インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ (ぬっく~)
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本編 プロローグ

「へ~。中々の逸材じゃない」

 

薄暗い部屋に入って来た少女は、少年を見てそう呟く。

少年の眼にはもう光はなく、絶望を既に受け入れる準備が整っているのに関わらずに、少女はそれとは真逆のことを発したのだ。

 

「きっと、今よりも楽しい日々が始まるわ」

 

少年の意識はそこで途切れる。

少女の後ろで控えていた複数の男に連れ出された。

 

「宜しいのでしょうか?」

 

「何が?」

 

後ろに控えていた執事が少女に尋ねる。

 

「彼はあの―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

そう、彼はあの織斑千冬の弟である。

織斑千冬は第一世代IS操縦者の日本代表であった。

 

「問題ないわ。だって―――()()()()()()()()()()()()()

 

何故、少女が一夏を引き取ったのには大きな理由があった。

織斑千冬に()()()()()がいるのだ。

 

「異物を排除するのに、これ程の逸材はいないじゃない。あの子はきっと―――あなたが思っている以上の成果を上げるわ」

 

本来は、織斑千冬には一夏以外には弟はいない。

織斑十秋。こいつは、俗に言う転生者だ。運動神経抜群に頭脳明晰と千冬の弟と言われるぐらいの完璧な存在だ。

しかし、それは当然である。肉体は少年でも、魂は大人なのだから。

逆に一夏は劣化者として扱われていた。

そして、今回の一件で一夏は切り捨てられたのだ。

 

「日本政府もいいものを落としてくれて、ありがとうと言いたいわ」

 

「人質を()()()()、知らせておりませんからね」

 

くすっと、少女は笑う。

 

「戻ったら、始めるわよ―――最高で最強の最恐を」

 

「わかりました」

 

執事はお辞儀をし、少女を見送る。

その日、一人の少年の人生が180度、変わった。

 

 

三年後―――

 

 

「なんだよ、あれはぁ!!」

 

そこは何処かの研究所だった。

銃を持った兵士は今起こっている現状に困惑していた。物陰に隠れたものの、聞こえる銃声が一つ一つと聞こえなくなっていき、一人の足音しか聞こえなくなってしまう。

兵士は諤々と震え、来るな来るなと、小声で唱える。

相手は一人、研究所の警備で配置された兵士の数は千人以上いたの関わらず、全滅したのだ。

 

「………………」

 

足音が聞こえなくなり、兵士は上を見上げる。

そこには、死神がいた。

そして、全てを察する。

 

バアァン!!

 

綺麗な軌道を描き、兵士は倒れる。

 

「制圧した」

 

『了解。そのまま、真っ直ぐ進んで頂戴』

 

「了解」

 

黒のコートに身を包んだ少年は、通信機の指示に従い進む。

そして、一つの大きな扉の前にたどり着く。

 

「ここか?」

 

『えぇ、そこよ』

 

少年は扉にノックする。

結構丈夫であるなぁと、関心するかと思うかと何故か「はあぁ……」と、ため息を吐く。

腕を振り下ろすと一つの大槌が出現する。

それで、扉を壊すかと思うと、そのまま床に叩きつけた。

 

大地の剛剣(グラウンド・グラディウス)

 

床が巨大な剣の形に隆起させて、巨大な扉を突き破る。

 

「入ったぞ」

 

『そのまま、コンソールを起動させて頂戴』

 

少年はそのまま指示に従い、コンソールを起動させる。

転送の文字の下が100パーセントとなると、後ろの方が騒がしくなる。どうやら、援軍が到着したようだ。

 

「相手は一人だけだ! 撃って!!」

 

銃弾の雨が少年が降り注ぐ。

しかし、一発当たるどころか、全て弾かれる。

少年の前にはいつの間にか、一本の槍が空中で高速で回転していた。

 

「化け物がぁ!!」

 

叫ぶ兵士を無視して、やるべき事を終えた少年は―――

 

「もう、帰っていいか?」

 

そう言って、兵士の身長をはるかに超える巨大な片手斧を出現させる。

再び、銃弾の雨が降り注ごうとするが、機関銃が次々と暴発。

 

「な、何が起こった!!」

 

そして、隊長と思わしき人物は床に落ちた銃を見て、とんでもない現象が起きていた。

銃がドロドロと解け始めていたのだ。

 

無慈悲な太陽(クルーエル・サン)

 

直径10メートル程の太陽が出現する。

そして、隊長及びその場にいた兵士がその光景にめを奪われた。

少年はそれを床に投げつける。

 

炸裂する傲慢(プライド・フレア)

 

太陽が破裂し、研究所諸共消し飛ばす。

朝日と共に、焦土となった所が露わになる。そんなところを少年は歩く、その先に一台のヘリが止まっていた。

 

「作戦ご苦労です。イチカ様」

 

「お嬢は?」

 

「既にお待ちです」

 

執事が迎えにき、少年―――イチカはそのままヘリに乗り込む。

 

「凄いな……」

 

待機していた護衛の兵士が一帯の状況を見て、言葉を漏らす。

 

「お前は、初めてか?」

 

「えぇ、この状況を作ったのが先程の人なんですよね?」

 

「そうだ」

 

「一体、彼は何者のなんですか?」

 

隊長は新兵の質問に答える。

 

七つの大罪(セブン・デッドリー・シン)のイチカ」

 

その身に「暴食」「色欲」「強欲」「憤怒」「怠惰」「傲慢」「嫉妬」の七つ全ての罪をその身に宿した化け物。

止まっていた時間がゆっくりだが動き始める。



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一話

「一天を流星が十字に切り裂く時、ブリタニアを至大の脅威が見合う。それは古より定められし試練にして、光の導き手と黒き血脈の聖戦の始まりの兆しとならん」

 

バルコニーで本を読んでいた少女は読んでいた本を閉じ、空を見上げる。

そこには、一台のヘリが通過するのが見えた。

だが、ヘリが通過しても一点だけ、黒い点が消えることはなく、徐々に近づいてくる。

 

「任務ご苦労様……イチカ」

 

黒い点の正体は一夏だった。

一夏ははるか上空にいたヘリから飛び降りたのだ。

そんな一夏は槍の上に乗り、宙に浮かんでいた。

 

「神木から造り出された神器の一つ。強度は鋼よりも上回り、神木特有の不思議な力を持つとされる槍。〈霊槍シャスティフォル〉の使いごちはどうかしら?」

 

「悪くない」

 

少女は、くすっと、微笑む。

 

「では、次の仕事よ」

 

そう言って、少女は本をテーブルに置き、一通の封筒を一夏に投げ渡す。

 

「ロシアに飛んで頂戴。詳しい内容は現地で通達するわ」

 

「了解」

 

「それと終了次第、次の仕事まで暇を与えるからゆっくりと羽根を伸ばして来なさい」

 

一夏は無言のまま頷き、行ってしまった。

 

「セバス」

 

「はっ」

 

少女は、お代わりのティーセットを運んで来た執事に呼び掛ける。

一夏を迎えた、あの執事だ。

 

「例の動きは?」

 

「依然と変わりなく」

 

「そう」

 

少女は、ある少年を常に監視していた。

しかし、その少年は特に大きな行動は取らず大人しくしている。

 

「動くとしたら、高校受験ね」

 

監視対象―――織斑十秋。

織斑千冬の弟で、一夏にとっては双子の弟。

同時に転生者でもある。

 

(どんなチートを授かったかは分からないけど、概ね予想が付くわ)

 

物語に干渉できる転生には、神が関わっている。

そして、同時にチートと言う名の恩賜が与えられる。それも、ありふれた物が。

 

(男からして、〈催眠〉……いや、〈王の財宝〉か〈無限の剣製〉あたりかしらね)

 

身辺調査の結果からは、催眠類の情報は上がっていないことから、後者だと判断する。

少女は、新しく入れられた紅茶に手を付けた。

 

「私たち、()()()は物語に干渉するのはご法度よ―――織斑十秋」

 

少女―――ジャンヌ・リオネスは、織斑十秋と同じで転生者でもあった。

だが、十秋とは違い原作に干渉するつもりは全くなかった……あの日までは。

家督を受け継いで最初に行ったのは、織斑家の調査だった。

この世界が、ライトノベルの〈インフィニット・ストラトス〉であることは、既に知っていた。だから、ジャンヌは調べる必要があった。()()()()()()()()()()()()()()()

案の定、予想通りだった。

異物は混じっていた。それも、最低な結果で。

 

「私たち転生者は、決して表舞台に出てはダメな存在なのよ。それをあなたが最初に破ったのだから、どんな結果になっても何も保証はしないわ」

 

だから、ジャンヌは決めた。

 

「目には目を、歯には歯を、物語に干渉する者には殲滅を」

 

この世界の(転生者)を―――消し去ることを。

 

 

 

 

ロシア―――モスクア。

ロシアへと飛び立った一夏はカフェでコーヒーを飲んでいた。

 

『現地に到着したようね』

 

「あぁ。で、何処に向かえばいい」

 

『そんなに慌てなくてもいいわ。今はそこに待機して頂戴。役者が揃っていないわ』

 

「役者?」

 

『えぇ』

 

耳に着けていたハンズフリーで会話する一夏。

 

『今回の任務は、共同で行うことになっているわ』

 

「分かった」

 

『それで……』

 

「後ろにいる奴だろ?」

 

一夏は後ろにいる人物に目を向ける。

 

「へぇ……。良く気付いたわね」

 

「同じ匂いがしたからな」

 

水髪色の女性。一夏と殆ど年齢に差がない人物が座っていた。

 

「更識家当主の更識楯無よ」

 

「イチカ・リオネスだ」

 

お互いに自己紹介を済ませ、仕事の話を始める。

 

『では、仕事の方にはいるわ。今、そちらに情報を送ったわ』

 

「えぇ。確認したわ」

 

今回は、とある施設へと進入することだった。

表向きには普通の施設であるのだが、そのバックにある組織が関わっている。

 

「亡国機業……」

 

『はい。ですので、そのデータの入手をお願いしたいのです』

 

「いいわ。敵に関しては?」

 

『そちらは、イチカさんに任せます』

 

「それ、正気ですか? 資料によればISが警備に配置されているんですが……」

 

『問題ありません。イチカさんの実力であれば、IS程度では赤子同然ですので』

 

サラッと問題発言を連発するオペレター。

現状する兵器で最強と言ったら、IS以外存在しない。

それを赤子同然と言い切ったのだ。

 

「それは、ちょっと信じられないわ」

 

「別にそんなのはどうでもいい。敵は殲滅する。ただそれだけだ」

 

ISを所持する楯無にとっては、有り得ないとしか言えなかった。

リオネス家は裏社会では更識家と同じぐらい有名な一族だ。

対テロ対策家の更識とは真逆で殲滅を専門とした血塗れのリオネスが今回の作戦の発案者のため、口を挟むことはできなかった。

いくら強がった所で、ISには勝つことはできない。

 

『それでは、00:00に作戦決行します』

 

楯無は多少不安があったが、そんなのは後で吹き飛んでしまった。



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二話

時刻―――23:58。

 

「後、二分で突入よ」

 

研究所の正面の影に潜む、楯無と以下数十名の部下。

しかし、そこには一夏の姿はなかった。

 

(一体、どう言うつもり? 肝心のリオネス家の少年が来ていないのに作戦決行って)

 

突入まじかになっても、一夏が姿を表さないことに疑問を持つが、オペレーターからはそのまま作戦決行っと返信が帰ってきたのだ。

そして、作戦決行の時間が訪れた。

 

「仕方ない、突―――」

 

楯無は合図を出そうとした瞬間、研究所の正面が轟音と共に吹き飛ぶ。

その光景に流石の楯無も目を疑う。

一体何が起こったのかサッパリ分からなかったからだ。

 

「何事!?」

 

「楯無様! アレを」

 

隊員の一人が指差す方向に誰かがいた。

それを見て、楯無は確信を持った。この状況を作ったのは、彼だと。

彼の後ろには、今まで見た事も無い巨大な植物の花があったのだ。

 

『敵は俺が引き付けてやる。アンタらはさっさと突入しろ』

 

楯無は頷くと、部隊に伝令し突入する。

 

「ぞろぞろと、出て来たか」

 

これだけ大きな騒ぎを起こしたのだ、出てこないのが不思議ぐらいだろう。

 

「撃って!!」

 

そんなこんなしているうちに、銃撃戦が始まる。

 

「〈霊槍シャスティフォル〉第二形態《守護者(ガーディアン)》」

 

一夏の横で浮かんでいた槍の形状が変化し、一匹の巨大なクマの人形へと変わる。

 

「何だアレは!?」

 

クマは一夏を守るように盾になり、一夏は無傷だった。

 

「〈霊槍シャスティフォル〉第五形態《増殖(インクリース)》」

 

中指と親指で指を鳴らすと、クマから大量の小型クナイへと変形する。

クナイは敵目掛けて総攻撃を開始した。

 

「化け物が……」

 

 

 

 

研究所内に侵入した楯無は目的の場所へと突き進む。

敷地内の警備は全て、一夏の元へと集まっており、中はかなり手薄だった。

 

「あれは、一体何なのよ……」

 

楯無には一夏の使っている力が分からなかった。

最初はISの何かの装備なんかだろと思ったが、それは在り得なかった。ISは男性には使えない。

それどころか、ISではあんな植物は作り出せない。あるとすれば……。

 

(リオネス家の当主―――ジャンヌ・リオネスの祝福による力……)

 

それ以外ありえなかった。

実際にその通りだった。ジャンヌは当主の座に着いてからは、孤児から訳ありの子供を引き取っては、血のつながりのない家族を増やし、祝福と言う名の力を与えていた。もちろん、一夏もその一人である。

ジャンヌが持つチートは〈物語(ストーリー)〉と呼ばれる対象者に物語の力を与える能力。

本来は一人に一つしか与えられない力なのだが、一夏には七つも付属することが出来ることが分かると、ジャンヌ自身もかなり驚いた。

今までにない、結果に驚かないのも無理はないが、後で気付き、彼がこの世界の主人公であるのであれば、かなり納得できた。結果、ジャンヌは一夏に〈七つの大罪〉である「暴食」「色欲」「強欲」「憤怒」「怠惰」「傲慢」「嫉妬」の力を与えた。ついで、神器も。

 

「扉のロックの解除できました」

 

「三秒後に突入する」

 

楯無は指を三本立て、ゼロになると周りを警戒しながら中に突入する。

辺りは暗く、人の気配は全く感じなかった。

 

「さっさと始めるわよ」

 

楯無は背後の警戒だけし、コンソールをいじる。

そして、中のデータを転送を始めた。

 

 

 

 

研究所正面入り口。

もっとも酷い場所であった。一夏の〈増殖〉によって無残に殺された兵士の屍が横わっている。

物陰に隠れようと、強度が鋼を上回る〈霊槍シャスティフォル〉のクナイは貫通し、兵士を襲う。

結果、全滅。

 

「チッ……。やっぱ、とんだ化け物がお出ましか」

 

研究所の屋上付近から見下ろす一人の女性。

 

「こりゃあ、生存者ゼロか」

 

一夏はすぐにこの女性がISを所持しているっと、本能が察する。

 

「だけど、いくら力を持った所で―――こいつには勝つことは出来ねぇよなぁ!!」

 

IS特有の光が発せられ、ISが展開される。

 

「このオータム直々相手してやるんだから、喜べよ!!」

 

研究所の警備として派遣されたオータムは嬉しくて仕方なかった。

ここ最近は骨のない任務しかなかった。今回の研究所襲撃も特にやる気が起こず、一般兵に任せるつもりでいた。だが、その期待も裏切られ―――化け物が現れる。

 

「オラッ!!」

 

オータムのISは蜘蛛のような形をした特殊なISであった。

足の先端に機関銃が仕込まれており、蜘蛛のように特殊な糸を吐いて来る。

一夏は無茶苦茶な攻撃パターンに少し、戸惑う。

今までに相手していた中では、こいつは断絶に強かった。

 

「戦鎚ギデオンが無難か……」

 

相手がそれ程ではなかったら、〈霊槍シャスティフォル〉でもどうにかなった。

しかし、オータムの戦闘はそれではどうにもならないと一夏は判断する。

さっさと決着をつけるのであれば、〈神斧リッタ〉を使えばすぐに終わらせられるが……今現在、研究所内には楯無一行がいるため使うことが出来ない。

一夏は〈戦鎚ギデオン〉を取り出し、振るう。

 

双拳(ダブル・ハンマー)

 

二本の岩石の拳を作りだし殴る。

 

「ぐっ! 奇妙な技を使うなぁ!!」

 

一本の足からミサイルが一夏めがけて撃ち出される。

 

「ちっ」

 

一夏はギデオンでミサイルを殴り飛ばす。

内飛ばされたミサイルは遅れて、爆破。

無茶苦茶な戦いが繰り広げられる。

 

「アハハァ!! 楽しいぜ、こんな気分になったの久しぶりだぁ!!」

 

オータムは、生身で相手する一夏に何も疑問を持たなかった。

そんな、一夏はそろそろ飽きてくる。

 

「いつになったら終わる?」

 

『先程、転送が完了した』

 

「そうか」

 

時間稼ぎは如何やら成功したらしい。

 

「手こずっているようだから、加勢するわ」

 

「必要ない」

 

丁度、楯無が目的を終え、一夏たちの戦闘に加勢に加わろうとする。

 

「横槍してくんじゃあねぇよ!!」

 

オータムはハイ状態に横槍を入れて来た楯無にめがけて、ミサイルを撃ち出す。

もちろん、楯無にとってはその程度のことを防御するのは簡単だった。

しかし、あえてそれはしなかった。眼の前に彼がいたからだ。

 

「ちょ!? あんた何をやっているの―――」

 

一夏は、オータムのミサイルをまともに受ける。

しかし、楯無は異業な光景を目にする。一夏の肉体が瞬時に再生していたのだ。

服は再生せず、肉体だけが再生する。

 

「どうなっているんだ、その肉体は……」

 

オータムも予想外な光景に驚く。

 

「おい。全力で走って逃げろ」

 

「え?」

 

「死にたくなかったらな」

 

一夏の眼を見た楯無は瞬時に、彼の言っていることは本気だと察した。

楯無は部下と共に全力疾走する。

 

「不死身の化け物……いいねぇ、いいねぇ、最高だよ!!」

 

これ以上ない光景にオータムの感情がさらに高ぶる。

 

「持ち帰って、研究班の手土産にしてやるよ」

 

「お開きだ」

 

一夏はギデオンを思いっきり振り落す。

 

大地の怒号(マザー・カタストロフィ)!!」

 

地面が十字架に割れ、土砂が吹き上がる。

その勢いは、先に逃げた楯無たちに追いつきそうな勢いだった。

 

「ちょ! 何よあれ!!」

 

楯無が見たのは、巨大な石の塊だった。

一夏は再びギデオンを振り下ろすと、その巨大な塊が落ちる。

その衝撃は物凄く、楯無たちごと吹き飛ばす。

 

「あはは……これって、夢よね……」

 

瓦礫の中から出て来た瞬間、目に下のは滅茶苦茶になった街並み。その光景に楯無は笑うしかなかった。

結局、オータムの生死は不明のまま、戦いは終わる。

作戦は終了となった。



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三話

ロシア―――モスクア。

 

「結局、一睡も出来なかったわ」

 

楯無は先日の一件が頭の中から離れなかった。

ただのデータの入手だけに街を一つ消してしまったこと、とその件での政府への報告をしなければいけないのだから。

 

「本当に頭が痛くなってきた……」

 

楯無はカーテンを開けて、部屋の中に日の光を入れる。

 

「へぇ?」

 

カーテンの向うは瓦礫の山となった街並みが広がっているはずだった。

しかし、そこには何も無かったように、街並みが元に戻っていたのだ。

 

「一体どういう……こと」

 

夢を見ているかに思えて、楯無は頬を抓る。

 

「痛い……。じゃあこれは、現実……なの……」

 

現実と認識し、一体どうやってあれだけの物を直したのかを考え始める。

そして、一人だけ思い当たる人物がいた。

 

「イチカ・リオネス……」

 

楯無の行動は早かった。

一夏が泊まっている部屋に突撃する。

 

「あんた、一体なにをしたの!?」

 

ノックもせずに入った楯無が最初に目にしたのは、タオルを一枚腰に巻いた状態の風呂上りの一夏だった。

 

「ノックぐらいしろ」

 

「今はそんなことは、どうでもいいわ!! それより、説明してくれるわよねぇ!!」

 

「んなら、着替えてから来い」

 

一夏は人差し指で自分の肩を突っつく。

楯無は改めて、自分の服装を見て、頬を真っ赤にする。

いきなりのことに我を忘れ、寝間着のままで一夏のいる部屋を突撃してしまったのだ。

 

「み、見ないで頂戴!!」

 

楯無は慌てて部屋から出て行ってしまった。

一夏は、はぁ~と、ため息を吐く。

 

「騒がしい女だな……」

 

この時の楯無は更識楯無ではなく、一人の女の子であった。

 

 

 

 

ホテルのVIPルーム。

未だに頬を紅く染める楯無といつも通りの一夏は向かい合いながら、朝食を食べていた。

 

「それで、あなた一体何をやったのよ」

 

「街並みのことか?」

 

「そうよ!」

 

口を拭きながらも楯無は一夏を目から離さなかった。

 

「簡単なことだ。時間を戻した」

 

「はぁ?」

 

言っている意味が分からなかった。

時間を戻す? そんな、非現実なこと―――

一夏は手元にあったガラスのグラスを落とす。

結果は言うまでもないが、床に落ち、グラスは砕け散る。

 

「〈時間逆行(タイム・リターン)〉」

 

一夏はグラスの取っ手を掴み、一言唱える。

楯無は有り得ない物を目にした。

砕け散ったグラスが時間が戻ったかのように、一夏の手元にある取っ手に集まっていく。

最終的には落とす前の状態に戻る。

 

「有り得ない……」

 

「あり得ないなんて事は有り得ない。この様に〈物〉であれば、何でも戻すことができる。ただし、生き物などの時間は戻せない。命もな」

 

これが、街並みが一夜にして元通りになった正体だった。

 

「つまり、あんたは大量の殺人者ね」

 

建物などの物は直すことはできるけど、人の命は戻せない。

一夏は街に住む住人を巻き込んだのだ。

 

「それに関しては、大丈夫だ。政府に頼んで、作戦決行前に避難してもらった。よって、死者ゼロだ。研究所を除いてな」

 

「へぇ?」

 

楯無は意外な回答に声を失う。

あれだけの被害で、死者ゼロというのは、予想外であったのだ。

 

「もう何だか考えるだけで、馬鹿らしくなってきたわ」

 

楯無もリオネス家の祝福の力は人外の領域に立ってしていることを改めて認識する。

世界征服だって夢ではないのだから。

そこで、楯無は「はっ!」っと、何かを思い出す。

 

「祝福ということは、何か印があるわよね」

 

「これのことだろ?」

 

一夏は右首を楯無に見せる。

そこには豚のシンボルが刻まれていた。

 

「それって言うことは、背中にあったのも……」

 

「そうだな」

 

一夏の右首に〈豚〉、右胸に〈羊〉、背中に〈獅子〉、左の二の腕に〈龍〉、腹部に〈狐〉、左太腿に〈蛇〉、左足に〈熊〉のシンボルが刻まれている。

同時にこれが一夏の力の源でもあった。

 

「ジャネット曰く―――」

 

「ジャネット?」

 

「お嬢の愛称だ」

 

それを聞いて、楯無はふと思った。

あの聖女と同じ名前で、同じ愛称を使われていることに。

 

「続けるが、この力は他の奴に与えて、七人のチームを作るつもりでいたらしい」

 

「国家級の戦力が七人なんって相手したら、私なんか即時で逃げるわ」

 

あんな光景を見せられ、楯無はそう言い切る。

 

「結局、俺が全部もらちゃったけどな」

 

「あんたに勝てる存在っているの……」

 

無茶苦茶な存在である一夏に勝てる存在がいるのかが、疑問に思って来る。

しかし、以外な回答が帰って来きた。

 

「いるな」

 

「はぁ?」

 

楯無の予想を遥か左上に行く存在がいるらしい。

 

「誰よそれ」

 

「ジャネット」

 

「ジャネットって……ジャンヌ・リオネスが?」

 

「お嬢の祝福は〈裁定者(ルーラー)〉だ。祝福の力を強制的に無効にするらしい」

 

「らしいって、あんた……」

 

ジャンヌもバカではない。

もしもの時のために自身にも能力を付属してある。

裁定者(ルーラー)〉は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これにより、一方的に身体強化して、戦くことができるのだ。

 

「聞かされただけだから、知らん」

 

「…………」

 

楯無は何となくだが、ジャンヌの意図が分かった気がした。

 

「先に失礼させてもらいますね」

 

「そう言えば、君はこの後、暇かしら?」

 

席を立った瞬間、楯無は一夏を呼び止める。

 

「次の仕事まで、暇を貰っていますが?」

 

「なら……」

 

楯無は、持っていた扇子を広げる。

 

「私との買物に付き合いなさいな♪」

 

デートのお誘いだった。



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四話

「で、何のつもりだ」

 

「ん?」

 

朝食後、一夏と楯無は共に街を歩いていた。

 

「そうだね。少し君に興味を持ってしまったのが、本音だね」

 

「祝福のことか……」

 

確かに、あれ程の力だ。

楯無以外にも欲しいと言う者は多数いる。だが、この祝福には大きな秘密がある。

 

「先に断っておくが、こっから先は機密事項が含まれているぞ」

 

「あら、随分と優しいのね」

 

もちろん、この情報は一般公開はしてはいない。

裏社会でのみの情報である。更識家は裏に身を置く家系だから、リオネス家の祝福に関しては多少なりと知れる。

と言っても表面上の祝福しか知る事が出来ない。

特別な力が与えられる程度の情報だけだ。

 

(まあ……拉致、監禁なんてしてきたら、(うち)の門番に殺されるわな)

 

リオネス家の力欲しさに誘拐から色々と企んでくる輩は大勢いる。

しかし、未だに誰一人として、生還者はいない。

それは、リオネス家の門番は一夏と同ランクの祝福を持つ者がやっているからだ。

 

『それでは、次のニュース速報です。またもや、織斑十秋選手が―――』

 

一夏は十秋と言う言葉に一瞬思考を停止させる。

視線を店の方にむけ、そこに置かれていたテレビが、スポーツのニュースを報道していた。

 

『今の心境を教えてください』

 

『正直、期待外れでしたよ。あそこまで詰まらない試合になるとは思ってもいなかったです』

 

記者の質問に答える少年。

織斑千冬の弟であり、一夏の弟でもある織斑十秋だった。

十秋はどうやら、剣道の世界大会で優勝を勝ち取ったらしい。

それも、全試合ストレート勝ちの上、汗一つ掻かず、圧倒的な試合を見せたのだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

気になった楯無は一夏に話しかける。

しかし、一夏は何もなかったかのように、普通に振る舞う。

楯無はそんな一夏の背を見つめ、テレビの方に視線を向ける。

 

「織斑……十秋ねぇ……」

 

一夏が何で立ち止まった原因を楯無は確認してから、一夏を追いかける。

楯無は、十秋のことは初めて見た時から何故か分からないが生物的に嫌だった。

本能が訴えきたのだ、関わりたくないっと。

 

 

 

 

日本―――リオネス家。

 

「お嬢」

 

バルコニーで本を読んでいたジャンヌの前にある手摺りに着地する者がいた。

大鎌を担いだ80代の年寄りが、持っていた新聞を投げ渡す。

ジャンヌは一旦本を閉じ、新聞を受け取る。

 

「堂々と載っておるぞ」

 

「ふ~ん。やっぱり、転生者の身体能力は異常ね」

 

「カカカ!! お嬢が言えたことか?」

 

「それもそうね。それよも……アラン? いつも言っているわよね……そこに着地しないで頂戴って」

 

「お? こりゃあ失礼じゃったな」

 

アランと呼ばれた爺さんは、手摺りから降りる。

この爺さんがリオネス家での唯一の門番であり、ジャンヌから一夏と同ランクの祝福を貰った者だった。

 

「ここ最近は、襲撃が無くて暇なんじゃよ~」

 

「あら、いいじゃない」

 

「お嬢はよくとも、儂はちっともよくないわ」

 

アランはジャンヌが最初に祝福を与えた者であり、それなりに長い付き合いがあった。

元々は、ジャンヌの父の執事をしていたのだが、家督を引き継いだ時に隠居することになったのだが、ジャンヌがそれを止めたのだ。

第二次世界大戦時代から生きて来たアランは戦いに飢えていた。裏の世界にいれば……っと、期待していたのだが、結局隠居するまでにその心を満たすことはなかった。

年を取るごとに、その渇望が膨れ上がり、このまま一生満たされないのかと思われた―――お嬢が止めるまでは。

 

「この力は素晴らしい! 儂の中で飢えていた渇望がようやく息を吹き返したのだ」

 

「はいはい。あんまり変なことはしない方がいいわよ。ただでさえ、その力は〈呪い〉でもあるのだから」

 

アランに与えた能力は〈真実〉と呼ばれる力だった。

この力はアランの前では、〈嘘〉を付くことが許されないのだ。嘘を付いた者は全身を石化去れる。

しかも、それは自身にも影響されるため、ジャンヌはこの能力は〈呪い〉と現した。

もう話すことはないっと、ジャンヌは再び読んでいた本を開く。

 

「少しぐらい……儂の趣味に付き合ってもらいたいですね!!」

 

しかし、アランは担いでいた大鎌をジャンヌの首をめがけて振り下ろす。

バルコニーにあった物全て吹き飛び、アランもやったかと思った。

 

「それで、もう終わりかしら?」

 

「っ!?」

 

ジャンヌはごく普通に本を読んでいた。ただし、左手は別だった。

首元をめがけて振り下ろされた大鎌の刃の部分を左手の親指、人差し指、中指の三本だけ受け止めていたのだ。

それも、アランが今振るえる力で引き戻そうとするが、ピクリっとも動かなかった。

 

「これが、お嬢の能力―――〈裁定者(ルーラー)〉ですか……」

 

アランが言い終えると同時にジャンヌは本を閉じる。

それと、同時にアランはくの字に身体が曲がり、門がある方向へと吹き飛ばされた。

 

「全く、派手にやってくれたものね……」

 

後ろ振り向くと、屋敷の屋根部分が綺麗さっぱり無くなっており、山も三つ程消えていた。

 

「イチカが帰って来たら、直して貰わなきゃね」

 

ジャンヌは、溜め息を漏らしながら、屋根の無くなった屋敷へと戻る。

その数ヶ月後―――世界に大きな衝撃を与える事件が発生した。



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五話

日本―――織斑家。

 

俺の名前は、織斑十秋。まあ、俗に言う〈転生者〉と呼ばれる者だ。

運よく神に選ばれ、ラノベである〈インフィニット・ストラトス〉の世界に転生した。

しかも、転生のお約束である〈転生特典〉を貰っての転生だ。

俺が転生特典に選んだのは、もちろん最強の特典である〈王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)〉さ。

あれの前では、誰も勝てる奴なんて存在しない!! 学園最強(更識楯無)世界最強(織斑千冬)がなんだ? そうさ、俺に勝てる存在はこの世に存在しないのだ。

本当に―――最高の気分だぜ。 

 

「くくく、邪魔者は消えた―――こっから先は俺の世界だ」

 

転生条件は、織斑家に転生するようにした。望み通り織斑家の次男に転生された。

なぜ、そうしたかって? 決まっているだろ。俺は〈織斑一夏〉と言うこの世界の主人公が嫌いだ。だから、真っ先にそいつを消すために織斑家に転生したのだ。

そして、転生前の知識をフルに使って、(一夏)の評価をどん底に落とすこと成功した。

第二回〈モンドグロッソ〉の際わざと誘拐され、あいつとは別々に監禁された。政府は優秀な俺のみを千冬に教え、あいつを切り捨てた。本当にありがとうって言ってやりたかったが、バレるのはまずかったので敢えて黙っておくよ。

 

「あいつが居ない世界だ。お前のヒロインたちは全部貰ってやるよ」

 

邪魔者は消えた、幼馴染の二人は既に攻略済み。後は、IS学園での攻略だけだ!!

あー、早く冬にならないかな……。

 

 

 

 

日本―――リオネス家。

 

未だに屋敷の屋根部分にブルーシートが引かれ、とりあえず雨対策だけは施してあるリオネス家の本邸。

そこのバルコニーに珍しく、二人の少女がお互いに向き合いながら、茶を楽しんでいた。

 

「貴女の方から、来るなんて珍しいこともあるのね」

 

「ふふふ。ちょっとね」

 

水髪の少女と金髪の少女は、更識家現当主―――更識楯無とリオネス家現当主―――ジャンヌ・リオネスだった。

日本に拠点を置く、二大裏組織の当主が吞気に茶を飲み交わしていたのだ。

 

「私の可愛い義弟(イチカ)から、色々とお話しをしたそうね」

 

「あら、話が早いわね」

 

お互いににこやかに笑顔を見せるが、目だけは笑っていなかった。

ジャンヌは持っていたカップを置き、手を組み肘をつく。

 

「それで、貴女も〈祝福〉が欲しいわけ?」

 

「あら、くれるのかしら?」

 

お互いに誤魔化し合いは不要と判断し、本題を投げつける。

 

「私の軍門に下るならね」

 

「あらあら、冗談のきついことを」

 

お互いに笑みを見せる。

しかし、殺気だけは別だった。

置いてあったカップが震え、罅が入る。

 

「やっぱ、欲しいんだね」

 

「そりゃそうよ。あれだけの力を見せられればね」

 

殺気を鎮め、ジャンヌは溜め息を吐く。

報告で、一夏が〈対城〉を使用したことはそれ応答の被害をだしており、その穴埋めもやったことになる。

その現場をこの女が見ない訳がない。

 

「なら、ついて来なさい」

 

ジャンヌは立ち上がり、楯無はその後に続く。

 

「まず、最初に言っておくけど、この件は内密にお願いするわよ」

 

「それは、問題ないわ」

 

楯無も馬鹿ではない。こんな化け物巣窟にちょっかいをかける程の度胸はないのだ。

それを聞いて、ジャンヌは安心する。

 

「では、歩きながら〈祝福〉の重大な所を話すわ」

 

重大な所っと聞いて、楯無は喉を鳴らす。

この世界で、この情報を知るのはリオネス家以外存在しない。門外不出の情報を教えてもらえるのだ。

 

「まず、〈祝福〉に〈ランク〉が存在するわ」

 

「〈ランク〉ですか?」

 

「そう。その人の魂に応じて、ランク以下の力しか与えられないのよ」

 

一夏は〈ランク5〉の能力を7つ。門番のアランは〈ランク4〉の能力を与えられた。

他にもいるが、リオネス家には殆どが〈ランク2〉程度の力しかいない。

 

「色々と力を与えたけど、結論から言うと一部の者を除いて、〈ランク2〉が限界だという事が分かったのよ」

 

ランク0は一般人程度の力であり、ランク1で武術を取得した者程度の力が出せる。

 

「まあ、ランクは一つ差が付くだけで、明確な差が見れるんだけどね」

 

ランク2からは大分違って来る。ランク2は武術の達人クラスであり、オリンピックで余裕で金メダルを取れる程のレベルである。

 

「ランク3からは、もう英雄クラスの化け物ね」

 

ランク3は軍を相手に一騎当千できる化け物である。

現在、リオネス家では三人しか存在しない。

それだけ、貴重な人材であった。

 

「ランク4から上は、人外の領域ね」

 

ジャンヌでさえ、ランク4以上の人材はそうとうお目にかかったことはなかった。

長年の付き合いであるアラン以外でこの屋敷にはいなかったのだ。

 

「そして、貴女の魂のランクなんだけどね―――」

 

ジャンヌはその場に立ち止まり振り返ると、人差し指を楯無の胸部分に押し当てる。

 

「ランク4のストック3持ちよ」

 

それを聞いて、楯無は驚く。

自身がランク4であったと。

 

「その……ストックっていうのは?」

 

「ストックっとは、入れられる力の数よ。ストック3だと三つも与えられるわ」

 

つまり、楯無はランス4以下の力を三つもその身に入れることができるのだ。

ジャンヌは、改めて思う。やはり、物語の重要人物は魂その物が違う。

一夏はランク5のストック7であり、この日本を消せる存在。正直言って、私ですら化け物としか言えなかった。それに比べ、アランは可愛い方だよ。アランは、ランク4のストック1なのだから。

 

「さて、以上が祝福の説明ね。何か質問あるかしら?」

 

「無いわ」

 

「そう。じゃあ、本格的に入るわよ」

 

そう言って、一階の奥の廊下を進むと、一枚の絵が飾れていた。

ジャンヌは、その絵の額に触れると上に上げる。

何かのスイッチが入ったのか、僅かに仕掛け音が鳴っていた。

 

「隠し階段……」

 

「こっちよ」

 

床の一部が降り、地下階段が出来上がる。

楯無はジャンヌと共に地下階段を降りると、そこには一台のエレベーターがあった。

そして、さらに下へと降りる。

 

「足元には気を付けなさい」

 

真っ暗な空間から一転して、人工的な光が付けられた洞窟の前に着く。

その先は真っ暗らで先が見えない。

そして、ジャンヌはそんなのお構いなしに進む。

 

「これは……」

 

楯無はその先あった光景に目を奪われた。

人工的な光ではなく、無数の水晶が輝きを発した空間に出たのだ。

 

「さて、貴女に与える力を今から何にするのかを決めるわよ」

 

楯無は、無意識に頷く。

その光景を見て、ジャンヌは微笑む。



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六話

日本―――リオネス家。

 

「戻って来て、早々悪いわね」

 

「別に構わない」

 

ロシアから帰ってきた一夏は、ジャンヌと共にバルコニーでゆっくりしていた。

背後の屋敷の屋根と山が徐々に戻っていく中で。

 

「俺を戻したという事は、仕事か?」

 

「う~ん。そうとも言えるわね」

 

ジャンヌは人差し指を顎に当て、曖昧な回答をする。

 

「そろそろ、なんだけどね」

 

そう。今日は運命の歯車が動く日だった。

そして、その速報をジャンヌは待っていたのだ。

 

「お嬢様。例の者が動きました」

 

控えていた執事の口からその言葉が伝えられ、ジャンヌは思わずニヤける。

そして、その場から立ち上がると旗を出現させた。

 

「気は満ちたようね。では、こっから先は―――戦争だ!!」

 

バッサっと、旗が広がるとジャンヌは一夏の方に向き直る。

 

「イチカ。次の仕事は―――IS学園よ」

 

IS学園は、IS操縦者育成を目的とした放れ小島にある学園。

そして、同時にその学園は女子しかいない。

 

「織斑十秋がISを起動させたわ」

 

「!!」

 

今まで無反応だった一夏が、十秋っという言葉に反応を示す。

今日は、高校受験の日だった。

物語通り、十秋はIS学園の受験会場でISを起動させたのだ。

 

「今までにない事例だから、政府は必ず十秋をIS学園に入れるわ」

 

「なら、そいつの始末か?」

 

「いえ、それはまだよ。もちろん、イチカの気持ちは分からなくもないわ。でも、それはまだね。今は伸び切った鼻を伐採することよ」

 

そう。天狗の鼻より長くなった十秋の鼻を伐採することが、今回の目的だった。

無敗の王子と呼ばれ、浮かれているガキを成敗する……それが、ジャンヌの第一目標である。

 

「セバス!」

 

「は! 既に準備は整っております」

 

数年かけての計画。

それが、ようやく実ったのだ。

一夏もジャンヌもうずうずして、しょうがなかった。

 

「では、始めましょう。害虫駆除を」

 

織斑十秋のIS起動騒動の数日後―――二人目男性IS操縦者が現れたことが報じられた。

そして、物語の歯車が動き出す。

 

 

 

 

日本―――織斑家。

 

十秋は二人目の男性操縦者の出現に酷く慌てていた。

 

「どういう事だよ!! 何で俺意外にISを操縦することができる奴がいるんだよ!!」

 

名前や写真はまだ公開されていないが、どのテレビ局もそれでいっぱいだった。

 

「俺の計画には、何も問題はなかったはずだ!! くっそ」

 

十秋はイラつき、ゴミ箱を蹴り飛ばした。

邪魔な存在であった一夏を消したことで、ウハウハだった十秋は今回の件で逆にイライラが止まらなかったのだ。

今までに見たことないくらい十秋は荒れまくり、一旦頭を冷やすと今回のことを改めて考え直す。

 

「二人目の出現は予想外だったが、何の問題はない。俺にはこれがある」

 

十秋は虚空から黄金の鍵を出現させる。

神からもらった転生特典である〈王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)〉の鍵だった。

 

「ISも俺の能力専用になったやつが届くことになっている。雑魚程度の奴なんぞ、俺の前では何の問題はない。そうさ、俺は最強なんだ」

 

十秋は不気味な笑い声を上げる。

しかし、十秋は知らなかった。

自分が……()()()()()であったことを。

 

 

 

 

???―――????

 

「ふぅ……」

 

楯無は近くにあった岩場に腰を落とし、ある光景を見つめる。

 

「本当に凄いわね……この力は」

 

無数の屍が広がる世界。

楯無は〈亡国機業〉の構成員が密集している所に単騎で突撃したのだ。

もちろん、そこには各国から盗まれたISもあった。しかし、楯無には擦り傷一ついていなかった。

リオネス家からもらった力により、楯無はここまでの無双を広げることができたのだ。

 

「さってと、目的の場所ではなかったし……ん?」

 

アジトと思わしき場所という情報だったので、楯無はウキウキしながら殲滅したのだが、全くの外れであり無駄足だった。とりあえず迎えを寄越してもらおうと楯無は携帯を起動させると、一通のメールが届いていた。メールの送信者は―――リオネス家のジャンヌからだった。そして、肝心の内容はある招待状だった。

それを読んで、楯無はニヤける。

 

「へぇ……。了解よ」

 

携帯を閉じ、楯無は空を見上げる。

 

「始まるのね……」

 

リオネス家からの招待状を受け取った楯無は次に向かう場所が決まった。そこは―――日本……IS学園だった。



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七話

日本―――IS学園、一年一組。

 

「はいっ。副担任の山田真耶です。みなさん、一年間よろしくお願いしますね」

 

黒板の前でにっこりと微笑む山田先生。

彼女は身長はやや低めで、一夏と殆ど変わらない。

正直言って、一瞬だが生徒かと思ってしまった。

 

「えっと、じゃあ。最初のショートホームルームは、みなさんに自己紹介をしてもらいましょう」

 

学校生活で定番である自己紹介が始まる。

 

「織斑十秋くん」

 

「はい」

 

そして、今年の一番に注目されている人物の自己紹介が始まる。

内容は平凡な内容だったので、一夏は気にも留めなかった。

そんな感じで、自己紹介はスムーズに進み。

 

「では、えっと……イチカ・リオネスくん」

 

一番最後の席に座る、一夏の番になる。

 

「! 一夏だっと……」

 

しかし、一番に反応したのは十秋だった。

すぐさま、一夏のいる席の方に目を向け、苦虫を嚙み潰したような顔になる。

そんなのを気にせず、一夏は自己紹介を始めた。

 

「イチカ・リオネスだ。そこのガキと同じだ。以上」

 

「ガキだと……てめぇ、何様のつもりだ」

 

十秋は席から立ち上がり、怒りを露わにする。

一夏にとっては、自分は選ばれた者だと高を括っている十秋を呼ぶには十分な言葉だった。

 

「ガキをガキと言って何が悪い。クソガキ」

 

どうせ、潰すことが確定された哀れな奴なのだから、喧嘩を売ってみる。

 

「てめぇ!!」

 

十秋はついにキレ、一夏に近づこうとした瞬間だった。

 

「新学期早々騒がしいぞ。織斑」

 

教室の前にドアが開き、十秋には聞きなれた声が聞こえ、その場に止まる。

 

「千冬姉……」

 

「ここまでは、織斑先生だ」

 

そう。十秋の姉であり、このクラスのクラス担任である織斑千冬が現れたのだ。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田くん。クラスの挨拶を押しつけてすまなかったな」

 

慣れた手つきで、話を進めると教壇に立つ。

 

「諸君。私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者には、出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

織斑先生からの挨拶が終わると、クラスの女子どもが騒ぎ立てる。

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ、感心させられる。それとも私のクラスにだけ集中させてるのか?」

 

これには、織斑先生も呆れていた。

 

「まあいい。織斑、続けろ」

 

棒立ちする十秋に織斑先生は視線を向ける。

 

「え、いや。自己紹介はもう終わっているんだが」

 

「ん? そうだったのか」

 

織斑先生の勘違いで終わり、十秋は一夏の方に指を向ける。

 

「あの野郎が喧嘩を吹っかけて来たんでよ」

 

向けられた先を織斑先生は見ると、一瞬だが今までに見たことない驚きの顔になる。

そして、小声だが、一夏の名前を零す。

 

「! ……一夏

 

そんな姿に山田先生が声をかける。

 

「あ、あのー。織斑先生?」

 

「ああ、すまない、山田くん。ショートホームルームは終わりだ」

 

「な!?」

 

ニヤニヤしていた十秋だが、いきなりショートホームルームの終わりをつげると十秋は声を挙げる。

罰則が与えられると確信していた十秋の思惑が崩れ、この結果には納得出来なかった。

 

「少し黙っていろ。織斑」

 

「っ……」

 

しかし、反論する余地など与えてもらえず、十秋は席に座るしかなかった。

 

「諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう!! その後実習だが、基本操作は半月で身体に染み込ませろ。いいか。いいなら返事しろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

はい!

 

織斑先生から話が終わると、女子一同の返事でショートホームルームは終わる。

しかし、その中で十秋は未だに一夏を睨み付けていた。

 

 

 

 

休み時間が終わると、授業が始まる。

 

「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明を……ああ、その前に、再来週のクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

織斑先生が思い出したかのように、クラス代表のことを持ち出す。

 

「はーい! 織斑くんがいいと思います!」

 

女子の一人からの推薦から始まり、十秋の票が集まっていく。

しかし、その中に一人だけ、反対派がいた。

 

納得できませんわ!!

 

立ち上がったのは、金髪の少女だった。

一瞬だが、彼女の耳にあったピアスを見て、一夏は彼女が国家代表候補生であることに気付く。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を、一年間味わえとおっしゃるのですか!? 実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然です!」

 

セシリアのめんどくさい演説が始まった。

一夏は自分には関係ないと、あくびを掻きながら窓から見える空を眺める。

 

「そこの貴方! 聞いているのですか!!」

 

「あ?」

 

何かいつの間にか、一夏も巻き込まれていたらしい。

 

「全く聞いていなかった」

 

「つっっっ!!」

 

怒髪天をつくと言わんばかりに、セシリアの顔が真っ赤になり、怒りを示していた。

 

「つうか、クラス代表に俺はなるつもりはねぇよ。お前ら二人で勝手にやってな」

 

「あ、貴方はにプライドと言う物がないのですか!!」

 

「ハッ! そんなものはとうの昔に捨てたわ」

 

セシリアの怒りはついに頂点に登り、爆発した。

 

決闘ですわ

 

「容赦しねぞ……」

 

なんかいつの間にか決闘することになり、何故か十秋はまた一夏の方を睨み付けていた。

 

「とにかく、話はまとまったな」

 

結局、勝負は一週間後の放課後、第三アリーナで行うことになった。

一戦目にセシリア対一夏が行い、二戦目にセシリア対十秋という順番で行うらしい。

 

「それぞれ用意しておくように」

 

「はい」

 

「了解だ」

 

そして、授業が再開された。



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八話

IS学園―――屋上。

初日の授業は無事に終わり、一夏はIS学園の屋上に来ていた。

自販機で買った飲み物を片手に手摺りに寄りかかりながら、夕陽を眺める。

その時、一瞬にして視界が途切れた。

 

「だーれだ?」

 

一夏の内心では、物凄く驚いていた。

全く気配を感じさせずに背後に立たれ、ましてや目隠しされたことに。

しかも、その人物は一度だけだが会ったことのある人だった。

 

「更識楯無」

 

「あら? 正解よ」

 

楯無は一夏から手を離すと、数歩下がる。

 

「一体なんの用だ?」

 

「ん~。特にないわよ」

 

楯無も特に一夏に用もなく、ただこの学園に入学したことで先輩として挨拶しに来ただけだった。

 

「そうか……」

 

興味の無くなった一夏は持っていた飲み物に口をつけようと持って来るが―――。

 

「ふ~ん。コーヒーのブラックなんて、渋いのを飲むのね」

 

「……………」

 

一夏の手元には既に飲み物は無く、楯無の手元にそれは存在していた。

 

(こいつ……)

 

一夏は今のことで確信した。

楯無はジャンヌの祝福を手に入れていると。

 

(転移の類の能力か……)

 

先程まであった缶の感触が未だに残っていることから、一夏は転移に分類される能力だと予想を立てる。

 

「そうそう。ジャンヌちゃんには『よろしく』って伝えてね♪」

 

それを言い残して、楯無は一夏の前から姿を消した。

コーヒー缶は地面に置かれて。

 

「お嬢もとんでもない力を与えたな……」

 

もし、自分と同じで複数の能力を持っていたら、この転移は脅威でしかなかった。

誰も楯無に攻撃を与えることすら出来ないのだから。

 

 

 

 

日本―――リオネス家。

ジャンヌはリオネス家の地下にある洞窟で何かをしていた。

 

「ふむ。やっぱり解らないわね……」

 

ここは龍脈の中心地であり、最もジャンヌの《物語》を使うには持って来い場所であった。

《物語》は使うだけも相当の体力を使うため、ジャンヌは龍脈の力を利用して、最小限の体力で付属させているのだ。

そして、その《物語》の能力をジャンヌは解析していた。

 

(どう言う基準でこの力は付属されるのか解らないわ)

 

ジャンヌも薄々だがこの力には疑問を持っていた。

最初の疑問は一夏だった。一夏に与えた《強欲》の不死性は、あれは本来『生命の泉』を飲むことで得る力であり、《強欲》の力その物ではない。

そして、今回の疑問は楯無に与えた力だった。

 

(一夏にはあって、彼女には無かった……やっぱり、ランクが違うから?)

 

一夏のランクは最高ランクの5に対して、楯無はランク4である。

 

(それなら説明がつくわね)

 

そこまでの確信に繋がったのは、ジャンヌの執事のセバスが大きく関わっていた。

セバスはランク3の数少ない保持者であった。しかも与えられた力は《執事》と言うそのまま能力であった。この能力はざっくり言ってしまえば《パーフェクト・バトラー》であり、品位・教養・武術・料理の全てにおいて完璧にこなせる能力であるのだが、戦闘力が桁外れに低かったのだ。

 

(本来の力を付属させるには最低でもランク5は必要。だからセバスはランク3分の能力しか付属されず、能力も不十分だった)

 

この力の元になった人物は、人間業では到底不可能なことを難なくこなす者であった。

普通に車に追いつく脚力に軍隊を相手に圧倒的に勝てる正に化け物染みた存在なのだ。

 

(とりあえず、能力面での問題は解決したけど……)

 

ジャンヌにはもう一つ悩み事があった。それは、楯無に与えた力だった。

今さら後悔したところで、どうしようもなく。

 

「一夏にとりあえず伝えておく必要があるわね」

 

ジャンヌもこの件は一夏に投げる他なかった。

 

 

 

 

IS学園―――第三アリーナ。

セシリアに決闘を申し込まれ、その試合当日になった。

 

「あのーー」

 

「問題はない」

 

棒立ちする一夏に心配して、山田先生が声をかけるが、一夏は普通に返す。

それを聞いて安心したのか、山田先生はそれの先からは何も言わなかった。

 

「どうやら、あちらも準備が出来たみたいだな」

 

一夏はモニターからアリーナの様子を見て、セシリアの準備が整ったことを確認する。

 

「来い―――《()()》!!」

 

一夏の右腕に付けられていた白いガントレットが輝き出し、ISが装着させる。

このISはジャンヌが一夏に送り付けたISだった。そして、一夏が本来つけるISでもあった。

そして、一夏はセシリアのいる空へと飛び立つ。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

一夏はセシリアと同じ目線に立つと、試合開始の合図を待つ。

 

「わざわざ負けて、惨めな―――」

 

「ごちゃごちゃとうるせぇな……同じ舞台に立った以上、やるだけだよ」

 

「っ!!」

 

話を途切れされ、セシリアは反論しようとしたが、一夏から発せられる何かに口が開けなかった。

この男は、そこらにいる男とは何かが違う。

 

「では!! さっさと終わらせてあげますわ!!」

 

セシリアは自分の愛機である『ブルー・ティアーズ』の主力武器である《スターライトmkⅢ》を出現させて構えると、開始のブザー共に撃ち出す。

一夏も、それに合わせて中心に五つの穴が空いた反りのある片刃の剣を出現させる。

 

(もらいました!!)

 

セシリアは確信していた、この一撃はあたると。

しかし、現実とは非常であった。

一夏は片刃の剣をセシリアのレーザーにめがけて振る。

 

「え?」

 

セシリアは解らなかった。

自分が何故、ダメージを受けていることに。

 

「一体……何が!!?」

 

「これが、俺の能力さ」

 

その答えを教えたのは、一夏だった。

セシリアは、無傷の一夏を見て、再び《スターライトmkⅢ》を撃つが、一夏は片刃の剣を振り下ろす。

そして、セシリアはようやくその答えがわかった。

 

「《全反撃(フルカウンター)》。自分に向けられた特殊攻撃を、倍以上の威力でもって跳ね返す」

 

「な!?」

 

セシリアは言葉を失うしかなかった。

何故なら、その能力の前では、セシリアの攻撃は全く無意味でしかなかったのだ。

『ブルー・ティアーズ』の殆どの武器は特殊攻撃しか積んでいない。一夏との相性はかなり悪かった。

セシリアは自分で放った攻撃を倍返しされて、ダメージを受けていたのだ。

 

「ウォーミングアップぐらいの時間ぐらい持ってくれよ……小娘」

 

その場にいたの悪魔のような笑みを向ける化け物しかいなかった。



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九話

IS学園―――第三アリーナの外。

 

十秋は一夏とセシリアとの試合には全く興味もなく、飲み物を買いに第三アリーナの外にある自販機に向かっていた。

その時だった。十秋はIS学園から支給された端末から呼び出し音が鳴り、それに出る。

 

『今どこにいる』

 

端末からの呼び出し主は担任の織斑先生だった。

 

「今、外にいます。もしかして、試合は終わったのですか?」

 

『あぁ、そうだ。直ぐに戻って来い』

 

そう言って切れる。

十秋は端末をしまうと、ふっと笑いがこぼれた。

 

「はっん。結局、セシリア相手にジュース一本買う程の実力なかったのかよ」

 

結局、飲み物を買う暇すら与えられず、十秋は元来た道を戻る。

 

「来たか」

 

「セシリアさんの方は準備は万全なんですか?」

 

十秋は待っていた織斑先生に問う。

しかし、帰ってきた答えは違った。

 

「いや、お前の相手はリオネスだ」

 

「は?」

 

十秋は予想外な答えに思わず、声に出してしまった。

 

「オルコットは今後の試合は全て棄権することになった。よって、織斑。リオネスが代わりに闘うことになった」

 

「ちょっと待て。なんで、セシリアが棄権って……一体どう言うことだよ!!」

 

「説明している時間はない。さっさと支度しろ」

 

第三アリーナの使用時間が決められているため、織斑先生は十秋に命令する。

しかし、十秋は全く意味が分からなかった。

あのセシリアが何処の分からない馬の骨に速攻で負けたことに。

 

「分かったよ。来い!《英雄王》」

 

十秋は持っていた専用機を起動させ纏う。

 

「来たか……」

 

「てめぇ……どんな手を使ってセシリアに勝った」

 

十秋は自分を見下すかのように待ち構えていた一夏に苛立ちを覚える。

そして、同時に一夏が使っているISに見覚えがあった。

 

(あれは……《白式》!!)

 

間違いなく一夏のISは《白式》だったのだ。

名前といい、ISまでも―――それが余計に十秋の神経に触り、ついに我慢の限界だった。

 

「誰の許しを得て俺を見下す! 雑種がぁ!!」

 

十秋は開始の合図を無視し、《英雄王》の力を開放した。

背後に黄金の波紋が生まれ、槍と剣先が現す。

そして、それを猛スピードで撃ち出した。

 

『待って下さい!! まだ―――』

 

十秋のフライングに気付いた山田先生は試合中止を呼び掛けるが、それより早く十秋の攻撃は一夏に届いてしまった。

一夏は爆炎に包まれ、十秋はやったと確信する。

 

「その程度か……」

 

「な!?」

 

爆炎が晴れるとそこには、無傷の一夏がいた。

 

 

 

 

第三アリーナ―――ピット。

 

ピットでリアルモニターを見ていた山田先生はあわあわと慌てていた。

十秋が重大なルール違反したことにより、無防備状態の一夏に先制攻撃を仕掛けたのだ。

しかし、織斑先生は対照的に落ち着いていた。

 

「あんな状態でえらく芸達者だな」

 

「え?」

 

「なんだ? 代表候補生あろう者が、今のわからなかったのか?」

 

セシリアは先程まで相手していた一夏の戦いを観戦するため、ピットに来ていた。

そして、十秋のフライング攻撃を受けた筈の一夏がどうして無傷だったのか分からなかったのだ。

逆に織斑先生は何が起こったのか分かっていた。

 

「あいつは先に飛んで来た剣を難なく掴み取り、第二撃の槍を打ち払った」

 

「打ち払ったですって!?」

 

「そうだ」

 

「それでは、おかしいではありませんか!!」

 

そう。セシリアの言う通り、おかしいのだ。

本来、他者のIS装備は本人の許可なく装備もしくは使用することはできないため、一夏が十秋の武器を持つことはできない。

しかし、その答えはすぐに分かった。

 

「これを見て見ろ」

 

織斑先生は一夏のISのスペックデータを公開する。

それを見たセシリアは思わず言葉を無くす。

 

「こんなのありなのですか……」

 

その言葉に織斑先生は目を瞑る。

 

機体名   :白式

世代    :第三世代型

SE     :9880/9900

装備    :雪片弐型

       魔剣ロストヴェイン

       聖棍クレシューズ

       霊槍シャスティフォル

       戦鎚ギデオン

       双弓ハーリット

       明星アルダン

       神斧リッタ

単一仕様能力:零落白夜

       全反撃

       強奪

       災厄

       創造

       侵入

       無限

       太陽

 

同じ第三世代であるセシリアにとってはこの白式は異常だった。

本来は一つしかない単一仕様能力が八つあり、シールドエネルギーが9000オーバーなどありえないのだ。

 

「強奪のところを見て見ろ。答えが載っている」

 

セシリアは恐る恐るタッチする。

 

『強奪』

・直接触れずに遠距離から物体やシールドエネルギー、所有権などを奪うことができる。

 

「所有権の強奪……」

 

「そうだ。奴は織斑から剣の所有権を奪ったのだ」

 

そう。これが答えだった。

一夏は先に飛んできた剣を掴んだ時に所有権を強奪し、第二撃の槍を打ち払ったのだ。

 

 

 

 

「その汚らわしい手で我が宝物に触れるとは、死にたいのだな! 雑種!!」

 

十秋は自分の撃ち出した剣の所有権が奪われたことに、さらに怒りが増す。

先程のように黄金の波紋が発生し、数も尋常ではなかった。

 

「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで凌ぎきれるか!!」

 

空気を震わせる怒声をと共に武器の群れが一夏に向かって放たれた。

一夏は撃ち放たれた剣、刀、槍、斧と無数の武器を掴むと、切り払い、弾き飛ばす。

それにより弾き飛ばされた武器は、アリーナの周囲の地面や壁を破壊し、観戦していた者たちを驚愕させた。

 

「おいおい、その程度なのかよ。欠伸が出てしまうぞ」

 

「痴れ者が・・・・・天に仰ぎ見るべきこの我に不敬な態度をとは・・・・・その不敬は万死に値する! そこな雑種よ、もはや肉片一つ残さぬぞ!!」

 

欠伸のジェスチャーをする一夏に十秋はついに怒りの頂点を突破した。

十秋は波紋の中から一本の剣を取り出す。

赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なる独特の形状をした一本の剣だった。

 

「やっと、本命を出して来たか」

 

一夏も今までの経験上、あの剣は自分の持つ武器と似た素質を感じていた。

 

「肉片一つ残らず死ねぇ!! 《天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)》!!」

 

回転する三つの円筒が膨大なエネルギーを織り込んだ暴風を巻き起こし、一夏めがけて放たれる。

 

「何言ってんだ? お前の負けだよ……負け犬」

 

一夏は十秋から奪った武器を捨て、中心に五つの穴が空いた反りのある片刃の剣を取り出す。

そして、十秋はそれが何なのか知っていた。

 

「そ、それはぁ!!!!」

 

「返すよ。《全反撃(フルカウンター)》!!」

 

いくら、天と地を分けた一撃だろうとそれは《特殊攻撃》でしかない。

一夏の《全反撃》の圏内であり、十秋の《天地乖離す開闢の星》は跳ね返される。

 

「ふざけるなぁ!!」

 

十秋は自分が放った《天地乖離す開闢の星》に呑み込まれた。

そして、シールドエネルギーがゼロになったことが知らされるブザーが鳴る。



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十話

IS学園―――一年一組。

 

「はーい。と言う訳で……一年一組代表はセシリア・オルコットさんに決定です!」

 

第三アリーナでの決闘から次の日、ショートホームルームでクラス代表の結果が山田先生の口から発表される。

一夏は特に興味もなく、問題児の十秋は昨日の試合で医療室にお世話になっており、今日は休みだった。

そんで、当の本人であるセシリアはこの決定には多少不満があったが、あの状況下ではしょうがなくそうせざるを得なかったと諦める。

あの日、一夏はセシリアのレーザーを全て反射させて撃墜させ、試合続行不可能にさせて勝利を収めた。

もちろん、セシリアも反撃と色々と工夫を重ねてきたが、一夏の《魔剣ロストヴェイン》の能力の前ではそれは無意味に終わってしまう。

結果、セシリアはクラス代表を決める十秋との試合に参加が出来ないことに発展してしまい。

 

『リオネス。お前が相手しろ』

 

織斑先生の提案で、セシリアの代わりに戦えときたのだ。

一夏は別にかまなく、セシリアの代理で出る事になった。

その結果、一夏は十秋に勝ったので、セシリアがクラス代表と言うことになったのだ。

 

「クラス代表はセシリア・オルコットで異存はないな?」

 

「はーい」

 

結果は結果。

クラスの皆はこのことを受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

授業もごく普通で、IS持ちである一夏とセシリアが実演するだけだった。

そして、放課後になるとセシリアのクラス代表就任パーティーが開かれる。

 

「あれ、噂の二人目あ何処ですか!!?」

 

就任パーティーが開かれると聞きつけた新聞部が一夏の事を探していた。

クラスの皆もいつの間にか消えていたことに気がつくことなく。

そして、当の本人は寮の方に向かって歩いていた。

 

「……いつまで、付いてくるんだ?」

 

一夏は立ち止まり、後ろから付いてくる者に呼びかける。

月明かりに照らされ、その者が誰なんかが現れ、それは織斑先生だった。

 

「お前は……一夏なのか?」

 

一夏の見た目は、千冬の知る一夏とはかなりかけ離れていた。

髪先から白く変色し、左の首筋に傷跡があるのだ。

だから、十秋やその場にいた幼馴染の篠ノ之箒はそれが一夏だと気付かなかった。

だが、一人だけ一夏だと気付いた者がいた。それが、千冬だったのだ。

 

「あぁ。久しぶりだね。千冬姉」

 

一夏も最初に会った時の反応で大方気づいてはいた。いつ、千冬の方から接触して来るか待ってはいたが、接触に一週間近くかかるとは一夏も思ってもいなかった。

もし、会ったら……どんな顔をすればいいのか、一瞬んだが一夏は考える。

だけど、やっぱり一番最初に向ける顔はこれしかないと、一夏は千冬に笑顔を向けた。

 

「っ!!?」

 

千冬はその一夏の笑顔を見た瞬間、背筋に寒気を感じる。

ただの笑顔にしか見えないそれに千冬は恐怖を感じたのだ。

 

「う~ん。やっぱり、()()()()()()()は衰えていないんだね」

 

一夏は飛びついて来るもんだとずっと待っていたが、千冬は警戒してしまい、一夏はやれやれと、手を振る。

もしも、千冬が一夏に飛びついていたら《強奪》のスキルの一つである『身体狩り(フィジカルハント)』を行うつもりでいた。

 

「なんで……そんなにも変わってしまったのだ。一夏ァ!!」

 

「変わったっねぇ……それをアンタが問うのかい?」

 

「っ……。私はお前が居なくなってから、初めて自分が罪を犯したことに気付いた」

 

すぐそばにあったのに、千冬は全く気付かなかったのだ。

だけど、初めて失ってからそのことに気付いた。

 

「初めてだったよ……初めて失うことで気づけるなんて……」

 

「そうか……なら、いいさ。千冬姉もそれに気づいているなら、俺はいいさ」

 

「だから……もう一度、やり直さないか? 一夏」

 

やり直す。

その言葉に一夏の思考は停止した。

 

「もう一度、私たち()()で―――」

 

「もう、その口を開くな」

 

千冬はビックリっと、肩を震わせる。

今の一夏の瞳からは、冷たく―――怒りの色を感じさせていた。

 

「反省しているつもりかと思っていたが、俺の思い違いだったようだ……。織斑千冬。あんたは何も解っていない。俺が何故、この場所に立っているのかを」

 

全てを奪ったのは、紛れなく十秋だ。

あいつと、もう一度、暮らせだと?

ふざけるのもいい加減にしろ!!

 

「もう、アンタと話すことは何もない」

 

「ま、待ってくれ!! 一夏ぁ―――」

 

背後で一夏の名前を叫ぶ千冬を無視し、一夏は闇に消える。



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十一話

結局、千冬とは和解することはなく、一夏はその日から授業に出ることはなかった。

疑問に思った生徒の一人が質問するが、山田先生はそれには答えることは出来きなかった。上―――学園長からは気にせず授業をして下さいっと言う指示が出ていたのだ。

そして、当の本人は屋上にいた。

 

「授業サボって何しているのかな?」

 

そんな一夏の前に、いつものように楯無が現れる。

しかし、一夏は答える気はなく黙り込む。

 

「む。黙りですか……なら、話させざる得ないようにするまでです!」

 

楯無は指をクネクネさせ、一夏に近づいてくる。

一夏もそれには諦めたのか、口を開く。

 

「別に俺が何をしようが構わんだろ。それより、要件はそれだけか?」

 

「もう、降参? つまらないな……」

 

楯無は一夏の反応にがっかりし、落ち込む。

 

「貴方の主人……ジャネットちゃんが学園上層部に話を通していることはもう知っているわよ」

 

「そうかい」

 

一夏が学園をサボれるようにと、ジャンヌが話を既につけていたのだ。勿論、話し合いと言う名の脅迫で。

 

「そう言えば、二組に転入生が入って来たことは知っているかしら?」

 

「転入生……」

 

まだ四月といえ、入学ではなく転入で入って来たことに。

IS学園での転入には、試験と()()()()()が必要であり――――――つまり、その人物は国家候補生の可能性が高いのだ。

 

「名前は確か―――()()()だったかしら?」

 

一夏はその名前を聞いて、思わず殺気を抑えるを忘れてしまう。

それを直に触れてしまった楯無は屋上の出入口まで能力を使って引き下がるが、足は恐怖でくすんでしまっていた。

 

(なによあれ―――)

 

楯無はそんな一夏を見る。

今までに会ったことないぐらいの殺気に当てられ、辛うじて意識を保てたのは奇跡に近かった。

 

「ふふふ……ははは!!」

 

一夏はゆっくり身体を起こし、笑う。

 

「そっかそっかそっか……………」

 

楯無は幸運だったかもしれない。

もし、今の一夏の顔を見ていたらきっと――――壊れていたかもしれなかったのだから。

殺気が収まるが、楯無はすぐには立つことは出来なかった。

 

「マジで生きた気持ちがしないわ……」

 

無言のまま一夏が立ち去り、その数十分経った頃にようやく楯無は立つことができたが、身体は未だに震えていた。

 

「一体、この転入生との間に何があったのよ」

 

転入生の名前を出した瞬間だけで、軽く30回以上は死んだ気持ちを味わった楯無は極力触れたくはなかったが。

 

「知る必要がありそうね」

 

恐怖であまり動かない身体をゆっくりと動かし、楯無は屋上を後にする。

 

 

 

 

数日後、第二アリーナには多くの生徒が集まっていた。

そう、今日はクラス対抗戦当日なのだ。

 

(デモンストレーションだと? 俺の記憶にはこんなのはなかったはずだ)

 

十秋はセシリアと箒、山田先生、織斑先生の四人でピットからリアルタイムモニターでその試合を観戦するつもりでいた。

 

「では、指定の位置に着いて下さい」

 

開始時刻になり、山田先生がアナウンスで指示をだす。

 

「? 四人?」

 

そして、映し出されたリアルタイムモニターには四人の先輩たちがISに搭乗していた。

十秋は疑問でしかなかった。今回の試合は一対一のシングル戦であり、タッグ戦ではないのだ。

その為、この状況には疑問でしかなかったのだ。だが、その疑問もすぐに解ける。

 

「? あれは何だ?」

 

最初に気付いたのは箒であった。

画面の中央付近に何かが僅かに写っていたのだ。

 

「水……でしょうか?」

 

セシリアもそれが何なのか分かり、それはアリーナの中央に着地する。

四人のISに取り囲まれる形で着地し、水の卵が弾けると一機のISが姿を現す。

 

「な!?」

 

十秋は思わず声を出してしまう。

 

(ありえない! なんであの女がここにいるんだよ!!?)

 

それもその筈、アリーナ中央に現れたのは―――IS学園生徒会長……更識楯無だったのだから。

派手な登場に観客も湧き、楯無は手を振る。

 

「そんじゃあ、試合を始めましょうか」

 

ド派手な登場に先輩たちも驚いてはいたが、すぐさま臨時体勢に入る。

 

「かかって来なさい」

 

楯無はニコっと笑い、いつも使っているランスではなく―――日本刀を展開する。

 

「砕けろ―――『()()()()』」

 

楯無を中心にミストが発生し、先輩たちを包む。

そして、異様な光景を見ることになった。

先輩たちが同士討ちを始めたのだ。そして、楯無は一人ずつ戦闘不能に追い込む。

 

『勝者―――更識楯無』

 

四機目を戦闘不能にすると、アナウンスが流れる。

一対四の異様な戦いに楯無は余裕で勝ってしまった。

そして、楯無はデモンストレーションを締めくくり、試合は終了する。

 

「オルコット。準備しろ」

 

「は、はい」

 

あんなデモンストレーションを見せられ、セシリアは少し動揺してしまい、反応がすこし遅れる。

そして、ピットから出て行く。

 

「どういう事だよ……」

 

十秋は親指を齧り、イラついていた。

 

(鏡花水月だと? そんな技、知らねえぞ)

 

楯無の戦いには主にランスを使った戦いであり、今回みたいなのは十秋も知らなかった。

原作とは全くかけ離れた闘いに十秋はイラついていたのだ。

 

(だが、そんなの俺には関係ない。俺にはこれがある)

 

金の指輪へと待機状態のISに十秋は慢心していた。

そして、ついにクラス対抗戦第一試合が始まる。



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十二話

楯無のデモンストレーションが終わり、本日のメインイベントであるクラス対抗戦が始まった。

一組からはセシリアが出場し、二組は最近転入してきた鈴音が出て来る。

 

「一組からはあんたが出てきたのね。なら、この試合は私の勝ちね」

 

「あら、随分と余裕をお持ちのようですわね」

 

セシリア、鈴音はお互いに向かい合い、そして、何故はわからないがお互いに睨み合っていた。

 

「そこまで言うなら、10分でカタをつけてあげる!」

 

「そこまで仰るのですから、簡単には終わらせません!」

 

そして、試合開始の合図と共に二人はぶつかり合う。

 

 

 

 

一方で一夏は第二アリーナではなく、校舎の屋上でライブ中継で試合を観戦していた。

 

(あの女、多重能力者の素質を持っていたか……)

 

一夏は楯無のデモンストレーションを観戦して、幾つか分かったことがあった。

 

(先輩たちの様子を見るに幻惑系能力による同士討ちか……)

 

ある意味最強の能力と言っても良い、あの一瞬で()()()()()()()()()()()に《・》()()をかけたのだから。

一夏がそれに気づいたのは、右首元にある豚のシンボルがそれを打ち消したからだ。

豚のシンボルには、『あらゆる知識と洗脳術を防ぐ加護といかなる呪いと戒禁すら無効にする加護』が常時発動しているため、一夏は楯無の能力を受けなかった。

 

(こう来ると、俺と同じでまだ能力を隠し持っているだろうな……)

 

魂の器次第では一夏と同様に複数の能力を付属できることは、ジャンヌから聞かされており、実際に見るのは今回が初めてであった。

 

「ん?」

 

楯無の能力を分析していた時、一組と二組の試合中継が途切れ、一夏は眉を吊り上げる。

そして、第二アリーナがある方角で突如爆音が響く。

 

「敵襲か……」

 

どうやら、その通りだった。

第二アリーナに突如として謎のISが単騎で襲撃してきたのだ。

しかし、一夏はそんなのが起きても動くことは、無かった。

 

(あっちには、あの馬鹿がいるだろうし。俺が動く必要はないどうせ……)

 

第二アリーナには織斑十秋がいるから、一夏は動く必要がないと判断したのだ。

しかし、その考えはすぐに消え去った。

 

『あら、行かないの?』

 

突如として、プライベート・チャンネルから通信が入り、一夏は僅かだが驚く。

 

「何の為だ……お嬢」

 

まさか、お嬢―――ジャンヌから直接通信が入って来ると思ってもいなく、一夏は分からなかった。

 

『何の為ねぇ……強いて言えば、私の為かしら?』

 

「それは、どういう意味だ?」

 

『私が作ったシナリオに必要だからよ……一夏』

 

「…………」

 

ジャンヌが作ったシナリオ……その言葉に一夏は諦めたのか、屋上の柵を乗り越える。

 

「来い。白式!!」

 

待機状態であった白式を呼び出し、一夏は第二アリーナへと飛ぶ。

 

 

 

 

「会場内に所属不明のISが出現!!」

 

第二アリーナはパニック状態だった。

突如として謎のISが出現し、生徒たちは会場から逃げ出そうとするが、扉が開かなかったのだ。

楯無はすぐさま行動に移り、ピット・ゲートに向かうが。

 

『済みませんが、楯無さんはその場で待機して下さい』

 

「!?」

 

プライベート・チャンネルから入ってきた通信に楯無はすぐさま立ち止まる。

 

「それは、どう言う事よ!! 一大事な時なのよ!!」

 

『えぇ。それは分かっているわ。だから、貴女の出番はまだなのよ』

 

「それは、どう意味よ……!?」

 

楯無はその意味を理解したのは、アリーナに響き渡る轟音で気付いたのだ。

 

『世界最強がようやく到着したようね』

 

世界最強。誰一人として、勝つことが出来ない存在。

リオネス家の最大戦力……《七つの大罪》イチカ・リオネスが第二アリーナに現れたのだ。



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十三話

第二アリーナは唖然としていた。

騒然していた場は、一人の少年の登場により静まり返ってしまったのだ。

 

「こいつがそうか?」

 

リオネス家の最大戦力。イチカ・リオネスが突如として第二アリーナの遮断シールドを突き破って来たのだ。

身の丈程ある片手斧を担ぎ、所属不明のISを前に近づく。

 

「オルコット」

 

セシリアはビックっと、身を震わせる。

 

「な、なんでしょうか」

 

「邪魔だ」

 

一言。その一言でセシリアは全てを理解した。

 

「鈴さん。下がりますわよ」

 

「な!? 何を言っているのよ、アンタ!! あんな奴に―――」

 

「邪魔」

 

鈴音が視線を外した一瞬のことだった。

所属不明のISが遮断シールドを破った時に使用した高密度のエネルギーを鈴音めがけて放ったのだ。

しかし、それは鈴音に当たることはなかった。

 

「ガッ!? アンタ何様のつもりよ!!」

 

腹部を抑える鈴音。

一夏は発射体制になった瞬間、鈴音を蹴り飛ばしたのだ。

高密度エネルギーは一夏に直撃したが、無傷の一夏が立っていた。

 

「その程度か……」

 

一夏も遮断シールドを破る程の力を持っているから、それ程の者であると少し期待していたのだが、的外れも大概だった。

 

「神斧リッタじゃなく、戦鎚ギデオンで十分だったな」

 

ケロッとしている一夏を眼の前にして、セシリアと鈴音は唖然する。しかし、所属不明のISはそんな二人を目にくれず、一夏に襲いかかる。

そして、再び高密度エネルギーの発射体制に入るが。

 

「それは、もう見飽きた」

 

一瞬にして、所属不明のISの前に現れ、神斧リッタを振り下ろす。

見た目に見合わない一撃が、所属不明のISの腕を切り裂き、第二アリーナの地面に巨大なクレーターを作る。

 

「な、何なのよ……あいつ」

 

鈴音は有り得ない光景を目の当たりにし、セシリアと同様に唖然する。

いままで、攻撃が全く当たらなかった所属不明のISに一撃を加えてしまったのだ。

 

(もうじき、正午か……)

 

一夏は白式から表示される時間を確認する。

『傲慢の罪』の能力が現在発動しており、一夏のIS〈白式〉は有り得ない程までパワーアップしていた。

正午に近づくにつれて、全ステータスが最大千倍まで上がっていく。

そして、その正午がもうじき訪れようとしていた。

 

 

 

 

ピット内は騒然としていた。

一夏が第二アリーナの中に入る為に遮断シールドを突き破ったためだ。

最初は増援かと思われたが、その正体を見て若干落ち着いたが、一人だけ未だに騒ぐ馬鹿がいた。

 

「な!? なんでアイツがいるんだよ!!」

 

十秋は一夏の登場に騒ぐ。

本来なら、自分があの場に行くつもりでいたのだが、何故か出入り口の扉が開かなかったのだ。

その為、誰一人として、そこから脱出する事が出来なかった。

 

(どうなっていやがる!! 俺の知っているシナリオ通りに事が進まねぇじゃないか!!)

 

十秋の知っている知識通りならば、ピット内から脱出することは出来る。

しかし、それは現在出来ない。

ここで〈王の財宝〉を使って脱出しても良かったが、それだと色々と問題になる為、十秋は使う事が出来なかった。

 

(しかも、あれは―――)

 

十秋は一夏が肩に担いでいる片手斧を知っていた。

地上最強の武器―――〈神斧リッタ〉を。

 

「一体何者何だよ……あいつ」

 

自分以上の転生特典を持った一夏を目にして、十秋は呟く。

 

 

 

 

(ピピ……測定不可能。勝率……0.0000001%。撤退を推奨)

 

所属不明のIS―――『ゴーレム』は一夏を目の前にして、勝率を計算していた。

しかし、絶望的な数値に撤退が決定し、逃走を計る。

 

「逃がすとでも思っているのか?」

 

逃走を計ったゴーレムは上空で有り得ない物を目の当たりにする。

太陽が二つあったのだ。

 

無慈悲な太陽(クルーエルサン)

 

正午による最大出力の〈無慈悲な太陽(クルーエルサン)〉が一夏の指先に出来上がっていた。

そして、それを一夏はゴーレムに目掛けて飛ばす。

 

(回避……不可能)

 

回避する事すらできなかったゴーレムは〈無慈悲な太陽(クルーエルサン)〉と共にIS学園の外にある海へと落ちる。

 

炸裂する傲慢(プライド・フレア)

 

何かを握り潰し、〈無慈悲な太陽(クルーエルサン)〉が炸裂する。

大爆発と轟音が響き渡り、一部の海が蒸発した。

 

「ふむ。少しやり過ぎたか」

 

いままで使ったことのなかった最大出力の〈無慈悲な太陽(クルーエルサン)〉と〈炸裂する傲慢(プライド・フレア)〉を目の前にした一夏は少し考える。

 

「まっいいか」

 

考えるのを止め、一夏はIS学園に帰還する。

そして、クラス対抗戦は中止になり、いつもの日常に戻った。

 

 

 

 

リオネス家。

 

「イチカ様が勝利したようです」

 

「当然よね。あんな木偶人形如きに負けるはずがないですもの」

 

ジャンヌは一夏の戦いの一部始終を見届け、紅茶に手をかける。

十秋たちがピット内から出られないようにしたのは、彼女だった。

 

「さて、これからもっと忙しくなってくるわね」

 

ジャンヌは紅茶を置き、二つの資料を手に取る。

銀髪に片目に眼帯を付けた少女と金髪の少女と少年の写真が付けられた資料。

 

「運命の歯車は第二幕を開けたわよ……転生者さん」

 

笑みを浮かべるジャンヌだが、その目は―――決して笑っていなかった。



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十四話

登場人物を更新しましたので、よろしければ見て下さい


IS学園―――一年一組

 

「はーい、皆さん。静かにして下さい!」

 

山田先生のいつもの挨拶が始まる。

しかし、今日はいつもとは何かが違った。

 

「今日から皆さんと一緒に勉強する転校生のシャルル・デュノア君とラウラ・ボーデヴィッヒさんです!」

 

一組に二人の転校生が入って来たのだ。

 

 

 

 

リオネス家

 

「どうやら、無事に転校生で来たようね」

 

「らしいな」

 

バルコニーで何時ものように紅茶を飲むジャンヌ。

その後ろにエドが立っていた。

 

「フランスであれだけの騒ぎをやったのにな」

 

「うちの力を舐めたはダメよ」

 

エドの言う通り、ジャンヌはフランスでガチバトルをおっぱじめてしまったのだ。

そのため、事件解決のために、フランスから転校生であるシャルル・デュノアの出国が一時見送られることが懸念された。

しかし、ジャンヌは今回の一件の一部情報の提供とシャルル・デュノアの出国をバックアップを対価に出国許可を獲得したのだ。

 

「では、次の一手を打ちましょうか」

 

モニター越しで一組の様子を眺めるジャンヌとエドは原作通りに進むさまを眺める。

そして、ラウラにひっぱ叩かれる十秋を確認した後、モニターを消す。

 

「戦争の準備を始めましょう」

 

ジャンヌは笑みを浮かべる。

新しい玩具を手に入れ、遊ぶ子供のように。

 

 

 

 

IS学園―――生徒会室

 

IS学園生徒会長である更識楯無はせっせと書類を片付けていく。

一夏と同様に授業の参加を免除された楯無は、普段の殆どをこの生徒会室で過ごす。

そして、一つの書類に目が留まる。

 

「ふ~ん。一組に転校生ね」

 

一組に二人の転校生が入って来たことへの報告書だった。

 

「フランスとドイツ……ね。確か―――」

 

楯無は数日前に入った情報のことを思い返す。

フランスでとんでも災害があったことを。

大方、リオネス家が関与していることぐらいは楯無も把握している。

 

「ドイツは現役軍人兼……ん?」

 

楯無はラウラ・ボーデヴィッヒの資料に目を通していると、一つ気になる項目があった。

 

「これは、一難ありそうね」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ、IS戦術教官―――「織斑千冬」。

織斑先生の教え子が、このIS学園に転校して来たのだ。

 

ピロッリン♪

 

「ん?」

 

所持していた端末に何かが届く。

 

「リオネス……何かしら」

 

送り主は、ジャンヌだった。

楯無はこのメールには何か特別なことが書かれている気がしたのだ。

案の定その通りだった。

 

「これは……」

 

送られて来た情報に楯無は少し悩まされる。

扱いを誤れば、相当の被害を及ばす物の情報が書かれていたのだ。

しかも、あの日まで手を出さないようにと、注意書きも添えられて。

 

「つまり、彼に処理させるつもりなのね……」

 

ジャンヌによって指定された日―――その日は、トーナメント大会当日だった。

 

 

 

 

『元気にしているかい? イチカ』

 

何時ものように屋上で寝そべっている一夏にジャンヌからのプライベート・チャンネルが入る。

一夏は目を閉じたまま、それに返事をした。

 

「何ですか、いきなり」

 

『相変わらず、教室に行ってないと思うから、ちょっとした情報を持ってきたわ』

 

一夏は授業を免除しているため、普段から教室に顔を出してはいない。

そのため、ジャンヌか執事のセバスからSHRなどの連絡事項を普段聞いていた。

 

『近い内、大浴場が週二回使用できるそうよ』

 

「風呂など、自宅でもいいだろう」

 

一夏は〈暴食〉の力で〈瞬間転移〉が使えるため、風呂の時はリオネス家に戻っていた。

 

『そうはいかないのよ……今回は』

 

「どう言うことだ」

 

『一組に新しく転校生が二人も来たのよ』

 

風呂の件の次は転校生と来た。

一夏は何かがあると予感する。

 

「まさかと思うが、そいつと風呂でも入れ……とは言わないだろうな?」

 

『そのまさかさ』

 

ジャンヌからの回答に一夏の思考が停止する。

 

『そう言うことだから、よろしくね』

 

「お、おい。お嬢……ちっ、切りやがったか」

 

一夏は久振りの溜め息を吐く。

まさか、無理難題の作戦を言い渡され、困ってしまったのだ。

 

「おの女に聞いてみるか」

 

一夏は身体を起こし、あの女……楯無がいる生徒会室へと向かう。



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十五話

「邪魔するぞ」

 

生徒会室に突如として入って来る一夏。

楯無は特に驚きもしなかった。

 

「申し訳ありません、生徒会長。取次は必要ないと強引に」

 

生徒会役員の先輩に止められた一夏だったが、そんな事をお構いなしに入って来る。

楯無と一夏は無言でお互いに見つめ合う。

 

「暫く二人にしてくれるかしら」

 

「わかりました」

 

楯無は人払いし、それに従い先輩を退室させる。

 

「君の方から出向いて来るなんて、珍しいわね」

 

「俺の手に負えない依頼が来たからな」

 

その言葉に楯無は驚く。

まさか、最強の彼がそんな事を言ってくるとは、思ってもいなかったのだ。

 

「最強無欠の存在といえど、弱点ぐらいはあるぞ」

 

一夏の言う通り、一夏にはいくつか弱点はある。

ジャンヌの〈ルーラー権限〉による能力完全に無効や石化による封印などが。

 

「非常に興味はあるけど、まあいいわ。それで、一体あの人からどんな依頼が来たのかしら?」

 

「転校生の話は聞いているか?」

 

「えぇ。一組に来た転校生のことね」

 

楯無はそれを聞いて、資料を一夏に渡す。

一夏はそれを受け取ると、ペラペラと捲る。

 

「シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

三人目の男性操縦者と現役軍人。

しかも、お互いにセシリア・オルコットと同じ国家代表候補生。

 

「成程な。これならどうにかなるな」

 

「あら、もういいの?」

 

「知りたいことは知れた。あとは自分でなんとかする」

 

一夏は資料を返すと生徒会室を後にする。

 

「楯無お嬢様。彼は……」

 

「本当の世界最強の存在よ……もし、彼がまた来たら、何も言わずに通して頂戴。虚ちゃん」

 

「はあ……」

 

生徒会役員の先輩―――布仏 虚はそれでいいのかと疑問を持つが、楯無はその先は口にしなかった。

 

「世界最強ね……」

 

もし、世界最強と聞かれれば思い当たる人は一人しかいない。

ブリュンヒルデこと、織斑千冬。

しかし、楯無は織斑千冬ではなく、彼を上げたのだ。

 

 

 

 

「面倒な依頼だな……」

 

一夏が生徒会室を後にしてから、既に3日が経とうとしていた。

ジャンヌが一夏に出した依頼である転校生と一緒に風呂にでも入ってきて、とよくわからない依頼を遂行するために一夏は大浴場を利用することに。

あの十秋がいないことを確認した上で、利用時間ギリギリ前に一夏は来ていた。

 

「しかし、お嬢は一体何を考えているんだか」

 

一夏はジャンヌの目的は知っている。

しかし、今回のこれが何を意味するのかがよくわからなかったのだ。

そんな時だった。

カラカラカラ……。

脱衣所の扉が開く音がし、誰かが入って来たのだ。

ぴたぴたぴた。

濡れたタイルの上を綺麗な足が歩く音が聞こえる。

利用時間はまだ過ぎておらず、ましてや誰も利用していない時間帯。

まさか、本命が来るとは一夏も思ってもいなかったのだ。

 

「え?」

 

「…………」

 

フランスの国家代表候補生であるシャルル・デュノアが一糸まとわぬ姿で立っていた。

しかし、目の前にいるのは彼女だった。何故、女子だとわかったのか。簡単なことだ、胸があるからだ。

 

「――――」

 

シャルルもまさか誰かがいるとは思ってもおらず、一夏を前に思考を停止させる。

そして、再び我が返ると叫ぶが、一夏は〈アルダン〉を出す。

 

「つうか……今叫ぶと、一番まずいのはあんただろ?」

 

シャルルも声が出ていないことに気付く。

一夏が魔法でシャルルの声を遮断したのだ。

 

「まさか、女だと思わなかったぞ」

 

一夏は資料にあったシャルル・デュノアの性別は男性と書かれていた。

しかし、眼の前にいるのは間違いなく女性だ。

 

「仕方ない……」

 

一夏は〈瞬間移動〉を使って、脱衣所まで飛ぶ。

シャルルも眼の前から一夏が消え、驚いていたが、脱衣所の扉が開く音がし、そっちの方を見る。

背中に獅子の顔の痣がある一夏がいた。

 

「え? えぇえええ!? い、一体どうやって……」

 

シャルルは分からなかった。

眼の前にいた一夏が消えたと思ったら、いつの間にか脱衣所まで移動していたのだ。

結局、シャルルは分からなかった。

 

「彼って……何者なの……」

 

今まで会ったこのない人物だが、一つ思い当たる人物がいた。

同じクラスにある空白の席。

 

「もしかして、今の人が……イチカ・リオネス?」

 

クラスメイトですらあんまり知られていない幽霊部員ならぬ幽霊生徒。

その一夏にシャルルは出会ってしまったのだ。

 

 

 

 

一夏は脱衣所を出ると、すぐさま屋上に転移する。

そして、あるところにプライベート・チャンネルを繋げた。

 

『そっちか掛けてくるということは、彼女に出会ったのかしら?』

 

「やっぱり知っていたか」

 

ジャンヌは初めから知っており、予想より早い連絡だったが、今回の目的を一夏に話す。

 

「つまり、あの女をあいつから守ればいいのか」

 

『えぇ。近い内に彼は接触してくるけど、こっちで手回しておくから、イチカはそのサポートをお願いしたいのよ』

 

一夏はジャンヌの説明を聞いて、納得する。

 

『くれぐれもやり過ぎないようにね』

 

それを言い残して、プライベート・チャンネルが切れる。

一夏は星を眺め、溜め息を吐く。

 

「もう少し、別の方法はなかったのかよ……」

 

とんでもない出会い方に一夏は少し悩んだが、どうでも良かった。

そして、とんでもない一日が終わる。



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十六話

一夏がシャルルの秘密を知って、数日。

アリーナでは生徒たちが自主練でISを利用していたそんな時だった。

 

「ねぇ……ちょっと見てよあれ……!」

 

「ドイツの第三世代型だわ。まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」

 

急にアリーナ内がざわつき始めて、十秋は注目の的に視線を移す。

 

「あいつ……!」

 

そこにいたのは、ドイツからの転校生のラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「おい……」

 

ISの開放回線でラウラの声が飛んで来る。

 

「! ……なんだよ」

 

十秋は次の来る会話は前世から知っており、シナリオ通りに答えていく。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い―――私と戦え」

 

「……嫌だ。理由がねえよ」

 

「貴様に無くても私にはある」

 

ドイツ、織斑千冬、と来たら思いつくのは一つしかなかった。第二回IS世界大戦『モンド・グロッソ』の決勝戦でのことだ。

織斑千冬の弟たちが別々の所で誘拐され、ドイツから提供された情報を日本政府は……優秀であった弟。十秋の居場所だけを千冬に教えた。

その後、もう一人の弟の方がいないことに気づいた千冬は日本政府に問い詰め、その場所に向かう。しかし、そこには誰一人いなったのだ。

捜索は行われたが、一向に成果は得られず死亡として処理された。

 

「……貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成しえただろうことは容易に想像できる。だから私は……私は、貴様の存在を認めない」

 

ラウラは千冬の教え子ということ以上に、その強さに惚れ込んでいる。だから、経歴に傷を付けた十秋が憎かった。

しかし、それだけだ。だから、十秋とラウラが戦う理由には弱い。

 

「また今度な……トーナメントだってあるだろう」

 

十秋も今戦う訳にいかないと、立ち去ろうとするが。

 

「逃げる気か……ならば、戦わざるを得ないようにしてやる!!」

 

言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせるが。

 

「!? 誰だ!!」

 

ラウラの左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴く瞬間、上空から何かが接近してくることを感知し、緊急停止と同時に後方に回避する。

そして、ラウラが立っていた位置に一本の槍が突き刺さっていた。

 

「勝手に戦争をおっぱじめるんじゃねぇよ。小娘」

 

突き刺さっていた槍が勝手に宙を舞い、持ち主の所に戻っていく。

そこにいたのは、一夏だった。

 

「貴様は……そうか、もう一人の男性操縦者―――イチカ・リオネスだな」

 

ラウラはイチカ・リオネスのことを少しばかり知っていた。

世界各国に拠点を置く、ジャンヌ・リオネスの弟たちの一人であることを。

 

「我々の戦いに手を出すのは、止めてもらいたい」

 

「普通なら止めねぇよ……だけど、今はダメだ。やりたければ、トーナメントにしろ」

 

「貴様に指図される筋合いはない!!」

 

ラウラは一夏に銃口を向け、一夏は〈霊槍シャスティフォル〉の槍先を向けるが。

 

「そこの生徒! 何をしている!?」

 

突然アリーナにスピーカーから声が響く。

 

「ふん……運がいいな。今日は引こう」

 

横槍を二度も入れられ興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへと去っていく。

一夏もここにはもう用はないと、反対のアリーナゲートへと向かう。

 

「俺の問題に横槍を入れてくるんじゃねぇよ!!」

 

十秋の横を通り過ぎていく一夏に嫌味の一言を入れるが。

 

「キャンキャン吼えるなよ、最弱。寝言は寝て言え」

 

一夏のその言葉に十秋はキレ、暴言を吐くが一夏はそれを無視して立ち去ってしまった。

 

 

 

 

アリーナの一件が終わり、一夏は何時ものように寮の屋上へと向かう。

 

「何故ですか……何故こんな所で教師など!?」

 

ふと曲がり角の先から声が聞こえ、一夏はちょっと注意を向けると物陰に隠れる。

声の主は、ラウラ・ボーデヴィッヒと織斑千冬だった。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある……それだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があると言うのですか!!」

 

先程、アリーナで出会ったラウラ・ボーデヴィッヒがこうまで声を荒げているというのは相当のことだろう。話の内容はどうやら千冬の現在の仕事についての不満や思いの丈をラウラがぶつけていた。

 

「お願いです教官! 我がドイツで再びご指導を……ここでは貴女の能力は半分も生かされません!」

 

「ほう」

 

「この学園の生徒たちはISをファッションか何かと勘違いしている。そのような者たちに教官が時間を割かれるなど―――」

 

「そこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ……!!」

 

凄味のある声。流石のラウラも、その声に含まれる覇気に竦んでしまった。言葉は途切れたまま、続きが出てこない。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わっ…私は……」

 

その声が震えているのが分かる。恐怖、なのだろう。圧倒的な力の前に感じる恐怖と、かけがえのない相手に嫌われるという恐怖。

 

「話は終わりだ。さっさと寮に戻れ」

 

「…………」

 

ぱっと声色を戻す千冬。ラウラは黙したまま早足で去っていく。

 

「さて……そこの男子。盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

 

「な、なんでそうなるんだよ! 千冬ね…」

 

ばしーん!

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

一夏とは別に隠れて盗み聞きをしていた十秋が千冬に見つかり、頭をひっぱ叩かれる。

 

「そら、早く行って復習の一つもしろ。このままじゃ月末のトーナメントで初戦敗退確実だぞ」

 

「わかってるよ……」

 

「そうか……わかっているならいい」

 

ニヤリと笑みを見せる千冬。今だけは姉としての言葉だったようだ。

一夏はもうここにいる用は無く、立ち去ろうとした時だった。

 

「あいつらは気付かなかったが、私の眼は誤魔化せないぞ……一夏」

 

千冬のその言葉に一夏は足を止める。

まさか、気付かれるとは思ってもみなかった。

気配の消し方は完璧であったと自負していたのだが、こうも見破られるとは。

 

「一夏、教えてくれ。あの時……モンドグロッソで一体何が遇ったんだ?」

 

モンドグロッソ。一夏と十秋が誘拐され、千冬が二連覇を見逃した日。そして、一夏にとってはジャンヌに出会った日でもある。

しかし、一夏は千冬の質問には何も答えなかった。

 

「行ってしまったか……」

 

千冬は寂しく、呟く。

ただ、仲直りしたい子供のように。



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十七話

数日後。

時間は放課後。場所は第三アリーナ。人物は鈴とセシリアだった。

 

「一人で自主練なんんて……あんたまさか、あの噂を……」

 

「鈴さんこそ……熱心に個人練習をなさる理由がおありで?」

 

先日、IS学園ではある噂が流された。

『学年別トーナメントで優勝すると織斑十秋かイチカ・リオネスと交際できる』と。

もちろん、この噂は真実とはかなり離れており、優勝したとしても交際はできない。

だが、恋する乙女たちは闘志を燃やすのだ。

 

「お互いに優勝狙いってことね……! それならいっそトーナメント前に白黒つけちゃう?」

 

「あら……いい考えですわね。どちらの方がより強く優雅であるか、この場で……」

 

二人ともメインウエポンを呼び出すと、それを構えて対峙した。

 

「!!」

 

―――と、いきなり二人の間を遮って超音速の砲弾が飛来する。

 

「なっ……なに!?」

 

「誰ですの! いきなり攻撃するだなんて……」

 

緊急回避のあと、鈴とセシリアは揃って砲弾が飛んで来た方向を見る。そこにはあの漆黒の機体が佇んでいた。

 

「あんた……ラウラ・ボーデヴィッヒ……!!」

 

 

 

 

「ドイツのシュヴァルツェア・レーゲン……ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

「……二人がかりで量産機に負ける人間が代表候補生とは……よほど人材不足なのだな。数くらいしか能のない国と古いだけが取り柄の国は」

 

ぶちっ―――!

何かが切れる音がして、鈴とセシリアは装備の最終安全装置を解除する。

 

「なに? アンタ。ドイツからスクラップにされに来たわけ? セシリア……どっちから()るか、ジャンケンしよ」

 

「わたくしはどちらでも構いませんわよ」

 

「二人がかりで来たらどうだ? くだらん種馬(たねうま)を取り合うような(メス)に、この私が負けるものか」

 

それは明らかな挑発だったが、堪忍袋の緒が切れた二人にはもはやどうでも良かった。

 

「「上等ッ!!」」

 

 

 

 

廊下でシャルルと共に歩いていた十秋の耳に、ある情報が入って来る。

 

「ねぇ、ちょっと聞いた!? 今、第三アリーナで代表候補生三人が模擬戦してるって!!」

 

十秋とシャルルがアリーナに向かっていると、そこに近づくにつれてなにやら慌ただしい様子が伝わってくる。

 

「! 十秋……来たのか」

 

先に来ていた箒が十秋が来たことに気付く。

十秋が見たのは、一方的にやられるセシリアと鈴の姿だった。

 

「セシリア!! 鈴!! どうなっているんだ一体!?」

 

「私もさっき聞いたのだが……向こうの挑発に二人が乗ったらしい」

 

「二対一ってことか? なのになんで……」

 

「アイツのIS……衝撃砲も実弾もすべてバリアーのようなもので止めてしまうんだ。そのぶん攻撃に転じるのが早くて……あっという間に二人が拘束されて……」

 

「AIC……」

 

シャルルは箒の説明に何か思い当たる節があった。

 

「きゃっ!?」

 

「!!」

 

これはもはや、戦いではなかった。

ラウラによる一方的な暴力でしかなかったのだ。

 

「ひどい……あれじゃ、シールドエネルギーがもたないよ!!」

 

セシリアと鈴のISは既に限界を超え、強制解除がいつ起きてもおかしくはなかった。

 

「やめろラウラ!! やめろ!!」

 

十秋が叫ぶが、ラウラはやめることはなかった。

 

(ISが強制解除されたら二人の命に関わるのに……! なのにアイツ……!)

 

十秋は【英雄王】を起動させようとした時だった。

 

「!?」

 

「!!」

 

ラウラの前を遮って、氷の柱が生まれる。

 

「おいたが過ぎたぞ……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

背後から誰かが歩いて来る。

そこにいたのは、ISを部分展開したイチカ・リオネスがいた。

 

「イチカ……リオネス!!」

 

「あの野郎!!」

 

十秋はまさか、、また奴が出て来るとは思ってもおらず、苦虫を潰したかのように苦い顔をする。

 

「まさか、貴様の方からやってくるとは……手間が省けたぞ」

 

ラウラもまさか本人が早くも来るとは思ってもいなかった。

イチカは近くにいる二人にある魔法を発動させる。

 

パッチン!

 

「!! 鈴! セシリア!! 大丈夫か!?」

 

指を鳴らすと、セシリアと鈴は十秋のいる観客席へと飛ばされた。

 

「う……十秋……」

 

「無様なところを……お見せしましたわね……」

 

シャルルは今の現象に目を開く。

 

「……瞬間移動」

 

「やっぱり、貴様はそこにいる小僧とはかなり逸脱しているな……流石は【リオネス・ファミリア】の最高幹部の一人だな」

 

ラウラもイチカの力に称賛を称える。

だが、イチカはラウラの眼を見て、退く気が全くないつもりだった。

 

「引き下がるつもりはないのだな……」

 

「貴様を倒せばそれなりの箔がつくからな」

 

「箔……だと? どう言うことだ?」

 

十秋はラウラの会話が全く分からなかった。

何故、あの野郎を倒せば、箔がつくのか。

 

「ふん。貴様は、何も知らないようだな……いいだろ、教えてやる。イチカ・リオネス……いや、【リオネス・ファミリア】に所属する者には全員、高額な懸賞金がかけられているんだよ」

 

「懸賞金だと……」

 

まさか、賞金首だとは思わなかった。

しかも、相当な額らしい。

 

「【七つの大罪(セブン・デットーリ・シン)】イチカ・リオネスには……懸賞金10億ドルと、破格の額がついているのさ」

 

「10億……ドルだと!?」

 

とんでもない額に十秋は驚く。

ちなみに、十秋にかけられた懸賞金は10ドルらしい。

 

「私には懸賞金など、どうでもいい。あるのは……貴様を倒したという功績だけだ!!」

 

話終えるとラウラは一夏めがけて突っ込む。

 

「【凍てつく氷柩】!!」

 

イチカは氷の柱は作り出し、交戦に入る。

 

「無からこれ程の氷を作り出すか……だが!!」

 

ラウラは超音速の砲弾を打ち出して、氷の柱を破壊する。

 

「ちっ! 【氷槍弾雨】!!」

 

一夏は氷の槍を生み出すと、ラウラめがけて飛ばすが。

ラウラの停止結界で止められる。

 

「面白い……だが、シュヴァルツェア・レーゲンの前では無意味だ!!」

 

ラウラがまさに飛び出そうとした瞬間、一夏の間に影が割り入ってきた。

ガギンッ!!

金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。ラウラはその影に加速を中断させられる。

 

「……!! きょ……教官!?」

 

「やれやれ……これだから、ガキの相手は疲れる」

 

その影は、予想外の人物だった。織斑千冬がIS用接近ブレードでラウラの一撃を受け止めていた。しかもその姿は普段と同じスーツ姿で、ISどころかISスーツさえ装着していない。

 

「模擬戦をやるのは構わん。……が施設を破壊する事態は黙認しかねる。この戦いの決着はトーナメントでつけてもらおうか」

 

「……教官がそう仰るなら」

 

ラウラは素直に頷く。

 

「リオネス。それでいいな?」

 

「あぁ」

 

その言葉を聞いて、千冬は改めてアリーナ内全ての生徒に向けて言った。

 

「では……学年別トーナメントまで、一切の私闘を禁じる! 解散!!」

 

 

 

 

 

場所は保険室。ベットの上では打撲の治療を受けて包帯の巻かれた鈴とセシリアがいた。

 

「別に助けてくれなくて良かったのに」

 

「あのまま続けていれば、勝っていましたわ」

 

感謝するかと思えば、これだ。

 

「お前らなあ……強制解除まで追い詰められておいて……でもまあ、怪我が大したことなく安心したぜ」

 

随分と元気だったので、十秋は特に言わなかった。

 

「それより、アイツが言ってたことは本当なのか?」

 

ラウラが言っていた、一夏にかけられた懸賞金のことだった。

 

「噂程度で耳にしたことがありましたが……」

 

「私もよ」

 

政府と関係を持つ二人は噂程度でそのことを知っていたが、実際の所は詳しく知らない。

 

「シャルルは?」

 

「ラウラの言ってたことは、本当だよ」

 

だが、シャルルは知っていた。

空中投影型ディスプレイを起動させると、そのページを開く。

 

「【リオネス・ファミリア】……日本ではリオネス家と呼ばれる裏家業の一族だね。主にカウンター・アタック・テロリズムを御担う組織で各国に拠点を置いているの……だから、テロリストや犯罪組織から相当の恨みを買っている訳で、【リオネス・ファミリア】の全員には高額な懸賞金がかけられているらしい」

 

そこには、各国の懸賞金が張り出されていた。

そして、肝心のリオネスには。

 

「【リオネス・ファミリア】の使用人に一人につき1億ドルって……」

 

「ありえないですわ……」

 

使用人だけで、1億ドルと破格の懸賞金がかけられていた。

 

「使用人だけで1億。当の本人が……」

 

イチカ・リオネスには、はっきりと10億ドルと表記されており、他にも2億ドルなどと莫大な懸賞金たちがあった。

 

「マジで10億だ……」

 

「ん? まだ、続きがあるな」

 

そして、イチカの下の方にもう一人誰かがいた。

 

「えっと……ジャンヌ・リオネス……って!! 懸賞金100億ドルってなんじゃこりゃあ!?」

 

更なる額にに十秋は驚く。

しかも、他の奴と違いONLY ALIVEと表記されていた。

 

「ジャンヌ・リオネス。【リオネス・ファミリア】の当主にして、あのイチカのお姉さん?」

 

「あいつに、姉がいたのかよ……」

 

「正確には違うけどね」

 

「どう言うことだよ」

 

「【リオネス・ファミリア】に所属する者は全員、ジャンヌ・リオネスの義妹弟(きょうだい)なのよ」

 

「なんじゃそりゃあ」

 

「彼女は……世界各地から身寄りのない子供たちを引き取っては、家族として迎えているのよ。だから、一部の者からは【聖女】なんって呼ばれているの」

 

「それは、また……凄いことをしているわね……」

 

(もしかして、こいつが転生者なのか? いや、それしかあり得ない!)

 

まさか、他の転生者に関する情報が手に入るとは思ってもいなかった。

 

「織斑くんっ!!」

 

「デュノアくん!!」

 

保険室に女子生徒が雪崩れ込んできたのだ。

室内はあっという間に人で埋め尽くされ、十秋とシャルルを見つけるなり一斉に取り囲む。

 

「「「「私とペアを組んでくださいっ!!」」」」

 

「えっなに?」

 

「ペア?」

 

「トーナメントは原則二人一組の参加なの! だから」

 

「私と組んで!」

 

「あたしと組もっ」

 

どうやら、学年別トーナメントの仕様変更があったようだ。

原則二人一組で参加なのだが、一人でも参加は可能らしい。

 

「えと……その……」

 

「織斑君、私と組んで!」

 

「アタシが一番に声をかけたんだからね!」

 

「悪い。俺はシャルルと組むから諦めてくれ」

 

「ま、まあそういうことなら……」

 

「女子と組まれるよりは何倍もいいし……」

 

「男同士っていうのも絵になるし……うん」

 

「なら、イチカくんと組もうかな!」

 

そう言えば、アイツがまだいたな……

 

とりあえず納得してくれたらしい。女子たちは各々が仕方ないと口にしながら、一人また一人と保険室を去っていく。

セシリアと鈴も学年別トーナメントに参加を表明したが、山田先生からドクターストップをかけられ、辞退することが決定される。

そして、学年別トーナメントが始まろうとしていた―――



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十八話

六月も最終日に入り、IS学園は学年別トーナメントで盛り上がっていた。

 

「凄い人出だな……」

 

更衣室のモニターから観客席の様子を見る十秋。そこには各国の政府関係者や研究所員、企業エージェントなど、様々な顔ぶれが一堂に会していた。

 

「有能な三年を見極めてスカウトしたり、援助している生徒の成長を確認すう為に色んな国、企業の人間が集まっているんだよ」

 

「ふーん、ご苦労なこった」

 

あんまり興味はなかった十秋は話を聞き流す。

 

「今回はとある人が出向いて来るって、例年より多いらしいよ?」

 

「とある人?」

 

「うん。あ、丁度出て来たみたい」

 

モニターに映る金髪美少女。護衛らしき二人の男性を連れての登場した少女に各国の政府関係者はお辞儀をする。

 

「世界各国が頭を下げる程の大物―――ジャンヌ・リオネスだよ」

 

「リオネス……」

 

シャルルのその説明に十秋は怪訝な表情をする。

各国に拠点を置き、テロリスト共を駆逐する掃除屋。その為、各国の政府関係者は彼女には頭が上がらないのだ。

そして、同時にこのIS学園にいるイチカ・リオネスの義姉でもある。

 

「あっ、対戦表発表されるみたいだよ!」

 

(どうせ見る必要はないな)

 

十秋にはこの対戦表は見る価値はなかった。

前世の知識で、初戦でラウラと戦うことはわかっていたのだ。

 

「ラウラとは―――決勝戦で当たるね」

 

「―――何? どう言うことだ!?」

 

「ど、どうしたの、十秋?」

 

十秋は改めて対戦表を見る。

そこには、初戦の相手は何処かのペアであり、ラウラと当たるのは決勝戦のみだった。

しかも―――

 

「奴とも当たるのか……」

 

準決勝でイチカ・リオネスと当たるのだ。

 

 

 

 

貴賓席で対戦表を眺めるジャンヌはふと、笑みを浮かべる。

 

「どうやら、上手くやってくれたようだね」

 

この対戦表は一部だが、仕込まれていた。

主に十秋とラウラが決勝戦で当たるようにし、その前に一夏とも当たるよう細工したのだ。それ以外は、通常通りに抽選で行なわれて。

 

「姐さんも良くそんなことができたな?」

 

「ん? あ、あぁ。エドたちは知らなかったっけ?」

 

いくら、リオネスの権力があろうともこの対戦表を操作することは不可能であった。

しかし、それが今現実として出来ている。

 

「更識に頼んだのよ。あの娘の【恩賜】を使えばこれぐら簡単よ」

 

楯無の【鏡花水月】を利用して、この対戦表を操作したのだ。

完全催眠で最初からこの三組を外していた。

 

「姐さんも悪だな……」

 

「最初からクライマックスなんて、とても詰まらないじゃない」

 

出されたお茶を置き、ジャンヌは再び会場を眺める。

 

「少しは、私を楽しませてちょうだい……織斑十秋くん」

 

 

 

 

そして、学年別トーナメントが始まった。

織斑十秋とシャルル・デュノアのタッグは順調にコマを進める。

 

「やっぱり、強いね……彼」

 

更衣室で休憩していたシャルルと十秋はモニターで今行なわれている試合を観戦したいた。

イチカ・リオネスが二対一とハンデ試合をしながら【雪片二型】を一本で圧倒していたのだ。

 

(次は奴とか……)

 

十秋はあの時の屈辱を晴らす時を待っていた。

奴のせいで、クラス代表就任パーティーにも参加することも出来ず、授業にもまともに参加することが出来なかったのだ。

 

「今回は、対策して来た。俺が、あいつに負けるなんってあり得ない!」

 

そうさ。俺は最強なんだ。

 

「試合が終わったみたいだから、僕たちも」

 

「あぁ」

 

十秋は立ち上がり、ピットに移動する。

 

 

 

 

休憩を挟みながら、順調に試合が進む。そして、今回のメインイベントの【七つの大罪】と【神童】の試合が始まろうとしていた。

 

「ようやく、この屈辱を晴らす時が来たぞ」

 

「…………」

 

試合開始の合図を待ち―――そして、開始の合図が鳴る!

 

「死にやがれ!!」

 

十秋は開始直後、黄金の波紋を数十個展開し、武器を打ち出す。

 

「!!」

 

一夏はそれを【強欲】で奪い取ろうとするが、その武器から放たれる異質な気配に中断する。

 

「おら! どうした!! お自慢の力で取ってみやがれ!!」

 

放たれる槍や剣、斧に回避の一手を繰り返す。

 

(布都御魂に天羽々斬、天之尾羽張、ミストルティン……)

 

十秋が打ち出しているのは、全て対神属性が付与された神殺しの武器ばかりであったのだ。

【七つの大罪】の【恩賜】のせいで、一夏の肉体は半魔神状態である。その為、十秋の放つ神殺しの武器とは相性が最悪であった。

下手すれば大ダメージ物ばかりに、掴むことすら出来ない。

 

「【ギデオン】!!」

 

大槌を出し、一夏は十秋の武器の砲弾を弾き飛ばす。

 

「【昇天隕石(ラッシュ・ロック)】!!」

 

ギデオンを地面に打ち付け、十秋の真下に星の形に地面を隆起させるが。

 

「僕の存在を忘れては困るよ!」

 

シャルルが隆起させた地面を爆破させる。

 

「ちっ! 【砂の渦(サンドワール)】!!」

 

シャルルにめがけ指を振り、足元に砂の渦を発生させる。

 

「隙ありだ!!」

 

十秋は一夏にめがけた神殺しの武器を飛ばす。

回避できない一夏。

 

「【重金属(ヘビメタ)】!! くっ!!」

 

自身の肉体を金属に変化させるが、完全には防ぐことは出来なかった。

 

「くははは!! どうだぁ!!」

 

戦いはやや十秋の方が有利だった。

まともに使える武器も限られ、一夏はIS学園で始めて血を流す。

 

「ちっ! まだ生きているか……一分一秒、生き長らえさせておくのも胸糞が悪い!!」

 

先程までの波紋とは規模が違う。同時に、嫌な感じがビンビンと伝わる。

 

「とっておきだぁあああ!! 【ロンギヌス】!!」

 

黄金の槍【ロンギヌス】が一夏の心臓をめがけ放たれる。

 

「はぁあああ!!」

 

一夏も流石にあれを受ける訳にはいかない。ギデオンを振り下ろし、ロンギヌスを叩き落とすが。

 

「!!」

 

ギデオンが砕け散り、ロンギヌスはその速さを落とすことなく、一夏に直撃する。

 

「ふん。我に逆らう輩はこうなるんだ」

 

そう言って、十秋は貴賓席に座るジャンヌの方に向く。

しかし、ジャンヌは取り乱すどころか平然としていた。そして、彼女は―――笑みを浮かべた。

 

「!!?」

 

悪寒が十秋を襲う。

そして、すぐさま一夏のいた方を向く。

 

「封印を解いた代償は高くつくぞ、三下」

 

ロンギヌスを掴み止める一夏がそこにいた。

一夏はロンギヌスを投げ捨てる。

 

「封印だと!?」

 

一夏は【シャスティフォル】を呼び出す。

 

「神器解放」

 

シャスティフォルが輝き、その真の姿を現す。



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EX EXー1

リオネス家。

 

「地下闘技場?」

 

「はい」

 

バルコニーで読書をしていたジャンヌにある情報が耳に入る。

何やら全戦無敗の男が現れたそうだ。

試合回数は―――既に四桁を越えているらしい。

 

「十中八九、転生者ね」

 

ジャンヌは持っていた本を閉じ、少し考える。

普通の人間が四桁以上の試合を全勝する事など不可能に近い。

しかも、相手は地下闘技場と来たのだ。

元プロから訳あり共の集まった何でもアリの地下闘技場に。

 

「これがその資料です」

 

手渡された資料を受け取ると、ジャンヌはすぐさま驚くことになった。

資料に付けられていた写真に撮られていたのは、赤毛の一人の少年だったのだ。

 

「この子が無敗の?」

 

「はい。驚くことに年齢は18だそうです」

 

「うわ……。確定だね、しかも身体強化系の類」

 

年齢に身に合わない成績。

ジャンヌは確信してしまった。

 

「それともう一つ」

 

執事はさらにもう一つ特大の爆弾を落とす。

ジャンヌは恐る恐るもう一つの資料を受け取る。

 

「この子は?」

 

「前の資料の兄でそうです。弟のマネージャーという形で係わっているそうです」

 

「兄弟そろって、地下闘技場にね……。しかも、どちらもストリートチルドレン」

 

ISの登場により一部の国では、ストリートチルドレンが増加し、未だに社会問題になっている。

そして、そういう類は地下闘技場などの裏社会でしか生きていくことになるのだ。

 

「能力はよく分かってしませんが、何かしらの能力を所持していることは確認されています」

 

一日に何千万もの金を手にしているんだ。襲われない訳がない。

 

(イチカに入ってもらいたいけど……今はIS学園にいるし)

 

ジャンヌは誰を地下闘技場へと向かわせようかと考えていた。

しかし、これ程の実力者となれば、こちらもそれなりの実力者を連れていく必要があるが。

 

(動かせる者がいないわね)

 

今回のこの件は見送ってもいいとは考えていた。

特に原作に影響を与えるようなことはしてはいないためだ。

 

(でもね……)

 

ジャンヌは資料に書かれていた国を見て、そうとは言えなくなってしまった。

地下闘技場があるのは、あのフランスなのだ。

 

(致し方無いわね)

 

ジャンヌは覚悟を決め、立ち上がる。

 

「私が出向きます」

 

「!?」

 

予想外の答えに執事が一瞬、動揺する。

まさか、本人が出るとは思ってもいなかったからだ。

 

「それに久しぶりに身体を動かしたいと思っていたのですよ」

 

「わかりました。すぐさま用意いたします」

 

執事は頭を下げ、ジャンヌと共にヘリポートへと向かう。

 

 

 

 

フランス―――地下闘技場。

 

「兄貴、今日のファイトマネーはどれぐらい集ったんだ?」

 

「喜べ、弟よ。ついに一億を超えたぞ」

 

「まじで!」

 

全戦無敗の赤毛の少年、アルは燥ぐ。

 

「今日はもっとうまい飯を食いにいくか」

 

「おう!」

 

銀髪の少年、エドに言われるままアルはその後に着いていく。

エドとアルは二人とも転生者だった。

しかし、普通の転生者とは違い彼らには親はいなかった。自我が目覚めたころには、すでにストリートチルドレンであり、その日その日を生きることで精一杯の人生を歩んでいたのだ。

そして、アルが15を迎えた時だった。

転生者の力をフルに活用し、地下闘技場界の王座に座ったのだ。

 

「そこのお二人さん」

 

エドとアルは誰かに呼び止められる。

声からして女性。地下闘技場ではとても珍しいかったため、すぐにわかったのだ。

 

「すみません。これから弟と一緒に飯を食いにいくので」

 

「あらあら、そう固いことは言わないでくださいな」

 

「明日もいるのでその時に―――」

 

エドはその場を立ち去ろうと、足を進めようとした時だった。

 

「それは、残念です―――転生者さん?」

 

エドは女性のその言葉に足を止める。

今、何って言った?

確かに今―――転生者と。

エドは恐る恐ると後ろを振り返る。

 

「こんばんわ。エドさんとその弟、アルくん」

 

地下闘技場の場に見合わない金髪の少女がそこにいた。

 

「うおおおおおおおおおおおっ! おっ●いぃぃぃぃ!」

 

一名、馬鹿がいた。

弟のアルだ。

 

「このお馬鹿が!」

 

気まずい雰囲気が一瞬にして、ぶっ飛ぶ。

まあ、それが本当に良かった事なのか、分からなかった。

 

「でもよ、兄貴。あのねーちゃんのおっ●い―――」

 

「お前は少し黙っていろ!!」

 

まさか、兄に起こられるとは思ってもいなかったためか、弟はいじける。

 

「弟が済まないことをした」

 

「えぇ、いいわ」

 

弟がぶち壊した雰囲気にお互いに何とも言えなかった。

 

「自己紹介がまだだったね。私はジャンヌ・リオネス。よろしくね、転生者さん」

 

「やっぱり、聞き間違いではなかったか……。俺はエドだ。そんで後ろでいじけているのがアル」

 

エドは親指で指差し、自己紹介を済ませる。

 

「転生者のことを知っているということは、あんたも―――」

 

「えぇ。私もあなたと同じよ」

 

「そうか……」

 

まさか、同じ転生者がいるかも知れないとは思ってはいたが、こうも早く現れるとは思ってもいなかった。

 

「それで、俺たちに何の用だ?」

 

「ここが何処の世界か、あなは知っているかしら?」

 

「ISだろ?」

 

「えぇ。そうよ。しかもここはフランスと言えばわかるかしら」

 

「そう言うことか」

 

ISとフランス。この二つのキーワードでエドはすぐさま理解する。

 

「安心しろ。あの子とは関わるつもりはないから」

 

「そうしたい所だけど。不安要素は確実に潰しておきたいのが私なのよ」

 

何時、何処で、何が起こるのか分からない。

関わるつもりはないと言って、関わってしまうことなど、定番中の定番。

 

「アル!」

 

「何だよ……アニキ」

 

「準備しろ」

 

「?」

 

アルは何のことを言っているのか分からなかった。

 

「あの女は敵だ」

 

「えー、俺は女だけは殴らない主義なんですが……」

 

「そんな事を言っている場合か!!」

 

ジャンヌも槍を出現させ、構える。

 

「ムムム!! じゃあ、条件をつけていい?」

 

「なんだ」

 

「もし、俺が勝ったら―――その、おっ●いを触らせてくれぇぇぇ!!!!」

 

再び生まれる、無言。

言い忘れたが、アルは大のおっ●い好きなのだ。

 

「うーん、いいですよ~」

 

「いいのかよ!?」

 

「私が勝てばいいんです。勝てば」

 

予想外の回答にエドは頭を痛くなり、逆にアルはお喜びしまくる。

 

「そうなれば、全力全開だぁ!!〈禁手(バランス・ブレイカー)〉」

 

アルは本当に最初から全力全開だった。

 

「それが、あなたの力ですか」

 

「そうっす。俺の転生特典〈赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)〉っす!!」

 

ジャンヌもある程度予想していたが、まさかあの作品の力を貰って来るとは思ってもいなった。

しかも、兄エドは戦いに参加するつもりはないようだ。

 

(弟に戦わせ、私の手の内を探るつもりのようね)

 

「あんたの敬に評して、私も全力で相手してあげる」

 

そう言って、ジャンヌも久々に霊装を呼び出す。

 

「!? ジャンヌ、槍……あんたの転生特典は―――()()()()()()()!!」

 

エドはジャンヌのその姿を見て、驚く。

 

「さあ、始めましょ。私たちの戦いを」

 

ジャンヌは槍を構え、戦闘態勢に入る。



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EXー2

フランス。

 

光と闇の二つが現れる都市で一つの戦いが行なわれていた。

ジャンヌは旗が巻かれた槍を振るい、アルは紅蓮の龍の鎧を身に纏いその言葉に拳を振るう。

 

「おらららららら!!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「っ!」

 

アルの転生特典である〈赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)〉はこの得なく面倒な物であった。

籠手状態では10秒ごとに力を二倍にすることが出来る。しかし、今の彼の状態はその上である〈禁手(バランス・ブレイカー)〉状態である。

能力も上がっており、一瞬にして、限界まで倍化までできるのだ。

 

(強化系の中で最も厄介なタイプ相手では分が悪すぎるわよ!!)

 

ジャンヌも闘って分かったが、アルの〈赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)〉の能力にかなり苦戦を強いられていた。

街の中を走り抜け、人気のない場所まで誘導する。

 

「姉ちゃん、逃げるのはお終いか?」

 

「えぇ。ここなら存分に戦いに集中出来ますのでね」

 

「そうか……なら、そのおっ●いをいただくぜぇえええ!!」

 

アルは一気に駆け寄り、ジャンヌはそれに合わせて槍を突き出す。

 

「もらった!!」

 

ジャンヌの繰り出した槍をギリギリで躱し、懐まで侵入し、衣服に触れる。

 

「しまった!」

 

ジャンヌは一つ見落としていたことがあった。

赤龍帝の十八番能力を。

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

アルは指を鳴らし、ジャンヌが身に纏っていた衣服が弾き飛ぶ。

 

「よしゃあああ!!」

 

かっこよく決めポーズを決め、舞い上がるアル。

だが、そんな喜びは続くことはなかった。

 

鉄山靠(てつざんこう)

 

アルは背後から物凄い衝撃を受け、吹き飛ぶ。

 

「な、なんや!? 一体何が……」

 

「まったく、油断も隙もないわね……まあ、今回は私のミスだけど」

 

すたすたっと歩くジャンヌにアルも予想外の反応を見せる。

衣服を全て弾き飛ばした女性はその場から動くことが出来ない筈なのに、ジャンヌは平然とこっちに向かってくるのだ。

 

「何で……平然といられるんや!!?」

 

「ん? あぁ、衣服が弾け飛んだぐらいじゃ、無駄よ」

 

「な!?」

 

ジャンヌの衣服は既に元通りに戻っていた。

 

「私の衣服は今は〈霊装〉だから、能力で構成されているのよ」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)〉で破壊できるのは服と()()()()()まで。

神によって造られた〈()()〉の《・》()()までは破壊することはできない。

 

「ちくしょ……」

 

アルもお得意の必殺技を通用しない相手に戸惑う。

 

「だが、姉ちゃんも同じやろ? その英霊には攻撃系宝具はないから、俺の〈赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)〉を破ることはできない!!」

 

アルの言うことは本当であった。

ジャンヌ・ダルクには攻撃系宝具は一応存在するが、あれは自身の命を対価に使うことができる自滅宝具なのだ。

だが、彼女が使っているのが本当にジャンヌ・ダルクであればの話だが。

 

「そうかな?」

 

そう言って、ジャンヌは提げていた剣に手をかけると、それを抜いた。

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……」

 

煉獄の業火がアルを囲う。

アルも予想外の事に気を取られ、逃げるタイミングを見逃してしまった。

 

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!」

 

ジャンヌは剣先をアルに向けると、彼を焼き尽くそうとする。

 

「まったく、あれ程油断するなっと教えただろ」

 

一人の乱入者によって、それはなされなかった。

 

『Divide!!』

 

「あ、兄貴……」

 

「ようやく、出て来たと思ったけど、あんたの特典がそれだとはね……」

 

「あぁ、そうさ」

 

『Vanishing Dragon Balance Break!!!!』

 

エドとアル。二人の兄弟は揃って凶悪な転生特典を持っていた。

 

「これが俺の転生特典。〈白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)〉」

 

赤龍帝と白龍皇。

それが今、ジャンヌの前に現れる。



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EX-3

ジャンヌは、ここまで予想外の転生者を前に思わず、笑みを浮かべてしまう。

勝てない。

その一言しか思い湧かない。

 

(勝てる訳がないじゃない……)

 

倍化と半減の能力を有する二体の龍を前にし、ジャンヌは今出来ることを考える。

 

(試作品である装備は赤龍帝の〈洋服崩壊(ドレス・ブレイク)〉で全て破壊されてしまったし、あるのは外野に待機しているセバスの元にある装備しかない……)

 

赤龍帝だけであれば、まだ勝てる見込みがあった。

しかし、白龍皇の登場にそれは打ち砕かれる。

 

(撤退するしかない!!)

 

今ある戦力では、この二人に勝てる確率など、たかが知れている。

ジャンヌは撤退を決意し、大きく後退するが。

 

「逃がすと思うか?」

 

「っ!」

 

目の前に迫るエドにジャンヌは悔やむ。

飛行能力を有する彼らからは逃げることは、出来なかった。

 

「がっ!!」

 

首を掴まれ、そのまま建物に思いっ切り押さえつけられる。

いくら身体強化で肉体を強化してあっても、転生特典をフルに使える彼らの一撃は相当堪えた。

 

「ふん!!」

 

すかさず、エドはジャンヌの腹めがけ蹴りを繰り出す。

幾つもの建物を突き抜ける。

 

(やばい……これは、確実に何本か逝った……)

 

血を吐き、ジャンヌはぐったりとし、その場から一歩も動くことも出来なかった。

 

「まだ、生きているか」

 

エドはそんなジャンヌを前にし、近くにあった木材を掴む。

 

「わりぃーな。恨むなら、俺たちの平和を壊した自身を恨みな」

 

エドは木材の先端を心臓めがけ振り下ろす。

途切れかける意思にジャンヌは走馬灯が流れる。

 

 

 

 

私の家族は屑だった。

父親なんて知らないし、母親は毎度毎度違う男と一緒にいる。

暴力沙汰なんて当たり前だった。

気に入らないことがあれば、直ぐに私に当たる。

そんな毎日を生きてきて、唯一私が心を休める場所が図書館だった。

家から数分の所にある図書館で私は閉館までそこである本を読み過ごす。

私はいつものようにある本を手に取る。

 

百年戦争を終わらせた英雄の物語。

 

この本は私の一番の好きな物語だった。

ごく普通の村娘がだった彼女が神託を受け、戦場に行き、戦争を終わらす物語。

私はそんな彼女に憧れた。

 

「私はそんな貴女になれたらな……」

 

中学を卒業と同時に、私は家を出た。

居場所ない場所に居たくない私は、友達の家を点々とし、バイトで金を貯め、ボロイアパートを借り、その日を生きて来た……。

しかし、私の身体は……限界だった。

 

過労死。

 

無理なバイトの掛け持ちが原因だった。

私はバイト先で倒れ、病院に運び込まれたが、手遅れであり、私は短い人生を終える。

そんな時だった。

 

「ようこそ、お嬢ちゃん」

 

神を名乗る何かに私はであったのだ。

そして、私は転生してくれると言うので私は〈物語(ストーリー)〉と呼ばれる能力を作り、転生した。

どっかの名家に生まれ、私は前よりは不自由のない生活を送れると思っていた……その時までは。

五歳を迎えた時、私はこの家の秘密を知ってしまったのだ。

元々精神年齢が高かったのが原因だったため、私は一般教育はすぐに終わり、周りからよく褒められ、それが私の唯一の生きがいだった。

そして、次に教え込まれたのが……毒の使用法、あるいは耐性。

私は頭が真っ白になった。

普通では有り得ない教育に私は疑問を持ち、父に問い出す。

 

「うちの家系は代々、暗殺の家系なのだよ」

 

そして、私の平凡の日常はその日から終わりを告げる。

ナイフ、銃火器、あらゆる格闘技を叩き込まれ、ある時は毒を服用してもがき苦しみ、地獄の日々を過ごしてきた。

それから、数年。

私は―――クーデターを起こした。

壁に串刺しされる私の父を前に私は笑っていたのだ。

数年かけて自身に付与していた能力の定着が確認され、私はすぐさま実行に移したのだ。

父も流石の予想を越える力を持つ我が子に手も足も出ず、私は初めて人を殺した。

 

「今から私がこの家の家長よ。私の言う事には、全て従いなさい」

 

広場に全ての使用人、父の部下を集め、私は宣言した。

もちろん、反発する者も現れ、私は徹底的に、そして一方的に心を折る。

経った十歳ぐらいの少女に一方的に遊ばれてる大人たち。

 

「その程度なのね」

 

父の右腕である部下を椅子にし、私は呟く。

その光景を目にした者たちは、全てを諦め、降参した。

そして、私は総てを手に入れ、新たに組織を設立する。

悪だけを殺す組織を。

拠点を日本に移し、私の最も欲しかった夢をかなえる。

 

“家族が欲しい”

 

前世今世共に叶わなかった夢を私は実行し、各国から孤児から訳ありを引き取り、私の弟、妹として向か入れた。

沢山の弟妹に囲まれ、私は裕福な時間を過ごす。

だから―――私はここでは立ち止まる訳にはいかない!!

 

 

 

 

迫りくる木材にジャンヌは残っていた力を振り絞り、手をつき出す。

木材は手を貫通し、重心がズレる。

 

「っち! まだそんな力が残っていたか」

 

「ごほっ。まだ、死に行く訳に……いかないのよ」

 

「だが、そんな状態ではどの道長くない」

 

エドの言う通り、両腕はもう使えず、右脚はあり得ない方向に曲がり、内臓のいくつかは潰れている。

だが、ジャンヌはそんな中―――笑っていた。

 

「ルーラー、ジャンヌ・リオネスが全令呪をもって命じる!!」

 

「な! させるか!!」

 

エドも予想外の行動に慌てて止めに入るが。

 

「今ここに姿を現しなさい―――イチカ!!」

 

ジャンヌの背後に羽根の令呪が浮かび上がり、二十八画あった令呪が消費される。

 

「ぐっ!!?」

 

「兄貴!!」

 

エドはその場に行きなり現れた者に腹を蹴り飛ばされ、建物を何件もぶっ壊す。

 

「派手にやったな……」

 

「へへへ……ちょっと無理をしちゃった」

 

「馬鹿たれが……」

 

ジャンヌは笑みを浮かべる。

そんな姿を見て、イチカは呆れ顔をした。

 

「霊槍シャスティフォル。第八形態〈花粒園(パレン・ガーデン)〉」

 

とりあえず治癒が必要だったため、イチカは霊槍シャスティフォルを出す。

即効性はないが、ないよりはまし程度の治療を始める。

 

「令呪が回復したら、後は自分でやれ」

 

ジャンヌはその言葉に頷く。

そして、イチカは目の前の敵に目を向ける。

 

「新手の登場かよ……つうか、なんだこの出鱈目な威力は」

 

エドは血をぬぐい、こっちに来る奴に目を向ける。

 

「てめぇ……何者だ」

 

「〈七つの大罪(セブン・デッドリー・シン)〉 イチカ・リオネスだ」

 

ニ天龍(エドとアル)〉の前に〈七つの大罪(イチカ)〉が現れる。



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EX-4

「っち! 新手か……」

 

エドは舌打ちし、新手を呼ばれたことにイラついていた。

 

(あの女……まさかとは思っていたが、令呪を持っていたか)

 

あの作品を基にしているのであれば、あってもおかしくはなかった。

ジャンヌの令呪はその身に二十八画までストックすることができ、十四人まで自身の能力授け者に令呪を執行できる権限が許されている。

そして、今回使った強制転移には消費した令呪一画につき一秒の時間停止機能がそのわっていた。

さらに、一日一画ずつ回復機能も有している特殊な令呪でもある。

 

「別にカスが一人増えた所で―――」

 

エドが言い終わる前に一夏は動く。

すれ違いざまに一夏はエドの顔を鷲掴みにし、地面に叩き付ける。

 

(がっ!? どう言うことだよ!?!? 初動が全く見えなかったぞ!!)

 

「兄貴!! 貴様ァ!!」

 

アルも予想外の連続に出遅れる形で戦いに参戦する。

 

「…………」

 

一夏は後方に目を向ける。

いくら最強の存在とは言え、弱点は存在した。

一夏の弱点。

それは、神器は一つしか展開することが出来ない。

つまり、今現在の一夏はジャンヌの治療に使っている〈霊槍シャスティフォル〉しか使えない状態であり、それも今は手元にない状態だった。

 

「ちょこまかっと!!」

 

アルは逃げの一手に徹する一夏にイライラするのだった。

 

 

 

 

(少し、イチカの足手まといになってしまったわ)

 

ジャンヌは少しずつ回復していく自分の身体を見て、思う所があった。

今回の一軒は、情報不足による失敗。

フランスという事で、急いでことに当たったことにより、起きてしまった。

転生者の能力はどれも一級品の力を所持していることは、百々承知だったが、自身でもそれなりに対処できる自信はあった。だが、結果はこのザマ。

結局は、IS学園から一夏を強制転移を使用することになってしまった。

 

「色々と手回ししないといけないわね……」

 

無許可でのIS学園の外出に、不法入国。

IS学園はほぼ席を置いてあるだけなので、追及があれば対応すればいいだけで、特に気にすることはないが、不法入国はちょっとばかり問題であった。

一夏のパスポートが今現在ない。

令呪の転移を利用すれば簡単なのだが、それだとあと一日はこの国に滞在しなければならないのだ。

 

「うん。大分回復したね……」

 

ねじ曲がった足は元の形に戻り、折れた腕もくっつき、貫通した手も塞がっていた。

ジャンヌは旗を杖代わりにし、立ち上がる。

そした、一夏が戦闘している場所まで歩く。

 

「あれ?」

 

たどり着いたジャンヌは一夏の戦闘を見て、疑問をいだく。

 

(イチカって、あれ程の実力だったけ?)

 

明らかにおかしかった。

今が夜だからって、〈傲慢〉の恩賜を受けていないとはいえ、明らかにおかしかったのだ。

 

「セバスいる?」

 

「はい。こちらに」

 

一瞬にして、そこに執事が現れる。

ジャンヌの専属の執事、セバスだった。

 

「〈バロールの魔眼〉ある?」

 

「えぇ。ございます」

 

そう言って、セバスは禍々しい耳飾りを取り出す。

ジャンヌはそれを受け取り、一夏たちを見る。

 

(白龍皇が闘級6万程で赤龍帝が闘級5万ぐらいか……そりゃあ勝てない訳だよ)

 

バロールの魔眼とは、一夏が作った強さを数値化して見ることができるアイテムだ。

ちなみにジャンヌの闘級は4万級9800ある。

一般人は高くても闘級は30程しかなく、プロですら平均1000ぐらいしかいないのだ。

そして、一夏の現在の闘級は。

 

(え? 闘技6万? どういうこと?)

 

明らかに低い。

一夏の闘級が白龍皇と同レベルの闘級しか持ち合わせていなかったのだ。

ジャンヌも流石に予想外だった。

 

(そっか……アレを使っているのね)

 

ジャンヌには、一つだけ思い当たることがあった。

一夏が能力の裏技を持っていることを。

 

「俺たち二人を相手して、互角か。大したことないな」

 

白龍皇と赤龍帝を二人同時に相手にした一夏は少々押され気味だった。

エドもこれなら勝てると確信する。

 

「俺の分身相手には中々上出来だったな」

 

「!?」

 

後方から現れた一夏に白龍皇と赤龍帝も驚きを隠せなかった。

そして、今まで相手していた一夏と重なる。

 

(〈魔剣ロストヴェイン〉の特性である〈実像分身〉。つまり、一夏の今の闘級は―――12万!!)

 

令呪で強制転移した際の二十八秒間の恩賜の時に一夏は〈ロストヴェイン〉の〈実像分身〉を使用していたのだ。

魔剣ロストヴェインには使用者の闘級の半分を総量とする実像分身を生成することができる特性を持っていた。実像分身は複数体作ることもでき、その分1体1体の闘級は低くなってしまう。

だが、その一夏が今、本来の闘級に戻ったのだ。

 

「さあ、第二ラウンドを始めようか」

 

一夏は不敵な笑みを浮かべる。



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EX-5

(一体何が起こったんだ? 今のは影分身……ではないし、それよりも)

 

エドは今起こった現象に頭をフルに活動させる。

今まで戦っていた奴が分身と言われ、理解出来なかったのだ。

 

(さっきの奴より、はっきりと感じとれる……こいつは、ヤバい!!)

 

エドとアルは目の前にいる一夏から溢れ出ている覇気を感じ取り、直感でそいつは危険人物であると認識した。

一夏は〈ロストヴェイン〉の特性を解放し、エドとアルに仕掛ける。

 

(な!? 三人だと!?)

 

本体を含め、一夏は三人に分身する。

 

双拳(ダブル・ハンマー)!!」

 

分身の一人が〈戦鎚ギデオン〉を振り下ろし、2本の岩石の拳を作り出す。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!」

 

アルは高速で拳を振り、〈双拳〉を打ち砕く。

しかし、打ち砕いた先で、エドとアルは目にしたのは。

 

「霊槍シャスティフォル 第四形態〈光華(サンフラワー)〉!!」

 

巨大な花だった。

花弁から高威力の光線が放たれる。

 

「ちっ!! アルヴィオン!!」

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!』

 

エドは〈光華〉を自身の能力で半減に半減を重ねるが。

 

大地の剛剣(グラウンド・グラディウス)!!」

 

一夏は、地層を巨大な剣の形に隆起させ、エドとアルはそれを回避することが出来なかった。

 

「がっ! くっそ、なんて出鱈目な奴だ!!」

 

「兄貴!! アイツ、一体何個の転生特典を所持しているんだよ!!」

 

エドもアルも一夏が転生特典でしか存在しない力を振るっていることには気づいていた。

 

「〈七つの大罪〉シリーズという事は、あの分身は〈憤怒の罪〉の〈魔剣ロストヴェイン〉の能力だということだ。そして、後の二つは〈戦鎚ギデオン〉に〈霊槍シャスティフォル〉と来た。チートにも限度があるだろうが!!」

 

エドの叫びは最もだった。

本来であれば、神器は二種類同時に出すことはできない。

しかし、一夏は能力の抜け道を見つけてしまったのだ。

〈魔剣ロストヴェイン〉の〈実像分身〉で作り出した分身にはその制限が適応されなかった。

つまり、一夏は七人に分身すれば、全ての神器を使用可能なのだ。

 

「仕方い……アレを使うぞ」

 

「おう!」

 

エドとアルは眼の前の敵に余裕をかましている場合ではなかった。

 

「我、目覚めるは覇の理に全てを奪われし、二天龍なり。無限を妬み、無限を思う。我、白き龍の覇道を極め、汝を無垢の極限へと誘おう」

 

「我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり。無限を嗤い、夢幻を憂う。我、赤き龍の覇王となりて、汝を紅蓮の煉獄にしずめよう」

 

二人は詠唱に入る。

一夏も、二人を中心に膨れ上がるオーラに警戒し、分身を解く。

 

「「覇龍(ジャガーノート・ドライブ)!!」」

 

エドとアルは先程までの鎧姿ではなく、ドラゴンに近い姿へと変わっていた。

そして、ジャンヌはすぐさま二人の闘級を見る。

 

「ありえない……闘級―――60万オーバーなんって」

 

ジャンヌも流石に予想外な闘級に苦笑いする。

今の二人の闘級は、一夏の正午クラスの闘級であった。

 

「いくぞ!!」

 

先陣を切ったのは、アルだった。

 

「!?」

 

一夏が感知出来ない程のスピードで近づいて来るアル。

咄嗟に一夏は〈明星アルダン〉を出す。

 

「瞬間移動!」

 

一夏は転移し、アルの一撃を避ける。

 

完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)!!」

 

つかさず、一夏は結界魔術でアルを閉じ込める。

 

「このちんけな壁など!!」

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!!!!』

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ―――ッ!!」

 

しかし、アルの全力の一撃を放ったのに罅一つ出来ることはなかった。

 

「っち! 〈暴食の罪(ボア・シン)〉の〈完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)〉か」

 

アルの力でも破壊することが出来ない結界魔術にエドは、舌打ちする。

しかし、一夏も流石にこれ以上の手の打ちようがなかった。

〈暴食〉の力を使っているため、他の力を出すためには〈完全なる立方体〉を解除する必要がある。

 

(お嬢に悪いが、アレを切らせてもらう)

 

予想以上のパワーアップに一夏は決断する。

 

「―――絶対強制解除(アブソリュート・キャンセル)

 

一夏は自身に絶対強制解除(アブソリュート・キャンセル)を使う。

そして、自身に掛けられていた封印術式が解ける。

 

「隙ありだ!!」

 

エドは一夏に仕掛ける。

 

「は?」

 

エドは違和感を覚えた。

隙だらけの一夏に攻撃を仕掛けた。だが、手応えが全く無かったのだ。

 

「久々にこの力を開放することになるとはな」

 

捕まれた腕を引き戻そうとするが、びくともしなかった。

そして、同時にギシギシっと嫌な音が鳴る。

 

(ま、まさか!?)

 

エドは一夏の顔を見て、驚愕する。

額に黒い渦の痣が出ていたのだ。

 

「第三ラウンドを始めるか」

 

エドの腕をへし折り、一夏は宣言する。



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EX-6

(おいおい! まじかよ!!)

 

エドは一夏の変貌に恐怖を抱く。

七つの大罪の武器や魔法だけでなく、力まで所有していたのだ。

 

「お?」

 

アルを閉じ込めていた〈完全なる立方体〉を一夏は一度解く。

そして、〈ロストヴェイン〉を出すと、分身を一体作る。

 

「〈完全なる立方体〉」

 

分身は〈アルダン〉を出し、〈完全なる立方体〉を本体と白龍皇と赤龍帝を中に入れる感じで展開する。

 

「準備が整ったし、始めるぞ」

 

一夏は〈ロストヴェイン〉を構える。

 

「さっきは不覚を取ったが、今度はそう―――」

 

アルは一夏との距離を詰めるために一気に近づくが、その前に一夏がアルの懐へと到達する。

そして、拳をアルの腹目掛けて振り上げた。

 

「ぐぁ!?」

 

一夏はつかさず、蹴りを入れ、アルは壁まで吹き飛ぶ。

 

「アル!! クッソ!!」

 

エドもアルも〈覇龍〉を使ってまで強くなったはずなのに、一夏はさらにその上を行っていた。

しかも、〈ロストヴェイン〉の能力を使って、力は半減しているのにも関わらずに。

 

「イチカ……封印術式を外してしまったのね」

 

ジャンヌは一夏たちの戦闘を見ながら、一夏の現在の闘級を見る。

 

「魔人化状態での闘級は―――120万オーバー。もう、地球が壊れてしまうわ」

 

もう、数字での暴力でしかなかった。

二体一での闘級半減のハンデを背負ってなお、圧倒する戦闘力を見せる一夏。

 

「決着はもうじき着く……」

 

ジャンヌは己の勘で、そう宣言する。

 

(やべぇ。もう限界だ)

 

エドとアルの〈覇龍〉の維持時間の限界が近づいていた。

 

「くっそ……」

 

今出せる最強形態になっても勝てなかった。

エドとアルの〈覇龍〉が強制的に解除され、決着がつく。

限界を超える戦いにエドとアルはその場に倒れ、動く気力はもうなかった。

 

「さっさと、止めをさしな」

 

「あぁ。そうさせてもらうよ」

 

一夏は〈ロストヴェイン〉を振り下ろすが。

 

「ルーラー権限を執行」

 

一夏の持っていた〈ロストヴェイン〉が消滅する。

それと同時に一夏の力が消失した。

 

「!? お嬢、どう言うつもりだ?」

 

「止めを刺すのは待って」

 

ジャンヌはルーラー権限を一夏に執行した。

これにより、一夏の持つ力が全て、一時的に使用不可能になる。

 

「どう言うつもりだ……情けなど必要ない。さっさとやれ!」

 

「あらあら。うちの者に負けた癖に」

 

ジャンヌは霊装を既に解除いており、戦う意思はなかった。

 

「やってもいいか?」

 

「ダメよ……今、死ぬには惜しい人材だから」

 

ジャンヌは首を横に振る。

そして、エド前にしゃがむと。

 

「私の弟になりなさい」

 

私は手を差し伸べた。

予想外の言葉にエドは目を丸くする。

 

「フザけんなァ!!」

 

エドはジャンヌの提案に怒りをぶつけるが。

視線が一瞬だけだが、ブレる。

エドは気を失う。

 

「話が進みそうにないから、意識だけ奪わせてもらった」

 

「はぁ~。仕方ないわ」

 

ジャンヌも最初から期待はしていなかった。

 

「これだけ、暴れてしまったから、そろそろこちらの者でも抑えるのは限界でしょうね」

 

予想以上の戦いに人払い結界に警察の足止めがそろそろ限界を迎えていた。

 

「イチカはそう言えば転移魔術が使えるんだったね」

 

「一応な。だけど、今は使えない」

 

「あぁ。ごめんね。ルーラー権限の解除」

 

ジャンヌは、一夏に使ったルーラー権限を解除する。

そして、一夏とジャンヌは二人を抱えて、転移した。



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EX-7

「ここは……」

 

エドは意識を取り戻し、身体を起こす。

その横で弟のアルがいびきを立てて寝ていた。

 

「俺は、確か……」

 

ジャンヌと名乗る転生者と戦い、増援で呼ばれたイチカと言う男と戦って負けたことを思い出す。

 

「起きたようですね」

 

「あんたは……?」

 

ドアから入って来たのは一人のメイドだった。

 

「リオネス家のメイドの一人、沙耶・リオネスと申します」

 

沙耶はお辞儀をし、自己紹介を済ませる。

そして、その姿にエドは見惚れてしまう。

人生で初めて本物のメイドを目にしたのだ。

 

「お嬢様がお待ちです。着替えはこちらに置いて置きますので」

 

そう言って、沙耶は退室してしまった。

 

「あの女、一体何のつもりだ……」

 

エドは分からなかった。

自分を殺そうとした俺たちを手枷足枷などを付けず放置していたのだ。

その真相を確かめるためにエドは置かれた着替えに手をつける。

 

「では、私の後に続いて来て下さい」

 

部屋から出ると、その横で沙耶が待っていた。

エドは沙耶に言われるままに、その後に続く。

 

(このメイド……全く隙がねぇ……)

 

無防備に見えるその背は、全く隙がなかった。

だが、それは転生特典を使わないでの場合でだ。

そして、すれ違うメイドや執事たちも同様で殆どが実力者ばかりだった。

 

(この屋敷は一体どうなっていやがるんだ)

 

二階に上り、その一番奥の部屋へと着く。

他の所とは全く扉のサイズが違い、ここにアイツがいることは直ぐにわかった。

 

「お嬢様。エドさまをお連れしました」

 

ノックした後、沙耶は要件お伝える。

 

「入って頂戴」

 

「失礼いたします」

 

入出の許可が出たので、沙耶とエドは部屋に入る。

 

「傷は癒えたようね」

 

「あぁ。おかげさまでな」

 

ジャンヌは、チラッとエドを見て、再び手元の書類に目を戻す。

 

「セバス。これを」

 

「では、フランス支部に送って置きます」

 

ようやく、仕事から解放されたようで、ジャンヌは背伸びをする。

 

「さて、バルコニーで話しましょうか」

 

ジャンヌは椅子から立ち上がるとバルコニーへと出る。

エドは何も言わず、それに従う。

 

「さて、何から話ったらいいかしら」

 

「何故、俺たちを生かした」

 

沙耶がお茶を入れる中、エドから話しかける。

 

「そうね。殺すのには、惜しい人材だったから……かな?」

 

ジャンヌはお茶に手に取ると、そう答える。

実際にその通りだった。

二人がかりで、あの一夏をあそこまで、追い詰めた人材なのだから。

 

「いいのか。今の俺ならあんたを殺すのは容易いぞ」

 

「あら、やってみる?」

 

ジャンヌは余裕の表情を見せる。

その表情にエドはカッチン、っときた。

 

「アルビオン!!」

 

エドは右腕だけを鎧化し、ジャンヌめがけて拳を振るが。

 

「!?」

 

ジャンヌは人差し指一本だけで、そのパンチを止める。

エドは訳が分からなかった。

あの時には全く相手にならかった女が―――。

 

「パン!」

 

ジャンヌはそのまま指を弾くと、エドは吹き飛ばされる。

 

「うごおぉおお!?」

 

バルコニーから落ちたエドはそんまま地面着地する。

 

「どうなってやがる!!」

 

エドは飛び上るり、そのままバルコニーに着地する。

 

(力は失ってはいない……)

 

エドは自分の力具合を確認するが、特に異常は見当たらなかった。

 

「お前……俺に何をしやがった」

 

吞気にお茶を嗜むジャンヌにエドは問いかける。

 

「ルーラー権限」

 

「あ?」

 

ジャンヌはティーカップを置くと、そう答えた。

 

「私だけの特権。〈ルーラー権限〉を使ったのよ」

 

「それが、お前の転生特典か」

 

「半分正解で半分不正解だね。私の転生特典は〈物語〉。他者に物語の力を与えることができる能力よ」

 

「そういう事かよ……」

 

道中ですれ違った者たちに、この女は自分の能力を与えていたのだ。

通りで、一般人よりは強い訳だよ。

だが、それでも不可解なことがあった。

 

「さらに、おまけで私に対して力を振るうことはできない」

 

「は? それは、どう言うことだよ」

 

「君達が寝ているいる間に、仕込ませてもらったわ」

 

「それは―――」

 

「つまり、今の私はルーラー権限であなた達の力を完全に無効にできるのよ」

 

エドは唖然するしかなかった。

 

「ふ、ざけんなァ!!」

 

エドはジャンヌに殴りかかるが。

それに対抗するかのようにジャンヌはエドのおでこにデコピンを入れる。

ルーラー権限でエドは力が完全に無効化され、何の術も出来ず吹き飛ばされた。

 

「沙耶ちゃん。回収をお願い」

 

「はい。かしこまりました。お嬢様」

 

「もう、堅苦しいことはいわないで。お姉ちゃん、って言いなさい」

 

「ですが……」

 

「お姉ちゃん」

 

沙耶も戸惑うが。

 

「……お姉ちゃん」

 

「うんうん。それでいいのよ」

 

そう言い残して、ジャンヌは仕事の続きをするために、部屋に戻る。

 

 

 

 

それから、事あることにエドはジャンヌにかぶりつく。

しかし、ルーラー権限がそれを阻止してしまい、エドは毎度の如く吹き飛ばされる。

アルはそんな兄とは正反対で、屋敷の人たちと馴染んでいた。

そして、今日もエドはボロボロになって、庭に放置される。

 

「お前ら、何であいつ事“姉”って呼ぶんだ……?」

 

時折、メイドたちが、主人のジャンヌのことを姉と呼んでいた。

沙耶はボロボロのエドの質問に答える。

 

「あの人が―――“妹”と呼んでくれるから」

 

意外な答えだった。

学園物語とかで使われるお姉様ではなく、家族としての姉と答えたのだ。

 

「嬉しいのよ。ただの言葉でも、嬉しいの」

 

沙耶だけではなく、この屋敷にしる人たちは全員、ジャンヌの妹と弟なのだ。

孤児だった者や研究所にいた者、暗殺者として育てられた者……様々な事情を抱えた者たちがここにいる。

 

「ここから出て行くのあなたの自由ですよ」

 

そう言って、沙耶は屋敷の方へと戻る。

エドは呆然と空を眺め。

 

「負けたよ……俺の負けだ」

 

「あら、認めるのね」

 

「うお!? いつからそこにいた」

 

いつの間にか、ジャンヌがおり、エドは驚く。

 

「お前らってとこからよ」

 

「最初からかよ」

 

ジャンヌはクスクスと笑いながら、エドを見つめる。

 

「じゃあ、もう一度言うわ。私の弟になりなさい」

 

「……あぁ。いいぜ」

 

差し伸べられたジャンヌの手をエドは取る。

そして、ここに一夏に次ぐ最強の守護者―――エド・リオネスとアル・リオネスが誕生した。




ジャンヌ「そう言えば、あなた達の名前の元はなんなの?」

エド「ん? はがぬの錬金術師だが?」

ジャンヌ(やっぱり……あの兄弟か……) 

※はがぬの錬金術師とは、転生したらスライムだった件にて登場。
誤字ではございません。


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EX-8

ゴトゴトと車輪の音に身体を揺らせながら、一夏はその時が来るまで、窓の外で流れる茜色の街の光景を眺め続けていた。

馬車が止まる。

馬の嘶きが響く中、高級な作りの扉を開け、一人先に外へ。

着慣れない礼服―――いわゆる燕尾服を身に纏う一夏は、これまた上品な革靴を鳴らして、地面に降り立つ。

一夏は振り返り、次に降りてくる少女に手を貸す。

嬉しそうに微笑みながら馬車から出てくるのは、ジャンヌだ。

一夏と同じように正装のドレスで身を包み、普段よりずっと綺麗で華々しい。

 

「ありがとう、イチカ」

 

「いえ」

 

地面に降りたジャンヌが笑いかけてくる。

続々と集まる高級そうな箱馬車、正装している何人もの美男美女、止めに大富豪の豪邸。

本日は【グラディウス・ファミリア】が主催するパーティー。

 

「さぁ、行くよ、イチカ!」

 

「はい」

 

ジャンヌの格好は白色のドレスで、沢山のレースとフリルをあしらっている。しっかり谷間が強調されてしまっているのは立派な胸をもつ彼女故だろうか。正直、視線に困ることもしばしばだ。

とある国の王女様……と言うのはまた違うかも知れないが、今のジャンヌには可憐さと美しさが同居している。

一夏は、ジャンヌをエスコートし、見上げる程高い建物の中へと入った。

 

 

 

 

玄関ホールは建物の外観に負けず劣らず絢爛豪華だった。

金銀の光が太い柱や燭台に散らばっていて目が眩しい。吹き抜けの造りはとても開放感がある。壁際に鎮座している彫刻は神様を模した物だろうか、男神様と女神様が一体ずつある。

ホールを抜けて、豪奢な大階段を上がった先にパーティーを行う大広間はあった。

既に賑わっている大広間はもはや語る必要がない程豪勢だった。高い天井にシャンデリア、沢山の長卓には普段食べられないような料理がずらりと並べられており、背が高い窓の外は、バルコニーになっている。

日暮れが終わり、外の景色は宵闇が満ちた。

 

「―――諸君、今日はよく足を運んでくれた!」

 

と、高らかな声が響き渡った。

室内にいる全ての人たちの目が向かう先に、一人の男性がいる。

きっとあの人が今回のパーティーの主催者のアルメスだろう。

パーティーの主催者らしく盛装するアルメスの声は良く通っていた。

 

「今日の夜は長い。ぜひ楽しんでいってくれ!」

 

それから口上に耳を貸していると、不意に。

賓客を見渡していたアルメスの視線が、こちらを射抜いたような気がした。

 

「ん? あぁ、アルメスのことが気になるのね」

 

ジャンヌの言葉に「えぇ」と一夏は頷き返す。

 

「アルメスは、とにかく色恋沙汰の話題が尽きない奴でね……後はそう―――()()()()

 

ジャンヌが最後に口にした言葉に、一夏は少し嫌な感じを感じ取る。

ざわっっ、と広間の入り口から起こった大きなどよめき。

 

「あら……大物の登場ね」

 

音の出どころを見つめ、ジャンヌはおどけるように言う。

衆目を根こそぎ集めているのは、美しいドレスを身に纏った金髪にエメラルドグリーンの瞳の女性を従えた、パープル色の髪の少女だった。

 

「―――レミリア。それに【剣聖】アルトリア」

 

レミリア・スカーレットこと【スカーレット・ファミリア】は―――【リオネス・ファミリア】と並ぶ最強勢力の派閥。裏社会の頂点に降臨するこの二強の派閥は裏社会の双頭と比喩される程だ。

視線の先の少女は、そんな【ファミリア】の当主。

レミリアの登場を境に、場は一気に盛り上がる。

その時、紅の瞳がこっちを捉えた。

ピタリと動きを止めたレミリアは、じっとこっちを見つめていたかと思うと……微笑んだ。

コツ、コツ、と靴を鳴らして歩み出す。見えない壁があるかのように少女の前からは人込みが散り、道がどんどん開けていく。

金髪の美女の従者を引き連れる少女は、間のなく一夏たちの前で足を止めた。

 

「……やあ、レミリア。何をしに来たのかしら?」

 

「別に、挨拶をしに来ただけよ? 珍しい顔ぶれが揃っているものだから―――ね?」

 

そう言って、レミリアは一夏に流し目を送る。

吸い込まれそうな瞳にごくりと喉を鳴らすと、レミリアは笑みを深めた。

自然な動作ですっと手を差し伸べ、頬を撫でてくる。

 

「―――今夜、私に夢を見させてくれないかしら?」

 

「―――っ」

 

見せるかァ!!

 

レミリアが尋ねてくると同時に、ジャンヌが吠えた。

頬に添えている手を叩き落とし、真っ赤になって激昂する。

 

「うふふ。ジャンヌの機嫌を損ねてしまったようだし……もう行くわ。それじゃあ」

 

一方で、レミリアは可笑しそうに微笑む。

ジャンヌの反応を一頻り楽しんだ後、あっさりと身を引く。

激昂するジャンヌを置いて、背を向ける。「アルトリア」と側にいた従者に声をかけ、彼女は歩み出した。

 

「―――早速、彼女が仕掛けて来たわね」

 

嵐が過ぎ去ったような間を置き、今度は別の方向から声がかかる。

 

「あら、更識」

 

そこには水色のドレスを身に纏った、更識楯無がいた。

そして、その隣には。

薄緑のドレスを身に纏った、楯無の従者の布仏虚がいた。

 

「いつの間に来たのかしら?」

 

「意気揚々と会場入りしたらあのお子ちゃまに全部持ってかれたのよー!?」

 

どうやら、楯無たちはちょうど今来た所らしい。レミリアとのやりとりがあって、広間に入室したことに気付けなかったらしい。

 

 

 

 

それからしばらく、一夏はジャンヌに連れられ、知人だと言う【ファミリア】の前で挨拶をして回った。人の良さそうな女性や男性に紹介され、言葉を交わしていく。

やがてパーティーが始まって、二時間程経った頃、一夏とジャンヌは人の流れから外れ、邪魔にならないように壁際に設けられたの席に移動する。

 

「ふぅ……」

 

席に座った途端、ジャンヌは吐息が漏れる。

 

「一つ……聞きたい事がある」

 

「……アルトリアのことでしょ?」

 

ひと段落着いた時、一夏はずっと感じていた疑問をジャンヌに問う。

レミリアが連れていた従者―――アルトリアと呼ばれる女性のことだった。

 

「イチカは知らなくて当然ね。あの娘には、私の【恩賜】が与えられているわ」

 

その言葉に、一夏は驚く。

門外不出であるはずの【恩賜】が出ていたのだ。

 

「今思うと―――本当にムカつくわ!」

 

何やら、愚痴をこぼしながら説明し始める。

要約するとジャンヌの父―――ジャック・リオネスがレミリア・スカーレット個人に大きな借りを作っていたらしい。

当主が代替わりして少し経った頃、リオネス家の噂を嗅ぎ付けて来たのだ。

そして、ジャックの借りをいいことに、レミリアはジャンヌにあることを要求してくる。

 

『貴女が子供たちに与えている【恩賜】と呼ばれる物を寄越しなさい』

 

もちろん、ジャンヌはその要求を拒否する。

借りを作ったのは、あくまでも父であり娘である自分には関係のない、と言ったらしい。

しかし、レミリアは引き下がらなかった。

しまいには、裏社会のゲームを持ち出して来たのだ。

それもジャンヌは拒否する。

そのゲームは大勢の【ファミリア】の目の前で行われるゲームであり、ジャンヌは【恩賜】を曝け出すことを危惧してしたのだ。

そのため、ジャンヌはそのゲームを挑まれても決して参加しなかった。

ついには、【ファミリア】同士の戦争にまで持ってかれ、ジャンヌは降参する。

当時の戦力は一夏はおろか、Leve.4のガランが一人だけ、レミリアは資金による暴力を用意してきたのだ。流石のジャンヌは勝つことは出来なかった。

もちろん、ジャンヌはタダで引き下がる訳がなく、一つだけ条件を付けたのだ。

 

『あんたの所にいる中で、最も最高の一人に【恩賜】を与えてあげる』

 

ジャンヌはレミリアの屋敷に赴き、部下から使用人まで全てを確認し、一人の見習いメイドの少女に目が留まったのだ。

その少女のレベル適性がなんと―――Leve.5だったそうだ。

その時、思わず息を呑んでしまったらしい。

人生で初めてLeve.5の適性を持つ者を見つけてしまったのだ。

ジャンヌはその娘を連れかえ、【恩賜】を与えた。

それからは、その娘はレミリアの専属の護衛になったらしい。

 

「その次には、イチカが欲しいって、ふざけたことを言い出したのよ、あの小娘!!」

 

もちろん、その要求は拒否。

戦争になっても、こっちが勝つ見込みがあるので、レミリアは大人しく引き下がった。

今回、頬を撫でてきたのはそういう意味だったらしい。

 

『どんな手段を使ってでも、あなたを私の物にしたい』

 

ある意味では、一夏はとんでもない女に目を付けられたらしい。

 



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その他 登場人物

ジャンヌ・リオネス

 イメージ・ボイス-坂本真綾

 身長:159cm/体重:44kg/種族:人間/誕生日:12月24日/年齢:20歳/血液型:O型

 闘級:4万9800(魔力2万8000/武力1800/気力2万)

 CAT(Counter(カウンター・)Attack(アタック・)Terrorism(テロリズム))、反テロリズム専門部隊「リオネス家」の初代当主。

 本作のヒロインの一人。家族の温もりを知らずに育ったため、特に家族に対しては凄く優しい一面を持つ少女。元は暗殺を専門としていた名家の娘だったが、10歳の時に実の父親を殺し、当主の座を奪う。普段は趣味の読書を嗜む少女だが、特に物語を壊す存在には物凄く嫌っている。さらに、彼女自身は転生者であり転生特典も所持している。

 転生特典「物語(ストーリー)

 自身の魔力を消費することで、他者の魂の器に見合う能力を与えることができる。地脈を利用することで、消費魔力を軽減可能。能力を与えられた者は主に対して攻撃すると強制的に全能力が失われ、主自身の任意で能力を封じることも可能。

 霊装「ジャンヌ・ダルク」

 Fate/シリーズに登場するルーラー、ジャンヌ・ダルクの装備を呼び出すことが可能。

 令呪

 自身の能力を与えた者、または自身に使用することができる特殊な痣。最大所有数は28画まで可能であり、14人までなら使用できる。消費した令呪は日が変わるごとに1画回復する。

 宝具解放

 令呪を1画消費することで、登録した仲間の魔力が完全回復する。

 霊基修復

 令呪を1画消費することで、登録した仲間の体力が完全回復する。

 霊基復元

 令呪を3画消費することで、登録した仲間を完全復活並びに、魔力が完全回復する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

イチカ・リオネス

 イメージ・ボイス-内山昂輝

 身長:172㎝/体重:62kg/種族:人間?/誕生日:9月27日/年齢:16歳/血液型:A型

 闘級:12万(魔力:4万/武力:5万5000/気力:2万5000)闘級:120万(魔神の力使用時)闘級:測定不可能(正午の時)

 本作の主人公。リオネス家の最大戦力でありジャンヌ・リオネスの右腕。本名は織斑一夏だが、第二回モンド・グロッソの時に誘拐され、本国から切り捨てられ、ジャンヌ・リオネスに救出される。ジャンヌの能力〈物語〉から七つの能力を与えらる。

 神器「魔剣ロストヴェイン」

 中心に五つの穴が空いた反りのある片刃の剣。ドラゴンの紋様が刻まれている。使用者の闘級の半分を総量とする実像分身を生成することができる。分身は複数体作ることもでき、その分1体1体の闘級は低くなってしまうが、ほぼ0の力で攻撃を跳ね返す〈全反撃〉と相性の良い神器である。

 神器「聖棍クレシューズ」

 両端が尖った四節棍。

 神器「霊槍シャスティフォル」

 神樹から作られた、鋼を超える強度を持つ神器。神樹の持つ不思議な特性を持ち、「災厄」の魔力によってその全ての特性を引き出すことができる。真っ二つに折られたくらいではすぐに再生できる。

 神器「戦鎚ギデオン」

 2200ポンド(約1t)の巨大な大槌。

 神器「双弓ハーリット」

 両腕から発現する光の弓矢。自身の魔力により出した矢の一斉掃射が可能。光であるが実態があるため、相手の武器を受け止めることも可能。自動追尾モードにも変形ができ、眼鏡がない状態ではこれを使い相手に命中させている。

 神器「明星アルダン」

 表面に数千のルーン文字が刻まれた、球状の神器。

能力のひとつとして自分の精神を内部に転写することが可能で、肉体が活動不能になった時も問題なく周囲と意思疎通できる。他に幻影の映写など、用途は多岐にわたる。

 神器「神斧リッタ」

 イチカの身長をはるかに超える巨大な片手斧。誰も持ち上げることすら難儀するほどの凄まじい重量。この神器の特性は「充填&放射(チャージ&ファイア)」 。イチカの発する莫大な熱量を全吸収し蓄え、任意で放つことを可能にする。

 魔力「全反撃(フルカウンター)

 自分に向けられた特殊攻撃を、倍以上の威力でもって跳ね返す魔力。単純な物理攻撃などを跳ね返すことはできない。

 魔力「強奪(スナッチ)

 直接触れずに遠距離から物体や身体能力などを奪う魔力。

 魔力「災厄(ディザスター)

 対象の「状態」を促進する魔力。成長を促す一方で、傷や毒、腫瘍などといった悪性の状態を進行させてかすり傷から重篤なダメージを負わせることも可能。神樹から創りだされた霊槍の力を最大限に引き出すことができる。

 魔力「創造(クリエイション)

 大地や鉱物を操る魔力。鉄を飴のようにねじ曲げ、地層を塔のように隆起させ大地を砂状にすることができる。

 魔力「侵入(インベイション)

 相手の記憶や認識を読み取ったり操作する魔力。

 魔力「無限(インフィニティ)

 自身が発動した特殊装備、もしくは魔法を永久的に持続させる魔力。莫大な魔力を必要とするよう魔法も一度発動させるだけで、術者の意志で解除しない限り発動し続ける。

 魔力「太陽(サンシャイン)

 あらゆる種族のものと異質にしてすべての生命の根源の魔力。太陽のごとき灼熱ですべてを焼き尽くす。基本的に夜の間は発現しないが、例外的にジャンヌを「心の太陽」とする事で一時的に発動可能。

 専用IS機「白式」

 ジャンヌがイチカの持つ能力をそのまま使用できるように魔改造したIS。

 

 

 

織斑十秋

 イメージ・ボイス-関智一

 身長:170cm/体重:60kg/種族:人間/誕生日:9月27日/年齢:16歳/血液型:A型

 闘級:1万2000(魔力1万100/武力900/気力1000)

 転生者の一人。織斑家の次男。常に自分が一番でないと落ち着かないため、イチカ・リオネスを特に妬んでいる。

 転生特典「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 神話や伝承で知られる武器、財宝を雨あられとして打ち出すことが可能。ISの拡張領域を無限することが解除可能。

 専用IS機「英雄王」

 Fate/シリーズのギルガメッシュをモデルに創られた金ぴか機体。防御面が全てISの中で最弱。

 

 

 

エド・リオネス

 イメージ・ボイス- 逢坂良太

 闘級:6万

 リオネス家の最大戦力の一人。転生者の一人。アルの兄。

 転生特典「白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)

 

 

 

アル・リオネス

 イメージ・ボイス-梶裕貴

 闘級:5万

 リオネス家の最大戦力の一人。転生者の一人。エドの弟。

 転生特典「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

 

 

沙耶・リオネス

 イメージ・ボイス-M・A・O

 闘級:4480

 リオネス家のメイド。ジャンヌ・リオネスの妹の一人。元暗殺者。

 能力「空間転移」

 自身を含む、重量100kgまでなら転移可能。

 

 

【挿絵表示】

 

 

更識楯無

 イメージ・ボイス-斎藤千和

 身長:164cm/体重:53kg/種族:人間/誕生日:7月25日/年齢:17歳/血液型:A型

 闘級:3万8000

 IS学園2年生で生徒会長。現役のロシア代表操縦者。裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の17代目当主。

 飄々として掴み所のない性格だが、その実力は非常に高く、自他ともに認める「IS学園最強」の存在。(あくまでも生徒の中では。)

 能力「鏡花水月」

 解放の瞬間を一度(モニター越しでも可能)でも見た相手の五感を支配し、対象を誤認させることができる「完全催眠」である。

 専用IS機「ミステリアス・レイディ」



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懸賞金リスト

聖女(せいじょ)】ジャンヌ・リオネス

ONLY ALIVE(生け捕りのみ)

 懸賞金:$10.000.000.000(100億ドル)

 転生特典:【物語】

 能力レベル:Leve.5

 能力名:【裁定者(ルーラー)】 

 

七つの大罪(セブン・デットーリ・シン)】イチカ・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$1.000.000.000(10億ドル)

 能力レベル:Leve.5

 能力名:【七つの大罪(セブン・デットーリ・シン)

 

時の支配者(ザ・ワールド)】サーシャ・D・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$860.000.000(8億6000万ドル)

 能力レベル:Leve.3

 能力名:【時間停止(ザ・ワールド)

 

完璧な執事(パーフェクト・バトラー)】セバス・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$700.000.000(7億ドル)

 能力レベル:Leve.3

 能力名:【完璧な執事(パーフェクト・バトラー)

 

疾風(しっぷう)】フィー・L・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$600.000.000(6億ドル)

 能力レベル:Leve.3

 能力名:【加速】

 

真実(しんじつ)】アラン・グラーディン

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$500.000.000(5億ドル)

 能力レベル:Leve.4

 能力名:【真実】

 

()外科医(げかい)】ミー・J・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$480.000.000(4億8000万ドル)

 能力レベル:Leve.2

 能力名:【空間操作】

 

遊び人(ギャンブラー)】シル・F・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$470.000.000(4億7000万ドル)

 能力レベル:Leve.2

 能力名:【幸運率100%】

 

黒猫(ブラック・キャット)】沙耶・リオネス

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$105,500,000(1億550万ドル)

 能力レベル:Leve.2

 能力名:【空間転移】

 

【白龍皇】エド・リオネス

 懸賞金:現在なし

 転生特典:【白龍皇の光翼】

 

【赤龍帝】アル・リオネス

 懸賞金:現在なし

 転生特典:【赤龍帝の籠手】

 

メイド・執事・庭師などのリオネス家の従業員一人につき

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$100.000.000(1億ドル)

 

【神童】織斑十秋

DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金:$10(10ドル)

 転生特典:【王の財宝】



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