

「その輝き、貴様、ギンガの光を!なぜだ!」

 

 ジンバが驚きの声を上げる。

 

 友奈はギンガの光によって獣装光を纏っていた。

 




次回、ゆゆゆ一期完結。


補足を一つ。

今回、友奈はギンガの光の恩恵を受けましたが、これは勇者が神樹の恩恵を受けているからということと、ギンガの光が友奈を選んだからであります。



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星の守護者

今回の結末は賛否両論がるだろうなと思います。

パソコンが壊れたことで更新速度がかなり落ちます。

次回の話は番外編を予定。




 

「お姉ちゃん!」

 

 体を揺らされて風は目を覚ます。

 

「あれ、樹?」

 

「よかったぁ!お姉ちゃん!」

 

 嬉しそうに樹は風を抱きしめる。

 

「あれ、私、何をして?」

 

「何も覚えていないの?」

 

「うん、なんか、黒いモヤモヤした中にいたような気分だったけれど、ってこれなに!?」

 

 樹海の中にいることに気付いた風は驚きの声を上げる。

 

「お!目を覚ましたな!風!」

 

 頭上では巨大化しているニンジャマンがバーテックスと戦っていて、少し離れたところではガオシルバーが東郷と共に戦っている。

 

 夏凜は気絶しており、樹の傍で寝ていた。

「よ、よくわからないけれど、大変な事態だということだけはわかったわ」

 

 戸惑いながら風は端末を起動して戦装束を纏う。

 

 大剣で襲い掛かろうとしたバーテックスを両断する。

 

「樹!夏凜のこと任せるわね!」

 

「うん!」

 

 頷いた樹に微笑んで風は駆け出す。

 

 不思議と体が軽いことに彼女は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁあああああああああああああああああ!」

 

 獣装光を纏った友奈は叫びをあげてジンバへ拳を繰り出す。

 

「む、ぐぅ!」

 

 攻撃を受けて吹き飛ぶジンバだが、すぐに体勢を立て直して配下のバーテックスをけしかける。

 

 それらを友奈は拳で次々と砕いてジンバに迫った。

 

「調子になるな!」

 

 叫びと共に繰り出す刃。

 

 刃は友奈の肩に突き刺さる。

 

 痛みで顔を歪めながらも彼女は拳を握り締めた。

 

「勇者、パァアアアアアアアンチ!」

 

 金色の輝きを放った一撃はジンバの体を打ち抜く。

 

「ガハァッ!」

 

 殴られたジンバの体に穴が空くもすぐに小型バーテックスによって補填される。

 

「ぐぅ、勇者、邪魔!」

 

 叫びながら一撃が友奈へ繰り出される。

 

「勇者ァキィィィィィィイッック!」

 

 繰り出した一撃がジンバの一撃を砕き、ジンバもろとも地面に巨大なクレーターを作り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東郷とガオシルバーは次々と現れるバーテックスを倒していく。

 

 少し離れたところではガオシルバーの仲間であるガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッドが集合体バーテックスと戦っている。

 

「大神さん」

 

「なんだ」

 

「この戦いが終わったら私の失われた記憶について話してください」

 

「俺でいいのか?」

 

「貴方は私のこと……乃木園子さんのことも知っているんですよね?」

 

「ああ」

 

「貴方が適任です。お願いします」

 

 背後に迫ろうとしていたバーテックスを射抜いて東郷はガオシルバーをみる。

 

「……わかった」

 

 頷きながら拳でバーテックスを叩き伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ、ば、バカナァ」

 

 ふらふらと体を起き上がらせてジンバが叫ぶ。

 

 友奈の一撃によって体のほとんどが半壊している。

 

 上空にいる友奈はとどめをさそうとする。

 

 ジンバはぶるぶると震えている手の刀をみた。

 

 そして、

 

「我は死のうとも!この怨みは消えず!」

 

 友奈の一撃がジンバを貫いた。

 

 同時に爆発が起こり、ジンバの刃がひらひらと舞って遠くのある場所へ突き刺さる。

 

 そのまま、刃は穴を掘るように中へ進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁を壊して侵入してきたバーテックスのすべてを倒した束の間、衝撃と地震で全員が一か所に集まる。

 

「な、なんなの!?」

 

「また来ます!」

 

 目を覚まして戸惑いの声を上げる夏凜だが、樹の言葉と共に衝撃波が勇者たちを襲う。

 

「樹ちゃん!夏凜ちゃん!」

 

「二人とも無事か!」

 

 東郷とガオシルバー。

 

「樹ぃ!」

 

「これはまずいことになったな」

 

 風とニンジャマン、

 

 そして最後に獣装光を解除した結城友奈がやってくる。

 

「何が、起こっているの?」

 

『勇者達よ』

 

 戸惑っている彼らの前に六大神が姿を見せる。

 

「お師匠様!これは一体!」

 

『暗闇暴魔ジンバがこの星の地核に刃を突き立てた』

 

『膨大な闇のエネルギーによって地核が刺激を受けている。このままでは一時間もたたずにこの星は大爆発を起こす』

 

「そんな!?なんとかならないんですか!?」

 

『我々では力が強すぎて刃を抜くことはおろか、地核にダメージを与えてしまう』

 

『崩壊した壁は我々が治す。その間に勇者たちよ、ジンバの剣を地核から引き抜くのだ』

 

 

 

 

「すぐに止めないと!」

 

 友奈達がジンバの刃があるところへ向かおうとする。

 

 だが、より強い衝撃波が勇者たちを襲った。

 

 吹き飛ばされる勇者たち。

 

 倒れた彼女達を守るようにガオシルバーとニンジャマンが前に立つも、強大な力によって爆発が起こる。

 

 衝撃のダメージでガオシルバーは変身が解除されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、終わりか」

 瓦礫にもたれている中でブルブラックは事態を察する。

 

 ジンバの刃が地球の核を刺激していることで数時間も経たずに地球が崩壊することも。

 

「ギンガの光も手に入らず……復讐も、何もかも、終わりだ」

 

 衝撃は次々と襲い掛かっている。

 

 このダメージはやがて現実世界にも影響を及ぼすだろう。

 

 だが、最早ブルブラックにとってどうでもいいことだ。

 

 全てが終わる。

 

 彼はただここですべてが終わることを待つ。

 

 

――筈だった。

 

 

 

「兄さん」

 

 ゆらゆらと陽炎のようにブルブラックの前にクランツが現れた。

 

 ゆっくりとやってくるクランツの手には白い花が握られている。

 

「兄さん」

 

「クランツ……」

 

 幻覚?

 

 追憶だろうか?

 

 朦朧とし始めている意識の中でブルブラックは目の前にいるクランツをみる。

 

「兄さん、星を守ってよ」

 

「……無理だ」

 

 クランツの言葉にブルブラックは首を振る。

 

「私はもう何もない、ゴウタウラスも私を見捨てた。何よりも、クランツ、あぁ、クランツ、お前がいない!」

 

「兄さん、兄さんは星を守る騎士だよ。兄さんがその心を取り戻せば、ゴウタウラスも戻ってきてくれるよ。兄さん、星を守ろう」

 

 そういって白い花を差し出すクランツ。

 

 ブルブラックの脳裏には弟が命を落とした光景がリフレインする。

 

 宇宙海賊によって滅ぼされた故郷。

 

 弟が人質に取られて無残にも敗北した自分、その目の前で体を真っ二つにされた弟。

 

 目の前に花を差し出すクランツ。

 

 ブルブラックは震える手でその花を掴んだ。

 

 

 

「駄目、動けない」

 

「このままじゃ、四国の人達が」

 

「駄目だ、衝撃が強すぎて動けない!」

 

 連続して起こる衝撃によって勇者たちは戦装束も解除されて地面に倒れていた。

 

「でも!諦めない!」

 

 無理矢理体を起き上がらせる友奈。

 

 その肩をポンと叩くものがいた。

 

「ブルブラック、さん」

 

「私が……なんとかしよう」

 

 ふらふらと友奈を後ろに下がらせてブルブラックが前へ出る。

 

「ブルブラックさん!?」

 

「ジンバの放つ膨大なエネルギーを私の体で受け止める。そうして、奴の力を相殺させれば、なんとかなるだろう」

 

「待て!そんなことをすれば、お前の体は!」

 

 ニンジャマンが何かを言うが友奈の前にブルブラックは鞘から抜いたブルライアットを突き立てる。

 

 ブルライアットが輝き、友奈達を結晶のようなバリアーが包み込む。

 

「これなら衝撃波がお前達を傷つけることはない」

 

「ブルブラックさん!」

 

 友奈が止めようとするも見えない壁に阻まれてしまう。

 

「結城友奈だったな……その気持ちを忘れるな。誰かを大事に思う気持ち……それがあれば、お前は奇跡を起こせる」

 

「ブルブラックさん!待って!」

 

 叫ぶ友奈。

 

 ブルブラックは風と樹をみる。

 

「日向はいつか、お前達のところへ戻って来る。すまなかった」

 

 ふらふらと覚束ない足取りでブルブラックは歩いていく。

 

 次々と襲い来る衝撃波を受けたブルブラックの体はボロボロになっていった。

 

 しかし、彼は白い花を握り締めてゆっくりと進む。

 

 

 そんなブルブラックを止めようとする者が現れた。

 

 

 ゴウタウラスが雄叫びをあげて姿を見せる。

 

「来るな!ゴウタウラス!」

 

 ブルブラックの叫びにゴウタウラスは止まる。

 

「お前は来るな!これは私の果たすべき使命だ……お前は、お前は勇者達と共にこの星を守れ!私がいなくなってもお前だけは星を守る者であり続けろ!」

 

 ゴウタウラスは引き止めようと声を上げるもブルブラックは止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらふらと歩くごブルブラック。

 

 先ほどまで覚束ない足取りだった彼の歩みは現れたクランツによって変化する。

 

 弟と共に歩む。

 

 いつか夢見た光景をブルブラックは本当のように思いながらバチバチとエネルギーを放っている入り口までたどり着く。

 

 隣にいたクランツはいない。

 

 しかし、ブルブラックの手には白い花が握られている。

 

「日向、付き合わせて済まない」

 

 ブルブラックは自らと同化している存在に謝罪する。

 

 これから行おうとしている自分のことに彼を巻き込もうとしていた。

 

――構わない。

 

 

 奥深くで眠っているはずの日向の意識がブルブラックへ問いかける。

 

 

――弟の願いを叶えるのも兄のやることだろう?

 

 

 ブルブラックと同じくらい穏やかな声。

 

 不思議と彼らの心は晴れやかだった。

 

 長い間、続いていた憑き物が落ちたように。

 

「クランツ……星を守るよ」

 

 ブルブラックは穴の中へ飛び込んだ。

 

 直後、まばゆい光の柱のようなものが空へ伸びた。

 

 今までで一番の衝撃が襲い掛かる。

 

 しかし、勇者達はブルライアットのバリアーによって守られていた。

 

 衝撃が収まるとバリアーが消失する。

 

 友奈は突き刺さったブルライアットを引き抜いた。

 

 彼女達は駆け出す。

 

 しかし、ブルブラックの姿はどこにもなかった。

 

 ゴウタウラスの雄叫びが樹海の空へ響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 

 壊された壁も六大神が修復し、神樹によって奪われていた体の一部などもすべてが返される。

 

 何かもが元通り……にはならなかった。

 

 普通の生活へ戻った友奈達だが、彼女達の傍にいたはずの彼がいない。

 

 六大神とニンジャマン、そして大神も姿を消してしまった為に行方を問い合わせることも出来なかった。

 

 そうしている間に、勇者部は文化祭を迎える。

 

 文化祭の劇はハプニングもないまま、無事に終わることができた。

 

「終わるとあっという間だけどさぁ、なーんか、物足りない気分なのよね」

 

 通学路を歩いていた風がぽつりと漏らす。

 

「不本意だけど、犬部長の言うとおりね……」

 

「ぽっかりと穴が開いた気分です」

 

 夏凜と樹も同意する。

 

 神樹によって差し出した体の一部を取り戻したことで歩けるようになった東郷美森も少なからず頷いていた。

 

「少し前までは当たり前だったことがなくなるだけで、ここまで辛くなる」

 

 そんなことを話しながら彼らはそれぞれの帰路へ向かう。

 

 友奈はぼーっと夕焼けから夜になった空を見上げていた。

 

「結城友奈」

 

「っ!」

 

 聞こえた声に友奈は身構える。

 

 暗闇の中にゆらゆらと何かがいた。

 

 友奈の前にソレは姿を見せた。

 

「貴方は一体」

 

「我が名はトランザ、帝王トランザだ」

 

 現れた男は自らをそう名乗る。

 

 黒と白を基調とした服、グレーの髪は頭の上で固められている。

 

 友奈は直感的に男が危険な存在だとわかった。

 

「それにしても、お前があのジンバを倒した勇者か……思っていたよりもちんちくりんだな」

 

「何が、目的なんですか!」

 

「私は天の神と契約をした。その契約というのが人間をすべて滅ぼしたらその土地をこの私トランザを帝王とした国を作る。つまるところ、お前達は邪魔ということだ」

 

 トランザはレイピアを抜いて友奈に襲い掛かる。

 

 友奈はギリギリのところで躱すも反撃できない。

 

 勇者アプリが入った端末は大赦に返しており、彼女は勇者になれないのだ。

 

「友奈ちゃん!」

 

 その時、異変を察した東郷たちがやってくる。

 

「ちょっと、何なのよ!あれ」

 

「ほう……勇者が揃ったか」

 

 一旦、レイピアを戻してトランザは笑う。

 

「お前達を滅ぼして私の帝国を作る。そのために勇者は邪魔なのだ」

 

 レイピアを構えて友奈へ向けた。

 

「死ね!」

 

 彼女へレイピアが迫ろうとした時、横から伸びた手が刃を掴む。

 

 突然のことにトランザの反応が遅れる。

 

「むっ!?」

 

 殴られたトランザが後ろへ仰け反った。

 

「あ」

 

 その姿を見た友奈達は驚きの声を漏らした。

 

 目の前に現れた彼はいつもと変わらぬ表情でトランザを睨む。

 

 殴られたトランザは口元から流れる血を拭う。

 

「貴様!」

 

 トランザは現れた存在を睨む。

 

 同じように相手も睨んでいる。

 

「日向さん!」

 

 友奈は自分を守ってくれた相手をみた。

 

 彼は無言で友奈に手を伸ばす。

 

「日向さん?」

 

「結城友奈、俺の剣を返してくれ」

 

「で、でも」

 

「返してくれ」

 

 淡々と告げられて友奈は少し悩みながらカバンの中に入れていたブルライアットを取り出す。

 

 あの戦いの後、どういうわけかブルライアットは本来よりも小さなサイズになって友奈は肌身離さずに持ち歩いていた。

 

 渡されたブルライアットを日向は強く握りしめる。

 

「騎士転生!」

 

 叫びと共に日向は黒騎士へ姿を変えた。

 

「そうか、貴様が黒騎士か!だが、天の神の話では死んだと聞いたんだがな」

 

「ああ、確かに死んだ。星を守るために偉大な騎士が……だが、天の神、貴様たちが滅びたわけじゃない……俺はブルブラックと再契約を結んだ」

 

 黒騎士はブルライアットの剣先を向ける。

 

「天の神を倒して、この星を守る!俺はそのために戦う」

 

「成程、まぁいい。今日は顔合わせに過ぎない……いずれ人間を滅ぼすだろう」

 

 にやりと笑ってトランザは姿を消した。

 

 完全に敵の気配が亡くなったことに気付いて黒騎士から落合日向へ姿を戻す。

 

 ブルライアットを鞘に納めて日向は振り返ろうとした。

 

 ドスンと腹部あたりに衝撃がくる。

 

 視線を下すと風と樹が涙を零しながら日向に抱き着いていた。

 

「日向ざぁん」

 

「バカ!バカバカバカバカ!バカァ!」

 

 涙で顔を濡らしながら二人は日向を抱きしめ続けていた。

 

「アンタには色々と言いたいことがあったけれど、部長たちの姿を見たらやめたわ……今度、うどんでも奢りなさい」

 

「わかった」

 

 夏凜の言葉に日向は頷いた。

 

「日向さん」

 

「……」

 

「ありがとうございます」

 

 東郷の感謝に日向は何も言わなかった。

 

 しかし、彼女は満足したように離れる。

 

「日向さん!」

 

 友奈は真っ直ぐに日向を見上げた。

 

「おかえりなさい!」

 

「…………ただいま」

 

 日向は小さく笑った。

 

 不思議と友奈はその笑顔に喜びを覚える。

 

「そうだわ!日向に私達の劇を見てもらいましょう!」

 

「いいね!賛成!」

 

「部長にしては良いこと言うじゃない!」

 

「素晴らしいです!さぁ、行きましょう」

 

「日向さん!」

 

 友奈と東郷が日向の手を引く。

 

 嫌な気持ちにならず日向は手を引かれて歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者の森。

 

 口笛を吹きながら一人の男が森の中を歩いていく。

 

 そんな彼はふと立ち止まる。

 

「やれやれ二万と三百年の月日が流れてようやく動き出したか」

 

 肩をすくめていると彼の前に白い忍び装束を纏った“少女”が降り立つ。

 

「来たのか」

 

「はい!師匠!」

 

「師匠はやめろ。俺はただ相手をしてやっただけだ」

 

「はい!師匠!」

 

「……」

 

 彼はため息を零す。

 

「さて、俺達もいよいよ動き出すことになった。行くぞ」

 

「はい!」

 

 黒い学ランを羽織り、口笛を吹きながら歩き出す。

 

 そんな彼の後ろを忍び装束の少女が後を追いかけた。

 




これにて、ゆゆゆ第一期の話は終了。

このあと、ゆゆゆいが起こって、勇者の章もとい、オリジナル話になっていくことでしょう。

最後に出てきた人物について、補足説明。

クランツ

星獣戦隊ギンガマンに出てきたブルブラックの弟。
外見はどことなくブルブラックに似ている。
宇宙海賊襲撃の際に兄と共に戦おうとするも人質に取られて最後は体を両断されるという結末。
地球でブルブラックの前に幻影として現れ、兄を励まし、彼に星を守る者としてもう一度、奮い立たせた存在。



トランザ

鳥人戦隊ジェットマン、後半から登場した幹部。
演じている人はスーパー戦隊において有名な悪役ばかりやっている人。
初登場時はジェットマン男性陣を圧倒するということをやってのける。
彼らとやりあう際に、似たような服装になって彼らを軽々と超えるということをやってのけた。
強かったものの、ライバル幹部の嫉妬と激怒によって敗北、最後は人格破綻を起こしてしまうという衝撃の結末に。



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番外編:赤嶺友奈はしばりつける

遅くなりました。

別の話の構想を練っているのと、仕事が急に忙しくなってしまいました。

今回は番外編、

次回は勇者の章、その次は個別番外編を予定しています。


 

「日向さん!本当に日向さんだ!」

 

「えぇ、友奈ちゃん!夢ではないわ。ああ、本当に素晴らしいことだわ。これでようやく私と友奈ちゃんによる幸せの未来を進めることができるわ。さて、書類はどこにいったかしら」

 

「まったく!心配かけさせるんじゃないわよ!本当にもう!これから鍛錬とかいろいろと付き合ってもらうからね!いい?今度はアタシが勝つから!」

 

「えっと、その……お、おかえりなさい!えへへへ」

 

「えへへへ。へへへへ、でゅへへへへ」

 

 神世紀の勇者部に出会った日向は速攻で回れ右をしたかった。

 

 しかし、左右を古波蔵棗と乃木園子に掴まれて逃げられない。

 

「ダメ、逃げちゃ、これ以上、ひどくなる」

 

「えへへへ~、本当は私が独り占めしたいけれど、仕方ないのだ~」

 

「……そうか」

 

 どこか疲れた表情で勇者部の面々と話をする日向。

 

 その彼の両手は包帯が少しまかれている。

 

 先日の乃木若葉と赤嶺友奈のぶつかり合いの際のケガだ。

 

「まだ、気にしているんですか?」

 

 顔をしかめている若葉へひなたが話しかける。

 

「助けるつもりが、その相手を傷つけた。まだ、私は未熟だ」

 

「仕方ありませんよ。あんな事態です」

 

 若葉の手を上か包み込むひなた。

 

 その笑顔に若葉は少し救われた気がする。

 

「そうだ!今日は私と東郷さんの二人と一緒に寝ませんか!いつもみたいに!」

 

「ええ、それは素敵な提案だわ!友奈ちゃん!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!コイツの面倒は私が見るからアンタたちはおとなしくしていなさい!」

 

「えへへへ、ふへへへ」

 

「お姉ちゃん!早く帰ってきて!日向さんを取られちゃうよ!」

 

「日向さん、今度、私とデートして」

 

「えへへへ、このぬくもりを手放したくないんだぁ~」

 

「むむ!こら!そこまでにしろ!日向が困っているだろう!」

 

 始まった争奪戦に気づいた若葉がその中に飛び込む。

 

「日向は私と共にいるんだ!すぐに離れろ」

 

 火に油、もとい爆弾を投下しにいった。

 

「あらあら、若葉ちゃんったら」

 

 苦笑しながらもひなたは別のことを思案していた。

 

「(赤嶺友奈さんがこのままおとなしく引き下がるでしょうか?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁあああああああああ!くそっくそっくそっくそっ!」

 

 四国の一角。

 

 ある一室で赤嶺友奈は荒ぶる。

 

 日向の写真が沢山貼られている部屋の中。

 

 大好きな抱き枕を握り締めながら、女の子がしてはいけない声を吐き出している。

 

「私の日向、私の日向、私の日向を取り戻さないと取り戻さないと、どうやって取り戻そう」

 

 ぶつぶつと言いながら赤嶺友奈は考える。

 

 しかし、案は浮かばない。

 

 出てくるのは拉致、誘拐、監禁、洗脳、そんなものばかりだ。

 

「それじゃあ、意味がない。彼には自分の意思で戻ってもらうんだ。そうしないと意味がない」

 

 ぶつぶついいながら愛しの抱き枕を腕で包み込んでもいつものように癒されない。

 

 心の中にぽっかりできた虚無感が赤嶺友奈を包み込んでいく。

 

「どうしょうどうしょう、今頃、西暦、神世紀の人たちといろいろとやっているだろうし、何より……」

 

 赤嶺友奈の脳裏をよぎるのは誰かと彼が契りを交わすこと。

 

 ありえはしない。

 

 しかし、絶対はないのだ。

 

「あぁ、いやだいやだいやだいやだいやだ!」

 

 頭を抱えて叫ぶ。

 

 ひたすら叫んで嫌な想像を振り払おうとする。

 

 ふと、名案が差し込む。

 

 それはそれはとても素敵な考え。

 

「ああ、そうかぁ」

 

 赤嶺友奈は笑みを浮かべる。

 

 しかし、その笑みを見たものは腰を抜かすだろう。

 

 少女が浮かべるにしては妖艶すぎて、そして、見るものを凍てつかせるほどの冷たい瞳をしているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらく日向さんはここで生活してください。何かあれば、西暦組や神世紀組の人たちがすぐに駆け付けますから」

 

「ああ、すまない」

 

 日向は上里ひなたと共に用意された部屋に来ていた。

 

「本当なら誰かと一緒にいるべきなんでしょうけれど、いろいろありましたから、ゆっくり休んでください」

 

「すまない、上里」

 

「ひなたで構いません。あなたにはそう呼んでもらいたいですから」

 

「わかった、ひなた」

 

 にっこりとほほ笑むひなたに日向は感謝して部屋の中に入る。

 

「上里さん」

 

 隠れて様子をうかがっていた千景が声をかける。

 

「では、千景さん、交代で彼の警護を……あの赤嶺さんが簡単にあきらめるとは思えませんので」

 

「任せて」

 

 頷く千景。

 

 交代で西暦、神世紀の勇者たちが交代で日向の護衛をする。

 

 誰も反対をしなかった。むしろ、賛成しかいない。

 

「もう、奪わせはしませんから」

 

 ひなたはこぶしを握り締める千景をみる。

 

 ふと、嫌な予感がした。

 

 それを気のせいと判断したひなたは後に後悔することとなる。

 

「うふふ、みぃつけた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、千景は気配を感じて立ち上がる。

 

「でてきらたどう?」

 

「あぁーあ、ばれていたかぁ」

 

 暗闇の中から姿を見せるのは赤嶺友奈。

 

 ニコニコと笑みを浮かべているがその目は冷たい。

 

「あなたがいることはわかっていたわ」

 

「さすがは西暦の勇者様……いや、勇者だけど存在を抹消された人のほうがいいのかなぁ?」

 

「……動揺をもたらそうとしても無駄よ。あなたは倒す。私のためにも、彼のためにも」

 

 鎌を取り出して構える千景に赤嶺友奈は肩をすくめる。

 

「ちぇ~、動揺してほしかったのになぁ。あーぁ、やっぱり、貴方と高嶋先輩が障害になりそうだなぁ……西暦だと」

 

 魔剣ヘルフリードを取り出した赤嶺友奈は千景の目の前に現れる。

 

 既に準備していた千景はその一撃を受けとめた。

 

「あなたに日向は渡さない!」

 

「渡してもらわなくていいよ!奪うから!」

 

 笑みと共に繰り出される拳を千景は躱して腹部へ蹴りを入れる。

 

 蹴られた友奈は空中で態勢を整えて再度、接近した。

 

 千景の振るう鎌が友奈の体を切り刻んでいく。

 

 ヘルフリードの斬撃を千景はギリギリのところで躱す。

 

「(何か、おかしい)」

 

「それにしても、哀れだよねぇ?」

 

 千景へささやくように赤嶺友奈は告げる。

 

「あなたの思いは本物、それはもう三百年であろうと決して消えないような強い思い、でも、それは絶対に届くことはない。だって、彼はあなたたちのことなんて興味がないもの」

 

 突然の言葉に千景は少し驚きながらも鎌を握る手を緩めない。

 

「動揺を誘ってばかりね。もしかして、勝てないと思っているのかしら?」

 

「そんなことないよ。ただ、できれば無傷で日向のところにはいきたいと思っているかなぁ、ほら、傷だらけだと心配されちゃうし」

 

「あなたの居場所はないわ。彼の両手はすでに予約済みよ」

 

「もしかしたら彼が取り消すかもよ?ほら、年寄りよりも若い方が好みかも」

 

「……そんな挑発、どうってことないわ。お子様」

 

「冷静な振りするのもほどほどにしなよ。ところどころ剥がれてきているよ?お・ば・さ・ん」

 

「高嶋さんと同じ顔をしているけれど、あなたは徹底的に叩き潰す」

 

「いいよ!私もあなたが一番邪魔だから!」

 

 先ほどよりも激しい攻防が起こる。

 

 そのために周囲に衝撃が広がり、千景の衣服や友奈の体は傷だらけになっていく。

 

「(やはり、おかしいわ)」

 

 攻撃の手を緩めることなく千景は冷静な部分で考える。

 

「(ここは彼女にとって敵地、だというのに余裕がありすぎる。まるで時間が過ぎれば過ぎるほど、彼女の思い通りに進んでいるような気がする)」

 

 本来であれば、このまま時間が経過すれば異変を察知して高嶋友奈や仲間たちがやってくる。

 

 そうなれば、不利になるのは赤嶺友奈のはずなのにそれらしき様子が全くない。

 

 むしろ、時間が過ぎれば過ぎるほど、彼女にとって有利な動きだ。

 

「(それに)」

 

 何より千景が気になったのは自分と彼女の状態。

 

 勇者としての戦闘だというのに千景のほうは衣服が破けている程度。

 

 対して赤嶺友奈は傍からみれば傷だらけにみえる。

 

 まるで千景が有利のように思われるがそれは違う。

 

 互いに本気を出していない。

 

 赤嶺友奈はヘルフリードを使っているが臨気を使用していない。

 

 かくいう千景も切り札を発動していないのだ。

 

 この状態で赤嶺友奈が傷だらけになることに何の意味があるのか。

 

「ニタァ」

 

「!?」

 

 突如、赤嶺友奈が口の端を広げる。

 

 その不気味な笑みの真意を考えようとした時、千景の背後で人の気配がした。

 

「いやぁあああああああああああああああ!」

 

 振り返ろうとした時、目の前で赤嶺友奈が自分の体を抱きしめて悲鳴をあげる。

 

 ぽろぽろと涙をこぼして座り込んでしまう。

 

「何を」

 

「いや、来ないで!殺さないで!」

 

 先ほどまでの表情が嘘のように涙をこぼして千景から遠ざかろうとする赤嶺友奈。

 

 訳が分からず困惑する千景の後ろから彼が駆け出す。

 

「友奈!」

 

 飛び出したのは落合日向。

 

 彼は驚いて傷だらけの友奈へ駆け寄った。

 

「何が、あったんだ」

 

「助けて日向!私、私はあなたを一目みようとしただけなのに、あそこにいる郡千景さんが鎌で私をずたずたにしたの!」

 

「なっ!ちがっ……」

 

 千景は否定しようとする。

 

「怖いの!」

 

 そんな彼女の言葉を遮るように赤嶺友奈は日向の体に抱き着いた。

 

「怖い、助けて!このままだと、私、殺されちゃう」

 

 おびえた少女のようにブルブルと抱き着いて離れない赤嶺友奈。その姿に日向は何を言えばいいのか探っている様子だった。

 

 やがて。

 

「郡、さん」

 

「日向?」

 

「俺は彼女を連れて、一度、ここを離れる」

 

「ダメよ!」

 

 千景は叫ぶも日向は首を振る。

 

「この場で何が起こったのか、俺はわからない。どっちが正しいのかも……でも、このままの友奈を放っておくことはできない。だから、離れる」

 

「ま、待って!」

 

 追いかけようとする千景だったが日向はブルライアットで地面を撃つ。

 

 周囲に広がる土煙の後、そこに日向と赤嶺友奈の姿はなかった。

 

「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 罠に嵌められたことに気づいた千景は空に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友奈、ケガはないか?」

 

「痛い、寒い。お願いだから離れないで」

 

 弱弱しい友奈の声に日向は困った表情をしながら抱えたまま街中を歩く。

 

 いつもの明るい表情と異なる弱弱しい姿。

 

 そんな彼女をどうすればいいのか日向はわからない。

 

「戻ったら手当をしよう、それから」

 

「お願い、離れないで」

 

 弱弱しく、彼女は日向の手を掴む。

 

 その手は小さく震えていた。

 

 日向は優しくその手を握り締める。

 

「わかった、俺はお前から離れない」

 

「うれしい……」

 

 友奈はそういって日向の胸元に顔をうずめた。

 

「(俺は、どうすればいいのだろうか?)」

 

 赤嶺友奈のぬくもりを感じながら日向は苦悶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やった!やった!やったやったやったやった!戻ってきた!自分の意思で!私から離れないって言ってくれた!)」

 

 日向の胸元に顔をうずめながら赤嶺友奈は笑みを深める。

 

 自作自演でうまくいくか心配だったが結果は大成功。

 

 彼は自らの意思で自分のところへ戻ってきてくれた。

 

 記憶が完全に戻っていたならどうなっていたかわからないが、これで彼女たちから遠ざけることは成功したのだ。

 

 あとはじわじわと自分色に染め上げていけばいい。

 

 今しばらくは大人しくするしかないだろうけれど、彼との時間を過ごせるのなら悪くはなかった。

 

「(手に入れた、私の一番!……欲しかったもの、もう手放さないよ。あぁ)」

 

 薄暗い夜空に赤嶺友奈は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「………………幸せぇ」

 

 




次回は本編です。

その次は個別番外編、相手は神世紀の人間を予定しています。

仕事が忙しくて更新がしばらく乱れるかと思います。



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黒騎士と国防仮面

果たして、これは本編なんだろうか。





 落合日向が四国へ戻ってきた。

 

 しかし、彼の日常そのものに大きな変化はない。

 

 赤龍軒でバイトとして働く毎日。

 

 バーテックスはあれから嘘のようにおとなしい。

 

 来るべき時へ備えているのかもしれないのだろう。

 

 かくいう、日向も黒騎士としての力を十全に振るえるように鍛錬は欠かしていない。

 

 彼は黒い木刀を目の前の相手へ振るう。

 

 相手はその動きを読んでいたのか赤い木刀で受け止めた。

 

 一旦、距離をとろうとしたところで重たい一撃が日向に落とされる。

 

 とっさに受け止めたがその一撃で彼の手はしびれてしまう。

 

「ここまでにしよう」

 

 相手が木刀を戻したことで日向も木刀を収める。

 

「流石は天火星君が紹介してきただけのことはある。とんでもない実力だな」

 

「いや、貴方ほどではない。天童竜」

 

 赤い木刀を戻しながら天童道場の主である彼は首を振る。

 

「いや、俺も二十年以上、剣を振るってきたけれど、君以上の猛者はいなかった。良い経験になるよ」

 

「そうか」

 

「…………ところで、日向君」

 

「はい」

 

「国防仮面の噂を君は聞いたことがあるか?」

 

 シャワーを浴びて着替え終えたところで天童が日向へ問いかける。

 

「国防仮面?いいえ」

 

「実は最近、街中で見かける人が多いらしい。困っている人を助ける正義の味方らしい」

 

「知らないですね」

 

「そうか、じゃあ、噂だったのだろうか……すまない、忘れてくれ」

 

 首を振る彼のほうへ視線を向けながら日向は天童道場を後にする。

 

 この時、日向は予想していなかった。

 

 帰宅途中に噂の“国防仮面”と遭遇することになるなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、あれは」

 

 帰り道、夕焼け空の下を歩いていた日向は目の前に現れた存在に一言漏らした。

 

 軍服のようなものに身を包み、マントを風で揺らし、顔の上半分は隠され、帽子をかぶっている女性。

 

 服のラインから女性だとわかったが明らかに異質だった。

 

「ハロウィンは……過ぎたよな?」

 

 自分の記憶を探りながらぽつりと漏らす日向の声に気づいたのか彼女は振り返る。

 

 向こうは少しばかり驚いた表情をしつつも近づいてきた。

 

「(なぜ、近づいてくる)」

 

 少し心の中で思ってしまいながら相手をみる。

 

「初めまして、私は国防仮面!憂国の戦士です」

 

「そうか」

 

「な、何かお困りごととかありませんか?」

 

「大丈夫だ」

 

「そ、そうですか」

 

「ああ、ところで東郷、お前は何をしている?」

 

 日向の問いかけに少し目を動かすも不思議そうに首をかしげる国防仮面。

 

「何のことですか?私は国防仮面、弱き者の味方です」

 

「そうか、無茶はするなよ。アイツらが心配するからな」

 

「……これはご丁寧に」

 

 ぺこりと頭を下げて去っていく国防仮面。

 

 その姿を見て、日向は首をかしげる。

 

「最近はあんなのが流行っているのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向さん!お話があります!」

 

 赤龍軒、いつものように日向が仕込みを手伝っていると大きな音を立てて東郷美森が店内にやってくる。

 

「まだ準備中だぞ」

 

「わかっています。店長の天火星さんの許可はもらっております」

 

「そうか」

 

「お話があります」

 

「作業しながらでいいか?大事な話なら十分待て、仕込みがそれで終わる」

 

「なら、待たせてもらいます」

 

 有無を言わせぬ東郷の姿に首をかしげながら日向は仕込みを終わらせる。

 

 店長の天火星は町内会の会合のため、日向が仕込みを任されていた。

 

 どういうわけか、お手伝いから正式採用されたスタッフみたいな扱いに日向はなっている。

 

 作業を終えて、店の裏手へ日向と東郷は出た。

 

「単刀直入に伺います。日向さんはどうして国防仮面が私であるなんて思ったんですか?」

 

「……は?」

 

 真剣な話だと思っていた日向にとって予想外すぎることに抜けた声がでる。

 

 しかし、目の前の東郷は真剣であったことから言葉を飲み込む。

 

「答えてください。どこで私だと気づいたのですか」

 

「一目見た時から」

 

「…………え?」

 

 今度は東郷がぽかんとした表情を浮かべていた。

 

「え、え、一目見ただけ?それだけですか?」

 

「ああ、それだけだ」

 

「き、規格外すぎます!」

 

「知らない。話はそれだけか?だったら俺は戻るぞ」

 

「待ってください!」

 

 腕を掴んで東郷は日向を見上げる。

 

 その目は何か危険なものを孕んでいた。

 

 

「フフフ、正体がばれてしまっては仕方ありません。日向さんにも活動を手伝ってもらいます!」

 

 

「そもそも、お前はなぜ、国防仮面などということをやっている?普通に勇者部として動けばいいだろう?」

 

「それでは意味がありません!」

 

「なに?」

 

「ま、まぁ、そのことを話すのはおいおいにして、とにかく、日向さんには協力してもらいますからね!」

 

「断る」

 

「そのっち」

 

 びくぅ!と日向の肩が動いた。

 

「そのっちとの約束をまだ果たしていませんよね?日向さん」

 

「…………」

 

「いいですか?私の活動に協力すれば、そのっちにこの場所のことを言うことを黙っておいてあげます。その代わりに日向さんは国防仮面の活動を手伝うこと……それが条件です」

 

「はぁ」

 

 日向は溜息をこぼす。

 

 ここで拒絶して乃木園子がやってくるといろいろな面倒が起こる。

 

 それだけは避けたいので日向は頷くしか選択肢が存在しなかった。

 

「わかった、手伝おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、日向は裏方として東郷美森こと、国防仮面の手伝いをすることとなった。

 

 彼女から渡された銀のジャケットをまとい、日向は国防仮面の手助けを続ける。

 

 落とし物から迷子、さらには野良猫の保護まで幅広く国防仮面は活動を行う。

 

 最近のものではひったくり逮捕といったことまで起こった。

 

 そのために国防仮面の噂は瞬く間に広がっていく。

 

「さすがにそろそろ活動を終わらせてもいいんじゃないか?」

 

 日向は噂によって国防仮面をみようとしている町の人たちを見て一緒に歩いている東郷へ提案をする。

 

「そう、ですね。さすがに目立ちすぎてきています。これ以上はダメですね」

 

「引き際の肝心だ。どうせ、友奈たちにも黙っているんだろう?」

 

「その通りですね……ふぅ」

 

 小さく息を吐いて東郷は提案する。

 

「では、今日の夜をもって国防仮面の最後としましょう」

 

「わかった」

 

 ようやく解放されると思いながらも日向は東郷へ視線を向ける。

 

 彼女はジッとこちらをみていた。

 

「何だ?」

 

「いえ……そうですね、聞いておきます。日向さんはこれからどうされるつもりですか?」

 

「俺のやることは変わっていない」

 

 日向は隠しているブルライアットへ手を伸ばす。

 

「天の神、トランザを倒す。俺のやることはそれだけだ」

 

「私たちは勇者ではなくなりました」

 

 大赦は先日の騒動の後、お役目は終了ということで友奈たちから勇者アプリの入った端末を回収した。

 

 風や夏凜が敵の存在を訴えても耳を貸すことはない。

 

 もし、バーテックスが現れた時、戦うのは日向と大神しか今はいないのだ。

 

「本来であれば、私たちがやるべきことです。日向さんは」

 

「俺はバーテックスを滅ぼす。いつの時代であれ、やることは変わらない」

 

 淡々と日向は答える。

 

 そんな彼の姿に東郷は溜息をこぼした。

 

「頑固ですね。日向さんは」

 

「結城友奈ほどではない」

 

「そんなことありません!」

 

 ガミガミと説教をしてくる彼女の言葉を右から左へ聞き流すことにした。

 

「そういえば」

 

「まだ、あるのか?」

 

「そのっちが会いたがっていましたよ」

 

「……」

 

「まだ、先日のことを気にしておられるのですか」

 

「そんなことはない」

 

「そのっちも悪気があったわけではないんです。そのことだけは」

 

「わかっている」

 

 日向は短く答える。

 

 先日、発生した乃木園子による「同棲事件(命名、風)」で少しばかり勇者部のメンバーと距離を取っていたのだが、そのことが余計に園子を病ませる原因になったかもしれないと日向は考えて近づくことに悩んでいた。

 

「一度、会ってあげてください」

 

「わかった」

 

 東郷に念押しされながら本日最後の国防仮面の活動は開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、本日最後でハプニングに遭遇する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、こうなった」

 

「えへへへ~、日向さぁん」

 

「日向さん!お菓子ありますよ!食べませんか!」

 

「ふふふ~、日向さんの膝の上、最高ですぅ」

 

 日向の左右と膝の上に乃木園子、結城友奈、犬吠埼樹の三人が占領していた。

 

 すぐそばでは変装を解除された東郷と尋問中の風と夏凜の姿がある。

 

 しかし、すぐに二人も鬼のような視線を向けた。

 

「アンタたち!いつまで占拠しているのよ!?」

 

「そうよそうよ!私だって日向の膝を満喫したいのに……ってぇ!樹!女の子がしちゃいけない顔をしている!」

 

「はっ!?あまりに日向さんの膝の上が気持ちよすぎて」

 

「いいよねぇ~、いっつんもそんな顔になるのは当然だよ」

 

「あれ、そのちゃん、そのカメラは何?」

 

「うふふふ、ひ、み、つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者部に国防仮面の正体がばれた。

 

 最後の案件を片づけたタイミングで勇者部のメンバーが現れて、風が叫ぶ。

 

「あの胸は東郷のものよ!」

 

 お前の判断基準はどうなっているんだ!?

 

 素で叫びたくなりながら日向は隠れようとした。

 

 しかし―。

 

「見つけたよぉ~、日向さぁん」

 

 日向レーダー(自称園子)によってあっという間に発見されて国防仮面ともども部室へ連れてこられる。

 

「じゃあ、そろそろ話してもらおうかしら!日向!どうして、東郷に国防仮面をやらせているのかしら!」

 

「は?」

 

「へ?」

 

 風は不思議そうな顔をする。

 

「日向が東郷へ国防仮面をやらせているんじゃないの?」

 

「一応、尋ねるが何をもって俺がアイツにやらせているなどという考えに至った?」

 

「え?そりゃ、あれ?なんでかしら?」

 

「……疑問形で答えるな。そもそも俺は東郷に出会って手伝いをしていただけにすぎん」

 

「え、そうなの?」

 

「そうだ」

 

 ちらりと風は東郷をみる。

 

「はい、日向さんは私を手伝ってくれていたんです」

 

「じゃあ、なんでアンタは国防仮面なんてやってんのよ」

 

「それは……」

 

 ちらりと東郷がこちらをみた。

 

 どうやら日向の前で答えたくないらしい。

 

 それを察した彼は樹を下ろして立ち上がる。

 

「どうやら俺が聞いていると答えにくいみたいだからな。帰る」

 

「あ、じゃあ、途中まで送るよ~」

 

「わ、私も!」

 

「アンタたちは待機!」

 

 追いかけようとした友奈と樹を風は止めた。

 

「助かる」

 

「今度、デートね」

 

 ウィンクをして風は告げる。

 

 助けられたことに感謝しながら日向は園子と外へ出た。

 

「日向さん」

 

「この前は悪かったな」

 

「そんなことないよぉ~、あれは暴走した私が悪かったからで」

 

「……前の約束をすっぽかしている俺が悪いということにしとけ」

 

 コツンと園子の額をつつきながら日向は言う。

 

「じゃあ、約束!今度こそ、お出かけだからね!」

 

「……わかった。約束を守る。絶対だ」

 

 そういって日向と園子は指切りをする。

 

「(そういえば)」

 

 日向はふと思う。

 

 東郷はどうして国防仮面をはじめた理由を伝えたくなかったのだろうか?

 

 日向に知られると困るようなことだったのだろうか?

 

「(まぁ、明日に聞けるだろう)」

 

 そう思っていた翌日。

 

 周りの人間の記憶から東郷美森の存在が消えていた。

 




さらりと登場人物紹介


天童竜

鳥人戦隊ジェットマン、レッドホークだった人。
ただし、この世界では道場を開いているだけで変身はしない。しないがその実力はかなりのものである。
結婚しており、妻の香と一人娘を大事にしているとのこと。


次回は個別番外編。

その次は本編を予定。気が変わったら番外編にくかも。


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個別番外編:乃木園子同棲事件

乃木園子がしでかした事件の全貌が明らかに!




 

 乃木園子は求めていた。

 

「日向さん成分が足らんよぉ~」

 

 先代、勇者にしてご神体としてあがめられていた乃木園子は大赦に侵入してきた黒騎士こと落合日向に触れられてきた。

 

 そのことから、定期的に日向に触れられないと体が落ち着かない、園子命名の日向成分が大変、不足している。

 

 本当ならすぐにでも会いにいきたいところなのだが、彼は天童竜と共に山籠もりしており不在。

 

 探そうにも六大神も絡んでいるのか大赦の人間では発見は不可能に近い。

 

 そのため、ひそかに作成したひゅうがくん人形を抱きしめているが効果は薄かった。

 

「うーん、日向さんと連絡をしたいけれど、連絡先を知らないし、どこに住んでいるかもわからないんだよねぇ~」

 

 マンションのベッドでぬいぐるみを抱きしめながら乃木園子は考える。

 

 本来ならば、犬吠埼姉妹へ問いかければいいのだが、彼女たちもライバルではあるため、そうそう教えてくれはしないだろう。

 

 勇者部のメンバーは友達であり仲間で、そして最大のライバルなのだ。

 

 隙を見て彼と接しようと考えるだろう。

 

 かくいう園子もその一人。

 

「うーん、そうだ!」

 

 園子はむくりと体を起こす。

 

「日向さんに手紙を書いて伝えるんだ!」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべる園子。

 

 そして、彼女はある計画を練る。

 

「日向さん成分をたーくさんとれるように私の家に住んでもらおう!いぇーい、いい作戦だぜ~」

 

 その計画が新たな騒動を呼ぶことになるなど、誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手紙?」

 

「はい、これ」

 

 赤龍軒、いつものように仕事にいそしんでいた日向へ遊びに来た風太郎が差し出す。

 

「差出人は乃木園子、驚いたよ。神様を郵便屋さんにするんだから」

 

「すまないな」

 

「いいよ、彼女にはいろいろと迷惑をかけてしまったし」

 

「今のは風太郎としてか?」

 

「いいや、ガオゴッドとして」

 

「そうか」

 

 短く答えて日向は手紙の封をきる。

 

 中を見て溜息をこぼした。

 

「どうしたの?」

 

「手紙の送り主は乃木園子だったな。お礼をしたいからどこかで会えないかと書かれている」

 

「おー、積極的だねぇ」

 

「からかうな。いろいろと問題があるのは知っているだろう」

 

「それは乃木家の子だから?」

 

「当たり前だ。乃木家は大赦の二大家の片割れだ。そんな子と俺があっていると知ったら大赦の連中が何をしでかすか」

 

「大丈夫だと思うよ」

 

「なに?」

 

「これを渡すから」

 

 風太郎が取り出したのは小さなお守り。

 

「なんだ、これは?」

 

「神様特製のお守りだぜ?持っている人間へ敵意を向けている存在には持ち主が別の人物に見えるという力がある」

 

「……そんなものを俺に渡して大丈夫なのか?」

 

 尋ねる日向だが、風太郎は「気にしない」という。

 

「だって、日向には返しても返しきれない恩があるからな!これぐらい当然だって」

 

「そうか」

 

 日向はお守りを受け取ることにした。

 

「なら、もらっておく」

 

「うんうん、素直なのはよいことだ」

 

 風太郎の表情に毒気が抜けたように日向は溜息をこぼす。

 

 その時、店のドアが開いた。

 

「こんにちは!日向さん!いますかぁ?」

 

「こんにちは~」

 

 ドアを開けてやってきたのは結城友奈と東郷美森の二人。

 

「まだ準備中だ」

 

「あ、日向さんだ!」

 

 嬉しそうに友奈はやってきて日向に抱き着いた。

 

「おい、いきなりなんだ?」

 

「えへへ、日向さんに会いたかったんです!」

 

「だからって、いきなり抱き着くな」

 

「め、迷惑ですか?」

 

「危ないから気をつけろといいたいんだ」

 

 しゅんとうなだれていた友奈だが、日向の言葉にパァと太陽のように笑顔が輝いた。

 

 その姿をみて東郷の表情がキラキラしていたが風太郎は何も言わないことにする。

 

 前に余計なことを言って地獄を見たからだろう。

 

「ところで、日向さん」

 

「なんだ?」

 

「今度の土曜日、暇ですか!?」

 

「土曜日?」

 

「実は東郷さんと一緒に買い物にいくんですけれど、よかったら日向さんも!」

 

「ええ、私たちだけでもいいんですけれど、偶には日向さんも一緒にどうでしょう!?」

 

 やたらと食い込んでくる二人。

 

 申し訳ないが、と前置きをして日向は伝える。

 

「悪いが、土曜日は予定があるんだ」

 

「そうなんですか~」

 

「予定といいましたが、お店の手伝い以外に何か?」

 

 東郷の問いかけに日向は考える。

 

 ここで素直に園子と会うと伝えたら何かややこしいことが起こってしまう。最悪、話が風達にも伝わって妨害や監視といったこともありえるだろう。

 

「大神と特訓のために山籠もりだ」

 

「そうですか……でしたら仕方ありませんね。頑張ってください!」

 

「ああ」

 

 笑顔の東郷と友奈に罪悪感を覚えながら日向は嘘をついた。

 

 しかし。

 

「(あの顔、嘘だ、勇者部の誰かと出かけるのかな?)」

 

「(日向さんは本当に嘘をつくのが苦手なのですね、当日は道具をそろえて尾行しないと)」

 

 日向の嘘は既にばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日。

 

 日向は私服を着て赤龍軒をでる。

 

 念のため、誰にも会わないように注意しながら進む。

 

 そんな彼を尾行する影がいた。

 

「本当に日向が出かけるの?」

 

「えぇ」

 

「何かの間違いとかは?」

 

「樹ちゃん、それはないよ!」

 

「日向さんは慣れない嘘をついてまで、誤魔化そうとしました。誰かと出かけると考えるべきです」

 

「そういえば、夏凜ちゃんは?」

 

「何か、用事があるとかで来れないそうよ。園子も同じだって」

 

「「怪しい」」

 

 風の言葉に友奈と東郷が訝しむ。

 

「もしかしたらどちらかが日向さんと」

 

「ありえる話ではあるわ。そのっちもそうだけど、夏凜ちゃんも最近はツンデレがマスマス増しているから」

 

「それ、夏凜が聞いたら怒るでしょうね」

 

「うん……どうして、私たち、落ち着いているのかな?」

 

「そりゃ、あれでしょ?目の前で暴走している人がいるからよ」

 

「なるほど」

 

 風の言葉に樹は納得した。

 

 二人の目には嫉妬という名の炎を燃やしている友奈と東郷の姿。

 

 そんな姿を見ているから二人は落ち着いているのだろう。しかし、実態は違う。

 

 二人は自覚していなかったが少なからず友奈たちよりも優位の立場にいるから落ち着いているのだ。

 

 ここのところ、風と樹に罪滅ぼしのつもりなのか、週末は二人の家で料理を作ってくれる時間を日向は作っていた。

 

 勿論、勇者部のメンバーに二人は話していない。それを知れば、貴重な時間が奪われることを理解しているためである。

 

 家族としてだが、いつかはそれ以上になりたい。

 

 アドバンテージがあるからこそ、二人は友奈たちほど、暴走していなかった。

 

「あ、行くよ!」

 

「尾行開始です!」

 

「「不安だ」」

 

 歩き出す二人を追いかけて犬吠埼姉妹もついていく。

 

 その後に、二人の嫉妬の炎が爆発することなど知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日向と乃木園子のデート?は順調だった。

 

 待ち合わせ場所に少しして大赦の車に乗った乃木園子がやってくる。

 

 緊張していた彼女と話をしながら街中を歩く。

 

 服装について日向は尋ねられたが「似合っている」と一言。

 

「日向さんは黒色が好み?」

 

「いや、そういうわけじゃない。昔、こういうデザインのコーディネートをしてくれた幼馴染がいて、それを愛用しているんだ」

 

「ほへ~。幼馴染がいるんだね!」

 

「いた、だな。もう三百年前の話だ」

 

「あ、そっか」

 

「そんな暗い顔はしないでくれ。俺の中で落ち着いてはいるんだから」

 

 ポンと園子の頭をなでる。

 

 彼女は嬉しそうに目を細めた。

 

「気持ちいいなぁ~、ハッ!このままじゃダメなんだよ!ほら、行こう!」

 

 園子に手を引かれて日向は歩き出す。

 

 その後、ぬいぐるみが沢山、おかれているショップへ。

 

 服を冷やかし……園子は日向がほめたものを後日、買うことを決意。

 

 昼はカップルのように仲睦まじく。

 

 彼氏彼女のいないものがみたらからいもの、ブラックコーヒーを欲するような出来事が続いた。

 

 そのために。

 

「もう、我慢が……」

 

「友奈ちゃん、堪えて!ここは耐えるべきところなの!」

 

「お姉ちゃん!落ち着いて!」

 

「ヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガヒュウガ!」

 

 飛び出そうとする友奈を抑える東郷。

 

 理性がログアウト状態の風を必死に抑え込んでいる樹。

 

 とてつもない光景が離れたところで出来上がっていた。

 

 そして、園子はニヤリと笑みを浮かべて日向を連れていく。

 

 己の計画実行のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の家?」

 

「そうなんだ~、日向さんともっとお話をしたくて」

 

「夜に男をあげるのはどうかと思うが?」

 

「もう~!そんなこというなら、この前の約束、破ったこと!許さないんだから」

 

「…………わかった」

 

 前の約束を反故にしたことをいわれると日向は反論できない。

 

 そもそも、あの時はいろいろなことが重なっていたというだけなのだが、言い訳、染みていて言う気はなかった。

 

「うれしいよぉ~」

 

 笑顔の乃木園子に手を引かれて歩いていく。

 

「帰りは車じゃないんだな」

 

「大赦も心配性なだけだよ、私だって歩いて行けるのに」

 

「そうか……」

 

「日向さんが同い年だったらなぁ、学校で一緒に授業を受けられるのに~」

 

「勘弁してくれ。三百年以上過ぎた状態で中学生からのやり直しなんて勘弁だ。それに周りとうまくやれる自信がない」

 

「あ~、それはあるかもね~」

 

 生きて十年と少し程度の男の子たちの中に日向が混じる姿を想像した乃木園子は笑う。

 

「笑うことはないだろう」

 

「だって~」

 

 楽しそうに話しながら乃木園子の住まうマンションへ足を踏み入れる。

 

 中へ入って園子がカギをあけた。

 

「ささ、どうぞ~」

 

 園子に言われて、日向は中に入った。

 

 キー、ガチャン。

 

 ドアが閉まる音に日向は振り返る。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

 園子はほほ笑んだままドアにカギをかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お茶を用意するから待っていてねぇ~」

 

 そういって園子の自室へ通される日向。

 

 中に入るとやはり園子らしさというべきだろうか。

 

 サンチヨさんぬいぐるみが沢山、あった。

 

「あれ?」

 

 サンチョさんぬいぐるみの中心。

 

 そこにちょこんと置かれているぬいぐるみは黒騎士を模していた。

 

「違和感あるな」

 

 ぬいぐるみを見て、室内を見渡していると机の上に置かれているノートが開かれている。

 

「……?」

 

 気になりノートへ近づこうとした時、園子がやってきた。

 

「お待たせ~、お茶でぇす」

 

「ああ、すまない」

 

 机の前に腰かける。

 

「はい、どーぞー」

 

 園子が差し出したお茶を日向は飲む。

 

「ところで日向さん」

 

「なんだ?」

 

「お願いがあるんだぁ~」

 

「お願い?」

 

「うん!」

 

 笑顔を浮かべる園子。

 

「俺にできることなら」

 

「大丈夫!日向さんにできることだから」

 

「わかった」

 

「うれしいなぁ!じゃあね」

 

 園子はニコニコと。

 

「私とここで一緒に生活してね♪」

 

 爆弾を投下した。

 

「あ、れ?」

 

 答えようとした時、急に視界が揺れる。

 

「あれ、予想よりも早いね~、入れすぎちゃったかな?」

 

「なに、を」

 

「睡眠薬、入れてみたんだけど」

 

 ふらふらと立ち上がろうとする日向。

 

 しかし、バランスを崩して後ろのベッドへ倒れこんでしまう。

 

「えへへ、さすがは日向さん、わかっているねぇ~」

 

 倒れた日向の上へ園子がのしかかる。

 

 園子のにおいや柔らかい体のぬくもりが伝わってきた。

 

「何を……」

 

「うーん、日向さん成分補給なんよぉ~」

 

 日向が問いかけるも園子は答えない。

 

 抱き着いて、強く抱きしめてくる。

 

「日向さんも罪な人なんだよね~、もう、私は日向さんなしじゃ生きていけない体になっちゃったんだぁ~、大赦の連中は頑固だから会うことに反対するしさぁ~、でもでも、一緒に生活するようになったらあの人たちも少しは大人しくなると思うんだぁ、ほら、乃木家に強い人が入るわけだし、あ、私としては好きな人と一緒にいたいという気持ちがあるんだよ?あぁ、気持ちいいなぁ、日向さん成分を沢山補給しなくちゃ~、ね、このまま一緒に」

 

 抗おうとするが睡眠薬が多量のせいで日向の意識もぼんやりし始める。

 

「ちょぉぉっとまったぁあああああああああああああ」

 

 意識が消える瞬間、聞き覚えのある声たちが聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果からいうと乃木園子の計画は失敗した。

 

 最後まで尾行していた風達によって俺は救われたのである。

 

 乃木園子には怖い顔をしていた東郷が説教をして、しばらく反省するということだ。

 

 謝罪をしてきたときに「私は大きな罪を犯しました。お許し下さい」というプレートを下げて本気で泣いていたことは当分、忘れられそうにない。

 

 同時に、俺は理解してしまう。

 

 彼女たち、勇者に西暦の時と同じくらい、いや、それ以上に俺は好かれてしまっているのではないだろうか。

 

 こんな時に力や健太がいれば相談できたのに、彼らはいない。

 

「またか」

 

 園子かた渡された端末を手に取る。

 

 そこにはたくさんのメッセージが乃木園子から送られていた。

 

 しばらく、彼女と距離を置いておこう。

 

 冷静になってからでないと再び薬を盛られそうだ。

 

 日向はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国防仮面と出会う、二週間ほど前の話である。

 



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黒騎士と25代目

体調不良、仕事の多忙、パソコンの修理。

ナラティブガンダムの作成などによってここまで時間がかかりました。




 東郷美森の存在が四国から抹消された。

 

 バカみたいな話だと思うだろう。

 

 だが、俺以外の誰も東郷美森のことを覚えていない。

 

「……乃木園子へ問いかけることはまずいだろうな」

 

 大赦に深いかかわりのある乃木家だ。

 

 もしかしたら今回の騒動もわかっている可能性がある、だが、同時に俺が乃木家へ接触すれば園子へ危険が及ぶ可能性もある。

 

「そう考えると」

 

「落合日向だな」

 

 考え事をしていた俺に問いかけるものがいた。

 

「誰だ?」

 

 姿かたちは見えない。

 

 しかし、そこにいることは確かにわかる。

 

「大事な話がある。今すぐ勇者の森へ来い」

 

「……貴様は何者だ?」

 

「少なくともアンタの敵じゃない」

 

「……わかった」

 

 頷いたら気配が消えた。

 

 俺は警戒しながら歩き出す。

 

 念のため、赤龍軒に書置きを残す。

 

 大神はガオゴッドのところへ向かっている。明日くらいには帰ってくるだろう。

 

 勇者の森。

 

 誰が名付けたのかは知らない。

 

 だが、四国の端にあるその森は大赦の人間すら立ち入ることがない魔の森という噂もあった。

 

 そんな場所へ踏み込む。

 

 中に入ると感じる神聖なもの。

 

「そうか、ここは」

 

 警戒を俺はやめる。

 

 目の前に広がるのは田畑。

 

 規模は小さいが目の前にある柱をみて笑みを深める。

 

【白鳥歌野の畑!】

 

 字は少し薄れているが見覚えはあった。

 

「そうか、ここはまだあったのか」

 

「そう、存在している。流れ流れて三百年の月日が経過しているが覚えている者はいる」

 

「お前……」

 

 振り返る。

 

 そこにいたのは黒い詰襟制服の男。

 

 帽子をかぶっているが鋭い目で俺を見ていた。

 

「流星、光」

 

「三百年ぶりだな。落合日向」

 

 笑みを浮かべると同時に俺たちは同時に拳をぶつけ合う。

 

 拳をいなし、蹴りを躱す。

 

 しばし組み合い、距離を取る。

 

「腕は衰えて……いや、前よりも強くなっているようだな」

 

「そういうお前は、老けたな」

 

「おいおい、三百年程度でそんなこというな」

 

「普通の人なら三百年で骨だ」

 

 互いに笑いあう。

 

「師匠~?」

 

「師匠というな」

 

 顔をしかめながら流星は振り返る。

 

 目の前に現れたのは白い忍装束姿の少女。

 

「三百年見ない間に弟子をとるようになったのか」

 

「…………弟子ではない。ただ、面倒をみているだけだ。おい、鶴姫、挨拶をしろ」

 

「はい!」

 

 ビシッと手をあげて相手は俺を見る。

 

「隠流25代目当主、鶴姫だ!よろしくな!」

 

「……なんだって?」

 

「遠い昔に存在していた忍者の一族だ。バーテックスによって血筋は絶たれたが技術は残っていた。気まぐれに俺がソイツに与えたらスポンジのように吸収してしまった。それだけのことだ」

 

「師匠!そろそろ話を」

 

「わかっている。落合日向。東郷美森の件についてだ」

 

「何か知っているのか?」

 

「知っている……まったく二万年と三百年も時が過ぎても人間は愚かなことを繰り返すもんだ」

 

「愚痴を聞くためにきたわけじゃない」

 

「相変わらずつれない奴だ」

 

「わかっているはずだ。俺はバーテックスと天の神を滅ぼすことにしか興味はない」

 

「三百年過ぎても変わらないか」

 

 互いににらみ合う。

 

「惚れた女たちがかわいそうだな」

 

「うるさいな」

 

 視線をそらす。

 

「奉火祭」

 

「それは……」

 

「東郷美森は奉火祭の贄として壁の向こうへ連れていかれた」

 

「あ、おい」

 

 鶴姫が俺に声をかける。

 

 視線を向けると俺の手は血が出るほどに握り締めていた。

 

「人は繰り返すようだな。過ちを」

 

「大赦の連中は今になってアレをやるというのか……東郷を贄として」

 

「どうする?」

 

「決まっている。東郷美森を助ける」

 

 迷わずに俺は答える。

 

 勇者部の彼女たちには借りがあった。

 

 あの子たちの誰かが犠牲になってひと時の平和を確立するなどあってはならない。

 

「まぁ、好きにするといいさ。だが、外はお前のいた時と大きく異なっている。それはわかっているだろう?」

 

「どのような状況であれ、俺は行く」

 

「相変わらず、勇者に甘い奴だ。だが、そんな奴だからこそ、歌野や水都はお前たちのことを信頼したのだろう……な」

 

「……情報を感謝している。貴様とまた会えてよかった」

 

「やめろ、蕁麻疹がでる……死んだら墓くらいは作ってやろう」

 

「そうなるつもりはない」

 

「次来るときは花束を持ってこい。そうすれば、あいつらも喜ぶだろう」

 

「どうだろうな。枕もとで文句を言われるに決まっている」

 

――どうして、自分たちを置いていったのかってな。

 

 苦笑しながら俺は勇者の森を後にする。

 

 最低限の準備と書置きを残す。

 

 天火星と天童にやることがあるということも伝えた。

 

 懐からブルライアットを取り出す。

 

「ブルブラック、力を借りる」

 

 ブルライアットを上空へ掲げる。

 

「騎士転生」

 

 俺は黒騎士の鎧を身にまとう。

 

 黒騎士の気配を感じ取ったのか、ゴウタウラスが現れる。

 

「ゴウタウラス……」

 

 ゴウタウラスは俺に向かって吠える。

 

「ともに来るというのか?」

 

 俺の言葉にゴウタウラスは頷く。

 

「すまない、友よ。俺と共に来てくれ!」

 

 俺の訴えにゴウタウラスは強く吠えた。

 

「行こう、外の世界へ……」

 

 壁を越えて外に出る。

 

「東郷、お前を生贄になど絶対にさせない」

 

 ブルライアットを握り締めて俺はゴウタウラスと共に外へ出る。

 

「天の神、バーテックス、すべて、お前たちの思い通りにはさせないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気になるか?」

 

 壁の傍で去っていくゴウタウラス達の姿を見ている鶴姫へヤミマルが声をかけた。

 

「師匠」

 

「師匠というな……心配か?」

 

「そりゃ、そうだよ。大事な親友が生贄にされそうになっているんだから」

 

 鶴姫は顔を覆っていた布を取る。

 

 その中から現れたのは生死不明となっている三ノ輪銀だった。

 

「しかし、神樹の力が弱まっているときに人間というのは本当に愚かなことばかりを繰り返す」

 

 ヤミマルは呆れていた。

 

 もし、西暦の時代に助けがなければ人間を滅ぼしていただろう。

 

 それほどまでに今の人間は愚かな選択ばかりしている。

 

「おい」

 

「はい?」

 

「お前はお前でやることがあるだろう」

 

「わかっています!後輩たちに事実を伝えて、目を覚ましてもらいます!」

 

「黒騎士だけではおそらく限界がある。あの勇者たちの力も必要になるぞ」

 

「師匠って、何でも詳しいですよね?」

 

「バカ野郎、俺は詳しくない。ただ、予想しているだけさ。二万年と三百年ほどの経験を使ってな」

 

 にやりとヤミマルは笑った。

 

 

 

 




かるーいキャラ紹介

25代目 鶴姫

原典は忍者戦隊カクレンジャー、24代目 鶴姫をモデルとしている。
見た目は中学生くらいの女の子、原典の鶴姫と同じ忍者装束を纏っており、隠流の忍術を使える。


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番外編:赤嶺友奈は閉じ込める

更新が遅くなって申し訳ありません。

次回は本編の予定。




「日向さんが~いない~~」

 

「友奈ちゃん!そっちは壁よ!」

 

「日向、日向、日向ぁぁぁ」

 

「お姉ちゃん!それは黒騎士くんぬいぐるみだよ!綿がでちゃうよぉ!」

 

 勇者部の面々、またも精神崩壊。

 

 既に耐性がついていたのか古波蔵棗はなんともいえない表情をしている。

 

 しかし、彼女自身も大事そうに写真を握り締めていた。

 

「もしかしてと思っていましたが赤嶺友奈さん、やはり油断なりませんね」

 

 ひなたは赤嶺友奈が何かを企むだろうとは思っていた。

 

 しかし、こんな早く行動に移すとは思っていなかったようだ。

 

「やれやれ、お前たちは本当にわかっていないようだな」

 

 ひなたと若葉の前に現れた流星光は溜息をこぼす。

 

「てか、ソイツ誰よ!」

 

「ひと呼んでさすらい転校生、流星光だ」

 

「さすらい転校生ってなに!?」

 

「あぁ、落ち着いてください」

 

 暴れそうになる夏凜をひなたがやんわりと制する。

 

 西暦組のほとんどは流星と面識があるから警戒はしていない。しかし、神世紀組は面識がないことから少しばかり警戒していた。

 

「みんな、警戒することはない。流星光は我々の味方だ」

 

「まぁ、仲良くしてくれ。さて、話を戻すか」

 

 流星は全員を見渡す。

 

「まずは黒騎士のことだが、奴の記憶をもと通りにする方法がある」

 

「本当か?」

 

「ああ、そのためにはパワーアニマルを探さなければならないけれどな」

 

「パワーアニマル、大神さんと一緒に戦っている精霊さんだよね?」

 

「ガオシルバーと戦っている精霊ではある。だが、お前たちが探さなければならないのは癒しの力を持つ精霊だ」

 

「癒しの力?」

 

「神樹の中に呼ばれた黒騎士は西暦、神世紀の多くの戦いを経た結果、根幹というべき魂が邪気によって汚れてしまっている。穢れともいうべきその状態を取り除かない限りお前たちの知る黒騎士には戻らない」

 

「じゃあ、すぐに探そう!」

 

 立ち上がる高嶋友奈に千景も頷いた。

 

「高嶋さんの言うとおりね。早くあの赤嶺友奈から日向を取り戻さないと……こうしている間にも……」

 

「それと、赤嶺友奈についてだが、お前たちはまだまだ警戒が甘いぞ」

 

「どういうことですか?」

 

 ひなたが流星へ問いかける。

 

「赤嶺友奈の黒騎士……いや、落合日向に対する執着はお前たちの想像以上に根強いということだ。お前たちの思いよりも強いかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ、日向―」

 

「こら、まだ傷はいえていないんだ。無理に起き上がろうとするな」

 

「ぶー!じゃあ、もっとこっちに来てよ~~」

 

「そうしたら食べさせられないだろ」

 

 赤嶺友奈の拠点。

 

 そこで日向の看病を赤嶺友奈は受けていた。

 

 包帯が巻かれて痛々しい姿の彼女は日向による看病を受けて幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

「(まぁ、傷は既に治っているんだけどねぇ、こういう看病とかしてもらうっていうのも悪くないよねぇ)」

 

 郡千景から受けていた傷は既に治っていた。

 

 しかし、赤嶺友奈の傷が治ったと知ったら。

 

「(すぐに離れちゃうかもしれない。あぁ、そんなの嫌だ。絶対、嫌だ!そうならないように私は縛り付けるんだ。どこまでも、今度は邪魔が入らないようにしっかり閉じ込めておかないとねぇ)」

 

 今いる部屋は日向用に拵えた部屋である。

 

 いつかはあの部屋で自分と一緒に過ごすのだ。

 

 そのための計画も考えてある。

 

「(はぁ、楽しみだなぁ。でもでも、今はこの時間を満喫しよう~っと)」

 

 彼が差し出す食事を雛が親鳥から求めるように口に含んでいく。

 

 今の時間は赤嶺友奈にとって幸せでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流星光の言葉通りにパワーアニマルを探すために奮闘する勇者たち。

 

 四国奪還も行っているがバーテックスとリンシーの力押しで拮抗していた。

 

 しかし、勇者たちも負けてはいなかった。

 

「っ!!」

 

 結城友奈の体から獣のようなオーラが放たれる。

 

 繰り出した一撃によって吹き飛ぶリンシー。

 

 ほんの少しだが結城友奈や古波蔵棗など、一部の勇者たちが激獣拳を開眼し始めていた。

 

「見つからないね~。パワーアニマル」

 

「そもそも、パワーアニマルってどうやって探すのかしら?」

 

 神世紀組の友奈と東郷は元の世界に戻って考えていた。

 

 どうすれば、探しているパワーアニマルに出会えるのか。

 

 そもそも、どうすれば出会えるのかについてはわかっていなかった。

 

「うーん、大神さんに相談してみる?」

 

「いえ、それよりかは」

 

「やっほ~。結城ちゃん、東郷ちゃん」

 

 ひらひらと何の前触れもなく赤嶺友奈が現れた。

 

「赤嶺友奈ちゃん!?」

 

「どうしてここに!」

 

「うーん、警告かなぁ?」

 

「警告ですって?」

 

 警戒する彼女達に赤嶺友奈は笑顔を浮かべる。

 

「そうそう!いい加減、日向のことを諦めてって」

 

「そんなことできないよ!」

 

「友奈ちゃんの言うとおりよ。赤嶺友奈さん、貴方に日向さんは渡さないわ!」

 

 身構える二人の姿を見て赤嶺友奈は溜息をこぼす。

 

「はぁーぁ、折角、警告してあげたというのにぃ、まぁいいや。どうせ、日向は私のものだし、貴方たちが取り戻すことは永遠にないんだけどねぇ。伝えることは伝えたから帰るね!」

 

「待って!赤嶺友奈ちゃん!」

 

 結城友奈が赤嶺友奈を呼び止める。

 

「なにかな?」

 

「教えて、どうして、貴方は日向さんに執着するの?」

 

「…………………あなたたちは知らないだろうね」

 

 赤嶺友奈はぽつりとつぶやく。

 

「深い闇の中から差し伸べられる手、その手を絶対に離したくないっていう気持ち……誰だっていいわけじゃないよ?私は日向だから手を掴んだ。彼の優しさ、何もかもに救われたんだ」

 

「それは……」

 

「私の思いは貴方たちよりも深いよ?今のままならあきらめたほうが幸せかもねぇ」

 

 ひらひらと手を振って赤嶺友奈は去ろうとした。

 

「………そんなことないよ。私だって」

 

 赤嶺友奈に張り合うように結城友奈は拳を作る。

 

 その瞳に強い光を宿して。

 

「私だって、日向さんに救われたんだ。日向さんがいたから私は迷いなく戦うことができた……だから、選ばれたのかもしれない」

 

 友奈は拳を開く。

 

 彼女の腕はギンガの獣装光が部分的に纏われていた。

 

「ギンガの光、神樹の命を長らえさせていた力……うん、凄い力だね。私と真逆の力だ」

 

 小さな笑みを浮かべて赤嶺友奈は臨気を体に纏う。

 

「ここで決着をつけようかな?」

 

「!」

 

 身構える結城友奈。

 

 しかし、赤嶺友奈はすぐに構えを解いた。

 

「やーめた。日向が待っているし、帰るね?」

 

 ニコリと赤嶺友奈は微笑んで去っていった。

 

 突然のことに結城友奈達は呆然としていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

 四国の町中。

 

 当たり前のように存在している人のいる薬局の外。

 

 そこで日向は炎力とばったり出会う。

 

「お前は、確か、炎力だったか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「その様子だと無事だったようだな」

 

「まぁね。彼女が手加減してくれたからだし」

 

 炎力は頬をぽりぽりと指でかく。

 

「それより、日向は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫というのは記憶のことか?」

 

「ああ、その、まだ思い出せていないんだろう」

 

「その通りだ」

 

 力の問いかけに日向は答える。

 

「その荷物は?」

 

「赤嶺友奈の手当てに使ったものを補充するためにな」

 

「……日向は、その、赤嶺友奈とどういう関係なんだ?」

 

「わからない」

 

 炎力は戸惑いの表情を浮かべる。

 

 てっきり彼女の味方だと答えると思っていた力は驚きを隠せない。

 

「じゃあ」

 

「俺と赤嶺友奈の関係がどういうものなのか、俺自身もわかっていない。ただ」

 

「……ただ?」

 

 日向は自分の手を握る。

 

 記憶は全く蘇らない。

 

 だが、どこかで訴えている声がいる。

 

 その声がなんなのかはわからない。

 

 日向は不思議とその声に従っていた。

 

 

――赤嶺友奈を放ってはいけない。

 

 

 何故という疑問すら浮かばずに日向は彼女を助ける。

 

「じゃあ、勇者部の皆と敵なのか?」

 

「できるなら、敵対はしたくないと思っている……だが、お前達が友奈を、赤嶺友奈を傷つけるというのなら俺は戦うだろう。どちらが敵、味方と問わず」

 

 日向はブルライアットを取り出す。

 

「そっか」

 

 炎力は頷いた。

 

 そして。

 

「じゃあ、赤嶺友奈と勇者部の皆が戦わないで済む道を探そう」

 

「お前は勇者部の仲間なのだろ?」

 

「確かに、俺は神樹によって勇者たちの手助けをするため……ここへやってきた。けれど、俺は、日向……お前と争いたくないんだ」

 

「…なぜだ?」

 

「友達だから、大事な親友と戦うなんて嫌じゃないか」

 

「お前……」

 

「炎力」

 

「なに?」

 

「俺の名前だ。炎力。西暦の時代、お前と友達だった男だ!」

 

「覚えておく。俺の名前は落合日向だ」

 

 そういって二人は握手を交わす。

 

 日向は不思議と懐かしい気持ちになる。

 

「願わくば樹海で敵として出会わないことを祈ろう」

 

「あぁ、俺もそう望むよ」

 

 二人はそういって離れる。

 

 敵として戦いたくない。

 

 日向も自然と力と同じ気持ちになっていた。

 

 だからこそ、二人は望む。

 

 敵として戦わない道を探す。

 

 しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこいっていたの?」

 

「友奈、戻ってきていたのか」

 

 落合日向が赤嶺友奈の家へ戻ると彼女が待っていた。

 

 しかし、表情は前髪に隠れていてみえない。

 

「ねぇ、どこにいっていたの?」

 

「包帯がきれていたからな。そのための買い出しを」

 

「――勝手に出ていかないで!」

 

 叫びと共に赤嶺友奈は日向を抱きしめた。

 

「友奈?一体」

 

 手の中のものを落としながら彼女を受け止める日向は戸惑う。

 

「どうして?なんで、勝手に出ていったの?もしかして、西暦か神世紀の勇者の誰かと出会うつもりだったの?そんなこと、そんなことあっちゃダメだよ。日向は私と一緒にいないといけない。今更、他の人に奪われるなんてあってはいけない。郡さんも、高嶋さんにも、乃木さん、結城ちゃん、犬吠埼ちゃんだろうと、炎力や伊達健太でもない!貴方の傍にいるべき人は私だけなんだよ?そのことを忘れちゃ駄目、絶対に離れるなんてあってはいけないんだから」

 

「……いきなり何を」

 

「本当はじわじわとやるつもりだったんだけれど、仕方ないよね。うん、仕方ない」

 

 ぶつぶつと何かを呟いている友奈の様子を伺おうとした日向。

 

 直後、胸部に衝撃を受けた。

 

「友奈、何を……」

 

 赤嶺友奈によって日向は心臓を掴まれていた。

 

「大丈夫だよ。少しだけ痛いかもしれないけれど、日向がずっと、ずぅっと、ずぅぅぅっと!私といられるために必要なことなんだ。膨大な闇だけれど、日向は耐えられる。私と一緒に居られるから」

 

 にこりとほほ笑む赤嶺友奈。

 

 しかし、その瞳にはどす黒い何かを抱えている。

 

 何かは日向を捕えて離さない。

 

「ずぅっと一緒だからね」

 

 愛の言葉を聞きながら日向の意識は闇の中に消える。

 



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黒騎士と星祭り

今回、色々詰め込みました。





 

「またか」

 

 炎が広がる大地。

 

 黒騎士はその大地の中を群れるバーテックスを斬り倒しながら突き進んでいた。

 

 相棒のゴウタウラスも続いていたがその進行は思う様にいっていない。

 

「戦えないか」

 

 ゴウタウラスの悲鳴のような声を聴きながら黒騎士はブルライアットを構える。

 

 彼の前にはそびえたつ三つの巨大な存在が立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、外の世界……」

 

 勇者部は東郷美森の存在が消えていることに気付いた。

 

 乃木園子が大赦から返却してもらった勇者アプリを使って彼女達は壁の外、東郷美森が連れ去られた場所まで向かおうとしている。

 

「こんなんで驚いている暇はないぜ?何せ、いろいろとやることがおおいんだからな!」

 

 驚いている勇者部たちに水先案内人として同行している鶴姫が言う。

 

 風太郎と話をしていた勇者部の前に「東郷美森達のいる場所へ案内する」と言って現れた彼女と勇者部たちは目的の場所を目指している。

 

「えっと、鶴姫さん」

 

「鶴姫でいいぜ!同い年だし!」

 

「じゃあ!鶴姫ちゃん!鶴姫ちゃんは神様達とどういう知り合いなの?」

 

「私は知り合いじゃねぇよ。私の師匠が知り合いなんだよ。凄いんだぜ!私の師匠は二万年と三百年生きているんだからな!」

 

「それはそれで、怪しいんだけど」

 

「でも、神様がいるんだし、そういうのもありなんじゃ?」

 

「うだうだ考えていても仕方ないわ。連れ去られた東郷と先走っていた日向を見つけ出すわよ!」

 

 夏凜や樹の話を聞きながら部長の風が先を急ぐ。

 

「頼むわよ!鶴姫!」

 

「了解!行くぜ!ツバサマル!」

 

 勇者部と鶴姫達はツバサマルに乗って炎の世界を進んでいた。

 

 普通に足で進むよりもツバサマルの力を借りた方が先に向かった黒騎士へ早く追いつける可能性があるのだ。

 

「日向さん、どうして、黙って先に行っちゃったのかな?」

 

「私達が東郷さんの記憶を失っちゃったからだと思う…」

 

「大方、巻き込ませないと考えたんでしょ。ホント、私達の考えを聞かないんだから……今度あったらデートとして一日中、拘束してやる!」

 

「犬部長の目が笑っていないわ」

 

 夏凜がやれやれとため息を零す。

 

「部長の言うとおりだよ~。遭遇したらお説教だけじゃすまないんだ!絶対に」

 

 園子が力拳を作った直後、ツバサマルの目の前を黒騎士が通過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「え!?」」」」

 

「あ、日向さんだ~」

 

「今の……」

 

 直後、巨大な青い影が続けて姿を見せる。

 

「ツバサマル!」

 

 鶴姫の叫びと共に急旋回するツバサマル。

 

 突然の事態に落ちそうになる勇者部メンバー。

 

 風は樹を抱えて、夏凜は友奈と園子を抱きしめるようにしてツバサマルにしがみついた。

 

 目の前の青い巨大な影はツバサマルの姿に気付くと拳を振り下ろそうとする。

 

 ツバサマルは体を起こすとたたむようにして前へ構えたツバサを向けた。

 

 ツバサの先端から無数の光弾が放たれる。

 

 光弾を受けた青い影は地面へ落ちていく。

 

 すぐに翼を広げて燃え盛る大地から離れていくツバサマル。

 

「え、何で地面に離れるのよ!?下の方に黒騎士がいるのよ!?」

 

「下をみればすぐにわかる!」

 

 鶴姫の言葉に風は見下ろす。

 

 直後、赤い光弾が通過した。

 

「あれは」

 

 燃え盛る大地。

 

 そこに佇む赤い巨大な姿とさらに巨大な何か。

 

 あまりに巨大でその姿の全貌が把握できない。

 

「何よ、あれ」

 

「知らない!だから離れる!異変に気付いたバーテックスが集まってくるかもしれない」

 

 鶴姫はツバサマルに指示を出して離れることにした。

 

「あ!お姉ちゃん!あそこ!」

 

 樹は下をみて叫ぶ。

 

 勇者部たちが下をみるとバーテックスを踏みつぶして進むゴウタウラス。

 

 そして、ゴウタウラスの上へ降り立つ黒騎士。

 

「よし!行こう!」

 

「え?」

 

「ちょっと、友奈ぁあああああああああああ!?」

 

 友奈は意を決したような表情になるとツバサマルから飛び降りた。

 

 飛び降りたのだ。

 

 夏凜たちが止める暇もなく友奈は装束を身に纏うと黒騎士とゴウタウラスのいる場所まで落ちていく。

 

「日向さぁああああああああああああん!」

 

「!?」

 

 声に気付いた黒騎士は見上げると同時に友奈をキャッチする。

 

「黒騎士さん!」

 

「なんという無茶をするんだ!勇者とはいえ、落ちたら」

 

「会いたかったです!」

 

 そういうと友奈は黒騎士を抱きしめる。

 

「話はあとだ」

 

 やんわりと友奈を引きはがした黒騎士は目の前を睨む。

 

 音を立てて降り立つ青い影。

 

 それは地面に立っていた赤い影と並んだ。

 

「今はこの場から離れる。安全な場所が近くにあるからな。ゴウタウラス!」

 

 黒騎士の叫びにゴウタウラスは雄叫びを上げて後退していく。

 

 佇む二つの影は追跡することなくその場に立ったまま動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一つ、確認だ」

 

 炎の大地から逃れるように続く洞窟。

 

 その入り口の前で黒騎士は振り返る。

 

「お前達は東郷美森のことを“思い出して”やってきたんだな?」

 

「そうよ!誰かさんが何も言わずに姿を消したから友奈と園子のおかげでね」

 

「そうか」

 

「酷いよぉ~!私達に黙って行っちゃうなんてぇ」

 

「事態は急を要した」

 

「まー、色々と言いたいことはあるけれど……とにかく安全な場所へ行くんでしょ?早く案内しなさいよ。後ろつっかえているし」

 

 夏凜に言われて黒騎士はため息を零して洞窟の中に入る。

 

「ゴウタウラスは?」

 

「別の場所から入る……心配するな」

 

 樹の疑問に短く黒騎士は答える。

 

 黒騎士を先頭に風、園子、夏凜、友奈、樹、そして鶴姫は中へ入った。

 

「なぁ、黒騎士、ここはなんなんだ?」

 

「元は神聖な場所だった。しかし、天の神の策略によって場所だけが残されてしまった……バーテックスも入ることができないために休息地として使っている。お前達も勇者の装束を解除して大丈夫だ」

 

 そういうと黒騎士から日向の姿へ戻る。

 

「日向さぁん!」

 

 園子が嬉しそうに後ろから日向に抱き着いた。

 

 驚くことなく日向は園子を受け止める。

 

 予想出来ていたのだろう。

 

 嬉しそうに日向に抱き着いていた園子を夏凜と風が引きはがす。

 

 ガミガミと話をする横をすり抜けて樹が据わっている日向の上へ腰かける。

 

「えへへ、日向さん」

 

「どんな時でもお前達はマイペースだな」

 

 ため息を吐く日向に樹は嬉しそうにほほ笑む。

 

 そんな彼に友奈は真剣な表情で問いかける。

 

「日向さん、東郷さんは」

 

「まだ無事だ」

 

「そっか、良かった」

 

「状況は最悪の一歩手前だがな」

 

「え?」

 

 戸惑う友奈に日向は伝える。

 

「奉火祭は残り二日の期限で実行に移される」

 

「え!?」

 

「何よ!急がないといけないじゃない!」

 

「俺も急いではいる。だが、厄介な相手がいて目的地一歩手前で阻まれている」

 

「邪魔?」

 

「鋼星獣だな」

 

 鶴姫の言葉に黒騎士は頷いた。

 

「流星から聞いていたな?」

 

「鋼星獣?」

 

「何よ?それ」

 

「お前達が先ほど遭遇した三体の巨大な影の正体。ゴウタウラスと同じ星獣だ」

 

「えぇ!?」

 

「どういうことよ。どうして、ゴウタウラスと同じ存在がアタシ達の邪魔をするわけ?」

 

 日向は話す。

 

「あれは天の神によって奴隷として使役されている。天の神は奉火祭を成功させるための壁役として奴らを用意した……同じ星獣であるからゴウタウラスは本気を出すことができない……ある意味、壁役としては最適だったわけだ」

 

「酷い……」

 

「ゴウタウラスが何度も呼び掛けているが星獣は反応しない。無理矢理、押しとおろうとするが物量的な力によって阻まれていて、一週間、連日連夜攻めているがうまくいっていない」

 

「ウソ、一週間も!?」

 

「食事とかは」

 

「あれ」

 

 日向が指さしたのは綺麗に分別されている缶詰。

 

「うわぁ」

 

「分別しているから余計になんともいえないわね」

 

「ふっふっふ!今こそ、私の女子力を見せるとき!さぁ、料理の時間よ!」

 

 やる気を見せる風。

 

「料理器具は最低限のものしか用意していないぞ」

 

「まっかせなさい!」

 

 突如、鶴姫が立ち上がる。

 

「忍法!料理器具召喚!」

 

 構えて指先を地面へ向けると煙と共に料理器具が現れた。

 

「おぉ!」

 

「流石は忍法!」

 

「………………何か違うだろ」

 

「右に同じく」

 

 喜ぶ勇者たちの中で日向と樹は同じことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い洞窟の中、念のためと日向が用意していた寝袋で彼女達は眠りについた。

 

「お前は寝ないのか?」

 

 日向は自分の傍にいる鶴姫へ問いかける。

 

「守るための番人はいるだろ?」

 

「……それは元勇者としてか?」

 

「いいや、友達を守るためさ」

 

 顔を隠している布を外して鶴姫は微笑む。

 

「お前、三ノ輪銀だな」

 

「……知っていたのか?」

 

「大神から写真を見せられた。その顔に覚えがあっただけだ」

 

「大神、そっか、大神さんかぁ」

 

「…………乃木園子に話さないのか?」

 

「話したいよ。話したいけれど、まだ、やるべきことがあるからさ…………それが終わったら話に行くつもり」

 

「そうか」

 

「言いに行けとか、言わないのかよ?」

 

「そんなことしてどうなる?」

 

 日向は真剣な表情で鶴姫をみる。

 

「自分がいつか話すと言っているなら他人がどうこういうつもりはない。何より、俺は関わる資格を持たない。それだけだ」

 

「アンタ、本当に師匠の話している通りだな。こんな奴のお話を私は聞かせていたと思うとなんともいえないなぁ」

 

「は?」

 

「何でもない!」

 

 そういって鶴姫は離れていった。

 

 日向はそんな彼女の姿を見ながら横になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は何をやっているんだ」

 

 寝ようとしてすぐに衝撃を受けて日向は目を覚ます。

 

「えへへへ~、日向さぁん」

 

 横になっていた日向を襲撃した正体。

 

 それは乃木園子だった。

 

 頬を赤らめながら日向の胸板に顔をすりすりしている。

 

「……寝れないのか?」

 

「眠れるわけないよ」

 

 動きを止めて園子は日向を見上げる。

 

「日向さん、みのさんが生きていることを知っていたんだね」

 

 話を聞いていたのだろう。

 

 園子は普段ののほほんとした表情と異なり真剣な顔をしている。

 

「知っていたわけじゃない。最近、知ったんだ」

 

 園子は俯いて日向の体に手を乗せる。

 

 日向の服を強く握りしめる。

 

「しばらく、俺は耳をふさぐ」

 

「え?」

 

「泣きたいなら泣けばいい。俺は何も聞こえない」

 

 日向の言葉に園子は服に顔をうずめる。

 

 そのまま声を押し殺して涙を零し続けた。

 

「ありがとう、日向さん」

 

「そうか」

 

「本当、日向さんは優しいよね~」

 

「別に」

 

「そんな日向さんだから大好きなんだ~!」

 

 嬉しそうにほほ笑む園子は日向の首元へ腕を回す。

 

 気付いた時、日向の眼前に園子の顔があった。

 

 

――チュ。

 

 

 小さな音が響いた。

 

 幸いにも周りは誰もいなかった。

 

「おやすみ~!」

 

 にこりとほほ笑んで日向の傍で園子は眠りにつく。

 

「…………」

 

 日向は静かにため息を零した。

 

 今のやりとりで眠れなくなってしまったじゃないかと心の中で思いながら抜け出す。

 

 一瞬、園子が目を覚ますかもという心配はあったが疲れていたのだろう。抜け出した際に目を覚ますことはなかった。

 

 日向が立ち上がると離れたところでむくりと起き上がる影があった。

 

「結城友奈」

 

「日向さん……その、お話があります」

 

 お前もかと心の中で思いながら「場所を変えよう」と告げる。

 

「はい!」

 

「静かにしろ」

 

「……すいません」

 

 しゅんとうなだれる友奈の手を引いて日向はある場所へ向かう。

 

「ここは?」

 

「洞窟の奥……とでもいえばいいのだろうか。まだ綺麗な水が流れている場所だ」

 

 友奈と共に日向は綺麗な水が流れている場所へ来ていた。

 

「日向さん」

 

「なんだ?」

 

「私、東郷さんが大変なことに巻き込まれていたのに全然、気付きませんでした」

 

「……」

 

「もっと、もっと早く気付けていたらこういうことにならなかったのかな?」

 

「たらればの話をしても仕方ない……何より、今回の騒動は人間と神が絡んでいたことだ。勇者アプリがなければお前達は何もできない……普通の中学生だ」

 

「でも、大事な友達のことを気付けないなんて、悲しいです。辛いです!」

 

 涙を友奈が零す。

 

「だからって、お前が一人だけ苦しむ必要はない」

 

 日向はそういって友奈の頭を撫でる。

 

「日向さん!」

 

 友奈は涙を零しながら日向に抱き着いた。

 

 強く、とても強い力だが日向は表情を変えずに友奈の頭を撫でる。

 

「お前は助けてくれる仲間がいる。仲間を頼ることを覚えるんだな」

 

「日向さんも、私を助けてくれますか?」

 

「あぁ」

 

「それは、どうして?」

 

「お前達が綺麗だからだ」

 

「え!?」

 

「話はそれだけか?ゆっくり休め……それと」

 

 日向は友奈の顔を覗き込む。

 

「東郷は何があっても助ける。大勢のための小さな犠牲になんか絶対にさせはしない」

 

 そういって日向は今度こそ友奈から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 勇者部一同と黒騎士は炎の大地を進んでいた。

 

「朝なんだろうけれど、この炎の大地のせいで実感わかないわね」

 

「バーテックスに蹂躙されるということはこういうことだ」

 

「絶対、東郷先輩を取り戻しましょう!」

 

 やる気に満ち溢れている勇者に対して黒騎士は思案していた。

 

「日向さん?何を考えているんですか?」

 

「そろそろ出てくるぞ」

 

「え?」

 

 樹が首を傾げた直後、炎の大地から巨大なサメのようなものが姿を見せる。

 

 サメの体から複数の影が飛び出し、二体の鋼星獣が姿を現した。

 

「アイツは俺が相手をする。お前達は急ぎ、東郷が囚われている場所へ」

 

「そうはいかん!」

 

 黒騎士が指示を出そうとしたところで爆発が勇者たちを襲う。

 

 彼女達と黒騎士が離れた直後、友奈目がけてトランザの刃が迫った。

 

 

 振るわれるトランザの刃を夏凜が防いだ。

 

「友奈をやらせはしないわよ!」

 

「小娘め、俺の邪魔をするとは良い度胸だ」

 

 長剣、ボルトランザを構えて夏凜へ狙いをつける。

 

 夏凜は二刀流でトランザとぶつかり合う。

 

「夏凜ちゃん!」

 

「友奈!犬部長たちは先に行って!ここは私が引き受けるから!」

 

「行くわよ!」

 

「俺も残る、先に行け!」

 

 鋼星獣たちと戦いながら黒騎士が叫ぶ。

 

 振るわれる拳を黒騎士は躱す。

 

「夏凜!日向!無茶しないでね!」

 

「「いいから行け!」」

 

 風へ二人は同時に叫びながら目の前の相手と戦い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏凜はトランザと戦いながら顔をしかめる。

 

「(強い!)」

 

 二刀流で夏凜の攻撃で押しているようにみえるが実際は異なる。

 

 トランザは夏凜で遊んでいた。

 

 夏凜の実力が自分より下であるということを理解しているかのような動きをしている。

 

 そのことに夏凜は苛立ちを覚えながらも冷静に相手の動きを見据えた。

 

「飽きた。ここで終わらせよう」

 

 トランザが不敵にほほ笑み、そのまま夏凜へ一撃を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼星獣たちの攻撃に黒騎士は防戦一方だった。

 

 ブルライアットで攻撃を仕掛けるも鋼星獣たちには通用しない。

 

「ブルタウラスで戦おうにも……相手は星獣……戦えないからな」

 

 同じ星獣であるからこそ、天の神の隷属であろうとゴウタウラスは放っておけないのだろう。

 

 しきりに呼び掛けているが相手は何も反応しない。

 

 それどころか攻撃されるばかり。

 

 ゴウタウラスにはギリギリまで戦うなと伝えているが。

 

「やはり、この状態では限界があるか」

 

 黒騎士はブルライアットで赤い鋼星獣の顔を斬る。

 

 相手はのけ反りながらも拳を放つ。

 

 くるりと黒騎士が躱した時、夏凜がトランザの一撃で吹き飛ぶ姿を捉える。

 

「くそっ」

 

 悪態をつきながら青い鋼星獣を踏み台にして夏凜とトランザの間へ割り込む。

 

 ブルライアットでボルトランザの刃と切りあう。

 

「ほう、黒騎士。次はお前が相手か」

 

「トランザ、東郷美森は返してもらう」

 

「それはできない相談だなぁ、ここには鉄壁の守りがある。貴様らの同族ともいえる星獣を壁としてなぁ」

 

「貴様!!」

 

 大振りの一撃をトランザは避ける。

 

「日向……」

 

「どうやらまずは一人、脱落のようだな」

 

 にやりとトランザが笑い、指を鳴らす。

 

 鋼星獣が武器を夏凜へ向ける。

 

「くそっ!」

 

 黒騎士が助けに向かおうとするがボルトランザの一撃を受けて地面に倒れる。

 

 鋼星獣が武器を繰り出そうとした時、ツバサマルが正面から体当たりした。

 

「なに!?」

 

 驚くトランザ。

 

 ツバサマルの上には鶴姫がいた。

 

「まずは獣将ファイター!」

 

 鶴姫は懐から取り出した金色のメダルを投げる。

 

「隠流獣将ファイターの術!」

 

 輝きと共にメダルから白い人型の巨人が現れた。

 

 バトルカーク。

 

 鶴姫が忍術で呼び出した獣将の分身。

 

 スリムな白い巨人は鋼星獣にハイキックを繰り出す。

 

 別の鋼星獣が青いブーメランのような武器を取り出す中、ツバサマルから鶴姫は飛び降りる。

 

 その手の中には巻物が握られていた。

 

「隠流巨大獣将之術!」

 

 くるりと回転しながら巻物を構える鶴姫の背後にバトルカークとは別の獣将が姿を見せる。

 

 獣将ホワイトカーク。

 

 ホワイトカークはブーメランを構えていた鋼星獣へ手を伸ばして動きを封じ込める。

 

「夏凜、立てるか!」

 

「当然!くそっ!なんなのよ、アイツの剣!」

 

「この俺に貴様のようなちゃちな剣が通用するわけがないだろ?」

 

 高笑いしながら現れるトランザ。

 

 夏凜は前に飛び出そうとしたが黒騎士に止められる。

 

「何するのよ!」

 

「今の一撃、体にダメージを受けているだろ。少し離れていろ。ここからは俺達がやる」

 

「え、でも!」

 

「おいおい、黒騎士。貴様の相棒は戦えない筈だ。いくらあの小娘が参戦したとはいえ、限度があるだろう?」

 

「お前もわかっていないな、トランザ」

 

 地面が揺れる。

 

「俺の相棒は確かに同じ星獣と戦うことを拒んだ。だが、戦えないという訳じゃないんだ」

 

 地面が割れてそこからゴウタウラスが姿を見せる。

 

「あの星獣たちも何とかすることもできる」

 

 ゴウタウラスから赤い光を受けて黒騎士が重騎士へ姿を変えた。

 

 二体は合体してゴウタウラスとなる。

 

「さぁ、反撃開始だ!」

 

 ツインブルソードを構えてブルタウラスが動き出す。

 

 二体の鋼星獣たちはそれぞれの武器を放った。

 

 攻撃を受けながらもブルタウラスは突き進んでいき、拳で二体を殴り飛ばす。

 

「バカな!反撃できなかったはずだ。ちぃ!バーテックス!」

 

 トランザが指を鳴らすとサソリ型バーテックスが複数、現れてブルタウラスに襲い掛かる。

 

 バトルカークとホワイトカークがバーテックスを相手にしようとしたが赤い鋼星獣が二体へタックルした。

 

 その攻撃で忍術が解除され、夏凜の傍に鶴姫が落ちてくる。

 

 起き上がった青い鋼星獣が武器でブルタウラスを攻撃する。

 

「そこまでだ!」

 

 直後、上空からガオハンターが降りてくると同時にサソリ型バーテックスを叩き潰す。

 

「黒騎士!遅くなった!」

 

「大遅刻だな」

 

 ガオシルバーに黒騎士は悪態をついた。

 

「遅れた分、ガオゴッドから授かったこれがある」

 

 ガオシルバーは一つの宝珠を取り出す。

 

「百獣召喚!」

 

 呼び出されるのは青緑の鹿の姿をしたパワーアニマル。

 

「ガオディアス!お前の癒しの力であの鋼星獣の呪いを消し去るんだ」

 

 ガオシルバーの叫びにガオディアスは角から光の粒子を放つ。

 

 放たれた光の粒子を受けた三体の鋼星獣は動きを止める。

 

「何だ、この光は!!」

 

 トランザが叫ぶ中、二体の鋼星獣は自らの顔に手を当てた。

 

 輝きと共に凶悪に歪んでいた鋼星獣の顔が変わっていく。

 

 同時に邪悪な気配が失われていった。

 

「バカな!?天の神や俺の施した術が打ち消されたというのか!?」

 

 トランザは怒りで顔を歪めながら姿を消した。

 

「すっごい……」

 

 夏凜と鶴姫は呆然と目の前の光景を見ていた。

 

 その隙を狙う様に小型バーテックスが二人を狙おうとする。

 

 直後、飛来した光弾でバーテックスは粉々になった。

 

「!?」

 

「え、なに!?」

 

 二人が視線を向けると巨大な鋼星獣【ギガバイタス】が銃口をバーテックスへ向けていた。

 

 夏凜と鶴姫を守るように赤い鋼星獣【ギガライノス】、青い鋼星獣【ギガフェニックス】が沸いてきたバーテックスを倒していく。

 

 その直後、輝きと共に遠くの方へ大きな衝撃が起こる。

 

「終わったか…………」

 

 ブルタウラスは小さく友奈達が東郷の救出に成功したことを察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東郷さん!こっちだよ!」

 

「友奈ちゃん!引っ張らないで!歩けるから!」

 

 東郷を助け出した勇者部は勇者の森へ来ていた。

 

 友奈は東郷の手を引いて走る。

 

 倒れそうになりながら東郷はついていく。

 

 少しして、風、樹、夏凜、園子、そして日向の姿があった。

 

「皆さん、どうして?」

 

「遅かったわね、東郷!」

 

「これからお祭りを始めるんです!」

 

「お祭り?」

 

「星祭りらしいわよ」

 

「星獣さん達のお祝いなんだよ~」

 

「え?」

 

 東郷が驚いて見上げるとそこにはゴウタウラス、ギガライノス、ギガフェニックス、そしてギガバイタスにパワーアニマル達の姿がある。

 

「アタシ達もよく知らないんだけど、平和を祈る祭りらしいわよ?ま、料理とかはほとんど日向と大神さんが用意してくれたんだけどね~」

 

 風の言葉に東郷は大神と日向へ視線を向ける。

 

「わっしー、キミが無事でよかったよ」

 

 笑みを浮かべる大神といつもと同じ表情の日向。

 

 しかし、当たり前の日常へ東郷は戻れたのだということを知る。

 

「ありがとうございます!」

 

 嬉しそうに東郷は微笑む。

 

「じゃあ、星祭り、はじめるわよぉ!」

 

 風の言葉を合図に星獣とパワーアニマル達が空に向かって吼える。

 

 ギガバイタスが空に向かって光弾を放った。

 

 それが星祭り開始の合図となる。

 

 樹や園子たちは興味津々という様子でパワーアニマルやギガライノス、ギガフェニックスと接していく。

 

 久しぶりに人間と触れ合えるからかギガライノス達はとても楽しそうに園子達と触れ合っていた。

 

 巨大なギガバイタスと風が写真を撮る。

 

 大神がどこからか取り出した笛で音色を奏でだしたことで樹が歌を唄い、その音色にガオディアスが嬉しそうな声を上げる。

 

 ゴウタウラスはのんびりと周りを見ていた。

 

 皆はジュースや食べ物でわいわいと楽しんでいる中、日向は離れたところで木々にもたれている。

 

「日向さん」

 

 そんな彼に東郷が声をかける。

 

「祭り、楽しんでいますか?」

 

「あぁ、こんなに騒いでいるのは久しぶりだ」

 

「そんな風に見えませんよ」

 

「そうか」

 

 淡々と答える日向に東郷はちらりと見上げる。

 

「日向さん」

 

「なんだ?」

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

「助けたのは結城友奈達だ。俺は何もしていない」

 

「いいえ、日向さんが動いてくれなかったら……きっと、私は贄になっていたと思います……そ、その」

 

「無理するな」

 

 言葉を紡ごうとする東郷の手を日向はやんわりと包み込む。

 

「怖いことをすぐに忘れろとはいわない。だが、無理はするな。お前のことを心配している奴がいることを忘れるな」

 

「……日向さんも」

 

「ん?」

 

「日向さんも、私のことを心配してくれますか?大事だと……思ってくれますか?」

 

 見上げてくる東郷の額を日向は小突いた。

 

「痛い……」

 

「当たり前のことを聞くな」

 

 日向は東郷から視線を逸らす。

 

「大事だと思っていなかったら俺は助けようとしない」

 

 その言葉に東郷の頬は赤くなる。

 

「東郷さーん!」

 

「こらぁ!東郷!一人だけ日向といちゃつくなど許さんぞ!お前も来るのじゃー!」

 

「先輩!鶴姫さんが忍術でカラオケマシンをだしたんです!楽しみましょう!」

 

「日向!アンタも来るのよ!一人だけ蚊帳の外なんてなしだからねぇ!」

 

「日向さーん」

 

 わいわい騒いでいる勇者部の姿に東郷は駆け出す。

 

 ぴたりと立ち止まって東郷は振り返る。

 

「日向さん、ありがとうございます」

 

 彼女はそういって駆け出す。

 

 その後ろ姿を見ている中。

 

「気付いたか?」

 

「あぁ」

 

 流星の問いかけに日向は答える。

 

「どうするつもりだ?」

 

「方法はある……」

 

「それをすれば、どうなるかわかっているか?」

 

「当然だ」

 

 迷わずに日向は答える。

 

 その姿にヤミマルはため息を零す。

 

「そうかい、楽しい宴だ。邪魔をするつもりはないが……お前も楽しんでおくことだな」

 

「楽しんでいる」

 

 短く答えていると友奈がやってきて日向の手を引く。

 

「ほら!日向さんも行きましょう」

 

「あぁ、わかった」

 

 綺麗な夜空を見上げながら日向は歩き出す。

 

 




簡単な説明。


ギガバイタス

ギガフェニックス

ギガライノス

星獣戦隊ギンガマンで登場した星獣。宇宙海賊バルバンに滅ぼされた星獣が改造された姿。
元々の星獣としての姿はあったが改造されてからは合体直後くらいしか姿を見せない。
ちなみにギガバイタスは戦艦。
ギガフェニックスは戦闘機、
ギガライノスは陸戦機で構成されている。




獣将ホワイトカーク
獣将バトルカーク

これらは忍者戦隊カクレンジャーの鶴姫ことニンジャホワイトの使うロボ。
ホワイトカークは巻物を使うことで出現、
バトルカークはドロンチェンジャーのメダルを使うことで召喚可能。
バトルカークは自立行動もできるが忍者と一体化することで戦えることも可能。





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黒騎士と聖夜

クリスマスイベントです。

ちなみに本編だよ?


 

「日向はクリスマスの予定はどうかしら?」

 

「いきなりなんだ?」

 

 犬吠埼家のリビング。

 

 彼女達と夕食を共にした日向へ風が唐突に問いかける。

 

「クリスマスは予定がなければ勇者部でパーティーをするんです。日向さんも来てほしいんです!」

 

 隣に座っている樹が日向の体を揺らす。

 

「クリスマス、か」

 

 日向は少し考える。

 

 赤龍軒はクリスマスに予定はない。

 

 町内会はクリスマスムードだが、今回は天火星亮に予定があるらしく、大神と日向はフリーだった。

 

「特に予定はないな」

 

「じゃあ!」

 

「あぁ、参加することにしよう」

 

「やった~!」

 

「樹、はしゃぎすぎよ」

 

「お姉ちゃんだって、頬が緩んでいるよ!」

 

 嗜める風だが、その顔は緩みに緩み切っていて異性の前へ出してはいけないだろう。

 

 日向はどうかって?好きな相手だから良いのだ。

 

 二人の楽しそうにしている姿を見て、日向も小さな笑みを浮かべる。

 

 だが、知らなかった。

 

 日向の前に立ちはだかる【サンタコス】という強大な敵の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者の森。

 

 そこへ日向は足を運ぶ。

 

 この森は特別な結界が施されており、普通の人は愚か大赦の人間がやってくることはない。

 

 日向が踏み込むと大地を揺らしてゴウタウラスが姿を現す。

 

「ゴウタウラス、傷はどうだ?」

 

 問題ないというようにゴウタウラスは吼えた。

 

「そうか、他の仲間の様態はどうだ?」

 

 ゴウタウラスの言葉に背後から人型の姿をしたギガバイタス、ギガフェニックス、ギガライノスが姿を見せる。

 

 ギガフェニックスとギガライノスに至っては元気よく手を振っていた。

 

 小さく日向も手を振り返して奥に向かう。

 

 彼の手には花束が握られている。

 

 彼が歩むのは勇者たちが眠る場所。

 

「ここで眠っていたんだな」

 

 日向は建てられている墓のようなものへ順番に花束を置いていった。

 

「柄にもないことはするものじゃないな」

 

「三百年もまたしているんだ。これくらいは当然だろ」

 

「お前か」

 

 振り返ると流星光が立っていた。

 

「やれやれ三百年も待たせるとはお前も罪な男だな」

 

「殺されても仕方ないな」

 

「そんな楽な方法、アイツらは選ばんだろう」

 

「……話がある」

 

 日向の言葉に流星光は無言でついてこいと顎で促す。

 

 二人の間に会話はなく、木々が生い茂る深い場所へやって来る。

 

「ここならいいだろう、話をしようか」

 

「……俺が話すのは天の神のことだ」

 

「ぶれないな、貴様は」

 

「当然だ。俺は復讐を果たす」

 

「やれやれ……花束じゃ許されないだろうな」

 

「……」

 

 互いににらみ合う日向と流星。

 

 しばらくして折れたのは流星光だった。

 

「仕方ない。天の神を倒す方法だが……一つだけある」

 

「あるのか?」

 

「これだ」

 

 流星が取り出したのは金色の戦斧。

 

「なんだ、その斧は?」

 

「ナイトアックス……遠い昔、ある存在を滅ぼすために作られた武器だ。コイツを貴様が使いこなすことができれば天の神の核を潰すことができるだろうな」

 

 日向はナイトアックスを掴もうとする。

 

 直後、電撃と爆発によって日向は吹き飛ぶ。

 

「やはりこうなったか」

 

 ため息を零す流星の傍で日向は立ち上がる。

 

「どういうことだ!?」

 

「お前の体内にあるアースが原因さ」

 

「アース?」

 

「地球に存在したギンガの森に住まう人々が使えた力だ」

 

「その力が俺に宿っているというのか?」

 

「覚えはないか?体から沸き起こる炎のような力の存在を」

 

 流星に問われて日向は思考する。

 

「確かに覚えがある」

 

「その力があると拒絶反応が起こり、所持したものは電撃と共に大ダメージを受ける」

 

「……つまり、俺には使いこなせないと?」

 

「方法は一つ、アースを捨てる事だ」

 

「どうすればいい?」

 

「その方法は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリークリスマァス!」

 

 パァンパァンと鳴り出すクラッカー。

 

 勇者部の室内はクリスマスの飾り着けがなされ、友奈達が用意したクリスマスツリーが置かれている。

 

 机には大きなクリスマスケーキ、お菓子、そしておいしそうな料理が置かれている。

 

 日向はそんな部屋で頭にちょこんとクリスマスデザインのとんがり帽子をかぶっていた。

 

 クラッカーを鳴らしたのは風と友奈。

 

 日向の向かい側には大神、そして鶴姫が着席している。

 

「落合」

 

 大神は真っ直ぐに日向を見ていた。

 

 

――助けてくれ。

 

 

 その目は日向へ助けを求めていた。

 

 小さく日向は頷いて。

 

 

――諦めろ。

 

 

 必死に助けを求めている大神へ日向はそういった。

 

「大神先生、何を見ているの?」

 

 助けを求めていた大神へ鶴姫が声をかける。

 

 いつもの忍装束と異なり彼女はサンタコスという姿をしていた。

 

 ミニスカートで少しヘソがみえそうでみえないそんなデザインのコスチューム。

 

 顔は帽子などで隠すようにしているが真っ直ぐに大神を見ていた。

 

 その目はとても暗く、冷たい。

 

 ギュッと大神の腕を抱きしめているがミシミシと力が強くなっていた。

 

「いや、別に、何も……」

 

「そっか、そうだよな!あ、これ食べようよ!」

 

 

 

 

「あっちは大変だな」

 

「日向さぁん」

 

――こっちも人のことは言えないが。

 

 心の中で思っていると園子がニコニコと日向の腕に抱き着いている。

 

 すりすりと日向の腕に顔をこすりつけていた。

 

 園子もサンタコスチューム、ではなく、トナカイのコスプレだった。

 

 着ぐるみのようなモコモコした服装で触れてくる部分も暖かい。

 

「日向さん」

 

 園子を引きはがそうと考えていた時、日向の片腕に小さな衝撃がくる。

 

 横へ視線を向けるとニコニコと微笑んでいる東郷美森がいた。

 

 ちなみに彼女はサンタコス。気にしていないのか、ヘソが丸出しになっており、風曰く「凶器」がくっきりとみえている。

 

「はい、あーん」

 

 笑顔を浮かべてケーキを載せているフォークをこちらへ差し出してくる。

 

「東郷、俺は一人で食べられ――」

 

「あーん」

 

 瞳から光を失った目で東郷は日向を見つめる。

 

 断れば、恐ろしい目にあうことは身をもって知っていた。

 

 日向は大人しくケーキを頬ぼる。

 

「あ~わっしー、ずるいんだぁ」

 

「そのっちもやればいいじゃない」

 

 瞳から光を戻して笑顔を浮かべる東郷に園子は頷いた。

 

 このやり取りは我慢できなくなった夏凜(サンタコス)と風(トナカイコス)が割り込むまで続いた。

 

「ふっふっふっ、さぁ、プレゼント交換の時間よ!」

 

 何やら不敵な笑みを浮かべている風。

 

「何で不敵な表情を浮かべているのよ。アンタは」

 

「わかっていないわね。夏凜は、これは戦争なのよ」

 

「その通りです!」

 

 風の言葉に激しく同意する樹。

 

 二人の態度に夏凜は首を傾げる。

 

「むふふふ、頑張るんだよ~~」

 

「結城友奈!頑張ります!」

 

「その意気よ!友奈ちゃん!」

 

 その後ろで園子、友奈、東郷も燃えていた。

 

「え、何で!?」

 

「考えるな。お前はまだまともでいてくれ」

 

 戸惑う夏凜の横で事態を知っている日向は肩を叩く。

 

「(プレゼントは当然のことながら日向も用意している。中身は知らないけれど、私が手に入れる!)」

 

「(いつもは呆れるところだけれど、私だって日向さんのプレゼント欲しいもん!頑張らなきゃ!)」

 

「(日向さんのプレゼント~~、どんなものかわからないけれど、欲しいんだよ~。できれば私のプレゼントは日向さんが受け取ってほしいなぁ)」

 

「(プレゼントかぁ、どんなものなんだろうなぁ。日向さんの考えたものだから、私達の誰に当たっても困らないものかな?)」

 

「(ふふふふ、女には負けられない勝負があるのよ。必ず手に入れてみせる。もし、可能なら友奈ちゃんのプレゼント、どちらにしても私の友奈ちゃん、日向さんコレクションに新しいものが得られるわ)」

 

 何を考えているか手に取るようにわかる。

 

 日向は静かにため息を零した。

 

 くじ引きの結果、日向のプレゼントは夏凜が手にする。

 

 尚、プレゼントの中身は可愛いぬいぐるみだった。

 

 勇者部たちが楽しんでいたころ、大神は鶴姫に追い詰められていく。

 

 

「友奈」

 

 楽しい時間の最中、日向はちょんちょんと友奈(サンタコス)の肩を叩く。

 

「日向さん?」

 

「話がある……少し外に出ないか?」

 

「はい!」

 

 笑顔を浮かべる友奈は周りを見る。

 

 風の騒ぎに巻き込まれていて気付く様子はない。

 

 頷いた友奈は日向と共に外へ出ていく。

 

 廊下を歩いて外が見える場所へ出ると冷たい風が頬を撫でる。

 

「くしゅん」

 

「風邪をひくぞ」

 

 日向が友奈の首へマフラーを巻いた。

 

「暖かい…………それに、日向さんのにおいだ」

 

「臭いか?」

 

「そんなことないです!幸せになれる気分です」

 

「そうか……」

 

 日向は友奈をまっすぐに見つめる。

 

 何も言わずに沈黙した時間が過ぎていくことから次第に友奈は緊張していく。

 

「結城友奈」

 

「はい!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる友奈は戸惑ってしまう。

 

「こういう時、どういえばいいのか悩み、考えた……だが、こういう時はシンプルが良いのだろう」

 

「は、はい……」

 

「……結城友奈」

 

 顔を赤らめる友奈に日向は顔を近づける。

 

 

「――俺はキミを愛している」

 

 

 日向は告白と同時に友奈へ口づけをした。

 



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黒騎士と■■

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

この話も残るところ2~3話くらいで終わります。

次回は番外編を予定しております。




 クリスマスから六日が過ぎて元旦。

 

 初詣へ勇者部は来ていた。

 

「日向さんだぁ~」

 

 着物をきて彼女達は初詣で参拝している。

 

「(今年も日向と樹と幸せな毎日を送れますように受験も合格しますように!)」

 

「(お姉ちゃんと日向さんと幸せな日々を送れますように、あと、日向さんと遊びに行ける回数が増えますように)」

 

「(今年こそ!日向に勝てますように!勝って必ず告白するんだから!)」

 

「(ふふふふ~、今年こそは日向さんと二人で生活することを目指すんだぁ~あぁ、考えただけで日向さん成分が欲しくなるなぁ~)」

 

「(友奈ちゃんと日向さん、皆が幸せに生活できますように、願わくば、友奈ちゃんと共に日向さんと既成事実を)」

 

「(えっと、皆毎日、元気で生活できますように……あ、あと、デートができたらいいです!)」

 

 彼女達がお参りを終えたタイミングで私服姿の日向と大神を見つける。

 

「!!??」

 

 笑顔で手を振る一同の中で、一人、過剰な反応を起こした者がいた。

 

 幸いにも誰も気づかない。

 

「みんなも参拝か?」

 

「ええ!二人は?」

 

「俺達はこれからさ、これが終わったら勇者の森へいって、ガオウルフ達に挨拶するけれど」

 

「星獣に挨拶かぁ、お姉ちゃん。私達も行こうよ!」

 

「そうね!前は色々とお世話になったし……みんなもいいでしょ」

 

「ええ、問題ないです」

 

 同意したところで一同は二人の終わりを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落合は何を願ったんだ?」

 

「……バーテックスが滅びる事……あと、彼女が健康に過ごせますように……大神は?」

 

「平穏に過ごせますように……本当に」

 

「受け入れればいいだろうに」

 

「無理だ……まさか、あんなことになるなど、信じられるか?」

 

 大神はため息を零す。

 

 その事件に少しだけ関わった日向はそれ以上の追及をしない。

 

 お互いの傷を刺激しないために。

 

 日向達は勇者部のメンバー共に勇者の森へ足を運ぶ。

 

「大神先生~!」

 

「うぐっ!」

 

 森へ入ると同時にどこからか鶴姫が現れて大神を拉致した。

 

「幸せそうだねぇ~」

 

「えぇ、幸せになるといいわ」

 

 拉致られた大神と鶴姫の姿を見て園子と東郷がほのぼのした表情だった。

 

「アタシ、あの二人の言葉に疑問を抱くわ」

 

「考えるな。身のためにも」

 

「そうね」

 

「きっと、幸せですよ。鶴姫さんは」

 

「「(この子、いっちゃったよ)」」

 

 夏凜と日向は同時に心の中でシンクロした。

 

「羨ましいわねぇ~、二人の仲が良くて」

 

「風、後ろから抱き着くな」

 

「いいじゃない~、新年よ?元旦よ。こういう時くらい甘えたいわよぉ~」

 

 ニコニコと抱き着いてくる風。

 

 日向は剥がそうとするも風は笑顔で強くしがみついてきた。

 

 抵抗むなしく、日向は風を抱えるようにしたまま、森の中を進む。

 

 そんな彼の姿を不満そうに見つめる者がいた。

 

「友奈ちゃん?」

 

「なぁに、東郷さん?」

 

「機嫌が悪そうに見えたけれど」

 

「そんなことないよ!それより星獣さんに会うのが楽しみだよ!」

 

「そうね。星祭りにあってそれっきりだから私も楽しみだわ」

 

 友奈と東郷は笑顔で向かう。

 

 森の奥ではギガバイタスが戦艦の状態になっている。

 

「ギガバイタス~!あけましておめでとうございます!」

 

 友奈の大きな声にギガバイタスも巨大な口を開けて答える。

 

 その直後、ギガバイタスはロボット形態に姿を変えて、ギガライノスとギガフェニックスを射出。

 

 二体の鋼星獣は巨大な手を振り上げて友奈達を出迎える。

 

 少し離れたところではゴウタウラスが吼える。

 

 ガオウルフが地面を蹴り、友奈達の傍へやってきた。

 

 嬉しそうに話す勇者達。

 

 彼女達の様子を少し離れたところで日向は見ていた。

 

「っ!」

 

 一瞬、日向は顔をしかめる。

 

 すぐに表情を戻す。

 

 なぜなら園子が嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきたからだ。

 

 日向はもたれていた木から離れて彼女達のところへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが何かわかるか?」

 

 流星から見せられたのは丸薬のようなもの。

 

「何だ、それは?」

 

「お前のアースの力を一時的に封じ込める薬だ。服用回数を重ねることにアースを封印する時間が長くなる。その間にお前はナイトアックスの力を使いこなしてもらう」

 

「そうか」

 

 頷いた日向は丸薬を飲み込む。

 

 少しばかり苦みを感じるがそれだけだった。

 

 日向は戦斧を手に取る。

 

 ずっしりとした重みを感じた。

 

 先日のような雷撃は起こらない。

 

「制限時間は十分、始めるぞ」

 

 流星の言葉に日向は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。ここまでの疲労を感じるのは」

 

 勇者の森を抜け出した日向は疲労を覚えながら歩いていた。

 

 額には小さな汗が浮き出ている。

 

 黒騎士になってからというものの疲労を感じたのは最期の戦いの時くらいだろうか。

 

 それ以来は特に記憶していない。

 

「く、そ!」

 

 歩き出した時、日向は顔をしかめる。

 

 胸元を掴んで何かを堪えた。

 

 しばらくして痛みが引いたのか日向は歩き出す。

 

「(呪いというのはこうも厄介なものなんだな)」

 

 息を吐いた直後、日向の視界を青い影が過ぎ去った。

 

 白い空間。

 

 そういうべき場所に落合日向は立っていた。

 

「ここは」

 

「普通の時間とも違う、隔離された空間というらしい」

 

「その声は……乃木若葉だな」

 

「久しぶりだな、黒騎士、いや、日向」

 

 目の前に現れたのは乃木若葉。

 

 西暦の時代、バーテックスと戦い、生き残った勇者の一人。

 

 当時の姿と変わらない彼女と日向は向き合う。

 

「遠回りしても意味がないから単刀直入に告げよう……日向、今すぐに呪いを本来の持ち主へ送り返せ」

 

「断る」

 

「わかっているはずだ。その呪いを受け続けていればお前は」

 

「死ぬだろう」

 

「だったら」

 

「あんな純粋無垢な奴が犠牲になることなど認められない」

 

「だが、今のままではお前は春を迎える前に死んでしまう」

 

「だったらやることは一つだ」

 

 迷わずに日向は告げる。

 

「天の神を今度こそ滅ぼす」

 

「………………今度は、六大神も助けてくれるとは限らない」

 

「元々、誰かの助けを借りるつもりもない。俺は俺の目的のために行動する。そのために生きてきた。その寿命を目的のために費やすだけだ」

 

「…………それは」

 

「天の神を滅ぼして俺の復讐を果たす」

 

「私達がお前に生きてほしいと願っても?」

 

「すまないな」

 

 日向は小さく謝罪する。

 

 目の前の若葉は悲しそうな表情を浮かべる。

 

 今にも泣きそうだ。

 

 だが、日向は止まらない。

 

 止まれない。

 

 西暦の時代と同じだ。

 

 落合日向の根本は変わっていない。

 

 彼の目的はただ一つ。

 

「天の神、奴を滅ぼす」

 

 大切な弟の命を理不尽にも奪い去った存在に思い知らせてやること。

 

 それが落合日向の存在理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、私だけでは止められないか」

 

 白い空間の中で若葉はため息を零す。

 

 本当なら一人で止めるつもりでいた。

 

 しかし、彼を止めるのに自分だけでは無理だという気持ちもあった。

 

「難しいな、全く」

 

 全員で挑んで囲まないといけないのだ。

 

「時が近づいているな」

 

 

 

 




次回は番外編、短いけれど、ヤンデレ暴走がみれますよ?

今年もよろしくお願いします。


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番外編:薬物は危険→ヤヴァイKiss

仕事が忙しくて、中々、執筆時間がとれない。

次回は本編を予定。

そして、謝罪をします。


とあるキャラの存在を私は忘れていました!


 

「落合、どうすればいい」

 

「諦めろ。お前に逃げ場はない」

 

 日向の腕にしがみついてくる大神の表情は真剣だった。

 

 対する日向は冷静にけれど、残酷な事実を彼へ伝える。

 

「諦められるか!年の差がどのくらいあると思う!?俺に彼女を受け入れる資格はない」

 

「……だそうだぞ」

 

「え?」

 

 日向の言葉に大神は振り返る。

 

「先生~、酷いなぁ、私はこんなにも先生のことを思っているのにさぁ」

 

 入り口から現れる鶴姫。

 

 ニコリと微笑んでいるがその瞳に光はない。

 

 獲物は絶対に逃がさないという様に瞳は大神を見つめて離さなかった。

 

「あ、あぁ!」

 

「忍法!縄縛りの術」

 

 逃げようとした大神目がけて、ロープが迫る。

 

 しかし、日向が傍に置いてあった消火器を身代わりとして投げた。

 

 ロープは消火器に絡みつく。

 

 バキバキィ!と音を立てて形を変える消火器。

 

「邪魔するの?」

 

「邪魔も何も、大神を捕まえたら俺も捕まえるのだろう?」

 

「あ~、バレていたか、そりゃねぇ、親友の恋路を応援するのは当然じゃん?」

 

「“薬”で暴走しているだけだ。冷静になれ」

 

「知らないね!」

 

 そういって迫る鶴姫から逃げる二人。

 

 頭の中にはどうしてこうなったと思うと同時に二時間前の記憶がよみがえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、これは?」

 

 赤龍軒。

 

 仕事を終えた大神は机の上に置かれている小瓶に気付く。

 

 首を傾げながら瓶を手に取る。

 

 その時にはらりと小さなメモ用紙のようなものが置かれていた。

 

 不思議に思いながら大神は匂いを嗅ぐ。

 

 別に悪臭のようなものはない。

 

 喉が渇いていた彼はそれを半分、飲んでしまう。

 

「さて、ガオウルフにでも会いに行くか」

 

 それが悲劇のはじまりになるなど大神は知らなかった。

 

 しばらくして日向が戻って来る。

 

 大神は席を外していた。

 

「これは」

 

 日向は置かれている小瓶を手に取る。

 

 ちらりと視線を地面へ向けると落ちているメモ用紙が目に入った。

 

『拝啓、黒騎士様。こちらは大赦の過激派が密かに開発していた薬になります。なんでもヤンデレを暴走させるというものらしく、不用意に廃棄することも難しいため、黒騎士様に処分をお願いします。仕事がお忙しかったため、伝言を残しておきます。決して服用しないでください  三好春信』

 

「誰が飲んだか知らないが……どこかで処分しない――」

 

「落合、助けてくれ!」

 

 窓から大神が飛び込んでくる。

 

「窓から入って来るな。玄関からにしろ」

 

「そんなことをいっていられないんだぁっと!」

 

 大神は床へ防ぐ。

 

 少し遅れて、手裏剣が通過して壁に突き刺さる。

 

「器用だな」

 

 手裏剣はハートの形を模して壁に刺さっていた。

 

「大神先生~、どこにいくのさぁ」

 

 音を立てずに現れたのは鶴姫だ。

 

 彼女は口の半分下が隠れているが笑みを浮かべていることがわかる。

 

 ちなみに瞳に光はない。

 

「何をした、大神?」

 

「わ、わからない!勇者の森でガオウルフと話をしていたら急に鶴姫に襲われたんだ」

 

「……まさかと思うが、お前はこれを飲んだのか?」

 

「そ、それ!」

 

「何を話しているのか知らないけれど、私の邪魔をするなら容赦しないよ!!」

 

 鶴姫が手裏剣を振り投げるより早く、日向は卓袱台を鶴姫へ蹴り飛ばす。

 

 卓袱台を払いのけている隙に日向は大神を連れて駆け下りていく。

 

「ふふふ、逃がさないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一体、どうなっているんだ!?」

 

「これだ」

 

 隣で騒ぐ大神に日向は大赦が残していったメモ用紙をみせる。

 

 その内容に大神の目が開かれた。

 

「大赦を叩き潰す!」

 

「早まるな。置いてあるメモに気付かなかったお前のミスだ」

 

 向こうに今回は落ち度が少ない。

 

 大目にみてやろうと思う日向。

 

 それで今までのものを清算する気はさらさらないが。

 

「落合」

 

「なんだ?」

 

「解毒剤は?」

 

「メモの続きによると飲んでしまった場合、最低、一日は効果が消えないらしい」

 

「落合」

 

「なん――」

 

 続きを言う前に小瓶の中身を日向は飲まされる。

 

 ゴクンという音が静かな空間に響いた。

 

「大神、どういうつもりだ」

 

「一蓮托生だ!何があろうとお前は俺を助けることに協力しろ!俺も協力する!」

 

 目がグルグルしながら叫ぶ大神。

 

 どうやら鶴姫に襲われたことで相当参っているようだ。

 

「だったら私が癒してあげる!」

 

 声にならない悲鳴を上げて逃げようとする大神。

 

「忍法!」

 

「よけろ!」

 

「援軍召喚の術!」

 

 鶴姫が何かを呼び寄せる。

 

「…………最悪だ」

 

 煙の中から現れたのは。

 

「日向~、お姉さんが癒してあげるわぁ」

 

「日向さん!全力で捕まえます!」

 

「友奈ちゃんの言うとおり、フフフフ、覚悟してくださいね?」

 

「お姉ちゃんと一緒に捕まえて、ふふふふ」

 

「覚悟しなさい!この前の雪辱を晴らしてやるわ!」

 

「えへへへ~」

 

 勇者部が召喚された。

 

 しかも完全武装状態。

 

 逃げるという選択肢しか存在しなかった。

 

 襲い掛かる勇者達から二人は逃げ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解毒剤を探す!それしか手はない!」

 

 鶴姫に襲われて服を破かれた大神は濁った瞳で言う。

 

「大赦には連絡を入れてある。解毒剤についてはいずれわかる……と噂をすれば」

 

 日向は端末を取り出す。

 

 相手は三好春信だ。

 

「解毒剤については?」

 

「大赦が指定する場所に隠したそうだ」

 

「隠す?どういうことだ」

 

「偽物の解毒剤を勇者部に襲撃されて破壊されたらしい……そのため、破壊を防ぐための処置だという」

 

「そうか、では、俺達は」

 

「逃げ回りつつ、薬の回収を狙う」

 

「ならば、急ぎ」

 

 ヒュンと弾丸が二人の目の前を通過した。

 

「あらあら、話し合いかしら?できるなら私と友奈ちゃん、日向さんの三人で話し合いをしたいのだけれど?」

 

 ニコニコとけれど油断のない瞳で東郷美森はライフルの銃口を二人へ向ける。

 

 東郷をみて、二人は同時に駆け出す。

 

「逃がさない!!」

 

 上空から二刀流の夏凜が落下してくる。

 

「落合、ここは俺に任せろ」

 

 大神はガオシルバーへ変身すると夏凜を蹴り飛ばす。

 

 攻撃を受けてバランスを崩した隙をついて日向は走る。

 

「逃げられてしまったわね。でも、大丈夫。日向さんの相手は友奈ちゃん達にお願いするから……だから」

 

「アンタはアタシ達が捕まえるわ」

 

 前後を挟むように東郷と夏凜の二人が戦装束で阻む。

 

「これは苦しいかもな」

 

 ガオシルバーは勇者二人を前に身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガオシルバーと別れた黒騎士は急ぎ足で目的地を目指す。

 

 大赦の人間が目印として残しているらしい。

 

 黒騎士が目的地を見つけた時。

 

「勇者パンチ!」

 

 目の前の地面が陥没すると同時に衝撃が襲う。

 

 咄嗟に身構える黒騎士。

 

 鞘からブルライアットを抜かなかったのは奇跡に近い。

 

「えへへへ、日向さん!」

 

「友奈、お前が阻むのか!」

 

「当然です!だって他の人がいつリードするのかわからないもん!邪魔されないように拘束します!」

 

「…………っ!」

 

 黒騎士は前に踏み出す。

 

 少し遅れてワイヤーが黒騎士のいた場所を通過した。

 

「外した!」

 

「樹ちゃん!」

 

「そこか!」

 

 振り返ると同時にブルライアットで狙撃する。

 

 急所は外しているので動きを封じた程度だろう。

 

 そのまま友奈の横をすり抜けるようにして走り出す。

 

 はずだった。

 

「ドーン!」

 

 横からのタックルを受けて黒騎士はバランスを崩す。

 

 倒れたと同時にブルライアットが手から離れる。

 

「えへへ、日向さーん」

 

 現れたのは乃木園子。

 

 笑顔で槍による突貫をした恐ろしい少女である。

 

 彼女の攻撃によって日向の姿に戻ってしまう。

 

 覆いかぶさるように乃木園子は上から日向を抱きしめる。

 

 離れようとした日向だが、万力のようにしがみついていた。

 

「は、離せ!」

 

「えへへ、日向さん成分、補充中なんだよ~」

 

 笑顔でほんわかした声を出す園子。

 

 ニコニコと樹がワイヤーで日向の足を拘束する。

 

「これで日向さんの動きは封じたよ!これで後は」

 

 日向を包囲しようとする友奈と樹。

 

「くそっ」

 

 これまでか、と日向が諦めた時。

 

「待て待てまてぇい!」

 

 空から雲にのってニンジャマンが現れる。

 

「お前達!暴走はそこまでだ!」

 

 彼の手には小瓶が握られている。

 

「ニンジャマン!」

 

「あ、間違えた」

 

 ニンジャマンは日向を見ると雲に乗って去っていく。

 

「おい!?」

 

 流石の日向も慌てる。

 

 去っていったニンジャマン、呆然としていた二人(園子は日向の首筋に吸い付いていた)はすぐに再起動した。

 

 この後、日向は冷静だった風の手によって救われる。

 

 尚、風は助けた代わりにデートの約束を冷静に取り付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大神はピンチだった。

 

「大神先生~」

 

 口元を覆っていた布を外して素顔を晒す鶴姫。

 

 大神は逃げたいが東郷と夏凜の手によって動きを封じ込まれ、Gフォンを奪われていた。

 

 にこりと笑みを浮かべて顔を近づける鶴姫。

 

 大神は逃げようとするけれど、両手が顔を抑え込む。

 

「ここまで、か!」

 

「そこまでだ!」

 

 諦めようとした時、目の前にニンジャマンが現れて鶴姫を突き飛ばす。

 

「お前は……」

 

「俺はニンジャマン!解毒剤だ。ほら、これを飲め!!」

 

 ニンジャマンは小瓶を大神へ差し出す。

 

「これをお前が飲めば、皆は元に戻る!」

 

「よ、よし!」

 

「させるかぁああああああ!」

 

 叫びと共に鶴姫が刀でニンジャマンを切り伏せる。

 

 宙を舞う小瓶、

 

 掴んだのは鶴姫だった。

 

「これを飲み干せば!」

 

 ニヤリと鶴姫は瓶を開けて、中身を飲み込む。

 

 大神は後先考えず、鶴姫に顔を近づける。

 

 ズキューン!

 

 大神と鶴姫はキスをしていた。

 

 もう一度、言おう。

 

 大神と鶴姫はキスをしていた!

 

「あ」

 

 目を見開いている鶴姫の口を大神は無理やりこじ開ける。

 

「チュ……ン……ァ………アハ」

 

「ググン!ゴクン!」

 

「あ、ヤバイ」

 

 恥ずかしさからニンジャマンは目を逸らす。

 

 その後ろで気絶して、目を回している東郷と夏凜の姿があった。

 

 鶴姫とディープなキスをして、大神は解毒剤を飲み干す。

 

 日向は効果がきれるまでひたすら逃げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

「助かったが、俺は鶴姫に会うことに抵抗がある」

 

「安心しろ、向こうはガンガンお前へ会いに行くぞ」

 

 赤龍軒の休憩時間。

 

 日向と大神は話をしていた。

 

 解毒剤のおかげで難を逃れたが大神はしばらく鶴姫と会いたくないという。

 

 しかし、日向は知っている。

 

 鶴姫は遠くから大神を見ていることに。

 

 チャンスがあれば猛アタックを仕掛けるだろう。

 

「頑張ることだ」

 

「どこへいくつもりだ?」

 

「風との約束だ。デートに行ってくる」

 

 告げると日向は出ていく。

 

「……アイツの方がよほど大変だな」

 

 ぽつりと大神は呟いた。

 

 尚、風とのデートを察知した他の勇者部が妨害しようとした結果、暴走した彼女に肉体的な意味で捕食されかけたことは記憶に刻まれる。

 

 ニンジャマンはどういうわけか助けに来てくれなかった。

 

 




忘れていました。ニンジャマンの存在を。


次回は本編。

その後は本編の予定、本編、残り二話ほどになります。


詰め込んで終わらせる予定です。


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黒騎士と大赦

本編、後二話といったけれど、挟まないといけない話があることを忘れていました。

これを除いてあと、二話で終わります。多分、メイビー


勇者の森。

 

 全身を痛みに包まれながら日向は起き上がる。

 

 ナイトアックスを手にして飛来する砲弾を切り裂く。

 

「前よりも使いこなせているようじゃないか」

 

 ヤミマルの言葉に日向はナイトアックスを構えようとして落とす。

 

「おいおい、流石に二日間ぶっ通しはきついようだな」

 

「問題ない。前はバーテックスと一カ月間戦ったこともある」

 

「消耗が激しいんだよ」

 

 呆れたようにいうヤミマルの言葉に日向はナイトアックスを布で包み込む。

 

「ゴウタウラス、頼むぞ」

 

 相棒にナイトアックスを預けた日向は森を抜け出す。

 

 ゴウタウラスは心配そうに日向を見下ろしていた。

 

「大丈夫だ。帰って休む……お前も休んでおけよ」

 

 吼えるゴウタウラスに笑みを浮かべながら日向は外へ向かう。

 

 四国の商店街に入ったところで立ち止まる。

 

「何の用だ?」

 

 目の前に停車したのは大赦の印が入っている車。

 

 そこから一人の男が降りてくる。

 

「お初にお目にかかります。黒騎士様、大赦の三好春信といいます」

 

 頭を下げる大赦の人間。

 

 その名字に覚えがあるけれども日向は反応しない。

 

「何の用だと聞いている?」

 

「まずは」

 

 三好は日向の目の前で土下座した。

 

 突然のことに日向は反応しない。

 

「今までの無礼をお許しください」

 

「突然だな」

 

「本来なら貴方様が目覚めた時点で謝罪へ向かうべきでしたが、過激派の力が大きかったために……ここまで遅くなり申し訳ありません」

 

「俺に謝罪などいらない。謝罪すべき相手は誰かわかっていないのか?」

 

「勇者達です。ですが、西暦の時代から貴方に大きな借りが我々はあります。そのことを含めての謝罪です。もし、お許しいただけないのであれば、私の命を」

 

 懐から短刀を取り出そうとした手を日向は止める。

 

「俺は命を奪うために戦ってきたわけじゃない……無駄なことをするな」

 

 短刀を投げ捨てて日向は真っ直ぐに三好を睨む。

 

 表情は変わらない、しかし、その瞳に宿した怒りに彼は気づく。

 

「申し訳……ありません」

 

「謝罪だけなら結構だ。俺は行くぞ」

 

「お待ちください」

 

 三好は立ち上がって日向を呼び止める。

 

「神樹から神託が下されております。貴方様に」

 

「……話を聞こう」

 

 日向は場所を変える。

 

 

 

 

 

「単刀直入に言います。今のままでは貴方はひと月も経たずに死んでしまいます」

 

「そうだろうな」

 

「本来ならば、私も呪いを口に出した時点で呪われてしまいます。ですが、今回は神樹の加護を受けているので、辛うじて無事です。だが、勇者から吸い取る形で受けている貴方の体はボロボロだ。今も生きているのが奇跡と言えるはずです」

 

「さぁな、痛みなど慣れたら気にしなくなる」

 

「二つの神託が貴方に下されております。聴いていただけますか?」

 

「聴くだけだ」

 

「一つ目は呪いを抱えたまま、天の神へ贄として……これは貴方が一番、受けないことでしょう。もう一つは……呪いを抱えたまま、四国から立ち去ってもらうことです」

 

「そうすれば、この国は呪いによる被害を受けないからだろう?」

 

「はい、西暦の時代から我々を守ってもらっている貴方に対して、最低の仕打ちだと思っております。だが、我々は」

 

 

「お前達は大を取って、小をとる組織だ。俺はそれが嫌いだった」

 

 日向は立ち上がる。

 

「どうするかは俺が決める。勇者たちにこのことを話したら俺は大赦を潰すだろう」

 

「心得ております。最後に、黒騎士様」

 

「なんだ?」

 

「本当に申し訳ありません」

 

 心の底からの謝罪に日向は振り返らずに歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、

 

「日向さん?大丈夫ですか」

 

「あぁ、問題ない」

 

 日向と結城友奈の二人はデートに来ていた。

 

 告白してからそこそこの時間が過ぎてからの初デート。

 

 そのために友奈は緊張している。

 

 緊張していたがデート直前まで神経を研ぎ澄ませてきた。

 

 デートを尾行されないように、バレないように必死に偽装を続けてきた。もう大丈夫だろうという妥協を一切せずに彼女は頑張った。

 

 ようやくたどり着けたデート。

 

 誰にも邪魔されるわけにはいかない。

 

 拳を握り締めようとした友奈の手に日向は手を重ねた。

 

「ひゅ!日向さん!?」

 

「どうした?人ごみで迷子になったら困るだろう……それとも嫌だったか?」

 

「そんなことないです!とぉっても!とっても幸せです!!」

 

 はにかんだ笑顔を浮かべる友奈に日向は笑みを浮かべてデートを開始する。

 

「すまないな。こっちが色々と都合が悪くてなかなかデートの時間を作れなかった」

 

「い、いえ!こうしてデートしてくれるんですから嬉しいです!それに……夢だと思っていたので」

 

「夢?」

 

「はい、その、日向さんが私に告白してくれたのが……その、風先輩とか、東郷さん、園子ちゃん……日向さんのことを好きな人が沢山いたので……私なんかが選ばれるとは」

 

「友奈には友奈にしかない魅力がある」

 

「私にしかない魅力?」

 

「あぁ、そこに惹かれた」

 

 日向の言葉が恥ずかしくて友奈は顔を真っ赤になる。

 

「さて、デートだが、こういう場合は服などを見て回ろうと思っているが友奈は何かリクエストあるか?」

 

「いいえ!お願いします!」

 

 友奈が強く握り返したことで日向も同じようにしてショッピングモールへ繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然のことながらその後ろから尾行する者がいた。

 

「まさか、友奈ちゃんが日向さんとデートに繰り出すなんて予想外だった……いえ、友奈ちゃんが私にまで秘密にしたことが驚きだわ」

 

「うふふふ~、おっかしいなぁ、日向さんがゆーゆとデートしているぅ~、これは写真に撮って日向さんに私とデートしてもらうようにお願いしようかなぁ~」

 

 友奈の偽装は完璧といえた。

 

 しかし、東郷と園子の前には無意味に等しい。

 

 瞳から光を失いながら二人は一定の距離で尾行を続ける。

 

 風や樹、夏凜はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デートと言うことでショッピングモール内にて食事をとった。

 

 フードコート内で友奈はうどん、日向は蕎麦をチョイスする。

 

「日向さんって、蕎麦好きなんですね?」

 

「まぁな、昔、やたらと蕎麦を勧めてきた奴らのせいかな、それ以来から蕎麦を選ぶようになってしまった」

 

「そうなんですか……大事な思い出なんですね」

 

「……そうだな、大事な思い出だ」

 

 日向は小さく告げる。

 

「一つ一つが大事な思い出だ、だからどんな些細なことでも大事にすべき何だろう。三百年前の最期の瞬間、俺が学んだことだ」

 

「うーん」

 

「どうした?」

 

「いいえ、あの、私、かなり年上の人とお付き合いしているだぁって思いまして」

 

「三百年と二十年ほどだ」

 

「普通の人じゃありえない!」

 

「良い体験と思っておくといい」

 

「はい!」

 

 笑顔で二人は食事を続ける。

 

 その後ろで怨念のようにみている存在には気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デートが終わり日向は帰り道を歩いていた。

 

「グッ!」

 

 突如、胸元を抑え込んで近くの壁にもたれる。

 

 胸元に襲い掛かる痛みは日に日に大きくなっていた。

 

「やはり、そろそろ決着をつけないといけないようだ」

 

 服をめくる。

 

 胸元には不気味な模様が浮き出ていた。

 

「今度こそ、全てを終わらせよう。そうだ、全てだ!」

 

 拳を壁に叩きつけて日向は立ち上がる。

 

 

 

 




次回から最終決戦を予定。

かなりの長さになる予定です。


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黒騎士と集う勇者達

詰め込み過ぎた。

次に最終回を乗せる予定です。


――日向さんの様子がおかしい。

 

 東郷はここのところの日向の態度に疑問を抱いていた。

 

 理由はわからない。

 

 強いていうなら愛しい人への思いの強さ故の直感だろう。

 

 彼女は発信機を確認する。

 

「勇者の森にいるようね……ほぼ、毎日いるみたい」

 

 東郷は端末の機能をみてため息を零す。

 

 勇者の森で彼は何かをしている。

 

 東郷は彼が何をしているのかが気になった。

 

 もしかしたら天の神との戦いに向けての準備かもしれない。

 

「日向さん」

 

 東郷美森にとって落合日向は初恋の相手だ。

 

 出会いは特筆するようなものもない、普通のもの。

 

 風の家族ということで顔合わせをして、それから何度かお話をする程度。

 

 その時に彼が記憶喪失ということで奇妙な親近感を覚えたほどだ。

 

 だが、何度も接していくうちにいつの間にか彼へも好意を寄せてしまっていた。

 

 彼が黒騎士としての記憶を取り戻してからは少し距離を置いていたが、あの時、贄として奉火祭へ連れていかれた時、東郷は絶望よりも仕方ないのだと諦めていた。

 

 だが、そんな考えを彼は破壊する。

 

 結果として助けてくれたのは友奈だ。

 

 しかし、彼が動いていてくれたからこそ友奈や大切な仲間達はかけつけてくれたのである。

 

 彼の深い優しさに東郷の恋心に炎がついた。

 

 止まらない。

 

 もう、トマレないのだ。

 

 だからこそ東郷は決意する。

 

「彼の隠し事を調べよう、そして」

 

 今度は自分が力になるのだ。

 

 東郷は赤龍軒へ向かう。

 

 勇者装束になると二階から侵入する。

 

 幸いにも大神たちは階下で働いていた。

 

 その間に東郷は部屋を物色した。

 

「何も……ない」

 

 宝物も手に入ったが彼の隠し事については見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気のせいか?」

 

 疲れて部屋に戻った日向。

 

 ナイトアックスを使いこなせるようになり、今はヤミマルと日夜、戦いのような訓練。

 

 すぐに部屋で寝ようとした日向は下着や衣類が少しばかり減っているような気がした。

 

 首を傾げながら彼は横になる。

 

「グッ!」

 

 襲い掛かる激痛に日向は顔をしかめた。

 

「……もう、限界、か」

 

 痛みが引いた後、倒れる様に日向は眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その痛みは決して消えることはない。お前が呪いを手放さない限り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、手放せばその呪いは持ち主へ返される。それを俺が選択しないことはわかっているはずだ、ブルブラック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ、お前は最後の戦いへ赴く」

 

「そうだ」

 

 夢の中、彼はブルブラックと語り合う。

 

「一人でいくつもりか?」

 

「これは俺が始め戦いだ。終わりも俺一人で終わらせる。すべてに決着をつける。天の神に思い知らせてやる。蔵人の痛みを……俺の怒りを!」

 

「三百年消えることのなかった炎か、ただの人間が抱くにしては大きなものだ」

 

「そうだな」

 

「私はもう見守るしかできない。貴様の行く末を」

 

「そうしてくれ、友よ。俺はそういう人がいてくれるだけ幸せだ」

 

「愚か者め、お前は周りをみれていない」

 

 呆れながら告げるブルブラックの言葉に日向は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 勇者部の部室。

 

 友奈は端末にメッセージが入っていることに気付いた。

 

 内容を見ようとした時、部室のドアが開かれる。

 

「邪魔するぞ」

 

 ドアの向こうから現れたのは流星光だった。

 

「アンタ……」

 

「日向さんの友達さん」

 

「やめろ、蕁麻疹が出る。俺とアイツは友達ではない。さすらい転校生、流星光だ」

 

 顔をしかめながら流星は学帽を深くかぶる。

 

「そのさすらい転校生が何の用よ?」

 

「話をしたいところだが、まだ全員、そろっていない。少し待て」

 

「は?」

 

 勇者部が戸惑う中、窓からニンジャマン、鶴姫、拉致された大神、そして、風太郎とニンジャマン。

 

「あのぉ、貴方はどちら様で?」

 

 風太郎と共にやってきたのは髭を生やした恰幅の良い男性。科学者なのか白衣を纏っている。

 

「はじめまして、というわけではないがこの姿で会うのは初めてだね。勇者部の諸君、私はゴセイアルティメット、六大神の一人だ」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 恰幅の良い男性、ゴセイアルティメットの言葉に勇者部のメンバーは言葉を失う。

 

「さて、全員、そろったようだな。話を始めよう」

 

 流星は周りを見渡してある冊子を取り出す。

 

「それは?」

 

「落合日向の奴が残していった日記だ」

 

「日記?そんなものを日向さんは書いていたの?」

 

 部屋を探した(物色した)東郷は驚きの声を漏らす。

 

 日記の存在を知らなかった風や樹も驚いている。

 

「ただの日記じゃないよ。日向の体を蝕んでいる呪いが刻まれている。読めば皆、呪われる」

 

「呪い!?」

 

「どういうことよ!!」

 

 風太郎の言葉に樹や風が驚く。

 

「そのことについて、話をしよう」

 

 ゴセイアルティメットは話を始める。

 

「彼が受けている呪いは奉火祭を妨害したことによって発生した呪い、呪いを生み出した元は天の神だ」

 

「天の神の呪いは僕達や精霊の力をもってしても防ぐことは出来ない。全身を襲うような激痛が日を増すごとに強くなっていく。そして、厄介なことに、この呪いは他人へ話せばその人へ感染する力をもっているんだ」

 

 ゴセイアルティメットと風太郎の言葉に勇者部は戸惑う。

 

「まってくれ!落合はいつからそんな呪いを受けたんだ!?奉火祭を壊したのなら、俺達全員が」

 

「もしかして……私のせい?」

 

 大神の疑問に友奈が言葉を漏らした。

 

 沈黙した室内で友奈は風太郎たちへ問いかける。

 

「私が東郷さんを助けた時に受けた呪いを、日向さんは受けたんですか?」

 

「そんなこと、あるわけ!」

 

「事実だ」

 

 友奈の疑問を流星は肯定した。

 

「あのお節介は本来ならお前が受けるはずだった呪いをすべて受け止めた。おっと、理由は俺達に聞くなよ?その理由など知らんからな。呪いを受けたアイツは痛みをこらえながら天の神と戦うための準備をしていた。そして」

 

「彼は天の神と戦うために結界の外へ出てしまった……呪いを、いいや、違うだろう。彼は三百年を超える自らの復讐を果たすために天の神へもう一度、挑みに向かったのだ」

 

「何でよ!」

 

 夏凜は叫ぶ。

 

「何で、アイツはそんなこと、黙って……自分が滅茶苦茶苦しいはずなのに、アタシ達のことを、何だと、思って」

 

「ニボッシー」

 

 園子や風が泣き始めた夏凜の頭を撫でる。

 

「教えてください。ゴセイアルティメット様、ガオゴッド様、私達はどうすれば」

 

「どうすればいいか、その答えを僕達は出せない」

 

「わかっているはずだ、その答えは誰が出さなければならないのか……」

 

「行こう!」

 

 友奈が拳を握り締めて叫ぶ。

 

「行こう!日向さんのところへ!私のために呪いを受けているなら、私は助けたい!日向さんのこと、大好きだもん!このまま見捨てるなんてしたら後悔する!私は行く!」

 

「友奈ちゃん、友奈ちゃんの言うとおりだわ。私も行きます。日向さんがいたから今もみんなといられるんだから!」

 

「アイツをボコボコにして、謝らせてやる!それから、アタシ達がどれだけアイツのことを大事に思っているかわからせてやる!」

 

「そうだね~、日向さんのこと大好きだもん!行くよ!」

 

「日向さんは私とお姉ちゃんの大事な家族だよ。独りぼっちになんかさせない!」

 

「もう!部長は私なのに、大事なこと全部言われちゃったじゃない。よぉし!勇者部一同!あの鈍感で私達の大事な人を助けに行くわよ!」

 

 おー!と叫ぶ勇者部。

 

 その光景に大神と鶴姫は笑みを浮かべる。

 

 答えを解っていたのか風太郎とゴセイアルティメットは頷いた。

 

「さて、お前達がそういう答えを出すのはわかっていた。ニンジャマンやそこのガオシルバー達も行くだろうと思って、鋼星獣が待機している……あと、あの大馬鹿野郎のことは心配するな。援軍が既に向かっている」

 

 ニヤリと流星は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この程度か?」

 

 ナイトアックスを担ぎながら俺は問いかける。

 

 後ろにはトランザがけしかけた怪物とバーテックスの死骸が山のように積み上げられていた。

 

 戦闘から四時間程度のことだ。

 

 周りの死骸に視線を外して目の前のトランザを睨む。

 

 トランザは余裕の表情を浮かべている。

 

「流石は黒騎士ということか」

 

「お前の遊びに付き合っている暇はないんだが?」

 

「つれないことをいうな、これからが本番だ!」

 

 指を鳴らすトランザ。

 

 直後、目の前に轟音を立てて現れる怪物がいた。

 

「何だ、コイツは?」

 

 全体的に青い姿で赤い瞳、不気味な唸り声を立てている。

 

 俺の疑問へ答える様にトランザが手を広げた。

 

「コイツは隕石ベム!貴様を倒すために用意した強力な駒だ」

 

「そうか」

 

 地面をける。

 

 隕石ベムは口のような部分から火炎放射を放つ。

 

 横へ跳びながら炎を回避する。

 

 ナイトアックスを構えなおして横薙ぎに振るった。

 

 放った一撃は隕石ベムの体にめり込む。

 

 しかし、体を切り裂くには至らなかった。

 

 隕石ベムの拳が俺を打ち抜いた。

 

 殴られた俺は数メートルほど、地面を転がる。

 

「チッ、面倒だな」

 

 ナイトアックスを隕石ベムは放り投げた。

 

「どうだ?隕石ベムの硬さは?本来よりもさらに強化している。貴様が天の神を倒すためにさらなる力を手に入れると予想してなぁ!」

 

「そうか、なら」

 

――斬れるまで相手するだけだ。

 

 ブルライアットを抜いて、構える。

 

 直後、地面からバーテックスが現れて俺の左右に抑えにかかった。

 

 すぐに抜け出そうとしたが上から隕石ベムが圧し掛かる。

 

 体に襲い掛かる重圧に動きが鈍った。

 

「特性のバーテックス。自爆システム搭載だ」

 

 トランザが告げる。

 

「吹き飛ぶがいい、黒騎士ぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一閃緋那汰ぁあああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空から降り立つような音と共に体を拘束していたバーテックスが切り裂かれた。

 

 体が自由になると同時に近距離でブルライアットのショットガンモードで撃つ。

 

 少しのけ反る程度のダメージだったが、離れることができた。

 

「大丈夫か?」

 

 聞こえた声に俺は振り返らない。

 

「こっちを向け」

 

 横から手が伸びて、無理やり彼女の方を向かせる。

 

「変身を解除したらどうだ?久しぶりの再会だぞ?」

 

「……乃木若葉、だよな?」

 

「そうだぞ」

 

「……成長している?」

 

 俺の前にいたのは乃木若葉だった。

 

 しかし、西暦の時より少しばかり成長しているようにみえた。

 

「あぁ、そのことか、当時のお前の年齢まで成長したところで、神々に頼んで眠りにつかせてもらった!お前が再び天の神に挑む時、目覚めるようにな!」

 

「……なぜ」

 

「お前のことが大事だからさ、日向」

 

「……若葉……」

 

「ちょっと待ったぁああああああああああああ!」

 

「意義あり!意義ありぃぃぃぃい!」

 

 周りのバーテックスを蹴散らして複数の少女が現れた。

 

「タマ達を無視するなんて許されると思うなよ!」

 

「タマっち先輩の言うとおり!若葉ちゃんだけずるいよ!」

 

「友奈さんの言うとおりです!せっかく、タマっち先輩の可愛い姿を先にみせたかったのにぃ!」

 

「杏!そこは違う!」

 

「グダグダね……」

 

「球子、杏、友奈、ちぃちゃん」

 

「えぇ、貴方のちぃちゃんよ」

 

 呆然としている間にちぃちゃんが若葉から奪い取るように俺の頬を掴む。

 

「あぁ、また貴方に会えたわ」

 

 にこりとほほ笑むちぃちゃんの姿。

 

 彼女もやはりというべきか成長している。

 

 少女だったが女性の手前という風に感じた。

 

 それは杏や友奈も同じ。

 

「しかし、お前はあまり変わっていないようにみえるな」

 

「失礼な!タマだって成長しているんだ!驚きタマえ!」

 

「確かに」

 

 怒って胸を張る球子。

 

 すこーし成長している様子である。

 

「ちょっとぉ!ミーのこと、忘れないでよぉ!」

 

「いたのか?歌野」

 

「酷い!」

 

 最後に姿を見せたのは緑色のシャツに「六人目!By農業王」と書かれた謎シャツを着た白鳥歌野だ。

 

 腰には獣奏剣がぶら下がっている。

 

「久しぶりね!日向!また会えて、とぉってもハッピーよ!」

 

「募るも話もあるが、終わらせるために目の前の敵を倒すとしよう」

 

 若葉の言葉に五人は頷いた。

 

 俺の横で西暦の勇者だった彼女達がトランザと隕石ベムを睨む。

 

「俺も……」

 

「日向、貴様は少し休め。ここは我々が引き受けよう」

 

「若葉の言うとおり!ここはタマ達に任せタマえ!」

 

「タマっち先輩の言うとおりです!日向さん、貴方とゴウタウラスは単独で六千ものバーテックスを滅ぼしています。少し休んでください」

 

「しかし……」

 

「大丈夫です!日向さんの前だからって無茶はしません。全力全開で戦い、生き残ります!」

 

「私達は貴方と幸せの時間を築くためにこの時を待っていたの。命を落とすなんて、無駄なことはしないわ」

 

 にこりとほほ笑む西暦の勇者達。

 

 その姿にトランザが笑う。

 

「ほう、西暦の時代の勇者か、まさか、こんなところで遺物と遭遇するとは思っていなかったぞ。だが、貴様らでもこの隕石ベムには勝てまい。貴様らの所持する勇者装束や力では勝てんぞ」

 

「それは、どうかな?」

 

 若葉が不敵に笑った瞬間、背後から小型バーテックスが襲い掛かる。

 

「無駄だ!」

 

 振り向くと同時に繰り出した大太刀がバーテックスを両断した。

 

「トランザとやら、一つ警告しておこう」

 

 大太刀を鞘へ戻しながら若葉は目の前のトランザを睨む。

 

「我々を遺物と思っていると足元をすくわれるぞ?小僧」

 

「貴様ぁ!」

 

 叫ぶトランザ。

 

 しかし、その足元に矢が刺さる。

 

「ほら、油断大敵です」

 

 にこりとほほ笑みながら周りの勇者を襲おうとするバーテックスを射抜く杏。

 

 それだけでトランザの額に血管が浮き上がる。

 

「隕石ベム!そこの小娘たちを殺せぇええええ!」

 

 唸り声を上げながら迫る隕石ベム。

 

 隕石ベムが正面から爪を振り下ろそうとする。

 

「フンス!」

 

 その攻撃を真っ向から受けたのは球子。

 

 彼女は回旋刃で鋭い爪を防ぐ。

 

「杏ぅ!」

 

 球子の叫びで後ろにいた杏が顔を携帯電話のようなものを構える。

 

【ジー・マジカ】

 

 隕石ベムの足元から水柱が発生してバランスを崩した。

 

 球子と入れ替わるようにして友奈と千景の拳と鎌が隕石ベムにダメージを与える。

 

「勇者パァンチ!」

 

「食らいなさい」

 

 攻撃を受けるが隕石ベムの体に傷はつかない。

 

「「からの!」」

 

 二人は同時に構えをとる。

 

「激気技!咆咆弾!」

 

「気力!天風星・一文字竜巻!」

 

 友奈の背後からタイガーのような獣の姿が、千景は複数の竜巻を起こす。

 

 その攻撃に隕石ベムの体が宙へ浮きあがる。

 

 さらなる追撃を阻むように隕石ベムの口から火炎放射が放たれた。

 

 歌野は獣奏剣を奏でる。

 

 音色によって巨大な壁が土によって作り出されて炎を阻む。

 

「タマっちぃ!」

 

「オーケー!」

 

 歌野が獣奏剣で地面をえぐり取る。

 

 抉り取った部分を球子は掴んで投げ飛ばす。

 

「必殺!」

 

「岩石投げぇえええええ!」

 

 投げ飛ばした岩の塊が何かをしようとしていたトランザへ投げられる。

 

 トランザは咄嗟に回避する。

 

 その間に浮きあがった隕石ベムへ若葉が大太刀を繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一閃緋那汰ぁあああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一閃が隕石ベムを切り裂いた。

 

 だが、そこで終わらない。

 

 大太刀を持ち直しながら若葉の拳が金色に輝く。

 

「ゴッドハンド!」

 

 必殺の拳が隕石ベムを捉えた。

 

 その拳は強固な隕石ベムの体を貫き、コアである部分を握りつぶす。

 

 隕石ベムが地面へ落下して巨大なクレーターを作り上げる。

 

「フッ」

 

 若葉は仲間の傍へ降り立つ。

 

 直後、隕石ベムは大爆発を起こした。

 

「ば、バカな!?」

 

 驚くトランザに若葉は剣先を向ける。

 

「私達、人間を舐めるなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トランザは驚きを隠せなかった。

 

 勇者が、人間に少し毛が生えった程度の相手に切り札として用意しておいた隕石ベムが倒されてしまう。

 

 黒騎士ではない、格下だとみていた人間によって。

 

 何より自分を下とみているような相手にトランザは怒りで顔を歪める。

 

「人間、許さんぞ!」

 

 叫びながらトランザが若葉へ迫る。

 

 振るわれる刃を若葉は受け流す。

 

 そのまま反撃しようとしたところでトランザは腕に装着されているメタルトランサーを操作した。

 

 メタルトランサーの能力によって若葉の大太刀が手を離れて宙を舞う。

 

「卑怯だぞ!」

 

「戦略のうちだ」

 

 叫ぶ球子に対してトランザは平然と刃を振るう。

 

 若葉は冷静に動きを見切りながら後ろへ下がる。

 

「愚かな!」

 

 トランザは雷撃を放つ。

 

 それを前に若葉は拳を前に繰り出す。

 

「ゴッドハンド!」

 

 放った一撃は雷撃を切り裂き、真っ直ぐにトランザの武器、メタルトランサーを破壊した。

 

「なっ!?」

 

 力の根源ともいわれるメタルトランサーの破壊にトランザは動揺してしまう。

 

 その隙に若葉は奪われた大太刀を回収して踏み込む。

 

「若葉さん!」

 

 同時に歌野が獣奏剣を投げる。

 

 トランザは魔剣ボルトランザを構えようとした。

 

 しかし、若葉の方が速い。

 

「一閃緋那汰!」

 

 叫びと共に繰り出される二つの斬撃。

 

 西暦の勇者として戦っていたころよりも鋭い刃。

 

 神業ともいうべき速度で放たれた技によってトランザの首が斬り落とされる。

 

 ボトリとトランザの首が地面へ落ちた。

 

 本来なら斬られた個所から血が流れ出すのだが、そこから出てきたのは泥。

 

 泥だった。

 

「何だ、これは、どういうことだぁ!?」

 

 首だけになったトランザは自分の体から流れだしたものをみて叫んだ。

 

「泥人形」

 

 トランザの正体に察しがついた若葉が言葉を漏らす。

 

「ど、泥人形だと!?」

 

「見た目は限りなく人だが、ダメージを受け過ぎる。用済みになれば本来の泥へ戻るという……貴様が泥人形だったとはな」

 

「バカな!俺は帝王トランザだ!この俺が泥だと!?信じられるものかぁ!」

 

 叫ぶトランザだが、既に肉体は泥になって崩れ落ち、眼球の方も溶け始めていた。

 

「ウソだ、ウソ――」

 

 最後まで否定しながらトランザは消滅した。

 

「哀れだな」

 

 大太刀を鞘へ戻しながら若葉は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、流石は勇者ということか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、まばゆい光が勇者と黒騎士を照らす。

 

 彼らが視線を上げるとそこに降り立ったのは天使のような異形。

 

 青と金色の混ざったその姿はどこか神々しいものを感じられた。

 

「初めまして、滅びるべき人間ども、私は天の神だ。こうして貴様らと言葉を交わすことに激しい嫌悪を覚えるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 最後の戦いがはじまろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、私達、天の神とかいう奴について知らないけれど、どういう奴なの?」

 

 ギガバイタスの機内。

 

 そこで神世紀の友奈達が目的地を目指していた。

 

 来る最後の戦いに向けて準備をしている中で風が疑問をぶつける。

 

 ストレッチしていた大神や鶴姫もその正体は知らない。

 

「天の神っていうけれど、元は護星天使という存在だった」

 

「護星天使?」

 

「星獣などのように星を守る役目を負った者達だ」

 

「元々は、この星を守る存在であったんだけど、いつからか存在が歪み、人間を滅ぼそうという思考を持つようになったんだ」

 

 答えたのは風太郎とゴセイアルティメット。

 

 人の姿になれる彼らが説明をはじめる。

 

「どうして、そうなったんですか?」

 

「私の知っている限り、もともと、彼は護星天使として優秀な力と素質があった。実際、その力で多くの魔から地球を守り、大宇宙が生み出したとされる大神龍と戦えるとも言われていた……それゆえだろう」

 

「彼は力におぼれた。ある存在を倒すために仲間の護星天使の力を奪うばかりか命を食らった。その頃から、彼は護星天使ではなくなり、人間を嫌悪、滅ぼそうとするべく、眷属を生み出し、自らを天の神と名乗るようになった」

 

「我々は彼を阻止しようとした。しかし、あまりに強大な力と星を壊しかねない戦いになるということを予見した我々は万全で挑めなかった」

 

「そこで悲劇が起きた」

 

 天の神による人間を滅ぼすために生み出された眷属、バーテックス。

 

 バーテックスは人間を滅ぼすために活動を起こし、落合日向の弟を殺した。

 

 そして、深手の日向はブルブラックと契約して黒騎士として覚醒する。

 

 黒騎士の力は天の神の力を弱体化させるまでに至った。

 

「だからこそ、奴は今度こそ、黒騎士を滅ぼすだろう……日向さえ、いなくなれば止める者はいないと考えている」

 

「そんなこと、させないよ!」

 

 友奈が叫ぶ。

 

「日向さんは私のためにボロボロになったんだ……今度こそ、恩返しだけじゃない。私達の想いを伝えるんだ」

 

「友奈ちゃん、そうね。あの人は放っておくとどこまでもいってしまうもの」

 

「絶対~、逃がさないよぉ~」

 

「ま、アタシも負けたままっていうのは癪だからね!」

 

「お姉ちゃんとまた一緒に食事したいもん!」

 

「部長として、最後に言うわよ!勇者部は黒騎士を手助けする。そして、天の神を倒すわよ!」

 

 彼らの姿を見て、風太郎とゴセイアルティメットは微笑む。

 

「やはり、キミ達なら任せられそうだ」

 

「え?」

 

「ごめんね。僕達はやらなければならないことがあるんだ」

 

「どういうことですか?」

 

 東郷が尋ねる。

 

「この地球に大神龍が近づいている」

 

「大神龍?」

 

「大宇宙が生み出したとされる秩序を守る番人だよ」

 

「秩序を乱す者がいれば、正義の側であろうと悪の側であろうと滅ぼす。バランスをもたらす者……それがこの地球へ迫っている」

 

「最悪、この星が無くなるかもしれない。だから、僕達がいく」

 

「我々は大神龍の接近を阻止する。その間に決着をつけてほしい」

 

「信じているよ!人間の可能性を」

 

 風太郎はそういって大神や友奈達へ手を振る。

 

 そして、ガオゴッドへ姿を変えた。

 

「我々は人間を信じている。滅びるべき存在ではないと、キミ達なら……きっと、天の神に勝てる」

 

 ゴセイアルティメットに姿を変えて、外にいた他の神々と合流して、彼らは宇宙へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒騎士の前に現れた天の神。

 

 彼は金色に輝く剣を手にゆっくりと近づいていく。

 

「させん!」

 

 若葉が大太刀を振り下ろす。

 

「邪魔だ」

 

 パチンと指で若葉を弾く。

 

 衝撃で若葉は空高く舞いあがり落ちる。

 

 地面に落下する寸前で千景と友奈がキャッチした。

 

「人間風情が俺の邪魔をするな」

 

「天の神ぃぃいい!」

 

「黒騎士、貴様のことは覚えているぞ。俺の体に傷をつけた存在!今も覚えている。あぁ、原形をとどめられないくらい叩き潰してやろう」

 

 言うや否や天の神の一撃が黒騎士へ突き刺さる。

 

 攻撃を受けて吹き飛んだ黒騎士へ天の神が光弾を放つ。

 

「させっかぁ!」

 

 球子が回旋刃で防ぐもあまりの威力に吹き飛んだ。

 

「タマっち先輩!」

 

 杏が弓を射ようとすると小型バーテックスが襲撃してくる。

 

「伊予島さん!」

 

 千景が鎌で小型バーテックスを切り裂く。

 

「獣拳」

 

 友奈が構えを取るよりも早く天の神が前に立つ。

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 天の神が動くよりも早くナイトアックスでその体を切り裂いた。

 

 しかし。

 

「手ごたえが、ない!」

 

「どうやら俺の対策をしてきたようだが、何もかも無意味だ」

 

 衝撃波によって勇者も黒騎士も吹き飛ばされる。

 

「絶望だ。貴様ら人間に生きている資格などない。滅べ、そして、この星は俺のものになる」

 

 そういって天の神は笑う。

 

 天の神の姿を見て日向の中に激しい憎悪の炎が噴き出す。

 

「ふざけるな……」

 

 ナイトアックスを杖代わりにして立ち上がる。

 

 長時間の戦闘によって体はボロボロ。

 

 しかし、日向の目の闘志は消えていなかった。

 

「まずは貴様から消してやろう」

 

 天の神が日向へ剣を振り上げる。

 

「GTソード!」

 

「ドリルセイバー!」

 

 日向を守るように二つの斬撃が天の神を押し戻す。

 

「久しぶりの再会だっていうのに、無茶苦茶しすぎだろ」

 

「まぁ、それが日向らしいよな」

 

 目の前に現れたのはメガレッドとレッドターボの二人。

 

 その声は日向の知る二人。

 

「力?健太?」

 

「よ!三百年ぶりだな!」

 

「助けに来たぞ!」

 

「どうして……」

 

「お前一人で辛い戦いに行かせるなんてもうしない」

 

「覚悟はできているぜ!無事に帰ったら焼肉奢れよな!」

 

「……わかった」

 

 二人の言葉に頷きながら日向は天の神を睨む。

 

「まだ抗うか、ならば、より巨大な絶望を貴様らに与えるとしよう」

 

 天の神の後ろにレオ、スコーピオンといった多数のバーテックスが姿を見せる。

 

「今のお前達にできることはない」

 

 

 

「そんなことない!」

 

 

「今の、声は」

 

 直後、無数の光弾によってバーテックス達が消滅していく。

 

 西暦の勇者達、力や健太、日向は振り返るとギガバイタスが姿をみせる。

 

 その上、ギガバイタスの頭部に一人の少女がいた。

 

「勇者パンチ!」

 

 一言と共に繰り出される一撃が弱っていたバーテックスを倒した。

 

「日向さん!」

 

 そのまま一直線に少女は日向に近づいて。

 

「パンチ!」

 

 軽く日向を殴る。

 

 しかし、今の結城友奈は勇者である。

 

 その一撃によって日向は数メートルほど転がっていく。

 

「「えぇ~!?」」

 

 突然の事態にレッドターボとメガレッドが叫ぶ。

 

「何を、する」

 

「すっきりしました!」

 

 対して友奈はニコニコしている。

 

「日向さん!今度から私を守るために自分を犠牲にするなんてことしないでください!そんなことしたら私、もっと怒りますから」

 

「は、はい」

 

 友奈の言葉に自然と日向は頷いた。

 

「あーぁ、先ばしちゃって」

 

「友奈!アンタねぇ!」

 

「友奈先輩らしいですね」

 

「日向さんの頬が腫れていないといいけれど」

 

「ふわぁわ、眠いから日向さん成分を」

 

「そのっち、そこでステイな」

 

「ぎ……鶴姫もそれ以上近づくんじゃない」

 

 勇者部と鶴姫、そして、大神がやってくる。

 

「お前も無茶をするな」

 

「別にそんなつもりはない」

 

「だとしても心配させたのは事実だ」

 

「そう、だな」

 

 大神が手を差し伸べる。

 

「落合、早く終わらせるぞ」

 

「あぁ」

 

 その手を掴んで日向は立ち上がる。

 

「全く、タマ達を差し置いて、盛り上がるなよな!」

 

「まさか、このタイミングで神世紀の勇者達と顔合わせか」

 

「前に神樹様の中で出会ってはいますけれど」

 

「日向に彼女?認められないわ」

 

「そうだね!ぐんちゃん!結城ちゃんでも負けないからね!」

 

 西暦の勇者が日向の隣に立つ。

 

「天の神、決着をつけよう」

 

 ナイトアックスを構えなおして日向は剣先を天の神へ突きつけた。

 




乃木若葉

西暦の時代の勇者。最後まで生き抜いて、六大神に頼み込んで日向の年齢となる同時に眠りについた。
眠りにつくまでの間に、自らの剣技と技術を磨き続けて、オーラパワーを会得、ゴッドハンドをマスターする。


郡千景

西暦の時代の勇者。原作と異なり最後まで生き抜いた。日向への愛は三百年分詰まってより増している模様。若葉と同様に日向と同い年になり眠りについた。
修練の結果、気力を会得。

高嶋友奈

西暦の時代の勇者、原作と異なり最後まで生き抜いた。
修練の結果、獣拳を会得。激獣タイガー拳を使いこなす。


伊予島杏

西暦時代の勇者、原作と異なり最後まで生き抜く、タマっち先輩と日向の三人で幸せな日々を送るべく、未来の決戦に向けて修練を積む。その結果、六大神の協力で魔法を会得する。

土居球子

西暦時代の勇者、原作と異なり最後まで行く抜いた。原作よりも女子力を磨いているらしく、未来で日向と共に幸せになるべく奮闘、偶然にもバードニックウェーブを浴びる。


白鳥歌野

西暦時代の勇者、原作と異なり最後まで生き抜く。力の戦士ブライから獣奏剣と力のメダル、そしてドラゴンシーザーを継承する。
農業王になるべく未来の決戦のために、眠りについた。


上里ひなた

西暦時代の巫女。乃木若葉の親友。
若葉達と異なり生涯を全うした後に六大神に頼み込んで年齢を若返えらせてもらい、眠りについた。

藤森水都

西暦時代の巫女。諏訪の元巫女。
ひなたと同様に生涯を全うした後、六大神によって年齢を若返らせてもらう。




恰幅の良い髭男性(ゴセイアルティメット)
元ネタは天装戦隊に出てきた展望台の博士をモデル。


大神龍

五星戦隊ダイレンジャーに出てきた存在。
かなりの巨大な存在でダイレンジャーと敵対組織に休戦協定を結ばせるほどのパワーを持つ。
最終回で地球から飛び去る。

泥人形
五星戦隊ダイレンジャーから。
泥で作られた人形。意思を与えられた者達は自身が泥人形という自覚を持っていない。
死ぬ間際に自らの正体を知るという。ちなみに製作者の正体は不明。


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黒騎士の笑顔

本編最終回。


「決着か、貴様に俺を止めることなどできぬよ」

 

 天の神の背後に白い魔神のようなものが姿を見せる。

 

「トランザという存在が用意していた兵器だ。いくら星獣であろうと勝つことはできんぞ」

 

 現れた魔神を前にギガバイタスからギガライノス、ギガフェニックスが現れる。

 

「俺も行こう!百獣召喚!」

 

 三体の百獣を召喚してガオハンターが降臨する。

 

「ゴウタウラス!」

 

 黒騎士はゴウタウラスと合体してブルタウラスへ姿を変えた。

 

 ナイトアックスを構えて、天の神が呼び出した魔神ロボ ベロニカと戦いを始める。

 

 ガオハンターとブルタウラスの武器をベロニカは盾で受け止めた。そして、斧がついた形状の剣で二体をまとめて切り裂く。

 

 攻撃を受けて仰け反る二体と入れ替わるようにギガライノスが高速移動でベロニカを殴る。

 

 しかし、ベロニカは平然としており、逆にギガライノスを蹴り飛ばした。

 

 上空からギガフェニックスが攻撃を仕掛けるもアンカーが放たれて地面へ叩き落されてしまう。

 

 ギガバイタスの光弾によってベロニカは動きを止める。

 

「今だ!」

 

 ブルタウラスとガオハンターが左右から攻めた。

 

 ナイトアックスとリゲーターブレードがベロニカの体を切り裂こうとする。

 

 しかし、二つの刃はベロニカの装甲を傷つける程度。

 

「なに!?」

 

「ちぃっ!」

 

 ベロニカからの攻撃に距離を取るガオハンター。

 

「悪鬼突貫リボルバーファントム!」

 

 リゲーターブレードで三日月を描き、中心のエネルギーを集めて、リゲーターブレードをドリルのように回転させながら放つ。

 

 爆発が起こる。

 

 しかし、

 

「無傷だと!」

 

 ガオハンターの攻撃を受けて尚、ベロニカは平然としていた。

 

「大神!」

 

 ブルタウラスがガオハンターを突き飛ばす。

 

 ベロニカの光弾がブルタウラス降り注ぐ。

 

「落合!!」

 

 爆炎の中、ブルタウラスが姿を見せる。

 

 とどめをさそうとベロニカがブルタウラスへ狙いをつけた。

 

 ブルタウラスを守るようにギガライノスとギガフェニックスが前に立つ。

 

 ギガンティスバスターとギガニックブメーランの攻撃を受けてもベロニカは止まることがない。

 

 ベロニカは剣を振り下ろす。

 

 攻撃を受けたギガライノスの片腕が千切れる。

 

 地面に倒れるギガライノス。

 

 ベロニカは倒れたギガライノスを蹴り飛ばす。

 

 ギガニックブーメランとベロニカの剣がぶつかりあう。

 

「大神!」

 

 ガオハンターにブルタウラスは叫ぶ。

 

「少しでいい、時間を稼げ!」

 

「何をするつもりだ!?」

 

「一か八かだ……このナイトアックスの全力を使って奴をしとめる」

 

「大丈夫なのか?」

 

「知らん……だが、今のままでは俺達が倒されるだけだ」

 

「わかった、無茶はするなよ」

 

「聴けない相談だな」

 

 ガオハンターは戦っているギガフェニックスの下へ向かう。

 

 リゲーターブレードとギガニックブーメランを前にしてもベロニカは悠然と進んでくる。

 

 その姿を見ながら黒騎士は意識を集中させる。

 

 ナイトアックスの力を集める。

 

 長時間の戦闘で疲労があった。しかし、止まるわけにいかない。

 

「ここまできたんだ。終わらせる!」

 

 ナイトアックスにエネルギーが集まった。

 

 その時、ベロニカが無理やりギガフェニックスの片腕を引きちぎった。

 

「ギガフェニックス!」

 

 火花を散らして地面へ倒れるギガフェニックス。

 

 気を取られたガオハンターにベロニカがアンカーを放つ。

 

 アンカーによって繰り出された一撃でガオハンターは合体を強制解除されてしまう。

 

「そこだぁあああああ!」

 

 短い時間。

 

 けれど、ブルタウラスにとっては貴重な時間だった。

 

 前へ大きく踏みながら繰り出されるナイトアックス。

 

 放った一撃はベロニカの装甲を貫き、内部にあった核を粉々に打ち砕く。

 

 核を砕かれたことでベロニカの各所から火花が噴き出す。

 

 ナイトアックスを引き抜こうとした時、機能停止寸前のベロニカがナイトアックスを掴んだ。

 

 引きはがす暇もないまま、ブルタウラスごと、ベロニカは大爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勇者パンチ!」」

 

 地上では結城友奈と高嶋友奈の拳を天の神は正面から受け止めていた。

 

 受け止めている隙をつくように勇者たちが接近する。

 

「無駄……ん?」

 

 天の神の腕にワイヤーが巻き付いている。

 

 離れたところで樹が天の神の動きを封じ込めようとしていた。

 

「愚かな」

 

「させません!」

 

 切り札を発動した杏と球子が動きを封じ込めた。

 

「今です!」

 

「いけぇ!」

 

 二人の声と同時に若葉、風、千景、夏凜が武器を振るう。

 

「無駄だぁあああああああ!」

 

 叫びと共に放たれた衝撃と共に勇者たちは吹き飛ぶ。

 

「なんなのよ!私達総出で挑んでも余裕の態度じゃない!」

 

「当然だ。神を舐めるな。人間風情が」

 

 叫んだ夏凜に天の神が光弾を放つ。

 

 球子が咄嗟に回旋刃で防ぐもあまりの衝撃に後ろへ二人とも倒れこむ。

 

 天の神を背後から千景が強襲する。

 

 振り返らずに剣で貫いた。

 

 しかし、感触がない。

 

「分身か」

 

 千景は切り札を発動していた。

 

 天の神を囲むように複数の千景がいる。

 

 しかし、同時に複数の天の神が現れて、千景を倒した。

 

「力!」

 

「あぁ!」

 

 メガレッドとレッドターボがそれぞれの必殺技を放つ。

 

 爆炎に包まれる天の神。

 

「うし!」

 

 しかし、煙の中から天の神が現れてそのまま二人を掴んで地面へ叩き落した。

 

「力さん!」

 

「健太!」

 

 杏と若葉が叫ぶ。

 

「もろいな。人間とはやはり不要――」

 

 天の神が歩きだした直後、動きが鈍る。

 

 直後、背後で大爆発が起こった。

 

「日向さん!」

 

 結城友奈は叫ぶ。

 

 爆発の起こったのはブルタウラス達が戦っていた場所である。

 

「ベロニカを倒したか……だが、同時に黒騎士も」

 

「勝手に殺さないでもらおうか」

 

 微笑もうとした天の神の表情が固まる。

 

 目の前にゆっくりと降り立ったのは黒騎士。

 

「日向、さん」

 

 降り立った黒騎士だが、その体はボロボロで満身創痍の状態だ。

 

 手の中にあったナイトアックスは失われている。

 

「既に満身創痍。フフッ、ハハハハッ!黒騎士!やはり貴様はそこまでの存在だったということだ!貴様の刃は今度も俺に届かなかった!前と同じだ!貴様は俺の前に立つことはできても倒すことは出来んのさ!」

 

「…………そう、だろうな」

 

「認めるか!」

 

「だが、お前は周りが見えていないな」

 

「なんだと!?」

 

「前と今、違うものがある。それは」

 

 顔を上げる黒騎士。

 

「私達、勇者がいることだ」

 

 若葉が黒騎士の隣に立つ。

 

「黒騎士、日向さんは一人じゃないです!私達がいます!」

 

 結城友奈がギンガの光を纏いながら叫ぶ。

 

「そういうことだ、今度こそ、貴様を倒すぞ。天の神!!」

 

 叫びブルライアットを引き抜いた。

 

 天の神は光弾を放つ。

 

「斬る!」

 

 若葉が大太刀で切り裂く。

 

 後方から天の神へ東郷と杏が狙撃する。

 

 満開と切り札を発動。

 

 狙撃の弾丸を受けて仰け反る天の神。

 

 風が大剣を横薙ぎに振るう。

 

 吹き飛ばされることはないものの、足止めは成功する。

 

「樹!」

 

「お姉ちゃん!」

 

 樹がワイヤーで動きを拘束する。

 

「結城ちゃん!」

 

「高嶋ちゃん!」

 

 二人が声を掛け合い、切り札と満開を発動。

 

 獣拳とギンガの光の力が増す。

 

 その力に圧される天の神。

 

「銀、行くぞ」

 

「先生、はい!」

 

「破邪聖獣球!」

 

 鶴姫が手裏剣を投げ、ガオシルバーが必殺技を放つ。

 

「黒騎士、いや、日向」

 

 そんな彼らの姿を見て若葉が静かに告げる。

 

「終わらせよう、全てを」

 

「あぁ」

 

 大太刀とブルライアットを構える。

 

 天の神がまわりを薙ぎ払うも既に手遅れだった。

 

 二人の一撃が天の神を切り裂く。

 

 その技は隠されていた相手の急所を的確に砕いた。

 

「バカな!この、俺が、俺が負けるというのか!?人間に、ただの人間にぃぃぃいいいいい!」

 

「違う」

 

 黒騎士が否定する。

 

「私達は勇者だ」

 

「貴様は勇者と黒騎士である俺に負けたんだ。そして、思い知れ」

 

 崩壊を始める天の神。

 

「お前が見下した人間の力、それが貴様を倒した力だ」

 

「ハハッ、そうか、だが、いずれ人間は滅ぶ!俺ではなくても、新たな脅威がいつか滅ぼしに来るぞ!終わりはすぐにやってくる!」

 

 狂ったように叫ぶ天の神。

 

 若葉は大太刀を一閃。

 

 最後まで狂ったように笑いながら天の神は消滅する。

 

「滅びはせぬ」

 

 若葉は大太刀を鞘へ納めた。

 

「私達、勇者と黒騎士がいる限り、世界は滅びることはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『日向と勇者達よ』

 

 戦いが終わった直後、全員が白い空間の中にいた。

 

 事態を理解する暇もないまま、彼らの前に姿を見せるのは六大神とニンジャマン。

 

『天の神は滅びた』

 

『奴の生み出したバーテックスもやがて消滅していくだろう』

 

「つまり」

 

「終わったということだな!?タマ達の勝利だな!?」

 

「やったよ!タマっち先輩!」

 

「えっと、そういうことでいいのかしら?私達は少し、理解が追いついていないというか」

 

「頭が混乱しています」

 

 喜ぶ球子達に対して、風達は少し混乱している。

 

『そして、神樹の寿命も尽きようとしている』

 

「えぇ!?」

 

「ちょっ、それって問題じゃないの!」

 

 神樹の消失。

 

『だが、それは新たな始まりでもある』

 

『神樹は自らの力のすべてでこの大地を復活させる』

 

『失われた生命が戻ることは本来ならありえない。しかし、神樹に託されてきた思いによって、新たな命が大地に芽生えるだろう』

 

『これから、もう一度、キミ達がこの星を命で満たさなければならない』

 

「どういうことですか!」

 

 結城友奈が叫ぶ。

 

『我々はこの星を離れる』

 

『これから先は人間がこの星を守らなければならない。いつまでも我々がいては人間に成長に悪影響を与えてしまう』

 

『大丈夫だ。キミ達のような者が一人でも残っている限り、どんな試練があろうと乗り越えられる』

 

『さらばだ、勇者達よ!そして、黒騎士よ!』

 

『みんな!元気でなぁ!』

 

 手を振るニンジャマン。

 

 無敵将軍。

 

 隠大将軍。

 

 ツバサマル。

 

 究極大獣神。

 

 ゴセイアルティメット。

 

 ガオゴッド。

 

 彼らの姿が消えていく。

 

 同時に視界が開ける。

 

 そこにあったのは。

 

 

 

「うわぁ!」

 

 誰かが感嘆とした声を上げる。

 

 そこに広がるのは緑の大地。

 

 先ほどまでの死滅した大地とは思えない場所だった。

 

「すごいわねぇ~」

 

「うーん!さっきより、空気がおいしい!」

 

 みんなが騒いでいる中、日向は腰のブルライアットへ視線を向ける。

 

「終わったよ、蔵人……ブルブラック、俺は」

 

「日向!」

 

「おぉい!」

 

 顔を上げると炎力と伊達健太が駆け寄って来る。

 

 彼らは笑顔で、そして勢いよく日向にだきついた。

 

「おいおい、なんだ?」

 

「この野郎!心配かけんじゃねぇよ!」

 

「また、会えたな」

 

 涙ぐむ彼らの姿をみて、自然と日向の瞳にぽろぽろと涙がこぼれる。

 

「なんだ、これ?」

 

「おいおい!お前も泣いてんじゃないか!」

 

「……そっか、これは涙か」

 

 日向は自らの頬へ触れる。

 

 何百年も流していなかった涙。

 

 それに触れて、日向は自然と笑みを零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一カ月後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国以外の大地が解放されたことで人々は驚き、戸惑っている。

 

 大赦の三好春信などが中心として、なんとか事態の収拾にあたっているらしい。

 

「さて、ゴウタウラス、体の傷はどうだ?」

 

 俺は四国の外。

 

 緑の大地で寛いでいる相棒へ声をかける。

 

 あの戦いの後、ゴウタウラス、鋼星獣、聖獣たちはかなりの傷を負っていて自然治癒に当たっていた。

 

 かなりの時間を有したがようやく彼らの傷が癒えたらしい。

 

 吼えるゴウタウラスに笑みを浮かべる。

 

 あの後、俺に少しばかりの変化があった。

 

 失ったと思っていた人間の感情、笑顔や涙といったものが再び流れるようになったのである。

 

 今も、俺は自然と笑顔になれていた。

 

 ちらりと視線を向ける。

 

 海が見渡せる崖。

 

 そこに小さな墓を作った。

 

「蔵人、ここなら色々と見渡せるだろう?ようやく、お前の墓を作ることができたよ」

 

 かなり遅くなってしまったが弟の墓を作った。

 

 遺骨はない。けれど、安らかに眠れることを信じている。

 

「終わったんだよな」

 

 天の神に復讐するという目的を果たした。

 

 これから、俺は――。

 

「日向さーん!」

 

「……結城友奈の方か」

 

「はい!貴方の彼女!結城友奈です!」

 

 にこりと笑みを浮かべる友奈。

 

 対して、俺は困った表情だろう。

 

「友奈、前も話したがあれは」

 

 彼女の呪いを俺に移し替えるために告白をした。しかし、それは彼女の心の隙をつくための手段だったと謝罪をした。

 

 けれども。

 

「関係ないですよ!私は日向さんの彼女ですから!」

 

 彼女は俺の話を聞いても変わらず、俺の彼女と明言している。

 

 このために西暦組が大荒れしたのは記憶に新しい。ちぃちゃんに監禁まがいのことをされかけた。

 

「そうはいかないよ!結城ちゃん!」

 

「えぇ、高嶋さんの言うとおり」

 

「邪魔はさせないですよ!高嶋さんの友奈ちゃんと千景さん!」

 

 俺を包囲するように現れる結城友奈、東郷美森、高嶋友奈、郡千景。

 

「俺を包囲しないでくれないか?」

 

「結城ちゃん、あの告白は日向さんが結城ちゃんの呪いを取り除くための措置だったの」

 

「そうだとしても、私が日向さんを好きな気持ちは変わらないよ!東郷さんや日向さんの三人で楽しく過ごすの!」

 

「友奈ちゃんの言うとおりです。邪魔はさせませんよ」

 

「そうはいかないわ。日向は私と高嶋さんの大事な彼氏なんだから。私達が正妻なの」

 

 にらみ合う四人。

 

 その隙をつくようにするりと乃木園子と乃木若葉が俺の腕を左右から掴む。

 

「えへへ~、日向さん成分の補充だよぉ~」

 

「成程、これはひなたと同じくらい、素晴らしいものだ」

 

「おい、放せ、ひなた、微笑んでカメラを向けるな、おい!」

 

「あぁ、ちょっと!私達の家族になんてことしているのよ!樹、行くわよ!」

 

「うん!お姉ちゃん!」

 

 騒いでいると風と樹がやってくる。

 

「タマ、知っているぞ。こういうのとカオスっていうんだろ?」

 

「タマっち先輩、負けていられないよ!このドレスをきて、突撃しよう!」

 

「うわぁ、すっごいことになっているわねぇ」

 

「オウ!出遅れたわ!みーちゃん!行くわよ!」

 

「え、あ、待ってよ!わわ!」

 

 倒れそうになる水都を流星光が支えた。

 

「あ、ありがとう。ヤミマルさん」

 

「気にするな、それにアイツの苦しんでいる姿を見ていると笑みを浮かべてしまう」

 

「あ、あははは」

 

 なんともいえない表情を浮かべる水都。

 

 あの戦いの後、四国へ戻った俺を待っていたのはヤミマル、そして、西暦の時代に巫女だった上里ひなたと藤森水都が待っていた。

 

 やはり、彼女達も六大神によって長い眠りについていたという。

 

「まぁ、ほら、サプライズあったほうがいいだろう?」

 

「俺たち自身もサプライズになっているけど」

 

 あの時の健太と力の言葉は今でも忘れられない。

 

 何より。

 

 西暦の時代と神世紀の少女達による俺争奪戦(命名、ヤミマル)がはじまっていた。

 

「これはどうすればいいんだ?」

 

「決まっています!」

 

 にこりとほほ笑むのはひなた。

 

「全員を選んで幸せにしてください。そのために、私達は頑張ってきたんですから」

 

 告げられた言葉に俺は。

 

「考えさせてくれ。そんな話、受け入れられるか」

 

「いいえ、大丈夫です。既に園子ちゃん達と手は回してありますので」

 

 にこりとほほ笑む。

 

 周りのメンバーも笑みを浮かべていた。

 

「それに、ほら、大神さんと銀ちゃんも付き合うことになりますから」

 

 鶴姫こと三ノ輪銀は戸籍を取り戻している。

 

 その後、猛アタックの末、疲れ果てた大神のオーケーを勝ち取ったという。

 

「諦めませんからね!日向さん」

 

「ひなたの言うとおりだ。日向、我々は諦めることはないぞ」

 

 若葉の笑みに今度こそ、ため息を吐いた。

 

「前向きに検討するよ」

 

 俺の言葉にゴウタウラスが吼える。

 

「あぁ、そうだな」

 

「日向さん?ゴウタウラスはなんと?」

 

 問われた日向は笑みを浮かべる。

 

「あぁ、幸せになれってさ」

 

「はい!みんなで幸せになりましょうね!」

 

 そういって全員が抱き着いてきた。

 

 

 

 




魔神ベロニカ

鳥人戦隊ジェットマンに出てきたトランザの最終兵器。
その力はグレートイカロスを敗北に追い込むほどの力をもっていた。最終的に倒されるもその力はラスボスを生み出す切欠を与えてしまう。


これにて本編終了です。

このあと、番外編で本当に作品は終わらせます。




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番外編:赤嶺友奈は愛されたい

「やめろ、友奈」

 

 心臓を掴んでいた手を日向は無理やり引きはがす。

 

「あれ、なんで?」

 

 戸惑った声を漏らす赤嶺友奈。

 

「なんで、効果がないの」

 

「気持ち悪いし、頭がぐちゃぐちゃする。だが、それ以上に」

 

 友奈を助けないといけない。

 

 そういう気持ちに日向は突き動かされていた。

 

 どうして、そうなのかわからない。

 

 だが、放っておけない何かが日向の中にあったのだ。

 

「っ!!」

 

 赤嶺友奈は日向を突き飛ばす。

 

 そのまま、部屋を飛び出していった。

 

「友奈……」

 

 激痛に襲われた日向はそのまま意識がもうろうとし始める。

 

 その時、手の中に金色の鍵が現れた。

 

 鍵をみた、日向は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向と会ったのか!?」

 

「あぁ、記憶は戻っていなかったけど、俺達の知る日向に近かった」

 

 力は健太に日向と出会ったことを話す。

 

 驚きながらも日向に戦う意思はないと聞いて安心する健太。

 

「あとは記憶を取り戻すだけだな!」

 

「それだけ、なんだろうか?」

 

「どういうことだよ?」

 

「いや、わからないんだ」

 

「何が!?」

 

「日向に、赤嶺友奈ちゃんはどうして執着するのかなって」

 

「そんなの……なんでだ?」

 

「多分だけど、そこがわからないと根本的な解決にはならないんじゃ」

 

「見つけましたぞ」

 

「「うわっ!?」」

 

 突如、彼らの前に巨大な魔神が現れる。

 

「なんだ、お前!?」

 

「拙者はガンマジン、ご主人様の命でお二人を連れていく」

 

 巨大な手が抵抗する暇もないまま、力と健太を捕まえてどこかへ連れていく。

 

 しばらくして、二人はある家の中にいた。

 

「いや、どこだ、ここ!?」

 

「ご主人様、お連れしましたぞ」

 

「日向!」

 

 力は驚いて駆け寄る。

 

 家の床。

 

 そこで倒れている日向の姿があった。

 

「おい、どういうことだ?」

 

「ご主人様のなかに渦巻いていた邪悪な力は取り除きました。しかし、疲労なのか目を覚ましません」

 

 健太がガンマジンへ詰め寄る。

 

「くそっ、とにかく部屋で休ませよう」

 

「俺、なんか、探してくるわ!」

力に日向を任せて部屋の中を調べる健太。

そして、あの部屋に入ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、彼女達を倒さないとダメなんだ」

 

 失敗した。

 

 失敗した、失敗した、失敗した、失敗した。

 

 赤嶺友奈はぶつぶつと体育座りしながら考える。

 

 どうすれば、彼だけを自分のものにできるか。

 

 彼に自分だけをみてもらえるか。

 

 その結果。

 

「やっぱり、私しかいないってことを理解してもらうしかないよね」

 

 パンパンと土を落としながら赤嶺友奈は笑みを浮かべる。

 

「邪魔な西暦と神世紀の勇者はすべて倒しちゃおうっと」

 

 暗い笑みを浮かべながら赤嶺友奈は立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……」

 

「日向!目を覚ましたか!?」

 

「力、健太?」

 

「お前、思い出したのか?」

 

「……俺は」

 

 体を起こす日向。

 

 少しして彼は思い出す。

 

「俺は、ここは?」

 

「四国だ…、えっと、神樹の中のっていう意味だけど」

 

「それより、本当に日向なんだよな!?」

 

「あぁ、俺だ」

 

「よぉし!思い出したんだな!?友奈ちゃん達が喜ぶぞ?」

 

「友奈?」

 

「あぁ!これで、元通りだよな!」

 

「いや、行かないといけない」

 

 日向は立ち上がる。

 

「どこへいくんだ?」

 

 力が問いかける。

 

「赤嶺友奈を助ける」

 

「何でだよ!相手は敵だぞ!お前をこんなことにした相手だ。それに」

 

 健太は言いよどんだが、告げる事にした。

 

「あんな歪んだ執着をしている相手だぞ!それでも助けるのかよ」

 

「俺は助ける相手を選ぶつもりはない……それに、思い出したんだ。俺は一度、たった短い時間だが赤嶺友奈と共に行動をしていた」

 

 神世紀になったばかりのころ、赤嶺友奈は家の倉庫に閉じ込められていた。

 

 勇者の資格がなかった彼女は虐待同然のことを受けている。

 

 そのことを知った、日向は六大神の反対を押し切り蘇りつつあった力を用いて、彼女を支えた。

 

 結果として神世紀の時代に覚醒した際に記憶が混濁して、ブルブラックが表に出る事態になる。

 

「俺は助けた相手を見捨てない。どれだけ、相手が歪んでいようと、いや、違う」

 

 日向は首を振る。

 

「赤嶺友奈はただ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海。

 

 そこで赤嶺友奈と結城友奈、高嶋友奈の二人はぶつかっていた。

 

 友奈同士の決闘という名の殺し合い。

 

 結城、高嶋の二人は殺し合いを望んでいない。しかし、赤嶺は異なる。

 

 彼女達を殺そうとしていた。

 

「日向は私のものだよ!貴方達はいらないんだ!」

 

 叫びと共に振るわれるヘルフリード。

 

 それをギンガの光を纏った結城友奈が受け止める。

 

「赤嶺ちゃん!どうして、こんなことしないといけないの!?」

 

「うるさい、うるさいよ!お前らがいなければいいんだ!だから」

 

 片方の拳に黒いエネルギーが集まる。

 

「怒臨気!!」

 

 叫びと共に放たれた一撃が結城友奈を吹き飛ばす。

 

「高嶋さん、貴方も邪魔なんだ。私の日向を」

 

「ねぇ、どうして、赤嶺ちゃんは日向さんと居たいの?」

 

「え?」

 

 ぽかんとする赤嶺友奈。

 

 高嶋友奈は静かに問いかける。

 

「私は日向さんに救われた。絶望の中から救い上げてもらったんだ。だから、日向さんに恩返ししたいし日向さんに幸せになってもらいたいから一緒にいたい。私にできることなんて限られているかもしれないけれど」

 

――貴方は?

 

 そう問われたとき、赤嶺友奈は笑みを浮かべる。

 

「私が日向さんと一緒に居たいからだよ!私とずっと!永遠に!邪魔をするなら誰だろうと容赦しない!たとえ、西暦の友奈だろうと!」

 

 ヘルフリードと臨気を纏いながら赤嶺友奈は走り出そうとした。

 

 高嶋友奈は正面から拳を受け止める。

 

 彼女の拳は激気を放っていた。

 

「違うよ。確かに、そうなのかもしれないけれど、赤嶺ちゃん、違うよ!そんなんじゃ、赤嶺ちゃんは幸せになれない!絶対、ダメだよ!」

 

「うるさい!消えちゃえ!お前らなんか消えちゃえよ!」

 

 怒臨気が放たれて高嶋友奈を押していく。

 

「負けないよ。私は間違っていると知っているから!」

 

 高嶋の体からさらに強い激気、過激気が放たれる。

 

 二つの力がぶつかりあい、そのまま均衡が保たれようとしていた時。

 

「やめろ」

 

 上空から黒騎士が二人の間に割り込んだ。

 

 衝撃によってエネルギーが消失する。

 

「黒騎士、さん」

 

 呆然とする高嶋と結城。

 

 黒騎士から日向の姿に戻って赤嶺友奈の前に立つ。

 

「思い出したよ。赤嶺友奈。俺はキミと会っていたってことを」

 

「え?」

 

 驚いた声を漏らす赤嶺友奈の頭を日向は撫でる。

 

「すまなかった。キミと最後までいてあげられなくて」

 

「違う、違うよ」

 

「すまなかった。俺はキミを救うことができなかった」

 

「そんなこと」

 

「俺が天の神を倒しきれなかったからキミみたいな子が生まれてしまった。そんな罪悪感が俺の中にあったんだと思う。だから、キミが少しでも生きられるようにすることしかできなかった」

 

 日向は優しく赤嶺友奈を抱きしめる。

 

「ごめんな、最後まで愛してあげられなくて」

 

 抱きしめられた赤嶺友奈はぽろぽろと涙をこぼす。

 

「違う、違うよぉ!私は愛されたよ……日向に、貴方に愛してもらえたんだ。だから、だから、もう一度、逢えるって聞いて、逢いたいって望んで……周りの目的とか関係ない。ただ、貴方と」

 

 ぽろぽろと涙をこぼす赤嶺友奈。

 

 彼女の手の中にあったヘルフリードが地面へ落ちる。

 

 落ちたヘルフリードは砂になって消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向さん、大丈夫?」

 

「どうだろう、な」

 

 高嶋友奈に問いかけられて日向は首を振る。

 

 あの後、敵対はしないとって赤嶺友奈は姿を消した。

 

 おそらく、今後、バーテックスを操るという勇者達との敵対行動はとらないだろう。

 

「少なくとも、俺は彼女を探すよ」

 

「どうして、ですか?」

 

 結城友奈が問いかけた。

 

「俺の償い、いや、会いたいからだろう」

 

 そういう日向の脳裏には赤嶺友奈の笑顔が過ぎる。

 

 憑き物が落ちたようなもの。

 

 あの顔の彼女ともう一度、あって話をしたい。

 

 日向はそう考えていた。

 

 

――大好きだよ!私の日向!

 

 

 

 「むぅ」

 

 「赤嶺ちゃん、羨ましい」

 

 

 




これにて本作は完結です。

長い間、お付き合いいただいてありがとうございます。



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神世紀アフター
姉だって甘えたい


久しぶりの投稿です。

何か、エンジンが入りました。

とりあえず、気が向けば、誰かの話を乗せることになると思います。



「ごめんなさい!遅れました!」

 

「別に、気にしていない」

 

 四国にあるショッピングモール。

 

 そこで落合日向と犬吠埼風は待ち合わせをしていた。

 

 上下を黒の上着とズボンで統一している日向に対して風は女子力をこれでもかと詰め込んだ格好をしている。

 

 本気モードの風。

 

 つまるところ、彼とのデートを心から楽しみにしていた。

 

 どうして二人がデートをすることになったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は二日ほど前に遡る。

 

 

 

 

 

「風とデートをしてほしい?」

 

「お願いします!」

 

 全ての戦いが終わった後、日向は力と健太の三人で生活をしているアパート。

 

 そこにやってきた樹の言葉を繰り返す。

 

 樹は真剣な表情で頷く。

 

「はい!あの、その……お姉ちゃん、最近、元気がなくて……」

 

「元気がない?」

 

「はい、そのぉ……日向さんが西暦の勇者さん達の相手ばかりをしていて」

 

「あぁ」

 

 おずおずと告げられた樹の言葉に日向は理解する。

 

 天の神と戦うために力を蓄えてきた西暦の勇者たちは長い眠りから目覚めると同時に日向への深い愛を躊躇うことなくぶつけてきた。

 

 中学生だった彼女達は最早19歳。

 

 日向と(外見は)同い年になったことで熱烈なアプローチを繰り広げている。

 

 例えば乃木若葉。

 

 彼女は鍛錬と称して毎日のように彼とランニング、そして木刀に模擬戦を行っている。

天の神を倒したと言っていつ、いかなる脅威が現れるかわからないという建前で彼と毎日のようにスキンシップ(意味深)をひなたと共に行っていた。

 

 高嶋友奈は彼の空いている時間を狙っての如く郡千景と共に各地のゲーセンを荒らす等をしている。尚、各地でプリクラやケーキを仲良く食べている。

 

 土居球子と伊予島杏はキャンプやバーベキューなどをしようと誘ってきた。

 

 しかも狙って日向が予定のない日を狙う。

 

 そんなことが続いて既に一カ月。

 

 神世紀の勇者部の面々は精神的に大ダメージを負い始めていた。

 

 友奈と東郷は互いに抱き合い、ぶつぶつと何かを話し合う。

 

 夏凜は八つ当たりするように何かを模したサンドバックに拳を叩き込んでいる。

 

 園子は誰かを模した人形を抱きしめたり、髪の中へうずめるといった奇行を繰り返していた。

 

「私も辛いですけれど、お姉ちゃんの元気がないのはもっと嫌なんです!だから、お願いです!日向さん」

 

 今にも泣きそうな顔の樹をみて日向は手を伸ばす。

 

 樹の頭を日向は優しく撫でる。

 

「日向さん?」

 

「そんな泣きそうな顔を俺はみたくない」

 

 撫でながら日向は言う。

 

「平和を掴んだんだ。こんなことで悲しむお前達を見たくない。俺にどこまでできるかはわからないけれど、デート、するよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「あぁ」

 

「あ、あの……できれば、しばらく頭を撫でてくれませんか」

 

 樹だって年頃の女の子、好きな人に撫でてもらえてうれしくないわけがない。

 

 久しぶりのスキンシップ、十分に満喫したかった。

 

「わかった」

 

 力が帰って来るまで日向は樹の頭を撫で続けた。

 

 樹が帰った後、シンプルに「デートしよう」というメールを風へ送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(日向とのデート、これは夢じゃあないかしら?夢なら覚めるな、いいや違う!ゴールインして子供を産んで幸せな家庭を築いて老衰するまで冷めることは決して許さんぞぉ!)」

 

 

 

 と、近所迷惑を考えずに叫んだという。

 

 

 

「(見せるぞ、女子力!まずは手をつなぐ!臆していてはいけない!勇者になるのだ!今こそ!)」

 

 

 

 女子力という言葉を銀河へボッシュートしたような思考回路でグルグルと目が渦巻きながら隣をあるく日向へ視線を向けようとした時。

 

 ぴとっと風の手に日向の手が触れた。

 

「ひゃい!?」

 

「人が多い。迷子になったら困るからな……迷惑だったか?」

 

「滅相もありません!むしろ御馳走様です!」

 

 まともに思考できない中で夢と現実の区別もつかなくなってきた風は満面の笑顔で答える。

 

 日向は気にしていないのか風の手を握って人ごみの中を歩いていく。

 

 そんな二人を尾行する者達がいた。

 

「日向さん……」

 

「友奈ちゃん、なんてことかしら先輩と日向さんが一緒に歩いているわ!私達とではなくて、風先輩と」

 

 離れたところで互いを抱きしめあいながら尾行を続けるのは結城友奈と東郷美森。

 

 二人は偶然にも買い物へ来ていて、彼らの姿を見つける。

 

 まさかの二人がデートをしていることに思考がフリーズしてしまうもすぐに尾行を開始した。

 

「いけないことじゃないよね?日向さんに被害がいかないように見守るだけだもん、ほら、温かい目(ハイライトオフ)」

 

 

「友奈ちゃんの言うとおりよ。日向さんへ危害を加えようとするなら容赦なく先輩であろうと叩き……コホン、温かい目よ(ハイライトオフ)」

 

 

 温かい目(ハイライトオフ!)で見守っているために周りから人が離れていく中で二人は一定の距離で追いかけていく。

 

 追跡されていることなんて知らない二人は楽しそうに買い物やフードコート、さらにはゲームセンターを満喫する。

 

「あ、あの、こういう服ってどうかな?」

 

「似合っているが、こっちのフリルのついたものでもいいんじゃないか?」

 

「え、似合うかなぁ」

 

「俺はそう思うけれど?」

 

「買います!」

 

 日向のチョイスした服を即決して選んだり。

 

「はい、あーん」

 

「アーン!おいちぃ!」

 

 日向の差し出すフォークのケーキをおいしく頬ぼり(この時、どうしょうもない寒気を感じ取るもエアコンが強いだけと判断する)満喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな幸せの時間も夕方になれば終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、楽しい時間も終わりかぁ。しばらく日向さんとも会えないし」

 

「どういうことだ?」

 

「だって、日向さんの周りには色々な人がいるし」

 

 風は西暦組の勇者のことを思い出す。

 

 これから高校生になるにしても彼女達は色々な意味で規格外すぎる。

 

 そんな彼女達と自分は天と地の差があった。

 

 風は嫌というほど理解させられる。

 

「色々な人がいるからって、お前が遠慮する理由はないぞ」

 

「え?」

 

 言われた意味が理解できなくて風は顔を上げる。

 

「確かに俺の周りには色々な奴がいる。だからって、お前が遠慮をする理由はない……甘えたいときは甘えていいんだよ」

 

 突然のことに風は戸惑う。

 

「え、なんの」

 

「お姉ちゃんだって甘えていいんだよ……我慢するな」

 

「い、いいの?ほら、私、面倒だよ?女子力磨くし、うどん大好きだし、これから高校生だし」

 

「気にしない」

 

「あ、あ、その」

 

「今日は風のところで夕飯を食べようかな、たまには三人でさ」

 

 笑みを浮かべて日向は風の手を引く。

 

 もつれそうになりながら日向に引っ張られながら風は歩き出す。

 

「もう!」

 

 風は顔を赤くしながら勢いよく日向に抱き着いた。

 

「今の言葉、取り消しは効かないからね!」

 

「男に二言はありません」

「よろしい!じゃあ―」

――遠慮せず、甘えるからね!

風はそういって強く日向を抱きしめた。

尚、一部始終を録画して取得したデータは神世紀の勇者の面々へ拡散されてしまい、風はしばらく真っ赤な顔で勇者部へ足を運んでいたという。

 

 

 

 

 



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高嶋友奈はケッコン願望全開である

これほど最低なタイトルはないだろう。


 

「そういうわけで私と結婚してください!」

 

「……食事にするけど、食べる?」

 

「いただきます!」

 

 高嶋友奈。

 

 年齢は19歳、ただし、外見においてという前書きがつく。

 

 その実態は西暦の時代に戦っていた勇者の一人。

 

 今は勇者ではなく獣拳の使い手として、子供に獣拳を教えている。

 

 高嶋友奈だが、ことあるごとに日向へ結婚を申し込んできていた。

 

 その事に対して日向は断り続けている。今や扱いがかなり雑になってきているがそこは仕方のないことだろう。

 

 高嶋友奈を含め、西暦の勇者たちは様々なアプローチをしてきている。

 

 未だ行動の少ない郡千景など不安要素が多い中で積極的、否、本音をバンバンとぶつけてきていた。

 

 このことに対して親友たちは。

 

「結婚式はいつだ?」

 

「まぁ、高嶋友奈ちゃんも三百年、たまりにたまっている……から、仕方ないんじゃない」

 

 という反応で日向を助けてくれるというわけではない。

 

 無邪気な笑顔で朝食をとっている高嶋友奈の姿を見て日向は思う。

 

 こんな純粋な子に好かれているということに実感がない。

 

 本当に大好きという気持ちをぶつけられていて、日向は戸惑っている。

 

 復讐者として今まで生きており、人間らしき感情を取り戻し始めているけれども戸惑いが多い。

 

 そんな戸惑いの隙を埋めようとするように西暦の勇者はおろか神世紀の勇者たちもどんどんアタックしてくる。

 

 先日の風とのデート騒動の後、東郷と友奈が暴走してひどい目に力と健太の二人があってしまった為に距離を取られていた。

 

「日向さん!真面目な話があります」

 

「ミルクのお代わりいるか?」

 

「はーい!」

 

 嬉しそうに牛乳を飲む友奈。

 

「って、流されるところでした!今日は本当に大事な話があるんですよ!日向さん」

 

「一応、話は聞こう」

 

「はい!結婚体験イベントがあります!私に付き合ってください」

 

「それを拒否することは」

 

「ハハッ、面白いことを言いますね?」

 

 ニコリと微笑む高嶋友奈。

 

 だが、その目は全く言っていいほど、笑っていない。

 

「そんなこというなら無理やりにでも行きます。できるならぁ仲良くいきたいですね?そう思いませんかぁ?あれ?どうしたんです?変なこと言いました?うーん、300年くらい眠りについたせいかなぁ?偶に他の人とズレているんじゃないかと不安になるんです。でもでも!日向さんが気にしないでくれるなら大丈夫ですよ!」

 

「落ち着け、逃げないし、ちゃんと行くから」

 

 ハイライトオフの温かい目を前にして日向は大人しくついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚、西暦組の勇者たちはというと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、千景ぇ、タマは……タマ達はいかねばならないんだぁ!」

 

「千景さん!邪魔をしないで、ください」

 

「そうはいかないわ」

 

「くっ、千景、邪魔をするというのなら友であるお前ですら……斬らねばならぬ!」

 

「郡さん、まさか貴方が立ちはだかるなんて!」

 

 球子、杏、若葉、ひなたの三人の前で邪悪といえそうなオーラを放つ郡千景。

 

 彼女は鎌と共に気力を全開にしていた。

 

 一触即発の空気を漂う中、両者はにらみ合う。

 

 千景は親友である友奈の手伝い、無論、只ではない。

 

 協力する代わりに自分のターンの時は邪魔をしないこと。そういう鉄の誓いを交わしていた。

 

 最終的に二人で幸せになろうね♪という約束をしている。

 

 そのために邪魔する者は叩き潰す。

 

 全ては日向と幸せになるため、千景は鎌を握り締める。

 

「邪魔はさせないわ。高嶋さんの幸せと私の幸せのためにも!」

 

 そうして彼女は構える若葉達に攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、これか」

 

「えへへ、だって!前は中学生でしたけれど、今は大人なんですもん!」

 

「……そうか(逃げないように腕を掴まれている)」

 

 ニコニコと歩いているが高嶋友奈の目は周囲を警戒している。

 

 邪魔がないか心配なのだろう。

 

「楽しみです!日向さん!」

 

「わかったよ」

 

 そうしてやってきたのは結婚式場。

 

 神樹の中で日向と友奈の二人は結婚式を仮ではあるが行った。

 

 現代でもやろうということで結婚式を仮ですることになった。

 

 今回は―。

 

「まさかの着物か」

 

「はい!どうです?」

 

「似合うぞ」

 

 友奈は髪を結いあげて化粧をしている。

 

 結婚式の時と別により女性という姿を意識させられてしまう。

 

 何より中学生で子供だと思っていた彼女が化粧をするだけで大人の女性みたいな姿になってドッキリしてしまったことは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

 

 

 

「えへへへ」

 

「笑顔だな」

 

「当然ですよぉ!日向さんと現実でも結婚式ができたんですから」

 

「大きな声で言わないでくれないか?」

 

 道行く人がちらちらとこちらをみている。

 

 今の発言で周りの視線が集まり始めていた。

 

 日向は目立つことがあまり好きではない。

 

 黒騎士の時と比べて人間らしさが戻ってきている証拠なのだろう。

 

 友奈は嬉しそうに抱き着いてくる。

 

「お、おい」

 

「日向さんは結婚したいという気持ち、ありますか?」

 

「正直、わからない」

 

 復讐者から人へ戻ったにしてもまだまだ失われた感情が多い。

 

 急に結婚と言われても日向は戸惑う。

 

 恋愛感情というものにまだ不慣れ。

 

 その姿を見て、友奈は微笑む。

 

「可愛いなぁもう~」

 

「おい!?」

 

 思いっきり抱き着いてバランスを崩れそうになりながらも日向は友奈を支える。

 

「チュッ」

 

 隙をついて、友奈が日向に軽くキスをした。

 

 にっこりと微笑む友奈。

 

 日向が何かを言おうとした時。

 

「「何をしているのかな?」」

 

 ぞっとするほど低い声に日向が振り返る。

 

 修羅がいた。

 

 笑みを浮かべているはずなのに全く笑っていない。

 

 それどころか笑みだけでバーテックスや天の神すら滅ぼせそうだ。

 

 恐ろしいと日向は思う。

 

「な、何をしているんだ?お前ら」

 

「買い物帰りなんだけどさぁ、ねぇ、樹、今、何が見えた?」

 

「うん、お姉ちゃん、私の気のせいじゃないなら高嶋の友奈さんとキスをしたね」

 

 ニッコリと笑みを浮かべている風と樹。

 

 犬吠埼姉妹はアシュラを凌駕する勢いであった。

 

「うふふふ、犬吠埼姉妹ちゃん、残念だけど、日向さんは私と結婚するんだから!ほら!」

 

 友奈がみせるのは体験イベントで撮影した写真。

 

 白無垢の友奈と日向の二人。

 

 その姿を見て、犬吠埼姉妹は笑顔を浮かべる。

 

「人というのは怒りを超えると笑ってしまうというのは本当らしい」

 

 ぽつりと日向が言葉を漏らした直後、風と樹VS友奈の戦いがはじまった。

 

「返してもラウ!」

 

「日向さんは私とお姉ちゃんガ幸せにするカラ!」

 

 人として何かを失いつつも二人が高嶋友奈へ攻撃を仕掛けようとする。

 

 対峙している友奈は。

 

「私はすべてを蹴散らして日向さんと結婚するんだぁあああああああああああああああああああ!」

 

「穴があれば入りたい」

 

 街中で、大きな声で愛を叫んだ高嶋友奈の傍にいた日向はぽつりと漏らした。

 

 



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噴射五秒前

タイトルの意味は想像に任せます。

アンケートの結果、赤嶺友奈ちゃんの話になります。




「そういえば、日向」

 

 何でも屋を営んでいる三人は横一列に並んで剥がれかけている壁のペンキを塗っていた。

 

 ペンキを塗っていた力は隣にいる日向へ尋ねる。

 

「なんだ?」

 

「いや、西暦の勇者たちがこの時代に生きていることは良いんだけど……神樹の世界にいた赤嶺友奈ちゃんってどうなったんだ?」

 

「あー、そういえば、全く姿を見ないなぁ」

 

 日向の隣でペンキを塗っていた健太も気づいたような声を上げる。

 

「……」

 

「あれ、日向?」

 

「おーい?どうした?」

 

 左右から反応のない日向の顔を見る二人。

 

 目を見開きながら日向は気絶していた。

 

「「日向ぁああああああああああああああああ!?」」

 

 作業中の場所で二人の叫びが響いた。

 

「うふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 翌朝、日向は三人で利用しているアパートの一室で目を覚ます。

 

 自分にのしかかるものに気付いて目をうっすらと開ける。

 

「おはよう、日向様ぁ~」

 

「……家族にさまはやめろ」

 

「はーい!」

 

 笑顔でこちらをみている赤嶺友奈の姿がそこにあった。

 

「はぁ……友奈」

 

「なぁに?もしやお目覚めのキスを所望!?」

 

「そんなものは望んでいない。お前、いつになったらみんなの前に顔を出すんだ?」

 

「うーん、日向成分を十分に得たら?」

 

「そんなものはない、ってか、乃木園子みたいなことぉ」

 

「うーん?」

 

 続きを言う前に唇をふさがれてしまう。

 

 抵抗しようにも両手を抑え込まれていて動くことができない。

 

 日向にできるのは彼女が満足するまで無駄に体力を消耗しないようにすることである。

 

 しばらくして満足したのか赤嶺友奈は離れる。

 

「私がいる前で他の雌の話は嫌だなぁ」

 

 その目は真っ黒。

 

 不用意な発言をすれば、今のキスよりも更に過激なことを彼女はするだろう。

 

 神樹の世界において中学生だった姿の彼女は西暦組と同様に19歳の容姿になっている。

 

 ボンキュッボンという姿はある意味、幼い姿を知るものからすれば当然のものと思うだろう。

 

「ところで友奈」

 

「なにかな?」

 

「どうして、お前は俺のシャツの中にいる?」

 

「当然だよ!もっと日向の温もりを感じたいから、ほら、私のドキドキ、聞こえるでしょ?」

 

 ふふふと妖艶な笑みを浮かべながら赤嶺友奈は体を動かす。

 

 寝る前に来ていなかった大きなシャツを日向は来ていた。

 

 そして、その中に赤嶺友奈は入り込んでいる。

 

 体に伝わる温もりからしておそらく彼女は服の類を纏っていない。

 

「寝る前に来ていた俺の服は」

 

「回収――ごほん、洗濯に出しているよ」

 

「本当だろうな?」

 

「ひっどぉい、家族を疑うの?」

 

「お前が今までにしてきたことを考えたら当然のことだろう?」

 

「今まで?」

 

 きょとんと首をかしげる赤嶺友奈。

 

「(風呂場へ突撃してくる、既成事実を作ろうと痺れ薬を盛る、終いに……やめよう、赤ん坊のぬいぐるみを抱きかかえてあんなことを言われるなんて、頭がクラクラしてきた)」

 

 頭痛がしてきて顔をしかめる日向。

 

 気のせいか体の血が沸騰してきているような気がする。

 

「どうしたの?」

 

「いや、それよりも起きたいからどいてくれ」

 

「いーやーだー、まだ、成分が満喫できていない」

 

「知るか、起きる」

 

「誰と出かけるつもり?」

 

「そんな予定はない」

 

 疑う様に半眼でみてくる彼女に日向はどうしたものかと考えていた時。

 

「隙あり!」

 

 両手を伸ばして日向とゼロ距離になる。

 

 彼女は――。

 

「ちゅっ、はむ、あむ!ちゅうう~~~~~」

 

 ディープキスというものを実行に移した。

 

 あまりに体験したことのない突然のことに目を白黒する日向。

 

 体を少し起こしたことでシャツの中にある赤嶺友奈という存在が嫌というほど視界に広がる。

 

 鼻孔をくすぐるのは女性の香り。

 

 少女だった彼女が女性へと成長していることを証明する明石めいたもの。

 

 それが嫌というほど理解させられて日向の思考がマヒしていく。

 

 マヒしていく思考と一緒に。

 

「友奈」

 

「ふぅ、なぁに?」

 

「すまん、限界だ」

 

「ふぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥと音を立てて鼻血が噴き出した。

 

 

 

 

 

「日向ぁああああああああああああああああああああああ!?」

 

 早朝から赤嶺友奈の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だっはっはっはっはっはっ!」

 

「おい、わ、笑ってやるなよ」

 

「そういう力だってぇ」

 

 大笑いする健太、力は苦笑する程度だが、予想をしていたものだった。

 

「笑い過ぎだ、あの後、大変だったんだぞ」

 

 皺を寄せながらあの日のことを思い出していた日向。

 

 涙を零しながら看病をしてくれた赤嶺友奈を残していったことは心配だが、仕事があるために日向は部屋を出た。

 

「しかし、彼女もこの時代に来ていたんだな」

 

「なんとなーく、予想はしていたけどな!ダッハッハッ!」

 

「健太、お前は笑い過ぎて痛い目をみたほうがいい。特に友奈辺りに殴られて」

 

「物騒なことをいうんじゃねぇよ!?実際に起こりそうで怖いわ!」

 

 青ざめながら健太は周りを見る。

 

 誰の姿もないことを確認して安堵の息を吐く。

 

「過剰な反応だな」

 

「お前なぁ!お前は知らないだろうけれど、俺と力は大神の騒動に巻き込まれてひどい目にあったんだからなぁ!?」

 

「騒動?」

 

「大神が鶴姫ちゃんの求愛から逃げるために四国から出ようとしたんだよ。そのことを察知した鶴姫ちゃんが……まぁ、大暴れして」

 

「その騒動に神世紀組の勇者の美森ちゃんと園子ちゃんが参加して……」

 

「とにかく凄惨な光景だったよ」

 

 最後は縛られた大神と鶴姫こと三ノ輪銀がキスをしてめでたくハッピーエンドだった。

 

「俺も四国を」

 

「やめろ!」

 

「お前が無言ででていったら大神の比じゃないからな!?確実に地球崩壊規模の何かが起こるから!」

 

「……やめておく。寒気がしてきた」

 

 正解だという二人の言葉に日向は反論できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで今日は日向と一緒に寝ます」

 

「ベッドを用意してあるからそっちへいけ!」

 

「嫌だ!」

 

 

 

 

夜。

 

 当然のことながら赤嶺友奈はいて、今は赤色のパジャマを着ている。

 

 着ているのだが。

 

「お前、何で胸元全開なんだ」

 

「興奮する?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定だよねぇ~」

 

「想像に任せる」

 

「じゃ、肯定ということで!」

 

 否定しない方向でいくと無理やり肯定させられる。

 

 とにかく赤嶺友奈が優勢だった。

 

「どーん」

 

 後ろからタックルを受けて日向はベッドの上に倒れこむ。

 

 碌な抵抗もできないままベッドの上の日向へ覆いかぶさる赤嶺友奈。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「迷惑かな?やっぱり」

 

 こちらを覗き込む赤嶺友奈の表情は暗い。

 

 何かを怖がるように尋ねた。

 

「私みたいな勇者の成りそこないがいても、やっぱり」

 

「俺は勇者としての赤嶺友奈と一緒に居たいと思ったわけじゃない」

 

 沈黙する赤嶺友奈を日向は抱き寄せる。

 

 これが良いことなのかはわからない。

 

 だが、日向は彼女を助けたいと望み、行動に移した。

 

 その結果が今の時間。

 

「目の前にいる少女、赤嶺友奈と俺はいることを望んだ。だから、お前が望んで俺から離れるというのなら――」

 

 最後まで言う前に彼女に口をふさがれてしまう。

 

 ソフトなキスは短い時間で終わる。

 

 離れた赤嶺友奈は頬を赤らめて瞳を潤ませていた。

 

 あ、ヤバイ。

 

 自分のしでかしたことを理解した日向が離れようとした瞬間、赤嶺友奈が顔を近づける。

 

「もう、ダメ……私、日向から離れられない。ずぅぅぅぅっと一緒だからね?」

 

 唇へキスを落としながら赤嶺友奈はパジャマのボタンをすべて外す。

 

 中から覗く女性らしい肌に日向はごくりと唾を飲み込んでしまう。

 

 その動きをみた赤嶺友奈は笑みを浮かべる。

 

 自分を見てくれる。

 

 日向が反応してくれた事実に彼女は笑みを浮かべた。

 

 そのままゴールインを狙おうとした時。

 

「そこまでだよ!」

 

「御用だよ!赤嶺ちゃん!」

 

 窓と天井から結城友奈と高嶋友奈が姿を現す。

 

 彼女達は拳を握り締めている。

 

 気のせいか背後に牛鬼など精霊の姿がみえた気がした。

 

「結城ちゃんに高嶋ちゃん、邪魔はさせないよ!これから日向と一緒になるんだから!」

 

「そんな素敵なこと!先にさせないよ!」

 

「当然!日向さんはわ、私の、か、かれ――」

 

「お前ら、迷惑だから外でやれ」

 

 最終的に妥協案ということで三人の友奈と川の字で寝るということで本日の騒動は終結した。

 

 尚、赤嶺友奈については西暦側の勇者が建造させたマンションで生活することになる。

 

 こうして、日向の生活の保障はされた。

 

 あくまで一時だけであるが。

 

 

 

 




次回は投票数が次点で多くの投票があった結城友奈ちゃんの話になります。

ちなみに選ばれなかったヒロイン達が多かった場合、こんな話を用意していました。

乃木園子  呪いの人形!?


乃木若葉 乃木若葉の日記

古波蔵棗 日向と海水浴

みたいな感じになっていました。



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