魔法の世界へ転生……なのはって? (南津)
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序章 リリカルなのはの世界
#000 1/100の転生者


人生に疲れ、二次創作で発散中。
そのうち衝動も枯れるかも。

魔法少女リリカルなのはの二次創作です。
オリ主(笑)とかも出てくる予定。
主人公最強とかそのあたりが苦手な人は戻るかタブ閉じて離脱推奨です。
神様転生が嫌いな人もバックバック。


そこから先は気力とか色々続く限り続くと思う。
中途半端が嫌いな人は完成するまで待ってください。いつになるかわかんないけど。


以上のこと注意してお楽しみいただければと思います。



Side ???――

 

 

 ん……ここは……?

 

 気が付けば真っ白い空間に居た。

 

「ここは世界の狭間です」

 

 世界の狭間……俺は確か……

 

「あなたは死にました」

 

 死んだ……そういえばそうだったかも。となると今ここにいる理由は……

 

「あなたには転生して頂きます」

 

「転生……」

 

 これは俗に言うテンプレ転生とかいうやつじゃ?

 

「そのとおりです。この世界から一〇〇年に一度一〇〇の魂に、一〇〇年の間に新しく生まれた世界に転生して頂き世界の可能性を広げているのです」

 

 その一〇〇番目の魂にあなたは選ばれたのです。と言って声は説明を続ける。

 新しく生まれた世界といっても、星が生まれるようなところから始まるのではなく、幾つかの基準となる世界から分岐し、ある点でその世界の方向が決定しているらしい。

 魔法が存在する世界、科学が発展する世界、人間が生まれない世界、人間以外の存在が繁栄する世界等など、一〇〇年の間に数え切れないほどの世界が誕生する。その中には人間が物語で描くような世界も存在し、逆に物語から世界が生まれる事もあるという。

 

「そこで俺が転生すると?」

 

「はい。今回は之までに九九人の方に転生をしていただきました。あなたが記念すべき最後の一人になります」

 

「記念?」

 

「そうです。一人目に選ばれる魂と最後に選ばれる魂は特別強いモノが選ばれます。転生時における特典も一つだけ追加で設定することが可能になります」

 

「特典……それは創作なんかでよく見る転生特典やらチートってやつですか?」

 

「ええ、今回の転生者たちには基本として三つの特典を与えております。ここには出生の設定、所持品、能力等様々なものが該当します」

 

「出生の設定もですか?」

 

「はい。世界の選択とその世界に準ずる基礎能力は特典に入りませんが、その世界の何時何処にどの様に生まれるかなども基本的にランダムですので、例えば“原作”と呼ばれる世界に生まれる場合、もしかしたら原作後の時間に生まれることもあるかもしれないということです。あるいは原作登場人物の親世代に生まれる場合もあるかもしれません。但し、基本的には原作の範囲が基準になるので親世代に生まれるといった事は原作で描かれていない限り可能性は低くなります。逆に原作で多く描かれた時代に転生する確率は高くなります」

 

「それじゃあ原作の主人公が生まれなくなる可能性も?」

 

「少ないですがもちろんあります。ただ、この転生は世界の可能性を広げることが目的ですので、元の“原作”世界とは異なる平行世界という扱いですが」

 

「ということは原作から逸脱する世界になることも許容されるということですか」

 

「はい。ただ、これまで様々な原作への介入を目指す方たちは殆ど出生を設定されていますので、主人公が生まれない等といったことは起こらないみたいですね」

 

「そうですか」

 

「それでは生まれる世界を決めてください。そして転生特典として三つ、それから一〇〇人目特典として一つ、合計四つの特典を決めてください」

 

「ん……、とりあえず魔法がある世界に行きたいかな。俺が知っていてもいいけど原作の内容を詳しくは知らない世界で、生活としては近代的な世界でお願いします」

 

「分かりました……魔力などは転生者として基本的に強めの魔力が標準設定されます。その他魔法に関する資質はランダムになります。更に飛びぬけた魔力や資質が必要な場合特典で設定してください」

 

「それじゃあ……特典の一つ目は錬金術を。様々な世界の錬金術の技術を鋼の錬金術師のエドのように動作のみの一工程で行えるように。それと、錬金術について確りと理解できるようにしてください。錬金術は使えるけど理解できないので扱えないという事がないように」

 

「はい」

 

「次は……異空間倉庫を。いつでもどこでも出し入れ可能で、中に入れたものの時間経過や環境などは自由に設定できるようにしてください」

 

 Fateで見た王の財宝は個人の所有する財を保管するところがなければ意味がないはずだし、異空間倉庫なら保存場所にも困らないからな

 

「はい。但し動物等は生きている場合収納できません。また、人間に限り死体などの収納も出来ません」

 

「分かりました。三つ目は能力や才能、スキル等の限界値を自由に設定できるようにしてください」

 

「? ……それはどのようなものですか?」

 

「例えば……身体能力の成長と同じように魔力の成長もあると思いますが、その成長限界値を伸ばしたり、発揮出来る身体能力の限界値を伸ばしたり、鍛錬における技能吸収効率の限界値を伸ばしたり、ですね」

 

「分かりました。ただ、身体能力については直接の設定や身長などの外見の設定は出来ません。限界値を変更して身体能力を鍛えたり、牛乳でも飲んでください」

 

「大丈夫です」

 

「それでは最後の特典を決めてください。出生等決めておりませんが大丈夫ですか?」

 

「いいです。新しい親のもとで新しい人生を送りたいので。……最後の特典は少しばかり黄金律を」

 

「黄金律ですか?」

 

「はい。前世ではお金で苦労したので、暮らしていくのに不自由のないお金がついて回るようにしてください。おまけの四つめなのでおまけ程度で」

 

「……わかりました。三つ目で設定した限界値設定はここでの特典に対しての設定は出来ません。出生の設定は時代、容姿、地域、家庭環境共に設定無し、魔法のある近代的な世界への転生、魔力は転生者基準初期値、特典は錬金術及びそれに準ずる頭脳、異空間倉庫、限界値設定・変更能力、黄金律となります。以上の点、よろしいですか?」

 

「問題ありません」

 

「それでは、新しい人生をお楽しみください」

 

 そこで、俺の意識は静かに沈んでいった。

 

 

――Side out




※14/01/07 誤字修正


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#001 海鳴市……そんな街もあるのかな?

Side ???――

 

 

 あのあと俺――僕は前世と同じく地球に生まれた。覚醒したのは病院で、生まれたばかりで母親に抱かれている時だった。

 意識のある状態で赤子時代を過ごすことにはかなりの抵抗がある。そのため最初は普通の赤子みたいに泣いていたが、暫くして全てを受け入れた。この頃あったことは全て記憶の隅に封印することにする。

 

 地球に、それも自分が生きていた時代と同じ時代に生まれた僕は、ここが魔法のある世界であることを思い出していた。

 

 魔法。その存在を思い出した切欠は、両親がデバイスと言う魔法の杖と会話していたためだった。

 どうやら、この世界の地球には前世と同じく、基本的には魔法技術は存在しないらしい。次元世界とかいう別の世界の技術で、父親がその次元世界出身、母親が地球出身のようだった。聞いてもいないのに二人の馴れ初めなどをひたすら聞かされていた。

 二歳にもなると、母親は既に仕事に復帰し、時空管理局とかいう組織で日々働いていた。父親も同じ組織に所属しているらしく、よく一緒に仕事に出かけている。

 僕が手のかからない子供だったためか、母親の祖母が居た為か、母――宮崎(みやざき)(はるか)の仕事復帰は早かった。

 離乳してからは、専ら祖母に面倒を見てもらうことが多く、自分に前世の記憶が無ければ、お祖母ちゃん子になっていたことだろう。転生した僕からしても祖母には大きな恩を感じていた。

 

 どうやら、この世界では魔法を公にできないようで、両親が使っているところを見ても、度々「内緒よ~」なんて言ってくる。普通の子供はわからないと思うが……

 

 動き回れるようになって、まず確認したのは錬金術だった。昔読んだ鋼の錬金術師のように、手を合わせて錬成する。

 ここで、この錬金術。本当に様々な世界の錬金術が混じっているようで、色々と物理法則なんかを無視していた。等価交換での錬成や、それを無視した錬成など真理がいたら色々とヤバイ錬成を本当に動作のみの一工程(・・・)で行えた。

 一工程、つまり錬成陣等を必要とせず、魔法のように詠唱も必要としないし、錬金釜もいらない。……この世界の魔法は基本的に詠唱は必要ないみたいだが。

 始めの頃は自宅の庭の目につかない場所、祖母と二人になると臨海公園の人目のない場所や、廃ビルなんかで、いろいろと実験した結果、手を合わせて錬成したり、指を鳴らして錬成する、といった動作のみでの錬成が可能だった。

 何が言いたいのかというと、焔の大佐のように指を鳴らしたら、発火布もなく火花が発生し、目標が本当に爆発したのだ。

 人がいない臨海公園で実験していたのだが、あの時は本気で焦った。幸い公になることはなかったが、後に謎の爆発があったと噂になっていることを聞いた。

 錬金術の検証はもう少し慎重に行うことに決めた。

 

 次に検証したのは限界値設定。これはシンプルで、ゲームのようなステータス画面が頭に浮かび、限界値の設定を弄ることができた。

 飽く迄、限界値を設定する事が出来るだけであり、他に身体能力等の数値をいじれる訳ではない。ここで、魔力成長の限界値をS+からExまで引き上げた。

 魔力の初期値はAAAで、僕の場合AAA~S+の範囲で成長値が決まっていたらしい。S+がどのくらいの魔力か分からないが、多いに越したことは無いはずだ。

 それから、魔力を外に漏らさないために出力限界(リミッター)を設置した。通常時の出力は両親を参考にBランクに設定し、能力の秘匿をすることにした。

 ここがどんな“原作”世界か分からない上、ほかに転生者がいた場合、標準装備される初期値の魔力では何かしらの面倒事が発生する可能性がある。

 声の主は原作に描写された年代に生まれる可能性が高いようなことを言っていた。描写がなければその時代への転生は確率が低い等と。

 魔法をモチーフにした原作であるため、原作に近い年代に生まれたのなら、おそらく年齢的に高校あたりで原作が開始されるのだろうが、意表をついて子供向けの魔法少女物である可能性もある。

 それでも、魔法文化圏での出来事である可能性が大きい。こんな魔法文化のない世界で魔法少女ものなんて……よくあるのかも。

 とにかく、出生地もランダムである以上、住んでいる街が舞台になることなんて無いだろう。日本は広いのだ。

 

 他にも能力成長の限界値や、思考速度、習得速度などの限界値を弄っておいた。そのため、最初は特に変化は無かったが、暫くして目に見えて能力成長速度が上昇していった。あまりの上達速度の速さに、幾つかの設定は戻しておいたが、一度発揮された身体能力などは出力制限をかけられるだけで、もう元には戻らない。まぁ、人間の限界はまだ超えてはいないはずだ。

 それから気になったのは、限界値設定の項目に魔力の他に霊力や気といった項目もあった。それに、項目も意識すれば増えるみたいで、人間の可能性の中で色々と限界値を設定できるようだった。

 とりあえず霊力と気の項目だけは設定しておいた。霊力があればもしかしたら陰陽師なんかも居たりするかもしれないし、霊や悪霊なんかもいるかもしれない。扱いについてどうにかして身につける必要はあるが、ゲームや漫画の技を参考に、自分で退魔の術や破邪の法を編み出すのもアリかもしれない。式神なんかも有りだ。

 気についても、龍☆球の漫画みたいに「戦闘力たったの5か、ゴミめ」みたいに出来るかもしれない。おらワックワクしてきたぞ!

 

 ……それから、異空間倉庫も検証した。錬金術の検証が進み、大きめの錬金物や、持ち歩いたらダメなような刀剣など、錬金術の産物を収納するために使っている。様々な出し入れを確認したが、結構な自由度で可能だった。空中から取り出したり、何とかポケットのようにポケットから取り出すことも可能だった。

 それに、時間経過なんかも願い通り自由にできるらしく、祖母が作っていた若い味噌を入れて時間を経過させると味が馴染んだ味噌になっていた。当然ながら時間は不可逆だったが、温度や湿度なんかも調整できたので酒の密造なんかにも丁度いいかもしれない。直ぐに試行錯誤もできるし密造も絶対バレない。酒好きだった僕としては自家製の酒というのも興味がある。……前世では造ろうと思ったことはなかったのだが。

 

 実はこの異空間倉庫が特典の中で一番欲しかったものだった。

 正直、大荷物を運んだり、大切な何かを捨てるといった行為が面倒で、嫌いだった。勿体無い病や捨てられない病か?

 そのため、貧乏症のきらいもあり、前世では結構苦労した。それに、旅をする必要があるような世界や時代に転生した場合、荷物を抱えるか抱えないかではかなり違う。

 今生では出来るだけ改善しようと思うが、既に錬金物など片っ端から突っ込んでおり、捨てたり、分解したりしていなかったりする。

 そのことに途中で気づいたのだが、異空間倉庫の限界量を探るということにして、考えることをやめた。

 

 最後に黄金律だが、今のところ宝くじなんかは買えないので、お金を拾うといった事以外で検証は出来ていない。家は比較的裕福みたいで、お金に困っている様子もなく、大きめの一軒家に住んでいた。祖母と両親の四人暮し――最近は母親も仕事に復帰し実質二人暮らし――には少し広い。二歳になって両親が不在の時、勝手に一人で外出した際にお金を拾うことは何度かあった。大きな額になると交番に持っていくのだが、今のところほとんどが小銭で、子供の小遣い程の額だった。塵も積もればといった感じで、少しずつ溜まってしまっている。最初は小額でも交番に届けていたが、調書作成のため質問を受けたり、親を呼ばれたり面倒になってきたので、今では殆ど届けていなかったりする。

 

 転生特典の検証は一人の時に行えたが、魔法についてはまだ検証できていない。デバイスなしでも魔法は使えるらしいが、何も教わらないで魔法は扱えない。最近ようやく魔法について両親から学び始めたばかりで、デバイスも無い。

 工学は好きなので自分のデバイスを自分で組んでみたいのだが、それもまだしばらく先だろう。今はまだ文字も読めない(ということになっている)ので、一人で隠れて本を読むくらいしか出来ない。デバイス作成の基礎が乗っているような本が数冊あったので、一冊づつ(黙って)借りて読んでいる。AI等のプログラム部分以外なら錬金術でパーツを作ることも出来そうだが、パーツの理論を理解しないと錬金術でも作れない。

 デバイスの制作はとりあえず親が用意してくれているらしい、デバイスの現物を一つ手に入れてからになりそうだった。

 

「ん~……こどものからだ、っていうのも、ふべんだな~」

 

 十月。年末に三歳になる僕は、一人で出かけている。両親はミッドチルダで仕事があるため、地球にはあまり帰ってこない。祖母は体が少し不自由で、あまり外出できない。

 来年からは幼稚園に通うことになるらしい。送迎バスがあるらしいので一人でも問題ないが、幼稚園に行かず、家で本でも読んでいたほうが余程有意義なのだが。

 

「はぁ……がいこくでだいがく、でれば、たいくつなじかんも、たんしゅく、できるかな……」

 

 まだ二歳と十ヶ月程なので口がうまく回らないが、区切りながら喋ればなんとか大丈夫だ。

 三年ほど経てば幼稚園から小学校へ入学することになるのだが、正直もう一度小学校へ通う意味を見い出せない。が、将来管理局に関わるなら父の故郷のミッドチルダに行くことになる。そうなると、高学歴も意味がなくなる。

 

 父方に親戚はいないし、母も僕を除けば祖母が最後の肉親らしい。

 祖母は日本の祖父の家を離れたくないようで、母も結婚に対しては祖母が居るあいだは実家を離れるつもりはなかったようだ。父も肉親がいなく、婿に入り地球に移り住むことになったらしい。

 それでも、二人共ミッドチルダに居る事が殆どで、勤務のない時は戻ってくるが、実質祖母と僕の二人暮らしだった。

 

 将来ミッドチルダに移る場合、こちらでの学歴などほとんど意味はないだろう。知識などは役に立つと思うが、何かあって地球に帰ってくることになる場合を除いて、学歴は無用のものになる。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 最近、近所に開店した喫茶店に入店した。なんでも、そこの菓子職人はホテルで若くしてチーフ・パティシエを勤めていたという。

 結婚を機に夫婦で喫茶店を始めたということだった。二十四歳の若さで自営店を開くのは大変だと思う。店舗代等の準備金だけでも相当なものだろう。

 

「こんにちは」

 

「あら、裕くん。いらっしゃい」

 

 喫茶店に入ると二十歳ほどに見える若い女性が迎えてくれる。

 ここ、喫茶「翠屋」の菓子職人、高町(たかまち)桃子(ももこ)さんだ。

 

「今日もシュークリームでいいのかしら?」

 

「はい。もちかえり、で、ふたつ、おねがいします」

 

 開店以来、すっかり通いつめることになったこの喫茶店は、海鳴南商店街で静かに経営されていた。市内に他に二つ有名菓子店があるため、新参のこの店に常連客が定着するのはまだしばらく先のことになるだろう。それでも、同じ町内や、商店街では少しずつ常連客の獲得が進んでいた。

 斯く言う僕も、その常連客の一人だった。……まだ数ヵ月だが。

 実家のある西町から、ここの商店街は比較的近く、子供の体でも問題なく通える距離である点が大きい。他の店はバスなどで通う必要が出てくるため、常連として通うには翠屋が最適だった。

 個人的には和菓子も好きなんだが、何分約三歳児が向かえるような場所にない。それに、この体になったからか、子供になったからか、クリーム系の洋菓子に大いに惹かれるのである。

 そして、最も重要な点は、桃子さんが作るシュークリームが絶品だというところだ。祖母も気に入ったため、来店ごとにお土産として買って帰ることになっている。

 

「はい、お待たせ。シュークリームね」

 

「ありがとうございます」

 

「それにしても、しっかりしてるわね~。裕くん。もうすぐ三歳だったわよね?」

 

「はい」

 

「うちの美由希よりしっかりしてるんじゃないかしら」

 

「そうですか? まぁ、お母さんにも、いわれたこと、あります」

 

「そうよね。私が裕くん位の頃はもっと落ち着きがなかったと思うわ。あんまり覚えてはいないんだけどね」

 

 そのままなんだか桃子さんの独白が始まった。海鳴出身だとか専門学校に行ったとか、海外にお菓子の修行に行ったとか……

 桃子さんの夫である士郎さんとの馴れ初め話に発展しそうな時、シュークリームを持って帰らないといけないと言って傍聴を辞退させてもらった。

 ……その話はもうお腹いっぱいだよ。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

 

「は~い。またいらっしゃいね」

 

「はい」

 

 軽く会釈をして翠屋を出る。シュークリームがあるので少し急いで帰らないといけない。食べる前に一度冷蔵庫かな。

 

 

 そうそう、転生した僕の名前は宮崎(みやざき)裕一郎(ゆういちろう)だってさ。

 

 

――Side out




※14/01/07 誤字修正


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#002 新しい家族

Side Yuichirou――

 

 

「裕はお兄ちゃんになるんだから、この子を守れるようにしっかり魔法を覚えないとね」

「……は?」

 

 十二月六日。衝撃の事実が判明した。

 

「え、にんしん?」

 

「そうよ。もう八ヶ月目くらいなの」

 

「……そのおなかで?」

 

「裕の時もだったけど、このくらいの時期まで私のお腹はあまり大きくならないみたいなのよ。だから、裕のお誕生日に教えてあげようと思って」

 

「だからさいきん、かえってこなかった?」

 

「ええ」

 

 なんと、母親が妊娠八ヶ月目に突入していたらしい。

 気付いたのは妊娠三週間目位だったらしいが、それから僕には一切情報を与えなかったようだ。ここ数カ月は仕事が忙しいと、ミッドチルダの別邸で過ごすことも多かったみたいだが、情報統制が徹底しており、知らなかったのは僕だけだった。

 先ほど母が言ったように今日で三歳になったわけだ。言葉も大分饒舌になり、文字もおぼえた(ということにした)ので今日からいよいよ本格的に魔法の練習が始まる、と思った矢先に母親の妊娠発言だった。

 

「予定では二月末位になるわね。というわけで、ハイ」

 

「これは……とけい……デバイス?」

 

「正解。それから……これもあげちゃいます」

 

 そう言って取り出したのは、ごちゃごちゃした金属片やら機械、デバイス関連の書籍だった。

 

「これは?」

 

「デバイスのパーツよ。デバイスが作りたかったんでしょ? さっき渡したデバイスは唯のストレージデバイスだけど、基本的な機能は全て入っているわ。一応あなたの魔力に合わせた特注品ね。……それで、こっちのパーツはそのデバイスに互換性があるパーツよ。組もうと思えばもう一つデバイスを組むこともできるわ。まだインテリジェントデバイスを作るには早いけど、ストレージデバイスでやりたいことは大体できるはず。私たちが色々弄ってから渡すことも考えたけど、こっちのほうが裕は喜びそうだったから」

 

 目の前には大きなダンボール箱が有り、その中に色々なパーツが収められていた、というか突っ込まれていた。

 手の中には待機状態のストレージデバイス。待機状態は何故か懐中時計だった。

 

「なんでかいちゅ、どけい?」

 

「時計型かカード型か迷ったんだけどね、魔法文化のない地球では実用性がないと持ってておかしいでしょ? アクセサリや宝石(クリスタル)でも良かったんだけど子供がネックレスや腕輪してたら可笑しいし、それなら時計がいいかなって。懐中時計にしたのは腕時計型より目立たないと思って。それに私の趣味ね」

 

「……さいごの、りゆうだね。これはぎゃくに、めだたない?」

 

「その時はお祖父さんの形見の品ってことにすれば良いわ。デザイン的にも地球のものと大差はないでしょ?」

 

「まぁ、うん」

 

「気に入らなかったら待機形態も自分で変えれば良いわ。待機型体用にパーツが必要になるけど、お小遣いでも貯めてミッドチルダに行った時にでも買えばいいわ」

 

「いや、ありがとぅ」

 

「そう。よかった。で、こっちの本にはストレージデバイスだけじゃなくてインテリジェントデバイスの組み方やらいろいろ載ってるから、将来そっちが組みたくなった時の参考にしてね。ただ、ストレージデバイスと違ってかなり値が張るし、既製品みたいな物も少ないから一から組むことになるだろうし、まだまだ先かもね」

 

「うちのちかしつ、つかってい?」

 

「そうね。一応インテリジェントデバイスを組めるだけの機器はあるから組むときは家でも組めるわ。ただ、デバイスコアが高価だからコアが手に入るまではインテリジェントデバイス用機器の一角には触らないようにしてね。奥のほうがそれだから」

 

「ん、わかった」

 

「それじゃあ、とりあえず、デバイスを起動して登録してある魔法を一通り試してみましょう。いろんな系統の魔法を一通り登録しておいたから得意な魔法、不得意な魔法を調べてみましょう」

 

「はい。……このなまえはなに?」

 

「そうだったわね。このデバイスはO4M(オー・フォー・エム)――登録名、フリーズノヴァ。裕専用の特注品よ」

 

 O4M……オシム……いや、専用ってことだからOnly for meといったところか。

 

「ふりーずのヴぁ、せっとあっぷ」

 

 キンッ、と電子音を鳴らし、デバイスが展開する。同時に、僕の真紅の魔力光で描かれたミッドチルダ式魔法陣が足元に展開し、服がバリアジャケットに換装される。

 黒を基調とし、魔力光と同色の紅い装飾が目立つ。黒のスラックスに清潔感のある白のシャツに黒のコート。それぞれに紅くポイントで色が入っている。

 また、僕の周囲にはキラキラと光を反射する粒子が舞っている。僕の魔力変換資質である凍結変換資質の影響で魔力が氷の粒子に変換されていた。

 

「……すこしきざ、すぎない?」

 

「そうかしら。スカートの方が良かった?」

 

「そういうことじゃ、ないから! ……はぁ、いいよ、これで」

 

「気に入ってくれたようで良かったわ。このデバイスは裕専用といったように、氷結変換資質の魔力に耐えられるようになっているわ。それから大出力の魔力にも耐えられる」

 

「……大出力?」

 

「ええ。といっても試験はSSクラスの魔力までしか行えてないけど、理論上はSSSオーバーでも大丈夫なはずよ」

 

「……いま、Aだけど」

 

「ふふん。嘘はいけないわね。裕が生まれた時点でAAAクラス並みの魔力はあったのよ? デバイスなしで一人でどうやったか知らないけど、出力リミッターを掛けているんでしょ?」

 

「やっぱり、しってたんだ」

 

「まぁね。出かけて帰ってきたと思ったらAAAからBランクまで落ちてたんだもの。調べない方がおかしいわよ。最初は負荷を掛けているだけかと思ったけど違うみたいだし、こっそり魔力スキャンをしてみたの。……なにか隠したい理由でもあるの?」

 

「べつに……AAAってだいまりょく、でしょ? 母さんはBだし、父さんもAA。ぼくがAAAだとめだつし……それに、この海鳴に、ほかにもまどうしが、いる、みたい。それも、AA以上が、ふたりほど」

 

「そうなの? ……海鳴に他の魔導師は居なかった筈だけど……」

 

「母さんみたいにリンカーコア、もってうまれたんじゃないかな?」

 

「そう……でも、魔導師の子供じゃないなら魔法に出会う機会も無いでしょうね」

 

「そうだね」

 

 ……魔力がAA~AAAを保有しているとなると、所謂主人公か僕と同じ転生者とかになるのかな?

 ……となると、この街が原作に関わる場所なのか?

 ……もし魔法少女物なら七年~十二年後、少年、成年向けなら十四、五~二十年後位が原作舞台か。

 ……原作舞台に転生した転生者なら何らかの異能やデバイスの確保は有ると思っていい。出生指定を行ったということは願いの数は残り二~三。僕はあまり戦闘向けの特典を貰ってないからな……身体能力だけはかなりのものになったけど。

 ……原作組と同い年だと仮定すると皆原作に関わるきが満々なのか? 最強系や保守系ならいいけど、最低系や最悪系だと色々と最悪だな……

 ……魔力リミッターを更に掛けて気づかれないようにするか? この様子だと転生者の魔力量は広く見積もってAA~SS位の間で才能が与えられるようだし、CとかBまで落としておけば良いか。

 ……魔導師がいないということは一般人の親から生まれたということだ。原作を知っているものならデバイスも特典に含んでいる可能性も高いか。

 

「……う……、裕」

 

「んぁ? なに?」

 

「どうしたの? 急に考え込んで」

 

「なんでもない。あまり関わりたくない、とおもって」

 

「そう?」

 

 原作が何かしらんが、面倒事が起きなければいいが。身を守るためにも魔法はかなり鍛える必要があるか。

 

「それじゃあ、今までやってきた魔力コントロールのメニューを、今度はデバイスを使ってお浚いしましょう。そのあとで習得してきた魔法をデバイスのプログラムを使って発動して、それと一緒に一通りの適性も見るわね。そして扱いやすいようにプログラムの改変と、足りない魔法のプログラムに調整ね。プログラムはインテリジェントデバイスがあればある程度勝手にやってくれるんだけど、組むことも覚えておかないとね。……とりあえず暫くはこのメニューで自力を上げていきましょう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「そう。ということはたぶん家の子と同い年になるわね」

 

「さんがつごろ?」

 

「ええ。……あら、それだとうちのお店がお休みの時に裕くんの妹ちゃんが生まれることになるわね。お祝いしてあげようと思ったんだけど……士郎さんが初めての出産だから慎重にってことで、予定日の前はお店をお休みすることになったのよ」

 

「うまれたその日に、ケーキでおいわい、しませんよ……」

 

「そうかしら」

 

「……わかんない、けど、にゅういんしてる」

 

 病室にケーキを持って行って母親に食べさせるのかな……いらんだろ。

 

「母さんはにゅういん、するらしい、です。いえだとおばあちゃんしか、いないから」

 

「そうなの。家は士郎さんが居てくれるから直前までは家で過ごすことになりそうよ」

 

「もうなまえ、きめました? うちは、もめてて……父さん、センスないから……」

 

「少し前に女の子だって分かってね。士郎さんが『菜乃葉』って決めてくれたんだけど漢字だとなんだか堅い感じがするでしょう? だからひらがなで『なのは』にしようって言ってるんだけど……」

 

「なのはちゃんですか。いいなまえ、ですね」

 

「ふふ、ありがとう♪」

 

 ん~、なのはちゃんか。……どっかで聞いたことあるけど菜乃葉っていう名前も別にないわけじゃないしな。

 なのはなのは、なのは……

 

「桃子~、今日の分のチョコレートケーキも完売したんだが。おや、裕一郎くん。いらっしゃい」

 

 カウンターから男性が近づいてくる。どうやら今日の分のチョコレートケーキが完売したらしい。

 もう夕方を過ぎ、あと一時間ほどで閉店の時間になる。冬の閉店時間は日が短いため少しだけ早い。

 

「あ、しろうさん。こんばんは」

 

 カウンターから出てきた男性は桃子さんの結婚相手で高町士郎さん。婿入りしたらしく桃子さんの苗字である高町を名乗っている。

 もう三十に近いはずだが、二十歳ぐらいに見える。うちの母親も三十を超えているが妙に若々しいなど、この世界は一部の人間の外見や外見年齢が少しおかしい。前世ではありえない髪色をした人間もちらほら居たりするし。

 

「今日はどうしたんだい?」

 

「それがね……」

 

 桃子さんが先程までの話を士郎さんにはじめる。時間も時間のため店内に人は少なく、店員は他にいないがここで話をしていても問題はないのだろう。

 カウンターのショーケースに並ぶケーキは大分少なくなっており、幾つかのケーキはすでに完売している。

 士郎さんたちの話は遂に子供の名前まで行き、ぼくが「なのは」をいい名前ですねと言ったことなど桃子さんが若干押している感じで、ひらがなでなのはに傾きそうな雰囲気だ。

 なのは、か……家の妹はなんて名前になるんだろうか。

 ケーキも色々と完売してるみたいだし、シュークリームもさっき購入した分で完売したらしい。寒くなってきたとは言え、暖房の効いた店内や、外に長時間置いておくのも拙いし、そろそろ帰ろうか。

 

 シュークリーム完売、ケーキ完売……なのは……完売……ん?

 

 どこかで誰かが叫んでいる声を聞いたことが昔あった気がしたが、もう何年も前の前世だった気がするのでどこで聞いたのか思い出せない。

 でもまぁ、とりあえず、なのはってどこかで聞いたことがあったのはその声だったのだろう。

 

 うん。関係ないか。

 

 

――Side out



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#003 家族が増えるよ!

Side ???――

 

 

 ここはどこ?

 

「ここは世界の狭間です」

 

 なんで……。……私は死んだの?

 

「はい。あなたは死にました」

 

 直前のできごとを思い出そうとしても、思い出すことができない。どうやって死んだのか分からない。

 ……そういえばこういう空間でよく転生が行われる小説なんかがあった。神のミスとかで……

 

「ミス等ではありません。あなたが死に、選ばれたからここに居るのです」

 

「選ばれた?」

 

「はい、記念すべき一人目の転生者として」

 

「一人目?」

 

「はい。これからあなたを含めた一〇〇の魂に転生して頂き、世界の可能性を広げてもらいます。その一人目としてあなたは選ばれました」

 

「転生……行き先は決まっているのですか?」

 

「決まってはいませんが、あなたの世界におけるここ一〇〇年の間に生まれた世界に限定されます」

 

「それは、小説や漫画の世界も……」

 

「含まれます」

 

「それなら……『魔法少女リリカルなのは』の世界にしてください。大丈夫ですか?」

 

 危ない目もあるけど、なのはちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃんの運命を少しでもいい方向に向くようにしてあげたい。なのはちゃんは寂しい時期があるし、一緒に過ごせればあの生き方も少しは変わるかもしれない。

 できればアリシアちゃんも助けてあげたいけど、プレシアさんが六〇近いし昔過ぎて難しい。

 それに、死者蘇生は人間が手を出すべきじゃない、と私は思う。

 

「大丈夫です。それでは特典を設定してください。あなたは四つの特典を設定することができます」

 

「魔力等はどうなりますか?」

 

「基本的に、その世界で主題となる能力――この世界では魔力となりますが、転生者には標準で高い適性が設定されます。リリカルなのはの世界においては初期値でAA~AAA、成長最高値S+~SS+までの値で設定されます。更に魔力が必要な場合特典にて設定してください」

 

 AAAか。なのはちゃんもそのくらいだったはずだし、十分かな? 負荷をかけて鍛えればSS近く上がるならお願いする必要はないかな。

 

「生まれる場所や年齢はどうなりますか?」

 

「生まれる場所、年齢は基本的にはランダムとなります。特典の一つを用いて出生を設定することができます。出生設定で選択できる範囲は年代、場所、環境、容姿等です。これらは纏めてひとつの特典として設定することができます」

 

 生まれる場所や時間は特典一つか……ひとつはこれで決まりかな。容姿は両親の特徴をもらって普通に暮らせればいいや。でもちょっと位期待したいな。

 

「デバイスはもらえますか?」

 

「デバイスは魔法技能の絶対必要条件ではないため、特典として選択することで手に入れることができます。または、魔導師の子供として生まれた場合や魔法世界に生まれた場合、手に入る確率は高くなります。管理外世界の一般人の子供として生まれた場合、環境によりますが手に入らない場合もあります。また、手に入れるデバイスの種類も状況次第となります。例えば、デバイスの中でもユニゾンデバイス等は開発するか原作に登場するデバイスを手に入れるか、発掘するなど行う必要があります」

 

 両親を魔導師にするようお願いすればデバイスは手に入るか。生まれる環境も決めれるみたいだし。

 

「そうですか。他は……例えばあらゆる漫画の能力なんかも特典に選択できますか?」

 

「出来ません。関連のない能力をひとつの特典として選択することは出来ません。例えば、魔法ですが、魔法の技術系統ごとに特典を消費しますし、異能はひとつにつき一つの特典を消費します。関連の技術や魔法、異能である場合は纏める事ができますが、こちらも様々な条件があります」

 

 ちょっと残念だけど当たり前か。それにあんまり目立つとマッドな人に狙われそうだし、あくまで補助的な能力がいいかな。それとユニゾンデバイスで底上げ位?

 他にも一〇〇人転生者がいるみたいだし、何人かは同じ世界に転生しそうだよね。最低な人やハーレム願望とかある人じゃなきゃいいけど。……最低な人になのはちゃんたちが引っかからないように目をつけておこう。

 ……敵対するかもしれないけど大丈夫かな……。

 

「そうですか……それでは、一つ目の特典は出生設定でお願いします。海鳴市で魔導師の両親のもとへ生まれる。年齢は原作主人公のなのはと同い年。容姿は指定しないけど、両親はちょっとだけ美形を希望します。それから、家族にデバイス技術を持つ人がいて、デバイスが手に入るようにしてください」

 

「分かりました。但し、デバイスに関しては技術を持つ者がいる、までで、そこから先はあなた次第となります」

 

「分かりました。二つ目は瞬間移動の異能をお願いします。いつでも、どこでも、どんな状況でも可能にしてください」

 

「移動に時間はかかりませんが、過去、未来への移動はできません」

 

「はい。三つ目は……ユニゾンデバイスをお願いします」

 

「分かりました。ユニゾンデバイスに関しての設定をお願いします」

 

「人格、容姿は……CCの木之本桜ちゃんでお願いします。リインフォースⅡと同程度の大きさで、私のリンカーコアのコピーを元にして適合率を上げてください。魔力光は桜色で魔力量は私と同じに。アウトフレームは本編と同じ小学校四年生と、中学生、高校生や大人に変化できるようにしてください。それから、闇の書の管制人格のようにデバイスの中に待機出来るようにできますか?」

 

「魔力量はあなたのリンカーコアをコピーした状況に依存し、ワンランク下の魔力値になります。ストレージデバイスの管制人格兼ユニゾンデバイスとして設定します。この際のストレージデバイスは夜天の書のように変形機構などのない蓄積型のデバイスに限定されます。人格のない蓄積型のストレージデバイスを入手した際に管制人格として融合できるように設定します。手に入らない場合は唯のユニゾンデバイスとなります。入手可能時期の設定をしてください。設定しない場合、ランダムとなります」

 

 ということは、ある程度魔力が上がってからのほうがいいのかな……。Sランクまで上げればAAAのユニゾンデバイスが出来るわけだよね。

 でも、原作前のなのはちゃんの周りでなにか起こったら必要になるかもしれないし、小学校入学前には欲しいかも……。

 早いうちに魔力負荷かけてSまで上げたいな。

 

「……五歳の頃にお願いします。ちなみにコピーリンカーコアを使用しないユニゾンデバイスを希望した場合適合率はどうなりますか?」

 

「その場合、適合率は相性次第になります。ユニゾンデバイスにも意思と相性がありますので、場合によっては不適合や融合拒否、暴走事故もありえます」

 

「そうですか……」

 

「それでは、五歳の頃に何らかの状況でユニゾンデバイスがあなたのリンカーコアを元にして誕生します」

 

「……何らかの状況?」

 

「〇から作り出すユニゾンデバイスと異なり、八神はやてとリインフォースⅡのように、あなたのリンカーコアを元にするため、入手時にリンカーコアのコピーを生成する必要があります。例えば、リンカーコアを酷使した魔法の使用中にユニゾンデバイス用にリンカーコアのコピーが生成される事態や、意図的にコピーのリンカーコアを生み出そうとした状況等です。コピーのリンカーコアを生み出そうとする状況を作り出すことをお薦めします。コピーしたリンカーコアがユニゾンデバイスの核となります。ユニゾンデバイスの基礎フレーム等は五歳から六歳の間であなたのもとへお送りします。それに核を入れてユニゾンデバイスにしてください。調整などは原則として必要なくなりますが、ストレージデバイスの管制人格となった場合、ストレージデバイスの調整などは必要となります。また、技術的にユニゾンデバイスはリリカルなのは世界に準拠しますので、解析して同型のユニゾンデバイスを作ることも可能ですが、ここで設定された仕様は最初の一騎のみとなります」

 

「そうですか……」

 

 融合事故が怖いから適合率が高いのは譲れない。

 原作のはやてちゃんのように作ってもいいけど、ユニゾンデバイス作れるかわからないし……リンカーコアをコピーするだけなら何とかできるのかな? できなくても生成されるみたいだしいいかな。

 

「最後の特典を設定してください」

 

「最後は……使い魔を。ポケットモンスターシリーズに出てくるイーブイで、イーブイの進化系全てに変化できるようにしてください。魔法生物という存在にして、リンカーコアを持っているようにしてください。」

 

「ポケモンに準ずる技の使用は出来ません。魔法で再現するか、特訓して再現してください。よろしいですか?」

 

「はい……」

 

「使い魔の入手時期を設定してください。契約済みの状態で卵から孵化するように設定します。卵の入手方法を設定してください」

 

「三歳の誕生日以降で、一人で外出したときの帰宅中、一人の状況で目撃者なし。大きめのカバンを持っている時にカバンの中に直接現れるようにしてください」

 

「わかりました。あなたが一晩抱えて寝ることで契約が完了し、孵化します。契約内容は『死亡するまで共に生きる』とさせて頂きます。他の人間がこのイーブイと契約することはできませんが、意思がありますのでその点を忘れないようにしてください」

 

「わかりました」

 

「それでは確認します。出生設定として魔導師の両親にデバイス技術を持つ家族、高町なのはと同い年で海鳴市に誕生、容姿の設定がありませんので両親準拠の容姿となります。瞬間移動の異能とユニゾンデバイス。ユニゾンデバイスの入手時期は五歳の時。ポケモンのイーブイを使い魔とし、イーブイは全ての変化が可能。入手時期は三歳以降一人の状況で入手します。以上でよろしいですか?」

 

「あ、イーブイの性別はメスでお願いします。ザッフィーみたいにごつい人が出てくるとちょっと困るので……。他は問題ありません」

 

「わかりました。それでは、新しい人生をお楽しみください」

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 悲鳴のような産声が上がる。

 二月二一日。予定日より二日ほど早く僕の妹が生まれた。前世では兄弟も姉妹もいなかったので、この誕生は素直に嬉しい。普通の子供なら、親を取られたと思って反抗的になるかもしれないが、妹には目一杯構うことにしよう。

 元々うちの親は子供を放ったらかしで仕事に出る。女の子だから家に寄り付くようになるかもしれないが、どちらにしても共働きで、家には祖母と僕しかいない。

 育児休暇が終われば面倒をみる機会も増えるだろう。

 

 ……反抗期が来て「きらい」とか「うざい」とか言われたらどうしよう。

 幸い両親ともに容姿は良いので外見で「きもい」とかは言われないだろうが、将来的にうざがられる可能性は十分にある。前世で聞いた話では兄妹はそんなもんらしい。

 妹が彼氏を連れてきたとき「俺を倒したら認めてやる!」みたいなことやったら絶対ウザがられるな。やめておこう、恋愛は自由だ。

 

 ……今から気にしても仕方ないか。

 

 海鳴大学附属病院の分娩室のランプが消える。どうやら滞りなく出産が終了したようだ。父さんは入口付近に張り付いている。

 ……そこは邪魔になるだろう。

 

 しばらく経って、室内に通される。母さんが眠った赤子を抱いていた。くしゃくしゃで猿みたいな顔だった。

 

 その後母さんと妹は個室に移り、僕と父さんは病院内の喫茶店で軽く一息つき、病室を訪ねる。僕の時は大部屋だったらしいが、夜間はあまり眠れなかったとか。

 室内に入ると、新生児用のベッドに妹が寝かされており、母さんはその様子を静かに見守っていた。

 

「お疲れ様。(はるか)

 

 父さんが母さんに言葉をかける。ちなみに遥とは母さんの名前だ。

 

「あなた、裕。結衣(ゆい)は今寝たところよ」

 

 どうやらさっきまで起きていたらしい。喫茶店で一服している間に起きて寝たのだろう。妹は静かに眠っている。

 妹の名前は結衣に決定した。「ゆういちろう」と「ゆい」で同じ音が使われていて少し嬉しい。漢字は迷ったらしいが、最終的に結衣の字で決定した。

 両親とも黒髪(に近く)、わずかに生えている髪の毛は母さんと同じ(ほとんど)黒だ。光の具合で若干青っぽく見えたりもするが黒だ。

 父さんは逆に少し茶色が入る黒で、管理世界出身らしいが、日本人の血でも入っていたのか少し日本人の特徴が入った外人だ。僕は日本の血が濃い目だが、僅かに外国人っぽい顔立ちで、少し母親似。女っぽいという意味ではないが、比較的整っている……と思いたい。

 

「結衣も裕と同じくらい魔力があるわ。裕の時よりは少ないけど」

 

「ん……本当だね。こんなところも兄妹で似たのかな?」

 

 ……ん? 本当だ。やっぱり転生者の兄妹はある程度似るのかな? まだ不安定で正確にはわからないが、AAAには届かないかもしれないけど結構な魔力だ。

 

 ……結衣のデバイスは僕が作ってやろう。同じ教育方針なら三歳の時にデバイスが渡されるはずだ。その時までにデバイス作りをマスターしておこう。技術吸収効率の成長限界値を引き上げておけばちょろいはずだ。

 インテリジェントデバイスは資金的に難しいかもしれないが、女の子だし父さんは甘いはずだ。デバイスコアくらいは金を出してくれるだろう。無理ならデバイスコアを研究してデータ以外を錬成し、データは自分で組めばいい。

 他の部品も錬金術で特殊合金を用意してやれば、高性能で安くデバイスが作れる。

 この間、昔映画で見たアダ……なんとかっていう超硬度の金属と、魔力伝導率の高い軽量金属等を使った高硬度合金が錬成できた。今も自分用のパーツにこっそり採用しているが、結構な強度で若干の重量増加で済んでいる。リカバリーでの再生以外、錬金術でしか加工できない合金になってしまったが、壊れることは殆どない筈なので大丈夫だろう。

 ……調べられたら拙いので自分の物以外は、壊れたらまずいデバイスコアだけその合金を採用する程度にしておいたほうがいいだろうか?

 とにかく、あと三年でインテリジェントデバイスまでマスターし、妹に最高のデバイスを送ることに決めた。

 

 ……なにかを忘れている気がするがきっと気のせいだろう。

 

 

――Side out



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#004 おや、妹の様子が……

Side Yuichirou――

 

 

 結衣が生まれてしばらく経ち、幼稚園に通うことになった。……はぁ。 家の近所の送迎バスが止まる場所まで出てバスに乗り、幼稚園に向かう。これから三年間も幼稚園通いが続くと思うと……

 母さんは育児休暇を取っており、暫くは結衣に付きっきりだ。夜はぐっすり眠れて楽らしい。

 普通の子供は夜泣きでうるさくて母親は眠れないみたいだけど、家の結衣はそんなことなかった。逆に静か過ぎて心配になるが、泣くときは泣いているので問題はないみたいだ。

 

 幼稚園は特に何もなく始まり、何もなく終わる。お昼寝の時間などもあるが、そのあいだはマルチタスクでシミュレーションをしながら、デバイスの設計なんかをする。

 両親のインテリジェントデバイスの基礎データをもらっているので、色々と暇を潰すのには問題ないが、やはり幼稚園では精神年齢の問題から浮いてしまう。

 

 同い年の子供の面倒を見たり、泣いた子を慰めたりでどうにも溶け込めない。

 帰りはバスで自宅付近まで送ってもらい、一旦帰宅して遊びに出かけたり、母さんからお使いを頼まれたり、作業室に篭ってデバイスを弄ったりして過ごす。

 

 魔法の訓練も毎日欠かさずに行っている。広くはないが、庭に結界を張って、小規模な魔法を繰り返し練習する。大規模な魔法になると、臨海公園や海の上に結界を張って練習することになる。

 

 特典の限界値設定はやはり反則的で、魔法の資質も色々と弄ることができた。もちろん、直ぐに効果が出るものではないが、成長限界値を弄ってあるので、訓練すれば訓練するだけ技術や資質が上昇する。低い資質のものも、成長速度こそ遅いものの、やるだけ身についてくれる。

 元から適性の高かった収束、発散と放出に吸収はもちろん、召喚や転送、結界等は適性が低かったが、よく使う結界や転送についてはどんどん適性も伸びていった。

 魔導師には必須とも言えるマルチタスク技能も使うほどに上昇していく。もうそろそろ増やす必要もないのでフルでマルチタスク技術自体を訓練することも少なくなった。

 その分マルチタスクを使った魔法制御訓練が割合を多く占めるようになった。

 

 魔法の訓練をしているとき、海鳴市内にAAを超える魔導師が五人になっていることがわかった。内二人は父さんと結衣だが、あの喫茶翠屋の桃子さんの娘であるなのはちゃんもAAの魔力を持っているようだった。両親ともにリンカーコアを持っていないことは確認できていたため、突然変異なんだろう。

 うちの妹もAAから、AAAの間で、現時点で父さん以上の魔力を保有していた。

 一日の殆どを寝て過ごしているが、僕よりはるかに手がかからないらしい。まぁ、僕はある程度子供らしくやっていた自信はある。普通の子供よりは手が掛からなかっただろうが。

 

 ん~……結衣も転生者なんだろうか。普通に考えて新生児の態度じゃないんだよな。

 まぁ、転生者だろうが可愛い妹なので気にしないけど。

 魔力以外特に不思議な力も感じないし、触れ合う時も特に嫌がる様子もないから、普通にいい子だと思う。

 将来、反抗期になるのかだけは気になるけどね。

 

 妹まで転生者だった場合、とりあえず僕が転生者だということは誰にも打ち明けないで、墓場まで持っていくことにする。三年間過ごしたけど、この世界のことも詳しく知らないみたいだし、子供が二人共唯の子供じゃないとか、両親に少し申し訳ない。

 

 まだ決まったわけじゃないけど、結衣が転生者だと打ち明けても僕は特に何も対応しないことに決めた。元から新しい人生を楽しむと決めていたんだし、知らない原作とか前世とか今はどうでもいい。

 危険が降りかからないようには気をつけるつもりだが、好きに生きるつもりだ。もちろん妹が危ない時は助けるつもりはある。

 

 というわけで、今は何をしているかというと、父さんと一緒にミッドチルダに来ていたりする。なんでも、無限書庫なる管理局の資料庫があり、父さんがそこに用事があるのだとか。

 許可があれば民間人でも立ち入りが可能で、序だからと連れてこられたのだ。

 

「裕一郎はデバイスに詳しくなりたいんだろう? 無限書庫に行けば色々過去の資料もあるかもしれないし、これからミッドに居る間は好きな時に来られるようにしておこうと思ってね」

 

 ……ということらしい。ただ、増え続ける資料を整理する人間がいなくてごちゃごちゃしているらしい。調べ物は数人で協力して行わないと見つけることは困難だとか。

 そんなところに三歳児を連れて行くなよと言いたいが、デバイスの資料が見られるのなら好都合だ。

 

 父さんに手を引かれて無限書庫へ向かう。

 いくつかの手続きを終えて入室すると、わけのわからない空間が広がっていた。本は乱雑に棚に押し込まれ、無重力なのか、空中に投げ出されたままの本も大量にあった。

 上を見るとどこまで続いているのかわからない本棚がびっしりと並んでいる。

 

「うわぁ……ここで調べ物するの?」

 

「あぁ……はぁ、父さんは今日だけだが、明日からウチの隊の連中が少し調べ物をするんだ」

 

「父さんの隊……」

 

「ん? ああ、父さんが所属しているのは航空戦技教導隊だ。正式には……時空管理局武装隊第2教育群第3教育大隊第18戦技教導隊……だったか?」

 

「曖昧なんだ……」

 

「数年に何度かくらいしか全名称を確認することがないからな。精々第3教育大隊あたりからだ。一般的には航空戦技教導隊や、管理局武装隊の戦技教導隊なんて言われてるな。これでも一応三等空佐で第18戦技教導隊の隊長さんだからな?」

 

「ふーん」

 

 父さんはなんと少佐殿だったらしい。焔の大佐には及ばないのか。

 教育隊は二つの群と三つの大隊に分かれているらしい。戦技教導隊は三つ存在し、第1教育群に一部隊、第2教育群に二部隊おかれている。

 さらに、戦技教導隊はいくつもの班で構成されており、隊長で指揮するようなことは滅多にないらしい。集まった時の挨拶とか書類仕事、班長の教育位みたいだ。

 

 管理局は万年人手不足みたいで、優秀な航空魔導師を育成することが急務だとか。

 父さんは確か三十四、五くらいの年だったので、そこそこ優秀な魔導師だったようだ

。ただ、空戦AAランクであることや、キャリア、指揮官技能的に定年(無い様なものらしいが)までに二等空佐になれれば良い方みたいで、キャリアをもっと積まないとダメらしい。

 まぁ、父さん自身は出世自体に興味は無いようで、教導の仕事を続けたいらしい。さらに出世したら体を動かす事がもっと減ると言っていた。

 

 父さんと分かれて、無限書庫の探索を開始する。

 検索魔法が必要らしいが、今そんな都合のいい魔法など持ってはいない。今まで文章や書籍の検索など魔法を使ってやったことなどない。

 適当に気になる物を直感で選んで適当に捲っていく。ミッドの過去の資料や、近年の魔法体系の資料、古代ベルカと呼ばれる遥か昔の資料などが出てきたが、デバイス関連はあまり載っていない。

 ベルカ式と呼ばれる魔法があるが、古代ベルカ魔法は今では殆ど見られないようで、古代ベルカ式をミッド系魔法技術で模倣した近代ベルカ式なんてものもあるらしい。

 

 と、気になる資料が見つかった。古代ベルカの資料で、夜天の書という蓄積型ストレージデバイスが有るらしい。リンカーコアからその人間の魔法技術を蒐集し、デバイスで再現することによってその魔法技術を扱うことが出来るというものだ。

 

「ふむふむ……」

 

 存在するとあるだけで、流石に制作資料などはないらしい。もしかしたらこの山の中に埋まっているのかもしれないが、見つけようがない。

 

 とりあえず、他人の魔法技術を模倣すると言う点は面白い。リンカーコアの収集という点は少し問題があるが、演算能力を高めて魔法陣と魔力の動きや現象から魔法式を逆算し、プログラムで再現出来るようにできないだろうか?

 もしくはリンカーコアの検査で使われるスキャン能力を改良して、収集なしで走査範囲内の魔法技能を模倣することはできないだろうか……

 

 夜天の書についてはこれ以上詳しく載っていない。気になるのは、夜天の防衛プログラムを破り、システムを乗っ取る紫天の書なるプログラムがあるらしい。

 メモのように書き加えられていただけで、削られている部分も多く、それ以上の情報はなかったが、なんだか物騒な話だ。

 

 古代ベルカにはカートリッジシステムという物が搭載されたデバイスがあるようだ。ミッドのデバイスパーツを扱う店では見たことがない。

 ……近代ベルカには搭載されてないのか?

 地球人としては銃や電池など、一般的な運用方法だ。

 

 盲点だった……魔力は腐る程あるので魔法に充電池を使うという発想ができなかった。確かに、リンカーコアからの供給だけでなく、デバイスに内蔵した電源から魔力を供給すれば大出力の魔法が再現できるはずだ。

 瞬間的にも恒久的にも魔法の威力底上げに魔力電池は有効だ。

 

 ……作るか?

 

 古代ベルカでカートリッジは常識的のようで、この本の山の中にも必ず埋もれているだろう。

 ミッドチルダ式のデバイスに適応するよう組み替える必要はあるが、特に問題は無い様に感じられる。瞬間的な魔法強化は若干調整が必要だろうが、魔力電池として常時リンカーコアからの魔力消費を抑えることも出来るはずだ。

 

 充填方法は……書いてないな。銃の弾丸みたいに一つずつ詰めるか、充電池のように魔法を使わない時に常時回復する程度少しずつ魔力を集めるか……

 どちらも採用できれば良いな。後者を採用するにはカートリッジの弾数は多い方が良いか……。常に飽和しないよう予備カートリッジもあったほうがいいな。

 

 技術資料があれば即錬金術でパーツやらは作れるんだが、システムの検証の方には時間を掛けた方が良い。

 第一段階としてカートリッジへの充填およびシステムの実装、第二段階は蓄電池方式での充電機構の採用。第三段階で瞬間的な魔力強化。第四段階ではシステムの効率化ってところか。

 

 オラ、ワックワクしてきたぞ!

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

 無事に転生したらしい。けど……

 

 赤ちゃんは流石に恥ずかしいよ!

 

 前世の名前はもう思い出せないけど、私こと結衣は新しい両親のもとに生まれることができた。ここが魔法少女リリカルなのはの世界の海鳴市という場所みたい。

 お父さん(前世のだけど)が言うには静岡とか千葉らしいけど、ここは……まだ調べられないしどこかは分からないんだよね。

 

 でもニュース聞いてると、たぶん海鳴市は……あれ? 何考えてたんだっけ?

 

 まぁ、どうでもいいことだったのかな?

 赤ちゃんの頭で考え事をするのはやっぱり大変みたい。今日まで色々考えてきたけど、直ぐに眠くなって眠っちゃうし。

 

 元々リリカルなのはを知ったのはお父さん(前世のだけど……あれ?前にも……)が見ていたからだけど、最初は普通に子供向けだって思ってみてたんだ。

 でもなんだか違うようで、そっちはまだ早いからって見せてもらえなかった。

 

 とりあえず、家族環境は特典でお願いした通りだった。お父さんもお母さんも魔導師みたい。二人共インテリジェントデバイスとお話していたから間違いないと思う。

 お父さんは時空管理局の武装局員みたいで、殆ど家に帰ってこない。お母さんも管理局員みたいだけど、今はお休みをもらっているようだった。

 お祖母ちゃんもいて、少し足が不自由そうだけどまだ元気にしている。

 お兄ちゃんも居るみたいで、私とは三っつくらい離れているらしい。お母さんが居ないときはよく様子を見に来てくれる。今は幼稚園に通っているらしく、昼の間はいない日が多い。

 

 転生したから特典の確認をしたいけど、瞬間移動だけなんだよね。生まれた場所はちゃんと海鳴市であってたから大丈夫だけど、残りの二つは三歳と五歳の時。動き回れないからそれで良いんだけど、暇な時間がすごく多い。

 

 この体で瞬間移動するのは危険だと思うし、魔力も良くわからない。あると思って探れば何かあるような気はするんだけど、しっかりと掴むことができない。よく、今までないものがあるからって直ぐに感覚がつかめるっていうのは絶対嘘だ。それか天才じゃないと無理だと思う。

 ある意味、天から授かった才能で天才と言えるかもしれないけど、知らない感覚があったからといって、今までなかったものが直ぐに扱えるわけない。

 少しずつ感覚を知って行って、少しずつ慣れていくしかないよね。

 

 私が生まれたのは二月二一日。なのはちゃんが生まれるのはリリカルなのはでは知らなかったけど、三月十五日らしい。ホワイトデーの翌日にお父さんがいつもお祝いしてたから。

 なのはちゃんのお誕生日を。

 

 モニターの前で。

 

 もう四月も終わりに近づいてきたから、なのはちゃんも生まれていると思う。翠屋っていう喫茶店も営業しているみたいで、よくお母さんがお兄ちゃんにお使いに行かせている。何時もクリームやカスタード、チョコレートなんかのいい香りが私の鼻を擽ぐる。

 ……私は食べれないんだけどね。

 

 なのはちゃんと誕生日が近いってことは、原作開始の時に私は八歳。あと八年。

 小学校入学までは六年だけど、私立の小学校受験なんてやったことない。小学校は普通の近くの公立小学校に通ってたし、中学校も同じ。

 なのはちゃん達と同級生になるには、聖祥大附属小学校に入学するしかない。私立だから学費とか気になるけど、大丈夫だと思う。たぶん。

 

 将来のことはまだあんまり決めていない。お母さんやなのはちゃん達の様に管理局に入ってもいいけど、言ってみれば軍隊みたいなところなんだよね。軽く言えば警察になるけど、人と戦うことがまだ想像できない。

 そもそも、まだ社会に出たことがないので働いてる姿が想像できない。

 

 なのはちゃん達が危険な目にあうのは放っておけないから、管理局には入ることになると思うけど、そのためにもいろいろと鍛えておかないとね……

 

 ん……なんだか眠たくなってきちゃった……

 

 

――Side out




※14/01/07 誤字修正


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#005 新しい出会い

Side Yuichirou――

 

 

 季節は巡って、四歳になり、再び夏がやってきた。

 ん? 夏について何も聞いてないって?

 ……暑いからぐったり過ごしてたよ。三歳児なめんな。

 

 でも今年はそうはいかず、外に出かけないといけない事が多くなった。しっかり歩けるようになって行動範囲も増え、ぼちぼち体の動かし方を確かめて、格闘技でも身に付けようと思う。

 

 ……なんで格闘技かって?

 だってね、『気』なんてものがあるわけですよ。使わない手はないんじゃないかな?

 龍☆球とか一度は憧れたもんでしょう。

 他にも気はあまり関係ないかもしれないけど格闘技といえば、早乙女流らんまくんとかもね。四肢方向じゃん!とか飛竜商店派!とか、熱い闘気と冷気ってなんですか?って感じだったけど今ならできる、爆砕点穴。

 

 と、思っていた時期が私にもありました。

 

 気を使うんでテンション上がってしまったけど、爆砕点穴は気とか関係なかった。

 亀派女派とか出来るかなって思ったけど、気の性質的に物を破壊するほどの放出は出来ないみたい。基本的に人体などの生命体に影響を与える事が性質みたいで、無機物を気だけで破壊したりはできなかった。

 やはり身体強化等に適していて、魔力での強化より強力だった。それに、感覚も強化されて周囲を感覚的に感じられたりするので、戦闘には最適の力だ。

 

 本来なら感じ取れるほどの気を持ち得なかったこの体も、二歳の時気の適正限界値や保有量なんかの限界値を弄っておいたおかげで今では体内の気がしっかりと感じられる。

 まだ長時間の戦闘に耐えられる程身体強化の持続時間は長くないが、気の扱いを身につける程度には気の量も質も十分だった。

 

 流石に家で練習するわけにはいかないので、最近は近所にある神社の端で遊びながら気の扱いを身につけている。広くてひと目の少ないところはここか少し離れた臨海公園くらいで、四歳児の行動範囲の狭さに落胆する。

 僕がしっかりと外を歩き回れるようになったのは二歳と五ヶ月くらいだった。歩けるようになったのはもっと早いが、外に出られるほど体力が続かなかった。

 

 結衣はもう一歳五ヶ月で、移動手段がはいはいからあんよに変わっていた。フラフラする様子はなかなか可愛かったが、直ぐになれたのかちょっと残念な気持ちになった。

 最近は母さんも仕事に復帰してしまい、結衣の面倒を見るのは専ら僕かお祖母さんだ。父さんと母さんはミッドチルダにも家を持っているみたいで、帰ってこないときはそっちに泊まっている。

 地球は離れられないが、仕事でミッドチルダも離れられず、育児はお祖母さんに殆ど任せられた。

 僕らが普通の子供だったら育児放棄って感じだが、しっかりしているし祖母もいるので大丈夫だと思ったのだろう。共働きは親の親がいないと難しいよね。

 結衣のことを任された。

 

 というわけで、あまり外で遊び回るわけにはいかないので帰ることにしよ――

 

「ん?」

 

 神社の境内、階段に近い林の木陰で黄色い何かが丸まっていた。

 

「子狐か?」

 

 ピンと伸びた耳に大きめの尻尾がある黄色い子狐だった。

 これまで見たことがなかったんだが、最近やってきたのか?

 

「……」

 

 ……これは触るしかないだろう。

 首になにか付いているってことは飼い子狐なのだろう。人に触れられることには慣れているかもしれないが、元々は野生の動物だ。

 狐なんてそこらの普通のペットショップには売っていない。

 

 ほかに人影はないため、飛行魔法でわずかに浮かび、音を立てないように静かに近づく。気を極限まで落として気配を薄くする。

 風は狐のいる方向、階段方向から吹いてくるので、反対側にいる僕は風下にいるということになる。

 しっかりと眠っているのか、たまに耳がぴくぴく動くくらいで気づかれてはいないようだ。空中で体勢を変えてとなりにゆっくりと座る。一瞬ぴくりと耳がこちらを向くが、暫くしてまた元に戻る。

 

 すでに射程距離範囲内だ。手を伸ばすだけで触れることができる。

 

「……」

 

 すっと撫でるのに合わせて、気功を送り込む。これも、気が扱えるようになってから実験してきたものだ。疲労した自分の体では試したことがあったが、なかなかに気持ちが良かった。

 近所にも猫はいたが、近づくと逃げ出すため今まで試すことができなかったのだが、ここでようやく出番がやってきた。

 

「くぅ?」

 

 子狐は顔を上げて、こちらを向く。しっかりと目が合い、動きが止まる。

 

「……」

「……」

 

 そのあいだも僕は撫で続けるがやがて……

 

「くぅーー!!?」

 

 飛び上がるように手の下から逃れ、林の奥の方へと駆けていった。

 

 ふむ……結構なの御毛並みでした。

 

「残念だが、帰らないとなぁ~……今度何か持ってくるか」

 

 狐と言ったらお稲荷さんか? あとは甘いものとか食べるのかな……

 飼い狐みたいだし、なんでも食うかもしれないな。倉庫に入れておけば腐らないし、いなくても問題ないからいろいろと用意しておくか。

 

 それにしても、少し変な気を感じたけど大丈夫だろうか。

 

 

 

 

 

 

 自宅に帰ると、結衣がソファで死んだように眠っていた。もしくはどこかの中年探偵が眠らされてうまく座れず、体が倒れてしまったかのようだ。

 

 夏なので冷房の効いたリビングに居たい気持ちはわかるが、ソファで寝るのはお薦めしない。そもそもソファにどうやって登ったんだろうか。うちのソファは少し高いので、高さ的に一歳児にはまだ難しいと思うのだが……

 厚めのタオルケットを用意して何度か折り、部屋の隅に布団替わりに敷く。起こさないようにゆっくりと体勢を変えて持ち上げて、移動させる。四歳児には辛い所業だが、身体強化をすれば問題ない。

 冷房の部屋で薄着でそのままは拙いので、薄いタオルケットを掛けてやる。

 

 気持ちよさそうに眠る姿は子供らしくて可愛らしい。

 いつまでも見ていたくなるが、手の空いた時間にデバイス弄りに勤しむことにしよう。

 六歳になったらデバイスマイスター資格と言うものを受けるように父さんが言っていた。デバイスを作ったり弄ったりするためには何かと資格があったほうが良いらしい。それに、こういう資格は取れるときに取っておくべきだって。

 技術だけなら今でも十分受かるだろうが、作るための知識だけではダメらしく、関連知識を試されるらしい。確かに、そのあたりは何も学んでいない。

 六歳児に取れる技術系資格がある事にも驚きだが、十歳程度でも管理局に入局できるらしく、ミッドの資格所得下限年齢はそろって低く設定されているらしい。

 

 一年前に無限書庫に行ってから、何度も訪れて様々なデバイスの知識を身につけてきた。主に技術面のみだが、今なら一般的なインテリジェントデバイスも簡単に組むことができる。

 だが、僕が作りたいのは一般的なデバイスではない。

 

 現在のミッド式の主流は、魔導杖を用いた魔法戦だ。対して、ベルカ式はアームドデバイスによる中近距離戦。中には例外もいるが、大凡これらに分けられる。

 

 僕も当然ミッドチルダ式の魔導師だ。魔法陣も父さん達と同じ円状のものだ。

 

 ただ、どうにも戦闘に『杖』を用いるのが違和感がある。確かに、杖でも戦闘できるだろうが、最後に頼りになるのは自分の体を使った戦闘能力だ。

 

 というわけで、戦闘方法は遠近中距離全てを想定し、近距離は格闘戦及び、近接武器による戦闘。中長距離は魔導による戦闘を行う。

 格闘戦用に両手足に装着するアームドデバイス。戦闘時は基本的にこの形態が標準になる。

 そして、武器戦闘用に棍。質量兵器が禁止されているため、刀剣の採用は見送った。刃物である以上殺傷能力を抑えることは殆ど出来ない。

 棍も質量兵器と言われればそれまでだが、基本的に格闘戦が行えない相手の攻撃を受けながら戦闘するための物なので、出番はそれほどないと思う。

 最後はミッド式で一般的な魔導杖。

 

 インテリジェントデバイスとして制作つもりではあるが、基本的にアームドデバイスよりの戦闘を行うため、装着型の武装形態と武器形態、魔導杖形態、待機形態の四種類六形態を採用する。第五、第六形態は装着武装と武器、装着武装と魔導杖を用いる併用形態だが、滅多に使うことはないだろう。

 併用形態は、形式的、見た目的に魔導杖などのデバイスを所持する必要があると判断した際に使用することになるだろう。

 

 次にインテリジェントデバイスへの技術転用が断念されたカートリッジシステム。

 

 元々はベルカ式のアームドデバイスに採用されていたもので、インテリジェントデバイスのような繊細なものには搭載できなかったらしい。

 

 従来のカートリッジシステムを踏襲し、弾丸型のカートリッジを採用するが、毎度排出される薬莢がもったいないため、再利用可能にするための新素材、新機構を採用する。

 素材はミッドの技術でも再現可能な物で、魔力耐性に優れた素材を錬金で創り出し、繰り返し使用に耐えられるものになった。ただ、一昔前の充電池のように、数十回程度の使用で交換する必要がある。

 デバイスには格納領域というものがあり、そこに装着型などの武装は格納される。このシステムを利用し、使用済みの薬莢がカートリッジ内に溜まってくると、それを格納空間に移し、充填済みのカートリッジを装填する。

 薬莢が排出されないリボルバーのような、回転式の機構を採用する。

 

 デバイスに搭載するカートリッジへの魔力充填方法は二方式を採用する。

 一つは従来のように一発ずつ魔力を充填し、カートリッジへ装填する方式。

 もう一つは充電池のように、デバイスを身につけている間の余剰魔力を自動で充填していく方式だ。格納空間に空のカートリッジを入れておいて、非戦闘時に充填する。

 採用にあたって格納空間のシステム改良が必要になったが、問題なく動作するように出来上がった。

 

 最後に、夜天の書の収集システムを自分なりに改良、再現した蓄積型ストレージデバイス。

 

 現状ではリンカーコアのスキャン技術と魔力測定、照会技術を参考にシステムを組んでいるが、超高度演算機能が必要になるため、完成の目処はたっていない。

 

 地下室に降りると、デスクの上に改良中のデバイスが置いてある。

 現状では杖形態と棍形態のみになっている。武装形態は錬金術で用意はしたが、直ぐに小さくなるため、正式採用はしばらく見送ることになる。

 それに、両親に入手法を不審に思われるからだ。

 

 デバイス弄りに才能があると知った父さんはミッドへ僕を連れて行く際、デバイスショップなどを連れ回してくれるようになった。

 ミッド滞在中に仕事があるときは自由にショップへの出入りが認められた。

 デバイスパーツ用に資金をもらい、必要なパーツや知らないものを買い集める。佐官をしているだけあってミッドチルダ内では金回りが良い。

 通常はこうやってパーツを入手している。

 

 幾つか自作したパーツもあるが、このデバイスが完成するまでは錬金術で作った特製パーツは多用しない。

 カートリッジシステムも、アームドデバイス用のものを採用し、若干の改良を加えるのみに留める。自作パーツへの切り替えに支障がないようにするのは忘れない。

 

 デバイスの改良中だが、最近は主に格納領域の改修がメインとなっていた。ハード的な改良は基本的に直ぐに終わった。

 残るはデバイスコアの調整だ。

 このデバイスコアだけは僕の錬金術をフルに使っている。

 

 デバイスコアはインテリジェンスAIを採用するため、恐らくずっと使い続けることになるので最高のものに仕上げたい。もちろんAIはむさ苦しい男性人格ではなく、女性人格を予定している。僕は男なのだ。それくらいはこだわっても罰は当たらないだろう。

 

 音声データは基本的に合成音声だが、殆ど人間と遜色がないほどに技術が進んでいる。声色などを理想的なものに調整して、AIの音声として利用するようになっている。

 

 人格については基本的な調整だけで、使用とともに学びながら個としての人格が出来上がるようになっている。基本的におしとやか系で行こうとは思っているが、そこから先はAI次第だ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、デバイスの改修に一区切りを付けた頃、そろそろ夕食の支度をする時間になってきた。

 今のところはお祖母さんと一緒に支度をするようにしている。調理台に手が届くようになればひとりでやってもいいのだが、四歳児ではそうもいかない。

 

 今夜のメニューは何にしようかな?

 

 

――Side out




※14/02/11 誤字修正


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#006 なのはちゃん

Side Yuichirou――

 

 

 また一年が過ぎた。いよいよ来年、小学校入学だ。本当は通うのもアレなんだが、我慢するしかない。

 

 僕は五歳。十二月には六歳になる。その二月後には結衣の三歳の誕生日だ。

 というわけで、デバイスづくりの方も進めている。

 

 両親から、結には最初はストレージデバイスを用意するように言われた。魔力の運用やデバイスの扱い方を先に学び、魔法を補助してくれるインテリジェントデバイスはもう少し魔法の基礎が身についてからにするべきらしい。

 

 よって、魔改造デバイスコアの誕生は見送られた。

 デバイスの制作については一任され、予算も渡されたので色々と買いあさり、汎用的なストレージデバイスを用意することになった。

 基本スペックは汎用型というより万能型に近く、大出力の魔力にも充分耐えられる。魔力放出による訓練で、いつの間にかSランクまで成長していた魔力をフルに使って耐久テストを行ったが、特に問題は見当たらなかった。

 

 待機状態の形は悩んだが、無難にカードタイプを選択した。ある意味、インテリジェントデバイス制作のためのデータ収集用デバイスであるため、凝った作りにする必要性はなかった。

 ただ、通常のカードタイプの半分ほどの大きさにし、子供が持ち歩きやすいように作ってある。

 

 デバイスの開発は一週間程度で終わってしまい、異空間倉庫――というのはいちいち面倒なので某金髪に倣って蔵と呼称するが、その蔵に収納しておいた。

 

 自分用のインテリジェントデバイスは一応の完成はしたが装着型武装は搭載していない。武装は格納空間に格納、瞬間装着の調整はしてあるので、装着武装が解禁となったとき追加することになった。

 あとは、AIを起動し調整するだけなんだが、六歳まで待つことにした。本当は、インテリジェントデバイスについては両親から九歳くらいまで使用しないように勧められたのだが、なんとか説得して小学校入学まで使用開始を早めることに成功した。

 デバイス自体は、フリーズノヴァからデータをとっているので調整は既に終了している。魔力変換資質も、大出力にも問題はない。それに、搭載したカートリッジシステムも問題なく、デバイス自身への影響も、瞬間強化による術者への影響も無視できる程度に軽減されている。使っている内に調整することで問題点も皆無にできそうだった。

 

 最近変わったことは、神社にまた、去年の子狐が姿を現したことだ。七月末のこの時期であることを考えると、夏休みにこの街にやってきたか、戻ってきたかだが、問題はそういうところではない。

 

 子狐が全く成長していなかったのだ。

 

 確かに、動物も人間も子供の時期は可愛いものだが、成長しないとはこれ如何に。

 最近増えてきた霊力により霊視をすると、なんか封印されていた。

 

 ……なるほど、穢れやら祟りってやつですね。わかります。

 

 といっても陰陽師のように退魔や破邪の技術など持ち合わせてはいない。これは本格的に陰陽師として修行する必要があるかな?

 あの子狐が危険というわけではないが、祟や悪霊といった存在が居るならそういう存在に対処する手段は必要だ。

 

 だが、とりあえず今は目の前の子狐をどうするかと言う事だ。

 

 目の前、つまり今僕が持ち上げて向き合っているこの子狐だ。

 

「く、くぅーー!!」

 

 必死に暴れるが逃がしはしない。抱えるように持ち、頭を撫でる。

 

「く、くぅ……」

 

 この一年気功術の扱いについては格段に上達した。近所の猫を捕まえて撫で回しながら研究したものだ。

 

 くくく、我が手から逃れられるものなどもはや存在しない。

 

 子狐は気持ちよさそうに目を細め、体の力を抜いた。

 暴れなくなったので、ゆっくりと座り膝の上に子狐を降ろす。そこからは只管気功無双だった。

 子狐はされるがままだ。

 

 三十分程撫でていると、流石に同じ体勢は疲れてきた。というか落ち着かなくなってきた。通常より遥かに鍛えられているとは言え、未だ五歳児の体では色々と生前に及ばない。

 そっと撫でるのをやめて、蔵からお稲荷さんと幾つかのお菓子を取り出す。お菓子は生菓子で、お稲荷さんは去年のものだ。

 気分的に抵抗はあるが、時間の止まる蔵内部に保管していたので出来たてのような感じだ。

 あの日の翌日、買い物を済ませてお祖母さんに手伝ってもらいお稲荷さんを作った。その中からいくつか拝借し蔵へしまっておいた。

 残念ながら子狐との遭遇はあの一回きりだったので餌付けすることはできなかったが、今日から餌付けを開始する。

 

 子狐の前には稲荷寿司、翠屋のシュークリーム、大福、カステラが並んでいる。生菓子はどれも海鳴の個人的名店で売られていたものだ。

 

 食べ物の香りに釣られたのか、鼻をヒクヒクさせながら目を開ける。目の前にはお供え物。

 

 意外だったのは、稲荷寿司ではなく最初に大福へ向かったことだ。

 眠りから覚めたばかりのためか、伸びをしながら体をほぐし、大福を咥える。しばらく咀嚼していたと思うと、急に動きを止めてゆっくりとこちらを振り向いた。

 

「っーーー!!」

 

 大福を咥えたままだからか、くぐもった声を上げて前回のように逃げ出してしまった。とりあえず、残りの供物を容器ごと回収する。

 

 そのまま帰ろうと思ったら、少し離れた場所でこちらを伺う視線を感じた。

 目を向けてみると木の影から大福を加えたままの子狐が様子を伺っていた。手を振ってみると驚いたように再び駆け出していった。

 

 ……第二段階(フェイズツー)、状況終了。

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー」

 

「あら、裕くんいらっしゃい」

 

「こんにちは、桃子さん」

 

 子狐との融和作戦の第二段階(第一段階=標的との接触、第二段階=標的の好物把握)を終え、第三段階(標的の餌付け)に移行した僕は翠屋へやってきた。

 

 翠屋で働くのは基本的に桃子さんだけだ。士郎さんも働いているところを見るが、他にも仕事があるらしく、メインでは働いていないようだった。

 何人かアルバイトも雇っていて、接客はそちらにほとんど任せているらしい。

 ピークのとき以外や、閉店前の数時間は比較的客足も落ち着き、桃子さんが接客に出ることも増える。

 

 僕は基本的にお客さんの少ない時に入店するため、比較的桃子さんが接客してくれる機会が多い。

 まぁ、翠屋開店後すぐから通っているので、覚えてくれているということもあるのだろう。以前旦那さん――士郎さんの連れ子である恭也さんと美由希さんを紹介されたが、四つ、七つ年が離れているので特に遊ぶ機会もなく、よく知った知り合いみたいな感じになっている。

 僕からすれば、精神年齢的に年下なんだが、恭也さんは何か武術をやっているのか目がギラギラしていたので、少し怖かった。

 士郎さんも何かやっているようなので、父親に教わっているのだろう。

 美由希さんは今のところ武術をしているような感じはしない。たまに見かけるときはいつも何か失敗している印象がある。転んだりね。

 

「裕くん、ご注文は?」

 

「シュークリームと紅茶をお願いします」

 

 いつものように窓際の席へ移動し、シュークリームを注文する。頭を使うと糖分が欲しくなるんだよね。

 ブドウ糖を食ってもいいんだが、それじゃあ風情がない。

 

 別に甘いものが好きなわけじゃないよ? ほんとだよ?

 

「お待たせしました。シュークリームと紅茶です」

 

 別の店員さんが注文の品を持ってきてくれる。四人席の一角にシュークリームの甘い香りと、淹れたての紅茶の香りが漂う。

 いつものように、持参した佐藤さん……ではなく、角ブドウ糖?を入れる。

 

 頭を使う時や、運動をしたあとにはよくお世話になる。今日も狐と戯れる前と後に戦闘訓練をしていたので丁度いい。

 

「裕くん、ちょっといいかしら?」

 

「はい?」

 

 桃子さんの声に振り向くと、そこには結衣位の年の女の子が桃子さんに連れられて立っていた。

 桃子さんはシュークリームとジュースの乗ったトレイを片手で持って、もう一方で女の子と手を繋いでいた。

 

「なのはと一緒に居てもらえるかしら? 丁度なのはのおやつにしようと思っていたところなの」

 

「構いませんが……」

 

「ありがとう。なのは、裕くんと一緒にいてね?」

 

「うん」

 

 なのはちゃんは頷くと隣の席にやってきた。

 まだ小さいためか、お店のソファに登ることはできないようで、脇に手を入れて持ち上げてあげる。

 その様子を見ていた桃子さんが、にこにこと笑いながら、なのはちゃんのおやつをテーブルに置いた。

 

 なのはちゃんとはたまにこの翠屋で会う。よく、士郎さんか美由希さんが一緒にいるがなのはちゃんと桃子さんだけの時はたまにこうして一緒におやつを食べる。

 僕自身はおやつとしてよりお菓子という感覚だが、子供におやつは必要で、家の結衣にもホットケーキやパンにおにぎり、たまにシュークリームなんかをあげている。

 

 隣に座ったなのはちゃんはシュークリームを頬張りながら、幸せそうに笑っている。

 

「美味しい?」

 

「うん! おいしい!」

 

 打てば響くような返事を聞きながら、ハンカチを取り出し、頬についたクリームを拭ってあげる。

 シュークリームはまだ子供の口には大きく、よく口の脇からはみ出すのだ。

 なのはちゃんは慣れているのか比較的少ないが、結衣が最初に食べた時は結構ひどかった。顔を赤くして俯いていたが、なかなか可愛らしかったのを覚えている。

 最近は気をつけているのか口の周りにクリームがつくことは滅多にない。

 

「ん……ゆうくん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 なのはちゃんはまだそのあたりの感覚がないみたいで、子供らしく素直に受け入れて、お礼を言ってくれる。このあたりは教育がいいのか素直で礼儀がいい。

 なのはちゃんはもう一人の妹みたいな感じかな。

 家の結衣はやっぱり所々子供らしくない。そこがまた可愛いのだが、子供らしい子供もやはり可愛いものだ。

 

 お礼を言えたことを褒めるように頭を撫でる。擽ったそうに目を細めてわらい、おやつを続ける。

 その様子を見ながら、ゆっくりと紅茶を啜り、のんびりとした時間を過ごした。

 

「はい、お土産のシュークリーム。今度は結衣ちゃんも連れてきてね」

 

「はい。結衣も出歩けるようになったら連れてきます。それじゃあ失礼します」

 

「ええ。気お付けてね」

 

「バイバイ!」

 

「はい。なのはちゃん、またね」

 

 結衣へのお土産を持って翠屋を後にする。結衣は翠屋のシュークリームがお気に入りだ。まぁ、ケーキはまだあまり買って帰ってないので僕のせいかもしれないけどね。

 

 夕食にはまだまだ時間があるし、帰ったら結衣のおやつかな。

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

 とりあえず、お兄ちゃんがいない時に瞬間移動をやってみた。

 どこでもって言ってたけど、一度行ったことがあるところか、見える範囲にはどこでもいけるけど、一度も行ったことがないところには移動できなかった。

 

 お兄ちゃんはよく翠屋のシュークリームを買ってくる。

 お母さんが家にいた頃はお母さんに色々と注文されて買ってきていた。三歳児にお使いって……って思ったけど、ここから翠屋はそんなに離れていないみたい。

 

 お母さんにはまだ一人で出かけちゃいけないって言われているので、お祖母ちゃんと過ごすか、少し広い庭で遊ぶか、魔法の練習位しかすることがない。

 三歳になればストレージデバイスがもらえるらしいので、それまでに基礎的な魔力制御は身につけておきたい。

 

 それから、お兄ちゃんにおねだりして魔力負荷バンドを作ってもらった。お兄ちゃんは日常的に魔力負荷を掛けるってことを知らなかったみたいだけど、何とか分かってもらえた。

 次の日に出来ていたのには驚いたけど。

 

 子供が付けてても可笑しくない小さなリストバンド。

 設定は三段階変更できるみたいで、第一段階をつけて大体三ヶ月。この前ようやく第二段階に設定が変更された。魔力負荷バンドを貰った最初の頃は立って歩けないくらい体が重くなって、お兄ちゃんが慌てちゃって設定が少し下げられた。

 まだ自分で魔力量を調べることはできないけど、お兄ちゃん曰く、ちゃんと成長しているらしい。

 二段階にしたとき、急に負荷が増してまた倒れそうになったから、簡単に作ったからもう少し考えてみるよっていってた。だからまた、魔力負荷バンドを作っているみたい。

 

 庭で遊んでいると、お兄ちゃんが帰ってきた声が聞こえた。

 多分今日も翠屋のお土産があるんだと思う。胃袋が小さいからか、この時間になるといっつもお腹が減って何か食べたくなるんだけど、それが分かっているように、お兄ちゃんは何かを用意してくれる。

 ホットケーキだったり、おにぎりだったり。

 

 多分今日はシュークリーム。週に一回くらいは翠屋のお菓子がお土産になる。

 他にはお饅頭や羊羹もお祖母ちゃんと一緒に食べてるところを見た。私が寝てると思って二人で食べてることも多い。

 でも子供みたいにおねだりするのは精神年齢的に恥ずかしいから、お菓子の香りで起きても寝たふりを続けてる。そのまま寝ちゃうんだけどね。

 

 出かけられるようになったら真っ先に翠屋へ行きたい。お母さんに連れられて出かけるところは公園とか動き回れる場所ばかりだったから、翠屋はまだ行ったことがない。

 

「ただいま~。結衣~?」

 

「お帰り! お兄ちゃん!」

 

 なのはちゃんももう動き回れるようになってると思うし、そろそろ会ってみたいな。

 

 

――Side out



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#007 確信

Side Yuichirou――

 

 

 年が明けて、小学生になる時がやってきた。というかなった。

 昔お母さんが通っていた私立聖祥大学の附属小学校へ通っている。

 

 ホントはすごく嫌だったけどね。

 

 なんで制服が短パンなのかと。これじゃ短パン小僧だ。

 

 ……俺だった。

 

 短パン小僧といえば、この前、朝おきたら妹がイーブイと戯れていた。

 

 いや、脳内はパニックになったね。なんでイーブイが居んのって思ったね。

 何とか表には出さなかったけど、いきなり過ぎた。

 

 ポケモンなんてこの世界には存在しない。似たようなゲームはあったけど、イーブイは出てこない。

 そもそもイーブイなんて存在しないはずなのに、目の前で結衣と遊んでいた。

 

 ふぅ……まぁ、とりあえず結衣は転生者だってことが確定したわけです。特典で貰ったんだろうね。ということは使い魔かな?

 

「お兄ちゃん、イーブイ飼っていい?」

 

 って上目遣いで聞かれた時には許可するしかないよね。で、聞いてみたんだけど。

 

「イーブイって狐なの?」

 

「んー……イーブイはイーブイだよ! 名前はフェリに決めたの! 私の使い魔になったんだ」

 

「ブイー!」

 

 ということがあった。うん、まあいいけどね。

 

 妹には誕生日に約束通りストレージデバイスをプレゼントした。結衣の魔力光が蒼色だったから蒼いカード型。

 

 一緒に魔力負荷バンドの改良版もあげた。段階的に負荷を上げるんじゃなく、成長するたび気づかないうちに少しずつ負荷が増すようになっている。

 そろそろAAAランクになりそうな位。出来るかなって思って結衣の限界値を見てみたらSSランクまでの資質があった。

 

 ただこの資質は努力の結果の最高値であり、必ず到達するわけではないらしい。

 後で父さんたちを調べるとAAAとAでワンランク程届いていなかった。

 

 限界値も弄れるかと思ったけど今のところ自分の以外は無理だった。ステータスが見られる以上出来るのかもしれないが、条件があるのか、他人の数値を参考にするためだけかもしれない。

 

 小学校にはバスで通っている。入ったはいいけどここって中学からは女子校みたいなんだよね。ということは小学校出たら別の中学に通わないといけないんだ。

 

 うん。もう進路は決まったかな。アメリカいって飛び級して、高校入って飛び級して大学に行こう。どうせそのうち地球から出て行くんだし、地球で学びたいことは少しでも学んでおくことにしようと思う。

 

 どっか適当に工学系の大学に行って基本的なことを学んでおく。この世界は少しだけ機械技術が前世より進んでいるみたいだし。

 錬金術の役にも立つし、デバイス研究の役にも立つしね。

 

 ミッドで学ぶのもいいけど、なんか魔法ありきでやってるからアレだし、前世も地球出身としては大学くらい出ておきたい。

 

 ミッドの管理局は子供から働いてるみたいだし、父さんも十四、五で管理局入りしたとか。僕もそのくらいになったら士官学校出て管理局こないかって。

 

 裁判所と警察兼ねた軍隊みたいなところはちょっとどうかと思うけど、父さんに誘われてるし、入ってもいいかなとは考えている。

 父さんの所は教導の他にも、新しい魔導システムとかの検証なんかもやってるらしく、面白そうではあるのだ。

 

 とりあえず、小六終からアメリカの六年に飛び級編入して飛んで卒業、高校飛び級編入して大学入学のためにSAT試験とか受けて大学入って十六、七歳で卒業が目標かな。院に行ってたら二十四、五超えそうだし、基本的なことを学べればいいから院にはいかない。

 

 十八までに出れば妹の中学卒業の時期と重なるし、地球にお祖母さんと二人でも大丈夫だろう。

 管理局佐官の娘で、魔力資質的にも結衣は管理局から勧誘があるかもしれないし、義務教育が終わってミッドに行くかもしれない。

 

 その時期までに地球でやりたいことは済ませておこうと思う。

 

 って、まだこんなこと考えてても意味ないよな。未来なんて知らん。

 

 最近は父親にも近接格闘の基礎を習ってるし、なんか大会目指せとか言ってたし。

 元戦技教導官なだけに(今もか?)訓練の指導は上手で、たまに帰ってくる休日には、めっためたにされながら学んでいる。

 

 これまでの格闘術と、父さんに学んだ格闘術(ストライクアーツ)。これに前世の漫画なんかの技も魔法があるから再現できるので、いろんな戦闘を想定して独自の格闘術を考えている。

 まぁ、ほとんどの技がぱく……インスパイアされた技なんですがね。

 

 それから、前から勧められていたデバイスマイスターって資格も取った。これでミッドチルダで合法的いにデバイスの制作や管理調整でお金が取れる。

 手に職があるっていいよね。

 

 合格祝いに父さんからデバイス関連の機材を買ってもらった。

 流石に地球に持ち込みは出来ない事はないけど難しいもので、ミッドの別宅に設置した。部屋が狭くなったとか言ってたけど知らん。

 その代わり、父さんのデバイスは永遠に無料で見ることになった。お金をとろうと思っていたので少し残念。

 

 でもまぁ、結構いい機材が入ったので、これからは自由に研究調整ができる。流石にパーツは正攻法では自作できないが、デバイスパーツを作っているところを紹介され、設計図渡して注文すればパーツにしてくれるらしい。

 デバイスマイスターの資格が有るからっていう特別処置だってさ。ちなみに父さんの知り合いらしい。

 管理局の父さんの部署からも注文が行ってるってことだった。

 

 家でも買えば簡単な加工機材を設置して、パーツも全部自作できる環境を作る。そうすれば自由に改良出来るようにできるだろうが、それまでは自作のパーツ以外で必要な時にお世話になることだろう。

 

 これはいよいよ管理局入りが選択肢をしめてきたかな。

 

 学生のうちは授業のない時間や、出動がない時は学生で、なにか起これば出動みたいにシフトを組んでもらえるらしい。

 流石に地上部隊のように二四時間待機が必要なところは難しいが、父さんのいる戦技教導隊は融通が利くらしい。

 

 何より、管理局が人手が欲しい状態なので、多少の融通は測ってくれるらしい。融通がないと入れない人とかも結構いるみたいだ。

 ミッドでも高校に通いながら管理局の仕事を手伝っている人とかいるらしい。

 まぁ、海鳴と昼夜が完全には一致していないというところもあるだろう。海鳴とアメリカくらいの時差があれば別シフトも取れるようで、もしアメリカに行った場合は朝から学校夕方から日中のミッドチルダなんて生活もできるとか。

 

 昼間の方が勤務時間は長くシフトが組まれるが、そっちのほうが管理局としては良いらしい。

 父さんにアメリカ留学のことを聞いたときに一緒にそんな話をしていた。

 まぁ、まだ先の話だと笑いながら言っていた。

 

 子狐は未だ、第三段階(標的の餌付け)が続いている。どうやら一般的に学生の夏休みの間で、お盆までの短い期間に海鳴にやってきているらしい。最初に見たのもお盆前、去年最後に見たのもお盆前だ。

 

 去年は七回ほど子狐に遭遇した。

 

 七回ともこちらからの襲撃だが、尽く撃墜(捕獲して大福を食べさせる)したのだが、そろそろ僕のことを覚えていることだろう。

 

 大福の人と!

 

 どうでもいいけど。

 

 最終目標はお友達だ。

 今は精々テロリスト。良くて大福の人だ。

 

 神社で見かけたらこちらに近づいてくるのが目標ではなく、海鳴に僕がいるから子狐の方が遊びに来るのが目標だ。

 向こうのことは知らんし情報を多く持っている方が相手の方へ遊びに行くものだ。

 知らん所へはどうあがいても遊びに行けない。

 

 いつまで海鳴に来るのかしらんが、あの封印が解けるまでには友達になっておきたいと思っている。

 陰陽術は流石に独学では上手くいっていないが、あの封印をした人間が飼い主なら、そのうち子狐が連れてくるだろう。

 その時に軽く基本を学べれば御の字だ。

 

 多少霊力が上がってきたので目に留まるだろうと思う。最近は霊も見えるようになってきて、本格的に異世界を堪能している。

 

 魔法の世界で何やってるんだというツッコミは無しね。同じファンタジーだし許容範囲ということにしましょうね。

 

 魔法に関してだが、インテリジェントデバイスも正常に稼働し、最近は只管収束技術の向上と魔力制御向上を目指している。

 

 だってね、世界に満ちる魔力素を、リンカーコアが自分の魔力に変換しているわけですよ? だったらその魔力素を直接集めれば効率いいじゃないですか。

 

 ということでやってるんだけど、これがなかなか上手くいかない。

 

 収束の資質はもともと高く、能力でさらに才能の限界を上げているわけですよ。

 それでもなかなか効率よく集めることができない。

 自分の魔力が多めに混ざれば集まる魔力素の量も上がるので、戦闘終盤にはある程度有効なんだが、どうせなら最初から自身の魔力は温存したいんだよね。

 

 今のところリミッターでA程度まで魔力出力を落としているので、効率のいい戦闘が行えるのが理想。

 リミッターを外す事態なんて起こってもらいたくないが、それは最後の手段だ。

 少量の魔力(Aでも充分一般からは多いのだが)で魔法制御能力に変換効率を上げた戦いができる方が良いと父さんも、教導官の立場から言っていた。

 魔力に頼る戦闘はごく一部の人間だけで、教導するのは制御能力と戦闘技術、作戦に心構えと経験らしい。

 

 大魔力を振り回すのはいいが、振り回されてはダメだ、となんか良い事言ったみたいな顔をしていた。

 

 まぁ、それには同意だけどね。

 

 卓越した技量を持つ人間が大魔力を振り回して敵になった時が一番怖い。

 

 赤い彗星が三倍三倍言って飛んできたら怖いもんね。

 

 ん? G? なんのことです?

 

 彗星って言ったら流れ星じゃないですか。燃え尽きるときは赤くなりますよね?

 

 まぁ、そんな感じで魔法は制御能力は大分上がってきたんだが、収束技術は行き詰まっている。

 魔力収束のシークエンスを変える必要があるのかな?

 

 それともやっぱり最初から直接収束は無理で、自分のリンカーコアの蓄積効率と蓄積量を増やすようにするしかないのかな?

 でもそれだと普通の大魔力とかわらないんだよな……

 

 とにかく収束技術関連はこれからも研究を続けていくことになる。

 

 インテリジェントデバイスだが、当初の予定通り女性人格で、おしとやかっぽい(・・)性格だ。ぽい(・・)ってところがみそなんだが、そのうち紹介する機会もあるのかもしれないね。

 

 どうしてこうなった。

 

 合成音声は前世で好きだった声優、斎藤さんに限りなく近づけてみた。

 

 ん? わかんないって?

 

 運命/外の魔術師かな? それともヶ原さん?

 

 あれ、おしと……や……か?

 

 この声に決定した時点で気づいておくべきだったかな?

 

 うん。おしとやかっぽい(・・)女性人格の完成だよ。……やったね!

 

 それから今週になってのことだが、隣の街、隆宮に大きな魔力反応があった。

 最低でもSクラスの魔力を持た人間が他所からやってきていた。

 

 定期的に家から数十キロの範囲を広域スキャンしているのだが、前回のスキャンに引っかかった。

 

 隠密性を最大限まで増した広域スキャン。三年の間にその性能も才能に天井がないので格段に上昇し、今では両親が居ても気づかれないような隠密性を獲得した。

 

 その広域スキャンにこの海鳴を中心として、数名の魔導師が引っかかった。

 両親と自分を除いて、AAを超える資質を持つ者はこれで五人。

 

 なのはちゃんはどう見ても一般人であり、魔導師に関わりなどなさそうなので残り四人。

 うちの妹、結衣は転生者で確定。

 同じ年に生まれたと思われる、二人の子供は共にAAAを超える魔力資質を持っているため、転生者である可能性が高い。

 最後に隣街のオーバーS。こちらも転生者である可能性は高いが、一つだけ住所他市である理由はわからない。転生者で接触を避けている可能性もあるが、それなら引越しの必要もない。

 

 となると……うん。

 どう考えてもなのはちゃん。あなた原作関係者じゃないですか。やだー。

 

 そういえば、なのはって聞くと聞き覚えがあると思ったらあれだ。

 

 なのは完売! なのは完売!

 

 うん、どこぞの会場で確かに聞いたことがあった。

 

 一度手を出したらすごくお金かかりそうで避けてたんですよね。

 

 どちらかというと漫画やTVゲーム、小説なんかがメインだったので、アニメは一部のものしか見ていない。

 子供の頃はアニメもよく見てたけどね。龍☆球とからんまくんとか。

 

 工学系電気関係の学校行ってたから、そっち関係の知り合いができて、ちょっと手を出したらサブカルチャーにそこまで濃くはないけど染まったんだよね。これが。

 

 うん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女リリカルなのはですね。わかります。

 

 

 

――Side out




取り敢えず序章終了まで連続投稿。
またしても、不定期に戻ります。
熱があるうちに、小さい区切りの章ごとに書いているので、ある程度たまったら順次投稿します。

読んでくれた方、感謝です。


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第一章 少女の事情
#008 高町家


Side Yuichirou――

 

 

 僕も既に小学二年生。

 

 翠屋も開店から五年も経てば、それが商店街の一商店でも市内ではそこそこの有名店になっていた。

 以前に増して忙しくなった喫茶店は、外から見る分には活気づいているようだった。

 

 なのはちゃんのお父さん――士郎さんが意識不明の重体となった。

 

 そのことを知ったのはつい最近のことだ。

 

 僕が七歳、十月も終わりに近づいた頃、急に翠屋が臨時休業となり桃子さん達の姿を見かけなくなった。

 暫くしてまた営業は再開されたのだが、以前のような桃子さんの笑顔はなりを潜めていた。

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

 私は順調に四歳になった。

 使い魔のフェリとも良好な関係を築けている。

 

 フェリは地球にいる間、外出する際には人間の姿になっている。兎のような耳と狐のような尻尾は隠して、親戚のお姉さんという立ち位置をとってもらった。

 おかげで、フェリが普通に歩けるようになってからはお父さんも外出を認めてくれた。女の子だからって一人で出かけるのはいけないっていって、それまでは必ずお兄ちゃんについてきてもらう必要があった。

 

 普通の子じゃないって思われてるかもしれないけど、瞬間移動とかは知られるわけにはいかないし、原作のことを考えたら自由に動けないのは問題だった。

 

 といっても、なのはちゃんのお父さんが怪我する時期なんて私は知らないし、翠屋の様子を頻繁に確認するくらいしかできないんだけどね。

 

 小さい頃って話だったから三歳から四歳くらいだと思ってたんだけど、特に変わった様子はない。

 外出できるようになってからは、私はフェリに付いて来てもらい、臨海公園で結界を張って二人で魔法の練習をしている。

 

 そのあと公園でぶらぶらしていたら、どう見ても子供に見えない顔立ちをした子供がうろうろしていた。

 

 一人は銀髪で、近くを通った時に見ただけだから目の色はわからないけど、フェリが言うには目の色が違っているらしい。

 ヴィヴィオやアインハルトみたいにオッドアイっていう(前世のお父さん曰く)萌えポイント。

 女の子なら(前世の)お父さんの大好物だけど、男の子だから多分、SSで読んだことがあるオリ主(笑)ってやつだね、(前世の)お父さん。

 

 もう一人は褐色の肌をした白髪の子供。

 (前世の)お父さんの大好物だったアルビノなら肌も白くて、目は紅いはずだけど……

 それに男の子だし。

 

 二人共どう見ても日本人じゃないんだよね。

 

 私も純粋な日本人じゃないしこの世界は髪の色とかおかしいけど、日本人の大多数は基本的に黒(○○色っぽい黒髪)か、茶色(○○色っぽい茶髪)になっている。光の具合で○○色に見えるんだよね。紫とか青とか。

 まぁ、中にはピンクとか緑とかの人もいたけど……

 

 お母さんは(青色っぽい)黒で私もおんなじ色。お兄ちゃんは髪の色はおんなじで、目の色はお父さん似。顔も少しだけお父さんみたいに外人さんな日本人顔。

 

 でもあのふたりは白と銀色。

 それに魔力も私と同じくらい持っているみたい。

 

 私はお兄ちゃんの魔力負荷バンドのおかげで身体能力も魔力も上がっている。

 魔力は今ではAAA+。お兄ちゃんが改良した魔力負荷バンドに変わってから上昇率が一気に伸びた。

 技術チートをもらった転生者なんじゃないかって思ってしまうけど、多分私がデバイス技術者を家族に希望したから。

 

 原作の知っている中で海鳴の男の子が大魔力を持っていることはなかった。

 私の家族がいるせいで他の魔導師がいることになってるけど、なのはちゃんとはやてちゃんしか海鳴の魔導師はいないはず。

 

 ということはあのふたりは転生者だということ。

 

 多分、なのはちゃんが来ないか見て回ってるんだよね。

 士郎さんは滅多に翠屋にいないし、聞くわけにもいかない。定期的に翠屋に行って様子を伺ってるんだろうけど……

 彼らは何時士郎さんが怪我するのか知っているのだろうか?

 

 と、そんなある日のこと。

 

 翠屋に臨時休業の通知の貼り紙があり、一週間ほどお休みになった。

 

 士郎さんが怪我をしたんだと思う。直ぐにお店は再開したんだけどどことなく桃子さんの雰囲気が暗い感じがする。なのはちゃんは幼稚園に通っていないみたいなので幼稚園で会うことはないが、事故以来お店で見ることも無くなった。

 

「なのはちゃん大丈夫かな……?」

 

「……遊びに行けばイイ」

 

「なのはちゃんのお家に?」

 

「うん」

 

 家の縁側で魔法訓練の休憩をしながらなのはちゃんの様子を心配していると、私の膝の上に頭を乗せて休んでいるイーブイのフェリが返事をした。

 フェリはもうずいぶん成長して大型犬に近いサイズになっている。もうこれ以上は大きくならないようだけど、大きくてふわふわした毛並みが気持ちいい。原作アルフのように省エネモードと称して小さくなることもできる。

 

 なのはちゃんと初めて会ったのは、やっぱり翠屋だった。フェリと一緒にケーキを食べに行ったとき、偶然なのはちゃんも翠屋に来ていたので友達になった。

 桃子さんはお兄ちゃんから私のことを聞いていたみたいで、なのはちゃんを紹介してくれた。それから何度もなのはちゃんのお家に遊びに行ったりもしている。

 

「……そうだね。行こっか!」

 

「……行く」

 

 フェリには大人モードに変身してもらう。なのはちゃんはどうぶつが好きだけど、喫茶店を営むお家に――お店とお家は別だけど――動物を連れて行くのは拙い気がするからね。

 なのはちゃんと遊んでいる時にフェリだけ暇になっちゃうけど仕方ない。

 

 お祖母ちゃんに行ってきますって言ってまず翠屋へ向かう。なのはちゃんがいるかもしれないからだけど、なのはちゃんの事だから遠慮して多分いない。そこから公園を回ってなのはちゃんのお家に向かうコースだ。

 大分体力はついてきたけど小さいうちに体を動かしておかないと体の使い方が身に付かず、運動音痴になるとかお父さんが言っていたから、毎日出来るだけ歩いたり運動したりするようにしてる。三半規管を鍛えるのも良いみたい。

 原作でなのはちゃんは運動音痴だったみたいだから大人しくし過ぎて外で遊び回ってなかったんだと思う。士郎さんは人外みたいなので、少なからずDNAは優秀なものが備わっているはずだ。

 だから一緒に遊ぶときは出来るだけ走り回るような遊びを一緒にしてる。道場もある庭は結構広いので外に出かけなくても良いから子供だけでも大丈夫なのだ。

 

 案の定、翠屋になのはちゃんの姿は無かった。シュークリームを買ってなのはちゃんのお家に遊びに行く事を桃子さんに伝え、お家に向かう。

 士郎さんの事故後になのはちゃんと会うのは今日が初めて。何度か二次創作のテンプレ通り公園に足を運んだけどなのはちゃんじゃなくて銀髪君白髪君が居るだけだった。何時行っても居るのですごく暇なんだろう。見なかった時がない。

 

 立派な門構えの敷地が見えてきた。なのはちゃんのお家だ。

 

 玄関先の呼び鈴を鳴らすと、ドタドタと足音が聞こえ、玄関の鍵が開けられる。

 

「はーい。……あ、ゆいちゃん! どうしたの?」

 

 そのまま玄関の扉が開かれる。引き戸だからチェーンは無いけど、子供が独りでいるときは少し無用心に感じる。開ける前に相手を確認したほうが良いと思う。

 

「こんにちは、なのはちゃん。遊ぼ?」

 

「あ、うん!」

 

「おじゃましま~す」

 

「いらっしゃい。ふぇりしあさんもこんにちは」

 

「こんにちは……おじゃまします」

 

 フェリシアというのはフェリの人間モードの時の名前。イーブイ形態と同じでフェリって呼んだら被るので、少しだけ付け足した。

 

「なのはちゃんは何してた?」

 

「え、ぁ……え~っと、ご本読んでたの。えとえと、今日は何するの?」

 

 多分独りでボーとしていたんだと思う。やっぱり来てよかった。

 

「お庭で遊ぼ。今日はこれ持ってきたの」

 

 いつも持ち歩くカバンから取り出したのはフリスビー。いつもはフェリと遊ぶ為のものだけど、適度に走り回るには丁度いい遊び道具。走ったり飛んだりするから体を動かすには丁度いい。他には計算能力も疎かに出来ないので、室内では脳を鍛えるためにもいろいろ玩具を持ってきている。脳の成長も小さい時が一番いいはずだ。

 

 なのはちゃんには悪いけど、今日のフリスビーは庭中を走り回るように投擲の分布を散らすことにする。

 

 所謂、なのはちゃん魔改造計画。

 

 なのはちゃんの運動神経のためだ。知らない内に原作より運動神経が上がってると思うな。他の転生者がなのはちゃんが運動音痴じゃないところを見たらどう思うかな?

 

 隔日で鍛えに来るから少しだけ(何年間か)我慢してね? なのはちゃん。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichiro――

 

 

 ……結衣が何か企んでいる気がする。

 

 この世界が魔法少女リリカルなのはの世界だと決まったわけだけど――原作の原作があった気もするけど――主人公のなのはちゃんには頑張ってもらいたいものだ。

 

 正直何が起こるかわからないけど、転生者が少なくても三人いるから何とかしてくれるだろう。妹もいるから何かあったら介入することになりそうだけど大丈夫だろう。

 

 そんな僕が何をしているかというと、少し離れた図書館に来ている。殆ど隣街に近いのでバスで来るハメになったけど、海鳴市近辺で最大の図書館だから蔵書もたくさんある。まだ一人でミッドチルダには行けないので、本を読むなら買うか図書館ということになる。家の本はほとんど読み尽くしたので最近になってここに通い始めたということだ。

 

 最近は工学系の本を読むようにしている。まだギリギリ二十世紀だけど工学に関しては前世の世界より少しだけ進んでいるようなので、知らない知識を補充する意味でも有意義だ。専門的なことはやはり大学などで研究する必要があるだろうけど。

 

 他には少しだけ建築、構造系や魔法に必須な数学系の本も読む。建築系は、錬金術で地下室を増設する時のために少しだけ学んでいる。いくらでも頑丈に錬成できるけど、構造的に脆くして家を壊すわけにはいかないからな。

 数学系はやはりこの世界の魔法には必須の知識だ。情報瞬間認識現界量と思考速度の限界値という項目を創って弄れば、少しずつだが思考速度や一度に処理できる情報量が増えていく。速読の訓練みたいに、やればやるほど脳の処理能力が上がるのは正直嬉しい。

 

 改造という意味で正しくチートで反則っぽいが、今更なので僕は全く気にしない。ほかの才能も少しずつだが成長速度は上がっている。

 

「……。……デバイス作……ろか……。ミッド……跳べへ……か……」

 

「ん?」

 

 ミッドとかデバイスとか、聞き覚えがある単語が聞こえる。

 魔導師? ……魔力反応有り。

 

 魔導師がなんでこんなとこに?

 ……って僕もだけど。

 

「あー、もう! どないせーっちゅうねん! ってあかん……すんません」

 

 工学系の本棚に向かって車椅子に乗った女の子が叫んでいた。

 

「ほんま、どないしょ……こんな時裕一郎さんがおったらなぁ……」

 

「呼んだ?」

 

 取り敢えず知らない人だが、呼ばれたので返事をする。

 魔導師だし情報を集めるにはいい切っ掛けかもしれない。それに転生者だった場合、僕の名前を知っているということは何らかの方法で情報を知ったということだ。

 体勢的には反対を向いている少女に後ろから声を掛ける。

 

「え?」

 

 車椅子に乗った少女は返事があるとは思っていなかったようで、ビクッと一瞬震えたあとにこちらに振り向いた。

 

「……ぁ、え……裕一朗さ、ん。なんで……裕一郎さんや!」

 

「うおっ」

 

 少し顔を見つめていたかと思うと、急に声が大きくなって、車椅子を回して突っ込んできた。

 

「裕一朗さん! あぁ、よかったぁ、私だけ昔に戻ったんかと、ぅう、思、たわぁ。……ほんまに……ぅ、よかっ……たぁ」

 

 ……なんだかおかしなことになった。

 

 車椅子の少女は僕の手を握り、言葉を詰まらせながら、涙を浮かべて僕に笑いかけてきた。

 

 

――Side out

 




※14/01/07 誤字修正


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#009 八神はやて

Side Hayate――

 

 

 ――……やて……れ……。

 

 あかん! あかんで! 裕一郎さん!

 いやや! なんでこんな……裕一郎さん――

 

「――ゆういちろうしゃん!」

 

 意識が浮上する。

 

「……あれ。なんや……ゆめかいな」

 

 東向きの窓から朝日が差し込んどる。跳ね起きたからか、布団は投げ出されベッドの下まで落ちてるみたいやな。

 

「はぁ……」

 

 けったいな夢見てもうたな。起きよか……

 一緒にベッドに寝てたのにもう仕事に行ったんかな?

 

 いつも一緒に寝てる人物を思いながら、みんな仕事があって忙しいから仕方ないと考えて思考を切り替える。

 夢を見ていたせいかしらんけど、服がぐっしょりと汗で濡れていた。

 

「よっ……っあ、ふぎゃ!」

 

 ベッドから降りようと思い何時ものように動くと、足が床につかず、そのまま身を乗り出したため床に投げ出されることになった。

 ギャグみたいに顔面から着地すると変な声が出た。

 

「っ……たた。なんやねんもぅ」

 

 起きた時からの違和感が次第に濃くなっていく。

 

「ゆめ……やったんか?」

 

 ホンマに?

 

 あの血が引いていくような感覚も、目の前で裕一郎さんが■■■■るのも?

 

「うそや」

 

 夢やない……

 

「……あれ?」

 

 暫く呆然としていると別の違和感が浮き上がってくる。

 

 見慣れた部屋だ。間取りも、ベッドも、机も、本棚も。

 子供の頃から六年前までずっと過ごしてきた部屋。

 

「なんで……?」

 

 既に売り払ったはずの家。一人で過ごした思い出が強くて、わたしはこの家から引っ越したはずや。ミッドチルダへ、魔法の世界へ。

 

「ど、どういうことや?」

 

 懐かしい、という思いが湧き上がる。

 最近まではそんなこと思うはずがなかったんやけど、身の回りに変化があって初めて地球の家が懐かしく感じられた。

 

 これで、わたしが車椅子で、あの子がいればあの時のままや。

 小さな時からずっと一緒にいたあの子が――

 

「……夜天の書」

 

 ――あった。

 

「なん、で……」

 

 夜天の書。

 いつの間にか一緒にいた魔道書が、あの本棚にあった。

 十字に鎖が巻かれ、開かないように閉じられている。不思議で綺麗な本。

 

「さっきまで無かったはずや……」

 

 無意識に手が伸びる。あの中にはあの子がいる。

 わたしを、みんなを残していった優しい子。

 

 リインフォース。

 

「はは……ゆめやな」

 

 あんな夢を見たから。また、失ってしまったから。

 

 手を伸ばす。もう手放さないために――

 

「あれ、届かへん」

 

 ――届かなかった。

 

「あれ、なんで――」

 

 体を見直す。床に立った足、小さな手、成長してない身体。

 まるで幼児のような小さな身体。

 

「なんでやねーーーん!!!??」

 

 独りきりの部屋にわたしの絶叫が響いた。

 

「ははは、……夢や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、両親を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、わたしの状況を確認したけど、全ては夢じゃなかった。

 二年程経った今でも覚めない夢があるなら、そこがわたしにとって現実なんやろう。

 

 もしかしたらこれまで過ごしてきた二十年近くの日々こそ、今のわたしが見ていた夢だったんかもしれんな。

 

 目が覚めたのは、大阪からこの街に引っ越してきた日の翌々日。引越しで疲れた影響で、熱を出して寝込んでたらしい。

 もしかしたら、夜天の書とのパスを繋ぐ段階でリンカーコアに負担がかかり、熱という形で現れたのかもしれん。

 夜天の書が現れたとき、既にパスは繋がってたからな。

 

 両親は……はじめはあまり親だと思えんかった。ここで目が覚めるまでの人生では親の顔もほとんど覚えていなかったし、親類といえば血は繋がってへんけど、グレアム提督しかうかばんかったから。

 

 それでも、一緒に暮らしているうちに家族だと思えるようになった。

 

 二歳の終わりに引越してきたわたしに戻った――逆行というんやろか――わたしは、まず夜天の書の隠匿から始めることにした。

 小さな結界程度ならデバイスがなくても問題なく張ることができる。これでも魔法歴は十年やからな。

 何とかして闇の書と呼ばれる呪いから夜天の書を開放してあげたい。

 

 あの子を助けてあげたい。

 

 夜天のプログラムは一度、裕一郎さんが解析してくれた。守護騎士システムや管制人格がいなくなった状態の夜天の書やったけど、そのデータを元に一緒に蒼天の書を作り上げてくれた。

 

 わたしが十歳の頃やったから、今でも海鳴にいると思うんやけど、すぐに海外に留学したらしいし、そのまま海鳴からミッドチルダに移住したため、地球の住所は知らない。

 そもそもこんな子供が一人で隣街まで出かけるなんて出来ひん。

 

 地球の資材を使ってデバイスを一から作るか、何とかしてミッドチルダまで行けるよう、今のうちから転移魔術のお浚いと研究をすすめとかなあかん。

 

 裕一郎さんに会うのが一番早いんやけど。

 

 とにかく、夜天の書の存在をグレアム提督に、管理局に知られるわけにはいかん。どうしても対応出来んとおもたら連絡も必要やろけど、グレアムさんには悪いことしてほしゅうないしな。

 それに、なんとしても闇の書から開放するんや。

 

 三歳になるころには魔法の練習も始めた。わたしも昔は大魔力に振り回されてたから、細かい制御を出来る様にしといたほうが良えと思ってな。

 夜天の書でリンカーコアに負荷が掛かって何年かしたら魔法使うんも一苦労しそうやしな。今のうちに頭と身体と魔法力を鍛えとかな。

 

 基本的に昼間の親がいない時間に庭先に封時結界を張ってシューター系で魔法制御を練習する。流石に広域魔法の練習なんかしてたらあかんしな。

 

 四歳になる頃にはやっぱり足が動かんようなってきた。まだまだ歩けるけど、外を走り回るんはしばらく無理やな。

 ほんでも、出来るだけ長く足を使って歩くようにしてる。九歳まで歩けんようになるんやしな。

 

 歩けんようになったらやっぱり車椅子になってしもた。なんや、前回と同じ車椅子やったから始っから慣れたもんや。

 病院の先生はやっぱり石田先生やった。今回は原因が解ってるしあんまり通わんようになるかもしれんけど、言うわけにもいかんししゃあないな。

 親も私のこと心配してくれるし、少し申し訳ないな。

 

 両親に死んでもらうわけにはいかんけど、正直いつ死んでしもたのか覚えてへんのよね。魔法が本当に万能やったらなんとしても対策を講じるんやけど。

 わたしにできるのはサーチャーで見とくだけやけど、いっつも見てるわけにいかんしな……。

 

 今出来るんは、両親の安全を願うだけや……。

 

 念のため、親戚関係をもう一度洗い直してみたら、関西に母の再従姉妹の旦那さんと娘さんがおった。

 ……丸っきし他人やね。

 

 母の再従姉妹のお葬式があって無理してついて行ったから、連絡は取れるようになってるけど、完全に他人になってるからどうしようもないね。

 もしもの時は後見人になってもらわな、孤児院とかで世話になることになるわ。そうなったら夜天の書をどうすることも出来ひんから、なんとしても両親には生き残ってもらわなあかんな。

 

 五歳になったらもうほとんど足が動かんようになってもうた。知ってたけど悲しいもんやね。いろいろと不都合が出るようになってきたし、精神的にきついわ。

 

 そうこうしてるうちに運命の時が来た。

 

 両親が亡くなってもうた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 両親の死因は突然の事故死やった。昔はわたしの足のせいやと思ってたけど、わたしが原因じゃなかったと分かったのは幸いやった。けど、運命って決まってんのかな?

 暫くは本当になんもやる気が起きんかった。ながい間泣いてた。もう一度戻りたいとも思った。今戻れたら両親ともに救えるのに……。

 

 記憶にある二十年のうち、たったの三年やったけど両親の温もりにふれていたわたしは幸せやったんや。

 

 それから、なんとか家を手放さんですんだけど、これからひとり暮らしが始まると思うと憂鬱や。定期的に市の養護施設の職員さんが訪ねて来てくれる事で、なんとかなった。遺産も膨大な量ってわけではないけど、中学卒業したらミッドチルダへ行くつもりやし問題ないやろう。

 

 石田先生も心配してくれて前とおんなじ感じで接してくれてる。

 

 もう少しで三ヶ月やし、何時までも悲しんどるわけには行かん。とにかく、これから四年弱やることは多いで。

 

 それにしても……

 

「デバイス作る言うてもなぁ……」

 

 専用の機械があるわけでもないし、回路だけでも再現出来んとあかんし、回路設計からやな。

 

 地球の電子回路で作ろうおもたら結構なもんになるで。転移魔法で少しずつミッドチルダに近づくにも座標なんて覚えてへんしな。

 

「うーん。やっぱりデバイス作るしかないんやろか……。ミッドまでなんとかして跳べへんかなぁ」

 

 夜天の蒐集行使で前回蒐集した魔法については記憶に入っとるけど、デバイスないと実際制御できひん。

 

 夜天の書が覚醒すれば杖を使えるけど、起動するのはまだ早い。正直なんの用意も出来てへんのに起動して収集したとしても、暴走したあとどうする事もできん。

 

 今改めて考えてもあんときみたいな奇跡、再現しよおもても出来る気がせんわ。

 

「あー、もう! どないせーっちゅうねん! ってあかん……すんません」

 

 図書館におるん忘れてつい叫んでもうて、近くにおったおっさんに変な顔されてしもた。おっさんはすぐ離れていったけど恥ずかしいわ。

 

 あかんで、図書館では静かにせな。

 

 そういえばすずかちゃんと会ったんもここやったな。すずかちゃん工学系得意やったし忍さんも得意言うてたな。

 今は他人やしどうもできへんけどな。

 

 なんや、一方的に知っとる人がおる分余計さみしいな……

 

「ほんま、どないしょ……こんな時裕一郎さんがおったらなぁ……」

 

 裕一郎さんがおったらこの悩みもほとんど一発で解決するんやけどな。

 あんとき一緒におったし、わたしとおんなじで逆行してないやろか。

 

「呼んだ?」

 

「え?」

 

 人がおるとは思わんかった。恥ずかしいわ、独り言喋ってるとか見られるんわ、ほんまに。

 ここはクールに対応せなあかん。

 

 振り返って見ると――

 

「……ぁ、え……裕一朗さ、ん」

 

 なんで。なんでここにいるんや……。

 

「なんで……」

 

 もしかして……もしかして――

 

「裕一郎さんや!」

 

 ちょっと小さいけど、記憶にある裕一郎さんがそこにおった。

 

「うおっ」

 

「裕一朗さん! あぁ、よかったぁ、わたしだけ昔に戻ったんかと、ぅう、思、たわぁ。……ほんまに……ぅ、よかっ……たぁ」

 

 もう、こらえきれん……裕一朗さん。

 

 あぁ、神様――

 

 

――Side out



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#010 逆行少女はやてちゃん(23)

Side Yuichirou――

 

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい……

 

 図書館で偶然会った少女は八神はやてといった。

 あのあと、事情を聞いて、僕のこともある程度説明したけど、早とちりで歓喜して泣いてしまったため、目の前で真っ赤になって俯いている。

 

 はやてちゃんはやはり魔導師だった。彼女が言うには、二十一歳の時までこの世界で生きており、気付いたら三歳になる前に戻っていたということだ。

 最近両親が死んで身辺整理が終わり、図書館に来たところ偶然逆行前の知り合いにあった為、嬉しさのあまり飛びついたらしい。

 

「それで、僕たちはどういう関係だったの?」

 

「それは……や」

 

「ん?」

 

「わたしら結婚したんや」

 

「……だれが?」

 

「わたし」

 

「……誰と?」

 

「……裕一朗さんや」

 

「……は?」

 

「裕一郎さんと結婚したんや! やっとの思いで結婚したのにまた昔に戻ってまうし、なんでこんなことになっとるねん!」

 

 ということで、僕ははやてちゃんと結婚していたらしい。

 さらに聞くと彼女の二十歳の誕生日に式を挙げて、そのまま一緒に暮らしていたらしい。他にも同居人がいて、二人きりの新婚生活じゃないがいろいろと満喫していたみたいだ。

 

 お腹には子供もいて、幸せな生活が待っていると思った矢先に今の状況になってしまったらしい。

 

 子供……

 

「すずかちゃんを出し抜いてやっと結婚できたのに……なんでこんなことに……。すずかちゃんの呪いなんか?」

 

 すずかって誰だ……

 

「やっぱ共有物件にしたほうがよかったんやろか? 今回は間違えんで……」

 

「……」

 

「夜もタフやし……ブツブツ……」

 

 自分の世界に入り込んでしまった少女は置いておいて、取り敢えずこれまでの情報を整理する。

 

 彼女は夜天の書――現在では闇の書と呼ばれるロストロギアの所有者で、それが原因で下半身麻痺の状態が続いているらしい。

 九歳の誕生日に闇の書が起動し、守護騎士が出てくる。そして、彼女の病状が悪化すると勝手に蒐集活動を始めてしまい、管理局に目を付けられる。

 そして、なのはちゃんとフェイトちゃんと管理局の人たちと対立し、最後には闇の書の防衛プログラムが暴走し、協力して撃破、消滅させ、一人の犠牲を以て闇の書の呪いは終を迎えるらしい。

 

 また、裏でグレアム提督という人物が闇の書の完成と永久封印のために動いて、捜査を攪乱し捕まったらしい。

 

 夜天の書と闇の書、か。

 

 闇の書については無限書庫で幾つか記述を見たが、この少女の話には矛盾はない。闇の書という名称でロストロギア指定されており、暴走とともに多大な被害を出していると記されていた。

 最も新しい事件は僕が生まれた翌年、艦船を巻き込んで撃退したと記述が残されていた。闇の書という名称もこの資料が一番最初に出てきたものだ。

 

 夜天の書が闇の書と言われるようになっていたのなら、夜天の書と闇の書の関係も腑に落ちた。無限書庫では紫天の書プログラムという物もメモがあったのでこのあたりも関係している可能性が高い。

 

 はやてが言うには十歳の時僕に解析をしてもらったということだから、僕が十二か十三の時に夜天の書の解析ができたみたいだ。

 そこで、早めに僕に会い、夜天の書の修復を手伝ってもらえれば一番だったが、なかなかそうはいかなかったという。

 

 デバイスを作ってミッドに飛んで解析用の機械や設備を揃えようと画策していたらしいが、そもそもデバイスを作ることに苦戦していたらしい。

 ここで出会えたことは彼女にとって僥倖だったんだろう。

 

 それにしても……なのはちゃんの名前が出てくるということはこの子も原作関係者なのだろう。

 というか逆行って原作設定なのか判断しづらいな。

 

 どうやら結婚しているだけあって、僕の能力の一部を知っているらしく、転生していること、錬金術と蔵についても秘密を共有していたらしい。

 

 この特典はどう考えても僕本人だな。

 妹が生まれて転生者であることを隠そうと決めていたが、気持ちが変わったんだろうか。その世界の僕じゃないと分からないことだな。

 

 一応、その僕と僕は同じだけど違う存在だということは納得してもらえた。最初は僕も逆行していると思っていたみたいだ。

 

 転生者の介入で彼女が逆行することになったのか、別の形で別の未来から逆行するはずだったのか……。

 五歳から一人暮らしとか普通の子供はできんぞ。原作でも逆行者だったのかもしれないな。前の世界が原作における逆行前とかで。

 

 時を駆けた少女か。

 

 さておいて、これで本格的に原作と関わることになってしまった。この遭遇がなくても結婚するまでの仲になったということはどのみち巻き込まれる羽目になったのだろうが、今回はかなり早い段階で原作に関わるらしい。

 

「……せや、なのはちゃんも怪しかったな……。けど、フェイトちゃんはなのはちゃんやし――」

 

「はやてちゃん?」

 

「は!? な、なんや? け、結婚、結婚するか!?」

 

「……」

 

「あれ、ははは。ちょお暴走してもうたな……はは……。コホン。それで、なんや? 裕一朗さん」

 

「それで、はやてちゃんはこれからどうするつもり?」

 

「……リインフォースを、夜天の書を助けたい。犠牲も出さん。……といっても両親も助けられんかったわたし一人じゃ今んとこ、どうしようもないんやけど」

 

「……」

 

「ほんでも、できる限りのことはしたいねん。……裕一郎さんにはいろいろお願いしたいんやけど、……だめですか?」

 

 おそらく、ここでの役目は闇の書の解析と夜天の書プログラムの構築だろう。蒐集については今は考える必要は無さそうだ。

 幸い、似たようなシステムを作り出そうと思っていたので丁度いいといえば丁度いい。紫天の書の存在が気になるが、そちらも気にしておけば問題ないか。

 

 はやてちゃんが言うには五年後の自分は一年で夜天の書を解析したらしいので、今の知識量で考えるとさらに一年ほどかかることになるかもしれない。闇の書のプログラムと合わせればもう少しかかりそうだ。

 それから夜天の書のプログラム再構築のために古代ベルカの知識を集める必要もある。現状のプログラムと、過去の夜天の書の記載からシステムを推測し、構築していく必要がありそうだ。

 途中で組み込まれたかもしれない紫天の書についても注意して情報を分解していく必要がある。

 

 システムに介入できるのは管理者だけらしいけど、たとえロストロギアでも、人が作ったものならどこかに割り込む隙があるはずだ。途中で継ぎ接ぎされたシステムならなおさらだ。

 

 幸い、錬金術用の能力のおかげで、構造的、魔法的な解析に関しては奥の奥の情報まで知ることはできる。機材に関しても、ちょうどいい機会なので、はやての家に一式作り上げることにしよう。錬金術に関して知っているなら彼女の前で隠す必要もないし。

 

「……わかった。出来るだけ力になるよ」

 

「ホンマに!? ありがとう! 裕一朗さん!」

 

「ああ。取り敢えず管理局にバレないように家族には内緒にしておかないといけないな……」

 

「あれ、裕一郎さんのご家族は管理局やったけ」

 

「まぁね。そういえばはやてちゃんと家の妹は同い年だな」

 

「妹さんがおるんや……」

 

「そっちでは居なかった?」

 

「うん。こんなところもいろいろと違うんやね。……未来知識はあんまりあてにならんかな?」

 

「あー……そうだね。情報の一つとして考えておくほうがいいね」

 

 原作から転生者である僕が加わって平行世界が生まれ、そこからいくつにも分岐したのだろう。単純に考えて転生者が生まれるごとに多少の分岐があり得るということだ。

 この世界で生まれなくても別の平行世界で生まれた転生者も居そうだな。

 

 もしかしたら僕がいなくて、転生者の妹だけがいる世界もあるのかもしれない。原作知識がないことも影響があったりするかもしれないな。

 

「取り敢えず、はやてちゃんの家に行ってみていいかな? 場所を知っておかないとバスで行くにしても転移で行くにしてもわからないから」

 

「せやね。ごめんけど、車椅子押してってもらえるか? 海鳴市の堺に近いけど少し歩かんとあかんから……」

 

「いいよ。これでも運動は得意だからね」

 

「知っとるよー」

 

「そうだったな」

 

 

 

 

 

 

 

「これからについてだけど……」

 

「なんや?」

 

「取り敢えず一部屋を研究室にしていいかな? 家で闇の書を調べるわけにはいかないし」

 

 はやてちゃんの家にやってきて、中を見て回ると、空き部屋がいくつもあり、一人暮らしでは寂しそうだった。

 一緒に暮らすわけにもいかないので、ここに闇の書用の研究室を作ることにした。

 

「ええけど、一階にしてな? この足じゃ二階に上がれへんし」

 

「わかった」

 

 一階の奥、あまり使われていない部屋を教えてもらい、使わない荷物などを二階に移動し、研究用のスペースを作った。はやての部屋の近くで、はやてもここでデバイスなんかも作れるだろう。

 以前から細々と用意していた機材を蔵から取り出し、設置していく。流石に高価な解析用機材は買えないが、ミッドの家にある機材一式は設計図におとして改良し、錬金術で細かいところまで再現して錬成し、後はソフトを組み込むだけという状態になっている。組み込むソフトは既に出来ているが、闇の書の解析ということで、多少手を加える必要が有りそうだ。

 

 基本的に触れただけで、どこかの剣製の魔術使いみたいに内部の物理的構造や、ついでに魔法的構造までわかるので管理局研究室にある機材なんかもハードだけは複製している。

 流石に魔法技術ではないソフトを記録した磁気まで読み取ることはできないので、ソフトについては一から作り上げなければいけない。

 

 それでも、しばらく必要になる機材なら一、二年のうちに全て揃うだろう。

 闇の書の解析ソフトを真っ先に作り上げ、少しずつ機材を揃えていくことにする。

 

「そういえば、聞いておきたいんだけど、僕に関することで未来知識からなにか役に立ちそうなことはないかな?」

 

「んーそやね。知ってることは裕一郎さんにも言ったように能力の事と、転生したってこと、あとは裕一郎さんが作った魔法の一部と、夜天の書の中身について。それから……裕一郎さんはあまり関わってなかったみたいやけど、なのはちゃんが魔法に目覚めるきっかけのジュエルシードについて、くらいやな。あとは特に関係ありそうな大きな事件もなかったと思うわ」

 

「僕が作った魔法?」

 

「せや。裕一郎さんは近接戦闘もやるやろ?」

 

「ああ」

 

「確か、転移魔法を効率化して、瞬間的に発動できるようにしてたな。おんなじ魔法で私が転移しても近接戦に使えるような転移はできひんかったけど、裕一郎さんは戦闘で使えるレベルでやっとったな。これは裕一郎さんに教えてもらってたから今も覚えとるで」

 

「瞬間転移か……後で教えてもらえるかな?」

 

 瞬間転移……龍☆珠かな。それともTOXのジュードの戦闘か? 転移じゃないけど瞬間的に敵の後ろに回り込むみたいな感じの……確か集中回避だったか?

 あれは回避だけど、確かに戦闘に使えるな。

 

 パッと思いつくのは今のところこれくらいだな……。戦闘スタイルとしては格闘戦で間違ってないから丁度いいな。

 

「ええで」

 

「それから夜天の書の中身についてだけど……」

 

「そんなら、今度までにまとめて書き出しとくわ。すぐ全部思い出すんわ難しいしな」

 

「分かった。よろしく」

 

「任しとき!」

 

「はやてはデバイス持ってないんだっけ?」

 

「夜天の書が一応デバイスやけど、今使えるんは無いな」

 

「それじゃあ僕が使ってたストレージデバイスを貸しとくよ」

 

 そう言って、蔵からO4Mを取り出す。

 

「あ、それ知ってるで。裕一郎さんの最初のデバイスやろ? ……たしか、フリーズノヴァやったっけ?」

 

「正解」

 

「ほんまにええの?」

 

「良いよ。最近インテリジェントデバイス組んだから、しばらくは使う予定ないし、SSクラスの魔力でも問題ないから、はやてちゃんも充分使えると思う」

 

「ほー、もうインテリジェントデバイス組んだんやね。確かガハラさん」

 

「あー、うん、正式名称は別だったんだけど今は愛称が“ガハラさん”になってるね。まぁ、今度紹介するよ」

 

 ちなみにインテリジェントデバイスの正式名称は“Noble soul(ノウブル・ソウル)”。高潔な魂って意味だけど、ガハラさんって呼んでる。転生を隠している僕は知らないはずだから似てるなぁとは思って名付けようとも思ったけど、妹がいたから呼んでなかった。でも、声も性格も似てるから妹がいつしか戦場ヶ原さんやガハラさんって呼び始めた。僕が聞いたときの妹は色々と誤魔化していたけど。

 

 いつの間にか定着し、途中で愛称をガハラさんに設定した。

 最初は愛称設定してなかったんだけど、今では愛称でしか呼んでいない。

 

 いつもは煩いので家にいることが多い。

 

『マスター。なんだか失礼な思念を感じたのだけれど』

 

 ……家に置いてても念話は届くんだけどね。

 

 

――Side out




ヒロインは未定です(`・ω・´)キリッ






でもハーレムだから(キリッ

※14/01/07 誤字修正


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#011 八神研究室

※ご都合主義と独自解釈、独自設定満載注意


 

Side Yuichrou――

 

 

 最近妹がなのはちゃんの家に入り浸るようになった。

 もう原作が始まるのかと思って、はやてちゃんにジュエルシードの時期を聞いたら、小学校三年生の時だというので、どうやら違うらしい。

 

「最近なのはちゃんの家によく行くね」

 

「うん。お父さんが入院してるからなのはちゃん一人なの」

 

「そうなの? でも美由希さんと恭也さんがいたよね?」

 

 恭也さんはともかく、美由希さんは剣術もやっていないようだし、自由な時間は多いはず。それに恭也さんはシスコンっぽいからなのはちゃんのために行動すると思ったけど……

 

「うん……、でも昼間は一人だから」

 

「あ、そうか。学校もお店もあるしね」

 

 そういえば二人共中学生だったな。恭也さんは今年で中学卒業だからな。それに翠屋も手伝ってるみたいだし、忙しいんだろう。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

 

「いってらっしゃい。気をつけてな」

 

「うん」

 

「……いってきます」

 

「フェリもいってらっしゃい。……それじゃあ僕も行ってくるかな」

 

 結衣とフェリが出掛けていったのを確認して僕も外出の支度をする。

 最近日課になっているはやてちゃんの家への出勤だ。

 

 デバイスの通信機能を利用して、はやてちゃんに連絡を飛ばす。現在の地球の技術ではありえない、中空投写のディスプレイが表示される。

 

「おはよう、はやてちゃん」

 

『裕一朗さん、おはようさん。今日は早いんやね』

 

「まぁね。これから行くけど大丈夫かな?」

 

『大丈夫やー。待ってるでー』

 

「了解」

 

 転移魔法で事前に設定したはやてちゃんの家の玄関に転移する。バスに乗って通うほうが秘匿という観点では良いのだが、時間ももったいないので転移反応を秘匿しながら、もしもの追跡のためにランダム転移を織り交ぜて転移するようにしている。

 

 現在、海鳴には両親以外の管理局魔導師は住んでいないため、あまり意味はないが、転生者の存在もあるので念のためだ。

 

「はやてちゃーん、お邪魔するよー」

 

「はーい。いらっしゃい」

 

 玄関を上がり、リビングへ向かうと車椅子に座ったはやてちゃんが迎えてくれた。

 何やらデバイスでモニタを投影して作業している。聞くところによると、はやてちゃんは管理局に入って特別捜査官をしていたらしい。

 上級キャリアの資格も持っていて、指揮官資格も保有していたようだ。

 

 中学生の頃管理局の上層部が入れ替わるゴタゴタなどがいろいろあったらしいが、地上の現場は関係なく忙しく、仕事はバリバリこなしていたとか。

 

「なにやってるの?」

 

「これか? これはな、家の末っ子になる融合騎の基礎設計やね。最終的にはマリーさんと、あーっと管理局の技術者やね、と調整したんやけど、人格データなんかは私が作ってたから今から少しずつ作っとこおもてな。めっちゃ手伝うてもろて一年半かかったから、今のうちに少しでもなー」

 

「融合騎か……ユニゾンデバイスだったか」

 

「せや。リインフォースを助けてもこの子が産まれんのは悲しいからな。もしかしたら違う子になるかもしれんけど、この子は私の手で生み出さんとあかんねん。他に誰も知らんでも、私にとっては家族やからな」

 

「そうか、ユニゾンデバイスの基礎も出来てるんだな」

 

「せやで、わたしのはちょお特殊やから大変なんやけどな。ミッドとベルカのシステム両方使うから調整も大変なんや。わたしのリンカーコアのコピー使うから適合率はええんやけどな」

 

「リンカーコアのコピー?」

 

「自立型の融合機はな、リンカーコアが必要なんやけどどっかから持ってくるわけにもいかんやろ? せやからわたしのリンカーコアをコピーしてそれを核に使ったんや。コピー言うても出力はだいぶ落ちるんやけどな」

 

「技術的な問題?」

 

「どうやろか。コピーでおんなじリンカーコアできるんならもっと研究が進んでるやろな。大出力の魔導師は少ないから実験が恐ろしいけどな。それに、シャマルに手伝うてもろてリンカーコアを取り出したんやし、そう何度もできるようなもんやないで」

 

 リンカーコアのコピーに取り出しか。何か考えておこうかな?

 もしかしたらユニゾンデバイスを作ることがあるかもしれないしな。手袋型でリンカーコアに干渉出来るシステムでも作っておくか。

 闇の書の改変には事前にテスト用の夜天の書で改竄試験をするつもりだから、接続用のリンカーコアが必要になる。

 

 できれば食用の魔法生物――リンカーコアを持った動物など――がいれば丁度いいんだけどな。管理外世界も沢山あるし、どこかにいそうなんだが。

 はやてちゃんは自分のために命を奪うのは嫌いそうだけど、食用になる生物だったら殺しても、後で食べれるなら牛肉や鶏肉とそう変わらないしね。

 

「なるほどね。今度理念とか教えてもらっていいかな? デバイスマイスターとしては興味あるからね」

 

「ええでー。今度ガハラさんにデータ送っとくわ。設計はまだまだやけど、ノウハウなんか覚えとるから、そっちは書き留めとるんよ」

 

「ありがとう。それじゃあ僕は闇の書の研究に戻るよ。データははやてちゃんのおかげで奥の奥までとれたから、あとは解析して修復の方針を決めるだけだな。そこからはまた別の機材を用意しないといけないだろうから、そこで一段落だな」

 

「そうかー。ゴメンなー、任せっきりで。私のことやのに……」

 

「いいって。夜天の書自体には興味あったし、古代ベルカの記憶も残っててベルカ魔法について色々と参考になるからね」

 

「そういえば、魔法解析と記録用のデバイス作っとったね。演算装置を作るのに苦労した言うとったわ」

 

「お、出来てたのか」

 

「詳しくはようわからんよ?」

 

「大丈夫、出来るってわかっただけでも何かからヒントが得られたんだろうって分かるしね」

 

 デバイスの指針が実現可能な方向性を向いていると分かっただけでも十分だ。あとは自分次第だな。

 今回は夜天の書も闇の書も解析できるから目標達成ははやてちゃんが知ってるより早くなるかもしれないな。

 

 闇の書の修復に関して、今のところ目標ははやてちゃん達が小学校三年生になるまでだ。

 はやてちゃんの言うジュエルシード事件が始まる前までに夜天の書修復を終わらせてリハビリを始めておきたい。下手をすると地球が消滅する程のエネルギーが暴走するようなので、何かあればはやてちゃんも介入できるようにしておきたいということだ。守護騎士もいるため、人手に困ることは無いだろう。

 

「さて」

 

 目の前には闇の書の解析データが表示されている。はやてちゃんに解析の操作を任せたおかげで何の問題もなくデータを取ることができた。

 このデータに加えて、電子的な物として解析できなかった魔導の構造も錬金術の副産物である解析能力によって抽出し、ガハラさんにデータとして書き出しをしてもらっている。

 

 はやてちゃんも夜天の書のデータ書き出しが始まり、細かいところまで確認、修正すれば照合用の参考データとして使えるようになる。完全に初期状態の夜天の書ではないが、紫天プログラムと闇の書プログラムを除いた正常なデータを作れるだろう。

 なので、このプロジェクトの要はデータ改ざんのプロセスにあるといって良い。紫天のシステムに含まれる永遠結晶と記されていた魔動力発生永遠機関とも呼ぶべき魔導機関の分離と紫天プログラムの削除、闇の書システムの中核となる防衛プログラムや無限転生システム。それぞれのシステムに魔力を供給する魔導リンクの遮断に分離等など、闇の書の防衛システムが働かないようにシステムに割り込み的確に改竄していく必要がある。

 

「最終手段は再現した夜天の書と同じ構造に錬金しなおすことだけど、それだとプログラムは人格データ含めて失われるからな……」

 

 そうなると、ヴォルケンリッターを知るはやてちゃんは悲しむだろう。助けられなかったリインフォースも、生まれるはずのツヴァイも家族として求めているくらいだ。

 

『……』

 

 解析データを見たところ、現状で最上位の候補は無限転生の基幹となっているU-Dシステムの核である永遠結晶のみを錬金術により分離し時間の停止した空間に隔離。闇の書は僕の倉庫内で時間停止している間は挙動した様子がなかったので永遠結晶についても大丈夫だ。さすが神か何かの力だ。倉庫ひとつとってもチートすぎる性能を持っている。

 

 U-Dシステムは普通にやれば永遠結晶と切り離すことは出来ないが、僕のチート錬金では可能であると確信がある。

 永遠結晶のみに分離すれば制御できなくなったエネルギーが溢れ出すが、錬金術でラインを一時的にカットし、時間停止空間で発生源そのものを停止させる。永遠結晶の制御についてはこれで時間を取れるので機会を見ながらすすめていけばいい。

 

 無限再生はU-Dシステム側に備わっているが、そのシステムの動力源は永遠結晶であり、それがなければそもそも再生できるほどのエネルギーを集めることはできない。副システムとして接続先リンカーコアや大気中魔力から収集するようになっているようだが、そちらのラインに関しても遮断してしまえば機能停止に陥るだろう。

 暴走した電化製品のコンセントを抜くような行為だが、ある意味的確な対応ではないだろうか。動力源がなければ魔導システムはそもそも機能しないのだから。

 

 全てのデータを見たが、その他にサブシステムは無い様なので、無限再生と転生機能を封じた状態でプログラム改竄を行えるだろう。

 

 防衛プログラムはU-Dに含まれていないのでそちらの対応が必要だが、システム上の優先順位が再生、防衛、最終手段としての転生となっているのでU-Dへアクセスするプロセスを利用して闇の書のデータに干渉し、再生先のプログラムとして正常データを認識させ改竄を始め、まずは防衛システムへのアクセスが無いプログラムにする。その後、防衛プログラムを隔離して改竄もしくは削除し夜天システムを正常化。最後に紫天のシステムを削除することで闇の書としての機能をなくした夜天の書に改変が完了する。

 

「人格データを完全にコピーできればいいんだがな」

 

 流石に扱ったことのない守護騎士システムの人格データを完全にコピーするのは難しい。リンカーコアが要となっているので、はやてちゃんも出来ていないリンカーコアの完全複製を簡単に実現できるようにならなければだめだ。

 リンカーコアが違えば、そこに宿る人格も異なってくるだろう。データだけ上書きしてもそれは違う人格になる。それに複製も、結局元のリンカーコアと人格を滅ぼす必要が出てきて、はやての意思とは異なる。

 

 はやてちゃんも、リインフォースツヴァイの創造については先ほども、違う子になるかもしれないと漏らしていた。

 恐らく、僕が考えている件と同じような事を懸念しているのだろう。

 リンカーコアのコピーについては夜天の書を解析している間に何度も考えたことがあったが、今日具体的な方法などが話に出てきたので、これから少々研究してみるつもりではある。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、魔力負荷バンドの予備ってあったけ?」

 

 一日中高町家で過ごして帰ってきた結衣が夕食後にそんなことを聞いてきた。

 

「予備は一応用意してあるけど?」

 

「もらっていい?」

 

「好きにしていいが、どうするんだ?」

 

 魔力負荷バンドは俺が使用をやめたモノと予備を含めて六つほど作ってある。まだまだ上限まで負荷が届いてないようだが、結衣の成長次第ではバンドの数を二つに増やせるように設定してある。俺用のモノは結衣の物とは違い色々と特別製なので結衣が使えるのは四つだ。

 最初は自分も使っていたが、成長率を見たところ、無くても妹以上の成長が確認できたので今は着けていない。我ながらチートな改造能力を得たものだ。

 

 リミッターも能力によって自前で用意できるので、成長限界値を戻すつもりはないが、この様子なら急いで成長させなくても良さそうだった。

 

「えっと、えっと……」

 

「……あんまり変なことに使わないようにな」

 

「……うん」

 

 言いにくそうにしているところをみると、原作知識関係か。

 最近の妹の様子からすると、なのはちゃんにでもあげるんだろう。魔法という点で、本人の意思を確認しているはずは無いので少し心配だが、魔力負荷バンド自体が悪影響を及ぼすことは無い。

 成長に応じて少しずつ負荷が強くなるので、リンカーコアへの負荷も無理がない程度だ。ただ、結衣に作ったバンドは風呂等の時には着脱して、いずれ負荷が増えた時に気づかれる気がするが、その時はその時。結衣に任せておこうと思う。

 

 なのはちゃんが魔法を持つだろうことは殆ど決まっているようなので、成長するうちに成長させることは悪いことではない、はず。管理世界外なので管理局と関わらなければ、リンカーコアも使う機会はないだろうし、リンカーコアの大小が体に影響を与えることはない。

 

 行動に責任を持つということを学べられれば十分だ。

 

 

――Side out

 

 




原作(登場人物)改変開始。


※14/01/07 誤字修正


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#012 結衣となのは

 

Side Yui――

 

 

「いってきまーす!」

 

 子供らしく、元気に声を出して玄関を出る。僅かに積もっていた雪はとうになくなり、庭にある桜の花が幾つか開き始めていた。まだ小学校に入学するまで一年あるけど、私はお兄ちゃんと同じ聖祥に行くことになった。試験はまだだから絶対じゃないんだけど。

 

 今日は久しぶりになのはちゃんのお家にお泊りするため、いつもより多めの荷物を使い魔のフェリが持って同行している。

 

 最近、家のお兄ちゃんはデバイス作りに熱が入っているらしく、デバイスルームに入り浸っていることが多い。父親の職場の影響か、お兄ちゃんはモノづくりについての教育を幼い頃から受けてきていた。それに加えて、ミッドチルダでデバイスマイスターの資格も所得していた。

 

 魔力量は両親と同じくらいのA+位。転生者はみんな最初からAA以上って聞いているから転生者じゃないんだろうけどそれ以外はチート級だ。頭もいいし魔力運用も私なんかよりも上手い。おまけにお父さんにストライクアーツ(だっけ?)を習ってたから運動もできる。

 私が転生者じゃなかったら出来過ぎなお兄ちゃんにコンプレックスを抱えてたかもしれない。

 

 けど私は転生者で、お兄ちゃんより長く生きているけど年上っぽいお兄ちゃんがいてくれるから色々と助かっている。これで私のほうが年上っぽかったらおかしいもんね。

 

「フェリ、いつも付き合わせちゃってごめんね?」

 

「ううん、平気。結衣と一緒になのはちゃんと遊ぶのも好きだから」

 

「そっか。へへ、ありがと」

 

 フェリは口数は少ないけど大分成長したと思う。家にいるときは何時もイーブイの姿でいるからお兄ちゃんもよく構っている。フェリシアの姿の時は女性として扱ってるみたいだけど動物なら遠慮しないみたい。

 フェリもお兄ちゃんに撫でられるのはぽかぽかして気持いいって言ってた。

 

 そういえば、フェリが家に来てからもう二年経つんだ……

 

 先月五歳になったから今度はユニゾンデバイスが来るんだった。魔力負荷バンドのおかげで魔力も大分育ったし、魔力量的には及第点。あとはリンカーコアだけど、こっちは何も考えてない。

 ちょっと怖いけど自然にコピーが発生するらしいし大丈夫だと思う。流石にお兄ちゃんもリンカーコアをコピーして取り出す技術なんて持ってないよね。

 

 シャマル先生がいれば出来そうなんだけど、闇の書事件までには必要そうだったから五歳でお願いしたんだよね。

 

 そんで、ユニゾンデバイスはさくらちゃん。これもお父さんが大好きだったアニメの主人公。私も小さい時から見てたからさくらちゃんは大好き。コスプレもしたことがあったなぁ……

 

 ……お父さん元気かな?

 

 もう会えないんだけど、お父さんと遊ぶのは好きだった。いっぱい面白い事を教えてくれた。

 

 逆にお母さんは苦手だった。男の人のよくわからない本を描いてたから。一度読んだあとの記憶が曖昧なのは今でも謎なのだ。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 ……何故か背中に寒気が。

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

「な、の、は、ちゃーん! あーそーぼー」

 

 子供の時だけ通用する誘い文句。なのはちゃんには家に一人の時は気をつけるようにいったから、賢いなのはちゃんは直ぐにわかってくれた。それからはこうやって声をかけることにした。

 

「はーい!」

 

 何時ものようにバタバタと駆け寄る音が聞こえてくる。お兄ちゃんの魔力負荷バンドをあげてからなんだか身体もよく動くようになったみたいで、最近は転ぶことも殆どない。

 私も魔力負荷バンドに慣れてからは身体も軽くなってきたし、なのはちゃんもそうなのだろうと思う。

 

 鍵を開ける音が聞こえてなのはちゃんが顔を出す。右手にはお兄ちゃん謹製の魔力負荷バンドを着けている。お兄ちゃんの研究室にあった私のものとはデザイン違いの私の魔力光と同じ藍色の予備バンド。

 

 桃子さんも美由希さんも今日は翠屋で働いていたから、今日もなのはちゃんだけ。士郎さんは無事に意識を取り戻して病院でリハビリ中。退院はもう少し先になるみたいだけど、怪我の回復も早くてもう元気いっぱいみたい。

 

 恭也さんは何をしているのかわからない。なのはちゃんは少し怯えてたけど。

 

「結衣ちゃん、フェリシアさんいらっしゃい」

 

「おじゃましまーす」

 

「おじゃまします」

 

 士郎さんが回復してからなのはちゃんも元気になってきた。私のおかげって自惚れるわけじゃないけどなのはちゃんも家族に甘えることが出来る子になっている。良い子なのは変わらないけど子供らしくて可愛い。

 

 ここから魔王様になるのが想像できないけど。将来的にはフェイトちゃんと同居するみたいだし結婚するようだ。

 なのははフェイトの嫁、だもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。あなた」

 

「……ただいま。なのは」

 

「おゆうはんできてますよ。こどもたちもおなかをすかせています」

 

「……すまないが、これから鍛錬があるんだ。先に食べていてくれないか」

 

「そうですか……えっと、すこしはやすんだほうがいいとおもうの……」

 

「……そうだな。だが、来週からまた仕事があるんだ。体を鈍らせるわけにはいかない」

 

「あなた……」

 

「パパ……」

 

 なのはちゃんが私の嫁になってた。

 

 なのはちゃんが悲しそうな目で私を見る。隣にはフェリがいるが、こちらは普段とあまり変わらない表情で細い声を出す。

 

 何時ものように遊んだあと、なのはちゃんの部屋に上がってぬいぐるみで遊んでいると、何故かおままごとをすることになった。

 しかも妙に設定がなのはちゃんの家庭に倣っている。

 

 ちなみに私の役は父親で、警備の仕事についている設定。なのはちゃんは翠屋の二代目店長さん。フェリは二人の子供だ。

 

「ふぅ……」

 

「おつかれさまです。おふろにします? ごはんにします? それとも……」

 

 だれですか。なのはちゃんにそれを教えたのは。桃子さんが実際にやってるんですか?

 

 色々と削られるおままごとをやっていると、玄関から美由希さんの帰宅を告げる声が聞こえてきた。

 

「ただいま~。なのは~?」

 

「あ、おねえちゃん」

 

 美由希さんは来年から中学生だったかな? 私も前は中学生だったから一方的だけど歳が近い友達みたいに思っている。

 やっぱり、友達は遊びに誘うものだよね?

 

「お、なにやってるの?」

 

 ノックをしてなのはちゃんの部屋に入ってきた美由希さんに向かって、私はこう言い放つ。

 

「お帰り、なのは母さんが食事を用意しているから席に着きなさい」

 

「おかえりなさい。おね、じゃなくってみゆき」

 

「え? え?」

 

「きょうのゆうしょくは、みれーげ、あら、ぱん? こ……ぶろっこりなの」

 

「ええ!? なにそれ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おままごとに美由希さんを巻き込んだあとは、フェリは家に帰して三人で時間を潰した。流石に外見大人でも中身が幼いフェリはまだ他所の家に泊まれる程じゃない。私が泊まりの時はお兄ちゃんがフェリのご飯も用意してくれている。

 

 桃子さんは士郎さんが入院している病院に寄ってから帰ってくるので、夕食は少し遅くなる。美由希さんに聞いたところ、恭也さんは遅くまで剣術の鍛錬をしていてしばらく帰ってこないらしい。

 

 というわけで、三人でお風呂に入ることになった。

 流石になのはちゃんを一人でお風呂に入れるわけにはいかないので、美由希さんに入れてもらおうと思ったら私も一緒に入ることになった。

 

 ……うん。これからに期待。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 夕食までは時間があるので、イーブイに果物で作ったブロック状のお菓子をあげる。最初は地球産の果物を集めていたのだが、結衣の相談とちょっとした出来心で作ってみたらイーブイがはまってしまった。

 今では専用のデバイスも用意してあったりする。

 

 ふわふわの毛並みを撫でながら、ブラシを通していく。今ならコンテストで優勝できそうなほど可愛い。これは家族の贔屓目が入っているかもしれないが。

 

 イーブイといえば、僕は何匹卵から孵しただろうと考える。こうして触れ合っていると過去の行いを悔い改めたくなってくるほどこのフェリは可愛い。さすが妖精の名を冠すだけのことはある。

 

 ふと、気になってフェリのステータスを見てみることにした。個体値や種族値は決まっているが、努力値は僕の能力で限界値を変えることが出来ないだろうか。

 

「ぶッ――」

 

「ぶい?」

 

「あ、あぁいや。なんでもない」

 

 思わず吹き出してしまったが、フェリの個体値六つの欄には二種類の数字が六つずつしかなかった。“3”と“1”が綺麗に縦に六つそれぞれ並んでいる。

 ゲームですら出したことのない完全な“6V”をこんなところでお目にかかる羽目になってしまった。結衣はこのあたりもお願いしていたのだろうか。転生するくらいだしもしかしたらリアルラックかもしれないな。

 

 努力値については“すばやさ”と“とくこう”の値がカンストしていて、少し“こうげき”に努力値が入っている。

 いつも結衣と模擬戦とかしているからだとしたら、結衣がポケモンなら得られる努力値は“すばやさ+1”“とくこう+1”とかなのだろうか。となると“こうげき”は俺? それとも父さんだろうか。

 

 取り敢えず、各ステータスの限界値はそのままとして、努力値総計の上限を弄れるか確認してみる、が、やはり出来ないようだ。

 

 他人の値を弄ることが出来るかの検証をしておいたほうがいいな。候補としては親密度、相手の状態、接触方法、序列、能力を知っていること、自分の血統、などだろうか。

 この能力は知られると拙いので、五番目は却下、親はできなかったし、子供はまだまだ先だ。生んでくれる相手もいないし。

 

 まずは近所の猫から実験してみよう。親密度については少し自信がある。伊達に撫で回しているわけではない。というか、これならポケモンの世界でもやっていけそうだったな。

 あとは眠らせたりか。流石に気絶させるのは良心が咎める。

 

 まぁ、検証ついては気長にやっていくことにしよう。

 

『マスター、夜天の書の仮組みデータが出来たわ』

 

 ソファでフェリと戯れているとガハラさんから念話が届いた。

 彼女に任せていた夜天の書データの書き出しが終わったらしい。ガハラさんには、地球では鍛錬以外でデバイスを使うことがないから最近はもっぱら研究の手伝いをしてもらっている。

 

 デバイスコアは市販の物を買ったが、同じ部品どころか元のコアの原子一つガハラさんには使用されていない。

 購入したデバイスコアは研究のためだけに買われ、解析され、分解され、同型のパーツを作り出し、改良し、テストして改良し、ガハラさんへと生まれ変わった。ここまで来たら生まれ変わったとは言わないか。

 

 以前言っていた超合金が内部にふんだんに使われている。市販品を模したコア外郭の一枚下には錬金術でしか作れない継ぎ目も何もない綺麗なコアが隠されている。

 

『お、ガハラさん。早かったね』

 

『当然よ、ただしリンカーコアがないからデータだけね。マスターが作った試作デバイスにのせて夜天の書との違いを確認してね』

 

『了解。ところで』

 

『なにかしら』

 

『ありがとね』

 

『……別にたいしたことじゃないわ』

 

『……ヶ原蕩れ』

 

 ちょっとほんわかした。

 

 

――Side out

 




ガハラさんはあくまで斎藤さんの声を乗せた裕一郎が作ったインテリジェントデバイスなので、戦場ヶ原さんほど辛辣な口はしていません。そちらに期待された方はご容赦ください。

逆に結衣のユニゾンデバイスは出来るだけ元の人物に近く……書きたいなぁ


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#013 デバイスたち

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 さて、インテリジェントデバイスの“Noble soul”ことガハラさん、拘わっただけあって高性能だ。

 

 はやてちゃんからユニゾンデバイスの人格データの基礎を教えてもらったのだが、AIはインテリジェントデバイスよりはそちらに近く、ガハラさんにも感情と呼べるものが生まれていた。

 

 僕自身は、AIということで人格データの指標を作ってあとは成長させるモノだと思って作っていたのだが、実際はそこまで極端に成長せず、基礎人格データが重要になるらしい。長く使い続けることでインテリジェントデバイスも成長するらしいが、リンカーコアのあるユニゾンデバイスとリンカーコアのないインテリジェントデバイスでは根本的に違うようだ。人格がデバイスコアに宿るかリンカーコアに宿るかの違いだ。

 ついでに、製造コストも格段に違う。

 

 ユニゾンデバイスは主との融合によって同調が必要となるため、人格を人間に近づける必要がある。

 

 僕の作った――生み出したガハラさんは、ユニゾンデバイスような人格データをデバイスコアに宿していた。人間に近い人格のインテリジェントデバイスだった。

 

 将来的には僕のタイプのデバイスも増えるかもしれないが、実際は道具にそこまでの人格は不要と切り捨てる人もいるだろう。

 

 まぁ、なぜ今こんな話をしているかというと、転生者な妹に人間と同等の人格を宿したユニゾンデバイスがやってきたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はじめまして、お兄さん! ユニゾンデバイスのさ、さくらです! 結衣ちゃんにリンカーコもがもが……」

 

「(シーだよ。さくらちゃん。内緒だって言ったでしょ)」

 

「(ほえ? ……あ、ご、ごめんなひゃいー……)」

 

「(まだ生まれたばかりだから仕方ないけど、気をつけてね。リンカーコアのコピーから生まれたって言われても普通はありえないんだからね)」

 

 30センチ程のユニゾンデバイスと名乗った少女の口を封じて小声で話し合っている結衣たち。しっかりとこちらまで聞こえているのだが、難聴系主人公のごとく取り敢えず聞こえないふりをしておく。

 

 おそらくこれも結衣の特典なのだろう。今の結衣がユニゾンデバイスを作れるわけないしね。

 

 ショートボブ、というのだろうか? 女性の髪型については詳しくないが顎にかかる程度の髪と二箇所で結ばれた髪飾り、二本の触覚(アホ毛?)がある。着ているものは何処かの制服だろうか。

 

 おそらく元ネタがあるのかもしれないが、残念ながら僕は知らなかった。ただ、何処かで見たことはある様な気はするのだ。

 朝の少女向け魔法少女もののキャラクターとかかな? 少女向けのアニメは見たことがないのでまったく自信がない。それに八年以上前にチラッと見たことがあっても、記憶に残っていないだろうし、名前に特徴があるなら切っ掛けになるが、普通の女の子にしか見えないので見た目だけだと判らない。

 

「お兄ちゃん、さくらのロードになったんだけど……」

 

「うーん、ユニゾンデバイスは初めて見るからなぁ……」

 

 はやてちゃんの言うリインフォースツヴァイという子が初めてになると思っていたが、こんなに身近にポップしたか。

 結衣がどんな理由付けをしてくるか楽しみなので、少しだけつつく。

 

「二人はどうやって出会ったの?」

 

「あうッ。えーっと……フェリ! そう、フェリが気を失ってたさくらちゃんを見つけてきたの!」

 

「ブイッ!?」

 

「そうなんだ? フェリ?」

 

「ブ、ブイー」

 

「お、お兄ちゃん! そんなことよりお兄ちゃんにお願いがあるの!」

 

「ん? なんだ?」

 

 露骨な話題逸らしだが、こんなことで嫌われたくないので結衣の話題にのる。結衣のお願いは魔力負荷バンドの件以来だ。

 

「さくらちゃんにデバイスを作ってあげて欲しいんだ」

 

「デバイス?」

 

「えーと、さくらちゃんは蓄積型デバイスの管制人格もできるらしいから、普段一緒にいられるように持ち運びできる蓄積型のデバイスを作って欲しいの」

 

「蓄積型か……。どういうデータを集めるかによるけど……」

 

「魔法データがいいな。私が使えない魔法もさくらちゃんが使えるようになるかもしれないし」

 

「……ま、いいか」

 

 蓄積するだけなら僕が作ろうとしているデバイスほど高度な演算能力はいらないか。知っている魔法を入力していくだけの物なら直ぐにでもできるだろう。

 夜天の書のような蒐集方法をとるものは与えられないが。

 

「いいぞ。どんな形がいい?」

 

「カードタイプ?」

 

「今結衣が持っているようなものでいいのか?」

 

「あ、えっと、たくさんのカードで出来たものがいいかな。トランプとかタロットカードみたいな……だよね?」

 

「は、はい」

 

「タロットカードか……」

 

 まず、五歳児がタロットカードを知っている時点で普通なら色々とおかしいが、本人が気づいていないようなのでスルーしておく。この五年間でわかったが、結衣は少しアホの子のようだ。自分も人のことを言えないかもしれないが。

 

 バラけるのはまずいから何かケースに入れるべきだろう。デバイスとしての機能を持たせる訳だからそれなりの大きさのモノは必要になる。タロットのようなカードを本体にするには厚さが足りないからケースの方が本体になりそうだ。カードの方は夜天の書のページの役割が精一杯だろう。

 

「考えてみるよ。他に希望はある?」

 

「あ、あの……できたら、杖も欲しいです……」

 

「あ、そっか。杖もいるよね。お兄ちゃん……」

 

「まぁいいぞ」

 

 デバイスコアは創ればタダだし。夜天の書の試作タイプの物を改造すればいいだろう。僕が目標にしているデバイスの前段階の使用データとして稼動データを取れば、多少の手間を支払う意味はある。

 夜天の書の修復作業も今のところ急ぐ必要があるものは無いし、新学期前のこの休みで仕上げてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『明日から学校なのでしょ?』

 

『そうだね』

 

『こんなことをしていていいのかしら』

 

『良いんじゃないかな』

 

『まったく、マスターは妹に甘いのね。このロリコン』

 

『そこはシスコンじゃないかな』

 

『結衣、はやて、さくら、なのは、ついでにフェリ。どう考えてもロリだわ』

 

 考えてみれば僕の周りにはロリしかいない。ただ、はやてちゃんは一応24歳児だ。

 それに今の年齢では仕方ないだろう。

 

 四月一日に妹のユニゾンデバイスがやってきてから、頼まれたデバイス作りを続けていた。

 ベースは夜天の書の構築データで、リンカーコア収集機能等は排除した。無限書庫で見つかった資料と夜天の書のプログラムから考えると、最初期の夜天の書は主と共に旅して魔法スキルを蒐集するだけの魔導書であり、防衛プログラムや守護騎士システムなども搭載されていなかったのだろう。

 それぞれのシステムで微妙に癖のような構文の違いがちらほらと見られた。

 

 タロットカードに倣い、七十八枚の蓄積ページとしてのカードと、タロットを収める程度の大きさの本を模したケースをセットとしてデバイスを組み上げた。カードはカードゲームのデッキのように自由に組み替えられるものとして、取り敢えず三セット用意した。予備のカードは、普段はデバイスの格納空間にでも収納しておけばいいだろう。

 

 ついでに、僕的にはタロットといえば真っ先にペルソナが思い浮かんだために、少し特殊な機能を作りこんだ。通常仕様の三セットとは異なり、特定の条件でカードが召喚出来て、使用可能になる。まぁ、解り易いだろうが。

 さすがに友情を育んで育てるなんてことは再現出来ないので、二十二枚のカードには予め魔法がインストールしてある。補助的な魔法がほとんどなので、結衣の助けになるだろう。

 

 結衣はいつも持ち歩けるようにと言っていたので、あまり大きいと邪魔になるだろう。ケース自体は長財布程度の大きさに抑えた。

 

 基本は、鍵となるさくらちゃんの杖からカードに魔法をインストールしてデバイスに蓄積。そこから先は管制人格となるさくらちゃんが魔法プログラムを制御することになる。

 それから、夜天の書にならってデバイスの召還機能をつけておいた。デバイスのマスターである結衣と管制人格であるさくらちゃんの両サイドから召喚が可能になっている。

 

 魔法は拙いもの以外は色々とインストールしておいた。中にははやてちゃんが記憶していた膨大な種類の魔法も少し入っていたりする。

 はやてちゃんはどうやら逆行前に蒐集していた魔法が全て頭の中に入っていたらしく、ガハラさんを介して殆ど書き出してもらったりしていた。古代ベルカ魔法の大切な資料になっている。

 

 現在は、そのデバイスも出来上がり、最終調整の段階だった。管制人格無しでも使用できるデバイスだが、昼間に一度さくらちゃんに実際に融合してもらい動作確認を行った。

 通常、プログラムである以上互いの調整もなしに融合なんて出来るはずはないのだが、さくらちゃんは綺麗に融合していた。現在は管制人格が元からあったかのようなデバイスに全体的に変化していた。

 

 とはいえ、僕が作ったシステム自体はこちらで調整する必要がある様で、一度全てのデータを取り直して全体を眺めながら調整している。僥倖だったのは管制人格兼ユニゾンデバイスの基礎データが取れたことだろうか。

 夜天の書の管制構造に通じる部分もあり、夜天の書修復の貴重な参考データになる。それに、ユニゾンデバイスをその内制作するときにもデータを流用できそうだった。

 

 一応これからの調整、検査用にユニゾンデバイス用の機材も揃えておいたほうが良いだろうか。

 

『小児性愛は犯罪よ』

 

『データに欲情はしないよ』

 

 人型ならともかく、ここにあるのはただのユニゾンデバイスの基礎データだ。それにたとえ人型でも僕は別にロリコンじゃない。どちらかといえば桃子さんのような女性が好きだな。

 精神の蓄積年齢的にもそろそろ三十なので、桃子さんと結婚した士郎さんが少し羨ましい。

 

『そんな……私とは遊びだったのね』

 

『愛してる』

 

『私は、別に愛してはいないわ』

 

 アァ、ヒドイ。

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

 お兄ちゃんが一週間でやってくれました。

 

「すごいね。結衣ちゃんのお兄さん」

 

「うん。それ、気に入った?」

 

「えへへ、うん!」

 

 しかも、出来上がったデバイスはカードキャプターさくらのクロウカードのあれによく似ていた。中身はタロットを模した魔法カードで、一枚一枚を個別に使用することもできるようになっていた。

 

 装飾は、さくらちゃんがピンクが好きだということでピンク色に飾られ、魔法カードには桜の花びらを模した柄がついている。カードとデバイスに記された魔法陣は、ミッドチルダの丸い魔法陣にベルカの剣十字の紋章が加わり、地球産の六芒星等も混ざっている。

 ミッドの魔法陣と地球のものは殆ど似ているので地球とベルカの混合のようにも見える。

 

 私の目の前では小学生の姿をしたさくらちゃんが大切そうに二つのデバイスを抱いている。

 蓄積型のデバイスには最初からお兄ちゃんが使える幾つかの魔法もカードにインストールされているようで、私が見たことのない魔法なども含まれていた。

 

 古代ベルカ式の魔法もあり、原作でも見たことがある氷結の息吹やデアボリック・エミッションなどの広域攻撃魔法もインストールされていた。

 一体どこから持ってきたのだろうか。

 

 さらに、どう見てもミッド魔法でもベルカ魔法でもない魔法も幾つかあった。それらは魔法陣を見るだけで違うのがわかる。発動プロセスに至っては二つの大系と完全に違う。

 

 大体は平面のものだが中には立体系の魔法陣等ある。魔法陣に描かれた文字は地球の文字みたいだけど、お兄ちゃんのオリジナルの魔法なんだろうか。それとも地球に魔法文化でもあったの?

 漢字を使ってある魔法陣もいくつかあった。

 

 ただ、それらの魔法には全てミッドチルダ式の魔法陣も用意されていたので、特殊な魔法陣自体は趣味のようなものなのかもしれない。

 

 私が魔法陣を書いたらそれを使って魔法を作ってくれるかな?

 

「あとはバリアジャケットだね」

 

「うん……、でもどうしたらいいんだろう」

 

 さくらちゃんといえば知世ちゃんが作った衣装なんだよね。いろんな衣装着てるけど、でも一番覚えてるのはアニメのオープニングの衣装。

 どれも可愛いけど、個人的には二期のOP衣装が好き。

 

 だけど、一巻の表紙と一期のOP衣装が私的にはさくらちゃんの衣装って感じなんだよね。

 

 他にも一枚絵に描かれていたフリフリのたくさん付いた衣装も印象に残っている。

 

「う~ん、悩む」

 

 劇場版の衣装も可愛いし……うん。

 

 今覚えてる限りの衣装を登録しておこう。はっきり言って細かく覚えてはいないけど、お兄ちゃんのインテリジェントデバイスでイメージを衣装にしてもらえばいいのだ。そうしよう。

 私はまだストレージしか持ってないからそこまでできないんだよね。

 

 いや、さくらちゃんにイメージを伝えてあげればいいのか。守護騎士たちができたんだからユニゾンデバイスのさくらちゃんでもそのくらいはできるはずだ。

 

「よし、さくらちゃんのファッションショーだ!」

 

「ほえ? ……ほええぇぇぇ~っ」

 

 

――Side out

 




ほえ、とか、はにゃぁん、とかしか覚えてないかも。
絶対、大丈夫じゃないよ……

二十二枚のタロットは裕一郎のあそびのようなものなので、特殊すぎる魔法は入っていません。変身魔法やらゲーム産の魔法とかです。


裕一郎はロリコンではない。ということはカードキャプターを知らないということ。証明終了。


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#014 一段落

 

 

Side Yui――

 

 

「うん、よく似合ってるぞ。かわいいね」

 

「はうぅ。そ、そんなことないですよぉ」

 

 ユニゾンデバイスのさくらちゃんがちょろいんだった。

 

 確かにうちのお兄ちゃんはかっこいい。今は子供だけど将来的には両親に似た整った顔立ちに成長するのはわかる。あ、これじゃあ私のことも自画自賛してるみたいだ。

 

「……」

 

 お兄ちゃんの前には、私のイメージからガハラさんが作り上げ、デバイスにデータが送られてきたバリアジャケットを着ているさくらちゃんがいる。私のイメージしたバリアジャケットは細かいところが曖昧でさくらちゃんでは完成させることができなかったから、結局ガハラさんにデータを作ってもらったのだ。

 今さくらちゃんが着ているのは学芸会の時の王子様の衣装。細かいところはガハラさんがアレンジしてるから違うと思うけど、かぼちゃパンツは健在だ。

 

 さくらちゃんのお披露目した衣装をお兄ちゃんが褒める。私がガハラさんに渡したイメージは二十個ほどで、既に十個はお披露目をしている。

 

 桜ちゃんに向けられるお兄ちゃんの顔は、いつも私に向けられていた妹をみる優しい顔だ。私はこの顔が好きだった。

 お兄ちゃんは見た目だけじゃなく、やさしいし気がきくし頭がいい。

 

 だけど、今はすこし面白くない。

 

 ソファに座っているお兄ちゃんの隣に腰掛ける。

 

「ぇ、わぁ……」

 

 すると、お兄ちゃんは私を抱き上げて膝の上に載せた。

 

 こ、この展開は予想していなかった。

 

 膝の上に乗せられて抱きしめられたら、さっきまでの気分はどこかに行ってしまった。お兄ちゃんから伝わる体温が暖かい。

 

 あぁ、さくらちゃんに嫉妬しちゃったのか……

 

 さくらちゃんはデバイスだけど女の子だ。まだ好きな異性に向ける感情では無いみたいだけど、時間の問題かもしれない。

 私のユニゾンデバイスだけど、ヴォルケンリッターのように主を守護する使命があるわけでもない。さくらちゃんは私の新しい家族。

 

 みんなで幸せになりたいな。

 

 お兄ちゃんの暖かい腕の中で、私は微睡んでいく。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

「ん……くぅ……」

 

「寝ちゃいましたね」

 

「ああ」

 

 腕の中で結衣が眠っている。まだ五歳だから仕方ないが、さくらちゃんが来て以来子供らしさが増したような気がする。

 

 さくらちゃんのバリアジャケットお披露目を見学していると、構ってもらえなかった結衣が少し不機嫌になったので膝に乗せてご機嫌を取った。こうして触れているとこどもの体温は高いというのがよくわかる。

 

 結衣がガハラさんに作らせたさくらちゃんの衣装はどれもメルヘンで可愛らしいものだった。何故かかぼちゃパンツというのか、そういう服が多かったがさくらちゃんにはよく似合っていた。

 

 ただ、これだけバリアジャケットを用意してどうするんだと思いはしたが。

 

 結衣のお餅のようなほっぺたをつつく。来年から結衣も小学生だがこのくらい子供らしければ直ぐに友達もできるだろう。

 

「悪いけど、結衣をベッドに寝かせてやってくれ。部屋に入ると怒られるからね」

 

「はい。おやすみなさい、お兄さん」

 

「ああ、おやすみ。さくらちゃん。結衣もおやすみ」

 

 結衣の部屋の近くでさくらちゃんに結衣を手渡す。さくらちゃんは結構力が強いようで、結衣を横抱きにして部屋へと入っていった。

 

 それを見届けて、僕も就寝にむけて行動をはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新学期最初の休日。僕は再びはやてちゃんの家にやって来ていた。

 

 八神家に設置することになったデバイスルームは遂に完成し、問題がなければこのまま夜天の修復作業完了まで新たに機材を用意する必要もないだろう。

 

 夜天の書修復作業は現在保留中だ。

 

 先の冬休みを利用していくつかの次元世界へ渡り、リンカーコアを持つ魔法生物を探してきた。さすがに子供の姿だと拙いので、強化魔法を応用した魔法で変身していたが。

 魔法生物は基本的に野生の種がほとんどだが、好んでリンカーコアを持つ蛇を食べるという地方があり、そこで魔法生物が食用とされていた。冬休み最後にはそこに向かってみたのだが、なんとその蛇はバジリスクだった。

 

 

 

 

 無駄に上げていた霊力がなければ即死だった。

 

 

 

 

 その部族の人間を確認したのだが、異常に呪詛耐性が高かったのだ。さすがにいきなりバジリスクを見せられるとは思わなかったので、何の対策もせずに石化の呪詛を受けてしまったが、この時ほど俺の特典に感謝したことは無いだろう。

 

 誰も食用の蛇と聞いてバジリスクを想像する人間はいないだろう。小さい時から無駄に色々と改造しておいて良かった。それに、地球での狐との出会いで俺の霊力強化の意欲が湧いていて本当に良かった。

 

 これからは更に力を伸ばす必要があると感じ、これまで抑えていた限界値設定まで軒並み限界値を引き上げていった。リミッターさえしておけば抑えることもできるし問題ないだろう。そろそろ人間としての限界値を軽く超えている気がしてきたが、気にしても仕方がないのでそのうち僕は、考えるのをやめた。

 

 真面目な話、この世界のバジリスクにはリンカーコアが存在し、試しに一体からリンカーコアを抜いてみたが、実験用としては十分な魔素変換能力を持っていた。ただし、巨体となるまで育ったバジリスクのリンカーコアでは扱いが難しく、試験用のリンカーコアとしては過分にすぎる。そのため、適当な時期にリンカーコアを採取する必要があった。

 具体的に言うとまだまだバジリスクとしては幼生という程度の大きさで、だ。それでも日本のどこにでもいるような蛇などよりは大きい。

 

 彼らの間ではバジリスクの飼育方法が確立されているようなので、リンカーコア採取の為に何体か育ててみることにした。さすがにこの危険な生き物を生きたまま地球に持ち込むわけにはいかないので、現地で森の地下に錬金術で穴を掘って地下室を造り、そこを飼育小屋とした。転移座標も記録したので何時でもやってくることができる。

 無許可の次元転移は管理局法では違法だが、バレなければ大丈夫だ。それに、ここは管理外世界なのでそれほど気にする必要も無いだろう。まぁ、管理が異世界だから魔法の機密保護とかで取り締まりが必要という意見もあるが、それはいい。

 

 バジリスクの世話をしているうちに、呪詛耐性はぐんぐん伸びていく。石化の魔眼と目が合うたびに石化の呪詛が降りかかるので当然だが、育成ゲームでもしている気分になる。ステータスが見えるのだからなおのことだ。

 

 このバジリスクの魔眼からヒントを得て、錬金術の発動方法を変更し、それを使用した戦闘も考えた。何時でも札を切れるように特訓する内容が増えたが、強くなる実感もあるので充実している。

 

 バジリスクの肉も普通に美味しかった。現地の人間はぶつ切りにして焼いたり刻んで炒めたりしていたが、個人的には蒲焼を押したい。魔力がふんだんに宿っているおかげか肉はあまり硬くならず、食用として飼育しているだけあって生臭さがない。どうにかして品種改良でもしているみたいだ。

 

 それに、現地の人のステータスに現れていた通り呪詛に対する耐性が上昇していった。主に石化に対するものだが、中々面白い現象だ。食事で特殊効果がつくなどゲームの中だけだと思っていたが、考えてみれば毒などにも耐性は生まれるので間違ってはいないのだろう。

 

 一度家の食事に出してみたのだが、結衣は美味しそうに食べていた。気づかれたら何を言われるか解らないので言わないが、お祖母さんは何かに気づいた様子だった。

 

 すまんな、結衣。好奇心を抑えられないダメなお兄ちゃんを許してくれ。

 

 はやてちゃんにも食べさせてあげた。こちらは食べる段階で種を明かしたが、以外と耐性があるようでどんな調理が合うかと頭を回転させていた。

 

 とにかく、機材とデータに加えて試験用のリンカーコアも用意の目処が立った。これで夜天の書を修繕する為に必要なものは揃ったも同然だ。あとはバジリスクの数を揃えてリンカーコアを用意するだけで試験段階に入ることができる。一度の試験に七つ、試験は万全を期すために試験シートを作って全ての項目を確認していくのだが、大体十セット程あれば十分だろう。

 

 まだ譲り受けたバジリスク数体分だが、適度に育っているバジリスクからリンカーコアを抜いて殺し、リンカーコアは培養デバイスに一つずつ繋いで蔵に保存していく。動物園のように改造した地下室の環境温度も、自由に弄れる様にしているので産み出す作業も捗った。順次リンカーコアも揃っていくだろう。

 

 バジリスクの肉は下処理をして生のまま、こちらも時間停止の蔵に保存する。時間が止まるので保存については気にする必要がないため、どんどん食材が溜まっていく。この冬の次元世界旅行で色々と増えたりしたのだ。

 

 本当に便利すぎる蔵だ。

 

 ちなみに、マムシ酒ならぬバジリスク酒も僕の蔵には仕舞ってあったりする。下準備を終わらせてから酒を入れると、もがき苦しみ、死ぬ瞬間に毒と一緒に呪詛を撒き散らしていたが今の僕には通じない。

 こちらは時間経過が普通の蔵に入れているので数年後には飲みごろを迎えるだろう。

 

 さすがに年を経たバジリスクの毒は強すぎるし大きすぎるので幼いものに限られるのだが、飲み続けていればいつかは成熟したバジリスクのバジリスク酒もいけるのではないかと期待している。漬けるのが巨大な樽になってしまったり、リンカーコアを抜くわけにはいかないのが残念だが、多少の損失は仕方ない。

 こちらも一応蔵に貯蔵してあるので頃合を見て確認してみいたいと思う。

 

 

 

 

 酒の話になったのでついでの話。さすがに自分の誕生年の自家酒は作れなかったが、結衣の生まれた年の酒は作っている。試行錯誤が蔵のおかげで時間を考えずにすぐにできるので簡単な仕事だった。

 こちらは彼女が結婚したときにでも贈ってあげようと思う。それとバジリスク酒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ちええわ……」

 

 はやてちゃんの麻痺した脚の秘孔に気を送る事で血行を良くし、マッサージしながら筋肉をほぐす。前世では気を感じられなかったので眉唾だった気功治療の一種だが、動物等で技術を磨いたため人間相手でもそこそこ様になっているはずだ。はやてちゃんの体内の経絡を流れる気を循環させて体中のきの流れを整える。

 これだけでもリンカーコア由来の痛みを和らげることが出来ているようだった。

 

「裕一郎さん、今日は泊まってくやろ?」

 

「う~ん……」

 

「家には言ってきたんやろ?」

 

「まあね。……だが」

 

「私ならええよ。何やったらそういう関係になるか?」

 

「アホ」

 

「そっか、残念やな」

 

 はやてちゃんと出会ってから一年が経つ頃から、こういうセリフがはやてちゃんから出るようになってきた。彼女にとっての僕は結婚相手で将来の旦那さんなのだろう。

 こういう押しの強い女性は嫌いではないが、今の年齢を考えろと言いたい。

 

 

 

 

 今もこうして一緒に風呂に入っている僕が何を言っても無駄だが。

 

 

 

 

 たまにこうして一緒に風呂に入りながらマッサージをする習慣がすっかりできてしまった。お互い体が子供なので気にしていない様子だが、互いに心が大人だと思うとどうにも違和感は拭えない。

 

 だが、はやてちゃんは一人だと風呂に入るのも一苦労なのだ。最初は足が動かなくて湯船に入れないと言われて騙されて入ったが、今でははやてちゃんの補助をしながら一緒に入ることになっていた。

 

 一年という時間は彼女にとってある種の基準のようなものだったのだろう。過去の僕との関係を今はどう捉えているのか僕にはわからないが、一年を過ぎてから積極的にアピールをしてくるようになった。

 過去に折り合いをつけたのか、それとも最初にあった時に言っていたすずかとかいう相手を意識しているのかもしれない。

 

 僕からすれば平行世界の自分が信頼しているという点で、ある程度の信用はおいているが、そこから先は特に意識していない。無駄に三十年近く生きているわけじゃない。これから先何があるかわからないので、彼女の意思も変化することもあるだろう。漫画やアニメのような一途なヒロインは普通そうそういない。

 

 ……いや、ここはアニメの世界だったか。

 

 とにかく、彼女と結婚するという未来を否定はしないが、肯定するわけでもない。僕も男なので女の子にモテるのは嬉しいのだが。

 

「ふぅ~」

 

「ふふ、なんや、おっさんやな」

 

「……そろそろおっさんかね」

 

 肩を並べて湯船に浸かるはやてちゃんが僕にダメ出しをする。確かに今の僕は精神的におっさんだったかもしれない。肩を竦めて体をさらに少し湯に沈める。

 

 とはいえ、こうしたはやてちゃんといるのんびりとした時間は気が休まるのも事実だ。僕の秘密を知られているというのが大きい。

 僕の秘密を知らなくてもこのような関係になったのかはわからないが、それはもうこのような形で出会った以上知ることができない。

 

 並行世界の自分と、まだ見ぬ未来に想いを馳せて、また一つ息をついた。

 

 

――Side out



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#015 広がる世界

 

Side Yui――

 

 

 私立聖祥大学付属小学校。

 

 今日から私が通う小学校だ。

 

 既にお兄ちゃんが通っていて、今日から四年生。原作ではなのはちゃんやアリサちゃん、すずかちゃんも通っているエスカレーター式の私立学校だ。

 お受験は緊張したが、子供としてある程度一般常識を身につけていれば大丈夫だった。学力も元中学生なので、今のところは同学年には負けない自信はある。今のところは。

 面接とか初めてだったけど、ちゃんと入学できたので大丈夫だったんだと思う。これで、取り敢えず地球にいるあいだはもう受験しなくてよさそうなので一安心。大学どころか高校まで通うかすら分からないんだけど。

 

 お金も気にしなくていいって言われたけど調べてみたら恐ろしい思いをした。さすがお嬢様達が通う学校だけある。一瞬、地元の公立学校に行きたくなったくらいだった。

 

 とにかく今日からぴっかぴっかの小学一年生という、新しい生活が始まった。

 

 体育館を見回してみると、なのはちゃんの姿も確認できた。

 すずかちゃんとアリサちゃんを探してみたけど、アリサちゃんは金髪だったので分かりやすかった。他にも一人ほど見慣れた頭の子供がいたけど、セットで居そうな銀髪の子は入学生の中にはいなかった。てっきり聖祥に入学してくるものだと思っていたけど思い違いだったみたい。

 

 入学式は何事もなく終了した。サーチャーの気配があったけど、誰のものなのかは分からなかった。もしかしたらここに居ない銀髪の男子のものかもしれない。

 

 それから、お父さんはミッドチルダ産のビデオで撮影しているのに、デバイスでも入学式の様子を撮っていたみたいだった。

 

 クラス分けも決まっているようで、受付の際にクラス名簿を渡された。自分のクラスの物だけだけど、残念ながらなのはちゃんとは違うクラスになったみたい。

 所謂原作登場人物の名前は無かったので、アリサちゃん達とも違うクラスだ。みんなとお知り合いになるのは暫く先になりそうだった。

 

「宮崎結衣ちゃん」

 

「あ、はいッ!」

 

「うん、元気ですね。自己紹介できるかな?」

 

「はい。……宮崎結衣です。好きな食べ物はシュークリーム、嫌いな食べ物はパイナップルです。好きな動物は……えっと、狐です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室での自己紹介が終わり、教科書や学習用具を受け取った。

 前世では普通に近所の公立小学校に通っていたので私立は初めてだけど、教材なんかは特別なものは特になかった。年間行事なんかを見たらやっぱり私立なんだなって思ったけど。

 

 教科書も懐かしい感じ。ひらがなばっかりで逆に読みにくいのが、二度目の小学生やってるんだって実感がする。『こくご』とか『おんがく』はともかく、『しょしゃ』なんかはゲシュタルト崩壊して教科書の中を見るまでなんのことか分からなかった。

 

 そうだよね、ひらがなとか漢字の書き順なんかの文字から習い始めるよね。普通に使ってたから完全に忘れてたよ。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 時が経つのは速いもので、いつの間にか一年が経過していた。

 結衣も今日から小学生になったり、はやてちゃんも車椅子ながら地元の公立小学校に通っていたりする。

 

 僕もついこの間三年生になったばかりのような気がしていたが、気のせいだったようだ。

 

 どうもこの一年間は夜天の書の試験ばかりしていたせいか、時間の経過が速かった。

 

 小学生になった結衣にはインテリジェントデバイスをプレゼントした。体の負担を考えてカートリッジシステムは導入していないが、拡張性には余裕を持たせているので本人が希望したら追加も可能だ。デバイスコアは例のごとく特別製である。

 

 最も、現在の科学で再現できないのは材質の構築だけなので、管理局にロストロギアに指定されるようなことも無いだろう。多少調べられるかもしれないが、入手経路を誤魔化すだけで良いだろう。

 

「裕一郎さん、二度目の小学生は大変やなぁ」

 

 八神家のリビングではやてちゃんが黄昏ていた。服は入学式のためだけに用意した可愛らしい洋服を着ている。

 机の上には真新しい教科書や学習用具が広げられ、名前を書いたりシールを貼ったりしていた。

 

 はやてちゃんの小学校の入学式に変身魔法というか強化魔法を使って参加した僕は、そのまま八神家へやって来ていた。

 流石に車椅子の六歳児を一人で入学式に行かせるわけには行かなかったので、遠い親戚の叔父さんという設定で二十過ぎの男性に変装して出席した。聖祥の入学式は在校生は参加しないので丁度良かった。

 

 着飾ったはやてちゃんが先生に車椅子を押されながら入場した様子は、確りとビデオカメラで録画しておいた。本人は遠慮していたけど、家は両親が二人共参加しているので都合がついた。

 

「まぁね。はやてちゃんは大分退屈するだろうな」

 

「ほんまや。前のこともあったから最初は楽しみにしてたんやけどなぁ」

 

 案の定、車椅子という特徴は同年代の子供たちには良くも悪くも注目されるようで、無駄に疲れたようだった。まだ授業も始まってないのに定年間近のサラリーマンのようだ。

 逆行前はろくに通っていなかったのではやてちゃんは楽しみにしていたようだが、中身はそろそろアラサー女子だ。僕の危惧通り、精神年齢が合致しなかった。

 

 僕やなのはちゃん達が通う聖祥に通う案もあったが、金銭面から却下となった。流石に毎年百万近くの費用を払ってまで通う意味もないと、主婦のような視点から公立小学校を選択した。それに、受験するにも足りないものばかりだった。

 

 結果、前回もしばらく通っていた地元の小学校からの案内に従って学校が決定した。

 

「よし、ポチッとな」

 

「ん、なんや?」

 

 テレビに繋がったビデオカメラを操作すると、画面に今朝録画した映像が出る。校門の前で車椅子から小学校の校舎を見渡すはやてちゃんの横顔が映っていた。

 

「ちょっ」

 

 中身が大人には思えない、子供らしい表情をしている。まだ小学生に夢を抱いていたころの綺麗なはやてちゃんだ。

 これが、帰宅する頃にはすっかりと失われてしまったのが残念でならない。

 そう言う意味では、この録画は正解だった。

 

『はやて、入学おめでとう』

 

『あはは、ありがとう』

 

「あぁぁぁ……」

 

 カメラに向かって満面の笑みを浮かべるはやてちゃんを見ながら、本人は赤く染まった顔で悶えていた。その姿は年相応に可愛らしく、娘を可愛がる父親のような気持ちが湧いてきた。

 生きて子供がいたらこんな気持ちだっただろうという感じだ。

 

 その後も映像は続き、体育館に入場するはやてちゃんや入学式で凛としている姿や年相応の女の子を演じている姿が流れた。

 

「ははは、可愛かったぞ。はやてちゃん」

 

「うぅ、意地悪やなぁ」

 

 そう言うと、はやてちゃんは口を閉じて何かを堪えるように俯いた。

 

「……お父さんとお母さんにも見て欲しかったなぁ」

 

 ボソッと呟いた言葉は確りと耳に届いた。

 

 たとえ中身が二十を過ぎた大人だとしても、彼女はこれまでこういった行事を両親と経験してきたことはないため仕方ない。

 聞いている限り、前の保護者のグレアム提督という人物も資金援助のみという形で距離をとっていたそうだ。中学の入学式や卒業式では友人の母親達がいてくれたようだが。

 

 二度目の人生で中途半端に両親と再会したことも、彼女の寂しさを増加させているようだ。

 

 守護騎士は家族だが主という関係から普通の被保護者ではいられない。

 

 親がいる身としてはその気持ちの全てを理解してあげることは出来ないが、ある程度は察することが出来ていると思いたい。

 

 はやてちゃんの頭に手を伸ばし、出会った頃より少し長くなっているサラサラの髪を撫でつける。丁度僕の好みが反映されたかのような髪型だ。

 

「……」

 

 俯いたままはやてちゃんが僕の腰に抱きつく。今の姿は二十過ぎ、成人した将来の自分をシミュレートした姿なので、はやてちゃんはお腹辺りに静かに顔を埋めている。

 しばらくの間静かに頭を撫でていると、はやてちゃんも落ち着いたのか腕に込める力が抜けた。

 

「わわっ」

 

 はやてちゃんの体を持ち上げて抱き上げる。腕に座るような形になったはやてちゃんと視線が近くなり、赤くなった瞳が一瞬目に入る。

 そのまま残った片腕で親が娘にするように抱きしめると、はやてちゃんが口を開いた。

 

「……裕一郎さん」

 

「ん?」

 

「裕一郎さんはもう死なへんよね……」

 

「取り敢えず死ぬつもりはないけどね」

 

 首元に抱きつくはやてちゃんの腕に力が込められ、頬が密着する。その頬は僅かに濡れているような気がした。

 

 はやてちゃんが言うのは恐らく彼女が生きていた世界での僕の最後の事だろう。この世界でも同じことが起きるかは判らないが、彼女の言う人間が居たら気にかけておく必要もある。

 出来事から判断する限り得意な能力を持った転生者に思えるので可能性は低いだろうが、この世界にははやてちゃんの世界にはいなかった転生者が既にいるので気は抜けないだろう。

 

 僕もせっかくの命なので死ぬつもりはない。正直ここまで強化する予定もなかったのだが、自身の能力が許す限りの強化をしておいてもバチは当たらないだろう。

 

「……」

 

「……」

 

 そこからは互いに言葉も発さず、リビングにはテレビから流れるはやてちゃんと僕の会話だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「裕一郎さん。ミッドはな、結婚相手について一人しか認めないと決まっとるわけやないんやで」

 

「……なぜ今その話が?」

 

「ええから、ええから。んでな、ミッドはいろんな世界の中心って体だからいろんな世界の人が移ってきたりするんよ。やから戸籍にも複数名分の記入欄があるんやで」

 

「……へぇ」

 

「夫が裕一郎さん一人だとして、婚姻者としての表記欄がとりあえず(・・・・・)五人分。まぁ、ミッドの人らは一夫一妻が普通なんやけど、どこにも配偶者が一人なんて記述は無いんよ。結婚の際に確認したしな。というわけで、私は入るとして基本的に手続き可能な範囲として、あと三人まで増えても構わんからな」

 

 その話を聞いて僕はどう返事をすればいいのだ。

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

「ハッ――」

 

「どうしたの、結衣ちゃん」

 

「う~ん……。わかんない」

 

 今どこかで女の敵が生まれたような気がしたんだけど、気のせいなのかな。男の敵でもあるような気もするし、わからなくなってきた。

 

 お兄ちゃんは朝から友達の家に遊びに行っているらしいから、今日はお兄ちゃんと仕事でミッドチルダに戻ったお父さんを除いた家族みんなで入学祝いに外食になっている。

 入学式を終えて一旦帰宅して、夕方からお祖母ちゃんも連れて少し高めのレストラン。

 

 お兄ちゃんも来ればよかったのに。

 

「はぅぅ~。美味しい~」

 

 初めて食べる高級料理にさくらちゃんが蕩けている。翠屋のシュークリームを食べた時と似たような反応だ。

 

「そういえば結衣はお兄ちゃんから入学祝い貰ったの?」

 

 お母さんが聞いてきた。多分私専用のインテリジェントデバイスの事だと思う。

 人格は男性人格で、寡黙というかあんまり喋らないみたい。まだ貰ったばかりだから性格についてはまだよくわからないけど、話した感じだとボンヤリしていて堅苦しく無くて丁度いい。

 

 青色のコアをしたクリスタルタイプで、待機状態の時はレイジングハートのようにネックレスにして首にかけている。

 

 デバイスの形状は取り敢えず一般的な杖タイプ。お兄ちゃんのように徒手格闘戦技は習っていないので今のところ一般的な砲撃魔導師。

 

「うん。名前はヴァン」

 

 兄のデバイスからNobleを貰って、Valiant Nobleness(勇敢な気高さ)。略してVaN(ヴァン)

 

 インテリジェントデバイスのヴァン。

 

 

――Side out




ヴァン……童貞……う、頭が……




次は転生者達サイドの予定。
人によっては不快になるキャラかも知れない、よくある踏み台たち。容姿は既出なので、簡単に説明すると……


踏み台1
・俺様、隠れN○○属性、変態。
踏み台2
・錬○さんもどき、頑迷固陋。

踏み台1さんは作者的に後々まで贔屓する予定のある変態くん。プロットでは後々まで登場予定はある、かも。
踏み台2さんは完全に踏み台予定の作者の嫌いなタイプのオリ主くん。主に無印偏以降はまったくの未定。

この二人の話を読みたくないって人は次の話は飛ばして17話までお待ちください。

そろそろ夜天のターン。
無印、A's共に原作崩壊予定です。

作者のモチベーションが上がったときにしか書いてないので、まだ続いてるんだ、程度の感覚でお待ちください……


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