天草洸輔は勇者である (こうが)
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オリ主説明
あこゆ設定集(編集済)


物語の主人公である、天草洸輔くんについて紹介していこうと思います。(気になることがあれば感想にお書きください!)

物語についてのネタバレも含みます!もしも、今から物語を見る方はお気をつけて!


天草 洸輔

 

 本作の主人公。讚州中学二年生、友奈と東郷とは同級生で勇者部に所属している、黒髪青目の少年(挿絵参照。下は笑顔差分)

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 中性的な顔立ちをしており、本人はそれを少し気にしている。態度などは基本的に穏やかで雰囲気も柔らかい為、荒事からは無縁に見えるがここぞという時には並外れた思考力・洞察力・戦闘能力などを発揮する。後、笑顔が(無駄に)爽やかでカッコいい。

 

 

身長・156㎝

学年・中学2年

誕生日・6月13日

血液型・O型

趣味・ゲーム、筋トレ、鍛錬、ポニテ鑑賞

特技・料理、格闘術

好きな食べ物・うどん、東郷自作のお菓子

大切なもの・勇者部の皆

モチーフ花・テンニンソウ(天人草)『美麗』

 

 

 中学に入り、友奈と東郷と共に入る部活に悩んでいた所風に誘われ勇者部へ。二年になり、一年生で樹が入ってきた事で、五人での勇者部としての活動が始まると、突如として勇者の力が目覚め選ばれることになり、バーテックス達との苛烈な戦いに勇者部面々共々身を投じることとなる。

 

隣の家が友奈の家、さらにその隣は東郷の家であるため全員家が近所にあたる。

 

友奈とは幼稚園の頃からの付き合いで、その頃から仲が良く幼稚園~中学校まで一緒という言ってしまえば腐れ縁のようなものである。また友奈に昔から抱きつかれたり手を頻繁に繋がれていたため、周りの男子達からは冷やかされることが多かった。(同級生たちからは、若夫婦と言われているらしい)

 

東郷とは友奈を通じて仲良くなり、親友と呼びあえる仲にまでなっている。また友奈と一緒に居続けた影響なのかスキンシップが東郷には少し多めである(本人は自覚がないため他人に言われても大概首をかしげる)

 

なお、この二人(その内風先輩や樹ちゃんにもフラグがたつ予定です。後から出てくるヒロイン達も)からは好意をもたれているが、恋愛に疎いというわけではなく、その好意が恋愛感情ではないと思っているタイプの主人公くんである。

 

 

 

 

〜人物像〜

 

一人称は『僕』。性格は優しく誰にでも分け隔てなく接っし温厚である。友奈に負けず劣らずの明るさを持ち、争いを好まない優しい人物。嫌いなものも特にはなく、嫌いな人も基本的にはいないという性善説者。にこにこと笑顔を浮かべていることが多く、怒ることも基本的にはないが、友奈曰く「怒らせたら誰よりも怖い」らしい、つまりは怒ると怖くて手がつけられないタイプ。

 

性格上の素直さのせいか、勇者部のメンバーに対して含みもなく直球で思ったことを伝えたりして、彼女らを辱めてやがるthe主人公オブ主人公くん←戒め

 

ちなみに、案外押しには弱いタイプらしくぐいぐい来られると完全に受け身に徹してしまう(らしい)

 

極度のお人好しで目の前で困っている人がいると見過ごせない。自分よりも仲間、守りたい人達を優先しそれ故に周りがみえなくなる所がたまに傷(その酷さはあの友奈に指摘されるほど)ちなみに、その欠点は日常生活でも出てきてしまっていることがある(勇者部関連になると特に)

 

特技の料理の腕前はかなり高く、その腕は風や東郷に認められるほど。樹や友奈からは「男子なのに女子力の塊」と言われている。本人はそれに対して、複雑な感情を抱いてるようである。

 

幼なじみである友奈の影響で、格闘術なども使えるため素手でも強く、それに伴い高い身体能力も持ちあわせている。本人曰く「武器がないくらいで戦えなくなっていたら誰も守れないから」らしい。

 

基本的に考え事などを相手に読まれることはないが、友奈にだけはすべて読みきられる。本人も「友奈には勝てる気がしない」と言っており、どれだけ長い時間を共に過ごしたかがよくわかる。しかし、最近では、友奈程ではないにしろ、周りの女の子達に勘が鋭い子ばかりが増えてきて困っているらしい。(贅沢な悩みだ)

 

バーテックスとの戦いになると、異常とも言えるほどの戦闘センスを発揮する、土壇場での思考力や判断力も驚くべきもの。穏やかに見えて内に見えた潜在能力や闘争心は高く、勇者部でもかなり頼りにされている。

 

そんなバリバリ主人公気質な彼だが、日常生活ではエッチな夢を見たり、不意にドジって夏凜に天誅を下されたり、何かのトラブルで友奈と東郷のお仕置きを食らったりなど『二枚目』が強そうに見えるが、案外『三枚目』も目立つタイプ。まぁ、言ってしまえば良くも悪くも普通の子。(一部普通じゃない所もなくはないが、人間的には普通)

 

 

 

 

 

〜勇者システムについて〜

 

彼の使っているシステムは、勇者部の5人が扱っている物の劣化版になっていた……だが、そもそもの話、大赦が想定していたシステムの状態とは初戦闘の際から、予定が違っていたらしい。元は、精霊なしの友奈、東郷、風、樹の勇者としての能力を一時的に解放し戦うシステムだったという。

 

しかし、彼は勇者システムを使って勇者になるのではなく自らの身に宿った精霊の力を貸りて勇者になるというイレギュラー且特異な性質であった。その為、当初予定していたシステムに誤差があったのだと思われる。

 

ちなみに彼が宿している精霊もとい英霊の名前は、『シグルド』。『戦士の王』と呼ばれ『北欧神話』においてもかなりの知名度を誇る大英雄である。また、彼のエピソードは様々な形で世に出回っており『ニーベルンゲンの歌』としても世界に広く知られている。(ここに関しては、軽い豆知識なので気にせず)

 

彼こそ、天草洸輔に勇者としての力を授けた張本人である。何故貸したかや、その理由も特には語られていない。

 

〜勇者として〜

 

勇者服の色は灰色と黒の目立つ装束を着用。背中には、黒いマントがある。(本人は、このマントがお気に入りらしい)

 

物語中盤には、眼鏡『叡智の結晶』を手に入れる。これを掛けると、掛けていない状態の時よりも、自らの能力や戦い方などを深く理解出来る為、戦闘スタイルに無駄がなくなる。本人曰く頭の中が、クリーンになるらしい。しかし、勇者になっていない時につけると激しい頭痛に襲われる為、日常生活では使えない。

 

武器は両腰に3本づつある短剣と、束まで伸びている青く光る刃が特徴的な片手剣を使いバーテックスを蹴散らす。その為戦闘スタイルは、基本的には近接戦闘である。勿論、剣を使っての戦いも得意だが近接格闘においても申し分なく、友奈の得意技である勇者パンチも扱える。

 

それだけにはとどまらず、腰にある6本の短剣を拳で押し出し、投擲する戦法も扱える事が出来るため、遠距離での戦闘も可能。近距離も遠距離もこなせるオールラウンダーである。

 

満開時には、通常時よりも頑丈な衣に変化する仕様となっており防御面に置いて秀ている性能になっている。しかし、当人が男性というイレギュラーであるため満開した際には、供物を大目に持っていかれてしまう。(作中では、体の機能と一緒にこれまでの記憶を奪われていた)

 

武器&必殺技解説

 

破滅の黎明『グラム』

 

天草の扱う主力武器の一つ。シグルドから、魔剣と呼称されるその剣は、青く輝く刃が特徴的。刀身を本人の意思で伸ばしたり、強化したりなど非常に汎用性が高く破壊力もある。投擲することも可能。満開をした際には、この剣の本領を発揮することができる。

 

両腰にある短剣

 

両腰に三本ずつあり、主に投擲することで真価を発揮する武装。投擲すると青い光を放ちながら、敵へと一直線に飛んでいく。こちらも、汎用性が高く扱いやすい武装である。

 

壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)

 

合体バーテックス戦の際に、天草が発動させた必殺技というか奥義のようなもの。『シグルド』の助言により、グラムの全力を100%引き出した事で放つ事ができた。

 

雷鳴を纏ったグラムと短剣を投擲すると、雷鳴だけでなく炎も纏いながらグラムが攻撃対象に突き刺さる。そこに、天草が全力の拳を叩き込むことでこの技は成立する。(ちなみに、この技は本編で一度しか使っていない)




洸輔くんの紹介でした。

ちなみに、武器や服装はどこぞやの竜殺しの大英雄さんの力を借りさせていただきました。(戦い方についても同様)



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あこゆ設定集2(のわゆ編ネタバレ注意)

どうも、作者のこうがです。いつも天草洸輔は勇者であるを読んでいただきありがとうございます!

今回はですね、投稿頻度が劣悪すぎるというわけで、ある方からこれまでの振り返りも込めてーまた、設定集的なのやったほうがいいんじゃないの?ってご指摘を受けたことにより、設定集2をやっていこうと思います。


〜オリ主人公紹介〜

 

 

天草洸輔(乃木若葉の章)

 

讃州中学2年生。神世紀300年の四国を守っていた勇者であったがある出来事がきっかけで西暦2018年へと飛ばされた。

 

優しい性格と柔らかな物腰で、基本的に落ち着いているが怒るとかなり怖いという友奈の証言がある。今回ではその側面が多少描かれている。(村人にキレた時)

 

趣味である筋トレや鍛錬を西暦世界でも変わらずしている。また得意と言っていた料理の腕前も披露された。

 

困っている人を見過ごせない体質と自己犠牲精神の目立つタイプであるが故か、今回の「乃木若葉の章」では元の世界に帰るという「目的」と皆を守らなければという「使命感」に縛られ、精神的に不安定になってしまっていた。しかし、未来からの助けと西暦の仲間達の声掛けによって正気を取り戻す(作者としては、この自己犠牲精神をどう変化させるかこそが、これからの物語を決定付けると考えています)

 

鈍感系の主人公ではなく、自分へと向けられている好意を恋愛感情と認識していない主人公。それも彼の素直すぎる性格故であり勇者部メンバーや西暦勇者組からのアプローチには顔を赤らめたり、テンパったりなどしっかりと年相応の反応は見せている。

 

勇者システムは神世紀での最後の決戦の後一度回収されていたが、三好春信との出会いもあり再補強と再調整された勇者システムを保有している。

 

 

〜劇中での行動〜

 

十二体のバーテックスを勇者部の面々と共に退け、平穏な日々を暮らしていたものの、大赦……というより、夏凜の兄にもあたる三好春信からの依頼により、再度壁の外の世界へ向かい次世代へと託すための戦闘データ集めを行なっていた。そんな時、若葉の力で西暦世界へと突然飛ばされる事になる。

 

戸惑いながらも神世紀の時と変わらない調子で若葉達と関わっていく。が、所々で彼女達を勇者部の面々と重ねてしまい孤独に苛まれる事に。特に、高嶋友奈に対しては長く一緒にいた幼馴染の姿と重ね合わせ、物語の後半までは友奈呼びを避けるという行動も取って(しまって)いた。

 

その影響か、物語が進むにつれて情緒の不安定さが増していき、また自身の闇の側面と名乗る闇天草の登場により更に悪化。一度は正気を取り戻しかけるものの遠征の際の地下の状況、残されていたノートを目撃し、『この世界は自身のいた世界と何もかもが違うこと』を再認識してしまい、その心の隙を狙われる。ついには、自身の事を心配して寄り添おうとしてくれた杏を強く拒絶したことがトリガーとなり、自己嫌悪と悪感情に呑み込まれ、一度、完全に身も心も全て闇に堕とす事になってしまうのだが……。

 

サソリ・バーテックス戦において絶対絶命の状況に立たされた球子と杏を見るや否や、正気を取り戻すことに成功。しかし、二人の身代わりとなって体を針で貫かれ、瀕死の重傷を負う。生と死の狭間を彷徨っていると、闇天草と対面……真の意味で自身の闇と対峙することとなる。

 

闇天草の言葉に、自身の無力さ・愚かさを自覚し絶望しかけるが、『未来からの声』と『寄り添う者たちの声』を聞き、自分の中にある本当の想いを思い出し、完全復活を遂げると、自身の闇に勝利した。その際に、闇天草に『一緒に行こう』といい一体化して本来のあるべき形へと戻っていった。

 

物語後半に入ると、自分を取り戻した事により精神的にも余裕が生まれ、今まで以上に西暦メンバーを支えようと奮闘する。

 

最終決戦では、彼女らの身を甘んじる事に気を取られすぎた事で無茶な戦い方をしてしまうが千景の声かけや杏の助言で戦い方にも変化が現れているなど、人間的な成長も見られるようになった。

 

しかし、不明な点や不審な点。即ち精霊との一体化の際に起きた副作用など…天草自身の謎も増えている。

 

 

 

 

『闇』天草洸輔

 

のわゆ世界に飛ばされた洸輔の前に突如として現れた存在。

 

一人称は「俺」。洸輔自身の悪意の具現であるからか、口調が非常に悪く、蔑みや罵倒など本体である洸輔の真反対の態度や言動を取る。しかし、物語の後半から見てわかるように本体(オリジナル)が洸輔だったのもあってか、根っからの悪人ではない……ような雰囲気がある。

 

洸輔と瓜二つの外見をしているが、多少目つきの悪さに違いが出ている。所謂、洸輔が闇落ちした状態のような印象があり、勇者服は全体が黒一色になっておりいかにも悪役のような見た目をしている。それも相まって、狂気じみた笑みが良く似合う。

 

武器や装束は本体が身につけているものを黒一色に染めたバージョンであり、まるで洸輔自体を反転(オルタ)させた姿になっている。戦闘スタイルも荒々しく、暴力的で一切容赦のない暴君と化している。

 

生まれた経緯については細かい事語られていないものの、本人曰く新しく調整された勇者システムが洸輔の不安定な精神に過剰反応してしまった事で生まれたと説明されているが、真相は果たして……?

 

 

 

〜作中での活躍〜

 

 

のわゆ編四話にて、初登場。洸輔に闇と力に固着するよう迫り続けた。また当初は夢の中で語りかけてくる程度であったが、洸輔が精神的に不安定になってくるとともに現実にも現れだした。ただし、洸輔以外の人間には声も聞こえないし姿も見えない。

 

物語中盤では、神世紀とはかけ離れた世界光景を見せられ絶望に打ちひしがれる洸輔に追い討ちをかけ、闇に落ちる一歩手前まで追い詰める。

 

スコーピオン・バーテックス戦の際には生と死の狭間を彷徨う洸輔の前に現れ、『偽善者』や『出来損ない』という言葉を浴びせながら、精神的に苦しめ、追い詰める。しかし、自分は一人ではない事、皆を守りたいという想いは紛い物ではない事を自覚した洸輔との一騎討ちにて敗れる。その後、洸輔の強さと心の広さに笑いながらも負けを認め彼と一体化、側で洸輔を支える道を選ぶ。

 

終盤には、洸輔に自身の闇の力で加勢し窮地を救う。お互いに鼓舞し合う様子も見られたりなど、かなりお互いに打ち解けあった様子。最後の決戦の際には、立ち塞がった謎の人型御霊に対し二人の力を合わせた『幻想大剣・天神失墜』を発動させ、これの撃破に成功する。

 

最後は若葉の代わりに神樹の中へと飛び込み、自身が300年神樹を守る事を約束し、洸輔の前から消えた。その際には若葉には労いの言葉を掛けたり、洸輔には「いつも一緒だろ?」と自分が彼から言われた言葉を掛けたりなど、洸輔と一体化したことによる変化なのか言動も立ち振る舞いもかなり変わっていた。(纏めると、超ド級のツンデレ???)

 

 

〜勇者システムについて〜

 

三好春信が調整を行った事により、完璧に洸輔の為の勇者システムとして補強がされている。また勇者になる際に憑依させていた『シグルド』が消えてしまったことから、春信が彼と同一の反応を持った存在を端末に移した為、問題なく勇者になれる。ただし、本人が男性である事からシステム自体の性能の劣化は防げていない模様。

 

また、彼の端末には満開は搭載されていない。春信曰く男性が満開を発動させると正当な勇者達よりも多くな供物を払うことになるから。それを補う為に、春信は憑依させた精霊の力を一度のみ解放できるシステムを内包させた。これはあくまで、精霊と一体化して勇者になるイレギャラーな存在の洸輔『のみ』が可能なだけであって正当な勇者達では取れない方法である。

 

(補足・デメリットなしとは、あくまで供物にされないだけであって肉体への負荷は当然掛かる。その負荷も考慮されての一度きりなのだ)

 

そして、彼が次に宿した精霊もとい英霊の名は『ジークフリート』である。ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する主人公として有名で、悪竜ファブニールを滅した事でも深く知られているアルマーニュ随一の英雄にして、ネーデルラントの王子とされる竜血の騎士であり、竜殺しの大英雄。春信の言う通り『シグルド』とは同一起源を持っている。

 

シグルドと同様に洸輔に助言を与えたり影ながら助け船を出したりなど、洸輔曰く近所にいる優しいお兄さん感が出る行動が作中ではよく見られる。特に後半にはそんな行動が目立つ。

 

彼も、洸輔自身の事をシグルドと同じように選んだと口にしているがその言葉の意味は未だ謎のままであり、真意は不明である。ただ、洸輔の肉体から消滅する寸前に「私も、彼と共に願いは叶えた」と口にしている。 

 

 

〜勇者として〜

 

 

勇者服はかつての物と色に変化はないものの、肩と足に甲冑が身につけられていたりなど勇者よりも騎士のような見た目になっている。マントは取れた(内心かなり残念だったらしい)

 

武装も洸輔自身の身長以上の長さを有した長剣『バルムンク』を装備している。その結果、近接が主軸の戦い方へと転身されている。

 

主には、剣から放出される白銀の波を刃に纏わせ敵を屠るという戦闘スタイルに変更されているが『バルムンク』から放出される波を対象に向けて放つことはできる為、臨機応変に対応すれば遠距離ができないというわけでもない。

 

〜武器、特殊な技や状態について〜

 

『バルムンク』

 

自身に溜め込んだ力を刃に移して放出したり纏わせたりすることで、力を発揮する長剣。大きさもさることながら、一振りによる威力は絶大でありグラムと同じく魔剣の要素も持ち合わせている為、非常に強力な洸輔の主力武装となっている。

 

『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』

 

邪竜の返り血を浴びて、不死身となった『ジークフリート』が持つスキルの一つで異常な耐久力を誇る鎧。実際にスコーピオン・バーテックスの一撃を完封している。この場合は勇者システムのバリアと同じような扱いのものである。しかし、憑依しているだけに過ぎない洸輔では常時発動は不可能なため一体化したときのみ発動可能。

 

『幻想大剣・天魔失墜』

 

かつて、『シグルド』と一体化した際に放った壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)と同等系統の奥義。その一撃は直撃したバーテックスを灰も残さず消し去るほどの絶大な威力を誇る。洸輔が自分を取り戻した事とジークフリートの後押しによって発動することが出来た。邪竜なる竜を討ち滅ぼした最強の奥義である。

 

『幻想大剣・天神失墜』

 

闇と光、つまり二人の洸輔の力が合わさった事により発動した正真正銘『洸輔自身が作り出した力』である。確かに、ジークフリートの力の一端はあるのかもしれないが、それでもこれは借り物の力を完全に自分の物にした、天草洸輔という一人の勇者にしか放てない『奥義』である。その一撃は、あらゆる邪悪な神すらも滅するであろう。

 

勇者服(最終決戦仕様)

 

その身に宿った『ジークフリート』の力を100%……それ以上を引き出し完全に一体化した状態。頭からは竜の角が生え、手には竜の鱗、背中には羽といったようにただ力を借りるのではなく、全てを纏った状態のことを指す。




はい!一旦このような感じになりますかね、にしても随分色々詰め込みましたなぁ〜おかしなところあったならば誤字報告とうや感想でお聞かせください!もちろん、質問なども受け付けますよ〜答えられる範囲で……。


それでは、これからも天草洸輔は勇者であるをよろしくお願いします!


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結城友奈は勇者である 
1話 変わらない日常


 初めて書きました!誤字や脱字があるかもしれませんその場合はご指摘いただけると嬉しいです!(短編なども書いていこうと思っております!)短めかもしれませんが楽しんでいただければ幸いです。


「ふぅ〜、これで日直の仕事は全部終わったかな…?」

「たっだいまー!洸輔く〜ん、ごみ捨て終わったよー!」

 

 日直の仕事を終え一息つくと、幼馴染みの結城友奈が教室に入ってきた。

 

「ごみ捨て、お疲れさま」

「ううん!これくらいへーきだよ!黒板の掃除は終わった?」

「終わったよ。さーて、それじゃ行こうか?」

「行こう行こう〜!あ、手、繋いでもいいかな?」

「……いいよ」

「やったぁ!えへへ~」

 

 僕の返答に、友奈は嬉しそうに笑った。手を繋ぎながら、部室がある方向へと歩きだした。

 

(……相変わらず、だなぁ)

 

 友奈はこういうスキンシップを平気でやってくるため、思春期真っ只中の中学生男子としては反応にちょっと困る。

 

(でも、嫌がるとすごく悲しそうな顔するからな……友奈)

 

「こんにちはー!友奈、来ましたー!」

 

 そんなことを考えている間に部室に着いていたらしい。友奈に続き僕も挨拶をする。

 

「同じく、僕も来ました」

「友奈ちゃん、洸輔くん。こんにちは」

「東郷さ〜ん!こんにちはー!」「こんにちは。東郷さん」

 

 車椅子に乗っている凛とした少女の名前は東郷美森、僕たちの同級生で同じクラスの子だ。友奈の親友でもあり、僕にとっても親友と呼べる女の子だ。ただ………いまの僕は東郷さんに粛清されてもおかしくない状態のある。

 

「ところで、どうして二人は手を繋いでいるのかしら?」

 

(デスヨネー)

 

 そう、東郷さんは友奈の僕に対するスキンシップには敏感なのだ。(目がヤバい、挨拶された時から怖かった)

 

「いや、これは……ね?」

 

 こちらが弁明を述べようとした瞬間、友奈が元気に叫ぶ。

 

「私が洸輔くんの手を握りたかったから!繋いで部室まで来たの!」

「あらあら(絶対零度の眼差し)」

「……」

 

 そして、この通り、火に油注いでしまったのだった。

 

「ダメよ、友奈ちゃん!洸輔くんだって男の子、中学2年生なのよ!友奈ちゃんの魅力にやられて暴走を始めてしまうかも……」

「そ、そんなことあるわけな」

「そんなことないの?」

 

(なんでそんなに悲しそうな目で僕を見るんですかね!?)

 

「あーだから…、そのー、今は!そんなことはしないってこと!」

「い、今は!?じゃあ、今じゃなければ、友奈ちゃんに何かすると!?」

「だから、そういう意味じゃ……って、てか近い!近いよ!東郷さん!君も無意識に友奈と同じことやってるから……ふむ」

 

 デカイ、でかい、そう、何がとは言わないがまず、でかいのである。あまり言葉には出来ないが……胸が。

 

 そんなものを思春期真っ盛りの中学2年生にぶつけるのはもはやこちら側からすればご褒美だが…理性と激しいぶつかり合いもせねばならんため苦痛でもある。

 

「あっ……ご、ごめんなさい。それと…あんまりそうジロジロ見られるのは恥ずかしい、というか」

「ごめんなさい、でも気にしなくていいよ。僕は…男としてかなり嬉しいから」

「洸 輔 く ん ?」

 

 阿修羅の如き、波動を背後から感じる。ふむ、落ち着いて東郷さんから離れた方が良さそうだ。さもなくば、友奈の鍛えに鍛えぬかれた拳が僕に炸裂するだろう。それは勘弁である。

 

 そんなこんなで、三人で楽しく雑談(?)をしていると部室のドアが開かれて二人の女の子が入ってきた。

 

「お待たせ~!!依頼の内容まとめてきたわよー!!」

「遅くなりましたぁ~」

「あ、風先輩に樹ちゃん!こんにちはー!!」

「こんにちは」「こんにちはー」

 

 友奈に続いて東郷さん、僕と続けて挨拶する。

 

「こんにちは!うん!さっすが、あたしの後輩達ね~元気で気持ちのいい挨拶だわー!!」

「友奈さんに東郷先輩、洸輔さんも、こんにちは」

 

 この二人が残りの勇者部のメンバー、三年生で勇者部の部長でしっかりものの犬吠埼風先輩、その風先輩の妹で一年生の犬吠埼樹ちゃん。

 

 この二人の到着により今日の部活がスタートする。

 

「それじゃ、早速部活を始めるわよー!樹!依頼の内容を説明して」

「うん!えーと、今日の依頼は子猫の里親を見つけることです」

「里親、ですか。では私はホームページで募集をかけてみます」

「私はタロットで占ってみる!」

「わかったわ。東郷と樹はそっちに集中してね」

「わかりました」「うん!」

「よし、じゃあ残った私と友奈と洸輔は猫が欲しそうな人が近所にいたりしなかったか意見を出しあって絞るわよ!」

「了解です」「わかりましたぁー!」

 

 そう、これが僕たちの部活。僕達は、みんなのためになることを勇んで実施する讃州中学勇者部だ。

 

「タロットの占い出ました!北北西です!そっちの方角に行けば子猫の里親さんを見つけられます!」

「相変わらず、すごい細かいね」

「それほど精密ってことよ。洸輔くん」

「よくやったわ!樹!みんな!北北西に向けて出発よー!!」

「「「「おー!」」」」

 

 そして、無事に猫の里親を見つけることができた僕達はお世話になっているうどん屋さん「かめや」に来ていた。

 

「うーん、一仕事終えたあとのうどんはサイコーね!」

「先輩、大丈夫ですか?それ……もう3杯目ですよ?」

「うどんは女子力を上げるのよ!」

「あはは……体重もあげますよね」ボソッ

「んー?洸輔くん。なにかいったかなぁ?」

「ナンニモイッテマセン」

 

 風先輩に光の灯ってない目で見られたため、すぐに謝った。謝らなければ多分うどんの具にされていただろう(自分でもなにいってんのかわからない)

 

「しっかし樹の言う通り北北西に向かったら、丁度子猫が欲しい人がいるなんて。奇跡だわ!」

「えへへー」

「あ、そういえば風先輩、まだなにか決めることがあるんでしたよね?」

「あ、そうそう。みんなに文化祭の出し物を考えてほしくてねー」

「えっ、もうですか?」「ちょっと早すぎるような……」

「去年はドタバタしてたからねー。今回は早めに準備をしようと思ってね、お分かり?友奈&洸輔?」

「わかりましたぁ!」「完全に理解しました」

「うん!それじゃあ、明日にでも早速一人づつ考えた案を出し合いましょうか!では、今日は解散!!」

 

 合図とともにみんなで店をでて各々の帰路へと歩いていく。

 

「じゃあ、私はここで」

「じゃあね!東郷さん!」

「東郷さん、また明日」

「ええ。また明日、二人とも」

 

 東郷さんを送った僕と友奈も自分の家へと帰っていく。

 

「じゃあね、洸輔くん!また、明日ー!」

「うん。友奈、また明日」

 

 こうして楽しくて変わらない日常が過ぎて行く。これからもこの変わらない日常を僕は過ごしたいと思っている。大切な四人の女の子達と。

 

 でも、その願いはある時を境に簡単に打ち砕かれるのだった。いや、きっとこれは最初から始まっていたのだ、僕達……いや、『僕』が気づいていなかっただけで。




 どうでしたかね?はじめてだったのでキャラ崩壊や誤字脱字などがあればご指摘ください!(2話目もなるべく遅れないように書きます!)


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2話 動き出した運命

 2話です!ここから話が動きます!ここから天草くんや勇者部のみんながどうなるのか!楽しみながら見ていただけると幸いです。(アドバイス等もお待ちしてます)
 これさ、感情を表現するのが難しいね。


 『それ』はあまりにも突然、起こった。

 

「え?」

 

 異常というのはこういうことなんだろうなと、僕は思った。先ほどまで授業中だったはずの教室は異常なまでの静寂に包まれていた。しかしすべてではなかった。

 

「あれ?みんな……止まっちゃってる?」

「友奈ちゃんなんか怖いよ……これ」

「友奈!東郷さん!」

「よかった!!洸輔くんも動けてるのね?」

「うん。でもこれは一体?」

「わからないわ。私にも一体何が起こってるのか……」

 

 そして、僕達は自分達の携帯に奇妙な言葉が写っているのに気づく。

 

「樹海化?」

「警……報?」

 

 次の瞬間、まるで僕達を飲み込むかのような青白い光に僕たちの視界は奪われた。

 

「なにこれ!?」

「ま、眩しい…」

「ッ!?二人とも、とりあえず離れないように!」

 

 直後、僕達が目を覚ました先で見たのは、樹々が生い茂る森のような所だった。森というにはあまりにも広すぎる。まるで世界全体が飲み込まれてしまったかのように視界には樹々しか写らなかった。

 

「ここは、一体?」

「あれ?私たちって教室にいたよね?」

「わけがわからないわ……一体何が……」

 

 そう言った東郷さんの手は震えていた。

 

 (当たり前だ。こんなの動揺しない方がおかしい。だったら、僕がやるべきことは一つだ)

 

「大丈夫だよ!東郷さん!ここには僕と友奈がいる!だから絶対に大丈夫!!」

「……洸輔くん」

「洸輔くんの言う通りだよ!東郷さん!!何があっても私達は東郷さんを離さないから!!」

「友奈ちゃん……二人とも、ありがとう」

 

 そういったやり取りをしていた所に見知った女の子が現れた。

 

「樹ちゃん?」

「その声って、もしかして洸輔さん!?う、うぇーん怖かったぁ!」

「よしよし、怖かったね。もう大丈夫だよ」

「樹ちゃん!」

「樹ちゃんもここに来ていたのね」

「はい。ぐす……」

「でも、どうしてここが?ここ見た感じだとかなり広いから当てずっぽうで来れるような所じゃなさそうだけど…?」

「これの、お陰です……」

 

 そうして樹ちゃんが見せてくれたのは風先輩に勧められてみんなが入れたスマホのアプリだった。

 

「これで僕達の位置がわかったの?」

「はい……」

 

 そこには、まるでこの森の全体図のようなものと色のついた点にはそれぞれ勇者部の面々の名前が書かれていた。

 

「よくこのアプリにこの森の地図があるってわかったね?」

「私、目が覚めたらここに一人でいて。焦ってそのアプリをつけたら、みなさんの名前が表示されてたので、もしかしたらって思ったんです」

「みんなー!風先輩がこっち向かってきてるよー!」

「ほんとだわ、もうすぐそこまで来てる」

 

 友奈と東郷さんが言うが早いかそこには勇者部の部長である、風先輩が来ていた。

 

「よかった!みんな無事だったのね?」

「風せんぱーい!」

「うえ~ん、お姉ちゃん怖かったよぉ」

「友奈!樹!ごめんね近くにいてあげれなくて」

「風先輩が無事でよかったです」

「うん、ありがとう。洸輔……え!?」

「どうしたんですか?」

「えっ…洸輔、あんたも動けるの!?」

「は、はい。そうみたいです」

 

 僕が答えた瞬間に、風先輩の顔が険しくなった。

 

「みんな…アタシがこれから言うことを、しっかり聞いてね。私達が当たりだった……」

「当たり?」

 

 この場にいた風先輩を除いた全員が理解できなかっただろう。しかし、状況を理解できているのが風先輩しかいないのでみんな風先輩の話を無言で聞いていた。

 

「勇者部の部員にダウンロードしてもらったアプリ。それには隠し機能があって、その機能はこの事態が起きたときに発動するようになっているの」

「隠し機能?風先輩はなにか知ってるんですか?」

「アタシは、大赦から派遣された人間なの」

「大赦って、神樹様を奉っているあの?」

 

 僕を含めた全員が首を傾げる。まったく話についていけない。そこからも風先輩の説明は続く。

 

「ここは神樹様が作り出した世界?」

「バーテックスを倒さなければ世界が終わる?」

「そう。世界の恵みとして機能している神樹様にバーテックスがたどり着けば、世界は滅ぶ」

「っ……」

 

 そこで動揺していた僕が見たのは風先輩がいる方向の先に見えた異形の怪物であった。

 

「あれが、さっき言ってたバーテックスって奴ですか?」

「ええ。そうよ」

「あんなのと、戦うなんて……無理ですよ!」

「戦う意思をみせれば、アプリのロックが外れて勇者になれる」

「……勇者?」

 

 怪物は僕達への威嚇なのか、地面を揺らしてきた。

 

「ッ…お構いなしか」

「無理よ、あんなの勝てるわけが……」

 

 東郷さんの悲痛な声が聞こえた。僕は勇者部に入ったときに入れたアプリを見ると見たことのないボタンが表示されていた。

 

(これで勇者になれる。僕が戦ってみんなの負担が減るのなら!)

 

「友奈は東郷と樹を連れて逃げて!」

「は、はい!」

「お姉ちゃん!私は一緒にいくよ!」

「樹!?」

「何があっても一緒だよ」

「っ、洸輔、あんたも……」

「なります、勇者に。ここで動けてるってことは、僕にも資格があるってことですよね?」

「わかった。でも男の勇者なんて聞いたことがないけど……」

「行きます!」

 

 軽く深呼吸をして、ボタンを押す。

 

 辺りがさっきのように白く光り僕を飲み込む。制服から黒と灰色が目立つ装束に変わる。腰の両方三個づつ短剣があり、右手には片手で持てる程度の青く光る剣が握られていた。

 

(これが、勇者か……。やってみせる!この力で、みんなを守るんだ!)

 

 そして、ここから僕と勇者部の少女達との運命に抗う物語が始まるのだった。




 天草くんが勇者に!これからの展開も頑張って書きます!!(次の話は短編でもいいかなぁ)


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3話 初陣

 3話目です!ついに洸輔くんが勇者になりました!まだ慣れてなくて間違ってたりすることも、あるかもしれませんががんばります!(けっこうみてくれる人も多いようで非常に嬉しいです!)バトルが多いかもしれませんが楽しんでみてください!


 勇者とは無垢なる少女しか選ばれない特別な存在、そのように大赦からは連絡を受けていた。けど……

 

「これが、勇者」

「うわー!なにこれ?あれ?服が変わってる~!?」

 

 天草洸輔、勇者部に所属する唯一の男子。メンバーに含まれている時点で何かあるとは思っていたけど、まさか勇者に選ばれていたとは。

 

「お姉ちゃん…?」

 

 イレギュラーすぎる、聞いてた話と違う。頭が軽く混乱している。それに加えて初陣ときた……落ち着きなさい、風。気持ちをしっかり整え

 

「お姉ちゃん!」

「えっ!?あ、はい!?」

「だ、大丈夫?」

「あっ……う、うん!ごめん大丈夫よ!」

「風先輩これが勇者ですか?」

「ええ。ここでアイツを止められるのは勇者である私達だけ。覚悟はいい?二人とも?」

「大丈夫……覚悟、できたよ」

「やるしか、ありませんね」

「よーし!それじゃあいくわよ!二人とも!!」

 

 今は、考えるのはあとにしましょう。私は部長だからみんなを守る義務がある!だから今は目の前の敵に集中しなきゃ、でも後で友奈と東郷には謝らなくちゃね。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「早く、終わらせて戻らなきゃな」

 

 友奈がついているから心配はないと思いたいけど、あの時の東郷さんはかなり動揺していた。顔も真っ青になって体中が震えていた。それは友奈も、同様だった。

 

(よくも二人を怖がらせたな。容赦しないぞ、お前!!)

 

 勢いよく片手剣を振り上げ、バーテックスに斬撃を叩き込む。効いているのか、化け物は奇妙な声を上げて苦しみだした。

 

「よし、確実に効いてる」

「追い討ち!ぜええりゃーーー!!!」

 

 ダメージを負っている場所に、僕の剣よりも一回り大きい大剣の一撃を食らいバーテックスは悶絶している。そりゃ、痛いよね。

 

「うっし!イイの入ったわねー!」

「はぇぇ……僕、風先輩を怒らせないように気を付けますね」

「後輩に怖がられた!?」

「私も行ってきます!!」

 

 逃がさまいと化け物の体を糸が絡めとる。一本一本の細い糸の締め付けが強くなると、体全体に少しずつではあるが傷が刻まれていった。

 

「悪い子は、お仕置きです!!」

「……風先輩」

「……なによ?」

「もしかしたら、一番怖いのって樹ちゃんかもしれません(怯)」

「奇遇ね、私もそう思ってた所よ(怯)」

「えぇ!?」

 

 年上二人が怯えていると、爆弾のようなものがこちらに向かって一斉に飛んでくる。即座に反応し、樹ちゃんを庇う。

 

「こ、洸輔さん!?大丈夫ですか?」

「っ〜……ギリギリセーフ。とりあえず大丈夫だよ、樹ちゃんも無事?」

「はい、あの、守ってくれてありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 その光景に一人ムッとしていたお姉さんがいらっしゃったのは内緒の話である。

 

「あの感じ、こちらを近づけさせない気ね」

「ど、どうしよ……」

 

 良くない状況に持っていかれた。ここにいる三人の武器はすべてが近接用、近くにいかなければ武器の真価は発揮できない。何か遠距離から攻撃できるもの……

 

「遠距離…投げる……投擲?あっ!」

「うわぁ!な、なに?どうしたのよ!?」

「何か思い付いたんですか?」

「うん。とびっきりアイツにとっては厄介なやつ(・・・・・)をね」

「……どゆこと?」

「今から作戦を伝えます。僕を信じてその通りに動いてください」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「す、すごい……」

 

 東郷さんと一緒に避難した私は、三人の戦う姿を見て呆気に取られていた。

 

「東郷さん?大丈夫?」

「うん。友奈ちゃん……ありがとう」

「ううん!東郷さんが大丈夫ならよかったよ!」

「……」

「東郷さん?」

「友奈ちゃんは、勇者にならなくていいの?」

「うん!だってさっき洸輔くんに頼まれたから!」

「たの、まれた?」

「うん!かなり小声で聞きにくかったけど東郷さんを頼んだよって!」

「!」

「だから私は東郷さんの側にいるよ!」

「……」

 

 だから早く戻って来てね、洸輔くん!私、洸輔くんとの約束も東郷さんも守ってみせるから!!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆弾が目の前に来ても止まるなって……絶対鬼畜でしょ、洸輔って」

「って言ってる割にはしっかり指示を聞いて実行しようとしてるよね」

「だって……あんな目で言われたら信じるしかないし……」

「ふふ、お姉ちゃん顔真っ赤」

「なぬっ……ぅぅ」

 

 妹にからかわれ、動揺を隠さずにいる姉。これはこれで割と屈辱かも……。とりあえず、洸輔に指示された通りの場所に着く。

 

 作戦の内容としては……端的に言うと『爆弾が来ようが、何が来ようがどうにかするので突っ込んでくれ』との事だ。

 

「なにする気なのかしら?あいつ?」

「お姉ちゃん、指定場所に着いたよ!」

「ふぅ……オッケーよ、樹!それじゃあ行くわよ!!」

 

 樹と一緒にバーテックスに向かって走り出す。バーテックスはこちらを近づけさせまいと爆弾を私達に向かって放出してくる。アタシと樹で3つずつ最大6個の爆弾が迫ってきた。

 

「ちょっ…こ、これ大丈夫なわけ!?」

「こ、洸輔さん!」

 

 爆弾は着々と私たちに迫り、ついに爆弾は私たちに接触し爆発……しなかった。

 

「え?」

「これって?」

 

 爆風の中、そこにあったのは洸輔が両腰にかけていた短剣だった。

 

「なるほど、そういうことね」

 

 アタシは作戦の内容を理解し、口の端をつり上げた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「っし!!狙い通り!」

 

 やはり、僕の本来の戦闘スタイルはこれだったらしい。剣を近距離で使うだけでなく投擲し遠距離でも戦えるようにするオールラウンドな戦闘スタイルだ。これなら、多少離れていようが投擲にやって狙い撃つことができる。

 

 爆弾の生成に多少のインターバルがある事を利用し、生成させる暇がないように間合いを詰める作戦を組んだが……どうやら、二人には伝わったらしい。

 

「今です、二人とも!」

「おっけー、そんじゃ行くわよ!樹」

「うん、お姉ちゃん!!」

 

 そこからの動きはさすが姉妹と言わざるを得ないものだった。即座に樹ちゃんが糸で敵を拘束、足掻けば足掻くほど傷をつくような状況を作り出す。そこに風先輩が追い討ちを叩き込み、相手の余力を奪う。

 

 そのお陰で、バーテックス本体のボディはガラ空きになった。その隙を見逃さない。

 

 自分が『今だけ』は人間からは逸脱した存在である事を改めて自覚する。

 

「二人を怖がらせたんだ……お前には、それ相応の痛みを受けてもらうからね」

 

 低く、怒を孕んだ声が自身の方から漏れる。まいった、想像した以上に自分は怒っているようだ。そんな自分に応えるかのように、周りの環境が変わる。

 

 僕を起点とし、青い雷鳴が騒ぎ立てる。しかし、悪くない気分だった。この雷鳴は僕の怒りを表現してくれてるかのように、騒がしさを増していく。

 

「昂るなぁ……こういうのは」

 

 そんな場違いな台詞を呟きながらも、行動は止めない。

 

 片手剣を自身の拳の前へと浮かす。剣は青い稲妻を身に纏い、力を溜めている。全てを解放するかのように……拳を突き出した。

 

「これで、終わりだぁ!!!!!!」

 

 高速で発射された剣は、バーテックスの体を木っ端微塵に粉砕した。その火力の高さに、放った当の本人である僕も口をあんぐりさせる。

 

「……イッチバン怖いの洸輔じゃん」

 

 風先輩の呟きが、最後耳に届いた。




 今回はバトル多めになってしまいました(汗)つまらなかったらすみません!でもこれで天草くんの戦闘スタイルがある程度理解してもらえたと思います!(今回はちょっとバトルが多かったので、次は本編を進めず短編のほのぼの回を書こうと思ってます!)


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番外編 甘い夢

番外編でございます!!自分の欲望を具現化したような内容です!(ほのぼの回を書くと言ったな……あれは嘘だ…。)本編には関係ありませんのでそこはご了承ください!
次は洸輔くんの設定を説明しようと思ってますのでそこんところもよろしくです!

東郷さんを可愛く書きたかったから書きました!


(ここは……)

 

目が覚めると見たことのない天井が目に映った。

 

(僕の部屋の天井……じゃない?)

 

「ん……」

「は?」

 

思考が纏まらないでいると、僕の横には生まれたままの姿の東郷さんが寝ていた。

 

「なるほど、夢だなこれは」

 

考えたらキリがないと思った僕は、半ば現実逃避に近い結論を出した。横では東郷さんが甘い吐息をしている。意識すると理性が崩壊する可能性があるため、全力で聞こえないようにする。

 

(やっぱり男だな、僕も。こんな夢をみちゃうなんて)

 

実際、勇者部の面々は反則的なまでに美人揃いだ。男としてこういうのを見ることもたまにはあるだろう。

 

(だけど、ここで流されれば現実に支障が出るのは明らか)

 

「夢の中の東郷さんも寝ているんだから、僕も寝るべきだよね」

 

起きればなにもなかったことになるんだ、さぁ寝よう。

 

「んー……」

「はうっ!」

 

東郷さんが向いている逆方向に体を向けようとすると、東郷さんが僕に抱きついてきた。東郷さんの柔らかい素肌とたわわに実った果実(つまり胸)を、押し付けられ変な声をあげてしまった。

 

「こうすけくん?」

「ひゃ、ひゃい!」

 

彼女の甘い声に、僕の思考がドロドロに溶かされそうになる。そしてそこに追い討ちをかけるかのように、真っ白に透き通った彼女の手が僕の体を押さえつける。

 

「ふふ、別に我慢することないわ」

「と、東郷さん、や、やめ」

 

彼女の囁くような甘い声に、まるで金縛りにあったかのように体がいうことを聞かなくなった。

 

裏返った声で呼び掛けても、東郷さんは止まらなかった。

自分の体にメロンパン(胸)が押し当てられる度に理性が崩壊しそうになる。

 

「頼むって……自分の夢なんだから言うこと聞いてよ……」

「ダメよ……洸輔くん。私、もう止まれないの

……あーん」

「ぴぃ!?」

 

こちらの理性をドロドロに溶かそうとする声が、近くに来た。瞬間、温かく湿った感触が耳を襲った。もう理性を保つだけで精一杯だ。

 

「おいしいわぁ……洸輔くんの耳」

「や、やめぇ………」

「ふふ♪……やめてって言われるともっとしたくなっちゃう」

 

耳に伝わる口の感触と、同時に攻めてくる胸が僕の思考能力を壊していく。

 

もう、楽になっちゃおうかな。

 

(バカバカバカ!流されちゃダメだ!!耐えろ!耐えるんだ!!)

 

夢だとしてもまだそういう関係になってない女の子とそういうことするのはまずい!

 

「さぁ、ひとつになりましょう?大丈夫……きっと気持ちいいはずよ」

「わかったから!わかったから落ち着こう!東郷さん!?」

「わかったのなら、私に身を委ねてちょうだい?洸輔くん」

「東郷……さ……ん。だ、だめぇ……」

「可愛いわよ、洸輔くん。それじゃあ、気持ちよくなりましょう?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「そっ!それはだめぇーーーー!!………あ、あれ?」

 

目が覚めると、そこはいつもどおりの自分の部屋だった。

 

「や、やっぱり夢だったんだじゃないか……はぁーよかったぁー」

「夢の中で東郷さんと何があったの?」

「え?」

 

声を掛けられた方を見ると、いままでに見たこともないほどの顔をした友奈の姿があった。(目に光が灯っていない、超怖い)

 

「お母さんがまだ起きてないから起こしてあげてって言われて起こしに来たら……ねぇ、教えて?洸輔くん?夢の中で、東郷さんと、何が、あったの?」

「えっ、えええ……え…っと」

 

もちろん言えるわけがなく、そのあとも友奈さんの尋問は続いたのだった(ホントに怖かった)

 

その日の僕は東郷さんをまともに見ることができなかったという。




どうでしたでしょうか?初の番外編!!これは東郷さん好きにはたまらなかったのでは?(僕は書いててドキドキでした!)主役にしてほしいキャラクターなどはあればリクエストください!(頑張って書いてみせます!)


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4話 固まる決意

はい!では本編4話でございます!間にいろいろ挟んだのでここからは本編がんばってすすめます!(アドバイスや感想があればよろしくです!!)


 初の戦闘が勝利に終わり、目の前の景色がまたあの光に包まれた。

 

「ここは……」

 

 目が覚めて辺りを見回すと、そこはいつも通りの教室だった。どうやら時間がとまっていたため、勇者部以外の人達には影響がないようだ。

 

 授業はいつも通り終わっていき、放課後になった。僕は友奈と東郷さんに先ほどの世界で風先輩からの伝言を伝えた。「放課後にまた詳しく話す」と。

 

「じゃあ、いつもどおりに部室に向かえばいいんだね?」

「うん。それで良いと思う」

「……洸輔くん」

「どうかした?」

「……いえ、なんでもないわ。じゃあ行きましょう」

「あ、う、うん」

 

 部室へと向かう途中、東郷さんの手が震えているのが見えた。

 

「こんにちはー!勇者部部員の二年生三人共に到着しました!!」

「こんにちは。遅れてすみません風先輩」

 

部室につくと、風先輩が黒板になにかを書き込んでいた。おそらく説明に使うのだろう。

 

「来たわね三人とも。それじゃあとりあえずそこに座ってね」

「じゃあ、さっきのことについて風先輩。説明お願いします。」

「お願いします!風先輩!!」

「うん、バーテックスはまずは12体いて、あと11体ね。やつらの目的は、神樹様の破壊と人類の滅亡」

「え!それ……敵の絵だったんだ」

「バーテックスの奇抜な特徴を良く表した絵だね!!」

「友奈!それフォローになってないから!より風先輩の心抉ってるから!!」

 

友奈や僕のツッコミで、多少部室に明るさが戻った。

 

「話を戻すわよー(泣)。前もバーテックスが攻めてきたことがあったらしいんだけど、その時は追い払うので精一杯だったらしいのよ。そして、大赦がバーテックスを倒すために作り出したのが、勇者システム。その依り代に選ばれたのが私たちってわけよ」

「勇者部はそのために、風先輩が意図的につくったってことですか?」

「そうよ、適正が高いことは大赦の調べでわかったからね……」

「しらなかった……お姉ちゃんが大赦の指令で動いていたなんて、ずっと一緒にいたのに」

「黙っててごめんね」

 

風先輩の告白は、危険な行為に僕たちを巻き込んでしまったことへの本気の謝罪だった。

 

(いつもならこのメンバーの中に、風先輩を責めるひとはいないけど)

 

それは、風先輩が指令以外で絆を培ってきた証だ。

 

「次は、いつ敵は来るんですか?」

「わからないわ。一週間後かも知れないし、明日かも知れない」

「なんで……もっと早く、教えてくれなかったんですか?」

 

(でも、今は……)

 

東郷さんは思いやりがある、だからこそ風先輩が言ってくれなかったことにも怒っているのだ。そして東郷さんは唯一戦う意思をみせていない。

 

「友奈ちゃんや樹ちゃんに洸輔くんも死んでいたかも知れないんですよ?」

「勇者の適正が高くても、選ばれるチームはバーテックスが来てみないとわからなかったの。確率も極めて低かったし……」

「いろんなところに候補者がいたんですね」

「そんな大事なことを黙っていたなんて!」

「東郷……」

 

そうして東郷さんは、部室をあとにした。

 

「待って東郷さん!!」

 

続いて友奈も出ていく。

 

「僕もいきます!!」

 

風先輩と樹ちゃんにはここにいてもらった方がいいだろう。姉妹でなら素直に感情を出しあえると思ったからだ。

 

「ちょっとまって!洸輔!」

「は、はい」

「洸輔、あんたは恨んでないの……?」

「恨んでませんよ!だって、風先輩は指令だけを目的に動いていた訳じゃないって知ってますから!」

「!!」

「それじゃ行ってきます!!」

 

そう言って僕は友奈と東郷さんの元へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「まって!東郷さん!」

「友奈ちゃん」

 

部室から出ていってしまった、東郷さんにやっと追い付けた。

 

「ごめん、友奈ちゃん。私……」

「ううん!いいんだよ東郷さん!だって東郷さんは私たちの為に怒ってくれたんだから!」

 

そう、東郷さんはやさしい人なのだ。風先輩を責めるような感じになってしまったけど、それも優しさあってのことなのだ。

 

「友奈ー!東郷さーん!」

 

二人で話していると、部室があった方向から洸輔くんが走ってくる。

 

「洸輔くん!!」「……洸輔くん」

「遅れてごめんね。東郷さんは大丈夫?」

「うん。友奈ちゃんのお陰で落ち着いたわ…」

「そうなんだ。ありがとね友奈」

「ううん!東郷さんが落ち着けてよかったよ!」

「ねぇ、洸輔くん」

「ん?どうしたの?」

「洸輔くんは勇者になったときに、どんな意思を持って戦ったの?」

 

そう質問されると、私の大好きな人は笑顔でこう答えた。

 

「勇者部の、大切な人たちを守りたいって気持ちを持って戦ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

そう答えた瞬間に、東郷さんは僕の方を見て優しく微笑んだ。

 

「そうだったわね。洸輔くんはそういう人だったね」

「うん。それで大切な人を守れるなら、僕は躊躇わず勇者になってみんなを守るよ」

「洸輔くん!次は私も勇者になるよ!」

「だめだよ。東郷さんを近くで守る人がいなくなっちゃうじゃないか」

「ううん、もう大丈夫よ。洸輔くん」

「東郷さん?」

「私も勇者部の、大切な人達の為に戦うわ」

 

そういった彼女の顔は決意に満ちていた。

 

(やっぱり東郷さんは強い人だよ)

 

「じゃあ東郷さん!今度はみんなで勇者になろうね!」

「ええ。次はみんなに負けないように頑張るわ」

「僕も全力で援護させてもらうよ!東郷さん!」

 

と三人で言っていると、あのとき聞いた奇妙な音楽と共にスマホの画面には「樹海化警報」の文字が映し出されていた。

 

「!?、来たみたいだね」

「うん!!」

「ええ」

 

(絶対に壊させない!この世界も!大切な人たちも!!)

 

次の瞬間、僕たち三人は青白い光に包まれた。また僕たちの世界を壊しにくる化け物と戦う為に。




はい!4話でした!次からは戦闘に友奈ちゃんと東郷さんも加わります!(ここらへんもちょっとオリジナルですね)
5話もできるだけ早めに出すのでお待ちください(感想やリクエストも待ってます!)なんか話の構成が難しくなってきた気がする(汗)


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5話 バーテックス掃討戦

さて、今回でとりあえず勇者部のみんなが全員勇者になります!まだまだ慣れないですが見てくれている方々の為にもがんばります!!


では本編始まります!⬇


そして僕達はもういちど樹海に降り立った。だけど今の僕達に迷いはなかった。

 

「来たね。樹海に!準備いいかい?友奈!東郷さん!」

「ええ!やってみせるわ!」

「うん!行こう!三人でぇ勇者になーる!」

 

そうして、僕達は勇者へと変化していく。

 

僕は、黒と灰色の勇者服。

 

友奈は、桃色の勇者服。

 

東郷さんは、水色の勇者服へと姿を変えたのだった。

 

「これが、勇者……」

「すっごーい!体から力が、どんどん沸いてくるよー!」

「二人もなれたみたいだね。それじゃ風先輩と樹ちゃんに合流するとしよう!」

「うん!」「わかったわ!」

 

僕はスマホのアプリを開き、風先輩と樹ちゃんの位置を確認した。すると二人の回りには赤い点が3つ蠢いていた。

 

「この赤い点って……まさか!バーテックス!?」

「て、ことはもしかして!風先輩と樹ちゃんはもう戦闘中ということ!?」

「なら早く助けに行かないと!」

「私はここからみんなを援護するわ。私の武器は狙撃銃のようだから」

「わかったよ。東郷さん!遠距離からの狙撃、頼りにしてるよ」

「危ないときは、いつでも私たちを呼んでね!!」

「うん!友奈ちゃんも気を付けてね」

 

東郷さんの言葉に頷き、友奈が先に飛び立つ。僕は東郷さんにもう1つ言いたいことがあったのだ。

 

「東郷さん!風先輩のこと許してあげてね。多分風先輩が指令だけで動いていないことは東郷さんもわかるだろうから」

 

そう僕が言うと東郷さんは静かに頷いてくれた。

 

「ありがとう、東郷さん」

 

それだけを東郷さんに伝え、僕も友奈のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず洸輔くんの、他人を誰よりも気にかけているところはすごいと思う。

 

「私は、さっきまで自分のことしか考えてなかった……」

 

友奈ちゃんや洸輔くんは否定してくれたけど、内心は自分が足を引っ張ってしまうんじゃないかという。自分の心配だけをしていた。挙げ句の果てにそれを風先輩にぶつけてしまった。あまりに身勝手すぎる自分の行動に嫌気がさしてあの場所から逃げてしまったけど……

 

「でも、もう逃げないよ。友奈ちゃんも洸輔くんも風先輩も樹ちゃんも、私が守ってみせる!」

 

そう言うと、少女は決意と共に白銀の銃を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「たく!なんだってのよー!!」「お姉ちゃん!この状況は、二人だときついんじゃ!」

 

樹の言う通りだ。三体のバーテックスに囲まれ、明らかに不味い状況である。どこを探しても抜け道はなく、完璧に手詰まりだ。

 

「く!ちょっとでも、隙ができれば!」

「風先輩!」「樹ちゃーん!」

「あれって!?お姉ちゃん、友奈さんに洸輔さんが来てくれたよ!」

「二人とも!頭を下げてください!!」

「へっ?え、ええ!わかったわ!」「わ、わかりました!」

 

アタシたちが頭を下げたのと、ほぼ同時に三体のバーテックス達の胴体に何かが着弾した。

 

「あれは、東郷!!」

「東郷先輩!!」

 

東郷はアタシを真っ直ぐとした瞳で見つめていた。

 

(一緒に、戦ってくれるのね。東郷!!)

 

「風先輩!今がチャンスです!畳み掛けましょう!!」

「ええわかってるわ!じゃあグループを分けましょう!

私と樹が右側のバーテックスを叩くわ!」

「じゃあ、私と洸輔くんでエビみたいな方を倒します!」

「友奈。あれどうみても、サソリだと思うよ」

「たってエビに見えたんだもん!」

「はいはい!もう1つ伝えることがあったから聞いてちょうだい!本来バーテックスを倒すには、封印の儀っていうのをやらなきゃいけないの」

「「「封印の儀?」」」

「ええ。バーテックスから出てくる御霊っていう四角いのが出てきた時にやることよ。これをやらないとバーテックスは完全には消せないわ」

 

(まぁこの前のは洸輔が放った一撃の威力が、凄すぎて御霊ごと破壊しちゃったみたいだけどね)

 

「主にどうすればいいんですか?」

「簡単よ!ありったけの力を込めて御霊を、ぶっ叩いたりすれば終わるわ!」

「そ、それだけでいいの?」

「うん!それだけでいいの!それじゃ、二手に別れるわよ!二人ともあとでね!」

「友奈さん洸輔さんまたあとで!」

「はい!任せましたよ風先輩、樹ちゃん!」

「ぶちょー!頑張ってくださーい!」

 

もう泣きそうだった。こんなみんなを騙していたアタシのことを、嘘つきの私を、まだ部長として見てくれているのだから。

 

(行くわよ!風!!勇者部も勇者部のみんなも部長としてアタシが守る!!)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「友奈!風先輩たちに負けないように、僕たちも気合い入れていくよ!!」

「うん!!私達のコンビネーションを見せよう!!」

 

二人でお互いを鼓舞しあいながら、バーテックスがいる方向へと向かう。

 

(あの尻尾は先に潰した方が良さそうだな)

 

すると、突然サソリのバーテックスが、尻尾の先端にある針を友奈に目掛けて突き刺そうとしてきたのだ。

 

「友奈!!」

「残念だけど当たらないよ!!」

 

友奈が避けた瞬間に、サソリバーテックスに東郷さんの狙撃銃の弾が着弾した。狙撃銃で撃ち抜かれたため、サソリバーテックスの尻尾は粉々になっていた。

 

「!?、さすが東郷さんだね!」

「絶対来ると思ってたよ東郷さん!!」

 

東郷さんの狙撃により、サソリバーテックスは攻撃手段を失った。あとは御霊を壊すだけである。

 

「じゃあ私からいくよぉー!!勇者ぁーーーパーーーーーーーンチ!!」

 

掛け声と共に友奈は拳を強く握りしめ、そのままバーテックスへと打ち込んだ。サソリバーテックスの、体の表面が砕ける。そこへさらに追い討ちとして、剣を振るう。

 

「おっらぁ!!!」

「洸輔くん、ナイス!まだまだ、終わらないよぉ〜!」

 

斬撃によって、深く傷のついた場所に友奈は連続パンチをさらに叩き込む。その衝撃がバーテックスの体に更なるダメージを与えた。

 

バーテックスは僕達の波状攻撃に耐えきれず御霊を、ベロっと吐き出した。

 

「あれか、御霊!」

「そうみたい、あれを破壊すれば!」

「ならっ!」

 

御霊に狙いを定めて、片手剣を拳で押し出し投擲する。それは高速で御霊に突き刺さった。

 

「ここだ!せぇぇぇぇい!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

二人の拳に押し出された剣は更に勢いをつけて、御霊だけでなくバーテックスごと貫く。

 

同時に風先輩達が相手していた方のバーテックスも倒され、残った一体も五人の猛攻の前には為すすべもなく撃破された。

 

こうして勇者部の面々は、誰一人犠牲を出すことなく二回目の戦闘にも勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻るのは一緒なんですね……」

「今考えると、かなり都合がいいよね……」

 

讚州中学の屋上に戻された僕達は、興奮さめきらぬ状態で話し出す。

 

「東郷さん!すごかったよーー!!!」

「私は、みんなの援護をしただけよ?友奈ちゃん」

「でも、ホントに助かったわよ。東郷」

「風先輩、先ほどは部室では失礼しました。でも私も決めました。私も勇者として戦わせていただきます!」

「うん!私とまた国防に勤しみましょう!」

「国防!!はい!!」

「東郷先輩の目が!!」

 

そのあと、屋上では風先輩の(余計な)一言のせいで、国について東郷さんがかなりの時間を使い語っていた。東郷さんが国について語る時は、大概は三時間以上は当たり前に過ぎる。(僕と友奈は五時間コースも、体験したことがある)

 

まぁでも、みんなで生きて帰れてホントによかった。

 

「じゃあ、帰りはかめやに寄って帰りましょうよ!今日は風先輩の奢りでいいですよね?」

「やったぁ!!うどんだぁーーー!!」

「なんで!?何でアタシが、奢ることになってんのよー!!」

「だったら風先輩!おかわりの量を減らしてください!!食べ過ぎなんですよ!風先輩がおかわりした分だけで財布の中身が、全部飛んだことだってあるんですから!」

「いやよ!うどんは女子力をあげるのよ!絶対減らすもんですかぁー!!」

 

ギャーギャー言い合いながら、いつもの店へみんなで向かう。

 

その日の屋上には勇者部全員の笑顔が咲いていた。




というわけで5話でした!さてそろそろにぼしがトレードマーク(?)の彼女が勇者部にやって来ると思います!6話も頑張って出しますので楽しみに、待っていてください!!


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6話 二人っきりの休日

さて夏休みなのでハイペースに書き続けますよー!!!
あと、前回のあとがきでにぼっしーが登場するかもと言っていましたが、それは次の回になりそうです!すいません!!今回は友奈ちゃんが主に出てきます!

それでは、本編スタートです⬇


「う~ん!平和だなぁー」

 

僕が勇者になって半月程度たった休日。あれからバーテックスの進行はなく、日課である素振りを終え僕は伸びをした。

 

(勇者部唯一の男勇者なんだから!みんなより倍に頑張らないと!って気合いをいれたは良いものの、今日のメニューはもう終わっちゃったからなぁーどうしよう?)

 

そう僕が悩んでいると、突然家のインターフォンが鳴った。

 

(友奈かな?)

 

そう思い玄関を開けると、案の定幼なじみである友奈の姿があった。

 

「遊びに来たよー!」

「やっほー、友奈」

「やっほー!さぁさぁハグしよ〜」

「しません」

「痛!」

 

当たり前かのように、両手をつきだしてきた友奈にツッコミの意味を込めて頭にチョップをお見舞いした。

 

「なんでよ〜!いつもしてるんだからいいじゃーん」

「まるで、毎日してるみたいな言い方はよしなさいよ」

「ぶーー!」

 

ハグを拒んだからか、友奈は頬を膨らませて不機嫌そうにしている。こういう時はしっかり意志を伝えなくては。

 

「別に抱きつかれるのが嫌とかじゃないけど、友奈みたいに可愛い子にくっつかれたりするとね……反応に困っちゃうからさ」

「か、可愛い!?えっへへへそうかなぁ?」

 

可愛いと、口にした瞬間にさっきふて腐れていたのが嘘だったかのように、友奈は顔を赤くしながらにへらと笑っていた。可愛いな。

 

「じゃあ、特になにもないけど僕の部屋行く?」

「行こ行こー!」

 

こうして、僕と友奈の二人っきりの休日が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「テキトーな所に座ってて。飲み物持ってくるから」

「お、お願いします!」

「なんで、急に畏ってるのさ」

 

彼が出ていくのを確認すると…口からは安堵の息が漏れた。昔からだけど、洸輔くんのああいう不意打ちは油断ならない。

 

(可愛い……私が可愛い……えへへ)

 

言われた事自体は寧ろ嬉しい事ではあった。好きな人から可愛いと言われて嬉しくない女の子なんていないのだ。

 

「はい。友奈、お茶でいいよね?」

「うん!ありがとね!」

「で、友奈は何かしたいことあるの?」

「ええとね、洸輔くんさ肩とか凝ったりしてない?私マッサージ得意だから!せっかくならどうかかなーって」

「マッサージかぁ。僕結構、筋トレとかするから凝ってるかもな~頼んでもいい?」

「オッケー!じゃあ上脱いで!」

「あ、うん……って上って脱がなきゃなの?」

「そうだよー。直接触ってやった方が効果的なんだってー!」

「なるほど。わかったよ」

 

頬を赤く染め、不安がりながらも上着を脱いでくれた。鍛え上げられ引き締まった体が顕になると、自然と目を奪われた。

 

(すごい……相当鍛えてるんだなぁ)

 

「どうしたの?」

「あ、ううん!なんでもないよ!ただ洸輔くんって凄い着痩せするタイプなんだなぁって思って」

「そうかな?自分じゃ、ちょっとわかんないかも」

 

首を傾げつつも、静かにうつ伏せになってくれる。私もマッサージを開始する為、手の体操をする。

 

(マッサージの効力はすでにお父さんで実証済み。洸輔くんも喜んでくれるはず!)

 

「ん、すごいね〜気持ちいい」

「でしょー?」

「あ~、気持ちよくて眠くなってくるな~これ」

「寝てもいいよぉ?終わったら起こすからね!」

「ふわぁーありがとう……ゆぅ……な……」

「……寝ちゃった、かな?」

 

洸輔くんの顔を覗きこむと、そこには可愛らしい寝顔があった。

 

(ふふ、体は成長しても、寝顔は小さい頃から全く変わってないね)

 

幼稚園の頃から、ずっと一緒に居てくれた男の子。最初は大事な友達って感じが大きかったけど、いつからだっただろうか?私の中で彼が特別な存在になっていたのは。

 

(いつか、しっかりと伝えたいなぁ。この気持ちを)

 

胸の内で眠る想いを抑えながら、マッサージを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どれくらい寝てたんだ、僕?」

 

体を起こして窓の外を見ると、夕焼けの光が見える。どうやら、いつの間にか夕方になっていたようだ。

 

(確か、僕は友奈にマッサージしてもらって……気持ち良すぎて寝たんだっけ?)

 

「……重い?」

 

左側に視線を向けると友奈が、僕の左手を枕がわりにして寝ていた。

 

(友奈も寝ちゃったんだな)

 

よく見ると僕もうつ伏せから上向きになっていた。どうやら友奈が向きを変えてくれたらしい。友奈は可愛い寝息をたてながら寝ている。すると友奈から寝言が聞こえてきた。

 

「んん……洸輔くん」

「僕?」

「ず…っと一緒に居て……ね?」

「っ……心配しないで、ずっと一緒に居るから」

 

この手を離したりはしない。何があっても絶対に離さないと、強く誓った。友奈の手を優しく握り、新たな決意を固める中で……突然、入り口の扉が開く。

 

「洸輔~そろそろ結城さんを家まで送ってあげなさいよー……」

「げっ……(絶望)」

「……へっ?」

 

部屋の中に静寂という苦痛の時間が訪れた。母さんが黙るのももっともである。あちら側の視点から状況を簡単に説明すると、半裸の息子が昔から仲の良い同級生の女の子とベッドで寝ている、そう見えている事だろう。

 

(オワッタ)

 

「ご……ごめんね。お邪魔だったみたいで、そ、それじゃ……夜も、楽しんで?」

「んんん!!!ま、まって、母さん!!話を!話をきいてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

気が動転した母さんによって情報は友奈のご両親に伝わった。僕は友奈を叩き起こし友奈の家へとマッハで向かい、なんとこさ友奈のご両親の誤解をといたのだった(お母さんの方は残念がっていて、親父さんの方は目のハイライトが消えていた。死ぬかと思った)

 

しかし、これだけでは終わらず……次の日には東郷さんに友奈と何があったかを根掘り葉掘り聞かれ、朝から僕はクタクタになっていたという……美森が何故その騒動を耳にしていたのかは気になったものの、怖くて聞かなかった(とりあえず、もう勘弁してほしかった)




はい!本編6話でございました!基本的には友奈ちゃんと洸輔くんがイチャイチャしていた回でしたが、いかがでしたでしょうか!(うらやましいなぁ洸輔くんめぇ)さて、次の回ではにぼっしーが降臨します!お楽しみに!!


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7話 六人目の勇者

7話です!皆様楽しんでいただけているでしょうか?これからも頑張って書きます!!これからもご愛読よろしくお願い致します!!


樹海とは神樹様が作り出した結界のようなものである。そこでは勇者とバーテックスのみしか存在しない。樹海での戦いが長引いてしまうと、現実世界にも影響が出てしまうらしい。だが1ヶ月前の戦闘では被害はなかったという。

 

倒すべきバーテックスはあと八体。

 

「久しぶりの戦闘だね!気合いが入るよー!!」

「友奈さんに負けないようにがんばります!」

 

お互いに声を掛け合い、気合いを入れる友奈と樹ちゃん。

 

「さて!さっさと片づけるわよー!!」

「私は後ろから援護しますね」

 

さっきまで部活動中にも関わらず寝ていた風先輩も目を覚ましたのか元気である。東郷さんは相変わらず冷静に戦闘態勢へと移っていた。

 

(僕もみんなに負けてられない!僕が最前線に出てみんなの負担を減らす!)

 

みんなそれぞれの準備を終え勇者部はバーテックスとの戦闘に移った。

 

「風先輩!僕が先に武器を投擲してバーテックスの動きを鈍らせます!」

「オッケーよ!じゃあ洸輔が初撃を当てたら……」

 

風先輩が皆に指示を出そうとした瞬間遠くにいたバーテックスが突然爆発しだした。

 

「え、洸輔?もう当てたの?」

「今のは、僕じゃないです!」

「ふん、まったくもって!ちょろいわね!」

 

声のする方を向くと、見知らぬ一人の少女がバーテックスの前に立っていた。

 

「あれは?」

「もしかして!新しい勇者!?」

 

赤い装束に両手には日本刀を持っている。

 

「くらいなさい!」

 

その少女の戦いは鮮やかだった。バーテックスが追い付けないスピードで、斬撃を与えていき一人で封印の儀をすませていく。

 

「すごいわね……あの子」

「は、はい」

「これで!終わりよ!!」

 

バーテックスから御霊が吐き出される。しかし御霊は動く前に赤い装束の少女に破壊された。少女はバーテックスを倒すと、ドヤ顔で僕達の方に向かってくる。

 

「ふん!揃いも揃って間抜け面しちゃって、それでも神樹様に選ばれた勇者かしら?」

「えっと……」

「なによ、チンチクリン?」

「チン……うぅ」

「いや、背丈だけ見ると君の方が小さいんじゃ?」

「ほっときなさいよ!!男勇者!!」

 

見たままのことを言ったはずなのに、怒られてしまった。(チンチクリン呼ばわりされた友奈は見るからに凹んでいる。いや背丈だけ以下略)

 

「気を取り直して!あたしは三好夏凜!大赦から派遣された完成型勇者よ!」

「完成型?」

「つまり、あんた達はもう用済みってわけ。はいお疲れさまでしたー」

「はい?」

 

言われた言葉の意味を、僕達は理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

新たな勇者である三好夏凜さんは、僕達の戦闘データを元にアップデートされた勇者システムを持って大赦の命令で僕達の援軍にやってきたらしい。

 

それと同時に三好さんは、讃州中学に転校してきたのだ。

 

「まさか僕達と同じクラスとはね、ね?三好さん?」

「たく、わざわざ編入生のふりまでしなきゃいけないだから本当に面倒よ」

「夏凜ちゃんすごいんですよ!試験全部満点だったらしいんですから!」

「ふん!あたしにかかればこんなもんよ」

 

と三好さんは、乏しい胸を張って(本人曰く成長中)そう答えた。

 

「オイ、今あんたすごい失礼なこと考えたでしょ?」

「ううん、別になにも!(鋭いな、この子)」

「ふん。まぁいいわ!私が来たからにはもう楽勝よ!残りのバーテックスなんて、けちょんけちょんにしてやるわ!」

「あ、風先輩!そいえば、夏凜ちゃん勇者部に入るっていってました!」

「そそ、それはあんた達の監視のために入るだけよ!勘違いしないでよね!」

 

友奈に笑顔でいわれ、三好さんは動揺して口調があからさまなツンデレっ娘になっていた。

 

(なんか可愛いな)

 

「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてこの書類にサインを」

「わかったわよ……ってこれ入部届じゃない!!」

「おお、流れるようなノリツッコミさすがだよ!三好さん!」

「全然誉められてる感じがしないんだけど!?それ!」

「ナイスツッコミ」

「~~~!いい!?私の足を引っ張ることだけは許さないわよ!」

 

そういって三好さんは部室から出ていった。しかし、先ほど閉められたはずのドアが開き、顔を真っ赤にした三好さんが出てきた。

 

「バック忘れちゃった……」

「三好さんって可愛いね」

「は!?な、なななにいってんのよ!こいつは!」

「いや、ごめんなんかあれだけの決め台詞をいっておいて顔を真っ赤にして戻ってきたのが可愛いなぁって思ってつい」

「~~!と、とりあえずあんた!ちょっとついてきなさい!!」

「え!あ!ちょ、ちょっと!!」

 

そのまま三好さんに胸倉を掴まれ、ずるずると連れていかれる僕。部室から出る際に、友奈様と東郷様の目から光が消えていたのを目撃していた僕なのだった。(よくわからないけど多分謝らないと殺されるので、全力で謝ろうと思った)

 

 

 

 

 

 

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「な、なんすか、三好姉さん?ぼ、僕そんな金持ってないっすよ?」

「だから、カツアゲじゃないっての!!はぁ……単刀直入に言わせてもらうわ。あなた勇者をやめなさい」

「……理由は?一体なに?」

 

三好さんは僕に大赦から言われたことを伝えてくれた。天草洸輔の端末には精霊が宿っていないこと、本来予定されていた装束と違っていたことなども、三好さんが僕にやめろと言ったことの理由らしい。

 

「装束が予定されてたものと違ったっていうのはどういうこと?」

「本来、あんたの装束に予定されていたのは、あの四人の能力を一時的に展開して戦う。言ってしまえば、あの四人の劣化版になる予定だったらしいわ」

「あと精霊が宿っていないっていうのは?」

「そのままの意味よ。あなたの勇者システムには精霊がいないのよ。だからバリアが発生しない可能性があるの、つまり致命傷を受ければ即死もありえるってことよ」

「そう……か」

「さぁ今決めてちょうだい。やめるの?やめないの?」

「やめないよ。たとえどんなにみんなより危険な状態であったとしても、僕は大切な人たちを守るために勇者になったんだ。今さら逃げる気なんてないよ」

「……はぁー」

 

そう僕が答えると、三好さんは呆れたかのようなため息をもらした。

 

「わかったわ。大赦には勇者を続けるってことで、私から報告しといてあげる。でも忠告はしておく。あなたの勇者システムには謎が多い、何が起きてもあなた次第よ?」

「三好さんって実はやさしいよね」

「んな!?勘違いしないでよね!あたしはただあたし自身のためにうごいてるだけよ!!」

「なんにせよ。忠告ありがとね三好さん!それじゃあ部室に戻るとしようか」

 

お礼をいい僕が部室に戻ろうとすると、三好さんに呼び止められた。

 

「待ちなさい!もうひとつ用件があるわ、私と勝負しなさい!」

「……勝負?」

「ええ!あんたの力がどんなものなのか、気になってたからね。だからあたしがあんたの実力を、測ってあげるわ!」

 

僕を指差し堂々とそんなことをいう彼女を見て、くすっと僕は笑ってしまった。




さてというわけで7話でございました!次もオリジナル展開で話が進むと思いますので楽しみにしていてください!(感想をくださった方々には感謝を!)


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8話 胸のざわめき

8話でございます!いやーいつの間にかアクセス数が1000を越えておりまして!!これも読んでくださる皆さんがいてこそです!これからもがんばります!リクエスト等もお待ちしてます。

では本編スタートです!


「目を覚ますがいい、天草洸輔よ」

 

ここはどこだろうか?誰かが僕を呼んでいる?でも僕はこの声の主に覚えがない。

 

「それに関してはしょうがないだろう。貴公が当方の声に聞き覚えがないのは当たり前のことだ。貴公と干渉したのはこれが初めてだからな」

 

そういうと、聞き覚えのない声と共に足音が近づいてきた。そこには低めの声とは裏腹に穏やかで優しい表情をした男が立っていた。

 

「あなたは、一体誰なんですか?」

「申し遅れた。我が名は◼◼◼◼」

 

一瞬ノイズがはいり、彼の名前を聞くことができなかった。しかし彼はそのまま話を続ける。

 

「貴公はなぜ自分が、勇者としての力に目覚めたと思う?」

「なぜ、それをあなたが?」

「それは当方が貴公を選んだからだ」

「えっ?それは、どういう?」

「む、時間のようだ。力は自由に貸せるようだが本人と干渉するのは相当困難らしい」

「す、すいません。言っていることがよくわからないんですが」

「安心するといい。今はわからなくともいずれわかる。

貴公ならば、グラムの力を引き出し禍を引き起こす者(ベルヴェルグ)を扱うこともできると当方は信じている」

「ま、待ってください!あなたは!」

 

 

 

 

次の瞬間、突然僕の意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「……ま、待って!!」

「うわぁ!ど、どうしたの?洸輔くん?」

「あれ、ここ……あ、友奈、おはよう。今日も起こしに来てくれたんだ」

 

目を覚ますと友奈がいた。そこには先ほどの男性の姿はなく変わらない自分の部屋があるだけだった。

 

 

(今のは夢?でも、一体……あの人は?)

 

 

夢の中で起きた出来事に、僕は頭の中が整理できず軽く混乱していた。

 

「大丈夫?」

「!?」

 

いつの間にか友奈の顔がめちゃくちゃ近くに来ていた。女の子特有のいい匂いが、僕の嗅覚を刺激してくる。

 

「ゆ、友奈ちょっと近いよ……」

「あ!ご、ごめんなさい!」

「……」

「……」

 

僕と友奈は二人で赤面し、お互いに無言になってしまった。このままでは話が進まないと思い、友奈に気になったことを質問した。

 

「そ、そいえば何で友奈がここに?今日学校じゃないから起こしにくる必要もないだろうし……」

「え?洸輔くん覚えてないの?」

「?」

「洸輔くん、昨日夏凜ちゃんと勝負するって言ってたから」

「あ!」

 

そうだ、昨日三好さんに勝負を挑まれた僕はそれを受け「明日海の砂浜の所で待ってるわ!」と、どや顔で言われたことをすっかり忘れていたのだ!

 

「そ、そうだった〜!!!友奈!準備するからちょっと外出てて」

「わかった!待ってるね!」

 

友奈には外に出てもらい、着替えをはじめた。そんななか僕は夢の中で彼が言っていた言葉について考えていた。

 

「それは、当方が貴公を選んだからだ」

 

(あれは、どういう意味だったんだろう?)

 

いくら考えても、それらしい答えはでなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「洸輔くん、つれてきたよ~!」

「遅い!何してたのよ」

「ご、ごめん、寝坊した」

 

約束した場所に着くと案の定、夏凜が顔を真っ赤にして怒っていた。

 

(すごい剣幕だぁ、後ろに化身が見える)

 

「まぁいいわ。ほら、これ持ちなさい」

「っと、木刀?」

「ルールは簡単よ。もしこれが本当の戦闘だった場合、喰らったら致命傷だなって思った一撃を相手にやられたと思ったら「まいった」って言いなさい、言った方の負けになるわ」

「なるほどぉ」

「念のため、審判として友奈を呼んだわ」

「審判なら私に任せて!!」

 

分かりやすくそして、非常にスタンダードな勝負だ。審判として友奈を呼んだ辺りも、三好さんの優しさが出ている。

 

「わかった!じゃあ始めよう!」

「お!やってるわねー」

「丁度始まる頃だと思ってましたぁ」

「二人とも、怪我のないようにね」

「あ、みんなーおはよー!!」

「ちょ!なんであんた達がいるわけ!?」 

 

声のする方をみると、風先輩と樹ちゃんそして東郷さんがいた。

 

「なに、ちょっとしたギャラリーみたいなものよ。気にせず続けなさい」

「ふん、まぁいいわ見てなさい。私がこいつを倒すところを」

「僕だって、やるからには全力でやらせてもらうよ!」

 

そして、僕と三好さんはお互いに木刀を構える。

 

「それじゃ~始め!!」

 

友奈の掛け声と共に、戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

初太刀はお互いにぶつかり合った。そこからお互いに引かず鍔迫り合いが続く。

 

「ぐっ!?あ、あんた結構、力あるのね」

「まぁね、鍛えてるから」

 

自信ありげな表情をこちらへと向けてくる。でも、一太刀喰らってわかった。力量と、実戦能力はあたしの方が上だ。

 

(あたしの方が実力は上!武器を使えないようにしてしまえば、勝てる)

 

次の行動を決め、すぐ行動に移す。洸輔の木刀を右手に持っている方の木刀で弾き飛ばす!

 

「くっ!」

「もらった、覚悟!」

 

勝利を確信し、振り上げた両刀を振り下ろす。もはや勝負は決まったも同然だった。

 

しかし、振り上げた木刀は、洸輔に軽やかな動きで受けながされた。

 

(嘘!?)

 

「武器がなくなれば、僕が弱くなると思ったかい?それは悪手だよ、っと!」

「な、何よその動き!?」

 

まるで流れる水のような動きで振り下ろされた両刀を受け流す。勝利の一手を潰されたあたしは、体勢を崩す。

 

「っ、そう簡単に勝たせるもんですか!」

「ちょ、ま」

「せええええい!」

 

体勢が崩れたのを、利用し右足で洸輔の顔面に目掛け足蹴りを繰り出す。思いも知らない所からの攻撃が飛び、驚いた表情を洸輔は浮かべていたがすぐに表情が変わる。

 

「あっぶなぃ!」

 

こちらでも捉えられない動きで即座に蹴りは防がれる。一度仕切り直すため、お互いに距離をとった。

 

「なかなかやるじゃない、あんた」

「ううん、夏凜のほうがすごいよ……正直ビビってるもん」

「ふーん……実はさ、あんたのこと武器がなくなったら、何もできない木偶の坊だと思ってたのよね」

「そう見えてたか……まぁ、あれかな。武器がなくなったくらいで戦えなくなっているようじゃ、自分の守りたいモノも守れないからね」

「……あんたが勇者をやめないって言った理由わかってきたわ」

 

あたしが一人で納得していると、洸輔が心配そうな顔であたしを見つめていた。

 

「夏凜?」

「さぁ、続けましょう!決着が着くまで!」

「……うんっ!」

 

あたしたちはお互いに全力を尽くした。あたしの中には、なぜか満足感があった。

 

「これ、いつまで続くのかしら?」

「二人ともすごいです(感動)」

「なんか私たちギャラリーにすらなってない気が……」

 

風たちのぼやき声が聞こえた気がした.。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「はぁーあんた……ホントに、やるわね」

「夏凜こそ……はぁ……強かったよ」

 

僕と夏凜は、二人で力無く砂浜に寝っころがった。あれから一進一退の攻防が続いたものの、決着がつかず審判である友奈が「もう眠いので!引き分け!」といって勝負は幕を閉じた。

 

「所で、あんた。途中からあたしのこと名前で呼んでたわよ」

「あっ!!」

 

そういえばそうだった興奮していたとはいえ、夏凜と呼んでしまった。怒られると思い僕は身構えるが。

 

「身構えなくてもいいわよ。別に」

「え?」

「これからあたしのことは夏凜でいいわ。あたしもあんたのこと……名前で呼ぶから」

「っ!?う、うん、わかったよ!夏凜!!」

「ふふ、なに嬉しそうにしてんのよ?ホント変な奴ね。あんた」

 

そういった夏凜の顔は女の子らしくてすごく可愛かった。

 

まぁその間他の勇者部の面々は神妙な顔で僕達を見ていたのだが……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

夏凜との勝負のあと、僕は風先輩に今朝見た夢について相談していた。

 

「なるほどね、その夢が自分が勇者になったのとなにか関係があるんじゃないかと思った訳か」

「はい。あれをただの夢とはどうしても思えなくて……」

「変だとは思ってたのよ。本来勇者は無垢な少女しかなれない存在で、例え男の子で適正があったとしてもなれるものじゃないって聞いていたから」

 

(だから初陣の時に風先輩は僕を見て一瞬止まってたのか)

 

「わかったわ!洸輔。大赦に頼んで端末を調べてもらいましょう!」

「ありがとうございます、風先輩!」

「洸輔こそしっかり相談してくれてありがとね。勇者部五ヶ条をしっかり守っている証拠ね!!」

「なんか、風先輩が初めて頼もしく見えます!」

「ええ!?いつも頼もしいでしょ!?」

 

(これであの男の人の言葉の意味がわかるといいんだけど)

 

僕は帰路でもその事をずっと考えていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

家に帰って来てから、ずっと今日のことを考えている。

 

(なんで、名前で呼んでいいなんて言っちゃったんだろう?)

 

今日のあたしは、なんか変だった。あいつを見ると胸の奥がざわざわしてきて。

 

「あーもう!なんかもやもやするーーー!!」

 

(どうしちゃったんだろ?あたし……)

 

「明日も、話せるかな……?」

 

その日の夜は、胸がざわついて中々寝付けなかった。




さて今回は洸輔くんの謎がさらに深まった回ですね!これからもっとあきらかになっていくと思います!(夏凛ちゃんかわいい)


感想やリクエストなどはいつでもお待ちしております!


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番外編 顎クイの魔力

番外編です!勇者部女子たちの可愛さを表現できてればいいなぁーって思って書きました!さて今回もゆるーくいきましょうかー!

あと感想やリクエストもいつでもお待ちしております!

番外編始まります!


勇者部には様々な依頼が寄せられる。だいたいの内容はすぐ解決できるのだが唯一勇者部が苦戦する(てゆーか解決できない)内容がある。それが恋愛系列のものだ。

 

「風先輩。今日も依頼が届いたんですよね?」

「ええ、来てるわよー。んーと依頼内容はっと」

 

夏凜が勇者部に加わって、初めての依頼である。最初は来るのを渋っていた夏凜だったが、友奈の純粋無垢な笑顔にやられて部室に来ていた。

 

「で?依頼内容ってのは何だった訳?」

「えーと、女子がきゅんとくる男子の行動について教えてくださいだって」

 

もし女子ってところが男子と書いてあれば、かなり苦痛だったが今回は僕の出番は無さそうである。

 

「それじゃ意見ある人いる?」

「そういわれてもねぇ……簡単には出てこないわよ」

「難題ですね……」

「う~ん」

 

みんなが何かないかと、思考を巡らせていると意外な人物から声が上がった。

 

「そういえば!私がこの前友達に借りた本のなかに顎クイっていうのがありました!」

「顎食い?なんかそれ怖いわね……」

「夏凜は一体何を想像してるの?」

「え?顎食いっていうんでしょ?こう、顎をバクって!いくんじゃないの?」

「アア、ウン。ソウダネー」

 

逆に夏凜はそんなことをされてきゅんとくるのかと頭の中で突っ込んだ。

 

「でも、小説とかで見てるならいいですけど……やられるとちょっと怖そうですよね」

「でも、試してみる価値はありそうね!」

「ん?試す?」

 

なぜかは知らないが、僕の背中に寒気が走る。

 

「じゃあ検証してみましょうか!洸輔!出番よ!」

「あーーすいません。僕急用を思い出したので早退しますねー」

「友奈!東郷!捕らえなさい!!」

「はい!」「お任せを!」

 

部室から逃げようとしたが、両側から友奈と東郷さんに捕まり身動きができなくなってしまった。

 

「顎クイをする流れは理解できますよ?でも、なぜ僕が!?」

「なにいってんのよ!男子は、洸輔!!あんたしかいないんだから!!」

「そ、そうだ!友奈が東郷さんにやればいいんですよ!」

「それじゃ、検証にならないわよ」

 

横には想像しただけで、顔を赤くしている東郷さんの姿があった。

 

「ほら!でも風先輩!樹ちゃんが怖いっていってましたよ!」

「樹ー!相手が洸輔なら大丈夫そう?」

「う、うん、大丈夫だと思う……よ」

「あーー!!!逃げ道がないーー!!」

「はい!決定ー!さぁ洸輔、諦めてやりなさい!」

 

強情な風先輩の態度に押され、僕はあきらめて顎クイをやることにした(あきらめた方が楽になれる)

 

「じゃあ……だれからやります?」

「「ここは部長(新入部員)としてアタシ(あたし)が!」」

 

手をあげたのは、風先輩と夏凜だった。

 

「部長として、アタシが先にいくわ」

「新入部員として、早めに部活の活動になれたいから、あたしが行くわ」

 

二人の間にはなぜか火花が散らしていた。

 

(はぁー早く終わらせたいよー)

 

この部の女子は、みんな美人揃いのため、顎クイなんて………やったこっちがショートするに決まってる……。などと考えていると、服のすそを誰かに引っ張られた。

 

「あ、あの……洸輔さん」 

「ん?どうしたの?樹ちゃん?」

「私に、やってくれますか?」

「へ?」

「で、できれば台詞とかもつけてくれれば!」

「……あぁ、もう!どうにでもなってくれ!」

 

半ばやけくそになった僕は、樹ちゃんの前に立つ。

 

「それじゃ……行くよ……」

「は、はい!お願いします!」

 

(台詞って一体なにをいえば……しょうがない!それっぽい言葉をまとめていうしか)

 

そのまま、樹ちゃんの顎をそっと右手で優しく持ち上げた、樹ちゃんの表情は、とろんとしていて息も荒くなっていた。そこに僕は、甘い言葉を投げかける……。

 

「まったく甘えん坊だな、樹は?これからもっとめちゃくちゃにしてやるよ」

「ひぅ……」

 

(あーーーなんか寧ろ清々しくなってきたぁー)

 

「はーい!これで検証はおわりですねぇーありがとうございましたぁー!」

「ちょっ!?ま、まだよ!一人だけじゃデータが足りないわ!全員やりなさい!」

「えーーーーーーー!!!い、樹ちゃん助けてぇ!!」

「ふふ……皆さんにも体験させてあげてください……洸輔さん」

「ギャァーーーーー!いつの間にか味方がいないー!!」

「私は、もう十分堪能しましたから………ふふふ」

 

誰も味方がいなくなり、僕の目の前が真っ暗になった。

 

「こ、洸輔くん!私もいいかしら?」

「洸輔!あたしにも!」

「部長である、私にもその権利がある!」

「あーもう!わかったんでやりますから!順番にお願いします!!」

 

結果、みんなに顎クイをすることとなった。風先輩は樹と同じく顔を真っ赤にし、東郷さんは終わった瞬間から「たまらないわぁ……」しか言わない機械のようになって、夏凜に至っては口をパクパクさせ、その状態から動かなくなってしまった。

 

一人一人が特有の匂いをもち、また息づかいなども近距離で感じるため、僕の思考能力は正常な判断ができなくなっていた。

 

(もう何も考えられない……)

 

そして、最後に残ったのは幼なじみである、友奈一人。

 

友奈の顎に、右手で触れ優しく持ち上げる。息が荒くなる友奈を近くに感じる。今の僕と友奈の顔の距離は、あと一歩踏み出せば、キスしてしまうであろう距離まで顔を持ち上げてくる。

 

「洸輔くぅ……ん」

 

そこで僕は彼女の耳元で、甘い言葉を囁いた。

 

「友奈……ずっと側にいろ……もう俺から離れるな……」

「!?!?!?!?」

「東郷にも……誰にも渡さない……お前は……俺のモノだ……」

 

 

気づいたときには、顎クイ検証会が、終わっていた。みんなが顔を真っ赤にしていた。友奈に至っては、目が虚なままぼ~っとしていた。

 

「ふふ……えへへ……」

「もう……、みんな……帰りません?」

 

依頼主には「顎クイが効果的」という文章を送った。

 

僕は慣れないことをしたせいか、身体(精神的にも)が疲れきっていたためまっすぐ家に、向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

自分の部屋につくと、私は枕に顔を埋めた。

 

『友奈、ずっと側にいろ。もう俺から離れるな』

 

あれだけのことをやったのだ、洸輔くんが冷静ではなかったのは私にもわかってる。

 

『東郷にも、誰にも渡さない。お前は、俺のモノだ』

 

目を閉じると思い出してしまう。あと一歩踏み出せば、体のすべてが一つになりそうなところで、囁かれた甘い言葉…。

 

思い出すだけでも、心臓の鼓動が速まり体が火照りだす。

 

(あんなことを言われたら、この身体も、すべてを洸輔くんにあげたくなっちゃうよ)

 

その日の夜は、興奮して眠れなかった。




みんな可愛いですね(ニコニコ)。今回は番外編でしたがまた次からは本編を進めます。よろしければ感想なども、お持ちしております!!(寧ろアイデアをください……)


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9話 初めての誕生会

本編進みます!まだ先が長いので頑張りたいと思います!

そいえば……僕がどの話が一番見られてるのかなー?ってアクセス数を見たときに、番外編の東郷さんの話が人気だったのですが…………もしかしてみなさん…………番外編はそっち路線をお望みなんですか……?(僕も好きです)

では本編スタートです!!


ピンポーン

 

「?」

 

あたしが日課である、素振りをやっているときに突然インターフォンが鳴った。

 

「誰……?」

 

自分の部屋のことは、特に誰にも言ってないから誰かが訪ねてくるなんて中々無いため、あたしはドアの方を不審な目で見た。

 

ピンポーンピンポーンピンポーン

 

「あー!もう誰よ!」

 

あたしは手に持っていた木刀を構えて、ドアを開けた。

 

「あ、夏凜ちゃん居てくれてよかったわ。留守じゃなかったのね」

 

そこには、友奈と洸輔を除いた勇者部の三人の姿があった。

 

「何?どうしたわけ?」

「まぁまぁ説明はあとで、するから先に入らせてもらうねー」

「ちょ、ちょっと!」

 

風がズカズカ、あたしの部屋に入っていくとその後ろにいた樹もついていく。東郷も玄関から上がり机にお菓子などを広げていた。

 

「何しにきたのよ!あんたたち!いい加減にしないと追い出すわよ!」

「にぼし食ってるわりには、沸点低いわね~」

「突然、押し掛けられればそりゃ怒るわよ!」

 

あたしが怒鳴ると、三人は顔を見合せそのあとすぐあたしの方を向いて言った。

 

「誕生日おめでとー!夏凜(さん)(ちゃん)!」

「は……?」

 

意味がわからず、あたしが首を傾げていると風があたしに向かって、何かのプリントを見せてきた。

 

「これ……あたしの……」

「あんたが書いた入部届でしょ?これ見てたら今日あんたが誕生日ってこと知って飛んできたのよ」

 

ピンポーン

 

「お、来たわね」

「間に合いました!?」

「うん。余裕で間に合ってるわよ」

「よかったぁ!」

「あーもうくたくたです~」

 

そして現れたのは、友奈と洸輔だった。

 

「夏凜ちゃん!誕生日おめでとー!!」

「ここらへんで一番美味しいって有名な所の、ケーキ買ってきたよ」

「味は保証するよ!!夏凜ちゃんもほっぺたが落ちること間違いなしだよ!」

「遅れたけど……お誕生日おめでとう、夏凜」

 

そういうと、洸輔と友奈は箱を開封した。中からは大きなケーキが出てきた。

 

「パーティー用としてクラッカーも持ってきました!」

「ナイスよ!洸輔!これでもっとパーティー感が出るわね!」

「友奈ちゃんはなにを持ってきたの?」

「私は三角帽子を持ってきたよ!」

「ホントに美味しそうですねぇー……あ、洸輔さんここどうぞ」

「ありがとね。樹ちゃん。んっ?どうしたの?夏凜?」

 

みんなが好きなように座り、立っているのは私だけになった。

 

「も……もう……何なのよ……?あたし今まで誕生会なんてやったことないから……」

 

すると、洸輔はあたしを見て笑顔で言った。

 

「座りなよ?今日は夏凜が主役なんだからさ」

「っ……」

 

そこからはいつも通りの騒がしくも楽しい時間が続いた。

 

「あ、夏凜しっかりカレンダーの部活がある日に印つけてる。偉いね、夏凜は」

「な!ち、ちち違うわよ!これは……あの……その」

「ほんとだ!カレンダーほとんど印で埋め尽くされてるね!」

「ふふん!余程部活をするのが楽しみみたいね!!」

「偉いんだねー夏凜は~」

「ちょ!洸輔!頭撫でんじゃ………にゃいわよ……!」

「もしかして、恥ずかしがってる?」

「そ、そんにゃことない!」

「洸輔くぅーーん?クラッカーが余っちゃったから耳元でクラッカーを鳴らしたらどうなるか試してみない?」

「私もやっていい?東郷さん?」

「ちょ!ちょっとまって!友奈、東郷さん!落ちつい(パァン!!!)いやぁぁぁぁぁ!!鼓膜がぁぁぁぁぁ!!」

 

あのあとも、誕生会は一時間ほど続いた。今思うと過ぎた時間はあっという間で、さっきまで勇者部の面々がいた跡はもうない。

 

続きは風にいれてもらった連絡アプリで繰り広げられていた。(これがあれば連絡が取り合えるからと風が教えてくれた)先ほど勇者部のグループに入ったばかりである。

 

風「これでいつでもどこでも連絡を取り合えるわよ!誕生日おめでとうね!夏凜!」

 

洸輔「誕生日おめでとう!夏凜!これからも一緒に頑張ろう!風先輩を弄られる人材が来るのは嬉しいよ」

 

樹「おめでとうございます!夏凜さんこれからもよろしくお願いします!」

 

友奈「お誕生日おめでとう!夏凜ちゃん!わからないことがあったら、私に相談してね!」

 

東郷「誕生日おめでとう。これからは勇者部として、夏凜ちゃんもお国を守っていきましょう!」

 

「みんなありがとう。それと、洸輔には了解って送っとこ」

 

夏凜「みんなありがとう。洸輔に関しては了解」

 

風「どういたしまして……あと明日覚えておきなさいよ!洸輔!!」

 

洸輔「あ、いや別にそういう意味で言った訳じゃ」

 

樹「洸輔さん、お姉ちゃん怖いよ~( ̄▽ ̄;)」

 

洸輔「ち、違うんですよ!これは友奈が、言ってって言ったから、言いました!」

 

友奈「ええーー私!?」

 

東郷「今度は夏凜ちゃんに、ぼた餅を食べさせてあげるわ!あと、洸輔くん?明日が楽しみね?……ふふ」

 

洸輔「東郷さんまで敵にまわった!?た、助けてぇ!夏凜!!」

 

夏凜「あたしは知ーらない」

 

洸輔「夏凜の薄情ものーーー!!」

 

「ふふ、ホントに騒がしいやつら……」

 

あたしは、先ほどのアプリのやり取りを見て不覚にも笑ってしまった。

 

「………」

 

部屋には、満足げな吐息がもれたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「夏凜ちゃん喜んでくれてよかったね!!洸輔くん!!」

「うん。内心嫌がられるんじゃないかと思ったよ…」

 

僕と友奈は帰り道で今日の誕生会について話していた。すると友奈が急に、もじもじしだした。

 

「………」

「どうしたの?友奈?」

「あ、ううん!なんでもないよ!」

「その流れでなんでもないは、ちょっと無理があると思うよ?どうしたの?何かあるなら僕に言ってみなよ?」

「え、えっと、ね。その、私も洸輔くんに頭を撫でてほしいなぁーって思って……」

「わかったよ。友奈がそれを望むならやってあげるよ」

 

そうして、僕は友奈の頭を撫でた。撫でる度に友奈は顔を赤くし、嬉しそうな声をあげるのだった。

 

「えへへー」

「あの、友奈さん?もう、そろそろよき?」

「あ!ご、ごめんね!洸輔くん!そ、それじゃもう帰ろうか!」

「う、うん!そうだね!」

 

そして帰路で僕達二人は何とも言えない恥ずかしさに襲われ無言のままお互いの家まで帰るのだった。

 

そして後日、東郷さんにそれを見られていたらしく東郷さんにも頭を撫でてと頼まれるのであった。(朝からクラス中の視線を受けながらやったため、僕の思考能力はショートしていた)




はい!また夏凛ちゃんがちょいメインっぽい話でしたがいかがだったでしょうか?あと前書きにも書いた通りそっち路線をご希望の方は感想にお書きください!(頑張って書いてみます!)

それでは次は第10話でお会いしましょう!


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10話 心のつながり

今回も本編を進めて行きましょうか!みなさんにもっと楽しんでいただけるようにこれからも精進します!

リクエストや感想もお待ちしております!


昼休み、僕は風先輩に部室に来るよう言われていたので部室に向かった。

 

「あ、風先輩。こんにちは」

「こんちは、来たわね洸輔」

 

部室に着くと、風先輩がいた。右手には僕が預けた端末を持っていた。

 

「とりあえず大赦に頼んでおいた、勇者システムの点検が終わったわ」

「ありがとうございます!!それで、何か分かったんですか?」

「いいえ……詳しいことはわかってないみたいなの。ただ」

「ただ?」

「洸輔には、私達とは違う形で精霊が宿っているって聞いたわ」

「違う形?」

 

(どういうことだろ?確か、あの人は僕を選んだと言っていた。もしかしたら)

 

「まぁ、そこ以外は特におかしな所はなかったそうだから、気にせず使えるはずよ!」

「はい」

「あ、あと今日の部活では、樹のことについてやるから!よろしくねぇー」

「わかりました!」

 

そして僕と風先輩はそれぞれの教室に戻った。僕の悩みはまだ晴れていない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「今日は樹の歌のテストをどう合格させるかを考えるわよー!!」

「ひっ!死神!?」

 

風先輩の掛け声で、勇者部の活動がスタートするが今回の主役とも言える樹ちゃんは、自分のタロット占いの結果に意気消沈としていた。

 

「樹ちゃんって歌苦手なんですか?風先輩?」

「苦手ってわけじゃなくてねー。緊張しちゃうのよ」

「なるほど。人前に出るのが苦手だと」

「まぁ歌のテストって、クラス全員が見てるなかでやるから緊張するよね!」

「ふふふ。まったく!しょうがない連中ね!あんたたちは!」

「急にどうしたの?夏凜?」

 

そこには、大量のサプリ(なんか明らかに危なそうな)を用意しながら、煮干しを貪っている夏凜がいた。

 

(こんなに種類あるんだ。サプリって)

 

僕がどうでもいいことで感心していると、東郷さんが夏凜に質問していた。

 

「にぼっしーちゃん?これをどうするの?」

「ふ、よくぞ聞いてくれたわね!東郷!!ここにあるのは全部緊張を解すためのサプリよ!てかにぼっしーて言うのやめなさい!!」

『さすがにぼっしー』

「ちょ!?全員で声を揃えて呼ぶなぁーー!!」

「大丈夫だよ!可愛いよにぼっしーちゃん!!」

「それはフォローなの!?おちょくってるの!?どっちなのよ!!友奈ぁーーー!!!」

 

ちなみに、にぼっしーというのは夏凜のことである。風先輩がいつも煮干しを食べてる夏凜に対して作ったあだ名だ。(言われてる本人は割といやがっているがみんな普通に呼んでいる)

 

(てゆーか、どこから出したんだろ?こんな量のサプリ)

 

「いいわ見てなさい!!ここであたしがサプリの偉大さを教えてあげるわ!!」

 

夏凜はそういうと目の前にあるサプリをすべて口の中に放り込んだ。

 

「ほら見なさい!!みるみる緊張が解けて……うっ!?」

 

最初はどや顔で、僕達の方を見ていた夏凜だったが途中からみるみる顔を真っ青にしていった。

 

「ここから一番近いトイレは、二階の理科室前の所が一番近いわよ~」

「ぬぅぁぁぁぁ!!!」

 

風先輩が言うが早いか、夏凜は顔を真っ青にした状態でトイレへと走っていった。

 

「えっと、夏凜が戻ってきたらみんなでカラオケに行って樹を鍛えるわよー!」

「は、はい」

「わかりましたー!」

「承りました」

「う、うん」

 

僕達は夏凜が来るまで部室で待っていた。(そこから夏凜が来るまでに一時間掛かっていた)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「いぇーい!」

「こんな所かな?」

 

洸輔さんと友奈さんの、デュエットが終わりみんなから拍手が起こる。点数は94点とかなりの高得点だ。

 

「じゃあ!次は夏凜ね!」

「え!?なんであたしなのよ!」

「夏凜がどれくらいか、聞いてみたいのよ」

「私も興味あります!夏凜ちゃんの歌声!!」

「僕も気になるなぁ~」

「わ、わかったわよ!歌ってあげるわよ!その代わりあたしが上手すぎても失神すんじゃないわよ!」

 

そういって夏凜さんは一人で熱唱していた。結果は92点とさすがの高得点だった。

 

「どう?これがあたしの実力よ!」

「すごいよ!夏凜ちゃーん!!」

「すごかったね夏凜!」

「まさかあそこまで、やるとは思わなかったわ!」

「あ、次は私が選んだ曲ね」

「「「「!!」」」」

 

そして、次に流れた曲で夏凜さん以外のみんなが立って敬礼をする。

 

「え!?なに?なんなのこれ!?」

 

東郷先輩が歌い終わったと、同時に私たち四人も敬礼をやめ、椅子に座った。

 

「え?なんだったの?今の……?」

「東郷さんが歌うときは基本的にはみんなこんな感じだよ?」

「あ、そうなのね」

 

夏凜さんはよくわからないといった表情のままだった。そして、次は……

 

「お!次は樹の番ね!!がんばれ!!樹~~!!」

「う、うん!お姉ちゃん!!」

 

(うぅ……みんなが見てるよぉ)

 

歌ってみたけど、やっぱりダメでした。人が目の前にいるのを意識した瞬間に、思考が固まってしまう。

 

「やっぱり緊張しちゃう?」

「う、うん……」

「大丈夫大丈夫。樹ちゃんはまだ歌いなれてないだけだよ。これから練習して慣れていこうね」

「そうだよ!まだまだここからだよ、樹ちゃん!!」

 

洸輔さんと友奈さんに激励され、わたしはもっと頑張ろうと思った。

 

(歌のテスト絶対に合格する!!)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「大赦から連絡?」

「最悪の事態を想定してくれ……だってさ」

 

女子トイレで、あたしと風は次の襲撃についての話をしていた。

 

「風、あんたはリーダーには向いてない。あたしが指揮をとるわ」

 

風は勇者部を巻き込んだことをまだ根にもっている。その優しさは長所だと思うが……戦っている最中にはいらないものに過ぎない。

 

「これはアタシがやらなきゃならないことなの。後輩は先輩の背中を見ていなさい」

「……」

 

風の言葉を聞いたあたしは何も言えなくなった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あのあとのカラオケは特に何もなく終わった。

 

「樹はもっと練習しよう」

 

ということで解散になった。

 

「うーん!楽しかったねぇ!カラオケ!!」

「ええ。みんなで行くと尚更そう思うわ」

「それに関しては同感かな」

 

僕と友奈と東郷さんは、帰路が一緒のため帰りながらお互いに今日のことを話していた。

 

(でもやっぱりあの夢のことはなにもわからなかったな……)

 

僕が自分の勇者システムのことについて悩んでいると、友奈と東郷さんが心配そうな顔で僕のことを見ていた。

 

「洸輔くん、大丈夫?」

「具合でも悪いのかしら?」

「え、ああ、うん。なんでもないよ?」

「洸輔くん!勇者部五ヶ条!悩んだら相談だよ!」

「そうよ。洸輔くん!一人で溜め込んでもいいことなんてないわよ」

「友奈、東郷さん……」

 

そんな二人のまっすぐな言葉を言われて、僕は自分の勇者システムのことを打ち明けた。

 

「そうだったんだね……」

「うん。僕の勇者システムは本来はみんなの劣化版でそれに僕は勇者になることができないはずだったんだ…例え素質があっても、男は勇者になることができないからね……」

「そうだとしても、私や友奈ちゃん…勇者部のみんなが洸輔くんを守るわ」

「え?」

 

東郷さんに真っ直ぐな目でそんなことを言われた。

 

「洸輔くんは最初の戦闘の前に私に言ってくれたよね?何があっても私を守るって……」

「う、うん」

「なら洸輔くんが危なくなったときは私が全力で守るわ。私だけじゃない、勇者部のみんなもそう思っているはずよ」

「!!」

「そうだよ!洸輔くん!最初の戦いの時も洸輔くんは私たちを守るために全力で戦ってくれたもん!だったら洸輔くんが危なくなった時は私たちが全力で守るよ!!」

 

僕はなにも言えずに二人の話を聞いていた。

 

(まったく、この二人には敵わないな)

 

そう思いつつ、僕は自分の頬を叩いた。

 

「友奈!東郷さん!ありがとうね!これからも僕はみんなを全力で守るよ。でももっとみんなのことも頼らせてもらうね」

「うん!それでいいと思うよ!洸輔くん!!」

「ええ、あと洸輔くん。そ、そのこの流れでおこがましいかも知れないけど頼みがあるの」

「?、どうしたの?東郷さん?」

「それ……」

「え?」

「そろそろ、その東郷さんって言うのはやめて。美森って呼んでほしいの」

「と、東郷さん!?」

「急に!?」

 

かなりの話の方向転換に、僕も友奈も動揺を隠せない。

 

「だ、だって!友奈ちゃんは幼なじみだからまだわかるけど!新しく入ってきた夏凜ちゃんが名前で呼ばれているのに、なぜ私だけ名字なの!?洸輔くん!?」

「え?いや、え?」

「東郷さん!落ち着いて!洸輔くん困ってるから!?」

「いいえ!友奈ちゃんでもさすがにここは譲れないわ!自分だけ名前で呼ばれてるからって!!決めたわ!今日は洸輔くんに名前で呼ばれるまで家に帰らない!!」

「「なんの決意をしてるの!?」」

 

そしてそのあと僕が名前で呼ぶと、美森は(これからは美森でいきます)顔を真っ赤にして動かなくなったため、友奈と共に美森を家まで届け、その日は終了した。(カラオケよりも疲れた)




そろそろバーテックスとの戦闘が近くなって来ました!また、番外編で洸輔くんと勇者部の女子のデート回とか書こうと思っているので、それについても楽しみにしててください!!


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11話 決戦前日の日常

次でゆゆゆの章はアニメで言うと5話位のところかな?もう少ししたらシリアス書くことが増えそうだ………。


「せい!やあ!!」

「さすが、友奈だね。攻撃の一発一発が重い」

「洸輔くんと組み手やるの久しぶりだからね!気合い入っちゃうよー!」

 

樹ちゃんの特訓でカラオケへ行った次の日の早朝、僕と友奈は近くにある砂浜で久しぶりに組み手で勝負をしていた。

 

「でも、僕だって勇者の端くれだからね!そう簡単には勝たせないよ!」

「私だって!負けないよぉー!せぇい!」

「はぁ!」

 

こちらへ目掛けて放たれた拳を受け流す。しかし、友奈の猛攻は続く。受け流された反動を使って連続パンチを叩き込んでくる。

 

「そりゃりゃーーーー!!!」

「っ!?」

 

素早さと攻撃の手数の多さに押されそうになるが、それをなんとか避けきる。友奈が追撃をしようと動き始めた所で反撃に出る。

 

「ここ!!」

「っ!」

 

素早く、フェイントを組み込ませつつ拳を繰り出す。だが、流石は友奈、すぐにそれにすら対応してこちらを抑え込む。

 

「ふっ!てええりゃーーー!!!」

「マジか!?く、くそぉっ……ぷぎゃ!?」

 

攻撃は読まれ、放った拳は友奈の腕に押さえつけられてそのまま砂浜へと叩きつけられた。

 

「っ……いってて」

「洸輔くん大丈夫!?」

「あ、うん。平気だよ……やっぱり強いなぁ友奈は」

「洸輔くんこそ!まさか連続パンチがあんなに簡単に避けられると思わなかったよ!」

 

二人で感想を言い合っていると、僕は自分が今どういう状況かを理解し顔を赤くした。

 

「あ、あの……友奈さん?」

「ん?どうしたの?」

「そ、そろそろ、離れない?僕の手にあの……その、あたってるからさ……その……む、胸が……さ……」

「あ!ご、ごめん!!」

 

僕は、友奈に腕を押さえつけられながら投げられたため腕に友奈の胸(慎ましいけど柔らかかった)が当たっていたのだ。そこで友奈が携帯の時計を見ると言った。

 

「あ!?こ、洸輔くん!もう登校の時間だよ!!」

「やばい、ほんとだ!急ごう友奈!」

「うん!」

 

その日の授業中では、度々その事を思い出して顔を赤くしていた。(美森は勘づいていたのか、僕のことを授業中ずっと怖い目で見ていた)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さて!いよいよね!樹!!」

「う、うんお姉ちゃん!!」

 

先輩方は、わたしの音楽のテストが午後にあるため昼休みに部室に集まっていた。

 

「ついにテストだね!樹ちゃん!!」

「頑張ってね。樹ちゃん、応援してるわよ」

「頑張ったんだから、結果はついてくるはずだよ!」

 

友奈さん、東郷先輩、洸輔さんが勇気づけてくれた。その横にはまたも、サプリを広げていた夏凜さんの姿があった。

 

「で……?夏凜はまたサプリ?」

「またって何よ!またって!!はい樹!これ飲みなさい!」

「こ、これは?」

「緊張を解くための、サプリよ。樹は初心者だから一個あげるわね」

「あ、ありがとうございます夏凜さんにみんなも!」

 

四人だけでなく、夏凜さんからも激励(?)を受けたわたしは、みんなにお礼をする。お姉ちゃんは元々勇者の適正のことでみんなを集めたって言ってたけど、もっと違った何かで、わたしたちは出会ったんだと思った。 

 

「じゃあ、そろそろ授業が始まるから解散にしましょうか」

 

お姉ちゃんの合図でみんなが教室に戻っていく。

 

(みなさんの応援、無駄にはしません!)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はい。次は犬吠埼さん」

「は、はい!」

 

自分の番が回ってきて、緊張が体から込み上げてくる。

 

(だ、大丈夫!夏凜さんからもらったサプリも飲んだし、みんなから勇気ももらった……ん?)

 

自分の音楽の教科書を開くと、ある一枚の紙があった。

 

(これは……?)

 

そこには、勇者部一人一人のメッセージが書かれていた。

 

終わったらみんなでケーキ食べよう! 友奈

 

周りの人は皆カボチャ 東郷

 

樹ちゃんはここぞって時に強い!僕が保証するよ! 洸輔

 

気合いよ 夏凜

 

周りの目なんて気にしない!お姉ちゃんは樹の歌が上手いって知ってるから 風

 

「……みんな」

 

みんなからの応援の言葉の数々に、背中が押される。

 

「犬吠埼さん?大丈夫?」

「あ、はい!大丈夫です!」

 

そこからわたしは全力を出して、歌い見事テストに合格したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「合格できたよ!お姉ちゃん!!」

「うう……我が妹の成長が感じられるわぁ……」

「なに……泣いてんのよ。あんた?」

 

喜ぶ樹ちゃんの横で、大号泣している風先輩に鋭くツッコミを入れる夏凜。樹ちゃんは僕や友奈や美森の方を向き僕たちにお礼をしてきた。

 

「みなさんの寄せ書きのお陰です!!あの手紙のお陰であと一歩が踏み出せました!」

「うん!樹ちゃんが合格してホントによかったよ!ね?洸輔くん!東郷さん!」

「その手紙に書いてある通り、樹ちゃんがここぞって時に強いのは知ってるからね!」

「樹ちゃんならできると信じていたわ」

「みなさん!ホントにありがとうございました!!」

 

みんなの言葉を聞いて樹ちゃんは涙ぐみながら僕達に本日二度目のお礼をしてきた。するとさっきまで涙ぐんでいた風先輩が、がばっと起き上がりみんなに大声で指令を出す。

 

「よーし!それじゃ今から!樹テスト合格おめでとうパーティーをやるわよー!!」

 

そこから夕方まで部室には、楽しそうな笑い声が響きあっていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

その夜に、友奈から連絡がきて「明日も砂浜に集合ね!」というメールが来た、僕は「わかった!」と返信をした。

 

僕はこの日常が好きだった。特に何かあるわけではないが、この暖かくて楽しい日常が……好きで好きで仕方がなかった。

 

(このまま行けば、夏休みにもなる……夏休みになったら皆で何をしよう?)

 

そう考え混んでいると、久しぶりに聞くアラート音が鳴った。

 

「来たね」

 

自分の席から立ち上がり、スマホを取り出す。僕の中には、迷いはなく大きな決意が胸に灯っていた。

 

(守ってみせる!この日常も!仲間たちも!!)

 

次の瞬間、僕の体を白い光が包んでいった。

 

遂に決戦が始まる。




はい!11話でした!次回は遂に勇者部VSバーテックスの総力戦でございます!次の回も頑張って書くので応援よろしくお願いします!!

感想やリクエストも随時お待ちしております!


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12話 乗り越える強さ

さて…………ってもう12話なんだ!(驚)今回は戦闘シーンが多めでございます!あらかじめご了承ください!!

では本編です!どうぞ!!


「七体か」

 

樹海化によってこの世界にきたあと僕はすぐにバーテックスの数を確認するため、アプリを開いた。すると今までとは桁違いの数のバーテックスが確認できた。

 

「急にごり押し戦法にしてきたわね、あいつら」

「なんで、すぐに攻めて来ないのかなぁ?」

「確かに、どうしてでしょうか?」

「まぁ今は考えても仕方がないわ!覚悟を決めましょうみんな!決戦になるわよ!!」

 

風先輩の掛け声で、皆が同時に制服から勇者服へと変化していく。

 

「さて、と準備完了かな」

「私も準備完了ーっと!」

「同じく、準備完了です」

「いつでも行けるよ!お姉ちゃん!」

「OKよ、とりあえずバーテックスが一度見える位置まで移動しましょ!」

 

皆で一度移動しバーテックスが視認できる距離まで移動する。

 

「目標捕捉!!」

「なんか、一体だけやたらでかいのがいるわね。アイツが親玉って感じかしら?」

「もしかしたら、そうかもしれませんね。でも回りにいる敵も警戒しておかなきゃいけません」

「そんなに難しく考えなくても、全部殲滅しちゃえばいいのよ!」

「ま、まぁそうだけどさ……」

「うっし!じゃあとりあえずあれやりましょ!」

 

そういうと風先輩は僕と友奈を捕まえた。

 

「円陣ですね!!」

「な、なんであたしがそんなことを!」

「いいから、夏凜も来なさい!!」

「こ、今回だけよ!」

 

渋る夏凜を加え、みんなで円陣を組み勇者部全員で気合いを入れる。

 

「みんな!これに勝ったらアタシが何でも奢ってあげるから!負けんじゃないわよー!!」

「!!、本当ですか!?じゃあ私はうどんをお腹いっぱいに食べーる!」

「あたしが、完成型勇者のほんとの実力見せてやるわ!!」

「わたしだって叶えたい夢ができたんだから、絶対に負けない!!」

「私も、皆を全力で守ってみせるわ!!」

「もうこれ以上!僕たちの大切な日常は奪わせません!!」

「よし!勇者部!!ファイトォーーーーーーーー!!!」

『オーーー!!!』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「あたしが、先陣をきる!!」

「僕も、夏凜に続くよ」

「私もいくよぉー!!」

「美森、背中は任せたよ」

「ええ、任せて!」

 

特に陣形などは決めていないため各々が得意な武器を使い自由に戦うスタイルである。

 

「くらいなさい!!」

 

夏凜が一番近くにいたバーテックスに攻撃を仕掛けると彼女はそのまま封印の儀にまでもっていく。

 

「これで、こいつは終わりよ!」

「行けぇ!!」

 

バーテックスが吐き出した御霊は、夏凜の一太刀と僕の投擲により破壊された。

 

「すごいねー!早いよ二人ともー!」

「さすがです!!」

「うん、でも何か変じゃない?」

「え?」

 

(あれだけの数がいて、こいつだけが特攻を仕掛けて来た……まさか!?)

 

しかし、気づいた時にはもう遅く二体のバーテックスが近くまできていた。その内の一体がまるで、ベルのような物で気味の悪い音を鳴り響かせた。

 

「ぐっぁぁぁ!?」

「な、なにこれ!?」

「くっ!勇者はこれくらいじゃ、負け……ない!」

「お、音はみんなを!幸せにするためのもの!!こんな……こんな音ーーーー!!」

 

樹ちゃんが叫んだと、同時に鐘のようなものを糸で押さえつけた。

 

「ナイスよ、樹!!」

 

ふりかえると、風先輩が飛んできたそのままの勢いで二体のバーテックスを、大剣で切りつけた。追撃で遠距離から美森の狙撃も当たるが、バーテックス達には通じなかった…。

 

「これはっ!?」

「っ……再生のスピードが速い!!」

 

攻撃を受けたバーテックス達は、今までとは比にならない速度で体の傷が修復されていった。反撃に備え身構えるが…

 

「あれ?逃げてく?」

「いや、あいつら一番でかいやつの方へ向かってるよ」

「まさか、みんな警戒して!」

 

前線にいたバーテックス達は後ろで控えていた大型バーテックスのところまで向かうと融合しだした。

 

「なによ……これ!?こんなの聞いてないわよ!」

「でも、寧ろ好都合だよ夏凜!これなら同時に四体も倒せるんだからさ」

「洸輔の言う通りよ!こいつ倒せば、もう勝敗は決まったようなもの!一気に攻めるわよ!!」

 

風先輩がバーテックスの体を、大剣で斬りつける。しかし攻撃はバーテックスの体に傷をつけることができなかった。

 

「くっ!こいつ!硬い!!」

「風先輩!危ない!!」

「っ!?」

 

直後、風先輩に向かって眩い光と衝撃を伴った閃光が放たれた。僕は間一髪の所で風先輩の前に立ちそれを受けきる。

 

「洸輔!ありがと……!?」

「ぐっ!」

「あんた、その傷……」

「大丈夫です!これくらい……」

 

あの閃光……レーザーといった方がいいかもしれない。直前でなんとか受けきったがみんなほどのバリアの強度がなかったのか、すぐにバリアは割れ僕は自身の腕でレーザーを止めたため、腕が傷だらけになっていた。

 

「洸輔くん!?大丈夫!?」

「無理しちゃだめですよ!!」

「樹!友奈!!前見なさい!!」

「えっ……きゃあ!」

「なに?うわぁっ!」

 

バーテックスは追撃と言わんばかりに、近くにいた友奈と樹ちゃんに火の玉を直撃させた。

 

「追尾するならそのままあんたにぶつけてやるわよ!」

 

夏凜が追尾してくるのを利用しそのままバーテックスへとぶつけようとするが、バーテックスは夏凜に向かって先ほどよりも多い火の玉を放出した。そのまま、放出された玉は夏凜に直撃した。

 

「ぐっ…ああ!!」

「友奈!樹ちゃん!夏凜!」

 

(何やってんだよ、僕は!守るんじゃなかったのかよ!)

 

するとバーテックスから、もう一度レーザーが放たれた。それは、僕と風先輩の真上をすり抜けてもっと遠くの何かに向かって飛んでいった。その先にいるのは………

 

「!?、美森!!」

「ちょっ!洸輔!!あんたはここで休んでな」

「すぐ、戻ります!!」

 

風先輩の制止を聞かず、僕は美森の方へと向かったレーザーを止めるため走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれは……」

 

 狙撃銃のスコープからこちらに迫ってくる光を視認する。気づいた時には遅かった。

 

「まさか!?」

 

 動こうとする。しかし、事故で動かなくなった足が言うことを聞かずその場から動けなかった。

 

「まず……」

「やらせるもんかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 光が着弾する直前にどこからか洸輔くんが現れ、それを受け止める。剣を握っている手は鮮血に染まっていた。

 

「だい……じょうぶだよ美森!僕が守ってみせるから!!」

「で、でも、洸輔くん、手が……」

「やってみせるさ!僕だって勇者だからねっ!!」

 

 こちらを安心させるように微笑みを向ける洸輔くん。苦しそうに唸りながらも持っていた片手剣を使い、閃光を打ち消した。

 

「次は、友奈達を…助けなくちゃ。美森も、一緒に…ぐっ」

「洸輔くん!」

 

 咄嗟に体を支える。両手は傷だらけでズタズタになっていて、血で腕全体が覆われている。とても、戦闘を続けられるような状態には見えない。

 

「どうすれば…」

 

 次にとるべき行動に迷っていると、遠くで何かが光った。光は一輪の花となり花の真ん中には風先輩の姿があった。

 

「まさか、あれが満開?なら……私も」

「僕も…僕も行く」

「だめよ。洸輔くんはここにいて、まずはその傷を治すことに専念して」

「で、でも!」

「貴方の分まで私が頑張るから、大丈夫よ。それじゃ行ってくるね」

 

 その場から跳躍する。遠巻きに見えるバーテックスを睨みつけ、私は叫ぶ。

 

「満開!!」

 

 戦艦のようなものをその身に纏い、風先輩たちの所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ちょっ!洸輔!あんたはここで休んで」

「すぐ戻ります!!」

 

洸輔はアタシの制止を聞かず、東郷の方へと向かったレーザーを追いかけていった。

 

「なにやってんのよ。あたしは!」

 

洸輔は自分が不完全な状態で勇者になっているにも関わらずアタシを守ってくれた。そして今も自分の腕があんな状態なのにも関わらず、東郷を助けにいった。

 

(部長のアタシが、がんばんなくてどうすんのよ!!)

 

次の瞬間、アタシはバーテックスの放った水球に飲み込まれてしまった。

 

「……!?」

 

大剣で切ろうとしても水は切れなかった。

 

(息が……できない)

 

朦朧とした意識の中、倒れているみんなの姿が見える。

 

(だめ!樹を置いて、洸輔をあんな目にあわせて、みんなを置いてあたしが先にくたばるわけにはいかないのよーーーーー!!!)

 

すると白い光がアタシを包み込んだ。光が消え自分の姿を見てみると、いつもの衣装とは少し違っていた。

 

「これが、満開?」

 

すると合体バーテックスが、アタシに近づいて来た。

 

「あんたは!謝っても許さないから!!」

 

拳に力を込めて、バーテックスに叩きこむ。するとそこに東郷の狙撃銃の弾より大きめの弾丸が突き刺さった。弾が撃たれた方向へ振り返ると、東郷も満開状態に入っていた。

 

「東郷!!洸輔は……どうしたの?」

「腕の出血が酷かったので、私が狙撃していた場所で休ませてます」

「風先輩ー!東郷さーん!!」

「二人ともすごいです!」

「あたしとした事が……不覚をとったわ」

「あれ?東郷さん?洸輔くんは?」

「けがが酷かったから、私がさっきいた場所で休んでいてもらってるわ」

「そうなんだ……無事でよかった」

 

みんなで話し込んでいると、合体バーテックスはさっきまでとは比にならない大きさの火の玉を出してきた。

 

「なんなのよ!?その元気っぽい玉は!!」

「風先輩っ!」

「来る…」

「っ!ああ、もう、受け止めるわよ!!」

 

樹海にダメージは与えさせまいと、全員が動く。瞬間、手がジリっと言う音ともに…バカみたいな熱を込めた火の玉に触れる。

 

「ぐっ!!」

「お姉ちゃん、これ……まずいよ!!」

「押されてます!みんな、踏ん張って!」

「負けるわけにはいかないっ!!」

「洸輔くんの分まで!私が、がんばる!!」

 

お互いにそれぞれの思いを持ちながら、アタシたちは近づいてくる火の玉を押し返すため、体に力を込めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「く……くそっ!」

 

美森にはああ言われたが、僕はみんなの元へ向かおうと体を動かそうとしていた。うつ伏せになった状態で武器を持とうとするが持った瞬間に腕が悲鳴をあげる。

 

(腕が……動かない)

 

すると、美森が向かった方向から太陽のように輝いた火の玉をみんなが押さえ込んでいるのが見えた。

 

(こんな所で、寝ている場合じゃない!!)

 

さっき美森が言っていた言葉を僕も叫ぶ。

 

「満開!!」

 

しかし、次の瞬間……僕の体に激痛が走った。

 

「がっあああああああ!!!!」

 

これ以上ないくらいの絶叫をあげる。スマホの画面には満開不能という文字が映っていた。ここにきて、不完全な勇者システムの副作用が起きたのだ。

 

「ふざけるなよ……!みんな戦ってる……それなのに男の僕がこんなところで寝てられるかぁ!!」

 

構わず、満開と叫び続ける。身体中に伝わる激痛で意識が飛びそうになる。

 

(諦めるな!こんな痛みなんて知ったことか!みんな僕を守ると言ってくれた!だったら僕もみんなを守るんだ!)

 

すると、声が聞こえた。

 

『そうだ、それが貴公の強さだ』

 

声が聞こえた瞬間、痛みが消えると同時に誰かに背中を引っ張られるかのようにうつ伏せ状態から起き上がった。

 

『もう一度、叫ぶがいい』

 

その声は、僕に優しく語りかける。その言葉を信じて、もう一度叫んだ。

 

「満開!!!」

 

次の瞬間、僕の体は白い光に包まれた。

 

『今こそ、当方のすべてを貴公に託そう』

 

光に包まれる前に、そんな言葉が聞こえた気がした。




はい!12話でした!この続きは次回13話に書きます!
楽しみに待っていてください!!


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13話 託された魔剣

ちょっとハイぺースに書きすぎてるかな?(汗)
ま、リアルが忙しくなる前にいけるとこまでいきましょうか!!

では本編です!


「ぐっ……うぅ」

「みんな、ここが踏ん張り所よ。これが落とされれば現実世界がとんでもないことになる!なんとしてでも押し返すわよ!!」

「てっ言われてもね!ぐっ!?これびくともしないわよ!!」

 

私たちは火の玉を押し返そうと、必死に手を突きだすが玉は動く気配がなく私たちは押さえ込むだけで精一杯の状況だった。

(諦めるもんか!!洸輔くんの分まで私が、私達が頑張るんだ!)

 

しかし、さっきの攻撃のダメージがまだ残っていたのか私の体は急に力が入らなくなり、火の玉を押さえ込んでいた位置から地面へと急降下していく。

 

(あ、あれ?力……が)

 

みんなが私の方を見て、何か叫んでいるが意識もぼんやりとし始めたため何を言われているのか認識ができなかった。

 

(こ……うすけ……く……ん)

 

そしてそのまま私の体は地面に叩きつけられ……はしなかった。誰かに私は抱き抱えられていた。

 

「間に合った!!」

「こ、洸輔くん?」

「ああ。戻ったよ、友奈!」

 

虚ろな意識の中で目を開けるとそこにはいつもの勇者服よりも頑丈そうな衣装を身に纏い、なぜか眼鏡を掛けている幼なじみの顔があった。

 

「洸輔くん、なんで眼鏡掛けてるの?イメチェン?」

「?って本当だ。いつの間に……てか、友奈。この状況でイメチェンするほど僕は楽観的じゃないから」

「ふふ、そうだよね」

「それじゃ、あれをどうにかしなきゃね」

「どうにかって………どうするの?」

「とりあえず、巻き込まないように風先輩たちに避けて置いてもらわないとね」

 

そう言うと洸輔くんは風先輩達に呼び掛ける。

 

「風先輩!!その火の玉から離れてくださーーい!」

 

風先輩は一度こっちをみて、驚いた表情をしていたが洸輔くんの言葉通りに火の玉から手を離しそこから離脱していった。すると東郷さんが私達の方へ向かってきた。

 

「洸輔くん?腕のけがは!?」

「今は大丈夫だよ。それよりもあれが迫ってきてる、美森、友奈も一緒に、皆のところへ連れてってあげて」

「ええ、わかったわ」

「頼んだよ」

「洸輔くん!」

「大丈夫だよ。友奈、任せて」

 

私達は洸輔くんをあとにして風先輩たちの所へ向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

今の自分は、びっくりするほど頭の中がクリアだ。多分この眼鏡を掛けたあたりからだろうか?今までよりも、この片手剣や短剣の使い方など、いろいろなことが理解できた。

 

(この片手剣の名前はグラム。夢の中であの人が言っていたものか)

 

そんなことを考えていると、火の玉がすぐそこまで迫っていた。僕はグラムを強く握り刀身を変化させた。

 

「はぁーーーーーー!!!」

 

刀身を伸ばしたグラムを火の玉へとぶつけてそのまま一刀両断した……。

 

「すごいな、これが満開か」

「洸輔くーん!!!」

 

声の方を向くと、友奈が僕に抱きついてきた。

 

「ちょ、友奈」

「よかった!本当によかったよぉ!」

「……ごめんよ。心配させちゃって」 

「まったく、ほんとよ!!アタシが止めたのに血だらけのまんま東郷を助けにいっちゃうんだもの。部長の出番がないっての!」

「お姉ちゃん……そこ怒るとこじゃないよ……」

「ふ、ふん!あたしはべ、別に心配とかしてなかったわよ!」

「洸輔大丈夫かなってずっと心配してたね!夏凜ちゃん」

「ちょ!!余分なこと言うなぁ!!てか!なんで洸輔は眼鏡かけてる訳?」

「うーん、満開したらつけてた!」

「そんな適当な……」

 

一時はどうなることかと思ったけど、そこには勇者部全員が無事に集まっていた。

 

「さて…と雑談してる場合じゃないわね!」

「そうですね……。残りのバーテックスはあと合体型を含めて残り三体!?」

「どうしたの?東郷さん?」

「全然気がつかなかった。合体を除いた残り二体のバーテックスが神樹様に近いです!」

「わかったわ!その二体はアタシと樹でどうにかしてくるわ!合体型は友奈、東郷、洸輔、夏凜に一旦任せるわね!倒し次第すぐに合体の方に向かうわ!」

「わかりました!みんな行こう!」

 

風先輩の指示で、みんなそれぞれの目標へと向かっていく。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

(みんな無事で、本当によかったです)

 

わたしは先程の皆さんの姿をみて安堵していた。すると横にいた満開状態のお姉ちゃんが叫ぶ。

 

「樹!いたわよ!」

「う、うん!」

 

そこには、地面を移動しながら神樹様の方に向かっているバーテックスがいた。

 

「こいつはアタシがどうにかするから!樹はもう一体の方を頼むわよ!」 

「うん!任せてお姉ちゃん!!」

 

お姉ちゃんに魚のようなバーテックスを任せて、わたしは人の形をしたバーテックスを追いかける。

 

「は、はやい!」

 

糸を使って、身動きを取れなくさせようとするが人型のバーテックスはそれを軽やかな動きで避けている。

 

「私たちの日常は壊させない!!」

 

するとわたしの体が光に包まれる。満開後の能力の使い方が頭に流れ込んでくる。

 

「そっちにいくなぁーーー!!!!」

 

普段の糸よりも数倍の量の糸が、バーテックスから身動きを奪う。そのまま圧縮して御霊ごとバーテックスを切り裂いた。

 

「樹ーーーー!」

「あ、お姉ちゃん!」

 

わたしが、バーテックスを撃破したのと同時にお姉ちゃんがやってきた。どうやらお姉ちゃんの方も片がついたみたいだ。

 

「よし。神樹様の近くにいた敵は全部倒したわね!それじゃ四人の加勢にいくわよ!!」

「うん!お姉ちゃん!」

 

私たちは、そのまま洸輔さん達がいる方向へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ある程度、いいダメージ与えられたんじゃない!?」

「そうだね。よし!みんな!封印開始だ!!」

 

僕の合図で、みんながバーテックスの周りを囲むように動いた。風先輩達と別れたあと、僕たち四人の猛攻により合体バーテックスは相当弱っていた。

 

「遅れてごめんね!」

「みなさん!わたしも手伝います!」

「樹ちゃん!満開したんだね!」

「はい!わたしにもできました!」

 

神樹様の方に進んでいたバーテックスを、撃破した風先輩達も加わりみんなで封印の儀を行う。

 

「なによ、これ?」

 

バーテックスが御霊を吐き出した。しかしその大きさにみんな唖然としていた。

 

「これを……壊すの?」

 

その御霊は天高くそびえていた。しかし、僕の幼なじみは決して悲観しなかった。

 

「大丈夫だよ!みんな!例えどんなに大きくても私たちのやることは変わらないよ!!」

 

友奈はいつもの通りの笑顔で、僕達にそう言う。

 

「そうだね。結局あれも御霊なんだもんね。なら僕達のやることは変わらない!」

「友奈ちゃん、洸輔くん。二人とも乗って満開状態の私なら二人を運べるわ」

 

美森に言われて、僕と友奈は戦艦のようなものに乗り込んだ。

 

「行ってきます!風先輩!」

「わかったわ、行ってきなさい!ここはアタシたちで押さえるわ」

「みなさん、とどめは頼みます!」

「ふん!ここであたしが時間を稼いであげるんだから、しくじるんじゃないわよ!!」

「わかったよ。夏凜!」

 

みんなの声を背に、僕達三人は御霊のもとへと行くため空高く昇っていった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「風先輩達も消耗してるはずだ。急ごう!」

「うん!でも具体的にどうしよう?」

「まず私が、全力の力を込めて御霊に射撃するわ」

「じゃあ、次に私が満開して東郷さんが攻撃した場所に追撃するね!そしたら洸輔くんが、もう一発叩き込んで!!」

「わかった。じゃあそれでいこうか!」

 

三人で作戦を決め、封印の儀のタイムリミットもあるためすぐに動き出す。

 

「二人とも、準備はいいわね?」

「うん」「もちろん」

「了解。それでは行きます!」

 

美森が、御霊に向かって超特大の弾丸を発射した。それは見事に御霊の先端部分に亀裂を作った。

 

「亀裂が入った!今よ!友奈ちゃん!!」

「うん!東郷さん!!いくよぉーー!!!満開!!」

 

友奈が叫んだ瞬間、友奈の体は光に包まれた。光が消えるとそこには友奈の背丈の数倍大きい鋼の両腕が、身に纏われていた。その腕を御霊に叩きつける。

 

「はぁぁぁぁ!!勇者ぁ!パーーーーーーンチ!!!」

 

その攻撃によって、更に御霊は崩れ始める。

 

「洸輔くん!!ラストお願い!!」

「OK、友奈!!任せてくれ!!」

 

友奈の声に頷く。するとまたあの声が聞こえた。

 

『もう当方が貴公に託せるものはない。だからここからは貴公次第だ』

 

言葉の意味はよくわからない。だけど自然と温かな気持ちになった。

 

『さぁ天草洸輔よ!貴公自身の手で!グラムの全力を引き出すのだ!!』

 

「ああ、わかってるさ!」

 

僕は右手を宙にかざす。そこに短剣が六本浮いてくる。それを僕は全力の力を込めて投擲する。

 

「絶技解放!!!太陽の魔剣よ!!その身で破壊を巻き起こせ!!!」

 

僕は頭の中に浮かんでくる言葉を躊躇わず叫ぶ。するとグラムは炎を纏いながら、御霊に向かって超高速で飛んでいく。飛んでいったグラムは美森と友奈が攻撃した場所に突き刺さった。

 

「ぐぅっ!?」

 

満開のお陰で一度は塞がっていた両腕の傷口が開いて激痛が走る。しかし僕は構わず最後の言葉と共にグラムに全力の拳を叩き込む!!

 

「壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!」

 

僕がグラムを拳で突きだした次の瞬間、御霊は崩れだし封印していたバーテックスも砂になって消えた。

 

「やった……のか?」

 

僕の意識が遠退いていく。両腕は傷口が開いていてすごく痛い。樹海化もとけはじめて僕の周りを光が覆っていく。

視界が光に覆われていく中、またあの声がした。

 

『その叡智の結晶も、貴公に託そう。魂しかない今の当方には過ぎたものだ』

 

叡智の結晶?なんのことをいっているんだろうか?

 

『しかし、ここまでやるとはな。どうやら貴公は当方が見込んだ以上の男だったらしい』

 

その男は構わずしゃべり続けている。

 

『その力を……守るべきもの達の為に使うがいい……天草洸輔よ……また来るべき時がくればいずれ会おう……』

 

言葉は途切れた……意識が闇に落ちていく…。しかしその落ちる寸前に男が申し訳なさそうに、何かを言っていた。

 

『貴公の__を守ることができなかった。それに関しては__かった』

 

そこで、僕の意識は完全に落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

私が目を覚ますと、そこは屋上だった。

 

「勝ったんだ……私たち!!」

「ん……?」

「東郷さん、大丈夫!?」 

「ええ、私は大丈夫よ。友奈ちゃん」

「ここは……」

「いつもの屋上だよ!!私達勝ったんだよ!!」

「やった……やったね!友奈ちゃん!!」

 

私が東郷さんと喜んでいると、横にいた風先輩と樹ちゃん、そして夏凜ちゃんが意識を取り戻した。

 

「ごほっ……ここは?」

「うぅ……お姉ちゃん。わたしたち、どうなったの?」

「あたしたち、やったの?」

「風せんぱーい!!いつきちゃーん!!夏凜ちゃーん!!」

 

私は三人に抱きついた。みんなの無事が確認できて喜んだのも、束の間一人だけ目を覚ましていない人物がいた。

 

「洸輔くん?ねぇ、洸輔くん!!」

「この出血は!?まさか洸輔くん、完全に傷が塞がってない状態であんな技を使ったの!?」

「とりあえず大赦に連絡を入れるわ!」

「洸輔、あんた……死んだら許さないからね」

「洸輔……さん」

 

洸輔くんの両腕は傷口が開き、大量の血が腕を伝っていた。

 

(早く、目を覚まして。元気な顔を見せて、洸輔くん)

 

私は洸輔くんの傷と血だらけの手を握り、そう祈り続けた。




はい!13話でございました。
確か前に感想で、音無仁さんには主人公くんの勇者服のことなどをいろいろ言われた気がしますが………どうやらあなたの考えすぎではなかったようですよ?(ゲス顔)

さてと、今回の話はバトル描写が多めだったので次は番外編でほのぼのしましょうか?

それでは次の回でお会いしましょう!


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番外編 お出掛け?いいえ、それはデートです。

今回は番外編です!本編が真面目な感じな今だからこそ書きました!!


では本編どうぞ!


「ちょっと早く来すぎたかな?」

 

 とある休日、僕は夏凜に誘われて町で一番大きなショッピングモールへと来ていた。今はその為の待ち合わせの真っ最中である。

 

(……なんで、僕少し緊張してるんだ?)

 

 やけにソワソワしている自分を落ち着かせる為、数回深呼吸をした。まぁ、あれだ、少し落ち着けたまえ、自分よ。

 

 自問自答を繰り返していると

 

「お、おはよう、洸輔。待たせたかしら?」

「おはよー夏凜。そんなに待ってないから大丈夫だ…よ?」

 

 一瞬で目を奪われた。僕の目に写るのは私服姿の夏凜。彼女の私服姿はどこか新鮮でなんていうか…すごく良かった。

 

「夏凜」

「…何よ」

「すごい似合ってるよ?えっ、めちゃくちゃ可愛いんだけど」

「ん〜!!!そ、そういうの良いから!ほら、行きましょうよ…」

「あっはい、じゃあ行きます?」

「……」

 

 行くと言った割に中々動き出さない煮干し大明神。なーぜか知らないけど、顔を真っ赤にしながら僕に対し非難するような視線を向けている。

 

「えと…僕、なんか悪いことしたかな?」

「べ、別にそういうわけじゃ…ただ」

「ただ?どうしたの?」

「……私、ここ来るの初めてだし…その、手を繋いでもらえたら嬉しいなって…」

「っ!うん、繋ごう!いますぐ繋ごう!」

 

 上目遣いで夏凜にお願いされるなんて思わなかった。彼女の手を握るまでの速度が爆速すぎて自分でも驚いたものだ。

 

「あっ…その、ありがとう。それじゃ…行きましょうか?」

「う、うん!い、行こうか…」

 

 互いに、顔を赤くしながらショッピングモールへと入っていく。その最中、ある考えが脳内によぎった。

 

(……男女が手を繋ぎながら、ショッピングモールで過ごす。……これってデートみたいだな)

 

 間違いなくデートであることに気づいていない洸輔であった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

(っ~~!!なーにが「手を繋いでもらえたら…」っよ!!私のバカ~!!)

 

 先ほど自分がとった行動に一人悶絶している完成型勇者が一人。もっと自然な感じでやろうと本人は思っていたが、気持ちが高ぶってかなり乙女な感じになってしまったようだ。

 

(……この際、もうそれはいいわ。それよりも、これからどうしようかしら?)

 

 問題としては、こいつを誘ったはいいものの何もやりたいことが決まってないことだ。そんなことを考えていると…

 

「それで、今日夏凜は何がしたいの?」

「ふぇ!?そ、そうね~……そ、そう!あれよ!水着を一緒に選んでほしいのよ!!」

「え?」

「え?」

 

(テンパりすぎだってのぉーー!!!なにいってんのよ!あたしはーーー!)

 

自分が思っている以上にテンパっているのか。思ってもいないことを口走ってしまった。そこでふと思う。

 

(あ!でも洸輔なら「それはハードル高いかも」とか言って流してくれるかも!)

 

洸輔に淡い希望を託して、彼の言葉を待っていると希望はあっさりと打ち砕かれた。

 

「ま、まぁそれが夏凜が今日したいことなら付き合うよ。」

 

(素直かぁーーー!!!!)

 

心の中で全力で突っ込んだ。さすがの洸輔でも断ると思っていたが、私のことを優先して了承してくれたのだろう。(非常に複雑な気持ち)

 

「ええい!もうこうなったらヤケよ!洸輔!!ついてきなさい!!」

「えっちょ!急にどうしたの!?夏凜!?」

 

驚く洸輔の手を引いて、あたしは水着売りコーナーへと向かった。なぜかあたしは自然と笑顔になった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ここが、水着売り場ね」

「……」

「どうしたのよ?洸輔ったら黙っちゃって」

「やっぱり……いざ来てみると落ち着かないなぁって」

 

そこには、女性の水着がずらりと並んでいて男性が入るには少し抵抗がある所だった。

 

「何、今さらいってんのよ!ここまで来たら一緒に決めてもらうわよ!」

「わ、わかったよ。自分で言ったことだからね!夏凜がやりたいことを一緒にやるよ。」

「よろしい。それでいきなりで悪いんだけど…これとかどうかしら?」

「どれどれ?」

 

そう言って、夏凜が見せてきたのは赤色の水着だった。布が少し少なめな気がするけど、そこまで際どくはないため夏凜が着てもすごく似合いそうだと思った。

 

「すごく似合うとおもうよ!色が赤っていうのも、夏凜らしさが出てて良いと思うよ!」

「そ、そう?ありがと……じゃあ、ちょっと試着するわね!」

「う、うん。いってらっしゃい」

 

少しの間待っているとすぐに、夏凜が水着に着替えて出てきた。

 

「ど……どう?洸輔?似合ってる?」

「すごく似合ってるよ!ホントに夏凜は赤がすごく似合うんだなぁ」

「そ、そう?えへへ。じゃ、じゃあこれにしようかしら?」

 

(よかったぁ、これなら結構早くにここから離脱できそうだ)

 

と、僕がそんなことを思っていると近くにいた店員が僕たちの方に寄ってきた。

 

「お客様のような体が引き締まった方なら、もっといい商品がございますが?」

「え、いやあたしもうこれにしようと……」

「まぁまぁそう言わずに、ほら彼氏さんからも何か言ってあげてください。」

「か……!?」

「ま、まぁそう見られちゃうかもね」

 

多分、他の人からみれば僕たちはそういう関係に見えなくはないだろうけど。すると店員はお構いなしに、もっといい商品というのを僕らに見せてきた。

 

「お客様のような引き締まった体には!こちらが最適です!!」

「「!?」」

 

そういって店員が見せてきたのは、布がほとんどない際どいとかそういう次元を突破した水着(?)だった。それを見て僕たちは叫んだ。

 

「「そんなの着る(着させられる)かぁーーー!!!!」」

 

僕たちはその店員を、振り切って最初に夏凜が持った水着のお会計を済ませてその店から離脱した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

(ハァー疲れたぁ~)

 

 店員から逃げてきたあたしたちは、フードコートで休んでいた。二人でカフェラテを頼み椅子に座る。

 

「「はぁー」」

 

「ため息、被ったわね」

「だね。うーん……やっぱり、僕と夏凜って相性いいのかな?」

「それ、どういうこと?」

 

気になった、あたしは洸輔に質問する。

 

「いやさ、最初に話した時から思ってたんだけどね。なんか夏凜って話しやすいんだよねぇ~話してると落ち着くっていうかさ。なんか、友奈や美森、それに風先輩や樹ちゃんとは違った感じがあるんだよねぇ~」

 

(そ、それってあたしが特別ってこと!?)

 

あたしが、そんなことを考えていると目の前の異常事態に思考が止まる。

 

「ね、ねぇ、洸輔?」

「ん?どうしたの?」

「このカフェラテ、どっちがどっちのだったっけ?」

「……ありゃ?どっちだっけ?」

 

あたしが言うと、洸輔も首を傾げた。そのカフェラテの容器は一緒、量もほぼ一緒、ストローも一緒のためどちらが自分のか二人とも見分けがつかなかった。

 

(あたし、どっちだったけ?)

 

「う~んと確か僕のは右だったと思うなぁ」

「そうだったっけ?」

「いや、確証はないけどそんな気がするだけ?」

 

もしこれに間違えば私達は二人でダブル間接キスをすることになる。なんとしても見極めなくてはならない。

 

「わかった!あたしは右だったわ!」

「じゃあ、僕が左?」

「ええ!そういうことになるわね!!」

「じゃ、じゃあ良いね?」

「いいわよ!」

 

そしてあたしは、容器を手に取りストローでカフェラテを飲み干す。どっちがどっちかはわからないが、あたしはもうこの話を盛り下げないように話をそらそうとする……が、

 

「ちょっと待って夏凜。僕、思い出したんだけどさ」

「え?何よ?」

「その、容器の底の部分見てみてよ」

「?」

 

洸輔に言われた通りに容器の底の部分を見ると、シールのようなものがついていた。

 

「こ、これ、なに?」

「よくわからないけど、最初からついてたんだそれ。そうだったよーそのシールがついてるのが僕のだったなぁ。」

「てっことは……つまり?」

「うん。今夏凜が飲んだのが、僕のだね」

「そ」

「そ?」

「それをぉ!先に言えー!!!!」

「ぐぇっ!?」

 

あたしは顔を真っ赤にしながら、洸輔の顔面に容器を投げつけた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あれから、いろいろ回って見ているうちに夕方になっていた。あたしたちは帰り道にある公園のベンチに二人で座る。

 

「今日はありがと、洸輔」

「どうしたの?改まって?」

「ううん、別に意味はないけど。あたしさ、今まで兄貴を越すことだけ考えてた」

「……」

「あたしにはね…兄貴がいるのよ。成績優秀でスポーツ万能、なんでもできちゃう完璧超人な兄貴がね。今は大赦の中枢で働いているわ」

「……」

「いろいろなことで、兄貴に劣っていたあたしは唯一兄貴にはないもの勇者適正があったの。だからあたしは鍛え続けた。兄貴を越すために」

 

いつの間にか、あたしは洸輔に愚痴を漏らしていた。洸輔はそれを黙ってしっかり聞いてくれた。するとさっきまで黙っていた洸輔が口を開いた。

 

「もしも、バーテックスをすべて倒してお兄さんに並べなかったとしても……僕や、勇者部のみんながいるよ」

「!!」

「夏凜がどう思ってくれているかはわからないけどさ。少なくとも僕や勇者部のみんなは夏凜のことを仲間だと思ってるよ?」

「っ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間に、胸が熱くなった。

 

「じゃあ、あたし帰るわね」

「送っていこうか?」

「ううん。いい、でもひとつだけ約束して」

「……何?」

「また今度一緒に出掛けてくれる?」

「もちろん!」

「じゃ、じゃあ指切りして?」

「わかったよ~」

『指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます!指切った!』

「ありがとう。それじゃあ、また明日ね」

「うん!また明日、夏凜!」

 

洸輔に手を振って、その日は別れた。

 

帰路では、指切りした小指をあたしはずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

家に着き、今日の疲れを癒すため自室へと僕は向かう。

なぜか僕の部屋は電気がついていた。

 

(あれ?僕部屋出る前に消したはずなんだけどなぁ?)

 

疑問を抱きながらも、自室の部屋のドアを開けると中には友奈と美森がいた。心なしか二人とも不気味な雰囲気を纏っていた。

 

「二人とも、どうして僕の部屋に?」

「洸輔くん」

「はい!?」

「今日はどこにいってたの?」

「え、えと今日はショッピングモールにお出掛けしてきたよ」

 

一応、夏凜の名前は伏せておいた。なんかここで言ったら殺されると思ったからだ。

 

「一人でいったのよね?」

「う、うん!ひ、一人で」

「じゃあ、これはなにかしらね?」

 

そう言って、美森がスマホを見せてくると手を繋ぎながらモールへと入っていく僕と夏凜の姿があった………。

 

「!?」

「洸輔くん?一人じゃなかったの?」

「なんてこと、友奈ちゃん。ここには二人写っているわ?」

「これは、夏凜ちゃんだね?ふふ、二人でどんなことしてきたんだろう?。聞きたいなぁ洸輔くん?」

「え、ちょ、い、いやぁーーーーーーー!!!!!」

 

その日、町中に少年の叫び声が木霊した。




はい!番外編でした。いやー洸輔くんの回りにはかわいい子が多いですね?

さて次は多分……本編14話ですかね?そちらでお会いしましょう!


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14話 戦いの傷痕

本編進めていきます!!これからはもうちょっとシリアスっぽい雰囲気が多くなるかもです!そこに関してはお許しを。


では本編です!


「今日も来たよ!洸輔くん!」

 

私は、病院のベッドに横たわっている幼なじみに挨拶をする。しかし返事は返ってこない…。

七体のバーテックスが襲撃してきたあの日からもう一週間が経った。他のみんなは目を覚ましたが、唯一洸輔くんだけが目を覚まさなかった。

 

「あとは、君だけだよ?」

 

みんな怪我を負っていたが、その中でも酷かったのが洸輔くんの両腕の怪我だった。かなりの出血をしていて最初に病院に運ばれたときにはお医者さんから治るかわからないとまで言われていた。

 

「体はもう治ってるから、あとは目を覚ますだけ……」

 

もうその腕の怪我もほぼ治っているようで、唯一念のためと両腕に包帯が巻かれているくらいで、あとは目を覚ますだけなのだが、洸輔くんは目を覚まさない。

 

「……」

 

私は静かに洸輔くんの左頬に触れる。私は誰も周りにいないことを確認してから、ゆっくりと自分の顔を近づけてそのまま洸輔くんの頬に、キスをした。

 

「早く……目を覚まして?」

 

(もしこのまま洸輔くんが、目を覚まさなかったら……私は……)

 

「ん、友奈……おはよう」

「!?」

 

そこには、笑顔でこちらを見ている洸輔くんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

目を覚ますと、そこには目に涙を浮かべている友奈の姿があった。

 

「洸輔くん!!目を……覚ましたんだね!」

「ごめんね、友奈。けっこう、待たせたみたいだね」

「ほ、本当だよ……でも、よかった。私、もしかしたら……洸輔くんが目を覚まさないんじゃないかって……うぅ」

「友奈」

 

僕は、包帯で巻かれている左腕を友奈に伸ばして自分の胸に抱き寄せた。

 

「ほらほら、もう泣かないで。確かに、友奈は泣いてるときも可愛いけど、笑ってるときが一番可愛いんだからさ?」

「うぅ……お、起きて早々にそれは卑怯だよ」

「ごめんごめん。からかうつもりはなかったんだ。そろそろ離す?」

「ううん、あともう少しだけこうさせて?」

「わかった」

 

そこから僕は友奈が泣き止むまで、彼女を自分の胸の中で優しく抱き締め続けた。

 

その日、洸輔が目を覚ましたことで勇者部全員が揃ったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

病室で友奈と話をしていると、医者がきて僕は精密検査を受けることになった。友奈はみんなに僕が起きたことを伝えるといって病室を出ていった。僕は病院内を周り様々な検査を受けた。

 

「調べたところによると、天草さんの体には特に異常は見られませんね。唯一左耳の聴力が低下していますがこれは一時的なものだと思われます。傷が酷かった両腕ももう塞がっているため、結果次第では明日にはもう退院できるでしょう。」

「わかりました、ありがとうございます。」

 

医者に礼を言って検査室を出ていく。しかし初めてきた病院なので、自分の病室がどこにあるのかまったくわからない。

 

「まずい……完璧に迷っちったなぁ」

 

一人で路頭に迷っていると、談話室という所に見慣れた車椅子に乗った黒髪の少女の姿が目に入った。

 

「ああ、やっぱり美森だった、おはよう」

「!?」

「みんなもいたんだね。おはよう」

 

そこには、美森だけでなく先ほど別れた友奈、風先輩と樹ちゃんそして夏凜がいた。僕が声をかけると友奈以外のみんなが、こちらを見て固まっていた。

 

「えっと、どうしました?」

「目が覚めた……のね?洸輔くん」

『洸輔さん、よかったよぉ~!』

「ほんとだ……よかったぁ……」

「あれ!?皆!?私言ったよね!?洸輔くんはもう目を覚ましたよって!?」

「ごめんね、友奈ちゃん……やっぱり本人を見ないと安心できなくて」

 

僕の姿を見ると、みんなそれぞれの反応を示していた。そこで一部の人達の違和感に気づく。

 

「風先輩?なんで眼帯してるんですか?」

「ん?ああ、これね。これは満開の疲労の影響らしいわ。私は目を樹は声、東郷は右耳、友奈は味覚を失なったらしいわ。洸輔は?何かなかった?」

「僕は、左耳が使えなくなりましたね。でも、医者の方からは一時的なものだから特に気にしなくていいって言われました」

『私たちと一緒ですね』

 

聞くと、みんなも同じことを言われたらしい。その時自分でも、よくわからないのだが悪寒がした。すると美森から声をかけられた。

 

「退院は?洸輔くんはいつになりそうなの?」

「僕は結果次第では、明日には退院できるかもって。」

『私とお姉ちゃん、東郷先輩に友奈さんは今日で退院です!』

「そうなんだ。夏凜は?」

「あたしはもう退院したわよ。この中で一番怪我が軽かったからね」

 

そう言ったときの、夏凜の顔は悔しそうだった。

 

「よっしゃ!じゃあ洸輔が退院したらみんなでパーティーやって、パーっと遊びましょう!」

『そうだね!お姉ちゃん!』

「私も賛成です~!!」

「僕も!」

 

そんなこんなで、皆と他愛もない会話をしてから皆と別れる。僕は病室へ戻るために職員の人に聞いて部屋に戻ろうとすると、そこでまた声をかけられた。

 

「あ、そいえば洸輔くん……これ」

「どうしたの?美森……ってこれは……」

 

美森の方を見ると、眼鏡を手渡された。

 

「洸輔くんが、病院に運ばれたときもずっと持ってたものよ」

 

(もしかして……これがあの人の言ってた叡智の結晶ってやつなのかな?でも、なぜ眼鏡!?)

 

僕が一人でツッコミをいれていると、美森がもじもじしながら僕に言ってきた。

 

「あ、あとね洸輔くん……もう少しだけ一緒にいてもいいかな?」

「え、う、うん。いいよ」

 

そう言った時の、美森はとてもキレイで僕は動揺してしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

美森と共に、僕は病室へと戻った。

 

「ごめんね、洸輔くん。休みたいかもしれないのに」

「いいんだよ、別に。寧ろ美森がいてくれて落ち着くよ」

「そ、そうかな?///」

 

僕がそう言葉をかけると、美森は顔を赤くしていた。少し間をおくと、美森は神妙な顔で僕に話しかけてきた。

 

「ねぇ、洸輔くん?」

「なに?」

「私達を守ってくれるのは、もちろん……すごく嬉しいわ」

「うん」

「でも、ね。それで、洸輔くんが傷付いてしまったら意味がないの。だから……約束して?」

「何……を?」

 

すると、美森は突然僕の首筋に両腕を回してそのまま僕を胸へと抱き寄せた。

 

「他人を守るのはいい。でも、それ以上に自分も大切にして?」

「!!わかったよ、美森」

「あなたが傷付けば、悲しむ人達がいることを忘れないでね?」

「うん」

 

(早く退院して、みんなでパーティーがしたいなぁ)

 

そんなことを考えながら、美森の胸の中で僕は眠りについた。

 

まぁ、そのあと来た夏凜によって僕は粛清されたのだが……




今回はちょい短めでしたね。次はどうだろ?旅行編かな?
見てくれている皆様のためにも頑張って書きます!(洸輔くんが粛清されるのが多くね?って自分で思いました)

それでは!また!!


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15話 変わる思い

そろそろ犬吠埼姉妹にも焦点を当てたい!けど中々タイミングがない!と悩んでいる作者です。そこらへんも頑張ってみます。


感想やお気に入り登録などお待ちしております!


バーテックスの大規模な戦闘から数日が経った。私達勇者部は、風先輩考案の勇者部大勝利パーティーを行うため準備をしていた。しかし夏凜ちゃんが来ていなかった。

 

「にぼっしーはどうしたわけ?」

「それが……わからないんですよ。メールしても返事がなくて……」

「授業がおわったらすぐ出ていっちゃうからね……」

『心配ですね……』

「僕…夏凜探してきますね!」

「私も!」

「あ、ちょっと二人共!」

 

洸輔くんと友奈ちゃんが勇者部の部室を出ていく。風先輩がそれを追おうとするが、私はそれを止めた。

 

「行かせてあげましょう?風先輩」

「東郷?」

「多分……あの二人にしか出来ないと思うんです」

『私もそんな気がします!』

「うん、ありがとう樹ちゃん。それより風先輩こそ大丈夫ですか?」

「え?」

 

ここ最近の風先輩はちょっとおかしい。行動の一つ一つに多少ぎこちなさが目立っている。

 

「な、なんでもないわ!大丈夫よ!」

『ホントに?』

「ほんとほんと!大丈夫だから!」

 

風先輩はぎこちない笑顔を浮かべた。悩みがあるのはなんとなくわかった気がした。

 

「なにかあったらいつでも相談してくださいね?」

「なんか東郷、雰囲気変わった?」

「そうでしょうか?多分、それはあの二人のお陰ですよ」

 

(あの二人には人を包み込む力がある。だからこそ、今の夏凜ちゃんにはあの二人が必要だ)

 

「さ、あの二人が夏凜ちゃんを連れてくる前に準備を済ませておきましょう」

 

私は、風先輩と樹ちゃんと一緒に準備を再開した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ふ!はぁ!」

 

日課である素振りをやっているがいまいち気が乗らない。

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら、砂浜に寝っころがった。

 

(あたしは、なにもできなかった……)

 

あたし以外の満開したメンバーは、体のどこかに異常が起きているらしい。

 

(あたしは、みんなの助っ人にきたはずなのに……そのあたしが一番傷を負っていない)

 

あたしは、その情けなさと申し訳なさで部室に向かうことも内心、お見舞いに行くのだって辛かった。

 

(情けない……情けない!何が完成型勇者よ!)

 

あたしなんかよりも、勇者システムが不安定なはずの洸輔の方がよっぽど覚悟ができていた。あんなに怪我を負いながらも、彼は満開をしたのだ。

 

「夏凜ーーーーーー!!」

「夏凜ちゃーーーん!!」

 

あたしが、そんなことを考えていると洸輔と友奈が私の方に向かって走ってきた。

 

「どうしたのよ?二人で……」

「夏凜ちゃんを呼びにきたんだ!」

「呼びに?」

「今日は、みんなで部室に集まってパーティーする日だからね。夏凜もいなきゃはじまんないよ!」

 

二人が私に部活にきてほしいといってくれている。でもあたしは乗り気ではない。

 

「行かないわよ……あたしは」

「どうして?」

「あたしは元々……バーテックスを倒すためにやって来た。だから、もう部活にいく理由はないわ」

「理由?」

「あたしは…バーテックスを倒すために勇者部の助っ人として来た。でもそのバーテックスとの戦いは終わった。なら、あたしが勇者部にいる理由はもうない。大体もうバーテックスとの戦いは終わったんだから、もう勇者部なんて必要ないでしょ!」

 

あたしにとって、兄貴を越すことだけが勇者をやっていた最大の理由だった。でも、友奈や東郷、風に樹、そして、洸輔と過ごしていく内に、あたしの中にはそれとは違う思いがあったのだ。

 

(ただ、みんなの役に立ちたかった……」

 

でも、結果的にあたしはなにもしてない。だからもう、勇者部にはいけない。あたしが二人から目を反らすと洸輔が頭を撫でてきた。

 

「そんなことないよ?戦いがなくなったとしても、勇者部は勇者部だ」

「でも……」

「今までの理由が戦いのためだったのなら、これからは他の理由を持てばいいんんじゃないかな?だって、夏凜はここにいたいって顔してるし」

「でも!あたしは、戦うためにここにきて……その戦いが終わったからあたしには価値がなくて……部活にも居場所なんてなくて」

「そうかな?」

「え……?」

「戦いが終わったら居場所がなくなるなんてことはないと思うよ?そもそも居場所っていうのは、あるものじゃなくて作るものだと思うんだ。そして、夏凜はもう勇者部って居場所を作ってるじゃないかな?」

 

そう言った洸輔の顔を見ることができなかった。隣にいた友奈も、笑顔を向け言葉を掛けてくる。

 

「そうだよ!!何より夏凜ちゃんがいないと寂しいし、私や洸輔くん、それに勇者部のみんなだって夏凜ちゃんのこと大好きだからね!!」

「っ!?」

 

顔が熱くなった。目からも、なにか温かいものが流れた。

 

(まったく、あんた達二人には、一生勝てる気がしないわね……)

 

「そこまで、言われたら……行ってあげるわよ。勇者部」

「やったぁ!じゃあ早くいこう!」

「うん、みんなも待ってるからね」

「そうね、急ぎましょうか!」

「「……」」

「な、なによ……その、目は?」

「「さっきまで拗ねてたのにぃ?」」

「っ~~!うるさいわねぇ!!」

 

他愛もない会話をしながら、あたし達は部室へと向かった。

 

「とう!結城友奈!只今戻りました!!」

「同じく天草洸輔!戻りました!」

「お帰り。二人とも……って夏凜もいるじゃない」

「二人が、どうしても来てほしいって言うから……来てあげたのよ!」

「わー!お菓子がいっぱいだぁー!!」

「で、でも友奈……味覚がなくなっちゃったんじゃ…」

 

味覚障害……それが友奈が抱えてしまった満開の後遺症だ…。しかし友奈は気にした様子もなく先ほどあたしに向けた笑顔で言った。

 

「大丈夫ですよ!風先輩!食感で楽しめますから!」

「ごめんね…みんな……あたしが巻き込んだせいで…」

「心配しすぎですよ、風先輩。医者の人も一時的なものって言ってるんですから、大丈夫ですよ。」

『そうだよ!お姉ちゃん!』

「なので、これからは結城友奈!風先輩のごめんは聞きません!」

『わたしもです!』

「私も」

「もちろん。僕もです!」

「みんな…………ありがとう!!」

 

そうみんなに言われると、風は嬉しそうに笑った。

 

自分がどんなに辛くても、いち早く他人に手を差し伸べてその人を包み込んでしまう……それがあの二人の凄さ。

 

「そんなことより!早くパーティー始めましょう!もうお腹すいちゃって!」

「僕も、結構走ったからなぁ…疲れたぁ~」

「はい。友奈ちゃんに洸輔くんも、ぼた餅用意してあるわよ。」

「やったぁ!ありがとう!東郷さん!」

「感謝感謝だね。」

「よーしあたしもいっぱい食べるわよー!」

『あんまり食べ過ぎるとまた太っちゃうよ?』

「だ、大丈夫よ!樹!食べた分はしっかり動くから!」

「それって絶対動かないやつの言い訳よね?」

 

(ああ………そっか…あたしはここが好きなんだ…)

 

私は…知らず知らずの内にここが好きになっていたんだ…。

 

(だったら……あたしがここにいる理由はもうできてるわね。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

パーティーが終わって、家に帰宅したあたしはそのままベッドに寝そべった。そこでいつかの休日に洸輔に言われたことを思い出す。

 

『少なくとも僕や勇者部のみんなは夏凜のことを仲間だと思ってるよ。』

 

(あたし……ホントにどうしたんだろ……最近あいつのことばっかり頭に浮かぶ。)

 

最近のあたしは、よく洸輔のことばっかり考えている。気恥ずかしくなり枕に顔を埋める。

 

「なんなのよ……この気持ちは……」

 

(こんなの…初めてだっての…)

 

あたしは、今まで感じたことのない感情を抱えながら眠りについた…。




なんか夏凛ちゃんメイン回多くね?って書いてて思ったけど可愛いからいいかって流しました。さて次からは旅行編に突入です!

お楽しみに!


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16話 平穏と不安

少しリアルが忙しくて遅れました!すみません!!
てゆーかシリアスが中々うまくかけない!(誰か助けて)


では気を取り直して本編です!


「大赦ってホントにすごいんですね……。」

「ほんとよねぇー。」

 

勇者部のメンバーは、二泊三日の高級旅館宿泊のため、電車に乗って移動中である。費用などはすべて大赦が持ってくれるらしい。

 

(大赦っていったいなんなんだろう……。)

 

そんなことを考えていると、横に座っている友奈に、声をかけられる。

 

「そいえば洸輔くん。なんで眼鏡つけてないの?」

「え?ああこれね…。」

「この前に満開した時には着けてたよね?」

「ま、まぁそれはいいとして…そろそろ着くかな?」

 

まだあの人のことに関しては、何も話してないため話題を反らす。別に話すことに躊躇いとかがある訳じゃないけど今は話すべきじゃないと思った。

 

『もうすぐだと思います!』

「着いたら全力で楽しんだるわー」

「海…………楽しみです。」

 

電車に揺られながら僕たちは目的地へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おー!!」

「うーみーだぁー!!!」

「二人とも、しっかり準備体操してね。」

 

僕と友奈が叫ぶと美森が冷静に呟いた。今日は素晴らしい位の快晴。海にはいるのなら打ってつけだ。

 

「おお夏凜!一緒に選んだ水着きてるんだね!」

「ちょ!あんた!なんでそれを言う訳!?」

「え?……気になったからなんだけど……」

 

そのとき……僕は自分がとんでもない墓穴を掘ったことを自分自身で思い出した…。

 

(まずい……素で聞いちゃった………)

 

案の定、横には目のハイライトが消えた二人が海にぴったり(?)のお話をしていた。

 

「ふふふ……そんなこともあったわね………友奈ちゃん…?」

「ねぇ……東郷さん…私ね…気になってたことがあるんだ…」

「あら…何かしら?友奈ちゃん……」

「人ってさ……水の中でどれだけ息を止めていられるか……ってことなんだけどね…?」

「よーし!泳ごう!夏凜!今すぐ泳ごう!!」

「はぁ…ほら言わんこっちゃない…」

「二人とも……試して見ない…?」

「「え?…」」

 

急いで逃げようとすると、友奈が笑顔でこちらにやってくる。横にいた夏凜も巻き添えを食らう。

 

「え、ちょ!な、なんであたしまで!?」

「あはは……夏凜……」

「ちょ!洸輔!!どうにかしなさいよ!!」

「一緒に潜れば……怖くないよ……」

「なによ!?それぇーーー!!!!」

 

僕は諦め、夏凜は断末魔をあげた。夏の太陽で暑いはずの砂浜は南極のように寒かった…。

 

「地獄絵図ね…さぁ樹。一緒に泳ぎましょーか」

『わたしも水着……選んでもらいたいなぁ…』

「樹!?」

 

今日も勇者部は元気です……。(僕と夏凜は死にそうだけど…)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

海岸で楽しく(?)遊んだ僕たちは旅館へと向かった。そこで手違いかどうかはわからないが、泊まるための部屋が一部屋しかないらしい。

 

「申し訳ありません。こちらもご予約は一部屋とお聞きしておりまして、混雑の影響もありますのでどうかご了承いただけないでしょうか…」

「だそうよ?洸輔?」

「ま、まぁそれならしょうがないですけど…みんなはいいの?」

 

一応、家族でもない男女が一緒に泊まるのはいかがなものかと思い、みんなに意見を聞く。

 

「私は大丈夫だよ!洸輔くん!!」

「ま、別に大丈夫じゃない?」

「私も構わないわ。」

『私も大丈夫です!』

「ってことらしいわよ?」

「少しは反対意見が出てもいいと思うんだけど…」

 

自分としてもう少し意識してほしいのだが……まぁ四の五のいっても仕方がないのでその予約された部屋へと向かう。

 

みんな荷物を置いて先にお風呂に入りたいというので、僕もそれを了承して銭湯へと向かう。

 

「うひゃー…なんて大きさ…逆に落ち着かないなぁ…」

 

(しかも貸し切りなんだ…大赦ってホントに何者…?)

 

そんなことを考えながら、僕は一人ゆっくりと風呂に浸かった。

 

「ぷぇー………」

 

変な声をあげながら、僕は誰もいない露天風呂で伸びをする。

 

(こうやって過ごしていると…勇者になって戦ってたのが嘘みたいだな……)

 

そう思いながら自分の両腕をみる。もう傷口は塞がり完治はしているが、痛々しい傷痕はまだ残っていた。

 

(なんだかんだいって…バーテックスとの戦いからもう結構経ってるんだよなぁ…でも……)

 

戦いは終わったと大赦からは報告があったが、なぜか僕には自分でもよくわからない不安があった…。

 

「ホントに……あれで終わりだったのかな…」

 

(ま、いいか。実際に大赦が言ってるんだし不安に思う必要はないよね…。)

 

あまり長く入る気もそんなになかったので、僕は早めにお風呂をあとにした。

 

「やっぱり女の子は風呂が長いなぁ…。」

 

まだ夕飯までは時間があったため、みんなが戻ってくるまで、一人で部屋に行きゆっくりした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「すごいわね……これ…」

 

そこには、中学生が食べるにしては豪勢すぎる料理がずらりと並んでいた。

 

「見て!洸輔くん!カニカマじゃないよ!蟹だよ!」

「マジヤバクネ……」

「は!洸輔くんが本物の蟹を前にして片言に!?」

 

本物の蟹を見て興奮する僕と友奈以外の皆も豪勢なご馳走を前にして写真を撮ったり、よだれを垂らしたり(これに関しては風先輩のみ)ご馳走に対してそれぞれの反応を示している。

 

「は、早く!食べまひょ!!」

『お姉ちゃん……よだれ垂れてる……』

「しょ、しょうがないじゃない!こんなにすごいご馳走を前にしてよだれが出ない方がおかひいわよ……」

『でも…友奈さんが……』

「あ……」

 

そうなのだ…今の友奈には味覚がない。ということは折角のこの豪勢な食事も……。

 

「この歯ごたえ!たまらないね!!洸輔くん!」

「こらこら…早く食べたいのはわかるけど、先にいただきますをしなきゃダメだろ?」

「洸輔くんの言う通りよ。友奈ちゃん」

「アタシ達も食べましょうか」

『うん!』

 

(まったく…ホント友奈には勝てる気がしないなぁ…)

 

なんてことを考えていると風先輩が女子力とは無縁なことを呟いていた。

 

「いつかこういうのが日常的に食べられる日が来てほしいもんねぇ。自分で稼ぐなりいい男捕まえるなりで…」

「風先輩…女子力低下してません?」

『後者は女子力が足りませぬ』

「ちょ!洸輔!てか樹!?」

 

僕と樹ちゃんにツッコミを入れられ、しょげる風先輩に向かって夏凜が声を掛ける。

 

「女子力なら東郷を見習ったらどう?」

 

夏凜に言われた方向を見ると、そこには美しい大和撫子の姿があった。

 

「おお!ただ食べてるだけなのに!」

『美しいです…』

「さすが美森だね。」

「そ、そんなに見られると恥ずかしいです//」

「ま、あたしも結構マナーには厳しい方だけどね!」

 

みんなに見られて顔を赤くする美森を尻目に夏凜は里芋を箸で串刺しにする。

 

「アウトォー!!」

『夏凜さん…それが既にアウトです…』

「え、な、なんでぇ!?」

 

そんな感じで食事はほのぼのとした雰囲気で終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「私!洸輔くんの隣ー!」

「ちょ!友奈!そこはあたしがとろうと!」

「じゃあ左は私が…」

『洸輔さんの隣で!』

「じゃ、じゃあ!便乗して隣で!」

「なんの便乗ですか!?それ!?」

 

よく考えたら、この旅行のなかでも最難関のイベント(?)が残っていたことを僕は忘れていた。

 

(そもそも、僕は男なのでもう少し警戒くらいはしてほしいんだけどなぁ……)

 

「普通に僕は端っこじゃだめなんですか?」

「だめだよ!洸輔くんは私の隣!」

「強制!?」

「ええい!これじゃ収拾がつかない!じゃんけんで決めましょう!」

 

という風先輩の提案により寝る場所の構成は、夏凜、樹ちゃん、風先輩、僕、友奈、美森という形になった。

 

そのあとは1日中遊んでたからか、みんなすぐに眠りについた。僕は眠れなかったので布団の中でずっと考え事をしていた。

 

(こんなに…楽しいのになぁ……。)

 

なぜか、僕の中には不安が残っていた。みんなの後遺症のこともあれば…バーテックスのことも…なぜか安心ができなかった…。

 

「だーれだ…?」

「!?」

 

突然視界が真っ暗になり、動揺する。しかし誰かはすぐにわかった。

 

「友奈も起きてたの?」

「すぐ当てられたー……うん。中々眠れなくてさ…」

「明日もあるんだし…今日は寝たら?」

「ちょっと洸輔くんのことが、気になってねぇー。なんか悩み事とかあるでしょ?」

「……根拠はどこから?」

「幼なじみパワー!」

「んなめちゃくちゃな……あとみんな寝てるんだからもう少し声は抑えてね。」

「あっそうでした…」

「ふふ…じゃあ友奈…ちょっと話…聞いてくれるかい?」

「…いいよぉー。」

 

そこから、僕は今の自分のもやもやした気持ちをすべて友奈に話をした。すると友奈に悪い癖を指摘された。

 

「いつも変なところで水くさいよねー洸輔くんって。別に遠慮もする必要がない所でやたらと遠慮しちゃう。」

「はは…面目ない」

「別に責めてる訳じゃないけど…でもね…」

「……ちょ、ゆ、友奈…」

 

横にいた友奈に抱き寄せられて、僕は顔を赤くする…。今の僕たちは一つの布団に二人一緒に入っている。そんな中でも友奈が言葉を紡ぐ。

 

「洸輔くんは一人じゃないよ…。だからちょっとでも不安なことや悩み事ができたら…みんなに相談すればいいんだよ?」

「そうだよね…ごめんね友奈…」

「謝る必要はないよ…洸輔くん…。私も洸輔くんの力になれて嬉しいからね。」

「ありがとう…」

 

そのまま、友奈の温もりを感じながら僕は眠りについた。もやもやしていた気持ちはもうなくなっていた。




話の構成が難しい!でも頑張って書きます!
後半になればシリアスも増えてくると思うのでがんばります!


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17話 終わる平穏

この旅行編書いてて一番難しいとおもった……。
まぁそんなことはさておき…次からちょっとシリアス強めになりそうなんでほのぼの成分補給しときましょう

なんか題名は不吉ですけど気にせずいきましょうか!


「二回目のぉー!」

「海だぁー!!」

 

例のごとく僕と友奈が叫ぶ。今日も快晴で非常に海日和の天気だ。

 

「さて、今日も楽しむわよー!洸輔!夏凜!瀬戸の人魚と言われたアタシと競泳の勝負をしなさい!」

『自称ですのであまり気にせず…』

 

風先輩がなんか叫んでいて、それに対して樹ちゃんは何かツッコミをいれていたが、僕と夏凜は遠い目をしながら海を眺めていた。

 

「やっとね……洸輔」

「ああ、そうだな。夏凜」

「ちょ、ちょっと?二人とも、なんでそんなに遠い目してんの?」

「はははははは!なんでって……昨日、僕たちにとってここは地獄のようなものだったんですからねぇ〜」

「今日の海は綺麗ね、人間が苦しむ要素なんて何一つない最高の場よ」

「なにされたってのよ……ま、まぁ!気を取り直して!二人とも勝負よ!」

「いいでしょう!もう体は温まってます!」

「こっちも準備オーケーよ!」

「よーし、樹!合図頼んだわよ!」

『了解!それじゃ。よーいドン!!』

 

樹ちゃんの合図で、三人は海へと飛び込む。最初は僕も夏凜も良かったが……結局の所、海への恐怖心が抜けなかった為、風先輩に完敗した。

 

「洸輔くん達どうしたの?いつもならもっと速いのに」

「今日は調子悪かったのかな?」

「「……」」

 

恐怖心を植え付けた張本人達は、自覚がないようだ。まぁこの話を掘り下げると自分たちにまた危険が及ぶと考え、風先輩がスイカ割りを提案していたのでそちらに意識を向ける。

 

「がんばれー!我が妹よー!」

「樹ちゃーん!そのまままっすぐだよー!」

 

樹ちゃんが割る担当なのでみんなが声援を送る。樹ちゃんガンバエー樹ちゃんガンバエー。

 

「たくっ、スイカ割りっていうからどんなものかと思ってみたけど大したものじゃ………って、樹!!そこよーそのまま振り下ろしなさーい!」

「夏凜ちゃん、すごい楽しそうね」

「本当、最初の頃が嘘みたい」

 

ふと視線を向けると、不覚にも美森の水着姿に見惚れる。あまりジっと見すぎるのは良くないと考え早めに目をそらすものの、美森様の魅惑のボデーがそれを阻む。

 

一人奮闘していると、樹ちゃんがどこがで見たことがある構えを見せていた。

 

「あはは!樹ったらなによ〜その構え!」

「多分、風先輩の真似だと思うんですけど?」

「え?アタシってあんなん?」

「あんなんですね」

 

風先輩にツッコミを入れながら、僕はいつも勇者部の中心で笑っている幼なじみの方を見る。

 

(昨日も助けられちゃったな……あの笑顔に…)

 

相変わらず、僕の幼なじみの笑顔は太陽のように輝いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みんなで海で遊んだあとの流れはほとんど昨日と一緒だった、ただ僕は悩みが晴れたのか昨日よりも楽しめた気がする。

 

「さて、あんた達。昨日は疲れて寝ちゃったけど今日はやるわよ!」

「何をですか?」

「中学生が集まって、旅行の夜にする話なんてひとつしかないじゃないの。」

「えーっと辛かった修行の体験談とか?」

「ふふ…」

「笑うな!」

「痛っ…!」

 

夏凜の返答に思わず笑ってしまった僕は、近くにあったペットボトルを投げつけられた。(割と痛い…)すると美森が手を挙げる。

 

「正解は!これからの日本の在り方についてです!」

「違うわよ!……樹……なにかわかる?」

『……コイバナ?』

「さっすが我が妹!それじゃあるという人は挙手!」

 

しーんって音が鳴りそうなくらいにみんな無言だった。

 

「みんな無いんだ…意外だ。みんな美人なのに…」

 

僕としては、友奈のことは好きではあるけどそれはあくまでも友達としての好きだと思うし、まぁ美森に関しても同じことが言えるな。夏凜は今までの話を聞いた限りだとないだろうし、でも風先輩や樹ちゃんなら有りそうかと思ったんだけど…。(僕だって中学生男子そういう話は気になる)

 

「………」

「洸輔……素でもそういうことを軽く言うのはやめて…恥ずかしいから…」

『そんなに直球で言われると恥ずかしいです///』

「え、あ、ごめんなさい?」

「てゆーか誰かないのー」

「そういうあんたはどうなのよ?」

「ふふ……聞きたい?聞きたいのかい?」

『みなさん眠くなってきたんじゃないでしょうか?』

「「「うん。なんか眠くなってきた(わ)(ね)」」」

 

樹ちゃんが、スケッチブックに書き込みそれを見せてきたと同時に僕、友奈、美森がうなずく。風先輩がそれに対して抗議の声をあげる。

 

「な、なんでよぉー!みんなも聞いてくれてもいいじゃなーい!」

『だってお姉ちゃん…その話私たちは何回も聞いてるよ?』

「多分通算で9回以上は聞いてるかもね…」

「あんた達……苦労してるのね‥」

「なんで夏凜はしんみりしてんのよ!わかったわよ!じゃ、じゃあ友奈!なんかないの!?」

「え、えーと…」

 

風先輩に無茶ぶりされて困っていた友奈は僕の方を見ていた気がした。

 

「な、ないのでパスです…。」

「結局の所、みんなないのー!?こ、洸輔は?なんかないの?勇者部で唯一の男なんだし……!」

「ぼ、僕ですか?いやこれといってないんですけど…」

 

もしあったりしたら…僕の右側にいる方々に粛清されるしね。すると樹ちゃんに質問される。

 

『じゃあ…好きな女性のタイプとかは…?』

「突然だね!?」

「あ、いいわね!それ聞きたいかも!」

「わ、私も!」

 

みんなに興味津々の目で見られる。その視線がビックリするほどキツイ。

 

「い、樹ちゃん……ノーコメントじゃダメ?」

『できれば答えてほしいです!』

「ふぇぇ……」

 

そのあとも僕は、かなりの時間尋問されたけど「もう勘弁して」と半泣きでお願いしたらさすがの樹ちゃんも引き下がってくれた。

 

「結局のところ……コイバナっぽい話はできなかったわね…」

「風先輩!コイバナはできませんが、私怪談ならいくらでも話せますよ!」

「ちょ!この状況で!」

「あ、アタシそういう話苦手なんだけどぉー!」

「あの日もこんな感じの暗い夜だった…」

「いやぁーーー!」

 

夏凜と風先輩の抗議は虚しくも、美森の耳には届かず…。皆が眠るまでの間美森は嬉しそうに怪談を話していた。

 

僕は寝付くことができずに、窓側にある椅子に腰を掛け外を眺めようとすると先約がいた。

 

「美森?」

「洸輔くん……ごめん…起こしちゃったかしら?」

「ううん、大丈夫だよ。」

「んん……どうしたの…二人とも?」

「あ、友奈ちゃんも…起こしちゃった?」

 

なんだかんだで、三人で外を眺めていた。僕は気になっていたことを美森に尋ねた。

 

「そいえば…美森はそのリボン肌身離さず持ってるよね?」

「そういえばそうだね?大事なものなの?」

「そっか…二人にはまだ話してなかったね…。事故でね…記憶をなくしたときも握り締めていたんだって……私自身も誰のものかわからないけど……でもとても大切なものの気がするの…」

「そうなんだ…」

 

僕は何も言うことができなかった。すると美森の顔には涙が流れていた。

 

「ど、どうしたの!?東郷さん!」

「美森!大丈夫?」

「……ごめんなさい…二人とも……私ね怖いんだ…なくしてしまった記憶が大事なもののはずなのに…思い出せないの…。それを考えるとね…思っちゃうんだ…今すごく大事な友奈ちゃんや洸輔くん……それに勇者部のみんなとの思い出も無くなっちゃうんじゃないかって……」

 

美森は今にも消えてしまいそうな声で、僕たちに話してくれた。美森は続けて話す。

 

「ごめんなさい…良くないってわかってるんだけど…一人になると…どうしても悪い方向に考えちゃうの……」 

「美森……」

「東郷さん」

「……なに?…友奈ちゃん…?」

「勇者パンチ!」

「…痛!」

「ちょっ!友奈!?」

 

突然、友奈が美森の頭をどついたので動揺してしまった。

すると友奈は、昨日の夜に僕に見せてくれた笑顔でこう告げた。

 

「水臭いよ!東郷さん!そういう悩みがあるときは私や洸輔くんを頼ってくれればいいんだよ!」

「友奈ちゃん……」

「まったく……二人とも似てるよね、そういうところ。」

「?、似てるって?」

「変なところで水臭いところがね。昨日は洸輔くんの相談にも乗ったんだ!」

 

言いながら友奈は美森の手を握る。

 

「あれはのってくれたって言うよりも…言わされたって感じだったけどね…。まぁでも友奈の言う通りだよ。美森」

 

僕も友奈と同じように美森の手を握って言った。

 

「美森が…例え忘れたとしても僕や友奈、それに勇者部のみんなが…また一緒に思い出を作るからさ…」

「そうだよ東郷さん!私は!みんなは!いつでもそばにいるよ!」

「洸輔くん……友奈ちゃん……」

 

(この六人が揃えば…どんな時だって大丈夫だ…僕はそう信じてる!)

 

そうして二日目は幕を閉じたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日の朝、僕たちは支度を済ませて部屋を出た。

 

二泊三日の旅行が終わり、今はもう自宅へと帰宅している。自分の部屋の椅子に座りながら僕は旅行での思い出を振り返る。

 

(そのうちみんなの後遺症も治って、みんなで笑い合う…そんな穏やかで当たり前の日々を大切にしたいな…)

 

しかし…この時の僕は知らなかった…。

 

僕達、勇者部の平穏は着々と終わっていっていることに……。




終わりかたが不吉ー!でもそろそろシリアスが増えてきますからねぇー。胸を痛めながらも頑張って書いていきます!

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18話 勇者の真実

ついにあの子が出てきます!本編はシリアスムード…。
しかし!作者は挫けずがんばります!


では本編スタートです!



旅行が終わったあとは勇者部で集まって演劇の準備などをして楽しんだ。しかし風先輩が放った言葉でまた僕たちの日常は崩れた。

 

「バーテックスには残党が残ってて、延長戦に入ったわ…」

 

風先輩が険しい顔で、みんなに伝えた。アタッシュケースにあるスマホがそれらを決定付けていた。

 

「生き残り…まだ戦いは続く…」

「またみんなに迷惑かけるわね…ごめんなさい…」

「今さら生き残りの一匹や二匹!どうってことないわ!」

『わたしたちなら大丈夫だよ!お姉ちゃん!』

「僕たち六人が揃えば怖いものなんてありませんよ!」

「みんな……ありがとね…」

 

そして、みんながアプリを起動すると精霊の数が明らかに増えていた。

 

「わぁーパレードみたいー!!」

「大赦がアップデートしてくれたみたいなの…洸輔のは相変わらず精霊がいないわ…」

「しょうがないですよ…大赦の人からみても僕はイレギュラーですから…」

 

僕は当たり前だが、何故か夏凜の端末にも精霊がふえていなかった。するとみんなのスマホから警報音が鳴った。

 

「樹海化!」

「まったくタイミングがいいんだか悪いんだか…」

「準備はいい!?みんな!油断しちゃダメよ!」

 

視界が光に包まれていくなか、みんなそれぞれの装束へと身を包んでいった。僕は装束に変わった瞬間、眼鏡を掛ける。

 

「?、この時は眼鏡掛けるんだね?」

「勇者になっていない時にこれをつけると頭痛が起きるんだ…。逆に勇者になってる時につけるといつもより頭の中がクリアになるんだよ…。なんでかはわからないけどね…。」

「えー!そうだったの!?」

「まさかそんな仕掛けだったとは…」

「驚きだわ…」

「目標を捕捉しました!相手は一体だけです!」

 

僕達が、眼鏡の話で盛り上がっていると美森が敵の数を伝えてくれた。言われた方向を見るとそこには人型のバーテックスがいた。

 

「あれって…あたしが倒したやつ…」

「もしかしたら…もとから二体でワンセットの双子とかだったのかもしれないね…。」

「それじゃ!みんな!がんばろー!」

「今度こそ!殲滅してやる!」

「さて、行くとしましょう。」

「みんな!無茶だけはしちゃだめよ!」

「もちろん、わかってます!それじゃ行こう!友奈!」

「うん!」

「あたしも続くわ!」

 

僕と友奈と夏凜が先行する。バーテックスは他のより速くて小さかった。攻撃力は無さそうなもののすごく速いため捕まえるのが困難そうなイメージが強い。

 

「「はぁぁぁーー!!!」」

「瞬殺させてもらう!」

 

友奈と夏凜が放ったパンチによって動かなくなったところを、僕がバーテックスの真上へと高速で移動し短剣で牽制してから拳ごとバーテックスを地面に叩きつけた。

 

「風先輩!美森!任せた!」

 

追撃として風先輩が大剣で斬撃を、美森が狙撃銃で射撃を与えたためバーテックスは意気消沈としていた。

 

「よし!」

「このまま封印の儀に入るわよ!」

 

御霊が増殖するが、僕の短剣と樹ちゃんの糸で破壊した。あとは本体を破壊するだけだ。

 

「アタシが終わらせるわね!」

「いいえ!ここはあたしがやらせてもらうわ。助っ人できたんだもの!少しくらいは…」

「これで…終わり!」

「ちょ!」「え!?」

 

二人がなにか言っている間に、僕は本物の御霊へとグラムをぶつけた。すると夏凜から抗議の声があがる。

 

「何勝手にやってんのよ!」

「ご、ごめん…。早く終わらせようと思ったから…」

「はぁー。ま、いいわ!みんな無事だったしね…。さ、勇者部に戻りましょうか!」

 

バーテックスを倒したため樹海化が解ける。しかし目が覚めると僕はいつもの屋上とは違う場所に出ていた。

 

「え?……ここ……どこ?」

「洸輔くん…」

「一体……何が…」

「!?、友奈!美森!……あれ?……風先輩達がいない…」

 

その場にいたのは、友奈と美森だけだった。風先輩に樹ちゃん、夏凜もそこにはいなかった。

 

「いつもならこんなことないのにね…。」

「うん。いつもなら讃州中学の屋上に出るはずなのに…」

 

三人で頭を抱えていると、どこからか声を掛けられる。

 

「ずっと…呼んでたよ。わっしー…会いたかった。」

 

その子の声は優しくて…そして儚かった。

 

「あなたが戦っているの……ずっと感じてた…。やっと呼び出しに成功したよ。わっしー……」

「っ……」

 

声がした方を向くと僕は言葉を失った……。そこにいたのは左目と右手の指以外が包帯と衣服で隠されている人だった。声を聞く限りでは少女だともわかる。

 

その目は美森のことをじっと見つめていた。

 

「わっしー……?」

「え…と美森の知り合い…?」

「ううん……初対面のはずよ……」

「っ………」

 

そう言われた時の彼女の顔は悲しみで溢れていた。

 

「ああ、ごめんね。わっしーっていうのは私の大切な友達の名前なんだ…」

「………」

 

彼女の言葉は、一つ一つが悲しみに溢れていた。

 

「バーテックス退治お疲れさま…」

「!?…あなたは……バーテックスを知ってるんですか?」

「知ってるも何も…私は勇者として戦っていたからねぇー。名前は乃木園子って言うんだー」

「君も…勇者として……戦っていた…」

「うん…そうだよー…一応は先代ってことになるのかな…?」

 

少女から、自分は勇者だと聞かされたとき…僕の頭の中にはひとつの最悪のケースが頭に浮かんできた。

 

(じゃあ……あの体は……)

 

僕が考え込んでいる中、乃木園子は話を続ける。

 

「私はね、大切な友達と一緒に戦ってたんだ…。ま、今はこんな風になっちゃったけどね…」

「まさか……」

「…友奈ちゃんは満開したんだよね…?」

「はい、しました…」

「咲き誇った花は……どうなると思う…?」

 

美森も勘づいているのか険しい表情で、リボンを握りしめていた。

 

「満開したあとに…体のどこかが…不自由になったはずだよ…?」

「っ………」

「散華……。神の力をふるった…人間への代償」

 

乃木さんは散華について話してくれた。満開とは確かに一時的に神の力を借りるため強くなれる。しかしその代償…神の力を使った者は体の機能を神樹に捧げる。そして勇者は死ぬことができない。

 

「それでね…戦い続けて今みたくなっちゃうんだ…」

「そんな……ことが…」

「じゃ、じゃあその体は……」

「うん。代償の影響だよー」

 

あまりにも、衝撃的な真実の連続に僕は背筋が凍った…。みんなも身動きがとれなかった。

 

「どうして…私達が…?」

「神が選ぶのはいつだって、無垢な少女たちなんだ…。汚れがないからこそ…大きな力を扱うことができる。だからこそ…なぜ君が勇者になれているのかはわからないけど…。」

 

そう言う乃木さんの目はこちらに向けられた。前に風先輩が言っていた言葉を思い出す…。

 

(本来勇者は無垢な少女しかなれない存在で、例え男の子で適正があったとしてもなれるものじゃない)

 

やはり僕は本来ありえるはずがない存在らしい…。ましてやそれを言ったのが先代勇者だ。僕の存在はかなりイレギュラーなのだろう。

 

「まぁ…そのことはいまはいいかな…。……今までのをまとめると…力の代償として体の一部を供物として神に捧げる。それが…勇者システムだよ…。」

「僕達が……供物………」

「私達にしかできないこととはいえ……さすがにひどいよね…」

「でも!バーテックスは全部倒したんです!だからもう戦わなくてもいいんです!」

 

そう、それなのだ。風先輩の話では敵として僕たちの前に立ち塞がってくるのは十二体のバーテックスのみ。ならばもう僕達が戦う必要はなくなるはず。しかし、その言葉に対して乃木さんは意味ありげな言葉を放った。

 

「………そうだといいね………。」

「そうですよ。もう十二体のバーテックスは倒しました!だから…………!?」

 

辺りを見回すと、周りには大赦の人間が僕達を取り囲むかのようにいた。

 

「大赦の人達……?」

「友奈、美森…僕の後ろに…」

 

大赦の人間から、異様な気配を感じたため友奈と美森を庇う形で前にたつ。

 

「この人達は…?」

「私を連れ戻しに来たみたい~。抜け出してきちゃったからねぇー。」

「………」

「この子達を傷つけたら許さないよ…。私が呼んだ大切なお客様だからね…。」

 

乃木さんが言葉を放った瞬間、大赦の人達は頭を地面につけた。

 

「ごめんね…怖い思いさせちゃって…システムのことを隠したのも大赦の人達なりのやさしさだと思うんだよ…。でも……私は…そういうのはしっかり伝えてほしかったなぁ…」

「っ……!」

 

そう言う乃木さんの目には一筋の涙が伝っていた。

 

「伝えてくれていたら……私はもっともっと…友達と…」

「美森…」

「東郷さん…」

「…………うん………」

 

美森が乃木さんの方へ車椅子を寄せていく。今は二人だけで話させてあげたかった。

 

「あ………そのリボン、似合ってるね…。」

「これは…とても大切なもの…それだけは覚えていて…ごめんなさい…私記憶が…」

「仕方ないよぉ…」

 

二人の会話は聞いていて、すごく悲しい気持ちになるものだった。少したつと話に区切りがついたのか、美森がもどってきた。

 

「このシステムを変える方法はなにかないんですか!」

 

友奈が叫んだ。しかしその質問は愚問だろう。もしそんなものがあったならこんなことにはなっていない。

 

「力を使えるのは…ごく一部の勇者のみ。」

「そう……ですよね…」

「……園子様…そろそろ……」

「はぁ…もう時間みたいだね…また話そうね…みんな…」

 

タイミングを見計らったかのように大赦が用意した車があった。

 

「二人とも…行こう…」

「うん…」「ええ…」

 

二人を車に乗せると、後ろから声がかけられた。

 

「ごめんね…やっぱり君とはもう少し話がしたいから…私ともう少しここにいてくれるかな…?」

「え…?」

 

そう言う乃木さんの目は僕を見据えていた。それを僕は了承する。

 

「わかりました…。」

「洸輔くん……」

「ごめんね…友奈…美森…ほんとは一緒にいてあげたい…でも彼女のことも…ほっとけないんだ…」

 

友奈がなにか言いたそうにしていたが…僕は車のドアを閉めた。

 

「園子様…」

「お願い…彼ともう少しだけ話をさせて…」

「………」

 

乃木さんの言葉で、大赦の人達は渋りながらも姿を消した。

 

「乃木さん……なんで僕だけを残したの…?」

「君のことを知りたかったからね…」

 

そう言う乃木さんの目は真っ直ぐ僕を見据えていた……。




園子ちゃん登場!確か本編もこの子が出てきた辺りからまじで暗くなりましたね…。ここから果たしてどうなるのか…。楽しんで見てくださいね!


お気に入りや感想もお待ちしております!


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19話 覚悟と誓い

あーシリアスのせいでそのっちとイチャイチャさせることができなーい。(本編見てると案外してた)早めに番外編とかで書きたいですなぁー(願望)

本編スタートです!


「僕の、こと?」

「うん、男の子で唯一の勇者。本来は適正があったとしてもなれるはずがないのにも関わらず、君はなれた。何があったか……少し聞いていいかな?」

 

(隠したところで、乃木さんには隠し通せない気がするし話すべき、かな)

 

僕自身も気になっていたことを、乃木さんに聞いてみることにする。それが、彼女にとって辛いことだとわかっていても。

 

「えと、じゃあ、僕が自分のことを話したら、乃木さんのこと……君の勇者だった時のこと、聞いてもいいかな?」

「うん〜いいよぉ〜。じゃあ先に洸輔くん……いや、こうくんの方がいいかな?」

「え?」

「あだ名だよぉ〜私のことも、園子でいいからさ?」

 

先ほどわっしーって言っていたことから察するに彼女はそういうのを人につけるのが好きなのだろう。(そんな風に呼ばれたことないので少し恥ずかしかった

 

「えっと……じゃ、じゃあ、園子?」

「はは……どうして疑問系なのさ。面白いんだね、こうくんは」

「か、からかわないでよ」

「ごめんごめん。それじゃ本題に入ろうか」

「僕の、ことからだね」

 

僕は、自分が勇者になった経緯をすべて話した。すると彼女は、なにかを納得したかのように表情を変化させた。

 

「なるほどね〜」

「なるほど?園子……何かわかるの?」

「心当たりが、一個だけね」

「ほんと!?是非聞かせて!」

「おっけーだよー、こうくん。その前に、精霊がどんなものだったかを復習しておこうか〜」

僕が首をかしげるのを気にせず園子は話始める。神樹様にはあらゆる伝承…そのすべてが概念的なもので記録されている。稀に歴史上の人物や神話上の英雄達も精霊として顕現することもあるらしい。

 

「前にね、大赦の人達が話してたのを聞いたんだけど。こうくんが勇者になれたのは、英雄さんを憑依させることで勇者としての力を顕現させているんじゃないかって」

「憑依?」

「でも〜それって、本来は危険な事なんだとも言ってた」

「危険なこと?もしかして、なんかデメリット的な……」

「うん、そんな感じかも。もし、大赦の人達の推測通りに、憑依によって勇者の力を得ているんだとしたら、いつか、そう遠くない未来……こうくんはこうくんじゃなくなるかもしれない」

「………」

「なぜなら、人と人ならざるものは本来は交わることがない存在。それは憑依させている本人の半身を侵すようなものなんだって。ましてや勇者になれるはずがない男の子、それを繰り返せば、君は」

「大丈夫!」

「え…?」

 

園子が僕の方をみながら唖然としていた。僕は、続ける。

 

「あの人は、僕を選んだって言ってくれた。実際に七体のバーテックスが襲ってきたときには…僕に力を託すって言ってくれたし…僕自身もよくわかんないけど勇者になってるときに侵されてるって感じもないし!多分、そんなに悪いもんじゃないと思う!」

「……ふふ」

「えっちょ!?な、なんで、笑うの!?」

「いや〜ここまでいろいろ説明とかしたわりに、一瞬で否定されちゃったなぁ~って。そう考えたら、急に面白くなっちゃってさ〜」

「ひ、否定はしてないつもりだけど……」

「わかってるよぉ〜でも、こうくんがそう思っているのならそれが一番だとおもうなぁ」

 

そう言った時の園子の顔は笑顔だったと思う。包帯で隠されていたけどなんとなくわかった気がした。

 

「じゃあ、そろそろ私の番かな?」

「いいの?辛ければ無理に話さなくてもいいんだよ……?」

「ううん、私がこうくんに話してあげたいんだ。少し、長くなるかもだけど聞いてほしいな」

「わかった……」

「ありがとぉ〜さて、どこから話そうかな〜?」

 

園子は過去の思い出をいろいろ話してくれた。神樹館という場所で園子は勇者に選ばれて二人の友達と戦ったらしい。そしてその一人が…。

 

「鷲尾須美、それが、美森が園子と一緒に居たときの名前なんだね」

「うん、そうだよ。わっしーはね〜最後の戦いで記憶を失っちゃったんだ。両足もね、全部散華の影響だよ~」

「じゃあ、園子は何回満開をしたの?」

「ん〜かなりの回数したから、覚えてないよぉ~」

「……ごめん」

「いいよ~しょうがないもん」

 

次に話してくれたのは三ノ輪銀という少女のことだった。その子は二人のお姉さん的な存在で、いつも二人のことを勇気づけたりしてくれたらしい。でも…ある戦いで二人を庇って命を落としてしまったと…園子は語った。

 

「ホントに悔しかったなぁ…あの時は自分の力のなさを呪ったよぉ……」

「園子……」

「私とわっしーはミノさんのことがすごい好きだったんだ…だから失ったときはホントにつらかった…」

 

話を聞いていてわかったのは彼女がどれだけ二人の事が好きだったかということ…そして三人がどれだけ信頼しあっていたかということだ…。

 

(それなのに…こんな体になったせいで…園子は…)

 

拳を強く握りしめる。僕には過去のことで園子に言える言葉がない…。

 

「園子…」

「ん?何…かな?…こうくん?」

 

こちらを向いた園子の左目には涙が伝っていた。僕は園子を自分の胸へと抱き寄せた。

 

「今この時だけは我慢しなくてもいいんだよ…今は僕が傍にいるから…」

「……こうくん……ありがとう…」

 

そのあと、園子は僕の胸のなかでひとしきり泣いた。気づいたときには辺りは、すっかり暗くなっていた。

 

「かなり話し込んじゃったね……」

「そうだねー…それにしてもこうくんって結構大胆なんだね…今日会ったばかりの子を抱き締めるなんて」

「?…そうかな?」

「そうだよー…」

「園子様…そろそろ」

 

声をした方を見ると、昨日よりも倍の人数の大赦の人達がそこにはいた。

 

「時間…みたいだね…」

「そうだね~」

「…また会いにいってもいいかな?園子?」

「うん…いつでもおいでよ…」

 

園子とまた会う約束をして大赦の車に乗り込む。先ほど園子がいた場所を見るとそこにはもう誰もいなかった。

 

僕は、あの人から授かった叡智の結晶(眼鏡)を見つめる。

 

(あなたがどんな理由で僕を選んだかはわからない…でもあなたが託してくれたこの力を…僕は守りたいもののために使います!)

 

だからこそ…僕は供物だとしても…自分が自分じゃなくなったとしても諦めない。僕はそう強く誓った。




次は一旦番外編挟みます!そこでほのぼの成分補給してからシリアスに入りましょう!

それでは、また!


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番外編 水鉄砲戦線(前編)

さぁて番外編でございます!夏にぴったりの感じに仕上げてみました。(皆テンションおかしくなってるけど)


ではどうぞ!


「今日はこれで遊ぶわよー!!」

「相変わらず唐突ね……。てかその手に持ってんのって水鉄砲?」

「ええ!最近は演劇の準備ばっかだったしーせっかくの夏休みなんだから夏っぽいことしましょ!」

 

旅行が終わって少したった頃、演劇の準備のために集まったはずなのにも関わらずそれを責任者である部長自らぶち壊してくるあたりが、流石風先輩と言ったところだろう。

 

(でも…確かに楽しそうかも…)

 

内心は演劇の準備ばっかりという所に共感しているため、反論はしなかった(寧ろ遊びたい)

 

「いいですね!夏っぽいことやりましょう!みんなで遊べば絶対楽しいし!」

『部長が最初に切り出した辺りをツッコミたいところですが私も賛成です!!』

「あ、あたしはどっちでもいいわ!」

「僕は賛成です。気分転換って意味でもいいと思うし」

「でもやるにしても、どういうルールでやるんですか?」

「ふっふっふ…この遊びの天才!犬吠埼風様に落ち度はないわ!ちゃんと考えてきてあるわよ!」

 

美森が質問すると、風先輩(自称遊びの天才)はホワイトボードに何かを書き始めた。

 

「ルールとしては赤チームと青チームで分かれて3対3のチーム戦を行うわ。勝利条件は相手のチームを全滅させること。服装はみんな体操服を着用ね!」

『だから昨日みんなに体操服持ってきてってメールしたんだね…』

「ま、まぁそういうことね…。そして一人一つずつ的をあげるのでそれを体のどこかに付けてね。原則として常に晒されている所以外につけてたら反則負けにするわ」

「なるほど…それを濡らされたらアウトってことですか?」

「そう!その通り!やられた人は的を取って日陰に移動してね!」

「場所は?学校内でやると先生に怒られるわよ?」

「そこんとこも大丈夫よ!建物の中以外の場所は使用オッケーだって!」

 

風先輩のこういうときの行動力はすごいと思う…でもなぜそれをいつも出せないのかがよくわからない…。

 

「でも…ただやるだけじゃつまらないんじゃないの?なんか景品とかは?」

「そうだね~勝てば何かあるってすごくテンション上がるしね~!」

「ふふふ…。そこら辺も抜け目はないわよ…みんなこれを見てちょうだい…」

『「「「「こ…これは!」」」」』

 

風先輩が見せて来たのは、僕たち勇者部が愛してやまないうどんの名店かめやの夏限定うどんの無料券だった。

 

「勝ったチームには!これをプレゼントします!」

「本当でふか!?……じゅる…」

「ゆ、友奈……ヨダレでてるよ…じゅる…」

『洸輔さんも出てますよ?』

「で、でも風先輩!どこでこれを!?しかも三枚も!」

「前に依頼頼んできた人がお礼としてくれたのよ。それで使うなら今だと思ったのよ…」

「これは負けられませんね…。」

「とりあえずチームを決めましょ!グッとパーで分かれさせるわよ!せーの!」

『「「「「「グッとパーで分かれましょ!!」」」」」』

 

そしてうまい具合にチームは割れ、編成は以下の通りとなった。

赤チーム…僕、風先輩、夏凜。

青チーム…友奈、樹ちゃん、美森。

 

チームに分かれた瞬間お互いの間に火花が散る。

 

「友奈…美森…今回ばっかりは譲る訳にはいかない…君たちに本気で勝ちにいくよ…。」

「う…洸輔くんと争うのは嫌だけど…でも!私だって負けられない!全力で勝ちにいくよ!」

「その意気よ。友奈ちゃん…勝つためには…甘さを捨てなくちゃいけない時がある…それが!今なのだから!」

「樹…お姉ちゃんとしてあんたを敵に回すのは嫌だけど…これも運命…お互い手加減なしでいくわよ!」

『お姉ちゃん…私だって!負けないよ!』

「なに?この異様なテンションは…?」

「それじゃ着替えてこの中から自分の水鉄砲を選んだら…それぞれのチームの初期位置に着いてちょうだい!今から10分後にスタートするわ!」

 

そして…風先輩の掛け声と共に…仁義なき戦いの幕は開けたのだった……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

レッドside

 

皆の準備が整い初期位置に着く。風先輩が僕と夏凜に最後の確認を取っている。

 

「準備はできてるわね……?二人とも?」

「はい!」

「もちろんよ!」

「さて…どう攻めるか…相手に東郷がいるのが厄介ね。」

「確かにね…東郷は勇者になっている時の武器が、狙撃銃だしね…あたしたちよりも射撃能力に長けているはずよね」

 

そう、それなのだ。勇者になっている際に遠距離の射撃武器を使っているのが美森だけ…つまりこの中でも射撃に関しては一番強いのだ…それを掻い潜ってどう倒すか…。それが僕たちのチームの最大の問題点となっている…。

 

「あ…もう10分経ちましたね…」

「始まったわね……いい?二人とも甘さを捨てなさい…。それがうどんへの近道よ…」

「わかってるわよ…さぁ!行きましょ!」

 

勝利をもぎ取るために、僕たち三人は青チームへと近づいていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ブルーside

 

「もう時間になったね!うひゃー楽しみだなぁー!」

「ええ…あちら側の三人も動き始めたわ…」

『どうしましょう?』

 

私たちは、赤チームのみんなと逆方向の位置にいる。こういうリクリエーション的なのが久しぶりのためテンションが上がる。

 

「…友奈ちゃん……樹ちゃん…最初の作戦を伝えるわ…耳を貸して…」

「え?う、うん。」

『?』

 

そして…東郷さんの作戦を聞いた私たちは戦慄した。

 

「と、東郷さん!?それ…ホントにやるの!?み、みんなで楽しく水鉄砲を撃ち合うだけじゃダメ!?」

『遊びの領域を越えてます!?』

「何を言っているの!二人とも!もうすでにこれはただの遊びではないのよ!大事なもの(うどんの無料券)得るか得ないかの戦いなのよ!」

 

何故かテンションがおかしな方向へいっている東郷さんに唖然とする私。でも…確かに負けるわけにはいかない!私だって無料券ほしいもん!!

 

「うん…。そうだね東郷さん!私も本気で獲りにいくよ!」

『私もです!』

「二人とも…その意気よ!それじゃ樹ちゃんは私が言った通りにお願いね…。」

『了解です!』

 

(正直…この作戦気が引けるけど…うどんのために負けられない!)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レッドside

 

「……全然攻めてこないわね…」

「…はい…美森のならこれくらいの距離でも狙ってきそうなのに…」

 

風先輩が持ってきた水鉄砲の種類は多様で、その中には狙撃銃があった。チラッと見た感じでは、美森は狙撃銃を持っていたためこのくらいの距離なら簡単に狙ってくるはずなのだが……。

 

「…あまりにも静かすぎる…」

「…考えても仕方ないわ…もう少し先に進みましょ」

「はい」「了解よ」

 

風先輩に促され、もう少し相手の陣地へと踏み込んでいく。すると先の方に人影が見える。

 

「あれは……?」

「もしかして…樹?」

 

そこには、怪我をしたのか足を押さえ込みながら座り込んでいる樹ちゃんの姿だった。

 

「まったく…見え透いた罠ね…」

「ほんとだね…あんなの普通に罠だってわか……………風先輩?」

 

横を見ると、風先輩が体をブルブルと震わせていた。

 

「樹が……けがを…早く手当てしにいかなきゃ…」

「ちょ!風先輩!?」

「何言ってんのよあんた!?甘さを捨てんじゃなかったの!?」

「でも……妹がけがしてるのよ…テアテシテアゲナイト…」

 

そのまま…錯乱した状態で風先輩は座り込んでいる樹ちゃんのもとへと向かっていく。

 

「……どう思う?…洸輔?」

「…正直罠だと思う…でもそれにしては無防備過ぎる気が…」

 

僕と夏凜は少し離れた位置から…樹ちゃんの出方を見ている。風先輩が樹ちゃんの元へとたどり着いた。

 

「樹!大丈夫?立てる?」

『ありがとう…お姉ちゃん…そして…さよなら…』

「…え……グハァ!!」

 

次の瞬間僕たちは恐ろしい光景を目にした…。風先輩が樹ちゃんが放った弾丸(水)によって的ごと体を撃ち抜かれたのだ。(スケッチブックの扱いがプロ級…)

 

「!!…ほら言わんこっちゃない!」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないよ!助けにいかないと!」

 

二人で風先輩の元に駆け寄る。僕は倒れた風先輩を抱き抱え夏凜が樹ちゃんの応戦をする。

 

「樹…あんたお姉ちゃんを騙して恥ずかしくないわけ!?」

『勝つためには仕方ないんです…』

「そうまでして勝ちたいのか!あんたたちは!」

「!?、夏凜!右だ!」

「っ…これは…東郷ね…」

「夏凜…一旦引こう…今の状況はまずい…立て直すこともできなくなる!」

「ええ…そうね…」

 

相手側の陣地から遠い自分達が最初にいた初期位置まで戻ってくると、風先輩が息絶え絶えと僕たちに話しかけてくる。

 

「……アタシは……負けたのね……」

「風先輩!」

「風!」

「…結局アタシは…甘さを捨てきれなかったのね……ごはぁ…」

「風先輩!これ以上しゃべらないで!」

「あはは…ごめんね……二人とも……後は…任せた…わ…ガクリ……」

 

その言葉を最後に風先輩の右腕は力なく落ちた。

 

「風せんぱーーーい!!」

「風ーーーーーーー!!」

 

相手のまさかのやり口に僕と夏凜は多少怒っていた。

 

「おのれ!青チーム!風の優しさに漬け込んであんな作戦を仕込んでくるなんて…!」

「仇は僕たちが取ります!風先輩!」

 

赤チーム…犬吠埼風脱落…残り二人……。




なんか長くなりそうなので前編と後編で分けることにしました。それにしてツッコミがいないってこんなに恐ろしいことなんですね(白目)

多分後編は本編が辛くなったら間に挟みます!

気に入っていただけたなら、感想やお気に入り登録お待ちしてます!


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20話 苦悩と異常

風先輩がちょいメイン回ですね!(まぁほのぼのしてないけど…)

それではどうぞ!


「後遺症…供物……勇者は絶対に死ねない…?」

「はい…。」

 

次の日の休み時間、僕と友奈と美森は風先輩に昨日聞いたことをすべて話した。

 

「事実…満開したあと私たちの体はおかしくなりました…身体機能の欠損したような状態です…。それが…体を供物として捧げるということだと…乃木園子は言っていました…」

「後遺症は治らない……」

 

風先輩が考え込むかのように顔を地面にむけると、意を決したかのように顔をあげた。

 

「それ…夏凜と樹には話した…?」

「いえ…先に風先輩に相談しようと思ってたので…」

「じゃあ…二人にはまだ話さないで…。確かなことがわかるまで…変に心配させたくないから…」

「……わかりました…」

 

すると、僕の頬に冷たいものが当たった。空を見上げると雨が降ってきていた。

 

「とりあえず話はここまで!ほらほら早くしないと風邪引いちゃうわよ!」

 

そう言った風先輩の声はいつも通りだったが…顔はいつもよりも元気がなかった。心なしか雨もいつもより冷たかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後の部活に向かう際に先生と話し込んでいる風先輩が見えた。(僕は日直だったので友奈と美森には先にいってもらった)

 

「風先輩?どうかしたんですか?」

「あ、洸輔…ちょうどいいところにアタシ用事できちゃったから部活にはいけなさそうなの。みんなによろしく伝えといて」

「は、はい。」

「犬吠埼さん」

「あ、はい…それじゃ洸輔頼んだわよ。」

 

そう言った風先輩の顔はやはり暗かった。そんな風先輩を見て僕は自然と言葉を発していた。

 

「風先輩」

「ん…?どうしたの?」

「いつでも相談に乗りますよ!悩んだら相談!です!」

「…………ありがとうね…洸輔…」

 

風先輩と分かれた後、僕はすぐに勇者部へと向かった。

 

「こんにちはー…」

「洸輔くん!こんにちはー!」

『洸輔さん!よかったですー連絡なかったから心配で…』

「あんたねぇ!連絡くらい寄越しなさいよ!心ぱ………気になって仕方なかったじゃない!」

「こんちは、遅れてごめんね友奈。それと樹ちゃんと夏凜に関しては申し訳なかった。いろいろ立て込んでたもんで…心配してくれてありがとね…二人とも。それと…」

 

みんなに謝りまくる僕だがもう一人謝らなければいけない人物がいる。

 

「美森も…ごめんね。昨日は…」

「いいの…洸輔くんなら、あそこで動かないはずがないって私も思ったから。」

「ありがとう…美森。助かるよ」

 

美森やみんなには助けられてばかりだなと改めて思った。すると樹ちゃんが心配そうな顔で僕にスケッチブックを向けてきた。

 

『お姉ちゃんは…今日来ないんでしょうか?』

「あーその事何だけどね。今日風先輩は用事でお休みだよ。」

『そうなんですか…』

「それじゃ!私たちで風先輩の分も演劇の準備がんばろう!ね!東郷さん!」

「そうね。風先輩の分まで私達ががんばりましょう」

「ま、風なんていなくても余裕だって所見せてあげるわ!」

「みんなで準備頑張ろー!」

「「「『おー!』」」」

 

そのあと僕たちはみんなで協力しあいながら、準備を進めた。みんなでいると自然と心が温かくなる。キリがいいところで今日は解散になった。今は友奈や美森と一緒に帰っている途中だ。

 

(明日は風先輩も来て皆揃って準備がしたいな…)

 

そう考えていると、自分の携帯に着信がきた。メールの差出人を確認すると風先輩だった。

 

「二人とも!先に帰ってて!」

「どうしたの?洸輔くん?なんか忘れちゃった?」

「ううん。ちょっと急用ができた!二人ともまた明日ね!」

「ええ。また明日」

「じゃあねー!洸輔くん!また明日ー!」

 

二人と別れて風先輩が待っている海岸へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「風先輩!」

「あ、洸輔…ごめんね…わざわざ来てもらっちゃって…」

 

かなり急いで来てくれたのか洸輔は息を切らしていた。

 

「大丈夫です……それよりどうかしたんですか?」

「今日…聞いた後遺症のことについて…大赦に聞いてみたの…そうしたらね…これ」

「これは……」

 

アタシは三人から満開の後遺症のことについて聞いたあとすぐに大赦にメールを送った。それに対する大赦の反応は現在調査中という曖昧な返事だった。

 

「大赦は満開の代償のことを隠している…」

「……園…先代勇者の子は、それも大赦の人たちなりの優しさだって言ってました…。」

「乃木園子って子よね…?」

「はい…」

「アタシね…今頭のなかぐちゃぐちゃでどうしていいかわからなくなってるの…さっき呼び出されてたのだって…樹のことでだったし……」

「………」

 

樹の担任の先生に呼ばれたアタシは樹が音楽の授業でついていけてないということを聞いた。この前にはカラオケ好きの友達に誘われたけど自分が行くと気を使わせてしまうと断っていたし。

 

「アタシ……樹とどう接していいかわからなくなってきたの…」

 

前にみんなには許してもらったけど、アタシとしてはそう簡単には拭いきれなかった。なぜならアタシが巻き込まなければ…後輩達や大事な妹もこんなことにならなかったとどうしても考えてしまうのだ。

 

「……正直後遺症のことに関しては僕はなにも言えません…。」

「そう……よね…ごめ…」

「でも!」

 

アタシが謝ろうと言葉を発しようとすると洸輔に遮られた。

 

「言葉にしてみなきゃ伝わらないこともあるから…」

「っ…!」

「僕は…樹ちゃんに今の風先輩の気持ちを伝えて見た方がいいと思います。大丈夫ですよ!樹ちゃんは強いですから!」

 

すると洸輔はアタシの震える手を優しく握ってくれた。真っ直ぐ透き通った瞳でアタシを見つめながら言ってくれた。

 

「ありがとう…洸輔…少しスッキリしたわ…」

「それならよかったです。」

「それにしても洸輔の手ってこんなに温かったのね…」

「あ!ご、ごめんなさい!つい!」

「…まったくアタシまで惚れさせる気かしら……」

「え?何か言いましたか?」

「ううん!何でもない!」

 

そのあと洸輔と別れたアタシは家に向かった。帰ってすぐに夕飯の準備を済ませ、樹と一緒に夕飯を食べる。

 

「え…えっとさ!最近雨降ること多いわよね!な、なるべく折り畳み傘持参した方がいいと思うわ!」

 

ほんとは…後遺症のことを言いたい…。でも言えない…樹に両親を亡くしたときのような思いをしてほしくないと思ってしまう。

 

「あーえっと…そ、そろそろ演劇の練習もしなくちゃね!体育館のステージかりて!バーっと!」

 

すると樹の表情が少し曇った気がした。

 

「ん?どうしたの?……はっ!もしかして…アタシの脚本に不備が!?」

 

樹は首を横に振り、スケッチブックにペンを走らせる。そこに書かれていた言葉にアタシはなにも言えなくなった。

 

『私…台詞のある役できないね…』

「あ……そ…そうか…」

『だから、舞台裏の仕事がんばるね!』

「っ…。だ、大丈夫よ!声も文化祭までには、治るわよ!絶対!」

 

今のアタシにはこんな言葉しか樹に掛けてあげられなかった…。そのあとも結局話すことができなかった…。

 

アタシは鏡の中に映る後遺症で見えなくなってしまった目を見る。

 

(絶対治る……だって…みんな悪いことなんてしてないじゃない…)

 

そう考えていると、海岸で洸輔に言われた言葉を思い出す。

 

『言葉にしてみなきゃ伝わらないこともあるから…』

 

「アタシは……どうすれば……」

 

アタシは鏡を見ながらそのまま呆然としていた…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「大丈夫かな…風先輩…」

 

あんなことを言ったのは良いけど……正直僕も何が正しいのかなんてわからない…。自分が思ったことをあくまで言っただけ…それが他人にとって正しいとは限らない…。

 

(弱気になってる場合じゃない!僕がみんなを守る!そう誓ったのだから……あれ?)

 

その時僕の頭の中にノイズが走る。

 

「あれ……みんなって…誰だっけ?」

 

(……………は…?何を言ってるんだ僕は?みんなって勇者部のみんなじゃないか…)

 

「ま、いいか…ただのどわすれだよね…」

 

多少の異常を感じながらも僕は自宅へと向かった。




風先輩が苦悩する中…洸輔くんの体にも異常が…。これからどうしよう…とりあえずゆゆゆの完結目指してがんばります!

感想やお気に入り登録などもお待ちしております!


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21話 助けたい

シリアスが続きます…。
それと祝UA6000突破!!これからも頑張ります!


それではどうぞ!


風先輩から相談を受けた翌日のこと。

 

美森の家に集められた僕、友奈、風先輩は勇者システムの本当の意味について知らされた。

 

ここ数日で美森は様々な方法で自殺を試みたらしい。しかしそのどれもが精霊に止められ失敗に終わったと美森は言った。

 

ここから推測されるのは精霊とは勇者を助ける為の存在ではなく、勇者というお役目に縛り付けるための装置だということがわかる。

 

つまり先代勇者である乃木園子が言っていたことが、真実だということが裏付けられる。そして今回は僕たちが供物として捧げられる存在になったということも。

 

美森が話を終えると、風先輩が力なさげに言葉を発した。

 

「知らなかった……知らなかったの…世界を救うために体を捧げながら戦う…それが勇者………」

「風先輩…」

「っ…………」

「…アタシが…みんなを…樹を…勇者部に入れたせいで……」

 

僕や友奈も今の風先輩に掛けられる言葉が見つからず、みんな無言のまま解散することとなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

僕はそのまま気を紛らわすため、散歩することにした。なにもしていないよりこうやって歩いていた方が今は落ち着く。

 

(最近…勇者部が全員で集まることが少なくなった気がする…)

 

生き残りとの戦いと園子から教えてもらった真実を聞いてから、勇者部には暗い雰囲気が流れている。

 

「一番心配なのは風先……………」

 

すると昨日も起きたノイズが僕の頭の中を走った。

 

(また…これか…)

 

昨日からよく頭の中で起きるノイズ…。それが起きた時一瞬だけだけど…勇者部に関した記憶があやふやになってしまう。

 

(多分……園子の言ってた僕が僕じゃなくなるってことに関係してるのかもな…)

 

そんなことを考えていると公園の近くまで来ていた。子供たちがワイワイしながら遊んでいる中、ベンチに座りながら本を読んでいる見知った少女が見えた。

 

「こんにちは、樹ちゃん」

 

僕が声を掛けると樹ちゃんは急に声を掛けられてびっくりしたのか、手をワナワナさせながらスケッチブックにペンを走らせる。

 

『洸輔さん!?どうしてこんなところに!?』

「んーちょっとね…。気晴らしに散歩してたんだ。」

『そうなんですね…えっと…隣どうぞ…』

「ありがとう、樹ちゃん」

 

樹ちゃんが横に寄ってくれたので、空けてくれたスペースに腰を掛ける。

 

「……………………」

『……………………』

 

(え……?この状況どうしよう…?)

 

自然な流れで座ってしまったが、話す話題がない。小学生くらいの子には「カップルだー」や「邪魔しちゃ悪いよ」などいろいろなことを言われている。(最近の子はおませさんなんですね(^ー^))

 

『洸輔さん…』

「ん?なに?」

 

一人で居心地の悪さに悪態をつけていると、樹ちゃんがスケッチブックを向けてくる。

 

『その…相談って訳じゃないんですけど…少しお話に付き合ってくれませんか?』

「いいけど…どんな話?」

『最近…お姉ちゃんの元気がないんです…それだけじゃなくて前よりも…わたしの声のことを気にするようになって…』

「っ………」

 

さっきの居心地の悪さはどこへやら、それよりも心にくる話を切り出されてしまった。気にせず樹ちゃんは続ける。

 

『それと…洸輔さんや友奈さん…東郷先輩も少し変ですよね?何か知っているんですか?』

「……それは……」

『お願いします!知っていることがあるなら教えてください!』

 

樹ちゃんに問い詰められ答えに詰まる。ここで言わないという選択肢をとってしまえば、樹ちゃんに嘘をついてしまうような気がした。

 

(ごめんなさい……風先輩…)

 

心の中で風先輩に謝りながら、僕は口を開く。

 

「これから話すことは…樹ちゃんにとってすごく辛いことかもしれない…それでも良いのかい?」

『はい!わたしもお姉ちゃんの助けになりたいんです!』

 

その目には強い意志が籠っていた。

 

「っ…!!わかった…僕と友奈と美森はね…この前のバーテックスとの戦いのあと…先代勇者に会ったんだ…」

『そんな人がいたんですか!?』

「うん…僕たちより少し前に勇者として戦っていた子なんだけどね…。その子は満開を繰り返して体の機能がほぼ失われて……今では全身包帯で巻かれて大赦に祀られているよ…」

『て…ことはつまり』

「うん…。満開の後遺症は治らず代償として残り続ける…。多分…風先輩がここ最近樹ちゃんの声のことについてすごく心配しているのはそれがあったからだと思うよ…。風先輩…どう声を掛けていいかわからないって言ってた」

 

樹ちゃんは黙って僕の話を聞いている。その目には絶望なんてものはなかった。ただ…お姉ちゃんの助けになりたいという強い意志が灯っていた。

 

「今日もその事で美森に呼び出されてね…。その先代勇者の子が言っていた言葉が真実と考えてもおかしくないってことになった…樹ちゃんがこの話を聞いて耐えられるかわからなかったから言わなかったんだ……ホントに…ごめん…」

『別にいいんですよ…なんとなくわかってましたから…』

 

そして樹ちゃんは新しい言葉をスケッチブックに書いていく。

 

『わたし…まだお姉ちゃんに話してないんですけど…夢ができたんです。』

「夢?」

『はい、みなさんのお陰で人前で歌えるようになったときから、歌手になるのが夢だったんです!』

「!!」

『だからお姉ちゃんに内緒でボーカルオーディションも受けました。一次予選通過の報告がきたときはホントに嬉しかったです』

「樹ちゃん………」

 

本人にとってはすごく辛いことのはずなのにも関わらず、樹ちゃんはずっと優しい顔をしていた。

 

『いろいろな喉の治し方も調べたりしてみたけど…全部効果なかったです。後遺症が治らないのならそれについても納得です。』

「樹ちゃんは…勇者部に入ったことを後悔してるかい…?」

『そんなわけないじゃないですか!勇者部に入らなかったら皆さんと出会えなかった、それに歌を歌いたいとも思わなかった…。わたしは勇者部に入ってよかった!そう思ってます!』

「はは…どうして僕の周りの女の子達はこんなにも強い子達ばかりなんだろうな…」

 

スケッチブックに書いてある言葉と樹ちゃんの笑顔を見たら涙が出そうになった。

 

「その言葉を今の風先輩に伝えてほしいな。その言葉を伝えれば風先輩はきっと元気になると思うからさ…。」

『はい!それにしても結構話し込んじゃいましたね…』

「ほんとだね…。一人だと危ないかもだから僕が家まで送るよ。」

『ありがとうございます!洸輔さん!』

 

二人で一緒に帰路を歩いていく。すると樹ちゃんが手を繋いできた。

 

「ちょ!?樹ちゃん!?」

『今だけ…こうさせてください…』

「………………」

 

それからはなにも言わずに帰り道を歩いた。握っていた樹ちゃんの手は弱々しいけどそれ以上に温かかった。いつの間にか二人が住んでいるマンションの近くに着いていた。

 

『今日はありがとうございました!お話に付き合っていただいて!』

「いいよ。それよりもほら早く風先輩に君の気持ちを伝えてきておいで…。」

『はい!』

 

その時、僕の持っていたスマホが震えだした。

 

「ん?なんだろう?」

 

僕がスマホを確認すると同時にどこかで何かがぶつかり合う音がした。

 

「っ………風先輩…」

『洸輔さん……』

「樹ちゃんにも…きたんだね…」

 

メールの内容は『犬吠埼風が暴走中、三好夏凜が応戦中ですが状況は芳しくない模様。勇者各員も現場に向かい、犬吠埼風を止めるよう力を尽くしてください。』

 

慌てて勇者アプリを開くと、先ほど何かがぶつかり合ったような音がした方向から風先輩と夏凜の反応があった。

 

「二人とも……」

『洸輔さん!わたしに少しの間時間をください!』

「え…」

『お姉ちゃんをわたしが止めます!だからそれまで…』

「…うん。わかった…任せてよ。」

 

そう言って僕は勇者服を身につける。目指すは暴走してしまった風先輩とそれを止めようとしている夏凜の所。

 

(絶対に止めてみせます!風先輩!!)

 

僕は眼鏡を掛け…二人の元へと跳躍した。




ここら辺の話は初めてゆゆゆで見たときに、もう濁流のような涙を流して見てましたよ!(だからどうした)

感想お待ちしております!


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22話 溢れだした激情

辛いっす(唐突)書いてるとこんなにも辛かったっけか?って思います!


自転車で坂を降りていくと風と樹が住んでいるマンションの前に着いた。

 

「………」

 

スマホを起動させ、今日届いたメールの内容を確認する。

 

『犬吠埼風を含めた勇者達の精神が不安定である。三好夏凜あなたが皆を監督し、導きなさい』

 

「たく、なにやってんのよ。部長」

 

その中でも酷いのが風なのだ。この前なんて話し掛けたら「ええ」と「そうね」しか言ってなかった。顔も死んでいて目も虚ろだった。多分精神的に一番危ないのは風だろう。

 

「しっかりしなさいよ……バカ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

もう何度目かもわからないメールの内容を大赦に送りつける時、一本の電話がかかってくる。

 

「はい、犬吠埼です」

『突然のお電話失礼いたします。ボーカルオーディション責任者の藤原と申しますが、犬吠埼樹さんの保護者の方ですか?』

「は、はぁ……そう、ですが」

 

かかってきたのは、身に覚えのない人からの連絡だった。

 

『この度犬吠埼樹さんに二次選考の詳しい内容についてお伝えするためにお電話させていただいたのですが』

「え?その、まず、なんのことですか?ボーカルオーディション……って」

『あ、ご存じなかったんですか?犬吠埼樹さんには一次選考のためデータを送っていただきまして見事一次を突破して二次選考に…』

「い、いつ頃ですか!?」

『えっと、3ヶ月ほど前ですね』

「………………は?」

 

そのままアタシは持っていた受話器を手から離して、樹の部屋へと向かう。

 

「樹!いないのー!」

 

部屋に入ったが樹はいなかった。ぐちゃぐちゃと散らかった机の上には色々なことが書き留められた一冊のノートが置いてあった。

 

『声を治すためにやることと治ったらやりたいことリスト』

 

『よく寝る』

 

『たっぷり寝る!(だから朝起きれないことは仕方がない)』

 

『栄養のあるものを食べる(お姉ちゃんは食べ過ぎ(^_^;))』

 

『勇者部のみんなといっぱい話す!』

 

『クラスのみんなといっぱいおしゃべりする!』

 

『歌う!!』

 

「っ……」

 

視線を少し横に移すと、パソコンにボーカルオーディション用ファイルというものを見つけた。一瞬躊躇ったがそれをクリックすると音声が流れた。

 

『えっと……これでいいのかな…?あれ?え?も、もう録音されてる!?あ、ボ、ボーカリストオーディションに応募しました!犬吠埼樹です!』

 

優しい声で樹は自分の事を語っていた。勇者部のことや姉であるあたしのこと、そしてそれに対して付いていくだけで精一杯だった自分のこと。

 

『でも、わたしはお姉ちゃんの隣に立ちたかった。だからこれからはお姉ちゃんの後ろを歩くんじゃなくて自分で歩くために!私自身の夢を…私自身の生き方を持ちたい!そのために歌手を目指しています!』

 

(いつ……き……)

 

『そして大好きな歌をいろんな人に届けたい!そうおもってます!』

 

(夢…………樹の夢を………アタシが………)

 

「うう………うぁぁ…」

 

堪えていた涙が溢れだし嗚咽が漏れる。かなり前のことように感じるがいつだか、樹と帰り道にした会話を思い出す。

 

『お姉ちゃん、わたしねやりたいことができたよ』

『ん?なになに?将来の夢でもできたの?お姉ちゃんに教えてよ』

『うーん……秘密』

『えーいいじゃないのぉー!誰にも言わないからー!』

『それじゃあいつか…教えるね?』

 

すべてアタシが奪ってしまった…樹が目指した夢も持ちたかった生き方も姉であるアタシがすべて。勇者として戦わせて、声を供物として捧げられて、せめてそれを知っていれば樹を勇者部には入れなかった。

 

(知っていれば…………アタシは………)

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

今まで溜め込んだものを吐き出すかのように叫んだ。アタシは勇者服を身につけてあることを決意した。

 

「大赦を潰す…………」

 

そこからアタシは跳躍し、大赦を目指す。心の中は黒く濁った怒りの感情で支配されていた。

 

(潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す!!!)

 

すると正面から夏凜がアタシに向かってくる。アタシの道を塞ぐ形でアタシの前に立っている。

 

「待ちなさい!風…あんた何するつもりよ!?」

「大赦を潰すのよ……」

「何を…言って…」

「だから!!邪魔するなぁーーーー!!!!」

「ぐっ………!」

「そこをどきなさい!!」

 

夏凜に対して大剣を振りかざす。夏凜もさすがに危険を感じたのか刀でそれを受け止めてくる。

 

「大赦は…アタシ達を騙してた!後遺症が治らないことを知っていながら……アタシ達が供物として勇者になることを知っていながら!アタシ達を!生け贄にしたんだ!!」

「そんな適当なこと!」

「適当なんかじゃない!アタシ達の前に犠牲になった勇者がいたんだ!」

「うぁ!」

 

夏凜の手が緩んだ隙をついて吹き飛ばす。

 

「くっ………」

「そして…今度はアタシ達の番…」

 

アタシが…アタシ自身が…最愛の妹の夢を打ち砕いた…。

 

「なんで!なんでこんな目に遭わなきゃいけない!!なんで樹が声を失わないといけない!」

「っ………」

「なんで夢を諦めなきゃいけない!!」

 

夏凜の持っている片方の刀を弾き飛ばす。体勢を崩した夏凜はそのまま地面に膝をついて崩れ落ちる。

 

「だから大赦を潰す!!もう邪魔しないで…これ以上邪魔するのなら怪我じゃすまないわよ!」

「どく……わけないでしょ……」

 

立っているのもやっとのくせに、夏凜はアタシにまだ刀を向けてくる。

 

「忠告は……したわよ…」

「っ…うう…」

 

そのままアタシは夏凜に大剣を振りかざす…しかしその刃が夏凜に当たることはなかった。アタシと夏凜の間には勇者服を身につけている洸輔がいた。

 

「…もう……やめてくれ…風先輩」

「洸輔……あんたも…アタシの邪魔を…するのかぁ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夏凜に振りかざされそうになった剣をギリギリのところで止める。

 

「…もう……やめてくれ…風先輩」

「洸輔……あんたも…アタシの邪魔を…するのかぁ!!!」

 

風先輩の顔は、憎悪や怒りそれらの負の感情に支配されていた。勇者部の部長をやっているときの風先輩は今はいない…。

 

「そこを!どけぇぇぇぇ!!!!」

「嫌です!!風先輩が誰かを傷つけている所なんて見たくない!!」

「こんなことが……許せるかぁ!!!」

 

風先輩が放ってきた斬撃をかわし、夏凜を抱き抱え一旦距離をとる。

 

「洸輔……」

「ごめん…遅くなって…でも大丈夫…あとは任せて…」

 

夏凜を少し離れた位置に横たわらせる。その隙を狙って風先輩が僕に剣を振り下ろしてくる。

 

「なんで……なんで邪魔するのよ!!大赦はアタシ達を騙してた!報いを受けて当然なのよ!!」

「そんなことわかってます!」

 

僕だって許せない、園子を騙しただけでなく…僕達勇者部のことを騙してた大赦は許せるわけがない…。

 

(でも!それでも!僕は!!)

 

「僕は…風先輩が誰かを傷つけている所を見たくない…だからあなたの前に立ってるんです!!」

「うるさい!うるさい!!全部アタシのせいじゃない!」

「そんなことない!!」

「だって知っていれば!アタシはみんなを巻き込まなかった!!」

 

風先輩は感情を爆発させながらも、僕に対する攻撃を緩めない。グラムでなんとか防いでいるが防ぎ損ねた攻撃がバリアに影響を与えていく。

 

(やっぱり…紛い物と本物じゃ差は出るよね…)

 

もう一撃でもくらえば…僕のバリアは砕け散る。その状態で一撃でも受けてしまえば致命傷どころの騒ぎじゃない。死だって覚悟しなきゃいけない。

 

(だから……だからどうした!!)

 

「そうすれば!!少なくとも樹は…みんなは…傷つかずにすんだんだぁぁぁぁ!!!!」

「うぉぉぉぉ!!!」

 

風先輩が振りかぶってきた大剣を僕もグラムで迎え撃つ。衝撃によって二人の距離が開く。

 

「風先輩…そんなのちがいます!」

「何が!違うんだぁぁぁ!!!!」

 

吠える先輩に対して僕は笑顔で答える。

 

「だって風先輩と…勇者部と出会わなければ、みんなとこんなにも楽しくて大切な思い出を作ることはできなかった…。確かに失ったものだってある…でもそれ以上にいろんなものを僕はもらいました…」

「ぁ………」

「だから…もう他人も自分自身も傷つけるのはやめてください…」

「う…うう…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

すると風先輩は剣を手から離して、涙を流しながら崩れ落ちた。そんな風先輩を僕は優しく抱き締める。

 

「なんでよぉ……どうして…アタシなんかの為に…そこまで…」

「風先輩が僕たちのことを大事に思ってくれているように…僕やみんなも風先輩が大事なんです…。」

「っ……」

「それに…あなたの妹は…誰よりもお姉ちゃんのことを大事に思ってくれてますよ…」

「え……」

 

風先輩の頭を優しく撫でながら…いつの間にかの背後にいた少女に役目を譲るため僕はその場から離れる。

 

「いつ………き…」

 

樹ちゃんは風先輩を抱き締めると携帯に言葉を打ち込み風先輩に見せる。

 

『わたしたちの戦いは終わったの。もうこれ以上何も失うものはないから』

 

自分の夢が潰えてもなお、打ちのめされず真実を受け入れた。樹ちゃんはメールに再度言葉を打ち込んでいく。

 

『勇者部のみんなに出会わなければ、歌いたいという夢も持てなかった。わたしは勇者部に入ってホントによかったよ』

 

「ごめん……ごめんね……いつきぃ…」

 

樹ちゃんの心からの祈りは風先輩に届いたのだ…。




次は前の番外編の続き出しましょうかね…?
UAとか感想とか一気に一万件とかいかないかな?(なわけ)





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番外編 決着?水鉄砲戦線!!(後編)

かなり勢いで書いちゃった( ̄▽ ̄;)
誤字や脱字があったりしたら報告お願いします。


レッドside(洸輔)

 

僕と夏凜は、弾薬(水)を補充し準備を整えておく。

 

「こっちは、戦力図的に考えてあっちより不利な状況ね。どう思う?洸輔?」

「そこなんだよね〜まさかこんなにも早くこちら側が不利になるとは思わなかったよ」

 

チームリーダーである風先輩は青チームの残虐な作戦のまえにその命を散らした。(死因、実の妹による裏切り行為によるもの)

 

「でしょうね……って訳であたしからの提案なんだけど、ここは別行動とるのはどう?」

「え?今、別行動は危険なんじゃ?」

 

相手の人数は僕達より多い。迂闊に動けば風先輩と同じ末路を辿ることになってしまう。

 

「だからこそ、よ。お互い別々に動いて各個撃破していって、残ったやつを二人で仕留めればいいのよ」

「あぁ〜、なるほど!さすが完成型勇者(笑)!」

「おい、まて。今、確実にあたしのことバカにしたでしょ?」

「えっ…………と〜そ、それじゃ!別行動で各個撃破ねぇぇぇ!」

「こんのぉ!あとで覚えときなさいよ!バカ洸輔ぇーーーーー!!!!」

 

話がまとまった(?)僕達は別行動をして各個撃破する作戦に切り替えた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜ブルーside(樹)〜

 

木を利用して身を潜めていると足音が近づいてきた。音がした方を見ると夏凜さんが警戒しつつこちらに歩いてきている。

 

(近接戦闘じゃ、勝てない。でも……)

 

私には、秘策がある。木を使い張り巡らされた糸に引っ掛かった瞬間に四方八方から水鉄砲が噴射するブービートラップ!(東郷先輩曰く別に罠作っちゃダメとは言われてないからいいわよね?ってことらしい)

 

(さすがの夏凜さんでも、これなら……って嘘ぉ!?)

 

夏凜さんは糸をなんなく乗り越えて私が隠れている木に弾丸を当ててくる。どういう、鍛え方をしたらそう簡単にトラップに気付けるのか…。

 

「そこにいたのね……樹」

『わたしが作った罠に気づくなんて、さすがですね。夏凜さん』

「東郷もそうだけど樹もけっこう頭脳派だからね。まぁ、トラップの知識はないと思うから、東郷に教わったんだろうけど……さてと、風の仇とらせてもらうわよ」

 

足音が、どんどん近づいてくる。額に汗が流れ、緊張感が空間を包み込む。

 

(わたしのいる位置から夏凜さんのいる位置ざっと40メートル程度なら…ここで出ていけば、夏凜さんは後退して、トラップに足を引っ掻けるはず!)

 

頭の中で勝利の方程式が完成し、それをすぐに実行に移す。

 

『チェックメイトです!夏凜さん!!』

 

しかし、水鉄砲を構えた先に夏凜さんはいなかった。わたしの背後から声がする。

 

「ええ、チェックメイトよ。樹……あんたがね」

 

(う、うそ……いつの間、にぃ)

 

背中にある的ごと体を弾丸(水)で撃ち抜かれて、そのまま地面に倒れ伏せた。

 

「バカね……。あんたが、あたしに勝てるわけないじゃないの」

 

青チーム、犬吠埼樹、脱落。残り二人。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

レッドside(洸輔)

 

相手の陣地の近くまで来たが、美森の遠距離から射撃に阻まれて中々前に進めないでいる。

 

(くそ、このまま隠れてるだけじゃ……今は誰もいないけどその内味方に合流されてしまう)

 

美森は車椅子に乗っているため、自由に動けるこちらよりも不利のはず、それを感じさせないほどの卓越した射撃技術、強敵としか言いようがない。

 

「一か八か、行くしかない!風先輩の犠牲を無駄にしないためにも!!」

「突貫……ふっ、貴方らしくない苦しい策ね、洸輔くん」

 

怪しげな笑みを浮かべた美森は容赦なく狙撃してくる。一発、二発と避けていくと狙撃が突然止む。

 

「まさか……こんな時に、弾切れ!?」

「運に見放されたね、この勝負、僕がもらうよ!!」

「ってならないわよ、洸輔くん?いつ私が水鉄砲を一丁しか持っていないと言ったのかしらねぇ」

「!?」

 

美森はどこからかもう一つの水鉄砲を取り出して僕に撃ってくる。突然のことだったため避けることには成功したが、転倒する。しかも、その転んだ先が…

 

「これで終わりね、洸輔くん。大人しく散ってちょうだい?私達の悲願(夏限定うどん)のためにも……」

 

的をつけてある肩の部分に銃口を向けられ、逃げ場がない状況に陥る。だけど、僕にだって秘策はある。

 

「所で、美森。武器を二つ持っているのが自分だけだとか思ったかい?」

「っ!そうはさせな」

「甘いよ!」

 

僕の肩につきつけられていた銃を弾いて、的がある胸の辺りに銃口を向ける。

 

「形勢逆転、だね。これで終わりさ、美森」

「っ……不覚」

 

僕は引き金を引いて美森にとどめをさした。

 

「あとは、友奈だけ」

 

青チーム、東郷美森、脱落。残り一人。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやー…自分から提案しといてなんだけど…みんなガチ過ぎない?」

『私も終わってから気づいたけど…確かにね…』

 

アタシ(敗者)達は日の当たらない所で休みながら残りのメンバーの戦いを眺めていた。

 

「あ、東郷だ…」

『東郷先輩やられちゃったんですか!?』

「ごめんね…樹ちゃん。まさか洸輔くんまで銃を二丁持っていると思わなくて…」

『しょうがないですよ( ̄▽ ̄;)。わたしのトラップも夏凜さんには通用しなかったですし…』

「そうだったのね…でも大丈夫よ樹ちゃん!まだ私たちの切り札が残ってるからね」

『そうですね!』

「切り札?」

 

アタシは言葉の意味がわからなかったので、まえの方で行われている戦いに目を向けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

レッドside(夏凜)

 

「っ…」

「勝負あったみたいだね…夏凜ちゃん!」

 

樹を倒したあと友奈を見つけたあたしは戦闘を挑んだが、それが仇となった…。もう銃の弾が…ない。ゆっくりと友奈の足音が近づいてくる。

 

(くそ!こんなところで!)

 

「夏凜!!」

「!」

「受けとれ!!」

 

洸輔が投げてきた銃をキャッチして友奈に向かって撃つ。突然のことに驚きながらも友奈は木の後ろに隠れて狙撃を逃れていた。

 

「ありがと…一つ借りを作っちゃったわね…」

「いいよ、礼なんてチームなんだから」

 

洸輔と二人で友奈が隠れた方へと銃を向ける。すると友奈が銃も構えていない無防備な状況で出てくる。

 

「どうしたんだい友奈?ここにきて戦意喪し…」

「二人は………私を打つの…?」

「「!?」」

 

無防備な状況で出てきた友奈はあたしと洸輔に向かって上目遣いと目を潤ませながら言葉をかけてくる。

 

「っ…卑怯だぞ……友奈…そんな顔されたら撃てるはずないだろ……」

「うん…ありがとう二人とも撃ってくれなくて…」

 

そう言った瞬間、友奈の銃から弾丸が放たれた。

 

「!…洸輔!避けて!!」

「うぁっ…!」

 

あたしが洸輔を庇うと放たれた弾丸はあたしの肩に貼ってあった的に命中した。

 

「夏……凜」

「…ふん…まぁでもこれで借りは返したわよ…」

 

そのままあたしは地面に倒れ伏せた。

 

赤チーム…三好夏凜…脱落…。

 

両チーム…残り一人……………。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夏凜がやられたところを見てアタシは感嘆の声をあげた。

 

「なるほど…確かにあれは切り札だわ」

『幼なじみで付き合いの長い洸輔さん…そして友奈さんに弱い夏凜さんからしてみれば強敵ですね…』

「自分で考えた作戦だけど…こう目の前で見ると恐ろしいわね…」

「アタシからすれば、ここまで人の優しさにつけ込んだ作戦を考えるあんたの方が怖いわよ…」

 

実際に似たような作戦でアタシもやられたしね…。

 

「そ、それよりも風先輩、残った二人の最後の決戦ですよ!」

「おもいっきし話そらしたわね…。でもこれでどっちのチームが限定うどんを食べれるか決まる!頼んだわよー!こうすけぇ~!」

『友奈さーん!がんばってーp(^^)q』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まさか…夏凜ちゃんが盾になるなんてね…。ホントは二人まとめて倒すつもりだったんだけど…」

「…………………」

「でも……これで一対一だね洸輔くん?…」

 

ゆっくりと友奈が僕に歩み寄ってくる。

 

「もう決着をつけよう?お互いの願いのためにね…」

「いいぜ…かかってきなよ…友奈!」

 

二人で銃を構えてお互いに相手の目を見ながら無言の膠着状態が続く…。次の瞬間お互いの銃口からほぼ同時に弾丸(水)が放たれる。

 

「うわぁ!…し、しまっ……」

 

僕はなんなくそれをかわす…しかし友奈は体勢を崩してその場に尻餅をついた。

 

(今がチャンスだ!!)

 

それを見て僕は友奈の方へと向かった。その途中で僕は何かに足を引っ掻けたような気がした。

 

「ん?いまなんか………あばばばばーーーー!!」

「ほぇ?」

 

急に四方八方から水がかかってきて溺れる僕、友奈はそれを見て間抜けな声を出した。当たり前だが服と的はびしょ濡れになっていた。

 

「えーと………勝ったぁ!のかな?」

「もう……なんか……どうでもいいや………」

「洸輔くん!?目が死んでるよ!?」

 

そして……僕は考えることを放棄した………。

 

結局の所、あの罠は樹ちゃんが仕掛けた罠であったため…青チームの勝利となった。

 

その日の帰り…青チームの皆様が無料券を使って限定うどん食べてるのを見ながら、僕達赤チームはしみじみと自腹でうどんを食べた…。

 

(僕は…………水鉄砲嫌いだなぁ…)

 

それから数日の間…僕は水鉄砲のことを恨んだのだった。




お気に入りもいつの間にか50近くになってましたね!こんな下手くそな文章を書く作者をお気に入り登録してくれてホントにありがとうございます!!

何気にゆゆゆ編はそろそろ完結しそうなのでそれまで頑張って突っ走ります!!


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23話 約束の御守り

お気に入り50突破!これも見てくれている皆様のお陰です!ありがとうございます!!


「洸輔くん…昨日はごめんなさい!」

「もういいってば友奈…なんだかんだ30回くらい謝られてるよ?僕」

 

 僕と友奈は日直の仕事中である。昨日駆けつけられなかったことについて友奈は相当気にしているらしく朝からこの調子だ。

 

「だって…家族との用事があったからって…」

「それなら仕方ないよ。それに風先輩ももう大丈夫だから」

「……ごめんなさい……」

「ほらまた謝ってる。はぁ…………てい!」

「痛!」

 

 あまりにも友奈のテンションが低いためチョップを一発くらわせる。

 

「いつまでもしょぼくれてないの。そもそも僕や風先輩は友奈のことを責めたりしないから、だからはよ立ち直りなさい」

「うう…ごめんなさい…でもやっぱりまだ謝り足りないよ!あと50回だけ謝らせて!!」

「どんだけ謝る気なの!?」

「あんたら…いつまで夫婦漫才してんのよ…」

 

煮干しを食べながら僕たちを待っていた夏凜がしびれをきらしてツッコミをいれる。

 

「ごめん夏凜。てゆーか夫婦って…」

「洸輔くんと……夫婦……………えへへ~」

「はぁ…早くしなさいよ…東郷が早退しちゃったから今日は三人で行くわよー」

「「はーい」」

 

 今日は美森が用事があると早退してしまったので、夏凜に促され三人で部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー!二年生三人一緒に到着しましたー!」

『こんにちは!みなさん!』

 

友奈の挨拶に樹ちゃんが笑顔でこたえる。すると横から風先輩が頭下げてくる。

 

「みんな…迷惑かけてホントにごめん!」

「……」

「特に夏凜と洸輔には何て言ったらいいか…酷いこと言っただけじゃなくて…剣まで向けて…ホントにごめんなさい!」

「えっと風先輩、顔あげてください。僕…怒ってませんから…」

「え?…なんで…?」

 

 風先輩はキョトンとした顔で僕に質問してくる。

 

「なんでって…そりゃ大赦が真実を言わなかったのが悪いし樹ちゃんが傷ついてショックだったことも僕やみんなは知ってますから」

 

(僕だって正直かなり怒ってるしね)

 

「それに風先輩の行動は樹ちゃんや僕達を思ってのことだし…まったく気にしてませんよ。ね、夏凜?」

「洸輔の言う通りよ。あたしも特に気にしてないから」

「二人とも…ありがとう」

「それよりも風先輩…そこにどうしても謝りたくて仕方のない子がいるので相手してあげてください…」

「?」

 

 僕が指を指した方向には、プルプル震えている友奈がいた。

 

「風先輩!昨日は駆けつけられなくてすいませんでした!」

「友奈…。こちらこそ心配かけてごめん!」

「いえ…こちらこそごめんなさい!」

 

 二人が謝りまくっていたので樹ちゃんは風先輩に、僕は友奈に対してチョップをあてる。

 

『お姉ちゃん落ち着いて…』

「友奈もだよ…。さっきも散々謝ってたんだから…」

「「ごめんなさい…」」

 

 謝り隊の二人がまた僕達に対して謝罪してくる。そこで風先輩が僕に質問を投げ掛ける。

 

「あれ?そいえば東郷は?」

「今日は用事があるって早退しましたよ」

「そうなんだ…東郷にも謝ろうと思ってたのに…」

『どんだけ謝る気なの!?』

 

 なんか先ほど見た…というよりも体験したような会話が聞こえるがここはあえて流しておく。

 

「それで…今日は何をするんですか?」

「えーとね…休んだりしてた部長が言うのもおこがましいんだけどね…部室の掃除しようかなぁって」

「ホントにおこがましいわね…。ま、部長の指示だからいちお聞いといてあげるけど」

「………………ツンにぼ………ふふ…」

「は?何かしらぁ?洸輔く~ん………?」

「え………………嫌なんでも…いでぇーーー!!!!」

 

やめて…掃除されちゃう……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 指示を出すとみんなは素早い動きで、掃除を始めてくれた。アタシは棚の上担当なので脚立にのぼり雑巾で棚の上部分を拭いていく。

 

(ホント…樹といいみんなといい…先輩よりしっかりしちゃってるじゃない…)

 

 いつの間にか頼もしくなった後輩達を微笑ましく思う。そんなことを考え込みながら脚立を降りていると足を踏み外してしまった。

 

(やばっ!?)

 

「風先輩!」

「っ…………」

 

 ぶつかると思い、衝撃に備えたが地面にはぶつからず何か温かい感触に包まれた。目を開くと洸輔の顔が至近距離にあった。

 

(!?!?!?!?!?!?!?)

 

「よかった、ギリギリだったけど受け止められて」

「…………」

「風先輩?」

「……ひぇ」

 

(お……お……おひめしゃま抱っこ!?)

 

 顔を真っ赤にしたまま動けなかった。こうやって洸輔の温度を感じるとどうしても手を握ってもらったときの事や抱き締めてもらったときのことを思い出してしまう。

 

(アタシって……案外チョロい女だったのかな?)

 

そんなことを考えているアタシの胸は大音量で高鳴っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お~い風先輩?」

「えっひゃっひゃい!何かひら!?」

「そろそろいいですか?」

「え…あ、うん…」

 

 何故か残念そうな風先輩を下ろすと…後方から寒気がする。そこには目をギラギラさせながらこちらを見ている友奈がいた。

 

(oh……次に言ってくる事が何か何となく分かった気がする)

 

「私にもやって!お姫様抱っこ!」

 

(デスヨネー!シッテマシタ!!)

 

「あ、あのー今のは危なかったからやっただけで狙ってた訳じやぉ…」

「ええー!いいじゃーんやってよぉ〜!」

「………あーわかったわかった、やってあげるってば」

「わーい!」

 

 

 友奈に近づいていき、そのまま体をひょいっと持ち上げる。正直自分の筋力に驚いた、女の子とはいえ同級生を軽々と持ち上げるとかどうなんだろう。

 

(あれれ〜おっかしいぞ?僕さっきまでほうき掃いてたはずなのになぁ?)

 

 疑問を持ちながら友奈を持ち上げるとお互いの目があった。

 

「……うぅ」

「……ぁ、あーっと?」

 

 何故か、お互い顔を赤くしながら硬直してしまう。友奈との見つめ合いタイムが始まった。

 

(可愛いのは知ってたけど……あれ、友奈ってこんなに可愛かったっけ?)

 

 久しぶりにまじまじと見た幼なじみの顔を見てそんな感想を抱いていると、横から裾を引っ張られそれにより意識が戻される。

 

「樹ちゃん?」

『次、私にもやってもらっていいですか?』

「ちょっ!樹!抜け駆けは許さないわよ!次はあたし!あたしよ!」

「えーっ!?もうちょっと!もうちょっとだけ!」

「だめよ、友奈。もうあんたは終わり」

『お姉ちゃんは一回やってもらってるからダメ』

「「そんなぁーー!?」」

「あのー、掃除は…?」

 

 僕の小さな声は受け流されてそのまま全員をお姫様抱っこした。(すごく恥ずかしかった)

 

 

 

 

 

 みんなで楽しく掃除(?)をしたあとはそのまま解散になった。今は友奈と一緒に帰路を歩いている。

 

「そういえば…」

「ん?どうしたの友奈?」

「洸輔くんにね…これ!渡そうと思ってたんだ!」

「これは?」

 

 そこには僕の勇者服と一緒の色をした押し花があった。

 

「洸輔くんをイメージして作ったんだよ。ちょっとした御守りみたいなものかな?何があってもそれが洸輔くんを守ってくれますようにって願いをこめて作らせていただきました!」

 

 謎に敬礼をしながら、とびっきりの笑顔で幼馴染はそう言った。あまりにも不意打ちすぎて反応が一瞬遅れたものの、嬉しいという感情を隠しきれなかったようで…。

 

「友奈……ありがとね。すごく、すごく嬉しいよ……」

「えへへ〜♪そんなに喜んでもらえると思わなかったから嬉しいなぁ〜」

「喜ばないわけないじゃないか。ありがと、大切にするよ」

 

 友奈からもらった押し花を大事に握る。御守りは夕日に照らされてすごく幻想的な雰囲気を纏っていた。まるで不思議な力でも宿ってるみたいだ。

 

「明日こそ、みんなで揃って部活したいなぁ〜」

「うん、また皆で揃ってね」

「……美森、心配だね」

「せっかくならこのまま東郷さんの家にも寄ってこうよ?」

「まぁ、顔出す程度ならいいか。よーし、じゃあいこか」

 

 次の瞬間、もう聞くことはないと思っていたはずのアラームがスマホから鳴り響いた。

 

「な、なんで?」

「えっ……なに、これ?アラームが鳴りやまないよ!?」

 

 僕と友奈は白い光に包まれて、樹海へとまた降り立った。

 

「これは、なんだ?」

「何…?この数?」

 

壁は抉られてそこから何か白い物体がどんどん涌き出ていた。スマホに目をやると壁側の方に僕と友奈がよく知る人物が表示されていた。

 

「美森…?」




まじでシリアスしかなくなってくるしもう一回番外編混ぜましょうかね~。(皆さんどう思います?)



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24話 天国と地獄

遅くなりました…理由は単純でリアルが忙しくなってしまったからです。

番外編は間らへんに挟みます(多分)。


銃を取り出して壁を破壊すると…星屑と呼ばれるバーテックスが神樹の方へと向かっていく。

 

(これで………みんなが救われる…)

 

「みんなが生き地獄を味わうくらいなら…こんな世界なくなった方がマシよ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

小さい頃、私は色んな史跡に連れていってもらい…私は歴史や文化に興味を持った。

 

母によると…私たち東郷家にも大赦で働ける素質を持っているんだとか。

 

もしかしたら私にも神樹様を支えらる力があるのかもしれない…もしそうなら嬉しいと母は言った。

 

 

 

 

 

「……ここは………?」

 

医者がいうには、事故によってここ二年ほどの記憶と足の機能が失われてしまったらしい。

 

母はその二年もしっかり生きていたと…自慢の娘だと…そう言ってくれた。車椅子での生活に慣れはじめた頃に親の都合で引っ越しが決まった。

 

「うわぁ………うちってここまでお金持ちだったっけ?」

 

新居の入り口を通って周りを見渡していると、外から声がした。

 

「すっごーい!見てみて洸輔くん!!お隣さんのお家すっごくでかいよぉー!」

「これは……すごいなぁ…ちょっと羨ましいかも…」

 

声がした方へ目を向けると、私と同年代くらいの男の子と女の子がいた。すると女の子と目があった。

 

「こんにちわー!もしかしてあなたがここの家に住むの?」

「えっ…ええ…」

「こらこら友奈…勝手に入っちゃだめだろ?ごめんね…突然」

「い、いえ…大丈夫…気にしてないから…」

 

女の子が一人で興奮しているのを男の子が止める。長い付き合いなのだろう、とても仲が良い。すると女の子が手をさしのべてくる。

 

「とにかく!これからはお隣さんになるからよろしくね!ほら洸輔くんも!!」

「まったく…人の話を聞かないんだから……まぁ僕からも宜しく。えーと…?」

「と、東郷です。東郷美森…」

「東郷さん!!かっこいい名前だね!!」

「確かに。凛とした君の雰囲気に凄くあってると思うな」

 

これが友奈ちゃんと洸輔くんに初めて出会ったときのことだ。それから二人には町の案内をしてもらったり桜を見に行ったりなど沢山の思い出を作った。

 

車椅子の状態でも、料理が出来るようになり二人にぼた餅を振る舞った。

 

「「これは!!」」

「まだ慣れてからそんなに経ってないから美味しいかわからないけど…」

「そんなことないよ!!できれば毎日食べたいくらいだよ!!」

「友奈と同意見です…将来東郷さんと結婚して毎日作ってもらいたいなぁ…」

「え……!?」

「あれ……?」

「………こうすけく~ん」

「ちょ、ちょっと待って!友奈!今のはそれぐらい美味しいと言う意味で……………ギィヤァァァァァァ!!!」

 

友奈ちゃんと洸輔くんが言ってくれた言葉は今でも覚えている。(洸輔くんのは直球過ぎた…)

 

みんな同い年なので攅洲中学に入学した。三人で入る部活に悩んでいると一人の先輩と出会う。

 

「あなた達が入る部活はここしかないわ!!」

「「「……………」」」

「あなた達が入る部活はここしかないわ!!」

「なぜ二回も!?」

「大事なことだからに決まってるじゃないの!そして…アタシは勇者部部長で二年生の犬吠埼風よ!!」

「ゆ、勇者部!?なんですかそれ!?気になりますーー!!」

 

勇者部とは人のためになることを勇んで実施するから勇者部というらしい。

 

友奈ちゃんは風先輩から話を聞いてさらに乗り気になった。私と洸輔くんも友奈ちゃんが乗り気ならと部活に入部した。

 

みんなで依頼をこなしていったり、勇者部五ヶ条を考えた。

 

そして早くも一年経ち…風先輩は三年に、私達は二年生になると、それと同時に一年生の女の子が勇者部に入ってきた。

 

「よ、よよよよろしくお願いします!」

 

風先輩の妹である樹ちゃんだ。部員が五人となり勇者部の活動がさらに活発化しはじめると私達は本当の勇者になった。

 

それから夏凛ちゃんも加わり六人になった勇者部は目標であるバーテックス十二体を倒すことに成功した。

 

しかし…この戦いが終わったときに私達を襲ったのが体の一部が不自由なるということだった。

 

そしてそれは…満開の後遺症だと先代勇者…乃木園子の口から語られた…私はもう一度話を聞くために大赦に向かった。

 

 

 

 

 

「来ると思ってたよ~わっしー……今は東郷さんの方がいいかな?」

「わっしーで構わないわ…。実際記憶のない二年間の間は私は鷲尾須美という名前だったのだから…」

 

調べてわかったことが私は記憶のない二年間は鷲尾須美という名前だったらしい。

 

鷲尾家は大赦の中でも随一の高い地位を持つ一族でそこに私が養子として引き取られたのだ。

 

「すごい~よく調べたね」

「……これも……散華の影響なのね?」

「うん…そうだよ。大橋での決戦の時にわっしーは記憶と足を失った…まぁ私はやり過ぎちゃってこんな感じになっちゃったけどね~」

 

包帯でほとんど見えない彼女の顔は苦笑していたように思えた。

 

「大赦はね…身内の人達だけじゃやっていけなくなって四国中を調べ周り勇者適正の高い子を探したんだ~」

「ということは…友奈ちゃんや洸輔くんと家が隣だったのは大赦に仕組まれていたからなのね…」

「適性値は友奈ちゃんは一番でこうくんは二番だったんだ」

「洸輔くんはそんなに適性値が高かったのね…」

「私も驚いたよ~大赦にとってもイレギュラーだったみたいなんだよね。本来男の子は適性があっても変身できない存在だし」

 

洸輔くんのことについてはまだわからないこともある。しかし神樹様が選んだから私達は勇者の力を得ているということでしか今は考えられない。

 

「…………どうして……私達なの………」

 

自然と目から涙が溢れてくる。あまりにも理不尽すぎると感じた。戦う力があるから選ばれたからという理由で供物にされる…そんなの辛いだけだ。

 

「わっしー……よく聞いてね。これから世界の真実について教えてあげるよ…」

「世界の真実…?」

「うん。壁の外…そしてこの世界の成り立ちについてね…」

 

 

彼女に言われた通りに結界の近くまで行くと足がすくんだ。

 

『結界の外に出てごらん…そうすれば神樹様が作っていた天国は消えて本当の世界が見えるはずだよ…』

 

言葉の意味はわからないが身体中に悪寒が走った。進みのを躊躇いながらも私は足を前に出す。

 

「………は?………」

 

結界の外に出るとそこは地獄のようだった。世界全体が炎で覆われていてそんな中を白い奇妙な物体が泳いでいる。

 

「あれって……洸輔くんと友奈ちゃんが倒したバーテックス…」

 

白い生物…星屑が集まっていくと一つの塊になっていく。その形はかつて勇者部で撃退したはずの大型バーテックスだった。

 

「……どんどん作られていってる…!?」

 

星屑がどんどん集まっていくと、十二体の大型バーテックスが形成されていっていた。

 

「結界の外は……崩壊した世界…」

 

先ほど言われた言葉を思い出す。

 

『西暦の時代…世界は天の神がバーテックスを使って人類を蹂躙した。それを止めるために人類に味方してくれた地の神様達が集結してできたのが神樹様…それと同時に防御結界を張られたの。そして大赦は…それを管理する組織』

 

「これを私達が迎え撃ち続けるの……?」

 

何度も何度も満開して………体の機能を失っていって……最後はみんなのことさえも……。

 

(まるで地獄じゃない!!)

 

結界から出たあと少しの間私はまともに呼吸ができなかった。真っ黒な絶望が私を包み込んでいく。

 

(考えなきゃ!考えなきゃ…………みんなを助けなきゃ!!)

 

そして私の中に……ある一つの方法が浮かんだ。

 

「あった……たった一つだけ……」

 

私は立ち上がって銃を取り出すと…それを壁に向けた。

 

(もう…この世界に救いはない…ならいっそのこと…)

 

覚悟を決めて私は引き金を引き壁を破壊した。

 

(私は…決めたの…)




シリアスって普通に難しいですね…。なんとなくだけど風先輩の番外編だしたいなぁ…


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IF番外編 止まらない止まらない

どうしてこうなった?ちょっと過激な感じになっちゃったけどいいかな?前にだした東郷さんのやつもまぁかなりあれだったけど……今回もかなり〜うん、まぁいいか!(思考放棄)


これはあくまで、もしもの話です。(本編にあったらヤバイから)


あと自分の欲望のままに書いた作品ですので…ちょっとこれないわぁーって思った方はすぐにブラウザバックしてくださいm(_ _)m


「ふぁ~眠いです~」

「さすがに量が多いわね〜……にしても、今日来れるのがあたし達だけとはね」

 

 夏休みの真っ只中、今日は勇者部の活動で演劇のシナリオを考える予定だったのだが。

 

 友奈と東郷は家の都合で来れず、樹は友達と遊ぶ約束をしていたらしく『こっちはいいから遊んでおいで』と言ったこともあり、今日は洸輔と私の二人しか部室にいない。

 

「やめとけばよかったかしら?」

「ま、二人でも出来る事はありますし損はないかと。それに、風先輩と二人きりっていうのも新鮮で個人的に楽しいですよ」

「……ふ、ふ〜ん」

 

 頬が熱くなるのを感じながらも、平静を装う。

 

 まぁ、そうなるのにも理由があって……直球に言おうか、アタシは洸輔の事が好きだ。勿論、目の前にいる少年を好きになったのには理由がある。

 

 とある休みの日のこと、私は買い物の帰りに明らかに危なそうな男にナンパされた。あまりにもしつこかったのできつめに断ると逆上した男は殴りかかってきた。そこで助けてくれたのが、洸輔だったのだ。

 

『あの、僕の大切な人に手を出さないでもらえますか?』

 

 今でもその言葉は鮮明に私の記憶に強く残っている。

 

 本人がどんな意味を込めて言ったのかはわからない。それでも……嬉しくてそんな言葉を言ってくれた彼を好きになったのだ。

 

(もしかしなくても、私ってちょろい?まぁ、だからこそね……さっきみたいな無意識に恥ずかしいことを言うのをやめてほしいかな。心臓に悪いし)

 

 ましてや今は部室に二人っきり。ホントはそれだけでも心臓がバクバクいってるのに、そんな言葉を掛けられたらどうなってしまうか。

 

「おーい?」

「……」

「風せんぱ〜い?」

「あ、ご、ごめんね。ぼーっとしてたわ、あはは」

 

 いつの間にか、目の前に来ていた洸輔の声で現実へと引き戻される。

 

(ちちちち近い!か、顔が近いってば!)

 

 余りにも顔の距離が近すぎたことに動揺し顔が熱くなる。同時に身体中にも熱が伝わっていくのを感じた。

 

「…?風先輩、顔赤いけど大丈夫ですか?」

「だだだだ、大丈夫よ!特に問題ないわ!」

「んー?ちょっと風先輩、前髪上げてください」

「こ、こう?」

「はい。じゃあそのままで」

「へ?」

 

 突然のことで思考が追い付かない。彼のおでこが私の額にあてられる。

 

「少し熱いかなぁ……って、あれ?風先輩?」

「……」

 

 瞬間、私の中で何かが弾けた。なんだろう、ふわふわする……頭、もうまく回らないや。

 

「体調が悪いなら保健室まで送りますけど……」

「大丈夫よ、それよりもう少しこっちに来てくれる?」

「は、はぁ…」

「ありがと〜それじゃあねぇ…えいっ」

 

 半ば襲いかかるように……私は彼を押し倒した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 風先輩が倒れ込んできた事により、僕も体勢を崩す。二人もつれるように床に倒れる。

 

「いってて……風先輩、いきなりなにするんです…か…?」

「あぁ〜ごめんごめん……ふ、ふふ」

 

 さっきまでの雰囲気とは違った異様な感じ。本能的に恐怖を感じ、尻餅をついた状態のまま後ろに下がっていく。

 

「ふ、風先輩?どうしちゃったんですか?」

「何がぁ…?どうも…しないわよぉ?」

 

 虚ろな瞳は僕を真正面から捉えている。後ろに下がっていくと同時に風先輩も四つん這いの状態で距離を積めてくる。まるで、獲物を見つけた獣のように。

 

「なんでぇ、なんで逃げるのぉ?洸輔〜?」

「べ、別に逃げてる訳じゃ……ひっ!」

 

 いつの間に壁際まできてしまったのだろうか。もう僕に退路はなかった。ジリジリと、妖艶な雰囲気に包まれた風先輩はこちらに詰め寄る。

 

「ふふ……もう、逃がさないから」

 

 一切の躊躇いなく、彼女は僕の制服のボタンに手をかけて一つ一つ外していく。すべてのボタンが外れると僕の上半身が顕になる。

 

「すご~い……結構鍛えてるのね?ふふ……ゴツゴツしてて男の子って感じ」

「な、んで?……こんなこと…だ、だめ…ですよ」

 

 風先輩の指が僕の上半身をゆっくりと伝っていく。その刺激によって吐息が漏れる。かろうじて抗議の声をあげるが、次の瞬間、風先輩に唇を奪われた。

 

「んっ!?」

「んむ……」

 

 突然のことに驚きを隠せない。風先輩の温度が口から伝わってくる……脳が麻痺してしまったかのように思考能力が働かない。

 

「ぷ、はぁ……美味し」

「だ…め…」

「ふ〜ん、まだ抵抗するんだぁ?」

「ど、どうして……こんな……ことを……」

「単純よぉ?洸輔……あなたが欲しいの。二人っきりのこの状況なら……独占できる。そもそも、洸輔が悪いんだからね?」

「ぅ……」

 

 本格的に思考が働かなくなっていく。もう風先輩以外のことを頭に思い浮かべることすら難しい。

 

 きっと、唇を奪われた時点で僕は風先輩の虜になっていたのだ。

 

 耳元に顔を近づけると、風先輩は艶かしい声で言葉を発する。

 

「あとはぁ〜ぜーんぶおねぇさんに任せなさい?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、数時間が経った。

 

 最初は抵抗をしていた洸輔だったが、徐々に抵抗しなくなっていき……今では当然のようにアタシの唇を受け入れてくれている。

 

(なぁんだぁ〜最初から、こうすればよかったんじゃない)

 

 幸福な気持ちでいっぱいになる。なぜ、今まで我慢していたのか今のアタシにはよくわからなかった。

 

「ふふ……まだまだ…終わらないからね」

「も、もっと…もっと、お願いです…風先輩」

「えぇ、いくらでもあげる。これからもっと……一つになるんだから…ね?」

 

 きっとあたしはもう戻れない。でも、戻れなくていい……と思ってしまった。何故なら、今が一番幸せなのだから。

 

(ああ……止まらない、止まらない)




過激すぎぃ!!(もうR18の方に入ってもおかしくないわ!)
でもこういうの書いてるときが一番生き生きしてる気がする(ただの変態)

なんか失言が多くてすいませんm(_ _)m

では本編でお会いしましょう!!


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25話 信じてるから

はい…前回私欲にまみれた番外編をあげました…こうがです。

そんなことはさておき!UAが8000を越えました!!嬉しい限りでございます!(^-^)

てかゆゆゆいつの間にか終盤ですな( ̄▽ ̄;)


「なんて数だ…………」

 

樹海化した空を覆い尽くす生物を見てそんな言葉が漏れる。スマホの画面を見ても正確な数は全くわからない。

 

(いったい何があったんだ…?)

 

「洸輔くん…東郷さんの所へ行こう」

「ああ、今はそれが最優先だね」

 

他の勇者部のメンバーとは離れているため、二人だけで美森がいる壁の方へと僕達は跳躍する。

 

壁の方まで近づいていくと、まるで抉られるかのように壁に風穴が空いていた。

 

(まさか………美森……)

 

嫌な予感がしながらも美森がいる場所にたどり着いた。

 

「東郷さん!!」

「美森!!」

「友奈ちゃん……洸輔くん……」

 

僕達の声に横顔だけをこちらに向けてくる。美森の前にある抉られた壁からは白い生物がどんどん涌き出ていた。

 

「東郷さん……まさか…これ…」

「壁を壊したのは私よ…友奈ちゃん…」

「なんで…こんな…」

「もうみんなを傷つけさせないためよ…洸輔くん…」

「東郷……あんた…自分が何をしたかわかってるの…?」

 

美森の言葉に対して呆然としているといつの間にか来ていた夏凛が美森に対して刀を向けながら立つ。

 

「……私は…やらなくちゃならないの…みんなのためにも!!」

「!?…待ちなさい!!」

「待って東郷さん!…洸輔くん!」

「ああ!」

 

二人を追いかけ跳躍すると、突然周りの景色が変化する。

 

「……なによ……これ…」

「……一体……何が……」

 

その景色を見て僕と夏凛は口々に呟いた。その世界は一面が赤い炎で覆われており、地獄を連想させた。

 

「これでわかったでしょ…?私たちが過ごしていた四国以外の世界はもう滅んでいる…そして延々と現れるバーテックスを私達勇者が止め続けなければならない…」

 

美森が指差した方向には先ほどの白い生物が大型バーテックスへと変化している所だった。

 

「だから決めたの…このまま果てのない苦しみを味わって大切な記憶も…大事だった友達のことも忘れてしまうくらいなら…この無限の苦しみからみんなを解放するために世界を滅ぼそうって…」

「東郷さん……」

「……………………」

「だから…」

 

涙を流しながら美森が僕達に銃を向けてくる。

 

「だから…邪魔はしないで…」

「……しないわけがないでしょ!」

「これしか…これしかないの…だから止めないで!」

「でも…あたしは大赦の勇者だから…」

「大赦は…あなたを道具として使ったのよ!?」

「と…東郷さん…」

「友奈!危ない!」

 

白いバーテックスがこちらに向かって突撃してくるのを短剣を投擲して防ぐ。

 

「っ…一旦引くわよ!友奈!」

「で…でも…東郷さんが…」

 

逃げた二人に対して完成したバーテックスは爆弾を放出していきその爆弾は二人に着弾した。

 

「二人とも!っ……!!」

 

気を失い落ちていく二人を助けるためその場から跳躍する。

 

しかしバーテックスから追撃として放たれた爆弾に二人を抱えていたため対応できなかった僕は直撃を受ける。

 

(……く……そ………みも……り…)

 

二人を守った結果ダメージを一身に受け僕は虚ろな意識のまま地面へと落ちていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

突然の樹海化…突然の敵…様々な疑問と恐怖に支配されアタシは動けなくなっていた。

 

(また……こうやって…)

 

みんなを巻き込んだ張本人であるアタシが怖じ気づいている。

 

「樹やみんなに……支えられてばっかりで…」

 

戦っている樹を見てアタシは前に言われた言葉を思い出す…。

 

『わたしはお姉ちゃんの隣に立ちたかった…だからこれからはお姉ちゃんの後ろを歩くんじゃなくて自分で歩いていきたい!』

 

(もう……とっくにアタシの前を歩いてるじゃないの…)

 

なら……そんな妹のためにアタシがすべきことは…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

動かなくなってしまったお姉ちゃんを守りながら戦っている。一体一体がそんなに強くないためなんとか踏みとどまっているが数が多い。

 

(めげてなんていられない!お姉ちゃんも今自分自身と戦ってるんだから!)

 

いつだってわたしの前を歩いて引っ張っていってくれたお姉ちゃん…ならお姉ちゃんが苦しんでいるときはわたしが守ろう。そう言い聞かせて自分の体を奮い立たせる。

 

(お姉ちゃんが復活するまで…わたしが守る!!)

 

しかし何体かのバーテックスの接近を許してしまい…口を大きく開けてわたしに襲いかかってきた。

 

(いつのまに……!?)

 

対応に遅れてしまったわたしはバーテックスによって体を噛み砕かれ…………なかった。

 

「アタシの妹に!手ぇ出してんじゃないわよ!!」

 

拳でバーテックスを吹き飛ばし、残りは大剣を使ってお姉ちゃんが倒してくれた。

 

嬉しさのあまりお姉ちゃんに飛び付く。

 

「おーよしよし…樹、大丈夫?…それと……ありがとね」

 

お姉ちゃんの言葉に笑顔で頷くと、いつものように笑顔で返してくれた。

 

「よし!アタシふっかーーーつ!!そいじゃ行くわよ!樹!!」

「!」

 

二人でスマホを使いみんなの位置を把握してから動き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うおおお!!」

「はあああ!!」

 

変身できなくなってしまった友奈を夏凛と一緒に迫り来るバーテックスから守り抜く。

 

少し前に目を覚ました友奈は変身できなくなっていた…戦う意思を見せなければ勇者には変身できない…。その影響だろう…。

 

「友達に合格とか失格とかないっての…」

「でも……私は……」

 

夏凛が声を掛ける中、僕は涙を流し続ける友奈の頭に手を置きながら質問する。

 

「友奈…君は…どうしたい?」

「私は…助けたいよ!東郷さんを!もし世界がなくなってしまったら洸輔くんや東郷さん…みんなとも一緒にいられなくなる…」

「僕も同じ思いだよ。その思いがあるのなら今は無理でも…きっと友奈は立ち上がれるさ」

 

友奈の答えを聞き満足した僕は彼女に背を向ける。すると夏凛が横にきて僕と肩を並べる。

 

「洸輔くん…夏凛ちゃん…」

「友奈…アタシもう大赦の勇者として戦うのはやめるわ…」

「……」

「これからは勇者部の部員として…戦うわ。友奈の泣き顔もう見たくないから…」

 

そう言った夏凛は、樹海の上の方へと登っていき僕も彼女を追った。

 

壁のある方を見ると視界を埋め尽くすほどの白い化け物と大型バーテックスが見えた。

 

夏凛の方に目をやると、スマホを見ながら優しい笑顔で微笑んでいた。

 

「何見てんのよ…」

「ああ…ごめん。最初来た頃に比べていい笑顔するようになったなと思ってさ」

「余計なお世話よ。それより良いの…?友奈の近くにいてあげなくて…」

「あれだけの強い思いがあるのなら僕がいなくても…友奈は絶対に立ち上がれる。そう信じてるから」

「信頼してんのね…」

 

夏凛の言葉に静かに頷く。僕達の存在に気がついたのかバーテックスがこちらに向かってくる。

 

「ほんと……数だけは一丁前に多いわね」

「そうだね…でも二人でやれば大丈夫さ!」

 

そう言いながら、夏凛に対して拳を向ける。意味を理解したのか夏凛は自分の拳をコツンとぶつけた。

 

「ふふ…そうね。それじゃバーテックス全滅させてさっさと東郷探しましょ!」

「ああ!行こう夏凛!」

 

すると夏凛は自分に渇をいれるかのように、大声を張りあげた。

 

「さぁさぁ!遠からん者は音に聞けぇ!近くばよって目にも見よ!これが讃州中学二年…勇者部部員!三好夏凛の実力だぁぁぁ!!!」

 

夏凛に感化されて僕も声を張り上げる。

 

「同じく!讃州中学二年、勇者部部員!天草洸輔!!人間たちの底力が何たるかを!貴殿らはこの投擲と剣技によって知ることとなるだろう!!」

 

お互いにバーテックスに対し啖呵をきりおえると、夏凛と同時に戦場へと躍り出る。

 

(満開に対して…恐怖がないわけじゃないでもみんなを助けるためなら!)

 

先ほど友奈がくれた押し花を握りしめ……叫ぶ。

 

「「満開!!」」

 

夏凛と僕の声が重ると、樹海化した世界に二つの花が咲いた。




あともう少しでゆゆゆは終わりそうだなぁ…(今アニメでいうと11話くらいのところですなぁ…)

てか明日は我らがそのっちの誕生日ですよ!さぁみんなでお祝いだぁ!!

それではまた!!


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26話 不屈の魂

誤字脱字があればご報告をお願い致します…。これから忙しくなるので投稿が遅れることがあるかもしれませんが…気長に待ってていただけると嬉しいです!!

もちろん感想はいつでもまってます!


「ここから先は!通さない!!」

 

 目の前にいた蠍の形をしたバーテックスに満開した状態の拳を叩き込む。

 

「消し飛べぇぇぇぇ!!!!!」

 

 左手でグラムを持ち、刃には爆炎を纏わせ刀身も変化させる。強力な威力を伴ったグラムは蠍型のバーテックスを焼き尽くした。

 

「行かせない!!」

 

 爆炎を纏ったグラムを視界いっぱいに広がるバーテックスに対して振るう。無数の白いバーテックスは一瞬で塵に還った。

 

「洸輔!!上よ!!」

「っ!」

 

 他のバーテックスと戦っていた夏凜の呼び掛けで咄嗟に横へと避ける。するとそこに無数の矢が降り注いだ。バーテックスはこちらに標準を向けてきている。

 

「こいつ…まさか!」

 

 危険を察知し、振り返るが少し遅い。背後にいたバーテックスが、先ほどの矢を反射させ、こちらに放ってきた。

 

「っ…………ぐぁ…!」

 

 殆どは回避したものの右腕が矢によって貫かれ、直撃をもらってしまう。痛みに顔が歪む。

 

「きさまぁぁぁ!!!!」

 

 夏凜が怒涛の連撃を、反射板を使っているバーテックスに叩き込むと耐え切れずに消滅した。

 

「ありがと、助かったよ夏凜」

「礼なんかいいわ。それよりも」

 

 お互いに周りを見渡す。正確な敵の数は未だ分からないが、一体でも神樹様の所にたどり着かれてしまえば世界が終わる。それはなんとしても避けなければならない。

 

「もうちょっと……気合い入れますか」

「え?」

 

夏凜は跳躍するとバーテックスに対して叫びながら攻撃を浴びせる。

 

「勇者部五ヶ条ぉぉ!!ひとぉぉつ!!なるべく!諦めない!!」

 

 夏凜の咆哮が聞こえる。その言葉を聞くと、自然と体の痛みがなくなっていく。身体中に力が沸き上がり、僕の闘争心を掻き立てる。

 

(……負けるわけには行かないね!!)

 

「勇者部五ヶ条!一つ!!よく寝て!!よく食べぇぇる!!」

 

 負けじと僕も声を張り上げながら、矢を放ってくるバーテックスと対峙する。放たれた矢を短剣とグラムですべて叩き落とす。

 

「落ちろぉぉ!!」

 

 怯んだ所を狙ってグラムを投擲し矢を放ってくるバーテックスを消滅させると、満開が解かれた。

 

 瞬間、頭にノイズが起こったと同時に左目の異変に気づく。

 

(左目が見えない…まぁ両方じゃないなら…今は!関係ない!!)

 

「勇者部五ヶ条!!一つ!!悩んだら!!相談!!!」

 

 落ちた先には、地面を泳ぎながら移動している魚のようなバーテックスがいた。もう一度満開をし、口を大きく開けながら接近してくるバーテックスに炎を纏った拳をぶちこむ。

 

「運が、悪かったね。今の僕は……少し、強いよ!!」

 

 怯んだバーテックスに対し、先ほどよりも威力を上げたグラムを投擲すると耐えきれずに消滅した。

 

(満開、体の一部を供物に捧げる……か。まるで、生贄みたいだ)

 

 ポツリとそんな呟きが漏れる。余分な考えを振り払う為、首を横に振る。グラムの刀身を伸ばし一気に白い化け物を蹴散らしていく。

 

「「勇者部五ヶ条!!ひとぉぉつ!!!なせば大抵!!なんとかなるぅぅぅ!!!!」」

 

 二人で声を合わせて、最後のバーテックスと白い化け物を殲滅する。

 

「おつかれ…夏凜」

「見たか!!勇者部の力ぁ!!!」

「……夏凜?」

 

 まるで、僕の声が聞こえてないかのように叫ぶ夏凜。次の瞬間、彼女の体は地面へと落ちてゆく。

 

「か、夏凜!」

 

 手を伸ばす。夏凛も手を伸ばすが、それは僕の手を握るた為のものではない。僕の背後を指差し、呟く。

 

 

「とうごう、たのんだ……わよ」

「っ!うん……わかった、行ってくる」

 

(目を背けるな!前を向け!だからこそ夏凜は…)

 

落ちていく夏凜の方を振り返らずに壁の方へと跳躍する。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「東郷ぉ!!」

 

 大剣が振るわれる。しかし、精霊がそれを受け止め私を守る。

 

「邪魔を、しないでください!」

「先輩として……部長として…あんたを止める!!歯ぁ食い縛んなさいよ、東郷ォォォォ!!」

 

風先輩の剣に弾き飛ばされた私は炎の世界へと落下していく…。

 

「これしか、これしかないの…」

 

 こんな生き地獄に洸輔くんや友奈ちゃん、みんなを、残したくない。

 

「だから…お願いです。どいて」

 

戦艦のようなものを身に纏い風先輩と樹ちゃんに対して主砲をむける。

 

「あんた…満開を」

「これ以上、邪魔をするのなら」

 

忠告するが…風先輩と樹ちゃんは私の前から退かない。

 

「退くわけ、ないでしょ!!」

「!!」

「なら……少し眠っていてください」

 

構わず主砲を発射する。風先輩と樹ちゃんは直撃を喰らい壁もその影響で壊れる。私は後ろを向いて完成した大型バーテックスをみる。

 

「私を……殺したいでしょ?さぁ、おいで」

 

 大型バーテックスは移動せず、その場所からいつか見た火の玉を発射した。

 

「これで………みんなは」

「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 風先輩の雄叫びも空しく火の玉はそのまま神樹様に向かって…

 

 

 

 

「「勇者ぁ!!パーーーーーンチ!!!!」」

 

突然火の玉にパンチを打ち込んだ二人を見て私は愕然とする。

 

「う……そ………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「二人とも戦っているのに、私は……」

 

 二人が満開して戦っている姿を見ていることしかできない自分が情けなくて仕方ない。拳を強く握り締める。

 

 やがて、バーテックスが消え去ると一つの影が力無くこちらへと降ってくるのが見えた。あれは……

 

(夏、凜ちゃん?)

 

「しっかりして!夏凜ちゃん!!」

「誰?この感じ、友…奈?」

「うん!そうだよ!!友奈だよ!!」

「よかった……洸輔のやつ、しっかりあたしの想いが伝わったのね」

「え…?」

 

 倒れていた夏凜ちゃんを抱き抱える。息絶え絶えと夏凜ちゃんは言葉を紡ぐ。

 

「ごめんね、友奈。目と耳もってかれて…あんたの声を聞くことも、顔を見る事すらもできないの」

「そんな、何で…そこまで」

「私ね、友奈や洸輔、それにみんなに伝えたいことがあったの」

 

 今にも消え入りそうな声を、絞り出すように夏凜ちゃんは続ける。

 

「ありがとう。私を、三好夏凜にしてくれて」

「……」

「誕生会を、居場所を、仲間をくれてありがとう。私、やっと私になれたと思った」

「夏凜、ちゃ…ん」

「アイツが、先に行ってる。あんたも…追いかけなさい」

「でも!!」

「私は、大丈夫だから。なんたって…完成型勇者だもん」

 

 そう優しく呟いた後、夏凜ちゃんは意識を失った。近くの木に横たわらせると、私は自分の頬を思いっきり叩く。

 

「ありがとう、夏凜ちゃん。行ってくるよ!!」

 

 少し先に洸輔くんの姿が見えた。体にダメージをおっているせいか体の動きが鈍い。

 

(洸輔くん…今行くから!)

 

 もう逃げない。私はもう一度、勇者になるんだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

(ヤバいな……体が、言うことを聞かない)

 

 ここで止まる訳にはいかないと鞭を打つが、動きは鈍くなるばかり…今にも意識が飛びそうになっていた。

 

(満開の負担もあるのか…?)

 

 一瞬でも気を抜くと、態勢を崩して地面に落下しそうになる。

 

(夏凜が託してくれたんだ、ここで終われるかっ…)

 

 限界も限界。想いも虚しく、僕の体は地面に向かって落下していく。

 

「つぅ……くそっ」

「おっとっと!よかった〜間に合った!」

 

 落ちる前に、誰かが僕に肩を貸してくれる。顔を上げるとそこには太陽のように輝く幼なじみの笑顔があった。

 

「信じてたよ、友奈。絶対に来るって」

「夏凜ちゃんと洸輔くんのお陰だよ、ありがとう。それと…動ける?一緒に東郷さんを止めなくちゃ」

「勿論、夏凜が頑張ってくれたんだ…僕も、やらなくちゃ」

 

 体はまだ痛むが、先ほどに比べたら大したものじゃない。顔を上げ、拳を強く握り締める。

 

(また、弱気になってた。情けない)

 

 いつぞやに見た火の玉がこちらへと飛んでくる。僕と友奈のスピードは速く、一瞬で火の玉の所へ移動し、二人で声を合わせて拳を叩き込む。

 

「「勇者ぁ!!パーーーーーンチ!!!!」」

 

 火の玉を消し去ると僕たちの方を見ながら呆然としている満開状態の美森が見えた。

 

「止めよう!私達で」

「うん。これ以上、みんなを、美森を、苦しませない為に」

 

 二人は救うべき者と対峙する。




わお……。ホントにもう少ししたらゆゆゆは終わりそうですね…。

リアルのことも頑張りながら見てくれてる皆様のためにもこちらもがんばんます!!


感想お待ちしておりまする!


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27話 戦いの終焉

「行かせるもんかぁぁぁぁ!」

「止まれぇぇぇぇぇ!」

 

相手の大型バーテックスからの攻撃を回避して僕はグラムを、友奈は拳を振るう。しかし、寸前のところで美森が放ってきた閃光に阻まれる。

 

「ダメよ!二人とも!!」

「やめてくれ、美森!そいつが、神樹様にたどり着いてしまえばこの世界がなくなってしまう!」

「いいの……、みんなで消えてしまいましょう?」

「東郷さん、そんなのダメだよ!」

 

叫ぶが、美森は聞く耳を持たず追撃を放ってくる。その一撃には容赦はない。

 

(もう一度……やるしかない!!)

 

友奈と、ほぼ同時のタイミングで満開する。

 

当に体の限界は越えている。しかしこれくらいしなければバーテックスも美森も止められない。

 

「そこをどけぇぇ!」

「はぁぁぁ!」

 

バーテックスに突っ込んでいった友奈の援護として周りに集ってくる白いやつとビームを撃ち落としていく。拳が叩き込まれると御霊が出現する。

 

「これを破壊すれば!」

「友奈!危ない!」

「ぐぁっ!!」

 

御霊に止めをさすことができずに吹き飛ばされる。堪らず友奈が叫んだ。

 

「東郷さん!何も知らずに過ごしている人たちもいるんだよ!私たちが世界を救うことを諦めたらダメだ!だってそれが」

「勇者だとでも言いたいの………?」

 

美森は涙を流しながら顔を歪めてこちらを見ている。

 

「それが……勇者だとでも…?他の人なんか……関係ないよ!そうやって守り続けた末に大切な人達との記憶や存在を忘れてしまうのなら…世界を守る意味も…勇者になる意味も存在しない!!」

「美森…」

 

美森の言葉を聞いていた内にバーテックスは御霊を隠してしまった。

 

「っ…御霊が…」

「もう手遅れなの…二人とも…もう諦めて!」

「手遅れな……もんかぁーー!!!!」

「そう……まだ!手遅れなんかじゃない!!」

 

二人で美森が放ってきたビームを拳で打ち消す。しかし美森は手を緩めずビームを乱射してくる。

 

「っ……」

「うう…」

「この生き地獄は終わらない……戦いも終わらず…最後は何もかもを失ってしまうの!」

「美森!!!!」

「っ!」

「地獄なんかじゃ……ない!!君も!みんなもいるだろ!!」

 

グラムを使って強引に弾くと美森に向かって叫ぶ。

 

「どんなに辛くたって!美森のことは僕達が守る!!」

「だから!その想いだって消えてしまうんだよ!?大丈夫なわけないでしょ!」

「ぐぁ!!」

「洸輔くん!!」

 

突然の集中砲火に対応が遅れ、地面に叩きつけられてしまう。なんとか友奈の支えのお陰で大ダメージは免れた。

 

「っ………」

「このまま世界を守って戦いを続ければ何もかもを忘れてしまう!それを……仕方ないの一言で済ませられる訳がない!!!だから…世界を壊すの…」

「っ……東郷さん…」

「…だい……じょうぶ…」

「なんで……どうして…」

 

美森の質問に対して、僕は笑顔で答える。

 

「……忘れないよ!だって、僕達がそれほど強く想っているから!むっちゃくちゃ強く想ってるから!!」

「そうだよ!東郷さん!消えたりなんかしない!この想いがあるかぎり!!」

「私たちだって………私たちだって!!そう信じてた!!」

「「っ…!」」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕と友奈は固まってしまった。その言葉はきっと…かつて美森が鷲尾という名だった頃のことを言っているのだろう。

 

「今は……ただ…ただ悲しかったということしか覚えていない!今流れている涙の理由さえもわからない!!そんなの……もう嫌だし…怖いの……だって…きっと洸輔くんや友奈ちゃんは私のことを忘れてしまう!」

 

僕にはその言葉に対して返せる言葉がない…。

 

(でも…この想いは!気持ちは!本当だから!!)

 

「行こう…洸輔くん…」

「ああ…僕達の気持ちだって本当だから…」

 

二人で美森の元まで跳躍する。横を見ると友奈は拳を握りしめている。

 

(ああ…なら僕は…)

 

「行けぇ!!」

「うおぉぉぉ!!!」

 

僕が友奈へと向けられていた主砲のビームを一身に受けている間に、友奈が横からすり抜けていく。

 

「東郷さん!!」

「っ……」

 

友奈が美森の抵抗を避けて殴る。友達を殴りたくはなかったのだろう…歯を食い縛っていた。しかしすぐに優しく抱きしめる。

 

すぐさま僕も彼女達の元へ向かう。

 

「忘れない…忘れないよ。絶対に…」

「嘘……」

「嘘じゃないよ」

「嘘よ!」

「嘘じゃない!!!」

「……本当に…?」

「ああ、本当だよ」

 

友奈が強く抱きしめてあげている美森の元まで歩み寄り彼女の頭に優しく手をのせゆっくりと撫でた。

 

「大丈夫、僕達がずっと側にいよう。そうすれば嫌でも忘れないさ」

「……二人、とも……ごめん、なさい」

「大丈夫、洸輔くんの言う通り大丈夫だから……安心して、東郷さん」

 

友奈に手招きされ、自分も混ざる。二人で美森を包み込むように抱きしめた。ゆっくりと美森の目からは涙が流れ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美森の説得を成功させ、次に行うべきである敵バーテックス撃破へと向かう。そこに広がっていたのは『絶望』そのものと呼ぶべき光景が広がっていた。

 

「なに、あれ……」

「こんな…ことって」

 

三人の視線がある一点に向けられる。大型バーテックスが一纏まりの大きな火の玉を纏っている所だった。誰だってわかる事だった、あんなものが樹海を削り取ってみろ、現実に莫大な被害が出るのは明白だ。

 

「友奈!美森!」

「うん!」「ええ!」

 

二人に呼び掛けて太陽のような大きさの火の玉を止めようとする。

 

「っ…このぉ!!!」

「…押されて……る…」

「まだ…まだぁ……っ…」

 

僕の横で支えていた友奈が満開が解けて落ちていく。

 

「友奈ぁ!!!」

「友奈ちゃん!!!」

 

手を伸ばそうとすると僕の満開も解け始めていた。両足から力がなくなっていく。

 

(っ………まだ…まだぁ!)

 

咄嗟に満開を発動してもう一度体に力をいれる。突然掛けていた叡知の結晶にヒビがはいりはじめた。

 

(ああ…くそ…ヤバイかもね…自分のことは自分が一番よくわかるって言うけど…ああ…どんどん記憶が薄れてってる)

 

「こ、このままじゃ…」

 

横から美森の弱々しい声が聞こえる。僕は声を張り上げる。

 

「こんな、ところで!!終われるかぁぁぁ!!!!」

「ナイスガッツよ!!洸輔!東郷!!」

「「!!」」

 

後ろから風先輩と樹ちゃんが満開した状態で飛んできて、二人もそのまま押し返してくれる。

 

「後輩達ばっかりにいい格好させないわよ!」

「風先輩…」

「お帰り!東郷!!」

「っ…………はい!!」

「さて…行っくわよー!!」

「!!」

 

一気に人数が増え、太陽の動きが鈍くなってゆく。しかしそれでも止まらない。

 

「くそぉ!四人掛かりでも無理なわけぇ!!」

「そこかぁぁぁぁぁ!!!!!」

「夏凜!!!」

「勇者部の力!!なめるなぁぁぁぁ!!!!」

 

満開した状態で目も耳も使えないはずの夏凜が後ろから現れて太陽を両手を使って止める。

 

「これでもかぁ!!!」

「!!」

 

更に夏凜が加わり、太陽は更に減速する。しかし相手側もそれに対して対抗してくる。

 

「ふざ…けんじゃないわよ!まだパワー上げてくるっての!?」

「っ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(諦めない!世界を…壊させたりなんか…しない!)

 

『それでこそだ』

 

(!?)

 

『すまない…当方の不手際のせいで、辛い思いをさせてしまったようだ』

 

(よくわからないけど、謝罪はいいです。それより、もっと力を貸してください!皆を助けるために!)

 

『無論だ…当方はそのためにまた貴公の元に戻ってきたのだから…だが…いいのか?力を貸すことは構わない…しかしそれは貴公の散華に拍車をかけることになるぞ?』

 

(構いません…もう僕の覚悟は決まってます…)

 

『承認。かつては武器だけを与えたが今回は我が存在のすべてを賭け貴公を助けよう。さぁ行くといい』

 

(……ありがとう、シグルド!)

 

 

 

 

 

 

 

 

心の中で彼の名を呼ぶと、体に雷鳴が迸る。満開とは比にならない程の力が体全体へと湧き上がってくるのを感じる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……守ってみせるさ」

 

感覚が完全に途切れていた両手に、もう一度力を込め手を伸ばす。全身全霊、この後倒れようが意識が飛ぼうが知った話ではない。今は、やるしかない。

 

「よーし!勇者部!!!!」

『ファイトォォォォ!!!』

 

全員の力は重なり合って一輪の花となり、太陽の進行を完璧に止めた。

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

後ろから咆哮を轟かせながら友奈がバーテックスへと飛んでいく。

 

「私は!!讃州中学勇者部!!」

 

その姿をみて、皆で叫ぶ。

 

「友奈ぁ!!!」

「友奈ちゃん!!」

「友奈!」

「友奈!!」

『友奈さん!!!』

 

「勇者!!!結城友奈!!!!!」

 

『届けぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!』

 

瞬間、視界が白い光に包まれる。先程までに僕に宿っていた力は消えて…叡知の結晶も砕け散った。

 

「これでいいんだ、これ、で……」

 

弱々しい呟きを漏らし、最後の意識を手放した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あれから数日が経った。

 

アタシたちの戦いは夢物語なんかじゃない。実際にそれは現実の世界に影響を及ぼしている。

 

夏凜からの連絡を受けて海岸にやってきた。合流し二人で砂浜に腰をかける。

 

「大赦からの連絡は一方通行のままよ。返信もできなくなってるし…」

「きっと…アタシたちは神樹様に解放してもらったのよ」

「なるほど…もう必要ないってことね」

「なにぃ?目標がなくなって不満?」

「なわけ…ないでしょ」

 

二人で軽口をたたいて笑い合う…こういうときに実感する。アタシたちは日常を取り戻したのだと…。

 

「樹の声…もとに戻ったのよね?」

「うん…声が出せるようになってほんとによかった…」

「東郷の足もよくなってきてるって聞いたけど?」

「ええ。良くなってきたから今日は自分の足でお見舞いにいくって言ってたわ」

 

そう答えると夏凜の顔が曇る。すると静かに問いかけてきた。

 

「ねぇ風………?なんで…あの子達だけ…治らないの?」

「あの二人は頑張りすぎちゃったから…」

「どんなに守るためだからと言っても…自分を犠牲にしたら意味がないでしょうに…」

 

それだけ言うと夏凜は拳を強く握った。

 

(二人とも……早く戻ってきなさい…皆…待ってるんだから)

 

アタシは願いを込めながらそう心の中で呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

長い間車椅子で生活していたため、一歩一歩を踏み込むのが苦しい。

 

(やっぱり…足を使ってなかった分を取り戻すのはきつそうね…)

 

そんなことを考えていると…ある病室に着いた。その部屋の札には『天草洸輔様 結城友奈様』と書かれている。

 

ドアに手を掛けてゆっくりと開いた。

 

「こんにちは…今日も来てくれたんだね。東郷さん」

「うん…こんにちは、洸輔くん…それに友奈ちゃんも」

 

そこには後遺症の影響で未だ体の一部の機能と記憶を失ってしまった洸輔くんの姿と、魂のみが抜け落ちてしまったかのような顔をした友奈ちゃんがいた。

 

私の親友達は、今だ回復の兆しをみせていない…。




長かった…そして悩んだ…多分おかしなところとかもあったりするかも知れないのでそこらへんはご報告お願いします!

あと遅れてすいませんでした!!


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28話 終わらない明日へ

ゆゆゆ編最終回!


「それで今日も風先輩がおかしなことを言い出して」

 

私は『二人』のいる病室で、今日起きたことを話している。これが、ここに来た時の日課になっていた。

 

「こんにちは〜ごめんね、遅くなっちゃって」

「お、お邪魔します」

「……入るわよ」

「あ、三人ともこんにちは。今日も皆で来てくれたんですね、嬉しいです」

 

洸輔くんは優しい声と言葉と共に頭を下げる。その姿をみて、私の胸がずきん、と傷んだ。

 

私達に対してフレンドリーに接してくれていた彼は今はいない。

 

「あ…あの、」

「ん、どうしたの?樹さん?」

「その、二人のために…押し花、作ってきました。良ければ、その、受け取ってください」

 

樹ちゃんの指は微かに震えている。『二人』からの拒絶に怖がっているのではなく…きっともっと違うものに、彼女は怖がっているのだ。どうしてか、自分にはそう思えてしまう。

 

「ありがとう、うれしいよ。樹さん」

「よかった…あ、それと友奈さんにも…」

 

樹ちゃんは優しく友奈ちゃんの膝の上に押し花を置いた。それでも、友奈ちゃんの目は虚ろのまま、虚構をただただ眺めている。

 

「友、奈……」

「っ……ちくしょう」

「ごめん、なさい…私が、二人を…」

「東郷、それ以上は言っちゃダメ」

「っ………」

「皆で話し合って…決めたでしょ?誰も、悪くないんだって」

 

その場にいた全員が、表情を曇らせた。皆で決めた事、皆悪くない、悪くないのだ……だけど、どうしても…私は。

 

「なんか、悲しい…」

「…え?」

「あ、その…すいません。なんか皆の辛そうな顔を見てたら…ものすっごい悲しい気持ちになりました」

「っ…」

 

その言葉は紛れもない洸輔くん自身から出た言葉なんだと思った。

 

私たちは面会が許されている時間まで二人の側に居続けた。

 

(早く…戻ってきて…二人とも…)

 

そう願うことしか私にはできなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

何もない…ただただ暗い空間に僕はいた。

 

(ここ…どこだろ?死んだ…のかな?)

 

辺りを見回して見ても何もない…。果てのない灰色の空が続いているだけだった。

 

(みんなは…友奈は…無事かな?)

 

様々な疑問が浮かび上がってくる。しかし周りは見渡す限りは闇と灰色の空だけ。途方に暮れていると、少し先の所に僅かに灯った炎が見えた。

 

(なんだろ……あれ)

 

すがるように火に向かって動き出す。小さく消えそうな灯火を両手で優しく包み込む。

 

(温かい。それに……どこか懐かしい気がする)

 

瞬間、火は眩い光を放って離れた。同時に目の前には優しい笑みを浮かべた長身の男性が現れた。

 

「あなたは……シグルドさん?」

「ふむ、こうして直接話すのは初めての気がするな。天草洸輔」

「なんで、あなたがこんな場所に……」

「ああ、最後の仕事が残っている。貴公をこの空間から連れ戻すという仕事がな」

「でも、あの時シグルドさんはすべてを使い果たしたって……」

 

鮮明には覚えていないが、確かにシグルドさんの力はあの時…全部消えた。だが、どういう訳か彼はこうして僕の目の前に立っている。

 

「使い果たしたとも。それと同時に君の中から、私は消えた。しかし、残っているものはある。つまり、貴公が話しているのは当方の残り火ということだ」

「の、残り火……」

「む、わかりにくかったか……すまない、当方はどうも説明が下手でな。詳しく伝えたい所だが、時間がない、先を急ぐぞ」

「えーと……はい」

 

無言で暗闇の中を歩いて行くと先の方に一筋の光が見えてくる。その光の中からは聞き覚えのある少女の泣きじゃくる声が聞こえた。

 

「この声って……美森!?」

「貴公とはここで別れだな、さ、行くといい」

「あっ!ちょ、ちょっと待ってください」

「?」

 

僕の言葉に対してシグルドさんは首を傾げた。そんな彼を他所に、拳を前に突き出す。すると、僕に力を貸してくれた大英雄さんは困ったような顔をこちらに向ける。

 

「今まで、ありがとうございました。あの時、シグルドさんは僕に不手際がどうとか謝ってきたけれど、そんなの気にしませんよ!だって貴方は、僕に皆を守る力をくれたんですから!」

「フッ……貴公は本当に当方が見込んだ以上の男だったらしい。こちらこそありがとう。当方が生前できなかったことを成し遂げてくれて」

 

最後の言葉がよく聞き取れなかったが、僕とシグルドさんはお互いの拳をぶつけた。彼は優しげな笑みを最後まで崩す事なく、背を向けると反対方向へと歩き出した。

 

(ありがとうございました、シグルドさん。貴方の事!僕忘れませんから!)

 

大英雄の背中を見届け、僕は光の中を走り出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「勇者は傷ついても傷ついても決して諦めませんでした」

 

今、私が読んでいるのは次の演劇で使う台本だ。病院の中庭にあるベンチで、車椅子に乗った友奈ちゃんと横に座っている洸輔くんに読み聞かせる。

 

「すべての人が諦めてしまったら…この世に悪が栄えてしまうと思ったからです」

 

今日まで来る日も来る日も二人のお見舞いに出向いた。

 

「勇者は自分が挫けないことが、皆を励ますのだと信じていました」

 

みんなの後遺症は治っていって……あとは洸輔くんと友奈ちゃんだけだった。

 

「そんな勇者をバカにするものもいました。それでも…勇者は挫けませんでした」

 

いつだって、太陽のような笑顔で私や皆を照らしてくれた友奈ちゃん。

 

「皆が次々と魔王に屈し…勇者は一人ぼっちになってしまいました。一人ぼっちになっても勇者は諦めませんでした…」

 

どんなときでも、側にいて守ってくれると誓いそれを守ってくれた洸輔くん。

 

「諦めない限り……希望が終わることはないから…それでも…それでも…私は…」

 

今まで溜め込まれていた涙が溢れだす。涙で台本がくしゃくしゃになっていく。それでも涙は止まらなかった。

 

「それでも…ぅぅ……私は…大切な…二人の友達を…失いたくない…」

 

いつの間にか溢れだした感情は止まらず、溢れ出す。

 

「やだぁ…やだよぉ……寂しくても……辛くても…ずっと一緒にいてくれるって…言ってくれたじゃない…」

 

台本に顔を埋ずめて私は泣きじゃくる。二人のことを思い浮かべる度に心が締め付けられる。

 

 

 

 

 

 

 

突然……私の両腕を温かい感触が包んでいった。

 

 

 

 

 

 

「っ…!?」

 

 

 

 

 

 

私が顔を上げると涙を流しながら私の方を見ている洸輔くんと友奈ちゃんの姿があった。

 

「ああ…ああ!もちろん。これからも一緒さ、美森」

「私たちは、いつだって……側にいるよ」

「ぅぅ……友奈ちゃん!洸輔くん!」

 

二人の手を強く握る…。両手から伝わる温度にまた涙を流してしまう。

 

「聞こえてたよ…ずっと。東郷さんの声も…みんなの声も…」

「…ずっと呼び掛けてくれてたね、本当にありがとう」

「本当に…本当に…よかったよぉ……おかえり…おかえり!二人とも!」

 

すると二人は顔を見合わせて笑顔で私に答えてくれた。

 

「ただいま、東郷さん」

「ただいま……美森」

 

秋の風が、そんな私たちの頬を優しく撫でた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

僕と友奈が勇者部に復帰して数日がたった。

 

風先輩と夏凛の眼帯は取れて、車椅子生活だった美森は地に両足をつけて歩くようになり、樹ちゃんは声が戻ったため今は歌手になるという夢を歩み始めている。

 

僕と友奈も徐々に体の機能が戻っていき、学園祭で行われた演劇も大成功を収めた。(多少アクシデントが起こって友奈が転倒したりしたけど、特に怪我はなかった)

 

その後にみんなで撮った写真を見て僕は微笑んだ。

 

(みんな…本当にいい笑顔だな…)

 

あの戦いは確かに辛いことばかりだった…。でも僕はそれだけじゃないような気がした…得たものもあったのではないかと…。

 

(ま、そんなに深く考えてないんだけどね)

 

 

「コラー!洸輔!しっかり話聞いてんの!?」

 

そんなことを考えていると風先輩からお叱りを受けてしまった。

 

「も、申し訳ないです…」

「たく…最近腑抜けてんじゃないの?洸輔ったら」

「そういう夏凜さんも…この前遅刻してきませんでしたか?」

「ち、ちが!あ、あれは…そう!ヒーローは遅れてやって来るってやつよ!」

 

最近では樹ちゃんが、夏凜を弄ることが多くなってきた。もうどっちが上級生がわかったもんじゃない。

 

「にぼっしーちゃん!言い訳は良くないよ!そこは素直に認めなくちゃ!」

「そうよ、夏凜ちゃん。大和撫子として自分の罪は受け入れるべきよ」

「ちょ…なんでいつの間にか私が説教受けてるわけ…?」

「あんたら!アタシの話を聞けーーー!!!」

 

友奈と美森が夏凛を焚き付けて、それに対して風先輩がギャーギャー言っている。

 

とても騒がしくて楽しいこの空間が僕は大好きだ。

 

もしかしたらここから先にも何か理不尽な現実や悪意が僕たちを襲ってくるかもしれない…。

 

(でも皆がいれば大丈夫…)

 

そうして今日も僕や勇者部の皆は穏やかで優しい日々を過ごしていく。

 

この終わらない明日が続く世界を……。




ここまで付き合ってくださった読者様にまず感謝感謝を!

かれこれ1ヶ月は書き続けてきましたが…まさかここまで色んな方に観覧していただけるとは正直思ってませんでした!(いろいろと読みづらかったりしたかもしれないのに…)

ゆゆゆ編はこれにて閉幕………しませんのよ…これが!
散々後半はシリアス書いてたのだ…ほのぼの回書いていきますよぉー!

皆様がくれた感想やお気に入り登録!すごく励みになりました!(ほんまあざっす!!)

もうのわゆ編を書くことも決定していますので…そちらも読んでいただければ幸いでございます!


長文失礼いたしました!それでは最後にもう一度ゆゆゆ編の最後まで見ていただきありがとうございました!!


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29話 参上!乃木園子!

まずはUA!10000突破ありがとうございます!もう嬉しすぎて…枕に勇者パンチしまくりました。見てくれている皆様にはホントに感謝です!ファンの皆様…お待たせいたしました!ついに転校してきますよ!園子が!


 すべてが終わっていつも通りの毎日が戻ってきた。

 

 僕や友奈は退院が遅かったため、たまに検査をしにいかなくてはならないが、特に問題もなく。

 

「それにしても…美森はすごいフットワークが軽くなって機敏になったよね」

「うん!お陰で朝起きが捗るよぉ~」

「友奈ちゃんや洸輔くんには助けてもらってばっかりだからね。私もこれくらいはするわ」

 

 こうして歩いて通学出来ている。僕と友奈の、リハビリも兼ねているのだ。

 

「まさか、そんなに背が大きかったとは。男として…軽くショック……」

「分かる〜!東郷さんって私よりも背が高いから時々ドキッとしちゃうもん」

「そんなことないわ。洸輔くんに至っては、そんなに大差がないと思うし」

 

 雑談をしながら歩いていると、僕達の目の前に黒い高級車が急停止した。

 

「おぉ、なんだろ?」

「大赦の印がついた車……?」

「友奈、美森を守って」

「え?う、うん」

 

 もしかしたら、壁を壊した美森を連れて行こうとしているのではないのかと考え、警戒し身構える。

 

 しかし、車の中から出てきた人物は僕達の不安を一瞬で打ち消した。

 

「こうく~ん!!!」

「げぼぁ!?」

 

 詳しくは飛び出して来た、が正しいのだが。

 

「そのっち!?」

「ふぇぇ~!乃木園子さん!?」

「園子でいいよ~。ゆーゆ~。そしてわっしー!そうだぜ!そのっちだぜぇ~」

 

 二人の驚く声が聞こえる。所で僕の顔面に当たっているこの柔らかいものは一体なんでしょうか?

 

「そ、園子!?こ、ここ!通学路だから!は、はよ離れて!」

「何を言ってるんだいこうく~ん?満足するまで堪能してええんよ~。だってあの時私のこと抱き締めてくれたじゃな~い」

「「!?」」

 

 園子が言葉を放った瞬間、すっごーい寒気がした。

 

「ふふ……そのお話は後でじっくり聞くとして……所でェ、洸輔くんはいつまで、そのっちの胸部に頭をくっつけているのかしら?」

「少し待つんだ美森!これは明らかに不可抗力で……」

「え~そんなことないでしょ~♪だって顔擦り付けてるじゃ~ん」

「さて、と。体鈍っちゃってるから少し瓦割りでもしようかなぁ〜あ、そうだ、洸輔くんも(割られるの)手伝ってよ」

「何を!?明らかに瓦以外の何かを割ろうとしてませんかね!?てか…園子はこじれそうなことを言うなぁ!!」

 

(さっきまで平和だったのに……)

 

 朝から頭痛が止まらない僕なのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜場所は変わって教室〜

 

「zzz〜」

「登校の初日に寝るなんて、ホントにそのっちみたいね」

「げ、元凶がすやすや眠りおってぇぇ…」

「ま、まあまあ。その話はもう私たちも納得したから」

 

 僕の決死の説得により二人は引き下がってくれた。もし一言でも間違えていれば、いや考えるのはよそう。恐ろしすぎる。

 

「え?ちょ?な、何これ!?」

 

 夏凜が園子を見るや否や大声を上げて驚いていた。

 

「あ、やっぱり。夏凜ちゃんも知らなかったんだ」

「美森も知らなかったみたいだったしね〜」

「ホントに驚いたわ……」

 

 僕達が各々の反応を示しているように、クラス内からも様々な会話が聞こえてくる。

 

「凄いきれいよね~お人形さんみたい!」

「だってあの神樹館よ…お嬢様よ!」

「うらやましい~…あの髪質とかどうやってんの…」

「あ~道理で風格があると思った~」

「結局天草の嫁候補が増えただけだろ…はぁ~」

 

 クラスの皆が園子に対しての感想を述べている。あと、最後に関しては抗議の声をあげたい。嫁って……。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 放課後の部室にはいつも通りの面子が集まっていた。そこには……。

 

「というわけでぇ~勇者部入部希望のぉ~乃木園子だぜぇ!」

 

 新たな部員が加わり、更に賑やかになっていた。

 

「リハビリもある程度済んだので通学することになりましたぁ~。みなさんこれからよろしくね~」

 

 彼女は相変わらずの間延びしたトーンで皆に向かって挨拶する。

 

「またそのっちと勉強できるなんて…」

「うん~。居眠りしちゃったらごめんねぇ~」

「まったく。居眠りはダメよ?そのっち」

「と、東郷がいつもより真面目……」

 

 美森のお母さんのように園子を叱っている所を見て、風先輩が困惑していた。

 

「ですねー。でも、そんな美森も新鮮でいいと思います」

「も、もう……洸輔くんったら///」

 

 照れる東郷を見て園子は思った。

 

(ほぉ~そんな気はしてたけど……やっぱりそうなんだねぇ~。ふふふ、創作意欲が湧いてくるよぉ~)

 

 園子は小説を書くのが趣味なのである。

 

「ほんじゃ改めて、よろしくね。乃木さん」

「乃木とか園子でオッケーですよぉ~。部長」

「おお!さっそく部長と呼んでくれるなんて!どっかの誰かさんとは大違いね〜?」

「誰かさんってのは……アタシのことかしら?犬部長?」

 

 ジト目で風先輩を見ながら夏凜が、近づいてきた。その表情はあからさまに風先輩を煽っている様子だった。

 

「あ~三好さん~お兄さんにはお世話になったよぉ~」

「え、えと、その……こ、こちらこそ兄がお世話になりまして…」

「敬語じゃなくていいよ~同い年なんだし。私もにぼっしーって呼ぶから~」

「おいこらぁ……誰よ、それ教えたの!?」

「酷いもんだねぇ……夏凜が嫌がってるのに!誰ー?教えたのー?」

「?、こうくんが教えてくれたよね?」

「なるほどねぇ……ちょっとお話ししましょうか?洸輔クン?」

「あ、えと、その、あのね?(グキッ)いやぁぁぁぁぁ!!」

 

 夏凜からのお話(物理)を聞いていると樹ちゃんが園子に自分から声を掛けていた。

 

「あ…あのい、犬吠埼樹です!よ、よろしくお願いします!」

「は!?い、樹が…自分から…初対面の人に挨拶している…」

「何泣いてんのよ…あんた」

「い、いだい……いだいでふ、夏凜様」

「ほ、ほら、夏凜ちゃんもうそこらへんで」

 

 騒がしい上級生たちを、よそに樹ちゃんは園子とファーストコンタクト中である。

 

「うん~よろしくね~いっつん!」

「い、いっつん?」

「ごめんね、樹ちゃん。そのっちは変なあだ名をつけるのが好きなの」

「そ、そうなんですか…」

「いいじゃなーい、いっつん!」

 

 そんなこんなで雑談をしながら過ごしていると時間は過ぎていき、夕方になっていた。次の活動からは園子も本格的に加わることになり…勇者部は7人になった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 私はマンションに住んでいるため、こうくんや勇者部のみんなとは逆方向に家がある。そこでわっしーが「流石に一人で帰らせるのは危ないので護衛をお願い」とこうくんにお願いして、今はこうくんと二人で歩いて帰宅している。

 

「わざわざありがと~。こうくん」

「いいんだよ、園子みたいに可愛い女の子が一人でいたら危ないしね」

「突然そういうのはずるいと思うよ?こうくんのお馬鹿さん」

「……ん?怒られた?」

 

(わっしーも気を使わなくてもいいのにね〜)

 

 多分わっしーは、今まで体が動かなかった私に気を使ったのだろう。もうあの時のことはいいって言ってるのに~。

 

「そうだ、こうくん!おんぶしてよ!おんぶ!」

「唐突だね、まぁいいけどさ。それじゃ、ほい」

「ありがと~こうくん」

 

 背中に乗っかると、こうくんの体温を直で感じた。前に抱き締めてもらった時のあの感覚を思い出す。

 

(温っかいなぁ……安心)

 

「こうくん」

「どうしたの園子?」

「ありがとうね、何度もお見舞いにきてくれてさ」

「別に気にしなくてもいいよ。園子のためだから。それに約束したしね、絶対に会いに行くって」

 

 戦いの後、こうくんは記憶や体の機能失ってしまい治るのに時間が掛かったらしい。後遺症とか、心配事も色々あったはずなのに。

 

 こうくんは、すぐに私の所に来てくれた。松葉杖をつきながらも、私に会いに来てくれたときはホントに嬉しかった。あの時もそうだったけど、こうくんからはわっしーとは違った安心感があった。

 

「ねーこうくーん」

「なんだい?」

「えっへへ~呼んでみただけでした~」

「ふふ、なにそれ」

「ん〜♪こうくんの背中は乗り心地がいいですぞぉ~」

「それはよかったですね、お嬢様」

 

 マンションに着くまで、こうくんの体温を感じ続けた。

 

(ライバルは多いけど遠慮しないよぉ~、私、割と欲張りだもん)

 

 一人心のなかで、そう呟いたのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 二人で他愛もない会話をしながら、歩いていたらいつの間にか園子が住むマンションの前についた。

 

「はい、着きましたよ。お嬢様」

「うむ。善きにはからえ」

 

 そんな小芝居に自分たちでやっておきながら、二人で笑ってしまう。

 

「それじゃーね、園子」

「あ、ちょっと待って!こうくん!」

 

 別れの挨拶を済ませて、僕が帰ろうと体の向きを変えると園子がこちらによってくる。微かに頬が朱に染まっている気がするのだが……気のせいだろうか?

 

「園子?」

「えっとね、ここまでおんぶしてくれたお礼、してもいいかな?」

「いや、別に気にしなくてい」

「いいから〜ちょっと目をつぶってて?」

「あ、は、はい」

 

 言われた通りに目を瞑ると、次の瞬間、僕の頬に温かく湿った感触が触れた。僕はその感触がなんなのかを理解し顔を赤くする。

 

「ちょっ…え?そ、園子さん……?」

「こうくんも結構大胆だからね、園子もちょっと大胆になってみたんだぜぇ~」

 

 嬉しそうに微笑んだ園子は自分の唇に人差し指を当てた。その仕草に心臓が高鳴る。

 

「これは……二人だけの秘密なんよ」

「は、はいっ!」

「それじゃね~こうく~ん」

「う、うん、ば、バイバイ??」

 

 僕は顔を赤く染めたまま10分以上の間そこから動けなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜その日の夜、友奈宅〜

 

 

「むぅ~………」

 

 今日はなんだか落ち着かなかった。園ちゃんと洸輔くんが仲良くしている所を見ると心がざわざわした。

 

(嫉妬、してるのかな?)

 

自分の携帯に手を伸ばす。すると私は自然に指が動いて彼に電話を掛けていた。

 

「ねぇ?洸輔くん?明日って用事あるかな?」




見てわかる通り、次は友奈とのデート回を予定しております!

正直みんな可愛いので、みんな目立たせたいってのが作者の願望です!

それではまた!


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30話 いつまでも傍に

お気に入り!60件!ありがとうございます!!
そして断空我さん!評価ありがとうござます!

えー今回の内容は……もうお前ら付き合っちゃえよって感じの内容になってます。

そこらへんを含めてご覧ください!


「行ってきます」

 

自宅のドアを開けて外に出る。今日から二日間の間、両親は実家に里帰りするため家には僕一人である。(誘われたけど用事があったので断った)

 

「はぁ~何気に家に一人って寂しいんだよなぁ…」

 

隣の家に向かって歩きながら、そんなことを呟く。すると家の前に幼なじみの少女が立っていた。

 

「おはよ!洸輔くん!」

「おはよう、友奈」

「それじゃ…行こっか!」

 

友奈はそう言うと、素早く僕の手を取って歩きだした。

 

「ちょ…友奈…」

「いいの!私が手を繋ぎたいんだから!」

「はぁ…まったく…」

 

相変わらずの幼なじみの行動にため息をつく。

 

昨日、突然僕は友奈に誘われて一緒に遊園地へ出掛ることになった。

 

(まぁ…友奈と二人で過ごすのも久しぶりだし…これくらい許してあげよう…)

 

そう心の中で呟き、僕も友奈の横にならんで歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地に着くと、二人とも何だかんだでテンションが上がっていた。

 

「さぁ!全力で楽しもう!洸輔くん!」

「うん。来たからには楽しまないとね!」

「よーし!それじゃあまず!あれいこう!」

 

そう言って友奈が指差したのは、絶叫系のアトラクションだった。

 

「ふぇ!?」

「あれ?どうしたの洸輔くん?」

「いや…大丈夫…行こうか…」

「うん!行こう行こう!」

 

ー絶叫体験中ー

 

「う………うっぷ」

「洸輔くん…大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ……ぅぅ」

 

嘘です…ごめんなさい…僕…絶叫系は割と真面目に苦手な方なのだ。しかし…友奈のあんなに楽しそうな顔を見たら断れなかった。

 

「落ち着くまで背中擦ってあげるね!」

「ありがとう…友奈…」

 

ああ…僕の幼なじみはホントによくできた子だ。涙が出てくる。ある程度落ち着いたので友奈に声を掛ける。

 

「ふぅ~とりあえず落ち着いたよ…ありがとね」

「よかったぁ!それならもう一個乗りたい絶叫系があるんだ!」

 

(マジか( ̄▽ ̄;))

 

「二人で乗れば絶対に楽しいよ!」

「よーし!もうこうなったらとことん楽しんじゃうぞぉー!!!」

「おー!!!」

 

やっぱり友奈の笑顔には勝てず、僕は半分ヤケクソの状態で叫んだ。

 

まぁ実際、友奈と一緒に乗れば何でも楽しいので途中から余り気にならなかった。アトラクションを乗っている間も僕と友奈はずっと手を繋いでいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

(ひゃー………すごいデートっぽい~。自分から誘っておいてなんだけど…さっきから凄く胸がドキドキしてるよ~)

 

一人で考え込んでいると、洸輔くんに声を掛けられた。

 

「で、友奈。次はどうする?」

「え~と…あ!あれとかどうかな?」

 

私が提案したのは、射的系のゲームコーナーだ。景品の中には可愛いぬいぐるみがあり、それは私の目を一瞬で奪った。

 

「可愛い~!洸輔くん!私あれ欲しい!」

「確かに可愛いね…てゆーか牛鬼に少し似てる?」

「あ、ほんとだ!似てるかも!」

「ちょっと難易度高そうだけど…大丈夫?」

「大丈夫!なせば大抵なんとかなる!」

 

………って言ったはいいけど

 

(何で…全然当たらないーー!!!)

 

あまりの射撃技術の無さに、自分で驚く。たまに当たったりはするけど…ぬいぐるみはビクともしなかった。

 

「ぅぅ……当たんないよぉ」

「友奈、もう少し腰を引いてみ」

「こ、こう?」

「そうそう。あとは…」

「!?」

 

すると洸輔くんの行動に私の胸がさっきまでとは比にならないほどに高鳴る。洸輔くんは私を包み込むような態勢で優しく銃を持っている方の手を握った。

 

(はわわわぁーーー!これじゃ射的どころじゃないよぉー!!)

 

「美森ほどの射撃技術はないけど…ガンシューティングとか結構好きだから…少しくらいならアドバイスできるよ」

「そ、そうなんだ……」

 

外身ではかなり平静を装っているが…今にも頭から蒸気が出てきそうな程、私は動揺していた。

 

(だめだぁ…色々言われてるけど…体が密着しすぎてそれどころじゃない~)

 

「そこで………引き金を引く!」

「は、はい!」

 

放った弾はぬいぐるみのど真ん中に当たり…そのまま後ろへ倒れていった。

 

「よし!やったね!友奈!」

「………………」

 

店員さんから景品のぬいぐるみを受け取って、私はそれに顔を埋めた。その様子に洸輔くんが心配そうに顔を向けてくる。

 

「友奈?大丈夫?」

「………洸輔くんの……バカ…」

「なんか怒られた!?」

 

(………洸輔くんは卑怯だよ…。…ぬいぐるみよりもよっぽど嬉しいものを私もらっちゃったよ…)

 

私は真っ赤っかになった顔を隠すように、ぬいぐるみをギューっと抱き締めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふぃ~ちょっと疲れたし休憩しようか」

「そうだね~結構いろいろ乗ったしねぇ~」

 

射的が終わったあと僕達は制覇を目指し様々なアトラクションに乗った。ノンストップでここまで動いたため二人ともヘトヘトだ。

 

「僕、飲み物買ってくるよ。友奈は何が欲しい?」

「リンゴジュース!」

「了ー解」

 

笑顔で答えた幼なじみに僕も笑顔で返す。

 

店でリンゴジュースを二つ買って戻ってくると…友奈がチャラチャラした男たちに絡まれていた。

 

「君、一人?」

「可愛いね~。ねぇねぇお兄さんたちと遊ばない?」

 

ビックリするほどテンプレセリフにため息がでる。確かに友奈は、お釈迦様もびっくりするくらいに可愛いからナンパしたくなるのもわからなくはない。

 

「あ、えと……」

 

しかし…そういうのはしっかりと本人の意思も尊重してほしいと僕は思った。

 

「申し訳ない。彼女嫌がっているので…お引き取り願えませんか?」

「は?」

「なんだてめぇは?」

「この子の彼氏です」

 

最初は言おうか迷ったが、言った。できればここら辺で引き下がってほしいと僕は全力で作り笑いを浮かべている。

 

(ま、腹の底は煮え滾ってるけどね)

 

「おいおい…お前が彼氏?随分と釣り合ってねぇな?ほらお嬢ちゃんこんなガキとは縁きって俺らと遊ぼうぜ」

「洸輔くんを悪く言うのはやめてください!」

「おーおー怖い怖い。まぁまぁ嬢ちゃん絶対に楽しませてあげるから…」

 

男はそう言うと、友奈に手を伸ばした。その行動に僕の中で何かが切れた。

 

自分で言うのもなんだが、僕は基本的には怒ることがない。普段はずっと温厚だ…でも僕だって人間…絶対はない。

 

「このがき!邪魔すんじゃ…」

「てめぇが………邪魔なんだよ…」

「あ?い…いっでぇぇぇ!!」

 

相手の手を掴んで、そのまま捻る。かつて友奈のお父さんに仕込まれた体術を使う。普段は出さないドスを効かせた声を男二人に放つ。

 

「…消えろ…これ以上僕の大切な人に手を出すのなら…容赦はしない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとした事件が起きたが、それ以外は特に何もなく遊園地で楽しむことができた。今は二人で帰路を歩いている。

 

「ふぅ~楽しかったぁ!また行きたいね、友奈?」

「うん、洸輔くん。今日はありがと」

「こっちの台詞だよ。ありがとね」

「あと…ごめんね…洸輔くん。嫌な思いさせて…」

「それに関しては友奈のせいじゃないでしょ?気にしない気にしない」

 

友奈はまだあの一件を気にしているらしい。僕としてはもう過ぎたことなので気にしなくていいと思うのだが。すると友奈の次の言葉は僕の度肝を抜かせた。

 

「そうだ!お詫びと言ってはなんだけど!今日家に泊まりにおいでよ!」

「へ?」

 

あまりの爆弾発言に思考が止まる。しかし友奈は有無を言わさず僕の手を引っ張って走り出した。

 

「確か…今、洸輔くんって家に一人でしょ?そんなの可哀想だし…だから私の家に泊まりなよ!」

「ちょ!ちょっと友奈ぁーーー!!!」

 

 

 

場所は変わって友奈宅…。

 

「お邪魔しまーす……」

「どうぞぉ~自分の家みたいに寛いでくれていいよー」

「それより…君の両親は大丈夫かな?かなり動揺してたけど…」

「多分大丈夫だよ」

 

先ほど僕が泊まることを友奈が両親に説明し終わった際に、友奈母は「私のことはこれからお義母さんと呼びなさい」と言ってきたり…友奈父に至っては目のハイライトが消えてずっと虚無を眺めていた。(阿鼻叫喚の世界…)

 

夕飯を食べさせてもらったときも、両親の目は僕の方を向いていた。(まったく落ち着かなかった…)

 

そんなことを考えていると、友奈に声を掛けられる。

 

「それじゃ、お風呂入っちゃおうか」

「うん………………うん?」

 

(今………この子は何と言った?)

 

「えーと…友奈?もう一回言ってくれる?」

「お風呂!入ろう!」

「………………」

 

僕は…………一体どこのラノベの主人公なんだろうか…。

 

※都合のため会話のみを再生しています。

 

「相変わらず洸輔くん…。筋肉すごいねぇ」

「そ、そうかな?」

「そうだよぉ~それじゃあ、お背中流しますね~」

「あ、ありがとう…」

「………前もやる?…」

「そ、それは自分でやる!」

「顔赤くしちゃって~洸輔くん可愛い~」

「っ~~!!」

「じゃあ私の体を流してよ」

「ふぁ!?」

 

てな感じでお風呂タイムは終わった。今まで生きてきてここまで心臓が止まりそうになったのは初めてだ。まぁ今の状況もかなりのものなんだけど…。

 

「ねぇ………友奈?」

「何?洸輔くん?」

「何で…僕らは同じ布団の中にいるのかな?」

「それはしょうがないよぉー。予備の布団がなかったんだから」

「いや…それでも」

「もー、えい!」

「!?」

 

思いっきり友奈に抱きつかれる。只でさえ距離が近くてドキドキしているのに、その行動でさらに胸が高鳴る。

 

「あったかーい…」

「ちょ…友…」

「よかった…ホントによかった…」

「友奈?」

 

友奈の顔を見ると目に涙を浮かべていた。僕は突然のことに、言葉を失う。

 

「あの戦いの時……もうダメなんじゃないかって…もう洸輔くんと一緒に楽しく過ごせる日が来ないんじゃないかって…思ってた……」

「………………」

「でも……またこうやって…洸輔くんと一緒に…遊んだり話せたり触れたりできてる…それが嬉しくて…」

「…友奈…」

 

僕は友奈の目から流れている涙を拭う。そして彼女を強く抱き締めた。

 

「僕も…僕も嬉しい。こうやって…友奈に触れられてホントに嬉しい」

「洸輔くん…」

「大丈夫だよ…友奈…。これからも僕は君の傍にいるから…」

「うん…ありがとう…洸輔くん…」

 

そこから二人の間には言葉はいらなかった。ただただお互いの温度を確かめるように僕たちは抱き締めあった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

洸輔くんの温度を感じながら思う…。多分…昨日私が感じたのは嫉妬もあるだろうけど…不安だったのだ。またいなくなってしまうのではないかという不安だった。

 

(でも……そんなこと気にする必要もなかったみたい…)

 

今日で、私の中の不安はなくなった。洸輔くんの寝顔を見ながら呟く。

 

「私も……ずっと傍にいるよ…洸輔くん…」

 

私は大好きな幼なじみの体を抱き締め眠りについた。




付き合っちゃえよ…お二人さん…。

はい!!というわけでいかがでしたでしょうか?できれば感想もらえるとうれすぃです!

あとお知らせなのですが…次はのわゆの序章的なの書こうと思ってます!そこんとこよろしくです!

それではまた!!


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31話 とある日にて

今回は犬吠埼姉妹に焦点を当てました!

あと前回にのわゆ編の序章みたいなの書くみたいなこと言いましたが…それは次の回にすることにしました!ご了承ください!

それではどうぞ!


『雨と温度と匂い』

 

 

「うひゃ~ホントに降ってきた~」

 

 失敗した……朝の天気予報で雨が降るって言ってけど、買い物に行った帰りにまさか降ってくるとは。

 

 近場のコンビニに避難できたが間に合わず……お陰で服はびしょ濡れ。なんという不幸か……日頃の行いはいい筈だけど。

 

「たく~タイミング悪すぎだっての……」

「あれ?風先輩?」

 

 ぶつくさと文句を言っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「洸輔?どうしたのよ、こんなところで?」

「まぁ、ちょっとした買い物です。それより、風先輩…びしょ濡れですけど大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫大丈夫!こんなのへい……へっくしゅ!」

 

 強がったのはいいがやっぱり寒かったらしく、くしゃみが出た。

 

「やっぱり寒いんじゃないですか。駄目ですよ?無理しちゃ」

「あっ、ちょっ」

 

 冷えた体に何かを羽織られる。触れてみると先ほどまで洸輔の着ていた上着だった。

 

「濡れてるって事は傘も持ってないんですね。なら、僕が家まで送りますよ」

「い、いいって。そこまでしてくれなくても」

「いいえ、もう決めたことなので送らせていただきます!」

「強情ね、じゃ、じゃあお願いするわ……」

「喜んで!あ、荷物も持ちますよ!」

 

 笑顔で承諾した後輩を見て、私は顔を下に向けて呟いた。

 

「だから……その顔はずるいってのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人で一本の傘に入りながら道を歩く。いわゆる相合い傘というやつである。

 

(お、落ち着きなさい、落ち着くのよ、犬吠埼風。これは送ってもらってるだけ……送ってもらってるだけなんだけど)

 

 先ほど羽織ってもらった上着から感じる温度に顔が熱くなる。

 

(本人は何気なくやってるんだろうけど、そういうのが一番……)

 

 顔を上げると、不意に目が合ってしまう。視線を外そうにも、洸輔が目を逸らさずこっちをじーっと見てくるせいで外そうにも外せない。

 

「あ、あのぉ…洸輔?その、そんなにまじまじと見られると…恥ずかしいというか…」

「……風先輩って、美人ですよね」

「ぴぇ!?」

 

 突然の誉め言葉に動揺してしまう。ましてや目があった状態で言われたため…只でさえ紅潮していた顔がさらに赤くなる。

 

「きゅ、急にどうしたのよ!?急に!?」

「あ、いや…遠巻きからでもわかるんですけど…近くでみるとより一層美人にみえるっていうか」

 

(狙ってないのよね?これで……?)

 

 そんなことを考えていると…ある違和感に気づいた。

 

「ねぇ、アタシの方だけ範囲広いけど…大丈夫?」

「え、えーと〜はい!大丈夫ですよ!」

「嘘おっしゃい!体の半分くらいびしょ濡れじゃないの!」

 

 洸輔の方を見ると体の半分くらいが傘からはみ出て、びしょ濡れになっていた。

 

「だ、大丈夫ですよ!これくらい!」

「つべこべ言ってないで!もっとこっち寄る!」

 

 無理やり洸輔の体をこちらへと寄せる。さっきなんて比にならないほどにお互いの体が密着する。

 

「あ、あの……風先輩。やっぱり、離れた方が」

「ダメ、離れないで……」

「へっ?」

 

 その時、私自身も何でそんな行動をとったのか……自分でもわからないが自然と洸輔の服の裾を掴んで、こちらへと体を引っ張った。更に距離は縮まり密着する。

 

「ふ、風先輩!?」

「お願い……何も、何も言わないで」

「……わかりました」

 

 お互いに無言のまま、帰路を歩いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 二人で顔を赤くしながら、歩いていたら……いつの間にか犬吠埼姉妹が住んでいるマンションに着いていた。

 

「えっと、風先輩?着きましたよ」

「あ、ああ…ご、ごめん」

 

 僕が目的地に着いたことを伝えると、風先輩は名残惜しそうに手を離した。

 

「そ、それじゃ、僕はこれで」

「ちょ、ちょっと待った!」

「…な、何でしょう」

「その……ありがとうね。ここまで送ってくれて」

 

 優しい表情を浮かべ、風先輩はお礼をしてくれた。それに対し、僕も笑顔を浮かべる。

 

 

「お礼なんていいですよ。僕が好きでやった事なんですから」

「ふふ、あんたのそういうとこ、ホント好きよ?」

「え……」

「あ……」

 

 突然の言葉に思考が止まる。次の瞬間、風先輩があたふたしながら先ほどの言葉を訂正する。

 

「あ、えと…今のは!後輩としての好きね!?た、他意はないから!」

「で、ですよねー!あはは………で、では僕はこれで!!」

「う、うん!ばいばい!」

 

 手を振って、風先輩と別れる。恥ずかしさからか顔が熱い。

 

(上着、返してもらうの忘れてた)

 

 帰り道の間、僕の顔の熱が冷めることはなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ~何言ってんだろなぁ〜私」

 

 自分の部屋のベッドに横たわりながら、呟いた。

 

(あ、上着…返すの忘れてた)

 

 ベッドから起き上がって、上着をかけておいた椅子の方に近づいていく。

 

「ん、割と肩幅広いのね…あの子」

 

 先ほどは、いろいろなことがありすぎて意識してなかったが改めて見るとそんなことを感じた。

 

「……ちょっと、ちょっとだけ」

 

 上着に顔を埋めると匂いがした。その匂いに私の思考が溶かされる。謎の背徳感が、私の脳を支配する。

 

 これは、うん…良くない。

 

(ああ、やっぱり…私は)

 

 私は、あの子の事を───

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

『料理教えます!』

 

 

「さて、と!樹ちゃん、準備はいいかい?」

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

 とある休日、僕は樹ちゃんに頼まれて料理を教えることになった。どうやら日頃お世話になっているお姉ちゃんのためにデザートを振る舞いたいだそうだ。

 

 ちょうど風先輩も同級生の女の子達と出かける用事があったらしく、今日という日に日程を決めたのだった。

 

 ちなみに何で僕に頼んできたかというと、友奈が「洸輔くん料理上手だよ!」って言ったからだそうな。

 

「あのー、一つ聞いてもいいかな?」

「はい、何でしょう」

「ホントに僕でよかったの?正直、僕なんかより美森の方が、教え方も料理も上手いから今からでも美森に頼んだ方が…」

 

 どうやら僕の質問がお気に召さなかったらしい。樹ちゃんの頬が膨らんで、不機嫌そうに僕に向かって言ってきた。

 

「いいんです~わたしが洸輔さんに教わりたいって言ったんですから!」

「まぁ、本人が良いならいいけど…」

 

 勢いに押されて、そのまま今日の本題に移る。さて、ここからが本番だ。

 

「えーと、確か料理するのって初めてだったっけ?」

「は、はい!」

「それで……何を作ろうと?」

「これです!ホットケーキ!」

「おおー」

 

 開かれた本のページには、ホットケーキが描かれていた。割と作り方も丁寧に書いてあったので安心する。

 

「ホットケーキなら僕も何回か作ったことあるし、大丈夫だと思うよ」

「ほんとですか!?」

「おうさ!それじゃやってこー!」

「おー!」

 

 この時の僕は知らなかった。樹ちゃんの『料理できない』は何もかもを超越した意味だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 途中までは一緒に作ってた。突如として尿意に襲われた僕が、樹ちゃんから少しの間、目を離した。その結果───

 

(なぜ、ホットケーキが緑色なんだ!?)

 

 僕が目を離すまでは、ホットケーキだったはずのものがいつの間にか何か違うものに変わっていた。

 

「い、樹ちゃん…?これは一体…」

「えーと…栄養が足りなさそうだなって思って、お茶っ葉入れました!」

「ーーーーーーーーーー(声にならない叫び)」

 

意味がわからなかった…いやだって…普通思わないでしょ?どこに栄養が足りなさそうだからって、ホットケーキにお茶っ葉を投入する人がいるよ?

 

(あ、僕の目の前にいたわ(^q^))

 

「あの!…味見してもらってもいいですか?」

「へ!?」

「も、もしかして……いや…ですか?」

 

僕の態度に、樹ちゃんが目を潤ませてこちらを見つめてくる。

 

(くっ!多分これを食べたら僕は確実に死○!でも……樹ちゃんが頑張って作ったのも事実…ええい!ままよ!)

 

覚悟を決めて口に放り込む。

 

「はむっ……………」

「ど、どうですか…?」

「あれ?案外いけ………………ぅ!?」

「こ、洸輔さん!?」

 

最初は割と普通だったのだが…途中から…お茶の味と共に何故かレモンの味がした…。僕は涙目になりながらも樹ちゃんに質問する。

 

「あ、あのー…樹ちゃん?もしかして…これって…レモン入ってる?」

「は、はい!ビタミンCも取ってもらえるように!レモンの素を入れました!」

「そ、そうなんだ…」

「で……お味の方は…?」

「うん。すごく独創性があっていいと思うよ…」

「やったー!」

「でも………次からは…僕もしっかり教えるので…言われたことを守るように…」

「はい!」

 

笑顔で返事をした樹ちゃんが僕には悪魔が微笑んでいたようにしか見えなかった…。

 

(こ、ここで僕が…樹ちゃんの腕を高めさせなければ…風先輩の命が危ない!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数時間…。

 

かなりの数の…異形ホットケーキが生まれたが、手際自体は樹ちゃんとてもよいので…なんとか形も味も及第点にすることに成功した……。

 

(まさかあの(^q^)料理から、ここまで持ってこれるなんて…よかったぁー…)

 

そんなことを考えていると、樹ちゃんから短い悲鳴があがった。

 

「きゃっ!?」

「樹ちゃん…!!!!」

 

悲鳴があがった方を見ると、樹ちゃんの指が赤くなっていた。多分何かの拍子で火傷してしまったのだろう。

 

「ちょっと待っててね!」

「だ…大丈夫ですよ、洸輔さん。そんなに大したことないし…」

「いいから!そういうのだって、ほっとくと酷くなったりすることだってあるんだよ!」

 

近くにあった救急箱からガーゼを取り出して冷水に浸す。小さい頃に友奈がやけどした時、母さんがやっていた対処法で樹ちゃんの指を治療していく。

 

「よし!これで大丈夫だ!風先輩のために頑張るのはいいけど…自分のこともしっかりね」

「は、はい…ありがとうございました…洸輔さん…」

 

顔を赤らめながら、樹ちゃんは礼をしてきた。

 

「どういたしまして。あと片付けも僕がやっておくよ」

「え、いやそれはわたしが…」

「もしその指が悪化したら、せっかくのホットケーキも風先輩に食べさせられなくなっちゃうかもよ?」

「…お願いします…」

「よろしい、それじゃ僕は片付け終わったら帰るね。頑張って作ってあげなよ?愛情たっぷりのホットケーキを」

 

僕が笑顔でそう言うと、樹ちゃんはさらに頬を赤らめながら静かに頷いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「う~………」

 

先ほどのことを考えて、ベッドにある枕に顔を埋める。

 

治療をしてもらった指を見る。ただの火傷にも関わらずわたしにあそこまで真剣に対応してくれて嬉しかった。

 

(どうしてだろう…今洸輔さんの顔を思い浮かべると…)

 

自分でもよくわからない位に、今の私は気持ちが高ぶっていた。

 

その指には火傷ではない…違った熱が残っていた…。

 

 

(ちなみに…ホットケーキはおいしくできました!)




イケメンって怖い…。

文章能力が皆無なので、途中おかしなところがあったりしたら報告おねがいします!

気に入っていただけたのならば…お気に入り登録!また感想お願い致します!(僕の励みにもなるので!)

それでは!また!!



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32話 国防仮面四号・爆誕!

久々のゆゆゆ本編の更新〜前々からやりたかった国防仮面回!遂に書けた!(感動)
あ、東郷さんとわりとイチャイチャしちゃうぞ(^ω^)


「z z z……」

「ぐっすりだねぇ〜こうくん」

「多分、ゲームで夜更かししたんじゃないかな?最近新しいゲーム買ったって言ってたから」

「寝不足と言えば、珍しいわよね。東郷が机に突っ伏して寝てるなんて」

「z z z……」

 

昼休み、いつもの如く勇者部のメンバーは集まって雑談に浸っている。その中で、話題は朝からずっと眠そうな洸輔と東郷の話になっていた。

 

「東郷さんも、結構夜更かしするよ?」

「えっ、そうなの?」

「うん、ふとした時に起きて東郷さんの家見るとあ、電気ついてる〜みたいな感じで」

「きっと、歴史の研究してるんよぉ〜わっしーは歴史大好きさんだからねぇ〜」

 

園子が東郷の頭を撫でる。そんな光景を微笑ましくみる友奈も、洸輔の頭を撫でていた。そういう何気ない行動が洸輔に対してのヘイトを溜めることに気づかない友奈であった。

 

「昨日も出たらしいよ?」

「私は、この前本物みたよ!カッコよかったなぁ〜」

「まじか!いいなぁ〜本物見てみてぇ〜」

 

そんな軽い修羅場になりかけている隣では、クラスメイト達が何やら共通の話題で盛り上がっていた。

 

「ねぇねぇ、皆はこの人達のこと知ってる?」

「この人?」

「誰の事よ?」

「巷で、話題の国防仮面って人達のこと!」

「「国防仮面???」」

「ん〜?しかも、人達〜?」

 

何のことかさっぱりな友奈と夏凜に、クラスメイトが二つの人物が映っている動画を見せる。

 

『国を護れと人が呼ぶ!愛を護れと叫んでいる!憂国の戦士、国防仮面、見参!!』

 

『白きマントに望みを乗せて……照らせ、平和の国防魂!!国防仮面四号!事件現場にただいま到着!』

 

その動画には、マントを靡かせながら、軍服に身を包んでいるまるでヒーローのような姿をした人物が、映っていた。そのカッコよさに友奈は目を輝かせる。

 

「かっ、カッコいい!!」

「でしょ!?やっぱり、カッコいいよねぇ〜国防仮面!」

「ん〜でも、良いことしてるのに何で正体隠しちゃうんだろ?」

「それは〜目立ちたいからとか?」

「園子……まさかだと思うけど、国防仮面って」

「あはは、そのまさかかもだねぇ〜」

 

友奈とクラスメイトが盛り上がる横で、夏凜と園子はそのヒーロー達の正体に気づいていた。二人は視線を眠りふけっている人物達の元へと向けた。

 

「国防仮面さんと、国防仮面四号さんかぁ〜どんな人なんだろ?会ってみたいなぁ〜!」

 

その横では、友奈が嬉々とした表情でそんなことを口にした。純粋すぎるというのも考えものである。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜風視点〜

 

「樹、ご飯よ〜」

「……」

「どうしたの?端末をそんなにじっと見て」

「ニュース見てるんだけど、リアルタイムで国防仮面を見たって人がいるみたいで」

 

国防仮面、そう言えば私のクラスでも話題になっていた人物だ。樹も知ってるということは、1年の間でも話題なのだろう。

 

「でも、それがどうかしたの?」

「ここから、わりと近くみたいだし見に行こうよ、お姉ちゃん!」

 

我が妹がピョンピョン跳ねながら、私にそう提案してくる。しかし、今は夜……中学生が外に出ていい時間じゃない。

 

「あのねぇ、今は夜よ?樹。こんな時間に女子力の高すぎる私達姉妹がうろついてたら危ないわ。何より、私は部長として部員の模範になる行動をしなくてはならないし」

「うう…そうだよねぇ」

「……あ、お醤油が切れちゃってるわねーこれは困ったー。しょうがないわねぇ〜近くのお店にでも二人固まって買い出しに、行こうか」

「!う、うん!ありがとう、お姉ちゃん!」

 

嬉しそうに笑う樹を見て、釣られて笑う。まぁ、二人一緒なら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、樹と二人で買い物へ行くことになった。

 

「あ、お姉ちゃん、見て見て!」

「まさか、国防仮面!?」

 

樹が指をさした方向には、奇抜な格好に身を包んだ人物が柄の悪い男を取り押さえている姿があった。近くには高校生くらいの女の人がいた。樹と、遠巻きにやりとりを見守る。

 

「女性に不必要に迫るだけでなく、手まであげようとするとは…大丈夫でしたか?お嬢さん」

「は、はい、大丈夫です!その、お強いんですね…驚きました」

「腕っぷしには少し自信がありますので」

「な、なるほど……って、あれ?」

「どうかされましたか?」

「携帯を落としちゃったみたいで……」

「貴方の落とした携帯とは、これではないでしょうか?」

 

そこに、もう一人暗闇の中から、同じような衣装に身を包んだ人物が現れる。本当に二人いたのね…国防仮面。

 

「あ、そ、そうです!」

「良かった、そこに落ちていましたよ。四号そろそろ」

「了解、ではお嬢さん、帰り道にも気をつけて」

「ほ、本当にありがとうございます!ええと……」

「憂国の戦士、国防仮面!」

「そして、国防仮面四号!その正体は、国をそして人を愛する一人の人間です。貴方が困った時、また現れます!では!」

 

そう言って、二人の国防仮面は姿を消した。

 

「……わぁ、あれが二人の国防仮面さん。というより、二人ともすごくどこかで見たことあるような?」

「あの立ち振る舞い……なんだか、デジャヴを感じるわ。しかも、言葉遣いとかは違うけど、声とか……これは帰って調べ物よ、樹」

 

顔へ手を当てる。あの感じ、だいたい見当がついてきた…これはもし本当に二人の国防仮面の正体が予想通りなら、すこし問い詰める必要がありそうだ。

 

(何やってんのよ、東郷…それに洸輔まで)

 

その帰り道、私は猛烈に長いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日もお疲れ様。美森」

「洸輔くんも、お疲れ様」

 

二人で仮面を取りながら、お互いを労う。いつもならもう少し国防仮面として活動するのだが、今日は昼間の学校の授業でお互いに爆睡しまくってしまった為、早めに活動を締めることにした。

 

「にしても、美森。よくあんな暗いところで携帯見つけられたね?僕全然見えなかったよ?」

「ふふ、目の良さに関しては自信があるの」

「流石、国防仮面!」

 

勇者部の中に置いて、長距離射撃を唯一担当しているだけはあるなぁと素直に感心する。

 

「さーてと、じゃあ今日はもうお開きでいい?」

「……えっと」

「美森?どうかした?」

「洸輔くんが良ければだけど、少しお話しでもどうかな?」

「えっ、でも今日は……ううん、了解。それじゃ、お話ししようか?美森」

 

僕の言葉に美森が、微笑む。その表情に一瞬見惚れてしまうが、じろじろ見るのも悪いと思いすぐに視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち話もなんだということで、美森は家へ上げてくれた。そこで、お互いに(もちろん、別々の部屋で)着替えも済ませて、二人で縁側へと腰をかける。

 

「お茶、持って来たよ」

「えっ!?わ、わざわざ入れてくれたの!?な、なんか悪いなぁ…」

「いいのよ、私が引き止めたのだから。これくらいはさせて」

「じゃ、じゃあ、遠慮なく」

 

美森の入れてくれたお茶で、口を喜ばせつつも気になっていた事を聞く。

 

「そいえばさ」

「何かしら?」

「ずっと気になってたんだけど……なんで、二号と三号を飛ばして僕四号なの?もしかして、もうメンバーはいたりする?」

「ええ、二号はそのっち、三号には……もう、適任の人がいたから」

「なるほどね、それなら納得だ」

 

うんうんと頷きながら、美森の方へ視線を向ける。その表情は、少し寂しげだった。やがて、美森が口を開く。

 

「こんな事に……付き合ってくれてありがとうね。洸輔くん」

「急に、どうしたのさ?」

「元は私が罪滅ぼしとして始めた事なのに、あなたに手伝わせてしまっているし……今回は勇者部の皆に内緒にする形で活動してしまっているから、この事を知られたら元は関係ない洸輔くんも怒られたりするかもしれないし……」

 

申し訳なさそうに、美森が呟く。そう、そもそもこの国防仮面の善行活動は、美森が壁を壊してしまった事や皆に迷惑を掛けた事への償いという形で始めた活動なのだ。

 

そして、ある時、美森が国防仮面として活動をしている事を知った僕は、何か手伝える事はないかと申し出た。その結果、僕も国防仮面四号として活動する事になったのだった。

 

「多分、皆怒らないと思うよ?」

「え…?」

「この活動は美森が美森なりに考えて、やっている事だから。そこについては誰にも怒らないと思うな」

「……」

「まぁ…授業寝ちゃったり日常生活に支障が出ちゃうのは流石にまずいから直さなきゃだと思うけど」

 

今日も友奈や、夏凛、園子に寝不足の事を心配させてしまった。そこだけは直したいなと思う。

 

「それに、美森の気持ちすっごいわかるんだ」

「私の…気持ち?」

「うん、何か、自分一人でも出来ることがないかなっていつも考えてる。だから、それを行動に移していた美森に今回力を貸したいって思ったんだ」

 

彼女の少しでも自分に出来ることをやりたいという気持ちがよく分かるから。言えないけど僕も春信さんの研究に力を貸しているし。

 

「後、別に美森が僕を手伝わせてるわけじゃないじゃないだろ?僕が好きでやってるんだからさ」

「でも……」

「それに、ほら変装してるとは言え美森を外に一人で出すのは危ないでしょ?でも、僕も一緒にいればいつでも守れるじゃん?」

「守れる……ふふ、そうだね」

 

クスリという小さな笑いが聞こえると、隣にいた美森が突然頭を僕の肩へと預けて来た。

 

「み、美森?」

「どうしたの?洸輔くんったらそんなに慌てて」

「いや、その……距離が近いっていうか…」

「当たり前よ、近付いたんだもん」

「うっ…」

 

彼女の甘えるような声が、僕の耳を刺激する。その行動に、僕の心臓の高鳴りがスピードを上げていく。美森が、今度は優しい声で呟く。

 

「あの時、言ってくれたものね……いつも側にいてくれるって」

「うん、いつも側にいる」

「もしも私がまたどこかに行ってしまっても……助けに、側に来てくれる?」

「もちろんだよ、例え美森がどこに行っても……ね」

 

僕と美森の体が、先ほどよりも密着する。

 

「ちょっ…!?」

「そう……洸輔くんがそう言ってくれるなら、もう怖くないな……」

 

そう言った時の、美森の表情は本当に心の底から安心するような表情だった。それを見て、僕は彼女の頭を優しく撫でた。

 

静かに寄り添う僕らを、月の明かりは優しく照らしてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、この一週間後くらいに勇者部のメンバーに僕らの正体がバレた事により、色々一悶着あったのだが…それはまた別のお話である。




微妙に最近出番が少なかった東郷さんに焦点当てました!もし、このキャラ目立たせてほしいとかあったら、感想やらリクエストに書いてくださいね!

ちなみに結構伏線貼っちゃったりしちゃったりして〜…


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番外編 ラブレターはもう懲り懲り

評価バーに色がついた!!嬉しい限りです!評価してくださった方々!ありがとうございますです!!

それと投稿が止まっててすみませんでした!!なんか色々やり直したりし続けたら日にちが経っちゃって…申し訳ございませんでした!

今回は久しぶりにゆゆゆのまぁギャグ回みたいな感じですね…正直悩みながら書いたんでおかしな所とかあったら教えてください…。

それではどうぞ!


「ふぁ~眠……」

 

 眠気を抑えきれずあくびをする。自分の上履きを取ろうと下駄箱を開けると妙なものが入っていた。

 

「なんだ…?」

 

 ピンク色の封筒だ。これを見て、僕の頭の中に真っ先に浮かんできたのは…一つである。というか、大体の人がそう思うだろう。

 

「確実にあれだよねぇ…」

 

 誰がどう見ても、それは確実にラブレターだったとさ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

授業が終わり、放課後。友奈ちゃんが他の勇者部の面々に声を掛ける。

 

「さぁて!皆で部室へ向かおう!」

「毎回思うんだけど。よくそのテンションを一定に保ってられるわね?単純に尊敬するわ」

「ほんとだよね~私も相当だと思うけど~ゆーゆも中々だよ~」

「そこが友奈ちゃんの凄いところなのよ。ね、洸輔くん」

 

 反応が返ってこない。何故か、彼は机に座った状態で手元にある封筒のようなものを見つめている。

 

「洸輔くん、大丈夫?」

「へ!?あ、う、うん!何が!?」

「ん~こうくん。その手に持ってるのって…」

「な、何でもないよ!何でも!」

 

 焦った様子で洸輔くんは手に持っていた物を高速で鞄の中に突っ込む。さっきから色々と挙動不審。怪しい。

 

「あ、あとごめん。ちょっと用事あるから先に部室へ向かってて、すぐ追い付くから!」

「え、ちょ!洸輔くん!?」

 

席から立ち上がると、有無を言わさぬ速度で教室から出ていった。その場に残された私達は、勢いに押されて立ち尽くしている。やがて、そのっちが口を開く。

 

「これは~何かあるねぇ」

「同感よ、あいつ絶対何か隠してる」

「さすがに……挙動が不審すぎるものね」

「さっき手に持ってたのってなんだろ?なんか、封筒っぽかったような」

「色はピンクだった気もするよぉ~」

 

その場に静寂が訪れる。今の二人の情報、そして先程の洸輔くんの不審な行動。これを全て繋げていくと……。

 

「もしかして、洸輔くん……恋文を貰ったんじゃ……?」

「「こ、恋文!?てことは、ラブレター!?」」

「なるほどぉ~まぁ、こうくんならなくはないかもね~普通にカッコいいし~」

 

その考えにたどり着いた瞬間、私の目から光は消える。時を同じくして、友奈ちゃんの目からもハイライトは消える。

 

「みんな、部室へ向かいましょう?とりあえずは風先輩達にも報告しないと」

「そうだね、行こうか?東郷さん」

「な、なに!?急に悪寒が……」

「うひゃ~あの時も凄かったけど、今回はそれの比じゃないね~」

 

と言いつつも二人の目からもハイライトは消えていた。私達は極めて静かな足どりで部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「なん……だと……!?」

「本当ですか!?それ!?」

 

私達は先程のことを報告すると、風先輩と樹ちゃんも悲壮な顔をしていた。

 

「ま、まさか……今になってラブレターを使って呼び出す子がいたなんて」

「勇者部があるからって油断してましたね……」

「……洸輔くん」

 

心の中に不安が募っていく。流石に突然知り合った子と付き合いはじめるはずがないと。頭の中では言っているが……この世は何が起きるかわからない。

 

(私だって、まだしっかり気持ちを伝えてないのに)

 

幼稚園の頃から一緒でいつだって覚悟を決めればこの思いは伝えることができた…。でも言えなかった。もしこれで洸輔くんが………

 

(あ~もう!うじうじしてたってしょうがない!!)

 

「探しませんか!?洸輔くんを!」

「うん。私もゆーゆに賛成だなぁ~」

「私もよ!友奈ちゃん!」

「場所とかは?どこにいるかとかはわかる?」

「学校とかで告白する場所に最適な所って…屋上とか体育館裏とかですかね?」

「よし!じゃあそれっぽい場所をしらみ潰しに探しましょう!」

「「「「「おー!!!」」」」」

 

皆がひとつの目標に向かって一致団結する。そんな中突然部室のドアが開かれた。

 

「えーと……みんなどうしたんですか?」

『…………………』

「………あのー…」

「総員!対象を捕獲せよ!!」

『承知(ラジャー)!!』

「えっ…なになに!?」

 

全員で洸輔くんを取り囲み、椅子に縛り付けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

部室の中をびっくりするほどの静寂が包み込んでいる。僕を軸にして勇者部の面々が回りを囲んでいる。

 

(なに………これ!?…魔方陣的なやつ!?なんか呼び出そうとしてんの!?)

 

僕が状況が理解できずに混乱していると、ゆっくりと風先輩が口を開いた。

 

「で…どうだったのよ?洸輔?」

「さぁて…こうくん洗いざらい話してねー」

「ふぇ?」

 

何のことか分からず首を傾げる。すると友奈と樹ちゃんが僕に向かって叫んだ。

 

「ラブレターもらったんでしょ!?洸輔くん?」

「そうですよ!知ってるんですから私たち!!」

「つまり…告られたのよね?」

「確かにラブレター貰ったのは確かですけど…告白されてはないよ?」

「え?なに?どういうこと?洸輔くん?」

「まぁあれだよ…。イタズラだったんだよ」

『ええーーー!?』

 

一から説明させていただくと…僕に嫉妬(何に嫉妬しているのかはよくわかんないけど…)したちょいちょい話す同級生の男子グループが、僕をからかう為に送ったらしい。

 

(まぁホントに告白されたとしても断る気だったけどね。)

 

僕としては…やっぱりしっかりとお互いの絆を深めあってからそんな風になりたいと思うから。

 

(本人達には言えないけども……ここにいる皆みたいな人達と付き合ってみたいな……まぁ絶対ないだろうけどね…)

 

説明し終わると皆…安堵の息を吐いた。しかしそれと同時に何故か皆の後ろには修羅が見えた。

 

「ところで…そのイタズラした奴らは…まだ校内にいるの…?」

「へ?なんでですか?」

「ちょっとその人達と話したいことができたんだ…ねぇー東郷さん?」

「ええ…少し粛………お話をしてこようと思って…」

 

皆の雰囲気がヤバイ…。これ以上踏み込むと僕が殺されそうだったので素直に話す。

 

「た、多分…まだ校内にいると思いますよ……。さ、さっき話したばっかりだし…」

「そう…ありがと…行くわよ…皆」

『御意』

 

風先輩の合図で全員が動き出した。それはまるでどこぞやの軍隊みたいに息があっていた。

 

(あー……南無三…)

 

皆が出ていった少し後で…学校内に三人の男子生徒の悲鳴が響きわたった。

 

その叫び声を聞きながら僕はあることを思った。

 

「いつになったら…僕は解放されるんだろうか……」

 

そこから僕は生徒が帰ったあとに見回りをする先生に見つけてもらうまで…椅子にくくりつけられたままだった。

 

(はぁ…ラブレターなんて一生もらいたくない…)

 

僕は心の中でそう吐き捨てた……。




はい…三人の生徒がお亡くなりになりましたね……可哀想に…骨は拾ってあげるよ…。

次はのわゆの続きかきます!!(もしかしたら今日中に出せるかも…)

それと…皆さんはのわゆの中だと誰が好きですか?教えてくれたら嬉しいです!(僕はぐんちゃんと高嶋ちゃん)



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番外編 炎天下の戦いと指の味

リクエストのネタ…自分なりに頑張って書いてみましたが…どうかなぁ…?

時系列の影響で園様はいらっしゃいません…ご了承を




「ま、まさか、停電するなんて」

「この、タイミングで……なんてこと」

 

 太陽が照りつける猛暑日。今日は勇者部で次に行う劇の道具を作るため、集まっていた。

 

 しかし、まさかのタイミングで停電が起こった。唯一の希望である首振り扇風機も停電の前では無力で…止まっている。

 

「うぬぅ……ただで、さえ、気温上がっているというのに」

「どうするの〜お姉ちゃん?」

「うぐぅ〜ぁぁ!時間ないし、今日の内にささっと!仕上げちゃいましょ!」

「ですね……きっと、ええきっと、その内復旧するでしょうし」

「うん!勇者部五ヶ条!なるべく諦めないですね!!」

 

 実際のところ次に行う劇まで時間がないのも事実で、風先輩も皆も引くに引けないところまできているのだ。そこで、私はこの場に今はいない部員の話題を振る。

 

「そう考えると、洸輔くん凄いですよねぇ~」

「ええ、こんな猛暑日に畑仕事の依頼を受けるなんてね」

「本人もここまで暑くなるとは思ってなかったと思うわ…」

 

 今、洸輔くんは一人で畑仕事の依頼をこなしている。

 

 ほんとは手伝いたかったが、力仕事が多めで男手が欲しいという内容だったので「力仕事多めなら僕だけでいくよ!」と本人に言われた私達は…劇の準備に力を注ぐことにしたのだ。けど……

 

「……」

「あ〜どうしよう〜妹が黙り込んじゃった……」

「ふにゅー」

「そりゃ、しょうがないでしょうね。唯一の希望である扇風機も動かなくなっちゃったんだから……」

「ぁぁぁぁ……何か、何か、涼む方法は〜」

「あ!いいこと考えた!!」

『え?』

「そもそもよ!制服なんて着てるから暑いのよ!」

 

 明らかに風先輩は口の端をつり上げながら、私達の方を向いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜一方その頃、洸輔は〜

 

「いやぁー!ありがとな!お前さんのお陰で助かったぜ!」

「いえいえ、役に立てたなら嬉しいです」

 

 予定よりも早く依頼を内容を達成、日差しがかなりのもではあったが彼自身、暑さには強い方なので余裕で仕事をこなしたのだった。

 

 依頼主である農家のおじさんも満足したのか満面の笑みである。

 

「こんな暑い日にこれだけやってもらったんだ!お礼しなくちゃな!」

「だ、大丈夫ですよ!僕、見返りとか求めてませんし…」

「まぁまぁ!俺が礼がしたいって言ってんだ!素直に貰っとけ!」

 

 快活な笑みを浮かべるとおじさんは家の中へ入っていった。少し経ち、青いバッグのようなものを手に持ちながらこちらにやってくる。

 

「ほらよ!」

「えーと……これは?」

「なーに!暑いときつったらやっぱアイスに限るだろ?こんなかには棒アイスが七本入ってるからよ!まぁ友達で分けるなりなんなりして適当に食ってくれ!」

「あ、ありがとうございます!」

「良いってことよ!がはは!」

 

 バッグを見て…僕はすぐにアイスをどうしようか決めた。

 

「まだ早いから皆いるよな?……よし!勇者部に行こう!」

 

 アイスは丁度七本ある。なら、皆で分けて食べれる、そうと決まれば話は早い。学校へ向かうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆喜ぶかな?」

 

 学校についた僕は真っ直ぐ部室へと向かった。この暑さだ、かなり参ってることだろう。

 

「こんにちはー!依頼終わりまし……うええええええ!?」

「あ、洸輔くんだぁ〜ヤッホー」

「おー……こんちはぁ〜」

「素数を、素数を数えていいですか?思考が追いつかないので…」

 

 錯乱せずにはいられない程の光景を目にしてしまった、驚くのも無理はない。部室のドアを開いたら女子部員全員が水着とか、驚かない方がおかしいと思う。

 

「えーと……皆は、何してるの?」

「風先輩の提案でねぇ……制服着てると、暑いから。皆で水着着て涼んでるのぉ……」

「いやいやいや!だったら、扇風機をつければよ」

「停電よ」

「ほぇ?」

「停電になっちゃったの」

「マジ?」

「ええ、マジ」

 

 で、でも暑さで判断力が鈍っているにしても、これはさ。

 

「て、てゆーか!僕が来たりしたらどうするとか考えなかったんですか!?僕じゃなくても誰か来たりしたら!」

「そこの犬部長が……そこまで融通のきく奴だと思う~?」

「コラ~かりん~そこに直れ~」

「お姉ちゃ〜ん、暑いよ〜」

「拷問、だわ」

「皆……暑さに耐性なさすぎじゃない?」

 

 僕も暑く無いわけじゃないけど、でも皆ほど参ってない。昔から親父に「夏こそ鍛えるのに最適だ!」って言われて鍛えられてきたからだろうな。

 

(……これは信頼されてると喜ぶべきなのか。それとも男として見られていないことを残念がるべきなのか、はぁ~)

 

 目のやり場とかには困るものの、この猛暑日だ。皆を無理やり制服姿に戻すのは可哀想な気もする。(決して下心とかないよ?いや…マジで)

 

「そいえば皆に差し入れがあるよ。農家のおじさんがくれたんだ!」

「差し入れ?」

「何?どうせ農家おっちゃんなんて、野菜しかくれないでしょ~?」

「風先輩はとりあえず四国中にいる農家のおじさんに謝ろうか?」

「で~?実際、何もらってきたのよ?」

「あ、ああ…そうそう!アイスをくれ」

 

 僕がバックを開いてアイスを取り出した瞬間、みんなの目付きが変わった。

 

「神!農家のおっちゃんは神!!」

「洸輔さん!何本入ってますか!?」

「え!?い、一応全員分あるけど…?」

「やったぁー!!」

 

 皆が一気に群がってくる。少しは自分達の今服装を理解してほしい。水着からうっすらと見える体の曲線と汗で濡れている肌が異常なまでの艶かしさを演出している。

 

「ちょーーーーっと待ったぁ!!!一人ずつ!!一人ずつでお願いします!そうしないと(理性が)死ぬから!!」

 

 僕の言葉を聞いた瞬間、皆は素直に並んでアイスを受け取り始めた。素直でよろしい。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 洸輔くんから皆がアイスを貰って回復した。しかし、その数分後。

 

みぃん~みぃんみぃんみぃん

 

 無情にも、温度はさらに上昇する。

 

「あぅぅ、アイスパワーが切れたぁ!みんなぁ~水分補給はしっかりねぇ!」

「あぁ、風先輩がヤケに。でも、私も……もう、涼む為に必要な知恵が湧いてこない」

「せっかく…アイス食べて回復したと思ったら……」

「あはは……せ、セミの鳴き声さっきより増えたね〜」

「はふぅ……」

 

 皆がアイスを食べきっていた中、私はギリギリまで涼しさを得る為、ゆっくりと一口ずつ大事に口にしていた。美味しいし、冷たい。

 

「何か…いい案ないですか?東郷先輩」

「そうね、きっと東郷ならなんとか」

「ごめんね、樹ちゃん、夏凜ちゃん」

「美森ですらここまでグロッキーに!?」

「洸輔くんは耐性がありすぎなのよ……皆はアイスを速く食べ過ぎ」

 

 その時、自分の胸元にアイスが溶けて落ちた。かなりゆっくり食べていたの事もあり、アイスはもう溶けかけている。

 

「ああ!東郷さんの胸元にアイスが…」

「なるほどねぇ、東郷くらいになるとそれだけで色気を出せると。樹~優秀メダルを差し上げて~」

「そんなのないよって言うのが疲れるよぉ~」

 

 そんな会話が繰り広げられている中、私は胸元に落ちたアイスをとってもらうため横にいる子に声をかける。

 

「洸輔くん」

「ん、何?美森」

「落ちちゃったアイス取ってくれないかしら?」

「………ごめん、もう一回言って?」

「この、胸の所に落ちたアイス取ってくれないかしら?」

「待った待った待った!!!」

 

 私の言葉を聞いた途端、洸輔くんは首を横に全力で振っている。

 

「僕!男子!あなた!女子!!アンダスタン!?」

「私、横文字は嫌いなのよ?」

「あああ!!!そうだったぁ!!!」

「そんなことより、早くぅ…」

「いやいやいや!ほ、他のメンバーに……」

「とってぇ……」

 

 まだ何か言いたげな顔を浮かべたものの、諦めたように洸輔くんは力無く頷いた。顔を赤くしながら、ティッシュでアイスをとろうとする。私はそれを止めた。

 

「え?ちょっ?取らなきゃじゃ」

「素手で」

「はい?」

「指で取って?」

「ぐっ!ぐぅぅうおおお!!太陽なんて、いつか消してやるぅ…」

 

 恨み言のように、そんなことを呟きながら洸輔くんは私の胸元にあるアイスを指で掬い上げた。

 

「よよよよ、ヨシっ!こ、これで、OK?」

「指を、こっちに…」

「えっ、うん。ところで、なにを……」

「はむっ…」

「っ!?!?」

 

 彼の指を口の中に含んでいき、舌を使ってしっかりと満遍なくアイスを舐めとっていく。

 

「ぺろ…れろ…洸輔くんの味、美味しかったぁ」

「……」

「洸輔くん?」

「………バタンキュー」

 

 顔を真っ赤にしながら、洸輔くんが私の方へと倒れてきた。彼の顔は私の胸へと着地してくる。その一部始終を見ていた一同から声が上がった。

 

「はぁ〜さっすが、東郷だわ」

「暑くて、判断力が鈍っても……私には無理ね、あれは」

「そもそもの話……あの技は東郷先輩にしか、できないかと」

「うぅ…私も、あれくらいあれば」

「えっと、もしかしてこれ私のせい?」

「「「「うん」」」」

「はぁ、とりあえずさ。これ以上意地を張り続けて、洸輔のあとを追う人が出てくる前に(まぁ洸輔は東郷に殺られた訳だけど)今日は撤収しようか、みんな」

『了解で〜す』

 

 

 

 

 

 結局その日は解散になった。そんなことがあった次の日、皆昨日のことを思い出し、女性メンバーは洸輔くんと顔を合わせれば赤面させる事態が多発した。

 

 そんな中にも関わらず、どさくさに紛れて洸輔くんの指を味わえたことを喜んでいる自分がいたそうな。




もっと過激に書きたかったなぁ(本音)

できれば感想やご指摘お願いします!(正直自分からじゃどんなもんわからないので……)

それでは…また!!


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小学生番外編 『讃洲中学のバーサーカー』

遅れてすいませんでした!大学のことなど忙しくて遅れてしまいました!申し訳ございません!

そして!お気に入り登録100件!ありがとうございます!

あと、これ…小学生編って書いてあるけど…描写少ないです…。もっと本格的な小学生編が見たい方は感想にお書きください!

それではどうぞ!


「次は学年のレクリエーション企画だっけ?」

「確か~ドッジボールだったね~」

 

昼休み…前の席にいる園子に五六時間目の内容を予め確認しておく。今回のその時間は二年生全員で行う球技大会的なもので…ドッジボールをやることになった。

 

「楽しみだね!ドッジボール!」

「当然…あたしの圧勝よね!」

「夏凜ちゃん?ドッジボールは団体で行うものよ?」

「わかってるわよ!」

 

どうやら…勇者部二年生組のメンバーもわくわくが止まらないようだ。ドッジボールはいくつになっても皆が楽しめるもので、実際クラスの子達も楽しみにしているのか多少落ち着きがない。

 

(僕は球技苦手だし…避けることに専念しとこうかな)

 

そんなガチ勢の方々に怒られそうなことを考えていると、クラスメイトの男子達が僕を恐れるような目で見てきていた。

 

(皆見たことある顔だと思ったら…小学校でよく見た顔ばかりだな…)

 

よくわからない視線を向けられ、混乱していると…

 

「こうく~ん?あの子達になんかしたの~?」

「いや…覚えはないけど…」

「もしかしたら…あれじゃないかな?」

「あれ?」

「ほら!小六の時にあったドッジボール大会での事!」

「何かあったの?友奈ちゃん?」

 

言われてみれば何かあったような気がしたが…覚えていない。美森が友奈に質問を投げ掛けると、ゆっくりと語り始めた。

 

「そっか!東郷さんと皆には私と洸輔くんの小学生時代を話したことなかったね。なら折角だし話そうかな」

「お~ゆーゆとこうくんの小学生時代!!気になるんよぉ~」

「まぁ…興味ないと言ったら嘘になるし、しょうがないわね!聞いてあげるわ!」

「私にも聞かせて、二人の小学生時代!」

 

僕がなんのことだか分からずに考え込んでいるなか…友奈が勇者部二年生組のメンバーに淡々と話始めた。

 

「あれはね、六年生の時にあった学年レクリエーションの時のことなんだけど………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「よーし!この試合に勝てば学年1位はもう目の前だね!洸輔くん!」

 

小学校六年生の頃、とある日の学年レクリエーションで私のいる五組は準決勝まで上り詰めていた。横にいる幼なじみの男の子に声を掛けると、その子は少し気だるそうに答えた。

 

「そうだね。まぁ次も僕は後ろで待機(見てるだけ)をしてるよ」

「もう!一番最初の試合からずっとそうじゃん!本気でやれば何でもできる癖に!」

「そんなことないよ?球技苦手だし」

「苦手な子はスポーツテストのボール投げでクラストップの成績出さないと思うんだけどなぁ?」

「ちょっと何言ってるかわかんないです」

 

女子の方々(ホントに仲がいいんだなぁ)

男子の方々(あれで付き合ってないのかよ…)

 

私の言葉に対して洸輔くんはとぼけた顔で、屁理屈を言い続けている。しかし次の相手を考えるとそんなこと言ってられないのだ。

 

「次は優勝候補筆頭の二組だよ!そろそろ本気出さないとじゃない?」

「ええ~いいよ、別に。そもそも今までの試合って友奈と他に動けるメンバーだけで足りてるじゃん」

「それもそうだねぇ~私がいれば!洸輔くんの手を借りるまでもないかも!ふふふ、私の活躍見ているといいよ!」

「もちろん、ずっと友奈だけを見てるよ」

「っ!」

 

女子の方々(出た!一級フラグ建築士!!)

男子の方々(滅べ!滅べばいいんじゃあ!!)

 

突然の発言に顔が赤くなった。洸輔くんに見られないように相手側のコートに視線を向ける。

 

「う、うん!私の活躍特と見よ!」

「うむ…期待してるよぉー」

 

そんなやり取りを終えたと同時に先生が笛を鳴らす。こうして私たちのクラスの準決勝は幕を開けたのだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

まさかだった……。

 

「ねぇ…友奈」

「何?洸輔くん?」

「なんで…このコートには…友奈と僕の二人しかいないの?」

「んー…皆やられちゃったから」

 

序盤の展開から、五組は防戦一方だった。なんとか僕は避けたりしながら当たるのを回避したりしていたが…気づいたら友奈以外の皆さんは外野に行っていた。

 

「残るは結城と天草だけか!大したことなかったな」

 

相手のコートにいる小学生とは思えない体格をした男子が僕達を指差してきた。そいつの名は郷田貴史(性格的にちょっと問題がある奴)…なんか名前がどこぞやのガキ大将さんと被っている気がしたが…それは置いといて…。

 

「郷田くんのボールはすごく重いから…僕が前に出ようか?」

「お!やっとやる気出てきたって感じかな!」

「別に…そういう意味じゃないけど…」

 

単純にあのボールが友奈に当たったら危ないと思っただけだからなのだが…すると突然友奈の顔にボールがヒットした。

 

「ぎゃぷ!?」

「ゆ、友奈!?」

 

吹き飛ばされた友奈に寄っていく。顔を見るとボールが当たった場所が赤く腫れていた。

 

「赤くなってる……大丈夫かい?友奈?」

「う、うん。いてて……」

「悪い悪い顔を狙うつもりは無かったんだけどなぁ。ま、油断してる方が悪いってこった」

 

郷田くんのその言葉を聞いた+友奈の腫れた箇所を見た瞬間に僕の何かが切れた。

 

「友奈…この試合は僕に任せて」

「洸輔くん?わかった!私も外野からすぐこっちに戻ってくるね!」

「了解~来るまで待ってるからねぇ~」

 

近くにあったボールを拾い上げて相手コートの方を見る。郷田くんがにやつきながらこちらを見ていた。

 

「さぁ残すはお前だけ…(バチン!)……は?」

「ごめんごめん…当てるつもりはなかったんだ。でもしょうがないよね?油断してる方が悪いもんね?」

 

郷田くんは何が起きたのか分からないといった顔をしていて、その他の子達は僕の方を見ながら震えていた。申し訳ないが…ちょっと今の僕怒ってるから…全滅するまでそれに付き合ってもらうよ?

 

「さぁ…おいで…踊ってあげる」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ってことがあって…結局そのあと二組は何もできなくて私達の圧勝!決勝戦も余裕で勝って優勝したんだ!」

「「「うわぁ……」」」

 

東郷さんとそのちゃん、夏凜ちゃんは私の話が終わったと同時に他のクラスメイトの子達に向かって同情の念を送っていた。

 

「え?皆どうしたの?」

「それは…郷田って奴は良いにしても…」

「他の子達からしたらねぇ~………」

「只のとばっちりよね…」

「しかも…当の本人はその事を覚えてないしね…」

「……そんなことあったかなぁ~?」

 

実際レクリエーションが終わったあと、洸輔くんに話掛けてみたら…「あれ?いつの間に僕達勝ってたの?」って言ってたからホントに覚えてないんだろう。

 

「まぁでも!今回は大丈夫だと思うよ!郷田くんもいないし」

「そうだね。全く記憶にないけど…多分大丈夫だと思うよ」

 

(((なんだろ………嫌な予感がする…)))

 

 

そして…五六時間目に行われたレクリエーションで彼女達の予感は当たることになった……。

 

初戦に当たったクラスの男子によって…二年勇者部女子メンバーがやられたと同時に雰囲気が代わりどんどん相手を倒していった。

 

このレクリエーションが終わった後の二週間もの間、洸輔はあだ名として『讃洲中学のバーサーカー』と呼ばれ続けたのだった。(なんだかんだで本人は気に入ってるらしい)




1話限定の新キャラ…もうでてくることはないです(断言)

いろいろ立て込んでたので、投稿が遅くなりましたが…落ち着いたので頑張って投稿していきます!

それでは!また!!


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小学生短編 幼なじみは最強

悩むただ悩む


朝がまるで南極かと思うほど寒い。そんなことを幼なじみを待ちながら考える。

 

「うう……首元寒」

 

はぁ、と溜息を漏らす。この日の四国は極寒と呼ぶべき寒さであった。寒さに適性が無いことを理解している癖にマフラーを用意し忘れるという体たらく。正直、自分に幻滅する。

 

(ま、ぐだぐだ言っててもしょうがないけどさ)

 

「おっはよー!洸輔くん!今日もいい寒さだね!」

「おはよ、いい寒さなんてこの世には存在せんわい。寒いのは敵」

「あはは!そうだねぇ~」

「……はぁ〜」

 

横にいる幼なじみは、年がら年中、頭の中身が春のようだ。一人寒さに体を震わせていると、顔をニヤニヤさせながらこちらに寄ってくる幼馴染が一人。

 

「あれ~もしかして~洸輔くんが寒がってるのって~マフラーがないから~?」

「その顔をやめなさいよ。部屋にあるかと思ったら無かったの、お陰でこの様さ」

「意外〜、いつもは変に注意深いのに」

 

雑談をしながら通学路を歩き始める。割りと早めに出たと思っていたが、結構な人数の生徒が登校していた。

 

「ああ……寒」

「ふんふーん♪」

 

なんだろ、無性にこの幼なじみに対してイラっと来た。そもそもなんでこの子はそんなに元気なの?

 

(何より、なぜ一々こちらへ視線を向けるんだよ)

 

横にいるお馬鹿さんは『チラッ…チラッ!』などと言いながら、こちらにマフラーを見せつけてくる。ええい、そんな仕草すらも可愛いから尚更タチが悪い。

 

「ん~?洸輔くん?このマフラーがそんなに羨ましいの~?」

「……そんなことより、急がないと遅れちゃうよ。六年生の教室って一番上だから階段上がるの大変だし」

「もー!なんで話そらすの~!」

 

そらさないと、そのマフラーが欲しすぎて飛びつきそうだからだよ!ん、というか友奈のマフラー……一人で巻くようにしちゃ少し長いような…?

 

「しょうがないなぁ~そんなに欲しいなら半分あげるよ!」

「へ…?」

 

サッと首元が温かい感触に包まれる。マフラーには友奈の温もりがまだ残っており、少し気恥ずか…ってそれどころじゃなくて!

 

「ちょ!ちょっと待った!ここ通学路だからね!?」

 

周りではソワソワしつつも興味津々と言いたげに目を光らせる女生徒達と、まるで親の仇でも見ているように殺意に満ちていた男子生徒達の目がこちらに向けられている…まぁ、男子は主に僕の方しか見てないが。しかし、幼なじみは何食わぬ顔で…

 

「…?そうだけど?」

「……ぁ〜、だよね」

「なんで溜め息!?」

「いや…相変わらずだと思ってさ…」

 

友奈は昔からこうだ。どこだろうと構わず僕に抱きついたり…手を繋いだりしてくる。(慣れてきたのか…少しは恥ずかしくなくなったが…あくまで…少しは…だ)

 

「?まぁこれで洸輔くんも寒くないよね!結果オーライ!」

「…ま、まぁそうだけど…」

 

(僕の幼なじみは…最強かもしれないな…)

 

これはヤバい…さっきまで友奈の首に巻いてあったためか…すごく暖かいし…それでいて…女の子特有の甘い香りが…

 

「これ…友奈の匂いがする……」

「ふぇ!?」

 

突然友奈の顔が赤くなった。よく分からないが…もしかしたら僕に半分を貸したせいで冷えてしまったのかもしれない。

 

「大丈夫?友奈?」

「え!?あ、うん!大丈夫だょ………」

「ホントに?顔赤いよ?」

「ほ、ホントに大丈夫だよ~…………むぅ油断も隙もないや…」

「?」

 

ぼそぼそと何かいっていたような気がするが…周りを見渡すとそれよりも重要なことに今さら気づく…。

 

「あれ?なんか周りの子達いなくなってない?」

「え…?あれ?ホントだ…」

 

その時…どこからか鐘の鳴る音が聞こえた。瞬間二人の顔が青ざめる。

 

「ねぇ…今のってまさか…」

「…その…まさかだよね…」

 

二人で顔を見合せ…叫ぶ。

 

「「遅刻だぁーーー!!!!」」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そして現在、友奈宅

 

「て…ことがあったよね?小学生の頃」

「懐かしいねぇ~あのあと結局は先生に『イチャイチャしてて遅れたのかぁー!』って怒られちゃったね~」

「それは友奈が自分から言ったからじゃん…」

「あれ?そうだっけ?」

 

てへぺろ顔を作り出す幼なじみに凸ピンを喰らわす。こういう所は昔と変わらない。

 

「あ、そうだ!」

「どうしたの?友奈?」

「あのマフラーもっかいかけてみようよ!二人で!」

「なんで急に!?」

「なんとなく!!」

 

それだけ言って友奈はその時に巻いていたマフラーを取ってくると…あの時と同じようにマフラーをシェアした。

 

「やっぱり暖かいね~」

「…まぁ季節的にちょっと間違ってる気がするけど…」

「もー!他に感想はないのぉ?」

「えっと……友奈の温度を感じれて嬉しいです?」

「ん~疑問系なのがちょっと気になるけど、合格かな」

 

友奈は僕の肩に頭を預けてきた。預けられた頭に自然と手が伸び優しくそれを撫で始める。

 

「えへへ~」

「前から思ってたんだけさ」

「ん~?」

「嫌じゃない?頭撫でられるの?」

「嫌じゃないよ~だって洸輔くんの手温かいもん」

 

笑顔でそんなことを言った彼女に自然と笑みが溢れる。僕は微笑んでいる彼女を見ながらあることを呟いた。

 

「…やっぱり友奈は最強かもね…」

「ん?…何か言ったぁ?」

「ううん…何でもない!」

 

マフラーのお陰か…それとも横にいる幼なじみのお陰なのか…その時の僕は心と体がポカポカしていた。




僕の悪い癖だ…番外編を書くと、ある一定のキャラクター依存してまう。

もっと文章能力を高めたいなぁ…。

とりあえずリクエストに記されていた内容を全部書けるように頑張ります!

それではまた!!


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短編 ポニーテール好きの天草くん

洸輔くんの趣味が、一つ明かされる回。

めっちゃキャラ崩壊してます。特にというより、洸輔くんだけね。

ギャグ回なので暇潰し程度に読んでください。


これは、僕のとある趣味が勇者部女子メンバーに露見した時のことである。

 

「はい!皆、注目ぅ~!今日もこの勇者部に新たな依頼が舞い込んできたわ!」

「それで?犬部長、今回はどんな内容なわけ?」

「あとで覚えときなさいよ、バ夏凜」

 

「んだとごらぁー!」と言いながらプンスカ怒ってるバ夏凜さんを尻目に、風先輩が依頼内容について話始めていた。聞こうとすると、スゴイ力で腕を夏凜様に掴まれた。

 

「洸輔~?今、あたしのことバカにしたでしょ~?」

「ちょっと、落ち着いてバ夏凜さ…あ」

「さようなら」

「いやぁーーーーー!!!!」

 

腕がメキメキいってる。てか、なんで?なんで僕の考えてることって読まれやすいの?

 

「はい、いつものやり取りはほっとくとして。えっと、二年生の女の子からの依頼か。ほほぉ、『男子が、グッとくる女子の髪型を教えてください』だって!」

「ん~じゃあ、今回の依頼はこうくんが主体になりそうだねぇ~」

「そうね、内容的にも私達が意見を出す感じではないしね」

「だってよ、洸輔くん!」

「ま、まぁ前の時のに比べたらましな方かな……」

 

前の依頼は、きつかった。理性と羞恥心が混ざりあって、もう……大変でした。でも、今回のは意見を言うだけで済みそうだ。

 

「うーん、グッとくる髪型かぁ。そう言われると難しい」

「なんかないの?ほら、漫画とかに出てくるキャラでこの子の髪型好きだなぁーとか」

「まぁ、いないことはないけど……うーん」

 

いや、あるよ?好きな髪型。でも、ねぇ?ぶっちゃけると言うのが恥ずかしい。だってそれって自分の趣味暴露することと一緒じゃん?それはちょっとなぁ……。

 

「あ、そういえば!洸輔くん、前に『ポニーテールが女性の髪型の中でも至高!!』って言ってたよね!」

「こんのぉ!!バカちんがぁ!!!」

「い、いひゃいいひゃい!!よ、よくわからないけどごめんなさい~!!」

 

友奈の両方の頬を掴んで引っ張る。まったく、この幼なじみは油断も隙もあったもんじゃない!なんて、タイミングで思い出してんのさ!

 

「HEY!ミス、友奈!復唱してみよう!人の、趣味は、勝手に、ばらしちゃいけない!はい、どうぞ!!」

「は、はい!人の、趣味は、勝手に、ばらしちゃいけない!」

「そう!てか、今さら自覚させても遅かったぁぁぁ!!」

「わぁ~こんなに、動揺しているこうくんは珍しいねぇ~」

 

恥ずかしさのあまり、言動が怪しくなってきている。思春期の男子なんてこんなものだ。好みを暴露させられ、おかしくなっていると夏凜に声を掛けられた。

 

「ふ、ふーん、洸輔はそういうのが好きなんだ?」

「うん、もう言われたから構わず言うけどね。あれ最高。あれに勝る髪型はないと僕は思うです、はい」

「なんで敬語なの?」

 

てかテール系列なら、基本親指立ててグッジョブしたくなる。友奈の髪型、あれはサイドポニーっていうんだけども、あれも反則。小さい頃はショートで髪結んでなかったのに急に変えてきてさ。確か、僕がその髪型褒めてからはずっとサイドポニーなんだよね。気に入ったのかな?サイドポニー?

 

それより、もっと引かれるかと思ったんだけど……逆に皆なんか考え込んでるような?どうしたんだろ?

 

「ポニーテール、か」

「うーん、短いから難しいかな?」

「そうだったのね。知らなかった……」

「ん~、よし!じゃあ、みんなでやってみようよ~?」

「やるって何を?そのちゃん?」

「ふふふ~簡単だよぉ~。誰のポニーテール姿がこうくんを一番グッとこさせられるか~っていうのだよ~」

『なっ!!』

「えっ?いや、それは個人的には嬉しいけど」

 

本題からかなりずれている気がする。そりゃ、皆のポニテ姿は見てみたいけども、あくまで一つの意見として言った(言われた)だけだし、僕が欲望を抑え込んで軌道修正しようとすると……。

 

「や、やってみましょうか!最近、イベント事もなかったからそういうのも、いいんじゃない!?ねぇ、夏凜!」

「そ、そうね、悪くないわね!ね、皆もそう思うわよね!?」

『ええ(はい)!』

「友奈、これはどうすればいいの?」

「私も!賛成!!」

「わぁぁ!数秒で僕の周りには、味方がいなくなったぁ」

「よーし、じゃあ準備しよっかぁ~」

 

と、いうわけで第一回勇者部女子誰がポニーテール一番似合うか決定戦(園子命名)が開幕した。本題どこいったの?

 

 

一人目は部長の風先輩。

 

「……洸輔?」

「……」

「お、おーい?大丈夫?」

「はっ……すいません。あまりにも美し過ぎて、一瞬意識飛んでました」

 

ホントに美人というのはこれだから、困る。さすがは、女子力53万……恐ろしいな。何より、うなじが……あー煩悩退散煩悩退散!!

 

「っ!?よ、よくそんなこと面と向かって言えるわね」

「だってホントのこと、ですから。ホントに似合ってますよ。風先輩!」

「おお~ふーみん先輩は色気で勝負してきたね~」

「ええ、すごく大人びて見えるわ」

「あ、あはは、ありがとうね」

 

二人目は夏凜。

 

「べ、別にあんたの為にやってる訳じゃないから!気になったからやってるだけだからね!」

「うん!いいっ!凄くいい!!」

「はぁっ!?」

 

風先輩と違って髪が、短めのため纏まった髪は少なめだが、逆にそれがいい。それと運動部にいそうだなぁと思った。そして、ツンデレとポニテ……ベストマッチだ!!

 

「グッジョブ!可愛いよ、夏凜!!」

「うん、可愛いよ!にぼっしー!」

「とっても、似合ってるよ!夏凜ちゃん!」

「~~~~~!!!」

 

三人目は樹ちゃん。

 

「あ、あの……」

「はい、何でしょう?」

「どうして、私は頭を撫でられているんでしょうか?」

「小動物みたいで可愛かったので、ごめんね。凄く撫でたくなった!」

 

ダークホース降臨!ヤバいです。これは、あかん。すごい愛でたくなる。ポニテに、したことによってまるで小動物のような動きをする樹ちゃんの可愛さが底上げされている!!

 

「樹ちゃん……恐ろしい子!!」

「まさかのダークホースが、妹とは!?」

「ふ……ふにゅう……」

「いつもの樹ちゃんも可愛いけど…これは反則だ!!」

 

四人目は園子

 

「ふふん、どうかなぁ~?こうくん」

「ちょっ、園子!?」

「それ~すりすり~」

「ぐぬぅ……」

 

こんなん殺しに来てるようなもんだ。胸の部分に顔を埋めながら上目遣いで見つめてくる園子を、見てそう思う。ギャップが、ヤバい!普段の感じとは、一転して真面目そうな雰囲気を醸し出してるのに、甘えてくる。男心をめっちゃ擽られる。てか、ポニテ似合いすぎだって!!

 

「園子はかなり雰囲気変わるわね」

「ええ、所でこれはあくまでどれだけ似合っているのかの勝負であって……そんなにくっつく必要はないと思うのだけど(ギロッ)」

「東郷さんに同意だなぁ~(絶対零度の眼差し)」

「園子!まずい!離して!!これは似合ってるかとか関係なしに殺されるから!!」

「え~まだ似合ってるって言ってもらってないも~ん」

「似合ってる!めっちゃ可愛い!から離してぇ!!」

 

六人目は美森。

 

「ど、どうかしら?」

「美森……」

「へ?」

「体操着に着替えてくれないかな?」

「え、ええ、いいけど……」

 

怪訝そうにしながらも、了承してくれた美森。少し部室の外で待機する。やがて、呼ばれた僕は確信した。僕は間違っていなかったのだと。

 

「やっぱり、美森は体操着が一番似合うと思ったんだ」

「涼しい顔して言ってるけど、趣味丸出しよ」

「でも、制服の時よりも輝いて見えませんか!?」

「ん~こうくん、中々やるねぇ~」

 

「でしょー」と言いながら胸を張る僕。確かに、制服でも全然可愛い。しかし、これを体操着にすることによって出るとこは出ている美森の風先輩とは違った色気を醸し出すことが出来るのだ。(我ながらなに言ってんだと思う)

 

「うぅ、なんか……すごく、恥ずかしいわ///」

「すごく似合ってるよ!美森!」

「わっしーはふーみん先輩に色気で負けてないねぇ~」

「あたしこの二人が只のエロ親父に見えてきたわ」

『あはは……』

 

ラストは友奈。

 

「じゃじゃーん!これで、どうだ!!」

「おお、友奈のポニテを見るのは久しぶりだね」

「確かに、この髪型にするのは久しぶりかも!」

「安定の可愛さだね!グッジョブ!!でも……」

 

相変わらず可愛い。笑顔とポニテがマッチしすぎてるんでだよね。昔見た時と何ら変わらない可愛さだ。しかし、これだけは言える。

 

「やっぱり、友奈はサイドポニーの方が似合ってると思う!ポニテが駄目って訳じゃないけどね」

「そ、そうかなぁ……えへへ」

「ふーみん先輩!!ここで、ノロケテロが発生しています!どういたしましょう!?」

「構わん、やれ」

『なんで!?』

 

てなわけで、全員の審査が終わりました。結果発表ということになったのだが……正直一番とか決められない。だって、全員いいんだもん。誰が一番とかないよ……。何より、これ絶対一人だけいいっていったらそれ以外のメンバーになんかされるに決まってるし。

 

「それで、洸輔?誰のポニーテールが一番グッときたの?」

「一つ質問いいですか?」

「な~にぃ~?」

「全員って選択肢は『それはダメ(です)(だよぉ~)(よ)』あ、はい……」

 

てゆーか、これ、かなり本題から外れてしまっていると思うんだけど……ふふ、そんなことよりなぜ僕がこの位置で座っているか分かるかい?分からない?まず見えない?それは申し訳ない。では、分かるように説明しよう。出口の前で座ってます。これで、分かったでしょう!そう、隙を狙って今すぐ逃げるため…

 

「あ、樹。逃げないように鍵閉めといて」

「うん、お姉ちゃん」

 

うん、詰みました。これはちょっと……逃げられないかも。その後、僕はポニーテールの美少女達に囲まれながら、自分にとってご褒美に近しい拷問を受けるという謎の空間が出来上がっていた。

 

結果的には、『みんな違ってみんないい』で通して貰いました。泣きながら、言ったら通った。(前にもこんなことがあったような気がする)というより、依頼の件ホントにどこ行ったんだろ?

 

疲れたけど、かなり役得な一日でした。まぁ、この話を通して何がいいたいかって言うと……ポニーテールは最高だぜ!ってことです。




ほんとは、もっとラブコメっぽくする予定だったんだけどただのギャグ回になっちゃった(笑)



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短編 ちょっぴり特別なバレンタイン

はい!バレンタイン回です!!ん?二日も過ぎている???知りませんなぁ、友奈ちゃんと洸輔くんのバレンタインのイチャイチャ書きたくなったから許してください(血涙)


〜バレンタイン前日の夜〜

 

「バレンタイン……」

 

明日は、2月14日!世間でいうところの女の子が仲の良い男の子にお菓子をあげたり、女の子同士で交換したり、その、本命と称して、告…白したり…。

 

「お、お菓子作りは、慣れてるから大丈夫!ずーっと、洸輔くんにチョコをあげてるし……でも…」

 

腕を組んで考える。今回のバレンタイン、いつもより…ライバルが多い!!

 

「皆……きっと渡すよね」

 

思い浮かんでくるのは、勇者部の皆。きっと、皆あの子のために準備してくるんだろうな。今回は、東郷さんと風先輩だけじゃない。樹ちゃんや、夏凜ちゃん、そのちゃんも参戦するはず。これはぶっちゃけ戦いだ…洸輔くんっていう一つの要塞を落とすための。

 

「……いつもみたいな感じじゃダメだよね」

 

うーんと、唸りながら机にある完成品のチョコ菓子を見て思う。同時に、チョコを自分がどんなふうに渡していたかも思い返す。

 

 

 

※友奈さんと洸輔さんのバレンタインの様子↓

 

『洸輔くん、おはよー!はい!義理チョコ!!バレンタインの贈り物ね!』

『おはよ、毎年ありがとうね、友奈』

『いいよー!来年も楽しみにしてて!美味しく作るから!』

『うん、楽しみにしてる。あと、お返しは期待しててよ』

 

 

 

「うーん、なんか違う気がぁ……」

 

去年までのバレンタインの記憶を呼び起こして頭を抱えた。これじゃ、日課みたいになっちゃってるもん。しかも、なんでしっかり『義理』って言っちゃってるのぉ……。

 

「まぁ、洸輔くんの性格を考えると、私が言わなくても義理チョコだと思いそうだけど…」

 

ため息が漏れてしまった。きっと、勇者部の中には洸輔くん本人が自覚していないだけで、本命はいる。そんな時に、少しでも彼の中で私を特別に見てもらうためにはどうすればいいのか。

 

「っ〜〜!にしても、まだまだ寒いなぁ〜……」

 

両手を合わせて、擦る。登下校の時なんかは、防寒をしっかりしないとまだまだ苦しい。……ん?寒さ……防寒……。

 

「あっ、そうだ!!」

 

ふと、思いつく。チョコだけでも、気持ちは伝わるのかもしれない。それでも、今回はちょっと特別なものにしたいと思ったから。

 

(洸輔くんに、少しでも気持ちが伝わるように……)

 

そう心の中で呟いて、私は別の作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「じゃ、当番日誌だしてくるね!」

「おっけー、待ってるよ」

 

放課後、職員室前にて当番日誌を渡しに行った友奈を待つ。言っておくと、めちゃめちゃ寒い。廊下なんて、風の通りが良すぎるから地獄だ。ましてや、今は生徒もほとんどいないし、寒さが倍なんですよ。

 

いつもなら、美森も一緒に帰るから今日は園子に呼ばれて先に帰っていた。ふと自分が右手に持っていた鞄に視線を向ける。

 

「にしても…僕は本当に恵まれてるなぁ…」

 

鞄の中に入っている綺麗にラッピングされた袋や、箱を見て呟く。今日はバレンタインデー、クラス中の男子全員がそわそわしていた。もちろん、僕だってその一人だ。

 

ただ、なんというかそわそわする雰囲気も感じたけどザクザクと刺さる視線もぶつけられていたような…。

 

「にしても……こんなに、チョコを貰えるなんて。ホントォに嬉しいなぁ(泣)」

 

純粋にすごく嬉しい。渡してくれた時の、みんなの顔を思い浮かべると尚更嬉しくなる。

 

『あの、洸輔くん。これ…受け取ってもらえるかしら?いつもの、その…お礼というかなんというか』

 

お礼と称して、美森はチョコをくれた。こっちだって感謝してもしきれないくらいお世話になってるのに。

 

『受け取りなさい、洸輔!私のチョコを!べ、別に深い意味はないからね!勘違いするんじゃないわよ!』

『はい、こうくん〜これ、本命チョコなんよ〜、ふふっ、なーんて、冗談だよ〜』

 

夏凜はあからさまなツンデレ感を出しつつ、園子は相変わらずの僕をからかうような感じで。

 

『先輩からの贈り物よ、ありがたく受け取りなさい!』

『私の気持ち…その…受け取ってください…』

 

風先輩はすごく強気で、樹ちゃんは恥ずかしがりながらも渡してくれた。

 

「ぶっちゃけ、勝ち組だよなぁ……僕って」

 

本命チョコはもらえなかったとしても、こうやって僕のためにチョコをくれる人達がいる。それだけですごく満足だ。ただ…一つ、気になることというか、パッとしない事がある。

 

「友奈は……今年、くれないのかな?」

 

そう、長い付き合いの幼なじみである友奈からチョコをもらえていなかったのだ。そりゃ、絶対もらえるなんて思っているのは傲慢かもしれないけど。

 

こう思うのもしょうがなくて何故ならバレンタインには、必ず友奈がチョコをくれた。朝、僕が家に迎えに行くと元気に飛び出してきて、笑顔で手作りのチョコを。

 

だけど、今日は…『おっはよー!洸輔くん!』『友奈、おはよう』……これで会話、終了。

 

うん、なんというか、寂しい、ものすごーーーーーーく寂しい。友奈のチョコ…楽しみにしてたんだけどなぁ…。

 

(あー、欲しいなぁ……)

 

「洸輔くん?大丈夫?」

「はわっ!?ゆ、友奈、いつの間に」

 

いつの間にか、目の前にいた友奈に驚いて後ろに飛ぶ。何というか、チョコのこと意識したら、すごいなんというか気まずい。

 

学校を出て、いつもの帰路を二人で歩いていく。まだ、寒さが残っていて手袋しか持っていない僕にとってはかなりキツかった。

 

「そうだ、洸輔くん」

「何?」

「朝、渡せなくてごめんね!これ、バレンタインのチョコです!」

 

そう言って手渡されたのは、僕が今日一日もやもやしていた理由の要因、友奈様の手作りチョコだった!!

 

「お、おおお……今年は貰えないかと思ってたから……うぅ!やったぁ!!嬉しいよ!友奈、ありがと……ってどうしたの?そわそわして」

 

どうやら、チョコもらえなかったのが相当寂しかったらしくて嬉しさが一気に込み上げてきた。そんな喜んでいる僕の横で、友奈は何故か視線を彷徨わせながらもじもじしていた。

 

「えっ!?いや、えと…その、あの…ね」

「うん」

「実は、朝渡せなかったのには理由があって…」

「理由??」

「これも一緒に渡そうと思ってたから」

「ん、これって……マフラー?」

「うん、朝まで頑張ったんだけど、完成しきれなくて……昼休みとか、休み時間とかを使ってなんとか完成させることが出来たんだ」

 

「まぁ、少し弄れば完成するくらいには出来てたんだけど」と言って、ニコッと笑う友奈。あー、なるほどなぁ。通りで、昼休みも休み時間にも教室にいなかった訳だ…ん?待ってよ、完成?てことはこれって…。

 

「えっ!?てことは、何!?友奈、これ作ったの!?」

「うん、お母さんに教えて貰いながら…ね」

 

そう言って手渡されたマフラーを見ながら固まってしまった。めちゃくちゃ肌触りが良い…とても、手作りとは思えないほどの出来だった。

 

「い、いいの!?こ、こんなすごいのもらって!?」

「勿論だよ!その為に作ったんだから!」

「友奈……」

 

そう言ってニカッと笑った友奈を見て顔が熱くなった。同時に、申し訳ない気持ちが込み上げてきた、友奈がこんなに頑張って贈り物を作ってくれていたのに……僕はなんて馬鹿なんだろうか。

 

「ありがとう。嬉しいよ、その…巻いてみてもいいかな?」

「うん!巻いてみて〜巻いてみて〜!」

「……すごい、本当によく出来てる…しっかりあったかいし」

「よかったぁ〜」

「友奈……本当にありがとう。無茶苦茶嬉しい…このマフラー、宝物にするからね」

 

こんなに気持ちの込められたプレゼントを貰ったのだからと、笑顔を浮かべながら、感謝の言葉を送った。

 

「でも、なんでマフラーまで作ってくれたの?」

「え〜それ聞くのぉ?」

「あ、ご、ごめん…でも、その、純粋に気になってさ」

「う〜ん、それは秘密かな〜」

「だ、だよねぇ〜…はは」

「まぁ、一つだけいうなら」

 

そう言うと、友奈は僕の前に立って人差し指を口元に当てながら小さく呟いた。

 

「いつもよりもちょっとだけ、特別な日にしたかったから……かな?」

「えっ?それってどういう…」

「ふふ♪さぁ〜なーんだろーね♪」

「ちょっ!!友奈〜!」

 

楽しそうに駆け出していった友奈を僕も追う。寒い筈の帰り道が、今日は全然寒くなかった…それはきっと友奈がくれたマフラーのお陰もあるのかもしれないけど、それ以外にも何かある気がした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「っはー!!き、きんちょーしたぁ…」

 

家に帰った私は、自室へと駆け込んで布団へとダイブした。別に運動も何もしたわけではないのに、息は荒くなってしまっている。

 

「がんばった…私、がんばったよね…」

 

洸輔くんの前では、かなり強がっていたけど正直心臓はバックバクだった。多分、いつものようにチョコを渡すだけなら、ここまでにはなってなかっただろう。

 

「この感じ……バレンタインってすごいんだなぁ…」

 

改めて、バレンタインの偉大さを痛感したような気がした。にしても…

 

「あの顔は…ずるいよぉ…洸輔くん…」

 

マフラーをもらった後の、表情とその後の笑顔…思い切り心を鷲掴みにされてしまった。ああいう所がずるいっていうのに…。

 

(相変わらず…卑怯だよ)

 

枕に顔を埋めながら唸っていると、メールが一通とどいていた。差出人は洸輔くんだった。

 

『言いそびれてたからここで言うけど、ホワイトデー!楽しみにしてて!友奈に負けないくらいのお返ししてみせるから!特別な日と、心がこもったプレゼント本当にありがとう、嬉しかったよ』

「ふふ……洸輔くんらしいなぁ」

 

メールの内容を見て、ついつい笑みが溢れた。洸輔くんにとっても今日は特別な日になってくれたようで嬉しい。

 

「本当に……大好きだよ。洸輔くん」

 

言葉に出来ない幸福感が私をずっと包み込んでいた。




あー、この二人はもぉ…ホントォに…もうルート確定みたいなもんじゃないかよ…まぁ、でもこれ短編ですから!!(`・ω・´)キリッ

本編の方も楽しみに待っていてください!(=´∀`)


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クリスマス短編 

メリー!!クリスマス!!初のクリスマス短編です!今回は友奈ちゃん、夏凛ちゃん、風先輩、そのっちの4人に焦点を当てやした!短めの個別エピソード的な感じに仕上げました!では、どうぞ!


相変わらず時系列ガン無視ですが、気にせず楽しんでください〜(おい)


『寒い〜!』

 

 勇者部部室、今日はここでクリスマスパーティが行われる。その準備の為に、私と洸輔くんは早めに部室へとやってきた。それはいいのだが……

 

「まさか、集合時間の一時間前に来てしまうとは……」

「うぅ、ごめんね。私が急かしたせいで」

「いやいや、僕も確認不足だったし。友奈だけのせいじゃないよ」

 

 幼馴染くんの優しさが身に染みる。しかし、それで体が温かくならないのが現実の厳しい所です。ちなみに、東郷さんがこの場にいないのは風先輩とケーキを取りに行く役目があるからである。

 

「暖房も全然効かないし……うぅ、いつも風先輩はこの寒さを耐えながら私達を待っててくれたんだね」

「なんか、途端に後々から遅れてやってくることへの罪悪感が……」

 

 風先輩の体の強さを再認識する。暖房も効いてくれれば心強いが、効くまでがなんとも長い。

 

「どうする?止まっててもあれだし、先に軽く準備始める?」

「だね、少し手を動かすだけでも違うと思うし」

「じゃあ、まずは飾り付けといきますか……テープってどこにあったっけ?」

「あっ、こっちにあるよ〜」

「サンキュ〜」

 

 今日ってクリスマス、だよね?いつもの部活動中の会話の雰囲気と変わらなさすぎて、多少不安になる。もしかして、私全く意識されてない?だとしたら、結構悲しい。一応、二人きりなんだけどなぁ……。

 

「はぁ〜…」

「ん?どしたん、友奈」

「ううん、ナンデモナイヨー」

 

 まぁ、洸輔くんはこういう子だからね。ある意味ではいつも通りでいるのが、私達らしいのかも。そんな事を考えながら、未だに冷えている両手を擦り合わせる。

 

「手、まだ冷える?」

「うん、ちょっとね。でも、大丈夫!少しずつ暖房も効いてるし」

「その割には手が震えてるけど」

「……サムクナイヨー」

「はい、ダウト。そうだな、じゃあ、友奈さんや。両手をこっちに」

 

 ちょいちょいと右手で手招きされたので、頭に?マークを浮かべながらも、お互いに向かい合わせの状態になりながら、言われた通りに両手を差し出す。

 

「これでいい?」

「おーけー、そんじゃあ、はい」

「ふぇ!?」

 

 急な事で変な声が出てしまう。何故ならば、差し出した両手が洸輔くんの大きな手に包まれたから。

 

「い、いきなり、どうしたの!?」

「こうすればもっと早く温まるかなって……もしかして、嫌だったかな?」

「い、嫌じゃないけど……」

 

 嫌なわけがない、好きな男の子に手を握ってもらって嬉しくない女の子なんているはずがない。突然の大胆な行動に軽く思考が停止する中で、真面目な表情になった幼馴染が追い討ちをかけてくる。

 

「よかった、いつもは友奈に先を越されちゃうからね。今日くらい僕から先に握るべきかなって。ほら、クリスマスだし」

「……」

 

 少し頬を赤く染めながら、彼は笑顔でそんな事を言う。

 

(そういう所が、ずるいんだってば)

 

 急に見せるそんな所が、私の胸の内にある気持ちを更に強くする。その気持ちが私の体を動かしたのか、自然と椅子を洸輔くんの横の方へと移動して、身を預けるように寄せていた。

 

「皆が来るまで、少しの間だけこうしててもいいかな?」

「……いいよ、こうした方がお互いに体もあったまるしね」

「えへへ、ありがと」

「ねぇ……友奈」

「ん?」

「パーティ前で少し早いけど、メリークリスマス」

「うん、メリークリスマス。洸輔くん」

 

 ちょっぴり積極的になった幼馴染に、とびっきりの笑顔を向けながら言葉を返した。手と体、好きな人の温度をその両方から感じる度、幸せな気持ちが溢れてくる。

 

今年のクリスマスは、少しばかり特別だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「こんな所にいたんだ、随分探したよ?夏凜」

 

 サンタの帽子を被ったそいつは、心配そうな表情で私の元へと駆け寄ってきた。

 

「ちょっと外出てくるって言ったわよ、私」

「知ってるよ、でもあまりにも戻ってこなかったから探しに来たのさ。で?何してたの?」

「……なんとなく、外から部室を眺めたくなったのよ。私の今の居場所をね」

 

 クリスマスパーティが行われている部室へと視線を向ける。自然と温かい気持ちになった。

 

 きっと勇者部の皆と出会わなければこんな気持ちを感じることはなかっただろう。

 

「そっか!うん!なんか、嬉しいな……」

「なんであんたが、喜ぶわけ?」

「そりゃ、喜ぶよ。だって僕と友奈の言葉がしっかり届いたってことでもあるし。何より、夏凜が勇者部の事を居場所って思ってくれていたのが嬉しいんだ」

「うっ……あっそ」

 

 笑顔にドキッとしながらも、なんとか平然を装う。危ない、油断するとすぐにこれだ。

 

「そうだ。ねぇ、夏凜」

「何よ?そろそろ、戻るんじゃないの?」

「あー、そうなんだけど……少しだけ、後ろ向いててもらってもいい?」

「……雰囲気に任せて、変なことする気じゃないでしょうね?」

「するわけないでしょ!?ほ、ほら、そっち向く!」

 

 よく分からないが、洸輔に急かされ反対側を向く。警戒していると首元に何か布のようなものがかかった感触がした。

 

「んっ……これ?マフラー?」

「メリークリスマス、プレゼントだよ、夏凜」

 

 突然の事に、目をパチクリさせる。どう返していいか分からないでいると、首にかけられたマフラーに見覚えがある事に気づいた。

 

「これ……欲しかったやつ」

「やっぱり!この前二人で買い出しに行った時、すごい興味津々に見てたでしょ?それで、ピカーンときてさ」

「……覚えてたわけ?そんな事を?」

「初めてのクリスマスを楽しみたいって言ってたからね、その為にはクリスマスプレゼントの存在は必須でしょ?何より、夏凜の喜ぶ顔が見たかったしね」

 

 じゃあ、何か、私を喜ばせる……その為だけに、こいつは態々、プレゼントまで用意してくれたって言ういうのか、私の為に。

 

「……よくもまぁ、そんな事を平然とできるわね」

「えっ……もしかして、嫌でしたか(泣)」

「嫌なわけないでしょ、逆よ、逆」

「んと、喜んでもらえたってこと?」

「そういうことよ……その、ありがと。これ、大事にするわ」

 

 私の言葉に、そいつはまた嬉しそうに笑う。その笑顔に感化されたのか、自然と私の口元が緩んだ。

 

「夏凜、嬉しそう。そんなに気に入ってくれたんだ……てか、顔赤くない?」

「っ!そ、そんな事ない!ほら、そろそろ部室に戻るわよ!」

「えっ?なんで怒ってるの!?ちょっ!お、置いてかないでって!」

 

 赤くなった頬と、吊り上がったまま戻りそうにない口元を隠すようにマフラーで覆った。

 

「ああ、もう、なんだってのよ……」

 

 胸の高鳴りが増す中で、譫言のように呟く。

 

「めちゃくちゃ嬉しがってるじゃん……私」

 

初めてのクリスマスは、忘れられないものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「買い物に付き合ってくれてありがとね、洸輔」

「いえいえ、男子として当然の事をしたまでですよ」

 

 パーティに必要な装飾品の入った袋を持っていない方の手で胸をポンと叩く後輩。その様子を見て、クスッと笑う。

 

 部室で明日の準備を進めていた所、足りなくなった物が出てきたので、買い出しをする事になった。全員で行くと準備が進まないのを考慮して、部長の私と唯一の男子である洸輔がその役目を得た。べ、別に二人きりになれてラッキーとは思っていない。

 

「明日のパーティ、存分に楽しみましょうね」

「はい!その為にあと少しの準備も頑張りましょう!」

「勿論よ、今回は夏凜や園子もいるからね〜一層気合入れなくちゃいけないわよ〜」

「ですね〜……」

 

 二人で帰路を歩く。別に緊張する必要もないのに、何故か肩に力が入る。恐らく、町中の雰囲気がクリスマス一色になっているせいもあるのかも知れない。

 

「ここって……」

「ん?どうしたのよ、急に止まって」

「あの、風先輩。ちょっとだけ寄り道いいです?」

「えっ、ま、まぁ少しならいいけど……どこ行くの?」

「それは、行ってからのお楽しみです!」

「ちょっ!?洸輔、どこ行くの!?」

 

(てか、手!TE!握っちゃってるから!無意識怖すぎるって!)

 

 内心で叫びながらも、嫌がらないのはそういう事なのだろう。無意識な洸輔も洸輔だが、こうされて嬉しくなっている私も大概らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうです、すごいでしょ?」

「えぇ、綺麗、ね……」

 

 目を見開く。広がっているのは人工的に作られたとは思えない光の芸術、それは私の目を釘付けにした。

 

「すいません、急に寄り道しちゃって……でも、近くに来たなら、先輩にも見てもらいたいなって」

 

 恥ずかしそうに笑う後輩の顔を直視出来ず、下を向いた。未だ繋がれている手からは、彼の温度を感じる。

 

(部長としては、早く戻らなきゃ…って思うんだけどね)

 

 心の中では、洸輔と一緒にここにいたいと思う自分がいる。そんな想いがある事を確認する度、認識する私はこの男の子のことが好きなのだとと。

 

「あ、えと……手、勝手に握っちゃってすいません」

「えっ、今更?」

「あはは……その、嫌だったら離しますけど」

「むっ……」

 

 急にドギマギとした表情になった洸輔が、手を離そうとしたので離れないようにお互いの指が間に入るようにした。

 

「っ……ふ、風先輩?」

「ふふ、男の子なら自分の行動に責任を持ちなさい?部室に帰るまでは離す気ないから」

「ま、マジですか……」

「うん、マジよ」

 

 困ったように頭を掻いた後輩の姿を見て、笑ってしまう。

 

(クリスマス前なのに、思わぬプレゼント貰っちゃったわね)

 

 伝わってくる温度を確かに感じ合いながら、私と洸輔は帰路を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「どうかな〜こうくん?」

「……え、控えめに言って最高ですけど」

 

 サンタの衣装に身を包んだ私に対して、こうくんはグッジョブと親指を立てる。喜んでもらえてなにより〜。

 

「てか、その格好を見せてくれる為にわざわざ僕の家まで?」

「そうそう〜明日は勇者部の皆で集まるし〜見せる機会って今日くらいしかないからねぇ〜」

「嬉しいけど、寒くない?その……結構、足とか出てるけど」

 

 顔を赤くしながらも、心配してくれるこうくん。その優しさにほっこりすると同時に、年相応の反応をする彼に胸が高鳴る。

 

「ご心配なく〜こうくんの部屋にいるだけであったかいから大丈夫〜」

「それはどういう体の構造……って、まぁいいか。えと、折角、来てくれたし、お茶でもど」

「ノンノン、こうくん。私が見せにきただけだと思うかい?勿論、やりたいこともしっかりあるんよ〜」

「ほう?それは勿論、その衣装に関係したクリスマス関連の事ですな?」

「ううん、膝枕〜」

「……クリスマス要素は?」

「この衣装?」

 

 「なんで疑問系!?」とツッコミを入れてくれるこうくん。こういうちょっとした会話をしただけでも、嬉しくなってしまう程に彼の虜になっていた。

 

「そして〜更にダメ押し〜」

「なっ!?ぽ、ポニーテール……だと!?」

「えへへ〜こうくんの弱点はもう把握済みなんよ〜」

 

 弱点を的確に突きつつ、膝枕の態勢に入る。膝をポンポンと叩いて、手招きする。顔を赤くしながらも、抵抗は無意味と分かっている為、案外素直にこうくんは頭を膝の上へと置いた。

 

「んっ……」

「寝心地はどうかな〜?」

「死ぬほどいいです……その、なんか色々とありがとぅ……」

「どういたしましてぇ〜」

 

 膝にかかる重みに自然と笑みが溢れる。目を下に向けると、頬赤く染めたこうくんの顔が目に入る。追い討ちと言わんばかりに、頭を優しく撫でてあげる。

 

「うぅ……クソ、こんなにも強力なサンタがいたなんて」

「こうくん、今日すごい喋るね〜」

「いつもは喋ってないみたいに言わないで!?てか、そうしてないと落ち着かないの!」

「それは〜私にドキドキしてくれているって事でいいの〜?」

 

 静かにこくこくと頷いたこうくんを見て、キュンとなる。反応が一回一回可愛いんだよねぇ〜。

 

「そういえば」

「どしたの?改まって」

「こうくんの所には、サンタさんっていつくらいまできてくれた?」

「えっ、そうだなぁ……基本的には小六までかな?中学に入ってから来なくなっちゃったし」

「あらあら〜でも、安心してぇ〜」

 

 「安心?何に?」と?を浮かべているこうくんに対して、耳元で呟いてあげる。

 

「本物のサンタさんが来なくてもね。今は私がこうくん専用のサンタさんだからねぇ〜物はあげられないけど〜頼んでくれればなんでもしてあげるよぉ〜?」

「…………へ?」

 

 耳元から、離れて彼の顔を見つめると顔がみるみる赤くなっていた。それこそ、今にも蒸気が出てきそうなほどに。

 

「そ、そそそそ、園子!ほ、本当に心臓が悪いから!か、からかうのやめてって!てか、そのサンタさんは色々アウト!」

「えー、別にからかってなんかないもん〜」

「言い訳はよしなさい!大体園子はね……」

 

 数分後、騒いで疲れてしまったのかすやすやと寝息を立てているこうくんの顔を覗き込んだ。

 

「えへへ、可愛い寝顔〜」

「んん……」

「ありゃ、寝言かな?」

「その…こ……」

 

 自分の名前を呼ばれて少し驚きながらも、嬉しくてにまーっとだらしなく笑ってしまう。彼の寝言をもっと近くで聞く為に、顔を近づける。

 

「もっと、もーーっと…名前、呼んでほしいなぁ〜」

「そ、のこ……す、き……」

「へっ……えっ!?!?」

 

 突然の事に大きな声が出てしまうが、起こさないようにすぐに口を塞ぐ。しかし、心臓はバクバクと音を増していくばかり、寝言とはいえ好きと言われた事に戸惑う。

 

(ふ、不意打ちすぎるんよ!こ、こんなの、こんなの……)

 

「ポニテ……す、き……」

「……あ、そ、そう言う事かぁ」

 

 寝言の続きを聞いて、納得する。きっとこの寝言は私のポニテ姿が好き、そう言っているに違いない。うん、そう思っておくべき!

 

(まぁ、それでもすごく嬉しいんだけどねぇ〜)

 

 気持ちよさそうに眠っているこうくんの頭を、また優しく撫でた。

 

(私は、こうくんの事が大好きなんよ)




……これクリスマス短編になってる?(第一声がそれかよ)

いやはや、結局遅れてしまって申し訳ありません。クリスマス短編のはずなのに思いっきり過ぎてしまって……今年の投稿はこれで終わり、と言いたい所なんですが、投稿する可能性があるかも知れないので油断はしないでお待ちを……。

それでは、皆さん今年も残り少ないですが。また次回お会いしましょう!


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短編 ししょーの最近です(★)

 勇者部所属いいっすね…読んでたらめちゃくちゃアイデア浮かんできちゃってもう…筆がノッちゃってノッちゃって、楽しぃ。

 そんなことより!実は…この天草洸輔は勇者であるが、皆様のお陰でがなんと、UA十万越えを達成しました!本当に読者の皆様…ありがとうございます!これからも頑張りますので…何卒、この作品とダメダメな作者の事をよろしくお願いいたします。

 てな訳で、本番どうぞ!!


「はっ…はっ…」

 

 早朝、今日は随分と調子が良かったのでいつもとは違う道を走り抜けていく。

 

(こういうのもたまには良いな。いつもとは景色も違って新鮮…あれ?)

 

「夏凜、それにあの子…」

 

 目線の先には、夏凜と小さな女の子が一緒にいる姿が見えた。何やら二人で木刀持って素振りをしているようだが…まさか、夏凜の妹?

 

「いや、ないない。居たとしたら春信さんからその子の話を聞かないはずないし…」

 

 だとしたら、あの子は?どこかで見たことがあるような……ていうか、ほんと夏凜って太刀筋綺麗だな〜冴えが素晴らしい。

 

 いや、横にいる子も中々綺麗な素振りをしている。あれは毎日鍛錬を積んでる子の動きだ。

 

「じ〜」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜一方その頃〜

 

 

「ししょー、さっきから不審者さんがずっとこっち見てる」

 

「あのバカ…富子、あれは不審者さんじゃないわ」

 

「ちがうの?」

 

「ええ、あれはただのポニテ好きの変態よ」

 

「じゃあ、へんたいふしんしゃさん!?!?」

 

 驚愕する富子。ていうかあのバカは何をしてるのか、さっさと声をかければ良いものを。何故かこちらに寄って来ず、遠巻きにこちらを見ているだけなのか。

 

(あんな事してれば、不審者に間違われても文句言えないでしょ)

 

「富子……って、何してるの」

 

「警察さんに不審者さんをつかまえてってサインをおくってるの」

 

 砂浜に何やら文字を書いている。タスケテ……知らない人がこれを見たら、本当に警察を呼ばれかねないわね。

 

「気持ちは分かるけど、やめてあげて。いちお、あれでも私の知り合いだから」

 

「っ!ししょーのお友達、不審者さんなの!?」

 

 完全に誤解されてる。不審者、とか言った私も私だけど。とりあえず、当事者にメールを送る。

 

夏凜『じろじろ見てないでこっち来たら?』

 

洸輔『えっ、そっち行っていいの?』

 

夏凛『逆にどうしてダメだと思ったの、早く来なさい。さっきからあんた不審者にしか見えないから』

 

洸輔『ごめんごめん、夏凜の鍛錬してる姿って絵になるからつい見入っちゃってさ』

 

夏凜『後10秒の内にこっち来なさい。じゃないと通報』

 

 ほぼ会話をぶった切る形で、携帯をしまう。口角が少しでも上がってしまった自分に、イラッとした。

 

「ししょー、顔赤い?」

 

「……気のせいよ。それより富子、今から面白い奴が来るから楽しみにしておきなさい」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「30秒…てことは、通報ね」

「ま…待っ、待って…僕は、まだこの世のポニテを探求しきれていないんだ…だから…」

「言い訳が完全完璧に変態じゃない」

 

 何度も言うけど、変態という名の紳士である。決して変態ではない。

 

「で、何でこんな所まで来たのよ?」

「実はランニング中でね、やる気を出して走ってたらいつの間にかこんな所にまで来てたわけさ」

 

 「自由すぎでしょ」と夏凜。その横では女の子が目を輝かせながら、こちらを見ている。

 

「この子は…」

「そっか、あんたはそんなに話したことないんだっけ?」

「多分…ごめんね、名前を覚えてなくて」

「気にしないで!不審者さん!」

「ふ、ふし?」

「あー、とりあえず説明するわね」

 

 この子の名前は富子ちゃん(トロ子という可愛らしいあだ名もあるらしい)夏凜が初めての勇者部での活動中に出会った子らしい。

 

 それ以来、二人は仲良くなり今では師匠と弟子という形に落ち着いたそうだ。その関係通り、早朝から鍛錬を一緒に行ったりしているらしい。

 

(本当に夏凜は優しいなぁ(ほんわか))

 

「……何ニヤついてんのよ」

「いんや〜べつにぃ〜?なんでもないよ〜」

「……ふん!」

「とうっ!ふっふっふ、甘いね…僕がそう何度も同じ手を食らうわけ(ゴキッ)すねーーーー!?!?」

 

 手刀を避けたと思ったら、脛を破壊された。膝から崩れ落ち項垂れていると、頭を撫でられる。この温もりは…だれ?

 

「富子ちゃん…?ありがとう慰めてくれるんだね…嬉し」

「不審者さん!」

「ごふっ…ふ、不審者さんはやめてね、天草か洸輔でお願い」

「わかった!へんたいふしんしゃの天草洸輔さん!」

「ぬおおおお!フルネェェェム!もうやめて富子ちゃん!僕のライフはもう0よ!」

 

 幼稚園児に半泣き状態にされかけたものの、なんとか「こーすけくん」呼びにするよう説得成功。てかコラ、おいそこの煮干し仮面腹抱えて笑ってんじゃないよ。

 

「こーすけくんは、強いの?」

「自分で言うのも何だけど、結構強いよ。富子ちゃんのししょーに勝っちゃうくらいにはね(キリッ)」

「はっ、よく言うわね。この前は私に二本取られて負けたのに」

「むっ、その前は僕が圧勝だったけど?」

 

 お互いに喧嘩腰。勝負事に関しては割とうるさいのが私でございます故。

 

「あぁ?」

「おぉ?」

「やんのかコラ(小声の天草)」

「あ゛?」

 

 こわぁ…ガチじゃん。ごめんって…ちょっとノッただけだから…許して。ガチの威圧に半泣き状態となっていた所、富子ちゃんがある提案をする。

 

「じゃ、じゃあ、ししょーとこーすけくんがしょーぶすれば良いと思う!」

「「え?」」

 

 思わぬ提案をしてきた富子ちゃん。わたわたしながらも頑張って喋る夏凜の弟子1号。

 

「喧嘩をするよりも、ししょーが前言ってたくみて?をしたほうが…いいかなって」

「確かに…良い案ね、やるじゃない富子」

 

 弟子の頭を撫でる夏凜。その様子は明らかに姉妹のようであった。えへへ…と笑う富子ちゃん…可愛い。

 

「……ポニテ好きのロリコンは属性過多だと思うわよ、洸輔」

「シッテルヨ、ソロソロナクヨ?」

 

 ごめんごめん、とヘラヘラする夏凜。よっしゃオラ、今日はボコボコにしてやるけんね(本気と書いてマジ)

 

 自分は一本の木刀を、夏凜は二本の木刀を手に取り、構える。

 

「やるからには、本気で行くからね」

「当たり前よ、手なんか抜いたら許さないんだから」

「気合入ってるね、夏凜。もしかして弟子のお陰?」

 

 ちょこんと砂浜に腰を下ろして、二人の対決を見守ろうとしている弟子の方へと視線を向ける夏凜。

 

「ま、師匠として。恥ずかしい所は見せられないわよね。だから、勝つわよ…この試合」

「変わったね、夏凜」

「うっさいっての」

 

 その言葉を最後に、お互いの木刀はぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「せやぁ!」

「させ、ない!」

 

 何度目かも分からない木刀同士がぶつかり合う音が響いた。

 

「ししょー!こーすけくん!頑張れー!」

 

 横からは、富子の元気な声が聞こえてくる。ふと、思い出す…少し前までの自分を。

 

 ずっと、一人きりで鍛錬をし続けた。別に今だってしないわけじゃない、けど、いつの間にか、こうやって周りに誰かが居てくれる事に心地よさを感じてる。

 

(昔の私が、今の私を見たら何て言うんだろう)

 

 眉を釣り上げて、私を指差し…『それは弱さだ!』とバカにしたと思う。

 

 でも守りたいものが、守りたい人ができた。皆と一緒にいたい、明日も明後日も、これから先の未来も笑って会えるように。

 

(そう思うと、自然と力が湧いてくる)

 

「良い顔してるね、夏凜」

「ドーモ。そう言うあんたこそ、随分と楽しそうだけど?」

「夏凜があんまりにも楽しそうだからさ、こっちもノッて来ちゃってさ。それに」

 

 釣られて視線を向けると、ぴょんぴょん跳ねながらこちらを応援している富子の姿が目に入る。

 

「しっしょおー!しっしょおー!!」

「あれだけ楽しそうに見てくれてる子がいるんだ、こちらも楽しんでやらなきゃ損でしょ?」

「そうね、じゃ…弟子の為に!もっと気合い入れますか!」

 

 (これが今の私の在り方、私が見つけた勇者の力)

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ま、負けたぁ…くそぅ」

「今回は私の勝ちね、これが完成型勇者よ」

「ししょーすごかった!!かっこよかった!」

「そ、そう?まぁ…その、ありがとう」

 

 砂浜での組み手は夏凜の勝利によって幕を閉じたという。いや、なんというか…いつも以上に強かった。負けて悔しさはあるものの、富子ちゃんと夏凜の笑顔を見たら、まぁいいかと思ってしまった。

 

 そこそこ時間も経ったので、夏凜と共に富子ちゃんを家へと送り届けることになった。手を繋いで歩く二人の横に付き添う形で、僕もついて行く。

 

「ししょーの手、好き〜」

「何回言うのよ、それ。もう聞き飽きたわよ、流石に」

「と言いつつしっかり嬉しそうなのが夏凜らしいね〜」

「やかましいわよ、たくっ…ふふ」

 

 嬉しそうに笑う夏凜。半年前までの彼女なら、こんな風に人前で笑う事はなかっただろう。心の底から彼女の変化を嬉しく思った。

 

「ん」

「……富子ちゃん?」

「ん、おてて繋ごう?」

「…いいの?僕も繋いで」

 

 嬉しそうに頷いた富子ちゃん。念の為、夏凜の方にも視線を向けるとさっさと握ってあげなさいと言わんばかりの目を向けられた。なんだかんだ甘々じゃないか、夏凜さん。

 

「えへへ〜ししょー達と一緒」

 

 にぱぁと明るい笑顔を浮かべる富子ちゃんを見て、僕と夏凜は顔を見合わせ笑った。

 

「良い弟子を持ったんじゃない?」

「知ってるわよ、そんな事。あんたに言われなくてもね」

「ほほ〜ん、デレデレだね〜夏凜さん」

「……今度は、もう片方の脛を破壊してあげましょうか?」

「いやまじごめんって悪気はないのよほんとに(懇願)」

 

 半泣き状態で謝る僕、そして鬼のような形相で圧をかける夏凜。そんな中、真ん中にいる富子ちゃんは二人のやりとりを楽しそうに見ていたという。

 

 というか、なんだろうねこれ。今のこの状況は…周りからどんな風に映るんだろうか。僕としてはこの絵面って────。

 

「こーすけくんとししょー、私のお父さんとお母さんみたい!」

 

 静寂、僕はあー先に言われちゃった程度だけど、完成型勇者様がやばい。思考停止したように固まったと思ったら、次の瞬間、顔が真っ赤になって、あたふたし始めた。

 

「な、何言ってんの富子!?私と…こいつが!?」

「し、ししょ〜揺らさないで〜」

「こらこら!夏凜!落ち着きなさいって!例えだよ、例え!てか、なんでそんなに真っ赤になってるのさ!?」

「な、なんでもないわよ!それより、ほら!富子の家までもうすぐだし、急ぎましょ!」

 

 足早に動き出す夏凜。そんな彼女の様子を、僕と弟子は首を傾げながら見てましたとさ。

 

「君のししょー可愛いね」

「うん、ししょー可愛いよ!」

「やかましいわぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうね、夏凜ちゃん。今日も富子と一緒にいてくれて」

「いえ、私が好きでやってる事ですから」

「ししょ〜」

 

 じゃれついてくる弟子の頭を撫でる。家まで送り届けた所で、洸輔とは別れたのでこの場にあいつはいない。

 

「所で、夏凜ちゃん」

「はい?」

「家の前にいたあの男の子は誰?彼氏とか?」

「ごふっ!?!?」

「あら、その反応は…ふふ、夏凜ちゃん、しっかり乙女してるのね〜」

「か、からかわないでください、私は別にあいつのことなんて…」

 

 好きじゃない…と言おうとした所で、つい先程の出来事を思い返す。富子に指摘された時、真っ先に顔が赤くなってしまったのは…。

 

(そういう未来があっても……良いかなって少し思っちゃったから)

 

 私が、そう遠くない未来で…そうなる事を、私は望んで?

 

「〜〜!!!!!(ボフッ!)」

「ししょーかお真っ赤!」

 

 「なってないわよ〜…」と弱々しく弟子に抗議する。顔を両手で隠して唸る。考えれば考えるだけ、ドツボにハマっていった。

 

(……本当、余分なものまで教えてもらっちゃったわ)




いや〜…明るい天草くん久しぶりに見たなぁ!!(悪魔の笑み)


次は高嶋ちゃんifを投稿するよ!待っててね!(`・ω・´)


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乃木若葉は勇者である
序章 紡がれてきた想い


まぁあれです、プロローグ的なやつです。

誰もヒロイン出てこないけど(そこに関しては番外編あげたりするので許して)

次から本格的にのわゆ編スタートです!


「また、ここに来ることになるなんてね」

 

もう二度と来ることはないだろうと思っていた場所に、僕は足を踏み入れていた。

 

視界全体が炎で覆われた地獄のような世界。

 

「それじゃ、試運転だ」

 

僕はスマホを片手に持ち、勇者システムを起動する。瞬間…体を光が包み込んだ。

 

「見た目と武器が変わったのかな?でも、なるほど、同一か。道理で体に馴染むわけだね」

 

僕が身につけている勇者服は、色こそ前の灰色と黒から変わってはいないものの…細かい部分に変化がみられた。

 

腰にあった短剣はなくなっており…かつての青く発光していた片手剣は、自分の身長ほどもある白銀の長剣に変わっていた。

 

肩と足の部分には、銀色の甲冑のようなものがついており個人的には勇者というより騎士のイメージが強かった。

 

「さて、とりあえず変身はできた。ならあとは」

 

両手で長剣を握り力を込めると…僕の存在に気づいた星屑がずらずらと寄ってくる。

 

「まだこの格好で戦うのは初めてなんだ…お手柔らかに頼むよ!!」

 

そう言って僕はバーテックスに向かって跳躍した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「久しぶりだと、結構キツイなぁ」

 

壁の中から出てきた僕はある場所へ向かった。そこには大赦の印がついた車が止まっていた。

 

「お疲れさま」

「お迎えありがとうございます、春信さん」

「いいんだ、これくらいはさせてくれ。無茶を頼んだんだから」

 

この人の名前は三好春信。夏凜の実の兄であり、大赦の中枢を担っているかなりの権力者である。

 

そんな人と僕がなぜこのような関係になっているのかというと…。

 

 

 

 

 

 

ある日、僕の家に大赦の人がやって来た。

 

最初は追い返そうかとも思ったがその人は付けていた仮面を外して、「しっかりと面と向かって話させてくれないか?」と申し出てきたので了承した。

 

内容としては、僕に勇者としての戦闘データを集めて欲しいということだった。

 

理由としては、もし僕のように男の勇者が現れた際、迅速に対応できるようにということと、次の世代の勇者達に繋ぐためだと彼は深々と頭を下げて僕に言った。

 

「今さらおこがましいと言われても、僕はなにも言えない…でも…これだけは言わせて欲しい。僕は今までこの四国を守ってきた少女達や、君達の想いを更に先へと紡いでいきたい。だから頼む、力を貸して欲しい」

 

僕はその言葉を聞いて、彼の申し出を受けた。もしこの言葉が三好春信から出た言葉ではなくて…大赦の言葉だったなら、受け入れはしなかっただろう。

 

しかも彼はそのために自分の権力をフルに使って、廃棄される予定だった僕の勇者システムを隠し持ち、秘密裏にアップデートしたりなどもしていたらしい。

 

その熱意に胸をうたれた僕は、春信さんと協力関係になった。それにより僕のスマホにはアップデートされ新たな力を得た勇者システムが供給された。

 

ちなみに勇者部の皆にはこの事は黙っている。バレれば怒られるし…やめようかとも考えてはみたが…僕自身も次の勇者たちの力になりたいためやることを選んだ……。

 

そして今日がその初仕事の日だったのだ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、家まで送るよ」

「はい、お願いします」

「あ、あと洸輔くん……れ、例のものは…?(ソワソワ)」

「あ~えっと、これですかね?」

 

僕はある写真をスマホに映し出す。すると春信さんの顔が変わった。

 

「か、顔を赤らめている!?夏凜が!?」

「あーっと、教室で友達と話していたときにからかわれたらしくて……って顔が怖いですよ、春信さん」

 

正直、僕として戦闘データの件よりこちらの方がよっぽどおこがましいと思った。

 

春信さんはもう一つの頼みごとと称して夏凜の学校での様子をカメラに納めてきて欲しいと言われた。

 

「やっぱり可愛いなぁ……うん可愛い」

 

正直、引いてる。僕の中で形成されていたはずの、三好兄像は本人と会って簡単に崩れたのだった。

 

気づくといつの間にか、家に着いていたらしく車が停車した。

 

「今日集めたデータ、役に立つといいんですけど」

「そこらへんは任せてくれ。君の頑張りを無駄にはしないからさ。それじゃあ次も頼んだよ、洸輔くん」

 

車から降りて、窓越しから僕に手を振る春信さんに軽く頭を下げて家へと戻った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

自室に戻ってきた僕は、そのままベッドに体を預けた。

 

「想いを紡ぐ……か」

 

あの時、春信さんから言われた言葉を思い浮かべる。あの言葉から察するに、僕達や美森が鷲尾という名前だった時代より更に昔にも勇者がいたのだろうか?

 

(これはそんなに歴史深いものなのか)

 

スマホに映った勇者アプリを見る。これには色んな人たちが、様々な想いを託して生まれたものなのだろうなと思う。

 

「だったら、僕や勇者部の皆はその想いを紡げたのかな?」

 

友奈からもらった灰色と黒の押し花を見つめる。疲れたのだろうか?瞼がやたらと重い。

 

(明日も学校だ、また皆で依頼をこなしたり…雑談したり…ああ…考えてみるとやりたいことは尽きないな)

 

そんなことを考えながら、瞼を閉じた。

 

閉じる寸前、窓越しに青い鳥が見えた気がした。




洸輔くんが新しく使っている勇者服とかのことは、のわゆ編が進んだと同時にオリ主説明に追加していきます!

とりあえず…今度はのわゆ編頑張ります!(何気に一番書きたかった(⌒‐⌒))

てか僕に…ハードシリアス…書けるのかな…?(今更)


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第一節 ◼◼の世界

とりあえず!一話です!

ここから2日間くらい忙しくて多分あげられなくなると思います!そこはご了承を!

それではのわゆ編!本格スタートです!


(ここは?)

 

目を覚ますと、そこは何もない真っ白な空間だった。

 

(前にも……似たようなことがあった気が)

 

一人で考え込んでいると、目の前に青い鳥が現れた。その鳥は僕の方をじっと見つめると羽を広げてゆっくりと飛び始めた。

 

(ま、待って!)

 

自然と体が動き、青い鳥のあとを追う。すると突然声が聞こえた。

 

『また、辛い思いをさせてしまうかもしれない。だが頼む……彼女達を守ってくれ』

(あなたは、一体?)

 

誰かの声が聞こえ終わったと同時に視界がぐらつき…僕の意識はそこで落ちた。

 

『大丈夫だ。すべてが終われば元の世界に戻してみせる。だからそれまでは、頼んだぞ。未来の勇者』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「来たか、バーテックス……」

 

私、乃木若葉は勇者服を身に纏い、樹海化した世界の先の方にいる白い化け物に鋭い視線を向けながら呟いた。

 

西暦2015年、突如として現れたバーテックスという化け物に人類は為す術もなく蹂躙された。

 

バーテックスには通常兵器は何一つ通用するものがなかった。しかし、神に選ばれた『勇者』という存在がおり……それこそが人類に残された最後の希望だった。

 

今日の戦いが四国にいる五人の勇者達の初陣となる。

 

(私達は負けるわけにはいかない!!)

 

唯一人間の生存が確認されたのが、四国や諏訪という限られた地域だけで、諏訪は白鳥歌野という勇者が一人で守っていた。

 

しかし、先ほどの勇者通信の際に諏訪との連絡は途絶えた。

 

(任せてくれ……白鳥さん。あなたの思いは私が受け継ぐ!)

 

決意を固めていると、少し離れた生い茂った木々の中に力無く倒れている人の姿が見えた。

 

「なぜ、こんなところに!?」

 

慌てて近づいていくと、その人物を見て動揺する。

 

「男……?なぜ?」

 

本来、樹海化した世界にいるのは、私と四人の勇者たちのみのはずだが…しかし今はこの人の安全を確保するのが先だと考え…自分のスマホに目をやった。

 

「まずは、この人を安全な場所へ!」

 

皆がいる方向へと、男の人を抱えて跳躍した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ん…んん…ここ、は?」

「目が、覚めたのね……」

「あっ、ほんとだ!若葉ちゃーん!」

 

今度はしっかりと明確に意識を保った状態で目を覚ます。すると…僕の周りを取り囲むように見知らぬ少女達がこちらを覗き込んでいた。

 

「よかった、目が覚めたんだな」

「あれ…なんで…僕…ベッドの上で……」

「?……あなたは、意識を失って倒れこんでいたんだ」

「それを、若葉ちゃんが見つけて助けてくれたんだよ!とにかく、よかったよぉー無事で!」

「……え……」

 

僕は一人の少女の姿を見て目を見開いた。なぜならその子は……僕の幼なじみの…

 

「友奈……?」

「なんだなんだ?友奈の知り合いか?なら最初からそう言えって〜」

「え、えーと?どこかで会ってましたっけ?」

「へ?」

「え?」

 

まさかの反応に思考が止まる。動揺した思考を落ち着かせてもう一度尋ねる。

 

「君、名前は…?」

「えっと、高嶋友奈……です、けど?」

 

ここで確信した。彼女は僕の知る結城友奈とは、全くもって別人だ。

 

少し落ち着きを取り戻し……周りを見渡すとそこは樹海だった。しかも、星屑が向こう側からどんどん沸いてきていた。

 

(一体、何が…?)

 

未だに状況が確認できず、動揺は収まらない。すると…園子のような髪の色をした若葉という少女が声を張り上げながら跳躍する。

 

「無事は確認できた。では………初陣だ!勇者達よ!私に続け!!」

「よーし、行くよ!ぐんちゃん!」

「ええ……、任せて、高嶋さん」

「タマも行くぞぉ!杏!そいつのこと、頼んだぞぉー!」

「う……うん」

 

少女の掛け声に呼応するように他の少女達も跳躍し、星屑を倒していっていた。一人制服姿で残っていた杏という少女に話し掛ける。

 

「あ、あのぉ…」

「は…はい!?な、なんでしょうか」

「君は……行かないの?」

「っ………こ、怖くて…動けないんです。私も、皆を守るために戦いたいのに」

 

杏さんは顔を俯かせながら、スマホを見つめている。その手は微かに震えていた。

 

(あの声の言っていたことは、この子達を守れって意味なのか?)

 

そんなことを考えていると、少女たちが取り逃がしてしまったのか。僕と杏さんの方へと星屑が群がってきていた。

 

正直、現状のことをまだ全然理解できていない。それでも、僕のやるべきことはもう決まっている。

 

「っ!?お、おい!逃げろ!死ぬぞ!!」

 

(なら、僕のすべきことは!!)

 

ポケットに入っていたスマホを手に取り、勇者システムを起動させる。勇者装束を身に纏い、大きく口を開きながら近づいてきた星屑を僕は長剣で一網打尽にした。

 

友奈からもらった押し花を胸にあてる、叫ぶ。

 

「ここが……どこだろうと、僕のするべきことは変わらない!」

 

僕は長剣を持っていた方の手を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その人の背中は、とっても頼もしかった。剣を構えていた姿に迷いはなく……ただ強い意志だけが強く感じられた。

 

「君は怖いって言ったよね」

「へっ?え………」

 

こちらを向くと、彼は私の頭に優しく手を置いた。その人の手は凄く温かかった。

 

「怖くても、自分にとって守りたいものがあるのなら、前を向いて一歩を踏み出してごらん?その一歩は、きっと君の力になるから」

「あ、あなたは……」

 

その人は私にむけて、優しい笑顔を浮かべた。私の頭から手を離すと、皆がいる方へと跳躍していった。

 

顔を上げると、タマッち先輩の背後にバーテックスが忍び寄っていた。私はスマホに写し出されたボタンをタップする。

 

(私が、守りたいもの。一歩を…踏み出すんだ)

 

勇者服を身に纏った私はバーテックスに向かって…クロスボウの矢を放った。矢を食らうとバーテックスは奇妙な声をあげて消滅した。

 

「杏!?」

「タマッち先輩を助けたいって思ったらね……変身、できたよ!」

「へへ、よっしゃ!タマが前に出るから援護頼む!」

「うん!」

「それにしても〜、アイツは……一体?」

「多分、私達と同じだよ」

 

何故か、私は自然とそんな言葉を発していた。

 

「ほぉ〜ん……ま、今考えてもしゃーないな!行くぞぉ!杏!」

「うん!」

 

(私にも……守りたいものがあるから!)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「邪魔っ!」

 

近づいてくる星屑を切り伏せながら、若葉さんの元へと跳躍する。

 

「追い付いた!」

「君は、一体何者なんだ……?」

 

僕のことを警戒しているのか、若葉さんから向けられている視線は厳しいものだった。

 

「少なくとも、敵ではありません」

「何故、そう言いきれる?」

「それは……っ!?」

 

横を見ると、星屑達が一ヶ所に集まり始め…進化体のバーテックスへと姿を変えていた。

 

「進化体か!」

「こいつは……」

「下がっていろ!こいつは私がやる!」

 

若葉さんはそう言うと…進化体バーテックスに対して刀を振るった。しかし突然作り出された反射板によって、若葉さんの攻撃は弾かれる。

 

「っ!これはっ!?」

「若葉さん!僕が、やります!」

「何を言っている!あれは…」

「言葉で信じてもらえないのなら、行動で示すまでです!!」

 

僕はそれだけを若葉さんに言って、進化体バーテックスへと近づいていく。

 

「たった一枚で!僕を止められると思うな!!」

 

体に力を込め、そのエネルギーをすべて長剣に注いでいく。すると長剣は白銀の波を纏いながら輝きはじめる。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

それを進化体に振りかざし一刀両断する。体は半分に割れ、存在を保てなくなった進化体は為すすべなく…消滅した。

 

「はぁ…はぁ…や、やった!」

 

進化体を一撃で葬り去った僕はガッツポーズを取った。しかし…またしても僕は突然の視界のぐらつきに意識が保てなくなっていく。

 

(また、か。さっきから、何回も……)

 

若葉さんが何か叫びながら、こちらに向かってくる。だが…意識が朦朧としており何を言っているかはわからなかった。

 

(なんか、僕…意識失いすぎな気が…)

 

そんな場違いなことを考えながら、僕はまたしても意識を失った。




これからもっと頑張って書いていきます!誤字報告あればヨロシクお願いいたします!

またお気に入り登録してくださった方々ありがとうございます!!


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第二節 タイム・リープ

遅れてすいません!!ホントにここ2日間は忙しかったけど…なんとか書けました!!

あと!お気に入り!70件突破ありがとうございます!こういうのを見る度に僕の闘争本能がどんどん活性化していきます!ホントにありがとうございますです!

おかしなとことかあったらぜひご報告を…


「61、62、63」

 

 早起きをして日課である筋トレを行っている。いつもとは違う環境のせいか、多少居心地の悪さを感じる。

 

(やっぱ、ちょっと違和感あるかな)

 

 慣れない空間ではあるが、筋トレを続けた。ノックする音が聞こえた。

 

「どなたー?」

「乃木だ。入っていいか?」

「どうぞ、若葉さん」

「だから、さん付けはいいと………ってぇ!?」

「どうかしましたか?」

 

 若葉さんが僕の方を見るなり顔を赤くする。何が原因なのかわからず首を傾げていると…。

 

「なな、何故、お前は半裸なんだ!?」

「え?んー、何故って言われてもな。基本、僕は筋トレするとき上は脱ぐからとしか言いようが…」

「わかった!わかったから!早く服をきてくれ!!」

「あ、はい…」

 

急かされた僕は上着の入っているタンスへと近づいていく。若葉さんはというと、部屋の散らかりようにため息を漏らしていた。

 

「はぁ…筋トレをやる前に、まず片付けをしたらどうだ?」

「やろうとは思ってるんですけどね…ははは」

「まったくしっかりして……あっ」

「っと」

 

 何かに足をとられたのか、転んでしまった若葉さんを体で支える。

 

「ふぅ…危機一髪でしたね」

「ありがとう、助かった。不意な事で油断し…!?」

「あっ」

 

現在…僕は若葉さんを半裸の状態で抱き締めているような体勢になっている。そして神のいたずらか…ドアが開いて、紫の髪色をした少女…上里さんが入ってきた。

 

「失礼します。若葉ちゃんが呼びにいってくれたはずなんですが……へ?」

「「あ」」

 

 部屋は静寂に包まれている。苦痛ともよべるこの時間は……というか前にもこんなことあったなぁーと一人で考えていると、上里さんが体をぶるぶると震わせ始めた。

 

「わ、若葉ちゃん」

「ま、まて!ひなた!これには理由が…」

「…半裸の男性に抱き締められる若葉ちゃん…こ、これはこれで………」(カシャッ)

「そっちかぁぁぁ!!!!!」

 

上里さんの言葉を聞いて、若葉さんは断末魔を…僕は頭を抱えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 朝の一件で、多少の頭痛がするが授業には問題なく出れている。

 

「そうすることによって、ここは」

「……」

 

 授業の内容を右から左へと受け流しながら頭をフル回転させる。勉強にではなく、この状況のことについてだ。

 

 あれから数日が経った。僕は町の図書館に行ったりインターネットを使ったりなどして情報を集めている。一つだけ確定的なことがあった。

 

 それは、この時代が神世紀ではなく西暦であるということ。僕がいた時代は神世紀300年…しかし、今は西暦2018年。最初は頭を抱えたが、日が経っていくにつれて落ち着いていった。

 

 結論から言うと……僕はタイム・リープ、していることになる。

 

 この世界は約三年前に現れたバーテックスによって蹂躙された。しかし、勇者として選ばれた少女達によって四国は守られていた。

 

 他の場所にも何人かの勇者が選ばれ、守っているらしい。

 

(一番気になるのは、僕がここにいる理由)

 

 あの時、樹海で目を覚ます前の時に見たあの青い鳥。そして、二つの言葉。

 

『また、辛い思いをさせてしまうかもしれない。だが頼む…彼女達を守ってくれ』

 

『大丈夫だ。すべてが終われば……元の世界に戻してみせる。だからそれまでは、頼んだぞ。未来の勇者』

 

 この言葉から想像するに、僕は誰かにこの時代、または世界に飛ばされた事になる。

 

 そして、守ってくれという言葉。これは僕が樹海化した世界の中で出会った五人の少女達ともう一人彼女達の側にいる巫女の少女のことを指しているのだろう。

 

 勇者は、乃木若葉、高嶋友奈、郡千景、土居球子、伊予島杏、

彼女らを導くための役割『巫女』についている上里ひなた。

 

(ここまでは……推測できる。問題はすべて終わればっていうのは……どういう意味なのかだ)

 

 一度、今までのを纏めるとこうである。あの青い鳥、またはこの時代の神樹様かそれと同一の何かに呼ばれ、この西暦に生きる勇者達を守るという使命を課せられた。そして、すべて終われば元の世界へと返してくれる、そういうことだ。

 

(まぁ、不自由がないのは助かるんだけど)

 

 この前の戦闘のあと、僕は気を失いその間で病院に搬送された。そこから大赦……ではなく大社に若葉さ…若葉や他の皆が樹海で僕が戦ったことを知らせてくれると、勇者として認識されるようになり、寄宿舎だけでなくこの学校に通わせてもらい、すべてを揃えてくれるなど、かなりの好待遇を受けることができた。

 

 色々と怪しまれたりすると困るので、自分は勇者ということと自分の名前やら以外は記憶喪失で答えられませんということにしました。

 

 そして、よーく考えなければならないのがタイムリープの件だ。もしほんとに僕がタイムリープをしているのだとしたら、もうこの世界は、本来の世界線を外れている。

 

 すでにこの世界は、僕という異分子が入ってしまったことによって本来のルートで世界が進むことはないだろう。

 

 乃木という名字、あの髪の色から察するに……若葉さんは、きっと園子のご先祖様のはず。

 

(他の子達のことはよくわからない、でも、もしも若葉さんが死んでしまったりしたら……)

 

 考えたくもないことが頭に浮かんでくる。弱気になっている自分の思考に渇を入れるため頬を軽く叩く。

 

(そうさせないためにも…僕が頑張らなくちゃならない!!絶対に元の世界にも帰ってみせる!!)

 

「洸輔くーん?」

「ふぇ!?あ、あれ?授業は?」

「もう終わったよ〜洸輔くんがずっとボーッてしてたから皆は先に食堂に向かって、私は君を連れていく係!」

「そうなんだ、ありがとう。友」

 

 名前を呼び掛けて、止まる。僕は唯一この子だけが苦手だった。

 

「どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもない!それじゃ行こうか?高嶋さん」

「もう〜!名前で呼んでくれてもいいのにぃ……まぁいいか!行こう行こう!」

 

 名字で呼んだからか高嶋さんが頬を膨らませた。僕はそれに愛想笑いで答えるしかなかった。

 

 だから苦手だ、この子は。別人のはずなのに、態度や性格、それらのことがあまりにも、あの子に……似すぎているから。

 

(…早く…あの世界に戻るんだ…)

 

そう心の中で…呟きながら、高嶋さんと共に食堂に向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「だ、だめだ……わからない…」

 

学校が終わって帰りに図書館に寄った僕は、ある調べものをしていた。この世界のことについても…まだ僕は調べなければならないことが多いが…もう一つ調べなければならないことがある。

 

(僕が…今の勇者システムを使ったときに憑依させている精霊…)

 

春信さんが言うには…僕がかつて憑依させていたシグルドさんと同一の反応を持った精霊を端末に入れたと聞いたが(かなり骨が折れたらしい)…歴史とか神話とか…からっきしの僕は頭を抱えていた。

 

(てか…調べなくてもいい気が…別に拒否反応とか変身不能とかになってる訳じゃないんだし…)

 

一人で頭を抱えていると…ある二人の少女の姿が見えた。

 

「そうだ……あの子ならもしかしたら…」

 

僅かな希望にすがってその少女達の元へと近づいていく。

 

「えーと…杏さんと球子さんだよね?」

「あれ?天草さん?」

「んお、何でここにいるんだ?天草?」

「ちょっと…調べものがあって。それより杏さん、少し知恵を貸してくれないかな?」

「?」

 

僕は小首を傾げる杏さんに近づいて用件を伝えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「かぁ~色々とありすぎてどれがどれだかわかんなくなるなぁ…」

「同感だ…タマもさっぱりだぞ…」

「二人は本に耐性が無さすぎだと思うけど…」

 

三人で図書館から出て、帰路を歩く。本を読むのに疲れたのか…二人ともげんなりしている。

 

あの時私が頼まれたのは、過去の英雄や神話に登場する神様達が詳しくのっている本がないか…教えてほしいということだった。

 

私に頼んできてくれた理由としては、私が大の本好きだったかららしい。

 

(まぁ…基本的には恋愛小説が主なんだけど…)

 

そんなことを考えていると、天草さんが口を開いた。

 

「それじゃ、二人とも宿舎まで送るよ」

「あれ?天草は他に寄るとこあるんじゃなかったのか?」

「あー…あったけどもうこんな時間帯だし…それに二人だけだと危ないと思うし…」

「別に大丈夫だぞ!なぁ杏?」

「そ、そうですよ…天草さん。気にしなくても…」

「いいから!そもそもお二人さんみたいに可愛い子がこんな時間に歩いてたら…変なのが寄ってくるかも知れないでしょ?こういう時は男に頼るもんさ」

 

そう言うと、天草さんは優しい笑顔を浮かべながら私とタマっち先輩の頭を撫でた。

 

その行動に私は顔を赤くする。天草さんの突然の行動にタマっち先輩が抗議の声をあげる。

 

「や、やめろーーー!」

「ご、ごめん。つい癖で…嫌だった?」

「…べ、別に嫌って訳じゃないけどさぁ…ほ、ほら杏もなんか言ってやってくれ!……………杏?」

「杏さん?」

「っ………」

 

私は胸を高鳴らせ顔を朱に染めながら、フリーズしてしまった。そんな様子を見てタマっち先輩が叫ぶ。

 

「なぁー!杏がフリーズしたぁー!どうしてくれるんだ!天草ぁ!!」

「ええーー!僕のせいなの!?」

「お前のせいだぁーーー!!」

 

二人がギャーギャー言っている中でも、私の胸の音と顔の熱は…無くならなかった…。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あれから球子さんに頭を噛みつかれたりなど…色々と困難はあったが寄宿舎までたどり着き二人と別れた。

 

まだ…住みはじめてからそんなに経っていないため、多少散らかっている。(大嘘)

 

「そういえば…若葉さんにも片付けろって言われたな…片付けようか…」

 

朝に言われたことを思い出して、掃除を始める。やる気になったときにやらないと一生やらなくなりそうだからだ。

 

(それにしても…やっぱり……)

 

今日過ごして…この部屋を見て…僕は思った。ここは…ほんとにあの世界とは違うんだと…。

 

机に大事に置いておいた。灰色と黒の押し花を額に当てる。

 

「大丈夫……大丈夫…。絶対に帰ってみせる…絶対に」

 

そう言った時の僕の声は、異常な程に弱々しかった。




ちょいちょいフラグを建てていくぅ!主人公の特権だわな…(^q^)

まだここらへんは大丈夫だけど…あとになってくると死ぬほど暗いから…これくらい、いいですよね!?

それではまた!


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第三節 変わった日常

最初の部分はfate好きなら、わかるかもしれません!

てか千景ちゃんのキャラ壊れてないかな?そこだけ心配です()


(最近、こんなものばっかり見るな)

 

 目を覚ますと……そこは周りが暗く光もなにもない。そんな場所が映った。体はふわふわ浮いている。

 

「なんなんだよ」

 

 少し苛立ちを覚える。その時、頭上からまばゆい光が僕を照らし出した。その光の中には______。

 

「あれ……友奈?そ、それに、勇者部のみんなまで」

 

 求めていた場所にたどり着くため、何もない空間に手を伸ばし続ける。

 

「そう、そうだよ!僕は、あの場所に!」

 

 すると、背後から何者かに肩を掴まれて動きが止まる。瞬間、聞き慣れた……いや、聞き飽きた声がした。

 

『やめておけよ、今のお前じゃ届かない』

「っ……!邪魔しないでっ……て、え…?」

 

 掴んでいた手を引き離したと同時に後ろを向く。『それ』を見て、驚愕した。

 

『クククク……誰だ、だって?そんなもの見ればわかるだろう?』

「はっ……?」

 

 黒い勇者服と真っ黒の長剣を持った男が目の前に立っていた。男は両手を広げた状態で、下卑た笑みを浮かべながら……囁いた。

 

『『俺』はお前。お前は『俺』だ』

「なん、なんだよ……お前」

『さぁ、もっと力を欲しろ。あいつらはお前が元の世界に戻るための踏み台に過ぎないんだから、圧倒的な力にその身を預けろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…来るな!!あれ…ここ………ゆ、夢?」

 

 起き上がると、そこは寄宿舎の部屋だった。季節的にそんなに暑くはないはずなのに体から汗が止まらない。服がへばりついて気持ち悪い。

何か…すごく…すごく禍々しいものを見た気がした。先ほどの内容が脳裏に過るとまた汗が流れた。

 

「気にしててもしょうがないな……寝よう」

 

 動揺した思考を落ち着かせるためにもう一度、布団を被って寝ようとしたが…さっきの夢が気になって結局眠れなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 私達の学校では…勇者と巫女のための時間割りがなされている。普通の授業を受けるだけでなく、今行っているように模擬戦も行うことができる。

 

「はぁ!!」

「ッ!重っ…」

 

 私は天草に一対一の勝負を申し込んだ。これは天草の強さを測るためでもある。

 

(あの強さ…何か秘訣があるはずだ)

 

 彼の戦っている姿は今でも目に残っている。ただ、ただひたすらに強かった。その強さの理由を、私は知りたい。

 

「やはりやるな。天草」

「若葉さんこそ……スピードとパワー、どちらも女性とは思えないくらいの力だ……流石、だね」

 

 二人の鍔迫り合いが続く。私の武器は鞘に収まっていた木刀、天草は通常のものよりも少し長めの木刀を扱う。

 

「っ!」

「せやぁっ!」

 

 スピードでは明らかにこちらが勝っている……なのだが、天草はそれに対してすぐ反応してくる。素晴らしい戦闘センスと、判断力だ。

 

(やはり、強いな……だが!)

 

 自身のポテンシャルでもある、速さを活かし、手数で天草を圧倒していく。

 

「あっ……」

「取った!!!」

 

 手数の多さに押されて体勢を崩す。その隙を見逃さない。ガラ空きになった箇所に向かって、木刀を振るう。

 

「取っ……なっ!?」

「いてて、でも致命傷じゃないかな?まぁ、あれだよ、勝負っていうのは、棒切れ一本だけでするものじゃないってね」

 

 振るった一刀は天草の腕でガードされ、そのまま木刀で弾かれる。一気に形勢が逆転し焦る気持ちを落ち着かせる。

 

「確かに驚いたが……無論、私もそのつもりだ」

 

 こちらも、ただ木刀を納めるためだけに鞘を持っていた訳ではない。かつて、武士は刀を納める鞘も武器として使っていたという。

 

 幸い天草は弾いた方の手に注意がいっており、鞘に対しての警戒心は全くない。その隙を狙って横っ腹目掛け鞘を飛ばす。

 

 しかし、それは思いもしない方向から飛んできた一手によって阻まれた。

 

「いつの間に!?」

「ッ!ここ!」

 

 気づいた時には遅く、いつの間にか木刀を持ちかえていた天草は鞘を弾いたと同時に首元へと、木刀を突きつけられる。

 

「チェックメイト……ですね?若葉さん」

「っ……不覚」

 

 勝負は天草の勝利で幕を閉じた。私の知りたかった強さの秘訣はヒントすら得られず終わった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 図書館に寄った帰り、昼間に行った若葉さんと行った戦闘訓練を思い返す。

 

「疲れたぁ……にしても、ホントに大した力とスピードだったな」

 

 正直ギリギリだった。勝負しているときは冷静な感じを装っていたが、実際はかなり必死にやってた。

 

(それでも、経験が活きていたかな)

 

 武術の稽古などで対人戦を経験していたこと、とある子との特訓で若葉さ……若葉と同等かそれ以上の速さの剣技に対応してきたのがでかいのだろう。

 

『わざわざ付き合ってくれてありがとう。にしても、よくさっきの攻撃に対応できたな?』

『正直……勘、だったかな。若葉さんに限って必要のないものは持たないかなって思ったらホントにとばしてきたので。まぁ対応できたって感じ』

 

 その返答を聞いた若葉さんは驚いた表情をしていた。

 

『なるほどな……ふむ、今日はホントにありがとう。いい経験になった。あぁ、それといい加減さん付けをやめたらどうだ?』

『こちらこそ、ありがとうございました。あと…それに関しては善処します』

 

(もっと頑張らないと。西暦の皆を守り通して、元の世界に帰るために)

 

 にしても、ここの時代に来てから日常がすっかり変わった気がする。学校はもちろんの事。帰りに図書館によって帰るとか、あっちではなかったから。

 

(時間の流れって偉大だな)

 

 気分転換にいつもとは通らない道を歩く。元いた時代では見なかったお店も見れたり、何かと新発見があったりして楽しい。

 

 と、何も考えずに気ままに散歩していた所で……店の中から出てきた子と目があった。

 

「郡さん?」

「……」

 

 声を掛けると郡さんは心底嫌そうな顔と目でこちらに向けた。彼女とは直接言葉を交わした事がない。ので、折角だからと怯まず声を掛けてみる。

 

「ここってゲーム屋さんだよね。郡さんってゲーム好きなの?」

「……はぁ、そうだけど?だからなに?」

「実はさ、僕も結構ゲーム好きでね。なんかおすすめとかあったら教えてほしいなぁ〜って」

「……それ、教えた所で何の意味があるの?」

 

 うん、泣きそう。めっちゃ辛辣だし喋れば喋った分だけ彼女の目が鋭くなるのが分かる。でも、負けません!!

 

「なんで私に声掛けたの。別にそんな話すこともないでしょうに…」

「あんまり話したことないからさ。この機会に話してみようかなと」

「……あっそ」

 

 彼女は僕から視線を外して歩きだした。僕もそれに付いていく。

 

「なんで、付いてくるの…?」

「僕もこっちが目的地だから?」

「なんで疑問系なの……付いてこないで」

「嫌です!このまま郡さんと宿舎まで一緒に帰らせていただきまーす!」

「………勝手にしたら」

「うん、勝手にする!」

 

 笑顔でそう言い切る。郡さんも何だかんだ言いつつ…僕が話しかけるとそれに答えてくれた。仲良くなれた…とまではいかないが、少し郡さんとの距離が近づいた気がして嬉しかった。

 

 色々と問題は多いものの、ここでの日常に少しずつ慣れはじめていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「何なのよ、もう…」

 

 自分の部屋に帰ってきたと同時にそんな言葉を吐く。最初は…本気で嫌がったが、いつの間にか、帰宅するまで普通に彼と話をしていた。

 

「突然現れた勇者……」

 

 あの時、樹海とかした世界で突然現れ、記憶も無くしており、素性も不明。全く信用できる要素がない人物だ。

 

(……でも)

 

 あの笑顔を見た瞬間、少しだけ何かが緩んだ自分がいた。なぜなら、あの笑顔は……高嶋さんにちょっと似ている気がしたから。

 

(まぁ、いい…そんな事よりも新しく買ったソフトでもやりましょう)

 

 ゲームを起動させて、慣れた手つきで操作をはじめる、がどこか操作がおぼつかない。

 

(本当に…なんなのよ、アイツ)

 

 久しぶりのことだった、他人が気になって集中してプレイすることが出来なかったのは。




ヒロインは……誰がいいかなぁ…。ゆゆゆのキャラクターってみんなかわいいから困っちゃう!!

感想やお気に入り登録お待ちしております!!(誤字報告もあったらよろしくです!)


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第四節 存在

村のやつらマジ許せねぇ……あんな美少女に…よくも…

おっと…愚痴が漏れてしまった…。

それでは本編です!どうぞ!!


「ふぉ~すげぇなぁ~」

「ホントだよね!どの雑誌も勇者のことばっかり載ってるよ!!」

「凄い騒ぎになってますよね」

「ん?皆何見てるの?」

 

 昼休み、三人が雑誌を机の上に広げながら雑談していた。覗いて見ると若葉さ……若葉のインタビューや勇者の初陣が勝利に終わったなどの勇者に関する記事が沢山載っていた。

 

「うわぁ~なんか全部勇者のことだけ載ってるね」

「私達のことも取り上げられてますね……恥ずかしい…」

「これも皆が頑張っている証拠だよね!!」

「それにしてもすげぇよな?これなんてずっと若葉だぞ」

「どれどれ?」

「や、やめろ球子!別に見せる必要はな」

「「まぁまぁ」」

「な、お前達何を!は、はぁなぁせぇ〜!!」

 

 大々的に取り上げられている所を見られるのが嫌なのか。若葉が暴れはじめようとしたが…空しくも二人に止められる。南無三、若葉様。

 

 球子さんが差し出してきた雑誌を見ると凛とした表情でインタビューを受けている若葉の姿があった。

 

「……綺麗だなぁ」

『っ!?』

 

 やば、口が滑ったと思った時には遅く皆が動揺している。若葉に至っては体が硬直して動かなくなっていた。何より心配なのが…

 

「おいばか!そんなことひなたが反応して……って、あれ?」

「ひなたさん?」

「ひなちゃん?」

 

 真っ先に反応しそうな上里さんが、さっきからずっと黙り込んでいる。心配になり声を掛ける。

 

「あの、大丈夫?」

「……天草さん。その少し、お話よろしいですか?」

「え?」

 

 聞いたことない声色で上里さんは僕の目を真っ直ぐと見据えながら、そう言った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 学校の屋上に天草さんを呼び出す。私の雰囲気にあてられたからか彼の顔も真剣だ。

 

「それで、急にどうしたの。上里さん?」

「単刀直入に聞きますね。貴方、何か隠していませんか?」

「……そう思った根拠は」

「正直な所、私は貴方を信用することができません。素性も不明、記憶も喪失している。何もかもが、都合が良すぎる。そう感じているんです」

「……だよね、それは自分でも思う」

 

 私の言葉に天草さんは下を向いたまま黙り込んでいる。人を疑うのは決して気分のいいものではない…でも、この言葉は…少なからず私の本心でもある。

 

(本当は勇者として戦ってくれたこの人を疑いたい訳じゃない)

 

 それでも、誰かがやらなくては。不確定要素が多すぎるこの人を咎める役目を。同じ勇者である皆に『そんな役回り』をさせるわけにはいかない。これは、私がやらなければ。

 

「勇者の中で唯一の男性……樹海に突然現れた勇者。どんな環境で育ったかすらもわからず、調べることも出来ない。もしかしたら敵なのでは?そう考えることも出来ます」

 

 胸が締め付けられる。慣れない事をしていると自分でも分かっている。それでも、やめる訳にはいかない。

 

「だから、隠していることがあるなら答えてください」

「上里さん、もうやめなよ」

「言い逃れをする気ですか?ならやはり、あなたは…」

「そうじゃない。僕が言っているのは、そんなに辛そうな顔をしてまで、これ以上こんなことを続ける必要はないってことだよ」

「私は、辛くなんて」

「じゃあさ。なんで上里さんは、そんな辛そうな顔をしてるの?」

「っ…」

 

 彼の言葉に体が震え、口が開かなくなった。その時の私はどんな顔をしていただろう。

 

「上里さん」

「……ごめん、なさい。疑ってごめんなさい……」

 

 懺悔の言葉が漏れる。冷静になって考えれば、私がやっていたのは、仲間を信頼していない裏切り行為。皆の関係を壊しかねないもの。申し訳なさと情けなさが相まって涙が出そうになる。

 

「疑ったことに関しては気にしてないよ。さっきも言ったけど、僕はあまりにも怪しすぎる。だから、みんなの代わりに汚れ役を担ったんだよね?もし勇者の皆にやらせたら、亀裂が入ると思ったから」

「…なん、で?わかって…?」

「顔を見たらそんな気がしたというかなんというか……まぁ、半分くらい勘だけど」

「でも、私は…貴方を…」

「君の警戒心は決して間違いじゃないよ。どっちかっていうとそれは正しいことさ」

 

「寧ろ皆がフレンドリー過ぎると思うくらいだよ。郡さんを除いて…」そう言った彼の顔は笑っていた。そんな彼に、もう一度頭を下げる。

 

「すいませんでした、洸輔くん!」

「いいっていいって、しょうがないことだから……てか、ん?洸輔くん?」

「親しみも込めて、これからはこうやって呼ぼうかと……嫌でしたか?」

「別に嫌って訳じゃ、ないけども」

「じゃあ今度からこれでいきますね。洸輔くんも私のことをひなたって呼んでください」

「いやっ、あの、せ、せめてさん付けでは」

「ひ な たと!」

「は、はぁ……じゃあ、ひなたで」

「はい!よろしくお願いします!洸輔くん!」

 

そんなやり取りをしていると屋上のドアが強く開かれ、球子さんたちが雪崩れ込んできた。

 

「なら、タマのさん付けもやめろーー!!」

「えっと、私も杏で…」

「私は高嶋呼びを変えることを望みます!」

「こ、コラ、お前たち!今出ては!」

「え!?み、皆!?」

「もしかして皆さん、覗いていたんですか?」

『え…いや、そ、それは』

「……全員、そこに正座してくださいね。一人ずつ、念入りに、お灸を据えますので」

「わ、私はやめろと言っ…」

『いやぁだぁ!!!』

 

 その日、4人の勇者達の断末魔が町中に響いたという。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

 私はベッドで横たわっている母の横に立つ。顔は窶れ体も弱々しそうに寝込んでいた。

 

 天空恐怖症候群、三年前のあの日以来上空から襲来したバーテックスへの恐怖によって多くの人々が発症した精神病。症状の進行に伴って徐々に生活が困難になり、最後には記憶混濁や自我崩壊にも至る。

 

「…こんな段階まで悪化したのね」

 

 部屋の襖が開かれるとお父さんが入ってきた。

 

「帰ってたのか千景。久しぶりだな」

「お父さんが帰ってこいって言ったんでしょ?」

「ああ、まぁそうだが…」

「掃除もしっかりやってよ……臭い酷いよ」

「やろうとは思ってるんだがな、看病が忙しくて」

 

(この人は……何も変わってない)

 

 昔から家のことなんて何一つしようとせずに、自分優先の責任感に欠けた父。そんな家庭を捨て、男と不倫し「天恐」になるまで帰ってこなかった母。

 

 その事で、私は村の人間たちから疎まれ蔑まれた存在だった。だから、私は周りから自分を切り離した。

 

『無価値な存在だから、傷つけられても仕方がないのだと、自分に言い聞かせて』

 

 何も感じない。

 

 何も聞こえない。

 

 何も痛くない。

 

 何も……………なに、も。

 

(……帰ってくるんじゃなかった)

 

 小さい頃に同級生に付けられた傷を触りながら歯ぎしりする。体を翻して玄関に向かう。

 

「どこへ行くんだ?」

「……散歩に行くだけ」

 

 早く戻ろう。郡家も故郷も閉鎖的で息が詰まる。玄関を開けて外に出ようとすると、周りを村の人たちが取り囲んでいた。その目にはかつての悪意はない。

 

「おお、出てきたぞ」

「ホントに戻ってきてたんだ」

「なに、これ…?」

 

 かつて私を虐めた同級生。

 

『キモいから息しないでくれる?』

「私達…友達だよね?恨んでないよね?」

 

 かつて私のことを邪魔だと言って追い出した店主。

 

『お前に食わせるもんはねぇよ』

「食事するときはうちの店に寄ってくれよ?」

 

 かつて気味が悪いと影口を言い続けた老人。

 

『薄気味悪い子ね…』

「あなたは村の誇りよ」

 

(ああ、そうか。これは)

 

 鎌を地面に突き立て、この場にいる全員に質問する。

 

「皆さん、私は価値のある存在ですか?」

「もちろんよ」

 

『だってあなたは勇者だもの』

 

(このためなら、何だってやってやる)

 

 もう、無価値な自分には戻らない。




次は多分久しぶりの戦闘やな!

マジ…村のやつら…以下省略

てか千景ちゃんの所きつい!!

ではまたお会いしましょう!それでは!!


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第五節 黒の囁き

まず先にお気に入り登録80突破ありがとうございます!

のわゆアニメ化しないかなぁ~いや、ダメージがでかいからゆゆゆいの方がいいか。んなことばっかり最近ずっと考えてます。


「前よりも多いな」

「ざっと、数百はいるね……」

 

 球子と杏が口々に呟く。学校で授業を受けている最中、二回目の襲撃を告げるアラームによって再び樹海へと誘われた。

 

(僕のいた時代の樹海よりも、町の景観とかが残ってるんだな)

 

 あの時は混乱していて周りを見れてなかったけど…今見ると樹海の様子も少し違っている。

 

「皆、準備はいいな」

 

 僕以外の皆は、袋から武器を取り出す。彼女らの武器は現実にもあるので勇者服を纏ったあとで装備するのだ。

 

 それに比べ、僕のはボタン一つでどうにかなる。まだこの勇者服を身につけて三回目の戦闘だが、ビックリするくらい装束は体に馴染んでいた。

 

「……精霊さんのおかげ、かな」

 

 白銀の長剣を構える。かつてのように投擲はできなくなり…今では近接が主になってるが特に支障はない。

 

「行くぞ!!」

「さぁ……行くわよ」

「私も続くぞ~!!」

「後方から援護します!」

「よっしゃ!今回はタマも援護係だぞ!」

 

 若葉が跳躍したと同時に郡さん、高嶋と近距離戦闘特化組が動き始める。基本的に遠距離からの攻撃が得意な球子と杏は近接組の援護を行う布陣となっている

 

「僕が前に出て、皆の負担を減らす!」

 

 体に力を込め…一気に跳躍する。先に行った若葉たちに追い付いたと同時に…勇者達と星屑が衝突する。

 

 この世界に来てから二回目の戦闘が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『あなたを産んでよかった。愛してるわ、千景』

 

 今の私は勇者、だからこそ価値がある。

 

 もっと力をつけて、頑張っていけば、もっと称賛されて、もっと愛される。

 

(もっと、もっと、もっと頑張れば。皆が私を)

 

「そう、いつかあなた達をも越えて……」

 

 目線の先には、皆の一番前に立ちバーテックスを屠っている乃木さん。もう一人は、長剣を扱って怒涛の速度でバーテックスを倒している天草洸輔。どちらも、私より遥かに強い。

 

(でも、それも今だけ)

 

 白化け物共を鎌で一掃する。直後、目の前に口を大きく広げた進化体が現れる。

 

「!?…いつの間に」

「ぐんちゃん、危ない!」

「避けて、郡さん!!」

「しまっ…」

 

 高嶋さんと彼の呼び声が聞こえたと同時に、進化体の口から無数の矢が放たれる。皆がそれぞれ対処している中…その矢によって私の体を貫かれた。

 

「ぐんちゃん!!」

「こ、郡さん!!!!」

 

 

 

(絶対に、無価値な自分には戻らない。だから誓ったの、そのためなら……何だってやってやるって!!)

 

 今の私は精霊の力で…複数の場所に同時に存在することができる。さっき貫かれたのは、あくまで複製の自分。

 

「あれ!?分身?忍者!?」

「す、すごい!流石、郡さん!」

 

(高嶋さん、それは違うわ。それと貴方は黙ってて)

 

 この力を使っているときは、例え一人やられようが二人やられようがダメージはない。

 

「残念だったわね、化け物。私を殺したければ……七人全員屠ってみなさい!」

 

 そう、これこそ私の切り札……七人御先(しちにんみさき)。

 

 分身した私の動きに翻弄された進化体に向かって、鎌を振り下ろす。回避不能の攻撃を受けて、進化体は消滅していく。

 

 化け物が消滅した場所を見下ろしながら……私は告げる。

 

「私の武器に宿る霊力は、死者をも冒涜する呪われし神の刃……その名を《大葉刈》。死ぬには…ふさわしい武器でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 精霊の力を使って疲れたのか、ため息が漏れる。そんな私の元に…高嶋さんが駆け寄ってきた。

 

「ぐんちゃーん!」

 

 手を振りながら、こちらにやって来ると高嶋さんがキラキラした目で私に言った。

 

「かっこよかったよ!!ぐんちゃん!!」

「あ、ありがとう高嶋さん。でも、今回も乃木さんと彼が殆んど倒していた。もっともっと力をつけないと……」

 

(乃木さんと彼を越えて、皆から敬われる存在になるためにも)

 

「よし、じゃあ特訓だ!」

「…と、特訓?」

 

 勢いに動揺している私を気にせず、高嶋さんは続ける。

 

「そうだよ!そうすればきっと練習している内に、ぐんちゃんも……こう、そう!『スバーン!!』って鎌が振れるようになるはず!」

「ふふ、そうかもしれないね」

 

 高嶋さんの突飛な発言に笑みが溢れる。すると、彼女は改めて私の方に向き直ると笑顔でこう言った。

 

「あとね、私は今回の戦い一番活躍したのはぐんちゃんだと思うよ!」

「ありがとう、高嶋さん」

 

(ずっと、私のことを見てくれてたのね)

 

 そんな、どこまでも真っ直ぐな彼女に失望されないように、もっと認めてもらえるように私は誓う。

 

「私、頑張ってもっと強くなる」

「うん!一緒に頑張ろうね!」

 

 高嶋さんが私の手を握る。その手はとても温かかった。

 

(いつか、きっと彼女や彼よりも……私は)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「まったく、大袈裟なのよ……」

「そんなことない。ホントに焦ったんだから」

 

 初めて精霊の力を使った為、検査を受けた私を待っていたのは高嶋さんではなく……よりによって、『あの』天草洸輔だった。

 

 検査結果が安全なことを伝えても、ずっとこの調子である。

 

(ホント……よくわからないヤツ)

 

 他人のことなのに、やたらと首を突っ込んでくる。どんな些細なことでもこちらを気に掛けてくる。何故か私はそれを鬱陶しくは感じていなかった。

 

(だからこそ、余計にわからない)

 

「郡さんはかっこいいね」

「は…?」

「真っ先に進化体に向かっていっていたし、それだけじゃない。他のバーテックスにも果敢に立ち向かっていたじゃないか」

「見てたの…?」

「うん、すごかったよ本当に」

 

 そう言って笑う彼の表情は、やはり少し似ていた。いやそれだけじゃない。この雰囲気も、どこか彼女と。

 

「あ、ありがと…う」

「うん!いやーそれにしても、みんな無事でよかった〜」

 

 緩み切った声で伸びをしながら彼はそう言う。緊張感のなさに呆れてしまっていると、あることを思い出した。

 

「……そういえば」

「ん?」

「こ……これを」

「あれ、これって」

「あなたが、言ったんでしょ?……オススメがあるなら教えてくれって」

 

 私が鞄の中から取り出したのはゲームソフト、以前何かオススメがあれば教えてと言っていたことを思い出し、彼に手渡す。

 

「おー!ありがとう、郡さん!……あ、でも僕…ハードが」

「それも大丈夫、私が貸すから…」

「ホントに!?」

「ほんとよ、ここで嘘ついてなんになるのよ…」

「いや……なんとなく、郡さんならつきそうだなぁと」

「は?それ、どういう意味よ……」

 

 軽口を叩き合いながら、私と彼は一緒に寮まで帰った。彼と話している時間、何故か私の胸は温かかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「っ……はぁ、くそ」

 

 郡さんと別れて、宿舎にある自分の部屋に入る。落ち着くどころか、逆だった。

 

「あの時のは……一体」

 

 息を荒げさせながら、両手を見る。郡さんが進化体に貫かれた時に起きたことを思い出す。

 

(あの……声は)

 

『だから言ったろ?今のお前じゃ、そんなもんなのさ。だからよ、感情も何もかもを捨てて力だけ求めろって。そうすりゃ』

 

 声が聞こえたと同時に両手が黒く染まっていった。でも、郡さんが生きているのを確認すると同時に…それは消えていた。

 

「なん、なんだよ……ホントに」

 

 彼女と話しているときや、皆の前では心配を掛けないように装っていたが、部屋に着いた瞬間に溜めていたものが溢れた。

 

「……こんなことに負けてられない」

 

 落ち着きを取り戻し、立ち上がる。スマホに表示された勇者部全員が写っている写真を見る。

 

「絶対に、絶対に戻るからね」

 

 この世界に来てから、もう何回言ったかもわからない言葉を譫言のように呟いた。




千景ちゃんマジ可愛いよね。

さてと、なんか主人公くんがちょっとヤバそうですが…これからも頑張ります!


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第六節 思い出すほどに

お気に入りが…なんかすげえ増えている~!!!???

とりあえず90件突破ありがとうございます!そしてゲートさん評価ありがとござます!!

今回少し長めになっちゃいました……そこはご了承を…


「どーよ?いい曲だろ?これ」

「う~ん……私はもっと静かな方が好きかも」

「ん?二人ともなにしてんの?」

 

 食事を食べ終わり教室に戻ってくると球子と杏がイヤホンを片耳ずつに掛け、音楽を聴いていた。

 

「お、良いところにきたなー洸輔!」

「あ、うん…来た、よ?」

「タマっち先輩。急なことで洸輔さん困ってるから」

「いいだろ、別にぃ〜。んでだ、洸輔はパンクロックとラブソングだったら、どっちが好きだ?」

「と、唐突だね」

 

 ちなみにだが、ひなたとの一件のあと大概のメンバーは全員名前呼びになった。同級生なのにさん付けはやめてほしいという希望からである。

 

(郡さんは怖いので、本人からの了承を得るまでは名前呼びはなし。高嶋は……まぁ、色々だな)

 

 てな感じのことを考えていると、球子が顔を近づけて聞いてきて、杏も何気に気になるのかチラチラこちらを見てる。

 

「で?どうなんだよ」

「えっと……どっちもじゃダメかな?」(てゆーか顔が近いぃ)

「なに言ってんだよ、男ならはっきりしろって〜」

「そ、そうです!二つに一つですよ!」

「えぇ、なんで怒られてるの?」

 

 困り果てていた僕の前に女神達が舞い降りる。

 

「お二人はホントに仲が良いんですね」

「確かにな。昔からそうだったのか?」

「ん?いや、初めてタマと杏が会ったのはバーテックスが空から降ってきた時だぞ」

「へー!て、てっきりかなり昔からの付き合いだと思ってたよ!」

 

 また問い詰められると困るので、ここぞとばかりに女神達の救済にのる。

 

「当然だ!タマ達はもう姉妹同然の存在だからな!」

「えへへ~」

 

 球子が抱きつくと杏が嬉しそうに笑った。何故だかその様子がとある姉妹に似ているような気がして、少し胸がズキッと痛んだ。

 

「お二人はどうしてそんなに親密になったんですか?」

「あ、それはですね」

 

 ひなたの質問に、杏が応じゆっくりと話を始めた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「小さな頃から病気がち。周囲から気遣いという名の距離を置かれていた」

 

『小さい頃から気が強くてガサツ、「女の子らしさ」とは無縁だった』

 

「悪意のない……特別扱い、心を緩やかに締め付ける疎外感」

 

『毎日ケンカや危ない外遊びをしていたせいで、親に心配を掛けてばかり』

 

「孤独感を抱きながら、物語の王子様のような人が救いだしてくれると夢想しながら大好きな本を読んで過ごす……それが私」

 

『気が強くて、ガサツでケンカっ早い。その性質は直そうとしても直せなかった……それがタマだ』

 

 そして、運命のあの日。

 

「目覚めた力が化け物を倒すためのものであることは」

 

『理屈を越えて理解できた』

 

「でも、立ち向かうことなんてできない。怯え願いながら、誰かに助けを願った」

 

『ガサツな自分らしい役割じゃないか。巫女の言葉通りに近くにいる勇者を助けに行った』

 

「突然現れて助けてくれた彼女」

 

『自分にはない「女の子らしさ」を持った彼女』

 

「『だから、思った』」

 

「王子様みたいだって」

 

『この子を守ろうって』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「という感じで、今に至ります」

「うぅぅ、素晴らしい出会いですね。書籍化待ったなしです~」

「全部言うやつがいるか!アホぉーー!!」

「「まぁまぁ」」

「のわー!離せぇ!てか若葉は絶対にこの前の気にしてるだろ!」

「さてな」

 

 あまりに自然な感じで語られたので黙っていた……が、冷静に考えると結構恥ずかしい内容だった。自分の顔を手で覆う。

 

「んのぉーー!!恥ずかしい!!」

「そんなに仲がいいなら一緒に住んじゃえばいいのに」

「あー、それなら寄宿舎の部屋が隣同士で入り浸ってるからさ」

「あんまり変わんないんですよね」

「あ、そうなんだ」

「た、高嶋さん……その、今度部屋にお邪魔してもいい?」

「いいよ~!ぐんちゃん!」

 

 友奈の質問に杏と二人で答える。先程は話に聞き入っていた洸輔も会話に参加する。

 

「二人にそんな事があったなんてね。そいえば杏の部屋って小説とかいっぱいあるんだよね?」

「は、はい…そうですけど」

「良ければ今度一冊貸してくれない?興味あるんだ」

「も、もちろんです!仲間が増えるのなら大歓迎です!」

 

 まだまだよくわからない部分とかはあるけど、タマは洸輔が悪いやつとは思えない。杏も洸輔のことを信用しているのか仲が良い。

 

(しかーし!杏を落とすのならまずタマを倒してから行けってな!)

 

「おーい距離が近いぞ〜杏とそんなに近づきたいのならタマの許可をとりんさーい!」

「ちょ、ちょっとタマっち先輩!?」

「……」

「んぁ?どした、急に黙って」

 

 顔を近づけて抗議すると、時間が止まったかのように動かなくなってしまった。よく見ると顔が赤い、熱でもあるのか?

 

「その、さっき球子は自分に女の子らしさがないって言ったけどさ。そんなことないと思うよ。だ、だからさ無闇に異性に向かって顔近づけちゃダメだよ?ほら、球子みたいな可愛い子に近づかれると困だちゃうからさ……」

「……は、はぁ!?」

 

 一瞬何を言われたのか分からず固まってしまう……が、意識した瞬間、タマの顔が熱くなるのを感じた。

 

「こ、こここ、こいつは何を言ってんだよ!?あ、杏、助け」

「あれ~?タマっち先輩~顔赤いよ~?」

「う、う、うるさい!と、ともかく!杏のことはタマが絶対に守ってみせる!てなわけで解散!」

 

 強引な感じで、会話をぶった斬る。よくわからないが…その時のタマはやたらとドキドキしていた。

 

(可愛い…可愛い…タマが、かわいい?)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 この世界に来てから、三度目の樹海化。もはや慣れつつある気もするが、油断はできない細心の注意を払わなければ。

 

「ん、あれは……」

「進化体?いや……どっちかって言うと変態だよな?」

 

 若葉が若干引きぎみに進化体を見ていると、球子が中々に辛辣な感想を言っていた。

 

(確かに、あれは気持ち悪いなぁ)

 

 まぁ、バーテックス自体が全体的に気持ち悪いのだが……あれは群を抜いている。二足歩行で星屑達を追い抜きながら走ってきているその姿に、僕も球子と同じような感想を抱いた。

 

「二足歩行か、今までより小型ね」

「速度もかなりあるみたいです、あの素早さは厄介かもしれません」

「あれはあれで、強敵ってことだね」

「む、ふふふふ♪」

「え、怖い…どうしたの、球子」

「実はな、タマはこんな時のために秘策を用意しておいたのだよ。それは……」

『そ、それは?』

 

 球子は某有名猫型ロボットのような声であるものを取り出す。それをバーテックスがいる方向へと球子はぶん投げた。恐ろしく速い投擲、僕でなきゃ見逃しちゃうね。

 

「タマだけに~うどんタマだぁーー!!」

『な、なぜ!!??』

「大社の人の話では…バーテックスには知性があるそうだ!なら、うどんに反応しないはずがない!!」

『な、なるほど!』

 

 圧倒的なコントロール力でうどんは狙い通りにバーテックスの足元に落ちた。予定通り…これで何かしら効果が!!

 

『なん……だと……』

 

 得られなかったという。その光景を目の当たりにした瞬間、勇者達には戦慄が走った。

 

「か、釜揚げじゃなかったからか!?」

「麺類への冒涜だ…!!」

「う、うどんに興味を示さないなんて」

「わかり合うことは出来ないんだね」

「どうやら、そのようね」

 

 そんなコントじみた事をやっている隙に、二足歩行のバーテックスが加速しだす。直後、常識を超えた脚力を使いこちらに向かって飛んできた。

 

「い、いつのまに…!?」

「ぐうぅっ!!!」

「球子、杏!」

 

 バーテックスの蹴りから杏を庇った球子も吹っ飛ばされた。その二人を両腕で抱える。樹海に叩きつけられ、二人分の勢いを受ける。

 

 けど、問題はないはずだ。勇者服のお陰でダメージは軽減できる筈だから……と、思っていたのが間違いだった。

 

「がはっ!!!」

 

 勇者服を身に付けているはずなのに背中に激痛が走る。尋常じゃない痛みが意識を揺さぶる。意識が持っていかれることはなかったものの、あまりの激痛にその場に膝をついてしまった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「っ〜!す、すまん、助かったぞ洸……!?」

「大丈夫ですか!?」

「がはッ……あ、だ、大丈夫だよ、心配ありがとね。二人とも」

 

 弱々しい口調でそんな事をいう洸輔。肩を振るわせながら、荒い息遣いでこちらに応じる様子は決して大丈夫とは言えないものだった。

 

「全然大丈夫じゃないだろ、嘘つくなって!」

「だ、大丈夫だって…ほら、この通り!……ぐっ」

 

 起き上がった洸輔の背中だけが赤く染まっていた。まるでそこが弱点化というように、異常な程のダメージを負っている。

 

「わ、私が油断、してたから……」

「いや、それを言うならタマもだ。ごめんな、洸輔」

「ううん、僕が守りたくてやっただけだから。二人が気に病む必要はないよ」

 

 そう言ってバーテックスがいる方へ足を向ける洸輔。こちらに振り向かず、ただ前だけを見てアイツは言った。

 

「杏のことは…、タマが守るんでしょ?」

「…お前」

「僕にも手伝わせてよ、それ」

「……へへ、そうだったな」

 

 敵がいる方を睨みつけながら、洸輔の横に並ぶ。武器を構え直し、改めて戦闘体制に入る。

 

「…急に、止まった?」

「なんだ?何を…」

 

 こちらの言葉が言い終わるが早いか、奴は進行方向を変え、ある地点に向かって全速力で駆け出した。その先は……

 

「アイツ、神樹様の方に向かってやがる!」

「まずい、行かないと!」

「ああ、いくか!洸輔!」

「わ、私も!」

「いや、杏はここで待ってろ。タマ達で行く!」

 

 杏をその場に残し、洸輔とバーテックスに向かって走る。

 

(とは言っても、洸輔にあんま無理させる訳には行かない。飛び道具のあるタマがなんとかしないと!)

 

「けど、どうやったら……」

「タマっち先輩、投げて!!」

「え、杏!?いつの間に!?」

「あはは、止めたんだけどね。ばっちりついて来ちゃってた」

「待ってろって「大丈夫!」」

「絶対に当たるから!力一杯なげて!」

「…わかった!!」

「洸輔さんも準備を!」

「了解!君を信じるよ、杏!」

 

 その目を見て、すぐ動き出す。あぁ、タマも信じるさ、杏のことを!

 

「これでも、食らいタマえ!!」

「……そこ!」

 

 旋刃盤を放ったと同時に、クロスボウの矢が放たれる。二足歩行の化け物はそれを難なく回避する。

 

「だ、ダメか……」

「ううん、大丈夫。これでいい」

 

 その言葉が合図かのように、杏の放った矢が旋刃盤のワイヤーに当たる。それと同時に進化体の体に斬撃を与えた。

 

(まさか、杏はそれを狙って…?)

 

「後は、お願いします!洸輔さん!」

「任せてよ、最後は…僕が決める!」

 

 ダメージを負って怯んでいるバーテックスに杏からの指示を聞いた洸輔が、白銀の波を纏った長剣を使い、進化体を真っ二つにした。

 

「私だって、守られてばかりじゃないよ。タマッち先輩」

「杏……おっしゃ!残り全部片付けっぞ!!」

「うん!タマっち先輩!!」

 

 そん時の杏の頼もしい姿と表情をタマは絶対忘れないだろう。

 

「……もう守られてばかりじゃない、か」

 

(全く、タマよりかっこよくなりやがって〜)

 

「タマだって負けてられないよな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「あいてて〜……酷い目にあった」

 

 病院の診察室から出る。今日の戦闘でも重傷を負った人はいなかった。まぁ僕がちょっとやばかったが。

 

(勇者服の治癒力のお陰で背中の痛みも引いてたからよかったけど……なんでだろ、なんであんなにダメージを)

 

 気になる事を考えながら…歩いていると球子と杏が見えた。こちらに気づいたらしい二人は、若干キレ気味の様子でこちらに向かってくる。

 

「「洸輔(さん)!!」」

「や、やぁ、二人とも。どうかしたの?」

「なんでタマ達が怒ってるか」

「分かりますよね?」

「えっと……僕がアイツにラストアタック決めちゃったから…とか?」

「違う」「違います」

「あ、はい。無茶をしたからですかね」

 

 二人の剣幕に押され、素直に答える。(杏も僕を動かしたよねって言おうと思ったけど怖かったからやめた)

 

「なぁ、洸輔。タマたちの為には動いてくれるのは、いいぞ?でもな、お前が傷つけば、それ見た奴も傷つくかもしれないって事だけは……わかっとけよ?」

「そうです、無茶はほどほどに!ですからね!」

 

 本来なら、その言葉を言われたら嬉しいんはずだ。でも、今の僕にはその言葉は辛く、重いものだった。

 

『他人を守るのはいい。でも、それ以上に自分も大切にして』

 

『あなたが傷付けば、悲しむ人達がいることを忘れないでね』

 

(だめだよ、思い出しちゃ。辛く、なるだけなんだから)

 

 そんな僕を心配してか、二人がこたらを覗き込んだ。

 

「おい…?大丈夫か洸輔?」

「やっぱり…まだ痛むんじゃ…」

「…大丈夫だよ…それよりほら皆が待ってるんだよね?行こう…」

「あ、ちょ!待てよ、洸輔!」

「お、置いてかないでくださいよ~」

 

 二人に顔を見られないように、早足で歩き出す。ふとした時に感じる、この感情は…いつまで経っても慣れなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「今回も無事に終わってよかったねぇ~」

「そうだな…ひなた?大丈夫か?」

「は、はい!大丈夫ですよ!」

「そうか、ならいいんだ」

 

 (今のは、神託?)

 

 その内容はいつもよりも、苛烈なものだった。

 

(不和による、危機…?)




 タマ&あんがヒロインしてる件について…(笑)

 ゆゆゆいデータ飛んだかと思ったけど…キャッシュクリアで復旧できたので散華せずにすみました。


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第七節 さびしい

 停電がぁーー!!!昨日書いてる途中に電気消えたせいで…携帯も充電できなくて大変でした…。

 そんなことより本編です!どうぞ!!


「大社って名前が違うだけで、権力的なものは一緒なんだね」

 

 そんなことを呟く。今、僕や皆が来ているのは旅館だ。神託によりここから少しの間侵攻がないということで大社が勇者達のケアという名目で温泉旅行を用意したのだ。

 

「けっこう、経ったな」

 

 この時代、いや…この世界に来てから結構な日にちが経った。生活にも慣れ、勇者の皆やひなたとも基本的には良好な関係を気づけている……と思う。

 

(僕が守る、そして、皆のいるあの場所に帰る)

 

 その為には…もっと『僕が』頑張るしかない。

 

 僕の勇者システムには『満開』は搭載されていない。(春信さん曰く…僕は男である為、散華した時捧げる場所が皆よりも多いから失くしたとのこと)

 

 その代わりに、精霊の力を一時的に解放して放出できるシステムを追加したと言っていた。でも、使い方がまだ分からない。

 

「早く、もっと早く…使いこなせるようにならないと」

『だから、力が欲しいんだろう?ならさ、俺に身を委ねろって』

「ッ!うるッさい!」

 

 脳に響く声…最初に聞いたのは夢の中だ。しかし、ここ最近では目が覚めているときでも聞こえるようになっている。

 

(この前のだって…)

 

 この間の郡さんがやられたのを見た時に起きたこと。鮮明に覚えている、まるで何かに呑み込まれてしまうかのような……。

 

「出よう…かな」

 

 震え出す両手を押さえ込みながら、風呂場を後にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「極楽極楽~」

「もう若葉ちゃんったら……おじいさんみたいですよ?」

「ぬ~折角の休養なんだ~羽を伸ばしておかないとなぁ~」

 

 体に染み渡ってくる湯の温度を肌で感じると、顔が緩み出してしまう。ここは風呂場なのでひなたのカメラを気にせずに……うん、ゆっくりできる。

 

「なぁー!!やっぱり先に入ってたか!一番風呂を狙ったのに~」

「わぁ~すごく広い!」

「早いねぇ~二人とも~!」

「…広過ぎる」

 

 球子以外の皆が静かに湯へと体をつけていく。我々は七人で旅館に泊まりに来ている。部屋は別々だが天草も泊まっており気分は修学旅行だ。緩んだ状態で顔を上げると球子が手をワキワキさせながらひなたに迫っていた。

 

「さ・て・と、定番のやついってみようか?」

「球子さん?い、一体何を…」

「ふふふ…そのたわわに実った果実の触り心地チェックだぁー!!」

「タマっち先輩!それ以上はやらせないよ!」

「ぬぬぬ……ぬ!?おい…あんずぅ?よく見てみたら…お前さんもかーなーり成長してるじゃないか?」

「ふぇ!?」

「隅から隅まで調べさせてもらうぞ!ゴラァーー!!!」

「ひゃあああ!!!」

 

 ひなたが狙われていたので割って入ろうかとも思ったが結果的に仲裁に入った杏が捕食された。(すまない)

 

「そいえばぐんちゃん!体は大丈夫だった?」

「ええ、特に問題ないわ。敵を殺さないといけないから……怪我も病気もしてられない」

 

(彼女は、変わったな)

 

実家に戻った頃からだろうか?訓練にも戦闘にも鬼気迫る勢いで励んでいる。

 

(何があったかはわからないが、勇者としての自覚が一番強いのは彼女かもしれないな)

 

「……何ジッと見てるの?」

「あ、いや、なんでも」

 

 千景の変化を直で感じ微笑んでいると、すごく嫌そうな目で見られてしまった。こういう所は変わっていないな。

 

 そう考えると、洸輔はすごい男なのかもしれない。この千景とたった数日足らずで私よりも話せるようになっているのだから。

 

(……最近の洸輔はどこか、変な気がするな)

 

 そんな疑問を抱えながらも、温かい湯に浸かりその時間を満喫した。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ!ゲームやろうぜ!」

 

 食事を終えると球子がそんなことを言い出した。今は洸輔もいるため七人で部屋にいる。

 

「私は将棋盤を持ってきました」

「僕は〜役立つかと思ってトランプを」

「ゲーム機があった」

「人狼とかなら、アプリがあればできるね!」

「よっしゃ!全部やるぞぉー!そしてタマが全部勝ーつ!!」

「ええ!?全部やるの!?」

「当然だろ!さぁ!どっからでもかかってこーい!」

 

 と息巻いていた球子だったが、千景に瞬殺されて意気消沈としていた。同じく杏も。

 

「やっぱり強いね、郡さんは」

「ホントだよね!今のところ全勝だもん!」

「まぁね、得意だから」

「それじゃっと、僕は部屋に戻るよ」

「最後まで見ていかないんですか?」

「ごめん、疲れたのか。目眩がするもんでね、先に休ませてもらうよ」

「……ゆっくり、休みなさいね」

「あはは、ありがとう」

 

 そんな会話が繰り広げられているが、私は手を緩めずトランプを置いていく。最初こそ慣れないゲームだったが、やっとコツが掴めてきた。

 

「っ……あなたには、負けない。絶対に…!」

 

 攻め込まれて焦っているのだろう。千景がそんなことを呟く。

 

(僅差だが!これで終わ……)

 

「はむっ」

 

 勝ちを確信した次の瞬間……ひなたに耳を甘噛みされた。突然のことに変な声をあげる。

 

「ひやぁぁぁぁぁ!!」

「これで!ラスト!」

「勝者!ぐんちゃん!」

「ひなたぁ!あともう少しだったのに!」

「ふふふ…怖い顔になってましたよ、若葉ちゃん?ゲームは楽しまないとだめです。さもないと…弱点をここで全てばらしますよ?」

「鬼か!?」

「弱点とな!?」

「どこですか!?」

「興味津々!?」

「若葉ちゃんの弱点は…」

「やめろぉーー!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「っー……はぁ、逃げちゃった」

 

 目眩なんて真っ赤な嘘だ。ただ、どうしてかあそこにいるのが辛かった。彼女達はどことなく、雰囲気が似ているから。

 

「あの子達の前で、弱音を吐くわけにはいかない」

 

 これは僕自身の問題だ。この世界の彼女達に迷惑を掛ける訳にはいかない。

 

「風でも浴びようか……」

 

 窓を開け、外を眺める。月明かりが、僕を照らす。あの時もこんな感じだった。

 

「……はぁ」

 

 ため息をつくと、突然ドアの方からノックする音が聞こえた。

 

「誰?」

「あ、ごめんね。友奈だけど……」

 

 よりによって、一番苦手な彼女が来てしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「どういう意味なんだ?」

 

 ひなたに言われた言葉の意味が分からず、頭を抱える。ゲームが終わった後、ひなたを追いかけた。そこで彼女からこんな言葉を掛けられた。

 

『自分の周りのことも、もっとよく見てあげてくださいね』

 

『これは、自分で気づかないと意味のないことですから』

 

(どういう意味なんだ……ひなたよ)

 

 結果的にいくら考えても、結論が出ることはなかった。スッキリしない頭を休ませるため、眠りについた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 窓際の方に洸輔くんがいた。疲れているのか…少し元気がないみたい。

 

「大丈夫、体調悪い?」

「ううん、そういうんじゃないから大丈夫だよ」

「そう?ならいいんだけど」

 

 何となくだが、最近の洸輔くんは何か悩んでいる気がした。まぁあくまでも勘だけどね。

 

「あのね、洸輔くん」

「なんだい?」

「悩んでいることがあったらさ、もし良ければ私に相談してくれていいんだよ?私だけじゃなくて手、皆も乗ってくれると思うし」

「……」

「だから!一人で溜めこんじゃダメだよ?私達は……仲間なんだから!」

 

 手を差し出す。けど、その手が握られることはなかった。彼は自分の顔に手を当て、掠れた声で言う。

 

「ありがとう、高嶋。それと……ごめん。自分で通したくせして申し訳ないんだけど、やっぱり体調悪いっぽいや…だから」

「あ…う、うん!こちらこそ!いきなり押し掛けてごめん!そろそろ戻るね!」

「うん、じゃあまた」

 

 手を振って部屋を出る。ほんとはもっと話したいことがあった。名前呼びのこととか、ぐんちゃんのこととか。

 

「……けど」

 

 ふと見えた表情、彼は泣いていたんだ。その顔には、静かに涙が伝っていた。

 

「悪いこと、しちゃったのかな……」

 

 自分がしたことに罪悪感を覚えながら、皆のいる隣の部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 高嶋の行動を見て、何故か僕の目からは涙がこぼれていた。

 

(どうして……そんなところまで)

 

 その行動は、今は会えない幼なじみのものと……とても似ている。そんな彼女を見てある感情が僕を支配していた。

 

「さみしいよ、友奈……みんな」

 

 月を見ながら、僕は弱々しくもそう呟いた。




主人公をもっと痛めつけたい…そして女の子とイチャイチャさせまくりたいなぁ…。

にしても…千景ちゃん…可愛いなぁ!(…落ち着け…)

それではまた!!


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第八節 過信と闇

これが記念すべき50話目とは…結構書いたなぁ~(遠い目)

この話書きながらのわゆ編もっかい見返したんですけど辛すぎません?(流血)



「この前よりも、増えてるわね……」

「見渡す限り、って感じだね」

 

 まさに数の暴力と言わんばかりに、星屑が樹海と化した世界の空を包み込んでいる。今まではうまく立ち回れてこれた。けど、この数は流石に…。

 

(バカか。自分が何のためにここにいるのか考えろ)

 

 弱音ばかりが思い浮かんでくる自分に渇を入れる。もし僕にこの状況を打開することができないのならここに呼ばれるはずがない。

 

「私が先頭に立とう、皆は後に…」

「先に行く!」

 

 若葉の指示を聞かずに星屑の大群へと向かっていく。彼女達に無理をさせず負担を掛けないように戦う。それが僕のすべきこと。

 

(周りの皆に迷惑をかけられない。これは僕自身が解決すべき問題なんだ!)

 

「覚悟しろ!化け物共が!!」

 

 その時の僕は知らなかった。長剣を握りしめていた手がまるで闇に飲まれてしまったかのように、黒く染まっていたことに。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「周りをしっかり見ろ……か」

 

 先行している天草を追いながら呟く。この言葉の意味を私は未だに理解出来ずにいた。

 

「今は、この状況のことを優先しなければ!」

 

 頭を横に振って思考を切り替える。目の前には今までの十倍はいるバーテックスの群れ。本来、奴等を引き受け皆の大きな負担を減らすのはリーダーである私の役目だ……だが。

 

(なのに、あいつは)

 

 確かに、今の私は天草の強さにはまだ届いていないかもしれない。だが、私は乃木家のものとして、奴等に報いなくてはならないのだ。

 

「はぁっ!」

 

 バーテックスに対して刀を振り下ろす。天草がいるところまでは辿り着けなかったものの敵にとって中枢の奴等を倒していく。

 

「…なんだ?」

 

 突然、先ほどまで怒濤に攻め込んできたバーテックス達の攻撃が止み始めた。

 

「まさか、これは!?」

 

 奥にいる天草の方へと視線を向けると、バーテックスが彼を取り囲んでいた。直後、私の周りもバーテックスによって囲われる。

 

(これは戦術面での進化、私と天草を分断し撃破する気か!?)

 

「ッ!せやぁぁぁ!」

 

 思考を切り替え、目の前に群がってくるバーテックスを狩っていく。しかし、いつの間にか背後に回ってきたやつに右腕を噛みつかれる。

 

「っ!このっ!!」

 

 噛みつかれた場所から血が溢れる。他の奴等もチャンスと言わんばかりにさらに群がってきた。

 

「この程度のことでぇぇぇ!!!」

 

 咄嗟に刀を持ち変えて一度退けるが、バーテックスの波状攻撃により、また隙をつかれる。

 

「くそっ!!」

 

 しかし…迫ってきた化け物は私の目の前で不時着する。落ちてきたバーテックスの上には、友奈がいた。

 

「無理はだめだよ?若葉ちゃん!」

「ゆ、友奈……何故、来たんだ。私は一人でも…」

「友達が危ない目にあってるのに、黙って見ていることなんてできないよ」

 

 そう言った友奈の勇者服はボロボロだった。ここに来るまでにかなりのダメージを負ったのだろう。

 

「死ぬな、必ず生き残れ!」

「勿論!若葉ちゃんも、ね!」

 

 二人で背中合わせの状態から一歩踏み出し、化け物達と再度対峙した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「これで、ラストッ!」

 

 最深部にいた僕は最後の星屑を消し去る。基本的には数ばかりで一体一体の力量は大したことがない。だが、まだ敵の攻撃は止まなかった。

 

「本当、しつこい!」

 

 正面から突っ込んでくる星屑を剣で斬り伏せた。勢いは殺さず、剣を握ってない方で裏拳を繰り出し、背後から回ってきていた星屑にぶつける。

 

(このペースで行けば、今回も…)

 

 直後そんな甘い考えを持っていた自分をぶん殴りたくなった。視線の先にいる少女の痛めつけられた姿を見て、思考が止まる。

 

「……や、やめ……」

 

 自然と言葉が漏れる。何故だか、ジワジワと視界が黒く染まった。それに呼応するかのように、握っていな剣も黒く染まっていく。

 

(これは…なんだよ)

 

 答えは返ってこない。ただ、止まらず、暗い何かに自分が呑まれていく。目の前には、星屑に痛めつけられている……。

 

「友奈から……離れろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「っ……」

 

 ガラス越しに見えるのは、沢山のケーブルが繋がれ酸素マスクを付けられた友奈と洸輔の姿だった。

 

(私が、もっと)

 

 友奈と合流した後、敵を退けてなんとか地面に刀をつけながら、立ち上がった私が見たものは………。

 

 救援に来てくれた時よりも多くの傷がついた友奈と、彼女の前に体中から血を流しながらも両手を広げて庇うように立っていた天草の姿だった……。

 

「何故、こんなことになったのか。あなたはわかっているのよね?」

 

 声の主がいる方に顔を向けると、心配そうな目でガラス越しに見える二人を見ている杏と球子。こちらを真っ直ぐ見つめている千景とひなただった。

 

(皆にも…ここまでの被害が…)

 

「私の突出と無策が原因、だった……」

 

 怒りに任せ、ただただ奴等を殺すという意識だけを待ち、暴走とも言えるほどの突貫をしたこと。私ならば大丈夫だと思い込んだ過信した心。しかし、千景は私の言葉を聞くと声を荒らげた。 

 

「違う!!やっぱりわかってない!」

「え……」

「一番の問題はあなたの戦う理由よ…!!怒りで我を忘れるのも!周りの人間を危険に晒し…気づきさえしないのも!全部!あなたが…復讐のためだけに戦っているからよ……!!」

 

 その時の私は、どんな顔をしていたんだろうか。私には、分からない。今、何をどうするべきなのかも分からない…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「考えはわからなくもないけど、やっぱ……言い過ぎだったんじゃないのか?」

「そうは言うけど、土居さんだって止めなかったじゃない」

「だ、だってよ……」

 

 なんであんなに熱くなっていたのか、自分でも分からなかった。でも、言うべきだと思った。もっと周りのことを考えろと、それは乃木さんにとっても、必要なことでもあると思ったから。

 

(嫌いって気持ちの方が強いくせに……)

 

私は、多分、乃木さんのことが嫌いだ。それでも、言わざるをえなかった。ほんとに何故かは分からないが。

 

「これからも……こんなことが起きてしまうのなら。もういっそ……」

「千景さん、もうやめましょう。確かに若葉さんのやり方に疑問を持ってしまう部分もあります。それでも、そのすべてを否定するのは間違っていると思います」

「っ…」

 

 伊予島さんの言葉を聞いて口ごもる。少し、反感を覚えたが……ここで言い合っても仕方ないと押さえ込む。

 

「二人とも、命に別状はないようです……」

「乃木さんもそうだけど、彼も彼だわ」

「え…?」

「高嶋さんを守ってくれたことはいい。けど、彼も……もっと周りをよく見るべきよ」

 

 ガラス越しに彼を見る。高嶋さんが心配なのは当たり前かもしれない。でも、彼も気になる。そんな私を見て、上里さんが驚いたような表情をしていた。

 

「何?」

「あ…い、いえ…その…千景さんも洸輔くんのことを心配しているのかな…と」

「私だって……心配くらいはするわ」

「そう、ですよね。早く、二人には元気になってほしいですね」

「そうね」

 

 相づちをうって、ガラス越しにいる二人の方へと視線を向けた。




もう少し先に進んだら、のわゆ編のイチャイチャも書いていきたいと思ってるので頑張ります!

それではまた!!


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第九節 もう一人の『僕』

闇と光…それは誰しもが抱えるもの……

はい!それでは本編です!


「ん…………」

 

目を覚ますと、そこには見覚えない天井が映し出された。

 

「ここは………」

 

辺りを見回すと病室であることがわかった。

 

「そ、そうだ!それより友奈!!っ!」

 

無理やり起き上がろうとすると体全体が悲鳴をあげる。

 

「…ここにいるってことは…戦闘は終わったんだな…」

 

ふと自分の右手がやけに温かいことに気づく…そこには…

 

「…杏?」

「ん…んん…あれ?私寝ちゃって…え?あれ?洸輔さん!?」

 

僕の顔を見るとさっきまで握っていた手を離し…頬を朱に染めながら杏は飛び上がった。

 

「あ…えと…目が覚めたんですね!よかったぁ~」

「そ、それより怪我はない!?他の皆も無事なんだよね!?ゆ、友奈も…!」

「落ち着いてください!私も大丈夫だし皆も無事ですから!」

「…そう…なんだ…ごめん、取り乱して…」

「しょうがないですよ…今、目が覚めたばっかり何ですから」

「ありがとう…それとこの前の戦闘で何があったのか聞いてもいい?」

 

 

 

 

 

今回の戦闘では…死傷者はいないものの皆が多少の傷を負った。僕と友奈は重傷を負い…そして僕が寝込んでいる間に起きた皆の心のすれ違い…。

 

「千景さんが言ってましたよ?『乃木さんもだけど彼も…もっと周りを見てほしい』って」

「そうなんだ…でもあの時はどうしようもなかった…これからだって……」

「た、確かに…そうですけど…でも…」

 

杏はさっきのように僕の手を優しく握った。

 

「前にも…言いましたけど無理だけはしないでください…皆…自分が死ぬのと同じくらい…仲間が死ぬのも怖いんですから…」

「…でも…僕は…」

「…ずっと気になってたんですけど…なんで自分の身を削ってでも…先頭に立とうとするんですか?」

「…大切なもの…皆を…守りたいんだ…」

「…あの時と同じ…」

「ん?何か言った?」

「あ、いいえ何でもないです!」

 

そう…僕がすべきことは皆を守りぬき…そして勇者部に帰ること…そのためには彼女達の負担を減らさなくてはならない…なら僕の問題や悩みを押し付けるのは間違っている……必要のないことだ…。

 

『違うよなぁ?お前が相談しようとしないのは…こいつらを信頼してないから……そうだろ?』

 

(…黙れ…)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…………」

 

ベットに寝転がりながら…天井に向けて手を伸ばす。

 

『一番の問題はあなたの戦う理由よ…!!怒りで我を忘れるのも!周りの人間を危険に晒し…気づきさえしないのも!全部!あなたが…復讐のためだけに戦っているからよ……!!』

 

(…復讐のためだけ…か…)

 

バーテックスに報いを与えること…それが私の行動原理だった。殺された人々の怒りと悲しみを奴等に返す…その一心で己を塗りつぶして戦場に立ってきた…。

 

(それを否定されてしまったら…私は…)

 

枕を抱き締めながら…隣の部屋へと向かった。

 

「あれ?若葉ちゃん、どうしたんですか?こんな時間に」

「夜分遅くすまないな…その…なんだ少し話でも…」

 

部屋に入るとひなたは何故か鞄の中に物を詰め込んでいた。

 

「それは?」

「あ、ああこれですね。明日この寮を出るんですよ」

「え…な、なんで!?き、急に…どうし……」

「ふふ、動揺しすぎですよ…若葉ちゃん。大社に呼ばれて少し離れるだけですから」

「そ、そうなのか…」

「若葉ちゃんこそどうしたんですか?」

「えっと…あのその」

 

もじもじした私を見て…ひなたは微笑むとベッドに腰掛け手招きした。

 

「若葉ちゃん…ちょっとこっちへ」

 

ひなたの横に行って膝に頭を乗っける。何も言わずともひなたは耳掃除を始める。

 

(相変わらず…素晴らしいなぁ…)

 

少し経つとひなたが口を開いた。

 

「それで…話っていうのは病院でのことですか?」

「…教えてくれ…ひなた…私には…どうしていいかが全くわからないんだ…」

 

親にすがる子供のようにひなたに聞く…。いつもひなたは私が困ったときに…私を導いてくれる…今回も手を貸してくれるはずだと思ったが……

 

「…その答えは…自分自身の手で探すしかありません…」

「っ!どうしてっ!」

 

ひなたからの厳しい言葉に…おもむろに立ち上がる。

 

「そんな顔しないで…泣き顔撮っちゃいますよ?」

「むぅ…勝手にすればいいだろ…」

「明日から補給できない分の若葉ちゃん成分ゲットです!」

「ほ、ホントに撮った…」

 

拗ねた私にひなたが抱き付いてくる。まるで母親が子を宥めるかのように抱き締められた。

 

「大丈夫ですよ…若葉ちゃんなら乗り越えられる。きっと自分自身の力で見つけ出せる…私はそう信じていますから…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「綺麗な月だな…」

 

暗い病室に月明かりが射し込む。窓越しから見える幻想的な月を眺める。

 

「結局…守れてないじゃないか…」

 

昨日の戦闘の被害状況を考えると…結果的に僕は皆を守れていたとは言えない…。

 

「…くそ…」

『ふん…無様なもんだな?』

 

声がした方へと視線を向ける…そこには僕と同じ勇者服…同じ顔…同じ声をした少年の姿だった。しかし…勇者服はまるで闇に飲まれてしまったかのように黒い。

 

「…こんなところにまで出てきて…何の用だ…」

『そう怖い顔をするな…それに言ったはずだぞ?お前は俺なんだ…お前がいる限りどこへでも出てくるさ』

 

そいつは僕の方をみて夢の中で見たような下卑た笑みを浮かべた。

 

『まったく…あの時中途半端に闇の力を押さえ込まなきゃこんなことにはならなかっただろうにな?』

「うるさい…消えろ…」

『お前だって気づいてるんだろ?今の自分じゃ無理だと…だから一瞬でも俺に身を委ねんたんだろ?』

「違う!あれは…」

 

詳しい所はわからない…でもあの暗闇に包まれたあと戦っていた時…少しでも思ってしまった…『この力があれば』と…。

 

『…あの時言った通り…お前はあいつらを心配をして相談をしない訳じゃない…信頼してないもしくは奴等を自分が元の世界に帰るための道具としか思っていないからだ』

「……まれ…」

『だったら…感情を捨てて力だけを求めればいいだろ?何を躊躇う必要がある?さぁ…全てを捨てて身を委ねろ』

「黙れ!」

 

すると…突然病室のドアが開かれる。そこにいたのはひなただった。

 

「洸輔くん?大丈夫ですか?突然大声を出して」

「…ひなた…?う、うん…大丈夫だよ」

 

先ほどまで『僕』がいた場所を見るとまるでそこには最初から誰も居なかったように跡形もなく消えていた。

 

「体は…大丈夫ですか?」

「問題ないよ…それより急にどうしたの?」

「実は私…明日から丸亀城を少しの間離れるんです…その前に洸輔くんに伝えておきたいことがあって」

「?」

 

そういうとひなたは僕の顔を両方の掌で押さえ込んだ。

 

「ひ、ひなた?」

「悩み事は…一人で抱え込んじゃダメですよ?洸輔くん?」

「……………」

「最近の洸輔くんは色々とぎこちないです。違うとは言わせませんよ?」

「……………」

「一人で抱え込まずに皆に相談してみてください!きっと力になってくれますから」

 

ひなたの言葉を聞き終えた僕は笑顔で頷いた。

 

「…わかったよ…」

 

その時の僕は……しっかり笑顔が作れていただろうか…?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

夜に見た彼の…いまにも泣き出しそうなぎこちない笑顔と…幼なじみの少女の泣き顔を思い出す…。

 

「大丈夫…きっと…大丈夫」

 

自分に言い聞かせるように…言葉を繰り返す。巫女の私に出来るのは…彼、彼女らを導いてあげることだけだ。

 

(大丈夫ですよ…若葉ちゃん…洸輔くん…何故ならあなた達は決して一人じゃないんだから…)

 

そう私は心の中で呟き…寮から出た。




むむぅ……思ってたより真面目っぽい話が多いな~。

とりあえずボチボチと番外編とかも書いていきましょうかね~!

それでは…また!


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第十節 沈む心

これでも十分暗いけど…考えてみたらここからさらに暗くなるやん!(^q^)


『答えは得たか?』

「え……?」

 

 白髪の男性が立っている。なんとなくだけど、シグルドさんと雰囲気が似ているなと感じた。

 

 周りを見渡すと洞窟のような場所にいた。男性の横には勇者になった際に僕が武器として使っている剣が石段に刺さっていた。

 

『いや……今のままではダメだな』

「こ、今度はなんなんだよっ!」

 

 只でさえ今は大変なときなのに、突然の状況に苛立ちが募る。そんな僕を見て男性はため息をつくと暗闇に向かい歩きはじめてしまった。

 

「ちょ、待っ……ぐぅ!」

 

 追いかけようと足を出した瞬間に、首元を誰かに掴まれそのまま体が宙へと浮かされる。息が思うように出来ず、意識が遠のき始める。

 

「誰、だ…!はな……せ」

 

 首を掴んできていた奴の方を睨み付ける。それを見て、そいつは心底楽しそうな顔でこちらを見た。そして只一言、僕に向けて。

 

『ほら、な?やっぱりお前じゃこの程度だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 目が覚める、朝の日の光が僕を照らしてくれている。しかし、僕の心はそんな光を打ち消してしまうのではと思うくらいに沈んでいた。

 

「なんなんだよ、誰か、助けてよ……」

 

 やたら、寒いのはきっと冬だからだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「もはやどんな処罰を受けても仕方ない……私は」

 

 若葉さんの周りが異常なほどに淀んでいる。

 

「リアルなゾンビってこんな感じなんだろうか?」

「今回の件がかなり堪えてるみたいだね……」

「千景の一言が発端だろ?なんとかしろよ」

「そ、そんなこと言われても」

「でも、あのままってのもなぁ」

 

 二人の横をすり抜けて若葉さんの元へと歩み寄る。

 

「若葉さん」

「な、なんだ?杏?」

「ちょっと付き合ってもらっていいですか?」

「へ?」

 

(あの人みたいにとはいかなくても、私だって……)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ、勇者様だ」

「あら、ホントねぇ」

 

 勇者は様々なメディアなどにも取り上げられており、今ではかなり有名だ。ので、普通に道を歩いていてもこういう囁き声が聞こえてくる。

 

 

「お、おい、杏。どうして急に外へ?」

 

 教室で杏に声をかけられ、後を付いていくと町へと一緒に向かった。何故、呼ばれたのか分からず動揺する私を他所に杏はある家の前で動きを止める。

 

「この家のお姉さんは、三年前に『天恐』を発症して以来苦しんできましたが…勇者の活躍を聞いて症状が改善してきたそうです」

「……」

 

 彼女の言葉を黙って聞く。同時に何か胸に熱いものが灯った気がした。杏はゆっくりとまた歩き出す。

 

「昔から丸亀市に住んでいたこの家のご家族も…四国外から避難してきたこのアパートに住む人たちも、みんな私達(勇者)が戦う姿を見て…敵への恐怖を乗り越え前向きになれたそうです」

「そう……だったのか」

 

 こうやって話を聞いていくと、人々が今を懸命に生きようとしていることが伝わってきた。後ろからベビーカーを押している女性に声をかけられる。

 

「もしかして、若葉様ですか?」

「え?」

「私、三年前のあの日、島根の神社で救っていただいた者です」

 

 三年前、私が初めて勇者として戦ったあの日の事。

 

「この子は四国に避難してから産まれたんです。勇者様の名前にちなんで『若葉』と名付けました」

「……」

 

 抱き上げた赤ちゃんを見ながら微笑む。あの惨劇でたくさんの命が奪われた。それは消せようのない事実だ。しかし、私がかろうじて救った命から新たな命が育まれていたのだ。

 

「あの時は助けていただいて、本当にありがとうございました」

 

 

 

 

 

「本当に…私は。何も見えていなかったんだな……」

 

 二人に手を振って見送りながら、ポツリと呟いた。

 

 この町に住む人々のこと、自分の周りの人達のこと。全てがあの日の記憶に囚われ何も見えなくなっていた。死者の復讐を求め怒りに我を忘れてしまうほどに。

 

(やっと、やっとだ。答えが見つかったぞ、ひなた。私が背負うべきなのは過去ではない、今現在だ)

 

「そろそろ、丸亀城に戻りますか?」

「ああ、なんとなくだが……長い間、杏と一緒にいると球子辺りに怒られそうだからな」

「呼ばれて飛び出て球子様だぁー!!」

「「わぁ!?」」

 

 噂をすればと言わんばかりのタイミングで、球子が私達二人の間から顔を出した。

 

「ど、どうしてここに?」

「いやぁ~二人して深刻そうな顔で学校出てったからさ~……てっきり殴り合いのケンカでもすんのかと」

「し、しないよ!」

「球子にも心配かけたのか、すまない……」

「んなこと別にいーよ。それより、そろそろ出てきたらどうだぁ~?」

 

 電柱の方を見ると『ビクッ』って擬音が聞こえそうなほど体を震わせながら千景が出てきた。

 

「千景?」

「私は、無理やり土居さんに連れてこられただけよ……」

「やれやれ、気にしてそわそわしてた癖に」

「っ!してない!」

「いーやしてたね」

「してない!!」

「まぁまぁ」

 

 みんなの姿を見て、私は深々と頭を下げた。

 

「すまなかった!過去に囚われ復讐の怒りに我を忘れて、一人だけで戦っている気になっていた。これからはもう、あんな風な戦いはしない」

 

 顔を上げて皆の目をしっかりと正面から見る。

 

「今…生きる人のために私は戦う!だからこれからも戦ってくれないか」

「もちろん、若葉さんがリーダーですから」

「おう!タマに任せタマぇ!」

「…言葉ではなんとでも言える…」

「…………」

「だから…ちゃんと行動で示して…近くで見てあげるから…」

「ああ!心しておく!」

 

皆の言葉を聞き終わると…私は拳を握ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

「私が寝てる間にそんなことが…心配掛けちゃってごめんね」

「いや…悪かったのは私の方だ…無事に意識が戻って良かった」

 

あれから少し経ったあと…友奈が目覚めたという連絡を受けて…急いで病室へと向かった。そして…ここ数日で起きたことを報告した。

 

「友奈…今までのこと本当にすまなかった。まだ…心身共にリーダーとして未熟な私だが…これからも共に戦ってくれないか?」

「もちろん!」

 

友奈は笑顔で私の言葉に応じてくれた。

 

「ありがとう…友奈」

「どーいたしまして!」

「それでは…私はこれで失礼しよう。これから天草の所にも行こうと思っていたんだ」

「え、えっと…若葉ちゃん…それはまた今度にした方がいいよ?」

「?どうしてだ?」

 

意味が分からず首を傾げる。

 

「洸輔くん…すごく疲れてるっぽかったからさ…今はそっとしておいてあげてほしいな…」

「…わかった…無理をさせるわけにもいかないしな…」

「うん…ありがとね…若葉ちゃん」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『失礼しまーす…』

『………………………』

 

病室に入ると…洸輔くんがすやすや寝ていた。寝顔はすごく幼い…。

 

『寝ちゃってるんだ…』

『う…うぅ!』

『!?』

 

さっきまでの寝顔が嘘のように…顔が苦悶の表情へと塗り変わっていく…。

 

『…い…や…だ…やめ…て…』

『洸輔くん!』

 

咄嗟に手を握る…何故かはわからないが…体が動いていた。すると…彼の目がゆっくりと…開かれていく。

 

『…んん…』

『…大丈夫?洸輔くん?』

『え…友奈?』

『あ、初めて呼んでくれたね!いや…あの時も呼んでくれたから…初めてじゃないのかな?』

『…ー!!』

 

すると彼は私の手を無理矢理引き離した…顔を両手で包み込んで…彼は息を荒げながら喋りだす…。

 

『…はな…れて!…』

『え…』

『早く!離れて…!!今の僕は…君に何をするかわからない!だから早く出ていって!』

 

両手の隙間から見えた洸輔くんの左目からは…狂気のようなものを感じた…。

 

『え、えと……ご、ごめん!』

『うう…うぁぁぁ…………』

 

 

 

 

 

 

 

「また…私は…」

 

あの時と同じように…自分の行動に罪悪感を覚えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「最低だ…」

 

頭が混乱している…先ほどまで光が射し込んでいた部屋は…真っ暗でなにも見えない…。

 

(僕は…なんで…!あんなことを!!)

 

高嶋に言ってしまった言葉を…思い出し…罪悪感に押し潰されそうになる……。

 

「どう…すれば…いいんだよぉ……」

 

真っ暗の病室に…僕の弱々しい声が響いた……。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「これから…神託の儀を行う…」

「…はい…」

 

両手を合わせて…部屋の真ん中で正座をする…。すると…体がすーっと意識を持ってかれるような感覚に襲われる。

 

(そろそろ…ですね…)

 

しかし…聞こえてきたのは…優しくも厳しそうな男性の声だった。

 

『彼は…内面に溜め込みやすい性格なのでな…できればもっと踏み込んでやってほしい…今の当方では…何も出来ないのでな…』

 

その声が聞こえ終わったと同時に…意識が朦朧としてくる…。

 

(あなたは…一体…?…)

 

そのまま意識が失われたと同時に…体から力が抜け…地面に倒れ伏せた………。




あれ?すまないさん?いや…気のせいか…(すっとぼけ)

感想やリクエストはいつでもお待ちしています!どうぞよろしくです!

鬱って書くのきついです…

それでは…また!


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第十一節 貴方の笑顔

はい!今回は文章量がいつもよりちょい多めです!

それでは…どうぞ!


「「はぁ~………」」

 

二人が退院し少し経ったあとの教室…。乃木さんが吹っ切れたと思ったら…今度は高嶋さんと彼の周りをどんよりとした雰囲気が包んでいた。

 

「…今度は…あの二人かよ…」

「私が見舞いに行ったときは、二人共普通だったんだけどな…」

「…やっぱり…何かあったのかな…」

「どうした?杏?」

「へ!?な、何でもないよ!?」

「お、おう…そうか…」

「…………………」

 

このメンバーの中でも常に笑顔を絶やさない高嶋さんがああなっているのも気になるが……彼も基本的には笑顔であることの方が多かったため…少しむず痒い…。

 

(…高嶋さんに関しては許せるけど…何よ…アイツの辛気臭い顔は…)

 

何故か自然と体が動く…突然動き出した私を見て乃木さん達が動揺する。

 

「千景?」

「…千景さん…?」

「ま、まさか怒鳴りにいくんじゃないよな?」

「どうしてそうなるの…あの二人のこと…任せてもらえないかしら…?」

「「「え…?」」」

 

ゆっくりと二人の席へと近づいていく。私の気配に気づいたのか高嶋さんが顔を上げた。

 

「あ、ぐんちゃん…どうしたの?」

「その…高嶋さん…今から付き合ってもらってもいいかな…?」

「で、でも授業が…」

 

高嶋さんの言葉を遮って横にいる彼にも声を掛ける。

 

「貴方も…いいかしら?」

「へ?僕?」

「他に誰がいるの?いいから…付いてきなさい」

「え?」

 

そのまま高嶋さんの手と彼の服を掴んでそのまま引っ張る。二人が状況を飲み込むことが出来ずに叫んでいた。

 

「郡さん!?急にどうしたの!?」

「ぐ、ぐんちゃん!?」

「乃木さん…」

「ど、どうしたんだ?千景?」

「…私達…早退するから…あとは頼んだわ…」

「へ?」

 

それだけ告げて…二人を引っ張りながら教室を出る。正直自分でもこんなことするのは柄じゃないと一人で呟いた。

 

(でも…乃木さんも変わろうとしてる…置いてきぼりにされるわけにはいかないのよ……)

 

ますます柄じゃないと…一人で自嘲気味に笑った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

千景の突然の行動に私だけでなく…杏と球子も固まっていた。

 

「行っちゃった……」

「お、おい若葉、よかったのか?行かせちゃって」

「うーむ…」

 

さっきの千景の顔は何か考えがあるように感じた。そう、私を励ましてくれた時の杏のように…。

 

(気になるが…今回は千景に任せよう)

 

「確かに気になるが…千景に限ってただサボるためにぬけるなんてことはないだろう。それに…何か考えがあるようにも見えたからな」

「私もそう思います」

「ま、若葉がそう言うならいいか!」

「変わりましたね…若葉ちゃん…」

「「ひ、ひなた!?」」

「上里さん!?」

 

声がした方を見るとひなたがいた。皆も突然のことで驚いている。今帰ってきたのか荷物もそのまま手に持っている。目を潤ませながら彼女はこちらに歩み寄ってきた。

 

「…答えは見つかったみたいですね…」

「あ、ああ…皆のお陰だ…それよりひなたは今帰ってきたのか?」

「はい、そこでちょうど千景さん達を見て…千景さんはいつも通りだったんですが…後ろにいた二人が異常なほどに元気がなかったので気になってそのまま来たんです」

「なるほどな…なら話は早い。実は…」

「千景さんに任せる…ですよね?若葉ちゃん?」

「ああ、その通りだ」

 

(…仲間を信頼し頼る…私が今まで拒んできたことの一つだ…そうやって『向き合う』ことが今…私のすべきことだ)

 

「そろーり…そろーり…」

「タマッち先輩…なにしてんの?」

「ぎゃぁぁぁ!ばれた!?タマもサボろうと思ったのにぃ!」

「サボるのは駄目ですよ…球子さん…」

「ゆ、許してくれタマぇーーーー!!!」

 

(早く…元気になるんだぞ…二人とも…)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

郡さんに引っ張られながら付いていった僕と高嶋は宿舎にある彼女の部屋に来ていた。着いてから郡さんは無言で何かを準備している。

 

「えーと…郡さん?」

「…ぐんちゃん?」

「…二人とも…そこに座って…」

「え、でも…」

「…学校が…」

「座って」

「「は、はい!!」」

 

有無を言わさぬ態度に気圧され僕と高嶋は正座で座る。すると郡さんが僕らに向かって何かを手渡してきた。

 

「これ…使って…」

「…ゲームのコントローラー?」

「もしかしてぐんちゃん…」

「三人で…ゲームをやりましょう…」

 

まさかの発言に二人で動揺する。

 

「え!?まさかゲームのために学校休んだの!?」

「ええ…そうよ…高嶋さん」

「そ、それってサボり何じゃ……?」

「…そうよ?…何か問題でも?」

「い、いや!さすがにだ…」

「…何…?」

「あ、いえ…なんでもないです…」

 

郡さんは鬼の形相で僕の発言を遮った…その目を見て僕はゆっくりと画面へ目を向ける。高嶋も諦めたようにコントローラーを握りしめていた。画面に映し出されたタイトルを見て僕は声をあげる。

 

「これって…スマ○ラ?」

「…ええ…これなら操作もそんなに難しくないし…楽しめると思って…」

「…楽しむって……」

 

正直…乗り気になれなかった…今僕は高嶋と距離を置いている。理由は単純でこの前のことでだ…いくら悩んでいたからといって彼女には酷いことを言ってしまった…。

 

(だから…距離を置いてたのに…)

 

高嶋もそれを気にしているのか…最近は話掛けてこない…。それだけではなく…若干避けられているようにも感じた……。

 

(…そんな状況でどう楽しめと…)

 

少し苛立ちながらも…コントローラーを握りしめ…対戦をはじめた。

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

 

 

「のぉ~!!高嶋!やめて!リトル○ックは空中戦に弱いんだから!」

「ゲームだもん!関係ないよ~!」

「むむぅ……ふ、こうなったらプロボクサーの横Bを思いしれ~!(スカッ)はずしたぁぁぁぁ!!!!!」

 

さっきから執拗に高嶋が使っている音速の青ハリネズミに狙われていたので一発お見舞いしてやろうと思ったら…思いっきりカスってそのまま落下した。その様子を見て郡さんが憐れみの目で僕を見る。

 

「貴方…バカなの?」

「だ、だって!横B当たると気持ちいいじゃん!」

「気持ちはわからなくもないけど…それにしたって…もう少し頭を使いなさいよ…」

「やられたぁ~!やっぱりぐんちゃん強いや!」

「そんなことないよ…高嶋さんも結構上手だし…」

「えへへ~そうかなぁ?」

「…せっかくなら二人同時にかかってきてもいいけど…?」

 

郡さんは話ながらも…超有名な黄色い雷ネズミさんを使って高嶋を散らした…。すると彼女は僕と高嶋を見てそんなことを提案してくる。

 

「望むところだ!よし、高嶋!二人で郡さんを倒そう!」

「了解だよ!洸輔くん!」

「さぁ…かかってきなさい…」

 

 

 

 

 

~さらに数時間後~

 

 

 

 

「やったぁ!勝ったぁ!」

「やったね!高嶋!」

「うん!何度も負けちゃったけど…やっと勝てたね!」

 

二人でハイタッチをする。あのあと…何度も挑戦し負かされたが…やっとの思いで僕達二人は郡さんを下したのだった。そんな喜ぶ僕らを見て…郡さんはこんなことを呟く。

 

「…二人とも…学校にいたときよりは…ましな顔になったわね…」

「「え?」」

 

ゲームをやっているときは無我夢中で気がつかなかったが…学校の時やここに来たときに比べて…かなり気が楽になっていると感じた…それと同時にあることに気がつく。

 

(もしかして…郡さんはこのために…)

 

彼女はコントローラーを手に持ちながら…高嶋の方を見た。

 

「高嶋さんは…笑っている時が一番輝いていると…思う…だから…できるだけ笑っていて欲しい…」

「…ぐんちゃん……うん!!」

「あと……貴方の笑顔も…高嶋さんほどじゃないけど…嫌いじゃないから…できるだけ笑ってなさい…」

「郡さん……」

 

郡さんは顔を少し朱染めながら僕にそう言った。すると今度は少し真面目な顔になる。

 

「…人には…他人に話せないことなんていくらでもある…。それを無理に話してなんて…言わないわ…。それでもね…乃木さんにも言ったけど…自分は一人じゃないことくらいは…自覚しておきなさい…」

「………………」

 

郡さんの言葉を聞いて…最近の自分のことを思い返す…。突然現れたもう一人の自分…皆に迷惑を掛けないようにと気を張りすぎていたこと…。

 

(周りが…見えなくなってたんだ…)

 

手元にあったコントローラーを置いて…二人に向き直り頭を下げる。

 

「高嶋…郡さんも…ごめんなさい!」

「私はいいわ…それより…高嶋さんの方が重要じゃないの…?(何があったかは知らないけど…)」

「郡さん…うん…。改めて…この前はごめん!高嶋!僕…余裕がなくなって…それを君にぶつけてしまった…本当にごめん!」

 

もう一度高嶋に向かって頭を下げる。すると彼女は頬を掻きながら申し訳なさそうに喋りだす。

 

「私こそ…ごめんね。洸輔くんも記憶が混乱していて大変かもしれないのに…ずかずか踏み込んじゃって…」

「いや…いいんだ…。高嶋は善意でやってくれたんだから…これはそれに対して答えてあげられなかった…僕の責任だよ」

「洸輔くん…よし!それじゃ仲直りの握手!これから改めてよろしく!」

「ああ!よろしく!」

 

高嶋の手を強く握る。この世界に来て…僕は初めて彼女とこんなに近づいた気がした…そんな僕達を見て郡さんは少し微笑んだ気がする。

 

「さて…もう一戦行きましょう…」

「え!?まだやるの!?」

「結構長い時間やってるよ!?ぐんちゃん!?」

「さっき負けたから…今度は勝つわ…」

「よーし!なら今度も負けないよ~!ね、洸輔くん!」

「うん!今度も僕らが勝ーつ!」

 

僕は笑顔そう言った。その時の笑顔がここ最近で一番自然に笑えた気がする…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なんと言うか…千景らしいな…」

「それにしても…ゲームってすごいですね。無意識の内にあそこまでのめり込んじゃうなんて…」

「だから千景さんは…あの二人を部屋に入れたんでしょうね」

「あ~タマもやりたかったなぁ…」

 

私達四人は学校が終わるとすぐに千景さん達を探した。私が見た時に向かった方向を見ていたために三人のいる場所が宿舎の部屋だということはわかった。そして現在部屋のドアの隙間から三人の様子を見ている。

 

(若葉ちゃんだけじゃない…千景さんも変わってきているんですね…)

 

三人でゲームをやっている姿を見て…安堵する。洸輔くんも丸亀城を出ていく前に比べ…表情がスッキリしていた。

 

「…神託のことは…明日伝えましょう…」

「ひなた?大丈夫か?」

「ん?は、はい!若葉ちゃん、大丈夫ですよ!」

「あまり無理はするなよ?帰ってきて何気に疲れているんだろう」

「ふふ…そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

 

前よりも雰囲気の変わった幼なじみを見ながら…私は思った。

 

(この六人なら…次にくるバーテックスの総攻撃にだって負けません!)




どうでしたでしょうか?誤字報告やキャラ崩壊とかもあったら僕に伝えてください!

え?千景ちゃんが原作より優しいんじゃないかって?やだなぁ…千景ちゃんは元からこんな感じダヨ?

感想、お気に入り登録待ってます!

それでは、また!


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第十二節 強さの形

前のやつより長文になりました……まぁ戦闘って書くの大変だから…是非もないヨネ!!!

では本編どうぞ!(もうちょい進まないと…イチャイチャ書けねぇな………ボソッ)


目が覚め、ベッドから身を起こす。昨日の夜は珍しく『僕』の声が聞こえなかったのでぐっすり眠れた。

 

「…状況が好転した訳じゃない…でも…」

 

もっと…周りを見て行動したい…。机の上に大事そうに置いてある押し花を胸にあてる。

 

「…少し取り戻せたかな?…僕らしさってやつ…」

 

そんなことを譫言のように呟くと…今は会えない筈の幼なじみが微笑んだような気がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総攻撃…!?」

「はい……」

 

学校での休み時間…ひなたは険しい顔で神託のことを皆に話していた。

 

「今回の神託で明らかになりました…まもなく四国へバーテックスの侵攻があります…」

「…規模は…どれくらいなんだ?」

「…はっきりは分かりませんが…かつてないほどだと…」

 

前の戦闘では…高嶋と僕が重症を負った。他の皆も少なからず傷を負い…辛くも勝利したような状態であった。しかし自然と恐怖は沸かなかった。

 

「心配すんな!タマに任せタマえ!」

「私も頑張ります!」

「…勇者の力…見せつけてやるわ…」

「うん!私達なら大丈夫だよ!」

「ああ、皆で力を合わせればきっと大丈夫さ」

「だ、そうだぞ?ひなた?」

 

一度生まれた亀裂は…なくなりさらに強力なものとなって僕達を繋いでいる…それもこれも…皆のおかげだ。

 

「ふふ…心配はなさそうですね」

 

ひなたが僕達の方を見て微笑む。彼女も僕を勇気づけてくれた一人である。すると球子がニヤニヤしながら僕と高嶋、そして若葉の方を見てきた。

 

「おうおう…この前までゾンビみたいな顔してた連中が揃いも揃って吹っ切れたような顔しちゃって~」

「あはは…面目ない」

「右に同じ~」

「わ、私は二人ほどではなかったぞ!?」

「…そうかしら…?一番酷かったのは乃木さんだったと思うけど…?」

「え!?」

「私もそう思います」

「ええ!?」

「…ホントによかった…」

 

教室には…皆の笑顔が咲いていた。(もちろん…僕もね)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「前の時よりも…キレがいいんじゃないか?」

「そう言う若葉だって…随分変わったね」

 

久しぶりに洸輔と模擬戦をしていた私は彼の変化に気づく。見舞いに行ったときは分からなかったが今の彼は顔色も良くなって落ち着いているように思えた。

 

どうやら大社から帰ってきたひなたの話では、四国以外にも人の生存反応が確認されたらしい。

 

(まだ…希望は潰えていないと言うことだな……あとは…できればもっと踏み込んであげて……だったかな?…)

 

ひなたに言われた言葉を思い返す…最初言われたときはよく分からなかったが…千景の部屋にいたときやさっきの彼を見ているとなんとなく言葉の意味がわかった気がする。

 

「せい!!」

「はぁぁ!!」

 

木刀と木刀がぶつかり合う。何故だか最初に戦った時よりも…私の心は清々しかった。

 

 

 

 

「若葉、今さらだけどお見舞いに来てくれてありがとう」

「なんだ…急に?別に気にしなくても…」

「いやあの……あの時の僕ちょっとおかしかったからさ…若葉にも嫌な思いさせちゃったかなって…」

 

天草は少し気まずそうな顔をしている。すると今度は一転して彼は笑顔を作りながら手を差し出してきた。

 

「それで…えっと…改めてよろしく!リーダー!」

「!?」

 

差し出された手を見ながら思う。杏に今を生きる人々のことを聞き、球子や千景…友奈にも背を押されて…ひなたには導いてもらった。

 

(そして…今度は…)

 

天草が…真の仲間になったのだ。

 

「ああ…よろしく頼む!」

 

強く手を握る…天草の手は凄く温かくて…不思議と心が軽くなった。

 

(私は…決して一人なんかじゃないんだ…。だから…もう一人で戦ったりはしない。皆で協力し四国を守り抜いてみせる!)

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後…のちに『丸亀城の戦い』と呼ばれるほどの決戦が幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「やっぱりこれはやっとかないとね!」

「おぉー!!気合いが入るな!」

「…少し…窮屈…」

「ほら、洸輔さん!もっとこっちに寄ってください!」

「さ、さすがに近すぎるってぇ~………」

「全く…いつも通り過ぎて…逆に頼もしいな…」

 

円陣を組み終わりギャーギャー言っている僕達を見ながら若葉が苦笑する。すると彼女は声を張り上げ皆の方を見た。

 

「敵の数はそれこそ『無数』!だが四国以外にも人類の生きている可能性がある!私達は負けられない!必ず四国を守り抜き!全員で生還するぞ!!!」

『オーッ!!!』

 

僕は皆に助けられた…でも助け合うことだって強さの一つだ…だから間違ってない。それに………

 

(僕には…闇を抑え込む力がある…だから大丈夫だ…)

 

あれ以来…奴の声は聞こえない…だから大丈夫……

 

「では皆さん!予定通りの位置に!」

『了解!』

 

杏からの掛け声で皆が散らばる。僕も作戦で言われた通りの位置へと向かう。

 

今回のために杏が考えた作戦は役割を分担した陣形の使用だ。

 

丸亀城の正面・東西に一人ずつの勇者と僕が立ち、杏と残り一名が後方で待機する。

 

そして前方の三人…若葉・高嶋・球子+僕で襲撃してくる敵を倒す。杏は指令を出しながらボウガンで後ろから援護。

 

そして長期戦に備え…疲労が見えてきた人は交代するという陣形だ。

 

「まったく…最初会った時に比べて随分と頼もしくなっちゃって…」

 

指令を出しながら皆の援護をしている杏を見てそんな言葉を呟いた。しかし…体は休ませず剣を振るいながら星屑達を消し炭にしていく。

 

(皆と協力しあいながら…敵を倒す!そして元の世界に帰る!!)

 

「そういうわけだから!邪魔はしないで!!」

 

白銀の剣はどんどん星屑を狩っていく。少し疲れてきたのか動きが鈍りはじめる。

 

「洸輔さん!千景さんと交代してください!」

「だ、大丈夫…まだいけ…(ボスッ!)ぐほぉあ!」

「…交代って言ってるでしょ…?バカなの?死ぬの?」

「ひ、酷すぎない!?てか脇腹に肘がぁぁぁ………」

 

キツイことを言いつつも郡さんは手をそっと出す。意味を理解して脇腹を押さえながら交代の意味を込めて手に触れる。

 

「少しは…周りを見れるようになったみたいだけど…まだまだね…」

「…面目ないです…それじゃあ郡さん…後は任せたよ!」

「ええ…残りは塵殺してあげるわ…」

 

すれ違い様に聞こえた言葉に僕は無言で頷いた。

 

(順調…だな…でも油断は禁物だ…)

 

近接主体でこの中でもダメージが負いやすい高嶋の方を見ながら…交代を待っている。

 

「お疲れ様です、洸輔さん」

「うん…ありがとう。杏も大丈夫?」

「はい!私は基本的に後ろでちまちまやってるだけなので大丈夫です」

「そんなことないさ…杏がいるから僕も皆も安心して背中を任せられるんだよ?」

「洸輔さん…ありがとうございます!」

「よっしゃ!次はタマが行くぞぉ!!」

 

(…さっさと出てこい…進化体!)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「うっし!若葉、交代だ!!」

「ああ…球子!任せた!」

「おう!タマに任せタマえ!」

 

(仲間と共に戦うとは…こんなにも心強いものだったんだな…)

 

かつては…一人だけで戦っていたから…強さとは個人のものだけと思っていた…だが皆が後ろにいてくれるというのが凄く心強くて…私は強さの形とは一つじゃないんだと感じた。

 

「ありがとう…球子」

「どうしたどうした?急に畏まって?」

「いや…球子が後ろで待機してくれていて凄く心強かったからと思ってな」

「それを言うなら、若葉や皆がいるからタマは安心して休めたんだ。だからゆっくり休んどけよな!」

「ああ!わかっているさ!」

 

球子と交代し…前線から身を引く。その最中仲間の頼もしさに笑みが自然と溢れた。

 

「ありがとう……皆…」

 

 

 

 

 

そこから更に時間は進み…戦いも熾烈を極めだす。皆の疲労もだんだんと溜まっていき、陣形の回転も速くなる。

 

「天草!交代だ!」

「待って……若葉、どうやらお出ましみたいだよ…」

「?」

 

天草に言われ空を見上げると…そこには……

 

「なるほど…やっと全力を出す気になったようだな…」

「そうみたいだね…」

「二人とも!注意してください!進化体です!」

「ああ…」

「もちろん…」

「「わかってる」」

 

模擬戦闘を繰り返してきた結果かもしれない…。私と天草は二人で進化体の同じ箇所へと斬撃を与えた。しかし……

 

「二人とも!まだです!!」

「増えた……のか」

「危ない!若葉!!」

 

動揺していた私にとんできた攻撃を天草が跳ね返す。

 

「すまない…天草」

「気にしなくていいよ、それよりも…なるほどねそういうタイプか…」

「?」

 

意味が分からず首を傾げていると天草は剣を持ちかえ…剣先を進化体に向けた。気配に気付き進化体の一匹が襲いかかってくる。

 

「天草!」

「ふぅ………はぁ!!!」

 

次の瞬間…剣から白銀の波が放たれ、進化体を飲み込むと塵へと変えた…。しかし…もう一体の方がこちらに向かって攻撃を仕掛けてくる。

 

(…まずい!)

 

「タマにぃ~!任せタマえ!!!」

 

球子の声が聞こえたと同時に炎を纏った巨大旋刃盤が進化体を飲み込む。もう一体も呆気なく燃やし尽くされたのだ

った。

 

「大丈夫か?天草?」

「う、うん…ありがとう…若葉」

「こちらこそ…それにしても…すごい力だな…」

 

他のバーテックスも一瞬で旋刃盤に葬られていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あとは…あれだけだな…」

「うん…そうみたいだね…」

 

僕達が目を向けた先には…今までの進化体の大きさを遥かに凌駕したバーテックス。皆の所にも星屑たちは向かわずに一ヶ所に集まっている。

 

(アイツは…確か…)

 

記憶によればアイツは爆弾を生み出してくるタイプのバーテックスだったと思う。

 

「若葉ちゃん、あんな大きいのどうにも出来ないよ!」

「確かに大きいだが…あれだけ急ごしらえなら、どこかに綻びがあるはずだ…こいつの体にはまだ脆い部分がある!!そいつを叩けば倒せるかもしれない!!」

「でも…どうするの…?そう簡単には近づけないわよ…」

「任せろ……タマにいい手がある…」

「……………………」

 

苦しそうな顔をしながら提案している球子をみて胸が痛くなる。こういうときに痛感する…自分の無力さを…さっきの攻撃も…もっと範囲が広くできていれば球子に切り札を使わせずにすんだかもしれないのに…。

 

(精霊の力……解放できるようにならないと……)

 

結局の所…巨大旋刃盤に乗りながらバーテックスを蹴散らしつつ相手の弱点を叩くことになった。

 

「確かにこれなら近づけるね」

「だろ?」

「でも…まだ問題はある……」

「心配はいらない…皆は私が守る!」

 

若葉はこちらに笑顔を向けながら…跳躍した。その速さは神速の如く敵から敵へと…飛び移っていった。

 

「八艘飛びと呼ばれた…彼の跳躍のように…天駆ける武人!!源義経!!」

 

彼女のあとに続くように…僕や皆も跳躍する。

 

僕は力を溜めて長剣にそれを移していく。先ほどのような…白銀の波を纏わせ爆弾が発射される所へと剣を突き刺す。

 

「今っ!!」

「いっけぇぇぇ!!」

 

進化体の綻んだ箇所に向かって勇者達、各々の武器が振るわれる。怒涛の連撃が叩き込まれると耐えきれず、進化体はゆっくりと消滅していく。

 

「若葉!!」

 

切り札を使った影響だろうか、瞼を閉じながら地面へと落下していく彼女の手を掴み、自身の胸に抱き寄せた。

 

「ぎっ!!」

 

咄嗟のことで頭を強く打つ。勇者服を着ていた為致命傷とまではいかない。それでも、意識はゆっくりと遠のいていった。

 

「っ……よかったぁ」

 

腕の中で、目をつぶりながら眠っているリーダーと駆け寄ってくる皆の姿を見て安堵した。柔らかな笑みを浮かべ、僕は最後の意識を手放した。




絶対に誤字あると思うんで…発見したらご報告お願いします!(自分で探せや)

それにしてもいつになったら洸輔くんは…すまないさんの力を完璧に使えるようになるんだろうか……?


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第十三節 胸が痛い

テストで忙しく…遅くなりました…。すみません!

それよりも!嘘……やろ…UA20000!?突破!ありがとうございますです!!遅くなりましたがこれからも頑張ります!

それでは本編です!


「テントよし!水源よし!薪になる枝よし!」

 

皆で準備したので結構早めに終わった。それを見て球子が宣言する。

 

「よーし皆、よく聞け!今日はここをキャンプ地にするぞ!」

 

 

 

 

私達は今六甲山にいる。大社は先日の大侵攻後の隙を利用して私達勇者に懸案だった四国外の地域の調査を指示した。

 

四国から瀬戸大橋を渡って一路北へ…各地の生存者や水質・地質の調査をしながら敵襲を想定し徒歩で北の大地を目指すという強行軍。

 

ひなたも通信役として同行し七人での探索を進めていた。

 

(幸い…この前の戦いも特に皆怪我がなく終わったからな…)

 

しいて言うなら…天草が私を守って頭を打ったくらいだが、検査で特に外傷はないと言われたらしく…大怪我ではなかった。

 

(それに…彼女達にも…誓ったからな…)

 

意識を失った私は…夢の中で自分が勇者になる前に友達になった三人に誓いを立てた。

 

『誓おう…私はずっと…ずっとこの地に生きる人々を守り続けよう』

 

(何事にも…報いを…それが乃木家の生き様だからな…)

 

「大丈夫?若葉?」

「あ…ああ、大丈夫だ。それより天草こそ…頭の方に異常はないか?」

「うん、たまにズキッとくるときはあるけど多分大丈夫だよ」

「そ、そうか…」

 

それは大丈夫なのかと聞こうとしたが…本人がいいと言っているのでよしにした。

 

「大丈夫だよ」

「え?」

「多分今日のことを気にしてるんでしょ?大丈夫大丈夫!まだ一日目だ!きっと無事な地域もあるさ!」

「天草…ありがとうな」

 

天草から言われた温かい言葉に微笑む。すると球子がこちらを見ながらニヤニヤしていた。

 

「おーい…そこの二人~いつまでイチャイチャしてんだよ~」

「い、イチャイチャ!?」

「あはは……そう見える?」

「むふふ…………」

「ふふふ…………」

「うわ!あんちゃんにひなちゃんどうしたの!?」

「…気味が悪いわ…」

「あ~杏は恋愛脳だからさっきの二人見てニヤニヤしてて…ひなたは…カメラ持ってるから言わなくてもわかるよな?」

 

(す、少し…いやかなり緊張感に欠ける気がするが…このいつも通りさは…やはり落ち着くな…)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

焚き火に灯り続ける火を消さないように薪を追加していく。自然と溜め息が漏れた。

 

(あんなこと言ったけど…正直望みは……)

 

今日は大都市であった神戸に行ったが…かつての景観は失われていた………と一緒に行動していた杏は言っていた。

 

あっちこっちのビルや建物も倒壊していて…そこに人が住んでいたとはとても思えない状態で…生存者は…語るまでもない。

 

「はぁ~……」

「さっきから溜め息が多いな?」

「え?うわぁ!た、球子?いつの間に…そこに…」

「千景がずっと辛気くさい顔してたんで見張り交代して入らせたんだ!」

「そ、そうなんだ…」

 

暇だったからここに来たんだぁーっと球子は付け加えて言った。皆は今水浴び中なのだ、廃墟ばかり調べたので身体中が埃だらけなのは…女子にとっては嫌なことなんだろう…。

 

「淋しいだろぉ?洸輔ぇ?」

「べ、別にそんなことないよ…」

「ふふふ…タマがあっためてやろぉ~」

「ちょ…ちょっと球子…」

 

球子が覆い被さってくる。本人は女の子らしくないって言ってるけど…前にも言った通り…球子は可愛い…。それこそ他のメンバーに負けてないと思う。

 

(だから…あんまりくっつかれるとなぁ…)

 

「球子…前にも言ったでしょ?君は可愛いんだから…無闇に異性にくっついちゃ駄目だよって」

「……また…そういうこと…言う……」

「…球子…?」

「…ありがとな…最初の時…杏を守ってくれてさ…」

「え?」

 

最初の時…それは多分皆の初陣と僕のこの世界に来てから初めて戦闘した時のことを言ってるんだろう。

 

「どうしたの?急に…?」

「いやさ…本人には言うなって言われてたんだけどよ…。杏がお前のこと…もう一人の王子様だってさ…」

「…………」

「本人が言うにはな…お前の背中が最初に会ったときのタマと似てたんだとよ。あと…お前が掛けてくれた言葉が相当響いたらしいぞ?それを聞いたときに思ったんだ…お前は杏をもう一度救ってくれたんだなって…」

 

あの時の自分……一体どんなだったんだろう?今の僕には思い出せなかった。

 

「だから礼を言わせてくれよ。ありがとうな…洸輔」

「それは良いけど…その話…ホントに話してよかったの?」

「まぁいいだろ!タマは杏の姉みたいなもんだからな!」

「えーそうかな?球子の方が妹っぽいけどなぁ」

「なんだとぅ!洸輔!こうしてやるぅー!」

 

球子が覆い被さった状態で頭をわしゃわしゃしてくる。さっきまでの暗い気分はなくなっていた。

 

(今は…信じよう…)

 

ポケットに入れてある押し花に軽く手を触れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「………………」

 

いざ布団に入っても眠れない……なんども…今日見た街の残骸の跡を思い出してしまう……。

 

(私は…ああはならない…)

 

「少し…外に出ようかしら…」

 

気晴らしに外へ出ることにする。起き上がると横では高嶋さんが気持ち良さそうに眠っていた。

 

「…幸せそう……」

 

そんなことを呟きながらテントの外に出ると…焚き火が消えておらず、丸太に腰を掛けながら座っている天草洸輔がいた。

 

(…栞…?)

 

彼は手元にある栞のような物をじっと見つめていた。やがて私がいたことに気がついたのか彼はこちらに向き直る。

 

「あ…郡さん…どうしたの?」

「眠れないのよ…あなたこそ…寝ないの…?」

「ん~実は僕も眠れなくてね…それに皆がテント使ってるから…」

「……入ったら殺すわよ…?」

「はは…わかってるよ」

 

とは言いつつも…少し肌寒そうにしている彼が気になった。

 

「横…座るわ…」

「了解だよ」

 

ずれた彼の横に腰を掛ける。焚き火の火がポカポカとしていて温かい。

 

「……………」

「……………」

 

座ったのは良いものの…特に話すことがなくお互い無言になる。しかし…私の口は勝手に動き出した…。

 

「あなたは……」

「ん?」

「あなたは…人との繋がりや絆って信じる?」

「急にどうしたの?」

「別に…気になったから聞いただけよ…」

「じゃあ…逆に質問!郡さんはどう思ってるの?」

 

質問を質問で返されて少し戸惑う。正直自分でもなんでこんなことを聞いたのか分からない…なので今自分が思っていることを単純に答える。

 

「聞いておいてなんだけど…私は信じないわ…もしホントにそんなものがあるなら…人が人を…傷つけようとはしないはずよ…それに…」

「それに?」

「…人と人はいつまでも一緒に居られる訳じゃない…だから…繋がりなんて…できる…はずもない…」

 

なんでだろうか?彼の前だと…何故かやたらと喋りすぎてしまう…頭を切り替え…今度は彼に質問する。

 

「あなたは…?」

「僕は…あると思うよ。繋がりとか絆って…」

「……………」

「もし…絆や繋がりってものがないのだとしたら…こんなに胸が苦しいはずがないからさ…」

「それは…?」

 

言葉の意味も気になったが…それよりも彼がポケットから取り出した…栞のような物に目がいった。

 

「これはね…僕にとって…大切な人から貰ったものなんだ…」

「記憶が…戻ったの?」

「まぁ…ぼちぼち?」

 

すると…彼は少し寂しそうでぎこちない笑みを浮かべる。

 

「それにさ…大事なのは、いつも一緒にいることじゃなくて…いつもお互いのことを思っているかじゃない?」

「!?……あなたは……」

「さぁてと…明日も早いし…もう寝ようか?」

「………ええ…」

 

(ホントに……よく分からない人……)

 

少し煮え切らない思いで…テントに戻り眠りについた。




何気に内容は迷いました………。

次回…主人公が再び………


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第十四節 悪意と再会

書いてて超辛かったです(白目)

それては、どうぞ!


探索も二日目に差し掛かり、さらに先へと進んでいく。今回訪れたのはかなりの大都市……なので皆で手分けしながら生存者を探すことになった。

 

「これは……」

 

観覧車や駅、ここにはかつて何人もの人がいたのだろう。崩れ去った建物は明らかに星屑達が侵攻したような跡で溢れかえっていた。

 

「誰かいませんか〜!」

 

僕は地上ではなく地下街を調べていた。捨てられたゴミや臭いから察するに、ここには人がいた形跡がある。

 

「頼むよ……一人でも」

 

先に進んでいくと突き破れているシャッターがあった。多分ここにいた人達が必死に抵抗したであろう形跡が見られる。

 

「うっ……」

 

突然、臭いが強くなる。今までのような食べ物が腐った臭いじゃない。それはこの場所に充満した死の臭い。辺りには血が飛び散って壁に染み付いている。

 

さらに奥へと足を踏み入れた。

 

「なん、だよ……これ?」

 

一言で言うのなら『地獄』だ。綺麗な水が吹き出ているはずの噴水のような場所を骸骨の死骸が取り囲んでいる。

 

「嘘……こ、これが人の死に方だっていうのか?」

 

込み上げてくる吐き気を抑え込むように、両手で口を覆う。足元に何かがあたった。

 

「日記…?」

 

拾い上げた日記のようなものを広げると地下に逃げ込んだある少女の記録だということがわかった。ページをめくり、内容を読み進める。

 

 

 

 

 

『2015年 某日、地下に潜んでから…何日経っただろうか?もう日付もわからない…だから時間の感覚を失わないために日記をつけることにした』

 

『七月末に現れた化け物から逃げて…私達は地下街に逃げ込んだ…皆で出入り口にバリケードを作ったが私達も外へは出られない…地上はいまどうなっているのだろう…両親はもういない…家族は妹だけ……まだ小学生の妹を私が守らなくちゃ……』

 

『今日起こった喧嘩で人が死んでしまった…食料の奪い合い…意見の対立…弱いものいじめ…みんな逃げるために閉じ籠っているのに…なんで人間同士で争うの…死体は決められた場所へと運ばれる…まるでモノみたいに…』

 

『妹が家に帰りたいと泣き出した…普段はワガママも言わない大人しい子なのに…妹の泣き声に苛立った大人が外に放り出すか殺すかしろと言った…そんなことは絶対にさせない』

 

『日を重ねていく度に…食料問題が肥大化していく…大人達がそれらについて話し合っているが…結論は出なかった』

 

『妹に元気がない。呼び掛けると返事はするけどぼんやりしていて……体調が悪そう。もしかしたら病気かもしれない』

 

『今日も妹の元気はない』

 

『私にはなにもできない……病院に連れていかなければ』

 

 

 

 

 

『妹が返事をしない…どうしようどうしようどうしよう』

 

『酷い争いが起きた…一部の人々が「食料節約」と言って老人や病人を殺した…その人達も別の人に殺されて…もう訳が分からない…妹も…殺された…私も…もう死のうか』

 

『地上へと出ようと訴えていた人々が…バリケードを壊した…化け物は次々に入ってきて…シャッターも呆気なく壊された…きっとあいつらは分かっていたんだ…私達が自滅することを…私はいま…死体置き場にいる…最期は…妹と一緒に…』

 

 

 

 

 

「…ぁ……ぅ…」

 

込み上げる吐き気を堪える。何も言葉が出てこない、出てくるはずがない。しかし、これを読んで改めて実感する、この世界は僕のいた世界と何もかもが違うことを。

 

僕の生きていた時代には、こんな場所は存在しなかった。この光景は今の自分の心臓を抉るように痛めつけた。

 

『アホだなぁ、人間ってのは。ま、今のままじゃお前もこいつらみたいになるのオチかもな』

 

声がした方を見ると、最近は見なくなったもう一人の自分がいた。そいつは骸骨を踏みつけにやつきながらこちらを見ている。

 

「お前……その足を退けろよ!」

『なんでだ?こいつらは敗北者、負け組だぞ?』

「その人達だって精一杯生きてたんだ…敗北者なんかじゃ、ない!」

 

どんな結果だったとしても彼らはここで生きていた。それを侮辱することは許さないと僕は叫ぶ。しかし、その発言を聞いた奴のにやつきは先ほどよりも増していく。

 

『お前よぉ、忘れたのか?言ったはずだ、お前は「俺」…つまり今、俺が言っていることは。心の奥底にある、お前自身の言葉でもあるんだぞ?』

「そんなこと!」

『ない、と言えるかねぇ?今の、中途半端な、お前に』

「……」

 

中途半端……その言葉に何も出なくなった。ここで黙ってはいけないと思っても、口が塞がる。それを良いことに、奴は好き勝手言い始める。

 

『そもそも、なんでお前はあいつらと協力なんてしてるんだ?お前は力に身を委ねればあんな奴ら必要ないくらい強いのに』

 

『ここに来たこと自体が偶然だ。なのに、自分が正義の味方かのようにあいつらを守ろうとする。ここに来たことから何もかもが全て偶然なのに』

 

『このままいけばお前もこいつらと一緒の目に遭うぞ?だから捨てろ……あいつらを』

 

「き、きさまぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

剣を握り奴に向かって斬りかかる。しかし…奴から溢れ出た風圧で体が弾き飛ばされる。

 

「ぐぁっ……」

『見ろ、これが闇の力。お前が拒み続け、怖がっている、力ってやつさ』

「っ…く、そ」

 

顔を掴まれて、そのまま体が宙に浮き始める。呼吸がしづらい、苦しい。

 

『何よりよ、お前の望みは元の世界に帰ることだろ?なら、あいつらが何人死んだところで、苦しんだ所で気にすることはないはずだろ?』

「ぁ…や、めろぉ…」

『違うとは言わせないさ。なぜなら俺は、「お前」だからなぁ』

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「洸輔さん!洸輔さん!!」

「…はっ…」

 

目の前には、杏がいた。視界が霞んでいて、息がしづらい。何か、変なものを見た気がする。

 

「だ、大丈夫…ですか?声を掛けても返事が……」

「あ、ああ、大丈夫。問題ない」

「そう、ですか……それは?」

「これ……か」

 

いつ来たかは分からなかったが、そんな疑問を頭を振って消し、静かに杏へと手渡す。

 

「地下に……いた人の日記だよ。内容は……かなり酷いから見るか見ないかは任せる」

「っ……」

 

話し込んでいると、先の方で何かが蠢いてるのが見えた。それに怒りと憎悪が込み上げてくる。

 

「出よう。もうここには、生存者はいないから」

 

思考を切り替えるかのように、そう吐き捨て剣を構えたが、手は震えていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

日にちは経ってもう五日目。今のところ、生存者は見つかっていない。大阪に訪れた際に、洸輔さんから渡されたノートの内容は酷いものだった。

 

(洸輔さんの様子もどこか…)

 

あの日から、少し洸輔さんの様子がおかしい。何となくだけど、目に光がない気がした。

 

「見えてきたね~」

「あ、ああ…諏訪までもう一息って感じだな」

 

そう言ったタマっち先輩の顔色は明らかに優れていなかった。先ほど訪れた名古屋で切り札を使ったからだろう。

 

「タマっち先輩…大丈夫?」

「なぁに、ちょっと疲れただけだ」

「無茶して切り札を使うから…」

「奴らの卵を見たら……な。カッとなっちまった、まぁ後悔はしてないけど…」

 

多分、今まで訪れた場所の中でも名古屋は一番被害が酷かった。あらゆる場所にバーテックスの卵が産み付けられ、まるで…ここはもう人間のいるべき場所ではない、と化物が訴えているような土地に変えられていた。

 

「今から向かうところは、確か諏訪だったよね?」

「はい。どうやら私達、四国と同じように勇者が守っていた場所の一つだそうです」

「守っていた……か」

「白鳥さん……」

「行きましょう。彼女も知ってほしいはずです、友達であった若葉ちゃんに……諏訪の結末を」

「ああ、そう…だな」

 

心配事は尽きないが、気持ちを切り替えて私たちは諏訪へと降り立った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここが結界の要だったからでしょうか?」

「異常なまでに破壊されているな……」

 

諏訪に降り立った私達が、見たものはまるで念入りかのように破壊された神社だった。ここが結界に必要不可欠のものだったから、ここまで無惨に破壊されてしまっているのだろう。

 

「若葉!こっち来て!」

「どうしたんだ、天草?なにか見つけたのか?」

「この形さ、多分、畑だと思うんだけど。これってもしかして…」

「えと、正確には畑だった場所みたいです」

「ふむ…確かに最近まで人の手が入っていた感じだな…」

 

多分…食料として野菜などを収穫していたのだろう。まだ跡が残っている…すると突然友奈が私の所へ駆け寄ってきた。

 

「畑の所にこれが…」

「これは一体?」

 

友奈の手元には木の箱に入った鍬と手紙…私は置いてあった手紙を開き読み始める。

 

『もしこれを見つけたのが、乃木さんでなければどうかこれを四国の勇者である彼女に渡していただければと思います』

 

『バーテックスが現れたあの日から既に三年ほどになります。諏訪の結界も縮小し切迫した状況にあります…ここはもう長くはないでしょう…』

 

『けれど…まだ乃木さん達が残っています。人間はこれまでどんな困難に見舞われても再興してきました。諦めなければきっと大丈夫』

 

『乃木若葉さん……まだ会ったことのない大切な友達。あなたに出会えたことを嬉しく思います。あなたが戦いの中でも無事であるよう、世界があなたの元で守られていくよう願っています』

 

『人類を守り続けるのが例え私でなかったとしても、乃木さんのような勇者が守り続けてくれるのであれば、それでいい。私はそこに繋げる役目を果たします』

 

 

手紙を握っていた手に力が籠る。

 

「っ……」

「ここも、同じ……全部壊されて!」

「いいや、郡さん。全部ではないよ」

「うん、そうだね。これが……残っている」

 

私が友奈から鍬を受け取る、自然と自分の目から涙が零れた。

 

「白鳥さん…やっと、会えたな。お前の意志は、私が引き継ぐ」

「二人には心の繋がりがあっただから……これがあったんだ……だから…大丈夫……僕も怖がらなくていい……いいんだ」

「天草?」

「若葉ぁー!!こんなん見つけたぞぉー!」

「どうした?球子」

 

天草の言葉が気になったが…球子に肩を叩かれそちらへと向き直る。

 

「蕎麦の種?」

「他にも色々な作物の種がありますね」

「…みんな…やろう…」

 

その一言だけで皆はすぐに動き出した。白鳥さんから受け取った鍬を使って畑を耕していく。

 

「大きく…育つといいね…」

「ああ、そうだな」

 

何故だか…横で白鳥さんが微笑んでいるような気がした…。

 

「この鍬と残った種は四国に持ち帰…」

「ちょっ、ひなた?どうしたの!?ひなた!!」

「ひなた!!」

 

全員で天草に支えられたひなたの元へと近づいていく。

 

「体調が悪いのか!?なら休…」

「ち、違います…」

「…え…?」

 

ひなたは悲壮な顔でたった一言私たちに告げた………。

 

「神託が…、ありました…四国が再び危機に晒されます」




オリ主の項目に新しい内容を更新しておきました!そちらもご覧ください!

感想やお気に入り登録お待ちしております!

それでは…また!!


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第十五節 変わらない

朗報…天草くん闇に落ちそうになってもフラグ建築士は引退してない模様…。


「レクリエーションをしよう!!」

「れくり?えーしょん?」

「それって何をするんですか?」

 

皆昼御飯が食べ終わって教室に着くと若葉が開口一番そんなことを言い出した。

 

「ずばり!模擬戦だ」

 

若葉がルールをいちから説明していく。まず戦場は丸亀城の敷地全体、勝ち残った者は他のメンバーへ自由に命令できる権利が与えられるというものだ。

 

「なるほど…王様ゲームとバトルロイヤルを混ぜた感じってことだね」

「うむ!まぁそうなるな」

「なんか面白そうだね!」

「…レクリエーションに模擬戦って……」

「まぁ…いかにも若葉ちゃんらしいですね」

『確かに』

「なんだ!『らしい』って!!」

 

すると突然若葉の顔が曇り…声のトーンも少し落ちる。

 

「ひなたが神託を受け…遠征から戻ってきたが危機が訪れる時期も規模もまだ把握できない。また人心を操作する大社のやり方にも疑問がある…」

 

そう、僕らは神託を受けたひなたの言葉を聞きすぐに遠征を切り上げ捜査は途中のまま…四国に戻ってきたのだった。

 

しかし…大社は僕達の遠征が大成功だったとニュースや報道などで報じている。

 

(…確かに…士気を高めるために嘘の情報を流すっていうのはあるけど……)

 

正直真実を知っている僕らからすれば…見るに耐えないものだった。そんなことを考えていると若葉が優しい声で僕達に声を掛けてくる。

 

「皆それぞれ思い悩むことは…あると思う。でも…だからこそ…楽しむ時間が必要だと思ったんだ」

 

そう言った若葉の顔は最初にあった頃に比べて変わっていた。多分これまでの経験を経てリーダーとしても人としても強くなったんだろう。

 

「タマもその話に乗った!温泉の時のリベンジだぜ!!」

「私も!」

「それじゃ!皆さん勇者王決定戦開幕ですっ」

 

(変わらないのは…僕だけか…)

『ああ…そうだ…お前だけが変わらない…』

 

みんなの楽しそうな声を聞きながら…心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さすがだな!!」

「若葉ちゃんこそ!!」

 

高嶋さんと乃木さんが木刀(痛くないように柔らかめの)と拳をぶつけ合っている。私は草むらに隠れながら二人の戦いを観察していた。

 

(…潰しあいの隙をつくには…ここが最適ね…)

 

「終わりだよ!」

「甘い!!」

「……!?……」

 

拳が刀を弾き飛ばす。しかし…残っていた鞘が高嶋さんに振るわれる。それを見た瞬間…咄嗟に体が動き出す。

 

「ぐんちゃん!?」

「高嶋さん…無事…?」

「ありがとう!助かったよ!!」

「うん…気にしないで…これで二対一ね…」

「もう一人追加だ!千景!」

 

どこからか土居さんが現れる。これで三対一、人数的に考えればこちらが有利の状況だ。三人で乃木さんに攻撃できる間合いへと近づいていく。しかし……

 

「ふ、望むところだ!居合いの真髄…お見せしよう!!」

「きゃぷ!」

 

一閃…乃木さんの放った一刀は高嶋さんのお腹に命中する。それを気に掛けて…私も体勢が崩れた。

 

「高嶋さん!!」

「もらったぞ!!」

「っ…」

「危ない!!」

 

やられると思い目を瞑る。すると何故か私に刀が振るわれることはなく…ただ何か…温かい感触がするだけだった。それに…目を瞑る前に誰かの声が聞こえたような…

 

「?」

「大丈夫?郡さん?」

「!?」

 

目を開けると天草洸輔が目の前に立っていた…いや…厳密に言うのなら乃木さんの一刀を肩で受け…私を庇うようにして抱き締めながら立っている…が正しい…。

 

「天草!?いつの間に!?」

「敗者にばっかり意識がいってるみたいだけど余所見していいのかい?」

「何!?くっ!」

「若葉~!相手はこっちだぞぉ~!鬼さんこちら!手の鳴る方へ~!」

「待てぇ~!!球子ーーーー!!」

「なははは!!!」

 

土居さんと乃木さんの声が遠ざかっていく。

 

「はは…負けた負けた…まぁいいけどさ」

「所で~洸輔くんはいつまでぐんちゃんを抱き締めてるの~?」

「おっと…そうだった。ごめんね…郡さんがやられそうになってたもんで…つい」

「……………………」

「郡さん?」

「ぐんちゃん?」

 

なんで…こんなに顔が熱くなるのか…よくわからない…なんだかくらくらする…。

 

「だ…大丈夫よ…だから…あんまり寄らないで…」

「あ、はいごめんなさい…」

「それにしても…貴方…どこにいたの…?」

「自分が行った場所には…誰もいなくてね。それで何かがぶつかり合う音が聞こえたんでこっちに来たのさ!」

 

そう言うと彼は笑顔でこちらを向いた。それを見て…また顔が熱くなる。

 

「……あっそ……」

「?」

「洸輔くん…狙ってやってないよね?」

「?何が?」

「なるほど…恐ろしいね」

「何が!?」

 

二人の会話を聞きながら乃木さん達が向かった方向へ歩き出す。私は二人の方へ向きを変えずに…一言だけ呟いた。

 

「まぁ…なに…助けてもらったのは事実だし…高嶋さんと貴方の分まで…頑張ってくるわ…」

「うん!いってらっしゃい!ぐんちゃん!」

「頑張ってね~郡さん!」

 

(はぁ……一体何なのよ……この気持ちは……)

 

私は知らない感情に…心を支配されていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

勇者王決定戦(ひなたさん命名)は私の勝利で幕を閉じたのだった。

 

最初の戦闘で友奈さんは若葉さんにやられ脱落、同じく千景さんを庇った洸輔さんも脱落した。そのあと私がタマっち先輩と組んでいることがばれてないことをいいことに…二人を矢で脱落させた。(千景さんが二本の矢を躱してきたときは焦った)

 

最後は協力関係にあったタマっち先輩も倒してチェックメイト。

 

あと…私は見てなかったのだが洸輔さんは千景さんを守った際に抱き締めながら庇ったらしい。そのことで……

 

『そいえば…貴方…私に抱きついたわよね…?』

『ああ…うん…そうだけど…』

『…冷静に考えて思ったの…あれって…セクハラじゃない…?』

『え…』

『まぁとりあえず…殺すわ…』

『いや、ちょっとまって!あれは…武器を出すのが間に合わなかったから(ザクッ)oh………』

 

てわけでバトルロイヤルが関係していないところでぼこぼこにされていた。

 

そして…優勝者ということはもちろん…

 

「私のものになれよ…球子」

「そんなこと言われても、タマには好きな人が…」

 

タマっち先輩が若葉さんに壁ドンされて道が塞がれる。そこに……

 

「待ちなよ!球子さんが嫌がっている!!」

「た、高嶋くん……!!」

 

もう一人のライバル出現にストーリーはさらに急展開へと!!………なることはなかった。

 

「って!!待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!」

 

ついに我慢できなくなったのか…タマっち先輩が大声で叫んだ。

 

「カットカットォ!!だめだよ、タマっち先輩!ちゃんと台詞通りにいってくれないとォ!」

「言えるかぁ!!なんなんだよぉ!優勝者の命令が『お気に入りの恋愛小説の再現』って!!しかもなんでタマが『内気な少女』役!?」

「えへっ…このヒロイン…背が低いって設定だから…」

「えへっじゃねぇぇぇぇ!!!しかもなんだ!?チビだって言いたいのか!?」

「男子の制服ってなんか変な感じだね…」

「わざわざ衣装まで用意するとはな…恐ろしいこだわりだ…

「てっきり洸輔くんがやるのかと思ってたけど…」

「うん…僕もそう思ってたけど…よかったぁ~」

 

横では洸輔さんが安堵していた…。彼には別の命令があるため二人にやってもらったのだ。

 

「むぅ…再現度には不満がありますが…よしとしましょう…では次の人は…千景さん?」

「!!…あんな恥ずかしいの…ぜ、絶対お断りよ……!!」

「千景さんと洸輔さんで…ワンシーンだけやってもらおうかなぁ~」

「い、嫌よ…!あんな…抱きつき魔となんて…!!」

「抱きつき魔………(グサッ)」

「あ、死んだ」

「安心してください、千景さんの命令はちょっと違う感じですから」

 

そう言って…皆で作った手作りの卒業証書を向けた。

 

「千景さんへの命令はこれを受け取ることです」

「これ……は?」

「みんなで作ったんだよ」

「学年が変わるだけで場所はずっとここだがな」

「ああ…だが、形だけでも行った方が良い」

「僕からも…気持ちだけだけど」

「私もそう思います」

 

この中で唯一中学三年生の千景さんのために…学校から出ることがないから…私達が思いを込めて作った。

 

すると…彼女は頬を赤め…戸惑いながらもそれを受け取った。

 

「そう…命令なら…仕方ないわね…」

「おめでとう…郡さん…」

「ぐんちゃん、おめでとう!!」

「ありがと…高嶋さん…それに…貴方や皆も……」

 

千景さんもとびっきりの笑顔…とまではいかないが、今まで見たなかで一番の笑顔をしていた。

 

「あれ?僕だけ…命令ないけど?」

「洸輔さんのはもう少しあとです…なので後程」

「はぁ…」

「それより!このままシーン2いきましょう!!」

「まだやるのか!?」

「もちろん!シーン10まであるんだもん!」

「正気の沙汰じゃねぇぇぇ!」

「私もどんどっん!撮ります!!」

「ひなたは少し自重しろ!!」

「シーン2!お姫様抱っこからスタートっ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

タマっち先輩の叫び声が…学校中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「これになります」

「えっと…ありがとう」

「一巻から貸すので終わったらいってください」

 

自分の部屋の前で本を渡す。洸輔さんに命令をするついでに前から言われていた小説を貸すことにした。

 

「これが…命令?」

「いえ!それは単純に前に言われたことを思い出したので渡そうと…命令…というよりもお願いですね」

「何でも聞くよ?できる範囲でだけどね」

「実は…勉強で分からないことがあって…教えていただければと…」

「なんだ…それなら頼んでくれればいつでも「私の部屋で…」…はい?」

「明日は丁度休みなので…どうかなと…」

「ま、まぁ僕は大丈夫だけど…」

 

照れくさそうに頬をかいている彼を見る。これには…実は別の目的がある。

 

(洸輔さんは…きっと何かに悩んでる…それを見つけ出すんだ…)

 

そう心の中で呟き…両手に力を込めた。




もうそろそろ…一番きついとこ来ますね…。心を強くもって頑張ります!

PS…課金しても千景さんは僕のもとに来てくれない模様…。


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第十六節 待ってる

甘いと重いのダブルパンチ!そろそろ来ますね、一番辛いやつが……心を強く持ちましょう、皆さん。


「ぁぁ……ダメダ」

 

言葉が出る。でもそこに意思はない。只虚ろな呟きが自身の口から漏れるだけ。

 

考え事をしているうちに、体の半分は黒い沼のような何かに漬かっていた。

 

僕はどうしたいんだろう。

 

ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイわからない抜け出したい抜け出したい抜け出せない……抜け出したくない?

 

「ふ、ふは…ははハ……狂気に…闇に…呑まれ……る……」

 

視界全てが真っ黒なヘドロに呑み込まれ、意識は墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「お邪魔します」

「ど、どうぞ……」

 

 昨日出された命令を実行するため、杏の部屋に通してもらう。女子の部屋というのはやはり、こう…緊張するものだ。

 

(郡さんの時とは違った緊張感……はぁ、やだやだ)

 

 杏の部屋は非常に女の子らしく、それに匂いが、ね?凄く良いの。女の子特有の匂いってやつである。

 

「あ、そういえば……これ」

「えっ!?もう読み終わったんですか!?」

「面白くてね〜つい」

「じゃ、じゃあ!帰りに二巻も渡しますね!」

「オッケー」

 

 杏に小説を手渡す、読んだ小説は恋愛物で女の子用かな?とも思ったが案外面白く、昨日夜更かしして全部読んだ。

 

「そろそろ始める?」

「あ、はい!今日はよろしくお願いします!」

「う、うん、その、よろしく」

 

 こうして、僕と杏の勉強会は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「区切りがいいですね。時間も時間ですし、一回休憩しましょうか」

「賛成!」

 

 教えて欲しいと言われたからきたものの、杏に教えるところなんて殆どなかった。(寧ろ教えて貰った部分もある)

 

「洸輔さん、喉乾いてませんか?お茶だしますよ」

「ん~じゃあ頼もうかな?」

「わかりました!」

 

 そう言って台所に向かっていく彼女の顔を見ながら思う。

 

(雰囲気、変わったな……)

 

 最初に見た彼女の顔は恐怖に押し潰されて壊れそうだった。でも……今の彼女は違う。何か強い決意を胸に前に進んでいる、そんな感じがした。

 

「お待たせしました。どうぞ」

「お~ありがとう!」

「……そっち寄ってもいいですか?」

「?ま、まぁいいけど」

「それじゃ、失礼しますね」

 

 杏は僕の横へと腰を掛ける。肩と肩が触れ合い、距離が一気に縮まった。

 

(寄ってもいいかって……近すぎではありませんかね!?)

 

「……」

「……」

 

 声を出すことが出来ない。杏の肩があたっているため、彼女の温度を直で感じる。それに顔も近いから吐息も超近距離で聞こえる。

 

「えと、杏さん?」

「こういうの……憧れてたんです」

「な、なるほど。憧れてたんだね、うん、それはわかった……なので、そろそろ解放していただけると嬉しいんで」

「ダメです♪私が良いって言うまで、このままでいてください」

「そ…それはちょっ」

「このままです!」

「は、はい!」

 

 今日の杏さんは、かなり大胆だったそうな。

 

(あはは……そういう部分でも、変わったのかな?)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「もう夕方か。ふぅ〜……途中、死にそうだった」

「ふふ、焦ってる洸輔さん。可愛かったですよ♪ひなたさんの言った通りでしたね」

「堪忍してくれ……てか、あの子が原因か」

 

 「やれやれ」と言いながら洸輔さんは肩を竦めた。彼の弱い部分を見れたからか優越感を感じる。勉強も二人でやったので非常にはかどった。

 

「そんじゃ、僕はここらで帰るとするよ」

 

 この部屋を後にしようと洸輔さんが立ち上がる。ドアへと近づいていく彼の手を掴んだ。

 

「杏?」

 

 不思議そうに洸輔さんがこちらを見ている。私にとっての本番はここからなのだ。

 

(私も、力になりたい。あの時助けてくれた、この人みたいに!)

 

「一つ、質問いいですか?」

「何?」

「何を、そんなに悩んでいるんですか?」

「ふむ、それは……どういう意味かな?」

 

 洸輔さんの目付きが変わる。先ほどのような優しさを微塵も感じさせない冷たい目。それを見て、怯む。

 

(怖がっちゃダメ!ここでこの人の手を離しちゃいけない)

 

「遠征が終わった辺りから、洸輔さんがすごく辛そうに見えたんです。それに思い詰めているようにも感じました」

「そんなことないよ〜、いつも通りさ」

「本当にそうですか?じゃあ、なんでそんなに辛そうな顔をしているんですか?」

「っ!」

 

 私の言葉を聞いた瞬間、彼の目から鋭さが消える。左目を押さえ、涙をこらえているのか。少し弱々しさの交ざった怒鳴り声をあげる。

 

「……何がわかるの?君に……僕の何が!」

「わからないから、教えて欲しいんです!言葉にしなければ、伝わらないことだってあるから」

「っ……ふざ、けるな。なんなんだ、人の心なんて……見えるものじゃないだろ!?なのに、なんで」

「わかってます。人の心の状態なんて目に見えるものじゃないことくらい。だから貴方の想いを……悩みを吐き出してください。見ることは出来なくても感じることはできるんですから!」

「…うるさい」

 

 彼の右目から一つの涙が零れる。目を真っ直ぐ見つめて彼が最初私に掛けてくれた言葉を口にする。

 

「怖くても、自分にとって守りたいものがあるのなら、前を向いて一歩を踏み出してごらん。その一歩は、きっと君の力になるから…ですよね?」

「……」

 

 この言葉を掛けてくれたときの彼が、『本来』の彼なんだと思う。あの時の目と、背中を見て、そう感じた。

 

「貴方はあの時、手を差し伸べてくれた。だから今度は私が!貴方に手を伸ばす番です」

 

 優しく微笑んで、彼に向かって手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 しかし、私の手が握られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「やめて、よ……」

「洸輔さん?」

「お願い、もう、やめて?僕は、君や皆が思っているほど、強くもないし優しくもないんだ。僕は、君たちのことを信用していない、信頼してない。僕は君たちのことをあっちに帰るための……道具としか思っていないかも…しれない糞野郎なんだ…」

 

 溜め込んだものが溢れるかのように彼は呟く。そのまま私の方を振り向かずに部屋を後にした。出て行く時の彼の背中はすごく弱々しく…今にも壊れてしまいそうだった。

 

「こ、洸輔さん!」

 

 彼に向かって私が一番伝えたかったことを叫ぶ。

 

「私、待ってます!洸輔さんが、いつか自分のことを話してくれることを!私も皆もずっと…待ってますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~その日の夜~

 

「電気消すぞ〜」

「……うん」

 

 タマっち先輩と一緒に布団へ入る。二人で寝るのはもはや習慣にすらなりつつある。

 

「なぁ、杏?」

「ん?」

「洸輔と…その、何かあったのか?」

 

 急な指摘に動揺する。

 

「なんで……分かったの?」

「そりゃ、タマが杏の姉だからーっと言いたい所なんだがなぁ……あいつが杏の部屋から出てくんのを丁度見かけたんだよ」

「……そう」

「あいつ、今にも死にそうな顔してた……んで、何があったんだ?」

「……洸輔さん、一人で何か抱え込んでいるように見えたの。だから、相談に乗ろうと思ったんだけど…」

 

 結局のところは何も分からなかった。少しは、吐き出してくれたんだとは思う。でも、根本的な部分がわかっていない。

 

「タマはあんまりそういうの分かんないなぁ……悩む前に忘れちまうし!」

「ふふ、タマっち先輩らしいね」

「だろ?まぁ……でも、人だからな。悩みごとの一つや二つあるんだろ?だったら!悩みごとの分だけタマが支える!皆も!洸輔も!杏もな!」

「うん、ありかとう。タマっち先輩」

「当然だ!何故ならタマ達は宇宙一の姉妹だからな!」

 

 そう言って私を抱き締めてくれる。私はこれがすごく好きだ。

 

「タマっち先輩」

「ん?なんだ?」

「次の襲来の時には、無理をし過ぎないでね」

「あー神託のことか?そんなのよゆ」

「ううん、そうじゃなくて切り札のことだよ?タマっち先輩、最近調子よくないでしょ?」

 

 タマっち先輩の動きが止まる、どうやら図星らしい。

 

「切り札は人の身に何をもたらすか……どんな悪い影響がでるのかそれも分かってないし、まだ解明もされてないから……」

「わかったから…そんな顔すんな。みんなで力を合わせりゃきっとなんとかなるさ…な?杏?」

「……うん」

「それにしても…杏?随分洸輔のこと気にかけてんじゃん?なんか他に理由でもあんのか?」

「ぅ…そ、そういうタマっち先輩だって!洸輔さんに可愛いって言われて赤くなってたじゃん!」

「そ、それとこれとは話は別だろ!?」

 

 タマッち先輩と一緒に過ごした事で、少し心に光が戻ってくる。洸輔さんにも……こんな気持ちをもう一度、思い出して欲しい。

 

 その時が来るまで、私は…待ち続ける。




天草くん…頑張るんだ…(ゲス顔)

さて…とこっからが正念場ですな!!

皆さんのお気に入り登録や感想を糧にして頑張っていきたいと思います!

それでは…また!!


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第十七節 思い出す

つきしらさん!評価ありがとうございます!!

これは…誰だって救いたいと思ったはずです。

とりあえず、本編にいきましょう!


「またかよ」

 

黒い沼のようなものに飲み込まれていくこの感覚は昨日も感じたような気がした。

 

昨日から、もう自分が何を考えているのか自分でもわからない。頭が痛い……吐きそう、おかしい、苦しい。

 

(彼女達を守るためには力さえあればいい?そうすれば……皆を守って……守る?なんで?どうして?)

 

「必要ない。だって僕の目的は勇者部の皆の元へ帰ること……

ただそれだけなんだから」

 

胸の辺りがズキズキするのはきっと気のせい。そう、気のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

いつも通りの授業。僕は右手に握りしめた押し花を見つめる。

 

(友奈、美森、風先輩、樹ちゃん、夏凜、園子……安心して。絶対に帰ってみせるから)

 

そんなことを心の中で呟くと、聞き飽きたアラーム音。光が見えてきた。

 

「ーーーーーー」

「ーーー」

 

周りから何か声が掛けられている気がした。でも、言葉は聞こえない。

 

(いいや……僕がすべきことは)

 

僕は勇者システムを起動し……装束を身につけた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「なんだよ、今までにない事態とか言ってた割には大したこと無さそうだな」

 

タマっち先輩が余裕そうに旋刃盤を持つ。皆もそれぞれの武器を握り始めた。若葉さんが皆に向かって指示を促す。

 

「油断は禁物だぞ、球子。それと今回は杏の提案で出来るだけ切り札の使用を控えようと思う」

 

事前に伝えていた通り若葉さんが皆に注意を呼び掛ける。すると千景さんから訝しげな視線を向けられた。

 

「状況次第では使わざるを得ないときも……ある」

「で、でも、大社からもそう言われてますし」

「アンちゃんに賛成っ!使わないに越したことはないよ!ね?ぐんちゃん?」

「……まぁ、高嶋さんがそういうなら」

「洸輔くんもそう思うよね?」

「ああ……そうだな」

 

タマっち先輩だけでなく……皆も精霊の力を酷使し疲弊している。

 

「では、今回は基本的に近接が主軸のメンバーで敵を叩いていく。友奈と千景は左右の敵を頼む…私と天草で敵の中枢を迎撃するからな」

「りょーかい!」

「……任せなさい」

「球子と杏の二人は後方支援を優先して、私たちの援護を頼む」

「おうよ!」

「はいっ!」

 

役割分担を終えて…皆がそれぞれの武器を再度構える。

 

「そんじゃあよ!これに勝ったら皆でお祝いにお花見しようぜ!」

「楽しそうっ!今なら桜が綺麗だしぴったりだね!」

「……桜……まぁ、いいんじゃない?」

「私も、料理用意するね」

「じゃ、じゃあタマは魚を釣ってきて焼く!」

「なんでそこで張り合うのよ……あとそれ、お花見じゃないし」

「それまで、作戦の方針も決まったところで。そろそろ気合いを入れよう。敵が来たぞ」

 

若葉さんの言葉と共に全員が動き出す。そんな中…最前線に立つ洸輔さんに視線を向けた。

 

「お願いします、無理だけはしないで…」

「大丈夫だって!タマだっているしな!昨日も言ったが、杏も皆もタマが守ってやるからな。安心しとけ〜」

「ありがとう、タマっち先輩」

「シッ!それじゃ、やるか!」

 

タマッち先輩の掛け声に力強く頷き、視線を敵の方に向けた。

 

(やらせはしない。私だって……守ってみせます)

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵は前より少なめだな!」

「うん、これなら皆大丈夫」

 

戦況は優勢、敵の数も少ないため皆切り札を使わなくても対応できている。

 

(あとは……)

 

融合しようとするバーテックスを次々と矢で撃ち落としていく。融合進化体を阻止すれば皆が切り札を使わずに戦闘を終わらせることができる。

 

「杏!あっちだ!!」

「っ……数が多い」

「仕方ない。切り札を使うぞ!」

「ま、待って!!」

 

切り札を使おうとするタマっち先輩を止める。これ以上無理をさせるわけにはいかない。

 

「タマっち先輩は手を出さないで」

 

(願うは殲滅。あらゆるものを凍らせる雪と冷気の具象化にして、死の象徴……全てを凍てつかせる為に、来て!雪女郎!!)

 

周りを……吹雪が包んでいく。それはバーテックスを包み込むと、化け物たちは次々と凍死していく。

 

「さ、寒い~」

「何も…見えないわね」

「皆さん…危険ですから動かないでください」

「杏、大丈夫なのか!?」

「今まで一度も使ってなかったから皆よりは安全………だと思う」

「すごいなぁ…あいつらどんどん凍ってくぞ!」

 

吹雪が止む…目に見えてきたのは固まった状態で地面へと落下していく化け物達だった。

 

「やったなぁ!杏!ほとんど片付いたぞ…あとは残りの奴等を…」

 

タマっち先輩の言葉が止まる。私達が見上げる先には…

 

「前の奴と同じくらいでかい……ヤバイぞ…あいつ…」

 

見た目だけでわかる…今までの進化体とは別格であることが…。実際…雪女郎の吹雪が全く効いていない。その姿に私とタマっち先輩は固まることしかできなかった。

 

「この数は不味いね…」

「迷っている暇は…どうやらなさそうだな」

「使うわ…切り札…」

「ま、待ってください!!」

 

不測の事態に対応するために…皆が精霊を纏わせていく。洸輔さんも…次々と現れる進化体達に対応していた。自分の無力さを噛み締める。

 

(結局…皆に使わせてしまった…)

 

「杏!!!」

「え……きゃっ!」

 

針が私に向かって飛んできたが…タマっち先輩にギリギリの所で助けられる。

 

「ひやひやしたぁ…大丈夫か?杏?」

「ありがとう…タマっち先輩……っ!?」

「お、おい!?その腕!!」

 

自分の左腕が針にカスっていたのか…傷ができている。それだけではなく…何か得体のしれないものに蝕まれている感覚に襲われた。

 

「あの針…毒があるみたい…」

「っ…野郎……!!」

「大丈夫…右腕だけでも戦える」

「杏……はぁ~わかった!なら同時にいくぞ!!」

「うん!」

 

タマっち先輩は唸りながらも、私の意思を尊重してくれた。

 

「最大!!火力だぁー!!!」

 

旋刃盤の炎とクロスボウから放たれた吹雪が蠍のような形の進化体に命中する。しかし………

 

「マジかよ……」

「全然、効いて……ない」

 

精霊を憑依した状態の勇者が二人がかりで攻撃しても、びくともしない。その様子を見て背筋が凍り付いた。

 

「くそ!一旦距離をとって……ぁ」

 

タマっち先輩が何か言おうとした瞬間…頭上からの突然の打撃に…私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「う…………」

 

重い瞼を上げて…目を開く。

 

「強化が、解除されて?」

「お、おお、杏。目、覚ましたか……」

「……?」

 

目の前には進化体の針を旋刃盤を盾として使いながら、私の前に立つ、タマっち先輩の姿があった。

 

「タマっち先輩!?」

「っ!?ちったぁ、加減しろっての……逃げろ、杏」

「何言ってるの!?逃げるなら…一緒に!!」

「そいつは無理だな……足がもう動かない。だから」

 

視線を向けると、タマっち先輩の足が地面にめり込んでいた。でも、と私は叫ぶ。

 

「できるわけないよ!!」

「っ……このままだと、二人とも死ぬぞ!!」

「嫌!絶対逃げない!!」

「たくっ……強情な妹だことで」

 

(なんとしても倒す!タマっち先輩が守ってくれるなら、私が倒してみせる!!)

 

クロスボウを構え、矢を撃ち出す。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「動かないなら、守るしかないよな!!」

 

(タマは杏の盾!絶対傷つけさせるもんか!!)

 

どんどん激しさを増していく攻撃を旋刃盤で防いでいく。それと同時にピシピシと何かが砕けてきている音が聞こえた。

 

「まじか……頼む、もってくれ……!旋刃盤!!」

 

しかし、そんな自分の叫びも虚しく盾は砕け散った。

 

(まずっ…)

 

針が腹部へと突き刺さる寸前、横から何かに押されたような衝撃を与えられて、体が横にずれた。杏と二人で、地面を転がる。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

杏の短い悲鳴が上がった。状況が理解できない中、顔に向かって赤い何かが飛んできた。

 

「は……?」

 

飛ばされた方向へと視線向けると、先ほどまで自分が盾で受け止めていた鋭利な針によって背後から刺されたのか……腹部を貫かれてぐったりとしている洸輔の姿があった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「消えろ」

 

進化体に囲まれたが相手にもならなかった。今までと違って敵に苦戦も何もしない。

 

『そりゃ、お前が受け入れたからさ。だからそれほどの力が出せるんだよ。さぁ、もっと力を楽しめ』

 

どこからか聞こえてくる言葉に頷く。敵がいないかと、周りを見渡す。その時、真っ先に目に入ってきた光景があった。

 

「杏……球子?」

 

二人が身動きを取れずにバーテックスの鋭利な針に襲われている。盾として構えていた球子の旋刃盤に皹が入りはじめているのも。遠巻きからだが見えた。何故だか、手が震え始めた。

 

『……助けよう、だなんて考えるなよ?お前にもうそんな考えは必要ない』

 

この言葉をどこかで受け入れている自分もいれば、否定している自分もいる。気付けば、持っていた剣を放り投げ二人の方に向かって走っていた。

 

『ちっ、やっぱりこんなもんか』

 

呼吸が乱れる。何故、こんなに焦っているのかわからないのに。足は動き続けた。

 

(間に合えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)

 

球子の盾が砕けたと同時に二人を押すことに成功する。しかし、代償として僕の体は針によって貫かれた。

 

腹部に針が突き刺さっている状態から、大きく上空へと持ち上げられる。次の瞬間、ゴミを捨てるかのように僕の体は針から引き抜かれ、地面に捨てられた。体から力が抜けていく。

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!!」

「お前が……」

「お、おい?洸輔……?」

「う、嘘……いや、いやぁぁぁぁぁ!!!」

 

遠くでは咆哮が聞こえ、近くからは杏と球子の声が聞こえる。教室にいたときは聞こえなかったのに。

 

(ああ)

 

その時、気がついた。

 

(今さら……思い出したよ)

 

この世界に来て、唯一偶然じゃなかったこと。

 

(ホントぉに……バカだなぁ。僕は)

 

あれだけ、守る必要がないと思っていた癖に。自分を犠牲にしても、彼女達を守ってしまった。

 

「あ、ん…ず……」

「だ、ダメ!目を……目を閉じないで!!」

「洸輔!死ぬなんて…タマは絶対許さないからな!!」

 

二人が涙を流しながら、僕に呼び掛けてくれている。そんな、二人に手を伸ばす。

 

(僕は、この子たちのことを『大切』に思っていたんじゃないか。だから、自分を犠牲にしてまで……馬鹿だな、気づくの遅いよ……)

 

「昨日は、ごめ…ん…ね?あ……ず」

「洸輔さん!」

「もう……小説、借りられそうに、ない……や」

「っ…うぅ…」

「馬鹿!!目ぇ閉じるな!!」

「たま…こも、ごめん……ね」

 

死ぬのかな、僕。あぁダメだ、血、止まらない。体から力がどんどん抜けていく。

 

「み……な、ごめ…」

 

心配してくれた皆に答えることも出来ず、むしろ傷つけてしまった僕を…許して欲しい。

 

二人の声すら、もう聞こえない。

 

全ての音が途切れて、目も開かなくなった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「え…?」

 

それは突然、視界に映った。体を地面に横たわらせ…鮮血で染まっている。天草洸輔の姿。

 

(何?あれは…何?)

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

咆哮が聞こえる、その声は高嶋さんから発されたもの。

 

「っ!お前が……」

 

私自身も鎌の持つ手に力が籠り、咆哮に近い声を上げる。

 

「来い!!酒呑童子!!!」

 

横では、高嶋さんが今まで見たことのないような姿へと形を変えていた。

 

「うおおおおおおおお!!」

「……死に、なさい!化け物!」

 

高嶋さんは拳を、私は鎌を憎き化け物に対して振るう。

 

(なんで、なんで…私はこんなに怒っているの?)

 

そんなとき彼のある言葉が私の脳裏をよぎった。

 

『それにさ…大事なのは、いつも一緒にいることじゃなくて…いつもお互いのことを思っているかじゃない?』

 

自分が理解できていないのにも関わらず、一度爆発した感情は止まらなかった…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…嘘だ………」

 

鮮血に染まっている天草を見ながら…呟く…。頭が回らない…。

 

「私は…」

 

今まで感じたことのない恐怖が私を襲う。友奈が最高位の精霊を纏い…進化体を攻撃し…千景も狂ったかのように…鎌を振るっていた…。

 

「どうしたら…いい…?」

 

リーダーであるにも関わらず…そんなことを…譫言のように呟いていた……。




シリアス…全開。


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第十八節 選んだ道

まずは!お気に入り150件登録ありがとうございます!!もう3ヶ月(?)くらい経ちましたがこんなに沢山の方に見てもらえるとは……嬉しい限りです。


ちょー頑張って書きました(迫真)


 目を開く。

 

 周りを見渡すと白い空間が広がっていた。身を起こすと、頭の中のどこかに、霧が掛かっているような感覚がする。

 

「……」

 

 無言のまま、果ての見えない空間を歩く。足を進めると頭の中で、西暦の世界で過ごした日々が脳裏によぎっていった。

 

「酷いもんだね」

 

 自重気味に呟く。見えてきたものの殆どが、彼女達を傷つけてしまった記憶ばかり。

 

「…何か」

 

 思い出せない。何か、僕は大事なものを思い出したはずなのに。それが、なんだったのか…思い出せない。

 

『無様を取り越して憐れだな、お前は』

「……」

 

 黒く染まる。声の方へ視線を向けると、禍々しい色をした勇者服と剣を手に持っている『僕』がいた。

 

『出来の悪い本体(オリジナル)を持つと苦労する。憐れなお前にそろそろ教えてやるよ。俺が一体何なのかをな』

 

 状況についていけない中、奴の拳が自身の腹部に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「お、おい」

「あ、ぁぁ……」

 

 握っていた手が力なく落ちる。同時に、目に灯っていた最後の光も、消え去った。

 

「ば…バカ野郎ぉ!目ぇ、開けろって!」

「まだ何も……」

 

 目の前で力なく横たわっている少年。最初は怪しくて、それに異性だからと警戒してた。でも、頭を撫でられたり、杏と仲良くしているところを見ると、そんな気持ちは無くなっていた。

 

 それに。

 

「お前が、初めてだったんだよぉ……」

 

(からかっている訳じゃなくて、タマのことを、純粋な『女の子』として見てくれた。別に見てほしいだなんて思ってない。それでも、それが堪らなく、嬉しかったんだ……)

 

「ほ、ほら、早く起きないと……なぁ、もっと…くっつくぞ?」

 

 遠征の時、そして、いつかは覚えてないけど、教室で話したあの時…彼はこうされて顔を赤くしていたことを思い出す。

 

 体を抱き寄せると…装束に血がついた。その体には…彼の温もりがまだ残っている。

 

「頼む…たのむよ…起きてくれ…!!」

「タマっち先輩……お願い、洸輔さん」

 

 杏も手を握って、祈るように呟いていた。

 

 二人の少女は、ただ願い続ける。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「つぅ…っ…」

 

 肺が圧縮されて、空気が体外へと吐き出される。異常な痛みに、僕はその場に蹲った。奴はゆっくりと歩み寄る。

 

『お前の心、その奥底に眠っていた悪意の集合体。それが俺の正体だ』

「……知って…いるとも」

 

 奴は嘲笑を浮かべながら、僕に向かって話続ける。

 

『お前がこちらに来て感じた不安、悪意、不信感。そして、お前の弱い心が生み出した存在……それが俺さ。端から見れば、俺はお前の偽物……出来損ないだ、だがな』

「ぐっ…」

 

 顔を蹴られ、体が飛ぶ。うつ伏せで倒れ、顔を上げると、奴の目は…僕をまっすぐと見据えていた。

 

『今じゃ、どっちの方が偽物で出来損ないなのか分からないな』

「……」

『うだうだと、闇を恐れていつまでも受け入れず。いざ、受け入れて完全に闇に落ちるかと思えば……最後には、守る必要のないものを庇い、自滅……いい加減にしろよ。偽善者が』

「っ…あああ!!」

 

 凶器が振り下ろされる。それは、僕の腕を貫通し地面に勢いよく突き刺さる。意識が飛びそうになるのを堪える。

 

「ぐっ…ぁ…」

『言ったはずだ。お前のその想いは偶然が重なりあって産み出された紛い物の想いだと』

 

『あいつらのことを拒み、傷つけておいて、今さら、守ろうなんて虫が良すぎるとは思わないのか?』

 

『お前のような出来損ないのことを…あいつらはもう仲間なんて思うわけがない』

 

 苛烈な言葉とともに、剣戟が体を傷つける。どうしてか、この痛みは肉体につけられた傷だけのものではないように感じた。

 

『何より、また立ち上がったところで。お前にはなにも出来ない。なら……』

 

 胸ぐらを掴まれ、体が宙に浮く。無理やり顔をあげさせられると、その先には勇者部の皆がいた。

 

『この空間に留まり、皆と過ごすといい。それがお前の望みだろ?』

 

 手を離され、力なく地面に倒れ伏せる。体に、力は入らなかった。

 

『それでいい。どちらにせよ、もう手遅れなんだ……楽になるといいさ』

 

 僕に背を向けながら『彼』は反対側へ歩き出した。手を伸ばそうにも、力が入らない。

 

(そう、かもしれない。彼の言う通り……もう手遅れなら。ここで……)

 

 諦めて、目を閉じてしまえば……。

 

 

 

 

 

 

『一人じゃないよ。洸輔くんは一人なんかじゃ、ない』

 

 

 

 

 

 優しい声、何度も僕を這い上がらせてくれた声。自然と体に力が戻る。右手から光が溢れてくる、手には大事な人からもらった押し花が握られていた。

 

「……君は、いつもそうだね」

 

 右手から、徐々に全身へと熱が伝わる。今度は二人の少女の声が聞こえた。

 

『皆待ってるっ!だから早く戻ってこい!洸輔!!』

『お願い…目を覚まして、洸輔さん!』

 

 体に戻ってくるのは只の温度じゃない。これは、人と人との繋がり。仲間という『大切』なものから感じられる温度。

 

「ありがとう、僕を思っていてくれて」

 

(あの時、もう気づいていたんだ。それを皆のお陰で、もう一度思い出せたっ!)

 

『待ってます!洸輔さんが、いつか自分のことを話してくれることを!私も皆も待ってますから!』

 

 体が光に包み込まれていく。光の中では、勇者部の皆が微笑んでいる。

 

 

 

 

 

 

「まだ、そっちには帰れないんだ……ごめんなさい。でも、絶対帰るから。待ってて、皆」

 

 

 

 

 

 

 

 『俺』が、顔を驚愕の色で染める。熱が戻ってきた体を持ち上げ、奴と対峙する。

 

『なぜ立ち上がった。もう手遅れだと言った』

「………ううん、手遅れじゃない」

『…は?』

「手遅れなんかじゃない…って言ったんだよ」

 

 強く拳を握る。もう頭の中の霧は消えていた。

 

「待ってくれてるんだ。こんな僕を彼女は……彼女達は、離さないでいてくれてる」

『また、綺麗事か?そんなものありはしな……』

「君も『僕』なら、感じているんだろ。この暖かさを」

『うるせぇんだよ……黙れ!!!!!』

「嫌だ、黙らない」

 

 放たれた黒い渦を、正面から拳で打ち消す。

 

『ありえない……こんなことが!!』

「僕は、負けない。彼女達を僕が守ってみせる」

『っ……だから!その想いは偶然が生んだ紛い物と言ったはずだ!!!』

「いいや、偶然なんかじゃない!確かに、この世界に来たことは偶然かもしれない……でも、この想いは!『これ』だけは!僕が自分の意思で決めたことだ!」

 

 拳と剣がぶつかり合う。今まで向き合うことを怖がってた闇と今度こそ向き合いながら吠える。

 

『そうやって何度立ち上がったところで!!また苦しむ、また泣く、また傷つける!!』

「そうかもしれないね」

『なら!!』

「でも、苦しまずに、泣かずに、傷つけないで、強くなる人間なんていないんだ」

 

 この世界にきてから何度も、打ちのめされた僕だから言えること!

 

 

「苦しんで!泣いて!傷つけあって!壊れそうになっても……それでも、最後には助け合い、想い合って前へ進む!それが僕たち人間だぁぁぁぁぁ!」

 

 

 剣が壊れ、拳が奴の顔面に当たる。鈍い音が空間内を満たし、僅かな静寂が場に残ると、彼は短い溜息を漏らした後、口を開いた。

 

『所詮、紛い物じゃ、これくらいが限界か……もういい、さっさと俺を消せ』

 

 黙って彼に手を伸ばす。疑問と怒りが入り交じった視線を僕に向けられた。

 

『何、してやがる』

「一緒に行こうよ」

『なんでだ?』

「もう戦いは終わったし」

『そういう意味じゃない!何故だ!?お前にとって俺は邪魔な存在だろ!それに俺が今までやってきたことを忘れたか!?』

 

 心底分からないといった顔で訴えてくる彼に、僕は平然と言い返した。

 

「忘れたわけじゃない。でも、もう過ぎたことだし。それに…ぶつかってわかったよ?僕はやっぱり『君』だ」

『……』

「悪意を持っていない人間なんていない。だから、僕は君を消さないし止めを刺さない」

『………』

「そもそもさ、僕の弱い心が生み出してしまったなら僕に責任はある…だから、一緒に行こう?」

『お前は、俺みたいな存在でさえも……包み込もうってのか?』

「うん!」

 

 即答、すると彼は上を見ながら右手で顔を覆った。

 

『ぷっはははは!!!はぁー負けた負けた……やっぱりすげえなぁ…お前は』

「そうかな?………って!?か、体が消えかかってるけど!?」

『たりまえだ、お前が言ったんだろ?一緒に行こうって』

 

 真っ直ぐと、彼の瞳が僕を捉える。

 

『諦めんじゃねぇぞ……最後まであいつらを守ってみせろ』

「うん、もう諦めない」

『ならいいさ。それじゃさよならだな、「俺」』

「ううん、さよならじゃないでしょ?」

 

 自分の胸に、優しく手を置く。その仕草を見ながら、目の前で首を傾げている「僕」に優しく諭す。

 

「いつも一緒だ」

『くっ……はは!!完敗だよ、「俺」』

 

 そう言うと、今までからは想像できない満足そうな笑顔を浮かべながら……彼の体が光の残滓となった。それが、僕の体に入っていく。なんというか、変な感じだ。

 

「よろしく、もう一人の僕」

 

 

 

 

 

 

 

『貴公らしいな』

 

 

 

 

 

 

 懐かしい声が聞こえた次の瞬間、空間が歪み……いつぞやに見た洞窟のような場所に風景が変わった。だけど、驚きはしない。

 

『答えは得たか?』

 

 問いかけに対し、静かに頷く。

 

『そうか、彼の言った通りだな』

 

 白髪の男性は満足そうな笑みを浮かべながら、そんなことを呟く。

 

『この剣を抜け、今の君ならきっと』

 

 剣が突き刺さった石段に近づいていき…束に手を掛けた。

 

「今、いくからね…皆」

 

 目一杯腕に力を込めて、剣を引き抜いた。

 

『行くがいい、少年よ。守りたいもののためにその力を振るってくれ。そして……』

 

 騎士の最後の呟きは、聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

「……えっ」

「い、今…」

 

 体に感覚が戻ってくる。目の前には、二人の少女の姿があった。

 

「あれ…僕…なんで?」

「洸輔!!」

「洸輔さん!!」

「ちょっ二人ともっ!?」

「心配……したんだぞ…ばかぁ!」

「ホントに、ホントに…よかったぁ…」

「っ!!ありがと、二人とも…」

 

 飛び付いてきた二人を抱き締める。杏と球子の想いが、言葉がなかったら、僕は……。

 

「杏、球子、今までごめんなさい。二人の声、しっかり聞こえてた。だから、えと、その…許してくれるのなら…また僕と仲良くしてほしい!」

 

 やってしまったことを消すことは出来ない。だからこそ、それを受け止めて前に進みたい。

 

「あぁ…あぁ!もちろんだ!お帰り、洸輔!」

「私からも…お帰りなさい」

「うん、ただいま!」

 

 二人に笑顔で答え、鮮血で染まった体を起こして立ち上がる。まだ、やるべき事は山積みだ。

 

「さて、と、行こうか」

 

(皆の元に帰りたいって気持ちがなくなった訳じゃない。でもそれだけじゃない)

 

 右手をかざし…白銀の長剣を握る。

 

「『大切』なものを守る。そう、それが……」

 

『お前が!』「僕が!」

 

『「選んだ道だ!!!!」』




胸アツ展開キタコレ!!(自分で言うなし)

感想お待ちしております!


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第十九節 解放せし魔剣

洸輔くん復活(?)

応援してあげてください(⌒‐⌒)


「がふっ!?っ……あぁぁぁぁぁ!!!!」

「っ……はぁぁぁ!!」

「友奈!千景!」

 

二人の猛攻で蠍型の進化体を一体は…倒すことに成功する。しかし…いつの間に作られたのか…二体目が私達の前に立ち塞がっていた。

 

「ぐぅっ……」

「ち、力…が」

 

友奈が鬼の力を…千景は七人御先の力を使い続けた為、体に限界がきたのか…友奈は血を吐き…千景は地面に膝をつく。

 

(このままではまずい!)

 

ここぞとばかりに、バーテックスが二人に向かって針を飛ばしていく。二人もその場から動く気配がなく、私自身も先ほど受けた攻撃のせいで体が動かない。

 

(これ以上…仲間を…失いたくない!!)

 

二人に向かい、手を伸ばす。しかし、無慈悲にも針は彼女達目掛けて……。

 

「僕の大切な人達に、手を出すなぁぁぁぁ!!!」

 

突然飛んできた長剣によって針の軌道は外れ、地面に突き刺さった。

 

「う……そ…」

「あ、あなた…なん、で?」

「ごめん!皆…遅くなった!!」

 

地面に刺さった長剣を引き抜き…彼は…優しげな顔で私達の方に振り向いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「こう…す…け…くん?」

「天草!?か、体は……大丈夫、なのか?」

 

3人が僕を見上げる、傷だらけの姿を見て悔しさと罪悪感に押しつぶされそうになる。

 

「でも、もう大丈夫。皆のお陰だ」

 

(今、こうして立っていられるのは。彼女達がいてくれたから)

 

だったら、今度は僕が皆を助ける番だ。手に持った長剣を強く握る。

 

「若葉、郡さん、それに友奈……ありがとう。よく生きててくれた、あとは、僕に任せて」

「っ!よか…ったぁ」

「まったく…おそ…い…のよ」

「友奈、千景……」

「若葉、二人を連れて安全な場所へ」

「だが……天草。お前はどう」

 

弱々しい表情の若葉に手を差し伸べる。彼女を少しでも安心させる為、笑顔で答えた。

 

「心配しないで、若葉はもう十分頑張った。ここからは僕の仕事だ」

「っ……すまない、頼んだぞ」

「ああ、任された!」

「生きて帰ってきてくれ、死ぬなよ……」

 

二人を連れ、この場から離脱する若葉を庇う形で足を踏み出した。背後から聞こえた言葉に無言で頷く。

 

「ああ、勿論さ」

 

痺れを切らした進化体は地面に突き刺さっていた針を勢いよく引き抜く。獲物を捉えた鋭利な針は、もう一度僕を串刺しにしようと迫る。

 

「二度も同じ技にやられるかぁ!」

 

叫びとと共にガギィッという重い音が響く。蠍の針は、僕の体に届く事はなかった。それは、纏っている精霊……ジークフリートから受け取った力の一端によって引き起こされている。その名も……

 

「悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)!!」

 

叫びと同時に長剣を両手で強く握りしめる。瞬間、光り輝く銀の波が僕の周りと剣全体を包み込んでいた。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る!!」

 

知るはずもない言葉のはずなのに……止まらず言葉は紡がれていく。剣を天高く振り上げ、最後の力を込める。

 

「撃ち落とす!!!」

 

自分に足りなかった最後の欠片が揃った気がした。体全体から溢れる力を剣に込め、勇者はかつて邪悪なりし龍を滅ぼした名剣の名を高らかに叫ぶ。

 

 

 

 

 

「幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!!!!!」

 

 

 

 

 

瞬間、半円状に放たれた波は、進化体を呑み込む……後ろにいた星屑達をも巻き込み、化け物達を無に返した。

 

「さっすが……シグルドさんと同一起源をもつ人の剣だな」

 

多分、今のが一時的に精霊の力をデメリットなしで使うシステム……の事だろうな。力が抜けていく、地面に剣を突き刺して何とか体を支えた。

 

「あぁ、でもこれは……そう何回も、使えないや」

 

(……ねぇ、ジークさん。僕は守れたんでしょうか……)

 

身体に宿る英雄に問いかけながら、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの苦難に見舞われながらも、今回も西暦の勇者達と僕は辛くも勝利を収めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……………」

 

あれから数日が経った…。高嶋さんの病室に行く前に…別の病室で眠る三人の部屋を訪れた…。

 

命に別状はないらしいが…まだ…脳死の危険性やそれ以外の可能性も捨てきれないと医者の人は話した。

 

今日…朝見たニュースの内容を思い出す…。戦闘が長引いた結果…樹海の腐食の許容値が越え…現実に影響が出て…ついに一般の人々に死傷者がでた。

 

高嶋さんは明日辺りに…退院できるらしいのだが…三人は目を開く気配すら見せない…。

 

「うっ…」

 

口を押さえ込んで…お手洗いへと駆け込む。体を鮮血で染めながら倒れていた彼と…あの進化体の恐ろしさに体が震え…吐き気が込み上げてくる。

 

「また…あんなものが現れたら…私は…」

 

あの時は…頭に血が昇っていて…感じなかったが…冷静になると…改めて恐怖を再確認する。

 

「嫌…死にたくない…」

 

戦うのが…死ぬのが…怖い…でも…戦わない勇者に価値なんて…。

 

(…こういうとき…貴方なら…どうするの…?)

 

何故か…心の中で彼に問いかけている自分がいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「こんにちは、ぐんちゃん」

「た、高嶋さん……えと、こんにちは、それと大丈夫?」

「もう大丈夫そうだよぉ~!」

 

腕以外ならもう全快しているため、ぐんちゃんに笑顔を見せた。ぎこちない笑みを返したぐんちゃんに質問する。

 

「ぐんちゃんこそ…何かあったの?」

「すこし…ね…でも…大丈夫…なんでも…ないから」

 

ぐんちゃんをそっと抱き締める。

 

「高嶋さん?」

「大丈夫だよ!」

「え?」

 

震えていたぐんちゃんの体は…段々と落ち着き取り戻していった。

 

「何があっても…ぐんちゃんは私が守るよ…。もうこれ以上誰一人だって傷つけさせない…だから…大丈夫!」

「うん…ありがとう…高嶋さん」

 

弱々しいながらもさっきより…元気になった様子を見て笑みを浮かべた。

 

「うん!早く皆元気になって…桜…見に行きたいね」

「そうだね…私もそう思うわ」

「その時は…また名前で…」

「高嶋さん?」

「あ、ううん!なんでもないよ!」

 

(…早く…元気になってね…アンちゃん…タマちゃん…洸輔くん…)

 

私は…願うように…心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……………」

 

病室を月明かりが…照らす。三人が眠っている病室で私は…面会時間が許されるまで病室にいた。

 

『すまない…ひなた…先に休んでいる』

 

若葉ちゃんは先に帰っており…千景さんも…友奈さんのお見舞いを終えて帰っていった。

 

(私は…何もできなかった…だから…これくらい…)

 

洸輔くんの側へといき手を握る。

 

「せっかく…目を覚ましたのに…また眠るんですか…?若葉ちゃんが言ってました…あなたがいなかったら…私達はここにいなかったって…」

 

彼は一度…誰も手の届かない場所にいってしまったのだと思った…でももう一度立ち上がり…自分達を守ってくれたと若葉ちゃんは話していた。

 

「貴方は…見つけたんですよね?自分にとっての…大切なものを…」

 

早く目を覚まして…それを話してほしい…。私は涙が出そうになるのをこらえて三人に目を向け…言葉を放つ。

 

「杏さん…球子さん…それに…洸輔くん…目を覚まして…元気になったら…みんなで桜を見に行きましょう…だから…早く起きて…無事な姿を…見せてください…」

 

時間がきて…病室を出る。

 

月明かりの光で照らされる帰り道をゆっくりと歩いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「久しぶりの景色だ」

 

 目覚めた先に映るのは海……足元には砂浜……。

 

「あ、あそこか。通りで居心地がいいわけだ」

 

 僕と友奈が組み手とかを行う際よく使う場所。まぁ言ってしまえば彼女との思い出がつまった場所でもある。

 

 なんとなく分かる、夢だ。でも、これはただの夢じゃない。

 

『待ってたよ、洸輔くん』

「こういう場合……久しぶりが正しいのかな?友奈?」

『どうなんだろうね?』

 

困ったような笑みを浮かべる友奈。その笑顔に自然と自分の表情も明るくなった。

 

「まぁいいか、久しぶり。友奈」

『うん、久しぶり!それじゃあ、少しお話しようか』

 

そう言うと彼女は……太陽のような笑顔を僕に向けた。




ふぅ~一旦きついとこは終わったかぁ~………。

あ、でも…まだ最大の難所が残ってた(血涙)

あと…途中にあったジークの能力の詳細はオリ主説明に追加しときます!

さぁて…音無さんの言った通り…ここから角やしっぽははえるのかな?僕にもわからないやぁ~(つまりノープラン)


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第二十節 僕にしか

誰でも自分にしかできないことって絶対あるんです!

はい!てなわけで本編いきましょう!


「こんな綺麗だっけ……」

『久しぶりだよね、こういう感じで見るの』

 

二人で砂浜に腰を掛けながら、夕日に視線を向ける。小さい頃にこうやって一緒に何度も夕日を見たことがある。

 

間をおいて、友奈はこちらを向いて問いかけてきた。

 

『洸輔くんは、今どこかで戦ってるんだよね?』

「……うん」

『いっぱい苦しんだ?』

「かなり、ね」

 

この世界にきたばかりの頃を思い出し苦笑しつつ答える。少し暗めの彼女の声が一転して、すこし明るくなった。

 

『でも、見つけたんだよね?大事なもの』

「うん、皆のお陰で見つけることが出来た」

 

散々苦しんだ果てに、僕が見つけた歩むべき道。

 

「友奈や美森、風先輩、樹ちゃん、夏凜、園子。そして、あの世界で出会った若葉やひなた、郡さん、球子、杏、高嶋……皆が、僕を導いてくれたから見つけることが出来たんだ」

 

胸に手を当てる。右手には友奈からもらった押し花を握っていた。きっと……これが僕や皆を繋いでくれたのだ。

 

『言ったでしょ?何があってもそれが洸輔くんを守ってくれますようにって願いを込めたよって』

「そうだったね。何回も守ってもらったよ……何回も、ね」

 

多分、今ここで友奈と話せているのもこれのお陰なのだろうと一人で納得する。

 

『にしても直んないよね~、一人で抱え込んじゃう癖』

「似たもの同士でしょ?それに、僕は友奈みたいに単純じゃないからね」

『むぅ、これでも沢山悩みごとはあるんだけど』

「ほんと?例えば?」

 

久しぶりに話したからかな?言葉がとまらない。

 

『洸輔くんみたいになれないかな〜とか』

「そっか。ま、確かに僕になったら良いことがあるかも。友奈には絶対できないことがあるからね」

『え?なになに?』

「ずっと友奈の横にいられる。それと、友奈とは違う角度から…皆を感じていられる」

『じゃあ、私は私のままでいいかな。洸輔くんには絶対出来ないことがあるから』

 

二人で顔を見合わせながら笑う。そして、今の僕にしか出来ないことがもう一つあった。

 

「この手で西暦にいる皆を助けることも……今の僕にしか、できないことだ」

『それが分かっているなら、大丈夫だね』

 

ゆっくりと彼女は立ち上がると、こちらに満面の笑みを浮かべる。その笑みにはいつもよりも強い光が見えた。

 

『おっと……そろそろ時間かな?』

「もう、か。……早いね」

『そんな顔しない!まだ洸輔くんにはやらなきゃいけないことがあるんでしょ?』

「ああ、分かってるよ」

 

友奈は僕の方を向いて、手を優しく握ってくる。

 

『待ってるからね、洸輔くん』

「ありがとう、待っててね…友奈」

『それと!苦しくなったら…皆に相談するんだよ?』

「はは…わかってるよ。僕は一人じゃないからね」

 

そう言うと…友奈は最後に満足そうな優しい笑みを浮かべて…光と共に姿を消した…。

 

「…………さて!」

 

勢いよく砂浜から立ち上がる。押し花を握りしめて…夕日を見つめた。

 

「まずは…皆に謝らないとかな…」

 

…手には…まだ彼女の温もりが確かに残っていた…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「こういう任務って珍しいね。今までは四国に入ってきた敵を倒せってだけだったのに…」

「そうだな。大社の方針が変わったのか…」

 

高嶋さんが退院して…すぐ大社から私達に任務が与えられた。内容は壁の外にいる進化体の討伐…。

 

(なぜ…急に…)

 

突然の方針変更に疑問を持ちながらも…乃木さん…高嶋さんと共に…壁の外へ出た。

 

「これは!?」

「…なに…これ…?」

 

私達が見上げる先には…この前襲撃してきた蠍の形をした進化体と同等…いやそれ以上の大きさに有した進化体の姿だった。

 

「こんな大きな敵…向こうからは見えなかったよ!?」

「結界の効果で…隠されていたのだろう…」

「また…隠すのね…」

「ああ…だが…」

 

乃木さんは義経を…私は七人御先を体に纏わせる。

 

「今は…全力で敵を倒すのが…優先…!」

「その通りだ!!」

「私もっ!」

「友奈が切り札を使うのは危険だ」

「ここは…私達に任せて…高嶋さん」

 

高嶋さんはまだ退院したばかりで万全とは言いがたい…しかもそこに酒呑童子の力を付与させてしまえば…また彼女に無理をさせてしまう。

 

「左側……」

「なら…私は右だ」

 

二人で左右から進化体を攻撃する…しかし…精霊を憑依した勇者の波状攻撃をもってしても……

 

(う…そ…全然…効いてないじゃない…)

 

もう数十回は切り裂いたが…やつの体には擦り傷すらも付いていなかった。すると…横から高嶋さんの叫び声が聞こえる。

 

「ぐんちゃん!!避けてぇ!!!」

「えっ…………」

 

寸前の所で一人を突き飛ばす。それでも…残りの六体は進化体の放った火の玉に飲み込まれ…消滅した。

 

「っ!?七人御先が…一度に六人やられるなんて…」

 

そして…見えてきたのは絶望の光景…。化け物の放った火の玉によって…本州は形を変えていた。

 

「ほ…本州が…あ、あんなのどうやって……」

「っ!うおおおおおおおお!!!!」

 

咆哮が聞こえた先を見る。そこには酒呑童子を身に纏った…高嶋さんの姿があった。

 

「ぅうああ……!!」

「た、高嶋さん!!ダメ!!」

「絶対に守る!!!今…眠っている皆の分まで!!私が!!勇者ぁ!!パーン…………」

 

振るわれた拳は…敵に届かず…高嶋さんの体は海へと…落下していった。

 

 

 

 

「友奈ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「高嶋さん!!!!」

 

 

私と乃木さんの高嶋さんの呼び声が…瀬戸内海中に響き渡った。

 

結果として…私達の任務は失敗に終わり…海から救出された高嶋さんは再入院することとなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜…

 

「勇者だから…」

 

キーボードを叩く音だけが部屋に響く。

 

「皆…私を…認めてくれて…」

 

暗い…暗い…部屋には…私…一人…。

 

「褒めてくれて…」

 

突然手が止まる…私の目線の先には…

 

『勇者三人が意識不明らしいじゃん?』

『まじ無能』

『勇者負けたって使えねぇわ』

『結局この程度』

『持ち上げられ過ぎたんだよ』

『全く守れてねえじゃん…使えねぇ』

『勇者が化け物倒せなかったせいで、竜巻が起こったらしい』

『マジかよ…役立たねぇな』

 

ネット上に溢れた言葉に手が震えはじめる。

 

「なに…よ…それ…?」

 

皆…命を危険に晒してでも…四国の人々を守ってきたのに…

 

「…ふざけないでよ…!!!!!」

 

私の心は…憎悪に飲み込まれていった…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふぁぁ…って暗!?」

 

急いで口を塞ぐ。どうやら夜に目が覚めてしまったみたいだ。

 

「…なんか久しぶりにゆっくり寝た気が…」

 

体が重くない…ゆっくり休めた証拠だろう。この世界に来てこんなにゆっくり寝たのは初めてな気がする…。

 

「二人も…無事だったんだ…」

 

横では…杏と球子がすやすやと寝息を立てながら…静かに横になっていた。

 

(よかったぁ……)

 

「それにしても…起きるタイミングが悪かったかな…」

 

周りを見ても真っ暗…でも…前みたいに僕を飲み込むような暗闇は消えていた。

 

(僕はここにいる…ならまだ手を伸ばせる…。今度こそ…向き合うんだ…)

 

「そう…僕にしか…できないことを」

 

月明かりは…僕を優しく照らしていた。




最初の部分は考えずに感じてください…。それが最善策だ……。

ああ…千景ちゃぁん……(書いててきつかった…こっからもっときついのあるのに……)

わかってる…わかってんだよ…すごくイチャイチャ書きたい…でもね…雰囲気が………(;o;)


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第二十一節 あなたの敵

ついにきましたね…ここからはさらに気合い入れます…。

それではどうぞ!!


「…すまない…ひなた…待たせた…」

「いえ、私が勝手に待っているだけですから…」

 

検査を終えて部屋から出ると…待合室にひなたがいた。彼女が雑誌置き場に戻した新聞の内容が目に入る。

 

「っ…被害者…また出てしまったな…」

「若葉ちゃんが責任を感じることはありませんよ…むしろ千景さんと若葉ちゃん…二人のお陰で被害は最小限に押さえられているんですから…」

「それと…医者から…切り札の使いすぎだと言われた…」

 

ここ最近のバーテックスの襲撃は凄まじく…三人に続き…友奈も倒れたことを好機とでもいうかのように…バーテックスは数で私達に襲い掛かってきていた。

 

(長引かせるわけには…いかない…だから…切り札の力は必須なんだ…)

 

また…度重なる樹海の腐食によって事故や災害などが多発していた。それだけでなく…大社の情報隠蔽が少しずつ一般の人々へと流れだし…それに対し人々の間では…不安の声が溢れ返り…治安も悪化し始めていた。

 

考え込んでいると…私に続き千景が待合室へと戻ってきた。

 

「どうだった…?」

「切り札を…使うのは控えろと言われた…」

「千景も……か…」

 

千景が顔を俯かせ…苛立たしげにいう。

 

「あいつらは…わかってないのよ…!!だったら、切り札なんて使わないでやるわ……そしたら…どれだけ犠牲が出るか…身をもってしることになる!!所詮…安全な場所にいる人間には……」

「千景…もう言うな」

 

言葉を遮る…。理由は簡単でひなたが悲しそうな顔をしていたからだ。彼女にとって『安全な場所で』という言葉は立場的に聞いてて辛いのだろう。しかし、ひなたは千景の手を握って………

 

「いいんです…吐き出してください。それで少しでも千景さんの気が楽になるのなら…私がいくらでも受け止めます…」

 

それに対して…千景は手を払い冷たく言い放った。

 

「放っておいて…安全な場所にいる巫女には…関係のないことだわ…」

 

病院の出口に向かおうとする彼女の肩を掴む。

 

「おい!!苛立つからと言って人を傷つけていいわけではないぞ!!苦しい状態だからこそ…皆で結束し」

「あなたは…正論しか言わないわね…」

「何?」

「強くて無神経な人間のあなたには…弱い人間である私の気持ちなんてわかるはずがないわ!!」

「こんなに時に弱音を吐くな!」

「うるさいっ!!」

 

体を突き飛ばされる…不意のことで受け身をとることができず…植木鉢が壊れ…その破片で手が傷ついた。

 

「つ……っ!!」

 

すると…千景が逃げるように…病院から出ていく。

 

「待て、千景!お前は…」

 

追おうと立ち上がるとひなたに止められる。

 

「手の治療が先です!!」

「…………」

 

強く止められた私は…踏み止まらざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ………」

 

病院から寮へ駆け戻り…ドアを開けると私はベッドに突っ伏した。

 

「ううう…私は…悪くない…私は悪くない!!…病院でのことだって……乃木さんが…あんな言い方をするから…」

 

彼女が怪我をしたのは不幸な偶然から生まれた事故…そう自分に言い聞かせる…。

 

「そう…運が悪かっただけよ…」

『ええ…まったくね。あなたの言う通りよ…』

 

耳元で声が聞こえる…顔をあげると…ベッドの横に人が……自分がいた…。

 

『だって…不自然じゃなかったかしら?』

「え……………?」

『強いはずの乃木さんが…簡単に倒れて…あまつさえ謀ったかのように植木鉢があって…』

「何が…言いたいの…?」

 

その声に引き込まれていく。

 

『きっとわざとよ?わざと倒れて怪我をし…あなたを悪者に仕立てあげようとしたの…』

「なんの…ために…」

『正義の名の元に…あなたを攻撃するため、彼女は昔あなたを傷つけていた奴等と同じよ?つまり…乃木さんはあなたの敵なのよ…』

「あ…ああ……」

『あと…天草洸輔もよ…。あいつも優しい言葉を掛けておいて最後はあなたを裏切る気よ…実際…あんな力を持っていながら…私と高嶋さんが倒れるまでそれを使わなかったんだから…』

「…そ…れは…!」

 

言葉は遮られ…また耳元で『私』が囁く…。

 

『あいつも…あなたの敵なのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢………?」

 

近くにあったスマホが揺れる…。

 

「………………大社から?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

昨日の件で包帯が巻かれた手を見る。千景との言い合いを思いだし…罪悪感に苛まれた。

 

(あの時の私は…千景の言動に対して…明らかに冷静さを欠いていた…。感情の自制が効かなくなっている気がする)

 

「若葉ちゃん…」

「ん…ひなたか…」

「その…今朝大社から連絡があってですね…。切り札の影響について検査の結果から新事実が分かったそうです…」

 

顔を見るだけで明らかに良い内容の話でないことは分かった。

 

「精霊を宿すと…肉体だけでなく、精神的にもダメージを受けるそうです…その結果攻撃性の増加や自制心の低下などが起こり…最終的には…言動にもそれが現れると…」

「では…千景や私は…」

「はい…だから杏さんは切り札の乱用を注視していたんでしょうね…」

 

その時…私のスマホが着信した。画面を見ると公衆電話からの着信だった。

 

『もしもし!若葉ちゃん!?ぐんちゃんはそこにいる!?』

「友奈!?」

 

電話に出ると…未だ寝込んでいるはずの友奈の声が聞こえた。

 

『精霊のこと聞いて、若葉ちゃんとぐんちゃんが心配で、でも抜け出せないから…それでぐんちゃんが電話に出なくて!!』

「お、落ち着け、友奈!」

 

その声はひどく焦っていた…、状況が飲み込めないため彼女を宥める。

 

「精霊のことは私も聞いた…安心してくれ、私は大丈夫だ。友奈自身はどうなんだ?」

『う、うん…体はもう大丈夫だよ…面会謝絶が長引いているのは…精神面での問題があるからだって…』

「っ……」

 

(いつも前向きな友奈でさえも…それほどの影響をうけているのか……)

 

『ぐんちゃんの所に行きたいけど…私…スマホも取り上げられて…監視もついちゃってるから…』

「わかった…千景のことは私に任せてくれ…」

『若葉ちゃん…うん…。もし何かあったら…ぐんちゃんを助けてあげて…お願い…』

「ああ…だから友奈は」

『え…嘘…』

「………友奈!?どうしたんだ!?」

 

突然友奈の声が聞こえなくなる…不審に思い呼び掛けると…予想だにしない人物から反応が返ってきた。

 

『話は聞かせてもらったよ…郡さんの所には僕が行く!』

「なっ!?天草!?」

「え……洸輔くん…?」

 

私だけでなく…ひなたも目を丸くして驚いていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「…アホや…」

 

顔を片手で覆う。正直自分のアホさ加減に呆れてきた。

 

「早く起きて皆と話をしようと思ってたのに…あの時に眠らず起きているべきだった…」

 

(皆いるかなぁ……ん?)

 

すると…先の方にある曲がり角から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「友…?」

『もしもし!若葉ちゃん!?ぐんちゃんはそこにいる!?』

 

咄嗟に身を隠す。壁に背中を預けながら…友奈の言葉を聞いていく。

 

(郡さんに…何かあった…?)

 

どうやら電話に出ているのは若葉のようだった。聞いていくと連絡しても応答しない郡さんを心配し…彼女は若葉に電話を掛けたらしい…。

 

思い返してみれば…遠征の辺りからの彼女は『僕』と対峙していたころの僕に似ている気がした…。

 

(とりあえず!)

 

「ちょっといい?友奈?」

「え…嘘…」

「話は聞かせてもらったよ…郡さんの所には僕が行く!」

 

友奈が握っていた受話器を手に取り…そう宣言する。横では幽霊をみたかのような顔をしている友奈がいる。そして…

 

『なっ!?天草!?』

『え……洸輔くん…?』

「ひなたもいたんだ。なら話が早い。郡さんは今どこにいるか教えて!」

『だ、だが…お前…体は…』

「それよりも!」

『…今…千景は高知にある実家へ帰っている…』

「高知…ね…わかった!!」

『お、おい!まて!洸』

「よし!…場所はわかった!あとは…」

 

電話を切って走りだそうとすると…友奈に抱きつかれる。

 

「目を覚ましたんだね…よかったぁ…洸輔くん…」

「おっとと…心配かけたね…友奈。それと…今まで色々ごめん…」

「ううん…いいの…無事でよかったぁ…。アンちゃんとタマちゃんは…?」

「大丈夫…ぐっすり眠ってるから」

「そうなんだ…」

「それじゃ…行かなくちゃ」

「で…でも洸輔くんも体が…それにスマホだって…」

 

そう言われた僕はポケットからスマホを取り出す。

 

「安心して…僕が郡さんを助けにいくから…友奈は無理をしないこと」

「こ、洸輔くんの方がよっぽど無理してるよ」

「僕はこの通り!もう大丈夫さ!おっと…ばれちゃったみたいだね…」

 

実は病室で自分の体につけられていたなんか計測器的なのを全部引き剥がしてたのだ…まあ…つまり…脱走してきたってこと。

 

僕らを見つけた看護師さん達がこちらに向かって走りよってきている。

 

「それじゃ…行ってくるよ!友奈!!」

「うん…お願い…洸輔くん」

 

彼女の祈るような声を聞きながら…勇者服を身につけ、病院の窓から飛び降りる。

 

(あとで…若葉とひなたに叱られるの覚悟しないとな…)

 

多分あの二人のことだ…「そんな体で無理をするなんて!」って怒ってくるに違いない…。

 

「それも悪くないかも…」

 

そんなことを呟きながら…跳躍する。

 

(高知…は…あっちだね!)

 

郡さん…僕は覚えている…あの人が一度僕の笑顔を取り戻させてくれたことを…なら今度は…

 

「今度は…僕が君の笑顔を取り戻す!!!」

 

風に乗り…さらに加速した。




自動車学校でちょっと忙しいけど!頑張って書いていきます!

感想!お待ちしてます!!


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第二十二節 取り戻す

もう番外編は書けてます。でもあと少し待っててください( ;∀;)
ここらへんを越えたら出しますので……。

それでは、本編へいきましょう!


「っ…天草のやつ…」

 

携帯を強く握る…。元気な声を聞けて嬉しい気持ちと…まだ万全でもないはずの体で千景の元へ向かったことに腹が立つという気持ちで胸がいっぱいになる。

 

すると…横にいたひなたがゆっくりと口を開いた。

 

「洸輔くんは勝手ですよね。あれだけ人を心配させておいて……いざ起き上がったら……まるで悩んでたのが、眠ってたのが、嘘のように。驚くほど元気な声で……」

「ひなた……」

「ホントに……ホントによかったぁ」

 

ひなたの目に涙が滲んでいる。そんな彼女の肩に手を置いて、優しく言葉を掛けた。

 

「任せてくれ、ひなた。天草と千景は私が連れ戻してくる。なぜなら……リーダーだからな」

「はい、お願いします!」

 

寮のドアを開けて、勇者服を身に付ける。

 

(ひなたを泣かせた……その、代償はでかいぞ、天草!)

 

「今、いくからな!二人とも!!」

 

高知を目指し、跳躍した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「げっ!?」

 

スマホの画面に写し出された名前を見て、震えております。手を震わせながらも、電話に出た。

 

「えっと、もしもし?」

『もしもし、洸輔くんですか?』

「あ、はい。私、天草洸輔というものですが……」

『ホントに……』

「へ?」

『ホントに、心配したんですからね!!?』

 

携帯から怒号が聞こえる。なんということだ……かなり怒ってらっしゃる。

 

「ご、ごめんなさい!心配かけて」

『はぁ……体は大丈夫なんですか?』

「うん。体は、全然大丈夫……でも、ちょっと困ったことが」

『千景さんの実家、わからないんですよね?』

 

(何故、わかった!?)

 

「ぐふっ、ご名答です……」

『住所をメールで送信しておきます。それを頼りに向かってください』

「あ、あれ?止めないの?」

『止めません。でも、一つだけ条件があります』

 

ひなたは優しい声色に変え、諭すように呟く。

 

『千景さんも、あなたも、無事に帰ってくる。それだけは約束してください』

「ひなた……ありがとう。絶対、無傷で帰るから」

『あ、あと若葉ちゃんもそちらに向かってますので』

「あーっと、もしかして……若葉も怒ってる感じ?」

『はい♪ばっちり怒ってます♪』

「ひゃ~無傷で帰れないかも……」

『ふふ、もう、吹っ切れたみたいですね』

「皆のお陰……かな。それじゃ、また後で」

 

耳から携帯を離して通話を切る。思えば、ひなたは最初の頃から僕のことを気にかけてくれていた。丸亀城を離れるときも、わざわざ僕に声を掛けに来てくれたし。帰ってきたら、お礼しなくては。

 

「さてと、急がなきゃね」

 

ひなたから送られてきた住所をへと目を向け、その場所へと一直線に向かう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『健全な心身育成のために両親を丸亀市に移住させ一緒に暮らしてはどうか』

 

(大社からの提案はつまり……)

 

「私に、拠り所を与えるため、か」

『何を勘違いしているの?大社は、あなたという道具を失いたくないだけよ。誰も、あなたの味方ではないの』

 

また、聞こえてくる。自分と……似た声。

 

「るさい!うるさい……!言ってくれたのよ!村の人たちも、両親も、言ってくれたの!!」

 

玄関を開け、靴を脱ぎ、家へと入っていく。

 

「勇者である私が誇らしいって!!価値を認めて!愛してくれるって!!」

 

部屋の扉を開けると、やつれた父が私の方に顔を向ける。その顔には、感情なんてものはありはしない。

 

「なぁ、千景。今さら……家族三人で暮らす?冗談だろう?」

「でも、それは大社が決めたことで……」

「ああ、ああ!!知ってるよ!!大社から聞いたさ!!でも母さんは入院させとくのが一番だろ!!確かに、引っ越すのには大賛成さ!!こんな村……すぐにでも出ていってやる!!」

 

何かが切れたかのように、怒鳴り散らす父。状況が飲み込めず、質問する。

 

「なにが、あったのよ……?」

「これを、これを!見てみろよ!!」

 

投げつけられた紙には、罵詈雑言が書きなぐられていた。

 

『クズの娘はやっぱりクズ』

『さっさと出てけ』

『死ね』

『とっとと倒せよ、使えねえ』

『この役立たず』

 

その言葉の数々に、思考が止まる。

 

「は……?何、よ?これ?」

「毎日毎日、家に投げ込まれていくんだ!!!全部お前のせいだぞ!!この役立たずのゴミクズめ!!!」

 

怒鳴り散らす父の言葉を受けながら、私は、あってはならないものを見つけてしまった。

 

『土居と伊与島は無能勇者!!』

『天草は存在価値なし、さっさと消えろ』

 

その言葉を見た瞬間、思い浮かんできたのは三人の笑顔。そして、言葉。

 

『あんまり怖い顔してんなよ~杏には負けるが……千景!お前も笑ってれば案外可愛いからな!』

『千景さんが貸してくれた本、とても新鮮で面白かったです!』

『大事なのは、いつも一緒にいることじゃなくて……いつもお互いのことを思っているかじゃない?』

 

(身を削るように戦って……苦しんで……)

 

土居さんは、私のすごく苦手な踏み込んで来るタイプだったが……彼女自身のことは決して嫌いではなかった。

 

伊与島さんは、所どころ話があって、話していてすごく楽しかった。お互いに本の貸し借りもするようになったりもして。

 

彼は、人の心にどんどん踏み込んできて……正直、私にも自分が彼のことをどう思っているかなんて、わからない。でも、遠征の時に聞いたあの言葉。あんな言葉を口に出せる彼は、こんな風に言われるような人間じゃない。

 

 

 

(その報いが、これだっていうの?ふざけないでよ……)

 

そうだ、ふざけてる。

 

(勇者がいて、守ってくれてるからこそ……暮らせているくせに!)

 

その通りだ。勇者という守ってくれる存在がなくては、ただ滅びるだけの癖に。

 

(許せない。無価値なのは、クズは、ゴミは……どっちよ!!)

 

衝動的に、袋に入った鎌を取りだしながら道を歩いていく。

 

(許せない許せない許せない許せないなぜ褒めてくれないのなぜ讃えてくれないのなぜ認めてくれないのなぜ価値を認めてくれないのなぜ愛してくれないの価値を認めてくれないなら愛してくれないのなら……………………………殺してやる)

 

今、やっと理解した。自分がずっと聞いていた声は……私自身の心の声だった。

 

「えっ、な、こ、郡さん?」

「鎌……?何、それ?え?え?」

 

目の前にいるのは、小学生時代に私をいじめていた子達、全員が、呆然としながら立ち尽くしている。やがて、一人の少女から罵声が上がった。

 

「ふ、ふざけないでよ!勇者だからって調子に乗ってるんじゃないの!?バカじゃないの!?これだからクズは!」

 

周りの少女達からも罵声が上がり始めた。私は、ゴミを見るような目でそいつらを睨み付ける。

 

「ひっ!」

「戦いなさい」

「え?」

「皆、身を削りながらも……戦っている。そんなことも知らないで……偉そうに!!だから、味わいなさいよ……私たちの苦しみを!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫び声をあげる少女へと、鎌を振り下ろしていく。自分の心が、どんどん壊れていくような気がした。そして振り下された鎌は、少女に致命傷を……与える寸前で止まった。

 

金属同士が打ち合うような音が響く。

 

 

 

「落ち着くんだ!郡さん!!」

「はっ?な、なんで……あなたが?」

 

 

目の前には、天草洸輔が立っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

少女に郡さんの鎌が振り下ろされる寸前の所で、なんとか割って入る。

 

「っ……邪魔しないで!」

「それは、できない!!」

 

(風先輩を止めた時もこんな感じだった……)

 

暴走してしまった風先輩と夏凜の間に割って入った時もこんな感じだった。。あの時の僕は、大切な仲間である風先輩が……これ以上、自分自身を、仲間を、傷つけるのを見たくないと立ちはだかった。

 

(郡さん、君も、僕にとって大切な仲間なんだ)

 

それに誓ったんだ、取り戻すって。

 

「どうして、どうして、邪魔するのよ!?」

「君のその怒りは、君自身のものじゃない!!精霊を酷使しすぎた代償だ!!」

「なんの、ことよ!?」

 

鎌の一撃が重い。今の郡さんの攻撃を一度でも防ぎ損ねれば、即死する。そう感覚的にわかった。そんな中、郡さんの言葉と攻撃はさらに激しさを増していく。

 

「許せないのよ!!命を懸けて戦ってきたのに!!何故!蔑まれないといけない!!こんな、こんなことになるのなら!!人を守る意味なんてないじゃない!!!」

「っ……」

 

言葉が突き刺さる。涙を流しながら、鎌を振るう彼女の姿に胸を締め付けられた。郡さんが苛立たしげに僕にむかって叫ぶ。

 

「なんでよ、なんで……反撃してこないの!?本気を出せば、私なんかよりも強いくせに!!」

「そんなことない……僕だって、強くなんかないよ」

「嘘をつかないで!!そんな綺麗事、聞きたくもない!!」

「嘘なもんか。僕も一度、何もかもを諦めそうになった。でも、皆がいたから……立ち上がることができたんだ!」

 

闇に、『僕』に、一度負けて、堕ちてしまいそうになったあの時、僕はもう一度立ち上がることはできた。あれは、僕だけの力なんかじゃ決してない。

 

正直、僕一人では何も出来ない。でも、皆がいるから、支えてくれる人たちが、守るべき人たちがいるから、僕は何度だって立ち上がれるんだ。

 

「どうしてよ……どうしてそこまで!?」

「君が!僕の笑顔を取り戻してくれたから!!」

「はっ……?」

「あの時、郡さんが取り戻してくれなかったら、僕は笑顔の作り方すらも、忘れていたかもしれない!でも、君が、君が取り戻させてくれたんだ!」

 

例え、体がどんなに傷を負おうとも、彼女の笑顔を取り戻してみせる。これ以上、彼女の涙を見たくないから。

 

「なら、今度は……僕が君の笑顔を取り戻す!!」

「無駄よ……今さらそんなものを取り戻したところで私には、居場所も、存在価値も、何もかも!ありはしないんだから!」

「そんなことない!!僕も、友奈も、皆も!君を待ってる!」

 

段々と収まりだした攻撃は、友奈の名前と、皆というワードが出た瞬間に完全に停止した。

 

「高嶋さん……皆……わ、私、私はぁぁぁ……」

「こ、郡さん!!」

 

鎌を手から離し、両手で頭を抱えながら、彼女は崩れ落ちた。同時に、騒ぎを聞き付けたのか。村人達が僕と郡さんの周りに集まっていた。

 

その目には、憎悪と怒りという、負の感情しか感じられない。恐怖が込み上げた、自分はこんな目をした人間を今まで見た事がなかったから。

 

 

「やめて、やめて、そんな目で……そんな目で見ないで……嫌わないで、お願い、お願いです……私を、私を……好きでいてください」

 

(郡さんは、こんなものをずっと……)

 

「郡さ……はっ?」

 

駆け寄ろうとした瞬間、郡さんの頭に向かって石がぶつけられた。その光景をみて唖然とする。

 

「ふざけんなよ!使えねぇ癖に、人様の娘に手出してんじゃねぇよ!!」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

聞こえてくるのは、怒号。そして彼女から溢れでる懺悔の言葉。

 

「そうだ!そうだ!無能の癖に!!」

「お前らが守れねぇからこっちに被害が出てんだろ!」

「さっさと失せろ!!」

「クズはどこまでいってもクズだな!!」

「やだ、やだ……ごめん、ごめんなさい……」

 

こんなにも、大きな悪意を初めて感じた。遅すぎる理解だった、郡さんはこんなものを、ずっと前から抱え込み続けていたんだろう。だから、あんなにも。

 

「だったらさ。尚更、守らなくちゃ……助けなくちゃ、駄目だよな」

 

今、ここで彼女を守れるのは僕しかいないのだから。

 

「ぁ…あま、くさ…」

「大丈夫、僕が付いてる。郡さんを傷つけさせはしないし好き勝手にも言わせない。だから、帰ろう」

「っ!……うぅ」

「天草、これは一体……」

 

背後からの声に振り向くと、そこには若葉がいた。若葉は群衆を見ながら呆然と呟いている。

 

「千景……」

「若葉、郡さんをお願い」

「……お前は、どうする?」

「僕もすぐに追いつくから大丈夫だよ。……お願い」

「……わかった。帰ったら、説教が待ってるからな。忘れるなよ?」

「はは、お手柔らかに頼むよ」

 

若葉が郡さんを抱えてこの場から離脱する。若葉にも郡さんにも、これ以上の罵声を浴びせられてほしくないから。

 

(……一度、悪意に身を沈めた僕が、言えることじゃないのかもな。それにこの人たちにもこの人達なりの何かがあるのかも知れない。……でも、それでも)

 

もう我慢の限界だ。拳を血が出るのではないかと思うくらい強く握る。僕自身、あまり頻繁に怒るタイプじゃない。だけど、さすがに許せなかった。

 

いつまでも、意味のない罵詈雑言を飛ばし続けている村人達を黙らせるため、長剣を勢いよく地面に突き刺す。同時に自分の中に溜め込まれた怒りと共に込め、叫ぶ。

 

「うるっせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

突然の怒号に村人達は叫ぶのをやめ、唖然とした顔でこちらに視線を向けてくる。瞬間、僕の中の怒りが爆発する。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ……てめぇら、いい加減にしろよ!!!」

 

剣の持ち手に力が籠る。

 

「あの子は……郡さんは!あなた達から、言われた罵詈雑言をまともに受け入れて、ああやって自分を追い詰めてしまうほどに!真面目でいい子なんですよ!!」

 

「他の子達だってそうだ!!何を言われようとも!どんなことがあっても!!自分は勇者だからって恐怖払いのけて皆を守るために戦ってる!!」

 

僕はこの目で見てきた。

 

悩みながらも皆のために前に進んだ少女。

 

戦う力がなくても寄り添うことで支えようとする少女。

 

いつも明るく皆を引っ張ってくれた少女。

 

恐怖に負けそうになりながらも立ち上がった少女。

 

仲間を、友達を見捨てられないと拳を握った少女。

 

そして、人の悪意に苛まれながらも、戦った少女のこと。

 

 

天からの使い、バーテックスによって世界が蹂躙され支配されそうになっていたとしても、苦しい事しかない絶望的な世界でも、諦めずに前に進み続ける少女達の姿を。よく、知っている。

 

 

 

「僕だって、皆の内面を全部理解しているかって言われたらそんなことないかもしれない!!でもね、あんたたちよりはよっぽど彼女達のことを知ってるんだよ!!」

 

(この人たちに向かって、一番言いたいこと…)

 

「あの子達の内面を、気持ちを、想いを、理解しようともしてない癖して……断片的な情報聞いて全部知った気になって!!皆のことを好き勝手言ってんじゃねぇよ!!!!!!」

 

村には、僕の叫び声が響き渡っていた。




長くなりました、ごめんなさい……。

まだこんな感じの雰囲気が続きますが、よろしくお願いいたします。

感想お待ちしてます。

それでは、また!!



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第二十三節 その背中に

駆け足で書きすぎたかもしれないな。てか、もうのわゆ編も後半に差し掛かってるなぁ、早いわぁ(切実)




病院のとある一室、僕はベッドに身を預けながら…背中に修羅を纏ったひなた様に睨み付けられていた。

 

「では、弁明を聞きましょうか?」

「えっ……き、聞いてくれるということは許してくれると!?」

 

淡い希望にすがるかのように彼女を見つめる。そうは問屋が卸さないとひなた様は目をカッと見開き、僕の耳を強く引っ張った(超痛い)

 

「許しません!聞くだけです!!」

「痛い痛い!ご、ごめんなしゃい〜!!」

「はぁ、洸輔くん……自分を犠牲にするやり方は感心しませんよ?」

「べ、別にそんなつもりは」

 

村での一件の後、世間では僕に対する悪い噂が流れている。恐らく、僕が村人に対して怒鳴ったのが原因なのだろう。

 

「嫌だったんだよ、皆のことをあんな風に言われたのがさ。だから、後悔はしてない」

 

ただ、悔しかった。皆が、郡さんが、あんな風な言われているのが。本当は僕もあそこからすぐに離脱しようとは思っていたけど、我慢できなかったのだ。

 

ため息をつきながらも、ひなたは優しげな表情を作る。

 

「わかりました、そこに関しては目を瞑りましょう。私たちは、真実を知っていますから。……で す が!まだ、十分に治りきってない体で病院から抜け出した!そこは許しませんからね!」

 

あまりの剣幕に体が震えた。怪我は完治したものの、医者の方からは安静にしてろと言われていた……にも関わらず、抜け出したことがひなた様の逆鱗に触れたみたいであった。しかし、余分だとわかっていても言いたくなってしまう。

 

「で、でもさ?ひなた、行っていいって……」

「約束は?(阿修羅)」

「そうでしたぁ!ほんとすんません!!!」

 

深く深く頭を下げる。いろいろなことでひなた様を心配させてばかりなので素直に謝った。そんな中で扉が開かれ若葉がやって来た。その顔はひどく疲れている。

 

「はぁ……」

「こんにちは、若葉ちゃん」

「辛そうだけど、大丈夫?」

「あ、ああ、二人とも。すまない……少し疲れていてな」

「しょうがないですよ、この前はずっと叫び通しだったんですから」

「……」

 

若葉は大社から提案された人々への信頼回復と士気をあげるため演説を行ったらしい。昨日からその演説はテレビで流され、意気消沈とした人々の心の光になっていた。それ事態は、良い事なのだが。

 

「私の中では、人々を騙してるという感覚がどうしても拭えない」

「情報統制……ってやつだね。必要なことだとしても、気持ちのいいものじゃない」

「ああ。それに千景のことも心配だ」

「きっと、きっと、大丈夫ですよ」

「郡さん……」

 

郡さんは、今勇者システムを剥奪され謹慎中の身にある。それについても、僕は大社に対して疑問を持った。最悪の場合だが……大社には、僕の考えにある『強行手段』をとらなければいけないかもしれない。

 

(また、怒られるかもしれないけど。郡さんにもう一度、会わなきゃ)

 

暗い雰囲気が部屋を包みこみだすと、突然横から元気な声が響いた。

 

「ふわぁー!よく寝た!!んっ?皆暗い顔してどうしたんだ?」

「んん……もう、朝?」

『?????』

 

急なことで三人で固まる。一瞬時が止まり、やがて……。

 

『ええええええええええ!!!???』

 

三人同時に叫んだ。

 

「うわぁ!?な、なんだよ、急に!?」

「?……むにゃ、もう少し」

「よかったです!二人とも!」

「目を覚ましたんだな!!」

「あはは……ホント、よかったなぁ」

 

その日、長い眠りから球子と杏が目を覚ましたのだった。べ、別に泣いてなんてないんだからね!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

暗い暗い部屋……下から聞こえてくるのは『天恐』が悪化した母の悲鳴とそれを止めようとする父の叫び声。

 

そして、部屋の中で響いているのは乃木さんの演説とそれに対する人々の称賛の声と拍手。

 

(惨め、ほんとに……惨め)

 

私たちの家族は村を出て引っ越した。しかし、何も変わっていない。変わったのは、家と家具だけ。

 

何もかもが奪われた。外に出ようとしても、謹慎中の為、出られない。勇者システムも剥奪された事で、正真正銘私には何も無くなってしまった。

 

(もう戻れない、高嶋さんの…彼の…皆の所にも……)

 

私のような人間は、こういう場所に閉じ籠っているのがお似合い。うすら笑いを浮かべながら、そうやってどんどん塞ぎこんでいく。

 

「……あれ?」

 

ふと、下からの音が突然途切れたことに気がつく。少し間が空き、部屋のドアがノックされると、扉が開かれる。

 

「失礼します……郡さん?今、大丈夫?」

「っ!?なんで……なんで、あなたが!?」

「実は、折り入って郡さんに頼みが……」

「な、何よ……」

 

そこに現れたのは天草洸輔……私がこの前、武器を向けてしまった人。

 

『今度は!僕が君の笑顔を取り戻す!!』

 

彼はあの時そう言ってくれた。多分この人は、それが叶えられるまで私のことを気にかけ続けてくれるんだろう。

 

(でも、今の私には……)

 

怖い、今の私にはそれが堪らなく怖かった。だって人には必ず裏があるから、それが彼にないとも限らない。だから、怖い。

 

「一緒にゲームをやってほしいんだ」

「は?」

「いや〜……一人だとクリア出来ない所があってさ。もし嫌なら攻略法だけでも……」

 

予想外の言葉に変な声を出す。彼は最初に話したときのように笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。

 

「……攻略法は教える。でも、それが終わったら……さっさと出ていって」

「わかった!えっとね、ここなんだけど……」

 

そこから彼にクリア法を教え、すぐに切り上げる。正直、彼の行動すべてが鬱陶しく感じた。内心は頭がおかしいんじゃないんだろうかとも思った。

 

「これで……いいでしょ?」

「うん!ありがとう!じゃあ、またね!」

「また……って」

 

立ち上がり、ドアへと近づいていった彼はドアノブに手を掛け背中をこちらに向けながらあることを呟いた。

 

「今度は一緒にゲームをやろうね!」

 

そう言った彼の横顔は笑顔だった。

 

「なんなのよっ……なんで、なんで……そうやって、私の心をざわつかせることばかり」

 

彼が出ていった後の部屋で、私の中でさっきまでとは違うよくわからない気持ちが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「また、脱走ですか?」

「常習犯みたいに言わないでよ……杏」

「ひなたさんから聞きましたよ。無理はしちゃだめです!」

 

杏にジト目を向けられる。それもしょうがないことで、郡さんの家に行くためにまた病院を抜け出したんだから。

 

「でも、郡さんに約束したんだ。今度は僕が笑顔を取り戻すって」

「気持ちはわかりますけど……ひなたさんの気遣いも無下にしないであげてください。本気で心配してるんですから」

「っ〜……それを言われると弱るなぁ」

「まぁ……でも」

 

杏が正面から僕のお腹辺りに手を回し、抱き締めてくる。突然のことに戸惑いが隠せない。

 

「あ、杏…なにやって」

「そんな……あなたの背中と言葉に私は救われたんですけどね」

「え……」

「罪悪感は拭えないですけど、少しの間協力します。きっと千景さんもあなたのことを待ってるはずですから」

「ありがと、今の自分に出来ることを全力でやるよ。皆が僕にしてくれたようにね」

 

彼女の頭を優しく撫でる。この子にも僕は酷いことを言ってしまった。

 

(だから、今度こそ心の底から寄り添おう)

 

そう心の中で呟くと、同時に病室のドアが開かれた。

 

「おーい!杏ぅ~!タマは終わったから次は杏の番だ………………え?」

『あ』

 

なんだろうか、なんか……なんかこれすごいデジャブを感じる。てゆーか、もう何となくだけども次の展開が読めてきた。

 

「お前ら………なに病室でイチャコラしてんだぁ!球子クラッシューー!!!!」

「ぐほぉ!!!なぜ僕だけ!?」

「当たり前だ!だいたい!こういう時は全部洸輔が悪い!!」

「そんな理不尽な!?」

「た、タマッち先輩、落ち着いて…」

「杏も杏だ!このやろー!!」

 

杏も僕もタマッちパイセンからの洗礼を貰ってしまったが……こんな風に彼女たちと関わっていれるのが僕はすごく嬉しかった。

 

(僕が戻れたように。まだ君にも帰るべき場所はあるんだよ、郡さん)




まじ読んでくれてる皆様には感謝の言葉しか出てこないっす…。

それでは…またお会いしましょう!


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第二十四話 他の誰でもない

もう少し……もう少し……頑張るんだ…おら…(涙目)





「はぁ~リハビリ生活は退屈だなぁ~」

「こればっかりはしょうがないよね〜」

「ほぉ~病院を脱走しているやつの台詞とは思えんなぁ?」

「うぐっ……仰る通り」

 

 随分と耳に痛い話だ。あれだけの大怪我をした且つ、ひなたや若葉からも注意をされたのに未だに繰り返している……咎められても仕方ない事だ。

 

「ま、いいけどな。止めたとこで無駄だろうし。でも無理はだめだぞ?」

「ありがとう、球子も無理はしないでね?」

「何を言うか!体ならこの通……」

「体のことじゃなくてね。精神面でのことだよ」

「ナンノコトカチョットワカンナイナァ~」

「分かりやす!?…ほら…球子は精霊をかなりの回数使ってたでしょ?だからさ」

「ちょっ……」

 

 球子の頭に優しく手を置いて撫ではじめる。照れているのか顔をちょっと赤くさせている彼女は可愛らしかった。

 

「一人で抱え込んじゃだめだよ?僕自身も人のこと言えないんだけどさ。少しでも頼ってくれたら嬉しい」

「ひっ、卑怯だぞ。そういう所がずるいって……」

「どうしたの?」

「な、なんでもない!てか、洸輔は行くとこあるんじゃないのか?」

「そうだね……あ、球子、出来ればこの事は」

「わーってるよ、杏から聞いたからな!黙っててやる」

 

 ホントにこの二人にもお世話になりっぱなしだな、と自重気味に笑う。

 

「ありがとう、球子!行ってくるね!」

「おう!行ってこい!」

 

 ドアを開いて病院の中を警戒しながら進んでいく。

 

 体も…もう問題はない。どちらにせよ、病院から目的地までそんなに遠くはないから大丈夫。

 

 若葉とひなたはそっとしておいた方がいいと言ってた。でも、僕は散々遠ざけてきてしまった。だからこそ、多少強引にでも向き合いたいのだ。

 

「自分勝手だよなぁ……」

 

 これまた自重気味に呟く。向かうべき場所はたった一つだ。

 

「失礼します。こんにちは、郡さん」

「また来たのね……」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 『わからない』それしか言えないくらいに理解できなかった。

 

 彼には今すべてがある。逆に今の私には、すべてがない。なぜそんな人間に構うのか。

 

「これ、一緒にやろう?」

「嫌、出ていって」

「で、でも…」

「嫌って言ってるのっ!」

 

 何故そんな笑顔を向けられるの?鬱陶しい、うざい、邪魔……私の中にある何かが、彼に怒りの感情を抱いていた。

 

 最初の頃に感じた鬱陶しさを久しぶりに感じた。最初話した時もそうだった。どんなに無下に扱っても……こちらに接しようとしてくる。

 

 彼は私に何度追い返されても、家にやって来た。酷い言葉を掛けたりもしたのに、それでも彼はやめなかった。

 

 

 徐々にその感情が、薄れていくのを感じた。どうして薄れたのか、それもわからない。だから、苛立つ。

 

 結果として、私は彼の粘り強さに負けた。

 

「さてっと……今日こそ勝つからね!」

「結果は分かりきってる。負けたらここに来るのも、もうやめて…」

「んー考えとく」

 

 嘘だ。何を言ったところで彼はここに来るのをやめない。自分でも、そんなことわかっているはずなのに。だって、彼はそういう人だから。いつまでも思考と心が虚ろで自分が何をしたいのかわからない。

 

「よっし!負けないよ!」

「っ……無駄だって、言ってるでしょ」

 

 前よりは動きはましになったかもしれない。だけど、正直な所、相手にならない。打ちのめされても、彼は笑顔だった。

 

「さすが、郡さん。だけど諦めない!もう一回!」

「何度やったって無駄よ、どうしてわからないの……?」

 

 彼の行動に苛立ちが募っていく。その後も対戦は続いたが、彼は一勝も出来ていなかった。

 

「もう一回!」

 

 何度だって立ち上がってくる。その姿に私の中で何かがキレた。

 

「いい加減にしてよ……」

「え?」

「何が、何がしたいのよ!?」

 

 コントローラーを床に叩きつける。物が離れた手を強く握り、彼に言葉を吐く。

 

「わからないっ!!私には……わからない!」

 

 今の私には、何も信じられない。高嶋さんに会う勇気もないし、彼女の所に行く資格もありはしない。

 

「……僕は今まで君達と向き合うことから逃げてたんだ。だから、今度こそしっかりと向き合いたい。そう、思ってる」

「だから……?」

「郡さんとは、ゲームを通じて向き合いたい。君が僕にそうしてくれたように」

「なに、よ。それ」

 

 彼は強い人間だからそういうことが言えるんだ。私のように弱い人間は……そんなことを言えない。

 

「私の気持ちなんて…分かってないくせに…!!心を見てもないくせに…過去を知らないくせに!!」

「そう、だね……確かに、僕が郡さんのすべてを理解することは出来ないかもしれない。君が今まで感じた痛みを癒すことも…過去を消すことも…僕にはできないよ」

 

 そうだ、だから…さっさと私の事なんてほっといてどこかへ。

 

「でもね、すべて理解できなくても、見ることが出来なくても、君と向き合って心を感じることで寄り添える」

 

 そんなのは幻想だ、心を感じるなんて無理に決まっている。けど、彼はまたしても笑顔で、手を差し出してくる。

 

 

「一緒に行こう?郡さん」

 

 

(幻想よ、そんな言葉)

 

「む……無理よ」

 

 反射的に彼の手を払う。耳元からまたあの声がする。

 

(あなたは、皆のように強くなれない。あなたは乃木さん、上里さん、土居さん、伊与島さん、高嶋さん……そして、彼のようには絶対になれない)

 

「私はあなたのように、皆のように強くないの。だから、皆の所には戻れない……戻る資格なんて、ない…」

 

(そうよ、あなたは誰にも)

 

 頭を抱え、崩れ落ちる。さっきまでの怒りは消えたが…今度は自分に対する嫌悪感に支配される。聞こえてくる声に自分をどんどん食い殺されていってる気がした。

 

「うぅ……私っ……私はぁ」

 

(あなたには、何も)

 

 

 

「ぇ……?」

 

 

 

 

 体を温かな何か包み込まれる。同時に、声が聞こえた。今までとは違う優しい声。

 

 

 

 

 

「それで、いいんだよ?郡さん」

 

 

 

 

 高嶋さんと似た……いいや、これは似ているけど違う。天草くんから感じる人の温度。変わらず優しい声で彼は続ける。

 

「だって君は他の誰でもない、郡千景なんだから……」

「っ……」

「それにさ、強いから仲間なんじゃない。君だからなんだ、郡さん」

 

 彼は、何かに視線を向けた。私もその方向へ目線を向ける。そこには………伊与島さんの命令で受け取った宝物。皆から私への思い詰まった卒業証書だった。

 

「君を傷つける人間もいる。でも、それ以上に……君を大切に思っている人達がいるんだ。それを忘れないで」

「ぁ……ぁ……」

 

 段々と瞼が重くなってきて、体が急激に重くなる。彼に何か言葉を掛けられていたが……私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

『僕や皆は、いつも君のことを思ってるよ。待ってるからね、千景』

 

 

 

 

 

 

 

(そんなモノは、紛い物よ。耳を傾ける必要はないわ)

 

 

(私、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。そこには彼はいない。ただ体には毛布がかけられていた。

 

「な、何が?」

 

 さっきまでのは一体なんだったのだろうか?辺りを見回してみても……いつもと変わらない部屋が視界に映るだけだった。

 

「どうして……これが」

 

 何故か手元には、スマホが握られていた。

 

 

(、夢だったの?)

 

いくつも疑問が頭の中を駆け巡る。そんな私を引き戻すかのように……スマホから、アラーム音が鳴りはじめる。

 

「……」

 

 部屋には……無機質なアラーム音だけが響いていた。




はぁホントに…書いてるとあっという間ですね。次も頑張ります!あと銀ちゃん誕生日おめでとう〜!


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第二十五節 私の居場所

ここまで来たぞぉーーー!!

どうぞ…暖かい目で見ただければ嬉しいです。


「千景!?」

「乃木…さん…?」

 

 樹海化した世界に降り立った。思考は虚ろなまま、自分が何を考えているかも分からないままでその場に立ち尽くす。

 

「もう、大丈夫なのか?」

「ええ…もう大丈夫」

 

 嘘吐き。大丈夫どころか、悪化している気さえもした。虚ろな思考の中で、彼の言葉が何度も頭の中でよぎる。

 

(まだ…迷ってる)

 

 そんな自分には、もう何もない。やっぱり私は……。

 

「すまない、いきなりで悪いんだが力を貸してくれるか!?」

 

 彼女を見ることが出来ない。だって眩しすぎる……彼や皆もきっとそうだ。

 

 そんな、弱い私だから。

 

「なん、でよ…?」

 

 勇者の力さえも。

 

「なんで!?」

 

 失ってしまうのだ。

 

「どうして、勇者になれないの……」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 『どうして、私だけ?』昔からいつもそう思って生きてきた。

 

 疎まれて嫌われて、何もかもを否定されてきた。

 

 そんなときに勇者の力に目覚めて、今まで得られなかった称賛も栄誉も愛を手にした。

 

『もっと頑張れば』

 

『もっと倒せば』

 

 皆がもっと私を愛してくれる。もっと、もっと、もっと。そう思って頑張ってきた。

 

 

 

 でも、現実というのは理不尽なもので。

 

 

 

 それもすぐにひっくり返って…また私に牙を向けた。前と一緒、疎まれて嫌われて人の悪意に苛まれた。

 

 すべてを消そうとした。だって私を愛してくれないから、讃えてくれないから、でも、しなかった。いや、出来なかった。

 

『だって君は他の誰でもない。「郡千景」なんだから』

 

 この言葉を受け入れたい。でも、私自身がそれを怖がっている。自分の中で、答えが見つかっていないから。それに今更間に合うはずもない。

 

 勇者にもなれない。多分私はこのまま何も出来ずに、奴等に食い殺されるんだろう。

 

(ふふ、自業自得…ね)

 

 誰とも関わろうとせず、勝手に塞ぎこんで、心を通わせることすらしなかった。

 

 私の為にと、手を伸ばし言葉を掛けてくれた人もいた。なのに……そこまでしてもらっても、まだ迷っている。

 

(どうして、なの?)

 

 なんで皆みたいになれなかったのだろう。答えは出ない、いや見つからない。

 

 虚な意識のまま、その場に膝をついた私目掛けて化け物は一斉に飛びかかってくる。これが、郡千景という哀れな人間の最

 

 

 

 

 

 

「私の、仲間に!!手を出すな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前のバーテックスは乃木さんの刀に断ち切られた。

 

「私の側を離れるな、千景」

「どうして、なんで……あなたも、私を守ろうとするの?」

 

 理解できない。何故、私なんかを助けてくれるの?こんな、こんな私を。

 

「決まっている……千景、お前は私の仲間だからだ!」

 

 光の灯った強い目。私の目を見つめ、彼女はそう言った。

 

「乃木…さん」

「どんなことがあろうと私達は仲間だ。だから…守る!」

 

 化け物に対し、怒気のこもった目を向けながら、勇者は跳躍した。私を、守る為に。

 

「私は」

 

(何故、あんな風に出来なかったんだろう)

 

 精霊の影響?

 

「違う」

 

 育ってきた環境の違い?

 

「違、う。だって…バーテックスに襲われたあの日、あの日から世界の人々は皆、不幸だもの」

 

 なら、私が彼女や皆のようになれなかったのは。きっと…

 

「心が、弱かっただけなんだ……」

 

 彼女の、彼の、皆の、強さは戦う強さだけじゃない。きっと心の強さなんだ。

 

 数の多さに、乃木さんが徐々に押され始める。背後から一体のバーテックスが迫る。あのままでは、彼女が危ない。

 

(叶うのなら、まだ間に合うのなら、私は皆になるんじゃない)

 

「他の誰でもない、私自身のままで……!」

 

(乃木さん、上里さん、土居さん、伊与島さん、高嶋さん、そして……天草くんのように!強く、強く!)

 

 自身に降り掛かるであろう最期に恐れながらも、震える手に力を込め彼女の体を押した。

 

「っ!ち、千景!」

 

 化け物の口が、私の体を捉えた。でも、自然と恐怖はない。これが、最期だとしても…私は。

 

 

 

 

「違う、君をこんな所で終わらせたりなんかしない」

 

 

 

 

 優しい声、けど言葉は厳しい。閉じていた目を開けると、目の前で化け物が半分に裂かれていた。

 

 私を守るように、化け物達の前へと彼は立つ。

 

「貴方も…なの?」

「まだ、果たせてない約束がある」

「天草……私とひなたが言ったことをホントに守らないな、お前は」

「はは、それに関してはホントにごめん。しっかり怒られるから許して?」

 

 軽口を叩き合いながらも、隙は一切見せず私を守るように二人はそこに在る。その姿は『勇者』そのものだった。

 

「説教をしたいのは山々だが。今は、千景を守ることが先決だ」

 

 乃木さんの言葉に彼は強く頷いた。そんな彼に、躊躇いながらも疑問を飛ばした。

 

「どうして、そこまで…するの?」

「言ったはずだよ。君は僕にとっても皆にとっても大切な仲間だから」

「大切、なの?こ、こんな、私が…?」

「郡さん」

 

 彼の温かな手が私の頭に乗っけられる。その手はすごくあったかい。

 

「この世にはね、大切じゃないものなんてないんだよ?」

「…ぇ」

「誰にだって大切なものはある。だから、大切な郡千景という人間を僕達は守る。……周りを、見てごらん?」

 

 言われた通り、周りを見る。そこには…

 

「遅れてすまん!千景、大丈夫か?」

「ここからは任せてください!私たちが守ります!」

「ぐんちゃんにはこれ以上手を出させない!」

 

 土居さんと伊与島さん、そして高嶋さんが私を守るように立っている。皆が…

 

「土居さん、伊与島さん……高嶋、さん?」

「お、お前達まで!?っ〜!全くもう…帰ったら全員説教だぞ?いいな?」

「えぇぇぇぇ!?」

「うう、わかってけどぉ…」

「あ、あはは…」

「まぁいい。今は奴等を片付ける!いくぞ、洸輔と友奈は千景を安全な場所へ!球子と杏は援護を頼む!」

『了解!』

 

 乃木さんたちは敵の方へと向かっていき、高嶋さんが私を抱えて、天草くんがそれを守るように先導してくれている。

 

「ごめん、ぐんちゃん。守るって言ったのに……」

「高嶋、さん」

「でも、もう離さないから!大丈夫!」

 

(どうして、気づかなかったんだろう?)

 

 全部失ったと勝手に思い込んで、何もないと塞ぎ込んだ自分。でも、見てみなさい、貴女の前に広がる世界を。

 

(何もなくしてなんかいなかったんだ……)

 

 勝手に諦めていた私を離さないでずっと思っていてくれた。みんなと過ごした時間が、私を繋ぎ止めてくれていたんだ。

 

(皆は、仲間は、私を愛してくれていた…)

 

「今更…気づくなんてね」

「ぐんちゃん?」

「よし!ここらへんは敵はいないから大丈夫だ……どうしたの?」

「高嶋さん、それと貴方も」

『?』

「ありがとう。私、皆のこと……好きよ」

 

 私の言葉を聞いた瞬間、二人は満面の笑みを浮かべた。相変わらずの眩しい笑顔だ。

 

「私もだよ!ぐんちゃん!ぎゅ〜!」

「もちろん、僕もね」

「天草くんは……好きではないけど嫌いじゃないって感じ」

「えっ、僕だけ?」

「大丈夫だよ!嫌われてはないからね!」

「それあんまりフォローになってないよ!?」

 

 二人の会話を聞いていると、意識が遠退き始めた。でも、自然と恐怖はない。むしろ安心する。

 

(もう、手放さない……この大切な場所を)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ここ……は?」

 

 目を覚ます。辺りを見回すと、そこは病院の一室だった。同時にドアが開かれる。

 

「はぁ~、怖すぎ。余裕で失神しかけたわ……って郡さん!?大丈夫!?」

「あ、貴方こそ大丈夫なの?」

「ああ、うん。体は完璧に大丈夫だよ。今、若葉とひなたの説教を受けてきてねぇ……ま、散々病院抜け出したからしょうがないんだけどさ」

「そう…なんだ」

 

 抜け出した……私の家に来てくれていた時のことだろう。

 

「…皆は?」

「球子と杏、それと友奈は脱走しちゃったから…リハビリに専念中。若葉とひなたは僕の説教が終わったら今回のことを大社に報告しにいくって」

「そう…なのね……」

「郡さん?きついならまだ寝てた方がいいんじゃ?」

「いや、別に、そんなことは……」

 

 なんだろうか…どう切り出していいかわからない。色々と言わなくちゃならないことはあるのに…。

 

「えっと、その……今まで、ごめんなさい」

「別にいいんだ。郡さんのためだからさ」

「それでもよ。ホントに、ありがとう……」

 

 これは…心の底から出た言葉だった。もう一つ…言わなきゃならないことがある。

 

「ホントに…私は…私のままでも…いいの?」

 

すると、彼は優しい笑顔をこちらに向けた。

 

「当たり前だよ。だって僕達は他の誰でもない…君を待ってたんだから」

「っ…」

「僕の方こそ、これからまた色々と迷惑掛けるかもしれないけど、改めてよろしくね。郡さん」

 

(ホントに……)

 

 その言葉を聞いて、彼のいつも通りさに呆れた。でも、それと同時に笑みも零れる。

 

「あなたって、ホントに変な人……」

「やっと、笑ってくれたね」

「え?」

「郡さんの笑顔、僕はすごく好きだよ」

「っ!?よ、余計なお世話よ……」

 

 突然の言葉に、顔が熱くなる。まだこの感情がなんなのか、私にはわからない。

 

「ほぉ~どこに行ったかと思ってきてみれば、千景をたぶらかしてたのか~」

「球子、いつの間に!?てか人聞きの悪いこと言わないでよ!?」

「ぐんちゃーん!!よかったぁー!」

「タマッち先輩~友奈さ~ん待ってくださいよ」

「うるさいぞ!病院では静かに……って千景!目を覚ましたんだな!」

「よかったです!千景さん!」

「…皆…」

 

 病室に集まってきた仲間達を見て、もう一度微笑む。

 

(ここが、私の居場所なんだ……)




次は花見だ…ちょっとほのぼのに軌道修正しないとね…。

ここからはぼちぼち番外編あげていきます!


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第二十六節 花見と語らい

なが~くなっちゃったな、ごめんなさい!




「食堂からいい匂いがすると思ってきてみれば、二人だったのか。おはよう」

「ん?若葉~おはよう!」

「おはようございます、若葉ちゃん」

 

早朝の鍛練を終えた私は食堂から香る匂いに誘われ足を向けると、目の前にはエプロンを身につけた天草とひなたがいた。

 

「天草もひなたもはやいな。花見の準備か?」

「当たり前だよ!てか楽しみで眠れなかったから」

「私は一人でも大丈夫だと言ったんです。でも、洸輔くんがどうしてもというので……まぁ、実際助かってるんですけどね」

「ほう?天草は料理も出来たのか、多才だな」

 

並べられた重箱(かなりでかい)の中身を見て、そう呟く。その腕前はかなりのものだった。

 

「それほどでも。あ、あと洸輔でいいよ?僕も若葉って呼んでるし」

「このタイミングで!?ま、まぁ、わかった」

「ふふふ♪楽しみですね、皆でお花見」

「そうだね、ひなた。それと、あの、二人とも……今までごめんなさ」

「ストップだ、洸輔。せっかくの楽しいイベントの前なんだ。そういうのは後にして今は花見のことだけ考えるとしよう」

「若葉………ありがとう。ところでお腹すいてない?空いてるなら何か作ろうか?」

「いや、お気遣いは嬉しいが大(ぐぅ~)」

 

この時ほど自分の腹を恨んだ事はない。音を聞いた瞬間、洸輔は笑顔をひなたは私にカメラを向けた。

 

「はは、若葉のそういう可愛らしい所、女の子らしくていいと思うよ?」

「な、か、…かわ…可愛い!?」

 

その発言に顔が急激に熱くなる。それを見たひなたは先程よりも目を輝かせる。

 

「ああ♪いいです、いいですよ!洸輔くん、もっと言ってあげてください!若葉ちゃんの恥ずかしがる顔を私に撮影させ」

「ひ、ひなたぁー!!!!!」

 

朝の食堂に、私の断末魔に近い叫び声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「間に合ってよかったね〜」

「ホントだね。皆で花見をするってことも達成できたし」

「す、すげぇ~……これ全部洸輔が作ったのか?」

「お店に置いてあるのより綺麗かも」

「あなたって、ホントに何者?」

「そ、そんなに驚かなくても……それに僕だけじゃないよ?ひなたや若葉も手伝ってくれたからね」

 

重箱の中身を見ながら、皆が口々に呟く。今回のは結構自分のなかでも自信ありの出来だったとはいえここまで驚かれるとは。

 

皆無事退院することが出来た。なので前に球子が言っていた花見をすることになったのだ。

 

「花見なんて久しぶりだな」

 

手を広げると、桜の花びらが落ちてきた。なんとなく、それを見て微笑む。

 

「洸輔?大丈夫か?」

「あ、ああ、若葉。うん、大丈夫だよ」

「おーい洸輔~早くしろよぉ~」

「皆で乾杯しないと意味がありませんからね」

「それじゃ、若葉さん。お願いします!」

 

若葉がこほん、と咳払いをする。各々が飲み物を片手に持ち彼女の言葉を待つ。

 

「えーそれでは、勇者全員の無事退院を祝って!乾杯!」

『乾杯!!』

 

そこから、本格的なお花見が始まった。

 

「あれ?球子、確か魚を釣ってくるとかどうとか言ってないっけ」

「ぬぉぉぉ!!そうだったぁ!忘れてたぁぁぁ!!」

「た、タマッち先輩…そんなに凹まなくても…」

「なんか…洸輔に負けた気分…ぬぉ!?このタマゴ焼きうめぇ!!」

『切り替えはや!?』

 

さっきまでの凹み具合はどこへやら…一瞬で顔が笑顔に戻る。まぁそこが球子の良いところなんだけどね。

 

「そういえば杏、腕は…おっと危ない」

「あ…ご、ごめんなさい…洸輔さん」

「いいよいいよ、まだ腕の調子悪いなら僕が食べさせてあげようか?」

「ふぇ!?」

「はい、あーん」

「え、えーっと…」

「ほら、遠慮しないで」

「あ、あーん…」

「どう?美味しい?」

「お、美味しいです……ふふ♪」

 

どうやらかなり美味しかったみたいだ。笑顔で喜んでいてくれてる。

 

『……………』

「ん?みんなどったの?」

『いや、別に』

「?」

 

杏以外の皆から何故かジト目を向けられた。どうしたんだろう?すると…友奈からあることを質問される。

 

「それにしても…ホントに料理上手なんだね!誰かに作ってあげてたりしてたの?」

「あ~っとね、世話の焼ける幼なじみが居てさ、その子に……うん、そうだね…」

「どうしたの…?急に…?」

 

話の途中で勝手に納得している僕を見て郡さんが怪訝そうに視線を向けた。そろそろ…僕のほんとのことを話してもいいかもしれない。

 

「皆…ちょっといいかな?」

「ん?なんだ?洸輔?」

「洸輔くん?」

「いや…なに…ちょっと僕のことを知ってもらいたいなぁって…」

 

(散々遠ざけてきたからね…もういいだろう…)

 

「あなたの…こと…まぁいいんじゃない?聞いてあげなくもないわ…」

「はは、ありがとう郡さん。さてと…どこからいこうかな?」

 

そこから色々と僕についてのことを話した。聞いていくにつれて皆の顔が変化していく。

 

「はぁーーー!?たいむりーぷぅ!?」

「そ、そんなことが…」

「…私達を守るため…」

「300年?300………ふにゅう…」

「ゆ、友奈さん!しっかり!」

「つまり…そちらでも勇者として戦っていたと?」

「ま、まぁ…そういうことになるかな」

 

すごい動揺ぶり( ̄▽ ̄;)、まぁ僕も(結城の)友奈が突然こんなこと言い出したら…多分まず頭を心配する。すると若葉が…

 

「しかし…それを信じるのならば、私達の戦いは決して無駄ではなかったということだな」

「え?それはどういう…」

「簡単な話だ…洸輔、お前がいるということは私達はこの世界を…想いを…その時代まで紡げたということだからな」

「若葉……」

 

そう言い切った若葉の姿はとても凛としていて綺麗だった。ついつい感動しちゃったよ…だって…まさかそんな簡単に受け入れられるとは思ってなかったから…。

 

「ありがとう…若葉…」

「その…なんだ、別にそんなに気にすることじゃない。思ったことを言っただけだからな」

「…でも…男は勇者にはなれないんでしょ?…なぜあなたは…なれたの?」

「あ~それね…実は僕さ…神樹様に選ばれたっていうよりも…精霊さんに選ばれたって感じなんだよね…」

「????ぐんちゃん…意味わかる?」

「わ、私にも…何がなんだか…」

「あーつまり、精霊さんの力を体に纏わせることによって…勇者として戦えてるってこと…になるのかな?」

「あなたも…あんまり把握してないのね…」

「う、面目ない…」

 

痛いところを突かれた。そうなのだ…ぶっちゃけて言えば僕自身もまだ詳しいことは分かってない。まぁでも…

 

「僕は色んな人達に助けられて…今ここにいる。それだけは確信を持って言えるかな」

 

手に持った押し花を握る。この約束のお守りが…僕と勇者部の皆や…この子達を…繋いでいてくれてるんだ。

 

「…ホントに…大事な物なのね…」

「まぁ…ね、皆との大切な繋がりだからさ…」

「なぁなぁ!もっと聞かせてくれタマえよ!その…勇者部?のことを」

「私も気になります!」

「私も私も!」

「うん、気になることがあったらどんどん聞いて。全部答えるからさ」

 

(…ああ…すごく安心する…)

 

そこからも…僕のことや神世紀のこと、皆のことも話をした。その時間はとても…暖かくて…勇者部と同じくらいに……心地のいいものであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ、頭がパンクしそう…」

「あはは、そりゃそうなるよね」

 

 球子が頭を抱えた状態から動かなくなってしまった。まぁ、当たり前だね……僕も以下略。

 

(隠しているのも少し寝覚めが悪かったし、とりあえずは話せてよかったかな)

 

「幼なじみが私とそっくりな友奈ちゃん、だから……洸輔くんは私を名前で呼ぶのに抵抗があったんだね」

「そういう事、かな。その…さ、嫌だったんだよね。どこかで、君と彼女を比べてる自分がいるのがさ。でも……もう気づいたから」

「気づいた?何に?」

「僕にとって結城友奈も高嶋友奈も大事な人。比べる必要なんてなかったんだってね」

「大事な人、かぁ……なんか洸輔くんらしくていいね!」

「あ、ありがとう?」

 

 彼女の言葉に首を傾げつつもお礼を言う。今でも重なるところはあるけど…もう大事なことに気づいたから大丈夫。

 

(でも…もし二人の友奈が揃う日がきたら…ちょっと問題があるな…その名前の呼び方で(笑))

 

僕がそんなことを考えていると…友奈が皆の方に真剣な顔で呼び掛ける。

 

「えと…洸輔くんに続くって訳じゃないけど…私も自分のことはなしていいかな?」

「そういえば友奈さんが…丸亀に来る前のことはあんまり聞いたことがありませんね」

「確かに、友奈さんは聞き上手ですからね。他人を優先して聞き手に回ることの方が多いですし」

「えへへ…ありがとう…でも本当はね…そんなに褒められたことじゃないんだ…」

 

少し…友奈の顔が寂しげな表情へと変わる。

 

「よく…皆のことをきにかけてるとか、気遣いが上手って言われるけど…ただ嫌なだけなんだ…気まずくなったり…言い争ったりするのが辛いから…だから自分を出せなくて…」

「でも…今は話そうとしてくれてる…」

「郡さんの言う通りだよ。友奈、ここには君の話を遮る人なんていないよ」

「ああ、友奈聞かせてくれ」

「私も友奈さんのこともっと知りたいです」

「タマも気になるぞ!」

「友奈さんのこと…教えて欲しいです!」

 

皆が友奈の方に視線を向けた。その姿を見て…友奈は笑顔を作り出す。

 

「ぐんちゃん…洸輔くん…皆…ありがとう!!それじゃ…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『私は勇者、高嶋友奈。奈良県出身。誕生日は一月十一日。血液型はA型で、趣味は…武道かな?あと美味しいものを食べるのも好き』

 

『勇者になる前…小さい頃は、よく自然の中で遊んでたよ。家の近く神社で、かくれんぼしたりしたんだ。そのことで神主さんに怒られたりもしたっけ』

 

『だからかな?神社とか神主さんってすごく身近だから…そのせいで大社の雰囲気とか、そういうのを受け入れているのかもしれない』

 

『そんな私が勇者に選ばれたときはビックリしたなぁ。だって私は皆に比べて特に得意なこととか…誇れるものとかなったから…だから勇者になったときは…どうして私なんだろうって考えたなぁ…戦うのも怖かったし、でもそれ以上に誰かが傷ついたり家族を失ったりするのが怖かった。私は…本当はね…怖いから戦ってるただの臆病者なんだ…』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふぅ~以上!ごせいちょうありがとうございました!」

 

友奈は話終わるとすぐに笑顔へと戻る。

 

すると…郡さんが…突然友奈の手を握って言った。

 

「ぐんちゃん?」

「高嶋さんは臆病者なんかじゃないわ…むしろそれは私のこと…でも…あなたはそんな私の背中をいつも押してくれた。だから…あなたは臆病者なんかじゃない…」

「千景…ああ…そうだな。千景の言う通りだ」

「同感だよ…僕も友奈には何度か助けられたからね」

「それに…友奈さんのこともっと知れた気もしますし」

「確かにな!」

「右に同じです!」

「皆ぁ…ありがとう!大好きだよ!!」

 

桜の木の下には…皆の笑顔が咲いていた。

 

そのあとも花見は続き、皆で色々なことを話した。すべてが新鮮で…とても大切なものに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

…夕方…

 

 

花見が終わり…皆が自分の部屋へと戻っていく。しかし…私はある人の元へと向かっていた。

 

(…迷惑…かしら…)

 

インターフォンを鳴らして…返事を待つ。やがてドアが開いた。

 

「あれ、郡さん?どうしたの?」

 

私が向かったのは…天草くんの所だった。

 

「少し…時間もらっても良いかしら…?」

「え…?いいけど…って、ちょっ!?」

 

多少強引だが…彼の手を引いて…歩きだした。




さて…千景ちゃんは何する気なのかな?

そして…洸輔くんフラグは順調に立てていくう!(なんなんだ…お前は)

では次の回でお会いしましょう!


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第二十七節 向き合うために

完全完璧に千景ちゃんメイン回!!


『少し、話さない?』

 

郡さんに連れてこられたのは、寮からはそんな離れていない場所にある公園。日が沈んではいないものの、時間的な問題で昼間は賑やかなここも今はとても静かだ。

 

「座りましょう」

「う、うん」

 

二人でベンチへと腰を下ろす。なんとなくあの時と似ているなと思った。

 

「……」

「……あーと」

 

こうやって、無言になってしまう所も。

 

「えっと、郡さん?」

「私……決めたわ」

「え?」

「過去と向き合おうと思う、逃げずに正面から」

 

決意のこもった目、その目が見ているものは過去ではない。それより先の何かを見ているようで。

 

「今までは向き合おうとしてなかった。どこかで逃げてたのよ」

「……」

「でもね、今日の高嶋さんや貴方、それに皆を見ていたら。私も、一歩前に進もうと思った」

 

そう言った彼女は、明らかに前とは違って見えた。きっと大事なものを真に理解したのだろう。

 

「私は、両親とけじめをつける」

「それが君の……郡さんの答えなんだね」

「うん……ほんとはすごく怖い。でも、どんな形であろうと向き合わない限り……前に進めないのも事実だから…その、どう思う?」

「どう思うも何もそれが郡さんの選んだ道なら、それでいいんじゃないかな?」

「選んだ、道?」

「そ、郡さんがいっぱい悩んで考えて考えて……その末に得た答えなら。それはきっと君自身が選んだ道だ」

 

僕も沢山傷つき悩んだ末にこの世界の皆と向き合い救うという道を選んだ。郡さんもきっと一緒なんだ。

 

「自分で動かなくちゃ何も変わらない。同じ景色しか入ってこないからさ……その選択はきっと正しいと僕は思うかな」

 

(実際…皆と向き合ったことで色々と変わったからね)

 

かなり大真面目な感じで言った言葉だったのだが、何故か郡さんはくすくすと笑い出す。

 

「ぷっ…ふふ」

「うぇ、な、なんで笑うのさ?」

「ふっ……貴方のまったく根拠のないけど、人をその気にさせる感じ、嫌いじゃないわ」

「褒められてるの?貶されてるの?どっち?」

「安心しなさい、どっちかっていうと褒めてるから」

 

(最初の頃を考えると、郡さんとこんな風に話せる日がくるとは思ってなかったからなぁ)

 

「所で、どうして僕だけにそのことを?」

「まず、貴方に相談っていうか…聞いてほしかったの」

「え?なんで?」

「なんでって、その」

 

郡さんの顔が赤くなっているように見える。夕日のせいだろうか?

 

「……別に、なんでもいいでしょ?」

「まぁ、力になれたのならよかったよ。それに郡さんとこうやって二人で話せて嬉しかったし」

 

本心からの言葉と共に彼女に笑顔を向けると、ぷいっと顔を反らされてしまった。

 

「相変わらず、卑怯な笑顔……」

「ひ、卑怯……」

「ええ、まぁ本人の自覚がないのが一番怖いんだけどね」

「?」

 

ゆっくりと彼女は立ち上がる。僕もそれに合わせて腰をあげた。

 

「さて、戻る?」

「先に戻っていて、私は行かなきゃならない所があるから」

 

「どこへ?」と聞きかけたが、彼女の顔を見て僕は言葉を飲み込んだ。

 

「わかった、いってらっしゃい」

「ええ…行ってくるわ」

 

そのまま僕の方を振り返らず…彼女はその場から走り出した。

 

「頑張ってね…郡さん」

 

もう夕日も沈みはじめて…辺りも暗くなってきている。

 

「それにしても、素直じゃないなぁ。普通に言ってくれればいいのに」

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

去り際の彼女の呟きが、僕の耳にはしっかりと届いていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「……」

 

彼と別れ、私が向かったのはまだ引っ越したばかりの郡家だった。

 

(にしても……呼んだ癖にその場に置いてくって失礼だったかしら。まぁいいか、相手は天草くんだし)

 

今から一世一代の大勝負をするというのに、やたらと心は落ち着いている。

 

「それにしても、久しぶりな気がするわね」

 

家を見つめながら呟く。あの戦闘のあと…私はほとんど寮にいた。だからここに来るのは久しぶりだ。

 

「ただいま」

 

返事はない、玄関を開けてまずは自室へと向かう。

 

「まずは……」

 

部屋にある必要な物を、バッグの中へと押し込んでいく。その最中あるものに目が止まった。

 

「これは、絶対必要よね」

 

皆からもらった卒業証書を優しくバッグの中へと入れた。

 

「私の……選んだ道」

 

震える声で呟いて、両親のいるリビングへと足を向けた。

 

「千景……帰ってたのか」

 

ここに来てから、いや、私が勇者になってから……変わらないいつもの光景。

 

痩せこけたお父さんがいて、横には『天恐』で今にも死にそうな顔で寝込んでいるお母さんがいる。

 

(皆のいるあの場所へ、皆と一緒にこれからも歩いていくために)

 

「お父さん、それにお母さん。聞いてほしいことがあるの」

「なんだ?突然……」

 

一度、大きく深呼吸をしてから両親に言葉を投げ掛ける。

 

「私、この家を出るわ。一端距離を置きましょう」

「は?何いってんだ?千景?」

「そのままの意味。私は一度、この家を出る。そう言っているの」

「な、何のために!?」

「もう一度、お父さんとお母さん……二人と向き合うため」

 

多分、今話そうとしたところで何も解決しないだろう。だって……ここにいる全員が冷静な状態じゃないから。

 

なぜなら、彼の中で私は『娘』ではなくただのどうでもいい存在だと気づいたから。もしも、彼が一度でも私の見舞いに来てくれたんだとしたら……こんなことはしなかっただろう。

 

そう、私自身も冷静ではないのだ。この家にいる皆が冷静ではない。なら……いっそのこと。

 

「だからお互いに冷静になって、向き合って話ができる日が来るまでは家を出ようと思う」

「何言ってんだ?なぁ?お前は何言ってんだよ?」

「お母さん……勝手に決めてごめんなさい。でも、必ず戻るから……だから、お母さんも負けないで」

 

寝込んでいるお母さんの手を掴む。握った手は意外に温かくて……温もりを感じた。

 

「身勝手だって……思うかもしれない。でも、私がいない間、お母さんをお願いね。お父さん」

 

それだけ言って立ち上がり歩き出す。

 

出口へと向かった私に対して、お父さんが殴りかかってきた。

 

「勝手に……決めてんじゃねぇよ!!!」

「もし……」

 

そんな彼を真っ直ぐと目で見つめて、言葉を紡ぐ。

 

「もしも貴方の中で、私をまだ娘として見てくれる心があって……その拳を振るわずに『家族』として話せる時が来たのなら……その時は、いろんな話をしましょう」

「っ!!」

 

振るわれた拳は私の顔の手前で止まる。なぜ止まったかなんて分からない。お父さんは手を力なく下げると、その場に座り込んでしまった。

 

「また、会いましょう。お父さん、お母さん」

 

静まり返った廊下を歩いて玄関へと向かう。

 

「っ……」

 

突然、視界がぐらつきはじめる。張りつめた緊張の糸が解けて、体が一気に重くなる。

 

「まだ…」

 

地面へと体が落ちていく。意識が遠退く中、寸前で誰かに支えられるような感覚がした。

 

「あ……あたた、かい」

 

小さな呟きを最後に、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

目を開く。何故かいつもより目線が高い気がした。状況が飲み込めない私をよそに、聞き覚えのある声がする。

 

「目が覚めた?」

「…え…なんで…あなたが?」

「心配だからついてきたんだ。そしたら案の定家から出て来てすぐに、倒れそうになってる郡さんを見つけたって訳」

「た、倒れた?」

「うん、タイミングが良くてよかった。ギリギリの所で支えられたからね。それにしても、荷物多いね?けっこう重いや」

「……」

 

改めて周りを見渡す。目線が高いのは彼におんぶされているからだった。もう辺りも暗くなっていて街灯が道を照らしている。

 

「も、もう…大丈夫よ…下ろして」

「無理はしちゃだめ、また倒れたら困るでしょ?寮につくまでは僕の背中に乗っかってて」

「……ほんと、お節介なんだから」

「それほど郡さんのことが心配なの」

「ふん……」

 

どこまでお節介なんだと思った。でも、それと同時に彼の優しさに胸が温かくなる。

 

「また、助けられちゃったわね……」

「僕が助けたのは最後だけさ。それまでは、郡さんが頑張ったんだから

、気にする必要はないよ」

 

彼はそう言うと、またあの時のように笑顔を向けた。

 

「ねぇ」

「なに?」

「そろそろ、その郡さんっていうの…やめて」

「へ?いや、でも」

「皆が名前呼びなのに……私だけ名字とか、なんか変な感じだから。千景でいいわ」

「了解。じゃあ僕のことも洸輔で」

「それは……ちょっとハードル高い」

「えぇ〜、んーなら天草でいいよ?」

「わかった。ねぇ、天草くん」

「どったの?千景?」

「ふふ、呼んだだけよ」

「なっ!そ、園子みたいなことしおって……」

「?」

 

からかうと彼はぶつぶつと何かを呟いた。やがて、前を向きながら……私に彼は語りかける。

 

「僕も……負けないように頑張るよ」

「十分負けてないと思うけど……」

「千景を見て改めて思ったんだ。もっと、色んなことに挑戦しようってね。過去も未来も僕がやらなくちゃならないことは変わらないから」

「そんなに焦らなくても大丈夫。だって、あなたはここにいるもの」

「千景……ありがとう」

 

彼に体を預けながら、寮までは色々話つつ帰路を歩いてもらった。

 

寮に着くまで、私は彼の背中の温度を感じ続けていた。




次は番外編(絶対)出す予定です。とりあえずあげれてよかった……。

感想お願いいたします。

ぼちぼちと遅れを取り戻していきますねぇ~!


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番外編 恐るべし?ゴッドハンド友奈!

ゲートさんからのリクエスト!

のわゆ編だとはじめての番外編ですね〜!面白く書けてるか心配ですが……まぁ、大丈夫でしょう!

それでは、どうぞ!


「友奈って名前の子は皆マッサージが得意なのかな?」

「……急にどうしたのよ?」

「あ、ううん。ごめん、なんでもない」

 

 とある休日、僕と千景は友奈に部屋へと招待されていた。部屋からは女の子特有の甘い匂いがして落ち着かない。何かを準備している友奈を二人で正座をしながら待っている。

 

(突然、どうしたんだろう……なんか、怒らせるようなことしちゃったとか?)

 

 そんな事を考えるが、誘ってきた張本人の雰囲気からしてそれは無さそうな気がする。それに…

 

『最近いろいろあったでしょ?だから、私に二人をマッサージさせてほしいなぁって!』

 

 なんて言っていたし。個人的には頼みを聞くというよりは、何かしてあげたい所なのだが……。

 

(まぁ、でも……)

 

 考えてみれば、彼女には色々と迷惑掛けてばかりだった気がする。この世界に来た最初の頃から僕は彼女のことを遠ざけていたのだ。

 

(なら、これくらいの頼みは聞いてあげなくちゃね)

 

 こうやって考えごとしてないと、まじで落ち着かない。なぜって?僕だって年頃の男の子ですからね(切実)

 

 暇だったので、千景に気になったことを聞いてみる。

 

「そいえばさ、千景は友奈のマッサージって初めてなの?」

「突然ね……ええ、初めてよ。少しドキドキするけど、とても……えぇ、とても楽しみ」

 

 彼女は顔を赤らめて、俯きながらそんなことを呟いた。その表情は少し前までなら見れなかったもので……。

 

「千景ってそういう顔も出来たんだ」

「……悪い?」

「あぁ、いや、可愛らしくていいなぁって思ってさ」

「っ~!」

「いてぇ!?どうして怒るの!?」

「知らない、自分で考えてよ」

「?」

 

 褒めたはずなのに殴られた。女の子って難しいなぁ。そんなやり取りをしていると、準備が終わったのか友奈は笑顔で僕らの前に現れた。

 

「二人とも!お待たせ!」

「高嶋さん…いえ…そんなに待ってないから大丈夫よ」

「右に同じ、それより何の準備してたの?」

「久しぶりのマッサージだからね!本を読んでしっかりと準備してたんだ!」

 

 嬉しそうに両手をわきわきさせながら、友奈が僕らのほうに歩み寄ってくる。

 

「それじゃ!そろそろ始めようかなぁ、どちら様からいきますかぁ~?」

「千景、先にどうぞ」

「べ、別にあなたが先でもいいのよ?」

「いえいえ〜。レディファーストですから」

「そ、そう?……じゃあ、高嶋さん。私から、いい?」

「OKだよ!ぐんちゃん!さぁここに寝てください~」

「う、うん…」

 

 嬉しさが隠しきれてない千景がベッドに寝転がり、マッサージを受けるための準備を整えていく。

 

(あっちの友奈くらいに上手いのかな?)

 

 そんなことを考えていると早速友奈が千景に対してマッサージを開始しようとしていた。

 

「それじゃ、いくね?」

「は、はい…お願い、します」

「よいしょっと……むむ?凝ってますねぇ」

「っ!?」

「千景?」

 

 背中を押され始めた瞬間、千景の表情が変化していく。なんだろう?すごく気持ち良さそう……なのかな?

 

「んー、これなら……さっきよりちょっと強めにいくよー、えい!」

「あ!く、んっ!」

「???」

 

 な、なんか女の子が出しちゃいけない感じの声出しちゃってるけど、大丈夫なんでしょうかね、あれ?

 

「今度は腰をっと……そーれ!」

「あっ!はぁぁぁ……」

「ぐんちゃん、気持ち良さそうだね。なら、ここも!」

「んん……」

 

(こ、これ……僕見てて良いのかな)

 

 目の前の光景に声が出なくなる。あの千景が、あんなにも……その、だらしなくなるなんて(変なことは想像してないよ?いやホントに)

 

「よ~し、もうちょっと強めにいくよぉー!それぇ~!」

「あっ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

「友奈、恐ろしい子っっっ!!」

 

 どうやら、僕はとんでもない頼み事を受け入れてしまったのかも知れないと、今更理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!ぐんちゃんお疲れ様!」

「…ふにゅぅ〜…」

「千景、大丈夫!?」

「ぐったり……(ガクッ)」

「千景ぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 千景の体は浜に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えており、体もぐったりしていた。

 

「さぁ!次は洸輔くんの番だよぉ~!ぐんちゃんはここに移動してもらって…っとよし!準備OK!」

 

 友奈が笑顔でベッドをセッティングし直す。ちなみに千景は床に引かれた毛布の上でぐったり中。

 

「ベッドの上にどうぞ~!」

「よ、よろしくお願いします」

「うん!おまかせあれ!」

 

 言われた通りにベッドの上に突っ伏すと、突然の甘い匂いに思考が麻痺しそうになる。

 

(いかんいかん、心を無にしろ。変な事は考えるな、僕は紳士僕は紳士)

 

「あ、そうだ!洸輔くん、上着脱いでもらってもいい?」

「了解」

「あれ?理由とか聞かないの?」

「直接触った方が効果的なんでしょ?マッサージって」

「そうそう!なんでしってるの?誰かにやってもらったりとか?」

「うん、まぁ……ね」

 

 ゆっくり上着を脱いでいくと、友奈が「おお~」と言いながら体をペタペタ触ってきた。

 

「ちょっ!ちょっと友奈、く、くすぐったいって」

「あ、ごめんね。服着てたときはわからなかったけどさ、引き締まっててかっこいいなぁって」

「……あ、ありがとうございまひゅ」

 

 噛んだ、冷静を装うと思ったらこれである。友奈のような美少女にそんな事を言われたら、仕方のない事だとは思うけど。

 

「顔が赤いけど……大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫。それより友奈、マッサージお願いします」

「あ、そうだね。それじゃいくよ!洸輔くん!」

「……どうぞ」

 

 少し…顔を朱で染めながら、マッサージを受け始めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「うんしょ、うんしょっと」

「これ、は……」

 

 引き締まった体をゆっくりと解していく。少し経った頃、洸輔くんの顔が惚け始める。

 

「す、すごい……ホントに上手だねぇ…友奈ぁ…千景がああなるのも頷けるよ~……はぅ……」

「えっへへ褒められちゃった。それじゃここも…」

「…ひはぁ…これは…負けてないなぁ……」

「負けてない?何に?」

「ん~?…幼なじみの友奈にね…ふわぁ~」

 

洸輔くんの口からあくびが漏れる。瞼も下がってきていて…すごく眠たそうにしていた。

 

「友奈ちゃんもマッサージ得意なんだ?」

「…そうそう…前にやってもらったんだ…」

「じゃあ…負けないように頑張っちゃうよぉ~」

「…も、もう既に負けてないけどね……」

 

そう言って…何かを懐かしむように彼は微笑んでいた。

 

(…本当に大事なんだなぁ…)

 

彼の微笑んだ顔を見てそう心の中で呟く。きっと…この前に話してくれた、勇者部の皆や幼なじみの友奈ちゃんと会えなくなるのは…洸輔くんにとってすごく辛いことなんだろう。

 

(…つらいはずなのに…)

 

それでも何度も私や皆を守ってくれた。自分の危険を顧みずに…何度も…壊れそうになった時だってあったはずだ…それでも洸輔くんは…前を向いた。なら……

 

(今度は…私が、私達が守るから)

 

「ねぇ、洸輔くん」

「………………」

「ありゃ…?」

「…すぅ……すぅ……」

「…寝ちゃったみたいだね…」

 

洸輔くんの顔を覗きこんでみると…普段からは想像出来ないくらいの可愛らしい寝顔がそこにあった。

 

「ふふ…こうして見ると女の子みたい…」

 

彼の寝顔をみてクスリと笑う。戦っているときの顔はあんなにもカッコイイのに……。

 

(やっぱり…そうなのかな…?)

 

いつからは覚えていない…。でも、私は洸輔くんといると変に胸が温かくなることがあるのだ。

 

(…ぐんちゃんや皆といるときとは違った…温かさ…)

 

この感情の名前を私は知っている。

 

(…ホントに…ずるいなぁ…)

 

そんな『ずるい人』の寝顔を見ながら…私はマッサージを続けた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ー夕方ー

 

 視点はうって変わり、若葉目線。

 

 ひなたと共に買い物行った帰り道…たまたま会った杏と球子と共に道を歩いていく。

 

 そこで私はあることを提案した。

 

「急にみんなで夜食って…どうしたんだよ?若葉?」

「確かに…何か理由があるんですか?」

「まぁ…なんだ、洸輔はまだあそこに行ってないだろ?」

「あそこって…かめやですか?」

「その通りだ、ひなた」

 

 さすが、幼なじみだと心の中で呟きを漏らす。

 

「まぁ最近は時間もなかったですし」

「そっか…洸輔はあの味を知らないのか!」

「それは損をしてますね!」

 

 球子と杏が異常なほど食いついてくる。この二人も今ではかめやの常連客となっていた。

 

「だろう?だから皆で行こうと思ってな。…そういうえばひなた、確か千景と洸輔は友奈の部屋にいるんだったな?」

「はい、この前の昼休みに三人の会話が聞こえて来た時に小耳に挟みました」

「じゃあ早く迎えにいこうぜ!もうタマは腹ペコだぁ~」

「私もです」

「そうだな、では向かうとしよう」

 

 四人で友奈の部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふわぁ~……」

 

目を開けると…窓の外から夕焼けの光が射し込んで来ていた。

 

(案の定…恐ろしいほどに気持ちいいマッサージだった…。眠ってしまうのもしょうがないわ…)

 

実際体が軽い…しかし、左側の腕に何かの重みを感じた。

 

(む?このパターン…もしかして…)

 

脳内でそう呟きつつ左側に目線を向けると…案の定すやすやと寝息を立てながら僕の腕を枕にしている友奈がいた。(千景も毛布の上で寝息を立て、横になっている)

 

「…あっちの友奈よりも…顔が幼いのかな?」

 

少し…近くに寄って見てみると、案外違いがあるものだ。若干だけど…(結城の)友奈より幼さが残っている。

 

「…むにゃ…」

「…警戒されてないことを残念に思うべきなのか…それとも信頼されていると喜ぶべきなのか…」

 

そんなことを言っていると…友奈の手がゆっくりと僕の手に重なった。同時にある呟きが聞こえてくる。

 

「…んん…こうすけ…くん…あっ…たかい…」

「……まぁ…どっちでもいいかな」

 

(どっちだったとしても僕はこの手を…二度と離さないから…)

 

手に伝わってくる温度を…確かめるかのように握る。これは他の誰でもない高嶋友奈という少女からでしか感じられない温度なのだから…。

 

 

 

 

 

すると…突然ノック音がドアの方から響いてきた。

 

 

 

 

 

(…なんだろう…嫌な予感がしてきた…)

 

僕のその予感は的中し…ドアが開かれる。

 

「乃木だ、三人とも失礼す、る……???」

「タマもきたぁって急に止まるなよ!?若葉……へ?」

「こ、これは……」

「……」

 

(あー、あの時よりも状況がアウトですね。これ/(^o^)\)

 

 入ってきた四人と僕の動きが停止する。四人の目線には…半裸の状態で友奈とベッドに寝ている僕が映っており、しかもその真横には友奈のゴッドハンドマッサージによってふにゃふにゃにされてしまった千景が寝転がっているのだ。

 

 若葉様の手からメキメキとヤバい音が聞こえてきた。(目、こわ!?)

 

「洸輔、何があったのか……一から教えてもらおうか?」

「ちょ、ちょっとまった!!は、話をまず聞いて!!ね!?」

「誰が発言を許可した?」

 

 駄目だ、マジでキレてる。なんか後ろにオーラ見えるし……。

 

「駄目ですよ、若葉ちゃん。洸輔くんが怖がってるじゃないですか」

「ひ、ひなたぁ…」

 

 さ、さすが…勇者達を導く女神様!穏やかな心を持ってらっしゃる!

 

「ひなたは、この不届き者を許すと?」

「いいえ、しっかりと椅子に縛り付けてから色々した方が良いかと」

「流石だ、ひなた」

「oh………」

 

(全然っ!穏やかじゃなかったぁぁぁ!!)

 

ひなたの目からは光が消えていた。残された道がなく…絶望する僕に杏と球子が手を差し伸べてくる。

 

「安心しろよ、洸輔」

「そうですよ?洸輔さん」

「杏!球…………子?」

 

 希望は一瞬で消え去る。二人の目からもハイライトは消えていた。それを見て体に悪寒が走る。

 

「大丈夫だ、殺しはしないからな」

「ええ…ちょっと痛い程度ですよ?」

「お願いだから話を聞いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

その後…友奈と千景を起こして、事情を説明してもらったお陰でなんとか…誤解は解けた…。(説明してもらっている間…僕の首筋には…木刀が当てられてました…怖かったです…はい…)

 

元々若葉達が部屋にきたのは僕らを夜食に誘うためだったらしく…誤解は解けたので、皆でかめやに向かった。しかしそこでも…友奈と千景を除いたメンバーからの刺すような視線によって僕のHPは減らされました…。

 

結局の所…友奈のマッサージによって癒してもらったはずの体は…帰る頃には疲れきっていた。(…なんで…こうなるの…(泣))




なんでこうなるかって?いい思いし過ぎだからですよ(にやり)

のわゆ編も終盤に入った…。皆さんのご期待に添えられるよう頑張らせていただきます!

あ、感想お待ちしております!

それでは!また!


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第二十八節 気づいたり気づかなかったり

取り戻していくどころか遅くなってすいません。

今回はほとんどイチャイチャしてます。書いてて思ったけどアンタマコンビ可愛いよね!

それでは!どうぞ!


~ある日の休日~

 

「この本の……ここ!王子様とお姫様の関係が良くてですね」

「あー確かに〜それよかったねぇ」

「ですよね!特にこのシーンとか……」

 

 僕は今、杏の部屋に来ている。上がらせてもらうのは二回目だが……うーむ、やっぱり落ち着かない。

 

(女の子の部屋って、ホントに落ち着かないなぁ)

 

 どうしてこんな状況かと、言うと……。

 

 

 

 

 皆も十分動けるくらいには回復し、学校も本格的に再開した。授業を全員で受ける日々も戻ってきて……日常と、呼べるものが僕らを包み込んでいた。

 

 千景も色々あったけど、もう吹っ切れたのか前よりも笑うことが多くなった気がする。剥奪されていた勇者システムも返却されたようだ。

 

 色々と収まるべき所に一旦収まったので僕は皆への恩返しとして、皆にやって欲しいことを聞いて回っていた。

 

 

 

 

 そして、トップバッターの杏の頼みごとは〜

 

『その、二人きりでお話とか色々したいなぁ〜って……』

 

 だそうだ。とまぁそういう経緯で僕は杏の部屋にいるということです。

 

「どうですか?この二人の関係!いいと思いませんか!?」

「……」

「洸輔さん?」

「あ、ご、ごめん、ぼっとしてた」

「むぅ〜しっかり聞いててくださいよ~」

 

 頬を膨らませた杏様からの抗議が飛ぶ。その姿が小動物みたいで、愛らしく感じる。

 

「それにしても、ホントに杏は恋愛小説好きなんだね。何か理由とかあるの?」

 

 部屋を見渡して思う。本棚の中にはありとあらゆる恋愛小説の数々が並べられていた。

 

 その問いに杏は「うまく話を反らされた気が……」と呟きつつも僕の問いに答えてくれる。

 

「憧れてたんです、こういう物語に出てくる王子様みたいな人に救ってもらえるのを」

「そう……なんだ」

 

 その台詞を聞いて思い出す。遠征の時に球子に言われたことを。

 

『杏がな、お前のこともう一人の王子様だってよ』

 

(……そういえば、そうだったなぁ) 

 

 あの事を思い浮かべ、少し顔が赤くなる。

 

「だから、か」

「え?」

「いや、杏が……その、僕のこと王子様だって言ってたって」

「な、なんで!?それを!?」

 

 ぴぃぃ!という謎の悲鳴を上げながら杏の顔がみるみる赤くなっていく。赤くなりすぎてタコみたいになっていた。

 

「あはは、これ……やっぱり言わない方がよかった?遠征の時に球子から聞いたんだけど」

「た、タマッち先輩のばかぁ……」

 

 半涙目状態になる杏。球子、話しちゃ駄目だったぽいぞ?これ以上この話題はよろしくないと思い、切り替えようとする。

 

「あ…えっと…この話題やめた方がいい?」

「い、いえ…大丈夫です…いつかは話そうと思っていたので…」

 

 ゆっくりと立ち上がり、本棚へと向かいながら…ぽつぽつと杏は語り始めた。

 

「その…今でも…覚えているんです。一番最初にタマッち先輩に助けてもらった時のことは。まぁ、人が話しちゃいけないってことを勝手に話しちゃったりする困った部分もあるけど……」

「ははは……」

 

 本を棚へと整えながら語っていく。一瞬見えた黒いオーラに苦笑いで返す。

 

「それでも、私を救ってくれたタマッち先輩はホントに王子様みたいで……そんなあの人に私は救われたんです」

「だから姉妹みたいに仲がいいんだよね?二人は」

「はい、王子様でもあるけど…大事なお姉さんって感じも少し…ありますね」

「パッと見、杏の方がお姉さんっぽいけどね」

「ふふ、それタマッち先輩が聞いたらきっと怒りますよ?」

 

 二人でクスクスと笑い合う。こういう時…勇者部の皆と同じような安心感を感じる。

 

 杏はこちらに振り返り…優しげな表情を作りながら僕の目を真っ直ぐと見ていた。

 

「そして、私はある人にもう一度救われました。その人は……遠い未来からやって来て、どんな状況かも分かっていないのに臆病に震えているだけだった私に勇気を与えてくれました」

「………」

「覚えてます。あの決意に充ち溢れた背中を、優しく私を撫でてくれた手の温度を、あの言葉も」

 

 微笑みながら、杏は僕に向かって言葉を投げ掛ける。

 

「もう一度救ってくれたのが、私にとってのもう一人の王子様、それが天草洸輔さん。貴方なんです」

「っ〜!!まいったなぁ……そんな、ど直球に言われるとすごく嬉しいけど、恥ずかしいな」

 

 恥ずかしさの余り、目をそらして頬をかく。杏の言葉は続く。

 

「そんな救ってくれた人達を私は守りたい。でも、多分一人じゃ無理なときは絶対あると思うんです。だから、そういうときは」

 

 杏が手を差しのべてくる。この手を僕は一度拒んでしまった。

 

「守ってくれたら嬉しいです……」

「ん?ん~?その言い方はちょっと違うかなぁ」

「え、だ、ダメでしたか?」

 

 否定の言葉が飛んでくると思っていなかったのか。目をうるうるさせながら、杏がこちらを見ている。

 

「あ、ご、ごめん!そういう意味じゃなくてね!えっと、そういう時はこう言うんだよ、杏?」

 

 手元にあった本を開き、王子様とお姫様が出てくる小説のワンシーンを彼女に向ける。彼女は小首を傾げながらも、言葉を読み上げる。

 

「守って、ください?」

 

 その言葉に、膝をついて首(こうべ)を垂れながら彼女の手を握って言った。

 

「はい、喜んで」

 

(僕が、君を、君達を守ってみせる)

 

 杏の手を握りながら、胸の内でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 この数分後……二人で先ほどの行動(感情が高ぶっていたとはいえ…)を思い出して顔を真っ赤にしながら悶絶してましたとさ。(なんだよ!?『喜んで』って!?)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 昼間のことを思い出して、顔が熱くなる。

 

 それは自分の言った言葉とかについてもとかあるけど、何よりも!

 

『喜んで』

 

 握ってもらった手には、彼の温度がまだ残っている。不思議な感覚なんというか、体がふわふわというかなんというか…。

 

「反則……だよぉ……」

 

 思い出すだけで、心臓の鼓動が速くなる。動揺が収まらずに枕へ顔を埋める。

 

「やっぱり、そうなんだなぁ…」

 

 タマッち先輩のことはもちろん好きだ。とっても大切な存在、それは間違いない。ただ洸輔さんに対してのこの想いは。

 

「恋をするって、こういうことなんだ」

 

 握ってもらった手を見ながら、私はそう呟いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~別の休日~

 

 現在、僕は球子の部屋に上がらせてもらっている。

 

「ほんじゃ洸輔!よろしく頼むぞぉ~」

「オッケーだよ。球子」

 

 今日は球子の頼みごとを遂行する日だ。正直みんなの中で一番球子がやってほしいこととかすぐいいだしそうだなぁって思った。

 

 ちなみに内容は『この前に買い物したアウトドアグッズの片付けを手伝ってくれ』だそうです。

 

(にしても……)

 

 球子の部屋を見渡す。あらゆる場所に恐らくキャンプ?とかに使うものだろうか。広がっている物は見たこともない物ばかりで、少しわくわくしている自分がいた。

 

「わぁ……ね、これって何につかうの?球子?」

 

 僕が手に取ったのは、長い棒のようなものだ。先端部分になんかついてる?これはなんだろうか。

 

「ほほう、それに目を付けたか。お目が高いというやつだな。それは火吹き筒って言ってな!バーベキューとかの時に火をおこす時に使うんだ!ついでに置き場所はそこな!」

「へ〜本当球子詳しいんだね。後了解だよ」

 

 感心しながら、球子に言われた通りの場所へと置いていく。すると…今さら気づく。アウトドアグッズのほとんどが華やかで女の子らしいものばかりだった。

 

「なんか…可愛らしいのが多いね?」

「ん?ああ〜今度皆でキャンプとかしたいと思ったからな!タマが色々と頑張って選んだんだ!」

 

 (ない)胸を張って球子が誇らしげに言うと、何故か僕の方にジト目を向けてきた

 

「オイ…今洸輔失礼なこと考えたろ?」

「ナンノコトカワカリマセンネェ~」

「片言になってるじゃないか!コノヤロー!白状しタマえ!」

「お、落ちついて!……なんで今、買ったの?」

 

 話を反らすために違う話題を振っていく。すると、球子が少し真面目な顔で言った。

 

「ほら、ここ最近色々とあっただろ?だから今度は……皆でキャンプやって過ごしたいなぁと思ってさ」

「球子……うん、皆でやろうね!キャンプ!」

「おう!キャンプのことならタマに任せタマえ!なぁっはっはっは……っておわぁ!」

「球子!」

 

 球子の態勢が崩れる。どうやら何かに足を引っ張られてしまったようで、ギリギリの所で彼女の頭を支える。が……僕も体勢が崩れてしまい、そのまま床へと二人で倒れこんだ。

 

「た、球子?大丈夫?」

「いっつつ……悪い…洸輔…助かっ……!?!?」

「どうしたの?あ……」

 

 二人で無言になる。それもしょうがないことで、球子が仰向けの状態になっていて、そこに僕が覆い被さって床に手をついてるのだ。

 

 つまりは、床ドンしちゃってることになるんだが。

 

(助けるためとはいえ、これは怒られるよね……)

 

 少し顔を強張らせるが、球子は怒るどころか顔を真っ赤にしたまま僕の方をじっと見つめていた。

 

(なんか、球子がめっちゃ可愛く見えるんだけど)

 

 球子は自分のことを可愛くないとかよく言うが、決してそんなことはないと思った。だって負けてない、他の子達にも。

 

「………」

「あーっと……」

 

 視線と視線が混じり合う。頭の中で片付けは?という疑問が横切っていたが…それどころではなかった。球子の息遣いを、近距離で感じる。

 

 永遠とも感じられた静寂を破ったのは、球子だった。

 

「なぁ、洸輔」

「ど、どうしたの…?」

「た、タマって、その……か、かか、可愛いのかな?」

 

 少し目を潤ませながらも真っ直ぐとこちらを見つめ、小首を傾げた球子に胸が高鳴る。彼女に僕は率直な感想をぶつける。

 

「うん、可愛いよ。めちゃくちゃ可愛い、僕は球子みたいに元気で可愛い子。とっても、好きだな」

「……」

 

球子から…の返事がなく心配になり声を掛ける。

 

「…あれ…?球子?」

「ふにゅう(ぷしゅー)」

「ちょっえ!?球子ーーーーーーーー!?!?」

 

 結局の所、頼まれたはずの片付けは終わらず、途中起きたハプニングによって頭から湯気を出した球子の看病へと目的は変わった。なんであんなことになっちゃったのか、わからなかったけどそれより分からなかったのは。

 

(なんで、球子は僕にあんなこと聞いてきたんだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「なんでタマはあんなことを…」

 

自分の頭を抱える。なぜあそこからすぐに動き出せなかったのか…自分でもよくわからない…。

 

「いや!そこは百歩譲っても…まぁいい…いやよくないけど!それよりもだ!」

 

一人部屋の中で自問自答を繰り返す。そう…タマが一番気になったのは…あの言葉…

 

『た、タマって…その……可愛い…のかな?』

 

なんで…あんなこと…聞いたんだろ…。しかも…それに対しての洸輔の返しが…

 

『うん、可愛いよ。めちゃくちゃ可愛い、僕は球子みたいに元気で可愛い子。とっても、好きだな』

 

「~~~!!!」

 

言葉を思い出して…また顔が熱くなる。なんで、こんなに熱くなるのかも…分からない…。

 

「タマ……どうしちゃったんだよ〜」

 

確かに洸輔はちょっと、ちょっとだけど!かっこいいかもしれない……でも、さ。

 

「き、きっと…杏から借りた本の読みすぎだな!うん!きっとそうだ!」

 

そう言いながら…残っていた片付けをこなそうとしたが…何故かまったく手が進まなかった。




どうでしょう?可愛く書けたかな?心配です~………。

感想をお待ちしております!

それと…このキャラとはこういう展開になってほしいみたいなのも…あれば教えてください!頑張って書きます!

それでは!また!


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第二十九節 思い思われ

今回は若葉とひなた!まぁゆるーく見てください。


「よしっ!」

 

 意識を集中させ、肺に溜まった空気を体外へと吐いてゆく。拳を勢いをつけ、前へと突き出す。

 

「ふっ!」

 

 友奈のお父さんから教わった武術を一通り行う。意外とこの技の一つ一つがバーテックスとの戦いで役立っていることも少なくない。

 

「……」

 

 横では若葉が木刀を振るっている。彼女も日課である素振りを早朝からやりにきたようだ。道場にいるのは僕と若葉の二人だけ。

 

 拳を収め、道場の上座に向かって礼をする。一通りの鍛錬が終わると、横で素振りをしていた若葉から感嘆の声が上がる。

 

「相変わらず、大したものだな」

「そう?若葉の方がよっぽどすごいと思うけど……」

「そんなことはないさ。私だってまだまだだとも」

「謙遜しなくてもいいのになぁ。それに木刀振るっている時の若葉、凛としててすごく綺麗だったよ?」

「……」

 

 急に若葉が黙り込む。その顔は少し赤くなっているように見えた。心配になり顔を覗き込む。

 

「若葉?」

「な、なんでもないぞ。気にするな……はぁ」

「?、あ、そうだ!若葉、何か僕にやってほしいこととかない?」

「やってほしいこと?急になんだ?」

「いやさ、色々迷惑かけちゃったりしたから。その恩返しにでもと思ってね?」

「まだ気にしていたのか、特にはな……」

 

 突然、若葉の言葉が途切れる。少しの間をおいて、もう一度彼女は口を開いた。

 

「ならば、一つ頼んでもいいだろうか?」

「うん、いいよ!なんでもばっちこいだ!」

「そうか、私が頼みたいことはな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あれ?若葉ちゃんと洸輔くんがいませんね?」

 

「ついさっきどっか行ったぞ?」

 

「二人でそそくさと消えていったわ……(ムスッ」

 

「ぐんちゃんちょっと不機嫌?」

 

「そ、そんなことない……」

 

「って言ってる割には顔赤いな?(ニヤニヤ)」

 

「っ!ふん!!(ザクッ)」

 

「んぁぁぁ!?!?目がぁぁぁぁぁ!!!???」

 

「んー…二人で隠れて何をしているんでしょうか?杏さん、心当たりあります?」

 

「……デートとか?」

 

『え!?』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「…これが…この時代の結界…」

「すまないな。こんな頼み事で…」

「ううん、これが若葉の望むことなら」

「……洸輔…ありがとう…」

 

若葉の頼みごとは…彼女らしいと言えば…彼女らしいと思ったけど少し…複雑な気分だった。

 

それは…壁の外にいる大型バーテックスを調べて欲しいということだった。曰くもし未来で戦ったことがある奴なら僕に見せれば対処法が見つかるかもしれないということと、攻撃が通じるかも調べてほしいと頼まれたのだ。

 

僕が寝込んでいる間に千景、友奈、若葉で戦ったらしいが…結果は芳しくなかったらしい。ひとまず…動かずに停滞しているため、大社は様子見をするそうだ。(対処法がないだけだろうに…)

 

最初は皆で行くべきと思ったのだが…若葉に心配は掛けたくないと言われたので…危険を感じたらすぐ引くのを条件に頼みを受けた。

 

「じゃあ…行こうか」

「ああ…頼む…」

 

結界の中へと足を踏み入れる。すると僕の目に一番最初に入ってきたのは…………

 

「こいつは………」

「その反応、知っているみたいだな…」

「うん…よく知ってるよ…」

 

目線の先にいる大型バーテックス…あれはよく覚えている…言ってしまえば戦ったのだって何週間前とか前の話だ。

 

「…よし!とりあえず行きますか!」

 

近づいてきた星屑を剣で葬る。そのまま跳躍し、大型バーテックスへと近づいていく。

 

「これで……どうだぁ!!」

 

剣から白銀の衝撃波を放つ。しかし…その一撃は大型の装甲に微量の傷をつけただけだった。

 

「っ…けっこう威力高めなんだけどなぁ…」

 

相手を刺激しすぎないために、すぐに方向を変えて若葉の方へと向かう。

 

「洸輔!大丈夫か…?」

「ごめん、若葉…駄目だった。まだ…切り札も使えるけど…これ以上刺激すると…危ないね」

 

やつの強さは未来で嫌というほどに味わった。太陽のような火の玉を放出したり、自身を火の玉で包み込んで突撃してきたりなど…その強さは他の大型バーテックスを遥かに凌いでいた。

 

「奴のことについてはまた後で話す。とりあえず一旦ここから出ようか?」

「ああ…そうだな…」

 

そう言った若葉の顔は…暗かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

壁の外に出た僕と若葉は落ち着いて状況をまとめるために近くにあった公園のベンチへと腰を掛けた。

 

「とりあえず…あの大型の大まかな特徴とかは今話したのが全部だね」

「なるほど…。未来の勇者達でも…そこまで…」

 

ある程度の説明を終えて軽く一息つく。すると少し焦ったようすの若葉が…

 

「他には、何かわかったのか…?」

「あいつのことに関しては今話したのが全部なんだ…力になれなくて…ごめん」

「いや、いいんだ。それはそうと…さっき言ってた切り札とはなんだ?」

「ああ……切り札ね…言ってしまえば皆のと少し似ているかもしれない」

「…私たちの?」

「うん、ただ僕のはスマホに記録されたジー……精霊と一体化することによって力をデメリットなしでフルに使うことが出来るんだ」

「…つまり、私達のように宿すだけではなく…完全に同一化する…ということか?しかも…デメリットなしで」

「まぁ…そういうことかな」

 

あの装甲を破るためには…切り札の力は必要不可欠となる。だけど…彼女達のものは肉体と精神に負担が大きすぎるため…なるべく使って欲しくない。

 

「結論から言わせてもらうと…今は待って結界へと入ってきた所を叩くしかない。その時は…僕の切り札で迎え撃つ。皆には精霊を使ってほしくないからね…」

 

シグルドさんやジークさんに選ばれた僕にしか出来ないこと。それを成すために僕はここにいる。

 

「デメリットなしで……か。それが選ばれたということに繋がるんだな」

「…あっちで戦ったときも最後は精霊さんの力を全部借りたからね…」

「…そうか…大変だったんだな…未来も」

「まぁ…ね…」

 

会話が途切れて…二人で無言になる。すると…若葉からため息が漏れた。

 

「…待っていることしか……私になにか……」

 

その呟きを聞いて、僕は彼女に言葉を掛ける。

 

「一人で背負いこんじゃだめだよ?」

「………………」

「大丈夫、若葉は一人じゃないから。君が困った時は皆で背中を押す。そうやって助け合っていけばいいのさ」

 

僕としては…もっと彼女には息抜きを教えてあげたい。今回の頼みだって彼女らしいとは思う。でもやっぱり…楽しいこととかを頼んで欲しかったなぁと思った。

 

「洸輔……そうだな。私は…過去の出来事に囚われていた。だが皆との関わり合いや繋がりを得て…見えなかったものが色々と見えてきた」

「ま、僕も人のこと言えないけどね…」

「…どういうことだ?」

「一緒ってこと。僕もこの世界に来てから目的に囚われて…自分を見失ってた。でも…皆のお陰で取り戻すことができた」

「変な所で似ているな、私とお前は」

「はは…そうかもね」

 

二人で笑い合う。最初のころの僕ならこうやって彼女と話すこともなかっただろう。他のみんなとも…ね。

 

「さて、そろそろ戻るとしよ…っ……」

「おっと……まったく。やっぱり無理してたんだね?」

「気にせずとも…だ、大丈夫だ…」

「ああもう、言ってる側から!こうなったら…こうだ!」

「ちょっ!?こ、洸輔!?な、なにを!?」

 

言ってる側から無理をしようとする若葉を両手で抱え込み、笑顔を向けて彼女に語り掛ける。

 

「無理はしちゃダメ、若葉だって女の子なんだから」

「…お前というやつは…どこまで…」

「それじゃ行きますよ、お嬢様?」

「な、誰がお嬢様だ!誰が!?」

「いたっ!?べ、別に殴らなくても…」

 

なんとなくひなたが若葉に世話焼いている理由がわかった気がした。(てか…やっぱり力強い…)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はぁ……だから言ったんだ…お姫様抱っこはやめておけと…」

 

皆の元へ戻った私達は散々弄ばれた。(主犯はひなた…)洸輔は無意識にそういう行動を取ることが多い。

 

(私のことを…その…か、かわ、可愛いと言ってきたりとか…)

 

それに…彼と一緒にいると何故か胸の辺りが温かくなるのだ。ひなたや…皆といるときは違うような温かさが。

 

抱き抱えられた時に見た洸輔の笑顔を思い出す。

 

「…なんだろうな…この温かさは…」

 

胸に手を当てながら…私はそう呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「え?ちょっ…ひなたさん?」

「ふふ♪疲れたので休憩です♪」

「いや…まだ一言も…」

「いいじゃないですか。ほらほらもっとくっついてください♪」

「………………」

 

感情を無にして…無表情になる僕の横には…満面の笑みで僕に寄り添っているひなたがいた。

 

どうしてこんなことになっているかというと……

 

若葉と共に帰ったあと…ひなたに何があったのかを根掘り葉掘り聞かれた僕は話を逸らすために何か頼んで欲しいことはないかと彼女に聞いた。そんな彼女の頼みは……

 

『私の部屋でお話をしましょう!』

 

だそうです。なのに…何故でしょう…さっきからひなたは喋るどころか…ずっと満面の笑みを浮かべながら僕にくっついてきているだけだった。

 

(それだけならいいよ?それだけならね?でもさ、ほら、当たってるんですよ『あれ』が)

 

正直、理性を保つので精一杯。本当にきつい……へ?い、いや別にぃ、ひなた(美森に負けてない)の果実があたって嬉しいとかおもってませんから。いやマジで。

 

「私は基本的に近くに置いてもらえたらそれで満足です。便利な女ですよ?」

「ごめん、どういうこと?」

「さぁ、なんでしょう?」

 

 突然変なことを言い出したひなたは思わせぶりに笑うと、僕の肩に頭を預けてくる。

 

紫色の綺麗な髪の毛が頬に当たり…いい匂いが僕を包み込んでいく。その行動に僕の心臓がバクバクと跳ね上がった。

 

「ま、まって…ひなた…ち、近すぎるって…」

「ふふふ、散々昼間は若葉ちゃんとイチャイチャしてたんですよね?なら私ともいいじゃないですか?」

「べ、別にイチャイチャなんて…」

「…私なら…若葉ちゃんには出来ない…すごいことをしてあげてもいいんですよ?」

 

(す……すごい…こと…だと…!?)

 

耳元で囁かれた言葉に更に高鳴りが増し…反射的にひなたの方に顔を向けると…

 

「ふふ♪どうしたんですか、洸輔くん?」

「……なんでもありません……」

 

まるで僕の下心を見通してるかのような笑み。おかしい…同い年の筈なのに…ひなたが凄く大人に見える……。

 

「…か、勘弁してよ…ひなた…そういうのは…」

「洸輔くんの反応が可愛いので…つい」

 

そういって意地悪そうに笑うひなた。完全に弄ばれてるなぁ…勝てる気がしない…。

 

こんなの外でやったら…バカップルだよ…。僕だって見たらそう思うし…。

 

少し…間をおいてからひなたがこんなことを呟いた。

 

「切り札にデメリットがないからと言っても…一人で無理はしないでくださいね?」

「…なんのことでしょう…」

「さっき若葉ちゃんから聞きました」

「…むむぅ…若葉ぁ…」

 

ひなたは真剣な面持ちで僕の方を向いている。そのまま彼女は話を続ける。

 

「若葉ちゃん達に何かあったりしたら嫌です。でもそれを起こさないためにと…あなたが犠牲になったりするのも嫌です」

「ひなたは…優しいね…」

「誰かはわからなかったけど…神託の時にもっと踏み込んであげてくれと言われたので…」

 

神託で僕が?なんでだろう…?もしかして…あの青い鳥は…神樹様と関係がある?

 

「それが理由なんだね…」

「いいえ…それだけじゃありません。もちろん皆のことも大切です。でもそれと同じぐらいにあなたも大切なんです…」

 

真っ直ぐとした瞳で僕を見つめながらそう言った彼女に…胸が熱くなる。

 

「ひなた…前から言おうと思ってた…その、ありがとう」

「気にしないでください。私も…あなたに何度か助けられましたから」

「…なんか…ごめんね…僕…頼まれた側なのに…」

「大丈夫ですよ?私…洸輔くんと一緒にいるだけで楽しいですから」

「…そ、そうなんだ…」

「顔、赤くなってますよ?」

「か、からかわないでよ……」

「ふふ♪」

 

多分…僕はひなたに一生勝てないんだろうなと思った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「すぅ…すぅ…」

「…まさか寝ちゃうとは思いませんでした…」

 

あのあと膝枕に切り替え(渋々ながら)洸輔くんとその状態で雑談をしていた。

 

やがて…疲れていたのか彼の瞼は落ち始め、ゆっくりと眠りについていった。

 

(…ふふ…友奈さんから聞いていた通り…寝顔は可愛らしいんですね…)

 

自分の膝で寝息をたてている彼の頭を優しく撫でる。私は皆と一緒に戦えない…だから…こういう皆との時間を大切にしたいのだ。

 

「…あなたとも…もっと一緒に…」

 

撫でながらそんな言葉を呟く。すっかり私の心には洸輔くんへの…強い思いが宿っていたのだった。




まだまだリアルが忙しく…前のようなペースで投稿できなさそうです……。申し訳ございません。

それでも諦めずがんばりますよぉー!!

感想とお気に入り登録!お待ちしてます!


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第三十節 その手を繋いで

予想以上に内容に迷って遅れました…。ホントに申し訳ございません。

まぁ気を取り直して!今回は友奈&千景です、どうぞ!


「この服とかどうかな?」

「可愛いと思うよ?友奈の雰囲気にあってると思うし」

「えへへ~そうかなぁ~」

 

 その返答に友奈が笑顔を浮かべる。笑顔に少しドキッとしつつもそれを顔に出さないようにした。(多分、からかわれるから)

 

 僕達は今、大型ショッピングセンターに来ている。先日、友奈に何か頼み事がないか聞いた所、内容は二人でお出掛けがしたいということだった。

 

(……デートみたいだなぁ)

 

 かつての経験から学ばない洸輔なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕達が最初に向かったのは、可愛い服だけでなく雑貨も沢山並べられているお店だった。

 

 少し雑貨に目を向けていると、気になるものがあった。

 

「ん?これは眼鏡……か」

 

 考えてみたら、あの時以来からつける機会がなかったなと懐かしく思う。一人考え事に浸っていると、友奈が僕の方に寄ってくる。

 

「何か気になるものでもあったーって眼鏡?洸輔くんってかけてたっけ?」

「一時期かけてたんだよね。まぁ、ホントに一時期なんだけど」

「眼鏡かぁ〜折角だし、一回掛けて見ようかな?」

 

 友奈は近くにあったピンクの色が特徴的な眼鏡を掛けると上目遣いでこちらを見つめてくる。

 

「どうかな?」

「どうって、その……似合ってると思うけど」

「やった!」

 

 彼女の可愛らしい仕草に気恥ずかしくなり、目をそらしながら答える。何故か僕の返答に対し、友奈はガッツポーズをとっていた。

 

「今度は洸輔くんの番だね!」

「僕もかい?じゃあこれにしようかな?」

 

 近くにあった眼鏡を手に取る。久しぶりに眼鏡を掛けたが、違和感はなく寧ろ安心感すらある。と、一人悦に浸っているとジロジロと友奈がこちらを見ていることに気づく。

 

「えっと…どうしたの?」

「すごい似合ってる!?」

「あ、そ、そう?」

「うんうん!まるで眼鏡をつけるために生まれてきたみたい!」

「はは、ありがとう。そこまで褒められると悪い気はしないな」

 

 ちょっと買ってみても良いかな?とか思っちゃった僕でした。

 

 

 

 

 

 

 次に向かったのはバッティングセンター、ていうか、ホントにこのショッピングセンターなんでもあるな。

 

「よーし!かっ飛ばすぞぉ!」

「す、すご……ほぼ全部打ってる」

「まだまだぁー!!」

 

 約120キロのスピードで飛んでくるボールをほとんど打ってる横の女の子は何者でしょうかね。なんで、バンバンホームラン決めてるの?あの子?これは負けられないと、対抗心が芽生えてくる。

 

「僕も負けてられない!」

「ふふん!私に勝てるかなぁ?」

「そう強がってられるのも今のうちだよ!友奈!」

 

 と、息巻いたのはいいが…バットにボールは掠りもしなかった。こんなに運動音痴だったのか、僕は。

 

「ホワイ!なぜ、どうして!?」

「はーはっはっは、まだまだだね〜洸輔くん」

「ぬぬ…も、もっかい!もう一回勝負!」

「お、やる気だね。いいよ、何度でもかかってきなさーい!」

 

 

 その後、何度も何度も友奈に挑戦を続けたが…すべてのゲームで負けました(^o^)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友奈…強すぎる」

「自信あり!なので!ふふ、また来れたら勝負しようね!」

「あぁ、勿論」

 

 汗を拭いながら笑顔を浮かべる友奈。今日は彼女の笑顔をたくさん見る事が出来て、嬉しい。

 

 最初は、僕の個人的な理由で彼女と距離を取ってしまい、挙句彼女を傷つけてしまっていた。

 

(だから、少しでも)

 

 僕は幼なじみの友奈とは違う、高嶋友奈という女の子とも色々な思い出を作っていきたい、そう思った。

 

「……最後まで、出来る事を」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかったぁ〜今日はありがとね!」

「ううん、これくらいお安いご用さ。何より僕も楽しかったし」

 

 そう言って笑う洸輔くんに対し、私も微笑みを返す。彼の笑顔を見て安心する。

 

(ホントによかった)

 

 本当なら出会うはずもなかった男の子。でも、彼はこうして私の、皆の、傍にいる。

 

「洸輔くん」

「どうしたの?」

「手、繋いでもいいかな?」

「あ、あーとー……」

「お願い」

「そ、それじゃ、えと…よろしくお願いします」

 

 遠慮がちに洸輔くんが私の手を握る。二つの手が交わり、彼の温度が伝わってきた。

 

「……もう少し抵抗すると思ったんだけどなぁ」

「対抗しても無駄かなって……違う?」

「ううん!違わない!断られても握ろうと思ってた!」

「あはは、なんとなく分かってたよ。友奈の考えてる事」

 

 そう言った時の顔がとても嬉しそうで……私は、視線を奪われてしまう。すぐに一つの強い想いが私の胸に溢れてくる。

 

(私が守るよ。洸輔くんも、ぐんちゃんも…そして皆も!)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとまっ!あ!?」

「ふ、まだまだね?」

 

 空中で焦ったところを思いっきり吹っ飛ばされた。もう何回負けたのか…覚えてません。

 

「つ、強すぎるッピ……」

「一回休まない?、すこし可哀想になってきたわ」

「ふ、ふふふ、勝者の余裕かい?まだ、まだまだ、僕の心は砕けてないぞ(涙)」

「涙目で言われても説得力皆無なのだけど」

 

 友奈と出掛けた次の日こと、僕は千景に部屋へと招かれゲームで対戦をしている。なんというか、若葉と同じで……らしいといえばらしいかなと思った。

 

(にしてもさ、強すぎない?僕一回も吹っ飛ばせてないんですけど)

 

 千景が扱っているキャラクターは我らがピンクの悪魔様。対する僕は色々なキャラで挑戦しているのだが、一向に勝てる気配がない。

 

「千景ってさ、苦手なジャンルのゲームってある?」

「……あると思う?」

「まぁありませんよねぇ~」

 

 千景のドヤ顔なんて初めて見たと感心しつつ、ため息が漏れる。ゲームには自信があったのだが、ここまで勝てないとは。

 

「まぁ、動きはそんなに悪くないと思う。乃木さんよりはよっぽどね…」

「若葉……ん~なんかゲーム苦手そうだもんなぁ、あの子」

 

 「なんだこれは!?」とか言いつつあたふたしている姿が目に浮かぶ。でも、慣れると強そう。とは言っても、千景には全員で挑んでも勝てないんだろうなあと思った。

 

「それで?まだ、やる?」

「勝つまで!勝つまでやります!」

 

 そこから更に時間は経ち、何戦か交えたが…結局のところ勝てずに苦しんでいた。そんな僕に千景がこう切り出した。

 

「あの時に……そっくり、ね」

「……あぁ、あの時か」

 

 千景が言っているのは、彼女が塞ぎこんでしまった時の事だろう。僕が何度も家を訪れた、あの時の事を。

 

「あの時の貴方には、すごく腹が立った」

「まぁ、だよね」

「……でも」

「でも?」

「あの時の貴方は、真っ直ぐで…眩しかった。今だからこそ、思うわ…あの時の貴方は誰よりも勇者だったって」

 

 こちらの目を見据え、千景はそう言う。顔が熱くなるのを感じ、反射的に手で顔を隠してしまう。

 

「か、買い被りすぎだって。ぼ、僕は…自分が正しいと思ったことをやっただけで」

「買い被りなんかじゃないわ。実際、私はあなたに救われてるもの」

 

 千景は優しく微笑みながら、僕の手を優しく握った。手がやたらとぽかぽかするのは、恥ずかしさからなのか。

 

 頭が真っ白になる僕を他所に、千景は続ける。

 

「貴方は私が出会ってきた男の子の中で、一番カッコいい人よ。それだけは、私が保証してあげるわ。天草…洸輔くん」

「なっ…っ~~~」

 

 千景に褒められることがなんて滅多にない。だから、突然のべた褒めに対応できず、顔が沸騰しそうなほど熱くなった。直後、何故か千景はハッとした表情を浮かべた後、顔を赤くし握っていた手を離す。

 

「あ、えっと」

「っ!な、何も、何も、言わない、で……」

「で、でも」

「いいから!ほら、続き……やりましょう?」

「…分かりました」

 

 その後、二人で顔真っ赤にしながら対戦するという謎の空間が出来上がっていた。勝敗は……察して欲しい。

 

 コントローラーを握った手には、彼女の温度が未だに残っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 枕に顔を埋めて叫ぶ。こんな感情は初めてで、混乱してしまっている私がいた。

 

「確かに…ほんの少し、ほんの、少しだけ、かっこ…いいとは思う、けど」

 

 実際の所、彼に言ったことは事実である部分は多い。彼は…私を変えてくれた人だから。

 

「今の彼は…私にとって高嶋さんと同じくらい」

 

 いや、もしかしたら。この胸に溢れる想いは、それ以上の────。

 

「……どうしてくれるのよ」

 

 彼の温度が残っている手を胸にあて、一人でそう呟いた。

 

(責任、とってもらうわよ……天草くん)




高嶋ちゃん&千景ちゃん可愛いぃぃぃ!!!!そして、そろそろのわゆ編もクライマックス!頑張りますよぉ!


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番外編 甘い夢『THE・西暦』

先にこっちが仕上がったので投稿しました!遅れてすいません!

本編は明日あげられると思います!

そしてartisanさん!高評価ありがとうございます!応援してくださっている皆さんの為にも、これからも頑張ります!

今回はあれの西暦版です!


「まさかだよね…?」

 

呆然と呟く。僕の目の前に映っているのはいつぞやに目にした見慣れない天井…その時点でなんとなく察せてきた。

 

(これは…もしや)

 

『あの時』と一緒なら、僕の横には多分誰かがいるはず。恐る恐る視線を左側へと流していくと…生まれたままの姿のひなたがいた。

 

(やっぱりか!?あれ?なんか…右側からも温もりを感じるのはなん…)

 

疑問に思いながら、反対側に視線を向けるとひなたと同様の状態で寝転がっている杏がいた。

 

(オーマイガー…てか欲張りすぎだって!?アホか!?アホなのか!?僕は!?)

 

あっちで見た夢だって十分欲張った内容だったのに…それを越えてくるとは、まったく…男ってのは大変だぜ!

 

でも、そりゃ見るよなぁ。だって西暦の皆も勇者部の子達に負けないくらいの美人揃いだし、こういう夢を見ちゃうのもしょうがないかもしれないんだけど…

 

(前回で懲りないんかい!!)

 

それだけは間抜けな自分に突っ込みをいれたかった。前に似た夢を見たとき…(現実で)苦労したなぁ…。

 

「そう、もう寝ればいいんだ…それで丸く収まる」

 

二人とも起きる気配がないため、同じ失敗を繰り返さないためにも早めに目を閉じようとする。しかし…

 

「…ふふ♪」

「ん…んん…」

「ひぃ!?」

 

突然二人に左右から抱きつかれる。同時に僕に対して彼女達の素肌と柔らかな膨らみが押し付けられて半分恐怖するかのような叫び声をあげた。

 

(ちょ、ちょっと待った!ひなたがその…メロンパンなのは一目瞭然だけど…杏もそ、それなりにあるんだが!?)

 

新たな発見に驚きを隠せない僕に二人は(理性に対しての)攻撃を緩めない。

 

「逃がしませんよ?洸輔くん」

「…もう離しません…私の王子様…」

「ちょ、二人とも……うぅ…」

 

二人の甘い囁きと吐息が僕の耳を侵食していく。このままではまずいと思考を切り替えようとするが、ちらほらと触れる彼女達の素肌にそれを妨害されてしまう。

 

(こ、これは…まずい…理性が…)

 

理性が削られていく中…追い討ちをかけるかのように二人が服に手をかけて…上着を脱がせると指を使い僕の上半身をくすぐる。その刺激に顔が歪む…それを見てひなたは心底楽しそうに呟いた。

 

「ふふふ…体がビクッてした時の洸輔くんの顔…可愛いですよ…ね、杏さん?」

「はい…ずっと見ていたいです…」

「…も、もう…やめ…て…」

「嫌です♪もっとぉその顔を…見せてください…ふぅ…はむ」

「あぁぁ…」

 

もう既に理性崩壊一歩手前にきている僕に杏がさらなる追い討ちをかけてきた。耳を湿った感触が支配していく…そんな杏の行動を見たひなたはこれまた楽しそうに微笑むと。もう片っ方の耳を口に含んだ。

 

「ふぁ…あぁぁ…」

「…可愛い…もっといじめたくなっちゃいます…」

「…だ、だめぇ……」

「ビクビクしながら…抵抗する洸輔くん…ああ…何かに目覚めてしまいそうです…」

 

顔が沸騰寸前くらいに…熱い。このままじゃ…あの時の二の舞になるのが目に見えている。

 

いくら夢だからといっても…そういう関係になっていない女の子達とそういうことするのはホント!まずいから!

 

「ひ、ひなた!杏!落ち着いて!考え直そうよ!?ね!?」

「…そんなに我慢しなくてもいいんですよ?だれも止めませんから…ほら…手を貸してください…」

「へ?…!?!?!?!?」

 

ひなたに無理やり手を捕まれ…引き寄せられた先には…とても温かく柔らかい感触が伝わっていた。瞬間…僕の思考能力は完璧に停止した。

 

「どうですか…洸輔くん?気持ちいいですか?」

「…あ…ぁぁ……」

「ふふ♪これからもっと気持ちいいことがまってますからね?」

「そうですよ?洸輔さん…三人でもっとすごいことしましょう?」

「ふ、二人とも…だめ…だめだからぁ…」

「さぁ…」

「洸輔さん…」

『三人でもっと気持ちよくなりましょう?』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!って……よかった…夢だった…いや寧ろ夢じゃなきゃおかしいわ…あんなの…」

 

目が覚めて周りを見渡すと寮にある自分の部屋だとすぐに理解した。

 

「はぁ、まずいな。あんな夢を見てしまうとは……煩悩とは何とも恐ろしいも」

『おい(怒)』

「……え?」

 

両肩に重みを感じる。おかしい……この部屋には、僕以外誰もいないはず。なのに、両肩には手がのっかっている。

 

首がギギギと音をたてそうな動きで振り向くと、鬼の形相でこちらを睨み付けている若葉と球子がいた。(これは、恐らく死ぬやつである)

 

「…………えっと、なんで二人がここに?」

「中々教室に来なかったお前を心配したひなたの頼みで、起こしにきた」

「じゃあ、タマコサンハ?」

「いたずらしてやろうかなと思ってきた」

「そう、ですか。えっと、じゃ、じゃあ……学校に行く準備するから、その、ね?腕を離してくれると嬉し……あいたたたたた!?」

『なぁ?夢の中でひなた(杏)と何があったのか……詳しく聞かせてもらおうじゃないか?』

「ち、違うんだ!ぼ、僕はどっちかっていうと被害者で……い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その後、二人によって注意(鉄拳制裁)され再起不能にされ、一日中ひなたと杏を前にするとキョドったりしたりを繰り返し、災難な日となったという。男の子の皆、気をつけよう!




僕も夢でいいから美少女に囲まれたい…(気持ち悪いからやめろ)

まぁそんなことはおいといて、次は本編で会いましょう!それでは、また!(感想まってまーす)


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第三十一節 終わりが来るまで

このあとからがのわゆ最終決戦編に突入です!

そして、TOアキレスさん!高評価ありがとうございます!

それでは!本編に参りましょう!


「一番乗りー!」

「まいったまいった……本調子の友奈は速いねぇ」

「まったくだ、入院前と遜色ないな」

「ま、タマは本気じゃなかったけどな!」

「あ、あなた達……ホントに走ったのよね…?」

「…やっぱり、走るのは、はぁ…きついです」

 

 走り込みを終え、皆で一息つく、元から運動得意組の僕を含めた四人はまだまだ行けるくらいの状態だが……千景と杏は少し辛そうに呟いていた。

 

 こんなことをしているのは他でもない。ひなたが数日前に受け取った神託、バーテックス達の総攻撃に備えての準備のためだ。

 

「そういえば、皆は聞いた?」

「ああ、大社の計画ってやつか」

「壁の強化…でしたっけ」

「そう!それそれ!」

 

 大社から告げられた対策というやつだろう。確か…壁の結界の強化がされて、バーテックスが入ってこなくなるという。

 

「だが、もう一つの対策というのを私達は勿論、ひなたにも伝えられていない」

「相変わらずのだんまりかぁ~」

「……これ以上隠して、何になるのかしらね」

 

 二人の呟きはもっともである。実際に、ここまで大社は様々なことを隠蔽していたのだから。少し雰囲気が暗くなりかけた所に、友奈の元気な声が響く。

 

「まぁでも!次の戦いに勝てば、平和になるってことだよ!」

「友奈の言う通りだな、ひなたも巫女として頑張っている。今、私たちは勇者として次の総攻撃の事を考えよう」

「そう、ね。終わりが見えてきたんだもの……」

「よっしゃ!気合い入ってきたぞぉーもっかい走り込みいってくる!」

「…わ、私も頑張ります!」

 

 今までは果ての見えない戦いだった。けど、今の僕らに終わりが見えてきている。尚更、彼女たちも気合いが入っているのだろう。

 

(この総攻撃を乗りきって、壁が強化されたら、され……たら?僕はどうなるんだ?)

 

 あの青い鳥は『全てが終わったら』と言っていた。その全てとは、一体どこまでの事を言っているんだろうか?

 

(…もしも、その全てっていうのが、総攻撃を乗りきり壁を強化されるってところまでなら……僕は)

 

 けど、それを知る術を僕は持っていない。俯きながら考え込んでいる僕を心配してから、若葉と友奈がこちらを覗き込んでいた。

 

「洸輔…?大丈夫か?」

「あ、うん…大丈夫だよ」

「ん〜?何か悩みごとあったり?」

「悩みごとってほどじゃないさ、ちょっと……考え事してただけ」

 

 元の世界に戻るのが、嫌な訳じゃない。でも……その時が来て、西暦の皆と会えなくなってしまったら……僕は。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 ため息をつきながら、ベッドに倒れこむ。右手の中には、友奈からもらった押し花を握っている。

 

「なんで、だろうな……最初は元の世界に帰らなきゃって躍起になってたのに」

 

 一時期は目的に囚われて、おかしくなったりもしたのに終わりが見えてくると。その『終わり』を寂しく感じている自分がいる。

 

 神世紀には勇者部があり、とても大切な人達がいる。辛いことや苦しいこともあったけど……それ以上に皆といられることがすごく嬉しかった。

 

 そんな自分の居場所に戻れるかも知れないのに……何故か、僕の心はざわついている。

 

(っ……僕は)

 

 頭を抱える。今の僕には、そう簡単に割り切ることはできないほどに彼女達の存在は大きくなっていた。

 

 そこに、優しい声が頭の中に響いた。

 

『迷っているのか、少年よ』

 

 迷っているん……だと、思う。今の僕にとっては西暦の皆がいるこの世界ももう一つの居場所のようなものだから。

 

 苦しいこともあった。でも、それだけじゃなくて楽しいこともあって……勇者部の皆ほど長くはなくとも、彼女達と過ごした時間はかけがえのないものだ。

 

 しかし、それだけ色んなことを思っていても……僕の中に浮かんでくるのは一つの考えだけだった。それが果たして正しいのか。今の僕にはわからない。

 

『それが君にとっての答えなんだろう。ならば、今はその答えが正しいかどうかではなく、それがどれだけ「自分らしい」か、それが重要なんじゃないか?』

 

 『自分らしさ』……か。

 

 なら、僕に出来ることは決まっていたのかもしれない。

 

(終わりは、きてしまうのだろう。ならせめて、後悔だけはしないために)

 

 自分を殺し、目的に囚われたままの状態で戦うのではなく、自分にとって大切なもの…守りたいもののために拳を、剣を握るんだ。

 

『ああ…それでこそだ。その想いこそ俺や彼が君という人間に力を貸した理由なのだから』

 

 その言葉を最後に声は途切れる。瞬間、瞼が重くなり……僕はゆっくりと眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ー次の日の教室ー

 

「ぬぉぉぉタマにだって本くらい読めるわぁぁぁ!!」

「なんで奇声をあげながら本を読むの!?」

「…土居さん…いい病院を紹介するわよ?」

「千景はもう少しタマへのあたりを優しくしてくれてもいいんじゃないか!?(泣)」

 

 奇声をあげながら本を読んでいる(?)球子に対して杏、千景と反応している。そんな微笑ましいはずの光景を僕は複雑な気持ちで見ていた。

 

「や……やっと、読み終わったぁ~」

「お疲れさまです、友奈さん。では次はこちらを!」

「ひぇ!?ま、まだこんなにあるの!?」

「これは……ご、拷問に等しいな」

 

 同じく、友奈や若葉も本に目を通していた。今皆が読んでいる本は様々な伝承が詳しく載っている。皆がそれを読んでいるのは単純なことで…精霊に対しての理解を深めるためだそうだ。

 

 ひなた曰く、様々な文献に触れ精霊のイメージを強く掴むことにより強力な精霊を身に宿しやすくなるそうだ。また今までに憑依させた精霊を効率的に宿せるという利点もあるらしい。

 

(必要な力。それは分かってるんだけどな……)

 

 彼女達が精霊を憑依させるのはリスクが大きすぎる。纏えば肉体、精神を蝕まれるという諸刃の剣。対して僕のは、ノーリスクで発動できる切り札ならば。

 

「どうしたんですか?」

「あ、いや、別に。ただ、その……読まなくてもいいんじゃないかなって〜」

「もしかして、私達が精霊を使って無理をすることを気にしてるんですか?」

「うっ……」

 

 図星だ。杏に考えていることを読まれ、顔を強張らせた僕に球子が笑いながら背中を叩いてくる。

 

「なんだ、そんなこと気にしてんのか?洸輔ばっかりに任せておけないだろ!」

「そんなことって……だ、だって皆のは!」

「全く。無理をしないことと、何もしないってのはイコールじゃないでしょ?」

「……」

 

 千景の言葉に何も言えなくなってしまう。いつの間にか横にきていた若葉が僕の肩に手を置いて言う。

 

「私達も無理をする気はないさ。ただ、もしもの時を想定しやれることはやっておきたいと思ったからな」

「そうだね!それに洸輔くんにはいっぱい守ってもらったから、今度は私達が守るよ!」

「若葉、友奈……」

 

 皆が僕に視線を向けてくる。視界に映ってくる皆の表情は……決意と覚悟に満ち溢れていた。僕は顔を片手で覆いながらポツリと呟く。

 

「まったく…ホント僕の周りにいる女の子は強い子達ばっかりで困るよ。男の面目丸潰れじゃないか」

 

 単純なことだったのだ。僕は皆がそんな危機的状況にならないよう今の自分に出来る全力を尽くせばいい。

 

「当たり前だろ!タマは洸輔より断然強いからな!」

「はいはい、そうだね。強い強い」

「あ、今絶対頭ん中でバカにしたろ!」

「まぁまぁタマっち先輩、ほら本読もう?」

「あ、高嶋さん。その…一緒に読まない?」

「いいよー!ぐんちゃん!ほらほら洸輔くんも!」

「僕も?しょうがないな」

「ふ、さて私も次の本に…」

「はい!まだこんなにありますからね!」

『まだあったの!?』

 

この世界で出会ったかけがえのない大切な人達を『終わり』がくるまで…僕は守って見せよう。




ゆゆゆいで高嶋さん出ちゃったぁー!!(自慢)

ふぅ…こっからはホントに未知の領域だな。さていっちょやってみっかぁ!

それでは!また!


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第三十二節 重なり合う想いと力

随分遅くなって申し訳ありません!

まずひとつ!お気に入り200突破ありがとうございます!一話あげてから約5ヶ月になりますが……まさか、こんなに沢山の方に見てもらえるとは、涙しかでねぇ。

では、本編です。いっぱい詰め込みました!


「……ふわぁ〜」

 

寝起きの僕の耳に響いてくるのは、時計から発されているアラームではなくスマホから響いている音だった。

 

「来ちゃったな……」

 

このアラームが来たということは答えは一つ。ひなたが神託でうけていたバーテックスの総攻撃が起きるということだ。

 

「皆、行ってくるよ。こっちで出会った大切な人達を守るために」

 

お守りである押し花を握りしめながらそう呟く。どんなときでもこれは僕と皆を繋いでいてくれた。

 

『いつも一緒だからね!』

『大丈夫、あなたは絶対負けないわ』

『私達も付いてるんだから』

『洸輔さんなら、きっとできます!』

『しょうがないわね。力、貸してあげるわ』

『こうくんなら絶対大丈夫〜』

 

今だって皆のことを近くに感じている。どんなに離れていたって心の繋がりだけは途切れない。

 

「ありがとう、絶対負けないから」

 

準備が終える頃には、僕のまわりを見慣れた光が包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おはよう、皆」

「なんで…お前らそんな元気なんだよ…タマは眠くてタマんないのに…」

「た、タマっち先輩!起きて!」

「まったく…時間を考えてほしいものよね」

「よし!皆で乗りきろうね!」

「ああ、行こう」

 

勇者装束を身に纏い皆と合流する。その樹海はひどく静かだった。今からバーテックス達の総攻撃が起きるなんて思えない程に。すると…

 

「お出まし……みたいね?」

「大型は六体いる。ホントに総攻撃って感じだ」

「でも、若葉さん達が言ってた超大型はいないみたい」

「完成していないのか?いや、今は目の前のことだな。洸輔、奴らについて分かっていることはあるか?」

 

若葉の問いに答え、皆に一体ずつの特徴を伝えていく。情報を知っているだけで防げる事態だってあるはずだ。

 

「行くぞっ!」

「絶対、皆で生きて帰ろう」

「うん!」「勿論よ……」「はい!」

「よっしゃぁ!この旋刃盤りぺあたいぷ?の力見せてやるぞ!」

 

球子は前回の戦いで武器である旋刃盤が破壊されてしまった。そして…それを補うためと大社から彼女に手渡されたのは、システムに残されたデータを元に補修・修復した盾だった。

 

皆それぞれの返事が終わったと同時に大型達も動き出す。まず牽制としてか、爆弾と共に星屑が僕らの方に飛んでくる。

 

「……はぁっ!」

「勇者パーンチ!!」

「行かせません!」

 

各々が事態に対して対処していく。そして、僕は大型が皆に近づく前にと跳躍する。

 

今回の作戦は僕が提案した。彼女達が大型を倒すためには精霊の力が必須になる…だから基本は僕が前に出て戦う。

 

(皆には悪いけど、精霊を何回も使わせる訳にはいかない)

 

「皆は周りの奴らを頼む!僕は奴らの相手を!」

「相手は、六体だぞ!?私達も!」

「わかってる、でも、だからこそ僕が行くんだ!」

 

若葉の言葉に対してそう返し六体がふんぞり返っている方向を睨み付ける。

 

「行くぞ、化物ども!僕が相手だ!!」

 

バルムンクの刃に銀色の波を纏わせながら六体の大型の方へと向かう。

 

(皆で、生きて帰るんだ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、覚えている!」

 

飛ばされてきた爆弾を全て切り落としていく。その攻撃はあっちでも体験した。

 

「っ!……それも、もう見切ってる!!」

 

蝎バーテックスが僕のガラ空きになった背中目掛けて針を飛ばしてきた。それを紙一重でかわして長剣で切り落とす。と、同時に爆弾をばら撒く奴との距離詰める。

 

「道を、譲れッ!」

 

流れのままに、本体を一刀両断し、他のバーテックスにも迫っていく。反射盤を張り攻撃を防ごうとするバーテックスを標的にし剣ではなく拳を構える。

 

「立ちはだかる壁はぶち破る……友奈直伝!勇者ぁぁ!パーンチ!!!!」

 

拳を強く握りしめ、思いっきり腰を捻る。蓄えられた力を束ねられた反射盤に向かって一気にぶつけると、板は全て砕けちり、バーテックスに拳が突き刺さった。

 

(勇者になってから……どんだけ、戦ってきたと思ってるんだ。戦い方は、体に染み付いてるんだよ!!)

 

バーテックス達からの波状攻撃を紙一重で避け……さらに思考をフル回転させながら異形達の攻撃に対応していく。

 

(防御っ!……は間に合わない)

 

「……なら!!」

 

剣に力を込めて刃に纏われている波の威力を更に上げた。範囲も広がり矢を撃ち落としながら本体に迫る。しかし、全て落としきれてはおらず……体に、かすり傷が生まれていく。

 

(蝎の針だけ警戒しておけばいい。それ以外は直撃を受けない限り気にする必要はない……一つでも、多く最善手の攻撃を繰り出し!一歩でも多く奴らの懐に踏み込め!)

 

「っ…ぁ…っ!こんなの、どうってこと!ないっ!!」

 

生と死の境目を駆け抜ける。第二波が発される前にと一気に間合いを詰め横に剣を薙ぎ払いながら、バーテックスを両断する。攻撃の雨は止まない。

 

着地のタイミングを狙って再生させられた尻尾が、こちらに飛ばされる。即座に、剣先に力を込めて、白銀の波を乱暴に横に向けて放出すると蝎の体勢が崩れる。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

勢いを殺さずに蝎を屠る。無理に体を動かしつづけていたせいで息が荒れ、体も悲鳴を上げている。それを吹っ飛ばすように、雄叫びを上げながら近くにいた二体にも剣を振るう。

 

「こ、れでぇ…最後っ!!!」

 

威力が底上げされた剣は、その二体を一瞬で塵へと変えた。

 

「はぁはぁ……」

 

頭をフル回転させ…同時にそれについていくように無理に体を動かし続けたからか…いつもより疲れが表に出ている。もしこいつらが御霊を宿していたなら危なかった。

 

「でも、これで…」

 

剣を地面に突き刺し体を支えながら周りを見渡す。これで、戦いは終わったはずなのだが……多少の違和感に気がつく。

 

(待て。おかしい……僕が倒したのは、五体!?も、もう一体はどこに……)

 

気づいた頃には遅く、視線の先には地面から這い出ていき後方にいた皆に襲いかかっているバーテックスが見えた。

 

「くそっ!!一杯一杯だったなんてのは言い訳にならない!」

 

すぐに彼女たちの方へと向かうために跳躍すると突然現れた星屑が僕目掛けて一斉に飛んでくる。

 

「…邪魔だぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「くっ……」

 

いつの間にこちらまで移動してきていたのか。地面から突然現れてきたバーテックスに皆が吹き飛ばされた。私は間一髪の所で近くにいた乃木さんに背中を押されたお陰で逃れられた。

 

(動けるのは私、だけ)

 

天草くんは、五体の大型を相手していた。なら一体くらい、私がやってみせる。神樹様の方に向かっていく化け物に視線を向ける。

 

(ごめんなさい、天草くん。あなたが、私達の為にそうやって前に出てくれているのは……わかってる)

 

「私だって、皆を、あなたを……!」

 

呟きながら…本で見たある伝承を頭の中で呼び起こす。選んだことに大それた理由はない…ただどこか似ていると思った。

 

精霊を纏う際に必要なのはイメージ。さらに、強い力を得るために念じる。

 

目を見開き、私はその名を叫んだ。

 

「来なさい、玉藻前!!!」

 

纏う精霊は七人御先とは比にならないほど…高位のもの…それは私を飲み込もうとしてくる。

 

『あなたが、そこまでする必要があるんですか?』

 

「ふっ……今さら、何言ってるのよ」

 

前までの、私なら飲まれていたかもしれない。でも、もう負けはしない。だって誓ったから、どんなに傷ついても辛くても……離さないと。

 

乃木さん、上里さん、土居さん、伊予島さん、高嶋さん、天草くん、皆がいる居場所を守るために戦う。

 

(その想いがある限り、私はもう負けない)

 

装束の色が変化する。本来の赤色はなくなり、どこか儚さを感じる青を基調とした和装を纏った。

 

狐を思わせるような耳と尻尾が生えてきている。

 

鎌は色もそうだが、どこかいつもと違うように感じた。

 

「う……ううん。ちょっと油断しちゃったなぁ……って!ぐ、ぐんちゃん!?そ、それって!」

「高嶋さん、皆のことお願い」

 

それだけ言って、空中を浮遊しながら移動しているクラゲのようなバーテックスに近づいていく。

 

「止まりなさい」

 

何か呪詛のようなものが刻まれている札をかざす。瞬間、氷の呪術が発動し化け物の動きを止めた。

 

「どう?化け物には分からないでしょう?この力……」

 

氷結によって動きを止めているのを利用しさらに距離を詰めていく。

 

「確かに、人間は……弱いかもしれない」

 

追い討ちと言わんばかりに三枚の札を取り出してそれを敵の本体に投げつける。

 

「でも、大切な人達との心の繋がり……守りたいと思う心、それがあれば、何度だって立ち上がれるのよ」

 

(それらを私は彼から、皆から、教わった!)

 

瞬間、こちらに向かってくる天草くんが見えた。

 

「千景、一緒に!」

「……合わせなさい」

 

炎の呪詛…そして私達の同時攻撃を食らった化け物はゆっくりと消滅していった。

 

 

 

 

 

皆の無事を確認し…合流する。すると私達に向かって天草くんが頭を下げてきた。

 

「ごめん…、僕が取り逃がしたから」

「気にしなくていい。あれだけの数を相手してくれたんだもの……仕方ないと言えば仕方ないわ」

「すまなかった。二人とも、リーダーの私が……」

「あなたの咄嗟の判断のお陰で、私はあの場で動けた。それで十分よ」

 

似たもの同士もここまで来ると呆れる。この二人は、一人でどうにかしようとするところがとても似ている。言葉を掛けていると高嶋さんが心配そうに顔を覗かせた。

 

「ぐんちゃん、体は大丈夫?」

「大丈夫、上里さんから借りた本の知識のお陰かしらね……」

 

少しズキズキとくる体の痛みを我慢しながら答えていると横にいた伊予島さんが辺りを見回し怪訝そうに呟いた。

 

「なんか……静かですね」

「端末からも確認したが、敵はいないようだ」

「でも、まだ樹海化解けてないぞ?」

「多分……あいつが残ってるからだと思う」

「ああ、あなた達が言ってた。超大型ってやつね」

 

呟いたと同時に、それは壁から姿を現した。今ままでの大型とは、強さも大きさもレベルが違うと見ただけで分かる。それほどの異常性をあれからは感じた。

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、光が一瞬で視界を覆い尽くした。

 

「離れてっ!!!!」

「ぁ…」

 

声が響いたと同時に体が後ろに飛ばされる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『来るぞ!!』

「離れてっ!!!!」

「ぁ…」

 

頭に響いてきた声が聞こえたとほぼ同時に横にいた千景を押して剣を前方に向かって構える。

 

「っ…ぐっ!あああああああ!!!!!」

 

腕に尋常ではない負荷が懸かる。あの世界では満開状態の勇者が五人がかりで止めることができた…それを今は一人で支えている…体が変な音をたてているのだって不思議じゃない。

 

「あ、天草くん!!」

「に…逃げ…て…時間を…稼ぐことすら難しい…っ!!」

 

もし…ここで一瞬でも緩めれば僕を呑み込んでそのまま後ろにいる皆に当たってしまう。そうなったら…

 

(それだけは…それだけは!させない!!)

 

しかし、それの威力は弱まらず…どんどん押されていく。その度に体の一部一部が悲鳴をあげる。

 

(くそっ……バルムンクを使うしか…)

 

「やるしか、ない!!バル…」

 

追い詰められ、切り札を使おうとする僕の頭に先ほどのものとは違う声が響いてくる。

 

 

 

 

 

『「俺」のこと忘れてねぇか?』

 

 

 

 

 

「!?」

 

その声の主は…もうひとつの僕の側面のもの。

 

『一応、お前と一緒にいるはずなんだがな』

 

何故か体から力が沸いてくる。さっきまで軋んでいた肉体が少し和らぐ。

 

『お前は……もう、闇を受け止めてる。なら力は一つじゃねぇだろ?英雄から受け継いだ物だけじゃない』

 

それは、つまり?

 

『自分自身の力があるだろ?ま、人間が誰しも持ってる醜い部分のもんだが』

 

確かにそうかもしれない。でも、それが欠けていても人間は駄目なんだ。

 

『なら、あとはわかるよな?』

 

うん、行こう!『僕』!!

 

『そうこなくっちゃな。行くぜ、相棒』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

装束が黒いものへと変化していく。それは剣も同様、だがそれだけではない…完全にではないが…体に力が戻ってくる。

 

(完全に消し去ることができなくても、弱めることはでき

る!)

 

「弱まれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

剣を黒い波が覆っていく。それは普段のものよりも強力なもののように感じるのは…竜殺しの英雄と僕という人間の力本当の意味で合わさったからだ。

 

(ここだ…!!!)

 

段々とそれが先ほどまでの威力よりも弱くなっているのを確認し…その一瞬を狙って、近くにいた千景と若葉の手を掴んでその場から脱出した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ここまでくれば…一旦落ち着けるかな」

「こ、洸輔さん…大丈夫なんですか?さ、さっきの…」

「少し痛むけどこれくらいなら大丈夫さ」

 

火の玉バーテックスからの攻撃を一時的にとはいえ凌いだ僕は…みんなと共に身を潜めていた。

 

正直…危なかった。闇の力を宿して…いなかったら火の玉に存在を消されていた。僕だけではなく、後ろにいた皆も、体に走る痛みと流れている血がそれを物語っていた。

 

「奴の強さ…今ままでのものと桁が違いすぎる。あれは一体…」

「あれは…最初に出てきた奴と決定的に違うところがあるんだ」

「…どういうこと…?」

「奴には…御霊があるんだ」

「御霊????何だそれ?」

 

よく分からないと首を傾げている皆に、御霊がなんなのかを説明する。あいつは僕らの世界で戦った敵と行動パターンは一緒だった。

 

しかし…大きさがあっちよりも数倍ある。それに、ただでさえ脅威だった火の玉も比例するように大きくなってたし…。

 

(先に…あの大型達を倒しておいてよかった…もし合体されたりしたら…)

 

「…奴は今までのバーテックスとは強さが比にならない、ということか?」

「うん、あるかないかで…強さも変わる」

「そ、そんな…」

 

皆の顔が曇る。僕としては…御霊ありとわかっただけで十分だった。どちらにせよ…切り札を僕は残している…。だから…

 

「そんな顔しないで、僕が倒すからさ」

「倒すって…ど、どうやって!?」

「この姿になったお陰で切り札を温存することができた…ならあとは、御霊を引きずり出し…破壊するだけ」

「一人で…やる気なの?」

「今回ばっかりは…危険とかそういう話の次元じゃないんだ。もし一発でもまともに受けたら…皆は…」

 

(それで死んでしまったら…意味がないんだ…)

 

封印の儀を皆に協力してもらう…案として浮かんできたはいいものの…それはあまりにもリスクが高すぎる。

 

「洸輔さん」

「…何、杏?」

「他に方法があるんじゃないんですか?」

「どうしてそう思うの?」

「確証はありません。ただ口調から何かあるように感じたんです」

「……あったとして…どうするの?」

「やるに決まってんだろ!そのためにここにいるんだからな!」

 

相変わらず図星をついてくる杏と、その横で旋刃盤リペアタイプを叩きながら笑顔で言い放つ球子。

 

「洸輔が未来から私達を守るために来てくれたのは知っている。だが…ここは私達の世界なんだ。なら自分たちの居場所を私達にも守らせてくれ」

「若葉ちゃんのいう通りだよ!それに、守りたいのは世界だけじゃない!ここにいる皆もなんだから!」

 

刀の持ち手を強く握りながら呟く若葉、そして拳を握り締め力強く言いきった友奈。

 

「そこには…貴方も含まれてるってことよ、天草くん。それに言ったじゃない…もしもの時を想定しているって…その時が…きたんじゃないの?」

 

最高位の精霊を纏った千景が真っ直ぐな瞳で僕を見据えながら言ってくる。

 

皆の言葉に動かされた僕はゆっくりと口を開く。

 

「…危険な賭けになるよ…?」

「構わない、むしろ賭けるくらいでなくては奴に勝てないだろう?」

「もう…覚悟は出来てます!」

「やるぞぉ!そのためにこれを貰ったんだからな!」

「…この力…皆のために…使う」

「こっからが本番だね!」

 

(…やってやる。この世界の皆と…もうひとつの居場所を守るために…)

 

未来の勇者と西暦の勇者達の想いは重なり合い力になる。




誤字があったりするかもしれません。その場合は報告お願いします!分かりにくい描写の部分は皆さんのイマジン力で補ってくれると幸いです。(作者が文才が無さすぎるので…)

感想待ってまーす(^o^)

今年の投稿は…どうだろう。もしかしたら…あるかもしません( ̄▽ ̄;)


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第三十三節 過去も未来も繋いで

遅ーーーーーーーーくなった今年一発目は奴とのラストバトル!!!


明けましておめでとうございます!そして今年もよろしくです!


「でかいの来るよ!」

「ああ!!」

 

前方から放たれてきたレーザーを避ける。横にいるのは人には決して生えるはずのない黒い翼を羽ばたかせながら、回避している若葉がいた。

 

「すごいね、その精霊は…スピードだけでいったら僕より全然上だよ」

「まぁそれもあるかもしれないが、奴の動きが鈍重だからという所もあるんだろう」

 

若葉の言う通り、あいつは一発一発の攻撃は強力だ、それこそ当たったりしたら一瞬で即死するのは目に見えている。

 

「確かにね。それが奴の弱点でもある」

「鈍重ゆえ懐に入りやすいと言うところだな」

 

今の攻撃が当たらずに僕ら、二人が健在なのを見た超大型が体を二つに分けた瞬間…それと、同時に炎を纏った星屑が距離を積めてくる。

 

「洸輔の言っていた通りだな」

「うん、じゃあ僕らは役目を果たそうか」

「そうだな。よし…行くぞ!洸輔!!」

「了解!!」

 

若葉が横で刀を構えている中で、僕も漆黒に染まった剣を握る。その剣からは禍々しい光が放たれているが不思議と恐怖はない。

 

(ただ受け入れるだけじゃない…自身の闇を受け止めるんだ)

 

「お前たちの相手はこっちだ!!!」

「来い!化け物共!!!」

 

二人の声が樹海に木霊する。もうすでに勇者たちの賭けは始まっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「二人が相手側の注意をひきはじめました」

「よし!それじゃ行くか!」

 

タマっち先輩の掛け声で、私だけじゃなく友奈さんと千景さんも動き出す。

 

動き出したと同時に作戦の内容を整理する。

 

まず、あの超大型を倒すためには封印の儀というものを行わなければいけないらしい。御霊を持った敵はそれをやらなければ完全に消し去れないからだと洸輔さんは言っていた。

 

しかし、それを行うためにはある程度バーテックスを弱らせなければいけない。そこで洸輔さんはある提案を私達に申し出てきた。

 

『役割を分担しようと思う』

『いいんじゃないかしら?それぞれ目的が…決まっていた方が動きやすいと思うし…』

『いいけど、どうやって分けるの?』

 

そうして、挙げられたのが…あの大型の注意を引き付けておく囮組。大型の懐に入り込んで攻撃を叩き込む組に分けることを提案だった。

 

『待てよ、洸輔…確かに役割を分けるのには賛成だけどさ。あいつの懐に入って攻撃を叩き込むってのはタマ達じゃ重荷じゃないか?実際洸輔の攻撃は効かなかったんだろ?』

『随分弱気なんだね~?球子?』

『っ!?そ、そんなことないぞ!ただちょっと疑問に思っただけだ!』

 

実際その疑問を持っているのは、タマっち先輩だけではなく私達もだった。しかし、私は洸輔さんのその提案に何故かは分からないが安心していた。

 

『確かに…「一回」だけなら駄目かもしれない。でも、同じ箇所に全力の攻撃を連続で打ち込んだら?』

『綻びが生まれる…?』

『うん、どんなに頑丈なものでも綻びは生まれるはず…そこを突くんだ』

 

「杏!来たぞ!!」

「うん!任せて!」

 

脳内で再生されていた会話はタマっち先輩の声によって打ち切られて、意識は現実へと引き戻されていく。二人が役目を果たしているように…私にも果たさなきゃいけないことがある。

 

『僕と若葉が囮側。球子、そして千景と友奈が攻撃側、この分け方でいいね?で、杏は』

『私は三人を無事に敵の懐まで送り届けます』

『それはいいけど……どうやって?』

『私の精霊、雪女郎の力を活用します』

 

視界を前方に向けると…炎を身に纏ったバーテックスが目の前に迫ってきていた。それをみて私も精霊を身に纏わせる。

 

『奴から放たれたバーテックスの体当たりに当たったりしたら、皆はそれだけでも瀕死状態になる……』

 

だったら簡単だ。あれの体当たりにぶつかってしまうだけで皆は瀕死になる確率があるのなら……。

 

(私が、皆を守る!!タマっち先輩があの時、守ってくれたように!!)

 

「いくよ、雪女郎!!」

 

叫んだと同時に、辺り一面が吹雪に包まれていく。一歩でも踏み込んでしまえば、命を奪う死の世界へと変えていく。

 

それは炎を纏ったバーテックス達には全く通用していなかった。私の攻撃をもろともせずに化け物達は吹雪の中へとずかずか入ってくる。

 

でも、それでいい。寧ろそうでなくては困るのだ。私の目的はバーテックスの撃破じゃないのだから。

 

(私の役目は、バーテックスの視界を遮り皆を安全に本体の目の前に送り出すこと!)

 

前よりも精霊の力を理解したからか、以前より広い範囲を吹雪が覆い尽くす。

 

樹海を駆けていく、雪女郎の範囲が届かない部分は洸輔さんと若葉さんがバーテックスを引き付けてくれているため数もそんなに問題ではない。

 

やがて、超大型の本体が視界に映ってくる。

 

「行ってください!皆さん!!」

「よし!行くぞぉ!」

「アンちゃん、ありがとう!」

「助かったわ……あれのことは私達に、任せて」

 

バーテックス達を阻んでいる吹雪を抜けて、三人は本体の前へと飛び出していった。

 

「頼んだよ……お姉ちゃん、皆!」

 

タマっち先輩の背中を見つめながらそう呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

私と高嶋さんの前を走っていた土居さんは本来視界が悪くて迅速に動けるはずがない空間を迷いなんてないように、駆け抜けた。それを見て私は、彼女達の強さがもっとわかった気がした。

 

(これが…二人の繋がりの強さ)

 

「本体の目の前だ!千景!!」

「ぐんちゃん!」

「ええ」

 

抜けた先には超大型の巨体がある。呪詛の刻まれた札を自身の周りに散らし、それと同時に両手を広げる。

 

(玉藻の前……あなたの力をもう少し借りるわ)

 

呪詛が変化すると…火炎と氷になり周りに浮遊し始めた。両手をゆっくりと前方に向かってかざす。

 

「はぁ!!!」

 

掛け声と共に火炎と氷が、超大型の一点にぶつけられる。しかし、それでも奴の体には多少の凹みが生まれただけだった。

 

「まだ……」

 

今度は特大の爆炎を纏った玉を追撃としてぶつける。

 

「これも、持ってきなさい!!」

 

それと同時に構えておいた鎌に呪詛の札を貼り付けて禍々しい光を纏ったそれを凹みに向かって振るう。

 

瞬間、ただの凹みだった場所が砕け始めた。

 

「ぐぅっ!!!ぁぁぁ……」

 

精霊の力によって響く体の痛みを唇を噛みしめ耐える。間髪入れずに土居さんに視線を送り叫ぶ。

 

「っ……土居さん!!!」

「おお!!任せタマぇ!!」

 

私の声に彼女は、相変わらずの笑顔で答えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

千景の連撃によって砕かれたバーテックスの表面へ、輪入道を纏わせた旋刃盤リペアタイプに乗りながら突っ込んでいく。

 

(杏だって腹括ったんだ!姉ちゃんのタマがやらなくてどうするんだよ!!)

 

『タマも攻撃側に回っていいか?』

『いいよ』

『あ、あれ?やめとけって言われると思ってたんだが……』

『言わないよ。何か考えがあるんだよね?ならいつもみたいにかましてきてよ、球子』

 

「言うようになったよなぁ、洸輔も……球子様を、なめんなよ」

 

洸輔を、皆を守るためにもやってやる。

 

(輪入道……頼む!!今だけ、今だけでいい!!タマにもっと力を貸してくれ!!!)

 

ひなたから受け取った本を見て、輪入道のことについてさらに理解を深めた。でも、それだけじゃ足りない。ならタマがもっと覚悟決めなくちゃならないよな。

 

「もっとだ!!もっと燃やせぇぇぇ!!輪入道!!!」

 

旋刃盤リペアタイプの炎がさらに増していく。それはタマの体をも燃やし尽くしそうなほどだった。

 

「随分、痛そうじゃんか……」

 

視線の先に映るのは、千景の波状攻撃によって砕かれたバーテックスの本体だ。御霊ありは回復機能を持っているらしい…しかし、その傷は見た目よりも深かったらしくまだほとんど修復出来ていない。

 

(どんなものにも綻びは生まれるだっけか?その言葉聞いた瞬間にこれしかないと思ったんだよな)

 

「これも受け取ってもらうぞ!!バーテックス!!!」

 

口の端を吊り上げながら、旋刃盤にさらに勢いをつけていく。そして、生まれた綻びにぶつかる寸前で旋刃盤から飛び降りる。

 

「食らいタマぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

瞬間、大爆発が起こる。最高位の精霊を身にまとっていないから、効くか心配だったが…その綻びは明らかに先ほどよりも広がっていた。

 

「友奈ぁ!!最後は頼んだぞ!!」

「うん!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「来い!!酒呑童子!!!」

 

精霊を纏わせて、すぐに二人が作ってくれた綻びに向かって追撃を叩き込むために拳を握る。

 

明らかに、超大型はダメージを受けている。あと一歩、あと一歩、叩き込めば封印の儀が行えるようになるはずだ。

 

(皆が作ったこのチャンス!絶対、決めてみせる!!)

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

全力の力を、拳に込めていく。普段の倍の大きさになった拳にどんどん力が籠っていくのが分かる。

 

(ここだぁぁぁ!!!)

 

「ゆう……うぐっ!?」

 

拳が当たる寸前……あと一歩の所で体に異変が起きる。頭はじくじくと痛み、口からは血を吐く。

 

「高嶋さん!!」

「友奈!!」

 

近くにいるタマちゃんとぐんちゃんの声が頭に響いてくる。体からはどんどんと力が抜けていく。

 

(あと、あと一歩、なの……に……)

 

酒呑童子からくる負のエネルギーによって蝕まれているのだろうか?ここまで…きたのに。

 

(皆、頑張ってる……だから、私も……)

 

頭の中を負の感情が覆い尽くしていく。何故、そんなに傷ついてまで戦うの?勇者なんて痛くて辛いだけだ。自分を偽るのも大概にしろ、こんな辛いことやめてしまえ。

 

なのに、なんで、どうして、戦う?

 

「なんで………かって?」

 

苦痛に包まれる体を起こし、拳を再度握る。

 

「そんなの、決まってる!!」

 

脳裏に浮かんでくるのは、私を支えてくれた家族や周りの人達、そして何よりも、共に戦ってきた勇者の仲間達の笑顔だった。

 

「勇者だからだよ!!!理由なんて……それだけあれば十分だ!!!!!」

 

そう言って体を思いっきり捻る。拳に全力の力を込める。

 

「私は!!皆が!!皆が大好きなんだ!!!」

 

想いをすべて吐きだすように叫ぶ。

 

「だから!守るんだ!今も!この先にある未来も!!勇者..ぁぁぁ!!!パァァァァァァァァァンチ!!!!」

 

そういい放ち、綻びに向かって拳を振るう。ぶつかった瞬間…酒呑童子の拳にヒビが入った。

 

それでも、砕けたのは私の拳ではなく、超大型の方だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あれは!!」

「皆……」

 

私が引き付けた敵を洸輔が漆黒の剣で葬ったと同時に、超大型の本体の一部が消し飛ばされる。

 

「賭けに勝ったということだな!」

「よくやってくれた…皆!!」

 

口の端を吊り上げながら洸輔が呟く。視線を前に向けると、封印の儀を行うために皆が超大型の前へと集まっているのが見えた。

 

「よし!私も行くぞ!!」

「若葉は先に!僕は、こいつらを片付けたら追い付く!!」

「わかった!」

 

残ったバーテックスを洸輔に任せて、私は四人のいる方向に向かって黒き翼を靡かせながら飛翔する。

 

「っ……」

 

体に激痛が走る。恐らく本来、人間にはないものである羽を酷使し過ぎた結果だろう。それを好機と捉えたバーテックスが私に向かって突進してくる。

 

「邪魔は……させない!!!」

 

しかし、それは黒い波動のようなものによって阻止されるのだった。飛ばされてきた方向を見ると、黒炎を片手に宿しながら、バーテックスを狩っている洸輔が視界に入った。

 

もう一度前を向いて皆の方へと飛んでいく。

 

「人間を甘くみるな……バーテックス!!」

 

地上に着地したと同時に刀を思い切り、地面に突き刺す。

 

「皆、行くぞ!封印開始だ!!」

 

私の掛け声と共に四人が周りを取り囲む。すると周囲から眩い光が浮かび上がってくる。

 

「お前で、最後!!」

 

背後から、洸輔の声が聞こえてくる。どうやら最後のバーテックスを倒しおわったようだ。

 

「洸輔、これは…上手くいっているのか!?」

「大丈夫、僕が見たものと同じ光だ。上手くいってるよ!」

「高嶋さん……無理はしないでね」

「うん、でも、大丈夫!」

 

亀裂の入った右籠手を翳しながら千景の言葉に笑顔で頷く友奈。それを見て、心配そうな目を向けながらも千景も手を翳した。

 

「タマ達もいるからな!任せとけ!!」

「私も、やってみせます!!」

 

二人が加わった瞬間、私達の視界に映ってきたのは謎の数字だった。

 

「これは……一体?」

 

それに対し疑問が生まれる中、上空に現れたものによってその疑問は打ち消される。

 

(あれが、洸輔の言っていた。御霊か!!)

 

「洸輔!!」

「天草くん!!」

「タマ達の分も頼んだぞ!」

「負けないで……洸輔さん!」

「信じてるからね!」

「うん!行ってくる!!」

 

洸輔が跳躍したと同時に、御霊から放たれた影のようなものは、自身と洸輔を飲み込んで球体のような姿に形を変えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

御霊に向かって跳躍したと同時に…影のようなものが御霊ごと僕を飲み込んでドーム場のようなものに姿を変えた。

 

「ここは……って、そうだ、御霊は!」

 

辺りを見回すと、前方にそれは浮いていた。それを破壊するためにバルムンクを強く握る。

 

瞬間、御霊が不気味に動き出す。膨れ上がったり縮んだりしている。

 

「な、なんだよ……それ?」

 

異様な光景に体が強張った。すると、突然、御霊の動きが停止する。それと同時に御霊が怪しく光出し、僕の視界はすべて白に染まった。

 

「………っ!?」

 

目を見開く。そこには人の形をした何かが立っていた。黒いもやもやしたものに覆われた何かだ。

 

けど、自然と僕にはそれが何なのかわかった。前に似たようなものを見たことがあったから。

 

「悪趣味だな……今度は、そういう『僕』か」

「ぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!生まれて早々悪いけど、消えてくれ!!」

 

黒い何かは咆哮を轟かせながら、剣を振るってくる。漆黒の装束を身に纏い力が増大されてるにも関わらず、それに押された。

 

「こ、この力って!?」

「おあぁぁぁぁ!!」

「がはっ!?」

 

蹴りが僕の体に打ち込まれると、後ろに飛ばされる。すぐに身をお越すと、奴は剣を天高く振りかぶっていた。

 

次に何が来るかは動きで分かった。立ち上がり黒から白銀に装束を変化させる。それと同時に体に力をすべて込めて、切り札を解放する。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!幻想大剣・天魔失墜《バルムンク》!!!」

「がぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

お互いの剣が振り下ろされる。ドーム場の空間を衝撃が包み込みこんだ。

 

「っ!?ぐぅぅ……」

「ahhーーーー!!!」

 

押されていく。奴から放たれた波は桁違いのパワーだった。それだけでは終わらず、奴は僕を徹底的に潰そうと先ほどのものほどではないが、火の玉を放ってくる。

 

「あ、あああああああ!!!!!!!」

 

剣を握る腕がミシミシと嫌な音を立てる、こんな状態でまだ耐えていられるのが不思議だった。ここまで、皆が、繋いでくれたのに……体だけでなく思考も段々と深く堕ちていく。

 

誓ったはずなんだ、そう誓った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諦めるのか?』

 

言葉と共に吹き荒れているのは絶望。

 

体には痛覚はなく、感じるのは深い絶望。

 

『あの時の君は、「そこ」で諦めたのか?』

 

体が軋んでいる。

 

掛けられる言葉の一つ一つが重い。

 

それを肯定する自分と否定する自分がいる。

 

『約束はどうした』

 

口を開き、答えようとする。

 

しかし、喋ることはおろか苦悶の声をあげることすらできない。

 

『彼女たちの想いは?あの世界に帰るんじゃないのか?』

 

何のために僕は。

 

どうして僕は。

 

ここにいるんだろうか?

 

『君はもうすでに答えを得ている。だから……あの時、闇に打ち勝ち剣を握ったんだ』

 

今まで感じられなかったモノが戻ってきた。

 

やっと、視覚も戻ってくる。

 

目の前には……二人の男の背中があった。

 

『足りないのなら、あの時と同じだ。只憑依させるのではなく全てを纏え』

 

言葉の意味は自然と理解できた。

 

『貴公は』

『君は』

 

二人は、こちらを向いている。

 

まるで、僕が最初からそうすることが分かっているかのように……真っ直ぐな瞳でこちらを見ている。

 

『俺に(当方に)追い付けるか?』

「追、い……つける、か……だっ、て?」

 

途切れ途切れの言葉は二人の背中に向かって掛けられている。

 

感覚が戻る。足を一歩、強く、そして確かに踏み出す。

 

自身の奥底にある一つの世界が塗り変わった。

 

「追いつく、だけじゃ足りない……だからっ!!!!」

 

体が燃える。

 

さっきまでの寒気と、堕ちていた心はすべて無くなる。

 

それだけでは足りないのならば、答えは一つ、あの時と同じ。

 

「僕……いや、『俺』は!あなた達の力を以て!あなた達を追い越してみせる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎっ……っ、おおおおお!!!」

「!?」

 

体に異常な程の力が宿っていくのが分かる。あの時と一緒だ……シグルドさんと一体化した時と。

 

『相棒、戻ってきたか?』

「うん」

『もう人踏ん張りだな。あのパチもんぶっ倒しちまえ!!』

「もちろんだ!!」

 

両手にまた力を込め言葉を刻んでいく。

 

「邪悪なる神は失墜し……世界を今平穏に導かん!」

 

あっちでは、幼なじみが届かせたんだ。なら、こっちでは僕が届かせてみせる。ここで全てを……

 

「切り開くっ!!」

 

この一振りは僕一人だけの力じゃない。友奈、美森、風先輩、樹ちゃん、夏凛、園子、そして…西暦で出会った若葉、千景、友奈、球子、杏、ひなた、皆の想いも背負って振るわれるモノ。

 

人の想い、自分が今ままで紡いだものを体現した幻想の剣。

 

幻想大剣・天ノ神失墜(バル・ムンク)!!!!!!」

 

白銀と黒が織り混ぜられた波は、奴から放たれた波を押し返していく。それと同時に軋んだ足を前へ踏み出し人型に向かって飛んでいく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

「   」

 

白と黒の波によって肉体を弾き飛ばされた人型と距離を詰める。反撃を仕掛けようとする人型に向かって叫びながら、剣を振るった。

 

 

 

 

 

「未来に!!届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

その一刀は人型となった御霊を、切り伏せた。

 

目の前を、光が包んでいく。さっきのものとは違って、暖かくて、すごく落ち着いた。

 

(はは……やっ、ちゃった)

 

体から力が一気に抜けていく。ドーム場の空間は崩れ始めたのを確認して長いため息が漏れた。

 

(友奈……ちょっと危なかったけど、届かせてみせたよ)

 

ポケットに入っていた押し花を見詰めながら…そう心の中で呟く。着々と僕の意識は薄れていった。

 

「み、ん…な」

 

ぼやぼやと皆の笑顔が浮かんでくる。あれ?僕、死ぬのかな?なんか、体が_________。

 

「本当に……ありがとう」

 

うわ言のようにそう呟いていると、僕の体は謎の空間から放り出され地面へと一直線に落ちていった。




今までの中で一番長かった!!頑張りましたぁ!!散々待たせておいて分かりにくい感じになって申し訳ありません…( ̄▽ ̄;)

感想待ってますね!!!

(捕捉で説明すると、ラストの天草くんはジークフリートの第三段階の格好で戦ってます)


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第三十四節 もう一つの救うべきもの

待ってくれていた方々、ホントに申し訳ない。

難しかったです(´・ω・`)もうただ、それしか言えない。



「はぁ…はぁ…」

 

いつもとは違う朝の状況で事態を察し、すぐに走り出した。焦りと不安が私の中に募っていく。

 

(若葉ちゃんが部屋にいなかった。そして、皆の部屋に行っても反応はなかった)

 

私が動けている。皆がいない。それはいつも戦いが終わった時に起きること。きっと、皆は総攻撃を乗りきったのだろう。

 

(でも…)

 

私の受けた神託は、前の総攻撃とは比べ物にならないほどのものだった。それこそ、かつてないほどに恐ろしい神託の内容…きっと、無傷では済まなかったはず。

 

「お願い…皆、無事でいてください」

 

そう祈るように呟いて、病院のある方向へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「………あれ?」

 

目を覚ますと、そこは何もない白い空間だった。確か、樹海で皆に会う前に見たような気がする。そんなことを考えていると背後から声がした。

 

「目が覚めたか」

「えっ、ジーク……さん?」

「随分、無茶をしたものだ。無理やりリミッターを外し、一体化のその上をやってのけるとは」

「へ?」

 

思考が状況についていけずに困惑していると、ジークさんが僕の腕の辺りを指さした。首を傾げながら腕を顔の手前まで持ってくると、僕は目を見開いた。

 

「えっ!?ええええええ!?なんだこれ!?」

「ちょっとした副作用みたいなものだ。多少の痛みはあるだろうがそれ以外に害はない、気にするな」

「いや、気にしますよ!なんで…なんで手がドラゴンみたいになってるんだ!?」

「まぁ落ち着け。順に説明していくから」

 

軽い錯乱状態に陥った僕をジークさんが宥めてくれる。近所にいる優しいお兄さんって雰囲気だな、この人は。

 

「まずは、お疲れ様。君の健闘によって西暦の勇者達は皆、無事だ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、精霊の力で多少の肉体的負荷はみられるが…命に別状はない」

 

体から力が抜ける。僕は大切な人達をしっかりと守れたようだ。ん、ちょいまって…皆は無事みたいだけど僕はどうなったんだ?

 

「ちなみに僕は?」

「同じく命に別状はない。まぁ手に後遺症が残っていたり、他の勇者達と比べると酷い方だが」

「てことは」

「ああ、君は守り抜いたんだ。この世界の勇者達だけではなく自分も…な」

「よかった、本当に…よかったぁ」

 

力無さげに呟きながら、その場にへたりと座り込んだ。ジークさんの話は続く。

 

「色々と話さなければならないことがある。目を覚ますタイミングはあちらの君の肉体次第だ。その時まで付き合ってもらえるか?」

「もちろんです。僕も確認したいこと多いですし、説明お願いします」

「ああ、任せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「まず、俺の名はジークフリート。天草洸輔…君という人間に力を貸している精霊の一人だ」

 

話を聞きながら、やっぱりどことなく雰囲気がシグルドさんに似ているなぁっと思った。

 

「俺が今君の前に立っているのには理由がある」

「理由?」

「頼まれたんだ。ある人物に…君もこの世界に来る寸前辺りで会っていると思うが」

「まさか…あの、青い鳥!?」

「その通りだ、彼女に、自分の代わりに君と話をしてほしいとな」

「そ、そうなんですね。って彼女?」

「ん?ああ、まず、そこからだったか。あの鳥は、かつての勇者だった乃木若葉が精霊体となった姿なんだ」

「えっ!?あ、あの鳥が…若葉!?」

 

突然のこと過ぎて変な声をあげてしまった。ま、まぁあり得なくはない話なのかもしれないけど。

 

「彼女は、過去に多くの大切なものを失った。それを300年もの間、悔やみ続けていた彼女はいつか…過去で失ってしまったものを取り戻したいと考えていた。しかし、彼女自身が過去に行ってそれを行うことは出来なかったんだ」

「てことは、僕がこの世界に来たのって…」

「ああ、彼女が君の肉体に宿った俺をパスにして、過去へと送り出したんだ。謝っていたよ…私の我が儘に付き合わせることになってしまって申し訳ないと」

 

300年…そんな長い時間の中でも、若葉は皆のことを思い続けていたんだな…しかも、精霊になってまで。とりあえず、僕がこの世界に来たことはわかった。それと同時にある疑問が生まれた。

 

「でも、なんで僕だったんですか?僕なんかよりも正式な勇者システムを持った皆の方がいいんじゃ?」

「確かにな、しかし…彼女たちは神樹の恩恵を受けすぎていて、彼女では手出し出来なかったらしい。時間跳躍という行為を拒絶されたとな」

「どうして…」

「無垢なる少女に汚れを付けたくないからだろう。さすがの彼女でも…神樹のルールをねじ曲げる程の力は持っていない」

 

その話を聞いて、背筋に悪寒が走った。それはまるで…勇者達を自分の支配下に置いておきたいかのように聞こえたからだ。とりあえず、ある程度は理解が出来てきた。

 

「だから、僕のように神樹様からじゃなく精霊さん達によって勇者としての力をもらったイレギュラーを送りだした。そういうことですか?」

「そういうことだ。何より君という存在は送り出しやすかったらしい」

「?」

「君の肉体には擬似勇者システムを介して精霊が宿っていた。それが同じく精霊である彼女にとってすごく適していたんだろう」

「なるほどぉ…。それで、その肝心な若葉は一体どこへ?」

「っ…本人からは口止めされていたが…」

 

僕の質問に対し先程までに比べ、ジークさんの表情が険しくなっていた。そのまま彼は続ける。

 

「西暦の終わり、奉火祭と呼ばれるものが行われた。それは巫女を結界の外にある火の海へと投げうつ生け贄にして、赦しを乞う儀式だ」

「そ、それと若葉に何の関係が?」

「この世界で奉火祭が行われる前に…彼女は自分自身の手ですべて終わらせる気だ。自らを火の海に投げうってな」

「でも、巫女じゃなきゃダメなんじゃ!」

「いいや、実際の所巫女でなければならないという縛りはない。曰く神の意思を聞き入れるもの…強い神性力を持ったものならばいいようだ。今の彼女は精霊…神性力では巫女を遥かに上回っている」

「若葉、どうして…」

「俺はここまでしか知らない。彼女が何を思って奉火祭にまで手を出したのかは分からない。それは聞かされていないからな。それでだ…」

 

ジークさんの目が真っ直ぐと僕を見据える。同時に周りの空気も変わる。それは、人型御霊との戦いの時に語りかけられたときのような重さがあった。

 

「この話を聞かされた上で君に聞く。君はどうしたい?」

 

その問いに対しての僕の答えは決まっていた。何度もこちらで思い誓ったことだ。

 

 

 

 

「僕は、若葉を救いたいです」

 

 

 

 

 

「それはなぜ?」

「仲間だから!今の僕にとって若葉は大切な仲間だから!だから、救いたいです!」

「そう答えると思ったよ。実際の所、俺も彼女を助けたい。だが、打つ手がないのも事実なんだ」

「それは…」

「なんにせよ、彼女に何かしらの理由があるのは明白だ、少なからず…そこには君への償いもあるはずだ。最初は俺が身代わりになることも考えたが…パスの俺が消えれば、君があちらにもどれなくなってしまう」

 

呟いているジークさんを横目に考える。しかし、いい案が思い付かない。思い付くのは…やっぱり僕が身代わりになることくらいしか…。

 

『ならここに適任()がいるだろ?』

「え?」

「ふっ…来るとは思ってたよ」

『なんだ、気づいてたのか。さすがは大英雄ってとこか?』

 

声がした方へ振り返る。そこには、『僕』()がいた。

 

「なんで、ここに?」

『言っただろ?俺はお前(天草洸輔)だ。お前がいるところにならどこにでも現れるって』

「そうだったね…って!そうじゃなくて、適任ってどういうこと?」

『簡単じゃねぇか、乃木若葉の代わりだよ。俺があいつの代わりとして火の海に意識を投げ出す』

「ちょ、ちょっとまった!ジークさんが言ってたでしょ?神性力の高いものじゃなきゃダメって。ましてや精霊じゃないのに…」

『精霊だけど?』

「……………へ?」

『だから、精霊なんだけど?俺』

 

またまた衝撃事実が飛び出したので、『僕』に説明を求める。彼は自分の悪の感情から生まれた存在…そこに関しては知っていた。彼から新しく語られたのは自分は勇者システムの副作用から生まれた精霊だということだった。

 

彼いわく、この世界で僕に芽生えたあらゆる悪意やらなんやらに勇者システムが過剰に反応してしまった結果らしい。正直、言われた所で完璧に理解することはできなかったけど、精霊と考えるなら彼の闇の力を僕が扱えたのも納得できるし、さっきジークさんが言ってた条件にも合ってる。

 

「確かに、それなら君は精霊という時点で適任とも言える。だが…」

『俺』()はそれでいいの?」

『構わねぇさ。それによ、なんか俺思うんだわ。俺はもしかしたら…この時のために生まれてきたのかもなぁ~ってよ』

 

その言葉を聞いて、僕は驚いた。ジークさんに視線を送ると、肩を竦めながら笑っていた。同時に、最初の頃の下卑た笑みをしていた頃を、思い出して不覚にも笑ってしまった。

 

「ふっ…なに?運命でも感じちゃった?」

『ははっ!そうかもな。まぁ何より、どうせ消えてなくなるなら、お前ら(勇者達)のためがいい』

「随分変わったんだね。最初の力がどーのだとか、闇に染まれとか言ってた頃が嘘みたいだ」

『そりゃな、お前と一体化したせいか知らないが、やたら甘ったるい思考感覚になっちまったからなぁ』

 

(悪意がどうとか言ってたけどやっぱり、本質は一緒だね)

 

そんなことを思っていると、突然僕の体が光に包まれ始める。

 

「これは…」

「どうやら、あちらの君の意識が戻り始めたようだな。天草洸輔、目覚めたら壁に向かうんだ。きっとそこに彼女はいる。今行けばまだ間に合うはずだ」

『急げよ!若葉の野郎が身投げしちまったら、手の打ちようがねぇからな!』

「うん、わかった!」

 

視界が光に染まる寸前、僕は二人に向かってある言葉を掛ける。

 

「ありがとう。僕に力を貸してくれて」

 

言葉が言い終わると同時に、視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

洸輔が消えた無の空間、二人の精霊は彼の最後の言葉を聞いてジークは笑みを、『闇』洸輔はため息をもらしていた。

 

「ホントに、君という男は…」

『たく、礼されるようなことはしてねぇっての。さて、後はあいつ()が結界に着くまで待機だな。はぁ、本体があんなんのせいで今じゃこんなに甘ったるい思考になっちまった』

「だが、悪くはないんだろう?」

『まあな、悪感情も悪くはねぇが。こっちの方が心地はいいなぁ。んじゃ、俺はあいつに少し力貸してくるわ』

 

そのまま、『闇』洸輔は姿をその場から消した。

 

「貴方はよかったのか?彼と話さなくて」

 

ジークの目線が移される。そこには、いつ現れたのかシグルドが立っていた。

 

「構わない。もう、彼に当方は必要ないからな」

「しかし…彼の体に貴方の力が継承(・・)されていることは伝えた方がよかったんじゃないか?」

「大丈夫だ。彼はいずれ、気づく。何よりそれは自分で気がつかなくては意味がないからな」

「貴方がそういうなら、これ以上俺から言えることはないな」

「貴公こそよかったのか?」

 

先ほどジークに聞かれたことを、シグルドは聞き返す。すると、ジークは満足そうな笑みを浮かべながら呟いた。

 

「ああ、かつての貴方と一緒だ。もう俺は、彼と共に願いを叶えた。それで満足だよ」

「そうか、彼はホントにすごいやつだな…」

「同感だ」

 

真っ白な無の空間に、二人の精霊(英霊)の小さな笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

無機質な電子音が部屋の中を包み込んでいる。

 

「………」

 

目線の先には、痛々しい姿でベットに横たわっている洸輔くんの姿があった。顔には酸素マスクをつけ、両手は包帯でがっちりと固められていて、何故か隙間からは鱗のようなものが見えている。

 

「………」

 

病院へと駆け込んだ私は、皆が無事であることをしった。それぞれ精霊の影響で、肉体的な負荷はあったようだが命に別状はないらしい。杏さんと球子さんは、すでに目を覚まして検査を受けている。だが、洸輔くん、若葉ちゃん、千景さん、友奈さん…この四人は未だ目を覚ましていない。

 

「っ…約束しましたよね?皆で、無事に戻ってくるって」

 

呟きながら、彼の手を握る。もしも、このまま目を覚まさなかったらと…頭の中で、嫌な想像をしてしまう。

 

(大丈夫、絶対に大丈夫だから…)

 

「うっ……」

「!?」

 

呻き声を上げながら身を起こした洸輔くんを見て、一瞬思考が停止する。

 

「あ…れ、ひな…た?」

「よかった、目を覚ましたんですね!洸輔くん!」

「ここは…?」

「病院です。戦いが終わった後、皆ここに運ばれたんですよ。もちろん、若葉ちゃん達も」

「っ!!そうだ、急がないと!あ、うっ…くぅ」

「だ、だめですよ!安静にしてないと!ただでさえひどい傷なんですから!」

「でも、体は動く…痛いけど…これくらいなら…大丈夫。行かなきゃ…行かなきゃ…」

 

酸素マスクを外し、動きだそうとする洸輔くんを寝かしつけようとする。止まらない彼に私は語りかける。

 

「行かなきゃって、どこへ?」

「壁に…」

「どうして?」

「救いたい人がいるんだ。だからお願い…ひなた、行かせてくれ」

 

彼の目が真っ直ぐと、私を見ている。その目には、強い意志を感じた。あの時と一緒だ…私を咎めてくれたあの時と。

 

(はぁ、私ってば…洸輔くんに対して、相当甘いみたいです)

 

私だって本当は動いて欲しくない。でも、ここで私が止めたところで彼は止まらない。なら…

 

「分かりました」

「ホントに!?じゃ、じゃあ急がな」

「でも、一つ条件をつけます。私も連れていってください」

「え…?」

「もし、途中で倒れたりしたらどうするんですか?不測の事態が起きた時にも対応できるよう、私も連れていくこと、それが条件です!」

 

人差し指を洸輔くんに向けながら、そう告げる。内心、自分の甘さに溜め息をつく。すると、ベットから起き上がりながら、彼は優しい微笑みを私に向けてきた。

 

「ありがとう、ひなた」

「いいえ、それよりも急がなきゃなんですよね?」

「うん、急ごう!」

 

(ああ、まったく…ホントに甘いんだから)

 

自分の甘さにもう一度心中で、溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

赤い炎に包まれた世界、これをこの時代で見たのは…かなり前の話だ。

 

「この日を、待っていた…」

 

あまり過去に変化を起こさせないよう、大社が奉火祭をある程度準備するまで待っていたが、やっと…これで私は償える。

 

「300年…長かったぁ…」

 

譫言のように呟く。大切な仲間達を失い、何も守れず、何も取り戻せなかった無力な自分…親友であるひなたにも…苦しい思いをさせた。

 

(でも、今なら…そのすべてを私が…)

 

その償いを行うために、未来の勇者…天草洸輔の力まで借りてしまった。苦しかったはずだ…突然、別の時代に飛ばされて…環境も何もかもが違ったのだから。

 

(今、すべてを償おう)

 

胸の内で呟きながら、炎で包まれた世界を見据えた。




作者であるこうがさんは、ご都合主義大好き人間です(*・ω・)

それより、ホントにすいませんでしたぁ!!許してください!何でもしますからぁ!

できれば感想ください(゚ω゚)


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第三十五節 孤独を抱き締める

詰め込みましたよ、毎回待っててくれている皆様には感謝しかない(´・ω・`)

では、本編をどうぞ。


「……ホントに大丈夫なんですか?」

「うん、ちょっと痛むけどこれくらいなら余裕だよ」

 

ひなたからの言葉に笑顔で答える。勇者服を身に付けたお陰でなんとか体を動かして、跳躍しながら壁へと向かっている。ぶっちゃけ、体は軋んでいてかなり痛い。でも、そんなことも言ってられないのだ。

 

(急がなくちゃ!若葉が身を投げ出してしまえば、手遅れになる!!)

 

最初は、ひなたが僕の身を案じて大社に頼み、車で壁の近くまで行ってくれると提案してくれたが断った。その気持ちは嬉しいけど、刻一刻と時間は迫ってきているのだ。だったら、肉体が人間離れした勇者になって飛んでいった方が速い。

 

「……洸輔くん」

「心配しなくても、大丈夫だって。ほら、今だってこんなに動けてるんだから」

「心配するに決まってます!だって、全員の中で最も体の損傷がひどいってお医者さんが言ってたんですよ!?もう、いつもいつも心配掛けて!!」

 

背中越しにポカポカと殴られる。ちょっと待って、ひなさん!いつもならいいけど、今は駄目だって!しかし、いつもいつも迷惑かけているのは事実なんだよなぁ。

 

そんなことを考えていると、壁が見えてきた。目的地へと着地し、そびえたつ壁を僕は見据える。

 

「ここから先は、僕が行くよ。壁の外では何が起きるか分からない。体もこんな感じだし、いいかな?ひなた」

「はぁ……結局一人で行くんですね?」

「……ごめんよ」

「いいんです。きっとそうなるだろうなって思ってましたから。その代わり、目的をしっかり果たしてきてください!あと、終わったらここまではちゃんと戻ってきて…そのあとは倒れても私が責任をもって、連れて帰りますから」

「助かるよ、ありがとう。ひなた」

「構いませんよ、勇者を全力で支援する。それが巫女である私の役目ですからね!」

 

そう言いきったひなたに、軽く手を振って即座に足に力を込め壁を登った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界を越えると、あちら(神世紀)でも見た地獄のような光景に視界が埋め尽くされる。それと同時に目に入ってきた青い鳥に語り掛ける。

 

「そこまでだよ。止まるんだ、若葉」

「はぁ……やはり、彼に伝えない方がよかったか」

 

その言葉と同時に青い鳥が光出す。光が収まると、そこには鳥ではなく、淡い光に包まれた若葉がこちらに背を向けたっていた。

 

「それは?」

「投げ出すにはこちらの方が適しているからな。まぁ、この状態の持続時間はそんなに長くないんだが」

「そう、なら、こちらも手短にそして、単刀直入に言うよ。自分を生け贄にするのはやめるんだ、若葉。僕は君も救いたい」

 

そう呼び掛ける。しかし、彼女の背中はこれ以上踏み込んでくるなと言っているように感じた。

 

「大社に奉火祭の記録を残させるためにある程度時間を取ろうとしたのが失敗だったな。こうなるなら、早めに終わらせておけばよかった……」

「……」

「戻ってくれ。ここからは事の発端である私が全てを終わらせる」

 

彼女には、彼女の思いがある。でも、僕にも僕の思いがある。だから、どんなに拒絶されても僕は踏み込む。

 

「自分を犠牲にして?そんなの、嫌だよ。だって、君は西暦の勇者達を守れって言ったじゃないか。そこには、若葉も入ってるんだ!それが、300年後の君だろうが、過去の君だろうがね!!」

「優しいんだな……君は。でも、どうする気なんだ?彼から聞いたなら知っているだろう?この役目は私にしか出来ないことなんだということも」

「確かに、僕じゃ君の代わりをすることは出来ない」

「なら……」

「でも、もう一人の『僕』なら出来る。そうすれば、君が犠牲になることはな」

「それでは、意味がないんだ!!」

 

怒号を発すると共に、若葉がこちらへ顔を向けた。そこには、涙が浮かんでいる。

 

「それじゃ、意味がない!!その方法を取ってしまったら……私は君にも……彼女達にも、何も償えない!!!」

「どうして、そこまで……」

「私は、目の前で大事な仲間達を失った。最初は、球子と杏、次は千景、最後は友奈と、一人……また一人と仲間を失った!!何も出来なかったんだ!!友達が、仲間が、奪われたのにだ!!!」

 

全てを吐き出すかのような叫び。何も言える言葉が浮かんでこない。一度、溢れだした叫びは止まらない。

 

「それだけじゃない!!私は、ひなたまで苦しめた!!彼女は奉火祭の生け贄に選ばれるはずだった。だけどひとりになってしまった私を気遣って、他の巫女達を犠牲してでも、残ってくれたんだ。忘れもしない…あの時のひなたの表情と涙を!!だから、奉火祭にも手を出そうと思った!今のひなたに、そんな思いをさせたくないから!!」

 

「やがて、人間としての生を終えた私は精霊になった!最初は、過去を受け止め未来の勇者達の為に、動こうと思った!でも……駄目なんだ!!一人でいると、ふとした瞬間に浮かんでくる!!無力だった自分の過去が!!そして、私は過去に戻って、皆を救うという方法をとろうとするようになった!その結果、関係のない君までも苦しめてしまった!!」

 

きっとこれが、彼女が今まで溜め続けてきたものなんだろう。ははは……と乾いた笑いを浮かべながら、虚ろな目で若葉はこちらを見つめる。

 

「結局、全部自己満足なんだ。私はそんな自分自身を許せない。だから、自分を生け贄にして全てを終わらせる。それが、私にとっての『償い』だ」

「それでも、僕は君を助けたい」

「っ!!言っただろう!!それでは、意味がないと!!私が生け贄にならなければ!!皆に償……」

 

 

 

 

 

 

 

 

若葉の言葉を遮って、彼女の体を強く抱き締める。

 

 

 

 

 

 

 

「………え………?」

「よかった。触れることが出来たね」

「何……を?」

「辛い時とか寂しい時は、こうしてもらうのが一番なんだよ?付き合いの長い幼なじみが教えてくれたんだ」

「離せ!!私は寂しくもなければ、辛くもない!!」

「もういい……もういいんだよ……若葉」

「やめろっ……。離……してくれ……」

「辛かったんだよね?一人でずっとそこまでのことを抱え込んで」

「私は……」

 

一人だったんだ。精霊になってから、ずっと。誰にも相談できず、誰にも打ち明けられず、ただ、抱え込むしかなかった。あの独白を聞いていれば、嫌でもわかる。若葉がどれだけ辛かったか。この世には、一人を好む人間はいくらでもいるのかもしれない。だけど、『孤独』に耐えられる人間はいない。

 

300年という途方もない時間の流れが、彼女を押し潰していったんだ。

 

(なら、今僕がするべきことは……)

 

一人の勇者として、人間として、彼女に寄り添おう。

 

「若葉は真面目だからね。すべてを償おうとするのは君らしいと思う。でも、その真面目すぎる心は他人も自分も傷つけてしまう。君が犠牲になってしまったら、皆はきっと悲しむよ」

「でも……私は……何も出来くて」

「そんなことないよ。300年もの間、皆のことを想い続けていたんでしょ?それだけじゃない、皆を守るために過去にも介入した。そして、僕達の生きている時代まで思いを紡いだ。十分、出来てるよ」

「恨んでないのか?私を……?」

「なんで、恨む必要があるの?」

「勝手に別の世界に送って苦しめたんだぞ!?」

「そりゃ、僕だって聖人じゃないから、思わないことがないわけじゃない。でもね、そのお陰でこの時代の皆に会えた。それに、勝手に苦しんでたのは僕自身だし」

「で、でも、私は……」

 

子供が、駄々をこねるかのように反論してくる若葉の目を見て、僕は伝える。これくらいしか、僕には出来ない。

 

「あーもう!でもでもって、うるさい!言わせてもらうけどね!!そんなに長く皆のことを、思って行動している人に償えだなんて誰も言わないよ!!だって、君の行動の根底は、すべて皆のためなんだろ!?ならもう十分、君は償えてるよ!!僕がそれを言っていいのかは分かんないけど、少なくとも僕はそう思う!」

「っ!!」

「もう一つ!何よりも言いたいことがある!」

「……?」

 

さっきまでの勢いを無くし、あやすかのように頭を撫でながら、優しく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「300年もずっと一人で、本当によく頑張ったね、若葉。大丈夫、今は一人じゃない。僕がいるよ」

「うぅぅ……うぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に若葉の目からは、涙が溢れだしていた。子供のように泣きじゃくる彼女を、先ほどよりも強く包み込むように抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

すごく懐かしい、これは過去に感じた人の温もり。

 

昔、私が人間だった頃……よく感じていたもの。でも、一人でいる内に、忘れてしまったもの。

 

まただ、またやってしまった。直っていなかったな……一つの目的に囚われて、周りが見えなくなる癖。

 

(私が、こんなだから……皆やひなたに心配ばかり掛けたんだったな)

 

何度も、皆に言われて気づかされたはずなのに。いつの間にか、孤独と過去に押し潰され見えなくなってた。

 

(償うことに囚われて、自分を見失っていた)

 

そもそも、なんで私は……あの時、ジークフリートにあんなことを言った?あそこで、何も言わなければ天草洸輔がここへ、来ることはなかったのに。

 

(私は、心の何処かで……助けを求めていたのか?)

 

過去の皆を、救ってもらおうなんて思っておきながら私自身が、救ってもらいたかったのかもしれない。

 

(きっと、そうだな……そうでなければ、あんなに彼に向かって自分の想いを、叫ぶ訳がない)

 

それだけではなく、彼の最後の言葉を聞いて……涙が止まらなくなってしまった。

 

その暖かさが、その優しさが、私をいつも支えてくれた親友とすごく似ていたから……

 

(償うつもりが、救うつもりが、彼女たちだけでなく、私まで救われてしまった(・・・・・・・・))

 

ああ、そうだった。いつの間に忘れていたんだろう?一人ではないというのは、こんなにも暖かいものだったんだなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

親指で、彼女の涙を拭き取る。さっきよりも、どこか表情が柔らかくなっている気がした。

 

「落ち着いた?」

「ああ、すまない。それと……その……ありがとう。えっと」

「洸輔でいいよ」

「……わかった、洸輔」

「もう、自分を犠牲にしようとしちゃダメだよ?」

「そう……だな。何よりも私は、もう君に説得されてしまったよ。しかし、それに関しては、洸輔も人のことを言えないんじゃないか?」

「ぬぬっ……うん、言い返せないかも」

 

すると、若葉は笑みをもらした。その笑みを、見て救えたのだと安心した僕は釣られて笑顔になった。

 

「さてと、あとは……」

 

炎で包まれた地獄へと、目を向ける。これが、最後だ。これでやっと、全てを救える。

 

「ふぅ」

 

体に力を込めて、装束を黒へと変化させる。目を瞑って『僕』に呼び掛ける。

 

(準備は、いい?『僕』?)

『やっとか?あーそうだった。その前によ、「俺」。バルムンクを片手に持って前に翳してくんねぇか?』

(へ?えっと、こう?)

『よし、それでいい。動かすなよ!』

 

頭の中の声が途切れた瞬間、黒く染まったバルムンクから、『僕』が現れた。

 

『さて、これが「俺」の最後の仕事ってとこか』

「本当に、いいのか?折角、生まれたのに」

「若葉っ!?見えてるの!?なんで!?」

『単純な話だ、同じ精霊だからだろ?』

「あ、そういうことか」

 

一瞬で納得させられた、まぁ、もう半分自棄だけど。若葉からの、質問に彼は口の端を吊り上げながら答えた。

 

『どうせ、「俺」があっちの世界に戻ったとしても、春信の野郎に消されちまう。「俺」は不具合だからな。だから「俺」はそいつに言ったんだよ。どうせ、消えてなくなるのなら、お前ら(勇者達)のためがいいってな』

「本当に、本質は変わらないんだな」

『自分でも、呆れるほどにな。そうそう、消える前にあんたに良いこと教えてやるよ』

「?」

『そこにいる馬鹿は、ホントに底が見えねぇほどお人好しでどうしようもない自己犠牲野郎だが、絶対に仲間やら友達やらを見捨てねぇ一途な野郎だ。だから、またあっちに戻って一人でいるのが辛くなったらよ。そこにいる馬鹿に会いに行け、退屈しねぇぞ?』

「……ああ、ありがとう」

『へっ、気にすんな』

 

にやっと意地の悪そうな笑みを、作る『俺』。若葉から視線を外し、僕の方に向き直る。

 

「馬鹿馬鹿言い過ぎ。軽く傷つくんだけど?」

『事実だろうが?悪意の集合体の俺に、一緒に行こうなんて言うやつを馬鹿以外の何で表せっての?』

「うっ……」

『ま、そう言う俺も俺だな。そんな野郎に手を貸そうとしてんだからよ』

「本当の本当に、いいの?」

『さっき若葉にもいった通りだ。覚悟は出来てるさ』

「で、でもさ……」

『硬く考え過ぎだっての。いいじゃねぇか、お前は俺との約束を守ったんだからよ。そのご褒美だと思えば』

「まだ、最後までじゃ」

『十分だ。ここから先は、俺の仕事さ』

 

そう言って、灼熱の世界へ身を投げ出すためにゆっくりと歩き始める『僕』をもう一度呼び止める。

 

「ねぇ、『僕』」

『なんだよ?』

 

拳を前に突き出す。それを見た彼はにやけ顔を作りながら、僕に言った。

 

『それ、好きなのか?』

「嫌だった……かな?」

『いーや、悪くねぇ。寧ろ好きだね』

 

お互いの拳を、ぶつけ合う。始まりはどうあれ、彼もジークさんやシグルドさんと同じ、僕に力を貸してくれた精霊の一人だ。

 

「ありがとうね、『僕』。色々あったけど、最後は助けられたよ」

『礼を言われるほどのことを……と言いたい所だが、素直に受け取っとくよ。あと、色々と悪かった』

「気にしなくて良いよ。じゃあ、さよならだね『僕』」

『さよならだぁ?違うだろ』

「へっ?」

 

もう一人の『僕』は胸に手をあてながら、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

いつも一緒(・・・・・)なんじゃなかったか?相棒』

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、言い終わったと同時に彼の姿はもうそこにはなかった。

 

「はは、参ったなぁ……それを君に言われるなんて」

「彼は、本当に『悪意』から生まれた存在だったのか?」

「さぁね。でもこれだけは言える。彼もこの世界で出会えた一人の仲間だって」

「そうか……む?時間、切れか」

 

振り返ると、若葉の体が淡く光りだす。

 

「若葉?」

「安心してくれ、君より一足先にあちらへ戻るだけだ。多分、洸輔……君もその内こんな感じで、西暦から消えるだろう。やり残したことは、やっておくんだぞ?」

「ああ、そうだったなぁ……」

 

分かっていたけど、そういうことなんだ。目の前にいる若葉を救って、『僕』が代わりになった。全ての終わり……それは、この世界で共に過ごした彼女達との別れを意味する。

 

「あ、そうだ。一つ質問があるんだけど」

「なんだ?」

「この〜腕のことなんだけど、何か分かる?」

「それは、君が彼の存在を完全に憑依させたのが原因だろうな」

「……もっと分かりやすくお願い」

「今までの洸輔は、彼の切り札のみを使える程度の一時的な憑依だった。だが、君が最後にやったあれは、違う。あれは、彼の全てを纏ったんだよ。結果、肉体がその不可に耐えきれずそういった形で後遺症が残ったんだろうな」

「つまり、キャパオーバーを起こしたってこと?」

「無意識の内に肉体が、リミッターを解除した結果だな。大丈夫だ、もうじき戻るさ」

「なるほどね」

 

そんな話をしていると、もう若葉の体は半分以上消えかかっていた。

 

「頃合いだな」

「みたいだね」

「最後にもう一度言わせてくれ。助けてくれて、本当にありがとう、感謝している」

「いいってば。今度はあっちで会いにおいでよ、いつでも歓迎するからさ」

「ああ、ありがとう。ではまた会おうな、洸輔」

 

視界が白に染まった次の瞬間には、さっきの『僕』と同じように彼女の姿はなかった。

 

「さぁ、戻らなくちゃな。これ以上遅くなると、ひなたに怒られちゃう……あれ?」

 

視界がぐらつく、体が重い。あー、無理して動いたのが今さら効いてきたのか。

 

「駄目だって……戻るって言っちゃったんだから……こんなところで、倒れる訳には」

 

そう言った所で、体が言うことを聞くはずはなく、どんどん意識も虚ろになってくる。

 

(くそ、こんな……せっかく救えたのに……)

 

体が、地面に吸い込まれるように落ちていく。すると、地面に触れる寸前である男の声が聞こえた。

 

『さぁ、もう一踏ん張りだ。天草洸輔』

 

その声が、聞こえた瞬間、体に少し力が戻る。声の主はすぐにわかった。

 

「ありがとうごさいます。ジークさん」

 

そう呟きを、漏らし結界を出てひなたのいる場所足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

壁を、見つめながら彼の帰りを待つ。待っている最中に何度も自問自答を繰り返した、行かせないほうがよかったかそれともこれで良かったのか。

 

(あんな、状態で何かあったら……)

 

嫌な想像が横切ったため、頭を振ってそんな考えを頭から消す。

 

「まだ、私、あなたにただいまっていってもらってないですよ……?」

 

ポツリと呟く。

 

「お願いですから、私におかえりって言わせてください……」

 

もう一度、呟く。すると……

 

「そうだったね。まだ、言えてなかったよ」

「!?」

 

声がした方に、振り返るとそこには洸輔くんが笑顔で立っていた。すぐに、フラッと倒れ出した彼に駆け寄る。

 

「結局、フラフラじゃないですか?まったく、何度心配掛ければ気がすむんですか?」

「えへへ……毎回ごめんね。ひなた」

「やるべきことは、終わりましたか?」

「うん、全部終わった。もう、大丈夫だよ」

 

その言葉を聞いて、安心する。自然と腕に力がこもり、彼の体を強く抱き締めた。彼の体から直に体温を感じると、何故か涙が溢れてきた。

 

「よかった……本当によかった!!洸輔くん!!」

「いてて、ひなた……嬉しいけどちょっと痛いかも……少し、力緩めてくれないかな?」

「嫌です!もう、離しませんから!!」

「ありゃりゃ、それは困ったな……あ、そうだ、忘れてたよ。ひなた」

「何ですか?」

 

一拍置いてから、洸輔くんは笑顔で私に言った。

 

「遅くなったけど、ただいま」

 

それに私も、笑顔で返す。

 

「はい、お帰りなさい。洸輔くん!」




のわゆ編もあと、2話くらいで終わりですね(´ω`)いやぁー案外あっという間だったぁ~。


では、次回もお楽しみに(^ω^)

感想まってます(^-^)/


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第三十六節 大事なのは

きっと、今回の天草くんの中盤辺りの台詞は今までで一番長いのでは?とか思ってる、どうも!こうがです(⌒‐⌒)

大分間が空きました……すいません( ̄▽ ̄;)

てか、いつの間にかお気に入り登録250を突破していた!ありがとうございます!

では、前置きはこれくらいにして……本編どうぞ!


「それで?また、無理をしたんですか?」

「は、はい……」

 

 目の前から、発されている威圧に完全に縮こまる。

 

「はぁ……何回無茶すりゃ、気が済むんだよ。洸輔は?」

「タマッち先輩の言う通りです!ホントにいつもいつも!」

「ま、まぁまぁ落ち着いてください。杏さん、球子さん」

 

 ベッドに背を預けながら、そんな三人のやり取りを見て笑顔が零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 壁の外での一件の後、完璧に体にガタが来た。当たり前だ、只でさえ体がボロボロだったのにその状態から、勇者になって無理矢理動かしたんだから。

 

動けたのは、『僕』のお陰だったのかも知れない。ちなみに、ジークさんと若葉から言われていた手に顕れていた後遺症は徐々に消え始めていた。

 

 とりあえず、体を自分で動かすのは無理なので。移動の時は、病院から車椅子を借りて動いていた。思えば、あっちであのデカイバーテックスと戦った後にも、車椅子に乗ったなぁなんてことを考える。

 

「ま、今更言ってもしょうがないよな!何にせよ、無事でよかった!」

「この状態は無事とは程遠いと思うけど……」

「でも、喋ることは出来るし見た目より酷くないよ〜」

「洸・輔・く・ん???」

 

 動かなくなった僕を大社の人に頼んで運んでくれたひなたさんが、ジト目でこちらを見つめてくる。

 

「言っとくけどな、あの黒い玉みたいのから出てきた時に、若葉と千景が助けてくれなかったら、お前危なかったぞ!」

「あ~あの時か。何とかしようと思ったけど力が入らなくてさ……なるほど、中々落下しないなと思ったけどそういうことだったんだね」

「あの時は、ホントにびっくりしましたよ……急に落ちてきたんですから」

 

 遠い目で、杏が呟く。声色的に、僕の自己犠牲が目立つやり方に不満を持ってるのは明らかだ。ここで、話を変えとかないともっと言及されそうだなぁ。

 

「うっ……ま、まぁ、それより二人は大丈夫だったの?」

「むっ?おお!タマはこの通り、元気だぞ!検査も終わって安全だってよ!」

「私も、大丈夫でした。精神的にダメージも負ってません」

「よかったぁ……えと、それで、若葉達は?」

「それは」

「若葉ちゃん達はまだ、目を覚ましてません……」

「……そっか」

 

 若葉『達』、それは最高位の精霊を身に宿した三人。皆が皆全力を尽くしたあの戦い。こういうことが起こることは可能性としては考えていた。しかし、いざ起きるとなんとも言えなくなる。

 

(この世界から消えてしまう前に、皆と……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、今はひなたに車椅子を押してもらいながら病院にある中庭を散歩中。すると、球子と杏が見覚えのない女の子と楽しそうに会話しているのが見えた。

 

「あの人は?」

「ん?ああ、彼女は私と同じく巫女の役目を担っている安芸真鈴という方です」

「あの人も、巫女なんだね。でも、なんで二人と?」

「彼女が、お二人を勇者として見出したそうです。とても仲がよろしいのはその繋がりもあるんでしょう。今回こちらにいらっしゃったのも、これから忙しくなるからその前に二人と会っておきたいって理由からだそうです」

「忙しくなる?」

「はい。まぁ、そう言ってる私自身もこれから忙しくなるんですけどね」

 

 そう言うひなたの表情は、どこか複雑そうに見えた。

 

「何か、あったの?」

「あったというほどのことでもないんですが……」

「?」

「私は、勇者達を支えた功績を認められて巫女の最高権威としてこれからは大社に務めることになったんです」

「……じゃあ、これから大変になりそう?」

「はい、でも大丈夫。これからは、復興の為に全力を注ぎます。それに、皆と一緒ならどんなに大変なことでも、乗り越えられるから……」

「うん……そうだね」

 

 ゆっくりと時間は流れていく。ひなた、杏、球子と特に何でもないような時間を過ごす。皆、起きない三人のことを気にして、どこかぎこちない。そう言ってる僕も僕なんだけど。

 

「おお~手の鱗が完璧に消えた!体も前より動くようになってきたし、なんか、怪我する度に回復力が増していってる気がする」

 

 意味のない独り言を呟く。なんか、どうでもいいことでも何か言ってないと落ち着かない。そうしないと、ふとした瞬間に消えてしまうんじゃないかと思ってしまう。

 

「消えちゃう前に……これだけは、仕上げないとね。えーと、次は?」

 

 手を動かす。慣れないことだけど、僕の気持ちを伝えるには『これ』が必要だ。途中までは、病院でも出来なくはないから、なんとかなりそう。

 

 言ってしまえば、今作っているものは皆が起きるまでに僕が消えてしまった場合の保険の為にと思っていたんだけど。

 

「やっぱり直接手渡したいし、お礼も言いたい」

 

 作業している手が止まる。僕は彼女達を救ったのかもしれないけど、それ以上に僕も彼女達に救われた。

 

「だから…頼むよ」

 

 手に力が籠る。願うような自分の呟き声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、突然、病室のドアが勢い良く開かれた。

 

「洸輔くん!!」

「ひっ!?」

 

 作業物を布団の中にしまいこんで、見られないようにする。

 

「そ、そんなに慌ててどうしたの!?ひなた!?」

「目を覚ましたんです!」

「え?」

「若葉ちゃん達が目を」

「っ!!」

「ちょっ、こ、洸輔くん!?」

 

 ひなたの言葉が言い終わる前に体が動いた。駆け出さずにはいられなかった。

 

 やがて、最近聞いていなかった三人の少女達の声が聞こえてくる。

 

「体が……重い……」

「大丈夫か、千景?無理はするなよ」

「あなたこそ、人の心配より自分の心配をしたら?」

「まぁまぁ!にしても、他の皆はどうしてるかなって、あー!洸輔くん!」

「若葉、千景、友奈…うぅ」

 

 三人の元気な姿を見た瞬間に、不覚にも泣いてしまった。皆が起きたときは、笑顔でと思っていたのに。

 

「こ、洸輔くん!?」

「よかったぁ……よかったよぉ」

「え、と……私達は、どうすれば…乃木さん、貴女どうにかしてよ」

「私が!?こ、こちらも混乱しているんだが…」

「若葉、千景、友奈!起きてくれてタマは嬉しいぞぉ~!!って……どうした、洸輔!?」

「タマッち先輩、病室で叫んじゃ駄目だよ~。へ?あれ?洸輔さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 泣き続けている僕を、ひなたが頭を撫でて落ち着かせてくれた。嬉しかったからってあれは流石に……思い返して見るとかなり恥ずかしい。

 

 三人の検査は終わって、肉体も精神も特に後遺症などの問題はないという事がわかった。まぁ、それでも包帯を巻かれた痛々しい姿ではあるのだが。

 

「何、泣いてるのよ」

「ご、ごめん。三人の元気な様子見れたら嬉しくてさ」

「私も嬉しいよ!皆も元気そうでよかった!」

「えぇ、本当に。にしても、あなたも相変わらずで良かった。私と乃木さんが助けに行ったときは、ピクリとも動かなくて……えと、その、心配だったから……」

「ありがとう、千景、それに若葉も」

「正直、もうだめかと思ったが今回もこうして皆が無事でよかった」

 

 検査が一通り終わって無事に退院することが認められた為、全員で寮へと帰路を歩く中、突然球子がこんな提案をしてきた。

 

「なぁ、皆で写真とらないか?」

「と、唐突だね?」

「急にどうしたの?タマッち先輩?」

「ほら!せっかく皆が、こうやって揃ってるだろ?大社が言うには戦いも終わったらしいし、記念にどうかなって思ったんだ!」

「なるほど、それはいいな!それに考えてみれば、私達五人で撮ったことはあるが、洸輔を入れて撮ったことはないからな」

「……土居さんにしては、悪くない意見ね」

「そうですね!皆で撮りましょう!ここにカメラはありますので!!」

 

 そ目を光らせながらひなたがどこからともなくカメラを取り出し、僕を中心にして皆が集まる。距離が近すぎるのが、気になったけど……それ以上に、皆から伝わってくる暖かさを嬉しく思った。

 

 皆の顔にはずっと笑顔が咲いていた。こうやって一緒にまた笑えていることをすごく幸せに感じる。

 

(もう思い残すことはない……かな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、皆。こんな朝早くから付き合わせちゃって」

「ホントよ……まったく、まだ眠いのに……」

「千景の言う通りだぞ〜洸輔~タマもまだタマらんく眠い」

「フラフラしてたら転んじゃうよ?タマッち先輩」

 

 早朝、日もまだ登ってはいない頃に私達六人は天草くんに呼ばれ、道を歩いていた。

 

「こんな朝早くから、急にどうしたんだ?」

「ちょっと、皆でいきたいところがあるんだ。そのついでに散歩でどうかな~と。何より、早起きは三文の徳って言うてしょ?」

「まぁ……確かにそうだが」

「まあまあ、若葉ちゃん。折角平和になったんですし、こういうのもいいじゃないですか」

「確かに!うーん、少し眠いけど悪くないかも!」

 

 上里さんと高嶋さんの言葉を聞いて、自覚する。そうだ、私達は勝った。そして、全てを乗り切った。これからはもっと色々なことが出来る。

 

(そう考えると、こういうのも悪くない)

 

「ふふ」

「楽しそうだね、ぐんちゃん!」

「うん、楽しいよ……皆でこうやって過ごせるの」

「タマも、そう思うぞ!」

「急に起きた!?」

「……」

「どうしたの?ぼっとして」

「ううん、僕も千景と一緒。こうやって皆と過ごすのはホント楽しいなって」

 

 そう言った時の、天草くんの表情は見ることは出来なかった。皆で、一つの道を歩いていく。

 

(いつだって、皆と私の心は繋がっている)

 

 何故か、私はそう胸の内で呟いていた。天草くんが横にならんで歩く皆の前を先導し歩いていく。とある場所に私達は辿り着いていた。

 

「ここは……」

「皆で花見をした場所だね!」

「なんか、懐かしく感じますね。そんなに経ってる訳でもないのに」

「確かに!にしても、本当に楽しかったよなぁ~!また皆でしたいな、花見!」

 

 その場所からは夜明けを示すように、地平線を照らすかのように、うっすらと日が昇り始めていた。

 

 皆がそれぞれの会話を繰り広げる中、一人で背を向け、遠くにある日を見つめている天草くんが気に掛かり声を掛ける。

 

「どうしたの……天草…く…ん?」

 

 違和感に気づき、言葉が詰まる。何故か…射し込む日の光に照らされた彼の体が光始めていたからだ。

 

「ぐんちゃん、どうしたの?……え?」

「うわぁ!?どーいう事だよ、体光ってるぞ!?」

「あー、えとね、その、そろそろお別れの時間みたいなんだ」

「お、お別れ…?」

「い、意味がわからん!タマにも、分かるように説明してくれ!」

 

 突然の事に、皆が動揺を隠せずにいる。さっきまで吹いていなかった風が立ち始めた。その中でも、彼の声は耳に届いてきた。

 

「もう、この世界に僕がいられる時間がないってことかな」

「体が……光ってる?」

「そんな……こんなの急すぎるよ!」

「ごめんね、僕も自覚したのはさっきだったからね、言わなかったんだ。まぁ、でも……よかったよ」

「何が……何が、よかったのよ?」

 

なんとか、声を絞りだし聞き返す。その時何故か、私は天草くんを遠く感じた。そんな、彼の体が揺れる。

 

「幸せだった。ねぇ皆、僕さ……とっても幸せだったよ。皆と過ごしたこの半年間は、本当にかけがえのない大切で大事な時間だった。でも、そんな大事な時間も、もう終わってしまうから……最後は、皆に自分を打ち明けられた…この場所が良かったんだ。最初の頃はさ、正直なこと言うと早くあっちに戻らなきゃって気持ちが強かった。でもね、今はこちらの世界に残りたいって気持ちも強くなってるんだ。苦しいことや辛いこともあったけど、それ以上に皆からは色々なものをもらった。本当に……本当にありがとう!」

 

 振り向いて真っ直ぐな瞳をこちらに向けながら、後悔のない声で彼はそう言いきった。並べられた言葉の一つ一つから、強い想いを感じる。

 

「……こちらこそ、ありがとう。私も、いや私達もお前のような大事な仲間に出会えたことを誇りに思う」

「若葉の言う通りだ、洸輔!色々あったけど、ホントにありがとな!」

「こちらこそありがとう、若葉、球子」

「洸輔くん」

「ひなた……ホントにいつもいつも勝手で、ごめん。でも、こうじゃないと……皆と別れるのに踏ん切りがつけられなさそうで」

「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ?さっきの言葉を聞いて、洸輔くんの気持ちは分かりましたから」

「正直、突然過ぎて……まだ受け止めきれない部分もあるけど、それでも洸輔さんが元の世界に戻れるのなら……良かったです」

「ありがとう、杏」

 

 私も何か声を掛けたい、でも無理だ。体が震えている。突然の事に動揺を隠せない。その様子に気づいた天草くんが声をかけてくる。

 

「千景、大丈夫?」

「ふざけないでよ……急にそんなこと言われて、はいそうですかって……頷けるわけないでしょ!」

「ぐんちゃん……」

「やっと、やっと素直になれた。あなたや、皆のお陰で前を向けて、これからって時に……なんで、なんで……いっちゃうのよ……」

「千景……参ったな、もうこの世界に未練とかはないけど」

 

 ゆっくりと彼が、こちらに歩み寄ってくる。次の瞬間……前にも感じた温もりに体が包み込まれた。

 

「君に泣かれちゃうのはちょっと……いや、かなり困るかな。ごめんね、こんなこと言える立場じゃないけど……千景、君には笑っていてほしいんだ。ここにいる皆と一緒にね。大丈夫!確かに、僕はここから消えちゃうけど全てが消えるわけじゃない。心はいつも繋がってるから!」

「また、それ?ホントに、根拠の欠片もない…」

 

 だけど、彼のそんなところに私は救われた。なら……

 

「これで、いい?」

「うん、いい笑顔だ!」

「何よ……それ」

「ねぇ、洸輔くん!私はー?」

「友奈も相変わらず、眩しいくらいにいい笑顔だよ」

「そ、そうかな?えへへ~」

「所でよー、二人はいつまで抱き合ってんだ~?」

「「あ」」

「な、なんか見ているこっちもドキドキしましたね」

「そ、そうですね!(サッ)」

「どさくさに紛れて何を撮ってるんだ!?ひなた!?」

 

 賑やかな仲間と過ごす、普通のなんの変哲もない日常。でも、それは私があの苦しい日々から一歩を踏み出し得られたかけがえのないものだ。

 

「消えちゃう前に……皆に渡しておきたい物があるんだ」

「渡したい物?」

「これだよ」

 

 そうして、天草くんがポケットから取り出したのは___

 

「これって?」

「押し花だよ。初めてだったけど、皆の分作ったんだ」

「い、いつの間に……」

「入院とかも重なって間に合うか心配だったけど、朝までにできてよかったよ」

「これって、人数分作ってあるだけじゃなくて色も分けてあるのか!?」

「ホントだ……でも、なんでこれを?」

「えーとね、僕も幼なじみから貰ったとき嬉かったし。別れるとき、言葉だけでもいいけど何か残したかったんだよね」

「ありがとう、嬉しいよ!洸輔くん!」

「気に入ってもらえてよかったよ」

 

 そう言って頬を掻きながら、照れ臭そうに笑う天草くん。先ほどに比べ、体の光が遠くに見える日に負けないくらいに強くなってきていた。

 

「そろそろ、かな」

「洸輔くん……」

「そうだ……ひなた、最後に頼みがあるんだけど。僕が、この世界に勇者として戦っていた記録を消しておいてくれるかな?」

「それは…未来に影響を与えない為にですか?」

「流石…察しがいいね。最後まで勝手でごめん」

 

 彼はかすかな笑みを浮かべながら、私達を見つめる。その表情は初めて会話をしたあの時となにも変わってはいなかった。

 

「皆、またね」

「ああ、またな、洸輔」

 

 ホントに最後……消えてしまう前にと、彼に歩み寄りもう光で見えなくなってしまった頬に手で触れる。

 

「天草くん」

「千景?何を……」

 

 そのまま、彼の頬に唇を触れさせた。そして、少し挑発するように私はこう言った。

 

「油断してると、今度会ったときは真ん中いくから」

「……覚悟しとくよ」

 

 風が吹く。朝日で眩しでいた目を僅かに閉じて、もう一度開く。同時に触れていた手に、先ほどまで感じていた感触と温度が消えた。

 

「ち、千景さん!?はわわわわ!(プシュー)」

「杏、大丈夫か!?」

「千景さん、中々大胆なんですね……驚きました」

「か、変わったな、千景」

「あの人には……大きな借りがあった、それを返しただけよ」

 

 自分でも、驚いている。なんで、あんなことをしたのか……しかも皆のいる前で。

 

(全部、あなたのせいだからね……バカ)

 

 手に握られた押し花に視線を移す。

 

「綺麗だね」

「そういう高嶋さんのだって、とても綺麗よ」

「にしても、ちゃっかりしてるよな~皆の分作るなんて」

「確かにな。だが、その分これには……彼の想いが詰まっているということだ」

「最後の最後まで、あの人らしかったなぁ…」

「いつか、また会いたいですね」

 

 皆が、先ほどまでに彼がいた場所を見つめる。多少の寂しさはあれど悔いはない。そんな時、声が聞こえた気がした。

 

『大丈夫、きっとまた会えるよ。だって、大事なのは』

 

「いつも一緒にいることじゃなくて…いつもお互いのことを思っているか……よね?」

 

 目の前に広がる朝焼けの光は、私達を照らしていた。




さて、のわゆ編はなんだかんだ言ってあと一話かな?あまり、間が空かないよう頑張ります!

感想お待ちしてますね!



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第三十七節 紡がれた想い、託された希望

のわゆ編最終回!!


ゆっくりと瞼が、持ち上がっていく。視界が起きたてで、ボヤボヤしているのと、窓の外から差し込んでくる夕日のせいで前が見えない。

 

「んん……」

「あ、目が覚めた?」

 

視界が、回復してくると最初に見えてきたのはいつもと変わらないが、最近見ていなかった幼馴染みの相変わらずの笑顔だった。

 

「ゆ…うな?なんで……ここに?」

「勉強教えてもらおうと思ってきたらね。ぐっすり眠ってたし、起こすのも悪いかなって思ったんだ……って、大丈夫?体調でも悪い?」

「友奈……友奈だ……」

 

久しぶりに聞く幼馴染みの声と、変わらない笑顔を見て、自然と涙が溢れる。頰に触れると、そこには確かな暖かさがあった。

 

「な、泣いてるの?」

「ご、ごめん。久しぶりに会えたから……。その、嬉しくて……」

「久しぶり?えっ?今日も、一緒に学校行ったよ?」

 

一旦、落ち着いて少し考える。この様子友奈の発言や状況からすると、どうやらあっちとこちらの時間の流れは違うようだ。しかし、結局の所嬉しい気持ちに負けて、考えることを放棄し友奈を強く抱きしめた。

 

「ゆうなぁ……友奈ぁ!!」

「むぐっ!?えっ!?ちょっ……こ、洸輔くん!?」

「ただいまぁ……友奈ぁ……」

 

顔を涙で歪めながら、弱々しくそう呟いた。そんな中でも、右手には、彼女から受け取った大切なお守りが握られていた。

 

こうして、僕は西暦の時代から神世紀へと戻って来ることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そんな思い返せば、恥ずかしくて悶えそうになっちゃうくらいのことをやらかした……次の日、学校を休み、僕はある人を家に招き入れていた。

 

「突然、呼んで申し訳ないです。春信さん」

「いや、別に構わないよ。それで、要件は何かな?」

「えと、ですね。とりあえず、僕の勇者システム見てもらってもいいですか?」

「勇者システムを?まぁ、いいけど……ん?戦闘データが、こんな、いつの間に!?洸輔くん、これは?」

「やっぱり、なら話が早いです。実は、それには理由があって……」

 

僕は春信さんに自分に起きたことを話した。理由は単純で、相談しやすそうだなと感じたから、それとあちらの戦いで僕はかなりの戦闘経験をした。もし、そのデータが残されているのなら、話を進めやすいと考えたからである。

 

「えと、つまり、何かい?君は過去に行っていたと?」

「は、はい!そうなんです!」

「うーん……正直なところ、にわかには信じられないことだね」

「ま、まぁ、そうですねぇ〜……」

「と言いたいところだが……僕が覚えている限り、君が依頼としてあの地獄のような世界に行ったのは一度だけ……たった一度の戦闘でここまでのデータが得られるわけがない。それを考えると、過去へ行ったというのは、これだけのデータが集まったことの説明にもなる」

「えっと、つまり?」

「鵜呑みには出来ないけど、一旦信じよう」

 

そう言って、爽やかな笑みを浮かべながら、スマホを僕に手渡してくる春信さん。こういう時の、この人はすごく頼りになるお兄さん感が出てる……まぁ、夏凛が話に出てきたら、妹大好きシスコンお兄さんに早変わりだけど。

 

「それで、洸輔くん。君は、あちらで過去の勇者様たちと共に戦ったんだよね?」

「は、はい。そうですけど……」

「実はね、過去の書物に気になることが書いてあって。それが、西暦の時代、勇者達と共に戦った精霊がいたって話さ」

「ぶふっ!?ふ、ふぇ!?な、なんですか!?その話!?」

「言葉のままだよ。西暦の時代、突然現れ勇者達と共に四国を守る為、白銀の剣を手に神の使いと戦った精霊。しかし、一つの大きな戦いが終わったと同時に忽然と姿を消したと言われている……勇者に並ぶ過去の英雄って奴さ。はは、その顔心当たりがあるみたいだね?」

「心当たりっていうか……絶対、僕ですよ。それぇ……」

 

(記録は残しちゃダメって言ったのにぃ〜〜〜!!ひなたぁ〜)

 

消える前に、しっかり忠告したのに……まぁ、春信さんの喋った内容を聞いてみると、僕の名前や勇者って部分は隠されているみたいだし……まぁ、いいけども。

 

「大赦内でこの話を信じているものは少ない。そんな精霊はいるはずないってね。僕も、どっちかと言われれば信じてはなかった。でも、君の話を聞いて納得したよ……あの書物に載っていたのは精霊ではなく、過去に飛んだ君ってことだね」

「ま、まぁ……そういうことですね」

「凄い経験をしたね、洸輔くん。過去に行っただけでなく、初代勇者様達と共に四国を守る為に戦ったなんて」

「えっ?鵜呑みにしないんじゃ?」

「まぁ、その予定だったけど……さっきまでの君は嘘をついてるようにも見えなかった。そう考えるのなら、君は過去に飛び未来を変えた、ということかな?きっと、矛盾を生じさせない為に、微量な変化は起きていると思うな」

「微量な、変化……ゆ、勇者部は?」

 

不安になって、僕が勇者部のことについて話す。ある程度すると、春信さんが微笑んだ。

 

「うん、心配はいらないよ。僕の知っている勇者部と君の知っている勇者部に、矛盾してる部分はないね」

「よ、よかったぁ~」

「にしても、ホントに過去に行ったとはね。タイムリープやタイムトラベル……それらの考えはその人自身のものによるし、結局どれが正解とかはないから何とも言えないな。まぁ、でも、変化前の世界と今の世界を、比べる方法がないから不安な部分はあるかもだけど……君の話を聞いた限りじゃ、矛盾や差異はないと思うな」

「は、はぁ……っていうか、ちょっと楽しんでません?」

「あはは、ごめんごめん。少し、興奮しちゃったよ。まさか、そんな貴重な話を聞けるとは思ってなかったからね」

「ま、まぁ、そうかも知れないけど……」

「そんな不安そうな顔しなくても、大丈夫さ。多分、君は分かってるはずだよ……勇者部が自分にとってどういうものかをね。だから、僕に相談したんじゃないのかい?」

「!?……あ、ありがとうございます!」

「いいのさ、君には無茶を頼んだしね。悩んだ時は、勇者様達ほどじゃなくても、相談に乗るさ」

「は、春信さん……ただのシスコンって訳じゃなかったんですね!」

「ただのシスコンってなに!?っていうか僕はシスコンなんかじゃないよ!ただ、純粋に妹である夏凛が大好きなだけさ!」 

「それを、世間ではシスコンって言いますね」

 

僕が、半分呆れながら空になったコップを片付けるためにその場から立つ。

 

「なんと言われようと、僕が夏凛のことを好きなのは覆らないからね」

「なんの話ですか……」

「あ、そうだ、洸輔くん!これから時間はあるかな?」

「えっ?が、学校休んでるので……大丈夫ですけど」

「なら、案内したい場所があるんだ。付いてきて」

「は、はぁ……??」

 

頭に?を浮かべながらも、春信さんに言われた通り車に乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたよ」

「ここは…」

「これまで、四国を守るために戦ってきた勇者様、そして、巫女様達の名前が刻まれている場所だよ」

「っ!?ってことは……」

「君の話を聞いてここには行かせるべきだなって思ってさ。ほら、行っておいで」

 

春信さんに促されるがまま、車から降りて、僕は、ゆっくりと歩いていく。そこは、ひどく静かで僕の足音だけが響いていた。

 

「……あっ」

 

やがて、お墓に刻まれた名前を見て、立ち止まる。

 

「もう、会いに来ちゃったよ。若葉」

 

『乃木若葉』と刻まれている墓の前で手を合わせながらそんなことを呟いた。その横には、『上里ひなた』と刻まれている墓があった。

 

「はは、ひなたったら、若葉ちゃんの隣じゃなきゃ嫌です~とか言ったのかな?」

 

すると、ある一つの墓が目にはいってきた。そこには『白鳥歌野』と書かれていた。

 

「……白鳥さん、あなたが若葉に紡いでくれたものは、今もしっかりと受け継がれていますよ。今、四国があるのはあなたのお陰です、本当にありがとうございました」

 

話したこともなければ、会ったこともないけど……この人も僕らの未来を作ってくれた人でもある。だから、これだけは言いたかった。

 

そのまま、他のメンバーにも挨拶するために一つ一つのお墓を見ていく。

 

まず目に入ったのは、『土居球子』と刻まれた墓。なんか、皆よりも、大きめ?気のせいかな?

 

「いつもその明るさで、僕や皆のことを引っ張っていってくれたよね?何度も助けられたよ、その明るさに……ね」

 

その横には……『伊予島杏』と書かれた墓があった。杏は、控えめだな、彼女らしい。

 

「思い返せば、あの世界で一番最初に話したのって君だったね。まさか、自分が言った言葉で励まされるとは思ってもみなかったよ。にしても、ホントにいつも一緒だね……二人らしいや」

 

次に『高嶋友奈』と刻まれた墓。皆の中心、って感じはいつ通りだ。

 

「君はすごいよ。その優しさでどんな人でも包み込む。その優しさのお陰で、僕は自分を取り戻せたよ」

 

『郡千景』……名前を見ると、あの世界から消える寸前に触れた唇の感触を思い出して、顔が赤くなった。

 

「何だかんだで、君とは一番色々あった気がするね?あの時は油断したけど……もう、そうは行かないからね?」

 

一人で、皆のお墓に一言ずつ呟いた。僕しかその場にはいないはずなのに、何故か、そこに皆がいるような気がしてきた。

 

「あれ?何で……」

 

皆の名前を、見るたびに西暦で過ごした記憶が脳裏をよぎっていく。すると、僕の目から突然涙が溢れた。

 

「あー、何で泣いちゃうかなぁ……こんなの、一回出たら中々止まらないじゃん」

 

ぶつくさ言いながら、両目から流れる涙を拭きながら、体の向きを変えた。

 

「皆に会えてよかった……それじゃ、またね」

 

そう言って、春信さんの待つ入り口の方に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また次の日。今日は、勇者部の面々で園子の家で本の整理を手伝っていた。小説のネタの為に実家から、届けてもらったらしい。

 

「にしたって、ありすぎでしょ!?何よ、この数!?」

「図書館みたい……」

「なんか、目が回ってきたよ~」

「友奈ちゃん、大丈夫!?任せて、今すぐα波を送るから!」

「久しぶりだな。この感じ……」

「ん~?こうくん、どうしたの?」

「あ、ああ、何でもないよ」

 

久しぶりの雰囲気に、幸福感が募っていく。ダメだ、これ、一瞬でも気を抜いたら泣いてしまいそう。(てか、すでに一度泣いてる)

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?なんか、挙動不審よ、あんた」

「さっきも、突然泣いてたし……」

「起きた瞬間、私に抱きついてきたりとかもあったよね?」

「……抱きついた?洸輔くんが?友奈ちゃんに?」

 

(あ、これ、ヤバいやつだ)

 

友奈の発言に、美森の目から光が消える。それだけでなく、周りの皆さんから悪寒を感じる。

 

「うん!こう、ギュ~って!」

「へぇ~?」

「それは、また……ねぇ?」

「どういうことかしら?洸輔くん?」

「え、ええとぉ……あー、そうだ!まだ、入り口の方に本とか色々残ってますよね?僕、取って来ますー!!」

「あっ!逃げた!!」

「安心しなさい、樹。どうせ、またこの部屋に戻ってくるんだから……詳しい話はその時に、ね?」

「風先輩の言うとおりよ?樹ちゃん?……ふふ」

 

(い、一旦逃げられたけど……こりゃ、ダメだね。あの感じだと、言い逃れは出来なさそうだなぁ)

 

ドア越しに聞こえてきた会話を、聞いてそんなことを思う。

 

(友奈、美森、風先輩、樹ちゃん、夏凛、園子……また、皆とこうやって過ごせている)

 

こうやって勇者部のメンバーと過ごせて嬉しいという気持ちの方が、大きかった。

 

「さて、本を持ってかなくちゃね。にしたって、ほんとにいっぱいあるなぁ……なにこれ、『勇者御記』……って、下にも、なんかある?」

 

『勇者御記』と書かれていた本を手に取ると、その下から黒い箱が見える。

 

「わ、若葉ちゃん秘蔵コレクション?もしかして……まだ、なにか」

 

黒い箱を出して、中身を見る。すると、あり得ない量の写真が詰め込まれていた。その中には、もう一つ封筒のようなものが入っていた。それには、『天草へ』と書かれていた。

 

「僕へ?」

 

封筒を開くと、中には一枚の写真と手紙、そして、黒が特徴的な押し花が入っていた。

 

「この写真、あの時皆で撮ったやつ……手紙と、それに、これ……押し花?」

 

手紙には、一人一人からメッセージが寄せられていた。

 

『洸輔はさみしがりやだからな!タマや、皆に会えなくても泣くんじゃないぞ!』

 

「ふふ、余計なお世話だよ。そっちこそ、僕に会えなくて泣かないでよ?球子」

 

『本当に、ありがとうございました。洸輔さんのこと絶対に忘れません!』

 

「僕の方こそ、絶対忘れないよ。杏」

 

『幼なじみの友奈ちゃんや勇者部の皆と仲良くね!笑顔を忘れずに!!』

 

「友奈の笑顔には敵わなくても、僕も負けないくらいに笑い続けるよ」

 

『私は、いえ、私達は遠く離れていてもあなたのことを強く思ってるわ。だから、あなたも思っていて』

 

「千景……僕も君や皆のことをずっと思ってる。思っている限り、心はいつだって繋がってるからね」

 

『洸輔さん、ごめんなさい。記録は残すなと言われましたが、どうしてもあなたという人が、私達を助けてくれたということを残したかったんです』

 

「ひなた……驚いたけど、君がそこまで僕のことを思って残してくれたなら、構わないよ」

 

『お前は、助けてくれただけでなく色々なものをくれたな、洸輔。だから、皆で考えて押し花をプレゼントすることにした。300年もかかったが、受け取ってくれ』

 

「こちらこそ、返せないくらいに色々なものをもらったよ、若葉。黒か……多分、最後に使った勇者服の色をイメージしてくれたのかな?ふふ、もう一人の僕も喜ぶと思うな」

 

右手に、握られた黒色の押し花に視線を向ける。

 

「ありがとう、皆、大事にするね」

 

『私達の想いと、希望託したぞ。洸輔』

 

過去からの、思わぬ贈り物に動揺しつつもその場から立ち上がり勇者部の面々のいる部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「す、すいません、遅くなりました」

「あ、戻ってきた」

「やけに、遅かったわね?」

「もしかして、何かあった~?こうくん?」

「ま、まぁそんなところかな」

「さて、じゃあさっきの話の続きを……」

「ちょ、ちょっとまった!美森!」

 

不穏な気配が、美森から漂い始めたので途中で遮る。

 

「なにかしら?洸輔くん?」

「その前に、ちょっと聞いてほしい話があるんだ……っ!?」

 

その時、窓の外の方に青い鳥が見えた。その鳥は僕の方をじっと見つめている。

 

(ふふ、もう会いに来ちゃったの?若葉?)

 

僕が胸の内で、そんなことを呟くとまるでそれが聞こえているかのように、青い鳥は笑顔で頷いた。

 

(そっか……なら、見ていてよ。僕と皆のことをね)

 

「おおーい?こうく~ん?」

「どうしたの?洸輔くん?」

「あ、う、うん!大丈夫だよ」

「で?洸輔、話って?」

「まぁ、そのここ最近、僕がちょっとおかしいのとそれに、関連したことをちょっと……ね」

「どういうこと?」

「その、黒い箱が関係してるんですか?」

「うん、そんなとこ」

 

皆の質問に答えながら、先ほど受け取った押し花を握りしめた。正直、話すか話さないか迷っていたけど、やっぱり、話すことにした。

 

(隠すってのも、なんか変だしね)

 

僕の大事な仲間達に伝えたい。過去で出会った大事な仲間達のことを。

 

何より、皆が紡いでくれた想いと託してくれた希望を皆にも伝えたいからね。

 

僕は右手にある黒い押し花を握りしめ、西暦で起きた一つの奇跡の物語について話を始めたのだった。




はい!まずは、のわゆ編を完結まで、付き合ってくださってくれた皆様……また、ゆゆゆ編からここまで見てくださった皆様にはさらに深い感謝を!!

途中、何度も悩んだりして完結まで行けるか不安でしたが、なんとかこれました!(駄文は相変わらずですが……)

のわゆ編もこのまま閉幕するつもりはなく、ちょこちょこ番外編も出す予定です!

お気に入り登録、評価も自分が思った以上に増えて、嬉しすぎます……ほんまありがとうございます!!

次は、わすゆ編か……皆さんの期待に答えられるようがんばります!!

それでは、最後にのわゆ編完結まで見てくださって本当にありがとうございました!


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短編 わか!たま!あん!

今年最初の投稿じゃぁ!!読者の皆様、いつも天草洸輔は勇者であるをありがとうございます!今年もこんな作者、そして作品をよろしくお願いします!

さて、今回は若葉!球子!杏!がそれぞれメインの短編です!楽しんでもらえたら幸いです!最近杏からバブみを感じるんだ(`・ω・´)キリ←唐突

これはアンケートとは関係なしに書きたかった番外です!ifも書くからご安心を!


「むむむ……難しい」

「はは、意外に不器用なんだね〜若葉は。ちょっと貸してごらんよ」

 

寮にある自室。洸輔に頼み込み、綺麗に服を畳む為のやり方を教わっていた。何故かというと、ひなたに頼りきりなのも良くないと感じたから。

 

「ここは力を込めずに……こうやって」

「す、すごいな……君は魔法使いか?」

「ま、魔法使い???よ、よくわからないけど……慣れれば若葉にだってできるよ〜僕にだって出来たんだし」

「そういうものか?」

「そういうもの!ささっ、頑張っていこ〜」

 

 急に優しい笑みを向けてきた為、反射的に目を逸らしてしまう。なんでだろうか、私はこの笑顔に弱い気がする。彼のこういう表情を、見ると何故だか胸の辺りが熱くなってくる。

 

「か、貸してくれ。今度こそ成功させる」

「はは、若葉は根気強いから教えがいがあるなぁ」

「今に見ていろ!もうすぐ、私は教えてもらった畳み方を全てマスターしてみせるからな!」

「そりゃあ、楽しみだことで」

 

気恥ずかしさを振り払うかの如く、自身に気合を入れてもう一度教えてもらったやり方を実践する。

 

「あ、あれ?また……失敗か?」

「ふむふむ、ちょい失礼」

「なん……っ!?」

 

だが、やはり上手くいけず悪戦苦闘しているとさっきまで私を見ていた洸輔が、私を抱きしめるような状態を作りつつ手を握ってきたのだ。

 

「こ、こここ、洸輔!?な、何を!?」

「力が入りすぎだよ?もっと、気を楽にして」

「えと……こ、こうか?」

「そうそう、いい感じ!」

 

私がうまく出来たことが、嬉しいのか彼の手を握る力が強くなる。背後から抱きしめられてる状態なので、その行動により密着度合いが上がっていく。

 

(つ、強く手を握るなぁーー!!む、無意識なのか!?何にも考えずにこれをやっているのか!?)

 

いや、無意識にやっているな……洸輔はそういう男だから。その行動に何度も私は驚かされている。

 

「おーい?大丈夫?」

「ふぇ!?な、何だ!?」

「いや、顔が強張ってるし赤くなってるから……熱とか」

「な、なんでもないぞ!なんでも!!そう、なんでもないんだ!!さっ、洸輔!つ、次の畳み方を教えてくれ!」

「う、うん、き、急にテンション高いね?」

「散々出来なかったものができるようになれたからな!嬉しいに決まってるさ!」

「そっか。えと、じゃあ次はぁ〜」

「あっ……」

 

あれだけ恥ずかしがっていたのにも関わらず、彼と体の距離空いた瞬間に残念そうな声が漏れた。

 

「若葉?」

「その……できることならさっきのように教えてくれれば助かる……補助があった方が感覚も掴みやすいからな」

「あ、なるほど!りょーかい!じゃあっと…」

 

 

 

 

そのやり取りの後も、洸輔による服の畳み方レッスンは続いた。ちなみに、彼は集中しすぎていたのか自分がどういう状態で私に教えているのか終わった時やっと理解し、顔を赤くしていた。

 

「……変な所で鈍感なやつだな、洸輔は」

 

教えてもらった方法に、早く慣れるため練習しながら呟く。

 

(にしても……なぜ、私はあの時残念に思ったんだ?恥ずかしかったんじゃなかったのか?)

 

しかも、もう一度彼に手を握ってもらいながら教えてもらっていた時は恥ずかしさよりも嬉しさが多くあった気がする。

 

(ま、まさかとは.……思っていたが……そのまさかなのだろうか?私は彼のことを)

 

認識してしまったが最後、胸の高鳴りは止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……あー!!一人でやるなんて、地獄だぁ!!」

 

放課後の教室で、タマはノートに対して怒鳴る。この前やったテストの結果があまりにも酷かったらしく、担当の先生から課題が出された。

 

「よりによって杏も、若葉達も今日は用事あるっていうしなぁ〜」

 

結果、一人でずーっとノートと戦い続けてる。もちろん、監視とかないからサボろうと思えば、サボれなくはない。でも、ここでやらないと二度とやらない気がしたので我慢して、取り組むことにした。

 

(はぁ〜暇だぁ〜暇すぎる〜、いや課題がやんなきゃだから暇ではないんだが……一人は退屈だぁ〜飽きた!)

 

ペンをクルクルと回して遊んでいると、教室の扉が開いた。

 

「わっすれものぉ〜……って、球子もしかして、まだ苦戦中?」

「んぁ?洸輔?お前、用事あるって言ってなかったか?」

「ああ、あったよ。でも、案外用事が早く片付いてね」

「じゃあ、なんでここに?」

「その後、宿題やろうと思ったらノートを学校に忘れてたみたいでさ、取りに来たの」

「なるほど、タマは完全に理解した!」

 

そして、タマは思いついたぞ!この退屈した状況を覆す打開策??ってやつをな!

 

「てな訳で!洸輔、ついでにちょっとタマに付き合ってくれタマえ!」

「まぁ、そうなるか。いいよ〜宿題は後でも出来るからね」

 

そう言って、向かい側の席へつく洸輔。

 

「んで、僕は何をすれば?」

「まぁ、なんだ、無言とかタマにはキツすぎるからなんか話してくれ」

「無茶苦茶いうねぇ……あ、ここ飛ばしてる」

「ほんとだ、サンキュっと、っで?なんか、ないのか?」

「うーん、あっ、話のネタはないけどガムがあったよ」

「なんだと!?よこしタマえ!!」

 

ポケットから取り出されたガムをひったくり、頬張る。ブルーベリー味、うまい!

 

「うめぇ〜ありがとなぁ〜洸輔〜」

「あはは、喜んでもらえたなら良かったよ。ごめんね、大した話のネタも振れなくて」

「気にするなってぇ〜タマは洸輔がいるだけで嬉しいから大丈夫だ」

「へっ?」

「ん、あれ?」

 

いま、タマなんて言った?すごい事をすごいサラッと言った気がするんだが。

 

「え、えーと……球子、今のは?」

「ち、違うぞ!!い、今のは……」

「い、今のは?」

「……んぁー!じゃん、けん!!」

「えっ、あ、えーと、ぽん!」

 

強襲じゃんけんぽん、結果はタマが、チョキで洸輔がパー。つまりは……。

 

「ふっ、タマの勝ち、なんで負けたか明日までに考えといてください」

「えぇ…てか、軽く話の逸らされてるような……」

「知らん!ちょ、ちょい静かにしてくれ!」

「理不尽!?ま、まぁいいか……なんか、用があったら言ってね」

 

かなり勝手な事をしているタマに洸輔は怒るどころか、そんな事を言ってくれた。それに少し罪悪感を、覚えてノートに視線を逃す。

 

(元はと言えば、タマが悪いのにな……んー、さっきのは洸輔に悪かったな)

 

「洸……」

 

顔を上げると、窓の外の夕日を見ている洸輔の横顔が映った。それを見た時、何故か声が出なくなった。

 

すこしの間、思考が止まっているといつの間にか洸輔の顔が近くまできていた。

 

「球子?」

「っ!な、なんだ!?」

「えっ、なんだって……球子、僕を呼ばなかった?」

「あ、ああ!そうだそう!さ、さっきはごめんなって言いたくて」

「いいよ、気にしなくて。それよりも、わかんない所とかない?」

「そ、それなら、ここ教えてもらっていいか?」

 

タマが教えてもらいたい所を指差すと、洸輔は「喜んで」と言って嬉しそうに教えてくれた。結局の所、終わるまで洸輔は付き合ってくれたのだった。

 

 

 

 

 

寮に戻ったタマは、すぐにベッドへとダイブする。考えるのは、タマが無意識に言った言葉と洸輔の横顔に見入ってしまった時のこと。

 

「おいおい……タマったらほんとにどうしちゃったんだよ!?」

 

何故か、体が熱くなる。浮かんできたのは洸輔の顔。

 

「最近、杏に見せられた恋愛小説の影響か?いや、なんだろう、なんか違う気がする……」

 

枕を抱き寄せると、また洸輔の顔が浮かんできた。

 

(ぐぁぁぁ〜!!そういうのは、ほんとにタマのキャラじゃないってぇぇぇぇ!!!)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「んー!読み終わったぁ!」

「は、早いですね、それで今回の小説はどうでした?」

「最高だったよ!主人公とヒロインとのあのドギマギした感じがなんとも……」

 

本を両手で、大事そうに抱えながら洸輔さんが嬉しそうに話してくれた。その姿を見て笑みが溢れる。

 

「ふふ、そこまで喜んでもらえると私も嬉しいです」

「う~むぅ〜」

「どうしたんですか?急に唸って」

「いやぁ~なんか、最近いつも杏の部屋にお邪魔させてもらってるだけじゃなくて……こう、本まで読ませてもらってるし何かお礼はできないかなぁ〜と」

 

優しい洸輔さんらしい気配りだなぁと思った。その無意識な優しさが洸輔さんの恐ろしいところでもあるが…。

 

「き、急ですね……っていうか別にお礼は」

「必要ないとかなしだからね!?なんでもいいから、ほら!」

「ええ!?え、ええとぉ〜……あっ」

 

その時、ある事を思いつく。正直、お礼という形で頼むのはおかしいかと思ったけど言ってみる事も大事だ。

 

「ひ、膝枕をさせてもらってもいいですか?」

 

そう言って、私はゆっくりと膝の上を指さした。まさかしてほしいではなく、させてほしいと頼まれるとは思ってなかっただろう。

 

「んーと、つまり杏が僕に膝枕を?」

「そうです、お礼をしたいって言ってる人に頼むのは変かもですけど」

「まぁ、言い出しっぺは僕だしな…よし、杏が満足するまで、やっていいよ!」

「そ、そうですか…で、では、えと、ど、どうぞ」

「それじゃ、失礼します…」

 

太ももに心地の良い重さを感じる。少し癖のついた髪の毛、いつもはもっと凛々しく見える顔が今では、とても可愛くそして、幼く見えた。

 

「ん、な、なんか恥ずかしい……」

「っ…」

 

(…可愛い)

 

顔を赤くしながら、私の膝に頭を乗せている洸輔さんをみてそう思った。こういう反応を見ると楽しくなってしまう自分がいる。

 

(タマッち先輩の時は、からかいすぎて怒られちゃったんだっけ)

 

あの時は、それで終わってしまったけど。この人は、どんな反応するんだろう……と好奇心がどんどん膨らんでいく。

 

「あ、あのぉ……杏?」

「はい、なんですか?」

「いえ、その……何故に頭を撫で出したのでしょうか?」

「ダメでしたか?」

「いや、別に……ダメってわけじゃ……ないんだけどさ」

「なら、いいですよね♪」

「っ……む」

 

優しく頭を撫でていくと、洸輔さんが恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった。その反応を見た瞬間、体にゾクゾクっと謎の感覚が走る。

 

(なんだろう……も、もっとこういう反応が見たい)

 

洸輔さんの反応一つ一つを見る度、頭がぼーっとしていってる。体もちょっと熱くなってきているような…。

 

「ふふ、耳まで真っ赤にして……可愛いです」

「か、からかわないでよ…」

「む、また目を逸らす〜しっかり、こっち見てくださいよ〜……」

「大丈夫なの?なんか、すごい怖いんだけど!?」

「全然大丈夫ですよぉ〜」

「いやでも、なんかトリップしてる気が……ひぅ!?」

 

(なんだろう……好きな人を手玉に取ってるようなこの感覚……なんか、いけないことしてるみたいで……すごい、病みつきになりそぉ…)

 

ゆっくりと彼の上半身を指でなぞっていく。体をびくつかせながら弱々しい声を発っする姿が目に映る。その姿を見て、背徳感に口が緩む。

 

「いいんですよぉ〜?もっと声出して…ここには私と洸輔さんの二人だけですからねぇ〜」

「ちょっ、杏…膝枕どころじゃなくなって…うぅ」

「くすっ…ここが、くすぐったいんですかぁ〜?意外に、敏感なんですね〜?」

「あ、あんずぅ…ちょっ、や、やめてってば…」

 

少し涙目になりながら、懇願する彼の姿が私の頭を更にぼーっとさせる。変なスイッチ入っちゃったかも…。

 

「まだ私…満足してませんよ?洸輔さん、言いましたよね?私が満足するまでやっていいって」

「うっ…た、確かに言ったけど!でも!ちょっ、ふわぁ…どこ触って!?」

「ふふふ…ここまで、きたら私が満足するまで付き合ってもらいますからね?」

「ちょっ!?ひぃっ!?ま、まってってばぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

「わ、私はなんてことを……」

 

顔を両手で覆いながら唸る。自分の膝の上には上半身裸の状態ですやすやと寝ている洸輔さんの姿があった。

 

「と、途中から記憶があやふやで…で、でも、うっすらと何をしちゃったかは…ぁぁ」

 

起こさないように、すぐに口を塞ぐ。にしても…顔が熱い、恐らく真っ赤になっているんだろう。普通に膝枕をするだけのつもりが、いつの間にか、こんな事になっているなんて……。

 

(悪いことしちゃったかな…)

 

自分の自制力の無さに落胆し、ため息が漏れた。視線を落とすと、可愛い寝息をたてて、寝ている洸輔さんが目に入る。

 

「すぅ…すぅ…」

「……可愛い」

 

罪悪感はあるはずなのに、それでもまだあのゾクゾクが体に残っている。一体あの感覚は……。

 

「ん、んぅ…」

「ふぇっ!?」

 

考え込んでいると、洸輔さんが寝返りをうってこちら側、つまり私のお腹の方へと顔を埋めてきた。

 

「ちょ、ちょっと…こ、洸輔さん?」

「や…柔らかいぃ…」

「っ!?」

「あん…ずぅ…」

「はぁぁ……はぁぁぁ〜」

 

すると、あのゾクゾクする感覚に襲われた。どうやら、自分は何か新しい扉を開いてしまったらしい。




久しぶりに書いたら、めちゃくちゃ楽しかったです。次には、ひなちかゆうってな感じで残り3人もあげたいです。てか、杏のは半分以上IFにしなきゃダメなやつやん_:(´ཀ`」 ∠):

本編もIFももうそろそろあげなくては……!あ、感想待ってます!



参考になるシチュとかあったら教えてほしいなぁ〜(*´ー`*)じ〜


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番外編 ポニーテールと乙女心

約2ヶ月ぶりの投稿、しかも本編ではなく番外編ときた。本当は、ポニーテールの日にあげたかったんですけどね(血涙)
今回はあれですね、ポニーテール好きの天草くんの再来回です!

そして、今回であこゆ!まさかの100話達成!



 ポニーテール、通称ポニテ……それは一つの世界の心理であり全てを超越せし髪型の名だ。如何なる男性であろうとも、この髪型の前では無力であり、可愛さにイチコロ……というのが僕の自論である。一言で纏めるなら、僕はポニーテールという髪型が大好きだ。

 

(ここは……天国か)

 

 自分が愛してやまない髪型をしてくれた6人の美少女達に囲まれるという謎事態の渦中に僕はいた。ん?なんか前にも似たようなことがあったような……。

 

 嬉しいようで危険すぎるこの状況、ことの始まりは今日の朝頃へと巻き戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……眠ぃ」

 

 未だに半開き状態の目を乱暴気味に擦る。昨日は千景の部屋でゲームを夜遅くまでやっていたせいか、眠気が半端ない。朝食の時間なのにも関わらず箸が止まりまくりという始末である。

 

「洸輔くん、大丈夫?」

「お箸が全然進んでませんね、お腹でも痛いとか?」

「ああ……いや、昨日ちょっと遅くまでゲームを、ね」

 

 二人で夜遅くまでゲームを対戦していることを隠せと口止めがあったのでそこは伏せておく。眠気がMAX状態ではあるが、そういう部分の配慮は忘れない。

 

「ふむ、娯楽に興じるのもいいが、それで日常生活に支障をきたしては元も子もない。休める時にしっかり休む、それくらいは意識しておくんだぞ?」

「ご、ごもっともです、返す言葉もない…・」

「なるほど、洸輔くんを嗜める若葉ちゃん……いつ見ても素晴らしい組み合わせです、はぁぁ〜アルバムに追加しなくては」

「ひなた……(ツッコむ気すら失せてしまっているボイス)」

 

最初は僕に対する説教モードだったのに、いつの間にかひなたのペースに呑まれている……やっぱり、巫女さんは強いネ。

 

(てか、やばい。眠すぎる)

 

 食事に関しても変わらず箸が進んでいないし、会話の内容もいまいち入ってこない。

 

「おうおう、随分眠そうじゃなぁ?洸輔さん?」

「うむうむ、眠いぞよ、球子さんや」

「えらくノリがいいのがちょっと気持ち悪いが……ふむふむ、なんつーか今なら何を聞いても答えてくれそうな気がしないか?千景?」

「……なんで、私に振るの」

「千景は相変わらず冷たいな、もうちょい優しめに何を聞くの?とか言ってくれよ」

「はいはい……何を聞くつもりなの?」

 

 眠気がMAXすぎて、内容は入ってこないが千景と球子が仲良しなのはよく伝わってくる。

 

「ふふん、よく聞いてくれた。それはズバリ!洸輔が女の子にしてもらったら嬉しい、または好きな髪型だ!」

「好きな髪型ですか?それはまた、何故?あっ、もしかして洸輔さんの好みに合わせるた」

「ぶふっ!?だあ〜!違う違う!理由としてはな!この前杏が」

「ああああ!た、タマッち先輩!そんな事よりも、洸輔さんに質問する方が先じゃない!?」

 

 食事に集中している内に何やら、話が進んでいたようだ。何故か杏があたふたしているのは気になったが、自分の名前が話題に上がって気がしたので声を掛ける。

 

「どうかした〜?」

「おお、そうそう、お前に質問があってだな!」

「ふ、わぁ〜〜……何?」

「お前が女の子にしてもらったら嬉しい髪型ってあるか?」

「……ん〜とねぇ〜ポニーテールかな〜」

「ぶふっ!?!?」

「わ、若葉ちゃん!?」

 

 答えたのとほぼ同じタイミングで、若葉が吹き出した。それを急いでひなたが拭いてあげている光景が入ってくる。やはり、いまいち意識が朦朧としてる、質問の内容ももう覚えてないし……今日は早く寝なきゃ。

 

「ポニーテール……」

「てことは……」

「うーん、私似合うかな?」

「高嶋さんなら、きっと似合うと思う……」

「ふむふむ、私も少し攻めるべきでしょうか?どう思います?若葉ちゃん?」

「わ、私に聞くのか!?」

 

 何やら、皆がソワソワしているのが気になったが授業時間に遅れてしまっては困るので食事に集中する……あ、この玉子焼き美味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〜時間は経過し昼休み〜

 

「ん〜!朝の眠気が嘘みたいに……目覚めた〜!」

 

 ゆっくり伸びをしながら、廊下を歩く。昼食も終わり、昼休みへと入ろうとしてた所、突如として尿意に襲われた為、トイレに駆け込んだ帰りである。

 

(朝の記憶がほんとおぼろげにしかないな)

 

 皆との会話の内容もほぼ覚えていない、覚えていることと言えば食事が遅れた僕を皆がわざわざ待ってくれた事によって、全員で仲良く朝一の授業に遅れそうになったという事くらいだろうか。

 

 多少の罪悪感を感じていると、教室内からは6人の楽しそうな話し声が聞こえてきた。それを聞いて少しほっこりしつつ戸を開く。

 

「おーい、皆で楽しそうに何話てぇ……」

 

 言葉は止まり、一瞬の内に凍りつく。別に寒かったなんて訳ではない。ただ単純に目の前の光景に身動きが取れなくなったのだ。

 

 視線は皆のある一点にのみだけに注がれる。そして同時に、僕は胸の内でけたたましい叫び声を上げていた。

 

(……なんで、みんなポニーテールに変わってるんじゃぁぁぁ!?)

 

「洸輔くん〜大丈夫?」

「ひっ!?何!?」

「な、何じゃないでしょ……どうしたのよ、そんな所に突っ立って」

 

 なんだろう、この状況は。気がついたら、そこにはポニテが広がってやがった。

 

 美しいポニーテールを靡かせながら、友奈も千景も、皆もなんというか僕がおかしいみたいな反応してくる。えっ、置いてかれてるの僕だけですか。後、皆さん似合いすぎです。

 

「えーと、なんで皆さんポニーテールにチェンジしてるんですか…?」

「なんでって、貴方が好きな髪型はポニーテールって答えたのが始まりじゃない」

「はぇ?僕そんなこと……えっ、あっ!」

「大方、寝ぼけて答えでもしたんでしょ」

 

 やれやれと言いたげに千景は美しい以下略、朝の朧げな記憶からそんなこともあったと、自分の頭が伝えてくれている。にしたって寝ぼけすぎにも程があるだろうが!

 

「でも!それと皆がポニテになる必要性に関係が見られないヨ!」

「まぁまぁ、落ち着いてください」

「ひな……うわぁぁぁ!!!」

「洸輔くん!?」

「急にどうしたんだ!?」

「いや、ちょっと……ゴフッ」

 

 冷静さを欠いて暴走していた事もあり、最初は皆のポニテがしっかり見れてなかったが、若葉とひなたのポニテ姿を見て目を抑えながら悶える。

 

「三つ編み……ポニーテール……だと」

「あ、なるほどぉ〜ふふふ、気に入ってもらえましたか?」

「超似合ってる、まじ最高。あ、写真撮っていいですか」

「どうぞどうぞ〜さぁさぁ、若葉ちゃんも一緒に!」

「い、いや私は…」

 

 恥じらう若葉、笑顔のひなた、恐るべき三つ編みポニテダブルコンビである。なるほど、これが世界か……などと悟りを開きそうになる程の神聖さである。

 

「若葉!ほら、並んで!後、できるなら二人ともくっついて!」

「お、落ち着くんだ洸輔!ここは一旦落ち着いてだな…」

「落ち着けだとぅ!??」

「ひぃ!?」

「こーんな、可愛いポニテ姿見せられて落ち着けないよ!しかも何ですか!普段の凛々しい感じとは違って、可愛さと可憐さを前面に押し出してきちゃって!」

「っー!わ、分かったからそ、そんなに褒めないで……くれ」

 

 なんなんだこの子、ギャップの化身すぎでは。やめてくれ、若葉そのギャップは僕に効く。

 

「ふむふむ、普段のポニテ姿も正直、いや、かなり好きだけどこちらも……」

「ひ、ひなた、あいつを止め」

「もう少しこのままでいた方が若葉ちゃんのいろんな表情が見れそうなので放置しますね」

「ひなたぁぁぁぁぁぁぁ(絶望)」

 

 二人の悪魔に挟まれてしまった若葉に逃げ道はなく、諦めて叫ぶだけだった。にしても、ほんと絵になるな、似合いすぎ。

 

「……今回ばかりは同情するわ。にしても、上里さんも大概だけれど、彼に至っては発言も何もかもが変態じゃない」

「タマが思うに、案外洸輔はバカなのかもしれん」

「でも、こんな風に楽しそうな洸輔さんは初めて見たかも」

「確かに!思ったより喜んでくれてるしね〜ちょっとおかしいくらいに!」

 

 変態ではない、紳士である。それと杏以外の皆さんは辛辣ですね、泣きそう。

 

「ねぇねぇ、私のはどうかな?ぐんちゃんとお揃いなの!」

「ほほう?サイドテール……ナイスチョイスだよ、友奈。明るく活発な友奈にぴったり」

「えへへ〜」

 

 褒められると嬉しそうに友奈がぴょんぴょん跳ねる。跳ねた拍子に、ふりふりと纏められた髪が揺れた。その度に視線は奪われ、胸が高鳴る。この組み合わせ、悪魔的。いつもとは違い、後ろでまとめるのではなく横に纏めたのか……全く美少女はこれだから恐ろしい。

 

「……」

「千景?」

「別に私は明るくも活発でもないから……似合ってないわよ」

 

 その横では千景が少し機嫌悪そうにそう呟く。そんな千景のポニテは友奈とは逆の方向に纏められたサイドテールとなっている。なるほど……そういうスタイルか。完全に理解した(変態)とりあえず、僕は千景の言葉に対して自身のコト●マをぶつける。

 

「それは違うよ!」

「……何が違うのよ、ていうか近」

「千景、サイドテールというのはね、その髪型にした本人の魅力を更に引き出すことが出来るものなのさ。いいかい?」

 

 首を傾げた千景の手を掴みつつ語る。サイドテールの場合、例えば、友奈のような明るいタイプの女の子はより明るく元気に見せることで魅力を引き出す。そして、千景のようなクールで、大人っぽいタイプの女の子には、より大人っぽさを掻き立て、元から持ち合わせているクールビューティーなイメージにも更なる拍車をかけるのである。

 

「そう、これこそがサイドテールの持っている力!」

「ふーん……で、結局何が言いたいの?」

「つまり、千景もめっちゃくちゃ似合ってるってこと!大人びている雰囲気がもっと全面に押し出されて、より魅力的になって好きだね!僕は!」

「っ……ふん!」

「痛っ!いきなり何するの!?」

「あ、貴方が変なこと言うからでしょ!」

「なんで!?そういう雰囲気の千景も好きって言っただ」

 

 直後、顔を真っ赤にした千景さんから飛んできた渾身の一撃。バチンッ!という清々しい音が響くと同時に僕の頬には真っ赤に煌めく男の勲章が出来上がっていた。よく分からないが、千景さんにはあの褒め方は良くなかったらしい。

 

「やっぱ洸輔って馬鹿だろ?」

「あれは……洸輔さんが悪いと思います」

「えぇ(困惑)」

 

 杏と球子からもこう言われてしまっては、僕が悪いのだろう。気をつけなきゃ……女心って本当に難しい。ヒリヒリと痛んだ頬を慰めつつ、二人のポニテ姿を拝見させていただく事に。

 

「どうだ、洸輔!タマと杏のポニテ姿は!」

「可愛い!てか、愛らしい!」

「お、おう……そんな、褒めるな」

 

(若葉とは違ったこのギャップ……可愛すぎでは?なんなんだ、この子……いや、この子達)

 

「二人もお揃いにしたんだね。しかも、スタンダードタイプ」

「はい、皆さんお揃いにしていたので私達もって」

「えっ?女神?」

「へっ?」

「いや、ごめん。あまりにも綺麗で……」

「そ、そうですか……えと、う、嬉しい、です」

 

 赤面して俯いてる杏に目を奪われながらもなんとか思考を動かす。

 

「それにしても……」

 

 この二人、自分の魅力に少し気づけていない節がある。例えば球子は自分は女の子らしくないというがそんなことは一切なく、実際ポニテ姿も目ん玉飛び出そうなくらいに可愛い。

 

 杏に関しても同じで、千景のクールな大人っぽい雰囲気とは違いお淑やかさと清楚なイメージを前面に押し出されるものとなっており、普段の小動物感は見る影もない。

 

 そして、二人は普段からずーっと一緒にいることも多く、まるで姉妹のような雰囲気を思わせている。ポニーテールはその属性というべきものも底上げし、更なる魅力として掻き立てていた。

 

「清楚でお淑やかな姉、そして、無邪気で少しやんちゃな妹……はぁー、素晴らしい」

「清楚……お淑やか……」

「おいまて、それは明らかにタマが妹の方じゃないか?」

「すいません、球子お姉様」

 

 顔面をすごい力で掴まれてしまったので速攻で謝罪した。皆の素晴らしいポニテ姿を拝見させてもらったことで、僕のテンションは爆上がりした。テンションの急激な変動に疲れた為、自身の席へと着き机に突っ伏した。

 

「はぁ……堪能した、余は満足じゃ」

「喜んでもらえてよかった〜まぁ、私達も楽しかったからよかったかな」

「僕もう……なんというか感謝しても仕切れないくらい満足しました〜」

 

正面に視線を向けると、横にいる友奈を抜いたメンバーが固まってポニテの話題で盛り上がっていた。ここまで、ポニテに興味を持っていただけるのは好きな自分としては嬉しい事この上ない。

 

(そういえば……)

 

「ねぇ、友奈」

「どうしたの?」

「聞きそびれてたんだけど、結局の所なんで皆はポニテになってくれたの?僕としては嬉しい限りなんだけど、やっぱりそこだけわからないというか……友奈さん?」

 

 横にいる友奈がクスクスと笑い出したので、気になって視線を送ると彼女は穏やかな表情をしつつも、少し呆れた様子でニコッとはにかんだ。

 

「はは、洸輔くんって本当ににぶちんさんだよね〜」

「えっ?」

「そうだなぁ、そんなにぶちんさんな洸輔くんに少し教えてあげる」

 

 そういうと、友奈が少し意地の悪そうな顔でこちらを見る。小さく纏められた髪が揺れる。

 

「好きな人の好みを知ったら、女の子は次にどう動くと思う?」

「えーと……その好きな子の好みに合わせて、アプローチ掛けたり、試したりするんじゃ……ん?」

 

 えっ?その話の流れで行くと……皆がわざわざ髪型をポニテに変えてくれていたのって。

 

「い、いやいや、ま、まさかそんな事は……ねねねねぇ?」

「うーん、信じるか信じないかは本人次第かな?まぁ、一言言えるのは……」

 

 色々辻褄が合いすぎて軽く混乱する僕の前に、高嶋の顔が目の前にくる。彼女の息づかいと女の子特有の甘い匂いが僕を刺激し、胸の高鳴りが早くなる。そんな事を知る由もない友奈は人差し指を口に当て小悪魔のような笑顔を向けてきた。

 

「皆がどうかは分からないけど、私は好きな人の好みが知れたらすぐに試しちゃうかなぁ…今、みたいにね」

「は……えっ!?!?」

「ふふ♪」

 

 突然の告白に動揺する僕を見るなり、友奈はこれまた楽しそうに微笑んだ。その笑顔と揺れる髪に魅了されていると、こちらの様子に気づいた皆が飛んでくる。

 

「コラァ!なんで二人だけで楽しそうにしてるんだよぉ〜タマ達も混ぜろー!!」

「いいよ〜タマちゃん!」

「お二人でなんの話をしてたんですか?」

「あっえと…」

「この中で洸輔くんが一番好みだったのは誰か?ってお話してたんだよ〜」

 

動揺が未だ収まっていない所に、ポニテ姿の美少女達が襲来。しかも友奈の発言によって全員の視線が一斉に僕に向けられた。

 

「それはそれは……楽しそうなお話ですね。そうは思いませんか?若葉ちゃん?」

「あ、ああ、私も興味がある」

「タマもだなぁ、別に洸輔の好みであって欲しいんじゃなくてただ!ただ!!一番になりたいだけだが」

「……(杏からの無言の圧力)」

 

 先ほどの動揺、目の前にはポニテ美少女に包囲という状況が作られているせいで少し気が遠くなってきた。なんとかここから脱出しようと口を開く。

 

「そ、そろそろ昼休み終わるから……みんな席についた方」

「ええ、そうね。でも、それは貴方の答えを聞いたからでも遅くないわ」

「そうそう、ぐんちゃんの言う通りだよ〜♪」

 

 すごい形相で僕の肩を掴む千景とさっきのように小悪魔チックな笑顔を浮かべる友奈。逃げ場を消された所に、更にポニテ姿の美少女達は距離を詰めてきた。

 

「それで?」

「誰のポニテ姿が一番好みだったんですか?」

 

 もはや、誰が口にした言葉か僕にはわからなくなっていた。様々な情報と目の前の光景に思考回路をショートさせた僕は、最後に六人の美少女達のポニテに改めて一通り目を通すと、親指を立てこう呟いた。

 

「…………………全部、好き」

 

 直後、白目を向いてぶっ倒れた……と、後で皆から聞いた。その日の僕はポニーテールの素晴らしさを再認識すると同時に少し、乙女心というものが分かったような気がした。




100話達成は正直、驚きしかないです……本当読者の方に感謝感謝の想いで紡がれ続けるこの作品、投稿が遅れる事はまだまだあるかもしれませんが……何卒何卒!あこゆの方をよろしくお願いします!このまま、駆け抜けて見せます!


所で、なんか100話記念的なのやった方がいいんだろうか()


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番外編 初夢の中で

 皆様、あけましておめでとうございます!あこゆ新年一発目の投稿は番外編!まさか新年一発目に推しがメインの話をあげられるとは…嬉しい限りで。
 
 改めて今年もあこゆと作者の事をよろしくお願いいたします!では本編どうぞ!


 目を開く。見えてくる光景、それはもう何度も見たもの。周りにはあの村の人々、私を囲い、咎め、罵倒し、痛めつける。

 

 その先には、父と母がいる。まるで無関係かのように背を向けて立っている。これは、夢。そう夢だ……。

 

(勘弁して欲しいわね、初夢がこれなんて)

 

 縁起が悪いことこの上ない。もうきっとこの夢は見ないと思っていた。けど、刻み込まれた過去の傷はそう簡単に消えてくれるものではなくて────。

 

 自身の左耳に触れる。残り続ける傷、それは心も同じ。過去とは消せないモノ。ずっと、ずっと、自分の中に在り続けてしまう。

 

 自分を苦しめ続けた人達も、自分を追い詰め続けた現実も。消えたりなんかはしない。

 

(……皆と楽しい時間を過ごした後なのに)

 

 眠る前、皆と年越しパーティーをしたのを覚えている。皆と過ごしたその時間はこれ以上ないくらい楽しくて────家では年末も年始も楽しいことなんてなかった私が……喜びと楽しさに包まれていた。

 

 この夢は、その反動だとでもいうのだろうか。

 

(過去からは逃れられないとでも…言いたいのかしら)

 

 貴女がいくら変わろうと、周りがどれだけ変化しようと、消せないモノがあるんだと。それを忘れる事は許されないと、訴えかけているのだろうか。

 

(だとしたら)

 

 それは飛んだお門違いというやつだ。私は、この過去を一度たりとも忘れようなんて考えた事はない。

 

「私は、もう心に決めているの。過去も背負って進むんだって」

 

 周りからの声を掻き消す程の大きな声は出していない。それでも、はっきりと意思を込め、言葉を発する。

 

 過去の私は、何も言わずに身を守るだけで精一杯だった。その頃の私にはそれしかできなかったから。けど、今はもう違う。

 

『千景!手を!』

「……ええ」

 

 暗がりの中、誰かに手を差し伸べられる。その手を握ると、懐かしい感覚に包まれる。この手の温もりを私は覚えていた。

 

 その手に引かれて、私は暗闇の中から抜け出した。

 

「今の私には……皆が、いるもの」

 

 さっきまで私を呑み込んでいた暗闇は消え、辺りは光溢れる景色に変わっていた。眩しさに細めていた目を開く。視界に入ってきたのは、大事な友人、仲間達の姿。

 

 こちらに駆け寄ってくる人がいる。その人は私の手を優しく握ってくれた。

 

「行こう、ぐんちゃん!皆、待ってるよ」

 

 夢の中でも、貴女は…高嶋さんは私の手を引いてくれる。貴女の存在はきっとどこまでも私という一人の人間を救ってくれた。

 

「千景〜遅いぞ〜!」

 

 明るく元気な声が私を呼ぶ、きっと土居さんだ。前までは苦手だった彼女の関わり方も、今では…その、好きだ。

 

「千景さんも来ましたし、これでみんな揃いましたね」

 

 優しい声色で、こちらに笑い掛けてくる伊予島さん。彼女とは元から話が合う事が多かった。今では前以上に関わることが増えた気がする。

 

「待ってましたよ、千景さん」

 

 手を差し伸べてきてくれたのは上里さん。常に周りの事を見て、皆を支えてくれた彼女。今でもそれは変わらなくて…彼女の小さな気遣いに私は助けられている。

 

「皆、いつも一緒だ。そうだろう?千景?」

 

 こちらに問いかけてくる乃木さん。どこまでも頑固で、馬鹿正直、生真面目な……私が大っ嫌い()()()人。でも、そうね…今は嫌いじゃない、とだけ言っておこうかしら。

 

 彼女の問いに対して、私は静かに頷く。そんな私の反応を見て、皆が微笑む、それに釣られて私も笑顔になった。暖かな時間、夢だとしてもこの胸に感じている熱さはきっと本物だ。

 

 この夢の中でも、私は皆に救われた。何度潰れそうになっても、何度堕ちそうになっても、皆が私を闇から救い出してくれた。

 

(それは……彼も一緒)

 

「いるんでしょ?天草くん」

 

 振り返らずに私はそう一言だけ呟いた。それに対して、後ろから懐かしい声が聞こえる。

 

『なんだ、ばれちゃってたのか』

 

 少し残念そうに彼は言う。バレないとでも思ったのだろうか、この人は。

 

「暗闇の中で手を差し出してきたのって、貴方よね?バレバレだったわよ」

『おっかしいな……だいぶ謎めいた感じ出せてたと思うんだけど』

「何それ、声がそのまんまの時点で謎も何もないでしょうに。バカね」

 

 困ったように笑う彼。どうしてか、その笑顔を見たのが随分昔の事のように感じる。

 

「一つ、聞いてもいいかしら?」

『なんでもどうぞ。しっかり答えるよ』

「じゃあ、遠慮なく……貴方は、本物なの?」

『どうだろうね、正直、僕自身も何とも言えないかも。似たような経験あるけど、こういうのは本人がどう思うか次第って感じかな』

「……そう」

 

 静かに頷く。正直、本物かどうかなんて些細な問題ではあった。今は……ただ、こうして話せている事を嬉しく思う。例え、夢の中であろうと、彼ともう一度会えたのだから。

 

「で、なんで今更夢に出てきたの?」

『うーん、まぁ、そうだね…理由的には千景が初夢にしては暗い夢を見ていたのが気になってさ、助けに来ちゃった』

 

 そんな気まぐれ感覚で見にこれるものなのか。人の夢っていうのは。

 

「良く、分からないわね」

『分かる、僕もだよ』

「貴方は分かっておきなさいよ。人の夢に勝手に踏み込んできたんだから」

 

 『あはは〜ごもっとも』と困った様に笑う天草くん。変な所で適当な部分も、変わらない。やはり、この人は私の知っている天草くん……だと思う。

 

『けど、どうやら必要なかったみたいだ』

 

 どこまでも優しい表情で、彼は言う。その表情は心の底からその事実に安堵しているように思えた。

 

『千景はもう大丈夫って……見てて分かったからね』

 

 彼が優しく頭を撫でてくれる。少し気恥ずかしく感じつつも……抵抗はしなかった。内心……少し、嬉しかった。そのせいか、一瞬感情の制御が上手くできなくなって────。

 

『……あーと、千景さん?』

「…何?」

『結構、密着してるけど……いいの?』

「いい、少しだけ…こうさせて」

 

 彼の温度を確かめるように、強く抱きしめる。覚えている…この温かさに私は救われた事を。

 

(そんな彼に……私は────)

 

 でも、今はそれを伝えるべきではない。この気持ちは夢ではなくて…またいつか現実で出会った時に、しっかりと伝えたい。

 

(だから、今は…)

 

 彼とまた出会えた事、彼の温度をまた感じられた事。それだけで今は満足だ。

 

「って…何もじもじしてるの」

『だ、だって…千景が…なんか積極的だからさ、少しこう、ね?』

「何、はっきり言わないと分からないわよ?」

『ちょ!?さっきより強く抱きしめたら…』

 

 今更何を恥ずかしがってるんだか。あたふたする彼を私はからかい続けた。攻防の果てに、やたらと息を荒くした天草くんに声を掛ける。

 

「大丈夫?天草くん」

『……ウン、ダイジョウブ』

「大丈夫じゃなさそうだけど……まぁ、その、久しぶりに貴方に会えて、嬉しかったわ」

『……ううん、いいんだよ、僕も千景に会えてとっても嬉しかったからさ!』

 

 本当に嬉しそうにとびっきりの笑顔を浮かべながら、彼はそう言う。その笑顔に釣られて、私も微笑んだ。

 

『さ、時間だね』

「また、会える?」

『勿論!こうやって会えたんだし、きっとまた会えるよ』

 

 根拠のない言葉だけど、天草くんが言うと不思議と無理ではないような気がしてくる。

 

『さぁ、皆が待ってるよ』

 

 一際、眩い光が空間に差し込んでくる。

 

「……またね、天草くん」

『うん、またね、千景』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 目が覚める。見飽きた天井を仰ぎ見た後、体を起こす。少しだけ頬が濡れているようにも感じだが、気のせいだろう。

 

「全く……夢の中にまで出てくるなんて。お節介なのも…ここまで来ると達人の域ね」

 

 しかも、初夢でわざわざ出てくるなんて…タイミングがいいのか悪いのか。夢の内容を思い出す中、扉がノックされる。

 

「千景、起きているか?」

「ぐんちゃーん!皆で初詣行こー!」

「あ…そうだった」

 

 扉の向こうから、私を呼ぶ声がする。初詣は皆で行こうと乃木さんが言っていたのを思い出した。

 

(昔なら、特に特別な事なんてないただの普通の日だった。でも、今は違う)

 

「もう大丈夫だから」

 

 その手に握られているのは、あの人から貰った大事な押し花。それを包みこむように握りしめて、扉へと向かっていく。

 

「あちらでも元気で……天草くん。それじゃ皆の所に行ってくるわね」

 

 そう最後に呟きを漏らし、私は部屋を出た。今年も皆とずっと一緒にいられる良い年になりますように。




 なんかわすゆ編の時に比べて天草くん明るくない?っておもったそこの貴方!元々天草くんは明るい子だからね!そこんとこよろしく!(投稿してるお話的に暗くなってるのは仕方ないから許して)

 実はもう一つ書いてる番外編があるのでそっちの方もあげられたら次は本編の更新の番です!今年も頑張るぞー!
 

 


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IFアフターストーリー 郡千景

タイトルの通りであります!

これは、もしも洸輔くんが神世紀に戻らず西暦世界に残っていたらを仮定にしたお話しです!恐らく、全員分書くのだ。楽しみにしていて欲しい。

そんなIFアフター一発目は、郡千景ちゃんです!では、どうぞ!


「……」

 

 木に背を預けながら、目を閉じる。頬を撫でる風がとても心地いい。空は青く澄み渡っており、快晴。日向ぼっこ&昼寝には最適な天気と環境だ。

 

 皆でお花見した場所…僕のお気に入りの場所だ。そして、ここでのお昼寝が最近のマイブームだった。人もあまり来ない、穴場のような場所だから最高である。

 

「……不思議、だな」

 

 そんな呟きが漏れる。そう、僕は西暦世界に残っていた。

 

 最後の戦いの後、過去である西暦から神世紀へと戻るのだと思っていた。西暦世界へ僕を送った張本人の若葉からも、すぐにこの世界とはお別れみたいなことも聞いていたのだが。詳しい所は分からずじまいで……それでも時は平穏に過ぎていった。

 

 時が過ぎるという事は自然に周りの環境も変化するもので……僕は一般の高校を卒業して、今はなんと大学生になっていた。その他にも色々変化したことがあるんだが________。

 

「……やっぱり。ここにいた」

「ありゃ…見つかちゃった」

「まったく、本当飽きないわね。ここで日向ぼっこするのが、そんなに気持ちいいの?洸輔(・・)くんは」

「皆との思い出の場所でもあるからねぇ〜それにほら!千景もやってみたらわかる!心地いいよ〜?」

 

 呆れつつも隣に腰を掛ける千景。彼女との関係性の変化こそが色々ある中で一番変わったことではないだろうか。

 

 高校を卒業する際に、僕は千景から告白された。すごく嬉しかった、同時に複雑な気分だった。僕はいつ消えるのか、わからない……だから、一度は断ろうとした。でも、千景は__________。

 

『それでも!貴方が好きだから……傍に、いて欲しいから……』

 

 そう言われて沢山悩んだ。これ以上ないくらいにね……ても、その末にこの世界から自分が消える『その時』が来るまでは彼女と一緒にいる……そう決めたんだ。

 

(悩んでいた時に、気づいた)

 

 僕自身も彼女の側にいたい……という一つの想いを持っている事に。わかってはいるんだ、いつかここから消えるのは。それでも今まで、彼女と過ごしてきた時間……時には、すれ違ってぶつかりあったし、その中で彼女が抱えているものも知った。だからこそ_______

 

(支えたい。誰よりも近くで千景のことを)

 

 その想いを胸に、僕は彼女と同じ大学へと進んだ。そこから色々あって僕達二人は同棲する事になったのだ。幸いお金には困らなかった。世界を救った勇者、という事もあり大赦から便宜してもらっていたから。

 

「にしても…家に彼女を置いてくなんて、彼氏……失格なんじゃないかしら?」

「痛い痛い!耳引っ張らないで〜!ぐ、ぐっすり眠ってたから起こすの悪いと思って」

「ふん……」

「お、怒らないでよ〜」

 

 不機嫌そうに顔をプイッと逸らした千景の頭を優しく撫でる。すると、すぐに彼女の顔が朱に染まった。

 

「っ……そ、そんなことで私は」

「と、言いつつ顔にまにましてる!」

「っ!そ、そんなことない!」

「いいえ、そんなことあります」

 

 一連のやり取りでぷくっ〜っと頬を膨らませる千景。一緒に過ごしている内にわかった事だけど、千景は案外顔に出やすいタイプらしい。

 

「……顔、じっと見て。どうしたの」

「いいや〜べっつにぃ」

「何よ…その反応」

「やっぱり、可愛いね!うん、かわいい!」

「ま、またそういうことを……嬉しい…けど」

 

 先ほどよりも顔を赤くした千景が、僕の肩へと頭を預けてきた。これだけで嬉しくなってしまう程、彼女の事を好きになっていた。

 

「甘えんぼさんだね」

「それ、あなたが言う?家でいつも甘えてくるのは誰かしら?」

「……お互い様って事で」

「そういう事にしておいてあげる」

 

 千景がにこっと微笑む。前よりも、笑顔になる事も多くなって僕は嬉しい。

 

「いいわね……あったかくて心地いい」

「でしょ?ふふん、これが僕のマイブームだから」

「余裕そうにしているけど、課題は終わったのかしら?」

「……カエッタラゼンリョクデススメマス」

「忘れてた訳ね、全く……変な所で詰めが甘いんだから」

 

 呆れたような声が、横から聞こえる。大丈夫、大丈夫、千景もきっと手伝ってくれる(人任せ)

 

「そうだ……貴方に言いたいことあったの」

「急にどしたの?」

 

 改まった様子で、千景は真っ直ぐ僕の目を見据える。同時に千景が僕の手を強く握った。

 

「この前、お父さんとお母さんに会ってきたわ」

「……どうだった?」

「2人とも、まだぎこちない所はあるけど……それでも、前より上手くいっているみたい」

 

 両親の関係は、千景本人から聞いたのと前にひなたから少し聞いていた事からある程度の事情は知っていた。また、大赦からの情報でお母さんのは天恐が治り始め、お父さんも精神的に良くなっているとは聞いていた。

 

 それでも一人で行ったら危ないと言おうとしたが、彼女の目を見てその言葉を引っ込めた。どうやら、変わっていっているのは彼女だけじゃないようだ。

 

「そっか……今度は、一緒に行ってもいいかな?」

「ええ、寧ろ一緒に来て欲しい。貴方の事、二人に話したいもの」

「任せて、君を支える為に僕は傍にいるんだからさ!」

 

 そう言うと、何故か千景は少し不満そうな顔をこちらに向けた。

 

「な、なんか間違った事言っちゃった?」

「支える為、だけ?」

「えっ?」

「……支える為だけ、なの?貴方が……私の傍にいる理由は」

 

 上目遣いで、こちらを見つめる千景。その姿に軽く混乱するも僅かな時間の中で思考をフル回転させた結果、言葉の意味を理解した。

 

「あ、ああ!ご、ごめん、言い直す言い直すから!」

「……っ!?」

 

 無言で見つめてくる千景のおでこに、コツンと自分のおでこを優しく当てる。彼女の息が触れる度に、心臓が高鳴る。しかし、その高鳴りに負けないように、先程の言葉を言い直す。

 

「大好きな千景と一緒にいる為、そして、千景をずっと側にいて支える為に僕は傍にいたい!…………え、えと、こんな感じ?」

「っー……さ、最後さえ無ければ、100点だったけど……まぁ、貴方らしくていいわね」

「何さ、それ」

「ふふ……」

 

 クスッと笑い、目を細める千景。そんな、何気ない表情にも目を奪われる。そうだ、僕は千景が好きだ、そして、好きな人を守るのは男として当然だ。

 

 この体がここから消える。最後の瞬間まで、僕は______。

 

「所で、洸輔くん」

「なに?」

「ちょっと、油断し過ぎじゃない?」

 

 一瞬の出来事だった。でこをくっつけ合っていた事で至近距離にあった彼女の顔が、一瞬だけ…ゼロ距離になった。唇には、僅かな温かさが残っている。

 

「えっ……えっ!?ち、千景、今なななななな何を!?」

「同棲してるんだから、今更これくらいで騒がないでよ……」

「で、でも、あわわわわ……」

 

 突然の出来事に脳が処理しきれない。嬉しさと、恥ずかしさとなんか色々混ざり合っておかしくなりそう。

 

 混ざり合った感情の中で、僕が明確に感じたのは好きな人と心が通じ合えて嬉しいという温かな感情だった。

 

「……慌てすぎ」

「慌てるに決まってるって!だ、だって今、千景…僕にキス……」

「前に言ったじゃない、油断していたら今度真ん中にいくからって」

「っ!?千景…僕、君のこと大好きだ!」

「私もあなたの事大好きよ。洸輔くん」




次は、若葉ちゃん…その次は、ひなちゃんか……やばいな、このアフターシリーズ書くの異常なほど楽しいぞ!?


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IFアフターストーリー 乃木若葉

ふむふむ、このアフターシリーズ。かなり僕の自己満なシリーズになっている気がする(愉悦)


「一通り終わったかな?」

「あぁ、後は料理を温めて並べれば準備は完璧だ」

「だいぶ、手際が良くなった気がするね〜」

 

夕飯作りも終わった為、小休憩でも取ろうと二人でソファーにお互いの体を寄り添わせながら座っている。手もしっかりと繋がれていた。

 

「にしても、若葉。料理の腕上達したね!驚いたよ〜もう僕より上手なのでは?」

「いいや、洸輔にはまだまだ敵わないさ。何より、私がここまで上達できたのは洸輔が熱心に教えてくれたおかげだ」

 

若葉がこちらに優しく微笑みながら、そう言ってくる。すると同時に若葉がこちらに身を寄せてきた、先ほどよりもお互いの体が密着する。

 

「若葉様、夕飯前ですぞ〜」

「わかっているさ、でも少しだけいいだろう?」

「少しだけと言わずどんどんどうぞ。僕も若葉ともっとくっつきたい」

「なんだ、結局そうなるのか」

「嫌?」

「いいや、洸輔も同じ気持ちでいてくれてその、嬉しい…と、思ったんだ」

 

幸せすぎる、それしか言えない。好きな人とここまで心が通じ合えるのは嬉しい事だとは。一瞬でも油断したら、理性が飛びそうだ。

 

「もう少しで……この部屋ともお別れなんだね」

「そう、だな。思えば……色々なことがあったな」

 

色々なこと、確かに思い返せば沢山の事があった。なんの手違いか、この世界に残留した僕は戦いが終わった後も、皆と過ごした。その中で、最も深い繋がりを持ったのが若葉だった。僕らはお互いの想いを伝え合って恋人になって、同棲して、二人で長い時間をここで過ごした。

 

「覚えているか?私達が、初めてここに住み始めた時のこと」

「うん、覚えてる。お互いに、バタバタしていて落ち着いてなかったよね。まぁ、主には若葉がだったけど」

「何、そ、そんな事はないだろう」

「え〜?寝室にベッドが一つしか無くて、顔を真っ赤にしながら僕に縋り付いてきたの誰だっけ〜?」

「っ〜……い、意地悪だな、洸輔は」

 

むーっと顔を膨らませる若葉。そんな何気ない仕草にも、胸が高鳴る。我ながら、自分でもびっくりするくらい若葉にデレデレらしい。

 

「この部屋も色んな思い出があって好きだ。だけど、これからはもっと広い……新しい場所で、洸輔と一緒に過ごせるかと思うと、嬉しいしワクワクしてくる」

「僕もだよ、これからも若葉と一緒……それもここで過ごした時間よりも何倍も長い時間を過ごせる。これからもっと増やせるんだよ、色んな思い出を一緒に、ね」

「……私は幸せだ、本当にありがとうな」

 

優しい声で、若葉がそう呟く。その呟きに僕も笑みを溢した。僕の方こそ、幸せだ。好きな人とここまで心が通じ合えているのだから。

 

「なぁ…洸輔……その、」

「ん?もしや?」

「っ〜、少しだけと自分で言った手前、こう、言いづらいんだが……」

「ふむふむ〜何かなぁ?」

「や、やっぱり意地悪だ……洸輔は」

「はは、ごめんごめん。いいよ、甘えたいなら甘えてくれて。この部屋でする、最後のイチャイチャくらいの気分で」

「言ったな?今の言葉、忘れるなよ?」

 

意地の悪そうな笑みを浮かべながら、若葉は繋いでいた手を離し両腕を僕の身体に回してきた。僕も自然体のままそれを受け入れ、抱擁を交わす。すると、若葉が僕の胸に顔を埋めてきた。

 

「……洸輔の匂い、好きだな」

「んっ!!」

「どうしたんだ?急に変な声出して」

「いきなりのそういう発言は卑怯だよ……ましてや、服に顔を埋めながらとか……」

「ほほう〜?立場逆転だな。少し前なら、私が今のお前のような反応をする立ち位置だった」

「そうだっけ?」

「ああ、そうだ。何度お前の行動に動揺させられたかって……ひゃう!?」

 

ジト目で僕を見つめている若葉の首筋に自分の鼻を向かわせ、彼女の匂いを堪能する。

 

「こ、洸輔、いきなり何を!?」

「ふふん、若葉は僕の匂いを堪能したんでしょ?なら、僕にも君の匂いを堪能させなさーい!」

「ちょ、ま、まって……くすぐったい……」

 

艶っぽい声を出す若葉にまた胸が高鳴る。なんというバカップルぶりだろうかと胸の内で自分にツッコミを入れた。ひなたに、「砂糖をそのまま口の中に放り込まれた時くらい、二人のやり取りは甘いです」と言われたがそれはかなり的を得た発言かもしれない。

 

しかし、これも仕方ない事なのだ。好きな人と一緒にいたならば、お互いを強く感じたいと思うのも仕方がない。やましい気持ち抜きで、純粋に二人の時間を過ごしたいだけなんだから。

 

少し息を荒くし顔が朱に染まっている若葉がもう一度、両腕を僕の背中に回してくる。そうして二度目の抱擁が果たされた。

 

「……」

「……」

 

二人の視線が交わる。顔が紅潮させている若葉と僕はお互いの目を真っ直ぐと捉えている。

 

「洸輔……」

「若葉……」

 

お互いの小さな呟きが合図かのように、距離が縮まる。吸い寄せられるように、唇が触れ合った。幸せ、その感情が僕の脳を支配する。

 

「ぷっ、はぁ……」

「……ふぅ…」

 

まだ、お互いの顔の距離は近い。若葉は僕のでこに自分のでこをコツンと優しくぶつけた。

 

「ずっと……一緒にいてくれ」

「当たり前さ、その為のこの指輪だからね」

「ふふっ、そうだったな。……大好きだ、洸輔」

「僕も大好きだよ、若葉」

 

僕の返答に満足したのか、若葉はこれ以上ないだろう満面の笑みを僕に向けてくれた。そうして、もう一度愛を確かめるように僕らは口つけをした。

 

幸福が僕らを包み込んでいてくれた。




お前たち夕飯はどこに行ったんだ……。
甘々な若葉ちゃん、本編のどの回の若葉ちゃんよりも甘々!あと、でこぶつけ合うのは僕が大好きなシチュなんだ←本音

洸輔くんは爆発しろ!←本音中の本音


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IFアフターストーリー 上里ひなた

てな訳で、IFアフター第三弾はひなちゃんです!
前置きは抜きにして、早速本編をどうぞ!


「ふんふーん」

 

鼻歌を歌いながら、朝食の準備をこなしていく。机の上には綺麗に並べられた二人分の朝ごはんメニュー。ちなみに自作です(ドヤ顔)

 

「おはようございます♪洸輔くん」

 

背後から、愛する女性からの熱い抱擁攻撃をくらう。正直、これに慣れ始めている自分がいる事に驚いていた。まぁ、抱きしめられた際に真っ先に感じる柔らかい二つの感触には未だになれないが。

 

「お、おはよう、ひなた。今日はいつもより元気だね」

「勿論です!今日はお休み!平日には摂取できなかった洸輔くん成分を沢山頂きますよ!」

 

笑顔でそう言いながら、更に体を密着させてくるひなた。誘惑に負け、朝ごはんそっちのけでイチャイチャしたくなる衝動を抑えながら、冷静に呟く。

 

「それは……随分、愉快そうな成分だね」

「ちなみに、こうしてお話しつつくっつく事によって洸輔くん成分の摂取量が2倍に!」

「なんて高等テクニック……流石、ひなた」

「ふふん〜でしょう?今日はとことんまで洸輔くんの事を堪能しちゃいますから、覚悟してくださいね?」

「は、はい……肝に銘じます」

 

他人から見たらバカップルと100%言われるであろうやり取りをした後、冷める前にと朝食に移った。ただ一緒に朝ごはんを食べているだけなのに、僕の心はこれ以上ないくらいに満たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

何の因果か、神世紀に戻らずこの時代に残留した僕はひなたと恋人同士になった。その時の事を、今でも昨日のことのように思い返す。

 

『私は、天草洸輔くんの事が大好きです』

 

柔らかく、そして甘い……愛の言葉と共に。ひなたは僕の体を抱きしめる。

 

『貴方といると、胸が熱くなるんです。若葉ちゃんといる時とは違う……熱さ。きっとこれは親友や友達……そういう形での好きではないと思うんです』

 

直に伝わってくる彼女の体温に包み込まれる。心なしか、ひなたの体は震えていた。僕はようやくそんな彼女の体を抱きしめ返す。壊れないように……そっと。

 

彼女の想いを聞いた事で、僕の中に眠っていた彼女への想いが自然と溢れ出した。

 

『ひなた……僕は。僕も、君の事が好きだ』

『洸輔くん……ありがとう、ございます。嬉しいです』

『僕も……すごく、嬉しい』

『もう、離しませんから……貴方のことを』

 

言葉の後に、そっと押しつけられた温かく柔らかな唇の感触を今でも鮮明に覚えている。

 

その後、僕は大赦のトップになった彼女を支える為、大赦役員として就職するのが決まっていた事もあり、同棲をする為の場所を確保するのも早かった(主にひなたが)

 

お互いに平日は忙しいから自然と関わる時間が減りがちになり、その反動が休みに収束しさっきのようなやり取りが当たり前のように行われるのだ。

 

「あ、洸輔くん。ほっぺにお米ついてますよ?」

「ほんとっ?えと、あっ」

「はい、取れましたよ〜ふふ♪おいしい♪」

「うっ……あ、ありがと」

 

僕からの感謝の言葉に「どういたしまして♪」とイタズラっぽく、そしてどこか妖艶に微笑むひなたに動揺する。ひなたの最大の強みを目撃し、ある種の感情の昂りが押し寄せてきているのを感じるが、深呼吸をして落ち着く。そう、まだ休みは始まったばかり落ち着くのだ自分よ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それではこちらへどうぞ。ひなた様」

「いいんですか?では、喜んで〜♪」

 

朝食を終え、リビングに移動する。いつもは僕が膝枕してもらっている為、今日は立場を逆にしてみる。ここで僕が主導権を握ることさえできれば、いつもの休みのように手玉に取られずに済む……はず。

 

「どう?僕の膝枕」

「久々にやってもらいましたが……いいですよ〜ちょっと固めな感じがまさに男の子って感じで大好きです」

「そこまで褒めてもらえるとは……嬉しいけど、少し恥ずかしいな」

「相変わらずの素直さですね〜可愛い♪」

 

それそれーと頬を人差し指でつつかれる。少し気恥ずかしいが……それよりも楽しそうに微笑む彼女を見ていられる事が嬉しかった。優しく彼女の頬に触れる。

 

「ふふっ♪くすぐったいです」

「ごめん、ひなたがあまりにも可愛いもんだから」

「嬉しい事を言ってくれますねぇ〜でも、あんまり何回も言わないでくださいね?」

「嫌だった?」

「いいえ、そういう訳じゃないんです。ただ……」

 

サッと身を起こしたひなたが耳元で囁く。

 

「あまりに褒められてしまうと……私、()()できなくなってしまうので」

「っ!!」

 

形勢が逆転する。動揺する僕の反応を見て、またさっきのように笑うひなた。ああ、いけない、いつもこうだ。まるで、掌の上で転がされているような……。

 

「駄目だ、ひなた……それはずるい」

「あらあら〜♪また顔が赤く」

「な、なるに決まってるよ……もう」

 

まだお昼前なのに、半分以上理性を削られてしまった。そこに追い討ちをかけるように、起き上がった彼女は僕を正面から抱きしめてくる。

 

「拗ねてる洸輔くんも可愛いですね〜♪では、膝枕してくれたお礼に私が癒してあげます」

「……拗ねさせたのはひなたなんだけど」

「でも、嫌じゃないんですよね?こうやって抱き合うの」

「当たり前でしょ。もう、ずるいよ……ひなたは」

 

受け入れ、こちらも抱きしめ返す。密着度合いが増して、彼女の温かく柔らかい体が押しつけられた。脳が処理に追いつかなくなってきていると共に、心臓の高鳴りも最高潮に達してきた。

 

「言ったじゃないですか。もう離さないって」

「離れるわけないじゃん……こんなに魅力的な女の子から」

「ありがとうございます♪ふふん♪洸輔くんを完璧に落とす事ができたみたいですね?今日も」

「はいはい、落とされました落とされましたよ……まったく」

「むっ、なんですか〜?その態度は?ええーい、そんな悪い子にはお仕置きです!ーーん、むっ」

「ひなっ……んむっ」

 

落ち着くんだ……と、声を掛ける前に口が塞がれた。重なった唇は熱く……そして甘く交わり合った。

 

「んっ……はぁ」

「ちゅ…んっ」

 

もはや突き離すような気は一切なく、ただただその時間を堪能した。長いような短いような……やがて、お互いの唇が離れた。

 

「はぁ……ふ、ふふふ、これでお仕置き成功、ですね」

「あぁ、そうだね……成功、だね」

「やりました♪今回も私が……へっ?えっ!?」

「少し、失礼するよ」

 

ひなたが動揺するのを無視して、お姫様抱っこで彼女を連れて行く。リビングから移動し、向かったのはベッドのある寝室。明るい日が差し込んできているがカーテンを掛け、部屋を暗くする。

 

「ええっと……これは?」

「ひなたが悪いんだからね?いつもいつも僕を誘惑することばかり……今度は僕が君をお仕置きする番だから」

「ふふ♪やっとですね」

「へっ?」

 

さっきまでの困惑顔はどこへやら、ひなたは嬉しそうに笑う。その表情には、余裕があった。

 

「洸輔くんからきてくれるのを待ってましたよ?作戦成功、ですね♪」

「ま、まさか!!また……ひなたの掌の上!?」

 

人差し指を口元に当て、にこっとはにかむひなた。嵌められた事に悔しがりつつも、自分自身のある種の感情の高まりが止まらなくなっている事を自覚する。

 

「だ、だとしても止まる気とかないから」

「はい、いいですよ?今からは洸輔くんのターンですから♪」

「言ったなぁ〜、後で謝っても聞いてあげないからね?」

「ふふ♪では……よろしくお願いします」

 

頬を紅潮させながらも、また余裕そうに微笑んだ彼女を見て思った。これからも僕は彼女にはきっと勝てないんだろうなと。




ひなたちゃんの……この、手の上で転がされているんだヨォ!!ぶははは!!(某神)
あっま!あっま!!なんなん、なんなん!書いてて超楽しかった!ひなたちゃんに甘やかしてもらいたいわ(捨て台詞)

あ、次回は本編更新しますね〜!


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ハロウィン回 吸血鬼若葉さん

 お久しぶりです、作者のこうがでございます。今回は五日前がハロウィンという事で、遅くなりましたが投稿させていただきました。R17って感じの内容ですが、あこゆ見慣れた皆様なら大丈夫でしょう。楽しんでいただければ幸いです。


 後書きにお知らせがあるのでそっちも見てね。


 10月31日、ハロウィンの日。球子がこういうイベント事を見逃すわけがなく爆速で計画を立てた彼女の計らいにより、学校の教室を借りてハロウィンパーティーを行う事になっていた。

 

 集合時間より早くきてしまったが、そこには既に先客がいた。

 

「ひなた?随分早いね」

「あら、洸輔くんでしたか。早いですね、集合時間までは後30分以上あるのに」

「そっちもね、来るのだいぶ早かったみたいだけど…何かしてたの?」

「ふふん♪良くぞ聞いてくれましたね、まずはあちらをご覧ください!」

 

 彼女が向けた視線の先を見る。そこには吸血鬼の衣装に身を包んだ若葉がいた。

 

「…これは」

「どうですか、この美しさと可愛さとクールさを兼ね備えたドラキュラの衣装は!この日の為に、私が丹精込めて作った渾身の一作!これこそ、若葉ちゃんにしか着こなせないものであると(以下略」

 

 かかってしまっているかもしれません、一息つけると良いのですが。とは言ったものの、確かにクオリティは高い。マントもよく出来ているし…コレ作ったとかすごいな、と素直に感心する。

 

「や、やぁ…洸輔」

「こんにちは、吸血鬼さん。ひなたがカメラを持っている所を見るに……撮影会でもしてた?」

「まぁ…そうだな。早く来て欲しいと言われて、来てみればこれが用意されていた」

 

 クルッと一回転しつつ、衣装を見せてくれる若葉。表情を見るに気に入ってるご様子だった。

 

「気に入ってるんだね。若葉、楽しそう」

「少し恥ずかしい気もするが…正直、かなり気に入っている。とても着心地が良いんだ。それに……ひなたが一生懸命作ってくれた衣装だからな、これは」

 

 ふふっ、と嬉しそうに笑う若葉。衣装に反した表情を浮かべる彼女を直視できず、視線を逸らそうとするとそこに追い討ちをかけられる。

 

「所で…洸輔」

「ん?」

「その、似合っているだろうか?私の、仮装は」

 

 先程とは打って変わり、自身なさげな表情を浮かべながらこちらを見つめる若葉。

 

「…破壊力すごいなぁ」

「破壊力?なんのだ?」

「こっちの話。それはそれとして、その衣装…とっても似合ってると思うよ」

 

 そ、そうか…と何故か安堵した様子の吸血鬼さん。今日は彼女の色々な表情が見れて、少し…いや、かなり嬉しい。

 

「若葉ちゃん。次にやるべき事はわかっていますね?」

「あぁ、勿論だ。ハロウィンと言ったら、と言うやつだな」

「む、もしや」

「はい、そのもしや…です。では若葉ちゃん、どうぞ!」

「えっ?私だけ言うのか!?ひなたも一緒に言うんじゃ」

「さぁさぁ、若葉ちゃん!」

 

 ひなたが目を爛々に輝かせながら若葉を促す。躊躇っている様子だったが、やがて決心したかのように僕の目を見て吸血鬼若葉さんは言った。

 

「トリック…オア、トリート」

 

 慣れてない様子の若葉。しかし、逆にそのギャップがより今の若葉の魅力を掻き立てていた。これはひなたでなくても、クルものがある。

 

「あぁぁ!かわいい!とても、とても良いですよ!若葉ちゃん!」

「や、やめてくれ!撮るんじゃない、ひなたぁぁぁ!!」

「それは、ハァ…聞けない…ハァハァ、注文です…ハァ」

「っ〜!……さ、さぁ、洸輔!お菓子かいたずら!どちらを選ぶ!?」

 

 半ばヤケクソ気味になる若葉。その様子を見て…少し、こちらもからかって見たくなった。

 

(今日は若葉の色んな表情が見れそうだし、折角なら)

 

「……あぁしまったぁ〜お菓子が足りないやぁ。と、いうわけでどうぞイタズラをしちゃって下さい」

「そうかそうか、お菓子が足りないからイタズラ…って、えぇぇぇ!?」

 

 予想外の返答にあわあわと困惑しだす若葉。彼女には申し訳ないが、コレも仕方ない…だって、今日の若葉自然とからかいたくなっちゃうんだもの。

 

 ついでに言うとしっかりお菓子は持ってきてはいるし、しっかり皆の分用意もしてある。

 

「あ、あるじゃないか!そこにあるのはお菓子だろう!?」

「いやーごめんピンポイントで若葉のだけわすれてしまってー(棒)」

「それはしかたありませんねー(棒)」

「味方が一人もいない……だ、だが、イタズラと言っても…何をすれば」

「別になんでもしていいよ。さぁ、どんとこーい!」

 

 僕のそんな軽率な一言に反応したのは、若葉ではなくひなただった。

 

「ほぅ…洸輔くん、いま、『なんでも』と言いましたね?」

「え、うん。まぁ言ったけど…」

「ふむ…若葉ちゃん、吸血鬼といえば何を思い浮かべますか?」

「唐突だな……ううむ、やはり吸血鬼といえば血を吸う事だろうか」

「なるほど〜では折角、吸血鬼の仮装をしている事ですし〜それに因んで、彼の首筋に噛み付くというイタズラをしてはいかがでしょうか?」

「「え?」」

 

 若葉と声が重なる。その言葉の意味を理解するまでお互いに一瞬の間が生まれる。

 

「い、いやいや!そ、それは…なんというか、違くないか!?」

「あらあら〜?衣装を着る時に、もしもイタズラする事があればこの衣装に因んだ事をしたいと言ったのはどこの、誰、でしたっけ〜?」

「わ、わわ若葉さん!?!?」

「いや、それ、はその…」

 

 言い返す事が出来ずに完璧に項垂れた若葉を見る。ていうかめちゃくちゃ楽しんでるじゃん!ハロウィン!いや、良い事なんだけども!

 

「と、いうわけで私は皆さんのお迎え(軽い足止め)に行ってきますので。あとは二人でごゆるりと〜」

「ちょ、ちょっとま」

 

 止まる間もなく、ひなたが教室から出て行く。その場にはなんとも言えない静寂だけが残った。

 

「すまない…天草。ひなたの悪ノリに付き合わせてしまった」

「ま、まぁ別に大丈夫だよ。それで…どうしようか?」

「……どうしようか、とは?」

「いや、ほらひなたが言ってたいたずらのこと。やるなら…その、も少し噛みやすいように首、出すけど」

「……意外と、ノリノリだな」

「僕がいたずらして良いよ…って言ったのが始まりだからね。その責任は取らなくっちゃ」

 

 彼女に背を向け、首元が見えやすいようにする。チラリと後ろにいる若葉に視線を向けると、目を瞑って深呼吸している姿が映った。

 

「言ったな?そこまで言われたからには…私も引き下がる気はないぞ」

 

 多少荒れた息遣いが聞こえてくる。それは若葉のもの、何故かそれを聞いて、少し体が強張る。

 

 ハロウィンにおける遊びの一種。そんな程度に考えていた僕は甘かったのかもしれない…と、思った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ、これはハロウィンを楽しむ為の余興だ。

 

(そう、何も変じゃない。首筋を噛むのだって)

 

 私は吸血鬼の仮装をしている。だから、そういう仮装にあったイタズラを行うだけ。そう、ただそれだけの話だ。

 

(何も…何も、変じゃない。そう、ただの余興だ…そう、ただの)

 

 意を決し正面を見ると、彼の綺麗な首筋が視界に映る。

 

 それを見て、ドクン…と心臓が高鳴る音がした。ゾワゾワとした感覚が背筋に走る。

 

(……あ、れ?)

 

 急激に体が熱くなるのを感じる。顔が火照ってきて、頭もぼーっとしてくる。

 

(私は、何を、しているんだ?)

 

 気づいた時には、もう、遅くて。

 

(ただの、余興…のはずだ)

 

 自分の体が、自分の物ではないようで。

 

(…まぁ、いいか)

 

 溶けていく己の感覚は、まともな思考を放棄させる。後は、ただ、流されていくだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、いいんだな?」

「え、あ…うん。よろしく、お願いします」

 

 言葉が言い終わった直後、かつかつ、と足音がする。その音は真後ろで止まった。

 

「大丈夫だ…すぐに終わらせる」

 

 まるで頭の後ろに響くような甘くて優しい声。不思議と頬が紅潮していくのを感じた。

 

「…行くぞ」

 

 彼女の呼吸が近づく、指先が触れて、体は完璧に動かなくなった。

 

 ドクンッ、という心音が聞こえる。自分のものか、若葉のものなのか。そんな簡単な事すら分からなくなるほど、頭が回らなくなっていた。

 

「や、やっぱり…やめ」

 

 よくない…何か、よくない感情が湧き上がってくる。暴れ出す情動を必死に抑えつけ、言葉を発する。

 

 それに対して若葉は────。

 

「…いたずらされるのを望んだのは、洸輔の方だぞ…忘れたのか?」

 

 一言、そんな呟きが、耳元で聞こえる。

 

 首元に当てられる彼女の吐息は止まるどころかどんどん近づいていって────。

 

「…は、……ん」

 

 柔らかい、唇の感触が、首筋に伝わった。一瞬、ちくっとするがその後は寧ろ心地良さのようなものを感じていた。

 

「…若、葉?」

 

 すぐ、と彼女は言った。しかし、一向に彼女の唇が自身の首筋から離れる気配がない。

 

「その、もう、そろそろ…」

「……はぁ」

 

 唇が首筋から離される。なんとか首を動かし若葉を横目に見る。僕の目に飛び込んできたのは、恍惚とした表情で、僕の首筋を見つめている吸血鬼の姿だった。

 

 その姿を見てぞくり、と背筋が凍った。脳がこれ以上はいけない、と自分に訴えてくる。

 

「わ、若葉!これくらいでやめて」

「だめだ、もう一回…させてくれ」

 

 甘い声と言葉に脳が溶けそうになる。また、首筋に生々しい感触が伝わってくる。

 

 頭に思い浮かぶのは先程の若葉が浮かべていた恍惚な表情と、彼女の瑞々しくも肉感的な唇────。

 

「……ん……」

 

 艶かしい吐息、普段の彼女からは想像できない声が漏れている。危険…だ、このままいくと、こちらの理性が溶かされる。

 

(からかうべきじゃなかったかも)

 

 そう思った頃には、既に遅かった。いつのまにか、彼女の体が押し付けられている事に気づく。

 

「…こう、すけ…くれ、もっと…」

 

 若葉の柔らかい身体の感触が、こちらを狂わせようとしてくる。胸の内から湧き上がる情動を、唇を噛んで押さえ込む。

 

「……欲しい、欲しいんだ…」

 

 甘噛み、だけでは足りないのか。今度は吸い上げられていくかのような感覚がした。

 

 頭の中身が快感に埋め尽くされていく。徐々に、視界も、ぼやぼやと、してきた。

 

 ふとした時、自身の視線が時計へと向いている事に気づく。働かない思考をなんとか動かし、声を出す。

 

「若、葉…」

「…な、なん、だ?」

「時間…みんな、来ちゃうよ」

「…もう、すこし…もう、すこし、だけ」

「早く離さないと、皆に…見られちゃうよ?」

 

 ピクッ…と、肩に乗せられていた指が震えるのを感じた。少しの逡巡の後、名残惜しそうに彼女の唇が首筋から離された。

 

 頭が痛い、未だ首筋から伝わる感覚に力が奪われているように感じる。とりあえず一声掛けるべきと考え、彼女の方に視線を向けると────。

 

「……す、すまない、洸輔。その、どうか…していた」

 

 申し訳なさそうに視線を下げる若葉の姿が目に入った。

 

「う、ううん…良いんだよ。僕の方こそ、からかい過ぎた…ごめん」

「いや、そんな…事は」

 

 お互い、目を合わせる事ができず、視線を彷徨わせる。まだ頭が回りきっていないのか…彼女の唇にばかり視線が向く。

 

「……ねぇ、若葉」

「な、なんだ?」

 

 やめよう、それは聞かなくても良い事だ。

 

「質問、なんだけど」

 

 止まれ、止まるんだ、そんな事聞いてどうする。

 

「ここ…そんなに、美味しかった、かな?」

 

 馬鹿じゃないの?なんて事聞いてるんだよ、僕は。ほら見ろ、若葉固まっちゃってるじゃん、どうしてくれるんだ。

 

「いや!ごめん、変なこと聞いたよね!その…途中で、もっと…欲しいみたいな事言ってたから…気になったというか、あぁ、何言ってんだろ僕今のは忘」

「……そう、だな」

 

 こちらの言葉が遮られる。今度は、しっかり視線が合う。

 

「とても…美味しかったよ。その…もっと、したいと思うくらいには、な」

 

 彼女の目は酔っていた。もう一度、味を確かめるかのように舌舐めずりをしながら、こちらを見つめる若葉。

 

 その姿を見たせいか、心臓の鼓動がやけに早まっていくのを感じる。自然と足が動く。いつの間に移動したんだろう、僕は若葉の目の前まで移動していた。先程と同じように、僕は首筋を見せる。

 

(あれ、何やってんだろ…もうすぐ皆が)

 

 そんな事を考えている間に、若葉は歯を突き立てながら、僕の首筋に迫る。

 

「やぁやぁ!待たせたなぁ!二人とも!!!タマ達がきたぞぉ!!!」

『わぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 元気な声と共に、ドアが開かれたのとほぼ同時に僕と若葉は飛び上がる。ついでに、互いに距離を取った。

 

 さっきまで真っ白だった思考が再稼働する。

 

「おお!お前ら良い驚き方するなぁ〜タマも驚かそうとした甲斐があったぞ!」

「うん…超びっくりしたよ、いやマジで」

「あ、あぁ、私もほんとうにびっくりしたよ…」

 

 震えた声でそう言った若葉。まぁ、僕も似たようなもんだとは思うが。ゾロゾロと仮装した皆が教室に入ってくる、そこに僕らを見るなり目を輝かせながら寄ってくる人物が一人。

 

「おや…?おやおやおやおやおやおや?若葉ちゃん…?どうでしたか?洸輔くんの首筋は?」

『え?』

「ひなたぁ!?」

 

 若葉の悲鳴が聞こえる。僕は、もう…なんというかなんも言えないので天井を見て黙ってます。

 

「首筋…って、どういう意味よ、天草くん」

「もしかして二人でもう遊んでたとか?」

「ま、まぁ…」

「そんな、所…かな?だよね?若葉!」

「あぁ、そうだな!そう、二人で遊んでたんだ!な、洸」

 

 半ばヤケクソ気味な返答をしている最中、また若葉と目が合う。その瞬間、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

 

 同時に先程の若葉の言葉と、表情を思い出して…顔を直視できずに逸らしてしまう。

 

「どうやら…二人きりにした甲斐があったみたいですね(大体分かった)」

「へー、ふーん……そう(詳しい事は分からないけどイチャイチャしてた事は察した)」

「あ、えーと!ぐんちゃんと私の衣装どうかな!?若葉ちゃん!(ぐんちゃんが不機嫌になったのを察知、早めに話題を変えようとしてる)」

「なるほどぉ〜(だいたい分かった)」

「若葉のその衣装すごいな!かっこいいぞ!(分かってない)」

 

 その後、すぐにハロウィンパーティーが始まったわけだが……パーティー中、自身の心臓の高鳴りが一向に収まらないのをずっと感じていた。

 

(ずっと…収まらない)

 

 ドキドキして止まる気配のないこれは…何なのか。この時の僕は知るよしもないのだ。

 

(なんなの、これ…あー、もう、ワケワカンナイヨー!!!)

 

 ある意味、僕にとっては一生忘れられないハロウィンになったのは、間違いなかった。




 いかがでしたか?若葉ちゃんメイン回。ゆゆゆいのSSR一覧を見ていたら吸血鬼の格好した若葉ちゃんを見つけたのでこれは書かねば…思い、急遽執筆しましたが楽しかったぁ(切実)

 さて、まずは謝罪を…本編の更新が止まってしまい大変申し訳ありません。現在、書き溜めという形である程度完成したら一日ずつゆったり出していこうかなと考えております…続きを待ってくれてる皆様に深くお詫び申し上げます。ごめんなさい。出来上がるまでもう少しお待ち下さい。

 後、ここからは余談なのですが…とある物書き仲間と通話していた時に「わすゆに入ってから天草くんずっと可哀想だね」と言われまして…僕の中ではそんなつもりなかったんですが。読み返してみたら…うん、可愛そうでしたね(笑)まぁでもこっからまだ曇るのでそちらも楽しみに待っていてくださいね。

 という感じで…長くなりましたがここら辺で。天草洸輔は勇者である、略してあこゆをよろしくお願いいたします。それでは、皆様バイバイ。

 


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バレンタイン特別編 郡千景if(★)

実は今年初投稿です、おっそいですが今年もよろしくお願いいたします。

本編書き溜め中に思いついたネタを投下していく男。今回の話は、『もしも』天草が郡千景の幼馴染だったら〜?という設定の元お話が進みますのでご注意を。なんと9,000字ぴったり、筆が乗りすぎて長くなっちゃった…許してください。

後、ヤンデレ成分含みます。何故って?僕がヤンデレ好きだからですよ。苦手な方はブラウザバック推奨です。


「後はラッピングして、リボンをつければ〜」

「完成…や、やった」

「お疲れ様!綺麗に出来たね、初めてって言ってたのにすごいよー!」

 

 高嶋さんがまるで自分の事のように喜び、笑顔でそう言う。その笑顔に釣られ、私も笑った。

 

「全部高嶋さんのお陰……本当にありがとう」

「どういたしまして!でも、私は横で見てたまに助けたりしただけだよ。やったのはぜーんぶ、ぐんちゃんなんだから!」

 

 そう言って高嶋さんはラッピングされきちんとリボンまで付けられた箱を手渡してくれる。不思議と、それが光っているように…見えた。恐らく見えるだけだが。

 

「……私が、全部」

 

 気持ちを込めて作った。明日は、大好きな彼にこれを渡すんだ。あの村にいた時ではあげたくてもあげられなかった、けど今の私なら。

 

 抑えられないこの気持ちを…形にして彼に贈ることが出来る。とは言ってもだ、初めての事で少し怖い。

 

(もし、受け取ってもらえなかったら?彼に限ってそれはないと思うけど……でも、この気持ちが伝わらなかったりしたら)

 

「大丈夫だよ、ぐんちゃん」

 

 不安そうな私を心配してくれたのか、高嶋さんが優しい声で私を呼ぶ。

 

「高嶋さん?」

「心配ないよ、だってそのチョコにはぐんちゃんの気持ちがギュッと詰まってるんだもん!」

 

 ……そうだ、何を怖がっているのか。どこまでも自分に忠実に、自分に貪欲に。彼を誰にも渡さない為に。気持ちを伝えるんだ。

 

「ありがとう、高嶋さん。私、頑張るね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には、幼馴染がいる。

 

 名前は天草洸輔。あの狭い村の中で唯一私の味方でいてくれて、どんな時も私を守ってくれたヒーローみたいな、男の子。

 

 両親の不和が原因でいじめにあっていた時も、彼は味方でいてくれた。いじめの対象である私を助けた事で、周りから酷い扱いを受けたとしても、彼は変わらなかった。

 

『大丈夫、どんな事があっても僕が君を守るから』

 

 その言葉に、救われた。彼の行動に、幾度となく私は救ってもらった。どこに行くにも彼と一緒、嬉しい時も、辛い時も、どんな時だって彼と一緒にいた。痛みを二人で分け合って乗り越えてきたのだ。

 

 いつしか、私の心にはある感情が芽生え始めた。

 

(好き、貴方の事が好き)

 

 その気持ちが宿るのは必然だったのだと、今なら分かる。敵しかいなかったあの村で、彼だけが私を支え続けてくれた。自分が傷つくのも省みず。そんな彼に、私は心酔していった。

 

 例え周りからどんな罵詈雑言を吐かれようとも、私は気にしなくなった。何故か、簡単だ。彼が近くにいるから……私の全てが、すぐそこにあったからもうどうでも良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ある時、私は勇者の力に目覚めた。その際に村を出ていかなければならなくなった。村を出て行ける……もう親の顔も村の連中の事も考えなくていいという事だ。内心、嬉しかった。けど、村から離れるという事は彼との別れを意味する。

 

 そんなのは嫌だ、耐えられない、1日…いや1分1秒すら離れるのが嫌。だというのに、別れる?そんなの、耐えられるはずがない。

 

 だが、そんな心配は杞憂に終わる。彼も勇者としての力を見出され、私と共に四国に向かう事となったのだ。大赦曰く、勇者は無垢なる少女にしかなれない特別な存在らしいが、天草くんは特異な体質らしく男でありながらも勇者の力を得ているからとの事だった。

 

 結果として、勇者になっても私達の関係は変わらず続いた。それがどうしようもなく嬉しい。

 

『私の傍に、ずっと居てくれる…?』

『勿論、離れたりしないよ。これからも僕達は一緒だ』

 

 心地よかった。そう言ってもらえる事が、何よりも心地よくてどんどん私は彼に染まって……いや、既に染まりきっていたのだ。

 

 肥大化した想いは留まる事を知らず、彼と一緒にいた分だけ膨らんでいく。それが原因だろうか、四国に移り住んでから悩みの種が一つ増えた。

 

 四国で出会った少女達の存在だ。あの村では、天草くんも私と同じような扱いを受けていたから、同年代の女子と仲良く話している姿を見なかった。

 

 けど、今は違う。乃木さん、土居さん、伊予島さん、上里さん、高嶋さん……高嶋さんは良いとして、他の四人が天草くんと仲良く会話しているのを見る事が増えた。特に、乃木さんと天草くんは話が合うのか仲良さそうに話をしている光景をよく見る。

 

(嫌だ)

 

 と思った。彼が他の子と仲良くしている姿を見ると、酷く心が冷めきっていくのが分かった。

 

 彼女達にその気はないのかもしれない、だとしても嫌だった。

 

 私だけを見て、私だけに振り向いて、私だけに声を聞かせて、私だけの傍にいて欲しい。独占したい、彼の何もかもが欲しい。

 

ずっと…ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……傍にいて

 

 そう、だから…決めた。この日に全てを伝えるって。バレンタイン、好きな人に想いを伝える日、あの村にいた頃は出来なかった方法で彼を、私のモノにするのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 2月14日、今日は世に言うバレンタインデーである。なんか偉そうに世にいうとか言ったのは良いものの、実はどういう日かしっかり理解している訳じゃない。好きな人にチョコをあげる日……そんくらいの認識しかないという始末である。

 

「……チョコ、か」

 

 欲しいか欲しくないかで言われれば欲しい。僕だって一端の男……村にいた時はそんなイベントを楽しむ暇なんてなかったからアレだけど、今なら……そう考えた時に真っ先に浮かんでくる女の子がいた。

 

「千景は…くれたり、するのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 郡千景、幼馴染の女の子。僕にとっての大事な人。

 

 勇者になる前、僕と彼女はとある小さな村に住んでいた。その中で彼女は村八分のような扱いを受けていた。それが、どうしても見過ごせなくて……僕は彼女を守った。そんな事をしたら、どうなるか分かっていたはずなのに。

 

 酷い仕打ちを受けた。殴られ、蹴られ、傷だらけにされる毎日。それでも、僕は彼女の傍にいた。

 

 何故なら、あの子が笑ってくれるからだ。かつては人形のように表情を変えなかった彼女が、僕と一緒にいる時だけは笑ってくれた。

 

 その時、思ったんだ。この子の笑顔を守り続けよう、と。彼女の笑顔を僕が守り続ける、もう誰にも彼女を脅かさせはしない。

 

 守り、守られる。お互いがお互いを支え、助け合う。辛い事を分け合いながら、二人だけで進んでいく。そんな、関係性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いった感じの彼女と僕の関係は村を出た今でも変わらず続いている。苦楽を乗り越えた仲であり、言ってしまえば…友達、というには近すぎる関係性である事は間違いない。

 

 何より、だ。

 

(四国に来てから、あの子前以上に距離が近いんだよね)

 

 四国に来てからというものの千景の距離感が前よりも近い。その、物理的にも精神的にも。

 

 この前なんか、鍵を掛けておいたはずなのに朝起きたら布団の中で一緒に寝てたし(皆がいる女子寮とはそこそこ離れた距離にあるのによくやる。てかどうやって開けたのかほんとに気になる)、隙さえあれば皆のいる前でピッタリと引っ付いて離れないし、なんならハグも要求されるという始末。

 

 一番アレなのは、女の子と関わっている時だ。僕が他の子と仲良くしている場面に出くわすと彼女からとんでもない殺気が放たれる。そりゃ、もうすごい殺気が。目も笑ってないからヤバい。

 

 正直挙げたらキリがないほど、そういうエピソードは尽きない。それらの事が、彼女からのチョコを期待してしまう要因の一つであるとも言える。

 

(まぁ、なんであれ……誰から一番貰いたいって聞かれたら千景なんだけどね)

 

 なんて考え事をしながら歩いていたら、思ったよりも早く学校に着いてしまった。一人で何をして皆を待とうかなと考えつつ、教室に入ると先客がいた。

 

「おはよ、若葉」

「ん、天草か。おはよう」

 

 凛とした瞳がこちらに向けられる。彼女は乃木若葉、四国に来てから出会った少女だ。僕達、他の勇者をまとめるリーダー格。超がつくほど真面目で真っ直ぐな彼女のあり方は僕も尊敬している。

 

「いつにも増して早いね。どうかした?」

「あ、あぁ、実は一つやり忘れていた課題があってな。早めに来てやろうかと」

「へー、珍しい。昨日忙しかったとか?」

「まぁ、そうだな。その…少し、準備する事があったからな」

 

 なんだろう。なんか、いつもハキハキとしている若葉にしては歯切れが悪いと言うか…どこか余所余所しい。

 

「ねぇ、若葉」

「な、なんだ?」

「なんかやけにソワソワしてるけど……なんかあった?」

「いや!別に、そんな事は!」

 

 あからさま過ぎないかな。でも、うん、なんというかこういう若葉は新鮮で面白いかも。

 

「その反応、なんかありました!って言っちゃってるようなもんだと思うんだけどなぁ」

「ぐっ……いや、なんだ、ほら、今日はバレンタインデーだろう?」

「うん」

「その、バレンタインには……ぎ、義理チョコと呼ばれるものがあると聞いた」

「あー、あるらしいね」

 

 聞いた事はある。好きな人に向けてあげるのが本命チョコ、お世話になった人、友達等にあげるのが義理チョコと言うらしい。友チョコ、なんてのもあると聞くが違いはわからぬ。

 

「で、それがどうかした?」

「……これを、受け取って欲しい」

 

 そう言って差し出されたのは何やら綺麗に包装された箱だった。とりあえず、それを手に取り、受け取る。

 

「…えと、これって?」

「お前には世話になっているからな。初めてのことだったが…日頃の礼も込めて、作ってみたんだ。まぁ、ひなたに助けてもらいながらだが……」

 

 頬を掻きながら恥ずかしそうに若葉は言う。え、てことは手作りのチョコをもらえたってこと!?僕が!?

 

(うわ、なんだろうこれ…すごく嬉しいぞ。初めて貰えたけど、そうか…こんなに嬉しいものなんだ、初めて知ったな)

 

「あ、ありがとう!嬉しい!」

「そこまで喜んで貰えるとは…」

「そりゃ、喜ぶよ!だって初めてだもん、人からこうやってプレゼントを貰うの!………あ、開けてもいい、かな?」

 

 若葉が小さく頷く。許可を得たので、では開けさせていただく。て、手作り…ほ、本当に手作りだ!わぁ、すごい…美味しそう。

 

「その、出来れば味に対する意見も貰えると嬉しいのだが」

「つまり…食べていいと?」

「まぁ、そうだな。いちおしっかり確認はしたんだがやはりこういうのは渡された本人からの意見を聞いた方が早いしもし天草が食べたいというのであれば」

「では、頂きまーす!」

 

 なんかすごい早口で喋ってる若葉をよそに、チョコを一つ口にした。

 

「お、美味しい!」

「…ほ、ほんとか?」

「ほんとほんと!すごいよ、若葉!初めてって言ってたのにこんなに美味しいものを作れるなんて…本当に嬉しいよ、改めてありがとうね!」

「……そうか、良かった。頑張って作った甲斐があったというものだ」

 

 嬉しそうに微笑む若葉。それに釣られて、僕も笑う。あまりに美味しかったのもあって食べる手が止まらなかった。結果、本人の前で全部食べ切ってしまう事態に……ま、若葉も気にするなって言ってくれたから、そこまで気にしなくて良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝から良い事があって上機嫌に自分の席に戻り、授業の準備やらなんやらを済ませようとバッグを机の上に置く。やがて、ひなた、球子、杏と続々と面子が揃っていく。そろそろ、千景も来る頃だろうか。

 

 そんな風に考えていたら、千景が教室の扉を開けて入ってきた。

 

「おはよう、千景!」

「……ええ、おはよう」

 

 そう短く返して、千景は隣の席に着いた……あれ、なんだろう。なんか、ちょっと怒ってる?少し違和感を感じて、彼女の顔をじっと見てしまう。

 

「どうしたの?」

「あ、ごめん。ねぇ、千景…違ったら良いんだけど、なんかあった?」

「いいえ、特にないけど」

 

 今の彼女の表情からは先程のような違和感を感じない。やっぱり気のせい…だったのかな。

 

「そういう天草くんこそ、何かあった?」

「え…僕?」

「……ええ、だって……やけに楽しそうよ。今日の貴方」

 

 こちらの全てを見透かしているかのように、彼女は笑う。その笑顔を見て、反射的に若葉から貰ったチョコの箱を自身のバッグの奥の方へと押し込んだ。

 

「そう、かな…いつも通り、だと思うんだけど」

「……ふーん」

 

 もしかして、さっきの現場……見られてた?いや、そんな事はないはずだ。だって、千景は今さっき教室に入ってきた。だから、さっきの若葉とのやり取りは…見られていないはず。別にやましい事をしてた訳じゃないけど、今考えてみたら結構…ヤバいのでは?

 

 なんて一人で焦りまくっていると、いつの間にか千景が僕との距離を詰めてきていた。さっきまでは少し離れた位置で聞こえていた声が、今は耳元で聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘吐き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 短く、それだけ、たった一言だけ。彼女は僕の耳元で呟いた。それだけだ、それだけで、僕の思考は真っ白になった。

 

「……放課後、時間あるわよね。いつも通り、私の部屋に来て……色々とやりたい事が…あるから」

「……わ、分かった。そ、それじゃあ…いつも通りに」

「……ええ、いつも通りに……ふふ、放課後が楽しみ……ね?天草くん」

 

 それだけ言って、千景は僕の方を向いてニコッと小さく笑うと隣の席へと着いて準備を始めた。

 

(……やったな、これ)

 

 先程、彼女が見せてくれた笑顔を思い返す。僕にしか見せてくれない笑顔……でも、良い笑顔とは裏腹に、彼女の目の奥には一切光が刺していなかったのを、僕はしっかりと見てしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、心底自分に嫌気が刺す。縛りすぎるのはよくない、のかもしれないと考え、登校くらいは別々にしようと考えたのが失敗だった。バカな事を考えたものだ、甘い…やっぱりずっっっと、一緒にいるべきだったんだ。

 

 いつもより早く、少しだけ早く、学校に向かった。そうしたら、見てしまった。

 

 乃木さんが、彼に、バレンタインのチョコをあげている所を。

 

 誰か一人くらいは、いや、もしかしたら皆が彼にチョコをあげるかもしれない。その可能性は加味していた。だか、よりに寄ってそれが乃木さんだなんて。

 

 いや、それだけならまだいい。まだ、いいのだ……問題はその後だ、あの二人の雰囲気……なんだ、あれは。

 

 彼の、あの人の、あの表情はなんだ。あれは、私の知らない彼の表情……私、の知らない。

 

「……どうして、よりに寄って…貴女が、それを奪うの」

 

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。

 

 呼吸が粗くなっていく。自身の内側からドス黒い感情が湧き上がってくるのを感じる。

 

(私が一番私が一番彼のことを知っていて彼と一番近くにいて彼の事を一番愛しているんだ)

 

 起きてしまった事はしょうがない。そう、しょうがない事だ。大事なのはここからどうするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

簡単だ、塗り替えれば良い

 

 

 

 

 

 

 

 

 乃木さんの味を、私の味で塗り替える。もっと甘く、蕩けるような味で彼を塗りつぶすんだ。

 

 貴方は私のモノだと。私以外に目移りしてはいけないのだと。私だけを、見てくれるように。

 

 あぁ、そうだ…だから、わからせてあげなきゃ。改めて、天草くんに、教えてあげるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方の事を、本当に、心の底から愛しているのが誰なのかを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「入って」

「うん…お、お邪魔します」

 

 千景の部屋へと足を踏み入れる。いつもの二人でゲームをやる為に来るわけではなく、今日は…まぁ、もう目的が違う。

 

 重苦しい雰囲気、正直な事を言うと、ここに来るまでも大分辛かった。無言で何か話しかけても、彼女はにっこりと微笑むだけだった。目は全く笑っていないのがまた辛かった。

 

 とりあえず、千景の指示でベッドに腰を掛けた。そして、僕の目の前に千景が立っているという構図。

 

「……」

「……」

 

 重い、暗い、辛い。三拍子揃ってしまっている現状、何か言葉を発したいのは山々だが…余分な事を言って彼女を刺激してしまうのは尚のこと良くないので

 

「……乃木さんのチョコ、美味しかった?」

「え」

「乃木さんのチョコよ、美味しかったのかって聞いてるの」

 

 少し圧のある口調で千景が聞いてくる。こういう時は、誤魔化すのはよくないのでしっかり答える。

 

「うん、すっごく…美味しかった」

「そうでしょうね。だって、食べた後の貴方すごく幸せそうだったもの」

 

 全部見られていたというのか……いつ、と気にするのは今更遅い。こんな状況になっている時点で、そんな事はもう意味がないのだから。

 

「羨ましいわ……乃木さんが、貴方のあんな幸せそうな表情と声を、二人きりの教室で、聞いていたなんて」

 

 目線はこちらに向けたまま、彼女はそう吐き捨てる。羨ましいと言葉では、言っているが声色からはそんなものは感じられない。まるで、全てに興味がないような…そんな風に聞こえる。

 

「……私も、貴方のそんな顔や声が聞きたくて…頑張って、チョコを作ったけど…どうやら、要らなかったみたいね…」

「ち、千景の…チョコ?」

 

 僕が言葉を発すると待ってましたと言わんばかりに千景はうすら笑いを浮かべながら、僕に顔を近づける。

 

「……ええ、そうよ……私が、貴方の、貴方だけの為に…作ったチョコ」

「僕の為に…そっか、作って…くれたんだ…嬉しいな」

「……欲しいの?」

「うん、欲しいよ。勿論…若葉から貰ったチョコも嬉しかったけどさ、誰から一番チョコを貰えたら嬉しいかって聞かれたら、千景から貰えるチョコだって答えるもん」

 

 瞬間、彼女の動きが完全に止まった……と、思ったら、突然…僕に背を向け出した。

 

「……私が、一番…一番…天草くんにとっての、一番は…私…そう、そうなの……ね。ふふ……ふふふふ」

 

 心の底から、喜ぶような声がする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……じゃあ、あげる。私の、バレンタインチョコ」

 

 背を向けた状態のまま、先程までとは打って変わり優しく落ち着いた声色で、彼女は言った。

 

「ほんとに!?や、やったー!」

「ふふ……でも、少しだけ待っててもらっても良いかしら。少し、準備したい事があるの」

「いいよ、で、どう待ってればいいかな?」

「そうね…じゃあ、私が良いって言うまで目を瞑って待ってて」

 

 言われた通り目を瞑る。ワクワクしながら、彼女が良いと言うまで待つ。

 

「良いわよ、天草くん」

「待ってた……って、えっ、あ」

 

 指示があったので目を開いた。すると、それとほぼ同時のタイミングで千景の手が頬に触れる。その直後、事件は起きた。

 

「ん…」

「!?」

 

 何が起きたのかわからず、思考が真っ白になった。唯一分かるのは、口に広がる甘い何かの味……昼間に、自分が口にしていたものと、恐らく一緒の…

 

 やめて、と声を上げる事も引き離そうと抵抗する事すら出来ない。その隙に千景がこちらの体を押し倒し、ベッドへと倒れこむ。

 

 首元に手を回し、完全にこちらの動きを封じ込めている。力では圧倒的にこちらの方が強いはずなのに、抗えない。

 

 彼女の目がじっとこちらを見つめている。その目には、恐らく、僕しか映っていない。僕も同じ、彼女しか映っていない。

 

「…ぷ、はぁ…」

 

 数分後、舌なめずりをしながら口を離した千景の体が離れる。その時も、彼女は僕だけを見つめていた。

 

「ハッピーバレンタイン……どう?私のチョコ、美味しかった?」

「…な、なにを」

「バレンタインのチョコよ。折角、食べさせてあげたのに……味、わからなかった?」

「いや、分かった…けど、その」

「あぁ、もう少し味わって食べたいのね。そう言うことなら、最初からそう言いなさいよ」

 

 言い終わるのとほぼ同時に彼女が口の中にハート型のチョコを放り込む。すると、千景はその顔を近づけてくる。

 

「ちょ、待って!」

「嫌」

「即答!?いや、だって別に口移しじゃなくても…」

「ううん、ダメ。口移しじゃないと意味がない……口移しでないと、乃木さんの味を…塗り替えられない」

 

 抵抗虚しく、また唇と唇が触れ合う。不思議な感覚、まるで彼女と一つになっているかのような、そんな感覚。

 

「……はぁ……大好き…大好きなの」

 

 離れた唇がまた触れ合う。さっきまでよりも、濃密に……激しく…甘い…甘い、甘くて…おかしくなりそうだ。もう、抵抗する気も湧いてこない。

 

(いや)

 

 そもそも、最初から抵抗する気など無かったのだ。もしかしたら、こうなる事を望んでいたのかも知れないと、思えてくる。

 

「…もっと…お願い…私だけを、私だけ」

 

 また、甘い味。止まらない…次がどんどん欲しくなる。ぐちゃぐちゃだ、全てが…彼女の、郡千景の味に塗り潰されていく。

 

「…ずっと、一緒にいたいの…だから、お願い…私だけの貴方に…なって…」

 

 それは良いかも知れない、と思った。ずっと傍にいると言ったのは僕自身だ。彼女もずっと一緒にいたい、と言うのであれば僕と彼女は同じ想いであるという事だ。何を拒む必要があるのだろうか。いや、ない。

 

 唇と唇が離される。お互い、粗い息を吐き、火照りきった顔のまま…見つめ合う。

 

「……チョコ…美味しかった…」

「…食べきるの…早いのよ…もう、無くなっちゃったじゃない」

「ありゃ…そりゃ、残念だな…もう少し…君の味…欲しかったんだけどな…」

 

 言い終わるよりも早く、千景が僕の体を先ほどまでよりも強い力で抱きしめてきた。温かい、離したくない…なんて事を考えてしまう。

 

「…そう言う所、ほんとずるい……」

「えへへ、ごめん…」

「もう……愛してるわ、天草くん……貴方は、どう?」

「僕は……」

「……嫌い?私の事」

「そんな事、ある訳ない」

「愛してる?」

「……うん」

「相思相愛…ってことね。じゃあ、良いわよね。私、我慢してきた…でも、今日全部伝えるって…決めちゃったから…ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先の事は、詳しく覚えていない。

 

 唯一覚えているのは、脳が蕩けそうになるほど、甘い時間を郡千景という少女と一緒に過ごした、という事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これからも、ずっっっっっっと傍にいて……私の、勇者」




天草洸輔 
もしも、の世界でも神様に目をつけられ半分人外化させられてるやべー奴。千景にとっての精神的支柱になり過ぎた結果、ヤッベェーイ!女へと昇華させてしまった大戦犯。タチが悪いのはこいつ実は……というかガッツリ満更でもない。しかもこいつも大概病んでいるというね。いいぞ、もっとやれ。

郡千景
村での辛い出来事、その全てから自分を守ってくれた天草の事を好きになり過ぎた事で、依存&拗らせが悪化しこうなった。ある時期まではツンが強かったが、自分の周りにライバル(他の西暦メンツ)が登場してからはガンガン好意を表に出すようになった。ただ、少しつめが甘……いや、甘くないね、やることやっちゃってたわ。若葉に対してのライバル心が原作以上に度を越している為、中々ヤバい。

高嶋友奈
ぐんちゃんの恋路を応援する最強のサポーター。もしも世界でも千景の心を開いた人物の一人であり、大事な友達。『まだ』天草に好意を持ってないから大丈夫。うん、大丈夫。………大丈夫?

またしても何も知らない若葉さん
またしても何も知らない若葉さん。お世話になったからという理由で、『手作り』の義理チョコをあげたらめちゃくちゃ嫉妬された女。解せぬ。

 需要はあるのだろうか、と思いましたが個人的に結構気に入った設定なので好評だったり機会があったりすればまた書いてみようかなと思います。わー、ヤンデレって最高だよねぇ!

 本編の書き溜めも良い感じになってきたので頑張ります。そろそろ出したい。


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鷲尾須美は勇者である
prologue 過去への想い、そして……


あこゆも随分長い物語になりました……自分でも驚いています。物語はまだまだ続きますが、これからもどうぞよろしくです!!ヽ(´▽`)/

では!わすゆ編、スタートォ!!!٩( 'ω' )و


西暦の時代から神世紀へと戻ってきてから何だかんだでもう一ヶ月が過ぎ、こちらの生活のリズムを取り戻し落ち着きはじめていた。ちなみに、今僕は大赦のマークが付いた車に乗っている。

 

「……スマホ、また変わったな。これで何回目だろう?」

「あはは、何回も何回もごめんね、洸輔くん」

 

先程まで、僕は大赦本部へと出向いていた。理由は春信さんが一度勇者システムの調整をするため端末を預けて欲しいと言われたからだった。

 

「まぁ、実際の所は皆にバレて怒られたからってのがでかいんだけど」

「僕も夏凛に、電話でこっ酷く怒られたよ……すごく怖かった。でも、ちょっと嬉しかった……妹に怒られるのってなんかいいね」

「(だめだ、この人……早くなんとかしないと)」

 

結局の所、僕は勇者部の皆に西暦に行って何をしたかとかを全部話したのだった。その流れで、何で僕が勇者システム持ってんの?って話になっちゃって事情は話したんだけど……まぁ、そのあとは地獄でした(涙目)

 

「そういえば、春信さん。さっき気になること言ってた気が……」

「気になること?なんか、言ったっけ?僕?」

「はい、確か……僕の端末に細工がされてたとかなんとか」

「そのことか、ごめん。実は、僕も詳しいことは把握しきれてなくてね。それを調べる為に、端末を一度回収させてもらったんだ。詳しいことがわかり次第伝えるよ」

「なるほど、わかりました」

 

少し、不安に思ったが……どちらにせよ調べてもらわないことには把握もなにも出来ないし、今考えても仕方ないね。

 

「それじゃ、また迎えが欲しい時に連絡してよ」

「了解です、毎回すいません……送ってもらっちゃって」

「なーに、気にしないでよ、これくらいお安い御用だって」

 

そう言って笑ってみせた春信さん、こういう部分は普通にイケメンなんだよなぁ。

 

そんなことを考えつつ、車から降り花束を手に持ってかつての勇者達の墓が備えられている場所へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、皆。お花持ってきたよ」

 

皆の、墓の前に花束を添えていく。春信さんから、この場所を教わってから定期的よく来るようになっていた。

 

ここに来るだけで、皆と一緒にいるような感覚になるから。

 

「あれぇ〜?あ、こうくんだぁ〜ハロハロ〜」

「こんにちは、洸輔くん」

「園子に美森じゃないか、こんにちは」

 

後ろを振り向くと、花束を持った美森とビニール袋を片手に持っている園子がいた。挨拶してから、歩み寄ると二人の前にあったお墓には、「三ノ輪銀」と刻まれていた。

 

「二人は、三ノ輪さんのお墓参り?」

「そうだよぉ〜、こうくんはこの前に話してくれたご先祖様達のお墓参り〜?」

「うん、なんか日課みたいになっちゃってさ。それに、ここにくれば皆と一緒にいるような感じがするからね」

「ふふ、洸輔くんらしいね」

「はは、さて、じゃあ僕はここらへんで……って、ん?」

 

三人の空間を邪魔しない為帰ろうとすると、服の裾を園子に掴まれた。

 

「こうくんも、一緒に。ミノさんも喜ぶと思うから」

「……了解、じゃあ、僕もお邪魔します」

 

二人の横に僕もしゃがみこむ。二人は三ノ輪さんの墓を見て、優しく微笑んだ。

 

「ミノさん、久しぶり」

「銀、色々あったとはいえ、遅くなってごめんなさい」

「えっと……こんにちは、三ノ輪さん。初めまして」

「こうくん、畏まりすぎ〜あと、三ノ輪さんって呼び方、ミノさん嫌がると思うよ〜?」

「そ、そうなの?で、でもほら……しょ、初対面だし」

「まぁ、そうかもしれないけど。きっと、銀ならそんな堅苦しい呼び方やめてくれって言うと思うわ」

「い、いやでも、僕は三ノ輪さんで通すよ(汗)」

「え〜なんでよぉ〜もーこうくんって意外と頑固だよねぇ〜」

 

美森が、三ノ輪さんの墓に花束を置く。そして、園子は袋から何かを取り出した。パックで置かれたのは焼きそばだった。

 

「それは?」

「前に、ミノさんと一緒に食べたんだ〜。その時の焼き方を思い出して、わっしーと一緒に作ったんよぉ〜」

「ぼた餅も作ってきたわ。銀、いっぱい食べてね」

 

二人は、三ノ輪さんのお墓に向かって話しを始めた。横からそんな二人の姿を見ていた僕はポツリと呟く。

 

「二人は……三ノ輪さんのことが本当に好きなんだね」

「そうだよぉ〜だって、私達はズッ友だもん」

「ズッとも?」

「西暦の資料を調べた時、見つけた言葉でね。ずっと友達って意味なんだって。私達三人はずっと友達ってことだよ〜。ね、わっしー?」

「ええ、洸輔くんの言葉を借りるのなら、離れていても心は繋がってるって感じかしら」

「……そっか」

 

その言葉を聞き終わると同時に、僕は三ノ輪さんのお墓に向かって手を合わせた。

 

(三ノ輪さん……園子は、美森は、あなたの友達は元気ですよ。こんな知らない男に言われても、困るかもしれないですけど……)

 

それからまた、園子と美森は三ノ輪さんのお墓に話を始めた。いくら話しても話し足りないのだろう、二人は空が赤くなるまで、かけがえのない思い出をひたすら話し続けていた。

 

「もう、こんな時間なんだ……そろそろ行かなくちゃね」

「うん、ごめんね、銀。私達もう行かないと」

 

僕と美森が、その場から立つ。しかし、園子は墓を見たまま動く気配がない。

 

「ねぇ、こうくん……こうくんは、西暦の時代に行ってご先祖様達を救ったんだよね?」

「えと、う、うん」

「それって、私達でも出来るのかな?」

「そのっち……それって」

「急に、こんなこと言ってごめんね〜。でもさ、こうくんからあの話を聞いてからふとした時に考えちゃうんだ〜ミノさんも______かなって」

「園子……」

 

言葉を聞いて、すごく胸が痛くなった。すると、次の瞬間園子は勢いよく立ち上がり、自分の頬を両手で叩いた。

 

「あーもう、ダメダメだなぁ〜私。くよくよしてたら、ミノさんに叱られちゃう!しっかりしなくちゃね〜……また、来ようね、わっしー」

「……ええ、また来ましょう。洸輔くん、ありがとうね、こんな時間まで一緒にいてくれて」

「私からも、ありがとね〜こうくん」

「気にしなくていいって、三人の会話に混ざるのは楽しかったからさ」

 

僕がそう言うと、二人は笑顔で応じてくれた。そして、三ノ輪さんのお墓へと二人はもう一度視線を向けると、ある言葉を呟いた。

 

「それじゃ、ミノさん」

「銀」

『またね』

 

そう言った時に、園子と美森の表情は穏やかで同時にとても儚かった。なんとなくだけど、あのまたねって言葉……とても大事なものなんじゃないかと二人の様子を見て感じていた。

 

(ズッ友……か。いい言葉だな)

 

三ノ輪さんのお墓に目を向けながら、胸の内で呟く。

 

「迎え、頼むかな……っ!?」

 

そして、スマホで春信さんに迎えを頼もうとした瞬間、突然とてつもない頭痛に襲われた。

 

「ぁぁぁぁぁぁ!!な、なんだ、これぇ……」

 

あまりの頭痛に、その場に蹲る。園子と美森の心配する声は聞こえてくるが、全く聞き取れない。

 

すると、次の瞬間、何か記憶のようなものが頭に流れ込んできた。

 

(これは、一体……?)

 

映っているのは、園子と……美森?そして、もう一人は……。

 

「だ…れ?」

 

虚ろな呟きを残して、僕の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪の歴史が生まれようとしているか……分かってはいた。乃木若葉が過去へ奴を送り出した時点でこうなることは予測できていた。

 

だが、予想以上だった……乃木若葉があそこまで力を蓄えていたとはな。送り込まれてからでは、対処のしようがない。まぁ、それはもう良いとするか。

 

問題は……土地神の中に裏切り者がいたこと。元は絶った、しかし『作り物』にその意思が宿ってしまっている。大赦の人間達が作り出した異分子を操り、我に反旗をひるがえしてきている。全くもって厄介なことだ。

 

天の神も、今回の歴史改変の影響によって得た知識……いや、力を使い仕掛けてくる様子……全く、気が休まらん。

 

さて、問題を起こした本人には、しっかりと対処してもらわなくてはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦から、戻って早々悪いが……まだ働いてもらうぞ、天草洸輔。




今までで一番何が起きているのか分からない( ˘ω˘ )まぁ、プロローグってそんなもんよね!!

あと、毎度遅れてすいませんm(._.)m


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一章 叛逆の鎧

本格スタートです。勘の良い方は、もうこの題名で天草くんの宿す精霊もとい英霊がわかったはず( ´ ▽ ` )


「……また、ここなの?」

 

目を覚ましてみるとそこはこれまで何度も見てきた、全てが白で染め上げられた虚無の空間にいた。

 

『たくっ、どんだけ待たせんだよ』

「え?」

 

声がした方に、視線を向けると右手に銀色の剣を握った鎧が、背中をこちらへ向けながら佇んでいる。

 

ガシャン……と、鉄が擦り合わさる様な金属音が鳴り響いた。

 

「……鎧……?」

 

呟いた言葉を最後に、離れていた筈の鎧が、目の前に居た。

 

その手に持っていた両刃の剣を振り上げて。

 

「……ッ!?」

 

剣が振り下ろされ脳天に直撃……する前に、急いで白い空間の地面を転がる。 初撃は何とか回避する。

 

体制を直そうと立ち上がるが、その時には既に目の前に地面を削りながら、同時に剣をこちらに振るってくる。それを、紙一重で避ける。

 

「何するんですか!?」

『質問するぞ』

「……はい?」

てめぇは自分をどこまで理解してんだ?(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「どう、いう……」

 

言葉が言い終わる前に、赤い閃光がほとばしり鎧は背後に回りこんでくる。殺気の込められた一撃に対し、咄嗟に右手が反応する。

 

どうしよう、どうしよう、どうしよう。 今の僕には、バルムンクも無ければ、グラムも無い。避けられない、逃げられない。 その瞬間、脳裏に過ぎる。

 

 

 

 

 

 

【死】という明確な絶望が迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?これ……なんで、なんで……グラムが!?今、僕は、勇者になってないのに……ていうか、この力は……えっ?」

 

しかし、閃光を伴った剣を僕は止めていた。以前、消失した力の一端を使って。思考が更に?に埋めつくされる。そんな中、鎧はよく分からないことを呟いた。

 

『それが、わかってねぇってことは……てめぇ、苦しむことになるぞ』

「っ……」

 

同時に視界が歪む。体が崩れ落ちて、視界は暗闇に包まれていくと、うっすらと鎧の声が聞こえてきた。

 

『これだけしかいえねぇが、言わないよかマシだから言っとくぞ。いいか、自分をしっかりと見定めろ。そして、もひとつ同じ力を持ってても、お前と奴ら(・・)は違うってことも、忘れるな」

 

その言葉を最後に、僕の意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ん……ど、どぉいうこと……っ!?いっでぇ!?」

 

突然、頭に感じた衝撃にびびって起き上がる。近くには目覚まし時計が、転がっていた。

 

「いってて……何があったの?……って、あれ?」

 

先ほど、勇者達のお墓があった場所にいたにもかかわらず、いつの間にか場所が変わっている。僕はベッドに身を預けていたのだ。

 

「これは……また、若葉?いや、もうそんなことを起こすほどの力はないって本人も言ってたから、それはないか」

 

とりあえずと辺りを見回す、すると、さっきから感じていた安心感の正体に納得した。

 

「ここは、僕の部屋だ。つまり、西暦じゃない……ってことは、普通に倒れた僕を園子か美森が運んでくれた?」

 

ゆっくりと、起き上がる。同時に何か違和感を感じた。

 

「なんか……家具の配置がいつもと違う?」

 

机の位置、その他諸々。いつもの部屋と配置が違っていた。動かした記憶もないため、先ほど感じた違和感が更に強まる。

 

「近くで見た方が、わかるか」

 

ベッドから下り、立ち上がると今度は違う違和感に襲われる。

 

「なんか、いつもより……目線低くない?」

 

そんなことを呟いていると、机に置いてある鏡に自分の顔が映り込んだ。

 

「あれ……?ちょっと待ってよ……」

 

ただ、鏡に映っていた僕の顔は幼かった。それこそ、前に見た小6の頃の写真に映っていた自分の顔のまんまだった。それを見て、すぐにカレンダーへと視線を向ける。

 

「そういうことか。確かにここは僕の部屋だけど、今の僕(・・・)の部屋じゃない。過去の僕(・・・・)の部屋だ……だって、ここは」

 

ここは、神世紀300年ではなく、ましてこの前までいた西暦の世界でもない。僕、そして勇者部の皆が勇者としての力に目覚める2年前の時代であり、美森、園子……そして、三ノ輪さんが先代勇者として戦っていた時代。

 

「慣れって怖いな。いつのまに、こんな状況になっても驚かなくなっちゃったんだろ。ていうか、今度はどういう経緯で……ん?」

 

ポケットから、急に電子音が鳴る。

 

「この端末は……なんで、春信さんに預けたはず」

 

それは、僕が調整のため預けたはずの勇者システムが入ってる端末だった。不思議に思っていると、突然メールの着信が入った。

 

「全くもう……何が起きてるんだ?」

 

恐る恐るメールを、開き内容を確認する。それを見て目を見開く。

 

『このメールが届いたということは、あちらの君を神世紀298年の君の意識へ送ることは成功したということだな。ならば、単刀直入に言おう。君にはこの時代で起きている異変を解決してほしい。その為に必要な勇者システムはこの端末へと移してある。君が、使っていた端末とは別物故、新たな力をこれには移してある。それを使い、異変を解決してくれ。なお、一つ忠告しておくことがある。この時代では、決して君自身が体験した出来事、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()。これを守り、異変の解決に勤めてくれ。以上だ、頼んだぞ、天草洸輔よ』

 

「意味がわからない……しかも、差出人誰かわかんないし……「こんにちはー!!」どっひゃああぁぁぁ!?」

 

超絶長い意味不明なメールが、読み終わると同時に部屋の扉が開かれた。突然のことに、変な声が出た。(どっひゃああぁぁぁ!?ってなに?)

 

「うわぁ!?び、びっくりしたぁ~」

「それはこっちのせり……ん?」

 

友奈の姿を見て、更にこの世界が神世紀298年だということを痛感した。自分の姿と同じように、友奈も小6の時の姿になっている。

 

「おーい?もしかして、怒らせちゃった?」

「あ、ああ、えーと、そうだ!ノックくらいしなさい!」

「えへへ~ごめんなさーい♪」

 

なんで、怒られて嬉しそうなの?この子?状況はわけわかんないし、把握もまだできてないけど……友奈の笑顔を見ると、落ち着くな。

 

「よーし!それじゃ、遊ぼうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、突然友奈の動きが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今、来るのか」

 

視界が、まばゆい光に包まれていく。状況は把握しきれてない、突然意味のわからないメールも飛んでくるし……でも、あの内容を信じるのならば。

 

「きっと、この時代で勇者として戦うことが、僕の目的……」

 

スマホをタップする。勇者システムを起動して、力を呼び寄せる。

 

「あれ?……ジークさんの力じゃない?ていうか、重っ!?よ、鎧なのか、これ?顔も隠れてる感じのやつ?」

 

そういえば、新たな力がみたいなこと書いてあったな……あのメールに。

 

前までの勇者服って感じが全くない……完璧に体に鎧を身に纏っている。今までの、シグルドさんとジークさんの力を借りていた時のような、勇者服さはない。まぁ、剣が銀色って部分は前の時と一緒だ。

 

「にしても、妙に体が重い……なんでだ?」

 

そんなことを呟いていると、遠くの方で爆発音が聞こえた。同時に、バーテックスも見えてきた。

 

「っ、四の五の言ってられないか!とりあえず、あいつを倒す!!」

 

一旦考えるのをやめ、遠巻きに見える化け物に向かって跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~鷲尾須美視点~

 

「来たわね、バーテックス……あのフォルムは、天秤かしら?」

「天秤が、空に浮いてるねぇ~」

 

ゆらゆらと揺れる巨大な敵は、ゆっくりと大橋を前進してくる。壁の外から来る敵から神樹様をお守りする。それこそ、私達勇者の役目だ。

 

「全く、どういう生き物なんだかな……あいつら。一回目の時も思ったけど、ウイルスの中で生まれただけであんな形なるもんなのかね」

「あ~ミノさん、戻ってきたぁ~」

「何か、あったの?銀」

「ううん、今んとこあのバーテックスがいるってこと以外は何もないよ。あいつら(・・・・)も今回はまだ、出てきてないし」

「そう……」

 

つい最近、私とそのっち、銀の三人は一度勇者としての戦いは経験している。その時、ある異変が起きたのだ。本来、私達が聞いていた話では、相手するべき異形の存在はバーテックスのみだった。しかし、前の戦いで謎の人型の存在が二体も現れたのだ。

 

「結局、奴らは一体なんなのかしら?」

「不気味だったね〜一体はなんか、変な仮面つけてたし……」

「まぁ、なんにせよ!今は出てきてないことだし!とりあえず、こいつをサクッとやっつけちゃおう!」

「ミノさん、やる気いっぱいだねぇ〜」

「もちろん!この三ノ輪銀様の力とくと」

「銀、調子に乗らない!しっかり、訓練通りに行くわよ」

「そ、そうだった!つい、敵見ると突撃したくなっちゃって。須美、よろしく」

 

銀とそのっちがバーテックス目掛けて跳躍したと同時に、弓を射る。できることなら、私のこの弓のみで決着がつくのなら、それのほうがいい。

 

「向こう側に、戻りなさい!!」

 

何本もの矢を、敵目掛けて同時に放つ。矢は空を裂いて、化け物に向かって飛んでいく。この矢は神の力を得ているため、的確に目標へと飛んで行った。しかし、その矢は敵には通じなかった。

 

「そ、そんな!?」

「須美!ここは一旦、私たちに任せて!」

「ミノさん、あの敵、体と体が繋がっている部分が、細くてもろいかも!」

「接続部を狙って攻撃ね!了解!!」

 

敵の左右から、呼吸を合わせて銀とそのっちが攻撃を仕掛ける。すると、天秤は自身の体に付いている分銅を振り回すかのように、大回転を始めた。竜巻のような防護壁を作り出し、二人が吹き飛ばされる。

 

「このっ、ち、近づけない……!」

「あわわわぁ〜」

「っ……み、身動きが取れない」

 

すると、回転の遠心力を利用し、敵は先程私が放った矢を私の方に向け一斉に射出してきた。

 

「矢をそんな風に返すなんて!」

 

なんとか体をひねり回避する。しかし、回避したことによって矢は樹海の方へと飛び、樹木が爆発し傷ついてゆく。

 

「樹海が……私の矢で……!!」

「須美、前!!」

「えっ?………………あ」

 

銀からの声で、視線を前へと向けるともうすでに目の前に、何本もの矢が迫ってきていた。

 

「須美!!」

「わっしー!!」

 

二人の叫び声が聞こえる……避けないと、そうしないと……確実に。でも、この距離では。

 

(嘘……私、こんな……)

 

目を閉じる。敵によって放たれた矢によって私の体は貫かれ……ることはなかった。

 

 

 

 

 

「危ないっ!」

「っ!?」

 

 

 

 

 

私が目を開けると…目の前には鎧がいた。鎧は私を守るように前に立ち、銀色の剣に赤い閃光を走らせながら、矢を全て斬り伏せた。

 

「ふぅ、間一髪って感じかな」

「あなたは……一体?」

「僕?僕はね」

 

こちらを振り向かずに、背中だけを向けている。突然現れた謎の鎧……なのにも関わらず、何故か私はとても、安心していた。

 

すると、鎧はこちらを見ず、私への問いに対して簡単に言った。

 

「君たちと、同じ。奴らを倒すために選ばれた勇者さ」

 




はい〜1話になりました!どうでしょう!(どうでしょうってなんだ?)
ついに、わすゆ組と天草くんが接触!!これからの展開もお楽しみに!( ´ ▽ ` )


投稿ペースはかなり落ちていますが……やめるつもりは毛頭ありません!リアルが忙しすぎて……時間が前よりも作れないだけです。読者の皆様には、大変申し訳ないのですが、ご理解の程よろしくお願いいたしますm(._.)m


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二章 彼は何故この時代に飛ばされたのか

第2話です!それでは!どうぞ!!


〜鷲尾須美視点〜

 

「さて、どうしたもんかな」

「……」

 

突然目の前に現れた鎧は、困ったように呟く。鎧の姿からは想像出来ないほどに、穏やかな声が聞こえてくる。

 

「まずは、奴をどうにかしなくちゃ!」

「あ、ちょ、ちょっと待ってくださ……っ!!」

 

私が声を掛ける前に、鎧はバーテックスに向かって飛び立っていった。その直後に、銀とそのっちがこちらに駆け寄ってきた。

 

「須美!大丈夫か!?」

「わっしー!無事でよかったよ〜」

「二人とも……」

「よかった、無事で……てゆーか、あの鎧はなんだろ?」

「わっしーのことを、守ってくれてたから……敵ではないんじゃないかなぁ〜?わっしーは何か知ってる〜?」

「え、えと……私にも、よくわからないけど勇者だって」

「へっ?どういうこと?」

「勇者って言ってたの、私達と同じって……」

 

バーテックスに対して、突っ込んでいった鎧の方へ視線を向けながら、二人に対してそう言った。

 

「ま、考えてもしゃあない!守ってくれたってことは、敵ってことはないだろ!」

「そうだねぇ~あ、ミノさん!あの鎧さん、押されてる!助けないと!」

「ほんとだ!須美!ここから、いつも通りに援護頼む!」

「え、ええ!」

 

わからないことは多いけど、今はお役目を果たさなくては!それが、お役目を任された勇者の使命!

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「くっそ!やっぱり、なんか重い!!」

 

バーテックスに対し、強引に攻撃を繰り出すと回転で弾かれてしまう。しかも、鎧の重さでいつもより体がうまく動かない。

 

「なんでだ?シグルドさんとジークさんの時は、すぐ体に馴染んだのに……」

 

どうしてか、今回のこの姿は全然馴染まない。寧ろ、動きにくい。みも……じゃなかった、須美ちゃんにあんなこと言っていて結構押されてる。

 

「でも、ずっと押されてるわけにはいかないよね!はぁぁぁぁぁ!!」

 

叫び声と共に、僕の周りに赤い雷鳴がほとばしり始めた。その雷が剣に集まっていくのがわかる。

 

「これでも、くらえぇぇぇぇぇ!!!」

 

雷鳴を伴った剣を振るうと、バーテックスに直撃する。

 

「よしっ!このまま、撃破……っ!?!?!?」

 

剣に全エネルギーを集め、バーテックスに叩きつけようとすると突然頭痛に襲われ、態勢が崩れる。

 

敵が回転して、こちらに鈍器を振るってくる。一瞬の、隙を突かれて対応に若干遅れる。剣で、なんとか直撃は防ぐ。

 

「ぐぅぅう!!や、やっぱり、ち、力が入りきらな……あっ」

 

足で踏ん張ろうとするも、力が入りきらずに吹き飛ばされる。体が飛ばされて、木に激突しそうになる。

 

「危ない!!」

「っ!?」

 

そんな時、背後から声がすると、急に体が誰かに支えられる。同時に勢いはなくなり、木にぶつからずに済んだ。

 

「よし、間に合った!!」

「ミノさん、ナイスキャッチ〜!鎧さん、大丈夫〜?」

「う、うん、ありがとう助かったよ……」

「わっ!?しゃ、喋った〜!?」

「いやいや、さっき須美言ってたろ!?ま、まぁいいか……鎧さん、あいつ倒すために力を貸してくれない?色々聞きたいことあるけど、今はあいつをどうにかしなきゃだからさ!」

「……了解!」

 

少女の言葉に力強く頷く。なんだろうか、彼女の言葉はすごく熱い。恐らくだけど、この子が三ノ輪銀……。

 

「ぴっかーんと閃いた!ミノさん、鎧さん、台風に目ってあるよね?この回転も、周囲に強かったとしても、頭の上は弱いのかもしれない!」

「なるほど、上から飛び込めばいいってことか!」

「じゃあ、僕が先陣をきろう。奴の懐に入って動きを止める!」

「鎧さん、いいの!?」

「君達よりも、僕の方が鎧を着てて頑丈だからね。任せてよ!」

「じゃあ、私はわっしーにそのことを伝えてくるんよぉ〜」

 

各々が、それぞれの役割の為に動き出す。三ノ輪さんと僕は跳躍し、バーテックスの真上の方へと向かう。

 

「鎧さん!頼んだ!」

「任せて!」

 

剣を肩に担いで、竜巻の中へと身を投じていく。とんでもない風圧が体を襲う。

 

「とまれぇぇぇぇ!!」

 

自分の胸を拳で強く殴って渇を入れる。すぐに、身を捻って回転する天秤の頭上に向かって剣を振るう。

 

しかし、それだけで止まるわけもなく、風の刃に襲われる。

 

「この、デカブツがぁ!止まれって!言ってんだろうがぁ!!」

 

剣を両手で持ち、刃を下に向け頭上へ突き刺す。大きな斬撃音が、響き渡ると天秤の動きが止まった。

 

「止まった!!!」

「鎧さん、ナイス!!」

 

掛け声と共に、三ノ輪さんと園子が敵の中へと飛び込んでいく。須美ちゃんも少し遅れて、敵の間合いへと踏み込んだ。

 

「ミノさん、わっしー、鎧さん!いくよ~!」

「一斉攻撃だぁぁぁ!!」

「ええ!この距離なら……」

「覚悟しろ、バーテックス!!」

 

 

そこからは一方的な戦いになった。剣と斧による終わることのない斬撃、ゼロ距離から放たれる矢、中距離から巻き起こる槍の連撃。相手にまとわりついて、回転を許すことなく、僕達はラッシュを続けた。

 

「よーし!あともう少しで、こいつを撤退させられる!」

「……撤退?」

「そうだよ~鎧さん!私達の役目は、こいつらを追い返すことだからね~!」

 

それを聞いて疑問がよぎる。撃破はせず、撤退が目的?この時代では、それが目的だったのか?

 

(どういう事だ……?)

 

そんなことを考えている内、少女達の言った通り敵は僕らに追い立てられるように橋から撤退していった。

 

「よっしゃー!」

「今回もなんとかなったねぇ~鎧さんも、おつかれ~」

「う、うん、ありがと……それと、お疲れ様」

「あ、あの……」

「ん?」

 

背後からの弱々しい声に振り向くと、そこには須美ちゃんがいた。何か言いにくそうに、もじもじとしている。

 

「その……あの……」

「?」

「須美~恥ずかしがってちゃ伝わんないぞ~」

「そうだよ~わっし~」

「???」

 

三人のやり取りを、頭に?を浮かべながら見ている。

 

次の瞬間、謎の寒気に襲われる。この時代では、初めて感じる……けど、でも、この感じ、前にもどこかで。

 

「……なんだ?」

「鎧さん?」

「銀、そのっち、え、ええと……鎧さんも」

「須美?」

あいつ(・・・)……」

 

須美ちゃんが指差した先には、黒い仮面……いや、バイザーのようなものを着けている。黒い甲冑のようなものを身につけ、こちらを見据えている誰かがいた。

 

「なるほど……通りで鎮花の儀ってのが起きないわけだ」

「どういうこと?それに、奴は?」

「この前、私たちを襲ってきた奴だよ。詳しいことは分からないけど、気をつけて!」

「来る!!」

 

須美ちゃんが叫ぶんだとほぼ同時に、奴はこちらへと一直線に迫ってきた。しかし、瞬間、姿が消える。

 

「どこ行った!?」

「き、消えちゃった?」

「二人とも!後ろ!」

「今、お前たちに用はない、どけ」

 

消えたのではなく、こちらへと一瞬で移動していた。黒仮面は手から出した波動のようなものを使って、二人を弾き飛ばした。

 

すると、今度はどこからともなく剣を取り出し、こちらに振るってくる。寸前の所で、こちらも剣を使い防ぐ。

 

「銀!そのっち!」

「っ!?お前、よくもぉ!!」

「おっと……あぶねぇあぶねぇ。にしても、久しぶりだなぁ?」

「はっ?」

「やっぱ、俺らの関係はこうじゃねぇと」

「さっきから、ごちゃごちゃと何を言ってる!!」

 

よく分からない言葉に、苛立ち強引に黒仮面に向かって剣を振るう。しかし、それは難なく回避される。

 

「よっと……あくまで、今日は挨拶をしにきただけなんでね。これ以上は避けたいとこだ」

「逃すわけないだろ!!」

「鎧さんの、言う通り!」

「隙あり〜!」

「はぁ!」

 

先程、弾き飛ばされた三ノ輪さん達が、一斉に黒仮面に向かって動き出すのと同時にもう一度奴に斬りかかる。しかし、それは奴の体をすり抜ける。

 

「何!?」

「攻撃が通らない!?」

「言っただろ?今回は、あくまで挨拶だけだってな……そんじゃ、また会える日を楽しみにしてるぞ……作り物」

「作り物?」

 

黒い仮面はこちらを向きながら、呟く。言葉の意味を問い返そうとした頃には……既に奴はそこからいなくなっていた。

 

(あいつ……僕を見て言ったのか?それに……あの感じ……いや、まさか、そんなはずは……)

 

考えこんでいると、樹海に変化が起こり始める。場は静まりかえり静寂が空間を包みこむと……やがて、まばゆい光が樹海を包み込むと共に、桜の花びらが舞い出した。

 

「鎮花の儀……ということは」

「終わったぁーでも、また逃げられたー!」

「また、あのときと一緒……彼の目的は一体?」

「うーん、なんなんだろうねぇ~?鎧さん、わかる?」

「えっ!?そこで僕に聞くの!?」

「なんとなく流れでぇ~」

「そのっち、人を困らせるようなことはしない」

「えへへ~ごめんなさぁ~い」

 

園子はいつだって園子だね。この二人は、昔からこんな感じだったんだ……なんか、嬉しいな。てか、てへぺろ顔だと……謝られてる気がしない。

 

「あー……てっ、そうだ!!鎧さん、結局、あんたって何者なの!?」

「そういえば、続きだったぁ~鎧さんどうぞ~」

「……」

 

三ノ輪さんと園子はキラキラした目を向け、須美ちゃんはこちらを無言で見つめている。とりあえず、顔を見せようとすると、兜が半分に割れ、視界が鮮明になった……のはいいんだけど!!!

 

 

「わぁ〜!!男の子だぁ〜!?」

「男の子〜んなわけな……本当だ、男だ……」

「おかしい、男性は勇者になれないはず……いや、私達が知らされていないだけで……本当は男性が使えるものも?」

「嘘、嘘でしょ!?待ってよ、割れるなんて聞いてないよ!?」

 

待ってくれよ!今まで、こんなことなかったぞ!?兜が半分に割れて壊れるとか……過去や未来に飛ばされるとかよりもよっぽど恐ろしいんだけど!

どうしよう、これ、これ瞬間接着剤でくっ付く……?

 

「……えっと……取り敢えず自己紹介するね……僕の名前は天草洸輔……です。」

「お、おおう、テンションの下がり具合が……天草洸輔ね。OK、覚えた!私、三ノ輪銀!よろしく!」

「なるほど~じゃあ、こうくんだ~!あ、私は乃木園子だよ~よろしく~」

「鷲尾……須美です、よろしくお願いします……」

「うん……宜しくね」

 

 

全員が自己紹介が終わると、地鳴りが起き始め、花弁のような光が吹き荒れ出した。

 

「そろそろ、時間……かな?それじゃまた会おうね、皆」

「あ、あの!」

「?」

「あ、ありがとうございました。さっきは……助けていただいて」

「……いいよ、同じ勇者同士これからも頑張ろうね」

 

こちらに向かって律儀に頭を下げた須美ちゃんとその後ろで手を振ってる三ノ輪さんと園子を見届けると、視界が光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ゆっくりと瞼が持ち上がってくる、見えてきたのは自分の部屋だった。

 

「ん、んん?あれ?ここ……「よかったぁ!!!」ごぼぉ!?」

 

瞬間、えぐい衝撃が腹を襲う。目線を下げると、涙目で僕のお腹に手を回している友奈がいた。

 

「急に何をしても、反応しなくなったからびっくりしたよ~!」

「あ、ああ……ご、ごめんね。ちょっとボーッとしてて」

「むー、まぁ、いいか!それじゃ!洸輔くん、あーそーぼー!」

「わかったわかったって。だからさ、とりあえずそろそろ、離してくれない?」

「………私を振りほどけゲーム!」

「なんだ、その無理やり過ぎるゲーム!?」

「いいからー!はーやーくー!」

「ああもう、わかったから!!落ち着きなさーい!」

 

まだまだこの状況に対する疑問や不安は拭えないけど、頑張ろうと友奈の楽しそうな笑顔を見て僕は思った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~鷲尾須美視点~

 

樹海から帰還したその帰り道、私達三人は先ほど出会った少年のことについての話題で持ちきりだった。

 

「良い奴だったなぁ~天草か」

「また、会えるかなぁ~」

「……」

「わっしー?」

「どしたー?須美、さっきから考えこんで」

「あ、ご、ごめんなさい、二人とも……なんでもないわ」

 

ただ一人で、私は思考の海に静んでいた。勇者であるならば……なぜ同じ勇者である私達は彼のことを知らなかったのだろうか?

 

「天草洸輔……彼は一体?」

 

彼の顔を思い浮かべながら、考えても答えは出ないと分かっていても、私は思考を巡らせ続けていた。




わすゆ編第2話!!!いかがでしたでしょうか!ヾ(๑╹◡╹)ノ"
いやぁ〜しれっとあいつも出現して……いや、なんでもないです!!

つ、次も頑張って書きますので応援よろしくです!あ、感想もらえたら嬉しいです\( 'ω')/


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三章  日常に踊る

三話でございます……タイトルの通り、ちょっとした日常回でございます!

はぁ、もっとペース上げて投稿したいです( ; ; )



いつもの海岸で、いつものように鍛錬に励む。例え過去の世界に飛ばされたとしても、日課であるからか自然と体が動いた。

 

この時代……というか、二年前の僕も鍛錬はよく行っていた記憶があり、実際体がついてきてはいる。まぁ、それでも体格とかは二年後の自分に比べたらまだまだだけど。

 

「なんというか……こうやって過ごしていると、過去に飛ばされたって感じがしない」

 

この時代に飛ばされてから、もう一週間が経過しようとしていた。前回とは違い、馴染みの場所や時代である為、落ち着いてはいる。ただ、それでも情報が足りないのは確かだった。

 

(この時代にある異変、そして、この端末のことやあの仮面の男のこと……分からないことは尽きない)

 

まぁ、それでも呻いていた所で何かが変わるわけじゃない。だったら、手探りでいくしかない。つまり、行動あるのみってことだ。

 

「さて、そろそろ家に戻るとしますか」

「洸輔くーん!おーはーよー!」

「……おはよ、友奈。なんで、ここに?」

「起こしに行ったらいなかったから、ここにいるんだろうなぁ〜って」

 

何故か、自慢げに友奈が僕の方を見てそう言った。そう、この時の友奈は(というか、元の時代でもそうだけど)朝に弱い僕を起こしに来てくれていた。

 

「毎日起こしにきてくれなくてもいいのんだよ?友奈も大変だろうし」

「気にしなくてもいいって〜。私が起こしに行きたいって思ってやってるんだからさ」

「でも、悪いし……」

「そういう事ばっかり言ってる幼なじみはこうだ!手繋ぎの刑〜!」

「……何それ?」

「家に着くまで、私とずっと手を繋ぐ罰だよぉ〜!」

 

ニカッと無邪気な笑みを向けながら、友奈が僕の手を握る。恥ずかしさよりも嬉しさが先にくるようになっているのは、かなり友奈に毒されている気がする。

 

「ば、罰っていうか、僕としては寧ろご褒美な気がするけど…」

「えっ?」

「友奈みたいな可愛い子に手を繋がれて嬉しくないわけ無いし」

「あわ、あわわ……」

「それに友奈が手を握ってくれると安心するというかさ。あれ、友奈?」

「……」

 

素直に思った事を口にしていると、友奈が無言になってしまった。心配になり、彼女に呼び掛ける。

 

「ぷ、プシュー……きゅ、急に積極、て、き……」

「えっ!?ちょっ!?」

「はふぅ……」

「ゆ、友奈さぁぁぁぁん!?!?」

 

何故か、急に気絶した友奈を家に運んだ。その結果綺麗に二人で遅刻することになったとさ。

 

とまぁ、そんな感じで過去に飛ばされるなんてとんでもないことは起きてても、西暦の時とは少し違って……僕を取り巻く日常というのは、この時代に異変が起きているとは感じさせないほどに、平和に流れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー学校終わった〜」

「お疲れ様、友奈。てか、今日って昼で学校終わりだったんだね、忘れてたよ」

「私もー、先生に言われるまで忘れてたよぉ〜」

 

昼頃、今日は先生達が会議をするらしく学校が早めに終わった。(昨日言われたらしいけど、全然覚えてなかった)

 

皆、早く帰れて嬉しいのか、あっちこっちで帰った後何をするかの話題で盛り上がっていた。そんな浮かれムードの中、僕は腕を組んで考える。

 

(うーん、この後、どうしよう……せっかくだし、大橋の方に行ってみるとするかな)

 

僕がこの時代の事が記された勇者御記を園子に見せてもらった時、須美ちゃん、園子、三ノ輪さんの三人は大橋の方で戦闘を繰り広げていたと書いてあった。そちらに行けば、何か情報が……得られるかもしれない。もしかしたら、運良く三人と会える可能性もある。

 

幸い、学校も早めに終わってくれたし、電車の本数も心配はなさそうだ。こういう時、元の時代の方では春信さんが頼めば運んでくれたのになぁ。

 

「……」

「どうしたの、洸輔くん?考え事?」

「ああ、うん。まぁ、そんなとこかな」

「何〜?もしかして、私のこと考えててくれた?」

「?……まぁ、友奈の事はいつも考えてるけどさ」

「えっ、あっ…そ、そう…」

「おー、お二人さん、イチャイチャしてるとこ邪魔して悪いね」

 

そう言いながら、僕らの方に近づいてきたのは三枝裕子。彼女も友奈と同じく実は幼稚園時代からの付き合いで、小学校も、六年間同じクラスだった。

 

「あっ!裕子ちゃん!やっほー!」

「やっほー、友奈。それと、天草も」

「話すのは久しぶりだね。三枝」

「久しぶり?昨日あったし話もしたじゃん」

 

そう言われて、一瞬焦る。元の時代の方では、同じ中学ではあるもののクラスが同じにならず、あまり話せなくなっていたから、つい言ってしまった。

 

「あ、ああ、ごめん。そ、そうだったね」

「いや、別にいいけどさ……っと、それより二人に渡すもんがあったんだった」

「渡すもの?」

 

友奈が小首を傾げると、三枝がポケットから二枚、紙のようなものを取り出した。

 

「これ、イネスのフードコートに美味いジェラート食べれるとこがあるんだけどさ。そこで使える無料券、あんたらにあげるよ」

「えっ!?ただで!?」

「三枝、ほんとにいいの?」

「ああ、いいのいいの。実は、最近私が通ってる弓道教室が忙しすぎて行く暇なくてさ〜しかも、有効期限も短いもんで、だったら、誰かにあげた方が良いと思ってねぇ。ま、今週の休みとかに二人で行ってきなよ?ま、何なら今からでもいいと思うしぃ?」

 

そう言いながら、券をヒラヒラさせつつ僕らの方を見てニヤッと笑う三枝。うーん、明らかに善意からだけではなさそう……だって、めっちゃ楽しんでるもんな、顔が。

 

「……じゃあ、今から行ってくるよ。きょーは時間もあるし」

「ほーん、大好きな友奈と今すぐにでも一緒に出かけたいってことかな?天草クン?」

「ゆ、裕子ちゃん!?」

「ま、まぁ…それもあるけどさ。丁度今日、そっちに用があったもんで」

「……あ、あるんだ…ふ、ふふ…」

 

何故か、横でニヤニヤしだす友奈。なんというか、三枝と絡むと友奈が、変なテンションになることが多い気がする。

 

「やっぱり、面白いなぁ〜。あんた達をからかうの」

「こらこら、三枝。あんまり人をからかうもんじゃないぞ?」

「そ、そうだそうだ〜!裕子ちゃんの意地悪ー!」

「意地悪で結構だ〜い。寧ろ、あんたらみたいな面白い奴等、からかわない方がおかしいっての。ん、と……そろそろ私は家帰るわ、そんじゃね、お二人さん」

 

そう言って、手をヒラヒラさせながら三枝は教室を出て行った。久しぶりに話したけど(と言っても過去の三枝なんだが……)相変わらず、なんというか読めない奴だ。てか、中学二年生の僕からすると小六であの雰囲気って……なんか、すごいな。

 

三枝が帰った後、僕と友奈は顔を見合わせる。

 

「えっと、まぁ、さっき言った通り僕は大橋の方面に行くけど……友奈はどうする?」

「もちろん、行くよー!裕子ちゃんから無料券も貰ったしね」

「おっけ!じゃあ、帰ったらすぐ準備して向かおうか」

「やったあ!!洸輔くんとデートだぁ!」

「で、デート!?……な、なの、かな?」

 

そんなことがあり、友奈と僕は大橋の方へ行くことになった。にしても…デートではなくて普通のお出かけなんじゃなかろうか。

 

(まぁ、何であれ……動いてみないことには変わらないからな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜鷲尾須美視点〜

 

「全く…ゴリ押しにも程があるでしょう」

『す、すいません……』

 

私達三人は、大赦から派遣され、私達勇者のお役目の事を知っている。クラスの担任教師でもある安芸先生から、呼ばれて放課後の教室で昨日の戦闘の事についてお叱りを受けていた。

 

「こんな戦い方じゃ…あなた達の命がいくつあっても足りないわ、お役目は成功して現実への被害はそこまでではなかったのは…よかったけど」

「それは、銀とそのっちの対応の速さのお陰です」

「あと、鎧さんもな!」

「鎧……そうね、今回はその鎧の人物に助けられていた所はあったわね」

「あれぇ〜?安芸先生、こうくんのこと知ってるんですかぁ〜?」

「こうくん?」

 

安芸先生が、そのっちの言葉に首を傾げた。それを見たそのっちは昨日の戦闘後に起きた、彼……そう、天草洸輔との出会いについて話した。

 

「援軍として、あなた達を助けた人物の名前は……天草洸輔というのね?」

「はい!なんか、男で勇者って変な奴でしたけど、すごい良いやつでした!」

「男の勇者……やっぱり神託の通りの情報…」

 

俯きながら、安芸先生が何かを呟いている。私は、気になることを先生に尋ねる。

 

「その…安芸先生…大赦では彼について何か情報は…?」

「昨日、大赦に神樹様からの神託が来たの。それで、異例の男性勇者が援軍に来るという事だけは聞いたわ。でも、それ以外は何も」

「そうですか…」

 

少しでも、彼について進展があると思っていたが……やはり、そう簡単にはいかず少し歯痒い気持ちになる。

 

「天草洸輔くん…でいいのかしら?その子の事については、今後私達大赦の方でも独自に情報は集めていくつもりです。何にせよ、神樹様が勇者として認識している以上はあなた達の味方だと思うわ。奴らとは違ってね」

 

安芸先生が言っているのは、恐らくあの仮面の人物達の事だろう。にしても……天草くんや奴らの事など、わからない事が多すぎる。

 

「それとあなた達を呼び出したのには、他に理由があります」

「他の理由〜それってなんですか〜?」

「昨日の戦闘を見て、あなた達には連携力と練度が不足しているように見えます」

 

思い返してみると、確かに連携はあまりできていなかったと思う。最後は確かに、統率が取れていたがそれまでの動きがバラバラだった。

 

「まず、三人の中で指揮をとる隊長を決めましょう」

 

(隊長、きっと私だわ……)

 

「乃木さん、隊長を頼めるかしら」

「えっ、私ですか〜?」

 

乃木さんが驚いた表情で私と三ノ輪さんに視線を向ける。私自身も意外な人選に驚いていた。確かに、前回には失態をしてしまったかもしれない…それでも、この二人をまとめていたのは自分だという自信が私にはあった。

 

(どうして……はっ)

 

そうか、乃木家は大赦において絶対的な権力を持つ家柄だし、こういう時だって、リーダーとして選ばれるべき家柄の人間……つまり、家柄によって選ばれた人選なのだ。

 

「私もそのっちが隊長で賛成よ」

「私は、自分じゃなければどっちでも大丈夫かな」

「え、ええと〜じゃぁ、頑張る〜!」

「さて、リーダーも決まった事だし 神託によると次の襲来までの期間はあるそうよ、だから四人の連携を深める為に、今度の三連休合宿を行おうと思います」

「合宿?」

「ん?てか、四人って……」

「もちろん、天草洸輔くんも含めてよ。援軍である彼との連携もこれから必要になるでしょうしね。幸いあなた達から、彼の名前も聞けたし参加を頼むことも可能でしょう」

 

こうして私達と天草くん、四人による強化合宿の開催が決定されてのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があった帰り、私達三人はイネスに寄り道しいつもの如くフードコートへと向かっていた。

 

「にしても、天草も……ってなんか、苗字で言うのむず痒いな、洸輔でいいや。洸輔も合宿参加なんてな」

「なんか、変な感じだねぇ〜こうくんも一緒か〜。なんか起きそうだね〜」

「なんというか、心配だわ…」

 

一緒に戦ったとはいえ、それも一度だけだ。しかも、コミュニケーションはほとんど取ったこともない。そんな男の子と合宿……正直、不安しかなかった。

 

「まぁまぁ!とりあえず、いつものジェラートでも食べてゆっくりしよ!考え事はその後その後!」

「ミノさんのいう通りだよ。ねぇ〜わっしー?」

「……そうね、こういう時は、宇治金時味のジェラートを食べて心を落ち着かせないと」

「どハマりしてるじゃないっすか…須美さん…」

「し、仕方ないじゃない!あの、ほろ苦抹茶とあんこの甘さが織りなす、調和が頭を離れないのだから」

 

私が宇治金時味の素晴らしさについて語っていると、そのっちが唐突にこんなことを言い出した。

 

「うーん、こうくんにもイネスのジェラート食べてもらいたいなぁ〜」

「わかる!私も、この前のお礼と称して、あいつにここを教えてやりたいなぁ。会えたりしないかなぁ〜うーん、いや、なんか会える気がするぞ」

「流石にそんな、都合の良いことは起きないと思うけど…」

「わかんないぞ、須美〜。銀様の直感はたまに当たるからなあ」

「よくじゃなくて、たまになんだねぇ〜」

 

 ニヤッと笑う銀と、にへらと笑うそのっち。二人と雑談をしていると、いつのまにかいつものお店に着いていた。すると、そのお店の目の前に私達と同年代くらいの男の子がいた。

 

「あれぇ〜?あの後ろ姿はぁ〜?」

「えっ、嘘……本当に洸輔いるじゃん…私の直感怖」

 

 後ろ姿を見て、昨日出会った鎧を身につけた勇者……天草くんである事を全員が理解した。にしてもなんという偶然なのだろう。こんなことあるんだろうか。

 

「ま、まぁ、こういうこともあるよな!天草がいるなら、丁度いいや!昨日のお礼としつつ四人でジェラート食べよ!」

「ミノさんに賛成ー!」

「よし!そうと決まれば、洸輔に話しかけよーぜ!」

「いこいこ〜」

「ちよっ!?ぎ、銀、そのっち!?」

 

私が考え事をしている間に、二人は彼の方へと走り出した。私も後を追う。

 

(……色々聞きたいこともあったし丁度よかったかもしれないわね。……二人は少し、彼のことを警戒しなさすぎている。私がしっかりしなくては)

 

二人を追いながら、私は胸の内でそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜天草洸輔視点〜

 

「け、結局一人で来ることになるなんて……」

 

一人で寂しく、イネスと呼ばれる大型ショッピングセンターの中を歩く。何故一人かと言うと、友奈が突然来れなくなったからだった。まさかの友奈様、本人がお母さんと出かける約束をしていたらしく……ごめんなさいごめんなさいと半泣きになりながら僕に謝ってきた。

 

全力で慰めつつ頭を撫でてあげる+今度三枝からもらった無料券を使うために一緒に来ようという約束をして友奈を落ち着かせた……結果的に今日は僕一人で大橋方面の調査をすることにする。

 

(まぁ……友奈とのお出かけは普通に楽しみたいし、丁度よかったのかもな、今日は普通に情報収集と行きますか)

 

そんなことを考えながら歩いていると、三枝に勧められたジェラートのお店が目に入ってくる。

 

「……美味しそう、友奈と出かける時に備えて先に食べておくのも、ありかな」

 

思い返してみると、この時代に来てからこういうスイーツ的なのを食べてないなと思う。甘いものには、勝てなかったよ……。

 

「さーてと、何を食べちゃおうかな?やはり…チョコこそ至高」

「何言ってんだ!ここの名物といえば、しょうゆ豆ジェラート味だろ!?」

「しょ、しょうゆジェラート……って、あれ?ん?三ノ輪さん!?」

「よっ、洸輔!偶然だな!」

 

背後からの声に振り向くと、そこにはなんという偶然だろうか……三ノ輪さんがいた。突然のことに、少し動揺してしまう。

 

「やっほー、こうくん。偶然だねぇ〜こんにちは〜」

「えっと……天草さん。こんにちは」

「ふ、二人も!?と、とりあえずこんにちは」

 

三ノ輪さんの後からは、園子と須美ちゃんが現れた。まさかである、大橋の方で何か情報を得ようとは思っていたが……この時代の勇者であり、異変の渦中にいる三人に会えるとは。

 

「おーい?洸輔、大丈夫か?」

「っ!?な、何?どうかした?」

「いやほら、折角会ったんだからさ。親睦を深めるっていうの??よければ一緒にジェラート食べない?」

「こうくんも一緒に食べようよ〜ほらぁ〜こういうのって皆で食べた方が美味しいと思うし〜」

 

三ノ輪さんと園子がまさかの提案をしてくると同時に一気に畳みかけてくる。その後ろでは、須美ちゃんが僕のことをじっと見ている。まぁ、断る理由もないし……何より、この時代での異変については本人たちから聞いた方が良さそうだしね。

 

「えーと……じゃ、じゃあ、是非」

 

こうして、僕はこの時代の勇者達と二度目のコンタクトを取ることに成功するのだった。




新キャラ出したり、六年生友奈ちゃんとイチャイチャさせたり、ふむふむ、ちょっと違うこと(?)やると楽しいなぁ(^-^)


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四章 祝勝会と新たな謎

第四話でございます〜まだまだ日常回的なやつが続きます〜(´ω`)


「うーん!やっぱり、ここのジェラートは最高ですなぁ〜」

「メロン味〜いつ食べても癖になるんよぉ〜」

「相変わらず、この味には感服せざる終えないわ……もはやこれは、国宝よ」

「僕も頂くか……チョコ、うま!?」

 

イネスにあるフードコートにて、僕は自身が陥っている状況に置いてかなりの重要人物達である、三人と一緒にジェラートを頬張っていた。

 

いわゆる祝勝会的な感じで、三人の中に混ざらせてもらっている。にしても、このジェラートはなんなんだ……旨すぎる。

 

「おっ?その感じだと、洸輔もはまったなぁ〜?」

「最高だよ!三ノ輪さん!こ、こんな上手いジェラートがあったなんて!これは、いいものだ!!」

「へへ、そこまで気に入ってくれるとイネスマスターの私も嬉しくなってくるなぁ。あ、あと私のことは銀って呼んでよ。なんか名字だと、堅苦しいからさ」

「了解、じゃあこれからは銀って呼ぶね」

 

何故か、自分のことのように喜んでいる、それと同時にあちらで園子が言っていた通りのような事を言い出した三ノじゃなくて……銀。

 

「じゃあ〜私は、園子かそのっちで〜好きな方で呼んでねぇ〜こうくん」

「了解だよ、園子。えと、じゃあ、鷲尾さんは」

「私は……天草くんの呼びやすいようにどうぞ」

「……じゃあ、僕も名字呼びで鷲尾さんで行くね」

 

正面には、穏やかな笑みを浮かべながらそんなことを言う園子となんかずっと僕をじーっと見つめている鷲尾さんが目の前にいる。

 

にしても……こうくんか。心は落ち着いてても、やっぱり寂しいもんだな。そこだけは、やっぱり慣れない…慣れるわけがない。なんというか、鷲尾さんには警戒されてるみたいだけど。

 

気持ちを切り替え、ジェラートに集中しようとすると……園子が鷲尾さんに向かってあーんと、口を開けているのが見えた。

 

「わっしーの一口ちょーだい♪」

「全く…そのっちったら。はい、落とさないようにね」

「ありがと〜……うん、美味しい〜!!ふふん、わっしーと愛の共同作業だぜぇ〜」

「そ、そのっち!?」

「なんか、二人はすごいね…」

「わかるわぁ〜なんか、付き合いたてのカップルみたいだよなぁ〜」

「や、やめてってば、銀…」

 

そんな二人のまるで恋人のようなやり取りを見て、少し気恥ずかしくなり視線を自らのジェラートに落とす。すると、横からトントンと銀に肩をたたかれた。

 

「なぁ、折角なら洸輔もしょうゆ豆ジェラートに挑戦しない?」

「えっ?い、いいけど、二人は?」

「前に食べさせたんだけどさぁ…二人とも微妙って……」

「な、なるほど、じゃあいただこうかな」

「今日こそ、しょうゆ豆教を増やすぞ!それじゃ、はい!」

「じゃあ、いただくね」

 

しょうゆ豆という未知の味へと挑戦する為に、スプーンでジェラートをすくいとる。食べてみると、不思議ではあるがどこか癖になる味がした。案外、いけるかもしれない。

 

「美味しい、僕結構しょうゆ豆好きかも」

「だろ!?やったぁ〜理解者がふえたぁ〜!はむっ」

「ミノさん、しょうゆ豆味大好きだもんね〜」

 

僕の感想を聞くと、銀が嬉しそうにジェラートを頬張った。それを見て、鷲尾さんと園子が微笑む。三人の仲の良さに、ほっこりしていると…銀の口元にアイスが付いている事に気がつく。

 

「銀、ちょっとこっち向いて」

「ん?どした〜……って、ふぇ…」

「よし、これでオッケーっと」

「ちょっ!?な、なにやってんだよ!?洸輔!?」

「えっ?何って、口元に付いてたアイスを拭き取っただけだけど……」

「い、いや、それはわかってるけどさ!」

 

何故か、銀は顔を真っ赤にしながら荒ぶっている、何か怒らせるような事をしてしまったのだろうか……すると、正面では、園子がキラキラした目を向けられ、鷲尾さんは顔を赤くしながらこちらを見ていた。

 

「ねぇねぇ、わっしー!こうくんってすごいね!大胆だよぉ〜!」

「え、ええ…すごいわね…」

「ふ、ふふ、これは小説のネタに使えるぅ〜!!創作意欲が湧いてきたんよぉ〜!」

「お、落ち着なさい、そのっち!」

「そ、園子、戻ってこぉーい!ほら、洸輔が園子おかしくしたんだからどうにかしろって!」

「ぼ、僕のせいなの?」

 

僕の言葉に対して、鷲尾さんと銀はうんうんと強くうなづいた。よくわからないけど、僕が悪いらしい。とりあえず、園子を落ち着かせなくては。

 

「そ、園子、落ち着いて。ほら、僕のジェラートあげるから」

「本当に!?ありがとぉ〜はむっ……ん〜!チョコ味も美味しい〜」

「喜んでもらえて何より」

 

ジェラートをすくいとったスプーンを、差し出すと思いっきり食いついてきた。相当美味しかったらしく、幸せそうな笑みを園子は浮かべていた。その屈託のない笑顔を見て、和む。

 

「あの園子を一発で手懐けた!?て、てか、須美達のやり取り見て赤くなった割には、平然とあーんをやってのけてるし…」

「天草くん……恐ろしいわ……」

「???」

 

二人が何か小声で話しているが、内容が分からず首傾げる。にしても、まさか三人と会えるとは思っていなかった……正直、どう彼女達とコンタクトを取ろうか迷っていたところだったからな。そんなことを考えながら、溶けかけていたジェラートを食べ進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、驚いたよ。洸輔がこんなところにいるなんてさ〜」

「あー実はね、今日は幼なじみと一緒に、このジェラートを食べる予定だったんだけど……予定が入っちゃったみたいで。一人でこっちまできたわけさ」

「へぇ〜ちなみにその幼なじみは男の子〜?女の子〜?」

「えと、女の子だけど…」

「ふむふむぅ〜その幼なじみとはどういう関係で〜?」

 

何故か、目をキラキラさせつつメモ帳を片手にそんな事を聞いてくる園子。それを聞いてなんになるのだろうか(汗)

 

「こら、そのっち。人を困らせない」

「だってぇ〜気になるんだもん〜」

「全く……で、来た、ということは天草くんはこの付近に住んでいるわけではないんですね」

「うん、僕は観音寺市のから電車乗り継いで来たからさ」

「ひやぁ〜結構遠いとこから来たねぇ〜」

「なるほど、それなら神樹館で見ないのも納得ね」

 

神樹館……三人が通っている学校の事か。にしても、銀と園子はともかく…鷲尾さんとはなんか距離がある気が…。少し悲しみに暮れつつ、僕は三人に質問する。

 

「そいえば、三人に聞きたいことがあるんだけど。あの仮面の奴は一体何者?」

「それが私らもあいつの事については何にもわかってないんだよ。な、須美、園子」

「うん〜突然現れた謎の存在って感じ〜」

「私達が、初めての御役目を終わらせたあとバーテックスと入れ替わるように現れたの。大赦も動いてくれているんですが……情報は得られていないみたいで」

 

どうやら、奴についてはこの子達だけでなく大赦すらもお手上げのようだ。僕が天井を仰ぎ見ていると、銀が思い出したかのように呟く。

 

「そいえば…あいつ初めて出てきた時なんか変なこと言ってなかったっけ?」

「確か、『俺が本物に……』みたいな事を言ってたような」

「俺が、本物?」

「ん〜あれってどういう意味だったんだろぉ〜?」

「さぁなぁ〜あいつに関しては分からん尽くしだ。ふぃ〜ジェラート終わりっと!」

 

ジェラートを食べ終わり、笑みを浮かべる銀の横で腕を組みながら考える。作り物、本物…僕が言われた言葉と三人が聞いた言葉…かなり繋がりがあるように思える。まぁ、良くは分からないが…。

 

(奴の正体、もし知っていればとも思ったけど…そう簡単にもいかないか)

 

奴に関しては、三人と協力しつつ手探りにいくしかないようだ。いずれにせよ、この時代の異変についてかなり関係している存在であることは間違い無いはずだ。

 

一人で、情報をまとめているとまさかの鷲尾さんから話題を振ってきた。

 

「天草くん、ちょっといいですか?私もあなたに聞きたいことがあったの」

「あ、私も!私も聞きたい!」

「じゃあ〜私もぉ〜」

「どうぞ、せっかく会えたんだ。なんでも聞いてよ」

 

情報共有は大事なものだ、それを西暦で過ごして痛感した。何より、僕が三人の事を知っていても……三人は僕の事を全く知らないのだから、僕はどういう存在なのかをしっかり説明しなくちゃ。

 

「まず、何故男性であるあなたが勇者になれているんですか?」

「あのカッコいい鎧何!?すごい、気になる!」

「幼なじみとはどういう関係なの〜?」

「そのっちぃ〜????」

「あわわわわ!!ご、ごめんなさい〜わっしー!!」

 

すっごい勢いだな(汗)てか、鷲尾さんと銀はともかく園子についてはまだその話題引っ張ってたんだ……。まぁ、一つずつ質問に答えていくとしよう。まずは鷲尾さんかな。

 

「じゃあ、一つずつ答えるよ。鷲尾さんの質問から、僕が勇者になれているのは……いるのは……あれ?」

「天草くん?」

「どした?洸輔?」

 

続きを話そうとしたが、話せなかった。いや、話せなかったのではなく……突然、声が出なくなった。なんといえばいいか…まるで誰かにそれ以上言うなと押さえつけられているような感覚に襲われた。

 

(なんで、なんで声が出ない……?しかも、あれだ、この感じ……バーテックスにとどめを刺そうとした時に走ったあの感覚とどこか似ている)

 

銀の質問である鎧のことについて話そうとしても、声が出なくなった。異常な出来事に僕が困惑していると、銀と園子が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。

 

「こうくん、大丈夫〜?」

「あ、う、うん…ごめん」

「な、なぁ、もし話にくかったら無理に話さなくてもいいぞ?洸輔?」

「……ありがとう、銀。それと…ごめん、三人とも……勇者関連の質問以外に答える感じでもいいかな?」

「……わかりました」

 

多少微妙な雰囲気が流れてしまったが……その後は普通に三人と暫くの間雑談に浸った。やがて、フードコートに置かれている時計へ目を向けるとそれなりに時間が経っていたようで、5時頃を小さい針が指していた。

 

「っと……時間的に帰らなくちゃかな。電車がなくなったら困るし」

「そうですね、そろそろお開きにしましょうか。親達に心配もかけてしまうので」

「もうそんな時間かぁ〜早いなぁ〜時間進むのって」

「ほんとだねぇ〜もっとこうくんとお話したかったなぁ。また、四人で過ごせるかなぁ〜?」

「まぁ、合宿でも会うんだし大丈夫でしょ。あ、そーだ、洸輔、連絡先交換しようぜ!」

「了解、って……ん?合宿???」

「天草くんは合宿の事について知らないんですね、実は…」

 

僕が首を傾げていると、鷲尾さんが丁寧に教えてくれた。てか、これで三回目なんだよね…合宿。しかも今回は強化合宿ときたか……大変そうだな。それと、帰る前に三人には謝らなきゃならないことがあった。

 

「あと、三人とも…ごめん。僕の勇者システムの事とかについて答えられなくて……」

「気にするなって!さっきも言ったけど、言いにくい事なら無理に話さなくてもいいからさ」

「そうだよぉ〜こうくんが面白くて、いい子なのは今日で良くわかったし〜それだけで十分なんよぉ〜ね、わっしー」

「ええ、お気になさらず……」

「ありがとう、助かるよ」

「気にすんなって!私達、もう友達だろ?」

 

銀が、笑顔でそう言ってくれた。真っ直ぐな言葉に自然に笑みが溢れた。フードコートを後にしイネスから出る、名残惜しいけど三人とはお別れだ。

 

「それじゃあ、また会おうね。皆」

「おう!また、ジェラート一緒に食おうぜ!」

「天草くんも、帰りには気をつけて」

「こうくん、またねぇ〜それと気をつけてぇ〜」

 

こうして、三人とのまさかの出会いによって開かれた祝勝会は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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〜鷲尾須美視点〜

 

「洸輔、面白いやつだったなぁ〜」

「うんうん〜それに、不思議な魅力もあるよねぇ」

「ほうほう、園子さん?それはどういう意味で?」

「それは、ミノさんも多分体験してると思うなぁ」

「ん?どういうこと?」

「それが、わかってないのがみのさんらしくて可愛いんよ〜」

 

「かわっ!?」とそのっちの言葉に対して動揺を示す銀。二人が騒いでいる横で、私は彼のことを考えていた。

 

(……何故、勇者の事について話さなかったのかしら。何か隠したいことがある?)

 

私と銀の質問、どちらも彼の勇者としてのことに関連した質問だった……しかし、答えてはくれなかった。その後の好きなものだったり、趣味などの質問は答えられていたのに。

 

(彼は神樹様が自ら援軍と言っている勇者……だから、そんなに警戒する必要はないのかもしれない…だけど、あの仮面の男との会話…)

 

天草くんはどうかは分からないが……あの口振り的に、仮面の男は天草くんを知っているかのようだった。私がそう、一人で考え込んでいると、銀が声を掛けてくる。

 

「おーい、須美ぃ〜?さっきから、黙って。どうしたのさ〜?」

「あ、ご、ごめんなさい。少し考え事を…」

「考え事〜?もしかして、こうくんのこと?」

「ええ…その、天草くんについて、気になることが多くて…」

 

勇者関連の質問に答えられなかったこと、あの仮面の男との関係性。それらも相まって、私の中には少なからず彼に対しての疑心が生まれていた。

 

しかし、そんな事を知る由もない銀とそのっちは私の先程の発言に対してニヤリと悪い笑みを浮かべていた。

 

「ふむふむ〜気になるとは〜?」

「もしかして、異性として気になるって奴ですかな?鷲尾さん家の須美さん」

「えっ!?はっ、な、な、何を言ってるの!?二人とも!?」

「道理で、四人でいる時の須美さんはいつもよりも緊張してたわけだぁ〜そういう事だったんですのね?須美さん〜?」

「まぁ、こうくん、かっこいいもんねぇ〜分かる〜分かるよぉ〜」

「っ〜!そ、そんな事言って!銀は天草くんにアイスを拭き取ってもらった時、顔赤くしてた癖に!」

「あっ、確かにぃ〜みのさんもダウト〜」

「い、今更それ掘り起こすのか!?てか、園子裏切り早いって!!」

 

さっきまで、かなり真面目な事を考えていたはずなのに……いつのまにか二人のペースに呑まれていた。

 

「……少し、警戒しすぎだったかしら」

 

彼の事を思い浮かべながら、私はそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

大橋の方から、自宅がある観音寺市へと戻ってきた。自宅までの帰り道、僕は今日起きた謎の現象について考える。

 

(あの現象……もしかして、メールの内容に関係してるのか……)

 

メールには、僕自身が体験した事、未来での出来事とかを話しちゃいけないって書いてあったと思う。後、未来に影響を与える事をしてはいけないみたいなことも……。

 

(もし、このメールの差出人が今日や昨日の戦闘中に起きた現象を起こしていたら、辻褄が合う。でも、問題はそれを起こしているのが誰かってことだ)

 

そんな事を考えている間に、自宅へと着いていたようだ。二階に上がって自室へと向かう。ドアを、開けるといつもの如く、友奈が入り浸っていた。

 

「あ、洸輔くん、お帰り〜」

「ただいま、友奈」

「大橋の方はどうだった?」

「うん、こっちにはないものがあったりして結構楽しめたよ。あれなら二人で行く時も楽しめそう」

「そうなんだぁ〜二人で出掛けるのが楽しみだなぁ〜所で、ジェラートは美味しかった?」

「うん、美味しかった……よ?ん?」

 

先ほどの会話の流れ、おかしくないように見えるが明らかにおかしい所がある。なんで、友奈さんは僕がジェラートを食べた事を知ってるんだ?まだ、食べたなんて…言ってないのに。

 

「……あのー、友奈さん?」

「なぁにぃ?洸輔くん?」

「な、なんで、僕がジェラートを食べたことを知ってるの…?」

「それは、これを見たからだよ〜?」

 

そう言って友奈さんが、スマホの画面を僕に向ける。そこには三人と楽しそうにジェラートを食べる僕の姿が映っていた。

 

「……な、なに、その写真????」

「三枝ちゃんが送ってきたんだ〜二人のイチャイチャする姿より面白い物が撮れたよってね〜ふふふ、この子達はだれかなぁ〜?」

 

三枝……お前は僕を殺したいんですか?そんなに恨まれるような事をしたでしょうか?裏があるとは、思ってたけど……あの野郎……元から僕らを観察するのが目的だったのか!!許さん、あいつまじでゆるさ。

 

「洸輔くん?」

「はい」

「正座」

「はい」

 

その後、僕の身に何があったかは語らずとも大体予想がつくだろう。




ただより高いものはないってよく言ったもんですよね←白目
戦闘もその内書き初めていきたいですなぁ〜後、伏線もしっかり回収しなくてはならぬぅ!!( ゚д゚)



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五章 幼馴染との時間

小六友奈ちゃんのメイン回!!めっちゃ、イチャイチャするぞ!


お前は、何故勇者になれている?

 

『選ばれたから、だ』

 

誰に?

 

『精霊さん、いや、英霊と言ったほうが分かりやすい、その人達にだ』

 

本当に?

 

『どういう意味?』

 

少しは疑わなかったのか?あまりに都合が良すぎると

 

『都合が良すぎる?何が?』

 

ああ、だからお前はダメなんだ

 

『ダメ?何が、何がダメなんだ?』

 

見てみろ、体から溢れ出しているぞ?(・・・・・・・・・・・)

 

『何が……!?』

 

さっきまで感覚なんてなかったはずなのに、体には激痛が走り始める。まるで、何か途方もない大きな力に飲み込まれているような感覚。

 

視線を少し横へ移すと、手は竜の形に変化しており鱗のようなものが体から生えてきている。背中にも謎の痛覚を感じる、おそらく何かが生えてきている。止まらず、止まらず、止まらず、ただ溢れる。

 

謎の痛覚に絶叫する。

 

『あ、あああああああああああああああ!!!!!!』

 

時間の問題だ。お前が己という存在は■■によって作られた■りの■■と自覚する日がな。その時、お前は、正真正銘■■では■■■■。

 

だが、まぁ、■■次第で何かが変わるかもしれないがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

目を開く。起き上がり体中を軽くペタペタと触る。どこにもおかしなところはない。

 

「夢……だよね、はは、中々リアルな夢、だな」

 

途切れ途切れに言葉を吐く。汗が止まらなかった、夏でもないのに気持ち悪いくらいに噴き出してくる。

 

外からは鳥のさえずりが聞こえてくる。目覚まし時計も甲高い音を上げながら朝だと主張してくる、喧しいとそれを半分殴るようにとめた。

 

「あ、そういえば、今日は友奈に朝の鍛錬に誘われてたんだった」

 

すぐ思考を切り替え幼なじみとの約束を果たしに、僕は家の前にある砂浜向かったのだった。

 

鍛錬をしている間も、夢の中で見た光景が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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学校の教室、帰りの会的なものが終わりさっきまで静かだった教室に騒がしさが戻ってくる、皆元気そうだ。

 

「にしても、今日も早い帰りか……まぁ、楽でいいけど〜」

 

ぼちぼちと帰り支度をする。どうやら、この前に続けて今日も早い帰りらしくクラスメイト達は浮き足だっていた。

 

「おい、おいこら、色男」

「なんだよ、三枝……てか、その呼び方やめて」

 

ボーッとしている所に、三枝のチョップが炸裂し中断をくらう。

 

「朝から、友奈とあんたの距離がちょっとぎこちない気がするんだけど、……ふふ、面白!」

「あのねぇ、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ?」

「おそらく、私のせい」

「恐らくじゃないだろ、確実にお前のせいじゃないか!」

「怒鳴らないでってば〜にしても、よくこんなに騒いでんのに寝てられるよねぇ?友奈は」

「朝も早かったからね、疲れてると思うし帰るギリギリまでは寝かせてあげたい……って、言ったそばから」

 

ほえ〜っと、変な声を上げながら三枝が友奈の頭をつんつんと触る。友奈さんは僕の後ろの席でぐっすり眠っていた。

 

朝から、僕の鍛錬に付き合ってくれたから、仕方ないとも言える。(尚、いつも以上に組み手では、ボコボコにされた)

 

この前の出来事から、いつも通りといえばいつも通りの友奈なんだが、地味に拗ね気味な気がする。困る、すごい困る、昔から友奈に拗ねられるとどんな顔をしていいか分からなくなる。

 

「全く……僕の苦労ももう少し考えてくれよ」

「悪かったって。どうなるか気になったんだよー」

「どうなるかって気になった?何がさ」

「んー、色々と?」

「なんで疑問形なんだよ、てか、僕らを実験台みたいに使うのはやめてくれって」

「それは嫌」

「即答!?ほんと、なんなのさ……」

 

はぁ、と盛大な溜息が自分の口から出た。

 

「でも、ほら、天草クン。まだ最終兵器が残ってるんじゃない?」

「その言い方癪だな……別に、ご機嫌取りに使うんじゃない。そもそも、友奈とは一緒に行こうって約束してたんだ」

 

そう言って僕は鞄の中から、目の前の悪魔から受け取ったジェラートの無料券を取り出す。

 

「流石だねぇ〜一級フラグ建築士の天草くん?この前は見知らぬ美少女達と、そして今日は愛する彼女と!って奴ですな?」

「か、彼女!?ち、違うって、僕と友奈はそういう関係じゃ…」

 

三枝の言葉に、激しく動揺して弁明すると彼女は腹を抱えて笑いだした。

 

「ぷ、あはは!!そんなに動揺しなくてもいいじゃん、ぷぷおっかしいのぉ〜」

「っー!三枝が突然、変なこと言うからだろ!?」

「ふぅ…ひぃ……これだから、天草は面白いぃ(笑)」

 

お前は、どこの地球外生命体だと突っ込みたい気持ちを抑える。すると、三枝は腹を押さえながら時計を見て言った。

 

「さぁーて、私も帰るかねぇ〜もっとからかいたかったんだけど」

「もう、堪忍してくれ……」

「ふふっ、それじゃ、放課後も頑張ってねぇ〜天草クン?」

「元はと言えばお前のせいってこと、忘れるなよ?」

「へいへいっと、そいじゃな、天草。友奈にもよろしく言っていて」

「はいよ、また明日……っと、そうだ、三枝」

「ん?どした?」

「弓道、頑張れよ。応援してる」

 

僕の言葉に三枝は一瞬固まる、がすぐにいつも通りのにやけ面に戻ると「ほいほい、応援ありがと」と気の抜けた返事をしながら、三枝は教室から出て行った。

 

「むにゃ……あれ?もう学校終わったぁ…?」

「あ、友奈起きた」

「洸輔くんおはよ〜」

「おはよ、ほら、学校も終わったし帰るよ〜友奈さーん?」

 

ふにゃふにゃな表情で、こちらを見つめている友奈。そんな彼女の頬を軽くぺしぺしと叩きつつ問いかける。

 

「友奈、この後用事ある?」

「ん〜、特に無いと思うなぁ〜」

「じゃあ、付き合ってもらっていいかな?」

「……ふぇ?」

 

僕の言葉に、まだ眠たそうな眼差しを僕に向けながら友奈は首を傾げた。その仕草を、見て可愛いと素直に感じた。

 

とりあえず、友奈には色々と言わなくちゃならないこともあるから今日一緒に出かけるのが最適だろう。主に3人のことについてとか、それとぉ合宿のこととか……。

 

 

 

 

 

 

 

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というわけで、二度目の大橋inイネスへとやってきました。なんというか、短いスパンでこんなにイネスにお世話になるとは思っていなかった。

 

「何度見てもでかいなぁ、イネス」

「あはは、そうだねぇ〜」

「あ、あのー友奈さん、その、棒読みなんですがぁ……僕、なんか悪いことしましたか?」

「……」

 

僕の言葉に友奈さんはジト目を向けてくる。何故かは知らないここに来るまでも、すごーく拗ね気味な雰囲気をだだ漏らさせていた。

 

「付き合ってって言ったから、期待したのに……」

「う、うん?付き合ってって言うのは、ほら一緒にアイスを食べに行こうって約束の事で(所で、期待ってなんに対しての期待?)」

「そ、そんなの知ってたもん!」

 

ぷくーっと顔を膨らませた友奈に軽く怒られてしまう。また、怒らせることをしてしまったようだ……女の子って難しい。

 

「……ふんだ、洸輔くんの馬鹿」

「ば、馬鹿(泣)……っと、ちょい待ち友奈」

 

一人でイネスに入っていこうとする友奈の手を反射的に掴む。

 

「友奈はイネス初めてでしょ?一人で行って中ではぐれたりしたら危ないんだし、ここは、手を繋いでいこう?」

「っ……相変わらずだなぁ」

「どういうこと?」

「別に〜なんでもないよー!それじゃ、ジェラート屋さんまでの道案内は洸輔くんに任せるね〜!」

 

そう言った友奈の顔はどこか楽しげだった。さっきまでの膨れっ面はどこへ行ってしまったのかと思うほど、にこーっと笑っていた。その笑顔に、見惚れてしまう……寝顔といい笑顔といい小学生友奈の破壊力すごい(確信)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、こちらがそのジェラート屋さんでございます」

「へぇ〜!すごい!色んな味がある〜!!」

 

嬉しそうにピョンピョン跳ねている友奈をどうどうと諫める。

 

「友奈はどの味にする?」

「私はやっぱり苺かな!大好きな味だし!うどん味があれば別だけど」

「う、うどん味……え、えと、じゃあ僕は〜チョコかな」

 

友奈の謎発言に驚きながらも、この前の祝勝会の際に僕を震え上がらせたチョコ味を選択する。三枝からもらった無料券を使い、ジェラートを購入した僕達は、席へとついた。

 

「はむっ……うーん!おいひぃ〜♪」

「やっぱりうまいなぁ〜チョコ味サイコー」

 

お互いにジェラートの味を楽しむ、さて、いつ話を切り出そうか……まずは、あの3人のことについて弁明しなきゃならないしその次には合宿のことを…

 

「なるほどぉ〜洸輔くんはここであの子達とイチャイチャしてたんだぁ〜」

「ゴフッ……え、ええとぉ、友奈さん、それについて僕から弁明というか言い訳というか」

「いいよ、聞いてあげる♪」

 

やばい、やばいよ、目の奥に何か究極の闇みたいなものが見える。ハイライトが消えてるのか、これ?これは言葉を選ばなくちゃいけない。

 

そうして、僕は勇者としての関係性を除きつつ友奈に彼女達の関係を上手く説明した。まぁ、恐らくだけど勇者のことはこの前みたいに口封じ的なものがされているから喋れないんだろうが。

 

第一として彼女達とは友達であるということ、あくまでジェラートを一緒に食べていただけで、デートとかそういう部類ではございませんって事などなんとか逆鱗に触れないよう説明をした。そんな中で友奈の瞳に色が戻ってくる。

 

「なんだぁ〜そういうことなら最初から言ってくれればよかったのに」

「いや、言おうとしたけど友奈が話を聞いてくれなかったのが悪…」

「なぁにぃ?」

「はぃ、僕が悪いですぅ、すいませんでしたぁ!」

 

半分涙目になりつつ、チョコ味のジェラートを口へと運ぶ。うん、おいしい、現実は甘くないけどジェラートは甘いなぁ……すいません、今のは忘れて。

 

「洸輔くん、今面白くないこと考えてるでしょ?」

「えっ、何それひどい」

 

心を読まれただけでなく、一蹴された。うん、単純に泣きそう。

 

「にしても、友達かぁ〜」

「うん、友達」

「友達同士って気軽にあーんって、しあうものなのかなぁ?しかも、男の子と女の子が」

「……す、すると思うよ、うん」

「じゃあ、はい、あーん!」

 

そう言って、友奈は自分のアイスをすくいとり僕の方へ向けてきた。

 

「えと、急にどう」

「あーん!」

「……わ、わかりましたから!あーん…」

 

少し気恥ずかしくなりながらも、苺味をいただく。というか友奈さん、もう少し音量を下げて……周りの人達がめっちゃ見てる。

 

「じゃあ、次は私に!」

「はぁ〜わかったよ、はい、あーん」

「ん…んー!おいしい〜」

 

友奈が幸せそうに笑みを浮かべている。相当、チョコ味にご満悦のようだ、その笑みを見れてこちらも嬉しくなる。そうだ、もう一個友奈には報告しなきゃならない事があったっけ。

 

「後…友奈。もう一つ話があって」

「?」

「実は、僕次の三連休でとある合宿に参加しなきゃいけなくなって」

「えー!てことは、三日間も洸輔くんに会えないの!?」

「ま、まぁ、そういうことになるのかな?」

「三連休は洸輔くんと一緒に遊びたかったのになぁ……」

 

しゅんと残念そうに縮こまる友奈。てゆーか、なんか照れ臭い……友奈の発言に少し頬が熱くなる。

 

「あれ?でも、洸輔くんってなんか習い事やってたっけ?」

「あ、ああ、その合宿っていうのは……えーと、なんていうか、そ、そう!ボランティア活動的なやつで」

「ボランティア?」

「そうそう!親が、勧めてきたやつなんだ〜」

「そうなんだ、むー言ってくれれば私も一緒に参加したのにぃ」

「ま、まぁ…その、男手が必要って話だったから」

 

神樹館組の3人と一緒に、勇者の為の強化合宿へ!なんて言えるはずもなく、その場で思いついた言い訳でなんとか取り繕う。すると、友奈が納得しつつもなにかうーっと呻きながら何かを考え込んでいる。

 

「?友奈、どったの?」

「じゃあさ、三連休の会えない間、いつでもいいから必ず一回は私に電話してもらってもいい?」

「えっ?な、なんで?」

「なんで、って……その」

 

僕の質問に友奈は、視線を僕から逸らし頬を染めながら呟いた。

 

「一日に、一回は洸輔くんの声が聞きたいから……」

「っ!?あ、ああ、そ、そういうこと……ね。わ、わかった、一日一回、ね」

「っ〜〜!ジェラート、溶けちゃうと困るし、急いで食べよ?」

「う、うん、そうだね」

 

そういう事ねといいつつ理解が全く、出来なかった。その後は、お互いに顔を直視できずジェラートとの睨めっこで時間が過ぎていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

フードコートでジェラートを味わった後も、イネスで色々回って過ごしている内に夕方になっていた。帰れなくなっては困る為、僕らは、帰りの電車に乗っていた。

 

乗って少し経った辺りで、友奈はすやすやと眠ってしまったが。

 

「すぅ……すぅ…」

「ぐっすりだなぁ、まぁそりゃそっか。あんなにはしゃいでたもんね」

 

教室でもあんなに寝てたのになぁ。まぁ、帰りの電車で寝てしまうほど疲れたんだろう。最初は大丈夫か不安だったけど、なんだかんだで拗ね気味だった雰囲気も徐々に消えていって安心した。

 

(懐かしいな、友奈とずっと一緒だったんだよね。いつも)

 

こうやって過ごしていると、この時代の事をよく思い出す。こんな事があったなぁと。すると、横にいた友奈の顔が僕の肩にころんと乗っかってきた。

 

「んん……」

「全く、困った幼馴染みだ」

 

自然と笑みが漏れる。友奈の方に視線を向けるとすゆすやと心地良さそうに寝ていた。

 

(ありがとう、友奈。君がいつも通りでいてくれるから、怖くても僕は頑張れる)

 

胸の内で友奈にお礼を言いながら、今朝見た夢の事を考えつつ視線を自分の腕の方へと移した。

 

(合宿……頑張らなくちゃ。きっと、何か掴める筈だ。ああ、そうさ、分からない事が多くても、やらなくちゃならないんだ)

 

拳を強く握りしめ、僕はそう胸の内で呟いた。




全く、終始イチャイチャしおって。不穏な雰囲気なんて吹っ飛ばせそうじゃないか!

とりあえず、まだまだ休みが伸びそうなので頑張って投稿します(^O^)


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六章 波乱の合宿開始!

もう少しで100話行くという事実…(驚き)


「えっと〜?着替えよし…お土産用の袋よし…今日のおやつよし…大方準備は出来たかな」

 

合宿当日。早めに目を覚ました僕は昨日突然スマホに送られてきた、合宿概要を見つつ忘れ物は無いか、最終確認を行なっていた。

 

「差出人、不明とか怖すぎるからせめて書いてほしいな……ま、いいか」

 

軽い愚痴を吐きつつ、リュックの中の荷物を整理していく。三日間の合宿ということは、着替えやその他の荷物もかなり必要になる。それを見越しお母さんが物を用意してくれたのだ、本当に頭が上がらない、ありがとう、お母様。

 

しかし、昨日しっかり閉めたはずなのに、大きめバッグの方のファスナーが空いてるのはなんでなんだろか?お母さんが、中身の確認までしてくれたのかな?

 

(今、動いたような気が……気のせいか)

 

疑問を抱きながらも、整理している内にある事を思い出す。僕は机の方へと向かった。

 

「この二つは、絶対持ってかなきゃ…」

 

それは、二つの押し花。僕が勇者になってから、得た絆の証。これを持っているだけで、常に皆と一緒にいるような気持ちになる不思議でいて、大切な御守り。

 

「……友奈、来ないな。昨日は僕を起こすってあんなに張り切っていたのに」

 

そろそろ彼女が階段を駆け上がってくる音が聞こえてもおかしくないのだが……もしかしたら、まだ眠っているのかも知れない。合宿出る前に一回は、顔を合わせたかったのだが。

 

「僕も人の事言えないや。ちょっと離れるだけなのに……少し、寂しい」

 

自身の呟きに照れ臭くなった僕は自分の頭を乱暴に掻いた。こんな事、友奈に聞かれていたなら恥ずかしくて悶死する自信がある。

 

「さてと、もう一つのリュックも確認しとこう。こっちの方が大きいから……うわぁ!?動いたぁぁぁぁぁ!?!?」

 

荷物を詰める為に大きな方のバックに触れようとすると、独りでにもぞもぞとバックが動き出した。唐突の怪奇現象に、僕はぶるぶると震える。

 

何を隠そう、この僕、天草洸輔はお化けとか怪奇現象関係が超苦手なのだ!!

 

(なんて、何も無いところにドヤっている場合じゃ無い……)

 

未だにもぞもぞと蠢いている大きめお化けバッグに近づいていき、恐る恐る鞄の中身を確認した。すると、身を抱えながらバッグにピッタリと収まっている子と目があった。

 

「あっ、やっと気づいた」

「……」

「洸輔くん、おはよう!」

「…………バイバイ(満面の笑み)」

「えっ?ちょっ、ちょっと待って!閉めないで!?こ、洸」

 

中にいた不審者さんからの挨拶を遮り、無言でファスナーごと閉める。何やってんの?ねぇ、この子、何やってんの?もう、このまま閉じ込めてやろうかと思ったが鞄の中から、「出して〜!!」と悲痛な叫びが聞こえたので、出してあげる。

 

「……で、バッグの中で何やってたの」

「えへへ〜ごめんなさい。こうすれば驚く……というか、普通に起こすのも良いかと思ったんだけど。こっちの方が面白いかなって〜」

「うん、面白すぎたね、朝から大笑いだ(棒)」

「やっぱり!?じゃあ、成功だ!やったー!」

 

全くこの子は無邪気というかなんというか……頭を抱えながら、友奈を見つめる。しかし、友奈と顔を合わせられて少し嬉しくなっている自分もいるからなんというか、変な感じ。

 

「良い事も聞けちゃったし〜♪朝からいい気分だよぉ〜」

「良い事?」

 

僕が首を傾げると友奈はニヤっと悪い笑みを浮かべたと思ったら、急にキリッとした顔立ちで_________。

 

「コホン……『友奈の事、僕も言えないな。幼馴染とちょっと離れるだけなのに。少し、寂しい』」

「……」

「いやぁ〜ただ驚かせるだけの予定だったのに。まさかの収穫だったな〜♪洸輔くんが合宿行っちゃう前に良い事聞けちゃった〜♪」

「ーーーーーー!!!!!!(顔を両手で覆いながら悶絶中)」

 

早起きは三文の徳って言うけど、どこがなんだろう。

 

どーして、朝からコウナルノ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「酷い目にあった……朝から恥ずかしさで死にたくなるとは普通思わないだろ」

 

溜め息混じりに呟く。とりあえず、昨日送られてきたメールの内容にもあった合宿先まで行く為のバスが待機している場所まできた。

 

「あっ、あった。……神樹館貸し切り……本当、大赦って……」

 

今更、大赦の権力の強さに過剰反応しても意味ないのはわかっているのだが……貸し切りという文字を見て、口元を痙攣らせてしまった。

 

「あっ、鷲尾さん。おはよう」

「天草くん。お、おはようございます」

「もう来てたんだ、早いなぁ。園子は……」

「すぴ〜…すぴぃ〜…」

 

鷲尾さんの肩に園子が体を寄り添わせながら、気持ちよさそうに寝ている。相変わらず、マイペースだなぁ。左側に園子が座っていたので、鷲尾さんの右側の席に腰を掛けた。

 

「あれ?銀は?」

「それがまだ、来ていなくて。安定の遅刻、かしら…」

「安定?……まぁ、本来の集合時間までもう少し時間もあるし、大丈夫じゃない?」

 

そんな事を言ったが、集合時間までには銀は来なかった。その結果…

 

「遅い!銀、遅い!」

「すぴ〜…すぴぃ〜……」

「あ、あはは……(ひぃ、めっちゃ怒ってる!?)」

 

怒る人+眠る人+怯える人の三拍子揃った謎の状況が出来上がっていた。美森が怒った時もめちゃくちゃ怖かったけど……この時代から同等の迫力を持っていたのか。恐ろしい。

 

「まぁまぁ、鷲尾さん。一旦、落ち着こう?ね?」

「分かってます!分かってますけど……時間厳守とあれだけ…」

 

かなり怒ってるなぁ。でも、合宿前からこんなに気を張っていたら、疲れちゃいそう。よし、ここは彼女の気を緩めてあげよう。

 

「鷲尾さん鷲尾さん」

「なんです……っ!?」

「ふぇ〜」

 

(ふっ、かつて友奈を大笑いさせた僕の変顔の威力をくらいなさい!)

 

「……」

「は、はれ?」

 

無反応…だと。えっ、どうしよう。より怒らせちゃった感じ?無言、無言キツすぎないかな?は、早く、何か反応を示して、この顔維持するのめちゃくちゃきついし、精神的にキてるから!

 

「わ、わひおしゃん…?」

「っ、ふふふ…だ、ダメ…が、我慢できない…あ、天草くん…なんですか、その顔…」

「よかった〜無反応だったから焦ったよ〜」

「いきなりだったから固まってしまって…にしても、さっきの顔……ふふ」

 

さっきまで無反応だった鷲尾さんの表情が緩んだ。良い笑顔だなぁ…これで、少しは気を緩めてあげられたかな。

 

「よしよし、やっと笑ったね」

「えっ?」

「鷲尾さん、ここにいる間笑ってなかったでしょ?ずーっと気を張ってるみたいだったから笑わせて、少しでもリラックスしてあげられたらなぁ〜って」

「……」

「……もしかして迷惑、だった?」

「い、いえ!私を心配してくれたのは嬉しいです。ありがとうございます、天草くん」

 

ペコリと頭を下げる鷲尾さん。ほんと真面目だな…この子は。何かというと律儀だし。

 

「あ、それと、話す時は敬語じゃなくて大丈夫だよ。同い年だしさ」

「でも、まだ会ってそんなに経ってないし…」

「真面目だなぁ〜鷲尾さんは。気にしなくてもいいのに。そうだなぁ……じゃあ、はい」

「…?なんで、急に手を?」

「改めて、よろしくも込めた握手をと。ほら、鷲尾さん」

「え、えぇ!?」

 

僕の言葉に鷲尾さんは、困惑したような表情を浮かべる。少しの静寂の後、顔を赤くしながらも鷲尾さんは手を握ってくれた。

 

「……その、改めて、よろしく。天草くん」

「うん、よろしくね。鷲尾さん」

 

僕が笑顔を向けると、彼女も柔らかい表情で返してくれた。距離があった鷲尾さんと、少し近づけた気がした。この合宿でもっと仲良くなれるといい……。

 

「遅くなってごめ……おっと〜?随分良い雰囲気じゃないかぁ〜お二人さん?」

「ぎ、銀!?」

「いつの間に!?って、それより!銀、遅い!昨日あれだけ張り切っていたのに十分も遅刻じゃない!」

「いや、そこに関しては真面目に面目ない。でも〜私が遅れて案外よかったんじゃないのぉ?須美ぃ〜」

「そ、それはどういう意味よ」

「さぁ、どういう意味だろな〜?」

「っ!!ぎーんー!?」

 

銀と鷲尾さん。二人の微笑ましい(?)取っ組み合いが始まった。その声で起きたのか、目を擦りながら園子が起き上がった。

 

「う〜ん、お母さんここどこ〜?って…うひゃあ〜わっしーとみのさんどうしたの?こうくん〜?」

「うーん、僕にも何が何だか……」

「あ〜なるほど〜こうくんのせいだねぇ〜」

「えっ!?なんで!?」

 

よく分からないが、園子から理不尽な事を言われた。バスが動き始めても二人の取っ組み合いは終わらず、僕と園子はそれをニコニコしながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

讃州サンビーチと呼ばれる場所へ、僕、銀、園子、鷲尾さんの四人は向かった。そこで待っていたのは、身軽な服装に身を包んでいる女性の姿だった。

 

「貴方が、天草さんね」

「は、はい!はじめまして、ええと……」

「はじめまして、私は安芸と言います。大赦から勇者をサポートする監督役を、そして神樹館では彼女達の担任教師を務めているわ」

「は、はぁ…」

 

ピシッとしてて、礼儀正しい綺麗な人だ。でも、大赦の人間…って感じのしない人。仮面をつけてないからっていうのもあるのか?

 

「えと、なんて呼べば…」

「安芸先生でいいんじゃない?」

「だねぇ〜これからはこうくんにとっても先生みたいな感じになるし〜」

 

僕達のそんなやり取りは、安芸先生の咳払いで中断される。すると、安芸先生は僕の方をじっと見つめてきた、やがて口を開く。

 

「天草さん、訓練を始める前に一つ聞いてもいいかしら」

「なんでしょう?」

「あなたは、彼女達と一緒にこの勇者というお役目をやり抜く覚悟はある?」

「……もちろんです、僕も彼女達と同じく神樹様に選ばれた勇者ですから」

「そう……わかったわ」

 

僕の返答に、安芸先生は何かに安堵したような表情をしていた。突然の質問の意味も、表情の意味も僕には分からない。

 

「お役目が本格的に始まった事により、大赦は全面的に貴方達勇者をバックアップします。家庭の事や学校の事は心配せず頑張って!」

『はい!』

 

こうして、僕達、勇者の強化合宿が始まった_________。




次から、合宿編が本格スタートでございます!いやぁ、イチャイチャが止まらないなぁ……合宿はどうなることやら。




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七章 乗り越えろ、強化合宿

乗り越えろ(色んな意味で)( ̄∇ ̄)

合宿回長引かせるものあれだと思ったので、一つにぎゅっとまとめました。

恐らく、今までのどの話よりも長いです。少してんこ盛り気味になってしまいましたが、そこはご愛嬌()


〜合宿一日目〜

 

讃州サンビーチ。そこには、訓練のために設置されたのか沢山の機械が用意されていた。今回の訓練のテーマは連携、内容もそれに相応しいものになっているらしい。

 

「この訓練のルールは至ってシンプル。あのバスに三ノ輪さんを無事に到着させること。お互いの役割を忘れないようにね」

『はい!』

 

安芸先生の説明を聞いた僕達四人は、定位置につく。機械の位置を確認する為に辺りを見回しつつ、僕は剣の先を肩に担いだ。

 

「よし、準備OKかな」

「上手く守ってくれよ〜?洸輔、園子?」

「もちろんだよ〜しっかり守るからねぇ〜」

「背中は僕に任せて、大船に乗った気でいてよ!あっ、遠距離からの援護よろしくね、鷲尾さん」

 

硬い装甲で覆われた胸をドンと叩く僕。と、言っても力に慣れてないのかまだ鎧は重く感じる。

 

「うん、任せて。所で、先生!私はここから動いちゃダメなんですか?」

「ダメよー!それじゃ、スタート!」

 

安芸先生の声がサンビーチに響く。その瞬間に、周りにあった機械が動き始めた。

 

「よーし、いっくよー!」

 

園子が槍の先端を広げて、銀を守るようにしながら走り出す。それにおいて行かれないようについていく。前から来たボールは園子が、後ろから飛んできたのは僕が、それ以外の防ぎにくいものを鷲尾さんが対処というかなり完成度の高い陣形を組んでいる。

 

「よいしょっと!」

「こうくん、ナイス〜」

「ううー…やる事がなくて、むず痒い。ここから、ジャンプしたりしちゃダメか?」

「ずるはダメだよ〜」

「そそ、ズル、駄目、絶対」

「えぇ〜…」

 

話しつつも、僕と園子はしっかりとボールを弾く。鷲尾さんも遠距離から、ボールを落としてくれてる。これなら、一度の失敗もなく終われそう……な気がする。

 

「これなら楽勝じゃない?」

「そうだね。よーし、後は……ぐへっ!?」

「ん…?ぶはっ!?」

「こうくん、みのさん、大丈夫〜?」

「アウトー!」

「あ、ご、ごめんなさい!銀、天草くん!」

 

どうやら、鷲尾さんの放った矢が上手くボールに当たらず、そのボールが一個を防いで安堵し切っていた僕の頭に直撃したらしい(まぁ、鎧着けてるからダメージはないけども)。結果、銀と僕はドミノ倒しのように倒れた。

 

「わ、鷲尾さんは、気にしなくていいよ、僕が油断してたのが悪いから」

「あの、天草くん、それよりも……」

「へっ?」

「こうくん、みのさんが下に…」

「下?」

 

二人の言う方向へ、視線を向けると銀が僕の下敷きになっていた。

 

「……こ、洸輔……ど、どいて…苦しい…」

「あ、ああ!?ご、ごめん!銀、大丈夫!?」

「お、おう…だ、大丈夫大丈夫」

「ほんとぉぉぉに、ごめん!お、重かったよね!?このとおり!」

「いいっていいって!てか、そのゴツゴツの鎧姿で土下座されるとすごい複雑な気分……」

 

全力で頭を下げる。銀を下敷きにしてしまうなんて、美森や園子(中)に見られたら何を言われてしまうか。本当に、申し訳ない。

 

「はい、もう一回!ゴールできるまで、何度でもやるわよ!」

『は、はい〜!!!』

 

安芸先生の掛け声を聞いた僕らは震えながら、もう一度定位置へと戻った。

 

 

 

 

 

安芸先生から、この合宿の間は基本的には常に四人で行動し1+1+1+1を4ではなく10にしなさい、という指令をもらった。

 

つまり、あの三人と合宿期間中同じ部屋ということ。……友奈との電話…どうしよう。もし、三人の声を聞かれでもしてみろ。僕は死ぬ(理由は分からないがそう確信してしまった)

 

「わっしーは、やっぱり真面目さんだねぇ〜?」

「必要なものを必要なだけ持ってきたって感じだな。うん、須美らしい」

「そうかしら?これでも、多いくらいなのだけれど」

 

荷物を整理しながら、そう言う鷲尾さん。やはり、真面目だな…僕はあれもこれもと、結構色々詰め込んできちゃったんだが。

 

「こうくんは、結構荷物あるねぇ〜?」

「そういう、園子も……い、いっぱいあるね」

「せっかくの合宿だから〜色々と試したいんよぉ〜」

 

色々……確かに、色々なものがあるが……その、臼やらなんやら…何をするつもりなのか。まぁ、なんというか…園子らしいや(思考放棄)

 

「もうそんなに、お土産買ったの?銀」

「うん、家族にさ。それを言うなら、洸輔も結構買ってるじゃん?」

「家族には買って行きたくなるさ、このバッグとか用意してくれたのは母さんだし。父さんも色々用意してくれたし、そのお礼もってことで」

「へぇ〜かなり大きめのバッグだねぇ〜?」

「私達の中の誰か一人くらいは、うまくいけば入りそうね」

「ああ……入ると、思うよ」

「なんで、急に遠く見始めてんだよ…」

「まぁ…今朝、色々あって…」

 

実際人一人が、この中に収納されてるのを目撃しているからね。このように、一つの部屋で僕、鷲尾さん、銀、園子は合宿中一緒に過ごすことになった。

 

昼間は基本、いっぱいいっぱいなので友奈への定期連絡は夜にすることにした。皆が寝静まった頃を狙って、一日一回の定期連絡を済ませた。その際、やたらと嬉しそうな声で喋っている友奈にほっこりした僕であった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜合宿二日目〜

 

今日も今日とて、連携訓練に力を入れる僕、銀、園子、鷲尾さん。しかし_______。

 

「よし、今っ!おおおおおお!!」

「っ!?銀、後ろ!」

「えっ?ぐはぁっ!?」

 

最初の頃の余裕は何処へやら、陣形は完璧なはずなのにどこかでつまづいてしまっていた。

 

雷撃で対応しようとしたのはいいものの、予想出来ない所から飛んできたボールに即座に対応しきれなかったのが原因だった。ボールを空中で当てられた銀は体勢を崩したのを見て、すぐに落下地点を予測し、落ちてきた彼女を両手で支えた。

 

「大丈夫?」

「あ、ああ、ありがとな。って!?お、おい!?」

「どしたの?」

「これ…お前、お姫様抱っこってやつじゃ…」

「う〜ん、こうくん。訓練中も見せるねぇ〜」

「見せる?へっ?どういうこと?」

「さぁ…?(白い目)」

 

えっ、鷲尾さんからすごい目を向けられたんだけど。悪いことはしてないはずなのにどうして?

 

 

 

 

訓練直後、僕たち四人は安芸先生に部屋へと呼ばれた。理由は勉強の為らしい。ちなみに、僕も受けなきゃですか?って聞いたら……安芸先生に『当たり前でしょう?』とめちゃくちゃ威圧を掛けられながら言われた、すごく怖かったです。

 

「こうして神樹様はウイルスから人類を守るために壁を作り_______」

「…ぐぅぅ、合宿中なら勉強しなくて済むと思ったのにぃ…」

「…あはは…僕もこれは予想外…まぁ、そこまで苦手じゃないからいいけど」

 

横にいる銀が、『裏切り者〜』と小声で怨念のように呟いてくる。僕、勉強苦手ではないので(ニヤリ)。鷲尾さんは真面目に聞いてるな、園子は……うん、寝てる。

 

「スピー……スピー……」

「何が起こったのか乃木さん、答えられる?」

「ふぁっ…は、はいぃ〜バーテックスが生まれて、私達の住む四国に攻めてきましたぁ〜……」

「うん、正解ね」

『しっかり聞いてたんだ…』

 

三人の声が揃う。流石、高スペック園子……その高スペックさはその時代からもあるものだったんだね。その力……僕にもください。

 

 

 

 

昼を食べ終わったら、午後の連携訓練。まるで運動部かと思うくらいのハードスケジュールである。

 

「ここならぁぁぁ!!……いでっ!?」

「アウトー!」

「っ……また、反応できなかった」

 

まだ力の使い方がなってないのか。雷撃を即座に出す事ができない。最初のバーテックスとの戦闘の時はもっと早く出せたのに。

 

「ごめん、銀。対応遅れて…」

「あ、ああ。気にしなくていいって、それより次頑張ろうぜ!」

「そうそう〜こうくんが、一人で責任感じる必要ないんよぉ〜?」

「ありがとね、二人とも」

 

 

今度は座禅の時間。なんというか、さっきも言った気がするけどこの合宿めちゃくちゃハード。

 

「…っー!!き、きつい!」

「……」

「こ、洸輔と須美はなんでそんなに平気そうなんだよぉ!」

「「慣れてるからね(だね)」」

「そ、そんなぁ〜!ぐはぁ……」

「スピ〜スピ〜……」

 

銀は断末魔をあげながら、倒れた。その横では園子がスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。友奈への定期連絡も問題なく終了した。

 

こうして、二日目も終わり、僕と三人との強化合宿は佳境を迎えていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜合宿、三日目『最終日』〜

 

 

「よーっし!今日こそ決めるぞ〜!」

「ああ、成功させよう!」

「遠距離からの援護は、任せて」

「皆、気合い充分〜。それじゃ、ふぁいと〜?」

『オー!』

 

皆で気合を入れる。訓練を始めた頃よりも、確実に三人との息が合い始めていた。

 

「はい、お喋りはそこまで!それじゃ、スタート!」

 

安芸先生の合図で、スタート地点から動き出す。こちらも訓練を始めた頃より、お互いの役割に無駄なくこなせていた。前からのボールを園子が確実にシャットアウトしてくれているから、僕は後ろに専念できる。

 

「本番はこっからだな!」

「うん!こうくん、みのさんをしっかり守ってあげてね!」

「任せておいて!」

「ひゃぁ〜頼もしい〜」

 

銀と一緒にジャンプする。今までは、大体ここで銀をカバーしきれずに終わってしまう事が多かったが、今回はそうはいかない。

 

「よいしょっと!!」

「ひゅう〜♪ナイス、雷!」

「上手くいった!後は……」

 

一斉に背後から襲いくるボールを斬り伏せるとともに、正面から、銀に迫るボールも雷撃で落としていく。他の逃してしまったボールは鷲尾さんが的確に処理してくれる。

 

(助かる!ありがとう、鷲尾さん!)

 

「銀!後、任せた!」

「おうよ!皆、ナイス!ラストは任せろ!」

 

空中で更に加速し、銀はゴールへと一直線に飛んでいく。

 

「これでぇぇぇぇ!!ゴォォォォォォォォル!!!!!」

 

銀がバスを一刀両断し、竜巻を巻き上げながら叫んだ。

 

「「やったぁ〜!!」」

 

着地すると、鷲尾さんと園子がぴょんぴょんと跳ねながらはしゃいでいるのが見えた。その様子を見て、僕はヘタリと砂浜に座り込む。

 

「お疲れ様、皆……ふぅ、鎧、おも…」

 

フルフェイス型の、兜が開くと綺麗な海が視界いっぱいに広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一緒に食事を済ませた僕達は、疲れを癒すために、すぐさま銭湯に向かった。貸し切りの男湯、一人で入るのは本来心細いはずなのだが、もはや慣れ始めてすらいる自分がいた。

 

「ふぁ〜、生き返るゥ〜にしても、やっぱり露天風呂良き良きだなぁ〜」

 

肩まで浸かり寛ぐ。相当疲れていたんだろうか、体に染みる。

 

「…ん〜、力、まだ使いこなせてないかな…」

 

空を見上げながら、ボソッと呟く。訓練の成果もあってか最初の頃よりは動きもマシになり、重さにも慣れてきた。でも、何かは分からないがこれでは違うというか、足りない気がした。

 

「よくわかんなぃなぁ……色々と」

 

温泉の気持ちよさ+一人なのを良いことに独り言がバンバン出てくる。にしても、僕は良い思いをしすぎなのではないかと思う、毎度毎度合宿をする度に美少女達と一緒に過ごせているとか……一生をかけても体験できないのではないのだろうか?

 

「まぁ…良いおもいに比例して……色々大変な目にもあってるけど」

 

はぁ〜とおもい溜め息が出る。やがて、独り言もなくなりポチャンという雫が落ちる音だけが響くような静寂の空間が出来上がる。すると_____。

 

「ん?」

 

何やら、垣根の先にある男性にとっての楽……なんでもありません。女湯から和気あいあいとした声が聞こえてくる。

 

『はぁ〜……』

『うーん、なんか私前よりも筋肉ついたかもぉ〜?』

『これから成長する女の子にとっては、いろんな意味で厳しいメニューだなー。あ、人いないしちょっと泳いじゃお』

「……」

 

途切れ途切れではあるが楽しそうな会話が聞こえてくる。にしても、この状況良くない良くない、危険だぞ。貸し切り状態だから何かと三人の会話やら、水音やらが聞こえて非常に…こう_____。

 

(正直……良からぬ事を考えてしまう。ええい!!煩悩よ、しずまれしずまれ!!やめろ!垣根に耳を当てるなんて!そんなのは紳士のすることでは!)

 

『銀……はしたないわよ?お風呂くらい静かに入りなさい』

『え〜、いいのかなぁ〜?そんなこと言って?』

『な、何よ…?ひゃっ!?ちょ、銀!?何して!?』

『ふっふっふ。私に楯突いた罰よ。そのお山、たっぷり味合わせてもらおうか!』

『ちょっ!?ぎ、銀!?やめなさ…』

『うーん、わっしー?どうすれば、そんなに大きくなるの?』

『そ、そのっち!解説してないで、助け……ひゃぁぁぁぁ!』

「出よう、これは出るべきだ…色々と危険すぎる(小声)」

 

様々な身の危険を感じた僕は風呂を出ることにした。着替え途中、具体的な集合時間も決めていないし、女性陣は基本お風呂に入ってる時間も長いということから、三人よりも、先に部屋に戻り友奈に電話することにした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜洸輔が風呂を出た少し後〜

 

「ふぃ〜良い湯だなぁ〜」

 

「ええ、ほんとねぇ〜」

 

「サンチョも一緒に入れてあげたかったなぁ〜…………あわよくばこうくんも?」

 

「何のあわよくばなんだよ、それ。……なぁ〜この後、どうする〜?」

 

「疲れを取るために、しっかり寝る!」

 

「真面目か」

 

「まぁ、わっしーだしぃ〜。私はもう少し夜更かししたいなぁ〜こうくんに聞きたいこともあるし〜」

 

「合宿の夜更かしって言ったら定番だもんなぁ〜。って、洸輔に聞きたいこと?」

 

「うん〜夜中の電話のお相手さんは誰なのかなぁーって」

 

「…なにそれ?須美、知ってる?」

 

「いいえ、私も初耳よ。電話って天草くんがしてたの?」

 

「うん〜、昨日、夜中にちょっと目が覚めちゃったんよ〜。その時にね、こうくんが誰かと楽しそうにお話ししているのを目撃したんよ〜」

 

「それ…かなり、気になるな」

 

「でしょ〜?わっしーも〜お相手さんが誰か気にならない〜?」

 

「気にならない…と言ったら嘘になるけど」

 

「「じゃあ、聞くべきだな(よ)!」」

 

「変な所で息ぴったりね…」

 

「そうと決まったら、早く聞きにいこうぜ!」

 

「おー!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

三日目は用意されていた浴衣に着替え、部屋へと向かった。窓際にある椅子へと腰掛け、友奈との電話を始める。

 

『三日目の〜定期連絡ぅ〜!とりあえず、三日間お疲れ様〜!』

「はは、ありがと。結構大変だったよ」

『声が明らかに疲れてるもんねぇ〜げっそりしてる〜』

「なに、声だけでわかるもんなの?」

『当たり前じゃん!どれだけの時間一緒にいたと思ってるの?』

「う、うす……」

 

少し気恥ずかしくなり、頭を掻く。てゆーかちょっと怒られ気味なのなんでだろ。そこから、雑談混じりに会話を進めていく。

 

『じゃあ、今日はここまでにしようか!』

「えっ、いいの?まだ、5分ちょいくらいしか経ってないけど…」

『ん?それは、まだ私と話していたいって言うことかな〜?』

「違わな…くはないけど、そ、そう言う意味でもなくて…ええと」

『そんなに焦らなくてもいいのに〜、ほら、洸輔くんも三日間の合宿で疲れてるだろうしさ。今日はもう、お開きでもいいかなって』

「ありがとう、友奈……」

『気にしないで!それじゃ、おやすみ!』

「うん、おやす…」

 

しかし、そこで事件は起きた。

 

「おーっす!洸輔ぇ〜ゆっくり休めてるかぁ〜!?」

「声がでかいわよ、銀」

「まぁまぁ〜わっしー」

『………女の子の声?』

「…………(顔青ざめ&汗ダラダラ)」

 

一瞬で頭の中が真っ白になった。同時に、銀達に向かって静かにしてくれと電話中を伝えるジェスチャーをする。それを見た三人が自分の手で口を塞いだ。その仕草に可愛い…と思っている自分がいたがそれどころではなかった。

 

『…今のって(ゴゴ』

「て、テレビ!テレビの音!そう、テレビの音!」

『本当に?(ゴゴゴ』

「ええ!はい!!もちろん!!!本当に!!!!」

『……女の子と、寝泊りしているわけでもなくて?(ゴゴゴゴ』

「あ、当たり前!そんなことないよ!?うん、絶対に!!」

 

そこから、約15分の激しい説得劇を展開させ友奈との通話は終了したそうな。寿命が縮まりましたよ、いや本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死を、覚悟した……」

「こうく〜ん、大丈夫〜?」

 

何とか声を絞り出す。いまだに体が震えてる、本当に怖かった。

 

「なんか、悪かったな……洸輔」

「電話中とは、知らなくて…」

「き、気にしなくて、いいよ…」

「所で、こうくん!電話の相手は誰だったの!?もしかして、彼女さんだったり?(メモを構える)」

「ちょっ、園子!?」

「この流れでそれを聞くの!?」

「幼馴染み……です…彼女では、ないです…」

「ふむふむ、でもその幼馴染さんとは…」

「そのっちぃ〜?」

 

僕が屍のようにうつ伏せになっている中、園子が鷲尾さんに捕まり布団の中へと連行されていた。皆自分の布団の中に入ると、銀は目をきらりと光らせこう呟いた。

 

「ふっ、合宿最終日の夜……お前ら簡単に寝られると思ってらっしゃる?」

「やっぱり夜更かしはダメよ!銀」

「ま、マイペースだなぁ、須美は」

「言うことを聞かない子は……夜中に迎えに来るわよ?」

「む、迎えに来る!?や、やめて怖い話苦手なんだ!」

「ぶるぶるぶる…」

 

その発言を聞いたと、同時に僕と園子は震えだす。お化け系統は真面目に苦手なので勘弁していただきたい。

 

「ストーップ!そういうのじゃなくて、ほら、好きな人の言い合いっこしようよ。恋バナってやつ!」

「そ、そういう銀はどうなの?」

 

そうして、唐突に始まった恋バナ。この場にいてはいけない気がすごいするんだけど…いていいのかな?

 

「私はいない!以上!」

「えぇ〜それはずるいよぉ〜」

「いいだろ、別に〜ホントのことなんだし」

「……じゃあ、ミノさん、気になる人とかは〜?」

「…い、いない!は、はい、次須美!」

 

銀はいないんだ、他校だから知っても意味はないんだけど。好きな人がいるかいないかは個人的にはかなり興味あるんだけどなぁ。

 

そんなことを考えていると鷲尾さんと目が合う……が、すぐに逸らされてしまう。心が……

 

「わ、私もいないわね…」

「ふっふっふっ……私はねぇ〜実はいるんだぁ〜」

「えっ!?」

「何ですと!?」

「おー!恋バナ!きたんじゃない?」

「だ、誰?クラスの人?」

 

突然の爆弾発言に、鷲尾さんも銀も興味津々だ。そういう僕も僕だが。

 

「わっしーとミノさんと、こうくん!」

「あぁ…」

「なんというか…だと思ったわ」

「あ、でもさ、洸輔は喜んでいいんじゃね?異性に好きって言ってもらってるわけだしさ」

「ん?今の好きって友達としての好きじゃないの?」

「そうだった……洸輔はこういう奴だった…」

 

何故か僕の方を見て愕然とすると、同時に銀は深いため息を漏らした。

 

「はぁ〜こんなんでいいのかねぇ〜?」

「いいのよ!わ、私達には神聖な御役目もあるし!きっと、これで!」

「あはは…」

 

と、言いつつも少し残念がっているような。まぁ、僕も人のこと言えないんだけど。

 

「明日も励もう!家に帰るまでが合宿よ!!」

「本当に、鷲尾さんはマイペースだね〜」

「だろ?須美のこういう所、ほんと可愛いんだよ」

「うん、僕もそう思う」

「なっ、なな!二人とも何言って…しょ、消灯!」

 

僕らの発言に、顔を真っ赤にしながらも鷲尾さんが電気を消す。すると____。

 

「なんだこれ…」

「プラネタリウム〜綺麗だから持ってきたんだぁ〜」

「そんなものまで持ってきてたんだ…」

 

唖然としながらも、僕はプラネタリウムの生み出す光に魅入られていた。目蓋が下がってくる、この三日間いろいろな事があって本当に疲れたのだろう……僕は睡魔に身を任せ、みんなより一足先に眠りについた。

 

(なんだかんだ、楽しかったな……三人との合宿)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「洸輔は……寝たみたいだな」

 

「ほんとだ、私たちも寝なくちゃね」

 

「ねぇ、わっしー、みのさん」

 

「何?」「どした、園子?」

 

「本当に気になる人いないの〜?」

 

『い、いない!』

 

「えぇ〜本当かなぁ〜?」

 

(うーん、これから面白くなりそうな予感がするんよぉ〜)

 

この合宿期間中に、楽しみが増えた園子さんであった。




へっへっへ、しれっとイチャついてるからしっぺ返しを食らうんだぜ?(ゲス顔)

へっ?なんか、イチャイチャしかしてないって?中盤後半は暗めにするから、許してください(更なるゲス顔)


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八章 歪

皆さんは『自己犠牲』についてどう思いますか?


〜須美視点〜

 

「いやぁ〜ギリギリセーフ!」

「セーフ、じゃありません」

「あぅ、すいやせん…」

 

扉の前で行われているやり取りに、クラス中が笑いに包まれた。そんな中私はジッと銀の方を見つめている。

 

(また、遅刻……合宿の時もそうだったけど、いや、それより前からか、銀の遅刻の量は異常な気がするわね)

 

そんなことを考えていると、席についた銀の鞄の中から猫が飛び出していた。……少し、頭が痛くなってきた。

 

(銀の遅刻の原因はなんなのか、その元を断つ必要があるわね。そうと決まれば、行動あるのみ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけでそのっち。あなたにも協力してもらうわよ」

「りょうかぁ〜い……スヤァ( ˘ω˘ )」

 

そのっちは机に身を預けながら、私の言葉に反応している。うとうとしつつも、私の話はしっかり聞いているらしい。

 

「わっしー、こうくんは誘わないの〜?」

「(寝てたんじゃないのね)……気持ちは分かるけど、天草くんは観音寺市の方に家があるのよ?そんなに、気軽には誘えないわ」

「皆集まった方がもっとたのしぃよぉ〜?ね、わっしー、ダメ元で誘ってみようよぉ〜」

「でも……」

 

私がしぶっていると、そのっちがじたばたと駄々をこね始める。

 

「こうくんとも、遊びたい〜、わっしーはこうくんと一緒に過ごしたくないの〜?」

「べ、別にそういうわけじゃ…」

「じゃあ、誘おうよ〜わっしーもこうくんと会いたいでしょ〜?」ニヤニヤ

「そ、その顔をやめなさい、そのっち!わかったから、誘うから!」

「やったぁ〜♪」

 

先ほどまでの不敵な笑みは何処へやら、惚けた笑顔に戻るそのっち。その様子を見て、溜め息をつきながらも天草くんにメールを打った。

 

 

 

 

〜須美視点out〜

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜洸輔視点〜

 

 

「うぅ〜ん、つ か れ たぁぁぁ〜」

 

自室に着いたと同時に、ベッドへと倒れ込んだ。合宿が終わった次の日からの即学校……全く、朝から大変だったぜ。特に……友奈が……(何があったかは多くは語らない)

 

「異変、ねぇ……」

 

最初の戦闘以来特に何も起きていないせいか、イマイチ実感が湧かない。いやまぁ、中二の僕が小六の頃の僕に憑依している時点で異変っちゃかなり異変なんだけど。

 

(こう日常を過ごしていると……忘れそうになっちゃうよなぁ)

 

「……ん?メール?」

 

ベッドに寝転がりながら、通知を確認する。差出人は_______。

 

「鷲尾さんから?うん、うん……えっ!?鷲尾さんから!?」

 

まさかだった、あの三人の中でも最も距離があるように感じていた鷲尾さんが僕にメールを飛ばしてくるとは。

 

「少しでも、合宿で近づけたってことかな……」

 

そう考えると、無性に嬉しくなった。テンションが上がった僕はメールの内容をすぐに確認する。

 

「折角誘ってくれたんだ、行くしかない!よし、今週の日曜は大橋方面へレッツゴー!」

 

自分でも引くくらいの、謎テンションになってしまっているが気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

そして、日曜当日。電車を使い、大橋の方へと向かった。

 

「天草洸輔!二人の呼び声に応え、たった今参上しました!」

「こんにちはー、こうくーん。へいへい〜♪」

「こんにちは〜園子、鷲尾さんも」

 

駅でわざわざ待っていてくれた二人と合流した。相変わらずのテンションの高さの園子とハイタッチしつつ、鷲尾さんにも挨拶する。

 

「ごめんなさい、天草くん。遠いのに、呼び出してしまって」

「気にしなくていいよ、寧ろ誘ってくれてありがとうね。鷲尾さん」

「い、いや、別に私は……」

「わっしーもこうくんと一緒に過ごしたかったんだってぇ〜。勿論、私もだけど〜」

「そのっち!?」

「そうなんだ、僕も鷲尾さんや園子と会いたかったから嬉しいな」

「っ〜…」「さっすが、こうく〜ん♪」

 

僕の言葉を聞くや否や、鷲尾さんは顔を俯かせ園子は目を光らせた。そんなに変なこと言っちゃったかな?

 

「そ、それじゃ、ぎ、銀の家に向かいましょうか…」

「あのー鷲尾さん。なんか、顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫、問題ないわ!さ、い、行きましょ〜!!!」

 

て、テンション高いなぁ。相当楽しみなんだなぁ〜銀のストーk……尾行。僕も銀の事、知りたいから楽しみだけど。

 

「こうくんこうくん」

「何?」

「もっと、楽しませてねぇ〜♪」

「えっ?うん、が、頑張る?」

 

園子の言葉の意味が分からなかったが、首を傾げつつも了承する。こうして、僕らの銀尾行作戦が始まった。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ銀の家ね。二人とも、準備はいい?」

「できてるよ、ほら、園子。蟻さんとの対話は後々」

「えぇ〜しょぼーん〜…」

「拗ねない拗ねない。ほら、行くよ?園子」

「はぁ〜い♪」

「天草くん、すごいわね。そのっちとの関わり方がよくわかってる」

 

鷲尾さんの言葉を聞いて、苦笑いを浮かべる僕。まぁ、あっちでは何度も園子に遊ばれたからね。三人で、軽い雑談をしつつ歩いているとある場所に着いた。

 

「ここが、三ノ輪さんの家ね」

「うわぁ……銀の家も、中々でかいなぁ……」

「さて、早速様子を」

「あ、もしかしてピンポンダッシュ〜?」

「そんな恐ろしいことは却下よ。そんなことよりも、これを使うの」

 

僕が銀の家の大きさに驚愕していると、鷲尾さんが何やらすごい機器を取り出した。いや、これもう、ストーk…。

 

「あ、わっしー、こうくん!見てみて!」

 

園子が、指を刺した方向には銀がいた。赤ちゃんをあやしている?

 

『おい、泣くな〜。お前はこの銀様の弟だろ?』

『ふぇ…』

『こらこら、泣くなって。泣いていいのはお母ちゃんに預けたお年玉が帰ってこないと悟った時だけだぞ?』

『うぅ…あぅぅ……』

『うーむ、愚図り泣きが始まってしまったか……どうしよ、ミルクやおしめじゃないだろうし……あ、もしかして、お前さんが欲しがってたのはこれか?』

『あ、あぅ〜♪』

『お〜泣きやんだ!偉いぞ、マイブラザ〜。にしても、甘えん坊な弟だよなぁ……よし、大きくなったら舎弟にしてやろっと♪』

『姉ちゃーん!買い物はー!?』

『はーい!ちょっと待ってねぇ!』

「わぁ〜♪ミノさん、すごい〜♪子守りもお手伝いやってるよ〜」

 

三ノ輪家の一部始終を見ていた園子が、目を光らせながらそう言った。驚いた、銀に弟がいたとは……通りで面倒見がいいわけだ。

 

「あんな小さな弟達が居たのね。遅れたらしているのは、世話が大変という事なのかしら?」

「結構、大変そうだよね…僕、兄弟いないから分かんないけど(二人ほど厄介な幼馴染がいるが…)」

「どうやら買い物に行くために動き出したみたいね。行くわよ、二人とも」

「「了解!」」

 

鷲尾さんの指示と共に、銀の尾行は続く。銀を追っていって着いたのはイネスの手前。

 

「ん?ねぇ、二人とも。あれって…」

「あれは、道を尋ねられたのかしら?」

「おお〜ミノさん優しぃ〜♪」

 

どうやら、道に迷ったお爺さんを先導しているようだ。その後も、銀はお婆さんに道を教えてあげたり、倒れていた自転車を直したり、飼い犬を離してしまった飼い主さんを助けてあげたりなど、次から次へと銀は問題を解決していった。

 

「もしかして、銀ってかなりの巻き込まれ体質?」

「確かにぃ〜次から次だもんねぇ〜」

「う〜ん、私からすれば巻き込まれているというより、放っておけないって感じな気がするけど…これも、勇者だからなのかしら」

 

鷲尾さんの言葉を聞いて、納得した。確かにそっちの方がしっくり来る。銀は、きっと困っている人を放っておけないタイプなのだろう、そういうところ、ちょっと友奈に似ている。

 

 

〜洸輔視点out〜

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜鷲尾須美視点〜

 

あれからも、銀は色々なことに巻き込まれていた。どうやら、目的地はイネスらしく銀はさっきまでのドタバタ具合を感じさせないような、何食わぬ表情で入っていった。

 

「な、なんというかすごいなぁ……銀は」

「えぇ……事件に巻き込まれる確率が高すぎるわ」

「大半はさっきわっしーも言ってたけど、放っておけないって感じだったけどねぇ」

 

そのっちの言葉に肯定の意味を込めて、強く頷いた。そうして、銀に置いていかれないように、様子を伺いながら私達はイネスの方へと向かっていく。すると______。

 

「大変だ!!子供が!!」

 

背後から、そんな声が聞こえた。その声に驚き振り返る。

 

「何!?」

「わ、わっしー!あれ!」

 

そのっちが指差した先には、小さい子が転んでしまったのか道路でうずくまっている姿が見えた。近くにボールが落ちている…転がってしまったボールを取ろうとして飛び出した…?トラックも止まる気配がない。

 

(誰か……ううん、私が…遠くない。走れば届く!でも……でも、下手をしたら死んで……)

 

私が一歩を踏み出せずにいると、横にいた誰かが動いた。動いたのは、天草くんだった。

 

「っ!!間に合ってくれ!!!」

「あ、天草く…!?」

 

そこからの流れは、一瞬だった。いや、そう感じただけかもしれない。トラックに轢かれそうになり、泣き出してしまっていた子供を天草くんが即座に抱き抱え、ギリギリの所で助けることに成功した。そんな光景を、私とそのっちは黙って見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もぉ〜!本当に怖かったんよ〜!」

「ご、ごめんごめんって!叩かないでって!」

 

そのっちが天草くんを、弱めではあるが叩いていた。あの後、トラックの運転手は居眠り運転をしていたらしく、通報を受けやって来た警察に連れていかれていた。子供は転んだ時に出来た擦り傷以外に外傷はなく、天草くんも無事、けが人は誰も出なかった。

 

「鷲尾さん〜!園子とめてぇ〜!」

「ねぇ、天草くん……」

「ど、どうしたの?」

「なんで、そんな風に笑えるの?もしかしたら……し、死んでいたかもしれないのに……」

 

すごいと思った、かっこいいとも思うあんな場面で自分を省みず、名前もしらない誰かを救いに行けるのは。でも、同時に『怖い』とも感じた。

 

「え、と……」

「わっしー?」

「ごめんなさい……別に攻めている訳じゃないし、説教しようと思ったわけでもないの……ただ、……」

 

さっきの天草くんの行いは、きっと正しい事なんだろう。でも、私の中に何かが引っかかっていた。

 

そんな私の手を、天草くんが握る。

 

「ごめんね、怖い思いさせて」

「……」

「それでも、放っておけなかったんだ……何より」

 

天草くんは優しい声でそう言う、握ってもらった手が暖かい。先ほどよりも、手の震えが収まっていった。私の『怖い』という感情は、すこしづつ消えていっていた。

 

しかし、それは彼の次の言葉と表情でまた_________。

 

「誰も傷つかなかったし誰も何も失わなかったでしょ?」

「っ……!」

 

そう言った彼の表情は『笑顔』だった。声が出なくなった。さっきまで消えかかっていた恐怖が戻ってくる。何故かは、分からないが私はその時天草くんの事を『歪』だと思ってしまった。

 

正しい事、人を助けるという行為は正しい事なのかもしれない。そうだとしても、彼のこれはそれだけで表現していいものなのか。

 

私達と同じ、勇者に選ばれた男の子。でも、今の言葉は……初めて勇者に選ばれた子が、出せる言葉なのだろうか。『自己犠牲』、でも、天草くんのこれは……そんなものをとうに越してしまっている気がした。

 

「わっしー……大丈夫?」

「あ、う、うん。大丈夫……よ」

 

そのっちが心配そうに、私の顔を覗き込む。なんとか、言葉を捻り出したが……その時の私はどんな顔をしていただろう。

 

瞬間、周りから音が消える。私達以外の人は、皆止まっている。どうやら、御役目の時間のようだ。

 

鈴の音が聞こえる。

 

「樹海化……来たのね」

「む〜、ミノさんを追いかけようと思ったのにぃ〜、何よりせっかくの日曜日が〜」

「本当だよねぇ〜全く、休日くらい来ないでほしいもんだよ」

 

三人でスマホを取り出し、勇者になる為のアプリを起動させた。視界が光に包まれる中、天草くんの先ほどの言葉と表情が脳裏に蘇ってくる。

 

『誰も傷つかなかったし誰も何も失わなかったでしょ?』

 

(天草くん、あなたは________)




洸輔くん、前に東郷さんに言われた言葉、忘れてないかい?()


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九章 邂逅・そして信頼は

まだまだ、ゆゆゆというか勇者であるシリーズは盛り上がっていきそうですね!いやぁ〜六箇条目は何かなぁ〜!(のわゆアニメ化希望)

ん?この話題遅すぎ?()


「全くさぁ〜タイミング考えて欲しいよなぁ……」

 

銀が両手を頭の後ろに組みながら、ぼやく。樹海化が始まって、すぐに僕、園子、鷲尾さんの三人は銀を発見し合流することに成功。どうやら、銀も休みの日に襲来したバーテックスにご立腹のようだ。

 

「気持ちは分かるけど、相手方が僕らの都合に合わせてくれるなんてことはないんだろうね……はぁ〜」

「もぉ〜バーテックスももう少し休めばいいのにぃ〜」

「だよなぁ、ていうか三人とも随分近い位置にいたよな。私はイネスに用があったんだけど、もしかして、三人も近場に?」

 

その台詞に、当事者の僕らは三人で顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。本人に向かって、後を付けてましたなんて言えない。

 

すると、遠巻きではあるが異形の姿が視界に映った。

 

「……おっ?来たなぁって、随分ビジュアル系なルックスしてるな」

「なんか、尖っていて強そうだよ〜こうくーん」

「わ、わかったから左右に揺らすのやめて、園子」

「まずは、私が矢で牽制するわ」

 

園子に揺さぶりの強さと鎧の重みで半分グロッキー状態の僕の横で、鷲尾さんが気合を込めて弓を引く。それと同時に、バーテックスが地面に降りると________。

 

「なっ、なんだこれ!?」

「地震……いや、そうか、アイツが体を振動させて起こしてるのか!」

 

あのバーテックスとも一度か二度は戦闘経験があるものの、今回は先手を取られた。こういう使い方も、あるとは…。

 

「今度こそ……私が……」

「落ち着きなって、須美」

「はっ……ぎ、銀」

「皆で、一緒に。ね?わっしー、頑張ろ!」

「そうだね、ここであの連携訓練の成果。アイツに見せてやろうよ!」

「……ええ、ありがとう、皆」

 

鷲尾さんの表情に明るさが戻ってきていた。樹海化の前にも、少し顔が暗かったから心配だったけど、大丈夫そうだ。考え事をしていると、いつの間にか振動が止まっていた。瞬間、前方から二本の足が飛んできた。

 

「ッ!させない!!」

「はぁっ!」

 

攻撃に気づき、前に出る。園子が槍の形状を変化させ、盾で片方を塞ぎ、もう片方は僕が剣で跳ね返した。

 

「せいやっ!っと……それじゃ、園子隊長、指示ください!」

「うん!それじゃ、敵との距離を詰めるよ〜!」

 

園子からの指示が飛ぶと、皆その場からすぐに動き出す。そんな僕らの動きを見てか、バーテックスは地面から牙を引き抜いて、空に急上昇する。

 

「鷲尾さん!」

「ええ!ッ!!」

 

二人で息を合わせ、矢と雷撃を同時に飛ばす。しかし_____。

 

「くそっ!届かないか!」

「っ……完全に制空権を、取られたわね」

「もしかして、アイツ!そのまま逃げるつもりか!コノヤロォー降りてこいコラァー!」

 

先行しバーテックスの真下にいた銀がそう叫ぶ。すると同時に、上空から不気味な回転音が聞こえてきた。

 

「何か、仕掛けてくる?」

「まさか!ぎ…」

 

僕が警告を発するより、早く一つに束ねられた足が銀に向かって一直線に飛んでいく。

 

「っ……うぁぁぁぁ!根性ォォォォォォ!!」

「ミノさん!!」

「ぎ、銀!」

「ぐっ、い、1分はもつ!!今の内に、上の敵をやれぇぇぇ!!」

 

二つの戦斧を使い、ドリルのように回転している足を防いでいる銀がそう叫ぶ。その言葉を聞き、すぐに園子が動き出した。

 

「よーし!じゃあ、わっしー、こうくん!私達で敵を叩くよー!!」

「……りょ、了解!」

「わかった!」

 

園子が作り出した足場を使い、鷲尾さんと共に矢と雷の射程距離圏内ギリギリまで近寄っていく。

 

「ここから……ならぁ!!」

「?……鷲尾さん、危ない!」

「えっ?」

 

バーテックスとは違う、別方向からの殺意を感じとり即座に反応した僕は鷲尾さんに向かって一直線に飛んできた剣を弾き飛ばす。すると、弾き飛ばされた剣は……持ち主、黒仮面の元へと瞬時に戻っていく。

 

どこからともなく現れたそいつは、口元をニヤつかせながらバーテックスへと攻撃を仕掛けようとする僕らに向かって、追撃を仕掛けてくる。

 

「仲間外れにするなヨォ、こんな楽しそうな事してんのに。俺も混ぜてくれって、なぁ!!!」

「ちっ!鷲尾さん、これに乗って!」

「は、はい!」

「どっこいせぇぇぇぇぇい!!!!」

 

追撃をさせない為、剣を横向きにし足場にする。力を込めて鷲尾さんを更に矢が当てやすいよう、バーテックスの近くまで飛ばした。

 

十分な高さまで上がったのを確認し、思考を切り替え、仮面の男に向かって剣を振るう。

 

「天草くん!」「こうくん!!」

「僕がこいつを抑える!!三人は、バーテックスに集中して!!」

「……わかった!」

 

園子の了承と須美が遅れて頷いたのを確認してから、僕は視線を黒仮面の方へと向ける。

 

「抑える?偽物……いや、作り物風情がよく言うぜ」

「なんとでもいいなよ」

 

三人の邪魔をさせないように、少し離れた位置に着地する。両手に力を込めて、剣を構えた。

 

「覚悟しろ、仮面野郎!」

「試してやるよ、ニセモン!」

 

 

 

〜洸輔視点out〜

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

洸輔が黒仮面を抑えつけるため離脱した戦線では、須美と園子が銀の救出の為、奮闘していた。先ほど、洸輔の援護によって更にバーテックスの近くに移動できた須美は矢を連続で、叩き込む。

 

「食らいなさい!!」

 

着弾、そして爆発する五本の矢。その連撃にバーテックスの体は耐えきれず、体勢を崩す。結果_____。

 

「っ!しゃぁ!耐えたぁ!」

「よぉ〜し、それじゃあ次は私の番〜いっくよぉ!」

 

体勢を崩し、銀への負担もなくなった事を確認した園子が勢いをつけ弱ったバーテックスに突撃する。須美の矢によって、傷つけられた体を槍撃の嵐で更に切り裂く。

 

「ここから、出ていけぇぇぇ〜!!」

 

園子の叫び声と一緒に、一際大きな攻撃を撃ち込む轟音が、樹海中に響き渡る。そんな捨て身の攻撃に、バーテックスはどんどん空中から落ちていく。

 

「ミノさん!!」

「砕けぇぇぇ!!」

「任せろ!!……さっきはよくもやってくれたな!三倍にして、返してやるッ!釣りは……取っとけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

銀の叫び声に呼応するかのように、炎が宿ると赤く燃え上がる。それを使い、銀は落ちてくるバーテックスに向かって無我夢中に戦斧を振るった。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

再生の暇も与えない怒濤の連撃、それに押されるかのようにバーテックスは壁の方へと追い込んでいた。やがて、満身創痍となったバーテックスは逃げるように、壁の外の空間へと逃げていった。

 

「行った……かしら?」

「あぁ、流石に戻ってこないと思うけど……」

「それじゃ、後はこうくんの援護に行くだけだね〜」

「えっ、洸輔どうかしたの?」

「私達が、バーテックスの撃破に集中できるように黒仮面を相手してくれているの。急ぎましょう、また逃げられないように!」

「須美の言う通りだな、よし、今度こそ捕まえてやるぞ。あの仮面野郎!」

「ミノさん、口悪いよぉ〜」

 

少し軽口を叩き合っている横で、須美は一人、あの仮面の男と洸輔の関係性について考え込んでいた。

 

(久しぶり……俺達の関係はこうじゃないと。あの言葉の意味……そして、あの二人に何かしらの関係性があるのは確かであると言える……何か、掴めれば…)

 

スマホを確認して洸輔のいる場所に向かおうと、三人が動き出すと_____。

 

「あれ〜?あの仮面の人の反応、消えた……?」

「それに、これは……鎮花の儀」

「てことは、終わり?うわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜洸輔視点〜

 

 

 

 

〜三人がバーテックスを撃破する数分前〜

 

ガギィッと鈍い金属音が響き渡った。鍔迫り合いが続く中で、黒仮面が気の抜けた声でこちらに問いかける。

 

「所で、いいのかぁ?アイツらを助けず、俺なんか相手にしてて」

「君を野放しにしたら、彼女達を襲う。だったら、僕は君を抑えて、彼女達の負担を減らす。それだけだ、それと僕は作り物なんかじゃない」

 

兜を展開させると、視線は目の前にいる黒い仮面の男に集中した。挑発の言葉に、強気で返す。

 

「どうだかなぁ」

「…?」

「お前は、自分の事を全然理解できてないぜ?最初から、な」

「どういう意味だ、何か知ってるならとっとと言いなよ」

「はぁ……ちったぁ、自分で考えろよっと!」

 

黒仮面が強引に、鍔迫り合いを解く。奴の剣が怪しげな光を放ちながら、輝く。それを、黒仮面が勢いをつけ振るうと黒い波動のようなものが放たれた。

 

「君に偉そうに言われる筋合いは……ないってーの!!」

 

それを打ち消すように、雷撃が僕の周りを駆け巡る。雷撃が、波動を全て飲み込む。一歩を踏み出し、黒仮面との距離を詰める。両刃の剣を赤い閃光を迸らせながら、振り上げる。

 

「何っ!?」

「へぇ、大したもんだ。もうそこまで使えるようになったとはな……だが」

「ぐっ…ぁ…!?」

「あーあー、兜を閉じてりゃ、こうならなかっただろうに。馴れてないんだなぁ?本当にさ」

 

しかし、それは空振りに終わった。まるで読んでいたかのような動きで奴は一撃を回避した。馬鹿みたいに強い力で、首を掴まれる。

 

「ほらほら、どうする?早く逃げねえと、死んじまうぞ?」

「ぐぅ…ぅぅ…ぁ、ぁぁっ…!」

 

殺される、そう思った時、突然奴の手の力が緩んだ。苦しみを抑え、なんとか距離を取る。

 

「ちっ……まだ、残ってやがるのか?目障りな……」

 

自身の手を見つめながら、ぶつぶつと何かを言っている。その隙を、見逃さない。剣に、雷を移し広範囲に放つ。

 

「っ…!!」

「っと……危ない危ない」

 

しかし、それも一振りで掻き消された。息を整え、身を起こす。周りに雷を走らせ、警戒する。

 

「……そうだなぁ、じゃあヒントをやるよ」

「ヒント…?突然、なにさ」

「まぁ、何。少し揺さぶりでもかけてやろうかと思って、な」

 

カチャッとという音共に、顔を覆っていたバイザーを外した。奴の顔が、顕になる。

 

「ふぅ〜、どうだ?驚いたか?」

「……」

「その顔、予想はしてたって感じだな」

「最初ん時から、そんな気はしてた。信じたくはなかったけどね……」

「へぇ〜。で、感想は?」

「……なんで、またそっち()側になってるんだよ。『相棒』」

 

その言葉に、彼はいつぞやに見た時と同じ……下卑た笑みを浮かべた。

 

「また、ねぇ。何言ってやがる……俺は最初からこっち()側だぜ?『相棒』?」

「っ……てことは、君が今回の異変の原因なのか?」

「原因、ねぇ。そうとも言えるしそうではないとも言えるな」

 

曖昧な応答に、少し苛立つ。僕の苛立ちに反応してか、鎧からバチバチという音を響かせながら、雷が身を纏い始める。

 

「もう、いい。こうなったら、一旦動けなくさせてから。話をたっぷり聞いてやる」

「おお、怖い怖い。ま、俺もてめぇをぶっ殺したいから丁度いい……っと、思ったが。アイツらも来るとなると、四体一は流石に分が悪い。ここは引かせてもらおうかねぇ」

 

そんな事を言った矢先、奴の体は透け始める。最初に逃げられた時と……同じ_________。

 

「待ってくれ!!まだ、話は!」

「あばよ、『相棒』」

 

瞬間、花びらが舞い散り始める。同時に、視界は白で染まった。虚構に何度も手を伸ばす。折角、あの世界で分かり合えたと思っていたのに……例え悪感情から生まれたとしても……彼はもう一人の『僕』で、大事な______。

 

『■け■くれ。■を■放■てく■』

「へっ……」

 

最後に何か、大事な事が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜……いてて」

「ミノさん、大丈夫〜?ていうか、皆無事?わっしぃ〜?」

「私は、なんともないわ。まぁ、多少傷はあるけど…」

「良かったぁ〜……あれ〜こうくんは〜?」

「無事、だよ……なんとか」

 

少し離れた距離から、聞こえてきた園子の言葉に何とか反応する。すぐに芝生から、起き上がり三人の元へとゆっくり向かう。

 

「おー、洸輔〜お疲れ。アイツは?」

「……ごめん、逃げられた。捕まえられなくて、本当にごめん」

「いいんよぉ〜、宣言通りあの人をしっかり抑えててくれたんだから。お陰で、私達はバーテックスに集中できたし」

「っ〜なんか、こう。めっちゃ腰にくる戦いだった〜……あ〜あ、私がやってた事と言えば、上空から降ってきた足を防ぎ続けるだけとか、地味すぎる〜はぁ〜あ」

「でも、そのお陰で私が攻め込めたんだから。気にしないで〜」

 

銀のぼやきを、園子が優しく宥める。それを微笑ましく見守っていると、鷲尾さんが園子に問い掛ける。

 

「そのっちは、あの短い時間でよく決断できたわね。攻め込む時とか……」

「だって〜みのさんが、一分持つって言ったから一分は持つかなって。それぐらいあれば、何とか出来る〜と思ったから〜それに、敵は火力もあったし、長引かせたら危険〜ってね」

「じゃあ、天草くんの事にすぐに反応したのも…」

「うん、こうくんが抑えてくれるって言ってくれたから。それなら、絶対そうしてくれるんだろうなって」

「……!」

 

園子の言葉を聞いていく内に、鷲尾さんの表情が変わっていった。どうやら、何かに気づいたみたい(そんな気がした)そして、僕も園子の言葉を聞き、何で彼女が隊長に選ばれたのか。何となく分かった気がした。

 

「そのっち……すごいわね。貴方こそ、隊長よ、本当に」

「ここぞって時にやってくれるもんね」

「ひゅーひゅー、かっこいいぞぉ〜園子隊長〜」

「えへへ〜ありがとう〜」

 

僕らからの言葉に、園子は頬を染めていた。そんな仕草が可愛らしいなと思っていると、横から鷲尾さんに服の裾を掴まれた。

 

「ん?鷲尾さん、どうかした?」

「……ごめんなさい!」

「へっ?」

 

首を傾げていると、鷲尾さんが俯きながら呟き始める。

 

「私……信じられてなかった。ずっと心のどこかで貴方を疑って……」

「はい、ストップ。そこまでだよ、鷲尾さん」

「えっ?」

「言いたい事は、大体わかった。でも、気にする事なんてないよ」

 

今にも泣きそうな彼女の頭を優しく撫でる。どうにも、僕は女の子のそういう所に、弱い。

 

「鷲尾さんが僕を疑っていたのは、きっと二人の為だと思うからね。まぁ、実際に怪しいのは否定できないし、鷲尾さんの警戒心は間違いじゃないと思うよ」

「天草くん……」

「これからは、信じて頼ってよ。僕も、鷲尾さんのことガンガン信じて頼っちゃうからさ」

 

スッと前へ手を差し出すと、鷲尾さんが優しく手を握ってくれた。

 

「本当に、ありがとう。天草くん」

「こちらこそ!てか、これ何回目の握手だっけ…?」

「そういえば、この前も握手したような…」

「良かったなぁ〜須美ぃ〜?」

「良かったねぇ〜わっしぃ〜?」

「な、何よ、二人ともその顔は…」

「えぇ〜何って〜隙あらば、鷲尾さん家の須美さんが〜洸輔とイチャイチャするから〜羨ましいなぁ〜って。ねぇ〜、園子さん?」

「ねぇ〜ミノさん?」

「っ〜〜〜〜!!!二人ともぉぉぉ!!」

 

ひゃぁ〜っと園子と銀が逃げるのを、鷲尾さんが顔を真っ赤にしながら追いかけている。

 

そんな微笑ましい光景を樹海内での出来事を思い返しつつ、見ていた。




カッコつけてるつもりで得意になってぇ〜♪なんとなく、浮かんできました(^^)


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十章 友達なめんな

投稿が遅くなってしまい申し訳ありません、今回は本編の方を進めていこうと思います。タイトルから出る謎の胸熱感……今までで一番サブタイかっこいいかも(笑)
今回はわすゆ編からの新キャラでもあるあの子が活躍します。言っちゃえばオリキャラ回であります。(わすゆ編なのにわすゆ組が出てこない事になってしまい申し訳ない)


5限まである授業をなんとこさ、睡魔からの誘惑に耐え乗り切った。放課後、クラスメイト達が帰り支度をしている中で、机に突っ伏しながら考え事をする。

 

『お前は、自分の事を全然理解できてないぜ?最初から、な』

 

昨日の戦闘中にもう一人の自分から言われた言葉が、思い出される。異変のことについて、もっと考えるべきことがあるはずなのにこればかりが頭の中で何度も再生される。

 

「理解できてない……僕は、僕……だよな」

 

周りには聞こえないように小声で呟く。疑問は募るばかりで、解決した問題が少ない。ただ、時間だけがすぎているばかりな気がした。

 

しかし、焦るのも良くない。西暦ではその焦りが心の隙を生んで、大事な仲間達を傷つけてしまったのだから。

 

「でもなぁ……いって!?」

「さっきから話しかけてんのに何がでもなぁ〜だ、最近ちょっと可愛い女の子達に囲まれてるからって調子に乗るなよ〜?」

「えへへ〜」

 

デコピンを食らわされ、おでこを押さえる僕。友奈をまるで愛犬のように可愛がりながら、こちらに軽い非難を寄せてくる三枝。三枝の巧みな撫で方ににぱーっと微笑む幼馴染。「そうだそうだぁ!」や「あの三枝さんの言い方!まさか友奈ちゃん以外にも!?」などとすごい剣幕で僕を睨みながら、まるで反対運動をしている民衆の如く声を上げるごく一部分の男子達。

 

(ドウシテコウナッタ)

 

「どうしてこうなってるのかわからないのが、あんたの悪いとこだよ。少年」

「勝手に人の心の中読まないでよ、怖いから」

「洸輔くん!ドンマイだよ!」

「どこをどうとってのドンマイ!?」

 

怒涛のボケからのツッコミラッシュ。なんかちょっと面白くなってきたが、そんな時、教室の扉が開き担任の先生が入ってくる。同時にさっきまで騒がしかった教室は静かになると、帰りの会的なのが始まった。

 

いつも通りの流れで終わるはずが、担任のある発言から教室の雰囲気が先ほどとは違った騒がしさに包まれる。

 

理由としては、今日は来週行われるドッジボール大会の為に4.5.6年生の体育委員が体育館清掃を行うことになっていた。もちろん、このクラスからも出ることにはなっている。しかし、今日はその体育委員2人が休んでおり、欠員が出てしまったらしく、その代理をクラスの中から出したいそうだ。

 

だが、そんなことをいきなり言われた所で簡単に手が上がるわけもなく……。

 

「まぁ、そうなるわよね〜」

 

隣の席の三枝が呆れた声で呟いた。クラス中からも様々な文句が小声で聞こえてきており、軽い擦りつけ合いが始まっている始末である。先生も困り果てているようだ。

 

このままだと更に収拾がつかなくなるのは、目に見えている。無理矢理決めた所で、嫌な気分になる子も出てきてしまうだろう。そもそもこの帰りの会が伸びるの自体、皆んな嫌なはずだ。ならば、僕がするべきことは一つだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

少し間を開けてから、静かに手をあげる。

 

「僕、やります」

「おお〜!天草、助かるよ!あともう一人、誰かいないか?」

 

先生が明るさを少し取り戻しつつ呼びかける。僕の隣では、三枝と友奈が何やら話し込んでいる。

 

「珍しいね、友奈ならすぐ上げるかと思ってたけど」

「私もできれば助けたいけど……今日お母さんと約束してる事があって……ごめんね」

「……しゃあないか」

「裕子ちゃん?」

「はーい、私もやります〜」

 

気怠そうな溜め息の後、謎のにやけ顔を僕に向けながら、三枝は静かに右手をピンと挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後のチャイムが鳴ったと同時に、教室からクラスメイト達がどんどん消えていく。それを伸びをしつつ見ていると、友奈が申し訳なさそうにこちらに来る。

 

「うぅ……なんか罪悪感」

「なんで友奈が罪悪感感じるのさ、ほら、元気出す」

 

軽く頭を撫でてあげると、友奈は嬉しそうににぱっと笑った。友奈と一緒に帰れなくはなってしまうのが惜しいが、この笑顔が見れたのでヨシ!としよう。

 

「まぁ〜たイチャついてるね。たく、毎度毎度よく飽きないわ」

「頭撫でてあげてるだけだけど……?」

「んー!その、?って顔絶妙にむかつくぅ!」

 

悶えながら、すごい目で僕らを見てくる三枝。なにやら、今日の三枝は変である。

 

「裕子ちゃんもごめんね!」

「気にしないでよ、天草は私がしっかり見ててあげるからさ」

「……ありがとう」

「おっ?もしや……少し嫉妬してます?」

「へっ!?いやぁ……あっ!そろそろ帰らなきゃだから!そ、それじゃ!」

「ほいよぉ〜そいじゃね〜」

 

僕と三枝に軽く手を振りながら、友奈が半ば逃げる形で教室を出て行く。ちなみに一連のやりとりを聞いて、少し嬉しいような恥ずかしいような、変な感情に襲われていた。

 

 

 

〜洸輔視点out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜三枝視点in〜

 

 

体育館前に呼び出された、いわゆる雑務(最近覚えた言葉)を押し付けられた生徒達。人数はそこそこいるし、そんなに長くはかからないであろう。私と天草は体育館倉庫内の掃除と大会で使うためのボールを整理すること。

 

「はぁ〜まさか天草との初デートが掃除デートとはねぇ」

「デートでは無いでしょ」

「あら、冷静。ちぇー、もっとあたふたするかと思ったのに」

 

 と、そんなやり取りはどうでも良くて……私がわざわざやりたくもない雑務を引き受けた本当の目的に移らなくては。

 

「なぁ、天草」

「どしたの?改まって」

「なんかさ、あんた少し大人っぽくなったよね?」

「へっ、そうかな?」

 

首を傾げる察しの悪い男の子に向かって、無言で頷く。ここ数日、天草の事を見てきたがどこか変な落ち着きがあるように感じた。なんとなく、ただそう感じただけ。

 

それと、なんでかは分からないけど最近のこいつを見てるとすごい心配になった。だから、今その心配に感じる理由を探している。

 

「天草さ、なんでこれ引き受けたの?」

「話題思いっきり切り替わったね……そうだね、皆やりたくなさそうだったし、僕がやればいいかなって」

「……」

 

これだ、とすぐにわかった。次の言葉もすぐに出てくる。

 

「じゃあ…天草さ、その『皆』の中にあんたって入ってる?」

「……えっ?」

 

わからない、その表情を見るだけで天草が今そう感じている事がわかった。

 

「それってどういう」

「言葉のままの意味だよ」

「えと……」

「別にあんたを虐める為にやってるわけじゃないんだ。ただ、心配なんだよね」

「心、配?」

「うん、友奈もそうだけどさ。二人とも、いつも自分より他人でしょ?今日もそうだし、幼稚園の時も、小学校に入ってからもね」

 

二人は幼馴染であり、同時に似たもの同士でもあった。近くでずっと見てきたからわかる、友奈と洸輔は()()()()()()()()()()()

 

「怖いんだよね、なんか二人を見てるとさ。いつかどこか遠くへ行っちゃいそうで」

 

何言ってんだろ、私とかあー、私って何気にいつも嫌な役割になること多いなぁとか考えながらも目は天草の方をしっかり向いている。伝えるべき事を伝えるまでは止める気はない。

 

「最近だと、あんたは友奈よりも酷いと思うよ。ずーっと何か考え込んでるし、何かと苦しそうだし。悩みがあるならさ、少しは相談してくれてもいいんじゃない?」

「それは……」

 

天草が何も言えずに下を向いている。その表情にはどこか後悔しているような感じにも見えた。あーもう、こんな事を突然言ってごめんと、さっさと謝りたい気持ちでいっぱいだ。

 

「まぁ、無理して抱え込んでることを全部話してってわけじゃなくてさ。たまには、愚痴や弱音を吐いてみなよ。あんたは、自分で自分を苦しめすぎ」

「そ、そんなこと」

「あるよ、あんまし友達なめんなよ~?ましてや、こっちは幼稚園からの付き合いなんだ。ちょっとの変化でもわかるっての」

 

さっきまでの真面目な表情から切り替え、笑ってみせる。同時に天草の頬がほやりと緩んだ。その表情に少しドキッとする自分がいた。

 

「ありがとう、三枝。なんか、元気出たよ」

「ど、どーいたしまして、さぁてそれじゃどんなお返しをしてもらおうかねぇ?」

「そういうこと言わなければ、素直に尊敬できるのに」

「そこは普通に尊敬しろよぉ〜」

 

いつも通りのやり取りが交わされると、自然と私達は笑い合った。そんな一幕があった後清掃活動は問題なく終了し、私と天草は珍しく二人で下校することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきは、なんかごめんな」

「なんで謝るのさ」

「いや、何があるかは知らないけど天草にも色々あるはずなのに一方的に言っちゃって」

 

割と罪悪感でいっぱいだ。心配して言ったとはいえ、一方的に言葉を浴びせてしまったのだから。

 

「謝るのはこっちの方だよ、なんというか心配ばかり掛けてたみたいだし……ごめんなさい」

「私はまぁいいけど、友奈にも言ってあげなよ。あの子もずっと心配してたからさ」

「あー……申し訳ない」

「だーかーら、私には言わなくていいっての」

 

流石にしつこく感じてきた、あれ?罪悪感ってなんだっけ?二人で盛り上がっていたら、いつの間にか家の前まで着いていた。まじで、家まで送りやがったな、こいつ。

 

「そんじゃあな、天草」

「……」

「天草?」

 

私の方をじっと見つめていたかと思ったら、急に決心したかのような表情になり、変な事を言い出した。

 

「三枝、君がいてくれてよかった」

「……急にどした?」

「あ、いや、なんか、こう……三枝から、すごい大切な事を教えてもらったような気がしたから改めてお礼と思ったんだけど、あれ?僕何したかったんだっけ?」

「ぷっ……」

 

キリッとした表情からすぐにおどおどとした表情に切り替わったのが、おかしくて吹き出す。本当、なんなんだろう、こいつ。面白すぎる。

 

「ちょっ!笑わなくても!」

「わ、笑うでしょ、こんなの!ははは!」

 

涙が出るくらいまで笑った、今日は普段使わない表情筋をよく使っているからか、疲れるけどどこか楽しかった。

 

「はー、おっかしいのぉ〜」

「っ〜!じゃ、じゃあ!僕はこれで!」

 

顔を真っ赤にしながら、天草が私に背を向け歩いていく。その背中を見ながら、無意識に言葉が出てくる。

 

「私も、あんたがそばに居てくれて嬉しいよ」

 

どんな意味が篭っている言葉なのかは、自分でもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

〜三枝視点out〜

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〜天草視点in〜

 

 

三枝と別れた僕は、顔を真っ赤にしながら自宅への道を歩いていた。今思い返してもさっきのは恥ずかしかった、そりゃあ三枝も笑うよな。

 

苦笑いを浮かべながら、帰路を一人で歩いていく。そんな中で体育倉庫の中で聞いた三枝の言葉を思い返していた。

 

「友達なめんな、か。すごいな、三枝って」

 

素直に思った、中身は中学2年で年上の僕だけど三枝の方が全然大人っぽくてすごいと。

 

しかし、唯一三枝の言葉の中でどこかひっかかった一言があった。

 

『じゃあ…天草さ、その『皆』の中にあんたって入ってる?』

「『皆』の中……か」

 

帰り道、僕は何度もこの言葉に対する自分の答えを探したが満足なものは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日の光の届かない部屋の中に、カタカタという無機質な機械音だけが鳴り続ける。やがて、それが鳴り止むと一人の女性の深いため息が部屋に響いた。

 

「分からないことだらけね」

 

鷲尾須美達から安芸先生と呼び慕われている女性は、そうぼやきながらPCを見つめていた。

 

大赦内部では混乱が巻き起こっていた。その混乱の渦中にいるのが、天草洸輔という一人の少年。初の男性勇者であり、神樹様直々に援軍として送られてきた彼は現勇者はもちろん、大赦にとっても非常に頼もしい存在であることは確かである。

 

「しかし、先日の神託の内容……あれは」

 

混乱の火種となったのは、先日に届いた神託の内容だった。

 

『事と次第によっては、切り捨てる事も覚悟すべし』

「切り捨てる……何故?自らが送った増援なのに?」

 

現在大赦内部ではこの神託に対しての議論が上層部でなされているものの、満足な答えは出ていない。いや、そもそも出るはずがないのだ、何より天草洸輔という勇者に関する情報が少なすぎる。

 

何故、彼は私達に渡される前から勇者システムを?何故、勇者になれないはずの男性がなれている?何故、私達は彼という存在を知らなかった?何故、何故、何故?

 

何故、その言葉に縛られる。

 

「そもそも彼は本当に勇者、なのかしら?いや、もっと言うと彼は……」

 

次の言葉が出てくる前に、首を振って思考を切り替えた。そんな事はきっとないだろうと内心で繰り返す。

 

合宿のあの日、あんなに真っ直ぐな目で曇りのない言葉をつたえてくれた彼を疑うなんてどうかしている。

 

自分に言い聞かせるように、私は呟く。

 

「そうよ、彼は……あの子達と同じ勇者なんだから、私だけでも信じてあげなくちゃ……」




いかがでしたでしょうか?徐々に不穏さが増してきているわすゆ編、書いているこちらもドキドキであります。三枝ちゃんについてももう少し掘り下げたいと考えています。それでは、次回の投稿でお会いしましょう〜!


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十一章 休日

明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!

初投稿はわすゆ編最新話です!今年も相変わらずな作者やこの作品をよろしくお願いします!そろそろ、話も歯車が動き始める頃!一体皆の運命はどうなってしまうのか!楽しんでいただければ幸いです!

まぁ、今回は日常回なんですけどね(おい)


「116、117、118……ん?」

 

三枝とのボランティア活動の一件から次の日、突然スマホに着信が入った。

 

「はい、もしもし」

『あ〜!こうくんでた〜ハロハロ〜』

 

まったりとしているがどこか楽しそうな園子の声が電話越しから聞こえてくる。

 

「こんにちは、んで園子、急に電話なんてどうしたの?」

『こうくんの声が聞きたくて〜我慢できずに掛けてしまったんよ……』

「は、恥ずかしいからやめてって……ほ、本当は何?」

『恥ずかしいって思ってくれるんだ〜嬉しいなぁ〜。あ、本題はね、折角のお休みだし、皆で集まって遊ぼうぜぇ〜!フゥ〜!イェー!』

 

すごいハイテンションだな、これはまた……何やら一波乱ありそうな。

 

「いいよ、丁度暇だったし……あ、でも、僕そっち行くのに少し時間掛かるけど、大丈夫かな?」

『あ、それなら心配ないんよ〜窓の外を見てご覧〜』

「窓の外?一体な……」

 

言われた通りに窓の外を見ると、明らかに高そうな黒い高級車が見えた。車の中から笑顔で手を振ってくる園子、銀、少し控えめに手を振っている鷲尾さんの姿が目に入る。微笑ましい……確かに微笑ましいが……。手を震わせながら、なんとか恐怖を抑えつつ質問する。

 

「ねぇ、園子」

『なーに?』

「僕さ、園子に家がどこにあるかは詳しく教えていないはずなのだけど……なんで家がここってわかったの?」

『……』

「あの……園子さん?」

『どうやって私がこうくんの家を調べたか……ホントォに知りたい?』

「いいえ、結構です。すぐにそちらに向かいますのでこれ以上私を怖がらせないでください」

 

我ながら情けない言葉をよくまぁそんな連発できたものだなと呆れる。しかし、これ以上は立ち入ってはいけない話題な気がした、怖気付くのも無理はない。脳が危険信号を発しているからね、仕方ないね。

 

『それじゃ、待ってるねぇ〜ミノさん達も待ってるからお早めにぃ〜』

「了解です、すぐ向かいますぅ!!」

 

その言葉の通り、僕は爆速で準備を終わらせて部屋を出た。多少の恐怖に心が支配されかけていたものの、3人と遊べる事へのワクワクの方が大きく、僕は浮かれていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

そんなこんなで場所は打って変わり、大豪邸乃木家、客室部屋へと移る。現在ここでは園子の独断で、銀の着せ替えショーが行なわれている。

 

「こ、これは……アタシには似合わないんじゃないかなぁ〜……なんて」

「そんな事ないよー!ねぇ、こうくん!わっしー!」

 

照れた様子で頰を掻きながら、銀はもじもじと恥ずかしそうにしている。今の銀の格好は所謂ドレス姿、普段の男勝りなイメージとは裏腹に女の子らしさを全面に押し出したものとなっている。胸元に白色の大きなリボン、花柄の髪飾り、彼女のイメージカラーである赤……その全てが完全なる調和を生み出している。

 

はっきり言おう、めちゃくちゃ可愛い、そして似合いすぎている!自分に自信を持つんだ、銀!その可愛さは、女神にも匹敵する!」

「なぁ!?洸輔……お前、何言って……」

「はぇっ?あっ!声に出てた!?」

「なるほど〜相変わらずこうくんは期待を裏切らないねぇ〜わっしーは…」

「ブハァァァァァァァ!」

「ウワーソンナダシカタスルヒトハジメテミター」

 

どういう鼻の構造をしていたら、あんなに鼻血を大噴射できるのか……てか、あれ出血多量で倒れない?てか、真上向いてるのに何故そんなに的確な撮影ができるんだ!?

 

「フフフ……とっても似合っているわよ、銀」

「わ、鷲尾さんが今までにないほどの邪悪な笑みを……」

「わっしー……ノッてきたね!」

「ええ、ここからはノリノリでいくわよ!にしても、このこみ上げてくる気持ちは……一体なんなのかしら!」

 

なるほど、美森もたまに友奈の事になるとこういう事があったりしたが……この時代からだったのか、恐るべし。しかし、いつの間にそんな高性能そうなカメラを取り出していたんだ……まじでプロみたい。

 

「わ、鷲尾さん、とりあえず鼻血拭こうか」

「ありがとう、天草くん……いえ、副監督」

「鷲尾さんが壊れてるぅぅぅ!」

「いいねいいねぇ〜最高だねぇ〜わっしー!プロみたいで素敵なんよぉ〜!」

「写真は愛よ!銀、色々な服を着た貴女を満足するまで撮り尽くすから、覚悟なさい!」

 

あれ?鷲尾さんは今日来ていないのかな?おっかしーなぁーさっきまでいた気がするんだけどなぁ(現実逃避)

 

「ちょ、ちょっと待て!当初の予定と違うじゃん、園子!須美を着せ替えしてやろうって……」

「これも運命だよ、ミノさん」

「園子ぉぉ!!こ、洸輔は!」

「すまない、僕は副監督だから……」

「敵しかいないじゃんかぁぁ!!」

 

諦めたまえよ、もはや君に退路はないのだ。そうして、銀の着せ替えショーが始まった。

 

 

〜数分後〜

 

「むーっ……」

 

あの後、散々弄ばれた(言ってるけど、僕も共犯)銀は体育座りで頰を膨らませつつ、不満そうにうめいている。ちなみに服装は一番最初のドレス姿に戻っている。

 

「良かったわ……」

「何がだよ!?」

「まぁまぁ、銀、落ち着いて。で、園子、そろそろイネスに出かけるの?」

「ううん〜イネスにも行くけど〜先にわっしーとこうくんの着せ替えもしないとぉ〜!」

『はい?』

 

安堵し切っていた所に突然、矛先が向いてきたので二人して間抜けな反応をする。その発言を聞くや否や、銀の目が光った。

 

「ほうら、二人とも!そうと決まったら、着替えて!」

「ぎ、銀!?」

「ぬぅぅ……はめられたか」

「はっはっは、よくも散々弄んでくれたな〜?今度は私のターンだ」

「とりあえず、わっしーにはこれ!こうくんにはこれかな?」

「ひっ、嫌よ!そんな非国民みたいな格好!」

 

園子から差し出された服を見て、鷲尾さんが叫ぶ。服見て、非国民みたいな!なんて言う小学生は恐らく鷲尾さんくらいだろうなぁ……というか、僕と鷲尾さんは一着だけなんだろうか?

 

「わ、私は断固として拒否」

「ええい、往生際の悪い!そぉれ、着せてしまえー!」

「ひゃぁぁぁぁぁ!!」

「はいはい、こうくんは隣の部屋で着替えてね〜」

「えっ、早っ!ちょっ!」

 

園子に背中を押されて、隣の部屋へと移動した。まぁ、紳士だからね、生着替えは見るわけにはいかないしね

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おおっ!いいじゃーん、須美!めちゃくちゃ似合ってるよ!」

「うんうん、お姫様みたーい!」

「だ、ダメよ……こんな、非国民みたいな衣装は……」

「そんな事言わずにさ!ほら、洸輔も見てみろ……って」

「うーん、こんな感じでいいのかな?」

 

慣れない服装に苦戦しながらも、なんとか着替え成功。最初は恥ずかしかったが、案外着てみると悪くない。多分これは……カーゴシャツかな?首に巻かれているのは幻想的な青い色をしたストール、そして極め付けは眼鏡。なんか、シグルドさんに憑依されてから眼鏡と縁がありすぎではなかろうか……。

 

「おおっ……」

 

鷲尾さんのドレス姿に目を奪われる。いつもは大和撫子の雰囲気を思わせる彼女だが、衣装を変えた事で雰囲気も変わり、お淑やかな淑女という言葉が当てはまる感じに仕上がっていた。

 

「天草くん?」

「あ、ああ、ごめん!見惚れてたよ、綺麗だね、鷲尾さん」

「あっえっ、あ……ありがとう。そ、そういう天草くんも……その、カッコいいわ」

「そ、そう?その……ありがと」

 

鷲尾さんから、かっこいいと言われ頬が熱くなる。まさかそこまで褒められるとは思わなかったから、少し恥ずかしい。

 

「すっげぇ、園子の言う通りだ……服違うだけでこんなに印象変わるんだ」

「僕も自分で驚いたよ、こんなに変わるんだなって」

「……なぁ、一回メガネキラーンって言ってもらってもいい?」

「えっ、何故に?」

「いや、なんか言わせないといけない気がして」

「まぁ、言うだけならいいけど……メガネキラーン!!」

「ふっ…」

「銀?やらせておいて鼻で笑うとはどういう要件かな?(怒)」

「ご、ごめんごめん!あまりにも真顔でやるもんだから、つい」

 

銀に軽く説教していると、園子が横からスッと飛んできた。その目は光輝いている。

 

「んー!流石、こうくん!私の目に狂いはなかったんよぉ〜!」

「あ、ありがとう……でも、これは園子のセンスがいいからだよ」

「いやいや〜それほどでもぉ〜あ、そうだぁ〜そういえば、こうくんにやってほしい事があるんだけど〜」

 

ちょいちょいっと園子に手招きされ、近寄っていくと台本のようなものを渡される。

 

「これは?」

「私がこの日の為に考えた台詞集だよぉ〜今日はその衣装で〜二人にこの中にある台詞を言ってほしいなぁーって。あ、わっしーにはこの台詞で、ミノさんにはこっち!」

「えぇ……色々突っ込みたいけど……えと、まず、拒否権は」

「ないよぉ〜」

「デスヨネェェェェェ!!」

 

発狂に近い悲鳴をあげる、どうして勇者部でも、どこでもこういう役回りが僕は多いのか。園子のことだ……小説のネタにでもしようとしているのだろう。

 

「ほらぁ〜早速わっしーに言ってきて!」

「いや、待った、よーく考えよ?ほら、そろそろイネスに行こう?ね?」

「頑張ってねぇ〜」

「畜生!話聞いてないよ、この子!」

 

逃げ道はない、恐らく逃げようとしたら園子のなんらかの力で僕は消えてしまうだろう(?)いや、別に嫌なわけではない、単純に僕の理性が持たない的な問題が強いのだ……半ばヤケクソ状態で、まずは鷲尾さんの前に立つ。

 

「ねぇ、天草くん、そのっちと何を」

「鷲尾さん……先に謝っとくね、すまない」

「えっ?」

 

キョトンとする鷲尾さんを置いてけぼりに、腹を括った僕は先程覚えた台詞を頭の中で復唱しつつ、彼女の目を真っ直ぐ見つめた。

 

「あ、あの……」

「ここにいたか、我が愛、鷲尾須美よ。あまり我の元を離れないでほしい、おまえにはずっと傍にいて欲しいのだ」

「ふぇ…へっ、えっ?」

「よ、よーし、こ、これでどうだ!」

 

顔を真っ赤にしていた鷲尾さんから離れると、近くにいた銀が口をパクパクさせながら驚いている事に気づく。

 

「こ、洸輔……お前、園子に何言われたんだ?」

「えっ?さっきみたいな台詞を、二人に言ってこいって」

「は、はぁぁぁぁ!?て、てか、須美!?大丈夫か!?」

「ふわぁ〜……」

「あー、えっと……園子、どうだった?」

「想像以上なんよ!ビュオオオオオ!アイデアがガンガン湧いてくるぅ!!」

 

園子が更にハイになっている事に多少呆れつつも、顔を真っ赤にしてフラフラしている鷲尾さんに手を差し伸べた。

 

「鷲尾さん、大丈夫?」

「は、はひ……だ、大丈夫……ですぅ」

「待って!今、洸輔が行くのは逆効果」

「あっ…」

 

倒れそうになった鷲尾さんを正面から自身の体で受け止める。若干、抱きつくような形になってしまったが、彼女に怪我がなくて安堵する。

 

「おっと、危ない。慣れない服装だし、気をつけてね?」

「は、はわわわわ!!(ボフン!)」

「あ、爆発した……」

「あれ?鷲尾さん?鷲尾さーん?」

「こうくん……罪な男の子」

「はい?」

 

言葉の意味がわからなくて、首を傾げる。そこに園子からお呼びがかかる。

 

「さぁて〜次はミノさんの番だね〜」

「待ってくれ、園子!わ、私はパスで……」

「えぇ〜ミノさんはやられたくないの〜?」

「きょ、興味がないわけじゃないけどさ!で、でも、恥ずかしいというか……」

「こうくん、出番だよぉ〜」

「園子!?」

 

あたふたしている銀の前に立つ、もはや僕の中では早く終わらせる為には園子の言うことを聞くのが一番という思考に落ち着いてしまっていた。つまり、感覚麻痺である。

 

「大丈夫、銀、時間はかけさせないから……」

「そ、そういうのもやめてくれよ!緊張するじゃん!」

「落ち着いて、銀、これは演技、そう、これは演技」

「……すぅ、これは演技……うぅー!よし!来い!」

 

顔を赤くしながらも、僕の目を真っ直ぐと捉えている銀の瞳。そんな彼女から感じる覚悟により一層力が入る。

 

自然と手が伸びて、銀の顎をクイッと優しく持ち上げる。彼女の口から漏れる吐息に少しドキドキしつつも、続ける。

 

「我が愛、三ノ輪銀よ……その服、よく似合っているぞ。やはりお前は何を着ても美しいな」

「……」

「よし!これで……あれ?銀?」

「うつく、しい…ぁー」

 

銀の反応がとりあえずヤバい、顔真っ赤でずっと上の空だし……なんかすっごい罪悪感に駆られてるんだが?

 

「傍に……傍に?いて欲しい?わ、私に!?」

「ぁ……はは」

 

(じ、地獄絵図……す、すまない、二人とも)

 

「こうくん……」

「はい、何でしょうか?」

「次はわたしにもお願い〜」

「……わかった、もう何も言うまい。でも、どうなっても知らないからね!」

「お〜こうくん強気ぃ〜」

 

嬉しそうに次の行動を待っている園子に呆れながらも、この状況を作り出した元凶に一泡吐かせてやりたいという謎の気持ちが膨れ上がる。

 

(何か、園子を驚かせられるもの……そうだ!)

 

「失礼する」

「こうくん!?お、お姫様抱っこは」

「これはいいな、我が愛よ。この距離でならば、おまえの美しい顔をずっと見ていられる。それに……キスをすることも容易いな?」

 

恥ずかしくはあるが、最大限顔を近づけつつ小声で囁いた。若干、僕自身の脳からもエマージェンシーコールが鳴り響いていたが最後までやりきる。

 

「ど、どうかな!その……こ?」

「も、もう……だ、だめ、かも…」

 

さっきまでハイテンションだった園子は何処へやら。僕にお姫様抱っこされている彼女は完全に縮こまって、しおらしくなってしまった。

 

 

 

 

 

気づいた時には、僕達四人はイネスへと向かう車の中にいた。皆何も話さず意気消沈としてた所為か、運転をしていた乃木家の使用人さんがずっとあたふたしていたのが印象に残っている。ごめんね、運転手さん……ごめんね。

 

こんな感じではあるが、僕ら四人の休日はもうちょっとばかり続く。




ちなみに今回、洸輔くんが着ていたのはFGOにおいてシグルドの霊衣解放として扱われている『我が愛との思い出』です、めちゃんこイケメンなので一度は見てみてください。


天草洸輔は勇者である 次回『平穏を壊す者』お楽しみに!



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十二章 平穏を壊す者

タイトル詐欺(小声)


「てなわけで!やってきたぞぉ〜イネース!」

『イェーイ!』

 

車の中でのテンションを吹っ飛ばすかのように、両手を天高く振り上げる園子、銀、僕の三人。

 

「相変わらずの騒がしさね……はぁ、三人とも、元気なのはいいけど他のお客さんに迷惑をかけないようにね?」

「……」

「どうしたの?」

「いや、今の言い方お母さんみたいだなって思って」

 

息子や娘を優しく見守りつつ、注意するべき時はしっかりするお母さんのオーラを鷲尾さんから感じた。四国よ、これが母性だ。

 

「まぁ、なんてたって須美は私と園子のお母さんでもあるからな」

「私がいつ二人の母親になったのよ」

「あ、そっか。今は洸輔のお母さんでもあるもんな」

「そういう事じゃなくて!」

「……えと、あ、す、須美お母様?」

「天草くん!?無理に銀の悪ノリにのらなくていいから!」

 

鷲尾さんがあたふたしながら、的確にツッコミを入れていく。なんとなくだけど、園子と銀が鷲尾さんを弄っている理由がわかった気がする。この子、反応が面白い。

 

「そんな冷たい事言わないでよぉ〜わっしーママ〜」

「そのっちもノらないの。全くもう……ほら、まずはお昼ご飯を済ませましょう?」

 

優しい表情、大人びた立ち振る舞い、そして僕らを諭すような言葉。いやこれはまさしく

 

『須美ママ〜!』

「三人で声を揃えて人のことママ呼ばわりしない!」

 

とは言っているものの、僕達を先導しフードコートへと向かう鷲尾さんの後ろ姿は紛うことなきママであったとさ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜園子の夢〜♪
         

 

「そのっち、私……アイドルになる覚悟を決めたわ!」

 

『おお!(銀&園子ボイス)』

 

「勿論、そのっち、銀も一緒よ!……はっ!でも、天草くんが」

 

「心配無用!!」

 

「その声はこうくん!って、何その格好可愛い!」

 

「僕……ううん今の私は天草洸輔じゃない!この場においては、みんなと一緒に一人のアイドルとしてステージに立つ……天野結(あまのゆい)よ!」

 

「私達と一緒にステージに立つ為に……そこまでするなんて、ロックだな!洸……いや、結!」

 

「役者は揃ったわ!皆、行くわよ!」

 

こうして、私達四人のアイドルによって行われたライブは勇者的な盛り上がりを見せ、幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ていう夢を見たんよ〜♪」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

「ねぇそのっち、お客さんはいっぱい入ってた?」

「そこ気にするとかロックだな!洸輔はこれ飲んで落ち着け」

 

場所はフードコート。現在、園子が今朝見た夢の内容を皆で聞いている所である。衝撃的な内容を聞いて、喉にうどんが詰まりかけたが銀から手渡された水によって難を逃れた。命の恩人感謝永遠に。

 

「いやぁ〜みんな可愛かったなぁ〜♡特にこうくんが新鮮でね〜」

「お主の夢に出てきた僕の皮を被った新キャラは何?天野結って誰?」

 

夢の内容的に考えて、僕は三人のP的ポジの筈なのに夢の中の僕は何をやってるんだ。天野結って……ノリノリじゃないか。

 

「こうくんの女装バージョンかな〜天野結は多分……芸名的な?」

「知らない所で、人を辱めるのやめてぇ!」

「辱めてないよ〜こうくんも容姿を見たら絶対可愛いって言うと思うし。よーし、少し待ってて」

 

自身ありげに園子が鞄の中からスケッチブックとペンを取り出して、絵を描き始める……●ズーが持ってる鞄並みに魔法の鞄してるじゃないか、その鞄。

 

「こんな感じだよ〜」

「あら、可愛らしい」

「ほんとだ!これ、実際に洸輔が着ても似合いそうじゃない?(ニヤニヤ)」

「ウェ!?い、嫌だよ、ただでさえ気にしてるのに…のに…」

 

僕に電流走る。スケッチブックに描かれていた夢の中での僕の姿……黒髪ロングポニテで、服装は白ワンピ……ふむふむ。

 

「園子」

「ん〜?」

「認めよう、確かにこれは可愛い」

「でしょー?」

 

女装がどうのこうのはともかくとして、この容姿を思いついた園子と彼女の夢の中の僕には賞賛を送るべきである。

 

よくぞこのような素晴らしい容姿で現れてくれた、ナイス天野結。そして、ポニテ最高。

 

「じゃあ女装」

「しません、女装はしません絶対に」

「絶対似合うと思うんだけどな〜。ねぇ〜二人も興味あるよね?」

「まぁ……少し興味はあるかも」

「さっきは私達が恥ずかしい想いしたし、今度は洸輔の番って意味でも……」

「だぁぁぁ!ほ、ほらぁ、そんなことより皆うどんが伸びちゃうよ!急いで食べよ!?」

 

僕の言葉を聞いた途端に、三人の意識が一斉にうどんに向いた。美味しいだけじゃなくて僕のことを救ってくれるなんて、本当大好きうどん。

 

(にしても、女装ねぇ……天野結、黒髪ロングポニテ、白ワンピ……興味がないと言ったら嘘に)

 

「じゃあ、やってみる?女装」

「人の心を読まないで!?」

 

満面の笑みでうどんを啜る園子。改めて、この子の恐ろしさを痛感した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、本屋さんへと移動した僕達四人。品揃えがかなりよろしいのか、本の量が近場にある書店の倍以上ある。流石イネスと言っておこう。

 

「洸輔〜欲しいの決まった?」

「うん、僕はこの押し花図鑑かな。そういう銀は?」

「私は絵本だよ、弟達が喜んでくれるかなって思って」

 

照れ臭そうに頬を掻きながらニコッと笑う銀。銀の新たな一面を見て少し嬉しかった。

 

「僕、銀のそういう所好きだよ」

「は、はぁ!?おおお、お前何言って!?」

「普段男勝りだけど、時に見せる姉としての一面がいいなって思って」

「わざわざ解説しなくていいから!はぁ〜……」

 

両手をあたふたさせながら動揺している。別に何か変なことを言ったつもりはなかったんだけど。

 

「ふふん、いい雰囲気だね〜ミノさん」

「園子!?須美も!いたなら早めに声掛けてくれよ!」

「あんな雰囲気じゃ積極的に入っていけないわよ……」

「それは……うん、確かに」

 

意気消沈としている銀の肩に優しく手を乗せる鷲尾さん。なんかあったのだろうか?

 

「僕と銀は欲しいの決まったけど、二人は?」

「私はこれにしたんよぉ〜♪」

 

ニコニコしながら、園子が見せてくれたのはなんかよくわからない猫やらニワトリが楽しそうに踊っている様子が描かれている絵本だった。

 

「……これは?」

「なんすか?園子さん」

「可愛いでしょ〜?この猫さん、サンチョに似てるからついつい手に取っちゃたんよ〜」

「な、なるほど?え、えーと……鷲尾さんはどんな本に?」

「私はこれ!日本の軍艦超全集!あらゆる戦艦の記録……勇姿が記された究極の一冊!お気に入りのページとしては、この翔鶴型航空母艦の二番艦である瑞鶴について触れ以下略」

 

丁寧に説明してくれた鷲尾さんを見て、自分は失敗してしまったよと園子と銀にアイコンタクトで伝える。そうだ、聞くまでもなかったっけ……(チーン)

 

「す、須美ってそういうのめちゃくちゃ詳しいよな」

「ええ!私の夢は、歴史学者さんだから」

「夢まで真面目だ……」

「三人は、何か夢はあるの?」

 

突然の質問、急な事に驚いていると横にいた園子が声をあげた。

 

「私は小説家とかかな〜、時々サイトに投稿したりしてるし」

「あー、なんか分かるかも」

「独特な感性を持ってるものね」

 

三人の視線が園子の持っている本に向く。もはや理解をする事こそが大罪な気がする。そう、園子様の感性は園子様だけのものだ(?)

 

「二人にも私の小説に登場させたいなぁ〜優しく頼れるミノさんに、真面目で時々面白いわっしー」

「と、時々面白い?」

「つまんないよりいーじゃん!てか、洸輔は?」

「あーこうくんはもう小説に登場してるんよ〜」

 

園子に呼ばれなくて拗ねていたら、もう登場しているのか。一体どんなキャラで

 

「昨日投稿したんだけど、女装大好きな男の子で〜……」

「どうしてだよぉぉぉぉぉ!!!」

 

何故よりによってそっちなのか。愕然とする僕に向かって、鷲尾さんと銀が南無三と言いたげな表情でこちらを見ている。そろそろ、泣くぞ?

 

「えーと……では、銀の夢は?」

「幼稚園の頃は皆や家族を守る美少女戦士になりたい!って思ってたかな?」

「分かるわ!お国を守る正義の味方!憧れるわよね!」

 

なるほど、この時点で国防仮面になる流れは組まれていたのか……と納得しつつ、銀に疑問を投げ掛ける。

 

「じゃあ、今の銀の夢は?」

「えっ……あー、その、えーとぉ」

 

質問に対して、銀は顔を赤くしながらもじもじとしている。

 

「なんで、照れるのぉ〜?」

「今の夢は……そのさ、か、家族っていいもんだから……普通に家庭を持つのってアリかなって思ってて……えと、あー、つまり、お、お嫁さん……かな?」

「……」

『お、、おおおお!!』

 

瞬間、園子と鷲尾さんが銀に抱きつく。

 

「み、ミノさんならすぐに叶うよー!!」

「えぇ、ええ!白無垢がとても楽しみだわ!」

「きゅ、急になんだよ〜くっつくなって〜……って、洸輔はなんで固まってるんだよ」

「いや……その、すごい素敵な夢だなってさ。そんなに長い時間一緒に過ごしてきたわけじゃないけど、自信を持って言えるよ。銀、君はきっと素敵なお嫁さんになる」

 

本心だった。心の底から……銀の夢を素敵だと感じた。同時に忘れていた……いや、背けてきた彼女のこれから先に起こる運命を想い胸が締め付けられる。

 

(銀……君は)

 

「ううう……うがしゃー!!」

「ぎ、銀!?お、落ち着……背中イタァ!!」

 

一人で考え込んでいた所に銀の拳が炸裂ぅ!もはや、どこぞのテリーさん並みの拳なんだが?

 

「こうくん、流石だねぇ〜(ニマニマ)」

「慣れつつあるわね……では、天草くんには銀を宥める役を任せつつ、夢についても聞いてしまいましょう」

「仕事が多い!?んー、そう言われても……夢、なんて考えた事なかったな」

 

目の前のことに精一杯で、将来の事なんて考えたこともなかった。少し、羨ましい……この3人にはそれぞれなりたいものがある。

 

僕にはなりたいものはない……けど、胸の中に秘めているものはある。

 

「大切な人達がいる場所を守りたい……今の僕の夢はそれ、かな」

「こうくんらしいね〜」

「ええ、天草くんらしい真っ直ぐな夢だと思うわ」

「だな、なんつーの?こういう時の洸輔は同年代って感じしないよな」

「ほ、褒められてる……のかな」

 

急に気恥ずかしくなり、頰を掻く。こう、僕の周りの女の子達は真顔できっちり褒めてくれるからこういう場面での反応には毎回困るな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

数時間後、本屋を出てからも色々な場所を回った僕達は帰る前にとフードコートへ再度寄り、ジェラートを購入。

 

帰宅しなければならない時間なので、園子が迎えの車を頼んでくれた、と、いうわけで今は車のある場所まで移動中である。

 

「にしても、園子だけずるくない?なんでそんなに盛ってもらってるの?」

「えへへ〜ラッキーだったんよ〜」

「流石……乃木家の力」

「私達は普通盛りなのになぁ……」

 

よく分からないが、園子だけが多くジェラートを盛られていた。これは……乃木家パワーというのだろうか。てか、ジェラートモウタベオワチャタヨ。

 

「にしても、いや〜今日は遊んだ遊んだ!」

「また、皆で集まりたいな〜」

「警戒態勢復活までもう少し日があるし、あと一回くらいなら皆で集まれそうね」

「その時はこうくんには天野結ちゃんに変身してもらわないとねぇ〜」

「その時は欠席してもよろしいでしょうか?」

「ククク、どの口がそれを言ってるのかな?」

 

まるで悪徳業者のような笑みを浮かべながら、園子が肩を掴んでくる。やめて!これ以上僕の純情を弄ばないで!

 

「そのっち、調子に乗らない」

「えへへ〜ごめんなさーい……っ?あれ〜?こうくん、図鑑は?」

「え、図鑑ならここに…あれ?」

 

おかしい、購入したはずの本が手元から無くなっている。やけに軽いなと思ったら……。

 

「あー、ごめん、置いてきちゃったみたい……」

「まじ?場所とか覚えてるか?もし、覚えてないようだったら私達も探すの協力するけど」

 

銀の言葉に園子と須美も頷いている。優しさに癒されつつも、失くした場所には覚えがある為、三人には先に車の方へと向かってもらい、僕は来た道を戻ることになった。

 

イネスへと戻っている最中にふと思う。状況は状況だけど……こうして彼女達と『平穏』な日常を過ごせて嬉しいと。

 

(守らなくちゃな、あの子達の日常を)

 

考え込んでいると、イネスの前にある広場を通り掛かった辺りで小学一年生くらいの男の子が泣いているのを発見。周りにはその友達らしき、子達もいる。

 

三人を待たせているのは承知の上……しかし、この場面は勇者部の一員として見過ごせなかった。

 

そうだ、僕があの子を助けないと

 

「君、どうしたの?」

「風船が……飛んでちゃって」

 

男の子が指を差した先には、風船がふわふわと浮いている。

 

「ちょっと待っててね、お兄ちゃんが取ってくるから」

「ぇ……でも」

 

言いたい事は分かっている。あんな高さ、届かない。小さな子供でも分かる事、そう思うのが普通の場面だ。でも……人間ではない()()()()()

 

「……すぅ、よっ!」

 

一瞬の出来事。足に力を込め……跳躍する。さっきまで目では捉えられるものの、遠くにあった風船が今は目の前にある。どうやら、届いたようだ。風船を回収し、コンクリートの地面に向かって落ちていく。

 

そのまま何事もなかったかのように、着地する。少し足がビリビリするものの、気にする程のものでもない。

 

「はい、もう離さないようにね」

「……あ、ありがとう!」

 

最初は不思議そうな顔をしていたものの、風船が戻ってきた事に喜ぶ子供達。それを見て、自然と笑顔になる。

 

「お兄ちゃんすごい!」

「今のどうやったの!?」

「体、強いんだね!」

「すごい動き〜!()()()()()()()()()!」

「……えっ?」

 

子供達の中からあがったその言葉を聞いた瞬間、体全身に寒気が走る。()()()()()()()

 

勇者に変身してもいないのに……なんであんな力が出せた?いや、そもそも、何故あんな力が出せた事に疑問を持たず行動していた?どうして、出来るという確信を持っていた?

 

内から込み上げる疑問と畏怖の感情を抑え、なんとか笑顔を作って子供達と別れた。

 

その場に、一人立ち尽くす。三人を待たせているから……急がなくてはならない。けど、体が動かなかった。

 

「もう、足痺れてない……どうなってるんだ、僕の体」

 

先程の一連の行動を行なっていた時の僕は明らかにおかしかった。疑問を持つまで……僕は自分のした行動を当たり前のことだと思っていたのだ。

 

「一体……何が」

「へぇ〜、思ったよりも()()()()()()()みたいだな」

 

背後からの発せられる声を聞いた瞬間、体が強張る。勘弁してくれよ、なんでだ、ここは結界内……彼がここに出て来れるはずが。

 

「言った筈だ。俺はお前の影、お前がいる限り俺はどこにだって現れるってな」

 

ああ、最悪だ……こんな形で三人との平穏で楽しい時間を壊されるなんて思っていなかった。半ば諦めるように、振り向く。

 

「よう、『相棒』……折角だ、少し話でもしようぜ?」

 

視線の先には、もう一人の(天草洸輔)が口を三日月型に吊り上げ、下卑た笑みを浮かべて立っていた。




不穏不穏不穏!怪しい感じ満点〜。最初は割と明るめ!後半は……だいたいそんな感じ〜の十二章!でした!楽しんでいただけたなら、幸いです!女装した天草くん、いや天野結……いつか番外編で登場させなきゃ(使命感)


天草洸輔は勇者である 次回『一つの真実 眠る力』お楽しみに!


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十三章 一つの真実 眠る力

お久しぶりです(超土下座)
と、とりあえず本編をどうぞ。諸々のことは後書きで語ってるので…



『こうやって顔を合わせるのは、あっち(西暦)以来だっけな』

 

 不穏な雰囲気を纏った僕の分身がこちらに歩み寄る。声色は優しげだが、自分の瓜二つの顔に貼り付けられた胡散臭い笑顔がこちらの警戒心を高める。

 

『冷たいな、西暦での時みたいに仲良く話そうぜ』

 

 彼は飄々とした態度を崩さない。さっきまでの自分に対する畏怖の感情は一旦捨て、目の前の事に集中する。

 

「なんで…君がこっちにいるわけ?」

『ああ、お前が話してるのは()()()()じゃないぜ?結界内にはもう入れねぇし、何せ神樹からすりゃ俺は裏切り者ってやつだからな』

 

 本物の俺じゃない、きっと西暦の時と一緒だ。予兆はなく、僕がいる場所ならどこへでも現れる、そういう風に()()()()()()()

 

(話はしたい…けど、今の彼が突然襲ってこないとも言い切れない……まずは皆に連絡を)

 

『したら、イネスだっけ?あれの中にいる人間全員殺すが……それでもいいなら、好きなようにしろ。最も、お前がこういうのに滅法弱いのがわかっていってるんだがな』

 

 ヘラヘラした表情は消え、感情のなくなった瞳が苛烈な言葉と共にこちらを捉えた。その異様さに体が強張る、恐らく余分な行動を一つでも取れば……彼はここにいる人々を殺すだろう。

 

(……イネスの中にはまだ人が沢山いる。それにこの広場にもまだ)

 

「……わかった。でも、ここで連絡しなかったとしても僕が来なければ彼女達はきっとやってくるよ」

『だろうな、まぁ、それならそれでいい。俺としてはお前と少しでも話が出来ればそれでいい』

 

 そう言い、彼はまた怪しげに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人目のない場所にあったベンチへと腰を掛けた。相手からこちらへと話を振ってくる。

 

『そういやぁ、これが2回目の時間跳躍だったかお前?ほんと苦労人だな』

「そんな事」

『ないわけない。ずっと戦いっぱなしだなんだろ?西暦の時なんか精神的にもボロボロだったしよぉ、勇者ってより使い捨ての道具みたいだ』

「…で、話って何」

 

 「あー怖い怖い」とヘラヘラした様子で彼は両手を上げる。気にする必要なんてない……筈なのに使()()()()()()()という言葉にやけに苛立った。そんなこと相手が気にするはずもなく、奴の口は動き続ける。

 

『じゃあ、本題と行こうか。内容としちゃ、お前についての話だ』

「僕の、事?それ君にメリットあるの?」

『メリットがあるないはどうでもいいのさ。この話をお前が聞く事に()()()()()んだからな』

 

 僕が聞く事に意味がある、その真意は分からない。だけどこれはチャンスでもある、僕について知れるのはいい事だ。もしかしたら、そこから今回の異変についても繋げられるかもしれない。

 

「いいよ、聞いてあげる」

『んじゃ、早速だが……お前、なんで自分が勇者になれているか知ってるか?』

「?、なんで今更そんなことを。分かってるでしょ、神樹様に選ばれたからだよ。勇者部の皆と同じように選ばれたから」

 

 今更確認しなくてもいい事。神樹様に選ばれたから、僕は勇者になれているし皆の為にと戦えた。

 

『選ばれた……ねぇ。なんとも聞こえのいい言葉じゃないか。あぁ、そうだな。お前は選ばれたんだ、()()()()()()()使()()()()()()()()ってやつにな』

 

 心底嬉しそうに、そして嘲笑うかのように彼は言う。言葉の意味が理解出来ずにいる僕に、彼は嬉々として話し続ける。

 

『一度でも変だと感じなかったのか?本来は純粋無垢な少女しか選ばれる事のない勇者に、男であるお前が選ばれた事を』

「……」

 

 疑問に思った事はあった。何故、僕がなれたのかと。でも、いつしかそんな疑問は消えていて、勇者として戦えている自分に疑問は持たなくなった。

 

 だって、そこにどんな理由があったとしても『勇者』になるという事は、大切な人達を守れる力を得たという事だ。それなら、無駄な疑問を抱く必要も無い、はず…だ。

 

『……そうだな、お前はそういう奴だ。だから、自分が()()()()()()()()()()()()だという事に気づけない』

「偽物?……僕が?」

『あぁ、そうだとも。なんせ、お前は』

 

 横にいる男の発言が合図だったのか。

 

「……ぅ、あ…ぁ」

 

 キーン、という音が響いたように感じた。それと同時に、自身の口から苦悶の声が漏れる。呼吸が上手く出来なくなる。苦しい、苦しい、苦しい……息が、うまく、でき、ない。

 

 これには覚えがある…バーテックスにトドメを刺そうとした時と銀達とイネスにおいて鎧のことや自分の事を深く話そうとした際に、襲ってきたモノと一緒。これは一体、何なのか。

 

『それ以上お前が聞く必要がないと。神樹が言ってるんだろうな、まぁ、にしても、やる事がえげつねーな』

「な、んで…そこで、神樹様が…」

『そりゃ…っておいおい。随分苦しそうじゃないか、ほら早くしないと話聞く前に死んじまうぞ?』

 

 横にいる男の呑気な声が聞こえてくるが、こちらはそれどころではない。もう意識が飛びそうだ、このまま、だと…まず

 

『跳ね除けられるだろ、完全とは言わなくとも。今のお前なら、出来るはずだ』

 

 意味が、わからない。跳ね除けられる?僕が?この痛みを?無理に決まっている、もしこの痛みが神樹様によって引き起こされているので有れば、人間の僕に止める術なんて。というよりも、何故神樹様が僕に対してこんな事を…?

 

(訳が、分からない)

 

 ぐちゃぐちゃになった考えを纏められずに、蹲る。そこに冷徹な声が響いた。

 

『いつまで目を背けているつもりだ、天草洸輔。いい加減受け入れろよ、お前はもう半分以上が()()()()()()()()()()()という事を』

 

 僕が、人間では、ない?何を言ってるんだ、こいつは。僕は歴とした人間だ、そりゃ勇者なんてとんでもない役割は与えられているけど……それは樹海や結界外の時だけの話、結界内であるこちらで僕が人間離れした行動を取った事なんて。

 

「…ぁ」

 

 こいつと話す前に起きた出来事、その時、自分が起こした行動を思い出す。遠く離れた風船、それを取るため人並み外れた跳躍力を見せた、それだけでなく、その後は何事もないようにストンと、地面に着地した。人間離れ……当てはまってしまっている。

 

いや、もっと前にも思い当たるものがある。道路に飛び出してしまった子ども、それを助けようとした時……一瞬だけ自分の足は…

 

「は…っ!?」

 

 ドクン、と心臓の音が鳴る。その心音が聞こえたと同時に、先程まで僕を苦しめていたものは消えた。自分が何をしたのかも分からない。

 

『ほぉ……自覚させただけでこれか。なるほど、相当「魂」に染み込み始めてるんだな。精霊の力が』

「説明……して」

『あ?』

「だから、説明して!…なんなんだよ、何がどうなってるのさ…」

 

 息が上がり、少し顔が青ざめてしまっている。そんな僕をみた男は、ニタァと、また気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 

『嬉しいねぇ、お前の方からそう言ってくれて。ついでにいい感じに顔が歪んでくれた、これなら話し甲斐もあるってもんだ』

 

 本当に嬉しそうに男は笑う。こちらは、自分自身に対する畏怖の感情を抑えるので手一杯だ。深呼吸をし、少し落ち着く。

 

『そうさなぁ、まず勇者適正値ってやつに触れよう。勇者という存在になる為には、これが必要不可欠。一応、男にも適正値「自体」は存在する…だが、どいつもこいつも微量、いやそれ以下の適正値しか持ち合わせていない』

 

 そもそも神樹が認めない限りは女でも勇者にはなれねぇけどな、ともう一人の僕は言う。

 

『んで、勇者という存在は女にしかなれないものだ。だが……こーんな所に男の癖して、異常な程高い勇者適正値を持った奴がいた。そして、そいつはなんてこった!同じく異常、いや規格外の適正値を叩き出した結城友奈の側にいる男ではないか!』

 

 仰々しい素振りをいちいち挟みながら、男は語る。

 

『最初は神樹もそれがどうした程度だったんだろうが…ある時、神樹の考えは変わった、奴は結城友奈という存在がこれから重要になる事を予感したんだ。なんの前触れもなくな、まぁ予知ともいえなくもない』

 

 友奈が…重要。聞き返したくなる言葉ではあったが、それ以上に続きが気になったので、言葉を呑み込む。

 

『この予感に意味がないはずがないと感じた神樹は…なら、これを利用しない手はないと、一つの考えに至った。結城友奈という勇者は神樹にとって簡単に失われてはいけないモノだ。ならば、そんな彼女の最も近くにいる男を()として扱ったらどうかと』

「…盾?」

『あぁ、まぁ、盾と言えば聞こえはいいが… 言ってしまえばただの肉壁、体のいい防衛装置としてな。結城友奈もそうだが、勇者部の奴等は中々粒揃いだからな、恐らくあいつらの守備も兼ねていたんだろうな』

 

 『ま、どうでもいいが』と男は鼻で笑う。ぼくは、だまって、かれのはなしをきいていた。

 

『お前は神樹に勇者として選ばれたのではなく本物を生かすための「道具」に選ばれたのさ。だから勇者に変身も出来るし、神の使いである奴等とも戦えているってわけ…だが』

「ねぇ…」

『あ、どした?まだ、続きがあるんだが』

「あ、いや…その」

 

 質問、気になった事、そんなの山程ある。どの話も突拍子もなくて、相手が自分を惑わそうとしているようにしか感じない。だが、何よりも…。

 

「さっきから…『誰』の話を、しているの?なんか、知らないことばっかで…混乱、してきたんだけど」

 

 必死に、一つの真実から目を逸らすようにそんな言葉を口にした。まだ、自分の体のことや、彼の事など聞きたい事はあるから急がなくてはならないのに。

 

『……は?』

 

 間の抜けた反応、僕が突然何を言い出したのか分からず少し男は停止する。しかし、すぐ、その表情は変わる。

 

『はっ、はは…アハハハハハ!』

 

 嘲笑、男は肩を震わせながら楽しそうに笑う。

 

「何が、おかしいの」

『はー…悪い、つい、な。てめぇの焦りよう見たら楽しくなっちまってよ』

 

 歪な笑顔を浮かべながらも、その目は一切笑っていない。鋭くこちらに向けられている視線、それは僕を糾弾しているようにも見えた。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『滑稽だな。自分自身が存在だけじゃなく行動、形、在り方、全てがイレギュラーであることは、お前が一番よく分かっているはずだが?』

 

 分かるわけがない、分かりたくもない。自分がイレギュラー…それは良く言われてきた事だ。それはいい。ただ……

 

「僕が、道具っていうのは…嘘だ。嘘に決まってるよ、だって僕は勇者……そう、皆を守る勇者だ」

『だから、勇者じゃないんだよ。偽物、道具だって言ってるだろ』

「うるさい……お前の事の言うことなんか信じられるものか」

『俺を信じる、信じないなんかどうでもいいさ。問題はお前がどう思うかなんだからな』

 

 見透かされている。そういえば、彼は僕から生まれた存在なんだっけ…なら、僕が今、何を思っているのか、何を考えているのか、何を怖がっているのか、分かるのか?

 

『自分「だけ」が作られた存在であるという真実が。そんなに怖いのか』

 

 分からない、これは怖がっているのか?もう何もかもが分からない。全てが分からない。

 

『そうやって蹲っても無駄だ。お前はあの日、神樹からの満開拒否を跳ね除けた時点でこうなる運命だったんだからな』

 

 満開拒否……あぁ、そうか、あれは端末の不具合なんかじゃなかったんだ。覚えている、あの全身を握りつぶされたかのような痛み。まるで誰かにそれ以上先は行かせないと言われているようなモノを。

 

『あくまで盾として配置した偽物だからな、お前は。それが「本物」と同じ事をしようとするなんて。そんなこと、神サマが許すと思うか?』

 

 許さない、だろう。ああ、きっと許さない。そうか、少し繋がった。あの時全身に走った痛みと、さっきの痛み……あれは同じ存在から引き起こされたものなんだ。

 

『お前が今使っている力が馴染まないのも、神樹が原因さ。そのシステムは前までのお前を助けるシステムじゃなくて、お前を縛り付ける為のシステムなんだからな』

「縛り…付ける?』

『そう、これ以上お前を野放しにさせない為の……首輪みたいなもんだ。そうだな、実質今のお前は神樹の飼い犬ってとこだ』

 

 飼い、犬。その表現は間違ってないような気がしてしまった。今の僕は神樹という主人によって手綱を握られた飼い犬。でも…でも、僕は…。

 

『おっと、好きでこうなったんじゃないって言葉は言いっこなしだ。お前はもうそんな事を言えるような立場にいないんだから』

 

 無知は罪なり、とはよく言ったものだ。つまり、僕は行き過ぎてしまったのだ。こうなりたくてなったんじゃない…などと言い訳なんて出来ない所まで。

 

『自分は神樹サマから選ばれた勇者と思い込み、主人に歯向かっただけじゃなく…過去に行き、本来は死亡したはずの勇者達を生存させ歴史を改変した。ここまでの事をやっておいて、今更知らなかったなんてのは都合良過ぎだろ?』

 

 でも、本当に知らなかった。知る機会もなかった。いつも必死で、守りたいモノ為に…僕は、力を振るっただけ。

 

『お得意の誰かを守る為、だろ?ハッ!その結果自分を追い詰めてちゃ、意味ないだろうに。本当壊れてるよ、お前。だいたい…お前の体がそうなったのも……っと、潮時か』

 

 彼の言葉に合わせて、世界から音が消えた。虚な目を正面に向けると、広場で過ごしていた人達の動きが停止していた。

 

『来たぜ、守りたいモノってやつが』

 

 指の刺された方向へ視線を向ける。その先には、こちらに駆け寄ってくる三人の少女の姿が見えた。

 

「いた〜!こうく〜ん!探したんよー!」

「急いで、お役目が……天草くん?」

「ちょっ、大丈夫かよ!?顔真っ青じゃんか!」

 

 こちらへと語り掛けてくれる三人。スマホを取り出すと、通知が何件も来ていた為三人がどれだけ探してくれたのかが分かる。三人の声が聞けたお陰で、少し落ち着きを取り戻す。

 

「皆、ごめん…早く戻るって言ったのに…」

「そんな事、気にするなって。とりあえず無事でよかったよ……所で、そこの人は、洸輔の知り合い?」

「どう見ても、友達…って感じではないよね〜?そもそも、なんで私達以外の人がこの中で動けているの?」

 

 三人が僕を守るように奴の前に立ち塞がる。園子が少しドスの効いた声で彼に質問を飛ばす。

 

『そう、身構えるなよ。どうせ、そろそろ樹海化するんだ。戦いやらなんやらはそこで楽しむとしようぜ?』

「…つまり、貴方は」

『あぁ、お前さんらの敵って事でいい。なんだっけ?お前らが呼んでいた、仮面野郎って奴?二人いる内の一人が、俺だよ』

 

 その言葉と共に、彼は深く被ったフードを取る。顕になったその顔を見て三人は固まった。

 

「えっ…」

「そ、その顔!」

「こ…こう、くん?」

『驚くのも無理ないよな。ま、そこら辺の事はそいつに聞くといい……そいつが、話せるかは知らんがな』

「ま、待てっ!」

 

 静止の声は世界が塗り変わっていく事で掻き消される。視界が光に覆われている最中、視線の先にいる男は呟いた。

 

『さぁ、楽しもう。本来の歴史にはない、()()()()()ってやつを』




今回の出来事を少しまとめさせていただきました。

あこゆ時空では男の子にも勇者適正値は存在します、そういうオリ設定です(今更)しかし、それは適正値というには余りにも低すぎる為、適正値は存在しても、男性の中には勇者になれる人はいないとされているわけです(そもそも適正値を持っていた所で神樹に認められなければならないわけですが…)例外で天草くんは高い勇者適正値を元から持っていたのであります。

ある時、神樹ことロリコンクソウッドはこれから少し先の未来、『結城友奈』という少女が重要な存在になることを予感するのです。

そこで高い勇者適正値を持った天草くんを利用する事にした事で、天草くんは勇者に変身できたという訳ですね。しかし、困った事に神樹が彼を勇者にした目的が不純も不純というわけで……みたいな感じですね。他にも細かい謎は残ってますがそこは追々……ま、あくまで闇草くんが言ってるだけなんでね!読者の皆は、天草くんみたいに彼の言った言葉を全て鵜呑みにし過ぎちゃダメだぜ!キリッ


さて、改めてですが投稿が遅れまして申し訳ありません。大満開の章もも始まった事によりモチベが戻ってきており、続きはそう遠くならないんじゃないかな〜って……お、おお、思ってます(震え声)。次回は、遅れないよう努力いたしますので何卒応援の程をよろしくお願いします(土下座)


天草洸輔は勇者である 次回!第十四章『完成品』か番外編『デートに危険はつきもの…?』のどちらかを更新します!お楽しみに!


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第十四章 完成品

「—————っ」

 

 どうにも足に力が入らない。いや、違う、体全体に力が入らなかった。

 

 目の前に見える樹木生い茂る世界。その世界の風景は、今の僕には不快感のようなものしか与えなかった。

 

「僕は……」

 

 広場での会話を脳内で再生する。作り物、偽物、肉壁。神樹の……飼い犬。

 

(だから……なんだってっー!!)

 

 ああ、そうさ、だからなんだ。僕はこうして僕としてここにいるじゃないか。今までと変わらず、居続けているじゃないか。

 

 怖がるな。今は、目の前のことに集中しろ。そうだ、今は勇者として役目を。右手に握られた端末を持ち、いつも通り変身を。

 

(でも、この端末は……僕を縛り付ける為の)

 

 違う、違う、違う、違う……僕は、()()()()()()()()、作り物なんかじゃな—————。

 

「洸輔っ!おい、大丈夫なのか!?」

「ぇ……」

 

 銀の声が聞こえた。瞬間、先ほどまで朦朧としていた意識が戻ってくる。取り繕っているだけと言えばそれまでだが先程よりはマシだった。

 

「あり、がとう……銀。少し、落ち着いた」

「それなら良かった。ま…目の前の状況はあんまり良いとは言えない感じだけどな」

 

 銀の視線の先には、バイザーによって素顔の隠された存在が一人と、地面を泳ぐようにこちらへと移動してくるバーテックスがいた。

 

「アイツ…っ!!」

 

 手に自然と力が篭る。この怒りに意味があるのか……そんなモノは知らない。ただ、この込み上げてくるモノを抑え込める程の余裕が今の自分にはなかった。

 

 勇者システムを起動し、鎧を身に纏う。兜を展開し、視界がクリアになる。いつも以上に重く感じるのは、きっと気のせい……だと思いたい。

 

 そこに偵察に向かっていたらしい園子と鷲尾さんが戻ってくる。僕を見るや否や二人はこちらに駆け寄ってくる。

 

「こうくん〜良かった〜!落ち着いたんだね」

「うん。心配してくれてありがとう、園子」

「いいんよ〜私達仲間だもん。助けるのは当たり前だよ〜。ね、わっしー?」

「そう、ね。……でも、天草くん一つ聞いてもいいかしら?」

 

 鷲尾さんの声がする。何かに警戒しているような声が僕を呼び止める。

 

「わ、わっしー…?」

「分かってるの。今は、目の前のことを優先しなきゃいけないって。でも……今、見たことを有耶無耶にはできない」

 

 それはきっと仮面の下に隠された奴の顔が僕と同じだったことを指しているのだろう。当たり前の反応だ、僕も同じ立場ならきっと———。

 

「天草くん、話して。貴方と、彼は一体どういう関係なの?」

「……彼は、僕の————っ……」

「答えて、くれないのね」

「ごめん……また、何も……言えなくて」

 

 続きを言うことが出来ない。さっきと同じように……また、跳ね返そうとしたが、無理だった。以前よりも強制力が強くなっている気がする。

 

 ただ、その場には静寂だけが流れた。皆に真実を伝えられない事が、ここまで苦しいことなんて。

 

(最悪の気分だよ……クソッ)

 

 何を言われても、疑われても、もう何も言えない。彼女達が僕を疑うのは当たり————。

 

「ううん、何かしらの理由があるのは、あなたの表情で分かるから……あの仮面も話せるかはわからないって……どういう意味かは分からないけど言っていたし」

 

 膝をついた僕に対し、鷲尾さんが優しく手を差し伸べてくれる。一瞬固まるが……ぎこちないながらも、その手を握った。

 

「鷲尾、さん……」

「そんな顔をしないで、天草くん。大丈夫、私だって貴方を執拗に疑いたい訳じゃないから。今まで過ごした貴方を信頼しているからこそ、聞くべきだと思った。ただ、それだけなの」

 

 そう言った鷲尾さんは優しく微笑む。そんな彼女の僕を握ってくれていた手は少し震えていた。

 

(そりゃ……怖い、よね……)

 

 なのに、彼女は手を差し伸べてくれた。信頼しているからと言ってくれた。何も言えない、こんな僕を。

 

「あり、がとう……こんな僕を信じようとしてくれて…」

「こらこら、こんなとか言うなよ。須美はそんな事を言われる為に、さっきの質問をしたんじゃないんだから」

 

 「ありがとな、須美」と鷲尾さんに伝えた後、銀は僕の方を見る。

 

「園子もさっき言ってたろ。私達にとって、洸輔は友達だし、仲間なんだからさ……信じたり助けたりするのは当たり前だよ。気になることが一つや二つあるくらいで、私達がお前を信じなくなるわけなんかないじゃんか。だよね、リーダー?」

 

 ドンっと鎧の背中を叩いてそうはにかむ銀。その視線の先には、優しい笑みを浮かべている園子がいる。

 

「二人の言葉通りだよ〜こうくん。私も同じ気持ち……信じたいからこそ、疑う時もある。でも、それ以上に今まで一緒に過ごしたこうくんの事を信じたいし助けたいんだ、私達」

 

 信じたいからこそ疑う。言葉にしてみると簡単だけど、実際にやろうとすると中々難しい事。分からない事が多いのは僕だけじゃ無いんだ。鷲尾さんも、銀も、園子もそうだ。そんな中でも、彼女達はそれを乗り越えて僕を信じようとしてくれている。

 

(だったら…その気持ちに応えなくちゃ)

 

「話せる時が来たら絶対に伝える。だから、今は行動で示すよ。皆からの信頼を裏切らない為に」

 

 拳を強く握る。気になることは多いけど、今は下を向いてちゃいけない。頬を叩き、正面を向く。自然とさっきまで重く感じていた鎧の重みが消えた気がした。

 

「奴の相手は僕に任せて。今度は、逃がさないから」

「そのつもりだよ〜その代わり、あっちの大きいのは私達に任せて〜」

「私らの相手は、あのイカっぽい奴だな!洸輔も元気になったことだし、いくとするかー!」

「銀〜?油断は禁物、よ?」

「わ、分かってるって……はは、須美もいつも通りで安心した」

 

 三人と共に動き出す。鷲尾さん達はバーテックス、僕は仮面に標的を定める。今度こそ、逃しはしない。

 

 

 

〜洸輔視点out〜

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〜須美視点in〜

 

 

 地面を這いながら神樹様を目指す化け物の姿を確認し、いつもと同じように前衛は二人に任せ、私は後方支援に徹する。

 

「あいつを神樹様の所には勿論、洸輔のとこにも行かせないようにすれば良いんだよね?リーダー」

「うん、あの黒い奴はこうくんにお任せして。私達がアイツを追い返しちゃおう!二人とも」

 

 そのっちの言葉に対し、私と銀は強く頷く。銀が武器を構え、相手を見据える。それに続くように私も弓を────。

 

「あのね、わっしー」

「どうしたの、そのっち?」

 

 そのっちは私の目を真っ直ぐと見ている。そして、間を置いてから決心したかのように口を開いた。

 

「さっきは、ありがとうね」

「……ううん、気にしないで。そのっちには、いつもリーダーとして頑張ってもらってるんだから」

 

 言葉の意味を聞かずとも理解し、そう返す。その言葉を聞くと、そのっちはにぱっと明るい笑顔を浮かべた。

 

「えへへ…わっしーと心が通じ合えて嬉しいなぁ〜♪」

「ふふ、何それ」

「話はまとまった?二人とも」

「まとまったよ〜ごめんね、ミノさん。待たせちゃって」

「別にいいよ、二人に必要な事ぽかったしね。さーてと、そんじゃ、相手も近くなってきた事だし…」

「うん……行こう!ミノさん、わっしー!」

 

 各々が自らの役割を果たす為に動き出した。先行していた天草くんが黒仮面を引き連れ、少し離れた位置で戦闘が開始される。

 

「天草くんを信じるのよ…須美」

 

 自分に言い聞かせ、相手はイカ?に似たような形をしたバーテックスへと武器を構える。天草くんが相手してくれている仮面の男だけ……大丈夫、彼ならやってくれる。でも────。

 

(……なんなのかしら、この胸騒ぎは)

 

 

 

 

 

 

 

〜須美視点out〜

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜洸輔視点in〜

 

 

(あっちも、始まったみたいだね…)

 

 少し離れた距離からの戦闘音を聞き、理解する。相手は魚座を冠するバーテックス。地面を泳ぐように移動する少々厄介な奴だ。

 

(大丈夫、あの三人なら……問題は)

 

 白銀の剣と漆黒の剣、二つの剣がぶつかり合う。樹海と呼ばれる異空間、殺意の感じれないもう一人の自分からの剣撃を捌き続ける。

 

『余所見してる余裕あんのかよ?』

「ッ!うおお!」

「っと!やけに気合入ってるな」

 

 自身の咆哮とは裏腹に…相手は余裕だった。相手のバイザーが開かれ見たくもないにやけ面が視界に入ってくる。

 

「うるせぇ、黙って、()()に、やられろよ」

『おお、こわ。俺は何も悪いことしてないってのにねぇ』

 

 言葉が言い終わるよりも速く、速く。未だ慣れない力を振るう。以前よりもマシになったとはいえ、完全じゃない。まだ、何かが足りないのは自覚している。

 

 加えて、目の前の男から広場で『真実』を聞いた辺りから頭痛が止まらない。自分という存在に、嫌気が差している節さえある。

 

(それでもっ!)

 

 それでも止まらない。三人が…… ()を頼ってくれたんだ。止まるわけにはいかない。例えこの身を犠牲にしようとも、僕は彼女達の力になるんだ

 

『反吐が出るな。また、そうやって他人の為だけに動くのか。お前は』

 

 勢いよく両刃の剣が弾かれた。その衝撃が右肩に伝わる。思った以上の力で反撃された事で、僕は弾き飛ばされた。

 

 僕が着ているこの鎧、これの正式名称…とかそういう詳しい事は分からないけど。防御力に関しては、今までの勇者服(?)の中でもトップクラスだということを自覚している。しかし、その鎧でさえも威力を殺しきれなかった。

 

「っ———!」

 

 すぐに体勢を立て直し、地面に着地する。轟音が鳴り響く。それは()()が一歩を踏み込んだ音。少し乱暴ではあるが相手の懐に向かって飛び蹴りを放つ。

 

「甘ぇッ!!」

 

 今まではとったことのない戦法。内心そんな戦法を取った自分に驚きつつも、それが相手にとっても意外な一手だった事が反応から分かると口元が吊り上がる。

 

 咆哮しながら、敵に対し一直線に飛んだ。ほぼ人の形をした弾丸にも等しい。不意の飛び蹴りが相手に命中する。

 

『へぇ…面白ぇ』

 

 心の底から嬉しそうな声が仮面の中から聞こえる。直後、こちらの飛び蹴りによって奴の体は宙を舞う。が、すぐにその姿が消えた。

 

(……来るっ!!)

 

 体が勝手に動く。頭より先に、体が身の危険を感じ取って勝手に動いている。まるで自分の体じゃないみたい……少し怖いけど、でも、そのお陰で────。

 

(ははっ……マジか)

 

 皮肉げな笑みを浮かべる。その笑みは姿が見えない敵からの攻撃をほぼ直感だけで防いでいる自分に対してのもの。

 

(……今までだったら出来なかった事が、出来る様になってる?)

 

 なんとなくだけど……お前の体が半分以上人間ではない、その言葉の意味が理解できてしまった気がする。

 

『面白いぞ、お前!急にどうした!?()()()()()()!?』

「……知るかよ、んな事。僕は、僕はただ…あの子達からの信頼に応えたい!それだけだ!」

 

 真実を伝えられない今、僕が出来る事はこれしかない。ならば馴染んでないだとか体が上手く動かないなんて……そんな弱音、言ってられない。

 

『つまらない回答だが……まぁ、確かに、お前らしいな』

「お褒めに預かり…光栄だよッ!!」

 

 言葉を返しながら、次の一撃……両手で握った全力の横薙ぎを振るう。紅い稲妻を纏いながら振われたその一撃は、仮面の男を吹っ飛ばした。

 

『ッ!…やべ』

「もう、逃さないッ!」

 

 好機を見逃さない。空中で体勢を立てなおそうとする仮面の正面へと即座に移動。狙いは、ガラ空きになっている胴体。

 

 赤雷が自身の右手部分に収束する。腰を思いっきり捻り、力を貯め……それを一気に解き放つ。

 

(僕は……偽物でも、道具なんかでもない!)

 

「友奈直伝!勇者ァ!パンチッ!!!」

 

 ガラ空きになった胴体目掛けて、赤雷を纏った拳をぶつける。爆音が響いた瞬間、仮面の体は地面へと一直線に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者パンチをもろに食らった事、そして地面に思い切り叩きつけられた影響か。仮面はすぐに起き上がる様子がなかった。油断はせずに、仮面に対して両刃の剣を突き立てる。

 

「終わりだよ、さぁ洗いざらい吐くんだ。君が何を知ってるのか」

『随分強がるじゃないか。本当は不安で仕方ない癖によ』

「……黙れ」

『怒るなって。だがまぁ、やるじゃないか。驚いたよ、あんな精神状態から、よくもまあそこまで持ち直したもんだ』

 

 半分が割れている仮面から見える横顔には余裕がある。追い詰められているのは相手の方の筈なのに、余裕は崩れない。

 

『お前は知ってるよな。本来の歴史には、こんな時期に鷲尾須美達がバーテックスと戦う事なんてなかったって』

「知ってるよ……もしかして、君の言ってた未知の展開ってやつと関係してるの?」

『珍しく頭が冴えてるな、あぁ、そうだとも。今回はその前祝いみたいなもんさ。()()()()()()()()()()()()からな、折角なんででしゃばらせて貰った』

 

 次…次というがもし、僕の想像通りなら……それは────。

 

『あぁ、三ノ輪銀が命を落とす戦いだよ。それをさ、もっと面白くしてやろうと思ってるんだがどう思』

 

 胸ぐらを掴む。怒りが頂点に達し、兜が展開されたと同時に奴の目を睨む。

 

「ニヤついた面で人の死を語るんじゃねぇよ。お前が何をやろうとしてるのかは知らない。だけど、今は僕がいる。僕がいる限り、そんな事は絶対にさせない。銀も……僕が救ってみせる」

『大口叩くのは結構だけどよ、それ…多分無理だぜ?』

「………は?」

 

 間抜けな声が出る。平然とした顔で答えるそいつの表情には嘲笑も侮蔑もない、ただ本当の事を言ってるだけだが?と言いたげな表情をしている。

 

「無理って…何。何が無理なんだよ!」

『お前の主人である神樹様が許さないんだよ。西暦でお前があいつらを救えたのは制約が無かったからだ。だけど……今のお前はどうだ?』

 

 彼の言葉を聞き思い返すのは、この時代に来てから、僕を苦しめてる謎の強制力のようなもの。同時にこの世界に飛ばされた際に、受け取ったメールの内容……あれは、そういう事、なのか。

 

『例え、その時が来たとしてもお前は満足に動けない筈だ。忘れたか?神樹の飼い犬。手綱を握られてるんだよ、お前は』

「だと…しても、なんで?なんで助けちゃダメ、なの…?」

『単純な話だろ、歴史を変える事は本来やってはならない事だ。例え望まない結果や出来事が起きたとしても、それを捻じ曲げれば先の事がもっと捻じ曲がる。最悪、もっと結果が酷くなる可能性だってあるのさ。あーあ、乃木若葉だって、お前さえいなきゃあんな事はしなかっただろうになぁ……そりゃ、可能性があるなら手を伸ばしちまうよなぁ?』

 

 そいつはまた笑う。何度も見たその笑み、それは僕という紛い物をとことんまで嘲笑うかのような表情だった。

 

『さて、この話から考えるに……だ。この時代に異変を起こした最大の要因、それは……何だと思う?』

「まさ、か────」

 

 ぐらっと視界が歪む。若葉がその選択を取った際に決定打となった人物。過去に行き、歴史を変えた人物。

 

 やめろ、答えるな…答えちゃダメだ…答えちゃ、ダメなのに。

 

「異変の原因って……僕、なの?」

『大正解!!』

 

 本当に、心の底から嬉しそうにそいつは笑う。胸ぐらを掴んでいた手から力が抜ける。

 

「うそ、うそうそ…うそだって…そんな、そんなこと…そんなことある訳!」

『あぁ、確かに。全部がそうって訳じゃあねぇよ?けどさ、俺を見ろって。誰が…俺を、生み出したんだったっけ?なぁ、答えてくれよ、相棒』

 

 彼を、生み出した、存在……そんなの、一人しかいない。

 

「……僕、だ────」

『そうそう!なんであれ、その事実は変わらないよな?この時代で暴れている俺を作り出してくれたのは、他でもないお前だよ』

 

 もう、訳が、分からなかった。自分の存在の事も、こいつの事も、何もかも。もう考えたくなかった。段々と意識が虚になってゆく。

 

『そういえば、大事な事を忘れてた。お前があの世界で生み出したのは、俺だけじゃないんだぜ?もう一人、いるんだよ』

「え…?」

 

 ドスッと生々しい音が聞こえる。一瞬、何が起きたのか分からなかった。気づいたら、冷たい何かが着ていた鎧を貫いて、僕の腹を抉っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その通りだ。あぁ、感謝しているとも。本当にありがとう……天草洸輔。君のお陰で、私は生まれた】

 

(なに、これ?なにこれ……痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!)

 

 さっきまで消えかけていた思考が、痛いという感覚だけに塗り替えられる。

 

「ガッ……アァァァァァ!!!」

【?、随分痛がる演技が上手だな?】

 

 更に抉られる、体の中のものを全部かき混ぜられてるみたい。そんな感覚に襲われる。もはや苦悶の声すら上げられず、手から剣がこぼれ落ちた。

 

【まさか、本当にまだ痛いのか?……だとしたら、申し訳ない。てっきり、もう気づいてるのかとばかり】

 

 勢いよく槍のようなモノを引っこ抜かれる。同時に体から力が一気に抜けた。もういっそ意識が飛んで欲しかった、無駄に意識が残っているせいで痛みを感じ続けなければならない。

 

【まだ中途半端なのか。ふむ、君の言っていた事は本当という事かな】

『……おい、『完成品』。突然出てきて、俺の獲物を横取りするなっての』

【……ほざくな、人形風情が。貴様如きが私の行動に意見するな】

 

 一人は闇の僕……そして、もう一人は、完成品と呼ばれている仮面を付けた長身の男。体が言うことを聞かずに蹲る僕の元に、長めの銀髪を靡かせながら彼は近づいてきた。

 

「…誰、だ…?」

【会ったじゃないか。西暦の世界で】

「……は、ぐっ、…し、知らない…よ」

【酷いな、覚えていないとは。私は、君につけられたこの傷を忘れた事などこの300年の間に一度もなかったのに。あぁ、君にとっては一ヶ月前とちょっと前……くらいの事だったか】

 

 その言葉を聞いた瞬間、脳裏によぎったのは西暦での最後の戦いでの事。黒で塗り潰された自分と同じ形をした異形の怪物。

 

「…あの、時の…?」

【思い出してくれて光栄だ。しかし、あの時の私のままではないとも。なんせ、あの時の私は生まれたてだったのだから……おや?】

 

 完成品の言葉が止まる。

 

【致命傷を即座に回復は不可能……しかし、確実に肉体が再生しようとしている。ふむ、どこまでも中途半端ということか】

 

 声が聞こえるが、何を言ってるのかまでは今の僕には分からない。体を起こそうにも、いう事が聞かない。

 

【ここで君を始末するのは簡単だが……天の神は君が心の底から苦しむ事を望んでいる。故に、今は生かそう。私自身も生みの親をそう簡単には殺したくないのでね】

『……また会おうぜ、相棒。次が来る時には復活しててくれよ?そうしないと楽しめないからな』

 

 完成品ともう一人の僕はそう言い残すと、姿を消した。そこには血にまみれた体で倒れ伏せる僕だけが残される。

 

 虚な意識まま、思考を巡らせる。

 

(僕の、せい?)

 

 さっきもう一人の自分が言っていた言葉。あの言葉が真実だとしたら、僕は……自分を許せない。

 

(どう、して……?)

 

 もう、自分の事が分からなかった。何を信じていいのかも。

 

(僕って……なんなの?)

 

 駆け寄ってくる3人の少女の姿が見えた。バーテックスとの戦いを終えたのだろう。そして、あいつらも消えた事で鎮火の儀も始まった。

 

(銀、鷲尾さん、園子……ごめん、なさい。本当に…ごめん、なさい)

 

 意識がなくなるまでの間、ずっと僕は彼女達に謝り続けていた。




えっ!?また新キャラ!おいおいおい、増えすぎだろ……って作者がなってます(白目

てか、天草くんまた腹に穴空いたの…?(戦慄)

次回のタイトルは未定です!(血涙


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番外編 これからも

 今年、二つ目の投稿も番外編。

 今回のお話としては友奈ちゃんと洸輔くん。小六時代の二人の12月31日の様子を描いたものです。当日にあげようと思ったけど間に合いませんでした。申し訳ないです、でも書けたのでいまあげますのよ(ちょうど本編に小6の二人が揃ってるのでわすゆ編の番外編として投稿キリッ)

 てな訳で、本編どうぞ!


 今日は12月31日、所謂大晦日ってやつだ。幼馴染が買い出しを頼まれたらしいので、自分はその付き添いを今務めている。街の雰囲気ももう完全な年越しムードである。

 

「ありがとね、付き添ってもらっちゃって」

「お安い御用だよ、友奈一人じゃ色々と心配だしね」

「それ、どういう意味〜?」

「さぁさぁ、どういう意味でしょうね〜(ニヤニヤ)」

 

 ぶーっと頰を膨らませる友奈。こんな事言ってるけど、本当は友奈を一人で行かせるのは心配だったので着いて行く事にしたのが本音である。まぁでもね、それは内緒という事で。

 

「そういえば、洸輔くんは大掃除終わった?」

「終わったよ。来年から中学生になるし、いつもより気合入れて頑張ったとも。そういう友奈はどうなのさ」

「私は後もうすこしって感じかな!なんかね〜片付けの最中に出てきたものが気になっちゃってさぁ」

「あるあるだね。片付けてる時、久しぶりに掘り起こした漫画とかを読んじゃったりとか」

 

 「そうそう」と頰を掻きながら答える友奈。やけに楽しそうだけど、何かいい事でもあったんだろうか。

 

「なんかご機嫌だね、なんかいい事でも?」

「うん!今年の大晦日も洸輔くんとこうやって過ごせてるのが嬉しくて楽しいんだ〜!」

「……ずるいねぇ、友奈は」

 

 友奈にそんな事を言われて、嬉しくないはずがない。まぁ、その反面、すこーし恥ずかしいのも確かなもんで。ついでに言うと、声のボリュームをもうちょい落としめでお願いしたいとこだ。

 

「よーし!それじゃあ買い出し済ませちゃおー!」

「はいよー、全く元気な事で」

 

 少し呆れつつも、いつも通りな友奈の姿を見て緩んだ笑みが溢れた。どうやら僕も友奈と気持ちは一緒らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「おー、珍しい。ここのお店は蕎麦をピックアップしてるんだ」

「なんとぉーつまり私達とは分かり合えないってやつだね?」

 

 「嘆かわしきかな」と友奈。そんな言葉どこで覚えたのかしら、この子ったら。どうやら、このスーパーは年越し蕎麦を推しているらしい。いや、別に悪い事ではない。  

 

 僕自身は年越しくらいは蕎麦でもいいかなっと思うし。しかし、だ。真横には結城友奈という、うどんに関しては過激派の領域を逸脱している程の猛者がいる。

 

 沢山並べられたそばとうどん。どちらも袋が山と積まれており、まさに年越しのメインに恥じないような置かれ方をされている。しかし、それよりも蕎麦がフォーカスされている事に納得がいってない様子の人が一人。

 

「むぅ、なんかもやっとするね」

「まぁでも、こういうのは人それぞれだから。年明けにもうどんを食べる機会がある事だし*1、たまには蕎麦でもいいんじゃ」

「洸輔くん?」

 

 ゴゴゴと空中に文字が浮かんで見えるのは僕だけだろうか。僕だけなんだろうな……僕の肩に手を優しく置きつつ、友奈がこちらを見る。目コワ。

 

「洸輔くんのうどん愛は……そんなもの?」

「ッス、申し訳ないっす。今すぐうどん取ってきゃす!待っててください、友奈姐さん」

「分かればよろしい」

 

 とびっきりの笑顔を向けてきた友奈を恐ろしく感じました。もうほんとこの子うどんの事になるとこれだから……。友奈姐さんの逆鱗にこれ以上触れないよう、爆速でうどんを回収に向かう。無事買い出しメモに書いてあった分のうどんをゲッツ。

 

「っと、人多いな…」

「確かに。まぁ時期も時期だし」

「家族連れも多いし、はぐれないようにしないと」

 

 どこもかしこも賑わっている。家族連れは勿論、他にも色々なお客さんが楽しそうに買い物をしている。こういう賑やかで楽しい雰囲気は好きなので、この時期は割と好きである。まぁ、それはそれとして────。

 

「友奈、はい」

「ん?お〜洸輔くん、急に積極的だね〜?」

「茶化さないの。ほら、早くしないと手引っ込めちゃうよ」

「あー!ご、ごめんごめん!」

 

 友奈と手を繋ぐ。考えてみると、友奈から手を繋いでもらった事はあれど、自分から彼女の手を握った事はなかった。

 

 こうするのが当たり前……みたいに手を繋ごうとした自分を思い返し、少し顔を赤くする。こういうのが自然に出来る様になってるのって…だいぶ凄い事ではなかろうか。

 

「はは、顔赤くなってる〜」

「……うぅ、自分から握るの慣れてないんだから仕方ないじゃん」

「なら、これはどうかな〜?」

 

 楽しそうに、友奈は手を握ったまま僕の方に身を寄せてくる。積極的にも程がある。いっつも思うが、この子は自分がどれだけ可愛いのか分かってないんじゃなかろうか。

 

 周りからの視線が少し痛い。僕は慣れてるけど、慣れてない周りの人達の視線から察するにスーパーで突然イチャつきだす小学生バカップルコワ…みたいな事を思っていそうだ。

 

「……近すぎない?」

「えへへ、ごめんね。……でも、実は嬉しかったり?」

「まぁ…うん、そうだね。嬉しい、よ」

「やったー♪」

 

 照れ臭くなって顔を逸らす自分とは対照的に、こちらを弄ぶかのような態度を崩さず、彼女は微笑んだ。

 

 その笑顔にまたもや見惚れてしまう。今年中も似たようなやり取りが何度もあった気がするなと思い返す。

 

(……今年も、もう終わりか)

 

 時間が過ぎるのとは早いものだと改めて実感する。友奈と二人でいる事が当たり前になっているせいか、今日もいつもと変わらない日だと感じそうになってしまう不思議。

 

(去年も、その前も、その更に前も)

 

 いつだって一緒にいた。今もそうだ、恐らく僕と友奈の関係性は腐れ縁の幼馴染……ってだけでは当てはめられないものになってきているのではなかろうか。

 

(なんだっけ…友達以上、恋人未満ってやつ?)

 

 どうあれだ、僕は友奈の傍にいられる。それだけで嬉しいから別に関係が今の状態から進展してもしなくても……構わない、筈だ。

 

(……って、何考えてるんだよ僕は)

 

 いけないいけない。年の終わりとか、友奈がやたらと身を寄せてくる事も相まって謎に考え込んでしまった。今はそれよりも、買い出しという目的を果たさなくては。

 

「どうしたの?」

「ううん、なんでも。それよりほら急いで買い出し済ませよ?友奈のお母さん待ってると思うし、一応…僕の親も」

「そうだった!急がないと!あ…でも、もう少しこうしてたいな〜って思っちゃったり……チラッ」

「……どうせ今日はずっと一緒にいるんだから。友奈が望むなら、後でやってあげるよ」

「やったー!じゃあ、急ごう!」

「ちょ、急に早!」

 

 これまた明るい笑顔を浮かべた友奈は、僕の手を引いた。小言を多少は言いたくなったものの、どこまでも楽しそうな顔をしている彼女を見て僕は言葉を呑み込んだ。

 

 それどころか、楽しそうな彼女に釣られて微笑んでしまっていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 買い出しを終えた後、今年も変わらず僕は友奈宅にお邪魔させていただいた。これが当たり前みたいになっているのには理由があり、僕と友奈の両親はとても仲が良く、年末にはどちらかの家に集まり、パーティー…って程じゃないけど、集まって食事をしたりとかするのが恒例となっている。

 

 そんな恒例の食事も終わり、外も暗くなってきた頃。僕は友奈に連れられ、外を軽く散歩する事になった。この散歩も、若干恒例のようになってきている気はする。

 

「うーん!満腹満腹〜美味しかったぁ〜」

「つい、食べすぎちゃったな。これは正月太りには気をつけないと」

「ウッ…」

 

 正月太りという言葉を聞いた瞬間、友奈の体がカチンと固まった。昔の事とか思い返したのかしら…。まぁ、その時は筋トレを教えて助けてあげるとしよう。

 

「友奈、寒くない?」

「ちょっと寒いかも……うぅ、さっきまでずっとあったかい部屋にいた影響かな〜」

 

 両手を擦り合わせている友奈の左手を掴み、握る。一瞬、驚いたような表情を見せるが、すぐにいつもの可愛いらしい微笑みを彼女は浮かべた。

 

「あったかい……」

「よかった。後は、買い出しの時の約束、守らなくちゃね」

「…いいの?」

「ドーンとおいで、なんならさっきよりも密着してくれていいよ?」

「言ったね〜!よーし!」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、友奈は身を寄せてくる。「すりすり〜♪」と言いながら、じゃれ付いてくる彼女の姿はとても可愛いらしかった。

 

 二人で、誰も歩いてない道を進む。彼女がどこへ向かおうとしているか、すでにわかっていた。

 

「やっぱり、ここだよね」

 

 僕らにとって思い出の場所。鍛錬だったり、二人で砂浜に腰掛けてお話ししたり……ここに来るだけで、沢山の事を思い出す。

 

「私たちと言ったら!って感じしない?」

「するね、まぁでも友奈に吹っ飛ばされた記憶の方が強いかも」

「えー他にないのー?」

「あるよ〜?友奈に組み手でボコボコにされたりとか」

「それ、さっきとほとんど変わらないじゃん!」

 

 シチュエーションはロマンチックそのものなのに、あまりにもやり取りがいつも通りだったせいか、僕と友奈は二人で顔を見合わせ笑い合った。

 

 少しの間を置いてから、ぎこちない動きで友奈は握った手を絡ませてくる。

 

「…友奈?」

「ご、ごめん!……い、いやだったかな?」

「まさか、嫌じゃないよ。寧ろ…好き、かも」

「す、好き!?……そ、そっかぁ…好きなんだ。えへへ…」

 

 先程よりも熱が伝わり、自身の手の指の隙間からも強く感じる。今僕と友奈は、所謂恋人繋ぎ………というやつをしている事になる。

 

(いつのまにか、戸惑いよりも嬉しさの方が先に来るようになってたな)

 

 昔なら、恥じらいの方が先に来てしまって彼女の温度を感じる余裕なんてなかった。でも、今は違う。彼女の温度を感じられる事を、心の底から嬉しく感じている。

 

(いつも……この手が僕を引っ張っていってくれた)

 

 小さい頃も、今も……そして、きっとこれからも────。

 

「来年から…中学生だね」

「だね。もしかして、不安?」

「逆かな。寧ろね、とっても楽しみなんだ!」

 

 首を傾げる僕に対して、相変わらずの笑顔で彼女は言う。

 

「予感がするの。これから先、私は色んな経験をして、色んな人に出会って……かけがえのないものを見つけるんだ〜って予感が!」

 

 真っ直ぐと透き通った瞳が、僕を捉える。嬉しそうに語る彼女の顔はどこまでもキラキラしていて…眩しかった。

 

「何となく、分かるよ。きっとこれまで以上に……僕らは色々な事と出会うはずだ。その中には楽しいことだけじゃなくて……辛いことも苦しい事も沢山あるんだと思う」

 

 握っていた手に力が籠る。それに対して、友奈は優しく握り返してくれた。

 

「大丈夫!どんな時も、私が傍にいるから!辛い時も、苦しい時も、私が洸輔くんを支える!」

「それは心強いね……友奈が支えてくれるのなら、僕はなんでも出来る気がする」

「そ、そう?えへへ…そう言ってもらえるの、嬉しいなぁ」

 

 にぱーっと優しい笑みを浮かべる友奈。そうだ、彼女がこうやって笑っていられるように……僕は────。

 

「君が、僕を支えてくれるのなら。僕は、何があっても友奈を守るよ。辛いこともからも、苦しいことからも、どんな事からも…友奈を……大切な人を守ってみせる。……約束だ」

「……うん!約束!」

 

 あともう少しで、一年も終わるんだ。友奈も言った通り、これからはもっと色んなことに出会える気がする。その過程に何があろうと、僕らなら、きっと大丈夫。

 

「ずっと…一緒にいようね」

「あぁ、勿論だよ。これからも、僕らはずっと一緒だ」

「……それじゃあ、改めて!来年も…ううん、これから先もずっとよろしくね、洸輔くん」

「あぁ、これからもよろしく、友奈」

 

*1
香川県では1月1日から1月15日、小正月までを『年明けうどん』を食べる期間とされているようですよ✨『白いうどんに紅い具』という定義もあるそうな。ちなみに自分は年越しはうどん派です(`・ω・´)




 流石メインヒロイン枠の友奈ちゃんだ…強いな。てな訳で番外編でした。次回は本編の投稿を予定しているので、お楽しみに! 


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第十五章 人類の味方

 深夜の投稿……遅くなってすいません。カロリーがたけぇですぞ、今回のお話、では本編…どうぞ。


『腹部にダメージを負って…』

『ほぼ完治不能の傷だったんだぞ、なのに……』

『普通の人間の治癒能力を遥かに凌駕している…これは』

 

 脳裏によぎるのは医師達の会話。目の前ですやすやと寝息をたてながら、ベッドに横たわっている少年に目を向ける。

 

「……貴方は一体」

 

 何度目か分からなくなる程呟いた言葉。徐々に浮き彫りになってきた事実に、頭を抱える。

 

(天草洸輔……この子は、人間ではないのかもしれない)

 

 病院に運ばれてくる前、彼の体はいつ死んでしまってもおかしくない程に衰弱し、弱りきっていた。

 

(腹部にみられたあの傷……人間の治癒能力では、とてもじゃないけど…治しきれるはずがないのに)

 

 しかし、瀕死状態であった彼の体は突然、何もなかったかのように……修復されていたという。なんの予兆もなく、本当に、何もなかったかのように。

 

(神樹様も…彼について詳しい事は話してくださらない)

 

 時々、意味深な神託を伝えてくるだけ。根幹となる部分について一切触れられない為、手詰まりの状態にある。

 

 挙句、先日に起きた突然の襲撃等。イレギュラーの連続で、大赦内部は軽い混乱状態に陥ってすらいる。この子についても、様々な仮説や意見が飛び交い、あまり穏やかではない状況が続いている。

 

 でも、あんな風に彼女達と笑い合える彼が……

 

「敵だ、なんて事は絶対に…そう、絶対ないわ」

 

 あの時の真っ直ぐな瞳と言葉、あれが嘘だったとは私には思えない。

 

「……早く目を覚ましなさい、貴方を待っている子達がいるんだから」

 

 この子が目を覚ましたら、真っ先にあの三人に伝えないといけないわね。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 

 水底に沈んでいくような、重い感覚。深く沈むほど目に映るものは朧気になり、身動き取れなくなっていった。

 

 どこからか、声がする。身動きは取れない為、視線だけを動かすと見知った二人の少女が目に映る。

 

「……ミノ、さん?」

「銀。どうしたの?」

 

 言葉を投げかけていく二人。けど、かつての明るく返事してくれた彼女はもう、そこには……。

 

「銀…?銀!!」

「ミノさん!」

 

 何度も何度も、声が枯れるまで……世界を滅ぼそうとする敵が引き返してこないように、壁を強く睨みつける少女が……もう一度、こちらに振り返ってくれる事を信じて。

 

これが、彼女の最期だよ。君の元いた世界で、刻まれた一つの正史だ。

 

 「なら、僕がどうにかしなきゃ…助けなくちゃ、ダメだ……三人が笑っていられるように」

 

 呟きながら手を伸ばそうとすると、もう1人の僕から突きつけられた事実を思い出し、その手が止まる。

 

 この異変の原因。過去に行き、若葉達を助けて歴史を変えた。それにより起きた、この時代の異変。そして彼や完成品がいる原因は───僕ということ。

 

 そして、歴史を変えた事で、この先もっと酷い結果が生まれる可能性だってあることを告げられた。

 

「どう、すれば……くそ」

 

 瞬間、世界が変わる。場所は……僕の部屋。僕はベッドに腰を下ろしている。対して、『天草洸輔』は僕を見下げるように目の前に立っている。

 

簡単だよ、助けなければいい。もう、君は十分に救ったのだから。この世界に飛ばされた時、言われたろう?影響を与えてはいけないって

 

「……だから、黙って見てろって?目の前で友達が…死ぬのを?」

 

ああ、その通りだよ。何故なら、それこそが彼女に定められた運命なんだから

 

「なに、それ?定められた…運命?は?」

 

君自身が理解しているはずさ。これ以上、君が介入する事はより混乱を招くだけだって

 

「……やってみなくちゃ、分からないだろ」

 

強がりを言うのはやめなよ。それに、どうにもならない。もしも、仮に君が三ノ輪銀を助けたとしても、その先に待っているのは正真正銘の地獄だ。

 

もう、この世界は本来のルートに進んでいない。君が生み出してしまった副産物達がいるからね

 

それを排除する為だけに、君はこの時代に送られたんだ。だから、勘違いしてはいけない。君の仕事は、彼女達の事を助けることなんかじゃなく、異変を取り除く事だけなんだから

 

「……待てよ」

 

何かな?

 

 『天草洸輔』を見上げ、睨みつける。話していて、やっと確信した。こいつは……。

 

「いい加減、正体現したらどうなの?()()()()

 

へぇ、気がついた…いや、気づいてたのかな?

 

「その話し方、やめてください。すごい不快です」

 

仕方ないだろ、君を依り代としているんだから。これは私の意思じゃなく、仕様なんだ。許して欲しいね

 

 心底嫌な気分だった。その話し方も、姿が僕である事も、何も悪びれもせず、僕の前に現れた事も。

 

君にそんな目を向けられるような事をした覚えはないんだけどね。何か、悪い事をしちゃったかな?

 

「……貴方、僕を盾にしていたってホントですか。勇者として選んだんじゃなくて、ただの駒として!道具として!僕を使っていたって!」

 

あぁ、本当だよ?

 

「………は?」

 

 ケロッとした様子で神樹は告げる。止まってしまった僕の事など、気にも留めない神は大仰な仕草で問いかけてくる。

 

でも、今はそんな事よりももっと大事な事があるはずだけど?

 

「大事な…事?」

 

うんうん、君がもしも、三ノ輪銀を助けてしまった場合に起きる事ってやつさ。どうやら、言葉だけでは伝わらないみたいだし、私の力で少しだけ見せてあげようと思ってね。それじゃ行くよ〜

 

「ま、待て話は」

 

 言葉が言い終わるよりも先に、奴の手が僕の頭に触れられた。瞬間、景色はまた一変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 樹海…のように見えるが、あまりにも荒廃し過ぎている。綺麗な景色…とは言えない奇妙な場所ではあったが、もっと色があったはずだ。

 

 しかし、今自分が見ている樹海は樹々はズタズタに引き裂かれ、色を失った……崩壊しきった異空間と化していた。

 

 自分の顔に、嫌な汗が浮かぶ。よく分からないが、この光景から今すぐにでも目を離したいと心が訴えていた。

 

「あいつは!?おい、どこだ!」

 

 飄々とした神はいない。とりあえず前へと進む、奇妙に焦げ臭い薄闇の中をゆっくりと進んでいく。

 

「…嘘、だろ」

 

 思考が真っ白になる。その光景は、僕の心を抉るのには十分すぎる光景だった。

 

「…園、子?」

 

 だらん、と壊れた人形のように動かなくなってしまっている少女達を。

 

「鷲尾、さん?」

 

 見つけた。すぐに駆け寄り、抱き抱えるが二人は…もう…。

 

「どうなってんだよ…意味分かんないよ!おい!見てるんだろ!出てこいよ!」

 

 この光景を見せている張本人からの返答はなく、返ってくるのは静寂だけだった。

 

 相当気が動転していたのだろう。いつもなら気づける筈の、殺気に僕は気づく事が出来ず。

 

「…が…ぅ…」

 

 こちらの腕を切り落とそうと振り下ろされた()()()()()()()による斬撃をもろに食らった。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!!い、ぐぅ…ぁあ」

 

 強烈な痛みは切り落とされた腕の部分のみならず、体全体に伝わる。痛みまでも再現されているなんて……本当に、最悪だ。

 

 そして、何よりも最悪なのは。

 

「どう、して…?」

 

 僕の腕を容赦なく切り落としたあの…斧は。嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だよ、そんな事あるわけが。

 

「……なんで、君が」

 

 紅蓮のように赤い装束は黒に染まりきっているが、返り血?のようなもので赤黒い、色へと変貌している。表情は無、瞳は虚で……。

 

 こちらを見下ろすように、彼女は立っている。僕の血で染まった斧を、こちらに振り上げながら。

 

「ねぇ、なんとか言ってよ!()!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、世界が変わった。視界には僕の部屋が映っている。そして、あの神の姿も。

 

はい、おしまい。と、言う感じでもしも君が三ノ輪銀を助けた場合、過程はどうなるかは分からないけど、こういう結末を辿る可能性が……って、聞いているのかい?

 

「……聞い、てるよ」

 

 吐き気を抑え、ベットに腰を下ろす。正直立っている程の余裕はなかった。

 

聞いているのなら良しとしよう。流石の君もこれで分かってくれたよね、私が影響を与えてはいけないって言った理由が

 

「あんたが、こちらを揺さぶる為に作った嘘じゃないのか…?」

 

疑り深いなぁ、言っておくけどそれは無いよ。そもそも、嘘なんかつく必要はないのさ。もし無理にでも従わせたいなら、勇者システムを介して、君をいつでも操り人形に出来るし

 

 無垢な笑顔をこちらに向ける神に嫌悪感しか感じない。これが、神樹様だなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。

 

私は神という位置にいる。申し訳ないけど、人間である君達よりももっと多くの事は見ている。そして、価値観や論理観においても、人間と神は違うんだ

 

「だからって…あんなの」

 

うーん、他人の心配ばかりするのはいいけど。自分の事ももっと考えた方がいいんじゃない?

 

 自分の、事。確かに、色々考えなくてはならない事は多いが。

 

特に、君の体についてをね

 

今、自分の体に異変が起きてる事は君自身がよく分かっている筈だ。人間以上の治癒能力、身体機能……あらゆる面で、自身の身体は変化している事がわかる筈だ。

 

 確かに、この世界に来てから、少しずつ自分の体に何かが起きてるのは分かる。けど、それも神樹の仕業かと。

 

いいや、それに関しては私じゃない。必然なのさ、君がそうなるのは。何故なら、君は3回もその身に精霊を落としているんだからね

 

しかも、その内2回は憑依ではなく一体化している。結果、今の君の身体は半分が人間、そしてもう半分は精霊の……半人半霊と化しているんだ。

 

「…半人半霊、?」

 

そう。元々、私は最初から結城友奈の盾として君を使おうとした。だが、それは君の体に宿った精霊によって阻止されてしまったんだ。君は私の手を離れ、他の勇者達と同等の力を振るった

 

だが、それが良くなかった。私が君を使おうとしたのは悪意からじゃない。君を崩壊させない為なんだ、私の手を離れた不完全な勇者、適正値がどんなに高くとも副作用は避けられない。

 

そこに加え、人間の身でありながら何度も精霊をその身に憑依させた。その精霊達は、どれも強力な力を持った存在ばかりだ。知っている筈だ、君は。乃木園子から聞いただろう?

 

「……精霊を憑依する事は自らの半身を、侵すようなもの。僕は、いずれ僕ではなくなるかも知れない…?」

 

その通りだ。今の君は、徐々に過去に憑依した精霊達の力に呑み込まれつつある。いや、書き換えられてると言った方が正しいかな?

 

「つまり?」

 

君は、例え三ノ輪銀を助けられたとしても自分自身の崩壊からは逃れられない、という事さ

 

「……」

 

辛いだろう。だから、私は君に提案する。君が生存できる、唯一の道を

 

「……それ、は、なに?」

 

簡単だよ、私に全てを委ねればいい。そうすれば、君は一生生きていられる。そして、君の願いである他人を守り続ける、という夢を永遠に叶え続けれるんだ。さぁ、どうだろう?

 

 こちらに、手が差し伸べられる。ここで、手を握ってしまえば…楽に、なるのかな?もう、これ以上……。

 

 いいや。そんなの、生きてる…とは言えない。

 

「……断る」

 

どうやら……彼らの言う通り。君は中々頑固らしい。

 

「(彼ら…?)知ったような口を…そういうの、本当にやめてください」

 

随分嫌われたものだね。ま、ならここまでとしようか。初めて、こういう形で話をしたが……思っていたよりは楽しかったよ

 

「そうですか、僕は最悪の気分です」

 

神に対しての物言いとは思えないな、けど悪くない。やはり君は面白い

 

「っ…もう、二度と僕の前に現れないでください」

 

安心するといい、君のこれからの行動次第では…望み通り、これが最初で最後の邂逅になるだろうからね。

 

「どういう意味、ですか?」

 

さぁ、それは君自身で確かめるといいよ。後、忘れないようにね、私は神で、君は人、その間には大きな溝があるという事を

 

「……あんたは、僕の味方なんですか?それとも…」

 

 それに対し、神は心底愉快そうに笑いながら答える。

 

私は人類の味方、さ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。周りを見渡し、ここがどこなのか確認する。

 

「…ここは、病院か」

 

 少し怠さを感じるものの、それ以外には気にかかる所はない。

 

「色々、ありすぎたな」

 

 もう一人の僕の事、完成品の事、先程の夢、そして過去に運ばれる前に起きた出来事。あまりにも……僕一人では抱えきれない。大きな、出来事。

 

 けど、今の僕にはこれを他人に話す術はない。こうしている今も、僕という人間はあいつに監視されている。

 

「そういえば……腹の傷」

 

 服を捲って見てみると、傷は完全に無くなっていた。これが、神樹の言っていた人間ではなくなっているということの証明。

 

「クソッタレ……」

 

 静かに呟く。冷静を装ってはいるが…心の中はぐちゃぐちゃだ。けど、弱音ばかりを吐いてはいられない。

 

 一人考え事に浸っていると、静かに病室のドアが開く。見知った顔が視界に映った。

 

「目が、覚めたのね。天草くん」

 

 一度は驚いた表情を浮かべたが、すぐに心配そうな表情を向けてくれる。

 

「……安芸先生、ありがとうございます」

 

「いいのよ、学校は違えど私にとってはあなたも大事な生徒の一人だもの」

 

 ニコッと優しい笑みを浮かべる安芸先生。合宿の時にも思ったけど、この人は本当に優しい人なんだなと改めて感じた。

 

「起きたら、真っ先に連絡してくれって……三人からは言われてるけど、もしあなたがゆっくりしたいと言うのなら」

 

「いいえ、早く会いたいです。三人の顔が、早く見たい」

 

「そう、分かったわ」

 

 どうしてか、無性に三人に会いたかった。どこかで彼女達と会うのを怖がっている自分もいる筈なのに……それでも、あの三人と早く話がしたいと僕は強く思っていた。




 これ書いてて思ったんすよ、この(天草擬態)神樹……マーリンっぽいなぁ〜!って。まぁ、色々全然違うけど意識して読むと不思議と櫻井さんボイスが聞こえてきますよ。

 所で、天草くんボロボロになりすぎじゃない?大丈夫?


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第十六章 失くしたものはなんですか?

 偽り続ける事は不可能さ、蓄積された心の負荷は知らぬ間に表れてしまう。人間っていう生物は、特にそういうのに敏感だからね。その点を言えば、まだ彼は人間なのかもしれない。


『どうして……そんなになってまで、■■は他の子の為に頑張れるの?』

 

『え?うーん…どうしてだろう』

 

『自分でもわかってないんだね、変なの』

 

『言い方ぁ〜……そうだなぁ、改めて聞かれると困っちゃうけど』

 

『けど?』

 

『困っていた人がさ、最初は暗そうな顔をしてても……助けてあげたら、笑顔になってくれる時ってあるんだ。それだけじゃないよ、嬉しそうに笑って「ありがとう!」って言ってくれたりもするんだよ!それってすっごい素敵な事じゃない?』

 

『……』

 

『多分、私は……皆に笑顔でいて欲しいから、人を助けてると思うんだ』

 

 なんだそれは、と思った。他人が笑顔になった所で…自分に得はないだろうに。

 

 他人の為に、自分を使うだって?そんなの────。

 

『自分が、疲れるだけだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 目が覚めた。何か、とても大事なものを見ていた気がする。あれは……なんの記憶だったっけ?

 

「とっ、そんなことより急がなきゃ」

 

 時間を確認し、飛び起きる。退院してから数日が経ち、いつも通りの日常を天草洸輔は送っている。

 

 変わらぬ部屋、変わらぬ日課、変わらぬやり取り、変わらぬ…自分。

 

 

本当?

 

 本当だとも。何も変わらない。自分の心も落ち着いている。異常な所など何一つもない。

 

 異常なのは、こんな僕に対して人間じゃないだの飼い犬だとかほざく彼らだ。一体僕の何が異常だというのか。

 

「…やめよう、考えた所でどうにかなることじゃない」

「洸輔?何か言った?」

「ううん、何でもないよ。それじゃ母さん、行ってくる」

 

 母さんを心配させまいと、作り笑いを浮かべ家を出る。外では幼馴染が待っていた。

 

「おっはよー!洸輔くん!」

「おはよう。今日も元気だね、友奈は」

「んー?」

「な、何?僕の顔になんか付いてる?」

「……ううん、何でもない!それじゃ、行こっか!」

 

 友奈に手を引かれ歩き出す。一瞬、考え込むような表情を浮かべたのが気になったが、その考えは彼女の太陽のような笑顔に掻き消される。

 

 いつものように、幼馴染の少女と共に学校へ向かう。途中で三枝と合流して一緒に教室へ向かったり、クラスに着いたら仲の良い子達と挨拶を交わす。

 

 いつも通りに席に着いて、友奈や三枝と雑談をしながら休み時間を過ごす。

 

 僕も、世界も、何もおかしな所なんかない。そう、いつも通り、の

 

「洸輔くん。大丈夫?無理してない?」

「……してないよ。してたら言うって」

「よく言うよ、それが出来ないのがあんたと友奈なのにさ」

「えー、それどういう意味!?」

「さぁさぁ、どういう意味でしょーね?」

 

 三枝のいつも通りの減らず口を聞き流す。友奈はやたら噛み付いているが、そんなに気にする事でもない。何故なら、僕は—————。

 

嘘吐き

 

 頭が痛んだ。ズキズキ、と何かが頭の中で暴れてるみたいな…そんな感覚がする。

 

「…本当に、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。心配してくれてありがとう、友奈。でも、大丈夫だから」

 

 逃げるように、それだけ言って教室を後にした。出て行く際に見えた友奈の表情は、どこか辛そうだった。

 

(何やってんのかな、僕)

 

 罪悪感に襲われつつも、一度動き出した足は止まらなかった。気づけば、体育館裏にいた。

 

「何を怖がってるんだ、普通に…普通にしていれば良いんだよ。だって僕は普通なんだから」

 

普通?

 

 そうだよ、僕は普通の……あれ、普通…フツウ、ふつう?

 

「普通って…なんだ?」

 

 勇者で、神に使役されている作り物で、半分は人間じゃなくて、『自分』が消えかけている人間が…普通?

 

「はは」

 

 渇いた笑みが漏れた。視界がぐるぐるとして、まともに立っていられなくなった。その場にへたり込む。

 

(なんか…疲れた)

 

 もう何も考えたくない。そう思ってしまう…いや、そう思わざる負えなかった。キャパオーバーだ、こんなの…僕みたいな、中学生が背負うには重すぎ—————。

 

『よぉ、だいぶ参ってるな…マスター?』

「…誰?」

 

 顔を上げると、ものすっごい格好をした不審者さんが目の前にいた。へそ出しのチューブトップに真っ赤なレザージャケット……って、すごい露出度。

 

「あの…マジで誰ですか?あなた」

『ボケた事言ってんなよ。一回会ったろうが、お前の()()()で』

 

 いや、僕があったのはゴリゴリの鎧騎士で……こんな際どい格好をした女の子ではなかったような気がするけど。

 

「あのー……ひぇっ!?」

 

 振り向いた瞬間、真横を赤雷を纏った拳が通り過ぎた。ッッッドゴン!!と、拳が体育館の壁に綺麗な穴が空いていた。物騒な壁ドンをかました人が静かに顔をあげる。

 

『もう一度、オレを女扱いしたなら…こんなもんじゃすまねえぞ?わかったか?』

「ひゃい…わか、りました」

 

 ちっ、と舌打ちしながらも壁から拳を引っこ抜くオレさん(名前知らない)。これ、弁償するの…僕じゃないよね?

 

『モードレッドだ』

「へ?」

『へ?じゃねえ、オレの名前だ。オレさんとか変なあだ名つけるなってのアホ』

 

 モードレッド…前に伝承を調べた時に少し見た事がある。アーサー王伝説における円卓の騎士の一人、不義の息子モードレッド。

 

 考えてみたら、あの鎧…前に本で見たものと少し似ている気もする。という事は、だ。

 

「貴方なんですね。いま、僕の体に宿っている精霊さんは」

『正解だ。ま、それくらいはすぐに分かってもらわないと困るがな』

 

 呆れた様子でこちらを見るモードレッドさん。その反応に対し、苦笑を浮かべる。

 

「所で…その格好は」

『あ?なんか文句あるのかよ?服くらい自由で良いだろうが』

「……はい、そうですね」

 

 精霊に……服?若干、宇宙に猫が浮かんだ状態になってしまったがこれ以上は触れない方が身の為だと思い、考えるのをやめた。

 

『てか、今はオレの事はどうだって良いんだよ。それよりも、お前だお前』

「ぼ、僕ですか?」

『お前以外に誰がいるんだよ、バカが』

 

 ハァー、と長い溜息を吐いた後、こちらに鋭い視線が向けられる。これは、殺気か…?モードレッドから向けられる圧に自然と緊張が走る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

「揺ら…はい?」

『見てられないんだよ、今のお前は。こっちまで腐りそうだ』

 

 心底呆れて…いや、これはそれ以下だ。この人は、僕に失望しているように見えた。

 

『神に作られた偽物の勇者、神樹には常に監視されて自由に動けない、挙げ句の果てには強大な力に呑まれて人としての形が保てなくなってきている……あぁ、確かに今のお前さんは苦しい状況にあるとも言える』

 

 横に彼が並ぶ。失望しているのかと思いきや、その声色自体は本気で僕に同情してくれているようにも思えた。

 

『精神的に不安定になるのも分かるさ。だがな、()()()()()()()()()。いつもの調子はどう』

「…にが」

『あ?んだよ、言いたい事があるならはっきり』

「てめぇに……何が、分かるんだよ!!」

 

 苛立ちに突き動かされ右手を振りかぶった。我慢の限界だった、いきなり出てきていて…何を偉そうに。

 

(うざい…ウザイッ!)

 

 しかし、相手は精霊。ましてや円卓の騎士の一人だ。怒りに任せたこちらの一撃程度、簡単に受け止められる。

 

()()()()()()()()()()()?…なるほどな。感情の自制すら効かなくなってきてんのか、お前』

「うる、さい…覚悟、信念…分かってるさ。僕だって…今の自分がどれだけ惨めなのかって…でも」

 

怖い

 

 自分が皆とは違う偽物だった事が、神樹には手綱を握られている事が、自分が人間じゃなくなっていく事が、力があるのに死の運命に呑まれそうな友達を助けられないかもしれない事が。

 

「全部が、怖いんだ」

『怖い……ね、それはそうだろうよ。こんな状況になっても恐怖一切抱かないなんて、それこそおかしいしな』

 

 ハッ、と騎士は笑いながらそう言う。何も言えなくて下を向きかける。

 

『けどよ、天草(マスター)

 

 呼び掛けられ前を向く。騎士は、僕の目を真正面から見据えている。

 

『今までのお前はその怖さを背負った上で、何度も戦ってきたんじゃねぇのかよ?()()()()()()が信じて、力を託したお前ってのは、そういう奴じゃなかったのか?』

 

 そうだったのかもしれない。天草洸輔という男は、そういう奴だ。分からない事だらけだけど、それでも前に進んで…いつも『皆』の為に戦って。痛い事も、辛い事も、跳ね除けて。

 

 どうして、そこまでするのか。それは簡単な事だ。それは……それ、は。

 

「あ、れ?」

 

 首を傾げる。なん、だっけ?とても、大事な…大事な事の筈だ。忘れちゃいけない事。僕にとっての、分岐点。僕が、人を助けていたのは。

 

「あれ、あれあれあれあれ…?」

 

 思い出したい、けど思い出せない。見つけ出そうとするけど、僕のものじゃない記憶がちらついてくるせいで見つけられない。

 

『言ったろ、()()()()()()()()()()()()。過去に見つけた大事なモノ(記憶)だけじゃない、何もかもをな。そんな覚悟も、信念も、何も持っていない…ただ()()()()()()()()()()()()、自分も、あの三人も、誰も、救えないんだよ』

「僕、は—————」

 

 何かを言おうとして、止まる。騎士が言った失くしたものが何か、今の僕には、分からない。

 

「ぁぁ」

 

 その場にへたり込む。すごく、すごく大事な事だった筈だ。でも、今の、僕には。

 

「わから、ない…何を、失くしたのかも…分からない」

 

 分からない分からない、と壊れた機械のように僕は繰り返す。いつも間にか、騎士はいなくなっていた。破壊された筈の壁も、元通りになっている。夢、でも見ていたのだろうか?

 

 その場には僕一人が取り残されている。膝を抱え込んで、疼くまった。

 

 体は震えている。何かに怯えているのか、それとも恐れているのか、悔やんでいるのか。

 

(あぁ、もう…訳わかんない)

 

 キーンコーン、とチャイムの音が聞こえる、五限が始まってしまったようだ。多分、『いつもの』僕なら今からでも急いで教室に戻ったのだろう。

 

「……」

 

 でも、今の僕には無理だった。今の状態であの『日常』に戻ってしまったら、壊れてしまう。直感だが、そう思った。せめて、もう少し…一人でいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 五限が終わったと同時に教室に戻った。友奈や三枝から何か色々言われた気がしたが、内容は覚えていない。

 

上手く笑えていただろうか

 

 帰りも彼女達と同じ帰路を歩く。そこにあるのは静かな日常、今の自分にはとても心地よい/恐ろしい、普通の日常。

 

 幼馴染と別れる。彼女は「もしかしたら勉強教えてもらいにいくかもー!」と言い放って家に入って行った。

 

 断る暇も無かった。溜息を吐き、自宅へと入っていく。友奈の事だ、こういう時は急ごうとしすぎて逆にくるのが遅くなる、的なパターンになる事が予想できる。

 

「あの子が来る前に、少し片付けるか」

 

 不思議と久しぶりに自分の部屋にいるような気がした。まぁ、それも仕方ないことだ、この前まで病院で過ごしていたのだから。さて、早速

 

「痛っ…」

 

 膝の痛みを感じて視線を下げた。そこには先ほどまで自分が座っていた椅子がある。

 

「どう、したんだろ。こんなの…いつもならぶつからないのに」

 

 いつも、なら?いつもって何だっけ?ていうか、何でこんなところに椅子があるんだよ。

 

目障りだろ

 

 足に痛みがまだ残ってる。ただでさえ、大変な状況なのに、余分な痛みに徐々に苛立ちは募る。

 

 折角、落ち着いてきた心が小さな事で崩れ出す。苛立ちをぶつけるように椅子を殴った。殴った反動で手が痛む。

 

 頭には、嫌な音が響いている。手の痛み、最近自分に起きた出来事、あらゆる事象が『天草洸輔』の神経を逆撫でしていた。

 

「うっざいなぁ!」

 

 目障りだ、僕をイラつかせるなんて何様だよ。モノのくせに、モノくせに、モノの癖に、モノの癖に、モノノクセに、もノのクせに!

 

「洸輔くん…?」

「友奈?どうしたの、そんな顔して」

 

 驚いたように固まっている友奈。一体どうしたのか、いつもならこちらに駆け寄ってくるはずだが。

 

「その手…それに、椅子、どうしたの?」

「手?椅子、何のこと…えっ?」

 

 自身の手の異常に気づく。擦り傷だらけになった手からは血が溢れている。

 

 それだけではない。それより更に視点を落とすと、愛用していた椅子が原型を留めていない形で散らばっていた。

 

「… な、え、…は?」

 

 サー、っと血の気が引いていく。訳が分からない、何をやっている、馬鹿すぎる。ダメだって、こんな、こんな所、見られたら、こんな、こんな。

 

「ちが、うんだ。これは…その、僕が、僕がやったんじゃ」

 

 やっとの思いで出た言葉がそれだった。何も弁解できやしないのに、意味のない言葉だけをただ吐き出していく。

 

「違う…違う、これは…僕じゃ、()()じゃ、ない…違う」

 

 惨めったらしい言い訳を繰り返す。取り繕った自然さは簡単に決壊した。一度溢れた涙も言葉も止まらない、体育館裏での時と同じように疼くまる。

 

 両手は血だらけ、だった。気づけば擦り傷は全部無くなっている。おかしい、こんなの、人じゃない。

 

化け物だ

 

「あ、ァァァ……」

 

 頭がズキズキと痛み、心は軋む。呻き声をあげながら、頭を抱えた。そんな僕に静かに近づいてくる足音が聞こえる。友奈だ、疼くまる僕の目の前で足を止めている。

 

「友」

 

 僕が名前を呼ぶより先に、ふわりとした感覚が僕を包み込む。友奈は何も言わず、天草洸輔/化け物を抱きしめてくれた。

 

「……だから、大丈夫って聞いたのに」

 

 小さく、彼女は呟く。その声色は、まるで何かに後悔しているように思えた。

 

「ごめんね、もっと強く聞いてあげるべきだった。洸輔くんがそういう子だって…私、知ってた筈なのに。踏み出すのが、怖くて…聞けなかった」

 

 違うんだ、君は何も悪くない。言葉が頭の中で駆け巡っても、口は動こうとしない。

 

「これぐらいしか今はしてあげられないけど……少しでも、洸輔くんの力になれたのなら」

 

 温かな感触が僕を包み込む。気づけば、彼女の背中に両手を回していた。涙は引いて、そこには安心感だけが残る。

 

 自然と、体から力が抜けていく。張り詰めていた緊張の糸が切れたように脱力する。

 

 力が抜けていくのが分かったのか、友奈はより強く僕を抱きしめた。意識が途絶える最後の瞬間まで、僕は…彼女の温もりを感じ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 目が覚めた。外はもう真っ暗だった、どうやらそこそこ眠ってしまっていたらしい。起き上がって、電気をつける。

 

 壊れていた椅子が無くなっている。最初からまるで何もなかったみたいだ。部屋を見回すと、机の上に身に覚えのない紙が置かれている事に気づく。

 

『椅子は私とお義母さんで片付けておいたよ!それと、お義母さんには椅子が壊れた理由を上手い感じに誤魔化しといたから安心してね!それじゃ、ゆっくり休むように!結城友奈より』

「お母さんの漢字……後、上手い感じでってどんな感じよ」

 

 なんだかおかしくてクスッと笑ってしまう。本当、友奈には敵わないなと改めて自覚する。

 

「会ってお礼言わなくちゃ…ん?」

 

 スマホを見ると、チャットに連絡がめちゃくちゃ入ってる事に気づく。合計で…約50件くらい?しかも、ほぼ全て銀。

 

 三ノ輪銀『最近、四人で集まれてなくない?ねぇねぇねぇ、久々に四人で集まって遊ぼーよ!』(これに似た内容が後46件ほどある)

 

 乃木園子『いいね、ミノさん!私もそろそろ四人で集まりたいと思ってたんよー!こうくんとわっしーは!?』

 

 鷲尾須美『良いわね。私もそれに賛成よ、天草くんはどうかしら?』

 

「確かに……退院の時以来バーテックスの襲来もなかったから、会えてなかったな」

 

 お互いに会う暇が作れず、三人とは会えてなかったかもしれない。別に避けていた訳ではないが……少し、その…。

 

「会うのが怖かったのも、少しある」

 

 でも怖がってる場合じゃない。何も伝えられなくても、彼女達との絆を途絶えさせる事が良い事とは思えない。

 

「よしっ、僕も行けるよ…っと、送信」

 

 まだ、自分の失くしたものが何なのか思い出せない。それでも、ここで歩みを止めるのは間違っている。そう、今は少しずつでも前へ進むとしよう。




 へーあそこから立ち直るのか、本当面白いなコイツ。一時はどうなる事かと思ったが…結果的には発破かけて正解だった感じか。頼むぜ、マスター…こちとら神樹の目盗んであそこまで声掛けてやったんだから、オレがしっかり手を貸したくなるくらいには『覚悟』決めて見せろよ?


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ぐだぐだ短編 流しうどんがしたいんだ(★)

シリアス?んなもんおいてきたよ?これは所謂ギャグ時空ってやつですよ、皆さん。本編進まないから書いちゃったの、正直本編には一切関係のないオリキャラ達によるショートストーリーなので見ても見なくてもいいです()

 ギャグとかメタ発言注意ですのでそういうの苦手な方はブラウザバック推奨っす。

さーて、夏だからねぇ、派手に行くよ!


「……暇だ」

 

「なら、少しでも天の神のお力になれるようなことをしたらどうだ模造品。貴様、さっきから寝転がってばかりではないか。全くもって脆弱な、恥を知れ恥を」

 

「天の神LOVEなんてTシャツ着ながら、ぐーたらしてるお前に言われたかねぇっての完成品」

 

「貴様、このTシャツをバカにするのか」

 

「バカにはしてねぇよ……似合ってるとおも…ぶふ」

 

「屋上へ行こうじゃないか、久しぶりにキレちまったよ」

 

「屋上ねぇよ。つうか、マジで暇だなぁ…天の神曰く今は攻め時でもないらしいし」

 

「……まぁ、確かに。何もしないというのは少し退屈だ…おい、模造品。何かやりたい事はないのか」

 

「やりたい事〜?そうさなぁ……そういや、今って人間どもが生きてる世界では、季節は夏だっけ?」

 

「……そのようだな、で、それがどうした?」

 

「実はさ…俺、流しうどんっての気になってたんだよ」

 

「なんだそれは」

 

「まぁ、簡単に言うと水で流れてきたうどんを箸で掴んで食べるってやつだ」

 

「……普通に食べれば良くないか?」

 

「なんだぁてめぇ?」

 

「なんだ素直に思ったことを言っただけだぞ、私は」

 

「センスのかけらもないTシャツ着たやつが、流しうどんバカにするなやギャグ堕ち新キャラ」

 

「あ?(カッチーン)」

 

 

 

 〜天草顔の二人殴り合い中〜

 

 

「はぁはぁ…やるではないか、模造品の癖に」

 

「そっちこそ…ポッとでの新キャラのくせしてやるじゃねぇか」

 

「まだ言うか、言っておくがお前よりも私は天草洸輔に重い一撃を与えているぞ。それを忘れないことだ」

 

「逆にいえばそれしかないだろ。本編内でのお前の見せ場」

 

「……私だって傷つくんだぞ、模造品」

 

「ごめんって。まぁ、そんなことより本題にはいろうぜ、俺流しうどんやりたい」

 

「それはいいが…流す為のものがないだろう。ここにはそんなものもないし」

 

「確かにな、ちょっと天の神に頼んでみてくれよ、竹くれって。お前ならできるんだろ、天の神が直々に生み出した存在なんだから」

 

「貴様…本編でも未だに開示されてない事をあっさりと…まぁいい、少し待っていろ。頼んでみる」

 

 〜数分後〜

 

「竹、ゲットだぜ」

 

「その口調で言うならもっと楽しそうに言えよ、真顔で言われると怖いわ」

 

「五月蝿い、まずは感謝をしたらどうだ感謝を。天の神がお前の為にわざわざ用意してくれたんだぞ、この竹とうどんとか諸々を」

 

「あーはいはい、感謝感謝ー」

 

「全く……まぁ、いいだろう。にしても、何故お前は流しうどんなんぞをやりたいのだ。こんな意味のなさそうな事を」

 

「だからだよ」

 

「何?」

 

「俺にとってはその意味のなさそうな事…ってやつが。とても眩しく見えるんだ…だから」

 

「あ、真面目な展開とか要らないぞ。これはあくまでギャグ時空だからな」

 

「メタ発言の究極系みたいなこと言うなよ、お前」

 

「まぁ、なんにせよ…私にはわからない感情だ。意味のない事が眩しく見えるなど。意味のないものは意味のないもの、それで終わりだろうに」

 

「ま、そうだと言えばそうなんだけどよ……ま、この話はここまでにしとくか」

 

「そうだな、折角天の神が授けてくれたのだ…楽しまなければ損であろう」

 

「だな、おーし、完成品。俺が取る側やるからあんたはうどん流してくれ」

 

「何故私が流す側を…私もうどん食べたいんだが!?」

 

「意外にノリノリじゃねぇかよ。お前…あー!てめ!フェイントかけやがったなこの野郎!!」

 

「ふっ、所詮模造品よな。あんな簡単なフェイントに引っかかるとは!」

 

「っ〜!てんめぇぇぇ!次はとぉぉる!!

 

「せいぜい足掻いて見せるが良い、模造品如きが!!」

 

 それはとある場所で起きたとある出来事。同じ存在を元として作られた二人の存在が普段のギスギスを忘れて、仲睦まじく遊んでいるあったかも知れない夏の記憶である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一方その頃、彼らのオリジナルである彼は〜

 

「はっ!?なんか、急に流しうどんやりたくなってきた!」

 

『……なんで???』(わすゆ組)

 

 何かを感じ取っていたとさ、おしまい。




今回の主役の二人…本編では大した説明まだしてないのにもうギャグ枠になっちゃったよ…まぁ、わすゆ編ずっとシリアスだしたまにはこういうの…ね?

 ちょっと楽しかったし、シリーズ化しちゃおうかな…これ。


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