仮面ライダー剣―Missing:IS (断空我)
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プロローグ

 

 

雨が降っていた。

 

二人の男が互いに向かい合っている。

 

双方ともボロボロの姿をしているがゆるぎない信念めいたものを瞳に灯していた。

 

男が口を開き、戦いが始まった。

 

同時刻、ある学者の団体が遺跡をダイナマイトで破壊して内部に侵入する。

 

これが物語の始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“IS”この言葉と存在が世界に染みこんでどのくらいの年月が流れただろうか?

 

社長室のデスクで資料の整理をしていた橘朔也は考え込んでいた。

 

“IS”―正式名称をインフィニットストラトス。元々は宇宙空間での活動を行なうためのマルチフォームスーツとして設計されたものらしいが、現在は最強の兵器、スポーツなどのパワード・スーツとしてISは使用されている。

 

今までの軍事兵器などを根本から覆したISだが、大きな欠点といえるものが存在していた。

 

ISは女性しか使用することが出来ない。

 

そのため、男性の地位は昔よりも下位に、女性が優位にある。

 

実際の所、彼が仕事の都合で他の企業の重役と会議をしている時に女性で舐められてると思われる部分がある。

 

まぁ、こっちがジョーカーという名の切り札を握っているからヘコヘコする必要がなかったが。

 

その中で、もう一つ、橘の頭を悩ませる出来事が発生したのである。

 

 

「・・・・これか」

 

 

彼の目の前には書類が一枚置かれている。

 

『織斑一夏のIS学園入学について』と書かれていた。

 

織斑一夏、今年から高校生となる彼だが、どういう訳か藍越学園を受けるはずがIS学園の試験会場に迷い込み、そこでISを起動させるというとんでもない事態を引き起こしてしまったのである。

 

それから、彼の日常はめまぐるしく変化しつつあった。

 

どこぞの見知らぬ企業が彼を手に入れようとBOARDから引き抜きを行なってきたが、一夏自身が「自分はBOARD所属です」といい首を縦に振らないため、いくつかの企業がBOARDを潰そうとしてきたがすべて無駄に終わっている。

 

国からも倉持技研という所に所属しないか?という話もきたが首を縦に振らない。

 

そのためか、国の査察官と名乗った男達がBOARDに押しかけて中の事情を探り不正の証拠を見つけようとしたが、そんなものは当然ないため、見つかることはなかった。

 

問題はなしという事で国も手を出せない状況だがとりあえずIS学園に入学してくれと泣きつき、説得してくれという話になる。

 

そのことに関しては本人の意思を尊重するとしか橘はいえなかった。

 

 

 

考え事をしていると部屋のドアが叩かれる。

 

 

「失礼します。橘さん。今回の敵を封印しました」

 

入ってきたのは件の織斑一夏ともう一人、彼の親友の五反田弾。

 

弾が回収したスコープバットのカードを机の上に置く。

 

一瞬、カードの中のバットが動いたが見慣れている橘は特に気にしない。

 

 

「そうか・・・・よし、弾」

 

 

 

 

「はい?」

 

「これから特訓だ」

 

「はい・・・・うぇええええええええええ!?」

 

「弾、うるさいぞ」

 

「すいません」

 

「とにかく、次の戦闘から一人で戦う事が多くなるだろう。一人での戦闘におけるシミュレーション」

 

「り、了解・・・・・・」

 

「それと織斑」

 

「はい」

 

「まもなくIS学園への入学することになる・・・そこで、キミに学園内におけるサポーターをつけようと思う」

 

「サポーター・・・って、誰ですか?」

 

「それは僕だよ~」

 

ドアが開いて一人の男性が入ってくる。

 

どこか大人しげだけれど、優しそうな人。

 

織斑一夏と五反田弾はその人物を知っている。

 

名を白井虎太郎。

 

フリーの小説家で“仮面ライダーという名の仮面”というベストセラーを書いた超がついてもおかしくはない有名人。

 

というのが世間の常識で、一夏達にとって白井虎太郎という人物は頼りになるサポーター。

 

「やぁ、二人とも。元気そうだね」

 

「はい!虎太郎さんも元気そうで!」

 

「うん、まぁね」

 

他愛のない会話をしていたが橘朔也がコホンと咳き込んでから立ち上がる。

 

「さぁ、弾、訓練に行くぞ」

 

「え・・・あ・・・・もっと白井さんと」

 

「行くぞ」

 

弾の襟首を掴んで橘は外へ出て行く。

 



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第一話

 

 

IS学園。

 

日本にあるIS操縦者を育成するために造られた学園。

 

学園には様々な国籍の女の子がISを操縦するのに必要な技術、知識などを学ぶ。

 

当然のことながらIS学園は教員も生徒も女性で構成されている。

 

しかし、今年は少し様子が違った。

 

一年生のある教室の中で一人男子生徒が混じっていた。

 

その男子生徒こそ、世界で唯一ISを動かせるという事が発覚した織斑一夏である。

 

「(うっわぁ・・・・想像していたよりもかなりキツイなぁ・・・これ)」

 

そんなことを考えていると副担任の山田真耶が自分を呼んでいることに気づかなかった。

 

「織斑一夏くん・・・・?」

 

「あ、はい!」

 

「あ、ご、ごめんね・・・・席順があ行からで・・・次が織斑君なんだよね・・・・悪いんだけど自己紹介をしてもらいたいんだ。い、いいかな?」

 

「あ、はい・・・いいですよ」

 

「ほ、本当ですよね?う、嘘じゃないですよね!?」

 

「はい・・・えっと・・・・・織斑一夏といいます。趣味はこれといってあまりありません。偶然、ISを動かせるという事実が発覚しましてIS学園に入学する事になりました。よろしくお願いします。以上です」

 

そういって一夏は席に座る。

 

他の生徒達はもっと話して~、という視線を向けてくるが、これ以上となると話す内容が思いつかないので静かに着席した。

 

「山田君。すまない、遅くなった」

 

一夏が席に座るとドアが開いて一人の女性が入ってくる。

 

黒いスーツをびしっと着こなし体に纏っている雰囲気は武人に近い。

 

一夏はその人物をよく知っていた。

 

なぜなら入ってきたこのクラスの担任、織斑千冬は織斑一夏の姉なのだから。

 

『キャーーー!千冬様ぁ!』

 

『一目見たときから大好きです!』

 

『反抗しないように躾してくださーい』

 

「全く、このクラスには変人しか集まらないのか?」

 

「(大変、御尤もです)」

 

千冬の発言に一夏は心の中で同じことを思う。

 

彼女はんふん!といってから一言。

 

 

「諸君、私が織斑千冬だ。この一年でISの基礎を叩き込んでもらう。嫌でもついてきてもらうぞ。反抗的な態度だろうと私の言葉には返事をしろ。いいな!」

 

『はい!!』

 

クラスメイト全員(ほとんど)の叫びに織斑千冬は満足したようだ。

 

「それで、何故、お前から先の自己紹介が進んでいないんだ?」

 

「・・・・わかりません。自分はしっかりと挨拶を終えたので」

 

「話しているときは相手の顔を見ろといったはずだが?」

 

一夏は危機感を察知してカバンを前に構える。

 

直後、繰り出された拳が大きな音を立てた。

 

カバンを覗き込むとカバンに拳をめり込む。

 

「織斑先生・・・・あなたは私を殺すつもりですか?」

 

めりこんだカバンに冷や汗を流しながら一夏は尋ねる。

 

「教育的指導だ。織斑」

 

バチバチと二人の間で火花が散る。

 

二人の険悪の雰囲気に周りの生徒達は冷や汗をダラダラと長していた。

 

「失礼します・・・・SHR終わりましたか・・・・って、あれ?」

 

その時、運がいいのかタイミングが悪いのかわからないが一人の男性が入ってくる。

 

名を白井虎太郎。IS学園の特別講師としてやってきた人物だ。

 

 

「・・・・白井虎太郎・・・・特別講師が一体、なんのようだ?」

 

刃のようにギロリと睨まれた虎太郎だが特に気にした様子もなく席に座っている一夏の手を引く。

 

「彼には次の授業で手伝ってもらいたいことがありまして、お借りします~」

 

虎太郎は呆然としている者達を放って置いて一夏を連れて教室へと飛び出す。

 

山田先生は修羅のようになっている千冬を残されて涙を流していた。

 

「助かりました。虎太郎さん」

 

「いいよいいよ。資料運びしてもらいたかったのは事実だから」

 

虎太郎の横でダンボールを運んでいる一夏は助かったと思った。

 

織斑千冬とは“あの日”を境に仲が悪化する。

 

どうしても避けられない道、そこで一夏と千冬の道は繋がっているように見えて別れてしまった。

 

“あの日”を境に一夏は家に帰らずBOARDに設置された社員寮で生活をはじめて、家へは一度も戻っていない。

 

 

 

 

 

 

 

「その様子だとまだ喧嘩したままみたいだね」

 

「はい・・・・・」

 

「まぁ、向こうはキミを思っての発言だったからね。曲げるつもりもないんだと思うよ」

 

「それはこっちも一緒ですよ・・・・にしても、この箱の中に入っている本。何に使うんですか?」

 

「授業で使う参考書だよ。いやぁ、IS学園の特別講師の待遇って素晴らしいね。この本を注文したいって、頼んだらあっさりと許可してくれるんだもん。国が作った学校っていいねぇ」

 

「・・・・もしかして」

 

箱を開けて中を覗き込むとびっしりと同じ名前の本が入っていた。

 

 

 

 

 

手伝いを終えて戻ると一時間目開始少し前の時間らしくお叱りを受けずに済み。一夏は授業を受ける。

 

ほとんどの授業がISに関する専門知識で、事前に貰った電話帳のような厚さの本を読んでみたけれど、訳がわからない。

 

その事を伝えると山田先生が特別授業をしますと張り切ってくれて、少し助かったと内心思った事は内緒だ。

 

そして、休みの時間となり。

 

「(暇だなぁ)」

 

周りを見渡そうとすると全員がこっちを見ていたらしく慌てて視線をそらす。

 

こういう時は何も考えず読書でもしていたほうがいいな、と判断してもってきていた本を

読み始める。

 

表題は『仮面ライダーという名の仮面』

 

本を読んでいると遠くから生徒の話し声が聞こえてくる。

 

『ねぇ、あの本って・・・』

 

 

『少し前にベストセラーになった本よね?』

 

『でも、あの本。他の授業で配っていたらしいわよ?』

 

「ねぇねぇ~~」

 

 

本を読んでいると一人の女の子が話しかけてくる。

 

どこかのほほーんとした雰囲気で着ている制服は袖のサイズが大きいのかダブダブで手が見えない。

 

 

「えっと・・・・」

 

「あ、私の名前は布仏本音だよ~」

 

「布仏さんか、初めまして。織斑一夏だ」

 

「知ってるよ~。テレビとかに出ていたよね?」

 

「テレビとかはともかく、面と向かって話すのは初めてだからしっかりと挨拶はしないと」

 

「成る程~~」

 

「それで・・・・何か用?」

 

「あ、うん。ねぇ、その本って、仮面ライダーという名の仮面だよね?」

 

「知っているの?」

 

「うん~、私の友達が読んでいたんだ~。面白い~」

 

「あぁ、色々と考えさせられるよ」

 

この本の内容自体はファンタジーモノと見られている。

 

だが、一夏は色々なことからこの本を読んで、色々と教えてもらっていた。

 

布仏とこの本について色々と話しこんで。今度、その友達と話をして~という約束をして次の授業を受けることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は顔をしかめて織斑一夏を見ていた。

 

今すぐにでも幼馴染である織斑一夏と話をしたいと望んでいたのだが、ずっとそれが出来ないでいる。

 

授業開始前に話をしようとしたが周りの雰囲気で行く勇気が出なかった。

 

休み時間、話しかけようとしたらのほほーんとした雰囲気の子があろうことか自分より先に話しかけた。その子と一夏が楽しそうに見ているのを見て箒は嫉妬する。

 

 

「(私に会いにこないんだ・・・それに、どうしてあんな親しげに話すのだ)」

 

他の休み時間、一夏に話しかけようとする箒なのだが、あの子が引き金となって他の女子が話しかけようと雪崩のように込み入ってしまい会いに行く事ができない。

 

嫉妬していた箒だが、次第に焦りだす。

 

「(ま、まさか・・・・・一夏は私だと気づいてないんじゃ?)」

 

そんなことはまずありえないとすぐに否定した箒だが、目の前に居るのに会えないという事実により段々と気にするようになっていく。

 

昔と比べてお互い色々と成長しているが大好きな幼馴染の事を箒は一日たりと忘れたりしなかった。

 

ISを動かせる男性としてニュースとなった時も一目見ただけで一夏だとわかった。わかったのに、あっちは自分のことなど忘れてしまったのだろうか?

 

忘れられてしまったのではないか?という負の連鎖に箒は包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「ということですが、わからないところはありますか?織斑君」

 

「いえ、むしろとてもわかりやすいですよ!山田先生!」

 

「そうですかぁ、よかったです」

 

えっへんと嬉しそうに胸を張る山田先生に笑顔を向けながら一夏は時間を見る。

 

そろそろ学園を出ないと寮に戻る時間が遅くなってしまう。

 

駐車場に止めてあるバイクのところに戻らないと、と思い一夏が立ち上がろうとしたところで。

 

 

「ここにいたか織斑」

 

「織斑先生、何か用ですか?そろそろ帰らないといけないんですけど」

 

「その事だが、学園側の都合でお前は今日から学園の寮で生活する事となった」

 

「・・・・・・生活用品、何も持ってきていないのですが?」

 

「それなら僕が持ってきたよ~」

 

「虎太郎さん」

 

千冬の後ろから現れた虎太郎に驚き、彼の手の中にあるボストンバッグの中を見ると、自分の部屋においてある物だということに気づいた。

 

 

「どうして虎太郎さんが?」

 

「橘さんから連絡が来てさ~。取りに来てくれって頼まれたんだ。はいこれ」

 

「ありがとうございます。それでは山田先生、織斑先生、失礼します」

 

部屋の鍵をもらって一夏は寮へと歩いていく。

 

 

「あ、待ってよ~」

 

虎太郎は後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

ISの寮の中を歩いていた一夏は目的の部屋を見つけ中へと入っていく。

 

「ここか・・・・・・」

 

一夏が部屋の中に入るとそれなりに広く、生活用品も揃っていて生活にはあまり困らないだろう。

 

だが、

 

 

だが、これはどういうことだろう?と口にだして呟いた。

 

 

「どうしてシングルベッドが二つもあるんだ?一人用の部屋じゃないかのか?まさか、相方がいるのか・・・・」

 

嫌な予感がして部屋を出て行こうとした一夏だが、ドアが開いて一人の少女が部屋にやってきた。

 

「む、同室の者か?こんな格好ですまな・・・・・・」

 

「よ、よぉ・・・・」

 

現れたのはバスタオル一枚でポニーテールにしていた髪を下ろしていた篠ノ之箒。

 

シャワーを浴びた後だからか体から湯気がでていて色気がにじみ出ている気がする。

 

いや、にじみ出ているのだが一夏が気づいていないだけだ。

 

箒は呆然としていたがすぐに剣道着などが入っている袋から伸びている竹刀を掴んで一夏に切りかかろうとする。

 

「させるかぁ!」

 

その動きを予測していた一夏は箒の足を払いのけた。

 

しかし、場所が悪く、ベッドの上に倒れるどころかこのままでは堅い床に倒れ込んでしまう事に気づき、箒を抱きかかえるように変わりに床に倒れ込む。

 

ドシンと大きな音を立てて二人は床に倒れる。

 

 

 

 

もふ。

 

 

 

「・・・・」

 

「いってぇ・・・・箒、だいじょ・・・・うぶ・・・・か?」

 

 

自分のしている事に目を見開く。

 

倒れそうになった箒を抱きかかえている。

 

さらに彼女の豊満な胸を片方の手がつかんでいるという展開。

 

男なら喜ぶか、とんでもないことをしてしまったと反省する場面だろう。

 

だが、一夏はこの二つとは異なる事を考えていた。

 

――綺麗だ。

 

「よ、よかった。その様子だとどこも怪我していないみたいだ」

 

一夏は箒をベッドに座らせてから脱兎の如く部屋から逃げようとした。

 

だが、

 

「う・・・・・・うぇええーーーーーーーーーん」

 

 

子どものような泣き声にぴたりと立ち止まる。

 

この部屋には二人の人間しかない。

 

なのに、泣き声が聞こえるのはどうしてか?

 

答えは簡単、後ろにいる篠ノ之箒が泣いているのだ。

 

どうして泣いているのか?

 

それは一夏が自分のことが覚えているのか不安ということからきていた。

 

一夏と話す事を何度もチャレンジしていたが、その度に他の生徒達が話しかける。

 

放課後になってようやく話せると思ったらまさかの山田先生との個人勉強タイムに突入してしまい、話す事が結局できず。

 

ふと思っていたあの考えがむくりと頭を上げたのである。

 

一夏に忘れられていたのではないかという考え。

 

しかし、それは杞憂に過ぎなかった。

 

一夏はちゃんと覚えていてくれた。成長していても自分だとわかってくれた。

 

裸を見られたから暴力を振るおうとしたがあっさりと一夏に封じられてあろうことか胸をつかまれてしまい、箒の保っていた威厳とかそういうものがすべて粉々に打ち砕けてしまい。

 

本心というか思っている事がすべて表に出てしまっちゃったのである。

 

「一夏のバカぁ・・・・色々と不安・・・・だったんだぞぉ・・・・なのに、お前は・・・・お前は他の子とばっかり話をしてぇ・・・・私の事を忘れたのかと・・・・思って」

 

「・・・・すまない」

 

幼馴染にどれほど不安にさせてしまったのか、一夏は驚いて固まってしまう。

 

そんな一夏の背中に箒は泣きながらしがみつく。

 

 

「あ、あの日から・・・・お前に会うのが怖くなって・・・・再会しても私の事をわかってくれるかわからなくて・・・・」

 

「幼馴染の箒のことを忘れるなんて事あるわけがないだろ!」

 

「ほ、本当か!?」

 

「と、当然だ!俺は箒の事を忘れた事なんてないさ!大切な幼馴染のことなんて!」

 

「そうか・・・・嬉しいぞ。一夏・・・・」

 

そこでふと、一夏は気づく。

 

箒はバスタオル一枚の状態で自分に密着しており、こんな状態のまま居たら箒は風邪を引いてしまうかもしれない。

 

「あーーー。箒」

 

「ぐすっ・・・・なんだ?」

 

「そろそろ着替えた方がいいんじゃないか?風邪引いたらいけないし」

 

「っ!?」

 

箒は顔を真っ赤にして服を掴んでシャワールームへと逃げ込んだ。

 

「・・・・柔らかかった」

 

思春期の男の子である一夏は誰にも気づかれないように呟く。

 

 

 

 

 

薄暗い闇の中で五反田弾は周囲を警戒していた。

 

先刻、小型のアンデッドサーチャーにアンデッドの反応を察知してやってきたのである。

 

周囲には人影がなく、ただ電柱のランプが周囲を照らしているだけであり、ほとんどを闇が支配している。

 

その中で弾は鍛えられた視力で暗闇の中から迫り来るものに気づく。

 

懐からギャレンバックルを取り出して中心部のラウズリーダーにダイヤのAカードを装填する。バックルからカード状のベルト・シャッフルラップが自動的に伸張しバックルが装着される。

 

「・・・・変身!」

 

『Turn・Up』

 

叫ぶと同時にターンアップハンドルを引くことでリーダーが回転してギャレンアーマーを分解した光のゲート・オリハルコンエレメントを装着者の前面に放出する。

 

弾は駆けてオリハルコンエレメントを通過した。

 

通過すると同時に弾の体をギャレンアーマーが包み込む。

 

ギャレンとなると同時に暗闇からローカストアンデッドが襲い掛かってくる。

 

「うぉっ!?」

 

突然、飛び掛られたためにギャレンの反応が遅れそうになるが、反射神経による行動によるラウザーホルスターから醒銃ギャレンラウザーを抜いて銃口をローカストアンデッドへ向けてトリガーを押す。

 

弾丸が放たれてローカストアンデッドは後ろに仰け反る。

 

さらに追い討ちをかけるようにギャレンラウザーで攻撃をしていく。

 

全身に弾丸を受けて仰け反って倒れたローカストアンデッドに止めを刺すためにギャレンはラウザーのオープントレイを展開して中にあるラウズカードを抜いてスラッシュリーダーで読み取らせようとしたとき――、

 

「っ!?」

 

ギャレンの全身が凍りつく。

 

仮面ライダーとしてまだ日が浅い方のギャレンだが、戦闘をそれなりに経験しているからだいたいの殺気などにはもう慣れたつもりだった。

 

だが、これは違う。

 

これは今までと比較にならないほどの殺気。

 

殺気を浴びているだけで全身がダメージを受けているかのような感覚に襲われる。

 

その隙にローカストアンデッドは全身を小さなバッタのような姿に変えて行方をくらます。

 

「しまっ・・・・」

 

アンデッドが消えると同時にギャレンを包み込んでいた殺気も消えている。

 

「・・・・消えた?」

 

周囲を警戒するが殺気の主は見つからない。

 

「今の・・・・一体」

 

変身を解除して弾は疑問を口に出す。

 

それに答える者はいない。

 



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第二話

「ちょっとよろしくって?」

 

「ん?」

 

休み時間、本を読んでいた一夏は顔を上げた。

 

金髪にすらりとした美がつく少女。英国人あたりだろうか?と考えていた。

 

そんなことを思っていると一夏の反応にお気に召さないのかまぁ、といい。

 

「イギリスの代表候補生であるこの私、セシリア・オルコットが話しているというのになんという態度ですか?」

 

「あぁ、すまん。俺はキミを知らなくて」

 

「まぁ、いいですわ。入試でただ一人教官を倒した私ですから、そういう態度も余り気にしませんわよ」

 

「教官を倒したって・・・・あのIS装着して戦うあれか?それなら俺も倒したぞ、といっても勝手に突撃して勝手に壁に激突しただけなんだが」

 

「え、えぇ!?あ、あなたも教官を倒したというのですか!?私だけだと聞いていたのに」

 

「もしかして、女子だけの話じゃないかな?そういうことならありえるけど」

 

「虎太郎さん・・・・いつの間に・・・・」

 

「次の授業の担当、僕なんだよ。一夏君~」

 

「くっ、また後で来ますわ!ですから逃げないでください!」

 

「・・・・・・」

 

「え・・・・あの子なに?」

 

「わかりません」

 

悪役のようなセリフを残して去っていったセシリアに一夏は何もいえなかった。

 

 

 

虎太郎の授業、初回は彼が執筆した二冊の本について個人がそれぞれ思った感想を述べてもらうというものだった。

 

そのため、最初の時間は本を読む時間ということになったのだが。

 

「この本を読むことがISと関係あるのですか!?」

 

ガタッと椅子から立ち上がってセシリア・オルコットが虎太郎に尋ねる。

 

突然の事に戸惑いながらも虎太郎は笑みを絶やさない。

 

「ISとは関係ないかもね。それに僕は特別講師だからIS関係以外を教えるためにいるんだ」

 

「ですが、この本を読む理由がわかりませんわ」

 

そういってセシリアは“仮面ライダーという名の仮面”の表紙をたたく。

 

「この本が日本で人気があるという事は聞いています。ですが、この本のどこがいいのかわかりませんわ。実在するかどうかわからない存在のことを書かれても何も感じません。なにより、他者のために自分を犠牲にするという男がこの世にいるはずがありません!」

 

「訂正しろ!」

 

一夏は叫んでいた。

 

突然の事にクラスメイトの女子、箒も驚いた表情をしている。

 

「織斑君、席に」

 

「て、訂正しろとはなんですか!」

 

「訂正しろっていったんだ。この本に書かれている彼らの事を何にも知らないからって妄想だと決め付けて!挙句の果てに存在しないだと!?ふざけるな!英国にそういう男がいないからってひがんでんじゃねぇ!」

 

「あ、あなた・・・・私の国を侮辱しましたわね!」

 

「お前も人の国の本侮辱しているじゃないか!」

 

「織斑君!」

 

虎太郎に怒鳴られて一夏は渋々席に座る。

 

一夏は許せなかった。

 

この本が侮辱されるのを。

 

短くも長く辛い戦いをしてきた“あの人”のやってきたことを否定されたみたいで腹が立っていた。

 

虎太郎はひとまずセシリアにも座るように促す。

 

しかし、彼女の次の言葉で辺りが静まり返った。

 

 

「け、決闘ですわ!」

 

「・・・・・・・・は?」

 

一夏へビシッと指差してセシリアは宣言する。

 

「決闘ですわ。貴方みたいな男の人に侮辱されて黙っているわけにはいきませんわ!」

 

「いいぜ。やってやる・・・・・俺が勝ったらさっきの言葉・・・・虎太郎さんに謝ってもらうからな!」

 

「ふん、構いませんわ」

 

「いっておくが手加減なんてすんなよ」

 

「・・・・は?」

 

一夏の言葉にセシリアの目が点になる。

 

彼の言葉に周りの生徒達がどっと騒がしくなった。

 

 

「織斑君~。相手は代表候補生だよ?」

 

「絶対勝てないって~」

 

「手加減してもらった方がいいよ~」

 

男は絶対に女に勝てないという風潮が世界に染みこんで何年も流れているからか、一夏の全力で相手をしろという言葉にクラスメイト達は無理だと決め付けている。

 

その中で一人、否定の言葉を述べた。

 

「男が勝てないって、そういうのはやってみないとわからないよ」

 

白井虎太郎の言葉にクラス全員が静まり返る。

 

「確かに代表候補生はISを誰よりも学んでいるし操縦している期間も長い、でも、この世の中に絶対なんて、そうそうないよ、戦いというのはちょっとの差で逆転されてしまう。だから、もしかしたらということもありえる」

 

今までどこかニコニコ、言い換えれば頼りないという言葉が似合いそうな男なのに、目の前に居る虎太郎はどこか別人のように感じられた。

 

「そういえば、織斑先生からクラス代表のことで話し合うようにっていわれていたから決闘の内容はクラス代表を賭けてということにしよう。表向きはだけど。それならアリーナも使えるからね」

 

「わかりました。戦うのが楽しみですわ」

 

「そうだな」

 

織斑一夏とセシリア・オルコットの間にバチバチと火花を散らせた。

 

 

「勝てるのか?一夏」

 

放課後となり一夏は篠ノ之箒と一緒に寮に向かって帰宅している道中だった。

 

箒は一夏が勝てるのかどうかわからない。

 

「ISに関しては基礎知識を少しずつ身につけている所・・・・剣術に関してはどうだろうなぁ・・・・(ここの所アンデッドや弾としか相手していないから腕がどの程度落ちているとか全くわからないんだよなぁ)」

 

「そ、それなら私が相手をしてやろうか?」

 

「本当か!?」

 

箒の提案は願ったり叶ったりだったので、一夏は喜んだ。

 

だが、箒の心境は超・複雑だった。

 

「(い、一夏のヤツ。昨日あんなことがあったというのにやけに平然としていないか!?)」

 

部屋のことを思い出して顔が赤くなるが一夏はこっちを見ていない。

 

何で赤くならない!?と少しイラッときていたが余計な事は言わずただ思っておくだけにする。

 

「(しかし、オーケーしたはいいが・・・・大丈夫だろうか?)」

 

箒は懸念していることがある。

 

一夏の腕前がどの程度あるのかということだ。

 

再会するまでにそれなりの月日がある。

 

剣の腕というのは一日だらけると取り戻すのに五日かかるといわれるので剣を握っていない時間が長ければ長いほど衰えは大きくなってしまう。

 

 

「(もし、一夏の剣が衰えていたら?)」

 

箒は不安を抱えながら学園内にある剣道場へ向かう。

 

 

そして、箒の懸念は無駄に終わった。

 

「ど・・・・・・どういうことだ!?」

 

「な、なにが?」

 

箒の声に一夏は面を外して尋ねる。

 

額には汗が一滴も流れていない。

 

それなのにいい汗流した~なんて平然というのだからこちらとしてはたまったものじゃない。

 

『織斑君って・・・・かなり強い?』

 

『すごかった・・・・何が起こったのか全然わかんない』

 

『ぜひとも剣道部に入ってほしいわぁ』

 

「い、一体。今までどのような生活をしていたらそんなに強くなるんだ?」

 

一夏の強さは彼女が思っていた以上に凄まじいものだった。

 

剣の腕は昔と比べたら天と地の差といえるほどに上達していて箒などでは歯が立たないほどに。

 

「・・・・どうしても追いつきたい、隣に並んで戦いたい人のために必死に、がむしゃらに鍛えたから・・・・かな」

 

遠い目をして語る一夏の背後に並々ならぬ覚悟と出来事があったということを箒は感じた。

 

「そうか・・・・なら、後はISの動きくらいだな・・・・というか、私を鍛えてほしいくらいだ」

 

「何でだよ?箒も十分強いぞ?」

 

アンデッドと戦う事を除けば、だが、

 

「そういや、箒はISのことには詳しいのか?」

 

「・・・・そこそこにな。お前よりかは知識がある」

 

「なら助かる」

 

 

 

 

 

「どうしてこう・・・・・あいつはアイツ以上に厄介ごとを運んでくるんだ」

 

BOARDの社長室で珍しく橘朔也は頭を悩ませていた。

 

彼の据わっている机の上には日本政府から送られてきた資料が置かれていて“織斑一夏の使用するIS”について、と書かれている。

 

「全く・・・・どうしてこう次から次へとややこしい展開に」

 

「失礼しまーす・・・・・・・・」

 

その時、虎太郎が部屋に入ってきて場が静まり返る。

 

「失礼しました~」

 

「待て!」

 

去ろうとした虎太郎の肩をガシリと橘は掴む。

 

「あ、あの橘さん・・・・・・?」

 

「これはどういうことだ?」

 

「な、なに?」

 

虎太郎は資料に目を通す。

 

少しして。

 

「ISって、BOARDにないんだっけ?」

 

「一機だけある。倉持技研から欠陥品として押し付けられたものだがな」

 

「それの武装ってなに?」

 

「剣が一本だけだ」

 

「ならいけるんじゃない?」

 

「それが問題なんだ」

 

橘はBOARDに保管されてあるISの情報を虎太郎に見せる。

 

「・・・・この内部事情が知られたら少しヤバイかもね」

 

「アンデッドを探す事がより困難になる」

 

「そういえば・・・・あれは見つかったの?」

 

「未だに行方不明・・・・誰がなんのために奪ったのかもわからない」

 

「このことを知ったら剣崎君戻ってきちゃうよね?」

 

「確実に・・・・だから睦月に探してもらっている。アンデッド封印は実質ギャレン一人で行なってもらっていることになる」

 

「まだ上級が一体も見つかっていない状況で戦えるライダーが一人だけってかなり不利だよね・・・・」

 

「だが、頑張ってもらうしかない」

 

 

彼らしか戦えるものは居ないのだから、と橘朔也は呟いた。



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第三話

セシリア・オルコットとの決闘の日。

 

なのに、一夏はアリーナの待合室にいた。

 

どういうわけか一夏の専用ISが届かない。

 

そのために開始時間が遅れている。

 

「遅いな・・・・」

 

「そうだな」

 

「これならラファールとか借りてやった方がいいと思うんだけど?」

 

「無理だ。学園上層部の命令でデータを取るためにBOARDとやらが用意する専用機で戦ってもらう」

 

「・・・・」

 

傍に居る織斑千冬の言葉に一夏は何も言わず目の前の映像を見ていた。

 

するとドアが開いて虎太郎と山田先生がやってくる。

 

「一夏君!遅れてごめん!持って来たよ」

 

「虎太郎さん!山田先生!」

 

一夏が叫ぶと同時に部屋の中央にISが現れる。

 

全身が白に包まれた機体。

 

全てが白の機体。

 

「これが織斑君のIS、白式です!」

 

「びゃく・・・・しき?」

 

一夏は呆然としながら白式に乗り込む。

 

「織斑、フォーマットとフィッティングは戦いの最中で済ませろ」

 

「時間がないんですね・・・・了解しました。箒、虎太郎さん」

 

「な、なんだ?」

 

「なにかな?」

 

「行ってきます」

 

一夏はそういってアリーナへと向かう。

 

 

 

「ようやく来ましたわね。謝るなら手加減して差し上げてもよろしいですわよ?」

 

「そんなもん必要ない。本気で来い!」

 

一夏の前に浮遊しているセシリア・オルコットの専用機“ブルーティアーズ”のメイン武装『スターライトmkⅢ』の銃口がこちらに向けられた。

 

白式を動かして飛んでくる光弾を避ける。

 

「踊りなさい。私とブルーティアーズの奏でるワルツに!」

 

同時に白式から警告音が出される。

 

ブルーティアーズのスラスターとして接続されているビット型の武器が次々と白式を狙ってきた。

 

「おっと・・・・」

 

一夏は持っていた大型ブレードで光弾を防ぐ。

 

「って・・・・マジか!?」

 

持っていた武器が一度レーザーを受けただけで刃こぼれしていた。

 

これは意外とマズイかもしれない、と一夏は冷や汗を流す。

 

 

「織斑君、劣勢ですね」

 

「そうかな?」

 

「少し違うと思います」

 

「ほぉ、何故そう思う?」

 

映像で様子を見て、山田先生とは異なる返答をした虎太郎と箒へ尋ねた。

 

二人はそれぞれ思っている事を述べる。

 

「一夏の剣の腕はあんなものではありません」

 

「無謀な戦いをしないからね。長引いているというよりは長引かせてなにかをしようとしているんだと思う」

 

虎太郎達の意見どおり事態が動く。

 

 

「(そうか・・・・あのブルーティアーズとかいう武器を動かしている間、あいつ自身は動かない・・いや、動けないみたいだな。それと他の武装との併用は出来ないみたいだ。よし、動くか)」

 

白式のブーストを吹かして手にあるブレードを振るう。

 

「甘いですわ」

 

ブルーティアーズは動きを予期してたため、道を遮るようにビットのレーザーが白式の進行上に降り注ぐ。

 

「なっ!?」

 

「どうした?」

 

セシリアは目を見開いた直後に一夏の白式が持つブレードが振り下ろされブルーティアーズのエネルギーが減少する。

 

「あなた・・・・私の動きを予期していたというの!?」

 

ブルーティアーズのビットから放たれたレーザーの合間をすり抜けるようにして白式は動いて一ダメージも受けることなくブルーティアーズへ接近を果たす事ができた。

 

「まぁ、そんなとこかな?」

 

「これ以上はやらせませんわ!」

 

ブルーティアーズを動かして雨のようにレーザーを降らす。

 

一夏は白式のブレードで受け流そうとするがパキィンと音を立てて刃が折れて、白式の足の部分のアーマーが音を立てて亀裂が入る。

 

「やべっ!」

 

一夏は焦る。

 

自身の武器が破壊された事。

 

敵が手を抜く事を辞めた事。

 

まだ切り抜けられない状況ではないがこのままでは勝てないだろう。

 

「(こいつに勝つには初期操縦者適応が必要だ。だが、まだ時間かかるのか?)」

 

「もう手加減しませんわ。受けなさい!」

 

「こなくそぉ!」

 

一夏は飛んでくるビットの身近なものを次々と折れた刃で叩き潰していく。

 

ビットの動きを読んでのヒットアンドウェイを繰り返しビットのほとんどを破壊した。

 

「中々やりますわね・・・・でも、ブルーティアーズはまだありますのよ!」

 

腰に装備されていた二対の砲弾が白式に迫り爆発する。

 

勝った!とセシリアが思った直後、煙を切り裂いて純白の機体が姿を見せた。

 

先ほどよりも白く、新しいブレードを持った白式。

 

まさか、とセシリアは戸惑う。

 

「まさか・・・・あなたファーストシフトせずに戦っていたというの!?」

 

「時間もなかったしな。悪いがこれで終わらせて」

 

新しくなった武器“雪片弐型”を構えて切りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園警備室。

 

アリーナで生徒達が戦いを見ている頃、異変が起きていた。

 

「す、すぐに本土へ連絡しろ!増援を・・・・」

 

叫んでいた警備員の周りを大量のバッタが取り込み、口や鼻の中へと入り込んでいく。

 

「ひっ・・・・あ・・っ・・ぐっ!?」

 

あえぎ声を上げながら呼吸器官を塞がれて警備員は窒息死する。

 

「ひっ・・・・ひぃぃぃぃぃ!?」

 

目の前でむごい姿で死んだ同僚を見て息を呑んで座り込んだ警備員の周囲を飛び回っていたバッタがある姿を形成していく。

 

バッタの姿に人型の体系。

 

ローカストアンデッドはゆっくりと座り込んでくる警備員へ近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白式の持つ雪片弐型がセシリア・オルコットのブルーティアーズを倒すと同時に試合終了のブザーが鳴り響き、試合が終了した。

 

しかし、突如、アリーナの壁の一角を壊してローカストアンデッドが現れる。

 

「な、なんですの!?あれは・・・・」

 

「っ!危ない!!」

 

セシリアは突如現れたアンデッドに戸惑い、反応が遅れた。

 

跳躍してローカストアンデッドがブルーティアーズへ攻撃する。

 

攻撃を受けたブルーティアーズはエネルギーがほとんど残っていないために一撃で強制解除されてしまう。

 

 

「なっ・・・・山田君!すぐに生徒をアリーナから避難させろ!教員はISを装着してイレギュラーの排除に向かわせるんだ」

 

「は、はい!」

 

様子を見ていた千冬達は慌てて指示を飛ばす。

 

アリーナは砂埃などにより見えにくくどうなっているのかわからない。

 

箒は祈るように一夏の無事を願う。

 

 

 

「くそっ!」

 

一夏は白式を降下させて地面に激突する寸前でセシリアを抱きとめた。

 

「あ・・あなた・・・・何故」

 

「あいつの相手はあんたじゃ無理だ。逃げろ」

 

「逃げろって・・・・あなたはどうするつもりですか?」

 

「戦う」

 

そういって、白式を解除する。

 

「あなた!何故、ISを解除して」

 

「ISではヤツを倒せないし・・・・君を守る事ができないから」

 

そう、奴らを倒すためにはISではなく“こっち”でないといけない。

 

一夏は肌身離さず持っている変身ツール・ブレイバックルとスペードスートのカテゴリーAのラウズカードを取り出し、ブレイバックルの中心部ラウズリーダーに装填することによりバックルからカード状のベルト・シャッフルラップが自動的に伸張しバックルが装着される。

 

「・・・・変身!!」

 

『ターンアップ』

 

叫び一夏はターンアップハンドルをを引くとリーダーが回転してブレイドアーマーを分解した光のゲートオリハルコンエレメントを前面に放出する。

 

一夏はオリハルコンエレメントを駆け抜けてブレイドへと変身した。

 

「行くぞ!」

 

砂埃を払いのけるようにしてラウザーホルスターから醒剣ブレイラウザーを取り出してセシリアを守るようにして構える。

 

 

「(な、なんですの・・・・・・これは?)」

 

セシリア・オルコットは目の前で起こっている状況に戸惑いを隠せない。

 

目の前ではバッタを模した怪物と先ほどまで戦っていた男が変身した異形同士がぶつかりあっている。

 

「(あの人・・・・さっきまで私と戦っていたというのにどうして)」

 

セシリアの知っている男はどれも女性に対して卑屈で、女性に付き従う事しかしない生き物。

 

それがセシリアの知っている“男”という存在。

 

彼女の父もそんなもの、常に優秀な彼女の母に卑屈で自分の意見を通すような事を一切しない、そんな男。

 

そんな二人がそろって事故死など、何があったのだろうか?

 

幼き頃に両親は事故で死んだ。

 

どうして一緒に車に乗っていたのかはわからない。

 

けれど、両親がいなくなった日からセシリアの人生は大きく動いた。

 

両親の遺産を狙う親戚から奪われないように様々な事に努力をし続ける。

 

その結果、イギリスの代表候補という地位にまで上り詰めた。

 

男なんてどれも一緒・・・・・・だと思っていたのに。

 

 

「(あの人は何故・・・・それに・・・・あの姿・・・・)」

 

「ぐぉっ!?」

 

ローカストアンデッドは跳躍力を生かしてブレイドへ攻撃を仕掛けてくる。

 

相手の動きに対してブレイドはブレイラウザーで防戦の態勢をとっているが相手の動きに翻弄されていた。

 

 

「くそっ・・・・一撃でしとめる」

 

ブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開してその中に収められているプライムペスタの一枚を取り出してスラッシュリーダーにラウズする。

 

 

『タックル』

 

カテゴリー4のタックルボアの力を解放してこちらへ攻撃を仕掛けようとするローカストアンデッドへボアタックルを放つ。

 

銀色の光を纏ったブレイドのボアタックルはアリーナの壁まで突進しローカストアンデッドを叩きつける。

 

「ゴァ・・・・」

 

ローカストアンデッドはうめき声をあげて大の字になって地面に倒れ込む。

 

倒れると同時に腹部のレリーフが開く。

 

アンデッドは基本、死ぬ事がない。

 

どんな攻撃を受けたとしても死ぬ事のない不死の存在。

 

そのため、ライダーシステムはアンデッドを倒すために在るのではなく。封印するためにある。

 

ブレイドはアンデッドが封印されていないカードプロバーブランクを取り出してカードを投げる。

 

プロバーブランクがアンデッドの体に突き刺さった途端、プロバーブランクの中へローカストアンデッドは封印された。

 

封印されたプライムペスタはブレイドのところへ飛んでいき、彼の手の中へと収まる。

手にはカテゴリー5があった。

 

 

 

 

 

 

「あれは一体なんだ?」

 

アンデッド騒動の後、一夏は千冬に呼ばれて質問というの名の事情聴取を受けていた。

 

「自分の一存では答える事ができません」

 

「これは教師としての質問ではない。お前の姉、織斑千冬としての質問だ」

 

「それでも俺は答えられない」

 

「一夏!」

 

口調を強める千冬に一夏はきりっと口を硬く閉ざす。

 

「失礼します」

 

一夏はそういって部屋を出て行く。

 

 

「一夏・・・・・・・なんで何も話してくれない」

 

 

 

 

 

「浮かない顔してるね。一夏君」

 

「虎太郎さん」

 

夕方、寮へ続く道の途中にあるベンチで夕焼け空を見上げていた一夏の隣に虎太郎が座り込む。

 

「みんなの前で変身・・・・しちゃったね」

 

「そうですね・・・・覚悟していたというか・・・・まさか学園にアンデッドが侵入してくるとは思っていなかった」

 

「でも、守れたね」

 

「・・・・そう、ですね」

 

 

橘朔也はIS学園へ足を運んでいた。

 

いくつか伝えないといけない事と一夏へ渡したIS白式の状況を確認するためである。

 

確認するためなのだが、アリーナの方から大きな振動と土煙らしきものが見えるのは気のせいだろうか?

 

そして。

 

『一夏さん!大丈夫ですか!?』

 

『なっ!何故名前で呼んでいる!?』

 

『謝った時に俺がオーケーしたんだけど、不味かったか?』

 

関わってはいけない状況が起こっていると判断して学園内で待機する事にした。

 

 

 

 

「どうやら白式は正常に稼動しているようだな」

 

「はい」

 

橘が白式のデータを見ながら一夏に尋ねる。

 

「あの・・・・白式にはどうして後付武装がないんですか?」

 

「知らん」

 

「知らん・・・・って」

 

「製作者が何をどう考えて造ったのかわからない。ワンオフアビリティーがかなりの容量を占めているのが原因だろう。それにより雪片弐型という刀一本しかない。まぁ、お前には丁度いいんじゃないか?剣一本あれば」

 

「はい」

 

一夏の追い求める男は剣と拳、そして13枚の始祖が封印された力で人々を守った。

 

どんな状況の中でも諦めることなく。解決策を捜し求めた男。

 

そして、織斑一夏の目標。

 

「ところで・・・・」

 

橘は何かを言う前にドアを開ける。

 

「うあっ!」

 

「きゃっ!」

 

ドアが開くと同時に聞き耳を立てていた二人の少女が倒れ込む。

 

ポニーテールと金髪縦ロールの少女。

 

篠ノ之箒とセシリア・オルコットだ。

 

 

「何か用かな?キミ達」

 

「申し訳ありません・・・・あの、一夏さんのあの姿がなんなのか教えてもらえませんか?」

 

「私も知りたい。教えてください」

 

二人は同時に頭を下げる。

 

「織斑・・・・鞄を開けてあの本を出せ」

 

「あ、はい」

 

一夏はカバンの中から一冊の本を橘に渡す。

 

「この本にすべて書かれてある」

 

「あの、この本って」

 

「信じられないかもしれないがこの本に書かれている事はすべて実際に起こった事。ノンフィクションだ。これを読めばすべてわかる。織斑のあの姿、IS学園を襲撃したあの怪人の事。それを読んでからもう一度、織斑と話をしろ。行くぞ」

 

「あ、はい」

 

橘の後を追うようにして一夏も続けて出る。

 

「・・・・読んでみましょうか」

 

「そうだな」

 

残された二人は一夏の本。『仮面ライダーという名の仮面』を読み始めた。

 

「いいんですか・・・・話して」

 

「学園内にも協力者は必要だ。何かの理由で動けなくなったら厄介だ」

 

橘はぴたりと立ち止まり一夏へ視線を向ける。

 

「一つ大事な話がある」

 

「なんですか?」

 

「・・・・お前にブレイバックルを渡して少し後、BOARDに保管されていたカテゴリーAのカードが強奪された事は知っているな?」

 

「はい・・・剣崎さんの戦友が使っていたものですよね?」

 

詳しい事は聞いていないのだが、戦っていた仮面ライダーは全部で四人。

 

その中で二つ、ブレイドとギャレンは一夏と弾が継承している。残りの二つのうち一つは強奪されて行方不明だと橘は話す。

 

「その一つがフランスで確認された」

 

「フランス!?」

 

「フランスの公共の監視カメラに堂々と姿を現したのが数ヶ月前、それからどういうわけか今度は日本で姿を確認された。その時、同時に出現していたアンデッドの反応も消えた」

 

「それってつまり・・・・」

 

「何者かがハートスートのカテゴリーAを使用してアンデッドを封印している可能性がある。最悪、遭遇する可能性もある気をつけろ」

 

「はい・・・・」

 

そういって橘は帰っていく。

 

 

「ハートスートのカテゴリーAか・・・・」

 

一夏は自室で本を見つめてぽつりと呟く。

 

一回だけ。剣崎一真から聞いたことがある。

 

ハートスートのカテゴリーAを使用して戦っていた仮面ライダーの事を。

 

「(話しているときの剣崎さん。とても辛そうだったよな。どうしたんだろ・・・・?本には詳しい事は書かれていないし)」

 

 

 

「おはようございます。一夏さん」

 

「おはよう。一夏。すまないが大事な話がある」

 

次の日・早朝。

 

外に出るとセシリアと箒が待ち構えていた。

 

話の内容は大体予測できていたが、一夏は尋ねる。

 

「なんだ?」

 

「まずは私から・・・・白井さんの本のこと、色々と無礼なことを言ってしまい申し訳ありません」

 

「わかってくれたならいいよ・・・・俺も自分の気持ち押し付けるようなことして、ごめん」

 

「それでだが・・・・一夏、あの本に書かれていた事は全て事実なのか?」

 

「あぁ、“仮面ライダーという名の仮面”に書かれていたアンデッドと戦った仮面ライダーは実在している」

 

「でも・・・・そんな話一回も聞いたことがありませんわ」

 

「小さな国のことだし、全て連続殺人事件とか突然死とかで処理されていたから」

 

「だが、この本によると全てのアンデッドは封印されて戦いが終わったんじゃないのか?」

 

「・・・・俺も詳しい事を知っているわけじゃないんだけど、少し前に永久に解放されることのない場所にアンデッドが封印されたプライムペスタは葬られた。けど」

 

けれど、その封印は解かれてしまい。アンデッドが再びこの世に姿を見せた。

 

事態を重く見た橘朔也は解散したBOARDを再結成して、嘗てのライダーとその仲間達を呼び寄せることとした。

 

変身するのに必要なカテゴリーAについては全て無事だった。

 

「この世界に再び現れたアンデッドをもう一度封印するために俺はこの力を使っている」

 

「それは・・・・あの、アンデッドが現れたときにも使っていましたわね」

 

「橘さんの恩師ともいえる人が立案、製作したライダーシステム。詳しい原理は知らないけれど、アンデッドには様々なカテゴリーに部分わけされていて、俺はこのスペードスートのカテゴリーAを使って変身する」

 

そういって一夏は彼の目標ともいえる剣崎一真が使用していたカテゴリーAを見せる。

 

二人はまじまじとカテゴリーAのカードを見た。

 

「一夏・・・・どうしてお前が戦うんだ?」

 

「え?」

 

「箒さんの言うとおりですわ。一夏さんの前にも仮面ライダーとなっておられた方がいますのに、どうして一夏さんが仮面ライダーに?」

 

二人からすれば前も仮面ライダーとして戦っていたのなら経験が豊富で対応も早いのではないだろうか?

 

なのに、どうして新しく一夏が仮面ライダーとなっているのかという疑問があった。

 

「最後のアンデッドを封印する時に・・・・その本に書かれていないんだけどね。みんなボロボロだったんだ」

 

「虎太郎さん!?」

 

いつの間にいたのか白井虎太郎が現れたことに一夏だけでなく二人も驚いている。

 

 

「ボロボロ・・・・ですか?」

 

「うん、その本にも書かれているけれど、最後まで生き残った一体のアンデッド、勝利者が確定するとその種族が繁栄する。もし、どの種族にも該当しない存在が生き残った場合。世界は“リセット”される」

 

「リセット、ですか?」

 

「言葉どおりの意味で全てなくなるんだ。そして生き残ってしまったのはどの種族にも該当しないアンデッド・・・・“ジョーカー”だった」

 

虎太郎の脳裏に蘇るのはジョーカーの事。

 

嫌なヤツだと思っていたけれど、最後にはその考えを改めさせられるようになった。

 

彼の行動で。

 

「ジョーカーが生き残った事によるリセットへのカウントダウン。それを阻止するためにみんなはボロボロの体をさらに鞭打つようにして戦った。結果的にはジョーカーを封印する事でリセットは阻止できた。でも、ライダーの何人かは戦いの怪我が原因でカテゴリーAとの融合係数が著しく低下して戦う事が難しくなった人がいる。だから、新たに融合係数が高い、みんなを守ってくれる覚悟を持つ仮面ライダーが必要になった」

 

「そして、偶然にもその事を知った俺は協力する事を申し出たんだ」

 

「本当の偶然だったんだけど、一夏君は空席だったブレイドの融合係数が高くて二代目仮面ライダーブレイドになったんだ」

 

「その事を織斑先生は知っているのか?」

 

「あの人は・・・・反対した」

 

今でも思い出す。

 

あの日、一夏はBOARDに所属する事を姉である千冬に相談した。

 

千冬は当然のこと、反対したのだ。

 

危ない事はするな!と、しかし、実際の所、当時の一夏は色々と危険なことに巻き込まれていて、もし剣崎と出会っていなかったら家で普通に生活していなかったかもしれない。

 

だから、強くなりたいと望んだ。

 

その時に喧嘩をして一夏は家を飛び出して剣崎の所にお世話になった。

 

剣崎はにっこりと笑って、ちゃんとお姉ちゃんとは仲直りするんだぞ?といって許可してくれて・・。

 

「でも、いつかはちゃんと話し合うさ。二人しかいない家族なんだから」

 

「そうそう、家族は大事だよ」

 

「ところで・・・・白井先生・・・・何故ここに?」

 

「ん?僕はこれを買いにね」

 

白井が手に持っているのは牛乳瓶、しかもかなり大きい。

 

「これを飲まないと一日が始まらないからねぇ・・・・それと篠ノ之さんとオルコットさんにお願いがあったんだ」

 

「お願い・・」

 

「ですか?」

 

「そう!二人に一夏君のサポートをしてもらいたいんだ。僕もサポーターの一人なんだけどいつも一緒に居られるというわけじゃないからね。それにキミ達は一夏君の手伝いをしてくれるでしょ?」

 

「はい・・・・」

 

「当然ですわ。一夏さんのサポートをします!」

 

虎太郎は微笑んで、ポケットからディスクを二人に渡す。

 

「これは・・・・?」

 

「アンデッドサーチャー。アンデッドが出現したら反応する機械だよ。ただ、サーチ範囲が限られているから遠すぎると感知することはできないということもあるけれど、キミ達ならきっとサポートできる!」

 

「どうして・・・・そこまで自信があるんですか?」

 

「僕もキミ達と同じような感じで剣崎君たちをサポートしていたから」

 

虎太郎の表情は昔を懐かしむ“それ”だった。

 

 

 



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第四話

 

 

 

「待ち合わせ場所はここだった・・・・よな」

 

レッドランバスに乗って五反田弾は空港に来ていた。

 

彼は授業が終わってからこの空港に来ている。

 

フランスに向かったBOARD調査員が戻ってくるために迎えとしてやってきた。

 

「(フランスで目撃された仮面ライダー・・・・どんなヤツなんだろうな)」

 

「あれ・・・・あんた、弾じゃない?」

 

「鈴じゃないか!いつ日本に!?」

 

「いま日本に着いたの。それにしてもあんたこんなところで何してんのよ?てか、このバイクなに?」

 

「いや・・・・バイトで人と待ち合わせしているんだよ・・・・って、その制服IS学園に入るのか?ってことはISを動かせるのか!」

 

「そうよ・・・・でも、なにそんなに驚くのよ?」

 

「あ、いや、その」

 

弾は返答に困った。

 

IS学園に一夏がいるというのを伝えるべきかそうでないか。

 

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

しどろもどろになって回答に悩んでいた弾達の耳に女性の悲鳴が響き渡った。

 

「橘さん!」

 

「弾!反応があった!」

 

車から出た橘朔也からの叫びで事態を理解した弾は中へと駆け込む。

 

「え、ちょ・・・・待ちなさいよ!」

 

鈴は慌てて弾の後を追いかけようとしたが誰かにぶつかり、二人を見失う、

 

 

空港の室内でプラントアンデッドが大勢の人の命を奪っていた。

 

警備員が警棒を持って襲い掛かるが一撃で絶たれてしまう。

 

逃げ惑う人達を押しのけるように五反田弾はプラントアンデッドのいる場所へたどり着く。

 

「くそっ・・・・」

 

周りには命を絶たれた人達が倒れている。

 

ギリリっと奥歯をかみ締め、ギャレンバックルを取り出しダイヤスートのAを取り出してバックルに入れた。

 

中心部ラウズリーダーに装填することによりバックルからカード状のベルト・シャッフルラップが自動的に伸張しバックルが装着される。

 

「・・・・変身!」

 

『ターン・アップ』

 

音声と同時に弾の前にオリハルコンエレメントが現れる。

 

それを潜り抜けてギャレンとなり、プラントアンデッドを殴り飛ばす。

 

「この!この!このぉおおおおおお!」

 

救えなかった人達、もう少し急げば間に合ったかもしれないという後悔。

 

それらが重なって怒りとなりギャレン=弾を突き動かしていた。

 

「くらえ!」

 

ラウザーホルスターから醒銃ギャレンラウザーを抜いて至近距離で連射する。

 

「なに・・・・・・あれ?」

 

凰鈴音はギャレンとアンデッドの戦いを呆然としていた。

 

その時、ふと鈴音は思い出す。

 

自分の好意を寄せている相手がいつも熱心に読んでいた本。

 

その本には目の前にいるような怪物の事が書かれていたのではないだろうか?

 

怪物の名は――。

 

「アンデッド・・・・・・?」

 

ギロリ、とプラントアンデッドが鈴音を睨む。

 

プラントアンデッドの蔓がギャレンを攻撃する。

 

「ぐあっ!?」

 

不意打ちを受けたギャレンは近くのソファーに倒れ込む。

 

プラントアンデッドはギャレンを無視して戦いを見ている鈴音へ近づいていく。

 

「鈴!?に、逃げろ!」

 

鈴がいたことに気づかなかったギャレンはプラントアンデッドに飛び掛るが動きを遅くすることしかできない。

 

逃げようとする鈴音だが、体が震えて動かなかった。

 

「あ・・・・あ・・・・」

 

プラントアンデッドが蔓を振り上げようとした時、頭上から黒い影が降り立って蔓を切り裂く。

 

「なに・・・・!?」

 

「あれは・・・・」

 

人を避難させて戦いの様子を見に来た橘朔也はサングラスを外して現れた第三者に戸惑う。

 

何故なら、そこに立っていたのは。

 

「カリス・・・・?」

 

ハートスートのカテゴリーA・マンティスアンデッド、しかし、このマンティスアンデッドは

他のアンデッドと異なっている部分がある。

 

腰部分にアンデッドバックルと呼ばれる代物があるのだが、マンティスアンデッドにはそれがない。

 

腰部にはハートの形をした銀色のバックルが装着されている。

 

「バカな・・・・カリスは」

 

戸惑っている橘の前で戦闘が再開する。

 

醒弓カリスアローを構えプラントアンデッドへ接近するカリス。

 

蔓で攻撃を仕掛けるが直撃する寸前でカリスは右へ避け、弓部のソードボウで蔓を地面に叩き落して一気に間合いを詰めてソードボウで切り裂いていく。

 

悲鳴を上げるプラントアンデッドが距離を置いたと同時にカリスバックルのカリスラウザーを外してカリスアローと合体させて、バックルの側面にあるケースからプライムベスタを一枚抜いてラウザーに読み取らせる。

 

 

『チョップ』

 

ハートスートカテゴリー3『チョップヘッド』の力、ヘッドチョップを手に纏い、プラントアンデッドを攻撃した。

 

攻撃を受けたプラントアンデッドは壁にめり込んで爆発する。

 

 

「凄い・・・・」

 

ギャレンはカリスの戦いに驚く事しかできない。

 

パワー、スピード、ラウズするタイミング、全てが自分よりも上だ。

 

爆発の中からプラントアンデッドが仰向けに倒れて、腰部のアンデッドバックルが開く。

 

カリスはプロバーブランクをプラントアンデッドに投げる。

 

プロバーブランクに吸い込まれてプラントアンデッドはプライムベスタの中に消えた。

 

「・・・・」

 

カリスは回収したプライムベスタを仕舞うと同時にどこかへ向かって歩いていこうとする。

 

「待て!」

 

カリスを呼び止める形で橘は叫ぶ。

 

呼び止められたというのにカリスはそのまま姿を消した。

 

「バカな・・・・あの姿は・・・・間違いなくカリス・・・・だが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、K。どこいったの突然?」

 

「ん・・・・これを回収しに」

 

 

Kと呼ばれた人物はプラントアンデッドが封印されているプライムベスタを見せる。

 

話をしていた相手はへぇ、と覗き込む。

 

「これがプライムベスタっていうんだ・・・・うわっ、動いた」

 

「これを13枚集めるのが俺の仕事だ」

 

「それを私がサポートすればいんだよね?」

 

「あぁ、邪魔するヤツを妨害するだけでいい。お前は手を汚すな」

 

「・・・・覚悟は出来てるよ」

 

「俺が嫌なだけだ」

 

Kはそういって一枚の写真を取り出す。

 

「いよいよだ・・・・・・ようやく始められる」

 

「・・・・・・」

 

「俺を取り戻すための・・・・」

 

写真には三人の男性。織斑一夏、五反田弾、そしてもう一人の男の子が写っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーいうことよ!事情を説明しなさい!」

 

空港から避難して凰鈴音は五反田弾と橘朔也に突っかかる。

 

あの後、動揺している橘と鈴音を安全な場所へ避難させた途端、一足早く復活した鈴音が詰め寄っていた。

 

「どうして一夏が読んでいた本の怪物が実在してんのよ!?てか、弾!あんたのあの姿って本に書いてあったか、仮面なんとかよね!説明しなさい!説明しなさい!」

 

「大事な事だから二回説明しろってこと?俺ぺーぺーの職員だから説明とかはそこの上司にって・・・・・・あれ?」

 

橘に頼もうとしたら、いたはずの人がおらず弾は戸惑う。

 

あれーと、困っていると肩をがしり、と掴まれる。

 

ゆっくりと後ろを振り返ると背後に炎を燃やして「説明求ム」という文字が見えていた気がした。

 



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第五話

「あ、織斑君。おはよう~、ねぇ、転校生の話聞いた?」

 

「おはよう・・・・転校生?この時期にか、珍しいな」

 

「一夏、転校生のことが気になるのか?」

 

「いや、珍しいなって思っただけ」

 

「そんなことより!一夏さん、クラス対抗の方が大事ですわ!」

 

クラス対抗というのはクラスごとに、クラス代表者が戦う行事で、あのアンデッドの騒動の後、セシリアが一夏に譲るということになりクラス代表は一夏となった。

 

クラス対抗の話を聞いたクラスメイト達がぞろぞろと集まってくる。

 

「頑張ってね。織斑君!」

 

「勝利したらみーんなが幸せになれるんだよ!」

 

ちなみに対抗戦などに勝利したら食堂のおいしいデザート券などがもらえるらしい。

 

一夏としては外出する自由時間などがほしいがそんなものは叶わないだろう。

 

「それに専用機持ちは四組しかいないから楽勝だよ!」

 

 

「その情報古いわよ!そして会いたかったわ一夏ぁ!」

 

 

教室のドアがバーンと開いてIS学園の制服を着たツインテールの少女が現れる。

 

「なっ!り、鈴!?鈴じゃないか!?なんでここにってうぉおおお!」

 

一夏が驚き鈴音に詰め寄ろうとするよりも早く、彼女が一夏の胸倉を掴んでそのまま外へと出て行く。

 

「「・・・・・・」」

 

「え・・・・・・今の。なに?」

 

突然の出来事に、セシリアと箒だけでなく教室に入ってきた虎太郎すらも呆然と見送ってしまった。

 

それほどまでに鈴音の行動は早かったのである。

 

 

 

「げほっ・・・・げほっ、何するんだよ?鈴!」

 

胸倉を掴まれて屋上につれてこられた一夏は目の前にいる凰鈴音を睨む。

 

彼女はISを部分展開してここまでつれてきたので汗一つかいていない。

 

凰鈴音は篠ノ之箒と入れ替わりに一夏のクラスに転校してきた女の子。

 

箒がファースト幼馴染なら鈴音はセカンド幼馴染というポジションに当たる。

 

鈴音の父親が経営する中華料理店で何度かお世話になった事があり、鈴音とは喧嘩したりしているうちに自然と仲良くなった。

 

 

「まずは久しぶり一夏♪」

 

「おう、久しぶり・・・・って、教室でいっても問題ないだろ?」

 

「うるさいわね!場の雰囲気は大事にするタイプなのよ。私は!それと・・・・・・あんたに聞きたいことがあるんだけど」

 

「なんだよ?」

 

「仮面ライダーになるって夢・・・・叶えたみたいね?」

 

その言葉には少し語弊があるが、一夏は訂正する余裕がなかった。

 

「っ・・・・どうしてそれを?」

 

鈴音の言葉に一夏は動揺する。

 

まだ彼女には話していなかった。

 

一夏の態度だけでえられる答えを手に入れられたのか鈴音は息を吐いて。

 

「空港でアンデッドっていうのに襲われたわ」

 

「大丈夫だったのか!?」

 

「えぇ・・・・それで決めたことがあるの」

 

「決めたこと?」

 

「それはまた話すわ。それよりも・・・・私との約束覚えてる?」

 

「約束って・・・・・・あれか?大きくなったら毎日酢豚を作ってあげる・・・・だったか?少し記憶が曖昧だけど」

 

「そうよ♪ちゃんと覚えていて嬉しいわ」

 

「でも、これどういう意味なんだ?毎日酢豚を作ってあげるって奢ってくれるという意味じゃないんだろ?」

 

嘗て、彼女のとの約束のすぐ後に奢ってくれる!?といった途端、頭部に容赦なく踵落しが炸裂したのを思い出して攻撃を受けた箇所が痛くなってきた。

 

「う・・・・うん、その・・・・その」

 

鈴音にしては珍しく歯切れの悪い。

 

一夏が彼女の返事を待っていると屋上のドアを蹴破るようにして二人の少女がやってきた。

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

「うぉっ!?」

 

「アンタ達!?何の・・・・」

 

「一夏さん、急いでください!」

 

「“反応”があった!」

 

「っ・・・・場所は!」

 

箒の一言で一夏は表情を変える。

 

鈴音に見えないようにして小型のアンデッドサーチャーを見せた。

 

「わかった・・・・」

 

一夏は懐からブレイバックルを取り出してスペードスートのカテゴリーAをブレイバックルの中心部ラウズリーダーに装填して、屋上から飛び降りた。

 

「なっ!?」

 

「きゃあああ!?」

 

「い、一夏!?」

 

箒が目を見開き、セシリアが悲鳴を上げて鈴音がISを部分展開しようとするが、彼女達の前でオリハルコンエレメントを展開してブレイドへと変身した。

 

着地すると無人走行でブルースペイダーがやってくる。

 

ブレイドはブルースペイダーに乗って向かう。

 

次の授業のことなどすっかり忘れて。

 

 

 

ある山にある森の中で二人の人間が化け物に襲われていた。

 

いや、一人の人間が襲われているというほうが正しいだろう。

 

既に片方は目の前にいる化け物によって黒こげにされていないのだから。

 

「ひっ・・・・あっ・・・・ひ」

 

男はゆっくりとこちらに雷をまとって近づいてくるアンデッド。ヘラジカの祖たるディアーアンデッドはゆっくりと男へと近づいていく。

 

男はつまずきながら反対の方へと逃げる。

 

逃げている男の横をブルースペイダーが走り抜けた。

 

「ふっ!」

 

ブレイドはバイクからジャンプしてディアーアンデッドへキックを放つ。

 

真正面からの攻撃をディアーアンデッドは自身の得物、二本の七肢刀で受け止め後ろへ投げ飛ばす。

 

空中で回転し着地したブレイドはラウザーホルスターから醒剣ブレイラウザーを抜いて刃の上に手を乗せるようにして構える。

 

両者とも動かない。

 

お互いの放つ殺気に無駄に動いたらやられると察知しているからだ。

 

どちらも動かない状況の中、動き出したのはディアーアンデッド。

 

二本の七肢刀を交互に繰り出していく。

 

「くっ!?」

 

ブレイドはブレイラウザーで一本目を弾いてすぐに刃を振り下ろす。

 

ガギギィンと二本目の七肢刀とブレイラウザーの刃がぶつかる。

 

もし、振り下ろすのが遅ければ敵の刀がブレイドのアーマーを切っていただろう。

 

相手の動きに警戒しながらもブレイドも攻撃を繰り出していく。

 

「くそっ、動きが・・・・」

 

ブレイラウザーをディアーアンデッドは七肢刀でさばくようにしている。しかし、ブレイドのほうが剣裁きは上のようでディアーアンデッドの体に一撃、一撃と与えている。

 

しかし、どれも七肢刀に裁かれていたので威力が半減している上、決定打に欠けていた。

 

「こうなったら・・」

 

ブレイドは大きくディアーアンデッドと距離をあけてブレイラウザーのオープントレイを開いてプライムベスタを取り出してスラッシュリーダーに読み取らせた。

 

『スラッシュ』

 

カテゴリー2“スラッシュリザード”の力がブレイラウザーに付与されて、ブレイドは低く構える。

 

何かをやる前に倒す!と考えたのかディアーアンデッドが七肢刀を振り下ろしてブレイラウザーの動きを止めた。

 

そして、片方の七肢刀で止めを刺そうとしてディアーアンデッドの視界が暗転して地面に倒れる。

 

動かないディアーアンデッドにブレイドはプロバーブランクを投げた。

 

プロバーブランクに吸収されてディアーアンデッドは封印される。

 

「ははっ・・・・上手くいった・・・・・・」

 

ブレイドは手の中に、スラッシュの後に読み取らせたプライムベスタがあった。

 

カテゴリー4、タックルボアのカード。

 

スラッシュで切れ味を増しておき、敵の動きを封じると同時にタックルの力で相手の七肢刀を破壊して本体にまでダメージを与えた。

 

無茶苦茶だが、上手くいった。

 

そう考えてブレイドはブルースペイダーに乗ってその場所を離れていく。

 

「・・・・・・あれが“今”のブレイドの実力か」

 

戦いを見ていた男はそういって“空”へ飛んで姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園へ戻って自室で休もうとしていた一夏を待っていたのは教科書などの類を持った山田先生だった。

 

「さぁ、今日の分の補習をしますよ。織斑君」

 

「あ、はい・・・・」

 

アンデッドとの死闘を繰り広げて帰ってきた一夏を待っていた補習という名の授業。

 

ある意味当たり前の日常で嬉しい一夏。

 

しかし、非日常がゆっくりと、しかし確実にIS学園へ迫っていた。

 

 

 

 

 

「申し訳ありません。突然の電話に応じていただきまして・・・・」

 

「いえ、構いません。私としては一度織斑の姉であるあなたと話をしてみたかったので」

 

橘朔也は目の前にいる織斑千冬に言う。

 

突如、彼女から電話が掛かってきて相談したい事があるといい、こちらの空いている都合を伝えて、喫茶店ハカランダで待ち合わせをしたのである。

 

“喫茶店ハカランダ”白井虎太郎の姉である栗原遥香が経営しているお店で、BOARDの職員が愛用している店でもあった。

 

二人はコーヒーを注文してお互いに向き合う。

 

「橘さん。一夏は何と戦っているのですか?その戦いは何故一夏が行なっているのですか?他に行なえる相手がいるはずです」

 

「(ストレートにきたな)織斑一夏君が戦っているのは人類が誕生するよりも前に存在していた地球上の生き物の始祖といえるアンデッド、確かに彼以外にも戦える人はいました。ですが、彼が誰よりも一番、覚悟があり、私と・・・・私の仲間が用意した課題を全てクリアしたのが彼だったからです」

 

「だからって・・・・・・若い一夏を・・・・戦わせる理由にはならない」

 

「・・・・数年前の誘拐事件」

 

ぴくりと、千冬の手が動く。

 

「貴方はモンド・グロッソの大会に出場しており、次の戦いに勝てば優勝という状況の時に織斑一夏君は誘拐された。貴方はすぐにでも助けにいけたはずだ・・・・だが、出来なかった」

 

「それは・・・・」

 

「如何なる理由があれ、あの時、一夏君は貴方に見捨てられたと思い込みショックを受けた。その時、彼を助けたのが私の仲間。彼は傷ついている彼の心を癒そうとした。その行動、言動、全てを見て一夏君は望んだ。彼のようになりたい。彼のように誰かを助けられるような人間になりたい・・・・と」

 

あの時、橘は剣崎一真に尋ねた事がある。

 

どうして、一夏の傍にいてやるのか?と、彼にはちゃんとした家族がいるはずだと尋ねた。

 

その時の剣崎は苦笑してこういった。

 

『確かにあの子は家族がいますよ?でも、その家族に見捨てられたと思い込んでるんですよ・・・・体の傷は癒せても心の傷を癒すのは簡単じゃないんです。だから俺は彼の傷を癒してあげたい。そしてまた家族と向き合えるようにしてあげたいんです』

 

「私は別に、あの時の事を責めるというわけではありません。ただ、ちゃんと・・・・織斑一夏と向き合ってあげてください。貴方がどんな理由であれ、一夏君は裏切られたと思っています。あなたが向かい合うのは私ではなくほかにいるはずです。それでは――」

 

本当は詳しい事情を聞くつもりであった橘だが、今の彼女と話しても得られるのはないと判断して席を立つ。

 

残された千冬は一人考える。

 

一夏と向き合うにはどうすればいいかを。

 

 

「ふぅん・・・・あれがお前の敵である織斑千冬なのか?」

 

「あぁ・・・・あいつさえいなければ、一夏は“私のもの”なのだが」

 

「いや・・・・モノ扱いはどうかと思うんだけど・・?」

 

「エスの言葉に賛成。てか、こんな所で会うとは世界は狭いな」

 

「そうだね・・・・」

 

 

 



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第六話

 

「というわけで頼む!」

 

IS学園の屋上で織斑一夏は両手を合わせてセシリア・オルコットに頼み込んでいた。

 

傍で箒は黙って様子を見ている。

 

「しかし、これはクラス代表である一夏さんの仕事ですわ?それを私なんかが担当するわけには、第一、織斑先生が許可するわけが・・・・」

 

「そうなんだが、どうしてもその日は行かないといけない場所があるんだ。俺と箒で」

 

「篠ノ之さんと・・・・?でしたら私も」

 

「すまない、セシリア。その場所にはどうしても二人で行かないといけないんだ(べ、別にそこで何かをするわけんじゃないから安心してほしい)」

 

後半のほうは一夏に聞こえないようにひそひそと小声で話している。

 

数日後に控えたクラス対抗戦、その日に一夏と箒はどうしてもいかないといけない場所がある。

 

IS学園の行事よりも優先しないといけない事だった。

 

「ですが、私がオーケーしたとしても」

 

「許可してやろう」

 

「お、織斑先生!」

 

いつもの剣呑な雰囲気と異なってびくびくしているように見えるのはここにいる三人だけだろうか?

 

「大事な用事なのだろう?それなら許可しよう・・・・・・すぐに戻って来るんだぞ」

 

「わかりました」

 

「ありがとうございます」

 

淡々と答える一夏とぺこりと謝罪する箒の二人に千冬は微笑もうとするが緊張してしまい、顔が引きつっているようにしか見えない。

 

それが逆に三人に対して余計な警戒心を抱かせることとなる。

 

「(一夏さん、箒さん!あなた方、何かなさったのですか?)」

 

「(いや、何も)」

 

「(俺も身に覚えがない)」

 

 

「(こいつらが何を考えているか手に取るわかるが・・・・ここは我慢だ)以上だ、そろそろ授業が始まるから教室にもどれ」

 

「「「あ、はい」」」

 

三人は恐ろしいものを見たような表情を一瞬してすぐに教室へ向かう。

 

「正面から向き合うというのは・・・・・・・・難しい」

 

がっくりと項垂れる織斑千冬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kは部屋でナイフを手に不気味に笑っている。

 

「ご機嫌だな?おい」

 

「ん・・・・オータムか。そりゃご機嫌もなにも・・・・・・ようやく、俺の目的が叶うんだからな・・喜ぶなって言う方が無理だ」

 

「まぁいいが・・素顔だけは晒すなよ」

 

「わかってる。スコールには迷惑かけねぇよ」

 

「ならいいっておい。私にはどうなんだよ!?」

 

「・・・・・・愛しのスコールに迷惑がかからないなら大丈夫だろ?彼女の恋人さん」

 

「ふん・・・・ならいい」

 

一部皮肉が込められていたが、気にしない。

いつものことにオータムは部屋を出る。

 

「さて・・・・俺も動くか」

 

Kは愛用しているコートを纏い、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARDの部屋で橘朔也は報告書を見ていた。。

 

フランスのIS企業のデュノア社社長が何者かに殺害された事件。

 

殺害方法は首を一ひねり、アンデッドの殺害かと思われたのだが、狙われたのは社長一人ということだった。

 

「(時期が同じなのはたまたまなのか?ライダーが目撃された場所に近い・・・・偶然ならいいが、もし、これがライダーによる犯行だとしたら)」

 

橘は小さくため息を吐いて、書類を机の上におく。

 

彼の頭に浮かんだ疑問は消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦当日。織斑一夏と篠ノ之箒はある墓地へ歩いていた。

 

「あれから・・・・もう何年も経つんだな・・・・一夏は毎年?」

 

「あぁ、忘れられないからな・・・・」

 

「私はISのせいで、行く事ができなかった・・・・そんな私がいってもいいのだろうかと思ってしまう」

 

「いいに決まっているだろ?不安になるなよ。箒」

 

「一夏・・・・」

 

一夏はぽんと箒の肩に手を置いて階段を上がっていく。

 

少ししていくつものお墓がみえてくる。

 

一夏と箒の二人は墓参りに来たのだ。

 

墓標には深沢家之墓と書かれている。

 

「小夜子さん、お久しぶりです。篠ノ之箒です」

 

この墓には深沢小夜子という女性が眠っている。

 

昔、一夏と箒が幼い頃、近所で開業医として働いていた深沢小夜子の家によく遊びに行っていた。

 

小夜子は子どもの面倒を見るのが大好きで、いろいろな話を一夏と箒に聞かせてくれた。

 

「また・・・・来ていたみたいだな」

 

「小夜子さんの彼氏か・・・・」

 

昔、彼女が元気なさそうな時があって二人が聞いてみると、「彼の様子がおかしくてね」と苦笑していた時がある。

 

その時に一夏が彼氏?と尋ねたら笑いながら少し違うかもと濁してちゃんと教えてくれなかった。

 

墓には彼女が好きだった花が置かれている。

 

「あれ・・・・」

 

一夏の視界に一人の少年が目に入る。

 

小夜子さんの大好きな花を手に持ち、年齢は自分たちと同じくらい。

 

「もしかして・・・・・・織斑?」

 

「始?富樫始か!?」

 

「・・・・久しぶり」

 

富樫始、織斑一夏、篠ノ之箒、そして五反田弾の友達という間柄だった。

 

始とは小さな頃、篠ノ之家の道場で稽古を受けた間柄だ。

 

一夏とはいろいろな事でもめていたがおそらく親友と呼べる数少ない間柄だと思う。

 

中学にあがった頃に始、一夏、弾の三人でよくつるんでいた。

 

「もしかして、篠ノ之さん?」

 

「富樫か・・・・久しぶりだな」

 

「富樫はいまどうしているんだ?」

 

「学生だよ。その制服だと、二人はIS学園の生徒?」

 

「あぁ・・・・」

 

「俺も色々あってIS学園に」

 

「一夏らしい」

 

あれ・・・・?と箒は不思議な違和感を覚えた。

 

その違和感がなんなのかわからない。

 

だが、何かおかしな気がすると思って口を開こうとした途端、箒は奥の茂みからゆっくりと現れる存在に気づいた。

 

漆黒のハートスートのカテゴリーA・カリスが。

 

「一夏!」

 

「ひっ!」

 

「下がってろ二人とも!」

 

『お前らに用はない・・・・』

 

一夏はポケットからブレイバックルとスペードスートのカテゴリーAを取り出してバックルをセットする。

 

「変身!」

 

『ターン・アップ』

 

ターンアップハンドルを引いて目の前にオリハルコンエレメントを展開して潜り抜けてブレイドに変身するとカリスを組み合う。

 

『どけ・・・・』

 

「何が目的だ!」

 

『どけ・・・・といっている!』

 

カリスは叫ぶと同時にブレイドに一撃を叩き込み、投げ飛ばす。

 

いくつかの墓を壊しながら倒れた。

 

「一夏!」

 

カリスは醒弓カリスアローを構えて富樫始へと向ける。

 

富樫始は恐怖で表情が歪み逃げ出す。

 

逃げだした富樫の足を高熱エネルギーで形成された矢・フォースアローで射抜く。

 

「がっ!」

 

足から赤い液体を流して倒れ込む。

 

「お前ぇえええええええええ!」

 

ラウザーホルスターからブレイラウザーを引き抜いてカリスへと斬りかかる。

 

カリスはそれを左へ交わして、バックルのカリスラウザーをカリスアローと合体させてラウズカードを読み取らせた。

 

『バイオ』

 

カリスアローから植物の蔓が飛び出てブレイドと箒を拘束する。

 

「くっ!」

 

『どけ』

 

拘束されて動けない箒を押しのけてカリスは地面を這って逃げようとしている富樫始の服を掴んで無理やり立たせた。

 

「あぁ・・・・っ!助け・・・・」

 

『それ以上、その顔で呻くな』

 

カリスは富樫始の首を手で掴んでそのままへし折る。

 

ぽきり、と木の枝が折れるような音と共に富樫始は動かなくなり、地面に崩れ落ちた。

 

さらにとどめとばかりに顔に拳を叩き込む。

 

「お・・・・・お前ぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 

蔓を引きちぎりブレイドは激昂し、カリスへと拳を放つ。

 

カリスは避けずに片手で拳を受け止める。

 

怒りの一撃を受け止めると同時にバァンと乾いた音が響く。

 

 

「なんで・・・・始を・・・・・・」

 

ブレイドの目の前にいるのは敵・カリス。

 

殺気で場を支配している二人を囲むようにして突如、アンデッドが複数現れる。

 

カリスは目の前にいるセンチビード、モスアンデッドの二体へカリスアローを構えて斬りかかる。

 

ブレイドは怒りを隠せずトリロバイトアンデッドアンデッドと向かい合う。

 

「ふん!」

 

カリスはカリスアローのソードボウでセンチビードを切り伏せる。

 

『トルネード』

 

ハートスートの6“トルネードホーク”の力を使い、フォースアローに風の力を付与させてホークトルネードをモスアンデッドに攻撃を放つ。

 

攻撃を受けたモスアンデッドは地面に倒れ込む。

 

攻撃を仕掛けようとしてセンチビードアンデッドの鎌をカリスアローで受け止める。

 

「これで終わりだ」

 

『チョップ』

 

『トルネード』

 

『スピニングウェーブ』

 

カテゴリー3と6によるコンボ技・スピニングウェーブを至近距離で受けたセンチビードアンデッドとモスアンデッドを巻き込んで爆発する。

 

二体はそのまま倒れ込み、腰部のバックルが開く。

 

カリスはプロバーブランクを二枚、アンデッドに向かって投げる。

 

二体が吸い込まれたプライムベスタはカリスの元へ戻った。

 

 

 

 

 

 

ブレイドはブレイドラウザーを振り下ろすがトリロバイトアンデッドの右腕の盾によって弾かれる。

 

追い討ちをかけるようにしてトリロバイトアンデッドは左手の二本の爪がブレイドのアーマーを斬りつけた。

 

「一夏!?」

 

「大丈夫だ!箒は安全な所に!」

 

叫んでトリロバイトアンデッドと距離を置いて、ブレイラウザーのオープントレイを展開し二枚のプライムベスタを取り出してスラッシュリーダーに読み取らす。

 

『サンダー』

 

『キック』

 

『ライトニングブラスト』

 

ブレイラウザーを地面に突き刺し体制を低くして、ブレイドの角から顔まで赤く発光し、スペードの形をなす。

 

「ウェェェェェイ!!」

 

地面を蹴って空中を舞い、電撃を纏った右足を前に繰り出す。

 

トリロバイトアンデッドは右腕の盾を構えるが、ライトニングブラストの強力なキックは盾を破壊してトリロバイトアンデッドの体を貫く。

 

「グルルルル」

 

うめき声を上げて地面に倒れ込み、腰部のバックルが開く。

 

「・・・・」

 

ブレイドはプロバーブランクを投げてトリロバイトアンデッドを封印する。

 

同時にカリスも戦闘を終えていたので両方とも向かい合う。

 

「・・・・・・・・」

 

少し冷静さを取り戻したブレイドだが、カリスに対する怒りが消えたわけではない。

 

現にブレイラウザーを握り締めている手はギチギチと怒りに震えている。

 

唐突にカリスは口を開く。

 

「お前は何も知らない」

 

「なに・・・・・・」

 

「あの日。誘拐された日に起こった出来事の本当の目的も・・・あの人形がなんなのかも――お前は」

 

――何も知らないのだ。

 

「黙れ!」

 

ブレイドは叫ぶ。

 

カリスの言っていた人形=富樫始だとわかり叫ぶ。

 

「俺が何を知らないというんだ!?お前は何を知っていると・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

カリスは言うだけ言うと、茂みの中へと消えていく。

 

後を追いかけることが出来なかった。

 

何故なら、停車させていたブルースペイダーから通信が届く。

 

『一夏君!大変だよ!IS学園にアンデッドが出現したんだ!五反田君がこっちに向かっているんだけど、このままじゃオルコットさんと凰さんが危ないんだ!』

 

 

 

 

「グッ・・・・はっ・・・・はぁ・・・」

 

カリスから人間の姿に戻ってKは嘔吐する。

 

その中に赤い液体も混じっているがKは気にしない。

 

いや、慣れたという言葉が正しいだろう。

 

既に何年も味わった苦しみ。

 

――誰にも話していない。

 

――誰にも理解されない苦しみ。

 

 

「くそっ・・・・・・慣れたつもりだったのにな」

 

Kは口元を拭いながらおぼつかない足取りで歩いていく。

 

ここから離れないといけないし、次の任務が待っている。

 

手元のプライムベスタを懐に仕舞って歩き始めた。

 

「(後悔はない・・・・・・全てを取り戻すんだ。名前・・顔も取り戻した。後は・・・・)終わらせるだけだ・・・・この原因を作り出したヤツを見つけて・・・・殺すだけ」

 

覚悟を決めて進む茨の道。

 

K・・・・否、富樫始という“名前を取り戻した”少年は歩き始める。

 

どこまでも暗く重たい道。

 

それを止めることを出来るものはここにはいない。

 



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第七話

 

ギャレンはギャレンラウザーで目の前にいるアンデッドと戦っていた。

 

シマウマの祖たるアンデッド・ゼブラアンデッドに苦戦している。

 

「くそっ、動きが速すぎる」

 

敵は俊敏な速度で動いているためギャレンラウザーで照準を定める前に動かれてしまい、苦戦していた。

 

「この!離れろ!」

 

背後から飛びつかれて、ギャレンは後ろの壁にゼブラアンデッドを叩きつけて、引き剥がす。

 

その隙にギャレンラウザーのオープントレイを開いてプライムベスタを取り出す。

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『バーニングスマッシュ』

 

距離を置いて地面を蹴り、宙返りをし相手の頭上から炎の力を込めた二段つま先蹴りを放つ。

 

避けられることが出来ず、ゼブラアンデッドは爆発して倒れた。

 

ギャレンはプロバーブランクを投げてゼブラアンデッドを封印する。

 

プライムベスタを手に入れてギャレンはレッドランバスに乗り込みIS学園の方へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「こんのぉ!」

 

凰鈴音はIS甲龍を纏い、突然、アリーナに現れた男に苦戦していた。

 

そう、男だ。

 

黒いコートを身に纏い、サングラスをかけた男。

 

だが、ただの男ではない事は隣で戦っていたセシリア・オルコットもわかっていた。

 

男はISも装着することなく空中に浮いており、先ほどから二人に火炎弾を放っている。

 

ISのシールドのおかげで肉体にダメージはでていないがISはボロボロになりつつあった。

 

ブルー・ティアーズも素手で破壊されてしまうという結果。

 

セシリアはスターライトMkⅢを構えて敵を狙撃するが空中でくるりと反転して攻撃を避ける。

 

「そこ!」

 

隙を突いて鈴音が双天月牙で斬りかかる。

 

「ふん、弱い」

 

男はそういって双天月牙を受け止めて先端を手で砕く。

 

「ウソっ!?」

 

男が素手で双天月牙を破壊した事に鈴音は驚き、動くのが遅れた。

 

「消えろ」

 

掌が鈴音の顔へ向けられる。

 

「鈴さん!」

 

セシリアがスターライトMkⅢを向けて守ろうとするが間に合わない。

 

「(私・・・・死ぬの?)」

 

男の火炎弾が至近距離で命中すればいくらISを纏っているといってもシールドエネルギーが0に近い状況では無事でいられるわけがない。

 

体に大きなダメージを受ける、最悪『死ぬ』可能性もあった。

 

「(一夏との・・・・約束・・・・)」

 

鈴音の両親は中華料理店を開いていたのだが、突如、離婚する事となって、父親と離れ離れになり、母親と一緒に中国にわたった。

 

その時にIS適正があることがわかり中国の代表候補生になるまでに色々な事があったけれど再び一夏に会えることが出来て鈴音は嬉しかった。昔の約束をちゃんと覚えていてくれたし。

 

意味をわかってはいなかったけれど、これからちゃんと付き合っていき、距離を埋めていけば本当の家族に慣れるかもしれない、頑張ればなんとかなる!と思っていたのに――

 

「(死んじゃったら・・・・もう一夏に会えないじゃない!)」

 

鈴音が思っていると、上空から雄叫びをあげて銀色の流星が男と彼女の間に割り込んできて火炎弾を弾き飛ばす。

 

まるで、正義のヒーローみたいな登場に彼女は不覚にもカッコイイと感じてしまう。

 

抱きかかえるように腰に手を回して彼は安堵の表情を浮かべる。

 

「遅すぎ・・・・バカ」

 

「ごめん、無事みたいだな。鈴」

 

いいたいことだけをいって鈴音は意識を失う。

 

一夏は片手で雪片弐型を構えて男を睨む。

 

「お前・・・・アンデッドか?」

 

「その通り。お前らの使うISというのがどの程度の力を持っているのか見せてもらおうと思ったのだがな。てんで相手にならん。お前なら相手になるかな?」

 

「っ!」

 

目の前の男の姿が変わる。

 

人間からアンデッドへ。

 

一夏の脳裏にある単語が蘇る。

 

アンデッドの中に上級のアンデッドがおり、上級は人間に姿を変えることが出来る、と。

 

「お前・・・・アンデッドなのか!?」

 

「ふっ、人間が作った力でどこまで戦えるか見せてもらおうか」

 

ピーコックアンデッドは羽の手裏剣を放つ。

 

一夏は後ろへ下がりながら片手に持つ雪片弐型で叩き落す。

 

「(まずは鈴を安全な所へ・・・・)」

 

『織斑!現在アリーナは何者かのハッキングを受けて外へ出られなくなっている。出るにはお前の雪片弐型で叩ききるしかないぞ!』

 

「情報ありがとう・・っと!」

 

スピーカーから聞こえてきた千冬に感謝しながら。

 

一夏は雪片弐型でアリーナのシールドを破壊して鈴音を観客席に寝かせるように置く。

 

壊れた部分からセシリアも出てくる。

 

「一夏さん、大丈夫ですか?」

 

「俺は大丈夫。鈴を頼む」

 

一夏は再びアリーナの中に戻る。

 

途中で白式を解除しブレイドに変身して。

 

「ほう、戻ってくるとは・・・・しかし、ISではなくブレイドでやってくるとはな・・・」

 

「アンデッドを封印するのは俺の仕事だ」

 

「そうか・・・・しかし、封印できるかな?」

 

「っ!」

 

地面を蹴ってブレイラウザーをピーコックアンデッドに振り下ろす。

 

ピーコックアンデッドは片手でブレイラウザーを受け止める。

 

しかも、指二本で。

 

「この程度か?」

 

「くっ!」

 

ピーコックアンデッドは羽手裏剣をブレイドに放つ。

 

眼前で爆発し、視界がふさがれてしまう。

 

「ぐあっ!」

 

煙に覆われた途端、切り裂くようにして巨大剣がブレイドに襲い掛かる。

 

ブレイラウザーで防ごうとするが間に合わずアーマーにダメージを受けた。

 

「この程度か?“今の”仮面ライダーの力は?」

 

「ふざけるなぁあああああああああああああああああ!」

 

『サンダー』

 

『スラッシュ』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

雷撃と切れ味のパワーを増した攻撃をピーコックアンデッドに向けて放つ。

 

迫り来る攻撃に対してピーコックアンデッドは何もしない。

 

「な・・・・・・・・・・に・・・・」

 

ブレイドは動揺する。

 

アンデッドの力、二つを使っての一撃。

 

強力な一撃を指二つで止められているのだから。

 

「てんで話にならないな」

 

羽手裏剣が連続でブレイドの体に突き刺さり大爆発を起こす。

 

「一夏!?」

 

「一夏さん!」

 

鈴、セシリアが悲鳴を上げる。

 

煙の中、血まみれの一夏が地面にどさりと崩れ落ちた。

 

意識を失っているのかぴくりとも動かない。

 

「ふん・・・・死ね」

 

ピーコックアンデッドは巨大剣を構えてゆっくりと振り下ろした。

 

巨大剣がキィィンと弾かれる。

 

「!?」

 

ピーコックアンデッドの前に一人の女性がIS打鉄を纏って現れた。

 

見る人全てが息を呑むような美しさ。

 

まるで戦姫のような美しさと強さを兼ね備えた女性。

 

「私の弟に手を出すな・・・・・・」

 

 

打鉄をスーツで纏った千冬が刀を構えてピーコックアンデッドを睨む。

 

本来、彼女はこういう事態に関して自ら進んで出動する事はなかった。

 

大抵が教員任せともいえる。

 

なのに、どうして出撃したか?

 

答えは簡単。

 

――弟の危機だから。

 

一夏はそれなりの実力を有している事はわかったが、まだ荒い部分がある。

 

それでも、この程度なら乗り越えられるだろうと思っていた。

 

だが、目の前でボロボロになった弟を見た途端。そんな考えなど吹っ飛んでしまい、山田先生の制止も聞かずにISを纏って飛び出していた。

 

 

 

「フン、人間如きが邪魔を」

 

するな、とピーコックアンデッドは最後までいえなかった。

 

千冬が顔面に刀の柄を叩き込んだから。

 

反応が遅れ、追撃をかけるように刀でピーコックアンデッドをぶつけていく。

 

打鉄は量産されたISで、第三世代型と比べると力などは雲泥の差といえる。実際、打鉄の刀でピーコックアンデッドにダメージを与えられていない。

 

けれど、押されているのは彼女の実力がISの性能を補って、否、上回っているからこそピーコックアンデッドを圧倒できる。

 

だが。

 

 

「調子にのるなぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

叫ぶと同時にピーコックアンデッドの羽手裏剣が打鉄を襲う。

 

刀で叩き落そうとするがホーミング機能を有した羽手裏剣は器用に動いて打鉄の前で爆発する。

 

「くっ!」

 

爆発で視界が見えなくなりピーコックアンデッドの巨大剣を防ぐタイミングが遅れそうになる。

 

 

「まだだ!」

 

持ち前の反射神経で巨大剣をギリギリのタイミングで防ぐ。

 

だが、ピーコックアンデッドの強靭の肉体を連続で攻撃していたために脆くなっていたのか一撃を防いで折れる。

 

「人間風情がこのまま」

 

殺してやる。といおうとした所をギャレンラウザーの弾丸が命中する。

 

「まにあっ・・・・一夏!?」

 

ギャレンは倒れている一夏と傍で折れた刀を握り締めている千冬を守るようにして立つ。

 

「ギャレン・・・・・・」

 

ピーコックアンデッドは憎悪に顔を歪めたが何を思ったのか、背を向けてアリーナから離れていく。

 

「・・・・・・一夏!」

 

ギャレン=弾は変身を解除して倒れている一夏の所へ駆け寄る。

 

虎太郎達も一夏の所へ駆け寄っていく。

 

みんなは担ぐようにして彼を医務室へ運ぶ。

 

弾は手に持つブレイバックルを見る。

 

ブレイバックルには亀裂が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園保健室。

 

「先生・・・・一夏は?」

 

「命に別状はありませんよ・・・・ただ、一日安静にしないといけないです」

 

「山田先生ありがとうございます」

 

ぺこりと虎太郎は謝罪をして、鈴音とセシリアは中に入る。

 

少し遅れてIS学園に到着した箒も続く。

 

 

「お前も一夏と同じ仮面ライダーなんだな?」

 

「はい・・・・あの、このことは」

 

「お前も家族に内緒という訳か・・・・仕方あるまい。黙っていよう。悪いが今は非常時の状態でな。部外者を中に入れるわけにはいかないんだ」

 

織斑千冬は学園の入口でレッドランバスを停車させていた弾と話をしている。

 

とりあえず、緊急事態なので余計な尋問をされたらまずいだろうと判断した千冬がここに彼をつれてきたのであった。

 

「これからどうするつもりだ?」

 

「ひとまずBOARDに戻って報告をします。これを修理してもらわないといけないし」

 

弾は亀裂の入ったブレイバックルを取り出す。

 

ピーコックアンデッドとの戦いで壊れたかもしれないので見てもらわないといけない。

 

「悪いが、橘社長とまた話がしたいと伝えておいてくれないか?」

 

「わかりました・・・・それじゃ」

 

 

 

 

弾が去っていたのを見送って少しすると入れ替わるようにして一人の男がやってきた。

 

「あの・・・・」

 

「?」

 

「ここがIS学園ですよね?」

 

「そうだが、貴方は?」

 

「あ、俺の名前は剣崎一真といいます。この学園にいる織斑一夏君に会いにきたのですが」

 



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第八話

BOARDの事務室で橘朔也の前に一人の男が立っていた。

 

「元気そうだな。橘朔也」

 

「まさか、お前がここに現れるとは思っていなかったぞ。伊坂」

 

お互い殺気を放ちながら目の前にいる相手を見ている。

 

橘朔也と伊坂、この二人には因縁がある。

 

橘朔也は騙され最愛の恋人を失い。

 

伊坂は怒った橘によって封印され、計画を失敗させられた。

 

「何が目的だ?」

 

「決まっている。俺が作成した最強のライダーのベルトを返してもらいに来た」

 

「生憎だが、あれは俺の手元にはない」

 

「では、どこにある?」

 

「お前に教えると思うか?」

 

「だろうな・・・・とりあえずここにはないのだろう?」

 

「どうだろうな?」

 

「まぁいい、ライダーではないお前を倒した所で意味はない。“今”のギャレンを叩き潰すとしよう」

 

「宣戦布告か?」

 

「そうだ」

 

それだけいって伊坂は丁寧に壁を壊して外に出て行く。

 

 

橘は壊れた壁を見ながら呟く。

 

 

「タイミングが良かったな・・・・・・・全員を招集する」

 

 

 

 

 

 

一夏はぼーっと、天井を見ていた。

 

「負けた。完全に負けた」

 

ブレイドとなりアンデッドと戦い続けての初めての敗北。

 

上級アンデッドの力は自分の想像していたものよりも強い。

 

今のままでは勝てない。

 

 

「どうしたら・・・・」

 

「一夏!聞いてんの!?」

 

「え・・・・えっと・・・・なんだっけ?」

 

鈴音は顔を赤くして告げる。

 

「私もあんたの戦いに協力するわ」

 

「・・・・そう・・・・か」

 

「弾も戦っているのに私が何も出来ないなんていうのは嫌だしね!」

 

鈴音の申し出を一夏ならよく考えたうえなら同意するだろう。

 

だが、今の彼はそこまで余裕がなかった。

 

 

「あ、ちょっといい・・?」

 

その時、ドアが開いて一人の男がやってくる。

 

入ってきた男に織斑一夏は目を見開く。

 

男の人はどこにでもいるような感じで。けれど、誰よりも優しく、誰よりも人を守る事に力を使い。自分が傷ついても他者が守れるならそれでいい、と考えている人。

 

「一真・・・・さん」

 

「あ、一夏。久しぶり!」

 

剣崎一真は微笑んで一夏の所へやってくる。

 

「ちょっとごめんね~」

 

一真は微笑みながら一夏のところにやってくる。

 

入口から虎太郎が箒達にこっちきてーと呼んでいたので三人は外に出て行く。

 

三人がいなくなり、保健室は静かになった。

 

ゆっくりと剣崎は口を開く。

 

「負けたんだって?」

 

「・・・・はい、手も足も出ませんでした」

 

「そっか・・・・相手が上級アンデッドだったらしいからね。それで」

 

剣崎は微笑みながら一夏に尋ねる。

 

「一夏はどうする?」

 

「強くなりたいです。もっと強くなって・・・・ヤツに勝ちたい」

 

「そっか・・・・なら、行こうか」

 

「え、どこに・・・・ですか?」

 

 

「修行だよ。負けたままじゃ嫌なんだろ?だったら修行して強くなろう」

 

「・・・・・・俺は・・・・強くなれますか?」

 

「それは俺に問われても困る」

 

剣崎はばっさりと一夏の不安を切り捨てる。

 

「強くなりたいとキミが本気で思っていない限り強くなるわけがないだろ?」

 

「っ・・!俺は強くなります!必ず」

 

「その意気だ」

 

剣崎の後を追いかけるようにして一夏も外に出る。

 

「「「「体の傷が治ってからにしろ!」」」」

 

「「・・・・はい」」

 

外に出た直後、四人の少女と女性に怒られて二人は渋々中に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の傷が治り、剣崎と共に山に篭っていた。

 

学校に関しては休学届けを出しているので、出席に関しては問題ない(授業についてはノーコメントとなるが)

 

「それで・・・・特訓って何をするんですか?」

 

「まぁ、特訓といっても・・・・ひたすら一夏君“は”戦ってもらうんだけどな」

 

「誰とですか?」

 

「私とだ」

 

「えっ!?」

 

声が聞こえて振り返るとそこには胴着を着て木刀を持った織斑千冬がいた。

 

何故!?と一夏が戸惑っていると、剣崎が微笑む。

 

「約束しただろ?ちゃんと向き合うって、だから戦いながら向き合ってくれ」

 

“約束”忘れたわけじゃない。

 

一夏が仮面ライダーになりたいと剣崎に言ったあの日。

 

剣崎が一夏へと述べたあの言葉。

 

いつかは千冬と仲直りする事。

 

それを、ここでやれと剣崎はいっているのだ。

 

 

 

「そういうわけだ。行くぞ」

 

千冬と一夏は同時に木刀でぶつかり合う。

 

ブレイド=織斑一夏の訓練が始まる。

 

 

 

 

 

イギリスのある基地でカリスは隔壁を片手で破壊して左右に広げる。

 

K、エス、エムの三人はイギリスの第三世代IS“サイレント・ゼフィルス”を奪取するために襲撃した。

 

既にここの施設の迎撃機能は破壊しており、後はISを盗むだけである。

 

なのだが、どうも、施設の構造が事前に入手しているものと違う。

 

 

「・・・・・・ここか?」

 

「情報と少し違うな・・・・」

 

「オータムさんが仕入れてきた情報だけど?」

 

「ミスがあってもおかしくないな」

 

「同感だ」

 

エスの言葉にカリスとエムは同時にあの女性のことを思い出して苛々する。

 

ちゃんと、情報くらい仕入れておいてくれよ、と。

 

直後、二人を守るようにしてカリスは前に出る。

 

「どうした?」

 

「何かがく」

 

来ると言おうとした時、横の壁を砕いてISの手がカリスを襲撃した。

 

だが、動きを予測していたカリスはエムとエスの二人を抱きかかえて壁の端に飛ぶ。

 

「なんだ・・こいつ?」

 

「全身装甲《フルスキン》のIS・・・・データにない」

 

「えっと・・・・これも強奪するの?」

 

エスの言葉に、そうだな。とカリスは答えて。

 

「とりあえず無力化させる。中の人間は・・・・・・運が良ければ生きているだろう」

 

ここで比較するのもおかしいが、織斑一夏達とカリスは決定的に異なる部分がある。

 

それは、相手が敵なら容赦しないということだろう。

 

例え、相手の命を奪ったとしても。

 

「行くか」

 

全身装甲のISは掌からレーザーを放つが、カリスは壁を蹴りながら右へ左へと避けていく。

 

二人を抱きかかえたまま。

 

そして、敵ISの肩を思いっきり踏みつけて進んでいた方向の通路の曲がり角で二人を下ろす。

 

「先に言っていてくれ。あれを壊して奪取する」

 

「わかった」

 

「無理しないでね」

 

二人を見送ってからカリスはカリスアローを構える。

 

敵ISは再び掌からレーザーを放つが、カリスアローのソードボウでレーザーを弾き飛ばす。

 

弾き飛ばされたレーザーは壁に命中して爆発した。

 

「まずは片手をもらおうかぁ!」

 

ソードボウを腕に突き刺してそのまま手を切り落とす。

 

バチバチとケーブルが千切れるような音と同時に手が落ちた。

 

「そして、片方!」

 

振り下ろしたカリスアローを持ち上げるようにしてカリスを叩き潰そうとしている手にソードボウを突き刺す。

 

ISにはシールドバリアと呼ばれる様々な攻撃から身を守る装置が搭載されている。このISにもそれが搭載されているようだが、あえて言おう。

 

カリスやアンデッド、仮面ライダーの前ではそんなシステムは紙くず同然に等しい。

 

実際、カリスはプライムベスタを一枚も使っていなかった。

 

「失せろ」

 

フォースアローで敵ISの顔を撃ちぬく。

 

撃ち抜かれた敵は動かなくなる。

 

 

「・・・・意外と弱いな・・・・まぁ、無人機だから仕方ねぇか」

 

コンと残骸を蹴り飛ばしてカリスは機体の中に手を入れてコアを取り出そうとするが突如、何かの起動音が響く。

 

「あ」

 

直後、眩い閃光が辺りを包み込んだ。

 

「何・・・・今の音?」

 

「爆発だな・・・暴れすぎだ」

 

「Kかな?違うような気もするんだけど」

 

「とにかくサイレント・ゼフィルスは奪取した。あいつと合流するぞ」

 

そういって、ISを纏った二人が外に出ると、そこにあったはずの通路はなく、瓦礫の山があった。

 

「えっと・・・・・・」

 

「何をどうしたらこうなるんだ」

 

ガラッと二人の近くの瓦礫の山が動いたと思うと、そこから富樫始が出てくる。

 

着ている服はボロボロにはなっていないが土埃がついていた。

 

「ぷっはぁ・・・・・・酷い目にあった・・・・あのクソIS、自爆するとか、なんちゅうもん搭載してんだか・・・・あ・・・・」

 

「お前は何をしている?」

 

「ISのコアを奪取しようとしたら自爆して、その威力が凄まじくてこんなことになっちまった」

 

「・・・・最悪だな。すぐに撤収するぞ。このままだと軍とやりあわないといけない」

 

「GUN!?」

 

「まぁ、そーなるな。ここ一応軍の施設みたいだし」

 

そういいながら三人はISを装着してそのまま逃走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬は一夏の動きに驚き、少し、ほんの少しだけ焦っていた。

 

篠ノ之の家の道場でしか弟の実力は見ていなかったから、あれからの年月を考えればそれなりに成長はしているだろうと思った。

 

だが、それは大きな間違いだった。

 

 

「くっ!」

 

下から振り上げられた木刀をぎりぎりのところで押し返す。

 

あと少し反応が遅れていたらわき腹に命中していた。

 

油断できないくらいに弟は強くなっていた。

 

自分の知らない所でという部分で寂しいと思ってしまう。

 

だが、これからはずっと一緒にいることができるのだから。

 

これからは・・・・。

 

 

「強くなったな・・・・ずっと鍛えていたのか?」

 

「うん、仮面ライダーの訓練って結構大変だったし」

 

一夏の特訓に協力してくれと剣崎に言われた時、戸惑った。

 

自分は一夏に嫌われているし、恨まれているかも、と思っていた。

 

そんな自分に剣崎は笑顔でいったのだ、

 

 

『一夏はあなたの大切な弟ですからしっかりと向き合ってください。二人しかいない家族ですから』

 

 

それで、今から間に合うだろうか?と尋ねたら、大丈夫!と笑顔で言われてしまい千冬は複雑な表情をした。

 

剣崎のおかげで一夏も姉と向き合おうとしてくれている。

 

だから、自分もちゃんと弟と向き合おう、教師とか、そういう固いものは抜きにして、と千冬は考えた。

 

「仮面ライダーの訓練というのはやはり厳しいのか?」

 

「大変だよ。弾も・・・・あいつも仮面ライダーの訓練していたんだけど、あいつの訓練なんか、大リーガーが投げる速度のボールを真正面からみて、書かれている数字を目で判断するというものもあったしね」

 

「・・・・それは・・興味深いな」

 

会話しながらも二人は木刀をぶつけ合う。

 

気づいているだろうか?何度もぶつかり合っている間、二人はおそろしいくらいに剣戟の速度があがってきていることに。

 

 

 

織斑一夏と織斑千冬の二人は本気の戦いを繰り広げている。

 

真剣での戦い。

 

千冬は日本刀を振るい、一夏はブレイラウザーを使っていた。

 

互いに一歩も引くことなくぶつかりあっている。

 

しかし、日本刀は数回の剣戟で折れてしまう。

 

 

「っ!」

 

千冬は地面に突き刺さっている刀を引き抜いてブレイラウザーとぶつかり合う。

 

二人がぶつかりあって早一週間は経過している。

 

その間もただひたすらにぶつかりあっている、弾と異なるのはぶつかりあった次の日はお互いに死んだように眠っていた。

 

そして、目が覚めるとお互いに剣戟を始める。

 

「これは・・・・本当に二人が人間なのか疑っちゃうね」

 

「それほどまでに二人が強いということさ」

 

二人の剣戟を双眼鏡で剣崎と虎太郎が見ていた。

 

余りの強さに虎太郎は冷や汗を流し、次から千冬には逆らわないようにしようと胸に誓う。

 

「そういえば、橘さんにあの話をしたの?」

 

「あぁ・・・・反対されたけど」

 

「そりゃそうだよ、第一世代のライダーシステムのリミッターを解除なんて、設定した人からしたら悩むことだと思うよ?」

 

「だが、あのままじゃ上級アンデッドには勝てない・・・・それに、カテゴリーAにも」

 

「カリスとはいわないんだね」

 

「・・・・そいつがカリスと名乗っているなら俺もそういうけど、名乗っていないならカテゴリーAだよ」

 

「始とかぶらせたくない?」

 

「・・・・そうかも」

 

二人が会話をしている間も大きな音が響いている。

 

「話を戻すけど、今のままじゃ勝てないんだよね?カテゴリーAとの融合を極端に抑えている状態じゃ」

 

「あぁ・・・・上級はリミッターを施されている状態じゃ勝率は0だ」

 

一夏と弾が使っているライダーシステムは数年前の戦いの終了後、橘朔也によりリミッターが設けられた。

 

アンデッドとの融合係数が高い人間がより高く融合しすぎないように、嘗て融合係数が著しく高かった剣崎も数年前の戦いが原因で融合係数が減退したためにその心配はない。

 

しかし、一夏達はリミッターのために上級アンデッドと戦っても勝つことはない。

 

たとえ、全てのプライムベスタの力を使ったとしても・・・。

 

 

「一夏君達が同じ道を頼らない事を僕は願うしかないんだよね」

 

「何言ってんだよ。虎太郎達のサポートのおかげで俺達は安心して戦えるんだから、そんなこというなよ」

 

「・・・・そうかもね・・・・」

 

「お、決着がついたみたいだな」

 

 

 

 

 

「これで・・・・最後の一振りが折れたか・・・・お前の修行もこれで終了か」

 

「修行じゃなくて特訓・・・・まぁ、そうだけど」

 

「しかし驚いた。ここまで強くなっているとは・・」

 

「本気だから・・・・」

 

一夏はブレイラウザーを地面に突き刺して答える。

 

「本気で仮面ライダーになって人を守りたいと思っているから」

 

「・・・・・・なら」

 

ギュッと一夏の体を千冬が後ろから抱きしめる。

 

突然の事に一夏は戸惑う。

 

「人を守るお前は私が守ってやろう。何年も姉らしいことをまともにやっていないから・・これぐらいは・・・・というわけじゃないが、これからお前を守る」

 

姉といった時、なぜかズキリと胸が痛んだような気がしたが千冬は気にせず一夏を抱きしめる。

 

「今まですまなかった・・・・・・一夏」

 

「俺も・・・・ごめん、千冬姉」

 

剣崎と虎太郎はしばらく二人っきりの世界にさせてあげようと思い、少し待った。

 

余談だが一夏のことを思っている少女たちは強大な敵が現れたことを学園で予感する。

 

その予感は現実のものになると知らず。

 



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第九話

 

五反田蘭は一人で街に買い物に来ていた。

 

本当は兄に買い物の同行を頼む所だったのだが、しばらく仕事で帰れないということで家にいないため、一人で赴いた。

 

だが、困った事に。

 

「ねぇ、彼女~。一人?」

 

「俺らとどっかいかない?」

 

と、ナンパされていた。

 

ISが普及して世界は大きく変化して、女性が優遇される世界となってしまい、男性の地位はどんどん下がっているけれど、元々顔の形のいい男子は女性に優しく扱われたりしているため、時々、思い上がってこんな事をしでかすものがいる。

 

蘭は気の強い女の子だが、初対面の相手、特にこういう相手にはたじたじになる部分があり、現にこいつらの避け方を知らず戸惑っていた。

 

「おいおい、少女が困っているじゃないか、やめてやれよ」

 

「え・・・・」

 

蘭を庇うようにして茶色いコートを着た男の人が前に出た。

 

男の出現に数人のチャラ男は睨む。

 

「おい、俺らがこの人と話をしているのに」

 

「邪魔すんじゃねぇよ」

 

「この子はあんたらと話をする気はないみたいだぜ?速攻に他の相手を探す事をおススメするよ?」

 

「うっせぇ!」

 

チャラ男の一人が殴りかかるがそれをあっさりと受け止めて近くの壁に押し付けて他の男にも聞こえるように告げる。

 

「まだやる?やるなら俺は本気だすけど?」

 

男の笑顔に恐怖を感じたのか蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。

 

「大丈夫?」

 

金髪の少女が蘭に駆け寄って尋ねる。

 

「あ・・・・はい・・・・あの、ありがとうございます」

 

「いやいや、あぁいう男子がいることに同性として許せないだけだから」

 

茶色の男の人はにこりと笑顔を浮かべた。

 

「あれ・・・・富樫・・・・さん?」

 

「ん?誰だっけ?」

 

「あ、五反田蘭です・・・・・・覚えていませんか?」

 

「・・・・・・・・あぁ、久しぶりだね~」

 

「え、数日前に会いましたけど」

 

「そうだっけ?まぁいいや、一人で買い物かい?」

 

 

「はい・・・・富樫さんは・・・・」

 

「デートかな?そこのお嬢さんと」

 

「もう、からかわないでよ~」

 

バシンと少年・富樫始の肩をたたく金髪の少女。

 

「それじゃあ、俺達は行くから気をつけてね~」

 

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

ぺこりと蘭は頭を下げて二人を見送る。

 

「あの子、知り合い?」

 

「そんなところ、かれこれ数年は会っていなかったらわからなかった」

 

蘭の姿が見えなくなってからエスがKに尋ねる。

 

「名前と顔は取り戻したんだよね?」

 

「あぁ・・・・だけど、数年分の記憶も取り戻せるというわけじゃない。さて・・・・これからどうする?」

 

「どうしょうか?」

 

エスの言葉にKは微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

伊坂は街の中心に立っていた。

 

周囲の人達はちらちらと伊坂を見ているがすぐに視界から外す。

 

「(これが人間・・・・・・何時の時代になっても変わらないな)」

 

人を見下して伊坂は不適に笑う。

 

今から徹底的に破壊してやろう。

 

人間共を皆殺しにして、自分の種族を繁栄させようと。

 

アンデッドとなり羽手裏剣を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARDの部屋で一夏と弾は剣崎、橘と向かい合っていた。

 

机には一夏と弾のブレイバックルとギャレンバックルが置かれている。

 

何時になく真剣な表情をしている橘の表情に二人はたじたじになっていた。

 

 

「さて・・・・」

 

びくっ!と二人は身構える。

 

「お前達の訓練が終了し、封印を解こうと思う」

 

「封印?」

 

「・・・・ギャレンとブレイドのバックルは融合係数が上昇するのを防ぐためのリミッターが施されている」

 

「リミッター?」

 

「キミ達も知っていると思うがアンデッドとの融合係数が高いと色々と危険な事が起こる、それ故に封印を施した・・・・しかし、上級アンデッドの出現により現状のままでは戦闘は危険であると判断し、封印を解除する事にした」

 

「封印が解除されたからブレイドとギャレンの力はより向上するけれど、危険度も増すから気をつけるんだ」

 

「・・・・危険度?」

 

弾の疑問に橘が答える。

 

「アンデッドとの融合係数が高いとよりアンデッドに近づいてしまう。そもそもライダーシステムはどんなアンデッドの姿になれるという“ジョーカー”という存在を模して作られている。といっても使えるのはカテゴリーAのみだが・・・・、だが、カテゴリーAとの融合係数が大きくなるほど、他のアンデッドとの融合係数も大きくなり危険な状態になる」

 

「危険な状態ってなんですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

「ごめん、それはまだいえないんだ・・・・」

 

「いえないことなん・・・・ですか?」

 

「いや、まだそうなるかわからないからなんだ。俺達もこれからどのような事が起こるのか予想できない」

 

何を隠しているんですか?と一夏が聞こうとしたところでドアが開いて虎太郎が息を切らして入ってくる。

 

「大変だよ!」

 

「どうした虎太郎!」

 

「街のど真ん中にアンデッドが出現したよ!しかも上級アンデッド!」

 

「行きます!」

 

「俺も!」

 

机に置かれていたバックルを手にとって二人は飛び出す。

 

橘と剣崎は見送る。

 

「頑張れよ・・・・」

 

「無茶はするな」

 

 

BOARDの地下駐車場に停車させてあるレッドランバスとブルースペイダーに飛び乗って、ヘルメットを装着して走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街は大混乱だった。

 

ピーコックアンデッドが羽手裏剣で建物を破壊して彼の洗脳を受けたジャガーアンデッドとシェルアンデッドが人を襲っている。

 

自衛隊に所属していたIS部隊も彼らの手によって無力化された。

 

「これがヒューマンアンデッドの望んだ世界?笑わせる」

 

ピーコックアンデッドはふと、逃げ遅れた一人の少女に気づく。

 

少女は泣いている男の子を守るようにして逃げているが、何かに躓いたようだ。

 

人間は全て殺す。

 

ピーコックアンデッドはゆっくりと少女に近づいていく。

 

少女目掛けて巨大剣を振り下ろそうとしたピーコックアンデッドに赤いバイクがぶつかる。

 

「ぐぁっ!?」

 

攻撃を受けたピーコックアンデッドはごろごろと地面を転がる。

 

「蘭!?大丈夫か!」

 

ヘルメットを外して少女、蘭に近づいてきたのは五反田弾。

 

「おにぃ!?」

 

「怪我はないみたいだな・・・・早く安全な所に逃げろ!」

 

「何言ってるの!おにぃも逃げないと!」

 

「俺は・・・・あいつを倒してからだ」

 

「何言ってるの!勝てるわけないよ!ISでも歯が立たなかったんだよ!無理だって!」

 

「ISが勝てないからって俺達ライダーが勝てない理由にはならねぇし・・・・何より大切な妹がピンチなのに兄貴がなにもしないってわけにはいかねぇよ!兄貴っていうのは妹を守るもんだからな!」

 

弾はギャレンバックルにカテゴリーAのプライムベスタを入れる。バックルからカード状のベルト・シャッフルラップが自動的に伸張しバックルが装着される。

 

「・・・・変身!」

 

『ターン・アップ』

 

ターンアップハンドルを引いて目の前に展開されたオリハルコンエレメントを潜り抜けてギャレンと変身してピーコックアンデッドに殴りかかる。

 

「ぐぉっ!?」

 

ブレイド同様、敵にならないと判断していたピーコックアンデッドだが、顔に一撃を受けて後ろに仰け反る。

 

「あれ・・・・・・なんか・・・・パワーが桁違いに」

 

ピーコックアンデッドを殴った拳を見ながら、パワーが上がっている事に驚くギャレン。

 

ギャレンにジャガーアンデッドが襲い掛かろうとするがブルースペイダーに乗ったブレイドがバイクで弾き飛ばす。

 

ホルダーからブレイラウザーを引き抜いてジャガーアンデッドに斬りかかる。

 

ブレイドにシェルアンデッドが襲い掛かろうとするが、横からカリスが斬り伏せる。

 

「てめっ!」

 

「・・・・・・」

 

カリスはブレイドを横目で見ながらシェルアンデッドに攻撃を仕掛ける。

 

睨みながらもブレイドはジャガーアンデッドへ攻撃を開始する。

 

ギャレンはギャレンラウザーで羽手裏剣を全て叩き落す。

 

「(すごい・・・・全ての力が格段に跳ね上がっている・・・・これなら勝てる!)」

 

ギャレンは間合いを詰めてピーコックアンデッドに攻撃をして行く。

 

ピーコックアンデッドはどんどん怒りが湧き上がっていた。

 

何故、ここまで押されている?

 

こいつは橘朔也ではないのに。

 

何故こうも押されている!!!

 

怒りが爆発したピーコックアンデッドは周囲に羽手裏剣を放つ。

 

そのうちのいくつかが建物に命中して瓦礫が蘭の上に落下してくる。

 

「蘭!?」

 

ギャレンがギャレンラウザーを構えようとするが間に合わない。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『ライトニングブラスト』

 

 

『チョップ』

 

『トルネード』

 

『スピニングウェーブ』

 

「ウェェェェェェェェェェェェェェイ!」

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

ブレイドとカリスの必殺技がジャガーアンデッドとシェルアンデッドに炸裂して落下する瓦礫に命中して瓦礫が崩壊して蘭を守る。。

 

倒れた二体のアンデッドにカリスとブレイドはプロバーブランクを投げた。

 

二枚のプライムベスタがそれぞれ二人の下へ向かう。

 

「次は・・・・・・」

 

プライムベスタを仕舞うと同時にカリスとブレイドは同時にピーコックアンデッドに斬りかかった。

 

「蘭!大丈夫か?」

 

ギャレンが蘭に駆け寄る。

 

「だ・・・・大丈夫・・・・」

 

「立てるか?」

 

「う・・・・うん」

 

「よし、安全な所へ」

 

ギャレンは蘭を抱えて安全な所へ走り出す。

 

 

 

ブレイド、カリス、そしてピーコックアンデッドによる三つ巴の戦いが繰り広げられていた。

 

そう、三つ巴の戦い。

 

ブレイドはアンデッドを封印するため、そして富樫始を殺したカリスを倒すために。

 

カリスはアンデッドの封印、そして斬りかかってくるブレイドを押しのけるために。

 

ピーコックアンデッドは邪魔するブレイドとカリスを倒すために戦っていた。

 

「くっ」

 

「うっ」

 

「ぬっ!」

 

ピーコックアンデッドの巨大剣をブレイラウザーでいなし、がら空きとなった胴体をカリスアローで切り裂き、ブレイドは拳をカリスに向けて放つ。カリスは接近してくる拳をいなす。

 

お互いに一歩も引かない状態だった。

 

「・・・・・・」

 

「ふっ」

 

 

突如、ブレイドとカリスは同時に後ろに下がる。

 

「なん・・・・」

 

下がった事に戸惑ったピーコックアンデッドだが、大きく目を見開く。

 

何故ならそこにはギャレンラウザーのオープントレイを展開してプライムベスタを取り出しているギャレンの姿があるのだから。

 

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『ジェミニ』

 

『バーニングディバイド』

 

ギャレンが二人になりピーコックアンデッドに向かって駆け出す。

 

ピーコックアンデッドは叫びながら巨大剣を構えて右の分身へ振り下ろす。

 

振り下ろされた分身は左のギャレンへ吸収される。

 

「クソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

断末魔と共にギャレンのバーニングディバイドが炸裂した。

 

さらに追い討ちをかけるように二人のライダーもプライムベスタの力を解放する。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『マッハ』

 

『ライトニングソニック』

 

 

『ドリル』

 

『トルネード』

 

『スピニングアタック』

 

三人のライダーのコンボ技を受けてピーコックアンデッドは爆発して倒れ込む。

 

ギャレンはプロバーブランクを取り出して投げる。

 

プロバーブランクに吸収され、ピーコックアンデッドは封印される。

 

カリスは二人に背を向けて歩き出す。

 

「待て!お前なんで・・・・」

 

「・・・・全てのアンデッドは俺の敵だ・・・・そして、何も知らないお前に俺が話すことはない」

 

「何も知らないって・・・・俺が何を知らないっていうんだ!」

 

 

カリスはブレイドに何も言わず姿を消す。

 

残されたギャレンとブレイドも警官隊がやってくる前に避難する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり・・・・融合係数が跳ね上がっている」

 

「その分、パワーも上がっている」

 

BOARDの部屋で橘朔也と剣崎一真は先ほどの戦いを見ていた。

 

「しかし・・・・いいのか、剣崎。このままいくと彼らはお前のように・・・・いや、お前以上になるかもしれない?」

 

「そうかもしれません・・・・でも、俺は信じたいんですよ。彼らならきっと俺達とは違う“答え”を見つけられるかもしれない・・・・。俺が選ぶしかなかった道以外を」

 

「・・・・・・そうか」

 

「さて、俺は引き続き任務に戻りますね。一夏達によろしくといっておいてください」

 

「・・・・まだ行方はわからないのか?」

 

「はい・・・・でも、あいつならきっと何かを知っているかもしれません。この世界を望んだアンデッド・・・・“ヒューマンアンデッド”なら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、新たな都市伝説が生まれる。

 

 

怪物の前にバイクに乗って颯爽と現れる。仮面で素顔を隠したヒーロー、名を仮面ライダー。

 

 

仮面ライダーの存在をほとんどの人間は否定し疑った。

 

 

しかし、あの騒動を目撃した人は忘れる事はないだろう。

 

 

仮面ライダーの存在を。仮面ライダーの戦いを。

 



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第十話

「引越しでーす!」

 

「・・・・はい?」

 

夕方。正確には夜。

 

寮の部屋に副担任の山田真耶がやってきて応対した織斑一夏に向かってそういい放つ。

 

ベッドの方で本を読んでいた箒も一夏の様子に何事かと思いやってくる。

 

「何事ですか?」

 

「ですからお引越しでーす!空いている部屋が出来ましたので、篠ノ之さんにはソッチの部屋に移動してもらいますね!」

 

「な、何故ですか!?」

 

「え?だって、年頃の男の子と二人っきりって色々と大変だと思うんですよ!ですから」

 

「結構です!」

 

「え・・・・あの」

 

バタン!と真耶の眼前で乱暴にドアを閉めて箒はベッドのほうへと歩いていく。

 

「あー、箒さん・・・・?」

 

「・・・・お前は私と離れるのは嫌か?」

 

「嫌に決まってるだろ?箒は」

 

ドガンとドアが開いた。

 

それもおかしな音と共に。

 

「篠ノ之!“一夏”!いるな?いないとしても入るぞ」

 

「い、いますよ?織斑先生」

 

「今は授業中ではない。いつもどおりの呼び方でいいぞ」

 

「あ・・・・うん、千冬姉」

 

「ふむ・・・・さて、篠ノ之、山田先生から事情を聞いて拒否したことは見ていた。しかし、部屋割りは既に決定したことだ。明日までには移動しろ」

 

「は・・・・はい」

 

千冬の威厳に箒はびくつきながらも頷いた。

 

それだけをいいたかったのか、千冬は部屋を出て行く。

 

フレームが少し歪んだドアから。

 

「一夏・・・・・・少し聞きたいことがある」

 

「お、おう?」

 

「何時から織斑先生のことをまた名前で呼び合うようになったんだ?」

 

「あぁ・・・・少し前に和解して・・・・それからだ」

 

「そうか・・・・ならいい」

 

それだけ聞いて満足なのか、箒は荷物を纏め始める。

 

「そうだ、一夏」

 

「ん?」

 

「こ、今度の休みに買い物に付き合ってもらうぞ」

 

「え・・・・おぉ」

 

箒にいわれて一夏は頷く。

 

だが、予測できるだろうか?今度の休みに起こる出来事。

 

その出来事により悪化する事態を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカの軍事施設、カリスはそこを単独で“襲撃”していた。

 

多くの兵隊や兵器が侵入者を撃退しようとするが、一撃の下に無力化させられていく。

 

「他愛ない・・・・・・」

 

カリスは隔壁を壊して目の前にあるISに近づく。

 

この名もない基地にて開発され、研究されているIS。

 

名前を銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》。

 

米軍の開発した兵器としてのIS。

 

カリスは亡国機業から奪取するよう命令を受けていた。

 

「さて・・・・とこいつをいただくとしますか」

 

そういって銀の福音に手を伸ばそうとして気づく。

 

こちらを見ている存在がいる。

 

「・・・・・・誰だ?」

 

「流石ですね。カリス」

 

壊れた隔壁からゆっくりとメガネを掛けた青年がやってくる。

 

腕には指輪をはめて、耳にはピアスをつけていた。

 

「一つ聞きたいことがあるのですよ。貴方は人間ですか?それとも、カリスが変身した人間ですか?」

 

「はっきりいって、お前のいっているカリスではないだろうな。俺とあんたは初対面だ」

 

「・・・・またですか・・・・・・では、貴方は何故カリスの姿を?貴方がカリスを封印したのですか?」

 

「いいや、このカードは元々封印されていたもの・・・・」

 

「でしたら渡していただけないですか?」

 

「何故?」

 

「封印を解く」

 

男は目的をあっさりと述べる。

 

「・・・・解放させて人でも襲わせるつもりか?」

 

「人間を襲わせるなんて真似はしないでしょう・・・・私達はこの戦いを勝ち抜くのですよ」

 

「戦い?」

 

「“バトルファイト”・・・・この戦いで互いに勝ち抜き最高の敵として戦おうと約束をしたのですよ」

 

「ふぅん・・・・ならやるよ」

 

変身を解除してKはカテゴリーA・チェンジマンティスのプライムベスタを男に投げる。

 

男は受け取り驚いた表情をした。

 

「いいのですか?」

 

「そのカードを失う事は俺にとってデメリットだが・・・・あんたとそのアンデッドが他のアンデッドを倒してくれるんだろう?メリットがある」

 

「メリット?」

 

「ハートスートのプライムベスタを全て集めることが目的だが、あんたらが多くのアンデッドを封印してくれるというなら目的の達成が早くなる・・・・だから渡す」

 

「・・・・貴方の思い通りになるとは限りませんよ?」

 

「別にいいさ。そうならないなら俺の自身の手で全て倒すだけだ。これは興味本位からの行動だし」

 

それだけいってKは銀の福音を纏う。

 

白式が白で統一されているのに対して銀の福音は銀。

 

ISを纏い浮かぶ姿に男は感嘆しながらもカリスのカードを懐に仕舞って、その場所を離れていく。

 

「さぁ・・・・この展開、どんな風に動くだろうな・・・・・・“一夏”」

 

Kは大空へ上昇して姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・で、なんでこんなことになっているんだ。弾?」

 

「それがさ、この前の戦いで蘭の前で正体見せちゃってさ・・・・それで問い詰められて困っていて、そんで・・・・」

 

「BOARDの社長室にその子をつれてきたというわけか・・・・弾」

 

「はい」

 

「後で修行だ。色々と誤魔化せるように対応力を身につけてもらう」

 

橘が手を目と目の間に押し付けながらこっちを見ている五反田蘭を見る。

 

「では、五反田蘭さん。キミは何をしにここに来たんだ?」

 

「兄をこの会社から辞めさせてください!」

 

「おい、蘭!何勝手に」

 

「おにぃは黙っていて!!」

 

「・・・・・・」

 

「立場ないな・・・・」

 

「ぐはっ!」

 

弾は縮まるしかなかった。

 

「何故かな?」

 

「おにぃがあんな危険な事しているなんて知りませんでした!こんなことを続けていたらいつか本当に死ぬかもしれない・・・・・・そんなこと家族として許せるわけないじゃないですか!それに貴方大人なのに、どうして貴方が――」

 

「やめろ。蘭!」

 

次の言葉が予想できた弾は止めるように怒鳴る。

 

しかし、家族を奪われるかもしれないという恐怖に支配されていた蘭はつい、言ってしまった。

 

戦いたくても戦う事ができない橘朔也に。

 

「貴方が戦えばいいじゃないですか!!」

 

「蘭!」

 

バシンと弾は妹の頬を叩く。

 

「今すぐ橘さんに謝れ!」

 

「おい、弾。落ち着け!」

 

「・・・・・・・・」

 

蘭は殴られた頬を手で押さえて外に飛び出す。

 

一夏は蘭を追いかける。

 

「・・・・戦闘では常に冷静な判断力が必要だと教えたはずだ。俺のことに関して怒ってくれたことは素直にありがとうというが・・・・家族は大切にするべきだ」

 

「すいません・・・・でも、橘さんの気持ちを考えたら・・・・」

 

「・・・・落ち着いたらしっかりと妹さんと話をするんだ」

 

「すいません」

 

 

 

 

 

 

「はい、これ」

 

蘭はBOARDを飛び出して近くにある公園のベンチに座っていた。

 

織斑一夏は息を切らすことなく近くの自販機で購入したジュースの入った缶を蘭に差し出す。

 

「・・・・ありがとうございます」

 

「それで殴られた所を少し冷やした方がいいよ」

 

「はい・・・・」

 

蘭はひんやりとした冷たさに気持ちよさを覚えながらも先ほどのことを思い出してすとんと胃の底の方に何かが落ちたような気分になった。

 

「あの・・・・一夏さんも戦っているんですよね?あの怪物達と」

 

「・・・・あぁ」

 

「その、怖くないんですか?一歩間違えたら死ぬかもしれない戦いですよね!?」

 

「そうだな・・・・でも、俺は一度も死ぬなんてことは考えた事はないな」

 

「え・・・・どうして・・」

 

「だって、俺は必ず生きて帰るって・・・・死ぬことを一回も考えずに戦っているからな。そうならないために毎日鍛えているし」

 

「・・・・・・」

 

「それに、弾も同じだと思う」

 

「おにぃも?」

 

「弾は俺が仮面ライダーになるというのを知って蘭ちゃんと同じように反対したよ?」

 

一夏が剣崎一真と出会い、仮面ライダーとなるのを決意した時。姉と同じように弾も止めた。

危ないぞ。命を捨てる気か!と。

 

弾の想いに嬉しさを覚えながらも一夏は仮面ライダーになることを諦めなかった。

 

その時だった。

 

弾がアンデッドに襲われたのである。

 

殺されるかもしれない状況の中、弾を助けたのは。

 

「フォウ!なんか楽しそうにしてる二人を発見!」

 

「誰だ!」

 

一夏と蘭の前にちゃらい感じの男が立っている。

 

耳元にピアスをはめてにやにやと笑みを浮かべていた。

 

「聞いたぜ?あんたがブレイドなんだって?ブレイド・・・・あぁ、その名前を思い出しただけで腕の傷が疼いて仕方ねぇええええええええええええええええええええええ!」

 

男の体が歪みカプリコーンアンデッドへと姿を変える。

 

「アンデッド!蘭ちゃん。逃げて!」

 

「あ、はい!」

 

「変身!」

 

蘭を逃がして一夏はブレイバックルを装着してターンアップハンドルを引いて目の前にオリハルコンエレメントを出現させる。

 

潜り抜けてブレイドになりカプリコーンアンデッドへ拳を放つ。

 

「フォウ!いいぜいいぜぇ!やっぱり俺はこうした方が性にあってる!あいつみたいに頭を動かすなんて向いてねぇええええ!」

 

「ぐぉっ!」

 

タックルを受けて近くの木に倒れ込む。

 

起き上がりホルダーからブレイラウザーを引き抜いて構える。

 

ちらりとカプリコーンアンデッドは視線を向けると、逃げている途中の蘭の前にジャンプして動きを拘束した。

 

「きゃっ!い、一夏さん!」

 

「蘭ちゃん!?お前ぇ!」

 

「おっと、動くなよぉ!この子を傷つけられたくなかったら変身を解除しろ」

 

「なんだと・・・・」

 

「聞こえなかった?この子傷つけられたくないならすぐに変身解除しろ」

 

「ひっ!」

 

カプリコーンアンデッドが蘭へ爪を突きつける。

 

爪を突きつけられて蘭は震えた表情を浮かべた。

 

くっ、とブレイドは仮面の中で呟いてブレイバックルを地面に置く。

 

「よぉし」

 

不適に笑うカプリコーンアンデッドは蘭を離さない。

 

「おい!彼女を離せ!」

 

「ことわーる!何故かというと、人間のいう事なんざ聞くわけねぇだろ!」

 

叫ぶと同時に爪を蘭に向かって振り上げた。

 

襲い掛かってくる痛みに耐えるために蘭は目を瞑る。

 

一夏も止めようと走るが間に合わない。

 

「(おにぃ・・・・助けて!!)」

 

蘭は大好きな兄を思い浮かべて助けを求めた。

 

銃声が響いてカプリコーンアンデッドがのけぞり、蘭は悲鳴を上げる。

 

一夏が視線を向けるとギャレンラウザーを構えたギャレンの姿がそこにあった。

 

「俺の妹に・・・・手ェだすなぁあああああああああ!」

 

ギャレンは一気にカプリコーンアンデッドに間合いを詰め、至近距離でギャレンラウザーを連射する。

 

体から火花を散らして後ろに仰け反るカプリコーンアンデッド。

 

「蘭!大丈夫か?」

 

「おにぃ・・・・おにぃ!!」

 

蘭は涙を流してギャレンに抱きつく。

 

ギャレンはぽん、と彼女の頭を撫でる。

 

「おいおいおい!?なんだよこれ!?なんなんだよぉ!?」

 

激昂するカプリコーンアンデッドを前にブレイバックルを手にとって一夏はブレイドに変身した。

 

ブレイラウザーのオープントレイを展開してプライムベスタを二枚取り出す。

 

 

『サンダー』

 

 

『キック』

 

 

『ライトニングブラスト』

 

「ウェェェェェェェェェエイ!!」

 

雷撃を纏ったキックをカプリコーンアンデッドに向けて放つ。

 

逃げようとしたがギャレンの攻撃が効いていて反応が遅れ、ライトニングブラストが炸裂する。

 

爆発してカプリコーンアンデッドの腰部のバックルが開く。

 

ブレイドはプロバーブランクを投げる。

 

プロバーブランクに吸収され、プライムベスタがブレイドの手の中に納まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間が経過して、弾と蘭はベンチで話をしている。

 

離れた所でみていた一夏はこの会話に自分が割り込む必要はない・・いや、割り込まない方がいいだろうと判断してその場所を後にする。

 

 

「おにぃ・・・・さっきはごめんなさい」

 

「俺に謝るんじゃなくて橘さんに謝ってくれ」

 

「・・・・あの・・・・一夏さんに聞いたんだけど、おにぃも一夏さんがライダーになるの反対したんだよね?」

 

「あぁ、聞いたのか。反対したぞ。ライダーなんて危ない仕事をするな。そんなことは大人に任せておけばいいって・・・・」

 

「それがなんで・・・・ライダーに?」

 

「俺もアンデッドに襲われてさ。目の前で大勢の人が死んで、俺も殺されるって時に助けられたんだ。ライダーに」

 

それが、橘朔也・仮面ライダーギャレンだった。

 

当時の橘は融合係数がかなり低下しており戦うのもやっとという状況。

 

なのに、人をアンデッドから守るために、戦う。

 

その姿勢に弾は感動した。

 

いや、感動という言葉では済まない。

 

戦うのがやっとなのに、戦おうとする姿勢に弾は尊敬し、そして、仮面ライダーになって人を守りたい。無力な自分は嫌だと感じた。

 

ISが普及したこの時代。

 

男性は戦うという選択肢がほとんどといっていいほどなく、女性が前に出て戦う事が当たり前。

 

狂ってしまった・・・・狂わされてしまった世界の中、仮面で素顔を隠して戦う戦士。

 

男として惹かれないわけがない。

 

「それで、仮面ライダーになった・・・・・・情けない話だよ。ミイラ取りがミイラになったというヤツでさ・・・・だから、蘭が止めようとする気持ちはなんとなくわかっちまうんだよ。でも、俺は決めた。もう止まるつもりもない」

 

 

「・・・・教えて」

 

「はい?」

 

「私にもアンデッドのこととか教えて!おにぃや一夏さんのサポートをする!」

 

「・・・・えぇーーー」

 

その後、行動力のある蘭は橘朔也のいるデスクまで向かって協力者になりたいと申し出て、めでたく採用された。

 



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第十一話

ラウラ参戦


クラスはこれでもかというほど、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

教卓にいる山田先生すらどのように扱えばいいのかわからないみたいである。

 

原因は山田先生のすぐ隣に一人の少女が立っていた。

 

IS学園の制服を身に纏い、銀色の髪の少女。片目には黒い眼帯を装着している。

 

「挨拶をしろ。ラウラ」

 

「はい。教官。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「・・・・・・あの・・・・それだけですか?」

 

名前を述べただけで何も言わないラウラに山田先生がおそるおそる尋ねる。彼女の纏う剣呑な雰囲気にたじたじだ。

 

「むっ・・・・キサマが」

 

その時、ラウラの視線が一夏を捉えると山田先生の言葉を無視してずかずかと進んでいき。

 

バシッと音が響く。

 

「いきなり殴りかかろうとするなんて酷くないか?」

 

ラウラの腕を掴んで一夏は尋ねる。

 

動きが読まれていたことにラウラは目を見開く。

 

だが、すぐに一夏の手を振り払い。

 

「私は認めん。お前が教官の弟であるなど」

 

「それは誰かに認められないといけないことか?」

 

言うだけいって去ろうとしたが一夏の質問に振り返る。

 

「なんだと?」

 

「俺は誰かに認められることで姉弟になるなんて思っていない。お互いがお互いの事を大切に思っているから姉妹なんだ」

 

「ふん、弱者がいうセリフだな」

 

「・・・・見た目だけで判断するなよ」

 

ラウラに対して真っ向からにらみ合う二人。

 

こほん!と千冬が咳き込んで二人に告げる。

 

「授業を始める。ラウラ。席に着け。織斑。それと後で話がある」

 

「わかりました」

 

「はい。教官」

 

そういって二人は席について授業が始まる。

 

といっても、一時間目は実習なので、全員がアリーナに集まっていた。

 

ただ、そこには普段いないであろう人がいた。

 

「橘さん!?なんでここに!」

 

そこにはサングラスをつけた橘朔也の姿があった。

 

普段いない男子、しかもイケメンにクラスの女子達(数人除く)は盛り上がっている。

 

橘さんはつかつかと一夏に近づいて。

 

「白式のデータの回収だ。白井が急用でこられなくてな・・・・一休みしたくてこっちに来た」

 

「・・・・あはは・・・・そ、そうですか」

 

「それと、お前に伝えておきたい事もあった」

 

「え?」

 

「あぁあああああああああああ、ど、どいてくださぁーーーーい!」

 

「あぶなっ!」

 

白式を展開して一夏は橘を抱えてその場所を離れようとしたがその飛んできた人物はそのまま橘に激突した。

 

「た、橘さん!?だ、大丈夫ですか!?」

 

生身の人間がISと激突したら大怪我になる。

 

一夏は橘が無事かどうか叫んだ。

 

 

「・・・・あぁ・・・・幸い怪我はない」

 

土煙の中橘の声が聞こえて、よかったと一夏は思った。

 

伊達にライダーとして戦っていたわけではない、きっとギリギリのところで避けたんだと考えた。

 

そして、土煙が晴れた時。一夏は思った。訂正、大丈夫ではない。

 

「あう・・・・あう・・・・・・」

 

何故なら橘朔也は地面に倒れていて、その上にISラファール・リヴァイブを纏った山田真耶が乗っかっている状態になっていた。

 

なのだが、橘さんの手の位置がかーなーり、マズイ。

 

橘さんの手は山田先生の豊満な胸を掴んでいた。

 

幸か不幸か、一夏が死角によって他の生徒からは見えなかった。

 

「む・・・・すまない、ギリギリのところで避けたつもりだったんだが、失敗してしまったようだ」

 

「わ、わ、わ、私のほうこそ、ISを纏っているのに、危うく生身の人とぶつかりかけるなんて、最低です」

 

「私は怪我をしていないのでそこまで気にしないで下さい。問題は次からです」

 

「・・・・はいぃ」

 

その後、山田先生VSセシリア&鈴音の模擬戦が行なわれることとなったのであるがすぐに撃墜される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ・・・・山田先生強いんだな」

 

 

「射撃の腕は良いな・・・・ギャレンの訓練に使えるかもしれん」

 

「・・・・・え・・」

 

「どうした?」

 

「いえ、なんでもありません(弾・・・・頑張れよ)」

 

一夏はここに居ない戦友の安全と願う事しかできない。

 

「ところで、織斑」

 

「はい、なんですか?」

 

「生徒達の指導をしてやらなくていいのか?他の代表候補生は動いているが?」

 

「え、わっ、出遅れた!」

 

一夏は慌てて自分の班の人のために打鉄を取りに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凰鈴音は少し機嫌が悪い。

 

先ほどの模擬戦でセシリアの動きがもろにばれていて先手を打たれまくりなのだったのだから、一人ならと考えるが、どうしても勝てないイメージしかできない。

 

こうなったら腹いせに一夏とどこかでも出かけるか?

 

酢豚の約束も覚えていてくれたし、何が起こっても当分は許せるような気がする。

 

そう思っていた時期が彼女にもありました。

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は目の前の打鉄を見て一夏に尋ねる。

 

「一夏・・・・・・届かないんだが」

 

「え・・・・あ、そうみたいだな。山田先生。これはどうしたらいいんですか?」

 

箒の前の生徒が打鉄を立ったまま飛び降りてしまったために、直立したISのコクピットに届かない状態になっていた。

 

このままでは彼女が乗ることが出来ない。

 

「あぁ、初めての時によくあるんですよ。織斑君。ISを展開して篠ノ之さんを抱っこして乗せてあげてください。そうすれば届きますから」

 

 

「あ、はい・・・・・・・・え」

 

あっさり頷いた一夏だが、よくよく考えたらそれって。

 

「一夏・・・・よろしく頼む」

 

「お、おう」

 

箒が顔を赤らめ(ある意味、顔真っ赤)て一夏に頼む。

 

ま、まぁ、いいかーと思い。一夏は箒を抱っこする。

 

いわゆるお姫様抱っこで。

 

その瞬間、三つの殺気のようなものを感じたがこれは不可抗力で仕方がないと思う。

 

「・・・・青春だな」

 

少し離れた所で橘さんが見ていた。

 

「織斑」

 

「はい・・・・先生」

 

箒を打鉄に乗せて様子を見ていると、離れた所に居たジャージ姿の千冬がやってくる。

 

「すまないが、ボーデヴィッヒの班が遅れているフォローをしてやってくれ」

 

「わかりました」

 

「悪いが頼む」

 

「はい」

 

この時、千冬のいっていた“頼む”という意味を一夏は理解できていなかった。

 

彼女の込めていた意味を。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒの班は通夜と思うほど静まり返っていた。いや、通夜は少しは話し声があるだろうからそれよりも酷いものだった。

 

まるで冷たい氷を周りに囲まれているかのような気分でもある。

 

 

「貴様・・・・何か用か」

 

「織斑先生にいわれてきた。何かあったのか?」

 

「あ、その・・・・実は私がついISを立たせたままにしていたから次の子が乗せられなくて」

 

「俺みたいにISを展開させて乗せてやれよ」

 

「何故私がそんなことをしなければならない」

 

ラウラは冷たい瞳を一夏に向ける。

 

「自分の失態は自分でなんとかするものだ」

 

「誰もが一度は失敗するもんだ。失敗から学習する事もある、それを教えてもらったことがないのか?それに助け合うのが必要だと軍隊で習わなかったのかよ」

 

一夏は白式を展開して次の子を抱きかかえてISに乗せる。

 

その子が動き出したのを見ていると傍にいた子が近づいてきた。

 

「あの・・・・織斑君、ごめんなさい・・・・その、私がミスしちゃったから」

 

「別に気にする必要はないよ。誰だって失敗する。次からそうしないように気をつければいいんだし、みんなも気をつけてね、誰もが一度はありえるかもしれないミスだから」

 

「ふん、自分の不始末も自分でつけられないとはな」

 

「・・・・う・・・・」

 

ラウラの言葉に少女は目に涙をためる。

 

「誰もが最初から完璧というわけじゃない」

 

「お。織斑君・・・・」

 

一夏がラウラと少女の間に割り込んで真剣な表情でラウラを見た。

 

「・・・・・・今はこうでも徐々に伸びていく子だっている。最初からきつく人を見ていたら誰も伸びたりしないし想いに答えようとしない」

 

「何がいいたい」

 

「人とのつながりを大切にするべきだって・・・・いいたいんだよ」

 

「そんなもので戦いに勝てるわけがない。やはりお前は教官の弟ではない」

 

「好きに思っていればいい・・んじゃ、練習再開しょうか」

 

「「「はーい!」」」

 

先ほどまで暗かった雰囲気だが一夏の笑顔や気遣いにみんなが笑顔になった。

 

ラウラは相変わらず冷たい瞳を一夏に向けている。

 

「・・・・・・あの人間・・・・利用できるかもしれんな」

 

その様子を遠い所から一人の男が見ていた。

 

「あいつの心を利用すれば・・・・」

 

男は麦わら帽子をかぶりなおしてそのまま眠りに着く。

 

自分の計画を練るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、織斑一夏、そして橘朔也を含めた面々は人が少ない屋上でで昼食をとっていた。

 

どうして橘朔也がいるかというと、一夏が誘ったからである。

 

昼をどうするのかと、一夏が尋ねた所。彼は一食抜くつもりだと答えた。

 

このことに激怒したのは珍しく山田先生。

 

「ダメですよ!ちゃんとした食事を取っていないといざという時に倒れてしまいます!!」

 

珍しく教育者?らしいことをいった山田先生に圧されて橘は一夏達と食事を取る事になったのである。

 

もし、食堂でとれば女性に囲まれて食事を取る事は不可能となることは明白、一夏はともかく、橘はクールな男性で、廊下を歩いているだけでハートを撃ち抜かれた犠牲者がでている。

 

食堂で食べるなどというのは危険すぎた。

 

「しかし、あの子は中々の気迫だったな・・・・」

 

橘は山田先生を思い出し、一夏も少し同意した。

 

「あの・・・・一夏さんよろしかったらこれをどうぞ」

 

ぼーっと空を見ている橘の横にいる一夏にサンドイッチが詰まった入れ物を渡す。

 

「あ、ありがとな」

 

そういって一夏はサンドイッチを口の中へと放り込む。

 

自分の味覚が一瞬で破壊された。

 

「・・・・・・?」

 

何かの間違いではないだろうか?と考えてもう一度サンドイッチを口に含む。

 

念には念を入れて丸ごと放り込んだ。

 

脳に衝撃的な“何か”が走って視界がぐらりと揺れる。

 

まさか・・・・もしや?

 

「俺も食べていいか?」

 

そういって横から一夏の食べていたサンドイッチを横から手で取って口の中に放り込む。

 

あ、と止める暇もなく橘は食べた後、ぱくぱくと食べていく。

 

「うん、食べないの?」

 

「あ、どうぞ」

 

一夏はどうぞ、と橘に促す。

 

さて、知っている人はわかるだろうが、かつて橘は虎太郎が失敗した料理を美味しく食べて、「残りをもらっていい?」と笑顔でいうほどの人物で、普通の人と比べて味覚が少しズレている部分がある。

 

故にセシリアが様々なものを詰め込んで作ったサンドイッチを食べても平気。

 

 

その後、次の授業が始まるはずだったのだが、一夏は橘と共に学園の外にいて、どういうわけか弾もいた。

 

「なぁ・・・・弾なんでここに?」

 

「いや・・・・俺もわからん。虎太郎さんに呼ばれて」

 

虎太郎は仕事の打ち合わせがあるということでここにはいない。

 

弾と一夏が戸惑っているとゆっくりと橘朔也が口を開く。

 

「さて、お前達二人に来てもらったのは他でもない、仮面ライダーレンゲルの新たな適合者の面倒を見てもらうためだ」

 

「レンゲル・・・・って」

 

「睦月さんの?」

 

“レンゲル”アンデッドとの戦いの中で誕生した四番目のライダー。

 

カテゴリーAの中で邪悪で強大な力を持っていたスパイダーアンデッドの力を使って戦う。

 

そして適合者である上城睦月。彼はBOARDの職員として働いているのだが、ここ最近は会えていない。

 

それが新たな適合者と関係があるのだろうと二人は判断した。

 

「あぁ・・・・睦月が見つけてつれてきた。睦月!」

 

橘に呼ばれて現れたのは上城睦月とその後ろを付き従うように一人の女の子がついてきた。

 

ショートカットの青い髪に気弱そうな女の子。

 

「あ・・・・」

 

青い髪の女の子は弾を見ると目を見開いて、ととと、と彼の所へやってくる。

 

「あの・・・・あの時は助けてくれてありがとうございました!」

 

「え・・・・?」

 

青い髪の女の子に感謝された時、弾の脳裏にある出来事が蘇った。

 

初めて仮面ライダーとなって戦い始めたときに、人を守りながら戦うという事があった。

 

そのときは後ろに人がいるというプレッシャーに押しつぶされそうになりながらなんとかアンデッドを封印したのだが、その時に助けた少女に感謝されたのである。

 

「もしかして・・・・あの時の!?」

 

「はい、あの時はありがとうございました」

 

「いや・・・・俺は仕事をしていただけだから」

 

「弾・・・・」

 

女の子、しかも蘭ではない子に話しかけられて戸惑う姿を見て一夏は苦笑するしかない。

 

睦月は二人の様子を見て微笑みながら告げる。

 

「この子の名前は更識簪ちゃん。キミ達の後輩となる子だ」

 

「後輩って・・・・この子もライダーに?」

 

「はい・・・・更識簪です。レンゲルに選ばれました。まだ戦いはそんなに経験していませんが、あ、足手まといにはなりません!よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げる簪に一夏と弾は微笑みながら互いに自己紹介をする。

 

「俺の名前は織斑一夏。ブレイドだ。よろしく」

 

「あの時は名乗らなかったけど。俺の名前は五反田弾。ギャレン。よろしくな更識さん」

 

「・・・・簪って呼んでください。これから一緒に戦う仲間なんですから」

 

「おう、なら、俺のことは弾でいい」

 

「俺も」

 

「よろしく。弾さん。一夏さん」

 

「それで橘さんが俺達を呼んだのはレンゲルとの顔合わせなんですか?」

 

「・・・・これをお前たちに渡しておこうと思ってな」

 

そういって、橘が何かを言おうとした時。

 

頭上から黒い異形が降り立つ。

 

「私と取引きをしよう」

 



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第十二話

IS銀の福音を纏ったKがイーグルアンデッドと飛びながら下のほうを指差す。

 

「あれが今のライダーとなっている奴らだ。あいつらのうちの誰かがアンデッドを解放する力というのを持っているかもしれないな」

 

 

『なるほど・・・・彼らか』

 

「殺すのか?」

 

『殺しはしないさ。カリスとの決着をつけることが私の目的。他の種族を殺す事に快楽を覚えるつもりはない・・・・もっとも、私たちの周りをこそこそかぎまわろうとする奴らは別だが』

 

「ふぅん」

 

「では向かうとしよう」

 

 

 

「私と取引きをしよう」

 

現れたイーグルアンデッドは人間の姿をとると戦闘の意思はないと両手を挙げて告げる。

 

その事に誰よりも早く復帰したのは橘朔也と上城睦月の二人。

 

仮面ライダーとして経験のある二人は少し戸惑いを浮かべながらも尋ねる。

 

「取引き・・?」

 

「そう、取引きだ。キミ達の探しているモノの情報を教える変わりに私の願いを一つかなえてもらいたい」

 

「願い・・・・って?」

 

簪の呟きにイーグルアンデッド・高原は懐から一枚のプライムベスタを取り出す。

 

それを見た反応は人それぞれだった。

 

千冬や簪は見覚えのないカードに首をかしげ、橘と睦月の二人はそのカードを見て目を見開き、弾はなんであいつのカードを?と疑問に抱き。一夏は。

 

「っ!」

 

『ターン・アップ』

 

高原はイーグルアンデッドの姿となり一夏が変身したブレイドの拳を受け止める。

 

「いきなりだな・・・・私は取引きにきただけだというのに」

 

「そのプライムベスタ・・・・あいつのだろ!あいつはどこにいる!?」

 

「さっきまで空にいたよ。だが、彼はどこかに向かったよ」

 

「ふざけ」

 

「話の途中だ。落ち着きたまえ」

 

イーグルアンデッドはブレイドを蹴り飛ばして彼に向かって手裏剣を放つ。

 

「がぁあああああ!」

 

アーマーが連続で火花を散らして後ろに倒れ込み、変身が解除される。

 

「一夏!」

 

「てめっ!」

 

「やめろ!」

 

倒れた一夏に駆け寄る千冬、ギャレンバックルを取り出して構える弾を橘が制する。

 

「私は戦いに来たのではない・・・・取引きをしにきたんだ。だから武器を下ろしてもらおうか?」

 

高原の視線はギャレンバックルとレンゲルバックルを構えている弾と簪に向けられる。

 

その二人の間に割り込んだのは意外にも千冬だった。

 

「このままでは話が進まない。そちらの取引きの内容を話してもらえないか?」

 

「話のわかる人がいて助かりましたよ・・・・私の願いはこのカードに封印されているマンティスアンデッド・カリスとの戦い・・・・そのために、あなた方にこのカードの封印を解いて貰いたい」

 

「なっ!人を襲うようなヤツを解放しろっていうのか!?」

 

「カリスは人を襲うなどと下賤な真似はしない!・・・・私とカリスは約束をしたのですが、それが果たされる事はなかった。今回のこの事態もそう、だからなんとしても約束を果たしたいのですよ」

 

「・・・・こちらの見返りは?」

 

橘が尋ねる。

 

高原はにやりと微笑み。

 

 

「ヒューマンアンデッドの行方」

 

その一言で橘と睦月の顔に衝撃が走る。

 

剣崎一真が探しているアンデッド、そしてこの異変の原因を知っている可能性が一番高いアンデッド。

 

千冬はちらりと橘へ視線を向ける。どうするつもりです?と目が尋ねている。

 

考える橘の隣にいた睦月が一歩前に出た。

 

「いいよ、その取引き受ける」

 

「睦月さん!?」

 

驚き叫ぶ一夏、アンデッドとの取引きを受けるというのだろうかとその表情は語っている。

 

「彼は信頼できる。少なくとも他の上級アンデッドの中ではまだまともな部類だと思う」

 

「そうでしょうか?もしかしたら私も嘘つきかもしれませんよ?」

 

「そうだったとしても俺はアンデッドを信じるよ。戦いを望まないアンデッドだっているんだ。人間との約束を守ろうとするヤツだっているはずだ」

 

「・・・・そうですか・・・・では、二日後。またここに来ます、そのときにカリスの封印を解いてください」

 

睦月の答えを聞いてメガネを掛けなおす仕草をしてイーグルアンデッドは空高く舞い上がる。

 

「よかったんですか?」

 

「はい・・」

 

千冬の問いに睦月は頷く。その瞳はなんら迷いがない。

 

純粋にアンデッドを信じていた。

 

「織斑」

 

「なんですか・・・・」

 

「カリスと何かあったのか?」

 

「・・・・っ、いいえ」

 

「そうか」

 

今聞いても無駄、と判断した橘は追求しない事にした。

 

余計な追求は危険を呼ぶ可能性もある。

 

二日後にまた全員集まろうという話になり、一夏と千冬、そして簪はIS学園へと戻る。

 

「え・・・・簪もIS学園の生徒なのか?」

 

「うん・・・・四組なの」

 

「俺は一組だ。これからもよろしくな」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「睦月、彼女は大丈夫なのか?」

 

橘朔也は気になっていた事を睦月に尋ねる。

 

更識簪が継承した仮面ライダーレンゲルは様々な問題があった。

 

レンゲルバックルは彼らの戦いの最中、ピーコックアンデッドが元BOARDの研究者を操って作成されたものなのだが、“わざと”封印されたスパイダーアンデッドの邪悪な意思により、未知の部分が含んでレンゲルバックルは作成されたのである。

 

そのために、レンゲルの装着者はカテゴリーAの邪悪な意思に操られた。

 

レンゲルの装着者であった上城睦月もその一人である。

 

一時は橘朔也によってカテゴリーAの邪悪な意思を跳ね除けようと訓練を受けていたのだが、増大していくカテゴリーAの力に対抗できなくなり支配されてしまった。

 

その時、剣崎ら仲間達の協力によりカテゴリーAは再封印され、邪悪な力も減少した。

 

 

「カテゴリーAの力もかなり弱まっていますし簪ちゃんは、あぁみえて芯は丈夫で強い子です」

 

「しかし・・・・」

 

「それに、今は色々な理由であんな引っ込み思案な子になっていますがきっと・・戦いの中で彼女は強くなります。俺みたいに・・・」

 

「お前がそういうなら・・・・大丈夫だろう」

 

「はい」

 

 

 

次の日、IS学園の誰もいないグラウンドで一夏はランニングウェアを身に着けて走っていた。

 

少し遅れて箒も後に続いている。

 

一夏は自身を鍛えたいと望んでいた。

 

あの時、イーグルアンデッドにまるで赤子の相手をするかのように軽くあしらわれた。

 

今のままではもっと強い上級アンデッドが出現した時、ブレイドでどこまで戦えるだろうか?

 

それに・・・・と内心呟く。

 

「(カリス・・・・)」

 

いや、カリスのプライムベスタを使っていた少年という言葉が正しいか。

 

あいつはいきなり現れて富樫始を殺した。

 

その後、ピーコックアンデッドとの戦いに現れたのだが、あの後から一切姿を見せない。

 

イーグルアンデッドによると、カテゴリーAを手放したようだが、何が目的なのだろうか?

 

「い、一夏・・・・ペースが・・・・上がっているぞ」

 

「え・・・・あぁ・・ごめん」

 

気づかないうちに速度を上げていたようで箒が息を切らせ始めていた。

 

「どうしたんだ。途中から表情が険しくなっていたが・・・・」

 

「あぁ・・いや、色々と考えていて・・・・すまない」

 

箒に謝罪をしてから他愛もない話を始める。

 

その中でレンゲルのことを話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・・・仕事がないだと?」

 

アジトに戻ったKにエスから告げられた言葉を聞いてマヌケな表情を浮かべる。

 

ここは亡国機業のアジトの一つ。

 

部屋の中には仲間であるエスとエムの二人しかいない。

 

「仕事がないってどういうことだ?」

 

「なんか・・・・私たちとは違う部隊の人が暴れまくったおかげで仕事がないんだって」

 

「違う部隊?」

 

「最近、新設された“アレ”だ」

 

「あぁ・・・・“アレ”か」

 

Kは思い出す。黒い三機のISを使う女達。

 

性格がすごい捻じ曲がっていたことを思い出す。

 

そこまで強くなかったような?

 

不思議に思いつつもエムが続ける。

 

「様々な研究施設を破壊し続けたらしい。そのせいでこちらの動きが制限されることとなって・・・・いい迷惑だ」

 

「そうだな・・・・ったく・・・・んで、オータムとスコールの二人は?」

 

「デート」

 

「・・・・はい?」

 

「仕事がなくなったからデートに行くらしい。緊急の用事がない限り各自自由にしていてくれということだ」

 

「ふぅん・・・・・・いきなり暇になったか・・どうするかねぇ」

 

「じゃあ、買い物に付き合ってくれない?」

 

「買い物?」

 

エスがもじもじとしてKに尋ねる。

 

買い物か、そういえば衣類がボロボロになっていたからそろそろ買い物に行く必要があったということを思い出す。

 

主に戦いの後の吐血が原因で服が汚れているのだが。

 

それを口に出すほどKはバカではない。

 

話せばエスは絶対に心配する。

 

心配される事を彼はなによりも嫌いだから。

 

「えっと・・・・ダメかな?」

 

「いや、いいぞ・・・・・・二人でいくのか?」

 

「え・・・・?」

 

一瞬、きょとんとした後、エムの方を見る。

 

彼女はさっきからずっと本を読んでいるようでこちらを見ていない。

 

「私はいいぞ。二人で楽しんで来い。ここを空にするのもまずいだろう」

 

「そうか、悪いな」

 

「じゃあいってくるよ」

 

エスとKの二人は街へと繰り出した。

 

心なしかエスの表情が嬉しそうに見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは久々の休暇というか、街に出て息抜きができることに喜びを感じていた。

 

今まで血まみれのような仕事ばかりをこなしてきて・・・・これは自分で選んだ事なので深く気にしていないけれど、やはり空気の入れ替えというか息抜きはとても嬉しく感じる。

 

街に出ることは度々あったのだが、こうも伸び伸びと何も考えられずに歩けるというのは幸せである。

 

なにより。

 

「(二人っきりって・・・・デートみたいだよね)」

 

「どうした?こっち見て」

 

「う、ううん、なんでもないよ・・・・あ、そういえば」

 

シャルロットは気になる事があったので小声で。

 

「こういう場所ではなんと呼べばいいの?」

 

「・・・・・・」

 

ここは亡国機業ではない、普通の人達が楽しく遊ぶ街の中、そんな所でKなどと呼べるわけがなかった。

 

「最初に名乗っただろ?俺は・・・・」

 

一歩前に出てシャルロットの前に立ち、告げる。

 

「富樫始・・・・それが“俺”だ」

 

「うん!」

 

二人は街の中へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・トイレが遠いって不便で仕方ない」

 

一夏はIS学園から少し離れた所にあるトイレから教室へ戻ろうとしていた。

 

IS学園は教師も生徒も全て女性であるためトイレも女性用しかない。

 

しかし、今年からは一夏や虎太郎がIS学園にいるため、トイレの増設も検討され工事が始まりつつあるのだが、まだ出来ていないため少し遠いトイレを使用していた。

 

「ん・・・・」

 

IS学園の中庭を通って教室に戻ろうとした一夏だが、視線の先にいる人物を見て動きを止める。

 

そこにいたのは自身の姉である織斑千冬と自分に敵意を向けているラウラ・ボーデヴィッヒの二人。

 

「何か揉めているみたいだな・・・・」

 

隠れて様子を伺う事にした。

 

すると、二人の話し声が聞こえてくる。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツでご指導をしてくれと訴えていた。

 

そして、この学園の生徒はISをファッションかなにかと勘違いしている。そんな奴らを指導するべきではない、と。

 

ソレに対して千冬は選ばれた人間気取りか?と少し怒ったような表情をしてラウラに尋ねる。

 

千冬の剣幕に押されたのかラウラは会釈をしてそのまま去っていく。

 

「盗み聞きは感心しないぞ」

 

「すいません、出て行く雰囲気ではないと思いまして。織斑先生」

 

「今は二人だけだからいつもどおりでいいぞ」

 

「うん、わかったよ」

 

「・・・・・・ラウラの事だが」

 

「千冬姉を慕っているという事だけはわかったよ」

 

「二年前の事件・・・・あの時にお前を探すためにドイツ軍の協力を仰いだ。借りを返すためにドイツ軍で指導をする事となってな。当時、ラウラはある事情で軍の中で落ちこぼれの状態だった。そいつを私は指導して」

 

「一流にした?」

 

「そうだ。その為か、モンド・グロッソを二連覇できなかったことに対して私より悔しがっていて・・・・」

 

「それを台無しにした俺に対してあんな態度をとっているわけか」

 

「一夏、本当は私が解決する事なのだが、あいつは私のいう事を聞いてくれない。こんなことを頼むわけにはいかないが・・・・頼む。ラウラを嫌わないでやってくれ。あいつはそこまで悪いヤツじゃないんだ」

 

「・・・・わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンデッドが現れた。それも二箇所同時に。

 

一体は街のショッピングモールで、もう一体は。

 

ここ、IS学園で。

 

 

「一夏!」

 

「わかってる!」

 

千冬が持っていたアンデッドサーチャーに反応があると同時に学園の壁を壊してライオンアンデッドが現れた。

 

それも、一夏と千冬の目の前に。

 

突然の事に、一夏は表情を変えてブレイバックルにスペードスートのプライムベスタをブレイバックルに入れてターンアップハンドルを引く。

 

『ターン・アップ』

 

襲い掛かろうとしたライオンアンデッドの前にオリハルコンエレメントが展開されてアンデッドは弾き飛ばされる。

 

一夏はそれを通り抜けてブレイドへと変身する。

 

「・・・・ブレイド・・・・私も!」

 

更識簪はアンデッドサーチャーに反応があって現場に来ていた。

 

既にブレイドがライオンアンデッドと戦っている。

 

更識はポケットからレンゲルバックルとクラブスートのカテゴリーAのプライムベスタを取り出して、バックルに内蔵されたラウズトレイにプライムベスタを入れる。

 

バックルからカード状のベルトが自動的に伸張して装着された。

 

 

「変・・・・っ!」

 

バックル部のミスリルゲートを開こうとした簪の脳裏に怪物の姿が蘇る。

 

同時に彼女の体が震えだす。

 

「あっ・・・・あっ・・・・」

 

震えだした彼女はそのまま地面に座り込んだ。

 

「簪!?おい・・・・ぐぉっ!」

 

視界の隅に座り込んで動かない簪の姿を見つけたブレイドだが、ライオンアンデッドの突進を受けてそのまま壁に叩きつけられて中に入り込む。

 

中は教室だったらしく生徒達は悲鳴を上げて外に出て行く。

 

「くそっ・・・・教室なのか!?」

 

教室の中に倒れ込んだブレイドに連続攻撃するかのようにライオンアンデッドが追撃を仕掛ける。

 

うっ!」

 

ブレイラウザーを引き抜いてライオンアンデッドの体を切り裂く。

 

そのまま追撃しようとした瞬間、教室の壁を壊してISが現れる。

 

漆黒のIS肩には大型のレールカノンのようなものを装備していた。

 

「・・・・これでも食らえ」

 

「なっ!?」

 

漆黒のISから攻撃が放たれる。

 

ブレイドとライオンアンデッドの方に。

 

爆発と煙に包まれる。

 

「一夏ぁ!?」

 

千冬の悲鳴に簪も顔を上げる。

 

「そんな・・・・!?」

 

 

「あ・・・・あぶねぇ・・・・」

 

ブレイドが突如、簪と千冬の前に現れる。

 

「い、一夏・・・・無事なのか?」

 

「なんとか・・・・千冬姉と簪はみんなを安全な所に避難させてほしい」

 

「わかった。無茶はするなよ」

 

「うん・・・・ごめんなさい」

 

簪の手を引いて千冬は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、この程度か・・・・噂の怪物も大したことがないな」

 

漆黒のISシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒは攻撃が直撃したのを確認して余裕の表情でいた。

 

「やはり私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では有象無象の一つで」

 

言葉を最後までいうことなく何かの衝撃を受けた。

 

腹にきつい一撃を受けて壁に叩きつけられる。

 

「なっ、バカな!」

 

現れたのは先ほど攻撃したライオンアンデッド。

 

しかも、レールカノンによる攻撃が全く効いていない。

 

動揺しつつも、襲いかかかろうとするライオンアンデッドにAICを発動する。

 

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略)はISに搭載されているPICを発展させたものであり、対象の動きを任意に停止させることができる。

 

それによってライオンアンデッドの動きが止まり、シュヴァルツェア・レーゲンの両腕に装備されているプラズマ手刀を腹部に叩き込む。

 

しかし。

 

「なに!?片手で受け止めるだと!」

 

ライオンアンデッドは片手でプラズマ手刀を受け止めてあろうことか、ラウラを投げ飛ばす。

 

「がっ・・・・!」

 

地面に叩きつけられるシュヴァルツェア・レーゲン。

 

ライオンアンデッドは唸り声を上げて追撃をかけようとするが。

 

「こっちだ!」

 

ブレイドがブレイラウザーで背中を切り裂いて蹴り飛ばす。

 

ライオンアンデッドが地面に倒れている間にブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタを取り出して、ラウズリーダーでスキャンした、。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『ライトニングブラスト』

 

 

「ウェェェェェェイ!」

 

必殺技の一つ。ライトニングブラストを発動。

 

雷撃を纏ったキックを起き上がったライオンアンデッドに叩き込む。

 

攻撃を受けたライオンアンデッドは爆発して地面に倒れ込んで動かない。

 

着地したブレイドはプロバーブランクを取り出して投げた。

 

プロバーブランクに吸収され、プライムベスタとなったカードを手に取り、ブレイドは変身を解除して千冬達のほうへ向かう。

 

 

 

 

 

 

「・・・・バカな!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは目を見開く。

 

信じられない。

 

自分が、軍人である自分が倒せなかった怪物を一般人が倒した事。

 

そして何より教官の面汚しである弟があの怪物を倒した事が信じられない。

 

ありえない。

 

認めることが出来ない。

 

こんなことが許されていいわけがない!

 

 

「力が欲しいか?」

 

ギリリッと奥歯をかみ締めていたラウラの前に一人の男が現れる。ラフな格好に麦わら帽子をかぶった男。

 

男は真っ直ぐにラウラを見つめもう一度尋ねた。

 

「力が欲しいか?お前の尊敬する人のために、邪魔者を排除するために“力”がほしいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一体のアンデッドは大量のトンボを従わせてドラゴンフライアンデッドが暴れていた。

 

車を投げ飛ばし、逃げ惑う人達を襲っていた。

 

「・・・・・・ねぇ、始」

 

「なんだ?」

 

「戦うんだよね?」

 

「あぁ、だから安全な所に逃げてろ」

 

「うん・・・・無茶しないでね」

 

シャルロットが走り出したのを確認して、富樫始は懐から一枚のプライムベスタを取り出す。

カテゴリーAは手元にない。

 

ならば。

 

「こいつを使うしかないよなぁ!!」

 

『フュージョン』

 

カテゴリーJ・ウルフアンデッドへと変身して始はドラゴンフライアンデッドへ殴りかかる。

 

マンティスアンデッド・カリスと比べて多彩な戦闘が出来るというわけではないが動きは中々のものだった。

 

ウルフアンデッドは唸り声を上げながらドラゴンフライアンデッドの頭部をつかんで地面に叩きつける。

 

何度も、何度も、地面にドラゴンフライアンデッドの顔を叩きつけた。

 

何回か叩きつけた後、次の攻撃に移ろうとした彼を大量のトンボが襲い掛かる。

 

「ぐぁっ!?」

 

体を噛み付かれてウルフアンデッドは苦しそうな表情を浮かべて、周囲を飛んでいるトンボを叩き潰す。

 

『ターン・アップ』

 

「うぉりゃああ!」

 

その時、ギャレンが拳をドラゴンフライアンデッドに放つ。

 

攻撃を受けたドラゴンフライアンデッドは地面に倒れる。

 

「てめっ・・・・」

 

「話は後だ。こいつを封印する」

 

ウルフアンデッドの提案を頷く事で了承してギャレンはギャレンラウザーを連射してドラゴンフライアンデッドの体を撃ち抜く。

 

攻撃を受けて仰け反っている時に間合いを詰めて鋭い爪で体を切り裂いていく。

 

「ちぃ!!」

 

攻撃をしていたウルフアンデッドはあるモノに気づいて瓦礫の方に駆け寄った。

 

斜めに傾いている瓦礫は今にも崩れそうになっている。

 

「てめっ・・・・何をしている!」

 

そこにいたのは泣きじゃくっている女の子を抱きしめているシャルロット。

 

彼女は泣いている女の子を必死に宥めていた。

 

「安全な所に逃げていろといっただろ・・・・!?」

 

「逃げようとしたけど、放っておけないよ。母親を探して泣いていたんだよ?母親に会わせてあげないと・・・・」

 

母親という言葉を聞いてウルフアンデッドは即座に理解した。

 

シャルロットの母親は既に他界していて、この世にはいない。

 

彼女の愛した存在はもういないのだ。

 

だから、会わせてあげたい。

 

この子を母親に会わせてあげたいと望んだ。

 

「・・・・ちっ・・・・」

 

ウルフアンデッドは一枚のワイルドベスタを取り出してギャレンへと投げた。

 

「うわっ・・・・これは・・・・」

 

「それでそいつを倒せ!いいな・・・絶対だ」

 

「あ・・・・あぁ・・・・」

 

ギャレンは戸惑いながらも左腕に装備されている“ラウズ・アブゾーバー”から一枚のプライムベスタを取り出す。

 

ウルフアンデッドからもらったワイルドベスタをラウズ・アブゾーバーにスキャンさせる。

 

ワイルドベスタがスキャンされる瞬間、ワイルドベスタにダイヤスートのマークが表示された。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

そして、もう一枚のプライムベスタを読み取る。

 

『フュージョン・ジャック』

 

直後、ギャレンの身体の各部が金色のアーマー・ディアマンテゴールドに覆われ、胸部にはダイヤのカテゴリーJの孔雀の紋章が刻印され、背中には翼・オリハルコンウィングが装備された。

 

ラウズ・アブゾーバー、イーグルアンデッドの乱入後、橘朔也によって渡された道具。

 

 

「くっ!」

 

ギャレンはディアマンテエッジが装備されたギャレンラウザーでドラゴンフライアンデッドを切り裂く。

 

攻撃を受けたドラゴンフライアンデッドはふらふらと空へ飛ぼうとするがギャレンラウザーの弾丸を受けてそれを阻まれる。

 

ギャレンはラウザーのオープントレイを展開して三枚のプライムベスタを取り出す。

 

『バレット』

 

『ラピッド』

 

『ファイア』

 

『バーニングショット』

 

オリハルコンウィングを展開したギャレンは空を飛び、逃げようとするドラゴンフライアンデッドをディアマンテエッジで突き刺し、共に上昇しながらゼロ距離で弾丸を放つ。

 

必殺技を受けてドラゴンフライアンデッドは地面に落下。腰部のアンデッドバックルが開く。

ギャレンはコモンブランクを取り出して投げる。

 

コモンブランクに封印されて、ワイルドベスタとなったカードを手に取りギャレンは着地した。

 

すぐ傍には瓦礫を支えていたはずのウルフアンデッドがいる。どうやら中の人は避難したらしい。

 

ウルフアンデッドは一瞬で間合いを詰めてギャレンジャックフォームからワイルドベスタを奪い取る。

 

「お、おい!?」

 

「悪いがハートスートのカテゴリーを集めているんでね。こいつはもらった!」

 

『フロート』

 

カリスラウザーにワイルドベスタを入れる瞬間、ワイルドベスタにハートスートのマークが表示された。

 

ドラゴンフライアンデッドに変身し、飛翔して姿を消す。

 

「・・・・・・ヤバイ・・・・蘭になんて説明しょう」

 

自分のサポーターである妹の怒り具合を想像してギャレン=弾はその場に座り込みそうになったが、警察のサイレンが聞こえてきたため即座にそこから逃げ出した。

 

余談だが、蘭はジャックフォームの使用後に身体は異常ないか?と心配してくれたため、弾は面食らった表情をしたらしい。

 

 

 

「がはっ・・・・はぁ・・・・はぁ、連続で変身というのは流石に堪えるな」

 

富樫始は呼吸を整えるために壁にもたれようとした。

 

「あん・・・・」

 

背中に暖かいものを感じて振り返るとそこにはシャルロットが受け止めるようにして抱きしめている。

 

「なにしてんだよ・・・・・・」

 

「その・・・・ごめんなさい・・」

 

「なにに対しての謝罪?」

 

「始が逃げろっていったのに、逃げなくて迷惑をかけて・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「でも、どうしてもあの子を放っておく事が」

 

「シャルロット」

 

彼女の言葉を遮るようにして始は一言だけ告げる。

 

「俺は誰かを守りながら戦うなんて器用なことは出来ない。復讐を目的として生きている存在だ。もう一度いっておくが俺とついてきても絶望しかないぞ?」

 

「そんなことないよ・・・・」

 

富樫始の体を抱きしめてシャルロットは微笑む。

 

彼がいてくれたおかげで彼女は地獄から救われた。

 

絶望しかなかった彼女の世界は大きく変わる。

 

表情は始のほうからは見えないが彼女は笑う。

 

「そんなことない・・・・」

 

彼の温もりを感じながらシャルロットはもう一度告げた。

 



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第十三話

「・・・・・・ごめんなさい。戦おうとしたのに足を引っ張っちゃって」

 

「いや・・・・でも、なんで震えていたんだ?」

 

IS学園の屋上。

 

織斑一夏は更識簪に呼ばれていた。

 

一夏は気になっていたことを尋ねる。

 

本当ならもう少し言葉を選ぶべきだったのかもしれないが、一夏は遠まわしにいってもダメだと判断した。

 

「・・・・・・昔ね、アンデッドに襲われたの」

 

「え・・・・」

 

簪はゆっくりと語り始める。

 

金色のクワガタムシのようなアンデッドに襲われて殺されそうになったことがあった。

 

その時のことが変身しようとする瞬間に蘇り体が震えてしまいそうになる。

 

「そうか・・・・」

 

「アンデッドがいない時には変身する事ができるんだけど、アンデッドを前にすると昔の事が蘇って体が動かなくなって・・・・」

 

簪はポツリと呟いた。

 

「どうして、私なんだろうって、いつも思う・・・・どうして、私がライダーになれたんだろう」

 

「簪は何のために戦いたいんだ?」

 

「え・・・・?」

 

「俺は人を守るために戦っている。簪は?・・・・恐怖心から逃げ出したくて戦うのか?」

 

「私は・・・・・・」

 

口を開けるが言葉が出ない。

 

わからない。

 

簪はわからなかった。

 

自分でもわからず言葉が出ない。

 

「別に無理して答えを出す必要なんかないんだろうけどさ。ライダーの先輩として俺が言えるのは一つだけ、後悔するな」

 

「後悔・・・・」

 

「俺達はアンデッドと戦う事ができる力を持っている・・・・力を持っているのに何も出来ない・・・・は絶対に後悔する。だから後悔だけはするなよ」

 

「うん・・・・」

 

更識簪が屋上を後にして一夏も続いて出でようとして。

 

「後悔だけはするな・・・・か、立派な言葉だ」

 

「っ!」

 

驚いて振り返るとそこには誰もいない。

 

「・・・・・・気のせいか?」

 

「だけど、キミは自分の本質を理解しているかい?」

 

声が聞こえているというのに誰もいない。

 

一夏はブレイバックルを取り出して身構える。

 

「キミは何のために戦う?」

 

「アンデッドから人を守るために決まってる!」

 

「・・・・なら、どうして人を守る?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

声の主の質問に一夏は初めて言葉を失う。

 

戦う理由は答えた。なら人を守ろうとする理由?

 

何故すぐに出ない?

 

言葉の出ない一夏の態度をみて声の主は「やはり・・・・」と声を漏らす。

 

「今のキミでは、ダメだな・・・・」

 

それっきり声の主から何も言われない。

 

一夏はそのまま動かなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏、箒、セシリア、鈴音はアリーナの客席に座っていた。

 

アリーナには睦月と簪の姿がある。

 

イーグルアンデッドはまだ姿を見せていない。

 

「けど、変なアンデッドもいるもんね~。取引きを持ちかけるなんて」

 

「でも、そういうアンデッドがいると考えるともしかしたら話し合いで解決できるアンデッドもいるかもしれないと考えられますわよ?」

 

「しかし・・・・そんなアンデッドがいるのだろうか?」

 

「いたらしいぜ?」

 

「「「えっ!?」」」

 

一夏の肯定に全員が驚いた表情をして視線を向ける。

 

「そんなアンデッドがいたの!?」

 

「あぁ、剣崎さん達から聞いたことがあるんだよ。戦う事が好きじゃなかったアンデッド。剣崎さん達に協力していたらしいんだけど、ある理由で封印されたって、その理由だけはどうしても教えてくれなかったけど」

 

「アンデッドといっても・・・・やはり個性があるのですね」

 

「・・・・・・来たようだぞ」

 

箒の視線の先にはアリーナに降り立つイーグルアンデッド、高原の姿があった。

 

 

「さて、場所を変えられたことには驚きましたよ。待ち合わせ場所に向かったら一人しかいなかったので」

 

「すいません、事前に伝えておきたかったんですけど。連絡方法がなかったので」

 

交渉役として傍にいる睦月が微笑む。

 

相手の態度が礼儀正しかったことからか、高原はいえ、仕方ありませんね。といってメガネをかけなおす。

 

「それは取引きの返事をいただきたい」

 

「オーケーです。我々は貴方との取引きを受けます・・・・簪ちゃん」

 

「どうぞ・・・・」

 

簪はレンゲルバックルを睦月に渡して、睦月はレンゲルに変身して、醒杖レンゲルラウザーにプライムベスタを読み取らせる。

 

先の戦いで融合係数が低下している上城睦月だが、変身する事は可能であり今回、睦月が変身するになった。

 

『リモート』

 

カードの能力により高原の手に握られていたハートスートのカテゴリーAの封印が解除されて目の前に現れた。

 

富樫始の使用していたカリスの外見。

 

マンティスアンデッド。

 

但し違いがある。腰部にあるのはハートの形をしたバックルではなくアンデッドバックル。

 

「・・・・カリス、約束を果たそう!!」

 

高原はイーグルアンデッドに変身して羽手裏剣を放つ。

 

マンティスアンデッドはカリスアローを構えてフォースアローを放ち手裏剣を相殺させた。

 

煙の中をカリスは突っ込みイーグルアンデッドへソードボウで斬りかかる。

 

「流石はカリス!」

 

イーグルアンデッドは歓喜の表情を浮かべて手の爪でソードボウを受け止めた。

 

そして、しばらくつばぜり合いをした後、イーグルアンデッドは空高く舞い上がる。

 

「・・・・・・!」

 

マンティスアンデッドは無言になったかと思うと飛来してきた手裏剣をバックステップで回避して、イーグルアンデッドが降りてくるのを待つ。

 

獲物が近づいてくるまで虎視眈々と狙うカマキリのように。

 

お互い動かない。

 

ちまちまと羽手裏剣やフォースアローを撃つ事は無駄だと判断した。

 

 

「すごい・・・・」

 

箒は自然と口から呟いた。

 

技術が伴っている力。

 

ただ我武者羅に力を求めた自分とは異なる力。

 

すごい、と思った。

 

素晴らしいと思った。

 

こんな動きを身につけたいと望んだ。

 

こんな自分から・・・・。

 

 

「カリス・・・・素晴らしい・・・・本来ならバトルファイトの中で決着を付けたかった。しかし・・・・・・今はどうでもいい。キミと本気で戦える事に・・・・さぁ」

 

イーグルアンデッドは歓喜の表情から真剣になる。

 

殺気があふれ出す。

 

「決着をつけよう」

 

 

マンティスアンデッドも静かに頷いてカリスアローを構えた。

 

お互いにじりじりと隙ができるのを待つ。

 

少しの間があり。

 

「「っ!!」」

 

マンティスアンデッドとイーグルアンデッドは同時に動く。

 

接近してくる爪と弓。

 

お互いに一閃。

 

その動きを見極められた者はほんの一握り。

 

ISの代表候補生ですら見極められた者がいるかどうか怪しい。

 

それほどまでの速い動き。

 

お互いの場所が入れ替わり、全員がどうなったのか息を呑む。

 

少しして。

 

 

「がはっ・・・・・・」

 

マンティスアンデッドが膝を突く。

 

「私の・・・・・・・・・・・・」

 

前のりにイーグルアンデッドが倒れた。

 

直後、腰部のバックルが開いた。

 

イーグルアンデッドから高原の姿となる。

 

「やはり・・・・キミは強いな・・・・・・カリス」

 

マンティスアンデッドは無言のまま動かない。

 

誰も間に割り込もうとしない。誰も言葉を発しなかった。

 

勝敗の決した者は封印される。

 

バトルファイトではなくてもそれは変わらない。

 

大人しく封印されようとしたイーグルアンデッドが言葉を発しようとした瞬間、アリーナの壁を壊して黒い影が現れた。

 

「あれは!」

 

現れたのはシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

ラウラはレールカノンを発射してイーグルアンデッドとマンティスアンデッドに砲撃を開始した。

 

激しい戦闘の後で疲労が蓄積されて二人の動きは鈍い。

 

二体のアンデッドは壁に叩きつけられて動かなくなる。

 

爆撃は二体のアンデッドだけではなく変身していたレンゲルと簪も巻き込んだ。

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「やめなさいよ!」

 

「何をなさっているのですか!ボーデヴィッヒさん!」

 

一夏が白式を展開してボーデヴィッヒの前に現れ、アンデッド二体を守るようにして鈴音とセシリアがISを展開する。

 

アンデッドを人間が守る。

 

今までない光景に高原は戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「(人間が我々アンデッドを守る?・・・・)」

 

人間とはどこまでも弱い種族だと思っていた。

 

バトルファイトを勝ち抜いたヒューマンアンデッドも当初は弱かった。

 

しかし、いつの間にか全てのアンデッドを倒すほどの力を持っていたのである。

 

「(人間も進化しているということ・・・・ですかね?)」

 

「邪魔をするなら貴様も排除してやる」

 

レールカノンから放たれる攻撃を避けて一夏は雪片弐型を構えて振り下ろす。

 

いや、ラウラに振り下ろそうとした瞬間、動きが止まった。

 

 

「なっ・・・・!?」

 

まるで見えない壁かなにかに阻まれたかのように動かなくなる。

 

「がら空きだ」

 

容赦なくレールカノンの砲口が一夏に向けられる瞬間、衝撃がラウラを襲う。

 

「あんたの相手はこっちよ!」

 

衝撃砲から放たれた一撃がシュヴァルツェア・レーゲンを襲う。

 

鬱陶しそうな表情をしたラウラはワイヤーブレードを放ち、甲龍を攻撃しようとするが、横からレーザーが放たれてワイヤーブレードが千切れた。

 

「ちっ!」

 

ラウラが視線を向けるとビットとスターライトMkⅢを構え、ISブルーティアーズを纏ったセシリア・オルコットの姿がある。

 

「貴方の相手は一夏さんだけではありませんのよ」

 

セシリアの言葉どおり鈴音も双天月牙を構えて振り下ろす。

 

「ちっ!中国とイギリスの第三世代二機に・・・」

 

教官の汚点、と口の中で呟きながらレールカノンを連射する。

 

ワイヤーブレードは破壊されて、AICは使ってもこっちが不利になるのは目に見えている。

なら。

 

「(周りの有象無象などどうでもいい。教官の汚点・・・・織斑一夏をここで潰す!)」

 

一夏はラウラが自分ひとりを狙うのだとわかり、雪片弐型を構える。

 

プラズマ手刀で切りかかってくるラウラの攻撃を刃だけでいなして、懐に深く入り込む。

 

「なに!?」

 

ラウラはISをまだ使って日が浅い、使用頻度が極端に少ないことを見抜いていた。

 

それゆえに、今の一夏の動きに目を見開く。

 

確かにISの使用期間は少ない。

 

しかし、戦闘経験は代表候補生が行なうものよりも過酷なものを潜り抜けてきた。

 

それも一歩間違えれば死んでしまうような戦いを。

 

死闘を潜り抜けてきた事により今までの一夏よりもより強く、そしてはっきりといえる。

 

AICを使えないラウラ・ボーデヴィッヒなど敵ではない、と。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

雪片弐型の零落白夜を発動させて自身のISのエネルギーを代償にしてシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーを根こそぎ奪っていく。

 

反撃をしようとするラウラだが、それを見越していた一夏は白式の速度を上げていきアリーナの壁に叩きつけた。

 

「(負けるのか?)」

 

どんどんエネルギーが減少して行く中、ラウラは焦り始めていた。

 

たった一撃で撃墜されそうになっている自分に。

 

自分を撃墜しようとしているのがあの教官の汚点だという事に。

 

そいつに何も出来ない自分自身に。

 

「(負けてたまるものか!力が・・・・力がほしい。こいつらを倒せるほどの力が!)」

 

まるで悪魔の囁きのように、

 

それは現れた。

 

『願うか?自らの変革を望むか?より強い力を欲するか?』

 

 

「(力を・・・・唯一無二の比類なき力を・・・・・よこせぇ!)」

 

 

DamageLevel・・・・D.

 

 

MindCondition・・・Uplift。

 

 

Certification・・・Clear。

 

 

Valkyrie Trace System・・・・Boot。

 

 

 

「始まった。さぁ、俺も動こう!」

 

男の姿がアンデッドに変わる。

 

上級の中でも戦う事を嫌いといいながら冷静に相手の分析を行い、勝てる相手に戦いを挑むアンデッド。

 

エレファントアンデッドがアリーナに現れた。

 



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第十四話

衝撃を受けて一夏、鈴音、セシリアの三人は吹っ飛ばされる。

 

謎の衝撃で白式のエネルギーも0になり解除された。

 

「なっ・・・・なんだ!?」

 

目の前で起こった出来事に一夏は戸惑い、セシリアと鈴音は一夏に駆け寄りたいが、目の前の光景に警戒していて近づく事ができない。

 

衝撃と同時にシュヴァルツェア・レーゲンのアーマーが溶解を始める。

 

レールカノンがドロドロに溶けた。

 

「・・・・・・・・・・・あ」

 

一瞬、ほんの一瞬だが、一夏とラウラの目があった。

 

彼女の片目の眼帯が外れて中から金色の瞳が見える。

 

伝わった。

 

伝わってしまった。

 

「変身!!」

 

『ターン・アップ』

 

オリハルコンエレメントを展開して一夏はブレイドに変身して黒い塊に包まれようとしているラウラに手を伸ばす。

 

しかし、横から飛来した鉄球に攻撃を阻まれてブレイドは地面に倒れ込む。

 

「がっ・・・・!」

 

「一夏!!」

 

「一夏さん!」

 

鈴音とセシリアの悲鳴が聞こえる中、ブレイドの視線の中にはドロドロの塊に取り込まれていくラウラの姿が見える。

 

「・・・・・・うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

叫びを上げてブレイラウザーを引き抜いてエレファントアンデッドに斬りかかった。

 

エレファントアンデッドは鉄球でブレイラウザーを弾いて強力な拳をブレイドのアーマーの腹部に叩き込む。

 

ドゴォンと重い一撃がブレイドに炸裂。体のくの字に折れ曲がり地面に叩きつけられる。

 

「あんたぁあ!」

 

「一夏さんからきゃっ!」

 

セシリアがビットを向けようとした瞬間、黒い影が刃を振り下ろした。

 

その一撃でセシリアはアリーナの壁に叩きつけられて動かなくなる。

 

「なっ・・・・なにこれ!?」

 

鈴音は目の前に現れた黒い塊に驚く。

 

それは全体的に女性のシルエットをしており、手には一本の刀を持っている。

 

軽装な武装だというのに鈴音は敵の動きが見えなかった。

 

相手は無言で刀を構える。

 

やられる!そう判断した鈴音は衝撃砲を放とうとするが片方の衝撃砲が爆発した。

 

「きゃっ!」

 

爆発から身を守りながら鈴音は何が起こったのか確認する。

 

衝撃砲の場所に黒い刃が突き立てられていた。

 

黒い塊は衝撃砲が発射するタイミングに刃を突き刺して破壊したみたいだ。

 

「ざけんじゃないわよ!!」

 

片方の衝撃砲を放つ前に双天月牙で相手に切りかかる。

 

刀を封じてしまえばこちらのもの!と判断していたのだが、相手は信じられない行動に出た。

 

双天月牙を足で叩き壊して発射寸前の残りの衝撃砲を破壊したのである。

 

「ウソっ!?」

 

まさかの行動に鈴音の額に冷や汗が流れた。

 

直後、敵の一撃を受けて鈴音は意識を手放す。

 

 

 

「うっ・・・・私・・・・」

 

簪はゆっくりと意識を覚醒する。

 

場所が暗く残骸も多い。

 

「簪・・・・ちゃ・・・・ん・・・・・・無事?」

 

「睦月さん!?」

 

簪は悲鳴を上げながら瓦礫に埋もれている睦月へと駆け寄る。

 

「よかっ・・・・た・・・・怪我・・・・みたい・・だね」

 

「喋らないでください!傷に触ります!」

 

「俺は・・いいから・・・・簪ちゃん・・・・これ・・を」

 

睦月が震える手で差し出したのはレンゲルバックル、そしてクラブスートのカテゴリーAのプライムベスタ。

 

「これで・・・・守る・・・・んだ」

 

「でも・・私は・・・・」

 

簪はアンデッドを前にすると体が震えて変身する事ができない。

 

そんな自分が戦っても邪魔にしかならない。

 

自分がライダーになるのは間違いだと簪は叫んでしまう。

 

自分よりも。

 

「お姉ちゃんがライダーになるべき・・・・」

 

「逃げるな・・・・」

 

 

バックルとプライムベスタを掴もうとしない簪の腕を睦月が掴む。

 

今までの彼からは想像できないほどに力が強い。

 

怪我人のどこにこんな力があったのだろうかと思うほどに。

 

『人間には一回だけ・・・・たった一回だけ逃げてはいけないときがあるんだ。それはいろいろな場面があるよ、好きな人に告白する時とか・・・・大切な人を守るために戦う時』

 

昔、睦月が簪に教えてくれた言葉、

 

たった一回だけ。

 

もしかしたら今がその時なのだろうか?

 

 

「・・・・・・」

 

『臆するな、臆せば視界を狭める』

 

睦月にいわれてもまだ動けない簪に声をかけたのは意外にもマンティスアンデッドだった。

 

「え・・・・」

 

『お前の恐怖が我々からくるものだということはわかった。だが、そのままでお前はいいのか?』

 

「・・・・・・私、は」

 

『封印されている間、オレを使用していた人間はいろいろな事に恐怖していた』

 

「・・・・あのカリスになっていた人?」

 

一度だけ、映像で見せてもらったカリスの強さ。

 

誰よりも・・・・おそらく、剣崎一真達と同じくらいの強さを有していた彼が恐怖している?

 

『だが、あの人間はそれでも戦っていた。恐怖よりも優先させる事があるからだ』

 

「何を・・・・?」

 

『・・・・・・キミは何のために戦う?どうしてその力を手に取る?』

 

「私は・・・・」

 

『自分の心から目を背けるな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、このやろ!」

 

ブレイドはブレイラウザーを振り上げるが鉄球を受けて、ラウザーが遠くへと転がっていく。

 

「甘いわ」

 

エレファントアンデッドの容赦のない一撃、

 

アーマーが大きく凹み、仮面にも亀裂が入り始める。

 

「くだらん・・・・この程度の実力なのか?」

 

エレファントアンデッドはここまで計画を練る必要がなかったか?と思いながらさらにブレイドに一撃を叩き込んだ。

 

寸前で動きを止める。

 

彼の視界に一人の少女が入った。

 

青い髪のメガネをかけた大人しそうな女の子。

 

「・・・・・・簪・・・・?」

 

ブレイドは倒れそうになるのを必死にこらえて現れた簪へ視線を向ける。

 

「まだ・・・・戦うのは怖い・・・・私以外に戦える人がいるかもしれない」

 

ぽつりと言葉を呟いて簪は続ける。

 

「でも・・・・これ以上誰かが傷つけられているのを見ているままなんて出来ない・・・・だから、私は戦う・・・・レンゲルとして!」

 

簪はレンゲルバックルに内蔵されたラウズトレイにプライムベスタを装填する。

 

バックルからカード状のベルトが自動的に伸張された。

 

「変身!」

 

『オープン・アップ』

 

叫びながらバックル部のミステリーゲートを開く。

 

音声と共にレンゲルクロスを分解した光のゲートスピリチアエレメントを装着者の前面に放出され、エレメントが自動的に簪を通過してレンゲルへと変身した。

 

「全く・・・・面倒だ。やれ」

 

エレファントアンデッドの合図と共に黒い塊がレンゲルに襲い掛かってくる。

 

レンゲルは慌てることなく醒杖レンゲルラウザーにプライムベスタを読み取らせた。

 

『スタッブ』

 

「こ・・・・のぉ!」

 

レンゲルラウザーが強化され刺突攻撃、ビースタッブが発動して塊の腹部に攻撃が炸裂する。

 

攻撃を受けた塊は地面に倒れ込むがすぐに起き上がった。

 

「お願い!」

 

レンゲルの叫びにアリーナの端からマンティスアンデッドが現れてカリスアローで黒い塊と立ち向かう。

 

「ほぉ・・・・アンデッドを使役できるのか」

 

「あなたを封印します」

 

「俺を他のアンデッドと一緒にしない方がいい・・・・」

 

エレファントアンデッドとレンゲルがぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キミはこのままでいいのかい?』

 

意識が薄れいく一夏の中に“あの声”が響く。

 

“俺は・・・・あのアンデッドに勝てない”

 

『それはあいつの力が上だからかい?それともキミの心が折れたからかい?』

 

“・・・・俺はなんで戦うんだっけ・・・・・・”

 

『キミは忘れているだけだ。それさえ思い出せばもう一度、そしてより強くなることができるよ』

 

“・・・・・・・・”

 

『キミはなんで人を守るんだい?』

 

“俺は・・・・”

 

 

 

 

 

「一夏!!」

 

体に衝撃が走ってうっすらと目を開ける。

 

視界に見えたのは目に涙をためている篠ノ之箒の姿。

 

いつも眉間に皺を寄せて怒っている様な普段の姿と異なり、年頃の少女の表情がそこにあった。

 

あぁ・・・・また箒を泣かせたのか俺、と一夏はぼんやりと考える。

 

女の子を泣かせるなんて最悪だなぁと思いながらゆっくりと体を起こす。

 

 

「一夏!?大丈夫なのか!」

 

「あぁ・・・・箒・・・・下がってろ」

 

「しかし、そんな傷だらけで戦えるのか!?」

 

「戦えるとか戦えないとかそういうことじゃないんだ・・・・」

 

落ちていたブレイラウザーを手に握り締めてブレイドは静かに継げる。

 

「俺は人間が好きだから・・・・・・人間を守るためならたとえ不利だとしても戦う。大好きな人達を守れるなら」

 

「・・・・・・・・」

 

「待ちたまえ」

 

ブレイドはふらふらと前に歩こうとしたが高原に止められる。

 

高原は額やいたるところから緑色の血を流しているが気にせずゆっくりとブレイドへ近づいていく。

 

「私を封印するんだ」

 

「どういうことだよ・・・・」

 

「今のキミではあいつには勝てない。キミが勝つためには僕を封印してキミの力として使うんだ」

 

「お前はいいのかよ・・・・・・また封印されて」

 

「私は敗者なのだよ。それにこのまま生き残っていても生き恥をさらすだけだ・・・・それともこの状態のアンデッドを封印するのは気が引けるかな?」

 

「・・・・・・」

 

ブレイドは静かにプロバーブランクを取り出す。

 

それをみて高原は微笑む。

 

「そう・・・・それでいいんですよ。それと約束です・・・・ヒューマンアンデッドのことを伝えておきましょう・・・彼は日本にいます。いずれ・・・・あなた方の前に現れるでしょう」

 

「・・・・ありがとう」

 

「いえいえ・・・・約束を果たしただけです」

 

その言葉を最後にイーグルアンデッドはプライムベスタに吸収された。

 

「箒・・・・安全な所に逃げてくれ」

 

「しかし!一夏!」

 

「大丈夫だから・・・・死ぬような無茶はしねぇよ」

 

そういってブレイラウザーのオープントレイを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きやっ!」

 

エレファントアンデッドの一撃を受けて地面に倒れるレンゲル。

 

倒れたレンゲルに追い討ちをかけるようにして黒い塊も刀を振り下ろそうとする。

 

『ライトニングブラスト』

 

振り下ろそうとした塊に向かって必殺技を放つブレイド。

 

ブレイドの攻撃を持っている刀で受け止めようとするが威力が強く刀に亀裂が入る。

 

「ほう・・・・まだ戦うというのか?」

 

「当然だ。人を守るのが仮面ライダーの仕事だからな・・・・それに、ラウラを返してもらう」

 

「この駒のことか?悪いがそれは不可能だ。コレは中々に便利だ。あの伝説のアンデッドですら歯が立たずあのザマだからな」

 

アリーナの真ん中に緑色の液体を流して動かないマンティスアンデッドの姿がある。

 

腰部のアンデッドバックルが開いている事から敗北したことがわかった。

 

「ラウラを駒というな」

 

「駒だ。お前は知っているのか?あいつが“作られた”存在だということを、そんなヤツがまともな生き方をできると思うか?」

 

「そんなことは関係ない!!」

 

ブレイドは叫んでブレイラウザーを構える。

 

同じようにレンゲルもレンゲルラウザーを構えた。

 

その時。

 

『フュージョン』

 

頭上から音声が流れてウルフアンデッドが動こうとした黒い塊に鋭い爪を叩き込んで動きを鈍らせる。

 

「・・・・」

 

「その外見・・・・貴様」

 

エレファントアンデッドを無視してウルフアンデッドは地面に倒れて動かないマンティスアンデッドにプロバーブランクを落とす。

 

吸収されてプライムベスタとなったカードをウルフアンデッドはバックルで読み取る。

 

『チェンジ』

 

ウルフアンデッドからカリスへと変身した。

 

「てめぇ・・・・何をしに」

 

ブレイドは目の前に現れた敵があの男だということに気づいて声を低くした。

 

カリスはそんなものをものとせずゆっくりとエレファントアンデッドへカリスアローを構える。

 

「ブレイド、てめぇはアンデッドの相手をしてろ、あの塊は俺が相手をする」

 

「なんでお前が指図する!」

 

「あれが織斑千冬の動きをベースにした模倣者だからだよ」

 

「・・・・なんだと?」

 

「ヴァルキリー・トレース・システム・・・・第二回モンド・グロッソの勝者の動きを完全にコピーするシステムで使用が禁止されているものだ。あの黒い塊は織斑千冬の動きをトレースしているんだよ。だから未熟とはいえ代表候補生が敗北したんだよ。鬼に人が勝てるか?」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、お前がやるといっても知らん。あの塊に少し用事が」

 

いきなりエレファントアンデッドが攻撃を仕掛けてきた。

 

カリスは距離をあけることで避ける。

 

「・・・・悪いが貴様を早急に叩き潰す・・・・・貴様は危険だ」

 

「そうかい!」

 

カリスはカリスアローで鉄球を弾き飛ばしてエレファントアンデッドに攻撃を開始する。

 

レンゲルもレンゲルラウザーを構えて参戦した。

 

ブレイドはこちらに刀を構えている塊へブレイラウザーを構える。

 

 

「千冬姉の動きを模倣しているとか、どこまで慕っているんだよ・・・・お前は」

 

繰り出される剣戟を交わしながら一夏は考えていた。

 

ラウラのこと。

 

まだ出会って数日しか経過していないが彼女の事がよくわかったような・・・気がする。

 

「(多分、俺よりも千冬姉のことが大好きなんだよな・・・・尊敬と同時に・・)」

 

誰とも接していなかったからちゃんと理解しているわけではないけれど、千冬と一対一で話している時に気づいた。

 

ラウラは言い方や考えで少し間違っている部分があるが、誰よりも千冬の事を思っているのがわかる。

 

といっても、昔の自分だったらわからなかった。

 

 

「お前が千冬姉を好きなのはわかった・・・・けれど、こんなことしてもお前は千冬姉にはなれないんだ!ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

振り下ろされる雪片をブレイラウザーでいなしてオープントレイを展開して二枚のプライムベスタを読み取らせる。

 

『サンダー』

 

『キック』

 

『ライトニングブラスト』

 

雷撃を纏ったキックを黒い塊に放つが壁らしきものに阻まれた。

 

「ISのシールドか・・・・くそっ」

 

どうする?白式はエネルギーがきれていて使用することが出来ない。

 

かといってこのままアンデッドの力を我武者羅にぶつけていたらラウラの身が危なくなる。

 

どうする?

 

『力・・・・欲しい?』

 

声が聞こえた・・・・ような気がする。

 

「欲しい・・・・今こいつを救えるなら力をくれ!」

 

ドクンと何かが脈打つ。

 

それも一回だけではなく何度も何度も。

 

まるで新たな生命が命の鼓動を打ち始めるかのような。

 

ブレイドが白い光に包まれる。

 

光が消えたとき、ブレイドは白式を身に纏っていた。

 

いや、白式とは少し外見が異なっている。

 

ブレイドの背中にスラスターが装着され、左腕に雪片弐型を握り締めている。

 

ほとんどはブレイドアーマーなのだが、ところどころ白式の装備が付与されていた。

 

「行くぞ!」

 

黒い塊が雪片で斬りかかってくるがブレイラウザーで受け止めて雪片弐型を逆手に持って黒い塊に斬りつけていく。

 

雪片弐型の能力でシールドを破壊して本体にダメージを与える。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

連続で攻撃していく。雪片弐型で本体を切り裂いていく。

 

塊はそれから逃げようとするがその隙を与えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃のタイミングを合わせろ」

 

「わかった」

 

カリスアローとレンゲルラウザーの交互の攻撃にエレファントアンデッドは鉄球で反撃をするが二人は同時に距離を置いて離れる。

 

カリスはカリスラウザーをカリスアローに合体させた。

 

二人ともプライムベスタを取り出してラウズする。

 

『フロート』

 

『ドリル』

 

『トルネード』

 

『スプニングダンス』

 

 

『バイト』

 

『ブリザード』

 

『ブリザードクラッシュ』

 

カリスが宙に浮き上がり竜巻に包まれながらエレファントアンデッドに突撃する。

 

「ぐ・・・・ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

攻撃を受け止めて後ろに仰け反るが手を伸ばしてカリスを押しのけた。

 

だが、カリスはにやりとほくそ笑む。

 

入れ替わるようにして冷気がエレファントアンデッドを襲い、レンゲルの両足の攻撃を受けた。

 

「ぐぉっぉつ!?」

 

二つの攻撃を受けてさすがのエレファントアンデッドもダメージを受けて倒れ込む。

 

「ちっ・・・・撤退だ」

 

エレファントアンデッドは塊が撃退されたのを見て分が悪いと判断してその場所から逃げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうして・・・・お前は強い?』

 

“俺は強くないさ。もっと強い人は沢山いる”

 

『そうなのか?』

 

“強いといっても力とか技術とかそういうのじゃないぞ・・・・”

 

『では、なんだ?』

 

“心・・・・だよ”

 

『・・・・心?』

 

“確かに俺は技術とか力などからしたら強いかもしれない。でも、心はまだ、未熟だ。色々な障害にぶつかったら立ち止まるし、悩んだりする。決意したとしてもそれが正しいのか悩んでしまう。でも、俺より強いあの人は悩んでもすぐに答えを導き出して迷うことなく行動していた”

 

『・・・・・・』

 

“そういうのを強いっていうんだよ”

 

『私にはない強さだな』

 

“そうでもないさ”

 

『え・・・・・・』

 

“黒い塊に取り込まれそうになった時・・・・助けてって俺に訴えただろ?それも強さの一つだよ”

 

『私が・・・・強い?』

 

“あぁ・・・・それでも不安だというならラウラ・ボーデヴィッヒ”

 

暖かい何かがラウラの体を包み込んでくれているような気がする。

あぁ・・・・暖かい。

 

“俺の傍にいろ。お前が強くなるまで俺が守ってやる。絶対に”

 

そこで、ラウラは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの後を説明すると、大変の一言に尽きた。

 

来週から学年別トーナメントがあったのだが、アリーナが修復不可能寸前にまで壊れてしまっていたので今年のトーナメントは延期という結果。

 

各企業や代表候補生は様々なスケジュールにあっぷあっぷするという状況。

 

その中で、織斑一夏は特に被害もなくただぼー、っと中庭のベンチに座ってブレイバックルとスペードスートのカテゴリーAを見ていた。

 

「あれから既に一週間経過か・・・・・長いな」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは今日退院する予定だが千冬姉に任せてあるから大丈夫だろう。

 

彼女の問題は千冬が解決するべきでもあるから。

 

「どうして・・・・ISをブレイドが装着できたんだ」

 

あの後、変身した状態で白式を展開しようとするがうんともすんとも反応しない。

 

逆に白式を纏った状態で変身しようとすると白式が解除されてブレイドに変身すると言う結果。

 

つまり、あの形態は謎ということだ。

 

謎といえば。

 

「・・・・・・カリス・・・・」

 

あの戦いの後、カリスは姿を消していた。

 

敵がいなくなれば自分のやることはないと言うかのように。

 

「あいつは一体・・・・何がしたいんだ?」

 

一夏はぼんやりと空を見上げる。

 

富樫始を殺したカリス。

 

弾の話によるとアンデッドに人々が襲われている所に現れているらしい。

 

自分のカテゴリーしか狙っていないというのに他のカテゴリーの前にも現れた。

 

カリスの目的というのはなんなのだろうか?

 

「そもそも・・・・どうしてあいつは富樫始を殺した?」

 

アンデッド以外にはまるで興味のないアイツが唯一手にかけた存在。

 

富樫始になにかあるのだろうか?

 

自分の知らない秘密。

 

「・・・・・・調べてもらうか」

 

「・・・・こんなところにいたのか」

 

「ボーデヴィッヒ!?」

 

現れたのはラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

突然現れたことに一夏は驚く。

 

しかし、彼女は平然とした表情で。

 

「ラウラでいい。ボーデヴィッヒではいいにくいだろう?」

 

「あぁ・・・・もう、大丈夫なのか?体とかISの方とか」

 

「体が完治するまでに少しかかるがISの方はコアが無事だったので予備パーツでくみ上げた。また部隊から支給してもらわなければならないものが多いが」

 

「そうか、よかったな」

 

「・・・・・・」

 

「どうした無言っ!」

 

ラウラがいきなり一夏の胸倉を掴んだかと思うとそのまま口づけをした。

 

言い方を変えるとキス。

 

突然の事に一夏の思考が停止しそうになる。

 

それに対してラウラはしばらくして唇を離して。

 

 

「織斑一夏、私はお前が好きだ。お前を私の嫁にする。これは決定事項だ。異論は認めない!」

 

「・・・・・・はぁ!?いや、好きって・・・・てか、それより嫁じゃなくてそこは婿だ!」

 

「そうなのか?私の知り合いがこういう場面では嫁といえばいいと教えてもらったぞ?」

 

「そんなことを教えたやつは誰だ!?そしてなにやら殺気が!」

 

一夏が視線を向けるとさっきのシリアスな空気はどこにいったのだろうか?

 

背後に般若のオーラを具現化させている四人の恋する乙女の姿とブラコンという肩書きを手に入れた姉の姿が。

 

あぁ、これは大変な事になりそうだ。と一夏は思う。

 



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第十五話

富樫始はある研究施設を破壊して空を見上げる。

 

建物はカリスの力によって原型を保てないほどに破壊されていた。

 

「ったく・・・・・・人間てのはどこまでも汚い事しか考えない」

 

襲撃したのは組織の命令ではない。

 

彼の目的のために。

 

この研究所はVTCシステムを行なっていた場所。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒのIS・シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたシステムを開発していた場所を襲撃して、データなどを根こそぎ破壊する。。

 

「ゴホッ!?・・・・ガバッ・・・・ガハッ・・・・ハァ・・・・ハァ・・」

 

突如、口から大量の血を吐き出す。

 

赤い液体があたりに広がっていく。

 

ぽつぽつ、と彼の頭の上に雨が降り注いでくる。

 

小雨だったのが大降りになり地面に広がっている赤い液体が薄れていく。

 

「・・・・ぁ・・・・あぁ」

 

ぽつりと富樫始は口元を拭いながら笑う。

 

残り少ない。

 

「一夏・・・・・・お前にも真実を知ってもらわないとなぁ・・・・俺がこの世から完全に消え去る前に」

 

 

赤い液体が広がる中で狂った笑いが響き渡る。

 

液体の中にうっすらと緑色のようなものが付着している事に気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒はこれでもかというほど緊張していた

 

今日は一夏との買い物をするのである。

 

本当なら先日行なう予定だったのだが、思い出して彼女は顔をしかめた。

 

「(一夏め・・・・また女の子に好意をもたれるとは・・・・しかも、キ、キスまでされるとは・・・・私が一夏のファーストキスをもらおうと狙っていたというのに・・・・・・・・って、何を考えているんだ私は!?)」

 

先日、退院したラウラ・ボーデヴィッヒのキス騒動の後、長時間の説教中に箒は買い物の約束を思い出した。

 

けれど、時間が時間だったのでメールで明日行こうと提案する。

 

その時、周りに見られないように細心の注意を払っていたので大丈夫、誰にも気づかれていない。

 

箒は一夏にすぐに会いたくて部屋へと向かう。

 

 

 

 

「だぁぁぁっ!何やってんだぁ、お前は!?」

 

一夏はベッドから大きく距離をあけて叫んだ。

 

彼が使用しているベッドには別の人がいる。

 

流れるような銀髪、着衣はひとつも身に纏っておらずいわゆる生まれたままの姿の少女がいた。

 

彼女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

先月色々な出来事があったのだが、無事解決。

 

その結果、惚・れ・ら・れ・てしまった少女だ。

 

ちなみにファーストキスを奪われてしまった。

 

 

「夫婦というものはお互いに包み隠さぬもの・・・・と教わったが?」

 

「意味が違う!それは裸を見せ合うとかじゃなくて隠し事がないという事だ!」

 

「そうなのか・・・・ならば問題ないな」

 

我々の間には隠し事がないからな!と胸を張るラウラから視線をそらして一夏はシャツを棚から取り出してラウラに投げる。

 

「これでも着ていろ」

 

「むっ・・・・嫁の臭いがする」

 

そういってシャツを着る。

 

サイズが大きいのでぶかぶかだが、そこは気にしないでおく。

 

裸で居られる方が色々とヤヴァイ。

 

その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。

 

「はい、・・・・箒」

 

「一夏・・・・まだ寝ているのかと思ったぞ」

 

「いや・・・・部屋にラウラが侵入していて」

 

「なにっ!?」

 

「いや、何もなかったんだけどな・・・・ラウラが侵入していたせいで早く目が覚めたんだ」

 

裸で布団に入り込まれていたといえば竹刀・・・・否、真剣で襲われるかもしれない。

 

考えただけで震えが止まらない。

 

「そうか・・・・」

 

「今日の予定ならちゃんと忘れていないから安心しろ、先に食堂に行っていてくれ」

 

「あぁ・・・・」

 

顔を赤くして箒は右手と右足を同時に前に出して歩いていった。

 

一夏は着替えるために中に入るとラウラが襲いかかってくる。

 

「うぉっ!?なにするんだ!」

 

「私という存在がありながら他の女と話をするなど許せると思うか?」

 

「あぶなっ!」

 

飛んできたラウラを抱きしめるようにキャッチして一夏はベッドの上に倒れ込む。

 

色々と柔らかいなんて不届きな事を考えてしまう一夏だが、男として仕方のないことだと思う。

 

そこで今さらながらあることに気づく。

 

彼女は片目に眼帯をしているのだが、どういうわけか今日は外していて金色の瞳が見えている。

 

「ラウラ・・・・眼帯外したのか?」

 

「あぁ・・・・寝るときだけだが・・・・」

 

そこで少し言葉を区切り。

 

「お前に私の全てを見てほしくて・・・・」

 

頬を赤くして真っ直ぐにいう言葉。

 

その言葉がどういうことを意味するのかまともな男なら理解していただろう。

 

だが、一夏はそれを受け止めることが出来ない。

 

いや受け止めきれることが出来ないのだ。

 

自分は彼女に答えを返していないから。

 

「・・・・」

 

返答に困っている一夏にゆっくりとラウラが近づいていく。

 

そして唇と唇が触れ合う距離になった瞬間。

 

ドアが音を立てて吹っ飛んだ。

 

ギギギギと一夏はゆっくりとそちらの方へ視線を向ける。

 

そこには木刀を構えた織斑千冬というラスボスの姿があった。

 

「不純異性交友は許さん!」

 

ボガンと木刀が二人の頭上に炸裂する。

 

避ける手段はなかった。

 

 

 

 

「はっ・・・・また仕事がないだ?」

 

Kは目の前にいるスコールに尋ねる。

 

スコール自身もそうなのよ、と少し困った表情をしていた。

 

「暴れまくったらしくてね、そのために組織が自由に動けなくなってきているみたいでね。本当に仕事がないの」

 

「本当に・・・・って、前はウソついていたのか?」

 

「あったのだけど、拒否したわ。私たちが別働隊の後始末なんてイヤじゃない」

 

「御もっともです」

 

そんな仕事を誰もやりたがるわけがない。

 

上司がスコールでよかったと心底思う。

 

「というわけで本当に少しの間休暇みたいなことになったから各自好きに過ごしていいわよ」

 

「お前はどうするんだ?」

 

離れて本を読んでいたMが尋ねる。

 

ちなみに、現在部屋にはスコール、K、Mの三人しかいない。

 

エスはまだ眠っている。オータムは知らない。

 

 

「私は好き勝手に過ごすから、貴方達も好きにしなさい」

 

「・・・・・・はいはい・・・・さて、なら俺はのんびりと昼寝でも」

 

「どうせならエスとデートでもしたら?」

 

「・・・・はい?なにいってんだよ。俺は」

 

「貴方、身体検査の結果はどうしたの」

 

「は?なにを」

 

「その結果、すりつぶしたみたいだけど見せてもらったわ。このままいくと確実に」

 

「・・・・」

 

それ以上はいうな、とKが目で語る。

 

スコールが視線を向けるとエスが私服を着て部屋に入ってくる所だった。

 

「あれ、二人ともどうしたの?」

 

「喜びなさい。エス、どうやらKがデートに誘ってくれるみたいよ」

 

「え、で、デート!?」

 

「おい・・・・」

 

スコールがにこりと微笑んで部屋を出て行く。

 

気がつくと部屋にはKとエスの二人しかいない。

 

エムは空気を読んで逃げたみたいだ。

 

エスはもじもじと服の裾をつかんでこちらの様子を伺っている。

 

 

「(スコールのやつ・・覚えていろ)じゃあ・・・・出かけるか」

 

「うん・・」

 

赤くなったシャルロットと共に富樫始は街へ繰り出す。

 

この時、二人は予測していなかった。

 

街で出会う人物との騒動を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏はボロボロになりながらモノレールにのって街へと来ている。

 

あの後、千冬姉というラスボスの必殺ファンクション・お説教を受けてしまい。解放されるまでにかなりの時間を有した。

 

予定から一時間はずれて一夏と箒の二人は買い物に来ている。

 

「買い物って何を買うんだ?」

 

「その・・・・臨海学校が近いだろ・・?」

 

「そういえば、あったな臨海学校」

 

「そのためにみ、水着を買おうと思って」

 

「水着か・・・・・・俺はどうしょうかな」

 

「一夏はどんな水着を持っているんだ?」

 

「ん・・・・BOARDのロゴマークが入った水着」

 

「・・・・は?」

 

「いや、ライダーになるための訓練で水中戦を想定したものがあって、水着を橘さん達にもらったんだよ」

 

「・・・・」

 

箒は少し想像してみた。BOARDのロゴマークがででん!と貼られている派手な水着を。

 

想像してみて思う。

 

「違う水着を買うべきだ!」

 

「えっ・・?お、おう」

 

箒の剣幕に押されて一夏は頷いた。

 

ちなみにBOARDのロゴマークはプリントされているがそれは隅っこの方とか小さな部分であって、箒が想像していたものとは大きく異なることを注意しておこう。

 

 

富樫始はこれでもかというほど緊張していた。

 

今までアンデッドや施設を守る自動防御兵器などと対峙するときにどのように戦うかなどの戦術を考えて緊張する事が度々ある。

 

しかし、これはそういうものとは無縁で、どう対処すればいいのかわからない。

 

「・・・・・・・・」

 

向こうもそれは同じなのかガチガチに固まっている。

 

だったらやるなよと叫びたいが場所が場所なのでいえない。

 

もし、言えば始は容赦なく・・社会的に抹殺されてしまうだろう。

 

先ほどもISが普及した影響で態度がでかくなった女性に偉そうに命令されたので断ると即答したら警備員を呼ばれた。

 

その時はシャルロットのおかげで無事に終わったのだが、今はシャルロットという切り札は使うことが出来ないだろう。

 

さて、いい加減に何が起こっているのか説明すると、現在、始とシャルロットの二人は水着を買いに来ていて、なにをどうしてこうなったのか、シャルロットと一緒に更衣室の中に居る。

 

もう一回言おう、更衣室の中に“二人で”居る。

 

水着を選んでどっちがいい?と聞かれたからオレンジ色のほうを選んだ途端、そっか!といっていきなり始の腕を掴んで更衣室に入り込んで着替え始めたのである。

 

 

「(どうしてこんなことになってんだ?・・・・しまった・・・・そういえばシャルロットって、田舎暮らしとかいっていたな・・・・まさか、スコールやオータム辺りに変なこと吹き込まれたんじゃないだろうか?)」

 

「(うぅ~。オータムさんとスコールさんが水着の試着をする時は大好きな人と一緒に入るっていっていたけど、後ろに居るって考えると緊張して心臓が破裂しそうだよう)」

 

実はちゃっかりとオータムとスコールが悪戯心満載でシャルロットに色々と吹き込んでいたようだ。

 

「(よく考えたらシャルロットと任務とかで一緒に行動するといった事で多かったけど、こういう私生活で一緒というのはあまりなかったな)」

 

任務の回数が減ってきていて始達は各自好きに過ごしていることが多かった。

 

始はアンデッドを封印するために各地を点々と動いて回り、シャルロットはMと模擬戦をこなしてという日々。

 

年頃の男女が行なう生活として有りえない。

 

「(この笑顔も・・・・結構みているようで、まだほんの四ヶ月程度しか経っていないんだよな)」

 

出会ったのは外国の墓場。

 

ISの不調で着地した所で泣きそうになっていた少女、それがシャルロットだった。

 

「(でも・・・・・・これ以上近くにいては)」

 

『本当にそれでいいのかい?』

 

聞こえてきた声に富樫始の表情が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

富樫始は大通りから離れた所にある人通りが少ない神社に来ていた。

 

周りには何人かの老人や子どもが仲良く遊んでいる。

 

「気のせい・・・・だったか?」

 

「気のせいではないよ。富樫始君」

 

神社の入口、そこに一人の男が座っていた。

 

民族風の衣装を身に纏い、緑茶を美味しそうに飲んでいる男が。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・始?どうしたの突然」

 

慌てて後を追いかけてきたシャルロットが尋ねるが始は答えず目の前にいる男に尋ねる。

 

「お前は・・」

 

「僕の名前は嶋、見ての通り、旅行者だよ」

 

「ウソをつくな。ただの旅行者がなんで俺の名前を知っている」

 

「風は色々なものを運んでくれる・・・・君の体内にある遺伝子のこととか」

 

「てめっ」

 

「えっ!は、始どうしたの!?」

 

始はハートスートのカテゴリーAのプライムベスタを取り出す。

 

彼の様子を見てシャルロットが慌てだした。

 

 

「真実を隠したままにしておくのはよくないよ。富樫始君。いや、“ジョーカーになりつつある者”といったほうがいいかな?」

 

「“ジョーカー”・・って、なに?」

 

シャルロットは嶋の言葉の意味を理解できず戸惑ってしまうが、始は違う反応を示した。

 

始は無表情になる。

 

「キミは人間だ。しかし、人間はアンデッドの姿になるなんて事は出来ない。驚いたよ君の体内の中にあるジョーカーの因子がアンデッドに変身する事のサポートをしてくれている」

 

「黙れ・・・・」

 

「しかし、アンデッドに変身するたびにジョーカーの因子が活性化を始めてしまい、最終的には」

 

「黙れっていってるだろーが!」

 

『チェンジ』

 

カリスに変身してカリスアローを構えようとしたがビクンと体が大きく痙攣をして強制的に人間の姿に戻り、始は口から大量に吐血した。

 

「始!?」

 

シャルロットは慌てて始に駆け寄る。

 

始は地面に広がっていく自分の血を見て気づいた。

 

うっすらとだが血が緑色に変色している事に。

 

「・・・・・・」

 

覚悟していないといったらウソになる、と始は心の中で呟く。

 

この因子を埋め込むことを決めたことに迷いはない。

 

決めていたのだ。全てに復讐をすると、その代償として自分が人間に戻れなくなっても良いという覚悟はしていた。

 

「今はまだ他のアンデッドの力で抑圧されているが、そう遠くない未来、キミの体は完全にジョーカーとして覚醒して闘争本能のままに暴れることになる。これ以上アンデッドの力を借りるのはやめるんだ」

 

「嫌だね」

 

即答する始。

 

この力を使い続ければ何れは怪物になるという覚悟はしていた。

 

でも、やめはしない。

 

とまることもしない。

 

――俺は。

 

「違うカテゴリーだろうと俺の邪魔をするっていうなら・・・・封印するぞ」

 

「私は戦うつもりはないよ・・・・そうか、どうやらキミを止める事は私では出来ないようだね」

 

嶋は悲しそうな表情をして立ち上がる。

 

「だが、一つだけ忘れないでくれ・・・・君は君であるということを」

 

「・・・・」

 

そう告げて始の前を去っていく。

 

残された二人はしばし無言だった。

 

「ねぇ・・・・始」

 

「なんだ?」

 

「なんのために、戦うの?」

 

「・・・・そうだな、もう少ししたら・・・・話してやるよ。俺が怪物になってまでも戦おうとする理由」

 

この時、富樫始が遠くに要るような感じがしてシャルロットは隣に彼がいるのを確認するために強く抱きつく。

 

「どうした?」

 

「ううん・・・・なんでもない」

 

しばらく抱きついた。

 

 

それから始とシャルロットの二人は有りえない場所に来ていた。

 

「スコールのヤツ・・・・なんて場所を勧めてくるんだ」

 

二人がいるのは都内にある高級ホテルの中にあるレストラン。

 

高級のため、ドレスコードが義務付けられていて、IS普及の影響でスーツやドレスを貸してもらえることはない(女性はちゃんと貸してもらえる)

 

スーツはどうやらスコールが届けておいてくれていたようなのでトイレで着替えてきたので問題はない。

 

だが、どうしてこんな所を?

 

「お、お待たせ」

 

「お・・・・・・・・」

 

疑問に思っているとシャルロットがやってきたようなので顔を上げて言葉を失う。

 

シャルロットは戸惑ったような表情を浮かべながらやってきていたのだが、彼女の着ていたドレスがあまりにも

 

「綺麗・・・・」

 

あまりにも似合っていたので見惚れてしまった。

 

白いワンピースタイプのドレス。

 

童話にでも出てきそうな、いや、童話の中からお姫様が飛び出したかのようだ。

 

「どうかしたの?」

 

「・・いや・・・・なんでもねぇよ」

 

見惚れていましたなんていえるか!と思いながら始はグラスに入っていた水を飲み、運ばれてきた料理を食べる。

 

不思議と料理の味をまるで感じない。

 

レストランを出た後、二人は会話をしていなかった。

 

 

「あの・・・・始」

 

「・・・・ん?」

 

「・・・・・・好き」

 

「・・・・何が?」

 

とぼけてみる、どういう反応をするだろうか?

 

「私、シャルロットは富樫始の事を愛しています」

 

「・・・・・・・・俺は」

 

立ち止まってシャルロットのほうへと向き直る。

 

「いずれ俺は怪物になってしまう・・・・目的が果たす前になるかならないかの違いだが、怪物を好きになって幸せになれるかどうか」

 

「なるよ」

 

シャルロットは変わらない笑顔で告げる。

 

「私は始が怪物になったとしても変わらない、あの時からずっと始への気持ちは変わらないよ、絶対に・・」

 

「・・・・・・」

 

「あ、それと答えは今すぐでなくていいよ」

 

シャルロットは微笑んで告げた。

 

富樫始はいま答えていいかどうか悩んでいたので救いだった。

 

しかし、これは一種の逃げ。

 

この結果が後に起こる悲劇を避けられたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

臨海学校まで後、二日。

 



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第十六話

見ている人がそこそこいたことで、少し驚いています。

感想は時間が出来次第、返します。




 

ラウラ・ボーデヴィッヒは軍隊で学んだスキルを生かし織斑一夏と篠ノ之箒の二人を尾行していた。

 

「(あれは・・・・デートというものなのだろうか?)」

 

尾行していながらラウラはそんなことを考えていた。二人はそこそこ楽しげに話しているし、箒は女である自分の目からして・・・・その。

 

 

「(幸せそうな顔をしている)」

 

ラウラはそっ、と自分の胸に手を当てる。

 

「(そして・・・・私は嫉妬している・・)」

 

少し前の自分なら興味がないといって切り捨てていただろう。

 

だが、今は違う。

 

自分は恋する乙女となっているのだから。

 

「あれ・・・・ボーデヴィッヒさん」

 

「お前は・・・・」

 

青い髪にメガネをかけた気弱そうな少女。

 

確か。

 

「更識簪」

 

「うん・・・・何をしているの?」

 

 

「嫁の監視だ」

 

「ダンボールで?」

 

「同僚からこの格好でやるのがセオリーだと教えてもらったのだ。効果的だぞ?誰も私に話しかけてこない」

 

「うん・・・・それは多分」

 

関わってはいけない雰囲気が出ていて誰も近づかないだけでは?と簪は思ったが口に出すのを止めた。

 

本気で信じているラウラをみていると、告げることに気が引ける。

 

「更識、お前はなにをしているんだ?」

 

「えっと・・・・DVDを買いに」

 

「DVDというのはテレビで見るヤツか・・・・・・何か面白いものがあったら今度教えてもらえないだろうか?」

 

「え・・・・?」

 

「・・・・ダメだろう、か?そういうものも見てみたい・・・・と思って」

 

不安そうに尋ねるラウラに簪は「ううん」と首を横に振ってから。

 

「嫁の監視が終わったら見せてあげるね」

 

「あぁ・・・・!」

 

ラウラは嬉しそうな表情をして追跡を再開する。

 

簪は親切心からダンボールの使用はやめたほうがいいよ、と警告して人ごみの中へと消えていく。

 

一夏を尾行するラウラ。

 

それを人ごみの中から見ている人物が居た。

 

 

「これは・・・・面白い事になりそうだ」

 

 

 

 

一夏はちらちらと周りへ視線を向けた。

 

「どうした?一夏・・・・」

 

「いや、誰かに見られているような気がしたんだが・・・・気のせいか?」

 

「当然だ。我々の後をつけて得をするものなどいないぞ」

 

後ろに約一名おられます。

 

ちなみに他の恋する乙女二人はというと織斑先生の指導を受けており抜け出せなかったのである。

 

鈴音に至っては念入りに行なわれているとかそうでないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOARD社長室で五反田弾は橘朔也と向かい合っていた。

 

彼らの間には机があり、机の上には彼のダイヤスートのカテゴリーが置かれている。

 

今までに彼らが封印したのと、封印されていたモノ。

 

「カテゴリーQがあれば、JとKを利用したフォームチェンジが行なう事ができる。但し、上級との融合は危険が伴う事は理解しているな?」

 

「融合係数が低いと弾かれるかもしれないんですよね?」

 

「あぁ、俺より前にギャレンに変身しようとした人は融合係数が低くて片腕を失うという結果に終わった」

 

「あの・・・・フォームチェンジに失敗して弾かれる時に最悪腕が飛ぶなんてこともありえますかね?」

 

「アンデッドのことは我々も全てを把握しているわけではない。どのようなことが起こるかちゃんとした予測は出来ない」

 

「・・・・はは・・・・つまり、上級アンデッドの力を引き出すのは可能な限り控えろという事ですか?」

 

「Jに関しては問題ないが・・・・カテゴリーKにだけは注意しろ。手にしたとしてもすぐに使おうとするなよ」

 

「わ、わかりました」

 

あまりに橘の剣幕が凄いので弾は顔を引きつらせながら応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むっ」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは角を曲がった一夏達に追いつこうと速度を上げた。

いや、上げようとした。

 

「よぉ、また会えたな」

 

「っ!」

 

現れた男を見て頭が動くよりも早くラウラは後ろの人通りの少ない路地裏へと逃げていく。

 

本能、生理的に、彼女はあいつを拒絶するために動いた。

 

何かにあたって躓きそうになるが気にせずに走り出す。

 

時間すら惜しい。

 

一分でも早くあいつより遠くに逃げる。

 

次の角を曲がろうとしたラウラ、聞こえてくるのは人の声。

 

あぁ・・・・もう少ししたら助かる。

 

人が大勢いる光り輝く場所へ手を伸ばすラウラ。

 

「捕まえた」

 

しかし、あと少しというところで後ろからエレファントアンデッドがラウラの腕を掴む。

 

「・・・・あ・・・・ぁ・・・・・・」

 

後ろをゆっくりと振り返るとそこにはエレファントアンデッドの姿が。

 

まるで、暗闇の中へと自分を引きずり込もうとする怪物のように・・・・。

 

悲鳴を上げようとした瞬間、口を塞がれた。

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・?」

 

一夏はぴたりと動きを止める。

 

「どうした?一夏」

 

「いや、今ラウラの悲鳴が聞こえたような気がして」

 

「私は聞こえなかったが?」

 

「気のせい・・・・だったのか?」

 

「気のせいではないよ?織斑一夏君」

 

一夏達の前に民族衣装を纏った男・嶋が現れる。

 

「貴方は・・・・・・その声・・」

 

「あの時は失礼な事を言ったね。私の名前は嶋、剣崎君達から聞いていないかな?」

 

「・・・・あ」

 

一夏は思い出す。

 

昔、剣崎に戦いの話を聞いていたときに出てきたのだ、協力者嶋の存在を。

 

「貴方が・・・・どうして俺にあんな事を?」

 

 

嶋は一夏に黒い機械を放り投げる。

 

「っと・・・・これは?」

 

「キミの新たなる力だよ。それを受け取る資格が君にある・・・・」

 

「これが・・・・俺の・・・・」

 

「ん、どうやらヤツは懲りずに彼女にまた手を出そうとしているようだ」

 

「彼女・・・・?」

 

「・・・・銀髪で眼帯をしている」

 

「ラウラか!?」

 

「どうやら・・誰もいない廃ビルに連れて行かれたようだ」

 

「ありがとうございます。箒、すまないがここで待っていてくれ」

 

「いや、私も行くぞ!」

 

箒は一夏の腕を掴む。

 

連れて行くまで離さないというかたくなな態度に一夏は困り嶋に協力して彼女を見てもらおうと思ったのだが、そこに彼の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな顔で睨むな。別にとって食おうというわけじゃない。といっても俺は肉食じゃないから食べれないがな」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは廃ビルの壁に拘束されていた。

 

少し言い方に間違いがあった。

 

壁に埋め込まれている。

 

エレファントアンデッドの強靭な力で彼女は壁の中に半ば押し込まれるような形で拘束されていた。

 

そのため、逃げることが出来ない。

 

といっても、目の前の男に対する恐怖心が強くて“逃げよう”という概念自体が萎縮しているのが原因でもあった。

 

「何故私を・・・・」

 

「決まっているお前のISに搭載されているシステムをもう一度起動させるためだ」

 

「なに!?」

 

ラウラのISには条約で禁止されていた悪魔のシステムが搭載されていた。

 

しかし、それは完全に消去された筈。

 

「ISってのは女性にしか使えないからな。手駒が多い方が戦いに勝ち抜きやすくなる。それにお前は利用しやすい」

 

「断る!私はもう」

 

「人間じゃないヤツが戦う以外の選択肢を見つけられると思うか?」

 

男の言葉にラウラの体が硬直する。

 

何故、と搾り出すようにもらした声に男はにやりと笑う。

 

「人間社会に紛れ込みながらそういう情報を見つけるのは本当に苦労した。だが、手に入れたものが最高のカードになりえるなら苦労した甲斐もあるというものだ。そうだろう?」

 

伸ばされた手から逃げようとするラウラだが、別の方の手が頭をしっかりと掴んで抵抗できない。

 

男はラウラの眼帯を外し投げ捨てる。

 

眼帯の中から現れたのは金色の瞳。

 

軍の実験によって移植された“力”これのために自分は落ちこぼれとなり織斑千冬と出会うことになった。

 

しかし、“今”は力に固執していない。

 

だが・・。

 

 

「試験管ベビーであるお前が普通の人間と幸せな生活を築けると思うか?」

 

男はまるでラウラの心を見透かすかのように奥底に隠している不安をさらさらと言い当てていく。

 

「うるさい・・・・黙れ」

 

「人造的に造られた人間が自然の中で生まれた奴らと一緒に行動していけると思うか?いけないだろう?お前は戦うために生み出された存在だ。ただISを動かすための駒。軍という大きな枠組みの中の一部。機械を動かすための歯車」

 

「ちがっ・・・・」

 

「お前は絶対にその運命から逃れる事はできない。いや、そもそもお前にその勇気もないだろう?常に不安に包まれて生きているのだろう?そんな苦しい生活に身をゆだねる必要もないだろう?お前は戦いの中にいてこそ、存在理由を見出せる」

 

――そんなことない!

 

――ウソだ!

 

――お前の言っている事はデタラメだ!

 

ラウラは必死に男の言葉を否定する。

 

しかし、否定し続けた彼女の頭の片隅にそうだろうか?という言葉が浮上した。

 

――お前もうっすらと感じていたのではないか?

 

――自分は戦うために存在している。

 

――“戦い”こそがお前の存在理由。

 

――“戦い”がなければお前は生まれる事はなかったのだ。

 

――違う!私は普通に生活を出来る!

 

――造られた人間なのに?

 

――一夏が私を救ってくれた!私は普通の人間として生きる。

 

――常に“好き”だといっておかないと不安で一杯なのに?

 

「(・・・・・・え)」

 

ラウラの思考が完全に停止する。

 

片隅に浮上した不安。

 

それは織斑一夏の隣に自分がいてもいいのかという不安。

 

他の人間と異なる。生まれも何もかも違う自分。

 

そんな自分が居てもいいのだろうか?

 

自分の気持ちは一夏に伝わっているのか?

 

自分は他の人間と違う。

 

ファッションも知らないし、他の子とはかけ離れた自分。

 

そんな“普通の生活”を送ったことのないヤツが一夏の隣にいれるわけがない。

 

「(やはり・・・・・・私は)」

 

不安にラウラが支配されそうになった時バイクのエンジン音が廃ビルの中に響く。

 

「ラウラぁああああああああああああああああああああ!」

 

ブルースペイダーに乗った織斑一夏が入口のドアを壊して中に侵入してきた。

 

一夏の後ろには箒が乗っていた。

 

「(やはり、一夏は)」

 

どこか絶望の目をしてラウラは一夏の方を見ている。

 

 

 

「ほぉ、よくここがわかったな」

 

「てめぇ・・・・あの時の!ラウラを返せ!」

 

一夏はすぐに変身できるようにブレイバックルとプライムベスタを取り出す。

 

「返せ?お前も物好きだな」

 

「どういう意味だよ!」

 

「知りたかったら戦う事だな」

 

男はエレファントアンデッドへと姿を変えた。

 

一夏はバックルを腰に装着して変身体制に入る。

 

「変身!」

 

『ターン・アップ』

 

オリハルコンエレメントを潜り抜けてブレイドになると同時に拳を放つ。

 

拳は吸い込まれるようにしてエレファントアンデッドの顔に命中する。しかし、エレファントアンデッドは微動だにせず立っておりブレイドに向けて鉄球を放つ。

 

 

「ふん!」

 

「ぐあっ!」

 

鉄球を受けて壁に倒れ込むブレイドに追い討ちをかけるようにしてエレファントアンデッドは続けて鉄球を放つ。

 

ブレイドは転がるように避けてブレイラウザーでエレファントアンデッドの背中を切りつける。

 

しかし、エレファントアンデッドは大したダメージを受けていないのか攻撃をものとせず鉄球を叩きつけるようにしてブレイドに放つ。

 

 

「がぁぁっ!?」

 

「一夏ぁ!?」

 

一夏の苦悶の声と箒の悲鳴が重なるようにして響き渡る。

 

ブレイドアーマーの仮面が壊れてそこから一夏の素顔が覗いていた。

 

「織斑君!ボーでヴイッヒさん!?」

 

遅れてアンデッドサーチャーの反応に気づいて更識簪が現れた。

 

簪はアンデッドがいることに表情を険しくしながらレンゲルバックルを腰につけてクラブスートのカテゴリーAをレンゲルバックルの中に入れる。

 

 

「変身」

 

『オープン・アップ』

 

オリハルコンエレメントが通り抜けてレンゲルに変身した簪はレンゲルラウザーでエレファントアンデッドに攻撃を仕掛けるがあっさりとレンゲルラウザーを受け止められて壁に叩きつけられて倒れ込む。

 

 

『ふん、やはり人間は弱い。だが、お前は違うラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

エレファントアンデッドはブレイドとレンゲルを見下しながらラウラへ視線を向ける。

 

ラウラはどこか虚ろな表情をしていた。

 

箒が傍に駆け寄って呼びかけてもなんら反応しない。

 

『どうやら思った以上に心の不安が大きかったようだな?この調子なら早く利用できそうだ』

 

「どういうことだ・・・・?」

 

『簡単なことだ。そこにいる女を駒としてバトルファイトに勝ち抜くための道具として利用する』

 

エレファントアンデッドはなにをバカな質問をするんだ?という表情だ。

 

『バトルファイトにおいて勝ち抜くことはその種の繁栄を意味する。あの時、勝者となったのはヒューマンアンデッド。故に人間が繁栄した。だが、今回の戦いは俺が勝利する。俺の種が繁栄する事となる。そのためにこいつの力が必要だ。人間として普通に生まれず戦うために存在しているコイツを利用して何の問題がある?』

 

「ふざけるな!ラウラは戦うために存在しているわけじゃない!」

 

「いや・・・・その通りだ」

 

「ラウラ!?」

 

「ボーデヴィッヒさん・・・・?」

 

驚いた事にラウラがエレファントアンデッドの言葉に賛同する。

 

その事に箒と簪が驚きの表情を浮かべた。

 

「私は・・・・・・普通の生活を送ることなんて・・・・・・出来ないんだ・・・・・・私は普通の人間ではない」

 

「・・・・・・」

 

「私は戦う事でしか、存在を」

 

「そんなことないよ・・・・ボーデヴィッヒさんは織斑君のことが好きだっていっていたじゃない。あんな顔が出来るのに戦う事でしか存在を証明できないなんてことないよ・・」

 

「違うんだ・・・・更識・・・・私は」

 

 

ラウラは語り始める。自分は固い鉄の中で生まれた存在・試験管ベビーだという事。

 

戦うために生み出されて今までずっと戦うための技術を身につけるためだけに存在していた。

 

ラウラの過去に簪だけでない箒も何もいえなくなってしまう。

 

彼女の出来事が大きすぎてどういえばいいのかわからないのだ。

 

 

 

「・・・・・・今さら幸せを求めてなんになる?」

 

彼女の言葉に誰も何も言えない。

 

そんな中で一人だけ、たった一人だけ、言葉を紡いだ。

 

「本当に」

 

ブレイドが、一夏がラウラへ尋ねる。

 

「本当にそう思っているのか?」

 

エレファントアンデッドは面白い余興だと思っているのか何も言わずにただ、傍観していた。

 

「本当にラウラ、お前は戦いの中でしか存在を見出せないと思っているのか?」

 

「あぁ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

箒は不安だった。

 

一夏が黙り込んだ事に。彼がどのような答えを返すのか。

 

ラウラが普通ではないと思っていたが、まさか当たっているとは思わなかった。

 

「(一夏・・・・お前はなんと答えるんだ?)」

 

箒は何も言わない一夏に不安の表情を向ける。

 

簪はレンゲルラウザーを構えながらも一夏の答えを待っていた。

 

彼はなんと答えるのか?

 

その答えがこの先の道を決めることになる。

 

はぁ・・・・・・。と一夏は仮面の中で声を漏らす。

 

「俺はそこまでお前を不安にさせていたんだな・・・・」

 

 

「・・・・・・・・え?」

 

一夏の返答が自分の予想とかけ離れたものだったことにラウラが戸惑いの表情を浮かべた。

 

壊れた仮面の中で一夏は本当に申し訳なさそうな表情をしてラウラを真っ直ぐに見つめる。

 

「ラウラ・・・・お前が真っ直ぐに俺を見て好きだといわれて戸惑った。今までに好きなんて正面からいわれるなんてなかったからさ。お前がすぐに返事を求めるような態度がなかったから・・・・どっかで甘えていた。返事を先延ばして、自分の心の中で決着がついたらちゃんと伝えようと考えていたんだけど・・・・・・それがお前を苦しめていたんだな」

 

なら・・・・と一夏が口を開く。

 

「俺はまだお前に返事をする事ができない・・・・それはお前が普通の人じゃないからとかそういうことじゃない!俺の中で一つだけ、どうしても決着をつけないといけないことがあるんだ!それを終わらせない限り・・・・俺はお前に対してちゃんと答えることが出来ない、誰とも正面から向き合えないんだ」

 

そこで、一夏は顔を上げて。

 

「こんないい加減な俺だけど・・・・・・それまで・・・・・・待つことは出来るか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

ラウラは顔を俯かせて何も言わない。

 

一夏も無言で待っている。

 

「・・・・・・・・て・・・・だな・・・・」

 

「・・・・」

 

「本当に勝手・・・・だな・・・・嫁」

 

最後は小さかったが一夏の耳にはしっかりと届いた。

 

彼女の言葉に箒と簪の顔が明るいものになる。

 

「ということだ。ラウラはお前の駒にならないってよ」

 

『ふん!』

 

「がっ!」

 

一夏が不適に笑った瞬間、エレファントアンデッドの鉄球がブレイドの装甲に命中して壁の向こうに倒れ込む。

 

『成る程・・・・そういう態度をとるというなら、さらに深い絶望に叩き落して駒として利用する』

 

「させねぇよ・・・・」

 

瓦礫の中からゆっくりとブレイドが現れる。

 

現れたブレイドの仮面は鉄球を受けて壊れていたはずなのに完全に修復していた。

 

ブレイドアーマーは自己修復機能を有しているがここまでの修復速度はない。

 

“はじめから破損などしていなかったかのように”ブレイドの仮面は元通りだった。

 

「絶対に、俺の前で誰かを絶望に叩き落させるなんて真似はさせない・・・・絶対に!!」

 

ブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開してそこから二枚のプライムベスタを取り出す。そして左腕に装着されているラウズアブゾーバーに一枚ずつラウズする。

 

『アブソーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

身体の各部が金色のアーマー・ディアマンテゴールドに覆われ、胸部にはスペードのカテゴリーJの鷲の紋章が刻印され、背中にはオリハルコンウィングが装備される。

 

ブレイドの新たなる力。“ジャックフォーム”

 

「凄い・・・・力を感じる」

 

「一夏・・・・」

 

「綺麗・・・・だ」

 

 

『なっ!?その・・・・姿は!?』

 

エレファントアンデッドは驚愕の表情へと変わった。

 

数年前に自分を倒したあの姿へとなったのだから。

 

ブレイドジャックフォームはディアマンテエッジが装備されて切れ味と硬度も上昇したブレイラウザーを構えてゆっくりとエレファントアンデッドへと接近する。

 

『くそぉぉおおおおおおおおおおおおお!』

 

エレファントアンデッドは鉄球を投げるがブレイドジャックフォームは鉄球を手で受け止めて鎖をブレイラウザーで斬り裂く。

 

切り裂かれて前のりになったエレファントアンデッドの顔に拳を叩き込む。

 

『がぁっ!?』

 

攻撃を受けて倒れそうになるエレファントアンデッド。

 

ブレイドジャックフォームはブレイラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタをラウズする。

 

『サンダー』

 

『スラッシュ』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

オリハルコンウィングを広げるように展開してブレイドジャックフォームは雷撃を纏ったブレイラウザーを前に構えてエレファントアンデッドに体当たりしてそのままビルの壁を壊して外に出る。

 

空高く上昇してブレイドは一旦、距離を置いて再びブレイラウザーでエレファントアンデッドの顔に“ライトニングスラッシュ”を放つ。

 

「ウェェェェェェェェェイ!!」

 

雷撃を体に受けて苦しげな声をあげながらエレファントアンデッドは地面に落下して大爆発を起こした。

 

 

 

ブレイドはゆっくりと地面に降り立って腰部のバックルが開いたのを確認してコモンブランクを投げようとする。

 

『俺の敗北か・・・・一ついいことを教えてやろう・・・・カリスの姿を真似ているあの偽物、早めに倒しておかないととんでもないことになるぞ・・・・といっても、他の上級がそのうち潰すだろうがなぁ・・』

 

無言でコモンブランクを投げる。

 

吸収されてワイルドベスタとなったカードをブレイドは手にとって変身を解除した。

 

「・・・・・・カリス・・・・」

 

 

あの時、ラウラに自分のことを伝えているとき、本来ならあの時答えるべきだった。

 

しかし、一夏の脳裏にはカリスの存在が頭から離れなかったのだ。

 

あいつのいっている真実を知るまでは自分は誰かの思いに答えるべきではない。

 

そんな気持ちに支配されていた。

 

 

「見つけないといけない・・・・カリスを・・・・そして」

 

真実を知らないといけない。

 

一夏は自身の手の中にあるカテゴリーAのプライムベスタをじっ、と見つめる。

 



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第十七話

篠ノ之箒はある人物へ電話をかけた。

 

少しして、その人は電話に出る。

 

『もしもしひねもすぅ~、はぁい!みんなのアイドル篠ノ之束さんだよぉ!』

 

「(むっ!)」

 

かけて後悔し箒は電話を切ろうとした。

 

『あぁー、待って待って箒ちゃん!』

 

「姉さん・・・・」

 

『元気そうだね、わが妹よ~。わかってるよ。欲しいんだよね?キミだけの専用機が!そしていっくん達が戦っているアンデッドを倒したい!箒ちゃんが描いている強さを具現化するための力が欲しいと!』

 

「姉さん・・・・なんで・・」

 

 

「天才の束さんに知らないことなんてないのだぁ!」

 

箒は息を呑む。

 

天才というのは間違いない、姉である束はISを作った本人で、各国家が血眼になって行方を追っているのに見つからないのは天才といえるだろう。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは誰もいない屋上で富樫始と二人で夕焼けを眺めていた。

 

「みんなと一緒に行かなくて良かったの?」

 

目の前にいる始はどこかの学校の制服を着ていて無言で夕焼けを見ている。

 

シャルロット自身もどこかの制服を着ていた。

 

「・・・・あぁ」

 

「私といても楽しくない・・かもしれないよ?」

 

「そんなことないさ」

 

始は今まで見せた事がない笑顔で彼女を見る。

 

見たことのない、向けられた事のない笑顔、シャルロットの心臓がバクバクと大きな音を立てていた。

 

「大好きな子の傍にいてつまらないなんてことはないさ」

 

「・・・・・・それって・・・・・・」

 

「好きだ。愛しているシャルロット」

 

そういってぎゅっと始に抱きしめられてシャルロットは嬉し涙を流す。

 

始はゆっくりと顔を彼女へと近づけていく。

 

彼がやろうとしていることがわかって彼女は目をつぶって近づいてくる顔を待つ。

 

「(始・・・・・・)」

 

 

ゴンとシャルロットは床とキスをする。

 

「・・・・・・あれ?」

 

ゆっくりと起き上がって周りを見た。

 

いつも自分が使用している部屋。

 

周りを見てみるが始の姿はない。

 

当然の事だが、それが悲しい。

 

「はぁ~~~~~~~~~~~~~夢かぁ~~」

 

これでもかというほどため息を吐いてベッドの上に倒れ込む。

 

「(夢落ちだなんて・・・・・・なんか悲しい)」

 

しかも、告白して次の日にそんな夢を見ているのだから余計に虚しく感じる。

 

シャルロットは富樫始に告白をした。

 

けれど、返事は貰っていない。

 

彼が目的を果たし終えるまで、返事を待つことにした。

 

 

「(はぁ・・・・後10秒くらい寝ていたら)」

 

ちゃんとキス出来ていたのに、と考えた瞬間、ボンと彼女の顔が真っ赤になる。

 

「(な、なにを考えているんだろうね・・・・はは・・・・)」

 

「あれ・・・・」

 

苦笑してシャルロットは寝ようとしたのだが枕元においてある物に気づいてそれを手に取る。

 

小さなケース。

 

なんだろう?と思って中身を空けると銀色の小さいブレスレットが入っていて、始が書いたらしき文字があって。

 

『昨日は楽しかった。これは渡しそびれたプレゼントだ。出来たら大事にしてくれ』

 

と書かれていてシャルロットは笑顔になりブレスレットを手に取る。

 

「ほんっとうに・・・・不器用だね・・・・・・始は」

 

シャルロットは着替えて始に会おうと考えてベッドから出た。

 

 

「ねぇ、お兄さん」

 

富樫始は街中にあるコンビニから出て誰もいない公園に足を踏み入れた途端、後ろから声をかけられて振り返る。

 

「お小遣い頂戴」

 

ちなみに、声をかけてきた三人の中学生とは面識がない。

 

面倒だ。追い払うか、と考えた瞬間、一人がナイフを突きつける。

 

「・・・・・・そんなもの突きつけられても出すお金はねぇよ。失せろ」

 

「そんな態度にでれるんだ?状況わかってる?」

 

「そっちこそ・・・・・・」

 

状況わかってんのか?と中学生の持っているナイフに始は自らの手を突き刺す。

 

ずぶりと嫌な音を立ててナイフが手を貫く。

 

赤と緑の液体がナイフを伝って少年の手に流れる。

 

「ひっ・・・・・・あ・・・・」

 

「そーゆうもん持っているとこういう状況になりえるってことさ学習したか?クソガキども・・・・・・・・失せろ!」

 

始の一喝に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「・・・・・・さて、動くか・・・・」

 

公園の入口に停車させていた市販のバイクに乗って始は目的地へと向かう。

 

決着をつけるため。

 

 

 

 

臨海学校当日。織斑一夏はブルースペイダーに乗って前を走っているバスを追いかけていた。

 

本来なら彼もバスの中に乗る込むはずだったのだが“誰が一夏の隣に座るか?”で揉めに揉めたために痺れを切らした千冬が。

 

「お前はバイクがあるのだからそれで行け!その方が色々と楽だ」

 

ということで一夏はブルースペイダーで乗ることになった。

 

なったのだが。

 

「虎太郎さん・・・・大丈夫かな?」

 

一人だけとなってしまった虎太郎がバスの中でどうなっていたのか、ソレは想像にお任せする。

 

道中、立ち寄る予定のパーキングエリアに到着すると一夏のクラスメイト達がぞろぞろとブルースペイダーに群がってきた。

 

「わぁ、カッコイイバイクだね!」

 

「どこのバイク?見たことないなぁ」

 

「ねぇねぇ、少し解体させて~」

 

「ダメ」

 

最後の言葉だけ否定してから一夏は近くの自販機で飲み物を購入しようとして立ち止まる。

 

「え・・・・・・?」

 

一夏の目の前に立っている人を見て驚きの声を漏らす。

 

肩までにかかりそうな黒い髪、纏っているのは白いワンピース。

 

にこりと普段は浮かべないような笑みでこっちを真っ直ぐに見ている。

 

似ている・・・・けれど、有りえない。

 

――どういうことだ・・・・?

 

 

「ふふ・・・・」

 

混乱している一夏の前で小さく笑ってゆっくりと近づいていく。

 

何か言おうと口を動かすがぱくぱくと動くだけで肝心の言葉が出てこない。

 

「どうした?緊張しているのか?“一夏”」

 

「千冬・・・・・・姉?」

 

ようやく搾り出せた言葉がそれだった。

 

むっと目の前の少女は顔をしかめて、顔を近づける。

 

 

「マドカ・・・・」

 

口と口が触れ合いそうな距離で少女・マドカは囁く。

 

「私の名前は織斑マドカ・・・・」

 

「織斑・・・・マドカ・・・・」

 

「そう、それでいい」

 

マドカは満足したのか、一夏から離れる。

 

一夏が何か言おうとした瞬間、強い風が吹いて視界が一時的に塞がれた。

 

「・・・・あれ!?」

 

再び目を開けたとき、そこには誰もいない。

 

「・・・・・・」

 

夢でも見ていたのか?一夏は自分の頬をつねるが痛みは感じた。

 

「・・・・・・なんだったんだ。あれ・・・・」

 

呟くが答えるものなどいない。

 

 

 

 

長い道を走り、どれくらいの時間が流れただろうかバスは海が見える道を走っている。

 

ヘルメット越しから一夏は海を見ていた。

 

「(海かぁ・・・・来るの久しぶりだよな・・・・・・最後に来たのって)」

 

一夏の脳裏に蘇るのは親友達との海水浴。

 

なけなしの金を出し合ってローカル電車をいくつも乗り換えて低予算で海にたどり着いたときの高揚感。

 

思い出しただけで一夏の顔に笑みが浮かび上がる。

 

「っ!」

 

一夏はブルースペイダーを急停車させた。

 

中のみんなは騒いでいるのか一夏が止まっている事に気づかない。

 

バスとの距離が開いていく中、呆然と見ていた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

目の前にいたのはカリスによって顔を叩き潰され命まで奪われたはずの富樫始。

 

「どうして・・・・」

 

「その様子だと、全く調べようとしなかったみたいだな・・・・やれやれ・・期待した俺がバカだったわけか」

 

「どういう・・」

 

「こういう意味だ、バーカ」

 

富樫始は小バカにするような笑みを浮かべると懐からハートスートのカテゴリーAのプライムベスタをカリスラウザーにスキャンさせて漆黒の姿へと変わる。

 

『チェンジ』

 

 

「お前が・・・・カリス・・・・だって?」

 

「期待はずれだ」

 

直後、一夏はその場を離れる。

 

彼がいた場所をフォースアローが飛来した。

 

カリスから放たれる殺気を感じ一夏はブレイバックルにスペードスートのカテゴリーAを入れてターンアップハンドルを引く。

 

『ターンアップ』

 

目の前のオリハルコンエレメントを潜り抜けて一夏はブレイドに変身する。

 

しかし、ブレイラウザーには手を伸ばさない。

 

「何の真似だ?戦うつもりはないって態度か」

 

「教えてくれ・・・・なんでお前が」

 

「質問タイムはとうの昔に終わっているんだよ!」

 

再びフォースアローを放つ。

 

ブレイドは咄嗟に横に飛んで避けた。

 

「いくら俺が叫んでも耳にいれることはなかった。あの偽物が殺されたことだけをずっと胸に抱いて憎悪を俺に向けていた・・・・そんなお前に話す舌はもう持ち合わせていねぇんだよ!」

 

間合いを詰め込んで一気にソードボウをたたきつけた。

 

アーマーに火花が散ってブレイドは後ろに仰け反る。

 

「さぁ、立てよ。ブレイド・・・・俺はお前を本気で殺す。お前がその気でいかなくても俺は殺すぞ」

 

「・・・・・・」

 

 

「それとも同じ顔をしているから戦えないとでもいうつもりか?・・・・全く違う。いいか、俺とあの人形は“全くの別物”だ。どうだ?これで満足か?」

 

「そう・・・・か・・・・」

 

ゆらり、とブレイドは立ち上がる。

 

少し迷いがあるがそれよりも怒りの感情の方が大きい。

 

「だったら、俺も・・・・お前を“倒す”・・」

 

 

 

カリスアローとブレイラウザー、二つの武器が火花を散らしながらぶつかり合う。

 

相手の動きに注意しながら、次の自分のとる動きを検討しながら攻撃を繰り出す。

 

ブレイドの動きがよくなっていることにカリスは気づく。

 

「(前よりも戦闘を重ねたわけか・・・・)」

 

カリスの動きが前よりも激しく、強くなっている事にブレイドは気づく。

 

「(強い・・・・でも、なんだ?)」

 

ブレイドは戦いの中で奇妙な違和感が胸の中で湧き上がってくるが相手の動きに変な部分は見られない。

 

それに深く考える余裕がなかった。

 

「どうしたぁ!お前の実力はこの程度か?」

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

カリスアローのソードボウがブレイドアーマーを貫く。

 

アーマーに火花を散らしながらブレイドは地面に倒れ込む。

 

呼吸を整えるようにカリスは距離を置く。

 

「“倒す”・・・・か」

 

「・・・・・・はぁ・・・・はぁ・・なん・・だ・・」

 

「どれだけ怒り狂ったとしてもお前は倒すだけであって殺すまでの覚悟はない。ようは甘えん坊の餓鬼だってことだ・・・・そんなヤツに守られているなんてあいつらも弱者だな」

 

「取り消せ!!」

 

ブレイドは立ち上がる。

 

ブレイラウザーを持っている手が震えている。

 

恐怖によるものか、怒りによるものなのかわからない。

 

侮辱されたことが許せない、いろいろな事があっても必死で生きていこうとしている彼女達を、バカにした事が一夏は―ブレイドは許せなかった。

 

――何も知らないのに!

 

 

 

「何で・・・・・・あいつを殺した?」

 

ブレイドに向かってフォースアローを放つ。

 

攻撃を受けてブレイドは地面に倒れこむ。

 

「全く同じことばっかり、何も知らない赤ん坊の相手をしているようでムカツクぜ・・・・こんなのに」

 

カリスは無言でブレイドを見る。

 

「数年前の誘拐事件」

 

ぴくっ、とブレイドが反応した。

 

「あの時、お前と別に、もう一人の男の子が誘拐された」

 

「なんだと・・!?」

 

知らなかった事実に一夏は驚きの表情を浮かべる。

 

その間もカリスは淡々と語り始めた。

 

「片方は有名人の弟だから丁重に扱われた。しかし、片方の男の子は有名でもない凡人、即座に裏社会に売り飛ばされて実験モルモットのような扱いを受けた」

 

そして、とカリスは続ける。

 

「片方は救われて表の世界に戻り、モルモットの扱いを受けていた子はそのまま裏の世界にどっぷりと浸かり・・・・この力を手に入れた」

 

そういってカリスは告げた。

 

「わかるか?俺はお前と同時に誘拐された男の子だ。お前は覚えていないだろーが」

 

「ソレと・・・・あいつを殺したことと何の関係があるっていうんだよ!?」

 

「大有りだ。あいつは」

 

カリスが何かを言おうとした瞬間、道を開ける。

 

「なんの真似だ?」

 

「アンデッドがバスを襲おうとしている・・・・」

 

「なんでその事をお前がわかる!?」

 

「信じる信じないはお前の勝手だ。だが、俺を疑っている間に誰かが死ぬかもしれないぞ?」

 

「・・・・」

 

ブレイドは武器をしまい、ブルースペイダーに乗り込んで走り出す。

 

姿が見えなくなるまでカリスはその場から動かなかった。

 

「俺も・・・・甘いな・・・・・・ぐっ!」

 

 

跪いてカリスは苦しそうな声を漏らす。

 

変身が強制的に解除されてプライムベスタが地面に落ちる。

 

震える手でプライムベスタを掴もうとした時。

 

「っ!」

 

一瞬だったが、カリスの手が異形となる。

 

 

 

 

バスはバッファローアンデッドの襲撃を受けていた。

 

といっても、運転手が咄嗟にハンドルをきったおかげでバスが転倒するという最悪の事態は避けられた。

 

現在はセシリアがブルーティアーズで気をひきつけているのが見える。ブレイドはバイクのアクセルをさらに回してバッファローアンデッドに体当たりをした。

 

「一夏さん!」

 

「セシリア!大丈夫か?」

 

「なんとか・・・・やはり、アンデッドの相手は難しいですわね」

 

インターセプターを構えながらゆっくりとセシリアはブレイドの隣に降り立つ。

 

「俺に任せてみんなの方を守ってくれ」

 

「わかりましたわ!」

 

バッファローアンデッドは地面を何度も蹴りながらブレイドに襲い掛かる。

 

咄嗟に横へ飛んで攻撃を避ける。

 

そのままバッファローアンデッドは崖に激突するがダメージを受けた様子はない。

 

「・・・・こいつは頑丈そうだ」

 

速攻で決着をつけようと判断したブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタを取り出す。

 

 

『サンダー』

 

『キック』

 

『ライトニングブラスト』

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

地面を蹴ってバッファローアンデッドに向かって雷撃を纏ったキックを放つがバッファローアンデッドは体制を低くして攻撃を受け止める。

 

「ぐあっ!?」

 

「一夏さん!」

 

攻撃に押し負けてブレイドは後ろに吹き飛び地面に落下しそうになる。

 

落下する直前でセシリアがブレイドを受け止めた。

 

「サンキュ・・・・結構頑丈だったな・・・・・・なら」

 

ブレイドはセシリアに感謝してからラウズアブゾーバーから二枚のプライムベスタを取り出してラウズする。

 

『アブソーブクィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

ブレイドはジャックフォームへとチェンジして突撃してくるバッファローアンデッドにディアマンテエッジを装備したブレイラウザーで斬りつける。

 

先ほどよりも強化された一撃が効いているのかバッファローアンデッドは苦しそうな声を上げた。

 

ブレイドはラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタをラウズする。

 

『サンダー』

 

『スラッシュ』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

オリハルコンウィングを広げてブレイドは空へと飛翔して雷撃を纏ったブレイラウザーを前に構えて振り下ろす。

 

バッファローアンデッドは自身の角で応対しようとするがブレイドジャックフォームのパワーが強力で押し負けて崖にたたきつけられた。

 

雷撃を受けたバッファローアンデッドの腰部のバックルが開く。

 

ブレイドはプロバーブランクをアンデッドに向かって投げて封印する。

 

 

「千冬・・・・織斑先生、みんなに怪我とかは?」

 

「幸い怪我人はいない、意識を失っている者が何人かいるが横に寝かせれば問題はない・・・・ないのだが」

 

「?」

 

「気絶した者を横に寝かせると一人だけどうしてもバスに乗れない。織斑、誰か一人後ろに乗せろ」

 

「・・・・・・え・・・・」

 

千冬からのとんでもない発言に一夏はゆっくりと後ろを振り返る。

 

そこには意識がある(約六割)生徒が目を輝かせてこちらを見ていた。

 

一夏は顔を引きつらせながら一言。

 

「ジャンケンで決めてください」

 

バスが運転を再開したのはそれから十分後のことだった。

 

 

 

 

篠ノ之箒はこれでもかというほど緊張していた。

 

すぐ傍には愛しい人の温もりが感じられる。

 

そう、彼女はジャンケンで見事勝利して一夏の後ろをゲットしたのだ。

 

他の女子(主にセシリアとラウラ)はバスから羨ましそうに見ている。

 

「箒・・・・!」

 

「な、なんだ!?」

 

バイクは風をきる音やエンジン音でかなり大きな声を出さないと聞こえない。

 

突然大きな声で一夏に呼ばれて戸惑った声を上げる箒。

 

「もう少しスピードあげるから気をつけろよ!」

 

「わかった!!」

 

箒が了承した直後、ブルースペイダーのスピードがあがり箒は「う、わ!」と声を漏らして必死に一夏に抱きついた。

 

一夏は背中に感じる箒の温もりとかにドギマギしたのだがカリスの言葉が頭から離れてくれない。

 

まるで呪いの言葉として纏わりつくかのように。

 

 

 

 

 

それから目的地の旅館にたどり着いた。

 

一夏はブルースペイダーにブルーシートを被せてクラスに合流する。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないようにしろ」

 

『よろしくお願いします!』

 

全員が礼儀正しく挨拶をした。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生は元気があってよろしいですね。あら、こちらが噂の?」

 

礼儀正しく挨拶した生徒達に対して着物姿の笑顔が素敵な女将さんが微笑む。

 

この旅館は毎年お世話になっているため、対応にも慣れているらしい。

 

「えぇ、今年は男子が二人いるので浴場分け難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな、それにいい男の子じゃありませんか、しっかりしてそうな感じを受けますよ・・・・それに有名な作家さんがいらっしゃられるなんて嬉しい限りですわ」

 

「初めまして、織斑一夏です」

 

「特別講師の白井虎太郎です。いやぁ、嬉しい」

 

「いえ、見た目だけです。白井先生も浮かれていないで」

 

「うふふ。ご丁寧に、清洲景子です」

 

気品のある笑顔に一瞬、ドキリとする一夏。

 

知り合いの女性の中にない部類の笑顔を向けられて戸惑っているようだ。

 

 

 

「織斑さん。実は」

 

女将さんは何を思い出したのかこそこそと織斑千冬と話し合う。

 

少しして、織斑千冬は顔に困ったという表情を浮かべて口を開く。

 

「一つ、連絡がある!学園関係者以外に一組の旅行者が止まっているそうだ。迷惑をかけないように気をつけろ!」

 

どういうことだろう?と思っていたが、隣にいた虎太郎が事情を知っていたらしく。

 

「どうも、学園に連絡してあったみたいだけど出発してあったから入れ違いになっちゃったみたいだよ」

 

「それじゃあ、皆さん。お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますからそちらをご利用ください。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

「ねぇねぇ、おりむー、部屋どこ?かんちゃんと一緒に遊びにいこうと思うんだけど」

 

一夏に話しかけてきたのは布仏本音。

 

少し前に簪を紹介した(といっても既に二人は顔見知りだったのだが、まぁ、そこは気にしないで置く)

 

「あぁ、部屋か・・・・教員の所と同じ場所だって虎・・・・白井先生と同じ部屋じゃないかな」

 

「そうなんだ~」

 

本音は納得して歩いていく。

 

他の女子達は遊びに行こうと企んでいるみたいだが。

 

 

 

臨海学校が始まる。

 



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第十八話

「はぁ・・・・海にいけないなんてつまらないよ」

 

「文句言うな。IS学園の奴らに素顔見られたら一番危険なのはお前なんだぞ?」

 

「わかってるけど・・・・・・」

 

「・・・・俺といるのがイヤなら出て行ってもいいが?」

 

「別にそういうわけじゃないよ。始のイジワル」

 

「はっはっはっ・・・・・まぁ、後で海に行くぞ。全てに決着をつけるために」

 

「うん」

 

シャルロットはどこかつらそうな表情を始に気づかれないようにして微笑む。

 

 

 

 

 

「一夏君・・・・どうかしたの?」

 

部屋に荷物を置いて一息ついたところで虎太郎が尋ねてくる。

 

え?と一夏が戸惑っていると虎太郎が口を開いた。

 

「なんか・・・・辛そうだよ」

 

「俺、そんな顔しています?」

 

「顔というか態度かな」

 

虎太郎はそういって一夏の肩をぽんと叩く。

 

話してしまうか?と一瞬悩んだ。

 

パーキングエリアで出会った織斑マドカという少女の事。

 

カリスのいっていた誘拐事件のもう一人の誘拐された人物の事。

 

そして、殺された富樫始。

 

「いえ・・・・」

 

しかし、一夏は言葉を飲み込む。

 

これは自分で解決するべきことなのだ。

 

彼女の事も、カリスとの決着も、誰かに話してどうこうなるわけではない。

 

「(俺の手で・・・・)あ、虎太郎さん。俺泳ぎにいってきます」

 

「うん、気をつけてね」

 

一夏は更衣室である部屋に入って着替える。

 

別館の更衣室といっても部屋の一番奥にあるために、どうしても着替え中の女子生徒の会話が耳に入ってきた。

 

「わ、ミカってば胸おっきー。まだ育ったんじゃないの?」

 

「きゃっ!や、やめてよぉ」

 

そんな会話を聞きながらも一夏は平常心を保ちながら更衣室で着替えて外に出る。

 

パーカーを羽織って、外に出た。

 

「あ、織斑君だ!」

 

「う、うそっ!わ、私の水着変じゃないよね!?大丈夫だよね!?」

 

「うわっ、パーカー着ているけど、腕の筋肉すごいね!」

 

「本当だー」

 

一夏がやってきたことに慌てた様子をみせる女の子達や体つきに驚きの様子を見せる女子もいた。

 

その中で一夏は準備体操をして、パーカーを飛ばされないように上に石をのせ飛ばされないようにした。

 

「泳ぐか!」

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

「・・・・・・鈴か」

 

泳ごうとした一夏に待ったをかけた人物は凰鈴音だった。

 

彼女はスポーティーなタンキニタイプ。オレンジと白のストライプの水着を着ている。

 

びしっ!と一夏に指を突きつけて鈴音は叫ぶ。

 

「勝負よ!」

 

「おう!あの時の決着をつけられそうだな!」

 

少し前に一夏は鈴音達と海に繰り出した事があり、その時に勝負をしたのだが結局つかずじまいだった。

 

「一夏さん!」

 

泳ごうとしていた一夏を呼び止めたのはセシリア。

 

彼女は鮮やかなブルーのビキニを着ていて、腰に巻かれたパレオが優雅で格好いい。

 

手にビーチパラソルとシートを持っている。

 

「サンオイルを塗ってもらう約束忘れないでくださいね!」

 

「あぁ、わかってるって!」

 

そういって二人は泳ぎ始める。

 

 

 

 

「楽しそうだね・・・・」

 

「行きたいか?」

 

「・・・・でも、始とここで誰もいない海岸を楽しんでいる方がいいな~」

 

「・・・・・・ふぅん」

 

そういって始は砂浜に寝そべる。

 

始とシャルロットの二人はIS学園が利用している海岸から離れた場所から眺めている。二人は水着を纏っている。

 

シャルロットはセパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に分かれているそれを背中でクロスして繋げるという構造になっており、色は夏を意識した鮮やかなイエローで、正面のデザインはバランスよく膨らんだ胸、その谷間を強調できるようになっていた。

 

 

「(・・・・始、似合っているとか・・・・言う時は言うんだけど、言わない時は本当にいわないよね)」

 

ちらりと横でぼんやりとしている始を見る。

 

 

「ねぇ、始」

 

「なんだ?」

 

「この水着なんだけど」

 

「あぁ、似合ってるぞ」

 

「・・・・まだ、何もいっていないんだけど?」

 

「お前の顔見てりゃわかる・・・・俺が似合っているかどうかのこといわないの気にしてんだろ?」

 

「わかってるならいってくれてもいいんじゃない?」

 

ぶぅーと頬を膨らませるシャルロットに始は苦笑する。

 

「イヤだね~」

 

そういって始は起き上がって海の中に飛び込む。

 

「あ、待ってよ!」

 

シャルロットは慌てて始を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏の目の前には白いワンピースタイプの水着の更識簪と全身タオルを巻きつけた少女がいた。

 

「あー。簪、隣にいるのって」

 

「・・・・ほら、ラウラ。大丈夫だって」

 

「だ、大丈夫かどうかは私が決める」

 

「その声・・・・ラウラか」

 

「う・・・・うむ」

 

「何やってんの?」

 

目の前にいるラウラらしき存在はタオルで全身をぐるぐると隠していて歩くミイラのようなものだった。

 

周りの生徒達が少し距離を置いている。

 

「そんなもの巻かないで・・・・あっちで遊ばないか?ラウラ」

 

「っ!?」

 

「そうだよ・・・・似合っているんだからさ」

 

そういって簪がタオルを剥がしていく。

 

一夏は目の前に現れたラウラを見て言葉を失う。

 

黒の水着、しかも、レースをふんだんにあしらったもので、一見するとそれは大人の下着にも見える。さらにいつも飾り気のない伸ばしたままの銀髪は左右で一対のアップテールになっていて、はっきりいおう。可愛い。

 

 

「おかしなところなんてないよね?」

 

「おう!ちょっと驚いたけど似合ってるぞ!」

 

「し、社交辞令などいらん」

 

「社交辞令じゃないって!すっごい似合っているぞラウラ」

 

一夏はラウラの告白に対して返事をしていない。

 

まだ、答えられないから。

 

逃げているといいかえてもいい状況で一夏は素直に答える。

 

「そうか・・・・・・」

 

ラウラは顔を赤くしてモジモジし始める。

 

余談だが、彼女の水着を選ぶためにドイツの部隊が協力したとかそうでないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、織斑一夏は誰もいない海岸に来ていた。

 

朝食を食べ終えて部屋に戻ろうとした彼に女将さんが一通の手紙を持ってきたのだ。手紙には一言、海岸で待っているという文字が書かれているだけ。

 

そして、海岸に来たわけだが、そこには先客がいた。

 

「・・・・・・」

 

「海はいいものだな、何時見ても変わらない様に見える・・・・そう思わないか?織斑一夏」

 

「変わらないから・・・・なんだ?」

 

「・・・・変わらなければ良かった。そうすれば今も幸せに笑っていたかもしれないのに」

 

「お前は・・・・誰なんだ?」

 

「でも、世界は残酷だよなぁ。幸せをかみ締めた途端、絶望に叩き落すんだからよ」

 

「・・・・・・・・」

 

「そういえば、どうして俺が人形を壊したのかって質問をしたよな?答えてやるよ。あれが俺のクローンだったからだ。前に話しただろ?」

 

「なっ・・・・」

 

一夏は息を呑む。

 

――殺された始がクローン!?

 

「信じられるわけが・・・・」

 

「俺が誘拐されてモルモットになった。その時にある科学者が俺のクローンを作ってそいつを俺がいた日常に放り込んだ。そうすることで誰も俺が誘拐されて酷い目にあっているなんて疑わなかった。誰も・・・・俺の家族すら気づく事はなかった。誘拐されたショックで混乱していると判断した。そして、一番身近にいた親友すら」

 

「・・・・・・だから、殺したのか?」

 

「正確に言えば反応を見たかった。俺のクローンなんていうふざけたものを作ったあの科学者がクローンを殺されてどういう反応を示すか・・・・結果は無反応。あれは既に用済みだったってことだ・・・・・・さて、何か質問はあるか?一夏」

 

「始・・・・お前は何をしようとしているんだ?」

 

混乱していたが目の前にいる始に一夏は尋ねる。

 

富樫始は振り返って微笑む。

 

どこまでも冷たい視線を一夏に向けて。

 

 

 

「・・・・さて、本題に入ろうか」

 

始は懐からプライムベスタを取り出す。

 

「俺の最後の目的の邪魔をするな」

 

「最後の目的ってなんなんだよ」

 

「・・・・・・・・篠ノ之束の殺害、そして全てのISの破壊」

 

「なっ・・・・なんで・・・・」

 

篠ノ之束とは箒の姉でISを製作した張本人。

 

天才、いや、天才でありすぎたが故に世界を自分に合わせるために作り変えた人。

 

それが篠ノ之束。

 

「あいつが俺の人生を狂わせた・・・・それだけだ。邪魔するなら俺はお前を倒す」

 

「悪いけど、あの人がいなくなったら箒が悲しむし・・・・お前に人を殺させるわけには行かない!」

 

「は?寝言は寝てから言えよ。俺は既に数多くの人を殺している。お前がどうこういっても人殺しというレッテルが消えるという事はない」

 

「それでも・・・・これ以上させたくないんだよ!」

 

「話し合いは、無駄か。よくよく考えたら俺とお前は話し合いで解決するようなタイプじゃなかったな・・・・・・」

 

「あぁ・・・・」

 

「俺とお前は戦う事でしかわかりあえない」

 

始の言葉に一夏が続く。

 

「何度もぶつかりあって、そして理解した」

 

「今度は理解できるかな?」

 

 

「「変身!」」

 

『チェンジ』

 

『ターン・アップ』

 

ブレイドに変身した一夏とカリスに変身した始が互いの武器でぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十九話

カリスラウザーの側面のホルダーからプライムベスタを取り出す。

 

同じようにブレイドもブレイラウザーのオープントレイを展開してプライムベスタを取り出して構える。

 

『サンダー』

 

『キック』

 

『ライトニングブラスト』

 

『ドリル』

 

『トルネード』

 

『スピニングアタック』

 

カリスとブレイドの技がぶつかり合う。

 

技がぶつかりあい衝撃が巻き起こってブレイドとカリスは地面に叩きつけられた。

 

しかし、両者はすぐに起き上がるとブレイラウザー、カリスアローで互いの体を斬る。

 

「なんで・・・・なんでこんなこ!?と」

 

「ぬくぬく育ったお前には一生わからねぇよ・・・・いや、考えようとしないお前にはなぁ!」

 

ソードボウをブレイドのアーマーに叩きつける。

 

仰け反ったブレイドを見ながらラウザーにプライムベスタを読み取らせた。

 

『チョップ』

 

『トルネード』

 

『スピニングウェーブ』

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

竜巻のエネルギーを纏ったカリスの一撃がブレイドに炸裂した。

 

強力な攻撃を受けたブレイドは後ろに大きく飛んで崖に叩きつけられる。

 

「弱い!・・・・弱いなぁ・・・・お前はこの程度なのか?この程度でアンデッドと戦っていたのか?はっ・・・・ブレイドの名も落ちたもんだな」

 

「だ・・・・だまっ」

 

「黙るつもりはねぇよ。俺がお前にいくらヒントを与えたとしてもお前は全く動かなかった・・殺された遺体を探すとかそういうことをせずになぁ・・・・所詮、お前にとって“富樫始”という男の存在はこの程度だってことだよなぁ!」

 

「違う!」

 

ブレイド・一夏は叫ぶ。

 

「そんなことない!俺にとって始は最初に出来た大切な友達だ!」

 

「なら、何故気づかなかった!」

 

カリスはさらにソードボウを叩きつける。

 

「クローンが俺と同じつくりだったからか?俺と同じような実力をもっていたからか?それともお前にとってはクローンとオリジナルは大差ないってことか?どうなぁんだよ!えぇっ!」

 

「ぐっ!」

 

一撃。

 

一撃にカリスの、富樫始の想いが込められていて一夏は、ブレイドは反撃できなかった。

 

「(重い・・・・こんなにも重たい攻撃があるのか?)」

 

ただ一夏は始の攻撃を受けていた。

 

反撃ができないでいた。

 

直後、カリスの動きが止まった。

 

「ぐほぉ!」

 

変身が強制解除されてブレイドに向かって始は吐血した。

 

血がべっとりとブレイドの顔に降りかかる。

 

「なっ・・・・始!?」

 

始はふらふらと倒れそうになりながら顔を上げる。

 

口元にべっとりとついていた血を拭って憎悪が篭った目をブレイドに向けて言葉を発しようとした時。

 

頭上からたくさんのニンジンのミサイルが始に降り注いだ。

 

「始ぇ!」

 

咄嗟にカリスに変身して攻撃をやり過ごしたようで煙の中から現れる。

 

一夏が駆け寄ろうとするよりも早く紅い何かが通過してカリスに襲い掛かった。

 

「アンデッドぉおお!!」

 

「箒!?」

 

紅い何かはISでそれを纏っていたのは篠ノ之箒。

 

混乱している一夏を前に二本の刀を振るってIS“紅椿”を纏った篠ノ之箒が攻撃を仕掛ける。

 

「くらえぇえ!」

 

「ちっ」

 

箒はカリスに“空裂”を振り下ろす。空裂を避けるが斬撃そのものがエネルギー刃となってカリスの体を抉り取る。

 

「がっ!」

 

斬られた箇所から緑色の液体が飛び散る。

 

さらに箒は雨月で刺突攻撃を繰り出した。

 

雨月からレーザーが放出されるのを見てカリスは舌打ちをして体制を崩して攻撃を避ける。

 

「くそっ・・・・なんだ・・・・このISは・・」

 

「凄い・・・・この力なら・・・・いける!紅椿なら!」

 

箒は紅椿の力に感嘆しながら雨月、空裂を構える。

 

「あかつばき・・・・?そうか・・・・それは・・あいつが作ったのか」

 

カリスは空を睨む。

 

この戦いをどこかで見ているヤツを。

 

「篠ノ之束ぇええええええええええええええええええええええええええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むふふふふ、さすが紅椿だね~。あんなふらふらなヤツに後れを取る事なんてないねぇ」

 

旅館の一室にて篠ノ之束はモニターに映っている紅椿とカリスの戦いのデータを取っていた。

 

後ろには織斑千冬を含めたIS学園関係者がいて息を呑んでいる。

 

「これが・・・・第4世代の力・・・・というのですか」

 

「滅茶苦茶じゃない」

 

「・・・・」

 

映像を見ているセシリア、鈴音、ラウラはただ映像を見ていることしか出来ない。

 

そして、事態は動く。

 

 

「このまま貴様を倒してやる!」

 

「ま、待て!」

 

ブレイドが止めようとするが紅椿は瞬時加速を使い、カリスに攻めようとするが目前にアンカーが飛来して動きを止める。

 

「・・・・大丈夫?」

 

「まぁな・・・・」

 

カリスの前に漆黒のISが現れる。

 

全身が黒で両肩には浮遊武装がついており、腰や肩が重武装になっていて両手にはサブマシンガンとライフルが握られている。

 

カリスは支えられるようにして立ち上がった。

 

「ここから逃げるよ」

 

「そうだな・・」

 

「逃がすか!」

 

箒が紅椿を操って漆黒のISに襲い掛かった。

 

「よせ!相手は人間だぞ!?」

 

「倒す!それだけだ!」

 

一夏の制止を聞かず箒は雨月を繰り出す。

 

レーザーを漆黒のISは浮遊武装で受け止める。

 

にやりと笑った瞬間、眼前に紅椿が現れた。

 

「なっ・・・・」

 

攻撃を防ぐためにライフルを乱射するが紅椿はそれを的確に避けてISに空裂を振り下ろす。

 

攻撃を避けた時にカリスの手がISから離れて地面に落下した。

 

「がはっ・・」

 

「アンデッド・・人類の敵・・・・・・覚悟しろ!」

 

落下したカリスに止めをさそうと雨月、空裂を構えて突撃する。

 

「やめろ!」

 

変身を解除して白式を展開した一夏が雪片弐型で受け止める。

 

「何故邪魔をする一夏!」

 

「頼むから落ち着いてくれ!」

 

「私は冷静だ、アンデッドは全て倒す!それだけのことだろう!」

 

「だから違うんだって!話を」

 

白式と紅椿に漆黒のISが両肩の浮遊武装を解放してガトリング砲を放つ。

 

弾丸の雨に二人は視界が見えなくなる。

 

煙が消えるとそこに二人の姿はなかった。

 

「いない・・・・だと!」

 

『問題ないよ~箒ちゃん!』

 

『あ、ちょっと!』

 

箒が顔をしかめた途端、目の前に映像が出現して篠ノ之束が現れた。

 

その向こうでは束の手によって画面から追いやられている山田先生の姿が見える。

 

『天才の束さんの手によってあのアンデッド二人は既に追跡済みだよ!ささ、箒ちゃんの手でアンデッドを倒すんだよ!紅椿ならそれが出来るよ!』

 

「はい!このまま」

 

「やめろ箒!」

 

話を聞かない箒を止めるため、一夏が前に立つ。

 

「邪魔をするな一夏!」

 

「あれはお前には関係ないだろ!」

 

「関係なくはない、アンデッドは人を襲う!人を襲うなら戦わねばならない!力あるものがやらなければ誰がやる!」

 

「少なくともお前がやる必要はない!これは俺達“ライダー”の仕事だ!」

 

「だが、お前は勝てるというのか!?」

 

「勝つ負けるとかそういうんじゃない!」

 

白式を解除して一夏は地面に下りる。

 

体が少し痛んで手で押さえた。

 

「勝ち負けとか・・・・そんな簡単じゃないんだよ・・・・箒」

 

オートで走ってきたブルースペイダーに一夏は乗って走りだす。

 

ブルースペイダーに設置されている通信機から虎太郎の声が聞こえてくる。

 

『話は聞こえていたよ、一夏君』

 

「すいません、勝手に決めちゃって」

 

『いや、いい判断だ』

 

「橘さん・・・・?」

 

『詳しい話は聞いた。弾達も追跡に向かわせる。本部のアンデッドサーチャーをフルに活用して追跡はしてある、今から言う場所に向かえ』

 

「ありがとうございます!」

 

一夏は叫んでブルースペイダーのスピードを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏・・・・何故」

箒は一夏が去っていた方向を見つめて小さく呟く。

 

何故、彼は自分の手を跳ね除けた?

 

自分にはアンデッドと戦うための力がある。

 

アンデッドから人々を守れる力がある。

 

それなのに何故拒否されるのかわからない。

 

紅椿の力を使えばアンデッドなど軽く倒せる。

 

 

なのに。

 

 

「一夏・・・・何故」

 

『いっくんはねぇ。きっと嫉妬していると思うんだ』

 

「・・・・姉さん?」

 

聞こえてきた姉の言葉に箒は耳を向ける。

 

『いっくんは箒ちゃんが自分より強い力を持っていることに嫉妬しているんだよ。だから箒ちゃんを戦わせたくないんだ』

 

「そんなこと・・」

 

『きっと怖いんだよ、いっくんは仮面ライダーの力がISに負けることが。それに誰かのために無償で戦うなんて人はきっといない。何か目的があって戦っているんだ。そいつらはきっといっくんを騙しているんだよ。優しくて素直はいっくんはそれを真に受けているんだ』

 

姉の言葉が箒の心に染み付く。

 

『だから証明してあげればいいと思うな。あの黒いアンデッド達をISが、箒ちゃんが倒せばいっくんは仮面ライダーという妄執から解放されると思うんだ。そして、きっと箒ちゃんと一緒に戦ってくれるよ』

 

「・・・・・・はい」

 

『だから戦うんだ。箒ちゃん、さぁ、あの黒いアンデッド達を追って、大丈夫居場所はわかるから』

 

「はい!」

 

『待て!篠ノ之!』

 

千冬の制止を聞かずに箒は束が送った座標に飛んでいく。

 

 

 

「束!お前何を・・」

 

「さて、私はやることがあるからこれで失礼するね!ばっはははーい!」

 

天井に飛んで束は姿を消す。

 

「山田先生、すぐに篠ノ之の追跡を!それと、BOARDへ連絡を繋ぐんだ」

 

「は、はい!」

 

 



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第二十話

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

「始、大丈夫?」

 

「少し休めばなんとかなる」

 

海岸から少し離れた山の中、

 

富樫始とシャルロットは休憩をしていた。

 

彼女から渡されたボトルの水で始は口の中を簡単に洗浄して吐き出す。

 

水は赤と緑が交じり合っていた。

 

「・・・・・・」

 

ちらり、とシャルロットは始を見る。

 

先ほどまで荒い呼吸をしていたが段々と落ち着いてきているようで息も安定してきている。

 

もう少し休めば回復するかもしれない。

 

「(でも・・体の方はどうなんだろ・・・・)」

 

アンデッドの力を使っている始は代償として人ではなくなっていく。

 

どのぐらい侵攻しているのかわからない。

 

もしかしたら既に人間でもないかもしれない。けれど、

 

「(私が絶対守るんだ、始を)」

 

「・・・・誰だ!」

 

始が叫んでシャルロットが視線を向けるとそこには黒衣を纏った三人の女性が立っていた。

 

「へぇ、あんたがスコールの部下の男か」

 

「大したことなさそう」

 

「雑魚」

 

同じ身長、同じ体型、そして。

 

「同じ顔・・・・?」

 

シャルロットはぽつりと呟いた。

 

現れた三人は髪型、表情、なにもかもが一緒だった。

 

似ているでは済ませられない。

 

まるで、同じ人間が三人並んでいるような感じだ。

 

 

「三つ子にしては気持ち悪いな」

 

「随分と失礼な事を言うわね」

 

「礼儀がなっていない」

 

「うざい」

 

「そうか・・・・お前らが最近亡国機業に入った奴らか」

 

「そうよ、中々に察しがいいわね」

 

「中々に鋭い」

 

「びっくり」

 

「それで、何のようだ?」

 

「あんた達を殺しにきたのよ」

 

「殺してやる」

 

「抹殺」

 

三人は黒いラファール・リヴァイブを纏ってライフルを取り出し、攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ!」

 

「始!」

 

始とシャルロットは“銀の福音”と“黒い幽霊”を纏ってその場所を離れた。

 

銀の福音が背中の翼を広げて光の槍を三体のISに向かって放ち、分断させる。

 

「そこ!」

 

シャルロットが両手に持つサブマシンガンでラファール・リヴァイブに攻撃し、入れ替わるように光の矢が三機に直撃した。

 

「「「くっ!」」」

 

実弾と光線の雨に三体のISは成す術もなくシールドエネルギーを削られた。

 

相手は動きからして連携がとれていたが、攻撃態勢を整える前に分断してしまえば、怖くなかった。

 

「さて、教えてもらおうか?何で俺達を殺そうとする。お前らに殺される覚えがないんだが」

 

「誰が・・・・」

 

「いわないなら痛い目」

 

「死ね」

 

「お前がな」

 

ライフルを向けた一人に始は腕の一部を光の刃に変える“レーザーアーム”を発動させて首をはねる。

 

「俺が本気だと理解してもらえたか?さて」

 

「始!」

 

「っ!?」

 

シャルロットの声に異変を覚えて始は離れる。

 

直後、彼が居た場所をライフルの弾丸が飛んできた。

 

始は珍しく目を開いて相手を見る。

 

「おいおい・・・・どういうことだ?」

 

目の前に首がないのに動いているISの姿に始は驚いていた。

 

操縦者が死んだらISは起動しない。

 

シャルロットの声に動いていなかったら自分はやられていた。

 

「こいつ・・・・ロボットなのか」

 

「いつ、我々が人間だといった」

 

「愚か愚か」

 

「始・・・・!」

 

「なら、遠慮する事はないよな?」

 

銀の福音は軍用のISでリミッターを解除すれば容赦なく人を殺せる。

 

IS学園に置かれているISや代表候補生のISとは決定的に異なる部分――軍事兵器としての力を発動させる。

 

銀の福音の背中の翼が大きく展開してエネルギーをチャージしていく。

 

異変に気づいた三体が攻撃を仕掛けようとするが福音を守るように黒い幽霊が浮遊武装を展開して煙幕を放つ。

 

見えないながらも三体はライフルを連射して二人に襲い掛かろうとした。

 

けれど、

 

「時間切れだ。楽しい悪夢をみて、果てろ!」

 

銀の福音の光の槍がさきほどよりも強く降り注いで三体のISを“破壊”し操縦者のロボットを破壊した。

 

「始・・・・大丈夫?」

 

「あぁ、問題・・」

 

何かに気づいて始はシャルロットを突き飛ばす。

 

直後、見えない刃が始のわき腹を貫いた。

 

「がっ・・・・・・・・」

 

「始!?」

 

「余裕だねぇ?偽物君」

 

「・・・・・・てめぇ」

 

振り返ると茂みの中に始と同じ顔をした男が立っていた。

 

笑みを貼り付けたような表情の男。

 

シャルロットは直感した。

 

この男は危険だ。

 

今までに遭遇した科学者とかも怖いや気持ち悪いと思う事があった。

 

でも、この男は決定的に違うところがある。

 

言葉で言い表す事はできない、けれど・・。

 

「(近づくのはダメだ)」

 

「おかしいなぁ。クローンは根こそぎ破壊した筈なんだがな?」

 

カリスの力を手に入れたとき、始は過去に自分をモルモット扱いした施設を強襲、そこで生み出されていた自分のクローンを全て、破壊していた。

 

薬物投与などの過程でIS適正がでていた始のクローンを生み出して調べれば、ISに男が乗れるかもしれないと考えた連中の欲の果てに生み出された存在。

 

「面白いなぁ・・・・てめぇはぁ・・・・殺しても足りないだろうなぁぁああああ!」

 

「ほざけ、また破壊してやるよ」

 

「それは無理だ」

 

クローンはにこりと笑うと上を指差す。

 

「お前を殺す存在がやってきたからなぁあ」

 

「見つけたぞ、アンデッド!」

 

雨月のレーザーが始に襲い掛かる。

 

攻撃を避けようとするとわき腹に痛みが走って動きが鈍った。

 

「がっ!?」

 

レーザーが直撃して地面に叩きつけられる。

 

「このまま貴様を倒してやる!そうすれば・・」

 

「篠ノ之・・・・箒ィ」

 

よりによっててめぇがやってくるのかと始は歯軋りしながら睨む。

 

さっきから体の動きが鈍い。

 

動かそうとすると鉛のようになって手を動かせない。

 

眩暈もする。

 

吐き気もしていてやばい。

 

その中で篠ノ之箒が二本の刀をゆっくりと構えて振り下ろしていく。

 

「(殺されるなら・・・・こいつより)」

 

迫ってくる刃を前にして、始は死を覚悟した。

 

「ダメぇえええええええええ!」

 

 

雨月、空裂が振り下ろされる直前、瞬時加速でシャルロットが間に入り込んで攻撃を受け止める。

 

ISのおかげで肉体にダメージはなかったが、装甲が爆発してボロボロになった。

 

「シャル・・・・ロット?」

 

「始!こんなところで諦めないで!」

 

シャルロットは無事なライフルで紅椿を牽制して叫ぶ。

 

「くっ!貴様」

 

ライフルの弾丸を避けながら箒は歯軋りした。

 

「・・・・」

 

離れた所で見ていたクローンは舌打ちをした。

 

「ったく・・・・あいつ殺すか」

 

手を動かして振るう。

 

 

 

 

 

「始、すぐに」

 

逃げて、といおうとした彼女の体に衝撃が走る。

 

「え・・・・・・?」

 

「なっ!?」

 

箒と始が同時に声を漏らす。

 

シャルロットがわき腹を見ると止め処なく血が流れていた。

 

彼女のわき腹には箒の刀が――。

 

「・・・・箒?」

 

そこにブルースペイダーに乗って一夏がやってくる。

 

「シャルロット・・・・シャルロット!」

 

始は震える声で躓きそうになりながら倒れた彼女に駆け寄る。

 

ISが強制解除されたシャルロットは地面に崩れ落ちる途中で始をみて、ゆっくりと手を伸ばす。

 

始も同じように彼女に向かって、伸ばす。

 

そこにニンジンのミサイルが降り注ぐ。

 

「危ない!」

 

『ターンアップ』

 

ブレイドに変身した一夏が呆然としている箒を抱きしめるように引き寄せる。

 

ミサイルはシャルロットと始の周りで爆発し衝撃と爆風が広がる。

 

「箒!?なんでここに」

 

「違う・・・・私は・・・・・」

 

「おい、どうしたんだよ!?」

 

茫然自失となっている箒を一夏が揺らすが、彼女は違う、違う、と繰り返す。

 

その言葉に反応する者がいた。

 

「・・・・・・・・違う・・・・だと?」

 

「え?」

 

煙の中、聞こえてきたのは富樫始の声。

 

ブレイドが尋ね返すと煙の中から始が姿を見せる。

 

ミサイルの爆発を受けたのか右腕が吹き飛んでなくなっていた。

 

 

「違う・・・・だと?ふざけるな・・・・お前が・・・・お前が」

 

腹部に出現していたカリスラウザーが赤から緑色へと姿を変える。

 

側面のホルダーが勝手に開いてカリスが持っているプライムベスタが空へ舞う。

 

 

 

「お前が殺したぁああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

始の姿がはじけ飛んでさらに黒くおぞましい怪物へと姿を変える。

 

なくなった腕から先に化け物の腕が姿を見せた。

 

カミキリムシを模したようなアンデッド。

 

「なんだ・・・・こいつ」

 

アンデッドが歩くたびに衝撃と殺気が二人に飛んできた。

 

上級アンデッドや下級アンデッドとは比べ物にならない殺気。

 

箒が殺気を受けてがくがくと震えている。

 

ブレイドは箒を守るためにアンデッドと対峙しようとするがブルースペイダーから虎太郎の声が響いた。

 

『一夏君!箒ちゃんをつれてすぐにそこから逃げるんだ!』

 

「虎太郎さん!でも!」

 

『そいつは普通のアンデッドとは違うんだ!すぐにそこから逃げるんだ一夏君だけじゃ勝てないんだ!』

 

「なんなんですかこいつ!?」

 

『・・・・・・そいつは“ジョーカー”だ!』

 

 

 

 

 

 

ジョーカーは口から煙を吐き出しながら目の前にいるIS“紅椿”を纏った箒とブレイドにゆっくりと近づいてくる。

 

一歩ずつ距離が縮まるたびに凄まじい殺気が二人に襲い掛かってきた。

 

ブレイドはなんとか意識を保っているが箒は目が白くなり口端から泡が出てきていた。

 

やばい、このままじゃ箒が危ないと判断したブレイドは彼女を抱えてその場所から離れようとする。

 

しかし、ジョーカーの右手にブーメランを取り出すと、一気に間合いを詰めてブレイドに切りかかる。

 

ブレイドは咄嗟にホルダーからブレイラウザーを引き抜いて片手で攻撃を受け止めるが。

 

「重たい・・・・なんだ、こいつの攻撃!」

 

両者はしばらくつばぜり合いをしていたがジョーカーが距離を置く。

 

ジョーカーは唸りながら胸を押さえて苦しみだす。

 

「今のうちに逃げる」

 

ブレイドはラウザーをホルダーにしまいこんでブルースペイダーに箒を載せて一緒に走り出す。

 

残されたジョーカーは苦しんでいたかと思うとまた起き上がる。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

宿に一夏達が戻ると、虎太郎が尋ねる。

 

「俺は大丈夫です・・・でも」

 

ちらり、と隣の箒を見た。

 

彼女は意気消沈していた。

 

ISで戦っていたのがアンデッドではなく、人だったという事実に戸惑い、苦しんでいた。

 

「すいません、虎太郎さん、箒の事、よろしくお願いします」

 

「一夏君、どこに?」

 

「あいつを探してきます。今ならまだ間に合います」

 

「ダメだ」

 

出て行こうとしたら千冬が止める。

 

「千冬姉、なんで!」

 

「先ほど・・・・橘朔也から連絡があった。ギャレンが到着次第、最優先でジョーカーを封印しろと、それまでは待機・・だそうだ」

 

「封印!?あいつは人間なのに!」

 

「残念ながら彼はもう人間ではない」

 

「嶋さん!」

 

旅館の入り口に現れたのは上級アンデッドの嶋だった。

 

「どういうことですか!もう人間じゃないって・・」

 

「彼の体は既に我々と同質のものになってしまっている・・・・もう、人間には戻らない」

 

「だからって、封印しなくても」

 

「一夏君・・・・残念だけど、ジョーカーは危険なんだ」

 

虎太郎の言葉に一夏が反論する。

 

「危険って、確かに凶暴でしたけど、でも・・・あいつは!」

 

「バトルファイトでジョーカーが生き残れば、この世界はリセットされてしまう、としてもか?」

 

「弾・・」

 

旅館の入り口にレッドランパスが停車して弾が入ってきた。

 

「どういうことだよ・・・・それ」

 

「橘さんから・・ジョーカーについて、教えてもらった。お前のところにもジョーカーについての情報が入っているんじゃないのか?」

 

一夏が携帯電話を開くと、確かに橘からジョーカーの情報が載っていた。

 

そして、弾の言うとおり、バトルファイトでジョーカーが生き残ると、世界がリセットされる。

 

実際、剣崎がジョーカーを封印しなかったら世界はリセットされるところだった。

 

「俺達が最優先でジョーカーを封印しないと世界がヤバイ。俺達三人でもジョーカーに勝てるかどうかわからない・・・・一夏、覚悟決めろ」

 

「でも・・」

 

一夏は悩んでいた。

 

富樫始、自分のせいであんな道を歩む事になってしまった彼を封印、出来るのだろうか?

 

――無理だ。

 

なんといわれても彼は人だ。

 

――人を封印なんて、俺には。

 

「弾!アイツは始なんだ!俺達と一緒に遊んで、笑ったりした」

 

「違う」

 

一夏の言葉を弾は否定する。

 

「アイツはもう俺達の知っている富樫始じゃない!ジョーカーだ。人類の天敵と言っていいくらい危険な存在だ・・・・一夏、お前、アンデッドを守る為にライダーになったのかよ?違うだろ!人を守る為のライダーだ」

 

弾の言葉に一夏は反論できない。

 

彼のいう事は正しく事実だった。

 

けれど、一夏は納得して戦うという事が出来ない。

 

「俺はヤツを封印する。それが俺達にできることだからな」

 

弾はそういって旅館を出る。

 

 

 

 

「一夏・・・・私も」

 

 

「みんなはここで待っていてくれ、ここなら嶋さんがいるから安全だから」

 

「・・・・一夏君」

 

ついてこようとする彼女達に待っているようにいい、一夏も外へ出ようとした。

 

嶋に呼び止められて一夏は止まる。

 

「もし、悩んでいるのなら希望を探すんだ」

 

「?」

 

「希望は日本に来ている」

 

その一言で、一夏の脳裏にある記憶が蘇る。

 

「ありがとうございます!嶋さん!」

 

一夏はブルースペイダーに乗って旅館を出る。

 

「(希望は日本に来ている・・・・もしかしたら、もしかしたらなんとかなるかもしれない!)」

 

ヒューマンアンデッドを探すために一夏は弾達とは別の方に向かった。

 



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第二十一話

廃れた工場の中、私の前に黒い異形が私の前に舞い降りる。

 

現れた異形に周りの人達は叫びながら銃口を向けた。

 

ISが世界に浸透している中でも銃は利用されている。

 

黒い影に向けられていた銃口はさっきまで私を殺すために向けられていた。

 

でも、今は目の前に現れた黒い影のために向けられていた。

 

黒い異形は私の前に立ったまま動かない。

 

恐怖に駆られたのか彼らは引き金を押した。

 

大量の弾丸の雨が黒い異形に降り注ぐけれど、弾丸は彼の体に弾かれて地面に落ちる。

 

カラカラ、と乾いた薬莢の音が木霊する。

 

銃弾の雨を進みながら、一人、また一人と人が死んでいく。

 

人が死んでいるというのに、私は酷く冷静だった。

 

少し前まで殺されそうになっていたから感情が麻痺したのかもしれない。

 

十分ぐらいして暗い部屋の中には私と彼しかいなくなった。

 

傍には大量の死体が転がっている。

 

黒い異形から彼は人の姿になった。

 

「キミは・・」

 

私の目の前にいたのは誘拐される直前に助けてくれた日本人の旅行者さんだった。

 

大好きなお母さんが眠っている墓の前にやってきた人。

 

泣いている私に道を尋ねてきた変わった人で。誘拐された時に銃で撃たれてどうなったのか気になっていた。

 

生きていてくれてよかった・・・・。

 

私は安堵した。

 

「・・・・これからどうする?」

 

いきなり問われて、私はわからなかった。

 

「え・・?」

 

「あの家に戻るか?」

 

戻るか、といわれて理解した。

 

私を殺そうとした人達のところに戻るかどうか。

 

 

 

そんなの。

 

 

嫌だ。

 

 

あんな所に戻っても私には地獄しかない。

 

 

私はあの人たちの家族じゃないのだから。

 

 

愛人との間に生まれた泥棒猫、それが私なんだ。

 

 

あそこに、居場所なんかない。

 

 

「なら、俺とくるか?」

 

 

そういって、私に手を差し伸べる。

 

「俺がいるのは真っ暗闇の世界だ。生きるためならなんでもする・・・・そうまでして生きたいか?お前が決めろ」

 

 

「私が・・・・決める?」

 

 

こくり、と彼は頷いた。

 

 

私が決めろといわれたことなんてない、今までは用意されたレールの上を歩いてきたようなもの、お母さんが死んで、引き取るから来なさいといわれて、生活して。

 

 

ただ、理由もなく生きていた。

 

 

どうするか、と考えているけれど、答えが出てこない。

 

 

「・・・・すぐに答えは出ないか」

 

「・・・・うん」

 

「・・・・・・場所を変えてそこで考えるといい、もし、生きていくのが辛いなら」

 

そこから先の言葉を私は今でも思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あれ」

 

シャルロットは体を起こす。

 

周りを見ると、小さな小屋の中らしく、畳の上に自分は寝かされていて、その上には布のようなものが乗せられていた。

 

「・・・・私、なんでここに?」

 

「気がついたかい?」

 

入り口が開いてそこに現れたのは。

 

「・・・・始?」

 

「違うよ」

 

目の前の青年は小さく笑う。

 

「キミは本当に彼の事が好きなんだね」

 

「・・・・っ!」

 

好きという言葉にシャルロットの顔は赤くなる。

 

「はじめまして、僕はヒューマンアンデッドだ」

 

「貴方が!?」

 

始から存在だけは聞いていた。

 

人類の始祖であり、太古に行なわれた戦いの勝利者。

 

始が予想していた最後の獲物。

 

最後といっていた理由をシャルロットはわからなかった。

 

 

――勝利者だから?

 

 

――それとも。

 

「どうして・・・・私を?」

 

「キミにとっての希望が彼であるように、彼の希望であるキミを失うわけにはいかないから助けた」

 

「・・・・希望?私が・・・・?」

 

「彼に何が起こったか・・・・覚えているかい?」

 

シャルロットは首を横に振る。

 

「彼は・・・・ジョーカーになってしまった」

 

「ジョーカー?」

 

「バトルファイトにおいて、どの始祖にも属さない最悪の存在。もし、ジョーカーが勝利すれば世界はリセットされてしまう」

 

「リセット・・・・?」

 

「消滅という意味だよ」

 

「消滅っ・・・・」

 

「結果的に僕が勝利したからそうならなかった・・・・そして」

 

二度目、人為的に引き起こされたバトルファイトで、ヒューマンアンデッドはジョーカーに封印された。

 

封印されたヒューマンアンデッドの影響でジョーカー、相川始に大きな変化が起こる。

 

「彼は、戦うだけの存在じゃなくなり、“もう一人”のジョーカーの陰謀を阻止するために自らを犠牲にした」

 

全ての戦いが終わってから起こってしまった事件。

 

アルビノジョーカーによって解放されたアンデッド達が暴れて、超古代の遺産を巡っての戦いがあった。

 

「そして、本当に全てが終わったと思っていた・・・・でも、終わりじゃなかったんだ」

 

「どういう、意味ですか?」

 

「・・・・ジョーカーの細胞を何者かが採取して、彼に埋め込んだ。彼がアンデッドの姿に変身できるのは体内にあるジョーカーの細胞が原因だ。しかし、アンデッドの力を引き出していくことによって体内の細胞が活性化し肉体を書き換えて、最終的にはジョーカーを生み出してしまう」

 

「始は・・・・元に・・戻れないんですか!」

 

「・・・・戻る事は出来る・・・・かもしれない」

 

「教えてください!どうすれば始は!始は人間に戻れるんですか!?」

 

「彼をジョーカーから人間の姿に戻すための方法がある・・・・けれど、その方法は・・彼にとって辛い結果になったとしても、キミは彼に戻ってもらいたい?」

 

ヒューマンアンデッドの言葉にシャルロットは迷わずに頷く。

 

これは自分のエゴだ。

 

始に人間として自分の傍にいて欲しいというエゴ、だが、彼女はそれを貫き通す。

 

「私のエゴだとしても、始と一緒にいたい」

 

「そうか・・・・」

 

ヒューマンアンデッドは小さく呟いて。

 

「方法はある・・・・でも、そのために僕が封印されないといけない」

 

「貴方を封印?」

 

そうだよ、と彼はプロバーブランクを取り出してシャルロットに差し出す。

 

「僕を封印しハートスートのカテゴリーのアンデッド達を全て封印して、彼を“進化”させる。そうすれば彼は人間に戻れる・・・・かもしれない」

 

「・・・・・・」

 

シャルロットは手元のプロバーブランクを見る。

 

「(これを使えば)」

 

「その前にカテゴリーKをなんとかしないといけないけどね。少し厄介な事になっているみたいだから」

 

ヒューマンアンデッドは外を見た。

 

 

 

 

 

ジョーカーの行方を追うようにクローンは森の中を歩いていた。

 

道中、邪魔なものがあったらから潰したために服が汚れてしまった。

 

赤い染みに苛立ちながらもクローンはジョーカーを追う。

 

「あいつ・・・・どこに消えやがった」

 

クローンがジョーカーを追う理由、それは。

 

「見つけたら・・・・封印してやる・・・・そして、お前の全てを奪ってやる・・・・きひひ」

 

「あーあ、変な事になっているし」

 

クローンは右腕の真空刃を投げる。

 

声の主に直撃する直前に空中に盾が現れて真空刃を受け止めた。

 

「あっぶないなぁ・・・・ハートスートのカテゴリーキングってこんな乱暴なヤツだったっけ?・・・・って、あぁ、封印されているカードの力を吸収しているのかぁ。面白いなぁ」

 

そこに立っていたのは髪を染めた青年だった。

 

青年は面白いものを見るような笑みを浮かべていた。

 

「きひひ・・・・邪魔するなら殺してやるぞ」

 

「偉そうなこと言うなよ。そのカードの力がないと何も出来ない癖に」

 

「・・・・・・」

 

「あまり、僕らを舐めない方がいいよ?特に、ブレイドにはねぇ・・・・今回のブレイドは面白そうなヤツだし、少し遊んでこよっと・・・・キミも遊ぶなら急いだ方がいいよ~」

 

青年はにこりと笑ってクローンの前から姿を消す。

 

クローンは腕を引きずりながら森の中を進む。

 

一瞬だが、クローンの姿がアンデッドへと変わる。

 

それを見ながら青年は笑う。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ブルースペイダーで舗装された道路を走りながら一夏は必死に考えていた。

 

富樫始から聞いた真実。

 

ISが浸透してから世界は大きく変わった。

 

一夏と始の周辺にも変化は出た。

 

姉のようになれるという重たい期待が自分に押し寄せられて見ず知らずの人からも勝手な期待を押し付けられて、一時、自暴自棄になったことがある。

 

クラスメイトからも羨望と嫉妬、期待の視線を向けられた。

 

始はどんな事があっても傍にいて自暴自棄になりかけた自分を支えてくれた。

 

自分の事ばっかりで始に何が起こっていたかどうかなんて考えなかった。

 

もしかしたら自分よりもひどい事が起こっていたのではないだろうか?

 

気づかれないようにしていたのかもしれない。

 

もしそうなのだとしたら・・。

 

「俺はなんて・・・・最低なんだ」

 

ずっと、友達に守られていたのに、そんな事に気づかず、剣崎と出会った時にようやく救われたと思い、仮面ライダーになりたいとして・・・・そして。

 

「(始の事に全く気づかなかった・・・・)」

 

「そして、彼はジョーカーになった」

 

一夏は目の前に現れた青年に驚いてバイクのブレーキを押す。

 

スリップしながらバイクは青年に触れるか触れないかの距離でとまる。

 

「やぁ、ブレイド」

 

「・・・・・・誰だ?お前」

 

「先代のブレイドから聴いていないかい?僕はスペードスートのカテゴリーキングだ」

 

「お前がっ!?」

 

「そうだよ」

 

「何の用だ?俺は急いで――」

 

「ジョーカーを何とかしたいんだろ?僕の力を上げようか?」

 

「お前の力・・?」

 

青年の提案に一夏は驚きの表情を浮かべる。

 

「そう、カテゴリーキングの力・・・・ただではあげないよ?キミが僕を封印できたらだけどね」

 

直後、青年が金色のカブトムシ、コーカサスアンデッドとなり、持っている剣で一夏に襲い掛かる。

 

咄嗟に一夏が腰に巻いていたターンアップハンドルを引いてブレイドに変身して剣を受け流しパンチを叩き込もうとしたが、コーカサスの片腕に装着した盾によって攻撃が弾き返される

 

「なにっ・・がっ!」

 

驚いているブレイドの顔にコーカサスの剣が直撃して地面を転がる。

 

視界がぶれる中でラウザーホルダーからブレイラウザーを引き抜いて構えた瞬間、コーカサスが手を振り上げた。

 

その途端、ブレイドのホルダーから全てのプライムベスタが空に舞う。

 

「そんな!?」

 

「キミは封印されたアンデッドの力で戦っていただけに過ぎない。それさえなかったらキミは敵じゃない」

 

コーカサスは地面を蹴ってブレイドに斬りかかる。

 

ブレイラウザーで受け流そうとするが強力な一撃が肩のアーマーに突き刺さった。

 

「ぐっ!」

 

「ほらほら、反撃しないと負けるよ」

 

コーカサスは笑いながらブレイドに攻撃を仕掛ける。

 

ブレイドはコーカサスが振るう攻撃を避けるか受け流すしか出来なかった。

 

何故か、体が重い。

 

敵の一撃一撃を受けるたびに何かが失われていくような感覚があった。

 

「なんだよ・・・・面白そうだと思っていたのに期待外れだ・・・・死んでよ」

 

振るわれた一撃がブレイドのアーマーを貫通して一夏の体を貫く。

 

折れたブレイラウザーが地面に落ちて、赤い液体が流れ落ちる。

 

「さよなら」

 

ゆっくりと、一夏の体は地面に落ちた。

 

 

 

 

 

そこは全てが暗闇の世界。

 

「つまんねぇとこで死んでんじゃねぇぞ」

 

「始・・」

 

目の前には黒のコートを纏った富樫始が立っていた。

 

「どうして・・」

 

「お前のどうしては俺がここにいることか?それとも人間の姿をしている事か?両方について答える事はできるが生憎、時間がねぇ」

 

富樫始は一夏を殴り飛ばし胸倉を掴んで持ち上げる。

 

「俺が真実を話した途端、揺らぎやがってムカつくったらねぇよ。殴り飛ばすぞ。この野郎」

 

「既に殴ってからいうことじゃないだろ!?」

 

俺は文句を言いながら始を殴ろうとして止まる。

 

「なんだ?殴る気力すら失ったか?」

 

「・・・・ごめん」

 

「いきなり謝るなよ。気持ち悪い」

 

「だって・・・・俺が苦しんでいた時にそんな様子も見せないで、それなのに俺は全く気づかないで、お前の苦しみとかそういうのに」

 

「・・・・」

 

始は黙って何も言わない。

 

何も言わないから一夏はさっきまで溜まっていた後悔の言葉があふれ出る。

 

「俺が、俺なんかが織斑一夏だったから、千冬姉の弟だったから、他のやつらまで迷惑かけて・・・・お前が化け物になるのをとめられ」

 

「シャラーップ!」

 

「ぶげし!?」

 

いきなり会話の途中で始のケリが炸裂して、後ろに倒れこむ。

 

今さらながらここは暗くてどこが終わりなのかわからない。

 

ごろごろと地面を転がってようやく止まったところに始はやってきて胸倉を掴む。

 

「お前は神様か英雄かなにかか?」

 

「え・・・・」

 

「何でも完璧にこなせる神様かなにかかって聞いているんだ?違うだろ?お前は人間だ。人間っていうのはいろいろな所で失敗を重ねて成長して行く生き物なんだよ。お前が失敗していった分、成長して行くものがある・・・・人間なんてそんなもんだ。あと、お前に俺のことまで心配されたくない」

 

「なっ・・・・」

 

「これは俺が覚悟して駆け抜けた果てにやってきた結末だ。後悔はねぇし、人間やめることに未練もねぇ。元々、全てを一度失った人間だ」

 

「そんな」

 

「そんな悲しい事いうなって?確かに悲しいかもな・・でも、俺は幸せだった。得る事のない幸せを少しの間・・・・満喫できた」

 

始は何かを懐かしむような顔をしていた。

 

一体、何を思っているのだろう。

 

「だから、アンデッドとして俺を封印するなら躊躇うな。福音を通して辛うじてお前と繋がっているがはっきりいってかなり無理してる・・・・仮面ライダーとして人を守ろうと考えているなら躊躇うことなく俺を封印しろ。嘗てのブレイドはそうやって人々を守った」

 

「・・・・」

 

「でも、もし、それ以外の方法を探すっていうんなら・・・・」

 

始はそこで真っ直ぐに見る。

 

「少しくらいは待ってやる・・・・真実を知ろうとしてくれた友へのお礼としてな・・・・長くはまてねぇぞ」

 

「はじ・・」

 

「今度、話す機会が出来たら落ち着いた所で冷静に話し合いたいな・・どこか、俺は冷静じゃなかったしな・・あぁ、最後に・・・・一つだけ」

 

遠ざかっていく始は一言だけ残して去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方はどうしたいの?』

 

聞こえてきた声、

 

それに一夏は。

 

「もう一度・・・・ちゃんと始と話がしたい・・・・あいつは全部を話していない・・・・俺は知りたいんだ・・・・ちゃんと、そして、今度こそ。向き合いたい」

 

『どんなに残酷で悲しい事だとしても?また傷つく事になっても?』

 

「知りたい・・・・それに」

 

『それに?』

 

「傷つきあって俺とあいつは友達になったからな・・・・傷つく事ぐらいどうってことないさ」

 

『・・・・・・貴方でよかった』

 

 

ぴくりとブレイドの指が動く。

 

「ん?」

 

異変に気づいたコーカサスは距離を置く。

 

直後、眩い光がブレイドを包み込んだかと思うと傷ついたアーマーが回復していく。

 

「へぇ、なにそれ!?どうなっているのかな?」

 

アーマーが回復していくと同時にブレイドの背中や腕、足に白い装甲が付与されてブレイラウザー、左手に細長い白い剣、雪片弐型が現れる。

 

「へぇ・・・・第二ラウンドってところかな?」

 

「いや」

 

ブレイドの姿が消える。

 

「ぐっ」

 

同時にコーカサスの体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。

 

「ファイナルラウンドだ」

 

ブレイラウザーと雪片弐型、二対の武器を構えてブレイドは言う。

 

コーカサスは笑いながら剣を振るう。

 

ブレイラウザーを逆手に持って受け流し雪片弐型で反撃する。

 

雪片弐型が変形してレーザー刃となりコーカサスの体を切り刻んでいく。

 

「がはっ・・ははっ!」

 

笑いながら盾で防ぐがレーザー刃に一撃で切り裂かれる。

 

「これで・・・・終わりだぁ!」

 

ブレイラウザーを持ち直し、二本の刃がコーカサスの体を貫く。

 

「まだだよ!」

 

剣で体を貫かれながらコーカサスは持っている剣を振り上げるが顔に白式の装甲を纏った右手を突きつけて。

 

「本当に終わりだ」

 

掌から光線が放たれてコーカサスは爆発して地面に崩れる。

 

かちゃり、と腹部のバックルが音を立てて開く。

 

「あーあ、また負けちゃったか・・・・でも、面白いものを見れたからよしとしょうかなぁ」

 

「・・・・」

 

近づいていくブレイドにコーカサスアンデッドは笑って。

 

「どうせだから良い事教えてあげるよ。ここから少し先に行ったところにヒューマンアンデッドがいるよ・・・・それと・・・・僕を封印したからって油断しないでね。キミが少しでも油断したら僕が体を乗っ取っちゃうから。クラブのキングやクィーンと違って、僕らは甘くないからね」

 

ブレイドはプロバーブランクを地面に落とす。

 

地面に落ちたカードにコーカサスは吸い込まれてプライムベスタがブレイドの手の中に。

 

カテゴリーキングのプライムベスタ。

 

一夏は変身を解除して、ブルースペイダーに乗って走る。

 

ヒューマンアンデッドに会うため、最善の道を見つけるために。

 

 



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第二十二話

「鈴さん、どうですか?」

 

「ダメだわ。部屋に閉じこもっちゃってる」

 

「無理やり突入するか?」

 

彼女達はひそひそと話をしていた。

 

「そんなことしても逆効果よ」

 

「しかし、わからん」

 

「何がですの?」

 

「アンデッドが強いことは理解している。ISで倒しても封印する事ができないから嫁達が戦うというのはわかっているんだが、何故アイツはあそこまでして戦う事にこだわる?そこがわからん」

 

ラウラは箒が閉じこもっている部屋を見てからずっと気になっていた。

 

一夏をサポートしようとする気持ちは彼女達にもある。

 

だが、篠ノ之箒はどういうわけかずっと一夏の隣で戦おうとしている動きがあった。

 

ISではアンデッドを封印する事はできない。

 

戦う事はできるが代表候補生でも苦戦するような相手、それがアンデッド。

 

だから。

 

「姉に頼んで第四世代のISを望んだのかしら?」

 

「そこは本人だけが知る事ですわ。私達はここで待っていることしか」

 

突如、大きな音が旅館に響いた。

 

「何ですの!?」

 

「玄関からだ」

 

「行くわよ!」

 

三人は廊下を走る。

 

 

異変を確認するために向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は部屋に閉じこもっていた。

 

彼女は後悔していた。

 

「(また、やってしまった)」

 

力におぼれて滅茶苦茶な事をした。

 

――昔と同じ。

 

中学の頃、箒はただ力を振るう少女だった。

 

彼女はISによって人生を狂わされてしまった。

 

姉である篠ノ之束がISを発表して、引き起こした白騎士事件。

 

国が要人保護プランを実行したために箒は家族と引き離され、住んでいた街を引越し、一夏や始と会えなくなった。

 

一人になった箒は力を求めた。

 

自分が力さえ手にしたら誰にも守られる事はなくなる。

 

姉の事に振り回されることもなくなり、二人の元に帰れるかもしれない。

 

それに、剣を振るっていれば一夏や始と繋がっていられる。そんな気持ちもあった。

 

一夏と始は千冬が父に指導してもらっている時に一緒に入門した子どもで、はじめは仲が悪く、毎日のように喧嘩していて、最後に竹刀でぶつかりあっていた。

 

そんなある日、自分の誕生日に一夏と始はリボンをくれた。

 

「髪が長いと大変だろ?」

 

「俺とこいつで選んだんだ、よかったら使ってくれ」

 

いらない、といって押し返そうとしたがプレゼントを押し返すなんてひどい事いうなよといわれてもらうだけもらった。

 

次の日、リボンをつけて学校に行ったらいじわるで有名な子達にからかわれた。

 

「男女がリボンしているぞぉ!」と、ずっと言い続けて、放課後も掃除をせずにずっとからかっていた。

 

別に、悪口を言われる事になれている。無視すればいい。

 

箒はそう考えていた。

 

だが、

 

「おい、お前たちも掃除手伝えよ」

 

「なんだよ、織斑いい子ぶるなよ」

 

「別にそいつはいい子ぶってないよ。早く帰りたいから終わらせようとしているんだ。お前らみたいに無駄な事に時間費やしていないの」

 

「なんだと・・とがしぃ」

 

「おー、怖い怖い、女の子いじめることでしか楽しみのないヤツはこわいわぁ」

 

「誰が女だ!」

 

「いや、お前だろ・・」

 

富樫始と織斑一夏のことは嫌いだった。

 

口は悪い、けれど、剣の腕に関しては見込みがあると父に評価をもらっていたからというのもある。

 

でも、始は剣に関してはそこまで興味がないみたいで、ただ、親にいわれてという事で織斑一夏は姉と一緒に剣を振るうために入門した。

 

特に何か思いいれがあるというわけもない。

 

――いつも、面倒そうな表情をしているヤツ。

 

――バカみたいに真っ直ぐなヤツ。

 

それが箒の抱いていた最初の印象だった。

 

似ていないのに、どういうわけか始と一夏は互いをライバル視していて、ことあるごとに喧嘩していた。

 

但し、他の人間がいじめられていたりすると、一緒になって助けたりと変なところで呼吸のあう二人だった。

 

「そんなくだらないことしてないで早く手伝えよ。それに、こいつのリボンのどこが似合ってないんだよ。似合っているだろ」

 

「おいおい、お前、男女のこと好きなのか?」

 

「将来、結婚するんだろう!」

 

「そもそも、こんなヤツに女の子みたいな格好にあうわけないだろ?したとしても似合わないし」

 

こういう年齢の子どもというのははやし立てるのが大好きだ。

 

それがお互いの人間関係にどんな影響を及ぼすか考えず。

 

残酷にも子どもというのはそういうものだった。

 

「なっ・・」

 

黙り込んだ箒に対して、一夏は持っていた掃除用具を置いて、始はランドセルをぽいっと放り投げて、いじめっこたちに近づいた。

 

そして、

 

「「謝れ!」」

 

二人同時に拳を繰り出した。

 

その後、喧嘩になった彼らを止めるために教師がやってきて、事情を知った親が責めにきたが千冬さんと始の両親の逆襲にあっていじめっこ達の親はすいません、と謝罪する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちはバカだ」

 

「いきなりだな」

 

「バカっていうなよ」

 

「バカだ。あんなの方っておけばよかったんだ」

 

「結果、篠ノ之は苛められ続けるんでした。マル」

 

「そんなのダメに決まってるだろ。それにこれからは気づかれないように色々やる」

 

「やはりバカだ」

 

「お前・・・・あのリボン外すなよ」

 

唐突に一夏は言う。

 

「似合っていたからな」

 

「・・・・織斑」

 

「一夏だ」

 

「なに?」

 

「織斑だと千冬姉とかぶる。俺の事は一夏って呼べ。篠ノ之」

 

「・・・・それだと家族とかぶる。私の事は箒と呼べ」

 

「俺はどっちでもオーケーだぜ。篠ノ之」

 

「会話に割り込むな。始」

 

「うるせぇよ。一夏、二人だけで楽しく会話しやがって」

 

それから箒が引っ越すまで三人で楽しく遊んだりした。

 

時々、本当に時々、始は悲しそうな顔をする時があって、箒はその理由がわからなかった。

 

離れてしまってから箒は一心不乱に剣道に打ち込んだ。

 

剣道を続けていれば二人と繋がっていられる。

 

その結果、全国まで行く事にはなった。

 

だが何かがぽっかりと空いているような感覚が日に日に大きくなっていく。

 

必死にそれを無くそうと剣を振るった結果。

 

――剣道で相手を傷つけるようになっていた。

 

「私は・・・・もう・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凰鈴音は双天月牙を現れた男に叩き込む。

 

しかし、男は指で双天月牙を受け止めて小さく笑う。

 

「きしし、この程度か?」

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

ゼロ距離での衝撃砲を男に叩き込む。

 

本来なら人間にそんなものを撃ち込めば死んでしまうだろう。

 

なのに、鈴音は躊躇わなかった。

 

「こいつ・・・・」

 

煙の中、現れた姿に鈴音は息を呑む。

 

そこにいたのはアンデッド。

 

ただの、アンデッドではない、ハートスートのカテゴリーK、パラドキサアンデッド。

 

パラドキサアンデッドは右腕に真空刃を展開して双天月牙ごと衝撃砲を斬りおとす。

 

「こんのぉおおおおおおおおおおおお!」

 

片方の衝撃砲で攻め込むと同時に上昇する。

 

入れ替わるようにラウラのシュヴァルツェア・レーゲンとセシリアのブルーティアーズのレーザー攻撃がパラドキサアンデッドに直撃する。

 

体から緑色の血を噴き出しながらも接近してくるパラドキサアンデッドもセシリアとラウラの二人は息を飲む。

 

「なんというヤツだ」

 

「・・・・不気味ですわ」

 

止まらないパラドキサにラウラは驚き、傷ついても進むという行動をセシリアは嫌悪した。

 

ぴくっ、とパラドキサアンデッドの動きが止まる。

 

「不気味?・・・・不気味だと?」

 

小刻みにパラドキサアンデッドが震えだす。

 

「不気味の何が悪い!?何もかも綺麗な方がどうかしている!綺麗な世界がいいなんてどうかしている!そんなもの、根こそぎ破壊してやる」

 

「な、なんなのよ!こいつ」

 

「危険ですわ。鈴さん一旦距離を!」

 

何が起きたのかわからなかった。

 

セシリアの視界がぐらり、と歪んで地面に叩きつけられた。

 

「セシリア!?」

 

ラウラが叫んでこちらにプラズマ手刀を叩き込もうとしたが指先が見えない刃で破壊される。

 

「不気味だっていったお前らは死んでしまえぇよぉおおおおおおおおお」

 

パラドキサアンデッドが右腕を振り上げた瞬間、緑色の光がパラドキサアンデッドとセシリアを襲う。

 

「きゃぁっっ!」

 

衝撃を受けたセシリアは地面を転がる。

 

ブルーティアーズはダメージが危険域に達したようで強制解除されてしまう。

 

「・・・・・・・・お前・・・・何故」

 

パラドキサアンデッドは旅館の入り口を睨んでいた。

 

セシリア達も見ると、そこには――。

 

「・・・・アンデッド・・・・?」

 

「だが、なんだ、この禍々しい殺気は・・・・」

 

「あれ・・カリスだったヤツよね」

 

旅館の入り口に入ってきたのはジョーカーアンデッドだった。

 

「ジョーカー・・・・っ!」

 

パラドキサアンデッドは忌々しいものを見るような声を出して真空刃を放つ。

 

真空刃を体に受けてジョーカーの肩から緑色の血が噴き出して壁に飛び散るがジョーカーは止まらず右手に持っている鎌を振り上げた。

 

ニ撃目の真空刃をジョーカーは鎌を振り下ろして無効化する。

 

「貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ァ!」

 

パラドキサアンデッドは何が憎いのかジョーカーに恨みの声をあげて次々と真空刃を放つ。だが、先ほどと同じようにジョーカーは右手に持っている鎌で次々と叩き落す。

 

パラドキサアンデッドに残された手段は素手による攻撃のみ。

 

「憎い!」

 

繰り出された拳をジョーカーは顔に受ける。

 

風を斬るような音と大きな爆発がジョーカーに起こった。

 

普通の人間なら火傷で済まない。

 

「・・・・・・」

 

「っぁ!?」

 

だが、ジョーカーは全くの無傷でパラドキサアンデッドが繰り出した手を掴んでいた。

 

パラドキサアンデッドがその手を抜こうとするがびくともしない。

 

バキャリと嫌な音が聞こえた。

 

セシリア達は顔を背ける。

 

「ぐ・・・・ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

パラドキサアンデッドの手があらぬ方向に曲がっていて、緑色の血が手から滴り落ちてジョーカーの顔にかかる。

 

表情を変えることなく鎌でパラドキサアンデッドの体を切り刻んでいく。

 

セシリア達に受けていた傷よりもさらに深く、大きなダメージがパラドキサアンデッドを襲う。

 

「ぐっ・・・・ぐぐぐぅ!」

 

このままでは負けると判断したのかパラドキサアンデッドは周囲に真空刃を放ち爆風を巻き起こす。

 

その隙にパラドキサアンデッドは逃げ出し、残されたのはジョーカーとISの専用機持ち。

ジョーカーの行動で次の動きが決まる。

 

セシリア達が身構えているとジョーカーは背を向けて旅館から姿を消そうとした。

 

だが、彼の前にレッドランバスとグリンクローバーが停車する。

 

乗っているのは五反田弾と更識簪。

 

二人はギャレンバックルとレンゲルバックルを腰に装着している。

 

「「変身!」」

 

青と紫のオリハルコンエレメント、スピリチアエレメントが展開して二人はギャレンとレンゲルに変身。

 

ギャレンはギャレンラウザーでジョーカーに攻撃する。

 

体に光弾を受けてジョーカーは仰け反り、攻撃の間を抜けるようにしてレンゲルがレンゲルラウザーにプライムベスタをスキャンさせる。

 

『ラッシュ』

 

貫通力が付与されて、強化されたレンゲルラウザーをジョーカーに繰り出す。

 

三枚のエッジが届く直前でジョーカーは鎌で攻撃を防いでいた。

 

ジョーカーの鎌が緑色に輝いてレンゲルに振り下ろされる。

 

「あうっ!」

 

振り下ろされた一撃がレンゲルのアーマーを貫いて火花を散らしてレンゲルが後ろに飛ぶ。

 

「簪!」

 

倒れたレンゲルをギャレンは抱き起こしギャレンラウザーで反撃しながら距離を稼ぐ。

 

「弾!」

 

「鈴、簪を頼む」

 

駆け寄ってきた専用機持ち達にギャレンは顔を上げる。

 

「大丈夫か、簪」

 

「うん・・・・ありがとう、ラウラ」

 

ジョーカーの一撃でレンゲルバックルの表面が傷つき、変身が強制解除された。

 

ギャレンはラウズアブソーバーから二枚のプライムベスタを取り出す。

 

 

 

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

 

体の各部がディアマンテゴールドで覆われ、胸部にダイヤのカテゴリーJの孔雀の紋章が刻印され、背中にオリハルコンウィングが装備される。

 

ギャレンラウザーの先端にはディアマンテエッジが装備された。

 

そして、ジョーカーへ強化されたギャレンラウザーを構えて地面を蹴る。

 

ジョーカーは鎌で攻撃を受け止めて拳を繰り出すがゼロ距離でギャレンラウザーの光弾が直撃して後ろに倒れこむ。

 

倒れる際に緑の斬撃がギャレンを襲う。

 

「がっ!」

 

ばちばちと火花を散らしてギャレンは後ろに仰け反るがジャックフォームになり強化されたアーマーが壊れる事はない。

 

ギャレンはギャレンラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタを読み取る。

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『バーニングスマッシュ』

 

ギャレンは空高く舞い上がって炎を纏った両脚蹴りをふらついているジョーカーに叩き込む。

バーニングスマッシュを受けたジョーカーは後ろに吹き飛び地面に倒れこんだままぴくりとも動かない。

 

倒れて動かないジョーカーにプロバーブランクを投げ入れようとする。

 

「やめろ、弾!」

 

ブルースペイダーに乗ったブレイドがジョーカーとギャレンの間に割って入った。

 

「一夏!邪魔するな!」

 

「やめろ!まだこいつを何とかする方法があるかもしれないんだぞ!」

 

「それでもこいつが生き残っているのは危険だ!わかっているだろ!ジョーカーが最後の生き残りになったらどうなるか!」

 

だからといって、一夏は始を見捨てられるわけがない。

 

最善の方法を探す。

 

ヒューマンアンデッドを探して。

 

 

そして。

 

 

「今ここでこいつを封印させない」

 

「・・・・一夏・・・・!」

 

一夏の言葉に弾は仮面の中で顔を歪めた。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

ブレイドもジャックフォームになりディアマンテエッジが付与されたブレイラウザーを構える。

 

「一夏、あんた弾と戦うつもり!?弾も本気じゃないわよね!?」

 

鈴音が叫ぶが弾と一夏は答えない。

 

両者は地面を蹴ってぶつかりあう。

 

ブレイラウザーとギャレンラウザーがぶつかり合い、両者ともに一歩も引かない。

 

「弾、ヒューマンアンデッドが日本に来ている!あの人から話を聞けばジョーカーをなんとかできるかもしれないんだ!」

 

「ヒューマンアンデッドが全てを知っているとは限らないだろ!それに橘さん達から聞いた話を忘れたのか。ジョーカーを最後に残してがために起こった事を!あいつが最後になったせいで失った命もあるんだぞ!」

 

「今回もそうなるとは限らない!封印して全て解決でいいわけがないだろ!元は人間だぞ!」

 

「人間だろうとそうでなかろうとジョーカーが危険なことには変わらない!それを封印するのがライダーの使命だ」

 

ギャレンに押し切られてブレイドは後ろに下がる。

 

下がったブレイドにギャレンは光弾を撃つ。

 

攻撃を受けたブレイドは後ろに倒れそうになるのをこらえる。

 

「邪魔するなら少し痛い目を見ろ!」

 

『バレット』

 

『ラピッド』

 

『ファイア』

 

『バーニングスマッシュ』

 

ギャレンが空高く舞い上がるのを見ながらブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開してプライムベスタを読み取らせた。

 

『スラッシュ』

 

『サンダー』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

「だぁあああああああああああああああああああ!」

 

「ウェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイ!」

 

ギャレンが繰り出した攻撃をブレイドは掻い潜って雷撃を纏ったブレイラウザーをギャレンに叩き込んだ。

 

「がっ!?」

 

叩き込まれたギャレンは体に雷を放ちながら地面に落下した。

 

バチバチと火花を散らしてダメージが一定値を超えたため変身が強制解除される。

 

「始!?」

 

ブレイドが地面に着地した時、倒れていたはずのジョーカーがいなくなっていることに気づく。

 

「くそっ!」

 

「一夏!あんたぁああ!」

 

変身を解除した一夏に鈴音が殴りかかる。

 

一夏は彼女の拳を避けず受け止めた。

 

ブレイドになるため厳しい訓練を受けてきた一夏ですら倒れそうになるくらいの衝撃。だが、必死で堪えた。

 

「アンタ!あんな化け物のために友達を攻撃したっていうの!?」

 

「・・・・化け物じゃない!あいつも人間だ!」

 

「化け物よ!アレを見てまだそんな事が言えるの!私から見ても、あいつは人類の敵よ!」

 

鈴音は煙を上げている旅館を指差す。

 

「あいつらが引き起こしたのよ!怪我人も出ている!あいつらから人間を守るのがライダーじゃないの!あんたがやっているのは真逆のことじゃない!」

 

「・・・・」

 

一夏は背を向けて歩く。

 

仲間達に。

 

たった一人の友を助けるべく、

 

最初の、大切な友を救いたいから一夏は選択した。

 

 

今の仲間達から離れる。

 



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第二十三話

“富樫始だった”ジョーカーは誰もいない森の中を歩き続ける。

 

人間だった理性はもうないに等しい。

 

彼にあるのは戦うことへの闘争本能と内にとぐろを巻く目的のない復讐心のみ。

 

理性を失い、記憶が混濁し、彼の中にあるのは他者へのマグマのように煮えたぎる激しい憎悪だった。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

一歩踏み出そうとした途端、ジョーカーの体から銀色の光が噴き出すと同時に緑色の血が噴き出る。

 

「グッ」

 

膝をついて座り込む。

 

まただ、

 

ジョーカーは苛立つ。

 

体に激しい痛みが走る。

 

――原因はわかっている。

 

人間の時に持っていた異物だ。

 

自らを抑え込もうとしていた邪魔なものを弾き飛ばした時に何故か、これだけは外れず、ジョーカーを蝕んでいた。

 

まるでジョーカーを追い出そうとするみたいにずっと攻撃を加えている。

 

その度に体から血が噴き出す。

 

だが、ジョーカーは止まらない。

 

全ての始祖を倒す。

 

そして、全てを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、とんでもない無茶をやらかしたな・・・・昔のお前を見ているようだ」

 

「いやぁ・・・・そういうところまで似ちゃったのかなぁ・・」

 

ブレイドとギャレンの戦いから少し時間が流れて旅館に剣崎と橘の二人がやってきていた。

 

弾は旅館の一室を借りて寝ている。

 

「お二方、のほほんとしているところ悪いが、あれは止めなくていいのか?」

 

千冬が指差した所には寝ている弾の耳元でお説教をしている蘭の姿がある。

 

弾が怪我をしたという連絡を受けて親族を連れて行くために橘が蘭に連絡すると「いきます!」といって学校を早退してついてきた。

 

そして、状況を知った蘭は弾を責めている。

 

傍では簪と睦月がおろおろしていた。

 

「もう!おにぃは一夏さんよりバカなんだからしっかりしてよねぇ!」

 

「おい・・・・俺が一夏よりもバカっていうのは納得できねぇぞ」

 

「病人は口出ししない!」

 

「うっ・・」

 

蘭の威圧に弾は何も言えなくなる。

 

その間も延々と説教は続いた。

 

「だが、俺も弾と同じ考えだ。ジョーカーが危険だというのは同意だ」

 

「・・・・」

 

橘の言葉に剣崎は黙る。

 

昔も橘と剣崎はジョーカーのことで対立して互いに戦った。

 

まるでそれを再現されているような気分だ。

 

「ヒューマンアンデッドを見つけるために一夏君は動いています。俺も行きます」

 

「僕も行くよ!」

 

「・・・・剣崎さん、白井先生、私も同行していいだろうか?」

 

「織斑先生?」

 

「生徒達は山田先生に任せている・・・・一夏の事が心配なんだ。協力させてもらえないだろうか・・」

 

「わかりました・・・・・・橘さんはここで待機してもらえますか?」

 

「あぁ、それと睦月は」

 

「僕は、少し話したい相手がいるんですけど」

 

「そうか、なら頼む」

 

剣崎と虎太郎、そして千冬は虎太郎の車に乗って一夏のブルースペイダーの反応を追跡する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、反応がない」

 

一夏はアンデッドサーチャーを使ってヒューマンアンデッドの行方を捜していた。

 

彼なら、何か知っているかもしれない。

 

ジョーカーとなっている始を救うための方法を。

 

一夏には考えつかないような方法を知っているかもしれない。

 

「(でも、もし・・・・なかったら?)」

 

富樫始を人間に戻す方法がなかったら、自分は。

 

「(仮面ライダーとしてアイツを・・アンデッドとして封印しないと・・・・いけない?)」

 

――出来るのか?

 

かつての友を、アンデッドとして封印する事が出来るのか、と一夏は自問する。

 

考えながらブルースペイダーに戻ろうとした一夏は後ろに下がる。

 

彼が立っていた場所に真空刃が突き刺さり、アンデッドサーチャーが反応した。

 

「・・・・きしし・・」

 

「始・・・・のクローンか」

 

「きしし、またクローン、扱いか」

 

一夏は最初始が現れたのかと思ったが違う。

 

彼からは今まで対峙していた時に感じていた雰囲気がない。

 

「ざぁんねんながら俺はクローンじゃねぇ・・いや、これからオリジナルになるんだよ・・その前にまずは邪魔するお前を殺してやる」

 

彼の腕から真空刃が放たれるが前にオリハルコンエレメントが展開されて攻撃を弾き飛ばす。

 

「きしし・・・・行くぜ」

 

クローンの姿が大きく変わってパラドキサアンデッドへと姿を変える。

 

ブレイドはパラドキサアンデッドを前にラウズアブゾーバーから二枚のプライムベスタを取り出して読み取った。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

普通のままでは勝てないと判断した一夏はジャックフォームへと姿を変えてディアマンテエッジが付与されたブレイラウザーを構えて地面を蹴る。

 

パラドキサの片腕とブレイラウザーがぶつかる。

 

真空刃を繰り出そうとする動きを見てブレイドはオリハルコンウィングを展開して空へと逃げた。

 

「それで逃げたつもりかよぉおおおお!」

 

次々と真空刃を繰り出し、見えない刃が逃げたブレイドを追う。

 

ブレイラウザーで攻撃を防ぐがあまりの数の多さと見えにくい事が原因でほとんどの攻撃を受けてしまってブレイドは地面に叩きつけられた。

 

「うわぁっ!」

 

倒れたブレイドを無理やり起き上がらせてパラドキサアンデッドはブレイドのアーマーに拳を叩き込むと同時に至近距離で真空刃を放つ。

 

「がぁああああああああああああああああ!」

 

バチバチバチと火花を散らしてブレイドは後ろに吹き飛び、道路に飛び出して近くのガードレールに倒れこむ。

 

「がっ・・」

 

「きししし、この程度か?こっちは半分も出していないぜ?」

 

「そうかい・・」

 

ブレイラウザーを地面に突き刺してゆっくりと立ち上がる。

 

 

「俺は、まだ、一割も出していないけど?」

 

 

「・・・・あー、お前面白いわ」

 

 

 

瞬間、

 

 

 

「がっ!?」

 

パラドキサアンデッドの姿が消えたと思うとブレイドは竜巻の中に包まれて空高く舞い上げられ、そして地面に叩きつけられた。

 

 

「ほらほらー、次々いくぞぉ」

 

 

パラドキサアンデッドの腕から触手が伸びてブレイドを捕まえると同時に投げ飛ばし、きりもみキックをブレイドに叩き込む。

 

「その・・・・力・・・・まさか!?」

 

体がねじれるような痛みを感じながら地面に落下したブレイドを冷やかすようにパラドキサアンデッドは笑いながら手元に十一枚のプライムベスタを見せる。

 

それは始が持っていたものだった。

 

「あいつがいらなかったみたいだからなぁ・・・・利用さしてもらってる。きしし、お前は一人で十一体のアンデッドと戦っているというわけさぁ」

 

「そんなこと!」

 

起き上がってブレイラウザーを振るおうとした瞬間、顔面にモスリフレクトが展開されてブレイラウザーの攻撃が弾き飛ばされる。

 

「あるんだがなぁ、これが!」

 

笑いながらパラドキサアンデッドは空中へ舞い上がりブレイドに『スピニングダンス』を繰り出す。

 

「このままやられるかよ!」

 

『スラッシュ』

 

『サンダー』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

繰り出される攻撃に対してオリハルコンウィングを展開しライトニングスラッシュを叩き込む。

 

しかし、パラドキサアンデッドの攻撃が強力で弾き飛ばされる。

 

「・・・・ぐっ!」

 

あまりの強さにジャックフォームが強制解除され、通常形態に戻ってしまう。

 

「だからいっただろ?十一体のアンデッドと戦っているんだって、たかだか二体のアンデッドの力で勝てるわけがないだろ?それで、いつまで一割のままで戦うのかなぁ?」

 

ブレイドはふらつきながらラウズアブゾーバーから二枚のカードを取り出す。

 

「まーた、ジャックフォーム?無駄だって、その力でも勝てないからさぁ」

 

「そうだな・・・・」

 

きっと、ジャックフォームでは勝てない。白式の力と融合させても勝てるかどうかわからないだろう。

 

ならば、自分がとるべき手段は一つしかない。

 

『それと・・・・僕を封印したからって油断しないでね。キミが少しでも油断したら僕が体を乗っ取っちゃうから。クラブのキングやクィーンと違って、僕らは甘くないからね』

 

『封印が解除されたからブレイドとギャレンの力はより向上するけれど、危険度も増すから気をつけるんだ』

 

『アンデッドとの融合係数が高いとよりアンデッドに近づいてしまう。そもそもライダーシステムはどんなアンデッドの姿になれるという“ジョーカー”という存在を模して作られている。といっても使えるのはカテゴリーAのみだが・・・・、だが、カテゴリーAとの融合係数が大きくなるほど、他のアンデッドとの融合係数も大きくなり危険な状態になる』

 

 

脳裏に蘇ったのは倒した相手、そして、自分を導いてくれた人たちの言葉が響く。

 

 

『どんな時でも躊躇うな。結果に怯えていたら何も守れないぞ』

 

 

去り際に伝えてくれた友の言葉を思い出して一夏はラウズアブゾーバーに読み取らせる。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

 

「だから、学習」

 

 

『エボリューション・キング』

 

 

「ぐっ・・・・あぁ」

 

ブレイドの体を緑色の雷が包み込んだかと思うとラウザーから十三枚のプライムベスタが現れて、全身のアーマーがディアマンテゴールドへと進化し、左右の肩、上腕部、太腿、膝、脚部、右下腕部の十一箇所にカテゴリー2-Qまでのアンデッドクレスト、胸部にカテゴリーKの紋章が装備される。

 

重醒剣キングラウザーがブレイドの手元に現れる。

 

十三体のアンデッド全てと融合したブレイドの最強フォーム。

 

キングフォームへと進化した。

 

「はっ・・・・ははっ!面白いぞ!てめぇ・・・・や、やっぱり、お、俺は間違っていなかった!お前は殺しておくべきなんだ!」

 

パラドキサアンデッドはスピニングウェーブを繰り出すが。

 

「無駄だ」

 

ブレイドはパラドキサアンデッドの攻撃を掴んで受け止めている。

 

「お前の動きは・・・・見えている!」

 

叫ぶと同時にキングラウザーを振り下ろす。

 

振り下ろされた攻撃を受けたパラドキサアンデッドはトラックが追突されたかのように後ろに飛んでいって壁に叩きつけられた。

 

「返してもらうぞ。ハートスート全部・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・・あれは・・」

 

車で一夏を探していた虎太郎達はアンデッドの反応を探して道を走っていたのだが、前方にいる存在を見て息を呑む。

 

「一夏・・・・?だが、なんだあの姿は」

 

助手席にいた千冬は見えてきたブレイドの姿に息を呑む。

 

綺麗だった。

 

太陽の光を受けて反射し輝いている金色の鎧。

 

まるで、騎士を連想させる姿に千冬は目を奪われた。

 

「一夏君・・・・やばいよ!あの力は!」

 

「白井先生?何がそんなに」

 

白井虎太郎は酷く狼狽して剣崎は一言も喋らない。

 

「とにかく危険なんだ。すぐに」

 

「虎太郎!」

 

剣崎がハンドルを動かす、車が揺れる中、千冬は見えてしまう。

 

パラドキサアンデッドがこちらをみて、不気味に笑っていた。

 

 

 

 

 

「きしし!」

 

笑ったパラドキサは真空刃を放つ。

 

「っ!」

 

方向はブレイドではなくやってくる車に。

 

『マッハ』

 

アンデッドクレストが輝いてブレイドは走る。

 

真空刃が車に届く瞬間、ブレイドが間に割って入って再びアンデッドクレストが輝く。

 

『スラッシュ』

 

「デェェェェイ!」

 

切れ味が増したキングラウザーで真空刃を弾き飛ばしてスリップしそうになっていた車を片手で止めた。

 

ぎろり、とブレイドは目の前のパラドキサアンデッドを睨む。

 

アンデッドクレストが輝いてスペードスートのプライムベスタが特殊変化したギルドラウズカードが高速ラウズ機能によって読み取られる。

 

『スペード10』

 

『スペードジャック』

 

『スペードクィーン』

 

『スペードキング』

 

『スペードエース』

 

『ロイヤルストレートフラッシュ』

 

ラウズしたカードが眼前に出現し、キングラウザーを構えて地面を蹴る。

 

攻撃を見たパラドキサアンデッドは眼前にモスリフレクトを展開して防御の体制に入った。

 

「がっ!?」

 

パラドキサアンデッドが展開するモスリフレクトを切り裂いて一撃が炸裂する。

 

ブレイドの手が伸びてパラドキサアンデッドの心臓を掴む。

 

「や・・・・め・・・・」

 

「うぉおおおおお!!」

 

掴んだものを引きずり出すとパラドキサアンデッドは地面に真空刃を放つ。

 

爆発と煙でブレイドの視界が見えなくなる。

 

「・・・・・・一夏」

 

千冬が車を降りてブレイドに近づく。

 

ブレイドはキングラウザーを左手に持ち、右手には十二枚のハートスートのプライムベスタが握られている。

 

「・・・・・・・・」

 

がくっ、とブレイドが崩れ落ちて地面に倒れる。

 

「一夏!?」

 

倒れる直前に千冬が抱きとめると変身が解除されて一夏はそのまま意識を手放した。

 

ハートスートのプライムベスタをしっかりと握り締めて離さない。

 



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第二十四話

がばっ、と一夏は体を起こす。

 

「あれ・・・・ここ」

 

「旅館だ。一夏君」

 

「剣崎さん・・俺」

 

「覚えていないか?キミはアンデッドと戦う時に」

 

 一夏の脳裏にパラドキサアンデッドとの戦い、キングフォームの使用を思い出す。

 

 そこで自分の手を見る。

 

 普通の、人間の手だった。

 

「・・・・俺、まだ人間ですよね?」

 

「あぁ、人間だよ」

 

そういって剣崎は優しく微笑む。

 

一夏は剣崎からキングフォームについて一度だけ聞いたことがあった。

 

ライダーシステムを開発した人の考えではカテゴリーキングとの融合のみを構想においていたらしいのだが、剣崎のキングフォームは十三体のアンデッド全てと融合しているという状態で、体にどんな影響が起きるのかわからないといわれていた。

 

それは今も同じで。

 

最悪アンデッドになってしまうのではという仮説がある。

 

「まぁ、その話は置いておいて、お姉さんがすんごい心配していて・・・・・・」

 

「一夏ァ」

 

気のせいだろうか。

 

耳元で今、一番聞きたくない声が聞こえてきたような気がした。

 

ギ、ギ、ギ、とゆっくりと横を見る。

 

「心配したぞ?」

 

何故だろう、昔、竹刀を持って暴れた箒の姿とかぶる。

 

一夏は即座に土下座した。

 

 

 

 

 

 

「あれから、何日経過しました・・・・か?お、お姉様」

 

「一日だ」

 

むすーとした顔でこちらを見てくる千冬に一夏はびくっと尋ねる。

 

少し離れた所ではセシリアとラウラ、鈴音が「ご愁傷様」と合掌した。

 

剣崎と虎太郎が隣でなんとか千冬を宥めた事により一夏は無傷で済んだのだが、罰としてお姉様ということになった。

 

「すぐに・・あいつを探さないと」

 

「まだ、ダメだよ。体も・・・・・・あれ?」

 

むくりと立ち上がった一夏に虎太郎は驚いて千冬は何故か顔をしかめている。

 

「急がないと取り返しのつかないことになってしまうかもしれないんです・・・・あいつを何とかするために、行かないと」

 

「何故そこまであいつにこだわる?」

 

「友達だから、何年も会っていなかったけど、大切な仲間に変わりないから」

 

千冬の言葉に一夏は即答する。

 

そういって一夏は出て行く。

 

「いかなくていいの?織斑先生」

 

「あいつが決めた事に私は深く介入はしない・・・・今は見守るだけ・・・・だ」

 

そう、嘗ては介入する考えだった。

 

だが、今は信じる事にしている。

 

一夏のことを信じる。

 

仮面ライダーブレイドを継承した最愛の弟を千冬は信じることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「鈴さん?」

 

「どこに行く気だ?」

 

「・・・・ふん!」

 

一夏達のやり取りを聞いた鈴音は壁に自らの額をぶつける。

 

そして、

 

「いたーい・・・・」

 

「当然だろう」

 

「ど、どうなさったのですか」

 

「ようし、これで決まったわ・・・・あの奥で閉じこもっているヤツを引きずり出すわ」

 

鈴音は赤くなった額のまま部屋を出て行く。

 

外に出ると、そこには睦月がいた。

 

「あんた・・・確か」

 

「上城睦月、初代仮面ライダーレンゲルだよ」

 

「何かよう?」

 

「少し話そうかなと思ったけど、いらないお節介だったみたいだね」

 

「?」

 

「篠ノ之さんのこと、頑張ってね」

 

「当然よ」

 

睦月に見送られて鈴音は箒が閉じこもっている部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

箒は部屋の奥で縮こもっていた。

 

鈴音は乱暴に襖を開けて中に入る。

 

「あんた、いつまで閉じこもっているつもり?」

 

「・・・・・・」

 

「いつまでそこにいるつもりって聞いてんのよ!」

 

「・・・・私は・・・・もう、ISに乗らない・・・・何も」

 

「・・・・ざっけんじゃないわよ!」

 

鈴音は箒の胸倉を掴んで引き寄せる。

 

「たった一度失敗してISに乗らない!?そんな寝言が通用するほど専用機持ちは甘くないのよ!それに」

 

引き寄せたまま鈴音は叫ぶ。

 

「あんなことがあってもまだ諦めていないわよ。足掻いて足掻きまくって必死に昔の友達助けようとしている」

 

「無理だ・・・・私には力が」

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

胸倉を掴んだまま箒の頬を鈴音は叩く。

 

「友達助けるのに力がいんの!?あんたには口や足があるでしょーが!力がなくてもあんたはそいつに伝えられることができるでしょ!なんでそれをしようとしないの!このまま逃げ続けるつもり!?今よりもっと後悔するわよ!」

 

「だが・・どうしろというのだ!あいつの居場所などわからないのに」

 

「少し、やる気になったようね・・・・問題ないわ。既に場所はラウラが見つけてる・・後は行くだけよ」

 

鈴音の言葉に箒は無言になる。

 

「まだ怖いとかいうなら今度は反対側を叩くわよ」

 

「・・・・・・」

 

箒は無言で立ち上がって歩き出す。

 

「(まだ怖い・・・・でも、でも)」

 

「行ったわね・・」

 

「無茶なさいますわね。鈴さんも」

 

「だが、あのままでは危ないだろう?簪たちはまだ眠っているんだぞ」

 

「だから、私達も行くのよ・・・・ジョーカーについては知らないけれど、見届けたいわ」

 

「奇遇だな」

 

「私達も見届けようと思っていたところですわ」

 

三人は悪戯を思いついた子どものように笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちにいるみたいだね」

 

「わかる・・・・んですか?」

 

ヒューマンアンデッドとシャルロットは歩いていく。

 

シャルロットの決意を聞いてから彼はジョーカーのところまで誘導するといって歩いていた。

 

「わかるよ」

 

「あの・・・・私のやろうとしてることって」

 

「正しいかどうかなんてわからないよ」

 

「そう・・ですよね」

 

項垂れるシャルロットにヒューマンアンデッドが口を開こうとした瞬間、彼は彼女を抱えて後ろにとんだ。

 

「グルルルル・・・・」

 

「始!?」

 

ヒューマンアンデッドの前に現れたのはジョーカー。

 

ジョーカーは獣のように唸りながらヒューマンアンデッドを睨んでいる。

 

「まずいな・・・・操られている」

 

「え・・!?」

 

「今の彼は理性を失っている。このままではジョーカーとして封印するしかなくなってしまう!」

 

「そんな・・・・始!私の声が聞こえないの?」

 

「グルルルル・・・・グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

ジョーカーは唸って鎌を振り上げようとする。

 

目を見開いて動かないシャルロットを助けようとヒューマンアンデッドは割って入ろうとするが間に合わない。

 

鎌が振り下ろされる瞬間、ブレイドがブレイラウザーで受け止めた。

 

「・・・・ブレイド」

 

「始!やめろ!」

 

ブレイラウザーで鎌を振り払って剣先をジョーカーに向ける。

 

ジョーカーはブレイドを睨んだまま体勢を低くした。

 

「・・・・始?」

 

「無駄だ。今の彼は理性を失ってしまっている。君の声も届かない」

 

「・・・・ヒューマンアンデッド、コイツを元に戻す方法はないんですか!?」

 

「・・・・危ない!」

 

シャルロットが叫んでブレイドが顔を上げるとジョーカーが鎌を振り上げようとしたが急に左手で鎌を受け止める。

 

「え・・・・?」

 

「あれは・・・・アイエスの手」

 

ヒューマンアンデッドの視線の先、ジョーカーの左手が機械の手となっている。

 

その手は銀の福音の手となり、鎌を振り下ろそうとしていた腕を必死に押さえていた。

 

「アイエスが力を貸している・・・・のか、これなら」

 

なんとかなるといおうとした瞬間、ジョーカーの動きがぴたりと止まる。

 

何故、動きが?と思って視線を動かしてヒューマンアンデッドの表情が変わった。

 

「しまった!」

 

「きししし・・・・その力・・・・もらうぜぇえええええええ!」

 

ジョーカーの後ろにクローンがおり、彼の両手がジョーカーの心臓部分を貫いていた。

 

「・・・・・・ガ」

 

「始!?お前ぇ!」

 

「このぉおおおおお!」

 

シャルロットが黒い幽霊を展開しガトリングを取り出してクローンに攻撃しようとするが一足早く、クローンが何かをジョーカーから引き抜いて離れる。

 

離れた瞬間、クローンに向かってガトリングを連射するけれど、クローンを撃ち抜くことはなく、周囲の木々を破壊するに終わった。

 

クローンの右手にはどろどろした緑色の何かが握られている。

 

「きしし、これだこれ、これさえあれば俺は・・・・さっきよりも強く、強くなる」

 

「お前ぇええええ!」

 

ブレイドが地面を蹴ってクローンを殴ろうとするがそれよりも早く緑色のどろどろしたものを体内に取り込む。

 

衝撃が起こってブレイドは弾き飛ばされる。

 

「なっ、なんだ・・?」

 

「きしし・・・・な、なんだよこれぇ!?こんなもの体にいれていたっていうのか!?聞いていた話と全然違う!こんなもの取り込んでしまったら俺の体がもたない!ほ、崩壊してしまう!」

 

急に怯えだしたクローンだが、膨れ上がった体の中に顔が消えて、そして。

 

「GUAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

体が膨れて二メートルはある巨大な怪物へと変貌した。

 

顔がジョーカーと同じだが、体はぶよぶよに膨らんでいて、腕が四本になっている。

 

足がなく移動できるのかはわからない。

 

一夏達からは見えないが腹部の部分にアンデッドバックルがある。

 

「コイツ・・・・」

 

「因子が暴走している・・・・耐えられなかったんだ」

 

“化け物”という言葉を使うのはおそらくこの時だろう。

 

ブレイドはブレイラウザーを構える。

 

化け物は唸りながら襲い掛かってきた。

 



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第二十五話

活動報告でアンケートみたいなことやりまーす。


「始!」

 

倒れて動かないジョーカーにシャルロットは駆け寄る。

 

近づいて彼女は息を呑む。

 

ジョーカーから富樫始の姿に戻っている、しかし、彼の体は冷たく息をしていない。

 

「そんな・・・・ねぇ・・・・ウソ・・・・だよね?」

 

シャルロットはゆさゆさと彼の体を揺らす。

 

けれど、反応がない。

 

彼女の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 

「まだだよ・・・・まだ彼は死んでいない・・・・シャルロットさん、これを使うんだ」

 

ヒューマンアンデッドはプロバーブランクを差し出す。

 

「これを・・どうすれば・・」

 

シャルロットの質問に彼は無言でその場に寝転がる。

 

すると、腹部のアンデッドバックルが音を立てて開く。

 

「封印しろって・・・・ことですか?でも・・・・」

 

「この場にハートスートのカードが全て、揃っている・・・・、後は僕を封印すれば・・・・もしかしたら彼が帰ってこられるかもしれない」

 

「・・・・でも」

 

「大丈夫」

 

それだけいってヒューマンアンデッドは目を瞑る。

 

シャルロットは意を決しプロバーブランクをアンデッドバックルに押し込む。

 

緑色の輝きを発してカードの中にヒューマンアンデッドが封印され、ハートスート2“スピリット”がシャルロットの手の中に落ちる。

 

「でも・・・・これだけで、どうしたら」

 

おろおろしているシャルロットの前で手の中にあるプライムベスタが勝手に動いて始のジョーカーバックルに読み込まれる。

 

『スピリット』

 

途端、両目を開いて始が起き上がった。

 

「始・・?無事」

 

「ハートスートのカテゴリーAをよこせ」

 

「え?」

 

低い声で呼ぶ始にシャルロットは戸惑う。

 

「持っているだろう?渡せ」

 

「・・・・キミは、誰?」

 

シャルロットは目の前にいる始が始じゃないことに気づいて下がろうとした。

 

「俺が誰というのはこの際どうでもいい・・・・お前はコイツを失ってもいいのか?」

 

「嫌だ!」

 

彼女は叫ぶとポケットの中から、偶然入っていたカテゴリーAのプライムベスタを取り出して、始に渡す。

 

受け取ったカテゴリーAをバックルに読み取らせる。

 

『チェンジ』

 

黒い水が弾け飛んでカリスへと変身した。

 

「ふっ!」

 

カリスは地面を蹴ると、おぞましい化け物に拳をたたきつけると、ブレイドの横に着地した。

 

「は、始!?お前、無事に・・・・」

 

「ブレイド、時間がない。カテゴリーKのカードを渡せ」

 

「え・・・・あ、おう・・・・」

 

ブレイドはラウザーからプライムベスタを取り出して渡す。

 

「後はコイツ次第だ」

 

受け取ったプライムベスタをみて、カリスは小さく呟いた。

 

「え・・?」

 

「始!」

 

言葉の意味をブレイドが尋ねようとし、シャルロットがカリスに近づこうとする。

 

瞬間、ラウザーにプライムベスタを読み取らせた。

 

『エボリューション・キング』

 

その瞬間、至る所からハートスートのプライムベスタが飛来してカリスの体の中に消える。

 

眩い光にカリスはシャルロットごと包み込まれ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「いつまでそうしているつもりだ?」

 

「あん・・・・」

 

富樫始は呼ばれて振り返るとそこには男がいた。

 

自分と同じ顔立ちをした男、だが、全く違う存在だと始は気づく。

 

「誰だ?」

 

「“相川始”・・・・ジョーカーだ」

 

「あぁ、オリジナルか」

 

「いつまで、ここにいるつもりだ?」

 

「いつまでって、既に化け物に」

 

「お前はまだ人間に戻れる・・・・いや、少し語弊があるか」

 

「は?」

 

「富樫始、お前に守りたいものはないのか?」

 

「俺の・・・・守りたいもの?そんなものないね」

 

「本当にないのか?」

 

真っ直ぐに相川始に見られて富樫始は言葉を詰まらせる。

 

「お前は復讐というもので全てを隠して本当の思いを見失っている。それを思い出さない限りここから出られないぞ」

 

「俺の本当の思い?」

 

あぁ、と相川始は頷いて横にずれる。

 

富樫始は目を見開く、相川始の後ろにはシャルロットがいた。だが、彼女は意識を失っているようで目を開ける様子がない。

 

「お前には守りたいものがないのか?」

 

「・・・・・・」

 

問われて富樫始は黙る。

 

――守りたい、ものはある。

 

彼の脳裏に今までの記憶、触れ合った人々の姿が過ぎる。

 

そして。

 

「こんな俺に何が守れる?こんな・・・・人じゃなくなった俺に守れるものがあるのか!」

 

「・・・・・・」

 

「答えろよオリジナル!」

 

「そんなもの俺が知るか、自分で考えろ」

 

「っ!」

 

突き飛ばされて富樫始は黙り込む。

 

「・・・・まだ、俺は守れるのか?」

 

「お前が望むのなら」

 

「そっか・・・・どうすればいい?」

 

「十三体のアンデッド全ての力を引き出し使いこなせ、そして外で暴れているジョーカーの成りそこないを封印しろ、そうすればお前はジョーカーとして封印されることもない」

 

「そっか・・・・わかった」

 

 

 

 

 

 

 

「GUAOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

「しまっ!」

 

化け物は急にブレイドから標的を変えて動かないカリスとシャルロットに向かっていく。

 

止めようとするが化け物の腕に蹴られて木に叩きつけられる。

 

「・・・・」

 

怪物が迫る中、ハートスート全てのプライムベスタがカリスの前に現れると体に吸い込まれていく。

 

カリスの姿が変わる。

 

黒かった姿が全体的に赤くなり複眼が緑に変化し、胸部にはハートスートのカテゴリーKのパラドキサアンデッドの紋章が刻印される。

 

十三体のアンデッド全てと融合したカリスの強化形態・ワイルドカリスはシャルロットを抱えて空に飛ぶ。

 

直後、化け物が二人のいた場所を襲う。

 

ワイルドカリスは離れた場所にシャルロットを寝かせる。

 

「ここで、休んでいてくれ」

 

眠って動かない彼女の顔を見て、呟いた。

 

醒鎌ワイルドスラッシャーをホルダーから抜いてワイルドカリスは目の前の敵を睨み、ブレイドの方を見た。

 

「手を出すな」

 

ブレイドは無言で頷く。

 

呻る化け物にワイルドカリスは地面を蹴ってワイルドスラッシャーで次々と切り刻んでいく。

 

化け物は巨大な手でワイルドカリスを叩き潰そうとするがそれよりも早く、後ろに回り込んでワイルドスラッシャーを振るう。

 

体から緑色の血を噴き出しながらも化け物はワイルドカリスを叩き潰そうと動ける手を振り回す。

 

だが、ワイルドカリスはそれらを受け止めるか斬りおとして攻撃を防いでいた。

 

「GUAOOOOOOOOOOOOO!」

 

「騒ぐな」

 

叫んだ化け物の顎に強烈な蹴りを叩き込んでワイルドカリスは後ろに跳ぶ。

 

怪物と適度の距離を置いてカリスアローにワイルドスラッシャーをコネクトさせて片方の手を空中に伸ばす。

 

カリスの体から全てのプライムベスタが飛び出して一枚のカード“ワイルド”となる。

 

ワイルドをカリスアローで読み取る。

 

『ワイルド』

 

カリスアローから放たれたワイルドサイクロンが化け物の体を貫く。

 

攻撃を受けた化け物は最後に大きく鳴いて地面にひっくり返る。

 

倒れた拍子に腹部のバックルが音を立てて開く。

 

ワイルドカリスはワイルドベスタを取り出して投げる。

 

バックルに刺さったワイルドベスタに怪物が取り込まれて戻ってくる。

 

ワイルドカリスの手の中にはジョーカーのカードがあった。

 

「・・・・・・」

 

ジョーカーのカードを仕舞って去ろうとするワイルドカリスをブレイドが黙って見送ろうとする。

 

「待ってくれ!」

 

「・・・・箒?」

 

 

ワイルドカリスの前に紅椿を展開して箒が降り立つ。

 

まさか、攻撃するのではと身構えたブレイドだったが彼女の行動に動きを止めてしまう。

 

「すまなかった!始!」

 

紅椿を解除して箒は思いっきり頭を下げる。

 

「もう何を言っても遅いかもしれない・・・・でも、これだけはいわせてくれ!すまなかった」

 

頭を下げたままなので目の前のワイルドカリスがどうしているのかわからない。

 

殴られても構わない。

 

今、思っていることを始に伝えるためにきた。

 

箒はそれだけのためにここにいる。

 

身構えていると、ぽん、と頭の上に手が置かれた。

 

「え・・」

 

「過去の事は振り返らない主義に変わったんでね。もう、気にしてない」

 

「始・・・・」

 

「またな」

 

そういって、ワイルドカリスはシャルロットを抱えてその場から消えた。

 

変身を解除して一夏は箒に近づく。

 

「箒・・・・」

 

「これで・・・・私は許されたと思わない。もう、間違わないようにこれから気をつける。だから、見ていてくれ・・・・そ、それと・・・・すまなかった一夏」

 

「俺は気にしていないよ」

 

「でも・・すまない」

 

もう一度深く箒は頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・・あれ?」

 

「よーやく起きたか、眠り姫め」

 

「は、始!?」

 

感じた温もりに体を起こそうとしたシャルロットは始に背負われている事に気づいた。

 

慌てた彼女は後ろに倒れそうになる。

 

「なにやってんだ・・・・頭から落ちたら痛いだけじゃすまないぞ」

 

「ご、ごめん・・・・・・その、始だよね?」

 

「富樫始ですよ。俺があのむかつくクローンに見えるか」

 

「う、ううん!そんなことない・・・・でも、無事なの?」

 

「無事といっていいのかわからないけど、まぁ、無事かな・・・・」

 

「そうなんだ・・・・よかった・・・・」

 

「・・・・あー、それとな。シャルロット」

 

「ん、なに?」

 

「  だ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

「もう伝えたからな。聞こえていないなら諦めろ」

 

「え、待ってよ!もう一回!もう一回だけ言ってくれない!?」

 

「いやだね。こんな恥ずかしい事何度もいえるか!」

 

「そんなぁああああああああ!」

 

「ったく(今度からしっかりいってやるよ・・・・愛してるってな)」

 

 

誰もいない道を富樫始は歩いていく。

 

 

愛しい人と一緒に進んだ。

 

 

 

 

 

今回の出来事を一夏はBOARDのメンバーに話した。

 

始のことについては保留となり、残りのアンデッドを捕獲することを優先する。

 

「危険な事にならない限りキングフォームの使用を禁止する」と橘と剣崎にいわれて一夏は大人しく従う。

 

合宿は一夏達が不在の間も問題なく進行していた。

 

途中参加で色々と遅れていた一夏は泣きそうになったがラウラやセシリアといった代表候補生の手助けを借りて日が沈む前に全てを終わらせる。

 

弾には終わった後に攻撃をした事を謝ったら「今度、ご飯奢れ!」ということで落ち着いた。

 

蘭がいたことには驚いたが兄の看病に疲れて眠っていたのでそっとしておいた。

 

最後に千冬に報告したら「無茶をせず私に頼れ」と思いっきりハグされて嫉妬が飛んで来た事を記しておこう。

 

富樫始をめぐる因縁もこれで終わったのだと一夏は勝手に思っていた。

 

だが、違った。

 

ジョーカーの封印は舞台の一幕が下りたに過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁー、侵食という力を与えて野に放ってみたけれど、全然ダメダメだったなぁ」

 

誰もいない空間でキーボードを動かしながら篠ノ之束は笑顔で呟く。

 

「本当はISのシールドエネルギーとか搭載しようと思ったんだけどなぁ、途中で脱走されたせいで記憶が中途半端でなにもかも不完全になってしまうなんて束さんも予想外だよ~。

でも、でも、侵食は使えたなぁ・・・・まさか、ジョーカー因子を吸収して自らをジョーカーに変えてしまうなんて、これはこれで成功なのかもねぇ~」

 

データを保存しながら次は紅椿に移る。

 

「紅椿についてはほとんど性能を明かす事ができなかったから、まぁ、大人達がうるさくいうこともないかなぁー、にしても」

 

笑顔だった束は二つのデータをゴミ箱に送る。

 

「この子達が私を裏切るなんて思わなかったなぁ・・・・もう、悪い子には罰を与えないといけないなぁ・・・・・ゆっくり考えよっと・・・・さぁて、次はこれかなぁ~」

 

別のパネルにはあるものが映っていた。

 

三つの人の形をしているものをみて、束は微笑む。

 

第二幕が誰も知らないところであがろうとしている。

 

 

 

 




次回は本編から外れた番外編のようなもの、もしかしたらみたいなものばっかり~。


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番外編

十月三十日。

 

世間がハロウィンの準備で賑わっている中、BOARDの会議室に複数の人間が集っていた。

 

「さて・・・・」

 

BOARDの所長であり、実質トップである橘朔也の声に全員の視線が集う。

 

「諸君らも知ってのとおり、毎年、明日になると不可解な磁場が発生しているのはわかっていると思う・・・・。今回も磁場が発生するかはわからないが、警戒する必要がある」

 

うんうん、と全員が頷く。

 

「そこで、我々は現地で実態を把握する為に、明日は全員で仮装して行動する!」

 

「って、なんだそりゃ!?」

 

橘の言葉にいち早く反応したのは富樫始だった。

 

「緊急の要件で呼び出したと思えば仮装パーティの打ち合わせかよ!」

 

「何言っているんだ。始!大事な話だぞ」

 

「そうだ、磁場の発生で何が起こるかわからない。人々の安全を守るのが俺達ライダーの仕事であり、義務だ!」

 

「そーだそーだ!」

 

「お前ら、自分の顔を鏡で見て、もう一度いってみろや」

 

始は半眼で一夏、弾、簪を睨む。

 

彼らは真面目なことをいっているが表情はかーなーり緩んでいた。

 

それだけ、ハロウィンが楽しみという事だろう。

 

「まぁまぁ、私は賛成だよ?」

 

「シャルロット・・・・まぁ、そういうなら」

 

「「「ツンデレ乙」」」

 

「よぉし、喧嘩売ってるんだな?勝ってやるから表でろやぁ!!」

 

暴れる始をシャルロットが押さえ込む。

 

「当日はそれぞれが衣装を着て、BOARD本部の前に参加するように」

 

橘の言葉で会議が終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園にて、シャルロットと始は着る衣装について話し合っていた。

 

「まだ、不機嫌なの?」

 

「不機嫌というか、面倒なんだよ・・・・どうして仮装しないといけないんだか、普通に私服きて出歩けばいいだろうに」

 

「折角なんだから楽しもうよ」

 

「そーだな」

 

衣装を作りながら微笑むシャルロットを見ていると、さっきまで怒っていたのがバカらしくなってきて、最後にため息を吐いて、始も衣装作りに入った。

 

そのとき、ドアがノックされた。

 

「はいはい、どちらさま?」

 

「悪い、俺だ」

 

ドアの向こうにいたのは一夏だった。

 

「なんだ?」

 

「始は、衣装できたか?」

 

「もう、そろそろってところだ・・・・」

 

「出来たらでいいんだが、学食の厨房に来てくれないか?手伝って欲しいことがあるんだよ」

 

「・・・・わかった」

 

始は頷いた。

 

「なんだったの?」

 

「衣装の進み具合の確認だってよ」

 

「もうすぐできるから任せて」

 

「手伝うよ」

 

手伝う為に始も衣装を作ることに参加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ハロウィン当日。

 

 

「睦月、その衣装はなんだ?」

 

「フランケンシュタインですよ。そういう橘さんは?」

 

「ドラキュラだ」

 

「「あぁー」」

 

「剣崎、その納得は何だ?」

 

「い、いや、なんでもないです」

 

BOARDの入口にて、剣崎、虎太郎、橘、睦月が最初に集っていた。

 

「剣崎君のって、きぐるみ?」

 

「あぁ、虎太郎も」

 

「うん」

 

カブトムシのきぐるみを着た剣崎、虎太郎は犬のきぐるみだった。

 

睦月はフランケンシュタイン、橘はドラキュラの衣装を着ている。仕事で疲れている姿を見ている彼らからすれば橘の衣装はぴったりといえる。

 

「む、先に到着していたか」

 

「こんばんは」

 

「やぁ、ラウラちゃん、簪ちゃん」

 

次にやってきたのはラウラと簪の二人。

 

ラウラはウサギのきぐるみに眼帯をしていて、簪は雪女の格好。

 

「二人とも似合っているな」

 

「む、そうか(嫁も褒めてくれるだろうか?)」

 

「ありがとうございます」

 

「遅くなりました~」

 

「うわ、もうほとんどきてんじゃない」

 

続いてやってきたのはセシリアと鈴音。

 

セシリアは魔女、鈴音はキョンシーだった。

 

「なんだ、俺らがほとんど最後じゃねぇか」

 

「遅くなりました」

 

そして、始とシャルロットがやってきたが。

 

「アンタ、誰よ?」

 

「富樫始だ」

 

「あの・・・・どうして、素顔を隠していらっしゃるのですか」

 

鈴音とセシリアの前にいる始はカボチャのお化けの格好をしているが、顔は巨大なカボチャに隠れていて見えない。

 

「えっと・・・・素顔を見せたくないからって・・・・」

 

『(恥ずかしがりやかなにかか!?)』

 

白いウサギの格好をしたシャルロットのフォローに全員が思った。

 

「おにぃ!急いでよ」

 

「悪い悪い、遅くなった!」

 

オオカミ男の格好の五反田弾と化け猫の五反田蘭が到着する。

 

「最後は一夏と箒君か」

 

「すいません!!」

 

ぺこりと謝罪して一夏がやってくる。

 

「ドラゴン・・・・?」

 

「あぁ、変か?」

 

「む、かっこいいぞ。嫁よ」

 

「そっか?サンキューな」

 

最後に到着したのは一夏と箒。

 

一夏は赤と黒のデザインをしたドラゴン、箒は幽霊の格好だった。

 

「よし、全員揃ったな。では各自行動に移ってくれ」

 

橘の号令で各自がそれぞれ動き始める。

 

といっても、橘、剣崎、睦月、虎太郎のグループ。一夏達、IS学園グループ、五反田兄妹、富樫始とシャルロットのペアと普段どおりになっていたが。

 

 

「なんというか、きぐるみの割合が多いね」

 

「というか、何で剣崎さん達、きぐるみなんですか?」

 

「「安かったから?」」

 

「うん、剣崎さんはわかるんですけれど、白井さんはウソですね」

 

「そうだな」

 

「ふ、二人とも酷くない!?節約大事だよ!・・・・といっても、僕のほうは色々と手を貸してあげたからという理由があるんだけど」

 

「何ですか?」

 

「実はね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に一夏達と一緒に行動してもよかったんだぞ?」

 

「そーしたらおにぃ一人だけになっちゃうよ?それにしても、富樫さん、あんな綺麗な人捕まえるなんて、凄いね」

 

「そだなぁ」

 

「おにぃ、だけだね?彼女居ないの」

 

「ぐふっ!?」

 

化け猫蘭からの指摘にオオカミ男のハートにダメージを受けた。

 

「あーぁ、おにぃも早くいい人みつからないかなぁ。そうしたら私も安心していい人探すのに」

 

「って、お前まだ中学生だろ!?」

 

「その発言、古いよ。最近は小学生でも彼氏彼女なんているし」

 

「・・・・そうだな。負けた感じがする」

 

「ほらほら、元気出す!あ、トリックオアトリート!」

 

蘭は近くでお菓子を持っていたおばさんに言葉を投げかけて、掌サイズのパンプキンケーキを貰う。

 

「これでも食べて、元気を出したまえ。大丈夫、顔はともかく性格はいいんだから、おにぃもいい人見つかるって!」

 

「褒めてるのか貶してるのかわかりにくいな・・・・でもま、サンキューな」

 

妹からの言葉に弾は嬉しく感じながらしばらく歩き続ける。

 

 

「嫁よ。どう思う?」

 

「だから、嫁じゃないって・・・・似合っているんじゃないか」

 

「そうか、どこらへんが似合っている」

 

「えっと・・・・尻尾?」

 

「む、よく気づいたな」

 

戸惑った一夏が苦し紛れに呟いた言葉にラウラは喜ぶ。

 

「(尻尾でよかったのか?耳かどっちかでかなり悩んだんだが)」

 

「(できたら、耳か眼帯といってもらいたかったが・・・・まぁいいだろう)」

 

「・・・・ラウラ、よかったね」

 

「うむ」

 

「ねぇ、セシリア」

 

「なんですか?」

 

「ラウラって、段々と思考が一夏に染まってきてない?」

 

「そうですわね・・・・愛故に」

 

「うわぁ」

 

「い、一夏、はろうぃんというのは何をすればいいんだ?その、今までにこういうのに参加したことがなくて」

 

「そうなのか?」

 

「・・・・その、要人保護プログラムのせいでな」

 

「寂しい青春送ってたのね。アンタ」

 

「鈴さん、年寄り臭いですわよ」

 

「た、楽しみましょう」

 

「簪のいうとおりだ。ハロウィンは始まったばかり」

 

「そうだぜ。最初は色々と教えるから楽しもうぜ!箒!」

 

「お、おう!指導頼むぞ!」

 

箒は握りこぶしを作ってハロウィンの先輩達に指導を頼む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーくれ!」

 

「どぉぞ」

 

始は渡されたお菓子を手に持って、シャルロットの所に戻る。

 

「なんか、始、楽しんでない?」

 

「楽しむものなんだろう」

 

「そうだけど・・・・もしかして、楽しんでいる顔をみられたくないからそのカボチャかぶる事にしたの?」

 

「よくわかったな」

 

「(当たったよ!?)」

 

始はずれたカボチャ頭を治しながら呟く。

 

「でも、なんで? 楽しい顔をしてもバチは当たらないよ」

 

「少し、思うんだよ」

 

「なにを?」

 

「このまま、俺は幸せになっていいのかなってな」

 

そういってカボチャ頭は続ける。

 

「今まで、多くの人を傷つけてきた。盛大な八つ当たりしてきて、親友も傷つけて、そんな酷い事をした人間が幸せになる権利はあるのかなと、不安になるときがある」

 

「もう・・・・」

 

シャルロットは無言で後ろから始を抱きしめた。

 

「シャルロット?」

 

「幸せになっていいんだよ?始はいろんな人を傷つけたかもしれないけれど、それとおんなじくらい沢山の人を助けてきたんだから」

 

「・・・・そうなんかな?」

 

「そうだよ」

 

「悪いな・・・・こんなところみせちまって」

 

「いいよ(私だけに見せてくれるのって、嬉しいから)」

 

「ん・・・・あんなところに棒つきキャンディーを売っている魔女のおばあちゃんがいるぞ、くっださいな!」

 

始は今の気持ちを誤魔化す為なのかキャンディーを売っている魔女のところに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、よい子はよっといで、おぉいしい、飴やお菓子をあげよう~」

 

「くっださいな!」

 

「あん?・・・・大人にはあげないよ!」

 

魔女は始をしっしっ、と追い払う。

 

「あー、残念だったね。始」

 

「はい、お嬢さん」

 

「え?・・・・どうも」

 

いきなり魔女から渡されてシャルロットはつい、キャンディーを受け取る。

 

「・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや・・・・なんでもない」

 

カボチャのマスク越しに始はじっ、と魔女の姿を睨んでいた。

 

 

 

 

 

ハロウィンのパーティーはまだまだ続く。

 

 



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番外編 その2

十二月二十四日、クリスマスイブ

 

 

この日は愛する人や家族がクリスマスケーキやプレゼントを渡しあう。

 

 

それは一夏達も例外ではない・・・・だが、今回は少し違った。

 

 

少し前の二十日。

 

 

現在、一夏やIS学園のメンバーは虎太郎と一緒に孤児院に来ている。

 

 

彼らが孤児院に来たのは数年前、ジョーカーとブレイドの戦いで家族を失った子達に虎太郎がクリスマスプレゼントを届けるためだった。

 

 

一夏や弾の二人は例年、来ており、箒達は一夏達が行くと聞いたらついていくといったのである。

 

 

「今年はみんな賢かったからサンタさんがプレゼントをくれるよー」

 

 

「サンタさんよりもいいけど、仮面ライダーからプレゼントが欲しいよ!」

 

「え、仮面ライダー?」

 

一夏が呆然としていると子ども達が集ってきた。

 

「知らないのぉ?」

 

「カッコイイんだよ!僕らを守ってくれる仮面ライダー、ヒーロー!」

 

「私、黒い仮面ライダーさんからプレゼント欲しい」

 

「僕も!」

 

「青い仮面ライダーから欲しいよ!」

 

「え・・・・」

 

一夏は困ったという表情をする。

 

青い仮面ライダーというのはおそらく自分が変身するブレイドのことだろう。

 

それならなんとかなるかもしれない。

 

だが、黒い仮面ライダーというのが問題だ。

 

彼が、進んでこういう事をやるとは思えない。

 

「なぁ、弾・・・・って、どうしたんだよ」

 

 

「お前はいいよなぁ」

 

 

「何を言っていんだ?なぁ、簪もって、同じかい!?」

 

 

「そうだよねぇー。私や弾なんか・・・・人気ないんだろうね」

 

 

どうやら二人は子ども達から自分のご指名がなかったことでショックを受けていじけていた。

 

 

「いや、そんなことはないよ・・ほら」

 

 

「俺は緑色の仮面ライダーがいいなぁ」

 

 

「俺はあれだよ、赤いライダーがいい!」

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

「おぉ、復活しているな。嫁よ」

 

 

「まぁ・・・・・・って、ラウラなにしているんだ?」

 

 

「子ども達と遊んでいる。嫁との子どもができた時のシミュレーションだな」

 

 

「いやいやいや!シミュレーションって何言ってんだよ!」

 

 

「ふむ、不満か?私はいつでも嫁と」

 

 

「何を言っているこの不埒ものめぇ!」

 

 

「うわっ!?」

 

 

「ふざけんなー!そんなの認めるかぁ!」

 

 

「そ、そうですわ!」

 

 

キャットファイトが始まる。

 

 

「わー、夫婦喧嘩だ!」

 

 

「あの人、四人も奥さんいるの?」

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

一夏達は黙り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、21.

 

 

IS学園の食堂で一夏は篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪、布仏本音が集っていた。

 

「というわけなんだが・・・・橘さんから許可は得ているんだけど・・・・すこーし問題があるんだよ」

 

「カリス・・・・富樫始の事だな?」

 

「あぁ、アイツからのプレゼントを望む子達がいるんだ。俺らだけでいったら」

 

「悲しむ子ども達がいるというわけですね」

 

「しっかし、あんな黒いののどこがいいのかしらねぇ」

 

「だが、凄い人気だった・・・・嫁といい勝負をしていたぞ」

 

「うぅ・・・・私と弾なんて、所詮、その程度」

 

「落ち着け、簪には簪の良さがある」

 

「そうだよぉ、かんちゃーん」

 

「・・・・ありがとう」

 

「話がずれてきたから戻すけど、あいつを探さないといけないわけで・・・・」

 

「コアネットワークを使えばいいんじゃないのか?一夏の白式と福音は繋がっているのだろう?」

 

「いや、繋がってはいるけどさ・・・・あいつ、ここのところ連絡がとれないというかなんかシャットダウンされていて繋がらないんだよなぁ」

 

 

色々あって、IS学園へ転校生としてやってきた富樫始とシャルロットの二人だが、冬期休暇に入ってから何処かへ出かけていて、姿を見ていない。

 

「場所はわかるのか?」

 

「・・・・日本にはいるみたいなんだよ」

 

「ふむ、ならばこちらから会いに行けばいいだろうな」

 

「「「え」」」

 

「む?」

 

ラウラの提案に一夏達は息を呑む。

 

 

 

 

 

22日。

 

 

その頃、富樫始はというと。

 

 

「始は絶対に入ってきちゃダメだからね」

 

 

「わーってるって」

 

 

始は何度目かの問答に少しうんざりしながらも答える。

 

 

始が拠点にしている場所から少し離れた所にあるデパートに来ていた。

 

近づくクリスマスに向けてシャルロットはサンタクロースの衣装の試着をしているのである。

 

どうして、サンタクロースの格好をするのかわからないがシャルロットが本気のため、始はなにもいわず、彼女に任せている。

 

 

そして、始は試着室の外で待機していた。

 

「そこまでこだわる必要あるのか?」

 

独りになってから始はクリスマスや正月といった仲間で過ごす行事に一切の興味を示さなかった。

 

己の中にある復讐を果たす為だけに生きてきたから当然といえるだろう。

 

だから、シャルロットの意気込みように少し圧されていた。

 

「始と一緒に過ごすクリスマスだよ!?力いれるにきまっているじゃない!」

 

「・・・・そーすか・・・・ん」

 

始は何かに気づいて試着室の中に飛び込む。

 

「は、はじ!」

 

「しずかに」

 

着替えようとしていたシャルロットは悲鳴を上げようとしたがしっ、と手で塞ぐ。

 

「(何か外が騒がしい・・・・じっとしていてくれ)」

 

「・・(コク)」

 

少しして音が聞こえてくる。

 

「(普通の人間の足音にしては音が少し鈍いな・・・・何か重たい武装でもしょっているのか?)」

 

「ここは我々アンチIS同盟が占拠した。貴様らは人質だ。大人しく」

 

「貴重な情報ありがとう」

 

始は試着室から飛び出して男の意識を刈り取る。

 

あっという間の不意打ちに成す術もなく男は崩れ落ちた。

 

「さて・・・・情報はわかったが・・厄介なものを造ったみたいだな」

 

意識が刈り取られる瞬間に起動させたのか壁や周囲に設置された機械から赤いランプが光っていた。

 

「ISが展開できない・・・・特殊なフィールド形成装置か?」

 

「始、どうするの」

 

「ここを逆に制圧するか、さてさて・・どうするかなぁ・・・・って、また厄介なもんが出てきやがった」

 

階下から現れたのは人の形をしたロボット。

 

完成度が低いのか動きがぎこちない。

 

「はぁ・・・・・・厄介なことが連続して続くってなんだよ。と同時に変なこともあるんだな」

 

ドアが壊れてブルースペイダー、レッドランパス、グリングローバーが現れた。

 

「じゃあ、シャルロット、ちょっくら暴れてくるわ」

 

「始、無茶はしないでね」

 

「わかってるって・・」

 

始はプライムベスタを取り出す。

 

腹部にカリスラウザーが姿を現しプライムベスタを読み取る。

 

「変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23日

 

 

 

「なんで、俺がそんなことしないといけないんだよ」

 

騒動から次の日、とある喫茶店で四人のライダーは集っていた。

 

一夏から持ちかけられた話を始は拒否する。

 

「あの姿を見て、喜ぶ子どもがいるわけないだろ?寝言は寝てから言え」

 

「だから、お前の人気が高いから来てくれないと困るって言ってるだろ!

 

「俺や簪よりも人気あるよなぁ」

 

「妬ましい・・・・」

 

「そこ!大事な話しているんだから負のオーラだすな!」

 

一夏は始と向き合う。

 

「なぁ、俺達の姿を見て、子ども達が元気になるんだ。やって損はないと思わないか?」

 

「・・・・子どもに元気ねぇ」

 

「やろーぜ!始」

 

「・・・・はぁ、わかった」

 

 

 

 

 

 

24日

 

 

虎太郎扮したサンタクロースが子ども達にプレゼントを配っている。

 

山田真耶や橘朔也、剣崎一真、上城睦月、織斑千冬も子ども達にプレゼントを渡している中で子ども達は嬉しそうにしているが、どこか不満があるように見えた。

 

「ねぇ、一夏お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「仮面ライダーにあわせてくれるっていっていたのに」

 

「そうだよ!仮面ライダーに会いたいよ!」

 

「いやー、一夏君達も」

 

虎太郎は困った表情を浮かべながら言葉を選ぼうとしていた。

 

そのとき、子どもの一人が外を指差す。

 

「あ、外見て!」

 

「・・・・雪ですね」

 

「それだけではないな」

 

山田真耶が呟き、千冬が小さく笑う。

 

「約束・・・・守ったな」

 

剣崎が小さく呟いた。

 

入口に四台のバイクが停車して小さな袋を背負ったブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルが入ってくる。

 

 

「「「「メリークリスマス!」」」」

 

 

四人は子ども達にプレゼントを配っていく。

 

 

子ども達は本物の仮面ライダーに会えたことに心から喜んで駆け寄る。

 

レンゲルやギャレンにも子ども達は集ったが、一番集ったのはブレイドとカリス。

 

「わー、慌てずに慌てずにプレゼント配るから」

 

「・・・・全員分あるからな」

 

プレゼントを全員分配り終えると仮面ライダー達は外に出て行く。

 

「それじゃあ、みんな」

 

「来年もいい子にしていろよ」

 

「喧嘩せず、仲良くな」

 

「元気でね」

 

そういってそれぞれの愛機に乗って仮面ライダー達は去っていく。

 

入れ替わるようにして一夏達がやってくる。

 

但し、始の姿はない。

 

「一夏君達、申し訳ないね~」

 

「いいですよ。これぐらい。それに戦う事以外でも役に立てるなら、いいですよね?」

 

 

「そうだな」

 

 

一夏の言葉に剣崎が頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め、メリークリスマス!始!」

 

「・・・・・・・・・・部屋、間違えました」

 

「ま、間違えていないから!間違えていないから帰ろうとしないで!」

 

部屋を出て行こうとした始をシャルロットが止める。

 

「いや・・・・つい、条件反射で・・・・どうしたんだ?その格好・・」

 

「変かな?」

 

「いや、全然、似合ってるぞ」

 

目の前にいるシャルロットは赤いサンタクロースの衣装、ただしミニスカでへそが見えている。

 

健康的な素足などがみえていて、始の心拍数が上昇して行く。

 

「だったら、なんで・・・・そうか」

 

「何だよ・・」

 

「見惚れちゃった?」

 

彼女の指摘は的を射ており始は黙り込む。

 

「う・・・・」

 

「嬉しいな、選んだ甲斐があるよ」

 

シャルロットは嬉しそうな顔をして始を抱きしめる。

 

始は柄にもなく恥ずかしがりながらも彼女を抱きしめ返す。

 

 

 

 

聖夜はまだまだ始まったばかりである。

 

 

みんながそれぞれ楽しむ。

 

 

人の為に戦い続けるヒーロー達にも少しの安らぎを。

 




次回の番外編が終わると本編に突入する予定。


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番外編 その3

『ピロリロリーン!始のレベルが1上がった!お金が一枚追加だからって知らないもん!』

 

「なんかムカつくナレーションだな・・・・おい!」

 

「すまん」

 

聞こえてきた声に始は叫ぶ。

 

隣にいる箒が申し訳なさそうに断る。

 

「いや、お前が悪いわけじゃないから、気にするな」

 

「・・・・そうだといいたいが、姉さんが作ったものなんだ、申し訳ない」

 

二人は奇妙な空間にいた。

 

空はウサギが飛んでおり、月が二つ、足元にはマスのようなものが沢山、設置されている。

 

マスに止まった始の足元に小さな金貨が落ちてきた。

 

どうしてこうなったんだろうか、と始と箒は記憶を探る。

 

思えばあの時が原因なんだよなぁ・・・・と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁よ、どこかへ出かけるのか?」

 

一夏が自室で外出届を記入していると遊びに来たラウラが気づいて尋ねる。

 

「あぁ、一度、家に帰ろうと思って」

 

「家に?何故だ」

 

「こんなこと大きな声でいいたくねぇんだけど・・・・」

 

ライダーになることを決意してから一夏はBOARDの寮で生活している。その前は千冬と一緒に生活していた。

 

そこで、問題を挙げるとするなら、織斑千冬は家事が壊滅的に出来ない。

 

炊事洗濯がとことんダメで、彼女の部屋は普段着や下着の乱雑など日常茶飯事、一夏が出て行って、二年弱、仲直りしてからは時々、戻るようにしていたが、かなりの時間を空けていたことで地獄が待っていた。

 

「だから、家に戻って、掃除しておこうと思って」

 

「成る程・・・・では、私も行こう。嫁の家を見ておきたい」

 

「いや、掃除とかしないといけないから、できたら・・・・・・」

 

千冬を尊敬しているラウラのことだからショックが大きくなるんじゃないか?と思ってやんわりと断ろうとした一夏だったが、彼女が制服のポケットから縄とガムテープを取り出したのを見て、後ろに下がる。

 

「ら、ラウラさん、その二つで何をするつもりでしょうか?」

 

「更識姉から教えてもらったのだが、家へ女を招きいれたくないと夫がいう場合、不倫の可能性があるから拷問せよ、と・・・・」

 

「(あぁの人はぁぁぁぁぁぁ!?なんということを吹き込んでんだぁ!)お、落ち着け!話し合おうじゃないか」

 

「む、そのセリフはどらまというので見たぞ!やはり、浮気をしているのか嫁ェェ!」

 

「ちがーう!!」

 

襲い掛かってきたラウラから逃げ出す一夏。

 

このやりとりは昼食を一緒に食べようとやってきた箒が止めに入るまで続いて、その後、彼女の説明により、落ち着いたラウラだった。

 

余談だが、一夏の家へいくという話を聞いて、その場にいた、専用機持ちメンバー全員の参加が決定したのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関には箒、セシリア、鈴、弾、簪のメンバーが揃っていた。

 

「なして・・・・」

 

一夏はようやくその言葉を呟いた。

 

「嫁の家は普通だな・・・・教官の家だから道場のようなものをイメージしていたぞ」

 

「アンタ、千冬さんのイメージどうなってんのよ」

 

「私も、そのようなものをイメージしていました」

 

「確か、外国の人って、日本人のイメージが少し固いんだよね」

 

「ひっさしぶりにきたな、ここ」

 

「変わってないな、この家」

 

「あのぉ・・・・なんで、弾と簪まで?」

 

一夏の問いに答えたのは箒だった。

 

「掃除をするのなら大勢でやった方が早く終わると思って、ラウラに頼んだのだ。一夏にメールで送っておいたはずだが?」

 

「え!?」

 

ポケットの携帯電話を取り出して確認すると、確かにメールは着ていた。

 

「楯無さんとの訓練で気づいてなかったみたいだ・・・・すまん」

 

「いや、私も口頭で伝えておけばよかった」

 

それからは大変だった。

 

全員で掃除用具を持って開始する。

 

一夏指導のもと、最初は順調だったのだが。

 

「む・・・・この下着・・・・」

 

「男達は見るなぁ!」

 

 

 

「ほぉ、これが嫁の下着か」

 

「女たちはでていけぇ!」

 

 

といったことがいたるところで起きて、一段落がついたころにはお昼。

 

常識人?といえる一夏はくたくたになっていた。

 

「さて・・・・お昼になったわけだが・・」

 

「これだけ大勢だと何か一つを作るのは大変だぞ」

 

箒の言うとおり、人数が多い。

 

「そうだ・・・・弾、手伝ってくれ。箒達はそうめんを沢山ゆがいておいてくれないか?」

 

「わかった・・・・だが、何を」

 

「準備できたら教えるって」

 

 

「そうめんとは何だ?」

 

「夏に食べる冷たい麺類の事だよ」

 

「ほう、楽しみだな」

 

「どうして冷麺じゃないのよ!?」

 

「まぁまぁ、鈴さん落ち着いてください」

 

「何か納得いかないわぁ!」

 

ピンポーンとドアホンが鳴る。

 

「あ、誰か来たみたいね・・って、何でアンタが!?」

 

「鈴?どうかしたのか、ってなにぃ!」

 

今度は箒が驚きの声をあげた。

 

壁に設置されているカメラの向こうには富樫始とシャルロットの姿が見える。

 

「ほー、何かうるせぇうるせぇと思ったらこんなに人が集っているとは・・・誰かの誕生日か?」

 

「んなわけないでしょ!・・・・なにしにきたのよ!」

 

「別に、理由がなきゃいけないのか?」

 

「だって・・アンタ」

 

一夏と殺しあおうとしたじゃない、といいそうになったのを鈴音はやめる。

 

既に終わった事をがたがた言っても意味がないし、一夏との間で既に折り合いがついている。

 

「あれ、始?」

 

「一応、遊びに来た・・・・メールで知らせておいたが?」

 

「・・・・あぁ」

 

「その顔からして、忘れていたな?」

 

「すまん・・・・ドタバタしてて」

 

「まぁいいや、大所帯になっているけれど、迷惑なら帰るが?」

 

「いや、今からお昼を食べるところなんだ・・・・そうだ、始も手伝ってくれ」

 

「ん?まぁ、わかった・・・・シャルロットは待っていてくれ」

 

「う、うん」

 

始は靴を脱がず中庭の方に周って男子の手伝いに。

 

残されたシャルロットは女性陣と一緒に皿などの準備を始めた。

 

「お前、器用だな」

 

「色々と勉強しているからね」

 

「そうか、お互い嫁のために頑張っているわけだ」

 

「え、嫁?」

 

「じ、実はね」

 

ラウラの言葉にシャルロットはぽかんとして傍にいた簪が説明する。

 

「あー、成る程・・・・嫁のためだね・・・・えっと」

 

「ラウラでいい」

 

「だったら、私の事もシャルロットでいいよ。ラウラ、貴方の事も名前で呼んでいい?」

 

「いいよ、だったら、私の事も簪って、呼んで」

 

「うん」

 

早速仲良くなるラウラとシャルロットにセシリアと鈴音は少し複雑そうな表情で二人を見ていたが楽しそうにやっているのを見ていると、自分達が難しく考えている事がバカらしく思えて、三人のガールズトークに参加する。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけですまん!」

 

「いきなり何・・・・謝ってくるんだよ」

 

中庭にやってきて、弾と遭遇すると、彼はいきなり謝ってきた。

 

「いや・・だって、お前の事封印しようとしたし」

 

「あぁ、そんなことか」

 

「そんなことって・・」

 

「お前らにはお前らの目的が、俺には俺の目的があったその程度の事だ。謝る必要なんかない・・・・終わった事だしな」

 

そういいながら手伝う始に弾は戸惑いながら。

 

「お前って、一夏と同じくらい変わっているよな」

 

「こいつと一緒にするな、少しだけ変わっているだけだ」

 

「はぁ!?どういう意味だよ!お前の方が絶対に変わっている!」

 

「んだとぉ!」

 

二人は作業をやめて口げんかを始める。

 

「・・・・訂正する。どっちもどっちだ」

 

「「どういう意味だ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備できたぁ!」

 

「おぉ、嫁よ。なんだこれは!?」

 

女性陣が中庭に到着すると竹を半分に切って作られたものがあった。

 

「流しそうめんをしようと思ってさ」

 

「ながしそうめん?とは」

 

「この竹の中を流れるそうめんを取って食べるんだよ。昔、俺らでやったけれど、おいしいぞ」

 

「おぉ!それは楽しみだ」

 

ラウラとセシリア、シャルロット、流しそうめんを見たことがないメンバーは目を輝かせている。

 

おわんを受け取り最初に弾がそうめんを流す。

 

手本を見せるため、一夏と始がそうめんの取り方を知らない人達に見せる。

 

ちなみに流れていったそうめんは置いてあるプールに入っていく、残りは男子が食べる事となっていた。

 

 

「よし、とれた」

 

「むっ、難しいな」

 

「あ、あ、全然取れませんわ・・・・」

 

「むかーー!大人しく捕まりなさいよ!」

 

「わぁ・・・・シャルロット・・凄い」

 

「そ、そうかな?」

 

初心者の中で唯一、シャルロットが流れてきたそうめん全てをキャッチした。

 

みんながわいのわいの楽しいそうめんを味わう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなで何か遊ぼうと思うんだが・・何かあるか?」

 

「そういえば、こんなものがさっき部屋の中から出てきたわよ」

 

鈴音が何かを思い出したようにほこりをかぶっていたボードゲームを取り出す。

 

全員が置かれたボードゲームを見る。

 

「なんだ・・こりゃ?」

 

「鈴、これどこにあった」

 

「千冬さんの部屋の中よ。奥に押し込まれていたわ」

 

「教官の私物か・・難易度高いのだろうなやりがいがある・・開けるぞ」

 

「・・・・待て!ラウラ!」

 

箒が止めようとするが一足遅く、箱を開けた途端、全員が光の中に巻き込まれる。

 

そして、冒頭に至る。

 

奥に仕舞われていたのは篠ノ之束が過去に作ったボードゲームでどういう理論を用いたのか始達はゲームの世界の中。

 

勝手にチームを組まされて一位を目指している。

 

箒の話によると一位が決まれば脱出できるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは一夏と一緒だった。

 

だったのだが。

 

「うーん、ごめん」

 

「いいって、ゆっくり行けばいんだからさ」

 

シャルロットが振ったダイスの目は1.

 

しかも、一回休み。隣ではウサギがすーぴーと寝息を立てている。

 

「(可愛いな・・・・そういえば、始の寝顔に少し似てる・・)」

 

「シャルロットってさ、わかりやすいな」

 

「え、な、なにが!?」

 

「あのウサギ、始の寝顔に似てるよな」

 

「な、なんで・・・・!?」

 

「いや、俺、あいつの寝顔見たことあるからさ」

 

「そ、そういうことじゃなくて、どうして僕の考えていた事がわかったの!」

 

「いや・・・・なんとなく」

 

「うーん、私って顔に出やすいのかな」

 

「俺もわかりやすいってよくわれているし、何でだろうなぁ」

 

「キミの場合、本当にわかっていなさそうだね」

 

「え・・・まぁ」

 

色々と考えてはいるんだけどなぁと心の中で思う。

 

そういえば、と一夏は尋ねる。

 

「始のこと好きなんだよな?」

 

「え・・・・うん、どうしたの・・急に」

 

いきなりのことにシャルロットは頬を赤くしながら頷いた。

 

面と向かって好きかどうかと聞かれたら恥ずかしい。

 

「いや、俺がいう必要はないんだけど・・・・アイツの事傍にいて支えてやって欲しくてさ・・ほら、アイツってどっか天邪鬼みたいなところあるだろ?それが原因で昔から友人が少なくてさ・・・・だから」

 

 後半のほうがしどろもどろになりながら一夏は必死に言葉を紡ぐ。

 

「始の事は心配しないで、私は何があっても支えるから」

 

「そっか、それ聞いて安心した・・・・次は俺が振るぜ」

 

投げたダイスが出した目は6.。

 

「よっしゃぁ!」

 

だが、現実は甘くなかった。

 

「スタートに戻るだよーん、およよよ~~~」

 

「「え・・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い!痛い痛いってぇのぉ!」

 

上から降ってくるモモットボールに鈴音はぶちきれる寸前だった。

 

「だぁ、落ち着けって!」

 

「わーってるわよ!!でも、あー!!苛々するぅ!」

 

所変わって、弾、鈴音は止まったマスから降り注いでくるイガグリボールならモモットボールに苛立っていた。

 

この空間ではISを展開する事ができず、脱出する為にはサイコロを振り、ゴールまで到着しないといけない。

 

「あぁもう!苛々する」

 

「・・・・はぁ、鈴、さっさとダイスふってくれ」

 

「わかってる!」

 

鈴音は苛立ちながらサイコロを投げる。

 

ボン!と大きな音を立てながら叩きつけられたサイコロのマスメは五。

 

『ゴールデンターーーーイム!!』

 

五番目のマスに止まった所でファンファーレが鳴り出す。

 

「な、なんだ?」

 

『今から特別にサイコロが三つになります!制限時間は五分間~~。頑張ってねぇ!』

 

「・・・・なにかしら、嬉しい事なのにすっごい苛々する」

 

「同感」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、セシリア、ラウラ、簪の三人はというと落とし穴から抜け出せないで居た。

 

「ラウラさん・・・・どうでしょうか?」

 

「ダメだな。関節を外せばなんとかなるかもしれんが・・・・この狭さだ。場合によっては全員が落ちてしまうかもしれん」

 

「ISも使えないから抜け出せない・・・・困った」

 

さきほど、ダイスを振って移動したマスで一回休みということで落とし穴にはまってしまったのだが、その穴がかなり広くて抜け出す事ができないでいた。

 

「どうしましょう・・・・他の人がくるかどうかもわかりませんし」

 

「いっそ、落ちるというのはどうだろう?」

 

「・・・・止めた方がいいかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、橘さん」

 

「おや、山田先生に織斑先生、こんな所で会うとは珍しいな」

 

「ここは私達がよく利用していてな・・・・そういう貴方は?」

 

「飲みたい気分になってな・・・・ここに来た」

 

「わぁ、お互いに利用していたんですね~、凄い偶然です」

 

その頃、大人達は大人達で楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが一夏達が脱出した時、夜になっていたとか、そうでないとか。

 



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第二十六話

警告!警告!警告!

崩壊注意報

唐突だが、やんでれって、どう思う?


「つ、疲れた・・・・」

 

二日間の合宿が終わり、一夏達はIS学園に戻ってきた。

 

とても濃厚な二日間を送ったみんなは疲労困憊しているものもいれば、満喫した者もいる。

 

一夏は荷物をまとめて寮の部屋で休みたいと考えて部屋に向かう。

 

「ふぅ・・・・シャワー浴びて、寝よ」

 

自分の部屋に着いた一夏はドアを開ける。

 

「おかえりなさい、お風呂にします?ご飯にします?それとも――」

 

一夏はドアを閉めた。

 

無表情のまま、ナンバープレートを確認して、自分の頬をつねり、一夏はもう一度部屋のドアを開ける。

 

「おかえりなさい、私にします?私にします?それとも私にします?」

 

「ダウトぉ!選択肢が一つしかねぇ!?」

 

部屋の中には水色の髪の少女がいて、口元を扇子で隠している。

 

扇子には「初登場!」と達筆な文字が書かれていた。

 

「てか、貴方、誰です!」

 

「まーまー、部屋の外で騒いだら迷惑になるわよ。中にどうぞ」

 

「・・・・はい」

 

納得のいかない表情を浮かべながらも一夏は中に入る。

 

荷物を置いて、一夏はベッドに座り込んでいる女性を見た。

 

「で、聞きますけれど、貴方、誰です?記憶が確かならここの利用者は俺だけのはずなんですが」

 

「そうよ」

 

「なら、なんで・・・・」

 

「生徒会長権限で入らしてもらったわ、織斑一夏君」

 

「せ、生徒会長?」

 

パチン、と扇子を閉じて、少女は微笑む。

 

「そうよ、IS学園生徒会長、更識楯無、それが私の名前よ」

 

よろしくね?と楯無は微笑む。

 

「・・・・生徒会長なんて、いたんだ」

 

「まぁね、色々と忙しくて入学式の挨拶とか欠席していたから知らない人は知らないと思うわ。さて、早速だけれど織斑一夏君」

 

突如、楯無は拳を繰り出してくる。

 

一夏は顔を少しずらして、拳をよけた。

 

続いて、アバラ目掛けて繰り出される蹴りを掴む。

 

「なるほどー。流石は男の子といったところかしら?」

 

「いきなりなんですか・・・・俺、品行方正な方だと思うんですけど」

 

攻撃された事に内心戸惑いながら一夏は冷静に尋ねた。

 

「いきなり、ごめんなさいね。貴方の実力を見ておきたかったの」

 

続いて繰り出された裏拳を受け流して一夏は尋ねる。

 

「生徒会長って、なんかやっているんですか?」

 

「うん、暗部の仕事とかやってるわ」

 

「・・・・それ、バラしたらマズイことなのでは・・・・」

 

「大丈夫よ。隙を突いて貴方の記憶を奪えば問題ないから」

 

「笑えないですよ!?」

 

「まぁ、今回は暗部の更識として貴方の前に現れたわ」

 

「・・・・はい?」

 

ようやく、攻撃が止まって一息ついた一夏はベッドに倒れそうになる。

 

だが、再び楯無がたちあがったのを見て、身構えた。

 

彼女の制服のポケットから一枚の写真を取り出す。

 

「彼の事について、正直に答えて」

 

「っ!?」

 

写真を覗きこんだ一夏は言葉を失う。

 

そこには富樫始の姿が映っていた。

 

予想外すぎて、言葉を失う。

 

「やはり、知っているのね?」

 

一夏の態度でわかったのか楯無が詰め寄ってくる。

 

「織斑一夏君、痛い目をみたくなかったら正直に、彼がどこにいるのか教えなさい」

 

「・・・・知っていたら、何をするつもりですか?」

 

目の前の彼女の表情から何を考えているのかわからない。

 

もし、暗部というのが自分の想像しているものどおりだったら、一夏は始を守る為に、目の前の少女を止めるつもりだった。

 

しかし、そんな一夏の覚悟は杞憂に終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地の果てだろうと見つけ出して私の婿さんになってもらうわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・はい?」

 

一夏は彼女が何を言ったのかわからなかった。

 

「すいません、俺の聞き間違いじゃなかったら・・・・婿にするとかおかしなこといいませんでした?」

 

「間違っていない。あの人を見つけ出したら結婚式をあげるの。彼ほどの猛者なら周りも納得する。いいえ、絶対にさせるわ!」

 

「いやいやいやいやいや、無理です!無理ですって!?始のヤツ、俺と同じ歳だから結婚はまだ無理・・・・いや、そういう話じゃなくて」

 

「始・・・・そう、彼の名前は始というのね」

 

「(ヤバイ、なんか地雷踏んだ!?)」

 

楯無の表情が前髪に隠れて見えなくなる。

 

それと同時に全身を襲うような冷たい空気が漂い始めた。

 

「ねぇ・・・・織斑一夏君」

 

「は、はい!」

 

近づいてくる楯無、一夏が下がると、一歩、近づいてくる。

 

「彼の事について、洗いざらい吐いて欲しいの・・・・でないと、私、何をするかわからないなぁ」

 

「(あ、アンデッドと戦うより怖い!?な、なんなんだこの人!?てか、始はなにをしたぁ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶるっ!?」

 

「どうしたの?急に体を震わせて」

 

「いや・・・・、急に二年前のことを思い出して」

 

「二年前・・・・?」

 

「あぁ」

 

二年前、亡国機業の命令で動いていた始は偶然にも日本の暗部と遭遇、戦闘となった。

 

「相手がISを使ったから、こっちもISで戦ったらまさかの互角、中々決着がつかないからどうするか考えていた時にアンデッドが現れた」

 

水色の髪をした娘を蹴り飛ばして、カリスに変身してアンデッドを封印したところまではよかった。

 

「封印した後、逃げようとした俺に向かってその水色の髪の女が宣言したんだよ」

 

 

――貴方を私の婿にしてみせる!

 

 

「って」

 

「・・・・」

 

「今までどーでもいいことだから忘れていたのに、なんで思い出したんだろう・・・・って、すまん」

 

後ろで不機嫌になるシャルロットに気づいて始は謝罪する。

 

一夏と違って、彼は敏感であった。

 

「それで、求婚してきた子とはどうなったの?」

 

「別に、何度か遭遇した事はあったが、特に進展なし・・・・てか、逃げてばっかりで何かいっていたけれど、聞こえなかった」

 

「ふぅん・・・・ま、許してあげる」

 

「どうも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「富樫始ェ!待っていなさい!貴方はとんでもないものを盗んでいったわ!そう!乙女の心を盗んだのよ!その罪を数えさせてみせるわ!」

 

 

「(どうでもいいけれど、帰ってくれ・・・・俺、休みたい)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんなことがあったのか?」

 

「あぁ・・・・」

 

更識楯無の襲撃から次の日、ぐったりした様子の一夏に気づいた箒に事情を説明中にいつものメンバーとなって朝食を食べていた。

 

その中で、一人だけ固まっている者がいる。

 

「む、どうした簪、箸がすすんでないが?」

 

「・・・・そうゆうラウラは朝から重たいもの食べているね」

 

「たんぱく質は大事だ・・・・それにしても、一夏、その更識楯無の野望は難しいのではないか?」

 

「まぁな・・・・」

 

ラウラの言うとおり、難しい。

 

富樫始の傍には金髪の、名前の知らない女の子が寄り添っている。

 

始を必死に助けようとした辺り、彼の事を思っているかもしれない。

 

そんな話をしていると、びくぅ!と簪が震える。

 

「あの・・・・簪さん、一体どうしたのですか?」

 

「な、なんでもないよ。せ、セシリア」

 

「私は箒だ。セシリアはあっちだぞ」

 

「あ、ごめんなさい・・・・」

 

「だぁぁぁ、さっきから気になるわね!一体、どうしたのよ!!」

 

鈴音の叫びに簪は観念したのかぽつりぽつり話し始める。

 

「実は、私には一つ上の姉がいるの」

 

「初耳だぞ」

 

「それで、ね、妹の私から見ても姉はかなり優秀で、ロシアの国家代表になって自由国籍も取得しているの」

 

「国会代表ですか・・・・」

 

「凄いな」

 

「・・・・えっと、そんな優秀な姉なんだけれど、少し前から・・・・自分の部屋でぶつぶつと何かを呟いていることが多くなったの。最初は間違いかなぁと思っていたんだけど、ある日、姉さんが起きないから様子を見に行ったら・・・・ノートが開いていたの」

 

「ノート?」

 

箒の質問に簪は頷いた。

 

この時、いやーな予感が一夏の背中を駆け抜けていた。

 

どうしてかわからないが続きを聞いてはいけないような気がする。

 

聞いたらとんでもないことになりそうな予感がした。

 

「そのノートには・・・・計画書が書かれていたの、その計画が“日本の婚姻年齢引き下げ、もしくは重婚の許可”・・・・だったの」

 

絶句するみんなの前で簪は続けた。

 

「私はノートをみないふりして姉さんを起こそうとしたんだけど・・・・既におきていて、そこから先の記憶がないの・・・・」

 

「・・・・あのさ、簪、俺の勘違いだったら嬉しいんだけど。お前の姉さんって」

 

「更識楯無、それが私のお姉さん」

 

全員の視線が一夏に集まる。

 

一夏はなんともいえない表情を浮かべた。

 

「嫁の友達は捕まったら終わりかもしれないな」

 

ラウラに反論する言葉を全員、見つけられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「(ねぇ、よくよく考えたら簪の姉が計画している計画・・・・重婚が実現してくれたらさ、メリットあるなぁーと思わない?)」

 

「(思いますけれど・・・・)」

 

「(実行はしないだろう。国家代表といえど、そんなものが実現するわけがない)」

 

「(嫁との結婚・・・・結婚とはいいな?)」

 

 

 



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第二十七話

半分の実力だ。何に対してかは内緒。


富樫始とシャルロットの二人は薄暗い部屋にいた。

 

薄暗いといっても今が夜とかそういうわけではない。

 

部屋に案内した人間が意図的に室内を暗くしているのである。

 

始は目を瞑って時間を潰していた。

 

「ねぇ・・・・本当に大丈夫かなぁ?」

 

「さぁな、やばくなったら逃げるしかないが・・・・状況次第だ。まぁ、安心しろ」

 

ぽん、とシャルロットの頭を撫でる。

 

彼女は頬を赤くしながら彼に撫でられ続けていた。

 

しばらく時間が流れて、二人の前のドアが開く。

 

「おそくなってしまい、申し訳ありません」

 

「いいさ、アポもなく押しかけたのはこっちだからな」

 

「まずは確認ですが、富樫始様とシャルロット・デュノア様でよろしいですか?」

 

「・・・あぁ、と言っても、あんたらの事だから既に指紋とかで確認してんだろ・・・・更識の暗部さん」

 

始の問いに目の前にいた少女、布仏虚は表情を変えずに座る。

 

「早速ですが、取引きの内容について確認しますがよろしいでしょうか?」

 

二人が頷いた。

 

「こちらが保証するのは二人の身の安全の保証、シャルロットさんはIS学園への転入となり、始さんはBOARDに身柄を拘束するというものですが・・・・」

 

虚は表情を変えずに告げた。

 

「片方は受諾しますが、もう一つ、始さんの身柄をBOARDに拘束というのは受け入れられません」

 

「え!?」

 

「それで?」

 

シャルロットが不安そうに隣を見るが始が続きを促す。

 

「BOARDではなく、貴方もIS学園への転入と扱いという事になります。勿論、二人目の男子という情報は公に発表されることはありません。秘匿情報ばかりでの転入となるので制限が多くなりますが、受け入れてもらえますか?」

 

「まぁ・・・・どっかの実験施設とかだったら拒否するところだけれど、IS学園ねぇ。こんな俺が学生生活送れると思うか」

 

「当然の事ながら、二人には監視がつきますので安心してください」

 

どこに安心できる要素があるのかわからないが始は頷いた。

 

「次にこちらの条件である亡国機業のアジト、構成員、計画などを話してもらいます」

 

「ほらよ」

 

始は懐からUSBメモリを取り出して机の上におく。

 

「この中に俺らが知る限りの情報を入れてある・・・・」

 

「確認させてもらいます」

 

「ただし!」

 

始がまったをかける。

 

「それは俺らが抜ける一ヶ月前の情報で、まだ組織がマトモだったころの情報だ」

 

「といいますと?」

 

「最近、あの組織の臭さが増した」

 

言葉の意味がわからず虚は首をかしげる。

 

「えっと・・・・元々、国家の施設に盗みに入ったりとか色々あったんですけれど、それでも、超えちゃいけない領域には絶対に手を出さなくて・・・・えっと・・・・」

 

「超えてはいけない領域というのは?」

 

「ただの、破壊活動になってんだよ。最近、人の形したロボットがIS纏って、ただ、施設を破壊する、人を殺し続ける。破壊前提の組織になっている。俺らが入ったときはそれぞれの目的を持って動いている連中ばかりだったのが今は一つの目的の為だけに行動している。それが気持ち悪くて、俺達は抜けた」

 

「一つの目的というのは・・・・」

 

「理由もへったくれもないただの“破壊”だ」

 

「破壊・・・・ですか?」

 

「そ、破壊、赤ん坊やガキみたいに物を投げたり泣きじゃくったり理由のない行動を組織はとり始めている。そんなところについていたら何されるかわかんねぇ」

 

「理由はわかりました・・・・。情報が本物かどうか確認しますのでお二方はもうしばらくここでお待ちいただけますか?」

 

「はいはい・・・・あぁ、ところで布仏さんとやら」

 

「なんですか?」

 

「更識の暗部にさ、水色の髪したヤツっている?」

 

ぴくっ、と彼女は反応するが、表情は変えずに頷いた。

 

「いますが、それが?」

 

「二年前に組織の命令でIS乗って、そいつと戦ったんだけど、あれから強くなったのかなぁ・・・・っていう、興味本位だ、別に名前を知りたいとかそんなんじゃない。こうゆう世界ってのはふとしたきっかけでいなくなるからな・・・・確認だ」

 

始の言葉に今まで鉄面皮だった虚が二年前、と小さく呟く。

 

「一応、生きておられます。確認ですが、二年前というのは料亭で繰り広げられたIS戦闘のことでしょうか」

 

「よくしってんなぁ、そうそれ」

 

始は驚いていると虚はメガネをくぃっと指で戻すと半眼で彼を見てから、「わかりました。確認します」といって、出て行く。

 

「・・・・始ぇ、今いう事じゃなかったよね?」

 

「まぁな、ずぅっと表情変わらないからなにをいえば、崩れるのか実験しちゃった」

 

「もう、天邪鬼すぎるよ」

 

「悪い悪い」

 

「いつか、痛い目みてもしらないんだからね」

 

「わかってるって、ほどほどにしておく」

 

手を振って軽く言う始だが、四時間後に彼はこういう。

 

「本当にやめておけばよかった」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み前日、生徒達は実家に帰省する準備をしている中で、一夏はISの訓練をしようと考えていた。

 

ブレイドと白式が融合した状態について知りたいというのもあったし、なによりISの技術面を磨く事はこれから起こる戦いにおいて必要になるかもしれないと一夏は考えていたからだ。

 

本当は専用機持ちを誘ったのだが、無理だった。

 

箒は新しいIS紅椿についての委員会に呼び出され、他の専用機持ちは祖国に夏休みについてどうするかの連絡のために学園にいない。

 

故に、一人でISの訓練をしようとしていた一夏は小さくため息を吐いた。

 

「・・・・それで、何か用事ですか?更識さん」

 

アリーナでISの練習をしようとしていた一夏の前に現れたのは更識楯無だった。

 

彼女は腰に手を当てて道を通せんぼしている。

 

「突然だけれど、織斑一夏君。貴方は弱い」

 

「・・・・本当に突然ですね」

 

一夏はげんなりしつつ答える。

 

「確かに、俺は弱いですよ」

 

「あら、認めるの?」

 

「少し前に、色々ありまして」

 

思い出すのは合宿での一件だった。

 

始・カリスとの戦い。

 

彼の抱えていた内なる闇。

 

仲間の絆に亀裂が入ったこと。

 

カテゴリーKとの戦い。

 

富樫始の姿をしたクローン。

 

ブレイドキングフォーム。

 

めまぐるしいほどの出来事の中で一夏は思い知らされた。

 

自分という人間はどうしょうもないほど弱い。

 

ライダーシステムという力があっても、意思を貫けることができたとしても自分は弱い。

 

決められたレールの上を歩いているだけの人生を受け入れてしまって、疑問も考える事もしないそんな人間だと思い知らされた。

 

「だから、俺は強くなりたい。今のままじゃ、何も変わらないと思うので」

 

「ふーん、よくわからないけれど、色々あったというわけね・・・・さて」

 

楯無は扇子をひろげる。

 

そこには熱血指導と書かれていた。

 

「今日から私が貴方を鍛えてあげるわ」

 

「更識さんが?」

 

「そうよ」

 

「でも、俺、箒達と」

 

「確かに同世代の専用機持ちに教えてもらうことは重要よ。彼女はキミよりも長くISと触れている・・・・でもね」

 

 

 

――上には上がいるのよ?

 

 

 

 

「ぐがっ!?」

 

気がついたら一夏の眼前に槍が突きつけられていた。

 

楯無が片腕を部分展開して、槍を向けていたのだ。

 

「(み、見えなかった!?)」

 

アンデッドとの死闘で、それなりに強くなっていて、動きに注していたというのに、全く見えなかった。

 

「いいこと教えてあげる」

 

槍をつきつけられて動けない一夏に楯無は喋る。

 

「IS学園の生徒会長というのはね。面白い決まりがあるのよ」

 

「き、決まり?」

 

「そう、誰よりも強くアレ・・・・学園の生徒会長というのはね。生徒の頭であり、生徒の中で一番強いという意味をもっているの。つまり、ISにおいてこの学園の生徒の中で、私は最強というわけ・・・・理解できた?」

 

一夏は無言で頷く。

 

「というわけで、キミには強くなってもらいたいから今日から私がIS指導をしてあげる。この夏休みの間に貴方を代表候補生、ううん、それ以上の実力まで引き上げてみせるわ」

 

 

――覚悟してね、と楯無はウィンクする。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーむ、私の予想では十分でダウンすると思っていたんだけれど、まさか一時間も保つとは予想外だったわ」

 

アリーナの“安全”な場所で楯無は扇子をひろげて口元を隠しながら感想を漏らす。

 

彼女の視線の先には大小、様々なクレーターが出来ていて、その沢山のクレーターの一つにISが解除されて地面に上半身が埋もれている織斑一夏の姿がある。

 

「さすがに武装なしでこっちの攻撃避け続けるというのは無謀かなと思っていたけれど、これだけ動きがいいなら、武装変えたりの実戦形式でやらせていくのもありかもしれないわねぇ」

 

ぴくぴくと地面から伸びている足の様子からしてまだ、大丈夫だろうと推察して楯無はこれからの訓練メニューを考える。

 

「(戦闘センスに関しては問題ない・・・・問題があるとしたらISに関する戦闘経験が少ないという事、ISを使っての公式戦はクラスの代表決定戦と学年別トーナメントのみ。たった二回でここまでISを動かせる事は評価するけれど、ここから先が問題なのよね)」

 

そう遠くない未来、織斑一夏を狙って何かが動く。

 

楯無はそう予想している。

 

彼にはISを使って逃げ延びる。贅沢を言うなら撃退するほどの実力を有してもらわないといけない。

 

一夏の護衛を頼まれているとはいえ、毎日、やっていられるほど楯無は暇じゃない。

 

可能な限り時間を割いて、ようやく接触できた。

 

数少ない時間を費やして彼を鍛え上げる。

 

「さて、休憩終了よぉ~。織斑一夏君。出られるかしら?出られないならお姉さんが引っ張り出して・・・・ん?」

 

アリーナに入って、近づこうとした時、彼女のポケットの中の端末が振動していた。

 

取り出して表示を見ると、布仏虚となっている。

 

「はーい、虚ちゃん。どうしたの?」

 

『お嬢様・・・・見つけました』

 

「なにを?」

 

『例の男子です』

 

虚からの報告に楯無の体が、時が一瞬、止まった。

 

「本当に?」

 

次に開いた楯無の声は思った以上に低い。

 

底冷えするような声に電話の向こうは必死に冷静さを保とうとしていた。

 

『間違いありません。さり気なく確認を取りました・・・・どうしますか』

 

「確か、虚ちゃんが相手してるのって、IS学園へ転入させるのよね?」

 

『はい』

 

「だったら、試験を今日やっちゃいましょう。二人とも学園につれてきて」

 

『大丈夫でしょうか?』

 

「一通りの検査はやるわよ。悪いけれど、お願いするわ。こっちはアリーナの申請とるから」

 

『わかりました』

 

ピッ、と通信が切れる。

 

楯無は端末を仕舞いこむと扇子で口元を隠す。

 

もし、ここに楯無以外の人がいたら恐怖のあまり気絶してしまうかもしれない。

 

彼女は笑顔を浮かべていたが、目は全く笑ってなかった。

 

「(ようやくようやく、ようやく見つけたぁ!これからが本番よ)あ、一夏君!私やらないといけないことあるから、悪いけれど、休んでいて、戻ってきたら訓練再開だから!」

 

地面に埋もれたままの一夏に告げて楯無はアリーナからスキップを踏んで離れていく。

 

埋もれたままの一夏は様子を見に来た山田先生がみつけるまでずっと、動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始とシャルロットの二人は漆黒のリムジンに乗せられてIS学園に来ていた。

 

「これがIS学園かぁ」

 

「国のお金が集ってできた施設だからな、みすぼらしかったな問題だろ・・・・」

 

「どうしたの?」

 

シャルロットは始が普段と違ってそわそわして落ち着かない様子に気づく。

 

「なーんか、リムジンとか豪華な車に乗るのって落ち着かないんだよなぁ。乗るなら日本製の車とか、バイク乗っているほうが俺の性にあってる」

 

「始らしいね」

 

「庶民らしいといえ。ショ・ミーンと」

 

「なにそれ?」

 

「気にすな」

 

「到着しました。車からおりてください」

 

虚に促されて二人はリムジンから降りる。

 

目の前にはIS学園の校舎が聳え立つ。

 

これから二人が通うことになる学校。

 

「これから、お二方には試験を受けてもらいます」

 

「・・・・試験、ですか?」

 

シャルロットの言葉に虚がはい、と頷いた。

 

「試験といっても、お二方の実力を見せてもらうだけです。ISの実力をです」

 

ISといわれて、二人の表情が変わる。

 

「使うISは?学園に置かれているやつか?」

 

「はい・・・・不都合でしょうか?」

 

「いいや、そのISが俺達の動きについてこれるか不安なだけだ。こんな風にな!」

 

始は銀の福音の腕を展開して、飛来した弾丸を叩き落す。

 

斬りおとされた弾丸は真っ二つに斬られて地面に転がる。

 

「いきなり弾丸、飛ばすっていうのは挨拶だなぁ」

 

ぎろり、と始は弾丸の方を睨む。

 

入口のほうを見ると、素敵な笑顔を浮かべている水色の髪をした少女がこちらを見ていた。

 

にやり、と少女が笑うと地面を蹴る。

 

くるか、と始が身構えているとあろうことか少女は始に抱きついた。

 

「えっ!?」

 

「会いたかったわぁ~~」

 

 

 

 

――ダーリン! と更識楯無は富樫始の頬にキスする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なぁ、機嫌なおせよ」

 

「ツーン」

 

アリーナへの道を始とシャルロットは歩いていた。

 

だが、シャルロットの機嫌がかなり悪い。

 

頬へのキスからずっと、目をあわせようとしなかった。

 

「(わかってるよ。始が悪くないっていうのさ・・・・でもさぁ)」

 

シャルロットはちらり、と始の、左腕に抱きついてほくほく顔をしている楯無を見る。

 

始の話によると二年前に出会って以来、会っていないそうだが、なにをどうやったらダーリンと呼ばれるような状況になるのだろう。

 

「(頬にキスなんて・・・・、私だって・・・・)」

 

隣を歩いている始の顔を見ようとすると、目が合う。

 

「なぁ」

 

「・・・・ぷぃっ!」

 

恥ずかしくて始が言葉を発する前に目をそらす。

 

だが、それを好機と見た者が一人。

 

「うがっ」

 

「ねぇ~~、ダーリン」

 

「んだよ」

 

始は少し苛々した表情で返す。

 

「結婚式はどこがいいかしら」

 

「勝手にいってろ、俺はお前と結婚する予定もするつもりもない(するなら・・・・)」

 

「そう(いいわ、いいわぁ!この後が楽しみね)」

 

「(始ぇ)」

 

混沌の一行がアリーナに辿り着いたのはそれから五分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、始!?」

 

「・・・・なんだ」

 

「どうして、そんなにげっそり?」

 

「聞くな、頼むから聞くな」

 

一夏は目の前にいるのが富樫始だということに驚いているが、普段飄々としている彼がげっそりとした表情になっていたことにびっくりしていた。

 

「(シャルロットさんや更識さんが左右に抱きつかれているなぁ・・・・それにしても)」

 

ちらり、と楯無の方を見る。

 

思い出したのは簪の言っていた計画のことだ。

 

簪の言っていた相手が始だとしたら。

 

「強く生きろ」

 

「いきなり、なんだよ。気持ち悪い」

 

「はじめますのでこちらへ来てください」

 

虚に呼ばれて、始は置かれている打鉄の方へ向かう。

 

聞いた話によると始とシャルロットは打鉄とラファール・リヴァイヴにそれぞれ搭乗して、相手のISと戦う、勝ち負けではなく、どのぐらい戦えるのか知りたいとのことだった。

 

「始かぁ・・・・」

 

「あ、おりむ~~」

 

「のほほんさん」

 

振り返ると、ダボダボの袖を振り回しながら同じクラスの布仏本音がやってくる。

 

「どうしたんだよ。こんなところで」

 

「私~、生徒会の役員なんだ~」

 

「え!?そうなのか」

 

「うん~」

 

驚きの表情だ。

 

普段、のほほーんとしている彼女が真面目に仕事をこなしているのか気になった。

 

「おりむ~も見学?」

 

「そんなところ、よく考えたら始がIS使って戦うのまともにみたことないからさ」

 

「へぇ~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの中央で打鉄を纏った始の前に更識楯無が現れた。

 

「・・・・」

 

帰りたい、

 

今すぐ帰りたい、と始は後悔している。

 

「よーやく・・・・ようやく、ようやくきたわぁ」

 

ミステリアス・レイディを纏った更識楯無はぶつぶつと何かを繰り返している。

 

なのに、瞳はじっ、とこちらを捉えて離さない。

 

「さっさと、はじめようぜ?終わらせて帰りたい」

 

「ねぇ」

 

戦艦刀を構えた始にぽつり、と楯無はつぶやく。

 

「この試合、負けた方は勝った方のいう事を聞くっていうのはどう?」

 

「何故?」

 

 メリットがない、と始が呟こうとしてあることに気づく。

 

 楯無の瞳孔が大きく開いて、ぞっ、とするような殺気がほとばしる。

 

「やるの?やるよね?やるに決まっていると思うんだけど」

 

「(こえぇ)・・・・じゃあ、俺が勝ったら二度と付きまとうな」

 

「うん。わかった」

 

あっさりと頷いた事に驚きながらも警戒を強めた。

 

開始のブザーが鳴って先に動いたのは意外にも始、戦艦刀を叩きつけるようにして楯無に振り下ろす。

 

刃が当たる直前で楯無は水を螺旋状に纏ったランス、蒼流旋で受け止める。

 

楯無がにっこりと笑ったのを見て、始は後ろに跳ぶ。

 

彼女が指を鳴らすと同時に小さな爆発が連続して起こる。

 

腕を盾にして顔に攻撃がこないようにしたが、ISのエネルギーが大きく削られてしまう。

 

「(なんだ?見えない爆弾でも設置していたのか?)」

 

始は楯無の動きに逐一警戒していた。

 

だが、彼女が何かを設置させたような動きは全くない。

 

「(あのISの力かなにかというわけか・・・・)」

 

「考え中?その間に倒しちゃう!」

 

「わっ、とと」

 

振るわれた蒼流旋を戦艦刀で弾き飛ばそうとするが向こうの方が強度が上で、刃の一部が欠けはじめていた。量産機と専用機との差に苛立ちを隠せない。

 

「くそっ、反応が悪い!」

 

「ふっふふ~♪」

 

次々と繰り出される槍とガトリングの雨に打鉄は抵抗むなしくシールドが削られていってしまう。

 

「ねぇ」

 

「んだよ!」

 

ワンサイドゲームに苛立ちつつあった始に楯無が微笑む。

 

「キミが勝った時の話はしていたけれど、私が勝った時の話はしてなかったわよね?」

 

「(いきなりなんだ?)」

 

戦いの最中の楯無の言葉に始は少し戸惑いの表情を浮かべた。

 

「勝ったら・・・・キミは私の婚約者になってもらうわ!」

 

「・・・・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!?」

 

観客席で戦いを観戦していた一夏と本音の二人は更識楯無の言葉に驚きの表情を浮かべた。

 

「こ、婚約って、楯無さん、本気でいってんのか!?」

 

「あちゃ~~、お嬢様がいっていた人って、あの人だったんだぁ~」

 

「のほほんさん、知ってんの!?」

 

「うん、前にかんちゃんの話にあったしなんかね~・・・・なんだったかな?」

 

首をかしげる彼女に一夏はがく、と崩れながらアリーナの様子を見る。

 

動揺した始の隙をついて爆発が打鉄の近くで起こり、戦艦刀が手を離れて、楯無の蒼流旋の先端が突きつけられていた。

 

「や、ヤバクないか?」

 

「うーん、このままだと負けちゃうね~」

 

「いや、そっちじゃない・・・・」

 

一夏はアリーナではなく、少し離れた所、観客席の入口で不敵に笑って出て行ったシャルロット後姿を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふふふふふふふ」

 

「すっげぇ、笑顔だな。おい」

 

「うふふふふふふふ、ようやく、ようやくよ!長い年月(二年)練り上げた計画が実を結ぶ時がきた!」

 

「・・・・質問なんだけどさ、なんで俺なわけ?お前とは一回しか会った記憶ないんだけど」

 

「・・・・何を言っているの?私は貴方と何度もあっているわ」

 

「は?」

 

意味が変わらず始は首をかしげてしまう。

 

「まぁいいや、いっとくけど、婚約者にしてもお前が悲しむだけだぜ?俺は」

 

「――人間じゃない、というんでしょ?」

 

楯無の言葉に始は目を見開く。

 

「色々と知っている・・・・調べたから・・・・それに、貴方が進化するところを見ていた」

 

「・・・・」

 

「でも、私は何も出来なかった」

 

震える声で楯無はつぶやいた。

 

「実際に貴方を助けたのは私じゃない・・・・悔しい、悔しいよ」

 

「それと、婚約することのつながりがみえないが?」

 

「惚けてる?それとも本当にいってるの」

 

「・・・・」

 

楯無の言葉に始は詰まる。

 

「貴方の体が人間じゃない。それは・・・・」

 

「言うな」

 

「でも!このままだと貴方は一人になる!そんなこと・・・・」

 

「お前はそのために自分を犠牲にするっていうつもりか?」

 

「私は!」

 

「これは、俺が招いた結果だ。俺のしたことにこれ以上誰かを巻き込むつもりはない」

 

打鉄を脱ぎ捨てて、始は起き上がる。

 

「更識楯無、こっからは本気で――」

 

「悪いけれど、選手交代だよ。始」

銀の福音を纏うとした始の近くにシャルロットが降り立つ。

 

「あ、何言ってんだ。これは」

 

「IS脱いだ時点で、始の負けは確定してるよ。この人の勝ち、悪いけれど、私の試合が押してるから始はさっさと退場だよぉ」

 

ラファール・リヴァイブを纏ったシャルロットは始の腕を掴むとそのままアリーナの出口に投げる。

 

「シャ、うぉぉぉ!?」

「へぶっ!」

 

一夏と始の二人はごろごろと地面を転がる。

 

「さ、続きをはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミとは一度、戦ってみたかったんだよね~」

 

「奇遇ですね。私もです」

 

ミステリアス・レイディを纏った更識楯無とラファール・リヴァイヴを纏っているシャルロットの二人が対峙する。

 

「先輩には悪いですけれど、始は渡しません」

 

「あら、いうわね」

 

突撃してくる楯無の攻撃を避けて、シャルロットはライフルの銃口を向けた。

 

「貴方のこと、羨ましいと思うわ」

 

「・・・・」

 

「ずっと、傍にいられて・・・・彼を助ける事ができる力が貴方にはあった・・・・それが本当に羨ましい!」

 

「私は、自分が嫌でしたよ」

 

蒼流旋によって弾丸が弾かれながらもライフルの攻撃を止めない。

 

「いつも傍に居ることはできました・・・・でも、何も出来なかった。始がジョーカーになったときも、足を引っ張って・・・・」

 

「けれど、貴方は彼を助けた!」

 

「運がよかっただけ!!」

 

ライフルが楯無の蒼流旋を弾き飛ばす。

 

槍を失った彼女だが、二人の間を阻むように小さな爆発が起こった。

 

距離をとろうとしたシャルロットに蛇腹剣を展開した楯無が切り込む。

 

ライフルが破壊されるが、慌てずにマシンガンと近接ブレードを取り出す。

 

「でも、貴方は彼を助けて、ずっと、いられることができる!私はそれが羨ましい、そして妬ましい!!」

 

「それは、私もだ!!」

 

近接ブレードで鍔迫り合いをしていたが叫び返し、マシンガンで蛇腹剣を弾き飛ばす。

 

「私は貴方みたいにどんどんアタックする勇気がない!嫌われるかもしれないと踏み込む勇気がない、そこが羨ましい!」

 

叫びながら攻撃の手を緩めない。

 

両者のISの装甲がボロボロになっていくが止める様子もなかった。

 

ずっと続くかと思われた戦いの中、突如、アリーナのシールドエネルギーを壊して侵入者が姿を見せる。

 

人形のような外見をした大型の未確認ISはシャルロットと楯無に向かって腕からレーザーを放つ。

 

二人は後ろに跳んで避けて同時に武器を展開する。

 

 

 

更識は奥の手といえるミストルティンの槍を――。

 

 

 

シャルロットはリヴァイヴのシールドに内包されている第二世代のISにおいて最高クラスの威力を有するシールド・ピアースを――。

 

 

 

 

 

「「邪魔すんなぁ!!」」

 

レーザーの雨を潜り抜けて二人は同時に攻撃をぶつける。

 

強力な攻撃を未確認のISは避けられず、爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

「あのぉ、始さん」

 

「言うな、俺は何も見ていない。すぐに消え去りたいくらいだ」

 

「残念だが、これは現実だ。愚か者」

 

バシンと始と一夏の後頭部に千冬の出席簿が炸裂する。

 

「「っ!?」」

 

「全く、これはどういうことだ?ISの試験をやると聞いていたがアリーナが半壊するほどやる許可はだしていないぞ」

 

 

説明しろ、と千冬の目が語っている。

 

一夏はちらり、と始をみる。

 

本人はため息を吐いて、すいませんでした、と謝罪する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試験を許可したがここまでやれとはいっておらんぞ、この愚か者共!」

 

千冬による制裁により、楯無とシャルロットの二人はアリーナで正座させられていた。

 

「全く、餓鬼共の面倒を見るこちらの苦労も考えてもらいたいものだ」

 

「「すいません・・・・」」

 

「とにかく、入学試験はこれにて終了だ。とっととシャワーでも浴びて部屋に向かえ、デュノア、着替えが終わり次第、寮の前までこい。部屋の鍵を渡す」

 

「は、はい!」

 

「更識、お前は仕事があると呼んでいたから急いで向かうように」

 

「わかりました」

 

楯無とシャルロットはそこで互いをみてから、シャワー室に向かう。

 

「さて、富樫と織斑、貴様らはアリーナの後片付けを頼む」

 

「・・・・わかりました」

 

「はい・・・・」

 

不可抗力だ、と二人は叫びたかった。

 

だが、千冬の背後に存在する修羅によって意見は封殺される。

 

二人はISを展開して片付け始める。

 

「時間も遅い。さっさと終わらせよう」

 

「・・・・だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~~、つっかれた」

 

始は肩を回しながら山田先生に渡された鍵を手に、寮の部屋へ向かう。

 

一夏の部屋は1025号、シャルロットは1055号、始の部屋は。

 

「ここか・・・・」

 

1056号と書かれている部屋の番号と鍵を確認して、目の前の扉に鍵を差し込んで中に入る。

 

「おかえりなさい!私にします?私にしますよね?私に決まっていますよね?わたしに――」

 

 

――ガチャリ。

 

 

始は開けたドアを閉める。

 

見間違いかなぁと必死に現実をそらそうとしたけれど、目の前に表示されているプレートは1056号、自分に与えられた部屋に間違いない。

 

意を決し始は再びあける。

 

「私にしますよね?私に決まっていますよね?私しかありませんよね?私に」

 

「部屋間違えまし――」

 

ガチャリ、ドアを閉じようとした始の腕に手錠が絡みつく。

 

ISを部分展開して手錠を破壊しようとした始の視界に更識楯無の瞳が目に入る。

 

――逃げたら許さない。

 

彼女の目はそう語っていた。

 

どす黒い瞳が入って、始は恐怖する。

 

本能的に恐怖した。

 

逃げたいと考える。

 

けれど、楯無の瞳が怖すぎて動けない。

 

今まで、色々な人でなしみたいなことをしてきた始が怖くて動けなかった瞬間だった。

 

「っと、まぁ、ふざけるのはこれぐらいにしておいてあげるわ」

 

急に恐怖が消えて、手錠も解除された。

 

「シャルロットちゃんと協定を結んで寮の部屋では貴方の意思を尊重する事にしたの」

 

「そ・・・・そうか」

 

始はシャルロットが天使に見える。

 

実際、惚れた弱みというわけではないが、彼女は天使よりも可愛く美しい。

 

「・・・・それと」

 

楯無は小さく笑って、始の手に触れる。

 

「貴方の気持ちがシャルロットちゃんに向けられていても諦めるつもりはないから、絶対に振り向かせるから」

 

「・・・・楯無」

 

「――刀奈」

 

「あ?」

 

「楯無というのは更識の当主が継ぐ名前なの、刀奈。それが私の本当の名前よ」

 

「刀奈ね・・・・覚えておく」

 

「嬉しい」

 

楯無―刀奈は小さく微笑む。だが、始はこの時、油断していた。彼女は寮では手を出さないが、寮の外ではとんでもない行動ばっかり起こすことに。

 

「あぁ、それと」

 

――ようこそ、IS学園へ。

 



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第二十八話

――視界が回転する。

 

次に衝撃がやってきて、座っていた体を車の天井に打ちつけた。

 

大きな音が連続して響く。

 

――何が起こったのわからない、

 

自分は体を打ちつけた衝撃の為に思考が上手く回らない。

 

痛む体を抑えながら運転手に外に出るように促された。

 

車のガラスに亀裂が入っていたみたいで、腕に破片が突き刺さっている。

 

痛む腕をおさえながらゆっくりと車から引っ張り出された。

 

外に出た瞬間、そこが地獄なのではないかと錯覚してしまう。

 

何台もの車が横転して火に包まれている車もあった。

 

黒い煙の向こう、太陽の光に反射して輝く何かがいる。

 

その存在を確認した途端、自分の傍にいた運転手の体が弾け飛ぶ。

 

――声が出なかった。

 

目の前で運転手の体はザクロが落ちたみたいに千切れて、地面に崩れ落ちる。

 

血まみれになった手を払って、ソレの目と自分の目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

荒い息をたてて、簪の意識は覚醒する。

 

心臓が爆発寸前みたいに音を立てていた。

 

呼吸も荒い。

 

扇風機もエアコンも停止していて、室内が蒸し暑くなっていて、来ている服に汗がべっとりついている。

 

「どうして・・・・」

 

簪は小さく呟いた。

 

「まだ・・・・乗り越えていないってことなの?」

 

彼女の脳裏に離れない悪夢。

 

かなりの月日が流れたというのに消えていなかったのかと簪は自問する。

 

ふと、こんなに熱いのに起きたのは自分だけなのだろうかときづいた。

 

隣を見ると、ルームメイトの姿がない。

 

「・・・・熱い」

 

体を拭こう。

 

汗だくになったパジャマを脱いで、別のものに着替える。

 

ルームメイトに関しては大丈夫だろう、と簪は考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

織斑一夏の朝は叫ぶ事によって始まる。

 

――最近は。

 

「ラウラぁ!」

 

一夏は白い毛布にくるまっている銀髪の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒの姿を見つけて、声を荒げた。

 

嫁宣言、エレファントアンデッドとの戦いの告白以降からラウラは毎日のように一夏の部屋に侵入して眠っていることが多い。

 

何度もやめるように一夏は説得しようとするが彼女は聞いてくれない。

 

本当なら強く拒否すればいいのだが、一夏は強くいえない立場にある。

 

彼女達の好意に気づいているが、自分がどうすればいいのか答えが見つからない。

 

答えを保留にしている一夏が強く言える立場ではない。

 

ラウラは不安だということをわかっているから拒絶できなかった。

 

ヘタレ一夏が全ての元凶である。

 

「安心しろ。今日は裸ではないぞ!」

 

「うわっ!?」

 

彼女が毛布を脱いだのを見て、慌てて目を閉じようとしたが、見えたのはスクール水着、しかも、らうらと胸元にかかれていた。

 

旧式のスクール水着。

 

「なんと」

 

――コアな。

 

「クラリッサから聞いたのだ。この格好は人気があると!」

 

「お前に変な知識を与えている人に文句いいたい」

 

けれど、強くいえないのが一夏である。

 

「それより、お前何度も部屋に侵入しているが・・・・大丈夫なのか?」

 

「今は夏休みだ。問題ない」

 

「(そんなものなのだろうか?)」

 

「・・・・ところで嫁よ」

 

「なんだ?」

 

「今日は暇だろうか?」

 

ラウラに聞かれて今日の予定を確認する。

 

今日は楯無との訓練はない。

 

他の専用機持ちとの予定もなかった。

 

箒は手に入れたISの尋問、但し、最終日。

 

セシリアは本国に帰国中。

 

鈴音は・・・・知らない。

 

「暇、だな」

 

「そうか、暇か・・・・では、私と出かけないか?」

 

「買い物とかか」

 

「――デートだ」

 

デートといわれて、一夏は詰まる。

 

「ダメ・・・・か?」

 

「いや、ダメじゃない!」

 

上目+涙目のために一夏は壁を展開する暇もなく崩れた。

 

ヘタレ一夏確定の瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼。

 

富樫始はシャルロットと街の外にでている。

 

消耗する日用品を買い揃える為・・・・だった。

 

「・・・・なんで、お前がいるんだ?」

 

「いちゃダメかしら?」

 

始の前には「貴方の背後にはいよる混沌」と書かれた扇子を閉じて、にこりと微笑む更識楯無の姿がある。

 

出て行くときに彼女の姿がなかったことからどこかにでかけたのだろうと思っていた。

 

シャルロットを誘って、外出届をだし、街の外にでてきたわけだが、彼女と一時的に別れて、買い物を終えて、待ち合わせ場所に向かう途中で楯無が現れる。

 

「なんで、ここにいることがわかった?」

 

「偶然よ・・・・それと」

 

楯無はにこりと微笑むと始の腕に抱きつく。

 

「貴方達は一応、更識の監視下にあるから、誰かが気づかれないように監視している・・・・といっても、今回、私自らでているから他の人はいないわ」

 

ぼそぼそと喋る楯無に始は腕を振りほどこうとする。

 

「それと――」

 

解こうとした始の腕に思いっきり楯無は爪を立てた。

 

服の上から痛みはないが、威圧感がおそいかかる。

 

「寮においてはなにもしないけれど、外では私も乙女なので自由にさせてもらうわ?さ、いきましょ、あ・な・た」

 

「何をやっているのかな?始」

 

腕を引かれて歩き出そうとした途端、更識の後頭部に拳銃の銃口をつきつけてシャルロットが現れる。

 

「あらあら、おかしいわね。私の予想ではもう少し掛ると思っていたのに」

 

銃を突きつけられているというのに楯無はころころと笑う。

 

だが、よくみると、彼女の手の中に扇子があって、それがシャルロットの心臓に向けられていた。

 

扇子の先端から仕込み針がでていることを始は気づく。

 

二人はにこりと笑っているが、お互い、目は氷のように冷たく感情が見えない。

 

「もう、ダメだよ。始?私とのデート中に女の子に捕まったら、さ、いこう」

 

「ごめんなさいねぇ。シャルロットちゃん。お姉さんと始君はこの後デートすることが急遽、決まっちゃったから一人で帰ってもらえるかしら?大丈夫、おいしくいただくから」

 

「悪いけれど、始とはこの後も予定が一杯なんだ。先輩が帰ってください。安心してください。しっかり味わいますから」

 

何を味わうのか、食べるのかというのを始は聞かない。

 

身の危険を感じるが、彼は。

 

「二人とも、俺の傍から離れるな」

 

今にも●し合いをしそうな状況の中で始は二人を抱きしめる。

 

「ちょ・・・・」

 

「は、はじ」

 

始は二人を抱きしめるとそのまま床に伏せた。

 

直後、近くの壁が大きな音を立てて壊れて、そこからアンデッドが姿を見せる。

 

現れた怪物に周りの人達は悲鳴を上げて逃げ出す。

 

「・・・・やれやれ、アンデッドか・・・・楯無とシャルロットは無関係の奴らの避難を頼む・・・・」

 

面倒そうな表情を浮かべて始は懐からハートのプライムベスタを取り出す。

 

同時に、腹部にカリスラウザーが現れる。

 

「変身」

 

『チェンジ』

 

カリスの姿になり、人を襲おうとしているアンデッドに飛び掛る。

 

ジェリーフィッシュアンデッドは左手の鞭を振るう。

 

振るわれた鞭を避けて、カリスアローのソードボウでジェリーフィッシュアンデッドの体を斬る。

 

体を斬られて仰け反る隙をついて、カリスはフォースアローを放つ。

 

エネルギーアローを受けたジェリーフィッシュアンデッドは爆発を起こして後ろに倒れこむ。

 

「・・・・俺のカテゴリーではないが、封印しておくか」

 

カリスが手を伸ばした時、場を包み込むような強力な殺気がとんでくる。

 

「っ!?」

 

動きを止めたカリスの隙を突いて、ジェリーフィッシュアンデッドは自らの姿をゲル状の液体に変えると逃げてしまう。

 

「・・・・」

 

カリスはハートスート2のプライムベスタを取り出すとラウザーに読み取らせる。

 

『スピリット』

 

カリスから富樫始の姿に戻ると、彼はそのまま屋上へ向かう。

 

「あ、始!」

 

「待ってよ!」

 

シャルロットと楯無の二人は慌てて追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富樫始がビルの屋上に到着すると、先客が居た。

 

「アンタか、戦いに水を差したのは」

 

ゆっくりと振り返る男はメガネの奥から冷たい瞳を始に向けている。

 

「理解できないな」

 

「あ?」

 

「キミは愚かな人から進化したというのにその姿をさらけ出すどころか人ごみの中に隠れ、無能な人間を助けようとする・・・・理解できない」

 

 

「別に、理解されようとも思わない。俺はやりたいことをやるだけだ」

 

始の言葉に男は小さく笑う。

 

「失礼、進化しているのに知能が伴っていないと思ってね」

 

「なんとでもいえばいいさ」

 

――その程度の悪意慣れてる。

 

今まで、人生がゆがめられるまで始は様々な悪意をぶつけられた。

 

ただ、一夏と友人だっただけで。

 

箒と遊んだだけ、千冬と話をしているだけで、彼は悪意をぶつけられる。

 

目の前の男の言葉など痛くもかゆくもなかった。

 

「それで、アンタは文句言う為だけに現れたわけか?」

 

「・・・・富樫始、俺と組まないか」

 

「組む?何の為に」

 

男の提案に始は尋ね返す。

 

「全てのISを壊す為だ」

 

「何故?」

 

「気づいていないわけじゃないだろ?ISのコア、あれは人間が作れる代物ではない。キミが完全なアンデッドにならせなかった最大の理由は融合しているコアが原因だ」

 

「貴様・・・・」

 

「あぁ、安心しろ。この情報を外に公表するつもりはない。そんなことをすればこちらも危険になってしまうからな」

 

ハートスートのプライムベスタを取り出した始をみて、男は取り繕うように喋る。

 

「・・・・はっきりいおう。このままだとバトルファイトよりもさらに過酷な事が起こるだろう。手を組もう。ISを根こそぎ破壊しなければ明日はわが身だ」

 

差し出される手を始は取らない。

 

「全て破壊ということは、俺のISも破壊するという事だ。悪いが協力できない」

 

手を下ろして男は目を細める。

 

「ふん、気をつけることだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒは街中を歩いていた。

 

「なぁ・・・・これって、どうなんだ?」

 

「む」

 

ラウラは少し考えてから一夏に尋ねる。

 

「嫌か」

 

「・・・・嫌というよりか、恥ずかしいんだけど」

 

街中で一夏とラウラの二人は買い物に来ている。

 

二人は注目を浴びていた。

 

銀髪で整った顔立ちのラウラは綺麗というよりかは可愛いという印象を周囲に与え、一夏は引き締まった肉体と整った顔立ちによって、女性からいい物件としてみられていた。

 

そんな二人がさらに注目を浴びている中でさらに注目を浴びている理由がある。

 

「何故、お姫様抱っこで歩くんだ・・・・」

 

さすがにおかしい、と一夏は思う。

 

けれど、ヘタレ一夏はそんな強く言える立場ではないため、大人しくしたがっている。

 

ライダーとして過酷な訓練をつんでいたのと、羽のように軽いラウラに重さをほとんど感じない。

 

むしろ、女性の柔らかさにドギマギしてしまう。

 

周囲の人たちは顔を赤らめているラウラと涼しい顔で彼女を抱きかかえている一夏にお姫様と王子という図をみて、きゃーと騒いでいる。

 

「クラリッサから、こうすれば好感度があがると教えてもらったのだが・・・・」

 

「明らかにその人、日本を勘違いしているとしか思えないんだが、しっかり話し合うべきなのかもしれない」

 

「むぅ・・・・一夏は嫌か?」

 

「だから、恥ずかしいんだって」

 

「わ、私も恥ずかしい・・・・だが」

 

――続けていたい。

 

消え入りそうな声でラウラは呟いた。

 

ヘタレ一夏は言葉という弾丸によって心臓を撃ち抜かれる。

 

「いや、続けよう!」

 

「う、うん」

 

微笑ましい光景がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ほぅ」

 

 

 

 

 

 

「うん!?」

 

一夏は慌てて周りを見る。

 

気のせいか、鋭い視線を感じたような気がして一夏は周りを見るけれど、何もない。

 

「どうした、一夏」

 

「いや、何か視線のようなものを感じた気がして」

 

「・・・・私は感じない」

 

「うーん、間違いか」

 

気のせいだとして、一夏とラウラのデートは続く。

 

 

――邪魔虫がたくさんいるなぁ・・・・だが、やりがいがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるチャットルーム。

 

 

 

<<<今日、デパートで仮面ライダーみちゃった。

 

 

<<<え、

 

 

<<<なに、それ?

 

 

<<<知らないのかよ!?

 

 

<<<バグってる。

 

 

<<<仮面ライダーっていうのは、都市伝説だーよ。

 

 

<<<人間とは違う異形と戦う仮面をかぶってバイクに乗った奴ららしーよん。

 

 

<<<一説では人類の平和を守る為らしい。

 

 

<<<バグッてる!

 

 

<<<偽善者にもほどがあるってーの!

 

 

<<<俺も平和の為に働かない。

 

 

<<<黙れ、ニートwww。

 

 

<<<てか、あれって、働いてるんかいな?

 

 

<<<所詮、金のためじゃね。

 

 

<<<何で顔隠すんだよ?

 

 

<<<さぁ?

 

 

<<<てかさぁ、その仮面なんとかって、ISより強いわけ?

 

 

<<<バグってる!

 

 

<<<それ、ずうっというつもりかよ!

 

 

<<<ISより、強いとか言う話だけどさ?

 

 

<<<ん?

 

 

<<<それ、ありえなくね?ISは世界最強、仮面ライダーって、所詮、金の為に動いている連中しょ?てか、いるかいないかもわからないんだから放置でいいとおーもう!

 

 

<<<えぇ~~、気になる気になるぅ。

 

 

<<<バグってりゅ!

 

 

<<<・・・・。

 

 

<<<かみまみた。

 

 

<<<わざとじゃない!?

 

 

 

 

 



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第二十九話

 

IS学園の二学期がスタートして一週間が経過した。

 

授業が終わって放課後、アリーナの一角で打鉄を纏った始と紅椿を操る箒との練習試合が行われている。

 

紅椿の振るう二本の刃を打鉄の戦艦刀で受け流していく。

 

激しい戦いだが、始は押されていた。

 

「このまま勝たせてもらう!」

 

「ただで、負けるつもりはない!」

 

迫る刃の一本を避けて、戦艦刀で箒の腹を突く。

 

だが、打鉄のエネルギーが0になって、勝敗が決する。

 

「くそっ・・・・」

 

打鉄を脱ぎ捨てて始は悪態をつく。

 

「やっぱり、ぎこちないね」

 

「あぁ、どうも反応が悪い」

 

観戦していたシャルロット、セシリアが近づいてきて尋ねる。

 

紅椿を解除して箒も近づく。

 

「戦っている私から見ても、始の動きはぎこちなかったぞ」

 

「相手からも理解されるほどじゃ、致命傷だね」

 

「くっそ、量産機の限界ってヤツか」

 

入学試験以降、始は何度もISを操縦しているが一向に上手くならない。

 

「しかし、二人は専用機を持っているというのに、どうして使わないんだ?」

 

「使わないんじゃなくて、使えないんだよ。篠ノ之さん」

 

「俺らのISは競技用じゃない。ガチ戦争用のISだから表立って使うと委員会がうるさいんだそうだ」

 

「不便ですわね」

 

表向きの理由と始は説明する。

 

実際は使用してもいいのだが、そうなると二人の立場がかなりややこしくなるため、非常時以外は使用禁止にしているのだ。

 

だから、始は打鉄、シャルロットはラファール・リヴァイヴを学園から借りている。

 

「じゃあ、次は私とシャルロットさんですわね?」

 

「よろしく、オルコットさん」

 

ブルー・ティアーズを纏ったセシリアをみて、シャルロットもISを纏う。

 

「思ったんだが、二人は織斑の方にいかなくていいのか?」

 

「いや・・・・いきたいんだが、一夏は生徒会長に鍛えられていて・・・・」

 

「あ、そ」

 

始はそれ以上追及しなかった。

 

「一応、鈴とラウラが様子見としてあっちにいるんだが・・・・」

 

「死んでいないといいなぁ・・・・アイツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい!」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

次々と繰り出されるガトリングガンを一夏は悲鳴を上げながら逃げていた。

 

訓練は一方的な攻撃から一撃も受けずに逃げ続けよ。

 

もし、一撃でもあたれば・・・・うふふ。といった内容。

 

「あれ・・・・八つ当たりよね?」

 

「言うな、言えば我々に被害が来る」

 

観客席で鈴とラウラが様子を見ていた。

 

前に、一夏と楯無が二人っきりで訓練していると聞いて、嫉妬した彼女達が様子を見に行くと、そこでは煤まみれで瀕死の一夏君の姿があった。

 

「あら、やりすぎちゃった☆」

 

そういって楯無はほくほくした顔をしていたのを見てから、彼女達は決意する。

 

――一夏を見守っていないと、危険だ。

 

彼女達はそういって、かわるがわる一夏を見守る事にした。

 

「でもさぁ、あの人、なんでイラついているのかしら?」

 

「富樫始との距離だろうな」

 

「距離ぃ?」

 

ラウラは説明する。

 

「更識楯無会長は富樫始に結婚までの道のりを想像するほどに好意をよせている。だが、愛しい相手の傍にはいつもシャルロットという存在がある。彼女と交わした協定により富樫を襲うことはできない。目の前にいるのに何も出来ないという歯がゆさに苛立ち、丁度いい八つ当たり相手として嫁を選んだのだろう。よほど、嫉妬していると見える。まぁ、私と一夏のいちゃいちゃと同じぐらいあの二人の仲はいいからな」

 

「アンタと一夏のいちゃいちゃについては後で問い詰めるわ・・・・にしても、あの人の瘴気、前よりも強くなってない?」

 

「そうだな・・・・正直、私でもあれは勝てない」

 

「私もよ」

 

狂ったように笑っている楯無から逃げている一夏の身を案じながら二人は観戦する。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい、ここまでにしましょう」

 

楯無にいわれて一夏は地面に崩れ落ちる。

 

燃え尽きた。

 

真っ白に燃え尽きた一夏の姿がそこにあった。

 

「さぁて、今日はここまで、あ、明日は全校集会があるから特訓はおやすみだから~」

 

ほくほく顔で去っていく楯無と入れ替わるようにラウラと鈴音がやってくる。

 

「大丈夫?」

 

「・・・・・・」

 

「反応がない、ただの屍のようだ」

 

「アンタ、どこでそんな知識もってくんのよ・・・・さ、さっさと運びましょ」

 

用意した台車に一夏を載せて二人は寮に向かう。

 

一夏が色を取り戻したのはそれから一時間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

全校生徒が集まっている中で一夏はげっそりとした表情だった。

 

楯無との訓練で確実に自分は力をつけている。

 

だが、

 

「(明らかに八つ当たりも混じっているんだよなぁ)」

 

一夏はちらりと、離れた列のところにいる始を睨む。

 

彼が全ての元凶というわけではないが、悪いのは始だろう。

 

「(なんとかしてくんないかなぁ)」

 

ぼーっと、考えている間に楯無が壇上にあがって、演説をしている。

 

考えていたら急に歓声があがった。

 

なんだ!?と一夏が身構えて顔を上げると。

 

「織斑一夏を巡っての部活争奪戦を開始しまーす!」

 

混沌再来!とかかれた扇子をひろげて楯無は不敵に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ、一夏?」

 

「顔が近い、てか、木刀コッチに向けないでくれ、箒」

 

剣道場で特訓を終えた一夏は箒に尋問されていた。

 

更識楯無の宣言以降、クラスメイトを含めて女子全員(主に上級生)が騒ぎ出す。中には公式大会など放置せよと叫んでいた人もいる。

 

いいのか、それで?と思ったのは内緒だ。

 

「何故、お前が部活の出し物の対象になっているのだ?」

 

「いや・・・・俺も、今日の事は全く知らなくて・・・・・・」

 

「災難ねぇ、織斑君も」

 

箒と話をしていると剣道部部長がやってくる。

 

「でも、仕方ないと思うよ?織斑君がどこの部活にも入ろうとしないのに剣道場にいりびたっているから生徒会に苦情がいったんだと思うし」

 

「え、そう・・・・なんですか!?」

 

「成る程」

 

初耳だった一夏は驚きの声を漏らす。

 

ソレに対して箒は納得の表情だった。

 

「え、箒はわかっていたのか?」

 

「お前は自分の立場がわかっているか?お前は世界で唯一・・・・おっと、数少ないISを動かした男子だぞ。その男子が部員でもないのに剣道場にいる。部活に所属しているのなら納得するだろうが、入っていない、苦情が来る・・・・当然の事だろうな」

 

「やばいなぁ・・・・」

 

「だから、織斑君争奪戦が始まったのよ・・・・それにしても、もう一人の男子は運がいいわよねぇ、もう少し速かったら争奪の対象になっていたかもしれないのに」

 

「「(それはないな)」」

 

箒と一夏は部長の言葉を心の中で否定する。

 

「(あの人、始に執着しているし)」

 

「(独占欲が強そうだ・・・・始、頑張れ)」

 

「まぁ、学園祭も近いんだし、頑張ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突だが、二学期が開始すると同時に始とシャルロットの二人は一組に転校生として振り分けられた。

 

顔見知りが多かったことから不自由のない生活を送れている。

 

そして、一組では学園祭に行われる催し物について話し合っていた。

 

「・・・・却下」

 

「右に同じく」

 

『えぇ~~~~!』

 

一夏と始が目の前の提案を全て却下した。

 

すると、クラスメイトの全員が不満の声を漏らす。

 

「だいたいなんだよ。ツイスターゲームとか・・・・苦労するの俺と始じゃないか」

 

「俺が転校した事で人数が多いんだ。そこを攻めろよ」

 

「でも、折角の男子だよ?有効に使わないと!」

 

「方向性がおかしいってことに気づいて!!」

 

「ならば・・・・喫茶店はどうだろうか?」

 

「ラウラ・・・・?」

 

騒ぐクラスメイトの中で挙手したのはラウラだった。

 

「日本にはメイド喫茶なるものがあるのだろう?それならば、私達も働けるし一夏達男子も何か生かせるのではないか?執事喫茶とかいうのもあるそうだが」

 

『成る程!』

 

「・・・・執事ね」

 

「俺にあうかねぇ?」

 

「柄の悪い執事になりそうだな」

 

「はっはっはっ」

 

一夏の言葉に始は大きな声で笑う。

 

「いいんじゃないか?」

 

端に座っていた千冬が立ち上がる。

 

「他のクラスとかぶりそうになった場合の候補をもう一つ考えておけ。そうならない場合は私が死守してやる・・・・邪魔したな。続けろ」

 

「は、はい」

 

一夏は戸惑いながら次の候補を考える。

 

「あの・・・・劇とかどうかな?」

 

挙手したのはシャルロットだった。

 

「劇?」

 

「なにするの?」

 

「これとか・・・・どうかな」

 

シャルロットが取り出したのは教科書として使われている仮面ライダーという名の仮面、だった。

 

「・・・・えっと・・・・」

 

「いいかも!」

 

「この話、結構面白いもんねぇ!」

 

「執事喫茶もいいけれど!ダメになったらこっちやるのもありかもね!!」

 

戸惑っている一夏に対して、クラスメイト達は乗り気になっていた。

 

「えっとぉ・・・・」

 

「ほら、さっさと候補に入れろ」

 

始に促されて一夏は表示する。

 

第一候補、メイド執事喫茶。

 

第二候補、劇「仮面ライダーという名の仮面」

 

「(大丈夫なのか・・・・これ?)」

 

一夏が不安に思いながら授業終了のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

 

 

「なぁ、始、お昼一緒に食べないか?」

 

「いきなりだな・・・・まぁいいか」

 

「おう」

 

一夏は始と一緒に食堂に向かう。

 

「一夏―って、あれ?」

 

「・・・・一夏さんでしたら富樫さんと一緒に行きましたわ」

 

「え~、またなの!?」

 

教室にやってきた鈴音は不満な声を漏らす。

 

実際の所、夏休みが終わってからというものの一夏は始と一緒に食事を取る事が多かった。

 

昔からの親友で、色々あった末に一緒に学生生活を送れるという事で一夏は喜んでいる。

 

始のほうはというと、クラスメイトの視線を少しでも緩和させるために彼と一緒に行動しているという裏があるが、あまり意識している様子はなかった。

 

「今はそっとしておいてもいいのではないか?始もまだ学園にきて日が浅いのだから」

 

「箒さんはよろしいんですの?」

 

「納得しているといったらウソになるが・・・・一夏にも休息は必要ではないか」

 

「そうですわね」

 

「は・じ・めく~~~ん!」

 

ドアが開いて「私、参上!」と書かれている扇子をひろげて楯無が現れた。

 

「あら、ねぇねぇ、始君、どこにいったのか知らない?」

 

「えっと・・・・織斑君と一緒に食堂に」

 

「そう、ありがとう・・・・待って~~~~」

 

「あれですものね・・・・」

 

「アイツのどこがいいのかしらねぇ」

 

「そもそも、始はあそこまでアタックされていて、なびかない・・・・あの精神の鍛え方があるのなら教えて欲しいものだ」

 

一人ずれた感想を漏らして、三人も食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂の一角で簪、ラウラ、シャルロットの三人が食事をしていた。

 

授業がスタートしてからというものの、ラウラと同室になったことや話が合うといった理由で一緒に動くというのが多くなっているシャルロット。

 

様々な理由で同世代の女子と触れ合う機会のなかった彼女にとっては素晴らしい親友といえる二人だった。

 

「しかし、シャルロット」

 

「なに?ラウラ」

 

「あの生徒会長はかなりの回数、富樫始にアタックしているぞ」

 

「・・・・お姉ちゃんは本気だから気をつけないと何かされるかもしれない」

 

かなりのいわれようだが、ありえそうだというのがラウラと簪が抱く楯無のイメージだ。

 

「まぁ・・・・ありえるかもしれないよね・・・・はぁ」

 

わかっている。

 

楯無の行動力のおそろしさ、このままだと始が取られてしまうという事もありえる。

 

「でも、どうすればいいのか思いつかないんだよねぇ」

 

「どうすればいいというのは?押し倒せばいいのではないのか」

 

「ラウラ、それはダメだよ」

 

「いっそ・・・・」

 

「シャルロットも!」

 

簪にいわれて二人は正気に戻る。

 

「だが、このままの状況というのもマズイだろうな。私の副官によるとマンネリするほど危険な物はないらしい」

 

「マンネリ・・・・っ!」

 

シャルロットは息を呑む。

 

学園に入学してから始とはしっかり話をしていない。

 

お互い、生活に馴染む為ということで色々な人と接したり考えていてまともに話をしていないのである。

 

「どうしょう・・・・このままじゃ、始を捕られちゃう!」

 

「・・・・」

 

簪は少し考えて。

 

「そうだ、二人っきりの呼び名を考えるとか、どうかな?」

 

「呼び名?」

 

「うん、シャルロットは、あの人の事をなんと呼んでいるの?」

 

「え、私は始で、彼はシャルロット」

 

「普通に呼んでいるのとは別に二人っきりの呼び名を考えるだけでも新しい気分に、なると、思うの」

 

「二人だけの呼び名かぁ・・・・」

 

「それはいいかもしれんな。私と嫁もそうすれば・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、どうしたらいいとおもう?」

 

「シャルロットさんのことか?」

 

「あぁ」

 

その頃、一夏と始は二人で食事を取っていた。

 

周りの女子達はktktと騒ぎ、鼻血を流している人がいたが二人は意識していない。

 

「ここの生活に慣れさせるという理由で俺と引き離したけれど、このままだと自然消滅とかありえそうだ」

 

「そういわれてもなぁ・・・・俺もこういう話には疎いし、楯無さんに相談は・・・・まずいよな」

 

「そんなことしてみろ、俺が捕食されてマリッジ・エンドだ」

 

ふざけていると殺すぞ、と始は冷たい目を向ける。

 

「えっと・・・・弾に放課後、相談しにいかないか?」

 

「そうだな・・・・その方が、殺気!!」

 

始は持っていた箸を後ろに投げる。

 

直後、音を立てて、箸とクナイがぶつかって地面に落ちた。

 

「もう!ダーリンったらぁ」

 

「あ、俺の昼飯!」

 

余所見をした隙をつかれて楯無に昼食を奪われてしまう。

 

「俺の飯、返せ」

 

「これは私が責任を持って食べるわ。ダーリンにはこ・れ」

 

ドン!と大きな音を立てて目の前に、重箱が置かれる。

 

「おい・・・・これは」

 

「私の手作り弁当、ささ、食べて食べて」

 

「毒とか入ってないだろうな・・・・」

 

「あのね、食べ物に愛情を注ぐ事はあっても異物を注ぐ事はしないわ。これ、妻の基本!」

 

「妻になってないだろ、お前!」

 

始が叫ぶが楯無はスルーして重箱を開ける。

 

箱の中にはハートマークのご飯が目に入った。

 

すぐに、始は食欲を失う。

 

「おい・・・・」

 

「しっかり!味わってね!私の愛がつまってるから!」

 

「(重い・・・・)」

 

「(重過ぎる!なんだこりゃぁ!)」

 

目の前の重箱が放つ桃色の威圧感に始は圧されていた。

 

楯無はにこにこと微笑み、箸を指しだす。

 

食べろ、食べろ、と楯無の瞳は濁っていた。

 

隣の一夏はブルブル震えていて頼りにならない。

 

おそらく、毒物はないだろうと始は判断して食事をする。

 

味はおいしかった。

 

それだけを記しておこう。

 

「(うふふふふ、胃袋を掴んだわ!これで勝つる!)」

 

「(あの顔からして、へんなこと考えているんだろうなぁ・・・・おいしいけれど、色々と重い)」

 



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第三十話

今回から学園祭に入ります。

いやぁ、難産でした。

今回はかなり長いです。

理由としては読めばわかってもらえるかなぁ?

理由はあとがきにて。


 

『ただいまより、第●●回IS学園の学園祭を開催いたします』

 

 

 

 

楯無の宣言から少しの時が流れて、二日間、学園祭が行われることとなる。

 

一日目は学生だけで、二日目は一般公開という日程。

 

一組の教室では執事服に着替えた始とシャルロットが向かい合っていた。

 

「ねぇ、始、似合うかなぁ?」

 

「・・・・」

 

「始?」

 

「ガハッ」

 

「え、は、始!?どうしたの!?始ぇ!」

 

シャルロットは目の前で鼻血を噴き出した倒れて富樫始をみて、慌てだす。

 

「富樫君って」

 

「意外と初心ね」

 

「これはすごい情報になるかもしれぬ!」

 

周りのクラスメイトはきゃっきゃっ騒いでいる。

 

現在、一組はメイド喫茶を開いていた。

 

メイド喫茶は大きな問題もなく許可がおりた。劇をやりたかったなぁと残念がる者もいたけれど、今は一丸となって喫茶店に打ち込んでいた。

 

富樫始と織斑一夏の二人は執事服を纏い、女性陣はメイド服。

 

シャルロットのメイド服をみて鼻血を噴き出した始。

 

彼女は慌てて始に駆け寄る。

 

「おいおい、始はどうしたんだ?」

 

「織斑君、どうしょう・・・・」

 

執事服を着た一夏がやってくる。

 

「鼻血ふきだしただけみたいだし、ティッシュで抑えておけば大丈夫だろう。ほら、始、店番だぞ」

 

「わーってる・・・・」

 

ゆらり、と立ち上がった始にシャルロットが近づく。

 

「始、大丈夫?」

 

「あぁ・・・・問題ない」

 

後頭部を少し撫でながら始は答える。

 

「・・・・シャルロット」

 

「なに?」

 

「似合ってるぞ、その格好」

 

「っ!あ・・・・ありがとう」

 

二人とも顔を赤くして持ち場に向かう。

 

「うむ、簪に報告せねば」

 

様子を見ていたラウラは写真をしまって、メールを送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始は持ち場に向かったのだが、シフトのミスによって自由時間となってしまい、後頭部をぽんぽんと叩きながら当てもなく廊下を歩いていた。

 

「シャルロットとは、昼から回る約束だからなぁ・・・・なにしてよっかなぁ?」

 

時間を確認しながら歩いていた始は目の前にやってきた人に気づいて、右へ避けようとする。

 

すると女性は左、つまり、始を阻むように動く。

 

「動かないで」

 

左の方へずれようとした始のわき腹に固いものがぶつかる。

 

それがなんなのか始は確認せずに小さく呟いた。

 

「いいのかねぇ?そんなもの使ったら学園が黙っていないと思うけれど?」

 

「大人しくついてきてもらえるかしら?そうしたら使わずに済むわ」

 

「お願いにしては一方的だよなぁ?どうせだから裏庭にいきませんかねえ、そこだと人が来ない」

 

「いい提案ね。さ、いきましょ」

 

女性は背中に回りこむとそのまま始を先頭に裏庭へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

その様子を見ていたものは慌てて走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏庭、薄暗く、この時期に利用する生徒は少ない。

 

それは学園祭でも同じだった。

 

「止まりなさい」

 

少し下がって女性が制止を呼びかける。

 

始は大人しく動きを止めた。

 

「そのままゆっくりと手を頭にのせて・・・・振り返りなさい」

 

女性に言われたとおりに始は頭に手をのせて振り返る。

 

そこにいたのは流れる金髪をなびかせた女性。

 

普通に笑えば美人として通るだろう。但し、彼女の瞳は怒りに染まっていた。

 

記憶を探るが始は目の前の女性に出会った覚えはない。

 

「(誰だ、こいつ?)」

 

「・・・・富樫始、私は貴方を赦さない」

 

「そうかい、それで?その銃でアンタは俺を殺すのか?」

 

「・・・・」

 

女性は銃口を向けたまま始を睨む。

 

「今すぐに銀の福音を渡しなさい」

 

「・・・・アンタ、アメリカかイスラエルのスパイかなんかか?」

 

「貴方に発言の権利はないわ。さぁ、あの子を返しなさい」

 

鋭い瞳を向ける女性を見ながら始は考える。

 

銀の福音はかつてアメリカとイスラエルの間で開発されていた軍事用IS、それを始は盗んで自分の専用機に調整した。

 

「本当なら返すべきなんだろうなぁ・・・・悪いが、それは不可能だ」

 

銃口を向けられているというのに始は臆さずに拒否の言葉を投げる。

 

「その子はおもちゃじゃないのよ!」

 

「わかっているつもりだ」

 

「貴方のような子どもが持つべきものでもない」

 

「じゃあ、国に所属している人間が持てばいいのか?」

 

「・・・・」

 

「アンタがどういう理由で銀の福音を取り返そうとするのかはわからない・・・・悪いが、今の俺にコイツはどうしても必要な存在だ。それを奪うっていうんなら、アンタを殺してでも阻止する」

 

銃を向けて優位に立っているはずなのに、彼女は動けない。

 

富樫始の放つ殺気に近い闘気に圧されていた。

 

「貴方は・・・・」

 

女性は震える声で尋ねる。

 

「その子を使って、何をするつもりなの・・・・」

 

「・・・・始は何もかも滅茶苦茶にするつもりで使うつもりだった。目の前にみえる何もかもが許せなくて、全てを破壊して世界を滅ぼすまで止まらないつもりでいた・・・・でも」

 

始の脳裏に蘇るのは一夏や他のライダー、箒、そして―、

 

「今は、大切な人のためだけに力を使いたい・・・・俺が俺でいられるようにしてくれた大切なヤツを守る為の力として、コイツを使わせてもらう・・・・だから」

 

「・・・・」

 

女性は銃を下ろす。

 

「貴方の言葉を全部信じたわけじゃない・・・・」

 

銃を懐にしまって、始を睨む。

 

「学園祭の間のあなたの行動を見て判断させてもらう・・・・その上で危険だと判断したら殺してでもその子を返してもらうから」

 

「・・・・お好きにどうぞ。ただで殺されるつもりはねぇから」

 

しばらくにらみ合ってから始は裏庭からでていく。

 

女性は無言で彼の背中を睨むようにしてから裏庭をでていこうとする。

 

「学園内で銃刀法違反というのは勘弁してもらいたいな」

 

出ようとしたところで女性は動きを止めた。

 

「ヤツの肩を持つというのかしら?」

 

「私は中立にいるつもりだ・・・・どういう目的があるのかはわからないがアイツはここの生徒だ。あまりに過激な事をするというのなら私が動く事になるかも知れんぞ」

 

「・・・・それは警告ですか、ブリュンヒルデ?」

 

「どうだろうな・・・・だが、ナターシャ・ファイルス」

 

千冬は鋭い視線を女性、ナターシャへと向ける。

 

「アイツは変わった。銀の福音を盗んだ時は違うという事だけは頭に叩き込んでおいてもらえると嬉しいがな」

 

「・・・・ヤツがあの子を盗んだ事には変わりありません。罪は消えません・・・・なにがあろうとも」

 

「そうだな」

 

――だが、と千冬は呟く。

 

「一番、アイツが理解しているはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダーリン」

 

「誰がダーリンだ。この野郎」

 

裏庭から出て教室に戻る途中で更識楯無が始の腕に抱きついた。

 

「・・・・盗み聞きはいい趣味とはいえないな」

 

「忘れたのかしら?守る為に私はいるのよ」

 

四割だけれど、と楯無は呟いた。

 

残りの六割は?と始が尋ねると彼女は腕に強くしがみつく。

 

「貴方との愛を育んで結婚する為よ」

 

「一生来ない未来に人生費やす前に他の男を探せ、くっつくな」

 

「アン、酷い~・・・・あの人、どうするつもり?」

 

「別にどうも、昔なら即・殺とか考えていたんだろうが、今はどうでもいい。無視する」

 

「そう」

 

楯無は扇子で口元を隠そうとするが、始が止める。

 

「あら」

 

「俺の前で本音を隠す素振りをするな」

 

「・・・・いつから気づいていたの」

 

「さぁな」

 

ぽかんとした表情を浮かべると、彼女は瞳を潤ませる。

 

今まで楯無―刀奈は更識の当主となるため、暗部の一員として感情を押し殺し、本音を押し殺していた。

 

誰もが見抜けない。

 

誰もが自分の本当の気持ちに気づけない。

 

暗部として絶対的に優秀な刀奈。

 

そんな彼女のウソを目の前にいる男は見抜いた。

 

富樫始がウソを見抜いてくれた。

 

乙女として、彼女の心が揺れる。

 

ますます――。

 

「だぁいちゅき!」

 

「うぜぇ!」

 

飛びかかろうとした楯無を避けて始は教室に逃げる。

 

「普通に入って来られないのか?貴様は」

 

振り下ろされる出席簿を始はぎりぎりのところで避けた。

 

「いきなりなんですか、織斑先生」

 

「織斑が女性に囲まれて困っている。すぐにシフトに入って負担を減らせ」

 

「はい・・・・てか、それって、ブラコンって」

 

ヒュン!

 

顔のすぐ横に出席簿が突き刺さる。

 

「次はないぞ」

 

「イエス・マム」

 

敬礼して始はすぐに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後尾はあちらとなっています!道を塞がないように一列に並んでくださーい」

 

始と交代して一夏は入口で列の整理をしていた。

 

「次の方・・・・って」

 

「あら、結構繁盛してんのね」

 

次の客は凰鈴音だった。

 

ただし、IS学園の制服ではなく背中が大きく開いたチャイナドレスを纏っていて、一夏はどきり、とする。

 

「どうしたのよ?」

 

「い、いや・・・・そのチャイナドレス、似合ってるなって」

 

「なっ!?」

 

一夏の突然の告白に鈴音は驚きの声を漏らす。

 

「な、な、ななななな、何を言い出すのよ!」

 

「いや、悪い・・・・でも、似合ってるのは本当だぞ」

 

「・・・・そ、そう!とにかく・・・・席に案内してよ」

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

「お、お嬢様!?」

 

「店内では執事として接しさせてもらいます。お嬢様、ではこちらへ」

 

開いている席へ鈴音を促す。

 

彼女が座ると、クラスメイトの一人が水の入ったグラスを置いて立ち去る。

 

一夏は座ったのを確認してメニューを差し出す。

 

少し間をおいてから尋ねる。

 

「お嬢様、注文は決まりましたでしょうか?」

 

「・・・・ねぇ」

 

鈴音はメニューを見てから尋ねる。

 

「この執事のごほうび、ってなにかしら?」

 

「お嬢様・・・・それよりも当店自慢のチーズケーキがありますけれど」

 

「・・・・アンタ、今、これからめをそらそうとしたわね?」

 

「そんなことありませんよ、お嬢様」

 

半眼で睨んでくる鈴音に一夏は努めて冷静に接する。

 

背中はどばどばと冷や汗が流れていた。

 

「ふぅん、じゃ、執事のごほうび一つ」

 

「・・・・お願いだからやめね?」

 

「却下!」

 

鈴音の叫びに一夏は涙を零して。

 

「執事のごほうび一つ!」

 

やけくそに叫んだ。

 

「どうぞ、楽しんでください」

 

にやりと微笑んで富樫始がグラスにチョコレートが塗られたスティックの菓子を机に置いた。

 

「・・・・ねぇ、これって一体?」

 

首をかしげて鈴音が隣を見ると、直立していたはずの一夏は座っていた。

 

「なんで、座っているの?」

 

「執事のごほうび・・・・っていうのは、お嬢様にお菓子を食べさせる・・・・」

 

「えぇぇ!?」

 

鈴音は驚きのあまり叫んだ。

 

お嬢様にお菓子を執事が食べさせる。

 

お嬢様(自分)にお菓子を執事(一夏)が食べさせる。

 

(自分)に(一夏)が!

 

顔を真っ赤にしてあうあうと鈴音は震えた。

 

「嫌って言うなら別に・・・・」

 

「そんなわけないでしょ!むしろ、上等よ!」

 

「喧嘩とかじゃないぞ?」

 

「わかってるわよ。さ、た、た、食べさせて」

 

頬を真っ赤に染めてこちらをみる彼女に一夏はどきどきしながらスティック菓子を手にとって、鈴音に差し出す。

 

「あ、あーん」

 

鈴音は小さな口を開けてスティック菓子を含む。

 

彼女が終わるのを待っていると、あろうことか食べていない方の先端を一夏に向ける。

 

「へ?」

 

「ふぁんふぁもたふぇるの!」

 

「は!?いや、そういうサービスはやってないし!?」

 

「ん!」

 

鈴音はメニューの執事のごほうびの下の注意書きを指差す。

 

『執事のごほうびはお嬢様が希望するシチュエーションができます!度胸があるならこいやぁ!』と書かれていた。

 

「なぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「おふょうひゃまのめいふぇい!あんふぁもたふぇる!」

 

「・・・・わかりました」

 

終わらせればいい、そう考えた一夏は端を小さくかじる。

 

すると、鈴音はぽりぽりと凄い勢いでスティック菓子を食べていく。

 

「(あれ、これ・・・・やばくね!?)」

 

一夏が気づいた時には鈴音と頬が触れ合いそうになるほどの距離だ。

 

 

このままいけば口と口が触れう会うかもしれない。

 

――折ってしまおう!

 

そう考えた一夏はスティックを折ろうと顔を動かそうとするがそれよりも早く、鈴音の手が彼を捕まえる。

 

「にふぁさないわふょ!」

 

「!?」

 

ヤバイ!?一夏は周りを見るが、セシリアは別の接客でいない。

 

ラウラは外で後列の整理をしている為に不在。

 

箒は気づいて助けに行こうとしているが始に羽交い絞めにされていた。

 

「(は、始ぇぇぇ!!)」

 

不敵に笑っている親友を睨むが状況は変わらない。

 

「い、いふゅ!」

 

鈴音は少し悩みながらも最後の部分を咥えようとする。

 

あぁ、終わった。と思った瞬間、バキン!と音を立ててスティック菓子が折れた。

 

「あ~~~~~!」

 

「(た、助かった・・・・)」

 

鈴音はショックを受けるが一夏は助かったと折れたことに感謝する。

 

「ま、いいわ。今度は実力でやってやる」

 

「え?」

 

「なんでもない!さ、私はクラスに戻るわ」

 

鈴音はお金を机において教室を出て行く。

 

一夏は鈴音の背中を見送ってから。

 

「始ぇぇ!!」

 

「ふん、甘いわ!」

 

親友に同じ目にあわせてやるべく彼を捕まえに走る。

 

だが、次の客出現により一夏は負のスパイラルに巻き込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、ようやく休憩時間」

 

「・・・・男子目当てに来る女の力をなめていた」

 

昼を過ぎて少しくらいの時間になった頃、シフトによって織斑一夏と富樫始の二人は休憩時間となる。

 

体力に自信のある二人だが、何人もの女性、しかもテンションが高いのと接したためにいつも以上に疲労感があった。

 

「くそっ、織斑が余計なちょっかいをかけてきたからしんどいぜ」

 

「俺のせいにしてんじゃ・・・・ねぇよ・・・・そもそも、お前がぁ!」

 

「織斑君、富樫君」

 

二人が今にも喧嘩をはじめそうなときにクラスメイトの相川(メイド服)がやってくる。

 

「相川さん?」

 

「二人には三十分の休憩っていっていたけれど・・・・二時間の休憩でいいよ」

 

「どうして、そんな長く?」

 

「・・・・食材とかが尽きそうになっていて、予備も少なくなってきたから・・・・」

 

「目当ての男子を抜いて冷却しようという事か」

 

「うん、だから自由にしてて」

 

「わかった」

 

「ま、のんびりしますか」

 

「ん、一夏と始も休憩なのか」

 

相川さんと入れ替わるようにして箒(メイド服)がやってくる。

 

「箒もか?」

 

「あぁ・・・・そうだ、三人でどこかに回らないか」

 

箒の提案に二人は少し間を置いてから。

 

「いいぜ」

 

「そーだな。久しぶりに三人で遊ぶか」

 

あっさりと提案が通った事に箒は驚きながらも三人で回れることに喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは三人がでかけて三十分ばかりして、休憩時間となった。

 

「はぁ・・・・タイミング悪いなぁ・・・・」

 

始は今頃、一夏や箒と回っているんだろう。

 

「(昔からの幼馴染なんだよね・・・・)」

 

彼女にはそういう間柄の友達はいない。

 

田舎の小さな街で母さんと二人っきり。

 

少し苦労もあったけれど、幸せの時間といえる。

 

「(ここにきてから友達はできた・・・・)」

 

ラウラや簪の事を思い出しながらシャルロットは廊下を歩く。

 

母さんが死んでから彼女にとって地獄といえる日々、父親に引き取られたけれど、愛人の子だという理由から本妻に泥棒猫と罵られ、苛められる毎日。

 

助けてくれる人は誰もいない。

 

実の父親も見て見ぬフリ。

 

ISの適正があるからと非公式に父親の会社のテストパイロットになるための訓練をやらされた。

 

「どうして・・・・こんなこと」

 

もう過去の事になったはずなのに、とシャルロットは苦悩する。

 

決別したことを考えていると誰かにぶつかった。

 

「あ、ごめんなさい」

 

謝罪してシャルロットが横切ろうとした時――。

 

「シャルロット・デュノアだな?」

 

ぶつかった相手が呟いた言葉に彼女が顔を上げようとして体に衝撃が走った。

 

急激に力が抜ける。

 

「あ・・・・」

 

目の前の相手が何者なのか確認しようとするが視界が暗転する。

 

シャルロットの意識は闇の中に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、あれは予想外だった」

 

「そうだな、まさか定規をあんな風に使うとは」

 

「考えるヤツは考えるんだろうな・・・・おそれいったわ」

 

三人は上級生が行っていた劇の鑑賞を終えて教室から出て行く。

 

感想を言いながら廊下を歩いていた。

 

「こうやって・・・・三人でまた歩けるとは思えなかったな」

 

「「・・・・」」

 

箒の言葉に二人は沈黙で返す。

 

「私の姉さんがISを生み出したことで」

 

「そこまでだ」

 

ストップを始がかける。

 

「もう過ぎ去った事を考えるのはやめにしよーぜ。俺らは今ここにいる・・・・現実を満喫すべきだと思うぜ」

 

「始の言うとおりだ。色々あったけれど、今は一緒にいられるんだ。箒、楽しもうぜ!」

 

「・・・・そうだな」

 

小さく笑う。

 

笑ってから箒は一夏と始の二人を見る。

 

「すまない、辛気臭い話をしてしまって・・・・今までの空白時間を埋めるつもりで楽しもう」

 

二人とも笑みを浮かべて廊下を歩く。

 

「ん・・・・俺の端末か?」

 

一夏はそういって端末を取り出す。

 

表示されたアドレスはシャルロットのだった。

 

何で、シャルロット?と一夏は首をかしげながら内容を見て、目を見開く。

 

『シャルロット・デュノアは預かった。返してほしければISのデータをもって、今から指定する場所まで来い。誰かに知らせればこの女の命はない』

 

命はない。

 

一夏は固まる。

 

次に映し出されたのは縄で縛られたシャルロットの姿。

 

どこかの工場なのか柱に拘束されている姿を見ている限り、捏造などは考えられない。

 

「一夏?どうした」

 

「・・・・悪い!呼び出しかかっちまった!戻ることになった」

 

「そうか・・・・仕方ないな。遅れないようにな」

 

「すまん!」

 

一夏は両手を叩いて謝罪して急いで離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏が指定された場所に向かうと一斉に殺気が飛んでくる。

 

アンデッドが放つ獣のような殺気とは違う。

 

人間が放つ純粋な殺意。

 

「・・・・来たぞ、姿くらいみせたらどうだ?」

 

「オクニススメ」

 

聞こえてきたのは合成された声。

 

相手はボイスチェンジャーか何かを使っているのだろう。

 

警戒しながら一夏は奥へ進む。

 

工場は何年も使われていないはずなのに室内は暗闇で支配されている。

 

響き渡るのは一夏の靴音だけ。

 

「トマレ」

 

聞こえてきた声に一夏が動きを止める。

 

姿が見えないが殺意だけは絶えず一夏に向けられていた。

 

「(一体、なんなんだこいつら?)おい!シャルロットさんは無事なんだろうな!」

 

「ISノデータヲダセ」

 

「彼女のの安否ぐらい確認させてもいいんじゃないのか?それともウソなんじゃないのか」

 

「・・・・イイダロウ」

 

スポットライトが灯ると同時に一夏の目の前、正確言うと闇の奥が照らされ拘束されているシャルロットがいた。

 

「シャルロットさん!」

 

磔にされている彼女は意識を失っているのか一夏の呼び声に反応しない。

 

「ウゴクナ」

 

駆け寄ろうとした一夏に声の主は呼び止めた。

 

「サァ、ブジナスガタハミセテヤッタダロウ?スグニISノデータトワタセ」

 

「ふざけんな・・・・何が無事な姿だ!」

 

暗闇に向かって激昂する。

 

拘束されているシャルロットは蹴られたりしたのかメイド服は靴跡などでボロボロになっており、口元がうっすらと青あざになっていた。

 

「サモナケレバソコニイルオンナハサラニミジメナメニアウダロウナ」

 

「くっ・・・・」

 

一夏はポケットからUSBメモリを取り出して床に置く。

 

「ハナレロ」

 

声の主にいわれて一夏が離れようとした直後、足元が大爆発を起こす。

 

「ちっ!」

 

爆発が起こる瞬間、白式を展開して攻撃から身を守る。

 

「イマダ!」

 

声の主が叫んだ瞬間、一夏の体に纏っていた白式が解除された。

 

「なっ!?」

 

いきなり白式が解除された事に驚きながらも地面に着地する。

 

「どうした!白式!」

 

腕のブレスレットを触りながら一夏は叫ぶ。

 

「リムーパーヲツカワセテモラッタ」

 

「なにをいって・・・・」

 

一夏は暗闇の中で輝くものを見つける。

 

「キサマニハオトナシクキテモラオウカ・・・・」

 

暗闇から二機のISがライフルの銃口を一夏に向けながら姿を見せた。

 

白式を展開しようにも反応してくれない。

 

ブレイドに変身するか、と考えた所でシャルロットの体に突きつけられている無数の赤外線に気づく。

 

――変な動きを見せれば殺す。

 

遠まわしの脅しに気づいてしまった一夏は成す術がなくなる。

 

ゆっくりと近づいてくる二機のISのうちの一機がスタンガンを一夏の首筋に近づけた。

 

来る衝撃に身構えようとした一夏の頭上で大きな爆発が起こる。

 

天井が崩れ落ちて、ISと一緒に蒼い影が舞い降りた。

 

「ナンダ!?」

 

ボイスチェンジャーを使っていた声の主は驚きの声を漏らす中で一夏はその姿を見て息を呑む。

 

ISを大破させて現れたのは更識楯無だった。

 

 

 

 

 

 

 

「た、楯無さん!?」

 

「あら、一夏君。こんなところにいたの」

 

楯無はにこりと微笑む。

 

だが、目は。

 

「撃て!」

 

ISのパイロット二人は指示を飛ばしながらライフルを発砲する。

 

四方八方から飛んでくる弾丸を楯無さんは全て避けた。

 

蒼流旋を構えて、彼女は一撃で二機のISを無力化させる。

 

あまりの速度にパイロットの二人は何が起こったのかわからないまま意識を失う。

 

 

「もう、さらわれた女の子を助ける為に動くのは素晴らしいけれど、そのためにISを奪われたらダメよ~」

 

「奪われた?白式はここに」

 

「コアよ。コア」

 

戸惑う一夏に楯無は話す。

 

ISのコアを奪う、剥離剤という存在によって白式のコアを奪われてしまったのだ。

 

「どうすればいいんですか!」

 

「奪った主から白式のコアを取り戻せばいい・・・・まぁ、この中を生身で突き抜けるのは無理だろうから・・・・そこでみていなさい」

 

――ベテランの力を、ね。

 

言うが否や楯無は地面を蹴り、奥で浮遊しているISのコアを取りに向かう。

 

姿を見せない狙撃主たちは楯無さんに脅威を感じながらも奪取したコアを取り戻させないように銃を構えようとした。

 

「おっそーい」

 

だが、それは失敗に終わる。

 

楯無が指を鳴らすだけで、周囲に隠れていた狙撃主の近くで爆発が起こり、全員があっという間に無力化された。

 

楯無がコアを一夏の下へ届けようとした所で以前、アリーナを襲撃したISが現れ、彼女に襲い掛かる。

 

「楯無さん!!」

 

一夏は叫ぶが彼女の姿は見えない。

 

正体不明のISは白式のコアに向かって手を伸ばす。

 

「やめろ!それに触るな!」

 

叫ぶがISは全く反応せずコアに触れようとする。

 

「来い!白式ィ!」

 

自然と、一夏は白式の名を叫んだ。

 

ISがコアを掴む寸前、強い輝きをコアが放ったと同時に一夏の体は白式を纏っている。

 

「うぉおおおおおお!」

 

瞬時加速を発動させて、ISの間合いに入り込み、雪片弐型の能力を使ってISに振るう。

 

無人機のISは腕を雪片弐型で斬りおとされた。

 

「あらあら、少し目を離した間に倒すなんて、お姉さんびっくり!」

 

心臓部を楯無は蒼流旋で破壊する。

 

攻撃を受けたISは火花を散らして地面に崩れ落ちた。

 

「さて、一夏君は帰りなさい、後は生徒会で処理するから」

 

敵を無力化させた一夏に楯無は言う。

 

「シャルロット、さんは?」

 

「何かされていないのか検査をしたら学園に戻すわ。とにかく、ダーリンが怪しんでコッチにくるまえに戻りなさいな」

 

「あ、はい、失礼します」

 

少し納得のいかない表情をしながらも一夏は楯無に従う。

 

彼の姿が見えなくなってから楯無は扇子で口元を隠す。

 

「ほとんどが傭兵崩れ・・・・亡国機業がやってきたのだと思っていたのに、これはどういうことかしら?・・・・彼らに興味はないという事?でも、シャルロットちゃんを誘拐してISのデータを奪おうとした・・・・リムーバーまで用意しているわけだし」

 

さっさとこいつらを片付けよう。

 

更識楯無は冷たい笑みを浮かべていた。

 

折角、彼と一緒に色々と企んでいたのにそれが台無しになった。

 

邪魔をされたことに怒っている彼女はこれから行う尋問を考えて微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ!」

 

ソイツは拳を壁に叩きつける。

 

計画は完璧だった。

 

裏切り者を誘拐して織斑一夏をおびき寄せて、彼の冷静さを奪い、白式のコアを奪う所、

 

そこまでは何もかも計画通りだった。

 

あの方から頂いた計画書どおりに進んだ。

 

――だというのに。

 

 

「あってはならない・・・・」

 

ぶつぶつ、と呪詛を吐くように同じ言葉を繰り返す。

 

少しして、もう一枚の書類を見る。

 

「明日だ・・・・」

 

にやり、と口元をゆがめた。

 

 

どうやら、悪意ある企みは終わっていないようだった。

 

 




今回の話、学園祭ですが、いろいろと暗雲立ち込めていますが、その間に一夏ヒロインたちのお話を書きました。

なぜかというと、ラウラの出番が多すぎるなと個人的に思ったからです。

この話を投稿する前に保存していたデータを書き直して思ったことはラウラをヒロイン押ししすぎているということです。エレファントアンデッドのところで、あんなことやったから書きやすいというのもありますけれど、
なので、短いですが、学園祭ではラウラ以外のヒロインたちとのふれあいを書きます。

ラウラ?

ちゃんとやりますよ。ただし、変なところで。


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第三十一話

 

 

「前もきたけれど、本当に豪華というか、いい設備してるよな。IS学園って」

 

「おにぃ、気持ちはわかるけれど、そんなきょろきょろしないで田舎物だって思われちゃう」

 

「あぁ、悪い」

 

IS学園の学園祭二日目は一般者の来場も可能になる。

 

但し、一般の人は生徒から渡された特別チケットが必要、不審者やパパラッチなどの侵入を防ぐという目的があった。

 

五反田弾と蘭の二人は事前に一夏や簪などから参加するためのチケットを貰っていたのでなんの問題もなく入場する事ができた。

 

「ねぇ、おにぃ」

 

「ん?」

 

「来年、IS学園に入学したいっていったらどーする?」

 

「お前が決めたんなら別にいいんじゃないか・・・・けれど、入学するにはIS適正が必要って」

 

「実は前に、簡易適正受けたの」

 

「いつの間に・・・・結果は?」

 

「A+」

 

「うそぉ!?」

 

弾は驚きの声を漏らす。

 

ISの適正は高ければ高いほど、動きがよくなる。

 

適正レベルの上位がSなので、A+はそこそこいい結果だった。

 

ちなみにSは今のところ織斑千冬だけ、公式の話においてであるが。

 

「それで、IS学園いくのか?」

 

「実を言うと、適正は友達と一緒に受けただけだから、悩んでいるの・・・・今の友達と離れるというのも抵抗あるから」

 

「・・・・お前も考えているんだな」

 

「その言い方だと、私は何も考えていないように聞こえるんですけど?」

 

「いや、そういうわけじゃ!?」

 

「もう!いいから行くよ!話によると一夏さん達が執事しているらしいからみてみたいし」

 

「アイツらの執事か・・・・すっごい人気だろうな」

 

「急ごうおにぃ!」

 

「そだな、少しでも並ぶのを少なくしないとなぁ」

 

その頃、富樫始は執事服を着て接客をしている。

 

「富樫、四番テーブルで呼び出しだ」

 

「りょーかい・・・・やれやれ、衰えってものはないのかねぇ」

 

二日目を迎えた一組の喫茶店だが、前日よりも長蛇の列が形成されていた。

 

そのために一日よりもハードなシフトが組まれている。

 

「お待たせしましたぁ、お嬢様」

 

ケーキを持って始が現れると待っていたお客様の二人はひそひそと話し始める。

 

「執事のサービスをどちらからお受けいたしますか?」

 

「あ、じゃあ・・・・私で」

 

手を挙げた女性に微笑みながら始は執事としての仕事に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

そんな彼の様子をシャルロットはみていた。

 

「シャルロット、どうした?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ」

 

「そうか?傷が痛むのなら無理をせずにいうのだぞ」

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ラウラ」

 

うむ、と返事をしてラウラは厨房の方へと戻っていく。

 

昨日の誘拐事件については生徒会によって外に漏れる事はなく、彼女の怪我については階段から転がり落ちた事によるものということになっている。

 

下唇のところに小さなガーゼなどを貼りながら作業をしているシャルロットは離れた所で執事としてご奉仕している始の姿を見てため息を漏らす。

 

「(どうしょう・・・・)」

 

昨日の連中について、黙っておくか。

 

誘拐した連中が何者なのか、生徒会は現在、尋問中らしいが、シャルロットはわかっていた。

 

何故なら――。

 

「(どこにいっても・・・・デュノアという名前からは逃げられないという事?)」

 

誘拐した連中の中に、ISを操縦していた女性に見覚えがあった。

 

ISのテストパイロットとしてデュノア社で働いていた時に自分を苛めていた先輩パイロット。

 

適正があるからということでパイロットになったシャルロットをその女性は妬み、訓練と称して暴力を振るっていた。

 

その女性が誘拐犯の中にいたことをシャルロットは話していない。

 

デュノア社は社長がなくなった後に他の企業の傘下に入り、社員やパイロットが大勢切られたという話を聞いている。

 

もし、怨恨だというのなら仕方ない事だと思っている。

 

会社を潰すきっかけを与えてしまったのは――。

 

「シャルロット」

 

「え」

 

ポン、と肩をたたかれて振り返ると執事姿の一夏が立っている。

 

「どうした?元気がないみたいだけれど・・・・もしかして、どこか痛むのか」

 

「う、ううん!そうじゃないの・・・・大丈夫だよ・・・・あれ?まだシフトじゃないよね?」

 

「客足が多すぎて裁けないから時間短縮して、多くの人に触れ合わせるって言う話になって呼び戻された」

 

「そ、そうなんだ」

 

苦笑しているシャルロットの顔を一夏は覗きながら尋ねる。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、それより指名が入ったみたいだよ」

 

彼女の言葉どおり、メイド服を着た鷹月さんが一夏を呼んでいた。

 

「あまり、無理するなよ!」

 

一夏は言い残して接客に向かう。

 

軽く手を振ってからシャルロットはため息を吐く。

 

「どうしたら・・・・いいんだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、中々縮まらないな。この列」

 

「あ、でも、さっきよりもかなり進んでるよ?」

 

蘭の言葉どおり、五分間という制限時間を設けた事により客足は衰えていないが入れ替わりが激しくなっている。

 

「蘭、少し抜けるわ」

 

「え・・・・おにぃ!」

 

「トイレだ」

 

「もぅ!急いでね!」

 

「おう!」

 

弾は列を抜けてトイレに向かって走り出す。

 

 

「では、次のお客様、どうぞ!」

 

「あ、はい!(うそ!?)」

 

メイドさんに案内をされて蘭は空いているテーブルへと通される。

 

弾はまだ戻ってきていない。

 

「(どうしょう!?おにぃがまだ戻ってきていないのに!?てか、IS学園の女の人って、みんなスタイルいいなぁ・・・・)」

 

「お待たせして申し訳ありません・・・・って、蘭?」

 

「あ、一夏さん」

 

「来てくれたんだ?」

 

運の良い事に?やってきた執事は一夏だった。

 

「弾は?」

 

「それが・・・・トイレにいってて、まだ戻ってきていないんですよ」

 

余談だが、学園祭の間はトイレの一部を男性用として解放されている。

 

張り紙のはっているところしか使用できないが。

 

「まぁ、悪いけれど、後が押しているからメニューを選んでもらっていいか?弾は運がなかったってことで」

 

「はい(もう、おにぃ)」

 

蘭はメニューを見てから、少し悩んで。

 

「あの・・・・この執事のごほうびでいいですか?」

 

「・・・・かしこまりました。箒!」

 

「わかった・・・・」

 

むすぅと機嫌の悪い箒は一夏が蘭の隣に着席すると、お菓子を置く。

 

「あの・・・・これは?」

 

「執事がお嬢様にお菓子を食べさせるんだよ・・・・」

 

「えぇっ!?」

 

「一応、説明、かいていあるけれど」

 

一夏に言われて蘭がメニューを見ると、確かに書かれている。

 

注意書きをみてから。

 

「あの、食べさせるのは無しにして、相談に乗ってもらうってこととかもできますか?」

 

「・・・・いいけど、俺は助かるし」

 

「実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、五反田弾は離れた所にあるトイレまで来ていた。

 

何故か、学園内にトイレがみつからなかったためにここまで歩いていたのだ。

 

「・・・・一夏や始は苦労してんだな」

 

巷ではリア充やハーレム野郎とか男子から睨まれている。

 

弾も最初は羨ましいと思っていた側だ。

 

「はぁ・・・・わっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

校舎に戻り中に入ろうとしたところで女性とぶつかってしまう。

 

倒れそうになった女性の腕を咄嗟につかんで引き寄せる。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「はい・・・・ありがとうございます」

 

女性はずり落ちたメガネを掛けなおしてぺこり、と弾に感謝した。

 

「あ、いえ、お怪我がないようで安心しました・・・・」

 

「いえ、こちらこそぶつかってしまいすいません」

 

謝罪した女性との間に気まずい空気が流れる。

 

「すいません。妹を待たしているので、失礼します」

 

「あ、はい」

 

女性をその場に残して弾は急いで一組に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏さんやおにぃをみていると、自分の将来どうしょうかなと悩む時があるんです」

 

「いうと?」

 

「二人はライダーとして、自分の進むべき道っていえばいいんでしょうか?そのために真っ直ぐに進んでいます。でも、私は・・・・」

 

蘭は悩んでいた。

 

ちゃんと自分の道というものを進めているのか。

 

自分の道というのはなんだろうか?蘭はそのことに悩み始めていた。

 

「・・・・自分の道か、それは・・・・少し違うと思う」

 

「え?」

 

「俺や弾、始に簪、みんながライダーになったのは些細な偶然だと思う。たまたまライダーになるという選択肢があって俺達はそれを取り進んだ・・・・それだけのことなんだよ」

 

「それだけ・・・・?」

 

「なんていえばいいかわかんないけど、蘭の前にもこれからについての選択肢は一杯転がっているはずだ。それをどう選ぶかによって将来ってのはみえてくるんだと思う・・・・これからどうするかが大事なんだと思う・・・・思うばっかりで悪いけれど」

 

「・・・・なんとなくですけれど」

 

彼女は微笑む。

 

「一夏さんのいおうとしていることは、本当になんとなくですけれどわかりました」

 

「そっか、役に立てたかわからないけれど」

 

「いえ」

 

「お客様」

 

話をしているとクラスメイトの一人がやってくる。

 

「申し訳ありませんが時間です」

 

「あ、はい!それじゃ、一夏さん」

 

「おう、またな」

 

彼女が外に出ると「すまん!」「遅いよ!もう!」という兄妹の騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、一夏さん」

 

休憩となって、一夏が休憩をする為に教室を出ようとするのをセシリアは呼び止める。

 

「ん、セシリア?」

 

「これから休憩ですわよね?よろしかったら一緒に行きませんか」

 

「おう、いいぞ」

 

「本当ですか!」

 

「あ、あぁ」

 

物凄い勢いで距離を詰められて一夏は驚きながらも肯定する、するとセシリアは天にも舞い上がる気持ちです!というような喜びの顔を浮かべていた。

 

「それで、セシリア、どこかいきたいとか、そういう希望ってある?」

 

「実は、これが」

 

持っていたパンフレットを取り出してみせたのは射的だった。

 

「射的?」

 

「ISの訓練などで銃を使うことはありますけれど、こういう遊びの場というのがなくて、どうせだから体験してみたいと思いまして」

 

「なるほど、じゃあ、いってみるか」

 

二人が射的をやっているクラスに向かうと。

 

入口のところで五反田兄妹とであった。

 

「弾、蘭!」

 

「よぉ、一夏!」

 

「あ、はじめまして、五反田蘭です」

 

「セシリア・オルコットですわ」

 

それぞれ挨拶して中に入る。

 

「弾も射的を?」

 

「いや、適当にまわってた。へぇ、ここ射的なのか」

 

「おにぃ、あれ!あれをとれる!?」

 

蘭が指差したのは巷で人気が出ているパンダ犬のぬいぐるみだった。

 

パンダが犬のきぐるみをかぶっているものだが、人気が高いらしい。

 

「よし、任せろ」

 

「そういえば、五反田さんは銃を扱うのでしたね」

 

「弾でいいですよ?まぁ、そこそこ腕はいいです」

 

「でしたら、勝負しませんか?どちらが多くの標的を落とせるか」

 

「・・・・いいっすね。負けても恨みっこなしっすよ」

 

「えぇ」

 

「「(あ、厄介なことになった)」」

 

一夏と蘭の二人が思った直後、パンパンとモデルガンから次々と弾丸が発射される。

 

数分後。

 

 

「も、もう勘弁してください。お願いですからぁ」

 

クラスの代表らしき人が涙で顔を濡らしながら弾とセシリアに懇願する姿がそこにあった。

 

二人だけによって置かれていた景品がねこそぎ撃ち落されてしまっていた。

 

最初は凄い!と騒いでいたがおそろしい勢いで奪われていく景品にそのクラスの人たちは顔を青ざめてしまう。

 

「あぁ・・・・・すいません、やりすぎました・・・・」

 

「私も年甲斐もなく興奮してしまいましたわ」

 

さすがにやりすぎたと感じたのだろう、二人は謝罪して、手に入れた景品のほとんどをクラスに返却して、自分達は三つほど手にとってクラスを出る。

 

「さすが、セシリアだな・・・・やりすぎだけれど」

 

「おにぃもさすが・・・・滅茶苦茶やりすぎたけれど」

 

「あれ!?俺だけ厳しい!?」

 

「でも、弾さんも中々の腕ですわ。これでISが操縦できたら国家代表になれたかもしれないです」

 

「お世辞でもどうも・・・・ISかぁ・・・・そういや触ったことないな」

 

「あれ?俺が動かした後に一斉に検査したんじゃないのか?」

 

「おにぃは色々不運が重なって検査いってないんですよ」

 

織斑一夏がISを動かしてからというものの、他にも男性で動かせるものが存在するのでは?と考えた政府によって地域で検査が行われた。

 

ただし、強制ではないため、全員が検査に訪れたかといわれるとそうではない。

 

五反田弾のようにアンデッド退治や欠席した授業の補習、家の手伝いとか諸々の理由で検査にいっていないものも少なくなかった。

 

「私の国でも検査は行いましたが、強制でしたわね」

 

「・・・・もし、おにぃがIS動かしたら橘さん、泣くんじゃないかな?」

 

「いやぁ、あの人は泣かないと思うぞ」

 

弾の脳裏には常に冷静で鬼のように厳しい橘朔也のイメージがある。

 

ライダーとして鍛えてくれた師匠のイメージはそう簡単に崩れ去る事はない。

 

それから、弾達とわかれて一夏とセシリアは休憩時間ぎりぎりまで色んなものを見て回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・どういう状況だ、これは?」

 

「俺に、質問するな」

 

休憩を終えて、教室に戻ろうとした一夏と始は山田先生と千冬に誘導されて、薄暗い場所に来ていた。

 

二人は執事姿ではなく、ファンタジーせかいにでてくるような王子の格好をしている。

 

教師に連れて行かれて、「これに着替えろ」といわれて渋々着替えた。

 

「てか、なんで俺と始なんだ?」

 

「さぁな」

 

二人が他愛もない話をしていると目の前に映像が流れる。

 

『むかーしむかーし、あるところにシンデレラという名前の女の人がいましたぁ』

 

「し、シンデレラ・・・・」

 

「この声、のほほんさん?」

 

首をかしげている二人の前でシンデレラの話が流れる。

 

だが、それは実際のものと少し、いや、かーなーり違いがあった。

 

『だがぁ、シンデレラというのは仮の姿ぁ、実際はいくたもの戦場を駆け抜けて各国の情報を奪取する超優秀なスパイのコードネームなのだぁ』

 

「「いやいやいやいや!?」」

 

あまりにぶっ飛んだ内容に一夏と始はつい叫んでしまう。

 

『そして、今日も王子の王冠に隠された情報と王子様を狙ってシンデレラは現れるのでしたぁ、おりむー、とがしー、頑張ってね~』

 

「なぁ・・・・始」

 

「・・・・奇遇だな、お前の言いたい事がわかるぞ」

 

「「(すっげぇ、嫌な予感がする!?)」」

 

直後、一夏のところにクナイが飛んでくる。

 

「え?わぁぁぁぁ!?」

 

飛んできたクナイを慌てて避けて一夏が視線を見上げると白いドレスを纏った凰鈴音が現れる。

 

片手に青龍刀を携えて。

 

「いやいや、なんで!?」

 

「安心なさい、刃は落としてあるから!痛いだけよ!」

 

「おーう、これが修羅場というヤツだな。凰、一思いにやってやれ」

 

「始!?」

 

「王冠を寄越しなさい!!」

 

青龍刀を振り下ろして降り立つ鈴音を一夏は慌ててよける。

 

始は既に安全圏に引っ込んでいて、被害を受ける心配はない。

 

「な、なんなんだぁ!?」

 

「いいから、さっさと王冠をよこし」

 

「二人とも、注意した方がいいぞぉ」

 

直後、鈴音は後ろに跳んだ。

 

少し遅れて、彼女がいた場所が小さく抉れる。

 

「狙撃・・・・セシリアね!」

 

「実弾!?」

 

「いや、ゴム弾だな・・・・当たれば痛いな」

 

「本当に他人事だなぁ!始!!」

 

「そりゃ、他人事だし」

 

次々と飛んでくるゴム弾から逃げながら一夏は叫ぶ。

 

「てか、二人が狙っているのは王冠なんだから、さっさと渡せばいいじゃねぇか」

 

「そ、それだぁ!」

 

振り下ろされる青龍刀を避けて、一夏は王冠に手を伸ばす。

 

『あぁ、なんということでしょう~。何人ものシンデレラに狙われながらも王子様は決して王冠を手放そうとしません。王子様にとって国は全て、そして、象徴である王冠を手放すことなんてありえないのです~』

 

「ん?」

 

頭上から聞こえたスピーカーに意識を向けた瞬間、体に激しい電撃を受けた。

 

「スタンガンよりも威力高いな」

 

「な、な、な」

 

『あぁ、なんと国を思う心が深いのでしょうかぁ~シンデレラに狙われながらも彼らは王冠を手放そうとしないのです』

 

「なんだそりゃぁぁぁぁあ!?」

 

「なるほど、痛い目見てまでも王冠を手放したいか。痛い目見て王冠を奪われるかのどちらかなんだろうな」

 

「状況に納得してんじゃねぇ!?てか、狙われているの俺だけ!?」

 

「みたいだな。こっちくんじゃねぇぇぇ!」

 

ダッシュしてくる一夏から逃げるように始は傍にあった大きなドアの向こうに隠れる。

 

一夏はドアに鍵を閉めた。

 

「あけなさいよ!一夏ぁ!」

 

「やだっ!殺される!」

 

「・・・・剣林弾雨って、こんなことをいうのかねぇ?」

 

「・・・・始、始」

 

やり過ごそうとしていた二人に、テラスの向こうの茂みからシャルロットが姿を見せる。

 

「シャルロット?」

 

「こっちにきて、ライフルの死角だから撃たれる心配はないよ」

 

「よし」

 

「待ってくれ」

 

二人はシャルロットの隠れている茂みに辿り着いた。

 

今更なのだが、襲い掛かってきた鈴音も遠くで狙撃しているセシリアも白いパーティードレスを纏っていて、シャルロットも同じ格好をしている。

 

「・・・・」

 

まるで絵本から抜け出したお姫様のような格好が似合っていて始は見惚れてしまう。

 

「始?どうしたの」

 

「あ、いや、なんでもない・・・・すまんすまん」

 

「なぁ、これからどうしたらいいんだ?」

 

「えっとね・・・・詳しい事はいえないんだけれど、凰さんやオルコットさんの狙いは織斑君の持っている王冠なんだ・・・・それをなんとかすれば」

 

「なんとかって、外そうとすると電撃走るんだぜ!?」

 

「え、そうなの!?」

 

シャルロットは驚いた顔をして始を見る。

 

「なんで、俺を見るんだ?」

 

「あ、なんでもない・・・・」

 

目があうと慌ててそらすことに気になりながらもこれからのことを話し始める。

 

ガサガサ!

 

近くの茂みが揺れて三人が身構えていると。

 

「一夏!始・・・・ここにいたのか」

 

「箒・・・・まさか、箒も」

 

「落ち着いてくれ。今は狙わない・・・・それよりも始はすぐにここから逃げろ」

 

一夏が何故?と尋ねようとする。

 

だが、箒の口から説明される必要はなかった。

 

何故なら。

 

「み・つ・け・たぁ」

 

頭上から聞こえてきた声に始は確認せず逃げた。

 

「あ、逃がさないわよ!」

 

あっという間に始は近くにあった階段を駆け上がっていく。

 

「・・・・・えっと・・・・・」

 

「見つけたわよ!一夏ぁ!」

 

「覚悟なさい!」

 

「やべっ!?さらば!」

 

痺れを切らして姿を見せた二人に一夏は全速力で逃げる。

 

「・・・・さて」

 

小さく頷いて箒はどこに隠し持っていたのか、日本刀を取り出して一夏が向かったのとは別の階段を昇っていく。

 

「あ、始・・・・」

 

シャルロットは少し慌てながら彼を追いかける。

 

「(どうしょう・・・・王冠を取ったら電撃が流れるなんて・・・・)」

 

ことのはじまりは少し前、教室に更識楯無がやってきた事がはじまりだった。

 

彼女は箒やセシリア、自分達を集めて、提案してきた。

 

――生徒会のだしものに参加してくれない?

 

クラスの出し物が忙しくてそんな余裕はないため断ろうとしたが彼女が勝者には男子と相部屋になれる権利が手に入るというえさにまんまとつられてしまった。

 

シャルロットとしてはこれ以上、楯無を始に近づきさせたくない!という気持ちがあって参加を決意する。

 

だが、

 

「(電撃を浴びせてまで王冠を取るなんて・・・・)」

 

王冠を取れば始に電撃が走る。

 

始が傷つく。

 

そんなことをシャルロットはしたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、富樫始と更識楯無は城の広場のような所で大絶賛、戦闘をしていた。

 

「おい!こんな企画のためになんで命狙われなきゃならんのだ!」

 

瓦を手裏剣のように投げながら始は叫ぶ。

 

みためはただの瓦だが、よくみると側面が鋭くなっている。当たれば痛いだろう。

 

ソレに対して、楯無は扇子で全てを叩き落す。

 

瓦を叩き潰している辺り、ただの扇子ではないだろう。

 

「安心して、私が狙うのは、命は命でも貴方のハートだから!」

 

「しゃれにならねぇ!お前の場合!目がマジだ!」

 

楯無はにこりと笑いながらも傍に転がっていた模造刀を振り下ろす。

 

傍に転がっていた鎖鎌を手にとって刃を受け止める。

 

どれも危険性はないが当たれば痛いだろう。

 

「うふふふふふふ、王冠を手に入れたらあんなことやこんなことを貴方と一緒に楽しむ」

 

「何を企んでいるのか聞きたくねぇ・・・・」

 

「そ・れ・に」

 

ずぃっと、楯無は距離を詰める。

 

「私だけが得しないようにちゃんとシャルロットちゃんにもチャンスを上げているわ・・・・あの子はそれを無駄にするかもしれないけれど」

 

「チャンス?無駄?どういう」

 

「一夏君や貴方の頭上にある王冠を手に入れた子は手にいれた王子様と一緒の部屋で生活が出来るという条件があるのよ」

 

「おいおい・・・・」

 

始は状況を理解した。

 

「いっておくけれど、貴方が電撃で少し痛い目をみることになったとしても王冠は手に入れるわ」

 

そういう楯無の目は本気だ。

 

 

本気で彼女は始の王冠を奪うつもりでいる。

 

「・・・・悪いが、最後までこいつは死守させてもらうぜ!」

 

思いっきり距離をとると始はそのまま全速力で逃げた。

 

「こいつを死守すれば俺は一人部屋だからな。今度こそ平穏な生活!」

 

「に・が・さ・な・い♪」

 

二人の鬼ごっこは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、織斑一夏は。

 

「人数増えてるぅ!?」

 

セシリアと鈴音とは別に観客だった人たちも参加しても大捕物へと発展していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは悩みながらも始を探していた。

 

一般の人も参加することになり、特別に作られたフロアのほとんどがエリア指定されたため、中々見つからない。

 

さらに、参加者の中での潰しあいが激しい為、中には壁にもたれて気を失っている生徒らしき姿もある。

 

一般といっても捕物?に参加希望者だけで、他の人は設置されている監視カメラからこちらの様子を見ているはずだ。

 

「(どうしょう・・・・)」

 

未だに王冠を手に入れることにシャルロットは抵抗があった。

 

確かに始と一緒の部屋にはなりたい。

 

だが、そのために始に電撃を浴びせるというのはどうなのだろうか?

 

そこまでして手に入れるべきなのかというところでシャルロットは止まっている。

 

「とにかく、始を」

 

先を行こうとした彼女の前にふらり、と人が現れる。

 

避けようとしたシャルロットは男の手に握られていたナイフに気づいた。

 

「お前は邪魔だ」

 

ナイフを避けようにも間に合わない。

 

シャルロットは目を瞑る。

 

だが、いつまで経っても衝撃が来ない。

 

彼女が目を開けると、そこには始がいた。

 

「始・・・・?」

 

「無事みたいだな。ったく」

 

富樫始はナイフを手で受け止めている。

 

男は驚きながらもナイフを手放して後ろに跳ぶ。

 

「貴様が二人目の男性操縦者か」

 

「・・・・そのことを知ってるってことはアンタはIS委員会の関係者か?いや・・・・違うな」

 

「私は先導者だ」

 

「・・・・は?」

 

男の言葉に始は目を細める。

 

「お前は存在してはならない」

 

懐からもう一本ナイフを取り出して男は笑う。

 

「篠ノ之束をどう思っている?」

 

まるで普通に会話を投げかけるみたいに飛んできた内容は始の心を揺さぶるには十分な一言だ。

 

ISの生みの親であり、世界を狂わせた張本人。

 

そして、富樫始の人生を狂わせたことに加担している人間だ。

 

「お前にいう必要はない」

 

「あるとも、異常者。お前は織斑一夏と同じようにISが使える。彼と接点があることからもしかしたら、と考えるだろう・・・・だが、富樫始は少し前に死んでいる。だが、ここに富樫始を名乗るものがいる・・・・貴様は何者だ」

 

「俺は俺だ。富樫始」

 

「まぁいい・・・・そんなキミにあの方は反応し行動した」

 

男は目を動かさずに始を見る。

 

「キミを処分しようとした。だが、生きている。そこの女の子も」

 

視線がシャルロットに移るが始が前に出て阻止する。

 

「生きていたら悪いみたいな言い方だな」

 

「そのとおりだ。キミらは不要な存在だ。あの方が必要ないと下したのだから・・・・あの方が作り出した紅椿の存在によって証明された」

 

今まで無表情になった男の瞳に感情が浮き上がった。

 

汚物を、全てが妬ましいような。憎悪。

 

男が懐から銃を取り出すより前に始の拳が中の拳銃ごと打ちぬく。

 

拳銃が砕ける音と共に男はぐはっ!?と声を漏らして地面に倒れこむ。

 

「いいたいことはそれだけか?」

 

どこまでも冷たい瞳で始は見ている。

 

「やはり、お前は、異常だ」

 

「なんとでもいえよ。お前みたいに誰かに縋るようなヤツにいわれても響かねぇよ」

 

「あのお方のお蔭で世界は変わり、人類は進歩している。正しくないわけがない!」

 

「進歩した代償として蔑まれている奴らがいたとしてもか?」

 

「それはやむをえない犠牲、仕方のないことだ!進歩するのに切り捨てるべきものだ!それを何故、理解――」

 

男は最後まで言葉をいう事はなかった。

 

倒れているすぐ横、床に大きな穴が空いている。

 

「いい加減、黙れ。殺すぞ?」

 

低い始の声にシャルロットは息を呑む。

 

何度も、彼の低い声は聞いてきたはずなのに、恐ろしく思える。

 

まるで、別人になってしまったかのような始にシャルロットは動けない。

 

「始・・・・」

 

男はくぐもった声を漏らしてぎょろぎょろと目を動かす。

 

その目とシャルロットの目が合う。

 

男は笑いながら腰に隠し持った拳銃を取り出して発砲する。

 

真っ直ぐに弾丸がシャルロットの体を貫く。

 

はずだった。

 

飛んできていた弾丸を始は素手で掴む。

 

まるでみているかのような動きに男は目を見開いた。

 

「てめぇ・・・・」

 

マグマのように湧き上がる怒りをシャルロットは始から感じた。

 

「――シャルに」

 

弾丸を掴んだ手をさらに握り締めて始は拳を。

 

「――手を出すなぁ!」

 

一喝と同時に放たれた一撃は男の鼻をへし折り、完全に意識を失う。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

荒い息を吐きながら始は男を見下ろしている。

 

殴った手は怒りにぶるぶると震えていた。

 

手だけじゃない、体の全身が震えている。

 

それが激しい憎しみからくるのか、哀しみなのかわからない。

 

だが、

 

「(独りぼっちだ)」

 

シャルロットは自然に、彼に近づいて、震えている手を両手で包み込む。

 

「・・・・なぁ、シャルロット」

 

「なに?」

 

「俺って、やっぱり異常なんかなぁ」

 

違う、とシャルロットは否定するように彼の手を強く握り締める。

 

実際のところ、男の認識は間違っていた。

 

彼らの言う死亡した富樫始はクローン。

 

偽物を潰して本物、自分を取り戻しただけだ。

 

だが、それを男は勘違いした。

 

篠ノ之束の意思だと錯覚して、行動した。

 

男はそれを正しいと思い行動し、始を否定した。

 

富樫始は誰よりも優しく、傷ついてばっかり。

 

誰かを傷つけたりもした。

 

決して消えることはない罪もあるかもしれない。

 

それでも始は忘れない。

 

自分のしでかしたこと、犯したことを忘れずにいつも向き合っていた。

 

シャルロット(わたし)を助ける為とはいえ、手を汚した事に始はどこかで後悔している。

 

始は否定するかもしれないが、シャルロットは知っていた。

 

亡国機業に所属して日が浅い頃に、始が寝言で後悔の言葉を漏らしている事を、悩んでいる事を知っている。

 

そんな始をシャルロットは異常だなんて思わない。

 

「異常なんかじゃない・・・・異常なんかじゃないよ。始は、始は普通の人だよ。誰かの為に傷ついてばっかりの優しい・・・・私の大好きな人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田弾は蘭、偶然遭遇した簪と一緒にシンデレラをみていた。

 

「なんつぅか、修羅場だよな」

 

「ですよね」

 

「うん」

 

ライフルを構えているセシリア、青龍刀で無力化させる鈴音、日本刀で野次馬を追い払う箒、それらから全力で逃げている一夏。

 

「一夏がどれだけヘタレかってのがよくわかる」

 

「一夏さん・・・・」

 

「大変だね」

 

三人がそれぞれの感想を漏らしていると蘭のポケットに入っているアンデッドサーチャーに反応が起こる。

 

「おにぃ・・・・」

 

「学園に近いな、一夏と始は抜け出すわけにはいかないから俺達でいくしかないだろな」

 

「・・・・うん!」

 

「おにぃも簪さんも気をつけて」

 

周りの人に気づかれないようにこっそりと抜け出す。

 

抜け出した二人はアリーナの近くに来ていた。

 

学園祭の間はアリーナを使用することはないので人はいない。

 

「・・・・危ない!」

 

簪が弾を突き飛ばしてはなれる。

 

直後、彼らのいた所を鉄球が直撃した。

 

トータスアンデッドは鉄球を構えて二人を睨む。

 

「すぐに倒すぞ」

 

「うん!」

 

ギャレンバックルとレンゲルバックルを装着した二人は目の前のアンデッドを睨んだ。

 

「「変身!」」

 

『ターン・アップ』

 

『オープン・アップ』

 

ギャレンはホルダーからギャレンラウザーを抜いて光弾を撃つ。

 

トータスアンデッドは腕の盾で防ぐ。

 

動きを止めた所をレンゲルラウザーで突く。

 

突かれたところが痛いのかくぐもった声をあげながらトータスアンデッドは仰け反る。

 

ギャレンラウザーの光弾がトータスアンデッドを狙う。

 

火花を散らして地面に崩れるトータスアンデッドを見ながら二人はオープントレイを展開する。

 

『ドロップ』

 

『ファイヤ』

 

『バーニングスマッシュ』

 

 

『ブリザード』

 

レンゲルラウザーから放たれた冷気にトータスアンデッドは自身の盾を構えるが、それごと凍りついた。

 

そこにギャレンがバーニングスマッシュを放つ。

 

盾をも砕いた一撃を受けてトータスアンデッドは爆発を起こす。

 

爆発が収まるとアンデッドバックルが開いたのを確認してギャレンはプロバーブランクを投げる。

 

投げたカードに吸い込まれてプライムベスタとなり、ギャレンの手元に戻った。

 

「よし、もど―」

 

戻ろう、といったところで爆発が二人に襲い掛かった。

 

爆発に巻き込まれた二人は地面を転がりながらもすぐに起き上がって、攻撃の方向を睨む。

 

「なんだ!?」

 

砂塵が舞い上がる中、ゆっくりと近づいてくるアンデッドがいた。

 

「っ!?」

 

その姿を見た途端、レンゲル―簪の脳裏に悪夢が過ぎる。

 

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・あぁ・・・・・・」

 

「簪!?どうした!」

 

震えて後ろに下がるレンゲルに対してゆっくりと砂塵を体に受けながらアンデッドが姿を見せた。

 

全身が金色で二つの剣を手に持っているアンデッド。

 

――転倒した車。

 

――黒い煙。

 

――ザクロのように弾けとんだ人の体。

 

そして。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」

 

「お、おい!?」

 

地面に座り込むレンゲルに戸惑うギャレンに金色のアンデッドが襲い掛かる。

 

ギャレンは攻撃を避けて、アンデッドを遠ざけるために拳を振るう。

 

だが。

 

「なっ!?」

 

拳を受けたアンデッドは平然とした顔で二つの剣を振り下ろす。

 

十字の火花を散らしてギャレンのアーマーが爆発する。

 

爆発に気づいたレンゲルが顔を上げるとギャレンが地面に崩れ落ちようとしているのを見た。

 

その途端、レンゲルは声にならない叫びを上げてレンゲルラウザーを振り下ろす。

 

アンデッドは攻撃を受け止めると刃を振り下ろした。

 

「あうっ!?」

 

火花を受けて変身が強制解除される。

 

「・・・・」

 

地面を見ると、同じように弾も変身が解除されていた。

 

アンデッドは鼻で笑い、そのまま姿を消す。

 



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第三十二話

急展開×急展開×急展開かなぁ・・・・


 

学園祭が終わった。

 

だが、状況は最悪といえる。

 

シンデレラの騒動の間に二つもの事件が起こった。

 

一つは富樫始を狙った男。

 

彼は取り調べにより明らかになったが篠ノ之束を信奉する一派だった。

 

少し前に起こっていた紅椿の騒動を偶然にも目撃し、それを神の啓示と受け取ったのか生き残った始とシャルロットを狙う為にIS学園に潜入した。

 

どうして、潜入できたのかはわかっていない。

 

万全の監視をしていたはずだというのに原因が判明していないのだ。

 

「どういうことだ?」

 

「そうですね」

 

職員室で千冬と山田の二人はひそひそと話をしている。

 

男の身柄は警察に預けた。

 

信頼できる刑事に任せたのでちゃんとしてくれるだろう。

 

「侵入経路が不明なのはもう一つのほうもだな」

 

もう一つの事件、それは学園にアンデッドが侵入した事だ。

 

アンデッドが侵入した時は警備員を惨殺しての侵入、イーグルアンデッドの場合は不可抗力といえるが、それらの対策として上空などの警備は万全。

 

なのに、出現した二体のアンデッドの侵入経路がわからない。

 

「橘さん、透明になれるアンデッドではないという情報もきていますし」

 

「アンデッドに関してはお手上げだな・・・・こちらの方を解決した方がいいかもしれん」

 

刑事からの情報によると男は束の失敗したミスを消す為に始とシャルロットを殺そうとしたと話している。

 

男はブラックリストにのっているほどの危険人物で篠ノ之束を信奉する前もカルト集団に所属していた。

 

薬物などの前科もあるため、調書は難航するだろう。

 

「(複雑だな)」

 

千冬は心の中で思った。

 

親友がISを作ってから世界は大きく狂った。

 

変わったというべきなのかもしれないが、千冬からすれば狂ったといえる。

 

男女平等を謳う世界はなくなり、女性を優位する思考が増えた。

 

中でも篠ノ之束を神様と崇める信仰集団まで現れる始末だ。

 

「(束、これがお前の望んでいるものなのか?)」

 

千冬は親友の考えがわからない。

 

彼女は何を思い、考えているのか。

 

千冬は理解できず苦しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ねぇ、始」

 

「なんだ?シャルロット」

 

「・・・・・・・・」

 

「おーい?」

 

食堂で向かうように食べていた始は急に黙り込んでしまった彼女に視線を向ける。

 

シャルロットは半眼でじーっ、と見ていた。

 

「ねぇ、始」

 

「ん?」

 

「これを機に私と始だけの呼び名みたいなのを考えない?」

 

「・・・・二人だけの呼び名ってことか」

 

「そ、そうだよ」

 

顔を赤くして応えるシャルロットに始は少し考える。

 

「呼び名かぁ・・・・どうして?」

 

「・・・・わざと聞いているでしょ」

 

「バレたか」

 

「もう、温厚な私でも怒るよ」

 

「悪い、悪い、呼び名なんだけどな・・・・少し考えたんだが、シャルってどうだ?」

 

「シャル?」

 

「シャルロットをシャルで区切っただけなんだが、いいやすいなぁと思って」

 

「うん!いいなぁ・・・・二人だけの呼び名、ねぇ始」

 

「なんだ、シャル?」

 

「呼んでみただけ・・・・でも、嬉しいなぁ、なんでだろ」

 

「俺に聞かないでくれよ」

 

そういいながら食事を食べ終えた始はシャルロットと一緒にトレーを返却する。

 

後は部屋に戻るだけなんだが。

 

「・・・・シャル、お前の部屋に泊めさせてくれ」

 

「そうさせてあげたいのは山々なんだけど、私の部屋、相方がいるから・・・・」

 

「くそぅ」

 

地面に座り込みたくなる衝動を始は堪える。

 

シンデレラの王冠争奪戦、始は不審者と遭遇、シャルロットを守る為に戦った後に運悪く更識楯無と遭遇し王冠を奪われてしまった。

 

つまり、勝者は王子様と相部屋になる。

 

その権利を更識楯無は手に入れたのだ。

 

「・・・・アイツとこれからずっと相部屋って・・・・」

 

「ずるいよね、王冠の解除スィッチを持っているとか」

 

「勝つことこそ全てよ、シャルロットちゃん♪」

 

腰に手を当てて楯無が現れる。

 

「さ、ダーリン、愛の巣にいきましょう~」

 

「嫌だ、俺はまだシャルロットとここにいるぞ」

 

シャルロット個人からすると、とても嬉しい事をいっているが楯無としては面白くない。

 

彼女は濁った瞳で懐からロープを取り出す。

 

「おい、なんだそのロー」

 

始は最後まで言葉をいう事が出来なかった。

 

神業的な速さで始をロープで拘束するとそのままダッシュで逃げる。

 

「あ、始を返せ!」

 

奪われた始を取り戻す為にシャルロットは逃げた楯無を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、織斑一夏も危機を迎えていた。

 

「ラウラ・・・・」

 

「なんだ、嫁よ?」

 

「どういうことだ、これ」

 

織斑一夏は自室でのんびりと休んでいたはずだった。

 

なのに、目を開けるとベッドに体を縛られていて動く事ができない。

 

そして、ちょこん、と一夏の腹の上に座っているラウラがいる。

 

ラウラは眼帯を外して真っ直ぐに一夏を見ていた。

 

おまけに黒い猫のきぐるみパジャマを着ている。

 

「どういうこと、というのは?」

 

「何で俺、縛られているの!?」

 

「楯無からのアドバイスだ」

 

「アドバイス!?」

 

こくん、とラウラは頷いた。

 

「誰からの!」

 

「更識楯無生徒会長からだ」

 

ぞくぅ、と一夏の背中に寒気が走る。

 

これは、これは嫌な予感がするぞ、と一夏の戦士としての勘が働いていた。

 

「私は見事勝利して、嫁と同じ部屋になる権利を手にする事ができた」

 

「そうだな・・・・」

 

箒が罠にかかったのを安心したところで、近くに隠れていたラウラによって王冠を奪われた。

 

そして、一夏は自由を奪われていた。

 

「そして、生徒会長のアドバイスで同じ部屋になったのなら他の奴らよりも確固たる絆を

手にするべきだ、といわれた・・・・よって」

 

「よって・・・・?」

 

出来れば痛い事じゃありませんように、と一夏は願う。

 

「一日キスをしようではないか!!」

 

「・・・・キス?」

 

「キスだ、それ以外に何かあるのか」

 

「・・・・いいや」

 

ラウラが純粋でよかった、と一夏はおもった。

 

だが、すぐに。

 

「待って!?一日キス!?それはちょっと」

 

「お前は私の告白の返事をまだかえしていない」

 

「うぐぅ!」

 

「私は幾度もアプローチをしているというのに」

 

「はぐぅ!」

 

「その間も嫁は他の女からアプローチを受けている」

 

「・・・・ぐはっ!」

 

織斑一夏のHP0!

 

「だから、これぐらいはやらせてもらってもいい・・・・はずだ」

 

「いや、ちょっと!一日中キスっていうのは・・・・って、聞いてない!?」

 

「「「させるかぁぁぁぁ」」」

 

ドアを壊して日本刀を構えた箒を筆頭に、鈴音、セシリアが現れる。

 

「嫁との愛の巣に入ってくるとは無粋にもほどがあるぞ、ノックをしろ」

 

「アンタぁ!なにしようとしてんのよ!?」

 

「一日中キスだ」

 

「ちょっと!ラウラさん!?」

 

「告白の返事をもらえないのだ、これぐらいやらせてもらっても罰はあたらん」

 

「そ、それならぁ!私にもその権利はあるぞ!」

 

「箒さぁん!?」

 

いきなりおかしなことをいいだした箒に一夏は叫ぶ。

 

どうやらさきほどの発言は他の人たちにも感染したらしく。

 

隅で四人はひそひそと話し始める。

 

「織斑」

 

「は、はじ!」

 

「静かにしろ・・・・協力しろ、助けてやるから」

 

「頼む」

 

突如、部屋にやってきた始に喜びながら一夏は頷く。

 

始はナイフで縄をあっさりと切り裂いた。

 

『ふむ、では、四人で・・・・む、嫁が逃げたぞ!』

 

『あら、ここにダーリンが逃げ込んできたはずなんだけれど』

 

『生徒会長!?』

 

『ダーリンの臭いがまだ新しい、外ね!』

 

「なんなのあの人!?」

 

「走れ!いそがねぇと終わる!」

 

壮絶な鬼ごっこは騒ぎに気づいた織斑先生がやってくるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、事件は起こった。

 

『BOARD社長橘朔也、剣崎一真、白井虎太郎、上城睦月の四名を警察は緊急逮捕しました』

 

「・・・・は?」

 

ニュースを見た弾はぽかん、とマヌケは表情を浮かべた。

 

それは隣で食事を取ろうとしていた蘭も同じ。

 

『尚、緊急逮捕した理由に関して、警察は情報を開示しておりませんが、数日前に投稿された動画が関与している者だろうと思われます』

 

キャスターの話に弾は慌てて、机の携帯電話を取り出そうとした。

 

それよりも早く、メールが届いている事に弾は気づく。

 

 

From 橘朔也

 

連絡するな。バイトもしばらく休め。

 

 

 

たった一言の内容。

 

「おにぃ?」

 

「橘さんから、しばらく、なにもするなって」

 

「なにも?大丈夫なの?」

 

「わかんねぇ・・・・連絡するなって書いてある・・・・かなり厄介な状況なのかもしれない」

 

「そんな!」

 

「とにかく、IS学園へ行く!一夏に連絡しねぇと」

 

「私も行く!」

 

「蘭は残ってくれ!」

 

「でも!」

 

「何が起こっているのかわからない。お前は安全な所で情報を集めてくれ」

 

「・・・・・・・・わかった」

 

渋々という形で蘭は頷いた。

 

橘がいない今、弾は冷静に動かないといけない。

 

状況を把握する必要がある。

 

弾は置いてあったヘルメットを掴んで家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・・生徒会長、これはどういう状況ですか?」

 

篠ノ之箒は食堂でニュースをみて、一夏に報告をしようと道場に来ていた。

 

彼らがいるのは剣道場ではなく、柔道場。

 

なんで柔道部がないのに柔道場があるのかという疑問は置いといて、箒は道場に辿り着いたのだが、

 

「ごっめーん、ストレス発散しちゃった。てへっ」

 

手でぽこん、と自分の頭を叩いて楯無は微笑む。

 

彼女のすぐ傍には足を天井に向けて沈んでいる一夏の姿があった。

 

先日、始を文字通り捕食しようとした楯無だが、失敗してしまい。少し苛々していて、朝練をしていた一夏を拉致、容赦なく潰してしまう。

 

「そんな!?一夏、しっかり」

 

「ダメよ、箒ちゃん」

 

起こそうとした箒を楯無は止める。

 

「なんでですか!?」

 

「状況は知っているわ。ただ、一夏君に話してもどうにもならないわ」

 

「・・・・どういうことですか?」

 

「昼休みに関係者を集めてもらえるかしら」

 

そういって、楯無は出て行った。

 

「どういう・・・・」

 

困惑していた彼女は少ししてから。

 

「気絶した一夏はいつ目を覚ますのだろうか」

 

 

 

一夏が目を覚ましたのは授業が開始して十分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニュースでもあがっていたけれど、少し前にこんな書き込みがあったの」

 

とある掲示板であげられたのは仮面ライダーという存在について。

 

内容のほとんどが都市伝説として騒がれている仮面ライダーのことばかり。

 

だが、途中から内容が変わった。

 

それはISの話題になってからだ。

 

ISと仮面ライダーどっちが強い?

 

片方はIS,もう片方は仮面ライダーと応えた。

 

それからISサイドは理論を延々と語り、仮面ライダー派は一冊の本を取り上げたり過去に起こった事件などで議論を展開する。

 

「先日、正確に言うと学園祭が起こった当日に・・・・ある画像が一斉に貼り付けられたの」

 

「画像?」

 

「これです」

 

虚がパソコンを操作して目の前の映写機に流す。

 

そこに流れたのは仮面ライダー?らしき存在が打鉄とラファールを一方的に無力化させるものだった。

 

「なんですか・・・・これは」

 

箒の声は震えている。

 

当然だろう、一夏達はこんなことをしたことがない。

 

「ですが、これだけで警察が動き出すとは思えないのですが」

 

「セシリアちゃんのいうとおり、これだけで動かせない・・・・でもね、こんなものが匿名で送られてきたの」

 

楯無はコピーしたものだけど、といい机に置く。

 

そこにはBOARDが過去に行った非人道的な実験の書類だった。

 

「・・・・これを、BOARDが?」

 

鈴音の声は震えている。

 

そこにあったのは人の命をなんだ、と叫びたくなるようなデータばかり。

 

「偽装だ」

 

書類を見て、富樫始は否定した。

 

「・・・・証拠は?」

 

「被験者が目の前にいるんだ。それ以外の説明が必要か?」

 

全員の視線が始に集まる。

 

始は写真を手に取ると無表情で破り捨てた。

 

「合成されているが、ここに写っている人間は俺だ。どこで見つけ出したのやら・・・・全部この世から抹消してやったと思っていたんだが」

 

淡々と語る始に生徒会室にいる者達は誰も言葉を発しない。

 

始が証言をすれば、BOARDの冤罪はなんとかできる。

 

だが、

 

「これは無罪を主張するより前に犯人を見つけ出した方がいいだろう・・・・難しいだろうが・・・・さて」

 

映写機を始は止める。

 

「ちょっと、なんで」

 

鈴音が怒鳴ろうとするよりも前に生徒会室のドアが開いて武器を持った男達が入ってくる。

 

「な、なんだ!?」

 

「・・・・富樫始だな」

 

入ってきた男達は銃口を始に向けている。

 

「学園の理事長から許可は貰っている。我々に同行してもらおうか」

 

「へいへい」

 

「始!?」

 

始は横にいるシャルロットの肩をぽん、と叩く。

 

「大丈夫だ。わーるい後は任せた」

 

入口に向かうと男達は始の両手に手錠をかけて無理やり連れだした。

 

「待て、一夏!」

 

出て行こうとした一夏を千冬が止める。

 

「でも!千冬姉」

 

「学園が許可した以上、私達ではどうすることもできない・・・・(だが、どうして学園が急に許可を出した?)」

 

「そうよ・・・・私達に出来るのはこれ以上の状況悪化の阻止(理事長が許可を出すって、ありえないわ・・・・委員会が勝手に許可した可能性がある)」

 

「くそっ!」

 

一夏は我慢できなくなって拳を壁に叩きつける。

 

「状況は我々に不利だ。外の情報を入手する必要があるな」

 

「ラウラちゃんのいうとおり、世間が注目しているからっていうのもあるけれど・・・・見えない何かが動いている気がする」

 

扇子で口元を隠して楯無は告げた。

 

一夏は拳を強く握り締める。

 

――力があるのに、何も出来ない。

 

そんな無力感に支配されていた。

 

ラウラはちらり、と空席を見る。

 

座るべき場所にいない人間をラウラは心配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田弾と一夏は話をしていた。

 

「橘さんから連絡をするな、しばらく大人しくしていろっていわれた」

 

「・・・・大丈夫だよな、みんな」

 

「あの人達は俺達の先輩だぞ?そう簡単に折れたりしないって」

 

「だよな・・・・」

 

「始の事、気にしてるのか?」

 

「・・・・警察に届けられた写真、始だった」

 

一夏は写真を見たとき、酷いと感じた。

 

泣き叫んでいる人をまるでモルモットのように体を切り刻んだり、ぐちゃぐちゃにしている光景、それが酷く恐ろしい。

 

「始のヤツ、淡々と語ってた・・・・俺さ、遠い出来事みたいに思っていたのかもしれない」

話を聞いていたとはいえ、あれは酷すぎた。

 

「人が人ならざるものになるっていうのはあぁいう事なんじゃないかと思った・・・・ダメだなぁ。俺は」

 

一夏は項垂れる。

 

「それは違うよ、一夏君」

 

「「嶋さん!?」」

 

近くの木から現れたのは嶋だった。

 

嶋はにこりと笑みを浮かべて近づいてくる。

 

「彼らは大丈夫だ。何か問題が起これば私の同胞が教えてくれる・・・・一夏君、弾君。危険なのはキミ達だ」

 

「どういう・・・・ことですか?」

 

「今までにない悪意がキミ達に近づいている・・・・」

 

「悪意?」

 

一夏が尋ねようとして、弾のポケットに入っていたアンデッドサーチャーが反応する。

 

「くそっ、こんなときにアンデッドかよ!」

 

「嶋さん、話は後で、俺は」

 

「行くべきではない」

 

嶋の言葉に一夏は目を見開く。

 

なんといった?

 

いくなといったのか?

 

「何故、ですか?」

 

「おそらく、キミ達が戦いに行けば・・・・傷つくのはキミ達だ」

 

人間はライダーに注目している。

 

アンデッドがいる場所は街中だ。そんなところで一夏達が戦えばさらなる波紋が広がる可能性があった。

 

「嶋さん、俺はライダーです」

 

真っ直ぐな瞳で一夏は嶋を見る。

 

「アンデッドから人を守る為に戦うのがライダーの仕事です。俺は・・・・なにがあっても人を守り続けます。どんなことがあってもです」

 

「・・・・一夏君」

 

「大丈夫です、嶋さん」

 

隣に居た弾が一夏のわき腹を小突く。

 

「弾君・・・・」

 

「一夏のバカが飛び出し過ぎないように俺がサポートします。無茶な事はさせないっすよ」

 

「・・・・」

 

二人は嶋の横を通り過ぎていく。

 

「・・・・私も、少し動くとするか」

 

小さく微笑みながら強い風が吹くと、そこに嶋の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

ジェリーフィッシュアンデッドが街中で暴れていた。

 

電撃を放つ鞭を振るって街灯や建物に傷を付けていく。

 

人々が逃げ惑っていると、小さな女の子が躓いて地面に倒れる。

 

母親とはぐれて、膝をすりむいてじんじんと痛んで涙が零れた。

 

泣きじゃくっている子どもの声が耳障りだったのか、たまたま耳に入ったのかジェリーフィッシュアンデッドはゆっくりと近づいていく。

 

女の子は泣きながら逃げようとするのを笑うようにジェリーフィッシュアンデッドは鞭を振り上げる。

 

「ウェイ!」

 

通り過ぎるようにブレイラウザーを振るって、ジェリーフィッシュアンデッドにダメージを与えた。

 

「大丈夫か!?」

 

光弾を撃って牽制しながらギャレンが泣いている女の子に近づく。

 

女の子はぽかん、とした表情を浮かべてギャレンをみる。

 

「逃げられるか?」

 

「・・・・うん」

 

「ここは危ないから振り返らずに走れ。大丈夫だ。キミの背中は俺らが絶対に守ってやる」

 

ギャレンはそういってギャレンラウザーを構えて立ち上がる。

 

女の子はそんなギャレンを見上げつつも走る。

 

立ち去ったのを確認してギャレンラウザーでジェリーフィッシュアンデッドに発砲した。

 

ブレイドはジェリーフィッシュアンデッドが振るう鞭をよけてからブレイラウザーを振るう。

 

刃が当たる瞬間、ジェリーフィッシュアンデッドは体をゲル状に変えて後ろに回りこむ。

 

後ろに回りこみ鞭をブレイドに振り下ろした。

 

「跳べ!」

 

「っ!」

 

前に転がるように跳んで避けると入れ替わるようにギャレンラウザーの光弾が撃ち抜く。

 

追い討ちをかけるようにブレイラウザーの刃がアンデッドの腕を斬りおとす。

 

「ギャレン!」

 

「おう!」

 

二人はラウザーのオープントレイを展開して三枚のプライムベスタを取り出した。

 

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『マッハ』

 

『ライトニングソニック』

 

 

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『ジェミニ』

 

『バーニングディバイド』

 

二人のライダーは同時に必殺技を繰り出す。

 

ジェリーフィッシュアンデッドは体をゲル状にさせて逃げようとする、だがそれよりも早くブレイドのライトニングソニックが、続けてギャレンのバーニングディバイドが炸裂した。

 

攻撃を受けたジェリーフィッシュアンデッドは爆発に包まれる。

 

しばらくして地面に崩れ落ちたジェリーフィッシュアンデッドのバックルが開いた。

 

ギャレンがワイルドブランクを投げる。

 

吸い込まれてプライムベスタとなったカードを回収した。

 

「よし」

 

「おう」

 

二人は互いに拳をぶつけた。

 

だが、彼らは後ろを振り返った。

 

「「!?」」

 

そこにはメガネをかけた男が立っていた。

 

人間じゃない、と二人はすぐに気づく。

 

目の前の男は殺気を放っている。

 

「ライダーか・・・・虫唾が走る」

 

姿が変わる。

 

男は金色のクワガタムシ、ギラファアンデッドへと姿を変えた。

 

ブレイラウザーを構えて、ブレイドはギラファアンデッドへ刃を振り下ろす。

 

だが―。

 

「がはっ!?」

 

ブレイドは体から火花を散らして後ろに大きくバウントする。

 

――何が起こったのかわからない。

 

アンデッドの力を借りて常人よりも強化されて、普段から自らの体を鍛えている一夏ですら“見え”なかった。

 

ギャレンは驚きながらもギラファアンデッドに光弾を撃つ。

 

弾丸を体に受けながら近づいてくる。

 

オープントレイを展開しようとしたギャレンにギラファアンデッドは片方の刃を投げる。

 

刃はギャレンの右肩に命中して火花を散らしてギャレンラウザーが地面に落ちた。

 

「・・・・時間切れだな」

 

「な?」

 

「どういう!」

 

ギラファアンデッドは小さく笑うと、姿を消す。

 

後を追いかけようとした二人は後ろから大量の銃弾を受けた。

 

二人が驚いた表情を仮面の中で浮かべながら振り返ると、そこには重武装の警官隊がいた。

 

彼らは武器を構えて、次々と発砲してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は・・・・」

 

簪は自室で毛布に包まって体を抱きしめる。

 

彼女の傍にはレンゲルクロスが転がっていた。

 

 

 

 



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第三十三話

「(どうしてだよ!!)」

 

ブレイド、一夏は仮面の中で叫びたかった。

 

目の前にいる警官隊は恐怖を浮かべた者、決意を秘めた者たちで一杯で、彼らの視線はギャレンとブレイドに向けられている。

 

「(どうして、俺達が争わないといけないんだ!!)」

 

仮面越しに一夏は叫びたい衝動に駆られた。

 

だが、銃弾の音で一夏の声が届かない。

 

「逃げるぞ」

 

ギャレンがブレイドの手を引いて走る。

 

「(くそっ!なんで!!)」

 

悔しさを抱えながら二人は逃げた。

 

近くに停車させていたブルースペイーダーとレッドランパスに乗り、逃げた。

 

だが、警官隊もバカではない。

 

二人が戦闘をしている間に既に包囲網を展開していたのだ。

 

バイクで逃げる二人に発砲してくる警官隊をけちらすわけにはいかない。

 

次々とルートを変えるが、待ち構える警官隊、その状況に二人は追い込まれていく。

 

「くそっ・・・・どうする?」

 

「最悪の場合」

 

ギャレンはホルダーのラウザーに触れる。

 

『アンタ達!聞こえる!?』

 

「鈴!」

 

「なんで!?」

 

『説明は後!!これから私の誘導にしたがってバイクを走らせていいわね!?』

 

「お、おう!」

 

警官隊の包囲網を二人のライダーは突破した。

 

だが、どこをどう逃げたのか警官隊はわからなかった。

 

 

空を一夏達は飛んでいる。

 

正確に言うならば、一夏と弾の乗っているバイクを箒とセシリアの二人がISを纏って運んでいた。

 

ISならば重さを感じないし、地上に意識が向いている警官隊も気づかない。

 

「全く、無茶をしすぎだぞ一夏!」

 

「箒さんのいうとおりですわ。山田先生が気づいたからよかったものの、最悪警官隊に捕まっていたかもしれません!」

 

「悪い・・・・」

 

「し、しかし、二人とも無事で安心したぞ」

 

「そうですわ。もし怪我をしていたらと考えると」

 

「・・・・ごめん、でも、俺は」

 

「とにかく!お話しは学園に戻ってからです」

 

セシリアに言われて一夏は小さく頷いた。

 

 

 

「おら!起きろ!」

 

英語が響いたと同時に顔に冷水が掛けられて富樫始の沈みかけていた意識が浮上する。

 

目を覚ますと、小さな電球が見えた。

 

意識が完全に覚醒する前に胸倉を掴まれて顔を殴り飛ばされる。

 

拘束具によって動きを封じられている始は何も出来ずに地面に倒れた。

 

「お前に眠る権利なんざねぇんだ!さっさと吐け!」

 

ブラックジャックと呼ばれる黒い棒のようなものを振るって始の顔を殴る。

 

富樫始が屈強な男達に拘束させられた後、目隠しをされてどこかにつれてこられた。

 

時間の感覚からしておそらく、日本ではない。

 

目隠しを外されると、男達による尋問が始まった。

 

否、尋問という名前の拷問だろう。

 

この場所に人権など存在しない。

 

あるのは殴る人間と殴られる存在だけ。

 

どれだけ泣き叫んだとしても、助けを求めたとしても救いの手はこない。

 

そんな地獄みたいな場所にきて、どのくらいの時間が流れたのかわからない、始は水も食料も与えられておらず、一定時間ごとに男達から殴られている。

 

「(本当に人権もへったくれもねぇ)」

 

内心、苛立ちを覚えながらも始は大人しくしている。

 

男達が飽きるまで耐える。

 

全てはそこからだと始は考えていた。

 

「(この程度の暴力、慣れているからな)」

 

誘拐されて非人道的な実験を幾つも受けた始にとって男達の振るう暴力など蚊が刺した程度のものだ。

 

暴力よりもさらにおそろしいものを始は体験している。

 

故に男達の苛々は増していた。

 

今までこの部屋に着た人間はおそろしさのあまり狂うか自分達に命乞いしてくるものばかり、だというのに、始は無表情のまま暴力を受けている。

 

今までにない態度に男達の苛々は増していた。

 

それが始への暴力の増加へと繋がっていく。

 

「何をしているの!?」

 

薄暗い部屋のドアが開いてナターシャ・ファイルスが叫ぶ。

 

「みてわかりませんか?こいつへの尋問ですよ」

 

「尋問!これが!?」

 

「我々は上からの指示で行っているのです。いくら貴方といえど邪魔をする事はできません」

 

「だからって・・・・これは」

 

「銀の福音を取り戻したくはないのですか?」

 

「っ!」

 

尋問している男の言葉にナターシャの頬は少し動く。

 

「我々は奪取された銀の福音を取り戻さないといけない。あれの重要性はパイロットである貴方も理解しているはずです」

 

「わかっているは・・・でも、こんなこと」

 

「それに調べた所、富樫始という男は数ヶ月前になくなっています」

 

「・・・・え?」

 

「公式に発表はされていませんが、数ヶ月前に富樫始の遺体が確認され、DNA鑑定の結果、本人であるという証明がなされている。ここにいるヤツに人権など通用しないのです」

 

「でも、これはやりすぎです。みたところ水も何も与えていない。人権がないからといってこれは見過ごせません!」

 

「・・・・わかりました。十五分の休憩を与えます。それならよろしいですね?」

 

「えぇ」

 

男達は最後に地面にうずくまっている始を蹴ったり唾を吐いて外に出て行く。

 

残されたナターシャは倒れている彼に近寄って、泥などをハンカチで落とす。

 

「・・・・何の、真似だ?」

 

「別に、見過ごせなかっただけよ」

 

ナターシャはそういって彼を壁にもたれさせる。

 

「どうして、福音の居場所を吐かないの?」

 

「なんでだろーな」

 

「惚けないで、貴方が強情を張るから彼らは暴力を振るう」

 

「それはないだろーな。アイツらがいっていただろ?俺は公式には死亡した人間という扱いになっている・・・・」

 

「でも、目の前に」

 

「俺は俺だ・・・・話したところでアンタに理解されるとは思っていない」

 

始は自虐的に笑う。

 

そう、話したところで理解されない。

 

「教えて」

 

強い瞳でナターシャは尋ねる。

 

「理解するのかはわからない、でも話を聞いてからでないと判断をくだすことなんてできない」

 

「・・・・まぁ」

 

「時間です」

 

ドアが開いて男達が入ってくる。

 

「上官がお呼びです」

 

「・・・・わかったわ」

 

ナターシャはちらり、と壁にもたれている始をみてから部屋を出た。

 

少しして響いてくる怒声から離れる為に早足になってしまう。

 

「ん、ナタル?」

 

「・・・・」

 

「おい!ナタル!」

 

「っ・・・・イーリ?」

 

「あぁ、どうしたんだ?顔真っ青だぜ?」

 

ナターシャが振り返ると友人のイーリス・コーリングが不思議そうな顔をして立っていた。

 

「いえ・・・・」

 

「お前が来た方向って、独房だろ?あっちは・・・・福音盗んだ犯人がいるって聞いたけど」

 

「そうよ」

 

「ソイツ、強いのか?厳重に保管してあった福音を盗んだほどなんだからかなりの強さだと思うんだが」

 

「・・・・え?」

 

「だーかーら!」

 

そこで、ナターシャは疑問が浮き上がった。

 

富樫始が銀の福音を盗んだ事はわかっている。

 

ならば、どうして彼はISを使おうとしないのだろうか。

 

盗んだISを誰かに渡したというのならわかる。

 

だが、情報部からの報告によると銀の福音は彼が使っていると聞いていた。

 

この状況から抜け出せるほどの力を銀の福音は持っているはず。

 

「(あの子は軍事用のISだ、本気を出せばこの基地などあっという間に壊滅させられる・・・・何故なの?)」

 

浮かび上がった疑問をナターシャは必死に考える。

 

そんな彼女の様子にイーリスは首をかしげていた。

 

 

 

 

「・・・・まだ、部屋から出てこないか?」

 

「うん、かんちゃーん!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは扉の前にいる布仏本音に尋ねた。

 

本音は頷いて扉を叩くけれど、返事は来ない。

 

更識簪が部屋に閉じこもって既に三日が過ぎようとしていた。

 

アンデッドの襲撃以降、体調不良ということで彼女は授業を休んでいる。

 

寮長であり事情を知っている千冬は無理に部屋から出すべきではないと判断して何も言わない。

 

何も言わないがラウラや本音にそれとなく様子を見るように頼んでいた。

 

「精神的ショックが大きいのだろう・・・・軍人であるのに何もできないというのは歯がゆい」

「・・・・私もだよ。かんちゃんの友達なのに、何もできないなんて」

 

扉一枚。

 

ラウラと本音にとって鋼鉄の隔壁以上の強度を誇っている。

 

それだけの扉を壊す事は造作もないだろう。

 

だが。

 

「それほどまでに簪の心の傷は深い・・・・のか」

 

拳を壁に叩きつけて唸る。

 

三日の間に状況は激しく動いていた。

 

BOARD関係者の事情聴取。

 

検察による強制捜査。

 

仮面ライダーと命名された一夏達への対策と対応。

 

たった三日間で状況は彼らにとって最悪という言葉が当てはまるほどに悪すぎた。

 

「(だが、何かがおかしい)」

 

ラウラは最悪すぎる状況に対して逆に違和感が強くなっていた。

 

前々からネットでライダーの存在は都市伝説として語り継がれている。

 

それがどうして、今回騒ぎだしたのか。

 

警察まで乗り出すほどの事態に発展したのか?

 

「(何かがある・・・・この騒動には・・・・だが)」

 

そこまで考えてからもう一度扉を見る。

 

「(状況を打開するにしても、簪を助けたい・・・・私には何も出来ないのだろうか?)」

 

 

 

凰鈴音とセシリア・オルコットは屋上で話をしていた。

 

「なんか、変な空気」

 

「そうですわね」

 

屋上からは楽しそうにしている生徒達や掃除をしている用務員などが見える。

 

当たり前の学園風景。

 

だが、二人は何かが欠けているような気がしてならない。

 

モノクロの景色を見ているような気持ち悪さが離れてくれなかった。

 

「たった三日でここまで変化する事って、私の両親の離婚以来かなぁ」

 

凰鈴音の両親は離婚している。

 

中国からの強制帰還という理由で家庭が崩壊してしまったのだ。

 

その時のショックを思い出したくはなかった。

 

だが、それと同じくらいの空気がみんなの中に漂っていると鈴音は思っている。

 

「まだ、三日しか過ぎていないんでしたわね。もう一ヶ月と錯覚してしまいそうになりました」

 

「・・・・そうね」

 

剣崎たちが警察に捕まった。

 

更識簪が部屋に閉じこもり。

 

富樫始がアメリカ軍に連行されたこと。

 

一夏達がアンデッドと戦っていたら警察の攻撃を受けたこと、あげればきりがない。

 

最悪の状況。

 

「でも、一夏は諦めていない」

 

どれだけ最悪な状況でも一夏は諦めていない。

 

「一夏さんは、あそこまで強いのでしょうか?」

 

「前にも聞いたことあるわ。そしたらなんていったと思う?」

 

――俺は強くない。

 

かつて、鈴音に一夏はそういった。

 

「尊敬している人になりたくて背中を追いかけているだけだってさ」

 

「剣崎一真さんですか・・・・」

 

「そうね、こんな状況なのにあの人は諦めないそうよ?美化しているわけじゃないでしょうけれど・・・・それだけ凄い人なんでしょうね」

 

「これからどうします?」

 

「一夏だけに戦わせて傍観するなんて、私の性に合わない!こんなことをした犯人を見つけ出す!」

 

「・・・・当てはあるんですの?」

 

「ない!とにかく、ネットから原因を見つけ出すしかない」

「鈴さん、その発言は脳筋みたいですわ」

 

「うっさいわね!?」

 

「私も手伝いますわ」

 

「え?」

 

「こうみえても私は電子系、少し得意ですのよ」

 

淑女の笑みをセシリアは浮かべた。

 

 

 

 

「始・・・・」

シャルロットはベンチに座って俯いていた。

 

手の中には始が置いていった十四枚のプライムベスタとワイルドベスタがある。

 

男達に奪われないように咄嗟にシャルロットのポケットに忍ばせたものだ。

 

「(どうしよう・・・・状況はどんどん悪くなってる。こんな時に)」

 

「また、貴方は動こうとしないの?」

 

悩んでいるシャルロットの前に更識楯無が現れる。

 

彼女は冷たい瞳をシャルロットに向けていた。

 

「・・・・どういうこと」

 

「そのままの意味よ。この学園に入ってから貴方は弱くなったわね」

 

「私が・・・・弱く?」

 

「えぇ」

 

楯無は冷たい瞳のままシャルロットに近づいた。

 

「この学園に入って、貴方は色々な人と触れ合った。前からデュノア社で苦しい思いをしていた分、色んな温もりを知ったんでしょうね。だからこそ、奪うという事に対して貴方は億劫になっている」

 

「そんなこと・・・・」

 

「あるわよ。貴方、学園祭で生徒会が主催したシンデレラに参加した・・・・でも、王冠に電撃が仕組まれているとわかったら、奪う事に抵抗を感じたでしょう」

 

図星だった。

 

シャルロットは始を傷つけてまで王冠を手に入れたくない、と奪う事を渋ってしまった。

 

「それが証拠よ。貴方は“彼”を理由に戦う事を拒否した。そんな貴方は彼の隣にいる資格なんてない」

 

「それを・・・・決めるのは・・・・」

 

「えぇ、私じゃない。でも、貴方でもないわ。彼が決める・・・・でも、今の貴方に富樫始を渡すつもりは毛頭ない。奪うわ。どんな手段を使ってでも」

 

――それが、私の覚悟。

 

楯無は、刀奈は強い意思をこめた瞳でそう宣言する。

 

「国家代表という肩書きがそれを邪魔するなら、捨てる。更識の家が邪魔をするならどんな手段を使ってでも認めさせる。生徒会長という肩書きが邪魔をするなら、後任を見つけて辞任する・・・・なにがあっても私は彼と一緒にいたい。それほどまでに私は彼を愛しているから、貴方はどうなの?このまま彼の帰りを待つつもり?いっておくけれど、始が戻ってくる確立は0に等しい。あいつらは始をモルモット同然の扱いをしているわ。そんなこと許せない。私は彼を取り戻す。邪魔をするなら世界でも運命だろうと叩き潰す」

 

強い瞳にシャルロットの中で何かが動く。

 

その気持ちは燃えさかる炎のように一気に爆発した。

 

「・・・・・・だって」

 

震える声をおさえながらシャルロットは顔をあげる。

 

弱いシャルロットではなかった。

 

「私だって、始のことが好きだ!誰にも渡さない・・・・」

 

「そう、牙が抜けてしまったかと思っていたけれど、大丈夫のようね」

 

楯無は不敵に笑う。

 

――さぁ、反撃だ。と楯無は告げた。

 

 

 

 




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第三十四話

織斑一夏はがむしゃらに竹刀を振るう。

 

それを千冬は冷静に裁く。

 

「動きにムラがありすぎる」

 

繰り出された突きを避けて、一夏の腕に竹刀を振り下ろす。

 

腕が痺れて、竹刀が地面に落ちた。

 

「隙ありだ!」

 

「まだだ!」

 

振り下ろされる刃を一夏は避ける。

 

連続で繰り出される竹刀の刃をぎりぎりのところで避け続ける。

 

だが、それも長くは続かなかった。

 

千冬の繰り出した突きが一夏の喉下に迫る。

 

神がかり的な速度に一夏は避けられず、衝撃を受けた。

 

「うがっ!?」

 

後ろに仰け反りながらも、地面に転がっている竹刀を手に取る。

 

「・・・・まだ、立つか」

 

「当然!俺は、負けない。こんなところで立ち止まるつもりは毛頭ない!」

 

一夏は壁に掛けられている竹刀を蹴り飛ばし、左手に構えた。

 

「二刀流か・・・・できるのか?お前に」

 

「やったことはない・・・・・でも、剣と拳で戦っているんだ。これぐらい、やってみせる!」

 

刀を一本使うのと二本使うのとではその差は大きい。

 

使いこなせればかなりの速さの剣技を会得したといえよう。

 

だが、負担が大きい。

 

鍛えていない人間なら竹刀一本振り回すのがやっと、二本をもてば左右に力を分散するために威力、スピードも半減してしまう。

 

その中で一夏は二刀を構える。

 

地面を蹴って千冬に迫った。

 

彼女は冷静に一夏の繰り出す刃を竹刀で受け流す。

 

「一本で私に勝てないお前が、はじめての二本で勝てるわけがない!」

 

「やってみねぇとわかんないだろ!!」

 

一本目の竹刀を受け流し、二本目の刃とぶつかりあう。

 

「ふん!」

 

思いっきり踏み込まれ、一夏はバランスを崩しそうになるのを堪える。

 

その隙を千冬は逃さず鋭い一撃が迫った。

 

二本の刃を十字に交差させて刃を阻む。

 

「(まだだ!)」

 

一夏の心は折れていない。

 

生身の体でまともに勝ったことのない千冬に二刀流は無理がある。

 

「(速く、速い連撃を!)」

 

千冬の攻撃を最低限の動きで避けつつ、竹刀を繰り出す。

 

彼女は少し目を開きながらも同じように受け流す。

 

だが、さっきよりも剣を振るう速度が互いに上がっていた。

 

「(もっと、もっとだ!もっと速く!)」

 

「(さっきよりも動きが!?)」

 

千冬は大きく竹刀を振り上げる。

 

同じように一夏も竹刀を振り下ろした。

 

バチンと大きな音が響いて二つの竹刀が地面に転がる。

 

「・・・・」

 

「ぷはぁ・・・・!」

 

一夏は残りの竹刀も地面に投げ捨てて後ろに倒れた。

 

「まさか、二刀流を使いこなすとはな・・・・」

 

「ただがむしゃらに振るっていただけなんだけど・・・・これなら、なんとかできるかもしれない」

 

少し休んでから一夏は体を起こす。

 

その目に迷いはない。

 

「・・・・私は教師だ。ここでお前を待つことしかできん。無茶はするなよ。ちゃんと帰って来い。ここはお前の居場所なんだからな」

 

「わかってる。いってくる!」

 

出て行った一夏の背中を見送って千冬はため息を吐く。

 

置いてあった通信端末に連絡が入った。

 

 

 

 

 

視界がぐらついている中で富樫始はゆっくりと意識を覚醒させる。

 

どうやら、数十分ほど意識を失っていたようだ。

 

「(男達は?)」

 

痛む体に影響を与えないように目を開けて周りを見るが拷問していた奴らの姿は見えない。

 

「(なにかうるさいな・・・・訓練でもやってんのか)」

 

鈍痛に顔をしかめながら始はすこし考える。

 

「(そろそろ・・・・いいか)」

 

扉の向こうから靴音が響いているのを聞き取ると始は体を起こす。

 

あっさりと拘束具を解除して、体の自由を取り戻した始が立ち上がるのと、男達が入ってくるのはほぼ、同時だった。

 

「貴様!?」

 

「おっせぇよ」

 

一人が警棒を振り上げるよりも早く、顔面に始の拳が炸裂する。

 

強烈な一撃に男は声をあげる暇もなく沈黙した。

 

もう一人が警棒を振り上げて始の頭を殴る。

 

「ん、なんかした?」

 

「っ!?」

 

男の持っている警棒が折れる。

 

だが、始の体から血が流れる事はない。

 

「一発で済ましてやるから大人しくしろ」

 

瞬殺、男の顔に一発叩き込んで意識を奪い取る。

 

「・・・・人間半分やめると、ここまで頑丈になっちまうもんだな」

 

殴られた箇所を触りながら始は独房の外に視線を向けた。

 

気配はない。

 

「さて、飛行機でも適当に奪取」

 

「動かないで」

 

出ようとした始にナターシャは拳銃を向ける。

 

「おっとぉ・・・・」

 

「貴方、何者なの」

 

「何に見える?」

表情を変えず始は尋ねた。

 

ナターシャは拳銃を構えたまま口を動かす。

 

「人間、にみえるわ」

 

「見えるけれど、中身は化け物っていったら信じるか?」

 

「・・・・私は」

 

「はい、時間切れ」

 

二人の間の壁が壊れて、そこからISが姿を見せる。

 

ナターシャは土煙に視界を奪われてしまう。

 

視界が回復した頃には富樫始の姿はなかった。

 

 

 

 

「それで、なんでお前らはこんなところにいるんだ?」

 

脱出した富樫始は自分を抱えているシャルロットに尋ねた。

 

「えっと・・・・」

 

「どうせ、隣でこっちをみている阿呆に色々いわれて焚きつけられたんだろーが、まさか軍隊に喧嘩売るとは思わなかったぞ。いいのか、国家代表?」

 

「愛の為に私は全てを捨てる覚悟はある!」

 

ため息を吐いて、始は黒い幽霊とミステリアス・レイディを纏っているシャルロットと楯無を睨む。

 

「それにしても、まさか地図にない島に始がいるなんて思わなかったよ!何もされていない?」

 

とある国家が秘密裏に作っている軍事基地。

 

長い歴史の間に地図から抹消され、公式的に島はないとされる場所に存在する施設、それが地図にない島であり、要人保護や表に出してはいけない人間の処分などをしている場所でもあった。

 

「屈強なだるまさん達と遊んでた」

 

「私もそのだるまさん達と遊ぼうかしら」

 

「(変な扉開きそうだな・・・・)それで、これからどうするつもりだ?」

 

「日本へ戻るわ。虚ちゃんがハッキングして私達が抜け出している事はばれていないから」

 

「おいおい・・・・いいのかよ、日本の暗部が私利私欲で」

 

「いいのよ、色々とやっているんだからこれぐらいの見返りはあっていいものよ・・・・ちなみに貴方でも」

 

「寝言は眠っている間に言ってね。それとも今から眠る?」

 

ライフルを展開して楯無の頭部へ向けながらシャルロットは微笑む。

 

楯無も水を出して攻撃できる体勢になっていた。

 

「・・・・めんどくせー」

 

 

 

 

五反田弾は海岸に来ていた。

 

「まさか、ここにいるとは思わなかったぜ」

 

かつて、この海岸にて先代ギャレンこと橘朔也とギラファアンデッドが死闘を繰り広げた場所、そこに五反田弾と向き合うようにして男がいる。

 

「この場所は俺にとって恥ずべき場所だ」

 

憎悪の視線で弾を睨む。

 

「この計画が成功すれば、お前たちは社会的に抹殺できる」

 

――だが、それだけでは足りない。

 

男は憎悪の目で弾を睨む。

 

「ギャレン、貴様だけは俺の手で潰す。装着者など関係ない、ギャレンという存在を俺は潰す」

 

「悪いけれど、負けるつもりはねぇよ」

 

『ターン・アップ』

 

オリハルコンエレメントを潜り抜けてギャレンへと変身する。

 

男もギラファアンデッドへと姿を変えた。

 

先に攻撃を仕掛けたのはギャレン、彼はホルダーからギャレンラウザーを抜いて光弾を放つ。

 

だが、ギラファアンデッドは二本の刃で次々と光弾を受け流していく。

 

「無駄だ、そんなもの通じない!」

 

「だからって止めるつもりはねぇ!!」

 

近づいてくるギラファアンデッドを睨みながらギャレンは光弾を撃ち続ける。

 

 

 

扉の向こうが騒がしい。

 

「(どうでもいい・・・・私はもう、なにもできないから)」

 

ドンドンと誰かが叩いている。

 

だが、更識簪は布団の中から出てこようとしない。

 

出たくないと考えていた。

 

彼女はギラファアンデッドに襲われた時のトラウマで何も出来なかったことにショックを受けて、部屋に閉じこもっている。

 

幸いな事に部屋の都合で一人部屋になった簪が閉じこもっても隣のベッドは困る事がない。

 

だから、余計に――部屋から出ようという意思がなくなっていた。

 

ドンドン、と響いた。

 

さっきよりも音が強くなっているような気がする。

 

だが、簪は動かない。

 

「(私が居ても、足手まといになる・・・・それに、いたって役に立てるとは思えない)」

 

自分以外にもライダーはいる。

 

剣崎一真以外なれなかったといわれるキングフォームに到達した織斑一夏がいる。

 

同じようにハートスート全てのアンデッドと融合したワイルドになれる富樫始がいる。

 

橘の指導を受けて、冷静に戦おうとする五反田弾がいる。

 

彼らと同じくらい強い意思を持っているがギラファアンデッドのトラウマのせいでそのことを頭の外に置いている簪は気づかない。

 

「(そうだ、私がいなくても、ライダーは戦える。私なんて・・・・)」

 

「だぁぁ!鬱陶しい!!」

 

――バコン!

 

何かが外れたような音がして、床が揺れた。

 

床に重たい何かが落ちたような揺れだ。

 

簪はそれでも布団の中から出ないでいると、靴音が響いて布団を剥ぎ取られる。

 

「こんなところでなにをしているの!」

 

開口一番、目の前にいた女性は怒鳴った。

 

怒鳴られたのは久しぶりで、いきなり自分以外の人間が現れたことで戸惑って何を言えばいいのか思いつかない。

 

「貴方が更識簪さんね?私は広瀬栞、貴方に話があるの、とにかく外に出るわよ」

 

 

広瀬という女性につれられて簪は食堂に来た。

 

席に座るようにいわれて渋々従うと、彼女は目の前に大量の食事を置く。

 

「部屋に閉じこもって何日も食べてないでしょ。さ、沢山食べる!」

 

「・・・・いら」

 

いらない、と拒否しようとしたところで鋭い眼光と目があって大人しく従う。

 

定食、どんぶり、麺類、沢山の食事を見ていると、いままで忘れていた空腹感が襲い掛かってくる。

 

我を忘れて簪は目の前の食事にとびついた。

 

 

「本当に何も食べていなかったみたいね」

 

目の前の食事を全て平らげたことに広瀬は驚きながらも同時に凄いと思ってしまった。

 

――フードファイトとかあったら優勝するんじゃないだろうか。

 

どうでもいいことを考えながら満足な表情を浮かべている簪に話を切り出す。

 

「確認だけれど、貴方がレンゲルを受け継いでいるのよね?」

 

「・・・・はい」

 

満足な表情から一転して消沈する簪に広瀬は同情を抱くが優しくはしない。

 

「貴方はどうして部屋に閉じこもったままなの?」

 

「・・・・もう、戦えないから」

 

「どうして?それは誰かが言ったの」

 

「・・・・アレを前にして、私は」

 

体を震わせて簪は言葉を紡ごうとする。

 

感情の整理がつかず、何を言えばいいのか思いつかないそんな様子だった。

 

「状況ははっきりいって、最悪すぎるわ。このままだと負ける」

 

「私には、もう、関係ない」

 

「関係はあるわ。貴方がライダーシステムを持っている限り」

 

「じゃあ、捨てます!」

 

簪は震える声で叫んだ。

 

「これをもっていても私はもう、何も出来ない!アレを前にしたら動く事ができない!その間に弾やみんなが傷ついてしまう!それなら、私は戦わない方がいい!」

 

「逃げるの?」

 

広瀬の声に簪は動きを止めた。

 

目の前の彼女の声に感情がこもっていない。

 

冷めた目で見ていた。

 

「貴方の気持ちも、トラウマもわかったわ・・・・でもね、剣崎君達はそれよりもきつい戦いを繰り広げてきたのよ」

 

広瀬は語る。

 

ライダーとして戦い続けた剣崎たちのことを。

 

戦うことへの恐怖心から融合係数が低下しアンデッドに操られて、戦う事をやめようとした橘朔也の苦悩。

 

戦いの中で理解し、共闘しつつも、最後にはお互いの命を賭けて戦い、全てのアンデッドを封印することで人類の勝利を収めたことに罪悪感を抱える剣崎一真。

 

“人間”と触れあい、ただ戦うだけの存在から変わろうとしつつも、運命から逃れられず戦いの中に身を投じた相川始の無念。

 

憧れからライダーとなり、邪悪なアンデッドに操られ、戦いが終わった後も何かが欠けたような気持ちを抱く上城睦月の違和感。

 

「みんな、戦いの中で色々なものを失っている・・・・でも、貴方はまだ失っていない!失うかもしれないというだけでなにもせずに震えているのはただの逃げよ」

 

「でも・・・・」

 

「目の前の敵から逃げても、いつかは対峙するときがくるわ。そのときも貴方は逃げるの?逃げて、逃げて逃げ続けていたら何も変わらない、何も出来ないままよ?」

 

言葉一つ、一つが簪の心に突き刺さる。

 

「だったら、どうしたら」

 

「――戦いなさい」

 

広瀬は告げた。

 

――戦え。

 

――戦うんだ、と。

 

「逃げずに立ち向かう事も苦難の道かもしれない。でも、剣崎君達は戦うことで少しでも変えようとした。何かを変えるという事は戦うことと同じ、簪ちゃん」

 

覗き込むようにして広瀬は尋ねた。

 

――貴方はなに?と。

 

「私は」

 

――更識簪、

 

そして。

 

――レンゲルを継いだ者。

 

「私は、ライダー・・・・」

 

「五反田君があのアンデッドとここで戦っているわ」

 

広瀬はアンデッドサーチャーを取り出してみせる。

 

「弾が・・・・」

 

簪は立ち上がる。

 

手が少し震えていた。

 

その震えている手に広瀬はあるものを渡す。

 

「これは・・・・」

 

「貴方が変わるための、力よ。戦って、簪ちゃん!」

 

「っ、はい!」

 

簪は叫んで食堂を出る。

 

広瀬はその後姿を見送った。

 

「私って、相当嫌な女になっていますよね」

 

「いい女だと思いますが?」

 

いつの間に現れたのか広瀬の後ろには千冬がいた。

 

「有名人に言ってもらえると嬉しいわね」

 

「申し訳ありません、橘さんから何かあったら貴方に頼れといわれていたので」

 

「もう、橘さんや剣崎君達はなにをしているのよぉ、せっかくバカンス楽しもうと思っていたのにぃ」

 

体をほぐして広瀬は立ち上がる。

 

「さ、黒幕のところにいくわよ」

 




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第三十五話

 

 

「ぐはっ!」

 

体に重たい一撃を受けてギャレンは後ろの岩に倒れこんだ。

 

痛みを無視してギャレンラウザーから光弾を撃つ。

 

ギラファアンデッドは体に光弾を受けて数歩仰け反った。

 

ふらふらと起き上がり腕のラウズアブゾーバーに伸ばす。

 

「させるか!」

 

だが、目的に気づいたギラファアンデッドが投げた剣がギャレンの右肩のアーマーを貫いた。

 

「がぁぁっ!?」

 

肉体に貫通した刃にギャレンは苦悶の声をあげて膝をつく。

 

「このまま死ぬといい・・・・・」

 

『タックル』

 

「っ!」

 

ギラファアンデッドが音声の方へ視線を向けると、銀色の光を纏ったブルースペイダーが体当たりした。

 

ブルースペイダーを避けられずギラファアンデッドは大きく飛んで地面に叩きつけられる。

 

「弾!?大丈夫か」

 

「な、なんとかなぁ・・・・」

 

肩を抑えているギャレンにブレイドは手を差し伸べる。

 

その手を掴んで立ち上がると二人はギラファアンデッドを睨む。

 

「二人になったとしても変わらない。お前たちはここで消えてもらう」

 

「悪いけれど、最初から全力だ!」

 

ブレイラウザーを地面に突き刺す。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『エボリューション・キング』

 

ラウズアブゾーバーに二枚のプライムベスタを読み取らせて、ブレイドはキングフォームへと姿を変えた。

 

ブレイドはキングラウザーとブレイラウザーの二つを構える。

 

「ふん、同じ土台に立つとでもいうわけか?」

 

ギラファアンデッドはあざ笑う。

 

対してブレイドは無言で地面を蹴る。

 

両者がぶつかりあう。

 

お互いの速度は達人の領域だった。

 

ライダーになるための特訓で目を鍛えていたギャレンでさえ、追いかけるのがやっとな速度で二人はぶつかりあう。

 

あまりの速さにギャレンはサポートする事ができない。

 

「(これが・・・・十三体のアンデッドと、融合するってことなのか!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女は顔を歪めて画面を睨む。

 

目の前に置いてあるパソコンはとある動画サイトを表示していた。

 

そこでは、仮面ライダーがISを一方的に壊すという動画が流された最初の場所、だが、目の前にある動画サイトには謝罪!と書かれた題名の動画が再生されている。

 

無名の映画会社が力を注いだ一世一代プロジェクトの動画が流出してしまったという謝罪で、これはフィクションであり、実在の事とはなんら関係のないという謝罪が流れている。

 

――ありえない!

 

女性はぎしぎしと歯軋りする。

 

あれはフィクションではない、と女性は目の前の画面に向かって叫ぶ。

 

本当にあったことだ!と叫び、書き込もうとする。

 

だが、既に掲示板は燃え上がっていた。

 

 

 

 

<<<んだよ、映画の宣伝だったのかよ!

 

<<<てかさ、こんだけ力ある映画なら見る価値あるね

 

<<<混沌だな

 

<<<結末どうなるかで賛否両論だよなぁ・・・・てか、タイトルしりてぇ!

 

<<<流出するって、セキュリティ甘すぎだろ!?今まで騒いでいた俺ら、なんだったわけ?

 

<<<お祭りは唐突に始まって、盛大に終わる。

 

<<<終いってことかい?

 

<<<じゃね?ニュースでもこれ、話題になってんよ

 

<<<所詮、都市伝説は都市伝説か、仮面ライダーは実在しないってことざんすね。

 

<<<だね・・・・どうでもいいけれど、三下かよ!?

 

一部だけ読む限り、これはよくない。

 

女性はあらぶる怒りをおさえながら新たな動画と書き込みをはじめようとする。

 

「なっ!?」

 

しかし、唐突にパソコンの画面にErrorが表示される。

 

「このアカウントは使えませんって、なんでよ!?」

 

401に女性はパソコンに画面をたたきつけそうになった。

 

「それは、貴方のアカウントを止めたからよ」

 

「誰!?」

 

振り返ると、ドアが開いて、女性が立っていた。

 

「アンタ、どうやって!?ここは」

 

「・・・・そこそこ優秀のクラッカーらしいけれど、残念、上には上がいるのよ。貴方のアカウントを強制的に使用不可にしたわ」

 

女性、広瀬栞は不敵に笑う。

 

不敵に笑う顔に女性は不快な気分になる。

 

「なんで」

 

「?」

 

「なんで、私の邪魔をするのよ!?私がやっている事は女性のために」

 

全てはこの世界に存在する女性のため。

 

仮面ライダーというわけのわからない存在に脅かされるなどあってはならない。

 

だから、彼女は行動に移した。

 

仮面ライダーを抹消するべく、様々な事を書き込んだ。

 

ネットというのは素晴らしい。

 

電子の海をとめるような強い法律は日本にはない。

 

そのために悲劇も起こったりするが、今回の場合は役に立った。

 

「女性のため?自分のためでしょう」

 

だが、広瀬栞はそんな女性の考えを一蹴する。

 

「貴方、女尊男卑になってからいい思いをしているそうね、それを奪われるのが嫌なだけ、今の自分の生活が奪われる、自分勝手な思いで動いているに過ぎないわ」

 

「違うわ!」

 

「いいえ、違わない」

 

「ダマレェ!」

 

激昂した女性が広瀬に襲いかかろうとしたが様子を見ていた千冬が割り込んで押さえ込む。

 

「あ、貴方は、ブリュンヒルデ!?」

 

「その名前で私を呼ばないで貰おう」

 

女性は驚き、千冬を見る。

 

「私は、あ、貴方の、ために!」

 

「ふざけないでもらいたい。私はこんなことを望んでなどいない」

 

「そんな!!仮面ライダーのために、地位が脅かされるかも」

 

「――その程度で脅かされる地位などに興味も、未練もない・・・・それに、私はただの教師だ。それ以上でも以下でもない!!」

 

「・・・・・・そんな!」

 

千冬の言葉に女性はその場に座り込む。

 

だが、血走った目が転がっていたカッターナイフに気づく。

 

「お前がぁぁぁぁぁ!」

 

ナイフを手にとって広瀬に襲い掛かろうとする。

 

千冬が反応に遅れて、間に合わない。

 

「ふざけんなぁ!」

 

だが、それよりも早く広瀬が女性の顔に拳を叩き込む。

 

拳を叩き込まれて女性はくぐもった声をあげて機材に倒れた。

 

その拍子に機材がいくつか壊れる。

 

「・・・・甘えてんじゃないの!」

 

「(凄い拳だ・・・・指導してもらいたい)」

 

手を叩いて呆れる広瀬に千冬は尊敬の念をおくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キングフォームとなったブレイドはひたすらに二本の剣を振るう。

 

同じようにギラファアンデッドも二本の剣を操っている。

 

拮抗していた二人だが、段々とギラファアンデッドが押されていることに気づく。

 

「(バカな!?俺が押されているだと!?)」

 

拮抗しているはずなのに、ギラファアンデッドは歯軋りする。

 

「そこだ!」

 

キングラウザーの一撃がギラファアンデッドの刃を弾き飛ばす。

 

飛んだ刃に意識を向けてしまった隙を突いてブレイドは

 

『スペード2』

 

『スペード3』

 

『スペード4』

 

『スペード5』

 

『スペード6』

 

『ストレートフラッシュ』

 

「ウェェェイ!」

 

キングラウザーとブレイラウザーの二刀が振り下ろされる。

 

咄嗟に持っている刃を振り下ろして攻撃を止める。衝撃が襲いかかり持っていた剣が手から離れるが、拳をブレイドに放つ。

 

「がっ!?」

 

攻撃を避けられず火花を散らしてブレイドは後ろに倒れる。

 

地面に落ちた剣を拾って切りかかろうとしたギラファアンデッドに上空からワイルドカリスがワイルドスラッシャーを振り下ろす。

 

体に大きなダメージを受け、ギラファアンデッドは膝を地面につけた。

 

「・・・・カリスゥ!」

 

ワイルドカリスは一瞥して離れる。

 

「どういうつもりだ!」

 

「・・・・簡単なことだ、お前を封印するのは俺じゃない・・・・」

 

ギラファアンデッドはワイルドカリスの視線の方を見る。

 

そこには更識簪がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(怖い・・・・)」

 

更識簪はギラファアンデッドをみて、体が少し震えることに気づいた。

 

満身創痍の姿を見せているが、それでも彼女にとって恐怖の対象であることにかわりはない。

 

「(でも)」

 

恐怖の対象であることに変わりはないが、それでもと簪は――。

 

「(逃げたくない)」

 

レンゲルクロスを装着して、簪は強い意思を瞳に浮かべていた。

 

「(このままでいたくない、だから)」

 

目の前の光を潜り抜ける。

 

「(私は、もっと、今よりも強くなる!!)」

 

レンゲルに変身して、片腕にラウズアブゾーバーを装着して、二枚のプライムベスタを取り出す。

 

「私は、強くなる!」

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

クラブスートのJを模したハイグレイトシンボルが胸部のアーマーに現れ、像を模した黄金の腕を纏い。レンゲルラウザーにディアマンテエッジが付与される。

 

レンゲルはジャックフォームとなり、ギラファアンデッドを見据えた。

 

「ふざけるな・・・・コイツが封印する?ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

激昂したギラファアンデッドは刃を構えて、レンゲルへと襲い掛かる。

 

振り下ろされた刃をレンゲルは肩のアーマーで受け止めた。

 

火花が散るがディアマンテゴールドで強化されているアーマーにダメージはない。

 

「負けない!」

 

レンゲルは叫ぶと同時にギラファアンデッドに拳を繰り出す。

 

エレファントアンデッドのパワーが付与されている力を受けてギラファアンデッドは後ろに仰け反る。

 

「なっ!?」

 

「負けたくない!」

 

さらに強力な一撃を受けて、ギラファアンデッドの剣が手から離れた。

 

ディアマンテエッジでさらに攻撃を加える。

 

ギャレン、ブレイド、カリスとの連戦が体に堪えていた。

 

ふらふらになっているギラファアンデッドをみて、レンゲルはプライムベスタを三枚取り出す。

 

その隙をみて、ギラファアンデッドがレンゲルに飛びかかろうとした。

 

だが、光弾がそれを遮る。

 

レンゲルが視線を向けると、片手でギャレンラウザーを構えたギャレンがいた。

 

『行け!』

 

ギャレンが――

 

『行け!』

 

ブレイドが――

 

『行け!』

 

カリスが――。

 

弾が、一夏が、始が、簪の背中を押すように叫んでいるような気がした。

 

「(・・・・私は!)」

 

 

『ラッシュ』

 

『ブリザード』

 

『ポイズン』

 

『ブリザードベノム』

 

 

 

冷気と毒の力を纏った技が放たれた。

 

ギラファアンデッドはそれをよける事ができず、爆発を起こす。

 

攻撃を受けたギラファアンデッドは人間の姿になった。

 

彼の口元や体から緑色の血が流れている。

 

そして、腰部のバックルが音を立てて開いた。

 

「・・・・負けた・・・・ははっ」

 

「何がおかしい?」

 

男はワイルドカリスを見て、笑う。

 

「誰が教えるか・・・・一ついえるのは」

 

狂ったように、憎悪の視線をこめながら男は叫ぶ。

 

「お前達は滅びの道を確実に進んでいるってことさ」

 

ギャレンが無言でプロバーブランクを投げる。

 

「覚悟するんだな!いずれ・・・・お前達は後悔する!自分達のしてきた事をなぁ!」

 

吸い込まれる刹那、ギラファアンデッドはのろいのような言葉を撒き散らしてプライムベスタに消えた。

 

ギャレンは戻ってきたプライムベスタをしまって、変身をとく。

 

「・・・・疲れた、帰ろうぜ」

 

「そうだな」

 

「ねむりてぇわ」

 

「あの!」

 

変身を解除して、簪は三人を呼び止める。

 

「その・・・・ありがとう」

 

色々といいたいことがあったが、混乱する頭の中で簪は感謝の言葉を述べる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーぁ、クワガタも捕まったのかぁ」

 

篠ノ之束は戦いが終わったのを眺めて感慨もなくつぶやいた。

 

その目はつまらないという感情があった。

 

今回の騒動、実を言うと束は少し暗躍していたのだ。

 

ネットの掲示板をあおるような発言をいくつか行い、匿名の情報を警察に送ってBOARDの連中を捕まえようと考えた。

 

「あいつら、そろそろ邪魔になってきたんだよなぁ」

 

束はBOARDの連中、特に剣崎一真が嫌いだった。

 

見たときから、剣崎一真に対して、憎悪に近い嫌悪を抱き続けている。

 

あの顔が気に入らない。

 

笑顔がむかつく。

 

言葉を聞いているだけで何かを壊したくなる。

 

剣崎一真の存在そのものが束は嫌いだった。

 

「まっ、順調に進んでいるからそこまで気にしなくていいかなぁ・・・・くーちゃん、あれの調子はどう?」

 

「問題ありません。実験フェイズもそろそろ最終段階です」

 

「そう、楽しみだなぁ」

 

束は笑って、目の前の画面を見てほくそ笑む。

 

「こっちも順調だからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こもり唄稼動まで、80パーセント』

 




今回で第二章も終わり。

次回から最終章へむけて話が進んでいくぜ!

感想で質問をしてくる人がおられますけれど、後に影響する、ネタバレするものは堪えられませんのでご容赦ください。



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第三十六話

「なんだよ・・・・これ」

 

全員が驚きに顔を染めて目の前の建物を見ている。

 

黒い煙を上げて、ところどころに炎がまだ残っていた。

 

目を見開いて、全員が言葉を失っている。

 

ギラファアンデッドを倒し、一段落が着いたみんなは食事でもとろうと考えて弾の実家である五反田食堂にやってきた、だが、五反田食堂は半壊していた。

 

「じ、爺ちゃん!母さん!蘭!?」

 

「弾!」

 

震えた声で弾は建物の中に向かう。

 

少し遅れて一夏も追いかける。

 

「・・・・ん」

 

始も中に向かおうとしたが動きを止める。

 

簪も同じ方を見ていた。

 

「出て来いよ。みているのはわかってるぞ」

 

「始?」

 

「お姉ちゃん、シャルロットは離れていて」

 

「うん」

 

二人が警戒しているとゆっくりと、異形が姿を見せる。

 

現れた怪物に始は戸惑いの表情を浮かべた。

 

「(なんだこいつ?アンデッドに近い感覚がするが・・・・アンデッドではない)」

 

考えていると、目の前の怪物は体のコードを振り回す。

 

二人は左右に攻撃を避けるとプライムベスタを取り出す。

 

「敵意アリだな・・・・こいつが主犯かもしれないな」

 

「・・・・許さない」

 

『チェンジ』

 

『オープン・アップ』

 

カリスとレンゲルに変身した二人はそれぞれの武器を構える。

 

異形はコードを放つが、レンゲルとカリスは同時に前に飛び出し、ソードボウとレンゲルラウザーの二つで同時に攻撃を繰り出した。

 

同時攻撃を受けた異形はくぐもった声をあげながらもコードを振るう。

 

「単調な攻撃だな」

 

『チョップ』

 

「これで決めます!」

 

『スクリュー』

 

『ラッシュ』

 

『スクリューラッシュ』

 

ダブルライダーの同時攻撃を受けた異形は爆発を起こして地面に倒れこむ。

 

倒れた異形の腰部分が音を立てて開く。

 

「・・・・封印してみるか」

 

カリスがプロバーブランクを投げる。

 

プロバーブランクは異形の腰部分にあたる、今までどおりならプロバーブランクに吸い込まれてプライムベスタとなるはず。

 

だが、二人の目の前でプロバーブランクが吸い込まれてしまう。

 

プロバーブランクを吸い込んだ異形はゆらりと起き上がる。

 

「なに!」

 

「・・・・封印できない?」

 

ふらふらと起き上がった異形はコードを振るう。

 

さきほどよりも威力を増した攻撃を二人は避けられず体に火花を起こして地面に倒れる。

 

「始!?」

 

「簪ちゃん!」

 

「ソコマデダ・・・・トライアルD」

 

「アァ・・・・ァ」

 

二人が戦っていた異形とは別の異形が姿を見せる。

 

「トライアル・・・・だと?」

 

「今の声、橘さん・・・・だった」

 

「カリス、レンゲル・・・・コレハケイコクダ」

 

現れた異形は橘の声で警告、だという。

 

「コレイジョウ、オマエタチノナカマガキズツイテホシクナケレバ、モッテイルアンデッドノプライムベスタヲホウキシロ・・・・サモナケレバ、サラニキズツクヒトタチガデルダロウ」

 

「なんで・・・・なんで!」

 

レンゲルが目の前の怪物に叫ぶ。

 

簪は叫びたかった。

 

どうして直接、自分達を狙わず周りの人を傷つけるというのだろうか。

 

そんな酷いことができるのか、と叫びたかった。

 

「ケイコクハシタ。イクゾ」

 

橘の声をした異形はいいたいことだけをいうと、アームガンを地面に発砲する。

 

カリスとレンゲルは二人を守るように構えた、しばらくして土煙が消えるとそこに二体の異形の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸い、にも五反田家の人達は無事だった。

 

擦り傷や打撲などの軽傷がほとんど。

 

だが、一人だけ、意識を失っている者がいた。

 

「・・・・蘭」

 

集中治療室で眠ったままの妹の姿を見て弾は顔をしかめる。

 

――悔しい。

 

拳を握り締めて弾は思う。

 

守れる力を持っているのに、何も出来ない事がとても歯がゆかった。

 

「(兄貴は妹を守らないといけない・・・・でも、俺は!!)」

 

何も出来ない。

 

なにより、妹を守れなかった事が許せない弾は自分を責め続ける。

 

 

「だ・・・・」

 

「やめておけ」

 

弾を慰めようとした一夏を始は止めた。

 

「今のアイツに言葉をかけることはマイナスでしかない・・・・そっとしておいてやれ。それに俺達にはやる事があるはずだ」

 

「でも・・・・」

 

「あのアンデッドもどきは封印する事ができない・・・・そもそも、アレはなんだ?」

 

「トライアルシリーズよ」

 

「千冬姉・・・・えっと?」

 

「はじめまして、私の名前は広瀬栞、名前ぐらい聞いたことあると思うけれど、BOARDの関係者で協力者の一人よ」

 

待合室に千冬と一緒にやってきた女性は一歩前に出る。

 

「あ、織斑一夏です」

 

「富樫始です・・・・それで、トライアルシリーズというのは?」

 

「・・・・あれはアンデッドの細胞の一部を用いて作られた人造生命体よ。橘さんが立ち上げる前のBOARDの連中が作り上げた。彼らはライダーシステムで封印する事はできない。しかも、ライダーの攻撃を食らわせても少ししたら復活する」

 

「アンデッドより性質が・・・・悪い」

 

簪が小さくうめく。

 

アンデッドは不死身だが、ライダーシステムにより封印する事ができる。

 

だが、広瀬の言葉どおりだというのならトライアルはアンデッドよりも厄介すぎた。

 

「対策はないんですか!広瀬さん!」

 

「あるわ・・・・」

 

「本当ですか!?それは」

 

「その前に!」

 

一夏の声を遮って広瀬は真っ直ぐに見つめる。

 

「織斑君と簪ちゃん、富樫君の三人はすぐに検査を受けて」

 

「え、検査?」

 

「話はその後!」

 

「俺はパス」

 

広瀬の言葉に戸惑う一夏達とは別に始は手を振って外に出て行こうとした。

 

「待て、富樫」

 

出て行こうとした始を千冬は呼び止める。

 

「・・・・なんですか?」

 

「そろそろ、一夏達にも話してやったらどうだ?お前の体の事を」

 

「え?」

 

「どういう・・・・」

 

「なんのことっすか?俺は検査が嫌いなだけで」

 

「富樫始・・・・お前、人間ではないだろう」

 

千冬の言葉に全員が固まる。

 

いや、広瀬は知っていたのかただ、目をそらす。

 

「・・・・そんなん、ジョーカーになった時から」

 

「・・・・お前は何年生きていられる?」

 

始は堅い表情をつくると、ため息を漏らす。

 

「いつから、気づいていたんですか?」

 

「確証はない。ただ、検査の時におかしな数値がでていると山田先生が教えてくれたのと橘さんから教えてもらっていた」

 

「何年生きられるかに関してははっきりいうとわかりませんよ」

 

「どういうことだよ・・・?」

 

「一夏、前に話しただろう?誘拐され体に色々されたって、以前から俺の体はボロボロで、何時死んでもおかしくない状態だ。十三体のアンデッドと融合し、銀の福音の力によって、辛うじて人間で、命を繋いでいる状態だ。だが、いつかは死ぬ。それが明日なのか十年後なのかはわからない・・・・とにかく、お前たちよりは長生きできないっていうのは確かだ」

 

「どうして・・・・どうして、黙っていた!!」

 

一夏は声を震わせて始に叫ぶ。

 

胸倉を掴んで一夏は尋ねる。

 

「言った所で、お前達を不安にさせるだけだ。それに・・・・実を言うと、俺は夏に死んでいるはずだったんだよ・・・・ジョーカーの因子、体に埋め込まれて、細胞のほとんどがいつ壊死してもおかしくはない状態だった。今も生きていられるのは奇蹟なほどにな」

 

「・・・・始」

 

「このこと・・・・おねえちゃんやシャルロットさんは?」

 

「二人ともおおよそ、見当はついているみたいだ。ま、この先については覚悟しているしどうこういわれてもかわらないんだ。検査を受けたとしてもな」

 

始は広瀬と千冬を見る。

 

「だから、検査はパスだ。的確な検査でアンタは何年後死にますなんて判定くだされたらたまらないし、俺は自由気ままに生きたいの、オーケー?」

 

「・・・・わかったわ・・・・とにかく、織斑君と簪ちゃんは今すぐ検査を受けて!」

 

「なんで・・・・私達?」

 

「織斑君は剣崎君と同じキングフォーム、簪ちゃんは睦月君が使わなかったジャックフォームの使用・・・・全盛期の彼らよりも融合係数が高い、貴方達の体に今回の戦いがどのような影響を及ぼしているかわからない・・・・だから、今すぐ検査を受けて」

 

「わかったら、さっさといくぞ。逆らえば広瀬さんに教えてもらった鉄拳制裁だ」

 

「え、わ、わかったから千冬姉、肩引っ張らないで!てか、鉄拳って、何故!?」

 

「ま、待って!」

 

二人を抱えるようにして千冬は出て行く。

 

始もいつの間にか姿を消している。

 

広瀬は誰もいなくなってから小さく呟いた。

 

「誰がトライアルを作ったかわからないけれど・・・・こんな勝手な事、許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園へ向かう一本道、そこをトライアルシリーズの一体、トライアルFが歩んでいた。

 

彼の頭には襲撃する標的、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒ、布仏本音、布仏虚、山田真耶などのリストが表示されている。

 

「・・・・」

 

トライアルFの道を阻むように市販のバイクに乗った富樫始が待っていた。

 

あの後、アンデッドの力を少し引き出して、感知能力を引き上げ“アンデッドに近い”存在を探し出していたのだ。

 

「悪いが」

 

プライムベスタを取り出して始は睨む。

 

「ここから先へはいかせられないな。あいつらを傷つけて織斑のヤツが暴走された困るし、俺もすこーし、虫の居所が悪いんだわ」

 

『チェンジ』

 

変身に連動してバイクが漆黒のシャドーチェイサーへと変わる。

 

バイクのアクセルを回しながらカリスはトライアルFを威嚇した。

 

「・・・・」

 

トライアルFの前に粒子変換されたバイクが現れる。

 

黒いバイクに跨りトライアルFはカリスを見た。

 

二人は同時に動いた。

 

先に動いたのはトライアルF、腕の三枚刃でカリスに攻撃を仕掛ける。それに対してカリスアローのソードボウを振るっていなす。

 

地面に着地すると同時にエネルギーアローを放つ。

 

トライアルFは飛んできたアローを三枚刃で叩き潰す。

 

アクセルを回して両者のバイクは併走して進む。

 

ほんの少し、トライアルFのバイクが速い。

 

カリスは知らなかったがトライアルFの乗っているバイクはかつてBOARDで設計されたブルースペイダー、レッドランバスのデータを基に作られた最速のバイク、ブラックファング。

 

ブラックファングの速度に舌を巻きながらもカリスはシャドーチェイサーの速度を上げて無理やり併走させる。

 

三枚刃とソードボウが互いにぶつかりあう。

 

片手で操作しながらも速度が衰えないまま二人はぶつかり合っていた。

 

ハンドルを握っている手を離してトライアルFは腕からレーザーを放とうとする、瞬間。

 

ブラックファングの進行上の地面が爆発してトライアルFはバイクから体を放り投げる。

 

「「ダーリン!いまだよ!」」

 

「誰が、ダーリンだ!」

 

援護してくれた二人に感謝しつつ、カリスはプライムベスタをカリスラウザーにラウズする。

 

『エボリューション』

 

十三体のアンデッドと融合してワイルドカリスへと姿を変えて、ワイルドスラッシャーで間合いを詰めてトライアルFに連続攻撃を仕掛けた。

 

連続攻撃にトライアルFは体から火花を散らして仰け反る。

 

腕からレーザーを放とうとするがそれよりも早くワイルドスラッシャーが両腕を斬りおとす。

 

「このまま倒してやるよ」

 

ワイルドスラッシャーをカリスアローに合体させ、十三枚のプライムベスタが合体したカードを読み取らせる。

 

『ワイルド』

 

「食らえ」

 

ワイルドサイクロンがトライアルFに放たれた。

 

光の濁流から逃れられず大爆発を起こす。

 

爆煙がしばらく漂う中、槍が飛んでくる。

 

「っ!」

 

ワイルドカリスはその槍を避けた。

 

「・・・・」

 

煙を裂くようにしてトライアルFとは別のトライアルが姿を見せ、地面に刺さった槍を引き抜く。

 

両者はしばらくにらみ合いをしていたが、乱入してきたトライアルは踵を返していなくなる。

 

「・・・・逃げられたか」

 

新たなトライアルが姿を消したのを確認して、ワイルドカリスは変身を解除する。

 

「大丈夫、始?」

 

「あぁ、援護サンキューな」

 

「ずるい!シャルロットちゃんだけにいうの!?」

 

「・・・・助かったよ。楯無」

 

始が言うと二人の少女は頬を赤らめる。

 

「・・・・言ってすぐにIS学園を攻めようとするなんて驚いたよ」

 

「気をつけないと学生に被害がでるかもしれない」

 

「それだけじゃねぇよ」

 

始は忌々しいと顔を歪めながらトライアルのいた場所を睨む。

 

「あいつらはプライムベスタ全てを手に入れるためなら手段を選ばない。その気になれば俺達と関係のない人たちを傷つける事も厭わない可能性がある。残念な事に俺意外の面子はそうなると我を忘れる奴らばかりだからなぁ・・・・これは結構パンチが効いている」

 

自分以外、織斑一夏達は人間を守る為にライダーとなっている。

 

そんな彼らの覚悟に泥を投げつけるような行為は今の彼らの精神を追い詰める事この上ないだろう。

 

ただでさえ、先代のライダーがまだ帰ってきていない上に比較的冷静でいないといけない五反田弾が危うい状態だ。

 

「前途多難というか・・・・最悪なこと続きだな」

 

始の言葉どおり、最悪なこと続きだった。

 

そして、別の所でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!?」

 

攻撃を受けたブレイドがアーマーから火花を散らして地面に倒れる。

 

「一夏!」

 

「ふん!」

 

倒れたブレイドに気を取られたところをブレイラウザーでレンゲルは攻撃を受けて後ろに仰け反った。

 

ふらつきながらもレンゲルラウザーにプライムベスタをラウズさせようと手を伸ばすが光弾がレンゲルの体に突き刺さる。

 

「がっ・・・・うぅっ!」

 

体からいくつもの火花を散らしてレンゲルは片膝を地面につけた。

 

「やめろ!頼むから!」

 

ブレイドは腕を押さえながらゆっくりと体を起こして叫ぶ。

 

しかし、返事は光弾だった。

 

避けられずブレイドは地面に倒れる。

 

「弾!目を覚ましてくれ!!」

 

黒い煙の中ゆっくりと、禍々しい緑色の瞳を輝かせたギャレンが現れる。

 

 

そして、ギャレンラウザーで発砲した。

 




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第三十七話

 

弾は治療室で眠っている妹の姿を見ながら自問していた。

 

「(どうすれば、奴らに勝てる?)」

 

少し前、広瀬と一夏達の会話を隠れて聞いた弾は頭の中で考えていることがあった。

 

トライアルシリーズ。

 

倒すにはジャックフォーム以上、キングフォームの力が必要になってくる。

 

その会話を聞いて、弾の頭の中では仮想敵との戦いのイメージが繰り返されている。

 

ギャレンの使える技、プライムベスタのコンボ、そしてジャックフォーム、ジャックフォームからのコンボ技。

 

「(ダメだ!)」

 

仮想敵との戦いを何度繰り返しても、弾は決定打を見出せない。

 

そもそも過去の戦いにおいて、師である橘はジャックフォーム以外を使っていない。使う機会がなかったということもあるけれど、ジャックフォーム以上の力を用いておらず、自身の射撃の腕と冷静な判断で戦っていることが多いのだ。

 

「・・・・あれを考える必要がある」

 

弾の手元にない封印された一枚のカードの存在を思い出しながら険しい表情を浮かべた。

 

「(アレを使えばトライアルを倒す事が出来る・・・・でも)」

 

大きな力には大きな代償が伴う。

 

キングフォームを扱えている一夏も体に異変をきたしている可能性がある。簪もジャックフォームを使ったことで何かが起こっているかもしれない。

 

――それがどうした?

 

そんな中で自分まで未使用の力を使うなど、と冷静に考えている弾の頭にどす黒い感情の声が響く。

 

――妹や家族が傷つけられたんだぞ?奴らに戦うにはあの力が必要だ。

 

――仲間の心配をしている間も妹は苦しんでいるんだぜ。

 

――力は使ってこそ意味がある。躊躇うなよ。

 

――家族(みんな)を守れるのは俺だけ、なんだぜ?

 

「っ!」

 

ポケットにしまっていたアンデッドサーチャーが起動したことで弾は立ち上がる。

 

「・・・・いってくる」

 

眠っている妹の顔を見て、弾は治療室から離れた。

 

 

 

「アイツ!」

 

「あの時の!」

 

一夏と簪が現場に駆けつけると、トライアルDはコードを伸ばして襲い掛かってくる。

 

二人は左右に避けるとブレイド、レンゲルに変身してトライアルDに接近した。

 

ブレイドのブレイラウザーを受け止めたところで、レンゲルラウザーが繰り出されて、トライアルDは仰け反る。

 

「グ・・・・ウゥ!」

 

くぐもった声をだしながらトライアルDは数歩下がる。

 

追撃しようと二人が近づいた所で、トライアルDの両腕にサブマシンガンが現れ、放たれた。

 

無数の弾丸をアーマーに受けた二人は後ろに下がりながらも武器を構える。

 

「コイツ、武器を持っているのか!?」

 

「でも・・・・さっきまでそんな動きみせなかった」

 

二人はトライアルDの動きに警戒しながら会話をした。

 

トライアルDは首をかしげるような動きをして、マシンガンのトリガーを引く。

 

ブレイドが前に走り、続く形でレンゲルが後ろについた。

 

飛来する弾丸をブレイラウザーで受け流しつつ、体に受けながらブレイドの猛進は止まらない。

 

トライアルDはその間もマシンガンの発砲を続ける。

 

ブレイドがぴたりと動きを止めた。

 

その動きにトライアルDが首をかしげているとブレイドを踏み台にするように空高くジャンプするレンゲルの姿を捉える。

 

トライアルDは慌ててマシンガンの銃口を向けようとする。

 

『マッハ』

 

自らの脚力を上げたブレイドはトライアルDに肉迫しサブマシンガンの先端をブレイラウザーで斬りおとす。

 

『バイト』

 

『ブリザード』

 

『ブリザードクラッシュ』

 

上空でレンゲルはプライムベスタの力を解放する。

 

レンゲルから放たれた冷気がトライアルDの体を封じ込めた。

 

ブリザードクラッシュが放たれようとした瞬間、衝撃を受けてレンゲルは地面に落下する。

 

「簪!?」

 

「・・・・だ、大丈夫・・・・でも、なにが」

 

乱入者を見た二人は絶句した。

 

トライアルDを守るようにして立っていたのは彼らの予想を裏切る存在だったからだ。

 

「け、剣崎さん!?」

 

ブレイドの目の前、そこには剣崎一真が無表情で立ちはだかっていた。

 

彼はトライアルDに視線を向けてから、二人を見る。

 

「剣崎さん!なんでそいつらを」

 

「待って・・・・」

 

戸惑うブレイドに待ったをかけて、レンゲル―簪は目の前の剣崎に違和感を覚えた。

 

それは確定できるものではなかったけれど、おかしいという気持ちが簪の中で起きている。

剣崎の視線は二人に向けられていない。

 

向けられているのは一夏の腰に装着されているブレイバックルだ。

 

「・・・・」

 

剣崎の手がブレイバックルに伸びた瞬間、眩い光が掌から放たれる。

 

光がブレイバックルに当たり、しばらくすると消えた。

 

「え!?」

 

「ウソ・・・・!」

 

そして、剣崎の前にはもう一つのブレイバックル、そしてスペードスートのカテゴリーAのプライムベスタが現れる。

 

「変身」

 

カテゴリーAのプライムベスタをブレイバックルに入れて、剣崎はターンアップハンドルを引く。

 

呆然としているブレイドとレンゲルの前にオリハルコンエレメントが現れて、二人を弾き飛ばす。

 

剣崎はオリハルコンエレメントを潜り抜けてブレイドへと変身した。

 

「そんな・・・・バックルはちゃんとあるのに!?」

 

「どうして!」

 

戸惑っている二人にブレイド(剣崎)はブレイラウザーを抜いて襲い掛かる。

 

レンゲルが振るわれたブレイラウザーの攻撃を受けてしまい、庇うようにブレイド(一夏)が前に出た。

 

「何やっているんですか!?剣崎さん!」

 

ブレイド(一夏)の叫びにブレイド(剣崎)は応えずブレイラウザーを振るう。

 

振るわれた刃を避けながらブレイド(一夏)は叫ぶ。

 

「やめてください!剣崎さん!」

 

拳を受けて地面に倒れたブレイド(一夏)にブレイド(剣崎)は刃をつきたてようとする。

 

瞬間、蜘蛛の糸がとんできて、ブレイド(剣崎)の体をがんじがらめに拘束した。

 

「一夏君!」

 

動きを封じたブレイド(剣崎)を突き飛ばして現れたのは嶋が姿を見せる。

 

「彼は剣崎君じゃない!彼の姿をしたトライアルだ!」

 

「え!?」

 

動揺しているとトライアルDがコードを嶋に向けて放つ。

 

嶋はアンデッドの姿に戻ろうとしたがレッドランバスに乗った弾がトライアルDを引き飛ばす。

 

「すまん、遅くなった!」

 

ヘルメットを置いて弾は転がっているトライアルDを睨む。

 

ギャレンバックルを装着する。

 

「変身!」

 

ギャレンへと変身して起き上がったトライアルDとブレイド(一夏)にギャレンラウザーを撃つ。

 

「いってぇ!?弾!俺!一夏だから!敵はあっち!」

 

「・・・・あ、すまん」

 

片手をあげて謝罪してギャレンはレンゲルへ近づく。

 

「簪、あのカードを渡してくれ」

 

「・・・・あ、はい」

 

突然の事にレンゲルはつい、ギャレンへ一枚のラウズカードを渡してしまう。

 

「サンキュ」

 

ギャレンはラウズアブゾーバーに二枚ラウズする。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

「っ!いけない、やめるんだ!」

 

嶋が気づいて止めようとするが間に合わない。

 

『エボリューション・キング』

 

「ぐっ・・・・がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

カテゴリーKのプライムベスタをラウズした瞬間、異変は起きた。

 

ギャレンの体を緑色の電撃がかけめぐり、しばらくしてゆらりとギャレンが顔を上げる。

 

だが、キングフォームへはなっていない。

 

ブレイド(一夏)とレンゲルが警戒しているとトライアルDに殴りかかる。

 

殴られたトライアルDは地面に体を打ちつけた。

 

追い討ちをかけるようにギャレンはその顔を踏みつける。

 

何度も、何度も、地面が陥没するまでギャレンは踏み続けた。

 

「いけない、すぐに彼を止めるんだ!」

 

嶋の言葉にギャレンの顔が動いて二人を見る。

 

ギャレンの目、緑色の複眼はおそろしい輝きを放っていた。

 

ブレイドとレンゲルの二人は本能的に恐ろしいと感じてしまう。

 

二人を敵と認識したのか、ギャレンはトライアルDを放置して攻撃してくる。

 

「やめろ!弾!」

 

ブレイド(一夏)がブレイラウザーでギャレンラウザーの光弾を弾き飛ばして殴りかかってくる拳から逃げる。

 

味方を攻撃できないブレイドに対して、ギャレンは躊躇いもなく、ブレイラウザーを奪い取るとその武器で仲間を切った。

 

躊躇いもなく仲間に斬りかかったということにブレイドはショックを受ける。

 

「だ・・・・弾・・・・」

 

「彼はカテゴリーKに操られている。強制的に変身を解除させないと、彼の体がもたない!」

 

「でも!」

 

仲間を攻撃する、ということに二人は躊躇い、隙が生まれる。

 

ギャレンラウザーから光弾が放たれ、次々と襲い掛かった。

 

弾丸の雨を受けて倒れる二人。

 

「――ちゃん」

 

二人に止めを刺そうとギャレンラウザーを構えて近づいて行く途中、声が身に届く。

 

ギャレンが声の方へ視線を向けると、地面に倒れている男の子の体を揺らしている女の子がいた。

 

「お兄ちゃん・・・・・起きて、おきてよぉ・・・・」

 

倒れている男の子は頭を打ったのか動かない。

 

「ふぇぇえええええん!」

 

動かない兄の体をゆすっていた女の子はぽろぽろ、と涙を零し始める。

 

「ぐ・・・・」

 

泣いている女の子を見ていたギャレンは頭を抑えて苦しみだす。

 

苦しみだしたギャレンの腕に装備されているラウズアブゾーバーから緑色の電撃が走る。

 

くぐもった声をあげて地面に座り込むと、オリハルコンエレメントが現れギャレンから弾へと戻った。

 

「・・・・戻った?」

 

「弾!」

 

変身を解除した一夏と簪が座り込んでいる弾へ近づいた。

 

「弾!大丈夫か!?おい!」

 

「・・・・」

 

一夏が弾の肩を揺らした途端、糸の切れた人形のように地面に倒れる。

 

「お、おい!?」

 

「いかん、すぐに病院へつれていくんだ」

 

「はい!」

 

「手伝う」

 

嶋は地面に落ちたラウズアブゾーバーとギャレンバックルを手にとって難しい表情を浮かべる。

 

「(封印は完璧、問題なのは弾君の方か・・・・)」

 

カテゴリーKの封印は嶋からみても完璧だった。

 

だが、ギャレンが暴走したのは弾の心が不安定からくるものだろう。

 

アンデッドと融合することにおいては適合係数も重要だが、カテゴリーKと融合することにおいては装着者の精神の強さも重要になってくる。

 

妹が襲撃を受けたことで不安定のまま、キングフォームになろうとした彼の心はアンデッドの闘争心に飲まれて暴走した。

 

「(全ては弾君次第ということか・・・・)彼らだけに苦しい思いをさせるつもりはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう状況なの!?」

 

「富樫さん!教えてください」

 

「一夏は無事なのか!?」

 

「教えてくれ!」

 

IS学園の入口、富樫始達が戻ってくると待っていたように箒達が詰め寄ってくる。

 

最初に始が戻ってきた事に喜んでいたが、一夏がいないことに気づくとこうなったのであった。

 

恋する乙女というのは凄まじいものだと始は思う。

 

「落ち着け、馬鹿者共」

 

「あう!」

 

「きゃっ!」

 

「ぐっ!」

 

「むぅ!」

 

そんな四人を千冬は出席簿アタックで無力化させる。

 

「それで、富樫。状況はどうなっている?」

 

「はっきりいって最悪なことには変わりないですね」

 

始はうんざりした表情で告げた。

 

トライアルの出現、

 

奴らの狙いは自分達の関係者であるということ、

 

「そういうわけだ。篠ノ之たちは学園で待機、不審者を見かけたらすぐに知らせろ。非常時での場合はISでの応戦を許可する」

 

「織斑先生!一夏のところへいかせてください!」

 

「ダメだ」

 

「何故ですの!」

 

「お前たちもターゲットに入っているというのに織斑の所に行かせて余計な負担となったらどうする・・・・それに、狙われている相手を分散させればさせるほど、そっちの危険が増す」

 

「でも!」

 

「富樫がここにいる意味を考えろ」

 

「意味・・・・?」

 

「・・・・そうか、富樫始がトライアルと戦える戦力でありここにいれば少なくとも嫁は私達の心配をする必要がない」

 

千冬は大きく頷いた。

 

始が戻ってきたのは一夏達の関係者が多く集っているのがIS学園だからという一番の理由があったからだ。

 

トライアルの狙いは52枚のプライムベスタ、それを回収する為なら関係者を狙うというのなら一箇所に集めて、被害がおきにくいようにすればいい。

 

「(危険でもあるがな)」

 

始は空を見上げる。

 

分厚い雲が空を覆っていた。

 

「(嫌な天気だ)」

 




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第三十八話

ファンの人にとっては少しお得?だったりなかったり。


「ようやく帰ってこられたよ・・・・って、広瀬さん!?」

 

「久しぶり~、元気だった」

 

「広瀬さん、どうして!?」

 

警察から解放された虎太郎達を広瀬が出迎える。

 

事情を知っている橘はともかく、剣崎たちは驚きの表情に染まっていた。

 

「広瀬君、状況を話してくれ。我々は留置所にいたせいでわからない」

 

「はい」

 

BOARDの社長室にて、広瀬栞は簡潔に状況を説明する。

 

カテゴリーKを封印したこと。

 

簪がJフォームを発動させた。

 

トライアルの出現。

 

そして、適合者である一夏達の状況。

 

「最悪な状況続きだな」

 

「広瀬さん、弾君は?」

 

「病院で休んでいます。大きな怪我とかはなかったんですけれど、疲労が大きいみたいで・・・・それと、これを嶋さんから」

 

広瀬はデスクにギャレンバックルを置く。

 

「彼の精神が安定するまでは変身させない方がいいということです」

 

「そうか・・・・わかった」

 

ギャレンバックルを懐に入れて橘は立ち上がる。

 

「橘さん?」

 

「IS学園へ向かう。剣崎たちはしばらくここで待機だ。警察から解放されたとはいえ、油断は出来ない」

 

サングラスをつけて橘は部屋から出て行く。

 

「橘さん・・・・気にしているのかな?」

 

「そんなこといったらお前もだろ?睦月」

 

「トライアルの中には橘さんや睦月君の情報を基に作られたトライアルが在るから・・・・」

 

「本音を言うなら簪ちゃんたちに戦わせたくない・・・・できるなら、俺達で倒したい」

 

「・・・・そう、だな」

 

「サーチャーに反応あり!」

 

「場所は!」

 

「・・・・ウソ、IS学園!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾が目を覚ますとそこには橘朔也の姿があった。

 

「・・・・橘・・・・さん」

 

「目が覚めたか?」

 

「はい、あの・・・・俺」

 

「暴走したそうだな・・・・嶋さんから聞いた。体のほうは大丈夫か?」

 

「・・・・すいません」

 

「何故、謝る?暴走した事か?」

 

「・・・・俺、一夏を支える、仲間と一緒に戦っていくつもりでした・・・・でも、蘭や爺ちゃんが傷つけられたのをみて・・・・許せないと思い・・・・気づいたら」

 

「・・・・誰にでも感情のままに動く事はある。気にする必要はない」

 

「でも、俺、ライダー失格ですよ」

 

「ならば、戦うのをやめろ」

 

「・・・・え?」

 

橘の言葉に弾は言葉を失う。

 

彼はなんといった?

 

「ライダー失格かどうかは自分で決める事だ。お前が失格だというのなら足手まといはいらない。戦うのを止めろ・・・・その方が織斑たちのためになる」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・弾、これからいくところで戦いをやめるかどうかを決めろ」

 

「え・・・・あの」

 

有無を言わせず、橘は弾を起こして歩き出す。

 

目的地は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい・・・・こりゃねぇだろ?」

 

カリスはカリスアローを構えて飛んでくる光弾を右へ左へと避けていく。

 

場所はIS学園の入口。

 

カリスアローを構えて攻撃をしてくる敵を見据える。

 

「始!大丈夫!?」

 

「なんとかなぁ・・・・にしても、予想外にも程がある」

 

目の前の敵を睨む。

 

「トライアル・・・・三体もくるとは」

 

トライアルD、ブレイド(トライアル),GはゆっくりとIS学園へと近づいている。

 

「始一人だけに戦わせるつもりはないよ」

 

「そのとおり!」

 

カリスを守るようにしてシャルロット、楯無が武器を構え、トライアルDの前に立つ。

 

同じように紅椿、ブルーティアーズ、甲龍、シュヴァルツェア・レーゲンが別のトライアル達と向かい合う。

 

「・・・・行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲龍の双天月牙を鈴音はトライアルGに振り下ろすが、Gの持つ槍であっさりと裁かれてしまう。

 

衝撃砲を近距離で放とうとするが槍先を地面に突き刺し、宙を飛んで避ける。

 

「がら空きですわ!」

 

空中では避けられない、セシリアの狙撃がトライアルGの体に直撃した。

 

レーザー攻撃を受けたトライアルは床に叩きつけられる。

 

「滅多撃ちにしてやるわ!」

 

鈴音が叫ぶと同時に衝撃砲が、ブルーティアーズとスターライトMk-Ⅲの集中砲火がトライアルGに浴びせられた。

 

 

「支援は任せろ、突っ込め!」

 

「わかった!」

 

紅椿を纏った箒は二本の刀を携えてブレイド(トライアル)に瞬時加速で間合いを詰める。

 

ブレイド(トライアル)はブレイラウザーを構えて箒の振るう刃を受け止めた。

 

「(一夏とは違った強さだ・・・・これが)」

 

箒が目の前の敵を、一夏の姿と重ねてしまう。

 

そもそも、目の前にいるブレイド(トライアル)は首にマフラーを巻いている事を除けばブレイドと同じだ。

 

「(これが、一夏の追いかけている師の強さだといわれても、私は負けるつもりはない!!)」

 

嘗ての自分とは違うと箒は刃を振るう。

 

紅椿を手に入れたとき、これさえあれば一夏と共に戦える。一夏が危険なことに首を突っ込む事もなくなると考えていた。

 

だが、目の前のアンデッドへと姿を変えた始、仲間と敵対しても助けようとする一夏の姿を見て、箒は思う。

 

「一夏達の戻る場所を私は守ってみせる!必ずだ!」

 

紅椿を操り箒はブレイド(トライアル)とぶつかり合う。

 

「しまっ!」

 

ブレイド(トライアル)の刃が箒の持っている刀を地面に落とす。

 

動揺した箒にブレイド(トライアル)が接近しようとするがラウラのレールカノンと展開装甲のエネルギーソードの攻撃を受ける。

 

「すまん、たすかった」

 

「あまり無茶をするな」

 

後方に下がってラウラと合流して箒は感謝の言葉を漏らす。

 

「ライダーというのはこうも頑丈なのか・・・・」

 

「そのようだな」

 

砲弾とエネルギーソードの直撃を受けたというのに平然と爆煙の中から現れるブレイド(トライアル)に二人は驚きながらもその瞳に揺らぎはない。

 

「だが、負けるつもりはない!」

 

「そのとおりだ!」

 

 

 

 

 

カリスはトライアルDの操るコードを避ける。

 

入れ替わるようにしてシャルロットが黒い幽霊の装備されているサブマシンガンとライフルの二つで発砲した。

 

トライアルDは弾丸を受けても肉体に大きなダメージはない。

 

「足止めできれば十分よ!」

 

楯無はガトリングランスで弾丸を攻撃しつつ槍を振るう。

 

弾丸で足止めしつつ、槍でトライアルDをIS学園から遠ざける。

 

『チョップ』

 

カリスラウザーにプライムベスタをラウズして楯無とシャルロットが下がったところでカリスは手刀を繰り出す。

 

アンデッドの力が付与された一撃を受けてトライアルDは地面に倒れる。

 

「(おかしい・・・・)」

 

カリスはトライアルを見て、疑問を抱いていた。

 

「(さっきからこいつら、激しい攻撃をしてこない・・・・トライアルの狙いが俺の持つプライムベスタならシャルと刀奈をすぐに倒してでも襲い掛かってくるはず、なのに、なんだ?本気で戦うつもりがないようにみえる)」

 

トライアルDはゆらりと起き上がる。

 

コードを振るってくるのをカリスアローで払う。

 

そのとき、一瞬だがトライアルDの視線が学園の方へ向かったのをカリスは見逃さなかった。

 

「(まさか!?)」

 

脳裏に嫌な予感が過ぎった。

 

周りのトライアルを確認してカリスは背を向けようとする。

 

だが、トライアルDはコードを伸ばしてカリスの体を封じ込めようとした。

 

「始!」

 

「やらせないわよ!」

 

コードを二人が蒼流旋とダガーで斬りおとす。

 

「大丈夫!?」

 

「くそっ・・・・やられた」

 

「始?」

 

「こいつらは囮だ。本命は既に学園の中に侵入してやがる!」

 

「そんな!?すぐに戻らないと!」

 

「・・・・だが、倒さないとこいつらが学園に来る・・・・仕方ないか」

 

「ダメ!」

 

カリスがプライムベスタを取り出したのを見て、シャルロットが止める。

 

「・・・だが、ワイルドにならないとやつを倒すことはできない」

 

「だとしても、まだ、待って!」

 

「二人とも話し合いはそこまでよ・・・・敵が本気になったみたい」

 

楯無の言葉に二人が視線を向けるとトライアルDの纏う雰囲気が変わった。

 

 

 

 

 

山田真耶は生徒達を安全な場所に誘導していた。

 

千冬の案で避難訓練という名目で生徒達が講堂へ向かい、誰かはぐれた人がいないか確認していると、彼女の前にトライアルEが現れる。

 

「リストトショウゴウ・・・・カクニン、ヤマダマヤ」

 

「あっ!」

 

山田は周りに誰もいないかみて、それからトライアルEを見る。

 

「ハイジョカイシスル」

 

「ッ・・・・」

 

逃げようとするがそれよりも早くトライアルEの腕が伸びて彼女の肩をつかんで引き寄せ、投げる。

 

「あ・・・・うぅ」

 

地面に倒れこんだ山田はゆっくりと起き上がる。

 

倒れた拍子にメガネが外れて地面に落ちた、彼女は手探りでメガネを探す。

 

「ハイジョスル」

 

メガネをみつけて、山田が顔を上げると、アームガンの銃口を突きつけているトライアルEがいた。

 

「あ・・・・」

 

“死”という文字が山田の頭に浮かぶ。

 

「ハイジョ」

 

アームガンが放たれる瞬間、レッドランバスがトライアルEに激突する。

 

「え・・・・」

 

「山田さん、大丈夫か?」

 

「た、橘さん!?」

 

レッドランバスに乗っていたのは橘朔也だった。

 

「・・・・トライアルE・・・・」

 

サングラスを外して橘は真っ直ぐに起き上がったトライアルEを睨む。

 

懐からギャレンバックルを取り出して装着する。

 

「・・・・お前だけは俺が――」

 

『ターン・アップ』

 

目の前にオリハルコンエレメントが現れ、橘はそれを潜り抜ける。

 

 

「この手で、倒す!」

 

 

 

ギャレンはホルダーからギャレンラウザーを抜くと同時に発砲した。

 

同じようにトライアルEもアームガンで応戦する。

二人は横に並列しながら銃撃戦をはじめた。

 

ほぼ互角の戦いを繰り広げている。

 

離れた所で、弾はその戦いを見ていた。

 

自分とは違う戦い方。

 

銃の扱い方に凄いと感じた。

 

「(これが・・・・橘さんの戦い・・・・)」

 

 

「(・・・・違う!)」

 

山田真耶はすぐにそれが間違いだと気づいた。

 

傍からみていると互角の戦いをしているように見える。

 

だが、ギャレンの方がわずかばかり押されていた。

 

ギャレン、橘は過去の戦いにおいて怪我を負っている。

 

それが原因でカテゴリーAとの融合係数が著しく低下をしていた。

 

辛うじて変身できるが、今の橘にとってギャレンとなることは全身に重りをつけるのと同じくらい辛い行為だった。

 

そうだとしても橘はこのトライアルEだけは自分の手で倒さないといけないと考えていた。

 

「(コイツは・・・・俺だ!)」

 

トライアルシリーズは広瀬栞の父親、広瀬義人の人格を移植されたトライアルBによって作られたものだ。

 

そして、トライアルEは協力者として一時的に行動していた橘のDNAによって作られている。

 

いわば、橘のクローンといえよう。

 

そのトライアルEを橘は自身の手で葬ろうとしている。

 

だが、融合係数の低下、体の傷などが原因で思うように戦えない。

 

「だとしても、コイツは俺の手で葬る!そのためなら命だって捨てても構わない!」

 

ギャレンラウザーを構えてギャレンはトライアルEに詰め寄る。

 

光弾を体に受けて仰け反るトライアルEに対してギャレンはオープントレイを展開し、プライムベスタを読み取った。

 

 

『ドロップ』

 

 

『ファイア』

 

 

『バーニングスマッシュ』

 

 

「だぁあああああああああああああ!」

 

 

雄叫びを上げながらギャレンのバーニングスマッシュがトライアルEに直撃するはずだった。

 

トライアルEのアームドガンのバーストにより空中で爆発。変身が強制解除されて橘は地面に転がる。

 

「橘さん!」

 

山田真耶は倒れた橘に駆け寄る。

 

額から血を流しているが、大きな外傷は見当たらない。

 

「ハイジョ・・・・スル」

 

「ぐっ!」

 

橘は地面に落ちているギャレンバックルを手に取ろうとする、だが、ソレよりも早く弾がギャレンバックルを装着する。

 

「変身!」

 

『ターン・アップ』

 

ギャレンに変身してトライアルEに突っかかるとそのままがむしゃらに殴り始める。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

弾は恐怖していた。

 

戦うことにではない。

 

怒りの感情のまま戦った自分に対してだ。

 

感情のままに戦った結果、暴走して仲間を傷つけた。

 

このままでは危険だと思ってライダーをやめようと橘に言おうとした。

 

彼に連れられてここまで来て、ボロボロになってまで戦おうとする橘を見ていると、自分の中の何かが湧き上がってくる。

 

それが何かはわからない。

 

わからないが、弾は気がついたらギャレンに変身してトライアルEと戦闘をしていた。

 

どうして戦うのか?

 

弾はわからない。

 

なのに体は自分の意思を離れてトライアルEと戦っている。

 

どうすればいいのか?

 

弾は自問する。

 

だが、答えは出ない。

 

「先生!」

 

そのとき、弾の耳に女性の声が聞こえた。

 

「ハイジョ!」

 

それと同時にトライアルEのアームガンが校舎にいる女性の方へ向けられる。

 

ギャレンが視線を向けるとIS学園の制服を着た生徒がいた。

 

アームガンのシングルが生徒に向けて放たれる。

 

今のままでは間に合わない。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『エボリューション・キング』

 

 

布仏虚は生徒の誘導が完了し、山田先生が戻ってこないということで、危険だが探していた。

 

数少ない事情を知るものとして千冬も別の所を探している。

 

暗部としての訓練をつんでいる虚は普通の相手なら負けることはない。

 

教室、廊下と見回して庭のほうへ視線を向けると小爆発が連続して起こっている事に気づき、そっちへ向かう。

 

「なにが・・・・」

 

そこでは異形と前に話題になっていた仮面ライダーが戦っていた。

 

山田先生の姿を見つけた虚はつい、声をだしてしまう。

 

異形の怪物と目が合った。

 

ヤバイ、と虚が感じた時には怪物の腕から弾丸が放たれる。

 

逃げられない。

 

間に合わない、と感じた虚は来る痛みに備えようとした。

 

だが、いつまでたっても何も起きない。

 

おそるおそる目を開けるとそこには仮面ライダーが立っていた。

 

体の各部が黄金に輝く仮面ライダーは銃を片手に持ち、守るようにして立っている。

 

「もう、誰も傷つけさせない・・・・俺は!」

 

 

 

「そうか・・・・」

 

弾はわかったような気がした。

 

どうして自分が飛び出したのか。

 

ギャレンに変身してトライアルと戦おうとしたのか、わかったような気がした。

 

同時に体からわきあがってくる力を感じながらギャレンは目の前のトライアルEを睨む。

 

「あの・・・・」

 

「大丈夫だ」

 

「え?」

 

後ろにいる女性に顔だけ振り返りながらギャレンは告げる。

 

「貴方は絶対に守る」

 

「っ!?」

 

ギャレンの言葉に顔を赤くなる女性からトライアルEを睨んだ。

 

湧き上がる力を全身に感じてギャレンは“キングラウザー”を構える。

 

「お前は、俺が倒す!」

 




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第三十九話

史上最大の雑さになったんだろうな


ギャレンはギャレンラウザーを構えてトライアルEと対峙する。

 

トライアルEはアームガンをシングル、バーストと使い分けながら攻撃を仕掛けた。

 

だが、ギャレンはキングラウザーを巧に操り、飛んでくる弾丸を全て撃ち落す。

 

「(見える)」

 

仮面の中で弾は飛んでくる弾丸がスローモーションに動くのを的確に撃ち落していく。

 

視覚が前より鋭くなったみたいに弾丸の動きが見える。

 

弾は地面を蹴る。

 

一瞬で、トライアルEへと間合いを詰めた。

 

「うぉらぁ!」

 

繰り出した拳はトライアルEの片腕を弾き飛ばす。

 

そしてトライアルEは壁に叩きつけられた。

 

「これは・・・・速めにケリをつけるしかないな・・・・」

 

体に漲る力は止まる所を知らない。

 

このままだと自分はおかしくなってしまう。

 

危険信号が脳内で響いている。

 

「ハイジョ・・・・ハイジョスル」

 

「橘さんの声で・・・・汚い言葉使うんじゃねぇ!」

 

叫ぶと同時にギャレンは力を発動させた。

 

トライアルEは無数に現れたギャレンに戸惑いつつもアームガンで応戦するが全て外れる。

 

やがて本体のギャレンへ分身が集り、炎を纏った蹴りがトライアルEの頭部に叩きつけられた。

 

『オレ・・・・ハ!』

 

頭部が陥没し大爆発を起こす。

 

爆煙と衝撃から橘は咄嗟に山田真耶を守る。

 

しばらくして、熱と風が弱まり橘は振り返った。

 

黒い煙がもくもくとあがっている。

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

 

「はい・・・・橘さんは!?」

 

「大丈夫です・・・・」

 

ふらふらと起き上がった橘は黒煙の方へ視線を向けた。

 

煙が弱まるとそこに立っていたのはギャレン。

 

各部にディアマンテゴールドが装備されたギャレンをみて、橘はなんといっていいのかわからない表情を浮かべた。

 

ギャレンはターンアップハンドルを引いて、元に戻る。

 

と、同時に地面に倒れた。

 

「弾!」

 

倒れた弾に駆け寄る。

 

「ぐ~~」

 

弾は熟睡していた。

 

 

 

 

IS学園の入口、箒達、専用機持ちが奮闘している所に一夏と簪が合流していた。

 

ブレイラウザー同士を振るって、二人のブレイドはぶつかりあっている。

 

援護を箒とラウラにしてもらいながら戦っている。

 

最初の動揺と異なり、一夏は冷静に観察していた。

 

「お前は、違う!」

 

叫ぶと同時にブレイラウザーを操りブレイド(トライアル)にダメージを与えていく。

 

箒の空裂がブレイド(トライアル)に直撃し、離れようとしたところでラウラのワイヤーブレードがブレイドの動きを封じてしまう。

 

「「一夏!」」

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『マッハ』

 

『ライトニングソニック』

 

ブレイド(一夏)が地面を蹴り、ライトニングソニックをブレイド(トライアル)に叩き込む。

 

雷撃の蹴りを受けたブレイド(トライアル)の体のバックルが弾け飛んで、異形が姿を見せる。

 

「それが、本体か」

 

ブレイドはラウズアブゾーバーにプライムベスタをラウズした。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『エボリューション・キング』

 

キングフォームとなったブレイドはキングラウザーを構える。

 

『スペード10』

 

『スペードJ』

 

『スペードQ』

 

『スペードK』

 

『スペードA』

 

『ロイヤルストレートフラッシュ』

 

「ウェェェェイ!」

 

五枚のギルドラウズカードを突き抜け、ブレイドがキングラウザーを振り下ろす。

 

トライアルは避けきれず体に一撃を受けて大爆発を起こした。

 

「うわっ・・・・とと・・・・」

 

変身を解除した途端、一夏はバランスを崩して倒れそうになるがそれをラウラと箒の二人に支えられる。

 

「無茶をする嫁だな」

 

「ラウラのいうとおりだな、このヘタレ一夏」

 

「ちょっ!?ヘタレ関係ない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、封印できないって・・・・トライアルはチートだな」

 

「・・・・そんなこといったら、私達ってどーなるの?」

 

「それもそうだな」

 

一方、カリスとレンゲルのほうと対峙しているトライアルは専用機持ちの弾丸の雨を受けていた。

 

その様子を離れた所で二人は見ている。

 

「とっとと倒れなさいよ!」

 

「一夏さん達を苦しめたその命、神に返しなさい!」

 

「ふふふふ、こいつらを倒したらダーリンとデート☆!」

 

「させないよ!始とデートするのは私だ!」

 

トライアルは少なからず反撃を見せているが抜群の連携を見せている彼女達の前になす術もない。

 

彼女達ならば国家と戦っても勝てるかもしれないと錯覚してしまう。

 

「あいつらが哀れだからというわけじゃないが・・・・ケリつけるか」

 

「そうだね」

 

『エボリューション』

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

 

ワイルドカリス、レンゲルジャックフォームとなり弾丸の嵐が止まると同時に前に飛び出しおぼつかない足取りのトライアル二体に拳を繰り出す。

 

攻撃を受けて後ろに倒れこむトライアル達に二人はそれぞれの必殺技を放つ。

 

「これで終わりだ」

 

『ワイルド』

 

 

「終わらせる・・・・」

 

『ラッシュ』

 

『ブリザード』

 

『ポイズン』

 

『ブリザードゲノム』

 

 

ワイルドサイクロン、ブリザードゲノムのダブル攻撃を同時に受けたトライアルはその場で大爆発を起こす。

 

 

「終わった」

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

数日後、

 

弾が目を覚ますと、涙を流している蘭の顔がそこにあった。

 

「・・・・おにぃのばかぁ!!」

 

「いっでぇぇ!?」

 

目を覚ましてすぐに妹に殴られて弾の頭は混乱してしまう。

 

「な、殴る事はないだろ!?ってうぐぇ!?」

 

「このバカガキ」

 

「爺ちゃん!?爺ちゃんにまで!?」

 

「それほどおにぃがバカなの!橘さんから聞いたときはびっくりし何日も眠ったままなんだからぁ!」

 

「えっと・・・・」

 

「お前が病院に運び込まれて5日が経過した。その間、ずぅっと寝てたんだよ。なんともないか?」

 

「体がすこしだるいくらい・・・・」

 

「ふん、お前に客だぞ。蘭」

 

「うぅ・・・・後でお説教だから」

 

「え!?」

 

まだ泣いている蘭を残して厳は部屋から出て行く。

 

しばらくして控えめなノックで部屋に一人の女性が入ってくる。

 

「あ・・・・」

 

「はじめて、ではないですけれど・・・・布仏虚といいます」

 

「あ、ご丁寧にどうも・・・・五反田弾といいます」

 

虚の挨拶に弾は戸惑いながら返す。

 

え、どうなっての!?と頭の中で混乱する。

 

どうしてこんな美少女が病室に!?といろいろな意味で思考回路が暴走していた。

 

「先日は助けてくれて、ありがとうございます」

 

「いえ、その、俺はただ当たり前のことをしただけで・・・・」

 

ふと、弾は気づく。

 

――当たり前?

 

「・・・・五反田さん?」

 

「(そっか・・・・俺は考えすぎだったのか、アホらし)すいません、少し考え事してました・・・・えっと、布仏・・・・さん?」

 

「虚、と呼んでください」

 

「ふぁっ!?」

 

「・・・・ダメ、ですか」

 

「いいえ、とんでもありません!でしたら・・・・虚さん」

 

「はい」

 

弾の思考回路がさらに混乱する。

 

え、これ、どうしたらいいの!?

 

瞳を潤ませて弾を見ている虚。

 

冷や汗を流して、困っていると、ドアが開いた。

 

「・・・・」

 

ドアを開けたところで固まった橘朔也の姿がある。

 

手元に果物が詰まったバスケット。

 

「・・・・あ、邪魔だったか・・・・楽しんでください」

 

「「誤解です!!」」

 

 

何か勘違いをした橘を慌てて二人は追いかける。

 

それから、弾と虚はお互いに連絡先を交換した。

 



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第四十話

ただの息抜き、あとは読者さんのイメージで想像してくださいな。


朝日が差し込む光を浴びながら一夏はまどろみの中にいた。

 

「(もっと、この時間帯を味わいたいなぁ)」

 

しばらくの間、色々とありすぎた。

 

剣崎さん達が警察に捕まり、簪が部屋に閉じこもったり、五反田食堂が半壊して、弾が暴走したりなどなどとあげたらきりがない事件が発生したが、ようやく一段落つくことができたのだ。

 

一夏としてはこの時間帯を味わいたかった。

 

だが、ライダーに休みはない。

 

それがどんなことであっても。

 

「これがまどろみの時間中というヤツか・・・・写真に収めなければ」

 

声が聞こえた。

 

それがどうも不穏な独り言で、一夏は目を開ける。

 

一眼レフを構えた千冬?の姿があった。

 

「なにやってんの!?」

 

カメラを自分に向けている千冬?に一夏は叫んだ。

 

「目を覚ましたのか、なに、お前の寝顔を写真に収めようとしただけだ」

 

「さも当たり前にいうのやめて!?てか・・・・あれ?」

 

ふと、違和感を覚えた。

 

目の前にいる千冬?にしては少し身長が低くなったような。

 

「・・・・誰?」

 

「はぁ、前にも言っただろう」

 

千冬?は一夏の頬を両手で掴むと顔を近づける。

 

「マドカだ、私の名前は織斑マドカだ」

 

「・・・・マドカさん!」

 

一夏は思い出す。

 

校外実習の道中に出会った千冬そっくりの少女。

 

インパクトすぎることばっかりで忘れていたというのは内緒だろう。

 

「さんはいらない」

 

「えっと・・・・すいません」

 

「敬語禁止!」

 

「あ、わかった」

 

「よろしい・・・・では」

 

そういうとマドカは服を脱ぎ始める。

 

「ちょっとぉ!?なにやってんの!?」

 

一夏は慌てて止めようとする。

 

にやり、とマドカは不敵に笑う。

 

瞬間、一夏は床の上に倒れて、体をロープで拘束されている。

 

「あれ!?」

 

「さて、私の弟にするために、色々とするとしよう」

 

「え、なにこれ!?」

 

「安心しろ、最初は痺れるかもしれないがすぐに気持ちよくなり、やがて最後には一夏の方から私の事をお姉ちゃんと呼ぶように」

 

「ねぇ!なにすんの!?てか、なにされんの俺は!?」

 

「さぁ、はじめると」

 

 

「させるかぁ!!」

 

 

学生寮の扉を壊してISを纏ったラウラが姿を見せる。

 

「ラウラ!?」

 

「教官と似たような顔をしているとはいえ、私の嫁を好き勝手させるつもりはない!さぁ、嫁を渡せ!私のものだ!」

 

「助けに来てくれたのは嬉しいけれど、お前のじゃねぇ!」

 

「そのとおりだ、一夏はわ、私のものだ!」

 

「箒!?さも当然のようにいわないで!!」

 

 

 

シュヴァルツェア・レーゲン、紅椿を纏った二人は武器を構え、マドカに威嚇する。

 

マドカが不敵に笑い。

 

「その程度の邪魔、この私が予想しないと思ったか。バカどもが」

 

指を鳴らした瞬間、二人の頭上にネットが落下する。

 

同時に二人のISが強制解除された。

 

「「な!?」」

 

「始作のIS緊急停止ネットだ。それを解除するには私が持っているリモコンを使わないといけない・・・・あぁ、ナイフなどでは切り裂けないような特殊繊維だ。そこでおとなしーく見ているがいい」

 

「「ぬがぁぁぁぁぁ!」」

 

「さて・・・・おや?」

 

マドカは縛っていた一夏がいないことに気づく。

 

少し視線をさ迷わせると扉の方に匍匐前進している一夏の姿を見つける。

 

「どこへいくつもりだ?一夏」

 

びくぅ!と一夏の体が震えて、速度を上げて扉に向かう。

 

悲しい事かな、マドカはベッドを飛び越えて一夏の前に降り立つ。

 

「私からは逃れられない。さぁ、覚悟せよ・・・・いち」

 

「私の弟になにをする!!」

 

壁を壊して千冬がマドカに鉄拳を繰り出す。

 

マドカは舌打ちしてその場を離れた。

 

「お、なんか騒がしいな」

 

「なんだろうね?」

 

「一夏君の部屋からよ?」

 

騒ぎを聞きつけて始達がやってくる。

 

「お前・・・・なにやってんの?」

 

「は、始!助けてくれ!」

 

一夏はその場で事情を説明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、打鉄の刀を持った織斑千冬、同じく刀を持ったマドカがアリーナで対決する事になった。

 

「いや、なんで!?」

 

頭上に景品と書かれているシールを貼られている一夏が叫ぶ。

 

「仕方ないだろう。マドカは更識の家と契約して保護下にあるんだから、俺達がどうこう騒いでも仕方ない。ごねて協力拒否されたら問題あるだろ?だから、諦めろ」

 

「わかんない!!てか、マドカさんと千冬姉と何の関係があんの!?」

 

「知らん」

 

「なんで!?」

 

「アイツが話したがらないんだよ。知らないことは応えようがないでしょ」

 

観客席では歯軋りしている箒とラウラ、結果がどうなるのか気になる簪、アリーナにいる二人の怒気が伝わってきて震えているセシリアと鈴音、シャルロットと楯無はぴったりと始にくっついている。

 

「マドカとかいう子の考えは参考になるわねぇ。私もやってみようかしら?」

 

「大丈夫だよ。始、なにがあっても私が守るから」

 

「・・・・愛されてますなぁ、始さん」

 

「アリーナのお二方!勝った人は一夏がハグしてくれるそうですよぉ~」

 

「だぁぁぁぁぁ!?なにしてくれてんのぉ!」

 

「お前が悪い」

 

「あら、ダーリン照れたの?」

 

「そうなら私がハグしてあげる!」

 

そういってさらに二人が密着してくるので始はアリーナに再び叫ぶ。

 

「一夏が料理作ってくれるそうです!」

 

「ちょぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

結果、打鉄の刀が折れて引き分けとなり、話し合いの結果、一夏は両方にしばらくご奉仕することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの・・・・橘さん」

 

「なんでしょうか?山田先生」

 

橘朔也はIS学園へ一夏達の様子を見に来た途中、山田真耶と遭遇する。

 

「その、えっと、この前は助けてくれてありがとうございました」

 

「・・・・たまたまです。怪我はありませんでしたか?」

 

「えぇ、大丈夫です。あの、それで・・・・お礼とかをしたいなぁと思うのですが」

 

「別に見返りを求めてやったわけではありませんので気にしないで下さい」

 

「でも、助けてもらいましたから」

 

「・・・・そうですね、でしたら今度、おいしい料理の店でも教えてください」

 

「はい!任せてください!」

 

 

 




マドカは無事でしたというお話。

さて、今回のお話で仮面ライダー剣Missing:ISは終わりです。

皆様、最後まで読んでくれてありがとうございました。

次回作をお楽しみに!

























































































という、ウソは置いておいて、大事な話に入ります。

次回から最終の話に入ります!


泣いても笑ってもまもなく終わります。

それで、ですが、次回からとんでもない展開になりますが、気にせず読んでください。

それでは!



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第四十一話

本当は昨日投稿するつもりでした。長引いた。

前回のウソ予告信じた人はどのくらい、いるのだろうか?

まぁいいや、

今回より最終章、三部作スタートします。

では最終章 Ⅰ部 静止する日スタートです。


それはいきなり起きた。

 

織斑一夏は目の前の光景に不覚にも声を出すことが出来ない。

 

授業が終わり、放課後、一夏達はISを纏って自主練に励んでいた。

 

一夏、簪、ラウラのトリオと箒、セシリア、鈴音のトリオでの三対三での戦い。

 

開始の合図をラウラがあげようとした瞬間、セシリアと鈴音の少し後ろにいた箒が雨月と空裂で二人を攻撃した。

 

咄嗟の事に二人は反応する事ができず、対峙していた一夏も呆然としてしまう。

 

「な、何をしているんだ!箒!?」

 

箒が二人を傷つけた、ということに一夏は驚き、震えながら叫ぶ。

 

「危ない!」

 

だが、箒は展開装甲を発動させて、一夏達に襲い掛かってくる。

 

「なんで、箒!?」

 

二本の刃を繰り出して襲い掛かってくる箒から離れながら叫ぶ。

 

だが、返事はない。

 

ラウラは咄嗟にAICを発動させて箒の動きを封じ込めようとする。

 

「なに!?AICが発動しない、だと」

 

愕然とした表情で動揺しているラウラに箒は瞬時加速を使い、彼女の間合いに入り込み、空裂を振るう。

 

プラズマ手刀で刃を受け止めようとするが発動せず、攻撃を受けたラウラは地面に落下した。

 

「ラウラ!」

 

簪は纏っている打鉄弐式の夢現を振るって箒を止めに入る。

 

薙刀から大きく離れた箒は両肩の展開装甲をクロスボウ状に変形させて出力可変型ブラスターライフルに変えて、アリーナのシールドを破壊。箒はそこから外へと逃げていく。

 

「箒!待て!」

 

追いかけようとした一夏の視界が急に暗転した。

 

 

 

 

――危険。

 

――追いかけたらダメ。

 

――おそろしいことが起こる。

 

――世界が、終わる!

 

 

 

 

 

「どういう・・・・」

 

――ことだ、と呟いて一夏は地面に落下した。

 

 

 

「なんだよ・・・・これ!」

 

五反田弾は目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 

授業が終わり、帰り道を歩いていた弾は悲鳴が気になって走る。

 

嫌な予感があったからだろう。

 

角を曲がって、大通りにでた弾は息を呑む。

 

そこでは惨劇が起こっていた。

 

街を走っていた車がいくつも横転して黒い煙を噴き出し、怪我人の姿が見える。

 

怪我人に白い異形が襲い掛かっていた。

 

「変身!」

 

『ターン・アップ』

 

襲われている人を見た弾はギャレンに変身して、白い異形と対峙した。

 

異形に不意打ちを食らわして襲われている人を逃がしながらギャレンラウザーで異形を撃ち抜く。

 

光弾を受けた異形は地面に倒れるが、少しして起き上がる。

 

「ちっ、数が多すぎる」

 

苛立ちながらも的確に異形を撃つ。

 

撃たれた異形は火花を散らしながらも進軍を続ける。

 

「まるでアリだな・・・・仕方ない」

 

ギャレンはラウザーのオープントレイを展開してプライムベスタを読み取った。

 

『バレット』

 

『ファイア』

 

炎を纏った弾丸を異形に放つ。

 

強化された攻撃を受けた異形はドロドロに溶けて消滅する。

 

「よし、これ・・・・っ!」

 

全身を貫くような殺意を浴びたギャレンは咄嗟にラウザーを構えた。

 

爆煙の中、光弾がギャレンに直撃する。

 

「な・・・・なにが!?」

 

煙の中、ゆっくりと二人のライダーが姿を見せた。

 

全体的に同じフォルムをして、一人は槍を肩に乗せ、もう一人はボウガンを構えてゆっくりと姿を見せる。

 

「ライダー・・・・でも、どうやって!?」

 

BOARDのライダーシステムはアンデッドの力を借りている。

 

故にライダーの力を使うにはプライムベスタを要するのだ。

 

だが、変身するためのプライムベスタは四枚しか存在しない。

 

なので、他のプライムベスタでライダーに変身することなど出来ないのだ。

 

「どうなってんだ!?」

 

ギャレンは戸惑いながらも襲い掛かってくるライダーの攻撃を避ける。

 

緑色のライダーの槍をよけた所でボウガンの光弾が飛ぶ。

 

光弾を背中に受けたギャレンはくぐもった声をあげながらもギャレンラウザーで反撃するが、二対一という状況は不利だった。

 

反撃できず次々と攻撃を受けてギャレンは地面に膝をつける。

 

『マイティ』

 

『マイティ』

 

音声が響いてギャレンが顔を上げたところでエネルギーを纏った槍の一撃とボウガンの一発がギャレンのアーマーを貫いた。

 

「がぁっはぁぁぁ!」

 

小爆発を起こしてギャレンは地面に倒れる。

 

二人のライダーはゆっくりと近づくと腕に装着されているラウズアブゾーバーを開いてカテゴリーKのプライムベスタを取り出してゆっくりと煙の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

富樫始は学園の屋上でシャルロットと対峙している。

 

「呼び出して、何のようだ?」

 

放課後に話がある、と彼女に言われて、人気が少ない学園の屋上へ足を運んでいた。

 

夕焼けを見てこちらをみようとしないシャルロットに始は尋ねた。

 

「始はさ・・・・今の時間、幸せだと思う?」

 

「なんだ、いきなり」

 

「ちょっと、気になってさ。ほら、色々あったから・・・・どう思っているのかなって、私の、こととか」

 

「・・・・」

 

シャルロットは始と出会ってからいろいろなことがありすぎた。

 

めまぐるしい出来事ばっかりで充実しているとは程遠いけれど、シャルロットは生きていられるという実感が得られた。

 

「母さんがなくなってから、ずっと苦しい空間に閉じ込められて嫌な思いばっかりしていて、あー、なんでこんなことをしているんだろうなぁとか思ったりして、大げさだけれど世界を呪ったりもしたんだ」

 

「・・・・そいつは初耳だな」

 

苦しい思いをしている事を知ってはいた。だが、世界を呪うほどのものだと始は知らない。

 

「でも、そんな閉鎖的な世界を始が壊してくれた・・・・最悪な場所から引っ張り出してくれた始は私にとって白馬の・・・・ううん、黒い王子様かな」

 

「それって、悪人じゃないか」

 

「白馬のイメージとはいえないよ。始は」

 

「あー、そうかもしれんな」

 

自分が絵本にでてくるような白馬の王子というイメージからは程遠い。

 

むしろ、悪魔といわれたほうが性に合っている。

 

「でも、王子様であることは変わりないんだ・・・・それで、始は今の生活は幸せ?」

 

「そうだな・・・・ここの生活に関しては幸せといえるだろうな」

 

「・・・・そう、幸せなんだね・・・・だったら」

 

シャルロットは始に手を伸ばす。

 

「始の持っているカテゴリーKのプライムベスタを私に・・・・寄越して。そうすれば、幸せの生活を続けられるんだ」

 

「断る」

 

「・・・・ど、どうして?」

 

「簡単なことだ。こいつと交換してまで幸せを生きるつもりはねぇってことだ」

 

「なんで・・・・」

 

「俺は、コイツを誰にも見つけられないところに捨てる。もう何の陰謀にも巻き込まれないようなところにな」

 

嘗て、ライダーシステムを考案したBOARD所長の烏丸もラウズカード全てを人の手に渡らないような闇に捨てようとした。だが、それは失敗し代償として烏丸は命を落とした。

 

橘は闇に葬る為の手段を見つけられず厳重に保管するという手段をとった。

 

それでも失敗したのだ。

 

「俺の命は残り少ない。なくなればこのプライムベスタがどうなるかなんてわからない・・・・そうなる前に俺はここからいなくなり・・・・誰の手にもわたらないところにプライムベスタを葬り去る。だから、シャル」

 

始は告げた。

 

――お前の提案は受け入れられない。

 

「・・・・そっか・・・・」

 

シャルロットは手を下ろして始に背を向けた。

 

「始は・・・・そうだよね。一度決めたら何があってもやろうとするよね・・・・それは幸せでも変わらないよね・・・・仕方ないよね・・・・やりたくないんだけれど」

 

くるり、と振り返る。

 

彼女の手にはバックルとカードが握られていた。

 

「始を傷つけてでもカードを手に入れる」

 

バックルにカードを入れて、カード状のベルトが伸張し装着される。

 

「・・・・変身!」

 

『オープン・アップ』

 

オリハルコンエレメントを潜り抜けてシャルロットはグレイブへと変身する。

 

グレイブはホルダーからグレイブラウザーを抜いて切っ先を始へ向けた。

 

「・・・・やれやれ、お前も頑固な性格しているときたもんだ」

 

肩をすくめてため息を吐いた始は懐からハートスートのカテゴリーAのプライムベスタを取り出す。

 

「変身」

 

『チェンジ』

 

黒い水を弾き飛ばしてカリスに変身してカリスアローを構えた。

 

二人は同時にぶつかり合う。

 

グレイブの振るう刃をソードボウで受け流し、カリスアローの斬撃をグレイブラウザーの刃で受け流す。

 

「ねぇ・・・・考えを変えるつもりは本当にないの?」

 

「ないね」

 

「・・・・」

 

グレイブの問いをカリスは一蹴して突き飛ばす。

 

「・・・・仕方ない、よね・・・・これは」

 

「?」

 

カリスがグレイブに視線を向けていると、バックルの右部分に装着されているラウズ・バンクから一枚のプライムベスタを取り出すと、左腕の機械にラウズする。

 

 

『エボリューション』

 

 

「が・・・・は・・・・」

 

瞬間、カリスから始の姿に戻り、辺りに鮮血を撒き散らす。

 

血と同時に制服が破けて、そこから数枚のプライムベスタが舞い落ちた。

 

グレイブはその中からカテゴリーKのラウズカードを拾い上げる。

 

「どういう・・・・ことだ。それは」

 

「そうだよ。クラブスートのカテゴリーKの力を使った。さすがの始でもワイルド使わなかったら対応できないよね」

 

グレイブからシャルロットの姿に戻ると彼女はプライムベスタをポケットにしまう。

 

「ごめんね・・・・こんなことしたくはないけれど・・・・全部、全部終わったら、きっと正しいと理解してくれるはずだから・・・・ごめん」

 

何かが飛来してきてシャルロットはそれに向かう。

 

激痛で体を動かせない始は手を彼女に伸ばす。

 

でも、彼女に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その日、全国に配備されているISが一斉に機能停止を起こした。

 

 

 

 

 

橘朔也はBOARDの用意されている部屋で死んだように眠っている五反田弾と富樫始の様子を見ていた。

 

街中で倒れていた弾は妹の蘭が、屋上で血まみれで倒れている始を布仏本音がみつけて、急遽、運び込まれたのである。

 

二人は麻酔を打たれて死んだように眠っていた。

 

幸いといえばいいのか、傷が浅くて、大きな後遺症などにはならず、家族は安心した。

 

「・・・・問題は富樫の方か」

 

サングラスの奥で橘は始のカルテをみる。

 

細胞の崩壊が急速に進んでいて、ワイルドへの使用を控えた方がいいかもしれないという医師からの報告だ。

 

「(だが、今回は明らかにおかしなことが多い。富樫と弾が誰にやられたのか、それがはっきりしない限りは無闇に動かない方がいいのかもしれない・・・・だが、それは後手に回る・・・・得体の知れない敵相手に後手に回るのはよろしくないな)」

 

通信端末を取り出して橘は連絡を取る。

 

「山田先生ですか、織斑先生と一緒にこちらへ窺えますか?緊急の要件があります」

 

 

 

一夏と簪はIS学園の医務室で眠っている友人たちの顔を眺める。

 

ラウラはドイツの部隊に連絡を取るといって、ここにいない。

 

「篠ノ之さん、どうしちゃったんだろう」

 

「わからない・・・・でも、何か理由があるから、あんなことをしたのかもしれない」

 

「でも」

 

箒が仲間を傷つけるなんてありえないと一夏は思っている。

 

けれど、簪は目の前の事実が頭から離れず、彼よりも信じることができないでいた。

 

「もし、世界中の人間が箒を否定したとしても、俺は信じるつもりだ。もう、あの時のように見ない振りをしたくない。絶対に」

 

箒がセシリアと鈴音を攻撃した事に加え、弾が意識不明、始が学園の屋上で血まみれで見つかり、シャルロットが行方不明。

 

よくわからないことが起こる中でも、一時でも一緒に行動して友達だと信じた人達を疑うなんていう事をしたくない。

 

残酷な理由があったとしても一夏は仲間を信じる。始の時のような結末なんてさせない。

 

「(まずは信じる。全てはそれからだ!)」

 

拳を握り締めた一夏のポケットの中で端末が起動する。

 

「・・・・誰だ?」

 

『はぁい!みんなのアイドル、篠ノ之束ちゃんだよ~!』

 

一夏は端末を起動させると耳元で大きな声が響いた。

 

うっかり端末をきろうとしてしまうのを堪えて一夏は叫ぶ。

 

「束さん!?どうして、この」

 

『ふっふ~、束さんに不可能なんてないんだよ』

 

「それよりも束さん!箒が」

 

『箒ちゃんが?』

 

「友達を傷つけてどっかにいっちゃったんです。何か知りませんか!?」

 

『あー、そのことか』

 

「そのことかって、箒のこと心配じゃないんですか!?」

 

『うん、だって』

 

一夏は次にいう束の言葉を信じられなかった。

 

『箒ちゃんは私のところにいるから』

 

「・・・・え?」

 

『そっか、仲間を殺したわけじゃないんだ。うーん、子守唄システムはちゃんと機能したと思っていたんだけどなぁ・・・・どっか不備でもあったかな?』

 

「何を、いっているんですか」

 

『うん?あ、いっくんは知らないんだっけ?実は紅椿にはね。子守唄っていう、まぁ、簡単に言うと暗示かな。それをかけるシステムが登載されているんだ。本当は箒ちゃんが知り合った人たち、全員殺せって、暗示してあったんだけど。どこで間違えたんだろう』

 

一夏は電話をしている相手が普通に話している内容が信じられなかった。

 

束を幼い頃から知っている自分からして、彼女がぶっ飛んだ行動をとるのを何度か目撃した事があるから変なことをしても、まー仕方ないよなと漠然と思っていた。だが、これはおかしすぎた。

 

電話の相手は束の皮をかぶった怪物なのではないかと疑うほどに今の束は恐ろしい。

 

『そういえば、いっくん。キミはまだライダーなんてやっているのかな?』

 

「え、あ、はい」

 

『うーん、まぁ、仕方ないよね。いっくん、そこに知り合いがいくからいっくんの持っているカードを渡してくれないかな?』

 

一夏が束に尋ねようとした時、地面が揺れる。

 

外を見ると、人の形をしたロボットが現れていた。

 

「な!?」

 

『あー、丁度きたみたいだね?ささ、いっ君。ゴーレムⅢにカードを渡して』

 

「なんで・・・・ですか?」

 

『いっ君の知らなくていいことだよ。ささ』

 

「・・・・出来ません」

 

『どうして?』

 

束のテンションが少し落ちた事に気づかないまま一夏は喋る。

 

「俺が持っているコレは人が好き勝手にしていいものじゃありません。これは・・・・全てが終わった時に誰の手も届かないところに葬るべきです。ですから、束さんが興味を示したとしても、これを渡すつもりはありません!」

 

『そっかぁ・・・・まぁ、染まっているキミはそういうよね?まぁいいや、少し痛い目見ろよ』

 

瞬間、ゴーレムⅢが起動して一夏に襲い掛かろうと動き出す。

 

近づいてくるのをみて、白式を起動させようとする。

 

しかし、白式は起動しない。

 

「なんで!?」

 

『あー、そうそう、ISはしばらく機能停止しているはずだから何も出来ないよ』

 

束の言葉を聞いて、一夏は顔を歪めながらブレイバックルを装着する。

 

――やるしかない!

 

ブレイドに変身すると同時にプライムベスタの力を発動させ、ゴーレムⅢにライトニングブラストを放つ。

 

雷撃を纏ったキックを受けてゴーレムは攻撃を中断して地面に倒れる。

 

着地したブレイドはホルダーからブレイラウザーを抜いて、構えた。

 

「(あれがISならシールドエネルギーを纏っているはずだ。そんなヤツ相手に、ライダーシステムだけで、どこまで戦える?)」

 

ゴーレムⅢは起き上がると大きな腕を振り下ろす。

 

横に跳んで回避しつつブレイラウザーを振るうが、見えない壁に阻まれて刃が通らない。

 

ブレイドの攻撃を気にせずゴーレムⅢはIS学園の校舎へと足を進めている。

 

「まさか、コイツ、学園を壊すつもりなのか!」

 

ISが起動すれば、ゴーレムなどたやすく倒せるだろう。

 

だが、肝心のISは篠ノ之束の手によって使用不可能。

 

このままではゴーレムの攻撃がIS学園に直撃して怪我人がでる。

 

「ダメだ!」

 

ブレイドは叫んでゴーレムⅢに向かって進む。

 

「俺はみんなを守る。仲間を傷つけさせはしない・・・・だから!」

 

ブレイラウザーにプライムベスタをラウズして雷撃を纏い振り下ろす。

 

全力の一撃を受けたゴーレムⅢの足が地面に陥没する。

 

肩を踏んで、ブレイドは前に飛び出る。

 

「これ以上先には行かせない!お前なんかに俺の仲間をやらせない・・・・ここで、倒す!」

 

決意に応えるようにブレイドの体を白銀の光が包み込む。

 

光が消えると同時に白式を纏ったブレイドが雪片弐型をレーザー刀に変形させて振り下ろす。

 

刃をゴーレムⅢは避けられず腕が斬りおとされる。

 

自由な腕にエネルギーを溜めてゴーレムⅢは放とうとした、だが。

 

「遅い!」

 

ブレイドの左腕がゴーレムⅢの頭部を掴む。

 

「沈めぇえええ!」

 

叫ぶと同時に左手からエネルギーが放出しゴーレムⅢの体を吹き飛ばす。

 

体から火花を散らして体の三割、心臓部付近を吹き飛ばされたゴーレムⅢは地面に崩れ落ちた。

 

地面に降り立ったブレイドの前に映像パネルが表示される。

 

そこには白式がセカンド・シフトに移行した事、武装・雪羅が使えるようになったことだ。

 

「・・・・サンキュ、白式」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁやぁ、BOARDのメンバー、元気かな?』

 

その頃、BOARDでは篠ノ之束がシステムをハッキングして連絡をしてきた。

 

今までハッキングされることはあってもシステムを掌握される事はなかったため、橘は驚きを隠せない。

 

そして、話し合いの為に訪れていた千冬も例外ではなかった。

 

「束!?」

 

『ん、ちーちゃんか、こんなところにきているとは予想外だったよ。ま、話は後でね。今回はそこにいる奴らに話があるから』

 

「私達に、話とは?」

 

『素直に聞いてくれてありがたいよ。余計な事には時間を費やさないからさっさというね・・・・キミらがもっているライダーシステムをすべて破壊しろ、でないとISを暴走させて世界を滅ぼしちゃうぞ』

 

「なっ!」

 

「・・・・何故、ライダーシステムを目の仇にする?」

 

動揺している千冬を横に橘は尋ねる。

 

『色々と私の計画に邪魔なんだよねぇ・・・・ホント、色々と迷惑すぎるからさ、これを機に破壊しておこうと思ったのさ、ヴイ!』

 

「・・・・断るといったらISを暴走させるといったが、ISは装着者が居ない限り機能しないはずだが?」

 

『ん、そんな初歩的な事を束さんが考えていないと思ったのかい?世の中には神がかり的なことをすれば、それに縋る愚かな人たちっているよね?キミ達が拒否すればそいつらにISを奪えと指示するし私が全面的にバックアップするから計画は成功するよ?だから、さっさと壊すのがいい考えだよ?』

 

「束!」

 

我慢できず、千冬は叫ぶ。

 

目の前の親友が何を考えているのかわからない。

 

だが、これはやりすぎだ、止めないといけない。と千冬は思っていた。

 

 

「――おいおい、おふざけはそこまでにしたらどうだよ?」

 

 

「富樫、お前」

 

会話を遮って入ってきたのは富樫始だった。

 

目覚めたばかりなのか顔色が悪く、今にも倒れそうだ。

 

山田真耶が慌ててかけよるが、始はそれを押しのけて目の前のスクリーンに表示されている束を睨む。

 

「ったく、目を覚ましたタイミングぴったりすぎて悪意を感じるぜ」

 

「富樫、おふざけとはどういう意味だ?」

 

「あん・・・・そのまんまの意味だよ。おい、いつまでもくだらない真似してんじゃねぇ」

 

「・・・・真似?」

 

始は鋭い視線で目の前にいる束を睨む。

 

「何時までも篠ノ之束の皮かぶってりゃ物事進むと思ってんじゃねぇぞ?“統制者”」

 

「なっ!」

 

橘は驚きの表情で始と束の顔を交互に見る。

 

“統制者”

 

モノリスともいわれるそれはアンデッドを生み出した張本人ともいえる存在、戦いに直接的な関与はしない、いわばジャッジの役割を下す存在だとされていた。

 

「篠ノ之束が統制者だというのか・・・・」

 

「他のアンデッドもてめぇを潰そうと画策していたみたいだが、掌で踊らされて失敗続き・・・・封印されず何も出来ない・・・・封印されているアンデッド達が教えてくれたぜ?とっとと、その皮脱いだらどうだよ?」

 

始の言葉にはじめて、束の顔から表情が消えた。

 

『驚いたな。まさか、不完全な存在に見抜かれているとは』

 

「なんとでもいえ、観戦するだけが趣味のヤツにいわれたくない」

 

『ふん』

 

「てめぇに聞きたい事が山ほどある。まず、シャルロットはどこだ?」

 

『あの人形か・・・・そうだ』

 

束、否、統制者は顔をゆがめる。

 

『ゲームをしようじゃないか、“なりそこない”』

 

「・・・・ゲームだぁ?」

 

『そう、挑戦権はライダーシステムを持つ者のみ。貴様らが勝てば機能停止したISも仲間も返してやろう。場所の座標は追って知らせる・・・・といっても、キミ達に拒否権はない。これは時間制限式のゲームだ。開始は明日の朝、タイムリミットは一日のみ。キミ達が指定の座標に辿り着き、“これ”を取り戻す事ができれば勝利。負ければ世界は滅ぼす。どうだ?シンプルだろ』

 

「嶋・・・・さん!封印されていたのか・・・・」

 

束はそういって、三枚のカテゴリーKのプライムベスタをみせる。

 

その中のクラブスートのカテゴリーKをみて橘は息を呑む。

 

「何故、世界を滅ぼそうとする」

 

『バトルファイトの勝者は数年前に決まっている。勝者の望む者を私達は行なうだけ、故に世界を滅ぼす。それだけだ・・・・では、明日』

 

「おい、俺の質問に答えてねぇぞ」

 

『そういえば、そうだったな。あの小娘ならこちらにいるとも、会いたければ来る事だな』

 

ブチン、と目の前のスクリーンが消えた。

 

 

 

「待て」

 

どこかへ向かおうとした富樫を千冬が止める。

 

「ンだよ?」

 

「束が統制者とはどういうことなんだ!?そもそも統制者というのは!」

 

「そこにいるヤツに聞け、こっちは休みてぇんだ」

 

千冬の手を振り払って始は部屋から出て行く。

 

「あの、橘さん、統制者というのは?」

 

「存在した聞いたことがないが・・・・バトルファイトを開始した存在、一説では神ではないかと考えられている存在だ。54体のアンデッドを生み出し、勝者である始祖の世界を繁栄させたのが統制者だと聞いている」

 

「そんな存在がどうして篠ノ之博士の姿を?」

 

「わからない・・・・だが、これを止められるのは織斑たちだけだということだ」

 

「・・・・一夏」

 

 

 

 

 

 

橘からの連絡でライダーである一夏達はBOARDに集められた。

 

始を除く三人と剣崎たち先代ライダーも集っている。

 

「さきほど、BOARDに送られてきた座標だ」

 

「ここって!」

 

表示されている場所をみて剣崎は息を呑む。

 

「え」

 

「なんですか?」

 

事情を知らない一夏達は首を傾げるばかりだ。

 

「僕達が、最後に超古代の力と戦った場所だ」

 

「え!?」

 

睦月の言葉に全員が驚く。

 

ジョーカーを封印して終わった戦いとは別に、もう一つ、戦いがあった。

 

それは相川始・ジョーカーとは別のアルビノジョーカーとの激闘、全てのアンデッドが解放され、新世代ライダーの投入など、今までにないほどの激戦が行われる。そして目の前に表示されている座標は剣崎、橘、睦月が最後の敵と戦った場所なのだ。

 

「この場所とは因縁めいたものを感じるな・・・・敵はゲームといっている。それがどういった内容なのかはわからない。だが、それを受けない限り奪われたカテゴリーKも篠ノ之箒も取り戻せないだろう・・・・大人としてキミ達に残酷な事をこれからいうが、行ってくれるか?」

 

三人は迷わずに頷いた。

 

「そうか・・・・では、三人はしばらく休め」

 

「え、でも」

 

「今から体を動かして明日、何も出来ないじゃ意味がないからな。三人とも休んで明日に備えてくれ」

 

剣崎に言われて、戸惑いながらも三人は頷いた。

 

「あの、始は?」

 

「彼なら・・・・」

 

「来るさ」

 

詰まった橘は剣崎の顔を見る。

 

「剣崎・・・・」

 

「そうですよね。わかりました!休みます!」

 

一夏は立ち上がると部屋から出て行く。

 

 

 

 

 

「休めっていわれたけれど・・・・どうしょう」

 

一夏は学園寮に戻ってから右へ左へとそわそわしていた。

 

明日の事を考えると気になって眠れない。

 

元々、図太い神経をしていたが、戦いの中で少し神経質になってしまったんだろう。

 

「嫁!いるか!」

 

「ん、ラウラぁぁ!?」

 

振り返った一夏は絶句した。

 

「なんで、バニーガールきてんだよ!」

 

「む、コレを見れば嫁が癒されると聞いたぞ」

 

「眼福かもしんないけれど、いきなりなんで!?」

 

「・・・・明日、箒を助けに行くのだろう」

 

「え、あぁ」

 

「不安なのだ」

 

「・・・・」

 

「セシリアも鈴も重傷、箒とシャルロットは行方不明。そんな中で嫁は仲間と一緒に戦いに行くのだろう。できれば私も行きたい。だが、ISは機能しない・・・・嫁の手助けは何も出来ない。ならば、こうすることで少しでもお前がいけるように、と!」

 

ラウラも悩んだ末の行動なのだろう。

 

箒に斬られた二人はまだ目を覚まさない。

 

明日には仲間達が戦いに向かう。そんな中でラウラはISが使えず援護も出来ない、本人からすれば歯がゆい思いがある。

 

一夏はそんなラウラを慰めようと。

 

「それに、クラリッサによるとこうすればヘタレでも襲うだろうといわれたのだ」

 

「・・・・」

 

前言撤回、あっぶねぇ~!

 

危うくラウラを抱きしめる所だった一夏は一歩下がる。

 

陰謀どおり、彼女を抱きしめて何か言う所だった一夏は本気で冷や汗を流す。

 

「ん、どうした?」

 

「いや・・・・でもさ、何も出来ないなんてことはないぜ」

 

「む、私に何ができるという」

 

「俺達の帰る場所を守っていてくれよ」

 

「一夏達の帰る・・・・場所?」

 

「そう、俺達は戦いに行っても必ず帰ってくる。だから、ラウラにはここを守って欲しいんだ。箒達を連れ戻してみんなで“いつもの毎日”を過ごす為にさ」

 

「・・・・うむ、任せろ!」

 

ラウラの言葉に一夏は微笑む。

 

 

 

 

 

 

「ところで、この姿に嫁はむらむらしないのか?」

 

 

 

「・・・・ノーコメント」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、おにぃもヘタレだね」

 

「なっ!?なんで俺が一夏と同じなんだよ!?」

 

五反田家が入院している病室に足を踏み入れた途端、妹である蘭は開口一番、兄を罵倒する。

 

罵倒された兄は“一夏と同じ”に反応した。

 

「だって、前に居た布仏さんだっけ?あの人に会いに行かずにこっちにくるなんて」

 

「過保護だと思ってくれればいいだろう!?」

 

「そこまで子どもじゃないし!」

 

口を尖らせる蘭の頭を撫でて弾は微笑む。

 

「絶対に帰ってきてね!でないと地獄の果てまで追いかけるから」

 

「俺、地獄行くの確定かよ!?」

 

「女の人待たせている人は死んでもおかしくありません!」

 

蘭にぴしゃり、といわれて弾は苦笑を浮かべ、出口へ向かう。

 

「じゃ、待たせている人のところに向かうわ。ちゃんと帰ってくるからな」

 

「うん!」

 

笑顔の妹に見送られて弾が外に出ると、布仏虚と遭遇する。

 

「あれ」

 

「あ」

 

二人はぽかん、とした表情を浮かべた。

 

「えっと、虚さん、はどうしてここに?」

 

「その、蘭ちゃんとメル友になっていまして」

 

「あぁ・・・・妹の見舞いに来てくれてありがとうございます」

 

「はい、そ、それと」

 

モジモジしながら虚は。

 

「だ、弾君に会えると教えてもらった、ので」

 

「っ!!」

 

弾の顔の温度が一気に上昇する。

 

顔を赤らめてこちらをみている彼女から視線が離れない。

 

「その・・・・弾君、絶対に帰ってきてくださいね」

 

「はい!」

 

そこで会話が止まり、再び会話がスタートするまで、十分は費やしてしまったらしい。

 

 

 

 

 

「かんちゃーん、休まないの?」

 

「休んでいる・・・・」

 

「でもでも~」

 

キッチンでカップケーキを作っている簪に本音は休もうと呼びかけるが、作業を止めない。

 

「これで完成する、と」

 

オーブンにいれて作業が一段落ついた。

 

「どうして、急に?」

 

「理由はなんとなく・・・・かな」

 

「なんとなく?」

 

「うん、お姉ちゃんはお姉ちゃんでやることがあるし、みんなが思い思いの時間を過ごすならケーキでも久しぶりに作ろうかな・・・・って」

 

「それなら好きなテレビをみていてもよかったんじゃないの~」

 

「帰ってからみつるもりだよ」

 

「え?」

 

「明日の戦いが終わったら帰ってゆっくり満喫するつもり・・・・授業もさぼってしっかり見る」

 

「そうなんだ~」

 

「だから・・・・本音も付き合ってね」

 

「りょうかい~。あ、でも授業はさぼっちゃメ!だよ」

 

「そうだね・・・・うん。そうだ」

 

二人はそれから完成したカップケーキを親しい人に配りまわった。

 

 

 

 

 

 

 

屋上で始は景色を眺めていた。

 

既に空は夜空に染まっているし秋になりつつあるためか風が冷たい。

 

その中で始が考えているのはグレイブ、シャルロットのことだった。

 

「アイツ・・・・」

 

言葉を飲み込んで振り返る。

 

「人の背後、とって現れるのはいい趣味とはいえないな」

 

「あら、気づいているのに何も言わないのもどうかと思うけれど」

 

「なんか用か?」

 

「人と話をする時は相手の目を見て、っていわれなかったかしら」

 

「うるせぇヤツだな。これで――」

 

振り返った始の唇と楯無の唇が重なる。

 

突然の事に目を見開いていると始の口を押し開けて自身の舌をいれてきた。

 

卑猥な音が屋上に響き渡る。

 

しばらくして楯無は離れた。

 

「・・・・何の真似だ?」

 

「怒ったりしないんだ」

 

「・・・・今にも泣きそうな目をしていたら怒るにおこれねーよ」

 

「始はやっぱり、優しいわね」

 

「優しくねぇよ。人一倍臆病もんだ。伝えたい事をきちんと伝えられない不器用でもあるな」

 

「・・・・ちゃんと、帰ってくるわよね?」

 

「さぁな、まさか、帰ってこないと思ったから・・・・したのか?」

 

「違うわよ」

 

楯無は始の言葉を一蹴する。

 

「ダーリンのことだから、向こうでシャルロットちゃんとキスすることがありえるから先にさせてもらいました!上書きされたとしても私が先よ!」

 

「・・・・強いねぇ」

 

「あら、惚れた?」

 

「どうだろうな」

 

「私は二人が両思いになったとしても諦めないわよ?」

 

「・・・・怖いな」

 

「当然よ。女は怖くて、美しいものなんだから」

 

「違いない」

 

 

 

 

 

 

 

思い思いに過ごし、そして運命の日が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

BOARDのゲートの前に四台のバイクが止まっている。

 

整備の人達が徹夜してチューンナップされたブルースペイダー、レッドランバス、グリングローバー、そして始のバイク。

 

しばらくして、一夏達がやってくる。

 

「さて、覚悟はできたか?」

 

「当然だ!」

 

「生きて帰る!」

 

「うん!」

 

それぞれが決意を秘め、バイクにまたがる。

 

「・・・・行こう!戦いを終わらす為に!」

 

一夏は叫ぶと同時にブレイバックルを装着した。

 

「変身!」

 

「変身!」

 

「・・・・変身!」

 

「変身!」

 

『ターン・アップ』

 

『ターン・アップ』

 

『チェンジ』

 

『オープン・アップ』

 

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルの四人はバイクのアクセルを回して目的地に向かう。

 




予告。
レンゲルが散る、カリスが散る、ギャレンが散る、そしてブレイドが散る。
戦いの中、それぞれの敵と対峙する彼らの叫びが空に木霊する。
そして、世界はゆっくりと滅びへと向かう。

滅亡へのカウントダウン


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第四十二話

いやぁ、詰め込みすぎた。

三部作だけで、A4のワード百ページいきそうです。本当の話。

いえるのはこれだけです。


では、最終章Ⅱ部 滅亡へのカウントダウンです。


ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルはそれぞれの愛機に乗って目的地に向かっていた。

 

誰もいない道路をバイクで進んでいると、進路先にゆらゆらと進軍してくる異形たちの姿が見える。

 

「邪魔だ、蹴散らすぞ!」

 

四人はプライムベスタを取り出してバイクのモビルラウザーにラウズした。

 

『サンダー』

 

『ファイア』

 

『トルネード』

 

『ブリザード』

 

雷、炎、竜巻、吹雪を四機のバイクが纏い、道を阻む異形を突き飛ばしていく。

 

攻撃を受けた異形は爆発し消滅する。

 

敵を蹴散らし続けていると彼らの視界の先に奇妙なドームが見えた。

 

四人はバイクの速度を全開にして建物の中に突っ込む。

 

ドームの中は薄暗くてなにがあるのかわからない。

 

『やーやー!よくきたね!!』

 

設置されているスピーカーから束の声が響く。

 

「束さん!」

 

『早速だけれど、ゲームの内容について説明するよ~』

 

束の声にライダー達は返事をしない。

 

『つれない反応だねぇ~。ま、ルールは至って簡単、キミ達の前にある四つの道に表示されているスートの道にそれぞれのライダーが入り、奥にあるカテゴリーKのプライムベスタを取り戻す事ができれば、キミ達の勝ち、敗北条件は世界が滅ぶ事かなぁ』

 

同時に暗かった室内が明るくなり、スペード、ダイヤ、ハート、クラブが表示された道が現れる。

 

『いっておくけれど、制限時間が存在するよ~。キミ達が蹴散らしたローチ達がIS学園に到着して、全員死んじゃったらキミ達の負けだからねぇ』

 

「なっ!!なんだそれ!」

 

ギャレンが驚きの声を漏らす。

 

「そういうこといって、プレイヤーの心情を乱すっていうのは問題なんじゃないんかねぇ?」

 

カリスの言葉に束は何も言わない。

 

「ま、さっさとカテゴリーK回収すればいいんだよ・・・・それと」

 

少し言葉を止めて、カリスは口を動かす。

 

「注意しろよ。相手は猫の皮かぶった悪魔みたいなヤツだ。何を設置しているかわからねぇしな」

 

「始のいうとおりだな。バラバラになっちゃうけれど、絶対に帰ろう!」

 

ブレイドは拳を前に出す。

 

ギャレン、レンゲルも続けて拳を出す。

 

最後にカリスが拳を突き出して四人は背を向けてそれぞれの通路を進む。

 

 

 

 

 

 

“吾輩は猫である”の中央制御室のような場所に篠ノ之束はいて、目の前に四つのモニターがあり、そこにブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルを表示している。

 

「さてさて、楽しい楽しいショーの始まりだよ!箒ちゃん!」

 

後ろには何も言わずたたずんでいる篠ノ之箒の姿があるが、束の言葉に何の返事もしない。

 

箒は現在、操り人形同然、束の言葉に反応する事はないのに彼女は尋ねた。

 

「さてさて、どのくらい生き残るかな?束さんの予想だと一人かなぁ・・・・ま、いっくんにはこっちにきてもらうし、他の三人は命落としてもらうつもりだけれど、どうなるかな?」

 

それと同時に束は操作して“二人”に待ち受ける駒を起動させた。

 

「さ、キミも準備するんだよ?望みを手にしたければ・・・・ね」

 

「・・・・わかってる」

 

離れた所で様子を見ていたシャルロットは頷いて部屋を出て行く。

 

「一つ、聞きたいんだけれど」

 

「なにかな?」

 

出口で立ち止まってシャルロットは束に、否、束になりきっている相手に尋ねた。

 

「どうして、統制者なんて、いっているの?」

 

「んー、キミなんかに話すつもりはなかったけれど・・・・その方が盛り上がると思わない?」

 

「というよりも、怖かったんじゃないの」

 

「何が言いたいのかな?」

 

シャルロットの言葉に束の顔から笑みが消えた。

 

「別に・・・・いってくる」

 

言葉を濁して彼女は部屋から出て行く。

 

束は舌打ちをして指示を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

通路を抜けた先、レンゲルは機械の中央部分に設置されているカテゴリーKのプライムベスタを見つける。

 

「・・・・嶋さん」

 

いつの間に嶋が封印されたのかはわからない。

 

封印されたものを助け出す手段をレンゲルは持っている。

 

だが、それよりも。

 

「・・・・ランス」

 

目の前にいるライダー。

 

それはかつて橘朔也が製作した新世代ライダーと呼ばれる三体の一体だ。

 

レンゲルと同じ槍を構えているランスを睨みながらもレンゲルラウザーを構える。

 

ランスは地面を蹴って接近した。

 

冷静にレンゲルラウザーを振るって、振るわれる槍をさばく。

 

的確な攻撃、けれど、レンゲルは仮面の中で疑問を抱いていた。

 

「(動きが機械的過ぎる)」

 

確かにランスの動きは的確で、隙がないように見える。

 

だが、その動きはあまりにも的確すぎて、レンゲルにはロボットと戦っているような気分だった。

 

「だったら・・・・」

 

繰り出された槍を避けて、詰め寄る。

 

わき腹に向けてレンゲルラウザーを振るう。

 

攻撃を受けたランスは仰け反りながらカードをランスラウザーにラウズしようとする。

 

「遅いよ」

 

『ブリザード』

 

ラウザーから冷気が放たれてランスの両足が凍りついた。

 

『マイティ』

 

インパクトスタッブを放とうとしたランスの足が固まり、技が失敗する。

 

『ラッシュ』

 

『ブリザード』

 

『ブリザードゲイル』

 

冷気を放ち、レンゲルがキックを放つ。

 

攻撃を受けたランスは爆発を起こして地面に倒れる。

 

「・・・・嶋さん、すぐに解放します」

 

レンゲルは機械のほうを見てラウザーにプライムベスタをラウズしようとした瞬間、リモートのカードがランスのほうに向かい、吸い込まれてしまう。

 

「え!?」

 

驚いたレンゲルが振り返った瞬間、鋭い爪がアーマーを貫いた。

 

「うっ・・・・ぁ・・・・」

 

爪は背中に貫通して周囲に血を飛び散らす。

 

「あ・・・・が・・・・」

 

ランスバックルが壊れて、そこから現れたのはアンデッドのような異形だった。

 

至近距離で両肩から炎が放たれ、レンゲルは爆発を起こし、壁に叩きつけられる。

 

地面を背にして崩れ落ちた途端、変身が解除されて、簪に戻った。

 

肉体にもダメージが蓄積されて、メガネ型のバイザーに亀裂が入っていた。

 

赤い液体がIS学園の制服を染めていく。

 

簪に不意打ちをした“ケルベロスⅢ”は唸り声を上げた。

 

 

 

 

 

富樫始が広い通路を抜けると、カテゴリーKのプライムベスタが視界に入る。

 

そして。

 

「始・・・・」

 

「ここで待っていたというわけか」

 

眉間に皺を寄せてこっちをみているシャルロットを見つけた。

 

「考えを改めるつもりはない?」

 

「ないね」

 

シャルロットの言葉を始は一蹴する。

 

「何度も言うが、あいつの言葉どおりに従って、この世界ぐちゃぐちゃにするくらいなら俺は自分の命を捨てるね」

 

「どうして、どうして、そこまで自分を蔑ろにするのさ!」

 

「大勢の命と自分の命なら、大勢の命だろう」

 

「・・・・大切な人を悲しませる事になっても?」

 

シャルロットの問いに始は少し止まる。

 

「・・・・・・・・あぁ」

 

小さい声で始は答えた。

 

「・・・・そう」

 

シャルロットはグレイブバックルを装着して、グレイブへ変身して攻撃を仕掛ける。

 

振るわれた刃を避けてカリスになるとカリスアローのソードボウで拮抗した。

 

「やっぱり、納得できない。始を犠牲にして終わるなんて、私は嫌だ!」

 

「だから、統制者気取りの甘言にのせられて、人間を捨てようっていうのか!」

 

シャルロットがグレイブとして戦っていたとき、微かだが、自分と同じ気配を始は感じ取っていた。

 

「ジョーカーの因子を体に埋め込んで俺と同じように怪物になるっていうのか!」

 

カリスの叫びにグレイブはこたえない。

 

「認めないぞ!俺はそんなことを認めない!お前みたいないい奴が化け物になって苦しい思いをするなんてことは絶対に認めない!」

 

「っ!それでも!私は大好きな始に生きていて欲しいんだ!」

 

「誰かに歪な命を与えられても俺は生きていたくねぇ!」

 

シャルロットは愛しい人に歪な命でもいいから生きて欲しいと願う。

 

始は最愛の人が化け物になってまで助けて欲しいとは思わない。そうなるなら命を捨てる。

 

互いを想いあっているのに、気持ちが重なっていなかった。

 

カリスは叫ぶと同時に横薙ぎにソードボウを振るう。

 

グレイブバックルに傷が入る。

 

「シャル!」

 

カリスは叫び、グレイブを引き寄せた。

 

「どうして、どうして、自分の命を捨てられるのさ!生きていて欲しいのに!」

 

何故、とシャルロットは問いかける。好きだから、愛しているからこそ生きて欲しい、共に生きたいと思うのに彼はそれを選ぼうとしない。それが嫌だった。

 

「捨てられるわけねぇだろーが!!」

 

腹の底から叫ぶ。

 

今まで心の奥深くに仕舞いこんでいた感情が爆発する。

 

「命を捨てられる?自分を蔑ろにする?俺は聖人みたいに綺麗な心持っているわけじゃない。強いようにみせているだけ。ハリボテをだしているだけだ」

 

グレイブは気づいた。

 

カリスの手が、始の手は震えている。

 

注視しないと気づかないが震えていた。何かに怯えているかのようにみえる。

 

微かな震えにグレイブは動揺した。

 

「どうして、なんで・・・・素直にいわないのさ!」

 

「いえるかよ・・・・そんなこと!」

 

鍔迫り合いを続けながら二人は叫ぶ。

 

相手を倒すから相手に訴えあうように叫んでいた。

 

「始は天邪鬼すぎるんだ!だから!わからないんだ!」

 

「天邪鬼上等!なんといわれてもこのスタイルを変えるつもりはない!」

 

二人は距離を置く。

 

「真剣な戦いのはずなのに、なんでこんなふざけた空気になっているの?」

 

「知るかよ」

 

「私は、始を死なせたくない」

 

「誰かを犠牲にしてまで俺は生きていたくないしシャルに化け物になって欲しくねぇ」

 

「お互い譲らないね」

 

「男なら殴って決着つけるところだが」

 

「女だからって差別しないでよ。怒らせると女性の方が怖いんだから」

 

「はっ!」

 

カリスとグレイブは同時に地面を蹴る。

 

『マイティ』

 

『スピニングウェーブ』

 

グラビティスラッシュとスピニングウェーブがぶつかり合う。

 

刃と剣拳がぶつかり衝撃が巻き起こる。

 

両者の位置が入れ替わった。

 

グレイブバックルに大きな亀裂が入り、ラウザーが弾き飛ばされて地面に落ちた。

 

カリスはゆっくりと振り返る。

 

「負け・・・・たくない。私は始を失いたく、ないんだ!」

 

グレイブラウザーを構えて、シャルロットは仮面の中で叫ぶ。

 

シャルロットにとって始は失いたくない存在だ。

 

閉鎖的な自分の世界を壊してくれた最愛の人。

 

そんな人を失ってまで、世界に生きていたくはない。

 

シャルロットの感情(こころ)は爆発した。

 

「嫌だ!嫌だ!絶対に」

 

「・・・・いい加減にしろ!」

 

変身を解除して始はグレイブの顔を殴り飛ばす。

 

仮面が揺れただけで大きな痛みはない。むしろ、痛みを感じるのは始のほうだ。

 

殴った手から血が流れている。

 

それをみて、痛みを感じた。

 

体に攻撃を受けたわけじゃないのに、シャルロットの何かが傷んだ。

 

「あれ・・・・なんで」

 

ぽろぽろ、と涙が零れ落ちる。

 

涙を拭おうとするが仮面が邪魔で止まらない。

 

「私、私は・・・・」

 

始はため息を吐いて、シャルロットに触れようとした瞬間。

 

刃が始とシャルロットの心臓を抉り取る。

 

「なっ・・・・!?」

 

――何が起こった!

 

驚愕に染まりながら始は襲撃者を睨む。

 

立っていたのはアンデッドのような異形、ケルベロスⅣだ。

 

ケルベロスⅣの手にはシャルロットが地面に落としたグレイブラウザーが握られており、それが二人の体を貫いている。

 

いつの間に、現れたのか。

 

まるで気配を感じなったことに始は戸惑う。

 

ケルベロスは刃を深く突き立てる。

 

始はそれを止めようと刃を押し戻そうとするが背を向けていることから戻せない。

 

深く突き刺さって、変身が解除されたシャルロットは血を吐く。

 

「はじ・・・・め」

 

「シャル・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャレンは狭い通路をゆっくりと進んでいく。

 

仮面の中で呼吸を整えつつ考えていた。

 

「(かなりの距離があるみたいだが、どのぐらいあるんだよ?)」

 

ギャレンラウザーをいつでもホルダーから抜けるようにしながら通路を進む。

 

しばらくして広い空間に辿り着いた。

 

ギャレンは見つけた。

 

奥の機械の中央、そこにダイヤスートのカテゴリーKが設置されている。

 

そして、カテゴリーKを守るようにギャレンとは異なるデザインのライダーがボウガン手に持ち、立ちはだかった。

 

「(・・・・ラルク)」

 

亡き烏丸の後を継いだ橘が考え、開発にこぎつけた新世代ライダーシステムの一つ、ラルク。

 

それがギャレンの前にいる。

 

ラルクは敵を認識すると顔を上げてラルクラウザーで攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちっ!」

 

ギャレンはホルダーからギャレンラウザーを抜いて、飛来する攻撃を避けながら反撃を仕掛ける。

 

ギャレンラウザーから光弾を放つがラルクは華麗に避けた。

 

「そこだ!」

 

地面に着地した所をギャレンラウザーで発砲、光弾を避けられずラルクの装甲に連続して火花を散らす。

 

光弾を撃ち、仰け反るラルクをみながらギャレンはオープントレイを展開してプライムベスタを二枚取り出す。

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『バーニングスマッシュ』

 

「うぉおらぁ!」

 

炎を纏った蹴りを放つ、仰け反っていたラルクは対応できない、そう思っていた。

 

『マイティ』

 

「っ、ぁぁぁ!」

 

ラルクは冷静にラルクラウザーにマイティのカードをラウズしてレイバレットを放つ。

 

光矢がギャレンのアーマーを貫く。

 

「ぐがっ!?」

 

火花を散らして、ギャレンは地面に倒れた。

 

「く・・・・そ」

 

ふらふらと起き上がったギャレンに向けてラルクは光矢を撃ち続けた。

 

連続してアーマーに攻撃を受けて、ギャレンはダメージを受ける。

 

「ぐ・・・・・・がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

バチバチと連続して爆発を起こし、膝を地面につけた。

 

「ぐ・・・・このまま、終わってたまるか!」

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

「俺は帰るんだ!みんなと!」

 

孔雀の紋章がアーマーに装着され、ギャレンはジャックフォームへとなる。

 

ディアマンテエッジが付与されたギャレンラウザーを構え、背中のオリハルコンウィングを展開し低空飛行しラルクに接近した。

 

ラルクは冷静にラルクラウザーから光矢を放つ。

 

ギャレンは上昇し矢を避ける。

 

プライムベスタをラウズして、一気にラルクへ接近した。

 

接近するギャレンに対して、ラルクがハイキックを繰り出す。体を捻ることで回避して、ディアマンテエッジが付与された刃をラルクに突き出し、空中に上昇して炎を纏った光弾を連発する。

 

『バーニングショット』を受けたラルクは爆発して炎に包まれ、地面に落ちた。

 

動かなくなったラルクを確認してギャレンジャックフォームは機械に設置されているカテゴリーKに近づいて、取り出そうとする。

 

機械に手を伸ばした瞬間、ギャレンがぴたり、と動きを止めた。

 

「・・・・な・・・・」

 

苦悶の声を漏らし、ゆっくりと下へ視線を向ける。

 

アーマーの胸部から腕が伸びていた。

 

その腕は人間のものではない、化け物の腕だ。

 

血に染まった腕をみて、後ろを振り返る。

 

倒したはずのラルクが立っていた。

 

「なん・・・・で」

 

――動いている!?

 

ギャレンが動揺していると亀裂の入っているラルクの仮面の中が見えた。

 

「なっ!?」

 

白い骸骨のような顔に一つ目。

 

トライアルBがラルクの正体だった。

 

血まみれの手を引き抜いて、ギャレンを投げ飛ばす。

 

投げ飛ばされたギャレンは仮面の中で吐血しながらふらふらと起き上がりギャレンラウザーを構えようとする。

 

だが、トライアルBはラルクラウザーを構えて、ギャレンに攻撃する。

 

いくつもの光矢を受けてギャレンラウザーを地面に落としてしまう。

 

『マイティ』

 

ラルクラウザーにカードをラウズする。

 

レイバレットがギャレンの体を貫いた。

 

「・・・・ぐ・・・・か・・・・え・・・・る・・・・」

 

口からさらに吐血、

 

変身が解除されて、弾は地面に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドが抜けると、そこには紅椿を纏った篠ノ之箒が待ち構えていた。

 

「箒!」

 

瞬時加速を使い、箒は間合いを詰める。

 

空裂をブレイラウザーで受け止めた。

 

刃同士がぶつかる。

 

「箒ぃ!」

 

「無駄だよ。いっくん」

 

押し戻してブレイドは距離を置く。

 

室内に束の声が木霊する。

 

「束・・・・さん!」

 

「箒ちゃんを元に戻したかったら紅椿を倒すしか方法はないよ?そうしないと戻せないように設定してる」

 

「くそっ!」

 

悪態をつき、接近する箒から距離をとり続ける。

 

ブレイドの力だけでは紅椿を倒す事なんて不可能だ。

 

ISを倒すにはISしかない。

 

変身を解除して、一夏は白式を纏う。

 

雪片弐型を構えて、接近してくる紅椿とぶつかる。

 

相手が二刀流なのに対してこっちは刀一本。

 

紅椿の性能は白式より上だといえる。

 

そんな箒に勝てるか?という疑問が浮き上がった。

 

「(考えるのは後回しだ!箒を助ける。それだけを考えろ!!)」

 

雪片弐型を構えて瞬時加速で箒に間合いを詰めようとすると展開装甲が襲い掛かってくる。

 

迫る刃を避けながら紅椿の間合いに入り込む。

 

「っ!」

 

入った途端、神速と錯覚するほどの雨月と空裂が繰りだされた。雪片弐型の刃で受け止めるが、一撃を貰い、白式の翼に傷が入る。

 

「ぐっ(強い!)」

 

箒の強さに一夏は舌を巻いた。

 

何度もIS学園で模擬戦をしてきて、箒の強さはわかっていたつもりだった。

 

だが、今戦っている箒は学園で戦った彼女とは別人のような強さを持っていた。

 

雪片弐型を振るえば、受け流され、片方の刃で反撃され、雨月を受け流したら空裂が襲い掛かる。

 

別人のような動きに一夏は苦戦していた。

 

「(どうする?雪羅でも使うか?でも、アレを使えばエネルギーが残り少なくなってしまう)」

 

思考の海に沈んだ隙をつくように瞬時加速を使って、箒が攻め込む。

 

「(しまった!・・・・避けられ)」

 

刃が当たり、白式を纏った一夏は地面に叩きつけられる。

 

倒れた一夏に箒は足を乗せて地面に押し付けた。

 

起き上がろうとする一夏へ無情にも刃を叩きつける。

 

白式のシールドエネルギーが減っていく中、打開できる手段を一夏は考えた。

 

零落白夜、雪片弐型、雪羅。

 

これらを使えば箒を倒せるだろう。

 

だが――。

 

奥の手を使うことに一夏は抵抗がある。

 

一撃必殺を使うことに何故か、抵抗感があるのだ。

 

悩んでいる一夏の頬に水滴が落ちた。

 

「・・・・ぇ?」

 

目を動かして、落ちてきた方を見る。

 

「・・・・箒」

 

情け容赦なく攻撃をしている箒の瞳から涙が零れていた。

 

表情に変化はない。

 

泣いている。

 

だが、涙は流れている。

 

それを見た、一夏の中で何かが燃えた。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」

 

何かを形にするように叫んだ一夏は雪羅を使って振り下ろそうとしていた雨月を弾き飛ばす。

 

色々と考えるのは後にする。

 

とにかく、動く!

 

――幼馴染が、大切な仲間が泣いているんだ。

 

――メリットは後に考える!

 

雪片弐型を紅椿に振るい、距離を置いて、一夏は白式を解除する。

 

「箒・・・・すぐに助けてやるからな」

 

ブレイバックルを装着して、一夏は腕のブレスレットへ視線を向けた。

 

「(原理はわかっていない。うまくいく保証もない。でも・・・・俺は箒を助けたいんだ。泣いているアイツを救う為に力が必要なんだ・・・・だから)」

 

ターンアップハンドルを引いてオリハルコンエレメントを潜り抜ける。

 

「俺の気持ち(おもい)に応えてくれ、白式ぃ!」

 

ブレイドへ変身すると同時に背中、各部に白式の装甲を纏い、紅椿とぶつかり合う。

 

落ちた雨月を回収して振るわれる二刀流とブレイラウザーと雪片弐型の二刀流の剣戟がぶつかる。

 

シールドエネルギーが残り僅かしかないはずの白式は不利、になると思えた。だが、現実は違う。

 

紅椿を圧倒していた。

 

紅椿がソードエネルギーを使おうとするのをみて、ブレイラウザーのオープントレイを展開しプライムベスタをラウズし強力な攻撃を叩き込む。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『ライトニングブラスト』

 

雷撃を纏ったキックが紅椿の展開装甲を破壊する。

 

「そこだぁ!」

 

雪片弐型をレーザー刀へと変形させて、紅椿に振るう。

 

「戻れ!箒いぃ!」

 

レーザー刀が紅椿のシールドエネルギーを刈り取り、0になる。

 

白式のエネルギーも0になり、白式が解除された。

 

「箒――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は真っ暗な闇の中にいた。

 

アリーナで訓練に励んでいた時に歌のようなものが聞こえたのだ。

 

誰かが音楽でも流しているのかと視線を動かすが誰もそんなことをしていない。

 

――では、なんなのか?

 

視線を動かしていると、それは紅椿の中から聞こえている事に気づいた箒はシステムを操作して原因を探ろうとした。

 

そして、ある項目が箒の前に表示された。

 

『子守唄』と現れたそれを見た箒は突如、闇の中に消える。

 

それから、ずっと闇の中にいた。

 

どれだけ声を枯らそうと。

 

駄々をこねる子どもみたいに暴れてみても。その闇から脱出する事はできなかった。

 

闇といっても、体の所在が確認できなくなるほど暗いわけではない。

 

自分の存在だけを認識できる事が苦痛だった。

 

闇の世界に一人だけ、

 

箒は独りぼっちでいることが苦痛だった。

 

ISが普及され、家族と引き離されて独りでの生活。

 

各地を転々と移動していたために心許せる友達もできない。

 

――孤独。

 

理解者もいない、心休める場所もない。

 

人間にとって孤独と休める場所がないということは苦痛でしかなかった。

 

そんな箒にとって唯一の救済といえたのが幼馴染の一夏達との思い出。

 

バカみたいに明るくて優しい一夏。

 

悪人みたいな笑みを浮かべながら自分達をからかう始。

 

そんな二人と一緒の、短い間の記憶が箒を孤独から救い、唯一の繋がりと言える剣道に打ち込んだ。

 

しばらくして、一夏がISを動かした事がわかり、箒は再会できると喜んだ。

 

それからの時間は苦もあれば楽しい時間の方が多かった。

 

一夏と始だけだったのに、IS学園にて心許せる友達ができる。

 

セシリア。

 

鈴音。

 

ラウラ、

 

簪、

 

シャルロット、

 

彼女達と触れて、幸せだと箒は思った。

 

だからこそ、余計にこの闇の世界で孤独なのが箒の心を蝕んでいた。

 

「誰も・・・・いない」

 

――また、独りぼっち。

 

闇の世界は、幼馴染も、友達もいない。

 

昔よりも孤独に怖れた。

 

「一夏・・・・」

 

箒が呟いたのは幼馴染であり、愛しい人。

 

いつから愛しいと思えるようになったのかわからない。

 

自覚したのは小学生の頃、その想いがより深くなったのは始とのゴタゴタが終わった後だ。

 

小学生の頃よりも再会した一夏は強くなっていた。

 

心も、技も、強くなっていた。

 

「助けてくれ・・・・」

 

言葉にしてしまったから余計に孤独が、目の前の闇に震えて体を縮こめる。

 

涙が零れる。箒にとって涙を流す事は負けだと思って、どんなことがあっても泣かなかった。

 

けれど、箒の心は限界だった。

 

――怖い。

 

――独りは嫌だ。

 

――もうあんなの味わいたくない。

 

抱きしめて丸まった箒の前に光がさした。

 

とても暖かい。

 

箒は顔を上げる。

 

白い光が闇を消し去っていく。

 

その先に、いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――篠ノ之箒が目を開けると、体から血を流して鎌の刃に貫かれている一夏と歪んだ笑みを浮かべている篠ノ之束の姿がそこにあった。

 

 

「一夏ぁぁぁぁ!」

 

「ん、目が覚めたのか」

 

箒の悲鳴に気づいた束は白い鎌から一夏を引き抜くと地面に投げ捨てる。

 

音を立てて地面に倒れる一夏の体から血が広がった。

 

箒は疲労も忘れて駆け寄り、一夏の体を揺らす。

 

「一夏!一夏、しっかりしてくれ、おい!」

 

「無駄だ。心臓を貫いたから少ししたら死ぬだろう。ISのシールドエネルギーもないから白騎士の治癒システムが起動することもない」

 

「なんで、なんでこんなことを!姉さん!」

 

「・・・・そういえば、まだこのままだったな」

 

束が笑うと周囲に霧が漂い始める。

 

突然の霧に箒が戸惑っていると、どさりと音を立てて束が地面に倒れた。

 

倒れた束の場所に蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている白い異形が立っている。

 

「誰だ・・・・お前は!なんで、姉さんの体から」

 

突然の事に箒は動揺して声が出ない。

 

『少し長い話になるが・・・・まぁ、作業をしながらでいいか』

 

異形は一夏から奪い取ったカテゴリーKを機械に設置する。

 

設置した機械が稼動するのを確認しながらくぐもった声をだす。

 

『さて、どうして、俺がなんなのか・・・・、それは数年前の話しにある』

 

最強の力を手に入れた異形は次の瞬間には体を失った。

 

辛うじて残っていたのは頭だけ。

 

不死身ゆえに死ぬ事はない。

 

だが、このままでは死んだも同然といえる。

 

その中で異形は近くの人間に憑依することに成功した。

 

憑依した体は偶然にも人間とは思えないほどの頭脳を持っていた。

 

コイツを使えば肉体を取り戻せると考えた異形は様々な計画を練り始める。

 

肉体を取り戻すためにはもう一度、バトルファイトを行わないといけない。あの力を起動させるにはそれしかないのだ。

 

計画を練る過程で異形は統制者と遭遇する。

 

統制者は異形に賛同して計画を協力した。

 

統制者という後ろ盾を得た異形の計画はとんとん拍子に進んだ。その中で異形は密かに統制者の意思を排除し力を掌握する事に重点を置いた。

 

計画に同意した統制者と唯一意見が食い違ったものがある。

 

“ライダー”という存在だ。

 

統制者はライダーを加入させる事を望んだ。異形はライダーの加入を拒んだ。

 

失われたジョーカーの力を人間の間に流出させて、統制者は新たなジョーカーを誕生させるきっかけを作っていた。

 

この意見の食い違いから異形は統制者の力だけを手に入れることだけを決めた。

 

異形は統制者にウィルスを仕込んだ。

 

うまくいくかは五分五分だったが、成功した。

 

力だけを手に入れ、疑似統制者となった異形はバトルファイトをはじめる。

 

バトルファイトにおいて、やはり、というべきなのか、ライダーも姿を見せた。

 

その中で、ライダーにファイトを終わらせる事を考え、最後に徹底的に潰すことにする。

 

運が良かったのはライダーが異形を倒した者たちではないということだ、人間は脆い。

 

あの闘いの後遺症でアンデッドの力を使うことが出来なかった。

 

奴らを比べれば今のライダーは弱い。

 

だが、油断は出来ない。異形は体の殆どを失っている。戦えば負けるのは目に見えている。

不利だからこそ、異形は憑依している体を本格的に乗っ取ることにした。

 

憑依していた人間は少し抵抗を見せたが無事に奪い取り、裏で暗躍しはじめる。

 

『そして、計画は成功し、俺は体を取り戻す!』

 

機械が作動して四枚のカテゴリーKから放たれるエネルギーが異形に集っていく。

 

エネルギーがおさまるとそこにはジョーカーが立っていた。

 

ただ、前に箒がみたジョーカーとは大きく異なる。

 

始がなったジョーカーを剛と例えるなら目の前の白いジョーカーは柔。

 

緑の部分が赤紫に近い色など差異がある。

 

ジョーカー、アルビノジョーカーは自分の体を触り不敵に笑う。

 

「体を取り戻した・・・・この世界の終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は終わる。




最終回予告


あの人のようになりたいと思った。

誰かを守る為の力を望んだ。

友を助けたいと思った。

誰かの為に戦い続けると誓った。

そして、俺は――。







最終章 Ⅲ部 仮面ライダーブレイド





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第四十三話

ついに、ここまできました。

王道展開ばっかりで、人によっては不満があるかもしれません。

では、最終章 Ⅲ部 仮面ライダーブレイド、スタートです。


 

 

アルビノジョーカーが復活し、アルビローチたちはさっきよりも活発に動いていた。

 

事実を知らないがアルビローチの活発が激しくなったことに橘朔也は舌打ちする。

 

「山田先生、二時の方向、狙撃お願いします」

 

「はい!」

 

スナイパーライフルを構えている山田真耶に指示をだし、生徒に襲い掛かろうとしているアルビローチを狙撃する。

 

IS学園では大量のアルビローチが現れていた。

 

篠ノ之束によってISが使用不可能となった現在、教師達は訓練でしか使用していなかった火器を用いて防戦体勢を強いている。

 

中でも打鉄の戦艦刀を持って奮闘している千冬と剣崎のおかげで被害は少ない。

 

そう、少ない。

 

アルビローチによって生徒の中で何人か怪我をした者がいる。

 

誰もが絶望する中で、橘はあきらめていなかった。

 

「弾、信じているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣崎!」

 

「はい!」

 

千冬の言葉に戦艦刀でアルビローチをなぎ払う。

 

「はじめて使うにしては中々の腕だな」

 

「重たいな。これ」

 

戦艦刀をアルビローチに叩きつけて二人は距離をとる。

 

ISは使えない。

 

だが、粒子変換していない武装を使うことは出来た。

 

限られたものだが、剣崎と千冬は刀を持ってアルビローチと戦っている。

 

倒す事はできないが少しでも時間を稼ぐ。

 

「・・・・一夏が全てを解決するまで!」

 

「(一夏君ならきっとやれる・・・・だって、アイツは俺の)」

 

――ブレイドを継いだ者だから。

 

だから、剣崎たちはアルビローチの数の多さに臆すことなく戦い続ける。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、ドンドンきているよ」

 

「口動かさないで手を動かしなさい!」

 

虎太郎、広瀬、睦月たちは楯無達、生徒の協力を得てアルビローチが侵入してこないようにバリケードを作っていた。

 

表で剣崎や千冬達が戦っているがどこから侵入してくるかわからない。

 

彼らが知らないところで襲われる人がでないように、ここでも戦っていた。

 

「ラウラちゃん、そっちは大丈夫?」

 

「問題ない。五分いないに医務室のセシリア達も運び込まれる」

 

渡り廊下で楯無とラウラが警護を努め、医務室で休んでいるセシリア達の移動を手伝っていた。

 

「申し訳ありません」

 

「気にしない、気にしないの!」

 

「二人とも大丈夫~?」

 

「ありがとう、大丈夫よ」

 

「うむ、友を守るのは当然の事だ」

 

鈴音達にラウラは微笑み、空を見る。

 

分厚い雲によって太陽は隠され、闇色の雲が空を隠していた。

 

「(一夏、私達は信じているぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間達の奮闘を一夏は見ていた。

 

誰もいない海岸、波の音が静かに響いている。

 

そして、澄み切った空に、橘が、山田先生が、虎太郎が、広瀬が、睦月が、楯無が、本音が、セシリアが、鈴音が、ラウラが、千冬が、剣崎が―。

 

自分達を信じて戦っている者たちの姿がそこに映されている。

 

「・・・・ずっと、不安を抱えていたのかもしれない」

 

一夏は後ろにいる白い騎士に言う。

 

「ISを動かして世界で唯一の男子と騒がれて、もしかしたら余計な混乱を引き起こしているのかもしれない、って、もっといったら始のことも気づいていたのに、気づかない振りをしていたかもしれない。

 多くの皆に迷惑をかけたかもしれないという気持ちがどっかにあったのかもしれない。でも、それをみんなに悟られたくなくてずっと、ずっと、心の底に仕舞いこんでいたんだと思う」

 

「貴方は、どうして力を望んだの?」

 

白い騎士は静かに問う。

 

――どうして、力を求めたのか、その理由を、問う。

 

「最初は憧れだった。俺を助けてくれたあの人みたいになりたいって、あんな風に誰かを守れる力が欲しいって思った。それで、我武者羅に訓練に励んでライダーになった。でも」

 

そこからが大変だった、と一夏はもらす。

 

「戦いは子どもが思い描くようなものじゃない。汚い事もあれば、全員に理解してもらえる事もない。他者と理解しあう事も難しい」

 

一夏が思い出すのは始を一度、助けられずジョーカーへと至らせた事、ライダーを敵視してネットで叩いた連中の事だ。

 

「そんな人達を貴方は守りたいとまだ思う?」

 

「思う」

 

騎士の言葉に一夏は答える。

 

「何百回、何千回、戦って、誰にも理解されなくても、俺の手で誰かが、その人達が笑っていられるのなら俺はそれでいい・・・・それだけでいいんだ」

 

「そんな貴方を支えようとしている人がいる」

 

海岸に声が響き渡る。

 

それは今にも消えそうだ。けれど、一夏ははっきりと聞き取れた。

 

「箒・・・・セシリア、鈴、ラウラ・・・・」

 

「彼女達は貴方が帰ってくる事を望んでいる。その人たちだけを守るだけではダメ、なの?」

 

「・・・・それじゃあ、幸せになるのは俺だけだ」

 

震える声で一夏は答えた。

 

「自分だけが幸せになるのは簡単だ。でも、俺が持っている力はそういうためにあるものじゃない。作られた理由はあったのかもしれない。でも、俺は!」

 

拳を握り締めて一夏は騎士を見据える。

 

「この力を自分のためだけじゃなく大勢の人のために使いたい」

 

「すべての人を救えると思う?」

 

「わからない、でも、俺は助けられるなら助けたい。エゴだといわれても曲げない。俺は・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――仮面ライダーなのだから!と一夏は叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

――都市伝説で語り継がれている仮面ライダーは人を守る為だけにその拳を振るうといわれている。

 

自分の知らない誰かの為に拳を振るうヒーローになれるかはわからない。

 

だが、一夏の決意は固かった。

 

「俺は、これからも人を守る。仲間を守りたい。そのために力が要るっていうのなら俺は迷わずに使う。みんなを守れるなら、それでいい!」

 

「・・・・貴方に力を与えたのは間違いかもしれないしそうでないのかもしれない」

 

騎士の言葉が遠のいていく。

 

ソレと同時に一夏の意識も段々と薄れる。

 

「どうなるのか見定める。だから、戦いなさい」

 

一夏の意識はそこで落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、長話が過ぎた。キミ達もそこに転がっているヤツと同じ運命を辿ってもらおうか」

 

アルビノジョーカーの言葉に箒は血まみれの一夏を抱き寄せる。

 

「来るな!お前に、これ以上やらせない!」

 

「お前に何が出来る?仲間を傷つけるだけしかできないお前に」

 

「私が友達を傷つけた事実は変わらない。でも“これから”はわからない。私はこれからのために剣を振るう!」

 

瞬時加速を使って箒はアルビノジョーカーに空裂と雨月を繰り出す。

 

「遅い」

 

アルビノジョーカーが鎌を振るうだけで、二本の刀はあっさりと折れてしまう。

 

腹部を蹴られ、くぐもった声をあげた箒のポニーテールをアルビノジョーカーは掴む。

 

「これから?お前たちにこれからは存在しない!俺の手によって全てを滅ぼされる。どう足掻いてもお前たちに待っているのは“死”だけだ」

 

箒は否定しようと目の前のアルビノジョーカーを睨み、口を開こうとする。

 

しかし。

 

「・・・・違う・・・・よ」

 

反論したのはとてもか細い声。

 

だが、一人と一体は届いた。

 

箒は驚き、アルビノジョーカーはゆっくりと視線を向ける。

 

「姉さん・・・・?」

 

意識を取り戻したのか篠ノ之束は焦点が定まっていない目で二人を見た。

 

「箒、ちゃん・・・・紅椿・・・・の・・・・ワン・・・・・アビリティー・・・・いっくん・・・・に」

 

「え?」

 

「はや・・・・く」

 

「ちっ!」

 

束の言葉と同時に紅椿から絢爛舞踏が使用できます、と表示される。

 

アルビノジョーカーは舌打ちして鎌で箒を殺そうと振り上げた。

 

それよりも早く、箒は折れた刃を掴んで、アルビノジョーカーが掴んでいる髪を乱暴に斬りおとす。

 

髪を切った拍子にバランスを崩したアルビノジョーカーを無視して箒は一夏に駆け寄る。

 

「一夏!・・・・一夏!」

 

叫びながら箒は紅椿のワンオフアビリティーを発動される。

 

紅椿から白式へエネルギーが渡っていく。

 

それと同時に地面にエネルギーが流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

更識簪は意識を取り戻す。

 

暖かい光を全身に浴びたような感覚と共に薄れていた意識が覚醒し、貫かれていた傷が癒えていた。

 

どうして、と疑問が浮かんだが。それよりもやることがあると体を起こす。

 

倒した相手が起き上がったことに気づいてケルベロスⅢが起動した。

 

「変身」

 

『オープン・アップ』

 

オリハルコンエレメントが通過して、簪はレンゲルへと変身する。

 

レンゲルラウザーを構えて、ケルベロスⅢ、ではなく壁の機械を壊して、そこからプライムベスタを取り出す。

 

「・・・・嶋さん、力を借ります」

 

レンゲルの目的に気づいたケルベロスⅢは地面を蹴り、拳を繰り出そうとする。

 

早く、腕のラウズアブゾーバーにプライムベスタをラウズした。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『エボリューション・キング』

 

ケルベロスⅢに取り込まれていたプライムベスタ、ラウズバンクに入っていたプライムベスタが飛び出し、レンゲルの体を覆う。

 

眩い光と同時にレンゲルのアーマーにディアマンテゴールドへと強化され、アンデッドクレスがブレイドと同じように付与される。

 

レンゲルラウザーと酷似するキングラウザーを展開し、ケルベロスⅢを突き飛ばす。

 

「・・・・これで、決める」

 

キングラウザーを振るい、ケルベロスⅢを倒した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・っ!」

 

始は銀の福音を展開してシルバーベルで機械を破壊する。

 

爆風にあおられて飛んでくるプライムベスタを掴む。

 

「シャル・・・・痛いだろうが、少し我慢しろ」

 

自分と彼女を貫いている刃を無理やり引き抜く。

 

赤い液体が混ざり合いながら地面に落ちるのを感じながら刃を抜いて、始はふらふらと倒れそうになるシャルロットを抱き寄せて床に寝かす。

 

「・・・・てめぇ、俺の女に傷つけやがって、ただじゃすまさねぇぞ」

 

『チェンジ』

 

カリスへと変身しプライムベスタをラウズする。

 

『エボリューション』

 

ワイルドカリスへと変身すると同時にケルベロスⅣにワイルドスラッシャーを振り下ろす。

 

攻撃を避けて、火炎弾などを放つ。

 

だが、ワイルドカリスは天井に逆さまに飛ぶようにして攻撃を避けて、疾走してワイルドスラッシャーでケルベロスⅣにダメージを与える。

 

カリスアローにワイルドスラッシャーを合体させ、ワイルドのカードをラウズした。

 

『ワイルド』

 

「吹き飛べ!」

 

ワイルドサイクロンに飲まれたケルベロスⅣは逃げる暇もなく濁流に飲まれて消滅する。

 

『スピリット』

 

変身を解除した始はふと、違和感に気づく。

 

「傷が塞がってるだぁ?」

 

グレイブラウザーで貫かれたはずの傷口が塞がって、さらにいうならば変身の後にやってきていた倦怠感と細胞が消滅するような感覚もない。

 

「まさか・・・・」

 

始は倒れているシャルロットに駆け寄り、服をめくる。

 

貫かれていた腹の部分の傷は綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「う・・・・ん、って、何やってるの始ぇ!?」

 

目を覚ましたシャルロットは始を殴ろうと手を伸ばすが、その手を掴んで、始はぐぃっ、と彼女を引き寄せて。

 

「むぐ!?」

 

――彼女とキスをした。

 

すぐに始は顔を離して真剣な表情になり。

 

「なにがあっても俺はお前を放したりしない。ずっと傍にいてもらうからな。覚悟しろ」

 

「え、え?」

 

困惑しているシャルロットを置いて始は優しく彼女を抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

弾は重傷のはずの自分が生きていることに驚いた。

 

さらにいうなら、貫かれていたはずの傷が消えている。

 

驚きが隠せなかったがそれよりも、と思考を切り替えた。

 

ギャレンへと変身する為にターンアップハンドルを引く。

 

オリハルコンエレメントに弾き飛ばされたラルクを無視してギャレンになると機械に向かってギャレンラウザーを向ける。

 

目的に気づいたラルクはラルクラウザーを放って、牽制してきた。

 

「くっ!」

 

転がるように光矢を避けて、ラルクにギャレンラウザーを発砲する。

 

残り少ないアーマーが壊れて、トライアルBの素顔がむき出しになった。

 

トライアルBはラルクラウザーを連射してギャレンを目的地へ向かう事を阻止する。

 

「先に、倒すしかないってことかよ!」

 

オープントレイを展開してプライムベスタをラウズする。

 

『ドロップ』

 

『ファイア』

 

『ジェミニ』

 

『バーニングディバイド』

 

分身したギャレンを見ながらラルクラウザーを放つ。

 

光矢が直撃しながらもギャレンは止まらず炎を纏った蹴りを繰り出す。

 

蹴りが肩に直撃して爆発を起こし、トライアルBは地面に倒れた。

 

ギャレンは機械をラウザーで破壊して、プライムベスタを取り出す。

 

同時に、復活したトライアルBが襲い掛かってくるのを冷静にみながらラウズアブゾーバーにプライムベスタをラウズする。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『エボリューション・キング』

 

ディアマンテゴールドが付与され、アンデッドクレスが刻まれたアーマーを纏い、ギャレンキングフォームはキングラウザーの銃口をトライアルBに向けた。

 

放たれた光の波がトライアルBに直撃し大爆発を起こす。

 

「ホント、何で無事なんだろ?」

 

原因がわからず、ギャレンは首をかしげることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒は折れた刀をアルビノジョーカーへ向ける。

 

その行為を笑いながらゆっくりと箒との距離を詰める。

 

「諦めろ、お前たちに残されているのは死だけだ。ここで俺に抵抗して無残に殺されるか安からに殺されるかのどちらからだ」

 

「うるさい!私は、お前なんかに屈するつもりはない!それに一夏がいる!」

 

「白騎士の能力で治ったとしてもこいつに何が出来る?死に損ないの命が余分に減るだけだ」

 

箒の目に諦めという感情は消えない。

 

アルビノジョーカーがどんな言葉を投げたとしても彼女は信じているのだ。

 

幼馴染が。

 

織斑一夏という男を。

 

自分が愛している男が立ち上がって目の前の敵を倒す。

 

だから、箒は絶望しない、屈したりしない。

 

昔のように怯えて震えるつもりもない。

 

そんな彼女の表情にアルビノジョーカーは苛立ち始める。

 

「なら・・・・死ね」

 

アルビノジョーカーが鎌を振り上げる。

 

折れた刀を構えて受け止めようとした瞬間。

 

『ターン・アップ』

 

音声が響き、黄金のオリハルコンエレメントによりアルビノジョーカーは反対側の壁に叩きつけられる。

 

「ぐっ・・・・」

 

くぐもった声をだしてアルビノジョーカーは顔を上げた。

 

瀕死の重傷だった織斑一夏が立っている。

 

黄金のオリハルコンエレメントが動いて彼の体を包み込んだ瞬間、スペードスート“全て”のプライムベスタがブレイドの体に吸い込まれるように溶け込み。ブレイドはキングフォームへと進化した。

 

「みんなの、声が聞こえた」

 

ブレイドはぽつり、と呟く。

 

キングラウザーの剣先をアルビノジョーカーへと向ける。

 

「みんなを守る為にも、お前にこの世界を滅ぼさせたりしない!」

 

「人間がほざくな!」

 

アルビノジョーカーを守るようにアルビローチ達が地面から現れる。

 

「人間だけれど、俺には戦う力がある」

 

ブレイドはキングラウザーを横一閃に振るう。

 

「俺は、仮面ライダー・・・・」

 

 

黄金の光を放った刃がアルビローチを一掃した。

 

「仮面ライダーブレイドだ!!」

 

「ちぃ!」

 

鎌の刃とキングラウザーの刃がぶつかり合う。

 

ブレイドとアルビノジョーカーは互いをにらみ合いながら神速でぶつかり始める。

 

 

 

 

 

箒は倒れて動かない篠ノ之束に近づく。

 

「姉さん」

 

「・・・・箒、ちゃん」

 

「無理して、喋らないでください」

 

束はかなり衰弱しているのか声に覇気がない。

 

箒は束を抱えてゆっくりと二人の戦いから遠ざけようとする。

 

しかし、そんな二人に別の所から現れたアルビローチが襲い掛かった。

 

「っ!」

 

姉を守ろうと覆いかぶさろうとした箒の前にワイルドカリスとレンゲル、ギャレンが現れ武器でアルビローチを一蹴する。

 

「大丈夫か?」

 

「始、みな、無事なのか」

 

「まぁ・・・・なんとか」

 

「一夏は?」

 

「あそこだ」

 

 

 

 

 

 

「ウェェェイ!!」

 

キングラウザーがアルビノジョーカーの鎌を地面に落とす。

 

アンデッドクレスの光を放つ拳をブレイドが放つ。

 

「ふざけるなぁぁぁ!」

 

アルビノジョーカーが叫んだ瞬間、背中から巨大な腕が複数現れてブレイドを突き飛ばす。

 

殴られたブレイドは壁にめり込む。

 

「ぐっ!」

 

壁から這い出たブレイドの前でアルビノジョーカーは巨大な異形へと姿を変えていく。

 

やがて、大邪神14へといたる。

 

14は巨大な腕を伸ばしてブレイドに襲い掛かった。

 

ブレイドは伸びてくる腕から逃げつつキングラウザーで反撃する。

 

しかし、14の腕の数の多さと速さにより、一本の腕に足が捕まり、そのまま体を壁叩きつけられる。

 

「このままなぶり殺しにしてやる!」

 

14と半ば融合した形のアルビノジョーカーは別の腕でブレイドの胴体を引きちぎろうと伸ばす。

 

『ワイルド』

 

突如、ワイルドサイクロンにより14の腕が千切れ飛ぶ。

 

「なに!?」

 

「何時まで遊んでいるんだ」

 

「始!?」

 

「俺だけじゃねぇぞ」

 

ブレイドを拘束している腕をレンゲルとギャレンが破壊する。

 

「弾!簪も、無事だったのか!」

 

「勝手に殺すな!・・・・まぁ、死んでいたような気がするんだけれど」

 

「無事に勝ってきた・・・・」

 

「・・・・あぁ!」

 

四人のライダーは14にそれぞれの武器を構える。

 

「ふざけるな、俺がお前たちに、お前たちに倒される事があってたまるかぁ!」

 

「残念ながら、これは現実だ」

 

「お前を倒して俺達は帰る!」

 

「みんなのところに!」

 

「これで・・・・終わりだ!」

 

最強形態になった四人のライダーはそれぞれの必殺技を放つ。

 

“全て”のアンデッドの力を宿した攻撃に14は成す術もなくその体が崩壊する。

 

巻き添えを食う前に脱出したアルビノジョーカーの前にブレイドが立つ。

 

「逃がさない。お前との決着はここでつける」

 

「俺が、俺がこんなところでぇぇぇ!」

 

『スペード10』

 

『スペードJ』

 

『スペードQ』

 

『スペードK』

 

『スペードA』

 

『ロイヤルストレートフラッシュ』

 

叫びながら光弾を放つアルビノジョーカーの前にギルドラウズカードが現れ、ブレイドはキングラウザーを構え、そのカードの中を突っ切る。

 

「ウェェェェェェイ!」

 

光弾を弾き飛ばし、キングラウザーの刃が袈裟切りに振るわれた。

 

一発の光弾がブレイドの横を通過する。

 

「こんな・・・・」

 

刃を避けられず、直撃を受けたアルビノジョーカーの体は爆発を起こす。

 

爆発で終わった、とブレイドが安堵した瞬間、アルビノジョーカーが煙の中から飛び掛る。

 

「コイツ!」

 

「終わって堪るか、俺が俺が!こんなところで終わって堪るかぁぁぁ!」

 

アルビノジョーカーの拳が何発もブレイドに直撃した。

 

体の血が殆どなく、意識がおぼつかない中、ブレイドは拳を握り締める。

 

「だぁぁぁぁぁ!いい加減に、しろぉ!」

 

アンデッドクレスが輝きを放ち、ブレイドの拳がアルビノジョーカーの腹部に直撃した。

 

ライオンビートの力が発動してアルビノジョーカーの体は今度こそ地に伏す。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

ワイルドブランクを取り出してアルビノジョーカーへ投げる。

 

カードが当たった瞬間、光の中に吸い込まれ、ワイルドベスタとなりブレイドの元に返ってきた。

 

その手の中には『JOKER』と書かれたカードがある。

 

瞬間、地面が揺れだす。

 

「なんだ!」

 

「地震?」

 

「違う、この建物が倒壊を始めやがった!」

 

「脱出しないと!」

 

ブレイドたちはオート操縦のバイクの迎えを受ける。

 

束をギャレンのレッドランバス。シャルロットはワイルドカリスのシャドーチェイサーへ、箒をブルースペイダーの後ろに乗せ、四人のライダーは施設内を全力で疾走した。

 

四人のライダーの戦闘で研究施設の支柱のほとんどが倒壊していたらしく、さっきの一撃が決め手となり、施設は崩壊を起こす。

 

ライダー達が安全圏へ脱出したのはそれから五分強の時間が経過してからだ。

 

海に沈んでいく研究所をみながら、ライダー達はゆっくりと変身を解除する。

 

「・・・・あれ?」

 

「なんか・・・・」

 

「そりゃ」

 

「・・・・疲れた」

 

一夏、始、弾、簪の四人はそういうと地面に崩れ落ちる。

 

「い、一夏!?」

 

「始!!」

 

箒とシャルロットの二人が倒れた四人に近づくと、鼾をかいて眠っている姿があった。

 

しまりは悪いが長い戦いは終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからのことを語ろうと思う。

 

激戦を終えた自分達が目を覚ましたのはそれからなんと三週間後だった。

 

BOARDの医師たちによればこのまま永遠に眠ったままなのでは?という結論がでかけた時だったのでタイミングの良い事この上ないだろう。

 

目を覚ました時に見たのは泣いている千冬姉や箒、セシリア、鈴音、ラウラの姿、弾は虚さんに抱きつかれて顔を真っ赤にし、簪は本音、楯無さんに抱きつかれて顔を赤らめていた。

 

そして、始はというと、目を覚ました途端、シャルロットに不意打ちのキスをされてまた眠りについた。すぐに起き上がったが。

 

束さんはかなり衰弱していたが命に別状はないとのことだった。

 

しばらく療養することになるが、箒が寄り添っているのを見る限り大丈夫だろう。

 

束は憑依されていた時の記憶が少なからず残っていたらしく、最後の現象について質問すると丁寧に教えてくれた。

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、ちーちゃん」

 

「少し前にあっているのだが、あの時からお前は操られていたのか?」

 

「操られていた・・・・というのは少し語弊があるかな?私の意識が在る時はあったから・・・・気づいたのは紅椿を作り終える直前だったかな」

 

「そうか・・・・すまないな、気づいてやれなくて」

 

「あれは仕方ないよ。気づけたらちーちゃんは世界一の名探偵になれるよ」

 

「・・・・束、白式のコアは」

 

「そうだよ。白騎士のコアだよ」

 

「どうして、あのコアを?」

 

「アレが白騎士だって気づかなかったみたいだけどね。でも、今回の戦いにおいて白騎士に助けられちゃうとは思わなかったな」

 

「ウソは感心しないな。お前は白騎士に助けられると確信していたんじゃないのか?」

 

「・・・・今となってはわかんないから、紅椿を渡してから、本当に意識がない時間が多かったから無意識に白騎士の治癒エネルギーが行き渡るような細工を施した覚えもないから」

 

「・・・・」

 

「ちーちゃん、人間って不思議だよね」

 

「あぁ、不思議だ」

 

「人間はいうなら何が入っているかわからない匣だ」

 

「・・・・そうだな」

 

 

 

 

それから束さんは少し変わった。

 

よい傾向と見るのか悪い傾向とみるのかははっきりいってこれからだろう。

 

公式では姿をくらましたということからIS学園の講師として教鞭を振るっている。多くの人の名前を覚えていないという欠点を抱えているが虎太郎さんと一緒に奮闘している事から改善されるのも時間の問題かもしれない。

 

そして、箒、あの時の騒動で長い髪をばっさりと切ってしまい、ショートカットになっていた。

 

似合っているといったら顔を赤くして戸惑い、セシリア達に睨まれたのは記憶に新しい。

 

そうそう、始だが命の心配はなくなった。

 

なんでも崩壊していた細胞が全て元通りになっていた。この事に一番喜んでいたのはシャルロットと楯無さんだったのはいうまでもない。

 

それから剣崎さん達がやってきた。

 

「頑張ったな!」そういって剣崎さんは拳を突き出してきた。俺はその拳に自分の拳をぶつけて頷く。

 

弾のほうは橘さんが笑みを浮かべている事に戸惑いの姿を見せている。

 

睦月さんにお帰りといわれて簪はただいまと返していた。

 

始のところには虎太郎と広瀬さんが話をしている。

 

ライダーシステムについてはどうするかとしばらく話し合う必要があるとのことで返却しないといけないのかと思ったが、預かっていてくれといわれた。

 

本当に終わったのかわからないから、といっていたけれど、俺はブレイドであることを認められたから持っていていいといわれたように感じた。自意識過剰すぎるかな?

 

 

 

 

 

 

それから一ヶ月。

 

 

 

 

 

 

 

簪はシャルロット、ラウラと一緒にショッピングモールへ買い物に来ていた。

 

「結構、買い込んだな」

 

「季節の変わり目だからね。色々と用意しないと」

 

「うん・・・・そういえば、冬休みとか二人はどうするの?」

 

「私は、始とスキーに行こうかなって、計画中」

 

「何も予定がないな。嫁を拉致してどこかにつれていくか」

 

「ラウラ、大分、会長さんの影響受けているね」

 

「お姉ちゃんの影響か・・・・ねぇ、シャルロット」

 

「なに?」

 

「富樫さんとのこと、どうなったの?」

 

 

「えーっと、良くも悪くも決着はついたって感じかな」

 

「む、そうなのか」

 

「驚いた」

 

簪とラウラが驚いていると、シャルロットは苦笑した。

 

「まぁ、痛みわけっていうのが正しいのかもしれないけどね~」

 

「むぅ・・・・嫁との決着を早く・・・・ん!」

 

 

ビィーン!とラウラの髪の毛の一本が立つ。

 

「ラウラ、どうしたの?」

 

「嫁の気配がする!」

 

「あ、ラウラ!?・・・・いっちゃった」

 

「鬼太郎みたい」

 

そんな感想を漏らして二人は追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア、鈴、一夏のヤツ知らないか?」

 

「知りませんわ」

 

「私達も探しているんだけれど、どこいったのかしら」

 

「・・・・なぁ、二人とも、一夏のこと、好きか?」

 

「「っ!?」」

 

箒の言葉に二人はびく、と反応する。

 

「私は好きだ」

 

「・・・・アンタ」

 

「だから、ちゃんと宣戦布告しようと思う」

 

宣戦布告、その言葉にセシリアと鈴音は小さく笑う。

 

「上等だわ!一夏を渡すつもりはないから!」

 

「私も、負けませんわ!」

 

「ならば、勝負だ!まずは一夏を探そう!」

 

「「異議なし!」」

 

 

「(やばいやばいやばいやばいやばい!?どうしょうどうしょうどうしょう!?)」

 

弾は虚と一緒に街を歩いている。

 

いわゆるデートだ。

 

だが、困った事に弾は今まで女の子と少し話をしたことはあっても、デートをしたことなんてない。

 

妹との買い物? デートにカウントするわけがないだろう。

 

そんな状況で弾はどんな会話をすればいいのか悩んでいた。

 

虚ももじもじと手を動かしてちら、ちら、とこちらを見ている。

 

沈黙が場を支配していた。

 

「「あの」」

 

話しかけようとしたところで二人は同時に喋る。

 

「えっと、布仏さんからどうぞ」

 

「いえ、五反田君から」

 

「じゃあ、これからどこにいきましょうか?」

 

「え」

 

「いや、プランを立ててないというわけじゃないですけれど、合うかどうか」

 

「大丈夫です。五反田君の選択に間違いはありませんから」

 

――え、なにこの人!?

 

弾が驚いていると虚はにこりと笑う。

 

その笑顔を見て、弾の顔が赤くなる。

 

「じゃ、いきましょうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公園に一夏と始はいた。

 

二人は私服姿で公園のベンチに座り遊んでいる親子や子どもの戯れている姿を見ている。

 

その光景を見ていると、アンデッドとの戦いが終わった事を実感させられた。

 

 

 

「本当に終わったんだよな?」

 

「今更何を聞くんだよ、54枚のプライムベスタが全て揃った。55体目のアンデッドが出ない限り、戦いは終わったに決まってるだろうが」

 

公園のベンチで俺と始は缶ジュースを飲みながら話している。

 

「・・・・始、俺さ、長い戦いを通して色々と学んだ気がする」

 

「奇遇だな。俺も色々と考えさせられた」

 

「この世界は、命に溢れているっていうのをなんか実感したよ」

 

「生きているのは素晴らしいって、何度思い知らされたか」

 

話しながら二人は笑う。

 

少し前の自分達ならこんな笑いあって話し合うということはしなかっただろう。

 

アンデッドとの戦いが終わったから気が少し緩んでいるのかもしれない。

 

始も全身に張り詰めていたような空気がなくなって、笑みを浮かべている回数が多い。親友として一夏は嬉しかった。

 

「なに、笑ってんだ?」

 

「別に・・・・それよりさ、始はこれからどうするんだ?」

 

「しばらくはIS学園での生活だろうな、IS動かせているのは事実だから。高校生活まともに送るのも悪くない・・・・その後は旅にでもでようかねぇ」

 

「いいな、俺も旅しようかと思ってる」

 

「それはいいが・・・・お前、どーするつもりだ?」

 

「何を?」

 

「箒達のことだ、この一ヶ月、大人しくしているがそろそろ限界なんじゃないか?そろそろボーデヴィッヒ当たりが攻めてきても」

 

『嫁!嫁はどこだぁ!』

 

聞こえてきた声に一夏は近くの木に隠れる。

 

「む、富樫よ。嫁を知らぬか?」

 

「アイツなら、どっかにいるだろ。知らないぜ」

 

「そうか、嫁~~~~!」

 

ラウラがいなくなったのを確認して一夏は姿を見せる。

 

「お前、ホントにヘタレだよな」

 

「うるさいな。そういう始はどうなんだよ?楯無さんとシャルロットに言い寄られているくせに」

 

「あー、それなら決着つけた」

 

「え、マジ!?」

 

「マジだ、マジ。俺、あの二人と付き合うことにしたから」

 

「・・・・へ?!」

 

「ウソだろって顔しているが本当だ。俺はシャルロットと刀奈の二人と付き合うことにした」

 

「いや、でも、日本だと、その」

 

「別に日本で結婚しなくてもいいだろ?海外には100人の妻持っている男だっているんだ。そういう国にいって国籍取得すればなんとかなる」

 

「え~」

 

「二人が納得しないかもと思ったがすんなりと通ったのは以外だったがな」

 

始は笑い、羽織っていたコートを着なおす。

 

苦笑いを浮かべながら一夏もベンチから立ち上がる。

 

「お前も、どういう形であれ、答えはだしてやれ、でないと、後ろから刺されるんじゃないか?」

 

「やめてくれ、まぁ・・・・早めに出す」

 

「そうしろ・・・・さて、行くか」

 

二人は肩を並べて歩き出す。

 

「どこに行く?」

 

始の問いに一夏は澄み切った空を見上げて呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日とか?」

 

 

 

 

 

「なんだよ、そりゃ・・・・いいぜ、どこでも付き合ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

~Fin~

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。

無事に終わる事ができました。

思えば、二年くらいかな?はじめて構想ねって、書いてから。

Missing:ISは二つの分岐がありました。

一つが今回のHAPPYEND。
剣崎たちとは違う結末ということで、誰も死なず、全員幸せ?になりました。
最後の方は映画ファイズみたいなものになりましたが、あしからず。

もう一つのBADEND。
実はこっちを書こうとしていたので、四十一話から唐突な話になりました。
こっちでは、一夏と始が命を賭けて戦い、二人とも死ぬ。
ラスボスは統制者というものです。
ちなみに、BADでは二人はこちらと違い一人の女性を選んで愛する事になっています。

他のライダーは重傷になっていますね。一夏と始のせいで。




さて、次回作について。

次回もISのものを書くつもりです。

他の作品も手を出すべきなのかもしれないんですけれど、中途半端に手を出したら作品を汚しそうで抵抗あるんですよね。

次回作のタイトルですが、こんなものです。

特撮+IS+ヤンデレ=混沌にならないはずがない

こういう形のタイトルはとったことがなかったので終わらせるか不安です。

ちなみに特撮からは。

仮面ライダー
スーパー戦隊。
●●●●●。

最後の●は話の途中で明らかになる予定。

スーパー戦隊は一つだけ、でます。

プロローグで、わかるかも?
まぁ、第一話で何かはわかります。

ヤンデレは・・・・。

誰がなるか楽しみに?
既にプロローグで一名、とんでもないことに。

それでは、お付き合いありがとうございます。


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十年後

感想を貰って久しぶりに描く意欲がわきました。




 

 とある紛争地域。

 

 そこではISが使われていた。

 

 ISの軍事利用は失踪から戻ってきた篠ノ之束博士のスピーチによって完全禁止となり当初の目的である宇宙開発へ戻っている。

 

 それから既に五年以上の月日が流れている。

 

 だが、ISの力は今も強大で絶大である。

 

 禁止と言われても兵器としての力を示してしまった以上、ISを軍事利用することをやめるものは後を絶たない。

 

 ISを纏っている女性は薬物で溺れている元女軍人だった。

 

「アハハ、ほら、逃げろよ!逃げなよ!アハハハハハハ!」

 

 楽しそうに笑いながらISのライフルを連射する女性。

 

 弾丸は戦車、周囲の人間を巻き込んでいく。

 

 狂ったように笑いながらISはすべてを蹂躙していく。

 

 だが、それも終わりがやって来る。

 

 ISのセンサーがある反応を伝えた。

 

「あ?」

 

 センサーの方へ女は振り返る。

 

 こちらへ近づいてくる一台のバイク。

 

 どこにでもある市販のバイクが土煙を上げながらこちらへ向かってきている。

 

 新たな生贄がやってきたのか。

 

 女性のパイロットは嗤いながらライフルを向けた。

 

『チェンジ』

 

 ISのハイパーセンサーがある音を捉える。

 

 目の前で男が変身した。

 

 黒い戦士。

 

「ハ?」

 

 女性は目を見開き、ライフルのトリガーへ伸ばしていた手を一度、止めてしまう。

 

 その隙をつくように変化したバイクの前輪が女性のISに叩きつけられる。

 

「ガフゥ!」

 

 肉体的なダメージはISによって守られる。

 

 だが、衝撃までは殺せない。

 

 脳を揺らされた女性だが、フラフラと立ち上がる。

 

「何だよ、お前ぇえええ!」

 

 目の前に現れたのはカマキリを模したような黒い戦士。

 

 もし、彼女が薬物におぼれずに冷静だったのなら思い出しただろう。

 

 何年も前にある男が執筆した本の中に登場する仮面ライダーの存在を。

 

 黒い仮面ライダー、カリスは専用武器のカリスアローを振り下ろす。

 

 こちらへ向けていた女性のライフルをソードボウで切り裂く。

 

 武器を失いながらも予備スロットからサバイバルナイフを取り出した。

 

「遅い」

 

『ドリル』

 

『トルネード』

 

『スピニングアタック』

 

「トゥア!」

 

 竜巻に包まれながら上昇したカリスのドリルキックが女性を貫く。

 

 ISの絶対防御によって命を落とすことはない。だが、ISは破壊されて意識を失った女性が地面に倒れている。

 

 カリスは待機状態になったISを奪い取った。

 

『スピリット』

 

 敵がいない場所にたどり着いたところでカリスはハートスートのカテゴリー2を使って人の姿に戻る。

 

 富樫始。

 

 かつて少年だった人物は青年になっていた。

 

 数奇な運命に翻弄されてすべてを滅ぼす怪物となりながらも人を守るために戦ってきた仮面の戦士の一人。

 

 仮面ライダーカリス。

 

 愛用している茶色のコートを風で揺らしながら彼は懐から端末を取り出す。

 

「俺だ」

 

『目標を回収してくれたみたいだね?』

 

「ああ」

 

 電話の相手に始は答える。

 

『後はいつも通りだよ』

 

「わかった」

 

『ごめんね、束さんがやらなければならないことなのに』

 

「別にいいさ。俺は普通の人間じゃない。こういう点で役に立てるならいくらでも使ってくれ」

 

 肩をすくめながら彼はバイクに跨る。

 

 過去の戦いで彼は人間ではなくなった。本人曰く人間より多少頑丈で、長生きできるだけだという。

 

 弾雨の中であろうと平然としていられる彼だが、一つだけ悩みがあった。

 

「まあ、しいて言うなら、妻のご機嫌取りが大変だってことくらいだろうな」

 

 誰にも聞かれることがないことをわかっていながら彼は市販のバイクに乗って荒野の道を突き進んでいく。

 

 

 戦場でISが出てくるのなら気を付けるといい。

 

 ISを狙ってどこからともなく黒い悪魔が現れてISを破壊して戦争を終わらせる。

 

 そんな噂がネットに広まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある学校施設。

 

 そこではISの生みの親であり研究者でもある篠ノ之束の演説が行われていた。

 

 彼女の演説を聞くために多くの学者や学生が集っている。

 

 変人で天災といわれていた彼女だが、数年前に失踪から戻ってきて以降、常識を得たように様々な分野で研究を発表。

 

 そして、ISを宇宙開発の道へ戻した人物でもある。

 

 彼女を護衛するように二人のSPが待機していた。

 

 学会での演説が終わるとみんなが一言でも話をしようと彼女に集まって来る。

 

 そんな彼らをSPがやんわりと押しとどめて、帰るための車に束を誘導していく。

 

 彼女が車に乗ったことを確認してSP達も車に乗り込む。

 

「ふぅ」

 

「いやぁ、キミのSP姿も様になってきているね!」

 

 笑顔を浮かべる束に冗談じゃないと青年は肩をすくめる。

 

「勘弁してくださいよ。SPなんて、肩が凝って仕方がないです」

 

「いえ、弾君、とっても似合っていますよ」

 

「虚さん……」

 

「ちょっと、ちょっと、独り身の束さんの前で桃色空間作らないでくれるかな」

 

「も、桃色って」

 

 顔を赤らめる青年は五反田弾。

 

 かつて仮面ライダーギャレンだった青年だ。

 

 今はSPとして篠ノ之束の護衛をガールフレンドの布仏虚と一緒に行っている。

 

 突如、車が急停車した。

 

「どうした!」

 

 弾達が外を見ると武装した集団が立ちはだかっていた。

 

 中にはパワードスーツらしきものを纏っている者もいれば、不気味な怪物らしき姿もある。

 

「やれやれ、貴方達はここにいてください。俺が終わらせてきます」

 

 外に出た弾はサングラスを懐に仕舞って入れ替えるように銀色の機械を取り出す。

 

「守るためなら必要だよな」

 

 自虐的な笑みを浮かべながら機械を腹部へ装着しながらカテゴリーAのプライムベスタをギャレンバックルに差し込む。

 

「変身!」

 

『ターンアップ!』

 

 現れたオリハルコンゲートを潜り抜けて彼は変身する。

 

 訂正しよう。

 

 彼は今も仮面ライダーギャレンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園。

 

 そこの整備室にて一人の女性が油まみれになりながら一機のISを整備していた。

 

「よし、これで大丈夫」

 

 油まみれになっている顔のまま、笑顔を浮かべて彼女は鎮座しているIS打鉄をみつめる。

 

 学園の中でかなり年季があり、ところどころガタがきていたIS。

 

 一人の女性の手によってそのISは新品と見舞うほどの輝きを放っている。

 

「あら、こんなところにいたのね?」

 

 整備室のドアが開いて扇子を片手にこちらへやってくる女性がいた。

 

「お姉ちゃん?」

 

「もう、顔が油まみれよ?」

 

 微笑みながら更識楯無は妹の更識簪の顔をタオルで拭いてあげる。

 

「どうしたの?IS学園にやって来るなんて」

 

「久しぶりに卒業した母校を見に来たのよ……それにしても、昔と違って男子も入ってきているのね?」

 

「うん、整備士を希望する人もいるからね。操縦の方は女性だけだけど」

 

 IS学園。

 

 嘗ては女子のみの学園だったが、篠ノ之束の発言から男性でもISを整備する者達を受け入れるということで学科によって異なるが男子生徒も参加してきている。

 

「でも、簪ちゃんが教師になるなんてね~」

 

「ここが気楽だったからというものだよ」

 

 にこりとほほ笑む女性の名前はIS学園整備学科教師更識簪。

 

 仮面ライダーレンゲルとして戦ってきた少女であり今は女性としてIS学園にいる。

 

 彼女の姉、更識楯無、更識家を受け継いだ当主であり、既婚者。

 

 今は国を陰から守るために動いている。

 

 だが、それよりも早く解決する者達がいるため、情報隠ぺいなどで奮闘していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地裏。

 

 そこで一人の女性が異形の怪物に襲われていた。

 

 バッタを模したような怪物は口をギチギチと動かしながら怯えている女性へ迫っていく。

 

 女性は逃げようにも退路を断たれて、怪物に殺される時を待つしかなかった。

 

 目の前の怪物の正体はISを超えるためという理由である複合企業が生み出した生体兵器である。

 

 生体兵器は本来、その企業が管理していたのだが、女性を襲うとしている個体はそこから抜けだしたいわゆるはぐれ個体であった。

 

 逃げようとする女性の肩を掴み、口を開く。

 

 バッタのごとく、かみちぎることに特化されている顎が今にも女性の体を貫こうとした時。

 

「ウェエエエイ!」

 

 叫びと共に振るわれた拳が怪物を殴り飛ばす。

 

 殴り飛ばされた怪物はビルの壁に叩きつけられる。

 

 女性の前には青い仮面の戦士が立っていた。

 

 銀と青の鎧を纏い、顔は仮面で隠されている。

 

 腰のホルダーには剣が携えられていた。

 

 

 

――仮面ライダー。

 

 

 

 都市伝説で語られているヒーロー。

 

「早く逃げろ」

 

 仮面の中から聞こえてきた若い男の声。

 

 年齢的に自分より少し下かもしれない。

 

 女性は少し驚きながらも仮面ライダーの言葉に従って逃げていく。

 

 怪物は唸り声をあげて体を起こす。

 

「……アンタも、もとは人間だったのかもしれないな」

 

 バッタの怪人を見ながら仮面ライダーは静かに呟く。

 

「だけど、人を襲うっていうのなら俺はアンタを止める……そして、人に戻す手段を探す!!」

 

「ウォオオオオオオオオオオオオ!」

 

 既に人としての理性を失っているのか叫び声をあげて襲い掛かる怪物に仮面ライダーは腰の剣を抜かず、拳で戦う。

 

「ウェエエエイ!」

 

 怪物の顔に向かって一撃。

 

 攻撃を受けた怪物は地面に倒れる。

 

「まだ、アンタに人間の理性があるなら、いますぐにこんなことをやめろ!!」

 

 怪物へ訴えながら仮面ライダーは戦う。

 

 だが、怪物は仮面ライダーの言葉に反応することがない。それどころかマスマス狂暴性が増していた。

 

「……まだ、止まらないっていうのなら」

 

 拳を強く握りしめながら仮面ライダーは地面を蹴る。

 

 左右のビルの壁を蹴りながら空高く舞い上がり、バッタの怪物へキックを繰り出す。

 

 その時、腰のホルダーから数枚のカードが飛び出す。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『マッハ』

 

『ライトニングソニック』

 

 雷撃を纏ったキックがバッタの怪物を貫く。

 

 必殺ともいえる一撃を受けたバッタの怪物は地面に倒れる。

 

 痙攣しながら体を動かしていたがやがて、ぱたりと手が地面に落ちた。

 

 しばらくして、ブクブクと体から泡を出して消滅する。

 

 証拠隠滅。

 

 その企業は万が一、怪物の正体が明るみに出ないように作り出す際に細工を施していたのだ。

 

 

 消滅した怪物を見て仮面ライダーは静かにバックルを腰から外す。

 

「ごめん、助けられなくて」

 

 謝罪をして彼は路地裏から姿を消す。

 

 変身を解除して鎧が消えると中から現れたのは黒髪の青年だった。

 

 整った顔立ちで長身。

 

 青いジャケットに黒いズボンというシンプルだが、顔立ちが整っているからより似合っている。

 

 彼の顔を見れば女性はある人物を連想するだろう。

 

 かつてISにおいてブリュンヒルデという称号を持っていた最強の女性、織斑千冬。

 

 今は剣崎千冬という名前になっているが彼女と顔つきが似ている。

 

 彼の名前は織斑一夏。

 

 二代目仮面ライダーブレイドであり世界を救った男である。そして世界初のISを動かした男子でもある。

 

 本来なら平穏な生活に戻っていてもよい彼だが、今はそれを選んでいない。

 

 なぜならアンデッドとは別の新たな脅威が世界にはびころうとしているからである。

 

「財団……アンタ達のたくらみは絶対に止める」

 

 彼は仮面ライダー。

 

 人々を守るために戦う仮面の戦士である。

 

 

 

 

 




速攻で思い付きで書いてみました。

この中で普通の生活送っているの簪だけのようにみえますが、実はみたいな裏設定を一瞬、考えてしまいました。


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