そんな君に (秋の月)
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進級編
1話 幼馴染みとプロローグ


pixivでもお世話になった方、(闇に葬った)過去をご存知の方、初めましての方、秋の月です。長月の頃に生まれ、人生を謳歌しています。数々の作品を吟味してきた方からすれば、稚拙な作品だと思われますが、何卒よろしくお願いします。そしてまた、暫くお世話になります。


「ほら、起きなさい」

 

強く耳に入った女の子の声が合図となり、黒く染まった視界に光が差し込む。覗き込む様にこちらに視線を送る彼女は幼馴染みの上条るいと言う少女だ。小学校入学前位までよく遊んでいたが、成長するに連れ壁が出来てしまった。そんな女の子がここにいるのは、壁が払われたからだろう。

同じ高校に進学し、ふとした事があってまた、昔の様に話すようになった。

 

「まだ寝させてほしいけど...時間も時間か」

 

時計を見ると朝飯を食べる時間はあるものの、ゆっくりする時間はあまりない。

 

「そうよ。朝食も出来てるから早く準備してね」

 

るいが部屋を出ると急ぎ目で着替え始めた。

髪が跳ねているがいくら直してもまた跳ねるので放置している。どこかの無能力者の劣化版みたいな感じだが、まあ、この一年学校に通ったが問題はなさそうだ。

 

「ふぅ...今日も一日頑張るぞい」

 

日課の台詞を棒読みで読むと、リビングの方に向かう。

 

「食べてれば良かったのに」

 

目の前の食事に手を出さずに待っていた幼馴染みがいた。

 

「一人で食べると...味気ないし......それに......」

 

「最後なんて言ったの?」

 

「な、何でもない!」

 

顔を赤くして否定してくる。何を必死になっているのか。まあ、一人で食べるのも悲しいからな。

 

「まあ、一人だと寂しいもんな」

 

「......はぁ」

 

ジト目で見てきたと思ったらため息を吐かれてしまった。訳が分からん。

 

「まあいいや...頂きます」

 

焼き鮭を主菜とし、ほうれん草のお浸し、きゅうりの浅漬けと言った副菜に油揚げとわかめの味噌汁。そして白米...。最近の食卓じゃ見当たらなくなった和食の朝食メニューだった。この幼馴染みは料理が出来るようで、良くお世話になっている。

 

「いつもすまないねぇ...」

 

「それは言わないお約束でしょ。それに食費はちゃんと

貰ってるし、私も食べるし...」

 

うちの両親は都内の会社に勤める社畜で、社内結婚したらしい。いつも朝早くに家を出て、帰ってくるのは遅い。自分で何とかしようと思っていたら親が幼馴染みのるいに「息子の面倒を見てくれ」と頼んだそうだ。

壁が払われた後だけど。

 

「あと髪の毛ボサボサよ。しっかりしなさい」

 

これはいつもの事だし、直しても直しても元通りになるから諦めてるんだよなぁ...。

 

「治ったら苦労しませんよ...」

 

「...それもそうね」

 

ある程度、事情は分かってくれているが彼女はあまり納得していなかった。妥協してくれてるから良しとしよう。

 

―――

 

「行ってきます」

 

誰かいる訳でもないが日課だ。挨拶は大事だと教わり続けた産物だ。家から学校までは歩いて十数分くらい。

いつもある程度余裕があるからゆっくり歩いている。

るいは弓道部の方に顔を出しに行った為、この場にいない。だからこうして一人で歩いている。

これもほぼ毎日の事だ。朝から誰かと話すより、こうして一人のんびりと歩くのが心地良い。

『朝の静けさ』と言う鉄道の発車メロディがあるが、それが合うような雰囲気だ。それを頭の中で再生していると学校が見えてきた。

 

私立聖櫻学園

 

森の中にあるこの学園は、男子よりも女子生徒の方が多く在籍していて、その女子の殆どが容姿などに恵まれている。この地域では楽園的な存在らしい。

個人的にはあまり興味がないのと、何故公立の高校に行かずにここを選んだんだと言う気持ちがある。

と言う俺は公立受験に失敗して、滑り止めで、受けていた近所のこの高校に入学した人間なのだが。やっぱり自分の身の丈にあった高校を受験するべきだった...。

特待生を受けられるほど頭も良くないし...。学費が想像より少ないことが救いだった...。

そんな俺だが、自由な校風が思ったより合っていた。

今では楽しいと感じる。公立落ちたことは引き摺るけど。倍率が二倍くらいあったから辞めとけと担任にも言われたのに関わらず受けたけど。担任曰く「あと五点取れてれば受かってた」と言われたけど。

 

「和倉君?早いわね。髪の毛はボサボサだけど」

 

「八束か、春休みぶりだな...あとこれはノーマルだ」

 

一年の頃のクラスメイトだ。八束由紀恵、最後に会ったのは彼女の誕生日の時、クラスメイトで委員長だった彼女の誕生日パーティーを行ったのだ。本人は驚いてはいたが、内心ものすごく喜んでいたらしい。

 

「えぇ。誕生日パーティー、ありがとうね」

 

「企画したのは俺じゃないよ。例を言うならば

企画した本人に言ってくれ」

 

「もう...そう言うのは素直に受け取るのよ」

 

「そうか?まあそう言う事にしとくよ」

 

「......またクラス、同じだといいわね」

 

「だな。知り合いが居るのは心強い」

 

「......そう言う事じゃ......」

 

最後何を言っているかは分からなかった。るいといい八束といい最後までハッキリと話して欲しい。

いつまでも校門前にいる訳にもいかない。そろそろ新クラス発表会場に行かないと。

今年もるいや八束と同じクラスになれるのだろうか。

仮にならなかったとしても、まあどうにか頑張るが。

 

会場には多くの生徒が集まっていた。所々知り合いや有名人が居る。同じクラスだったとか、違うクラスだったとか...彼らは一喜一憂している。ウェイウェイ盛り上がっているのは少し耳障りだ。落ち着きが無くなるのは分かるけど、もう少し視線を気にしたらいいのでは...。

 

「...二年C組か」

 

出席番号が最後なので席が窓側最後部と言うのが決定した。しかしあの席周辺はクラスの溜まり場になり、あまり静かに出来ないし、陽気で眠くなりあまり好きじゃないんだよなぁ...真ん中当たりがいい。

 

「また同じクラスね」ヨカッタ

 

「そうだな」

 

他にも見吉奈央や、ミス・モノクロームなどの有名人がいるが、るいの名は無かった。

 

「るいとは別クラスか...宿題見せてもらう相手が...」

 

「...和倉君はちゃんと宿題やってくるでしょ。

確認なら他の人に頼めばいいのよ」

 

確かに家にいてもやる事はあまり無いし勉強するけど、それが必ず合ってるかは分からないから不安だ。

 

「学年でも上位の学力なんだから」

 

「と言われても自信は無いからなぁ...」

 

成績表を見ても八以下はないが、それが自身に繋がるわけではない。ソースは中学時代。美術以外全て五で、学年20位くらいだったが志望校落ちた。

 

「ふむふむ。今年もお主がいるから宿題事情は安心だな」

 

「姫島...最初から人に頼むな」

 

姫島木乃子、よく人の家に上がり込んではゲームを夜遅くまでやるし、夕飯を要求するし、そのまま人のベッドの上で寝おちするし、起きたら朝飯を要求するとんでもない奴だ。

 

「とか言っときながらお主は見せてくれるではないか」

 

「うぐ」

 

こちらが甘やかし過ぎるからこうなってしまう。

厳しく躾ないといけないのだろうか。

 

「和倉君は姫島さんたちを甘やかし過ぎよ」

 

八束にも何度も注意されるが...こればかりは癖なのだ。

仕方がないのだ。見逃して欲しいのだ。

 

「所で東雲は?流石に今日くらいまともに来るだろう。

普段サボるけど」

 

「最近はサボってないだろう、全く...」

 

噂をすれば出てきた。東雲レイ、始めの頃は必要最低限だけ主席するとか言ってあまり学校に来ない奴だった。

今でも宿題はサボるしたまに学校をサボるが。頭のいい奴で強く言えない教師も多い。

 

「おはよう。今年も同じクラスだな」

 

「スルーするなよなー」

 

少し不機嫌気味になっていた。

 

「ボクは不機嫌になったからなー、機嫌治すには

何か奢ってくれないとなー」

 

つまり何か奢れと言うことか。

 

「ちょっと東雲さん...奢らせるのは流石に」

 

「分かったよ。学校終わったら連れていってやるから

高い所以外好きに選んでくれ...」

 

「本当だな?約束だからな!」

 

春休みはこれと言った旅行をしていない。強いて言うならば百四十円切符で同じ駅を通らずに旅したくらいだからな。

 

「財布に余裕があるからな、大丈夫だ」

 

財布の中には頼れる諭吉さんが四人いる。野口さんもいた気がするし大丈夫だろう。東雲はそんな大食らいでは無いしな。

 

「まぁ、取り敢えずクラス行くぞ」

 

「そうね」

 

「東雲ばかりずるいぞ!」

 

「お前はいつも何か奢らせてるだろ...」

 

困った友人に囲まれた俺の二年生ライフは、今から始まるようだ。




ストックは(自分の中で)多めにありますので、忘れない限り早めに投稿します(ストックのあるうちは)
この作品を読んでいただき、ゲームの方に興味を抱いた方がいれば、同志が増え嬉しい気持ちです(リズムゲームの方は未プレイですが...)
後書きまで読んで頂きありがとうございました。


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2話 ファストフードと商店街

ガールフレンド(仮)
再度流行る事を願います。
二話目です。


「それじゃあ行くぞー!」

 

結局東雲だけではなく、姫島や八束の分も奢ることになった。と言うかした。

 

「タダ飯じゃぁ!」

 

「私まで奢ってもらってありがとね」

 

「気にするな、高々二人増えただけだ。自重さえ

してくれれば大丈夫だ」

 

特に姫島、彼女に何回奢らせられたか。

 

「財布が空になるまで食べてやるぞ」

 

「そんなに食ったら太るぞ」

 

「...あたしは太らないキノコだから...」

 

「和倉君...女の子に体重の話は禁忌よ」

 

「...すまん」

 

気不味い雰囲気が流れた。なんか前にも同じ事るいに言われたなぁ...。

 

『女の子に体重の話するな!!馬鹿!!』

 

あの時はるいの傍にあった辞書を投げられた。意識駆られそうになったのを思い出した...。

 

「ここだよ」

 

東雲に連れられやって来たのはファストフード店だ。

あぁ、ここあれだ。ペパロニピザが食える店だ。

 

「ペパロニピザ好きだもんな、東雲は」

 

「お、覚えててくれたのか...」

 

好きな食べ物覚えられてるだけで照れるものなのか。

乙女心と言うものは全く理解出来ない。

 

「注文まとめて頼むから、食べたいの教えて」

 

制服の内ポケットからメモ帳とペンを出し聞いてみる。

 

「ボクは勿論、ペパロニピザとコーラだよ」

 

「あたしはきのこピザとポテトLとコーラ」

 

「それじゃあ...私はチーズバーガーのセットで...

なんか、ごめんね。私の分まで奢ってくれて」

 

八束はいい奴だ。あの二人、特に姫島は遠慮をしない。

 

「気にすんな。俺が好きでやってるだけだ」

 

「そうだぞー、翠は甲斐性のある奴だからなー」

 

「姫島は飯抜きな」

 

「申し訳ございません」

 

変わり身速いな...。

 

「取り敢えず頼んどくから、席確保してくれ」

 

「分かったよ」

 

飲み物のサイズ聞いてなかったけど、取り敢えずLサイズくらいにしとくか。小さいのを頼んで怒られてもあれだし。しかし...それだとしても一人千円越さないんだから、ここは安いなぁ...毎日は来たくないけど。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「あ、はい...えっと...」

 

―――

 

「お待たせ」

 

トレー二個持ちは辛い。重いと嘆くほどではないが、重心が反対側だった。手伝ってくれればいいものの女子の皆さん談笑してたわ。腕が痛い...。

 

「遅いぞー」

 

投げかける言葉がそれですか...。

店員さんが持ってきてくれるのが一番だが、ここはそう言う店じゃない。残念。

 

「全部持ってきたんだから労わってくれても

いいんじゃないか?」

 

それに奢ったしな。まあ、そっちは自分で決めた事だから文句を言うのはお門違いだけどな。

 

「ボクが取りに行くと思う?」

 

東雲と姫島は誰かがいたら絶対に他の人に頼むと思う。

 

「そうだよなぁ...」

 

八束も話に夢中になり、手伝う気配も無かった。

仕方ない。この場に男は俺しかいない。むしろトレーが二つで済んでよかったと思う。

 

「東雲はポテト頼んでないし、大きの頼んだから

食えるようだったら取っていいぞ」

 

「おー、ありがとな」

 

「それじゃああたしも「お前はあるだろ」ちぇー」

 

ダブルチーズバーガーのLサイズセット。別のファストフード店では夜限定でパティが二倍になるが、夜まで食べたいとは思わない。身体がだらしなくなってしまう。

 

「男の子だともっと食べるのに、和倉君はそんな

食べないよね」

 

「朝から量が多いからな...それに部活もやって

ないしそんな腹空かないんだよ」

 

るいの作る朝食は昼に食べても満足する量ある。それを朝から食べるとなると少し辛いが、美味しくて箸が止まらない。

 

「それに体育も無いしな。運動したらもう少し食うぞ」

 

体育のある日は弁当の量も多くしている。

やっぱり運動した後は腹が減ってしまう。

姫島や東雲は好んで運動しないから、少し食べ過ぎている気がするのだが、実際の所大丈夫なのだろうか。

 

「ご馳走様でした。残りのポテトはみんなで

食っていいぞ」

 

姫島はそれを聞いて遠慮なく食う。その小さい身体のどこにそれだけ入っていくのだろうか。不思議だ。

これは聖櫻二年C組七不思議と行っても過言じゃない。

違うか?違うな。

 

―――

 

家に帰って静かに出来る時が来た。

姫島がゲームやろうぜと来る事があるのだが、今日は

東雲の家に行ったらしい。だからこうして一人でいる。

時間は十四時過ぎ、やる事も無くただ何をするかと迷っていた。そう言えば冷蔵庫の中はどれ位だろうかと確認してみると空では無いが、夕飯には足りそうにない。

るいが買ってくるかもしれないが、今日は自分で行こう。るいにメッセージアプリを使いそう連絡する。彼女は弓道部に所属して、今日は新学期初日と言うのに部活があるらしい。普通休みにならないのだろうか。

るいが確認する前にスマホを閉じ、私服のズボンにしまうと財布の入ったウエストポーチを付けて、商店街に行く為家を出た。

 

目的の商店街は駅の方にある。その反対側にはやや大きめの商業施設もあるが、そっちの方が顔見知りもいるし、融通が効く。

 

「あら、翠ちゃんじゃない!野菜安くするわよ!」

 

「おぉ、翠坊買い物か!旬の真鯵と鰆が朝入ったぜ!

買ってかねぇか?今ならもう一匹付けてやる!」

 

商店街を進むと普段お世話になってる八百屋のおばちゃんと魚屋のおじちゃんが勢い良く出迎えてくれた。

魚か...朝が魚だったし...でも新鮮な奴だからかぁ...。

後野菜も買い足さないとだから...。

 

「じゃあ今日は野菜買います」

 

「何!?翠坊見ろこの真鯵を!新鮮のピッチピチだぞ!

それとも翠坊のガールフレンドが朝食で魚を出した

から肉を食いたいと言うのか!?でも羨ましい!

カミさん手ぇ抜いて

洋風の飯出すんだ「あんた今手ぇ抜いてとか言って

無かった?」あ...幸子...」

 

話がどんどん進んでいく内に魚屋の奥さんが裏から現れ魚屋のおっちゃんを責めている......いつもの事だけど。

 

「あたしがいい奴選んで、美味しいうちに作った料理

を手を抜いたと抜かすの?」

 

「ち、違うんだ幸子「ちょっと店仕舞いするね」

あっあっ…(察し)」

 

「それじゃあこれで」

 

「はいよー、ありがとうねー」

 

後ろの出来事なんて知らない。これから地獄が始まるなんて知らない。

 

―――

 

あの後、肉屋に足を運んだら「鶏の胸肉がオススメだ!」

と店主に推されたので買った。今晩は唐揚げかな。

来た道の反対を行くと何やら騒がしかった。

 

「どうしたんですか」

 

その場にいた主婦に聞いてみると何やら喧嘩が起きてるらしい。中には聖櫻や近隣の公立湘北工業の生徒がいるそうだ。湘北工業は大人しいオタクか、荒れた不良がいる極端な学校だ。共存してるのがすごいぜ。

 

「うちの生徒も騒ぎの中にいるんか...」

 

「女の子も巻き込まれてるらしいのよ」

 

「...何?」

 

喧嘩の原因がその女子生徒を巡ったものとは...うちは馬鹿しか居ないのか...。あぁ、頭が痛い。ただこれを放って置くなんて出来んな...。

 

「はぁ、どこにも行けないな」

 

るいから「そろそろ帰る」と連絡が着てたので

俺は「私用が出来たから遅くなる」と返した。

と言うか、警察は来ねぇのかよ...。

 

「巻き込まれたのは椎名とその友達か...」

 

椎名心実

聖櫻のマドンナ的存在の生徒。彼女のファンクラブの会員は多くいるそうだ。

 

「あ、翠くん!」

 

「あぁ?誰だテメェ」

 

椎名がこっちに気付くとそれに釣られて湘北工の生徒が反応する。

 

「椎名さんは俺らが守るんだ...」

 

聖櫻の...恐らく椎名の親衛隊たちがボロボロになっている。

 

「お前らは無理すんな。後は任せとけ...椎名、

荷物預けた」

 

「おい、無視すんなよ!舐めてんのか?」

 

「はぁ......ギャーギャーうるさいよ。もう少し小さく

話せないかなぁ...」

 

「あぁ?......こいつ殺っちまうか」

 

「おぉ、怖い怖い」

 

相手は五人くらいだが、大丈夫だろうか。

 

「死に晒せぇぇ!!」

 

『おおおおお!!!!』

 

五人一斉に殴り掛かってきた。えぇ...。

一人分の抜け道をすり抜けてそれを避けると、拳の捨て場が消えた五人はそのまま激突した。ギャグの様に...マジでそんな上手くいくもんなのか。でも好都合だ。

 

「今の内に逃げるぞ!」

 

椎名たちに呼び掛けると、椎名たちを連れその場を去った。

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

「流石翠君だよね。カッコよかったよ!」

 

「やり方はまあ、あれだけど...怪我はない?」

 

やり方に関しては偶々だからなぁ...。何にも言えない。

椎名たちに預けた荷物を受け取ると「また学校で」と告げ帰路に着いた。なんか、呆気なかったな。




ハーメルンの、方の投稿は久し振りなので、あまり操作に慣れませんね...。


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3話 生徒会選挙と昼休み

読む人がいると嬉しく思います。
三話目、どうぞ。


この学校の生徒会選挙は四月の後半に行われる。

今の段階はまだ立候補者が出て、街頭演説を行ったりもする。積極的な人も中にはいて、一年のうちから立候補すると言う者もいる。あまり生徒会には興味は無いが、今年は誰が立候補するのだろうか。例年誰かしらはキャラの強い人がいる...。当選しようがしなかろうが...。

 

「この学園の生徒会長になり、女子生徒による

水着コンテストを行う!」

 

馬鹿みたいな公約を掲げて男子の票を集めようとする会長候補がいた。再度言うが馬鹿だ。赤ネクタイをしている為、先輩だと分かるが馬鹿だ。この学園は女子の比率が多いのだ。歩く女子生徒から非難と蔑みの視線を送られるのに気付いてほしい。

 

「和倉君が生徒会長なら信用出来るんだけどね」

 

校門前で偶々あった八束に言われた。

 

「そんな柄じゃないぞ。俺は雑用やる方が性に合う」

 

「なんか分かるかな」

 

分かっちゃうのか...。

 

「和倉君はもし生徒会長に立候補するなら、公約は

どうするの?」

 

公約ねぇ...。突然そんな事を言われた。もし仮にするのであればなぁ...。

 

「そうだな...。外部と提携した体験型イベントを提案し

て、地域の活性化や学園の活性化を図る。後は

学力下位層を中心とした学力向上の為の試験大会

的な事を開催して、聖櫻の学力を上げるとか?」

 

「...それは先生が考えるべき事じゃない?和倉君

らしい意見ではあるけどね」

 

ご最もである。とにかく結果に繋がるイベントこそ重要だと思う。学力が上がればその分入ろうとする人も多く出るはずだ。

 

「和倉君、生徒会向いてるんじゃない?」

 

「いや、立候補しないよ。知名度もない平凡な学生だし」

 

あと半一人暮らしだしな。家の事もある。

 

「その平凡な学生に毎回テストで負けてるのね...」

 

ここのテストはそんな難しいとは思わない。強いて言うならば世界史Aが難しいくらいだと思う。まずあの先生は持論を押し付けてくる教師で授業が進まず無駄な時間を過ごしたと思わせるだけだが。

 

「今年は選択で物理選んだからなぁ...」

 

自由な学園ではあるものの、流石に選択科目に電気とかある程自由ではない。普通科しかないこの学園に電気などの専門科目は必要ない。習いたいら駅が数個手前の公立林間北高の電気科に行くべきだ。

 

「去年も同じような事聞いたわ」

 

そんな事あったっけなぁ...。

 

「それに特待生だし大丈夫だと思うわよ」

 

一応この学校の特待生だ。志望してた高校だと無理そうだったが、ここなら受かりそうだったし。

 

「そうとは限らんよ」

 

「...本当に自信だけはないよね...」

 

そんなもの遠い昔に捨て去った。

 

―――

 

クラスの中では生徒会選挙の話になっていた。

やれあの男の会長候補はやってくれそうだとか、天都かなた先輩が会長に立候補したとか、昨日の商店街の騒ぎは聖櫻の幻想殺しが止めたとか。最後関係無くね?てか俺そんな二つ名みたいなの付いてるのかよ。

あの主人公みたいに髪の毛をワックスで固めてツンツンにはしていない。このツンツンはただボサボサの癖っ毛なだけで天然だ。水被れば萎れる。

 

「生徒会ねぇ...」

 

昨年は副会長がとにかくマイペースな人で、他の役員も手を焼いていたらしい。その副会長が天都かなた先輩だ。容姿も優れており学園でも有名人だ。この学校は有名人が多い気がするのだが。気の所為だろうか。ぶっちゃけるとこの学園の女子の容姿のレベルは高過ぎる。

他の学校はどこにでもいる様な顔が揃っている中、ここはそれぞれの個性と言うのだろうか。それが強く出過ぎな気がする。八束も、東雲も、姫島も、他のクラスメイトも人の目を引く容姿だ。中には見吉と言った雑誌のモデルをやってるのもいる。

 

「やっぱり容姿とかで選ばれるのかねぇ...」

 

魅力的な公約も無さそうだしなぁ。水着コンテストとか実現出来るわけ......出来そう。

うちの生徒馬鹿しか居なかった

 

「私は公約とか見て決めようと思うけどね」

 

八束の様にまともな生徒はそうだろうが、この学校の特に男子は容姿で選んでいると言うのが強い。情報源は生徒会アンケートの結果。役員の選出基準と言うアンケートを集計した結果八割以上が容姿で選んでた。ここは碧陽学園なんて場所ではない。優良枠なんて存在しない。

 

「公約は勿論だが、やっぱり人望とか、いざ全校生徒

の前に立った時にしっかりしているかとか、そう言う

のも判断したいからなぁ...」

 

公約何てものは口約束の様なものだし、魅力的だと思わせるなら嘘を吐いてもいい。信用を無くすだけだ。

前文の「容姿だけで選ぶな」と言ったが、清潔にしているだとか、制服はしっかりと着こなしているか、髪などは跳ねてないか...そういう所も重要となる。

公約だけで全てを決めつけられない。

 

「それはいいや。そろそろ先生来る」

 

「それもそうね」

 

窓側一番後ろと言う位置にある自分の席に戻ると、担任が来るまでの間、机と一つになった。

机と一つになる前、東雲と姫島の姿が見えなかった。まあ、徹夜でゲームして寝ているのだろう。去年がそんな感じだったしな。言っても直さないしいいだろう。

一限は何だったけな...。

 

―――

 

一限から数学Ⅱを二時間連続で受けるという地獄も終え昼休みになった。今日の昼飯は自作だ。るいは朝練がある為早く家を出た。始業式の日は流石に朝練は無かったが、途中でるいは「一緒にいて、か、カップルだとか思われたくないから、さ、先に行ってるわよ!別に嫌いだなんて事無いんだから!」と去ってしまった。恥ずかしがり屋過ぎないだろうか。そんなので勘違いする様な奴はいないと思うのだが...。

 

「和倉君、お昼食べない?」

 

「ん?櫻井か...いいぞ」

 

櫻井明音、前のクラスでも同じクラスだった一人だ。

八束の誕生日をしようと計画したのも櫻井だ。

放送委員で、彼女が昼放送の司会を務めたり、イベント事で実況をやっているの見ると、宛らアナウンサーの様に思える。実際は高校生だが。

 

「それじゃあ。非番の時くらいしか一緒に食べられない

からね。寂しかった?」

 

「寂しいかと言われると...全然寂しくないぞ」

 

そもそも寂しくなる理由が分からん。個人的には一人飯と言うのも静かで落ち着くからいいと思っているのだが。他は違うのかねえ...。

 

「そ、そうなんだ...」

 

何故悲しげな顔で答えるのか?寂しいって思ってほしいのか?

 

「寂しいと思って欲しいのか分からんが、放送委員で

よく放送してるじゃないか。寂しくなるか?」

 

「あっ...そうだった...」

 

複雑そうな顔している。放送委員という事忘れたのか?

 

『ただいまより、生徒会庶務候補の選挙演説を

行います』

 

「あぁ、これがあったから休みなのか」

 

「そうだよ。ネタはあるんだけど、流す場が無かったの」

 

『どうもー食事中のみなさん、そして...この演説を

お聞きになっている...あなた!ようこそ御機嫌よう』

 

放送の音量を変えられる摘みの前にたつ。

 

『後藤影虎のポコ』(ブチッ)

 

「あれ?なんで放送消したの?」

 

純粋な彼女は聞いてくる。こんなの放送できるわけ無いだろう。一部男子が騒いでいるのが聞こえる。

 

「和倉は知ってたのか...」

 

クラスメイトの男子が何か察した様な顔をしてた。

 

「これは...アウトだ。悪ノリも出来ない」

 

やってたらるいに見られて「何やってんの?」的な顔をされた。

 

「今の放送何だったんだ」

 

他クラスから帰ってきた生徒が何とも言えない顔で帰ってきた。

 

「もう終わったのか」

 

頷いていたので、摘みを元に戻した。

やはり馬鹿しかいないのか。これは落ちたな(確信)




人気投票、中間の段階で文緒さんが1位...。文緒さん強いです...。


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4話 きのことハッカーと夕飯と

ストックが11話までしかないので、今のペースで投稿できるのも今のうちになってしまいます...。
4話目、どうぞ。


四月の後半

前半は淡いピンクで染まった並木道も深緑に変わっていた。前回の後日談だが、生徒会選挙の投票が終わり会長は天都かなた先輩が、副会長はうちの学年の篠宮りさと一年生の女子。書記も女子生徒が二人、会計は男女一人づつ、総務が女子二人の合計九人だ。男子生徒が一人という辛そうな場所ではあったが、その男子生徒は遠目で見た感じ真面目だが、はしゃぐ時ははしゃぐON/OFFの区別が出来るやつだった。

 

「お、篠宮か。副会長当選おめでとう」

 

「和倉君おはよう。頑張るからこれからも応援してね」

 

廊下を歩いていると、同級生の篠宮りさが歩いていた。

他クラスの彼女とは、あまり話す場は少ないが、たまに話したりはする。

 

「しかし、会長は天都先輩か...」

 

「これからが大変だわ」

 

優秀ではあるものの、ものすごくマイペースな人で、噂には毎日お茶会を開いているとか。

 

「それじゃあね」

 

「あぁ、生徒会頑張れよ」

 

朝から生徒会か...なんか下手な運動部よりも働いてるよなぁ...。

 

―――

 

クラスに入ると机に突っ伏した。

視界を遮り、聞き耳を立てると聞こえてくる話題は生徒会とかの話題だ。

 

「結局後藤は落とされたな」

 

後藤と言うのは選挙演説で某自営業の政見放送をパクり、不適切だと判断されて立候補取り下げどころか停学処分を貰っている。

 

「水着コンテストとかやってみて欲しかったな」

 

これは会長候補の奴だろう。望む声があり、この学校ならやりかねない...が、天都先輩の方が圧倒的だった。

結局は容姿とかだ。まあ、前年度も生徒会やっていて、経験があると思われて入ったりしてるが。

 

「しかし一人以外全員男とか羨ま...いや、けしからん!」

 

「これじゃあハーレム...まるで和倉みたいだ!」

 

何故俺を上げる。俺はハーレムなんて作ってない。

嫉妬の込められた視線が刺さる。

 

「でも和倉だしな...」

 

『仕方ない...』

 

何故皆さん仕方ないで片付けるんですかねぇ。嫉妬の視線から残念なものを見るような視線に変わった。だから俺が何をしたと言うんだ。

 

「和倉はクラスの話題の中心だよな」

 

クラスメイトの若倉はそう話を振ってくる。

クラスメイトの男子の中でも数少ない俺の会話相手だ。

 

「俺は別にあいつらから好意を受けているわけじゃ」

 

「...彼女達に少し同情かなぁ...」

 

お前は何を言っているんだ的な視線を送られながら、彼の漏らした言葉を理解しようとした...。

 

なんでそこで彼女達と出るのか?あいつらか?まさか。

 

「まあ、鈍感な君は分からないと思うな」

 

鈍感って...るいや八束とかにも言われたが、俺はそんな鈍感なのか?

 

「俺ってそんな鈍感なのか...?」

 

『そうだよ!』

 

耳に入ったクラスメイト全員が迫真の声を上げる。

仲良いなお前ら。

 

「まあ、いいや...」

 

机に垂れている時には元通り周りは会話を再開していた。いつの間にか若倉は、他のコミュで「やっぱり加賀美は可愛いよな!声も見た目も行動も!」と盛り上がっていた。まあ、元気なのは良い事だ。

ふと周りを見ると、今日は東雲も姫島もいた。

学校に来てまで仲良くゲームをしていた。

 

―――

 

放課後になった。今日あった六時間目の物理の疲れからか、家に帰った途端制服のままベッドの上に突っ伏した。正確に言うと物理の前の体育で疲れていたところ、止めを刺された。どっちでもいい。

 

「疲れた...」

少し目を閉じたつもりで再び目を開けると、東雲と姫島の姿があり、外の景色は夕暮れだった。

いつの間にか寝ていたらしい。そしてこの二人は家主に無断で侵入したこととなる。

 

「ん?起きたのか?」

 

「あぁ......で、何しに来たの?」

 

頭があまり回っていないが、ゲームをやっている様に見える。まあ、こいつらの様はそれくらいか...。

 

「ゲームと飯を集りに来た」

 

「右に同じく」

 

「......はぁ」

 

起き上がると、下のキッチンまでとぼとぼと歩く...しかし身体が少し暖かい。寝る前にかかっていなかった毛布がかかっていたのは彼女立ちが毛布をかけてくれたからだろうか。まあ、根はいい奴だからな、両方。

 

「冷蔵庫は何が入ってたっけ...」

 

開けると鶏肉とキノコとか野菜とか...。これ使って和風パスタでも作るか。パスタ用の麺は補充してあるし...。

まあ、あいつらも文句言わず食うから大丈夫だろう。

他にも何か作っておくべきか...。

お、偶然ペパロニがあったんだ。近所のお爺さんが輸入品の大型スーパーに行って買ってきてくれたんだ。

和風パスタとペパロニピザの組み合わせってありなのかと思ったが、ピザ食べ放題の店だと和風パスタ頼んでピザも楽しむ人もいるらしいからいいのか。行った事ないけど。細かい事は気にしない方がいいか。

白米出て来て主菜副菜汁物が洋風でも食べれるからな。

いや、見た目的にあまり良くないか...。

確認しなくてもいいか。ゲームに夢中になって話聞かなそうだし。そう言えばコーラってあったっけ...。

 

―――

 

缶のコーラが常温保存で置いてあった。期限も問題ないし、保存場所も直射日光は避けている場所だから問題ないだろう。親が使っていたジョッキを洗い置いておく。

 

「おーい!もうそろそろ飯が出来るから降りて来い!」

 

上の部屋まで聞こえるくらい大きめの声で呼ぶと上から反応したような音が聞こえてきた。

下手したらゲームに夢中で降りて来ないなんて事もあったが、今日はお腹が空いているようだ。

 

「もう出来たのか?」

 

「もうすぐ出来るから席について」

 

端末を持ってきているのか、席についたら二人はその端末でゲームを始めた。

 

「しかし...いい匂いがするなぁ...」

 

「あぁ、材料あるからピザ焼いてるんだ」

 

「なるほど...だからチーズか...」

 

さてと...パスタはもうこの位か...。事前に用意した皿に盛り付けるとテーブルに持って行く。本当は手伝って欲しい所だが、仕方ない。

 

「まず主食のパスタだ。鶏肉とキノコと水菜とか使った

和風パスタだ」

 

「これが...」

 

「女子力...」

 

何かブツブツ言っている様だが知らない。後から

「お!キノコだ!」と姫島が喜んでいるが、少し反応が遅いようだ。

ピザの方を確認しに来たら丁度出来上がった。

いい感じに焼けていて、チーズなんか長く伸びそう(小並感)

 

「熱っ!」

 

取ろうとした時にオーブンに触れてしまったのか強い痛みが襲ってきた。軽く冷やそう。

珠にやらかすけど、本当に痛い。

 

「ふぅ...」

 

待たせるのも悪いので早めにピザを取り出し、皿に乗せて運ぶ。ピザの存在に気付いた東雲は、驚きの声を上げたが、それよりも嬉しさが勝っていた。まあ、喜んで貰えたのなら何よりだ。作ったかいがある。

 

「これ手作りなのか?」

 

「流石にペパロニとチーズとかそう言うのは市販だが

生地は手作りだ...作り置きだがな」

 

流石に生地まで作る時間は無かった。

 

「流石だよな、翠はな...女子力高くないか?」

 

「本当だよなー。それより、早く食べさせてくれぇ...」

 

姫島が目の前のパスタを食したいとかそんな目をしていたので、雑談は置いといて食べる事にした。

 

「じゃあ...いただきます」

 

『いただきます』

 

「お店のより美味しい...だと?」

 

「ピザも美味しいな〜!」

 

自分が作ったものを美味しそうに食べる彼女達をみていたら

 

「お、おい!なに笑ってるんだよ!」

 

いつの間にか、笑っていたらしい。

 



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5話 バイトと鼻歌交じりの少女と

pixivでは何故か他と比べ伸びました。
5話目、どうぞ。


土曜日の午後

午前のみの授業も終え、昼食を食べ終えた俺は駅前にあるカフェでバイトをしていた。高一の二学期頃から始めて火・水・土曜日にシフトを入れた。面接と軽い筆記試験という名のアンケートを受け、受かった。

駅前と言う好立地の為か周辺の学校の生徒や、地元の企業の社員さん、地元の主婦などが足を運ぶ為、土曜日のお昼時から店内は賑わう。

そんな喫茶店のホールで働いていると、色々と客に絡まれてしまう。

 

「和倉さん!ここ教えてくれませんか?答えが合わないんですけど」

 

「どれどれ...これあれですよ、ここが逆になってます」

 

「え!?そんな理由だったんですか!?」

 

ケアレスミスがテストの点に響いてしまう...なんてよくある話だ。実際入試でもケアレスミスをしてしまった。

 

「幻想さん!こ↑こ↓教えて下さい!

オナシャスセンセンシャル!」

 

「しょうがねぇなぁ...って電気は専門外です」

 

「ンアーッ!!」

 

主に学生から「勉強教えてください!」と言われる。珠に電気や簿記とか聞かれるが俺は知らない。

 

「こう言うのもExcelがあればパパッと出来ちゃうんですよ!」

 

どこか気味の悪いイキリ顔をしながら指を鳴らす動作をしていた騒がしいお客もいる。もう少し静かにしてもらいたい。後指パッチン出来てない。

他にもMOCPCを持ってきてブラックコーヒー片手にエリート気取っているお客様がいるが、大体はネットサーフィンか十八禁サイトを閲覧している。偶偶視界に入れてしまったバイト仲間が顔を真っ赤にしていた。まあ、気恥しいからな。

 

「和倉君はOfficeで一番使ってるのってなに?」

 

「Wordです」

 

前年の生徒会から、役員じゃないのに扱き使われたからなぁ...資料制作とか慣れてしまって、やらされた文化祭実行委員でも広報と雑務の仕事をやっていた。いくら早く終わるからって仕事を押し付けるのはやめて欲しい。

 

「和倉はプログラミングやらないの?」

 

「パソコンの処理能力が弱いので厳しいです」

 

東雲の家でプログラミングとかハッキングを見させてもらったが、覚えるのに苦労しそうだ。やる気的な意味で。飽きがきそう。

 

「トーストとアメリカンコーヒー下さい」

 

「かしこまりました」

 

注文を受けながら客の要望に答えるのは俺だけじゃない。

 

「お姉さん!あれ!萌え萌えってあれ!やって下さい」

 

「ちょっ!?おま自重しろよ!?」

 

「分かりました!萌え萌えキュン!」

 

「「グハッ!!」」

 

「お、お客様!?」

 

ここでは客の要望に可能な限り答えるため、通常の仕事プラスアルファが必要になってくる。別に無くてもいいのだが、そのプラスアルファが給与に上乗せされるのだ。お陰で財布の中は潤っている。

 

「和倉君上がっていいよ」

 

「はーい」

 

まあ、生活費は送られてくるし、小遣いも含まれてるけど使う機会がないってのも理由だけど。

 

―――

 

駅前と言ったが正確には自宅、学校の最寄りから五駅先の登戸と呼ばれる所で働いている。快速急行に乗ったら一駅、六分もあれば着いてしまう。交通費も支給されるので遊びに行くのにも使わせてもらってる。(職場がそれを許してくれている)主に川崎や立川まで出るのに。

 

時計の針は二週目の七を指している。

家に帰って何か作ろうかと思っているとブレザーの内ポケットが揺れた。どうやら誰かが呼んでいるらしい。メールかと思ったが長さ的に電話だ。

 

「はい和倉です」

 

『和倉くんこんばんわ』

 

「風町か、夜分にどうした?」

 

風町陽歌、クラスは違うが中庭で鼻歌交じりにリズムに乗っていたのを見ていたら捕まった。今では彼女のやっている作曲の手伝いをしている。

 

『今から暇かな?』

 

「あぁ、バイトが終わったからな」

 

『本当?実は一緒にご飯食べに行きたいなぁって』

 

「そうだったのか。家に帰って飯にしようと

思ってたからな、都合が良い。どこに行けばいい?」

 

『えっと...新百合ヶ丘駅の改札の所で』

 

「分かった。今から行く」

 

電話を切ると駅まで歩く。小田急線と南武線の客で駅は混雑していた。時間帯的に快急はラッシュ程ではないが混んでいるだろう。疲れている訳では無いが、数分だけでも座っていたい。ジジ臭い?知らない。

改札を抜けると電車が到着したのか人が波のように流れていて、押し流れそうになった。どっかの路線が事故でも起こしたのだろうかと、人混みを抜けた後に見ると並走する路線が人身事故を起こしていた。だからか、異様に人が多いのは。

 

ホームに抜けるとスーツを来た男性からおしゃれに決めている若者などで溢れていた。制服姿をしているのは俺と運動部に入ってそうな生徒くらいだ。土曜日だから別の時間に人は散ると考えるべきか、土曜日だから人が集まると考えるべきか...。

 

『間もなく遅れてました快速急行到着します』

 

遅れていると言われて腕時計と電車の発車時刻を見比べると十分遅れていた。それくらいどうしたと言いたいが、その遅れでホームに人が溢れてしまうと考えるといかに鉄道が重要で遅れてはならないものだと考えさせられる。だからよ...止まるんじゃねぇぞ。

 

―――

 

新百合ヶ丘の駅に着いた。さっきの快速急行は混みすぎて乗れなかった。改札を出ると風町の姿を見つけた。

相手もこっちの事を見つけると笑顔で手を振ってくる。

あれはそうだな...。世の男を勘違いさせる行動だな。

そんな風町を見た周りの男からの嫉妬の視線が強い。

 

『あ、あんな可愛い子と夜に出会うなんて...』

 

『あの子真面目そうに見えて...』

 

『普通に食事行くだけじゃない?』

 

『あの顔どこかで見たことあると思ったら登戸の

喫茶店で働いてる人だ』

 

『じゃあ大丈夫だね』

 

嫉妬の視線がなにか微笑ましいものを見る視線に変わった。え?何があったの?服装おかしい?

 

「悪い、電車が遅れた」

 

「ううん。こっちこそごめんね?突然誘ったりして」

 

「いや、気にするな。連絡も無しに人の家に上がり込む

輩も居るからな」

 

「あ、あはは...」

 

誰とは言わんが連絡くらい入れて欲しいものだ。

 

「そう言えば軽音部の方は最近どうなんだ?」

 

バンドを結成すると彼女は言っていた。それがどうなっているかは聞いていない。

 

「後輩の子達も入れて結成したんだよ!

にゅーろん★くりぃむそふとって言うんだけど」

 

頭悪そうとか思ったのはここだけの話。

 

「おぉ、良かったじゃないか」

 

「先輩後輩の壁を無しにして仲良く頑張ろうって

グループなんだ。曲が出来たら和倉くんをライブに

招待するからね」

 

「曲が出来るのはいいが演奏出来るようにしないとな」

 

曲が出来たらライブじゃなくてまず練習だろうよ。

それを忘れていたのか「そうだった」と言う顔をしていた。ライブに招待して貰えるのは嬉しいけどね。

 

「じゃあ、それまで楽しみに待っててね!」

 

気の早い奴だ。でもまあ、楽しそうに話しているのを見てると、なんだか面白いものが見れそうだ。相当自身があるのだろうか、あるいは能天気なのか...。

 

「ところで何処に行くんだ?」

 

食事に行くとは言っていたが、何処とは聞いてない。

 

「そこら辺のファミレスでゆっくり話そうって思ったの」

 

道中でゆっくりと話していたけどな。

 

「まあ、遅くならないようにな」

 

少し歩くと店の看板が見えた。風町はそれに指を指して「ここだよ」と教えてくれた。

 

...今夜はミラノ風ドリアか...。




サイゼ、安くて美味しいので贔屓にしています。


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ゴールデンウィーク編
6話 ゴールデンウィークの川遊び 前編


この投稿が反映された時、作者はお台場にいます。
6話目、ゴールデンウィーク編です。


世間はゴールデンウィークに突入した。バイトのシフトもゴールデンウィーク仕様になっていたが、店長のご好意で五月三日から連休に入る。ホワイトバイトで良かったと強く思うが...。

 

「暑い...」

 

何故河原でテントを張っているのか。

何故河原でバーベキューの準備をしているのか。

そしてそんな中何故彼女たちは川辺で涼んでいるのか。

何故男は俺一人なのか。

 

―――

 

それは遡る事一昨日の出来事だった。

バイトまでの時間があった俺は教室で少し涼んでいた。

まだ五月の頭だと言うのに外の気温は25度を超えていた。地球温暖化の影響が表れているおかげだ。本当に大迷惑過ぎて溜め息しか出ない。

そんな少し気分が暗い時に彼女たちは来た。

 

「和倉君って五月三日空いてる?」

 

櫻井からお誘いが着たことが事の発端だろう。

その時にクラスの男子から嫉妬の視線があったのは蛇足だろう。

 

「空いてるけど...どうした?荷物持ちか?」

 

「...まあ、ある意味そうなるけど、椎名さんとかと

バーベキューに行こうって話になって、良かったら

一緒に行かない?」

 

「バーベキューか...いいな。俺もお邪魔させてもらうよ」

 

「本当?じゃあ新百合ヶ丘の駅に朝の七時半に集合ね」

 

「持ち物とかは?」

 

「設備は向こうにあるけど、まあ追々メールするよ」

 

「了解」

 

―――

 

張り終えたテントの中で一緒に来たメンバー、櫻井や椎名、相楽、佐伯を眺めている。午前中、まだ涼しい時間にと九時あたりに着くようにと電車に乗ったのだが、着いた頃にはコンクリートの道路から熱を放出していた。

自然に調理されているのかと思ってしまった。

 

「和倉君もこっちおいでよー!涼しいよー!」

 

そちらの方に行きたいが、生憎とこちらは着替えを持ってきていないため水辺ではしゃぐ事が出来ない。まあ、この暑さなら服も乾きそうだが、もしもの為だ。

まあ、木陰にテントを張ったから、日向の方よりは涼しい。しかし、普通着のまま川で遊んでいると何がとは言わないが透けて見える。下は水着っぽいが。まあ、普通はそうだよな。でも並の男性はそれが良いとでも言うのか、遠くから見ていてお互いに親指を立てていた。奥さんとお子さんが見ていますよ?そこのお父さん。

 

「和倉君、着替え持ってきてないの?」

 

相楽が戻りそう聞いてきたので、俺は肯定の意を示した。すると隣に「ちょっと休憩」と言いながら座ってきた。髪や服に水滴が乗っている姿は少し官能的な気分になってしまう。煩悩退散。持ってきていたタオル、本来は汗ふき様だったが、濡れたままでいると風邪を引くかもしれない。水遊びを想定して水着を着ているくらいならタオルくらい持ってきていると思うが、一応だ。

「ありがとう」と礼をこっちに送りながら、髪から軽く拭いていた。バーベキューまで暇だ。しかしこんな時に一人だけスマートフォンを弄るというのもどこか寂しいし、折角来たのに勿体ない。何もしない事自体がもはや勿体ないのではと思ったのはここだけの話。

 

「ねぇ、退屈そうだけど...もしかして、楽しくなかった

かなぁ...」

 

心配そうにこちらを伺う。まだメインのバーベキューもしていないのに気が早い奴だ。

 

「気にすんな。お前らが遊んでいるのを見ていると

目の保養にもなるし、着替えを持ってこなかった

俺が悪い」

 

「で、でも...」

 

「本当に気にしてないぞ?それに別に着替えが無くても

水遊びくらい軽く出来る。ただ少し疲れて黄昏ていた

だけだ。相楽が気にするような事じゃない」

 

まだ申し訳無さそうな感じだ。まあ、彼女やりの思いやりなのだろう...。

 

「...バーベキュー、楽しみだな」

 

「...!う、うん!」

 

本当の事を言うとそこまでは疲れていない。ただ今日の暑さに気力がごっそり持っていかれただけだ。

それでもバーベキューは楽しみだ。むしろそれが今日一番の楽しみだったりもする。

 

「あ、ただ釣竿あるから先に釣りしに行くが」

 

折角渓谷の清流に来ているのだから、川釣りとかも楽しまなければ。事前にお金は払った。釣り放題で、お店にお金と一緒に持っていけば塩焼きにしてくれるらしい。

釣具と餌を持ち、まだ遊んでいる椎名たちに釣りに行く旨を言うと「私達も着いていく!」と声が帰ってきた。

釣竿二本しかないんだけども。と言うかテントは?貴重品とかは持っていくけど。

 

―――

 

テントはそのまま置いて、一時間くらい暇潰し程度に釣りに来た。友達連れて。棒付きキャンディーを加えながら釣りをしている姿はさながら煙草を吸って釣糸垂らしているおっさんに見えるのかもしれない。知らんが。

五分くらい釣糸を垂らしているがまあ、勿論引きに来ない。綺麗な川なので山女魚を狙いたいがここまで降りては来ないのだろうか。虹鱒が釣れたらいいとしよう。

更に釣糸を垂らしている。周りも集中しているが、今風の君らはこれでいいのか?そんな事を思った時に竿が引っ張られた。これはかかったぞ。

それに気づいた彼女らも「頑張って」と声援を送るが、海釣りと違い引き上げるのに時間はかからない...。

竿を引っ張り上げると、水面から姿を表した。これは...

 

「...岩魚だ」

 

もっと上流の方にいるものだと思ったが、釣れた。

一応ここら辺にもいるのか。

 

「やりましたね!」

 

椎名が自分の事の様に喜んでいる。

 

「へぇー...初心者にしてはやるようだな」

 

キャップを被った見た目三十代の男性が上から目線でこちらを見下してくる。それをみて櫻井たちはどこか不愉快そうな顔をしている。それを見て男性は顔を顰めたが

「まあ、俺の方がでけぇの釣れるからな、嬢ちゃんたち

見てな!」と自分が強いアピールをしてくる。本当に

 

「下らねぇ」

 

出鼻をくじかれたのか、顔が引き攣っているようだ。

 

「あぁ?俺のやり方にケチでも付ける気か?」

 

「違う違う。大きいのとか、小さいのとかそんな

枠組みに囚われてるのが下らねぇって事だ」

 

時間潰せて、美味しいもの食えるならそれでいいのに。

 

「でけぇの釣るのがいいに決まってるだろ!」

 

横から「この人怖い」とか聞こえてくる。

まあ、ブラックバスとかは大きさを競うが、その場では無いだろう。そういう大会もないし。

 

「別に俺が下らないって思っているだけですよ。

そんなに競いたいなら他の所で別の人と釣れば

いいじゃないですか」

 

「へぇ...俺に負けるのが怖いのか?」

 

どこで俺が負けるのが怖いと出てくるのか。思考回路はどうなっているの?人の事あまり言えないが。

 

「いや、俺競うと言うより時間潰せて何か美味いもの

釣れればそれでいいって人間なので」

 

それに競うとか面倒だ。

 

「そうか...なら俺の不戦勝って事で嬢ちゃんたちは

俺が頂いていくぜ」

 

『え!?』

 

「...は?」

 

こいつ何言ってるの?

 

「何故そうなる...」

 

「誰と付き合ってるか知らねぇが、俺より弱いお前に

可愛い女の子といる資格はねぇよ!」

 

「なんでそんな事言うのよ!」

 

「そうですよ!翠くんも私たちも関係ないですよ!」

 

「なんなのこの人...何か嫌な感じ」

 

「私も思うな」

 

四人からのバッシングを受けると「それなら!」と

あからさまに何か提示してきそうな雰囲気を作り出した。

 

「俺とお前のどちらかが、川の主を釣れたら勝ちだ。

俺が勝ったら嬢ちゃんたちは俺の言う事を聞いて

もらうぜ!」

 

「何勝手な事を言っているのか」

 

「逃げるは許さねぇからな......さあて、嬢ちゃん立ちには

どんな事をしてもらおうかな...」

 

もう買った気でいやがる。女子四人は男の舐め回すような視線から守るためか身体を抱くように抑えてる。

......何か癪だ。俺の中の何かが切れそうだ。

 

「...勝った気でいるなんて、随分と傲慢な事だな。

こんな奴に負けるなんて恥ずかしいな」

 

あくまで冷静にいる。それで相手の冷静さを欠く。

 

「...その落ち着いた顔を絶望に染めてやるよ」

 

釣竿を構える。主と言うくらいならでかいのだろう。

掛け声はない。間を空けて俺らは釣糸を垂らした。




助けてマイヒーロー


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7話 ゴールデンウィークの川遊び 後編

前回の続きです。
7話目、どうぞ。


この川の主は大きな鯉らしい。その体長は一メートルを軽く超えるらしい。そんな鯉が居るならお目にかかりたいものだ。試合は一時間、連れた方の勝ちだが、お互いに釣れなかったら勝負は無かったことにするらしい。

反応の薄い竿を見つめる。相手はさっきから主とは違う鯉や山女魚などを捕まえては彼女達に自慢をしてる。

「リードを強く引けばいいんだよ!」とか抜かしているが、釣りは運の要素も強い。餌があっても魚がいなければ釣れない。

 

「おやおや?大口叩いた癖に一匹も釣れないなぁ...。

嬢ちゃんたちをこっちに寄越せば解決だぞ?」

 

「そんなに下衆オーラ放ってるから主とかは

来たくても来れないんだよ。今までもそうだったん

じゃ無いのか?」

 

「...勝ったらお前を絞める」

 

ピリピリとした雰囲気を流していると、竿が強く

引かれた。重さからして波の魚ではない...。魚影もさっきのよりも一回り以上余裕で大きい。これはもしかして来たんじゃないか?ここで気を弱めてはいけない。

釣竿の先を見つめながら、俺は弱ってきたタイミングで

釣り上げようと試みた。しかしこの魚引きが強すぎる。

簡単に釣れそうにはない...。ただ焦りは禁物だ...。

それと期待をし過ぎてはいけない。相手がバてるのを待つ...生憎と俺の釣針は食らいついたら離れない様な設計だ...。抜け出すのは難しい。少し動きが弱まると俺は持つ力全てを使う勢いで竿を引っ張った。およそ一メートルと二十センチはある様な見た目の鯉だ。隣で男はあほ面して信じられないものを見るように見てきた。

 

「ま、まさか本当に釣るとは...恐るべし主人公補正と

フラグ回収」

 

「メタ発言はお控えください」

 

開始から四十分以上経ち、決着が着いた。まさか一匹目が主だったとは...何が起こるか分からないなぁ...。

 

「迷惑かけたな、帰っていいぞ」

 

釣った鯉を川に逃がし、餌を巻いた。

 

「それじゃあ行くか」

 

荷物をまとめ、呼びかける。

時計を見ると結構いい時間だ。釣った魚の入ったバケツを持ち上げるとやけに重い。

見ると俺が釣った魚の他にも別の魚が入ってた。

ふと顔を上げると男は去っていた。

どんな意図があって譲ったのか分からないが、取り敢えずは貰っておく事にする。

これは店に持って行って塩焼きだ。

 

―――

 

バーベキュー用の食材を取りに行く次いでに釣った魚を塩焼きにしてもらった。歩きながら食べていると祭りに来た気分になる。

借りてきたバーベキューグリルを設置し、木炭を入れて点火させる。すると段々と炭の匂いが漂い始める。

 

「そろそろ焼くか」

 

脂の少ないタンの他に、とうもろこしなどの野菜を乗せる。肉の焼ける音を楽しみながら、俺は鉄板を眺める。

横で櫻井たちが皿や箸を回していたり、魚を食べてたりする。焼き魚を食べながら肉を焼く...至福の時間...!

 

「タン焼けたぞ」

 

「わぁ〜!美味しそうです!」

 

「いい感じに焼けてるね〜」

 

ネギ塩は家にあるやつを用意してきた。

和倉家オリジナル。

 

「んー!美味しい!」

 

「このネギ塩、お店にあるやつを食べてるみたい」

 

見ていると結構好評みたいだ。ただのバーベキュー用の肉とは違うと思ったが、値段以上の質だったらしい。

俺も食べてみたいぜ。取り敢えず俺の分は紙皿の上に乗せておく。落ち着い頃に食べればいい。

 

「翠くん、はい...あーん」

 

『なっ!?』

 

そう思っていたが、椎名が代わりに食べさせてくれるらしい。助かるが、周りは少し驚きすぎではないか?

 

「おぉ、ありがとう......うん。美味い」

 

「それは良かったです!」

 

焼いたの俺だけどね椎名さん。いや美味しいけど。

しかし食べさせてもらえるのは個人的には冷めていない状態で食べられて嬉しいのだが、視線が集まる。特に櫻井の。ジト目と言うのかなんと言うのか...不機嫌そうにこちらを見ているので、少し辛い。

相楽や佐伯もこっちは「良いもの見れたね!」とか「これは写真に撮らないとね」とか不吉な言葉が聞こえる。

 

「和倉君!私からも...あーん」

 

櫻井もか...助かるがそんな二人も要らないぞ...。

ご厚意だから受け取るけど...。しかし周りの目線も増えてきている気がする。

 

「あの若造...女子を数人も侍らすとは怪しからん!

...儂の若い頃はそれはそれは一人の女子に一途に...」

 

「リア充が...滅びろ」

 

恐ろしい声や視線が来るが、櫻井や椎名はそれに構わず食べさせてくる。少しは気にしないのだろうか...。

 

「...野菜も焼けたぞー、次はこの赤身ステーキって

こんなのまで置いているのか...凄いな...」

 

得した気分だ。得が出来るなら越したことは無い。

 

「あと米も美味いな...」

 

焼きながら食べれるおにぎりタイプの白飯も、ご飯の甘みが出ていて美味しい...。これは肉に合う。

 

「この焼肉タレも美味しいよね」

 

少し甘く見ていた...最近のバーベキューは進化しているんだな...。

 

―――

 

「はあ...食った...」

 

殆ど食べさせて貰っていたが、まあ気にする所では無いだろう。途中相楽や佐伯も悪ノリしてきて更に視線が集まったが...。

食い終わった後なのに元気な彼女たちはまた川遊びを始めた。気分は子連れの父親だ。若いっていいな。

同い歳の筈なんだが、体力に差があるらしい。

さっきからこっちに来なよと誘われるが、食休みはさせて欲しい。本来ならはをここで一服したいが、生憎と麦茶しか持ち合わせていない。残念だ。

 

「しかし...暑いな...」

 

テントの中は軽くサウナ状態だ。しかし外は鉄板で焼かれる気分になる。せめて涼しくならないだろうか。

憂いの籠った顔で空を睨む。雲一つない、絶好の行楽日和だった。

 

「俺も水浸りに行きますか...」

 

暑くてどうしようもない。なら身体を一部分でも冷やさないとだろう。打ち水とかもしたい。少しばかり早いが、まあそこら辺はいいだろう。

 

「おぉ...冷たい」

 

外気とは比べ物にならない程川の水は冷たかった。

 

「気持ちいね」

 

「ホントだな...」

 

足を水に浸けているだけでも違うのか...。

隣に来た佐伯と共にただ弛れる。

着替えを持ってこなかったことを何度悔やんだ事か。

まあ、足だけでも充分か...。

 

「ねぇ、今日楽しかった?」

 

「相楽にも言われたな...まあ、楽しかったぞ。

お前らを人質に決闘を申し込まれた時は驚いたが」

 

あんな体験は二度と御免願いたい。

嫌がっている子を無理矢理連れて行こうと考える野郎には負けたくなかった。あの場で逃げれば良かったのかもしれないが...。

 

「でも、立ち向かってい行く君の姿、かっこいいなって

思ったよ。助けてくれてありがとう!」

 

そんな事言われたら、考えるのもやめてしまう。

 

―――

 

あれで良かったのかと思う所もあるが、帰りの電車、お互いに寄りかかりながら、幸せそうな顔して寝ている彼女たちを見ると、それは無粋な考えなのだろうと思う。

誘われた側だけど、彼女たちが楽しければそれで良いのだろう。しかし...俺も疲れた。始めは着替えが無くて水遊び出来ずに暑くて辛いところもあったが、まあ肉は美味かったし魚も美味かったからそれで良いよな。

 

『次は新百合ヶ丘です』

 

十分に満たない区間を、電車に揺らされながら景色を見る。もうじき陽が沈む。

 

―――

 

親に教わった事なのだが、女の子だけだと心許ないから、家まで送るのが男の仕事だと小さい頃から言われた。あんまり鵜呑みにしていないが、もう遅い時間だったので家まで送ることにした。皆最寄りは新百合ヶ丘の駅で、家もそう離れてはいないらしい。

 

「......」

 

「......」

 

最後に残ったのはお互いの家が一番近い櫻井だ。

他の三人はもう送り届けた。家が近いから後回しになったのだが、あまり俺と一緒に居ても気分は良くないのだろうか。さっきから黙っていて気まずい。

 

「あ、あの...和倉君ってさ...」

 

「ん?」

 

櫻井が話かけてきたが、顔を赤くしたまま、視線が定まらない。

 

「どうした?熱でもあるのか?」

 

「ち、違うの!...あのね、和倉君ってさ、上条さんと下

の名前で呼びあってるよね...」

 

「?それがどうしたんだ?」

 

まさかるいがそれで気分を悪くしているのか?確かに学校で名前呼びすると顔を赤くして怒るが...。

 

「あ、あのね...それで何だけど...私も名前で呼んで

欲しいな...なんて...」

 

「?それだけの事か?別にいいぞ、明音」

 

「し、下の名前覚えててくれたんだ...えへへ...」

 

破顔している...何故だ...。

 

「そ、それじゃあ私の家ここだから...じゃね、翠くん!」

 

まあ、機嫌がいいならそれで良いのか...良いのか?



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8話 インドア派のお出かけ

キャラが多い分、話は思い浮かぶんですよね...。
ただ、このキャラ良いなと思った子を贔屓にするので、読者のお目当てのキャラが出なかったり...。
意見を下されば、先の話に採用したり、参考にするよう頑張ります。

8話目、前書きが長くなりました。どうぞ。


ビルに囲まれた駅で降り立つ。

千葉まで行く黄色い電車に乗って降り立つとそこにはスーツ姿の男性やチェック柄やアニメのキャラクターが印刷された服を纏った男性たちが多くいる。

 

「こっちだよ」

 

東雲と姫島に連れられてここ、秋葉原の街を歩く。

何故こうなったのか。

 

―――

 

昨日も同じような回想をした気がするが、まあこれはバーベキューから帰った時の出来事だ。

玄関には見知った靴が二組あった。

まあ、何となく察したが部屋に入ると東雲と姫島が人のベッドの上で寝っ転がりながらゲームをしていた。

 

「...今日はどうした?」

 

こいつら本当に女子高生なのかと思うところがあるのだか、聞いても無駄なだけだろう。

 

「何って...明日秋葉に連れてくから来たんだけど...」

 

「...明日来るので良くないか?」

 

「起こして貰うに決まってるだろ...おっ!

レア素材ゲット」

 

えぇ...こいつらここで泊まる気かよ...。

 

「...どこで寝る気だ?」

 

「「ここ」」

 

「えぇ...」

 

俺のベッドで寝るのかよ...こいつら。

 

「はぁ...飯食ってないだろ?作るから待ってろ

あとベッドは好きに使ってくれ」

 

今日はソファーで寝るか...。

 

―――

 

この子たちの自己管理能力低過ぎないか?と思う。

本当に...こんなんでも可愛い部類に余裕で入ってるのに...。クラスどころか、学年でも人気があるのにこの子達は人の家に上がり込んで...夜道の背中が怖いと何度も思った事だろうか...少しキャラが乱れた。

 

「秋葉に来て何すんの?ゲーセン?」

 

「それも行くけど、まずはパソコンの部品とか、ゲーム

のソフトとか見てからだね」

 

「パソコンの部品...自作PCでも作るのか?」

 

「んいや、HDDを増設しようと思ってね」

 

「なるほどな」

 

街の中を歩く。ちょっとした路地にはパソコンのモニターを売っていたり、本体を売っていたり、何かしらの部品を売っていたりと賑わっていた。流石秋葉...。

 

「この店見てくるから木乃子と一緒にそこら辺見てて」

 

一人で良いのかと思ったが、俺がいてもお荷物になるだけだろうと思いながら、隣のジャンク品フリマに来た。

 

「スピーカーのジャンクか...見た目は問題なさそうだな」

 

「なんだ?お主直せるのか?」

 

「ハードとかパソコンは詳しくないけど、こう言った

ジャンク品直して売ったりしているからな」

 

要らなくなった電子機器あるか探し回ったからな。中には壊れたノートパソコンやらもあった...。

 

「勉強に運動に料理に人間関係とこなした上で更に

機械を弄れるなんて...チート?」

 

「いや、機械に関しては螺子川とか灘の方が優れて

いると思うんだが」

 

「あれは次元が違うだろう...」

 

それもそうだなと納得しながら、ジャンク品のスピーカーと鉄道模型を買った。

 

「ぬ?お主は鉄道関係の趣味もあったのか?」

 

「俺は齧る程度だ。そう言うのが好きな友人が

別の高校にいるんだ」

 

「なるほどな...しかしこの模型は今日乗ってきた奴に

似ているな...」

 

「細かい場所も似ていたりする奴があるそうだ。

俺にはどれも一緒に見えるけどな」

 

「これはハマったら沼に落ちるのか...」

 

それが鉄道模型だとか言ってたな。

まあ、そう言う気持ちもハマった奴しか分からないのだろう。ただ六桁も注ぎ込むと言うのはよく分からない...。ジオラマ作るぞってそんなスペースあるのだろうか。それに労力...手伝ってくれと言われるが。

 

「二人は何を見ているんだ?」

 

「ジャンク品だよ。そっちの様は終わったのか?」

 

「ああ。いい掘り出し物を見つけたのさ」

 

ニヤッとしながら袋を持ち上げる姿は様になっている。

 

「それじゃあ次はゲームショップだな...行くぞ!」

 

俺も掘り出し物あったし、後は彼女たちに振り回されよう...。しかし今日も暑いのにインドア派の二人が元気そうだ。昨日の疲れが残っているのだろうか...。でもまあ、そこら辺は耐えてな...。

 

「......」

 

何かを察しているのか、姫島がなにも言わずこっちを見つめる。退屈しているって思われているのだろうか。

 

―――

 

「このゲームとか懐かしいな...」

 

俺らが産まれる前からあるゲームを見に来た。家にハードはあるけれど、ソフトはそんな無い。そんなゲームを見ている。

 

「このパズルゲーム、スマホの奴でやってたな...」

 

同じ色のスライムの様なものを消すあのゲームも、レトロ風なタッチで掛かれていた。

 

「配管工レース...そう言えばこれも昔からあったなぁ...」

 

今でもパーティーゲームの鉄板だ。父親役は昔から遊んでいたと聞いた。

 

「新しいグラフィックもいいが、偶には趣向を変えて

こういうレトロゲームに手を出すのが楽しいのだよ」

 

「まあ、面白さに新しいも古いも無いからな...

冒険の書が消えた時トラウマを植え付けられたが」

 

「それもレトロゲームの醍醐味だよな...消えたら

消えたでやり直せばいいけどね」

 

そんな感じで時間が過ぎた。空を見上げると陽の光が少し傾き始めていた。時計を見ると一時を表していた。

もうそんな時間か...ゲーム談議が盛り上がったのか。

 

「そろそろ飯にしないか?」

 

「いいけど...どこで食う?」

 

「無難にワックだな...」

 

目的地が決まると、そのまま行動に移す。まあ、ゴールデンウィーク真っ只中の都心だから、混んでそうだが、それはそれで仕方ない。

しかし暑い...軽く眩暈を起こりそうだ。

 

「...お主、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

 

姫島が隣に寄ってきて心配そうにこちらを見る。

まさか姫島に心配される日が来るとは...。

 

「一応...ちょっと疲れてるが」

 

「無理をするでない。昨日も遠慮してソファーで

寝てたのだろう」

 

「バレてたのか...」

 

「喉が渇いてな。降りてみるとお主がソファーから

足をはみ出して寝ているのを見つけた...」

 

原因が君たちだってのは愚問だろう。

 

「歩けるか?ごめんな...部屋から追い出すような事して」

 

「俺の寝方が悪かっただけだから気にすんな...。

それより腹減ったから行こうぜ」

 

腹も減ったがやはりこの暑さは辛いな...。

 

「だ、大丈夫ならいいけど...」

 

一度止めた足を起動し始める。さっきの様な眩暈は形を潜めた様だ。ワックで何食うか。

 

―――

 

食事を終えた後ゲーセンに寄った。エアコンの聞いた店内で涼んだ後(二人は格闘ゲームや音楽ゲームをやっていた)は今日は帰ろうとなった。しかしやけに騒がしい。問題事では無さそうなので、なにか有名な人が居るのだろうか。人混みを割いてそれを見ると、そこに居たのはコスプレをしている女の子だった。その姿にどこか見覚えがある様な気がする...。

 

「あれは戸村か...」

 

姫島が声をもらす。ああ、思い出した。その容姿はどこかのアニメキャラクターの様になっているが、クラスメイトの戸村美知留そっくりだった。

 

「コスプレ...あれは撮影か何か?」

 

「コスプレ大会では無いが、こうして自身のコスプレを

披露する者も居るのだ」

 

「で、美知留は頻繁にそれをしているんだ」

 

なるほど...コスプレか。

 

「翠も興味あるのか?」

 

「無いとは言い切れないが、そんな優れた容姿では

ないしなぁ...」

 

そこら辺に彷徨いている真面目キャラだと中学時代は称されていた。それに比べると彼女は容姿に恵まれ、コスプレも様になっている。

 

「別に翠も容姿はいいと思うんだが...」

 

困った様に、東雲が肩を上げやれやれとした感じでいた。

 

「まあ、長居しても辛いから帰るか」

 

「そうだな」

 

帰り際、こちらに向かって手を振っていた気がするが気の所為だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideout

 

地元に帰っている途中、ボクと木乃子は疲れ果てて寝ている翠を眺めていた。あいつは自分を卑屈に見ているが、実際はかっこいいし、優しいし...。そして周りもそれを理解している。だからライバルも多い。あいつの幼馴染みの上条も、クラスメイトの八束や櫻井も...もしかしたらボクが知らない所でも、誰かの好感度を上げているのだろう...。本当に困ったなぁ...。なんで、こんなのを好きになったんだろうな...。




感想、こんなのどうかな?と言ったお話の意見などお待ちしております。


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9話 休日の聖櫻学園

ストックが切れる頃、私は夏の暑さに屈する事でしょう。9話目、懐かしの作品が出てくるでしょう。


今日はサッカー部が他校との練習試合をするらしい。

相手は確か...尾刈斗高校とか言った東京の学校らしい。

一部人間が喜びそうな名前の学校だな。

 

「尾刈斗高校と戦った相手には呪いがかかっていると

されているらしい」

 

「そんな相手に勝てるのかよ...」

 

隣で観戦している生徒がそんな事を言っていた。

最近の少年サッカーは突然暴風が吹き荒れたり、グラウンドに穴が空いたり、突然巨大な岩が現れたりと訳の分からない事になっている。若倉も「グレネードショット」とか叫び青い気が溜まったボールを蹴り出したりするが。あれは一体どんな原理が働いているんだ?

 

「よっす、和倉...応援に来たのか?」

 

「若倉か...アップはいいのか?相手は余裕そうだが」

 

「あの余裕根刮ぎ奪ってやるさ」

 

八番を背負う彼の言葉は自身で溢れていた。

あれなら大丈夫だろうか。

 

「さて、もう試合だ...行ってくるよ」

 

「おう、頑張れよ」

 

試合もいいけど、グラウンドに入って試合するのも楽しいのだろう。そんな事を思いながら、俺は試合の行く末を見続ける。

 

「和倉君も来てたのね」

 

「篠宮か...生徒会か?」

 

「そんな所よ...相手、強いらしいけど」

 

「そんなの関係ないよ...あいつらは」

 

聖櫻学園は、全国の切符を手にしなくても、県内でベスト四に入る程の実力だ。尾刈斗高校も都内でベスト四。神奈川とは違うかもしれないが、互角に戦える。

なら残りは応援するだけだ。

 

「なら、私たちでしっかり応援しないとね」

 

「そうだな」

 

見渡すと聖櫻学園の生徒、村上先輩や望月先輩、椎名とか明音の姿も見受けられた。

 

「あいつらには、応援する仲間もいるんだ」

 

試合前日、若倉は俺に「今日はみんなで完成させたトリプルブーストを決めるんだ!」と意気込んでいた。トリプルブーストってなんだ。

 

『聖櫻学園VS尾刈斗高校の練習試合が、今

スタートを切りました!』

 

試合が始まった。先攻は聖櫻学園、キャプテンマークを背負った九番が攻める。ここのキャプテンは中学時代は元々帝国学園と言う学校にいて、そこの二軍だったらしい。二軍ってどんなサッカー部なのだろうか。あまり想像がつかない。まあ、そんな考えはいい。今は試合を集中して観戦しないと。

しかし相手のプレイ...こっちのボールをあまり取れていない。いや、わざと取らないでいる。まるで手を抜いているかの様に。こちらの応援席は「おぉ!」となっているが、これはよく見ると手を抜いている様に見える。

随分と舐めた真似する様だ。油断をさせる気なのか、将又相手を挑発しているのか。

そしてボールが若倉に渡ると九番、十一番の背番号の選手が前に出る。直列になった時に若倉が蹴り出し、それに力を加えるかの様に他の二人が蹴りをプラスする。

なるほど、これがトリプルブーストと言う奴か。

 

『おぉっと!聖櫻の新必殺技、トリプルブーストが

炸裂したぁ!』

 

キーパーが止めに入ろうとするが、そのボールはキーパーの横を通り過ぎ、ゴールネットを揺らした。

 

『ゴールッ!!聖櫻先制点!尾刈斗高校から一点を

奪い取ったぁ!!』

 

実況の生徒が興奮した様子で伝える。そこから聖櫻スタンドの熱援が強くなり、ボルテージも高くなる。

しかし相手はどう考えても手を抜いているのだが、誰も気付いていない...。相手の実力を知らない俺からしたら、その手抜きに何かが隠されているようで恐ろしい気分だ。しかし思いの外相手が弱いと思った聖櫻チームの皆が浮かれていた。応援席にいる篠宮でさえもこのプレイに興奮を浮かべている様だ。周りも、普段は落ち着いている村上先輩も喜んでいて、それを望月先輩が逃すもんかと写真を撮り別の意味で興奮している。

なんと言うか、ブレない人だな。

見渡す限り、醒めた様子で試合を眺めているのは俺だけだった。集団心理に呑まれているのか、ただ俺だけが相手の手抜きに気づいているのか。まるで自分がイキっているかの様に思えるが、事実だ。

 

「和倉君...あまり喜んでないみたいだけど...」

 

篠宮が不思議そうにこちらを見る。

 

「いや...相手が手を抜いている様にしか見えなくね」

 

こちら側はどこか、これなら楽勝だと思っている。

証拠は今のシュートと相手の実力と言う偶像。

そんな試合が動いたのは、今だった。

 

『なんと言うか事でしょう!聖櫻、一歩も動い

ていない! 』

 

突如聖櫻学園の生徒の動きが固まった。まるで呪いか催眠術がかけられているかの様に。

そしてそのまま、シュートを決められた。

 

『ご、ゴール!これが尾刈斗の必殺タクティクス

ゴーストロックなのでしょうか!』

 

聖櫻は攻めようとしても、ゴーストロックを使われ、前半を終えた頃には三点も決められてしまった。

 

「これが、尾刈斗高校...」

 

隣で篠宮が驚きの声と、勝てるのか分からないと言った不安の表情を浮かばせていた。

 

「これが隠された力か...思ったよりもやばそうだが...」

 

欠陥が一つも無いなんて事は有り得ない。中学の頃いた帝国学園のキーパーのパワーシールドは近距離の技に弱く、若倉も使えるキラースライドはジャンプされたら意味を成さない。他にもヒーローだって変身中に狙われたら負けるかもしれない。ゴーストロックにも穴があると考えた。あの監督が臭い...。ゴーストロック中、何か唱えている感じがした。

声は良く聞こえなかったが...。

 

「なんだ?まーれまーれまれたまえーとか敵の監督、

頭可笑しいんじゃねぇの?」

 

「それよりもなんでうちは動けなくなってるのよ」

 

まれたまえー?暗示か?

 

「ちょっとあいつらの所に行ってくるわ」

 

「え?うん...分かった」

 

きっとそこに何かが隠れているのだろう。

 

―――

 

「若倉、大丈夫か?」

 

「...トリプルブーストは決まった。でもあの後

一歩も動けなかった...」

 

「大丈夫じゃ無さそうだな。しかしあの監督怪しいな。

急に人が変わったように...。挑発でもされたか?」

 

「あぁ、挨拶する時はなんか見下した感じだった」

 

相手を興奮させ、思考力を低下か...。

 

「これって練習試合でしたっけ...助っ人って有りですか?」

 

「お、おい和倉...お前、何言って...」

 

「鍵を見つける為な。それにサッカーは未経験ではない」

 

「...なにか察している様だな...。分かった。認めよう」

 

『えぇ!?』

 

これは勝つための手段だ。今回限り、少し暴れますか。

 

「和倉はポジション、どこなら行ける?」

 

「キーパー以外なら」

 

「...ならFWに入って下さい!」

 

九番の背番号を背負う一年だ。足が腫れて試合に出れないと悔しそうに口にしていた。

 

「分かった...力不足かもしれないが、トリックを暴いて

くる」

 

気合いは充分...。技なら一応、中学の奴とかと開発した一人用のがある...。

 

『後半に入り聖櫻は助っ人の和倉を入れた!?』

 

『えっ!?和倉君!?』

 

『あの聖櫻の幻想殺し!?何故グラウンドに!?』

 

「素人?僕達に勝てるとでも思ってるのかい?」

 

観客の驚きと相手の見下すような視線...。

 

「そのトリック暴いてやるよ」

 

それは宣戦布告だった。

 

―――

 

前半必殺技とかどんな原理で動いているんだとか言っていたが、俺が使えないとは一言も言っていない。

ただ足を止められれば何も出来ない。

あと呪文はあれか...「まーれまーれまれ止まれ」...止まれ?あぁ、なるほど...自己暗示的な何かか。

なら目を閉じて...「動け動け!...動いてよ!」

どこかのパイロットの様に叫ぶと動ける様になった。

 

『なに!?』

 

観客、敵陣、味方...唖然としていた。俺はその隙をついて敵からボールを奪うと敵陣地に攻め込む。突然の事に立ち直れない相手チームを他所に攻めると、俺は口笛を吹きペンギンを呼ぶ。

 

「行くぜ...皇帝ペンギンX!!」

 

ペンギンを足に咬ませ、俺はボールを蹴る。

相手キーパーの手元が歪んだが、力の暴力でねじ伏せた。そしてボールはゴールネットを揺らした。

 

『な、何ということでしょう!助っ人の和倉が

見た事も無い技でゴールをこじ開けたぁぁ!!』

 

「ど、どうやったんだ...?」

 

「そげぶでもしたのか?」

 

「いや、あの動かなくなるあれ、ただの暗示だ。

止まれ止まれって。思考力の低下したその頭に

ゴーストロックって合図と共に止まるようにって

暗示をぶち込んだだけだ。だから落ち着いて

動けるように自分に暗示を掛けた。俺がやったのは

催眠術を催眠術でねじ伏せただけだ」

 

「た、短期間でそんな頭を回したのか?」

 

「それよりも必殺技の方に注目した方が...?」

 

そんな事もあったが、この助言から流れはこっちのものとなり、その後二点を決めてこっちが勝った。

 

後日談、と言うか今回の落ち。

 

「和倉君!サッカー部入って!君ならエースを狙える!」

 

クラスメイトの早見英子に勧誘されて。

 

「和倉君!試合のインタビュー記事書きたいんだけど

取材させてくれる!?」

 

南條筆頭の新聞部に取材を迫られ

 

「和倉!皇帝ペンギンXを伝授して欲しいんだ!」

 

若倉に教えを頼まれ、俺の周りが騒がしくなった。




今日はオフ会を推奨する日らしいですね。私はボッチなものでして、開催したところで誰も来ませんが...。


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10話 ゴールデンウィークの終わり

この作品、一話毎の平均閲覧数は大体百二十五回くらいだったと思うんですが、新規投稿した魔法先生ネギま!の閲覧数が(投稿準備中の時点で)二百八十位あって、どこかコンテンツの差を感じました十話の節目。


今年のゴールデンウィークも濃いものだった。

バーベキューに行ったら変な釣り人に絡まれ対決することになるし、秋葉に行けば太陽にやられて迷惑かけるし、そして大事をとって休んだ翌日、気分の良さからサッカーの助っ人に出たりして勝利に導いたり何をしているのだろうか。今日くらいは家で休みたい。

 

「しかし、昨日から翠君人気者ね」

 

「あれは目立ちすぎた...バックトルネードにしとく

べきだった」

 

「そう言う問題ではないと思うわ」

 

るいの所は両親が夫婦水入らずで日帰り旅行に出掛けていて、今日は部活が休みなるいと家で過ごしている。

 

「そう言えば図書館で借りた本、読み終わったし返却

しようと思うんだ」

 

「そうなの?なら私も着いていくわ」

 

「分かった。なら着替えて来いよ」

 

取り敢えず玄関までるいを見送ると、俺は部屋で征服に着替えた。休日でも学校に行く時くらいは制服でいないといけない。流石に私服で通えるほど学校は緩くなかった。実際校則もあるが、教師陣も理事会陣もPTA陣も緩く、それでいて荒れない...なんてことは無いが、結局周りも巻き込み良い意味でバカ騒ぎしている。教頭先生は頭を抱えているが、本人も楽しんでいる。それでいいのか聖櫻学園とその周辺。

 

「着替えたし行きましょうか」

 

「そうだな」

 

最近はるいの方も朝練が始まり、一緒に通学する事が少なくなっていた。そんな中、休日に制服で学校に行くのは新鮮な気持ちだ。

 

「こうして歩くのも久しぶりだなぁ」

 

「そうね...」

 

俺らの通学は、あまり会話が弾まないが、そこに気まずさは無く、寧ろ心地よい感じがする。

遠くはない通学路を、時折会話を混ぜて歩く。るいの部活がない日はそんな感じで登校して、途中で人を呼び込む...そんな感じだ。しかし今日は休日、道中歩いている知り合いの姿も無く、俺達は学校に着いた。

 

「一年の最初以来かしら、二人きりで学校に来るの」

 

「あぁ。まだ色々な奴と出会って間もない頃だな」

 

喧嘩をした訳では無いが、思春期特有の気恥しさがるいは強く持っていたらしく、中学時代から関わる事が少なかった。俺が公立高校受験に失敗して、聖櫻に来たのも入学式に知ったと聞いた。その頃にはお互い大人に近付いていたから、気恥しさも気にしない事にしようとなった。別に俺は気恥しさを持っている訳では無いのだが。

ただ...。

 

「べ、別に毎日二人きりで居たいとか、そんなんじゃ

ないんだから、勘違いしないでよね!」

 

気恥しさは消えたけど、顔を赤くして怒る回数が小さい頃より増えた気がする。

 

―――

 

聖櫻学園の構内には他よりも大きめな図書館がある。もはや教室ではない。通学鞄に入れた二冊の本を取り出し、受付に行く。そこには聖櫻学園のミスコンで一位に躍り出た図書委員の村上文緒先輩が居た。本人は人見知り気味で謙虚な人間だ。入学した時から図書館には足を運んでいたのもあり、村上先輩とは知り合いもとい、読書中まである。

 

「村上先輩、本返しに来ました」

 

「あ、和倉君、こんにちは。昨日のサッカーの試合

お疲れ様です。かっこいいなって思いましたよ」

 

挨拶の後に人を褒めに来る村上先輩は流石だなと思う。

 

「いえいえ。俺はただ相手のトリックを暴いただけです」

 

「普通はそう言う事が出来ないと思うんですけど...。

それより、漢文の書物を借りて、一週間で

読めましたか?」

 

「一応は。オマージュの方も読んだことあったので

原作はどんなもんだろうと思っていました」

 

「そうだったんですか...はい、受け取りました。

今日は本を借りていくんですか?」

 

オススメの本がと村上先輩が取り出そうとするが、テストも近付いている事や、バイトもあり断る。

 

「そう言えばもうすぐテストでしたね。和倉君なら

大丈夫だと思うんですが...」

 

「油断しているといつ点数落とすか分かりませんから」

 

「そうですか...今回のテストも頑張って下さいね」

 

「先輩こそ、ここで落として痛い目みたら駄目ですよ」

 

口ではそう言うが、村上先輩は運動神経は無いが成績はとても良い。文系科目に関していえば順位は一桁だ。

文系科目程では無いが、理系科目も出来る。

テストと教え方がそれを語っていると望月先輩が言ってた。流石望月先輩。村上先輩をよく見ているなぁ。

 

―――

 

二階に上がるとるいが席に着き本を読んでいた。

その姿は様になっていると言うか、絵になる。

図書館の中なので写真を撮るわけにもいかないので、これは自分の心の中に残しておこう。

 

「るい、終わったよ」

 

「終わったのね。本は見なくて大丈夫?」

 

「今日は借りる予定無いからね。それよりどこかで

お昼でも食べてから帰る?」

 

「私はどっちでも良いけど、翠君がどうしてもって

言うなら外食でもいいわよ」

 

別に家で食べたいならそう言ってくれればいいのに。

 

「外食は嫌なのね。ならお互い家で食べるか」

 

「え?」

 

「え?」

 

お互いに何故と言う顔をしている。それはこっちの台詞なんだが。

 

「べ、別に外食が嫌な訳じゃなくて...えぇと...っもう!

行くわよ!」

 

え?急に顔赤くして怒って俺を引っ張ってくる。俺何か悪い事でもしたのか?

 

「なんか、気に障るようなこと言ったならごめん」

 

「別に怒ってないわよ!」

 

これ絶対怒ってると思うんだけど。

引っ張られている中、この後どうなるのだろうと思いながら、空を眺めるのであった。それは雲一つ無く、ただ青々としていて助けようとしなかった。空に助けを求めるって変人でしか無いよなぁ。

 

―――

 

近所のファミレスに入るとエアコンの効いた店内が出迎えてくれた。昼時にも関わらず店内は閑古鳥が鳴いている。大丈夫かこのお店。

席まで案内されると、注文をする前に少し雑談をする事にした。

 

「弓道部の方はどんな感じなんだ?」

 

「大会も近づいてきてるし、みんな力を入れているわ。

私も負けられなくてね。県大会とか勝ち進んで

先輩たちにいい所見せたいなって思ってるの」

 

るいは朝練にも積極的に参加し、部活がある日はサボらず参加する真面目な性格で努力家。勉強も怠らずにやるのだから流石である。

 

「大会近いのか...絶対とは言い切れないが、応援に

行こうと思う」

 

「ほ、本当?ちゃんと来ないと承知しないからね!」

 

絶対行けるとは言っていないのだが。

 

「まあ、何か頼むか」

 

メニューを取り出すと、他と違い色々な種類のメニューがあった。パスタもあれば麻婆豆腐もある。材料足りるのか?利益取れるのか?なんて思いながらレビューを見たら夜、酒も出す時間帯が最も盛り上がるらしい。ここはファミレスじゃないのか?居酒屋なのか?

 

「この店、たこ焼きもあるわね...」

 

るいは自身の好物を見つけて嬉しそうにしていた。全てのメニューにお時間かかりますと書いてある。まあ、これだけあれば作り置きも厳しいからなぁ...。

少し迷って麻婆豆腐丼と餃子にした。値段も安くていい感じだった。潰れない限り通おう。

るいはたこ焼きとお好み焼き。曰くこれがコンビ的に良さそうだったからとの事。

 

「そう言えば翠君、昨日のサッカー部の練習試合観て

思ったんだけど、あんな必殺技もあるんだし

サッカー部に入れば良かったんじゃない?」

 

確かに俺は技を持っているが、全国レベルに通じるとは思えないし、出過ぎると仲間外れって事もあるかもしれない。そんな環境ではやりたいとは思えない。まあ、あの部活はレベルがそこそこ高いし無さそうだけど。それに部活やると言うよりも、助っ人として動く方が性に合う。程よくやるのが良い気がする。

 

「器用貧乏だからな。色んな事をやってるのがいいんだ

よ。それにずっとサッカー部ってのも気が滅入る」

 

若倉には悪いけど。

 

「貧乏の基準が他とは違うと思うんだけど」

 

「?気の所為だろう」

 

別に俺は他より勉強できるだけの人間だと思うのだが。

 

「...これ以上言っても駄目そうね...」

 

るいはこれ以上言う事は無かった。何故?

ただこの店、メニューの豊富さより何よりも味が良かった。誰かに紹介する事が決定した瞬間だった。




可愛い幼馴染が欲しいと思った頃には声も変わっていました。現実というものは辛いとです。


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五月編
11話 VS湘北工業の番長


pixivの方に追い付いて来ました11話目、少し...迷走しました...。


ゴールデンウィークも終わり、テストに向けて授業が進む良く晴れた昼時、午前の授業も終え俺は久し振りに一人で過ごしたいと思い人通りが少ない弓道場近くの木陰で弁当のオカズをつつきながら涼んでいた。

そんな時、長身で緑色のスカートを長くし、髪を染めているかの様な風貌の女子生徒が慌てた様子で俺に近づいてきた。

 

「竜ヶ崎か?俺に何か用か?」

 

竜ヶ崎珠里椏、初めはただの不良かと思っていたが、人情深く弱いものを助けようとするイケメンだった。

よく喧嘩の仲裁をやっていたからか、いつの間にか尊敬されていた。俺は頭か何かなのか?

 

「先輩!大変ですよ!湘北工業の番長が先輩に決闘を

申し込むって!今それが不良共の間で広まっるん

すよ!先輩知ってますか!?」

 

湘北工業と言ったら四月中に問題起こしてた奴らの在籍している高校...。何故番長が出しゃばるのか...心当たりはあるが、何故面倒なことをしないとなのか...。

 

「いや、何一つ...。と言うより俺不良じゃないし」

 

「そうなんですか!?でも直々決闘を申し込みに

来ると思うんで気を付けて下さい!あ、いや!

先輩が弱いとは思ってないっす!」

 

面倒だが仕方ない...。面倒見の良い彼女が教えてくれたんだ。答えるのが先輩の義務だな。

 

―――

 

放課後、特に用事もない俺は帰りに商店街に寄ってから夕飯の食材でも買って帰ろうと思っていたが、やけに校門の前が騒がしい。気の弱い人は何だか怯えている感じで、近くに居た男性教師の顔は焦燥に駆られていた。

本当に何事?テロリストでも来たの?

なんて思いながら校門の方を見ると如何にも不良やってますって風貌の男子生徒三人と、その中でも頭一つ大きく、着崩してる学ランの上からでも分かる筋肉をお持ちの男子生徒が近くの生徒に威圧を掛けてる。

あれは生徒会の子?顔が怯えていて今にも泣きそうだ。

まさかアレが番長って呼ばれる男?なんか暗殺拳使いそうな風貌なんだけど、マジで俺に用あるの?

やだよ?殴り合いなんかしたくないよ?

 

「はーい、ちょっと退いてねー」

 

人混みを割いて一つの空間が出来ている場所に出る。

 

「あ?何だお前?」

 

「あ、危ない、ですよ」

 

「今にも泣きそうじゃないか。それに俺なら大丈夫だ。

ほら、他の人も下がって」

 

そう言うとみんな素直に身を引いた。やっぱり自分が可愛いもんな。それにこいつやばそうだし。

 

「何だお前は?雰囲気からして只者じゃ無さそうだが」

 

「雰囲気ってちゃんと使えるんだ」

 

「テメェ!番長になんて口聞くんだ!」

 

「いくら見た目が不良だからってよ!番長は学年首席の

頭をお持ちなんだよ!」

 

マジで?これ勉強出来る不良なの?なんで不良やってんの?他のスポーツとかすれば活躍出来るよね?何で?

 

「番長こいつですよ!聖櫻で女の子にちやほやされて

調子乗ってる奴は!」

 

ちやほやされてるって何だよ?俺は普通に過ごしているだけなんだが。

 

「ほう?こいつが...」

 

「それで...間抜けを鎖に繋いで連れて来て

どうしたんですか?うちの生徒を脅して」

 

『何!?』

 

「ほう?」

 

周りがザワザワしているが、気にする所では無いだろう。血が頭に上り殴りかかりそうになってる手下だが、鎖が取れれば一気に来るだろう。

 

「別にそこの犬共は俺を知ってるんだ。何もせずに

校門の前で待ってるとかしてれば良かったんじゃない

か?ちゃんとそこの犬は鎖で繋いどけよ飼い主さん」

 

「てめぇ...殺す」

 

「お前、番長が殺る前に殺すなよ!」

 

いや、別に負ける気ないし。鎖で繋がれていない言動だなぁ。しっかりしてくれよ...。

 

刃物や銃火器を取り出すわけでもなく、その不良は自分の拳一つで葬りに来た。取り敢えずそれを頬で受け止めると、周りから悲鳴が聞こえた。

 

「なんだ、口だけかよこのざk」

 

言い切る前に手刀を首に入れると糸が切れた操り人形の様に倒れた。

 

「な、何をしたんだテメェ!」

 

「何って...やられたから取り敢えず意識を刈り取った

だけだが...」

 

「くっ、この野郎「待て」番長!でも!」

 

「貴様、名前は?」

 

「和倉だ」

 

「和倉か、舎弟の不祥事済まなかった」

 

番長と呼ばれる男は謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。

下げた?へ?

 

「ただ俺はこいつらに決闘してくれと言われてな

頼みに来た。別に俺は殴り合いは好きじゃないんだが」

 

いや好きじゃ無いのかよ。

 

「決闘と言っても卓球対決ってだけだ。負けてどうする

とか別に考えていない」

 

何故卓球なのか?えぇ...。

 

「あ、兄貴...何言って「元はお前らが変に女の穴を

追いかけてきたらこうなったんだろ」は、はいぃぃ!」

 

「寧ろ女の子の危機を救った和倉こそ男として

評価の高い存在だと思う」

 

あ、あれ?これ褒められてるの?

この番長、どっち側!?

 

「舎弟の不祥事は置いといて、純粋に卓球対決を

しよう。最初はサッカーと思ったが、貴様の試合を

見てこれは勝てないと思ってな」

 

この人サッカー見に来てたのか...気付かなかった。こんなにも濃い人。

 

「ここで出来るのであればやりたいのだが、無理なら

スポーツセンターとかいいと思う」

 

さっきから俺何にも言えていない...。状況に追い付けない...。

 

「ちょ、ちょっと待て!話が見えない...。

俺を殴り殺しに来たんじゃねぇのか!?」

 

「?何故悪い事していないお前を殺さなければ

ならない?確かに口は悪いが、こいつら言動からして

仕方ないとは思っているが」

 

あらやだ、この人普通にいい人だ。

 

「よくゲームセンターに行ってスロットやってるんだ。

番長って台何だが、そこに卓球対決があってな」

 

「り、理由はそこ?」

 

「そうだ。もしかして今日は無理そうか?」

 

「い、いや...大丈夫だが」

 

「そうか...すみません、この中に卓球部の方

いらっしゃいますか?」

 

ちゃんと許可を得に行くとか真面目かよ。

なんで番長...?

 

「は、はい...ど、どうぞお使い下さい!」

 

「見た目はあれだが、そんなに怖がらないで

頂きたい...。少し心に来るんだ...」

 

この人ルックスがコンプレックスに思ってる...?

 

「えぇと、鴫野、この人入れて大丈夫?」

 

「は、はい...見た目はあれですけど、悪い人じゃ

無さそうですし...」

 

「お心遣い感謝する」

 

そんな事があり、番長と気絶していない不良が、気絶した不良を引き摺りながら付いてくる。

 

「そう言えば殴られた所は大丈夫か?」

 

「えぇ...丈夫なので...」

 

この人なんで不良なんかやってるの?

 

―――

 

卓球対決と言っても、やるのは温泉卓球の様なものだ。

お互いに詳しいルールは知らず、授業でやった程度だ。

 

「まあ、七点先取が妥当だろう。サーブは交代で」

 

「じゃあそれでやりますか」

 

番長からのサーブだが、ここで殺しに来ることはなく、普通に玉を送る。特に曲がること無く真っ直ぐ打ってきた玉を打ち返す。ペンラケットを使っているが、テニスの要領でいいのか?

 

「決める...」

 

俺が居る所と逆に打たれ、返しそうと動くと、玉の速度だけ無駄に速く、点を決められてしまった。

 

「まずは一点」

 

慢心する姿も無く、落ち着いた様子でいる様子を見て、この試合は少しキツいと思った。

 

「こっちも負けませんよ」

 

こっちのサーブ、少しキツめに出し、コート端を狙うとこれを打ち返してくる。本当に初心者?

しかしこれはギリギリだったのか、ボールは高く上がった。それをスマッシュで打ち返すと流石にうまく反応出来なかったのか、ラケットに当たるとどこか飛んでいった。しかし当ててきたか...。

 

「俺も番長と呼ばれているんだ。喧嘩好きとは

思えないが、急に現れた奴に遅れを取るわけには

いかない。遠慮も要らぬ」

 

目と目が合うと、そこから火花を散らす様な雰囲気を作り出した。

 

―――

 

後日談、と言うか今回の落ち。

 

お互いに一歩も引かず、時間が過ぎて六対六の、後どちらかが一点を取れば勝ちの状態だった。お互い肩で息をしながら、残った気力で立ちながら、サーブを打つ。そこで同時に力尽きた。しかし俺のサーブは相手のコートを跳ね、そのまま俺の勝ちが決まった。もう立てない...。

 

そこから息を取り戻した俺らは良き友として、携帯のアドレスを交換した。

 

「しかし先輩、白熱した戦い...凄かったっす!」

 

「もう二度と体験したくないな...」

 

竜ヶ崎は興奮した様だったが、俺としてはもう懲り懲りだ。しばらくは卓球やりたくない。




番長さんは今後もたまに現れます。


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12話 つまり、イベント事はすぐ近くにある

キャラが多い分、いまいち特徴を掴み辛いです。
12話目、どうぞ。


「校内放送に出演して欲しい?」

 

番長騒動があった翌日の放課後、俺は明音から放送室に来る様に伝えられた。因みに今週のバイトは店内改装で休みだ。手元にあった手書きの資料を見ると、有名なラジオ番組の様にコメンテイターやゲストを置き、届けられたお便りなどを読んだり、こちら側からラジオの特設コーナー的なのを作るらしい。

 

「うん!男子の中で一番と言っていい程有名な

翠くんに是非主演して欲しいなって。

人気の様だったらシリーズ化して...今回はお試しって

事で...どうかな?」

 

「別に俺は構わないけど...」

 

折角明音が考えた案なのだから、協力してやるのが友達として出来る事だろう。

 

「本当!?なら貼り紙して、お便り集めて...ゲストも...」

 

「やけに張り切ってるな」

 

「そりゃそうだよ!折角やってくれるんだし、

自身のある企画だし張り切るよ!」

 

まあ、これは基本向こうに任せていいか。

 

「因みに放送日はいつ?」

 

「木曜日だよ!」

 

「いきなりだな...。今日は火曜日だぞ?」

 

思い立ったら吉日と言うものなのか...。

やる気の炎に包まれている彼女を見ると、俺は何も言えない。

 

「やりたいコーナーとかあれば、どしどし言ってね!」

 

―――

 

家に帰ると本やネットで面白そうな企画が無いか探してみた。

 

「お便りコーナーの様なものはあるし...」

 

なんて探していると、イントロクイズや生放送中に送られてきた相談メールに答えたりと無難であるが、人気の物があった。

 

「こんな感じで良いかな?」

 

Wordで資料を作り終えると、それを必要数印刷し、告知用の貼り紙などを軽く作ると取り敢えず、明日には出せる様に作り終えた。

 

「終わったかー?」

 

当然かの様に居座る東雲と姫島。今日も飯を集りに来たそうだ。

 

「...タケノコの里と烏龍茶でも出すか...」

 

「「ごめんなさいまともなものをお恵みください」」

 

「...あんま物ねぇから買い物手伝ってくれ」

 

取り敢えず財布と携帯を持ち、家を出ると丁度隣の家からるいが出てきた。

 

「翠くん?それに東雲さんと姫島さん...。

翠くんに夕飯作って貰いに来たの?」

 

それに二人は元気良く頷く。おい、少しは自炊しろ。

 

「...これから買い物?」

 

「あぁ。この人数分の食材は無いし。メニューは

特売とか見ながら決めようかと...」

 

資料作りは思いの外早く終わった為まだ六時前だ。商店街やスーパーが丁度混み始める時間だが、まあ仕方ない...。

 

「な、なら私も行って上げても良いわよ!」

 

「「出た、ツンデレ乙」」

 

「?そんな分けないだろう。好意がある訳じゃあるまいし」

 

「「「...はぁ...」」」

 

三人に溜息吐かれた...えぇ?

 

「今どき鈍感系主人公は流行らないぞー」

 

「マンネリ化してるしなー」

 

「何言ってるの?」

 

こいつらどうしたのか?と思いながら商店街に向かう。

 

―――

 

夕暮れと言うのもあり、商店街は明かりで照らされ、通りからは活気良い声と献立を考える主婦や家族の声が響く。歩いていると柱に『商店街主催のイベント開催!』とチラシが貼ってあった。

 

「へぇ...イベントやるのか...」

 

「そうみたいだな。ボクには関係無いけど」

 

開催は今週の土日らしい。土日は店全体の商品、サービスが安くなる代わりに混みそうだ...。

 

「あれ?和倉先輩たちじゃないですか!」

 

「先輩、こんばんは~」

 

「葉月と朝比奈か、こんばんは」

 

葉月柚子...葉月庵と言う蕎麦屋の一人娘だ。

そして朝比奈桃子...。にゅーろんのメンバー...風町の後輩に当たる人物で基本用は無いが、酒屋の娘...。

そしてこの二人は幼馴染みと言った関係らしい。

 

「そうだ!先輩土日お暇ですか?」

 

「ん?まあ...軽く運動して勉強して本読む位しか

やる事ないな...今の所」

 

「良かった!なら、商店街主催のイベントで見回り

お願い出来ますか?」

 

「買い物する時間があるなら...」

 

「大丈夫ですよ、ならお願いできますか?」

 

まあ、家で時間を無駄にするよりは有意義だろう。

恐らくこの地域から人が集まって混乱するし...。

 

「参加させてもらうよ」

 

折角のイベントなんだ。楽しむだけで得だ。

 

「それじゃあ、俺らは買い物に戻るから」

 

「足止めしてごめんなさい。それじゃあまた後日」

 

二人と別れると、商店街の中心にあるスーパーに着いた。確かにここには八百屋や惣菜屋などが充実して、スーパー要らずかもしれないが、専門店と比べ品揃えは良く、時期関係なく食品が並んだり、タイムセールがあったりとメリットも大きい。

 

「牛肉とか、エリンギとかが特売だって。冷蔵庫の

中に余ってる食材とかは?」

 

「確か...白菜とか白滝とか卵とか...だったはず」

 

「ならすき焼きとかどうかな?」

 

「すき焼きだと...?」

 

「それいいな!」

 

反論は無さそうだし、牛肉も安いしいいかもな。

 

「...エリンギのすき焼きって美味しいと思う?」

 

ふと疑問に思った。某なめこのDVDを観ていたらそんなシーンがあった気がする...。

 

「試してみたらどうだ?」

 

「まあ...試すか...」

 

キノコ(の山)好きな姫島が言うのだ。試す価値はありそうだ。まあ、不味いとは思わないが。美味しいかも分からない...。

 

「どれ位買うの?」

 

「まあ、三、四パック位買って余ったら他で使おうかな

と思ってる」

 

余ったら牛丼にしても問題無さそうだ。

 

「やっぱり自炊出来た方が良いのか?」

 

「いつも面倒と言ってる東雲の口からその言葉を

聞くとは...まあ、できるに越したことはない。

それに食品の選びとかに寄るが出前やコンビニ飯より

安上がりだったりもして、他に金を回せる」

 

オーブンとかの設備が充実してる我が家は、出前でピザ頼むより、作った方が安い。スーパーで売ってるチンして食えるピザと比較されると、悩ましいが...それよりは美味しい物ができる。

 

「何だったら暇な時に料理教えるぞ」

 

「...気が向いたら」

 

まあ、そんな暇あるならゲームやるとかだもんな...。

 

「まあ、ある意味料理は作業ゲーム。焼き加減、時間

とかミスったら点数の下がるな。そして経験値を

溜めてスキルを磨く」

 

「確かに考え方変えたらゲーム気分ね」

 

るいも納得のご様子。自分で言って思ったが言い得て妙だ。実際にそういうゲームもあるし。

 

「気が向いたなら聞きに来い。バイトと予定が重なら

無ければ教えるから」

 

「約束だぞ?」

 

「なら聖櫻が誇るゲーマーの私も参加するとしますか」

 

...やる気があるな良いけど、ゲームって言葉に惹かれたわけでは無いと信じたい。自炊が出来た方が良いと思っている事を願ってる。お願いだから。

 

「私も手伝いたいけど、部活が重なるし...」

 

「大会近いもんな。応援はバイト無ければ行くけど

見に行かなくてもるいなら勝てそうだな」

 

まあ、試験より練習に打ち込もうとする位だ。勿論止めたが、テスト終わるとすぐに練習を始める。

まあ、真面目なるいらしいが。

 

「確か日曜にあったはずよ」

 

「なら行けるわ。今週は店内改装で有給消化みたいな

もんだし...俺の場合」

 

店長にこの機会と言うのもあり有給消化させられている。働きすぎだと気にするのは良いが、原材料で三番目に珈琲と来る様な甘い珈琲は胃に来るからやめて頂きたい。缶コーヒーじゃなくて、カフェ珈琲を与えて欲しかった。なんて思いながら、籠に入れた食材を会計する。

 

―――

 

「...エリンギのすき焼き、案外いけるな」

 

「確かに...普通に美味しい...」

 

全員が同じ事を思いながら、エリンギの入ったすき焼きを食べるのだった。エリンギさん万能過ぎや。




いつも最寄り駅と自宅までの行き帰りは自転車なんですが、今日は風が強く煽られていました。台風が通過する地域の皆さんはお気を付け下さいを


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13話 聖櫻ラジオ(※)

台本形式でお送りします。


翠「和倉翠と」

 

明音「櫻井明音の」

 

『聖櫻ラジオ!』

 

翠「始まりました聖櫻ラジオ、司会進行役は定期的にやるか未だ不透明だと思っている和倉翠と」

 

明音「続いたら面白そうだな、と思っている櫻井明音です!」

 

翠「しかし火曜日に突然主演して欲しいって言われたから驚きました。この企画なんでもゲストとか呼んだりして実際のラジオの様に振る舞うらしいですよ?今日はゲストの姿見当たりませんが」

 

明音「まあ、今日は初回という事で...ゲスト無し、二人でお送りまーす!」

 

翠「まあ、オーブニングトークもこれ位にして、早速

お便りのコーナーと行きましょう!」

 

明音「今回は事前にお便り集めました!では翠くん読んで」

 

翠「どれどれ...最初のお便りはPN二年C組サッカー男子さんです。お便りありがとう。

『僕の友達はいつも可愛い女の子に囲まれて羨ましいだけでなく、頭も良く運動もできて最早チートだと思います。そのうち異能力を打ち消す右手を手にしそう何ですがどうしましょう』その友達は一体何者なんですかねぇ...」

 

明音「(多分翠くんの事だろうけど)まあ、創作とか読んでるとよく見かけるご都合主義の権化だよね」

 

翠「あー、作者の身の丈に合わない主人公とかも居るよね!この作者とかがそれに当てはまるからね」

 

明音「まあ、二年C組のサッカー男子さんは取り敢えず現実を受け止めて嫉妬し過ぎちゃだめですよ」

 

翠「続いてのお便りです。PNはやみんさんから。お便りありがとう!『私はバンドを組んでいて、音楽を作ったりしているんですが、最近スランプ気味でいいものが思い浮かびません。何か良いアイディアはありませんか?』」

 

明音「スランプに陥ると何にも思いつかないで、更に焦って考えられなくなっちゃうもんね」

 

翠「折角バンドを組んでいるんだ。自分一人で悩まずやっぱり仲間に手伝ってもらう事も必要だと俺は思うな。もしかしたら、それで色んな意見が出て、そのバンドのメンバーの個性が溢れる曲が出来ると思うよ」

 

明音「確かに一人だと限界が来ちゃうからね...いい事言うねぇ」

 

翠「まあな。だから一人で悩まないで身近な仲間に相談から始めよう」

 

明音「お便りは期間も短かったからこれ位しか無かったんだよね。次のコーナー行く?」

 

翠「イントロは作品が小説だから無しになったんだっけ」

 

明音「少しメタい話だけどそうだよ...って事でリアルタイムメッセージのコーナー!」

 

翠「このコーナーは聖櫻学園の皆さんが利用するアプリ『ひとこと』にてハッシュタグ『聖櫻ラジオ』と着いたコメントを読んでいくコーナーです!」

 

明音「じゃあ探してみるね...っとこのメッセージは全て匿名で読ませていただきます。『和倉さん、櫻井さんラジオ楽しんで聴いています!』ありがとうね!」

 

翠「初回放送だけど好評だな...『聖櫻のイキリオタク!』『聖櫻の上条当麻!』『リア充は処す!』誰がイキリだ、誰が鈍感系主人公か...俺はリア充じゃねぇ!」

 

明音「うーん...事実な気がするんだけど...まあいっか。

『和倉君来週の土曜日バレー部の助っ人に来て!』だって翠くん」

 

翠「申し訳ないがその日はバイトなんだ。結構ハッシュタグついてる投稿多いな...『Excelがあれば何でもパパッと出来るんですよ!』なんかバイト先でも似たような人居たなぁ...『番長と拳を交えた感想を!』まず拳を交えてないから」

 

明音「そう言えば聞いてなかったけど、あの後どうしたの?」

 

翠「物凄く接戦だった卓球の試合を終えたらライバルになった」

 

明音「流石翠くん!どんな相手だろうと負けないもんね!」

 

翠「あれは負けるかもしれないと覚悟した...いや、負けても特になにかされる訳でも無いのだが」

 

明音「...どんな感じで勝負がついたの?」

 

翠「お互い満身創痍で、身体が震えて、俺がサーブ

打つとお互い倒れて...サーブが相手コートに入って

何とか勝てた。サーブ権が向こうだったら負けていた激しい試合だったんだ...」

 

明音「そんなに激しい試合だったんだ...」

 

翠「うん。...次読むぞ、『モテる秘訣を伝授して!』

俺はモテているの?そんな気はしないのだが...まあ、強いて言うなら変に格好付けないでありのまま過ごす事じゃないかな?よく分からないけど」

 

明音「まあ翠くんのあれは無意識の素だからね...あまり参考にならないと思うな...。じゃあ次行くね。

『翠くんって設定ではそこそこ運動と勉強が出来るって書いてあるのになんで秀才で運動神経抜群なの?』」

 

翠「作者曰く「気付いていたら筆が進んでいました。今更訂正も出来ません」だそうです」

 

明音「しかし色々メタいなぁ...大丈夫かな?」

 

翠「まあ、創作だし...版権様に迷惑が行かなければ大丈夫かと...でも運動神経抜群かと聞かれたらそうでも無いんだよな...」

 

明音「え?でもあのサッカーは...」

 

翠「あれは普通のサッカーと言うよりは、超次元的な技を放つ奴だから...普通のサッカーやるとそうでもないよ...。それに鈍足でも俊足でも無く、卓球だってあれお互い根気と力技のぶつかり合いだし...力があると運動神経抜群は決してイコールでは無いんだよね」

 

明音「それもそうだね...。次は...『作者って成績は中の上から中の中位だったのに秀才設定書けるの?』」

 

翠「作者がそこで「生まれてきてすいません」って言い始めたんだけど...まあ、身の丈に合うかと言われるとノーとしか答えられないなぁ。公立受験失敗したけど、私立高校行ってこんな青春送りたかったとか、これだけ頭が良かったらなって言う作者の願望と妄想が詰まった作品だから...。作者の周りは華が無いらしいし...」

 

明音「烏合の衆に埋もれているとは聞いたけど...これ以上掘っても仕方ないから...っとそろそろ時間か...それじゃあ一曲流して今日は締めようか!」

 

翠「そうだな...」

 

明音「それじゃあお送りします曲はPN『キノコ』さんのリクエストで『Daydream Cafe』です」

 

翠「心がぴょんぴょんしそうですね」

 

―著作権の都合上表示されません―

 

翠「心もぴょんぴょんした所でエンディングトークと行きましょう。初のラジオ番組でしたけど続くんですかね?」

 

明音「それはリスナーの皆様次第かな。次回を希望してくれる人も居るなら続けていきたいな」

 

翠「まあ、取り敢えずコメント欄とかでリスナーさんのお便りとか待ってます」

 

明音「続きは作者と読者次第と言うことで...って事で締めようと思います」

 

翠「今後会う事があればまた、スピーカー越しに会いましょう!」

 

明音「続くかは今後次第!」

 

―――

 

生放送を終えると、俺は緊張して固まっていた体の筋肉を伸ばして解していた。

 

「翠くんお疲れ様」

 

ペットボトルのお茶を明音が差し入れで持ってきてくれた。丁度喉が乾いていたからとてもありがたい。

 

「差し入れありがとう。明音もお疲れ」

 

今回のラジオ、成功したか判断するのは第三者...。

続くならば俺らはマイクの前で座り、マンネリ化しないように頑張るだけだ...。まあ、少しは楽しかったし、画面越しで皆の気持ちがしれたし...教室で盛り上がっていれば良いなと思いながら、俺は喉を潤した。

 




聖櫻ラジオは続くか未定です。


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14話 聖櫻商店街物語 前編

前後編で分ける予定です。久し振りにガルフレを再開した(アカウントを忘れていて、思い出した)時辺りのイベントがこれで、4000位以内を目指して頑張りました(駄目でしたが)


週末、商店街の一角にある広場で開会宣言が行われた。壇上には学校の後輩であり葉月庵の看板娘葉月柚子が立ち、祭りを盛り上げようと躍起になっている。広場には老若男女が集まり、様々な思いを胸にそれを聞いていた。開会前、舞台裏で緊張していた葉月だが、今舞台を見る限りは全然大丈夫そうだ。表情も声も柔らかい。

俺はそれを持っていたカメラに収めると、見回りの腕章を付けて、開会宣言の終わった会場を後にした。

 

―――

 

「ほら!下僕急ぎますわよ!」

 

「ちょっ!?引っ張るな!?」

 

聖櫻で見かけた気がする男女を見ながら、注意するべきかと思ったが、それを見守っていた黒いスーツの人が

「迷惑にならないように見張っているのでご安心ください」と言っていたのでそちらに任せよう。商店街はイベントと言うのもあり、祭り好きな人や雰囲気を楽しみに来た人、セールに惹かれて来た人、家族連れなどで賑わっていた。五月に入り気温が上がってきていて、アーケードの中は少々暑かった。それもあり冷たいお団子や抹茶などの売れ筋が良かった。

 

「開会の挨拶緊張しましたよ...」

 

葉月がほっとした顔で答えると、彼女の幼馴染みの朝比奈が、葉月を労わっていた。しかし歩いていると怒号が響いた。何事かと思い現場に向かうと葉月と朝比奈の親父さんが我が校の教頭、藤堂静子先生をどちらの店に招くか言い争っていた。

 

「静子ちゃんはうちに来るんだよ!」

 

「そこのお父さん方、他の人の迷惑になるので喧嘩は

控えてください」

 

「坊主!うちの酒屋と奴の蕎麦屋、静子ちゃんはどっち

でお茶していくべきだと思うか?勿論俺の所だよな!」

 

「坊主!そいつの言う事は信じちゃいけねぇ!静子

ちゃんはうちに来るべきなんだ!」

 

ダメだこの人たち話を全く聞いちゃいねぇ...。

 

「...皆さん、お騒がせしてすみません」

 

「藤堂先生ですか...」

 

「でも何で藤堂先生をお父さんたちが取り合ってるの?」

 

葉月の疑問はここに居る高校生組が思っている事だった。確かに何故そこで、しかも怒号を撒いてまで取り合う必要があったのか。

 

「俺達の時代の聖櫻マドンナつったら静子ちゃん

だったんだよ」

 

まあ、今でもお綺麗でいらっしゃるし、そうなのだろうか。これは将来村上先輩や椎名が苦労しそうだな...。

 

「まあ、そんな事もあったかもしれませんね...」

 

「でも周りに迷惑かけて取り合う事とは違いますよ」

 

「坊主分かってねぇな、そうだ!静子ちゃんうちに

来れば蕎麦つけるぜ!これは貰ったなぁ!」

 

「何をぅ!ならうちは日本酒だ!いいのそろってるぜ!」

 

全く...本当に分かってないのはこの人達だっての...。側であんたらの娘たちも慌ててる...。

 

「分かってねぇのはあんたらだ」

 

「な、何だと!?坊主!」

 

「俺たちが分かってないだと!?何をだ!」

 

愛娘の前で醜態を晒し、愛娘たちの学校の先生をナンパ。まだここは不問にするとしても...。

 

「確かにあんたらの時代の聖櫻マドンナは藤堂先生かも

しれないが、あんたらが射止めた、あんたらにとって

のマドンナは藤堂先生か?」

 

『!?』

 

「あんたらの醜態、奥さんに見せられるか?」

 

「...その通りだぜ坊主...。俺は見失っていたぜ...」

 

「俺にとってのマドンナは...嫁さんの事だって事を...」

 

「坊主!俺はあいつを悲しませる所だったぜ!ありがとよ!」

 

「俺だって、あの時のミスコンで見に行ってたのは嫁だ!」

 

『俺にとってのマドンナはあいつだ!』

 

『あんたら店の前で何恥ずかしい事叫んでるのよ!』

 

『す、すまん...』

 

ま、まあ一件落着と言った所だろうか...。

 

「和倉先輩、お父さんたちの喧嘩を止めてくれてあり

がとうございました!」

 

「和倉先輩が止めてくれなかったら大変な事になってた

と思います!」

 

「まあ、仕事だしな...俺は職務を果たしただけだし...。

それよりもお前らの親父さんに人の話は聞くように

言ってくれ。話が通じないのはどうしようもない」

 

揉め事は解決したし、また巡回を始めるだけだ。

 

「じゃあ見回り続けるから」

 

「頑張って下さいね」

 

何事も人に迷惑をかけなければ問題ない。だがこう言う祭り会場は人々に熱狂を与えるだけでなく、危機管理能力を奪い取っていく。つまり正常な判断が出来ず、雰囲気に飲み込まれ羽目を外すのだ。祭りと言う麻薬を打たれた若者は、イベントに飢え、満たされると問題を起こす...薬物中毒者よりもタチが悪い気がしてきた。打つだけなら犯罪にはならないしな。そして歩いていると...お祭り中毒者が通りのど真ん中で喧嘩を始めた。

 

「あんたら、ここでの喧嘩は御法度だ。他所でやれ」

 

「な、何を...!?あんたは番長を倒した和倉か!?」

 

「な、何だと!?」

 

え?何これ?喧嘩は収まったが、俺の名を聞くと一同石像になった。俺はメデューサじゃねぇ。

 

『すみませんでしたぁ!!』

 

「あ、ああ。喧嘩するなとは言わんが人目につかない

場所でやってくれ。ここは子供や貴婦人の目がある」

 

現に小さい女の子が泣き出しそうだ。

 

「...撤収だ!このケリ今度付けるぜ柿生高!」

 

「湘北工の番長が鈍ってるうちはこっちの勝ちだぜ!」

 

他でやり合うわけでもなく、解散していった。喧嘩しないに越した事は無いが、これで良いのかあんたら。

 

「お兄ちゃんありがとー!」

 

女の子が俺の所に来るとお礼をしてくる。

 

「大した事はして無いよ。俺は仕事してるだけだからな」

 

「お父さんとはおーちがいー!」

 

お父さん...。せめて主夫である事を願おう。本当に仕事してないわけでは無いだろうし。

しかし、いくら祭りだからって…喧嘩は流石にないと思うんだ...普通は楽しみに来てるんだから...因縁の対決とか普通しねぇだろ。しかしここら辺の高校荒れ過ぎな気がするんだけど...治安大丈夫なのか?

 

「道聞いてもいいかしら?」

 

「どちらまで?」

 

「ステージのある広場がよく分からなくて...」

 

「それでしたらこの先のうどん屋さんの所から伸びる

道を進み頂けたらありますよ」

 

「ありがとうね」

 

普通は道を聞いたり、迷子の子の親を探したりだよなぁ...。

 

―――

 

陽が頭上にある頃、休憩の時間を貰えたので和菓子屋さんで一服していた。店主曰く、今日は五月にしては暑いという事もあり、冷やし団子とお抹茶が飛ぶように売れて、繁盛しているらしい。

 

「花香里さんの息子も頑張ってるし、三本おまけと

タダで配ってる草餅だ」

 

「親父さん太っ腹ですね、ありがとうございます」

 

団子屋の親父さんの奥さんと、うちの母親は高校の同級生と言う事もあり中が良いのだ。ゴールデンウィークも休み無しに働く両親なので、あまり会えていないらしいが。てかうちの両親、いくら仕事好きだからっていい加減休んでくれよ...。有休いくつ溜まってるのだろう...。有休あったら、それ使って仕事するくらいだし...。休んでくれ、そんな息子の顔が見たくないのか?

 

「花香里は昔から仕事好きだからねぇ。生徒会長やって

色々仕事を持ち込んで学校を盛り上げたのも花香里

だったのよ」

 

校内全体のケイドロも、七夕の祭りも、冷涼祭も母親の提案だ。とにかく盛り上げる、仕事をするってのが大好きな人だからなぁ...。父親は趣味がゴルフでもランニングでもなく仕事だし...。二人は何故結婚したのか...いや、出来たのか...不思議に感じた、昼下りだった...。




この作品の謎

『未登場の主人公の両親、主人公は両親の飯を作らないどころか、作中会話も無し』

書いてた途中で気付きました...。まあ、多分これからも殆ど出ませんが...。


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15話 聖櫻商店街物語 後編

後編です。


二日目、朝に打ち合わせを終えると、昨日の様に見回りを兼ねてぶらぶらしていた。子供が集っている場所を見つけて、近付いて見ると...確かくちびるおばけと言うゆるキャラなのだろうか...それが子供と戯れていた。そしてそれを眺める高校生が...あれは鴫野か。

 

「どうしたんだ、混ざりたいのか?」

 

「わぁ!?わ、和倉先輩!?」

 

「驚き過ぎだぞ...それでどうしたんだ?」

 

「い、いえ!な、何でもないです!」

 

どこか羨ましそうに、子供を見ているが、まさかあのゆるキャラと混ざりたいのか?

 

「...あれと写真撮ってやろうか?」

 

「いいんでsじゃなくてべ、別に大丈夫ですよ!」

 

本音が漏れているぞ鴫野よ...。

 

「遠慮はいらないから、それに誰かに言いつけようとかしないから」

 

「...そ、それなら...仕方なくですが、お言葉に甘えさせて貰います...」

 

素直じゃ無いなぁ...普通に可愛い...と言っていいのかは分からないが、趣味を持ってるんだから...恥ずかしがる必要は無いと思う...。

 

「撮るぞー」

 

ちゃっかり抱き着いてるし...中の人が少し慌てている様に感じる。そりゃそうだ。中々の容姿を持っている鴫野に抱き着かれているんだ。と言う事は中の人はそう言うのに慣れてない男だろう。心做しか、少し離れた神楽坂先輩がドスの効いた睨みを決めている様に見えるが、まさか鴫野をネタに新聞でも書くのか?まあいいか。持っていたカメラで撮り終わると、鴫野に見せた。

 

「おぉ...デジカメやスマホのカメラと全然違う...」

 

驚く所はそっちか?まあ、口に出してないだけで嬉しそうにしているが。

 

「じゃあ、今度データ送るよ」

 

「ありがとうございます!」

 

二日目は騒がしさは残るものの、目立った騒動は見当たらないな...平和で良いが、これが壊れるとなると面倒だ。

 

「お兄ちゃんお疲れさま!これそこで配ってるジュース!」

 

「お、少年気が利くなぁ。ありがとうな」

 

「がんばってね!」

 

そこのお店の子か知らないけど、フルーツジュースの差し入れだった。今日も暑いしこう言うのは有難い。

 

「あ、先輩!ちょっと良いですか?」

 

「えっと、芙来田だったか。何かあったのか?」

 

「実は...おじいちゃんが張り切り過ぎちゃって...腰を...」

 

ぎっくり腰か...一度なった事あるけど、もうなった日は立てないんだよなぁ...。

 

「店の手伝いした方が良いか?」

 

「はい...牛乳の配達があって...私が店番をやる代わりに手伝って貰えませんか?」

 

「あぁ...力仕事は男の役目だしな...手伝うよ」

 

「本当ですか!?それじゃあ、そこの物をお願いします。重いので気を付けて下さい!」

 

まあ、牛乳瓶が空瓶じゃないからな。一気に持つ事は出来ないだろう...孫の前で調子こいて全部持とうとしたらやってしまったあれだろう...。ぎっくり腰は重いもの持ったり、普段の何気ない動作で起きるって聞くし。

 

「よっと...重いな...」

 

芙来田がいつもこれを持っていると考えると、強いなぁと思う。女は強しなのか...。違うな。

 

「...運ぶか」

 

遠くでカップルらしき二人組が、キャッキャと騒がしかった。

 

―――

 

「お疲れ様です。先輩は確かコーヒー牛乳がお好きでしたよね。良かったらどうぞ」

 

「ありがとう。しかし暑いと作業が辛いねぇ...」

 

暑い中、疲れが溜まったまま歩いていると、秋葉原に行った時みたいに立ちくらみを起こしてしまう。やはり休憩は重要だな...。

 

「いつもやってるんだろ、大変だな」

 

「いえいえ、もう慣れましたからー」

 

...それは強いなぁ、慣れは怖いねぇ...。

 

「あ、お祭り終わった後にここを貸し切り、温泉で疲れを取ろうと思うんですけど、先輩もいかがですか?」

 

「お、いいねぇ。俺も参加させてもらうよ」

 

「それじゃあ、お祭りが終わった後にこちらで!」

 

「ほいほい。それじゃあ見回り戻るわ。コーヒー牛乳ありがとな」

 

「お気を付けてー」

 

一応、昨日トラブルメーカーには脅しを効かせたから、大丈夫だと確信していたが、本当に問題は無かった。真島のおっちゃんと桐生の兄ちゃんが対峙していた時は驚いたが、祭り会場を廡下にするのは気が引けるとの事で、街の平和は保たれた。だから頭文字ヤの職業の人なのかカタギ?なのか知らないがぶっ飛ばしてしまえと言う視線はやめてくれ。この人達一般人相手に危害加える所か滅茶苦茶良い人だから。それよりも俺じゃ勝てないから。

 

「さっきの怖そうな人、何だったんですか」

 

「...きっと別次元の人だろう」

 

「は、はあ...それじゃあ閉会式行ってきます」

 

「おう」

 

一悶着はあったが、祭りは無事に終わりそうだ。閉会式に足を運ばず、一足先に帰路に戻る人混みに逆らい、歩く。

 

「あ、和倉君...こんにちは」

 

「村上先輩?どうしたんですか」

 

「いえ、見かけたものでして...」

 

精肉店の前に設置してある仮設テントの下でエプロンを着ていた村上先輩と...お姉さん?

 

「あら?貴方が文緒の言っている和倉君?」

 

「村上先輩が本当に話しているなら多分私ですが...」

 

「あら、やっぱり!私は文緒の母の文乃です」

 

お母様でしたか...少々若く見られますが...でも雰囲気が姉って感じじゃない。大人の余裕と言うのだろうか、この人はそれを持ち、恐らくだが会話の苦手な村上先輩を揶揄うだろう。

 

「どうも、ご存知かと思われますが村上先輩の後輩の和倉翠です」

 

「翠君って言うのねー。で、文緒との関係は?」

 

「ちょっとお母さん!?」

 

「いえ、校内の図書館で知り合った先輩後輩ですよ」

 

友達とは違うし、同士って言うのもおかしいし...。

 

「文緒ってばいつも貴方の事話しているのよ、この間なんか「お、お母さん!だ、ダメ!」あらあら、慌てちゃって」

 

村上先輩の口から後輩である俺の事が出るなんて、後輩冥利だなぁ...。

 

「そうでしたか。所で今何か売ってるんですか?」

 

「ええ、牛丼を売っているのよ」

 

牛丼か...そう言えばまだ昼飯食ってなかったなぁ...。

 

「それじゃあお一つ貰えます?」

 

「大丈夫よー、それじゃあ文緒、よそって上げて」

 

「うん」

 

しかし村上先輩はエプロン似合いますねぇ...男が着けると違和感しか無いから俺はあまり人前で着けたくないのだが。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

牛丼はシンプルに美味かった。流石精肉店のお肉だ。下手なお店のものよりも断然こっちの方が良い。

 

「そろそろ閉会の時間なので、食べたら戻りますね」

 

「もうそんな時間なのね...二日間が早く感じたわ」

 

「この二日間は大変でしたけど、とても楽しく感じました」

 

「それなら良かったです...それじゃあ」

 

「食べるの早いわね、流石男の子って所かしら」

 

「まあ、この位の量ですしね...ご馳走です。村上先輩方それでは失礼します...」

 

閉会式までは五分位だろうか、カメラの電池も一応はあるし、撮れるかな...。

 

「あ、いいカメラあるじゃない、私達も撮ってくれない?」

 

「お、お母さん!」

 

「大丈夫ですよ。写真は後日村上先輩に渡します...はい、チーズ」

 

村上家は家族間の仲がよろしい様だ。慌てていた村上先輩も、写真の中では少し微笑んでいた。楽しめていたなら何よりだ。俺はそのまま会場に向かう。すれ違う人混みの中からは「楽しかった」とか「また来たい」とか聞こえて来るし、このイベントは成功だったのだろう。最後にゴタゴタも無く、葉月の表情も達成感と、高揚感が見えてくる。まあ、あれだ...。手伝って良かった。葉月の視線がこちらに向いた気がしたので、俺は逃すものかとカメラを構え、シャッターを切った。

 

余談だが芙来田の所の銭湯で一悶着あったのは別の話




お風呂のシーンはありません。


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16話 放課後デート

1ヶ月も放置して申し訳ございません。


「翠くん、この後時間ありますか?」

 

月曜日の放課後、帰りのHRが終わりクラスメイトが帰宅や部活に向かう事を始めた頃に、クラスの違う椎名がうちのクラスに赴いて予定を聞いてきた。

 

「俺は時間あるが...部活は大丈夫なのか?」

 

「はい!今日はお暇を頂戴したので、この後お出かけしませんかと思いまして...」

 

「あぁ...そう言う事か。それなら大丈夫だよ、もう行く?」

 

懐は心許ないので一旦銀行で引き出す必要があるのだが、そこを許さない程椎名は鬼では無いし問題無いだろう。しかし学園のマドンナとも言われる椎名と、しかも制服で出かけるとなると、目立ちそうだな...。まあ、向こうはただ友達と出かけるってだけで、たまたま選んだのが俺だっただけなんだろうな。

 

「翠くんが大丈夫ならば行きましょう!」

 

まあ、今日はバイトも無いし、折角のご好意だから付き合わせてもらおう。

 

「それじゃあ行くか...どこに行くんだ?」

 

「駅前のショッピングモールとかどうですか?」

 

あぁ、あそこか。小物とか服とか色々置いてあるあそこか。色々揃ってるからいいかもな。食事処もあるし、今日は食って帰るか...。

 

「いいな。近いし色々揃ってるし」

 

「それじゃあ決定ですね!早速行きましょうか」

 

「そうだな」

 

取り敢えず東雲たちに「今日は食って帰るから、家に行っても飯は用意しないからな」とだけ告げておこう。連絡無しに遊びに来る場合があるから困ったものだ。

 

そうだ、余談ではあるが父親と母親の五年間の海外転勤が決まったらしい。息子である俺には相談すら無く、事後承諾で今日旅立った。いや、確かに普段から話さないし、正直親にしっかり育てられた自覚も無いが転勤くらいは教えて欲しかった。下手したら親の分の飯も作ってしまう所だったなんて事もあるからな。まあ見送りする余裕も作らない冷たい親だから、帰ってきたら冷めた茶漬けでも出すべきだろうか。

 

「しかし...雨が降りそうな天気だよなぁ」

 

「帰りは大丈夫でしょうか...」

 

「一応俺は傘持ってるが...」

 

天気予報を見たわけでは無いが、空が心做しか喜ばしくない雰囲気だったので念のため持ってきたのだ。

 

「まあ、帰りくらい送るぞ。お前が嫌じゃなければ」

 

「な、ならもしもの時お願いします」

 

そこら辺歩いている天然パーマで、平均的な身長だが猫背のせいで小さく見える雰囲気の暗い奴で良いならと、心の中で自分を下に見ていると、椎名の顔がジト目だった。

 

「翠くん、心の中で自分の評価を下げてましたか?」

 

何故わかるのか知らないが、バレていたそうだ。それがどうしてジト目に繋がるのかはイマイチ分からないのだが...そこの所はどうなんですかねぇ...。

 

「いや、そんな事ないよ?」

 

「翠くんって、噓を吐く時と自分を見下している時は決まって頭に手を当ててるって自覚してる?」

 

...確かに無意識的に手を当てていたかもしれない。まさか俺じゃなくて椎名が知っていたとは...。

 

「...そんな俺の事見てたのか?」

 

「え?えぇ!?き、急に何なんですか!み、見てないと言ったら嘘に...いや、何でもないです!は、早く行きましょう!」

 

「あ、おい!」

 

突然顔を赤くした椎名に手を引かれて、走る羽目になった...やはりあれは俺の自意識過剰だったか。このまま交番に届けられて学校生活が終わってしまうのか?まあ、椎名の事だから例え怒っていたとしても交番には届けないだろうと高を括る。そしてそのまま連れて行き荷物持ちとして馬車馬の如く......椎名の人間性からしてそれは無いか。東雲とか姫島くらいだな。まずあの二人はそんな外出ないから頻度は少ないけど。

 

「...今他の女の子の事考えてましたか?」

 

椎名はエスパーだったか。

 

「まあ、許しますけど...今日、この時間は私だけを見てくださいね」

 

...え?この子何言ってるのか...。

 

「当たり前だろ、まず他に着いてきている人は居ないからな」

 

「...そう言う事じゃ無いんですけど...」

 

ボソボソと言っているからか至近距離でも耳に入って来なかった。

 

「何か言ったか?」

 

「いえ!何でもないです」

 

何を言ったか聞き返したが、何でも無かったようだ。

 

「それならいいんだが...」

 

―――

 

駅前のショッピングモールは、平日と言うのもあり騒がしくなかった。今の時間帯はやはり学生に主婦と言った程度だろうか、店の関係上あまり男性の姿は見受けられなかった。

 

「どこから行くか?」

 

「まず洋服のお店から行きましょう」

 

着いていきながら思っていたのだが、何故女子はそんなに服を買うのだろうか...男の俺はそんな持っていないし、ファッションに関してはフの字も分からない。着れればいいものじゃ無いの!と言うか多くても散らかるだけだし...。

 

「洋服って色々あるけど、こんなにいるのか?」

 

「やっぱり相手に印象付けるものですし、可愛いのとか着たいので欲しいですね」

 

確かに印象付ける事においては顔や態度の次位には重要かもしれない。でもオシャレと言うより着こなしじゃないのかそう言うのは。

 

「翠くんはそう言うのに無頓着ですよね。髪の毛もボサボサですし...」

 

「まあ端から興味無いんだがな。着れればいいし、金かけたく無いし。それと俺のくせっ毛はドライヤーじゃ直らないからワックス塗るしか無いんだけど...なんか嫌なんだよなぁ...」

 

理由は無いが、生理的に受け付けない奴だ。

 

「一度オシャレしてみたらどうでしょうか?」

 

「えぇ...」

 

確かにショッピングモールを提案したのは俺だが、俺自身服はCUとかUNIKLOで買う人間なんだが...。

 

「それじゃあ行きましょう」

 

「あ、おい!」

 

聞く耳を持っていなかった。こうして、まず俺のファッション大会が始まった。

 

―――

 

「これなんてどうでしょう!」

 

着せられたのは黒いズボンと黒い上着、汚れが目立ちそうな真っ白いシャツだ。幸い来たのはオシャレな服屋では無く、財布に優しいCUだった。

 

「うーん...いいんじゃない?」

 

考えても分からない俺は早速お手上げ状態、正直な話、背がピンと張っているわけでも、顔が良いわけでも無いから何着ても...強いて言うなら正装くらいをピシッと決めればいいと思ってるからなぁ。

 

「それじゃあこれは」

 

渡されたのはジーンズと白と黒のボーダーシャツ...椎名も推すし、普段着るような服だからいいとは思うけど。

 

「いいんじゃない?」

 

「もー!真面目に考えてください!」

 

「真面目に考えてって...俺は至って真面目何だが...」

 

同意したら怒られてしまった。全く理不尽だ。

 

「椎名の服も見た方がいいんじゃないか?その為に来たんだし」

 

「...そうですね」

 

俺は取り敢えず話題を変えて、椎名に提案し行動に移す。しかし...服なんてどれも一緒だと思うし、なんであんな破けたジーンズ履いてる人がいるのだろう...貧乏で直す金とか新しいのを買う金が無いのかなぁ。やっぱり俺には理解できない...。

 

―――

 

椎名の買い物も終わったが、特出するのであれば、椎名は大体の服が似合ってた。それを正直に言うと顔を赤くし怒られた。一体何が気に障るのか、褒めるのも正直になるのもダメなのか?なら誰がいいんだ?ヒッキー?

 

「クレープ奢ってもらいすみません」

 

「いんや、気にするな。俺も甘い物食いたかったし、迷惑かけた分の迷惑料だ」

 

「......そ、それならありがたくいただきます...」

 

最初の間は何だったのか知らないが、また納得はしてもらったらしい。しかし女性は本当に分からない。褒めても怒られ、真面目に答えても怒られ、考えてるだけでも怒られ、他の人と出かけるだけでも怒られ、知らない女の子を助けても怒られ...俺は一体何をすれば良いのか?滅多に怒らないのって...朝比奈と竜ヶ崎?いや後者は怒るどころかベタ褒めされて...それはそれで困るけど...。

 

「この後何処に行きます?」

 

「家」

 

「もうそんな時間ですか!?」

 

「いや...知らないけど...」

 

時計を見ると六時に針が指してあった。今クレープ食ったばかりだから夕飯は...家に帰ってからにするか...。

 

「じゃあスーパー寄っていいか?」

 

「いいですよ、買い物に付き合ってもらいましたし」

 

「それじゃあ行くか」

 

今日の献立を急遽考えながら、俺達はモール内のスーパーに出向いた。




最近ガルフレのネタ切れが顕著になっています...。


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17話 鴫野睦は苦労している

精神的疲労からか、風邪を拗らせてしまいました。健康とはあまり言えない生活を送っていたからか、一度風邪にかかると二週間くらいは咳や痰のからみが続いてしまいます...今回は治りかけの時に風邪を拾ってきました。









それはそうと、最後の投稿が月始めですね。申し訳ございません(土下座)


「おはよう和倉君。重役出勤ですか?」

 

「待ってください。そしてよく考えてください。警察もヒーローも消防士も何か起きたら遅れて駆け付けるじゃないですか。この様に正義は遅れてやって来るので遅刻と言うのは決して悪では無いじゃないですか」

 

「朝からそんなに口が回るなら、夜にも出された罰課題を元気にやれるわね」

 

「ごめんなさい勘弁してください」

 

不肖、和倉翠

二年に入り初遅刻。

 

―――

 

「翠ってるいが居ないとだらしないよなぁ...」

 

珍しい事にるいが寝坊したらしく、俺を叩き起す暇がなかったらしい。そして俺の寝付きが良く、起きた時には一時間目の半ばだった。そして俺は一限の担当兼担任の月白先生から罰課題を課されるのだった。幸いな事に簡単なものだったのですぐに終わりそうだ。

 

「返す言葉がございません」

 

「和倉くんって結構片付け苦手だしね」

 

「なんか、捨てようとすると昔読んでたマンガ本を発掘して読みたくなっちゃうんだ」

 

「それダメなやつじゃん...」

 

東雲から始まったこの会話のバトンは八束に渡り、アンカーの明音が止めを刺した。

 

「和倉くんは普段しっかりしているのにどうしたの?」

 

追い打ちをかけるように、普段服装や遅刻に関して口酸っぱく言う風紀委員の霧生典子に心配されてしまった。そんなに珍しい事か?俺だって寝坊することはあるのに。

 

「いや、夢見心地が良かっただけだと思うぞ」

 

「そこは断定しないのね」

 

遅刻の原因は寝坊か電車の遅延か通院くらいだろう。わざわざ聞く意味は分からん。

 

「まあ、俺の遅刻の話しは良いだろう、次の授業は物理で移動だからさっさと行くぞ」

 

「話を変えたな」

 

東雲、お前は一言余計だ。

 

「でも時計を見てみろよ」

 

「...げっ!もうこんな時間」

 

「急がないとね、ほら!見吉さん起きて!」

 

「うぅーん...ダーリンくすぐったいよー...むにゃむにゃ...」

 

随分と幸せそうな夢を見ているようで。

 

「見吉さん起きないわね...和倉くん見吉さんの事背負ってくれる?荷物は持つから」

 

「...やるしか無いのか...」

 

移動教室の時、どうしても見吉が起きない時は俺が背負って運ぶ事がある...正直周りの視線が気になるのだが、力ある男手が必要なのだから仕方ない。そして背中に当たる感触との勝負だって事は断じて無い。無いったら無い。

 

「偶にはお姫様抱っこでもして上げたら?」

 

「それこそ見吉のダーリンにやらせてやれよ。春木場だろ、B組にいる『昼寝の小五郎』だっけ?」

 

「『眠りの英治』だね、それだと迷探偵になっちゃうよ」

 

昼寝も眠りも大して差は無いと思うんだけどなぁ...。

 

「取り敢えず起きろ見吉」

 

「...うーん?...あ、おはよー和倉くん...」

 

「お目覚めした所悪いんだけど、物理一式揃えて物理室に行くぞ、もう走らんと間に合わん」

 

「...わかったー」

 

眠気眼を擦りながら見吉は鞄を漁り物理の教科書等を探す...今にも寝そうだけど、大丈夫なのか...?

 

「見吉さん、ちょっと急い『キーンコーンカーンコーン』

 

『あっ』

 

物理の遅刻が確定した、二限始まりの鐘が鳴った。

 

―――

 

幸いな事に、物理の先生は俺らより後に来たから遅刻は有耶無耶になった。

 

「和倉先輩は本当に抜けてる所は抜けてるんですから...」

 

「試験の話か?」

 

「日常生活の話ですよ!」

 

先に言うけど罰ではなく「仕事手伝って下さい」と言うことで、昼休み生徒会室に来ていた。室内を見渡すと、そこには天都会長と、鴫野しか居なかった。

 

「所で...他の人はどうしたんだ?」

 

「本当はりさちゃんと康平君が来る予定だったのよ」

 

「ですが...お2人とも風邪を拗らせてしまい...」

 

まあ、季節の変わり目だしな...若倉も拗らせたらしいが、少し流行が早いように感じるなぁ。

 

「お大事にと伝えといて下さい。俺も出来る仕事はやるので」

 

「ありがとうございます!」

 

「助かるわ〜」

 

なんて言いながら、天都先輩は壁際に行き紅茶を汲み始めたので、あぁこの人本当に仕事するの?となってしまった。二人で回すのは結構厳しい量という事で呼ばれたのだから仕事をしなかったらそれはそれで問題か。

 

「へぇー、部活とかでこんなに消耗するのか...」

 

漫画研なら紙や印刷費、運動部ならドリンクに使用器具にその他色々...しかもうちの学校は無駄に部活がある様に思えるからな...。

 

「聖櫻は部活や行事にお金を掛けてますからねぇ...」

 

授業は他と変わらないし、教室も私立独自かと言ったら、公立でも使われるタイプだし...。まあ、図書館やら部活専用施設やらがあるのを見ると私立高校だなと思う。

 

「和倉先輩、これもお願いします」

 

「ほい...これも会計報告か...」

 

普通は間違えないものだが、ちょろまかす奴は居るんだよなぁ...。賭博研究会とかよく認められたな、支出と使用予算が合ってないし、支出の詳細が書かれてないし、書いたの誰よ...伊藤閉司とかパチモンくせぇな。それとは逆に手芸部は支出より使用予算が多い...あ、優木がやったのか。後で慌てずやってくれと注意しておこう。しかし部活の数が多いとこの確認作業も大変だ。だからそこでお茶を飲んで一息ついている天都先輩は仕事をして欲しいが、言っても聞かないだろうな。っと、生徒会長印押すのか...会計だけじゃダメなんだなぁ。

 

「こっち見終わったので後お願いします」

 

「一息ついたらやるわ〜」

 

...間違っても紅茶は落とさないよなと思いながら、流石にそれは無いなと仕事に戻る。

 

「それにしても...先輩違和感無いですよね...生徒会入ります?」

 

「残念ながら俺はバイトやってるからね...手伝いくらいしか出来ないし、表立って目立ちたく無い...」

 

「それにしては、サッカー部の練習試合に助っ人として入って強い力を見せてたわよね」

 

「はははなんのことだか」

 

思わず頬が引き攣ってしまった。この人も見ていたのか...。

 

「それに不良が来て騒動になった時、人前で真っ先に睦ちゃんを庇いに行ったわよね」

 

「元々は俺の呼び起こした事ですし、関係無い人を巻き込むわけにはいかなかったんですよ」

 

「なんか色々噂になってるわよね〜」

 

「...色々ってそんなにあるんですか」

 

なんでその名前が付いたか知らないけど、聖櫻の幻想殺しとか言われた記憶はある...まさか他にもあるの?

 

「二年B組のインドア派二人を飯で手懐けた」

 

いや、間違ってはいない。けど何処から広がったんだ?

 

「校内でも人気の女の子とかなり仲が良い。確か上条さんは幼馴染みなんだっけ」

 

「仲は良いですけど...そんな噂にされる事ですか?普通に友達付き合いしているだけなのですが...」

 

「...不憫ね...」

 

「え?」

 

この人何を言ったんだ?突然小さな声で、しかも表情が急に暗くなったぞ...。

 

「何でもないわ〜、それで登戸のカフェでバイトしてるんだって〜?そこでも人気らしいわね」

 

「バイトはしてますよ。まあ、お陰様で評判は良いですよ」

 

「女の子も何人か迫って来るんじゃない〜?ねぇ睦ちゃん」

 

「うぇぇ!?私に振るんですか!?確かに先輩は人気高そうですけど......」

 

俺は決して難聴系では無い(と信じたい)のだが、これは最後の方本当に何を言っているか分からない。天都先輩のは本能から受け付けようとしなかったのだろう。少し怖かったし。

 

「いや、確かに『メールアドレス交換して!』とか良く言われますよ」

 

「言われるのねぇ...」「...言われるんですか」

 

「でも仕事中ですし、相手は大人の方とかで、俺を弄んでいるだけだと思いますよ」

 

顔が笑って居たので、恐らく遊んでいるだけだと思う。だから俺は店長直伝「携帯なんて無くてもここに来れば通じ合えるじゃないですか(ニッコリ)」を発動し撃退している。店中騒ぎになるがあれはなんだ?俺のあれがそんなに気持ち悪かったのか?

 

「...睦ちゃん..」

 

「言わないで下さい。分かってます」

 

「?まあ、なので弄られるだけの店員ですよ......意見書の方、意見の多いものとそうでないもの確認してまとめました。一応両方確認取るようにお願いします」

 

「ありがとうございます。休み時間も残り少ないので後は戻って頂いても大丈夫ですよ」

 

「そうか?まだ昼残ってるから戻るよ。お先に失礼します」

 

バイト以外でまともに仕事をした気がし、働いた快感と達成感が生まれ、良い気分で教室に帰れた。

 

 

―――

 

「彼、絶対人気ものよねぇ...ライバル多いよ?」

 

「先輩、結構鈍感ですしね...」

 

 

 




この作品、何人かオリキャラがいるのですが、中々出せませんね...


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18話 幼馴染みとピクニック

お久し振りです。本当は委員長ちゃんの話を書きたかったんですが、話が纏まらず無理でした。


日曜日

 

幼馴染みでもあるるいに「折角だから出かけよう」との事で、お互いに弁当を作り外で食べようとなった。所詮ピクニックだ。るいは定番の唐揚げや卵焼きなどのおかずとおにぎりを作るらしいので、こちらはBLTサンドとアップルパイやマカロンと言った洋菓子、紅茶を持っていく事にした。

 

「それじゃあ行きましょ」

 

家を出て小田急線の駅に向かう。近場でも良いかなと思ったけど、折角だからと言う事で足を伸ばし多摩川方面に向かう事となった。俺が定期内と言う理由で選んだわけでは無く、小さい頃から上条家と和倉家のピクニックは稲田多摩川公園だからだ。思えば昔はうちの両親も俺に構っていたなと思うが、今では仕事一筋の立派な社畜として向こうで元気にやっている事だろう。

 

「そう言えば、翠君って中学の頃の友達と遊んだりするの?」

 

「唐突だな。偶に遊ぶよ...一人は口を開けば『我孫子!カラアゲ!』だけどな」

 

「あびこ...?からあげ...?」

 

「有名な駅そばでね。唐揚げそはなるものかあるんだ。その唐揚げが大きくてね」

 

一度食べに行ったことがあるけど、あれは中々中毒性がある。麺自体はどこにでも売っているような安いものだが、唐揚げは独自のものだ。

 

「我孫子って偶に見かける駅名よね」

 

「一応線路一本で繋がってるし、向こうまで行くのもあるからね」

 

「でも千葉県だっけ」

 

「そう、だから遠いんだ」

 

小田急線から千代田線を乗り通して、常磐線だ。しかも各駅、全て止まるから時間がかかりすぎる。何処かで絶対に乗り換えなくては辛い。しかし、普段から長い間電車に乗り、休日も電車を乗り倒してよく飽きないよなと心から思う。その趣味を否定する気はない。寧ろ肯定する。ただ程々に楽しむのが一番だと俺は思う。財布に優しく、身体に優しく。

 

「降りる駅って登戸だっけ」

 

「まあね。川を渡った向こう側じゃないし、快速急行が止まるしね」

 

追加するなら俺の定期範囲...まあ、公園は登戸側だから、無駄足にならずに住むのだがな。

 

―――

 

空を見上げると、澄んだ青空だ。陽も出ている。今日は雨の気配も無い、快晴との事だ。付近のサッカーグランドからは子供たちが一生懸命ボールを追いかけている。

 

「キラースライド!!」

 

「ジャッジスルー!!」

 

『デスゾーン!!!』

 

「バーニングキャッチ!!う、うわぁぁぁ!!」

 

...一生懸命、本当に命懸けで。しかし最近の小学生はデスゾーンも使えるのか...いやはや、凄いものだ。

 

「最近の小学生は凄いのねー」

 

「...あそこだけ超次元だよな」

 

持ってきたレジャーシートに腰掛け、川の方を眺める。そこには川に入り釣り糸を垂らしているおじさんたちが何人か見受けられるが、他に人影は無く、超次元フィールドを除くと比較的静かな雰囲気が流れている。五月も半ば、いや下旬頃だろうか...暖かさが丁度良いが、少し陽射しも強く感じる...絶好の行楽日和なのだが、これは東雲や姫島にはキツイものがあるだろう。

 

「少しのんびりするか?軽く遊ぶか?」

 

「そうね...偶には童心に返って遊ぶ?」

 

「そうだな...今もってきてるもので...バトミントンなんかどうだ?」

 

「いいわね、これでも運動部だから、絶対に負けないわ!」

 

彼女は昔から負けず嫌いだ。昔から俺が勝つとすぐに勝負を仕掛ける。だから次はこっちが負ける。きっと小さい頃から思っている何かがあるのだろう。

 

「ほら!」

 

ネットもラインも無い、本当に羽を繋げるためだけの遊戯、五回落としたら負け...それだけのゲーム。小さい頃はるいがよく落としていたが、久し振りにやった今は、るいも技術が上がったのか中々落とさなくて、粘ってくる。

 

ラケットが羽を打ち返す、その音だけが流れる。サッカーの方は休憩に入ったのだろうか。その場には緊張感なんてない、ただ穏やかで、もっと羽を繋げよう...それだけの気持ちが流れる。なんで分かるかだって?

 

間があるからと言って、こっちが何年彼女の幼馴染みをやっていると思っているんだ。

 

「中々続くなー」

 

「そうねー、そろそろ辛くなってるでしょー」

 

「いんやー、全然」

 

ラリーは続く。八十を超えた頃から数えるのを辞めたけど、終わる気配も無い...。お互い「辛くなってるだろ?」とか「そろそろミスるんじゃない?」とか煽ったりはするが、決してキツイ場所に打たないという暗黙のルールがある。これは楽しむ為の勝負なので、強調しているけど遊びなのだ。

 

「終わらないわねー」

 

「止めるか?」

 

「それもそうね...」

 

「じゃあこれで終わり!」

 

とラケットを下ろした所に打ち込む。

 

「あー!!卑怯よ!!」

 

「勝てばよかろうなのだ...まあ、ズルだからナシだけどな。飯にしようぜ」

 

時計は十二の針を差していて、腹の虫は飯を求めている。るいは不満そうな顔をしているが、時間も時間という事で納得した顔になった。

 

荷物を置いている場所まで戻ると、持ってきたお手拭きで手を拭き、弁当の蓋を開ける。

 

「相変わらず翠君の作るお菓子は美味しそうね〜」

 

「そう言うるいの唐揚げと卵焼きは美味くて何個でも食えるよ」

 

偶にるいが弁当を作るのだが、唐揚げと卵焼きは必ず入れてくれる。自信の表れなのか、俺の好物が分かってるからなのかは、聞かなくても分かる事だ。

 

「お米とパンってアンバランスだよねぇ...」

 

「分かってはいたんだが、こっちも米なのはちょっとな...」

 

相手のも食べるのがこのピクニックだから、例えアンバランスだろうが食べるのだ。決して味が悪い訳じゃない。と言うかどうやったらBLTサンドやおにぎりが不味く作れるのだろうか。なんて考えてるいの作ったおにぎりを食うと、強い刺激が口の中を襲った。

 

「ブハッ!?辛っ!?塩っぱっ!?ゲホッ!?ゲフォ!?」

 

「あ、一つだけ中にハバネロと多量の塩を混ぜた奴があるんだ」

 

「先に言え馬鹿!!」

 

訂正、おにぎりは不味く作れる。これは不味いと言うより、出来栄えが悪い方の拙いだな...こんなもん食わすなよ。死ぬぞ。

 

「の、飲み物...あかん、口ん中がヒリヒリするのと、首筋がゾクゾクする...」

 

お茶でおにぎりを流すと、るいを睨む。

 

「ごめんごめん」

 

反省せず笑っているるいを見ると何言っても聞かねぇなと思い、その場に寝そべる。

 

「しっかし本当天気が良いよなぁ...」

 

「食べてすぐ寝っ転がるのは行儀が悪いわよ」

 

「んなもん関係ないわ...今ので疲れた...」

 

「うふふ、ごめんね」

 

肝が据わってやがる...まあ、るいが何時か振りに茶目っ気を見せたのだから、そこを叱るのも気が引ける。そもそもそんな怒ってないし。まあ、るいは分かっててそれを食べなかったと思うけど、それを引いてしまった俺の運の悪さもあるからな。

 

「機嫌直してよ、はい、卵焼き」

 

卵焼きを箸で掴み、俺の口に持っていく。所詮あーんと言う奴...らしい。ライトノベルからの情報だが。バーベキュー行った時にもやられたが、恥ずかしさもあり中々出来ない事らしい。楽で良いから恥ずかしくは無いと思うのだが、そこは気持ちの問題なのだろう。

 

「あー......美味しいぞ」

 

「反応薄いわね...」

 

「味が変わったらそれはそれで駄目だろうが...」

 

「...まあ、翠君に分かれというのが酷な話よね...」

 

表情に曇りが見えた。馬鹿にしているのだろうか?まあ事実分からないのだがな。

 

「...まだ食べる?」

 

「くれるなら」

 

口を開けて待っていると唐揚げにおにぎり...と入れられる。BLTサンドは気付いたら無くなっていた。新鮮なもの選んだから美味しい事に確信はあったけど、まさか無意識で無くなるとは...。

 

「んん〜!翠君の作るアップルパイは美味しいわ!」

 

「...食べ過ぎると太るぞ」

 

「甘いものは別腹だし、ちゃんと運動しているから大丈夫よ」

 

痩せ過ぎも如何なものだと思うが、だらしないのもな...。まあ、るいもそこら辺は分かっているか...。




投稿は遅くなっても必ず投稿は続けます。目指せ話数ハーメルントップ!


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19話 日帰り江ノ島

難産でした。


「何故ここに居るのでしょうか」

 

龍宮城をモチーフとした片瀬江ノ島駅の前に俺は居た。俺をここまで連れてきた御三方の中の留学生は年甲斐も無くはしゃいでいた。

 

 

冒頭部分から遡る事一時間前。と言うのも今日は先生方が一斉に出張に行ってしまうので、部活なし、四限で終了の短縮日程だった。俺はやる事も無いし飯食ったら帰ってゆっくりしようと思った。るいは部活の先輩とお昼を食べると言っていたので、今日は一人で帰ろうと思いながら、珍しく人気が少ない屋上で弁当を広げて食べ始めた。

 

『おぉ〜!スイサンじゃありませんカ〜!』

 

特徴的な喋り方をしている人が俺の事を呼んでいるなと思いながら振り返ると先輩のクロエ・ルメールさんがいた。聖櫻には留学生めそこそこいて、彼女もその中の一人、フランスからの留学生だ。久しぶりにと言うことで一人で飯食ってたら俺を見つけて、俺のソロランチを邪魔しに来たのだろうか?いや、彼女は天然なだけで悪意の無い人間だからそんな事は無いだろう。でもそんな人が一体なんの用だと思うと村上先輩と望月先輩も一緒にいた。

 

「和倉君こんにちは」

 

「スイくんやっほー!今日も女の子は可愛いね!」

 

「いや、クロエ先輩に呼び止められてしまい...」

 

「ねぇ無視?私の事無視なの〜?」

 

「あ、ソウダ!スイサンも一緒に来ませんか?」

 

「え?え?」

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

え?話が見えない...と思っていると両手が繋がれていて、歩き出していた。え?えぇ...。

 

 

そして冒頭部分に戻る。

 

「和倉君ごめんなさい。もしかして用事とかありましたか?」

 

「...いや、ありませんでしたけど、何も言われず連れてこられると困ります」

 

と言うか用事があったらどうするつもりだったのだろうか。

 

「本当に困るわ〜」

 

「望月先輩貴方たちに言ってるんです。あざとく出来ないようにしてやりましょうか?」

 

「す、スイくん?怖いわよ?え?マジなの?」

 

「えぇ」

 

「ちょ!スイくん!?真顔でこめかみをグリグリしないで!?ごめんなさい!痛い!許して!」

 

「ごめんなさい」

 

「いたたたたた!?」

 

到底許されるべき行為ではない。悪ふざけが過ぎるなと、俺は思うわけです。財布の中身は今月の残りの生活費、諭吉一人だけだと言うのに。

 

「わ、和倉君?そ、その辺にしといた方が...」

 

「わ、ワタシもゴメンナサイデス...」

 

確かに人の視線が来る中視線を集める事をしてもなぁ...。仕方ない。

 

「今回は許します。さっさと行きますよ」

 

どこに行くかは分からないけど。

 

「と言うか何処行くんですか?この時期の江ノ島とか神社と水族館くらいしかありませんよ」

 

強いて言うならタワーと路面電車くらいだ。でもそれだけだ。後は生しらすが旬だったか。食えない事は無いがさっき軽く昼を途中まで食ったからなぁ...。

 

「島に行きマしょー!」

 

「お腹もすいたしねぇ~」

 

あぁ、江ノ島神社からの生しらすルートですか...何となく分かるぞ。定番だもんな。

 

「江ノ島は野良猫が多くいる事で有名ですよね」

 

「そうですね、僕も何度か餌を強請られましたよ」

 

物欲しそうな目で餌を求められた時はついつい上げそうになったけど、確か猫に餌を与えてはいけないとか言われた記憶がある。一年以上も前の話だけどな。

 

「猫...美少女との組み合わせ...いけるわ」

 

何が「いけるわ」ですか...分からなくは無いですけど...。

 

「しかし平日なのに人が多いですね...」

 

「外国人の方も多くいらしてますからね。仕方ないです」

 

クロエさんの様に、江ノ島に訪れる外国人は多数いる。都心から近い観光スポットだしな。それに有名漫画の舞台にもなってると、海外の観光雑誌にも掲載される。日本のサブカルチャーは世界に誇るものだからな。俺も好きだ、スラムダンクは。

 

「どこから行くんですか?」

 

「ジャパニーズジンジャ!行きたいデス!」

 

「じゃあ取り敢えず島の方に向かいますか」

 

「そうね〜」

 

―――

 

「この橋の光景はテレビでよく見かけますよね」

 

「夏場の天気予報とかの背景とかですね」

 

「ダカラ見覚えがあったのデスネー!」

 

「観光案内とかにも乗ってるわよね〜」

 

テレビで観た景色を目の当たりにして、気分が高揚しているらしく、先輩方の足取りが更に軽くなった感じがする。天気にも恵まれているが、やや陽射しが強めだ。先輩方は元気過ぎないだろうか?それとも俺が元気無いと言う事なのだろうか。

 

「スイサーン!早く早く!」

 

「クロエさん落ち着いてください」

 

「元気で良いわね〜」

 

やや狭い歩道の上でカメラを構えた望月先輩はクロエさんに向かってシャッターをきった。本人は満足そうにしているし、クロエさんも楽しそうにしているし、ピーク時に比べて混んでないし騒ぐ事でもないか。

 

「それにしても...暑いですね...」

 

「夏本番では無いと言っても...暑いですね。それに比べてクロエさんは元気そうですね...」

 

この時期から夏服移行期間で、今日みたいに暑い日は夏服で来れる様になっている。俺も暑くてブレザーを置いてきた人間だ。それでも暑い。願わくば冷房の効く部屋でのんびりとアイスを齧りたい。

 

「まあ、置いて行かれない様について行けば良いと思いますよ。そのうちバテてくれる筈です...」

 

「そうでしょうか...取り敢えず行きましょうか」

 

昼真っ盛りの空の下、額に浮かぶ汗を拭うとクロエさんたちと離れている事に気づく。あの人たち元気過ぎる...早く歩き過ぎだ。

 

「待ってくださいよ!」

 

隣を走るバスは、渋滞に遭うこと無く快適に人を乗せて、先を行くクロエさんたちも抜かして前に躍り出る。端からバスを使うべきだったのかもしれないが、歩きながら景色を眺めるのも観光の一つだ。村上先輩には悪いけど仕方ない。

 

声が届いて居ないのか、彼女らは更に先へと急ぐ。

 

「...ゆっくり行きましょうか」

 

「...そうですね」

 

彼女らは童心に戻ってしまったのか。可愛らしさもあるが比較的インドア派の俺たちには手が負えない。

ならば諦めるだ。誰かの座右の銘だが「押して駄目なら諦めろ」だ。案ずることは無い。そのうち向こうからやってるくる。

 

「暑いですけど景色は良いですね」

 

絶景と呼べる海は、沖縄とか、ハワイとか...透き通っている様な、スカイブルーと言うのだろうか、その様な印象があるが、そこら辺でも見れる海は、他のものと写るからこそ映えるのだなと感じさせられる。

 

「確かに...これもこれで良いものですね」

 

知らない訳では無いが、見聞したものが多くなると考えも変わってくる。

 

「偶には遠出も良いものですね」

 

微笑んだ顔の村上先輩も、中々美しいものだった。流石聖櫻ミスコンテストの王座と言うべきなのか、だから王座に立てると言えるのか。謙虚にし過ぎな彼女だが、やはり美しく思う。

 

「...ですね」

 

ところで...クロエ先輩たちがすっかり見えなくなった事に触れるべきなのだろうか?

 

―――

 

聖櫻生愛用のアプリ『ヒトコト』で、俺宛に「江島神社に来て」と望月先輩から連絡が入っていた。急ぐ気は無いのでゆっくり行こう。神社までの通りには土産物店や飲食店が軒並み連なっていて、平日だと言うのに海外からの観光客で賑わいを見せている。

 

「思ったより人がいますね...」

 

橋の時には人が少なかったのだが、バス利用が多いの島には人が溢れていた。そりゃそうか。面倒臭い徒歩よりも金さえ払えば楽を買えるバスの方が手頃だもんな。

 

「見た感じ外国の方でしょうか」

 

「そんな感じですよね...平日ですし」

 

少なくとも学生の姿は俺たちだけだ。

高身長の方や横に大きい方、どれもがビッグサイズ。勿論一般的な体格の人もいる。

 

「お〜い!二人共遅いわよ〜」

 

「のんびり屋さんデスネ!待ちくたびれましたヨ!」

 

「貴方たちが速いんですよ...」

 

待ち惚けを食らっていた二人と合流すると、鳥居を潜り本殿に向かう。階段が少し長めに続いているのを見ると、登るのも億劫になると言うものだ。無限体力とも思えるクロエさんだって疲れるに違いない。疲れなかったらこの人は相当すごい人になるだろう。元気を分けてもらいたい。

 

「江島神社は弁財天を祀っている神社でしたよね」

 

「ベンザイテン?天ぷらですカ?」

 

「食べ物を祀ってどうするんですか...せめてお供えですよ。金運上昇のご利益があることで有名な神様ですよ」

 

「金運ですカ?大金持ちですカ!?」

 

「そこは努力としか言い様が...」

 

祈っただけで大金が手に入るのならば人類天にお祈りするだろう。人類に試練を与える唯一神でもそこまではしないだろう。

 

「少しお金の事についてご利益はあると思いますよ」

 

「信じる者は救われるって言うしね〜」

 

「ワタシも祈ってみマス!」

 

いやクロエさん祈らなかったら此処に何の為に来たんですか?

 

「江島神社って縁結びでも有名よね」

 

「俺には無縁ですけどね」

 

「そ、そんな事は無いと思いますけどね」

 

地味な俺には無縁だと思うのだが、もっと顔が良くて、男らしくて、頼り甲斐のある男だったら良いものの...。まあ、モテた所で選ばなくてはならないのだろう。自分が好きになった人を選びたいからな。今の所見当つかないけどな。

 

「それよりも、本殿が見えてきたわよ〜」

 

「本当ですね」

 

「あそこに行けばお金が...!」

 

「賽銭入れたりお守り買ったりしたら減りますけどね」

 

『あはは...』

 

現実は置いといて、それにしても長かった...最初連行されてここまで来たけど長かった。昼飯食べて正解だった。

 

「いい所デスネー!感激デス!」

 

別に寺社巡りを趣味としていない俺にとっては、どれも似たようなものだと思うのだが、目の前の少女にはその似たようなもの一つ一つが感動の風景なのだろう。疲れ知らずなのか、ここが境内だと言うのに目を輝かせてはしゃいでいる。

 

「文緒サーン!エレナサーン!一緒にお参り行きまショー!お二人の恋愛ジョージュお手伝いしまーす!」

 

「ちょ、ちょっとクロエちゃん!」

 

「く、クロエさん...!そ、その事は...!」

 

...?確かにあの二人は傍から見れば仲の良い百合カップルだと思うけど、わざわざ二人一緒に連れていくものなのだろうか?

 

「そして俺は置いてかれた...」

 

どうやら俺は、まだ女子の輪には入りきれない様だ。仕方ない。野郎は花園には邪魔と言うことだ。初めて望月先輩と会った時がそんな感じだったからな。

 

まあ、それは置いておこう。

 

江島神社と言えばるいと初めて一緒に来た神社だったな。

 

『江島神社ってえんむすびのごりやくがあるんだって!』

 

『へぇ〜』

 

『ここでいのれば私達はいのればむすばれるのよ!』

 

『そうだね』

 

思えばあの頃はまだお互い純粋だったのだろう。今じゃるいとはそんな話が出来ないからな。照れ屋になってしまったのだから仕方ない。

 

「翠く〜ん!早くこっちに来なよ〜」

 

「...今行きます」

 

るいにお土産話持っていくか...。

 

 

 

 

―――

 

「今日江島神社行ってきたんだよ」

 

「どうしたの?疲れてるの?」

 

「俺は平常なんだけどな...いや、昔行ったよな、俺ら」

 

「初めて一緒に行った神社だったものね」

 

「あの時はるいも素直だったのにな」

 

「...よ、余計なお世話よ!(今じゃ恥ずかしくて言えないわよ...)」

 

「何か言ったか?」

 

「何も言ってないわよ!」

 

幼馴染みは俗に言うツンデレらしい。




今年も終わりですね。ギリギリ駆け込めたので良かったです。来年は就職試験が待っているので投稿頻度が激減するかもしれませんが、気長に待って頂けるとありがたいです。それでは良いお年を...


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20話 バンド

気付いたらこの作品投稿してから1年経ったんですね。pixivの投稿日を確認して驚きました。今年は就活があるので投稿頻度は更に下がるかもしれません。現にそれが表れています。それでも読んでくれている方がいて私は嬉しい限りです。


ニューロンと言ったら、情報処理と情報伝達に特化した神経細胞が思い浮かぶと思う。何故唐突にそんな話題を取り出したかと言うと...。

 

「みんなー!盛り上がってるぅー!?」

 

『イエェェーーイ!!!』

 

ステージのバンドのライブを聴き、熱気が高まる講堂。そしてステージに立つ彼女らのバンド名に、その単語が入っているからだ。因みに正式名称、にゅーろん★くりぃむそふと。とても頭が悪そうでいて、如何にも女子高生っぽいバンド名だとバンドメンバーの風町に言われてから思っている。が、ライブ自体の出来や盛り上がりが良く(聖櫻生が盛り上がりやすいと言うのも手伝って)俺も柄に無くはしゃいでいた。ライブ自体参加した事が無く、バンドもイマイチ知識不足だ。そんな人や、あまり目立たない様な生徒も盛り上がっている辺り、良いなと思ったのは俺だけではないらしい。自分だけはしゃいでいたとするならばそれは恥ずかしいからな。「作詞してみたから読んで」と風町に言われたのが二週間くらい前の話なのだが、そんな短い期間で自分たちのものにしたのだから、そんな彼女達の努力は凄まじいものだろう。もしかしたら彼女達の持つ才能や、どこかから働きかけた謎の力が働いたのかもしれない。が、努力には劣るだろう。彼女達の顔は「頑張った」「やりきった」と言った実に満足そうな表情だ。見ているこっちも嬉しく思う。次回もあるとするならば、今度は自分から足を運んでみよう。良いものが観れた。ステージの上で一生懸命に話を繋いでいる彼女達が話を終え、今日の彼女たちのライブは終了。俺は...いや、俺達か。俺達は彼女達の頑張りとこれからを讃え、盛大に拍手をエールを送る。お疲れ様。

 

「和倉先輩」

 

「ん?」

 

隣にいた葉月が俺に声をかける。その目は幼馴染みの勇姿を見てなのか、輝いていた。

 

「モモたち...輝いてましたね」

 

「...あぁ」

 

「かっこよかったですよね」

 

「あぁ」

 

口を開いても感嘆の言葉しか出ない。語彙力が消えそうだぜ...。

 

「他のバンド見ていきます?」

 

「んー...折角だからな」

 

昨今のガールズバンドブームと言うのは凄まじく、ガールズバンドの頂点を競うイベントまで開催されるほどだ。ボーイズバンドも也を潜めた訳では無いが一世代前と比べるとかなり減っているように思える。自分が知らないだけでもしかしたら地元を中心に活動している名無しのグループもいるかもしれないけど。

 

「このグループのボーカル歌すっごく上手いですね!」

 

「…最近注目されているボーカルらしいからな」

 

孤高の歌姫とか言われているらしいが…ステージ上の彼女…彼女たちと言うべきか。どこか楽しそうだ。

 

「モモたちも負けてられませんね!」

 

「…そうだな」

 

…しかし、聖櫻の中で開かれるライブなのに外部のグループが締めに入るってどうなのだろうか。

 

―――

 

「和倉くん見ててくれた?」

 

「風町たちの楽しそうな演奏はしっかり見てたぞ。練習キツかっただろ」

 

「流石にね…でも成功して良かったよぉ〜」

 

「良い演奏だった。流石に上手さが一番とは言えないが…一番楽しそうに演奏してたな」

 

決してお世辞では無いし、言うつもりも無い。上辺だけの賞賛に意味は無い。彼女たちにそれが出来ない辺り…まあ、それほどの仲と言うのか。

 

「締めのグループ上手だったからね…私たちもあんな感じで出来ればなぁ…」

 

うーん…それは違うような…。

 

「あれは女子高生らしいと言うよりも…もっと高みを目指すって言うプロ意識が高いと思うぞ。だからにゅーろんはにゅーろんらしい演奏で良いと思うぞ」

 

「いい事言うじゃないか君」

 

「まあな」

 

確か黒川だっけな。黒川の雰囲気はプロを意識している様にも見えるが…こう言うノリが好きなのかもしれないな。

 

「で、楽しかったか?」

 

『うん!(あぁ!)』

 

「なら良かった。それなら宴でも開くか。安心しろ、金なら出す」

 

「おっ!和倉君太っ腹!ゴチになるがや!」

 

「やっぱ君って良い奴だね」

 

「あはは…ならサイゼだね」

 

「安いのに美味しいですからね〜」

 

「先輩ありがとうございます!」

 

「えっ、先輩お金大丈夫なんですか?」

 

「バイトして使ってない金があるから問題ない」

 

今月は遠出もして先月よりは使っているけど…今まで使わなかった分が余裕であるし、何より頑張った彼女たちに褒美の一つや二つ上げるのが条理ってことよ。

 

「ゆずちゃんも来なよ!」

 

「えっ…でも…」

 

「なんなら俺は財布だけ渡して後は女子会とでも『それは駄目』えぇ…」

 

「…和倉そう言うのは良くないよ?」

 

「…そういうものなの?」

 

褒美を上げるとは言ったが俺は必要なのか?

 

―――

 

「「結局来てしまった…」」

 

俺と葉月がそう呟く横でにゅーろんの面子は何食べようかなと楽しそうにメニューを眺めていた。俺は既に食うものが決まっているから適当に間違い探しをやっている。ここの間違い探しは最後の一つが全然見つからなくて「十個間違いがあるのが間違い」なんて結論を付けたりする。それほど難しいのだ。見つからな過ぎて「製作者出てこい!」となってる。そしてふとした時に見つけるのだからタチが悪い。

 

「私はミートソースかな」

 

「ミラノ風ドリア」

 

「私もミートソースで」

 

「私はマルゲリータでお願いします!」

 

「ハンバーグ!ライスもつけるがや」

 

「…私も良いんですか?」

 

「一人だけ出さないのもあれだからな」

 

「そ、それじゃあお言葉に甘えて…ペペロンチーノで」

 

「決まったな」

 

「あれ?先輩はメニュー見てないんですけど…食べないんですか?」

 

「食べるぞ、ミラノ風ドリア。食う奴は限られるから大体は覚えてるんだ」

 

『えぇ…』

 

何度か通ったら覚えないの?そう…。

 

「じゃああとはドリンクバーだな」

 

店員を呼びメニューを伝えると何人か席で待ちドリンクバーに行かせた。俺は後半組で、理由が『後で乾杯の音頭を取るから』だそうだ。…普段そんな事しないから持ってきたらすぐ飲んじまうんだよなぁ…よくわかってらっしゃる。

 

「にゅーろん結成したって和倉くんに報告した時もここに来たよね」

 

「そういやそうだったな。あれから一ヶ月くらいしか経ってないんだな…なんだか長く感じたような…」

 

あっと言う間に過ぎたなら分かるが…なんだか一ヶ月とは思えない長い時間が過ぎている感覚がするな…。多く見積って1年くらい?

 

「私はあっと言う間だったな。楽しい事してるとすぐ時間が経つのかな?」

 

「…そうかもな」

 

俺も楽しいなと感じて生きていたけど、退屈だったらもっと長く感じたか、逆に早くなるかもしれない。

 

「これからも楽しい演奏届けるから、また来てくれたら嬉しいな!」

 

「これは音源さ。良かったら家でも聴いてくれ」

 

「何度でも来るし、何度でも聴く。頑張れ!」

 

学生バンドの多くは自己満足だろう。彼女たちも悪いがその部類に入ると思う。技術も努力も感じられないバンドなら人気も上がらず、そのまま空中分裂するのが見えている。

 

だが彼女達は自分達が楽しんでいる…技術はまだまだかもしれない。努力は人一倍にしただろう。そして気持ちが伝わる演奏…その演奏が観ている人の心を掴んだのかもな。

 

俺も気付いたら掴まれていた。もう逃げられないだろう。

 

だから俺は応援する。彼女達のこれからを祈って――

 

 




ちょっと短め


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21話 文通少女と季節の変わり目

八束由紀恵=如月千早

この図を最近知った。アイドルマスター(本家)はあまり詳しく無いけど、如月千早さんはよく聞く名前だったので、衝撃的でした。


この土日は特別何も無かった。強いて言うなら姫島がゲームしに上がり込んだくらいだろう。

 

いつもの通学路を歩いていると、どうやらにゅーろんについての話が広まっていた。中には「ファンになった!」なんて声もあり彼女達の人気は見るに高まっている。一ファンとしては嬉しい限りだな。

 

今月の生活費はあまり残っていないが、使って良い小遣いは結構残ってる。ゴールデンウィークの時は四月の繰越使ったし、江ノ島行ったのも取り敢えず生活費から出して…で生活費足りない様なら小遣いから補う事に。幸い今月分は足りそうだ。余らすのが小遣いになるから良いんだけど…。

 

「和倉君、今日は寝坊しなかったのね」

 

「そんな毎日寝坊してたまるかよ…風紀委員サマ」

 

「…いつも通り寝癖は立ちっぱなのね…」

 

「…こればっかりは直しようもないよ…」

 

霧生典子、風紀委員の彼女は自由気ままな聖櫻学園の中でも更に自由に生きてる二年C組の風紀を主に取り締まっている。姫島曰くノッポさん。何故なら俺と身長が変わらないからだ。

 

「猫背が酷いわね…シャキッとしなさい!」

 

「…るいがこのままにしろと顔を赤くして怒るもんだから無理」

 

ある時ファッションにチャレンジしてみようと少しオシャレで安く帰る服屋に行って店員のおすすめを聞き、頭良い(笑)感じに見せようと伊達眼鏡買って、姿勢を正して街中歩いたら多方面から視線を浴びた。キャーキャー悲鳴を上げられたからダメなのかと思った時にるいが来た。

 

やけに早口だったが「翠くんは何時もの状態で良いの!それでもライバル多いんだからこれ以上増やさないで!!」と言ってたのは覚えている。ライバルってなんだ…?俺なんかの景品なの?

 

「…興味あるけど止めておくわ…」

 

「しかしこれだけ背が近いと目線合わせて喋れるな」

 

「…長身なのはコンプレックスなのよ…」

 

「モデル体型で良いじゃないか。オシャレとかして見れば良いのに」

 

「…貴方だってオシャレのイロハなんて分からないでしょ?」

 

「まあな。だから店員におすすめ聞いてそれを着てる」

 

「…自分で選ぶ努力くらいしましょう…」

 

出来たらやってるよ…あれ?

 

「…八束は居ねぇのか?いつもならとっくに居るだろう?」

 

「…八束さん風邪引いたらしいわ」

 

「珍しいな…まあ、流行りやすい時期だからな…」

 

季節の変わり目は体調を崩しやすい。どんなに気を付けていたって風邪なんかはふとした時に襲ってくる。

 

「…看病しに行ったら喜ばれるかもよ?」

 

「どうだかな…まあ、お見舞いくらいは行くよ」

 

―――

 

お見舞いに行こうとしていたら月白先生に、次いでにプリントを届けるよう頼まれた。前に手紙のやり取りをした時に、家は分かっていたから。スポーツドリンクやシャーベットアイス、ゼリーを袋に下げて呼び鈴を鳴らす。

 

『…はい』

 

扉の向こうへから弱々しい声が聞こえてきた。まさか八束の奴一人で家にいるのか?

 

「和倉だ。霧生から風邪ひいたと聞いたから見舞いに来たぞ」

 

『…えっ、和倉君!?』

 

室内からドタバタっと聞こえて来たが…。そんな慌てなくても逃げないのに。

 

「こ、こんにちは…」

 

落ち着いたと思ったら髪を結ばず、所々寝癖が立ってる八束が来た。心做しか…いや、完全に顔が紅く熱が下がっている感じがしない。熱冷まシートもおでこに貼ってるし。

 

「元気とは言えそうに無いな。これ今日配られたプリント。それとスポドリとかアイスとか買ってきた」

 

「あ、ありがとう…いまお金持ってくるから…」

 

「病人から金は取らねぇよ。それとフラフラしているけど大丈夫…では無さそうだな」

 

目の焦点があんまり定まってない。明らかに死にそうになってるくらいは体調悪いだろう。

 

「だ、大丈夫よ…これくらいすぐ…治すから…あ…れ…?」

 

「危ない!」

 

やっぱりダメじゃねぇか!立ちくらみでも起こしたのかそのまま廊下に倒れそうになった。

 

「もう大人しくしてろ。今一人か?」

 

「…うん」

 

「…看病していく。どう見ても大丈夫そうとは思えない。顔も紅いままだし立ってるのもやっとだろ?」

 

「…ごめん。お世話になる…」

 

「謝んなくて良いからさっさと治せ。取り敢えず治せ」

 

階段登らせるのも危ないだろうな…おぶるか。

 

「ほら、乗れ」

 

「う、うん…」

 

…しかしるいも姫島も東雲もそうだが何故女の子はこうも柔らかく軽いのだろうか。

 

「部屋は二階か?」

 

「うん…扉の所に名前書いてあるから」

 

…いつもはうるさくクラスメイトを見ている委員長さんも、風邪には手も足も出ないのか…まあ、一年の頃も体調崩して休むなんて事は無かったから、久し振りの風邪で辛く感じているのだろうな…。

 

「よっと…っておぉ…」

 

部屋は少しばかり教科書などが散乱していた。俺の部屋もるいが来ないとこんな調子だが…。

 

「あ、あんまり見ないで…」

 

恥ずかしいのか顔を背中に押し付けてくる。…熱すぎねぇか?

 

「ほら、熱下がってるか測ってみ?」

 

ベッドの上で寝かせると、持ち歩いている体温計を出す。消毒は後で消毒液でも借りるか。

 

無機質な電子音が小刻みに聞こえてきた。

 

「どれどれ…うわっ三十八度超えてる…」

 

「…熱下がって無いみたい…寧ろ上がってる…」

 

これの状態を無視できる程クズでは無い。ましてや高校入ってからお世話になってる女の子の友達なんだ。

 

「…食欲は?」

 

「…あんまり」

 

「アイスとかなら食えるか?」

 

問うと首を縦に振った。袋からみかん味のシャーベットと取り出しスプーンで掬う。

 

「ほら、口開けて」

 

「…頂きます」

 

少し驚いた顔をしていたが…るいを看病する時はこうするば喜ばれてたからな…今は知らないけど。

 

「ちなみにうどんとかは食べれるか?」

 

今度は首を横に振った。そこまで食欲無いのか…。

 

「これ食ったらゼリーあるから、それ食って薬飲みな」

 

本当はちゃんと食べさせてからが体力もある程度戻るし良いんだけどな…。でも無理して食べさせても逆効果だろう。

 

「…ありがとうね。看病してくれて」

 

「別に…今にも倒れそうな病人を放って置けるなんて出来ないだけだよ」

 

「ううん。それだけじゃないの。君に看病してもらえて嬉しかった」

 

――!

 

「…やけに素直だな」

 

「…ふふ、何だかね」

 

「…みんな心配してた。明日は無理でも早く治せよ」

 

「うん…もう少し甘えて良いかな?」

 

「…好きにしろ」

 

―――

 

八束が寝付いた頃には苦しそうだった表情も大分穏やかになってきた…と言ってもまだ熱は高いのか依然顔は紅いままだ。

 

「…和倉…くん…」

 

…寝言か?

 

「…ありがとう…」

 

…たく、何時もは気持ちを何故か隠してるのに今日は素直過ぎて調子狂うな…。

 

「こっちこそ…何時も世話になるな」

 

彼女はクラスでも中心に立つ人物なのは間違いない。話の輪の中心に居るわけでは無いが。何時もは注意されて気が滅入っている姫島ですらどこか寂しげな表情を浮かべてたし、見吉も眠いのを堪えて授業を受けていた。何時もと違いみんな大人しかった。おかげで霧生も久し振りにゆっくりしていた。みんな八束の事が心配だし、何時もの日常も八束が居てこそのものなのだと痛感させられた。

 

今の雰囲気良いクラスを作っているのは、ムードメーカーの明音や戸村でも無い。きっと八束が居るから作り出せるのだろう。ある程度暴れても大丈夫だと。おかげで本人のストレスはマッハだけどな…。

 

でも…彼女はみんなから慕われているから、何時も叱られてる奴らだって協力して誕生日会を開くのだろう。怒られて恨みがあるならそんな事はしない。表面「用事がある」で誤魔化すが、驚く事にみんな来たからな。八束は凄い驚いていたが、嬉しそうだった。感極まって泣いたりもしたんだっけな。

 

「…来年の誕生日も楽しみにしとけよ」

 

「…突然どうしたの?」

 

「いいや、何でも」

 

「変なの…」

 

まあ…頑張り屋で今のクラスを築き上げた彼女なのだから、数日くらい休んだって誰も怒らないだろう

 

―――

 

二日後に八束は復帰した。それまで驚く程静かだった二年C組は騒がしさを取り戻した。

 

「こら!姫島さん学校でゲームしちゃダメでしょ!」

 

「うげぇ…また面倒なのが戻ってきたのう…」

 

八束の叱りを受けて嫌そうな顔をしている姫島…でもなぁ…。

 

「そんな事言って八束が居ない間寂しそうにしてただろ?」

 

「な!何を言うんだ何を〜!」

 

「ったく素直じゃ無いな…」

 

「和倉君」

 

「ん?どうした八束」

 

「…あの時言えなかったけど、お見舞いと看病…ありがとねっ!」

 

ニコッと笑う八束の姿に、少しずるいなと思ってしまう。そんな俺もあまり素直じゃ無いんだなぁ…。

 

そんなこんなで、長く感じた五月はその幕を閉じたのだった。




最近は気分が良いけど、風邪気味。


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修学旅行編
22話 修学旅行編〜初日〜


筆が…


梅雨時期の日の出頃。見るに重そうな荷物を肩にかけるいの家の前に寄りかかっていた。今日は修学旅行初日。三泊四日の長旅の始まりだ。

 

しかし梅雨時期なのにも関わらずなんだか雨が少ない気が…。

 

「ごめん、待たせたかしら?」

 

「このくらい苦じゃ無いよ。そんじゃあ迎えに行くか…東雲と姫島を」

 

二人とも昨日のうちに用意させたから後は服を着させて連れ出せば大丈夫…。姫島の家も東雲の家も近いから大丈夫だろう。

 

そんな時に手持ちの携帯が震えた。電話だった。

 

「もしもし」

 

『あーもしもし、東雲だけど』

 

「東雲か?起きてるなんて珍しい」

 

『…偶然起きただけだよ。そ、そんな事より僕もう準備出来て姫島の家行ってる最中だからそこで合流しような』

 

「既に準備を終えてる…?まあ、分かった。そっちで合流な」

 

『了解』

 

電子音と共に電話が鳴り終わると、もうそろそろ姫島の家に着く頃だった。

 

「もし姫島が寝てたら叩き起してやってくれ」

 

「分かったわ」

 

万が一まだ寝ていたとしても余裕を持てる様に家を出て来たから大丈夫だし、楽しみにしてたのか彼女らにとって早い時間に設定したのにも関わらず片方は既に家を出ていた。姫島もそうなら良いけどな。

 

「着いたか」

 

呼び鈴を鳴らすと中からドタバタした音が聞こえてきた。もう起きてる?それとも今飛び起きた?

 

「…おはよう」

 

驚いた。既に制服に着替え終わって、しかも荷物も既に準備済みだった。

 

「…ん?どうしたんだ?」

 

「いや、寝坊するかまだ準備してるかのどっちかと思って来たから…意外だなと」

 

「失敬だな君、あたしだってやる時はやるんだよ」

 

「でもこの子ったら珍しく修学旅行楽しm「ママん!?これ以上言うな!」あらあら、うふふ」

 

…まるで正反対な親子だ…。

 

「翠君、東雲さん来たわよ」

 

「おはよう翠…おっ、姫島もう準備終わってんのか」

 

「なんだなんなんだ皆の反応は!そんなに珍しい事かー!」

 

そりゃあねぇ…。

 

「皆さん木乃子の事、よろしくお願いします。特に和倉君」

 

「え、俺ですか」

 

「よ、よ余計な事言うなってば〜」

 

姫島があわてふためき、何だか珍しい感じがするな…。

 

「はぁ…ちゃんと面倒見ておきますよ」

 

「き、君も何言うんだよ!」

 

…何故慌てるんだ?

 

「出たよこれ…なぁ上条さん」

 

「本当に治らないかしら…ねぇ東雲さん」

 

後ろからぶつくさ聞こえるが気にしないようにするか。

 

「じゃあ行くか」

 

「…そうね」

 

四人で歩いているとさながら某RPGみたいに感じるなぁ…。

 

遠い空の暗さが取り除かれ、梅雨の時期に似合わない澄んだ青空と日に照らされた空のグラデーションが広がっていた。

 

「こんな時間まで起きてるのは良くあるけど…たまにはこうして歩くのも…良いかもな」

 

「殊勝な心掛けじゃないか東雲。まあ、無理はいけないがな」

 

そろそろ寝静まった住宅街が起き始める頃。何時もと違う静けさだけど、冷たくて気持ちい空気で癒される。

 

「…うぅ、眠い」

 

「徹夜でもしたのか?」

 

「まあ、な…。ゲームが離してくれなかったのさ」

 

姫島は平常運転らしい。

 

「コンビニ寄ってエナドリでも買うか?」

 

「そうする〜…おぶって〜」

 

…流石に甘やかすのはなぁ…。

 

「自力で歩け。学校まではそこまで離れてないから頑張れ」

 

「ケチー」

 

かくいう俺も何時もより寝てなくて若干寝不足だが。

 

―――

 

「カフェイン無いとキツいのう…」

 

「体に障るぞ」

 

カフェインはトイレが近くなるだけでなく、耐性が無いと動悸がおかしくなってしまう。だから本当に眠いとか、夜中まで気合いいれるぞって時以外の飲用はあんまりオススメしない。珈琲がちょうど良い。苦味で目覚めるし。

 

「なんか早く着いちまったなぁ…朝食べてないんだけど、なにかあるか?」

 

「そう言うと思って紙容器にサンドウィッチ詰めてきた。容器は学校のくず箱にでも捨てれるからな」

 

荷物が多いと…環境には悪い事をしているが、そうせざるを得ない。恨むのは環境に無頓着な彼女にしておけ。

 

「おぉ…用意周到だな…」

 

「だから弁当作る時より早く起きれば間に合う所をもっと早く起きてたのね」

 

なんでもっと早く起きてた事を知っているのか。…まあ、いいか。

 

「おぉ、この安定した美味さ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

思いの外問題児方の行動が早く、ゆっくり飯食う時間があった。叩き起して準備させる時間を二人分作ったのだが…要らなかったか?

 

「姫島さんと東雲さんが早く来てるなんて…修学旅行雨かしら…」

 

八束と霧生が仲良く驚きながら集合場所に来ると、気が障ったのか名指しされた二人は顔を顰めていた。そりゃ単位ギリギリ生活送ってたらそうなるわ…。

 

「…和倉君の朝食…」

 

「…悪いがもう無いぞ。また今度な」

 

日が昇った空に、『雨』と言う文字は無かった。

 

ちなみに目的の京都は明け方まで雨らしい。

 

「皆さんおはようございます。集合時間までまだあるのに皆さん早いですね」

 

「よーこちゃんおはよー」

 

「月白先生おはようございます」

 

「皆さん修学旅行楽しみだったんですね。私たち教師陣も皆さんが楽しんで学べるよう、全力でフォローしますね」

 

先生少し硬い…。自分たちも楽しむ勢いでやらないと。

 

「先生も楽しまないと、折角なんですから」

 

「…それもそうね。みんな楽しむわよ!」

 

確かにここの問題児をしっかりと見守らないといけないのも分かるんだ。でもそれだけじゃ折角の修学旅行も楽しめないだろう。察しの良い根は真面目な子が多いからなここ。東雲も姫島も誰かが悲しんでると結構あたふたするし。普段から「面倒くさい」とか言ってるのにな。

 

「…あたしゃ眠いから寝るぞ…」

 

大分限界が来たのか人の膝を枕替わりにしやがったぞ姫島め…。

 

 

続々と生徒が集まり、その際こちらを見て睨み付ける様な視線が来たが、スルーをした。姫島は小さく寝息を吐いているが、もうそろそろ先生が前に出てきて話す時なので起きて欲しい。ぐっすり寝るなよ…無警戒な奴だ。東雲もうとうとして寄りかかるな、るいは何故悔しそうにするんだ。

 

「ほら起きろ二人とも。そろそろ全体会だぞ」

 

「…ぐー」

 

「えー…来たんだから良いだろ〜…」

 

良くない、ちっとも良くない。

 

「旅先まで叱られたく無いだろ?はいシャキッとするの」

 

「うぅ〜…分かったよ」

 

「…仕方無し、起きるかのぉ…」

 

「相変わらずモテモテだなぁ。翠くんは」

 

「明音、そんなんじゃ無いよ。単に良いように使われてるだけだ」

 

まるで猫だこいつら。猫と戯れる…にゃー。

 

「明音…?翠くん…名前呼び…?」

 

名前呼びが悪かったのだろうか、そこからるいはぶつぶつと自分の世界に入り込んで行った。おーい、帰って来い。

 

「…はっ!?ねぇ翠君」

 

「ん?どうした?」

 

「いつの間に櫻井さんと仲が良くなったの?」

 

「あぁ、るいが部活に行ってる時の長期休み中に、バーベキューに行ってたんだ。その時にな」

 

「……ブツブツ…厄介ね…」

 

「なにが厄介なんだ?」

 

「な、なんでもないわ!」

 

…るいの事は、偶に訳が分からなくなる。本当に何だったのだろうか…俺の存在?ついに不満がバルカン半島?

 

―――

 

修学旅行、学生生活の中で一位二位を争う程思い出に残るイベント。ただ歴史や見聞を深めに行くだけがこのイベントではない。青春を謳歌する誰かの願望や思慮や陰謀が交わる…そんなイベントだ。その事に彼は気付いていない。そんな朴念仁な彼と、その周囲による争奪戦がここに起ころうと…

 

「へぇー、翠くんって昔から変わってないんだ!」

 

「いじめっ子に絡まれた時に真っ先に駆けつけてくれたのは先生じゃなくて翠君だったのよ」

 

「風邪引いて参っちゃった時も、和倉君が看病しに来てくれて嬉しかったな…」

 

「まるでヒーローキャラだな、翠は。不登校のボクを外に連れ出したりしてな」

 

「まるで物語の主人公よの〜。鈍感なのも含めて」

 

「そうだわ!みんなとの親交を深めるのも含めて一緒に回らない?」

 

「あっ、良いねぇ〜!賛成!」

 

「私も行くわ」

 

「まあ、良いんじゃねぇ?」

 

「あたしもついて行こう」

 

…争奪戦は起きないだろう。多分。

 

 

 




修学旅行編、またまだ続きます。


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