ダンジョンに大魔道士がいるのは間違っているだろうか (玲人)
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プロローグ

何かいろいろ書いてたら5000文字超えてしまった・・!
こんなに長いと読むのも面倒になってしまいますかね


追記・・8月6日 23:00現在

UA数 3,564
お気に入り 97件

・・!?
執筆している間にとんでもなく見られていた・・!
本当にありがとうございます・・!

次話投稿は8月10日を予定しております。
今しばらくお待ちください!



ある男の話をしよう

 

特別裕福な家庭で育ったわけでもなく

恵まれた環境で育ったわけでもない

 

普通の家庭で普通の愛情を受け、普通に育った

ある男の話を

 

 

名をポップ

ランカークス村で鍛冶屋兼武器商人である父ジャンクと母スティーヌの間に生まれた何の変哲もない平凡な男である

普通の愛情を受け、普通に育ったポップの性格は端的に言うと悪ガキそのものだった

悪さをしてはジャンクに怒られスティーヌに慰められる・・・そんな毎日を送っていた

 

その日も彼はいつものように村にいたずらを仕掛けて周りの子供達を困らせようと画策していたが後を追っていたジャンクにバレてしまい、必死に逃げていた

 

逃げていた先が決して逃げ込んではいけない森とは知らずに

 

「ポップ!そこから先は行っちゃ行けねえ!すぐに戻ってこい!!」

「へへーん!そんな事言って足を止めさせるのが目的だろ!引っかかるもんか!」

「ポップ!ダメだ!それ以上進むな!!」

「え?・・・うわああああああああーー!!!!」

 

ジャンクから逃げるのに必死だったポップは転がり落ちるように20mほど地上から転落し、体を地面に強打した結果、四肢の至る所に打撲や捻挫の兆候が見られ、脳は揺れ軽い脳震盪状態になり方向感覚が完全に狂ってしまっていた

意識が朦朧としている中、ポップの目に飛び込んできたのは口から蒼い炎を出す3匹の狼だった

 

「あ・・・ああああ・・・・・・」

 

今の自分でも目の前にいるモンスターが何をしようとしているのかは分かる

あと数秒で目の前の狼達は自分を食い殺すだろう

正常な思考を保つことが困難な状況の中、ポップが起こした行動は意外な事に戦うことだった

真横に落ちていた檜の棒を手に取り、自分で出せる精一杯の殺気を飛ばして目の前の狼を睨んだ

 

幼少の時代からスティーヌはポップに教えを説いていた

いずれ来るであろう父、母の死

死のことばかり考えていると途端に恐ろしくなり、布団に潜り込んで震えていた日々

どんな人間であれ寿命という病気は克服することは出来ず、例外無く人は死んでいく

生半可な教えではポップの脳裏に刻まれた死という概念は取り除くのは不可能だった

そんな中スティーヌがポップに伝えたことはただ一つ

 

「人はみんないずれ死ぬの・・・だからこそ1日1日を精一杯生きるのよ」

 

あの時ポップはスティーヌの言っている言葉の意味が分からず一蹴した

だが今なら分かる

人とは逃げるために戦うのではなく、生きるために戦う生き物である

そう教えられたポップの行動は早かった

目の前の狼から逃げてもいずれは追いつかれて殺されるならば自分が持ちうる全てを出し切って死んでやろうという逃げの思考ではなく戦う思考へと切り替わる

 

モンスターであれ、人であれ、逃げている生き物の思考とは思いのほか単純であり、ましてや追う者、追われる者との間に実力差があるなら尚更である

逃走とは自分の事を脅威と感じていると相手に悟られてしまう行動である

一回でも悟られてしまうと「戦闘(たたかい)」ではなく、それは「狩り(あそび)」となる

 

しかし、事限って戦闘となると話は別

人とモンスターの共通の見解はどんな形をしている敵であれ、自分を殺そうという殺意を放っている敵にはこちらも一寸の油断もなく対処しなくてはならない

さもなくば自分が本当に殺されるかもしれないのだから

 

逃走と戦闘

結果としては実力差があるのなら最終的な結果は変わらない

だが相手を仕留める時間だけは決定的に違うのである

奇しくもポップが起こした行動が彼の人生の明暗を分けた

 

「怪我はありませんか?」

 

気づけば対峙していたモンスターは退治され、一人の男がその場に立っていた

 

 

 

彼こそが後の師であり、世界にその名知らぬ者無し、魔王ハドラーを打ち倒した世界最強の勇者

アバン=デ=ジニュアール3世その人であった

 

「出発の日に死にかける夢を見るとは演技でもねえや・・・」

 

ロモス王城の客室にて仄かな日差しを受けポップは目を覚ました

数多の魔王軍を倒し、そして大魔王バーンを打ち倒した勇者ダイとその仲間の名声は各王国に広がっており、何処へ行っても賓客扱いをされ少しうっとおしさも感じていた

 

「初心を忘れるべからず、自分の命が今あるのはあの時のおかげ、努々忘れるなってことか?感謝しているさ・・先生にもみんなにも・・そして家族にもな」

 

誰も聞いていない虚空に話をかけた後、ポップはベッドから飛び起きて日課である瞑想を始める

客室の専属女中が入ってくるも全く微動だにしないポップの様はもはや悟りの境地に達した賢者そのもの・・・いや賢者の佇まいであった

瞑想を終えて女中が持ってきた朝食に舌鼓し、身支度を整え部屋を出ると一人の女性が通路の壁に背を預け待ち構えていた

 

「本当に行くのね?」

 

凛とした空気の中にも暖かさを感じさせる女性。自分と同じアバンの使徒であるマァムがそこにいた

 

「ロン・ベルクの話だとダイは生きている。ダイの剣が光を失っていないのがその証拠だと言っていた。だが俺達人間は持っている寿命は魔族に比べて短い。待っていても俺達が生きている間に帰って来るかは分からねえ。少しでも可能性があるのなら俺は行くよ」

 

「私を置いて?」

 

そう言われてポップは立ち止った

大魔宮バーンパレス攻略の時、大破邪呪文(ミナカトール)を成功させるために必要な5つの正義の魂。自分だけがアバンのしるしが光らせる事が出来ず、周りの仲間達は自分のしるしを光らせていき自分だけが光らせることが出来ないでいた

だがポップは光らない理由を血の系譜のせいだと妬み、嘆き、そして憎んだ

 

レオナは国の王女としての気品 民を導く調停者 絶対的な 「正義」

ヒュンケルは魔王軍に育てられ、常に戦いに身を置き、敵を屠り続ける 「闘志」

マァムは寄り添う者に分け与える事ができる溢れんばかりの 「慈愛」

ダイは勇者として、ありとあらゆる敵に立ち向かう 「勇気」

 

誰も彼もが新時代を担う仲間達、一言で言うならサラブレッドだった

 

何故自分なのか

何故普通の村の普通の家庭で生まれた自分がここにいるのか

あぁ・・あいつらは持つべき物を持っている者

自分じゃあいつらには敵わない

 

そんな後ろめたい事を考えても時間は有限であり決戦の時は来たる

そんな心境で決戦の場に挑んでもしるしが光らないのはもはや自明の理

最後の最後まで自分の心の弱さを誰にも相談しなかった愚かな男の末路

今まで心の拠り所でもあり教えでもあったスティーヌの言葉を忘れ、その場から逃げ去ろうとした時、目の前が鮮血に染まった

 

「な・・・!?」

 

思考と肉体が反転し、意識が体を乗っ取る

妖魔司教ザボエラが放った毒牙の鎖から想い人を身を挺して守ったメルルがそこには倒れていた

 

「メルル・・・何故・・・」

「ごめんなさい・・邪魔をしちゃいました・・・」

 

「何故・・何故俺を庇った!?俺みたいな男死んで当然だろう!?誰になんの相談もせず独りよがりの行動をし、挙句の果てにはしるしを光らせることが出来ず、その場から逃げた俺だぞ!何故・・・何故だ!」

 

「死んで当然の生き物なんていません・・・皆生きるべくして生きています」

「・・っ・・それ以上喋るな!誰か・・誰か解毒呪文(キアリー)を・・!」

 

言っている事が分からない

ただ一つ言える事はあと数分で一人の女性の命が亡くなるということ

それも自分みたいな男を庇った結果、一人の女性が死ぬ

 

虚ろな目で一人、メルルに小言を言い続けるポップ

その時だった

毒が身体を駆け巡り、口には夥しいほどの血で喋るのも億劫なはずなのに残っている力を振り絞りメルルが口を開いた

 

「ポップさん・・・最後のお願いです・・・ポップさんの嘘偽りない答えが聞きたいです」

 

「・・・・・俺は」

 

色んな事から逃げてきた

逃げてきた分だけ仲間たちからは呆れられ、相棒であるダイは苦笑していた

 

「俺は・・・・・!」

 

また俺は逃げるのか

身を挺して俺を守った子を前にして逃げるのか

違う・・・ここで逃げたら俺は死ぬまで自分自身を許せなくなる

今・・・今この時だけは逃げれない・・いや・・逃げることは許さない

 

「マァムが好きなんだよおおぉー!!」

 

口にすれば1秒足らず

しかしその一言を言うまでに幾度の時間を費やしてきた

その刹那、胸にあるアバンのしるしが神々しい光を放ち、その輝きは瞬く間にその場を覆った

 

ポップのしるしが光った理由は最早誰の目にも明らかであった

ダイのしるしが光った理由が「勇気」ではなかった

ポップが今までの自分と決別し、ただ一歩を踏み出した偉業

それこそがアバンのしるしが光った理由 「勇気」 であった

 

アバンのしるしが光ったのを安心したのか、メルルは瞼を閉じた

自分の役目は終わったと言いたそうな顔でポップに体を預けていた

 

「嫌だ・・・!嫌だ!メルル!!死ぬな!こんなクソッタレのために自分が死ぬなんてダメだ!!嫌だ・・・・!嫌だ!!生きて・・・生きてくれえええええええぇー!!!!!」

 

その時、ポップの身体から光が放ち柱が立ち上がる

魔王軍は大破邪呪文(ミナカトール)が完成したのかと慌てふためくが、光の柱の正体はポップの魔法力そのものだった

光は瞬く間にメルルの毒を打ち消し、同時に生命力を回復させていた

蘇生呪文(ザオラル)のような不完全な魔法ではない

一握りの選ばれた賢者のみが使える完全蘇生呪文(ザオリク)と同等の魔法力をポップは体現していた

 

 

 

 

賢者ポップ・・・否、大魔道士ポップの誕生の瞬間

 

 

普通の家庭で普通の家族として生まれ

 

藻掻き苦しみ

 

足掻き苦しみ

 

それでも決して歩みを止める事なく

 

己が自ら人としての限界を超え

 

人類の到達点を押し上げ

 

名の連なる英雄達の一人となった歴史的な一幕である

 

「答えを聞くまでは死なねえよ、それにずっと探すって訳じゃねえ。時間が空いたらまた顔を出しにくるさ」

 

「本当に?」

 

「あぁ、あまりに帰ってこなくてヒュンケルに付いていったっていいんだぞ?もたもたしてると他の女の子に取られるぞ?エイミさんだって諦めたわけじゃなさそうだしな」

 

「ポップゥー!?」

 

いつものポップの飄々とした口調に怒りながらも安心して見送るマァムであった

 

 

ロモス王城前

出発は誰にも話をしていなかったはず・・・にもかかわらず王城前には名だたる英雄達がその場に待ち構えていた

 

「おっかしいなぁ・・・俺誰かに喋ったっけ?」

「ポップ君の最近の顔見てたら分かる人は誰だって分かるわよ」

「俺そんな顔に出してた・・?」

 

パプニカ王国王女のレオナが答えた

 

「湿っぽいのは好きじゃねえし、ちょっくら行ってくるぜ」

「これだけ集まった皆に何も言わないの!?」

「うるへー!こんなにも集まった奴らに一人一人喋ってたら出発が明日になっちまうよ!!」

 

怒りながらも優しい顔でマァムは微笑んだ

横目で見ていたメルルは嫉妬の視線をマァムに向けたがすぐに笑顔になった

 

「まぁ知っての通りかもだけど俺はダイを探しに行く。何処にいるかは分からないから地道に色んな世界を旅しようと思う。天界、地上、魔界色んな所へ行ってくるから、帰ってきた後の旅話期待しとけよ?」

 

語る言葉はいらず

語りたい言葉はもう常日頃から皆に言い聞かせてきた

誰もが喋ろうとしない中、一人の男だけが口を出した

 

「ポップ。地上はそれなりに分かるとは思いますが天界、魔界はどんな敵や味方がいるか想像できません。くれぐれも注意して探索してくださいね」

 

英雄たちの師であるアバンがそう告げる

 

「分かってるって先生。先生も早くフローラ様と結婚して子供を見せてくださいよ!次に戻る時は朗報期待してますよ!(ゲス顔)」

「な・・なななな・・・なんて事言うのですか貴方は!!」

「何回も行方不明になっては女王様を困らせて、そろそろ隠居して落ち着くべきだと思うんですよ、お前らもそう思うよな!?」

 

ポップの問いに全員が首を縦に振り、アバンはどんどん小さくなりフローラは茹でたタコのように顔を赤くしていた

激励したつもりが弄られてしまい立つ瀬がない師であった

 

ポップは額に手を当て、脳裏に移動呪文(ルーラ)の着地地点を描く

行先はバーンパレスが落下した海の上空、そこから地底、魔界へ行く歪があるとロン・ベルクから教わり、ダイの気配が色濃く感じたのはその辺りからだ

 

「それじゃ、地上の人達のことはしばらく頼むぜ!あばよ!移動呪文(ルーラ)!」

 

そしてポップはロクな挨拶もしないまま、その場を去った

だが文句を言う仲間は誰一人としていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人旅の醍醐味っていやあ、そりゃあ色んな種族の女の子を見てムフフしたり、あわよくば触らせてもらえたりしないかなー!?なーんてな!?(鼻血)」

 

 

この男ぱふぱふには目がないのである




シリアスの中にもちょくちょく笑いをぶっこんでいくスタイル


次回から本格的にダン待ちと絡めていこうと思っています。

世界線が複雑でこれは無理があるでしょ・・とか
思うと思いますが優しい目で見守っていただけると
助かります( ;∀;)


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再臨

お待たせいたしました
ダンジョンに大魔道士がいるのは間違っているだろうか
第2話です

先に謝らせていただきます

まだダンまちと絡めてない件について・・・・

いや、本当にすいません・・・この流れはダンまちに絡ませる前にやっておきたい挿話なんです・・今後のポップをどうしていこうかと考えていたら、やっぱり絡ませておこうって思ったりと妄想が妄想を呼び・・・すいません・・・・


楽しんで読んでいただけたらと思います。それではどうぞ。




カール王国(跡地)上空を移動していると、聞き覚えのある声がポップの脳裏に響いた

 

「ポップさん、聞こえますか?」

「メルル?」

 

ロモス王城で別れたメルルから念話(テレパシー)が聞こえ、耳を傾けた

自分が大魔道士として覚醒するに至った運命の日(バーンパレス攻略戦)

メルルに注がれた莫大な治癒魔法は毒を打ち消し、生命力を回復させるだけではなく

ポップと直接念話をすることが出来る能力を開花させていた

 

「出発前にどうしても伝えたいことがあったのに何も言わずに去るなんてずるいです」

「うっ・・・それはその・・すまん・・・・」

「私がポップさんと念話出来なかったら怨んでいましたよ?私こう見えて本当に怖いんですから」

「メ、メルル・・?その声の低さは何とかならないか・・?」

 

数百キロ以上離れているはずなのに背中の冷や汗が止まらない

それほどまでにメルルの言葉は殺気を含んでいた

 

(・・・ポップさんとの直接念話は私だけのもの・・誰にも邪魔されない私たちだけの聖域(ホットライン)

例えマァムさんでも私た「ちの聖域には入れませんわ・・・ふふふ・・・・」

 

ポップの想い人であるマァムより一歩リードしている自分に優悦を感じているメルル

しかし昂った精神では抑える事が出来ず、気づくことが出来なかった

 

「メルル・・その・・・だな・・声が途中から出ちまってるよ・・・」

「ふふ・・え?・・はっ!?」

 

メルルの意外な黒い一面を見たポップであった

女の子って怖えぇ・・

 

「・・コホン・・ポップさん、いいですか?」

「お、おう・・・」

 

恐ろしい事を言われた後に何を言われるのか全く予想がつかず

一字一句聞き漏らす事がないよう全身全霊をかけてメルルの念話に集中した

 

 

 

「私、メルルは大魔道士ポップを愛しています いつまでも」

「・・・・」

 

「答えは今は聞きません、ポップさんに想い人(マァム)がいるのも承知です。ですが私は諦めるつもりはありません」

「・・・・」

 

「根暗で誰からも相手にされず、予知に纏わる話をすれば人は皆、私の事を気味悪がり逃げていきました。中には石を私に投げた人だっています」

「・・・・」

 

「人を信用せず、自分のために予知を使うと決め、叔母様と一緒にそこれからも生きていくんだろうと思っていました」

「・・・・」

 

「でも私は貴方に会う事ができました。予知を揶揄わず、私の手を取り、太陽すら霞む笑顔を私に向けてくれました」

「・・・・」

 

「この気持ちに嘘偽りはありません。何年、何十年かかっても私はポップさんの帰りを待っています」

 

 

 

聞こえていないわけではない

だがポップは喋ることは出来なかった、いや喋れなかった

これほどまでに自分を想ってくれている人がいる

一世一代の告白を前に安易に喋る事など出来るはずもない

 

だが告白の中に気になる言葉があり、ポップは投げかけた

 

「・・・気づいていたんだな」

「ええ、そして恐らくロモス王城にいた皆さん全員気づいていると思いますよ。

 そして私も予知を使わずとも感じました。恐らくポップさんは暫く()()()()()()()()()()と。ポップさんも気づいているのではないですか?」

「気づいているわけじゃねえさ。単純に直感・・いたずらしては親父から逃げていた第六感(シックスセンス)ってやつさ。自慢じゃねえが的中率100%だぜ?」

 

いや・・唯一死にかけた事を覗いたら100%じゃねえなと一人ごちりながら笑うポップ

 

「ここから先は私の予知ですが・・・分かりません」

「というと?」

「私もこんな事は初めてです。ポップさんの行く末が黒い靄がかかっていて見る事が出来ないんです」

「穏やかじゃねえなぁ・・」

「・・・ですが一つだけ予知ではありませんが予感を感じました」

「それは?」

 

「黒い靄が何を意味しているのかは分かりません・・ですが今回の大戦に勝るとも劣らない出来事が待ち受けているような気がします」

「勘弁してくれ・・さっさとダイを見つけてとんずらしてえぜ・・」

 

念話をしている内にポップはバーンパレス落下地点へと到着した

ロン・ベルクが言っていた歪がどういったものか知る由もなかったが

現地に着き、言っている意味を理解した

 

(・・なんだ?)

 

見渡す限り、海

地平線が続いているだけの世界の中、()()()()()()()()()()()()()()

同時にポップの直感が見抜いた

 

(ここからが俺の長い旅路の始まり・・)

 

触れたら最後、二度と地上に戻ってこれないかもしれない

引き返すなら・・今、この瞬間しかない

 

・・そんな気は毛頭なかった

もうこれ以上相棒(ダイ)がいない日々なんて考えたくないね

何よりお姫様(レオナ)のどんどん老けていく顔なんて見たくねえや

 

 

「メルル」

「・・はい」

「・・行ってくる」

「・・・・はい」

 

ポップは歪曲した空間に触れ、意識を手放した

 

 

 

 

少年は旅立つ

全ては苦楽を共にした友を救うために

 

少女は護る

全ては愛する人の帰りを待つために

 

 

 

「ここは・・・」

 

意識が徐々に覚醒し、ポップの目に映った光景はあまりにも見覚えのあるものだった

 

「天魔の塔・・?」

 

天魔の塔の最上階、大魔王バーンとの決戦の舞台。玉座の間。

地面は至る所に亀裂が走り、壁は崩れ、柱は原型を留めていないほど破壊され尽くしていた

ダイと大魔王バーンの決戦がどれほど苛烈を極めたか一目で分かるほどに

 

だが先の決戦の時にはなかった物・・いや扉があった

堅牢な作りの扉・・魔界に続く地獄門を連想するような巨大な扉がそこにはあった

 

自分の居る場所を即座に把握し、ポップは目を閉じた

そして確信する

 

「バーンパレスが稼働している・・?」

 

正確にはバーンパレス内部に流れる微かな魔力をポップは感知した

だがバーンパレスから仲間達と共に脱出し、落下していく光景を見たのは

記憶に新しい出来事である

目の前の事実に動揺しつつ、ポップは思考を続けた

 

「しっかしなんでまた、こんな所に・・」

「余の玉座の前で随分と無礼な振舞いをしてくれる・・頭を垂れよ ポップ」

 

一瞬の出来事だった

ポップは声が聞こえた直後、戦闘態勢に入り、ブラックロッドを構えた

大戦後も鍛錬を欠かさなかったポップの始動は決戦時よりも更に洗練され、声の主を驚かせた

 

「見事」

「あんたに褒められても一つも嬉しくないがな、大魔王サマよ」

 

ポップは()()()()()()()()()()声の主である大魔王バーンに向けて言い放った

 

「余がいると何故分かった」

「内部に流れる魔力の質があんたの魔力と同じものだと分かったからな」

 

「フフッ・・・ハハハハ!!・・・・素晴らしい

 見事・・全くもって見事・・・余が未だ地上に君臨していたなら間違いなく魔王軍へ勧誘していたところだ」

 

「冗談じゃねえ、まだ好きな女の子の返事も聞けてないのにそっち(魔王軍)に下るわけがねえ」

 

「貴様は見たことあるのかは知らぬが魔界の女も捨てたものではないぞ

 磨かれた曲線美の体に加えて、極めつけは一度盟約を交わした男は決して裏切らない気高き精神 

 数多の男達が虜にされていったものだ」

 

「えっマジ?・・グヘヘ・・(鼻の下伸び~からの鼻血)・・ってそうじゃねえ!」

 

観客(英雄達)がいたら間違いなく白目で見られていたであろう陳腐な会話を終わらせ

ポップが本題へと入る

 

「で、大魔王サマよ 何処にいるんだい」

「頭をあげよ ポップ」

「さっきから下げろっつったり、上げろっつったり・・・」

 

愚痴を零しながらポップは視線を上にあげる

玉座の間のさらに上・・・大天蓋に覆われた大魔王バーンの玉座に

四肢は無く、胴体と顔だけの岩になっている大魔王バーンが鎮座していた

 

「その状態でも喋れるんだな」

「バランに敗北し、岩となった冥竜王(ヴェルザー)と会話をしている余を貴様は見ているだろう 余が喋れないはずもあるまい」

 

魔界を統治する強大なる力を持った

 

冥竜王ヴェルザー

大魔王バーン

そしてもう一人

 

これら三強者は、敗北した者は岩となる呪いを互いに掛け合った

誰が先に地底魔界に大いなる光(太陽)を齎すことが出来るかを賭けて

 

結果として

 

冥竜王ヴェルザーはダイの父親であるバランとの決戦にて破れ

大魔王バーンはバランの息子であるダイとの決戦に敗れた

 

ポップの質問はさらに続く

 

「単刀直入に聞く、何故あんたはまだ生きている」

「簡単な事、ダイに敗北したが死んではいなかった ただそれだけのことだ」

 

「・・・あんたの岩を壊したら全て終わるのか?」

「無論。ただし貴様は未来永劫ここから出られなくなるがな」

「俺一人の命で天下の大魔王サマを滅ぼせるなら・・やらない手はないな」

 

ポップは端から大魔王討伐などする気はない

今の自分には果たすべき目的がある

こんな所で時間を費やすほどポップは暇ではない

 

「やめようぜ大魔王サマよ・・何が目的だ?」

「目的?そのようなことなど」

 

「悪いがあんたと違って、こちとら人間なんでな・・時間()に限りがあるんだよ」

「・・・」

 

バーンは目の前の男を見据えると同時に感じていた

ダイの圧力を「豪」とするならば、ポップの圧力は「静」

静謐の中にある激情をバーンはたしかに見抜いていた

 

ゆえに確信する

この男になら()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

ポップの目の前にそれは現れた

漆黒とは比べものにならないほどに沈んだ黒色の球体

世界の終焉を示すような神々しい黒

否、この球体の色をポップは誘われるように口に出していた

 

「暗黒・・」

「正確には暗黒闘気の種といった所か」

 

「・・・もう一度聞くぜ、大魔王サマ 何が目的だ?」

「ポップ、一つ聞くが「闘気」とはなんだ」

「一言で言うなら生命エネルギーそのものじゃないのか」

「然り。己の体内にある生命力エネルギー・・生脈を正しく理解し、内から外へ放出した物を闘気と呼ぶ」

 

アバン先生の講座でもそんな事言っていた気がするなぁ

ダイは真剣に聞いていたけど俺は魔法使いだから・・うたた寝していたな

 

「拳撃や斬撃に特化すれば威力は増し、体外を覆えば防御力が増す、ここまでは貴様でも理解できるだろう」

「ああ」

 

「ならば()()()使()()()()()()()()()()()

「ヒュンケルに聞いたことはあるが、それは不可能と言われちまったよ。魔力操作をしながら、生命エネルギーをコントロールすることは、物事を考えながら、左手と右手で全く違う事をしている事に他ならないとな」

 

魔法とは内にある魔力を練り、放出することを指す

言葉にすれば簡単だが、ここに生命エネルギーの操作が加わると話は変わる

生命エネルギーの操作に集中しすぎると一方で練っている魔力は行き場を失い

体内で魔力暴走が起きて結果として自分がダメージを受けることとなる

逆もまた然りである

 

強大な呪文に闘気を使用する行為は一つ間違えれば死に繋がると言っても過言ではない

 

「唯一近しい事をやってのけた奴は知ってるがな」

「竜闘気砲呪文・・か」

 

 

竜の騎士であるバランとダイのみが放つことが出来る竜闘気砲呪文(ドルオーラ)

竜闘気(ドラゴニックオーラ)を膨大な魔力で超圧縮し、両掌を使って放出する呪文である

その威力は島国一つを一撃で滅ぼすことができる威力を秘めている

 

 

「その話とこの種はなんの関係があるんだ?」

「深い意味などない」

「おい・・」

 

拍子抜けした返答にポップは顔を顰める

 

「しいて言うのなら貴様という人間の旅路の果てが気になった」

「旅路?」

 

「ダイを探すのだろう?」

「・・・・ああ」

 

 

その時だった

バーンパレス全体が鳴動し、崩壊を始めた

 

 

「・・・なんだ!?」

「余に残っていた魔力を種に込めた結果だ。供給していた魔力が途切れ、崩壊をし始めた」

 

ポップは未だに迷っていた

魔界の王と言われる大魔王バーンがそれほどまでに自分の事を買っている理由が未だに分からないからだ

 

「余が貴様にそこまで尽くす理由が分からぬと言いたそうな顔をしているな」

「ダイや他の英雄達と違って、一般人の俺にそこまで尽くしてくれる理由を教えてほしいもんだ」

 

「地上の人間共はこう評しているのだろう? ()()()()()()()()()()()()()()() と」

「事実そうだからな」

 

「余はダイに敗北した訳ではない・・貴様に敗北したのだ!ポップ!!」

 

 

バーンパレス全域に聞こえそうな憤怒の声をポップは聞いた

 

「あの日・・貴様さえ居なければ余はダイを倒し、その仲間を皆殺しにし、地上を滅ぼすはずだった。貴様がいたことで全ての予定調和は崩れ、余は敗北する結果となった。それだけならまだいい!余は徹底した実力主義。敵味方問わず、強き者には敬意を払う!。だがいつぞやの(レオナ)にも説いたが地上の人間共は物事の本質を見ようともせず、上辺だけの結果で英雄達を称える。それが本当に我慢ならぬ!」

 

「敵であるあんたにそこまで思われると鼻が痒いな」

「たわけが」

 

英雄達の名声・・聞こえはいいが最大の功労者であるダイ以外の英雄達は日に日に地上の人々の記憶から薄れていくだろう

真っ先に誰が記憶から消えていくのかと問われれば、間違いなくポップである

 

「そこまで言われたら・・な」

 

 

ポップは目の前の種を手に取り、()()()()()()()()()()()()

種はポップの体内に入り、何も起きる事はなかった

 

「罠の可能性も考えなかったのか?」

「魔王軍の中には胸糞悪い奴らはたしかにいたさ。だがこと戦闘に関してはあんたは真正面から俺たちと対峙してくれた。これが罠だと見抜けなかったなら俺が間抜けだったってことだな」

 

 

バーンパレスの鳴動が、大きくなっていく

バーンは最後にポップへ言い放った

 

「努々忘れるな・・そして覚悟しておくことだ。今は種だが芽が吹けばどんなモノになるか想像も付かぬぞ」

「精々水やりは毎日して枯らさないようにはしておくさ」

 

 

ポップはそう言うとバーンに背を向けた

 

扉は開かれた

 

扉の奥は吸い込まれるような「無」

色はなく、匂いもない

時間が停止しているかのような錯覚に襲われるが辛うじて踏みとどまった

 

「またな、大魔王サマ」

「自惚れるな。次に貴様と会ったときは余に2度目の敗北はない」

 

「それじゃ言い直すぜ、()()()()()、大魔王バーン」

「・・・()()()()()、ポップ・・・いや、大魔道士ポップ」

 

 

 

言葉を交わし、ポップは門を潜った




ポップとマァム派
ポップとメルル派

どっちと問われれば私はポプメルです。
メルルには幸せになってほしいですね。


そしてバーン様との邂逅ですが如何でしたでしょうか?
無茶があるとは重々承知ですがこの絡みはどうしてもさせたかったんです。

ポップの中に入った種ですが色々と妄想が捗りますね・・!

それではまた次話で!


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