モンスターハンター外異伝 (麗紫 水晶)
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~事の始まり~
~女子高生沙耶のレアな物語り~


初めまして。処女作にして初めての投稿です。どうぞよろしくお願いいたします。なにぶん、誤字脱字等々あるかと思いますが、広~いお心で読んでいただければ幸いです。何気ない日常が、突然変わっていく…。彼女が辿る運命とは…。では、物語りの始まり始まり…。


プロローグ

とある街の、とある高校の、とある教室………。

 

光差し込む教室内の机で、2年生である女子高生沙耶は、休み時間を最大限に利用して、外の日光も全く気にせず、あるゲームに夢中になっていた。

 

「あ~、またやってる~。飽きないよね、あんたも~♪♪」

 

 と声を掛けてきたのは、同クラスの友人の明日美。

 

背中まであるストレートな黒髪を持つ彼女は容姿淡麗で、全学年で1、2を争うほどの美貌の持ち主である。

 そんな男女の生徒達から好かれるほどの彼女が、何故沙耶の友人かというと、たまたま遊んでいたゲームが同じで、明日美が沙耶に声をかけた事から始まり、モンハンの話題でお~盛り上がりしたことがきっかけで友人になった。

 

「え~だって、まだまだクリアしたいクエストがいっぱいあるもん……。」

 

 とゲームを中断せず、画面に集中したまま答える。

 

「すっごく楽しくて…♪♪」

 

 とさりげない本音がポツリ…。

 

「でもハンターランク解放してないんだよね?」

 

 と沙耶の後ろからゲームを覗き込む明日美。

 

「そうなんだ~、G級クエストに入ったばかりだからまだまだだよ~。」

 

 と話をしながらも、手を止めるような事はしない。凄い執着心である。

 

「あんたのモンハン好きも、そこまで行くとたいしたもんだわ。お、もうちょっとでクリアね。」

 

 と明日美もクリア寸前なことに気付く。

 

「よしっ!クリア!!」

 

 とガッツポーズをとる沙耶に申し合わせたかのようにチャイムが鳴る。明日美を含め全員が席に付く。沙耶も慌てて保存して、ゲーム機を机の中にしまい込む。

後にパタパタと足音がして、引き戸が開かれ、教科書類を抱えた先生が教室に入って来る。教壇に立つと、その日の日直の生徒が、

 

「起立……!礼……!着席……!」

 

 と号令を掛ける。皆それにならってお辞儀をして着席をする。授業の始まりだ……。その授業も、教科書を開きつつも、次はどのクエストにチャレンジしようかと一人希望を膨らませている沙耶だった………。

やがて終業のチャイムが鳴り、号令の挨拶が済むと、

 

「やった!今日も終わりだ~!」

 

「よしっ!部活だ!!」

 

「コラッ!掃除サボるなよ!」

 

 とありがちな会話をしつつ、皆それぞれの行動に移る……。

沙耶も、カバンにプリント等をしまい込み、ゲームもしまって教室を出る……。

 

「あ~、沙耶また明日ね~!」

 

 と明日美が沙耶を見つけて声を掛けてきた。明日美は部活があるので、一緒に帰ることは出来なかったが沙耶には必ず声をかけてくれていた。

 

「うん!明日ね~!」

 

 と沙耶もその事は分かっているのですぐに返事を返し学校を出る。沙耶は帰宅中もゲームがしたくてウズウズしていた。やってみたいことがいっぱいある!と…。

 

 しかしこの後に、彼女がこのゲームにもっと深く関わって行くことになるとは彼女も想像もしていなかった。そう、モンスターハンターというゲームに…。

 




やっと、手帳にずっと書いてきたものを投稿することが出来ました。あらすじの通り、この後、不思議な出来事に遭遇していきます。次回話をお楽しみに…では。


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好き過ぎてこんな事に…。

やっと、やっと、一話目が…。
楽しみだった方も、そうでない方も、大変遅くなりました。申し訳ありません。読みにくいこと、多々あるとは思いますが、どうかご容赦を。
では本編をどうぞ。


「ただいま~~~♪♪」

 

 帰宅した沙耶は、早速部屋に入り椅子に座わって、机に向かい3DS LLを両手に、ゲームを起動する……。

そして沙耶は考えていた……。装備を強力にしていかなければ、この先G級を進めることは出来ないと…。

 

「まずは武器を揃えないとダメかな…。」

 

そうつぶやくと、武器屋で装備の確認をする。

エリアルスタイルの双剣でクエストをクリアしてきたが、

本人としては限界を感じていた……。まあ、腕前が追いついていないとも言えるかもしれないが……。

 

「何かいい方法はないかなぁ…。」

 

武器屋の双剣の攻撃力や切れ味、属性を確認しながら考え込む。

(いっそ、武器種を変えてみようか…。)

今まで片手剣、操虫棍、双剣と使用してきたが、新しく武器種を増やしてみようと考え、選んでみることにした。

 ネットの動画で、太刀を使ったクエストの動画を見たことを思い出し、

太刀の項目を選んで、覗いてみることに……。

 

今までに倒してきたモンスターの素材や、採掘等で集めた鉱石があったおかげで、

何本か作ることが出来、レベルもそこそこ上げることが出来た。

 

使えると思ったのは、鉄刀と斬破刀、ユクモ太刀とチーズニャイフだった。

 

だが、装備をしてクエストをクリアしに行ってはみるものの、いまいち納得できる感じがしない。

 

(スタイルも変えてみないと、駄目かなぁ…。)

 

 確かに動画を見た時は、違うスタイルの狩りだった。

 沙耶は意を決して、スタイルも変えてみることに。

 ギルドやストライカー、ブシドー、錬金等をひと通り試し、

 

「よしっ、これでいこう!」

 

 と決めたのは、ブレイブスタイル。

 

 これはXでのスタイルの種類に2種程追加されたものの一つで、

攻撃に特化したスタイルである。

 

しかし、エリアルでやってきた為に、使い慣れるまでは練習が必要だった…。

 

「沙耶!ご飯よ~!」

 

 と部屋の外から声を掛けられる。母親である。

 

時間を見るとすっかり夜になっていて、夕食の時間になっていた。

 

 ブレイブスタイルの練習に夢中で、すっかり外が暗くなっていることに気付かなかった。

 

「は~い!今行く!」

 

と画面をそのままに、龍識船にいる状態で、部屋を出る。

 

沙耶は足早に食卓テーブルに座った。夕食のご馳走は既に並んでいた。

「何をそんなに夢中になってるんだい?」

 

 と沙耶の父が新聞を広げながら声を掛けてくる。

 

「そうなのよ、パパからも言ってやってちょうだい!」

 

「え?どういうことだい?」

 

「姉ちゃん、ゲームにハマってるんだよ♪」

 

 と食卓テーブルのもう一つの椅子に座ったのは弟だ。

「しかも、僕より上手くなってるし……。」

 

「い~じゃん、だってあんた負けたら直ぐに諦めちゃうんだもん……。」

 

「だって、強過ぎるんだよ、モンスターが…。」

 

 と口をとがらせながら文句を言っている。

 

「そりゃ強いのは分かるけど、めげずに頑張れば動きに慣れて、勝てるようになるんだって。」

 

「え~、メンドクサイ~!」

 

 と、あからさまに嫌な顔をしている。

 

「そう言ってる内は強くなれないね~♪♪」

 

「いっただっきま~す……。」

 

 と、弟が罰が悪そうに夕食を食べ初める。

 その様子を見ていた父が、

 

「でも珍しいな、沙耶が熱中してるなんて。沙耶の方が飽きっぼかった気がするが…?」

 

「パ~パァ!」

 

 と制したのは母。

 

「ハイッ!」

 

 と広げていた新聞で顔を隠した。そして新聞紙の横から顔を半分覗かせて、沙耶にウィンクする。

 

 沙耶も父の仕草に気付いて、舌をちょこっと出す。

 

「まったく……。」

 

と呆れながら、母も椅子に座り、食事を始める。

 

「あ、そういえば今日僕ね、学校で………。」

 

 と弟が違う話題を提供しつつ、夜が更けていく。

 

しかし、このまま和やかに次の日を迎える事にはならなかった……。

 家族で食卓を囲んでいる間、沙耶の部屋では、大変な事が起こっていた!

 沙耶の3DS がカタカタと揺れだし、画面から電気がパリパリと細い稲妻が立ち上がり、

 空気中で渦のようなものが現れて、次第にそれが大きくなっていく……。

 

やがて直径1m程になった時、これから沙耶に起きるきっかけとなる者!?が、出て来ようとしていた……。

 

渦の中から、足のようなものがゆっくりとせり出してくる。

 

日常よく見かけることがある足で、爪があり、プニプニしたくなるような肉球が…。

 

縞模様の毛並みがある動物を思い起こさせる。

 

そう、猫の足である。

 

 それが徐々に両足、胴体、前足、首、頭とゆっくりと姿を表した。

 

しかも、2体。で、足を2,3回降ろそうとするも届かない。足のやり場のない空中から床に落下する。

 

ドスン!!という音と共に

 

「「ヴニャ!!」」

 

 と鳴き声が…。

 

「な、何だ!」

 

 と慌てた父が、周りを見回す。

 

「姉ちゃんの部屋の方からしたよね。」

 

 と険しい顔をしながら物音のした方を見つめる弟。

 

「そ、そうだね……。」

 

 と沙耶も真剣な表情になる。 父がそうっと部屋に戻り、ゴルフクラブを持ってくる。

 

 そして父を先頭に、並んでゆっくりと沙耶の部屋の前へ。

 

息を殺しながら扉に近づき、ノブに手を掛ける…。

 

「誰だ!!」

 

 と大声で、勢いよく扉を開けて身構える。

 

「!?………。」

 

 沙耶が慌てて部屋の電気のスイッチを入れる。

 

が、荒れた様子もなく誰も居ない机の上で、沙耶の3DS が動いているだけである。

 

「どういうことだ……。」

 

 皆、奇妙な空気に包まれた。

 

「確かに物音が…。」

 

 と、周りを見回すが異常がない。

 

「何だったんだろう?」

 

「確かに聞こえたわよ。」

 

「でも何もないね」

 

あまりに不思議なことで、父も心配になり、沙耶に声を掛ける。

 

「どうする?今日は茶の間で寝るかい?」

 

 沙耶も不安は有りつつも、モンハンで遊びたい気持ちが勝ってしまう。

 

「ん、大丈夫。何かあれば、大声で叫ぶから。」

 

と決意している顔を見て、

 

「そうか、分かったよ。何かあったらすぐに大声を上げるんだよ。」

 

と念を押して、茶の間の方へと戻って行く。弟も母もそれにならう。

 

沙耶はそのまま部屋に残り、戸を閉め、椅子に座り、ふぅっと溜め息をつく。

 

そして気合いを入れて、机に向かい3DS を持ったその瞬間、背後から目と口を塞がれ、ベッドの上に押し倒された!

 

「ん゛~~~!!」

 

と呻き声を出して、もがこうとするも、動くことが出来ない。

だが、目に見えないながら2人いることは認識した。なぜなら、目と口を塞がれている他に、両足を押さえつけられていたからだ。

 

(い、いやだ、私死にたくない!モンハンでやりたい事がいっぱいあるの!お願い助けて~!!)

 

沙耶は恐怖と悲しみで、ポロポロと涙を流していた。

理由はどうあれ、彼女にとって、モンハンが出来なくなることの方が、死活問題だった……。

モンハンが続けられなくなる……。

 

彼女にとってこれ程ショックなことはない。だが、抵抗をし過ぎても殺されかねない。

 

(許して……………。)

 

沙耶はもがくことを諦めて、手足の力を抜く。沙耶は覚悟した。

 

(!?……………)

 

ところが、沙耶が抵抗をやめた事が分かったのか、口は塞いだままだったが、足と目を開放された。

ゆっくりと涙目を開けると、その先に飛び込んできたのは、信じられない2人!?いや2匹!?だった。

 

(!?!?!?!?)

 

沙耶は自分を疑った。

確かにこの2匹!?は知ってはいる。しかも、この自分の世界の住人ではないことも。

沙耶は驚きつつも、その者達に話しかける。

 

「アルビナとロキ…なの?」

 

するとその2匹はゆっくりとうなずき返す。

猫でありながら二足歩行が出来、武器と鎧を装備しているという猫……。そう、モンハンに出てくるキャラクターで、アイル―族、そして沙耶がゲーム内で、雇っているオトモの2匹だった。

 

その2匹のオトモにシー!と合図をされて、沙耶も慌ててウンウンと首を縦に降って、ようやく口から手?じゃなく前足を放してくれたのである。

 

落ち着いた声で、アルビナが沙耶に話しかけてきた。

 

「ようやくご主人様の中のもう一人のご主人様に会えましたニャ。」

 

その言葉にロキも頷く。

 

沙耶もオトモ達がこの世界に来ようとしていたことに、混乱を隠せなかった。

 

「どうして、あなたたちが…。どうやって来たの?」

 

「話せば長くなりますニャ。その前にいいですかニャ?」

 

と、2匹はゴロゴロと喉を鳴らして沙耶にすり寄る。

沙耶は何故か違和感なく2匹を抱き締め、喉を撫でる。

2匹は目を細めて、嬉しそうに、気持ち良さそうにしている。

 

「良かったニャ~、ロキ~。」

 

「良かったニャ~、アルビナ。」

 

そう言いつつ、しばらく沙耶に甘えていた。

ひとしきり甘え終わると、2匹は真面目な顔になって沙耶を見た。

それに反応するように沙耶も真剣に2匹を見つめる。

しばら~くお互い見つめ合う……。

 

「やっぱり可愛いですニャ~(  ̄▽ ̄)」

 

と、いきなりロキが急に萌え状態になる。が、しかし、すぐに激痛が。

アルビナに猫パンチを喰らわされて悶絶するロキが。

沙耶も初めてそんなことを言われたので、赤面してうつむいてしまう。

 

「まったく、ラブコメニャあるまいし。」(ラブコメって知ってるんだ……!?)

 

アルビナは、改めて沙耶を見つめ、

 

「実は、沙耶様に会いに来たのは、こういうわけですニャ……。」

 

と沙耶に語りだした。沙耶も真剣に聞き入るのだった……

 




読んでいただき、ありがとうございます。次話も、頑張りますので、どうか見捨てないでくださいまし。よろしくお願いいたします。では。


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動き出した黒き影…。

続けて読んで頂けるとは、ありがとうございます。
今回は、沙耶達とは別のところでのお話でございます。
表現力が乏しく、文字数も少なめになっていますが、ご了承くださいませ。ては、本文をどうぞ。


女子高生、沙耶とオトモ達が出会う、その2日前……、既に事は、動き出していた…。

 

「チッ!何だよ!強過ぎだよコイツ!」

 

と、怒りを露にしている男が1人。

 

「面白くねぇ、装備はそこそこにしか強くならないし、モンスターは強いし、勝てるわけないだろこんなの、判定キツすぎじゃね!!」

 

と逆恨みをいいことに、DS を自分の膝に叩きつける。

その男の周りには人の気配はない。

この男は仲間に自慢しようと、1人キャラクターを強くするため、川辺に来ていた。

人家も少しく遠い。

周りも木々に囲まれていて、川の側は砂利があり半径5m程のスペースの場所で、モンハンをしていた。

しかし思った以上に、強く出来なかったことで、苛立ちを隠せないでいた。

 

「くそっ!!」

 

と、男はそのままDS を閉じようとした、その瞬間!画面の中から、黒き煙が突如吹き出し、直径30cm程の渦に。しかもその渦の中から声がした。

男は慌てて後ずさる。

 

「強くなりたいか…。」

 

すごく低い声で、渋味のある声で、その男に話しかけてきた。

 

「な、な、な、なんだ!誰なんだ!」

 

男が動揺して身体をビクビク震わせながら問い返す。

 

「力が欲しいなら、授けよう……。その代わり、こちらにも力を貸してもらうことになるが……。」

 

「ち、力を貸すって、一体どうするんだ?」

 

「強くなりたくないのか……?」

 

その声の強引な問いかけに、男は少し考えた。

確かに得体の知れない!?………と不安があったが、自分のキャラクターを強くしたいとの思いが強く、誘惑にかられ、

 

「なりたい!」

 

と答えた………。

少し間があって、

 

「いいだろう、力を授けよう……。」

 

と、そう答えた次の瞬間!黒い渦がガバッ!と男に頭から覆い被さる。

 

「な、何を!モゴッ!!」

 

男をあっという間に全身を包み込み、暫くすると、足元から現れてくる。

渦が元の大きさに戻ると

 

「どうだ気分は…。」

 

男に問いかけてきた。

男は姿は変わってはいないが、手足や顔の色は変色していた。

男は自分の両手のひらを見ながら、力が沸き上がる気持ちを感じ、3DS に向き合う。

そして自分のキャラクターを武具屋へ向かわせて、武器と防具を覗いてみる。

 

「おぉ!!!」

 

男は驚きと感動を露にした。

全種類の武器と防具が出ていて、なおかつレベルはMaxに。

代金もかからず、護石も色々あり、スキルもつけほうだいになっている。

 

「す・ご・い……。」

 

男は渦の方を見た。

 

「すごいです。」

 

男は渦に向かって感謝する。

 

「くっくっくっ、素晴らしいだろう。」

 

その問い掛けに男も頷く。

 

「ならばこちらにも力を貸してもらうとしようか……。」

 

「どうすれば…。」

 

「くっくっくっ、お前にはシナリオマスターになってもらおうか。」

 

男は渦の言った意味が解らなかった。

 

「一体どうすれば…。」

 

と、再度問いかけると、

 

「なに、簡単なことだ。お前がモンスターを操り、ハンター共に一泡吹かせてやればいい。」

 

その返事に男は驚く。

 

「そ、そんな事が出来るのか?」

 

「そうだ。まず、操りたいモンスターを決めて、クエストを選ぶのだ。」

 

そう言われて、男は少し考えて、決まったのか一つのクエストを選んで、受注する。

 

「くっくっ、それでいい。」

 

と、言い終わった途端に、渦が大きくなっていく。

渦が、直径10m程に巨大化した時、下側の方から、見覚えのある足が片足ずつ姿を現す。男はすぐに理解した。

 

「来た……。」

 

ゆっくりと胴体と顔を現したその姿は、モンハンをする者なら誰もが知っているリオレイア…ではなく、恐竜ティラノザウルスに似た、顎が特徴的なモンスター……。

恐暴竜イビルジョーである。

イビルジョーも、突然変わった違う世界に少し戸惑っていた。

男もイビルジョーの威圧感におののきながら、渦に問いかける。

 

「本当に操れるのか?」

 

「そうだな。命令してみるといい。」

 

そう言われて、男は意を決して、イビルジョーに向かって叫ぶ。

 

「よし!ハンター共を蹴散らしに行くぞ!ついてこい!!」

 

と、男が街の方へ歩きだそうとするが、イビルジョーに反応がない。

 

「どうした、こっちだ!」

 

と促すと、男の方を向いて、3歩進むと、立ち止まってしまった。

だが、次の瞬間、上体をのけ反らせて、咆哮を上げながら円を描くように体を回す。体のところどころが、赤色に変わる。

男はその状態の事を分かってはいたが、何故今なのか解らなかった。

 

「なっ、何を…。」

 

そう言うか否かイビルジョーは身体を横に振り、半円を描くように、ブレスを吐いてくる。

男は一撃だった…。

 

「な、何で…グァぁ!!!」

 

男は恐竜化ブレスの餌食となるのだった。

30cm 程の大きさに戻った渦は、

 

「確かに力は与えたぞ。くっくっくっ。」

(言い忘れたが、お前に操る程の実力があれば、の話しだがな。)

と、男の持っていた3DS と共に渦は消えてしまう。

イビルジョーは、茂みの中に入っていく。

鳥達が、異様な巨大生物に恐れて逃げ出した。

しかし、その巨体も途中で急に姿を消してしまう。

それが2日前の出来事…である。

 




読んでいただき、ありがとうございます。
次話は、沙耶達に戻り、今度はオトモ達の話しになっていきます。またまだ、事が大きくなるのは、これからですが、楽しみにしていただけたら幸いです。
次話もお楽しみに。では。


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モンハン世界が大変ニャ!!

 お話の続きですニャ……!。
 失礼しました。
 今回はオトモ達がなぜこの世界に来たのか…その発端が分かってきます。
 巻き込まれていく沙耶の運命やいかに。
 では、本編をどうぞ。



その2日前の出来事は、沙耶達も知るよしもない訳だが、部屋ではオトモ達の話しに真剣に耳を傾ける沙耶の姿があった。

オトモ達の話した内容とは、

 

「まず、我らの世界にはアイルーや、他の猫族がおりますニャ。

そして我がアイルー族にも、大長老様が居ますのニャ。

その大長老様に、我らを含め他のオトモ達も呼び出され、集合しましたニャ。

大長老様の話しは、こうでしたニャ。」

 

と、アルビナが話を続ける。

 

「ハンター達の元から急に呼び出してすまんニャ。

事は急を要するニャ。許して欲しいニャ。」

 

オトモ達は、何があったニャとざわつき始める。

 

「一体、ニャにがあったというのですニャ?」

 

アルビナが冷静に問いかける。

 

「うむ。我がご主人様より連絡があってニャ…。」

 

「ニャンと!今も旅を続けられている伝説の狩人ニャ。」

 

「そうだニャ。老いても狩人を辞めずに旅をしているニャ。そのせいか、実力はまだまだのものニャ。」

 

と、大長老は遠くを見ながら、思いに更ける。

 

「そのご主人様がニャンと?」

 

「ウム。それがニャ、龍歴院より研究員1人と、ハンターが3人、離反したと連絡があったそうニャ。」

 

それを聞いて、ざわつきと不安が更に大きくなる。

 

「その研究員は、古龍研究の他に、隠れて違う研究もしていたらしいニャ。」

 

「違う研究とはニャンですかニャ。」

 

とロキも真剣になる。

 

「そこは龍歴院でも分からなかったらしいニャ。

しかし、その後からモンスター達の様子が変わっているらしいニャ。」

 

「一体、どんニャ風に?」

 

「獰猛化モンスターが増えているニャ。

更に紛れてハンターを攻撃してくる裏切り者が、モンスターを操っているらしいニャ。」

 

それを聞いてざわつきがピークに達する。

 

「それは大変ニャ!」

 

「それでどうしたらいいのですニャ?」

 

と急くロキに対し、

 

「待てニャ。本題はこれからニャ。」

 

と静して、話を続ける。

 

「ニャんでも命からがら戻ったハンターの話しニャと、研究員らしき者が、『ハンターを全て消し去ってやろう…。

そうだな、ハンターを操る者自体を消し去ってやればいい。くっくっくっくっくっくっ。』と言っていたのを聞いたそうニャ。

そのまま姿を消したらしいのニャが、その後ニャ。

龍歴院の気球船が、イビルジョーを発見して追跡していると、急に巨大な黒い渦が現れて、イビルジョーがその中に消えていったんだそうニャ。」

 

オトモ達は息をのんだ。しばし静寂に包まれる。

さすがに超大変な事態が起こっ ている事が認識できたらしい。

青ざめてしまっているオトモもいる。

オトモ達は理解した。ご主人様のさらに大ご主人様を倒されたら、雇ってくれているご主人様まで居なくなる…。

オトモ達は慌てだした。

「一体どうしたらいいニャ!」

 

「ご主人達が居なくなったらモンスター達の天下ニャ!」

 

「そうニャ!世界が壊れてしまうニャ!」

 

と大声で叫びだす。

 

「大長老!!」

 

とアルビナが大声で問いかけると、周りも静まりかえる。

 

「何かニャ。」

 

オトモ達も大長老に注目した。

 

「私達はどうしたらいいのですかニャ?」

 

「そうニャ、ハンター達に依頼しようと思ったのニャが、モンスターや離反ハンター共の相手でいっぱいニャ。

 

そこで、我がご主人様を通して我々に依頼が来たニャ。

 

奴等を突き止めて、阻止して欲しい…との事ニャ。

 

どうニャ?やって欲しいニャが、どうかニャ?」

 

オトモ達はしばらく話し込んでいたが、アルビナとロキはすぐに返答する。

 

「やりますニャ。」

 

「そうですニャ。ご主人様と離ればなれは嫌ですニャ。ずっと一緒にいたいですニャ。」

 

その返事に他のオトモ達も立ち上がる。

 

「そうニャ!ご主人様を守るんだニャ!」

 

と、次々と声を挙げて立ち上がる。

 

「よし!皆、任務開始ニャ!!」

 

「ニャ~~~~~~!!」

 

オトモ達は一斉に前足を上に上げて出発する。

 

各々主人の元へ戻る者、極秘として、そのまま探偵のように捜査に出る者、アルビナ達は、主人の元に。

 

隠すよりも、危険な事態である事を話しておいた方が…と2匹の共通な意見だった。

 

急いでご主人の待つ家へ。

たまたまベルナ村の家に居たので帰路は早かった。

 

扉を開けて足早に入っていく。

 

「アルビナ様!」

「ご主人様!」

 

と2匹は傍に寄る。オトモのアルビナと同じ名前だが、沙耶が作ったキャラクターで、名前も気に入っていた。

本来ならば、オトモ達はもちろん、キャラクターはプレイヤーが動かして初めてリアクションするものだが、この世界の異常が、単独行動を可能にしたらしい。

 

アルビナとロキは、アルビナの前でお辞儀する。

 

「只今戻りましたニャ。」

 

「緊急事態ですニャ~~~!」

 

バシッ!「二゛ャ゛ッ゛……。」

 

「落ち着きニャさい。」

 

と、アルビナの猫パンチ。

主人のアルビナは、ロキを撫でながらオトモのアルビナに話しかける。

 

「で、何があったの?」

 

その顔はもちろん真剣である。

 

「ハイニャ。実は大長老様に呼ばれて、話を聞きに行きましたニャ。すると、とんでもない事態になってましたニャ。」

 

事の成り行きを詳しく話した。

アルビナも驚いて聞いていたが、確かに急を要する事態であることは、分かった。

 

「とりあえず、どうしたらいい?」

 

と、アルビナに問いかける。

 

「ハイですニャ。犯人がまだ分かってニャいので、我々が見つけ出すまではアルビナ様は、狩を続けて下さいニャ。」

 

「そうですニャ。極秘行動ですニャ。」

 

「とりあえず、村長やギルドマスターの人達には話が通ってますニャ。内密ニャので、あとは筆頭リーダーぐらいですニャ。

ニャので、アルビナ様にはそのまま狩をしてくださいニャ。

我々は犯人捜しに向かいますニャ。

一緒に狩に行けなくてごめんなさいニャ。」

 

と、頭を下げる。アルビナは2匹をじっと見つめる。

 

「気をつけなよ。でもここぞとなったら必ず助けに行くから。」

 

2匹はパッと明るい顔になってニコッとアルビナに礼を言う。

 

「ありがとうございますニャ。」

 

「頼んだよ!皆と私のご主人様を守り抜く為に。」

 

「ハイですニャ!」

 

と2匹は早速、身支度をしてアルビナに見送られながら犯人捜しの旅に出発したのだった。

と話す。

 

「そして旧砂漠の隕石の大塊のある洞窟で、欠片の前に立ったときに、上の方に黒い渦が急に現れましたニャ。

 直径が1mぐらいですかニャ。まさかニャ…と思って近づいたら、急に引き込まれましたニャ。

 そして、出て来た所が沙耶様のお部屋だったのですニャ…。」

 

 アルビナは汗を拭いながら話を終える。

 沙耶は気が動転していた。しかし要点は何となくだが、とらえていた。

 

 「え…、ということは何、私のようにモンハンをしている人達の命が危ないってことなの?」

 

 「そうですニャ。狙われていることになりますニャ。」

 

 沙耶は改めて事の重大さを理解した。顔が青ざめる。

 

 「沙耶様…。」

 

 アルビナとロキが、沙耶の両手を手?前足にとる。

 そしてゆっくりと話しかける。

 

 「大丈夫ですニャ。沙耶様はモチロン他の皆さんも守るために、我らが来たのですニャ。

 ニャンとしても犯人を見つけて止めますニャ。」

 

 オトモ達の気持ちに勇気づけられ、沙耶も気を引き締める。

 

 「分かった。私も手伝うよ。」

 

 2匹も喜んで沙耶に飛びつく。

 

 「ありがとうございますニャ!!。」

 

 沙耶と2匹はギュ~っと抱きしめあった……。

 

 

 

 




 毎度つたない文章を読んで頂きありがとうございます。
 どうか呆れずに読んでくださるとうれしゅうございます。
 次話は事が大きくなっていきます。
 頑張って書き綴っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 では次話まで、失礼いたします。


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事態は現実に…。

続けて読んでくださってありがとうございます。
 毎回、感謝しております。引き続き読んでくださることを願って…。
 さて今回は実際に沙耶たちに厄災が降りかかり始めます。
 沙耶たちはどうするのか…。本編を読んで頂くと幸いです。
 では、本編をどうぞ。



日光が降りそそぐ快晴の朝、1人と2匹は、その後話が盛り上がり、深夜まで話し込んでしまい、ベッドでぐっすり寝込んでしまっていた。

だが、その気持ちの良い天気とは裏腹に、沙耶の部屋の扉を壊れんばかりに叩く、弟の声に起こされる。

 

「姉ちゃん!大変だ!姉ちゃん!!」

 

「ん~~、どうしたのぉ~~、彼女出来た~~。」

 

と寝ぼけながら、ボケをかます。

 

「馬鹿!それどころじゃない!イビルジョーが現れたんだよ!!」

 

と、扉の前で怒鳴る。

沙耶も驚いて飛び起きた。

 

「イビルジョー!?!?!?」

 

一瞬理解出来ずにいた。

 

「そうだよ!ソイツが学校の近くで暴れてるんだよ!」

 

沙耶は場所を聞いて、しかも現実で、自分が登校しようとしている高校の側だと、緊急事態だと、すぐに両脇に寝ていた2匹を起こす。

 

「ね、ちょっと起きて!ねえったら!。」

 

「どうしたんですニャ~~。」

 

「ご馳走ですかニャ~~。」

 

2匹共まだ寝ぼけて顔を洗っているので、沙耶が怒鳴る。

 

「イビルジョーが現れたって!!」

 

2匹もそれを聞いて顔を見合せて叫ぶ。

 

「ニ゛ャ゛~~~~~~~~!!」

 

家中に2匹の鳴き声が響き渡る。

 

「は…?」

 

「な、何だ!」

「何、今の!?」

 

家族がびっくりして周りを見回す。

バンッ!!と扉を力いっぱい開いて、血相を変えて沙耶が出てくる。

弟もそれを見てたじろいだ。

ズカズカと茶の間へ音を立てながら歩いて行く。

 

「沙耶!」

 

と父。母も驚いて沙耶を見る。

父も厳しい表情で、テレビ画面を注視する。

沙耶も画面に注目する。

すると、そこに写っていた映像には、沙耶にとってはよく見知った物…いや生物がいた。

 

「イ・ビ・ル・ジョー………。」

 

とポツリ呟く。父は沙耶が何かを知っている事に驚く。

 

「わっ!?!?!?」

 

弟が驚いて後ずさる。

部屋から2足歩行で、トトトトト……と小足早に沙耶の元に駆け寄る2つの姿……いや2匹。

それには母も驚く。

 

「な、何なの!?!?」

 

夫婦は寄り添ってテレビから離れ、茶の間の端っこへ。

その2匹をぼぉ~っと見つめていた弟が、

 

「あ……オトモだ……。」

 

と呟く。父も即反応する。

 

「お前は知っているのか?」

 

「うん、ゲームに出てくるキャラクターで、味方だよ。」

 

と後ろの方で確認しあっている家族を無視で、画面の生中継を見いっている1人と2匹。

 

「御覧ください!!現代に蘇った恐竜ティラノザウルス!と言いたいところですが、顎付近が特長的で、似てはいますが…別の生物のようです。

一体何故突然現れたのか…全くの謎に包まれています。

果たして何が目的なのか、何処へ向かおうとしているのか、しかし、かなり狂暴で、塀等を壊しながら進んでいます。

付近の住民の方は家に入って出ないようにしてください。

外はこの生物で、大変危険です。

どうか外へは出ないでください!

あ、私達も離れましょう!」

 

逃げ惑う人々。自衛隊に出動要請が出たようだが、時間がかかりそうだった。

 

「現実になってしまいましたニャ。」

 

「よりによって、何でこいつが…。」

 

イビルジョーは、人や動物を襲い、暴れながら進んでいた。

沙耶はどうすることも出来ない自分に歯噛みした。

すると、ふと周りの風景に目が行く。見慣れた場所だ。しかも、その方向には……。

 

「まずい、そっちには皆が……。」

 

「どうしましたニャ?」

 

「イビルジョーが進んでる方向は、私が通っている学校があって、友達や同級生がいるの。

モンハンをやってる子達も結構いるはず!」

 

と部屋へ駆け込んで行く。

 

「そ、それは大変ニャ!」

 

と2匹も沙耶の部屋へ。

 

「皆の所に行かなくちゃ…。」

 

と急いで制服に着替える。

たが、沙耶には不安があった。

ゲーム上ではキャラクターが闘ってくれて、倒してくれたりもするが、果たして自分のいるこの世界では

 どうしていいのか分からない。

 ただ友を助けたいという気持ちだけで動いていた…。服を着替えて部屋から飛び出す。

 

 「待て!何処へ行く気だ!」

 

 当然、引き留めようとする父。だが家族3人で茶の間の端っこにいる。

 

 

「あそこには明日美や、他の友達がいるの。行かないと。」

 

「やめなさい、危険すぎる!」

 

 父も口調を強める。普段滅多に子供たちに怒ることのない父だ。それだけ心配しての事だった。

 だが沙耶もそれを重々分かっていて言葉を返す。

 

「このままじゃ皆が危ない!この2匹と行ってアイツを止めるしかないの!お願い!行かせてパパ!!」

 

 悲痛な訴えをしてくる沙耶に父は少し黙ってしまう。

 大事な娘を危険な場所にあえて行かせて良いのか…しかし、行かせなければ他の生徒たちの命も危ない…。

 父は悩んだが、ゆっくりと沙耶をじっと見つめ、決断する。

 

 「沙耶の事だ、どうせ止めても強引に行くだろうな。」

 

 沙耶の顔がほころぶ。

 

 「それじゃ…。」

 

 「但し、条件がある。」

 

 「えっ。」

 

 その言葉に沙耶が驚く。

 

 「必ず、帰ってきなさい。死ぬことは許さんぞ、絶対にだ!!」

 

 今までにない父の迫力に驚いた沙耶だったが、うなずき返し、

 

 「必ず戻ってくるから、待っててパパ!!」

 

 と言って、2匹と共に家を飛び出していく。

 

 「あなた………。」

 

 と母が父の肩に手を添える。

 

 「必ずだぞ………。」

 

 沙耶たちの後ろ姿を見つめながら、思いを込めて呟いた………。

 




読んでくださりました、方々。ありがとうございます。
 次話は、更にリアルが待ち受けています。
 沙耶たちの運命やいかに。
 では、次話まで…。


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ー悲痛な現実ー

やっっと次話が書けました。
 表現力が乏しいくせに、長文に。
 私にとっては7000文字はびっくりぽんです。
 かなり、いやほとんどシリアスなお話になってます。
 ですが、私の手帳は先を進んでおり、続けて書いていきたいと思いますので、
 どうか呆れずに応援の方をよろしくお願いします。
 では、本編をどうぞ。


学校へ走って来た、沙耶と2匹は、校門前で暴れているイビルジョーを見つける。

周りの塀や壁が、かなり壊されている。

近辺にいた人々も、慌てふためき、悲鳴をあげながら逃げ惑う。

その内の1人の男性が犠牲になる。

イビルジョーが顔を横に向け水平にしならせて、男の胴体に噛みつく。

そのまま上に上体を反らし、男を一瞬空中に放ると、再度くわえこむと身体全体で横にしならせ、口から男を離す。

男は一切どうすることも出来ず、ショックと恐怖に強ばったまま飛ばされ、他人の家の壁に叩きつけられ、絶命する。

 

「コイツッ!!」

 

と助けに間に合わなかった沙耶が歯噛みする。

男性が殺されてしまうのを見た女性は、悲鳴を上げてそこで動けなくなってしまう。

壁に叩きつけた男性の所に行こうとしたイビルジョーが、女性の方に振り向く。

大きな声に反応しないわけがない。

 

「ヤバい!今度はあの人が殺られる!!」

 

沙耶と2匹はその女性の方へ向かって走り出す。

 

「アルビナ!ロキ!」

 

『「ハイニャ!!」』

 

「私はあの人を助けて離れるから、二人はイビルジョーの気を反らせて!」

 

『「了解ニャッ!」』

 

2匹は自分達の装備している武器でイビルジョーを右から左から攻撃し、そこに足止めする。

その間に、隙を逃さず、女性の側に駆け寄り、両肩を掴んで学校の門を抜け玄関へ避難する。

 

「おい!やっべ!あいつイビルジョーだ!」

 

「何でこの世界にあいつが居るんだ!マジか!」

 

「おい!体育館へ避難だって。俺達も行こうぜ!」

 

校舎内では、危険を察して、先生達が生徒を体育館の方へ避難させている。

 

「あなたも早く体育館へ!」

 

と駆け寄って来た女性教師に、

 

「この方をお願いします!」

 

と言って、先生の制止を無視して玄関を飛び出す。

そこには、門から校内に入り込んで来ていたイビルジョーがいた。

2匹も必死に食い止めるために、吹っ飛ばされながらも、攻撃を繰り返していた。

 

「コイツッ!スタミナありすぎニャ!!」

 

「なんて奴ニャ!G級かそれ以上ニャ!!」

 

「グゥゥルルルル…………。」

 

イビルジョーが、涎をたらしながら動きが止まる。

2匹が頑張ってくれたお陰だろう。

スタミナを回復するためか、そこに立ち止まっていた。

沙耶はチャンスとばかりに、武器になりそうな物を探す。

すると、片付け忘れたのか、剣先スコップが立て掛けてあり、沙耶はそれを両手で持って身構える。

イビルジョーは少しくスタミナが回復したのか、頭を振り回し、再度辺りを見回す。

気配を感じたのか、すぐに沙耶を見つけ、その方向に全身を向ける。

2匹もそれに気付き、沙耶の前に。

 

「二人ともゴメン!大丈夫!」

 

「このくらい平気ですニャ!」

 

「沙耶さまを守らねば、ご主人様に顔向け出来ませんニャ!」

 

と半ばボロボロになりながらも、気力は失ってはいなかった。

 

「ありがと!私も役に立たないかもしれないけど加勢する!」

 

「わかりましたニャ!私達は沙耶さまを全力でサポートするニャ!」

 

2匹もかなり疲弊しているものの、気力を再度振り絞って身構える。

沙耶もスコップを持つ両手に改めて力を込める。

イビルジョーも再度攻撃体勢に入るため全身を反らせて回転させるように咆哮する。

その時だった。

 

「沙耶!!」

 

「えっ!!」

 

沙耶が驚いて声のする方を向くと見慣れた顔があった。

 

「明日美!!」

 

彼女は部活の関係で、沙耶より早めに登校していた。

実は彼女もモンハンをする者の1人で、イビルジョーの名前を聞きつけ、この場に来たのだった。

だがそこに居たのは、抵抗しようとしている友人の沙耶と、武具を装備している見慣れた猫2匹、いわゆるオトモであった。

沙耶が何で?マジ!!と思った明日美だったが、一緒に避難しなければと声を掛けたのだった。

 

「沙耶!何やってんの!ゲームじゃないんだから敵う訳ないじゃん早く逃げないと!!」

 

明日美もイビルジョーの強さを知っているだけに、語気が強くなる。

だが沙耶とオトモ、2匹はそれに従うつもりがない。

沙耶もイビルジョーとにらみ合いながら、

 

「明日美こそ早く逃げて!ここは私達が食い止める!」

 

「バカッ!そんな物で何が出来るのさ!殺されるよ!!」

 

と怒鳴るも沙耶は聞こうとせす、ゆっくりとイビルジョーに向かって一歩ずつ歩を進める。

 イビルジョーも行動を開始する。

 頭を低くして、体を丸くする様な体勢をとり、後足で、地面に爪をめり込ませながら思いっきりけり込む!

 横っ飛びジャンプで体当たりを仕掛けてきた。

 案の定、咄嗟にスコップで防御しようとするも、圧倒的なパワーの前にはスコップでは意味がなく、後方に吹き飛ばされる。

 

 「きゃっっっっっ!!!」

 

 約3mほど飛ばされ、校舎の壁に叩きつけられる。

 

 「ギャフッ!!」「ヴニャッ!!」

 

 「アルビナ!ロキ!」

 

 沙耶は背中を痛めながらも、身を挺して助けてくれたオトモ2匹に四つん這いではい寄る。

 

 「ごめん!2人共、大丈夫!」

 

 沙耶は2匹を抱きしめ、心配そうに声を掛ける。

 

 「だ・大丈夫ですニャー…。」

 

 「沙耶様が無事ならば良かったですニャー…。」

 

 と2匹も沙耶を抱きしめる。

 だが、相手はあのイビルジョー。余裕をくれるような奴ではない。

 

 「きゃァァァァ!!!いやァァァァ!!!」

 

 悲痛な叫び声が周り一帯に響く。

 それに驚いた沙耶とオトモは声のした方を振り向く。

 叫び声ではあってもいつもいつも一緒にいた聞きなれた声…。

 

 「明・日・美ィィィィ……!!」

 

 体勢を起こしたイビルジョーが、何故か沙耶たちを襲うのではなく、明日美に向いてしまった。

 

 「沙耶~!助けて~~~!!!」

 

 明日美はイビルジョーに胴体を噛まれてすくい上げられていた。

 

 「くっ!明日美~~~!!!」

 

 と立ち上がってイビルジョーに向かって走り出す。

 だが、体格の割には筋肉質で動きはイビルジョーの方が上だった。

 一度真上に明日美をほうり投げ、再度くわえ込むと頭を思い切り横に振って投げ飛ばす。

 明日美は後ろ向きで、人間ロケットようになすすべもなく飛ばされ、校舎の壁に嫌な音とともに叩きつけられる。

 後頭部を強打し、凄いパワーだったのだろう約3秒ほど静止する。

 沙耶もその光景を目のあたりにする。

 そのまま悲痛な叫び声を上げる。

 

 「明~日~美ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!!」

 

 「沙…耶………。」

 

 と小さく呟いてゆっくりと目を閉じながら、壁に引きずるように真下に落ちていく………。

 沙耶は蒼白になりながら、イビルジョーがいることを忘れ、猛ダッシュで明日美の所へ駆け寄る。

 イビルジョーもそれに反応し、追いかけようとする。

 が、間髪入れずに攻撃を仕掛けて気を反らすオトモ達。

 そんな周りの事には目もくれず、沙耶は明日美を抱き起す。

 

「明日美!目を覚まして…明日美…起きて…起きてよぉぉぉ……………。」

 

大粒の涙を流しながら明日美をきつく抱きしめる。

だが、目も口も閉じ、血を流して横になっている明日美には反応はなかった……。

 

「明日美ぃ…ごめんねぇ…う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

 

死んでしまったという事実を受け入れたくないと思いながら、しかし現実である事を認めて、叫ぶように号泣する………。

関係がないと言いたげに、その泣き声を聞きつけ、振り向く生物がいた。

何人も人を殺し、大事な友人である明日美をも殺した張本人………恐暴竜イビルジョー………。

オトモ達の攻撃を振り払いながら一歩ずつ歩を進める。

オトモ達も、このままでは沙耶が危ないと、声を掛ける。

 

「沙耶様!!そこから逃げてくださいニャ!!」

 

「イビルジョーが迫っているニャ!!早く動くニャ!!」

 

が、沙耶は明日美を抱きしめたまま動こうとしない。

 

「何をしているニャ!!早くするニャ!!」

 

「嫌だ!!!」

 

明日美を抱きしめたまま大声で叫ぶ。イビルジョーが目の前まで迫っていた。

オトモ達も間に合わないと思った時、またも、信じられない事が起こる。

沙耶が用心にと思い3DS を制服スカートのポケットに入れていた。

もちろんソフトはXX だ。

その3DS だが沙耶のポケットから突然飛び出し、地面より1mほど空中に浮いてUFOの様に回転し始める。

沙耶も驚く。自分のゲーム機が勝手に動き出したのだ。

あ然と3DS を見入ってしまう。

3DSはどんどん高速回転になり、そして光を内から発しながらフタが開いていく。

回転と光はそのままで、画面より、ゆっくり光のボール状の渦が、(大きさはピンポン玉ぐらいだろうか)上がっていく。

そこから更に1mほど上がり、縦に光の渦となって大きく広がり出す。

沙耶もオトモ達も何が起きているのか、見つめるほかなかった。

実際にオトモ達も渦から飛び出して来たわけだが、その時は黒い渦で、ここまで大きい訳ではなかった。

やがて光の渦が、約2mほどの大きさになり、それ以上に大きくなることを止める。

そして、渦の中から人の足らしきものが現れる。

やがて両足、腰、胴体、両腕、頭が現れる。

だが、そんな瞬間が起こっているにも関わらず、全く無関係と思っているのはイビルジョー、頭を高く持ち上げ、口を開き、牙を光らせ、渾身の力で噛みついてやろうと顔を降り降ろした瞬間、

 

「ガキィィィィィン……。」

 

高い金属音と共に後方に吹っ飛ばされてひっくり返るイビルジョー…。

 

「ゴァガァァァァァ…。」

 

驚いたのと痛みで、倒れたままもがいている。

やがて渦が消え、3DSのフタが閉じ、高速回転からゆっくりな回転になり、移動して沙耶の膝の上に…。

光の渦がなくなったお陰で、後ろ姿がはっきりと見えてきた。

全体に白い防具で、背中には飾りなのか竜の羽が付いていて、背中には斜めに剣がくくり付けられていた。

体も防具もすごくしなやかで、くびれもあり、後ろ髪も、首より下ほどまで伸びている。

その両手に持つのは、日本刀によく似た鉄刀。少し違うのは、刀身に時折青白い電気が見え隠れしている。

モンハンをする人ならば、知っているだろう、そう、斬破刀である。

しかも、レベルも少しく上げてあり、鬼斬破刀になっていた。

XXでは、戦闘スタイルという戦い方と太刀という武器種の組み合わせで、練気を溜めることで、カウンターという返し技を使うことができるようになる。

その練気が溜まった状態であったので、タイミングもバッチリとばかりカウンターでイビルジョーの攻撃を返したのである。

勢いもあっただけに、その反動も凄かったらしい。

イビルジョーがひっくり返るわけである。

その女性であるハンターを、沙耶は忘れようもなかった。何故なら彼女が身に付けている防具は、シャガルマガラという竜のモンスターの素材を元にした防具で、沙耶が必死に揃えて、レベル上げ等々したもので、本人にとっては苦労して集めたものだ。

オトモどころか、プレイキャラクターまで飛び出してくるとは思わなかった。

 

「ようやく…ようやく…お会いすることが出来ました…マイマスター沙耶。」

 

『「ご主人様ニャ~~~!」』

 

2匹は歓喜して同時に叫ぶ。

彼女のその通る声は凛としていて聞き惚れてしまいそうな声だった。

 

「ア・ル・ビ・ナ…なの?」

 

(オトモと同じ名前ですが、あえてそうしています。私もゲームをしている時はそうしていましたので…。)

 

涙声で、沙耶が恐る恐る問いかける。

 

「はい、間に合って良かった…。奴は私に任せて、沙耶様は一旦建物の中へ!!」

 

とアルビナがチャンスを逃さないように、走ってイビルジョーに斬り付ける。斬りつける度に青白く光るのは斬破刀の証だ。

 

「アルビナとロキも沙耶を手伝って!」

 

「ハイニャ!」「了解ですニャ!」

 

と沙耶の元へ走る。

 沙耶はオトモ達と明日美を抱きかかえて、校舎の玄関内へ。何人かの先生と保険の先生が駆け寄ってくる。

 先の絶命してしまった、男性も体育館へというわけにはいかず、保健室へ運ばれていた。

 

 「あ…明日美さん!!明日美さん!!明日……なんてこと……。」

 

 担任の先生先生が声を掛けるも返事はなく、がっくりとうなだれてしまう。

 

 「まずは、彼女を運びましょう。」

 

 と男性の先生が、辛さを堪えながら呟く。

 何人かの先生が明日美を抱えるとゆっくりと保健室の方へ向かって行った……。

 沙耶は下を向いたまま、涙を流しながら拳を握りしめていた。

 しかも血が滲むほどに…。

  

 「…………さない。」

 

 下を向いたまま呟く。

 

 「……許さない。」

 

 今度は涙で顔を濡らしながら、怒りに満ちた表情で顔を上げる。

 

 「あいつだけは!絶対に!!」

 

 そう大声を上げて、再度玄関の外へ。

 そこは、モンハンのフィールドか?と思えるほどに戦いが繰り広げられていた。

 リアルなものほど、迫力が増す。

 沙耶は、戦闘中の者に向かって叫ぶ!

 

 「アルビナ!!」

 

 それに気づいて、一旦イビルジョーと間合いを取る。

 いいタイミングでオトモ2匹が落とし穴としびれ罠を仕掛ける。

 それには素晴らしいオトモだな……と感心する沙耶。

 その罠に対して見事なぐらいに、まず落とし穴にハマる…イビルジョーもがく…。

 その隙を狙って、アルビナが沙耶の元に駆け寄る。

 

 「沙耶様。」

 

 「アルビナ、何か武器はない?」

 

 「危険です。避難してください。」

 

 「無理。アイツは絶対に許さない!叩きのめす!!」

 

 ずっとイビルジョーを睨みつけたまま返事をする。

 アルビナも気持ちは察していたが、しかし万が一のこともある。

 

 「無いならいい。何か探す。」

 

 と武器になりそうなものを探し始める。

 アルビナもその気迫に覚悟を決める。

 

 「わかりました…。沙耶様これを…。」

 

 アルビナが背中よりもう一振りの太刀を差し出す。

 

 「これは…。」

 

 その太刀は鉄刀と呼ばれている刀で、攻撃属性はないが、レベルを最高にすると攻撃力が格段に上がる代物である。 

 沙耶もゲーム内でレベルを上げ、途中で派生をかけて斬破刀を作っていたのでよく知ってはいた。

 

 「えっ。なんでもう一振りあるの?」

 

 「これはもう一振り作っておこうと、私が派生をせずにレベルを最高まで上げたもの。鉄刀(禊祓)です。

これをお使いください。」

 

 

 「そうだったの。ありがとう、アルビナ。」

 

 アルビナからその太刀を手に取る。

 中々に重みがある。しかし、少しだけ鞘から抜くと、凄くきれいな曇りのない刀身で沙耶の顔をくっきりと映し出していた。

 沙耶はその太刀を背中に装備すると、太刀を引き抜いて両手で構える。

 素人な彼女にとって現実に刀を持って驚く。

 こんなに重みがあって、これを振り回すことの出来るアルビナやハンター達に改めて感心する。

 しかも狩技まで繰り出すのだ。もはや尋常ではない。

 沙耶はハンターは凄いと実感していた。

 

 だが、関心している余裕はなく、現実の目の前の出来事に引き戻される。

 見事なぐらいに2つ目のしびれ罠にも掛かってくれていた、イビルジョーが解除されて動き出す。

 すぐに沙耶とアルビナを見つけて、よくもやってくれたなと言わんばかりに雄たけびを上げる。

 顔を斜め上に持ち上げ、Ⅴ字を描くように上体を、否体全体を左右に振りながら突進してきた。

 沙耶とアルビナはそれぞれ左右に分かれて後方へと回り込む。

 アルビナはそのまま走り込んで尻尾に足に太刀を振るう。

 沙耶も太刀を一振りするだけで精一杯だった。

 

 厳しい現実を思い知らされる。

 その動きだけで、息が上がり汗がどっと溢れ出す。体育授業の比ではない。

 それでも気力で、太刀を振るっていた。

 型を習った訳ではないので、刀を振り回していると言ったほうが良いだろうか。

 多少は効いているかとは思うが、アルビナの攻撃には到底及ぶものではなかった。

 沙耶は悔しかった。叩きのめすどころか、まともなダメージすら与えることも出来ず、かろうじて避ける事は出来ても反撃がままならない。

 しかも防具を付けている訳ではないので細かく切り傷が増えていく。

 手の甲からも血が滲んで、刀を持つ手が滑って上手く握れない。

 腕が痺れ、まともに構えることができなくなっていた。

 それでも一矢報いたいと気力を振り絞り太刀を構えていた。疲労で息も切れぎれに。

 

 その時アルビナがチャンスを作り出してくれた。

 イビルジョーを転倒に追い込む。

 

 「沙耶様!!今です!!」

 

 「あ"ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

 

 アルビナの合図で最後の力を振り絞りイビルジョーに向かって突進し、太刀を振り上げて渾身の一撃を見舞う。

 それが倒れてもがいているイビルジョーの背中に縦一線の大きな傷を負わせる!

 

 「ゴァガァァァァ」

 

 イビルジョーも悲鳴を上げるが、まだ起き上がれずにもがく。

 その隙をアルビナも逃さない。

 

 「錬・気・開・放…。」

 

 イビルジョーの前に立ち、目を閉じて全身の神経を集中させ、刀を真下からゆっくりと月を描くように回転させる。再度真下へと切っ先が向いた時、目を見開き次の一振りに力を込める。

 

 「円月斬り!!!」

 

 太刀を回転させ、横一線に切りつける。

 

 「グァガァァァァ!!!」

 

 その傷は沙耶がつけた傷に重なるように十文字の傷を背中に負わせる。

 だが、さすがはといったところか、そこで絶えることなく傷を負いながらも立ち上がる。

 

 「ちっ!!!」

 

 アルビナが倒しきれなかったことに舌打ちし、太刀が錬気を帯びているうちにと、更に連撃を仕掛けようとする。

 しかし、その横で力尽きて倒れ込んでしまう沙耶の姿が。

 

 「沙耶様!!!」

 

 咄嗟に沙耶の前に立ち、沙耶をかばうように身構える。

 イビルジョーも立ち上がったものの、フウフウと息を切らし、その場に留まる。

 そしていきなり踵を返して片足を引きずりながら逃げ出す。

 

 「ま、待て‼くそっもう少しなのに…。」

 

 畳みかけたい気持ちと倒れている沙耶から離れることも出来ずに歯噛みする。

 すると、又もや黒い渦が現れる。

 

 「なっ何‼」

 

 その渦はイビルジョーが通れるほどに大きくなり、イビルジョーも警戒することなく、その渦の中に消えていった…。

 渦もイビルジョーが姿を消すのと同時に小さくなっていき、消えてしまう。

 その場には2人と2匹が残された……。

 

 

 

 




今回は本当に長き駄文を読んでくださって、ありがとうございます。
 毎回、申しておりますが、大変感謝でございます。
 次話も読んで頂けることを切に願って。
 では、次話にお会いできることを楽しみにしています。
 じゃ、またよろしくです。


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-沙耶・ハンターになりま…した。-

更新が遅くなりました、申し訳ありません。
やっと、書けました。
実は書き留めていた手帳のストーリーに追い付きそして越えてしまいました。
頭の中のストーリーは先を行っているので、まだまだ書くことが沢山ありますが。
今回は、沙耶の決断を迫られます。
沙耶はどうするのか…。
では本編をお読みくださいませ。



 校庭は大騒ぎになっていた。

 

イビルジョーは消えてしまっていたものの、生中継によってそれまでのリアルタイムが映し出されてしまった。

 

 生徒や先生、一般の人々が校庭にあふれかえった。

 

 そのため、TVの中継のスタッフ達は、沙耶達に近ずく事が出来ずにいる。

 

 その隙をぬって、2人と2匹は紛れるように姿を消す。インタビュアーの人間たちも、沙耶達を見失ってしまう。

 

 それから2分後くらいに警察や、自衛隊が到着し、すぐに立入禁止のテープが張られ現場検証が始まる。

 

 沙耶たちは学校を離れるも、目立たないようにとなるべく人目に付かないような道を選びながら家路を急ぐ。

 

 

 「沙耶!!」

 

 「姉ちゃん早く!!」

 

 

 玄関外まで迎えに出ていた、父と弟が沙耶達を見つけて叫ぶ。

 

 沙耶はアルビナに支えられながら、フラフラしつつ、足早に家の中へ。

 

 オトモ2匹も続いて家に入る。

 

 茶の間のソファーに横になる沙耶。アルビナも傍に座り、オトモ達も心配して寄り添う。

 

 父と弟は家中のカーテンを閉め、母は沙耶の傷の具合を見た。

 

 

 「とりあえずは無事でよかった……。」

 

 

 父が沙耶に声を掛けるが、複雑な気持ちだった。

 

 

 「でも、明日美が死んじゃった……。助けられなかった……。敵を討てなかった……。めちゃくちゃ悔しいよ~~~~~。」

 

 と涙をぽろぽろと流しながら、隣に座ったアルビナに寄り掛かる。

 

 アルビナも沙耶の肩に手をまわして無言で抱き寄せる。

 

アルビナも沙耶の気持ちを痛いほど分かっていた……。

アルビナ自身もイビルジョーを倒しきれなかった悔しさと後悔の念があった……。

(まだだ!!もっと強くならなければ…。)

と反対の手の拳を膝の上で握りしめる。

静かに気を引き締め直すのだった。

暫く全員の沈黙のあと、父が沈黙を破り話しかける。

 

「成り行きで家に招き入れたが、あなたは一体……。」

 

アルビナもハッとする。当然見知らぬ者が沙耶に寄り添っている。

 しかも、オトモと呼ばれる猫2匹も。

 不安感が入り混じった視線を向けられている。

 

 「すみません。自己紹介が遅れました。私はアルビナと申します。驚かれるとは思いますが、私はこの世界の

人間ではありません。」

 

 そう言うと2匹のオトモも一緒に頷く。

 父も、母も顔を見合わせる。

 弟はある程度分かってはいたが、どうやってこの世界に来たのか…何故プレイキャラクターなのに自我を持っているのか…その方が不思議でならなかった。

 としたら、自分の作ったキャラクターは…と思うのは自然であった。

 アルビナは事の成り行きを説明した。

 自分たちの世界で事件が起こっている事、それが沙耶達の世界にも影響を及ぼしている事、元凶を見つけ出して

止める事、そして沙耶たちのようなプレイしている人達を守ること等々。

 当然、父・母・弟は驚き、困惑し、悩んでしまう。

 

 「悩まれるのも無理ありません。私自身もそうでした。」

 

 アルビナはさらに言う。

 

 「しかし、こうして起こっていることは、紛れもなく現実で、私達も現にこの世界に来ています…ということは、目論んでいる者たちはもっと行き来出来るということで…。早く止めねばなりません。

 それで龍暦院でも捜査が進められ、研究らしき資料の残骸が見つかり、それを元に新たに研究し、開発されました。これを通してにはなりますが、行き来することができます。」

 

 と沙耶が出した3DSを見せる。

 

 「このゲーム機から…。」

 

 「はい。但し、行き来出来るのはハンターとオトモのみですが…。」

 

 とアルビナが沙耶の方を見る。沙耶が訴えかけるように見つめてくる。沙耶の気持ちは痛いほど伝わってきた。

 しかし、アルビナが驚いて沙耶の顔を覗き込む。

 

 「えっ…。沙耶様…。まさか…。」

 

 沙耶も目を丸くする。自分の顔に何か付いていたのかと不安になった。

 アルビナは大きく一呼吸をしてから沙耶に語り掛ける。

 

 「沙耶様…。あなたは既にハンターの素質に目覚めています。強くなればあのイビルジョーを倒せるようになるでしょう。」

 

 「えっ……!?」

 

 沙耶の目が更に大きく開く!!!(て、宇宙人ほどの目ではございません。ご了承を…。)

 アルビナの言ったことを聞き返す。

 

 「あたしが…ハンター…!?!?」

 

 「そうです。目の色が少し変わっています。ハンターに目覚めた証拠かと。」

 

 「で、でも違う世界の人間なのに?」

 

 「はっきりとした理由はわかりませんが、沙耶様の強い思いが奇跡を呼んだのかと。」

 

 アルビナは剣を手に取って沙耶に渡す。

 

 「これを持ってみてください。」

 

 そう言われて沙耶も剣を受け取る。

 

 「あっ…。」

 

 明らかな違いを感じとる。

 イビルジョーと戦った時の感触と違っていた。凄く握りやすく、重さも少しく軽く感じられた。

 

 「こ、これって…。」

 

 「そうです。剣技は訓練が必要ですが、武器の握り方や、防具の装備の仕方は身に付いたということです。

そのことからも、沙耶様もハンターになったということです。」

 

 「それじゃ…。」

 

 沙耶の表情がぱっと明るくなる。

 

 「ちょっと待って沙耶。」

 

 話を止めたのは母だった。

 

 「ママ…。」

 

 「信じられないことだらけだけど、今この事が現実だということを認めるしかないのは分かるわ。でも、大変なんでしょう?あなた、学校はどうするの?お父さんの気持ちは考えた??」

 

 沙耶も父の顔を見る。父もニコッとはしているものの、表情が不自然なのはすぐに分かる。

 心配してくれている事もよく分かってはいる。

 沙弥にとっても不安なところもあった…。モンハンの世界で果たして強くなる事が出来るのか?事件を解決出来たとしても、この世界に戻ることが出来るのか………?

 

「でも……。」

 

とうつむいてしまう。

 

『「沙耶様………」』

 

オトモ2匹も心配そうに沙耶の顔を覗き込む。

だが沙耶の気持ちに変わりはなかった。

 

「でも!やっぱり行きたい!!強くなって、明日美の敵を打ちたい! アイツを倒さなきゃいずれもっと被害が出る。

それを操っている奴も止めなきゃこっちの世界も危険になる。

何度も無理な事を言ってごめんなさい。

お願い行かせてパパ!!!」

 

沙耶は父に向かって、深々と頭を下げる。

「沙耶………。」

 

と父は優しく声を掛ける。

その声に、顔を上げるとニコニコしながら両手を広げる。

 

「パパ…………。」

 

沙耶も涙を浮かべながら父に抱きつく。互いに抱きしめあう。

 

「行くと決めたんだから途中で諦めちゃ駄目だぞ。

それこそお前が諦めたらどちらの世界も最悪な事になるからな。

ずっとこうしていたいが……。行っておいで……。」

 

「ありがとう…パパ……」

 

「さ、今日はもう遅い。ゆっくり休んで明日出発するといい。」

 

「うん、そうする。アルビナ、ロキ達も、部屋へ行こ。」

 

沙耶がアルビナ達を促す。

 

「はい、では失礼します。」

 

と挨拶して、茶の間から沙耶の部屋へ。オトモ達もそれに続く。

部屋に入ると、沙耶はベッドの上に座る。

 

「アルビナも座って。」

 

と沙耶の隣へ。オトモ達は床に座った。

「明日からよろしくね。」

 

「はい、こちらこそ。」

 

「付いて装備を整えたら、剣技を教えて。いち速く覚えたいの。」

 

「分かりました、いいですよ。でも厳しいので覚悟してくださいね。」

 

とニコニコしながら、からかう様に答える。

 

「えぇぇ…………。でも、頑張る。じゃなきゃ、行く意味が無くなるから。」

 

「そうですね。なんとしても止めなければ……。頑張りましょう、沙耶様。」

 

「うん。じゃあ、寝よっか。」

 

と言って、アルビナと二人でベッドの布団に入る。オトモ達も床に寝転がる。

 

「みんなお休み~。」

 

「お休みなさい。」

 

『「お休みニャさい。」』

 

やっと長かった1日が終わりを告げて、深い眠りへと落ちていった………。

 




成り行きとはいえ、ハンターになった沙弥ですが、波乱になっていくことは間違いないかと。
次話はいよいよモンハンの世界でのお話しになっていきます。
沙耶達はどうなっていくのか…。
頑張って書き綴っていきますので、どうかあたたかい応援よろしくお願いいたします。規格外が多数見られる可能性があります。ご了承ください。 では。


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ー沙耶・試練が迫るー

半月以上の間を置いて、申し訳ございません。
 風邪の菌に襲われながら、少しずつ執筆し、何とかこぎつけた次第…。
 今回は、仲間二人と出会い、4人体制となります。戦闘は次の次あたりになるかな?というところですが、本編にお付き合いください。
 では、本編スタートです。



まぶしい朝~♪やわらかい風~♪大自然のかおり~♪

 

「んっ………。」

 

と沙耶が目を覚ます。(めずらしく…。)

 

「ほっといて…ん~~~。」

と背伸びして目を開ける。

 

「んん!?」

 

目をこすってもう一度周りを見回す。

明らかに、沙耶の部屋ではなくなっている。

が、沙耶には良く知った場所だ。

よく見るベッド、よく見るチェストボックス、よく見るボード、よく見る猫…………。

 

「え~~~~~~!!なんで!!どうして急に!!」

 

あまりの大声にアルビナとオトモ2匹が驚いて飛び起きる。

 

「さ、沙耶さま!どうしまし……………あ……。」

 

アルビナも何故このベッドに寝ていたのか理解出来ずにいた。

 

「ニャ!どうやって戻ったんだニャ!?」

 

しばし二人と2匹で、考えてみるものの、解らずじまいだった。

 

「ここ…ベルナ村の家だよね。?」

 

「そのようですね、どうやって戻ったのかは分かりませんが…。」

 

アルビナも戻る方法が別にあったので、急に戻ったのが信じられずにいた。

 

「ふーん、まぁ家族に挨拶出来なかったのもなんだけど、要は私も無事にこっちの世界に来られたってことよね。」

 

「そ、そうなりますね…。」

 

「じゃぁオッケー。早速村長さんに合わせてくれる?」

 

(そういうところは前向きだったか…)

 

「だから、ほっといて。」

 

「えっ、沙耶さま何か?」

 

「い、いやナンでもないよ~。ピュウ♪」

 

いきなり無関係な方を向いて口笛を吹いて誤魔化す。

アルビナも怪訝に思ったが、

 

「判りました。ご案内します。」

 

と話を切り替えた。

二人は外に出て村長のいる方へ歩いて行く。

その途中に受付嬢がいた。相変わらず、あくびをしたのを誰かに見られてないかとハラハラしている。で、急にこっちを見つけて、話しかけてくる。

 

「あ~。アルビナさんじゃないですか。戻って来られたんですね。」

 

「ありがとうございます。色々ありましたが、なんとか。」

 

「良かったです。今こちらは、クエストの数が増え続いています。一人でもハンターが多く欲しいところで…。」

 

「クエストが増えている?通常ではないのですか?」

 

「そこからは、私が話そう。」

 

と体格はよさそうな、しかし杖を持ち、白髪のヒゲを生やしている人物が話しかけてきた。

初めてハンターになった者なら、嫌でも話すことになる、偉大な人物。

ベルナ村村長である。皆の者、頭が高い!控えおろう!

 

「はじめまして。村長さん。」

 

(て、完全無視かい!!)

 

「おぉ、貴方は。アルビナ殿と一緒におられるということは、異世界より来られた方ですな。」

 

「どうしてそれを。」

 

「各村にいる村長達には通達が届いておりますでな。こうして待っておりましたのじゃ。」

 

村長はニコニコしながら答える。何が起こっても微動だにしないような余裕があった。

 

 「まずは、あなたのお名前を聞かせてもらえますかの。」

 

 「はい、沙耶といいます。よろしくお願いします。」

 

 と丁寧に返事を返す。

 

 「重大な事を押し付けるようで、申し訳ないと思っとる。だが、ハンターの数が足りない程にクエストが増え続けていることも事実。なので、一人でも加わって事件を解決して欲しいとも思っておる。

 奴らを止められるのは、異界から来た者しか出来ないと、そう龍暦院も判断している。 

 なので、あなたは貴重な存在なのだ。できうる限り協力は惜しまんつもりだ。なんでも言っておくれ。」

 

 村長は言葉を続ける。

 

 「とりあえずは、所持金と装備を揃えるといいじゃろう。アルビナ殿よろしく頼む。」

 

 「わかりました。では、武具屋の方へ参りましょう。」

 

 「うん、わかった。村長さんありがとうございます。」

 

 「武運を祈っておりますぞ。」

 

 と村長さんに礼を言い、武具屋へ移動する。その際に猫めし屋の女主人や、カリスタ教官にも会う。

 武具屋で沙耶は、武器に関してはアルビナから受け取った、鉄刀(いきなりマックスか…。)を持っているので、防具を揃えた。といっても初心者なので、代表的な基本装備の一つであるベルダー装備を一式購入。

 少しでも防御力アップのために鎧玉等でレベル上げ。

 そして一式揃えたベルダー装備の発動スキルは"精霊の加護"受けるダメージが4分の1で25%減少する(受け売りだが)というもの。

 Ⅹのオープニングでも女の子のハンターが着ていたし、沙耶も個人的には気に入っていた。

 

 「沙耶様。集会場へ行きましょう。紹介したい2人がいます。」

 

 「えっ。仲間?」

 

 「はい。ロキたちが居ない間、仲間を集めて狩に、事件調べに付き合ってくれている二人です。気さくで、すぐに

沙耶様も打ち解けるかと。」

 

 「へぇ。いいね。凄く助かると思うし、アルビナが認めた人たちなら、大丈夫でしょ。紹介して。」

 

 「ありがとうございます。早速、集会場へ行きましょう。」

 

 二人と、2匹は集会場へ向かおうとした時に、眼鏡をかけた青年に引き留められる。

 

 「アルビナさん。ご無沙汰ですね。」

 

 「あ、龍暦院の。こんにちは。」

 

 「そちらの方は初めましてですね。ハンター登録はお済ですか?」

 

 優しい口調だが、チェックは厳しそうだ。沙耶も分かってはいた。話を通しておかないと、ギルドマスターに龍暦院ハンターの認定がもらえないことを。

 

 「いえ、これからです。よろしくお願いします。」

 

 「わかりました。ギルドマスターには話を通しておきますので、集会場で認定を受けてください。」

 

 「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。」

 

 と律義に挨拶を交わす。アルビナも小声でほう!と感心していた。

 二人と2匹はこれからの事を話しながら、集会場へと足を運んだ。

 集会場へとついた二人は中央にいる小柄で虫眼鏡を持った、おばあさん…。つまり、ギルドマスターの所に歩いて行った。

 前に立った時、不意に下から上へ覗き込まれるかのように虫眼鏡で沙耶を見られる。

 沙耶もびっくりして照れてしまう。

 

 「ほうほうほうほう。お前さんじゃな。異界から来たのは。話は聞いておる。難儀な事を頼んで申し訳ないね。

あんたの世界と、こっちの世界と頼んだよ。ほれ、認定証バッジじゃ。今からもう龍暦院のハンターじゃよ。」

 

 沙耶はバッジをもらい、防具に付ける。

 

 「ありがとうございます。私なりに頑張ります。」

 

 「うむ。精進するんだよ。」

 

 「はい。」

 

 沙耶は返事をして、そこを後にする。

集会場はハンターやオトモ達でにぎわっていた。狩に出る者、仲間を集う者、闘技場で鍛錬する者男女問わず、集っていた。

 すると道具屋から歩いて来るハンターが二人。

 

「オーイ!アルビナ~。!」

 

「おぉ、リックス!それにシェリルも!」

 

そう呼ばれた二人は、歩きながら、それぞれ片手を挙げて返事をする。

沙耶も二人を見いった。一人は男性ハンターで、体格も他の男性ハンターよりも、一回り大きく、ムキムキの筋肉をしている。そしてアルビナを含め、3人ともG級入りしているので、男性ハンターはラオシャンロンの素材から作られる、武将のような装備の暁丸一式を揃えていた。

 発動スキルは回避距離UP、火事場力+1、心剣一体の効力がある。 

 もう一人の女性ハンターは二つ名、岩穿テツカブラの装備一式を揃えていた。

 発動スキルは、ガード性能+2、弱点特効、岩穿の魂である。真・岩穿の魂は防具LV14~15で発動するので、まだそのLVではない。

 沙耶も本物の二人の装備を前に見惚れていた。ゲーム上ではなく、肉眼で見られることに幸せを感じていた。

 モンハン中毒様様である。

 

 「無事に戻ったか。異界に行くと言った時は正直焦ったぞ。」

 

 「そうだね、急に言い出して、即行っちゃうんだから困ったもんさ。」

 

 「済まない。ああするほかなかったのだ。お陰で沙耶様を守ることができた。」

 

 「おぉ、嬢ちゃんか。アルビナと一緒に来た、異界のハンターってのは。」

 

 リックスは思い出したように沙耶の方を見る。

 

 「はい。沙耶です。よろしくです。リックスさん。」

 

 「沙耶ちゃんか…、よろしくな。」

 

 「手~~出すんじゃないよ~~。」

 

 と茶化すようにシェリルが突っ込みを入れる。

 

 「ば…バカ!!なんちゅう事を言うんだ。ったく。」

 

 「こんな武者バカはほっといて、あたしとは仲良くしようね~~~。」

 

 「こら、シェリル!」

 

 「あたしはシェリル。実は、あたしもリックスもアルビナに拾ってもらったんだ…。そのおかげで、今こうしてG級ハンターをしていられるんだ~。だからアルビナが大事と思う人はあたしも同じ。手伝うからさ、一緒にがんばろう!」

 と沙耶の左腕に抱き着きながら、話しかける。

 

 「こちらこそ、いっぱい色んな事を教えてね。シェリルさん。」

 

 沙耶もニコッと頷く。

 

 「ん~~、なんか○○さんは慣れないなあ。ねえ、呼び捨てでいい?あたしもそれでいいからさ。」

 

 「ん~~、分かった。そうする。よろしくね、シェリル。」

 

 「ん、やっぱそれがいい。よろしくね、沙耶!!」

 

 と握手を交わす。

 

 「俺も、リックスでいいぞ。よろしくな、沙耶。」

 

 と握手を求めてくる。

 

 「いや、あんたは別でしょう。」

 

 とすかさずシェリルが突っ込む。

 

 「ええ。マジか。」

 

 とちょっとしょげるリックスに

 

 「よろしく、リックス。」

 

 とクスクスしながら沙耶も握手を交わす。

 

 「よろしく、沙耶。」

 

 リックスも良かったとばかりにニコニコで握手する。

 その光景を傍で見ていたアルビナがニコニコしながら、良かったと安心していた。内心、相性が悪いのではないかと心配していた。

 その心配をよそに仲良くしてくれている、リックスとシェリルにも感謝していた。

 良い仲間を持った、と嬉しく思うのだった。

 4人はまず、狩に出る前に親交を深めようと、まあ、シェリルが言い出した事だが、酒場で飲もうということになり、アルビナの制止も聞かず、沙耶を引っ張って、強引に酒場へ行ってしまう。

 アルビナも止めないのかと、リックスの方を見るが、両手と肩を上げて、無言でついて行ってしまった。

 アルビナもあきれ果てて、仕方なく、後をついていく。

 

 「私はミルク!!」

 

 「げ、マジで!!」

 

 「まだ、健気な17歳だ。」とアルビナが制す。

 

 「あ、あはははははは。了解。あたいは酒で。」

 

 「俺も。」

 

 「とりあえず、私もだ。」

 

 と4人でジョッキを片手に乾杯する。

 

 「ぷはー!イヤー!やっと4人揃ったね。酒がうまいわ~~~。」

 

 とリシェルが意味深な発言を飲んだ勢いで喋る。

 

 「へ、どゆこと?」

 

 沙耶が聞き直す。シェリルがニンマリしながら、アルビナの方を見て話す。

 

 「ん~、今まで3人だったでしょ。4人目を見つけようってずっと提案してたんだけど、アルビナが断然拒否してさ。」

 

 「え、アルビナが?。2人をスカウトしてるのに???」

 

 「そ、理由はね、沙耶が加わるからだって。内心ヤキモチ焼いちゃったよ。それだけ信頼してるなんてね。」

 

 

 「それには、俺も同感。」

 

 リックスも首を縦に大きく振って、納得感を促す。

 

 「な、何よ、二人とも。」

 

 とアルビナが二人を珍しく頬をぷくっと膨らませて睨む。

 慌ててリックスはそっぽを向き、シェリルは沙耶の腕に抱き着く。

 

 「きゃ~~~~、アルビナこ~わ~~い。」

 

 とニヤニヤしながら沙耶に隠れる。完全に茶化している。

 そんな光景を、沙耶はクスクスと笑い出す。

 

 「沙耶様まで…。もう!」

 

 とプイっと横を向いてしまう。何気にその仕草が可愛かった。

 沙耶はアルビナの手の甲の上に自分の手を重ね、

 

 「ありがとうね。」と優しく囁いた。

 

 「はい。」アルビナも驚いたが、すぐに優しい顔になって沙耶を見る。

 

 「いいなあ、あたいもそんな風に手を握って欲しいなあ…。」

 

 とシェリルが人差し指を咥えながら、懇願する。

 

 「おお。俺でいいならいくらでも。」とリックスが手を差し伸べてくる。

 

 だが、シェリルのパンチの方が早かった。左のストレートがリックスの左頬にヒット!!

 吹っ飛んで悶絶する。

 沙耶とアルビナは顔を見合わせて笑い出す。

 シェリルもつられて笑い出す。しばらく起き上がれないでいる、リックスであった…。

 

 

 

 次の日の朝、沙耶達は装備や持ち物を確認し、猫めし屋で食事をして、受付のカウンターへ。

 

 「おはようございます。いよいよ4人勢ぞろいですね。」

 

 と受付嬢も事情は分かっているらしく、そう話しかけてきた。

 

 「今後もよろしくお願いします。」と沙耶が挨拶する。

 

 「はい、こちらこそお願いします。ではクエストはどれになさいますか?」

 

 「はい、アオアシラのクエストがあれば…。」

 

 即答で沙耶が答えたのに、3人は驚き、全員沙耶の方を見る。

 

 「さ、沙耶様大丈夫なんですか?いきなり過ぎませんか?」

 

 「そうだね。いくらあたしらがいるといっても、急すぎないかい?」

 

 「うん、分かってる。でも、強くなるには少しでも強いやつと戦って経験値を上げないと。」

 

 沙耶の真剣な顔にアルビナも頷くしかなかった。

 

 「分かりました。沙耶様の負けん気もよくわかっているのでそのクエストにしましょう。」

 

 とクエストを受注する。

 

 「珍しいね、アルビナが折れるなんて。今までなかったことだよ。どういう風の吹き回しだろうね。」

 

 シェリルが腕を組んで悩んでいる素振りをするので、

 

 「シェリル…。」

 

 アルビナが片方の眉毛をぴくっと動かす。シェリルが慌ててまた、沙耶の後ろに。

 

 「ずるいわね。どうして、沙耶様の後ろばっかりに隠れるの。」

 

 「いいんだも~ン、あたしも沙耶の事が大好きなんだも~ン。」

 

 と沙耶から離れようとしない。沙耶もさすがにクスクスと笑い出す。

 

 「ね、シェリルもアルビナも行きましょ。ほら、リックスも出発場所に先に行っちゃった。」

 

 確かに既に出発場所でスタンバイしている。

 

 「お~い、行くぞ~。」

 

 と半ば、呆れ顔で3人に声を掛ける。それに習うように3人も出発地点へ。

 

 「じゃあ、出発しましょうか。船頭さんお願いします。」

 

 と気球船に乗り込む。

 

 「お気をつけてニャ。」

  

 とアルビナとロキが見送りに来ていた。

 

 「大丈夫、頑張ってくるね。」

 

 沙耶が心配そうなオトモ達に笑顔で答える。それを見てちょこっと安心したのか

 

 「行ってらっしゃいニャ!!」

 

 と両手?いや、前足か?を振って、送り出すのだった。

 気球船も徐々に高度を上げ雲よりも上に出る。目的地は渓流に向かっていた。

 

 「うわー!いい眺め~~~!!!」

 

 「でしょう。あたいも好きなんだ~~。」

 

 綺麗な青空が広がっている。全体がパノラマ状態なので、旅客機に乗ってる時よりも眺めがよく、新鮮だった。

 

 で、気になったのか沙耶がリシェルに話しかける。

 

 「ね、それって、対剣ヴォルトトスでしょ。」

 

 シェリルも名称を言われて驚く。

 

 「知ってるの?」

 

 ゲーム中に作ったことがあるとは言わずに少し逸らす。

 

 「うん。アルビナも持ってなかったっけ?」

 

 とアルビナの方を向くが、アルビナは苦笑いをして、シェリルの方を見る。

 沙耶も怪訝に思いながらもリシェルを見直す。

 シェリルもペロッと舌を出しながら恥ずかしそうに話しだす。

 

 「実はね、アルビナにおねだりして、もらっちゃった…。」

 

 「へ、もらったって。素材でも受け渡しが止められているのに、武器なんて…。」

 

とは言ったものの、沙耶ももらっている事に気付く。

 

「ま、私も人の事は言えないか。」

 

と苦笑い。

 

「やた!!ありがとね沙耶!!」

 

とシェリルが飛び付く。だが気球船の上なので、驚いて慌ててしまう。

 

「ちょ。ちょっと危ないから!!」

 

シェリルはそんなことはおかまいなしに、話を進める。

 

 「最初はこれと言って気に入ってた双剣がなかったんだ~。作っても中々LVも上げられなかったし。で、アルビナと出会って作り直そうとしたときに、参考になるかどうか?って持っていた双剣を一通り見せてくれたのさ。

 その時にヴォルトトスと出会っちゃってさ~。作るも何もこれ欲しいな~。って懇願してたのさ。」

 

 「へえ。でも、すんなりもらえないでしょ。」

 

 「そうさ~。もう、毎日通い詰めて、土下座してお願いしたのさ~。」

 

 「毎日土下座!?!?」そっちの執念の方に感心する沙耶。

 

 「やっとアルビナも折れてくれてさ、絶対大事にするって約束で引き継いだのさ。いや~、あの時はうれしかったな~~~。」

 

 よほど気に入ったんだろう。話をしていても凄く嬉しそうだ。

 

 沙耶もその気持ちはわかる気がしていた。ゲームの時でも、武器を作り、必死に素材を集め、LVを上げて強くなれば愛着も湧いてくる。

 まあ、今回の場合は貰ったものではあるが…。

 

 シェリルの武器が分かると、今度はリックスの武器が気になった。

 

 「リックスはユクモ護山刀(神舞)なんだね。防具からすると太刀を装備してそうな気がしたけど。」

 

 リックスも(お、俺にも少しは気が向いてくれたな)と嬉しそうに話し出す。

 

 「実は、俺はユクモ村出身でさ、挫折しかかっていた時にアルビナに誘われて、もう一度やる気になって村長に話したんだ。それならその記念にって作ってくれたのがこの片手剣だった…。

 だから、俺にとっては大事な剣でお気に入りさ。」

 

 沙耶はそれぞれに思いがあるんだなと改めて感じた。ここまでになるのも並大抵のことではないと。

 

 だが、この時4人は知る由もなかった…。沙耶に本当の試練が迫っていることを……………。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
 次話は、初めから大変でございます。本当に試練!!生き残る事が出来るのか???
 と言って主人公が死んでしまったら、身も蓋もないですが…。
 次話も、お付き合いいただけることを…。    では。


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ー沙耶・究極の試練ー

 毎回読んで頂き、ありがとうございます。
 今回は試練としながら前振りでございます。
 まずは、読んでくださいませ。    では、後ほど。

 


沙耶達の気球船が渓流に近い距離になってきた時だった…。

かなり後方からではあるが、キーーー………ンという金属音のような音と共に、しかも徐々に大きくなってくる。

全員がその方向を凝視する。

よく見ると何か銀色の巨大な塊が、真っ赤な焔のようなモノを噴射しつつ、音速の早さで向かって来る。

船頭がそれを指差しながら叫ぶ!

 

「あ、あれは!!!」

 

全員一致で、

 

『「《【赤い彗星のシャア!!!】》」』

 

(違う!!それ絶対違うから!!!)

 

このままではぶつかると察知してリックスが叫ぶ!

 

「船頭さん!緊急回避だ!!!」

 

「おおさぁ!」

 

と力一杯に舵を左にぐんぐん回す!

気球船も左に旋回を始める。

だが、物体の方が音速の速さ。

ギリギリ真横を通りすぎて行く。

しかし、その余波と風の気圧が気球船を襲い、船が真横に煽られてしまう。

船頭を含め、それぞれ柵やロープ等を掴んで落ちる事は免れたかと思われたが、一人だけ、出来なかった者がいた。

 

「沙耶さま~~~~~~!!!!!!」

 

アルビナが絶叫する!

 

「アルビナ~~~~~!!!」

 

と沙耶も手を伸ばして叫ぶが、落ちて行く方が早い!

 

「沙耶さま!くっ!」とアルビナも沙耶を追いかけて飛び降りようとする。

慌てて、リックスとシェリルが、飛び付いてそれを止める。

 

「まて!アルビナ!お前が飛び降りても、助かるとは限らないんだぞ!まつんだア・ル・ビ・ナ……。」

 

「し、しかし、沙耶さまが…沙耶さまが……。そんな…………。」

 

雲の中へと消えてしまった沙耶の方向を見たまま、ショックと悲しみと自分への怒りで、大絶叫していた。

リックスとシェリルもアルビナに声を掛ける術もなく、うなだれてしまった。

船も、思ったより被害が大きく、船頭も申し訳なさそうに、リックス達にクエストを中止し、緊急に引き返すと話す。

リックス達も即了承し、帰還することにする。

アルビナは帰還するまで、うずくまったまま、ずっと涙を流し続けていた………。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

どれくらいの時間が………、と言っても実際には数十秒も経たないぐらいだろう、沙耶は落ちている途中で気を失ってしまい、何かの上に倒れこんだのだろう、体のあちこちの痛みで意識が戻ってきた。

 

(ん!い、いたたた!か、身体中が痛い。でも、あの高さから落ちたのに、あたしは生きてるの?ハンターだから?ってそんなことはないよね?体が痛いと感じているから、魂でもないよね?何が起こったんだろ?)

 

沙耶は色々と想像力を高めて見るが、生きている理由が分からなかった。

ただ…………。さっきから地面と思われる、平らな硬いしかしごつごつとした物が揺れている。

満身創痍ながら、沙耶は恐る恐るゆっくりと目を開ける。

すると、澄み渡った青空と太陽の光が沙耶の目に飛び込んで……。の前に!銀色の硬度のありそうな、見た覚えのある羽根が、翼が………。

沙耶は一瞬にして痛みも忘れて凍りつき、下を見る。

確かに背中のようだ。その先には首があって、頭があり、立派な角が生えてらっしゃる………。

 

「何で?何で、古龍の背中の上なの?」

 

沙耶は自分の運の無さに呆れ果ててしまう。生きていることは運が良かったと言わざるをえないことだが、そのあとが問題だ。絶対に勝てる訳がない!このままあたしは、餌にされるんだ。せっかく生き延びても、身体はほとんど動けれないし。助けてくれるとは思えないし………。

沙耶は諦めて、死を覚悟する。

しかし、そんな諦めモードを、古龍である、クシャルダオラが意外な行動に出る。

 

「目が覚めたか、ハンターよ。」

 

「!?!?!?!!!」

 

突然、人の言葉を喋ってきたので、沙耶も驚愕する。

もう一つのモンハンの物語りならばあり得そうな事だが、こっちの世界でそれってアリなの?と疑ってしまう。

 

沙耶がなかなか返事を返さないので、クシャルダオラが話しかけてくる。

 

「なに、我らはそなたを食おうとは思ってはおらん。

ただ、そなたには会って欲しい方がいる。嫌ならこのまま降りてもらうが、どうする?」

 

(中々強引だね。ほぼ強制じゃん。さすがは古龍…と言っていいのかどうか…。)

半ば諦めモードで、断れば本当に落とされそうだったので、了承する。

 

「わかりました。会いましょう。でもあなた程の古龍が、会わせたい方って誰なの?」

 

「ククッ、会えばわかる。まともでなければ、だが。」

 

と苦笑気味に話す。しかも意味深だ。

 

「まともじゃ駄目って…。どゆこと?」

 

と、小声で自問自答しながら、クシャルダオラの背に乗ったまま、相手の待つ方向へ向かっていた。

但し、周りの風景や、地上を見渡しても見たことのない景色が広がるばかり…。

沙耶は不安のまま、クシャルダオラに身を委ねるしかなかった…。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

一方、集会場へ戻ったアルビナ達だが、アルビナは一人ベルナ村の家にこもってしまい、リックスとシェリルは、ギルドマスターと龍暦院に連絡をとり、捜索隊を組織してもらう。

それからベルナ村に戻り、村長に話をしていた。

 

「……なんと、沙耶どのが………。」

 

さすがの村長も、動揺していた。

 

「なんという不運か……。これも定めだと言うのか………。」

 

「なんとか頼みこんで、捜索隊を組織してもらいましたが、見つけられるかどうか…。」

 

「そうでしたか…。無事に見つかってくれると良いが……。」

 

その話しを遠巻きに聞いていた村人が一人、村の外へ出ていく。しかし、いつもの事のように誰も気にする者はいなかった。

その村人は女性であったが、村を出てから途中で茂みに入り、どんどんと奥へ進んでいく。

 だんだん茂みが多くなり、辺りが暗くなっていく。それでも平然と村人女性は進んでいく。

 やがてその暗闇の中に溶け込むように姿を消した…。目撃者もなく、行方不明と騒がれることもなく……。

 

 




読んで頂き、ありがとうございます。
 次回からは、それぞれが大きく動いていくことになります。
 闇の部分も水面下では、厳かに動いています……。
 引き続き執筆していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。   では。


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ーそれぞれの決意ー

またまた日にちが掛かってしまい、申し訳ありません。年末で仕事に忙しく…。と言い訳がましいので、日々更新できるよう頑張ります。
 今回はそれぞれがそれぞれのスタートになります。どういう行動をとるのか…。
 本編をどうぞ。 では後ほどにて。



 太陽の光を受けてキラキラと光り輝くマリンブルーの海を越えて、目的地と言っても、はっきりとした場所は分からないが、古龍の背に乗って移動中の沙耶の姿があった。

 成り行きとはいえ、ドラゴンライダーでもない限り、いや、古龍の背に乗る事はめったにないことだ。

 

 「ふむ。見えてきたぞ。」

 

 3km先に見えてきたのは遥かにそびえ立つ山。遺群嶺とも違うその山は雲を2、3突き抜けて更に高くそびえ立っていた。

人に発見されている訳でもなく、遺跡が残っている訳でもない。

ただただ遺群嶺と違い、あれだけの高さを誇りながら、人には見つかっていないのだ。

クシャルダオラは、ゆっくりと羽ばたきながら、その頂上へと向かって行く。

沙耶は落とされまいと、必死にしがみついていた。

やがて頂上に差し掛かった時、強烈な圧倒的力を感じ、戦慄する。

その姿を見た沙耶は一瞬にして絶句し、あっさりと死を覚悟する。

その姿は古龍であり、全身が白い毛や鱗に覆われ、目だけが赤色に染まっていた。

そう、古龍種の中でも最強であり、龍の始祖とも言われている古龍の中の古龍、ミラ・ルーツである。

クシャルダオラは緊張したままの沙耶を乗せたまま、白き古龍の前に進む。

 

 「連れて参りました。ガルーク様。」

 

 「ご苦労だった、ゼシム。」

 

 「はっ。」

 

 ゼシムと呼ばれたクシャルダオラはしゃがんで首を下げて、沙耶を降ろす。

 喉と口の中が乾くほどに緊張しながら、沙耶は白き古龍の前に立つ。

 

 「すまんのう。びっくりさせたようじゃな。ワシはガルーク。見てのとうりの老いぼれじゃ。」

 

 (え、お、老いぼれって…。その割には、凄い圧倒的な気迫が伝わってくるんですけど。)

 

 「こっちにいる、ワシに仕えてくれているのが、ゼシムじゃ。」

 

 「よろしくな。ハンター殿。」

 

 ペコリと頭を下げるクシャルダオラに驚きと、愛くるしさで思わずクスクスと笑ってしまう。

 

 「なんだ、どうかしたか?」

 

 「いえ、何でも。」

 

 沙耶は改めて白き古龍の方を向く。年齢がたつほどに力が強いと聞いたことがあるだけに、この気迫も納得できた。

ミラ・ルーツであるガルークは、沙耶に意外なことを話してきた。

 

「オヌシに頼みがある。ある者達を倒して欲しいのじゃ。」

 

沙耶は、その言葉に驚く。生物最強が、その様なことを口にするとは、思ってもみなかった。

 

「え、え、どうして貴方程の古龍が、私に?第一こんな新米で、弱っちぃハンターに、そんな大事なことを、任せてもいいの?」

 

「なに、オヌシは異界から来たのじゃろう?

おおよその事は分かっておる。オヌシとも因縁がある者達じゃ。

どうじゃ、引き受けてはくれんかの。」

 

沙耶は半ば強引に連れて来られたため、半諦めモードで、聞いてみる。

 

「断ったらどうなるの?」

 

「ふぉっほっほ、そうなればワシとゼシムの腹の中に収まるだけじゃがの。どうする?」

 

 「やっぱり…。」

 

 とうなだれてしまう。

仕方ないことではあるが、繋がりがあるとまで言われては、無視する訳にもいかない。

沙耶は決めた。

 

「分かりました。引き受けます。」

 

「おぉ、引き受けてくれるか。ならば、いま一つ、引き受けてもらおう。」

 

「えぇ、まだあるの。マジで。」

 

「ふぉっほっほ。今度はオヌシにとって、益のあることじゃ。」

 

沙耶は自分に得になると聞き、少し食いつく。

 

「オヌシは強くなりたいんじゃろ。ワシらで協力してやろうと思うての。どうじゃ、強くなりたくないか?」

 

「でもどうやって?」

 

沙耶も古龍達の協力の意味がいまいち?だった。

 

「ふぉっほっほっほ、毎日時間がある限り、ワシらと闘うんじゃよ。最初はゼシムと。

その次はワシと。最後はワシとゼシムじゃ。

どうじゃ、やりがいがあると思わんか?」

 

と軽く言ってのける。

(余裕だね~。随分あっさりと言ってくれるね。

まぁ、確かに今のあたしじゃ勝つどころか、傷すらつけられるかどうか…。

でも、物凄くキツそうだけど最短で強くなる為には挑むしかないか~…。)

としばらく悩んで、腹をくくる。

 

「よし!よろしくお願いします!でも、あたしからも一つお願いしてもいいですか?」

 

「ふぉっほっほ。逆にお願いとは、オヌシなかなかじゃの。なんじゃ言うてみよ。」

 

「はい。強くなれたらご褒美に、お二人の素材をいただきたく…。一部で構いません。駄目でしょうか?」

 

申し訳なさそうに、でも懇願するように古龍達を見る。

 

「………、よし!分かった。約束しよう。しかし、それで何を作る気じゃ?」

 

表情は変わらないが、不思議そうなのは口調で分かる。沙耶は照れながら、答える。

 

「はい。私専用の太刀を造りたいと。」

 

「ほう、そうか…。恐いことを考えおる。しかし、その負けん気、気に入った!オヌシ名は?」

 

とそこで初めて名前を聞かれた。

 

「はい、沙耶と言います。」

 

「ならば、早速といきたいが、まずここでの生活の話しをしておこう。ゼシム、頼む。」

 

「はっ。では私から話そう。」

 

と沙耶もクシャルダオラの方を向く。

 

「先ず食料だが、肉に関しては、私が調達してくる。ガルーク様の分があるのでな。他は自力で調達するように。あと寝床もな。」

 

それを聞いて、思い出したかのように、愕然となる。

 

「え゛…マジで。それは考えてなかった…。」

 

確かに古龍2匹の前で、周りの状態を考える余裕がなかったので、改めて言われて慌てて周辺を見渡す。

確かに広さはそこそこに大きい。例えれば、霊峰ぐらいだろうか。

と言って、古龍が2匹もいたら結構狭いが。

こんな高所な場所であるのに、草木が生えている。なぜか都合のいいことに、キノコ等々。高山植物というか…。なんというか。

肉に関しては、ゼシムが用意してくれると聞いたので、寝床?部屋?をまず確保しなくてはと、家造りから始める。

太刀が、ノコギリ代わりになる。(ナイフもあるが)木を切ったり、草木を集め、囲ったりと、石器時代の建物風に少しは建物?の形にはなる。

あとは、中にベッドを作る。草藁を集めて、縛り、並べてベッドのサイズにする。

まるでアルプスの少女ハイジが寝ていた藁のベッドのようだった。

取り敢えずは、チェストBOX???のような箱を作り、住み処ゲット。(マ○ンク○フトか?)

それだけで、すでに夕方になっていて、ゼシムが肉の調達をしてきていた。

 分けてもらった肉をこんがり焼き、美味しく?頂いて満足する。

 さすがにスタミナは回復しても体力が持たない。初めての事を一気にしたために、疲れてしまった。

 

 「修行は明日からじゃ。覚悟せいよ。」

 

 「は~い、よろしくお願いしま~す。」

 

 と部屋に入り、ベッドに横たわる。そのまま寝息を立てていた…。これから超過酷になることも忘れて…。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 コンコン…。ドアをノックする者がいた。アルビナ達の家である。

 

 「は~い、ど~ぞ~。」と女性の声。

 

 扉を開けて一歩中に入ってくる男性が1人。

 

 「お邪魔するよ。」と入ってきたのはベルナ村の村長さん。

 

 迎えてくれたのはシェリルだった。中の様子を見ると、ベッドに座って放心状態になっているアルビナが。

 そのそばで椅子に座り、心配そうに見ているリックスが。シェリルも同じであった。

 二人はアルビナに恩があり、絶対に一緒に動いていくと誓っている。ソロで狩に行くこともあるが、最終的には沙耶を含めた4人で行動を共にすることであった。

 だが、すぐに1人が居なくなり、アルビナもショックで立ち直れず、二人もどうしていいか分からず、狩には交代で行くものの、途方に暮れていた…。

 

 「アルビナ殿の具合はどうかね。」

 

 「相変わらず、ぼ~っとしたままで。気力を失っています。村長さん、あたし達はどうしたらいいですか?このままアルビナを見ていると切なくて。」

 

 「ふむ。そうじゃな。それで、悪い話といい話を持ってきた。」

 

 「え゛いい話だけじゃないんですか?」とリックスも食いつく。

 

 「アルビナ殿に確認したいが、話を聞いてくれるかの?」

 

 と村長はアルビナを見る。アルビナも半ばぼ~っとしたままだったが、頭を下げて返事をする。

 

 「まずは、悪い話からしようかの。沙耶どのを探す為に組織されたハンターの捜索隊が、何者かによって全滅したそうじゃ。捜索隊の中には数人G級ハンターも居たらしいが、たちうち出来なかったらしい。沙耶どのも未だ見つからずじまいじゃ。」

 

リックスもシェリルも、ショックが大きかったようだ。

うなだれたまま、村長の方を向く事も出来ない。

だが、村長は話しを続けた。

 

「じゃが、いい話も持って来たとも話したはずじゃ。君たちにとっては重要だと思っとる。どうする?話しを続けても良いかね?」

 

今度は3人に向けて話し掛ける。無論3人共頷く。

村長も分かったとばかりに、話し出す。

 

「実はじゃな、古龍やモンスターの観測や討伐するために龍識船が動いているのは知っておるじゃろ。

じゃが、捜索隊を全滅させた者達を討伐すべく、もう一隻の船を極秘に建造中なのじゃ。

そこで君達に危険な者達を討伐と、沙耶どのの探索の任務を非公式ではあるが、受けて欲しいのじゃ。」

 

そこで、急に話しに食いついた者がいた。

 

「で、その船はいつ完成するのですか?」

 

そう声に出したのは、アルビナだった。シェリルとリックスが驚いてアルビナを見る。

眼に輝きを取り戻していた。

リックスは飛び上がって喜び、シェリルは涙を浮かべていた。

 

「済まない。シェリル、リックス。私もどうしていいのか、分からなくなっていた。しかし、村長さんが希望を持って来て下さった。こんな良いチャンスは二度と無いだろう。だから私はこの話しに乗る。

沙耶さまを探し、ハンター達を危険な目に逢わせる者達を討伐する。

こんな良いクエストはないと思わないか二人共。」

 

「当然だ!断る理由がない!」

 

「そうさ、あたし達はいつでもアルビナと一緒だよ。絶対沙耶を見つけて、危険な奴等を叩くんだ。やっといつものアルビナが戻って来てくれた~!村長さん、サンキュー!」

 

と言って、村長の頬にキスをする。

 

「ほっほっほっほっほ。キスをされたのは何年ぶりかのぅ。良いことはあるものじゃ」

 

と、なかなかご満悦な村長。そして話しを続ける。

 

「船はあと二日で完成じゃ。乗るのはクルーと船長。他には道具屋や武具屋、あとオトモ武具屋に受け付け嬢も一人極秘に乗るらしい。何でもココット村で先輩の傍で修行をしていた子らしい。先輩のワガママには着いていけないと、船に乗ることを承諾したらしい。なので、普通のクエストもすることが出来るそうじゃ。どうじゃ、凄いじゃろう。

あとは猫飯屋となんと、猫嬢も行きたいと言い出してな。龍識船の方は妹の方に兼用してもらって、こちらでオトモの斡旋をしたいと申し出てくれてな。危険な旅路になるやもしれんが、守ってやってほしいのじゃ。」

 

 「分かりました。必ず、お守りします。私にはアルビナとロキが居ますが、それぞれでとなった時には助かります。」

 

 「うむ。ならばその旨伝えよう。では、出発は2日後船の完成とともに。それまでに、準備をよろしく頼みますぞ。」

 

 「了解です。」

 

 「では、帰るとしようかの。」と玄関へ。

 

 「ありがとうございます。御恩は忘れません。」

 

 「いやいや、かまわんよ。村やハンターのこれからの為に。出来ることをしているだけじゃて。ではな。」

 

 「ありがとうございました。」

 

 アルビナが深々と頭を下げる。リックスとシェリルもそれに習う。村長も片手を挙げつつ、帰って行った。

 アルビナ達は、改めて椅子に座りテーブルを囲う。オトモも2匹傍に寄ってきた。

 

 「シェリル、リックス、本当にいいのか。非公式ということはこの先の保証は出来ないと言っていることと同じだぞ。

私にとって、二人も沙耶さまと同じように大事な二人だ。やめるなら今のうちだが、どうする?」

 

珍しく弱気なアルビナに、二人は驚く。

 

「どうしたんだよ、らしくもないな。さっきも言ったろ、一緒に行くって。なぁ、シェリル。」

 

「もちろんさ、あんたを見捨てるぐらいなら、ハンター稼業をやめてるよ。あたいはね、あんたが大好きなのさ。だから嫌われても、あんたについてくよ。」

 

「私達もですニャ。アルビナ様が大好きですニャ。だから、絶対についていきますニャ。淋しいことを言わないでくださいニャ。」

 

傍でロキも、うんうん頷く。

アルビナが涙を浮かべて礼を言う。

 

「あ、ありがとう。良い仲間を持った。私は果報者だ。私も皆が大好きだ。」

 

 みんなで笑いあう。これで、沙耶もいたら…。とそれぞれが思いながら…。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 「明日美様。」

 

 村人の格好をしたままの女性が、黒いマントに黒いフードを被った者に近ずく。

真っ暗な場所で、黒ずくめの者の側にだけ、大きめのローソクが2本、火が灯っていた。

 

 「何事か。」

 

 「はっ。」と言って、黒ずくめに耳打ちする。

 

 「ふ~ん。沙耶がね。あの子もつくづく不運だね。」

 

 黒ずくめの者は被っていたフードを脱ぐ。綺麗なストレートの髪が背中までさがる。美貌と言うにふさわしいほどの顔立ちだ。

 

 「わかったわ、ありがとう。計画の続きをよろしく。」

 

 「はっ。」

 

 そう返事を返すと、その場から消えるように姿を消す。

すぐに別の名を呼ぶ。

 

 「ガザックはいるかしら?」

 

 明日美と呼ばれていた、その女性は一人のハンターの名を呼ぶ。

 

 「珍しいな。あんたが直接俺を呼ぶとは。てっきり嫌われているもんだと思ってたが?」

 

 明日美はその男に一瞥をくれて、話を続ける。

 

 「あなたに仕事を頼みたいの。探し出してほしい者がいるんだけど。」

 

 ガザックは少しがっかりした。

 

 「なんだ、人探しかよ。見つけたらどうするんだ。」

 

 「そうね、死んでいるなら良し、生きているなら討伐して頂戴。」

 

 恐ろしいことをサラッと言ってのける。

 

 「クックックックッ。なんだそりゃ。生きてちゃいけねえみたいな言い方だな。」

 

 「そうゆうことよ。」

 

 「ふ~ん。まあいいや。で、そいつは今何処にいるんだ。」

 

 深追いするほどに興味が持てなかったのか、話を先に進める。

 

 「渓流へ向かっている途中に、バルファルクのあおりを受けてね。その子だけ落ちたらしいの。そこからは生死が分からないそうよ。」

 

 それを聞いてさらにガザックが不機嫌そうになる。

 

 「なんだ、場所が特定できないのかよ。そんな広範囲を探せってか。勘弁してくれよ。」

 

 「でも、その下空の方で、珍しいものが通りすぎて行ったとの情報もあるわ。」

 

 「なんだ、その珍しい物って。」

 

 「クシャルダオラよ。」

 

 さすがにガザックも驚く。

 

 「おいおい、人探しプラス古龍の討伐までしろってか?犬死は御免だぜ。もう一人連れていくからな。いいな。それに、古龍とは戦わねえぞ。無駄死にしたくねえ。」

 

 「クスクス…。いいわ、元々古龍までとは言ってないわ。ハンターの生死が最優先よ。」

 

 「じゃあ、準備して向かわせて貰おうか。」

 

 とその場から居なくなる。

 

 「本当に、あの者でいいのですか?」

 

 不意に男性の声がする。それを分かっていたかのように答える。

 

 「いいのよ。死んでいれば間違いはないし、仮に生きていたとしても彼に討伐されるような弱いハンターなら、それまでの事。それにあなたには別に動いてほしいの。」

 

 そういわれた男性は少し驚いて明日美を見る。

 

 「別の用事とは、なんでしょう?」

 

「沙耶と一緒にいた者たちを探し出して討伐して頂戴。メンバーは任せるわ。計画を邪魔されたくないから、確実に頼むわね、キリューク。」

 

 「はっ。では早速にも。」

 

 その男性はハンターで、明日美には付き従っていた。

 そして、キリュークと呼ばれたハンターは、他メンバー3人と共にアルビナ達の討伐へと向かう。

 沙耶もアルビナ達もモチロン、狙われていることは誰も知る由もない事だった…。

 

 




読んで頂き、ありがとうございます。
 それぞれが動き出しました。次話もそれぞれの動きを物語っていこうと思っています。
 エンカウントすることも大かと。
 次話も読んで頂けることを願って…。    では。


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ー各々の動向①ー

いや~~~~、長い事更新出来ずに申し訳ありませんでした。
 何話かは、1話ずつそれぞれの話になるかと思います。今回は沙耶視点になってます。
 どうか見捨てずに本編をお読みくださいまし。(短めではありますが。)
 それでは後ほどにて。



「はぁァァァァ!」

ジャンピングからの真上から太刀である鉄刀を振り下ろす!しかし、作られた人工の竜巻2つに阻まれ、さらには吹き飛ばされる。

 

「いった~、ゼシム!手加減てものを知らないの?」

 

「それはまだ、お前が本気でない証拠だ。悔しければ、かかって来るといい。」

 

ゼシムはそう言いつつも、沙耶に向かって突進してくる。

沙耶もそれに反応して回避する。そして、ダッシュで回り込み、ゼシムの横腹に剣を叩き込む。

 

「ぐっ、やるな。」

 

ゼシムは尻尾を横に振り、沙耶を払い除ける。

 

「うぐっ!」太刀でガードするものの、威力は強力で、8~10メートル程後方に飛ばされる。

 

なんとか堪えるものの、躱せなかったことに悔しがる。

 

「くそぅ!やってやる!」

 

そう叫んで、突進して行く。

 

「来るがいい!受けてたつ!」

 

お互いの攻撃が火花を散らす!すこーしずつではあるが、鍛えられているようだった。

 

「ふぉっほっほ。まだまだじゃの。」

 

その闘いを傍で見ていて、突っ込みを入れていくガルーク。

 

「そのうちにそんな余裕無くなるからね!」

 

「ほほ、そりゃ楽しみじゃの。」

 

あくまでも、余裕たっぷりな白龍。まだまだ闘い慣れていない沙耶は、未だ必死の状態。

それでも、構わず鋼龍であるゼシムは4、5メートルの高さに飛びながら、凍てつくブレスを吐きながら沙耶の方向へ向かってくる。

 沙耶はそれを走りながら躱し、降りてくるのを待つ。閃光玉でもあれば落としようもあるのだろうが、あいにくと持ち合わせてはいない。剣圧でどうこうとかというレベルでもないので、躱しまくる…。ではかっこよすぎで、逃げ回るの方が正しいだろう。

 と、逃げ回っているうちに岩や木に雪だるまが出来上がって………。

 

 「ん?」さすがに沙耶にも疑問が浮かぶ。

 

 「んんんんんんん?」

 

 ゼシムの攻撃を忘れて(マジか…。)一つのだるまさんの前に止まる。よーく見ると、そのだるまさんは小刻みに震えていた。

 ゼシムもブレス攻撃を辞め、地上に降りる。そして風玉のようなブレスをアギトから発射しようとしたとき、沙耶の叫び声が響いた。

 

 「ちょっとタンマ!!!」

 

 「なんだ、闘いの最中だぞ!」

 

 さすがに中途半端に止められたので、ゼシムが怒る。

 そこを無視して(度胸あるな)雪だるまを軽くポンポンと叩くと雪が崩れ落ち、中から一匹の猫…いや、アイルーが出てきた。

 だが、一方向を向いたまま、ガタガタと震えている。

 沙耶もその方向を見ると、ゼシムとガルークの姿が。震える理由がようやく分かって、そのアイルーに話しかける。

 

 「大丈夫だよ。食べられたりしないから。」

 

 震えながらもようやく沙耶の方を向いて返事をする。

 

 「ほ、ほんとでニャすか?」

 

 「大丈夫。私がいるし、私も食べられてないし。」

 

 「た、確かにそうでニャすね。」と胸をなでおろす。

 

 「でも、あなた、よくここまでたどり着いたね。どうやってここに?」

 

 確かに沙耶はゼシムの背中にしがみついて来たので、標高は相当なものだとは理解していたので、アイルーが一匹でここまで辿り着いたのは関心だった。断崖絶壁を登れないことはないのだろうが、それでもこの頂上まで来るには覚悟がいる。そのアイルーは猛灼炎のブレイニャーと荷物を降ろし、話始める。

 

 「あっしは食材を求めて旅をしていますニャ。たまたま珍しい植物やキノコに気を取られて断崖絶壁をあっちにこっちにと行ったり来たりしているうちに、頂上に着いてしまったのですニャ。気づいたら古龍はいるわ、ハンターさんは戦っているわ、威圧感たっぷりで、怖くなってここから動けなくなってしまいましたニャ。」

 

確かに、古龍2匹にハンター一人、異様な光景ではある。

 誰が見ても、あり得ないと思うだろう。

しかし、そのあり得ない事が起こっているわけだが…。

沙耶が急に眼を光らせて、そのアイルーを見つめる。

 

「ね、食材を探してってことは、料理できるの?」

 

「ニャ。出来ますニャよ。」

 

それを聞いて、飛び上がって喜ぶ。

 

「ね、ね、ね、あなたにお願いがあるの。

あたしに雇われてくれない?」

 

「ニャ!?あっしがですニャか?」

 

アイルーも驚く。てっきり料理を作って欲しいと言われると思ったので、想定外な事に困惑する。

「お金はこれしかないけど、ダメかなぁ。」

 

と、有り金を全部差し出す。

しかし、アイルーも悩んでしまった。食材を探し求めているのに、ここで雇われてしまうと、それを続けられなくなってしまう。しかし一緒に旅が出来れば、これほどありがたい事はない。そこで、考えて条件を出す。

 

「あっしが探したい食材がある時は、必ず手伝ってくれると、約束してくれますニャか?」

 

「分かった!約束する!モンスターを狩ったあとの剥ぎ取り肉も提供する!がんばるよ!」

と沙耶は懇願する。ここで晩飯にありつけられるかどうか死活問題であった。今この場で必要なのはお金!ではなく、飯!これなくして強さは語れない。

しばらく腕を組んで、眼を閉じて考え込んでいたが、腹を決めたようだった。

 

「分かりましたニャ。あんたに雇ってもらうニャ。あっしはザックニャ、よろしくニャす。」

 

「あたしは沙耶。あっちはガルークで、こっちはゼシム、よろしくね♪ちなみにお肉はゼシムが用意してくれるし、野菜は、周りに色々生えているから使って。これは私達の部屋になるからね。自慢出来る建物じゃないけど。」

 

確かに、石器時代風で、中も有る物で作っているのでオシャレでも贅沢でもない。屋根等があるだけマシというもの。

 それを見てザックがにっこり答える。

 

 「大丈夫でニャすよ。あっしは、旅に出てからずっと野宿でニャす。部屋で寝させてもらえるニャンて、嬉しすぎますニャ。」

 

 「良かった。何かあれば言ってね。出来ることはするから。」

 

 「了解ですニャ。」

 

 と早速荷物は部屋に入れ、ブレイニャーを装備して周りの食材集めを始める。

 沙耶はそれを確認して修行を再開する。

 

 「ふぉっほっほ。どれワシが少し相手をしようかの。ゼシムは食料調達を頼む。」

 

 「御意。」

 

 「げ、ガルークが相手って…。すぐに乙りそうなんですけど。」

 

 「大丈夫じゃ。全力で戦えばそう簡単には乙らん。」

 

 「ぜ、全力ってあのね。」

 

 額に手を当てて悩んでしまう沙耶が。

 

 「ほれ、ゼシムが戻ってくるまで、やるぞ。用意は良いか?」

 

 白龍の方はやる気満々のようだ。沙耶は避ける事が出来そうにないことを悟ると、気持ちを切り替えて太刀を構え直す。

 

 「じゃあ、よろしく!!」と、思い切り地面を蹴って、全開で向かって行く。

 

 「いいじゃろう。かかっておいで。」白龍は、咆哮をあげて迎え撃つ。修業とはいえ、激しい闘いの火ぶたは切られたのである。

 

 「おお。ここにも珍しい食材が、ニャンとこっちにも。新しい食材の宝庫ニャ!!」

 

 余裕があるのか天然なのか…。ニャンとも言えないオトモのザックであった…。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
 次回はお正月明けになろうかと思います。
 今年は初めから読んで頂き、重ね重ねありがとうございます。
 来年ももっと作品を良くしていけるよう、励んでいきますので、どうぞ!よろしくお願い申し上げます!!  
 次回はアルビナ達の視点になるかと思います。     では。


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ー各々の動向②ー

晴れ晴れとした快晴で気球が飛び交う中、ベルナ村の村長の所へ一人の青年がやって来る。

 眼鏡をかけているが、好青年ではある。

 分厚い本を一冊持ち、何か研究しているようでもあった。まあ、龍暦院の制服を着ていると言えば、本の中身はおおよそ見当がつくだろうか…。

 その青年はアルビナ達が決意を固めた2日後にやってきた。

 

 「村長!」

 

 「おお、君か。どうかね、作業の方は。」

 

 「はい、まずこちらで話をしましょう。」

 

 と青年は猫飯屋へ招く。

 

 「あら、いらっしゃいニャー。珍しいお客さんが2人も来るニャンて,明日は竜巻かニャー?」

 

 女主人が、冗談と皮肉を込めて笑いながら2人に話しかける。2人も苦笑いしながら、それぞれ料理を注文し、女主人に話しかける。

 

 「済まない。大事な話があってな。すぐに終わるとは思うが、しばし貸し切りにしてはくれんか?頼む。」

 

 と深々と村長に頭を下げられ、ただ事ではないと察知した女主人は、

 

 「了解ですニャ。お二人の話が終わるまで休業ニャ。お礼はしっかりと貰いますニャよ。」とニコッとしながら、調理場から離れていった。

 

 「すまんな、ありがとう。」

 

 村長は離れていく女主人にそう言うと早速青年の方を向き、話を再開する。

 

 「で、完成したのかね?」

 

 眼鏡をくいっと持ち上げて、ドヤ顔で話し出す。

 

 「はい、完成しました。彼らのチェストの持ち物をそれぞれ移動し、道具屋、武具屋等々準備中です。ですがもう少しで完了するかと。」

 

 「おお、そうかね。ならば彼女たちを迎えに行かねばな。了解した。引き続きよろしく頼みますぞ。」

 

 「分かりました。お待ちしています。」と料理を平らげて船の完成のために足早に戻って行った。

 

 村長は料理を食べた後、アルビナ達の家へ。扉の前に着くと、ノックをする前に、改めて深呼吸をする。

 (非公開での旅路になってしまったが、それでも無事に送り出してやるのが親心というもの。誘った私の責任でもあるが、沙耶殿を含めて全員が帰還できることを切に祈ろう。)

 扉を見据えたまま、ゆっくりと扉をノックした。

 それは、アルビナ達にとっても新たな旅路となるのだった…。

 

 「は~い、ど~ぞ~。」とリシェルの返事がして、扉が開かれる。

 

 「お邪魔するよ。」と中に一歩踏み入る。

 

 アルビナ、リシェル、リックスの3人は既に準備を終えて、村長が来るのを待ち構えていた。

 

 「準備は整ったようじゃな。」

 

 「はい、船の方はどうですか?」とアルビナが聞き返す。

 

 「うむ。まもなく完成じゃ。なのでそなたたちを呼びに来たところじゃ。」

 

 「そうでしたか、ありがとうございます。」

 

 「今から私と共に船の方へ移動願いたい。」

 

 そう、促すとアルビナは二人に向かって、

 

 「分かりました。よし、行こうか二人共。」

 

 「うん。」「おうよ!」

 

 と勢い良く返事を返す。3人とも気合は十分だった。

 目的や、やろうとしていることは山積みではあるが、きっかけをくれた村長には感謝していた。しかも別の専用の船まで用意してくれているのだ。

 3人は村長と共に、造船所………。ではなく、村から龍暦院まで向かう途中の道から逸れて谷あいのある方へと足を運ぶ。アルビナ達も不思議に思いながらも誰も通ることのない道を後をついていく。

 やがて人が1人通れるほどの洞窟があり、村長はそのまま中へと進んでいく。3人も村長に続く。300メートル程だろうか。急に視界が開ける。

 

 「『《 おお!! 》』」

 

 3人は感嘆の息を漏らす。

 

 「すげぇ………。」

 

 「初めてだよ、こんな船は。」

 

3人共、驚きを隠せずにいる。

 

「ほれ、こっちじゃ。」と船長の元へと連れていく。

 

「キャプテン!」

 

そう呼ばれた男は声のする方に振り向く。

 

「はい?あぁ、村長さん、あっ、そちらはアルビナさんとリシェルさんとリックスさんですね。初めまして、この船の船長をさせてもらいます。キャプテンで通っています。よろしくお願いします。」

 

若い青年である。もっと年齢が上の人物かと思い込んでいたので、少々驚いた。しかも誠実そうだった。

 

「よろしくお願いします。」

 

アルビナもお辞儀を返す。誠実には誠実を持って。

 

「では、私が船内へご案内します。」

 

とキャプテンが船へと入って行く。

 

「では私はここまでじゃ。皆の無事と武運を祈っておりますぞ。」

 

と村長はそう言い残すと村の方へと戻って行く。

 

「ありがとうございました。全員で、必ず帰って来ます!」

 

と村長へ深くお辞儀をするのだった。

3人は、キャプテンの後をついていき甲板のところで止まった。

 

 「まず、この船の説明をさせてください。この船自体は龍識船のように飛行船の形態をとっていますが、大きさは2回り以上あります。が、集会場はありません。なので、ハンターは今のところあなた方3人になります。

 ここ、甲板やデッキには古龍やモンスター調査ではないので、あくまで討伐という意を込めて、バリスタが左右に3門ずつ、地下1階には大砲が左右3門ずつ、船首部には激龍槍が備えられています。

 2Fはそれぞれのお部屋4部屋と武具屋、猫飯屋、道具屋、オトモ武具屋、あと…そうそう猫嬢さんが。それとココット村から受付嬢さんが乗り込んでいます。

 3Fはそれぞれのお店の倉庫だったり、作業場になってます。

 最下層はクルーたちの部屋で、後方は全般的に駆動部関係や、燥舵があり、私の部屋もあります。用がある時は何なりと言ってください。

 私はこの船を動かすためのキャプテンですが、行先や行動を決めるのはリーダーの役目ですよ。」

 と、アルビナの方を見る。

 

 アルビナは驚いてキャプテンや2人や2匹を見回す。皆、納得とばかりにうんうんと頷く。

 

 「私が……なぜ……。」

 

 「当然だろ、リーダーは冷静じゃなきゃいけない。」とリックス。

 

 「そうだね、この中で1番落ち着いて行動出来そうなのはアルビナだよね。」とリシェル。

 

 「そうですニャ。」とオトモ2匹。

 

 「だそうですが、どうされます?」とニコニコ顔のキャプテン。

 

 ここまで言われてはとアルビナも覚悟を決める。

 

 「分かりました。よろしくお願いします。」と頭を下げる。

 

 「では、リーダー・アルビナ。1Fへご案内します。」と階段の方へ。

 

 皆もそれについていく。1Fは本当に戦闘のために作られたと言っても過言ではない程の装備がなされていた。

 キャプテンが話していたように、大砲や激龍槍が配置され、中央には、弾薬やバリスタ用の球などが多数用意されていた。戦争でも起きるのかと思わんばかりの物々しさでクルーたちもテキパキと準備に追われていた。

 3人とも驚くばかりで声を掛けることもできない。

 

 「1Fとデッキ等は戦いの場になります。あなた方にももちろん参戦してもらうことが多々あると思いますが、よろしくお願いします。」

 

 「いえ、こちらこそよろしくお願いします。こんな凄い装備は心強いです。感謝します。」

 

 「良かった。では、2Fへ行きましょう。」と1Fを後にする。

 

 2Fへ降りると両側にお店が並んでいる。店の者達は一斉にアルビナ達の方を見た。

 1件ずつ挨拶をしていく。

 

 「よろしくお願いします。武具についてはお任せしますので。」

 

 「おう、話は聞いてるよ。強敵なんだってな。任せてくれ、そいつらに負けない武具を作ってやるよ。」

 

 「頼りにしています。」と礼をして次のお店へ。

 

 「あれ?」

 

 リックスが不思議そうな声を上げる。が、リシェルもそうだった。

 

 「あれ?集会場にいる道具屋のお姉さんじゃない?」

 

 「は~ン、私って意外と有名人かしら~ん。」

 

 相変わらずの口調はやはりそうらしい。

 

 「よろしくお願いします。材料は採取するより手に入れやすいので重宝なんです。」

 

 「任せて、大抵の物は用意したから。必要なものがあれば言ってちょうだい。」

 

 「ありがとうございます。」

 

 と道具屋を後にして、次のお店に。ぷ~~~んといい匂いが周りに漂う。猫飯屋であった。

 

 「いらっしゃいニャ!やっと主役たちのお出ましだニャ。」

 

 「よろしくお願いします。食事が出来ないとスタミナや体力の充実が図れないので、頼りなのです。」

 

 「分かってるニャ。全力で腕を振るわせてもらうニャ。」

 

 「助かります。」

 

 更に次のお店へ。小さい店の構えではあるがアイルーが一匹店番をしていた。

 

 「いらっしゃいニャ!オトモ武具屋へようこそニャ!」

 

 「良かったニャ。私達の武具屋さんも来ていたニャ。」

 

 「そうニャ。ハンターさん達のサポートの為にはオトモも強くならなければいけないニャ。僕も全力でサポートするニャ。」

 

 「ありがとう。よろしくお願いします。」

 

 そして更に次のお店……へ?

 

 「あっ猫嬢!!」

 

 「あ~!アルビナさんとリシェルさんとリックスさんですか。よろしくお願いします。」

 

 「ご無沙汰ですね。村長さんから話は聞きました。危険な旅路になるかと思いますが、良いのですか?」

 

 アルビナも申し訳なさそうに話しかける。すると、猫嬢はアルビナをじ~~~っと見つめてからニッコリと笑い、

 

 「アルビナさん達が守ってくれるのでしょう?それなら私も安心です。それに全滅した捜査隊の中にも、私が斡旋したオトモちゃん達も居て…。私にとっても敵が討ちたくて…。どうかその子たちの無念を晴らしてください。

 今でもその子たちの苦しい声が聞こえて来るようで……。」と涙がポロリと頬を伝う。

 

 「分かります。大事な者達を失う悲しみは凄く痛いほど。なので、かたき討ちを含めて奴らを討伐します。

 その為には力を貸してください。」

 

 それを聞いて安心したのか、猫嬢はニコッと涙を拭い、

 

 「分かりました。よろしくお願いします。」と返事を返してくれた。

 

 また後でと手を振って、その次のお店…。ではない。

 

 「はぁ…。やっぱり先輩の手紙もムカつく。やっぱりグーで一発殴っとくんだった…。」

 

 とガックリしている女性が一人…。

 

 「ココット村の受付嬢さんですよね?」

 

 「はっそ、そうです。い、今の聞こえてましたか?」と恐るおそる聞いてくる。アルビナ達も静かに頷く。

 

 「な、内緒にしておいてくださいね。これでも先輩怖いんです。」

 

 と可愛い面も見せる彼女。

 

 「よろしくお願いしますね。通常ではないクエストも多数ありそうなので。」

 

 「あ、はい。存じております。先輩のわがままにもウンザリしていたので、この話が来たときはチャンスとばかりに引き受けました。ですので行きたいクエストがあればどんどん言ってください。通常以外も出てきたときはお声を掛けますので。」

 

 「了解です。助かります。」

 

 「あと、こちらはそれぞれのお部屋になります。」と案内され、3Fへと降りる。その階は武具屋の作業場があり、道具屋さんの在庫が。その他食料品等々、必需品が満載だった。

 

 4Fへと降りると、真ん中が真っすぐな廊下になっていて、両側はクルーたちの部屋が後方はもちろん駆動部等がある。

 その廊下にクルーを含め、店の者やその他の乗り込んだ人たちも集まっていて、全員がアルビナ達を迎えてくれていた。3人とも驚き、笑みがこぼれる。

 

 「こ、これは…。」

 

 「ようこそ!龍騎船へ!!」とキャプテンが叫ぶ。わぁ…と全員が3人に拍手を贈る。突然だったので3人とも照れてしまう。

 

 「皆それぞれの思いを持って自ら名乗り出てくれた人達です。その気持ちに応えてあげてください。」

 

 とキャプテンがアルビナを一歩前に勧める。アルビナも頷いてみんなの前に。全員静かにアルビナを見入る。

 

 「みんな危険な旅路を分かっていて、それでも志願してくれた事に礼を言います。ありがとう。私も人探しと、危険な者達の討伐するという任務を必ず完遂するつもりです。みんなの力を貸してください。そして全員、無事で、生きて、1人も漏れることなく、凱旋しましょう。私が必ずみんなを守る、いや守ってみせる!よろしく頼みます!!」

 

 と深々と頭を下げる。逆に全員が少し面食らったが、1人、2人と徐々に拍手が沸き起こりやがて全員が拍手の渦に。

 

 「よ~~し!!全員配置につけ!!これより出航する!!」とキャプテンが右腕を高らかに振り上げる。

 

 「おお!!」と全員も拳を振り上げて、足早に持ち場に戻っていく。

 

 「やはり貴方がリーダーですね。1発で全員の心を掴んでしまった。」

 

 キャプテンがアルビナと握手する。

 

 「で、しょう!あたしらが認めてるぐらいだからね。ねえ、リックス。」

 

 「当然だな。じゃなきゃ誰もついては来ないぜ。」

 

 キャプテンも納得とばかりに頷く。褒められっぱなしのアルビナな照れてうつむいてしまう。

 キャプテンたちはデッキへ上がり、操舵の所へ。見送りは無いものの、しかし全員の意気込みは充分であった。

 

 「よし!出航だ!!」

 

 抑えられていた何本ものロープが切られ、後方部の大型プロペラ2基と小型のプロペラ4基が回り出す。

 すると船がゆっくりと前進する。巨大な岩山をくりぬいて作られた洞窟内を進み、やがて視界が広がって来る。

 広大な大海原が出現し、その上空へ。

 

 「全速前進!!」

 

 キャプテンの掛け声とともに、プロペラ全基も高速回転へ。速度を上げて前進してゆく。

 雲1つ無い快晴の中を堂々と進んでいく。

 その周りの景色を見ながら3人はそれぞれ心の中で改めて誓いをするのだった…。

 

 

 

 

 

 

 



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☆☆☆再会☆☆☆

大変、亀更新になりました。ごめんなさい。
 前話も、前書き、後書きないままに更新してしまい、反省の所存…。
 まずは本編をお読み頂けたら幸いです。
 では、後ほどにて。


 アルビナ達の船が出向してから2か月が経とうとしていた。

 道中いろんなフィールドへ赴くも、沙耶の情報や離反者達の情報も進展がないままに過ぎようとしていた。

 クエスト自体はこなしていくものの、なんの情報も得られないままに疲労感が船内の中に広まっていた。

 

 「一体沙耶は何処に行っちまったんだ。」

 

「この間、墜落した場所をその近辺まで徹底的に探したけど見つからなかったし。」

 

「沙耶さま…………。」

 

3人共、それぞれ違う方向の空を眺めながら、途方にくれていた。何の手掛かりも見つけられない事に、肉体的には消費してないものの、精神的に参っていた。死んではいないと分かっていても、手掛かりすら出てこないと、嫌でも良くない方に捉えがちになる。

それでも見つかる迄はと気を引き締める。

 

 「そういえば、二人共、猫嬢の所へ行かないか?」

 

 不意に違う話題を切り出したアルビナ。

 

 「え、なんで?」

 

 「二人にもオトモが居ると凄く助かると思うし、メリットいいと思うんだ。それに意外と癒し系だが、どうだろう?」

 

 二人も顔を見合わせる。突然の話に、ピンとこないでいた。

 

 「どうする?」

 

 「う~ん、そうだねぇ。アルビナのオトモ達が、私達にも気を使ってくれているのは分かってはいるけど、それぞれにも居るとそれだけ負担が少なくなるし、賑わってていいかもね。」

 

 とウィンクする。

 

 「じゃあ、俺も雇ってみるかな。何だかんだソロでクエストの時はきつい事もあるから、いいかもな。」

 

 とリックスもグッドポーズで。

 

 「じゃあ、決まりだな。2Fの猫嬢の所に行こうか。」

 

 と3人は甲板を降り、2Fの商店街の階へ。クルー達も交代で船を動かしているので、休憩の者達はお店に集っていた。猫飯屋はモチロン大繁盛で船の全員の食事を賄っているため、3匹ほど手伝いのオトモと共に、右往左往していた。

 

 「へ~、ハンターさんってやっぱ凄いっすね~。こういう装備や武器を持てるんすよね~。改めて感動っす。」

 

 「そうだろう、俺たちもそのハンター達の負担を軽減するためにいい武具を作ろうと頑張っている訳よ。」

 

 と武具屋ではそんな話が聞こえて来る。

 アルビナ達は、周りのお店の声を聴きながら、猫嬢の元へ。

 

 「あ、お三方ともいらっしゃい。進行状況はどうですか?」

 

 「いえ、今のところはまだ何も。」

 

 「そうですか…。でも諦めないでくださいね。必ず見つかりますよ。」

 

 「そうですね、私も成果が上がらないうちは帰りませんよ。」

 

 「ところで、ご用はなんでしょう?」

 

 「かわいい…。」とぼそりと横で呟く者が…。

 

 「え、やだ、恥ずかしい…。」と猫嬢が顔を赤くしてうつむいてしまう。

 

 「あんたは!オトモを雇いに来たんだろうが!!」とリシェルがリックスの後頭部を平手打ち!

 

 「ぐはっ。」と床に顔がめり込む。

 

 「だ、だ、大丈夫ですか?」と猫嬢が慌てて駆け寄る。が、リックスはそのままの体勢でピクピクと痙攣していた。

 

 「だ~いじょうぶ。この男はこのぐらいでへこんだりしないから。」

 

 「お前のお陰で、床がへこんだがな。」と起き上がってリシェルをにらむ。それに負けじとリシェルも睨み返す。

 

 ふうっ。とため息をついてアルビナが苦言する。

 

 「二人共、そのくらいにしておかないか。オトモを紹介してもらおうじゃないか。その為に来たのだから。」

 

 そう言われて渋々、猫嬢の方へと向き直る。

 

 「で、オトモちゃん達を紹介してもらえますか?」

 

 「あ、はい。リストはこちらに。中々いいオトモちゃん達が名乗りを上げてくれてます。きっと皆さんと共に、仲間の敵を討ちたいんだと思います。」

 

 3人はリスト表を覗き込む。ランク開放には至っていないので、オトモも最高50LVまでとなってしまうが、40~50LVの間で、いろいろだった。

レペルやサポート等を確認しながら自分達に合いそうなオトモ達を選んでいく。

 

「あたしはこの2匹にしようかなぁ。」

 

とリシェルが選んだのは、アメショのピースト系オスと同じくアメショの回復系でメス、2匹とも47レベルだった。

 

「じゃあ、俺はこっちかな。」

 

 とリックスが選んだのは白の回復系オス49レベルと、白のマルチ系のメス45レベルであった。

 

 「「「「よろしくお願いしますニャ。」」」」と揃って挨拶する。

 

 「よろしくね~。」

 

 「こっちこそよろしくな。」

 

 「よし、そのまま装備も備えようか。」

 

 とオトモ武具屋へ移動し、4匹分の装備の品定めをして購入する。早速装備し、それぞれの雇い主の元へ。

 

 「仲間がいっぱいですニャ!」と皆の所へオトモのアルビナとロキがやってきた。

 

 オトモ達もお互いに名乗り合う。リシェルのオトモの名は、ビースト系がレギル、回復系がロアラ、リックスのオトモが回復系がマルクト、マルチ系がアマネラである。

 

 「みんな主人の為に協力してあげてください。よろしくです。」とアルビナが代表して挨拶する。

 

 「了解ですニャ。」

 

 「任せてくださいニャ。」

 

 「頑張りますニャ。」

 

 「お腹が減りましたニャ~。」

 

 レギルが床に座り込んでしまう。

 

 「クスクス、それじゃ、皆でご飯を食べようか。私がご馳走しよう。仲間となったお祝いだ。」

 

 「「「「やったニャ~~~」」」」

 

 と急ぎ足で猫飯屋に行ってしまう。3人も顔を見合わせてにっこりと笑う。

 

 「そんなに急がなくともご飯は逃げないよ。」と声を掛けながら、猫飯屋に移動するのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 甲板の方では、変化が起こり始めていた。見張りの一人がキャプテンに走り寄っていく。

 

 「キャプテン!大変です!あの空を見てください!!」

 

 と指をさされた前方の方を見る。真っ黒に分厚い雲が渦を巻いて徐々に大きくなっている。中心部は時折、稲光が発生している。

 

 「なんだあれは!?」

 

 「このまま前進するのは危険かと!!」

 

 「よし、リーダー達に連絡!非常警戒態勢をとり、注視しながら回避する!急げ!!」

 

 「アイサー!!」

 

 と、走って下の階へと降りていく。事態を聞いたアルビナ達も武具を装備し直し、甲板の方へ。

 

 「な、なんだありゃ!?」

 

 巨大な雲の渦は大きくなりつつも、更に移動をしながら船に向かってくる。ただ、アルビナだけは感づいたようだ。

 

 「ま、まさか…。」

 

 「アルビナ、まさかって??」

 

と応える間も与えてはくれない。

 

 「渦に囲まれるぞ!みんな何かに捕まれ!!」

 

 そう叫ぶのと同時に雲の渦が船ごと飲み込んでいく。辛うじて船から振り落とされはしなかったが、渦の中心にまで船を強制的に引っ張られる。キャプテンも船をずらして躱そうにも舵が固定されてしまい、回すことが出来ない!

 

 「舵が利かない!!」

 

 やがて、雲の一部を纏って巨大な何かが姿を現す。

 

 「やはり…。」アルビナは完全に何者か分かったようで、前に進んで剣を抜いて構える。

 

 その雲の一部がゆっくりと晴れていき、その姿が明らかになる。

 

 「アマツマ…ガツチ…。」

 

 古龍でも最強の部類に属するこの龍は上位ランクか、もしくはランク開放後のG級かで挑まないと、速攻で返り討ちに会い、離脱を余儀なくされる程の生物。全身に半透明のヒレを纏い、常に空中に浮いているので後ろ脚が退化している。前脚の部分も爪はなく、羽の代わりをしている様だった。常に嵐を纏い、厄災とまで言われている最強の一角が目の前に現れたのだった。

 2人はまだ挑んだことがなく、話には聞いているものの、実物を見るのは初めての事だった。

 

 「こいつが、アマツマガツチ…。」

 

 リックスとリシェルはその威圧感に気圧されそうになる。アマツマガツチは首を左右に振って咆哮を上げた。

 戦闘開始を高らかに宣言して向かってくる!

 

 「二人共!回避して攻撃だ!いくぞ!はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 2人に動きを促して、アルビナもアマツマガツチの下に潜り込み、太刀を振り下ろす。尻尾で横に振り払ってくる。同時に水弾が後ろの二人に飛んでいく。二人も左右に回避して、改めて剣を構える。いきなりの乱入で、しかも最強種に出会うとは運がいいのか悪いのか。しかし、悠長なことを思ってはいられない。強制的に戦う事になっているため、拒否することも出来ない。二人はお互いに顔を見合わせ、頷いた。そして戦っているアルビナに参戦するべくアマツマガツチに向かって行く。

 

 「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 二人の片手剣と双剣が古龍を攻撃していく。アルビナも二人が加わったことを確認すると、負けてはいられないとばかりに古龍に挑んでいく。オトモ達も甲板に出て相手の姿を見て驚愕する。

 

 「ニャ、ニャんでこいつがこんなとこにいるニャ!!」

 

 「分からニャいが、まずは、ご主人様をサポートするのが先ニャ!!」とアルビナとロキが走り出す。他の4匹も続けて走り出す。

 

 「ニ゛ャァゴォォォ!!」と早速アルビナが先陣切ってビースト状態になり、古龍に攻撃を仕掛ける。

 

 ロキはすぐさま主人の元に寄り、強化の術を。他のオトモ達もそれぞれの役割をこなしていく。更にもう一匹がビースト状態で攻撃に参加し、少なからず勝てるかもと言う甘い気持ちがよぎっていた。

 しかし、攻撃は休めることなく続けている。だが、そうした気持ちの甘さがハッキリと裏目に現れる。アマツマガツチが尻尾を縦に横にと振り回し、オトモ2匹が船の後方へ突き飛ばされる。

 

「アルビナ!レギル!」

 

「ギャフッ!」

 

2匹ともかなりのダメージだったようだ。ピースト状態が解けてしまった。

そして船ごとと思ったのだろう、一旦船の外側へ飛び出し、船の周りを旋回しだした。

しかし、こちらにも武器はある。

 

「左右は大砲で迎撃!。バリスタは前後方を死守!大竜巻を起こされる前に何としても止めるぞ!!」

 

 「「「「おぉ!!!」」」」

 

 クルー達は連携で、アマツマガツチに大砲やバリスタの砲撃をかける。しかし、相手も動きが早く、風を纏っているために、中々当たるに至らない。キャプテンもこのままでは…。と、もう一つの一撃に賭ける。

 

 「リックスさん!リシェルさん!左右のバリスタから捕縛弾で、正面に捕らえることができますか?」

 

 2人は何故、正面じゃないといけないのか分からなかった。

 

 「どうですか?お願いできますか?!!」

 

 2人とも考えている余裕がないと悟り、すぐに弾を用意する。

 

 「任せろ!!」

 

 「やってみる!!」それぞれバリスタに駆け寄り、弾を装填していく。

 

 「私もバリスタで応戦する!」アルビナも後方のバリスタで古龍を狙ってバリスタ弾で応戦する。

 

 キャプテンもリックスとリシェルがバリスタに向かったことを確認するとクルー達に号令を出す。

 

 「撃龍槍用意!!」

 

 「「「「「アイサー!!」」」」」

 

 クルー達が返事を返すと、すぐさま1Fの激龍槍の装填に入る。そして、正面の1F部分の外装が観音開きに開いていく。中には獲物を仕留めんとする撃龍槍の姿が…。

 リックス達も撃龍槍を使うことを理解すると、バリスタを固定し、アマツマガツチが来るタイミングを狙う為、照準を注視する。

 徐々に速度を上げて旋回を繰り返していく。そして次の旋回の瞬間を逃さずに掛け声を上げる。

 

 「今だ!!!」

 

 両サイドから放たれたバリスタの捕縛弾は見事!正面でアマツマガツチを捕らえる。

 捕縛が成功したのを見てキャプテンが叫ぶ!

 

 「撃龍槍は~!!」

 

 「行けま~す!!」

 

 「よ~し!撃て~~!!!」

 

 ギザギザに刃のついた、槍が螺旋状に回転しながらアマツマガツチに向かって射出され突撃する。振り払って躱そうとするアマツマガツチに命中した。

 

 「ギャアァァァァキ゜ィィィィィィィ………。」

 

 捕縛されていたロープも切れ、そのまま地上に向かって落下していく。

 

 リックスとリシェル、キャプテンが船から落下したアマツマガツチを見下ろす。アルビナはオトモ2匹の元へ走り寄り、秘薬を飲ませる。しばらくすると、秘薬の効果が現れて動けるようになる。

 アマツマガツチは雲を突き抜け、地上まで落下する。鈍く重い音と共にアマツマガツチが咆哮を上げる。

 それを聞いて、3人は笑みがこぼれる。

 

 「倒したか?」

 

「倒したんだよな?」

 

「流石にあれだけ喰らえば無事ではすむまい。」

 

3人が3人とも勝利したと思い込んでしまう。撃龍槍まで使用したのだ、無傷では済まないと思うのは当然であった。

 しかし、ただ一人、たった一人だけそう思っていない者が居た。何かの気配を感じたのだろう、走って三人の間に割って入り、睨みつけるように、地上の方を覗き込む。

 

 「まだだ。」

 

 「えっ、まだっ…て。」

 

 「そうだぜ!倒したんだぜ俺たち。」2人とも気を緩めてしまっている。

 

 「奴はまだいきている!」

 

 「な、なんだって!!」

 

 アルビナ以外の3人が驚く。それと同時に遥か地上より、古龍の咆哮が聞こえて来る。それを聞いて3人が絶句する。

 

 「でも、なんでアルビナだけが生きてるって分かったんだ?」

 

 「私は、ソロ時代に何度か戦ったことがある。上位種ではあったが…。」

 

 「じゃ、今のは。」

 

 「G級だ。」

 

 冷や汗をかくアルビナを尻目に、凄い勢いで上昇してくる生物がいた。

 

 「来るぞ!!キャプテン!撃龍槍の再準備を!!」

 

 と言い放って、再び剣を構える。

 

 「ちぃっ…。」

 

 「なんて奴だ!!」

 

 「くそっ!!総員!撃龍槍再装填!!」

 

 リックスとリシェルはアルビナと共に再び戦闘スタイルをとる。

 キャプテンも操舵の方へ駆け寄り、舵をとろうと試みる。物凄いスピードで雲を突き抜け上昇してくるアマツマガツチ…。船の前方に一気に現れる。

 その表情は完全に怒りモードへと変わっていた。アルビナ達を見るや否や雄たけびを上げて、アギトの中に何かを含む!

 

 「まずい!高水圧ブレスが来る!!二人共避けるんだ!!」

 

 そう言って、横に飛んで回避する。二人も慌てて横に逸れる。そのすぐ横を半透明の刃と化した高水圧ブレスが突き抜けていく…。キャプテンも回避するものの、船に損傷が…。

 

 「小型プロペラ2基被弾!!制御不能!!!」

 

 「しまった!!」

 

 「これでは撃龍槍が制御できん!!」

 

 「くっ。ならば全力で倒すまで!!」

 

 水弾を放ちながら3人に向かってくる!それぞれ違う方向から腹下へ潜り込み剣を振るう。だが、怒りモードで更に動きや強さが上がっているアマツマガツチにはひるむことは無かった。それどころか尻尾を更に振り回し、アルビナ、リックス、リシェルの順番に振り払う!剣で防御するも、それぞれ後方へ吹き飛ばされる!その時、リシェルが船外に出てしまった!!

 

 「り、リシェルゥゥゥゥゥゥ………!!」

 

 「アルビナ~!リックス~!!」

 

 リシェルが下へと落ちていく。二人も急いで駆け寄り、手を差し伸べるも到底届くものではなかった…。

 だが、次の瞬間二人は信じられないものを見る。大きな何かが船の下を通り過ぎると同時にリシェルの姿が消えたのだ。

 

 「なっ!」

 

 「なんだ、今のは!!」

 

 そう驚いてその姿を追おうとしてアマツマガツチの方に向き直る。更に信じられない光景を見ることになった。

斬ッ!!!

 

上空からジャンピングで何者かが剣を降り下ろし、甲板に着地する。その衝撃と切れ味に耐えきれず、古龍が倒れのたうち回る。

ゆっくりと立ち上がって、のたうち回る古龍を見据え、剣を構える。その姿はベルダー装備ではあったが、かなりボロボロで、所々肌が見えている。顔はターバンの布で口、鼻を覆っているので、目元しか分からない。しかし、風貌から女性ハンターとだけは分かった。ただ、その風貌とは違い異彩を放っていたのは剣である。

突然で申し訳ないですが、ダブルクロスの中で、アニマメモリアという太刀をご存じだろうか。知っておられる方も多いだろうが、凄く風化した太刀から派生し、オヴィリオンという太刀をレベル上げして、最高にしたもので、幅広の刀身に長刀で、鞘はなく、刀身に裂目があり、中は赤く光っているという、龍属性攻撃値が高いという特性を持った太刀ですが、彼女が今構えている太刀は、それなりに違っていた。

全体の形と龍属性攻撃値が高いのはほぼ同等、違うのは、刀身が真っ白で、逆に刃の部分は銀色に光り、一点の曇りなき切れ味を醸し出していて、紫ゲージのもう1つ上をいっている。更に刀身側には、見たことがない古代文字が彫り込まれ、握り側も全体的に白基調で、凄く綺麗で誰もが魅入られてしまいそうな程であった。

そのハンターのすぐ後ろにオトモが一匹降り立つ。こちらは、猛灼炎のブレイニャーを持ち、黒の長ラン学生服に背中に応援番長!と白糸で刺繍されていた。

 

「ザック!先ずは二人に例の薬を。」

 

「分かったニャす、任せるニャ。」

 

そう言って、アルビナの元に、ポーチから見たことがない色の薬を取り出す。

 

「す、すまない。あの御方は…。」

 

「先ずは、この薬を飲むニャ。話しはそれからニャ。」

 

と半ば強引に飲ませる。すると疲れが取れ、気力が戻り、更に練気力もMaxに、全身の硬化力も高まった。

 

「す、凄い。なんという薬だ!この薬は一体…。」

 

「名前はまだ無いニャ。しかし、一日一本限定ニャ。」

 

それを聞いて更に驚く。確かにいにしえの秘薬の上を行く薬など、いくらハンターでも多用するのはまずいと理解した。

薬が効いたことを確認するとすぐにリックスの元へ走って行く。同じ薬がまだ有るようだ。

やがて、のたうち回っていたアマツマガツチが身体を起こし、怒りの矛先を目の前で剣を構えているハンターに向けて咆哮をあげた。

そして、水圧ブレスが、至近距離で放たれる!

 

「あ!危な……!」

 

最後まで言い終わる前に、驚愕する!ハンターは回避するどころか剣で真正面から受けてたつ!高水圧ブレスが見事に左右真っ二つに裂けて、船外へ消えていった。自分のブレスを止められたことに、驚愕し、信じられぬと言わんばかりに、咆哮をあげる。

 

「すまないけど、アンタの属性狩らせて貰うよ。」

 

剣を片手で真横に構える。

 

「神羅…解放…。」

 

そう言いながら、左手の手のひらを刀身にあて、切っ先の方へなぞっていく。すると刀身に彫り込まれていた文字が赤く浮かび上がり、光を増していく。やがて赤いオーラが剣全体に、更には所有するハンター全身にも包まれていく。

 

アマツマガツチも、そのハンターに一泡吹かせるべく突進していく。ハンターもそのタイミングを逃さなかった!

 

「属性狩り!!」

 

そう叫んで、刃を右斜め上から左斜め下へ降り下ろす!見事に胴体を切りつけ、再度古龍がのたうち回ることとなった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 「ぐっ…。い、痛たたたた…。あ、あたいは一体…。」

 

 リシェルが目を覚ます。痛みをこらえながら起き上がって周りを見回して愕然とする。

 

 「え…え…え~~~~~~~~!!!」

 

 身体の痛みを忘れるほどに絶叫する。それもそのはず、古龍に助けられるとは1人と1匹以外は誰も想像がつかない事だった。

 

 「おい、動けるか?」

 

 突然の低い声に、素っ頓狂な声で返事をする。

 

 「はいっ!?!?!?」

 

 「驚かせて済まないが、動けるか?」

 

 といたって冷静に声を掛け直す。リシェルはようやくその古龍に話しかけられていることに気付く。

 

 「あ、あんた、人の言葉が喋れるの?」

 

 「我らぐらいになるとな。長生きするのも善し悪しだとも思うが…。」

 

 「凄いじゃん!!」

 

 と痛みはどこへやら…。

 

 「これから船の近くまで飛来する。飛び移ることはできるか?」

 

 「はっそうだ、そうだね。そうだった。」とリシェルは現実を取り戻す。アルビナやリックス、オトモ達の所へ戻らなければならない。

 

 「分かった、やってみる!」

 

 「ならば行くぞ!」

 

 古龍は急旋回しながら船後方の左側面へ飛来する。

 

 「なっなんてこった!!よりによって古龍2匹はないだろ!!」

 

 クシャルダオラが現れたことによって、リシェルが背に乗っていることに気付かない。

 

 「ばか!!リックス!ロープか何か無いの?」

 

 「なっえっな、なんでお前がそこにいるんだ!?」

 

 「リ、リシェル!?」アルビナも古龍の背に乗っているリシェルを見て驚く。

 

 「あ~もういい!飛び移るからそこどいて!」とジャンプモーションに移る。

 

 「わっちょっと待て!待ってって!うわっ!」

 

 リックスがリシェルの下敷きに…。またもや顔が床にめり込む。

 

 そんなことはお構いなしにリシェルは助けてくれた古龍に手を振る。

 

 「ありがとう!!」

 

 「後は彼女に任せる。」と前方にいるハンターを見る。3人とも前方にいる1人で信じられない強さを見せているハンターを見入る。

 

 「ではな。」とクシャルダオラは上昇して雲の渦の中に消えていった。

 

 「な、何。どうしたの?何が起こっているの?」

 

 と、その場から居なくなっていたリシェルが不思議そうな声を上げる。

 

 「分からない。ただ、味方であることだけは確かだ。」

 

 「そうニャ、助けに参戦したニャ。これを飲むニャ。」

 

 とリシェルに薬を渡す。

 

 「へ、あ、あんた誰?」

 

 「事が終わったら分かるニャ。まずは、これを飲むニャ。」半ば強引に飲ませる。それを見てアルビナも助言する。

 

 「強くなる薬だ。1日1回限定らしいが。」それを聞いてリシェルが飲み干す。すると、アルビナが言ったとおり気力も力も湧いてくる。

 

 「な、ナニコレ…。」

 

 「俺も凄いと思ってる。」リックスも回復力とパワーには驚いていた。

 

 「まあ見ててニャ。ずっとミラルーツとクシャルダオラを相手にしてきたご主人様にとって、アマツマガツチの攻撃には遅れは取らないニャ。」

 

 ハンターに付いてきた名も知らないオトモの話に驚愕し3人とも素っ頓狂な声を上げる。

 

 「「「ミラルーツとクシャルダオラだって!?!?!?!?」」」

 

 3人は前方のハンターをガン見する。そして警戒はするものの、その動きに見入っていた…。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 再び仁王立ちで剣を構えるハンターが居る。のたうち回っていたアマツマガツチが起き上がって目の前にいる余裕で身構えているハンターを見て、更に激しく咆哮を上げる。

 そして再度高水圧ブレスを放とうと、アギトの中に水圧をかけようとしたその時、何かの異変に気付く。

 首を振って再度水圧を溜めようとするも溜めることが出来ない。水弾に切り替えようとしても同じことだった。

 しかも竜巻を起こそうとしてもそれすら作らせてはくれない。特殊攻撃が出来なくなっていることに、いら立ちの咆哮を上げる。

 

 「ふっ。だから言ったでしょ。あんたの属性を狩るって。」マスクの上からでも分かるようなニヤリとした顔をする。

 

 アマツマガツチは特殊攻撃が封じられた事を悟ると、接近戦に変更するべく、咆哮を上げる。

 

 「ザック、いくよ!みんなも手伝って!!」ハンターは全員で接近戦へ参戦するように促す。

 

 「はいニャ!待ってたニャ!!」と真っ先に走り出す。

 

 「よ、よし。やるぞ、二人共!」とアルビナが続いて走り出す。

 

 「うん!」

 

 「分かった!」

 

 二人も後に続く。アマツマガツチもハンター達を薙ぎ払おうと突っ込んでくる。お互いに勝つために激しくぶつかり合う!しかし、3人が狩技を出したことでアマツマガツチの体力をそぎ落とし、何とか古龍を討伐に追い込むことが出来た。甲板の上に横たわる古龍を見て全員安堵の表情を浮かべるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます!!
 光栄の行ったり来たり。あ、行っちゃった!戻ってこ~い!…。
 失礼しました。大変遅くなりましたが、今年もよろしくお願いいたします。
 更新頑張ります!    では、次話にて。


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△△△危険の忍び寄るベルナ村と再会の続き△△△

 お待たせしました。お待たせ過ぎました、すいません…。
 やっと、更新出来ました。誤字脱字はご勘弁を。
 先ずは、拙い本編をご覧くださいましね。
 では、後ほどにて。


 「ほう。雲が晴れるな。」

 

 「ふ~ん。てことは、さっきの古龍は倒されたってことか。」

 

 「兄様、あの船…。」

 

 「見かけない船だな…。しかもかなり大きい…。」

 

 「どこかの軍船か?」

 

 「いや、国のマークや国旗が入っていない。」

 

 「じゃ、どこの船だ?」

 

 「ふむ、気になるな。調べる必要がありそうだな。」

 

 「なら、あの船を追う?」

 

 「いや、まずは、ベルナ村だ。奴らを探すのと情報を聞き出す。」

 

 「では、参りましょう、兄様。」

 

 「うむ。行こう。」

 

 古龍、アマツマガツチが一度落下してきた場所の付近の森の中を移動する者たちが居た。一瞬、古龍に見つかるのではと身構えたが、古龍はそれどころではなかったらしい。体勢を直して即座に上昇していったので、気付かれずに済んだ。

 

 その冒険者達は4人。しかし、冒険者ギルドから除名されている者達だ。明日美と呼ばれていた女性より、指令を受けて仲間を連れだって移動中であった。

 一人はキリュースという明日美という女性に付き従っている男で、エースXの装備で双剣・封龍剣を背中にそうびしている。

 一人はアルミダという女性剣士で龍歴士X装備の太刀・炎帝王刀を扱う。

 一人はゾリドという男性剣士で大柄な体格にガーディアンXの装備で大剣・斬首刀(金鶏)を振るう。

 一人はキリエナという女性剣士で荒鉤爪の装備でチャージアックス・カイゼルコマダントを振るうが、小柄であっても振り回すほどの力があり、キリュースの妹でもある。

彼等は目的地に着くまでは、人目につくわけにはいかなかった。

森の中を茂みをかき分けながら進んでいく。

やがて、少しく広い場所にでる。ベルナ村迄はもう少し先にある。なぜここだけ広がっているのか分からなかった。

「ギギィ…。」

 

頭上から奇怪な声がした。四人とも上を見上げると枝葉に囲まれていたため、巣を作られているとは気付かなかった。

 

 「ちっ!!散開!!」

 

 キリュースがそう叫ぶと4人とも一旦四方に散る。間髪入れずに、何かが逆さにぶら下がり、2本の大鎌の触手を同時に振るう。

 

 「こんの化け蜘蛛が!こんなところで狩しやがって。」

 

 「待って…。あたしに殺らせてよ。」

 

 大剣を構えようとしたゾリドを止めて、アルミダが太刀を構える。妖艶さを漂わせつつ、しかし異様な目付きで、ニヤリとモンスターを見る。炎帝王刀が赤いオーラを放ちながら、モンスターを見据える。地面に降り立った、モンスターはアルミダに目標を定め、触手に紫色の自ら出した液体を塗り付ける。

 

 「かかって来な、ネル・スキュラ。この剣の威力を味合わせてあげるよ。」

 

大きな触手に紫の液体をつけて両側から挟み込もうと左右に拡げながら徐々に近づいてくる。それに対し、太刀を構え、この太刀の属性を最大限に引き出す為に集中する。

射程内になったと判断し、左右から大きく振りかぶって目の前のハンターを挟み撃ちにしようと触手を繰り出してくる!挟まれそうになる次の瞬間、太刀のオーラが一気に触手をも包み込む。

 

 「裂破!!」

 

アルミダが叫んだ瞬間、左右から繰り出した触手がアルミダを挟む前にいきなり破裂する。

「ギ、ギャー!!!」

 

思い切り空ぶったのと、触手が潰された痛みで、モンスターが尻餅をついてしまう。

ネル・スキュラがもがいているのを見て、ニヤリと笑い、太刀をスキュラの頭部にめがけて降り下ろしていた。

太刀は頭部を見事に切り裂き、更に赤いオーラをネル・スキュラ全体に包み込む。

 

「爆砕!!!」

 

そう叫ぶと、赤いオーラごとネル・スキュラの体が爆発し、粉々に砕け散る。

 辺り一帯に肉片が散らばり、うめき声も発することも出来ずにその場にうずくまった。

 

 「ぺっぺっ…。おいおい、派手すぎだろうよ。肉片やら、血のりやらで全身が汚れちまったぞ。」

 肉片を払いながらゾリドがアルミダに責任を促す。

 

 「そうですわ。これじゃ村に入るのも容易ではなくなりますわ。どうしてくれるのです?」

 キリエナも汚れを落としながらアルミダに文句を言いだす。

 

 「ふん、いーじゃん。お陰で素材が採りやすくなったでしょ。」

 と話を逸らしにかかる。

 

 「兄様も何とか言ってください!」

 

 「ふむ、アルミダの事はいつもの事だからな。大目に見るとしよう。だが、行き過ぎるようなら制裁に入るからそのつもりでな。」

 

 「ほ~い。」

 

 そっけない態度で返事を返すアルミダ。そんなアルミダに怒りを抑えつつ、それ以上言っても無駄だと諦めて、村へ向かって歩き出すキリエナ。

 (たくっ!野蛮ですわ!なぜ兄様はこんな人をメンバーに入れたのかしら。)

 そんな疑問を抱きつつ、茂みの中をかき分けて進むのだった…。

 やがて4人は村の入り口にたどり着く。

 そしてキリュースが門番をしている者に話しかける。

 

 「突然で済まないが、入浴できる場を提供願えないだろうか。先ほど村近くの森林内でネルスキュラが巣を作っており、討伐したのだが、全員返り血を浴びてしまい、異臭が酷くてな。村長に挨拶をする前に頼みたいのだが。」

 

 「はい。では村長に確認してきますので少しお待ちください。」

 

 と門番は村の中央へ足早に消えていった。

 

 「そのまま侵入しちゃえば~。」

 

 アルミダがメンドくさそうにキリュースに話しかける。

 

 「そうはいかないですわ。村長に会うまでは自重していただきたいわ。」

 

 とキリエナが代弁するようにアルミダに自制を促す。

 

 「おう、そうだな。村長に会うまでは…。だろ?キリュース。」

 

 とゾリドもニヤニヤしながらも目は真剣だった。

 

 「そう言うことだ。」

 

 あくまで冷静な態度で答える。

 

 「ふう。それまでお預けかぁ。」とアルミダが両手を頭の後ろに組み空の方を見上げるが、残念そう…というよりは、もう少しだ…と期待感の方が勝っているらしく、目が血走っていた。

 門番が戻って来て、村長の伝言を伝える。

 

 「村長より、モンスターを討伐していただき感謝します。入浴場となるとユクモ村まで移動となりますが、貸家には浴室も完備されているのでそれでよければご案内をと申しておりましたが、いかがいたしましょうか?」

 

 「済まない、恩に着る。案内を頼めるか?」

 

 「はい、こちらです。どうぞ。」

 

 と門番が先頭に家の方へと歩いていく。4人は門番の後を追うように歩いて行った。

 やがて1件の建物の前に止まり、振り向いて4人に話しかける。

 

 「こちらでございます。明日村長がお礼を兼ねて挨拶に伺います。と申しておりました。」

 

 「了解した。お待ちしていると伝えてくれ。」

 

 「はい、では失礼します。」

 

 と門番はその場を立ち去って行った。扉を閉めると早速キリエナとアルミダが入浴していた。

 

 「俺たちは後だってよ。」

 

 残念そうにゾリドが椅子に座っていた。

 

 「フッ…ならば酒を飲みながら待つとするか。」

 

とカウンターの棚にある酒ビンの方を見る。貸家としては中々贅沢な設備がなされていた。

 

「おっ、うちの大将は話が分かるな。ガハハ、今用意するから待ってくれ。」

 

とゾリドは棚にあったボトルとジョッキ2ヶを用意する。

酒を注いだ2人は片手に持ち、

 

「明日の成功の為に。」

 

「乾杯。」

 

と一気に煽っていく。

2人は女性2人が入浴から上がって来るまで、明日の行動を確認しあいながら、酒を飲み交わした…。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

船の甲板上では、横たわっているアマツマガツチを尻目にアルビナの元に集まっていた。全員、ある者に注視する。太刀を背中に納め、アルビナの前まで歩いてきた。後ろにオトモと思われるアイルーが1匹ついていた。

 一応警戒してリックスとリシェルがアルビナの両サイドに立つ。反撃できるようにと注視していた。

 アルビナの前に来ると女性ハンターは暫く無言でアルビナを見つめ、急に眼に涙を潤ませた。さすがに3人とも予想外の出来事に動揺してしまう。

 しかし、その事でアルビナが全てを悟る。

 

 「ま…まさか…?」

 

 そう呟くと2人がアルビナの方を見る。

 

 「えっ………。」

 

 「アルビナ…どうした?」

 

 すると女性ハンターがアルビナに声を掛ける。

 

 「久しぶりだね…やっと逢えた…。」とマスクをとる。その顔を見たアルビナが堪えきれずに大粒の涙を流していた…。

 

 「お帰りなさい…沙耶様…。」

 

 「「ええっ!!!」」

 

 2人も驚いて女性ハンターを見る。

 

 「さ・さ・さ…沙耶!!」

 

 「お、お、おい!!幽霊じゃないだろうな!信じられん!!」

 

 沙耶も驚いた2人に涙を流しながらも笑って応える。

 

 「クスクス、幽霊じゃ後ろのモンスターは倒せないよ。リックスもリシェルも元気してた?」

 

 2人も沙耶と再会できた喜びで胸が一杯になっていた。

 

 「ばっかやろ!ったりまえじゃねえか!」リックスは鼻をこすりながら照れていた。

 

 「沙耶!!」ガバッとリシェルが沙耶に抱きつく。

 

 「わっ…ととと、リシェルったら。」

 

 リシェルは抱きついたまま、えぐっえぐっと泣いていた。

 

 「良くご無事で…しかも強くなられた。」と先ほどの戦いに感心していた。なぜなら、離れ離れになる前はど素人なハンターで、アルビナが剣術を指南しようとしていたからだ。

 

 「そうだね、死に物狂いで戦ってたからね。毎日、死を覚悟しながら生活していれば自然と力も付くよ。」

 

 「その姿を見れば分かります。かなり無理をされたようですね。」

 

 「でも、お陰で合格点を貰えたから、こうして逢いに来たんだけどね。」

 

 その答えにアルビナは疑問をぶつけていた。

 

 「え…、剣技を教えてくれた方が居たのですか?」

 

 アルビナがそう言うと2人も改めて沙耶の方を見る。

 

 「まあ、師匠と言えばそうなるかな?2匹いるけど。」

 

 と益々意味深な発言をする。3人は余計に興味が湧いて聞き返していた。

 

 「2匹って…。いったい誰なのですか?」

 

 そう聞かれた沙耶は渋々ながら決断して答える。

 

 「分かった。教えるよ。私の師匠はミラルーツとクシャルダオラだよ。」

 

 その2匹の古龍の名を聞いて3人どころかその場にいた全員が目が点になる。

 

 「「「「「「「「なっなにぃぃぃぃぃぃぃぃ………!!!」」」」」」」」

 

 「だから、さっきも言ったんだけどニャ…。」とザックがボソリと呟く。

 

 全員がわなわなカタカタと震えだす。誰も古龍が師匠であるとは想像すら出来ないでいた。しかも最強種といわれる龍が2匹も…。

 

 「そっそれは本当なのか!?」

 

 「信じられないよ、本当に本当なの!?!?」

 

 「本当に本当だよ。ま、あたしも最初は驚いたけどね。」とアルビナの方を見てウィンクして舌を出していた。

 

 アルビナも唖然としながらも驚きと笑いが込み上げてきた。

 

 「は、ははっ。なんてお人だ、私のマスターは。」

 

 「やっぱ只者じゃなかったね。」リシェルは沙耶から離れずに納得していた。

 

 「あっ。そうそう、さっきリシェルを助けたクシャルダオラがその1匹だよ。」

 

 驚いたリシェルが、ぶん回すほどの勢いで沙耶の方を振り向いた。

 

 「ええ!あの助けてくれた古龍様が!!」

 

 (作:いや、何か凄い捉え方をしているような気が…。)

 

 「そ、そうだね。彼の名はゼシム。ミラルーツのガルークに仕えている龍よ。私もあの時ゼシムに助けられたんだぁ。」

 

 「ゼシム様!!!」リシェルは目をキラキラと輝かせて嬉々としていて話をまともに聞いていない…。

 

 「そのガルーク殿達はどこにいらっしゃるのですか?出来ればお礼を兼ねてご挨拶に行きたいのですが…?」

 

 「え~と、いいけど此所から結構な距離があるけど、行ってみる?」

 

「はい、是非!」

 

だが、キャプテンが残念な報告をしてくる。

 

「待ってくれ。船が損傷し小型プロペラ2基が破損している。修理をしなければ、長距離の飛行は無理だ!」

 

 アルビナ・リシェル・リックスの3人は項垂れてしまった。確かに行きたい事は山々なのだが先ずは船を直す事が必然だった。今は辛うじて浮いている状態で、まともに移動できる状態ではなかった…。幸いケガ人はおらず、皆強力なモンスター相手に皆も奮闘していた。

 少し、切なく思った沙耶がある提案を促す。

 

 「じゃあさ、ゼシムに引いてもらって移動しようよ。このままじゃ修理もまともに出来ないだろうし。彼らの所なら安心して材料の調達や修理も出来るだろうし。」

 

 「えっ!!ゼシム様がいるの!?!?」とリシェルが狂喜する。

 

 (作:一体何に目覚めたんだ、この娘は…。)

 

 「し、しかしいいのですか?そのような事を頼んで。」

 

 アルビナも申し訳なさそうに沙耶に聞いてくる。

 

 「大丈夫だよ。あの場所ならモンスターや人も寄り付かないだろうし。」

 

 (作:いや、1匹だけ迷い込んできたような気が…。)

 

 ニコッと笑顔で応える沙耶にアルビナも納得して頼むことにする。安心して船を修理できる場所を提供してもらえることはありがたい事だった。モンスターや人的被害を受けるよりは効率がいいと思ったからだ。

 

 「分かりました、よろしくお願いします。大変助かります。」

 

 「じゃあ、太めのロープを2本船の船首部分に縛り付けて。それをゼシムに掴んでもらって引っ張るわ。船長!船のバランスと舵取りお願いします!」

 

 「了解した!!何人かのクルーは船首部分にロープを縛って固定しろ!後は注視しながら全員で船のバランスを取りながら進むぞ!!」

 

 「「「アイサー!!」」」

 

 すぐさま、クルー達は分担しながら作業を進めていく。ある者はロープを固定し、ある者は船の分解を抑えるため、応急に処置をする。ある者は何人かで地下の全員に緊急時に備えるように促す。キャプテンは操舵を掴み、進行準備を完了した。

 それを確認すると、沙耶が気球より遥か上に向かって叫ぶ!

 

 「ゼシム!お願い!!」

 

 一間置いて雲の中より羽を羽ばたかせながら降下してくる古龍がいた。

 

 「話は着いたのか?」

 

 いきなり喋ったので、沙耶とリシェル以外は驚いてクシャルダオラを見入ってしまう。

 

 「な、喋れるのか!?!?!?」

 

 「まぁね。このロープでお願い!!」と2本のロープを持ち上げてゼシムに渡す。ゼシムも両足でロープを掴むと船の前方に出る。

 

 「ゴメンね。後でお礼はするから。」

 

 「期待はしないでおく。」

 

 「ゼシム様!!」突然リシェルが声を掛けてきた。

 

 「先ほどの娘か。どうした?」

 

 「そうだね、どうしたの?」沙耶も突然の声掛けに驚いた。リシェルは少しモジモジしながら話をする。

 

 「そ、その…さ。出来たらでいいんだけど…、背中に乗せてもらえたら良いなって…。ダメかな??」

 

 沙耶とアルビナ達も驚いた。リシェルがそんなことを言うとは思ってもみなかった事だった。

 しかし、ゼシムはごく普通に背中に乗る事を許可した。

 

 「乗って行くか?」

 

 「えっ!いいの!!やった!!嬉しい!!ありがとう!!」とその場ではしゃぎまくる。

 

 (作:ムムム…。これは…。)

 

 「大丈夫なのリシェル!?」沙耶も心配そうに声を掛ける。

 

 「大丈夫!!さっきも乗せてもらったし、命の恩人にちゃんとお礼も言わなきゃだし。」

 

 「そっか、分かった。ゼシム!エスコートお願いね!!」

 

 「ちょっ!沙耶!!」とリシェルが顔を赤くしてうつむいてしまう。それを見てクスクスと笑っていた沙耶であった。

 

 「それじゃ、出発!!」沙耶がそう叫ぶとゼシムがゆっくりと前進を始める。リシェルもゼシムの事を心配しながら背中に乗っている。船も同時にゆっくりと進みだす。

 

 「各自、バランスに気を付けながら待機!!これより我らが船は修繕のため、古龍殿の住まいへと向かう!!」

 

 「「「「「「「「アイサー!!」」」」」」」」

 

 キャプテンもバランスを崩すまいと舵を取る。ゆっくりとではあるが、古龍に引かれ強い夕陽を浴びながらミラルーツの居るガルークの元へと向かうのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




毎度、読んで頂きありがとうございます。
 読んでくれるお人がいるからこそ、励みになっております。
 まだまだネタは尽きてません。どうしようもない亀更新ではありますが、どうぞお付き合いのほどをよろしくお願いします。
 ではまた次話にて、お会いしたく存じます。がんばります~~~!!


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★★★★★リニューアルで復活!★★★★★

今回は意外と自分でも早めの投稿にこぎ着けたことに、驚いております。ただただ至らない文章でありますゆえ、平にお付き合い頂きたく存じます。ので、ごゆるりと本編を御覧くださいませ。



「いや~。しかし、本当にいいのかい?コイツを作っても。」

 

とある船内の3階にある武具屋に、アルビナの姿があった。

 

「良いんです。おやじさん、お願いします。是非そうしたいんです。」

 

「分かった。あんたがそこまで言うなら作らせて貰うよ。だが、この防具の為に、アイツの素材がほとんど使われちまうが、あんたがそれでいいのなら、だが?」

 

「えぇ、構いません。あの方を苦労させてしまった分、私からのせめてもの償いです。これでも足りないぐらいかと思います。」

 

「そうか、本当はあんたが装備したかっただろうに。よし、あんたの依頼請け負った。素材とその分の費用は預かる。3日程で完成する。出来上がったら呼びに行くから、来てくれ。」

 

「了解しました。無理言ってすみません。感謝です。」

 

「いいってことよ、気持ちは分かるしな。じゃあ、工房に籠るからよ。よろしくな。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

武具屋の主人は手を挙げて奥へと消えていく。受け取った費用とあるモンスターの素材を一通り持って…。

 

アルビナは3人に内緒で来ていた。サプライズしようと、バレないように単独行動をしていた。本当は他の二人と一緒に沙耶の部屋を案内したかったが、後でもゆっくり話しは出来るとも思ったのだ。いいのか悪いのか、リシェルはクシャルダオラに夢中の様子だし、かろうじてリックスが沙耶を案内している。キャプテンがフォローしてくれているので、安心はしていた。

(守ると決めた私が逆に守られることになってしまった。それだけでも償うに値する。それに生きて戻って来てくれただけで満足だ!だから修復も不可能な位になった防具を一新して貰えたら、嬉しいことはない。)

そんなことを考えながら武具屋から離れた。

猫飯屋を通りかかると、沙耶のオトモのアイルーが、料理人のアイルーと話しに盛り上がっていた。

 

「あれ?君は沙耶さまの?」

 

「あ、アルビナさんでニャスね。先ほどは失礼しましたニャス。」

 

改まって、挨拶をしてきた。自由そうな感じだが、意外と律儀なところもあるのかと感心していた。

 

「でもニャんでご主人と一緒じゃニャいすか?」

 

「あ、あぁ。他に用事があってね。後でゆっくり話すことにしたのさ。」

 

「そうでニャしたか。あっしは飯屋を手伝おうと話したら、意外と自分が有名猫にニャってたらしいニャす。

ニャので、逆にアッシの方が料理の腕を振るうことにニャったス。

それで、料理談義に盛り上がっていたニャス。後で皆さんにも振る舞うので、待っててほしいニャス。」

 

と前足を上げて前に出してくる。アルビナも手を上げてはいタッチしていた。沙耶のオトモは又、料理の話の続きに勤しんだ。

アルビナは一度甲板まで出てきた。何故か外の空気を浴びたい気分だった。龍騎船は雲の上をクシャルダオラのゼシムに引かれ、ミラルーツの居る高山の山頂へと向かっていた。舵は交代で就ききりで、バランス取りをしている。今は夜だが、雲の上を航行しているので、月明かりが船全体や前方の古龍を照らしていた。よく見ると、古龍の背に人が乗っている。

 

「フフフ…、よほど助けられたのが、嬉しかった様だね。リシェルがあんなにご執心だとは。」

 

アルビナは背に乗っている人物が分かってそう呟いた。

その微笑ましい様子を横目に周りの景色を見ながら、もう1つの懸念を抱いていた…。

 

「沙耶さまが戻って来たのは、一安心ではあるが、アイツは一体何処に居るのだ?ほっとく訳にもいかないんだが…。」

月明かりを浴びながら、不安と心配と苛立ちで独り思い込むのだった…。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

旧砂漠のオアシスのあるエリアに食事!?をしに来ている、大型個体がいた。群青色の体躯に強靭な後ろ足に、二足歩行で最大の特徴は尻尾であり、青白く光るその尻尾は、簡単に岩を切り裂いてしまうであろう刃と化しており、不気味に切れ味さを醸し出していた。美味しそう!?にエサ!?肉!?を咀嚼していると、同じエリア内に現れた物!?がいた。

それは同じ二足歩行ではあるが、深緑色っぽい体躯に、やはりこの個体も強靭な後ろ足を持ち、違うのはゴツゴツとした厚みのある岩を噛み砕いてしまいそうな特徴的な顎であった。

ただ、この個体、通常見かける個体と違い、ひとまわり大きい体躯に、背中には大きな十字傷があった。

お互いに気付いて、顔を見合わせると、戦闘開始とばかりに双方勢いよく咆哮をあげる!

ディノバルドとイビルジョーの戦いが始まった。ギルドの探査気球も、それに気付いて注視していた。

お互いに突進を開始する!イビルジョーは頭を屈めて後ろ足で地面を蹴って体当たりを繰り出していく!しかし、ディノバルドはそれをかわして走り抜けながら唾液の様な炎の塊を三つ吐き出す!体当たりをかわされたイビルジョーも、その塊から離れる!少し間があってそれぞれ爆発した!両雄!?相手の強さを探ったようだった。そして今度はお互いゆっくりと前進する。今度は先に仕掛けたのはディノバルドの方で、身体をしならせ、反動を使って尻尾の刃を剣の様に繰り出してくる!イビルジョーも一度はかわせたものの、2連続、3連続はかわしきれず、傷を負っていた。が、傷を付けられた怒りで、咆哮をあげ、体躯が赤黒く変わると顔を斜め上から横に円を描くように赤い雷を纏った黒いブレスが放たれる!尻尾を戻し、してやったりと思ったディノバルドはかわしきれず、恐竜ブレスをまともに受けて、吹き飛ばされる!

 

「ゴガァァ!!」

 

さすがにダメージを食らい、起き上がれず暫くもがく!イビルジョーはその隙を逃さず、大ジャンプで倒れているディノバルドを後ろ足で押さえつけようとする!だが、ディノバルドも間一髪で起き上がり、イビルジョーから離れられた!何もない地面に勢いよく着地するイビルジョーであった。チィッ逃げられたか、と思ったどうかは別にして、そのまま攻撃に転じようとした瞬間!身体に焼け付くような激痛と共に吹き飛ばされることになった!こちらも怒ったディノバルドが、ゼロ射撃でフャイヤーボールブレスを放ってきたのだ!

 

「グアガァァ!!」

 

今度はイビルジョーが暫くもがくことになった。ディノバルドも隙を逃さず、尻尾をくわえ、身体をしならせ、反動を利用し、口から尻尾を解き放つ!身体を軸として尻尾の刃が真横に一回転して、イビルジョーに斬りかかる!これも間一髪で起き上がり、攻撃をかわしていた。攻防一体、互角の戦いと思われたこの戦いに、ある変化によって終息が訪れる。イビルジョーの身体に異変が起きる!身体の一部の赤黒が金黒に変わり、ノーモーションで直線状の金色の雷を纏った黒いブレスが放たれたのだ!この動作には反応出来ず、まともに直撃する!ディノバルドは暫くその場から動くことが出来なかった…。何故ならディノバルドの腹部から背中にかけて大きな穴を開けられていた!ディノバルドも何が起こったのか分からずに絶命する!イビルジョーは当然!と勝ち誇ったように無惨に肉塊となったディノバルドを咀嚼し、そのエリアから去っていった。そこで一気に戦闘が終息する!

 

「こ、こ、こ、こりゃ大変じゃわい!!」

 

探査気球から一部始終を見ていた観測団はその狂暴さに身震いしながらも、ギルド本部に伝書鳩を向かわせていた。そして、ギルドでも超特殊許可クエストの1つとして認定し、正式に討伐することとなった。但し、報酬は高額だが、受注条件は最低でもHR解放している者に限る。となった。このことが沙耶やアルビナ達に伝わるのは、もうしばらく後での事だった…。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

船では誰も知ることのない出来事から3日後、古龍の体調も鑑みて、その日その日で空中停泊し、休ませていた。連続でも飛べるが?とも言っていたがリシェルが余りに心配しているので、その方法にしたのだった。

アルビナは武具屋から呼び出しがあり、理由を言わずに沙耶を無理に連れだって来ていた。

 

「オヤジさん連れてきたよ!」

 

「ね、ねぇ、何なの?何であたしが?」

 

アルビナのことだし、嫌な予感はしなかったが、不安だけはあった。

(あたし、なんか悪いことしたかな?全然記憶ないんだけど?)

 

やがてオヤジさんが、カウンターに出てきた。

 

「おぅ!来てくれたか、待ってたぞ!じゃ、二人とも付いてきてくれ。」

 

オヤジさんが奥の工房に入って行く。二人もそれに習って工房に入っていった。

 

「実はアルビナさんから頼まれてな、あんたの為に作ったんだ、これだ!」

 

と、沙耶の前に出された物はフル装備の防具で、その形は知っていた。

 

「こ、これディノバルドの…へっ!まさか!」

 

「そうです。燼滅刃の防具です。」とアルビナが捕捉する。

 

「そうだ、あんたの為に自分用にと集めていた素材を全て使い、作って欲しいと俺に頼み込んできた。感謝しなよ!」

 

「そんな、アルビナ、何で…。」

 

申し訳なさそうにアルビナを見つめる。アルビナはニッコリ笑い、両手を肩にかけ、防具の方を向かせて、囁きかける。

 

「これは、無事に帰って来てくれた、私からのささやかなプレゼントです。この防具は沙耶さまに装備して欲しいのです。その姿を私も見たいと思います。」

 

「ア、アルビナ……。」

 

沙耶は声に詰まり涙が溢れる。沙耶は振り返ってアルビナを抱き締める。アルビナも涙しながら沙耶を抱き締めていた。

 

「じゃ、良いところ悪いが、サイズの調整をしたいんでな。その個室で装備してもらえるか。終わったら、こっちに出てきてくれ。」

 

オヤジさんに促されて個室に防具を持って入る。ガサゴソ、ガチャガチャと音がしていたが、コツッ…。と一歩踏み出して個室から出てきた。

 

「おぉぉぉ…。」

 

感嘆の息が漏れる。

 

「なんか、凄くピッタリで、調整要らないぐらいだよ。」とクルリと回って見せる。

 

「やはり沙耶さまで良かった。」アルビナも満足がいった。これならばちょっとやそっとじゃ、ダメージを受けないだろう。

 

「レベルもオールMAXだ!頼んだぜ。」と肩を叩いて、二人にそれぞれ握手していた。

 

「オヤジさんもありがとうございます。」

 

「いいってことよ。お陰でこっちも良いもん作らせてもらえたしな、がっはっは!」

 

二人は、そのまま甲板に上がってきた。丁度休憩時間だったようだ。ゼシムも休んでいた。リックスもリシェルと話していが、沙耶達に気付いた。沙耶の姿を見て驚愕する!

 

「え、ウソ、沙耶、それ、燼滅刃の?」

 

その問い掛けに嬉しそうに頷く。

 

「おいおいマジか、その装備は滅多に見れるもんじゃないぞ!」

 

「ほう。防具を新調したのだな。孫にも衣装という言葉を聞いたことがあるが、そういうことか?」

と、ゼシムが茶化しているのかいないのか、そう聞いてきたので、

 

「「違います」」

 

と二人で即答していた。この後々その防具でもって、仇を打ちに行く事になろうとは、この船にいる全員が知るよしもないことであった………。

 




読んで頂き、ありがとうございます。日々仕事をしながら妄想と手帳にペンを走らせておりまする。次話もまたお付き合いよろしくお願いいたします!
では!


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☆★☆★☆受け継ぐ力と新たなる力☆★☆★☆

遅くなってございました。何とか次話にこぎ着けました。表現下手ではございますが、どうぞ本編にお付き合いくださいまし。ではノチホド。



 「沙耶………。」

 

 テーブルに両肘をつき、手を組んで額につけているもう一人、いや、もうひと家族と言おう沙耶を心配する者たちがいた。

 

 「あなた………。」

 

 「僕もオンラインで仲間たちと連絡取り合っているけど、まだ誰も会ってないって。」

 

 沙耶の家族である。

 

 「姿が消えてしまってから1か月になるが、連絡もない…。というより連絡を取る方法すら分からない。どうしたものか…。」

 

 沙耶の弟がおもむろに3DSを出してきて、父にモンハンのクエスト欄を見せる。

 

 「だけど、一つだけ大変な奴が出てきたよ。」

 

 夫婦は息子を囲み、3DSを一緒に覗き込んだ。するとそこには、クエスト名”荒ぶる恐暴の帝王”変異種のイビルジョーの特殊討伐、受注条件:HR解放者LV40以上のみ。このクエストに限り、8名参戦を可能とする。

 と記されていた。

 

 「報酬額はかなり高額だけど、LV40以上ってことは相当の手練れじゃないと参加不可だよ。でもこのイビルジョーは、姉ちゃん達が戦ったモンスターだと思うけど。」

 

 父も生放送で見た、明日美が殺され、沙耶達が戦ったTレックスのようなモンスターを思い出していた。あの衝撃的映像は忘れようもないだろうが…。

 

 「アイツか。その参加条件はどうなんだ?お前も参加出来そうなのか?」

 

 「いや、まだだよ。少なくともあといくつかのクエストをクリアしないと条件には合わないよ。」

 

 と息子も歯噛みする。少しでも姉を手伝いたいと思っているらしい、悔しさが混じっていた。

集会酒場で、ランクを上げ、G級へ進み、★4の鍵になるクエストをクリアし、緊急クエストをクリアしなければならない。しかも解放されたとしても、レベルが40以上でなくてはならない。それだけのクエストをこなせるかどうか息子も不安ではあった。

 

 「しかし歯がゆいな。連絡が取れないというのは。」父は拳をゆっくりと握りしめていた。不安と何も出来ない、いやしてやれない苛立ちと心のやり場に困り果てていた。

 

 「何か方法は無いのかしら?いつまでも連絡が取れないと、モンスターが増えるばかりだわ。」

 

 と母が聞き捨てならない発言を。

 

 「そうだな、この前ほどの大きいモンスターは居ないにしろ、肉食系の小さいモンスターは全国各地に出没しだしたしな。一部の地域では学校関係もしばらく休校にしたらしいぞ。他は自衛隊も出動したとニュースでも流れてたしな。」

 

 「そうだね。大型のモンスターが現れる前に姉ちゃん達に連絡を取らないと…。」

 

 「頼むな。お前もそのクエストとやらをクリアしながら探してくれ。もしかしたらお前のキャラクターも駆り出されるかもしれないしな。済まないが頼むぞ。」

 

 父は息子にも優しくではあるが、意味深な話しかけをしていた。実際に現実となったもしもの為である。

 

 「わかってるよ。僕も仲間を作って狩りに出ているところだから。」

当然!と集会酒場で仲間を待つのだった。

 

「大きいのが出てくる前に何とかなってくれるといいのだが…。」

「そうね、そうしないと、次々犠牲者が出てくるわ。」

 

「そうだな。そうしないと、全国の人々が事件に巻き込まれてしまう。なんとしても止めたいところだが。まずは沙耶と連絡をとる方法を考えよう。」

 

二人は息子にモンハンのことを聞くことにした。まずゲームの内容を知ろう、そこから何かヒントがあればと思ったのだ。だが、その大型のモンスターが現れないうちに…、という思いは簡単に打ち砕かれることとなるのだった…。

 

「オギャア!オギャア!……。」

 

赤ん坊が、服の部分をくわえられアギトからぶらさがっている。

そこはとある公園で、他にも人々は来ていたが、小型の生物の出現で、公園から一斉に逃げ出していた。そのなかで、一組の母子が逃げ遅れてしまい、若い母親は、その生物に噛み殺され、目を開けて我が子を見据えたまま倒れて絶命していた…。

二足歩行の蜥蜴の様な生物は全体が緑色で顔と腹と足の部分は赤色な体躯をしており、ジャンプして体当たりしたりもする、身軽で狡猾な生物だった。群れで動いているようであり、やがて仲間であろう、同じ二足歩行の緑の体躯の生物が近寄ってきて、声を出して、会話をしているようだった。

赤ん坊は相変わらず、泣きじゃくっていて怖さのあまり、泣き止む事がなかった。2匹は赤ん坊をくわえたまま、その場から離れようとした。

 

「ギギャー!!!」

 

その公園の側にある民家の屋根上から奇声をあげてその生物めがけて飛んでくる物!?がいた。頭にトサカがあり、全体に深緑色な細マッチョな体躯で羽根は黄緑色で半透明の薄い膜のような細胞で覆われ、小さな雷がパリパリと音をたてながら羽根を走り回っていた。大型の飛竜種、である。モンハンの中では“ライゼクス”と呼ばれていた。

赤ん坊をくわえて離れようとしていた2匹は斜め上から生き物がと気付いた時には既に遅く、片方に1匹ずつ、赤ん坊ごと後ろ足の鋭い爪で鷲掴みにされてしまった。赤ん坊の泣き声がそこで途絶えてしまった。皮肉にも緑色の小型生物ごと鷲掴みした爪が突き刺さり、赤ん坊はそこで生き絶えていた…。そんな状態を全く気にする事もなく、獲物が2匹もゲットできた事に嬉々としている飛竜がいた。

 その竜は緑色のモンスター“マッカオ”を1匹捕食し、もう1匹を鷲掴みのまま、飛翔して、飛び去っていった…。その凄絶な光景を見ている筈のない、絶命した筈の母親が、目を見開いたまま、一筋の涙が溢れ落ちていた…………。

 

:::::::::::::::::::

 

龍騎船と呼ばれる戦闘型飛行船は、クシャルダオラにロープで引かれ、沙耶が世話になったミラルーツの元に向かっていた。

 

「あと、もう少しで頂上だ。」

 

クシャルダオラのゼシムもやっと辿り着くな、と内心安堵していた。

 

 「また、この場所へ来るニャンて。」

 

 素晴らしい料理の数々を船にいる全員に振る舞って、1匹では辛いものがあったので、コックやオトモ達に手伝ってもらい、一段落ついた所で休憩の為甲板の方へ上がってきたザックであった。

 3、4段の高さの雲を抜けただろうか…。遠目に頂上が見えてきた。

 

 「そんなに日数が経っていないのに、ガルークに会うのが楽しみ!」

 

 と沙耶もアルビナ・リックス・オトモ達と甲板に上がって来ていた。

 

 「久しぶりに感じますニャ。」

 

 と沙耶の傍にザックが寄ってきた。

 

 「そうだね、忘れられないよ…。」

 

 沙耶はザックに出会ったこと、ゼシム、ガルークと出会い毎日が命がけの特訓だったこと、愛刀を作ることが出来たこと、その事でオリジナルの狩技が発動したこと…。全部が意味があって、感謝だらけだった…。

 だが、その思い出を悲痛な現実を持って打ち砕かれることとなった…。

 少しずつ近づくにつれ、頂上付近が違う様子であることに気付き出す。それはゼシムも同じだった。

 只ならぬ雰囲気を感じた1人と1匹は全員に警鐘を促す!

 

 「みんな!ゴメン!!警戒態勢で待機して!!」

 

 そう言うと装備をしに部屋へ走る!全員がそう聞いて即座に反応する。

 

 「ガルーク様…。何もなければ良いが…。」

 

 ゼシムも掛けつきたいのを我慢しつつ船を引いていく。もし、敵がいるようであればブレスを放てるように準備していた。

 

 「ゼシム様…。」

 

 リシェルもゼシムの事を心配しつつ、背中に乗りながら双剣を構える。

ゼシムは協力してくれようとしているリシェルに声をかけた。

 

 「済まない…。援護を頼む。」

 

 「はいっ!!!」

 

 頼まれたのが嬉しかったらしく、勢いよく返事をして、気合を入れている。

 十数メートルまで近づいた時、目に映るのは凄惨な光景だった…。地表は焼け焦げ、木々や植物は焼け落ち、沙耶が頑張って作ったはずの家も破壊され、霊峰よりも悲惨な状態であった…。

 その端の方で自身の体液だらけで無残に横たわる白き古龍の姿があった。

 

 「ガルーク!!!」

 

 「ガルーク様!!!」

 

 船を地表に固定し、1人と1匹は急いで白龍の元に駆け寄る!

 

 「よし、全員で周りの消火作業だ!手の空いているクルーは何人かでグループを組んで、消火活動に当たれ!但し火傷やケガには気を付けろ!!」

 

 「「「「「おぉ!!!!」」」」」

 

 敵がいない事を確認するとすぐさまキャプテンがクルー達に激を飛ばす!!

 

 クルー達が火消し用の為の道具を持ち出し、船から降りていく。グループで消火しながら作業を始めた。

 

 「な、なんてことだ…。」

 

 「一体何があったって言うんだ。」

 

 その光景をアルビナとリックスは愕然としながらも、沙耶の後を追っていた。

 

 「ガルーク!起きて!!ねえっ!!…………。一体誰がこんなことを…。」

 

 沙耶は白龍の顔を撫でながら呟いていた。

 

 「ガルーク様…。申し訳ありませぬ…。」

 

 ゼシムも頭を垂れて平に誤っていた。リシェルが傍で心配そうに寄り添っていた。

 

 「ガルーク…。」

 

 そう呟きながら、沙耶が涙を流す。その雫がガルークの下顎に落ちた時、奇跡が動き出す!突然白龍の体が光り出す!沙耶も驚いて立ち上がる。

 その光景にゼシムや他の全員が注目していた。その光はゆっくりと消えていき、やがて収まる。すると、白龍の胸の辺りから、直径50センチ程の光球が出てきて浮かび上がる。そのまま沙耶の近くまで移動してきた。

 

 「沙耶や。」

 

 そう話しかけられて、目を見開いて驚く!その声はまさしく最強と謳われ龍達の祖と言われた白き古龍で沙耶とも一緒に過ごしたミラルーツの声であった…。

 

 「ガルーク!!」

 

 「ガ、ガルーク様!!」

 

 1人と1匹はその光球に注視する。

 

 「本当にガルークなの?」

 

 「そうじゃ。久しいの。この姿で会うのは忍びないが。」

 

 「ガルーク様、一体何があったのでございますか。貴方様を倒せる輩はそう簡単にはいないと思われますが?」

 

 ゼシムも信じられないでいた。余程の強さの者でない限り、倒されるとは思ってはいなかった。

 

 「ゼシムも済まんの。連絡を取る余裕も与えてくれんかった。」

 

 「一体、誰なのでございますか?その者は?」

 

 「うむ…。溶岩島に居るはずの紅龍ミラバルカンであるアラドルクじゃ。」

 

「な、なんと!アラドルク殿が!?」

 

ゼシムもそれを知って動揺していた。祖龍の次に位置する生物が、反逆に出るなど到底思えるべき事ではなかった。

「何故謀反など…。」

 

「姿は見ておらんが、人間の気配らしきものは2,3あった。何者かがそそのかしたのじゃろうな。」

 

 姿は確認することは出来なかったが、気配は感じていた。おそらく離反者等のグループが画策したものであろうとそこに居る誰もが思ったことだった。そして誰もが悔しがっていた。

 

 「話は変わるがの。」

 

 と白龍であった光球が話を切り替えてきた。

 

 「まあ、こうしてワシは魂球になってしまったでの。ワシの力を託したいと思うての。沙耶!ゼシム!良いか?」

 

 「えっ、あたし達に…。た、託すって…。」

 

 沙耶もゼシムも半信半疑で、何をするのか出来るのか、不安になっていた。

 

 「ふむ。2人にはその覚悟があるか?」

 

 ガルークは強い口調で問いかけてきた。1人と1匹は暫く考えていたが、先に決意し口にしたのは沙耶だった。

 

 「ガルークの力!受け取りたい!!」

 

 「私も同意見です!少しでも我が主が傍にいると思えるのならば!」

 

 その光球に向かって真剣な眼差しを向ける。

 

 「よし!よかろう!2人に力を託す!!先ずはゼシム。お主からじゃ!」

 

 光球はゼシムの前までゆっくりと移動する。

 

 「では始めるでの。」

 

 「はっ。」

 

 その返事と共に光球が更なる光を発して、一気にゼシムを包み込む!それがゼシムの胸の辺りに急速に集まる。

 直径30センチ程になった光の球はゆっくりと古龍の胸の中へと消えてゆく。

 シンッ!!!と一瞬静まったかと思うと、大声で急に苦しみだす。

 

 「グオオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 その場でひたすら苦しみに耐えるために必死に堪えている。

 

 「ガアアァァァァァァァァァ!!!」

 

 と翼を目一杯に広げ、顔を天に向けて咆哮を上げる!!

 その声は数十キロ先まで届きそうな程の声量であった。そしてクシャルダオラの体に異変が起こる。

 尻尾、後足、腹部、胸、両翼、首、頭へと徐々に金色に変化していく。更には尻尾、後・前脚、角、翼の端にクリスタルのコーティングがなされていく。

 苦しむ姿を心配で見ていたリシェルも、その姿に驚きと感動が入り混じっていた。

 

 「うそっ…ゼシム様…カッコイイ…。」

 

 益々、見惚れてしまっていた。(いいのか?ありなのか?それでいいのか!?!?)

 

 「終わったようじゃな。」

 

 ガルークが無事に力を与えられた事に安堵する。ゼシムは苦しみから解放され、自身の脚や翼を見て驚く。

 更に力も漲っているようであった。

 

 「ガルーク様…これは…。」

 

 「ゼシムよ。お主はワシのパワーを得て、進化したのじゃ。今日からお主は金塵龍ガルバダオラ・ゼシムじゃ!」

 

 「なっ。」本人も驚く。何せクシャルダオラとして生きて来ただけに進化するなど想像すらしていなかったことだった。

 

 「良いか、その力で沙耶達と共に戦い、守り抜いてやってくれ。これはワシからの最後の命令じゃ!」

 

 その言いようは白龍の時を思わせるに十分な威厳さがあった。

 

 「はっ!必ずやそのご命令果たして見せまする!!」

 

 「頼んじゃぞ。」

 

 ガルークはそう言うと、再度沙耶の所へとゆっくり移動してきた。

 沙耶も緊張していた。ゼシムですらあの苦しみようだった。自分はどうなってしまうのだろうかと。

 

 「沙耶や。」

 

 「はいっ!!」

 

 「覚悟は良いな…。」

 

 「は、はいっ!!」

 

 「ではゆくぞ!!」

 

 沙耶は目を閉じる。光球が更なる光で沙耶を包み込んでいく…。その光がゼシムの時と同じように集まっていき、直径7センチ程の光球になり、ゆっくりと沙耶の胸の中へと消えていく。

 ドクンッ!!!体の中から何かに貫かれたかのように痛みが広がり、激痛へと変化する。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛………!!!」

 

 その場にうずくまり、必死に自身で胸の真ん中を鷲掴みしながらもがいている。

 

 「さ!沙耶様!!」

 

 「寄るでない!!!お互いに大怪我では済まぬぞ!!!」

 

 ガルークの叫びにアルビナも足を止めてしまう。

 

 「し!しかし!!」

 

 とそれでも傍へ寄ろうとしたアルビナを片手を伸ばし掌で止める者がいた。

 

 「沙耶様…!?」

 

 沙耶は苦しみのあまり、喋ることは出来なかったがアルビナの動きを知ってそれを止めていた。それを見たアルビナも心配ではあるものの覚悟を決めて頷き返すとその場で沙耶を見守ることにした。

 依然苦しんでいる沙耶に異変が起きる!

 沙耶の全身が再度光だし、立ち上がって両手を真上にかざし、天を見上げたその時!両手の掌それぞれに稲妻が落ちる!閃光玉よりも激しく光り周り全体に広がっていき、誰もが目を閉じる!!!………。

 暫くの沈黙の後ガルークが口!?をひらく。

 

 「沙耶も無事に受け取ってくれたようじゃの。」

 

 沙耶も我に返り、自身の両手の掌を眺めていた。

 

 「沙耶様!!」

 

 「「沙耶!!」」

 

 「ご主人しゃま!!」

 

 アルビナ・リシェル・リックス・ザック・ロキ・アルビナと沙耶の元に駆け寄る。が、沙耶の掌を見て驚愕する。沙耶の掌でパリパリ・パキパキと小さな雷が右往左往して出たり入ったりしている。

 しかも、沙耶が左手の掌の上に雷を更に放出させると渦を巻きながら球体になり、稲妻を纏っていた。

 それをゆっくりと右側の方に見えた立ち木に放出する。稲妻を纏った球体は真っすぐに向かって行き、木に触れると同時に光を放って爆発し、跡形も無くなっていた。それを見ていた全員の目が点になっていた。

 

 「な、なんつう力だ!」

 

 「ちょっと凄すぎでしょ!」

 

 「沙耶様、体の方は大丈夫なんですか?」

 

 「うん、平気。でも力は湧いてくる感じ。」

 

 「ワシの属性を託したからの。稲妻や雷を纏える力を持ったということじゃ。但し、炎や龍属性の攻撃には弱いがな。じゃが、沙耶の装備ならそれを補えるじゃろうて。」

 

 と皆注目する。

 

 「あ、燼滅刃の…。」

 

 皆が属性耐性を考えて納得した。

 

「後は使いこなせるかは本人次第じゃ。」

 

 「うん、分かった。ありがとう。」

 

 「頼んじゃぞ。全員で奴らを止めてくれ。この世界とお前の世界が崩壊せぬうちに。」

 

 沙耶達はお互いに顔を見合わせる。

 

 「さて、そろそろ消えるとしようかの。時間も無いようじゃしの。」

 

 「え、一緒に居てくれるんじゃないの?」

 

 「そうしたいんじゃがな。迎えが来ておるでの。」

 

 「そ、そんな…。」

 

 沙耶の頬を涙が伝う。

 

 「沙耶や。お前にはいい思い出を貰った。いつか人間とモンスターの共存も出来るやもしれん。仲良くやっていけると言う事を教えてくれた。また来世で会いたいものじゃな。礼を言うぞ、ありがとうじゃ。」

 

 そう言うと光球は急上昇していく。沙耶も見上げながら思いっきり手を振った。

 

 「ありがとうね~~~~!!!」

 

 やがて光の点になり、見えなくなった。すると、魂の無くなった白龍の肉体が全体に光り出す。閃光玉のように

瞬間的に光って消えていく。目を開くとそこに、横たわっていた形をなぞるように白龍の全ての素材が一式置かれていた。

 

 「おお…。」

 

 「すげ…。」

 

 誰もがそのレアを含めた素材に感嘆を漏らす。

 沙耶はゆっくりとしかし一つずつ大事に拾ってゆく…。素材を集めていくうちにどんどん涙が溢れてくる。そして最後の素材を拾った時、涙が一気に零れ落ちる。

 

 「ゔあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 両膝をついて、素材を抱きしめたまま大号泣していた。誰もが分かっているだけに暫く声を掛ける事が出来なかった…。

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 ひとしきり泣き止んだ沙耶は、アルビナの所に戻ってきた。

 

 「武具屋のおやじさんを呼んでくれないかな?」

 

 思ってもみなかった言葉に一瞬戸惑ったアルビナだったが、直ぐに呼びに行った。暫くするとおやじさんを連れて戻って来るアルビナがいた。

 

 「よう、嬢ちゃん大丈夫か?お~お~、目を腫らせちまって顔がクシャクシャだぞ。」と頭を優しく撫でてきた。

 

 「おやじさんに頼みがあるの。」

 

「何だ、言ってみな。」

沙耶が抱え込んでいた物を差し出す。

 

「これで、アルビナにミラルーツの装備を一式お願いします。」

 

「ち、ちょっと待って下さい!いけません、沙耶さま。それは大切なもの。沙耶さまが装備するべきです!」

 

アルビナが慌てて遠慮しようとする。

 

「いいの!アルビナに着て欲しいの!あたしにはアルビナがくれた燼滅刃があるし、アルビナにもパワーアップして欲しいの。お願い!じゃないとあたしの気が収まらないよ!」

 

「沙耶さま………。」

 

沙耶の事を思うと、凄く胸が苦しくなった。やせ我慢をしているのではと。だが、切実に私に装備を作ってくれようとしている。その気持ちは無駄には出来ない。

 

 「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 

沙耶の顔に笑顔が溢れる。その会話を傍で見ていた武具屋からとんでもない発言が。

 

「気に入った!!俺はあんたの事が気に入ったぜ!よし!素材は確かに預かるぜ!今回代金は要らねぇ!足りない素材はこっちで用意する!レベルMAXで渡してやるから任せろ!嬢ちゃん名は!」

 

「沙耶です!」

 

「沙耶ちゃんか。いい名だ。2、3日待ってくれ。必ず、納得出来る物を作ってやる!待っててくれ。じゃあ籠るからな!」

 

そう言って急ぎ素材と共に船に戻って行った。

 

 「よ~し!各人、手の空いた者から船の修復作業に入るぞ!手分けして材料を集める者と修繕する者とグループに分かれて作業に入れ!!」

 

 「「「「「「「オオォ!!!」」」」」」」

 

 キャプテンの掛け声にクルー達も分担してテキパキと仕事を始める。

 

 「使える材料はふんだんに使って!!残っているかどうかもあるけど!」

 

 沙耶もこの場にある使えそうな材料の提供をOKする。

 

 「助かります!遠慮なく使わせてもらいますよ!!」

 

 とキャプテンも頷いて返事をする。

 

 「全ての事が終わったら、一緒にここへ来ませんか?」

 

 アルビナが沙耶に再来訪することを促す。

 

 「そうだね。皆で絶対に来よう!」

 

 2人は顔を見合わせて微笑んだ…。だが、時というのは強制的で、良くも悪くも待ってはくれない。余韻に浸る事すら許してはくれない…。

「た!大変です~~~~!!!」

 

 「「大変ニャ~~~~!!!」」

 

 ただ事ならぬ大声と共に、ココット村から志願してきた受付嬢とオトモのアルビナとロキが全速力で沙耶とアルビナの元へと走って来た。

 

 「な、何!?どうしたの?」

 

 「こ…これを…ハアハア…。」

 

 と1通の書類を見せる。

 

 「あ~…あのくそ先輩…やっぱりグーで一発殴っとくんだったハアハア…連絡寄越すの遅すぎ!!」

 

 「そうですニャ!ココット村に寄ったときは一緒にボコるニャ!!」

 

 「一体何!?」

 

 何がどうしたのか2人は把握できないでいる。

 

 「先ずは見て下さい。緊急のクエストとして提示されました。」

 

 「アイツが現れましたニャ!」

 

 「なにっ!!」「えっ!!」

 

 2人は急いで書類を開いて内容を覗き込む。そこには2人にとって因縁の“アイツ”の討伐が記されていた。

 突然、周りで作業していたクルー達の手が止まる。

 全員、2人を注目していた…。

 2人から凄まじい殺気が放たれ、その場所全体を圧倒的な殺意と威圧感で包み込んでいく。全員に死を覚悟させるほどだった…。ガルバダオラになったゼシムですら、畏怖したほどであった。

 

 「い、一体どうしたんだ2人とも!」

 

 リックスがやっとの思いで声を掛ける。すると2人は顔を上げ、お互いに見合わせて、ニ・ヤ・リ!!と笑った。

 その表情を見た者は身震いする。

 

 「やっと現れた…。」

 

 「はい、私も気にはしていましたが。」

 

 改めて2人はクエストを見る。

 

 「ま、まさか…前に話していた奴か?」

 

 と聞いてきたリックスに2人は頷き返す。

 

 「そうか、こいつが仇なのか。」と納得した。

 

 背中に十字傷を持つ恐暴竜イビルジョー、しかし以前よりも強くなっているようであった。

 

 「しかし、受注条件がHR開放でしかもLV40以上とは。」

 

アルビナも不安はあった。ランク解放されても、全員が40以上になれるかどうか。ましてや沙耶にいたっては、ランクが1のままなのだ。何とか頼み込んで、認定をもらうしかないと、考えていた。

 

「解放の認定は集会場のギルドマスターか集会酒場でしかありません。酒場の方は別件で移動中ですので、集会場の方しかないかと。」

 

受付嬢もランク解放認定の資格はないので、集会場でのクエスト受注を提案する。

「そうですね。船の修理が完了次第、戻りましょう。」

 

「うん、そうだね、分かった。受付嬢さん、ありがとうね。」

 

「い、いえ、私にはこれくらいの事しか。」

 

と礼を言われて照れてしまった。

 

「いや、そんなことないよ、これからもよろしく!」

 

と沙耶が受付嬢と握手をする。

 

「はい!此方こそお願いします!」

 

と嬉しそうに返事を返していた。

 

「じゃ、ザックにゴハン作って貰お。で、一緒に食べよ!」

 

とアルビナと受付嬢の手をとって、船に向かって歩き出す。

 

「え、い、いえ私は…。」

 

さすがにとんでもないと、受付嬢が遠慮する。

 

「いいの!一緒に食べたいの!良いでしょう!?」

 

(だだっ子になっちゃった…。)

 

「いいんですか、私が一緒になんて?」

 

「クスクス…、私からもお願いしたいがどうかな?」

 

と楽しそうに沙耶をフォローする。受付嬢も嬉しそうに頷く。

 

「はい!喜んで!」

 

3人はあらためて船に向かって歩き出す。

 

「ザック~!おなかすいた~!ご馳走作って~!」

 

「任せるでニャス~!!」

 

と即答で返事が返ってくる。

次の戦いのため、仇を討つために、暫しの団らんを楽しむ沙耶とアルビナだった…。

 

 




読んで頂けて大変光栄でございます!ありがとうございます!
次話も早速執筆しだした次第です。頑張りますので、次話も是非お付き合いください!
では、次話にて。


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***1匹のオトモとHR の解放!①***

皆様、お久しゅう御座いますうぅゥ!やっと投稿にこぎ着けた次第。何故か平成最後とちゃっかりと。狙った訳でもなく、申し訳ありませぬ。ささ、先ずは本編をお読みくださいまし。それでは後程にて。



船の修繕も終わり、集会場へ戻るため、動き出していた。このまままっすぐに向かえば、1週間程で着くだろうとのことだった。

今回はガルバダオラに進化したゼシムも甲板に待機していた。言うまでもなく、リシェルが傍で付き添っている。(あ、言っちゃった☆)

先ずは、打倒!十字傷イビルジョーの為、4人のハンターランクも解放させたいとの思いで一時戻ることにした。

 真っ赤に染め上げる巨大な夕陽を背にしながら集会所へ向けて進んで行く。クルー達も交代で作業しながら船を動かしていくのだった。

 

 「戻ったら、ギルドにHRの件を掛け合ってみますが。何とか沙耶様のHRをG級、もしくは上位でも良いので、認めてもらえるように嘆願してみます。」

 

 アルビナと沙耶は沙耶の部屋で、沙耶はジュース、アルビナはビールを飲みながら会話をしていた。

 

 「いや、別に☆の順番でもいいけど。」

 

 「何を言いますか!沙耶様の実力ならばきっと認めてもらえます。4人で一気にランク開放へ頑張りましょう!!」

 

 アルビナの熱のこもった、言いように沙耶も驚く。

 

 「アルビナが珍しいね。そんなに気合が入っているなんて。」

 

 「当然です!早くHR解放させて、奴を打たねば先を越されます。私達の目的の1つなのですから。」

 

 「そうだね。あたしも逃したくはないからね。でも認めてもらえるの?」

 

 「まだ分かりません…。ですが事情を話して、納得させるしかないかと思います。」

 

 「分かった。一緒に頼んでみようか。ダメもとで。」

 

 「はい!そうしましょう!絶対に認めさせてやりますよ!」

 

 アルビナは既にハンターランクを上げられる気でいる。

 

 「先ずはアルビナの防具を揃えなきゃ。凄く楽しみなんだけど☆」

 

 「はい☆私もです☆待ち遠しくてなりませんよ☆」

 

 「でさ、あれは、こうしてここはさ……。」

 

 と二人は楽しそうに話に吸い込まれていくのだった…。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 「ほう!面白そうなクエストだな。しかし、強いと言っても8人参加を認めるってのは、行き過ぎじゃねえのか?」

 

 1人のハンターがクエストの依頼書を覗きながら受付嬢に疑問をぶつけていた。確かに基本、4人行動ではある。

 

 「はい、このクエストだけは超が付く特殊クエストの一つ上と認識されているようです。それだけかなり危険な個体とのことですよ。」

 

 「そこまでの強烈な奴なのに二つ名以上の名が付かないなんて、不思議でしょうがねえ。どんだけの強さだってんだそいつは。」

 

 「う~ん、私もそこまでは…。後は、直接確かめるしか…。」

 

 受付嬢も困惑顔になる。確かにクエスト依頼書だけではモンスターのデータなど分かろうはずもない。

 そこはハンターも理解して、クエストを受注する。

 

 「じゃ、このクエスト行くから頼むわ。」

 

 「へっ。」

 

 あんまり、軽い感じで受注したので受付嬢の目が点になってしまった。

 

 「だから、このクエスト受注するから、早くしてくれないか。」

 

呆気にとられた受付嬢に催促を促し、受付嬢も慌ててクエストの書類にサインを取ると、ハンターにOKサインを出す。すると、そのハンターは早速仲間の所へと戻って行く。

 受付嬢も見た目の様相から手練れてそうだとは思ったが、自信ありげな後ろ姿に、

 

 「どっからあの自信が生まれてくるの!?」と小さく呟いていた。

 

 そのハンターは剣先が分かれて納刀される雷攻撃属性を持つ、王牙大剣(黒雷)LV6で、防具は、胸の部分に魔王のような顔の装飾が施された骸装甲・真の防具一式を装備していた。

受注の条件はクリアしており、HR解放、LV52であったので、強さは中々のものと思われた。

 仲間の3人も武器は違えど防具一式とブレイブスタイルはお揃いという団結感ありそうなチームだった。ちなみに1人は、リオレイアや金竜の素材から作られる太刀、毒属性を持つ、飛竜刀(葵)を持つLV48の女性ハンター、ネージュ。

 もう一人はネセト(アトラル・カ)の素材より作られる太刀、真名メルセゲルLV3を持つLV50の男性ハンター、アルマンド。もう一人は同じくネセトの素材から作られるハンマー、真名バアラトゲバルLV3を持つLV51の男性ハンター、ガハマである。そして、大剣を持つリーダー格の男性ハンターはラジックと名乗っていた。

 ちなみに骸装甲の女性用は胸に顔の装飾はされてはいない。

 

 「よう、リーダー。決まったか?」

 

 ハンマーを所有するガハマが、戻ってきたラジックに待ちきれずに声を掛けていた。

 

 「あぁ。例の話題に上がっているイビルジョーのクエストにした。」

 

 「おぉ。マジか!」

 

 「だが、かなり手強いと聞いているが、大丈夫なのか?」

 

 ネセトの太刀を所有するアルマンドが、心配そうに疑問をぶつけていた。

 

 「いいんじゃない。あたしたちの強さを見せてやろうよ。そんな奴、あたしらならすぐに蹴散らせるさ。」

 

 飛竜刀を所持するネージュがラジックの腕を組んで、クエスト参加を促す。

 

 「ネージュの言うとうりだ。ここは俺たちの出番だと思うが、どうだ2人とも。」

 

 「俺は異論はないぞ。」とガハマ。

 

 「ふむ。そう思うところは俺も同じだ。」とアルマンドも頷く。

 

 「なら、決まりだな!準備出来次第、出発するぞ。今は旧砂漠に出没してるらしい。」

 

 そう言うとすぐさま4人は自宅の方へと装備を整える為に向かった。彼らは甘く見すぎていた。実物が規格外に強くなっている事には、その時誰も考えていなかった…。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 準備を整えた4人は旧砂漠のキャンプ地へと向かった。クーラードリンクは勿論の事、回復系、スタミナ系、罠や強化系のアイテムを持てるだけ所持し、キャンプ地に到着する。

 するといきなり、出発口から青ざめた様相で四つん這いになりながらも慌てふためいて戻って来たハンター達が飛び込んできた。

 

 「た、た、た、助けてくれ!!!こ、殺される!!!た、頼む!!!」

 

 最初に入って来た、ハンターが必死の形相でラジックに掴みかかる。

 

 「何だ!一体、何がどうした!」

 

 逆に怯えたハンターを掴み、顔を上げさせると事の次第を問いただした。

 

 「や、奴が現れたんだ!!それで俺たちが狙っていた、セルレギオスを横取りしたどころか、俺たちにも牙を向けてきやがった!!」

 

 「奴とは誰だ!」

 

 そう聞かれて、更に青ざめてビクビクと震えだす。

 

 「…背中に十字傷を持つ…イビルジョーだ…。」

 

 「何!!で、戻って来たのはお前たち3人だけか?」

 

 すると、一緒に戻って来た女性ハンターが嗚咽を漏らす。

 

 「か…彼が………うぅぅぅ…。」

 

 とそのまま下を向いて泣き出してしまった。 もう1人のハンターも地面に拳を叩きつけて、歯噛みする。

 

 「くそっ!!なんであいつが犠牲にならなきゃいけなかった!!何なんだあの化物は!チクショウ!!!」

 

 「アイツは規格外だ…、倒せる者がいるのか…。」

 

 青ざめた顔で下を向いたまま、その場に座り込んでしまう。

 

 「そのハンターはどうなったんだ?」

 

 ラジックは情報を聞き出そうとハンター達に問う。

 女性のハンターは更に泣き出し、もう一人も拳を強く握ったまま泣いていた。

 

 「そのハンターは彼女の恋人だった。イビルジョーはセルレギオスの身体に風穴を開けて絶命させ、あろうことか即座にこっちに向かってジャンピングしてきたんだ。皆回避したが1人間に合わなかった…。それが彼女の恋人だった…。俺たちはイビルジョーを退けようと必死に攻撃したんだ。だが奴はあの巨体で彼を抑えつけたまま、尻尾を振り回し、ブレスを吐いて、俺たちを吹き飛ばしたんだ。その間にも彼はもがいて逃れようとするが、足の爪が更に食い込み、瀕死に陥っていた…。助からないと思ったのだろう。俺たちに向かって逃げろと言ってきた。」

 

 「逃げろ!!逃げるんだ!!生きて帰って、このモンスターの事をギルドやハンターに詳しく伝えるんだ!!急げ~~~~!!!ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ……………………。必死に話していたハンターも涙を流していた…。

 

 「俺たちは必至で逃げて逃げまくった。2のエリアから振り向かずに走った!エリア1でもアイツが追いかけてきたのが分かった!3人とも全速力で走って逃げて来たんだ!キャンプ地に飛び込む前に奴を見た時、奴の牙に防具の破片が引っかかっていたのを見た………。」

 

 「いや~~~~~~~!!!!!」

 

 女性のハンターはそれを聞いて泣き叫んでいた…。彼女にとって一番聞きたくない事だっただろう。急にナイフを取り出し自分の喉元に突きつける!それを見たもう一人のハンターが叫ぶ!

 

 「よせ!!やめるんだ!!」

 

 が、次の瞬間女性ハンターのナイフの刃先を掴む者が。女性ハンターも驚いて顔を見た。骸装甲と王牙大剣を装備したラジックであった。

 

 「柄じゃねえが、敵を取ってやる!たまたま、そいつの討伐クエストを受注して来てな。どのみち倒さなきゃならねぇ。ぎゃふんと言わせてやるさ、なあ!」

 

 「おおよ!そんな奴ぶっ倒してくれるわ。」

 

 「任せて。この刀の餌食にしてあげるわ。」

 

 それを聞いて、女性ハンターも納得したのかナイフを放した。ラジックはそのナイフを捨てて、大剣を構える。

 

 「ま、見てな。軽く捻って来てやるよ。よし行くか!」

 

 大剣を背中に戻し、出口に歩き出す。続くように他の3人も歩き出す。その後姿に手を組んで祈るように目を閉じる女性ハンターがいた…。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 4人は警戒しつつ、歩を進める。クーラードリンクは勿論飲んでいる。その他の薬等も飲み、すぐにでも戦闘できる体制を整えていた。当然の事ではある。しかし、エリア1まで来たと言っていたのだが、姿はない。4人は無言で頷いてエリア2へ向かった。かなりの広さがある砂漠エリアで、洞窟も2か所あり、泉もある。中央には円柱型の岩が反り立っていた。その向こう側で、巨大な生物がその足元にある死骸を捕食していた。背中に十字傷を持つイビルジョー、足元はハンター達が話していたセルレギオスであった。

 

 「いた。アイツだ。何なんだ、かなりでかいぞ!」

 

 通常に見るイビルジョーの体躯の有に3周り以上の大きさであった。

イビルジョーは気付いたようで首だけ振り向き、ラジック達がいることを確認すると、そのまま身体を反転させ、咆哮を上げる!そしていきなり直線上の金色の雷を纏った恐竜ブレスを放ってきた!

 

「ちぃっ!散開だ!!」

 

間一髪のところを避ける!そのすぐそばをブレスが突き抜けていった…。ハンター達もすぐさま戦闘モードに入るが、イビルジョーの居る方向を見て驚愕する。中央の円柱型の岩の真ん中に巨大な穴が空いている!その穴を通して、イビルジョーがラジック達を見つめていた。ラジックも標的になったことを悟り、ぐびりと喉を鳴らし、冷や汗が流れ落ちた。次の瞬間更に驚くことになった。その見ていたイビルジョーが、奥歯をちらりと出しニヤリと笑って見せたのだ!

 (なっ…、笑っただと!?)信じられないと思ったが、考える余裕を持たせてはくれなかった。

 いきなり咆哮を上げてジャンピングした!端から端までの距離を届くはずもないと、たかをくくっていた。反撃するべく武器を構えようとする。しかし巨体のイビルジョーは、中央の円柱の岩の上を踏み台にして更にジャンプしてラジック達の方へ向かってくる!!

 

 「気をつけろ!!納刀キャンセルで躱すんだ!!!」

 

 4人はすぐに納刀キャンセルの体勢に入る!

 

 ズズン!!!4人の目の前に着地する!あまりのパワーと重量でイビルジョーを中心にクレーターが出来る!!同時に砂の波状攻撃を食らうことになる。何とか納刀キャンセルで、その攻撃を躱すが、4人ともその動きと巨体の大きさに改めて愕然とした!

 

 「な、なんなのさコイツ…。嘘でしょ…。」

 

 「ここまでなんて、聞いてないぞ!」

 

 「確かに規格外だな…。」

 

 「だが、やるしかないようだ。が、倒せないと分かったら撤退するぞ、いいな!!」

 

 「「「おう!」」」

 

 大剣のラジックは正面から。ネセトハンマーのガハマは左側から。飛竜刀のネージュは右側から。ネセト太刀のアルマンドは尻尾の方をそれぞれ攻撃に移った。イビルジョーも攻撃に移る。頭を下げて体をかがめたまま、後足を踏み込んで一気に突進する!ラジックは大剣を構えて受け止めようとした。が、そのパワーは桁違いだと思い知らされる。受けはしたが、止める事が出来ずに後方に吹き飛ばされる!!

 

 「グオオォォォォォ!!!」

 

 「ラジック~~~!!」

 

 かなりの勢いで転がり落ちる。ネージュはすぐにラジックの元に走り出す!それを阻むかのようにイビルジョーも、ネージュに向かって走り出す!しかし横からイビルの顔面にヒットさせるハンマー使いのガハマがいた!

 

「ゴァガァ……!!!」

 

さすがに効いたのか、筋肉質の巨体を誇ろうと、激痛にひっくり返っていた。再度立ち上がろうと必至にもがいている。

 

「おぉっし!今だ!」

 

とガハマの掛け声と共にアルマンドが狩り技を発動する!

 

「桜花気刃斬!!」

 

練気を太刀に集めて、居合い抜きで2回転しながら横に凪ぎ払う技だ!通常であればかなりダメージを与えられる技だが、効き目はいまいちのようだった。

 

「クソッ!どれだけ硬いんだこの皮膚!」

 

すぐに切れ味が落ち、砥石を使う事に苛立っていた。

秘薬を使い、何とか回復してラジック達も再戦する。

 

「おぉぉぉ…………。」

 

王牙剣を振り上げて後ろまで持って構える。そのまま力を溜める。1段階…2段階…3段階…

 

「おぉりゃぁ!!!」

 

身体全体をバネにして大剣を目の前の生物に向けて勢いよく降り下ろす!雷属性がプラスされてイビルジョーの後ろ足に一撃が入る!

 

「ゴァァァ!!!」

 

これにはさすがに効いたようだ。再度もがく事に。

 

「アタシも便乗させてもらうよ!」

 

ネージュもチャンスとばかり、狩り技を放つ!

 

「練気解放円月斬り!!」

 

しかし、アルマンドに同じく、効き目はいまいちとなり、毒属性の分が少しく良かったものの、切れ味が落ちて砥石を使う羽目になるのだった。

 

「皆で袋叩きにするぞ!!」

 

「「「了解!!!」」」

 

もがくイビルジョーに、容赦なく攻撃を加える。(早く倒れろ!!)と祈りを込めながら…。だがその祈りも虚しく、イビルジョーの体力勝ちになった。起き上がったイビルジョーは、周りにいる4人を尻尾を振り回し払い除ける!そして、周りに赤い雷を纏った恐竜ブレスを撒き散らし、さらに金色の雷を纏った、直線系の恐竜ブレスを放つ!

 

「ゴォウルァァァァ!!!」

 

全員赤い雷の恐竜ブレスはかわせたものの、直線系のブレスには、反応が遅れ、ダメージを受けたものがいた!

 

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 

「ガハマ~~~~~!!!」

 

直線系の恐竜ブレスは、ハンマー使いのガハマの方向に向けて放たれていた!気付くのが遅れ、かわしきれず、ハンマーと右腕が削り取られていた!肩から大量の血を流し、その場に崩れ落ちる。

3人は血相を変えて、ガハマの方へ走り出す!しかしそれを狙うイビルジョーが…。

 

「クソッ!これでもくらぇ!!」

 

アルマンドが持っていた閃光玉を投げつける!眩い光と共に、一時的だがイビルジョーの目眩ましに成功する!

 

「今だ!あの洞窟に!!」

 

アルマンドがそう叫ぶと、ガハマを背負い、奥側の洞窟へ逃げ込む!取り敢えず、ガハマを寝かせ、出血を止めるため、応急措置を施す。ちょうど水も湧いていてタオルを濡らすのにも重宝だった。古の秘薬を飲ませるものの、右腕とハンマーを失った代償は大きい。

 

「何でこんなことになった、もっと簡単に倒して帰るんじゃなかったのか………。」

 

ラジックは自問自答していた、想定外いや規格外の生物ということを思いしる事になった。しかし今はそれどころではない。仲間の事もあるし、撤退するしかないが、ここから出ればイビルジョーが待ち構えているのは目に見えていた。

 

「くっそ!あの暴飲暴食野郎が!」

 

やりきれなさで、拳を壁に叩きつけていた。

 

「で、どうする?撤退するにしても、戻り玉もなければ、ネコタクもアイツが居る所まで来ることは出来ないだろう。」

 

 「確かにまずい状況だな。アイツが隣のエリアに移動するのを待っては居られないしな。」

 

 「そうね、早めに戻って治療院で治療しなければ命にも関わるわ。」

 

 「済まん…グッ。」当人も気落ちしていた。油断があったと自身を責めていた。

 

 「いや、ガハマの責じゃない。なめてかかっていたのは、俺の方だ。軽く捻ってくると豪語したのが恥ずかしいほどだ。だから、何としても4人で戻るぞ!絶対に生きて帰り、必ず再戦して討伐してやる!このままでは済まさん!!」

 4人は顔を見合わせて頷く。お互いに生きて戻ることを決意していた。

 後は奴の動きだが…。とラジックとアルマンドが洞窟入り口傍からエリア2を覗いてみる。

 奴…はまだいた。食事途中だったのだろう。近いがセルレギオスの死骸の捕食を続けていた。ある意味チャンスではあった。2人は顔を見合わせて頷く。

 

 「よし、奴は今食事中だ。移動するなら今しかない。行くぞ!」

 

 アルマンドとネージュがガハマを背負い、サポートし、ラジックが守りに入る。静かに、しかし全力で走り出す。イビルジョーはまだ気づいてはいなかった。エリア1に向かって、力の限り走る!!もう少しでエリア1に…と言うところでイビルジョーのお食事会が終わる。そこで気づいたらしく、振り向いてラジック達を見つけた。

 

 「走れ~~~!!エリア1へ急ぐんだ!!」

 

 「ガルァァァァ!!!」

 

 イビルジョーの咆哮が響き渡る!次の瞬間、直線系のブレスを放ってきた!

 

 「マズイ!!みんな伏せろ~~~!!」

 

 ラジックがそう叫ぶと3人も慌ててしゃがみ、その場に伏せる!ラジックは跳ね返そうと大剣を構えようとしたが、ブレスの方が勿論早い!

 

 「おわっ!!」反射的に仰け反ってしまう。が大剣の半分がブレスによって削り取られた。

 

 3人の上をブレスが通過していく!イビルジョーはすぐさま4人に向かって走り出す!

 

 「来るぞ!急げ!急ぐんだ!!」

 

 今度はラジックも加わり、3人でガハマをサポートしながら走り出した。

エリア1に入っても、全速力でキャンプ地まで走っていく!追い付かれそうになるのを、無我夢中で必死に走った!やがて“奴”ことイビルジョーもエリア1に入ってくる。3人はガハマを匿いながら、走りづらい砂の上をひたすらに走り抜ける。

イビルジョーがジャンピングでラジック達に襲い掛かろうとしたとき、キャンプ地に飛び込んだのだった……。

イビルジョーは獲物を逃がした怒りで、2回連続で咆哮を重ね、別のエリアに移動して行った…。

キャンプ地に飛び込んで、急死に一生を得た4人は、緊急でとネコタクにギルドの治療院までガハマを送って貰うことに。一緒にアルマンドも付き添いで同席していた。特別給金を払い、急ぎ頼むと、全速力で走って行った。

ラジックとネージュは、それを見届けるとその場に座り込んでしまった。息もかなり上がっていた。途中で立ち止まることすら許されないことであったので、呼吸が落ち着くまでしばらくの時間を要した。

すると、ラジック達に水を差し出すハンターが……。

 

「あんた、ここに残ってたのか…。」

 

それは、先のクエストでイビルジョーに殺されたハンターの彼女であった。分かっているのだろう、無言で二人に水を渡した。二人も頷いて水を飲み干す。

 

「済まない…仇を打てなかった…。威張ってた割にはこの様だ。」

 

ラジックは素直に過信があったことを認め、女性ハンターに謝った。女性ハンターは、首を横に振り、ラジック達が帰還したことに安堵していた。

 

「それじゃ、あたし達も、治療院へ向かおうか。」

 

ネージュが行こうと促すとラジックは一緒に移動することにする。

 

「済まないがあんたの仇打ちは、次回まで取って置く。俺としても、許すつもりはないんでな。それでいいか?」

 

女性ハンターも静かに頷く。彼らに期待を掛けているのだった。

 

「なら、途中まで一緒に行こう。ここに留まる理由もないだろう。」

 

と誘うと、頷いて一緒にギルドまで向かうのであった…。

 

☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆

 

「もう少しで到着するね。」

 

出航してから6日目、前方に龍暦院のある2本の尖った岩山が見えてきた。沙耶とアルビナはデッキから眺めていた。3日目が経った時、武具屋のオヤジさんに呼び出され、アルビナがミラルーツの装備を試着していた。白基調の赤いラインの入った防具は沙耶を一度で納得させるものだった。

近くまで来たとき、空中停泊した。

 

「ここからは気球船に乗って移動してください。」

早速リシェルとリックスを含め、気球船に乗り込み集会場へ。他の者達も食料やアイテム等を調達のため、個別に気球船に乗って移動していた。

船着き場に降りるとアイルーの案内人がいた。

 

「二ャンテンションプリーズ!またのご利用をお待ちしてます二ャ!」

 

早速4人は中央にいるギルドマスターの元へ向かった。ひたすら虫眼鏡で、書類に目を通している小柄なお婆さんである。現役時代は名の知れたハンターだった事は有名だが、今はその容姿からは想像がつかない。優しそうなおばあちゃんと言った感じだ。

 

 「おや、可愛い子たちが来たねぇ。どれどれ、ふむふむ。ほほぉ、これはこれは。」

 

 マスターの特権!?というよりはご年配の特権だろうか。相手が話しかけて来るより先に観察眼が働いている。

 一種の職業病かもしれない…。

 

 「こんにちは。実はマスターにお願いがあって来ました。是非聞き入れて頂きたく…。」

 

 とアルビナがマスターに話を切り出す。

 

 「おや、私にかい?どうしたんじゃ?」

 

 「はい、ここに居る、沙耶様のHRを上位もしくはG級に上げて頂きたく、参上した次第です。どうか宜しくお願い致します。」

 

 と深々と頭を下げる。沙耶もリシェルもリックスも続いて頭を下げた。

 

 「ほう!この子のな?」

 

 「はい、何とかしていただけないでしょうか…?」

 

 「ふ~む、困ったのう。ルールはあんたも知っておるだろうが、☆の順番にしかもきっかけとなるクエストをいくつもクリアしないとならんしの。それではダメなのかい?」

 

 さすがにそういう頼まれごとは初めてだったようで、マスターも困って聞き返してきた。

 

 「はい。それでは遅すぎるのです。何とかして奴を仕留めないと被害が広がってしまう…。」

 

 「ふむ、それはどういう事じゃ?」

 

 アルビナの言葉にマスターも聞き入って来た。アルビナは今までのいきさつを話した。暗躍する者を止めるために特殊任務に就いていることは、ベルナ村の村長からも聞いてはいた。しかし、今回クエストとして超々特殊許可のイビルジョーの討伐に関係していることは初めて聞くことだった。

 

 「ほう、敵討ちとな。」

 

 「そうです。ですから、何としても私たちの手で打ち取りたいと。」

 

 「お願いします。何とか良い方法はないでしょうか…。」

 

 「「お願いします。」」

 

 改めて4人は深々と頭を下げる。マスターも目をつむったまま、暫く考え込んでいた。やがて何かを決めたように頷いて話し始めた。

 

 「よし、そこまで言うなら分かったのじゃ。但し、私が出す条件をクリア出来れば考えよう。」

 

 4人の顔がパッと明るくなる。

 

 「ほ、ほんとですか!?で、その条件とは?」

 

 4人とも顔をマスターの目の前に寄せる。マスターもその迫力に少々たじろぐ。

 

 「う、うむ。採用テストとでも言うかの。2つほどクエストをクリアしてもらおうかの。達成出来れば考えよう、どうじゃ、やってみるかの?」

 

 「「「「やります!!」」」」

 

 無論、即答。

 

 「ならば1つ目は☆6の火の海に棲む竜!のクエスト、アグナコトルの狩猟じゃ。ソロで行ってもらおうかの。2つ目は全員でもよいが、G4緊急であり、旧砦跡に現れ、数多のハンターが手を焼いているモンスターがおる。クエスト名は蠢く墟城じゃ。どうじゃな?やってみるかぇ。」

 

マスターは4人を見回した。

沙耶達は、ここまで来て無理とは言えない。逆に大変なのは承知でクリアした方が。メリットが大きい。4人は顔を見合せて頷き、マスターの方へ向き治した。

 

「お願いいたします。」

 

 「ならばクエスト受注を許可しようぞ。受付嬢には話を通しておくでの。カウンターへ行くと良いじゃろう。」

 

 「「「「ありがとうございます!」」」」

 

 4人はよし、とばかりにガッツポーズをとった。後は必死になってクエストをクリアするだけ…。

 

「よ~し、じゃあランクの飛び級を認めて貰う前祝いに乾杯と行くか!俺が奢るぜ!」

 

「えっ、マジ!やった!心置きなく食べられる!☆☆☆」

 

早速リシェルが反応する。

 

「う~む。この際だから高級料理を注文せねば。沙耶さまはどうします?」

 

「勿論!高級料理フルコースでしょ!☆食べ放題、飲み放題で!☆☆☆」

 

満天の星空の中で、酒場の椅子に4人は座り、高級料理や高級飲み物を注文していく。

 

(何か俺、いけないことを言ってしまった様な気が………。マジヤバい!?)

このあと、危惧したリックス君の予想どうりとなり、部屋で独りしくしく泣いていたことは内緒の事である…。

明るい日差しの朝、沙耶達は持ち物、装備を確認し、顔を見合せて頷き、ゆっくりとクエストカウンターへと向かう。

その中で沙耶とアルビナの二人は、同じ事を思いながら歩いていた…。

 

(待っていろ、イビルジョー。お前は必ず私達が倒す!!!)

 

 




お読み頂けましたか、ありがとうございます!次話からは令和元年からのスタート、(やっぱ、狙ってたなコイツ…。)
すでに書き込み始めておりますので、またのお付き合いをよろしくお願いいたしまする。
では、次話でお逢いしましょう。ね☆


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***1匹のオトモとHRの解放!?②***

大変長らくお待たせしました!早速本編を読んでくださいませ。
では、のちほど~~~。


沙耶達がカウンターへ向かう途中、周りにもはた迷惑な怒鳴り声が聞こえて来る。

 

 「ったく、よう!なんだ!あの体たらくは!やる気あんのかコラー!!」

 

 「ぎゃふっ…。ご、ゴメンなさいニャ!許してくださいにゃ!!」

 

 何やらオトモに折檻しているハンターがいる様だ。何気に沙耶はその方向へと足が向いてしまう。

 

 「さ、沙耶様!?」

 

 アルビナも慌てて後を追う。リックスとリシェルの2人もそれについて行く。近くまで行くとまだハンターの虫の居所が悪かったらしく、折檻が続いていた。

 

 「こんな、使えねぇ奴、雇うんじゃなかったぜ。こりゃ猫嬢にクレームだな!」

 

 怒りにかまけて凄い事を口走っている。ランクはG級のようではあるが、責任の全てをオトモに押し付けているようで、沙耶も我慢することが出来なかった。

 

「ね、リックス。猫嬢を呼んできてくれる?大至急で。」

 

「俺が!?あぁ、分かった、待っててくれ。すぐに連れてくるから。」

 

そう言うと、すぐに駆け出して呼びに行く。それを確認すると、そのハンターとオトモの側へと近づく。そのハンターは、スキュラ装備で、ロボットを思わせる様な姿をしていた。持っている武器はスラッシュアックスで、青熊豪斧(山祭)LV6で、毒属性が付いていて、装備のスキルと相性が良いようだった。ちなみに、オトモの方は、猛レイアネコ装備で、武器は猛レイアネコレイピアであった。雇い主の好みか、オトモにも毒属性の武器を持たせていた。

ハンターは目の前のオトモに一杯で、沙耶達に気付いていなかった。

 

 「役に立たないんなら、こうしてやる!!」

 

 とそのハンターが片足を振り上げてそのオトモに向かって足を振り下ろす!!

 

 「ヴニャー!!!」と叫んでそのオトモも両前脚で頭を抱え込む!

 

 ガンッ!!そのオトモの目の前で、ハンターの蹴りが止まる…。

沙耶が片手で太刀を持ち、太刀の平の部分で受け止めていた。そのハンターも蹴るのを止められ、驚くものの、振り向いて邪魔してきた沙耶を睨みつける。

 

 「何だ、お前は。関係ない奴はすっこんでろ!こいつにはお仕置きが必要なんだからよ!出しゃばった真似しないでくれや!」

 

 「ふん、叱ると言うより、虐待にしか見えないんだけどさ。見間違いかな?」と沙耶も睨み返す。

 

 「何だと。俺が間違ってるとでも言いたいのか?」

 

 「少なくても自分で出来る事をオトモに押し付けてそうだよね。間違っていると思うのはそこだけど。」

 

 「よう、いい度胸の姉ちゃんだな。G級の俺に喧嘩を売る気か!?」

 

 ハンターは足を戻して、沙耶の前に仁王立ちになった。しかし、沙耶も負けじと仁王立ちで睨み返す。

 

 「いくらで買ってくれるかは知らないけど、売る気だけは満々だよ。」

 

 「チッ、小生意気な姉ちゃんだな。いいだろう、買ってやるよ!お前が勝ったらどうしたいんだ?」

 

 ハンターが条件を付けろと提示してきた。

(やった!乗ってきた!)

沙耶も内心食い付いたと、思いながら顔を崩さないように気をつけながら、条件を提示する。

 

 「じゃあ、あたしが勝ったら、そのオトモちゃん譲ってもらうよ。」

 

そんな言葉が出ると思っていなかったオトモが驚きと動揺が隠せず、沙耶の顔を見る。

 

 「ニャ、ニャンて事を!私の事は大丈夫ですニャ!」と心配そうに沙耶に辞めるように促す。

 

 「大丈夫だよ。あなたの事はほっとけないし、なんか可愛いし気に入っちゃった。」

 

沙耶も心配要らないよとニコッとオトモに頷き返す。

 

 「決まりだな。じゃあ俺が勝ったら、お前を貰うからな。」

 

 「な、ちょっとま…。」待てと言おうとした、アルビナを沙耶が止める。

 

 「さ、沙耶様!?」

 

 「分かった。約束は守ってもらうよ。」

 

 ハンターは上機嫌になってはしゃいでいた。

 

 「おうよ。お前も約束を守れよな!ひゃっほう!楽しみだぜ!!」

 

 「さ、沙耶様!いいのですか!?」

 

 「大丈夫だよ、何かあの男は叩きのめさないと気が済まなそうだから…。」と珍しく、静かだが怒りモード全開で、気迫が伝わってくる。

 

 「さ・や・様…!?」

 

 アルビナもゾッとする。怒りのオーラを身に纏っている沙耶がいる。その姿にたじろいていた。

 

 「こりゃ!!そこで何をしておるんじゃ!!」

 

ギルドマスターのお婆ちゃん、いやいやいまだ強さはなかなかのもので、若いもんには負けんと豪語する程の手練れさんが、止めに入ってきた。

 

「一体何があったのか話してもらおうかの。事と次第によってはギルドナイトも呼ぶ事になるが良いかの?」

 

マスターは二人の話を聞いた。ハンターがオトモを叱りつけていたこと、それを止めに入ったこと、それで条件付きの決闘をすることになったこと。そこまで聞いたマスターが、急に笑いだした。

 

「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。決闘かぇ。よかろ、ワシが取り持ってやろうぞ。これ!そこの闘技場管理官!」

 

そう呼ばれて、慌ててマスターの前に走ってくる男が。

 

「お、お呼びでしょうか、マスター。」

 

「ウム。闘技場は今開いておるかのう?」

 

「は、はぁ。確かに開いてはおりますが、如何されましたか?」

 

 「今からしばしの間、貸し切りにするでの。他の者の挑戦を受け入れぬように。」

 

 飛び入りの要請であったため、慌てて返事をする。

 

 「は、はいっ!確かに承りました!!」

 

 すぐに闘技場の方へ準備に走って行く。マスターは2人の方を向いて、改めて促す。

 

 「決着は、闘技場内でつけるが良いぞ。ワシもお目付け役として客席から見ておるでの。ルールは無用!どちらかが参ったと言うか、猫タクで治療院に送られた者の負けじゃ。良いかの二人とも。」

 

双方の顔を交互に見る。

 

「了解です。宜しくお願いします。」

 

「俺もいいぜ。小生意気な姉ちゃんに、お灸を据えてやらないとな~。」

 

とそれぞれに返事を返しお互いに睨みあう。

 

「よかろう!では闘技場へ移動じゃ!他の者はワシと客席の方へ。」

 

と、周りの関係者を引き連れて歩いて行く。

 

「よう、姉ちゃん名前は。」

 

「沙耶!あんたは?」

 

「俺は、ゾルトフだ。役立たずのオトモはサーニャだ。」

 

「そうなんだ。やっぱり私が気に入っただけあって、オトモちゃん名前も可愛い☆あんたよりずっと強くなると思うよ。」

 

「ふん!今にその減らず口叩けなくしてやるよ!」

 

と口先から火花を散らしながら、二人も闘技場へ。

 

ガコン!!…ゴゴゴゴ……ゆっくりと分厚く頑丈な鉄の巨大な扉が開き、二人が中に入って来て中央に。扉はまた厳かに閉まっていく。二人は中央に来ると、お互いに睨みあったまま、武器を構えた。

 

「よし!開始じゃぁ!!」

 

と、どこからともなく拡声器!?を持ちながら開始を告げる。

 

「はぁァァァァ!!」

 

「うっしゃぁァァァァ!!」

 

お互いの剣が力強くクロスにぶつかり、火花が飛び散る!ゾルトフが上手く斧と剣を切り替えて攻撃する。そこはG級までなっただけの事はある。(ほっとけ!)沙耶はその切り替え攻撃に、弾くのが一杯だった。(くっ、流石G級威張ってただけはあるね。だけどヤられっぱなしな訳にはいかない!)

沙耶はゾルトフが剣の状態で振り下ろすタイミングを逃さず、ギリギリをかわして反撃に出る!大剣の様な形をしているが太刀であるので、手数が多い。逆にゾルトフが防御する側になる。(くっ。小生意気なだけはあるか。だが何でここまでできる奴がHR1なんだ?訳が分からねぇ!)そう思いつつも、隙を突いて剣から斧に切り替えて横に振り払う!が、後ろジャンプで一撃をかわす沙耶であった。お互い間合いを取りながら、攻撃するチャンスを、隙を狙う!が、その緊張感を違った意味で、使う事になる!

「ヴォォォォォォォ!!!」

 

ドゴ…ン!ドゴ…ン!ドゴ…ン!

沙耶達が登場した扉の反対側のもう1つの扉から咆哮と共に扉を壊そうと殴ってくる物!?がいた。

 

「な、なんだ!どうしたんだ!」

 

「えっ、貸し切りのハズじゃなかったっけ!?」

 

「何じゃ、一体どうしたというのじゃ?」

 

マスターも、状況が掴めずにいた。だがそれも、一人の係員が飛び込んできたことで、状況が一変する!

 

「た、大変です!!捕獲されてきたラージャンが、檻に繋がれる前に目を覚まして暴れだし、扉に迫っていて抑え切れません!!」

 

「な、何じゃと!!」

 

「はぁ!マジで!」

 

「ま、まずい!沙耶さま~~~!!」

 

とアルビナが叫ぶも、本人に届かず。さすがに二人も扉の異様な殺気と暴れている様子に、危険度が上昇している事は分かった。

 

 「マスター!どうしましょうか?このままでは誇り高き扉が壊されかねません!!」

 

流石のマスターも即断する!

 

「よし!扉を開くんじゃ!」

 

「はっ!」と係員が走り出していく。

 

「マスター!待って下さい!場内には二人いるんですよ!無茶過ぎます!!」

 

「そうだよ!いくら強いったって、限度があるじゃん!早く避難させてよ!」

 

アルビナとリシェルの制止も聞かず、マスターが拡声器でもって、二人に声をかける。

 

「よいか二人とも!今そこにラージャンが乱入する!見事討伐してみせよ!討伐出来た者にはクエスト、蠢く墟城の権利をやるぞぇ!しかも今回の決闘の勝ちもじゃ!」

 

(鬼畜だなこのばあさん…。)

 

「けっ!やってやろうじゃねえか!討伐くらい造作もねえことだ!よう!沙耶だっけか、ラージャンに殺られる前に尻尾を巻いて逃げた方がいいんじゃねぇのか?」

 

「ご心配なく。貴方こそ、ラージャンに袋叩きにされないように気をつけた方がいいんじゃないの?」

 

「相変わらずの減らず口だな!上等だ!どっちが先に仕留めるか勝負だ!いいな!」

 

「望むところよ!存分に戦わせて貰うわ!」

 

そう言ってそれぞれスラッシュアックスと太刀を構え直す。やがて扉がゆっくりと開き出す。開ききるのを待てずに躍り出てくる生物が…。

闘牛の様な横に伸びた立派な角を持ち、上半身はマウンテンゴリラに似た体躯で、背中から下半身にかけてはライオンに似た体躯をしている。しかも両腕は拳に力を溜めんが為に大きく、筋肉質になっていた。

 2人を見つけ、空を見上げて胸を張って威嚇するがごとく咆哮を上げる。改めて体制を戻すとすぐに右腕の拳を上げて体をしならせて後ろに持っていき、その反動を利用して大ジャンプしてくる!そのまま拳も勢いをつけて上から振り下ろしてくる!!その狙いはゾルトフだった。

 

 「ちぃ。」

 

 ゾルトフも剣モードで躱そうとする!だが、想定していたパワーを上回る力だった。そのパンチ力は凄まじくそのまま押し切られ後方に飛ばされる!

 

 「ぐっ…、くそっ!なんて馬鹿力だ!今まで会ったラージャンの比じゃねえぞ!!」

 

 起き上がって体制を直そうとするが、ラージャンが両拳を左右に振り回しながら向かってくる!

 

 「ちぃ!腕が痺れてうまく握れねえ!!」

 

 ラージャンが目の前に迫った時だった。慌てて回避すると同時にラージャンもゾルトフと反対方向に飛ばされ痛みでもがいていた。そこには太刀を構えた沙耶の姿があった。

 

 「お前!!」

 

 「勘違いしないでね。あたしはこいつを黙らせたいだけだから。」

 

 ともがいている隙を逃さず攻撃する!

 

 「相変わらず生意気な姉ちゃんだ、ま、楽しみは後に取っておくか。うりゃあ!!」

 

 と体制の直ったゾルトフも攻撃に移る!ラージャンも起き上がり、その場で体ごと回転させ、足払いをかける!

 2人はうまく躱したものの、ラージャンもその隙をついて壁の方にジャンプする。そして地中に片手を突っ込み、やがて巨大な岩の塊を掘り上げた!それを軽々と片手で投げつけてくる!2人も察知して左右に回避する。

 躱されたラージャンが咆哮を上げ正面に向き直ると同時に直線状のブレスを放ってくる!今度は沙耶に向けてだった。

 

 「ばっ、馬鹿っ、逃げやがれ!!」

 

 「さ、沙耶様!!」

 

 リシェルもアルビナもその場にいた全員が間に合わないと思った瞬間、バシーン!!!と言う音と共に太刀で、はじき返す沙耶の姿があった。ブレイブスタイルで太刀使いの言うところのカウンターである。

 

 「えっ!!」

 

 「マジか…。」

 

 ゾルトフもさすがに息をのむ。

 

 「本当に何者だこいつ…。」

 

 ブレスをも躱されて怒りモードへと変わったラージャンが雷を纏い、体を丸めて回転しながらボールのように四方に飛び跳ねて2人を襲う!何とか躱し切ろうとするがゾルトフは躱しきったものの、沙耶が最後の攻撃を躱したつもりが同じ方向であったため、跳ね飛ばされる!

 

 「あぐっ…。」

 

 2回転、3回転しながら地面を転げていた。ラージャンも体制を直し、沙耶の方へ向き直る。

 

 「あ、危ないニャ!!」

 

 「ま、待て!!」

 

 突然、客席から飛び出していくものが。猛レイアネコの武具を装備しているオトモが飛び出していた。

 

 「あっしも行くでニャス!!」

 

 ザックも飛び出していく!

 

 「くっ、リシェル!ゼシム殿を頼めるか?!!」

 

 「えっ!いいの!こんなとこに呼んでも!」

 

 「緊急だ!いざとなったら突入を頼む!」

 

 「分かった!呼んでくる!!」

 

 リシェルも闘技場の外へ走り出す。集会場より少し外れに待機している龍騎船にいるガルバダオラのゼシムを呼びに向かった。アルビナも乱入していったオトモの様子を確認しつつ、剣を抜いて突入に備える。

 ラージャンは両拳を左右に振り回し、沙耶の方へ前進してくる!沙耶も立ち上がるが、体制を整えきれない!

 

 「くっ…。」

 

 何とか太刀を構え直そうとした時だった。

 

 「ニ゛ャ~~~~~~!!!」

 

 「えっ!?!?!?」

 

 横から1匹のオトモが、回転斬りを繰り出す。ラージャンがひるんだ!その事で沙耶には攻撃が及ばなかった。

 が、ラージャンは横やりを入れられたことで更に苛立ち、右拳をそのオトモめがけて斜め上から振り下ろす!

 

 「ギャフッ!!」

 

 「あぁっ!!」

 

 小さな体躯が拳をもろにくらい、壁まで吹き飛ばされる!壁に叩きつけられてそのまま下へと崩れ落ちる。

 沙耶も目の前でそれを見て、ある光景が蘇る。明日美という友達の目の前での壮絶な死…。その光景が今回のオトモと重なった時、沙耶の中で何かがはじけ飛んだ…。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 顔を真上に上げ、モンスターに負けない程の咆哮を上げる!するといきなり上空は雲の渦が現れる!

 同時に沙耶の全身が光り出す!凄まじいほどの殺気と威圧感で、ラージャンも驚いて後方へジャンプする。そして雷が沙耶めがけて何本も落ちていく。沙耶は目をつむり、両手を広げて雷を受け入れていく。すると塵滅刃の防具がベースはそのままだが色が赤と群青色、いわゆるディノバルドの体色と同じ色から白く変色しだした。雷が当たる場所ごとに白へと変わってゆく。更に沙耶の体の周りに細い雷が身を守るかのように右往左往していた。

 やがて鎧全体が白へと変色を遂げた時、落雷は収まり、背中に小さな白き龍の羽を生やしたハンターの姿が…。

 アルビナ達も何が起こったのかと見守るほかなかった。

 その時上空に全身金色で各部位にクリスタルを纏った龍が舞い降りる。

 

 「む、あれは…。」

 

 「え、あれ、沙耶なの!?」

 

 白くまばゆい鎧に、雷を纏ったハンターを凝視する。

 

 「覚醒したな…。」

 

 「へ、覚醒って…。ゼシム様何か知ってるの?」

 

 ゼシムの物言いにリシェルも問いかける。

 

 「そうだな、ガルーク様の力をいつ纏うのかと心配していた事でもあったしな。もう少し落ち着いた状態で覚醒して欲しかったがな、やむおえないだろう。大丈夫だ、ああなったら強い。我でも勝てるかどうか。」

 

 「そ、そんなに強いの!?確かに強くなったようには見えるけど。」

 

 改めて沙耶の方を向き直った。沙耶の周りの光も収まる。

 

 「な、なんじゃあれは!しかも、上空にガルバダオラじゃと!ハンターが1人乗っているとはどうゆう事じゃ!」

 

 ギルドマスターが慌てふためいて状況を飲み込めずに叫んでいる。

 

 「大丈夫です!あれは沙耶様の師匠の一人です!人的攻撃はありません!協力者です!!」

 

 アルビナが即座にフォローする。

 

 「な、なんと!!い、いやしかし、モンスターと共存する者がいるとも言い伝えられてはおるからの。分からぬでもないが…。」

 

 「ですので、いざとなったら突入します。よろしいか?」

 

 「う、うむ。許可しようぞ。決闘だのと言っておれんかもしれんしの。」

 

徐々にマスターも大変さが分かってきたようで周りを注視する。

沙耶の 殺気と圧迫感はいまだ衰えず、闘技場を包み込み、威圧感を半端なく放っている。

沙耶は片手に太刀を持ち、仁王立ちになり、ゆっくりと両目を開ける。そしてラージャンの方を向いてニヤリと妖艶に微笑んだ。

次の瞬間沙耶の姿が消える。

「あ、あんなところに!」

 

アルビナが指差す方を見ると、ラージャンの後ろに立っていた。ラージャンも気付いて振り向きざまに拳を振り上げた。が、即座に身体中切り傷だらけになり、激痛が走り、後方に吹き飛ばされる!

 

 「ガハッ!!」

 

予想外の事に体を起こすことも出来ずにのたうちまわる。

更に沙耶が太刀を前に突きだして構えると、切っ先にエネルギーの球が現れる。しかも雷を纏った状態で。その球は直径2m程になり、太刀を持ち上げて一気に振り下ろすと、エネルギー弾となってかなりのスピードでラージャンに襲いかかった。

 

「グギャガァァァァ!!!」

 

ラージャンに着弾と共に弾け飛び、無数の傷を負わせていく!再度のたうちまわるラージャン。かろうじて動けるようになった所で、後ろ足を引きずりながら逃げ出し始めた。が、ここは闘技場内、逃げ切れる筈もなく。

沙耶が太刀を垂直に両手で構えて頭上に持ち上げて詠唱する!!

「天の雷!豪雷衝《ごうらいしょう》!!」

 

沙耶がそう叫ぶと、ラージャンをめがけて直径10m程あろう一本の巨大な雷の柱が勢いよく落下する!

 

「ガァァァァァァァァァ!!!」

 

ラージャンの絶叫が響き渡り、その場に崩れ落ちた…。雷耐性があるとはいえど、それ以上の強力な電圧の雷なだけに、全身黒焦げで焼け爛れている。処理されるまで異臭を放っていた。

 

沙耶は太刀を納め、ゆっくりと沙耶を庇ってくれたオトモのところへ。と、突然後ろから抱きつかれる!

 

「沙耶さま、ご無事で!」

 

「ん、ありがとアルビナ。ゴメンね、心配かけて。」

 

「いえ、沙耶さまが無事ならば問題ありません。」

 

「なら、あのオトモちゃんのところに一緒に行ってくれる?」

 

「は、はい、分かりました。行きましょう。」

 

二人はうずくまるように倒れているオトモの傍に来た。息をしておらず、地面の上に晒されている…。沙耶はそのオトモをそっと抱き上げた。

 

「さ、沙耶さま、何を…」

 

沙耶はオトモの胸のところに手をかざし、パリパリと小さな雷をオトモの身体に送り込む!ビクン!とオトモの身体が反り返り、それからゆっくりと、トクン…トクン…トクンと心音と共に、お腹が上下を始める。スウスウと息をし始めた。

 

「沙耶さま!」と蘇生させた事に、驚くアルビナ。

 

「ちょっぴり自信はなかったんだけどね、でもこの子は失いたくないって思ったから…。」

 

と、ゆっくりと抱き締める。オトモが目を覚ました。

 

「ニャ~~~…ワタシは一体どうしたニャ~~…。」

 

「良かった、気が付いたね♪」

 

沙耶が嬉しそうに話し掛ける。

 

「君は沙耶さまを助けてくれた、礼を言うよ、ありがとう。」

 

とアルビナがオトモの背中を撫でてやる。すると急に記憶が戻ったのか、慌て出した。

 

「ニャ!あの人は無事かニャ!」

 

どうやら防具の色が変わってしまっていたので、気が付かなかったようだ。

 

「お前さん、抱き締められてるでニャすよ。羨ましいニャす。」

 

と傍まで来た、ザックが促す。

 

「ニャ!」

 

と、驚いて改めて沙耶の顔を見る。沙耶がニッコリと優しく微笑んでいた。

 

「良かったニャ~~…。」

 

と泣きながら抱き付いていた。

 

「ありがとうね、サーニャ。お陰で、倒すことが出来たよ。」

 

 ゾルトフもアックスを納めて話しかけてきた。

 

 「ったく、何なんだお前らは。突然変異したと思ったら急に強くなりやがって!あのラージャン相手に後半は圧勝だったじゃねえかよ!あんなもん見せられたら興ざめだ!俺の負けだ!勝てる気がしねぇ。これでいいんだろう!猫嬢!!」

 

 「「「「えっ!?!?」」」」

 

 全員が客席の方へ振り向く。そこには連れて来たリックスと共に猫嬢が成り行きを見ていた。

 

 「はい!いやだと言っても強制的に解雇するつもりでしたから。」

 

 「けっ!」

 

 「沙耶さんはどうしますか?そのオトモちゃんを雇いますか?」

 

 「モチロン!!!」

 

 沙耶の即答にオトモのサーニャがウルウルと目に涙を浮かべている。

 

 「了解です。今回雇い料は要りません。その代わり大事にしてあげて下さい。それが私からの条件です。」

 

 「ありがとう!!私は沙耶!よろしくねサーニャ!!」

 

 「はい!よろしくお願いしますニャ!!」

 

 「で、こっちは同じくザック。食材集めの旅の途中にスカウトしちゃった♪」とウィンクする。

 

 「ザックでニャす。よろしくでニャす。」

 

 「こっちはアルビナ、猫嬢の横に居るのがリックス、上空にいるのはガルバダオラのゼシムと乗っているのはリシェルだよ。」

 

 と仲間を紹介していく。その都度サーニャは忙しくお辞儀をしていた。

 ワイワイと自己紹介合戦の中、1人だけ闘技場を後にするハンターが。

 

 「やってらんねぇ、酒場で酒でも飲むか…。」

 

 ゾルトフは疲れを癒すため1人酒場へ寄る。席へ座りジョッキと猫飯を注文する。先にジョッキが届いてグビッと一口ビールを口の中へと運ぶ。

 

 「ぷはぁ~、うめぇ。いったい何なんだ、あいつはHR1な訳がねえ。絶対に何かあるな。」

 

 「隣、いいかしら。」

 

 村人の女性が声を掛けて来た。

 

 「俺に声を掛けてくるなんざ、珍しいな。ましてベッピンさんにな。そんなお姉さんが俺に何の用だ?」

 

 と隣の椅子を引いて座るように促す。

 

 「ありがとう。」

 

 と隣に自然な感じで椅子に腰かける。どこか艶やかな感じのする女性だった。周りも気になってこちらを見ているハンターもいた。

 

 「それで?」

 

 「先ずは、乾杯しましょ。話はそれから…。」

 

 女性はそう言うとグラスに持っていた、酒を目の前へ。

 

 「なら、乾杯!」

 

 ジョッキとグラスをお互いに軽くぶつけ合って一口、口を付ける。

 

 「いいお話があるのだけれど、話に乗ってみない?」

 

 「何だ、どんな仕事だ。気が乗らなかったら断るが、いいな。」

 

 「えぇ、いいわ。乗らない訳がないと思うから。」

 

 自信ありげな女性の言葉に興味をそそられる。

 

 「耳を拝借するわ。」

 

 と片手を添えて、ゾルトフの耳元で話の内容を囁く。それを聞いてゾルトフの顔がニンマリとした。

 

 「確かに断る理由のない話だな。了解だ。待ち合わせはいつがいい?」

 

 「今からでもいいなら、一緒について来てくれるといいわ。」

 

 「今からか?まあ、良いだろう。一緒に行こう。」

 

 ジョッキを一気に飲み干すと武器を持って立ち上がる。代金を払って、その女性について行く。だがその後、彼の姿を見た者はいなかった…。一緒にいた女性共々に…。

 

::::::::::::::::::::

 

 

 ギルドマスターが沙耶達の元に来る。

 

 「よくぞ、ラージャンを討伐したの。その戦い見事じゃ。での、上空にいる者を何とかしてもらえんかの。下に研究者たちがわんさか集まって目をキラキラ輝かせて注目しておる。このままだと研究者達に、研究対象にされてしまうぞ。」

 

 そう言われて上空を見ると、確かに待機させていたガルバダオラのゼシムがいる。沙耶は大声で撤収するように叫ぶと身を翻して、龍騎船へと戻って行った。下で研究者達のブーイングの嵐だったが、少しずつバラバラに散って行った。

 

 「それでの。ワシも言ったことは守るでの。そなたたちの実力を認め、沙耶にはG級の称号を与える。そして、挑んで欲しいクエストがある。何人もの手練れが挑んで手こずっておるクエストじゃ。クエスト名は”蠢く墟城”じゃ。」

 

沙耶とアルビナは顔を見合わせて頷く。

 

「是非、やらせて下さい。」

 

「よくぞ、言われたの。それでこそワシが認めた者達じゃ。じゃが、ひとまずは休むといいじゃろう。体力を回復し、荷物を準備するといいじゃろう。受付嬢には話しておくでの。準備が出来たら、挑んでおくれ。じゃあの。」

 

「「有り難う御座います。」」

 

マスターが戻って行くのをしばし見送る。

 

「やっと1つ近づいた。」

 

「そうですね、次のクエストでHRを上げていかないと。」

 

「必ず、アイツに追い付いてみせる!」

 

二人は頷いて遥か上空に向かって叫ぶ!

 

「「待っていろイビルジョー!必ずお前を倒す!!!」」

 

……………………………………。

 




ありがとうございます!お疲れさまです!あとがきを読んでくださっていると言うことは、本編をよんでいただいたと言うこと。誠に嬉しゅうございます!毎回申し上げますとうり、カメカメ更新ではございますが、めげずにお付き合いくださいませ。次話はいよいよあのモンスターとの対決が。HRは?イビルジョーとの対決やいかに!では次話にてお会いしましょう。しばしお待ちくださいませ。ね☆


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***1匹のオトモとHRの解放!?③***

おまちどおさまでした!待ってくれていた方、そうでない方も、是非ともお付き合いくださいませ。今回は自己記録の12000文字以上を達成しております。駄文ではございますが、読んでやってくださいまし。ささ、どうぞ本文を。では後程にて。ね☆



「だ、駄目だ!吹き飛ばされる!ぐわぁァァァァ!!」

 

「クソォ!あいつが殺られた!何なんだこの鉄のバケモンは!!」

 

「このままじゃ勝てねぇ!リタイヤするしかねぇ!」

 

「なんてこった!こんな屈辱があるか!絶対リベンジしてやるからな!」

 

と、あるハンターチームが、モンスターに翻弄されてリタイヤに追い込まれていた。それなりの手練れのハンター達が、挑むクエストではあるが、クリア出来たチームは一握り。ゆえにHR 解放などという、美味しい条件付きになっている。

その条件を得る為に、沙耶たち4人はゆっくりと休養していた。(あ、あ、あれ!?)

 

「いやぁここでお風呂に入れるとは、思わなかったなぁ~~~♪キモチィ~~~♭」

 

「まさかこのような所でとは誰も思いませんよ♪いいですね~~~♭」

 

「いやぁ、流石リックスの地元だよね~♭」

 

ここは何故かユクモ村!戦の前のなんとやら…。ちょっぴり疲れを癒そうと、集会場からひとっ飛び。

 源泉溢れるこの村は温泉や足湯で有名になり、多くのハンターが狩の疲れを癒しにやってくる場所でもある。時には他の村の村長や、商人と言った人間も出入りしており、なかなかにのんびり感のある、リラックスできる場所でもあった。

 沙耶達は露天風呂でくつろいでいた。もちろんオトモのアルビナやサーニャ、ロアラとアマネラも一緒だった。村長が気を利かせて露天風呂付の家を提供してくれていた。(有りか?そんなの?)まあ、リックスが世話になっているというお礼も兼ねてだそうだ。満天の星空といくつかのランタンの灯り…。ある意味、温泉に浸かりながらの女子会が始まっていた。

 

 「い~な~。アルビナとリシェルは体型が良くて。あたしなんかブツブツブツ…。」

 

 「な~に言ってんのよ。沙耶だって男落とせそうな体型してるじゃん。自信なさすぎだよ。」

 

 「え~~~、だって、そんなに胸大きくないし…。浮かばないし…。」

 

 「大丈夫!いっぱい食べて!いっぱい狩を続けてればナイスバディになれる!このリシェルさんが保証する!」

 

 「それは、本当か?狩を続ければナイスバディに…。」アルビナが珍しく食いつく。

 

 「え、アルビナ。それ、マジで言ってる?あたしの前で?どっからどう見てもナイスバディにしか見えないのに?」沙耶がジト目でアルビナの方を見る。

 

 「アルビナが自信ないなんて珍しいね。」

 

 「そうですニャ。ご主人様が珍しいニャ。そのバディの前に何人の男性ハンターを泣かせたかニャ」

 

 「「えぇ!!そんなに交際申し込まれたの!?!?!?」」

 

 2人はビックリしてアルビナの顔を覗き込む。

 

 「い、いや、確かにそうですが…。で、でもほら、沙耶様と早く再会せねばとも思ってましたし、恋愛とかも疎いですし…。」

 

 と恥ずかしがってうつむいてしまう。

 

 「いいなあ!あたいはそんな羨ましい話なんてなかったけどなあ…。」

 

 「え~、でもリックスとはどうなの?」

 

 「ぶっ、ちょっと待った、確かに仲間だから仲がいいのは確かだけど、恋愛対象ではないかなぁ。」

 

 「あ、と言う事はリシェルはゼシムの事が好きと。」

 

 と言われた途端にリシェルの顔が茹でだこのように鮮やかなピンクに染めあがる。

 

 「な、な、な、ちょ、ちょっと待って。ななななんでゼシム様を?」

 

 明らかに動揺しているのがバレバレである。

 

 「ね、ね。ゼシムに告白したの?」

 

 「そうだな、さすがの私でも分かったぞ。リシェルどうなんだ?」

 

 うまく矛先をリシェルに転化していくアルビナ。

 

 「そうですニャご主人どうなってますのニャ?」

 

 とリシェルのオトモのロアラも追い打ちをかける。

 

 「い、い、いや、それはまだ…。」と完全にしどろもどろの状態に。

 

 「でも好きなんだね?」と沙耶が微笑みながら答えを聞いた。

 

 素直にコクンと頷いた。何故か可愛いげがある。(ほっといて。)

 

 「でもさ…、伴侶がいるとか言われたらショックだし…。」

 

 「う~ん、それは無いと思うけど…。そんな感じや素振りは全く無かったし。ガルーク一筋だったしさ。そういや聞いた事も無かったかな~。」

 

 「本人に聞いてみたらどうなのだ?」

 

 「いや、それ聞いたら告白しなきゃでしょ。」

 

 「わたしはゼシム様もまんざらでもニャいと思いますがニャ?」

 

 ロアラは何かを感じ取っているようだ。

 

 「そ、そうなの!?」

 

 リシェルが驚いてなぜ分かると言いたげなロアラの方を覗き込む。

 

 「じゃあ、告白しなきゃ、だね。」

 

 他人事なので言いたい放題のようだ。

 リシェルもこのままではマズイと話を切り替えることにした。

 

 「あれ、そう言えばリックスは?」

 

 「え~~~!一緒に入るのは勘弁だよ~~!!」

 

 沙耶がほっぺを膨らまして文句を言いだす。

 

 「ば、ばか!誰が一緒に入るか!!姿が見えないからどうしたのかと思ってさ。」

 

 「それは、村長様の所に行ってますニャ。」

 

 とリックスのオトモのアマネラが答えてきた。

 

 「あ~なるほど。そういえば、お世話になってるからねぇ。顔は出しておかないと。」

 

 「ま、確かにそうだな。」

 

 「ま、そこは、あいつの良い所ではあるけどね。」

 

沙耶が天を見上げて溜め息をつく。

 

 「星空綺麗だな~。あたしの世界じゃこんなに綺麗じゃなかったなぁ。」

 

 「ね、沙耶の世界はどんな所?」

 

 「そうだね、あたしの居たところはこっちとはかなり違うよ。ここがこうなってて、ここがね。それでこう………。」

 

 と沙耶の世界の話に聞き入る2人とオトモ達であった…。その沙耶の世界が今、かなりの危険にさらされている事を知る由もなく…、温泉の湯気がゆらゆらとのんびり立ち上りながら夜は更けていく…。

 

 

**********************************************************

 

 

そのちょっぴり噂をされていたリックスは、村長を訪ねていた。

気品があり、着物が似合う人で、かといって高飛車でもない、優しいご婦人であった。

 

「ご無沙汰ですわね。噂は耳に届いておりますわよ。アマツを倒したそうですね。」

 

「ご無沙汰しておりました。俺はほとんど何も出来なかった…。仲間たちの方が大活躍でしたよ。」

 

 「でも、一緒に戦ったのでしょう?」

 

 「それは、そうですが…。」

 

 「何はどうあれ、倒した事には変わりなき事。少しは自信を持ってもよろしくてよ。」

 

リックスの謙虚過ぎるところは村長も心配ではあった。その自信を少しでもつけてやりたいとユクモの片手剣をプレゼントしていたのだ。

 

「剣を見せてもらっても良いかしら?」

 

とおもむろに、リックスの剣を見たいと言い出した。

 

「あ、はい。いいですよ。でも、武具屋さんで、直してもらわないと、ボロボロで…。」

 

と、恥ずかしながらに村長の前に出す。

 

「立派に闘って来たのですね。剣と盾をを見れば分かります。存分に使ってもらえて幸せでしょうね。」

 

村長は片手剣を充分に見つめ、ならばと決意して、リックスに話し掛ける。

 

「実は、あなたに使っていただきたい物が御座います。まずはこちらへ。」

 

 「は、はい。」

 

と、促されて村長の後をついていく。

そこは村長の家であった。中へ入ると、自分達の家よりやや大きめで、お風呂場は通常の3倍の広さを使っていた。茶の間の他に寝室と事務室、もう一部屋あった。そのもう一部屋に案内される。

 

「こちらです。」

部屋に入ると、広さ20畳程の部屋の壁中に、ぐるりと武器や防具が飾られていた。なかなかレアな物まである。狙われたりしないのかとさえ思う程の貴重品さだ。真ん中には長方形のテーブルがあり、真ん中に細長い木箱が置かれていた。

 

「貴方にこれを差し上げたいと思います。但し、これは所有者を選びます。なので所有することが出来るかどうかはあなた次第です。」

 

村長に、そう忠告され、改めて木箱の方へ注目する。異様な感じはヒシヒシと伝わって来た。リックスは恐る恐る蓋に手をかけた。

 

「う、うわっ!冷た!」

 

びっくりして、一度手を離してしまう。

 

「蓋が…いや箱全体が凍っている。」

 

よく見ると、表面に薄く氷の幕に覆われている。その繋ぎ目を指で少しずつ溶かしながら、蓋を開けた。そこには異様な冷気を放つ、太刀があった。

 

「村長さん、これは…!」

 

 驚いて村長の顔を見る。

 

「そうです。雪一文字の最高峰、深雪一文字〔幻日〕です。氷の攻撃属性を持っています。」

 

リックスは既にその太刀に魅入られていた。

使ってみたい!という衝動に駆られ、恐る恐る握りの部分を掴む!

 

「ぐっ、あぁぁぁ……」

 

掴んだ手から、一気に凍結する!

 

「あぁ!リックス!」

 

握りを掴んだ体勢のまま凍りつく。村長もお湯で温めようと一旦、急ぎ部屋を出ていく。

 部屋の中はしばしの沈黙が訪れた。

 

《わらわを起こせしはおヌシか?》

 

(だ、誰だ!?ん?ここは…?)

 

 真っ白な何もない空間にリックスがただ一人、しかも全裸で。声は若い女性の声だった。

《ここはヌシの意識の中、直接話し掛けておる。ヌシに問う。わらわを纏いたいか?》

 

 その問いかけに村長の話も思い出し、一文字だと分かった。

 

(モチロンだ!俺に力を貸してください!)

 

《何故、わらわの力を欲するのか?》

 

(俺は仲間を助けたい!その為にはまだまだ強くなる必要がある。だからあなたの力が必要だ。お願いだ、力を貸してほしい!そ、それに…。)

 

 最後に何かを言いかけて照れてしまう。

 

 《それに、なんじゃ?》

 

 (そ、それに一目惚れしてしまって、是非、所有したいと思ったのです。)

 

 《……………………………。》

 

 しばしの沈黙が続く。余計なことを言ってしまったかなと逆にリックスは不安になってきた。

 

 《ク、クス、クス、クス。わらわをそんな風に言ってきた者は初めてじゃ。実に正直で気持ちの良い男じゃ。良いじゃろう。力を貸そうぞ。わらわは深雪一文字〔幻日〕”阿遊羅<あゆら>“じゃ。ヌシの名は?》

 

 (リックスです!よろしくお願いします!)

 

 《これからよろしく頼むぞよ。》

 

 (はい、こちらこそ。)

 

 眩い光が立ち込めると、現実へと引き戻される。が、リックスは身動きが取れないでいた。何せ一文字を握ったまま、全身が凍結している。

 

 (ま、まずい。どうやったら動けるようになるんだ!?)

 

 《おお、済まぬ。今、溶いてやろう。》

 

 (え、は、はい、お願いします。)

 

 なにも出来ないので阿遊羅に任せる。すると、リックスの足元から温かみを感じ出す。凍結が解かれていくのが分かった。

 やがて、全身が解かれたころ、村長が何人かのメイドと共に壺を抱えて慌てて部屋に入って来る。壺から湯気が上がっていた。

 ビックリして振り向くと、村長と目が合った。逆に村長の方が驚く!

 

 「な、リックス!大丈夫なのですか!?」

 

 「は、はい。このとうり何とか。」

 

 とゆっくり一文字を背中に装備する。それを見て、村長が涙ぐんでしまった。

 

 「選ばれたのですね。」

 

 「はい、力を貸してもらえることになりました。」

 

 「よかった…。認められずに凍結死させられたのかと思いました。」

 

 「いや、返事次第ではそうなっていたかもです。」

 

だが、さすがに凍りついていたためか、身体中に寒気が走り身震いする。

 

「お風呂に入って行くとよいでしょう。温まってからでも帰るのは遅くないと思いますよ。今メイド達に準備させます。」

 

とメイド達に指示を出して部屋を出ていった。

 

《気が利く村長じゃの。おヌシ惚の字か?》

 

「ば、ば、ばかな。俺には勿体ない。」

 

《そうかの、向こうはまんざらでもなさそうじゃが?》

 

「そ、そんなことは…。」

 

 と照れてしまった。

 

《ま、あとは本人次第じゃからの。様子を見るとしようかの。ほっほっほっほっ》

 

 リックスは苦笑いしながら部屋を出て、お風呂へ案内してもらうことにした。案内されたそのお風呂の広さに驚いて、全裸を村長に見られてしまって、赤面して硬直していた事を付け加えておく。ね♪

 

 

**********************************************************

 

 

 次の日の朝、準備を整えて集会所の受付嬢の所に集合していた。いよいよHR解放の為のクエストを受注しようとしていた。4人の周りにそれぞれのオトモ達も集まっていた。ゼシムも来ようとしたが、来ると龍暦院の研究者達の餌食になりそうだったので、龍騎船にて待機となった。

 それぞれに個性豊かな武具を装備で臨もうとしていた。4人の真剣な眼差しに受付嬢も少したじろいだ。

 

「よ、ようこそ、受付カウンターへ。」

 

「G級☆4の緊急クエストをお願いしたいのですが。」

 

「は、はい。すると、クエスト“蠢く墟城”ですね。」

 

「そうです。よろしくお願いします。」

 

「了解です。受注受け付けました。他の方は横のクエストボードにて参加を受け付けをお願いします。」

 

 アルビナが受注すると、3人はクエストボードより参戦受注する。

 

「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

 

「じゃあ、行ってみようか。あのモンスターを倒しに。」

 

 と4人は顔を見合わせ、頷きあう。

 

「行ってらっしゃいニャ!!」

 

「必ず勝ってくださいニャ!!」

 

「帰還を待ってますニャ!!」

 

「帰って来たらご馳走を用意しておくでニャす!!」

 

「うん、行ってくるね!!」

 

「よし!旧砦跡へ出発!!」

 

と、待機場所へと到着する。チェストの物質もそこそこに、外に向かって歩き出す。そこには、冗談を言い合っていたときの楽しい表情はない。命懸けでクリア出来るかどうかの真剣勝負!4人の顔つきが変わる。

外へ出ると、瓦礫の城壁に囲まれた広いスペースが現れた。その裏側は砂塵が舞っている。地面は全体に砂に覆われ、所々に鉄の瓦礫が顔を覗かせている。空も渦状の分厚い砂塵の雲に覆われていた。その奥の方から、こっちに気付いて、向かってくる生物が。

「いくよ!みんな!!」

 

「「「おぅ!!!」」」

 

全員、その生物めがけて武器を構えて走り出す。それを見て生物は立ち止まり咆哮を上げる!

閣蟷螂《アトラル・カ》と名付けられていた生物は、昆虫のカマキリに似た体躯で、4本足に前2本の巨大な鎌の様な触手、尻尾の方は上向きに左右に3本ずつ最後尾に更に一本大きめの爪が生えている。つり上がった赤目で、全体が金色の体躯だった。尻尾から粘着性の特殊な糸を放出し、鉄骨の骨組みの一部を尻尾の方へ引き込み、爪で抱え上げ背中に糸を絡めながら固定する。4人は、それぞれに分かれて攻撃に移る!

アルビナが正面から、沙耶が右側面から、リックスは左側面から、リシェルは尻尾から剣を振るっていく。

アトラル・カは尻尾からリックスめがけて糸玉を3方向に放ってくる!

 

「おぉぉぉ!」

 

2つは回避し、3つ目はブレイブ納刀キャンセルで切り抜ける!

アトラル・カは左の鎌の触手を後方にしならせ真横に勢いをつけて切りつけてくる!アルビナも納刀キャンセルで攻撃を受け流す!すぐさま走り込んで太刀を振り下ろしていく!

アルビナの太刀は雷を纏いながら、アトラル・カにダメージをプラスしていく!沙耶の太刀もバージョンアップしているため、龍属性はまあまあのこと、雷属性を纏うことで、アトラル・カにダメージをプラスしていた。

アトラル・カは振り払うため、全身に力を込めて体を仰け反らせる、すると金色の鱗粉が全身から放たれる!

リックスとアルビナはかわせたが、リシェルと沙耶が避けきれずにダメージを負ってしまう!

 

「沙耶さま!リシェル!」

 

「ぐっ、大丈夫!」

 

「まだいける!」

 

とリシェルが火と水の双剣で、ジャンピングの回転攻撃で反撃していた。

「桜花気刃斬!」

 

同時に左側面からリックスが狩技で応戦する!氷属性を纏ってのダメージで、アトラル・カがひっくり返ってダウンする!

 

「リックス、ナイス!」

 

全員で剣を振るっていく!それなりにダメージは与えたものの、アトラル・カは起き上がり、反撃に出る!背中に背負った鉄骨を沙耶に向けて投げつけてきた!が、沙耶もそれに対してカウンターで返す!

アトラル・カは再度鉄骨を背負い、移動を始める。中央付近で振り向き、鉄骨を投げ捨て、咆哮を上げる!それから尻尾から糸を自身の正面側へと地中に向けて放ち、今度はその糸を鎌の触手2本でたぐり寄せていく!4人は、その間も攻撃していたが、そのダメージを負いながらも、地中より鉄の塊を浮き上がらせる!

 

「な、なんだこれは!?」

 

と驚いている内に、アトラル・カはジャンプして糸をたぐり、自身を鉄の中央に合体させて自身を大量の糸で纏い、繭を作りだす!すると金糸を無数に絡ませて色んな鉄の破材によって作り出された巨龍が姿を現す!

 

「なんて奴だ、これが話しに聞いていた、もう1つの形態か!」

 

本物は勿論初だった為に、あまりの巨駆に見いってしまうがその余裕はすぐにかき消される!鉄の巨龍の胸部分から糸の放射がなされてくる!

 

「みんな避けて!」

 

沙耶が叫んでかわしていく!3人もそれに習って糸をかわす!そして全員で、脚を攻撃するも弾かれてしまう!

 

「駄目だ!効いてない!」

 

「じゃ、ここは!」

 

とリシェルが脚の3本指の真ん中が、金糸に覆われているのを見つけ、攻撃していた。

 

「それだ!ヤるよみんな!」

 

「「「おぅ!!」」」

 

全員でその指部分を集中攻撃する!やがて金糸が勢いよく切れてその足が砂地に沈む!

 

「今だ!その脚をよじ登るんだ!」

 

「「「了解!!」」」

 

急いで脚の側面に回り込み、鉄の出っ張りを掴みながらよじ登っていく。繭に到達する前に、金糸の網の塊を切り崩していく。

 

「くっそ!用意周到だなコイツ!」

 

「血風独楽!!」

 

リシェルが狩技を発動する!一気に網塊が切り崩れる!

 

「ナイスだリシェル!」

 

4人はその横にある繭を攻撃した!するとそうさせまいと、鉄の尻尾を外側から円を描いて沙耶たちに襲いかかる!

 

「ぐはっ!」

 

「あ、アルビナ!」

 

「だ、大丈夫です!それよりその繭を!」

 

「分かった!はぁァァァァ!」

 

 沙耶が渾身の力を込めて斜め上から袈裟切りに太刀を振り下ろす!

 バンッと言う音と共に繭がはじけ飛んだ!と同時に更に鉄の巨龍が体制を崩す。4人は一度地面に落とされる。

 巨龍の首が前に倒れ込み、あごの部分が地面に伏した。

 

 「よし!口の中を通って一番デカいあの繭を!!」

 

 「「「わかった!!」」」

 

 4人は次々と鉄の巨龍の口の中を通り、繭まで走り込んで即座に攻撃を仕掛ける。次々と繰り出される剣技によって一本の亀裂が斜めに入る!それでも攻撃を続けると、一気に起き上がり、4人が振り落とされる!

 

 「くそう!!」

 

 リックスが直ぐに起き上がって、金糸の巻き付いている脚の指を狙って走り込んで太刀を振り下ろす!

 ガラガラガラ…。と鉄の巨龍が崩れ落ち、アトラル・カが姿を現す。

 3人がすかさず攻撃に転じる。続いてリックスが後へと続く。アトラル・カも糸を放出し、たぐり寄せて尻尾の方へ撃龍槍を担ぎ上げて固定する。

鎌の触手を左右から振り下ろしながら前進してくる。それをリックスとリシェルは見事にかわしていた。

 背中に乗せた撃龍槍を反動をつけてアルビナに向かって振り下ろしてくる!

 

 「おぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ガキンッ!!とカウンターで攻撃をいなす!アトラル・カが再度背中に固定したが、尻尾の後ろに落とす。

 そして、お前は体操選手か!?と言わんばかりの見事なバック中返りで金糸を巻き付けた撃龍槍を前方に射出してくる!!それは沙耶を狙っていて、太刀で受け止めるが威力が抜群なために後方に数メートル吹き飛ばされる!

 

 「ぐっ…!!」

 

 「さ、沙耶様!くそっ!!」

 

 アルビナも反撃に出るが、撃龍槍を背中に再装填した後、移動し始める。ある程度移動したところで、撃龍槍を横に放り投げ、咆哮を上げて地面に潜り込んだ!

 

 「くそっ、奴はどこに行った!」

 

 少しすると地面から鉄の塊と共に先ほどの鉄の巨龍が地面から現れる!

 

 「しぶとい奴だな!まだこの鉄のバケモンを操るか!」

 

 沙耶も体力を回復してアルビナの元に来る。

 

 「また、あの巨大繭を狙いに行かないとダメなんだね?」

 

 「どうやらその様ですが…?」

 

 リックスは現れた巨龍の後方にいた。前脚まで回り込もうと走ろうとした時、阿遊羅が話しかけてきた。

 

 《リックスよ。わらわも力を貸そうぞ。足止めするくらいは出来ようぞ。どうじゃやってみるか?》

 

 「はい、是非!」

 

 リックスは立ち止まり、深雪一文字を前方に構える。

 

 《なれば、わらわに続いて詠唱せよ。大気に常駐せし水の聖霊よ…。》

 

 「大気に常駐せし水の精霊よ…。」

 

 リックスも続いて詠唱を始める。

 

 《氷柱となりて敵を止めよ!》

 

 「氷柱となりて敵を止めよ!」

 

 《「氷柱重撃衝!!」》

 

 そう叫ぶと巨龍の右後ろ脚がその周りの地面から厚い氷が出来ていき、脚ごと氷柱と化す。後足を止められた巨龍が咆哮を上げる!

 

 「す、凄い!!」

 

 「リックス!大活躍じゃん!!」

 

 「かっこいいじゃん!!」

 

 3人もその大技に感心してしまった。リックスを注目している。

 

 「みんなチャンスだ!あの繭をつぶしに行くぞ!」

 

 と真っ先に金糸を纏った足の指をつぶしに走る!

 

 「「「了解!!」」」

 

 3人も気を取り直して同じ行動に出る!4人がかりなので、指の金糸も早めに切れる!と同時に脚が地面にめり込む。

 

 「登るぞ!」

 

 4人は矢継ぎ早に巨龍の脚を登って行く。同じように金糸の網の塊と繭玉を順番に叩いていく!その間にも巨龍の尻尾が叩き落そうと沙耶達に向かって襲い掛かる!しかし、2度目はそう簡単には食らわない。納刀キャンセルやカウンター、回避等でうまくその攻撃を躱していく。回り込んで背中の真ん中、首の後ろ側になるだろうか、そこにある繭を一斉に叩き切る!すると、繭が潰れ巨龍が体を起こした勢いで4人は一旦地面に放り出される。

 

 「よし!次はメインの巨大繭だ!!」

 

 「「「おう!!」」」

 

 巨龍の頭が地面に顎を着ける。4人は起き上がってすぐさま口の中を通り、巨大な繭玉を攻撃する!

 

 「螺旋斬!!」

 

 「錬気解放円月斬り!!」

 

 「桜花気刃斬!!」

 

 「神羅解放!属性狩り!!」

 

 4人の狩技と共に繭玉にかなりのダメージが入り、このままではと巨龍が立ち上がる。その勢いで4人も地面に落とされる。

 

 「くっ、これでもダメか…。」

 

 「なんてタフさだ!」

 

 「どんだけなんだ、こいつ!!」

 

 「クッソ~~~!!」

 

 と沙耶が走り込んで、金糸の脚の指を攻撃した時、巨龍が轟音と共に崩れ落ち、砂煙の中から巨大な鉄の車輪を背中に背負ったアトラル・カが姿を現した!

 

 「はあ、はあ、やっとメインが戦う気になったかな。」

 

 「えぇ。これからがガチの勝負かと、はあ。」

 

 「あと一息だね…。」

 

 「くっ、何としても倒しきるぞ!」

 

 全員砥石で武器を研ぎ、回復薬を飲んで武器を構え直す。アトラル・カも咆哮を上げ、沙耶達に向かってジグザグに歩行してくる!それぞれ分かれて攻撃に転ずる!アトラル・カも鎌の触手で反撃してくる。皆うまく躱しながら攻撃していた。アトラル・カは突然尻尾を振り回しながら、金糸の糸を張り巡らせていく。蜘蛛の巣のように綺麗な形ではないが、獲物を絡め捕るには充分であった。しかも、車輪を金糸で前方に出し、回転させて操りながらバイクのように走って襲い掛かって来たのだ!何とか躱しきっていたが、リックスが躱した方向に糸があり、絡められてしまった!そこをアトラル・カバイクが突っ込んでくる!!

 

 「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 「リックス~~~~~~!!!」

 

 10メートル近く吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる!

 

 「リックス!!」

 

 リシェルがリックスの所まで全速力で走って行く!

 

 「こんのぉぉぉ!!」

 

 「おのれぇぇぇぇ!!」

 

 沙耶とアルビナがそれを庇う様にアトラル・カに攻撃を加える!リシェルが駆け寄ると、氷の破片が散乱している事に驚く。体力は消耗していても、外傷はほぼほぼなく、打ち身や打撲といった程度であった。

 

 「大丈夫!?」

 

 と秘薬を飲ませて回復させる。

 

 「だ、大丈夫だ、阿遊羅が助けてくれた。済まない!」

 

 《主には死んでもらっては困るしのう。工夫をしたまでじゃ。》

 

 「えっ、アユラって!?!?」

 

 「この太刀に宿っている者さ。詳しくは後で話す。行こう!アルビナ達の援護だ!!」

 

 「分かった。後で聞かせてよ!」

 

 2人は武器を構えて走り出す!沙耶達の方を見ると、アトラル・カが車輪を目の前の敵に振り下ろしたり、糸を絡ませたまま横に降ろして地面をなぞり円を描くように車輪を振り回していた。そのたびに攻撃を回避しながら反撃に転じていた。

 

 「待たせた!!」

 

 「加勢する!!」

 

 「リックス!リシェル!!」

 

 4人揃ったことに嬉しさが込み上げる!

 

 「全員で叩くぞ!!!」

 

 「「「おう!!」」」

 

 アトラル・カの鎌の触手や車輪の攻撃に躱したり回避したりしながら、チャンスを伺う。

 

 「あぁぁぁぁぁ!!!」

 

 アルビナが渾身の一撃をアトラル・カの顔面に決め、ダウンさせる!それを逃すまいと沙耶が叫ぶ!!

 

 「みんな!離れて!!」

 

 その声に即反応して後方に飛びのく!沙耶は太刀を両手に構え、頭上へと垂直に突き上げる!!

 

 「天の雷!豪雷衝《ごうらいしょう》!!」

 

 空から一本の巨大な雷の柱がアトラル・カめがけて落ちてくる!!

 

 「ギィ!ヤァ!ァァァァァァァァァァァァァァ…………。」

 

 尻尾から無数の糸の束が飛び出し、もがきながら地面に崩れ落ちた。周りの壁も地面に沈み、砂塵の渦も跡形もなく消えていった。赤く光り輝く太陽が一点の曇りなき光を照らしていた。

 

 「「「「狩った~~~~~~!!!」」」」

 

 4人は万歳しながら空に向かって叫んだ!日の光が勝利を祝うかのように優しく4人を照らしていた…。

 

 

**********************************************************

 

 

 「見事じゃ!よくぞ討伐してくれたの!龍暦院は大騒ぎじゃ!」

 

 集会場ギルドマスターも4人を讃えた。周りのハンター達も拍手やおめでとう!の声も聞こえてきた。

 オトモ達も大喜びで迎えていた。逆に照れてしまう4人でもあった。

 

 「うむ。クエストのクリア認定と、ハンターランクの解放を認めようぞ。先ずはお主からじゃ。」

 

 とリックスが指名される。

 

 「お、俺からですか!?」

 

 「そうじゃ、早よ前に来なさい。」

 

 そう促されてマスターの前に出る。マスターの虫メガネがリックスをじっくりと見つめる。しばらくするとレンズが光り、リックスの全身を覆う!!

 

 「うわっ、な、なんだ!?」

 

 とその光はすぐにすうっと消えていく。リックスも自分に何が起こったのかと自身の体を見回す。

 

 「お主のHRは67じゃ。」

 

 「「「「おお!!」」」」周りのハンターからも驚きの声が上がる。

 

 「次はお主じゃ。」

 

 と次はリシェルがご指名に。

 

 「はい。」

 

 マスターの前に出る。マスターがリックスと同じように虫眼鏡を当てる。すると同じように光ってリシェルの全身を包み込んで消えていき、やがてマスターが発表する。

 

 「お主のHRは63じゃ。」

 

 こちらもなかなかと周りから声が上がる。

 

 「次はお主じゃ。」

 

 と次はアルビナに。

 

 「はい、よろしくお願いします。」

 

 とマスターの前に出た。すぐにマスターが虫眼鏡でアルビナを覗き込む。同じように光がアルビナの全身を包んで消えていく。やがて、マスターが虫眼鏡を降ろして改めてアルビナの顔を見る。アルビナも他の二人と違う様子なので、不安になる。が、マスターが驚きの言葉を発する。

 

 「お主のHRは…、102じゃ。」

 

 「「「「「なっ………。」」」」」

 

 3人どころか周りのハンターも絶句状態であった。HR解放時で100以上などとは珍しい事であった。誰もがそうできる事ではない。

 

 「わたしがHR102……。」

 

 本人も動転していた。そんなにも戦っていたのだろうかと自身の記憶をたどっていた。

 

 「最後はお主じゃ。」

 

 と促されてマスターの前に立つ。沙耶はHRが40以上になれるかが心配であった。ギリギリでもいいから超えて欲しいと…。3人はおろか、周りのハンター達も息をのんで判定を見守る。マスターが鑑定を始める。虫眼鏡が一層光っているように思えた。やがて沙耶も光に包まれ、消えてゆく。が、マスターがおもむろに虫眼鏡を覗き込み、レンズを磨き出す。

 

 「へっ!?」

 

 3人とは違う動作にうろたえてしまう。再度、マスターが沙耶に向かい虫眼鏡を当てていく。同じように光に包まれ、消えてゆく。今度は、虫眼鏡を降ろしてマスターが首を振る。

 

 「こんな事があるんじゃの。ワシも初めてじゃ。」

 

 「え、あたしってどうなっているんですか?」

 

 沙耶も心配でマスターを見つめる。マスターも沙耶の顔をじっと見つめ、静かに口を開いた。

 

 「お主のHRは256じゃ。どうやったらこんな数字が出る!?」

 

 本人含め、周りにいる全員目が点になる!!

 

 「「「「「「な!なにぃ~~~~~!!!」」」」」」

 

 「ウ、ウ、嘘だろ!どう頑張ったってありえねえ!!」

 

 「そ、そうよ、何かの間違いじゃないの!?!?!?」

 

 周りのハンター達は誰も信じていなかった。しかし、アルビナ、リシェル、リックスの3人は分かっていた。何せあのミラルーツとクシャルダオラを相手に2か月近くも毎日戦ってきたのだから。沙耶も驚いてアルビナの顔を見る。アルビナはニッコリと黙って頷いた。それを見て、ようやく自身のHRを理解する。

 

 「おめでとうございます、沙耶様。」

 

 「ありがとう!3人も凄いじゃない!」

 

 「いやあ、俺たちに比べたら沙耶はとんでもないじゃん。」

 

 「そうだよね~、半分分けて欲しいぐらいだよ。」

 

 周りのハンターのどよめきを聞きつつ、沙耶達は無事にHR解放できたことに喜んでいた。

 

 「ね、じゃあさ、念のために確認しておく?」

 

 とリシェルが3人に声を掛ける。

 

 「そうだな、休んで、準備万端で臨むつもりだが、クエストが受注できないと意味がないからな。受付嬢の所に寄ってみようか。」

 

 「うん、そうしよう。」

 

 と4人は、揃って受付嬢の所に。たじろいでいた受付嬢が今度は目をキラキラさせて待っていた。

 

 「お待ちしていました!早速サインを…。じゃなかった、クエストはどれになさいますか?」

 

 自身の気持ちが先に出てしまっていた受付嬢がいた。

 

「クエスト受注が出来るかどうかの確認をしたいのだが?いいかな?」

 

「あ、はい。どうぞ。」

 

4人はそのクエストを探していく。

 

「あった…これだ…」

 

他の3人も覗き込む。

 

クエスト名゛荒ぶる恐暴の帝王゛変異種のイビルジョーの特殊討伐。受注条件、HR解放者LV40以上のみとする。このクエストに限り、8名参戦を可能とする。

 

「このクエストだが、受注は可能かな?」

 

受付嬢もそのクエストを確認する。

 

「はい、可能です。準備さえ良ければいつでも行けますよ。」

 

受付嬢の確認が取れた。4人は互いに頷きあった。

 

「やっと追い付いた……。」

 

沙耶とアルビナはこれから会わんとする因縁のモンスターに思いを馳せるのだった………。

 

 




読了頂き、ありがとうございます!次話はいよいよ因縁の対決になります。今まで遠回りだったものが、お互いに強くなりすぎ!?となってぶつかるわけです。勝敗の行方はいかに。では次話にてお逢いしましょう。次もお付き合いくださいませ。ね☆♪☆♪☆


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※※※※※因縁の果てに~前編~※※※※※

申し訳ございません。いきなり途中で投稿になりました。大変失礼をば。
 やっと最新話投稿出来ました。前編と後編に分かれての執筆になりましたが、勢いをそのまま後編に続こうと思ってますのでよろしくお願いいたします。
 では、物語の始まり始まり。



………………゛奴゛は渓流に現れていた。よく他のモンスターとも顔を合わせることがあるが、レベルの違いが自然と分かるのだろう、相手は相対することなくそのエリアを離れていく。それでも捕食されてしまう小型のモンスターもいる為、小動物も奴のいるエリアからは逃げ出す程であった。

その生物はエリアの7からエリアの6へと移動してきた。大きな滝に、広さのある川がエリア7に向かって流れている。

 急な流れではなく、人が押し流される様な深さでもない。山と岩壁に囲まれ、草木は太陽と水の恩恵をもらい、生き生きとしていた。

通常と言われる確認されている、体躯の3周りも大きいサイズに、あるはずのない背中に大きな十字傷を背負った恐暴竜イビルジョー。

その異常さから変異種に位置付けられている特異体質なモンスターはゆっくりと滝のある方へと獲物を探しながら進んでいた。

 もう少しで滝の中に入って行こうとした刹那、真上より巨大な影がイビルジョーめがけて爪を振り下ろしてきた。  

 が、気配に気づき、後方へジャンプして躱す。羽と爪をゆっくりとたたみ、顔を見上げてイビルジョーと向き合う真っ黒な龍、狂竜ウィルスを生成し、まき散らして周りの生物をも狂竜症を発症させ、死に至らしめるとされる龍、調べでは進化もするという黒蝕龍ゴア・マガラ。

 だが、何故か既に怒りモードになってその姿を現していた。二本の角を出し、全身に狂竜ウィルスを纏い、イビルジョーに敵対してきた。羽を広げて咆哮を上げる!戦闘開始の合図のように負けじとイビルジョーも咆哮を上げる!

と同時に2頭は動き出す!イビルジョーは後ろ足を思い切り地面にめり込ませてジャンピングし、ゴア・マガラはそれを向かい打つべく右羽根の手のように動く爪を広げ、下からイビルジョーに向かって振り上げていく!

最狂生物の戦いが幕を開けたのだった!!

……………………………。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

と、こちらは集会場。

すっかり気に入ってしまったユクモ村の露天風呂付き自宅に飛行船で、行ったり来たり。

鋭気を養うためと言ってはいるが、風呂が楽しみなだけの説もあったり。(それ以上は内緒☆☆☆)おいおい……。余裕だのう…。

 HR解放の為の戦いから3日、決戦に向けて、せめて武器のLVは上げておきたいとリシェルの双剣を強くする為に、四人でクエストをクリアしていく。

 対剣ヴォルトトスより素材集めに集中し、最高峰・瀑刃灼斬ガノガノスLV6へ上げる事に成功し、アルビナの太刀も斬破刀最高峰・鬼神斬破刀LV9に上げ、やっと揃って決戦日を迎えたのである。

 

 「やっと奴に追いついた。」

 

 「そうですね。」

 

 「ここまで来たら倒さなきゃ。」

 

 「モチロンだ。負けられないさ。」

 

 4人それぞれの思いを馳せつつ、受付嬢に詰め寄る!ま、またこの人達…。と後ずさりするほどたじろいでしまう、受付嬢…。

 

 「こ、こ、こんにちは。受付カウンターへようこそ。今日はどのクエストになさいますか?」

 

 と恐るおそる沙耶達に聞いてくる。

 

 「はい、“荒ぶる恐暴の帝王”のクエストを受注お願いします。」

 

 と沙耶が即答でそのクエスト名を上げる。が、それを聞いて更に受付嬢も驚く。

 

 「そ、その…クエスト…ですか…?」

 

 「そうです。そのためにも頑張って来ました。」

 

 「そ、そうですか…。」

 

 明らかに動揺は隠せない。かなり難易度の高いクエストになっているであろうことが受付嬢の様子から伺えるほどだった。現にクエストの内容を覗いてみると、条件のHRが60レベル以上に変更されていた。

 

 「こ、これってアトラル・カよりもきついってこと?」

 

 横で内容を見ていたリシェルがそう呟いた。

 

 「そのようだな。一緒に戦ってくれるか?リシェル?」

 

 「当然!アルビナ。前にも言ったけど、ダメだと言われても付いて行くからね!今更何言ってんの!」

 

 「済まない。恩に着るよ。」

 

 「じゅ、受注でよろしいですか?」

 

 申し訳なさそうに受注OKかどうかを聞いてくる。4人は同時に頷いた。

 

 「では受け付けました。他の方は横のクエストボードにて…。」

 

と説明を受けて、3人はすぐに参戦受注する。

 

 「気を付けてください…。かなりのハンターがクリアできずに戻ってきます。しかも、ハンター業を離れる事になったハンターも数人…。いくらHRが上がったハンターとはいえ、隙を作れば奴の餌食になりかねません。実際にそうなった者も居ると聞いていますので、重々に生きて戻られますよう…。」

 

 さすがにこのクエストばかりは受付嬢も心配そうであった。

 

 「やっぱり、野放しには出来ないね、アルビナ。」

 

 「はい、何としても奴の暴走を止めねば。」

 

 「なあ、アルビナ達が戦った時と違っているのか?」

 

 リックスも考えを整理しようと聞いてきた。と、言うよりは深雪一文字の阿遊羅の方が気にしていた。

 《そのように強気者は気になるが聞いてくれぬか?リックス?》

 (はい、そうですね、聞いてみます。)

 と心内の会話でそうなった。

 

 「うん、リックスとリシェルは会ってないよね。ゴメン。あたしとアルビナとオトモのアルビナ、ロキだったからね。この前話したでしょ。あたしの住んでた世界って。」

 

 「あ、ああ、聞いた聞いた。って、え、そっちの世界に現れたの!?」

 

 

 「そう、それこそ私たちが今止めようとしている、者達が独自のゲートを作って送り込んできたようなのだ。」

 

 「それでね、あたし達が最初のクエストで気球に乗ってるときにも話したけど、その時倒すことが出来ずに逃がしてしまった、因縁の相手なの。でも聞いてる話だと、あたし達も強くなるために頑張って来たけど、同時に奴も強くなってるって酒場で食事してる時もチラッと聞こえたね。どれだけ強いのかは……。」

 

 「いや、かなり!強くなってると思うぞ!」

 

 後ろから突然声がして、一斉にその声の主をみる。そのハンターは骸装甲・真の防具を纏い、真・王牙大剣(一天)LV7の大剣を装備していた。その後ろには同じく骸装甲の装備で揃え、真・飛竜刀(翠緑)LV8の太刀を装備する女性ハンターと真名メルセゲルLV3を装備する男性ハンターがいた。

 

 「俺はラジック。一度そのクエストをリタイヤした者だ。」

 

 「え、そうなの!?」

 

 そのラジックと名乗るハンターは今見る風貌からは負ける気がしない程に強く感じられた。

 

 「そうだ、俺たちはその時、相手の力を見誤り簡単に倒せるものと思っていた。だが、それは俺に自信過剰だった事を思い知らしてくれた。だから俺たちももっと力をつけて、クエストに出る機会をうかがっていた。しかし、一方でリタイヤや負傷者が出るばかりで、一緒に参戦してくれる者はいなかった。どうだろうか、そのクエスト俺たちにも参戦させてくれないだろうか?」

 

 断られることを覚悟しつつ、しかし顔は真剣に沙耶達を見つめる。

 

 「あたし達からもお願いするよ。あたし達にとっても因縁の奴なんだ。」

 

 と後ろにいた女性ハンターも真剣だった。4人はお互いに頷きあって、改めてラジックの方を見る。

 

 「わかったわ、よろしくお願いします。」

 

 と沙耶が右手を差し出す。ラジックもニヤリと笑みを浮かべて握手する。

 

 「こちらこそよろしく。全員で奴をぶちのめそうぜ。」

 

 「そうだね、これ以上自由人にさせとく訳にはいかないし。」

 

 「じゃ、参戦受注させてもらうよ。」

 

 「了解です。」

 

 とカウンターボードに3人の参戦が決まる。7人のメンバーが揃った。

 

 「おお!!いよいよ行く事になったのか?」

 

 と横から男の声が。声の方を見ると、大柄な体躯で筋肉質な体型の男が立っていた。しかしよく見ると、当たり前のようにあるはずの右腕が肩から無くなっている。装備こそしてはいないものの、彼もハンターであった事は十分にうかがえた。

 

 「おう、ガハマか。ようやく、お前の敵討ちが出来るぜ!ようやくな!」

 

 「知り合いなの!?」

 

 「ああ、そうだ。仲間のガハマだ。そのイカれたイビルジョーにやられて右腕を失ってしまった。今はハンター業は降りたが、腕っぷしを認められて武具屋で働いている。俺たちの装備も見てもらっているし、頼もしい限りだよ。」

 

 「ガハハッ、お前たちの傍にいる事は出来ないが、手伝えることは何でもするぞ!しかし、ようやくだな。」

 

 「貴方たちも苦い思いをしたようだ。討伐するため、力を貸してほしい。お願い出来るだろうか?」

 

 アルビナもラジックと握手する。

 

 「モチロンだ。アイツを倒すためなら、なんだってやる。お願いしたのはこっちの方だしな。」

 

 「あたしはネージュ。こっちは…。」

 

 「アルマンドと申します。レディ。」

 

 「ん、なんか、態度違くない!?」

 

 「あたいはリシェル。船で待機してるのはゼシム様。」

 

 「は、ゼシム様って…。」

 

 「あ、ああ、済まない。彼女が寄り添っている古龍がいてね。ガルバダオラのゼシム殿だ。」

 

 「「「「な、ガルバダオラ!!!!」」」」

 

 「し、し~~~!!声を静かに!見つかったら研究員たちの見世物になっちゃう!」

 

 と慌てて全員口を塞いで、うんうん頷く。

 

 「俺はリックスです。よろしく。こっちは深雪一文字の阿遊羅。」

 

 と一文字を前に出す。よろしくと言いたげに冷気が鞘の部分をふわりと包む。

 

 「お前たち一体何者だ。なんかとんでもない奴らと組んだものだな。」

 

 「クスクス、でもあたし達も自分たちの力を過信するつもりはないから、一緒に行くと決めたの。少しでも勝てる確率を上げたいから。」

 

 「同感だ。アイツには覚悟を持って挑まないと、間違いなく泣きを見る。そうならないためにもだ。どうせ8人参戦が認められているんだ。そいつを使わない手はない。」

 

 沙耶とラジックはお互いに頷くと、それぞれ代わる代わるに握手を交わした。後に、龍騎船で一緒に旅をする事になる者達であった…。

 

 「よ~し!出発は明日でどうだ。今宵はチームの結成祝いに一杯行くか!」

 

 と皆の前でラジックが声を張り上げる。

 

 「お、いいねえ。」とネージュが同意する。

 

 「あんたの驕りかなあ?」とリシェルがラジックを煽る。

 

 「お、いいぜ!何なら貸し切りにしようか!!」

 

 「げ、マジ!!なら、行く行く!!」

 

 「あたし達も出すよ。って、あたしってお金持ってたっけ!?!?!?」

 

 「大丈夫ですよ。沙耶様は心配せずとも、私の方で管理してますので。」とアルビナがフォローに入る。

 

 「あ、ありがと!アルビナ!」

 

 「いえいえ、沙耶様の為ですから。」と照れながら微笑んでいた。

 

 「さすがはレディ。素晴らしい。」とアルマンドが近くへ来る。

 

 「あれぇ、アルマンド。やけにそのご婦人にご執心だねぇ。一目惚れってやつ!?」

 

 とネージュに絡まれる。

 

 「い、いや、そんなことは無い。俺はこの二人を尊敬してるんだ。」

 

 「へ、あんた知ってたの!?」

 

 「こんな有名人知らないお前たちの方が不思議なくらいだ。HR開放でマスターを唸らせたんだぞ!俺なんぞまだまだだ。」

 

 「なに、HRがそんなに凄いなんて聞いてないぞ。一体何レベルなんだ?」

 

 ラジックもネージュ、ガハマと沙耶とアルビナの顔を見ながらアルマンドを見る。

 

 「いいか、よく聞いてくれ。アルビナ殿はHR102、沙耶殿はHR256だ!」

 

 「「「な、なにぃぃぃぃ!!!」」」

 

 集会場に響き渡るほどの驚きようの3人。確かにクエストに忙しかったのもあるが、同じくらいのレベルと思っていただけに動揺が隠せなかった。

 

 「他の2人は?」

 

 「あたいはHR63で。」

 

 「俺はHR67です。」

 

 「確かに条件を満たしてはいるが…。2人だけ桁が違うな。」

 

 ラジックは感心してしまう。確かにとんでもないレベルではある。だが、これでもクリアが難しいクエストはまだまだある。

 

 「俺たちは全員HR60台だ。」

 

 「オッケイ!十分でしょ。全力で倒しに行けば。」

 

 「そうだな、よし!飲もう!!」

 

 と雑談しつつ、酒場に移動した。本当に貸し切りにしたため、夜な夜な罵声や、奇声が響き渡っていたが、月と星空はそれを見守りつつ、更けていくのであった…。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 次の日の朝、元気に集会場の出発場所に全員、集合していた。(酒に強い奴等だな。)

 

「今奴はどの辺にいるんだ?」

 

「今また移動したらしくて、今度は森丘に出没してるらしい。」

 

「なんでも、移動する前の渓流で黒蝕竜と戦ってたらしいぞ。移動してるってことは、黒蝕竜を倒したってことだろうな。」

 

「ゴア・マガラでも勝てないって、どんだけだい!」

 

 改まって強さを知って、呆れかえるネージュ。彼女も直接会っているだけに、感心を通り越して呆れていた。

 

 「まあ、俺たちの時よりも、又強くなってるって事だろうな。」

 

 「じゃあ、準備はいい?持ち物の確認はOK!?」

 

 沙耶が全員の顔を確認していくと、それぞれ頷いて行った。7人確認が取れると沙耶は叫ぶ。

 

 「それじゃ、出発!!」

 

 沙耶を先頭に気球船に乗り込む。それに付いて行くようにそれぞれ出発した。打倒イビルジョーに向けて。

 

 しばらくすると、キャンプ地に着く。支給品が入るBOXや納品用のBOXがあり、屋根付きの緊急で休めるベッドもある。が、今回は人数が人数なだけに追加でテントを自分たちで作る。岩場に囲まれているので、モンスターも侵入してこれないと、安全地帯にはなっている。なので設営は順調に終わることが出来た。

 

 「今日はもう設営で暮れてしまう。一晩寝て明日、エリアを探索しよう。で、奴をどう向かい入れるんだ?」

 

 ちょっと大きめの焚き木に囲むように全員が座り、食事をしながらラジックが話を切り出した。

 

 「探査船の情報だと今エリア9で、飛竜の降り立つ場所に寝ているらしいわ。起きたら、すぐに移動を始めると思うけど。」

 

「それは何処へ向かうかは分からないよね?」と、リシェルが。

 

「そうだね、それともう1つ気になる情報が…。」

 

もう1つ面倒そうに話を続ける。

 

「な、何があるの?」

 

「えぇ。それが、巣のエリアに希少種のつがいがいるらしいの。出入りが頻繁らしくて、もしかしたら、卵があるかもしれないわ。」

 

「希少種って?」

 

どのモンスターのことか分からなかったので、聞き返す。

 

「リオレウスとレイアよ。」

 

「げ、マジ!?」

 

「それ、あたしの台詞。」

 

とリシェルがツッコミを入れてくる。

 

「それは大変だな。戦闘中に乱入されても厄介だ。」

「ね、アルビナ。その希少種達と卵ごと保護出来ないかなぁ?」

 

突然凄い事をさらっと言い出す沙耶。

 

「えっ!?希少種達を保護ですか!?」

 

さすがのアルビナでも驚いた。

 

「おいおい、すげぇ事をさらっと言うな。保護するにしたってどうやる、説得出来る訳でなし?」

 

ラジックのいう通り、通常では保護する方法も見つからないだろう。通常では。だが。

 

 「うん、この時だけ、ゼシムに入ってもらって説得してもらうの♪もっと安全な場所へね♪」

 

 「な、なんつう奴らだ。俺たちの常識を逸脱してるぞお前たち。」

 

 とさすがのラジックも額に手を当てていた。常識外なのは今に始まったことではないのだが。

 沙耶もいたずらっぽくウィンクして舌をチロッと見せていた。確かにゼシムならば何とかしてくれるかもと思ってしまう。

 

 「じゃあ、明日はエリアを1、2、6、5と進んで行くんだな。」

 

 「そうね、先に希少種に合わないと保護できなくなってしまうから。」

 

 「よし、そうしよう。じゃあもう寝るぞ。」

 

 「オッケイ、おやすみ!」

 

 「おう、おやすみ!」

 

 とそれぞれのテントに入る。手の届きそうな綺麗な星空を眺めながら、沙耶は奴の討伐を誓うのだった…。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

朝、荷物を整理し、持ち物に余念がないことを確認すると、ベースキャンプを後にする。

森丘と呼ばれるようになったその地帯はまさに森があって、丘があって、断崖絶壁があって、起伏の多い土地でもあった。

下り上り坂を通り、エリア1から2へ。

ここからエリア3へ行くことも出来るが、鉢合わせを考えて、途中から、エリアの6へ。

 

「毎回思うが、この絶壁はきついよな。」

 

「まあね。でも奴に出くわすよりはましかな。」

 

「フン、確かにな。」

 

それぞれが順番にロッククライミングしていく。馴れたもので、どこをどう登れば良いのか、皆熟知していた。

そして頂上入り口に辿り着く。

 

「よし、こっからが第一関門だよ。皆準備はいい?」

 

 「「「「「「OK!!」」」」」」

 

 騒がれないようにと気を使いながらゆっくり、静かに進んで行く。やがて飛竜の尻尾が見えてきた。

 そこには希少種と呼ばれる飛竜が2頭いた。1頭は空の王と呼ばれるリオレウス。通常は赤色が主な体躯だが、全体に銀色が主であるため、希少種となっていた。もう1頭はその番でリオレイア。こちらも通常は緑色が主体だが、全体に金色の体躯であった。その珍しい2頭の間にはやはり卵が。

 

「やっぱり。」

 

「予想通りか。」

 

その問いに頷く。その時、銀レウスに気付かれる。レウスは沙耶達の方を向いて咆哮を挙げる!金レイアもそれに気付いて、卵の前に。

 

「チッ!気付かれた!」

 

「どうするの?このままじゃやられるよ!」

 

が、沙耶は意外な行動に出る!両手を左右に広げて仁王立ちになったのだ!

 

「なっ、危険です!沙耶さま!!」

 

アルビナにそう叫ばれるも、止めようとはしなかった。むしろ分かってもらおうと必死に、真剣にレウス達を見つめていた。武器を構えず、戦う意思を見せないハンターに対して、銀レウスは近付こうとする!

が間が悪いというのはこんな時までも、起こるというのか…。

 

「グルアァァァァァァ!!!」

 

異様な地響きを立て、咆哮を上げながらエリア4から無理矢理侵入してきた生物が。

 

 「イ、イビルジョー…。」

 

 「よりによってなんでこんなタイミングで!!」

 

 イビルジョーの乱入で銀レウスも振り返り、イビルジョーを威嚇する!

 しかし、通常種の3周りも大きい体躯だ。咆哮、パワー共に半端ない。

 

 「沙耶様!?!?」

 

 沙耶はレウスの股下をくぐり、太刀を抜いて下から上へはたき込むような動きでイビルジョーへ一撃をかける!

 

 「ガアァァァァァ!!」

 

 顎を叩きこまれて、2歩後ろへ怯む!!レウスもレイアも驚いていた。両手を広げて、敵意を示さず、2頭を真剣に見つめていてイビルジョーから庇う様に攻撃を仕掛けたのだ。

 その時天井の穴からの光が消える。強い風と共にもう1頭の生物が飛来する。

 

 「おおお、あの話は本当か…。」

 

 「凄いわ。本物が見られるなんて、ガルバダオラだわ。」

 

 「彼らと組んで正解だったかもな。」

 

 とラジック等3人は思わず見とれていた。この状況でも見惚れてしまう程に威厳さがあった。

 

 「ゼシム!レウス達を説得して!!早くその籠を使って避難して!!」

 

 籠は取っ手付きで卵が数個入るほどの大きさがあった。

 沙耶も再度イビルジョーに切りかかる!

 

 「頼む!私たちが食い止めてる間に!!」

 

 とすかさずアルビナ、リシェル、リックスも攻撃に加わる!

 

 「よし!!俺たちはあの籠に卵を移すぞ!」

 

 「「了解!!」」

 

 ラジック達はゼシムより籠を受け取り卵の傍へ。

 

 「ガアァァァァァ!!」

 

 当然レイアが警戒し、ラジック達に吠え掛かる!

 

 「ガルッガルァ!ガルッガルッ!」

 

 ゼシムがレウスとレイアに竜語で急ぎ避難するぞと話しかける。

 

 「ガルァ!ガルッ!ガルァ!ガガア!」

 

 どういうことだと反論するレウス。

 

 「ガガア!ガルッ!ガルァ!ガアァ!」

 

 ゼシムの説得にレウスとレイアが顔を見合わせる。やがて頷くとイビルジョーから卵を守るような体制で籠に卵を移動することを了承する。

 ゼシムがラジック達に合図を送ると、ゆっくりと敷いている藁ごと3個、籠へと移動する!

 イビルジョーも卵を逃がしてしまうと考えたのだろう。アギトに狂竜ブレスを溜め込む!

 

 「させるかぁ!!!」

 

 沙耶が剣を振り上げてジャンプする!その背中をゼシムが風玉のブレスで後押しする!

 

 「サンキュッ!ゼシム!うりゃああ!!」

 

 振り下ろした剣が見事に顔面にヒットし、イビルジョーは激痛でひっくり返る!

 

 「ゴガアァァァァ!!」

 

 「チャンスよ!!」

 

 沙耶がそう叫ぶとゼシムがレウスに頷きかける。レウスも頷き返すと籠の取っ手を咥えて飛び上がって行く。

 アルビナ達、ラジック達がイビルジョーに立ち向かっていく中レウスとレイアが沙耶の方に振り向く。沙耶もニコッと微笑んで黙って頷き返す。

 

 「ゴオァァァァ!!」

 

 礼を言うかのように咆哮を上げて飛び立っていく。レイアも同じように吠えてゼシムを先頭に避難することに成功していた。後にこの子竜の1匹が沙耶と行動を共にしていく事になる。

 

 「おい!あいつエリア4へ逃げたぞ!!」

 

 リックスが沙耶を促す。他の5人は既にそれを追っていた。

 

 「分かった、絶対に逃がさないよ。」

 

 「よし、俺たちも行こう!」

 

 「うん!あたし達が必ず!!」

 

 と2人はエリア4へと走り出す…。本当の対決はこれからだった…。

 

 

 

 

 




 読了いただき大変感謝です。次話はガチでイビルジョーとの対決へと進んで行きます。
 行方はどうなるのか…。お待ちいただければと思います。
 では次話にて。


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※※※※※因縁の果てに~後編~※※※※※

 さりげな~~~く……。更新させていただきます…………。よろしくです……。
 物語の始まり始まり……。



 その巨大な体躯をしたモンスターは翻弄されていた。強くなっていたつもりが、攻撃を喰らうなど想定外の事に、体勢を直すのに間がかかってしまった。

エリア4の場にいたモンスター達は、本能が危険を察知して一目散に他のエリアへと逃げ出していく。この特殊なモンスターに暴れられたら、このエリアと付近のエリアの形が無くなってしまうからだ。自分たちの身の保全のため、遠くへと逃げるのだった……。

 そのエリアは沈黙が訪れる。ブナハブラすら居なくなったそのエリアで、追いかけて来るであろう奴らの攻撃に備えるため、スタミナを蓄える……。そのアギトの中にブレスを溜めながら……。

 

「居たな、あそこだ!」

 

 ラジックが叫ぶとイビルジョーも気付く。崖上からそれぞれが別方向から飛び降りていく。

 

「今度は気を抜かねえ!ガハマや他のハンター達の思い、晴らさせてもらう!!」

 

 大剣を構え、崖を一気に飛び降りて向かっていく。しかしイビルジョーも、ただ待ち構えている訳ではない。ラジックの事を覚えていたのだろうか、顔を真上に持ち上げ振り下ろすように直線状の恐竜ブレスを照射する!!

 

「ラ、ラジック~~!!」

 

「ちぃっ……!!」

 

 ネージュが叫ぶも間に合う距離ではない。ラジックも大剣を盾代わりに構えるが、以前このブレスに大剣もやられ、しかもガハマのハンター生命をも失うきっかけとなったのだ。

 それは分かっていたのだが、誰も間に会う事が出来ない!

 

「けっ、俺が居なくなってもコイツを必ず仕留めろよ!!」

 

 ラジックがそう覚悟を決めた時だった……。

 

「間に合ったぁ!!」

 

「なっ……お前!!」

 

 ラジックの前に立ちはだかったのは小柄な女性ハンター、しかし大きな太刀を軽々と振りかざす……その姿は沙耶であった……。

 

「ばっ馬鹿野郎!!逃げろ!!俺と一緒に犬死にしたいのかっ!!」

 

 ラジックもガハマの姿が重なり、思わず怒鳴っていた……。しかし沙耶は太刀を構え、その場から動こうとしない。

 

「大丈夫!誰も死なないし、死なせやしない!!」

 

「なっ、お……お前……。」

 

「もう、これ以上アイツの犠牲者を出したくない、いや出させない!!」

 

 沙耶が太刀を垂直に構えて姿勢を低くして、静かに目を閉じる。すると白き刀身に刻まれた古代文字が真っ赤に浮かび上がる!ラジックも沙耶を信じるしかなかった、いや見ているしかなかったと言おうか……。

 

「おおおおおぉぉぉ…………!!!」

 

目を見開いた沙耶が全身の気を放出して、手に持つ太刀に力を込める!

狂竜ブレスが一瞬に迫り、沙耶を!ラジックを!突き抜けて行く!!

 

「さ、沙耶様~~!!」

 

「ラ、ラジック~~~!!」

 

…………!?!?

沙耶の居た位置からブレスが左右に分かれていく!そのブレスは片や空中にそのまま消えていき、片や崖の一部を貫通して穴を空けていた……。

 

「すっ、すげぇ……。」

 

危険な状態にも関わらず、ラジックは感嘆していた。その太刀は折れることも、溶かされることも、消失することもなく……進化した狂竜ブレスを真っ二つにしていた……。

彼女も傷付くこともなく、その後ろに居るラジックにもダメージが及ぶこともなく………。

 

「おおっ…!」

 

「す、すごい…!」

 

「やるじゃん!沙耶!!」

 

「すげぇな……。」

 

(流石じゃの。白龍の力を受け継いだだけのことはあるのう。)

 

「そうですね、とんでもない仲間が出来たものです。」

 

周りが驚くなか、一番驚いていたのはブレスを放った当のイビルジョーであった。二人ないし一人は消し去る事が出来ようと予測していたのが、裏切られたからだ。二人とも生きているとは、信じられなかった。しかも自慢のブレスが真っ二つにされたのだ。馬鹿な!と言わんばかりに雄叫びをあげていた……。

 

「もう……あんたの好きにはさせないよ……。」

 

沙耶の思い……。2度と大事な人を失いたくない……、いや守ってみせる大切な仲間を……。

 

「いくよ!みんなっ!総攻撃だ!!」

 

「「「「「「おおっ……!!」」」」」」

 

全員イビルジョーに向かって走り込んでいく!ジャンプして斬り込んでいく者、足を狙って剣を振るう者、腹部を狙うもの、尻尾を叩き斬ろうとする者、背中を、顔面を、同時に斬りつけていく!!

しかし、イビルジョーもそのままではない。その場で暴れ回る!狂竜ブレスを撒き散らし、体当たりや尻尾を駆使して応戦してくる!

 

「ぐっ……!」

 

「くそっ……!」

 

「ま、まだまだぁ!!」

 

手足が痺れ…防具も傷つき…体力も削られながら命懸けで剣を振るっていた。全員がここで止めないと大勢悲しむ者が増える……絶対に止めると……。そのためにそれぞれが武器や防具を強くして磨いてきたのだ……止めてみせる!!その思いと気力で戦っていた……。

持久戦のようになってきた。少しずつではあるがイビルジョーの体力を削ってきてもいるのだった。

しかし、その時スタミナがピークに達していて足がもつれてしまい転倒してしまった者が……。

 

「し、しまった!!」

 

アルマンドが直ぐに立ち上がろうとするが、イビルジョーもそれを逃さない!ジャンピングして巨体でアルマンドを押さえつけた!

 

「ぐわっ!くそっ!」

 

もがいて逃れようとするが、ビクともしない!それどころか牙を剥き出し、噛みついて身を引き裂かんとアギトに力を込める!

 

「ア、アルマンド!!」

 

「ま、まずい!!」

 

リックスとラジックがそう叫んだ時、その横を走り抜ける2つの影が……。

 

「「おおおおおっ!!」」

 

お互いの太刀を斜め下に構えながら走り込んでいく沙耶とアルビナ!!

 

「なっ……!」

 

「あいつら……!」

 

下から空へ向かって突き上げるようにイビルジョーの顎に二人の太刀を叩き込んでいく!!

 

「グギャァァァッ!!」

 

2刀の太刀でアッパーを見舞い、激痛と勢いでひっくり返るように後方に吹っ飛んだ!

 

「大丈夫か!?」

 

アルビナが手を差し伸べる。アルマンドも、手を掴んで起き上がる。

 

「済まないっ!助かった!」

 

流石に今の攻撃が効いたのかイビルジョーは顎から血を流してのたうち回っている。その間に距離を取り、構えを取り直した。

 

「済まない!助けてもらってばかりだな。」

 

「そんな事ないよ。ラジック達の攻撃もかなり効いてるし、仲間が居てくれるのは助かるし。」

 

「あたしらでも頼られるんなら本望だね。」

 

「うん!みんなで力を合わせて奴を倒す!」

 

「よし、ネージュ!アルマンド!3方向から同時だ!」

 

「「おうっ!」」

 

 ネージュは右から、アルマンドは左から、ラジックは正面からそれぞれ狩技を繰り出していく!

 イビルジョーも後方に避けようとしても後ろは崖……3方向からの攻撃なので避けられない!

 

「ガカッ!!」

 

 3人の狩技を食らい、その場に倒れ込むイビルジョー。もがいてあがいて起き上がろうとするも体力もスタミナも削がれ、逃げ出そうとすることも叶わない。

 

「ガフッ、ガフッ、ガフッ……。」

 

 荒い息を吐きながら、アギトにブレスを溜める事も叶わず、横たわったまま目は沙耶達を見据えていた……。

 沙耶とアルビナはイビルジョーの顔の前に立つ。なかなかに会えなかった因縁の相手……。最愛の友を目の前で殺し……。大暴れして逃げて行った狂暴竜……。背中に傷を負った加減で異常発達し、直線状の狂竜ブレスを放つようになった進化したイビルジョー。その敵をやっと目の前にしている。2人は異常なほどの冷たい目線でその横たわるモンスターを見据えていた。

 

 リックやラジック達は少し距離を取って2人を見守っていた。決して気を抜く訳ではなく、イビルジョーの最後を彼女達に託したのだ。万が一の時はすぐに動けるように待機していた。

 

「どうします?紗耶さま?」

 

 狂暴竜を見据えたまま沙耶に問いかける。また沙耶も見据えたまま答えた。

 

「うん、そうだね……どうしようか……。」

 

 2人の会話は相談している会話ではあったが、低めの声で冷やかな口調である。(私も怖くて近寄れない……。)

 

「あんたさ……。」

 

 今度は、イビルジョーに話しかけた。

 

「もう、いいかな。結局、こいつを倒したところで明日美が戻ってくる訳でもなし。」

 

「そうですね……。確かにご友人が生き返る訳ではないですね。そうしましょうか?」

 

「うん、そうする。あんたさ、これ以上悪さを続けるようなら、容赦しないからね。」

 

「そうだな、次はないと思った方が良い……。」

 

「行こう、アルビナ。」

 

「参りましょうか、紗耶さま。」

 

 2人は後ろに向き直り、皆の元へと歩き出す。3Mぐらい離れた時、そのモンスターは起き上がった!

 

「グウゥルルル……。」

 

「なっ!?危ない!沙耶っ!アルビナっ!」

 

 血走った形相で、後ろから襲い掛からんとジャンプして後ろ足を突き出してきたのだ!だがその時である。

 

 ”ガガガッ……!!!”……斬っ!!閃光玉より激しい光がエリア全体を照らし出す!

 

「な、なんだ!今のは!!」

 

「さ、沙耶!?アルビナ!?」

 

 やがて見えるようになると、ラジック達は驚いて固まっていた。真っ赤な巨大な雷が1本被雷してイビルジョーの胴体に突き抜け、地面に刺さっていた……。イビルジョーはジャンプした状態のまま、絶息していた……。

 当の2人は目を瞑ったまま、皆の元に歩いて来る……。まるでそうなる事が分かっていたかのように……。

 

「知っていたのか?」

 

「いえ、どうする気か賭けてみたの。」

 

「賭け!?」

 

「そのまま引き下がるか、あるいは……。」

 

「で、後者だったからあの状態か……。」

 

「そうだね。あくまでも私達を殺そうと動いた……。」

 

「ああなると、つくづく馬鹿なやつと思えるな。」

 

「あれもモンスターの一つの本能でもあるかもね。」

 

 全員、雷の槍に刺さったモンスターを眺めてそれぞれの思いを感じていた……。

 

「クスッ……強くなったものね……。」

 

 後方で声がして全員一度に振り向く!!その姿は黒いマントを羽織っていたが、顔を晒している。

 沙耶とアルビナは絶句していた……。

 

「なん……で……。」

 

「なん……という事だ……馬鹿な……。」

 

「久しぶりね。あの時以来かな?」

 

 普通に話しかける相手に動揺が隠せない。そうなのだ、それこそちょっと前まで戦っていたイビルジョーが沙耶の世界に現れた時沙耶をかばって殺されたはずの……親友であった明日美が目の前に居るのだ!

 

「ど、どういうことだよ、おい!久しぶりって、アイツを知ってるのか?」

 

 リックスとリシェル、ラジック達も訳が分からなくなっている。

 

「うむ、あの人は……紗耶さまの目の前でイビルジョーに殺されたはずのご親友……明日美様だ……。」

 

「「「「「なっ!なにぃぃっ!!」」」」」

 

 全員、その黒マントの女性を見つめる……。女性は妖艶に微笑みながら沙耶達を見据えていた。

 

「なんでよっ!!……………………。」

 

 沙耶がエリア中に響くほどに叫び声を上げる……。虚しくもそれは遠い空に消えていくのだった………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 読了ありがとうございます。忘れた頃にやって来る~~……。というわけで、最初に投稿を始めた作品を久々に復帰してみました。至らない所いっぱいなんですけど。今も至らなくてスイマセン。でも、投稿を始めさせていただいて、約2年半になりました。変わらずのご愛読をよろしくお願いいたします。では。紅龍騎神でした……♪♪


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