神様は私を化け物にした (零眠みれい(元キルレイ))
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1話

初投稿です。
今まで台本形式で書いてたので、描写など変なところがあるかもしれません。あった場合は指摘お願いします。


「化け物が!」

 

「お前なんか死んじまえ!」

 

そっか…私は生きてはいけないのか。お母さんとお父さんが言ってるから間違いないね。でもね…私は不死身だから死ぬことができないの。

 

不死身だから怪我をしても治るの。

不死身だから食事をしなくても食の欲にまみれるだけなの。

不死身だから寝なくても眠気が襲ってくるだけなの。

不死身だから溺れても、火炙りされても、生き地獄を味わうだけなの。

 

だから私は…謝ることしかできないの。

 

「ごめんなさい」

 

そう言うと、決まってお母さんは、

 

「うるさい!お前なんか産まなければよかったよ!」

 

って言うの。

 

「ごめんなさい」

 

これを毎日繰り返して、毎日ごめんなさいって言うの。

でもね…私はこれでいいと思ってる。生きてはいけないのに、生かしてくれてるから。友達は欲しいけど…そんなわがまま…言っちゃいけないよね。

だって私は…悪い子なんだから。生きてはいけないのだから。

 

だけど、お母さんとお父さんの生命は今日までだった。

 

 

次の日になっても、何も変わらず怒鳴られている。

 

「死ね!」

 

死んであげたい。私が生きても意味が無いのだから。しかし私は死んであげることすらできないの。

 

「お前のせいで私達がどれだけ大変な目にあってるか……!」

 

「な、何だ!この地震は!?」

 

お母さんの言葉を遮って、かなり大きい地震が発生した。今までここまで大きい地震は初めてだった。地震が止まると、お母さんとお父さんは急いで外に出た。私は外に出ない。

だってお母さんに言われたの。

 

外に出るなって。

 

「な、何あれ…」

 

最初に声を出したのはお母さんだった。声だけで分かる…お母さんは怯えている。何かに…怯えている。

 

「巨…人…?」

 

お父さんも怯えている。巨人?巨人と言えば、外の世界にいる化け物らしい。化け物から…巨人から身を守るために人類は壁を築いたと、昔聞いたことがある。

一体お母さんとお父さんには何が見えているのだろうか。気になったから少し外を見ていた。すると、すごく大きな音と共に瓦礫が飛んできて、私は瓦礫に潰された。下半身の原型はもう無くなっている。自動的に、無理やり傷が回復するので、グチャグチャになって回復して、グチャグチャになってまた回復する。その繰り返しだ。

すごく痛い…

 

「巨人が…入ってきた!?」

 

「急いで逃げるぞ!」

 

お父さんがお母さんを引っ張って逃げてしまった。そうか…私はとうとう…捨てられたのか。

私が悪い子だったから…

 

「ごめんなさい」

 

そう呟いていると、入ってきた巨人がお母さんとお父さんの方へ歩いていた。だいたい10mくらいだろうか。姿は人間が裸になって、大きくなったみたいな…そして彼らは笑っている。笑いながらお母さんとお父さんを呆気なく食べてしまった。すると今度は私の方へ歩いてきた。巨人に食べられれば死ねるのかな…

 

だけど巨人は予想外に瓦礫をどかしただけで、あとは何もしなかった。

 

「……え?」

 

巨人は人間を食べる化け物じゃ…

殺戮を好む生き物なんじゃ…

困惑していた私だったが、すぐに理解した。

 

「…あ」

 

私は何を言っているのだろうか。

私は人間じゃない、姿形だけが似ている化け物。

一瞬でも死ねることに喜びを感じていた自分が馬鹿みたいだ。

死ぬことなんてできないのに。

 

 

20秒ほどすると足が回復したので、外を歩いてみることにした。私の記憶の限りだと、初めて外を歩いた。

 

初めて家を外側から見た。

初めて道路を見た。

初めて家族以外の人間を見た。

 

そして…初めて壁を見た。

 

あれが3つの内の1番外側の壁…ウォール・マリアか。思ったよりも大きい。50mくらいだろうか。一体どのような造りになってるのだろう…。そして…どうやって巨人は入ってきたのだろう…

 

「そこの君!早く逃げなさい!」

 

そんなことを考えていると、腰に変な装置を付けていて、見たことない服を着ている人に声をかけられた。えっと…なんて言えばいいかな…。そもそも逃げる理由が分からないよ…

それに…なんで私を助けるの?

私は生きてちゃいけないんでしょ?

私は化け物だって、お母さんとお父さんが言ってたよ?

私は何が何だか分からなかったので、あやふやなままこう答えた。

 

「な、何で?」

 

すると相手は切羽詰まってる状態だったので、少し怒りながら、

 

「は!?そんなの巨人に食われるかもしれないからだろうが!お前は生きたくないのか!?」

 

私は巨人に食べられないから大丈夫。

それに私は化け物なの。

生きることはしてはいけないの。

そう説明しようといたのに…

 

「もういい!こっち来い!」

 

私の体を掴んで走り始めてしまった。どこに行こうとしてるか分からないけど、生きるために走っているのは何となく分かった。

なんで私を生かそうとするの?

この人は知らないのかな…。私が化け物だってことを…

そんなことを考えていると、門をくぐって水の上に大きな機械が浮かんでいる場所に来た。私を助けた人は何か話している。

 

しかし私はそんなことより、この機械が不思議でたまらなかった。

 

これはどうやって浮いてるのだろう。乗っているのは見える限りで1000人くらいだろうか。こんなに乗って潰れないのかな…。これに乗って何をするのだろう。

 

「君!早く乗りなさい」

 

似たような服を着た人に言われた。私は頷いた。この機械に興味があったので乗ることにした。

 

それに…もしも許されるのなら…死ぬことについて考えるのは…ほんの少し遅らせようと思った。

 

この機械に乗っている人達の声は、怖い…助けて…もう終わりだ…嫌だ…死にたくないだった。

みんな絶望して…みんな涙を流していた。悲しまない人間はいなかった。

私には分からない感情だった。それもそうだ、私は人間ではないのだから。人間の感情が…わかるわけが無い。

 

吸血鬼如きが人間様になろうだなんて…あってはいけない。

 

そんな話…あってはいけない。

 

そんな願望を…持ってはいけない。

 

「この便は満員だ!!出航する!!」

 

さっき私を助けた人と同じ服を着た人がそう叫んだ。意味はよくわからないけど、この機械に乗れなかった人はこれ以上ないくらいに絶望している。叫んでいる内容を聞いていると…恐らくこの機械が動くのだろうか。と思っていたら、本当に動いた。

勝手に動いている。

この人数を乗せて動いている。

スピードも速かった。

 

すごい…

 

この一言に尽きた。

体が勝手に動いていた。

この機械の縁と呼ばれる部分に向かって足が動いていた。

私の表情は自然と…無邪気な赤ん坊のように笑っていた。

 

目は自然と見開いて…

口も自然と開いていて…

無邪気にはしゃいでいた。

 

他の人が絶望している中…私だけが笑っていた。

 

 

1時間ほどで着いてしまった。もう少し乗りたかったけど…そんなわがまま…駄目だよね…

 

それにしても…ここ…何処?

 

どうしよう…どうすればいいのかな…

 

さっきみたいに歩き回ってれば何か分かるかな?

とりあえず死ぬことはないので、適当に歩くことにした。同じ場所も何度も通り、ウォール・マリアの東にあるカラネス区を何周かしていると、いつの間にか1週間くらい歩き続けていた。流石に疲れてきたのでベンチで休むことにした。

 

「はぁ…疲れた…」

 

ここまで歩き回ったのは初めてだけど…結局何もわからなかった…

 

「でも…生きる意味はないから…分からなくてもいいよね…」

 

あの機械以来、特にこれといって凄いものはなかったし…

 

「はぁ…何しようかな…」

 

歩き回って疲れたせいか、座り込んで寝てしまった。

 

ーーーーー

 

「ギャァハハハハ!ギャァハハハハ!!」

 

お父さん、お父さん、破壊って楽しい?

 

「いいわねぇこっちも開いてぃ?いいでしょ?開いちゃうわねぇ。やっぱりこれも素敵ねぇ」

 

お母さん、お母さん、臓器見るの楽しい?

 

血まみれの少女は不思議そうに聞いています。

すると2人は揃って

 

「楽しい」

 

そして

 

「産まれてくれありがとう」

 

と、幸せそうに答えるのです。

 

ーーーーー

 

「……」

 

何…さっきの夢…さっきのあれは…誰?

あの女の子もあんなことされてるのに…痛みを感じてないかのように…

 

「……怖い…」

 

もう忘れよう。その方がいい。

それにしてもまだ夜中か…どれぐらい寝てたんだろう………そうだ…そうだよ…私…寝ちゃったんだ…。そんなことを考えながら動こうとすると、クチャという音が鳴った。そして…そこを見てみると…

 

「……」

 

案の定、人間の無残な死体が転がっていた。

忘れてた…どうして寝なかったのか…どうして寝ようとしなかったのか…忘れてた…10年も何も食べなかったから、注意すべきだったのに…間違いない、この人は私が食べた。

私の口の周りと手がベタベタだ…後で川で洗わないと…

 

「きゃぁぁぁぁ!!!」

 

反射的に逃げた。あとから気づいたが、あれは散歩していた女の人の悲鳴だったらしい。それにしても…次からは気を付けないと…

 

 

あれから1ヶ月ぐらい経った。今は少し危険を感じた為、ウォール・マリアの南にあるトロスト区にいる。

しかし…

 

「あの事件、まだ犯人がわかんないんだとよ」

 

「確か、食われた痕跡があったんだろ?」

 

「噂だと人間じゃねぇって話もあるらしいぞ」

 

「いくら何でも、んな馬鹿げた話あるか」

 

また噂が流れてる…ここならまだ容姿まで流れてないけど…ついつい反応してしまう…

 

「…」

 

「君、そんなに険しい顔してどうしたの?」

 

「!!!??」

 

本当はこのビックリマークとクエスチョンマークだけでは足りないけど、とにかく驚いた。今まで話しかけられたことがなかったから。

振り向いてみると、見る限りどこにでもいるような、黒髪のロングヘアで顔はそこそこ整ってる年上のお姉さんという感じだ。

いやそんなことより、

 

「だ、誰!?」

 

「そんなに驚くとは思わなかったよ。吸血鬼ちゃんは面白い反応をするねぇ。そうそう自己紹介が遅れた。私は君のことなら何でも知ってるおねぇさんだよ」

 

……?

 

「私のこと…今なんて言った?」

 

「ん?何かおかしなことを言ったかい?吸血鬼ちゃん」

 

「………なんで…?」

 

「なんで知ってるか?それはさっきも言ったろうに。私は何でも知ってるおねぇさんだって。信じられないかい?それなら…」

 

「なんで…なんで知ってるの…?吸血鬼だってこと…お母さんとお父さん…お姉ちゃんしか知らないはずなのに…なんで!」

 

 

私はおねぇさんの言葉を遮った。おねぇさんのことで頭がいっぱいになって、感情的になっていた。するとおねぇさんは自信たっぷりに、

 

「当たり前だろう?君のことなら何でも知ってるよ?」

 

このあと何があったか覚えていない。覚えてないぐらいに衝動的になっていた、と思う。

何も言わずに無反応だったかもしれないし、息を荒くしてたかもしれない。何も覚えていない、が正解かな。

今は誰もいない路地裏にいた。

理由は

『私には家という家がないんだ。そしてこれから話す会話は誰にも聞かれたくない。だから誰もいない所に行こう。そこでじっくり話してあげるよ』

とのことである。そして現在に至る。

 

「それで…おねぇさんは私に何の用なの?」

 

「最初の質問がそれか。まぁいい、理由は簡単さ。君が吸血鬼だからだよ。それだけさ」

 

「それだけって…なんで吸血鬼なのに会おうとしたの?」

 

「さぁ、なんでだと思う?」

 

「えっと…」

 

吸血鬼と会うのにメリットなんて…デメリットとしか出てこない…

吸血鬼は人間を食べる。だから、会えば普通は食べられると思うだろう。もしも私が人間を沢山食べるような性格だったら、もうおねぇさんはとっくに食べられてる…。でもこのおねぇさんは私のことを知っている。そもそも

 

「なんで私が吸血鬼ちゃんのことを知ってるかって?」

 

「ふぁ!?」

 

「ププッふぁ!?って、可愛いことするねぇ。面白いよ」

 

笑われた…。というかなんで分かったの!?心の中を見られてる気分になって…なんだかおねぇさんが怖いよ…

 

「おねぇさんは怖くないの?」

 

「何が?」

 

「だって…私は…化け物なんだよ?」

 

昔からお母さんとお父さんに言われていた呼び名…化け物。

私の固有名詞が化け物で、

私の印象が化け物だった。

怖いと思われるのが当たり前だった。

 

だけどおねぇさんは、

 

「吸血鬼ちゃんが化け物?私はそう思わないけど」

 

それをバッサリ否定した。

 

「……私の…何処が…化け物じゃ…ないの…?」

 

私の声はとても震えていた。今まで信じていたものが裏切られた感じがした。

 

「逆にどこが化け物なんだい?こんなに可愛い子が化け物のわけないだろう」

 

「で、でも…」

 

「私は人を食べるから、お母さんとお父さんに言われたから、私は化け物だとでも?」

 

おねぇさんに遮られ、私が話そうとしたことを全て言われた。

何気に声真似をしていたけど、私はこんなに幼い声をしてるかな…?

 

「……うん…」

 

「でもさ、それだけで化け物扱いになるの?人間だって生きるために豚や牛を殺して食べてるじゃないか。それと同じようなもんだろ?」

 

「でも…動物でしょ?人間とは違う…」

 

「いけないねぇ吸血鬼ちゃんは。それは動物を差別してるよ」

 

「差別…?」

 

「そう。動物も人間も吸血鬼も、全て平等な命で同じ命だ。そしてその命を生きるためとはいえ、奪うんだ。理由はどうであれ、人間が動物を殺すのは吸血鬼が人間を殺すのと同じだと思わないかい?」

 

「そして」と強調し、

 

「人間を殺して食べるのが化け物なら、人間は動物を一体何匹殺してる?無意味に殺してる時だってある。ならさ、人間も化け物になると思わないかい?いや、化け物以上の化け物だ」

 

なんだか長くて頭が混乱してきた…言ってる意味は何となく分かる。

だけど…理屈はわかったけど…納得はしたけど…実感が湧かない。

 

「なら…お母さんとお父さんは何で私を化け物扱いしたの?」

 

「怖いからだよ」

 

「それは…私が化け物だから?」

 

「正確には食べられたり殺されるかもしれなかったからだ。ただの食事をいけないことだと思わせて食べさせなかった。そして、その行為を化け物扱いした。でも、食事をするのはいけないことかな?」

 

「……分からない」

 

「徐々に分かればいいんだよ。今は思いっきりおねぇさんと遊ばない?今まで遊んだこと無かったろ」

 

おねぇさんは微笑みながら言ってくれた。私はこの表情を、どこかで見たことがある気がした。

 

 

あれから数年が経った。主に散歩をしながらお話して、何かめぼしいお店があったら見回る。その繰り返しだった。

初めての感覚だった。

とても楽しかった。

毎日がとても充実していた。

 

だけど…遊べたのは今日で最後だった。

 

「吸血鬼ちゃんはさ、他の人間と友達になりたい?」

 

「おねぇさんが居れば、他の人から化け物扱いされていい」

 

「そうかそうか。だけどね吸血鬼ちゃん。5年前何があったか覚えてるかい?」

 

おねぇさんはしゃがんで私と同じ目線になった。よっぽど大事なことなのかな…?それにしても5年前か…5年前は確か…

 

「巨人が入ってきたっけ?」

 

「そう。そして巨人がもう入ってこないとは限らないだろう?そうなったら吸血鬼ちゃんは生き残れても、私は食べられてしまうのだよ」

 

「……え?何で…嫌だ!死んでほしくない!」

 

「でもね、仕方ないんだよ。それに人間は吸血鬼ちゃんみたいに不死身じゃないからいつまでも生きることができない」

 

「独りになりたくないよ…どうすればいいの…?」

 

「簡単さ。人間の友達をたくさん作ればいいんだよ」

 

人間と…友達に?

 

「……できるかな…」

 

「最初は難しいかもしれないけど、例えば人間のフリをするとか」

 

「人間の?」

 

「それなら誰も怖がんないよ。吸血鬼だと親御さんみたいな態度をとられるかもしれないからね」

 

「……そっか…それなら…本当の友達はできないんだ…」

 

「…」

 

無言でおねぇさんが抱きついてきた。そして背中をさすってくれてる。

 

「よしよし…本当の友達が出来るといいね」

 

「……うん…」

 

そんな時、5年前と同じ地震が再び発生した。

 

「5、5年前と同じ?……!」

 

私は初めて『それ』を見た。

皮膚がなくて…

大きくて…

口が裂けてる…

 

「あれが…おねぇさんが言ってた…超大型巨人…」

 

私が初めて超大型巨人を見た感想は

憎むべき相手ではなく

恐怖を感じる相手でもなく

驚愕する相手でもなく

 

恩人に値するのであった。

 

「あれが超大型巨人かー初めて見たよーでかいねー」

 

おねぇさんも初めて見たんだ。それにしてもおねぇさんは呑気だな。もしかしたら巨人が入ってきて食われるかもしれないのに…

そんなこと考えてる間に壁を開けられてしまっ…!

 

「!瓦礫が飛んでくる!」

 

私は急いでおねぇさんを突き飛ばして瓦礫に押し潰された。まさか2度も瓦礫に潰されることになるとは…かなり痛い…

 

「おねぇさん…大丈夫?」

 

「私を庇ってくれたんだね。ありがとう。おかげでおねぇさんはピンピンだよ。しかし悪いが人間ではその瓦礫はどかせそうにないから5年前のように巨人にでも頼んでくれ。私は逃げるから」

 

「分かった…」

 

「じょあ、また会おうね」

 

「うん…」

 

おねぇさんは走って逃げた。おねぇさんは何となく死ななそうだから大丈夫だろう。さっきは本当に危なかった。

ここは壁と壁の丁度真ん中辺りだから…巨人が来るのも時間の問題か。

 

 

あれから1時間ほど経ってから変わったことがある。さっきから兵士達が腰につけてる装置を使って、空を飛び回りながら巨人を殺している。どうやって殺してるかよく分からないけど…

そういえば私を助けてくれた人はいるのかな…会ったらお礼がしたい…

あの時私を助けてくれなかったら、おねぇさんと会えなかったわけだし…

 

流石に暇だったので眠気が襲ってきて寝てしまった。瓦礫に潰されてるので、多分大丈夫だろう。

 

ーーーーー

 

少女はただ歩いているだけです。

 

「あの子って…あの噂の子だろ?」

 

「ああ…何でもあの家族全員が化け物だって話だ」

 

大人達が噂をしています。

 

「ママーあの子は何でボロボロなの?」

 

「……早く帰りましょうか」

 

子供の手を引っ張って少女を見せないようにしています。

少女は公園を通っています。

あ!ボールが頭に当たってしまいました。ボールが足元に転がっています。

 

「おーいボール取ってくれよ!」

 

少女はボールを拾います。ですが他の男の子が、

 

「やめとけよ!あいつに関わんねぇほうがいいって!」

 

「……確かに…よく見ると化け物じゃねぇか…」

 

「逃げろ!!」

 

こっちの男の子も少女が化け物だということを気づきました。男の子達は逃げていきます。1人残された少女は何も無かったかのように歩いています。

機械のように、人形のように。

 

ーーーーー

 

目が覚めた瞬間に眠気が吹っ飛んだ。

状況を説明しよう。

簡潔に言うと囲まれている。

どこで……瓦礫で私が潰された場所で

誰が……巨人を殺してた兵士達が

どのように……殺気を出して私に刃を向けてる

どうして……私が聞きたい

私もさっき起きたばかりなのだ。

というか注目なんて浴びたくないよ…とにかく体を起こさないと…

 

「動くな!」

 

怯えながら1人の兵士が私に向かって怒鳴ってきた。動くなって言われちゃったよ…。まぁ…無視して起こしたけど…

続けて他の兵士が、

 

「化け物が…」

 

すごく久しぶりに言われた一言だった。というか吸血鬼だとバレた!?ど、どうしよう…

と、とにかく…おねぇさんが言ってたことを思い出せ…

『もしもバレそうになったら、まずはバレそうになった原因を探るんだ。そして原因を探るために…』

 

「そ、それは…どういう意味なの?」

 

『白けろ。言ってる意味が分からない、とね』

私は少し小さな声で叫んだ。周りが静かだったおかげか、伝わったようだ。

 

「とぼける気か!?大勢の者が見たんだ!貴様が潰されていた瓦礫を巨人がどかし!巨人から無反応だったところをな!そして!決定的なのは傷が回復しているところだ!」

 

『そして原因を教えてくれたら、次に何に見えるのか気になるねぇ。だから私は人間だ、と主張するより』

 

「つまり私は…人間じゃないと…言ってるの…?」

 

『どう見えるのか聞いてみようか。この時注意すべきことは、私は吸血鬼だと言いたいんですか、と言わないことだ』

 

「当たり前だ!貴様は巨人でなければ一体なんだというんだ!」

 

『相手からどう見えているのか分かったら、それが吸血鬼でなければ…例えば巨人とかなら誤魔化せるはずだ。自分はあくまでも人間だと主張しろ』

 

「わ、私は人間なの!」

 

『絶対に曲げてはいけない。折れてしまえば…吸血鬼ちゃんならわかるだろう?』

今までで1番頑張って声を上げた。ここだけは絶対に曲げない。おねぇさんに会うためにも、捕まるわけにはいかない。

 

「人間だと?ふざけるな!一体どこが人間だというのだ!」

 

えっと…人間の特徴は…いや…そもそも

 

「そもそも…人間と違うところは巨人に反応がなかったのと…傷が回復するところだけ…。それ以外は人間…私は他の人とは…少し体質が違うの…」

 

これで上手くいくといいんだけど…おねぇさんならもっといいのが思いつく気がする…

 

「信じられるか!」

 

「巨人に決まってる!」

 

「今すぐ殺した方が…」

 

他の兵士が次々に叫んでいる。まるで自分は間違ってないと言い聞かせているようにも聞こえた。

 

「私は…化け物じゃ…」

 

ない。と言いたいのに、昔の記憶が邪魔をする。

おねぇさんの言葉より、お母さんとお父さんの言葉の方を優先してしまう。

 

言いたくても…言えない。

 

捕まるかもしれないのに…

 

「……リコ…」

 

!あの人は…あの時…助けてくれた…兵士の人!まさかこんな形で会えるなんて!

 

「彼女が人類に貢献してくれるのであれば、人類にとってこの上ない戦力となる。鍛えればリヴァイ兵士長と同価値の戦力となるのではないか?」

 

「イアン、どうしてあれを庇う?」

 

銀髪の女の人のリコという人と話している。私を助けてくれた兵士の人はイアンっていうのか。

それにしても…私をあれ呼ばわりか…人間として見ているのはイアンさんくらいだね…

 

「庇っているつもりはない」

 

「庇っているだろう?あれは人間か疑わしいどころではない。体質が違うだけでは説明がつかないのは、お前もわかっているはずだ」

 

「……しかし、俺の考えも分かってくれるはずだ。人類の前進に繋がるかもしれないんだぞ」

 

「それはあくまで可能性の話だろう。もしもあれが巨人だとしたらあれの思うつぼだ。ここで仕留めるべきだ」

 

2人が口論しあっている。それが原因なのか、周りが少しざわついてきた。

あれ?すごく今更だけど、なぜ巨人が来ないのだろうか。少し辺りを見回そうとしてみる。

 

「動くなと言ってるだろ!」

 

少し動こうとしただけでこれだ…そんなに私が怖いのか…当たり前か。しかし困ったな…後ろは建物だし…前は私より大きい人が多いから、動かない限り何も見えない…

 

「あ、あの…」

 

声を頑張って張り上げた。すると一気に注目を集めてしまった。さっきより何だか恥ずかしい…顔が赤くなりながら、

 

「な、何で巨人がいないの?内地にいるわけじゃないのに…」

 

い、言えた…少し力が抜けそうになる。するとイアンさんが、

 

「訓練兵や残りの駐屯兵がここを中心に巨人を殺している」

 

……ちょっと待って…それは…つまり…

 

「私を生かすか殺すか決めるためだけに…人が死んでるってこと…?」

 

それは…私のために…

 

「……ああ」

 

人が死んでいると言っても…過言ではない…?

 

「何で…私を殺さなかったの…」

 

「……?」

 

「どうして私を殺さなかったのか聞いているの!!」

 

「「「!!?」」」

 

この場にいる全員が驚いていた。

私が急に声を荒げたからだろう。

 

「そ、それは…」

 

「私を巨人の口の中に入れればいい!それか牢屋に入れてしまえば済む話なんじゃないの!?なんでこんな無意味なことに人の命を使うの!?私が生きることができる道なんてない!それはあなた方が1番わかることでしょ!?」

 

私は何を言っているのだろうか…それを言ってしまえば、もうおねぇさんに会えなくなるってことくらい、分かっているはずなのに……違う…そもそもおねぇさんに会えただけでも幸せなんだ…その幸せが…数年も続いたんだ。

 

私の幸せと人間の命なら、人間の方が大切に決まってる。

 

もう幸せは、十分に堪能した。

 

最近恵まれていたから忘れていたけど…本当の私は化け物で生きてちゃいけないんだよね。

 

「壁外追放でも…監禁でも…人類に貢献でも…何でも…するから…これ以上人間を…死なせないで…」

 

私は静かにそう訴えた。

 

兵士達はこの光景に…ただ当惑するしかなかった。




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2話

5年前のあの日から…隣を見ればおねぇさんがいた。

 

『吸血鬼ちゃん』

 

吸血鬼の私を受け入れてくれた。

 

『吸血鬼ちゃん』

 

いろんなものを見せてくれて、いろんなものを食べさせてくれて、いろんなことを教えてくれた。

 

『吸血鬼ちゃん』

 

面白い話を聞かせてくれた。

 

『吸血鬼ちゃん』

 

お店に入ったり、川で遊んだり、本を読んでもらったり、いろんなことをした。

 

『吸血鬼ちゃん』

 

この世に存在してもいいんだと、生きてもいいんだと、おねぇさんは安心させてくれるように私を呼んだ。

 

あの日常に戻りたい。

 

確かにあの時の私は人間の方が大切だと、幸せは堪能したと思っていた。

だけど…人間は大切だけど…まさかこれほどに幸せが…私にとってかけがえのない…欲深くなっているとは…気づけなかった。気づかなかった。

 

目を開ければ自由とはかけ離れた鉄格子、

横を見れば拘束するための鎖で繋がれている手、

下を見れば少し硬いベッド、

そう…私は牢屋に入っている。

 

もう隣におねぇさんはいない。

 

いない。いない。いない。いない。

 

いつかまたおねぇさんとまた遊べると、心のどこかで思っていた。

しかし時が経つにつれ、それがどんどん遠ざかっていく気が気でならない。

 

ねぇ…おねぇさん…一体どうしたらおねぇさんと会うことができるの?どうしたら遊ぶことができるの?どうしたらお話しすることが出来るの?

 

おねぇさん…他の人間と幸せなんかになれないよ。

だって吸血鬼だと知らなくても、あんなに敵対してきたんだよ?

おねぇさんがいないと…私に生きる理由はなくなっちゃうよ。

 

だから

 

「おねぇさんに会えないなら私に生きる価値なんてないの」

 

「おい、会って一言目がそれか」

 

「…………ふぁ!!?」

 

「そんなにびっくりしなくてもいいだろ…」

 

いやいやびっくりしますよ!誰だってあんな不意打ち食らったらびっくりしますって!リヴァイ兵士長!!

そこには調査兵団のエルヴィン団長と人類最強のリヴァイ兵士長がいた。

しかし私はこの2人が来たことに関してはびっくりしていない。そっちよりもおねぇさんじゃないことに少し落ち込んだ。まぁ逆に…ここにいたらそれこそびっくりするけど………というか、考えてみればなんでこんな偉い人が私に?私なにかしたっけ??やったことと言えば人間じゃないことがバレたけど…

 

「えっと…2人が私に何の用ですか?」

 

「少し提案をしに来てね。この牢屋を出たくないかい?」

 

………………え

 

「で、出られるんですか!!??」

 

ついつい体を前のめりにしたので手首についている鎖がジャラジャラと揺れた。声と音がかなり響いている。すると、エルヴィン団長とリヴァイ兵長は予想通りという顔をしているが、監視している憲兵は睨んできた。

 

「すみません…」

 

とりあえず謝り、体を元に戻す。でも前のめりにもなっちゃうよ。だって不可能だと思っていたのに突然希望が出てきたんだよ!?

蜘蛛の糸をつかむような話だけど、絶対に離してたまるか。

 

「それで…どうやったらここを出られるんですか?」

 

「その前に…調査兵団に興味はないかい?」

 

調査兵団…巨人の秘密を暴くために壁外調査に行っては兵士を無駄死なさせて帰ってくる。最近は期待してる人もいるらしいけど…私は興味が無い…というより、理解できない。なぜそこまでして壁の外に行こうとするか分からない。

なぜ天敵である巨人が沢山いる所へ行く?

なぜ兵士を無駄死にさせるようなことをする?

なぜわざわざ死にに行くような真似をする?

 

やっぱり調査兵団は何を考えてるのか分からない。

だけどまぁ…こうしてみると気になってきたな…。そういえば昔おねぇさんが言っていた。

『理解したければ理解している者に聞け。それでも理解出来なければ、そいつらと同じ環境で生きてみろ。こういうのは1人で考えてもしょうがないからね』

 

「調査兵団について聞きたいことがあります。なぜあなた方は壁の外に行くんですか?」

 

「それは…」

 

エルヴィン団長は重々しく答える。その言葉一言一言に責任を持っているように。

 

「巨人の秘密を暴き、巨人を絶滅させるためだ」

 

「……そうですか…」

 

やっぱりこの人達は理解できない…なぜ巨人に勝てる自信があるのだろう。雲をつかむような話じゃないか………よし、決めた。

 

「エルヴィン団長、私…調査兵団に入りたいです」

 

人間について理解してみよう。

人間の考え方、性格、行動、意思、強さ、特徴、人格を分析してみよう。

ついでにもしも調査兵団に本当に入れたらここも出られるし、一石二鳥とはまさにこの事だ。

…………あれ?この言い方だとまるで…まるで今まで人間と関わったことがないみたいな言い方じゃないか…おねぇさんは人間でしょう?…………たんなる言葉のあやだよね…きっと…うん。そうに決まってる。そうに違いないよ。おねぇさんは人間に決まってるじゃないか。

 

「構わないよ。実はここに来た理由は調査兵団の勧誘だったんだ」

 

やったぁぁぁぁ!!!

いや!でも待て!落ち着け私!もしかしたら牢屋にまた入る可能性も残ってるじゃないか!!

私は自然と笑いながらも、ほっとしたような顔になったと思ったら、元の表情に戻った。

 

「調査兵団に私を入れたい理由はなんですか?」

 

「主に巨人の秘密を暴くための実験に協力してもらいたい。それ以外はリヴァイの監視の元なら自由だよ」

 

エルヴィン団長は優しく答えている。

良かった…とりあえずおねぇさんを探すことは出来る…リヴァイ兵長と一緒になるけど………そもそもなんでリヴァイ兵長が監視するんだろう?

………いや、そんなこと分かってる。この人から信用されてないからだ…だからいつでも殺せるようにリヴァイ兵長を…………だけどおねぇさん探せるし…まぁいっか!

 

「分かりました」

 

「それと質問なんだが、君は人と違う体質が傷が回復すること以外にもあるのかい?」

 

あれ?この人知らないのかな?私が巨人に人間だと認識されずに食べられなかったことを…。いやでもあれだけの大騒ぎになってたわけだし…しかも偉い人だから知ってると思ったんだけどなぁ…それともわざと?だとしたら何を確かめるためにその質問を……とりあえず今は素直に答えて、後でじっくり考えよう。

 

「あとは巨人に襲われなかったこと、身体能力が基本的に人間よりも上です」

 

最後に人間を食べることだけど…おねぇさんに言わない方がいいと言われているからやめておこう。

 

「そうか…どれくらい強いのか分かるかい?」

 

「えーと…うーんと…」

 

何か例を出してほしいと言われても…おねぇさんに言われて納得してたし…なにか運動っぽいことやったっけ??

私は頭をポリポリかいていた。

 

「「!」」

 

すると2人が一瞬目が鋭くなった。

え、今度はなんですか??

 

「えっと……私何かしましたか??」

 

するとエルヴィン団長とリヴァイ兵長の2人だけで話し始めた。

 

「おいエルヴィン、さっきのは俺の見間違いか?こいつ鎖の重さを感じなかったかのように頭をかいた上に、無自覚だぞ」

 

これに重みなんてあったんだ…気づかなかった…

 

「私にもそう見えた。あの力は一体…」

 

「俺の感ではあいつは普通の兵士以上の力がある」

 

「10歳であの力だからな…。十分戦力になりうるかもしれん」

 

つまり私は戦力としても使われるってことか……ちょうど立体機動装置使ってみたかったから別にいいや。それに私の体質を知った時点で使おうと思っただろうし…

 

「ところで、実は君がそこに入っている間に巨人になれる人間が現れてね。生かすか殺すかの裁判を行った結果、君と同じリヴァイの監視下に置くことになったんだ」

 

さらっとエルヴィン団長がそんなことを言った。

 

「…………………はい?」

 

ちょっと待ってください!というかほんと待ってください!!理解が全く追いつきません!!

 

巨人化できる人間が現れた????

 

そんなの聞いたことがない。巨人になれるということは人間を食べるってことか?しかしそれならとっくに殺されているはず…。巨人化って大きくなるってこと??一体どうやって…

私は頭を抱えたのでジャラジャラという音が鳴り憲兵が睨んできたが、今はそんなことより、とにかくごちゃごちゃになっていた。しかしエルヴィン団長は構わず続ける。

 

「その訓練兵の名はエレン・イェーガー、さらに言えばエレンが巨人化して大岩を運び、トロスト区を奪還している」

 

さらに分からなくなってきた…トロスト区を奪還したって?一体どうやって…しかし奪還するには知性は残っていないといけないから人間を食べないってことかな?そして人類に協力的だから一応味方ってことか…。にしても巨人化って……まだ意味がよく分かっていない。

 

「あわわわわ……よく分かんないよ…」

 

言葉が出ているほどに頭がごちゃごちゃになっていた。エルヴィン団長は微笑んでいる。

 

「ではこれで話は終わりだ。最後に改めて…巨人を絶滅させ、脅威がなくなる生活をするためにも…よろしくな。入るのは巨人を絶滅するまでの間だけでいい。その後に牢屋に戻るようなことにはならないようにしよう」

 

「あ、はい。ぜひ宜しくお願い……!」

 

「??どうした?」

 

待てよ……考えてみれば…巨人がいなかったらおねぇさんと遊ぶのは…邪魔されずに済んだよね……それに…私が調査兵団に入る理由もなくなる……それって……

 

巨人を絶滅させればおねぇさんとまたあの時みたいに遊べるってこと?

 

その考えに至ると、私はこれから殺すであろう巨人の項を削ぐイメージを浮かべていた。

 

「エルヴィン団長…私、頑張ります。一緒に巨人をぶっ殺しましょう」

 

「……エルヴィン…こいつに少し興味が出た。いい殺気を放ちやがる…」

 

唐突に褒められてしまった。いい殺気って何ですか?というかこれって褒めてるのだろうか…

 

「班に入ったあとは俺が鍛えてやる」

 

これはラッキーだ。人類最強に教えられるなんて…技を盗みまくって強くなってやる。

素質があるかないかはどうでもいい。

ただ私は強くなることだけを考えていればいい。

 

「では過去に例がないわけではないが、特例として調査兵団に入れるように交渉しよう。しかし調査兵団に入らなければ訓練兵団に入ることとなる」

 

エルヴィン団長は立ち上がりながらそんなことを言った。調査兵団か…きっとこの年で調査兵団に所属するなんて特例中の特例なんだよね…そもそも所属できるかも分からないし…

しかし…もしも私が巨人なら…これを利用して沢山人を食べるんだろうな…でも…それをわかった上でこの人は私を入れようとした…

 

すごい。

すごいとしか言えない。

すごい以外の表現が思いつかないけど…なんかすごいな…おねぇさんと同じくらい…

 

「分かりました。待っています」

 

そしてエルヴィン団長とリヴァイ兵長は帰って行った。私は起こしていた上半身を思いっきり倒した。理由はただ単純に

 

「疲れた…」

 

ただそれだけだ。まさか偉い人と話すことになるとは…きっとこれからはもっと話すんだろうな…。しかもおねぇさん以外会話らしい会話をしていなかったから、久しぶりだったのもあるし…

まさか調査兵団に入ることになるとは…

 

「……はぁ……」

 

もちろんおねぇさんを守るための力を身につけられるし、巨人を全滅させたあとは今まで通りといかなくても遊べる時間は増えるだろう。

 

「おねぇさんと遊びたい…」

 

そう…だから遊ぶために早く巨人を殺そう。

そして巨人を殺すためには強くなろう。

強くなるのに1番手っ取り早いのは恐らくリヴァイ兵長に習うことだ。できるだけその事に時間を注ぎたい。座学とかはとっとと終わらせよう。

 

 

それから数日後。

 

「すまない…特例として調査兵団に入団するのには流石に無理があった。その代わり訓練兵団に入り、調査兵団に入っても問題なくなる程度になれば入ってもいいと言われたので、今日から訓練兵だ。頑張ってくれ」

 

あはは…なんで最初からこうも上手くいかないのだろうか…強くなるのに時間がかかっちゃうよ…




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今回も描写など変なところがあった場合は指摘お願いします。


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3話

「立体機動凄かったね!あれどうやったの?」

 

「立体機動装置のコツ教えてくれ…頼む…」

 

「最初から思ってたけど可愛いね!歳はいくつなの?」

 

「出身地はどこ?」

 

「どんな特例できたの!?」

 

「どこからあんな力が出るんだ!?」

 

「ねぇねぇ!さっき傷が回復してたけどどうしてなの?体質?」

 

「体質で片付くわけないじゃん!きっと何か魔法かなにか使ったんだよ!」

 

「……」

 

まさか食堂に入ると10人くらいに囲まれると、誰が予想したであろうか。驚きと緊張を通り越して硬直している。

あーーーーうん。こういう時こそ落ち着こう。落ち着いて落ち着いて落ち着こう。質問の嵐が酷くなってるけど落ち着こう。

えーーっと、まず今日から他の訓練兵と初めて会ったから、こうなってるのは今日原因がある……はず。でも今日はおかしな所はない……はず……

 

ーー

 

まずあの後エルヴィン団長に約束事を言われて…

 

『無事訓練兵になった訳だが、この約束を守ってほしい。まず1つ目、教官に従うこと。そして2つ目、可能な限り早く調査兵団に来ること。次に3つ目、普通の人間として生活すること。最後に休暇では実験に協力するため、調査兵団本部に来ること』

 

それで次の日に朝早く、教官が他の訓練兵に私を紹介してもらって…特例で入ったことを伝えて、怪我や巨人のことは伏せておいたんだよね。

 

『今日貴様らに集まってもらったのは訓練ではない!今日から特例として訓練兵になった者がいる!』

 

次に適性判断っていう、腰にロープを付けてぶら下がったんだよね。

 

『ブレが全くないな…合格だ』

 

その後は立体機動を使って空を飛んだんだよね…楽しかったな…盛大にミスして怪我したけど。

 

『他の者は訓練を続けてろ!貴様は医務室へ行け、誰にも見られぬように』

 

お昼では教官に呼ばれて行ったらすごく怒られて…

 

『あれほど気をつけろと言ったはずだが…』

 

食べなくて大丈夫だけど、昼ごはんを食べずに対人格闘が始まって…普通にやったらたくさんの人に怪我させて…骨折とか…酷すぎて開拓地行きになった人もいるし…

 

『……リヴァイに任せるか…』

 

最後に体力訓練をして、頑張って走ったら1位を独占して…また教官に呼ばれて…怒られると思ったら褒められて…

 

『座学が平均並みであれば、あと2週間で調査兵団に行けるだろう』

 

ーー

 

そして食堂に入って………

 

「別におかしなことは何も」

 

「「「あるよ!!!普通じゃないよ!!!!」」」

 

「!!!」

 

盛大に突っ込まれた。あんな大騒ぎの中あんな小さい声をどうやって聞き分けたの!?人間の耳ってどうなってるの!?というか普通じゃないの!!?普通に真面目に訓練しただけじゃん!!怪我も隠せたと思ったのに!

 

「逆にどうしたらそんな不思議そうな顔出来んだよ…」

 

「普通じゃねぇ…身体能力も…思考回路も…普通じゃねぇ…」

 

「無邪気な顔も可愛いね!」

 

なんか最後の鼻息が荒い人だけ私の本能が危険だと言っている。何故だろうか。

 

「みんな、この子はお昼ご飯を食べ損ねてるんだし、夕飯を食べながら質問しようよ」

 

ご飯は食べなくても栄養にはならないんだけどね。それと皆をまとめるリーダーっぽいメガネくんは、私に対して質問はやめさせないんだね。まぁ、別に人間のことが分かるかもしれないからいいけど…

そして食堂の使い方を教えてもらい、夕食を食べながら、

 

「それで?どうしてそんなに強いの?」

 

「それは……分かりません」

 

吸血鬼だからなんて言えない。

 

「ならなんで怪我が治ったんだ?」

 

「……体質です」

 

これで納得してください…

 

「じゃ、じゃあどんな特例できたの?」

 

「……」

 

………言ってもいいのかな?それとも言わない方がいいのかな?

 

「あ、言わないよう言われてるなら別にいいよ」

 

別にどっちでもいいけど…話が長くなりそうだし、そういうことにしておこう。

 

「出身地は?」

 

「シガンシナ区です」

 

すると相手は、というより周りにいる人達は興味津々な目で

 

「なら、5年前に見たんだよね!超大型巨人とか、鎧の巨人…あと普通の巨人を…!」

 

「普通の巨人なら見ましたよ」

 

「「「おおおおおおおお」」」

 

歓声が来た。そんなに珍しいのかな?というか座学でやってるはずでは?

 

「な、なぁ…巨人ってどんな形をしてたんだ?」

 

「巨人は……人間が大きくなった感じですね。あと変な顔してて…皮がうすそうで…座学で習った通りだと思います」

 

「座学でもやったんだけどね…やっぱり実際に見た人の感想を聞いてみたかったんだ…」

 

感想か…

私は試しにパンを食べながら、5年前のことを思い出してみた。

 

聞こえてくるのは人間の悲鳴と泣き声。

落ちているのは建物と血と死体。

それ以外は巨人や人間を食べる姿…

 

「……」

 

改めて思い返すと、巨人は人間のこと美味しそうに食べてたなぁ…。しかもごっくんっていう音がつきそうだし…。中には喉越し良さそうに食べてたりとか…

巨人は人間が美味しいから食べてるのかな?

 

「ごめんね…」

 

「……?」

 

いきなりメガネくんが謝った。周りを見ると、気づけばどんよりした雰囲気になっている。

え?え?なになに!?なんで謝ってるの!?

 

「嫌なこと思い出させたよね…探究心に駆られすぎた…ごめん…」

 

「え?別にそういう」

 

「そろそろ時間だし寮に行こっか」

 

ちょちょちょっと待ってください!気を利かせて話を変えたつもりかもしれませんが、私は別に傷ついてなんか

 

「そうだね、ちょうど時間だし…」

 

「今日は怖いこと思い出したよね?だから私が添い寝してあげるよ。いいよね?ね?」

 

少し興奮気味な女の訓練兵の人(危険生物)がグイグイ来る。

 

「じゃあ任せるよ。そういえば君はなぜか小さい子に好かれるところがあったよね」

 

「!?」

 

何言ってるんですかメガネくん!この人のどこが好かれるんですか!?人間はこんなのに好くんですか!?

 

「だ、大丈夫です!一人で眠れます!」

 

「君は一人で眠れるのかー、偉いねぇ。もしも怖い夢を見たらいつでもお姉さんの所へおいでぇ」

 

そして頭を撫でられた。

なんでだろう…おねぇさんにも撫でられたことがあるのに…初めての感覚のように感じた。なんていえばいいのか分からないけど…なんだろう…

 

なんというか…人間…らしい…?

 

「あ!」

 

頭から手を離されてしまった。

 

「え!もっと頭を撫で撫でしてほしかったの!?」

 

私は全力で首を横に振る。目が怖い。なんか怖い。

 

「そっかー、ちょっと残念。とりあえず寝よっかー」

 

「は、はい」

 

そして聞いてるだけだったけど…雑談をしながら、女子寮まで案内してもらい、1人で布団の中に潜った。

 

はぅ…初めてたくさんの人間と喋った…。エルヴィン団長の時よりも疲れた…。気を抜いたらホントに眠っちゃいそう…

 

「……」

 

これが…人間か…

 

思ったよりも弱くて…

思ったよりも脆くて…

相手のことを考えて…

暴力を振るわない…

暴言を言わない…

個性的な人もいた…

 

私が今まで接してきた人間の中で…おねぇさんの次に優しい…

けれど…おねぇさんより人間らしい…

 

人間…

 

『すごいな!』

 

『よろしくね!』

 

化け物…

 

『死んでしまえ!!』

 

『殺してやる…』

 

この差は…一体何なの?

一体…何が違うの?

どっちも私のはずなのに…

名前が違うだけで…中身は同じなのに…

 

訓練兵の皆も…私が人間じゃないことを知ったらああなるの?

 

それだけは…絶対にやだ…

 

嫌だ…

 

バレたく…ない…

 

その日はその事について深刻になっていたけれど、特に問題事は起こらず、普通の日々を送っていた。

 

立体機動では誰よりも速く移動して、標的のうなじを深く削ぎ、

対人格闘では私を恐れてるので誰ともやれず、

座学ではなぜか覚えるのが早くて、

体力訓練では相変わらず一位を独占、

馬術もすぐにコツをつかむことができた。

教官が言うには、ここまで習得が早い人間はいないとのこと。

しかし、人との交流は難しかった。おねぇさんとあんなに仲が良かったのが不思議なくらい…。功績を挙げなければ、友達と呼べるものはいなかったかもしれない…

 

 

そして、訓練兵になってから五日目。

…………よし、今は朝の4時。この時間なら人間でも早起きなら問題ない時間だ。今日は休暇の日だから、せめて調査兵団本部に行くまでの時間、おねぇさんを探そう。そう思い、私は布団から出ようとした……が、

 

「……どうしよう…」

 

時間とか探す場所とか気にしすぎて、上から危険生物さんに抱かれていることに気づかなかった。いびきをかいてぐっすり寝ている。

もうこれで3回目だよ…。初っ端から運が悪い…この人が起きたら相手にするのに一時間くらい取られる…なんとかここから出ないと…いつもならこの人が起きるまでじっとしてるけど、今日はそういうわけにはいかない。

私はできるだけ力を抑えて、薄い布団をクッションにして、肘の関節の部分を持ちながら上半身を起こした。

よし!見る限り骨は折れてない。そしてそのまま後ろに倒して、静かに急いで兵服に着替え、女子寮を出る際…

 

「………抱き枕……」

 

謎の寒気を感じつつ、トロスト区へ向かった。

 

 

そして3時間後。

どうしよう…全然見つかんない…

まぁトロスト区にいるかどうかも分からなかったし…広いし…人に聞こうとしても誰もいないし…ぜんっぜん見つかんないよ…

流石に3時間も猛スピードで走ったからベンチで座ってるけど…この方法で見つかるのかな?

 

約束の時間まで…あと30分…

 

私はおねぇさんのこと…何も知らない…。名前は知らないし…行きそうな場所とか…好きな物とかも…知らない…

おねぇさんは知ってるのに…なんで私は知らないの…?

私はベンチの上で体育座りをして、俯く。

 

おねぇさん…会いたいよ…

 

「おやおやーこんな所にかわいいかわいい吸血鬼の子供がいるぞー」

 

「……え?」

 

気づけば隣におねぇさんが座っていた。

 

「久しぶり、吸血鬼ちゃん」

 

そこには正真正銘、おねぇさんの姿があった。

 

「お、おねぇさん…」

 

おねぇさんの声だ…

おねぇさんの顔だ…

おねぇさんの手だ…

おねぇさんの体だ…

そして…おねぇさんだけが呼んでくれる私の呼び名だ…

 

本物の…おねぇさんだ…

 

「おねぇさん…会いたかった…」

 

「私も会いたかったよ」

 

私はおねぇさんに抱きつく。おねぇさんは背中をさする。

まさか…本当に会えるなんて…嬉しい…嬉しいよ…

 

「あ!」

 

私は急いで手を離す。

だ、だめだ!あんなに強く抱いたら、おねぇさんのお腹が怪我するかも…!

 

「……?」

 

あれ?でもおねぇさんはどこも怪我をしてない…見た目は痛そうにしてないし…苦しそうでもなかった…。そういえば…おねぇさんが怪我してるところって見たことない。

 

「……おねぇさんって…怪我ってしたことあるの…?」

 

「ないよ。おねぇさんは頑丈だからね」

 

まるで最初からその質問を待っていたかのように、迷いがない返事だった。

訓練兵よりも頑丈だったら…そりゃ怪我はしないか…

 

「そうだったんだ。納得したよ!」

 

「それは良かった。ところでそろそろ約束の時間じゃない?」

 

「え…あ、確かに…」

 

せっかくおねぇさんと会えたのに…まだ話したいことを話してないのに…

 

「大丈夫、また会えるよ。早く巨人を全滅させて、おねぇさんと遊ぼうね」

 

もう…そんなところまで知ってるんだ…。そうだよね…だっておねぇさんはなんでも知ってるんだもん。

 

「うん!待っててね!」

 

そして私は調査兵団本部に向かう。振り向くと、おねぇさんが手を振っている。私も手を振って、おねぇさんと別れた。

 

 

そして30分ほどで調査兵団本部に着いた。すると、入口に調査兵団の兵服を着ている女の人が立っていた。女の人は私に気づくと、私に近づき、私の手をガシッと掴んだ。

 

「君が例の子供だね!エルヴィンから話は聞いてるよ。今日はよろしくね!」

 

「は、はい…よろしくお願いします…ハンジ分隊長…」

 

なんか…イメージが全然違う…分隊長ってもっと…堅くて怖そうな人を想像してたけど…

 

「うん!じゃあ、早速だけど実験する場所へ行こうか!!」

 

「へ………わ!!」

 

ハンジ分隊長は私の手を引っ張って、歩き始めた。私は急いで状態を立て直して、なんとか歩いている。

びっくりした…会って一言言っただけで、もう手を繋いで引っ張るんだもん…。しかもよく見ると赤らめてすごく嬉しそうに歩いてる。イメージがすごい変わった…。一体どんな実験をするのだろうか…

そんなこんなであっさりと着いてしまった。そこには調査兵団の兵服を着ている調査兵がチラホラ。

そして釘やワイヤーで拘束している1匹の巨人がいた。それも…あの時…5年前に瓦礫をどかしてくれた巨人だった。

 

「彼はアレク。今回の実験のために急いで捕獲した巨人だよ。ソニーとビーンは…殺されてしまったからね…」

 

あれ?巨人に名前なんてあったっけ??というかソニーとビーンって誰!?ハンジ分隊長は少し落ち込んでいた。仲間だった人の名前なのかな…?

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「うん…ごめんね。とにかく今はこの実験に集中しよう。まず最初にやってもらうのは、巨人に近づいて触ってほしい」

 

「?それだけでいいんですか?」

 

「うん」

 

そんなの誰だってできるんじゃ……あ、人間だと襲われるから、人間じゃないことを改めて確認するためか。

 

「分かりました」

 

そう言って私は巨人に近づいた。巨人は一瞬私の方を向いたが、食べることなく無反応だった。巨人との距離が縮まる度に、調査兵団の人達からの視線が痛い…。なんというか…緊張する…

そして、とっくに食べられてもおかしくない位置まで近づくと、ザワっと周囲がざわめいた。

 

「いいよー!その調子で触ってみてー!」

 

「は、はい….」

 

ハンジ分隊長が叫んでいる。私はそのままお腹の部分を触った。へぇー意外と柔らかいなぁーお腹をつついてみる。すると周囲はさらにザワつく。さらにハンジ分隊長も、

 

「ね、ねぇ!そ、その部分って…一体どんな感じがするの!!?」

 

「分隊長!!あなたは巨人に食われます!!生き急ぎすぎです!!」

 

今にも走り出しそうな雰囲気で引き止められている。私は一体どんなリアクションをすればいいんだろう?

とりあえず生き急いでるなぁーと思いながら報告する。

 

「お腹の部分を触ってるんですけど、結構弾力があって固いです………あの…戻ってもいいですか?」

 

巨人とはいえ人間と似てるからな…イメージするとしたら人のお腹を間近で見てる感じだから、居心地がすごく悪い。気持ち悪いとすら言える。

 

「できれば他の所も触ってほしかったけど…時間にも限りがあるし、戻っていいよ」

 

ハンジ分隊長…時間があったらどこを触らせるつもりだったですか?そう思いながら許可が下りたので、ササッとハンジ分隊長の所に戻った。

 

「じゃあ、次は巨人と意思の疎通をしてほしい。内容は自由でいいよ」

 

「分かりました」

 

またしても巨人に近づく。歩いている間に考える素振りをして、会話の内容を考えていた。

自由って言われてもなぁ…何を話せばいいんだろう…。意思の疎通といえばわかりやすく…質問をすればいいのかな?はいかいいえで答えられるような…でも…できれば巨人の秘密が分かるようなものの方がいいよね…

 

どうして人を食べるんですか?

どこから来たんですか?

壁の外はどうなってるんですか?

なぜ人間以外に興味を示さないんですか?

その体の構造はどうなってるんですか?

なぜ私が人間でないことに気がついたんですか?

 

私は巨人の前に立つ。巨人は私に反応しない。

そして…

 

「なぜ私を助けたんですか?」

 

他にもいろいろあるけど、やっぱり1番気になるのはこれかな…

動物は殺しもせずに助けもしない。

人間は殺して食う。

けれど私だけは殺さずに助けた。

そもそも巨人同士で助け合うとは考えにくい…つまり私は巨人としても認識されていない。それに…たまたま瓦礫をどかしたとは思えない…2回もそんな偶然起きるかな?

 

………巨人が私を生かした。なら生かす理由はなんだろう…

 

…………うぎゃー、考えても仕方ない。答えを待とう。まぁこれで答えてくれるとは考えにくいけどね…私と巨人で会話ができるわけ

 

「………カミ……サマ……」

 

私は自分の中にある時の流れが止まった。巨人が…言葉を…発した…?

今…神様って…

 

その瞬間、頭にノイズが走った。

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!」

 

悲鳴をあげるほどに頭痛がした。

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

頭だけが痛いのに、全身に痛覚が走るように感じる。

頭がかち割れそうになる。そして本当にヒビが入り始め、頭から血が流れる。口からも血を吐いている。

 

しかしノイズは止まらない。

 

聞いたことがある声が、

聞いたことがない声が、

見たことがある景色が、

見たことがない景色が、

聞いたことがあるセリフが、

聞いたことがないセリフが、

見たことがある人が、

見たことがない人が、

 

全てにモヤがかかり、聞こえてくる、見えてくる。

 

ここはどこ?貴方は誰?

 

分からない、分からない、分からない、分からない、分からない。

 

「――――!!」

 

「――――――!?――――」

 

「―――――――!」

 

他の人が何か言っているけど、知らない声が邪魔をする。

他の人の顔が、知らない何かが邪魔をする。

そして痛みが邪魔をする。

 

口から出た血が、頭から出た血が、ここ一帯を埋め尽くす。出てきても出てきても止まらない。出てきては回復を繰り返す。

 

身動き一つも取ることが出来ない。痛くて痛くて、それ以上の感覚が麻痺している。体が痺れている。

 

誰か…助けて…!!

 

『誰も君を助けない』

 

!!どこかで見たことがある後ろ姿。

どこかで聞いたことがある声。

 

『訓練兵の皆も助けない』

 

この声だけはモヤがかからず、姿もハッキリと映っている。

 

『おねぇさんだって助けない』

 

お母さんでも、お父さんでも、お姉ちゃんでも、おねぇさんでも、訓練兵でも、調査兵でも、駐屯兵でも、教官でも、夢の中の人でもない。

 

『君自身も助けることはできない』

 

身近にいる存在のはずなのに、どの人も違う。

 

『だから君は死の願望を持ち、死の末路をたどることになる』

 

「あ……た…は…だ……なの…?」

 

なんとか声を絞り出し、口にした。

彼女はゆっくりとこちらを向き、そこに映っていたのは…

 

『これは、そういう物語』

 

涙を零している私の姿だった。




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4話

少女はお店の前に立ち、ある物に指をさします。

お店の人は少女に気付くと、とても嫌そうな顔をしながら、

 

「………いつもの内臓だな。とっとと持ってけ。そしてとっとと帰れ。化け物がいたら客が近づかねぇんだよ」

 

少女は頷きます。お店の人から三切れのお肉をもらい、自分の家に帰って行きます。

家の中は血でいっぱいに広がっています。そして少女のお母さんとお父さんが寝ています。

少女は家の隅っこで、三切れの内一切れの肉を食べています。

食べている最中。少女は突如、こう呟きます。

 

どうして私はこんなにも理不尽なんだろう。

 

同じ種族なのに、なんで化け物呼ばわりされるのだろう。

 

ーー

 

「……ん? ここは…」

 

ここは…ベッドの上……訓練所の医務室? とは少し違いそうだし…

 

私が起き上がると、兵士の服を着ている人が、扉を開けっ放しにして、走ってどこかに行ってしまった。紋章までは見えなかったので、どの兵団かまでは分からない。

 

「……? そもそもなんでここに…………!!」

 

そうだ…あの巨人に質問をして…頭が痛くなって…それから…

 

『これは、そういう物語』

 

あれは…私の姿…だったよね…

一体…どういう………! そんなことよりはどうでもいい!! そんなことより、気絶した。気絶してしまった。

気絶した時はどうなるか分からないけど、寝るのとそんなに変わらない。

また、人を食べたんじゃ……なんで…こんな時に限って……

? でもそれだとおかしい。牢屋に入っていない。手錠もない。

それに…服は血で汚れてないし…死体はないし…五年前に食べたから、食べずに済んだ……とは考えにくい…

 

一体…あれから何が…

 

「お! 起きてる起きてる」

 

「ハンジ…分隊長」

 

ハンジ分隊長とモブリットさんがこの部屋に入ってきた。さっき走っていったのはモブリットさんだったのかな? 

ハンジ分隊長は、ベッドの隣にある椅子に座った。

警戒されてない……この様子だと…人は食べてないのかな…

 

「無事目を覚ましてくれてよかったよ。このまま寝るんじゃないかって、すごく心配したよ」

 

「え…そんなに寝てたんですか?」

 

「うん。丸三日だよ」

 

ちょ…それ本当ですか? 流石にそんなに寝たことは……いや…正確に何時間寝たのかは私も知らない。五年前とか…それより前の時とか……もしかしたらその時だって、三日間寝てたかもしれないよね。

 

「ハンジ分隊長、あの後一体何が…」

 

「うん。まず君が巨人と意思の疎通をして成功した。そしたらいきなり悲鳴をあげて血を吐いたりした――っていうのは覚えてる?」

 

えっと…確かすごい頭痛がして、いろんなものが見えたり聞こえたりして…

 

「はい」

 

「その後君は、いきなり自分の手を頭の中に突っ込んだり、体のありとあらゆる所を掻きむしったんだよ」

 

「え…そうなんですか…?」

 

「覚えてない?」

 

痛すぎてその原因になってるものを壊そうとしたのかな…私って怪我が回復するから、体とか結構適当に扱うんだよね。

 

「頭をぐちゃぐちゃにしたので、記憶に残ってないのかも知れません」

 

「それって自分の記憶を無理やり消したってことだよね!! それって可能なことなの!?」

 

「ハンジ分隊長! 落ち着いてください!!」

 

ハンジ分隊長は私が乗っているベッドに身を乗り出してきた。モブリットさんがこの前のように止めている。

何故だろう…ハンジ分隊長は危険生物さんと同じ匂いがする…いやそれ以上に危険だと私の本能が言っている…

 

「おっとすまない、少し取り乱しちゃったね。話を戻すけど、その後君を助けようとしてアレクを殺して、ここ…調査兵団の医務室に寝かせたんだよ」

 

ん? となると…

 

「被検体を殺したってことですか?」

 

「うん…もちろんあの巨人も大事だけど、君の身を安全が最優先だったからね。それにものすごく貴重な情報も得られた…」

 

「……」

 

ハンジ分隊長はあの巨人がすごく大切だったんだろうな…例えば私がおねぇさんを殺さざるおえない状況になったみたいな…そんな感じなんだろうな…

 

私なら…そんなことできない…

 

でもこの人は、私情より人類の利益を考えた。自分の生きる意味を殺した…みたいな。

……生きる意味が無くなる…か……もしも私が生きる意味を失ったから、死ねる方法をひたすら考えてるかも…そして死ねる方法がわかったら速攻でやりそうだな…

 

『だから君は死の願望を持ち、死の末路をたどることになる』

 

「……そういえば倒れている間、変なものを見たんです」

 

私は幻聴や幻覚、自分の姿や見ていた夢について話した。

 

「……見たことがない人や景色か…」

 

ハンジ分隊長は手を組みながら必死に頭を働かせているよう。

 

「はい…信じてもらえるか分かりませんが…」

 

「分かった、それについても考えてみるよ。君は何か心当たりとかある?」

 

「……うーん…特に心当たりはありませんね…ただ…なんというか…もう一人の自分が言っていたことを思い出すと…」

 

『誰も君を助けない』

 

「本当になりそうで…心がざわつきます…」

 

誰も私を―――助けない。

 

おねぇさんも、訓練兵のみんなも―――私を助けない。

 

なんでだろう…あのおねぇさんでさえ助けないなんて…そんな話…あるわけないのに…

 

私はギュッと、胸の前に手を握る。

 

本当なわけないじゃん…嘘に決まってる…嘘に…決まってる…

だって…唯一吸血鬼の私を受け入れてくれたんだよ?

まさか…それは表面上だけで…本当は……そんなわけない。

そんなはず…ない。

でも…私はおねぇさんを何も知らない…なら…………嫌だ…

 

もう…考えたくない…

 

「落ち着いて」

 

モブリットさんに私の頭を撫でられて、悪夢から一気に現実へ戻してくれた感覚がした。

また…暖かい…なんでだろう…この前よりも…暖かい…

 

「私達は君の味方だから、落ち着いて」

 

言葉も…暖かい…一言一言が…暖かい…

ついつい泣いてしまいそうな……そんな温かさがある。

この人達を…信用してもいいんじゃないかって…そんな風に思わされる。

 

「……ありがとうございます。モブリットさん。落ち着いてきました」

 

モブリットさんは胸を撫で下ろし、

 

「よかった…」

 

………この人達なら…信用…しても……吸血鬼だって言っても…大丈夫なんじゃ……人類の敵だなんて…言わないんじゃ…お母さんとお父さんのように…ならないんじゃ………

 

ううん…ダメ…ダメだ…どうしても…言いたくない…なんだか…嫌な予感がする…

 

……あれ? なんで私は…吸血鬼は受け入れてくれないと決めつけているの…?

お母さんとお父さんが変わっちゃっただけ…おねぇさん以外でも…受け入れてくれるかもしれないのに……そもそも…人を食べなければ、態度は変わらなかったんじゃないの…?

人を食べるのは我慢することは出来る。寝ることさえしなければ、人間を食べないで済む。

なぜおねぇさんだけ…おねぇさんだけしか受け入れてくれないと…思ってるんだろう…

 

なぜ他の人には…教えることにここまでの拒絶反応を…一体なんで…?

 

「……さて」と、ハンジ分隊長は言い、立ち上がりながら、

 

「無事落ち着いたみたいだし、話を聞かせてくれてありがとう。最後に伝達。君は明日から訓練兵に戻る。それと、リヴァイ達が調査兵になっても問題ないか見に行くから」

 

「……は?」

 

リヴァイ兵長が私を試しに…?

 

「今回の実験結果で、早く調査兵にして巨人の実験をした方がいいってことになってね。成績は良好みたいだからリヴァイに判断を任せようってことで。じゃあまた実験よろしくね~」

 

嬉しそうなハンジ分隊長とモブリットさんは帰っていった。

 

……………やったぁぁぁぁ!!!

 

もしもここでOKがでたら調査兵団に入れるってことだよね!! というかリヴァイ兵長に教えてもらえる!

立体機動とか色々と。一時は悲惨な思いをしたけど、結果的には良かった!!

……いや…待てよ…入団試験を早めた理由は…巨人の実験をするため……………ダメじゃんか!! 逆に教えてもらう時間を減らしてるじゃないか!!

 

「……ブー…」

 

せっかく強くなれると思ったのに…それに休暇もなくなっちゃうよね。どうせ巨人の実験をやらされるに決まってる。あんな質問しなければなぁ…

 

「……考えても仕方ないか…」

 

うーん…暇だし体動かそうかな…体がなまってるかもしれないし。

 

「とりあえず、腹筋千回からやりますか」

 

と言いつつも、途中から数が分からなくなったため、腕立て伏せや背筋もやろうと思っていたけれど、腹筋をやり続けていた。

 

 

数時間が経ち、星や月が見え始める七時頃。

ノック二回と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「失礼しまーす」

 

げ……こ、この声は……

 

「き、危険人物…さん…?」

 

「ああ! またそんな変なあだ名で呼んで! 私にはちゃんとホナミっていう名前があるの!」

 

そういえばそうだったっけ…フルネームは忘れたけど…

 

「な、何しに来たんですか?」

 

「教官から目が覚めたって聞いたから、そのお見舞いに来たんだよ! メガネくんと一緒に!」

 

病人じゃないからお見舞いとはちょっと違う気がするけど…まぁ様子を見に来たってことか。

………どうにかしてメガネくんだけこの部屋に入れる方法はないものか…

そんなことを考えていると、メガネくんが、

 

「君が好きなお菓子を買」

 

「それを先に言ってくださいよ~」

 

お菓子を持ってきてくれていると、考えが辿り着いた瞬間に、扉を開けた。全開に。

 

「………あ」

 

「チャンス!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

それから十分後ほど。

 

 

「……うぅ…騙された…」

 

まさかお菓子を買ってきてなかったとは…釣られた…この二人に釣られた…

もう誰も信用できない…誰も信用するもんか…

 

「えへへー久しぶりだなぁー」

 

ホナミさんが満足気にしている。

だけど私には、そんなことが気にならないほどにお菓子が食べられないことが悲しい…

 

「ロリコンが女の子を抱いて、満足そうにしていて、女の子はこれ以上ないくらいに絶望しているこの絵を、僕はどう受け止めればいいのだろうか」

 

メガネくんは状況説明をしている。

知らないもん…メガネくんだって共犯者だったんだもん…味方が誰もいない…

 

「酷い…酷いよ…この世界は残酷すぎるよ…この世界は残酷だ…」

 

「ごめん。まさかそんなに落ち込むとは…」

 

謝られても…許されないもん…許さないもん…

 

「代わりに今度、クッキーを買うか」

 

「十個入りのクッキーなら許す」

 

一体どんなクッキーがあるのかな? バタークッキーかな。それともチーズクッキーかな。それともそれとも――

 

「………僕のお金が…………自業自得だけど…」

 

あれ? 全然気付かなかったけど、さっきからお腹が閉められてる感覚がするな…それもだんだんキツくなって…それになんだか首筋が少し濡れて…

 

「きけ……ホナミさん! 何やってるんですか!? ヨダレを垂らさないでください!」

 

「いやぁ、三日間補給できなかった栄養分を取っているのだよ」

 

「栄養分!? 栄養分ってなんですか!? それって生きる上で必要な物なんですか!?」

 

というか必要あってもなくてもやめてください!

 

「ふふふ…やめて欲しければ力技で私を剥がしてみるんだな。まぁできないと思うけどね」

 

この人どうやって私の心を読んだの!? とまでは驚かない。嫌がっているのを見れば、流石に誰だって分かるだろう。

しかしまぁ、その言葉通り、私は力技を使うことが出来ない。

私は力加減が出来ないせいで、骨折をさせてしまうことがあったし、開拓地送りになった人もいたのだ。

私はホナミさんのこの行動には慣れつつある。最初は嫌だったけれど、今はそこまでではない。

はぁ…早く明日になって、リヴァイ兵長に習いたいな…力の加減…

 

「あ、私ちょっとトイレ行ってくるね」

 

ホナミさんが私をベッドに下ろし、トイレに行ってしまった。

 

「……二人きりになったね」

 

「そうですね」

 

考えてみれば、メガネくんと二人きりになることはほとんどなかった。

外見が小さい子供だったおかげで、常に周りにたくさんの人かホナミさんがいた。

 

「……」

 

「……」

 

ナニコノクウキ……何話せばいいのか全然わっかんないよ!!

だけど沈黙すればするほど重い空気になるし…

 

「……その…月が綺麗ですね」

 

「うん、そうだね」

 

「……」

 

「……」

 

終わったぁぁ!! 会話が終わっちゃったよ!! さらに重い空気になってどうすんの!!

 

「……それにしても、元気そうでなによりだよ」

 

「う、うん! 元気だよ」

 

よし! いいぞ…そのまま会話を…

 

「ずっと心配してたんだ。他の訓練兵のみんなも。いきなり三日間も居なくなるし…教官に聞いても何も答えてくれなかった……ねぇ…」

 

ゾクッ

 

この擬音が、この場面にふさわしいと感じた。

メガネくんは時々、人が変わったようになる。

いつもの優しくて、リーダーシップのある彼とは違う。

圧迫感が…迫力が…何もかも…違う。

 

「君は…どんな秘密を持っているんだ?」

 

「え……と……」

 

何か…言わないと…

 

「……その…」

 

今は…この場を切り抜けることだけを…考え…

 

「……いや…少し違うな…質問を変える。君はどうしてそんなに変わったんだ?」

 

……?

 

「変わったって…どういう…」

 

「おっ待たせー! ねぇねぇメガネくん、もう帰らないといけない時間だってさ」

 

「分かった。じゃあ帰ろっか」

 

「うん! じゃあばいばい! また明日ねー!」

 

「……ばいばい…です…」

 

そのまま二人は帰って行った。

 

さっきの…メガネくんの質問って…私が訓練兵になった一週間前から、今の今までの変化…じゃないよね。威圧感とかがあったし…

もしかして……一番私が変わった…五年前について聞いてきたのかな。なんとなく…そんな気がする。

ということは…それ以前の私を…知ってるってこと…?

 

でも…会った記憶はない…

 

私が覚えていないだけ…とか…?

……可能性は低くない。あの人を食べた時から…お母さんとお父さんが変わった時から、記憶が上書きされて、その前の出来事をほとんど覚えていない。あの人がどんな人だったかさえも…どんな顔だったかさえも…まるで覚えていない。

でも…もしそうだとしても…なんでメガネくんは何も言わずに…

 

「もう…わけがわからないよ…」

 

もう今日は考えることをやめよう。

本当は寝てスッキリしたいところだけど、そんなこと出来ないし…

明日の朝まで腕立て伏せでもやってよう。

 

そして本当に日が昇るまで、腕立て伏せをやり続けた。




評価や感想をお願いします。
今回も描写など変なところがあった場合は指摘お願いします。


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5話

 不安と緊張で押しつぶされそうになる。

 なぜなら今日、朝早くからリヴァイ兵長に呼ばれて、調査兵団に入るための試験をやることになったのだ。これを失敗、あるいは合格の水準まで届かなかったら、調査兵団に入れないから。このチャンスを逃したら、次はいつまた試験ができるかわからないから。そしたらリヴァイ兵長に教わる時間が少なくなる。おねぇさんと遊ぶ時間も…。

 改めて……私は不安と緊張で押しつぶされそうになる。

 今私が立っている枝の葉っぱや、真上にある大きい木の葉っぱ。それらが風に吹かれて、揺れている音が聴こえてくる。私の心臓の鼓動が、血管が太い首の鼓動が、ドクドクとうるさく音を立て、両手に持っているブレードからはひんやりした感触が伝わってくる。

 このブレードで…あの巨人の模型を、うなじを削ぐんだ。深く、素早く、正確に、あのうなじを破壊するんだ。

 それだけじゃない。そこに行くまでの百メートル、立体機動でガスの消費を抑えながら、速く、小回りを利かせて、移動するんだ。

 いつもやってる時とは訳が違う、何しろおねぇさんと『早く』遊べるかにかかってるのだから。早くリヴァイ兵長に色々教えてもらって、早く巨人を倒せるかにかかっているのだから。

 だからいつもみたいに模型を殺すイメージじゃなくて、巨人を殺すイメージで、ぶっ殺すイメージで。

 集中…集中…集中…。

 バンッ!

 私は信煙弾の音がすると同時に、枝を蹴り、トリガーを操作して、アンカーを数メートル先にある木の幹に突き立て、ワイヤーを高速で巻きとる。ガスに注意しながら、一番早く目的地に辿り着けるよう、最善の木を見つけてはアンカーを刺す。

 いつもより速く動いているせいか、体の所々が圧力で痛い。でもそんなことを気にしてたら、合格できない。そんなの誰だって我慢してるはずなのだから!

 そして、数秒で五メートルほどの大きさの巨人の模型の所に着いた。巨人は右を向いている。この方向なら…。

 私はアンカーをうなじに突き立て、遠心力で巨人の背後に回り、ワイヤーを巻いている。

 痛い痛い! さっきまでの圧力とは訳が違う! でもこれぐらいの、皮膚が剥がれそうになる痛みは、誰もが経験してるんだ! 

 私はワイヤーの移動に任せて、タイミング良くブレードでうなじを抉りとり、そこからリヴァイ兵長のいる木に移動した。

 

 

 ……はずだった。

 あれ…? おかしいな…。うなじを削いからリヴァイ兵長が立っている木の幹にアンカーを刺したまではいい。その後何故だかワイヤーが巻ききれないぞ…? 私は持っているトリガーのレバーを引いてみる。だがワイヤーは巻かれてない。ガス…が原因とも考えにくい。いつもより細心の注意を払ったし、切れるほどの量ではない。じゃあ何が原因だろうか。

 いやそれを考える前に、今やるべきことがあるではないか。視界を見てみろ。景色が変わっていっている。木の枝が見えていたのに、今は幹まで下がっている。

 もしかして今…落下してる…?

 そう認識できた時、もう私の足は地面に着いていた。正確に言うなら、衝撃で折れた足が、地面の上に座っていた。

 痛! めっちゃ痛い! でもあの時の頭の痛みの方が痛かったからなぁ…あれと比べたらそこまでなんだよね。そう考えると痛みが軽減した。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

 あれは確か、リヴァイ兵長と一緒に私を審査しに来たリヴァイ班の一人。あの栗みたいな髪の毛は確か…エルドさん…だっけ? 近くの木にいたエルドさんが、立体機動で私の方へ駆け寄った。

 

「はい。大丈夫です。エルドさん」

「俺はエルドじゃなくてグンタなんだが…」

「だ、大丈夫です! グンタさん!」

 

 あう…よりにもよって先輩に当たる人の名前を間違えちゃったよ…。オルオさんは覚えてるんだけど、エルドさんとグンタさんの名前をどうにも間違えてしまう…。この二人はどうにも印象が薄くて…。

 

「おい」

 

 とても低い、しっかりした声でそう呼ばれた。その声の方を向いてみると、案の定リヴァイ兵長だった。リヴァイ兵長も木から降りて、私の方へ近づいてくる。

 合格か不合格か言いに来たんだよね…。でも表情だけじゃどっちなのか全然分かんないけど…でも考えてみれば不合格の方が可能性高いよね…。そう思うとなんだかリヴァイ兵長が怖い! 一歩一歩距離が縮まる度に威圧感がある! なんか禍々しいオーラがリヴァイ兵長の後ろに引っ付いてる!

 

「あ、あのですね! リヴァイ兵長! いつもなら上手くいってたんですよ! というか今日はいつも以上に上手くいってたんです! ただいきなりワイヤーがおかしくなっちゃって! それで――」

「立体機動装置を見せろ」

「あのですから不合格には――ふぇ?」

 

 あまりにも予想外のことを言われたので、理解するのに一苦労した。けれど、やはり何を言っているのか分からない。

 

「聞こえなかったのか? 立体機動装置を見せろと言ったんだ」

「……は、はぁ…」

 

 リヴァイ兵長の思考が分からないまま、私は立体機動装置を外し、リヴァイ兵長に手渡した。もしかして…この人には何か分かったのかな?

 三十秒ほど立体機動装置を見ていると、「なるほどな…」と、言わんばかりの顔で、

 

「スピードの出しすぎだ」

 

 ? どういうこと? 説明が省かれていてよく分からない。

 

「それって…どういう…」

「ちょっと待ってください! まさかスピードの出しすぎで圧力が立体機動装置にかかり故障したということですか!?」

「「え!?」」

「ふぁ!?」

 

 後ろにエルドさんとオルオさんが居たことにビックリした! グンタさんの説明でガスの音とか聞こえなかったから。

 それはさておき、ちょっと速くしすぎたか…。私も聞いたことなかったけど、やりすぎて立体機動装置が壊れちゃうとは…。でもなんでこの三人はこんなに驚いているのだろう。そんなに珍しいことなのかな?

 

「故障といえば故障だが、厳密にはワイヤーを巻くフィンの部分がやられてるな」

 

 リヴァイ兵長からの付け足し。まぁ正直そんなこと私にとってはどうでもいい。もう後戻りできないのだから。次からは気をつけよう。それしか思うことは無い。知らなかったわけだし、全力でやった結果だし。

 

「ところでこの試験は――」

「このガキがそんな力を持っていると!?」

「聞いたことないですよ!?」

「速いとは思っていたが…ここまでとは…」

 

 私のセリフは三人のセリフで打ち消された。ムゥ…そんなことどうでもいいのに…。でも先輩だから強く言えない…。

 

「オルオ、グンタ、エルド、落ち着け。そのことに関しては前もって話しておいたはずだ。何しろ時間が限られている。こいつの試験は終わっちゃいねぇ。わかったらエルドとグンタは馬を準備。オルオは教官に報告しろ」

「「「ハッ!」」」

 

 三人は顔つきが変り、それぞれ目的地へと向かった。私は足が治っていることに気づき、立ち上がる。

 

「リヴァイ兵長、この試験は…」

「合格だ」

「……よ、よかった…」

 

 すごくホッとした…。立体機動装置を壊しちゃったから、てっきり減点されて不合格になるのかと思った…。緊張の糸が切れそうになる。

 でも、まだ気を抜けない。一つ目はクリアしたけど、二つ目の馬術、最後に座学があるんだ。そう意気込んで、リヴァイ兵長におんぶしてもらい、馬小屋を目指して移動する。

 とりあえずリヴァイ兵長は何も喋らないし、次の試験について考えよう。

 馬術は移動してる最中で見るらしいが、普通にいつも通りにやろう。立体機動の試験をやって分かったけど、頑張りすぎてもあれだし…。今度は馬が怪我しちゃうかも…。

 最後の座学では、ハンジ分隊長が作ったテストを解くらしい。これは全力でやろう。全力でやっても大丈夫だし…。対策としては、あとで移動しながらでも復習しておこっかな…。

 それにしても…さっきから風を受けたりしてて思うけど、リヴァイ兵長ってすごいなぁ…。私は吸血鬼だから身体能力が高い。だから努力もほとんどしなかった。けれど、リヴァイ兵長は人間の身でありながら、いつもの私と同じぐらいの速さで動いている。相当努力したんだろうな…。

 そして、数十秒で馬小屋に着き、私はリヴァイ兵長の背中から降りたら、訓練兵のみんなとお別れをする許可をもらい、五分だけ時間をくれた。

 訓練兵はグラウンドで対人格闘をしていた。

 

「おお! 私の天使よ! 一体どこへ行ってたんだい?」

「ホ、ホナミさん…苦しいでしゅ…」

 

 早速ホナミさんに見つかった私は、力強く抱きしめられた。ホナミさんを始め、訓練兵のみんなが私を取り囲む。

 

「あ、あの…」

「教官から聞いたよ! 調査兵団に入るかもしれないんでしょ?」

 

 一人の女性訓練兵が答える。

 

「それってどこで…」

「さっき老け顔の」

 

 あ、オルオさんか。

 

「調査兵団の兵士が、教官に話してたからね」

「なるほどです」

 

 リヴァイ兵長の立体機動の速さと、私が走った速さを合わせた時間と、オルオさんの立体機動の速さなら、オルオさんの方が早いか。なにしろさっきの場所からグラウンドの方が近いし。

 って、今はそんなことどうだっていい! それよりも――

 

「あ、あの!」

 

 ザワザワ騒いでいる中、私は大声を出して注目を集めた。さ、さすがにこの大人数の注目は耐え難いな…でも、言うんだ!

 

「みなさんに言いたいことがあります!」

 

 私はそのためにここに来たのだから!

 

「そ、その…まず最初に、ありがとうございました!! 常識外れな私に、色々教えてくれて、ありがとうございます! たった数日しかいなかったけど、私は数週間のように感じました! 怪我をさせちゃったり、傷が回復したりして、気味が悪かったと思います。でも! そんな私を、みなさんは気にせずに接してくれた! 人に関わることが苦手な私と! 一緒にいてくれた! 凄く嬉しかった! 本当に! すごく! ですからこれだけでは、感謝の言葉が足りません! 全然足りないくらい! 感謝してます! なので改めて、本当にありがとうございました!!」

 

 私は深々と頭を下げる。一気に拍手や歓声が飛び散った。

 

「天使ちゃん!!」

 

 すぐ近くにいたホナミさんが、再び私に抱きつく。これが、最後のハグって考えると、少し悲しいな…。

 

「嬉しい! 嬉しいよ! 私こそありがとう! すっごくすっごくありがとう! 調査兵団に入っても頑張ってね! 大好きだよ!!」

 

 ホナミ…さん…。

 

「ホナミだけじゃないよ。私達も嬉しかったし、ありがとう」

「元気でやれよ! 死ぬんじゃねぇぞ!」

「俺は別に……ッ!……泣いて……ッ!…ねぇからな…」

「みなさん…」

 

 みんな…こんなに私のことを思っててくれたんだ…。人間は…お姉ちゃんみたいに…優しい人…なんだね…。お母さんやお父さんも…きっと前はこんな感じだったんだよね…。

 だとしたら…吸血鬼だってことを教えたら…吸血鬼だってことを知ったら…お母さんとお父さんみたいに…壊れちゃうんだね…。お姉ちゃんもきっと、壊れてたよね…。

 こんなこと言ったらあれだけど…壊れたお姉ちゃんは見たくなかった…。だから、案外私は、お姉ちゃんを食べてしまったことに、後悔がないのかもしれない。

 

「……!」

 

 そういえばメガネくんに聞きたいことがあるんだった。メガネくんって何処だろう…。試しに周りを見回してみる。

 どこにい――居た!

 

「ホナミさん、メガネくんに話があるので離してください」

「もうちょっと抱きたかったけど…仕方ない」

 

 ホナミさんは私の首から手を離し、私はメガネくんの所へ走った。

 

「メガネくん!」

「? ああ君か、どうし――」

「私とメガネくんって会ったことありますか? 例えば五年前とか…」

 

 私が話したかったこと、それは昨日変わったかどうかの質問について、もしかしたら数年前に会っていたのではないかと思ったのだ。

 あの恐い感じ…やっぱりあの劇的に私が変われた五年前について、関係してる気がする…。

 しばらくメガネくんは腕を組み、悩んでいる素振りを見せ、

 

「今の君とは、君が訓練兵になった時が初対面だよ」

「? 今って……」

「さぁ…もしかしたら前世、とかね」

 

 ……前世? 前世って…あの前世だよね。これはシラを切ったと考えていいのかな…? いやだってそんな前世なんてある訳ないし…。そんな非科学的なことあるわけ…。

 

「なんてね。冗談だよ」

 

 笑いながらメガネくんはそう言った。

 

「メガネくん! 私は真剣に聞いて――」

「それより、今は調査兵団に入れるかどうかがかかってるテストはまだ、終わってないんだろ? そっちに集中した方がいいんじゃない? そんなことは、また今度あった時にでも聞けるんだからさ」

 

 ! ……そうだ…。そうだよ。私はまだ試験中なんだ。今その質問をしてどうする。もしもそれに気を取られて、試験にでも落ちたら…それこそ冗談じゃない。次の試験はいつできるか分かんないんだよ? この機を逃して、明日できるとは限らないんだよ? そうしたらどんどん、リヴァイ兵長に教えてもらう時間が減る。巨人を殺す技術を学ぶのが先延ばしになる。

 次の壁外調査まで、時間はあと二週間しかないって、リヴァイ兵長が言ってた。ならそれまでに、全力を尽くすのみ!

 私は気合いを入れ直すため、自分のほっぺを叩いた。

 

「メガネくんありがとう。お陰で今何をすべきかわかった」

 

 絶対に調査兵団に入ってやる。

 そしてリヴァイ兵長に教えてもらって、訓練しまくって、巨人を沢山殺せるようにするんだ。

 おねぇさんと早く遊ぶためにも。



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6話

問一、あなたの回復力はどの程度か、できるだけ詳しく書きなさい。例、心臓を刺されても回復するが、うなじは回復しない。

 

「……」

 

 ちょっとこの文章の意味わからないんですけど。

 え、いや待って。本当に分からないんだけど。いや本当に全然分からない。

 うん。文章の意味はわかる、わかるよ。回復力について聞いてるんだよね。そして例として巨人を挙げてるんだよね。それは分かるんだよ。分かる分かる。見た瞬間読んだ瞬間に分かった。それは分かる……んだけど。

 

 今私は座学のテストを受けているんだけど。

 

 アンケートとかそういうんじゃなくてテスト。しかも調査兵団に入るための試験。

 

 いや待て。もしかしたらこれは正しい記憶じゃないかもしれない。頭ぐちゃぐちゃにしたら記憶は消せるし。それを確かめるためにも少し過去を振り返ろう。

 まずメガネくんと話した後、リヴァイ兵長の所へ戻り、馬で古城まで移動した。ついでに馬術の試験を兼ねての移動。私は座学のノートを見て復習しながらも、無事馬術の試験は合格して、古城に着く。馬の世話を一通りして、古城に入るとハンジ分隊長がいて、とある教室に連れていかれる。その教室で、ハンジ分隊長から軽く説明を受けて、座学のテストを開始…。

 どうしよう、抜けてる記憶が無い。完璧に鮮明に記憶がハッキリしてる。もしも抜けてる記憶があったら試験ではなく、アンケート調査をしていると納得できる可能性があったのに…。

 

 うーー…うじうじ考えても仕方ない。記憶がはっきりしていた、それだけのことだ。そもそも私が理由もなく記憶を消すとは思えないし…。

 とにかくこの問題…であろう文の解答欄を埋めないと…。一応座学の試験なわけだし。

 えーとー…。とりあえず不死身だし、全部怪我は治るっと。

 よし、次の問題は――

 

問二、あなたは日光がどの程度必要か、時間単位で書きなさい。

 

 マタカヨ…。

 何? この問題用紙って、全部アンケートで出来てるの? こんな訳わかんない質問で埋められてるの? いや、いやいや、そんなはずない。だって調査兵団に入るための試験だよ? 調査兵団に入れれるかどうかの見切りをつけるテストだよ? それをアンケートで済ますか? 調査兵団は少し変人が多いとは聞いていたけど、さすがに常識外れ過ぎない?

 ……他の問題も見てみるか。

 

問十、巨人との意思疎通をはかれたことについての考察を、具体的にに書きなさい。

 

問四十五、あなたはハンジ・ゾエの実験についてどの程度忠実に行うつもりか、次のアからエから選びなさい。

 

問六十五、あなたの運動神経について、箇条書きにして例を上げなさい。

 

 ここまで軽く流しながら読んでるけど、まだ三分の二しか読んでないんだよね。

 残りの三分の一も、アンケート、なのかな? それとこのままいくと、百個も問題があるってことになるけど、それでいいのかな? なんで、大事な試験でアンケート、なのかな?

 ああそうか。きっと調査兵団での試験とかテストっていうのは、アンケートをするんだ。訓練所での小テストは巨人の生態とか、立体機動装置の部品についてとか書いてあったけど、試験では違うんだ。考えてみれば、ハンジ分隊長からの説明の時、制限時間があるなんて、一言も言ってなかったしね。

 もう、そうとしか考えられないや。(考えることを放棄しただけ)

 まぁそういうことなら、早速解答欄を埋めよう。まずは――

 

 

 と、大量の問題を目の前に取り掛かり始めた。最初はスラスラ書けたけれど、だんだん疲れが出始めて、たまに適当に書いてしまうのもあった。まぁ多分後々それほど影響はないだろう。どうせアンケートだから点数とかないし。それにしてもやりながら思う。

 ハンジ分隊長、一つぐらい問題作ってくださいよ。馬術の試験中に勉強した意味なかったじゃないですか。まぁやることなんてなかったですけど。

 それともう一つ。ハンジ分隊長、よくもまぁ百個も質問が思いつきましたね。驚きですよ。何一つ質問がかぶってないし似てすらない。尊敬に値するくらいです。

 

 そんなこんなで、結局百問目、最終問題に突入できたのは三時間後である。

 ぜぇー…はぁー…ぜぇー…はぁー…。やっと終わる…。次の質問でやっと…。

 ここまで来るのに、様々は試練を乗り越えた。時々解答するのに難しい質問があったり。途中で右手が悲鳴をあげ、左手に切り替えたり。椅子が硬くてお尻がもう座りたくないと言うので空気椅子をしたり。睡魔が取り付いてきたり…。っていうか本当に危なかったよ! 寝たらハンジ分隊長殺しちゃうじゃん! 

 と、とにかく、今思えば、これこそ試験だったのかもしれない。でも、それももうこれで終わり。この問題を解いて、私は調査兵団に入るんだ。

 さあ、どんな質問でもかかってこい! なんだろうが答えてやる!

 

百問目、あなたはなぜ巨人や人間と似つかぬ存在として生まれたのかを述べなさい。

 

「……え?」

 

 なに…その質問…。私が…吸血鬼として生まれた理由…? それは…

 今まで、気付きもしなかった。常識になりすぎていて、それが当たり前だと思い込んでいた。なんで私だけが吸血鬼として生まれたのか。なぜ生まれてしまったのか。なぜ人間として生まれることが出来なかったのか。そんな疑問を感じずに、淡々と吸血鬼を受け入れてきた。

 そうだよ…。普通に考えてみれば、人間から吸血鬼が生まれるなんておかしいよ…。お母さんとお父さんが吸血鬼だった…とは考えにくい…。

 

『なんでお前は死なないんだ!』

『あんたなんか生まれて来なければ良かったのに!』

 

 あれが演技だと思えないし。演技だったら…それは嫌だな。お母さんとお父さんが吸血鬼だとして、同じ吸血鬼なのにそんなこと、言われたくない。

 ……。

 話がそれちゃったや。私が吸血鬼として産まれた理由って…一体なんだろう。そもそも、私は生まれた時から吸血鬼になったのだろうか。お姉ちゃんを食べる直前、突然吸血鬼になったのかもしれないし、あるいはその前の日になったのかもしれない。こういうの、突然変異って言うんだっけ……どうでもいい。そんなことより、アンケート関係なしで考えよう。

 

 うーん…十分くらい考えたけど、やっぱり分からない。なんで私は吸血鬼なのか、分からない。考えても考えても、答えが出てこないよ。

 なんで私なの? どうして私なの? される理由が分からない。された理由も分からない。心当たりなんてまるでないし…。

 でも…もしも私を吸血鬼にした人がいるのなら、許さない。理由はどうあれ、私を吸血鬼にしたんだから。不死身で、人を食べる、生命の種類の中で孤立された存在にしたのだから。

 吸血鬼になったせいで、私は死ぬこともできず、寝ることもできず、仲間が誰一人いない、孤独な人生を送ってきた。両親からは愛されずに生きてきた。おねぇさん以外、人間の前では嘘をつき、バレないかどうかのリスクを背負って、偽りな自分を見せている。

 何より、巨人からも、人間として扱ってくれなかった。それは…人間をやめているということ。人間ではないという証拠があり、実は人間だったという可能性がないということ。

 吸血鬼なんて誰からも認めてくれない、誰からも酷い扱いを受ける、そんな存在。

 

 おねぇさんだけしか、私を、受け入れてくれない。

 

 おねぇさん、教えて、なんで私は、吸血鬼になったの?

 

 

 

 

解答:私が知りたいです。



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