機動戦士ガンダムティボウキナ (クワス)
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~メビウスの宇宙を超えて~UC:0093→UC:0079

-UC:0093 地球軌道上 小惑星アクシズ-

 

『少佐!もういい!他のMSを引かせてくれ!』

 

通信がノーマルスーツの中に響く。

 

「アムロ大尉。これでも()()()の機体はガンダムなんだ!」

 

目の前のモニターには地球へ今落下しようとしているアクシズの断片が大きく映る。

 

俺の乗っている機体「μガンダム」は出力を最大にしてブースターを吹かす。

 

『しかし…!』

 

うろたえた声が聞こえる。

 

『アムロ・レイ!私たちニュータイプは何のためにいる!人を存続させるためだ!それなら…地球を壊しちゃいけないんだ!。』

 

周りには俺と同じμガンダムを素体に開発した「先行試作量産型νガンダム」が2機。同じくアクシズを押している。

 

そのうちの1機に乗る「プル・ファイブ」の声。

 

『プル・ファイブ…。だからだ!君たちは生きなきゃいけない!オレとこのνガンダムなら!アクシズを押し返す!』

 

「アムロ!何を…アムロ!」

 

サイコフレームより生じられた緑の光。そのウェーブがνガンダム以外の機体をアクシズから引き離した。

 

《少佐…ブライトに伝えてくれ…。人はまだまだ絶望しちゃいけないって…。それと…6年間ありがとう。君たちとの日々…楽しかった…。》

 

「アムロ…!」

 

νガンダムは眩く…暖かい緑の光へ飲み込まれる。そして…緩やかにアクシズは軌道を逸らす…。

 

 

「アムロ!」「アムロ大尉!」「ホワイト!」「大尉!」

 

 

…それぞれの機体が、そしてパイロットが…英雄の名を叫ぶ…。

 

「アムロ…。」

 

俺が初めてアムロレイと出会ったのは…そうか。一年戦争。あのソロモンでの戦いか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-UC:0079 12/13 ソロモン外縁宙域 ファーレン特務戦隊 ザンジバル改級「アウスラ」ブリーフィングルーム-

 

「これが現在の連邦艦隊の布陣だ。」

 

艦長のブラード・ファーレン中佐が言う。

 

ザンジバル改級機動巡洋艦アウスラのブリーフィングルームは熱気に包まれていた。

 

何故かといえば、ファーレン戦隊に重要な任務が下されたからである。

 

「遊撃軍として連邦艦隊の奇襲、攪乱を行う。」

 

キシリア部隊から一時的にソロモン防衛軍へ下った俺たちに対しソロモン防衛軍の中でもトップクラスのカーレル・ビルシュタイン大佐からの直々の部隊編成命令であった。

 

これによってファーレン特務戦隊と同じく他複数の特務戦隊が生まれ、各所で漸減作戦のために行動している。

 

現在、ジオン公国の誇る宇宙要塞「ソロモン」攻略のため連邦の艦隊が集結している。

 

その中にはあの…青い巨星、黒い三連星等を葬り去った連邦の「木馬」の部隊がいるという。

 

しかし、その木馬艦隊は主力艦隊行動から外れ「サラミス級」と「マゼラン級」を引き連れ独立的な艦隊を組んでいるらしい。

 

俺たちの任務はその独立部隊に対する…威力偵察。といったほうが適切か。または捨て駒といったほうが適切か分からないが。

 

ともかく旗艦の「アウスラ」僚艦のムサイ級「カンル」「ゼールクト」の3隻では到底勝てるような相手ではないのは分かる。

 

「艦長。噂によれば敵は量産MSを投入してくるって話らしいが…。」

 

「どうしたシグ。怖いのか?なら私が慰めてやろう!」

 

隣に座っていた同僚のシグ・ウェドナー中尉が話をし、そしてセレイン・イクスペリ少尉がまるで恋人か妻のような発言をする。

 

「シグの言った噂は本当だ。地上や宇宙の一部では今まで少数の連邦製MSが確認されてきた。だが今度ばかりは違う。」

 

ピ、ピ、ピと画面に数枚の写真が映し出される。…そして当然のごとくセレイン中尉の発言は無視だ。

 

「これがジャブローでとられた写真だ。そしてこいつが603技術試験部隊が遭遇した敵MS部隊…。」

 

「…その603部隊の写真。もしかしてビーム兵器を?」

 

今まで黙っていたアイン・レヴィ曹長が口を開く。

 

「そうだ。威力的には白いやつ…ガンダムとかいうのよりは低いらしいが、ザクでは十分脅威だ。」

 

写真をさらに映す。その中にはザクキャノンのようにキャノン砲を付けたらしい写真もあった。

 

「本艦に下された任務は敵の攪乱と情報収集…つまり強行偵察だ。」

 

更に複数枚の写真が映し出される。こんどは各所の偵察衛星が確認した連邦艦隊の写真だった。

 

「作戦開始は先にも伝えたが二時間後の13:00である。では諸君幸運を祈る」

 

ザッとブリーフィングを受けた兵士たちは立ち上がる。

 

「敬礼!」

 

副長のマカベ・ホムラ少佐の声で一斉に敬礼をする。

 

「解散!…ジャス!ジャスターク・エーシス大尉。君だけは残れ。」

 

マカベ副長が俺の名を呼ぶ。

 

「ハッ?自分だけですか?」

 

「ああ。他は各所で待機してくれ。」

 

兵たちが艦の各地へ散らばる中、一人だけ残される。

 

「それで、マカベ少佐。自分に何か?」

 

「ああ。君には…新型機の受領命令が出ている。」

 

タブレット端末を操作し受領命令書をこちらに見せる。

 

「新型機…ですか。」

 

「ああ。なんでもビーム兵器を運用できるらしい。」

 

「ビーム兵器ですか…。」

 

「ああ。名前は確かゲルググとか言ったな。」

 

「あ、あのシャア大佐やジョニーライデン少佐の部隊に渡された機体ですか!?了解しました。ありがたく受領させていただきます。」

 

「ああ。戦果を期待する。輸送艦は30分後に接触の予定だ。格納庫にノーマルスーツを着て待機しておけ。」

 

「了解しました。では。」

 

トンと床をけり廊下へ移動する。無重力空間ではいやというほど味わえる動作だが、なんでも地上から帰還した兵にしては感動すら覚えるらしい。

 

「ゲルググタイプ…俺も随分高く見られたもんだな。」

 

そう言って俺は格納庫へと向かった。

 

 

-格納庫-

 

格納庫では30分後のランディングのため整備員や班員が休む暇もなく動いている。

 

さて、この「アウスラ」は通常のザンジバル級では格納の難しい機体を数機保有している。

 

その問題は後部に大型の格納庫を増設することで解決している。

 

さて、何を積んでいるかといえば…。

 

「整備班長!調子は?」

 

「おお!ジャスターク大尉!そうですね。リックドムⅡ用に懸架調節をやっていたスキウレですが…すでに98%まで完了しています。」

 

マキノ・モースライヒ整備班長。若干22歳ながら天才的な腕でこの艦の整備班長になった女性である。

 

まぁ、俺の歳も17だから若干も何も言えんが。

 

「新兵器…使えるか?」

 

「分かりませんね。もともとザク用らしいんですが…いやはやですが技術者冥利に尽きます。」

 

「ま、グラナダ特戦隊のおこぼれらしいが。」

 

「ギレン閣下指導の…たしかぺズン計画でしたか。」

 

「ああ。キシリア閣下の統合整備計画の対抗するもの…らしいが。それでできたザクタイプとドムタイプ、ゲルググタイプの新型をアバオアクーにいくつかやる代わりにもらったものらしい。」

 

「…ザビ家にもいろいろあるのですね。」

 

「政治の世界は俺達にはわからんさ。ただ命令に従うのみだ。」

 

「そうですね。そういえば数分後の接触で大尉のゲルググが来ます。」

 

「ああ。何のタイプが来るか知っているか?」

 

「いえ。自分はゲルググとしか聞いていません。…キマイラに配属された高機動性でしょうかね?」

 

「いや。わからんな。班長。来るまで俺は待機室にいる。それまで頼むよ。」

 

「分かりました。」

 

目まぐるしく人が動く。

 

MS格納庫内に設置された待機室ではドリンクとサンドイッチ等の軽食のヴェンダーがあった。

 

硬貨を入れ、スポーツドリンクとハンバーガーを買う。

 

「こんなところで一人寂しく食事とは。MS部隊長殿はよほどお暇なようで。」

 

藍色の髪が横に揺れる。こんなことを言うのは間違いなくアイツだった。

 

「セレイン中尉。俺は受領を待っているだけだ。決して…艦内に共に食事をする友人がいないというわけではない。」

 

「おやおやそれは驚きだ。まぁ、私にはシグがいるからそのお気持ちは良くわからないが…。」

 

「お前フラナガンで俺が声をかけなかったらずっとボッチだったじゃねぇか。」

 

ギクリ。彼女のめが泳ぐ。効果は抜群である。

 

「そ、そんな昔のことは覚えていないなぁ…。」

 

「お前にとっては三か月が昔になるんだな。」

 

「そ、そうだ。私は愛機の調整のために来たんだった。それではな。部隊長殿。」

 

逃げるときは素早く兎のように。その姿はセレイン中尉の愛機「ドム・バインニヒツ」のようだった。

 

彼女が出て数分後、今度は赤髪のパイロットが入ってきた。

 

「ジャス。ゲルググの搬入までもうすぐらしい。班長が呼んでたぞ。」

 

「ああ。シグ。ありがとう。」

 

これまた同僚のシグ・ウェドナー中尉である。

 

「あ、それとシグ。嫁さんの手綱はしっかり握っておいてくれ。」

 

「セラが又何か言ったのか?悪いがアイツの行動はオールドタイプの俺には読めん。自分で対処してくれ。」

 

「へいへい。」

 

そう言って俺は口の中にハンバーガーを詰め込み、スポーツドリンクで一気に喉へ押し込む。

 

部屋を出て、通路を抜ける。

 

「あ、大尉!」

 

整備班長が俺を呼ぶ。見るところすでに搬入作業は始まっているらしかった。

 

「俺のゲルググは?」

 

「あちらです。」

 

ノーマルスーツ内の通信設備を使い声をかけあう。

 

「…データで見たやつと違うな!」

 

「はい。なんでも統合整備計画のやつだとか。」

 

「すると…J型か?」

 

「ええ。それにご丁寧に大尉の好きなヴァイオレットカラーに塗装してあります。」

 

「乗ってみていいか?」

 

「ご自由に!」

 

小型のワイヤーガンで搬入されたばかりのゲルググに近づく。

 

コックピットを外部スイッチで開け、シートに座る。

 

「なんだこれ…モニターがないじゃないか。それに…なんだこの空間は…。」

 

コクピットシートと操作レバーが球状の何かに包まれているらしかった。

 

「起動ボタンは…ここか。」

 

ピと音がしその周りがすべて格納庫内の景色になる。

 

「なんだこれ…。班長!来てみろ。」

 

「なんです?」

 

班長も同じようにこちらに来る。

 

「うわぁ…なんですかこれ?」

 

「通常のモニターじゃなないな…おっとポップが出てきた。」

 

「何々、()()()()()()()()。…すごいですねこれ。」

 

「ああ。いずれにしても画期的な装備だ。」

 

「次世代の機体は全部これになるんでしょうね。」

 

「ああ。更新まで何年かかるか分らんが…確実にそうなるな。下方や裏の映像を別枠として表に出せば事実上死角がなくなる。」

 

システムをシャットダウンさせ、シートから離れる。

 

「こいつの武装は?」

 

「はい。ビームマシンガンとビームサーベル。それに機関砲です。」

 

「機関砲は腕のやつか?」

 

「はい。装填されていた弾薬はスポッター用ですね。」

 

「狙撃戦前提の機体か。」

 

「前提というよりは狙撃戦も主眼におけるといったところでしょうか。」

 

「オールラウンダーと、言うわけか。」

 

「はい。」

 

「すまんが弾薬は両腕とも鉄鋼焼夷炸裂弾に再装填しておいてくれ。」

 

「了解しました。」

 

これでMSは4機。シグのR-1-Aザク、セラのバインニヒツ、アインのリックドムⅡ、そして俺のゲルググJ。

 

正直ザンジバル改級に積むMS数にしては少なすぎるが艦隊の特性上アウスラはカンルとゼールクトのMS補修用部品や武器弾薬燃料等も積んでいる。

 

つまりはアウスラは補給艦は替わりでもあるということである。それにスキウレ砲や各種兵装も搭載している。

 

数分後、艦内アラームが鳴った。

 

『カンルのザクフリッパーより入電。敵前方200キロ。MS隊は発進準備を急げ。以上』

 

それを聞いた途端パイロットたちはすぐに体が動く。

 

次なる行動は格納庫内になる少し小さいモニターでブリーフィングを行うとわかっているのだ。

 

既にアイン・レヴィ曹長がタブレット端末を操作し情報を他艦から得ていた。

 

「隊長。遅いですよ。」

 

「すまん。そのタブレットを貸してくれ。」

 

受け取った端末の情報をまとめモニターへ映す。

 

その間にシグもセラも到着していた。

 

「最終ブリーフィングだ。この図を見ろ。」

 

モニターに移されたのは周辺地図にこちら側の三隻と敵艦四隻のアイコンが示される。

 

「本艦から200キロ地点に敵艦四隻をカンル所属のザクフリッパーが確認した。敵編成は木馬級1隻。サラミス級二隻、マゼラン級1隻である。」

 

ザクフリッパーから送信された写真、映像と共に敵艦のアイコンにそれぞれのクラス名が記される。

 

「目標は敵艦隊の制圧である。決して殲滅ではない。サラミス級の二隻は潰しても良いが、マゼラン級もしくは木馬級はできるだけ投降させろ。」

 

「なぜ全滅じゃいけないんだ?」

 

セラ(セレイン中尉の愛称である)が聞いてくる。

 

「いいか。まだ敵主力艦隊はこいつらの遥か後方にいる。するとこいつらの任務は偵察と何か攻略用の巨大メガ粒子砲のようなものを運用する地点の観測。そう考えることが出来る。」

 

「あくまで情報をいただくと?」

 

「ああ。もしマゼランと木馬両方の降伏ができ無い場合のバックアップとして彼を呼んだ。すまんが来てくれ。」

 

設置してある艦内通話で先ほどの情報整理の時に待機室へ移動してもらった人物を呼び出す。

 

「ロール・ゼーレマン曹長です。」

 

連邦姿のノーマルスーツに完全装備した男が一人。やってくる。

 

「彼は青い巨星、つまりランバラル大尉の下でゲリラ戦並びに特殊戦を学んだスペシャリストだ。」

 

「先ほどのパゾクより乗艦しました。ファーレン中佐にはお話してあります。ぜひ私をお使いください。」

 

「するとなんだ。俺たちが戦闘している間に彼を送り込むと?」

 

シグ中尉が聞いてくる。

 

「ああ。敵のマゼラン級に潜入してもらう。出来れば木馬は投降させたい。彼が戻ってきたら遠慮なく俺たちはマゼランを沈められるって訳だ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

ゼーレマン曹長は会釈をする。

 

「マゼラン級の近くまでは俺が届ける。そこからは曹長。頼みます。」

 

「了解しました。お任せください。」

 

「よし、全員MSへ搭乗。命令あり次第順次発艦。以上解散!」

 

敬礼をし、各々は自らのMSへ乗り込む。

 

そしてカンルへザクフリッパーが収容されたと同時に発艦命令が下った。

 

シグのR-1Aザクを先頭に続々とカタパルトへ並んでいく。

 

「…噂には聞いていましたがこれが新型モニターですか。」

 

後ろで立っているゼーレマン曹長が言った。

 

「知っているんですか?」

 

「ええ。連邦のガンダムタイプにも同様のものが配備されていました。」

 

「ガンダムタイプ?」

 

「そうです。…ルビコン計画とサンクス・ギヴィング作戦はご存知で?」

 

「勿論。このファーレン戦隊は核攻撃を行おうとするキリング艦隊の阻止とコロニー内に残されたサイクロプス隊を救出する任務を受けていました。」

 

これは十五日前の事だ。核攻撃という蛮行を同じ突撃機動軍のシャア・アズナブル大佐、海兵隊のシーマ・ガラハウ中佐の艦隊と共に阻止任務に就いた。

 

ガンダムへ決死攻撃を行おうとするパイロット…確か名前はバーナード・ワイズマン伍長といったか。彼の救出を行ったのも記憶に新しい。

 

ちなみにその時の戦闘で俺は乗機のリックドムⅡの右足と左腕部を失いそのままソロモンで機体を明け渡した。

 

「作戦に参加されたのですか。それは失礼。私はサイクロプスに新型ガンダムの図面を提供する任務に就いていました。」

 

「スパイを?」

 

「ええ。連邦軍内に潜入し、新型のガンダムNT-1の設計図ならびに各種機密データの奪取が任務でした。」

 

「じゃあ、この全天周囲モニターは連邦の技術を?」

 

「もともと統合整備計画の一環でこの全天周囲モニターはわが軍でも開発されていました。しかし試作段階からこれほどまで短期間で仕上げられたのは私の渡したデータのおかげだと思っています。」

 

そう話しているとアインのスキウレ装備のリックドムⅡが発艦した。

 

『ジャスターク機。カタパルト接続。発進どうぞ。』

 

オペレーターの声がノーマルスーツ内に響く。

 

「了解した。ジャスターク・エーシス。ゲルググ出るぞ!」

 

超電磁式カタパルトが80tはある18メートルの巨体を光が無数にきらめく宇宙へと押し出す。

 

ジャスタークは心地よさを感じた。最新式のシートと戦場へ向かう高揚である。

 

フラナガン機関出身の兵とはいえ彼はもともとパイロット志望であったのだ。

 

このモビルスーツの中で感じる高揚は彼の類まれないニュータイプ能力が余計にそう感じさせている。

 

宇宙の空気を味わっているのだ。それは到底オールドタイプには決してわからぬ物であった。

 

(戦闘はすぐ始まるな…)

 

ジャスタークはレバーを握りゲルググのブースターの出力を上げる。

 

それに答えるかのようにゲルググは恐ろしいスピードで加速する。

 

敵艦隊はもう、すぐそこであった…。

 

 

 

 

 




クワスと申します。

本作は私が再編、独自解釈を加えさらにオリジナル要素の入れたガンダムの二次創作になります。
機体や設定、展開はなるべく無理のない範囲にやっております。
例を挙げれば「宇宙世紀にGN粒子が存在する」というような転生チート系がなければ不可能な系統ではありません。

以上の点において受け入れていただけるのであれば、わたくしの駄文をお楽しみください。

意見、感想その他いろいろと受け付けています。沢山お送りください。


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ソロモン前哨戦 UC:0079 12/13

全天周囲モニターから映し出される光景は今までのモビルスーツでは味わえないものである。

 

ゲルググの加速力は申し分ない。キマイラの高機動型やMS-06R-2以上であるといっても過言ではなかった。

 

事実、このゲルググJは前乗機のリックドムⅡと比べ二倍近い速度で加速している。

 

「アイン。スキウレ砲の射程ギリギリで狙撃を行え。目標は前方のサラミス二隻!シグとセラは付いてこれるな?」

 

『アイン・レヴィ了解。』

 

『このザクなら何とか付いて行けるさ。』

 

『以前まで私が切り込み役立ったが、凄いな。このバインニヒツを優に超える加速とは。』

 

小隊各員からの返信を受け取る。

 

「曹長。一気に距離を詰ます。マゼラン級に小隊奇襲をかけるのでその間に。」

 

「分かりました。情報はしっかりと抜き取ります。」

 

シグの乗るR-1Aザクは黒い三連星も搭乗した高機動タイプである。

 

カートリッジ式の推進剤パックを用い機動力と航続距離の向上を実現した。

 

武装はジャイアントバズにMMP-80マシンガン、シュツルム・ファウストそしてヒートホーク。

 

対してセラはドム・バインニヒツである。

 

地上用重MSのドムを対航宙艦攻撃機使用に変更したもので、脚部ユニットを大型ブースターに換装。

 

さらにラッチの増設とサブ・ジェネレーター装備のバックパックに換装することによってさらに攻撃力を上げている

 

武装はラケーテン・バズ、ビーム・バズーカ、シュツルム・ファウスト四本、ヒートサーベルである。

 

「シグ、セラ。前方に突出しているサラミスにはシュツルムファウストだけをくれてやれ。本命(マゼラン)のために弾薬は温存しておけよ。」

 

『ああ。艦橋に一発だけ喰らわせてやる。』

 

『言われなくとも分かってるさ!』

 

俺達の小隊の接近に呼応し敵艦からはミサイルとメガ粒子砲による攻撃が始まる。

 

「遅いッ!」

 

メガ粒子砲の光が真横を通過する。

 

MS-05、06Cならいざ知らずもはやその程度の砲撃は命中するはずがなかった。

 

敵艦隊はカーヴィング・フォークの形態をとり、最先方にサラミス二隻、中央に木馬級、最奥にマゼラン級が存在している。

 

俺たちの小隊がサラミス二隻の間を通過すると後方で派手な爆発が起きる。

 

シュツルム・ファウストがサラミスの艦橋を吹き飛ばしたのだ。

 

後方カメラの映像を正面に回すと無数の大小さまざまな光がこちらへ向かってきているのがわかる。

 

大きい物はスキウレ砲のビーム、そして艦隊が放っているメガ粒子砲だろう。

 

小さいものはカンルとゼールクトから発艦したリックドムⅡとF2型ザクだ。

 

「あれが木馬か…。」

 

「MSは発進してこないみたいですが…」

 

ゼーレマン曹長は不思議がる。

 

「分からないな…いや、あれは!?」

 

木馬の脚が開きそこから光が飛び出る。

 

「あれがカタパルトか…。するとあそこからバズーカかロケットを撃ち込めれば…。」

 

ゼーレマン曹長はその道のプロである。設計図や写真からいち早く弱点を見つけ出しそこを攻撃する戦法でゲリラ戦やスパイを行ってきたのだ。

 

俺は通信をファーレン戦隊に所属する全MSに強制的に割り込めるモードへ変更する。

 

「全員聞こえるか?こちらはジャスターク・エーシス大尉だ。木馬級からMSらしきものの発艦を確認した。各員注意してデータ収集並びに撃破に当たれ。以上」

 

味方への念密なレーザー通信である。このモードは各個人からの返信はできない仕様となっており一方的に命令を下す、つまり訓練で教官機が指示を与える時等によく使われている。

 

(…ガンダムとか言うやつ出てくるか?)

 

「シグ、セラ。モビルスーツは無視だ。マゼランの近くで曹長を出したら一旦敵艦隊の後方を突き抜ける。そうしたら反転して側面から木馬に攻撃をかける。」

 

『了解』

 

『ああ。わかっている!』

 

迎撃のミサイルとメガ粒子砲、機関砲の雨あられを潜り抜けマゼランの前へたどり着く。

 

「曹長。30分後この誘導機で呼んでください。俺の機体のコードを入力して戦場の中に照射してくれれば自動的に機体の方で捕捉します。」

 

シートの後ろにいる曹長へ誘導機を渡す。

 

「了解しました。お任せください。」

 

コックピットが開き、ゼーレマン曹長は戦場へ飛び出す。

 

「ゼーレマン曹長が降りた。加速をかけ一旦突っ切るぞ。」

 

小隊は一気に加速をかける。

 

高機動性タイプで編成された小隊だからこそできる一撃離脱戦法なのである。

 

数百メートル離れたところで一気にターンをかける。

 

「俺は木馬の砲座とモビルスーツの対処をする。その隙に二人はエンジンを黙らせろ。」

 

後方にいたバインニヒツとR-1Aザクは俺のゲルググを抜き去り対艦用のバズーカとシュツルム・ファウストを木馬のエンジンに撃ち込んでゆく。

 

(さすがエースだ。命中率の悪い高機動戦闘でしっかりと当てている。さて…)

 

ゲルググJの射撃モードを長距離戦仕様へ変更する。

 

「当たってくれよ…。」

 

銃口から放たれた黄色いビームの光は一キロ先にある木馬の側面のメガ粒子砲を寸分の狂いなく命中させる。

 

しかし、二射目を安全に撃たせてくれるほど甘くはない。

 

「チッ!奴はハリネズミだな。」

 

木馬の側面に装備されたミサイルと中央に装備された主砲がこちらへ無数の弾を送り込む。

 

「ニュータイプを…なめるなよ!」

 

上方へ回避しそのまま1キロの距離を詰める。

 

数百発の弾幕の中を潜り抜け、木馬の直上まで到達する。

 

ゲルググには敵弾による傷は一つたりともついてはいなかった。

 

「コイツは…いけるか?」

 

マシンガンモードへ切り替えたライフルと、両腕の機関砲が同時に火を吹いた。

 

今までのお返しと言わんばかりの猛烈な弾幕は木馬の主砲と対空火器を沈黙させるに十分なものであった。

 

すると、突然ヴィーヴィーヴィーと警報が鳴る。

 

「高速飛翔体?なんだ!?」

 

側面を見ると大型の宇宙戦闘機に乗ったモビルスーツがこちらへと迫っていた。

 

「クッ!!」

 

ビーム・マシンガンを発射し、近づく戦闘機を落とす。

 

しかしモビルスーツのほうは爆発の瞬間に飛び上がり、ビームサーベルを展開しこちらへ迫ってきた。

 

「舐めるなァ!」

 

腰に装備されたビームサーベルを抜き敵MSのコックピットへ突き刺す。

 

沈黙した敵MSを蹴り上げ、ビーム・マシンガンを回収すると、通信が入った。

 

『隊長。サラミス級並びに敵モビルスーツの沈黙を確認しました。』

 

後方で狙撃を行っていたアイン曹長からだった。

 

「了解した。補給が必要なら一度帰還して補給を受けてくれ。…ガンダムは落としたのか?」

 

『いいえ。ガンダムと思わしきMSは居ませんでした。キャノンなら似た形のやつが。』

 

「分かった。」

 

通信を切ると、サブモニター上にポップが表示される。

 

「θレーザー波感知…ゼーレマン曹長か。」

 

モニター上には誘導経路とあちら側の位置が表示される。

 

マゼラン級からは十分に離れた位置であり、回収も容易であった。

 

流石はプロである。

 

「ご無事で?」

 

「はい。それよりも早く離脱を!」

 

ゼーレマン曹長は急かす。

 

「なぜです?」

 

「新手が来ます。この部隊は噂の木馬の部隊ではありませんでした。あの木馬級はただの同型艦です。」

 

「ガンダムと木馬の部隊が増援に来ていると?」

 

「そうです。急いでファーレン艦長にも伝えないと。」

 

「分かった。後退信号を出す。」

 

「了解。」

 

ボタンを押すと手の甲から後退指令の発光信号が出る。

 

しかし、特は遅くメガ粒子砲接近の警告が響く。

 

「あれは…?」

 

発射された方向へズームをかけると木馬級にサラミス、マゼランを合わせ八隻ほどの艦影が確認できた。

 

「これは…少しまずいな。」

 

ブースターを吹かしアウスラ方面へと急ぎ向かう。

 

運よく帰還途中であったシグとセラに合流が出来た。

 

『隊長。どうする?私たちの戦力でもあれは難しいぞ。』

 

セラが接触通信をしてきた。

 

「まずいな。こちらの戦力が足りない。」

 

『後退してもあの戦力なら落とされるのがオチだぞ。』

 

シグも同じく接触通信を行う。

 

「…万事休すだな。破損したモビルスーツは?」

 

『ゼールクトのザクが1機中破しただけだ。』

 

「…通常の艦隊ならモビルスーツだけで充分なんだがな。」

 

『ガンダムか。』

 

「ああ。あの部隊となると厄介だ。」

 

そうシグと話しているとアウスラが見えてきた。

 

ゲルググは甲板着艦し格納庫へ収容される。

 

コックピットを開け、ゼーレマン曹長を先に下ろす。

 

「では、大尉。私はこれを解析にかかります。」

 

「ああ。よろしく頼む。」

 

そう言うとコックピットの中に一人入ってくる。

 

「大尉。水です。」

 

「班長。すまんな。補給が完了したらまた出る。」

 

そう答えて彼女から水を受け取り、勢いよく水を飲む。

 

「分かりました。補給は二分後に完了します。」

 

そう言って機体を離れる。

 

しかし、通常なら8分はかかる作業を合計で4分で終了させるのだ。

 

ファーレン戦隊はキマイラにもシャアNT部隊にもグラナダ特戦隊にもシーマ海兵隊にもデギン公王ロイヤルガードにも引けを取らない。

 

そう確信が出来る。そんな部隊をここで失うわけにはいかない。

 

サブモニターで外部のライブ映像を確認する。木馬艦隊は着々と迫っていた。

 

幸い敵のMSは発艦していない。あくまでも砲撃で沈めたいのだろう。

 

相手はMSの推進剤と弾薬をできるだけ消費したくないのだ。

 

 

『ジャス大尉。アウスラは敵艦隊から全速力で後退していますがおそらく追いつかれます。MS隊には時間稼ぎをお願いします。』

 

通信兵であるレオナルド・マエッセン軍曹が伝える。彼も若くまだ二十歳になったばかりだという。

 

「了解した軍曹。ジャスターク、ゲルググ出るぞ!」

 

カタパルトへゲルググを接続する。

 

他のシグ、セラ、アインの機体も発艦可能だった。

 

後進するアウスラの前に出た時だった。最大ズームしたモノアイがメガ粒子砲の直撃を受け沈む様子が見えた。

 

「なんだ…?マエッセン軍曹!」

 

『はい!援軍です!ナグモ戦隊の救援です!』

 

「ナグモ戦隊か!」

 

ナグモ戦隊。同じグラナダにて編成を受けたNT部隊である。

 

キリング中佐の一件では同じ追撃艦隊に所属

 

俺とセラの同期であり強化人間。レイラ・レイモンド少尉、戦災孤児内から発見され、高いNT適性を持つクスコ・アル少尉。

 

そして、突如昏睡より覚醒し「彼の思いを受け継ぐ」と言って軍に特別入隊。

 

シミュレーターではエースパイロット級の戦果を叩き出したマリオン・シュターゼン曹長。

 

三人ともグラナダでの模擬戦の相手はいつも俺だった。

 

『ヨシヒサ・ナグモ戦隊長よりジャスターク隊長宛に入電です。ウチの娘どもがギャーギャー騒ぐ。なだめて差し上げろ。以上です。』

 

「了解した。他のMSも全力出撃だ。後退までの足止めをするぞ。」

 

『了解。伝えます。』

 

ナグモ戦隊旗艦ザンジバル級「フソウ」並びにチベ級ティベ型「アカギ」「カガ」からもモビルスーツが発進する。

 

ゲルググのメインカメラはそのモビルスーツを明確に捉える。

 

オレンジで塗装された高機動型ゲルググ、栗色で塗装されたゲルググキャノン、ブルーで塗装されたF型ゲルググをはじめ、FZ型ザクやリックドムⅡの姿も見える。

 

コンピュータが大まかな形を読み取り型式番号をアイコンに追加表示する。

 

形勢は逆転したも等しかった。敵艦隊はマゼラン級並びに新たに到着したサラミス級を前面に押し出し、木馬級二隻と他の艦艇は後方に存在する。

 

その距離は約十二キロ。相手に何があったのかはわからないが艦隊戦でそのような距離で陣形を取ることはまずない。

 

大方生き残ったマゼランの艦長が木馬級の部隊に「貴様らは援護に徹しろ。我々が沈める」とでもいったのであろう。

 

『ジオン軍所属の全モビルスーツへ。艦隊はこれより後退しつつ砲撃戦に移る。モビルスーツ隊は立体攻撃を主とし、艦隊の後退が完了するまで時間を稼げ。以上!』

 

声の主はファーレン戦隊の戦隊長であるブラード・ファーレン中佐だった。

 

ファーレン、ナグモ両戦隊はアローフォーメーションを取る。

 

ムサイ、ザンジバル、ティベ型から放たれるメガ粒子砲は的確に突出している艦艇を直撃した。

 

モビルスーツはゾウを食い殺す軍隊アリのように一斉にダメージを受けた艦艇に群がる。

 

ゲルググのビームが火器を沈黙させ、バズーカやシュツルムファウストは艦橋やエンジンをまばゆい光で包む。

 

しかし、乗機のゲルググJのモノアイは遥か前方で何やら光ったのを探知した。

 

「モビルスーツ…か?」

 

あたりを見回すと、ちょうどファーレン戦隊の部隊マークが付けられた高機動型ザクとリックドムⅡを見つける。

 

即座に接触通信をかけ三機の小隊を組む。

 

その動きに感化されたのか、確実にマゼランとサラミスを沈めることのできる戦力だけを残し、MS隊は各個に小隊を組み後に続く。

 

小隊は綺麗に隊列を組み見事なパンツァー・カイルを展開する。

 

ほどなくするとゲルググの光学センサーは敵のMSを素早く感知しモニター上にアイコンと共に表示する。

 

(一機だけ恐ろしく速いやつ…あれがガンダム?)

 

「全機連邦のモビルスーツをやるぞ!ガンダムは俺が引き受ける!」

 

迫りくる敵モビルスーツ部隊へ牽制射撃を行う。アバウトな狙いであったがビームの先に光の球が膨らむ。

 

運良く撃墜出来たのだ。落とされたモビルスーツに乗っていたパイロットには同情する。

 

あちらもあちらでお返しとばかりにビームライフルの閃光がこちらへ向かう。

 

射手は紛れもなくガンダム出会った。

 

「あれがガンダム・・・!速い!だが!」

 

こちらはあくまで時間稼ぎ。ガンダムを引き付けその他の戦力を削ぎ落とすのだ。

 

ガンダムの動きは速かった。撃っても避けられるばかりである。流石にジオンのエースパイロットを次々と撃墜してきただけのことはある。

 

「・・・しかし!こちらも母艦を失うわけには行けない!」

 

ゲルググの加速力はガンダムを超越する。

 

モビルスーツ同士のドッグファイトはこの戦争では稀有なものだった。一撃離脱でほとんどの場合終了するからである。

 

しかし、ガンダムは一気に反転しビームサーベルを抜く。

 

こちらもビームサーベルを右手に構え、さらに加速をかける。

 

ビームの刃が鍔迫り合い、激しい勢いで干渉する。

 

空いた左手の機関砲が火を噴き、ガンダムの右脚を奪った。

 

『大尉!艦隊は敵艦隊の射程範囲外まで脱出出来ました。大尉も帰投を!』

 

マエッセン軍曹だった。ミノフスキー粒子を表示するインジケーターは通信可能の値を示している。

 

艦隊戦また、モビルスーツ戦が行われている主戦場からは少し離れていたのだ。

 

「了解した。すぐ戻る」

 

機体の脚部ブースターを使い、ガンダムを蹴りあげる。

 

それと同時に一気に機体を反転させアウスラへ帰投する。

 

帰投途中に1機のFZ型ザクが接触回線を開いてきた。

 

『あの、ジャスターク大尉ですね?』

 

「貴方は?」

 

『バーナード・ワイズマン曹長です。この前の作戦で救出していただいた・・・。』

 

「いつナグモ戦隊に?」

 

『ほんの先程です。ソロモン防衛軍にまわされたのですが、補充兵としてナグモ戦隊に。それでは。失礼します。』

 

バーナード・ワイズマン曹長。恐らくガンダム中破の功績で昇進したんだろう。

 

リボーコロニーでの戦闘から15日しか経っていないが、あの時組んだ艦隊の凄さに勝るものは無いとそう感じる。

 

アウスラ、カンル、ゼールクト、フソウ、アカギ、カガ。

 

モニター上に映る艦艇は全て参加していた。

 

機体はゆっくりと着艦プロセスに入る。勿論そこの操作は殆どオートだ。

 

機体はアウスラの甲板に着艦し格納庫まで推し進める。

 

一先ず切り抜けることは出来た。

 

幾らか休憩も取れそうである・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回の「μガンダム」に誤字報告を頂いたのですがこれは誤字ではなく「νガンダム」と別のガンダムタイプのモビルスーツです。

まだ登場は先になると思います。スタンス的にはジャスターク・エーシスの視点から一年戦争~ラプラス紛争までを書く予定です。


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インサート・エピソード グラナダ事件 UC:0079 11/24

-UC:0079 11/24 グラナダ基地-

 

月面グラナダ基地より1隻のザンジバル級がサイド3へ向け出港した。

 

座乗しているのは突撃機動軍司令キシリア・ザビ中将である。

 

今回はサイド3の本土防空隊、つまりギレン・ザビ親衛隊へ6機二個小隊分のゲルググJを移送するためであった。

 

逆にサイド3を中心に配備が進められていたガルバルディαとアクトザクのグラナダ配備分を回収するという目的もあったのだが。

 

そして、目的はそれだけではない。サイド6、リボーコロニ-にて進められている連邦軍の新型ガンダム開発計画の対処。その報告も兼ねていた。

 

25日午前9時27分。事件はグラナダ艦隊に所属する4つの戦隊がすべて出払っていたその時に起きた。

 

-翌日 グラナダ司令部 第三会議室-

 

「失礼します。」

 

情報将校コーネル・キリング大佐はドアを4回ノックした。

 

「入れ。」

 

この会議室内ではグラナダ司令アルドノア・ルーゲンス少将をはじめ、グラナダに所属する高級士官の5名全員が集まっていた。キリングを含めれば6名である。

 

その中には艦隊司令フォン・ヘルシング大佐の姿も見える。

 

「座り給えキリング大佐。」

 

「はッ。」

 

楕円形のテーブルをはさみ、キリングとルーゲンスは顔を合わせる形になる。

 

「さて、キリング。この作戦計画書は何かね?」

 

ルーゲンスは手元の書類を手に取りページをめくる。

 

「何といわれましても書いてある通りでございます。」

 

「ふざけるな!」

 

ルーゲンスの拳がテーブルを響かせた。

 

「中立コロニーへ核攻撃だと?正気の沙汰ではない。」

 

「部隊の報告によればそこには連邦軍の基地があります。もはや中立とは言えません。」

 

「そんなことを責めているのではない!」

 

ルーゲンスは息を荒げた。

 

「南極条約で禁止されている核融合ミサイルを使用するだと?冗談はいい加減にしろ!」

 

「そんなに声を荒げずともいいではありませんか。サイド6は南極条約を批准していません。」

 

「そういった問題ではない!」

 

「それに、私の行動は閣下の管轄外ではありませんか。」

 

「当基地の司令は…ウッ!」

 

ルーゲンスの胸からは鮮血が流れ出る。それはキリングの持つワルサーPPKから弾丸が発射され命中した何よりの証拠だった。

 

「閣下!」

 

基地警備部隊総括モーティス少佐が駆け寄る。

 

「動かないで頂きたい。」

 

その頭へ銃口が向けられた。

 

「キリング…!貴様!」

 

ヘルシングは声を放つ。

 

「ヘルシング。貴様も変な気を起こすなよ。」

 

「変な気だと…?」

 

「ああ。そうだ。彼のようにな!」

 

サプレッサーの装着されたPPKからまた一発弾丸が放たれる。

 

その先にはキリングへ銃口を向けていた基地副司令マンロディ大佐がいた。

 

そしてドアからは基地内第一種装備をした兵士が4名入ってくる。

 

「貴様ら!警備部総括として命令する!その反逆者を殺せ!」

 

「了解しました。少佐殿。」

 

曹長の階級を付けた兵は手に持つMP-40を構えた。

 

「貴様何をッ!」

 

そして()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ご苦労。曹長。」

 

「いえ。大佐殿。」

 

「曹長。ここにいる残りの士官も殺したまえ。」

 

「はッ。」

 

そう伝えるとキリングは部屋を出ようとする。

 

「キリング!核攻撃なんぞしてみろ!本国から貴様の討伐艦隊が組まれる!」

 

「曹長。まずはそこの小うるさいヘルシング大佐から始末したまえ。」

 

「了解しました。」

 

九ミリ拳銃弾の発射音が響く。瞬く間にヘルシングと副司令マーケス中佐の死体が生まれた。

 

そしてキリングは部屋を後にし司令長官室へ向かった。

 

 

-月面アンマン近海 第二グラナダ艦隊演習場-

 

「チィッ!流石は赤い彗星だ!」

 

ジャスターク・エーシスは今戦いの渦中にいた。と、言っても実戦ではない。

 

CG補正された画面と赤外線レーザーを用いた模擬武装によって生み出された限りなく実戦に近い演習である。

 

乗機のリックドムⅡの放つMMP-80マシンガンはやすやすと避けられる。

 

ジャスもシャアの攻撃を確実に避けているため、お互い譲らぬ攻防であった。

 

しかし、モニター上にはさらに光の点がいくつか浮かび上がった。

 

同じ、リックドムⅡである。シャア部隊の所属マーキングである鷲をモチーフにしたマークが肩部のアーマーに記されていた。

 

第300戦隊所属のアンディー・ライスン曹長とリカルド・ヴェガ曹長であった。

 

見事なコンビネーションでこちらへ迫撃する。

 

『ジャスターク君。君がいくら適性の高いニュータイプとはいえ、これをかわせるか?』

 

ノーマルスーツ内に声が響く。

 

ミノフスキー粒子が全く散布されていない現状において機体間通信は普通に行える。

 

「チィ!」

 

ジャスタークから攻撃は全くできなくなっていた。

 

避けるだけでもはやいっぱいであった。

 

『もらった!』

 

機体の目のまえにバズーカを構えたドムが現れる。

 

しかし、そのバズーカが放たれることもなく、上方から現れたビームの光によってドムは撃墜判定となった。

 

ビームライフルの描写はまさしく本物と見間違えるほどであった。

 

だが、ドムは爆発しない。ドムに赤でバツの表記が追加されるだけである。それがCG合成であることを示すには十分な証拠であった。

 

『なんだい。ニュータイプ兵って言うから期待していたがあの程度の包囲も抜け出せないのかい?』

 

単発から連射へ切り替えたビーム・マシンガンで素早くもう一基のドムを撃墜するのはゲルググであった。

 

しかしただのゲルググではない。統合整備計画によって生まれた生産性を向上させ、ブースターと兵装の強化を行ったMS-14Fであった。

 

正式名称はゲルググ強行型(MS-14F)であるがファーストロッド9機三個小隊分(1機は指揮官用のFs型)がキシリア揮下のジオン海兵隊へ渡されたことから「ゲルググ・マリーネ」とも呼ばれている。

 

こちら側の支援に来たゲルググは頭部に指揮官機を表す「ツノ」が装備されており、さらにエースパイロットでしか許可されないカラーリングも紫とカーキが塗装されていた。

 

「申し訳ありません。()()()()()。」

 

救援としてきたのはジオンの中でも屈指の強さを起こる、シーマ海兵隊司令官シーマ・ガラハウ少佐であった。

 

『そんな謝り言葉は捨てちまいな。それよりも行くよ!坊や!』

 

アンディー、リカルド両機を失ったシャアであるが流石は赤い彗星である。

 

攻撃の手を緩めず、なおかつ、ジャスターク、シーマ両機の波状攻撃を巧みに避ける。

 

…そんな時だった。

 

『ジャスターク中尉!』

 

ノーマルスーツ内に響いたのは通信兵のマエッセン軍曹の声だった。

 

「どうした?軍曹。」

 

『グラナダより連絡です!グラナダ基地司令部で反乱が起きました!』

 

「反乱だと…!?」

 

後の世ではキリング事件と名がつけられた、グラナダの一番長い日が始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少なめになります。次回はポケットの中の戦争最終回の内容をベースにしたストーリーなのですが、本作は私の主観のもと、日時等が再構成されております。
それに合わせ、「クリスマス」の時期も11月末にアメリカ、カナダで行われる「サンクスギビング祭」に変更となっています。

またMSにも独自に解釈を加えたものやオリジナルのものが登場します。



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インサート・エピソード ポケットの中の戦争 UC:0079 11/26~28

-UC:0079 11/26 アンマン基地-

 

『ふむ、まさかキリングがこれほどまでの強硬手段に取るとは思っていなかったな。』

 

画面越しにヘルメットとマスクを取ったキシリアが話す。

 

ここ、アンマン基地の会議室にてグラナダからの大まかな報告を聞いていた。

 

途中からキシリア・ザビ中将も映像通信で参加してきたのである。

 

占拠されたのはグラナダ基地第1ふ頭並びに中枢司令部であった。よってそれ以外の副司令部は生きている。

 

詳細な報告はそこから逐一来ていた。既にキリングが直接指揮を執るグラナダ第1艦隊は出港したという。

 

半ばクーデタとも呼ばれる所業であるが、さすがにキシリアですらそこまで考えてはいなかった。

 

『シャア。貴様に追討艦隊の編成を命ずる。その間のグラナダの防衛は私と合流予定だったキマイラに任せる。』

 

「私が…でありますか。」

 

『そうだ。と、いっても艦隊同士の砲撃戦をメインとするわけではない。なるべくキリングの投降、もしくは座乗艦の撃沈をあくまでも主目的に置け。』

 

「核攻撃を寛容する…と?」

 

『勿論、核ミサイルを撃たせる前にだ。赤い彗星の事だ。やれるだろう?』

 

「はッ。」

 

シャア大佐は画面に向かい敬礼をした。

 

「大佐。先ほど補給部隊からの連絡が来ました。わが戦隊は出撃準備完了しています。」

 

「ラグナロク」副艦長であるマリガン中尉が報告する。

 

「シーマ艦隊も同じく。」

 

「ファーレン戦隊は機関砲弾の補充が後数分で完了します。」

 

「ナグモ戦隊はいつでも出撃できます。」

 

それに続いて、シーマ少佐、ファーレン中佐、ナグモ中佐が報告する。

 

「では20分後に全艦出撃。サイド6へ急行する。」

 

席を立ち各艦隊指揮官はシャアへ敬礼をした。

 

-翌27日 サイド6近海-

 

MS隊の隊長達はブリーフィングのため旗艦「ラグナロク」のブリーフィングルームへ集合していた。

 

「先ず、シーマ少佐。貴女がサイド6内に残留している友軍の支援に当たってくれ。諜報員と生き残ったパイロットがいるらしい。」

 

シャアはスクリーンの前に立ち

 

「リボーへの突入は単機で?」

 

「いや、私の部下を二名つけよう。他には…ジャスターク中尉。」

 

「はッ。」

 

「先ほどの模擬戦。私たちのコンビネーションでも君を落とせなかったのだ。戦闘支援に君を加えたい。いいな?」

 

「了解しました。」

 

「ああ。その分アウスラの部隊は艦隊護衛に専念するように伝えてくれ。」

 

シャアはタッチパネルスクリーンを用いてコロニー突入部隊へ計四名の名前を追加する。

 

「他部隊は私と共にキリング艦隊を包囲する。出撃予定時刻は三時間後だ。諸君の健闘を祈る。では解散。」

 

敬礼をし、各部隊長は散る。

 

「あの赤い彗星にあそこまで言われるなんて。随分上になったものね。」

 

俺-ジャスターク・エーシスの後ろから声が聞こえた。

 

「お前ほどではないさ。」

 

声の主は間違いない。ザンジバル級「フソウ」MS部隊の隊長である「レイラ・レイモンド少尉」であった。

 

「ふん。まぁいいわ。フラナガンのシュミレーターでは18勝6敗で私の勝ちなんだし。」

 

そう、レイラは自慢げに話す。…正直彼女は少し扱いに面倒なところがあった。

 

「それにお前は最新型のゲルググで俺はドムだからな。」

 

「そうよ!なにアンタが赤い彗星に褒められたからって私が嫉妬しなきゃならないのよ!」

 

俺がレイラを「めんどくさい」と思うのはここであった。

 

自分から話しかけてきてこちらに思惑がほとんど伝わらないうちに自己解決するのである。

 

「ああ。決心がついたようで何よりだよ。」

 

「見てなさい!必ずアンタ以上の戦果を挙げるんだからね!」

 

そう言って去ってゆく。

 

「なんだったんだアイツは…?」

 

昔からアイツの考えていることは良く分からなかった。

 

「すみません!ジャスターク中尉。」

 

そう呟いたらまた後ろから新しい声が聞こえてきた。

 

「はい?」

 

「ああ。すみません。ヨハン・ネイル伍長であります。そろそろランチが出ますので、お知らせに。」

 

若い男だった。見たところ俺より年が若そうである。

 

そういえば、ランチの操縦や艦艇への荷物積み込みといった作業には15、6歳の学生が徴用されていると聞いたことがあった。

 

「それでは、15分以内にお越しください。」

 

「ああ。ありがとう。」

 

俺は急ぎ格納庫へ向かった。

 

 

-数時間後 旗艦 ラグナロク ブリッジ-

 

「キリング艦隊捕捉。」

 

レーダー監視員であるロコ軍曹がシャアへ伝えた。

 

「よし。全艦モビルスーツ隊発進。マリガン。ビスマルクへレーザー通信をかけろ。」

 

「はッ。」

 

シャアは艦長らしく、シートへ座る。

 

「レーザー通信開きます。」

 

マリガンがシャアへ伝えた。

 

『何かね?シャア大佐。』

 

「キリング中佐今すぐ艦隊を引き返したまえ。」

 

『それは聞けぬ命令だな。』

 

「こちらにはビスマルクの撃沈もやむなしと令を受けている。」

 

『脅しか?ふん。この作戦は私に課せられたものだ。すべての指揮権は私にある。何としてでもここでガンダムを沈めなければならない。』

 

「そのためにもだ。貴官が投降すれば、その戦力もこちらに入れ、サイド6より移送されるガンダムを襲撃するという作戦もできる。」

 

『それではこちらに被害が出るではないか。私が今ここで核を撃てば駐留中の連邦艦隊もろとも消滅できる。こちらの艦隊はあそこにはいないからな。』

 

「まだ中に味方がいるんだぞ!」

 

珍しくシャアが声を荒げた。

 

『サイクロプス…?まだ生き残りがいたのか。しかし、任務に失敗した兵ほどいらぬ物はない…。それよりもだ。シャア大佐。これ以上わが艦隊を止めると言うなら、こちらも相応の対処をさせてもらう。』

 

そう、キリングが言うと同時に通信が切れる。

 

「マリガン。シーマ少佐へ連絡。別動隊は至急行動を開始。他の艦艇とモビルスーツ隊にもキリング部隊の迎撃とビスマルクの撃沈命令を伝えろ。IFFのキリング部隊を敵に変更。私も出る!」

 

「了解しました大佐。」

 

シャアは格納庫へ急ぎ向かった…。

 

 

-サイド6領域内 リボー突入部隊母艦「リリー・マルレーン」-

 

先ほどのブリーフィングが終わった段階でリボー突入チームはすべて海兵隊旗艦「リリー・マルレーン」へ異動していた。

 

キリング艦隊とは別ルートでリボーへ接近していたのである。シャア大佐からのレーザー通信を合図にリリーマルレーンよりMSが発進していく。

 

その一人は俺であった。

 

『マリーネ・ライター出るよ!』

 

チームワークを円滑にするため今回はすべてのパイロットの無線が聞こえるようになっている。

 

『アンディー・ライスン。ドム出るぞ。』

 

『リカルド、同じくドム出る!』

 

リリーマルレーンに搭載されたMS用リニアカタパルトからゲルググ一機とドム3機が発進する。

 

「ジャスターク、ドム出るぞ!」

 

急加速された機体はアポジモーターのオートバランサーによって制御される。

 

『いいかい?今回の任務は戦闘中のザクの救出だ。連邦の雑魚に目をくれるんじゃないよ!』

 

シーマ・ガラハウ少佐はまぎれもないエースパイロットである。地球軌道上の哨戒任務中に出くわした連邦のモビルポッド15機を1機のザクFs型で殲滅している。

 

さらにムサイ単艦と二機のザクⅠでセイバーフィッシュとサラミスからなる敵の警戒艦隊を撃破したこともあるそうだ。

 

海兵隊に良いうわさは聞かないが彼女や部下の戦歴や撃墜数を見れば信用たる仲間であることは間違いなかった。

 

『了解』『了解』

 

続けて聞こえてきたのはシャア大佐直属の部下であるアンディー・ライスン曹長、リカルド・ヴェガ曹長。

 

この二名も歴戦のパイロットであった。

 

…周囲に連邦の艦船は存在しない。恐らく本隊のほうへ向かったのであろう。

 

連邦のモビルスーツ…まだ出くわしたことがないがここ部隊にも配備されているのだろうか。

 

失敗に終わったジャブロー攻略戦時にシャア大佐は本格的なMS生産プラントを発見したらしいし、それに地上に挙がってきた兵によれば地上では既に量産型MSが続々と戦線に投入されていたらしい。

 

グラナダの諜報部もルナツーでMSを生産している可能性だって十分にあり得ると言っていた。

 

そう考えていた時センサーが光源を捉えた。

 

「少佐、右前方高速に接近する物体二つ。」

 

『無視しな。リボー突入を優先させる。』

 

「了解」

 

ゲルググは一気に加速をかける。それに伴ってドムも速度を増す。

 

通信にはしきりにリボーからの領域侵犯メッセージが届くがすべて無視する。

 

『少佐、先ほどの飛翔体は恐らくリーア防空軍のトリアーエズと判明。』

 

ひそかにデータを取っていたのであろう。アンディー曹長が報告をした。

 

『ふん。セイバーフィッシュなら十機もありゃザクを仕留められるがトリアーエズとはね…。』

 

シーマ少佐は呪詛のようにつぶやく。

 

MSのインジケーターはコロニー接岸までの距離を示す。

 

その距離は600メートル。MSの速度では一瞬で到達する距離であった。

 

機体を着艦、無誘導モードへ切り替えコロニー内の港湾ブロックへ侵入する。

 

機体の音響センサーはまだ戦闘音を捉えていなかった…。

 

-同時刻 サイド6 領域内-

 

「全部隊、目標はザンジバル級ビスマルクのみだ。発進する敵MS部隊は各個に迎撃せよ。」

 

シャア・アズナブルは配下のモビルスーツ部隊へ指示を出した。

 

ザクやリックドムⅡをはじめモビルスーツとするモビルスーツ部隊は各個に小隊を編成する。

 

無数の光が前方艦隊へ向かう。しかし、それを歓迎するようなキリング艦隊ではなかった。

 

インターセプターであるMS隊をすぐさま射出。接近を断固阻止を図った。

 

「えぇい。貴様らとて自分の行いがわかっているだろうに!」

 

シャアは言葉を打ち付ける。グラナダ所属のMS部隊は手練れであった。

 

トップエースには及ばないが連邦の戦闘機、戦艦、空母、モビルポッド。

 

さらには宇宙用に配備されていた連邦のGM(ゲム)と交戦し殲滅した部隊もいた。

 

少なくとも強敵である。

 

「久しぶりにやってみるか…。」

 

シャアは相対するムサイ級の船体をけり、一気にゲルググを加速させる。

 

恐らくビスマルクのブリッジでは「通常の三倍」で接近するゲルググに困惑しているであろう。

 

「キリング中佐!もう1度言う。投降せよ。」

 

『それはできない。…ガンダムの威力がわからぬ赤い彗星ではあるまいに。』

 

「貴官はやり方を間違えた。あのガンダムは我々のほうで処理をするだけだ…。」

 

シャアのゲルググがビスマルクのブリッジに向けビームナギナタを突き刺した。

 

『大佐。グラーフツェッペリンより入電。投降するとのことです。』

 

通信の相手はマリガンであった。

 

「よし。海兵隊所属を残し全艦帰投する。警戒怠るな。連邦が出て来るやもしれん。」

 

『了解。MS収容を確認の後、方位をグラナダへ取ります。』

 

「後は彼らを待つのみか…。」

 

シャアは自機を母艦ラグナロクへ向けた。

 

 

-リボー内部-

 

『ガンダム発見』

 

その報はアンディー少尉からもたらされたものだった。

 

『アタシとリカルド少尉がガンダムを陽動する。アンディー少尉はそのまま別動隊の警戒。坊やはザクを救出。』

 

シーマ・ガラハウは的確な指示を出した。

 

「あれが…ガンダム!」

 

資料では見ていたが実物を目にしたのは初めてだった。

 

俺は、ドムのブースターをコロニー内用に設定し、一気に吹かす。

 

ガンダムへ向けモノアイを拡大すると、戦闘場所の近くに人影を確認した。

 

「なんだ…?子供!?」

 

10歳にいっているだろうか。少年が必死に走っている。

 

『そこの子供!早く逃げろ!ここは戦場だぞ!』

 

ドムの姿を見て少年は何かを察するように離れる。

 

ガンダムの方向には無数の着弾音が聞こえる。コロニー専用弾が装填されたMMP-80マシンガンだ。

 

「中佐たちはうまくやってるな。」

 

上手くガンダムが困惑している。

 

「ザクのパイロット!聞こえるか!脱出する!」

 

小型ワイヤーをザクに接着させ、接触通信を行う。

 

『味方!?』

 

「ガンダムは後回しだ。脱出するぞ。」

 

『核攻撃は…!』

 

「赤い彗星が阻止した。とにかく行くぞ!」

 

ザクを引き連れジャンプする。

 

「中佐!目標を確保これより合流ポイントへ向かう」

 

『よし。全機牽制しつつ後退。トンズラこくよ!』

 

シーマ機が撤退のサインを出した。一先ず、これで作戦は成功となる。

 

「ケガは?」

 

『頭を打ち付けただけだ…。問題ない。』

 

ザクのパイロットは出血が激しかった。

 

「すぐに治療班に引き渡す。数分の辛抱だ我慢してくれ。」

 

『ああ…。アル…。クリス…。』

 

部隊はリリーマルレーンへ帰投した。

 

数日後、連邦内へ潜入していた諜報員の回収作戦も無事成功。

 

連邦のMS生産、配備計画が一気にジオン国内に流れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ソロモン防衛戦 前編 UC:0079 12/14~

-UC:0079 12/14 ソロモン基地 会議室-

 

「さらなる支援が来るということか!流石兄貴と姉貴だ!」

 

野太い声はディジタル・スクリーンに映し出された二名の男女へ向けられる。

 

片方はジオン本国にいるギレン・ザビである。もう一人はグラナダへ帰還したキシリア・ザビであった。

 

『ああ。エギーユ・デラーズの部隊を送る。それと、ビグ・ザム用の改良型冷却装置の設計図もソロモン工廠へデータを送った。』

 

デラーズ艦隊はエギーユ・デラーズ率いるグワデンを旗艦にチベ級x3 ムサイ級x6で構成された艦隊でこれにシロディール級MS母艦が二隻付いた。

 

『こちらはドロワとムサイ二隻を送る。前々からキャリフォルニアベースの件で約束していたモノだ。それと新型MAの調整が終了次第増派する。』

 

「到着は早くて明日か…。よし、では兄貴たちの部隊を合流させて後方から叩こう。こちらもMS一個中隊をデラーズ部隊と合流させる。」

 

『ドズル…くれぐれも貴重な宇宙戦力を失うなよ。』

 

「ああ。連邦なぞ一捻りよ!」

 

『期待している』

 

通信が終了すると同時に具体的な防衛戦略の見直しが始まった。

 

とある諜報員が「ソーラ・システム」という連邦の新型兵器のデータと展開場所の情報を入手したのである。

 

ソロモンの第5~11番スペースゲートのあるC-Fフィールド方面に対し照射が予定されている。

 

これに対し5~11番ゲートの早急な無人化が図られた。本国で開発された新兵器「ダミーバルーン」によって艦艇数を調節。

 

そして旧来から存在した「ビーム攪乱膜」の無人発射装置も厳重な隔壁で守られジオン側は実弾兵器による防衛戦略へ出たのである。

 

制空隊として配備されたザクや一部ドムにはMMP-78並びにMMP-80用対MS弾の完全配備が完了。攻撃機部隊としてのドムシリーズの整備も万全であった。

 

そして超大型機動兵器である「ビグ・ザム」にはIフィールド発生装置の実弾防御強化と冷却装置の強化等の改修が行われた。

 

艦隊の配置、整備も万全であった。

 

ア・バオア・クーから発進したデラーズ艦隊は既に合流ポイントへ向かっていたトワニング艦隊と合流を図った。

 

作戦としては単純で隕石ミサイル等大型質量兵器を用い敵艦隊を漸減。ソロモン近辺では対MS用サポートOSを積んだ制空隊並びにモビルアーマー「ビグ・ザム」が「ゲム」を迎え撃つ。

 

艦隊は増派艦隊含め三つに分かれ、敵艦隊を強襲。一部別動隊を編成しソーラ・システムのコントロール部隊を一気に強襲し殲滅ないし鹵獲。

 

艦隊が補給艦、宇宙空母を狙っている間にドムを主軸とした攻撃機隊が戦艦、巡洋艦隊を攻撃するいたってシンプルな作戦であった。

 

その別動隊には…ファーレン、ナグモ両戦隊が編成された。

 

 

 

 

-UC:0079 12/15 0:00(UTC)-

 

 

連邦軍第二艦隊旗艦タイタンのブリッジではマクファティ・ティアンム中将が作戦開始の命を発令した。

 

と同時に第三艦隊のワッケイン少将も陽動を開始した。

 

連邦軍のドクトリンは優勢火力を主とする。ソーラ・システムの照射で敵防衛設備を沈黙させ反対側から出て来る艦隊を第三艦隊が攻撃。

 

その間に第二艦隊は陽動部隊とは反対に回り込み一気に殲滅を図るものであった。

 

「目標!ソロモン第五スペースゲート!その後手筈道理に第六から十一へ向け照射!」

 

ティアンムは勝利を確信していた。地上から憎きジオンを追い出し、宇宙ではジオンの生命線へ刃を入れようとしている。

 

ルウムでの屈辱を晴らす時であった。

 

「照射まで20…10…3、2、1、0!」

 

通信兵が叫ぶ。

 

左側よりまばゆい光が放たれソロモンのスペースゲートを焼いてゆく。

 

2分間の短い照射は確実にソロモンを陥落するのを容易くさせる…とティアンムは信じ切っていた。

 

「よし!各艦予定のコースをたどれ!戦術士官!敵艦隊との会敵予想は!」

 

「はッ四時間三〇分後であります!」

 

「うむ。何としても敵将ドズルを討ち取らねばな…」

 

 

 

 

 

 

-同時刻 ソロモン司令室-

 

「閣下。敵艦隊はすべて情報通りに動いています。偵察隊がティアンム本隊を確認しました。」

 

副官のラコックが伝える。

 

「よし。陽動部隊の対処は予定通りバレンシア艦隊。ティアンム部隊はサラゴサ艦隊だ。衛星ミサイル随時発射いいな!」

 

「はッ!」

 

ソロモンの防衛の中核をなしていたのが衛星ミサイル群である。これは小惑星に各種センサーと推進装置を備え付けたもので、原始的な質量兵器であった。

 

しかし高速で飛来する小惑星となれば巡洋艦を一撃で撃沈する攻撃力を持っていたのである。

 

「ラコック。俺のザクの用意をしておいてくれ。場合によっては出るかもしれん。」

 

「了解しました。」

 

 

 

-同時刻 グワデン作戦司令室-

 

グワジン級はその大型メガ粒子砲並びに対空機銃が特徴的な戦艦である。

 

MS運用能力も当然存在するがグワデンには迎撃用のMS2個小隊しか配備されていない。

 

余ったMS格納庫へはソロモン側から各種仲介を行うためのMS1個中隊(4個小隊)が派遣された。

 

中隊長はアナベル・ガトー大尉であった。

 

作戦司令室ではガトー他各小隊長が最後の確認をしていたところであった。

 

全パイロット向けのブリーフィングは終了している。

 

「現在、ティアンム艦隊はBフィールドから800キロ離れた位置に存在する。先刻のブリーフィングより若干移動しているが問題はない。」

 

最新の偵察情報がザクフリッパー隊の隊長であるコロナ中尉から伝えられた。

 

「よし。では次、整備状況の遅れが出ている部隊は?」

 

ガトーが問い詰める。

 

「はッ。先ほどドロワのR-1A部隊の推進剤補充が終わっていないと報告がありました。2:00には終了するそうです。」

 

「よし、作戦に影響がある程度ではないな。他、何かあるか?」

 

「グワデン通信兵、ヨハン一等兵であります。レーザー通信にて先ほど、ドズル閣下がザクで出撃する可能性アリとの報告が来ました。つきましてはシン・マツナガ中尉の部隊を護衛に回してほしいとのことです。」

 

「随分急だな…。だがドズル閣下の命。守らねばなるまい。マツナガ中尉。」

 

白いパイロットスーツを着た男を呼ぶ

 

「はッ。」

 

「君の部隊は早急にドズル閣下のもとへ向かえ。」

 

「了解。マツナガの名に懸けてドズル閣下をお守りします。」

 

「よし、他には?」

 

誰も言うことはなさそうだ。

 

「では解散!」

 

ガトーが敬礼すると全員が敬礼を返す。

 

 

 

 

 

-対ソーラシステム別動隊 旗艦「アウスラ」ブリーフィング・ルーム-

 

「全員いるな!では作戦を説明する!」

 

俺-ジャスターク・エーシスは特務部隊として編成されたナグモ、ファーレン両戦隊のMS部隊長として、ブリーフィングルームに立っていた。

 

「目標はあの光の元…つまり連邦の新型兵器の奪取もしくは完全破壊だ。先ず、ナグモ戦隊のMSが先陣を切り陽動を行う。S58から侵入し、その後方からアカギ、カガのMS部隊が敵艦隊への殲滅攻撃を実行。」

 

後方のスクリーンには偵察機からの写真が次々に映し出されている。

 

「そして、フソウのMS隊が統制艦へ降伏勧告を行え。既にゼーレマン曹長の前情報によってコロンブス級マミヤ・リンゾーが統制艦であることは判明している。」

 

投降後は本来要塞内白兵戦に割り当てられる歩兵2個小隊約100名が担当する手筈となっている。既に彼らはアウスラ艦内にて宇宙型キュイ歩兵戦闘車と共に万全の状態で待機している。

 

余談ではあるが彼らはランバ・ラルの元で各種特殊作戦を遂行した兵であり、ゼーレマン曹長の戦友も数多くいた。

 

「これまでで何か質問は?」

 

スッと手を上げるものが1名。ナグモ戦隊(ウチ)の『カンル』所属、ボット軍曹であった。

 

「ミラー本体への攻撃は?何割残ってればいい?」

 

「最低でも20基は望ましい…だが最悪文字道理の殲滅も許可されている。…他は?」

 

パイロット達は自信に満ち溢れた顔をしている。

 

「よし!では出撃まで各自待機。30分前格納庫集合だ。解散!」

 

全員立って敬礼をする。

 

(さて、俺は突入部隊へ挨拶をしてこないとな…。)

 

敵はすぐそこであった…。

 

 

 

 




原作とは大きく違う流れになりました。しかしここでジオン側の戦略的勝利はないものと見てもらって構いません。

またシロディール級とは名称は本作オリジナルですがこれはMSイグルーのヨーツンヘイムと同型の輸送艦兼宇宙空母です。



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