俺はディアッカ、板前だ。 (オファニム)
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寿司屋『得酢満』

ディアッカの趣味は日本舞踊です。


 俺はディアッカ。チャーハンはもう飽き飽きだ。

 

 来る日も来る日もチャーハンチャーハン。そればっか作らされるのは、いい加減うんざりだぜ。

 だから決めた。俺は和食を作る。

 

 俺はディアッカ。

 ──板前だ。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「へいらっしゃい! 今日はグゥレイトなネタが入ってるよ!」

 

 俺はディアッカ。寿司屋の店主だ。

 

 軍を退役して修業を始めた俺は、数年の時を経て店を持つにまで至った。

 プラントに店を構えてるが、そこそこ繁盛してるぜ。

 

 昔馴染みも来てくれるし、その中でも偉いヤツは特上ネタを頼んでいくから在庫を腐らせなくて済む。ありがてぇ。

 開店した時は皆に宣伝を協力して貰ったっけな。あの時は助かったぜ。

 

 今日はその内のひとり、イザークが来てくれた。

 

「はんっ、相変わらず狭い店だな。もっと広くしたらどうだ?」

 

「おいおい、土地代が馬鹿にならねぇっての。それに今のままが気に入ってんだよ」

 

「貧相な価値観だな。おい、いつものだ」

 

「はいはい。大トロマグロの特上にぎりセット頂きましたってね。イザークはマグロ好きだな」

 

「黙ってにぎれ」

 

 素っ気ない態度に肩をすくめると、シャリを掬ってにぎる。

 優しくふんわりと包み、だがしっかりとした絶妙な力加減で形を造る。

 

 その上に特上の大トロを乗せ、ふたつをひとつへと逢わせる。

 さも初めから一体だったかのように重なるふたつは、抱き逢う恋人のようだ。

 

 もちろん、わさびも忘れていない。

 舌を刺激的に踊らせるアレは、例えるなら音楽。

 より盛り上がる味わいを引き出すには、必要不可欠だ。

 

 セット分のネタを作り、イザークのテーブルへ置いた。

 ツヤっツヤで新鮮なネタだ。今日も自信をもって送り出せる良い出来だぜ。

 

「OK! へいお待ちどう!」

 

「遅かったな、もう少しで帰るところだったぞ」

 

 イザークの挑発的な視線を、確かな自信と余裕をもって真正面から受け止める。

 そして瞳を閉じ、軽く手を振って催促をした。

 

「そう言うなって。食えっての。味わえよ」

 

「ふん、良いだろう」

 

 そう言うイザークの視線は特上マグロに釘付けだ。

 どっしりと構え、上質な脂を蓄えるコイツからは、ザフトの誇るエースでさえも片時も目が離せないらしい。

 

 そして漆塗りの箸を手に取ると、上品にネタを挟んだ。

 イザークも箸の使い方が上手くなったもんだ。

 

 そのままネタを少量の醤油に浸けると、ゆっくり……この時間を噛みしめるように、口へと運ぶ。

 

 入った。

 

「……くう……っ!」

 

 ──輝 く 光 が 照 ら し

 

 

 

 

 

 

 

 イザークは大層満足して帰った。

 

 さーて、次は誰が来るかな。



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出前『得酢満』

供養供養


 

 俺はディアッカ、今日は出前だ。

 

 ラクスから注文を受けてプラント評議会にまで来たぜ。

 中には議員のおっさん達とラクスがいた。キラとイザークもいるな。

 

「まいど! 出前だぜ!」

 

「ディアッカ!? 貴様なぜここに!」

 

 イザークが驚いてやがる。さてはラクスのヤツ、周知してなかったな?

 

 当のラクスは、のほほんと手を振っている。

 

「私が頼んだのです。さあ皆さん、お昼にしましょう?」

 

「はあっ? しかし議題はどうするのです!」

 

「そうだ、国の信頼を取り戻す案を──」

 

 おいおい、皆イライラしてやがるじゃねぇか。腹減ってるからか?

 じゃあ、板前として美味いもん食わせてやらないとな。

 

「お前ら、メシ食ってないんだろ? 待ってろよ、すぐにグゥレイトなネタにぎってやるからな」

 

 シャリの入った飯台を置いて、クーラーボックスから切り身を取り出す。

 次に寿司げたを取り出して、その他もろもろの準備も済ませた。

 

 ムラなく酢を混ぜたシャリを掬うと、優しく丁寧に包む。

 慈しみ、愛を込めて形にしていく。

 

 今日も調子良いぜ。

 

「呑気に寿司など食っている場合か! こうしている間にも国民はバラバラになっていっているのだぞ!」

 

「落ち着けってオッサン。寿司食え」

 

「何を! このままでは国が不安定に──」

 

 ネタを乗っけて出来た寿司をひとつ、寿司げたにそっと乗せる。

 

 そして新たにシャリを掬って、それを全員に見えるように手のひらに乗せた。

 

「……国民ってのは、シャリとよく似てるんだ」

 

「は?」

 

 そして俺はシャリを乗せた手を、飯台の上でゆっくり傾ける。

 シャリは崩れて落ちていった。

 

「掬っただけじゃ、てんでバラバラ。そんままだとボロボロ崩れてっちまう」

 

「…………」

 

 飯台に帰っていったシャリを眺めてから、俺はもう一度、シャリを掬って手に乗せる。

 そして、キュッとシャリをにぎってやった。

 

「でもな、しっかりにぎってやればちゃんと固まるんだ。お互いに繋がる力はあんだよ」

 

 俺はもう片方の手を突き出すと、全員に見えるように手のひらを開いた。

 

「お前ら国は、手だ。今はにぎりたての未熟な手かも知れねぇ。けど、それはこれから修行していきゃあ良い」

 

 そして、その手を固く握りしめる。

 同時に、形を整えたシャリを見せてやった。

 

「しっかり修行すりゃあ、ちゃんとシャリは応えてくれる。良い形で固まるんだ」

 

 オッサン達は何かに気づいたのか、ハッとした表情で俺に目を向けた。

 それに笑って応えつつ、特上のネタを手に取る。

 

「後は未来というネタを合わせてにぎってやれば、ハッピーだろ?」

 

 そして片目を閉じながら、ネタを合わせて寿司として完成させた。

 その寿司をまた寿司げたに乗せながら、オッサン達を見据えて言う。

 

「頑張れよ。俺もシャリの一粒として、お前らがにぎってくれるのを待ってるぜ」

 

 それだけ言うと、俺は黙々と人数分のネタをにぎっていった。

 

 程なくして、全てが完成する。

 どれもこれも良い脂が乗ってやがる。今日も良い出来だぜ。

 

 自信をもって、この場全ての議員に送り出す。

 そのどれもが、光り輝く俺の最高傑作だ。

 

「さあ、お待ちどうさん。最上級のにぎりを楽しみな」

 

 シャリはどれもが光を反射している。まんべんなく酢が通っている証拠だ。

 

 ネタはもちろんどれもが最上。

 プリっプリの海老に、しなだれかかって来るようなサーモン。

 荒い海で生き残った勇敢なマグロが不味いはずはない。

 

 この場にいる誰もが、ネタから目を離せないでいた。

 当然だぜ。このグゥレイトな寿司は誰であろうと必ず墜とす。

 

 ゴクリ

 

 そんな食欲に支配された音が、この室内で反響する。

 誰からともなく、箸を手に取り始めた。

 

 そして、思い思いのネタを持ち上げ……その口へと放り込んだ。

 

『……ッ、んぅッ──!』

 

 ──辿 り 着 く 場 所 さ え も 分 か ら な い

 

 

 

「あ、そういやついでにチャーハン作ってみたんだけど食ってけよ」

 

「あ、うん。……普通だね」

 

「うん、普通」

 

「普通に美味いな」

 

「普通」

 

 ……やっぱもうチャーハンは作らねえ。




たぶん続きません!


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