モフモフ幻想郷 (アシスト)
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俺氏、すくすくを拾う。

息抜きにモフモフな物語を書いてみた。

本作品は、私が書いている他作品とは
まっっったく関係ないです。





 

[ひろってあげてください]

 

 

バイトから帰ってきたら、そう書かれた段ボールが部屋に置かれていた。

 

なんだこれ。

誰だ俺の部屋にペットを捨てたのは。

 

中に入っている動物が暴れているのか、段ボールが独りでにカタカタ揺れている。

 

身に覚えはないとはいえ無視できないので、段ボールを上から覗きこんでみると。

 

「きゅー」

 

中には、丸くてモフモフして( ・ω・)な顔をした生物が。

 

 

……んん??

 

 

 

*ーーーーー*

 

 

 

これだ。みつけた。

流石グーグル先生だ。

 

どうやらコイツは「すくすく」と呼ばれる東方projectの二次創作によって作られた生物のようだ。

 

 

うむ。

 

なるほど。

 

ちょっと意味わかんない。

 

 

東方projectは知っている。

詳しくはないが、存在は知ってる。

 

でもあれ、ゲーム。ここ、現実。

 

俺が混乱していると、お腹が空いたのかすくすくがきゅーきゅー鳴いてきたので、試しに朝ごはん用の菓子パンを与えてみる。あんぱんである。

 

もきゅもきゅと、あんパンを頬張る姿は中々に愛らしい。

 

半分ぐらい食べたところでお腹が満たされたのか、俺の膝の上で眠ってしまった。

 

モフモフしている。

とってもかわいい。

 

現実にいるはずない生き物が、どうして家にいたのか。この寝顔を見ていると、もうどうでもよくなってきた。

 

今日はバイトで疲れたし、俺も寝てしまおう。

 

そう思ってふとんを敷く。すくすくは座布団に置いておく。

 

 

起こさないように優しくね。

 

 

*ーーーーー*

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすくのモフモフした短い手(足?)で頬をつつかれて起床。

 

時計を見ると朝 7時。

おなかがすいたのね。

 

用意しておいたパンを半分に切って、すくすくにあげる。焼きそばパンである。

 

モフモフがモグモグとパンを食べている姿を見て可愛いと思いながら、このすくすくについて観察してみる。

 

手のひらに乗る程度の大きさ。モフモフの体と尻尾。立派な角。

 

東方projectに出てくる『上白沢慧音』の姿を模した標準的なすくすく……らしいが。

 

なぜ別次元の生き物が現実に、しかも俺の家に捨てられたように置かれていたのか。

 

頭を悩ませていると、またすくすくがきゅー、と鳴く。

 

遊んでほしいのかきゅーきゅー鳴きながら頬擦りしてくる。その前に口回りについたソースを拭きなさい。ズボンがベトベトに……あ、もう手遅れっぽい。

 

遊んであげたいが、今日も今日とてバイトがある。とは言え、すくすく一匹残して家を出るのは如何なものか。

 

悩んだ結果、今日は休むことにする。すくすくについていろいろ調べる時間がほしい。

 

そうと決まれば連絡を入れよう。

すくすくの口を拭きながら。

 

 

―――GSチャット―――

 

 

@ナナスケ

>今日おやすみ頂きたいのですが。

 

@バイトリーダーたっきー

>別にいいけど、どうしたの?

>風邪?

 

@ナナスケ

>そんなところです

>あ、幻覚が見え始めました

>丸くてモフモフしてます

 

@バイトリーダーたっきー

>薬飲んで寝てろ

 

 

――――――

 

 

許可も出たので、さっそくいろいろ調べてみよう。

 

まずは知能。話しかければ「きゅー」と返してくれる程度には、こちらの言葉は理解してるようだ。

 

転がした鉛筆を取ってくるように指示すると、きゅー!の鳴き声と共に走りだし、鉛筆を口に咥えて持ってきてくれた。

 

かなりの知能だ。

ご褒美にモフろう。

 

モフられる(撫でられる)のが好きなのか、モフると目を細めて気持ち良さそうにする。尻尾をさわっても同じような反応だ。

 

逆に角を触ろうとすると嫌がる。

きゅー!!って言われる。威嚇かな。

 

 

そもそも、コイツは本当にすくすくなのだろうか。

 

俺が知らないだけで、すくすくに似た別の生き物の可能性もまだある。

 

そう言うのに詳しい友人がいるので、さっそく聞いてみよう。

 

 

 

 

―――GSチャット―――

 

 

@ナナスケ

>いまひま?

 

@ナナスケ

>おーい

 

@ナナスケ

>返事しろハゲ

 

@モナカらいおん

>ハゲって言う方がハゲなんですぅー

 

@ナナスケ

>そうゆうのいいから

 

@モナカらいおん

>えー(・3・)

 

@ナナスケ

>こんなのが家にいたんだけど

>何か知らない?

 

 

ナナスケ さんが

画像を送信しました!

 

 

@モナカらいおん

>画像確認したよー

>明朝体だね

 

@ナナスケ

>段ボールの字なんか聞いてねぇよ

>隣のモフモフの方だよ

 

@モナカらいおん

>……モフモフ?

 

@ナナスケ

>モフモフしてるだろ

>やらんぞ

 

@モナカらいおん

>いや、モフモフて

>どれの事言ってるのさ

 

@ナナスケ

>どれって。

>このモフモフが目に入らぬか

>ついでに角と尻尾も

 

@モナカらいおん

>……もしかして寝ぼけてる?

>そんなのどこにも映ってないよ

 

 

 

――――――

 

 

 

 

え?

 

 

「ごめんなさいね。この子、素質のある者にしか見えないの」

 

 

は?

 

 

「聞きたいことは向こうで教えて上げる。それじゃ、行きましょう」

 

 

 

ちょ待

 

 

 

「安心しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷は、全てを受け入れるのよ。

 

 

 

 

 

 



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俺氏、幻想郷に慣れる。

メインヒロイン登場回


 

――― GSチャット―――

 

@ナナスケ

>ごめんなさい

>しばらくおやすみをください

 

@バイトリーダーたっきー

>え、なぜゆえ。

>風邪こじらせた?

 

@ナナスケ

>そんなところです

>ああ また幻覚が

>川の向こうでモフモフが尻尾をふってます

 

@バイトリーダーたっきー

>良い精神科を紹介してあげよう

 

 

――――――

 

 

 

幻想郷に来て、早1ヶ月。

 

「きゅー」 「きゅー?」

「きゅー!」「きゅー…」

 

モフモフが増えました。

 

 

 

 

ことの始まり紫さんに連れて来られたあの日。

 

東方projectに詳しくない俺でも、紫さんは知っていた。ネクロファンタジアの人だとすぐにわかった。

 

何でも紫さんは、すくすくを認知できる人間を探していたとか。

 

で、俺がすくすくを認知できたため連れ去ったとか。

 

そんで、俺に幻想郷に散らばって生息しているすくすくを集め、保護してほしいとか。

 

 

いろいろ理解が追い付かなかったが、取り敢えず全てを飲み込むことにした。何故とか思わないのが人生気楽に生きるコツだ。

 

 

紫さんのお願いを承諾した後で、人里に家を一軒借りることにした。しばらくは此処を拠点にしよう。

 

一人で住むには広すぎるぐらいの大きさだが、のちのちの事を思えば広いに越したことはない。

 

お金も向こうで使ってた円を幻想郷で使えるよう、紫さんに換金してもらった。かなりの額になったので、暫くお金には困らないだろう。

 

 

人里であれこれしてる間に、慧音さんにも出会った。

 

軽い挨拶の後ですくすくを見せると

 

「おおぅ……これ、私か……」

 

と複雑そうな顔を見せたが、モフモフしながら触れあっている内に笑顔になっていた。

 

慧音さん曰く、すくすくの存在は知っていたが、実際に見るのは初めてだとか。

 

後に阿求さんに聞いたところ、大昔はあちこちに生息していたが、ある時を境にパッタリ姿を消し、今になって再び姿を現すようになったとか。

 

そして、すくすくは警戒心の強い生き物らしい。

 

 

ほんとに?

 

「きゅー!」

 

とてもそうには見えない。

 

 

しかし、阿求さんに触れられた時にびくびく怯えていたので、そうなのかもしれない。

 

最終的にはモフモフされて、阿求さんもすくすくも幸せそうだったけどね。

 

 

 

 

この1ヶ月、幻想郷で暮らす準備をしていたのだが。

 

気がついたらすくすくが増えていた。

 

 

すくすく咲夜。

 

すくすく妖夢。

 

 

東方projectでも有名な二人のすくすく。

 

原因は不明だが、すくすくの姿は幻想郷の人物の姿を模しており、模した人物の性格に似るのだとか。

 

元が働き者だからか、気がついたら側にいて、たくさんお手伝いしてくれました。後で盛大にもふもふしてやろう。

 

あと、もう一匹。

 

 

「きゅー…!」

 

 

赤色のすくすく。

 

赤いマントに、青色のリボンを着けている。

 

こちらを警戒しているのか、部屋の隅できゅー…と唸っている。言ってはなんだが、とても愛らしい。

 

多分、俺の知らないキャラクターのすくすくなのだろう。

 

一人だけ、病的に東方好きな友人がいる。

ちょっと聞いてみよう。

 

 

 

―――GSチャット―――

 

@ナナスケ

>たのもう

 

@( 罪)

>今左右移動縛り星蓮船Luna攻略中だから

>後にして

 

@ナナスケ

>今聞きたい

>東方についてなんだけど

 

@( 罪)

>続けたまえ

 

@ナナスケ

>赤い髪に青色のリボン

>で、赤いマント着けたキャラっていない?

 

@( 罪)

>ばんきっきかな

 

@ナナスケ

>ばんきっき?

 

@( 罪)

>輝針城に出てくるろくろ首っ娘

>かわゆいぞ

>ゆかりん程ではないがな

>貸そうか輝針城?

 

@ナナスケ

>いやいい

>直接会える日を楽しみにしとく

 

@( 罪)

>俺もゆかりんに会いたい

 

@ナナスケ

>伝えとくわ

 

@( 罪)

>えっ

 

――――――

 

 

ばんきっきさんか。

どんなろくろ首なのだろう。楽しみだ。

 

なお、すくすくばんきっきさんはご飯を与えたら直ぐになついてくれました。

 

 

 

やっぱ警戒心が強いってうそでしょ?

 

「きゅー…」

 

落ち込んでしまった。

疑ってごめん。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

衣食住の問題は解決したので、本格的にすくすくを探そうと思う。

 

人里の外は危険がいっぱいらしいので、すくすく妖夢とすくすくばんきっきを用心棒として連れていく。

 

意外にも、すくすくは強い。模した人物に及ばなくとも、本気になればそれに近い強さなんだとか。

 

新居の事はすくすく白沢とすくすく咲夜に任せることにする。

 

頼んだらきゅー!って言ってくれた。

とても頼もしい。

 

 

そんなわけで、すくすくを両肩に乗せ、進む進む森のなか。

 

目的地は霧の湖。すくすく探しのついでに、チルノを一目見てみたかったからだ。

 

その道中である。

 

「きゅー!」

 

すくすくばんきっきが何かに気がついたのか、肩から飛び降り、茂みに飛び込む。

 

 

「ん?ちょ、何こいつ……うわぁぁぁ」

 

 

どったんばったん。

がさがさどっかん。

 

激しく揺れる茂みと、少女の叫び声。

 

いったい何が起きているのだろうと首をかしげていると、すくすくばんきっきが茂みの中から戻ってきた。

 

 

「きゅー」

 

「きゅう……」

 

 

 

目を回した生首を転がしながら。

 

 

なるほど。

 

 

これがすくすくの狩りか。

 




独自設定用語
『GSチャット』

幻想郷に居ても外の世界とチャットできる特別なスマホアプリ。きゅうりを人質にした紫が、にとりに3日徹夜させて作らせ、外の世界で流行らせた。


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俺氏、生首と友達になる。

 

――― GSチャット―――

 

@ナナスケ

>ようハゲ

 

@モナカらいおん

>なんだハゲ

 

@ナナスケ

>妖怪の身体ってさ

 

@モナカらいおん

>( ゚д゚)!?

 

@ナナスケ

>神秘的だね

 

@モナカらいおん

>なにがあったし

 

 

――――――

 

 

「いやぁ済まない。実は身体を見失ってしまって。良ければ探してくれないだろうか?」

 

「きゅー」ゴロゴロ

 

「あ、やめて。転がさないでェェェー……」

 

 

楽しそうだったので暫く眺めていた。

後で怒られたのは別の話だ。

 

生首の彼女こそが、ばんきっきさんもとい赤蛮奇さん。すくすくばんきっきの元となったろくろ首っ娘だった。

 

友人を探すために頭と身体を分離していたが、離れすぎてお互いが何処にいるのか分からなくなってしまったらしい。

 

しかもこうなると、頭側は身体と一度ドッキングしない限り、浮いての移動ができなくなるんだって。

 

 

ろくろ首も大変なんだなぁ。

 

そういえば、すくすくの方は首飛ばないよね?

 

「きゅー」フワフワリ

 

あ、尻尾が飛ぶのね。なるほど。

 

 

 

頭しかない人を見捨てるわけにもいかないので、身体探しに協力する。

 

ばんきさんヘッドはすくすくばんきっきの上に乗せておこう。

 

モフモフだから置かれ心地は良いはず。

落とさないように気を付けてね。

 

「きゅー!」

 

うん。良い返事。

 

慧音さんの時もそうだったが、すくすくは姿を模した相手にはすぐになつくようだ。

 

 

 

離れていても距離感ぐらいは掴めるらしく、ばんきさんの感覚を手がかりに探し始めること数十分。

 

 

「きゅー」

 

 

身体を見つけた。

 

 

「きゅー?」

 

 

しかしこの身体、頭がついている。

 

 

「首元にあった違和感はあれか……」

 

 

ばんきさんのものと思われる身体の首から上には、モフモフな顔が既にくっついていた。

 

犬耳が生えた、黒に近い茶毛のすくすく。

 

ばんきさんが「私の友人に似てる」と言っていたので、きっとその人のすくすくだろう。

 

 

 

すくすくは持ち帰るとして、ばんきさんの頭と身体をドッキング。プッピガン。

 

赤と黒を基調とした服装、こうして見ると普通の女の子だ。

 

何かお礼をしたいと言われたので、霧の湖は何処にあるのか聞いてみると、

 

「アンタ、湖のある方向から歩いてきたよね」

 

って言われた。おかしいなぁ……。

 

幻想郷で方向音痴は致命的と指摘され「今日はもう遅いし、明日私が案内してしてあげようか?」とばんきさん。

 

願ってもない提案だった。ばんきさんと出会う前まで、何時間歩いても霧の湖に着けなかったし、よほど退屈だったのか、少し前からすくすく妖夢が夢の中に旅立ってしまったし。

 

それじゃあ人里に帰ろうと先陣切って歩きだしたら「人里はあっち」と首を捕まれた。

 

すくすくたちにも半目で「きゅー」と言われた。

 

……ごめんなさい。

 

 

 

 

 

結局ばんきさんに人里まで送ってもらった。

 

ばんきさん曰く、俺の方向音痴っぷりは見てられないレベルらしい。最終的には手を引っ張られる形で人里に到着した。

 

 

ばんきさんと別れたところで、今度は阿求さんと遭遇。

 

新しく仲間になったすくすくを渡してみたところ、元となったのは影狼さんと言う狼女だとわかった。

 

すくすくたちと同じぐらいモフモフの耳を持っているらしい。もし会えたらモフモフさせてもらおう。

 

 

それにしても阿求さん。

 

「きゅー」

 

「モフモフ……モフモフ……可愛いなぁ……」

 

モフモフしておられる。

 

 

なんでも、最近妖精からのイタズラが多いようで、ストレスで胃を痛めているらしい。

 

よほどストレスが溜まっていたのか、すくすくに顔を埋めだす阿求さん。

 

「きゅー…」

 

これにはすくすくもショボン顔。

 

仕方ないので、すくすく妖夢をお貸しすることにする。

 

しっかり者のすくすく妖夢なら、迷惑をかけることもないだろう。阿求さんを胃を癒してやってくれ。

 

 

道中そんな出来事がありながらも帰宅。

 

 

ただいまー。

 

 

「きゅー」「きゅー!」

「きゅー?」「きゅー」「きゅー!」

 

 

 

うむ。

 

 

また増えとる。

 

 



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私、モフモフに弄ばれる。

この作品はすくすくの可愛さを伝えると同時に、ばんきっきの可愛さを伝えるものでもある。



やってしまった。

 

 

孤高を生きる妖怪。そんな座右の銘を掲げる私でも、退屈はつまらない。

 

久しぶりに影狼にでも会いに行こうかな、と思ったのが運の尽き。

 

なかなか見つからないから、頭と身体を分離させて探そうとしたのが悪かった。

 

 

離れすぎた……

動けぬ……うごご……。

 

 

こうなると私(頭) は何もできないので、私(身体)に見つけてもらうしかない。

 

助けを叫ぶにも、誰がしゃべる生首なんて助けるか。

 

私(頭)に出来るのはじっと待つこと。転がることも出来るが、気持ち悪くなるので却下。

 

 

私ー……早く見つけてー……。

 

 

 

…… お。足音が聞こえる。

 

向こうからかな。ダメもとで叫んでみようか?

 

 

ガサガサ

 

 

むむ?

 

 

「きゅー!」

 

 

 

ん?ちょ、何こいつ。

うわぁぁぁ……コロガサナイデー……

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

為す術なく転がされた。

許すまじモフモフ。

 

人間ももう少し早く助けろ。出かけたわ。女の子が悲鳴を上げたら速攻で助けろ。何故子猫を見るかのような目で眺めているんだ。まったく。

 

 

とは言え、助けて貰ったのに変わりはない。感謝のついでに身体を探してほしいと頼んだら、二つ返事で了承してくれた。

 

なかなか肝の据わった男。

名はナナスケと呼ぶらしい。

 

変わった名前だと言ったら「あだ名ですので」と返された。

 

舐めとんのか。本名を教えろ。

 

「それにばんきさんほどではない」とも言われた。それはぐうの音もでない。

 

 

身体探しの間、何故か私の頭はモフモフの上に置かれた。

 

なかなか心地よいモフモフ感。

さっきのは許してやろう。

 

 

聞くとこのモフモフ、すくすくと呼ばれる生物らしい。この子は私を模してるから、すくすくばんきっきと呼ぶのだとか。

 

 

え?なんで私のあだ名知ってるの?

 

 

 

――――――

 

 

 

そんなこんなしている内に、私の身体を発見。

 

「きゅー!」

 

が、身体も弄ばれていた様子。おのれモフモフ。

その顔はかわいいが、私の身体には似合わない。

 

と言うかあのもふもふ、影狼に似てない?おのれ影狼、すくすくの姿でも私をからかいやがって。

 

 

すくすく影狼を退かしてもらい、頭と身体をドッキングしてもらう。ブッピガン。

 

私は孤高を生きる妖怪。借りは作らない。

 

何か礼をしたいと言ったら、霧の湖を目指していることを話してくれた。

 

いやアンタ、湖のある方向から歩いてきたよね。

 

それを伝えると、少し考える素振りを見せて

「……まぁ、そんなこともある」だって。

 

モフモフたちから白い目で見られてた。

この人間、大丈夫だろうか。

 

 

霧の湖と言えば姫のいる所だ。

明日案内してあげよう。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

この人間、大丈夫ではなかった。

 

目を離したらどっか行く。

見てらんないレベルの方向音痴っぷり。

 

モフモフも不安でキューキュー鳴いていた。可哀想に。

 

仕方ないので強行手段。手をつなぐ。

 

こうでもしないと真っ直ぐ歩いてくれないのだから質が悪い。お前は子どもか。

 

「きゅー!」

 

私のモフモフも同意見の様子。

さすが私。

 

 

 

 

 

 

 

ナナスケを人里に送った後、帰路の途中で思い出したことがある。影狼たちと連絡を取れる手段があることを。

 

最近、妖怪の賢者が「すまーほ」なる機器を幻想郷中に配布している。

 

当然、私も貰った。最初からこれを使って連絡を取ればよかった。

 

 

……あれ、メッセージが届いてる。

 

 

 

 

――― GSチャット・くさのねグループ―――

 

@いまいずみん

>ばんきっきィ……

>私、見ちゃったよ……

 

@ばんきっき

>え?

>なにを?

 

@いまいずみん

>ばんきっきが男と手を繋いで

>森のなかを歩いてるところ

 

@ばんきっき

>!?

 

@いまいずみん

>しかも楽しそうだったわ!

>もしかして、今夜はおせきはん!?

 

@ばんきっき

>違うわ!

 

@プリンセス・ワカサギ

>かげろーちゃん!

>その話、もっと詳しく!

 

@ばんきっき

>やめろォー!

 

 

――――――

 

 

 

 

まったくもう。

 

 

 

今日は災難な1日だ。

 

 

 




独自設定用語
『すまーほ』

紫が幻想郷で流行らせたGSチャット専用端末。菫子のスマホを元に、にとりに徹夜で作らせた。


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俺氏、霧の湖に出向く。

 

テテテー テー テーテテテテー♪

テテテテテテテテテー♪

 

 

「「「きゅー!!!」」」

 

 

おはよう。

朝から元気だね君たち。

 

 

すくすくリバー三姉妹。

 

 

タミフル…じゃない。プリズムリバー三姉妹を模したすくすくたち。昨日増えました。

 

 

しかしあれだな。

すくすくが増えると食費も増える。

 

すくすくは少食とはいえ、お金は有限だ。

 

塵も積もればなんとやら。このペースで増えると金欠になるのも時間の問題。

 

これは早く計画を進めないと。

 

 

「きゅー…」グゥー

 

 

うん。

 

その前にごはんタイムだ。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

個体差はあるが、すくすくはとても器用。

 

特にすくすく咲夜。

 

元がメイド長と言うだけあって、俺がすくすくのご飯を作っている隣で、短い手を器用に使いながら卵焼きを焼いている。すごい。

 

とても美味しい。すごい。

 

お皿洗いまで手伝ってくれる。すごい。

 

ご褒美にモフる。もふもふ。

 

 

 

さて、ばんきさんを待たせるわけにも行かないので、荷物をもって待ち合わせ場所に向かう。

 

今日のお供はすくすく影狼とすくすくばんきっき。さぁゆくぞ。

 

「きゅー…?」

 

安心してくれ。

 

人里内なら迷わない。

 

 

 

 

待ち合わせ場所には既にばんきさんがいた。

 

何やら顔が赤い。スマホ…じゃなかった、すまーほを触っていたようだが、何かあったのだろうか?

 

理由を聞いたらビンタされた挙げ句、すくすくばんきっきを取られた。解せぬ。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

「アンタは真っ直ぐ歩けんのかいっ」と二度目のビンタをくらい、手を引っ張られながら霧の湖に到着。

 

名前の割には霧は出ていないが、人里や森のなかと比べると肌寒い。

 

半袖で来るんじゃなかった。

すくすく影狼で暖を取ろう。

 

「きゅー」

 

うん。モフモフでぬくぬくだ。

 

 

 

霧の湖に来たかった理由は3つある。

 

 

1つ目、すくすく探し。

2つ目、チルノを一目見ること。

3つ目、釣り。

 

 

でも最近気づいたことがあるんだ。すくすくは探さなくても向こうから寄ってくることに。

 

チルノに関しても、見れたらラッキー程度の感覚なので、今回は3つ目の目的を果たすことにする。

 

 

釣りをしよう。

レッツ・フィッシング。

 

 

 

タダで食料を仕入れるなら、これに限る。食べられるか否かはすくすくに判断してもらおう。

 

竿は2本持ってきた。ばんきさんにも勧めてみると「……まぁ、暇だし」と手に取ってくれた。

 

餌をつけて、糸を垂らす。

 

掛かるまですくすくをモフモフしながらばんきさんと駄弁るつもりだったが、もう既に糸が引いている。

 

 

早速当たりか。そーい。

 

 

ザッパーン

 

 

 

「きゅー!」

 

 

 

モフモフが釣れた。

 

 

 

マジか。

 

 

 

 

 

 

――― 2時間後 ―――

 

 

 

 

 

「きゅー」

 

「きゅー」

 

 

バケツのなかを気持ち良さそうに泳ぐ2匹のモフモフ。

 

 

一匹はさっき釣れたすくすくわかさぎ姫。ばんきさんの友達である人魚さんを模したと思われるすくすく。

 

もう一匹はかっぱっぱ、すくすくにとり。

 

気がついたらバケツのなかにいた。きっとキュウリが大好物。帰ったら与えてみよう。

 

 

魚もそれなりに釣れたが、湖に返すことにした。

 

すくすく影狼が釣った魚をクンクン嗅ぐと「きゅー…」と微妙そうな顔をして唸ったからだ。

 

どうやらお気に召さなかった様子。

今度は別のところで釣りをしてみよう。

 

 

ばんきさんも釣った魚を戻すそうだ。「友達に悪いから」と言っていた。

 

きっとここに住んでいると言うわかさぎ姫さんのことだろう。

 

せっかくだから会えないだろうかとばんきさんに頼んだが

 

「やめて。それだけはやめて。ホッッントにやめて。これ以上めんどくさくさせないで」

 

早口で断られた。うむむ。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

結局、収穫はすくすく2匹のみ。

 

魚が獲れなかったのは残念だが、運がなかったと思って諦めよう。

 

さて、帰路なんだが。

 

「……え?また私に送れと?」

 

お願いします。何でもしますから。

 

 

すくすくと一緒に頭を下げ、1つ貸しという形でしぶしぶ送ってもらいました。

 

 

ばんきさんは一番目のお客さんとして招こう。

 

 

明日は人里で物資調達だな。

俺の計画のために。

 

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ナナスケ

>ゆかりさーん

>ちょっといいですか。

 

@ゆかりん(17)

>あら何かしら?

 

@ナナスケ

>幻想郷で喫茶店を開きたいのですが

>特別な許可が必要だったりします?

 

@ゆかりん(17)

>喫茶店?

>なかなか面白い事を考えているのね。

>ご自由にどうぞ。

 

@ナナスケ

>あざます。

>あ、そうだ

>俺の友達がゆかりさんに

>会いたがってましたよ。

 

@ゆかりん(17)

>あら嬉しい

>夢の中にお邪魔しちゃおうかしら

 

――――――

 

 

 

 

 

すくすく喫茶『モフモフ』。

 

 

開店の日は、そう遠くない。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

@ナナスケ

>しかしゆかりさん

 

@ゆかりん(17)

>?

 

@ナナスケ

>(17)はないッスよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナスケ さんの アカウントが

スキマ送り されました!

 

 

 

――― チャット END ―――



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俺氏、本屋さんに行く。

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@( 罪)

>ちょっと聞いてくれ

>夢の中にゆかりん出てきた

>今までもあったけど今回はヤバイ

>超リアルだった

>少女臭した

>ああああああかわいかったよゆかりいいいん

 

@ナナスケ2号機

>よかったね

 

@( 罪)

>この喜びは分かち合うべきだ

>そういえばアカウント変えた?

 

@ナナスケ2号機

>マアネ

 

 

――――――

 

 

 

口は災いの元ってね。昨日は死にかけた。

 

というか死んだんじゃないかな。三途の川見えたし。船頭さん寝てたけど。

 

そして、死の淵から目が覚めたら、またすくすくが増えていた。

 

 

「………」

 

 

でもこの子、なかなか鳴かない。

 

片翼銀色のモフモフ、鳴こうとすると何故か口を両手でポフッと押さえるのだ。

 

「……(キュー)」

 

しかし、よく聞くと鳴いている。

口を押さえる意味は一体。

 

 

 

 

「きゅー!」

 

「ナナスケさん、おはようございます」

 

朝ごはん後、すくすくたちと食後のお茶を啜っていると、阿求さんがすくすく妖夢を抱えてやってきた。

 

すくすくセラピーのお陰で、胃の調子はかなり良くなったらしい。

 

お礼にと言うことでお饅頭を頂いた。後ですくすくたちに上げよう。

 

 

 

お礼と同時にお願いをされた。

 

阿求さんが書いてる本にすくすくのことを詳しく書きたいようで、その為にウチにいるいろんなすくすくに会いたい、と。

 

断る理由もないので、すくすくのたまり場となっている部屋に案内する。

 

「きゅー?」「きゅー」

「きゅー!」「きゅー!」

 

歓迎するように寄ってくるすくすくたち。

 

「ナナスケさんのお宅は天国だったんですね!」

 

阿求さん、ご満悦。

しかしお前たち。警戒心のかけらもないな。

 

 

 

「これから出掛けてくるので、よかったら俺が帰ってくるまですくすくたちと遊んでやってください」と頼んだら即答でOKしてくれたので、ちょっとお出かけ。

 

 

目的地は本屋さん。

人里内だから俺一人でもいけるのさ。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

入り口の暖簾を潜ると、たくさんの本が所狭しと並んでいる。

 

鈴奈庵だったか。一度来てみたかったんだ。

 

料理のレシピ本とかないかなー、と眺めていると妙なものを発見。

 

本と本の間にモフモフが挟まっている。

 

 

これは、もしかして、もしかすると。

 

「きゅー!」ジタバタ

 

抜け出すため必死に手足をじたばたさせている、魔女帽を被った黄色いモフモフ。

 

まりさだ。すくすくまりさ。

 

ひょいっと助けたら、すごくなついた。

すくすく、ちょろい。

 

もしかしてお店で飼っているすくすくだろうかと思い、念のため店員の小鈴ちゃんに聞いてみると、

 

「うちにこんな可愛い子がいたんですね! もしかして、これが噂のモフモフ? 」

 

とのこと。阿求さん経由ですくすくの事は知っていたようだが、飼っていたわけではない模様。

 

責任をもってお持ち帰ろう。

 

ついでに気になった本も数冊借りる。

すくすくって本読むのかな?

 

「きゅー!」

 

読むっぽい。

すくすく用の本も借りていこう。

 

 

 

またモフモフさせてくださーい、と小鈴ちゃんに見送られながら本屋を後にする。

 

家に帰ると阿求さんがモフモフに埋もれていた。

 

 

「……これは違うんです」と赤くした顔を両手で隠しながら弁明する阿求さん。

 

「きゅー」と阿求さんの頭の上で鳴く見慣れないモフモフ。

 

あ、これ阿求さんのすくすくだ。

 

いつの間に現れたのかと阿求さんに聞くと、少なくとも俺が帰ってくるまで、すくすく阿求の姿は見なかったと。

 

 

……阿求さんの頭から生えたのでは?

いや流石にないか。

 

 

うーむ。

 

 

すくすくの謎は深い。

 

 

 



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俺氏、パンを焼く。


お気に入り数が目標だった100を越えました。
すごく嬉しい。ありがとうございます。



 

オーブンが欲しい。

 

喫茶店を開くにあたり欲しいものはたくさんあるが、まずはオーブンが欲しい。

 

しかしここは幻想郷。

あまぞんは使えない。

 

慧音さんや阿求さんに相談したところ、河童に作ってもらうのが一番手っ取り早いことがわかった。

 

ちなみにすくすくにとりよ。

お前は作れたりする?

 

「きゅー…?」

 

首をかしげられた。だよねー。

 

明日ばんきさんに頼んで行ってみようかな、妖怪の山。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

俺はすくすくをナメていた。

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすくジェバンニではなく、すくすくにとりが一晩でやってくれました。

 

俺がバイト先で使ってたようなどでかいオーブンが、そこにはあった。

 

埃まみれになりながらもどや顔を見せるすくすくにとり。モフモフするのはお風呂に入れてからにしよう。

 

 

 

さて、作ってくれたので早速使わせていただこう。

 

パンを焼こう。あんパン。

 

俺はこう見えてもパン屋で数年アルバイトしていたのだ。作り方は熟知している。

 

材料も充分。イケルイケル。

 

 

「きゅー」「きゅー」

 

 

すくすく咲夜とすくすく妖夢も手伝ってくれるようだ。

 

よし、がんばるぞい。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「おつかれー」

 

「「きゅー!」」

 

 

あとは焼けるのを待つだけ。

2匹ともよくがんばった。

 

 

調理はなかなか大変だった。

 

 

パン生地作りは特に問題なし。

問題はあんこだ。

 

すくすくたちに味見させてみたのが失敗だった。

 

よほど美味しかったのか、ものすごい勢いでねだってくる。俺の身体をよじ登ってきゅーきゅー鳴いてもダメだ。

 

「あんパンができてから!」と何とかおさめたが、みんなオーブンの前でうずうずしている。

 

 

……あれ、なんか一匹多い。

 

一番オーブンの近くにいるピンク色のもふもふを持ち上げる。

 

「きゅー」

 

すくすくゆゆこ様だこれ。

 

パンの焼ける香りに釣られたのだろうか。よだれを垂らしている。

 

もう少しだけ待ってね。

大丈夫。あんパンは逃げない。

 

 

 

――――――

 

 

 

少し焼きすぎたかもしれん。

食べきれぬ。

 

たくさんいるが、すくすくは少食なのだ。

 

一番食べたすくすくゆゆこでさえ、あんパン1個半でお腹一杯の様子。

 

「きゅー…」

 

みんな満足げだ。

 

 

明日の朝ごはんにしてもよかったが、せっかくなので宣伝もかねて人里で配り歩くことにする。

 

お腹いっぱいのところ申し訳ないが、すくすくまりさにも手伝ってもらおう。

 

今日からお前が宣伝隊長だ。

 

「きゅー!」

 

よし、まかせた。

 

 

 

ちょうどおやつの時間なので、寺子屋に向かってみることにする。

 

子供の胃袋をキャッチしよう。慧音さんにもいろいろお世話になってるしね。

 

 

寺子屋に向かってみると、課外授業中だったのか、慧音さんと生徒たちは外にいた。

 

慧音さんに話を聞くと、今日は人形使いのお姉さんが来る日のようで、生徒みんなで人形劇の見学に来ていた様子。

 

お姉さんの正体はもちろん、アリスなんとかロイドさん。うろ覚えですまない。

 

あんパンの香りに引き寄せられるように子供たちも寄ってきたので、早速配っていこう。

 

 

「おいしー!」

 

「ふわふわー!」

 

「これは美味いな。給食にも良いかもしれない」

 

「美味しい…!ねぇ、どうやってつくったの?」

 

 

なかなか好評のあんパン。 アリスさんにレシピを聞かれたが、企業秘密にしておく。

 

お店を開いたらまた食べに来てくださいと伝えると、同業者の方々と来ると言ってくれた。

 

 

ナニコレー?

キモチイイー

モフモフジャネーノ!

 

「きゅー」

 

 

すくすくまりさはアリスさんの人形に遊ばれていた。

 

すくすくのモフモフ感は人形も虜にしてしまうのか。やるなぁ。

 

 

もふもふの戯れに和んでいると、一人の女子生徒が寄ってきた。

 

「ねーねー。この子、あのモフモフさんのおともだちかな?」

 

「きゅー!」

 

その生徒が抱えていたのは、間違いなくすくすく。あんパンを食べていたら寄ってきたらしい。

 

シニョンを付けたピンク色のすくすく。右手には包帯が巻かれている。

 

……すくすく厨二病?

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

そんなこんなで帰宅。

 

あんパンの人気っぷりに自信がついたので、明日はもっといろんなものを作ってみようかな。

 

すくすくパンなんてどうだろうか。

すくすくたちの形を模したパン。どう?

 

 

「きゅー!」

 

 

よし決まりだ。

 

喫茶店のメニュー。

どんどん増やしていくぞ。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

―――

 

 

 

 

 

 

 




次から少し時間が飛びます。
喫茶店編、スタートです。


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俺氏、喫茶店オープン。

 

――― GSチャット ―――

 

@ナナスケ2号機

>今こそ積もった借りを返すとき

>モフモフたちも準備万端

>オープンは朝8時

>お待ちしています

 

@ばんきっき

>……。

>行かなきゃ、だめ?

 

@ナナスケ2号機

>きてー(´・ω・`)

 

 

――――――

 

 

 

お客様第1号サービスと言うことで無料ですよっと言ったらOKしてくれた。よかったよかった。

 

 

幻想郷に来て、今日で丁度2ヶ月。

ついにこの日がやってきた。

 

 

すくすく喫茶『モフモフ』。

 

 

何を隠そう、俺の夢は喫茶店を開くこと。

念願叶って今日オープン。

 

 

うむ。

 

 

涙が出てきた。

 

 

「きゅー」

 

 

すくすく白沢がハンカチをくれた。

ありがとう。これもお前たちのお陰だよ。

 

 

さぁ、もうすぐばんきさんが来る。

歓迎の準備は万端だ。

 

すくすくたちとわくわくしながら待っていると、ついに入口の扉がカランカランと開いた。

 

 

「……なんか、地味ね」

 

 

開口一番、厳しいお言葉。

 

内装に改善の余地ありか……。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

早速席に案内し、注文を伺う。

 

メニューは多くはないが、種類はそれなりにある。オススメはあんこを使った和スイーツだ。

 

注文を受け取り、料理ができるまでは、すくすくたちと戯れてもらう。

 

「きゅー」「きゅー」「きゅー!」

 

すくすくわかさぎ姫。

すくすくばんきっき。

すくすく影狼。

 

ばんきさんが来ることをとても楽しみにしていた3匹。

 

モフモフして欲しいのかばんきさんに頬擦りしている。

 

 

「……ふふふ、そんなに遊んで欲しいか。かわいい奴らめ、後悔するぐらいモフモフしてやろう」

 

「「「きゅー!」」」

 

 

モフモフに囲まれて満更でもない様子のばんきさんなのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

厨房に行って調理開始。基本的に料理は俺とすくすく咲夜が担当。

 

すくすく咲夜は料理がとても上手。

基本なんでも作ることができる。

 

「きゅー!」

 

うん。頼りにしてるぞ。

 

 

できた料理は俺が運搬するが、すくすく妖夢にも手伝ってもらっている。

 

「きゅー」

 

すくすくは料理の乗ったお盆を頭に乗せ、落とさないよう器用に運ぶ。

 

ばんきさんが頼んだのは水ようかん。

これからの季節にはピッタリの和菓子。

 

 

ばんきさんの食べる姿をドキドキしながら見守る。

 

 

「…………おいしい」

 

 

 

おっしゃぁ!

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

存分にすくすくたちと戯れた後、そろそろ帰るとばんきさんが席を立つ。

 

ばんきさんへの借りは1つや2つではないので、お土産としてあんパンをプレゼント。お友達と食べてください。

 

今度はお友達と来てくださいと言ったら「考えとく」と言ってくれた。やったぜ。

 

 

「地味なのはあれだけど、まぁ、今日はわりと良かった。……またね」

 

 

うん。またのご来店、お待ちしています。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

『喫茶店開業おめでとうございます!』

 

 

ばんきさんを見送った後で、阿求さんと小鈴ちゃんがご来店。

 

開業祝いと言うことで花束をくれた。

 

「きゅー…!」

 

これにはすくすくたちも感動。

みんなきゅー!とお礼を言っている。

 

 

花束を受けとると、モフッとした感触が。

 

まさかと思って花束を覗くと、中にはお花に囲まれた優雅なすくすくがいた。

 

「きゅー」

 

ひまわりの髪飾りを付けた緑のモフモフ。

 

流石すくすくゆうかりん。

華麗な登場だぜ。

 

 

幻想郷でも大物を模したすくすくと言うこともあり、阿求さんと小鈴ちゃんは少し警戒していた。

 

 

「風見幽香のすくすく…」とすくすくゆうかりんを指でツンツンする阿求さん。

 

はむっと、阿求さんの指を甘噛みするすくすくゆうかりん。

 

その仕草にズギューーンと心奪われる2人。

 

 

その後はすくすくたちをモフモフしてもらいながら、料理を楽しんでもらいました。

 

 

 

 

 

阿求さんたち以外にも、人里からそれなりにお客様がやってきた。

 

スタートダッシュとしてはなかなか上々。

 

これからも楽しみだ。

 

 

 

 







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俺氏、魔女たちと出会う。

あべこべの続きも書かないとなぁ、と思いながらもモフモフを書いてしまう。ゆるして。



 

 

 

朝、すくすくリバーの音楽で眠りから覚めたら、目の前が真っ暗だった。

 

 

なにも見えない。

なんだこれは。

 

 

身体は動く。体調が悪いわけでもない。

ただただ、なにも見えない。

 

 

俺の身にいったい何が起こっている。

 

 

 

「きゅー……zzz」

 

 

 

いや、なるほど、わかった。

 

 

すくすくよ。

俺の顔は敷き布団ではないぞ。

 

 

顔の上で寝ているモフモフを起こさないように持ち上げで、身体を起こす。

 

モフモフの正体は、緑のチャイナ帽を被った赤色のすくすく。

 

 

すくすくめーりんかぁ……。

 

 

その後、すくすくめーりんはすくすく咲夜にきゅー!と叱られていた。

 

2匹の関係は模した2人と同じみたい。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「おい見ろ! わたしだ! モフモフしてるぜ!」

 

「きゅー?」

 

「咲夜と門番のもいるのね。門番は本人よりしっかりしてそう」

 

「きゅー!」

 

「ごめんなさいナナスケさん。騒がしくしちゃって」

 

 

構わないッスよアリスさん。

賑やかなのは良いことです。

 

 

アリスさんが約束通り、魔女仲間たちと共にご来店。

 

魔理沙さんとパチュリーさん。まさか本人と会える日がくるとは思ってもみなかった。

 

魔理沙さんはすくすくが気に入ったのか「なぁ、一匹借りても良いか?」と聞いてきた。

 

二度と帰ってこない気がするのでダメです。

 

「きゅー」

 

すくすくもホッとした様子。

 

ケチだなーと言われたがダメなものはダメです。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

3人の目的はあくまでも魔法についての話し合いらしく「料理は手軽に食べられるものでおまかせします」とのオーダーをもらった。

 

おまかせとはなかなか難しい。

ふむ、何を作ろうか。

 

「きゅー!」

 

皆に問いかけると、すくすく阿求が反応した。

 

唯一文字を書けるすくすく阿求は筆を口に咥え、用紙に文字を書き始める。

 

 

 

 

 

 

綺麗に書けて満足げなすくすく阿求。

よし、それで行こう。

 

すくすく咲夜は接客中なので、今日は俺一人で調理。やったるでぇ。

 

 

 

3人分のどら焼きを作り終えてテーブルに運ぶと、魔理沙さんとパチュリーさんが神妙な顔つきですくすく達をモフモフしていた。

 

 

「……いや、わたしの方がモフモフだ」

 

「……いえ、咲夜の方がモフモフよ」

 

 

魔法のについての話し合いではなさそう。

 

どうやらすくすくまりさとすくすく咲夜、どちらがよりモフモフか言い争っているようだ。

 

なんて平和な論争。

 

ちなみにアリスさんは「どっちも一緒でしょ…」と二人を横目で見ながら、膝の上で眠っているすくすくめーりんを撫でていた。

 

 

――――――

 

 

「おお、アリスが勧めるだけあるな。ほら、私も食べてみろ」

 

「きゅー!」

 

「たまには和菓子も悪くないわね。ねぇ、テイクアウトってできる?」

 

「あ、私もお願いしたいです」

 

 

少し不安だったが、西洋系の魔女にも和菓子は好評。美味しいは全国共通のようだ。

 

すくすくは駄目だけど、料理のテイクアウトならオーケー。むしろうれしい。いっぱいサービスしよう。

 

 

――――――

 

 

お会計の時まで魔理沙さんは「やっぱ1匹…」と言っていた。だめ。

 

お店でならいくらでもモフモフしていいですので、また来店してください。モフモフだけなら無料です。

 

 

「シャンハイそろそろ帰るわよー……あら?」

 

 

モフモフー

ナカーマ

コンパロ!

 

「きゅー…」

 

 

テーブルの下でお人形さんに遊ばれている、不安そうな顔の黄色いモフモフが1匹。

 

すくすくメディスン。

 

他のすくすくより少し小さいな、何やら怯えている様子。

 

 

3魔女さんがお店を出た後。優しくモフモフしながらすくすくのたまり場に連れていくと、すくすくゆうかりんにすり寄っていった。

 

とっても安心した様子のすくすくメディスン。

 

あの二匹は家族みたいな関係なのだろうか。すくすくにもいろいろあるみたいだ。

 



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俺氏、取材を受ける。

夏コミに行けない悔しさを小説にぶつけました。



 

 

――――――

 

 

 

「貴方の夢、とってもモフモフしてるのね。食べづらいわぁ」

 

 

いや知らんし。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

変な夢を見た気がする。

たぶん気のせいだろう。

 

 

 

さて。

すくすくは朝起きると増えてることが多い。

 

今日はどうかな?

 

 

「きゅー」

 

 

やっぱ増えてた。

おはようニューモフモフ。

 

 

帽子と眼鏡をかけた茶色いすくすく。

 

幻想郷の住人を模している筈だが、比較的現代風な外見のモフモフだ。元はどんな人だろう?

 

「きゅー……!」

 

そう考えていると、すくすくが何か念じ始める。すると、身体全体が浮遊感に包まれた。

 

 

と言うかホントに浮いてる。

超能力か。すごい。でもおろして。

 

 

 

――――――

 

 

 

「どもーナナスケさん!文々。新聞ですよー!」

 

 

開店早々、文さんがご来店。ご苦労様です。

 

幻想郷に来て間もないころから、新聞は取っている。 インターネットのない世界にとって新聞は貴重だ。

 

すくすくたちもたまに読んでいる。

 

 

「きゅーきゅー」

 

「きゅー!」

 

 

新聞購読後、意見交換を始めるすくすくたち。頷いたりする仕草もあるから、意志疎通はできてるようだ。

 

「相変わらず可愛いですねぇモフモフですねぇ」とすくすくたちを撫でる文さん。

 

文さんのお気に入りはすくすく影狼。モフモフ感が知り合いに似てるからだとか。

 

 

 

 

「ナナスケさんミステリアスですよねー。面霊気程ではないですが、感情をあまり表に出しませんし。ここは1つ、取材も兼ねて色々教えてください!」

 

 

 

 

 

Q.まずはお名前と年齢を。

 

A.ナナスケです。21。

 

 

Q.できれば本名を教えてもらえると…

 

A.黙秘。

 

 

Q.なぜ喫茶店を?

 

A.子供の頃からの夢です。

 

 

Q.好きなすくすくは?

 

A.みんな大好き。

 

 

Q.ろくろ首の女性と仲が良いと

 お聞きしましたが、どういった関係で?

 

A.仲の良い友達です。

 

 

Q.手を繋いでる写真がこちらにありますが。

 

A.仲の良い友達です。

 

 

Q.1回のみならず、2回3回も激写しましたよ?

 

A.仲 の 良 い 友 達 で す 。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

いろいろ聞かれた。疲れた。特に後半。

 

「きゅー」

 

すくすく咲夜がお茶を持ってきてくれた。とても助かる。

 

 

「いやぁーありがとうございます!良い記事が書けそうですよ! 特に後半! 新聞には私の脚色(自己解釈)が少し入りますが、お気になさらず!」

 

 

気にするし是非とも書かないでほしい。

ばんきさんが来てくれなくなってしまう。

 

 

文さんのメモ帳爆発しないかなぁ…とか思ってたら、別の形で願いが叶った。

 

白いモフモフが一瞬のうちに文さんのメモ帳を奪い、ビリビリに破いたのだ。

 

 

モフッ……これは、すくすくもみじ!

 

 

「きゅー!」ビリビリー

 

「あややややっやややぁ―――っ!?? 」

 

 

 

慈悲は無し。

やったれもみもみ。

 

 

――――――

 

 

 

 

文さんが半泣きで店を出た後、阿求さんがご来店。

 

阿求さんはお店を開いて以降、毎日来てくれている。皆勤賞ですよ。

 

 

「だって癒されるんですもん!」

 

 

嬉しい限りである。

 

せっかくなので、新入りのすくすくもみじに接客させてみる。

 

 

「きゅー?」

 

「あ、新しいすくすくさんですね。モフモフー」

 

「きゅー♪」

 

「ああー……かわいいよぉ……」

 

 

いつ見ても、阿求さんとすくすくのやり取りは和む。

 

 

こういう日常が、いつまでも続くことを願うばかりだ。

 

 

 



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俺氏、勧誘する。

――― GSチャット ―――

 

@ナナスケ2号機

>皆さんに聞きたい

>喫茶店にあったら嬉しいものって、なに?

 

@モナカらいおん

>かわいいおにゃのこ

 

@( 罪)

>ゆかりん

 

@バイトリーダーたっきー

>出会い

 

@ナナスケ2号機

>なるほど

 

 

 

――――――

 

 

 

 

開店早々「地味」と指摘されたことを反省し、お花と観葉植物で店内を彩ることにした。

 

お花のチョイスはすくすくゆうかりんにおまかせだ。

 

もちろん、開店祝いで貰ったお花も瓶に入れて飾っている。

 

最近はすくすくゆうかりんとすくすくメディスンの2匹と一緒に、お花の水やりをするのが日課となっている。

 

 

「きゅー」

 

「きゅー」

 

 

2匹はとても仲が良い。

見てると心が洗われるね。

 

 

――――――

 

 

 

お店の扉がバァーンと開かれる。

 

 

「「ここがあの男のハウスね!」」

 

「あー……また面倒なことに……」

 

 

赤い頭巾をかぶった女性。

 

木製の車椅子に座った女性。

 

我らがばんきさん。

 

 

3名様ご来店。何やら妙なことを言っているが、きっとお客様。すくすくたちよ、歓迎(モフモフ)の準備だ。

 

ばんきさんのお連れ様となると、あれが噂に聞く『草の根妖怪ネットワーク』の方々なのだろう。影狼さんとわかさぎ姫さんだったっけ。

 

注文を取る最中に、ばんきさんにはいつもお世話になってます的なことを口にすると

 

 

「こちらこそ、ばんきっきをよろしくお願いします」

 

「ばんきちゃんツンデレだから!アタックあるのみだよ!」

 

 

って言われた。その後2人はばんきさんにグーで殴られていた。

 

ついでに俺も殴られた。

今の忘れろ!って。これがツンか。

 

 

――――――

 

 

 

 

ヒリヒリする頬の痛みを我慢しながら、調理を進める。

 

ティータイムと言うことで、紅茶とケーキの盛り合わせ。チーズケーキはすくすく咲夜自慢の1品だ。

 

 

「きゅー」

 

 

最後の飾りつけを行っていると、見慣れないすくすくが肩に乗ってきて、モフモフの手で俺の頬に何か塗る。

 

薬だろうか。とても染みる。でも助かる。

 

よく見るとこのモフモフ、うさぎの耳が生えている。

 

つまり、すくすくうどんげ。

どや顔がよく似合っている。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「ばんきっきー。そろそろ機嫌直しなよ?」モフモフ

 

「そうだよばんきちゃん。女の子がそんな顔してたらダメだよー。ねーモフモフちゃん」モフモフ

 

「きゅー」

 

「くっそう……誰のせいだと……」モフモフ

 

 

自身のすくすくをモフモフしながら話し合う三人のもとへ料理を運ぶ。

 

会話を盗み聞くつもりはないが、なかなかに盛り上がっている様子。

 

 

……あ、そうだ。そういえばばんきさんにお願いがあったのだ。ついでに聞いてみよう。

 

 

 

 

「ばんきさん」

 

「……なによ?」

 

 

 

「俺と一緒に、この店で働いてくれませんか?」

 

 

 

 

バイト募集中なんですよ。

 

 

 

 

「え? あ……ふぇ??」

 

 

顔がトマトみたいに真っ赤なばんきさん。

 

 

 

む?

 

 

 

「「きゃー! プロポーズ!! きゃー!」」

 

 

 

騒がしい外野2人。

 

 

むむ?

 

 

 

「「「きゅー!!」」」

 

 

 

祝わんとばかりに盛り上がる3匹。

 

 

 

…………。

 

 

 

ふむ。

 

 

とりあえず、殴られる覚悟をしておこう。

 

 

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ゆかりん(14)

>ちょっとちょっとナナスケくん

 

@ナナスケ2号機

>どしました?

 

@ゆかりん(14)

>どうして私をバイトに勧誘しないのかしら

>かわいいおにゃのこでしょ

>名前まで出てたじゃない

 

@ナナスケ2号機

>なんで知ってんスか

 

@ゆかりん(14)

>運営だもの

>さぁ、納得できる理由を教えなさい

 

@ナナスケ2号機

>自分のことを(14)とか言っちゃう人は

>かわいいおにゃのこではないです

 

 

 

 

ナナスケ2号機 さんのアカウントが

スキマに 滅されました!

 

 

 

 

――― チャット END ―――

 

 

 

 

「……紫様。今のはナナスケ殿が正しいかと」

 

「うるさい」

 

「きゅー」

 

 

 







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私、おかしい。


この作品はすくすくの可愛さを伝えると同時に、ばんきっきの可愛さを伝えるものでもある(2度目)。



 

 

 

最近の私は、少しおかしい。

 

 

 

 

夏直前の太陽の光が幻想郷を照らす、晴れ晴れとした天気。

 

 

しかし、私の気分は曇り空。

こんなにも憂鬱な午後は初めてだ。

 

 

原因は、久しぶりに3人で集まったあの日。

 

最近あった事、面白かった事、どうでもいい事。いろんな事をお酒と八目鰻を両手に語ったとき。私は何を血迷ったのか、アイツの事を口にしてしまったのだ。

 

『ねぇねぇばんきちゃん。あの男の人とはどうなったの?』

 

『どうもないわよー。でもあの人間はね、ホントにね、私がついてないとダメね。私がいなきゃ何回野垂れ死んでたことか。と言うかそろそろ本名教えろっての! 私だけにでも!』

 

『うわー! ばんきっきがノロけてる! 恋ってすごい!』

 

 

あのときの私を全力で蹴飛ばしたい。

 

ようやく二人からのおちょくりが修まってきたのに。ろくろ首が自分で自分の首を絞めてどうする。

 

その時にアイツが喫茶店を開いていることも話してしまい、じゃあ3人で行こう!って約束をしてしまった。

 

 

 

そして来てしまった。

喫茶店『モフモフ』。

 

 

「あのさ、一応普通の喫茶店だから。変なことはしないでよ」

 

 

前もって釘を刺しておく。

 

まぁ、流石の二人も当人の前では控えてくれると思うけど、一応。

 

私の言葉に大丈夫大丈夫!と頷いた二人は、お店の扉を勢いよく開く。

 

 

 

「「ここがあの男のハウスね!」」バァーン!

 

 

 

本気で絶交を考えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「ばんきっきー。そろそろ機嫌直しなよ?」モフモフ

 

「そうだよばんきちゃん。女の子がそんな顔してたらダメだよー。ねーモフモフちゃん」モフモフ 

 

「きゅー」

 

 

くっそう……誰のせいだと……モフモフ。

 

 

コイツら、放っておくとあることないことナナスケに言いやがる。

 

ナナスケはナナスケで、2人の言うことに「あはは」と適当な笑いしかしない。否定をしないお陰で2人の勘違いはますますエスカレートするし。

 

 

ほんと違う。

ほんとそんなんじゃない。

 

 

ナナスケはあんなこと言われてどうも思わないのだろうか。恥ずかしいと思ってるのは私だけなのだろうか。

 

只でさえ、感情をあまり表に出さない男だ。何を考えてるのかさっばりわからない。

 

ああもう、なぜ私だけこんなに悶々としないといけないのよ。別にコイツなんて好きでもなんでもないのに。ほんとに。

 

 

そりゃさ、最近はよくモフモフと戯れにここに来るし、時偶道案内とかしてあげてるし、食材の買い出しを手伝ってあげてることもあるけど、全然好きとかじゃないし、うん。

 

 

「きゅー」

 

 

肩に乗って頬擦りしてくるモフモフ。

私の味方はお前だけだよ。

 

 

「きゅー♪」

 

 

ああー。癒されるー。

 

 

「ばんきさん」

 

 

癒しの一時を妨害する全ての元凶。相変わらず無表情な男め。

 

 

なによ。

 

 

「俺と一緒に、この店で働いてくれませんか?」

 

 

 

…………。

 

 

 

ふぇ?

 

 

 

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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俺氏、勧誘失敗。

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ナナスケ三世

>リーダー。

>貴女に聞きたいことかあります。

 

@バイトリーダーたっきー

>何かね。急に改まって。

 

@ナナスケ三世

>女性が怒るときって

>どんなときですか?

 

@バイトリーダーたっきー

>「三十路手前なのに彼氏すらいないとかw」

>って言われたら、私は人を殺すことを(いと)わない。

 

@ナナスケ三世

>ふむふむ

 

@バイトリーダーたっきー

>SNSで同級生が結婚したことを知ったとき

>怒りと悲しみが溢れだす。

 

@ナナスケ三世

>交際関係ばっかですね

 

@バイトリーダーたっきー

>察しろ。

>まあ、あとは、そうだな。

>50過ぎの上司に尻を触られたときは

>渾身の右ストレートでKOさせた挙げ句

>次の日に辞表を出すほど怒ったかな。

 

@ナナスケ三世

>なるほど。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

つまり、あれか。

 

俺はばんきさんに、お尻を触ることと同等の行為をしてしまったと言うことか。

 

 

バイトの勧誘しただけなのに。

俺、変なこと言ったかな?

 

 

「きゅー」

 

 

すくすく皆に頷かれた。

 

 

……反省しよう。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

右ストレートでぶっ飛ばされたが、なんとか誤解は解いた。

 

しかし、勧誘に対してばんきさんの返答はNO。他のバイトが忙しいからって。それなら仕方ない。

 

 

そんなわけで、今日もいつも通り俺とすくすく達で業務をこなす。

 

バイトが断られたのはしょうがないとしても、最近はお客様が増えて、人手とモフ手が足りないのは事実。

 

特にキッチンが忙しい。サンドイッチみたいな簡単なものならともかく、スイーツ作りができるのは俺、すくすく咲夜、すくすく妖夢だけだ。

 

「きゅー」

 

すくすくゆうかりんも作れるけど、お花の手入れで忙しそうだし。

 

 

ううむ……他のすくすく達にも料理を教えてみようか……。

 

 

そう考えていたら、オーブンがらチーン!と音が鳴る。

 

 

あれ、オーブンなんて使ってたっけか。

 

「きゅー!」

 

すくすくメディスンに良く似た、赤いリボンを着けた黄色いモフモフがオーブンを開けると、クッキーの焼けたいい香りが。

 

 

すくすくアリスだ。よく見ると、小さなすくすくが頭の上に乗っている。

 

 

人形たちもモフモフなのか……。しかし、これでモフ手が増えたぞ。やったねナナスケ!

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

すくすくアリスが焼いたクッキーは、お客様に無料で配布することに。

 

 

「これは紅茶に合いますね、とても美味しいです! すくすくさんも一口どうぞ」

 

 

当然のように今日も来ている阿求さん。膝の上に乗せているすくすく片翼(仮名)にクッキーを与える。

 

 

「……(きゅー!)」モグモク

 

 

モゴモゴさせている口を両手で押さえながら鳴くモフモフ。その姿は餌を頬張ったリスのよう。

 

 

「ああ… もう本当に……尊いッ……!!」

 

 

モフモフモフモフモフモフモフモフと。

モフモフモフモフモフモフモフモフと。

 

めっちゃモフモフする阿求さんを見て思う。

 

 

流石にモフりすぎです。

 

 



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俺氏、観察する。

いつもよりモフ率高めでお送りします。


 

 

 

喫茶店にもお休みの日はある。

 

 

7日に一度、外の世界で日曜日に当たる日は休みを取り、買い出しに行ったり、新しい料理を考えたり、すくすくたちと戯れたりしている。

 

 

そんな中で気づいたこと。

 

 

「きゅー」

 

 

すくすくたちにも、いろんな個性がある。

 

 

すくすくゆうかりんは我が道をゆく自由奔放タイプ。知らない間に、裏庭にミニサイズの花壇と畑を作っていた。

 

ご丁寧に『ゆうかりんランド』と書かれた看板付き。すくすく阿求と一緒に作ってたのはアレだったのかぁ…。

 

花壇には季節の花を、畑では野菜や果物を育てているみたい。実ったらくれるって。とても楽しみ。

 

 

「きゅー…」

 

 

すくすくメディスンはとても寂しがりや。

 

基本すくすくゆうかりんの傍にいるが、最近はすくすくアリスと一緒にいることも多い。

 

 

「きゅー…zzz」

 

 

すくすくめーりんはよく眠る。門番としての本能なのか、お店の前で寝ていることが多い。

 

よく道行く人に眠っているところをモフモフされており、喫茶店のマスコットになりつつある。

 

モフモフされても起きないが、すくすく咲夜にポフーンと体当たりされると起きる。で、そのあときゅーきゅー怒られている。

 

 

「きゅー」パシャパシャ

 

 

すくすくエスパー(仮名)はよく俺のスマホで写真を撮る。

 

写真を見せてもらうと、なかなかインスタ映えしているすくすくたちの写真がチラホラ。阿求さんがスゴく欲しがっていた。

 

 

「観賞用……いえ、幻想郷縁起に載せる用に頂けませんか? 額縁はこちらで用意しますから!」

 

 

いろいろと隠せてない阿求さん。

 

残念ながら、幻想郷にはスマホで撮った写真を現像する技術はない。すくすくにとりにも相談したが『流石に無理』と言わんばかりに首を横に振られた。

 

阿求さんにとてもしょんぼりされたので、GSチャット経由で画像を彼女のすまーほに送信。

 

 

(´・ω・`)から(`・ω・´)に早変わり。

とても喜んでおられた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

そういえば少し前、家の中で妙な事件が起こったことがある。

 

 

 

履物の左右が反対に置かれてる事件。

 

棚の本が上下反対になってる事件。

 

砂糖と塩の位置が反対になってる事件。

 

 

「きゅーっきゅっきゅ!」

 

 

犯人、いや犯すくの正体は、赤と白のメッシュが特徴的な黒いモフモフ。

 

どうやら「何故逆さに…」と首をかしげる俺の反応を見て面白がるため、犯行に及んだ模様。

 

満足すると自分で反対にしたものを元に戻す。謎のすくすくである。

 

モフモフすると嫌がるけど、モフモフをやめるとシュンと落ち込む。ツンデレなのだろうか。

 

 

しばらくはすくすくツンデレ(仮名)と呼ぶことにしよう。でも(仮名)も増えてきたし、そろそろすくすくの名前を聞かないとなぁ…。

 

 



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俺氏、偉人に会う。

 

 

 

最近、少し悩みがある。

 

すくすくは俺のことを敷き布団だと思っているのか、朝起きるとお腹の上で眠っていることがある。

 

別に寝苦しいとかはないし、それだけ俺になついてくれているのだろうと思えば嬉しいのだが、すくすくたちを起こさないように自分が起き上がるのは大変なのだ。

 

 

一昨日はすくすく白沢。

 

昨日はすくすくもみじとすくすく影狼。

 

今日はすくすく……なんだこれ。

 

 

「きゅー」

 

 

耳とは別にピョコンと立ってる毛と、ヘッドホンが特徴的なモフモフ。ヘッドホンにはひらがなで『わ』と書かれている。

 

 

…………わ??

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

ああ、『わ』って『和』だったのね。

なるほど。良いセンスのヘッドホンだ。

 

 

「ふむ、なかなか趣のあるお店ですね」

 

「太子様! 我はこの『おむらいす』なるものが食べたいです!」

 

「布都。あまりはしゃいではいけませんよ」

 

 

元気いっぱいな少女と、高貴なオーラを放った女性がご来店。

 

ヘッドホンと髪型からして、あの人があのすくすくの元となった人物だろう。女性だが、第一印象はカッコいい人だ。

 

少し話をしてみたら、ヘッドホンの人はかの有名な聖徳太子様なんだとか。女性だったとはびっくり。きっと6面ボスなんだろうなぁ。

 

「きゅー」

 

つまり、お前はすくすく聖徳太子だったわけだ。聖徳太子をモフモフする日がくるとは……。1モフ1万円の価値がありそう。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「稗田嬢の勧めでね。ここのところ異変続きだったから、たまには休息も良いと思いまして。確かにここは癒されますが……」

 

「ふおおお! 太子様がモフモフしておられる! モフモフしておられる!!」

 

「きゅー」

 

「まさか私のすくすくまでいるとは。布都、少し落ち着きなさい」

 

 

大暴走している布都ちゃんを宥める神子さん。布都ちゃんはすっかりモフモフの虜になってしまったようだ。

 

オムライスも綺麗に平らげてくれたし、サービスで出したプリンも美味しそうに食べてくれた。

 

幸せそうな顔を見ると、喫茶店を開いて良かったと心から思う。

 

 

お前もそう思うだろうすくすく……ん?

 

 

「きゅー!」

 

 

布都ちゃんが食べたオムライスのお皿に座る、変わった被り物をした白いモフモフ。

 

「おや、布都のすくすくもいたのですね。いつの間に」

 

お皿の上とは布都らしい、と言いながらすくすく布都を撫でる太子様。

 

 

 

……6面ボスレベルの人でも気づけないほど、新しいすくすくはどこからともなく現れるようだ。

 

ホントどこから来てるの君たちは。

 

「きゅー」

 

なるほど。わからん。

 

 

 



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俺氏、褒められる。


スーパー独自設定、入ります。



 

 

 

俺の持つ猫じゃらしを意気揚々と追いかけるすくすくが2匹。

 

「きゅー!」

 

「きゅー!」

 

すくすくちぇんとすくすくおりんである。にゃーんとは鳴かないようだ。

 

たまたまお店の近くで猫じゃらしが生えているのを見つけ、「幻想郷にも生えるんだなぁ」とその猫じゃらしをフリフリしてたら寄ってきた。

 

イヌ科はいたけどネコ科はいなかった我が家。

より賑やかになりました。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

今日は特別なお客様がやってくる。

 

 

『モフモフソムリエ』

 

 

それがいかに柔らかくて、いかに滑らかで、いかにモフモフしているのか。そんなことを判断できる人がやって来る……と、阿求さんが言っていた。

 

こうしちゃいられないと、前日から阿求さんと共に全すくすくの毛繕いを行い、みんなのモフモフは100%中の100%状態。

 

 

さぁ、ドンと来い。

真のモフモフをみせてやる。

 

 

 

「喫茶店『モフモフ』……名前は100点ですが、私を満足させられるモフモフが、はたしているでしょうか……」

 

「ニャーン」

 

 

古明地さとり(モフモフソムリエ)、黒猫を肩にのせてご来店である。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「―――素晴らしい」

 

 

全てのすくすくをモフり終え、モフモフソムリエことさとりさんが総評を語る。

 

 

「お燐のモフモフが至極なら、すくすくのモフモフは究極。どちらが(まさ)っているかではなく、どちらもがナンバーワンでありオンリーワン。お見事です」

 

 

凄く褒められた。

よかったなお前たち。

 

 

さとりさんがすくすくたちをモフモフしている間、俺はお燐ちゃんをモフモフ。

 

 

「にゃぁー♪」

 

 

とても気持ち良さそうに鳴くお燐ちゃん。

 

なるほど、確かにすくすくとは違うモフモフ感。だがそれが良い。肉球のぷにぷに感もたまらん。

 

 

「……おや、お燐がそこまで気持ち良さそうにするなんて。よほどのモフテクニックをお持ちのようですね」

 

 

俺も褒められた。照れる。

 

 

俺もすくすくも上機嫌なので、さとりさんにはいっぱいサービスをしよう。ついでに、地底で喫茶店の宣伝もお願いしてみようかな。

 

手土産として、すくすくアリス特製の色とりどりのマカロンをプレゼント。地底の皆様で召し上がってください。

 

 

 

「……新しいモフモフと出逢え、とても満足できました。今日は素晴らしい一日です。ナナスケさん」

 

 

そう言うと、お燐ちゃんを抱っこして席を立ち、一礼する。

 

 

「良いモフを、ありがとうございます」

 

 

こちらこそ。

良いモフを、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「うにゃぁー…♪」

 

「そんなに気持ち良かったのですか、お燐」

 

「(あの手付きは反則ですよぉ……あんな心地良さ、アタイ初めてでした……)」

 

「む……それは聞き捨てなりませんね。私もよりモフテクニックを磨かないと……」

 

「(また撫でられたいなぁ……)」

 

 

 

 

――――――

 

 



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俺氏、屋台で飲む。

 

釣りをしていた時期もあったが、食料の調達は基本的に人里で行っている。

 

一月以上も通えば、店のおじさんにも顔を覚えられる。喫茶店を経営している以上、一度に大量の食材を買うので、おじさんたちにとって俺は気前の良い客なのだ。

 

顔馴染みになったのは、店の人だけではない。

 

 

「おはようナナスケ! 今日は何がお買い得?」

 

 

おはようミッちゃん。

今日はきゅうりが安いって。

 

 

 

――――――

 

 

 

ミッちゃんこと、ミスティア・ローレライ。

 

 

人里の近くで八目鰻屋台を経営している夜雀さん。買い出し中に会うことが多く、飲食店を経営する者同士で話が合うのもあり、いつの間にか仲良くなっていた。

 

営業時間はうちと異なってるため、商売敵と言うわけではない。そもそも彼女の方は居酒屋だし、うちではお酒は取り扱ってないしね。

 

 

「すくすくは今日もモフモフねー。はい、これあげる!」

 

「きゅー!」ポリポリ

 

 

付き添いのすくすくにとりをモフモフしながら、さっき買っていたきゅうりをあげるミッちゃん。彼女も既にモフモフの虜である。

 

 

ミッちゃんはお客様として喫茶店にたまに来る。けど、俺はまだミッちゃんの居酒屋に行ったことがないのだ。

 

 

「……ね、ねぇ! よかったら今日屋台来ない? たくさんモフモフさせてくれるなら、貸しきりでもいいわよ!」

 

 

ここでミッちゃんからの嬉しいお誘い。

 

 

しかし、簡単に頷くことはできない。外食するとならば他のすくすくたちも連れていきたいが、全員を連れ出すのは数的に少し無理がある。

 

かと言って、一部のすくすくを連れて行ったとしても、連れていけなかったすくすくたちが拗ねてしまう。きっと3日間ぐらいショボン顔になってしまうだろう。

 

どうしたものかと悩んでいると、ミッちゃんが助け舟を出してくれた。

 

 

「むー……じゃあこうしましょ! 特別大サービスなんだから!」

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「かんぱーい!」

 

『きゅー!!』

 

 

全すくすく揃い踏みである。

 

ミッちゃんは喫茶店の前まで屋台を運んできてくれたのだ。これなら全すくすくでワイワイできる。

 

しかしミッちゃんも飲んでいいの?

 

 

「良いの良いの、今日のお客様はナナスケだけだし! おつまみも大体作り終えたしね!」

 

 

目の前には枝豆やきゅうりの漬け物、八目鰻の蒲焼きなどのおつまみが大量に並んでいる。まぁ、一人で飲んでもつまらないし、細かいことはいいだろう。

 

 

「……それにしても、こんなにたくさんいたのね。すくすくって」

 

 

モグモグと、八目鰻やきゅうりを食べるすくすくたちを見てミッちゃんは言う。狭い屋台に全すくすくが揃うと、確かにいつもより多く見える。

 

でも半年後ぐらいには今の倍は増えてる気がする。そう思うとまだまだ少ない方なんだよなぁ。

 

 

「きゅー!」

 

 

お酒を飲みながらすくすくを眺める。

 

……あ、また2匹増えてる。

 

 

「「きゅー!」」

 

 

お酒大好き2本角、すくすくすいか。

お酒大好き1本角、すくすくゆうぎ。

 

2匹以外のすくすくも楽しそうに飲んでいる。すくすくはお酒に強いのだ。

 

 

「ほらナナスケ、 盃が空だよ! 夜はまだまだこれからなんだから! 」

 

 

お酒を飲みつつ、モフモフしつつ、ミッちゃんと飲み明かした一夜であった。たまにはこういう日も良いものだ。

 

 

後日、二日酔いをすくすくたちに看病してもらったのは別の話である。

 

 

 

――――――

 

 

 

「勇気出して誘って良かったぁ……ナナスケも楽しんでくれたかなぁ……」

 




ヒロインを増やしていくスタイル。


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俺氏、吸血鬼の館へ出張。

※本作品は『東方project』の小説です


 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@DIO

>『モフモフ』と言う喫茶店の店主は貴様だな

 

@ナナスケ三世

>!?

 

@DIO

>噂は聞いている。

>なんでも面白い生物がいるらしいな。

>料理も中々の腕だと聞いている。

 

@ナナスケ三世

>え、は、はぁ……恐縮っす……

 

@DIO

>是非とも行きたいのだが、私は吸血鬼。

>憎き太陽の昇る時間には行けぬのだ。

>この意味は、わかるな?

 

@ナナスケ三世

>は、はい!

>どこへでも出張させていただきます!

 

@DIO

>では地図を送る。

>今夜、我が館で待っているぞ。

 

 

 

DIOさん が

画像を 送信しました!

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「えっ。だって外の世界では吸血鬼のことをそう呼ぶってパチェが…」

 

「えっ。あんな嘘信じたのレミィ」

 

「えっ」

 

 

本当にDIO様が幻想入りしてるのかと思ったよ。サイン用色紙持って来たのに。少し残念である。

 

 

地図を頼りに進んだ先には紅魔館。何回か迷ったが、何とか辿り着くことができた。

 

そして、目の前にいる彼女こそ、かの有名な気高き吸血鬼、レミリア・スカーレット殿。

 

 

「きゅー」

 

「あら。これが例のすくすくね。パチェの言ってた通りのモフモフ」

 

「きゅー!」

 

「あ、ちょ、こらー! 帽子を取るなー! かえせー!」

 

 

……幼き吸血鬼、レミちゃんである。

 

生で見るカリスマブレイクは、すくすくにも負けない可愛らしさであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

紅魔館の厨房を借りて、料理を作るぜ。

 

レミちゃんからは『この私を満足させられる一品を所望するわ』と言われた。

 

頭を捻って料理を考えてたら『お嬢様の舌はお子様ですので、甘いものなら問題ないかと』と咲夜さんが教えてくれた。

 

よし、あれ作ろうか。いちご大福。

 

「きゅー!」

 

すくすく咲夜も賛成してくれた。

よっしゃ、一緒にがんばろうぜ。

 

 

 

「モフモフの私が料理してる……がんばってー、モフモフのわたしー……」

 

短い手足で料理をするすくすく咲夜を、遠くで見守る咲夜さん。

 

我が子を見守るお母さんみたいでした。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「フッ……フフフ……やるわねモフモフ。この私を出し抜くなんて、褒めてあげるわ」

 

「レミィ、顔が真っ赤よ」

 

「うるさーい!」

 

 

何があったかわからないが、レミちゃんの頭の上に、すくすく正邪が乗っている。下克上成功と言わんばかりに満足した顔である。

 

ともあれ、作った料理を並べる。すくすくたちも大好きないちご大福。

 

たくさん作ったので、皆さんもどうぞー。

 

 

「(くっ……このままだと、この男に吸血鬼の威厳を全く見せ付けられずに終わってしまうわ! 私は紅きカリスマ、レミリア・スカーレット! いちご大福とやらがどれだけ美味しくても、こう言ってやるのよ!『ふん……人間にしては悪くない料理だが……吸血鬼が口にするには、少し甘過ぎるな』ってね!)」

 

 

 

パクッ。

 

 

「あまーい!」

 

 

レミちゃん大喜びである。

 

 

「あー! 美味しそうなもの食べてる! わたしも食べたい!」

 

 

カラフルな翼を持った少女が乱入。フランちゃんである。

 

彼女はモフモフを抱えながら近づいてきて、いちご大福を一口頬張る。

 

 

「あまーい!」

 

 

やっぱ姉妹なんだなぁ…。

 

 

「妹様。そのお抱えになっているものは…?」

 

「図書館にいたの、かわいいでしょ。 あ! お姉様の頭に乗ってる子もかわいー!」

 

 

フランちゃんが抱えていたのは、ドアノブカバーのような帽子を被った紫色のすくすく。

 

すくすくパチュリー。

これで3魔女が揃ったね。

 

 

「あれ、この子…私?」

 

「……むきゅー?」

 

「私だ……」

 

 

どうやら、他のすくすくと鳴き声が異なるようだ。

 

紅魔館には紅魔館の住人のすくすくが何処かに隠れているのだろうか……でも、すくすく咲夜とかは何処からともなく現れたし、あまり関係ないか。

 

 

 

 

 

 

 

この日の出来事以降、咲夜さんが頻繁に和菓子を買いに来るようになりました。

 

スカーレット姉妹が気に入ったらしい。販売は専門ではないが、嬉しい限りである。期間限定で深夜営業もやってみてもいいかもしれない。



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俺氏、夏を生きる。


花映塚、大好きなんですよ。




 

暑いのである。夏真っ盛りである。

 

イケナイ太陽がギンギラギンにさりげなく照り付けてくるのである。とにかく暑いのである。口調もおかしくなってしまったのである。

 

 

「きゅー」「きゅー!」「きゅー」

「むきゅー…」「きゅー!」ギュウギュウ

 

 

そんな気候にも関わらず、おしくらまんじゅうのように1ヶ所に固まるすくすくたち。

 

理由は1つ。その中心にいるすくすくが、ひんやりしているからなのである。

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすくチルノである。

 

 

すくすくにとり作の冷蔵庫の中でゲットしたのである。モフモフなのに冷たい。不思議である。

 

そんな性質もあってお客さんからも大人気。冷やしすくすく、始めました。なのである。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

先日は暑さでどうかしていた。クーラーの効いた店内に慣れてしまったのが原因だろう。なのである。

 

このままではいけない。文明の利器に甘えていてはダメだ。ここは幻想郷、もっとレトロな方法で涼めるように工夫し、それをお客様にも提供してみよう。

 

 

 

そんなわけで、2つ作戦を考えた。

 

 

 

1つは足水、足湯の冷たい版だ。水はすくすくにとりやすくすくパチュリーが生成できるし、氷はすくすくチルノが大量に作ってくれる。

 

 

もう1つは『夏、涼しいところで食べるアイスも美味しいけど、暑いところで食べるアイスも美味しいよね』作戦。

 

敢えて店の外に席を設けて、冷たいものを食べていただくのだ。風鈴もあれば尚良し。クーラー君には少しだけ夏休みを取ってもらうぞ。

 

 

思い立ったが吉日である。

さっそく準備に取り掛かろう。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

チリンチリーン

 

 

 

「なかなか乙な店ね。水も花も綺麗だし、悪くないわ」

 

「ねぇねぇゆうか。この『あんみつ』って言うの、おかわりしても良い?」

 

 

白い日傘を差した美人さんと、お人形さんみたいな女の子が来店。さっそく外の席に案内してみた。

 

足を冷水に付け、料理を食べてもらうスタイル。なかなか好評である。あんみつも気に入ってもらえたようだ。

 

 

「見てゆうか!この子、ゆうかにそっくりよ!」

 

「ふぅん…すくすくねぇ。ずいぶん久しぶりに見たわね。こっちの子は貴女にそっくりよ」

 

「きゅー?」

 

 

自分たちの姿を模したすくすくに興味を持つ二人。

 

すくすくゆうかりんとすくすくメディスン。2匹は親子みたいな関係だが、当人たちも端からみると親子みたいである。

 

正直、幽香さんがお店に来たときは肝が冷えたが、怖い人じゃなくてよかった。

 

 

「きゅー!」パチャパチャ

 

 

俺の不安も露知らず、水場で戯れるすくすくたち。特にすくすくわかさぎ姫はイキイキとしている。

 

すくすくたちも涼しげで何よりである。

 

 

「もふもふのゆうかはおとなしいのねー。さわっても嫌がらないし、たくさんモフモフできちゃうわ」

 

「きゅー?」

 

「そうみたいねぇ。ところで、店員さん」

 

 

 

はい?

 

 

 

「私のすくすくを手懐けてるってことは、貴方。戦ったら強いのかしら?」

 

 

 

満面の笑みの幽香さん。

止めてください死んでしまいます。

 

 

 

 

 



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俺氏、尻尾に埋もれる。

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@( 罪)

>ここ数ヶ月、君と全然会わないけど

>どこで何してるの?

 

@ナナスケは砕けない

>幻想郷で喫茶店経営してる

 

@( 罪)

>妄想乙

 

@ナナスケは砕けない

>マジマジ

>お前が夢の中で紫さんに会えたのも

>俺が頼んだからだし

 

@( 罪)

>あれは俺の愛がゆかりんに

>届いたからに決まってるだろ!

>もしマジならもう一回会いたいですって

>お伝え願いますでしょうかお願いします

 

@ナナスケは砕けない

>承った

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

って言ってましたよ、紫さん。

 

 

「あらまた? 想ってくれるのは嬉しいけれど、私も暇って訳じゃないからねぇ」

 

「毎日12時過ぎに起床している御方が何を言っておられるのですか」

 

「何か言ったかしら藍」

 

「いえ何も」

 

「モフモフの私がいる! にゃー!」

 

「きゅー!」

 

 

八雲一家ご来店。

先日に引き続き、外の席にご案内する。

 

紫さんとはそこそこチャットのやりとりをしてるし、藍さんもたまに喫茶店へ和菓子を買いにくるが、一家揃っての来店は初めてである。

 

 

ふむ。しかし。あれだな。

何度見てもすっごいボリュームだ。

 

……ちょっと我慢できないので、埋もれさせて頂こう。

 

 

モフ――ン

 

 

「……ナナスケ殿。せめて一言断りを入れてから……と言うか、暑くないか?」

 

 

暑さも忘れさせてくれるこのモフモフ感。

 

黄金色の9本の尻尾。その気持ち良さはブラックホール級。人をダメにするソファの比ではない。凄まじい吸引力である。

 

 

「きゅー」「むきゅー」

「きゅきゅー」

 

 

既にすくすくたちも、このブラックホールから抜け出せなくなっている。これが傾国の美女の魅力か……モフモフ……。

 

 

「ナナスケさんとモフモフが藍様の尻尾に絡まってます! とても気持ち良さそうです…!」ウズウズ

 

「……橙も絡まるかい?」

 

「ナナスケ。尻尾に夢中なるのは良いけれど、職務怠慢は良くないわよ」

 

 

職務怠慢とは失敬な。

今日の俺の仕事は接客のみなのですよ。

 

 

 

実はこの前、見てしまったのだ。裏庭ですくすく達が、かき氷大会をしている所を。

 

すくすくにとり製のかき氷機を懸命に回してかき氷を作るすくすく達の姿には、とても癒された。

 

と言うわけで、本日のメニューは1つだけ。

『すくすくの気まぐれかき氷』である!

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「にがあまいです! おいしいです!」

 

「橙。口元に小豆が…」

 

 

味付けはすくすくの気分次第。今日のすくすくは宇治金時の気分だったようだ。渋いのである。

 

すくすくの愛情が籠ったかき氷は、お客様からの評価も高い。悔しいが、俺が作るよりすくすくの作るかき氷の方が美味しいのだ。

 

同じ作り方ですくすくの方が美味しいのだから、愛情の差なのだろう。俺ももっと愛情を鍛えないとな、うん。

 

「貴方は愛情の前に表情筋を鍛えなさいな。喜怒哀楽をもっと表に出さないと、女の子にモテないわよ?」

 

余計なお世話です。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ナナスケ殿。まだ尻尾に違和感があるのだが、すくすくが絡まっていないだろうか?」

 

 

八雲一家の帰り際、藍さんがそう言うので、失礼ながらも尻尾を探ってゆくと、2匹のすくすくが発掘された。

 

 

「きゅー」

 

 

一匹は本人に負けないほどのモフモフ尻尾を持った九尾のすくすくらん。発掘早々、すくすくちぇんの元へ駆けていった。

 

 

「きゅー!」

 

 

もう一匹は、アゲハ蝶の羽を着けた青色のすくすく。

 

ザ・サマーって感じのモフモフである。でも何故藍さんの尻尾に絡まっていたのだろうか?

 

 

「サマーだからよ」

 

「サマーだからでしょう」

 

「サマーだからですよ!」

 

「きゅー!」

 

 

……サマーだからかぁ。

 




ここまでで『夏』の物語は終了です。
次話から時間が飛んで『秋』が始まります。

また、リアルの都合で1週間ほど更新が止まってしまうと思いますが、なるべく早く更新できるよう尽力します!


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俺氏、にやける。

一週間も待てなかった。私が。

秋、始まります。



 

 

 

妖怪の山が紅く色付く季節。秋である。

 

 

お芋が美味しい季節。秋である。

 

 

「「きゅー!」」

 

 

ふんわりモフモフ。秋である。

 

 

 

すくすく秋姉妹。

 

秋の訪れと共に姿を現した、ほんのり甘い香りがするモフモフ。すくすくゆゆこがヨダレを垂らし噛み付こうとしているのを、すくすく妖夢が必死に止めている。

 

食欲の秋である。ほのぼの。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

秋になって変化したのは、妖怪の山だけではない。

 

 

お店に並ぶ食材も秋の実りが多くなった。リンゴ、サツマイモ、栗、柿など、スイーツに使える食材も豊富だ。

 

こう並んでいるとみんな美味しそうに見えてしまうので、ついつい選ぶのに時間がかかってしまう。

 

 

「うむむ……どれにしようかな……なやむ……」

 

 

ここにも悩んでいる赤髪の女性が1人……って、ばんきさんじゃないですか。お久しぶりです。

 

ここ最近、お店にも来てくれてなかったし、買い出しにも付き合ってくれなかったし。

 

俺は寂しかったですよばんきさん。

 

 

「私は全然、寂しくなかったけどね」

 

 

俺は泣いちゃいますよばんきさん。

 

 

 

 

 

 

冗談はさておき、一人暮らしのばんきさんも、秋の幸を前に悩んでいるようなので、ここは秋のモフモフに頼るとしよう。

 

 

「きゅー」

 

 

すくすく穣子は豊穣のモフモフ。どの食材が一番美味しそうなのかを聞くには一番のすくすくである。

 

 

「…… きゅー!!」

 

 

すくすくが短い手足で指した方向にあるのは、サツマイモの詰め放題売り場。

 

よし、今日はすくすくみんなで焼きいもを作ろうか。すくすく咲夜が玄関前で落ち葉を集めていたので、それを使わせてもらおう。

 

 

「……ねぇ。私も行っていい? 久しぶりに、モフモフの私にも会いたいし」

 

 

もちろんウェルカム。

よかったら草の根の方々も呼びますか?

 

 

「…………」

 

 

すんごい睨まれた。何故ゆえ。

 

 

「きゅー…」

 

 

すくすくにはジト目を向けられた。何故ゆえ。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「ほぉー。店内、前よりお洒落になってる」

 

 

そうなんですよ。

今、めちゃめちゃお洒落なんですよ。

 

全ては紅葉のモフモフ、すくすく静葉が店内を秋っぽくコーディネートしてくれたおかげである。秋姉妹様々である。

 

すくすくゆうかりんが育てたお花も飾ってある。お花の美しさは幽香さんのお墨付き。流石本人のすくすくである。

 

 

 

 

さて、焼きいもでも下ごしらえは大切である。準備ができるまで、ばんきさんとすくすくたちは少し待っててくださいねー。

 

 

「ちょっとたんま。……これ」

 

 

そう言われ、ばんきさんに袋を手渡される。

 

中には真っ赤なリンゴがごろごろと入っていた。

 

 

「来る前に買っておいた。その……明日も来るから、それで美味しいもの作ってよ。私、楽しみにしてるから」

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

「……何よその顔。にやけてる。きもちわるい」

 

 

 

ばんきさんにチョップされた。

 

珍しく、痛くない攻撃だった。

 

 



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私、にやける。


ばんきっき回。モフ率少なめ。
ただのラブコメになってしまった。


 

 

 

最近の私は、もっとおかしい。

 

 

 

何故あんなにも柄ではないことを言ってしまったのだろうか。翌日になって後悔している。

 

 

違うから。『楽しみにしてる』ってのはあれだから。美味しい料理を期待してます的な意味だから。他意とかないから。断じて。

 

 

……誰に言い訳してるんだろう、私は。

 

 

ともあれ、 私から行くと言ってしまった以上、行かなければならない。正確には、目の前の扉を開かなければならない。

 

今の私は、喫茶店の前で眠っているすくすくを撫でながら時間を潰している。

 

 

うむむ……ちょっと早く来すぎたかな……これじゃ私がすごく楽しみにしてきたと思われないだろうか……。

 

 

「きゅー?」

 

 

あっ、起こしちゃった。

ごめんねモフモフ。なでなで。

 

 

 

ふぅー……おちつけ私。

 

今日は私1人だけ。草の根(うるさい外野)はいない。焦る必要はないのだ。

 

暇だったから早く来ただけ。言い訳はこれで十分。あの適当な男のことだ。妙な詮索はしてこないはず。

 

 

軽く深呼吸しながら覚悟を決め、私は店内へと入る。

 

 

「きゅー」「むきゅー」「きゅー!」

「きゅー?」「きゅー!」

 

 

迎えてくれたのはたくさんのモフモフたちと。

 

 

「いらっしゃいませー! さぁ!こちらの席に座るが良い!」

 

 

無表情でビシッとポーズを決める、エプロン姿の面霊気だった。

 

 

 

おうふ。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「勉強の一環だ。 働くことでわかる表情や感情もあるはずだ!」

 

「きゅー!」

 

 

面霊気はポーズを決めながら、頭に彼女自身のモフモフを乗せてそう言う。噂には聞いていたが、本当に顔以外は感情表現豊かな奴ね。

 

ナナスケが言うには『不定期のバイト』。 たまにやって来ては、バイトしたり舞を踊ったりしてるらしい。

 

 

「こちらとしても人手が欲しかったところなので、非常に助かってるんですよ」

 

「ほめられたー。てれるー」

 

 

そう言いつつも無表情。

とてもそうには見えない。

 

しかしこいつら。並んでいると兄妹みたいだ。主にポーカーフェイスなところがソックリ。無表情は引かれあうのだろうか。

 

 

 

それにしても、バイトか。あの時は恥ずかしくて断っちゃったけど……少し勿体無かったかな。

 

 

 

……また勧誘してくれないかなぁ。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

うん。わかってる。今私、また柄にもないこと考えてたよね。

 

 

……仕方ないじゃん。私の勘違いでもさ、あんなこと言われたら意識しちゃうよ………ああもう、顔が熱い。

 

 

真っ赤になった顔を、ひんやりしたモフモフで冷やしていると、リンゴの良い香りがキッチンから漂ってくる。

 

 

「アップルパイがそろそろ焼けるな。俺が運ぶから、こころちゃんは引き続き接客をよろしくね」

 

「任せろ!」

 

 

キッチンへと向かうナナスケを見送る私たち。

 

 

 

「……今日のナナスケは一段と嬉しそうだ」

 

 

えっ。そうなの?

 

 

「うん。昨日からウキウキしてた。聞いたら『ばんきっきさんが来るから』って。ばんきっきとは誰だ?」

 

 

…………。

 

 

「お? ねぇねぇお客さん。それはなんの表情?」

 

 

 

……うっさい。

 

 





『すくすくを頭に乗せたエプロン姿のこころちゃん』を妄想したら、心がぴょんぴょんしました。誰か描いてくれないかなぁ(叶わぬ願い)


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俺氏、褒める。


9月6日ですくすく白沢は10周年! おめでとうございます!

これからもモフモフ書かせていただきます。



 

 

秋はとても落ち葉が多い。気がついたときには、すくすくめーりんが落葉の山に埋もれるほどである。

 

そのため、外の掃き掃除は1日たりとも欠かせない。すくすく咲夜に任せきりも悪いので、俺も毎朝手伝っている。

 

 

「きゅー!」ガサガサ

 

 

そんなある日、別のモフモフが埋もれていた。

 

短い両手足をじたばたさせながら。落ち葉の海を泳ぐすくすく。意外に楽しそうである。

 

持ち上げてみると、すくすく影狼やすくすくもみじに負けないほどモフモフしている。

 

少し毛がカールぎみで、緑っぽい色のすくすく。角も生えている。

 

 

狛犬かな。

 

「きゅー!!」

 

狛犬だって。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

玄関に新しいマスコットが増えて数日後。

 

 

「よっ。また来たぞー」

 

「きゅー」

 

 

今日はこころちゃんがバイトにきた。

 

不定期とは言え、手伝いに来てくれるのはとても助かる。お客さんからも人気だしね。

 

 

「ふはは。 もっとほめてー」

 

「きゅー!」

 

 

そう言いつつも無表情。そんなところが可愛いらしく、妙な親近感を覚える俺である。

 

ところでこころちゃん。

頭に乗ってるそのモフモフは?

 

 

「来る途中、空から降ってきた。ふわふわのモフモフだぞ!」

 

「きゅー!!」

 

 

ポーズを決めるこころちゃんの頭の上に乗る、桃の装飾が付いた帽子をかぶった、空色のモフモフ。

 

すくすく天子。元気いっぱいである。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

こころちゃんはバイトだけでなく、舞を踊りに来ることもある。

 

すくすくリバーの音楽に合わせ、すくすくたちと踊る『モフモフの舞』は喫茶店の名物になりつつある。

 

 

「私も踊ってみたいです。えいやーって!」

 

「きゅー!」

 

 

雨にも負けず風にも負けず、未だ皆勤賞が続いているモフリスト阿求さん。日本舞踊が似合いそうだけど、無理はしないでくださいね。

 

こころちゃんが来るようになってから、喫茶店とは思えないほど賑やかになったが、これはこれで楽しいからOKである。

 

 

 

 

そういえば、こころちゃんが来る日には必ず、とあるお客さんがやってくる。

 

 

「やはり、こころにバイトは早くないか……?」

 

「きゅー?」

 

「こころさんからやりたいと言い出したのです。それならば、やらせてあげるべきでしょう」

 

「きゅー!」

 

 

サングラスをかけ、文々。新聞で顔を隠しながら、こころちゃんを見守る神子さんと白蓮さん。

 

こころちゃんの保護者的存在なのだろうが……あの2人、あまり仲が良くないと噂で聞いたけども。

 

 

「それにほら。とても楽しそうですよこころさん」

 

「うむ、それはそうなんだが……あっ! こころがこっち向いた!」パシャパシャ

 

「こらっ! お忍びで来てるのですからバレたらどうするんですか!」パシャパシャ

 

 

すまーほで写真を撮りまくる2人。

 

 

超仲良しじゃーん。



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俺氏、もっと観察する。


モフ率UP↑




 

 

 

ふと思ったことがある。

 

 

 

「きゅー?」「きゅー!」「きゅー」

「きゅーっ!」「きゅ?」「むきゅー」

「きゅきゅ?」「きゅー」「きゅー!!」

 

 

 

増えたなぁ、すくすく。

 

 

数えてみたら優に30匹を越えていた。片手で数えられた頃が懐かしく感じる今日この頃。

 

「こんなにいるなら1匹ぐらい良いだろー?」と、最近魔理沙さんがあの手この手ですくすくを盗もうとしてくる。だめ、ぜったい。

 

 

 

しかし、流石と言うべきか当然と言うべきか。新しく増えたモフモフも個性的な子ばかりである。

 

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすくあうんはとってもがんばり屋。眠気に負けることなく、玄関をいつも守護ってる。門番より門番していると思う。

 

たまに2匹に分身することがある。つまりモフモフも2倍。頭と膝にすくすくあうんを乗せた阿求さんの笑顔は、今まで見たことないぐらい輝いていた。

 

 

 

「きゅー」

 

 

すくすくらんはとても真面目。常にすくすくちぇんの側にいる。

 

2匹揃ってくるくると転がる姿をよく見かける。あれはいったい何なんだろうか。

 

モフモフだけならすくすく影狼やすくすくもみじを上回る驚異のすくすく。傾国のモフモフは伊達じゃないのである。

 

 

 

「きゅー…」

 

 

すくすくうどんげは、何故かよく落とし穴にはまっている。

 

たまに金髪の女性がお店に来て、すくすくうどんげと戯れているが、そのたびに耳が萎れている。原因は不明。一度病院で診てもらった方が良いかもしれない。

 

 

 

「むきゅー」

 

 

すくすくパチュリーは本が大好き。一日中、本を読んでいることもしばしば。本を取り上げると『むきゅう…』って鳴く。目の休憩も必要である。

 

 

ある日、すくすくパチュリーが床に魔法陣を描いていたことがある。丸に五芒星のシンプルなやつ。

 

 

「きゅー!」

 

 

すくパチュが高らかにそう鳴くと、魔法陣の中心からボンッと煙が吹き出る。

 

 

「きゅー」

 

 

煙の中から現れたのはすくすく小悪魔。何気にすごい場面を見てしまったのかもしれない。

 

召喚されてからは、すくすくパチュリーのお世話をしたり、本の整理を手伝ったりしてくれる。お礼にモフモフすると、めっちゃ指を甘噛みしてくる。意外と甘えん坊のモフモフであった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

うむ。今でも十分多いのだが、東方の総キャラ数から考えると、またまだ半分にも満たないのが現状。

 

既にすくすくの溜まり場のモフ密度は相当高くなっている。阿求さんは『ここが私の幻想郷…』と呟いていたが、すくすくたちにとっては窮屈だろう。流石にこれは無視できない問題である。

 

 

これは大々的な増築をする必要があると見た。

 

 

幻想郷でそういうのは鬼の方々の得意分野らしいが、すくすくすいかとすくすくゆうぎ、いけそうかな?

 

 

「「きゅー!!」」

 

 

よし。お願いします。

 

 

 

 



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俺氏、驚く。

 

 

 

倍以上に広くなった部屋に、たくさんの遊具。

 

畳とフローリングの和洋折衷。

 

裏庭に追加された、あったかポカポカの温泉。

 

 

「「きゅー…!」」

 

 

やりきった!と満足した顔で、温泉に疲れを癒しているすくすくすいかとすくすくゆうぎ。

 

1日でここまでできるとは思ってなかったので、かなり驚いた。すくすく恐るべし。

 

特に温泉。まさか喫茶店の下に源泉があるとは思わなんだ。

 

 

「きゅー!」「きゅー」

「きゅー」「きゅー!!」ドボーン

 

 

肌寒い季節もあり、すくすくがどんどん温泉へダイブしていく。迅速にタオルを用意せねば。

 

……おお?今、見慣れないモフモフが飛び込んだぞ。

 

 

「きゅー!」

 

 

緑のリボンに黒い翼。右手に筒をつけている。

 

すくすくお空だ。すくすくお燐と一緒にお湯をパチャパチャかけ合っている。仲睦まじき光景である。

 

 

あと、筒は取り外し可能っぽい。

無くさないように気を付けてね。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「あのー……無くし物を探してるのですがー……」

 

 

こっそり来店の寅さん。あっ察しである。

 

 

寅さんはうちの常連さん。人里での活動の帰り道、すくすくをモフモフしつつ甘いものを食べに寄ってくれる。ありがたい毘沙門天様である。

 

 

だかしかし。宝塔はうちにありませんよ?

 

 

「うぅ……バレたらまたナズーリンに怒られる……どこに落としてしまったのでしょう……」

 

 

頭を抱える涙目寅さん。すくすくたちも心配そうにしながら寅さんに寄り添っている。

 

落ち込んでるときこそ、甘いものを食べてリフレッシュですよ。すくすくのおやつ用に作ったおしるこが余ってるので、良かったらどうぞー。

 

 

「ありがとうございます……おいしい……モフモフ……」

 

 

いつの間にか寅さんを覆うようにすくすくが集まっている。すくすくなりに慰めているのだろう。

 

よし、ここはすくすくたちを総動員させて、探すのを手伝おうか。こういうのは数が多いに限るし。

 

 

そう考えた矢先、ズボンの裾をクイクイ引っ張られた。

 

 

足元に視線を向けると、そこにいたのはダウジングロッドを背負った灰色のモフモフ。

 

「きゅー!」

 

すくすくナズーリン。『私なら探せるよー!』と言わんばかりにきゅーきゅー鳴いている。よしきた!

 

 

「きゅー…」

 

 

早速お願いしてみると、すくすくナズーリンはダウジングロッドを構えて唸り始める。

 

見守る俺と寅さん。

 

 

「……!! きゅー!」

 

 

そして雄叫び。ダウジングロッドが指した方向は、喫茶店の出入口。

 

 

「……探し物はこれかい、ご主人?」

 

 

そこには宝塔を片手に持ったジト目のナズーリンさんが。

 

 

このあと、めちゃくちゃ怒られてた。

寅さん。どんまい。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「きゅー?」

 

 

寅さんとナズーリンが店を出たあと、すくすくナズーリンのダウジングロッドに何かが反応した。

 

すくすくナズーリンに着いていくと、辿り着いたのはキッチンの食品棚。

 

特に変わったところは見当たらないが、念のためいろいろ調べてみる。

 

 

お皿の上。何もない。

 

コップのなか。何もない。

 

おしるこ用のお椀の中。何かいた。

 

 

「きゅー!」

 

 

とても小さい紫色のすくすくがお椀の中にちょこんと居座っていた。

 

……これはこの子専用のお椀にしよう。

 

 

 

 

 

 



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俺氏、驚かない。


NEWもふラッシュ。


 

 

 

テレッテレレー♪(ドドンドドンドン)

ベベベンベベン♪(ドンドンドドン)

 

 

 

「「「きゅー!!」」」

 

 

 

目覚ましの音がいつもと違っても俺は驚かない。

 

 

すくすくリバーとは違う、和楽器中心の演奏で起こしてくれたのは、初めて見るモフモフたち。

 

人里で似たような演奏を聞いたことがあるので、たぶんこのモフモフの正体は女子二楽坊 with 堀川さんだろう。

 

 

個人的にはこっちの演奏の方が好きだな。日本人のDNAがそう思わせるのだろうか。

 

 

「「「きゅーっ」」」ボフーン!

 

 

そう思ってたらすくすくリバーにたいあたりされた。

 

モフモフだけど、痛い。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「ナナスケさん。頭にすくすくさんが乗っていますよ」

 

「きゅー」

 

 

突然のすくすく登場にも俺は驚かない。

というか、慣れた。

 

 

しかし、阿求さんに指摘されるまで全く気づかなかったな。確かにすくすくは軽いけど、重さがないわけじゃない。乗っかっていたら気付けけそうだけどなぁ。

 

 

そう思いながら、頭のモフモフを手にとって確認する。

 

黄色いリボンの付いた黒色の帽子を被った、薄緑色のすくすく。

 

 

「きゅー?」

 

 

すくすくこいしかー……道理で気付けないわけである。無意識なら仕方ない。

 

 

 

それにしても阿求さん、よく気付けましたね。

 

 

「最近……モフモフ……感じ取れるようになったんです……もふもふの気配を……モフモフ……!」

 

「きゅー!」

 

 

すくすくこいしと戯れながら阿求さんはそう言う。毎日すくすくをモフモフすることで、新たな能力が開花したようだ。

 

流石モフリスト阿求さんだ。格が違うね。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

風に舞う紅葉と一緒に、空からフワフワとすくすくが降ってきても、俺は驚かない。

 

 

「きゅー」

 

 

俺の頭に華麗に着地する紺色のモフモフ。

 

すくすくいくさん。すくすく天子を探しに来た模様。モフモフだけどたまにピリッとする。静電気だろうか。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「おどろけー! べろべろばー!」

 

「きゅー!!」

 

 

驚く要素がない。

かわいいしかない。

 

 

鍛冶屋の小傘ちゃん。うちで使ってる包丁は彼女が作ったもの。たまに研いでもらったりしている。

 

道端で目が会うたびに、いそいそと物陰に隠れ、通りすぎようとすると、今みたいに驚かせてくる。

 

どうやって驚けと……。

 

 

「どうどう? 驚いた? ねぇねぇ?」

 

「きゅー?」

 

 

純粋この上ない笑顔でそう聞かれても反応に困ってしまう。とりあえず可愛かったよ。

 

 

ついでに、小傘ちゃんの本体である傘の上に乗ってるモフモフ。すくすく小傘を保護。

 

きゅー!って傘を見せつけてくる。

うーん、かわいい。

 

 

 





ハーメルン用兼私用でTwitter始めました。私のマイページに張ってあるのでよかったら友達になってください(切実)。




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俺氏、歓迎する。


前話の反動でNEWモフはなし。
でもモフモフはしてます。



 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ゆかりん(14)

>ナナスケ、今日お店はお休みよね?

 

@ナナスケは砕けない

>そうですよー

 

@ゆかりん(14)

>今からそっちにお客様が行くわ。

>アカウントを更新したくなかったら

>ちゃんとおもてなしをしてあげてね♪

 

@ナナスケは砕けない

>酷い脅迫を見た

 

@ゆかりん(14)

>それからもう1つ。

>お客様に私の名前を出しちゃダメよ

 

@ナナスケは砕けない

>?

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす!」

 

「だ、大丈夫なの蓮子?」

 

「大丈夫大丈夫。入口にあんな可愛い人畜無害なモフモフがいたぐらいよ? 安全よ! たぶん!!」

 

「とっても不安だわ……」

 

 

俺と同年代ぐらいの、黒髪と金髪の二人組が来店。会話から察するに、ただのお客様ではなさそうだ。紫さんが言っていたのはこの二人のことだろうか。

 

見たところ、かなり現代風な服を着た二人である。幻想郷では逆に珍しい。

 

 

「きゅー?」「きゅー!」

「きゅー」「きゅー」「きゅー!」

 

 

物珍しさなんかお構いなしに歓迎体勢のすくすくたち。遊んでほしいと言わんばかりに二人に飛び込んで行く。

 

警戒心さん、たまには仕事をして。

 

 

「うおっ! モフモフの波が来るわメリー! 飛び込むわよ! 」

 

「ええっ!? ちょっと待っ……きゃーっ!」

 

 

モッフ――ンと、すくすくの大群に飲み込まれる二人。

 

でもなんか、幸せそうだった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。お茶菓子までいただいてしまって……」

 

「うまっ!! メリー、これスッゴい美味しいわよ! あ、紅茶おかわりいいですか?」

 

「蓮子……少しは遠慮して……」

 

 

構へん構へん。今日は貸し切りみたいなものなので、好きなもの頼んでください。お代は前払いで貰ってるしね。

 

 

 

外来人のメリーさんと蓮子さん。

 

サークル活動中に謎の生物を追っていたところ、気づいたら幻想郷に迷い混んでしまい、さ迷っていたら喫茶店(ここ)の前まで辿り着いたらしい。

 

きっと原因は紫さん。けど、何か理由があってのことだろう。深く考えないでおこう。

 

 

「きゅー」

 

「それにしても変わった生物ですね、こんなにモフモフな触感初めてだわ」

 

「ねぇねぇメリー、このモフモフ私に似てない? 眼鏡取ると、ほら!」

 

「きゅー…」

 

「蓮子。モフモフちゃんが困ってるわ」

 

 

返してー…と、短い手を伸ばすくすく菫子。超能力は使わないのね。

 

外来人と言っていたが、二人も東方projectに出てくるキャラクターなのだろう。それでも同年代に変わりはないので、とても接しやすい。

 

すくすくたちもみんな2人に懐いている。すくすくこいしなんてメリーさんの頭に乗って楽しんでるし。気づかれてないけど。

 

 

ところで、二人はこれからどうするんですか?

 

 

「そりゃ、幻想郷(ここ)まで来たんだから当然探検よ。ここで帰ったら秘封倶楽部の名折れよ!!」

 

「きゅー!!」

 

「私たち、元々幻想郷(こっち)に来たかったので、いろいろ回ってみようと思います」

 

 

そう答える2人。サークル活動満喫してるなぁ。

 

俺は幻想郷に来てから大学は辞めたようなものだし、ちょっと羨ましく思える。

 

まぁ、今は今でとても満足してるけどね。

 

 

「きゅー!」

 

 

うん。お前たちのお陰だ。モフモフ。

 

 

 

 

 

二人がお店を後にする際、良い旅路を祈って焼きたてのパンプキンパイをプレゼントした。がんばれ秘封倶楽部!

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「紫様。何故あの2人を幻想郷に? 」

 

「可愛い娘には旅をさせるものよ。でも、そろそろ時間切れ。今頃、可愛い私が外に返してあげてるわ」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「おおっ、野生のモフモフ発見よ。 今度はメリーに似てるわ」

 

「あら本当。 ナナスケさんに届けた方がいいかしら?」

 

「きゅー!」

 







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俺氏、忙しい。

 

 

食欲の秋である。

 

 

『きゅー!』 mgmg

 

 

すくすくたちの食欲も上昇中。いつもの倍は食べてると思う。

 

食べさせ過ぎは良くないとわかっているが、美味しそうに食べる姿を見るも、ついつい作りすぎてしまう。

 

 

「すくすくさん。はい、あーん」

 

「きゅー!!」モグモグ

 

「あぁー! もうホントにもぉー!」バンバン!

 

 

モフモフの可愛さに阿求さんの語彙力が低下している。でも机は叩かないでください。

 

 

「こんにちは。席、空いてるかしら?」

 

 

阿求さんとそんなやりとりをしていると、桃色の髪をした女性が来店。

 

 

おお、華扇さんじゃないですか。

久方ぶりです。

 

 

「ええ、久しぶりですねナナスケさん。 善行とモフモフをしっかり積んでいるようで何よりです」

 

 

うちの常連の1人、華扇さん。仙人様でありながら、さとりさんと同じ『モフモフソムリエ』である。

 

見たことはないけど、華扇さんはたくさんの動物を飼っているとか。さとりさん同様、動物との意思疏通もできるらしい。

 

 

……さて。

 

華扇さんがやって来たと言うことは、お店が忙しくなるということだ。

 

 

「きゅー!」

 

 

うむ、すくすくたちよ。

食べるのは一旦お預けだ。

 

 

華扇さん、ご注文の方は?

 

 

「そうね……表の看板にあった『秋のクッキー盛り合わせ』を、取り合えず10皿お願いします」

 

 

承りました。

団体1名様、入りまーす。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「―――ふむ、数が増えても手入れは欠かしていないようですね。実に素晴らしいモフモフだわ」

 

「「きゅー!!」」

 

 

すくすく秘封倶楽部の2匹を丁寧にモフモフする華扇さん。この2匹は、当人たちが来店した次の日、裏庭を走り回っていたところを保護したのだ。

 

 

すくすくたちの手入れはもちろん行っている。

 

 

数は多いが、すくすく同士でブラッシングをしていることもあるので、実はそう大変ではない。

 

すくすくアリスやすくすくゆうかりんはとてもお世話好きだしね。お手入れの時もよく手伝ってくれるのだ。

 

 

「あ、お皿が空ね。 ここの料理は美味しくて手が止まらないわ。ナナスケさん、また腕を上げたのでは?」

 

「きゅー!!」

 

 

俺、と言うよりはすくすくたちの腕が上達したのだと思います。

 

昔と比べて料理のできるすくすくは増えた。教えた甲斐があったというものである。

 

 

「モフモフで料理もできるなんて、すくすくはとっても賢いのね」

 

「きゅー?」

 

「ふふっ、やっぱり『良いモフ』だわ」

 

 

はい。自慢の『良いモフ』なんです。

 

 

 

ところで華扇さん、今モフってるすくすくって、どこに居ましたか?

 

 

「えっ? どこって、テーブルの下で眠っていたけど……」

 

 

頭にハテナマークを浮かべる華扇さん。

 

いやですね。そのモフモフ。

俺今初めて見たんスよ。

 

 

「きゅー」

 

 

小銭のようなアクセサリーを身に付けた、赤いツインテールのモフモフ。

 

なるほど、すくすく小町か。眠っていたということは、つまり、そうゆうことだ。

 

 

間違いなく、明日はあのモフモフがやって来るね、うん。

 

 

「あ、ナナスケさん。追加注文いいかしら?」

 

 

……その前に今日を乗り越えなきゃな。

 

『きゅー!』

 

すくすくたちはまだまだ元気そう。

俺もまだまだ頑張ろう。

 



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俺氏、閻魔様と知り合う。

 

 

 

 

 

「ここに小町は来ていませんか?」

 

 

そう言って来店したのは、緑髪の閻魔様。

まさかご本人がやってくるとは……。

 

部下探しの為とはいえ、閻魔様本人が動いても大丈夫なのだろうか。

 

 

「きゅー…」

 

 

すくすく小町が俺の足元に隠れながら震えている。

 

大丈夫、閻魔様が探してるのはモフモフの小町さんじゃないから。

 

隠れてないで、ほら。

ご挨拶ご挨拶。

 

 

「き、きゅー…」

 

「……いえ、私が探しているのはすくすくの小町では」

 

「! きゅー!!」

 

 

ズキュ―――ン!

 

 

怒られないとわかった瞬間に元気になるすくすく小町と、目を見開いたまま固まる閻魔様。

 

今の銃声はきっと、モフモフに心を撃ち抜かれた音。

 

 

「ま、まぁその、小町は今度厳しく叱ることにしましょう。私も今日は休日ですし、1日ぐらい羽を伸ばしても罰は当たりませんよね。うん、 閻魔の私が言うのだから間違いありません。だからですね?」

 

「きゅー?」

 

「……モフモフとカフェオレをお願いします」

 

 

オーダー入りました。いえーい。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

でも、閻魔様がカフェオレとは意外ですね。白黒つけるって能力じゃありませんでしたっけ?

 

 

「の、能力と好みは関係ありません。 苦いものは苦手なんです」

 

 

ごもっともである。

ミルク多めにしておいて良かった。

 

 

「きゅーっ」

 

「……モフモフ………うちの裁判所(しょくば)にもこのような癒しが欲しいですね……小町の100万倍かわいいなぁ………モフモフ…」

 

 

ブツブツとつぶやきながらすくすく小町をモフり続ける閻魔様。 モフモフがお気に召して何よりである。

 

オフと言うこともあり、閻魔様は服装こそいつもの服だが、帽子は外している。こうして見ると普通の女の子なんだなぁ。

 

 

 

 

閻魔様が喫茶店まで小町さんを捜しにきたのは、きっと小町さんが出入りしていることを知っているからだろう。

 

現に、小町さんはたまにやってくる。『サボりじゃないさ。 ちょっと長めの休憩だよ』とか言いながら。

 

今度来たらチャットでお伝えしよう。

 

 

 

そうだ。閻魔様初来店だし、少しサービスを出そう。

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすく咲夜手作りのモンブランである。

短い手で器用に作るんですよこれが。

 

 

「もぐ……やはり、甘いものは白ですね」

 

「「きゅー!」」

 

 

フフっとにやけながらモンブランを食す閻魔様。やっぱり普通の女の子にしか見えない。

 

すくすくも美味しそうに食べている。俺も後で作ってもらおう、モンブラン。

 

 

 

……あれ。モフモフの鳴き声が1匹多い。

 

 

「あら、私のすくすくですね。丁度良い、モフモフの小町が怠けないよう、ちゃんと見ておいてくださいね」

 

「きゅー!」

 

「きゅー!?」ガーン

 

 

ショックを受けるすくすく小町。

閻魔様からは逃れられないらしい。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさまでした。ナナスケさん、そろそろお会計を」

 

 

かしこまりましたー。それにしても良い食べっぷりだった。モンブランも綺麗に完食してくれましたし、是非また来てください。

 

あ、頬にクリーム付いてますよ。

お手拭きどうぞ。

 

 

「ああ、これはどうも……」

 

 

パシャ! パシャパシャ!!

 

 

「え?」

 

 

突然響くシャッター音。

 

発音元は、喫茶店の窓から覗く2台のカメラ。

 

 

「『意外とお子ちゃま!? 頬にクリームの閻魔大王! 』 見出しは決まりですね。 これは売れますよぉー!」

 

「きゅー!」

 

 

前回の反省を生かし、すぐさまこの場を後にするパパラッチ烏天狗、文さん。

 

 

「……パ、パパラッチは黒ぉぉおお!!」

 

 

ドカーンと扉から出ていく閻魔様。

お会計まだなんですけど……。

 

 

「きゅー」

 

 

なお、すくすく文は逃げることなく、そのままうちに住み着いた。

 

赤い帽子に付いてる白いモフモフが気になるのか、ペシペシと叩いている。

 

烏だけど猫っぽい。

 

 






最後のシーンのすくすく文。
分かりにくかったら私のツイッターに絵が載ってるので、よかったらどうぞ。あんな感じです。


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俺氏、先生になる。

 

 

 

『食欲の秋』

 

 

「この言葉の起源はいくつか存在するが、一般的なのは『実りの秋』と呼ばれるほど、秋には美味しい野菜や果物、魚が多く取れることにある」

 

 

ふむふむ。

 

 

「冬眠する動物は秋の間に食糧を集めるが、それは大昔の人間も同じだった。今でこそ人間は冬眠などしないが、寒い冬を越えるため、沢山の栄養を身体に蓄えようとする本能は、未だ人間に残っている」

 

 

ほほう。

 

 

「そしてその本能は『食欲』を増加させる。その上、秋には美味しいものが沢山ある。それらが組合わさって『食欲の秋』と言う言葉が誕生した……そんな一説がある」

 

 

いやー。慧音先生の授業は為になるなぁ。

 

 

「よし、座学はここまでだ。今からはナナスケ先生によるお料理の授業だぞ!」

 

『やったー!』

 

『きゅー!』

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

『寺子屋で料理実習を行いたいのだが、もしよければ手伝ってもらえないだろうか?』

 

 

 

そう慧音さんのお願いされたのが3日前。

 

即答で了承し、あれよこれよと準備していたら、あっという間に当日である。

 

 

「ほらみんな、ナナスケ先生に挨拶を」

 

『ナナスケせんせーよろしくおねがいします!』

 

 

しかし。まぁ。なんというか。その。

先生と呼ばれると背中がむず痒いな。

 

 

「「「きゅー!」」」

 

 

授業にはもちろん、すくすくたちにも手伝ってもらう。

 

ヘルプはすくすく咲夜とすくすくようむ、すくすくアリスの3匹。何故かすくすくチルノもついてきたが、味見役と言うことで。

 

ただ、人の手も借りたかったので、それは慧音とそのご友人にお願いすることに。

 

 

「よろしく頼むよ。ナナスケせんせい♪」

 

 

ニヤニヤの妹紅さんである。

うおおぁぁぁ背中が痒いよぉぉ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

さて、先生になったとはいえやることは単純。みんなでレッツ・クッキングだ。

 

今日作るのはクッキーである。生地を作り、いろんな形のクッキーを作ろう。この日のために、すくすくにとりがいろんな型を作ってくれたのだ。

 

 

「みてみてけいねせんせー!」

 

「おお、綺麗にできたな。もしかして、すくすくの形か?」

 

「うん! すくすくかわいいもん!」

 

「きゅー!」

 

「ナナスケせんせー! ヒソウテンソクつくった! カッコいいだろー!」

 

 

おお、これが噂の。超カッコいい。

良いセンスだ少年。

 

 

「だろー! もっとたくさんつくるんだ!」

 

 

いやー…やっぱ子供は元気だなぁ。そうでなきゃね。

 

すくすくが子供たちから人気なのは言うまでもないが、俺もそれなりに好かれている。

 

寺子屋へはよくパンのお裾分けに行くしね。自然と仲良くなった。

 

 

「きゅー!」

 

「もふもふー! つめたーい!」

 

「わたしもさわりたいよー」

 

「こっちのモフモフもかわいー!」

 

「きゅー?」

 

 

 

でもやっぱり、すくすくの人気には勝てないね。見学してたすくすくチルノと緑色のすくすくがモフモフされている。

 

緑色のモフモフの正体はすくすく大ちゃん。寺子屋に来る途中に保護した。モフモフなサイドテールが特徴的なおとなしいすくすくだ。

 

2匹とも、子供たちのハートを鷲掴みである。

 

 

「お、すくすくに嫉妬かナナスケせんせい。じゃあ私がモフモフしてやろう」

 

 

……妹紅さん。俺の髪をモフモフしないでください。くせ毛が余計に乱れるッス。すくすくたちをモフモフしてやってください。

 

 

「私は昔飽きるほどモフッたからね。それに、子供たちの邪魔をしちゃいけないだろ?」

 

 

「きゅー!」

 

「きゃー! もふもふー!」

 

 

「な!」

 

 

だからって俺をモフらんでも…。

まぁ、いっか。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

さて。オーブンに入れたら、後は焼き上がるのを待つだけである。

 

オーブンも持ち運びできるものを持参した。すくすくにとり製である。

 

 

……すくすくにとりが過労で倒れないか心配である。

 

 

「きゅー」

 

 

焼く前にオーブンを開け、中からモフモフが出てきたときには、子供たちから謎の歓声が上がった。

 

すくすくもこたんですよ、妹紅さん。

 

 

「おおー! 私じゃないか! ひさしぶりだなー! 元気だったか?」

 

「きゅー!」

 

「おお、相変わらずだなー!」

 

 

まさかの知り合い。

不老不死は伊達じゃないようだ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

焼き上がったらみんなで食べる。いつもなら食べたら終わりだか、慧音さん曰く『感想文を書くまでが授業』らしい。

 

クッキーは子供たちにも好評だった。やはり『初めて自分たちでつくった料理』は美味しく感じるのだろう。

 

 

『きゅー』

 

 

すくすくたちもお疲れ様である。今日は温泉でゆっくり疲れを取ってね。

 

 

慧音さんも、本日はありがとうございます。おかげで貴重な経験ができました。

 

 

「いや、元は私が頼んだことだ。こちらこそありがとう。また機会があったらお願いしても良いかな?」

 

 

ええ、喜んで。

 

 

「おいおいナナスケ。私にお礼の言葉はないのかー?」

 

 

……俺今日妹紅さんにモフられてばっかりだしなぁ。

 

まぁでも、手伝っていただいたことに関してはありがとうございます。

 

 

「素直じゃないなぁ、可愛いやつめ」

 

 

そう言って、また俺の髪をモフモフしてくる妹紅さん。だからやめてー。

 

 

『きゅー…!』

 

 

すくすくたちは羨ましそうな目で俺を見てくるし。

 

お前たち……俺はモフられも嬉しくないんだぞ……。

 

 



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俺氏、ルナティックファッショナブル。

 

 

 

「きゅー」

 

 

高そうな座布団の上に佇む、高貴なオーラを放つ黒いモフモフ。朝起きたら座布団ごと現れていた。

 

うーむ……色以外にこれといった特徴がないシンプルなモフモフだな。 誰のすくすくだろう。俺の知らないキャラかな。

 

 

「きゅーっ!!」

 

 

いろいろ考察していると、白いモフモフが勢いよく黒のモフモフに体当たり。

 

ポッフ――ンと飛ばされる黒のモフモフ。

 

それを見て満足そうな顔の白いモフモフこと、すくすくもこたん。

 

 

あ。もしかして、すくすくかぐや?

 

 

「きゅー!」

 

「きゅー!」

 

 

負けじと反撃の黒モフと応戦する白モフ。これは間違いなさそうだ。

 

2匹は真面目にケンカしてるのだろうが、端から見てると戯れ合っているようにしか見えない。だってケンカ中の効果音がモフッとかポフッしかないんだもん。

 

 

「「きゅー…zzz」」

 

 

その後、疲れ果てたのか、座布団の上で一緒にスヤスヤと眠るすくすくもこたんとすくすくかぐや。

 

 

あぁ。今日も平和だなぁ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

今日のすくすくめーりんはいつもと違う。

 

 

「「きゅー!!」」

 

 

珍しく起きてる。すくすくあうんと意気投合し、気合いを入れるようにきゅーきゅー鳴いていた。テンション高いね。

 

これにはすくすく咲夜もびっくり。きゅー…と逆に心配している。

 

確かめーりんさんは『気』に関する能力を持ってたはず。何かを感じ取ったのだろうか?

 

 

「きゅーっ!」「きゅー!!」

「きゅー!」「むきゅー!」「きゅーっ!!」

 

 

いや、違うなこれ。

 

よく見ると、他のすくすくたちの中にも妙にテンションの高いのがいる。いつも通りのモフモフもいるけど。

 

どうしちゃったのお前たち。

もしかして変なもの拾い食いしちゃった?

 

 

「こらクラピ。 あんまり能力つかっちゃだめよん」

 

「えーっ。だってご主人様、こうしたほうがきゅーきゅー鳴いてかわいいですよぉ」

 

「だーめ。 戻しなさい」

 

 

あれま、お客様の仕業でしたか。

 

イカしたファッションをした女性のヘカさんと、星条旗を擬人化させたような姿の妖精、クラピちゃん。

 

目立つ格好をしてるなぁとは思ったけど、案の定主要人物だったようだ。

 

 

しかし、能力とは一体どんなもので?

 

 

「この娘の持ってる松明の炎は特別製でね。見たものを狂わせるのよん」

 

「ちゃんと加減はしてるわよー。ほら!」

 

「きゅーっ!!」

 

 

狂ってる……と言うよりは、気分が昂ってるようだ。普段は物静かなすくすくサグメが高らかに鳴いている。良いのだろうか。

 

まぁ、しかし。これぐらいならすくすくにも悪影響はなさそうだ。今回は多目に見てあげよう。

 

 

あ、こちらご注文のスイートポテトです。焼きたてをどうぞ。

 

 

「もぐ……うーむ、やっぱりあなどれんなぁ、幻想郷の甘味は」

 

「あなどれんなぁ」

 

 

気に入ってもらえて何よりです。

 

 

ところでヘカさん。そのカッコいいTシャツ、どこで買えますかね……?

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

あの後、ファッションの話題で大いに盛り上がった俺とヘカさん。

 

 

「こんなに趣味嗜好が会う人間は初めてよん! これ、友情の印にあげるわ! 」

 

 

お礼にヘカさん自作のハイカラなTシャツを貰った。正直、超絶嬉しかった。

 

 

 

早速翌日、貰ったTシャツを着てみて、やってきたばんきさんに感想を求めると。

 

 

「ダッサい」

 

 

心を一刀両断された。

 

 

「きゅーっ」

 

 

傷心中の俺に松明を向けてくれたのは黄色のモフモフ。すくすくクラピ。

 

ありがとう。ちょっと元気でた。

 

 

 



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俺氏、病院へ出張。


お気に入りが1000を超えました。全ては読者様の応援のお陰です。本当にありがとうございます。

これからもモフモフ執筆するのでよろしくお願いします。


 

 

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

 

@セーラー戦士・キュアラビット

>あのぅ……いきなりですみません。

>明日の夜、出張をお願いできませんか?

 

@ナナスケは砕けない

>夜ですか? 大丈夫ですよー。

>いつでもどこでも、モフモフを提供します。

 

@セーラー戦士・キュアラビット

>良かった!ありがとうございます!!

>これで純狐さんに売られずに済みます!!!

>本当にありがとうございます!!!!

 

@ナナスケは砕けない

>えぇ……

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

優曇華さんって借金でも抱えてるのかな……人身売買って只事ではないよな……うむむ……。

 

いや、考えても仕方ない。せめて今日は優曇華さんに目一杯癒されてもらおう。少しでも心に安らぎを与えられるように努めるのだ。すくすくたちも頼むぞ。

 

 

「着いたよナナスケ。ここが永遠亭だ」

 

「きゅー!」

 

 

そんなわけで、永遠亭に出張である。

 

 

すくすくもこたんを抱っこした妹紅さんに連れられて、漸く到着、永遠亭。

 

病気とは無縁の生活をしてたから、来るのは初めて。ちょっとドキドキしてきた。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「あら妹紅……もう来ないのかと思っていたわ。まぁ無理もないわね。死なないとは言え、敗けるのは死ぬほど痛いし悔しいものねぇ?」

 

「ははっ。そういう軽口はあんまり叩かない方がいいよ、輝夜。死なないとは言え、敗けたとき死ぬほど恥ずかしくなるよ?」

 

 

 

「……覚悟は良いみたいね」

 

「……ああ、いつでも来な」

 

 

 

 

 

「「いけぇ!もふもふ!」」

 

「「きゅーっ!!」」

 

 

ポカッ、モフッ、ポコッ、モフッ。

 

平和な戦闘音を響かせながら戦うすくすくかぐやとすくすくもこたん。なんでも大昔、よくこうやって戦わせて競っていたとか。

 

2人とも、ホントは仲良しでしょ。

 

 

 

 

さて、俺も仕事をしないといけないね。

キッチンを借りて、早速料理を作ろう。

 

 

「ナナスケさん、今日はご足労頂きありがとうございます。 お料理なら私もお手伝いするので、何でも言ってください!」

 

 

いえ! 結構です! 優曇華さんはすくすくたちとモフモフしててください! お前たち、 頼んだぞ!

 

 

『きゅー!!』

 

「え? ちょ、うわーっ!もふもふーっ!」

 

 

すくすくもみじ。

すくすくらん。

すくすく影狼。

すくすくあうん。

すくすく文。

 

 

名付けて、モフモフ四天王。阿求さんが厳選した、癒しに特化したモフモフたち。優曇華さんを頼んだぜ。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

さて、とくに要望を聞かないでキッチンに来てしまったが、何を作ろうかね。

 

今日は十五夜だし、やっぱりお団子かな。きな粉とかあんこを乗せたものも作ってみよう。

 

 

「きゅーっ!」

 

 

偶然にも、永遠亭に来る途中の竹林で、杵を持った青い兎のすくすくを保護した。

 

餅をつきたいのかウズウズしてるので、団子作りは任せよう。俺は他の準備をしようかね。

 

 

 

『……じーっ』

 

 

料理中、ウサ耳の生えた少女が数人、キッチンを覗いていた。

 

よかったら味見する?と声をかけると、ピョコピョコと寄ってきて、お団子を一口。

 

 

『……!!』

 

 

目を輝かせながら、少女たちはお団子を頬張る。ウサ耳が激しく動いていることから、味は問題無さそうだ。

 

 

それにしても、この娘たちのウサ耳。すくすく並みにモフモフしている。 普通の手入れだけではここまでモフモフにはならないハズだ 。

 

 

これは、もしかして……。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「へぇ…… 流石はあの二人が認めた人間ね。こんなにも早く正体を見破るなんて」モフモフ

 

 

じゃあ、やっぱり貴女が……モフモフ……。

 

 

「天才美人女医改め、モフモフソムリエ八意永琳。お会いできて光栄よ」モフモフ

 

「きゅー!」

 

 

作った料理を縁側に運ぶと、待っていたのは、膝に乗せた兎を撫でている永琳さんと、未だ仲良くケンカ中の妹紅さんと姫様。

 

兎とすくすく青兎を交換し、モフモフする俺と永琳さん。やはり、並みのモフモフではない。モフモフソムリエの称号は本物のようだ。

 

 

「職業上、永遠亭(ここ)を離れる訳にはいかないの。 今日貴方を呼ぶように優曇華に頼んだのは、久しぶりにすくすくをモフりたかったから。 でも驚いた、昔以上に『良いモフ』だわ」

 

「きゅー…」

 

 

永琳さんの見事なモフテクニックに、骨抜きにされているすくすく。

 

気持ち良さそうで何よりである。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「まぁ…! こんなに美味しいお団子は久しぶりだわ!」

 

「ホントに旨いな! 特にきな粉のが良いな!」

 

「は? あんこの方が美味しいでしょ?」

 

「は??」

 

「は???」

 

 

 

キノコとタケノコ然り、甘いものは時として争いを産んでしまうことがある。仕方ない仕方ない。

 

 

「「きゅーっ!」」

 

 

本人たちのと比べて、すくかぐとすくもこはそんなに不仲ではない。今は仲良く団子を食べている。

 

外のすくすくたちも、永遠亭の兎たちと仲良くやっている。モフモフ同士、気が合うのかもしれない。

 

 

「きゅー」

 

 

あ、兎の中にウサ耳のすくすくも混じってら。

 

すくすく優曇華に良く似たモフモフ、すくすくてゐ。何故か穴を掘っている。

 

 

……あれ。そういえば優曇華さんは?

 

 

「鈴仙ならさっきお狐様と一緒にお散歩へ行ったウサ。しばらくは帰ってこないウサよー」

 

 

なんと。永遠亭には狐もいるのか。

今度モフらせてもらおう。

 

 

 



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俺氏、本気の取材を受ける。

 

 

 

「きゅー」「きゅー?」

「きゅー!」「きゅーっ」

 

 

昨日の今日で、ウサ耳すくすくが4匹に増えた。こころがびょんぴょんするね。

 

すくすくうどんげ、すくすくてゐ、すくすくせいらん、すくすくりんご。実に色とりどりである。

 

すくすくりんごは永遠亭の帰り道に保護した。お団子が大好きなモフモフである。

 

 

「きゅーっ!」

 

 

お団子のおかわりを求めるすくすくりんごだが、餅米のストックは残りわずか。

 

今日はもう我慢してね。

 

 

「……きゅー」

 

 

あっ、いじけた。

でもこればっかりは仕方ない。

 

後でお詫びのお菓子を作ってあげよう。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

どうぞ、ご注文のもみじ饅頭です。

 

 

「……文様。これは?」

 

「もみじ饅頭です。ささっ、私に構わずパクッと一口!」

 

「……なぜカメラを構えているのです?」

 

「シャッターチャンスは何時何処で訪れるかわからないものなのですよ」

 

「……新聞の見出しは?」

 

「『もみじ、もみじを食す! 秋の和スイーツに犬走レポーターも絶賛!!』 ちなみに、もみじ饅頭を頬張る椛の写真で1面丸々使います。 これは男性講読者が増えますよ! ありがとう椛! 」

 

「ありがとう、じゃありませんよ!」

 

 

荒ぶる白狼天狗さんこと椛さん。

噂通りふわモフの耳と尻尾をしてらっしゃる。

 

こういう場面、いつもの俺なら椛さんに味方するけど、今回ばかりは文さんの味方なのである。

 

 

実は先日『真面目に宣伝しますので再度取材させてください』と文さんに土下座で頼まれたのだ。

 

 

「嫌ですよ私! 新聞に載るなんて恥ずかしい! 大体なんで私なんですか!」

 

「椛。『秋の新聞大会』がもうすぐあることは知ってますね?」

 

「え? あ、たしか、はたてさんがそんなこと言ってたような…」

 

「優勝者には一攫千金。 その為にはホットな話題と可愛い女の子が必要不可欠なのです。 あ、真面目な大会なので嘘は書けませんから、ちゃんと食レポしてくださいね」

 

「いろいろハードル高くないですか!?」

 

 

 

まぁ、そうゆうことである。

 

今回の文さんは、本気と書いてマジと読むほどガチなのだ。

 

喫茶店(うち)のネタで優勝を狙ってるなら、俺も本気で手を貸さなきゃね。宣伝にもなるし。

 

 

だからお願いです椛さん。食べて撮られて1面を飾ってください。お代は要りませんので。

 

 

「すくすくさんのお写真も載せますね。さぁ、 綺麗に撮ってあげますよー」パシャパシャ

 

『きゅー!』

 

 

すくすくも本気である。

いや、単に新聞に載りたいだけかも。

 

 

「で、でも急にそんなこと言われましても……私、食レポなんてやったことないですよ……?」

 

「ご心配なく。椛はただ食べるだけで大丈夫ですから」

 

「え?」

 

「この方に、椛が思ったことを代筆していただきます」

 

「『可愛いだなんてそんな……えへへ……』 ふむ、満更でもなさそうですねモフモフ天狗さん」

 

「うわああああああ!?」

 

 

覚の瞳で心を真っ裸にするのは、モフモフソムリエのさとりさん。

 

さとりさんも、文さんに土下座で頼まれたらしい。文さんの本気度が伺える。

 

 

椛さんが食べ、さとりさんが赤裸々な感想を読み取って書き出し、それを元に文さんが新聞を作る。椛さんの扱いを除けば完璧だと思う。

 

ちなみに椛さんが選ばれた理由は『真面目で純粋だから』だそうだ。がんばれ椛さん。

 

 

「もちろん、ナナスケさんのことも載せますよ! ちなみに、さとりさんから見てナナスケさんはどんな人ですか?」

 

「そうですね……素晴らしいモフテクニックの持ち主です。うちのお燐も虜になりましたから」

 

「なんと! じゃあナナスケさん、椛を撫でてください! どれだけ気持ち良いか、レポートして貰いましょう!」

 

「や、やめてください! ホントに! せ、セクハラで訴えますよ!」

 

 

ナデナデ

モフモフ

ナデモフナデモフ

 

 

「ふわぁ……くぅん……えへへ……」

 

「うおーっ!椛の恍惚顔ーっ!」パシャパシャ

 

「……ふむ。書き出すには些か恥ずかしい内容ですね。あ、私もモフモフしていいでしょうか?」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

 

 

 

 

 

 

後日談。

 

 

椛さんからの信頼を犠牲に作られた文々。新聞は、見事優勝を果たした。

 

椛さんの写真が一面にドーンと載った新聞は、それはもう飛ぶように売れたのだとか。

 

真面目に作られただけあり、内容もちゃんとしたものとなっていた。本来なら当たり前のことだけど。

 

 

「きゅーきゅー!」

 

「きゅーっ!」

 

 

すくすくの写真と記事もしっかり載っていた。

 

すくすくたちはその部分だけを切り取って、毎日読んでいる。気に入ったらしい。

 

 

 

新聞を読んで喫茶店に来てくれたお客様もたくさんいたが、来てくれたのは人間だけではなかった。

 

 

「「きゅー」」

 

 

新聞を持った2匹のモフモフが、喫茶店にやってきたのだ。

 

ピョコンとしたサイドテールが特徴的な銀色のすくすくと、メイドカチューシャを着けた金色のすくすく。

 

 

2匹が入ってきたとき、すくすくアリスが驚いたような反応をしていた。知り合いなのだろうか?

 

 

 

 



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俺氏、神様たちと出会う。

 

 

 

お客様は神様ですって言葉あるじゃん?

 

 

まさか言葉通りの意味で使う日が来るとは思わなかったよ。

 

 

 

「きゃーっ! アリスちゃんモフモフ! 可愛いわー!」

 

「きゅー…」

 

「新聞の通りの良いお店でしょ? 私の行きつけよん! 」

 

「きゅー!」

 

「ごめんなさいナナスケさん……どうしても来たいって言うものだから……」

 

 

気にしないでくださいアリスさん。

寧ろ神様に来ていただけて嬉しいです。

 

 

 

魔界の神様と地獄の女神様が揃ってのご来店。 ヘカさん、女神様だったんですね。

 

二人はママ友ならぬ神友なんだって。神様にもご近所付き合いがあるらしい。想像すらできない世界観である。

 

 

「ほら夢子ちゃんも。 一度触ると病みつきになっちゃうほどふわふわでモフモフよ!」

 

「きゅー……」

 

「神綺様。そのすくすく、嫌がっているように見えます」

 

「そりゃ私のすくすくだもの…。お母さんには触られたくないわよ……」

 

「ええっ!?」

 

 

アリスさん、難しいお年頃なのかな。

 

神綺さんとアリスさんは家族であって家族ではない関係なんだとか。よくわからないが、そこは家庭の事情。触れてはいけない部分なのだろう。

 

 

そういえばヘカさん。今日はピースちゃんは一緒じゃないんですね。お留守番?

 

 

「クラピは外で遊んでるわよん。 新しいお友達ができたんですって。 やっぱり一人暮らしさせてみるものねー」

 

「きゅー!」

 

「でも時が経つほど、親も子も一人は寂しく感じるものよ? だからアリスちゃん、いつでも帰ってきて良いからね! 」

 

「一人暮らしサイコーよ 。そもそも一人じゃないし。ねー上海」シャンハーイ!

 

「アリスちゃん!?」

 

 

 

アリスさん、反抗期なのかな…。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「これが食べたかったのよん! おいしー!」

 

「きゅー!」

 

「 焼きたてってこんなにも美味しいのね! ビックリだわ!」

 

「いくらでも食べれそうねコレ……うう……太りそう……モグモク……」

 

 

今話題沸騰中の人気スイーツ、もみじ饅頭。文々。新聞さまさまである。メディアの力ってすごい。

 

お店なら焼きたてを提供できるし、テイクアウト用の箱入りセットも販売中だ。

 

 

「きゅーっ」

 

 

更にこのもみじ饅頭、なんとすくすくもみじが直々に焼いてくれている。 もう言うことなしだね。

 

たくさん焼いてくれるのでたくさん食べてくださいねー。夢子さんもどうぞどうぞ。

 

 

「いえ結構です。私はお客として来ているのではなく、神綺様の付き人として来ているので」

 

 

来店してからずっと、神綺さんの後ろに立っている夢子さん。

 

席を勧めても「メイドですので」と断られた。超キリッてしてる。とてもカッコいいが、少し近寄りがたい雰囲気を放っている。

 

 

「きゅーっ」「きゅー!」

「きゅー」「きゅ!」「きゅー!」

 

 

が、そんなもので怯むほど、すくすくの警戒心は仕事熱心ではない。お構い無く、夢子さんの足にモフモフたちはすり寄る。

 

遊んで欲しいのか、スカートをクイクイと引っ張ったり、身体によじ登っているモフモフも。

 

その光景を、離れた席に座っている阿求さんが指を咥えて見てるのは、今は気にしないでおこう。

 

 

「あらー。夢子ちゃんモテモテねー」

 

「ちょ……コラっ、離れなさい。 そんなに甘えられても……」

 

 

そう言って、夢子さんはスカートに引っ付いていたすくすくチルノを持ち上げる。

 

すくすくチルノと目が合う夢子さん。

 

 

「きゅーっ!」

 

 

ズギュ―――ン!!

 

 

軽いデシャヴである。

また一人、すくすくに心を奪われたようだ。

 

 

「………」モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ

 

『きゅー!』

 

 

無言で、無表情。でもどことなく興奮して頬を染めてるかのようにも見える顔で、すくすくたちをモフモフする夢子さんは、とても可愛かったです。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

残ったもみじ饅頭はラッピングしてお土産に。

 

神綺さんにはそれなりの数の身内がいるようなので、是非みんなで食べてくださいねー。

 

ヘカさんも、ピースちゃんにあったら渡してあげてください。

 

 

「わかったわよん。今日もごちそうさま!」

 

「きゅー!」

 

 

……ヘカさん、気づいてないのかな。

 

今日来店したときからずっと、ヘカさんの頭の球体の上に、モフモフな球体が乗っている。

 

言うまでもなく、すくすくヘカさんである。どこから乗ってきたのだろうか。

 

 

「きゅー?」

 

 

頭に乗っける球体によって色が変わる、カラーバリエーション豊富なすくすくヘカさん。

 

…すくすく白沢を乗せたら、緑色になるかな?

 

 

 

 



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俺氏、おみまいに行く。

 

 

 

あと10分ほどで閉店となる頃。

 

俺はとても嫌な予感がしていた。

 

 

「ん? どうしたのナナスケ。珍しく難しい顔をしてる」

 

「きゅー?」

 

 

時間ギリギリまですくすくと戯れていたばんきさんにそう言われた。すくすくたちも不思議そうに首をかしげている。

 

 

うむむ……これは…… 万が一ってこともあるかもな……。

 

 

ごめんなさいばんきさん。今日はもう閉店にします。少し行きたい場所があるので。

 

 

「別にいいけど……行きたい場所ってどこ? と言うか、どうしたのホントに? 」

 

 

 

 

……実は今日ですね。

 

 

 

 

阿求さんが、来てないんですよ。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

と言うわけで、成り行きでばんきさんも一緒に、稗田家の門をくぐりました。

 

 

「ゴホゴホッ……ありがとうございます……御見舞いに来ていただいて……」

 

「きゅー!」

 

「ああ……モフモフで冷たい……気持ちいいです……」

 

 

悪い予感的中である。

 

 

布団に横たわる風邪引き阿求さん。すくすくチルノを連れてきて良かった。しばらくおでこに乗っててね。

 

今まで阿求さんは、多少の体調不良ならマスクと冷えピタを装着してでも喫茶店(うち)に来ていた。

 

そこまでして来てくれていた人が来ないのだから、よっぽどのことだろうと思ったが、案の定である。

 

 

「うぅ……くやしいです……私の皆勤賞が……」

 

「小学生か。 諦めて寝てなよ」

 

「くぅ……もふもふぅ……」

 

「きゅー」

 

 

ばんきさんに諭されて尚、身体を起こしてすくすくうどんげをモフモフする阿求さん。モフモフしてもらう為に連れてきたわけじゃないんだけどなぁ。

 

まぁ、ここは俺もばんきさんと同意見だ。今まで無理してきたツケがきたのだろうし。今はモフモフより体調の回復を優先させてください。

 

ばんきさんとすくすくは、阿求さんを見守っててください。俺は使用人さんに頼んで、調理場を借ります。

 

 

「いってらー」

 

「ヘックシュンッ!……何から何まですみません……もふもふ……」

 

「きゅー!」

 

 

……ばんきさん。阿求さんを寝かせといてください。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

喫茶店ではスイーツとかランチしか作ってないが、それ以外の料理が作れないわけではない。

 

病人食の定番と言えばお粥だろう。材料は持って来てるし、お屋敷の調理場もなかなか立派だ。流石稗田のお屋敷、これなら作るのに時間はかからないだろう。

 

 

「きゅー」

 

 

作っている途中で、ズボンの裾を引っ張られる感触が。

 

引っ張っていたのは、赤い十字模様の入った青色の帽子を身に付けた銀色のモフモフ。

 

すくすくえーりん、ナイスタイミングの登場だ。手に持ってるのは薬かな。なんか……すごい色をしている。

 

 

「きゅーっ!」

 

 

えっ。お粥にこの薬をいれろと?

 

 

……モフモフを信じよう。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

ただいま戻りましたー。お粥ですよー。

 

 

「コホッ、ありがとうございます!」

 

「…………」

 

 

あれ。なんだか阿求さん。

さっきより元気になってません?

 

 

「モフモフしてたら良くなってきました。 やはりすくすくさんは偉大ですね!」

 

「「きゅー!!」」

 

 

際ですか。

 

阿求さんのモフリストとしての成長は留まることを知らないようだ。まぁ元気そうならいっか。

 

 

「…………」

 

 

あれ。どしたんですかばんきさん。顔が赤いですよ。もしかして、阿求さんの風邪が?

 

 

「そうですねぇ。 蛮奇さんの病気は、私と同じものかもしれませんね!」

 

「!? ちょ、おまっ、阿求! さっきと言ってること違う!」

 

「ふふふ」

 

 

……なんだかすごく仲良くなってらっしゃる。 これが女同士の友情ってやつか。男が入る隙間はなさそうだ。

 

 

まぁ、ともかく、お粥をどうぞ。モフモフで元気になったとは言え、阿求さんはまだまだ病人です。栄養とって、たくさん寝て、しっかり治してくださいね。

 

 

キツそうなら食べさせましょうか?

病人は無理しちゃいけませんよ。

 

 

「あっ! それなら是非」

 

「私がやるからお前は寝てろォ!!」

 

 

ドゴォンと、腹に一発鈍い痛み。

 

ばんきさん……本気の腹パンは死ぬって……と言うか、何故ゆえ腹パン………ガクッ。

 

 




次回、ばんきっき回 。


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私、認める。


前話のばんきっき視点です。

真面目に書いたので真面目なラブコメ回になってます。後悔はしてません。


 

 

「阿求さんがきっとピンチです。稗田家に行きましょう」

 

 

ん、いってらっしゃい。

 

 

 

………………。

 

 

 

えっ? 私も行くの?

 

 

「きゅー!」グイグイ

 

 

ちょ、モフモフ。引っ張らないで。

わかったから。ついてくから。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

稗田阿求。

 

 

幻想郷に住む人妖で、彼女の名前を知らないものはまずいない。それぐらいの有名人。

 

当然、そんな有名人と私の間に接点はない。直接会話したのは『幻想郷縁起』の取材をされたときの1回だけだ。

 

喫茶店に行く度「今日もおる……」と思っていたけれど、毎日来ていたとは知らなかった。流石は名門稗田家、相当裕福なんでしょうね、羨ましい。

 

 

 

外見だけなら生まれて十数年の人間だが、実は転生を何度も繰り返している存在だ。稗田の精神、魂は、妖怪の私より歳上かも知れない。

 

 

「ゴホゴホッ……うぅ……悔しいです……私の皆勤賞が……」

 

「きゅー」

 

 

いや、意外に子供かも。

 

身体を起こして悔しそうにすくすくをモフモフしている姿は、外見相応の少女だ。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「ゴホゴホッ……えーっと、ろくろ首さんも来てくださってありがとうございます」

 

 

ナナスケがキッチンに向かうため部屋から出た後で、稗田が口を開いた。相も変わらずすくすくをモフモフしながら。

 

 

「蛮奇でいいよ。それにお礼も要らない。私はアイツに付いてきただけ」

 

 

正確にはモフモフに引っ張られて仕方なく、だけどね。

 

限りなく他人に近い者のお見舞いに行くほど、私の心は広くない。ましては、名門稗田家に媚を売るつもりも、借しを作るつもりもない。

 

 

 

「――私は、孤高を生きる妖怪だから」

 

 

 

……ふっ。今のはなかなか決まったな。

妖怪のカッコ良さが滲み出てるに違いない。

 

心の中でそう思いながら、出されていた御茶を啜る。

 

 

 

「……蛮奇さんって」

 

「ん?」

 

「好きですよね。ナナスケさんのこと」

 

 

 

盛大に吹き出した。

 

ちょ、え? 何で知っ……違う違う違う違う! 今の思い間違い!

 

 

「……わかりやすい反応ですねぇ」

 

「ゲホッ……いやいやいや! 何いきなり! 何でそんなこと聞くの!? 頭大丈夫!?」

 

「頭も身体も、すくすくさんのお陰でとても楽になりました!」

 

「きゅーっ!」

 

 

稗田は頭に冷たいモフモフを乗せたままガッツポーズする。

 

すくすくも「私が治した!」と言っているかのように万歳していた。

 

 

「それで、実際どうなんですか? 私、とっても気になります!」

 

「きゅー?」

 

 

心なしか楽しそうな稗田と、よくわかってなさそうなモフモフ。

 

この娘……人の恋バナで飯が食べれるタイプの人間だったのか……くっそう……苦手なタイプだ……!

 

 

いや、ちょっと、落ち着け私。

 

ここてテンパってはダメだ。私の経験上、頭を冷やして冷静に言い返さねば、次に何を言われるかわかったもんじゃない。

 

 

焦ったら敗けだ。

ゆっくり、確実に否定しよう。

 

 

「ま、まぁ確かに? 意識してた時期もあったけども、それイコール好きってわけじゃないから。百歩譲って好きだとしてもlikeの方だから。 この前『月が綺麗ですね』ってアイツに言ったけど 、そのまんまの意味だから。 深い意味とかないから。 夏目漱石とか知らないから!」

 

 

 

あぁーダメだ! 全然落ち着けてねぇ!

 

絶対要らんことまで口走ってるわ私! 絶対早口になってるわ私!

 

 

 

 

「じゃあ、私が貰ってもいいですか?」

 

 

 

「……えっ」

 

 

 

稗田のその一言に、私は固まった。

 

 

 

「すくすくさんは好きです。可愛いですし、一日中モフモフしてあげたいぐらい大好きです」

 

「きゅーっ!」

 

「ですが。それ以上に、私はナナスケさんが好きです。無愛想だけど優しくて、一緒にいると不思議と楽しいんです」

 

 

 

 

「毎日喫茶店に通う本当の理由は……稗田阿求として少しでも長く、ナナスケさんと一緒の時間を過ごしたいからなんです」

 

 

 

 

 

 

何も、言えなかった。

 

 

 

 

あれ。なんだこの気持ち。

 

 

ナナスケと私は知り合い程度の仲だ。別にどうってことない。アイツの隣に誰が立ってても、私には関係ない。

 

 

そう、関係ないんだ。

何故なら私は、孤高を生きる妖怪だから。

 

 

私は孤高を……生きて……

 

 

孤高に……一人で……

 

 

 

「わ、私も……」

 

 

 

一人は……寂しかったな……

 

 

 

 

「私も好きだから! ナナスケは絶対に渡さないから!

 

 

 

 

やっぱり、渡したくない。

 

 

 

ろくろ首の私を助けてくれたアイツを。

 

孤高と言い張る私の心に、ズカズカと入り込んではメチャクチャにしていくアイツを。

 

妖怪である私が来てくれることを、楽しみにしてくれているアイツを。

 

 

渡したくない。

 

 

だって、やっぱり、本当は、大好きだから!」

 

 

「……それが、本心なんですね?」

 

 

 

私は黙って頷く。

 

稗田の寿命が短いのは知っている。だからって身を引くほど、妖怪の独占欲は弱くない。

 

恋のライバル……そんな関係も、ときには良いかもしれない。絶対に負けないから。

 

 

 

 

「ちなみに、今まで私が言ったこと。全て冗談ですって言ったら、怒ります?」

 

 

 

 

…………。

 

 

えっ??

 

 

 

「あはは……ごめんなさい。とても面白い反応でしたので、少しからかいたくなっちゃいました。 私、蛮奇さんの恋路を陰ながら応援します♪」

 

「きゅー!」

 

 

……え、ちょ 何それ。

何その笑顔。何その音符マーク。

 

 

冗談? 今までのくだり全部?

嘘でしょ? それこそ冗談でしょ?

 

 

 

「いやぁ……しかしまぁ。そこまでゾッコンでしたとは……聞いててちょっぴり恥ずかしくなっちゃいました。 恋の病は女の人を変えますね!」

 

 

 

ウワアアアアあああぁぁぁぁぁ!!

 

ウオアアアアアあああぁぁぁぁ!!

 

 

嵌められた! 恥ずかしい!死にたい!

 

私、どこまで口走ってた!? 夢中だったから覚えてない! 全部だったら首吊って死ぬ! 首ないけど!

 

 

ああ! 今の稗田、いや阿求は草の根(あいつら )と同じ顔してる! 全力で人の恋路で楽しもうとしてるニヤニヤ顔だよ!

 

そんな目で見るな! 風邪悪化してしまえ!

 

 

 

うおお……とにかくアイツが戻ってくる前に、顔の火照りをどうにかしないと……ちょっとごめんモフモフ、顔埋めさせて。

 

 

「きゅー?」

 

 

ああ……冷たくてモフモフ……。

 

 

でもしばらく……収まりそうにないや……。

 




こんなに真面目な回()はきっと最後です。

次回から最後まではモフモフコメディで突っ走ります!


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俺氏、再び観察する。

 

 

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ナナスケオルフェノク

>久しぶりだな。ハゲ。

 

@モナカらいおん

>前から思ってたけど

>君、オレのこと嫌いでしょ

 

@ナナスケオルフェノク

>ちょっと聞きたいんだけど

 

@モナカらいおん

>スルーかよ

 

@ナナスケオルフェノク

>女心について教えてくれ

 

@モナカらいおん

>知らねぇよ

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

「きゅー」「きゅーっ!」

「きゅ!」「きゅー?」「きゅー」

 

 

モフモフモフモフ モッフモフ

 

 

「きゅー!」「むきゅ?」「きゅー…」

「きゅー」「きゅー!」「きゅーっ!」

 

 

モフフワモフフワ モッフモフ

 

 

 

うーむ……喫茶店と言うより、ふれあい動物園になりつつあるなぁ。改装してなかったら、今頃ここはモフモフのプールとなっていただろう。

 

この前に数えたときは30匹ぐらいだったが、さっき数えたら60匹を越えていた。多っ。

 

こんなに多いと魔理沙さんに盗まれてもわからない気がする……俺も気を付けるけど、すくすくたちも気を付けてね。知らない人と白黒魔法使いにはついて行っちゃだめだぞ。

 

 

 

今一度、喫茶店にどんなすくすくたちがいるか観察しよう。

 

 

 

 

「きゅーっ!」

 

 

すくすく小傘は人を驚かすのが好きなモフモフ。

 

バレないようにお客さんに近づいては「きゅーっ!」と鳴きながら紫色の傘を見せつける。

 

 

「きゃー! びっくりー!」

 

「きゅー!」

 

 

驚いてあげるととても喜ぶ。

妹紅さんノリノリである。

 

 

「おっ。元気だねぇモフモフ。梨タルト、一口どうだい? ほれほれ」

 

「きゅぅ……」

 

「あれ? いらなかったかい?」

 

 

驚かないとしょぼーんってなる。

小町さん。そうじゃないです。

 

 

だけどモフモフしてやると機嫌が良くなり、次のお客さん(ターゲット)へと向かう。すくすく小傘はめげないのだ。

 

 

 

 

 

「「きゅー!」」

 

 

すくすく雷鼓とすくすくいくさんは、触るとパチパチしている。静電気だと思うのだが、痛くはない。むしろ心地よいパチパチである。モフパチである。

 

相性が良いのか、2匹でじゃれあっていることが多い。

 

 

「きゅーっ」

 

 

そんな2匹に引き寄せられるように、モフモフが降ってきた。

 

すくすく布都と同じ被り物をしている緑色のすくすく。もふもふ豪族かな。

 

 

 

 

 

「きゅー!」パシャパシャ

 

 

すくすく文は写真を撮るのが大好き。

 

いつでもどこでもお構いなしに、専用のミニカメラでパシャパシャしてる。

 

撮った写真は、次の日には現像されている。とても綺麗に撮れてるが、現像手段は謎のまま。モフモフ七不思議の1つである。

 

 

「きゅー!」パシャパシャ

 

 

そんなすくすく文に対抗するように、ガラケーで写真を撮る1匹のモフモフが窓から入ってくる。

 

すくすくはたて。もふもふの短い手で器用にガラケーを操っている。

 

 

「きゅー」「きゅー」

 

 

互いに撮った写真を見比べながらきゅーきゅー言い合う2匹。どんな会話をしてるのだろうか、気になるところである。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

観察してるだけなのに増えていくモフモフたち。ホントどこからやってきてるのか。

 

まぁ、考えてわかる問題じゃない。 もう閉店の時間だし、ココアでも飲んで一息いれよう。

 

 

それにしても、今日は冷える。秋もそろそろ終わりだろうか。内装も冬バージョンにコーディネートし直さなきゃ。

 

 

「「きゅー…」」

 

 

あっ、すくすく秋姉妹が露骨に落ち込んでしまった。

 

しかし、季節は廻るもの。秋はまた来年やって来るから、その時はまた楽しもう。

 

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすく秋姉妹を慰めつつモフモフしていると、白いモフモフが、白い粒と一緒に、窓からふわふわと入ってきた。

 

 

すくすくレティと、初雪だ。

 

 

 

冬、到来である。

 

 

 

「「きゅぅー……」」ポカーン

 

 

 

あっ、すくすく秋姉妹が燃え尽きたように真っ白に。

 

 



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俺氏、誘われる。


ここから冬編ですよー。



 

 

『きゅー』

 

 

こたつで丸くなるすくすくたち。

 

 

『きゅー!』

 

 

降り積もる雪にはしゃぐすくすくたち。

 

 

『きゅー?』

 

 

いつも通りのすくすくたち。

 

 

すくすくたちの行動は十人十色。みんな違ってみんな可愛いのだ。

 

ちなみに俺は寒いのが苦手なので、こたつに籠る。今日はお休みだし、すくすくたちとミカンを食べながらのんびり過ごすのだ。

 

 

こののんびりスタイル、喫茶店に取り入れたら流行るだろうか。準備は大変だけど、試してみよう。

 

 

「ごめんくださーい」

 

 

今後の経営方針を考えていたら、誰かやって来たようだ。この雪の中誰だろうか。 こたつから出るのは非常に惜しいが、仕方ない。

 

傍で丸まってたすくすくおりんを抱き締めながら玄関へ向かおう。モフモフは温かいのだ。

 

 

「きゅー…」

 

 

ごめんよー。すぐにこたつに戻すから。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「あぁー……ありがとうございます……温かいですねぇ……こたつにモフモフちゃん……」

 

「モフモフー!」

 

「きゅー」

 

 

やってきたのは守矢神社の風祝、早苗ちゃん。マフラーしてるとはいえ、へそ出し腋出しの格好は寒いと思うよ……。

 

買い物途中で雪に降られ、たまたま喫茶店(うち)が近かったから避難しにきたようだ。

 

この雪の中、露出度の高い女の子を突き返すような俺ではない。雪が治まるまでゆっくりしていってね。

 

 

「ではお言葉に甘えて……モフモフちゃん、 一緒にこたつで丸くなりましょう!」

 

「ミカンおいしー!」

 

「「きゅー!」」

 

 

早苗ちゃんのお気に入りはネコ科のすくすく。早苗ちゃんはネコ派らしい。イヌ科のすくすくはしょんぼりである。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

さて。せっかくの客人だし、何か温かいものを作ろうか。

 

買い出しは先に済ませてあるから、材料はいくらでもある。良い機会だし、冬の新メニューを作ってみよう。

 

チョコレートケーキもとい、ガトーショコラ。寝かせるとより美味しいが、焼きたては焼きたて特有の美味しさがあるのだ。

 

 

本来、猫にチョコを与えてはいけないが、すくすくは「すくすく」って生物だから大丈夫らしい。阿求さんや永琳さんが言うんだから問題ないだろう。

 

 

「「きゅーっ!」」

 

 

すくすく咲夜とすくすくようむ、涎を垂らしながらも手伝う準備万端。

 

すくすくたちは甘いものに目がないのだ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「きゅーっ」

 

「……むにゃむにゃ……すわこさま……それは私のオヤツですよぅ……」

 

「やったー! ケーキだー!いえーい! 」

 

 

作り終えて戻ってきたら、早苗ちゃんはコタツムリと化して眠っていた。頭に緑のモフモフを乗せながら。

 

すくすく早苗、常識にとらわれないモフモフだ。

 

 

……やっぱりすくすくって、人の頭から生えてきるんじゃ……いや、深く考えないようにしよう。

 

 

 

あと、何か、今気づいた。

 

見間違い聞き間違いじゃければ、見慣れない少女がすくすくおりんを抱きながら、こたつで寛いでいる。

 

 

「ねぇねぇ。早く食べようよー」

 

「きゅーっ」

 

 

ああ、これ間違いじゃないね。

こいしちゃんがいるわ。

 

でも、なんでここに?

 

 

「んー……なんでだろうねぇ。 ケーキ食べたら思い出すかもー」

 

 

身体を左右に揺らしながらケーキを催促してくるこいしちゃん。

 

 

「zzz………はっ!甘い香り!」

 

「きゅー!!」

 

 

早苗ちゃんも起きたことだし、食べながらゆっくりお話しようかね。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「おもひだひた! ふぉれ、おへえちあんはらあははひ!」

 

 

……こいしちゃん、ワンモワ。

 

 

「こいしさん。ちゃんと飲み込んでから……ああ、口にチョコがついてます……」フキフキ

 

「モグモグ……ゴクン! これ! お姉ちゃんからあなたに!」

 

 

早苗ちゃんに口を拭かれながら、こいしちゃんは帽子の中から1通の手紙を取り出す。

 

手紙の内容を要約すると『地霊殿に遊びに来ませんか?』とのこと。

 

 

地底かぁ……面白そうかも。せっかくのお誘いだし、次のお休みに皆で行ってみようか。

 

 

 

 

 

 

 



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俺氏、地底へ旅行(前編)。

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ナナスケオルフェノク

>と言うわけで、送迎をお願いしたいのですが

 

@ゆかりん(14)

>いいわよ。喫茶店の裏庭に

>地霊殿に繋がるスキマを開いてあげるわ

>気を付けていってらっしゃい

 

@ナナスケオルフェノク

>はーい

 

@ゆかりん(14)

>その代わり、お土産よろしくね♪

>私は美味しいお酒がいいわ!

 

@式

>油揚げを所望します。

 

@式の式

>わたし、お魚が良いです!

 

@ナナスケオルフェノク

>……はーい

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

まぁ、ともあれ。無事に許可は出た。

 

あれがスキマだな。行こうみんな。

 

 

『きゅーっ!』

 

 

総勢60匹以上。気分は遠足の先生。

みんな、おやつは300円までだぞ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介を。地霊殿の主にして『モフモフソムリエ』古明地さとりで」

 

「きゅー!」クイクイ

 

「え、遊んでほしい? んもぉ…甘えん坊ですねぇすくすくさんは…」

 

 

自己紹介の途中にも関わらず、見たことないぐらいデレデレ且ニヤけた顔ですくすくをモフモフと戯れ始めるさとりさん。きっとあれが素なのだろう。

 

 

そんなわけで地霊殿。

 

聞いていた以上に広い上、動物園もびっくりするぐらい、たくさん動物が住み着いている。

 

犬、猫、りす、ウサギ、キリン、ライオン、ペンギン、ミミズク、バク、エトセトラ。とにかくたくさんいる。 躾はちゃんとされてるから、噛まれることはないのだとか。

 

 

試しにライオンに抱き付いてみると、快く受け入れてくれた。すくすくに負けず劣らずのモフモフでした。

 

 

「きゅー」

 

「にゃーん」

 

「きゅーっ!」

 

「ホーホー!」

 

 

すくすくたちも他動物との交流を図っている。

 

すくすくちぇんがネコと戯れてたり、すくすく神子がミミズクと意気投合してたり。コミュニケーションは順調の様だ。

 

 

「にゃー!」

 

 

いろいろと地霊殿を見て回っていると、1匹の黒猫が飛び付いてきた。

 

お燐ちゃん。相変わらず良い毛並みだ。どれ、戯れてあげよう。ホレホレ。

 

 

「にゃぉ……♪」

 

 

顎を撫でてあげると、気持ち良さそうな声でお燐ちゃんは鳴く。……これ、お燐ちゃんがいきなり人型になったら、いろいろ誤解を招きそうだなぁ……。

 

 

「きゅぅ~……」パルパル

 

 

お燐ちゃんを撫でていたら、何やら視線を感じた。

 

視線の先を辿ると、部屋の隅っこで妬ましそうにこちらを見るモフモフが1匹。

 

すくすくパルスィだ。

パルパルしておられる。

 

……構ってほしいのかな?

 

 

「きゅー!」

 

 

撫でてあげたらとても喜んだ。

あまり根に持たないタイプらしい。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「きゅー」「きゅ!」「きゅー?」

「きゅーっ!」「きゅー」「きゅー…」

「きゅー」「きゅー?」「きゅー!」

 

 

「あぁ……良いです……これは良いモフです……!」

 

 

頭にすくすくパルスィ乗せ、お燐ちゃんを抱っこしながらさとりさんの元へ戻ると、さとりさんがモフモフに埋もれていた。

 

うーむ、どこかで見たことある光景。でも、あのころと比べてすくすくは増えたから、比喩でもなんでもなく、文字通りの意味で埋まってしまっている。

 

 

「はぁ……もふもふぅ……♪」

 

 

さとりさん。キャラがブレッブレですよ。

 

 

「にゃーん……」

 

 

これにはお燐ちゃんも冷たい視線。

 

気持ち良さそうなところ悪いが、発掘させていただこう。

 

 

 





後編へ続きます


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俺氏、地底へ旅行(後編)。

 

 

せっかく地底へ来たのだから、旧都の方にも行ってみようと思う。お土産も買わなきゃいけないし。

 

しかし、地底は地上と異なり、人間が一人で出歩くには危険な場所である。

 

 

モフモフに埋もれたままのさとりさんに相談してみると。

 

 

「でしたら、お燐を連れていくと良いでしょう。この娘が一緒なら危険はありません」

 

 

そんな答えが返ってきたので、ボディーガードよろしくね。お燐ちゃん。

 

 

「にゃーん!(安心しなよ! もしものことがあっても、お兄さんの死体は大切にするから!)」

 

 

いい返事だ。命を預けよう。

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすく萃香も一緒に行きたいようだ。お酒が盛んな所だからかな。よっしゃ来い。

 

 

 

そんなわけで。

 

右肩にお燐ちゃん、左肩にすくすく萃香、頭にすくすくパルスィを乗せて、スタンバイOK。

 

いざ行かん。未知なる世界、旧都。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

お昼過ぎにも関わらず、多くの妖怪の笑い声で居酒屋が賑わっている。

 

地上では絶対に見られない光景。さすが地底だ。

 

 

「! きゅーっ!」

 

 

何かを見つけたのか、すくすく萃香が肩から飛び降りて、一軒の居酒屋に入っていく。

 

 

「きゅーっ!」

 

「おっ、見たことない妖怪だね。新入り? 飲む?」

 

「ようかい……なの? それにしては……かわいいような……」

 

「ん? その角、萃香じゃないか! えらく可愛くなったなお前!」

 

「きゅー?」

 

「何この愛嬌……あざとい……あぁ妬ましい……」

 

 

追いかけるように入っていくと、そこには見たことある3人の金髪女性と、桶に入った1人の少女が。

 

 

失礼。女子会中でしたか。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「ほう、アンタが古明地が言ってた人間か。あんまり強そうじゃないねぇ。まぁ飲みな!」

 

 

自己紹介を終えると、勇儀さんがそう言って巨大な盃を渡してくる。ごめんなさい、人間用のをください。

 

 

「あの菓子を作った人間かぁ、なかなか美味しかったよね」

 

「まかろん……おいしかった……です……!」

 

 

どうやら地底の妖怪にも、うちの料理は口に合ったようだ。正直不安なところもあったから、ちょっと安心。

 

これは喫茶店『モフモフ』地底店も夢ではないかも……。

 

 

「……で、このモフモフは何よ。それで私のつもりなの?」

 

「きゅーっ」

 

「はっ……私はこんなに愛くるしくなければモフモフもしてないわよ。それで私を語るなんて嫌味なの?妬ましい」

 

「きゅー!」

 

「………ね、ねたましい」

 

 

そう言いながらも、すくすくパルスィの頭を撫でる橋姫様。多分、言うほど妬んでないと思う。

 

あ、そうだ。地底に来れる機会なんてなかなか無いし、一応聞いておこう。

 

 

地底で他のすくすくを見ませんでしたか?

 

 

「うちは知らないなぁ。キスメどう?」

 

「……この子?」

 

「きゅーっ!」

 

 

キスメちゃんは一度桶の中に潜ると、小さい桶を持って出てきた。中にはもちろん、すくすくキスメが入っている。

 

曰く、今日の朝起きたら桶の中に居たのだとか。狙ったようなタイミングである。

 

 

この流れなら、ヤマメさんのモフモフも何処かにもいると思うのだが……。

 

 

「えっ、うちの? そうだね……もしうちがモフモフだったら、天井の隅っこに巣でも作ってるかな!」

 

「きゅー」

 

「……うわっ、ホントにおる……」

 

 

自分で言って自分で落ち込んでるヤマメさん。「うちってそんなに安直?」って。まぁ蜘蛛ですし。

 

糸を使って器用に降りてくるすくすくヤマメをキャッチ。どうやら手から糸を出せるようだ。

 

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

 

 

 

 

 

ただいま帰りましたよん。ひっく。

 

 

「お帰りなさいナナスケさん……まぁ、酔ってますね。とても」

 

「お兄さん、意外に弱いんだねぇ」

 

「きゅー……」

 

 

人型お燐ちゃんの猫車に乗せられて、地霊殿に戻ってきましたよーっと、ひっく 。

 

いや、俺が弱いと言うか、あの人たちがおかしいんですって。あの後、結局あの盃で飲まされましたし。んもーホント死ぬかと思いましたよー。

 

でも気分は悪くないですよー。今なら何でもできそうな気がきます。愛の告白だって余裕のよっちゃんですよ。今から行く? 行っちゃいます?

 

 

「……大変面白そうですが、後悔したくないのなら、そのまま眠ることをオススメします。お燐、寝室へ連れていってあげてください」

 

「はーい」

 

「あ。すくすくさんはこちらに来てください。一緒にお風呂に入りましょう」

 

『きゅーっ!!』

 

 

あー…なんかとっても良い気分だなぁー…。

 

 



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俺氏、夢を見る。

 

 

 

 

……死ぬほど気分が悪い……うごご……。

 

 

気が付いたら地霊殿の一室で横になっていた。あまり覚えていないが、相当酔っぱらっていたらしい。柄にでもないことを口走ってた気がしてならない。

 

お酒って怖いね。あたま痛い。

 

 

「きゅー」

 

 

お腹の上で、モフモフがジト目で俺を見ている。やれやれこの男は……みたいな感じで、3つの瞳が俺を見つめていた。

 

ピンクのモフモフ、すくすくさとりだ。

 

 

 

……うん、しばらく禁酒だな。

反省します。土下座。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

しんどい身体を引きずりながら、なんとか喫茶店に帰還。さとりさん、お燐ちゃん、お世話になりました。

 

日帰りのつもりだったのに、朝帰りになってしまった。今日の喫茶店は臨時休業にしよう。なんも準備できてないし。

 

 

それ以前に、俺の体調がヤバい。自業自得とは言え、立ってるのが精一杯。少し横になろう。

 

 

「きゅー!」

 

 

入口に『本日休業』の札を張ってから布団を敷いてると、すくすくえーりんが短い手で薬を差し出してきた。

 

二日酔いに効く薬だろうか。

有り難くいただこう。

 

 

それじゃあ、もう一眠りします。

おやすみなさーい……。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「むふぅ……今日の夢もモフモフしてますねぇ。でもほんのりお酒臭い。昨晩、飲んでました?」

 

 

そりゃあもう。鬼に勧められるがままに。

 

 

時偶、夢の中に女性が現れる。名前はドレミーさん。悪夢を食べてくれる良い人だ。

 

 

初めの頃は

 

『貴方の夢はモフモフしてて食べづらいので嫌いです』

 

ってよくわからん理由で嫌われていたが、

 

『貴方の夢はモフモフしてて寝心地が良いですねぇ』

 

ってよくわからん理由で気に入られた。変わった人である。

 

 

夢の中の出来事って忘れてることが多いけど、ドレミーさんが出てくる夢は、現実の出来事のように鮮明に覚えている。

 

それは別に良いのだが、お陰であまり眠ってる気がしないんだよなぁ。俺の脳、ちゃんと休まってるのだろうか。

 

 

「安心してくださいな。ちゃーんと快眠してます。ドレミーさんが言うのだから間違いないですよー」

 

 

……なんとなく、胡散臭い。

 

 

 

――――――

 

 

 

ドレミーさんと雑談してると、時間があっという間に過ぎていく。夢の中だからだろうか。

 

よし、そろそろ起きよう。

 

 

「えぇー、もうですか? 起きても辛いですよー」

 

 

そう言われましても。

すくすくたちも待ってますし。

 

ドレミーさんは俺……じゃなく、俺の夢を離したくない様子。そんなにモフモフなのか、俺の夢。

 

 

「ではせめて、私が安らかに起こしてあげましょう。強く生きてくださいねー」

 

 

そう言って、ドレミーさんは本の中から取り出したラッパを、思いっきり吹くのであった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「きゅー!」ポフポフ

 

 

ほっぺに心地良い衝撃を感じながら起床。おはようございます。

 

俺を叩き起こしてくれたのは、紺色のモフモフ、すくすくドレミーさん。起こすってそうゆうことですか。

 

 

それにしても、清々しい気分だ。流石はすくすくえーりんの薬、頭痛は跡形も無くなった。

 

ドレミーさんはまだ辛いと言ってたけど、ばりばり元気である。あれはどういう意味だったのだろうか。

 

 

「きゅ!」

 

 

ん、どしたのすくすくドレミー。

 

 

え? メッセージが来てる? どれどれ。

 

 

 

 

――― GSチャット―――

 

 

 

@ゆかりん(14)

>お み や げ は ?

 

 

@ゆかりん(14)

>ね ぇ ?

 

 

@ゆかりん(14)

>お み や げ は ?

 

 

@ナナスケオルフェノク

>…………

>…………

>……て、てへぺろ。

 

 

@ゆかりん(14)

>EXCEED CHARGE

 

 

 

 

 

ナナスケオルフェノク さんの アカウントが

灰になりました!

 

 

 

――― チャット END―――

 

 

 

 



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俺氏、羨ましい。

 

――― GSチャット ―――

 

 

@電脳獣ナナスケ

>紫さんって怒ると怖いね

 

@( 罪)

>そんなところも尊いだろう?

 

@電脳獣ナナスケ

>わかりかねる

 

@(#罪)

>なんでじゃ!!

>恋は盲目なんだぞ!

>好きな人なら怒ってる姿も可愛く見えるだろ!

 

@電脳獣ナナスケ

>…………確かに。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

何度目かわからないが、小町さんに見逃してもらって何とか生還。

 

俺も悪かったけど、紫さんは容赦無さすぎだと思うねん。

 

 

「きゅーっ!」

 

 

うん。気を取り直していこう。

 

 

今日から本格的に冬スタイルでの営業だ。

 

お客様にこたつでくつろいでもらいながら、料理を食べたり、すくすくと戯れてたりしてもらうのだ。ミカンも無料提供するぞ。

 

入口の『臨時休業』の札を外して準備完了。

さて、今日はどんなお客様が来るかな。

 

 

「ここ、一緒に来たかったの。とっても可愛い小動物がいるのよ。うどんちゃんもきっと気に入るわ」

 

「そ、そうっすか………」

 

 

常連の金髪さんと、耳に水分が行き渡っていない優曇華さんが、カップルみたいに腕を組んで入ってきた。

 

……デートかな。デートだな。

 

 

「店員さん。『いつもの』お願いするわ」

 

 

承りました。お客様2名入りまーす。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「うどんちゃん。はい、あーん」

 

「…あ、あーん……」

 

「うふふ♪ おみかん美味しい?」

 

「は、はい……とっても……」

 

 

こたつでミカンを食べさせあいっこしている2人。とてもラブラブである。

 

金髪の女性は純狐さんと言うみたい。どこかで聞いたことある気がするけど……まぁいっか。

 

イチャイチャしている所失礼します。

こちら『いつもの』です。

 

 

「きゅー?」

 

「うどんちゃん。この子がね、とってもかわいいの。まるでうどんちゃんみたい」

 

「いや、それ私の……って、いつもので私が出て来るの!?」

 

 

純狐さんの『いつもの』とは、すくすくうどんげと季節のスイーツセット。純狐さんは本当に優曇華さんが大好きなのだ。

 

ちなみに、今日のスイーツは焼きプリン。温か甘いですよ。

 

 

「今度はうどんちゃんが食べさせてほしいわ」

 

「え゛。そ、それはちょっと……」

 

「    ダ     メ  ?   」

 

「……純狐さん、あーん」

 

「あーん♪」

 

 

言ってることもやってることも、どう捉えてもラブラブカップルのそれなのに、優曇華さん、悟ったような眼をしている。不思議。

 

 

「「きゅーっ」」

 

 

そんな優曇華さんの両肩に、すくすくが飛び乗る。

 

まるで励ますかのように、優曇華さんに頬擦りする2匹のモフモフたち。

 

 

「うう……モフモフのお二方は優しい……」

 

「「きゅー」」

 

 

凛とした紫のすくすくと、ほんわかした黄色のすくすく。優曇華さんの知り合いのようだ。

 

 

「まぁ、羨ましい。 私もうどんちゃんにスリスリしたいわ」

 

「お、お気持ちだけで嬉しいです……あはは……はぁ……」

 

「きゅー…」

 

 

もはや意気消沈の優曇華さん。心なしかすくすくうどんげも落ち込み気味。

 

 

恋は盲目。愛の形は千差万別なんだなぁ…。

 

 

 

――――――

 

 

 

「きゅーっ!!」

 

「き、きゅぅ……」

 

 

後日、当たり前のようにすくすくじゅんこが現れ、すくすくうどんげとイチャイチャしていた。

 

……すくすくの間にも恋って生まれるのかな?



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俺氏、吸血鬼に再会。

 

「ふっ……リベンジに来てあげたわモフモフ。さぁ、吸血鬼の恐ろしさ、今日こそ思い知らせてあげるわ!」

 

「「きゅー…」」ブルブル

 

「お嬢様、震えてる子もいますので…」

 

「レミィ、弱い者苛めは楽しい?」

 

「えっ。ご、ごめんね……」ナデナデ

 

 

怯えるすくすく大ちゃんとすくすくメディスンに頭を下げながら、慰めるように2匹を撫でる吸血鬼。レミちゃんは悪いことをしてもちゃんと謝れる良い吸血鬼なのだ。

 

ちなみに、あの2匹を泣かせると、すくすくチルノに氷付けにされた後で、すくすくゆうかりんに砕かれる。たぶん。

 

割と命拾いしたレミちゃんであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

レミちゃん、咲夜さん、パチュリーさんを席に案内し、オーダーをとる。

 

それにしても、こんな日中に来店とは驚きました。 太陽が弱点じゃなかったんですか?

 

 

「フッ、私を誰だと思っているのよ? 弱点は克服するもの。今の私に、太陽なんて赤子当然よ!」

 

「では、帰りの日傘は要りませんねお嬢様」

 

「きゅー」

 

「……パ、パチェの魔法があれば!」

 

「魔力切れ。なうよ」

 

「むきゅー」

 

「……2人ともぉ……少しは見栄を張らせてよ……」

 

 

紅魔館内でのレミちゃんの立場がよくわかるやり取りはともかく、吸血鬼でも太陽の下を歩く手段は幾らかあるようだ。

 

 

 

「……ごほん! ところで、例のモフモフはいるかしら?」

 

 

気を取り直すよう咳払いをした後、レミちゃんはそう聞いてくる。

 

はい、こちらに。

 

 

「きゅ!」

 

 

レミちゃん因縁のモフモフ、すくすく正邪です。相も変わらずいたずらっ子なモフモフですよ。

 

最近は妙な道具を使っていろいろやりたい放題している。瞬間移動でお客さんを脅かしたり、透明になって走り回ったり。

 

まぁ、めっ!って叱るとやめるんだけどね。

 

 

「ふっふっふ。あれから私も強くなったのよ! あのときのように勝てると思わないことね!」

 

「きゅーっ!」

 

 

臨戦態勢のレミちゃんとすくすく正邪。まぁ、今日は他のお客さんもまだいないし、しばらく放っておこう。

 

 

「懲りないわねレミィも。ねぇ」モフモフ

 

「むきゅー」

 

「もふもふのわたしー……」モフモフ

 

「きゅー!」

 

 

咲夜さんとパチュリーさんはこたつに入りながら、すくすくとモフモフ戯れている。

 

紅魔館って、平和な所なんだろうなぁ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

料理を運んできたら、勝敗は決していた。

 

 

「きゅーっ!」

 

「……ば、ばしゅっ……ごぉぉぉ……」

 

 

地面に這いつくばるレミちゃんと、その頭に乗っかって小槌を振り回しているすくすく正邪。どっちが勝ったかなんて、火を見るより明らかである。

 

傍観していた2人に聞くと、すくすく正邪の圧勝だったとか。あまのじゃく恐るべし。

 

 

 

それはそれとして。こちら、ご注文のたい焼きです。アンコ増量中ですよ。

 

レミちゃんが負けていじけてるが、甘いもの食べて元気だそうね。

 

 

「うー…子ども扱いするな! と言うか、 そのレミちゃんってのやめろ! 私はお前より何十倍も大人なのよ! この『たいやき』だっけ? こんな料理で吸血鬼の舌を唸らせることができるなんて思っ」

 

 

パクっ

 

 

「あまーい!!」

 

 

レミちゃん大満足。

きっとアンコが舌に合うのだろう。

 

 

「「きゅー?」」

 

 

レミちゃんが美味しそうにたい焼きを頬張っていると、上から2匹のモフモフが飛んできて、こたつ机にポフッ着地した。

 

どうやら、たい焼きに興味を持っている様子。

 

 

「あら、この子はお嬢様と妹様の……はいどうぞ」

 

 

すくすくレミリアとすくすくフランは、咲夜さんが差し出したたい焼きをパクッと頬張る。

 

「「きゅーっ!!」」

 

 

さすがスカーレット姉妹のすくすくだ。間違いなく『あまーい!』って言ってる。可愛いなぁホントにもう。

 

 

 

せっかくなので、お土産分のたい焼きをサービスしよう。紅魔館でお留守番してるフランちゃんや門番さんに分けてあげてください。

 

紅魔館って他に誰かいますかね? 今日は大盤振る舞いしちゃいますよ。

 

 

「それなら、うちの小悪魔分も欲しいわ」

 

「妖精メイドたちの分も大丈夫でしょうか?」

 

「ホフゴブリンどもの分もよろしく頼むわ」

 

 

 

…………今日は赤字かな。



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俺氏、サボる。

 

 

 

「「きゅー!」」

 

 

片手にスコップ、胴体にすくすくアリス作マフラーを巻いて、準備万端のすくすくめーりんとすくすくあうん。

 

 

「ナナスケ、これが私の『終わったら温かいココアが飲みたい』の表情だ。 覚えとけ!」

 

 

昨日から泊まり込みでバイトに来てくれた、防寒着着用の無表情こころちゃん。

 

今日はみんなで一緒に、朝から雪かきである。

 

 

昨夜の吹雪は、それはもうすごかった。門番隊を避難させてなければ、今頃雪の下でモフモフに凍っていただろう。

 

今日は通常営業日。最低限、お客さんが通れる道は確保しなければ。よし、がんばるぞ皆

 

 

「『まかせろ!』の表情!」

 

「「きゅーっ!!」」

 

 

俺の合間と共に、各々スコップで雪を掻き分け始める。雪って結構重いから、ギックリ腰に注意しないとな。

 

そう意識しながら、ザクッと。スコップで雪をすくう。

 

 

「き、きゅー……」

 

 

発掘、雪まみれのモフモフ。

 

 

裏庭に急がねば。

 

 

 

――――――

 

 

 

裏庭にある温泉は、常時適温に保たれている。

理由は知らんが、今は好都合。

 

 

「きゅー……」

 

 

生き返るー…と言わんばかりに、気持ち良さそうな声で鳴くモフモフ。

 

見た目はお地蔵さん。いつから喫茶店の前にいたのだろうか。偶然とはいえ、発掘できてよかった。なむなみ。

 

 

「ナナスケナナスケ。 このモフモフは私に任せて、お前は存分に雪かきに専念すると良い」

 

 

……こころちゃん、雪かきサボりたいんでしょ。

 

 

「『何故バレた……!?』の表情」

 

 

口ではそう言いながらも、こころちゃんはポーカーフェイスを崩さない。

 

こころちゃんの表情筋は、俺以上に仕事をしたくないようだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

いろいろあったが、無事に雪かきは完了。

 

手伝ってくれたすくすくとこころちゃんにココアとホットケーキをご馳走した後、営業開始である。

 

 

「よっ。遊びに来たぜー」

 

 

開店して程なく、魔理沙さんが来店。

 

今日は一人ですか?

 

 

「いや、連れがいる。こっちだぜ香霖!」

 

「雪道を走るのは危ないよ魔理沙。 楽しみなのはわかるが、こうゆう時こそ心に余裕を持ち、風景を満喫しながら歩くことが」

 

「悪いなナナスケ。香霖は見ての通り面倒くさい奴なんだ。多目に見てくれ」

 

 

面倒くさい……のは知らないが、香霖さんが話の長い良い人なのは知ってるよ。

 

とりあえず、ここでは寒いので席に案内しよう。2名様入りまーす。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

香霖堂には、喫茶店を始める前。家具や資材を買うために何度か訪れたことがある。その節は大変お世話になりました。

 

 

「構わないよ、ナナスケくんが元気そうで何よりだ。それにしても、あの頃に比べて……」

 

 

「きゅー?」「きゅ」「きゅー!」

「きゅー」「きゅーっ!」「きゅー」

「むきゅ?」「きゅー」「きゅー!」

 

 

「……随分増えたね」

 

「店名に偽りなしだぜ」

 

 

そうなんですよー。あの頃は10匹ぐらいだったのに、今ではもう喫茶店がモフモフ状態で。

 

警戒心が強いなんてどこで呟かれたデマなのか。すくすくたちは『遊んで遊んでー!』と言わんばかりに、いろんなお客さんの元へ向かっていくし。

 

現に魔理沙さんと霖之助さんにも、すくすくが数匹くっついて『きゅー』と鳴いている。なんとも和やかな光景だろう。

 

 

「香霖もたまにはモフモフに癒された方が良い。本ばっか読んでちゃ身体に悪いぜ」

 

「ふむ……ここには沢山いるが、すくすくは希少な存在だと文献で読んだことがある。戯れるのも貴重な経験になるかもしれないね」モフモフ

 

「きゅーっ!」

 

「もっと純粋に楽しめよ……ところでナナスケ」

 

 

どしたの魔理沙さん。もぐもぐ。

 

 

「当たり前のようにこたつに入ってみかん食べてるけど、仕事は?」

 

 

それに関しては心配ない。雪かきしたとはいえ、道が悪いせいでお客さんも少ないし。

 

なにより、今日は優秀なバイトがいる。

 

 

「こちら、ご注文の品だ! 熱々のうちに食べると良い!」

 

「きゅー!」

 

 

丁度良いタイミングで、こころちゃんとすくすくこころが料理を持ってきてくれた。

 

2人が注文したのは焼きたてあんパン。正確には、試行に試行を重ねたあんパンVer4.5である。

 

あんパンは常に進化し続ける。

ささ、召し上がってください。

 

 

「もぐ……ほう。以前より甘さは控えめになっているが、深い味わいになっているね。パンとアンコのバランスも絶妙だ。これは良い」

 

 

流石は霖之助さん。味の違いがわかる男だ。

お褒め頂き光栄であります。

 

 

「……私には前との違いがわからんぜ。美味しいけどな」

 

「『そんなことよりナナスケ働け』の表情」ジトー

 

「きゅー…」ジトー

 

 

よし。こころちゃんとすくすくの視線が痛いので、そろそろサボるのはやめにしよう。

 

非常に名残惜しいが、こたつから出よう。さらば、ぬくぬくでもふもふ…。

 

 

……ん? もふもふ?

 

 

「きゅー?」「きゅ!」

 

 

こたつの中を覗いてみると、初見のモフモフが2匹、親子のようにくつろいでいた。

 

すくすくこーりんと、朱鷺色のすくすく。

 

こたつから出てくると、2匹はこたつ机の上で黙々と本を読み始める。

 

 

……撫でたいけど、そっとしておこう。

 

 



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俺氏、落ちを察する。


セルフオマージュ落ち回。



 

 

 

――― GSチャット・命蓮寺 ―――

 

 

@南無三

>みなさーん、そろそろ門限の時間ですよ。

>遅れずに帰ってきてくださいね。

 

@オラオラ入道

>すみません姐さん…。

>私たち、帰れそうにありません。

 

@南無三

>えっ?

 

@タイタニック

>もう無理……抜け出せる気がしない……

 

@ハングリータイガー

>私は、ここまで、です……

>後は……頼みますね……

 

@オラオラ入道

>だめ!起きて星!

>寝たらナズと同じ運命を辿ってしまうわ!

 

@南無三

>み、みなさん一体何処に!?

>今すぐ私が助けに!

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「『いえ、この窮地を乗り越えてこその修行! 姐さんの助けは不要です!』っと……」ポチポチ

 

「『必ず……帰るから……! だから待ってて……聖……!!』」ポチポチ

 

「おやすみなさい……ぬくぬく……くぅ……」

 

「……zzz」

 

「きゅー??」

 

 

すくすくが『あの人たちは何やってるの?』的な感じで首を傾げている。

 

あれはね。『こたつから出たくない!』って理由で、チャットで聖さん相手に一芝居打っている命蓮寺の方々だよ。

 

 

俺は別に構わないけどさ。

なんかもう、落ちが見えるよね。なむさん。

 

 

 

――――――

 

 

 

命蓮寺の方々が喫茶店に来ることは珍しいことではないが、こうやって集まっているのは初めて見る。

 

しかし、彼女たちは揃って来店した訳ではない。

 

 

「ナナスケさーん、宝塔ありませんかー……あっ、こたつ!」

 

始めに、いつも通り落とし物を探しにやって来た寅さんがこたつに吸い込まれ。

 

「済まない。ここにご主人が来ていないか?……むっ、こたつか」

 

次に、宝塔を頭に乗せたナズさんがこたつに引き寄せられ。

 

「やっほー。このモフモフって、ここの子じゃない? って、こたつあるじゃん!」

 

「きゅー!」

 

その後、両手でモフモフを抱えたキャプテンがこたつに飛び込み。

 

「村紗とここで待ち合わせしてるのですが……あら、こたつ」

 

最後に、頭巾を脱いだ一輪さんがこたつに一直線。

 

 

その結果があれである。

こたつ、恐るべし。

 

お寺は戒律が厳しいと聞くが、まぁ、なんだ。俺は何も見ていないってことで。仕事に集中しよう。

 

 

「きゅー…zzz」

 

 

キャプテンが連れてきたモフモフは、すくすく星。寅さんやナズさんと一緒に、こたつで丸くなっている。

 

命蓮寺の近くに潜んでいるところをぬえちゃんが見つけたのだと。他にもいそうだし、今度行ってみようかな命蓮寺。座禅とかやってみたい。

 

 

「すみませーん。注文いいですかー?」

 

 

はーい。直ぐに伺いまーす。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

こちら、ご注文のレアチーズケーキです。

 

 

「待ってましたー! やっぱおやつと言ったらケーキだよね! 煎餅は飽きた!」

 

「姐さんには申し訳ないけど……美味しいなぁ」

 

「きゅー!」

 

「おっ、モフモフのナズも食べる?」

 

 

必死に手を伸ばしてチーズを欲しがるすくすくナズに、キャプテンがケーキの切れ端を与える。

 

『きゅー♪』と嬉しそうなすくすくナズ。すくナズはチーズには目がないのだ。

 

 

「……はっ! チーズ!」

 

 

チーズに釣られて飛び起きる小さな賢将。ネズミの性である。

 

 

会話から察するに、命蓮寺では煎餅やオカキが3時のメインおやつのようだ。食生活も戒律で縛られているのだろうか。

 

命蓮寺に行くときは、手土産にも気を付けておこう。

 

 

 

カランカラン

 

 

 

日もかなり落ち、閉店の時間が近いにも関わらず、外側から入口の扉が開かれる。

 

あっ、いらっしゃいませ。

皆さんなら、あちらに。

 

 

「あ゛ぁ~幸せ……ここから動きたくないわー…私もここで寝る……」

 

「いや、流石にそろそろ帰らないと姐さんに怒られるわ。星も起こさないと」

 

「一輪、もう少しだけ待ってくれないかな。私もチーズケーキが食べたい」

 

「また今度よナズ。只でさえ門限破ってるんだから、怪しまれない内に帰らないと」

 

「きゅーっ!!」

 

「ほら。 姐さんのモフモフだって早く支度しろって怒っ………」

 

 

 

「誠に哀しく、眥裂髪指(しれつはっし)である」

 

 

 

ドゴゴゴゴゴゴと、頭にモフモフを乗せたにっこり聖さんの修羅のオーラにより、喫茶店が揺れている。

 

揺れによってすくすくたちがきゅーきゅーと大騒ぎしているが、今はそれどころではなさそう。

 

 

「ああああ姐さん……これは、その……」

 

「言い訳を、一言のみ許しましょう」

 

 

聖さんの言葉に、こたつを囲いながら必死にアイコンタクトを取り合う3人と、未だスヤスヤ眠っている寅さん。

 

何を言っても助からないと言う結論に至ったのか、3人を代表してキャプテンが口を開いた。

 

 

「……こたつには勝てなかったよ」

 

 

その夜、南無三という掛け声と共に、ピチューンと何かが弾けた音が4つ、喫茶店にこだましたのだった。なむさーん。

 





眥裂髪指(しれつはっし)……髪の毛が逆立つぐらい激怒すること。


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俺氏、貧乏神を受け入れる。

 

 

 

「ひもじいのです……何か恵んでください……」

 

 

ノックの音で目が覚めた休日の早朝。

 

玄関の開けたら、頭に雪を被り、冬にも関わらず薄着の少女に物乞いされた。

 

 

「きゅー…」

 

 

彼女の足元には、彼女のすくすくと思われるモフモフがちょこんと座っていた。欠けた茶碗を持って『恵んでー…』と訴えかけるように鳴いている。

 

寝起きの頭ではいろいろ理解が追い付かない。

とりあえず、寒いので中にどうぞ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「ふわぁぁ……なんて暖かいのかしら……! モフモフもぬくぬくだわ……!」

 

「きゅー!」

 

 

紫苑ちゃんはすくすく天子が気に入ったようだ。同じ青色同士だからかな。

 

こたつで気持ち良さそうにすくすくに頬擦りしている紫苑ちゃん。とても貧乏神には見えないが、人は見かけによらないのが幻想郷。

 

 

「きゅー…♪」

 

 

すくすく紫苑もこたつで暖を取る。今まで見てきたすくすくのどの表情よりも、幸せそうな表情をしている。良いことだ。

 

 

 

 

話を聞いたところ、先にも言ったが、紫苑ちゃんは貧乏神なんだって。

 

で、ひもじい思いをしながら歩いてたら幸福パワーが滲み出てる喫茶店(うち)を見つけ『ここならもしかしたら…!』と希望を抱いたのだと。

 

幸福パワーの要因はきっとすくすくだろう。これだけ居るのだから、そういう不思議や力を持っているモフモフがいてもおかしくない。

 

だろ?

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすくてゐが元気に反応してくれた。

いつも幸せをありがとう。モフモフ。

 

 

「あ、あの……暖かい店内に入れてくれてありがとう。 でも……ここ、お店なのよね? なら私、直ぐに出ていかないと……」

 

 

身体の温まるものを作ろうとキッチンに行こうとしたところで紫苑ちゃんにそう言われ、思わず首を傾げてしまった。

 

ホワイ? なぜゆえ?

 

 

「何故って……だって私、貧乏神だから……。普通の人間なら、私が貧乏神だってわかると焦って追い出すよ……?」

 

 

……?? 焦る必要性も追い出す必要性も、特に感じないよ俺は。

 

だって、魔法使いや吸血鬼、閻魔様に魔界神、果てには地獄の女神様。 その気になったら喫茶店なんて無へと還せるような方々が、日常茶飯事で来店しているのだ。

 

今更貧乏神が来店して何だと言うのか。

なっ、お前たち。

 

 

『きゅーっ!』

 

 

ほら。すくすくたちもこの通りなので、ゆっくりのんびりモフモフと暖まっていってくださいな。

 

 

「……グスッ……ありがどう店長さん……!」

 

「きゅー!」

 

 

どういたしまして。

 

 

 

――――――

 

 

 

身体を暖めるなら、やはりスープ料理だろう。

 

と言うわけで、ミネストローネを作りました。すくすくゆうかが作った野菜がたっぶり入ってます。栄養も満点です。

 

 

「……ハフハフ……こんなにも温かいお料理初めて……!」

 

「きゅー!」ハフハフモグモグ

 

 

紫苑ちゃんとすくすくしおんはガツガツハフハフ食べていく。温かいどころが相当熱いと思うのだが、今は食欲の方が勝っているのだろう。相当お腹が減っていたようだ。

 

うーん。全てを受け入れる幻想郷でも、貧乏神を受け入れてくれる場所はあまりないのかなぁ。

 

何とかしてあげたいが、どうしたら良いものなのか。ハフハフ。

 

 

「きゅ!」

 

 

朝ごはん代わりのミネストローネを一口食べると、見慣れないすくすくが俺のスマホを持って現れた。

 

オレンジっぽい毛色に縦髪ロール。なんだかすごく綺羅びやかなモフモフである。

 

ん? チャットに新着メッセージが。

 

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@ゆかりん(14)

>追い出す必要性を感じないなら

>しばらく喫茶店に置いてあげなさい。

 

@ゆかりん(14)

>そこなら貧乏神の力も抑えられると思うし。

 

@ゆかりん(14)

>昼ドラも見れると思うし。

 

 

――――――

 

 

 

…………昼ドラ?

 

 

 

 



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俺氏、嫌な予感。


嵐前の静けさ回。



 

 

 

 

 

青髪のポニーテール。

 

水色の新品エプロン。

 

フードの中にはすくすくが2匹。

 

 

「こんなに綺麗な衣装初めて……! よろしくね!すくすくちゃん!」

 

「「きゅー!」」

 

 

紫苑ちゃん、ウェイターフォームの完成だ。

とても良く似合っている。

 

 

『働かざる者食うべからずなの! 私も働くわ!』と頼み込まれたので、紫苑ちゃんにも接客業を手伝ってもらうことにした。

 

とは言え、彼女は仮にも貧乏神。何が起こるかわからないので、一応彼女のフードにすくすくを入れてみた。

 

 

「きゅ?」「きゅー」

 

 

すくすくてゐとすくすく星である。紫苑ちゃんのポニーテールが気になるのか、猫じゃらしに反応する猫のように髪をつついている。

 

この2匹と一緒なら、貧乏神パワーもプラマイゼロ、むしろマイナスだろう。幸福を呼ぶ貧乏神の誕生である。

 

 

よしっ。そろそろ開店の時間だ。今日はこころちゃんがお休みだから少し大変かもしれないけど、頑張ろうね紫苑ちゃん。

 

 

「うん! 私、がんばるわ! だから見ていてください店長さん!」ギュ! パシャパシャ!

 

「「きゅー!」」

 

 

やる気満々の紫苑ちゃんはそう言って俺の手を握る。すくすくもフードから紫苑ちゃんの両肩に移動していた。

 

昨日の今日で、別人のように明るくなったなぁ。やっぱり女の子はこうでなきゃね。うんうん。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

紫苑ちゃんの反響は意外にも大きかった。

 

 

いろんな人から驚かれたり、「大丈夫なの?」って聞かれたが、特に問題が起こることなく、気がつけば閉店の時間になっていた。

 

一番驚いていたのはばんきさんだったと思う。珍しく口をあんぐりさせて固まっていた。

 

その後「……な、何故居るの?」って聞かれたから「いろいろあって、住み込みで働いてもらってます」って答えたら、ばんきさんの後ろに何故か鬼の形相をした華扇さんの姿が見えた気がした。なんだったんだろうね。

 

 

「お仕事って、こんなにも楽しいものだったのねー♪」クルクル

 

「きゅー」クルクル

 

 

嬉しそうにクルクル回る紫苑ちゃんとすくすく。

 

貧乏神も厄を撒き散らさなければ、ただの女の子である。

 

 

「店長さん! 私、これからもがんばる! あなたが私に幸せをくれたように、今度は私が、あなたに幸せをあげられるようになるわ!」ギュ! パシャ!

 

 

そう言って腕に抱きついてくる紫苑ちゃん。

何だか、娘ができた気分である。

 

 

「もちろん、すくすくちゃんにも!」ギュ!

 

「「きゅー!」」

 

 

すくすくてゐとすくすく星にも抱き付く紫苑ちゃん。みんな幸せそうである。

 

 

紫苑ちゃんとすくすくが戯れてる光景を見ながら和んでいると、不意に、ズボンの裾を引っ張られる感触が。

 

 

「きゅー……」

 

 

足元には、さっきまで紫苑ちゃんと一緒にクルクル回っていた、赤いフリルを身に付けた緑色のモフモフが妙な目付きで俺を見ていた。

 

どうしたすくすく雛?

もしかして、何か厄い?

 

 

「きゅ!」

 

 

ビシッと、モフモフの短い手で俺を指差す。

 

 

……マジかー。




次回、ばんきっき視点による昼 ド ラ。


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私、確かめる。

 

 

 

今日の私は朝から機嫌が良い。

 

何故なら今日はバイトがお休み。そして昨日は給料日。今日は一日中、喫茶店に入り浸ることができるのだ。

 

 

 

うん。

 

なんか。

 

にやけてきた。

 

 

 

このままの顔で行ってもアイツは何も思わないだろうが、周りやモフモフに変な目で見られるだろう。

 

まだ開店前だし、もうちょっと、表情を引き締めてから……

 

 

「文々。新聞で―――っす!!」ガシャパリーン

 

 

思わずずっこけた。頭もすっぽぬけた。

 

背後を確認すると、窓を突き破った新聞が机に突き刺さっている。これ、何てテロ?

 

だけど、気を落ち着かせるのに新聞は丁度良いかもしれない。話のネタにもなるし、行く前に少し読んでおくか。

 

 

 

『喫茶店店主、貧乏神とまさかの熱愛!? 』

 

 

…………。

 

 

…………。

 

 

…………いやいや、待て待て。所詮あのパパラッチの書いた新聞だ。信憑性の欠片もない。デマデマ、デマだよデマ。

 

震える手でそーっと次のページめくると、1枚の写真が目に飛び込んできた。

 

 

少し前に世間を騒がせた貧乏神が、嬉しそうな顔でナナスケの腕に抱きついている写真ががががががああああああぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

真 実 を 確 認 し な け れ ば。

 

 

全力疾走の末、喫茶店前に到着。でも全然疲れてない。寧ろ内側から力が溢れてくる。今なら巫女にも勝てる気がするわ。

 

 

「「きゅー?」」

 

 

門番係の2匹のモフモフが『どうしたのー?』って目で見てくる。

 

お前たちの主人の罪を見極めに来たのだよ。安心してモフモフ。アイツに何かあったら、私がお前たちを養ってあげる。

 

2匹を軽く撫でてから、喫茶店の扉を開く。

 

 

 

「ちょっとナナスケ! これ本当なの!?」

 

「ナナスケさん? 私は少し怒ってますよ?」

 

「私と店長が……は、恥ずかしいわ……!」

 

「ナナスケー。ねつあいって何? どんな感情?」

 

「きゅー?」

 

 

 

中に入ると、開店前にも関わらず、4人の女が新聞を読む1人の男に言い寄っていた。

 

男の顔は新聞で隠れて見えないが、きっといつも通りの無表情に違いない。内心はどうか知らないが。

 

 

そして男は顔をあげ、予想通りのいつもの顔で口を開く。

 

 

 

「…………これ、何てテロ?」

 

 

 

 

あ、これ無罪っぽいな。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「きゅー…zzz」

 

 

1匹のモフモフが上で眠っているこたつを3人で囲う私と阿求、そして夜雀。 非常にピリピリした空気である。

 

 

情報源があの新聞と言うこともあり、ナナスケと貧乏神から否定の言葉が出てきたことから、新聞の内容がデマだと言うのは信じよう。

 

 

しかし。しかしである。

 

 

あの貧乏神が、アイツの腕にだっだだだ抱き付いたのは紛れもない事実。

 

 

「『私だって抱き付いたことないのに……羨ましい……!』って思ってますねお二方」

 

「きゅ!」

 

「「思ってないっ!」」

 

 

すくすくさとりを抱える阿求の言葉に、私と夜雀の声が被る。

 

 

夜雀とは顔見知り。私が良く飲みに行く屋台の女将さんでもあるが、この女はとてつもなく危険だ。

 

コイツからは、アイツへの明確な好意を感じる。likeじゃなくてloveの方の。

 

 

「羨ましいとか思ってないもん! 私もここでバイトしたらいろいろできるかなー!って思っただけよ!」

 

 

と言うか、目に見えてわかる規模で自爆している。あれで隠してるつもりなのだろうか。

 

 

「蛮奇さんも大概でしたよ?」

 

 

うっさい阿求。

お前は黙ってモフモフをモフモフしてろ。

 

 

阿求も阿求で危険のままだ。あの時は否定していたが、いまいち信じがたい。相も変わらず、毎日ここへ来てはすくすくと戯れているらしいし。

 

 

「注文の品だぞろくろ首。冷めないうちに食べるが良いー」

 

「きゅー」

 

 

頭にモフモフを乗せて、料理を運んでくるポーカーフェイスなバイト1号。

 

コイツもナナスケに懐いているが、夜雀とは逆でlikeの方の好意だろう。兄妹愛的な好意だから、それほど危険ではない。

 

 

で、問題のバイト2号。貧乏神は……。

 

 

「~♪」

 

 

まぁ鼻唄なんか歌っちゃって。幸せそうにバイトをこなしている。

 

 

今日見ていてわかったが、貧乏神は別ベクトルで危険だ。

 

恐らく、ナナスケへの好意はlikeの方なのだが、問題はその言動。

 

 

『店長さん! 不束者な私だけど、今日もよろしくおねがいします!』ギュッ

 

 

あの女、告白まがいなことや割と過度なボディタッチを無自覚でしやがる。ハグは挨拶じゃないのよ羨ましい。

 

私も夜雀も思わず席からガタッと立ち上がってしまうほどのスキンシップだが、当人にはやましい意志がないためキョトンとされる。非常に注意し辛い。

 

 

 

これが今、あの男を取り巻く現状。

 

 

でも、たぶん。あの男はみんなの好意を全て友好的なものだと思っているだろう。

 

 

なんなのコイツ。

 

 

「こちら、みっちゃんと阿求さんの料理で……どしたの ばんきさん、眉なんか潜めて。頭痛?」

 

 

マジなんなのコイツ。

 

なんでこんな奴に惚れたの私。

 

この私たちの張り詰めた空気の中を、さも当たり前のような顔で割って入ってこれるって、どんな度胸だ。どんだけ鈍いんだ。

 

 

 

「『でも好きなんでしょ?』って、すくすくさんが言ってます」

 

 

 

……。

 

 

えいっ。

 

 

「いたっ、ちょ。みかん投げないで」

 

 

無言でナナスケにミカンを投げつける。

 

このぐらいで済んでありがたく思え。ミカンは後でちゃんと食べるから、今は黙って当たってろこの鈍感。目に入ってしまえ。えいえいっ。

 

 

 

その時である。

 

 

ドカァ―――ン!

 

 

喫茶店の入口の扉が勢い良く開かれた。

勢い余って扉が吹き飛ぶほどに。

 

 

慌てふためくすくすくたち。

 

扉が直撃するナナスケ。

 

 

 

「姉 さ ん は 渡 さ な い 」

 

 

 

そう言って、ド派手なメリケンサックを強く握りしめて入ってきたのは、貧乏神の妹の疫病神。

 

さっきの私たちとは比べ物にならないほど、どす黒いオーラを背負っている。

 

 

「て、店長さーん!?」

 

「さぁ、行くわよ姉さん」

 

「えっ? どうしたの女苑……えっ? 何で無言でひっぱるのー……」

 

 

貧乏神の腕を掴んだまま、最強最悪の妹は店を出る。

 

私たちを含め、その場にいた客はポカーンとその光景を眺めることしかできなかった。

 

 

「きゅー!」「きゅ!」「きゅー!?」

「むきゅー!」「きゅー!」「きゅーっ!」

 

 

そんな状況下でも、扉の下敷きになったナナスケを必死に発掘しているモフモフたち。

 

 

一応、手伝おう。

 



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俺氏、入院して退院する。

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@七生(しちしょう)(とおる)

>文さんや。

>ちょっと永遠亭まで来てくださいな。

 

@清く正しい射命丸

>ん? 誰ですか貴方?

 

@七生透

>来ないならみんなに連れて来させます。

 

@清く正しい射命丸

>みんな?ってうわっ!?

>何ですかこのモフモh

 

 

――――――

 

 

 

 

 

『きゅーっ!!』

 

「あやややや!?」

 

 

ロープでぐるぐる巻きにされた文さんを担いで、病室に帰ってきたすくすくたち。ご苦労様、退院したら沢山好物を作ってやるからな。

 

さぁ文さん。どうしてくれるんですか俺のこの体たらく。

 

 

「な、ナナスケさんでしたか! いきなり拉致とは酷いですよ! 私、何か悪いことしましたか!?」

 

 

しましたよ。悪気ゼロかよ。

 

文さんの新聞のお陰で酷い目にあった挙げ句、左足が人体構造上曲がっちゃいけない方向に曲がっちゃったんですよ。

 

永琳さんとすくすくえーりんのお陰で全治3日とは言え、ちゃんと責任を取ってくださいな。

 

 

「……つまり、ナナスケさんの手となり脚となり、生涯を尽くせと? またまたー、大胆な告白を」

 

 

治療費払えって言ってるんだよパパラッチ。

やってしまえお前たち。

 

 

「「きゅーっ!」」

 

「え? ちょ、痛っ!? モフモフなのに痛いッ!? ってその角! 鬼のすくすくさんじゃないですkグホォッ!?」

 

 

 

――――――

 

 

 

そんなやり取りもあって、3日も休んでしまったぜ。お見舞いに来てくれた方々、ありがとうございました。

 

 

『きゅー!』

 

 

すくすくたちもただいま。お留守番ご苦労様。入口の扉も修理してくれてありがとな。 後でみんなモフモフしてやるぞ。

 

 

「きゅーっ」

 

 

1匹ずつ撫でていると、1匹のピンク色のモフモフが俺の胸に飛び込んでくる。

 

すくすくミスティアだ。羽もモフモフしている。

 

撫でてほしいのか、とても甘えてくる。めっちゃ「きゅー♪」って言ってくる。これは勝てない。めっちゃモフモフしちゃう。

 

 

「きゅぅー…」ジトー

 

「帰ってきて早々何してるよのアンタは」ジトー

 

 

あっ、ばんきさん。すくすくばんきっきも。ただいま帰りました。何故にジト目?

 

 

ばんきさんには俺が不在の間、すくすくたちのお世話をしてくれたのだ。『私は有言実行の妖怪だから』なんだとか。

 

なんだかんだ言いながらも、お見舞いにも毎日来てくれたし。ありがたやありがたや。

 

 

「……まぁ、無事に退院できて良かったわね。これ、返しとく」

 

 

そう言ってばんきさんが渡してきたのは、喫茶店の鍵。すくすくのお世話をしてもらう為に、俺が渡したのもだ。

 

あ、そればんきさん持ってていいですよ。そっちはスペアの鍵なので。

 

 

「……えっ。 ほ、ホントに良いの?」

 

 

構いませんよー。ばんきさんなら悪用しないでだろうし。いつでもウェルカム、たくさんモフモフしに来てくださいな。

 

俺がそう言うと、ばんきさんは鍵をじっと見つめてから、大切そうに両手で握った。どことなく、嬉しそうにも見えるのは気のせいだろうか。

 

 

「きゅーっ……!」

 

「き、きゅぅ……!?」

 

 

何故かどや顔しているすくすくばんきっきと、それを悔しそうに見ているすくすくミスティア。どうしたモフモフたちよ。

 

 

あ、そうだ。これから買い出しに行こうと思ってるんですが、一緒に行きますか?

 

 

「行く!」

 

「「きゅーっ!!」」

 

 

よし、みんなで行こう。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

――― GSチャット―――

 

 

@清く正しい射命丸

>ちょっとちょっと紫さん!

>貴女のせいで酷い目にあったんですけど!

 

@ゆかりん(14)

>私は良いネタがあるかもねって言っただけよ。

>それを面白おかしく書いたのはそっちでしょ?

>思ってたほど面白くなかったけれど。

 

@清く正しい射命丸

>ひっどぉ!?

 

 

――――――



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俺氏、クリスマス。

 

 

 

「きゅーきゅー♪」テレレレレー♪

 

「きゅきゅきゅーきゅー♪」テテテンテン♪

 

 

「「きゅーっ!」」テテーン!

 

 

すくすくリバーWithHとすくすく二楽坊の演奏に合わせて、歌って踊るモフモフが2匹。

 

1匹はすくすくミスティア。もう1匹は新しく見る、 ダックスフンドのような犬耳が生えた緑のモフモフ。

 

すくすく響子。本人たちの鳥獣伎楽と比べて、とても耳に優しいライブである。

 

 

「ひゅーっ! かわいいぞー!」

 

「すくすくさーん! こっち向いてくださーい! 」パシャパシャ

 

「アンコール! アンコール!」

 

『きゅーっ!!』

 

 

お客さんたちもすくすくたちも大盛り上がり。

 

 

「……今日は珍しく賑やかね」

 

 

1人静かにコーヒーを飲むばんきさんがそう呟く。

 

何言ってるんですかばんきさん。今日は『クリスマスイブ』ですよ。

 

今日と明日限定でクリスマスツリーやイルミネーションも実装した。喫茶店とは思えないほどピカピカしているが、クリスマスぐらい派手だっていいよね。

 

もちろん、今日のスイーツはケーキです。ささっ、ばんきさんもどうぞ。

 

 

「クリスマスね……す、すっかり忘れてたわ。……ケーキうまっ」

 

 

世間的には特別な人とイチャコラする日ですけど、こうやってみんなでワイワイするのも楽しいですよね。

 

プレゼントもすくすくたちのは用意したけど……幻想郷ってサンタさんいないのかなぁ……俺もプレゼント欲しい。

 

 

「……」

 

 

「「きゅーっ♪」」

 

 

おっ。すくすく鳥獣伎楽がアンコールに答えるようだ。今度はもふもふなバックダンサー付きみたい。

 

変わった帽子を被り、それぞれ笹の葉と茗荷(みょうが)の葉を持った2匹のすくすく。演奏に合わせてノリノリで踊っている。

 

なんだか、見てると元気が出るなぁ。

 

 

『きゅーっ♪』

 

 

2匹の踊りに釣られるように、他のすくすくたちも短い手足を懸命に動かしながら、楽しそうに踊り始める。

 

モフモフダンス、なんという破壊力。

あっ、遠くで阿求さんが萌え倒れた。

 

 

 

 

 

―――後日―――

 

 

 

 

 

「きゅー!」ボッフンボッフン

 

 

モフモフが俺のお腹の上で跳ねる衝撃で起床。

おはよう、どしたのすくすくばんきっき。

 

すくすくが指すのは、俺の枕のすぐ横。そこには、赤いリボンで包装された四角い箱が置かれていた。

 

 

どこからどうみても、クリスマスプレゼント。

 

 

いるじゃん。サンタさんいるじゃん。

来年は寝たふりで待ち伏せよう。

 

 

プレゼントの中身は、黄色の石が付いたネックレス。いろんな人に聞き回ったところ、これは『シトリン』と呼ばれる宝石らしい。商売繁盛をもたらすパワーストーンなんだとか。

 

 

なかなかお洒落なプレゼントである。

ありがとうサンタさん。

 

 

 

 



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俺氏、修行する。

 

 

今年も残すこと、あと3日である。

 

 

来年に向けて気持ちを新たにするため、聖さんからのお誘いもあり、命蓮寺の修行体験に参加することにした。

 

聖さんが言うには、修行を積んで邪念を捨て、無心になることで本当の自分と真剣に向き合えるとか何とか……。

 

 

「きゅーっ!!」 バシーン!

 

 

あ痛ぁ―――ッ!?

 

 

「ナナスケさん。雑念が残ってますよ?」

 

「きゅ!」

 

 

はい。そんなわけでただいま命蓮寺で座禅中です。すくすく聖は容赦しないのだ。肩が痛い。

 

座禅ってただひたすらに心を無にして座ってるだけなのに、かなりしんどいよね。足は痺れを通り越して、感覚がなくなってきたよ。

 

 

「ナナスケさんは初めてですので、そう思うのも無理はありません。ですが、修行を積めばみんなの様に」

 

「………zzz」

 

「姐さん。村紗が寝てます」

 

「……」ピシッ

 

 

あっ。聖さんの持つ警策(※)にヒビが。

 

 

しかし、イビキこそかいているが、キャプテンの座禅は美しい。背筋もピンとしてるし、何より軸にブレがない。 寝てることを除けば完璧だと、素人目でもわかる。

 

 

でもまぁ、寝てることが致命的な訳だが。

 

 

「南無三ッ!!」ドゴォォーン!

 

「あ゛あ゛あぁぁぁ―――ッ!!?」

 

 

………今、すっごい音しなかった?

 

 

 

 

――――――

 

 

(※)警策……座禅で肩を叩く時に使う板のこと

 

 

――――――

 

 

 

座禅を終えて、次の修行が始まるまでの小休憩。すくすく探しと行こうと考えたのだが、少し考えが甘かった。

 

足がね、動かないのよ。感覚が戻ってきたと思ったらめちゃくちゃ痺れてきた。やっばい。

 

 

「きゅー」ツンツン

 

 

ちょ。足をつつくなモフモフ。今のオレにそれは効ぐあぁぁぁぁ!!?

 

 

「これこれ。ナナ坊が苦しんでおるぞモフぬえ」

 

「きゅー?」

 

 

近くにいたマミさんが、モフモフを抱き上げて助けてくれた。ありがとう親分。

 

モフモフの正体はすくすくぬえ。左右非対称な羽が特徴の、いたずらっ子である。

 

数日前に命蓮寺内で見つけて以来、保護してくれていたのだ。本人と違って割と真面目なモフモフなんだとか。

 

 

「なによー、私が真面目じゃないって言いたいの?」

 

 

あっ。いたのぬえちゃん。ってたんま、羽で足をつつかなあ゛ぁ―――!?

 

 

 

――――――

 

 

 

足の痺れが引き、次にやってきたのは、滝。

 

轟轟と巨大な音を立てる、滝

 

12月のこの時期に、滝。

 

 

え? まじ?

 

 

「滝行は精神統一に最適です。ナナスケさんは初めてですし、季節も季節なので長時間は行わないので安心してください」

 

「きゅー!」

 

 

聖さんは優しい声色でそう言う。すくすく聖も『危なくなったらすぐ助けるね!』と言うようにきゅーと鳴いている。

 

……誘われたとはいえ、自ら志願したことだ。泣き言は言えないな。

 

それに、ほら。

 

 

「「きゅー……!」」

 

 

既に2匹のモフモフが両手を合わせて滝に打たれている。すくすく一輪とすくすく村紗だ。すくすくはホントに真面目だなぁ。

 

すくすくもこれだけ頑張っているのだ。俺も頑張らないと。

 

 

いざ参る。男を見せてやるぜ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「きゅー」「きゅ!」

「きゅーっ」「きゅー!」モッフモッフ

 

 

すくすくたちに寄り添ってもらいながら、疲れきった身体を癒す。

 

いやー、筆舌に尽くし難い修行の数々でしたね。キャプテンや一輪さんたちがサボりたくなる理由もわかった気がする。

 

 

「お疲れ様でしたナナスケさん。 もしよければ、こちらを召し上がってください」

 

 

そう言いながら、聖さんは湯飲みと小さなかごが乗ったお盆を運んできてくれた。

 

かごの中に入っているのは、喫茶店でもお馴染みのみかん。

 

 

命蓮寺(うち)で採れたおみかんです。今年のはとっても甘いんですよ」

 

『きゅー!』

 

 

それは良いですね。すくすくたちもお腹が空いてるみたいだし、どれ1つ。

 

みかんを取ろうと手を伸ばしたその瞬間。1つのみかんが煙を吹き出し姿を変える。

 

 

「きゅー!」

 

 

してやったり! 的な顔で出てきたのは、頭に葉っぱを乗せたモフモフ、すくすくマミゾウ。

 

突然の登場に聖さんもびっくり……

 

 

「まぁ、可愛らしいモフモフさん。おいでー♪」

 

 

してなかった。聖母かこの人。

 

すくすくたちはみんな甘えるように、両手を広げる聖さんの胸元に飛び込んで行く。

 

聖さんの母性には、すくすくもメロメロなのであった。

 



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俺氏、初詣へ。

 

 

あ け お め 。

 

 

かれこれ5分前ぐらいに新年が始まりました。めでたい。

 

すくすくたちは殆ど眠っている。年が明ける瞬間まで起きていようとがんばっていたモフモフもいたが、眠気には勝てなかった模様。

 

俺も寝正月にしようかなぁ。すくすくを見てたら眠くなってきた。

 

 

「きゅーっ!!」グイグイ

 

 

あ、でも一匹だけ元気に起きてるモフモフがいた。

 

すくすく早苗である。尻尾をフリフリしてすごい引っ張ってくる。初詣に行きたいのかな。

 

 

そう思っていると、戸締まりしたはずの玄関からガチャリと音が聞こえた。

 

いつもの赤マントではなく、赤いマフラーを身に付けての登場。店内が暖かいせいか、ほのかに頬も赤い。

 

 

 

「……初詣、行こ?」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「きゅー♪」

 

「きゅー♪」

 

「コイツが方向音痴なの忘れてたわ……でも……うん……」

 

 

すくすく早苗と、道中で遭遇した灰色のモフモフを両肩に乗せ、ばんきさんに手を引かれてやって来たのは、守矢神社である。

 

妖怪の山にある神社だが、初詣客でかなり賑わっている。中には、尻尾や羽が付いた人たちも混じっている。天狗さんかな。

 

 

「あやや! 明けましておめでとうございます! デートですか!?」パシャパシャ

 

 

ここで遭遇したのは文さんことパパラッチ。

 

斬っちゃえ灰モフ。

 

 

「きゅー!」スパーン

 

「あ、ああやややややぁ――っ!? 私のフェイバリットカメラぁー!?」

 

 

綺麗にカメラを真っ二つ。

灰モフの鉈さばきは一級品なのだ。

 

まったく。ばんきさんはその手のネタが嫌いだというのを知らないのかパパラッチめ。 被害を受けるのは俺の方なんだぞ。

 

 

「……いや……デートでも間違いじゃ……でも新聞に載るのは恥ずいな……」

 

 

? どうしましたばんきさん。

 

 

「な、なんでもない。 お参りしよ、お参り」

 

 

ばんきさんに手を引かれ、新年初泣きしている文さんの横を通り過ぎる。

 

たどり着いたのは、賽銭箱と大きな鈴がある守矢神社の真正面。ここが一番お客さんが集中してるな。

 

 

「あ! 明けましておめでとうございますナナスケさん! ろくろ首さんも! デートですか!?」

 

 

さっそくデジャウ。でも悪意は感じない。灰モフ、鉈を構えちゃダメだぞ。

 

文さんと同じことを聞いてきたのは、小さめの木箱を抱えた早苗ちゃん。妙に顔が赤く見える。

 

守矢神社(ここ)の風祝さんって早苗ちゃん1人だけだし、今日は忙しそうですね。

 

 

「忙しいけど、私今とっても楽しい気分なんです! そうだ! お2人もこちらを引いていってください! 奇跡のおみくじです!」

 

 

そう言って、早苗ちゃんは持っていた木箱を俺たちの前に差し出す。おみくじだったのねそれ。

 

でも、奇跡のおみくじとは?

 

 

「誰が引いても大吉が出るおみくじです! 新年からハッピーな気持ちになれますよ! 」

 

「……それ、大吉しか入ってないんじゃ」

 

「 奇 跡 で す !」

 

 

奇跡なら仕方ない。

ばんきさん、取り敢えず引いてみましょう。

 

 

木箱から適当に引き、くじを開く俺たち。

 

先ず目に飛び込んできたのは、デカデカと手書きで書かれたような大吉の2文字。奇跡ってすごい。

 

仕事運、金運など。大吉だけあって良いことが書かれている。でも恋愛運に『ラブラブビッグバン』って書いてあるのだけ、良い事なのか悪い事なのかわからない。ビッグバンて。

 

 

ばんきさんはどうでした?

 

 

「大吉。……えっとね、近いうちにビッグバンが起こるかも、だって」

 

 

終末じゃないですか。

大吉の内容じゃないですよ。

 

 

「……にぶちん」ベシッ

 

「きゅー!」ベシッ

 

 

背中を叩かれた。灰モフにも。何故ゆえ。

 

背中の痛みを我慢していると、肩に乗ってたすくすく早苗が、早苗ちゃんの頭に飛び乗る。

 

 

「……もしかして、お手伝いしてくれるんですか?」

 

「きゅー!」

 

「やったぁ!ありがとうございますモフモフさん!」

 

「「「きゅーっ!」」」

 

「わわわっ! 増えました! って、神奈子様に諏訪子様ではありませんか! 今年はモフモフの姿で信仰を集めるのれすね!」

 

 

それただのすくすくです早苗ちゃん。

と言うかこの娘、酔っぱらってない?

 

 

「ごめんねー。早苗ったらコップ1杯でテンション上がっちゃってさー」

 

「あの神籤(みくじ)も、早苗が酔って作ったものだ。まぁ……早苗らしいと言えば早苗らしいのだがな」

 

 

あ、神様お二人。お久しぶりです。

今日は珍しく威圧感がありますね。

 

 

「堅苦しいのは苦手だが、たまには威厳ある姿を見せないとな。集まるものと集まらん」

 

「それじゃ私たちはこの辺で。デートの邪魔しちゃ悪いからね!」

 

 

だからデートではわわわわっ。

 

ちょ、ばんきさん、何で無言でひっぱるのー……

 

 

「……初々しいな。実に」

 

「青春だねぇ」

 



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俺氏、背中が開く。

 

 

 

「きゅー!」

 

 

新年を迎えても、喫茶店は通常営業である。今日も1日かんばるぞい。

 

まぁ年明け早々だし、お客さんは少ないと思うけどね。こればっかりは仕方ないが、開店しなきゃお客さんは入らないのだ。

 

すくすくたちも、いつまでも正月ボケしてちゃいけないぞ。

 

 

「きゅー?」

 

 

むっ? どうしたすくすくチルノ。

俺の背中に何か付いてる?

 

すくすくチルノ以外のモフモフも、首をかしげながら俺の背中を不思議そうに眺めている。特に何か付いてるような違和感はないけど……。

 

 

「あけおめだぜー。お年玉を貰いに来たぜ」

 

 

あっ、魔理沙さん良いところに。お年玉あげる前に、ちょっと俺の背中見てもらえません?

 

 

「 背中? ……おっ、扉が付いてるな」

 

 

何それこわい。

 

 

「きゅー」ガチャ

 

「おおっ、扉からモフモフが出てきたぞ」

 

 

何それかわいい。

 

 

「……このモフモフがお年玉代わりでもいいんだぜ?」

 

「きゅー?」

 

 

それはダメ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「きゅー!」

 

 

俺の背中から出てきた黄色いモフモフ。今は魔理沙さんにモフモフされながらみかんを食べている。

 

魔理沙さん曰く、比較的最近異変を起こした人物のすくすくらしい。すくすく舞とすくすく里乃と仲良さげである。

 

背中の扉もこのモフモフの能力なんだとか。不思議な能力だなぁ。

 

 

それはさておき。はいこれお年玉。

無駄遣いしちゃダメだぞー。

 

 

「サンキュー!ここを待ち合わせ場所にした甲斐があったぜ」

 

 

待ち合わせ?

 

 

「まあな。お年玉をもう2つか3つ用意しておいた方が良いぜ。こんな時期でも、参拝客がほとんどいないらしいからな」

 

 

「お邪魔するわ」

 

「きゅー」

 

 

「おっ、噂をすれば。こっちだぜ霊夢ー」

 

 

暖かそうなモフモフを抱いてを来店してきたのは、博麗神社の素敵な巫女さん。早苗さんのときも思ったが、どうして幻想郷の巫女さんは真冬でもヘソ出しファッションなのか。

 

モフモフはミニチュアお賽銭箱を抱えてきゅー!と鳴いている。間違いなく、霊夢さんのすくすくだ。

 

 

「霊夢、どうしたんだそのモフモフ」

 

「今朝、お賽銭箱開けたらいたのよ」

 

「きゅー!」

 

「ほぅ。で、肝心のお賽銭は?」

 

「……ナナスケさん、ツケでお願いします」

 

「きゅぅー……」

 

 

死んだ魚のような目をする霊夢さんと、しょんぼり顔のすくすく霊夢。

 

博麗神社はなかなかの経営難のようだ。お年玉と甘いもの持ってくるから、ちょっと待っててね。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「あー……あったかくて甘いぜー……」

 

「ほんとねー……ナナスケさんおかわりー……」

 

『きゅー!』

 

 

すくすくたちがついてくれた餅入りのぜんざい。気に入って貰えてすくすくたちも嬉しそうである。

 

 

こたつで伸び伸びとダラダラしている霊夢さんと魔理沙さん。

 

魔理沙さんはともかく、霊夢さんの帰る気ゼロのだらけっぷりを見るに、本当に参拝客が来ないんだろうなぁ博麗神社。

 

 

「……ん、ナナスケさん。そこに何かいるわ」

 

「きゅ!」

 

 

そう思っていると、霊夢さんはそう言って、こたつ机の隅を指先す。すくすく霊夢も『何かいる!』と言わんばかりに短い手でその場所を指している。

 

しかし、俺には何もないように見える。霊夢さん、もしかして霊的なもの見てます?

 

 

「違うわよ。私だって何も見えないけど、私の勘が『何かいる』って言ってるわ。行きなさいモフモフ」

 

「きゅー!」

 

 

霊夢さんに言われるがままに、すくすく霊夢は何もない場所に向かって体当たり。

 

そのまま勢い良くこたつ机から落下……することはなく、ポフーンと何かモフモフにぶつかる音が響いた。

 

 

「「「きゅーっ!?」」」

 

 

何もなかった筈の場所から現れたのは、3匹のモフモフ。

 

光のすくすく三妖精だ。どうやらこたつの上のみかんをこっそり盗もうとしていたようだ。

 

そんなことしなくても、ほら。

みんなで分け合うんだぞ。

 

 

「「「きゅー!」」」

 

 

3匹が協力してみかんの皮を剥いているのを応援しながら眺めていると、霊夢さんが思い出したように口を開く。

 

 

「そうだナナスケさん。次の立春の日、博麗神社(うち)で宴会をやるんだけど、参加しない? 」

 

「おお、そりゃ良いな。ナナスケなら酒の肴も期待できそうだ」

 

 

宴会かぁ……そう言えば、まだ1度も参加したことなかったっけ。

 

 

『きゅー…!』

 

 

宴会と聞いて、すくすくたちの目が輝く。『楽しそー!』『行ってみたいねー!』的な感じですくすく同士きゅーきゅー鳴き合っている。

 

 

……ふむ。近いうちにお願いしておくか。

 

 





モフモフ幻想郷も残すところ後2話となりましたが、最後までお付き合いしていただけると嬉しいです。


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俺氏、観察しきれない。

 

 

 

朝起きたら、壁一面に穴が空いていた。

しかもたくさん。なんだこれ。

 

 

『きゅーっ』ピョーン

 

 

すくすくが穴の一つにピョーンと飛び込むと、別の穴からポーンと出てくる。マ○オの土管みたいな穴である。

 

よほど面白いのか、たくさんのすくすくが穴に飛び込んでは穴からポポポポーンと出てくる。

 

まるでモフモフの滝、かわいいけどシュールである。

 

 

「きゅー」

 

「きゅ?」

 

 

穴を作ったのは簪を身に付けた青色のモフモフ。

 

自身は穴に飛び込むことなく、キョンシーみたいなモフモフに、のんびりとブラッシングをしてあげている。

 

 

……まぁ、いっか。

すくすくたちも楽しそうだし。

 

 

 

――――――

 

 

 

モフモフの滝を見て思い出した。

実は100匹を越えたんですよ、すくすく。

 

3桁までいくと、もうすごいね。モフモフの海だね。一面モフモフ。阿求さんやさとりさんが良く無言で飛び込んでる。

 

 

これだけ多いと1日で観察しきれないが、この冬に出会ったすくすくを中心に、改めて見ていこう。

 

 

 

 

「きゅー」

 

 

すくすくヤマメは喫茶店に来て早々、店の角に巣を作っていた。

 

たまにすくすくラルバが巣に引っ掛かっていることがあるが、その度すくすくヤマメが解放してあげている。捕獲用の巣ではないらしい。

 

 

「きゅー……」

 

 

今日は別のモフモフが巣に引っ掛かってる。

 

触角のついた緑のモフモフ、すくすくリグルだ。諦めたように手足をブラーンとさせている。

 

助けてあげると、光る尻尾をフリフリさせながら、嬉しそうに頬擦りしてくる。これだからモフモフはやめられない。

 

 

 

「「きゅー!!」」

 

 

すくすくスカーレット姉妹は好奇心旺盛で、他のすくすくより人懐っこい。喫茶店内を飛び回っては、お客さんの頭の上に乗ってきゅー!と鳴いている。

 

血は吸わないけど、よく指を甘噛みしてくる。はむはむと甘噛しながらきゅーきゅー鳴く愛らしさに、多くの人が鼻血を流している。おもに阿求さんだけども。

 

 

 

「きゅ!」

 

「きゅー♪」

 

 

すくすく綿月姉妹は真反対の性格。

 

すくすく依姫はいつ見てもシャキっとしてるが、すくすく豊姫はいつ見てもノンビリしている。モフられるのが好きなのは一緒だけどね。

 

 

「きゅー」

 

 

たまに、うさ耳の生えた水色のモフモフが、すくすく依姫と走ったり座禅したりしている。訓練だろうか。

 

 

 

 

「きゅー」「きゅ?」

 

 

すくすく霖之助とすくすく朱鷺子は読書が大好き。いつもどこかで本を読んでいる。

 

たまにすくすく阿求やすくすくバチュリーたちと集まって、読書しながら意見交換をしてたりする。さとりさん曰く、内容はとても真面目なものなんだとか。

 

 

「きゅー!」

 

 

そこに、鈴のアクセサリーを身に付けたモフモフが、持参した本を読みながら意見交換に参加する。

 

すくすく小鈴だ。妙に禍禍しい本を持っている。何の本なんだろう……。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

1匹1匹じっくり観察してると、あっという間に日が落ちる。続きは次の休日にして、そろそろ晩ごはんの準備をしよう。

 

今日の晩ご飯はシチュー。お昼に予め作っておいたものを温めるだけだけどね。

 

 

……そう言えば。この前誘われた、立春の日の宴会。霊夢さんから「何でも良いから料理を持参してきて欲しいの。大量に!」って頼まれたのだか、何を作って持っていこうか。

 

すくすくたち。何か案ある?

 

 

『きゅー……』

 

 

一斉に首を傾げるモフモフたち。

 

すくすくは何でも美味しく食べてくれるから、その分好物も多いのだろう。悩み所である。

 

 

すくすくと一緒に首を傾げていると、鍵を開けて店内に入ってくるろくろ首さんが1人。

 

こんばんはばんきさん。

バイト帰りですか?

 

 

「そんなところ。良い香りがしたから寄ってみた。……一緒に食べてっていい?」

 

 

もちのろんですよ。大量に作ってあるので。

 

そうだ、ばんきさんは何か案ありません?宴会に持ってく料理。

 

 

「……うーん…………水ようかんが良いな」

 

 

ふむ、水ようかんか……。少し季節外れだが、作れないわけじゃない。甘いものは何時食べても美味しいよな。

 

 

『きゅーっ!!』

 

 

すくすくたちも大賛成みたいだ。

よし、それで行こう。ありがとうばんきさん。

 

 

「……ん」

 

 

そっぽを向きながら頬を指で掻くばんきさん。

照れてるっぽい。かわいいね。

 

 



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俺たち、宴会へ。

 

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@七生透

>そんなわけで、すくすくたちの方を

>よろしくお願いします。

 

@ゆかりん(14)

>よろしくお願いされたわ。

>でも、貴方は良いの?

 

@七生透

>俺は大丈夫です。

>1人じゃありませんから。

 

 

――――――

 

 

 

時が経つのは早いもので、あっという間に立春を迎えた。

 

立春とは、暦上で春が始まる日。また、冬の寒さが和らぎ始める日のことである。

 

和らぎ始めると言うことはつまり、今はまだとても寒く、春にはほど遠い気候だと言うことだ。

 

 

「き、きゅー……!」

 

 

そんな中、すくすくリリーが寒さに負けずにやってきました。春告精も大変である。暖かい店内にお入りー。

 

 

 

――――――

 

 

 

そんなわけで、今日はみんな大好き宴会の日。水ようかんの準備も万端である。

 

今日の宴会は博麗神社にて行われる。博麗神社には、俺が幻想入りして間もない頃、1度だけ紫さんにスキマで連れていってもらったことがある。人里からだとかなり距離があるらしい。

 

 

つまり、俺は博麗神社までの道のりを知らないのだ。

 

ここまで言えば、わかりますよね?

 

 

「……うん。一緒に行こ」

 

 

お願いします。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「そう言えばさ。チャットの名前、あれって本名なの?」

 

「きゅー?」

 

 

 

博麗神社への道中、黄色いモフモフを頭に乗せたばんきさんがそう聞いてきた。

 

そうですよー。七生 透、俺の本名です。

ナナスケは中学時代からのあだ名ですので。

 

 

「……そうなんだ」

 

「きゅー!」

 

 

俺が答えると、ばんきさんは少しだけ顔を赤くして、何か考えるように黙り込む。

 

対して黄色いモフモフは、そうなのかー!と言わんばかりに元気よく鳴いてくれた。

 

言わずともがな、すくすくルーミアである。頭のリボンを取ったらどうなるのか、気になるところである。

 

 

「……ねぇ」

 

 

ん?

 

 

「私はアンタをあだ名で呼んでて、アンタは私のことを名前で呼んでるよね」

 

 

まぁ、そうですね。

 

 

「……私も、名前で呼んで良い?」

 

 

……。

 

 

繋いでいた手は、不思議と指が絡まっていった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「いらっしゃいナナスケさん! 素敵なお賽銭箱はあっちよ! 覚えといてね!」

 

 

博麗神社に到着して早々、霊夢さんがグイグイくる。参拝しにきたわけではないけど、小銭を用意しておこう。

 

俺とばんきさんが到着した頃には、多くの人妖の方々が揃っていた。思っていた以上に長い道のりだったから、その分時間もかかったみたいだ。

 

紅魔館、守矢神社、命蓮寺、永遠亭の方々などなど。宴会参加者に知らない人はいなさそう。と言うか常連さんしかいない。幻想郷は広いようで狭いなぁ。

 

 

「ばんきちゃーん! こっちー!」

 

 

遠くの方でばんきさんを呼びながら手を振る影が2つ。草の根の方々だ。

 

名残惜しいが仕方なく、繋いでいた手を離したところで、ばんきさんが呟く。

 

 

「……また、後でね」

 

 

うん。また後で。

 

 

 

 

「霊夢ー。ナナスケたちも来たし、そろそろ乾杯しようぜー」

 

「そうね、面子も大体揃ってるし。じゃあ乾杯の音頭を私から」

 

「まだダメよ霊夢」

 

 

霊夢さんがビールジョッキを片手に立ち上がろうとしたところで、スキマから現れた紫さんに止められる。

 

 

「何でよ紫」

 

「だって、まだ半分も揃ってないもの」

 

「……?」

 

 

そんな馬鹿な……と言いたげな顔で宴会場を見渡す霊夢さんを他所に、紫さんはパチンと指を鳴らす。

 

その瞬間、宴会場の上空に巨大なスキマが開かれた。

 

 

 

「きゅー」

 

『きゅーっ!』

 

 

 

すくすく紫を先頭にスキマから出てきたのは、100を超えるモフモフの大群。

 

俺が紫さんに頼んでおいたのだ。すくすくたちも宴会に参加させてほしいって。

 

全員を引き連れて博麗神社まで歩くのは少し無理があったからね。こうやって連れてきてもらったのだ。ありがとうございます紫さん。

 

 

 

「きゅー」「きゅー!」

「きゅ?」「きゅー」「きゅーっ!」

 

「宴会でもモフモフできるなんてっ……!」モフモフ

 

「ホントに好きだね阿求は」ナデナデ

 

「きゅー♪」

 

 

幸せそうにモフモフ四天王をモフモフする阿求さんと、それを眺めながら自分のすくすくを撫でる小鈴ちゃん。

 

 

 

「「きゅ!」」

 

「ふっ。このレミリア・スカーレットが飲み比べでモフモフに負けるとでも?」

 

「お嬢様。そのすくすく、鬼です」

 

「えっ」

 

 

すくすく萃香とすくすく勇儀に死亡フラグを建てるレミちゃん。

 

 

 

「どの子もとっても『良いモフ』ですね。」

 

「ええ。私も永く生きてきたけれど、今日が一番の『良いモフ』だわ」

 

「この『良いモフ』との出会いに感謝を。ありがとうナナスケさん。……おやおや、おめでとうございます」

 

「きゅー!」

 

 

何故かモフモフソムリエの3人に頭を下げられる俺。でもさとりさん、勝手に心を読まないでください。照れる。

 

 

 

単純な数だけなら倍以上に増えた宴会場は、まだ始まってもないのにとても賑やか。

 

すくすくリバーWithHとすくすく二楽坊、さらには本家の方々の演奏が交わり、宴会というよりお祭りに近い状態に。

 

 

「おおう……宴会がモフモフに乗っ取られそうだぜ……」

 

「きゅー?」

 

「……まぁ、これはこれでありね。ナナスケさん、どうせだから私の代わり音頭よろしく」

 

「きゅー!」

 

 

モフモフまみれの霊夢さんに重大な役を任される。

 

そういう役をやったことは殆どないが、無理言ってすくすくを連れてきた責任もある。ここは潔く引き受けよう。

 

 

えー、本日もお日柄良く……

 

 

「きゅー」

 

 

音頭の出だしを話始めたところで、1匹のすくすくに遮られる。

 

ベレー帽のような緑色の帽子を被り、眼鏡を掛けたモフモフ。ビールジョッキを片手に持ち、早く飲みたそうにきゅー、と鳴いている。

 

 

……このすくすくを待たせちゃいけないね。

うん、シンプルに行こう。

 

 

 

乾杯!

 

 

『乾杯!』

 

 

『きゅーっ!』

 

 

 

 

 

 

――― モフモフ幻想郷 おしまい ―――

 

 

 

 

 

 

 

 





以上をもって『モフモフ幻想郷』本編の完結です。ここまで読んで下さった読者の皆様方、本当にありがとうございました!

私の活動報告ページにあとがきを書いたので、興味のある方はどうぞ。ではまた会える日まで。




あ、1話だけ超ラブコメなおまけを書きます。
クリスマスの裏側の話です。


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私、クリスマス。


おまけ。
クリスマスのばんきっき視点です。



 

 

その日の私は、一日中ニヤニヤしてたと思う。

マントで口元隠してなかったら危なかった。

 

帰宅するなり、お気に入りのクッションに顔を埋めて、アイツから貰ったものを眺める。

 

 

喫茶店の鍵。

アイツの家の合鍵。

 

 

これってさ。つまりさ。そういうことだよね? いくらアイツが鈍感のにぶちんでも、そういう風に思ってない奴には渡さないよね? アイツもそう思ってるって受け取って良いんだよね?

 

 

………ふへへ。

 

 

ついクッションをバンバン叩いてしまう。何この気持ち。嬉し恥ずかしい。顔熱っ。

 

そんなことを思っていると、ポケットに入れていたすまーほが震える。

 

 

あっ、ナナスケ!

 

 

――― GSチャット ―――

 

 

@七生透

>もしかしてそっちに

>すくすくばんきっき居ません?

 

 

――――――

 

 

 

私のモフモフ?

 

 

「きゅー」

 

 

あ、いた。マントにくっついていた。そんなに私と遊びたかったのか。かわいいモフモフめ。

 

今日はもう遅いし、明日喫茶店に連れていこう。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「ばんきちゃんの、ばかっ!」

 

 

次の日。そんなことがあったのだと、喫茶店で草の根メンバーと話していたら、ペチーンと姫に尾びれでビンタされた。あたま吹っ飛んだ。

 

えぇ……何でビンタされたの私……。

 

 

「姫の言う通りよばんきっき。どうしてそこでチャンスを逃しちゃうのよ」

 

「せっかく合鍵貰ったなら、夜遅い時間にこそ行くべきだよ! 夜なら邪魔者はいないんだよ! 『妖怪の活動時間は、夜なんだよ……?』的なこと言って良い感じにチューとかできるチャンスだったのに! 」

 

 

何だかとんでもないこと大声で言われた気がする。アイツに聞こえたらどうするんだ姫。

 

と言うか。いやいやいや、できるかそんなこと。ち、チューなんてそんな。考えただけでも顔が熱いわ。

 

 

「でもさ、合鍵もらっただけで、付き合ってはないんでしょ? それぐらいアピールしないと」

 

 

影狼の指摘にうっ、と言葉が詰まる。

 

た、確かにまだ付き合ってるわけじゃないけど……でもそんな不純な目的で、あのにぶちんが私に鍵を渡したとは思えないし……。

 

 

「でも安心してばんきちゃん。 次のチャンスはもう目前だから! はいこれあげる!」

 

 

姫はそう言うと、小さな袋を私に差し出す。

 

中を覗くと、キラキラと輝く綺麗な石が沢山入っている。姫が霧の湖でよく拾っているものだ。

 

 

「もうすぐクリスマス、聖なる夜! 手作りプレゼントで大好きな彼にアタックするべきだよ!」

 

 

テンションのおかしい姫にそう言われて思い出す。そうか、クリスマスが近いのか。

 

去年までは何だかんだこの二人とパーティーしていたけど、今年は……うん。ちょっと考えよう。

 

 

姫が拾う石の中には、いわゆる『宝石』も混じっている。それを加工してプレゼントにするのは、確かに良いかも。

 

 

「手作りプレゼント! 私も大賛成です!」

 

『きゅー』

 

 

離れた席でいつものようにモフモフと戯れていたモフモフまみれの阿求が、当然のように乱入してきた。

 

どれぐらいモフモフまみれかと言うと、頭と両肩、両腕と背中にモフモフがくっついた状態で、モフモフを両手で抱いている。フルアーマーか。

 

 

……その際だから確認しておくけど、アンタは、その、良いの?

 

 

「……蛮奇さん。この前は誤解を招く言い方をしてしまいましたね」

 

 

そう言うと、モフモフルアーマー阿求は、姫と影狼の間に割り込んでちょこんと座り、抱えていたモフモフを机に置く。

 

そして、一言。

 

 

「私、人の恋愛を見て楽しむ側(こっちがわ)なんです! いぇーい!」

 

「「いぇーい!!」」

 

『きゅー!』

 

 

肩を組む3バカ。もうホント、バカ。

 

 

 

バカは無視して、姫から貰った石を1つずつ袋から出して見ていく。

 

姫の拾う石のセンスは本物であり、どれも甲乙つけ難いほど綺麗だ。その中でも、黄色く煌めく石が私の心を惹き付けた。

 

 

「それは『シトリン』ですね。『商売の繁盛』『富』と言った石言葉を持つ宝石です」

 

 

さすが阿求。そういうのには詳しいな。

稗田の知識量は伊達じゃないね。

 

 

「シトリンには『初恋』って石言葉も含まれているので、ばんきさんにはぴったりですね♪」

 

「「ひゅーひゅー!」」

 

『きゅーきゅー!』

 

 

外野がうるさい。モフモフもうるさい。後で後悔するぐらいモフッてやる。

 

まぁ、でも。は、初恋ってのはともかく。それ以外の石言葉はアイツにピッタリだ。

 

これをネックレスに加工してプレゼントにしてみようかな……。

 

 

「ネックレスをプレゼントすることには『私は貴方を独り占めしたい』って意味があるんですよ♪」

 

「「きゃー! だいたーん!」」

 

『きゅー!』

 

 

いい加減しばくぞお前ら。

 

 

 

 

 

 

――― クリスマスイブ ―――

 

 

 

 

宝石の加工作業は、自分でやると予想以上に時間がかかった。お昼にのんびり喫茶店行ってる場合じゃなかったかも。

 

深夜になってしまったが、何とか完成した。

シトリンの手作りネックレス。

 

 

いや、うん。深い意味はないから。純粋に、黄色をネックレスがアイツに似合いそうだと思っただけだから。独り占めとか……まぁ、したいけど。

 

 

クリスマスイブだしまだ起きてるかなーと思いながら、夜の喫茶店にやって来たが、電気が消えてるからたぶん寝てる。

 

……こっそり入っちゃおう。

 

 

合鍵を使い、音を立てないようにして真っ暗闇の喫茶店に忍び込む。

 

妖怪の活動時間が夜って言うのは、あながち間違いではない。妖怪の力は夜にこそ発揮されるものだ。私も例外じゃない。

 

つまり、妖怪は夜目がきくのだ。この程度の暗闇なら、明かりをつけなくても普通に歩ける。

 

さて、アイツはどこで寝てるのやら。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「……zzz」

 

「きゅぅ……zzz」

 

 

数分後、モフモフに囲まれながら眠っているナナスケを発見。阿求が羨ましがりそうな光景である。

 

コイツの寝顔、初めてみたな……。

ほっぺたつんつんしちゃえ。

 

 

「……んにゃ……zzz」

 

 

うわっ。んにゃって。かわいっ。

 

 

おっと。こんなことしてる場合じゃなかった。

 

完成した時間が遅かったのもあるが、直接手渡すのも恥ずかしいからね。ナナスケはサンタからプレゼントを欲しがってたし、サンタから贈られてきた体でプレゼントを置いておく。

 

 

自分の想いは、もっと別の機会に伝えよう。

 

 

ナナスケの枕元にそっとプレゼント箱を置いて、任務達成。起こさないうちに帰らないと。

 

 

 

 

 

 

 

『チューとかできるチャンスだったのに!』

 

 

 

 

 

 

 

……何でこのタイミングで姫の言葉を思い出すかなぁ、私。

 

 

 

……さっき、ほっぺたつんつんした感じ。そう簡単には起きなさそうだったな……。

 

 

……私はプレゼント贈るのに、私はプレゼント貰えないのは不公平だよ、ね?

 

 

 

 

……め、メリークリスマス。

 

 

 





☆ほんとのほんとに終わり☆



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