第六天魔王が異世界で暴れるようですよ (たこ焼き屋さん)
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新生本能寺の変

初めての投稿です。
至らぬ点はあると思いますが、よろしくお願いします。


 

 

 理想が燃え尽きていく。

 

 

 

 野望が燃え尽きていく。

 

 

 

 思想が燃え尽きていく。

 

 

 

 

 

 

 

 自身の信じた全てが一夜にして崩れ去っていく。

 

 本能寺は早速火をくべる薪になり、灯りのない暗い闇を煌々と照らす。山より高く火柱を作り黒き狼煙をあげる。

 

 

 

「なぜじゃ!なぜ裏切る明智!!」

 

「貴方のそれは正義ではない。そんな貴方は私の信じる信長様ではない」

 

「ふざけるなぁァァァァァァァアアア!!」

 

 

 

 日本の国全てを支配するまで後一歩。だがそれは序の口にしか過ぎず、次は世界へと手を伸ばそうとしていた。

 

 

 

 その夢を打ち壊そうとする信じていた明智光秀()に、焼け爛れ掠れた喉で奇声を上げる。

 

 

 

 痛い。痛い。痛い。痛みは何も外側だけでなく、内側──心までもが痛い。

 

 内側から剣が生えるような痛みに苛まれながらも、意地とプライドだけで薄れゆく意識を止めている。ここで落ちればそれは真なる敗北だと。

 

 

 

「楽になってください信長様。私はあなたのそのような姿は見たくない」

 

「ああがぁ゛あさかなはなあぁ゛ぁあ゛」

 

 

 

 遂に喉は言葉を発する事をやめた。日本語ともそれ以外とも取れない、それこそ獣の雄叫びのような声を出す。

 

 

 

 黒く腰まで伸びていた髪は炎に巻かれ肩までしかない。寝間着や武器も例外なく火炎と融合している。

 

 終わりの時は近い─自身の死期を悟る。

 

 

 

 では諦めろと?大人しくその場で無残に惨たらしく死ねと?否、否、否──断じて否だ。第六天魔王たる織田信長がこのような場所で暗殺で大人しく死ねるわけがない。死ぬ時は日本の終わりだ。日本のためにこの命を魂を運命を捧げると誓ったのだから。

 

 

 

(死ねない。絶対にワシは死なん!)

 

 

 

 前に立つ明智の周りは炎に包まれていないがそこへ無策に突っ込めば、手に持つ愛刀で一刀される事は不可避である。

 

 そうなれば選択肢など一つしかない。悪運高き織田信長だからこそ許されるたった一つの手。それは───

 

 

 

「何を─」

 

「わじばじなん゛」

 

 

 

 肌を焦がす熱を放つ炎へとその身を投じた。

 

 

 

 常識で考えれば全身を炎に包まれ焼死してしまう悪手。誰しもがその選択を脳裏から外してしまう行為だが、織田信長は幾度となくその常識を打ち破ってきた。

 

 

 

 二万五千の今川軍相手に敗北濃厚と言われたが五千の兵力で勝利した。

 

 最強と名高い武田軍の騎馬隊に鉄砲を使い歴史的な勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 不条理・不利など恐れるに足らない。逆に嬉嬉として受け入れてきた。そんな男の異常性を傍らで最もよく知っていたはずの明智光秀は忘れていた。

 

 

 

 口角は上へ上がり不気味で不敵な笑みを浮かべながら織田信長は炎と交わっていく。その様を明智は見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ゛......はぁ゛.........」

 

 

 

 辛くも燃え盛る本能寺から脱出は出来たが真っ裸の状態で冷える夜に投げ出されればいずれ凍死する。早急に何らかの手を考えねばならない。

 

 

 

 だが、頭が回らない。

 

 本能寺での事が原因なのか現状の打開策が一向にわかない。それでも足は止めてはならないと走り続けた。先の見えない闇を進むのは恐怖や不安を掻き立て、枯れ果てたと思っていた水が目元から流れ落ちる。

 

 

 

 偶然─いや天は見放さないと言った方がいいのか。視界の先に灯りが付いていない小屋らしき物を見つける。

 

 罠か?と考えるも背に腹は変えられないと大人しく戸を開けて中へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 中は蜘蛛の巣が張り巡らされていて、木の壁には幾つもの穴が空いている。安土城などに比べれば倉庫と呼ぶことすら烏滸がましい程質素でボロい小屋。

 

 いずれ天下人と呼ばれる事になる自分にはいささか無様過ぎると鼻で笑うが、すぐに今の現状が思い浮かび自分への哀れみへと変わる。

 

 

 

(無いよりはマシじゃが、酷いものじゃな。上がる時は長く落ちる時は一瞬か)

 

 

 

 床へと投げ捨てられている安く薄い木綿の何色かも分からない和服へ袖を通す。

 

 自身の気にしていた幼女体型にはピッタリで、動きが阻害されることはないだろう。あえて言うならば胸元が寂しいぐらいだ。

 

 

 

(一人とは虚しいな...なぜこんなことに......ワシはワシは)

 

 

 

 冷たい隙間風に吹かれながら自問自答を繰り返す。答えのない問いに答えることは出来ない。

 

 

 

 天下統一。泡へと消え去った淡い夢。昔の頃はそれだけで笑い楽しめていたはずの夢。

 

 いつからだろうか笑うことをやめたのは。

 

 

 

(次の生があるならば、もっと馬鹿をやりたいのう。ハチャメチャに暴れて暴れて...今度こそ守る仲間を)

 

『いいわねそれ。ならこちらへ招待するわ』

 

 

 

 幻聴まで聞こえ始め遂に終わりの時が来たかと覚悟を決めた刹那─全身を謎の浮遊感が襲う。

 

 

 

「なんじゃ、何が起きた!」

 

「おい待てよいきなり放り出すのかよ!」

 

「なっ─」

 

「え?」

 

 

 

 その日神や魔王が跋扈する″箱庭″に三人の問題児と一人の第六天魔王が現れた。その出会いは衝撃的で劇的な通常とはかけ離れた─運命とも言える邂逅であった。

 

 

 

 友に裏切られ世界に裏切られた魔王はその世界で、面白おかしく気の赴くままに生きていくことになる。

 

 



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問題児たちの集合

なんか思った以上に好評?みたいで嬉しです。

そこでなので色々設定を発表します。
見た目は皆さんご存知のノッブの短髪をイメージしてください。

性格はノッブ+ギルさんだと思ってください。

以上業務報告終わり。


 

上空四〇〇〇mに四人は放り捨てられた。二〇一八年現在には身体に紐をつけ上空から落ちる遊びがあるがそれでも世界最高の二六〇m。それよりも十五倍ある地点から紐なしで飛んでいる。

 

 明らかに人間であれば死が確実だ。それこそ地球の重力を一蹴りで抜けられるような人外でなければ。

 

 無論織田信長本人にそのような身体能力は無いのでこのまま行けば逝く。

 

 

 

「はっ、このワシに不可能など無いわ!」

 

 

 

 天へ吠える。頭を下に向け加速する。信長は下手にするからいけないんだ、全力でやってしまえば何とかなると後先考えずに行動を起こした。

 

 それが吉に出るかはそれこそ神のみぞ知ると言ったところだろうか。

 

 速度は一向に衰えること無くどんどん上がっていき、周りの三人を置き去りにしていく。

 

 

 

「アレ?ワシ不味くね?」

 

「おいおい、随分とアクロバティックな事してんな!俺も混ぜろよ」

 

 

 

 後方から男の声が聞こえ振り向く─前に隣に並ぶ。日本人離れした黄金の髪を靡かせて獰猛に口を歪ませている。

 

 服装に至っては見たことすらない素材質感で、抱き抱えられた直後は「不敬だぞ!」と怒鳴り散らしてやろうと思ったが、この謎の衣類に感動しそんな事後回しにする。

 

 

 

(ほほう!滑らかでありながらずっしりとしている。絹ではないな何だこれは?超気になるんじゃが!!)

 

(こいつ...抱き抱えて分かったけど身体に無駄な筋肉がないな。幼女だから心配したが、これなら必要なかったか?まぁいいか髪の匂いをかげて役得だとでも思っとけば)

 

 

 

 男は男で内心かなり不敬な事を考えているが信長の知る所ではない。

 

 そして、二人を置き去りにして加速していた信長達は徐々に近づく水面へと叩きつけられ巨大な水柱を一柱作る。十秒ほどのインターバルの後に二本の水柱が出来上がる。

 

 

 

 

 

 

 

「し、信じられないわ!呼び出しておいて投げ捨てるなんて」

 

「全くだ、それには大いに同意するぜ」

 

「うむ。良くやったもう下ろして良いぞ童」

 

「助けてやったて...変な膜通ったし安全ではあったのか。そりゃ失礼したな淫ら幼女ってお──」

 

 

 

 キィィィィィィィ!!少し爪を立て男を切りつけ強引に飛び降りる。肩に担がれている状態から突然離されたので、当たり前だが地面と顔面がくっつく事になる。

 

 「やれやれ」と言わんばかりの表情で頭を横に振る。

 

 地面への激突で暴れ回る信長をよそに三人は三人で勝手に自己紹介を始め、ひとまず倒れている幼女しだいだなと待つことを決める。

 

 数分後やっとこさ痛みから回復した信長は鼻柱を抑えながら立ち上がり男に指を刺さす。

 

 

 

「よくもやってくれたな!」

 

「俺関係ないだろ。勝手に暴れた方が悪い...お嬢様と春日部はどう思うよ」

 

「男の貴方がそこは助けるべきでしょ」

 

「右に同じく」

 

「マジかよ俺の味方いないのか...あぁ染みるわマジ染みるわ」

 

 

 

 ぞんざいな扱いを受けわざとらしく上へ向き目頭を抑え辛い振りをしている。

 

 

 

(確かこの男が逆廻十六夜とか言ったな、それで奥の女子二人が...ってレベル高いんじゃがァァァ)

 

 

 

 自己紹介を勝手に盗み聞きしていた信長は確かめるように十六夜を一見して、奥にいる二人の女子へと向くとあまりの美形に心の中で叫ぶ。

 

 どこかの貴族を思わせるような気品さを漂わせる黒髪の美女が久遠飛鳥と名乗っていた。後頭部に見たことの無い赤く大きなリボンで髪を少し整えながらも腰にまで届く長い髪。服装は十六夜に続き見たことなくかなり材質が気になる。

 

 続いて隣で猫と遊んでいる少女が春日部耀。動きやすそうな軽装備でありながら佇まいは野獣のような凶暴さを感じている。

 

 二人ともが美女。十六夜も美形に分類される程度には整っているが、森蘭丸には及ばんなと頷く。

 

 常に近場に控えさせた信長一番のお気に入りの武士こそ森蘭丸だ。女子であれ男であれ綺麗であれば両刀だった信長だったため控えさせていた。そのお眼鏡に三人ともかかり他人からお気に入りまで一気に昇格する。

 

 

 

「でいつまで名乗らないんだ?こちとらもう自己紹介終わってるぜ。それとも改めているか?」

 

「いやいらん。逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀だろ?ワシが聞いとらんはずがないわ」

 

「そうかい。だったら名乗ってくれんだよな?勝手に名前だけ聞いてはいさらばなんて許されねえよ?」

 

「その欲深さよし。先程抱えた不敬を許すぞ、そしてワシの名を聞け!」

 

 

 

 水で濡れスケスケ状態でありながら近くにあった大きな岩の上に乗り両腕を組んで宣言する。

 

 

 

「ワシこそが、第六天魔王・織田信長じゃァァァァアア!!」

 

 

 

 その宣言に不敵に笑う三人。それもそうだろう何せ日本の偉人中の偉人の名前なのだから。

 

 史実では日本における戦国時代天下を収める寸前までいったが、仲間に裏切られ殺されたとされる男の武将である。目の前の幼女がいや女が織田信長だとはどんな教科書を開いても載っていない。

 

 だとしても偽物と言うにはあまりにも馬鹿すぎる。自分が織田信長と名乗るのは中二病だけだ。十六夜に関して言えば抱き抱えた時の異様な筋肉にも納得がいく。

 

 

 

「なるほどね...嘘ってわけじゃないんだな」

 

「戯け、そんなつまらん嘘をワシがつくわけがなかろう」

 

「けど女...私の知っている織田信長は男のはず」

 

「私も同じね。織田信長が女だったなんて記憶は一欠片もないわ」

 

「大体分かってきたが...せっかくならそこにいるやつに聞いた方が良いだろうな」

 

 

 

 その言葉を皮切りに四人は同時に同じ方へ向く。視線は一身に草むらへ向けられ、びくりと揺れ反応を示す。

 

 すぐに揺れを抑え知らんぷりをするが、ロックオンされた獲物はすでに手遅れだった。

 

 

 

「やっ──」

 

「よし出てこないなら考えがあるぜ、オラァ!」

 

「うぎゃぁっ!」

 

 

 

 出てくる前に足元に落ちていた小石を持ち上げ軽く投擲する。十六夜にとっては軽く投げた小石だが、その速度は人間のそれとは違う。

 

 小石が触れた木がなぎ倒され、地面にぶつかれば大きなクレーターを作っている。その速度脅威の第三宇宙速度。人間界にそんな速度を投げられる生命体物質は存在しない。

 

 草むらから強引に飛び出るしかない隠れ人は異様な速さで飛び出るも、春日部が驚異的な反応をみせ食らいつく。木の上へ逃げるががピタリと背後に回る。

 

 

 

「落ち着い」

 

「てい」

 

「うぎゃっん!」

 

 

 

 羽虫を叩き殺すみたいに下へ払われた人は地面へ横たわり目を回して「あわわわ」とうわ言を呟いている。

 

 逃げたやつを捕獲できたと四人は横たわる人を中心に集まっていく。

 

 

 

「ヤハハハ!こりゃすげ」

 

「へぇー」

 

「あらまぁ」

 

「ほう...ウサギ耳かなんと奇天烈な」

 

 

 

 目の前に横たわる女子の体の大部分に異常は何もない、しかし一点だけ異常があったそれは頭についた髪の色と同じ色をしたウサギ耳があるのだ。

 

 人間の耳とは頭の横についている二つの物であり、それは決して毛に覆われたウサギ耳ではあらず、ましてや頭の上になど付いていない。

 

 摩訶不思議な光景に四人の問題児が起こす行動は至ってシンプルで単純明快。

 

 

 

「「「「えい」」」」

 

 

 

 耳を直に触ることだった。

 

 



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問題児は止まらない

あれれ?おかしいぞ。
久々の投稿になっちゃった。




「あ──有り得ないのですよ!これが噂に聞いた学級崩壊に違いないデス」

 

「小一時間弄っただけではないか。逆にワシに触られて喜ぶべきところじゃろ」

 

「何を言ってるのですかぁ!私のデリケ──」

 

「うるせぇ早く続けろ」

 

 

 

 うさ耳を触り続けていた快感から戻ってきた十六夜は、焦れったい謎の少女─黒うさぎに向けいつまでも待てねぇぞと威嚇する。

 

 その送られた威嚇にうさ耳の産毛全てが立ち上がり、彼の強大な力をその身でしっかりと感じ慌てて話を進める。

 

 

 

「うぅぅ...それじゃあ話を進めます。ようこそ御四方──私の招待した箱庭へ」

 

(実は呼んだのが御三方だけだと知られるわけにはいきません。どうにか誤魔化さなければ)

 

 

 

 そう彼女が呼んだのは三人だけだ。

 

 招待状を受け取った逆廻十六夜・春日部耀・久遠飛鳥の三人だ。その証拠に池に落ちた後すぐに、手紙をもらったか?と確認を取り合い三人とも貰っていると言った。

 

 となると残った織田信長は誰に呼ばれたのか、なぜここに居るのかなど多くの疑問が浮かぶが、この箱庭に外から招待できるのは限られた人物だけであるので、今ゴタゴタ考えても仕方がない。

 

 それに、この織田信長では無いが三度この箱庭に訪れていて、総じて全員【魔王】になっている。

 

 嘘はどうにかバレずにすんだようなので一安心すると同時に、四人とも絶対に仲間に引き入れてやるとべき言葉を語る。

 

 

 

「ここは皆様お持ちの″恩恵″を元に″ギフトゲーム″で全てが決まる世界です。

 

 富も名声も力も勇気も──何もかもが″ギフトゲーム″によって定められるのデス」

 

「″ギフトゲーム″?」

 

「YES。既に気づいてるとは思いますが、皆さまただの人間ではございません。皆様がお持ちの特異な力は修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた″恩恵″でございます。

 

 その″恩恵″をかけて行われるのが″ギフトゲーム″なのです」

 

 

 

 両手を大きく広げ箱庭をアピールしながら語る黒うさぎの後ろで

 

 

 

「へぷち!」

 

「おいおい天下の信長様が何でそんなに薄着なんだよ」

 

「仕方なかろう。本能寺から命からがら逃げたのだ...薄着一枚も水に落ちて意味をなさんわ」

 

「せっかく偉人様に会えたのに、こんな所でコロッと死なれたらたまったもんじゃねぇな。ほれ、コレでも着とけよ。無いよりはマシだろ」

 

 

 

 投げ渡すのは軽く湿った黒の学ランだ。

 

 それはここに来た直後には何事もなく無事だったのだが、先程の墜落のおかげで水を吸い込みびしょびしょになってしまった。

 

 服を捻り多少はマシになったのだが、それでも着たいとは思わなく手に持っていたので丁度いいと渡した。

 

 

 

「傲慢じゃなその態度──がしかし!ワシはそう言う奴の方が好きぞ!のう十六夜!」

 

「あぁそれには賛成だぜ信長様」

 

「よいよい、信長と呼ぶのを許す。お主とは仲良くやれそうじゃからな」

 

「そうかならよろしく頼むぜ信長」

 

 

 

 二人は互いに笑顔で握手を交わす。一番結託してはいけない二人が結託したのだが、黒うさぎは箱庭の説明に集中していて気づいていない。

 

 

 

 そして、間道冷めやらぬ内に箱庭の解説は終了し、せっせと移動をさせられることになる。

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場。

 

 

 

箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前で戯れる子供達の姿があった。

 

 

 

「ジン~ジン~ジン~~黒うさぎのお姉ちゃんはまだ帰ってこないの?」

 

「もう二時間たったよ、ちゅかれたぁー」

 

 

 

 ふつふつと不満が漏れ始め、つまらないとバタバタ騒ぎ始める子供達に、同年代ぐらいに見えるが見た目と裏腹に落ち着いている少年が諭す。

 

 

 

「そうだね、みんなは先に帰ってていいよ。僕は新しい仲間を迎えなくちゃいけないから」

 

 

 

 ダボダボの服に外に跳ねる緑髪が特徴的な少年─ジン・ラッセルは周りの子供達に指示を飛ばす。

 

 子供達のリーダーたるジンの帰宅許可が出たので、次々に別れの挨拶をして帰路へつく。

 

 みんなが和気あいあいと帰る中一人ジンは、神妙な顔をしながら石造りの階段に腰を下ろす。

 

 

 

(外から来た人は一体どんな人物なのだろうか。これでもし弱い人達だったら僕達のコミュニティは...終わりだ)

 

 

 

 コミュニティとは箱庭の世界に置ける国と言える物だ。

 

 この世界はそれこそ世界の果てが明確に存在してはいるが、それでも土地は大きく広大だ。その上もれなく殆どの土地が未開拓だ何だとあれば、有力者達が黙るわけもない。

 

 有力者達は自身を中心にコミュニティを作り、そこに加入や合併などを繰り返し大きくしていき、コミュニティの力などを高までいきそこで″ギフトゲーム″を開催する事ができる。

 

 現在ジンのコミュニティはとある諸事情により、黒うさぎを除きジンより幼い者しかいない。

 

 なのでコミュニティの力はほとんど無く″ギフトゲーム″を開催するどころか、今日明日も生きれるか分からないと必死にもがく事しか出来ない。

 

 だからこそ新たな風として外から人を招いたのだ。その代償は高く、もし弱い人達であれば確実にジンのコミュニティは続けていけなくなる。

 

 

 

「ジン坊ちゃんーーー!お連れしましたよ!」

 

 

 

 不安に押し潰されそうなジンに黒うさぎの元気な声が届く。

 

 

 

「お帰り、そちらの女性三人が?」

 

「そうなのデス。こちらの御四......え?」

 

 

 

 蛇に睨まれた蛙のように凍りつく黒うさぎ。

 

 

 

「あの、こう″the俺問題児″ってオーラをしていたお方は?」

 

「む、十六夜の事か?それならばあっちに言ったぞ」

 

 

 

 指を指すのは来た道を辿るようだった。

 

 あまりの自体にショックを隠しきれていない黒うさぎだが、すぐに心を立て直し三人に慌てて問いただす。

 

 

 

「な、なんで止めてくださらなかったのですか!」

 

「だって″止めてくれるなよ″って言わたから」

 

「ならどうして黒うさぎに教えてくれなかったのですか!」

 

「″黒うさぎに教えてくれるなよ″って」

 

「嘘です!実はめんどくさかっただけでしょう御三方は!!」

 

「「「うん」」」

 

 

 

 あまりにも清々しい即答だった。

 

 ガクッと膝が折れる。あまりにも自分が馬鹿だったと思い知った、四人が出会ってすぐ戦闘を仕掛けてきた事から考えるべきだった。

 

 彼ら四人は問題児でありその制御は不可能なのだと。

 

 その話を隣で聞いていたジンは顔を真っ青にして叫ぶ。

 

 

 

「まずいです!今″世界の果て″にはギフトゲームのために野放しにされてる幻獣が」

 

 

 

 幻獣はその言葉の通りギフトを持った獣であり、その種類は多彩である。竜から獅子に鳥。種類は違えど共通している事が一つだけある。

 

 それは、この世界箱庭に来たばかりの人間ではいくら強くとも命の危険があるという事である。

 

 

 

「それじゃあ彼はいきなりゲームオーバー?」

 

「来てすぐゲームオーバー...斬新」

 

「冗談を言ってる場合ではありません!」

 

 

 

 ジンも事の重大さを伝えようとするが、叱られ肩を竦めるだけで理解していない。

 

 

 

(あの小僧(十六夜)がそう簡単に死ぬとも思えんが、これで死ぬならあやつはその程度って事じゃな)

 

 

 

 十六夜の人間離れした運動能力を目にしている織田信長だからこそ、死ぬとは思っていなかった。逆にこれで死ぬのなら自身の人を見る目も使えなくなっと思う他ない。

 

 

 

「ジン坊ちゃまここはお任せしていいですか?」

 

「うん、任せてよ。黒うさぎは──」

 

「分かっています─何がなんでも引きずってきます!!」

 

 

 

 姿勢を屈め脚に力を溜めると、艶のある黒髪を緋色へと変色させて地面を蹴り砕く。一応辺りへの被害は考えてそこまで全力ではないが、その姿は一瞬で数十メートル先へと移動する。

 

 

「一刻程で戻ります!皆さまは楽しい箱庭ライフを」

 

 

 

 遠くに消えていく黒うさぎはその言葉を残し、さらに加速して移動していく。蹴った場所には全て亀裂が入り被害は拡大していく。

 

 加速の際に発生した風により砂が巻き上げられ、目に入らないように目元を抑え風が止むのを待つ。

 

 

 

「ケホッ...随分と早いのね、おかげで私は砂を吸ったわ」

 

「黒うさぎはこの箱庭の創始者の眷属なので、箱庭の貴族と呼ばれています。さらに、力や多種多様なギフトが与えられているので問題は無いと思いまが...」

 

「うむ、ならば行くぞ。お前達はワシを呼び出したのに、なんの歓迎の準備をしていない訳はないな?」

 

「は、はいその点に関しては大丈夫です。それと申し遅れました、僕はコミュニティのリーダーをしておりますジン・ラッセルです」

 

 

 

 簡潔で丁寧な自己紹介をする。動作一つ一つも丁寧で嫌悪感を抱く要因は無い。

 

 

 

「そうよろしくね私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

 

「春日部耀」

 

「ワシは第六天魔王こと織田信長じゃ」

 

「久遠飛鳥さんに春日部耀さんに織田信長さんですね......え、今なんて言いました?織田...信長?えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 今世紀最大の絶叫は大きく反響し気絶一歩手前までの衝撃が全身に走る。

 

 やれやれ情けないわねと飛鳥はジンの手を掴み、階段を上って門をくぐる。

 

 

 

 



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甘味と犬と信長

 

 

──箱庭二一〇五三八〇外門・内壁。

 

 四人+猫の団体が石造りの階段を上り中へと入っていく。すると、空からは眩い光が降り注ぐ。

 

 

 

「天幕のある場所に入ったはずじゃが、なぜ太陽が出てる?」

 

 

 

 他の二人も同じ反応を示し、自身の生きた時代とのギャップでの衝撃ではないと知る。

 

 

 

「は、はい。天幕は内側に入ると不可視になります。太陽の光直接浴びられない種族のために設置されています」

 

「なるほどのぅ」

 

「あの...おこがましいと思うのですが、その格好はどうにかした方が」

 

「ん?格好か、おかしい場所あるか?」

 

 

 

 特におかしな場所はないよなとその場でクルリと回転して答える信長だが、現在の格好は破廉恥極まりない。

 

 濡れた和服はピッタリと素肌に吸い付き、その淡い肌を大胆に透けさせて魅了してくる。

 

 十六夜から貸してもらっている学ランだが、体格の関係もありギリギリ股は隠れているがそれでも股下数センチまでしかない。袖も長く意図せず萌え袖になり、行き交う男を何人か虜にしている。

 

 例に漏れずジンもその一人であり、体格は近いが纏う雰囲気が圧倒的に上な信長のあられもない姿に頬が高揚している。

 

 

 

「別に脱いでもええが」

 

 

 

 特に羞恥心などと言うものが欠落している信長は、大胆にも学ランを脱ぎさる。その下にある下着なしの肌を見せびらかしてだが。

 

 

 

「やっぱり着てください!お願いします!」

 

「どっちなのじゃ...たく」

 

 

 

 無駄な運動をさせられたと機嫌が少し悪くなるも、ジン達から離れようとは思っていない。

 

 その大きな理由としてはあの声の主に会いたいと考えているからだ。

 

 

 

(ワシの脳に直接語りかけるような声。さも自分の方が上だと言わんばかりのあの態度、気にいらん。一度シバくまでは離れるわけにはいかん)

 

 

 

 神など信じず、仏を信じず。自分の運命は自分で決めている。

 

 唯我独尊。覇王。周りからは異端児と言われるが、それでも信長の生き方は変わることは無い。そんな信長だからこそあの声の主が気に入らないのだ。

 

 日本には将来文豪がこんな言葉を残していた。【天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず】産まれた時は同じスタートラインに立っていて、そこからの努力次第でどうとでもなると言う意味だ。

 

 信長は、努力を怠ることをしたことが無い。必要だと思った事は率先して行い、不要だと思った物は切り離す。

 

 この人生が他人にどうこうされるなどもってのほかだ。自分の人生は自分だけが決めて生きていく、それが信長の心構えだ。

 

 

 

「の......さ......ぶ......ま」

 

 

 

 腸が煮えくり返りそうなほど熱く燃える。そうそれはまるで──

 

 

 

「信長様!」

 

「ほわっ!突然大声を出すではない、驚くではないか」

 

「突然立ち尽くしたのよ、天下の信長様も焼きが回ったのかしら?」

 

「くくくく、嫌味ったらしいが的を得てるのう。その不敬許すぞ、飛鳥」

 

「それはどうも。で、信長様もあそこの店でいいの?」

 

「あぁ特に問題は無い」

 

 

 

 待ちくたびれた。そんな表情で見つめる春日部は指さされた″六本傷″の旗を掲げるカフェテラスへと滑り込む。

 

 無表情に近いのだが、それでも感情はしっかりとあるようで、どことなく蘭丸に似ているなと考え深い物があった。

 

 

 

「いらっしゃいませー。ご注文は如何なさいますか?」

 

「む、むむむむむ!なんじゃこれ!しょーとけーき、ろーるけーき、もんぶらん...見たことの無い甘味が沢山あるではないか!ジン、ジンよ!どれでも食べてええのか?」

 

「えっ...と...さすがに全部はダメですが、少しぐらいなら」

 

「うおおおおおお!よいよいぞ!よし、お主をワシの家来にしてやろう。猿と同じく真面目に励むといいぞ」

 

 

 

 少し落ちていた機嫌も見たことのない甘味によって大きく上がる。

 

 

 

(そう言えば、信長はカステラや金平糖などしか甘味は食べてないのよね。ショートケーキとかを初めて見たってことかしら?)

 

 

 

 彼の信長の意外な一面に驚くと当時に、自分達との時代とはホントに大きくかけ離れているのだと改めて実感できた。

 

 その後とりあえずショートケーキ・モンブランの二つを頼み、まだ入りそうなら他の物も頼むと言う事で納得した。

 

 

 

「いいわね春日部さんは素敵な力を持っていて」

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわよ」

 

「分かった。飛鳥はどんな力を持ってるの?」

 

「私は──」

 

「おやぁ?これはこれは、誰かと思えば東区画の最弱コミュニティの″名無しの権兵衛″のリーダー、ジンくんじゃないですか。今日はオモリの黒うさぎはいないのですか?」

 

 

 

 話を遮るように乱入してきたのはピチピチのタキシードを着た変態だ。服の上からでも見れば分かるが、膨張した筋肉がそれなりの力を示している。

 

 その者はジンの知り合いらしく、嫌そうな視線を送り出て行けとアイコンタクトを取るが、変態は知った事かとドン!と椅子に座る。

 

 

 

「僕らのコミュニティは″ノーネーム″です、″フォレス・ガロ″のガルド=ガスパー。それとも名前すら覚えられないのですか?」

 

「黙れよ小僧。こっちが下手に出てるのは、てめぇにじゃねえ。そちらのお嬢さん方にたいしてだ。いつまでも過去の栄光にすがりつくてめぇとは違ぇんだよ。自分の置かれた立場くらい把握しろ」

 

「敬意を払えと?昔の貴方ならば敬意は払いますが、今の貴方に対して払う敬意などありませんよ」

 

「ほほう。いい度胸だな″ノ──」

 

「ハイストップ、二人ともヒートアップしすぎ」

 

 

 

 二人の険悪な中に停止の声をかけたのは飛鳥だ。

 

 二人が水と油またはそれ以上なのは重々把握できた。ガルドの口から出たとある一言が引っかかり静止をした。

 

 

 

「ねぇジンくん。今そこの男が語った、置かれた立場とは何かしら?私たちは未だに詳しい説明を受けてないわ」

 

 

 

 声が出ない。

 

 ジンは黒うさぎと口裏を合わせひた隠しにしていた″ノーネーム″の秘密がある。どうにか加入が確定した後で語ろうとでも思っていたのだが、そんな考えは消し飛んだ。

 

 飛鳥が説明を求めるも答える訳にはいかない。もし説明すれば普通ならば″ノーネーム″に入ろうとはならないからだ。

 

 

 

「ではレディ。そちらの小僧は話す気が無いようなので私から話しましょう」

 

「ええよろしく」

 

「遅いなーまだかなー」

 

「ジン=ラッセル率いる″ノーネーム″がどのような立場にあるのかそれは──」

 

 

 

 ガルドが語るのはよくある出来事だ。

 

 数年前まではジン達のコミュニティは東区画最大手だったのだが、たった一夜にして最強最悪の天災″魔王″に滅ぼされてしまった。

 

 結果としてコミュニティの目印となる″旗印″と″名″が奪われ″ノーネーム″にまで落ちた。

 

 そうなれば悲惨な現実しか訪れない。

 

 主戦力は消え″ギフトゲーム″に参加しても勝てない。

 

 信用と信頼がないため″ギフトゲーム″を開いても誰も参加しない。

 

 新たな戦力を求めようとも、そんな崖っぷちどころか奈落に首まで落ちてるコミュニティなど誰も入りたがらない。

 

 だからこそ外から人を招くしか方法がなかった。それだけが残された可能性だったのだ。

 

 

 

「と言うわけなんですよ」

 

「なるほどね、ジンくんはこんな大事な事を私達に隠していたのね...はぁ残念だわ」

 

 

 

 くくくく。ガルドはピチピチなタキシードを震わせながら笑う。

 

 意気消沈とはまさに今のジンを表すのだろう。もう、口は固く閉ざされ惨めに震えるしかない。

 

 

 

「なので、どうですか黒うさぎ共々私のコミュニティに来ませんか?」

 

「そっ──」

 

「黙れよジン=ラッセル。そうそうにコミュニティを作り変えれば良かったものを、貴様の傲慢でこうなっているんだぞ。事情を知らない者なら騙せると思ったか?箱庭に生きる住人として、通さなきゃいけない仁義がある」

 

 

 

 ジンは肯定も否定もしない、悔しそうに唇をかみ締め下を向く。

 

 哀れだなと皮肉ぽく笑い、三人へとガルドは向き直る。

 

 

 

「今すぐにとは言いません、一週間程待ちますのでどうか最良の決断を」

 

「そうね。ジンくんのコミュニティは現在最低底辺。生きていくのがギリギリ、私達が合流して悪化するかもしれない」

 

「そうです」

 

「対して貴方はここら一帯を支配するコミュニティ。衣食住はもちろんの事娯楽などもしっかりしているのでしょうね」

 

 

 

 確定的だった。ジンは蜘蛛の糸ほど細い希望の糸も断ち切られ──

 

 

 

「けど断るわ」

 

「は?」

 

「だってそんなのつまらない物。強くてニューゲーム?ふっ...そんな者に興味はないわ!底辺?上等よ、逆にそっちの方が楽しそうだわ!」

 

「な、何を言ってい」

 

「春日部さんはどう思う?」

 

「友達を作りに来ただけだから、どっちでもいい」

 

 

 

 今までの話を聞いても興味が無いのか淡々と受け答えをする。それにガルドは呆れるしかない。

 

 

 

「そうなら私と友達になりましょう」

 

「...分かった。飛鳥となら友達になれそう」

 

 

 

 おい待て、何がどうなっていやがるとガルドはまるて彼女らの思考が理解できない。

 

 自ら進んで茨の道どころか地獄の道を歩もうとしている決断に理解が追いつかない。

 

 ではもう一人の少女はどうしているのか、視線を向けると。

 

 

 

「うまっ!なんじゃこれ美味すぎじゃろ!かァァ、ワシの時代になぜこれが無い!」

 

 

 

 ペロリと二つのケーキを完食していた。

 

 この先の人生を決める重要な場面で優雅に食事をとるなど、普通ならばありえない。三人が三人とも異常だ。

 

 

 

「あっ、すまん注文いいか?このいちごばななちょこすぺしゃるでらっくすみっくすえでしょんぱふぇを一つくれ」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ」

 

 

 

 猫耳をピクピク動かし盗み聞きしていた店員は急いで厨房の方へかけていく。

 

 

 

「さて、もういいかのう」

 

「ん──」

 

 

 

 信長が立ち上がったのと同時。ガルドの視界は上下逆転した。それが、蹴られて吹き飛ばされて回転したのだと気づく頃には地面へと直撃する。

 

 

 

「がハッ」

 

「せっかくの甘味の時間で、貴様の汚れた話など聞きとうないわ!その口閉ざさせてやろう」

 

 

 

 すぃーつを完食した段階でどうなんだろうかと思うが、信長の怒りは至極真っ当だ。

 

 戦国時代を生き抜いてきた信長だからこそ分かる、裏で色々工作し血に汚れ内面から腐り果てていた奴と同じ匂いを感じていた。

 

 影の人間。表にどうどうと居ていい人間ではない。

 

 

 

「この、小娘がァァァァァ!調子に乗るなよォ!」

 

「...立場がいささか分かっておらんようだな──

 

 

 

 その言葉を皮切りに虚空から何かが現れ信長の周りで停止し時を待つ。それは信長に縁が深くよく知る物だった。

 

 無敵の武田軍の騎馬隊を打ち破った兵器【火縄銃】である。

 

 

 

(あれぇ?ワシどこに隠し持ってた?てか、周りに浮かんどるやつどこから出てきた?)

 

 

 

 当の本人はこの謎の現状に理解が出来ていないようで、内心かなり驚いていた。

 

 されども流れは完全に信長が掴んだようだ。圧倒的強者からの威圧に突如として現れた【火縄銃】により、獣特有の勘で戦っては行けないと悟る。

 

 

 

「はっ、随分と弱気じゃな。先程までの威勢はどうした?ん?」

 

「こ、この!!!」

 

「ほれほれ甘い甘い!その程度でこのワシの首を打ち取れると思うなよォ!」

 

 

 

 ピチピチだったタキシードは弾け飛び、筋肉は大きく膨張し鋭い爪が牙が信長を襲う。が、その全てを少ないステップだけで躱していく。

 

 周りから見れば一目瞭然。空中をはためく薄紙を刃物で切るなど不可能に近い。この後いくら繰り返せど信長に攻撃が当たることはありえない。

 

 

 

「うっとうしいな!」

 

「あッ──」

 

 

 

 大振りな一閃を右足を引いて躱し、体制が崩れた瞬間に顎に向け引いた右足で蹴りあげる。

 

 いくら獣とは言えど人間と同じような構造で脳があるならば、逃れようのない一撃だ。

 

 脳に激しい衝撃が訪れ数秒間だけ意識を奪う。仰向けに背中から倒れ、意識を取り戻し飛び上がると──

 

 

 

「はいドーン」

 

 

 

 待ち構えていた信長の蹴りが顔面を強打する。

 

 とは言えだ。身体能力は成人男性に比べればいくらか劣る少女の蹴りに、相手を殺す程の威力は無く這い転がり飛び上がる。

 

 完全にブチ切れているのか息を荒くし、姿勢を低く屈め構えて、いつでも襲ってやると唸る。

 

 

 

「ワシとしてはなここで一つ試しておきたいんじゃよ。″ギフトゲーム″とやらをやろうではないか犬よ!まさか、逃げるとは言わんよなぁぁ!」

 

 

 

 獣へ告げたのは″ギフトゲーム″への勧誘だった。



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第六天魔王が産まれた日

し失踪してたんじゃないんだ!!!ちょっと寝たら半月以上過ぎただけなんだ!!
だから石を投げないでくれ!!

あっ、聖晶石ならむしろウェルカム。


 

 

 信長の宣戦布告から数時間経ち日は暮れ始めた。その時刻になってようやく黒うさぎ達と合流する事が出来たのだが──

 

 

 

「なっ、な、な何をしてるんですかぁ!」

 

「″ギフトゲーム″じゃよ。うむ、楽しみで楽しみでぱふぇがすすむな」

 

 

 

 食欲は別の要因だろと心の中でツッコミを入れるだけにする。それに問題は他にあったのだから。

 

 ″ギフトゲーム″を仕掛けたはいいが信長は開催の仕方など一切知らない、知っているのは勝てば正義負ければ悪であると言うこと。その他についての詳しい説明を受けるまもなく仕掛けたため、全ての準備はガルド持ちとなってしまった。

 

 ガルドが全ての準備を行う。戦場、ルール、勝利条件、開催日......それが意味するのは全てに置いて不利な状況下でゲームが行われるのだ。

 

 どんな策を練ろうと、どんな力を優位を取っていようと、その全てを根本からひっくり返す″ギフトゲーム″を行う可能性すらある。

 

 幸いだったのは開催日が明日との事で、何かしらの大掛かりな仕掛けは用意されないだろうという事である。が、それはこちらも同じであり金など三人を呼び出すのに殆ど使ってしまい、出せる金ははした金程度しかない。所詮は焼き石に水でありあっても無くても変わらない。

 

 その事を事後報告で知らされた黒うさぎは内心どころか表面にすら焦りが見えている。

 

 

 

「過ぎたことはいいじゃない黒うさぎ」

 

「ん、これは私達が仕掛けた喧嘩。最後まで私達が持つから責任は」

 

「なんじゃぁ黒うさぎ、この美女三人がここまで言ってるのにまだ腹を括らんのか?」

 

 

 

 自分で美女と言う残念美女は堂々と胸を張り、その選択に一切の後悔はない様子だ。

 

 怒り心頭ではあるがここで数少ないどころかか細い勝率が、飛躍的に上がる方法を思いつく。

 

 

 

「分かりました、私も覚悟を決めましょう。まぁ十六夜さんがいれば″フォレス・ガロ″なんて余裕ですしネ」

 

 

 

 そう、黒うさぎは逆廻十六夜の力をその目でしっかりと見た。

 

 幻獣など最高峰の才能(ギフト)を持つ十六夜であれば問題は無いだろうと予想していたが、その予想はいい意味とも悪い意味とも裏切られた。

 

 世界の果てには強大な″ギフト″を授けられた水神がいた。身体は蛇だがとてつもなく長く大きな塒を巻く蛇の神。

 

 凡そ人間では勝てない圧倒的スペック違いの相手なのだが、十六夜は一方的に圧倒的に粉砕してしまった。その力は人間とホントに呼べるのか怪しい所ではあったが強大な力には変わりなく、水神倒せたのだから″フォレス・ガロ″など簡単に倒す事ができる。

 

 

 

「何言ってんだ黒うさぎ?俺は参加しないぞ」

 

 

 

 呆気からんと普通に返された返答は予想だにしない物だった。

 

 

 

「え?あの十六夜さん何をいっ──」

 

「当たり前よ。貴方の力なんて借りないわ」

 

 

 

 さもそれが当たり前のように飛鳥は肯定する。

 

 

 

「あぁもう好きにしてください。私はもう疲れました...」

 

 

 

 十六夜に振り回されたと思いきや水神を倒して、戻ったと思ったら勝手に″ギフトゲーム″を行う事になっている。一日に相当な疲労があったようでもうやけクセになりながら言い放った。

 

 

 

 

 

 本当はこの後すぐにでも美味しいレストラン等に赴き、ゆっくりと話しながら関係を築いていこうと思っていたがそんな思惑は崩れ去った。なので、予定を色々変更し″ギフトゲーム″に向けて自身の力をしっかりと把握してもらった方がいいだろうと″ギフト″の鑑定に行きたいが、一人そんな事を行う前にしなければいけない人がいるから。

 

 未だに十六夜の上着だけで堂々と腕を組んどスィーツを食べている、性格破綻幼女こと織田信長である。

 

 このままでは″ギフトゲーム″前に風邪をひいて急欠となってしまう。それでは目も当てられないので二手に別れることにした。

 

 これから向かう先にはまず黒うさぎがいなければろくに話が進まないので、黒うさぎが十六夜・飛鳥・春日部の三人を連れていき、ジンが信長を一足先に″ノーネーム″の居住区画へと向かう事になった。

 

 

 

「うむ、にしてもここは楽しい事ばかりじゃな。飯は美味いし、娯楽も溢れとる...ワシのいた時代とは大違いじゃ」

 

「は、はい。そそうですね」

 

「なんじゃお主緊張しとるのか?ガハハハハ!!よいよい緊張などしなくてもなぁ!」

 

 

 

 ケタケタと大袈裟に笑いながらジンの背中を何度も叩く。それが善意から来ているのか弄りから来ているのかは不明である。

 

 他の人が周りにいたため現代表自らガチガチに緊張した姿など見せてしまえば、威厳もへったくれもなくなってしまう。そのため、無理やり気合いでどうにかしていたがいざ二人きりになると途端に枷が外れ身体が硬直してしまう。

 

 日本に置いて言えば知名度トップクラス。歴史の教科書には絶対に乗っている過去の大偉人であり、ここ″箱庭″でもその存在は轟亘っている。

 

 三度もこの″箱庭″に呼び出されて三度も魔王になった者など織田信長以外に存在はしない。真横に魔王の因子とでも呼ぶべき存在がいるのだ。

 

 

 

「ふぅ......そうですね。」

 

 

 

 だからと言えど緊張してばかりではいられない。

 

 この先同じ仲間として生活していくのだ、もっとフランクに話せるようになればいいのだが残念ながらまだその域にジンは達せそうにない。

 

 

 

「お主も食べるか?先程感謝と言われてな、あの女子から貰ったものじゃ」

 

 

 

 そう言って差し出したのは紙袋一杯に詰められたシュークリームである。

 

 あの後猫耳の女店員が「あのいびり散らしてた奴を殴ってくれてスカッとしたにゃ」と感謝の言葉をかけながら、紙袋一杯にお礼として大量のシュークリームを貰った。

 

 甘味が美味しいとは言え量が些か多すぎる。

 

 この量を食べれば血液が全部くりーむになってしまうわと、健康に害が出ないように分けたに過ぎない、建前ではあるが。

 

 

 

「はい、ありがとうございます!」

 

(なんじゃ笑えるようじゃな。童そうやって笑ってるのが一番だからな)

 

 

 

 信長も子供の頃は大うつけと呼ばれるほど好き勝手にした。他人には舐められまくっていたが、結局のところ信長が後悔をしていないのだから大きな問題は無い。

 

 子供とは自由に好き勝手に生きる物だと常々思っている。ジンはコミュニティのリーダーとして、常にプレッシャーに押しつぶされそうになっている事だろう。初めて織田家を率いる事になった自分がそうなのだから、ジンにはとてつもない重荷であろう。

 

 そんな事を思ってかジンを見る目はどこか慈愛に似た何かが宿っていたのかもしれない。

 

 

 

 二人で無言でシュークリームを食べ続けながらも歩みは止めず進んでいくと、一つの門が目に飛び込む。

 

 門は扉により閉鎖されていて、柱には門を掲げていた名残らしき物も見られる。

 

 

 

「ここが僕達の″コミュニティ″の居住区画です」

 

 

 

 そっと扉に触れゆっくりと扉は開いていき、微かに空いた隙間からは乾いた風邪が髪を撫でる。

 

 

 

「なん...じゃと......」

 

 

 

 ″箱庭″に来て初めて動揺を見せた。

 

 目の前に広がるのはひたすらな廃墟。美しく整備されていたであろう街路はホコリにまみれ見る影もない。街路樹は石碑のように灰色であり、ヒビ割れをおこしている。

 

 人がここで住んでいたと知らされても信じる事が出来ないだろ、その上──

 

 

 

「ジン、お前は言ったな。魔王に攻められたのは三年前だと」

 

「はいその通りです」

 

「それは...真か?」

 

 

 

 そこが整備された道なのか分からないが数歩進み瓦礫を一摘みする。力を入れるまでもなく塵となり手から崩れ去る。

 

 過去に農民や民と遊んどいた経験などもあるから分かるが、この現状はとてもではないが三年前だとは信じられない。それこそ数百年の歳月が経っているとしか考えられなかった。

 

 

 

「なるほどな...これほどまでか、魔王とやらは」

 

「え、何かいいました?」

 

「いや何でもないぞ、大体分かった」

 

 

 

 砂を手一杯に掴んで持ち上げるも軽い風に簡単に飛ばされて消えていく。手には一粒も砂は残っていない。残ったのはある意味虚しさだろうか。

 

 魔王とやらがこの土地を取り上げなかった理由など考えるまでもない。力の誇示や見せしめなどだろう。自分が同じ立場なら同じ事をするだろうから。

 

 だからこそ余計に思ってしまう──

 

 

 

『魔王とやらに会ってみたいな』と

 

 



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ギフトゲーム前夜【前編】

長くなったので分割します。


 

 

「わぁ!おきゃくさまだぁ!!」

 

「違うんだよ!仲間なんだよ!!」

 

「やったあぁぁぁ!」

 

「ええい離さんか、邪魔じゃ邪魔じゃ!!」

 

 

 

 うっとしそうに飛びついてくる子供達を引き離しては投げ捨て引き離しては投げ捨てを繰り返す。

 

 今いるのは先程の玄関とは違いジンや子供達が生活するための建物であり、ここら辺までくれば植物もしばしば見え始め外観はいくらかマシになっている。

 

 生活して行く分にはさほど影響はないだろうとは思うが、このまま居ても環境が好転する事はまずありえない。どうにかここら辺の土地をどうにか復活させない事には。

 

 将来の事をすでに考え始めた信長の元に、元気いっぱいの子供達がはしゃぎながら自分をアピールする。こんな場所に来る物好きはいないのか、客人──仲間ではあるが知らない人に興味津々と言ったところだ。

 

 

 

「ジンさっさと行くぞ!」

 

「ま、待ってくださいぃぃ!」

 

「バイバイお姉ちゃん!」

 

「またあそんでねぇぇぇ!!」

 

 

 

 子供の元気は興味がある限り尽きることは無い。これ以上いれば黒うさぎと合流する気力すら無くってしまうと予見した信長は強行突破してジンの腕を掴む。

 

 右手を強制的に引っ張られ体制が崩れるも、腕を掴まれている影響で転倒することは無くどうにか歩く事ができている。千鳥足のように歩幅はバラバラで自分の意思で歩いているとは言えないが。

 

 

 

「少し元気すぎるな」

 

「まぁみんなも見た事のない人に興奮しているだけですから、時期慣れてくれますよ」

 

「別に攻めているわけじゃない。子供が元気なのはいい事だ。子供は風の子、縦横無尽に遊んでこそ子供と呼べる。

 

 それでもあんなに耳元でギャーギャー騒がれたら堪らんわ」

 

「そうですか」

 

 

 信長は口ではそう言っているが僅かに微笑んでいるのをジンは見ていた。

 

 

 

(まだ分からないけど、この人は僕達の知っている織田信長じゃないのかもしれない...性別から違う時点で当たり前か、ハハっ)

 

 

 

 噂と言うよりも織田信長の伝説は色んな意味で伝えられている。神を信じず、力のみを信じ、暴虐武人の限りを尽くす人間でありながらの魔王。

 

 一生関わる事など無いと思っていたから深くは考えては来なかったが、どこか気難しく少しでも機嫌を損なえば殺してくるような人物だと思っていた。

 

 だが、実際に会話して横を歩けば、纏う雰囲気こそ他人を寄せ付けようとしないが、時折見せる笑みは女の子らしく見蕩れてしまう。これが恋ではないと信じたい──絶対違うとジンは心の中で何度も念じる。

 

 織田信長は一人の女性であり人間性に溢れている普通の人である。

 

 

 

「どうしたそんな所で立ち止まって、早く行くぞ」

 

「すみません考え事をしてて、あっそっちじゃなくてこっちです」

 

「なにィ!それを早く言えジン、危うく恥をかくとこじゃったわ!」

 

 

 

 すでに取り返しが使いなんだよなとジンは心の中で呟く。一人勝手に進み真逆の方向から急ぎ足で信長が戻ってきて、先導を開始する。

 

 失態を取り返そうと急ぐその姿は本当に魔王になる存在なのか疑問を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 数十分歩き続け建物に入りどんどん進みとある部屋の前で止まる。

 

 扉は木材で作られていて模様は一切ないシンプルな仕様で、唯一あるのが金のドアノブだろうか。

 

 それでも信長に取っては初めて見る物にほかならない。

 

 

 

「これが西洋の扉...ほほう障子とはまた違った開け方みたいじゃな......ジンよどう開けるのだ?てか、開けて見せてくれ!ワシ胸が高鳴って仕方が無いぞ!」

 

「待っててくださいね、えっと確か......」

 

 

 

 ジンは自分の服のポケットに手を突っ込み銀色に輝く鍵の束を取り出す。鍵先は全てが別々でありながら区別のための印はどこにもない。

 

 それでもすぐに一つの鍵に決めドアノブよ真ん中に空いている鍵穴へと差し込む。

 

 右に一回捻りガチャと音が鳴ると鍵を抜き、ドアノブを軽く回して扉を開く。後ろでは興奮の声が聞こえるが今は無視だ。

 

 そこの部屋は基本的に黒うさぎとジン以外が入ることの無いように鍵を設けられた数少ない部屋で、剣や斧などの武器が大量に床に転がったり壁に立てかけられていたりしている。

 

 その一角に丁寧に畳まれて置かれている布の類がある。

 

 

 

「あそこに服があるので好きなのを着てください」

 

「うむ、ご苦労」

 

 

 

 ここまでの案内を労い上着をなんの躊躇いもなく脱ぎさり一糸まとわぬ姿になる。

 

 

 

「ひゃっ!なな何で今脱ぐんですかぁ!」

 

「服の上から服を着ろと言うのか?いやそれとも西洋ではそれが当たり前に」

 

「違いますよ!僕が言っているのは、何で僕がいるのに脱ぐんですか!」

 

「ん?ワシの身体に恥ずかしい場所など無いから、隠す道理もない」

 

 

 

 それを胸張って誇れることなのかどうかは置いておき、信長の羞恥心の欠如した行動にジンは顔を真っ赤にして慌てて顔を背ける。

 

 素っ頓狂な声を上げるのは普通なら女性の立場であり男があげるなど余りない。先程普通の女性と言ったがそれはすぐに撤回する事になる。

 

 顔を逸らしているジンを尻目に一人畳まれている衣類と睨めっこを始める。

 

 

 

「ふむ...おいジン、ここにある服だけか?できればこの素材と似たようなやつがいいんだが」

 

 

 

 脱ぎ捨てた上着を拾い上げ差し出す。

 

 ジンは目を隠した状態で受け取り素材の質感などを確かめるために数秒触ってから、似たような素材がどこかにあったような気がするなと思い出す。

 

 

 

「これは確か...えっと、ここら辺に」

 

 

 

 薄れた記憶を頼りに衣服の山を掻き分けて探していく。和服、洋服、スーツなどばかりが見つかり目的の物が見つからない。

 

 あれれ?ここにないのかな?と思い始めた時、綺麗に折りたたまれた目当ての物を見つける。

 

 それはいつからあったのかジンは知らないが、外の世界で言うところの軍服との事だ。自身の力を誇示するために統一されたデザインに、数々の模様や刺繍にボタンなどがあしらわれた服だ。

 

 やっと見つけられたと安堵した直後、とある問題が浮き彫りになる。

 

 

 

「見つけましたよ」

 

「そうか、それでは着て......これブカブカすぎぞ。ワシ用のは無いのか」

 

「あっ、そっか...すみません。ここにあるのは基本的に大人用で、他のはみんなで着ちゃってまして」

 

「大人用だと、ワシも大人じゃ!酒も飲めるぞ!」

 

「サイズの話なので、それと仕立て屋に出すのでサイズは後で変更できるんですが、今すぐにはちょっと...」

 

 

 

 むむむむ。頬を膨らませ不貞腐れた様子で両手を組む。素直に可愛いなと思ったが、頭を左右に振って思考を落ち着かせる。

 

 とは言えだ、何も着ないのも着ないで問題であり、いい加減裸でいるのも寒くなってきたので何かしら着たい。

 

 軍服のデザインは信長自身でもかなり気に入っていて、これ以外考えようがないほど惚れ込んだ。

 

 

 

「......そうじゃ、着れないなら着なければいいんじゃ!ワシってばマジ天才」

 

 

 

 適当に転がっていた黒の無地のTシャツを着て、ズボンは裾を引きちぎって丈を合わせる。そして、肝心の軍服の上衣を羽織るように肩にかけ、ボタンでシャツと繋げ合わせる。

 

 まじ完璧と自画自賛を繰り返しながらクルクルその場で何回か回る。

 

 服は風になびくようにふわりと舞い上がり、信長へと馴染んでいくのが分かる。

 

 

 

「いやーまじワシ可愛すぎるわ、何でも服が似合ってしまう。是非もないよネ」

 

「確かに」

 

 

 

 純粋にお世辞を抜きにしてもその完成し尽くされた美貌は凄まじい。それこそ、その美しさから三大美女と讃えられている、彼女らに肩を並べてしまう程に。

 

 ただ、信長の余りにも乙女らしからぬ性格によって残念美人になっている事だ。その点を抜けば美人と呼ぶこと人が増えることだろう。

 

 

 



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ギフトゲーム前夜【中編】

本当は後編で終わるはずだったんだ......

そんな事より八時三〇分より、レイド戦ですね。バルバトスの二の前にならないことを祈ります。


 平行世界またの名を『パラレルワールド』それは【もしも(if)】の数だけ世界が無数に広がっていることを示している。

 

 たとえば、世界を支配しようと画策する王を倒すか倒さないか、もっと分かりやすく言えば織田信長が本能寺で死んだか死ななかったのか、この事柄によって後の世界は変化していく。

 

 一つの世界を選べばもう一つの世界に干渉は出来ず、選んだ世界で生きていく他にない。過去にした選択は二度と消す事は出来ない。

 

 しかし、″箱庭″に″平行世界″(パラレルワールド)ではなく″立体交差並行世界論(パラレルワールド)″なので、交わるはずのない世界は交わり合い江戸時代の武将、紛争時代のご令嬢、人間とは不釣り合いの力を持たされてしまった高校生、父からギフトを授けられた少女。

 

 四人とも時代は別々でありながらここ″箱庭″にて交わってしまう。

 

 

 

「なるほどな...ぱらそるわーるどか」

 

「パラレルワールドです」

 

「横文字は些か苦手じゃ。もっと分かりやすく説明せい」

 

「次からはそうします」

 

 

 

 現在ジンと信長の二人は着替えを終わらせたと同時に大急ぎで黒うさぎ達との合流を目指している。

 

 なんでも″ギフトゲーム″前には絶対に自分の力について鑑定しておいた方がいいとの事だ。戦国時代に生きていた時にはあんな奇天烈な銃を取り出す力など持っていなかった。その事もあり拒否することなくしぶしぶ鑑定をすると決めた。

 

 だが、弱小コミュニティの″ノーネーム″にすぐに鑑定するすべはなく、色々世話になっている彼女に頼る他にない。

 

 

 

「して、そやつは何なのだ」

 

「白夜叉様、白夜王なんて昔は呼ばれていた元魔王です。自身の権能をいくつか封印して、今の安定した地位を確立していますがそれでも実力は東側の最強。そのため、東側の″階層支配者(フロアマスター)″をしています」

 

 

 

 曰く、白夜の精霊であり、夜叉の神霊。

 

 ″白き夜の魔王″と恐れられ太陽と白夜の精霊。産まれながらの魔王であり、その身には人類が乗り越えるべき″人類最終試練(ラストエンブリオ)天動説″である。

 

 過去三度敗れ、一度目の敗北で世界に昼と夜が産まれ、二度目の敗北で太陽の区分が三つに分かれ、三度目の敗北で″天動説″の霊格そのものが砕かれたとされている。

 

 人類は″天動説″とは別の″地動説″を作り上げた事により、その霊格は縮小している。が、人類から観測できる中での否定であり真の意味で否定出来たわけではない。

 

 

 

「ならば神というわけか」

 

 

 

 知識としては知っていても教えるにはまだまだ早いジンの拙い説明であってもその結論を導き出す。

 

 白夜叉は太陽を司る太陽神にほかならない。現に太陽の主権を十四個保持している。

 

 神である。神なのである。空想上と馬鹿にしコケにし信じて来なかった神との対面が出来るのだ。

 

 誰しもが一度は考えた事はあるだろう。神がいるならば一度は会ってみたいと、信長も同じく会ってみたいと考えていた。『神を殺す』が後に付くことになるが。

 

 必然的に駆ける足の速度はどんどん上がっていく。早く会いたい、早く逢いたい。砂埃を大きく巻き上げ進む──

 

 

 

「そっちじゃないです」

 

「くぅ早く言わんか!ワシが迷ったみたいでダサいではないか!」

 

「そんな速度で移動されたら注意も遅れますよ」

 

 

 

 いきなり出鼻をくじかれる結果になったが大きな支障はないと思いたい。

 

 

 

 

 

 かなり急いだおかげかそう時間はかからずに″サウザンドアイズ″の東区店にたどり着いた。

 

 信長からしたら時期外れの桜が咲いている街路に大きな川。建物は三階建ての木造建築と、どこか生きていた時代に似ている箇所があり安堵感に近い何かがある。

 

 

 

「はぁ...はぁ...もう無理...じゃ......死ぬぅ」

 

 

 

 あの後も結局五回道を間違え無駄な体力を大量に浪費した。そのおかげで息は乱れに乱れ深呼吸で落ち着かせるのにも一苦労である。

 

 隣でへたり込むジンも同じようで汗だくになりながら必死に酸素を取り入れている。

 

 

 

「.........帰っていいですか」

 

「ダメじゃ!」

 

「ダメです!」

 

「ですよね...はぁ、既に御四方は入られてますのでどうぞこちらへ」

 

 

 

 休憩をとるまもなくせっせと建物の中へと押し込まれていく。

 

 中はと言うとどこか日本的な要素が多く見られる。店員の来ている和服や掛け軸に障子などなど、外観もそうであったが内装を見て懐かしと思う。

 

 久々の自国の面影に鑑賞──する余裕すらない。店員は無愛想にどんどん進んでいき、案内と言うよりは道を先行しているのに近い。

 

 後ろから切りつけてもいいが、あいにく手持ちに刀が無いので諦めて大人しく後をついて行く。

 

 

 

「おろ?そやつらは...黒うさぎの言っていた織田信長じゃの」

 

 

 

 タイミング良くなのか引き戸から現れた浴衣幼女に声をかけられる。

 

 



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ギフトゲーム前夜【後編】

に逃げてないからね。
ほら、FGOでメインストーリ出たじゃないそのせい──すみません私が悪いです。

余談終わり、タイトルを見ると次がギフトゲームみたいですが違います。
次は皆さんお楽しみのお風呂回です、お楽しみに。


 

 

 

「かかかっ!なるほどなこやつがあの織田信長か、性別が違っているのにはおどろいたが、外の世界では偉人が女体かなど日常茶飯事なのだろ?ならば問題なし!」

 

 

 

 そう豪語するのは白髪の幼女である。信長から見れば全く同じ体型をしているので気に入らない。

 

 幼女が来ているのは和服に近いがかなり改造されていて、洋と和が混ざりあった代物である。袖の端々は白いフリルがあしらわれている。その上膝下でばっさり切れていて女子が切るにしても露出が多すぎる。

 

 

 

「ほうこやつが白夜叉か……最強と言うからにはいかに強いやつかと思ってきたが、警戒にすらあたらんな。こんな子供にワシは負けん」

 

「その言葉はそのまま折菓子付きで突き返すぞ……織田信長」

 

 

 

 まだ出会って数分なのにも関わらず仲が悪いのはバチバチと火花を散らしている。

 

 東区画最強の白夜叉と睨み合う最弱のコミュニティノーネームの一人織田信長。場違いにも程があるが信長にとってそんな事は些細であり気に病むことではない。それに──

 

 

 

(ジンの言ってる事が本当ならばこやつが神か)

 

 

 

 まだ天下統一を目指していた当時には信じていなかった神が目の前にいる。初めての遇である。

 

 宗教における崇めるべき神達。この世界を作りし創造神。人を、生命を、惑星を完成させた神。科学ではその存在が否定されていて信長自身もそんな物信じる気は無かった。

 

 箱庭に来たばかりの信長はまだその存在について聞いてはいたが半信半疑。一朝一夕で今までの数十年分の思想が変わる訳もないが、いざ目の前にすると改めて肌を通じて感じていた。

 

 武田信玄と戦った時よりも痛く。

 

 上杉謙信を見た時より冷たく。

 

 炎に包まれた時より熱い。

 

 

 

 摩訶不思議な感覚。ここまで生きてきたがそのような感覚になった事など一度もなく、白夜叉と呼ばれるものが自身よりも圧倒的強者である事を感じていた。

 

 

 

「して、確か宣戦布告をしたのはお主との事だな……それはまことか?」

 

「あの犬の事か?それならばそうだ」

 

「ふむ…………それはノーネームの置かれている状況を知った上での行動だと聞いているが、なぜそのような行動を取った。ここに来たばかりのお主がなぜそのような強気に出れた」

 

 

 

 信長を見つめる目は至って冷静で、何かしらの挙動一つ見逃すこと無いように目を見張っている。

 

 白夜叉の聞いた見た織田信長は目の前の幼女とはかけ離れていた思考をしていた。

 

 都合の邪魔だから殺した。逆らったから殺した。目障りだから殺した。天下統一をするために皆殺しにした。

 

 常人とはかけ離れた思考回路。もしそれが目の前の信長も同じであれば自ずと辿る道は一つ。魔王になり暴虐の限りを尽くすだろう。

 

 そんな危険な因子をここでミスミス逃す訳にも行かないが、ノーネームに所属しているので直接手出しをするのはその真意を聞いてからと決めていた。もし、思考が同じであれば一切の躊躇無く殺すと。

 

 

 

「さぁワシにも分からん」

 

「「は?」」

 

「気に食わんと言うかなんと言うか……まぁ飯の邪魔だったから喧嘩を売ったのか?」

 

「理由がない……と」

 

 

 

 魔王織田信長と同じ思考であると結論づけた。

 

 そこからの行動は迅速で持っていた扇を力強く握りしめ横へ一閃──

 

 

 

「ジンを馬鹿にされたからが一番妥当じゃな」

 

「ほう」

 

「ワシはこやつのコミュニティに入ると即決していたのでな、となればもう仲間だ。その仲間を馬鹿にして黙っているのはワシの性分に合わん」

 

 

 

 その答えは満点とはいかなくても赤点にはならない。仲間のための行動であったと、決して自身の欲望のためではなく。

 

 性別の変化は今まで過ごしてきた過程も変わってきたのだろう、そうなれば魔王織田信長に比べて思考回路も若干の変化があってもおかしくない。

 

 その変化がどのような変化であるのかこの先を見て判断を決めると考えを改めた。それに現在のノーネームは弱小がすぎる。少しでも強い者をそれこそ魔王だとしても必要である。

 

 攻撃の手を止め扇を机に置き茶を啜る。小休憩を挟み思考をその間にまとめ上げ決断を告げる。

 

 

 

「そうか、ならばお主の不始末はお主自身の手で処理するといい。ホレ、これをくれてやる」

 

 

 

 服の合間から人差し指と中指の二本だけで挟み上げ、手首のスナップを効かせ信長の髪色と同じ黒色のカードを投擲する。

 

 飛んできたカードを不思議がりながら掴んで受け取り表裏を確認して余計に首を傾げる。

 

 

 

「なんじゃこれ?」

 

「ギフトカードだ」

 

「え?ぎふ……くらぶかーど?」

 

「ギフトカードですよ信長様!」

 

 

 

 正式名称を”ラプラスの紙片”と呼ばれている。

 

 カードには所属しているコミュニティの名と旗印が刻まれていて、自身の所有するギフトも収納し何時でも何処でも顕現させる事が可能な特別な代物だ。

 

 上位のコミュニティ、魔王と戦うコミュニティ達には必須のアイテムであり、これがあるか無いかで生存率が大きく変わる。

 

 本来ならばこんな高級品を提供するなど滅多な事でもありえないが、ノーネームに再建してもらうには必須のアイテムなので渡す事にした。先に来ていた十六夜、耀、飛鳥、の三人は既に受け取り済みである。

 

 ちなみに本来は名と旗印が触れた瞬間浮かぶのだが、名と旗印のないノーネームは残念ながら浮かぶべき物が何一つない。

 

 

 

「なるほどな……うむうむ。全くわからん!どうせワシには関係ない事だし良いか」

 

「けどこれで信長様の所持しているギフトが何か分かったんですから、戦いやすくなりましたよ」

 

「ジンがそう言うなら大人しく貰っておこう……ではもういいな、帰るぞ少し疲れた」

 

「ちょっ、早いですって信長様」

 

 

 

 貰う物を貰いもう用はないのだが、それでも世間話ぐらいと言うか圧倒的格上の存在に対して礼の一つもしなければこちらが無礼である。

 

 信長はすでに部屋を飛び出していてどんどん歩いているので、ジンは立ち上がると軽く一礼してから方向音痴の信長の元へとかけていく。

 

 

 

「和室を走るなと言うのに……まぁよいか。それよりも監視の目を強めなければいかんな」

 

 

 

 白夜叉は問題児四人の手によってこの箱庭は掻き乱され、何かしら大きな事件が発生するだろうなと未来の出来事を思いながら深いため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






織田信長ギフトカード内容



”魔王の因子”

”天下布武・革新”

”三千世界”

”??????”


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お風呂回。えっ、ポロリ?そんなも──

最近「あひるの空」を読んだのですが、すげーバスケしたくなったので昨日母校に乱入してきました。
おかげで筋肉痛だよこの野郎!

あっFGOのイベントでちょっと投稿遅れます。




織田信長は白髪幼女事、白夜叉と出会い新たに目覚めた力について思考を巡らせ始める。

 

名前が判明しているのは”魔王の因子”と”天下布武・革新”と”三千世界”の三つで、”??????”に至っては名前も能力も一切が不明である。

現状分かっている能力がどこからともなく想像すれば銃を創造出来ると言う事だ。玉は詰め込まれていて火も点火済み。引き金を引くだけですぐさま鉛玉を弾けさせ、敵へと的中させる──簡単に言えば猿でも撃てる親切設計だ。

 

(さて、いささか名前が無いと締まらんしな……この中だと三千世界が妥当かのぅ。魔王の因子とか技名ぽくないし、もう一つは長いし是非もないよネ)

 

簡単に適当に決めているがこれは理論的にも理にかなっていた。

銃を創造するには集中し銃の事をイメージしなければいけない。今までは戦闘と言う戦闘をしていないので問題は無かったが、ギフトゲームとは言わば戦争。

ほんの少しの遅れが生死を分かつ重要なファクターとなる。戦場では一興一同冷静に尚且つミスなく高速で行わなければいけない。

一丁二丁程度ならば一秒未満で創造出来るが、百、千──それこそ限界の数まで一気に創造するとなると一秒以内に出せる自信はない。なので、技名を付けそれと銃をリンクさせておけば土壇場の場面に置いて、一気に大量展開する事が容易になる。

と、ここまでの事を信長が考えていれば良かったのだが、本能の赴くままの信長はカッコつけたいからと言う理由で決めていた。

 

 

長い長い徒歩を終えて日は暮れているがどうにか屋敷に着いた。

ここまで会ったのは忙しなく働いていた子供達だけで、黒うさぎ達一向とはすれ違ってすらいない。

 

「ふぅぁ……眠いな」

 

信長が謀反されたのが夜で、その後も一睡どころか朝の箱庭に呼び出されそれ以降睡眠時間すらない。明らかに寝不足だ。

眠い目を擦りながら一歩一歩屋敷へと向かう。後ろに追随するジンは信長の欠伸に空笑いを返す事しか出来なかった。

その時に周りにいる敵勢力に気づいてはいたが眠気の方が些か強く、自身が出向くまでもないと考えていた。

 

屋敷の中に入ると目の前を丁度女方三人が通り過ぎようとし、信長を見つけると足を止めた。

 

「あら、帰ってきたのね」

「歩いてな・・・遠すぎるわ、足が破裂するかと思ったぞ」

「私も概ね同じ感想よ・・・そうだ、一緒に来ない?これからお風呂に行くのだけど」

 

本来であれば水を川から子供達が汲んでくるノーネームでは、風呂などと言う水を大量に使う事はあまりしたくない。が、逆廻十六夜が蛇神を殴り倒して奪った水樹のギフトにより、汲んでくる必要もなくなります大量の水をいくらでも使う事が可能になった。

朝に水に落ちその後はひたすらに歩いて極寒地帯に転移してと、休まる時の一つも無かった春日部と飛鳥は絶対にお風呂に入ると言って聞かなかった。

黒うさぎは慌てて手入れをしてこなかった浴槽等を洗い、どうにか使用可能状態に漕ぎ着けて二人を呼んだのだ。そこに信長一人が加わるのは大した問題ではない。

 

「ふむ水浴びか・・・いや朝どうせ浴びたしな」

「え、水浴び?もしかして戦国時代にお湯を浴びる習慣はないのかしら?」

「私は歴史に詳しくないから知らない」

「なんだ、水浴びではないのか?それとも蒸し風呂か?」

「違うのですよ信長様。この時代お風呂とは、お湯を浴びてお湯に浸かる事を表します」

「なんと珍妙な」

 

湯船に浸かるようなお風呂と呼ばれるスタイルが浸透したのは江戸時代からとされていて、戦国時代には蒸し風呂(サウナ)や水浴びが常識であった。

そのため黒うさぎから伝えられた行いは謎めいた物であった。

 

「じゃが面白そうじゃワシも行こう」

「了解ですではこちらへ」

「ジンも入るのじゃろ?ワシの背を流すために」

「ふぁぇえまぇぉぉ!」

 

驚きのあまりジンは突拍子もない大声を上げた。

 

「うるさいわ!何を変な声をだしとる」

「いや、え、僕は男ですよ」

「それがなんじゃ、蘭丸も男でワシの背中を流したぞ」

「いやでも・・・耀さんと飛鳥さんは」

「問題ないわよ。さすがに十六夜くんならまだしも、まだ子供のジンくんなら別に」

「問題ない」

「よし、決定事項じゃなそれじゃあ行くぞ」

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

本来は叫ぶべきは女子なのだが唯一男のジンだけが恥ずかしさから叫ぶ。

戦の時代以降の平和な時代を経験している耀と飛鳥は、銭湯においてはある一定の幼い男の子に関しては女子風呂に入っても問題ないとしていて、信長は背中を流させるためによく森蘭丸を使った事などを踏まえると問題ないとした。

この時一人反対しようとした黒うさぎも今日のゴタゴタした疲れからもうどうでもいいやと諦めて口を出そうとしない。

事実上ジンに拒否権はなく一人幼女に引きずられながら風呂場へと向かう事になった。

 

大浴場は手入れされていないと言っておきながらも、更衣室はそこそこ整理されていて、竹籠に木製の簡易ボックスと不自由な点は何一つない。

 

「でます!でますからぁ!」

「悲しいぞ・・・ワシの身体はそんなに惨めなのか」

「そうね・・・どこかの何うさぎに比べれば私なんて」

「大丈夫だよ飛鳥将来大きくなると思う」

「ありがとね春日部さん」

「それは・・・僕としては魅力的で・・・けどその中まで僕は男で」

「ええい四の五の言うな!男じゃろ!」

 

服を無理矢理剥ぎ取り勢いよく戸を開け、風呂場へと投げ捨てる。

見事宙へ身体を任せたジンは湿った床を高速で何回転もし端の扉へと頭をぶつけ悶絶する。そこへトドメの信長キックが炸裂。完全に意識を刈り取る事に成功した。

 

「弱いの・・・まぁ仕方なしか、黒うさぎ後は任せたぞ」

「ふぇ!あわあわあわ」

 

無残に再度捨てられたジンは黒うさぎの胸へと顔を埋めて捕獲される。その瞬間意識を取り戻しジタバタし始め、数秒後には胸圧で窒息し意識を手放した。

 

「これは先に身体を洗うのか」

「そうよ、ジンくんは伸びてるし私が洗おうかしら。他人に洗われることはあっても他人を洗った事は無いけどいい?」

「うむ苦しゅうない」

 

小さな木の椅子へと腰を下ろした信長の後ろに周り、泡立てたタオルで背中を上下に擦る。

 

(小さなキズ、それもこんなに沢山。私よりも二回り小さい身体をしてながら、こんなボロボロになるまで戦ってたのね)

 

背中を洗えば直にその肌を触れる時もあり、全身に刻まれている小さなキズに驚きを隠せない。

飛鳥は戦争を経験している。

とは言え戦場へ直接赴いた訳もなく、他人を絶対に操る事を出来る人間離れした”ギフト”によって、屋敷に閉じ込められ自由に他人と触れ合うことも良しされてこなかった。

戦争に駆り出された兵士も最低年齢が十七歳であり、見た目十二歳程度の幼女の信長よりは圧倒的に身体は出来上がっている。それでもキズの数で言えば兵士より信長の方が多いと確信できた。

そこに何か明確な理由があったのではなく、色々な角度から付けられたキズを撫でながら漠然とそう思っていた。

 

「どうした黙り込んで」

「いえ、何でもないわ。こういうのに憧れてたのよ」

「そうかそうか。よし次はワシが洗って──」

「私もやりたい、信長様の背中洗わせて?」

「クハハは!人気者は辛いな」

 

横から乱入した耀にタオルは攫われ仕事は奪われた。

その後結局機嫌を良くした信長と耀と飛鳥は交代交代背中を洗いっこし、文字通りの裸の付き合いを重ねていく。

 

泡に包まれた身体に桶に貯めた湯を足先からかけていく。お湯はまだまだ若い三人の柔肌を撫でながら泡を流し、湯の温度で若干火照った肌を晒す。

身体を流し終えれば待ちに待った、

 

「風呂じゃぁぁぁぁ!」

 

バッシャン!!大はしゃぎの魔王様は天井に届くまで高く水柱を生成しながら飛び込んだ。

水しふぎの被害を受けた三人は呆れたように笑い、大きな音と衝撃で目を覚ましたジンは飛び退きすぐさま駆け出して消えていく。

 

「ごめんなさぁぁぁぁいいいいぃぃい!」

「ぷふぁ!いやーこれはいいな!これが風呂か・・・ワシの時代は酷かったからなこれなら何時間でも入ってられるわ」

「気に入ってもらえて良かったわ信長様」

 

ご満悦の表情で肩までしっかり浸かる信長は後は酒があれば完璧なのだかなと思うが、不味い酒を出されても気分が悪くなるのでここではあえて要求はしない。

新たな経験は新たな幸福感を与えてくれ大満足の中、とある一つの難題を視線が捉えた。

 

「にしてもこの水袋こんなに大きくて戦いの邪魔にならんか?」

「キャッ!何触ってるんですか」

 

水に浮かぶ黒うさぎの二つの双丘は信長に小突かれ一瞬沈むと、一気に浮力で上へと飛び上がる。

胸を触られセクハラされたと訴えながら両手で胸を抱きしめながら端へと逃げる。しかし逃げた方向が不味かった。

 

「私も触らせて」

「私も触るわ、春日部さんどうにか手を退かして」

「了解はい」

「なっちょ、お待ちになりなさいませ春日部様!交渉を断固交渉を」

「ならば交渉はワシが聞こう。で、なんじゃ?」

「スゥイ──」

「すぅいーつを買ってやるから胸を揉むなと言ったら、婿に行けなくなるほど凄いことをしてやるぞ。改めて聞くぞなんじゃ?」

「いやあの、その」

「うむ」

「「「いただきます」」」

 

三人は合唱し、交渉は決裂となり狙いを定め飛びつこうとする。

 

「いつの間に口車を合わせたのですか!」

「別に」

「してないな」

「してないわよ」

「なんでこんな時ばかり息が合うんですか、この問題児様達は!!」

 

この夜ノーネームに新たな謎が加わる事になった。黒うさぎの叫び声は屋敷の全体へと駆け巡り、幼子達を恐怖のどん底へと貶める事になる。

 

一時間に及ぶ攻防の末、無事では無いが開放された黒うさぎは身体の疲れを抜くはずが避けに疲れたと肩を落としながら、三人へとパジャマを渡すのだが、寝る時は何も着ない派じゃと騒ぐ問題児によって寝るのはさらに遅くなった。

 



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信長が逝く!!

新年あけましておめでとうございます。

早速ですが、2月に提出の入学のための課題があるので2月頭まで投稿ができません。
首を長くしてお待ちください。

FGOが2部で終わりFGO2が始まる!!憶測が流れていますが、バンドにならなければおけ。


 

 

 ”フォレス・ガロ”の移住区画。

 今回の”ギフトゲーム”に参加する四人、ジン=ラッセル、久遠飛鳥、春日部耀、織田信長は準備を万端に終え送られてきた”ギフトゲーム”のルールに目を通していた。

 

 

 

ギフトゲーム名”ハンティング”

 

・プレイヤー一欄  織田 信長

    久遠 飛鳥

    春日部 耀

    ジン=ラッセル

 

・クリア条件 本拠地にいるガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は”契約(ギアス)”によってガルド=ガスパーは傷つけ事は不可能。

敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。”フォレス・ガロ”印

 

 

 

 参加者含め全員が目を通したところで信長の口からため息が出る。

 

「指定武具のぅ・・・自分の命を絶対的に守るとはアッパレじゃな」

「なっ、何をそんな悠長な事を!これは十六夜様のような強大な力であっても、参加者であるのならば破ることの出来ない”契約(ギアス)”によって縛られているのですよ」

 

 黒うさぎはうさ耳を真っ赤に染めながら激昴していた。

 それも仕方がない、契約(ギアス)とは一切破ることの出来ないルールで普遍的な物である。

 

 今回の”ギフトゲーム”では、ガルド自身の命がゲームを終わらせる唯一の方法にして、そのガルドを倒せるのは指定武具のみ。春日部耀の他の動物の力も、信長の銃の力も致命傷どころか傷すら付ける事は出来ない。

 こちらがどんな策を用意していたとしても簡単に打ち砕く事のできる最善の一手であるが、逆に最悪の一手でもある諸刃の剣であった。

 もし、万が一ガルドが討伐された場合それこそ彼の指揮していたコミュニティは、統率者を失い崩壊するだろう。だからこそ彼は負けられない、慢心も一つもない強敵であろう。

 

 そんな中一人疑問に思っている者がいた。

 

(おかしい、あのガルドが自分の命を危険に晒す?昔の彼であればあるいはあったかもしれないけど、今は精々幹部の命ぐらいのはず・・・第三者の介入があった?となると、このゲーム一筋縄じゃいかない。昨日の十六夜さんの件もあるんだ負ける訳にはいかない)

 

 この決戦の一日前、女子組がお風呂でイチャイチャしている中”フォレス・ガロ”のメンバーから襲撃があった。早期に発見した十六夜とその戦闘音を聞きつけたジンの手により収拾は付けたが、十六夜の発言が絶対に負けないと覚悟を決めさせていた。

 

『今回のゲーム負けたらコミュニティ抜けるわ』

 

 千載一遇をかけて異世界から呼び出し、蛇神を容易く倒してしまう圧倒的な力を持つ逆廻十六夜。

 

 この傾いた”ノーネーム”であろうと彼がいれば間違いなく持ち直せる。それどころか本当に魔王から名と旗印を取り戻せるかもしれないと期待してしまう程の力の持ち主。

 そんな十六夜がもし抜けるような事があったら、今後”ノーネーム”は茨の道を進む事になってしまう。

 それだけは絶対に阻止したいジンは以下にして指定武具の特定と入手をするかに思考を巡らせ始める。

 

(指定武具。候補としては弓や剣・・・他にも槍などもあるけど、指定武具にするにしては違う気がする。ゲームとして見れば分かるような武具のはず・・・となると剣が一番ありえるのかな)

 

 ジンの考えついた答えは信長も同じであった。

 

(ふむ、指定武具の詳しい特徴なしか、獣を狩る武具であるならば刀一択。こちらの世界で言うならば剣だったな)

 

 残るはその入手方法になるのだが、さすがにそこまでをノーヒントで捻りだせなど無理に等しい。

 なので、その他の事は初めて探索をしてから決めようと脳内での意見は二人共大体まとまった。

 

 参加社四人は門を潜り問題児達の初”ギフトゲーム”の幕が上がった。

 

 

 ゲーム開始から数十分が経過していた。その間完全に退路の塞がれた移住区画では、大木のなぎ倒される音と獣の雄叫びだけが木霊している。

 

「死ぬぅ!それは死ぬぅっぁァぁ!」

 

 走りながら身体を捻る。小さい身体のお陰で最小の捻りであっても獣の右腕の剛腕を紙一重で回避出来ている。

 

 これが先程から何度も繰り返されていて四足歩行の白き虎──ガルド=ガスパーは苛立ちを吠える。

 

「GEYYAAAAAAAAA!!」

「ちっ、何度やってもやはり効かんか」

 

 雄叫びにかまけている獣に銃弾を注ぐのだがやはりどこを狙ってもかすり傷一つつかない。信長の攻撃を手段は先程から一向にダメージを与えられず、逆にこちらの方が走り続けるなど限界が見え始めている。

 とは言え足を止める訳には行かない。それこそ足を止めれば獣のエサになるのは目に見えている。

 

 すぐに切り替え足を動かす。木々と木々の影に身を隠す事で小休憩をこまめに取りながら回避を続けるも、獣の嗅覚までは誤魔化せずすぐにバレてしまう。

 

「ならばする事はひとーつ!ふん、ほっ、やっ、てぇ!」

 

 窮地に陥った信長に電流走る。逃げ道が無いならば作ればいいと。

銃を生成。それを階段のように空中に段差をつけて並べて足場を作り、一気に駆け上がる。

 

 大体十〇m程地上から離れ、ガルドの一撃は届くワケもなく、空に駆け上がった信長を睨むように見上げる。

 

「くっはははは!ばーかばーか、獣ちゃんには来れないだろ?ぷぷぷ、来れるものなら来てみろぉ!まぁ、無理じゃよね是非もナイ」

 

 安全地帯に逃げ込めた信長は下のガルドを煽りに煽る。現代においては絶対にやってはいけない煽り運転に近しい物を感じる。

 

 上へ駆け上がるための足場は既に消去済みなので空へ上がる方法はガルドには無いはず、そう思い込んでしまった信長のミスだった

 ガルドは姿勢を深く構え四本の足全ての筋肉が躍動する。

 一瞬土煙が上がったと思うと上昇気流のような突発的な風が発生。足場が僅かにぐらつき、落ちないようにしゃがんだ瞬間──それら目の前に居た。

 黄色く鋭い獲物を狙う瞳。全身を覆う白く怪しげな体毛。獲物を引き裂くため、狩り殺すため、嬲り殺すために研がれた爪。ガルド=ガスパーがそこに居た。

 

「うそーん」

「GEYYYAAAAAAAAA」

「緊急離脱!」

 

 体重をかけていた足場を消す事で身体を重力に従い落とすが、すでに繰り出された攻撃は確かに信長を捉える。

 

 自然落下より早く落ちるは銃をクッションにするために、空を見上げる体制を取り壊れやすい部分を背後に大量に生成する。

 背中に銃の破片や砕いた時の痛みがあるが、何の準備もなく落ちるよりはマシと耐え続け、地面へ足をつける頃には背中の衣類は破け赤い鮮血がその白い柔肌に流れている。

 すぐに虎は降りてくる。休む暇なく身体を翻し森へと駆けながら、こんな事になった理由を思い出す。

 

 



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