ゆぐドラ汁  (モズ9)
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エピソード0前編

コードレージパーティー

 

リウはリンゴジュースを飲みながら、風でガタガタと揺れる窓を見た。

ゆさゆさと踊る木に、黒づくめの男がしがみついていたのでリウはぎょっとした。

その男は屋敷の壁に飛びつき、丁寧に窓ガラスをこじ開けた。

リウはリンドウの花が、ミューテイション(突然変異)したバットを構えた。

突然変異は、二つの同じものすることも可能だが力は2分の一になる。

屋敷内の防音効果が完璧なため、助けを呼ぶのは不可能だろう。

 

「ドン、リウさんですね?拉致しに参りました。私はマン、グローブと言うものです。

金に困っているので、あなたを身代にさせていだだきます」

 

20代半ばの男マンに、リウは腕をつかまれ振りほどくことは出来ない。

 

「何いってるのよ。あたしを拉致したら、どうなるか分かってるの?」

「私には職がありません。養わなければならない、弟がいるのです。

私達のために、あなたを下さい。お願いします!」

 

マンの言葉にリウは鳥肌が立った。

素性も知れない男にも、気さくに話せる性格ではある。

しかし初対面で、プロポーズのような言葉を告げられるとは思わなかった。

もう触られただけで怒りが沸いてくる。

 

「いい大人がさらい家業とは、人間社会は落ちぶれたものだな。

我はリンドウの化身。名はヴィクでよかろう」

 

いつの間にか地面にいたヒヨコのヴィクが突然話した。

ヨチヨチと歩く姿とは裏腹に、ヴィクの声は男のようにりりしい。

いつものリウなら可愛いモノに飛びつくが、この状況では頼りがいもない。

リウはため息をついた。

 

「ヒヨコを飼った覚えはないんだけど・・・」

「いいか小娘。見た目はこれでも、我は2億3千年は生きている!

花言術スィンセリティを念じろ」

 

花言術とは花独自の力を発揮できる、いわば覚醒のようなものである。

リウは未だに扱ったことはない。

ヒヨコという言葉に、ご立腹なヴィクにも初対面である。

疑いながらもスィンセリティと念じると、リンドウがボールの形になった。

それをマンにぶつけると、蒸気を上げながら服が溶けていく。

その隙にリウはマンの手を解いた。

 

「スィンセリティ・・・硫酸のように熱いですね。しかしもっと熱いのは、その形状です。

かかって来なさい。あなたの思い受け止めましょう!」

 

マンは腰を低くしてグローブを構えた。

野球になれているようで、キャッチャーフォームは様になっている。

 

「女を何だと思ってるのよ?人形を探してるなら、場所を間違えてるんじゃないの!」

 

リウはマンを睨みながら、スィンセリティを握りしめた。

右手に狙いを定め、リンドウバットでスィンセリティを打ち込んだ。

しかし軽々とキャッチされてしまい、その瞬間リウの右手に激痛が走った。

 

「自分の力は、いかがなものですか?私に当ててごらんなさい。

そうでないと、またあなたに反射しますよ」

「これからが本番よ。取れるものなら取ってみなさい!」

 

リウは右手の痛みをこらえながら言った。

今度は左足を狙って打ち込んだが、余裕でキャッチされてしまう。

左足をかばいながら右足に体重をかけ、また立ち向かう。

数十回、打ち込み終わった頃には全身が痛かった。

もう痛みと疲れで立てないリウは、ついに女座りした。

 

「試合は終わりです。大人しく私に誘拐されて下さい。

暗い部屋に入ってもらうだけで、悪いようにはしませんよ」

 

ゆっくりとマンは近づいてくる。

リウは連れて行かれたら、どんな目にあうだろうかと考えた。

密室で手足を縛られ、口にはテープを張られる。

その後の経過は考えたくもない。

そんな牢獄より過酷なビジョンが、リウを再び立ち上がらせた。

バットを杖にして必死に立とうとする。

しかしヘナヘナのバットでは体を支えきれない。

花の能力を扱うには、ある程度の水分が必要なのだ。

バランスを崩したリウは前のめりに倒れ、もうマンに連れ去られてしまうのを覚悟した。

ヴィクがヨチヨチとリンゴジュースを運んでくる。

 

「これを飲め」

 

リウがリンゴジュースを飲むと、バットは硬くなった。

ヴィクはごにょごにょとリウに何かを言った。

 

「マン。あたしは、あなたの胸を狙うわ。これが花言バット術エグザクトスィンセリティよ!」

「そんなガタガタな体では、何をしても無駄なこと」

 

リウは痛みをこらえながら力を振りしぼり、スィンセリティをバットで打ち込んだ。

一直線にマンの胸へと飛んでいくが、急に軌道を変え頭に直撃する。

軌道を変更し、更に追跡する効果がエグザクトである。

マンの体は壁に強く、打ち付けられたが強靭であるらしい。

すぐに立ち上がり、床に転げているリウを抱き上げようとする。

 

「首を無くしたくなければ、お嬢様に触れぬことじゃ。さっさと立ち去れい!」

 

花逆はグレープニルという紐を、マンの首筋に当てていた。

ブドウの花を突然変異させたものだ。

神話に登場する、魔法の紐と似ているが本物かは定かではない。

69才とは思えないほどの素早い動きなので、マンは気配に全く気がつかなかった。

 

「あなたの様な、暗殺者がいるとは思いませんでした。

今回はこれで身を引きます。次はガタガタにして差し上げますので、お待ちしていて下さい」

 

そう言ってマンは窓から飛び降りた。たまらずリウはベッドに寝そべった。

 

ここはノースアイランド大陸にある、東に位置するコードレージという大都市だ。

コードレージの軍力は大陸一だ。武力での領土拡大も、たやすいだろう。

ユグドラシルを環境管理しているのは、コードレージであり誰でも訪れることが出来る。

あらゆる最先端技術の発信国でもあり富裕な者が多いが、環境汚染により農業や漁業の収量は少ない。

その一角にドン家の豪邸屋敷があり、パーティが催されていた。

リウは衣装替えのため自分の部屋へ戻っていた。

しかしマンの進入によってパーティーは中止され、参加している者達にも事情聴取が行われている。

リウの父メディエータは軍事総司令官だ。その令嬢であれば身代金は相当なものだ。

常にガードマンは付近にいるが、それでも何度か誘拐されそうになったことがある。

14才のリウは壁にかけられた女神の絵に劣らず美しく、真っ白なドレスはアメシスト色の髪を際立てる。

その見た目とは裏腹におてんば娘と評判高い。

夢はソフトボールのプロ選手になることである。

幼い頃からお嬢様としての、けいこをそっちのけに野球の練習ばかりしていた。

今の実力でもプロと渡り合えるほどで、天才野球少女として期待されている。

 

心配そうな顔で、リウの両親メディエータとハナコが入ってくる。

花逆は会釈して部屋を出て行った。

 

「ケガがなくて何よりだ。やつは一体何ものなんだ?」

「ニートってだけで、他のことは分からないわ」

 

メディエータの年齢は30代半ば、数年前に軍総司令官に任命された。

茶髪で高鼻と、この大陸では珍しい容姿だ。

引き締まった筋肉と日焼けした黒い肌がたくましい。

軍服の胸に、黄金のバッチが付いており身分の高さが伺える。

隣には母のハナコが付き添っている。この大陸の人間を印象づける黒い目。

リウと肩を並べれば、双子の姉妹と間違われるほど若々しく30代半ばとは思えない。

彼女はメディアでも引っ張りダコの占い師である。

リウは非現実的なものとして興味を持たなかった。

そう口では言うものの、恋愛占いは毎日チェックしている。

 

「国中、いや大陸中にさっそく指名手配しよう。拉致未遂とはいえ罪は重い。

必ずしっぽを捕まえてやる」

 

メディエータは鬼の形相で部屋を出ていった。

普段は温厚でも、娘のことになると人が変わるのも無理はない。

ハナコはベットに腰掛けた。

 

「私、誇らしく思うわ。

リンドウの花言術を継ぐ、ドン家の末裔としてあなたが選ばれたんですもの。

やっとリンドウにも認められてきたようね。」

 

ハナコになでられたヴィクは、のどを鳴らした。

 

「何であたしなの?」

「それはヴィクちゃんに、聞いてみないと分からないわね」

 

挑発的な目でヴィクはリウを見る。

 

「スイカ胸でありながら、おしゃぶりくわえてるからな。保護者が必要だ」

「ヤキトリにして食べるわよ!」

 

ハナコはクスクスと、口元に手を当てながら笑い部屋を後にした。

しばらくすると、廊下から足音が聞こえる。ドアをノックして花逆が入ってきた。

花逆は長年リウの執事であったが、あそこまで気迫があり武術に優れてるとは思ってなかった。

 

「花逆は若い頃、何をやっていたの?」

「若い頃は、ローラムーンにあるジャングルで生活をしておりました。

ワシは動物も好きでして、手なずけると可愛いものです。その後は、動物園の園長をしておりました」

 

ローラムーンは、大陸南にあり唯一ジャングルがある地帯だ。

花逆はデレデレしながら昔の写真を見せてくれた。

ライオンの背にまたがって、火の輪に飛び込んだ写真。

ゴリラとスモウを取る写真。水槽で釣り糸を、たらしている写真もあった。

常人離れした生活を、送っていたことは間違いない。

 

花逆が部屋を出て行った後、少し動けるようになったリウは屋敷をブラブラすることにした。

ひんやりとした長い廊下を歩いていると、ある部屋からヒソヒソと声が聞こえる。

絶対に入ってはいけない部屋だ。

いつもは厳重に鍵がかけられているドアノブを、恐る恐る回すと扉が開いた。

室内はロウソクの光だけで薄暗い。

黒いカーテンで仕切られており、部屋全体を覗くことは出来ない。

奥の方から二人の話し声が聞こえる。リウは壁を背に息をひそめた。

ある人物とメディエータが話している。

民族服を着ており顔は見えないが、胸に花のブローチを付けている。

それに見覚えはあったが、名前は出てこなかった。

 

「メディエータあなたは甘い。他国から来た者の提案を、真に受けると思う?

あの事件以来、更に砂漠化が進行している」

 

抑揚のない民族服の声が聞こえる。

事件とは4年前にあった、ポローザのエネルギー施設爆発事故である。

爆発の被害は研究所だけでなく、一般市民をも巻き込み沙漠化をいっそう加速させた。

大陸全土に沙漠化が進行しつつあり、ユグドラシルが枯れれば生物は生きる術をなくすだろう。

何としてでも、阻止しなければならないと二人は同意した。

 

「貧民を救うために、ポローザへ赴くのであって領土を奪うためではない。

沙漠化の進行状況と、その原因も突き止めるつもりだ。

あの件についてと、この大陸を制覇するのが本望ではないという意思を伝えて欲しい」

 

冷静な声でメディエータは話した後、民族服の人と共に部屋を出て行った。

リウはポローザに一度は行きたいと思っていた。砂漠というものも見たことがない。

好奇心に満たされたリウは目を輝かせながら、まだ見ぬ砂漠をつなぐ空を眺めた。

 

 

 

サブリメイションオアシス

 

パーティから半年後、ポローザへ視察にいく日がやってきた。

ボローザはノースアイランド西に位置し、昔は大陸1の大都会であった。

砂漠化の進行によって作物は育たず貧民層が多い。

十分な防衛隊を国に残し少数精鋭での他国進入である。

今回の任務は砂漠化の状況や貧民数の把握、そしてオアシス計画として持ち上がっている、地下都市カントラリピラミッドの造作状況を視察予定だ。

 

「皆のもの準備はいいか!? 我々の今回の任務は視察である。無益な争いはつつしむように」

 

メディエータは刀を腰に帯びている。

ケイトウの花言術を、取得しなければ軍事に関ることはできない。

コードレージで支給される軍服は濃い緑色で、植物と調和する性能を持ち迷彩の働きもする。

しかし砂漠で活動するには不向きなため、コードレージの部員は薄着をしている。

 

「今回メディエータ殿の補佐を承った、ヒヤシンスでござる。現場で何か問題があった時は、なんなりと申せ。

自己判断のミスは許されぬことを肝に銘じておけ」

 

シンスの言葉により、軍人達の崩れていた姿勢は正された。

青紫長髪のシンスはメディエータと同年齢だ。

眉間にシワがよっており、いつも怒っていると部下に恐れられている。

気配だけで相手の位置が分かり剣術の鋭さは一流だ。

物資トラックに白い布をかぶった何者かが乗り込み、それに気づかず部隊はポローザへと出発した。

砂漠地帯に近づくと、トラックからラクダに乗り換えた。

何事もなく半日ほど砂漠の中を進んでいる。

人工的に植林されているコードレージとは違い砂漠は殺風景だが、ちらほらと熱帯でも生息できる生物や植物は見えた。

昼は40度、夜は0度以下まで下がることがあり、日が暮れれば行動することが困難だ。

今日はポローザと、ユグドラシルの中間地点にあるオアシスで宿をとる。

急に土が盛り上がり部隊は緊急停止した。砂嵐が弱まり得体の知れない影が露になる。

サンドゴーレムだ。

のそのそと歩くたびに砂が流れる音がする。

大きさは片腕だけでもドラム缶をゆうに超える。

 

「人工的に造られた怪物が、砂漠化を進行させているという噂は本当だったようだな。

何者かが裏で手を引いているのは確実だ」

 

サンドゴーレムにメディエータは鞘を投げると、たちまちのうちに砂に変わってしまった。

メディエータは正眼にケイ刀を構える。

 

「メディエータ様、拙者にお任せあれ。ゴーレムなど粉々にしてみせましょう」

 

メディエータは無言でうなづく。

シンスの刀は、ヒヤシンスが突然変異したものだ。

花言風信剣、疾刀は重量は全く無いが、鉄をも断ち切れる疾風剣である。

数歩先も見えないほどに、また砂嵐が激しくなった。

サンドゴーレムは腕を振り上げシンスに叩き落とす。

シンスは鞘に手を当てたまま動かない。

しかし一瞬の内にサンドゴーレムの、背後に回り込み疾刀を薙ぎ払った。

1秒で十数回以上は斬っただろう。

サンドゴーレムを、こっぱみじんにするだろうと思われた。

しかし片腕を砕いただけだった。

 

「拙者の刀がしなびてしまうとは、まだまだ修行が足りぬな」

 

シンスは水を飲むと、地に刃を向けていた疾刀が天にそそり立った。

その後も疾刀を振るったが、サンドゴーレムの再生能力の方が早かった。

シンスは舌打ちした。

何物も一瞬で切り伏せてきた、疾刀と己の力に自負していた。

それが未知との遭遇により、もろくも崩されたのだ。

しかしシンスは笑っている。自暴自棄になっているわけではない。

強い相手に出会えたことを心から喜んでいる。

その危機的状況を切り開いてこそ、新しい光が差すと信じて。

シンスは腰にある昇華水が入った水筒を飲んだ。

 

「生なきものでも必ず動力源はある。

受けてみよ。花言風信剣(かげんふうしんけん)モデレイトラブリネス!」

 

疾刀を下段構えにすることで、逆風を自分に送る作用が働き疾走速度を増加させる。

そのままの体勢から虎の爪ごとく鋭い斬撃と、空気の摩擦で雷を生じさせる光速剣だ。

肉眼でとらえることはできない。

 

「もはやゴーレムは、雷を閉じ込める器にすぎん。強固ゆえの過ちでござったな」

 

サンドゴーレムは空気の吸収が早く、内部では空気が真空になり圧力が発生する。

サンドゴーレムはグラグラと前後に動き、後ろのめりに倒れ動かなくなった。

 

「拙者と出会ったのが運のツキ。突きだけにな」

 

勝利の歓声の中、女の悲鳴が響いた。サンドゴーレムの片腕に握られるリウ。

抵抗するも振りほどくことはできず、目の前が暗くなっていく。

鈍い音と共にサンドゴーレムは動かなくなった。

リウが目を開くと、緑の短髪で同年代くらいの少年が立っていた。

ターバンをかぶり、ボロボロな服を着ているので貧民かもしれない。

大きいタル2個が道に転がっており少し水がもれている。

 

「大丈夫か?砂漠は戦場だ。都会の人は、ここの怖さを知らないんだな」

 

気絶寸前のリウは、シュンに体を委ねるが不快ではなかった。

シュンの手はリウの体に一切触れなかったからだ。

ほんのりと赤く顔を染めており照れている。

リウは一息ついてから話す。

 

「ありがとう助けてくれて。あたしはドン、リウよ。あなたはどこの人?」

「オレは佐倉シュンだ。ポローザに住んでいる。といっても経済発展してないさびれた村だ。

そうか君が、かの有名なドン家の・・・」

 

シュンはぶっきらぼうだが知性的な顔をしているので、白衣やスーツなど着れば様になるだろう。

鼓動の高鳴りを抑えられず体との密着が更に加速させる。

命の恩人だからという理由だけではなく、リウは学者タイプが好みだった。

 

「人の言葉に耳をかさんボケな女だがよろしく頼む。

恐らく胸に栄養を取りすぎて、脳まで伝達しないのだろう」

 

リウの胸の谷間にいるヴィクを、シュンは珍しいそうに見る。

 

「いきなり何いうのよエッチ!」

「オレじゃない」

 

リウは顔を赤らめながら服を正し、シュンは目をそらして遠くを眺める。

 

「営みのところすまなかったな。

先ほどサンドゴーレムを1撃で倒していたが、お主はいったい・・・」

 

ヴィクの話をさえぎるように足音が近づいてくる。  

 

「無事かリウ?なぜ一緒に来たんだ!あれほどダメだと忠告していたはずだ」

 

メディエータが真っ赤な顔でリウに怒鳴った。

ポローザにだけは、行ってはいけないと昔から禁止されていたが、反対を承知でリウは来たのだった。

サンドゴーレムの片腕を見てからシュンに向き直る。

 

「君はポローザの住人か?娘を助けてくれてありがとう。とにかく今日はもう遅い。

オアシスで話そうではないか。」

 

メディエータは隊員にオアシスに行くよう指示した。

砂漠の真ん中に小さい湖があり、そこで人々は休んでいる。

オアシスにはポローザと他国の人々がいるようだ。

村まで供給物資が届かない時もあるため、ポローザ人は水の調達のために訪れている。

他国から来た人は現在建設中の、地下都市カントラリビラミッドを見物する観光客だ。

他にも砂漠を緑するため多くの自然保護者が訪れ、土地に木を植え種をまき畑を作っている。

オアシスの畔のキャンプファイヤー辺りで、一行は夕食を取ることにした。

 

メディエータとシュンはテントの方へ入っていく。

後を追うように20代半ばの美女ルドベキアが、食事を持ってテントの前にたたずんだ。

ほどよいこげ茶色の肌と、金髪が太陽のようにまぶしく、リウはその美しさに嫉妬した。

一言かけお辞儀をしてから中に入っていく。リウは外から聞き耳を立てた。

 

「これ食べて下さい。お口に合わなければお作り直します」

ベキアは食事を木製のテーブルに置いた。

バーベキューで肉や野菜を刺して焼いたものだ。

自己紹介をしながら食事が始まった。

 

「焼き加減とタレが、絶妙にマッチしている。ウチのシェフよりも、美味いではないか!

どうだ私の所で働かないか?」

 

真剣な顔でメディエータは言った。お世辞ではなく本当に思っているらしい。

 

「ここの水で料理すると、何でも美味しくなりますのよ。

わたくしにもポローザでの生活があります。

温かいお言葉だけでも、受け取らせていただきますわ」

 

シュンとベキアは楽しそうに冗談を言い合っている。

それを見てリウは、崖から落とされたような気分になった。

だが会話の中でベキアが姉だと分かると、心浮きだったリウは山の頂上へ到達し絶景を見た気分になった。

ベキアは笑顔で会釈しテントを出て行った。

オアシスの水は、魔物も寄り付かないほど神聖で、各地に飲料水として出荷されている。

大陸の中でも、三本の指に入るほど美味しいと評判である。

ここの水は昇華水と言われていて、瞬時に乾きをうるおし花を満開させる。

食事を済ませた二人の会話が進む。

 

「砂漠の摂理というものは、他国の者には分かりかねる。

我々はこの地を緑に変えたいのだ。そこで君に協力をして欲しいのだが」

 

メディエータは丸太イスに座り話し始めた。

 

「いまの砂漠は人工的に、進行しているような気がしてなりません。

あの事故以来から・・・」

 

4年前にエネルギー施設爆発は起こった。

その事故にシュンが兄と親しんだ研究員が巻き込まれた。

コードレージの中でも、名家であるミストル家のティンである。

不慮の事故で、恋人ニーベルをなくし国家の陰謀と知った。

その後ポローザの砂漠をさ迷い、アリ地獄に飲まれたまま行方不明だ。

なぜ彼は砂漠に行ったのか。

 

「私も、そう思う。先ほどのゴーレムを見てしまったからな。

その元凶を断たねば明日はないかもしれん。それを食い止める術や知恵も持ち合わせておらん。

しかし我々は君たちを助けると約束しよう」

 

サンドゴーレムがはびこれば、全ては砂になってしまうだろう。

メディエータの目をシュンはじっと見た。

 

「将来オレは、上手く花言術を使えるようになりたい。飢えに苦しむ仲間や、この世界を緑豊かにしたいんです。

この国では何かを決起する前に、壁にあたってしまいます。自立生産が出来なければ、元に戻ってしまうかもしれません」

 

シュンは勉強の天才である。教育を受ければ、世界有数の学者になるに違いない。

それを見込まれティンの紹介で、コードレージからツバキ先生も教えにやってくる。

予想だにしない言葉にメディエータはがくぜんとした。

しかし次第に笑みがこぼれてくる。ポローザの住人はみな絶望し、何かに情熱を傾けることもないと思っていた。

無謀とさえ思える目標は挑まぬ方が利口だといえる。

その壁を越えなければ、この砂漠が栄えることはないだろう。

 

「そう・・・か、そうだな。

我々は出来る範囲で支援をすることにしよう。ゆぐドラしる学園へ、入学できることを祈っているぞ。

ポローザには1ヶ月ほど駐在予定だ。よろしく頼む」

 

メディエータと入れ違いにリウはテントに入った。

 

「お腹すいたでしょ、はいこれ。パパに何か言われた?

何でシュンはこのオアシスに来たの」

 

リウはブドウジュースを、木製のテーブルにを置いてシュンの隣のイスに腰掛けた。

 

「いまポローザは水不足だ。手間がかかっても、汲みに来ないと生きていけない。

ここの湧き水が、枯れることがないことを祈るのみさ」

「あんな大きい水の入ったタルを、一人で持ち帰るの大変ね」

 

シュンの言葉にリウは思い出したように答えた。

 

「もうなれたものさ。それに姉や妹の分もあるから」

「妹はシュンに似ないで可愛い?それとも似てる」

 

ニヤニヤ笑うリウに無愛想にシュンは答えた。

自分のことは分かっているようで分からないものである。

 

「いっつも暗いというか、つまらなそうな顔というか」

「これでも笑っている」

 

シュンの顔をジロジロ見るが、やはり笑っているように見えない。

 

「なぜ君は、この砂漠に来た?」

 

シュンはブドウジュースに手を伸ばしながら話した。

 

「理由がないと来たらダメなの?」

「学校があるじゃないか。オレ達は学びたくても学べないんだ。

君は恵まれた環境にいながら、甘えているんじゃないか?」

 

リウはムッとしたがシュンの言葉に同情した。

いつもちやほやされて生きてきたリウには、シュンの態度が冷たく感じる。

イライラした気持ちを抑えるため、ブドウジュースを一気飲みした。

 

「それ、オレの・・・」

「うるさいわね!ずっと手をつけないから、飲まないないと思っ」

 

のどを詰まらせたリウの背中を、シュンはぎこちなくさする。

リウは笑いながらうつむいた。

 

「コードレージに住んでいた、ミストル家について何か知ってるか?」

 

リウは少し考えてから

「コードレージでは、めったに会わなかったわ。父親が教授で息子が優秀な研究員だった。

息子はティンだったっけ。いなくなっちゃったのよね。

ねぇ、どうしてそんなこと聞くの?」

といってシュンの顔を覗き込んだ。

 

「兄貴分だった。オレの将来を明るく照らしてくれた人だ。

彼がいなければ何もせず、なるがままに生きていただろう。

砂漠で見たという消息を最後に姿を消したんだ」

「そう・・・だったの。見つかるわよ、きっと」

 

リウはまゆをひそめていたが、シュンの話しが終わると笑顔でそう答えた。

 

「ミストル好かん名前だな」

いつの間にかヴィクが、テーブルの上に乗っている。

 

「何を取るのかしらね?」

 

リウは手で口元を押さえ、笑い声がもれないようにした。

シュンとヴィクはため息をついた。

 

「君は物知りな、プラントアニマルのようだ。ミストル家について何か知っているか?」

 

ヴィクの発言にシュンは期待の眼差しを向けた。

人には人にしか、花には花にしか分からないことがある。

 

「ヤドリギという木の枝が、ミストルティンと言われている。

その枝で光の神バルドルの命を、奪ってしまったのだ」

 

ドルバールという男がポローザにいる。

恵みをもたらす者として、光の神バルドルの光臨と崇められている。

ここ数年で膨大に畑や緑が増えている。

シュンも彼の力があれば、砂漠がなくなるだろうと信じていた。

珍しく慌てた様子で、シンスがテントに入ってくる。

 

「ドルバールが何者かにやられた。

ポローザには厳重に警戒して、向かわなければならぬ。

街中でも安心できない状況かもしれん。浅はかな行動はつつしむように」

 

シンスの表情は夜の砂漠のようだった。

 

 

 

失われた光

 

メディエータ部隊の足取りは重かった。

事件があったポローザへ向かえば、予期せぬ危機に巻き込まれるかもしれないからだ。

メディエータはリウをコードレージへ戻したかった。

しかし帰郷するために、部員を割く余裕もない。砂嵐のため危険である。

ポローザへの道のりで何者かに遭遇すると思われた。

しかし静かなものだ。

空は晴れ風もなく、砂漠がキラキラと黄金のように輝いている。

何事もなく昼過ぎにポローザへ着いた。

建物は損壊し屋根の無い家もあり、商店は点々と開業していたが客足は少ない。

小汚い服装をした者達が、とぼとぼと歩き道端に転がって寝ている者もいる。

みな無駄なエネルギーを、消費しないために動かないという。

その残酷な光景にリウは立ち尽くした。

だれ一人として生きた顔をせず、栄養不足により骨の形がくっきりと見てとれる。

リウの袖を誰かが引っ張った。

 

「たべ・・・もの、くれ・・・」

 

自分より年上の男だった。リウの力で振りほどけるほど力は弱い。

シュンが年上の男に、パンをあげると喜んで去っていった。

 

「醜いものだろう。俺達は」

 

リウは無言で首を大きく横に振った。

 

事前に予約していたホテルに向かう。一流ホテルだったらしいが、砂にまみれ老朽化している。

ホテル内の従業員は、まともな服装をしていた。

労働にありつけた者は最低限の生活が出来るという。

各自、与えられた部屋に荷物を置く。

慎重に行動することを命じられ自由時間となった。

シュンの家へリウもついていくことにした。

村の中央から少しはずれた所にシュンの家はあり、ドアを開けるとにこやかな少女が立っていた。

ピンク髪で年は5才くらいだ。

 

「お兄ちゃん、おかえり!あれ?お水の他に女の子も捕ってきちゃったの」

「オレに誘拐する趣味はない」

 

ニヤニヤ笑うアキにシュンは無愛想に答えた。

 

「じゃあ・・・彼女?お兄ちゃんも、すみにおけないね」

 

シュンとリウは見合わせたが、恥ずかしくて目をそらした。

 

「それよりもアキ、何事もなかったか?」

「何か事件があったみたいで、村長の家には近づかせてもらえないの」

 

シュンは深刻な顔でアキに向き直った。

やはり村長のドルバールはやられたのだ。

言伝で聞いた時はとても信じられなかったが、村から出る前の雰囲気とはまるで違う。

ドルバールが健在だった時までは村人は意気込んでいた。

やはり革命的な指導者は、必要だったと言わざるおえない状況である。

ちらりとリウを見ると鼻をさすりながら泣いている。

 

「どうした?」

 

ゆっくりとシュンはリウに近づく。

 

「だって、こんなひどいなんて・・・アキちゃんは平気なの?」

 

リウはポローザの惨状でショックを受けていた。

そんな中でも笑顔でいられるアキと接していると、ガマンできなくなったのだ。

 

「ごはんが食べられなかったり、お水が飲めなくて大変な時もあるけど、お兄ちゃんがいるから平気だよ」

リウの心にアキの言葉が突き刺さった。

 

シュンとなら、この死の砂漠で一緒に生きていけるかもしれない。

出会う前までは、頭の片隅にも考えられないことだった。

ポローザに辿り着くまでに、砂漠のきびしさを存分に味わった。

冷暖房の効いた、コードレージの環境とは全く別世界だ。

 

「その涙は、畑の肥やしにするために残しておいてくれ。君の笑顔は薬に勝る」

 

リウは涙を優しくぬぐうシュンに、無言で何度もうなづいた。

 

「お客とは、タイミングが悪かったかな。シュン、女の子を泣かすなよ。

おっと自己紹介が、まだだったな。オレはザクロだ。」

オレンジ短髪の男が家へ入って来た。

ハツラツとした少年で同年代、シュンとは幼い頃からの付き合いだ。

 

「ノックして入ってこい。それでどうだった、村長周辺の状況は?」

「そうそう、それがな。

村長がやられる数日前から、不審なやつがぶらついてたぜ。

それも一人や二人じゃねぇ。何か危険な匂いがする。足を突っ込まない方が身のためだ」

 

ザクロは姿勢を低くして呟くようにいった。シュンは腕を組んだまま言葉を返さなかった。

 

それから一週間、二週間と何事もなく時が過ぎた。

メディエータ部隊は、カントラリピラミッドの視察を中止した。

今回の事件でボローザの人々はピリピリしている。

危険と判断しポローザの治安維持と、村近辺の砂漠警護につとめた。

 

シュンとリウは図書館にこもっていた。

古い本ばかりだが、元大陸一栄えていただけあって相当な量だ。

シュンはコードレージツバキ先生から、新しい本を借りて学んでいる。

数万ある古い学問書は、あらかたこなしてしまったという。

リウは学校から宿題を出されていた。

 

「あのね、ここ分からないの」

 

シュンは解説から回りくどく始めた。リウにとって、それは退屈なものだった。

 

「・・・というわけだ。って人の話きいてるのか」

「シュンと同じ学校に行きたいな」

リウがうたたねしている時も、寝顔に見惚れて怒ることが出来ない。

手のひらで転がされている、その時がシュンにとって幸福だった。

 

 

シュンとアキは、メディエータに招待されホテルに向かった。

食事が終わるとシュンにお呼びがかかった。

 

「これはランゲージスーツだ。

まだ試作段階だが、花言術を扱える者なら防御力が増大するだろう」

 

ランゲージスーツは透明で柔らかい素材で、IQと身体能力を変換する効果がある。

装備者によって形状が変わるらしく、シュンはスケイルメイルのようになり、メディエータは全身を包んでいる。

 

世界最高記録以上の能力を、発揮することはできない。

脳に負担がかかるため、無理をすればアホになる。

 

 

シュンの花を見て首をかしげる者ばかりだった。

メディエータの顔は青ざめていた。

 

「ありがとうございます。有効的に使わせていただきます」

 

シュンはメディエータと、その場にいる皆に会釈をする。

その後も、しばらくホテルでは宴会が続いた。

 

一方ヴィクは村の入り口付近にいた。

「最近はチューリップに、異変が起きている。何を企んでいる?」

 

ヴィクは赤いネズミ、リップに話しかけた。

 

「これはこれは、相変わらずヒヨコなんだね君は」

「お主は昔から変わらんな。闘志が、むき出しなのだ。しかも邪悪な気がな」

 

ヴィクの言葉にリップはほくそえんだ。

リップは気分屋でだらしがなく、笑い方一つとっても不愉快になる相手である。

 

「神が現われたんだ、砂漠の下にね。

その力をボクも分けてもらった。神そのものが、いまこの村にいるよ」

 

村中央で爆発が起きた。破壊音や悲鳴も聞こえる。

 

「どうやら動き出したみたいだね。

もう、この世界は神に支配されるしかないんだ。

これからボクは、この力を望むものに感染させていくことにするよ。

君は気に入らないから、ここで眠ってくれないかな」

 

リップの力は凄まじい。

見た目は小さいネズミだが、猫が1万匹集まっても倒せないだろう。

いま戦っても勝てる見込みはない、と判断したヴィクは全力で逃げた。

 

シュンがホテルを出ると外は騒々しかった。

多数のサンドゴーレムが家を破壊し、噴水付近にも誰かがいる。

 

「ミストル・・・ティン!」

「久々だな、シュン。再会の挨拶としては少々、地味だったかな。

ゴーレムは気に入ってくれたかね?」

 

黒い長髪の白衣男は冷たく赤い目でシュンを見た。

長身美男子な研究者として、メディアにも登場したことがある。

メガネのモデルもこなし、女性ファンも多かった。

 

「なぜ村を破壊する!?」

「今日からポローザは私が管理する。抵抗する者はみな排除するまでだ」

 

昔のティンは誰よりも緑を愛し人を大切にした。優しい顔でいつも微笑んでくれた。

いまのティンは、人があえぐたびに冷淡に笑っている。

シュンはティンをにらんだ。

 

「お前の暴力が原因だ。力で人を制するのは間違っている」

「同意しないものは、好まぬものだろう。シュン、君もそうじゃないかね?」

 

人はそれぞれ違う価値観があり捉え方がある。しかしティンの行為は独裁者そのものだ。

シュンは歩き出すと3人が立ちふさがった。

 

「世界の花を盗むため、やって来ました、はるばると。

毒やトゲも何のその。キレイなものを咲かせます。

サルはスベルが、ギャグは滑らず。サルスベリ撃団キッカ、参上!」

ダイナマイトボティの、キッカは30代だ。

赤いつり目のサングラス、白いバイザー、皮のビキニのいでたちである。

「せかいの鼻をそぐるため、やって来ました、ハルバード。

毒矢磨げばナン食べて。キレイさっぱり裂かせます。 

去るはスベルは、客はなくなる。サルスベリ撃団ミィ、しゃんじょう!

サルの着ぐるみを着た、5才くらいの女の子ミィが真似していう。

「・・・イーワ」

まさかりを担げば、金太郎に瓜二つの大男がたたずむ。

赤いふんどしには「黙」の文字が刻まれている。

「巨乳おばさんや、幼女、ゴリラに用はない」

「おっ、おば?ティン様が言ってたように、気に入らないガキだね。あんた達、やっちまいな!」

シュンの言葉に、キッカは怒鳴った。残る二人も、ご立腹なようだ。

 

「あたち子供じゃないもん。シュンなんか大っキライ!ハチの巣になっちゃえ!」

ミィの扱う花言砲術(かげんほうじゅつ)は、サルスベリで重火器であれば何でも形成する。

ガトリングガンが好きなようで、ダークイノセントガンと命名しているらしい。

トリガーを引くと、花びらが連射された。シュンは避けたり桜ではじく。

建物や固い土の壁に隠れても、貫通するので意味がない。

シュンと花は連動しており、手首をひねれば桜も高速回転し威力が増す。

しかしサルスベリロボは硬く、決定打にはならないだろう。

しばらく逃げ回っているとミィの射撃が止んだ。

のどが渇いて駄々をこねているミィに、様子を見ながら近づく。

シュンはバナナジュースを渡した。

 

「なぁんだ、シュン優しいじゃん。いい?あたちを幼女って言っちゃらバッテンだよ?」

「すまなかった。ミィは可愛い女性だ」

 

ミィは頭をシュンになでられると眠ってしまった。

なぜこんな幼子が戦わねばならないのか。シュンは、ミィを妹のアキに照らし合わせた。

作られたものは己をも傷つけるものもある。

便利がゆえに事故が起き、多くの人たちを巻き込むこともあるのだ。

だからこそアキには、花言術を無闇に使わせたくはない。

ミィを抱き上げてイーワに手渡す。

 

「ウチのミィを、手なずけるとはやるじゃない。今後はあたいが相手だ」

 

キッカは花言呪術(かげんじゅじゅつ)チャームを扱う。

どんな者にも効果があり、異性だけでなく同性からもモテモテだ。

もっとも異性の場合は、そのグラマーな体だけでもイチコロである。

シュンは術にかかりキッカに釘付けになった。

 

「シュン、何ボーっとしてるのよ?しゃきっとしなさい!」

 

リウは大声で叫びながらシュンに近づいた。

それでもシュンはデレデレとキッカを見ている。

その姿を見て、だんだん怒りが沸きビンタを張った。

正気を取り戻したシュンは、残念そうな顔でじっとリウを見た。

シュンに対する気持ちは誰にも負けない。

そう思ってはいるが、期待はずれの態度に怒りがつのる。

 

「サルスベリ撃団の恐ろしさは、これからだよ。イーワ、あれを出しな!」

 

イーワは無言でうなずくとサルスベリを投げた。

みるみる二階建ての高さまで猿が巨大化していく。

 

「サルスベリロボで、踏みつぶしてやるよ。覚悟するんだねシュン!」

「リウ、ここから離れろ!そんなオモチャは、オレに通用しない」

 

サルスベリ撃団の三人は、サルスベリロボに乗り込んだ。

リウはうなづいて離れて行った。

シュンは口では言うものの、あまりの大きさに圧倒された。

桜を拳に集中させれば、小さい範囲は砕くことは出来る。

しかしそれでは、サルスベリロボにはかすり傷だ。

しばらく殴っては避けるの攻防が続き、シュンは立ち止まった。

 

「力は体術のみにあらず。知能を鍛えることで、レーヴァテインが燃えたぎる。

花言桜拳(かげんおうけん)スグレタ火神!」

 

スグレタ火神は、レーヴァテインの化身であり、その姿はラクダである。

どんどん桜が集まっていき大きくなっていく。

サルスベリロボほどの、デカさではないが十分に対抗できそうだ。

 

「イーワ。サルスベリロボの、恐ろしさを教えてやるんだよ。

パーソンオブライジングを撃ちな!」

 

イーワは頷いて、起動スイッチを押すが何も起こらない。

うなり声を上げて、スグレタはサルスベリロボに衝突した。

サルスベリロボは後ろのめりに倒れる。

 

「無知無恥だねぇ、あんたは!それはアンプリベアードの、起爆スイッチじゃないか」

「キッカ様も、ムチムチ・・・」

 

イーワは、爆弾花言(ばくだんはなげん)の使い手だ。

アンプリベアードとは、サルスベリで作り出した巨大爆弾である。

光り輝いた瞬間、サルスベリロボは遠くへ吹き飛んだ。

 

「サルは飛んでも滑らないー!」

 

サルスベリ撃団の3人は遥か彼方へと飛んで行った。

 

 

「さすがに、やつらでは役不足だったようだな。まぁいい、今日の私は気分が晴れている。

ついに私の夢も成就しつつあるのだからな!大量の砂と、肉体の欠片があれば生物をも蘇らせる。

喜びたまえ、死んだものが生き返るのだ。私は研究者として最大の偉業をなしたことになる!」

 

ティンは狂気に満ちた顔で、両手を空に掲げ叫んだ。

ティンは砂漠化を花学技術で進行させていたのだ。

花言術と科学が融合したものを花学技術という。

動物の蘇生や製造、タイムスリップ以外は実現できる。

万物全てが最終的に辿り着く土を材料にすることが、ティンは最良のサイクルだと考えているのだろう。

現状でミストルティンと、ドルバールしか光度な技術は扱えない。

 

「花言術を身につけてから植物の嘆きが心に響く。

怒っておるのだよ。人類が我が物顔で振舞う自然破壊にな。

私は秩序をわきまえている。無法者には裁きの鉄槌を下すまでだ!」

 

誰かが近づいてくる。メディエータ部隊のベンダー二世だ。

 

「お前かー!?村長を倒した奴は。逮捕状が出ている、よく聞け。この道いけ・・・」

 

ベンダーは読むものを間違えたようで、すぐにポケットにしまった。

レスラーの中には、花言闘魂術(かげんとうこんじゅつ)という格闘技がある。

ラベンダーが、突然変異した紫のタオルを肩に巻いている。

 

「貴様も、私の実験体になりたいのか。

私に歯向かうのは、無謀だということが分からないのかね?」

 

ティンはメガネを取りながら軽くベンダーを殴った。

ベンダーは吹き飛んでからタオルを持つ。

 

「正当防衛が成立した。拭くぞー!ラ、ベ、ン、ダー!」

 

自在に長さを調節し、鉄をも断つタオルがティンに直撃する。

アリタオルは下半身を狙った技だ。

ティンは足元をすくわれ上空に吹き飛び、近くのトラックへ降下した。

風圧によって家の屋根が吹き飛ぶ。

 

「ペイシェンスは、有を無にする絶対防壁。

私には何ものも受けつけん!例えそれが神の雷だとしてもな」

 

すぐにティンは、黒いヤドギリをまといながら立ち上がる。

あわててベンダーはその場から退散した。

 

「ドルバールは、私の邪魔をしたのだよ。この地を緑に変えようとはな。

自然の摂理を乱す不届き者は、排除しなければならない。」

「村長をやったのか?」

 

ティンは肩を震わせて笑い

「花言冥拳(かげんめいけん)に光は届かん。神と崇められた、ドルバールは闇に飲まれた。

じつに哀れな最期だった」と吐き捨てるように笑った。

 

「お前が光神を殺めた魔人であるなら、花言桜拳は闇をも清める聖火になろう」

 

シュンの周囲に桜が舞った。二人の一突きは鋼をもねじまげる。

拳がぶつかり合えば重い衝撃がのしかかる。

しばらく殴り合いが続くも決着はつきそうにない。

ティンの放った正拳突きをシュンは手で受け止めた。

 

「純潔掌(じゅんけっしょう)で、お前の野望を打ち砕く!」

 

シュンの片手に桜が集まっていく。邪心を吸い尽くす花言桜拳である。

 

「穴掌(けっしょう)に、純潔掌など通用せん!」

 

ティンの拳に黒いヤドリギが集まる。花びら一枚一枚がブラックホールだ。

純潔掌と穴掌が衝突すると、お互いが吸い込もうとする。

周囲の建物は、激しく空へ吹き飛んだり穴掌に吸い込まれていく。

シュンは思いっきり踏み込み、ティンの胸に拳を浴びせた。

ティンは数件先まで吹き飛とんだ。しばらくティンは、立ち上がれない。

あえぎながらシュンは、胸に手を当て地にひざをついた。

 

「成長したな、シュン。しかし人は邪心を必ず持つ。貴様の純潔掌は、もろはの拳。

その呪われた花と共に散れ!」

 

ティンが渾身の力でシュンを殴ろうとした瞬間、重装の身なりのメディエータ部隊がぞろぞろとやってきた。

 

「こいつがミストルティンか。皆のもの、ひっとらえよ。

奴の力量は未知だ。心して立ち向かえ!」

 

メディエータが叫ぶと軍人達は突撃していった。

しかしティンのヤドリギの花粉に包まれるれる。

 

「ディフィートに包まれた者は、恐怖しひざまづく。見るがいい、私のしもべ達を」

村人達やメデイエータの軍人達の一部が、シュンに矛先を向けている。

 

「仲間に、いたぶられる気分はどうかね?私に支配された者の魂は、死のふちをさ迷っている。

悲しむことはない。貴様も後を追うのだからな!」 

「淡白拳は闘心を静める活人拳。ここに、お前の味方などいない!」

 

花言桜拳の淡白は状態異常を和らげる。

シュンの白い桜により、村人や軍人達は正気を取り戻した。

我に返ったものは武器を捨て、その場を離れた。

シュンは目を疑った。リウがバットを持ち、シュンをにらみつけている。

しかし水分が消耗しており、淡白拳を放つことは出来ない。

バットを振りかぶるリウに、シュンは飛び込んだ。

 

「リウ。悪魔に乗り移られるほど、君は弱くはない」

「やっと名前で呼んでくれた・・・」

 

シュンに抱きしめられたリウはバットを落とした。

リウの涙を見てふとシュンは考えた。もうティンに対抗するための水分が残っていない。

これをなめれば、花言術の力は蘇るかもしれない。

嬉し涙だとしても、それをなめるのは変態ではないか。

リウには嫌われてしまうだろうと思った。

 

「すまんリウ、力を貸してくれ」

 

リウの涙をシュンはぬぐい、そしてなめた。

今まで満たされたことのない力が湧き溢れてくる。

桜は嵐のように吹き荒れ村全体を包み込んだ。

 

「私の術を振り払うとは、その女ただものではないな。仲良くヘルヘイムに送ってやる。

シュン、いやレーヴァテインよ。貴様は全てを焼き尽くす炎。

愛しいものも全てな。危険ゆえに桜は封印されたのだ」

「邪悪のみを灰にする者として、その伝承を塗り替えてやろう。

お前は、平和と緑を願う者の嘆きに耳を傾けろ!」

 

シュンとティンの拳がぶつかり合う。空いてる片手でティンの頭を殴った。

ティンは倒れ砂になる。

 

「私自身の砂人形を、気に入ってくれたかね?すでに砂漠は、私の王国になりつつある。

光なき恐怖の時代が始まるのだ!」

 

どこからかティンの声が響く。シュンは大地に拳を突いた。

 

メディエータ部隊が、コードレージに帰る時がやってきた。

「私が記憶している、桜の花言術は恐ろしいものだった。

しかし違っていたようだ。

花言術審議会には、そのことを伝えておこう」

 

メディエータが事務的に話した。

 

「ありがとうございます。自分の出来ることをするだけです」

 

メディエータは部隊から、少し離れた所にシュンを誘った。

 

「蕾が開くまでは、恋沙汰に浮かれず勉学にはげめ」

「オレは貧民育ちです。愛される資格はありません」

 

メディメータの言葉に、シュンは首を横に振った。

リウが、ずかずかとシュンに詰め寄る。

メディエータはその場を離れていった。

 

「身分なんて関係ないのよ!」

 

シュンを怒鳴ってから、リウはきびすを返して歩き出す。

しばらくシュンは、リウの背中を見送るが急に走り出した。

強引にリウは振り向かされ、唇を重ね合わされた。

リウはシュンの腰に手を回す。

「オレが間違っていた」

「本当に自分勝手な貧民ね」

 

これが永遠の別れではない。

リウは機会があれば、シュンに会いに来るつもりだ。

白馬の王子様にあこがれていた。貧富関係なく好きなら王子様なのだ。

ラクダの王子様も悪くないと思った。

 

「村の方々、世話になったな感謝する。それでは出発だ!」

 

こうしてメディエータ部隊は、コードレージへ帰るのだった。

メディエータはティンの動きをつかむため、3ヶ月おきにポローザを視察することに決めた。

その度にリウは、シュンに会うために同行するだろう。しかし、もう反対することはできない。

彼の桜が今は無き、春の訪れを呼び戻すと信じている。

 

それから間もなく、ポローザにリンドウの花が咲き、月の光が優しく照らした。

 

 

エピソード0前編 完




設定資料集的なもの

ミューテイション(突然変異)
時に花は突然変異して、ある物体になることがある。
特別な才能がなくても、扱うことは可能。
花は扱い次第で薬や毒にもなる。

花言術かげんじゅつについて
花言術とは花独自の力を発揮できる、いわば覚醒のようなものである。
花との共鳴がない限り、扱うことは出来ない。
水分が足りなければ、しおれて使い物にならない。

花学技術
花言術と科学が、融合したもの。
光度な技術は、ミストルティンとドルバールしか扱えない。
動物の蘇生や製造、タイムスリップ以外は実現できる。
この世界に豊富にある、砂や土が材料。
植物、兵器・・・などなど製造が可能である。

Q&A
なぜ動物限定なのか
全ての登場キャラクターは、花言術を使用するから。
生物や生命体と括ってしまえば、植物が含まれてしまうため。

なぜ砂や土が材料なのか
最終的に、全ての物は土に帰るため。
生産性においても膨大である。


ユグドラシル
実は生命をつなぎ、枝を辿ればどこへでも行けるという。
願いを叶えるためには木を守護する、ゆぐドラゴンの汁がなければならない。

花言術組合
花言術の価値を認める組合。
ランク分けは下から蕾(無能力者)1分咲き~9分咲き最高は満開である。
許可されなければ、無能力者として扱われる。
桜に関しては、絶滅危惧種指定とされ無能力者。

コードレージ軍服
濃い緑色で、植物と調和する性能を持ち迷彩の働きもする

ランゲージスーツ
ランゲージスーツは透明で柔らかい素材。
IQと身体能力を変換する効果があり、装備者によって形状が変わる。
世界最高記録以上の能力を、発揮することはできない。
脳に負担がかかるため、無理をすればアホになる。


ノースアイランド大陸紹介

ユグドラシル
ノースアイランド大陸にゆぐドラしる、という夢の生る木が大陸の中央に根付いている。
実は生命をつなぎ、枝を辿ればどこへでも行けるという。
願いを叶えるためには木を守護する、ゆぐドラゴンの汁がなければならない。

ポローザ
昔は西地域に位置する、大陸1の大都会であった。
砂漠化の進行によって、作物は育たず貧民層が多い。
景気回復のためにオアシスと、地下都市カントラリピラミッドを造る計画が持ち上がっている。

コードレージ
東地域に位置する、現在の大都市である。 
経済成長に重要な、花言術の研究も進んでおり富裕な者が多い。
医療や加工など、あらゆる最先端技術の発信国である。
しかし環境汚染により、農業や漁業の収量は少ない。

ワイガーナ
大陸の北に位置する極寒の地。 
温暖化のため流氷や降雪量が少なくなり、自然の摂理が乱れていると危惧されている。

ローラムーン
南国の緑豊かな地であり、農業や漁業が盛ん。
大陸で唯一ジャングルがある地帯。


エピソード0年齢で記入
ドン・リウ(14才)
おてんばでありながら、しとやかさもあるヒロイン。

花言バット術
リンドウバット
リンドウで作り出したバット。
磁石のように、対象を引き寄せる効果がある。

スィンセリティ(花言葉、誠実)
エグザクト(花言葉、的確)

佐倉シュン(14才)
無口で無愛想な少年の主人公。失われた桜の子孫。
花言桜拳という、レーヴァテインの力を宿した拳法の使い手。

花言桜拳
純潔掌(じゅんけっしょう)(花言葉、純潔)
淡白拳(花言葉、淡白)

スグレタ火神(花言葉、優れた美人)

ヴィク(2億3千年才)
リンドウの花から生まれた、正義と生命を司るヒヨコ。

ツバキ先生
メインキャラで、人間年齢20才プラントヒューマン。
花粉作用により、異性を引きつけ自身も女好き。
ハーレムになるのが夢である。

サルスベリ撃団
キッカ
自己中心的な女リーダー30才
バイザーやビキニは皮製
花言呪術の使い手
チャームは何者も魅了する

チャーム(花言葉、愛敬)

イーワ30代半ば
無口なゴリラ男、皮の腰巻き姿 
爆弾を花で形成する、爆弾花言の使い手

アンプリベアード(花言葉、不用意)

ミィ5才
サルの着ぐるみ姿
ダークイノセント(ガン、キャノン、ランチャー)
重火器を花で形成する、花言砲術の使い手

イノセント(花言葉、無垢)

サルスベリロボ
パーソンオブライジング(花言葉、世話好き)
エピソード0では不発

ドン・メディエータ(30代半ば)
リウの父親
大陸の中でもトップの勢力を誇る、コードレージの軍総司令官。

ドン・ハナコ(30代半ば)
リウの母親。
おしとやかで従順な性格。
リウと容姿が似ている。

花酒(68才)
しわがれた声の、陽気なジイさん。
白髪まじりで老眼鏡をかけた長身。
常に杖をついているが、歩くスピードは凄く速い。
ブドウの花言術を扱う。

マングローブ
20代半ばの男でニート。
弟がいるというが定かではない。
グローブによる、キャッチの腕前は一級品。
噂ではプロ野球界を、追放されたらしい。

民族服の人
謎の人物

ヒヤ・シンス(30代半ば)
コードレージの中で1,2を争う、ござる男
花言風信剣は、素早い抜刀を得意とする流派である。

疾刀(花言葉、嫉妬)
ヒヤシンスで作り出された刀
重量は全く無いが、鉄をも断ち切れる

モデレイトラブリネス(花言葉・控えめな愛らしさ)

ルド、ベキア(20代)
ポローザ出身。
シュンの義理の姉。ルドベキアの花言術を扱う。

ニーベル(不明)
ミストルティンの恋人。
いなくなった真相は、謎に包まれている。

ドルバール(不明) 
砂漠のポローザを、緑豊かにするために行動して功績を上げていた村長。
彼の力によって数十年後に、砂漠はなくなるだろうと期待されている。

リップ(不明)
プラントアニマル。
チューリップが、ネズミの姿になった。

佐倉アキ(5才)
シュンの妹。
コスモスの花言術を扱える。

ザクロ(14才)
シュンの男友達。
昔からの腐れ縁である。

ベンダー二世(30才半ば)
ラベンダーの花言術、花言闘魂術を扱う。

サンドゴーレム
花学技術により造られた砂巨人。

ミストル・ティン(21才)
生まれ故郷はコードレージで、元ポローザの研究員。
シュンとは昔からの知り合いで、憧れの存在である。

花言冥拳
穴掌(けっしょう)
ペイシェンス(花言葉・忍耐強い)
ディフィート(花言葉・征服)


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