大企業に就職したと思ったら職務内容がブラックだった (斎藤 一樹)
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大企業に就職したと思ったら職務内容がブラックだった
鴻上ファウンデーション、という会社をご存知だろうか。会社というか財団と言うべきなのか分からないが、ついでに言うならば何をやっている企業なのかも多くの人は分からないという謎に包まれた組織でもある。
その実態はというと、……何だろうここ。
正直、そこで働いている俺も今一つ分かっていない……というのが偽らざる俺の本音というやつであったりする。
如何せん、組織の規模が大きすぎるのだ。
鴻上ファウンデーションは美術品の保護から謎の研究まで手広くやっている。噂では会長である鴻上光生自らが陣頭指揮をとって遺跡の発掘調査をやっているとも聞く。
そんな俺が配属されていたのは、ライドベンダー隊というバイク部隊だった。輸送用の部署ではない。いや、輸送もやるがその本分は戦闘用だ。バイクに乗って銃火器をぶっ放すのがお仕事であるが、何故こんな部署があるのか俺はずっと謎だった。
謎は謎のままにしておきたかったなぁ、と今では心から思う。
というか銃刀法はどうなっているのか不安で仕方がない。隊長の後藤さんに聞いてみても遠い目をされるだけだった。何故か気に入られてる鴻上会長に訊いてみたら高笑いで返された。
答えて。
あまり深く考えちゃいけなさそうだと悟った俺は、その事については考えないようにする事にした。
……現状、上手く行っているとは言い難いのだが。
さて、そんな俺たちライドベンダー第一小隊は元エリート警察官の後藤さんを隊長に、多分侵入者撃退を目的とした訓練を重ねていた。
そしてつい先日、俺がライドベンダー隊に配属されてから初めての出動があった。
初陣である。
現場は鴻上ファウンデーション所有の美術館。
先輩たちに励まされながら急行したそこにいたのは、メダルが集まって人の形を為した化け物だった。
奴等は腕の一振りで激流を起こし、一跳びで空を駆けた。
俺たちの放つ銃火器による攻撃では奴等に傷一つ付けられず。
……程無くして俺たちライドベンダー第一小隊は壊滅した。
隊員の殆どは大怪我を負い、比較的無事だったのは隊長の後藤さんと……隊で一番の新入りである俺の二人だけだった。
ライドベンダー隊が出動時に装着を義務付けられている戦闘服は見た目以上の頑丈性と対衝撃性を兼ね備えているらしく、殉職者が出る事は無かったらしい。だが、極めて危険な状態にまで追い込まれた隊員は少なくないらしい。
そんな中で俺が命に別状がない程度の怪我で済んだのは別に俺が強かった訳ではなく。ただ、運が良かっただけなのだろう。
斯く言う俺も右腕と左膝、ついでにあばらを骨折して今は病院のベットの上である。
何でもこの病院も鴻上ファウンデーションの系列の施設らしく、入院費用は会社持ちらしい。加えて危険手当てが出るらしいので懐は安心である。
大企業万歳。
飽きた。
俺は元々飽きっぽい性格である。
一週間近くベッドの上で大人しくしていただけでも褒めて欲しい。
「まだ1週間経ってないじゃないですか」
呆れたように隣から言うのは
ミディアムの長さに切り揃えられた柔らかな茶色の髪と小柄なボディが特徴的だが、その小柄な体型から繰り出される拳はとても鋭い。
というか拳に限らず格闘全般が強い。どれぐらい強いかと言うと、ライドベンダー第一・第二小隊合同での訓練をやった時に先輩たちをばったばったと薙ぎ倒す椎名というギャグのような光景を目にしたぐらいだ。
俺はその時人生で初めて、人間が生身で空を飛ぶ様を見た。俺はと言えば早々に彼女に張っ倒されて訓練場の床と熱いキスを交わす羽目になっていたのだが。
蹴りや突き、受けや動きから見るに空手がベースと見たが、柔道っぽい投げ技も使っていたから他にも色々混ざっているのかもしれない。
何にせよ、こうして休日にわざわざ同期の俺の見舞いに来てくれるとても良い娘であるのは確かだ。
「まだ5日目ですよ?」
持ってきてくれたリンゴをしゅるしゅると慣れた手付きで剥きながら彼女は嘆息した。
「大体半分以上経ったんだし、これはもう殆ど1週間と言っても過言ではないのでは?」
「過言ですー」
もう、と溜め息をつきながら椎名が言った。
しょりしょりとリンゴの皮が剥かれる音が響くこと暫し、出来ましたよという声と共にことりと皿が置かれる。
そこには種を取られ綺麗に切り分けられた6切れのリンゴと、桂剥きで一本の帯状に剥かれた皮が添えられていた。すげぇ、これ出来るやつ初めて見た。
さて。言ってみるだけならタダとも言う。
包帯に吊られた右腕を然り気無くアピールしながら行ってみよう。
「右手こんなだし、食べさせてくれると嬉しいんだけどなー……なんて」
リンゴの代わりにデコピンを頂戴した。
手加減してくれたのだろうが、それでも割と痛い。
「ダメかー」
「これ以上のサービスは別料金です」
にっこりと笑いながら椎名が言った。
「金取るの!?」
値段次第で払うぞ。
結局左手を使って食べた。
「そっちは最近どうよ?」
椎名の剥いてくれたリンゴを二人で食べ終わり、一息ついて。ふと職場の様子が気になったので訊いてみた。
「第二小隊はみんな元気にやってますよ。ただ第一小隊が居ないので輸送のお仕事がちょっと増えぎみです」
だからちょっとだけ大変ですねー、と言いながら彼女は伸びをして。
ああそうだ、と手を打った。
「そう言えば馨くんはあの化け物について何か聞いてます?」
あの化け物。
どう考えても、俺たちが交戦したあのメダルの化け物の事だろう。
あれを交戦と言って良いのかは悩ましいところだが。一方的な蹂躙と行った方が適切かも知れなかった。
第一小隊を壊滅に追い込んだ例の化け物の話は、第二小隊にも広がっているらしい。
口外しても良いものか少し悩んだが、特に口止めもされていないので良いのだと思うことにする。
少ないとは言え折角の情報だ。どの程度助けになるかは分からないが、知らないよりは知っていた方がマシな展開があるかもしれない。
もっとシンプルな言い方をするならば。
俺はこの友人に少しでも危険な目に遭わないでほしかったのだ。
「俺がこの病室で目を覚ました時に聞いたのは2つ。奴等がグリードと呼ばれる存在であること。そして、グリードとはメダルで構成された存在であることだけだ」
目を覚ましたらいきなり病室の備え付けのテレビが「デン!」という音と共に点り、そのディスプレイに鴻上会長の顔がドアップで映し出されたのは非常に心臓に悪かった。
危うくまた夢の世界に逆戻りするところだったぜ、等と今でこそ冗談混じりに話せるが。
「グリードは今のところ4体が確認されているが、俺が交戦したのは水を操る個体だった。少なくとも支給品のショットガンとサブマシンガンは効いていない様子だったな。そいつが手から出した高圧水流で俺たちは吹き飛ばされて、その後は気が付いたらここにいたって訳だ」
歯が立たない、とはこの事を言うのだろう。
「ま、出来るなら戦わないのが一番だろうな」
軽い口調で言ってはみたものの、本心からの忠告だった。
椎名が見舞いに来てくれてから3日後。
未だ完治していないとは言え無事退院した俺は呼び出しを受け、鴻上ファウンデーション本社に来ていた。
俺の前では真っ赤なスーツを着た壮年の男性……鴻上ファウンデーション会長の鴻上光生が、鼻歌混じりにケーキを作っている。
どういう状況だ、これは。
会長室備え付けのソファに腰かけてティーカップを傾ける里中さん……会長秘書の里中エリカさんへと視線を向ける。この状況に無反応な様子を見ると、これはいつもの事らしい。
待つしかなさそうだった。
「神座くん」
徐に会長が口を開いた。
「は、はい」
慌てる俺を他所に、会長は言葉を続ける。
「君は先日のグリードとの戦闘を経験してどう思ったかね?」
クリームを塗り終えたケーキスポンジにホイップクリームでトッピングしながら、鴻上会長は俺に問う。
どう、か。
あの時感じた思いを表すなら、そう。
「圧倒的だな、と思いました」
圧倒的、という言葉が正しいのだろう。絶対に勝てないと思わせるような、そんな格の違いとでも言えばいいのだろうか。
「訓練はしてきたはずなのに、どうやっても勝てる未来が見えなくて。自分より強い先輩たちが次々とあっさりやられていくのが堪らなく恐ろしくて。正直逃げ出したくなりました」
実際には逃げる間もなくやられた訳だが。
「成る程、君の抱いた『恐怖』と言ったところか」
……そうだ。俺は、怖かったんだ。
「……そうですね、死ぬのは怖いです」
ふんふん、とうなずく会長。
「では辞めるかね? 今なら危険手当てと合わせて退職金も多めに出そう」
どうするね、と会長が目で問う。
魅力的な提案だと思う。
でも。
「せっかくのお話ですが、俺はまだここで働きたいです」
そう答えると、会長は右の眉をくいっと上げながら言った。
「ほう。それは何故かな?」
「会長は以前、俺に『世界の平和を守る』為の仕事と仰いました」
俺が就活をしている時のことだ。自分に何が出来るか、自分が何をしたいのか分からずに悩んでいたところに、鴻上会長が掛けてくれた言葉だ。
「そうだな」
続けたまえ、というかのように頷く会長。
「俺は今回、人を襲うグリードという存在を知りました。それを知っていて戦いから逃げ出すのは、俺には出来かねます。俺は……誰かを守るために戦いたい」
俺も幼い頃は画面の向こうのヒーローに憧れたクチである。
格好良く変身して悪者を倒すようなヒーローにはなれなくても。
誰かを助けられるような存在ではありたいと思うのだ。
「だから俺は、ここで戦いたい。もっと強くなって、誰かを助けたい」
俺は、強くなる。
今の俺は弱いから。
一方的にやられてしまうぐらい弱かったから。
だから。
次に戦うときはせめて、誰かを助けられるように。
そう思った。
「素晴らしいッ!!」
鴻上会長が嬉しそうに言った……いや、叫んだ。
「Happy birth day!! 君は君自身の欲望を見つけられたようだ!!」
そう言いながら会長は完成したらしいケーキを手に取ると、俺へと差し出した。
白い生クリームで覆われたケーキスポンジに、チョコレート製のプレートとイチゴ、ブルーベリーがホイップクリームとともにトッピングされている。とても美味しそうだ。
「これを、俺に?」
「ああ、君のために作ったものだ。これからの君に期待しているよ、神座くん」
そう言って会長は俺にケーキを手渡した。
「さて、休暇中に呼び出してすまなかったね。もうしばらく休暇を楽しみたまえ!」
はっはっは、と上機嫌に笑いながら会長は離れた。
「…ありがとうございます」
ただ、一人で食べるには流石に量が多い。椎名のところに持って行くか。あいつ甘いもの好きだったはずだし。
「……すみません里中さん、ケーキ持ち帰る用の箱とかってあります?」
本作は仮面ライダーオーズ本編のパラレルワールドという想定で書いてます。
・
ライドベンダー隊所属のモブ系主人公。鴻上ファウンデーション入社後はライドベンダー隊の隊員として訓練しつつバイクでの輸送等をやっていたが、初の戦闘でグリードと遭遇。相手が悪かった。
・椎名美琴
本作の暫定ヒロイン (まだ友人ポジ)。少なくとも格闘戦は主人公より強い。
りんごは縦方向に皮を剥いた方が美味しく食べられる、という話を何処かで聞いた気もしますが、今回は描写優先で桂剥きになりました。料理経験値が低い作者が思い浮かべられた精一杯の「料理が上手い人」アピールがりんごの桂剥きです。
ふと思い浮かんだ深夜テンションの産物を手直ししたのがこの文章なんですが、原作が仮面ライダーなのに誰一人変身後の姿が出ないのは流石に詐欺なのではと思わないでもない気もします。そんな息抜きついでの見切り発車作品なので、続くかどうかは未定です。
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大丈夫? もずく風呂入る?
鴻上会長に呼び出されてから2週間。今日から俺も本格的に仕事に復帰することになった。
「おはようございます馨くん、今日からなんですね」
肩口に切り揃えられた茶色の髪を揺らしながら椎名が微笑んだ。彼女のトレードマークと言える側頭部の編み込みがお洒落だ。
「おはよう、椎名。しばらくこっちでお世話になるぜ」
骨折していた右手をひらひらと振って応えつつ、俺は新たに割り振られた席へと向かう。
俺が会長に「この仕事を続けたい」と言った後、問題となったのが俺の配属先だった。なにせ俺が所属していたライドベンダー第一小隊は、俺と隊長の後藤さん以外の全員が未だ入院している。たった二人で隊として活動出来る筈もなく、更に後藤さんは後藤さんで会長の指示で単独で動くことになったようで。
俺の意思と関係なくクビの危機だった。
やっべぇ。
そんな俺の配属先として選ばれた…というか引き取ってくれたのがここ、ライドベンダー第二小隊。椎名の所属する、もう一つのライドベンダー隊だった。
ちなみに主な仕事内容は輸送と緊急時の出動・戦闘。やる事は第一小隊と変わらないらしい。その辺りの話を聞いたのは俺が自宅で療養休暇を消化している時。そこに見舞いという名目で遊びに来た椎名からだった。
俺は職場である鴻上ファウンデーション本社に程近いアパートの一室で一人暮らしをしているのだが、そこに一台を分割して二人でのプレイを可能とする某ゲーム機をソフトと共に持ち込んで椎名がやって来た。
俺、お前にウチの住所教えてなかったよな。
その疑問に答えることなく、椎名はただ微笑んだのだった。
俺のプライバシーは何処行った。
女性慣れしていない自覚のある身としては「一人暮らしの男の家にノコノコやって来るとかこの娘ちょっと不用心すぎるのでは」等と思ったりもしたが、それだけ信用されているのだと思うことにした。手を出せないヘタレだと思われている可能性とか、そもそも男として意識されていない可能性もあり得たが、その辺りは考えないようにする。俺としても微妙に不自由な体に退屈していたのは事実であり、遊び相手が遊び道具と共に来てくれるなら拒む理由はなかった。
そもそも不用心も何も、怪我を抜きにしても俺が襲ったところで返り討ちに合うのがオチという気がしないでもないが、気にしてはいけない。
気にしては、いけない(強調)。
遊びに来る度に毎回手土産と称した料理を持ってきたり、もしくは食材を持ってきて料理を振る舞ってくれたりするので、鍋を振るうのが得意ではない身としてはとても嬉しかったりもする。可愛い女の子の手料理(しかも美味しい)を喜ばない男はそう居ないだろう。
詰まるところ俺は、完全に胃袋を掴まれていた。
さて、この第二小隊ではツーマンセルで動くのが基本らしいのだが、俺が新たに入ったことで隊員が奇数名となってしまった。つまりボッチが発生する……もしくは3人のチームが一つ出来上がる事になるわけだが、ボッチを危惧した俺と組むことになったのは椎名だった。こういうのって新人は経験豊富な先輩と組むのが良くあるパターンじゃないの、と思わないでもなかったが、椎名が楽しそうだったので何も言わないことにした。
決して「今日からは私が馨くんの先輩ですね~……ふふっ」と微笑んだ椎名が可愛かったとかそういう理由ではない。少なくともそれだけではない……と思う。
確かに可愛かったけど。
ちなみに第二小隊の隊長である近藤さんが司令塔として1人で動くことになったらしい。第一小隊も後藤さんが司令塔として独立して動く事が多かったので、これはこれで理に適った編成なのかもしれない。
ライドベンダー第二小隊に配属されてから2日が経った。
3週間ほどの療養生活で落ちた筋肉を取り戻すため、この2日間は取り敢えずひたすら訓練をしていた。走り込みや筋トレ、椎名に頼んでの組手に射撃訓練など。
ただ我武者らに。
強くならなくては。
誰かを助けたければ、その分強くならなくては。
強くなりたい。その一心で、俺は俺を鍛え続ける。
「馨くんは」
組手の合間の休憩中に椎名が言った。
「馨くんは何のために強くなろうとするんですか?」
何の為、か。
「そりゃアレだよ、強くなって誰かを助けるためだよ」
ガラじゃない、なんて言われるだろうか。
「では単刀直入に言いますね~? ……何でそんなに焦っているんですか~?」
焦り?
「馨くんが復帰してから今日までの三日間、馨くんが鍛練しているのを見ていました。組手の相手もしていました。その上で言います」
すぅ、と息を吸って椎名は口を開いた。
「人間の身体には効率的な鍛え方と言うものがあります。その加減は人それぞれですが、馨くんの今のトレーニングは体を必要以上に痛め付けるだけで休息が足りていません。ここまでは良いですか?」
穏やかに諭すように、椎名が言う。
「あ、ああ」
何か思ってたのと話の方向性が違ったので少し戸惑ってしまった。
「トレーニングはやり過ぎると身体を痛め、最悪骨折などの怪我に繋がります。……とは言え人間の身体はそう壊れやすくは出来ていません。現状では筋肉が上手く付きにくいぐらいで、骨折などのリスクはあまり無いでしょう」
「ふんふん」
トレーニング、やりすぎってダメなのか。スポ根漫画とかだと無茶なトレーニングは鉄板ネタだと思うが。
「トレーニングについての話はまた後で詳しくやるのでこれぐらいにするとして。組手については明らかに問題ですね~」
むぅ、と桜色の唇を可愛らしく尖らせて椎名が唸る。
「格闘戦に限った話ではないですけど、まずは視野を広めに持って下さい。目の前の相手の動き、特に飛んでくる突きや蹴りとかを一々目で追ってたらダメです。何でだか分かりますか?」
はい馨くん、と椎名が俺を手で促した。さながら先生のようだったが、学校の先生と言うよりも家庭教師の女子大生とでも言うべき感じだった。
「あー……不意打ちに備えるため、とか?」
無い知恵を振り絞って考えた答えだったが、どうにも不評らしい。何と言うかもにょっとした微妙な表情をされた。
「……大負けに負けて50点ですね」
実質半分以下か。
「不意打ちの警戒というのも無いわけではないんですけど、もっと大きな理由は対応が追い付かなくなるのを防ぐ事です」
分かるような分からないような。
「そうですね……じゃあちょっとそこに立ってて下さい」
廊下でバケツ持って立ってなさい、みたいなアレだろうか。取り敢えず言われた通りに立ち上がる。
「今から10発……いえ20発、寸止めで馨くんに攻撃します。決して当てないので、馨くんはそのまま動かずに私の攻撃を目で追ってみてください。目を閉じちゃダメですよ?」
え。
「行きますよ~?」
……マジかよ。
「……お手柔らかにお願いします」
椎名を信じよう、そう腹を括って足に力を込める。
「寸止めはしますが全力で行きますね~」
待って。
「どうでした~?」
左腕を前に半身に構え、左右の中段突きに左上段突き、右縦裏拳から右の横裏拳、左中段突きからの左下段蹴り、右上段突き……と合わせてきっかり20発分。一息にそれだけの攻撃を放って尚且つ宣言通りに俺には一発も当てなかった椎名は、軽く呼吸を整えるだけで汗もかかずにいつもの調子で言った。
「……めっちゃ怖かった」
対してこっちは動いてないのに冷や汗で背を濡らしていた。少しでも動いたら俺の身体に当たるのでは、という緊張感で疲労が溜まった気がする。
「そうじゃなくって、目で追えました?」
そう言えばそんな趣旨だった。
「……無理だったな、どんどん目が追い付けなくなっていく」
8発目の攻撃までは何とか目で追えたが、そこから先は一々見てられなかった。目まぐるしい、という表現が正しいのだろうか。
「今回のように相手が私1人でも対応が難しくなる、という事が分かって貰えましたよね?」
実戦では周囲にも意識を向けなければならない訳で。
「……良く分かったよ」
身を以てな。
「でも視野を広くって、具体的にはどうすりゃ良いんだ?」
「取り敢えず私の頭の更に少し後ろぐらいを見て下さい。そうして視界の中に私の全身を納めるように出来れば、一先ずはオッケーです」
俺の疑問に椎名はそう言った。
「話を戻して、問題は馨くんの焦りについてです」
良いですか、と椎名は言葉を繋いだ。
「馨くんの戦い方は、以前と比べて荒々しく……もっと正確に言うなら無駄が多くなってます。ただひたすらに相手を倒そうとしすぎて、相手の攻撃を受けてしまえば簡単にペースを乱される。さっきまでの組手で馨くんも気が付いたんじゃないですか?」
図星だった。
「やり過ぎ気味なトレーニングと合わせて、私は『何かに焦ってるんじゃないかな』と思ったんです。思い当たる節、ありますか~?」
ぐうの音も出ない程、見事に言い当てられている。
思い当たる節と言えば、やっぱりアレしかないだろう。
「……グリード、か」
自覚さえしてしまえば、その言葉は意外なほどすんなりと口から出て来た。
例えば。
一度命の危機に晒されても尚、当たり前のように他の誰かの為に再びその危機へと立ち上がり向かって行けるのなら。
きっとその人はヒーローと呼ばれるような、勇気を持った人間なのだろう。
だが、誰もがそのような勇気を持っている訳もなく。
そういう意味では、神座馨は至って普通の人間だった。
当たり前のように笑い、当たり前のように悲しみ、
そして当たり前のように心を折られた。
グリードという圧倒的な存在を、その力を前にして「敵わない」と諦めてしまった。
神座馨は、そんな人間だった。
だけど。
「だけどさ、やられっぱなしってのも悔しいじゃない」
ベンチに腰かけ俯いたまま。馨は本人も気が付かない内に固く握りしめた拳を、膝の上に軽く叩きつけながら言った。
悔しい。その感情も嘘ではない。だが、それが全てでもない。
あの時に相対したグリードという存在が、馨は堪らなく怖かった。一歩間違えば自分は死んでいた、そう思うと今も背筋が冷たくなる。
それでも。
軽口のように口にした「悔しい」という思いを、そして「誰かを守るために戦いたい」という誓いを抱いて、不格好にでも無理矢理立ち上がろうと思えるぐらいには。
神座馨は、諦めが悪かった。
「そうだ、俺はグリードが恐ろしい」
力を込めすぎて白くなった左の拳をゆっくりと解きながら、馨はそう認めた。
「グリードが怖かった。そして俺がまた何も出来ないまま力尽きるのが怖かった。無力な自分のままでいるのが怖かった」
俯いたまま、吐き出すように馨が言う。
「だから、取り敢えず鍛えてみるしかないと思った。ただひたすらに体を鍛えていれば、恐怖心を忘れていられるんじゃないかとも思った」
途方に暮れたように、馨は顔を上げてそのまま天を仰いだ。
実際、後者の目論見についてはある程度成功していたと言える。
「少なくとも、体を動かしてりゃ気は紛れたからな」
そう言って馨は困り顔で美琴を見た。
言うなれば誤魔化していた恐怖心を改めて目の前に突き付けられたようなもので、見ないフリをするのも限界があった。どちらにせよ遅かれ早かれ、克服しなければならない問題でもあったのだが。
「恐怖心っていうのは無くしちゃダメなんですよ~」
だからこそ、そう美琴に言われた馨は困惑した。
「無くした方が良いんじゃないのか?」
そう馨は聞き返したが、
「いえ、私はそうは思いません」
きっぱりと美琴は言い切った。
「恐怖という感情は、『生きたい』という生存本能が鳴らす警鐘とでも言うべきものです。無くしてしまえばこれから馨くんが戦う上でも大きな問題となります」
だから、と美琴は言葉を重ねた。
「必要なのは、恐怖を感じながらも普段と変わらず体を動かせるようになること。その為にはどうか、恐ろしいと感じる心を無くさずに乗り越えて下さい。馨くんの抱える恐怖心を飼い慣らして、乗り
そう言ってから、
「大丈夫。馨くんならきっと出来ますよ~」
そう付け加えて美琴は微笑んだ。
そしてそんな彼女の笑顔に馨は弱いのだった。
あとがき
お待たせ致しました。何やかんやで続きが書き上がりましたので投稿します。尚、未だに原作主人公と会えてない模様。予定通りに進めば次話で会う事になりそうですが、果たしてどうなるやら。「こんなのオーズの二次創作じゃないわ、ただのオリジナルものじゃない!」とかクレーム来ても返す言葉が無いレベルですが、展開上必要な話だったので勘弁して下さい。
ところでお気付きの人もいるかもしれませんが、本作オリジナルのキャラクターの何人かは某ゲームのキャラクターが元ネタと言いますかイメージ元になっています。と言ってもそれっぽいキャラクターがいるだけで、そちらの世界との繋がりはありませんのでご了承下さいorご安心下さい。
本作はあくまで仮面ライダーオーズの二次創作です。
・モブ系主人公
恐怖心 俺の心に 恐怖心
もずく風呂に放り込まなきゃ (使命感)
修行パート的なお話しを経て覚醒するかもしれないししないかもしれない馨くんにご期待ください。
・低身長茶髪ヒロイン
ヒロインポジの予定 → まだ友人ポジ → 主人公を鍛えて導く師匠ポジに ←New!
どうしてこうなった……?
書いてる側も困惑しているステゴロ系ヒロイン椎名さんの明日はどっちだ。
・筋トレのお話
作者が知らない分野の話のため、にわか知識で書いてます。間違ってたらごめんなさい。
本文の最終チェックと後書きの大部分を夜勤バイト明けの妙にハイな頭でつらつらと書いてるので、余りにもアレな様なら後ほど修正するかもしれません。
何か他にも書く事他にもあったような気がしますが、思い出せないので思い出せたら後書きに追記するか次回の後書きに書きます。それではまた次回、9月下旬頃にまたお会いしましょう。本作品は月1更新を目安に投稿する予定です。
追記
思い出しました。感想や評価を付けてくれた方、ありがとうございました。初めて評価9を頂きました。感想もありがとうございます、続きを書く上で大変励みになりました。これからもお付き合いいただければ幸いです。 m(_ _)m
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メダルシャーク 人喰い鮫×メダルの怪物!!
鴻上ファウンデーションの本社ビル、その会長室。この部屋の主であり、一見して上質と分かる椅子に深々と身体を沈めた壮年の男……鴻上光生は、壁面に備え付けられた大型モニターを眺めながら一人考え込んでいた。
モニターに映るのはメダルから産まれ出た怪物、欲望の具現……ヤミー。そしてそれと対峙するのは黒を基調として上下3色の装甲に身を包んだ戦士……オーズ。
欲望の王、オーズ。
本来、彼……火野映司はオーズとなる予定では無かった。火野映司は幾つものアクシデントが重なった結果として偶発的にオーズとなった存在だす。元々は鴻上がその候補として見出だしていた者が居たし、そもそもグリードが目覚めオーズが必要となる時もまだ先となる予定だったのだが。
物事にアクシデントは付き物だ。日本有数の大企業である鴻上ファウンデーション、その会長という座に就いている鴻上はその事をよく理解していた。
当初の予定ではまだ先となる筈だったが、現にこうしてグリードは現代の日本に復活し活動を再開してしまった。そこから生まれもたらされる利益はセルメダルの貯蓄の増加という目に見える形となって鴻上を上機嫌にさせたが、それはそれ。無闇矢鱈と被害を出すべきではない、そう考えるだけの良識と常識を彼は持ち合わせていた。持ち合わせた上で欲望を優先し、時にその良識を踏み越えるのもまた彼の持つ如何ともし難い性だったが。
兎も角。
ヤミーがメダルを増やすのは望むところであるとは言え、増えただけで回収出来なければ意味がない。果樹が実をつけたのならば後は収穫するのみである。
そしてメダルを回収する手段として鴻上ファウンデーションはカンドロイドを開発。ライドベンダーと合わせて量産・配備を進めてあったのが効を奏し、先日の交渉では有利な条件を引き出す材料とすることも出来た。
問題はメダルの回収を行う前の段階、つまりヤミーを撃破するという点にある。
鴻上ファウンデーションではカンドロイドやライドベンダーと並行して、コアメダルを使用したパワードスーツの開発を進めていた。しかし開発は難航、現在はコアメダルの使用を諦めセルメダルを使用したパワードスーツの開発に着手している。このパワードスーツを以てヤミーの撃退を行い、そこで入手したセルメダルの回収をカンドロイドを使って行う……というのが本来想定していた展開だった。
しかし、件のセルメダルをエネルギー源として駆動するパワードスーツ……バースシステムは未だ完成を見ていない。当面の間はオーズ……火野映司に頼るしか無いだろう。机の上に設けられたモニターの1つに目をやり、鴻上はついと片眉を上げつつため息をこぼした。
モニターに映し出されていたのは2種の設計図。バースと呼ばれるパワードスーツと、もう1つは…………。
「これは予定を少々変更しなければならないようだね……」
誰に言うでもなくそう呟き、彼は椅子に背を預けた。
さて。これは一体どうしたものか。
「馨くん?」
分かってるって。分かっちゃいるけど出来れば少し考える時間が欲しい所なんだが……。
「ほら、早く選んで下さい」
その手に持った2枚のカードを突きつけて椎名が言う。そしてそれを左右から眺めているギャラリーが2人。ライドベンダー第二小隊の隊長である
近藤さんはウェーブのかかったプラチナブロンドのロングヘアーが特徴的な、クール系の美人さんである。完璧超人という言葉がしっくり来るような人で、容姿端麗で頭脳明晰かつ文武両道、等と凡そ非の打ち所がない人物像の割りに意外とお茶目だったりする。普段はクールなのに。格闘戦の腕は椎名と互角に戦えるほど、射撃もバイクの運転も、更には部隊の指揮においても高い能力を持っているので、もう同じ種族なのか疑わしい。属性盛りすぎだろう。
仁藤さんは黒髪ストレートのロングヘアーから覗く額が眩しい、笑顔のよく似合うこれまた美人さんだ。明るく元気で世話焼きな、部隊のムードメーカー的な存在と言える。そんな彼女は無類のバイク好きであり、バイクの運転技術はライドベンダー隊随一の腕を持っている。
そんな2人は椎名の学生時代からの親友であるらしい。近藤さんが俺より1つ上の学年で、椎名と仁藤さんが俺と同学年だったそうな。嘘だろ、近藤さん俺と一歳しか変わらないのかよ。
さて、そんな俺たちが何をやっているかというとババ抜きだ。出動要請もなく訓練も一通り終わり、暇を持て余していたところに椎名がトランプを持ってきたのだった。そしてどうせならと椎名が近藤さんと仁藤さんを呼んできて今に至るわけである。ちなみに近藤さんと仁藤さんは既に上がった。
「……じゃあこっちで」
意を決し、こちらから見て右側のカードを引く。
「…………」
ババだった。
「じゃあ今度はこちらから行きますね~」
楽しげに椎名が言う。こちらの手持ちはババであるジョーカーと、クラブの8。身体の後ろで隠すようにシャッフルした2枚のカードから、彼女は躊躇い無く俺から見て左側のカードを……つまりクラブの8を引いた。
そして彼女は手にしたカードを手元のカードと共に捨て、
「私の勝ちですね!」
微笑みながら言ったのだった。
なお現在、俺が4回連続で最下位だった。嘘、私トランプ弱すぎ……?
「馨くん、分かりやすいんですよね」
そう言う椎名に仁藤さんがうんうんと頷いた。
「そんなに顔に出てた?」
「表情は頑張って変えないようにしていたみたいですが、細かい動作などで思考が分かりやすいですね」
俺の疑問に近藤さんが言う。動作か、確かにそっちは気にしてなかったな……。
ちなみに他の三人はと言うと椎名がにこにことした微笑み、近藤さんがいつも通りのクールな微笑、仁藤さんは不敵な笑みとそれぞれ見事なポーカーフェイスを披露してくれた。可愛い。
「道理でカモになる訳だ……これからは動きにも気を付けてみよう」
苦笑いと共に言うと、
「んー、そのままで良いんじゃない?」
と仁藤さんが言った。
「そりゃまあ今のままの方が俺をカモに出来るだろうけどさ」
「いやいや、そうじゃなくて。ねぇ琴ちゃん?」
そう言って意味ありげに椎名を見る仁藤さん。何だ?
「もう、加奈ちゃんってば」
椎名は椎名でその視線から何かを読み取ったのか、微かに赤みの増した頬をむくれさせた。可愛いけどなんだこれ。
近藤さんに目で問うも、黙って首を横に振られてしまった。何故。
平和なだけの日々は長くは続かない。
繰り返すようだが。俺たちライドベンダー隊の仕事は、突発的な緊急事態の対処だ。何かが起こった時にライドベンダーの機動性を活かして現場へと急行し、状況に応じて様々な対応を行うというのがライドベンダー隊の主たる任務である。
つまり何が言いたいかというと。
「ではこれよりブリーフィングを始めるわ」
ヤミーのお出ましである。
「今回出現したヤミーはサメを模したタイプ。以降はサメヤミーと呼称します」
恐らくタカカンドロイドによるものと思われる、空中から撮影された映像をスクリーンに映しながら近藤さんが言う。
サメ型……って事は本来は水中用か? そう思う俺だったが、オーズと陸の上で交戦するサメヤミーの映像を観てその感想を取り消した。何かあいつ地面の下を泳いでるっぽいんだが。何アレ。
地面から背ビレだけを出した状態ですいすいと動き回るサメヤミーの姿は、そのシュールな絵面から乾いた笑いを生む。何と言うか、とてもB級サメ映画を彷彿とさせる光景だった。
何にせよ、水場以外でも十分動けることは分かった。歩行も出来るらしい。サメの癖に。いや、サメだからか。
「サメなのに人型で歩けるんですね……?」
「サメだもの」
「サメだからね!」
ポツリとこぼした椎名に、近藤さんと仁藤さんがそれぞれ言った。うんうん、サメだからしょうがないよな。
「……ねぇ馨くん、これ私がおかしいのかな?」
困惑した顔で椎名が言う。他の二人と違って彼女はサメの類に馴染みがないらしい。
「タコの足が生えたサメや首が3つ4つあるサメがいるんだ、サメが人型になっても何ら不思議な事は無いだろう?」
そう返してやると仁藤さんにイイ笑顔でサムズアップされたので、こちらもサムズアップで返す。サムズアップとは元々、古代ローマで満足・納得できる行動をした者だけに与えられる仕草であったらしい。つまりこの回答こそ間違いの無いものだったのだろう。
椎名はと言えば混乱が深まったのか、頭を抱え唸り声をあげていた。これは洗の……もとい布教しなければならない、そんな使命感を抱きつつ近藤さんに先を促す。
「見ての通り対象は地面を水のように泳ぐといった能力を持っている他、炸裂する水の塊を発射するという攻撃も確認されているわ」
「炸裂」
炸裂て。
ただの水の塊じゃないのかよ。
スクリーンの中ではオーズがちょうどその水を受けて吹き飛ばされていた。近藤さんの言葉を受け、今の部分を巻き戻して映像をよく見直せば……確かに着弾後に爆ぜているらしかった。
マジかよ、何でもありだな。
「つまりすばしっこい上に遠距離攻撃が主体、と」
近藤さんの言葉を仁藤さんが簡潔にまとめた。
「で、どうするんです……生半可な銃火器では効かないんですよね?」
俺たちでは打つ手なしでは。そうボヤいた俺に近藤さんが言う。
「個体によるらしいのだけれど、ヤミー相手ならば拳銃弾でも怯ませることは可能らしいわ」
「そりゃまたありがたい話で」
怯ませられるだけとも言う。倒すには程遠いのだろう。
するとつまりアレか。
「俺たちはひたすら足止めに徹して時間を稼いで、撃破するのはオーズに任せるって事になるんですかね」
「そうなるわね」
微妙な顔をしているであろう俺に、近藤さんは事も無げに言う。
今一つ格好のつかない話だった。
それでも。
俺たちが時間を稼ぐことで助けられる誰かがいるなら、きっと意味はあるのだろう。
少なくとも何も出来ないまま見ているだけよりはよっぽどマシには違いない。
「愛理、武器はどうしよっか?」
仁藤さんが手を上げながら言った。
「足止めが主目的なのだし、ショットガンで面攻撃かしらね」
顎に手を当てて近藤さんが言う。
「あるならライオットシールドも欲しいですね、足止めが目的なら時間稼ぎには有用かと」
眼鏡が特徴の百瀬さんが眼鏡をクイッとやりながら付け加えた。確かに相手が遠距離への攻撃手段を持っている以上、こちらも対策はいるだろうからな。
「では各員、ライオットシールドとショットガンを基本装備として別命あるまで待機を」
そう近藤さんが締め、会議室に承知の声が木霊した。
現時点で、ヤミーには複数の種類がいることが確認されている。というのも出現したヤミーの動きはカンドロイドである程度捕捉・記録されており、これはそれを分析した結果得られた情報だ。
その中でも大雑把に分類するならば、現時点では3つの系統に分類出来る。
1つ目は昆虫型。カマキリやら何か巨大な昆虫やらをモチーフとしたタイプで、包帯を巻いたような姿の未完成な状態から虫よろしく脱皮して完全体へと変貌するのが特徴。
2つ目は哺乳類型。現在はネコっぽい個体と牛っぽい個体が確認されている。特筆すべき点としてどうも人間を核としてそれを覆うようにヤミーが形成されている個体が存在するようで、オーズはヤミーの中から核となっている人間を引きずり出してから撃破と言う流れを取っていた。ネコっぽい個体がこちらの「人間を核とする」タイプのヤミーだ。牛っぽい個体はやたら硬くて強かったものの、人間を核としていたわけではなかったらしい。昆虫型と異なり、包帯のような未完成形態を経ずに最初から完全体で出現するのが分類上の特徴。
3つ目は魚型。同型の個体が複数体、同時に出現するのが特徴である。今までは非人型の魚……魚? の様な個体が確認されるのみだったが、今回のサメヤミーは恐らくこの魚型に分類されると思うので必ずしも人型にならないわけでは無いらしい。
以上が現時点でのヤミーについて分かっていることで、……飽くまで現時点での話なので当てにし過ぎないようにと言われたことでもある。いやまあそうなのかも知れんけどさ。
兎も角。
今回ヤミーのモチーフとなった生き物はサメらしいので、系統は魚型と分類。魚型だから恐らく複数体存在するのだろうと判断されたが、そもそも魚型の個体も今までに一体(一種?)しか出現していなかったりするので、同型の個体が複数体出現するという特性もあの個体だけの特徴なのかもしれない。
解らないことばかりの無い無い尽くしな状況だが、確かなのは件のサメヤミーがまんまと逃げ果せたことだけだった。
それはつまり事態が解決していないことを意味していて。
同時に、俺達にも出番が回ってくるかもしれないという事でもあった。
正直、未だに色々と割り切れない思いはある。
それはもしヤミーと対峙しても倒すことの叶わない、自分自身の無力さだったり。
鎧袖一触という言葉の如くグリードに負わされた怪我が、その時の痛みが、背中にのし掛かるようにもたらしてくる恐怖感だったり。
それでも。
「簡単に言ってくれるよなぁ、ホント」
椎名はあの時、俺に「恐怖心を飼い慣らして、乗り熟こなして下さい」と言った。
これからもまだ、戦うのならば。それでも、と理不尽なまでの暴力に抗うのならば。
恐ろしいと感じる心を、無くさずに失わずに乗り越えてみせろ。
それが、俺が椎名に教えられた心構えだ。
俺を静かに見つめる赤茶色の瞳には、一体どんな光景が見えていたのか。
今の俺には分からないが、きっと彼女はそれが必要だと思ったからそう告げたのだろう。そしてそれはきっと間違っていないんだ。
俺にはオーズのような力はない。
そりゃあるなら欲しいが、残念ながらそう都合よく世界は回らない。
だから俺にヤミーは倒せないし、どの程度足止めが出来るのかすら分からない。
でもな、特別な力が無くったって俺は人を助けて見せる。
どれぐらいやれるのか分からない。無謀な願いなのかもしれない。
でも俺はやってみるぜ。
やってみせるぜ。
何にも特別な力の無い俺にだって誰かを助けられるんだって。
その事を、他の誰でもない俺自身に証明して見せるために。
俺は、もう一回頑張ってみようと思うんだ。
取り敢えず今はそれが、俺の欲望だ。
だからさ。
頼むぜ、オーズ。
ヤミーを倒すのは、俺にゃ出来ねぇからな。
『月1更新を目安に投稿予定』とか書いた次の話までに4ヶ月の間が空くマン「本当に申し訳ない」
良い最終回でしたね……(注:終わってません)。まーた映司くん出てないまま話が終わってしまった……。
そんなこんなで第3話です、ギリギリ2018年の内に間に合いました……大変お待たせしました。原作だと9話の辺りでしょうか。
・茶髪小柄ステゴロ系家庭的ヒロイン
射撃の適正はまあまあ。ヘタクソとまではいかないものの、決して上手いとは言い切れない感じ。
・銀髪ロングカリスマ系ヒロイン
愛理《あいり》ではなく愛理《えり》。正確には本文にもあるように銀髪ではなくプラチナブロンド。射撃、格闘、バイク操縦、部隊指揮の全てのステータスが高い。器用貧乏が極まったら万能、みたいなキャラ。こういうキャラは落差でギャップ作りたくなる……ならない?
・黒髪ロング世話焼き系バイク乗りヒロイン
ライオーン!な古の魔法使いの人と名字被っちゃったけど特にその辺りの設定上の関連性はありません。たまたまです。
・残りのヒロイン2名の紹介の為に挟まれたババ抜きパート
特に意味は無い。
無いったら無い。
(少なくとも今は何も考えて)無い。
という事で本当にお待たせしました、まだエタって無いです。デス。Death……。
今話を書くに当たって改めてオーズ本編の序盤を見返していたわけですが、やっぱり良いですねオーズ。そんな仮面ライダーオーズは今ならAmazonPrimeで観放題! お得!
本作では結構あちこちダイジェストと言うかカットしてたりするので、もし未視聴の方がいらっしゃればそこを補う意味でも是非。
オーズと言えばジオウのオーズ回もありました。何かちょっと違う方向にカッ飛んだ社長とアンクに出逢わなかった映司くん、そしてン我がン魔王ことソウゴくん。それぞれの王道などと書くとどこぞの地方都市で行われた聖杯問答を思い出しますが、こっちもこっちで大概アレな面子です。
ジオウに登場する将来のソウゴくんっぽい最低最悪の魔王こと霞のジョー……じゃなかったオーマジオウですが。正体についての考察の1つに逢魔時王、つまり魔に行き逢った……闇落ちしたソウゴくんという説があります。ジオウに出てきた映司くんがアンクに出会わなかった映司くんだとするなら、グリードのひとりであるアンクという魔に出会ったオーズ本編の映司くんはさしずめ逢魔映司とでも呼ぶべき存在なのかもしれません。その魔であるアンクも、後半ああなっていってしまった(一応のネタバレ対策表現)映司くんと対照的に物語が進むにしたがって魔から人へと近づいていった、というのがまたオーズという物語の面白いところだと思います。
いただいた感想に跳び跳ねて喜んで小指をぶつけたりしつつ。ふとお気に入り登録ユーザー見てみたら、以前めっちゃハマってたライダー系SS(完結済み)の作者さんに登録されててビビったりしつつ。この……SS? まあ本作は牛歩の如き進みの遅さで書き進められております。
そんな拙作にお付き合いいただけるのであれば、次回も気長に広い心でお待ち頂ければ幸いです。1月中に更新できれば良いなと思います。
それではよいお年を!
……ところで劇場版シナリオいります?
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