仮面ライダー鎧武×結城友奈は勇者である (リョウギ)
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第1話 異世界へのクラック

世界は酷く不安定だ

「またね」と別れた明日がないかもしれない

昨日笑いあった友がいなくなるかもしれない

当たり前の世界が別のものに変わってしまうかもしれない

それでも彼らは立ち上がる

それでも少女らは立ち向かう

これは理不尽な世界と運命に立ち向かう彼らと彼女らの、偶然の出会いの物語

 

鬱蒼と茂る森、日の光もわずかしか刺さず、視界に広がるのはただただ緑のみ。時折視界に入るのは緑一色の世界に不釣り合いなほどに毒々しい紫の果実

《ギィイィィィイ》

《シャアァアアア》

動くものなど存在しないと思われた緑の世界に響くけたたましい鳴き声、その源は灰色の甲殻を持つ丸いフォルムの異形

愛嬌ある見た目ながらどこか野生の獣のような雰囲気のある怪物が3匹森の地面を転がる

「うじゃうじゃ出てきやがって……お前たちの相手をしてる暇は無いってのに!」

異形に続いて現れたのは、果実よりもこの世界に不釣り合いな鮮やかなオレンジ色

一言で形容するなら「鎧武者」と呼ぶに相応しい、そんな見た目の人影がふた振りの刀を手に現れる

「ハァッ‼︎」

ザシュッ‼︎ ギィン‼︎

鎧武者が振るう刀が異形ーインベスの甲殻に確かなダメージを与えていく。既に弱っていたらしい2体の動きが止まる

「もらった‼︎」

《ソイヤッ‼︎》《オレンジスカッシュ‼︎》

動きを止めた2体にオレンジのエネルギーが充填された刀の斬撃が命中、インベス2体を爆散させる

「あと一体……ってしまった‼︎」

鎧武者が捉えた残る一体のインベスは近くになっていた紫の果実を貪っていた。食べ終わるが早いか、インベスの体は輝きシルエットを一気に変質させる

《グゥウウウゥウウゥ……》

光の晴れた中にいたインベスは丸いフォルムから全く異なる細長い姿に変わっていた。灰色の甲殻は青銅のような金属質なものに、赤く確かな殺意を秘めた赤い目を鎧武者に向けセイリュウインベスは低く唸る

「面倒なことになったな……‼︎」

《ガゥウッ‼︎》

セイリュウインベスの鋭いツメが鎧武者に襲いかかる。刀で押し返しを図るが、青銅色の外皮には刃が上手く入らずたまらず押し負け吹き飛ばされる

「…ッ……!やっぱり硬いな……だったら‼︎」

《パイン‼︎》

鎧武者が取り出したのは果物、パイナップルの描かれた錠前

それが開かれると同時に彼の頭上に巨大なパイナップルが出現する

《ロックオン‼︎》《ソイヤッ‼︎》

《パインアームズ‼︎粉砕、デストロイ‼︎》

頭上に出現したパイナップルが鎧武者の頭にすっぽりと被さる

そしてそれは本来あるべき鎧の形に変化していく

そこに立つのは鎧武者ではなく重厚な鎧を纏った闘士とも言うべき姿ー否、彼の名は仮面ライダー鎧武。武者でも闘士でも無い、現代の戦士である

「これでもくらえ‼︎」

鎧武は手にしたパインの形をした鎖鉄球ーパインアイアンを素早く振り回してセイリュウインベスに叩きつける。先程とは明らかに違い、鈍い音と共によろめく

「よし‼︎ここからは俺のステージだ‼︎」

更にパインアイアンがセイリュウインベスに叩きつけられ、たまらずインベスは吹き飛ばされる

「これで……あ?」

鎧武の動きが止まる。その目には確かな異常が写っていた

セイリュウインベスの落下点にジッパーが開くようにして穴が開いたのだ

「まずい‼︎」

穴の正体は「クラック」この森と「鎧武の生きる世界」を繋ぐ空間の穴である

そこにインベスが落ちたということは、鎧武の生きる現実世界に怪物が解き放たれたということになる

「やっちまった‼︎待て‼︎」

閉じかけたクラックに鎧武が素早く飛び込む

そこにもまた異変が広がっているとは知らずに

飛び込んだ先で鎧武を待ち受けていたのはー自由落下、つまり予想外の高所に放り出されたのだ

「は?え?嘘だろおおおおおおおおお⁉︎」

情けない悲鳴と共に落下した鎧武の意識は一瞬見えた極彩色の地面を最後にブラックアウトした

 

「………?はっ⁉︎」

青年ー葛葉絋汰はしばしの失神から目を覚ます

瞬間的に先程までの一部始終を思い出す

「あいって……流石に全身が痛いな……」

そう彼こそが先程戦っていた仮面ライダー鎧武、その人である

流石に高所落下のダメージが効いたようで変身が解除されてしまっていたのだ

「何も高いとこに出なくても……って、ん?」

明瞭になった絋汰の意識はあることを捉える。捉えてしまう

自分の立つ地面が極彩色で、かつ波打っていることに

「なんだこりゃ⁉︎」

当然の反応だろう。彼の生きる世界、現実世界にこんな地面はありえない。よく見ると木の根のようなパイプが波打ち組み合わさったような構造になっている

「沢芽市じゃない……?ならヘルヘイムからまだ出てないのか?」

明瞭になりかけた絋汰の意識が更に混乱していく。そこに更なる追い討ちがかかる

「ん……?なんか急に暗くなってきたな……ってなぁッ⁉︎」

急に暗くなった視界、その原因は絋汰の上空からかかる巨大な影

巨大な何かがそこにいた

真っ暗な空に映える白基調の丸っこいフォルム。どこか女性のように思えるシルエット。目も手も足もないそれはインベスが可愛く思えるほどの異形だった

しかも当のインベスの何百倍も巨大である

「イ、インベス……⁉︎こんなデカイのが⁉︎」

異形はその言葉に無言で布のような部分を叩きつけて返してきた

「ぬわぁッ⁉︎」

地響きとともに抉れた地面を見て絋汰は嫌でも気づく

(こいつ、こっちを殺す気か……‼︎)

絋汰の背に冷や汗が滲む。インベスはどこか生物的な殺意を向けてくる生き物であったが、目前のこの異形は殺意も何もなく、機械的に絋汰を殺しにきた

彼にしてみればひたすら不気味である

睨みつける絋汰を敵と視認したのか白い異形はゆっくりと絋汰に近づいてくる。負けじとオレンジロックシードを構えて覚悟を決めた絋汰の耳に突拍子も無いものが入ってきた

「勇者、パーーーンチ‼︎」

ズドォン‼︎

明るく快活な女の子の声、それに不釣り合いな重い打撃音、白い異形の撃墜音、絋汰の耳にはそれらが同時に入ってきた

盛大に肩透かしをくらって呆ける絋汰の目の前に軽い足取りで小さな人影が降りてきた

赤い髪と淡いピンクの特徴的な服が目立つ小さな女の子が

「………へっ?」

「………え?」

間の抜けた絋汰の声に気づいたのか、少女が絋汰の方を軽く振り向き目を丸くする

 

これが仮面ライダーと呼ばれる若者たちと勇者と呼ばれる少女たちのファーストコンタクトとなった




拙い文章ですみません……初投稿です
ほぼ鎧武側のシーンでした……戦闘シーン難しいですね…

不定期投稿ですが完結させるつもりなので温かい目で見守ってください(〃ω〃)


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第2話 少女と怪物

若者は戦う。誰かが生きる世界を守るため、自身の求める強さを求めて、愛するただ一人を救うために

少女は戦う。課せられた使命、否、みんなの笑顔を、幸せを守るために

彼らの戦いに果たして果てはあるのだろうか、望む結末はあるのだろうか。それを知るのは等しく神だけなのかもしれない

 

絋汰の目前に降り立った少女はどこか巫女らしさのある服をたなびかせ改めて絋汰に向き直る。絋汰も呆気に取られたままポカンと視線を返す

「女の子……?」

「男の人……?」

ようやく状況を飲み込んだ二人が叫ぶのはほぼ同時だった

「え、ええええええええ⁉︎お、女の子が、さっきのデカブツぶっ飛ばしたああああ⁉︎」

「ええええええええ⁉︎なんで⁉︎なんで樹海の中に普通の人がいるの⁉︎」

絋汰の世界に身の丈数十倍以上の怪物をライダーにならずに吹き飛ばせる人間……ましてや少女なんて存在しない。驚きももっともである

「何バカみたいな大声出してんの友奈…」

「びっくりしちゃったよゆーゆ〜」

混乱する絋汰の耳に新しい声が届く

声に導かれて振り返った先には友奈、と呼ばれた先程の少女と同じくらいの背格好の少女が二人立っていた

一人は友奈とよく似た紅い特徴的な服を着たツインテールの勝気そうな少女。友奈と違って腰には二本の刀が下がっている

もう一人はどこかほんわかした雰囲気のロングヘアの少女。こちらも他二人に似た紫の特徴的な服を纏い長い槍を携えている

「夏凛ちゃん、園ちゃん、大変なの‼︎ 普通の人が樹海に紛れ込んでるの‼︎」

「何寝ぼけてんの?そんなことあるわけが…」

紅い少女、おそらく夏凛と呼ばれた少女がようやく友奈の隣の絋汰に気づき思わず目を剥く

「うそぉ⁉︎」

「ほんとに紛れ込んでるね〜私またびっくりしちゃったよ〜」

かなり驚いたそぶりの夏凛とは違いあまり驚いた様子が園ちゃんと呼ばれた紫の少女からは感じられないが新しい少女二人も絋汰の存在に驚いているらしい

「あんた、なんでこんなところにいるのよ⁉︎」

「いや、そんなこと言われても、俺だってここがどこかもわかんねぇんだって‼︎」

「樹海を知らないってことは〜大赦の人でもないよね〜?」

「大赦?なんだそりゃ?」

「私なんだかわかんなくなってきたよ……」

「奇遇ね友奈、私もよ……」

「はぁ……って後ろ‼︎後ろ‼︎」

あまりの驚きに4人は迂闊にも失念していた

友奈が吹き飛ばした白い異形はまだ沈黙してはいなかった

異形は下腹部と思われる部分からいくつもの球体をこちらに向かって射出してくる

「!危ねぇ‼︎」

今度こそ変身すべくロックシードを構える絋汰だが、

「うぉりゃああああ‼︎」

突然上から響いてきた威勢のいい掛け声とともに飛来していた球体が絋汰たちの目前で爆発する

「なーにボーっとしてんのよお三方?夏凛までボーっとしてるなんて珍しいわね?」

「風先輩‼︎」

新しく現れたのは今までの三人より少し大人びた少女

こちらは黄色い服と身の丈に迫るほどの大剣を携えている

「そりゃボーっともするわよ……こんなこと初めてだし」

「こんなことって……えっなんで私たち以外の人が⁉︎」

「ね〜不思議だね〜」

予想通り驚く風。しかし今度は問答に発展する前に事が動く

白い異形の体のあちこちから爆風が発生、加えてどこからか伸びた緑のロープで縛られ思うように動けなくなっている

「話はあと、東郷と樹が抑えてくれてるあいだに倒すわよ‼︎」

「ったく、さっさと片付けるわよ‼︎色々整理したいし‼︎」

「うん、行こう‼︎」

風、夏凛、友奈の三人が異形に向かって跳躍。やはりただの少女の運動能力とは思えない。まるでライダーシステムで変身しているように絋汰には思えた

「ここにいてね〜すぐに倒しちゃうから!」

園っちと呼ばれた少女も絋汰に手を振りながら三人に続いて駆けていく。気の無い手の振り返しをした絋汰は未だ呆気にとられて呆けている

「なんなんだ一体……」

視線の先では4人の少女達が絋汰を襲った巨大な異形を絶妙な連携を取りながら圧倒していく。身の丈数十倍以上の異形を少女達が圧倒する様は何やらシュールに見えた

「俺が出る幕は無さそうだな……ん?」

渋々ロックシードをしまった絋汰の視界の端を何かが物凄い速さで走り抜けた。辛うじて目で追ったその先にいたのは

「………人形?」

戦う少女達を無視して走り抜けていく人形のような影だった

 

(樹海の中に人なんて……一体なんで……)

少女達の交戦地点から少し離れた場所から白い異形ーヴァルゴバーテックスを睨みつける影がもう一人

他の少女達に似た青い服を着た長い黒髪の少女ー東郷美森は怪訝な表情をしながらも正確にヴァルゴの放つ球体爆弾を手にした長銃で狙撃していく

(迷い込んだ……なんてことはありえない、じゃあ一体あの人は……)

不意に東郷の手にした端末が音を立てる

映った画面には友奈達と乙女座(ヴァルゴ)、そして東郷のすぐ斜め後ろを高速移動する双子座(ジェミニ)のマーク

「‼︎しまった‼︎」

振り向いた時には新たな敵ージェミニバーテックスはもうかなり後方を走っていた。このバーテックスは過去にも他のバーテックスで陽動している中、「目的のもの」に向けて全力疾走してきた隠れた難敵である

(まずい、狙撃で倒すには遠すぎる……‼︎)

(このままじゃ、神樹様が……‼︎)

一か八か、走るジェミニに照準を合わせ、引き金を引く……

ーそんな東郷の脇を赤い影が走り抜けた

「ーえ?」

「ぉおぉおりゃぁあ‼︎」

走り抜けた赤い影は遠方を全力疾走するジェミニに追いつきジェミニを盛大に転ばせた

《ミックス‼︎》

《ジンバーチェリー‼︎ハハーッ‼︎》

「なんとか間に合ったぜ……ヤバそうな感じだと思ったら、こいつもあのデカイのの仲間みたいだな」

東郷の脇を走り抜けた赤い影の正体は、鎧武者に似た何者か

黒い甲胄の上に陣羽織を纏ったような姿は正しく古風な将軍のようである

「あれは……何?」

 

側を走り抜けた人形のような何かに嫌な予感を覚えた絋汰が変身したのは鎧武ジンバーチェリーアームズ

鎧武の強化形態の中でも超スピードでの移動に特化した姿だ

全力疾走している人形もどきに追いつけるかは五分五分だったが、思ったよりは余裕だったらしい

「さて、お前くらいなら俺一人で十分」

倒れた人形もどきはせわしなく足をバタつかせながらももう起き上がりかけている

「フルーツジュースにしてやるぜ‼︎」

独特な啖呵を切った鎧武は手にした赤い弓ーソニックアローのスロットにチェリーエナジーロックシードを装填

《ロック、オン》

鎧武が弦を引き絞ると同時にソニックアローの発射口に赤いエネルギーが充填されていく

「セイハーッ‼︎」

《チェリーエナジー‼︎》

気合一射、ソニックアローからさくらんぼに似た形のエネルギー球が発射され、人形もどきの頭部に命中、爆発する

上半身を失った人形もどきの体はまるで花びらのようにぼろぼろと剥がれ、空へと舞い上がっていく。不気味な外見からは想像もつかないどこか美しい最期だった

「はぁ……なんとかなったか……」

緊張の糸が切れたのか鎧武は地面に大の字に寝転がる

見ると少し遠方でも空に向けて花びらのようなものが上がっていく

「あっちも倒せたんだな……ん?んん⁉︎」

事態の終わりを確認すると同時に今度はこの世界に異変が発生した

地面や空が異形たちと同じように花びらになってほどけだした

「なんだ⁉︎どうなってんだ⁉︎」

「安心して下さい。樹海化が解除されるだけですから」

見ると鎧武の背後に先程まで一緒だった少女とはまた違う少女が

「君は……」

「私は東郷美森といいます。彼女たちの仲間です」

丁寧な自己紹介とは裏腹に少女の顔には警戒がにじみ出ている

「貴方が何者か、戻ったら少し話を聞かせてもらいます」

東郷のその言葉を最後に極彩色の世界は解けて消えた

 

気がつくと鎧武はどこかの建物の屋上らしきところに立っていた

「………あれ?戻ってこれたのか?」

沢芽市に戻ってこれたのかと思った鎧武だが、見える町の風景の違和感に気づく

まず沢芽市のシンボルでもある巨大なユグドラシルタワーがない

それに他の建物も沢芽市のものより低く、どこか古風な感じがする

「なんだよここ……どこに出ちまったんだ……?」

「え、ええっ⁉︎」

混乱する鎧武の耳に聞き覚えのある明るい声が響く

振り向くと先程あの白い異形と戦っていた少女達が何やら得体の知れないものに驚くような顔で並んでいた

いつの間に着替えたのか服はどこかの制服のようなものに変わっている

「あ、さっきの‼︎」

「なんで鎧武者がこんなとこに⁉︎」

「すご〜い‼︎カッコいいよあの人‼︎」

「いやそういう問題じゃないでしょあれ⁉︎」

「あんたどこから入って来たのよ‼︎」

いきなり鎧武に詰め寄る少女達。面食らった鎧武だがそこではたと思い出す

少女達と出会った時、自分は変身してなかったことに

「そうだった……ちょっと待ってくれ‼︎」

《ロック、オフ》

素早くベルトからロックシードを外し絋汰の姿に戻る

「あ、あの時のお兄さん⁉︎」

「嘘、何今の⁉︎」

「わ〜変身ヒーローみたいだね〜‼︎」

やはりというかなんというか少女達は更に絋汰に詰め寄ってくる

「みんな、その人も困ってるから一旦落ち着きましょう?」

喧騒を裂いて声が響く。声の主は先程あの世界で最後に話しかけて来た東郷とかいう少女だった

「さて、約束通り」

「少し、話を聞かせてくださいね?」

「……は、はい」

なんだか妙に凄みのある笑顔の問いかけに、恐らく年上ながら、絋汰は頷きを返すしかできなかった

 

「実に、実に興味深い。まさかただの調査がこんなことになるとはね……」

絋汰と少女達がいる建物、学校らしいその建物のグラウンドに見えない何かが佇んでいた

「もしこれが森による現象ならば……ふむ、良いチャンスかもしれないな……」

透明な何かはさも愉快そうにくっくっと笑いを漏らすと今度は気配ごと消失した

屋上で騒ぐ少女と若者を興味深そうに振り返りながら




すみません、第2話めっちゃ長くなりましたw
戦闘って文字にするとかなり長くなりますね……

今回は結城友奈をはじめとした勇者のみんなが続々と登場。とりあえずゆゆゆ組は勢揃いしました。樹ちゃんはまだ会話には出てませんが……

あと最後に出て来た透明な何か、鎧武本編を見てる人なら言動から「あいつだなこれ……」ってなってる方もいるかも……?

次回はようやく日常パートです、お楽しみに‼︎


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第3話 違和感とおろしうどん

戦士は言った

『弱者は強者に蹂躙されるべき存在。弱者の存在価値などそれだけだ』

 

策士は言った

『私たちのような存在には、時間の流れが酷く退屈だ。おもちゃを2、3欲しがるのは当然だろう?』

 

王は何も言わなかった

ただ彼の愛する亡骸に寄り添い、枯れゆくばかりだった

 

ヘルヘイムの森・深部

『ディエヴオ、お前は何をしている?』

深く暗い森の中、インベス達の咆哮しか聞こえないはずの森の中で本来あり得ない『言葉』が紡がれる

森に溶け込むように佇んでいたのはインベスと同じ異形。しかし、その目、手にした檄という『道具』にはインベスとは違う知性を感じる

オーバーロードインベス・フェムシンム

現在この森を支配する種族の一人、レデュエと呼ばれている異形はどこか責めるような目線をもう一人に向ける

もう一人の黒い異形に

『言葉の意図が掴めないな、レデュエ。我々は最低限のルールさえ守れば互いのなすことに関して不干渉ではなかったかな?』

『その最低限を犯そうとしている貴様からよくその言葉が出たものだな』

手にした檄がディエヴオに向けられる。最早レデュエはその敵意をごまかす気もないらしい

『策士らしからぬ態度だな。何をそこまで苛立つ必要がある?』

『愚かにも貴様が私たちのおもちゃに余計な細工をしようとしているからだよ』

『おもちゃとはあの猿たちのことかね?』

『あぁ、そうだとも。あれらは私とデェムシュが予約済みだ。選ばれた存在ながら世迷言しかほざけない貴様が用無しと切って捨てた、あの猿どもだ』

ディエヴオは大きくため息を吐く

『………愚かなのは貴様らだ、レデュエ。選ばれながらして、我らが王ロシュオは枯れ果て、腹心の貴様らはただ力に溺れる。崇高なるフェムシンムが聞いて呆れる』

パチンっ

ディエヴオの指鳴らしに呼応して彼の背後にクラックが口を開ける

『待て‼︎貴様、我々と袂を別つのか?』

『最初から貴様らに従う気は無いよ。ではな、レデュエ。約束通り好きにさせてもらう』

悠然とした仕草で手を振るとディエヴオはクラックの中へと姿を消した

『………あの異端者めが……‼︎』

忌々しげに振るわれた檄が木々を薙ぎ倒す轟音がただただ森に反響していった

 

同時刻より少し前

不思議な空間で出会った少女6人に詰め寄られ、その一人東郷美森の謎の凄みに押されて言われるがままに連れていかれた絋汰は

「うんめぇ〜‼︎」

その少女たちと仲良くうどんを啜っていた

「でしょでしょ?やっぱり最高だよね、うどん‼︎」

「こんなうまいうどん食べたの初めてだ……コシもあるしダシも効いてるから何杯でもいけそうだ……」

「気に入ってくれて私も嬉しいよ‼︎」

「友奈、あんたコイツここに連れてきた理由忘れてないでしょうね?」

すっかり絋汰への警戒を解いた友奈に夏凛がツッコミを入れる

そう、6人が絋汰をうどん屋に連れ込んだのは理由がある

東郷が宣言していた通りの「事情聴取」である

「ごめん、つい……」

「全く、友奈ときたらうどんのことになると目の色変えちゃうんだから……」

「いきなり連れてこられたから何されるのかと思ったぜ…えっと、俺のこと話せばいい感じかな?」

「ええ、えっと……」

「葛葉、俺は葛葉絋汰だ」

「ありがとうございます、葛葉さん。先程の戦い、葛葉さんには私たちから見て奇妙なところがいくつもありました」

「あんたにとっては普通かもしれないけど、あたしたちから見たら異常なの。だから少しでもあんたのことを知りたいのよ」

うどんをすすりながら絋汰は東郷と夏凛の言葉に頷く

「成る程な……おし、俺が話せることならなんでも話すよ」

「ありがとうございます」

「あ!そういえば私たちの自己紹介がまだだったね!」

友奈が元気に声を上げる

「私は結城友奈っていいます!」

「改めて、東郷美森と申します」

「あたしは犬吠埼風!でこっちが」

「……妹の犬吠埼樹です…」

「三好夏凛よ」

「乃木園子だよ〜気楽に園っちって呼んでね、かずっち〜♪」

「かずっち⁉︎……ハハッ、かわいいあだ名ありがとな。改めて、俺は葛葉絋汰。よろしくな」

自己紹介を挟んだからか若干警戒していた数名も少し肩の力が抜けたようだ

「そうだな……まずは出身からか、俺は一応沢芽市ってとこから来たんだ。ちょっと前までダンスやってたけど、今は仕事探し中ってとこかな〜……」

「沢芽市……聞いたことがない街ですね……」

「あたしも……少なくともこの辺りの街じゃないわよね?」

東郷と夏凛の困惑した表情を見て絋汰も困惑する

元地方都市とはいえ、ユグドラシルコーポレーションの参入があってからは沢芽市の知名度は相当高くなっているはずである

「えっと、俺からも一ついいか?ここどこだ?日本だってのは間違いないと思うけど……」

「ここは日本です。香川県ですね」

「あー、なるほど……県外じゃあ知らないってこともあるのか…」

と何気なく呟いた絋汰の一言に和みかけていた場の空気がまた張り詰める

「……絋汰あんた…今なんて?」

「へっ?いや、沢芽市は四国じゃないから県外なら知らないかなって……」

「ありえません……‼︎」

東郷が少し食い気味に否定する

(なんだ……?なんで県外ってのにこんな否定が……?)

「失礼、相席させてもらうよ?」

「あ?あぁ、どうぞ………ってお前‼︎」

首をかしげる絋汰の隣の空席にすっと座ってきたのは絋汰の見知った顔だった

忘れたくても忘れられない顔、ビートライダーズをモルモットとのたまう時も、自分の開発を語る時も、終始貼り付けている朗らかなような、不気味なような笑顔

ユグドラシルの研究者、戦極凌馬がそこにさも当然のごとく座っていた

 

「やぁ、葛葉絋汰。まさかこんな所で再会するとはね」

警戒する絋汰に朗らかな挨拶を返しながら注文していたらしいおろしうどんにレモンを振りかけていく

「ん、美味しいねこのうどん。私は普段なら食事には頓着しないんだが、これは癖になりそうだ」

7人分の警戒の視線を受けながらも凌馬はどこ吹く風と呑気にうどんをすすっていく

「あの……絋汰さん、この方は?」

「あぁ、顔見知りだよ……」

「お友達……って感じじゃないね……」

「私が友と呼ぶのは一人だけだよ。無論彼ではないがね」

半分ほど食べ終えた凌馬は箸を置いて7人に向き直る

「何しにきやがった?」

「そう警戒しないでくれたまえ、今は私も君と同じような状況だからね」

「どういうことだ……?」

凌馬はおもむろに東郷に視線を向ける

「私は君たちの今の状況についての仮説が完成している」

「仮説……?」

「あぁ、限りなく核心に近い仮説だ」

「これを確実にするためには『こちら側』の情報が不可欠だ」

凌馬のにこやかな笑顔を見つめ返す東郷は何かを察して怪訝な表情をする

「……私たちの情報と取り引き、ということですか?」

「悪い話ではないだろう?」

「……わかりました」

「物分かりがいい子で助かったよ。さて、じゃあうどんでも食べながら情報交換といこうじゃないか」




はい、ようやくうどん回ができましたw

うどんもなんですがようやくオリジナルオーバーロードのディエヴオが登場して物語も進んできました

勇者側のメンバーは実はまだまだ出すつもりで、あの子やあの子も出ます‼︎(多分)
もちろん鎧武側の他面子も出ますよ‼︎メルシー‼︎←

それでは、次回もまたお楽しみにです(*´꒳`*)


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第4話 繋がる世界、始まる異変

「銀、園っち、大丈夫?」

「だいじょばない、かもしれない……」

「さっきから森ばっかりであきてきたよ〜……」

鬱蒼と茂る森、ところどころに毒々しい紫の木の実のなる薄暗い森の中に人影が3つ。3人ともかなり小柄で見たところ小学校高学年くらいに見える

「樹海から変な穴を通ったらこんなところに出てしまうなんて…」

一人は黒髪を結い上げたしっかりした印象の女の子

「樹海の結界からほんとに樹海に繋がってるってなんの冗談だよ〜」

続いて歩くのは活発な印象のあるショートヘアの女の子

「早く帰ってみんなと会いたいよ〜…サンチョ〜……」

最後尾にはロングヘアののんびりとした口調の女の子

三人ともに共通するのは何やら巫女服のような特徴的な服と武器に思えるものを持っていることだ

黒髪の子は淡い紫の服に弓を構えている

ショートへアの女の子は紅い服に重そうな二挺の斧を腰に下げている

ロングヘアの女の子は濃い紫の服にヘトヘトの体で手にした長槍を杖代わりに歩いている

ぐぅ〜………

不意に誰のとも知れない腹の虫が鳴き、三人が揃って赤面する

どうやら三人同時に鳴いたらしい

「お腹すいたな……」

「……お昼時にお役目が入って、それから1時間ほど歩きっぱなしだもの…」

「はぅう〜……お腹と背中がくっつきそうだよ〜……」

とロングヘアの女の子がふと隣の木に実っている美味しそうな紫の木の実を目に留める

「……じゅるり」

「ちょっ、園っち⁉︎それは流石に毒がありそうだから無理よ⁉︎」

「でもわっし〜……すごく美味しそうだよ〜……」

園っちと呼ばれたロングヘアの女の子はわっしーと呼ばれた黒髪の子の制止を半ば無視し、木の実を摘み取る

見れば見るほど食欲のそそられる美味しそうな色合いだ

「……一個くらいなら……」

「銀⁉︎銀まで何を……⁉︎ でも確かに、美味しそう……」

園っちが木の実を手にしたのを皮切りに銀とわっしーも食欲をそそられてしまったのか木の実に手を伸ばす

「美味しそう〜……いただきま〜す…♪」

園っちの呑気な声が森に響いていった

 

 

「……私たちから説明できるのは以上です」

「…………」

「成る程、成る程、ありがとう東郷美森。これでようやく仮説が核心に変わりそうだ」

凌馬との「取引」に応じた6人からポツポツと話された内容は絋汰には到底信じられない内容だった

まず、友奈たち6人ーと今は他にも別行動中の何人かがいるらしいがーは讃州中学という学校の「勇者部」というボランティアやら人助けを活動内容とする部活動であること。これはまだ理解できた

次からが問題だ。勇者部の活動内容はそれだけでなく、神樹様という存在に選ばれた勇者としてバーテックスという外敵と戦うことも含まれること

先程絋汰が6人と出会った極彩色の大地と黒い空の広がる場所は勇者たちがバーテックスを迎えうつ為に展開される「樹海の結界」であること

友奈たちが絋汰に驚いていたのは樹海の結界の中には一般人は入れないはずだからということ

とにわかには信じがたいことが(公にはできないのか筆談で)友奈たちから語られた

絋汰もあの異形ーバーテックスや勇者になった友奈たちを見ていなければ信じられなかったかもしれない

今ですらかなり混乱している。あまりにも自分がいた世界では現実離れした話に

「さて、では私の見解を発表しよう。単刀直入に言って、私たちと君たち勇者部の世界はおそらく別の世界ということになる」

「はぁっ⁉︎」

「えぇっ⁉︎」

絋汰と友奈が同時に声を上げる。無理もないだろう

「じ、じゃあ、絋汰たちは異世界人ってこと?」

「……信じられない、でも……」

困惑した様子ながらどこか得心のいったような反応を返す犬吠埼姉妹

彼女らは絋汰が鎧武に変身している姿も、そこから解除して絋汰に戻る姿も見ている。異世界というのがまるっきり荒唐無稽とは思えなくて当然だ。絋汰も同じ心境なのだから

「ふわ〜すごいね〜かずっちとごっくんファンタジーだね〜♪」

「いや、園っちそういう問題じゃないと思うわよ……」

「はは、柔軟な思考だな君は……ごっくんってまさか私のことか?」

「うん、せんごく、だからごっくんだよ〜♪」

「…………」

園子のマイペースさはどうやら凌馬にも難解なようで、あの凌馬がしばし沈黙する

「まぁともかくだ、君たちの勇者という存在やら神樹という存在も我々と世界が違うことの根拠の一つではあるが、もう一つ決定的な証拠がある」

行儀悪く凌馬が割り箸を振りちゅうもくを促す

「それは神樹様の結界、樹海と呼ばれるあの場所だ」

「神樹様の結界が……理由?」

「あぁ、そうだとも。実は私はこの世界には彼よりも早く来ていてね、恐らく結界の展開された瞬間、街のテクスチャが上書きされる瞬間に立ち会ってるのさ」

「上書き……? この街の上にあれが広がるのか⁉︎」

「うん、凌馬さんの認識で間違い無いと思う」

「えぇ、結界とは言いましたが樹海は一旦現実世界の上に神樹様の空間を重ねてるようなものなんです。故に、樹海がバーテックスに侵食されたら現実でも同じ場所に被害が出ます」

「そんな……‼︎」

「私も最初は驚いたがね、すぐに変身して精密分析して驚いたよ。私の分析計器には樹海が映らず、変化する前の街並と動きの止まった住人が映っていたからね。樹海の展開に際してこの世界が一時的に停止すると考えれば、私たちが停止も上書きもされずに樹海にいれた理由にも、私たちが異世界出身であることにも説明はつく」

淡白な説明を述べた凌馬は注がれた冷たい麦茶を流し込み喉を潤す

「まぁ、我々にわかりやすく例えるならばあの結界はまさしくヘルヘイムのようなものだろう。限定的な状況下だけで世界と繋がる異世界のテクスチャ。同じ植物的な存在と考えると、神樹様とやらもヘルヘイムと関連があるのかもしれないね…」

「ヘルヘイム……? 絋汰さんの世界にも神樹様がいるの⁉︎」

「……いや、あれはそんな大層なもんじゃ無いさ……」

友奈の好奇心が少しこもった質問に絋汰の顔が曇る

「……ふむ、では私たちの世界についても話しておこうか」

 

「えっと、つまりあんた達の世界は今ヘルヘイムっていう別の世界から侵略されてて……」

「あと1年もしないうちに、絋汰さんたちの世界も、ヘルヘイムになっちゃうってことですか……⁉︎」

重々しく絋汰が頷く

「なにそれ……めちゃくちゃヤバイじゃない…‼︎」

「私たちが戦うバーテックスと同じ立ち位置に異世界そのものがいる……想像するだけでゾッとしますね…」

「なんか……怖い……」

当然の反応だろう。絋汰も以前、アーマードライダー・斬月、呉島貴虎に真実をーヘルヘイムの奥底に広がっていたかつての文明の廃墟を見せられた時は樹以上に怖気付き、東郷以上に恐怖し、夏凛以上に絶望した

「あぁ……途方も無いだろ? まぁでもできることが全く無いって訳じゃない。俺は、少しでも可能性があるならそれを試していきたい。俺たちの世界そう簡単に滅ぼさせやしないさ」

「……彼の言う通りさ。余所者にくれてやるほど私たちの世界は安くないからね〜」

凌馬の物言いには何やら含みがあるような気もしたが、絋汰は気にせず笑顔で告げる

「そっか……絋汰さん、強いんだね!」

「カッコいいよ〜かずっち〜♪」

「へへっ……そうかな〜」

恥ずかしそうに絋汰が頬をかく

「さて、葛葉絋汰……キミ何か忘れてないかね?」

「は?何を……ってあぁ‼︎帰れねぇ‼︎」

絋汰とセイリュウインベスが通ってきたクラックは樹海の遥か上空に開いていた。かつ特殊な措置無しにはクラックはすぐに消えてしまう

現在絋汰は帰り道を絶賛失った状態にも等しい

「いや、それもそうだが……」

と凌馬が何かを言いかけたその時

キャアアアアアアア‼︎

店の外から絹を裂くような悲鳴が響く

「何⁉︎」

絋汰と勇者部がすかさず店から飛び出す

店の前の通りは騒然となっており、人々が何かから必死に逃げている

その何かは…

「あいつは……‼︎ あの時のインベス‼︎」

絋汰の視線の先で暴れていたのは絋汰と同時にこの世界に落ちてきたはずのセイリュウインベスであった

「私が言いたかったのはこちらのことさ。キミ、最初は樹海がヘルヘイムのようなものとでも考えてただろう? 残念だがインベスも我々と同じ世界の存在だ。だから樹海が消えればこちらに残留するのは当然だろう?」

悠々と店から出てきた凌馬が呑気に告げる

《シィイィイイイイ……》

その間もセイリュウインベスは通行人に牙を剥き始める

「ハァっ‼︎」

すかさず絋汰がセイリュウインベスを蹴り飛ばし、襲われかけていた人を助ける

「逃げろ!」

「は、はい‼︎」

「絋汰さん‼︎」

「友奈はみんなを頼む。こっちは、俺の責任だからな」

一般人の避難を友奈達勇者部に託した絋汰は改めてロックシードを構える

《オレンジ‼︎》

解錠とともに絋汰の頭上にクラックが開き、オレンジ型の鎧が現れる

《レモンエナジー‼︎》

「‼︎お前…‼︎」

見ると凌馬もロックシードを構え解錠し、頭上にレモン型の鎧を召喚している

「今は異世界、帰る方法やら何やらはいがみ合ってても見つからないだろう? 何よりこの世界の貴重な知り合いの信頼は得ておきたいからね」

「……勝手にしろ……変身‼︎」

渋々と言った様子で共闘を承認した絋汰は改めてロックシードを戦極ドライバーにセットする

《ロックオン‼︎》

「やれやれ、変身」

《ロックオン》

絋汰のドライバーのカッティングブレードと凌馬のドライバーのコンプレッサーがほぼ同時に動作し、ロックシードが開封、エネルギーが解放される

《ソイヤッ‼︎ オレンジアームズ‼︎》

《花道、オンステージ‼︎》

《ソーダ……レモンエナジーアームズ‼︎》

《ファイトパワー‼︎ファイトパワー‼︎ファイファイファイファイファファファファファファイッ‼︎》

それぞれの鎧が装着され絋汰はアーマードライダー鎧武に、凌馬はアーマードライダーデュークに姿を変える

「さぁ、こっからは俺のステージだ‼︎」

 

 

一方、冒頭の森では

「いただきま〜す………♪」

「待った待ったちょっと待った‼︎」

園っちが被りつく寸前の果実が何ものかによってはたき落とされる

「ふぇっ⁉︎なになに〜?」

「危なかった……そっちの二人もそれ捨てろ、食べたらロクなことならねぇぞ」

「あなたは……?」

園っちの邪魔をしたのはメガネをかけた青年だった。どこか理知的……というかはチャラついた印象を受ける

「俺?俺は城乃内秀保。まさかここにこんな小さな子が迷い込んでるなんて……」

「‼︎城乃内さんは出口を知っているんですか⁉︎」

「あ?あぁ知ってるよ。ちょっと待ってろ、今凰蓮さんに連絡して……」

《ガァアアアアアア‼︎‼︎》

突然の咆哮とともに現れたのは人と同じくらいの体格の異形

絋汰が戦っていたものと同じインベスの一種、シカのような形態のシカインベスである

「な、なんだあれ⁉︎」

「バーテックスじゃない……⁉︎ なんなのアレ……」

「うわぁ〜かわいい〜‼︎」

「「え?」」

「呑気なこと言ってないで下がってろ‼︎ここは俺が……」

と城乃内が懐からドングリのレリーフの彫られた錠前を取り出す……のとほぼ同時のことだった

ズガァァン‼︎

《ガッギッ……⁉︎》

かなり痛そうな轟音と共にシカインベスに何かが命中し、その体躯を大きく吹き飛ばす

飛来してきたものは丁度城乃内の前に勢いよく突き立つ

それは深緑色のトゲトゲしいノコギリ

「これは……‼︎」

「ナイスガッツよ、ボウヤ‼︎」

と城乃内たちの後方から嫌に野太いながら乙女チックな響きというなんだか矛盾した声が響く

声のした方向から現れたものにわっしーたちは絶句した。絶句せざるを得なかった

そこにいたのは……

「可憐なガールズに手を上げようなんて、お天道様が許してもワテクシが許さないわ‼︎ 覚悟しなさい、ケダモノ‼︎」

と野太いながら乙女感全開に話すトゲトゲ鎧とモヒカン、更にもう一挺のノコギリを完備した悪漢臭しかしない緑の巨漢であった




はい、出ちゃいました最強の大人のあの方、満を持して弟子と共に参戦ですw

実は3話とまとめるつもりでしたがぶった切ってシャルモン組とわすゆ三人組の合流シーン混ぜ込んで4話にしました。おかげで二つの世界がいい具合にジンバーもといミックスしてきましたよ〜w

次回は多分戦闘メインに……お楽しみにです‼︎


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第5話 進化、適応、救済

「こっからは、俺のステージだ‼︎」

友奈達の世界に持ち込んでしまった厄介ごと、セイリュウインベスを撃破するために鎧武が名乗りを上げた

それを影から眺める人影が一つ

『成る程……あれが、人間という存在が選んだヘルヘイムとの適応手段、なんだね……』

痩身な女性と思しきその人影は興味深そうに二人の様子を眺めて微笑む。ブロンドの長髪をかきあげた中からは赤と青のオッドアイが覗く

『まだデータが少ない。僕が、ディエヴオ達と同じ力を得るためには、アレが必要だからね……少し、おまけをあげよう』

人影はすっと虚空に影を伸ばすと、そこにクラックを出現させヘルヘイムの果実を一つ摘み取り、セイリュウインベスに放り投げる

『もう少し、頑張っておくれよ?』

 

 

「あれ……須美、これもしかしてあたし達大ピンチ……?」

「前門のシカ……後門のイガグリ……まずいわね抜け目がない……」

「ほへ〜なんだかすごい人が出てきたね〜」

須美達の後方から現れた緑の鎧の巨漢は城乃内の目の前に突き立ったノコギリを引き抜きながら肩に担ぎ直すと須美達へ向き直る

「もう大丈夫よ、小さなマドモアゼル達♪ すぐにこのケダモノを片付けるから少し待っててね」

優しい声色で須美達におどけて見せた巨漢はシカインベスに向き直り、ノコギリを構え直す

「あれ……もしかして味方……?」

「あぁ、そうだよ。あんな見た目だけど、すっげー頼りになる味方だよ」

立ち上がったシカインベスに間髪入れずにノコギリの連撃が命中していく。めちゃくちゃに振られてるように見えながら正確にシカインベスの体力を削いでいっている巨漢の動きはかなり訓練されているように見える

「さぁ、仕上げよ」

《ドリアン、オーレ‼︎》

緑に輝くエネルギーをまとったノコギリの一撃がシカインベスを捉えそのまま爆散させる

「ふぅ……待たせたわね。ボウヤ、あなたはその黒髪の子を乗せなさい」

「はい、凰蓮さん」

《ドングリ‼︎》

凰蓮と呼ばれた巨漢に促された城乃内は構えていた錠前を改めてベルトにセットし、カッティングブレードで錠前を開ける

《カモン‼︎ ドングリアームズ‼︎》

《ネヴァーギーブアーップ‼︎》

と城乃内の頭上からドングリ型の鎧が被さり、城乃内も凰蓮と同じ鎧の姿ーアーマードライダー・グリドンの姿に変わる

「えぇっ⁉︎ドングリでなんか変身した⁉︎」

「ど、どういうこと……⁉︎」

「まぁそれが普通だよな……ま、説明は後だ。こっから出るぞ」

凰蓮とグリドンは新しくバラと桜の描かれた錠前を取り出し、鍵を開いて放り投げる

錠前は複雑な機構で変形するとなんと2台のバイクに変形した

「ほわ〜カッコいい〜」

園っちと呼ばれていた子が目を輝かせている中、他二人はもう何がなんだかといったていで放心していた

「えっと……そこの黒髪の子‼︎」

「はっ……⁉︎ 私は鷲尾須美です!」

「あー、じゃあ須美ちゃんは俺の後ろにでそっちは……」

「あたしは三ノ輪銀!」

「乃木園子だよ〜♪」

「ウィ、銀と園子はワテクシの方に乗りなさい。しっかり掴まるのよ?」

三人は一瞬逡巡したが二人が恐らく事情に詳しいと信じて大人しくグリドンと凰蓮に従ってバイクの空き部分に乗り込み各々しっかり掴まった

「それじゃ、いくわよ〜♪」

「へ、行くってなにーおわぁああああああ⁉︎」

「きゃーーーーー♪」

「いやああああああああ⁉︎」

かなり不穏な凰蓮の言葉が早いか、それぞれのバイクが一気に加速する。約1名を除く2人の絶叫が森にこだまする中2台のバイクは正面に開いたクラックに吸い込まれていった

 

 

「うおりゃあ‼︎」

ギャリィン‼︎ ガギィン‼︎

鎧武の手にした刀・大橙丸と無双セイバーがセイリュウインベスの表皮に連続で打ち込まれるが、乾いた音と共に斬撃が弾かれていく

「やっぱりこいつでないと効き目が悪いか…!」

《パイン‼︎》

《パインアームズ!粉砕、デストロイ‼︎》

硬いセイリュウインベスに合わせて鎧武はパインアームズに鎧を換装、持ち替えたパインアイアンをセイリュウインベスに叩きつける

ゴィイン‼︎

《シ、シィイィ……‼︎》

やはり打撃に弱いようでセイリュウインベスが目に見えてよろめく

「追い討ちさせてもらうよ」

すかさずデュークが手にした弓ーソニックアローでセイリュウインベスを狙撃し確実にダメージを与えていく

「進化インベスとはいえ所詮こんなものか」

《ロックオン》

つまらなそうに吐き捨てたデュークはレモンエナジーロックシードをソニックアローに装填しセイリュウインベスに狙いを定める

その瞬間、セイリュウインベスになにかがぶつかり地面に転がる

「ん?」

「あれは……⁉︎」

セイリュウインベスの目前に転がってきたのは紫色の毒々しい果実ーヘルヘイムの果実だ

これ幸いとばかりにセイリュウインベスが果実に食らいつき飲み込むが早いかその体が緑に輝き変質していく

「しまった……‼︎」

輝きが落ち着いた中にいたのは全身に金色の装飾が増え、爪が巨大化したセイリュウインベスであった

ヘルヘイムの果実はインベスにとって過剰なまでのエネルギー源、そのエネルギーがインベスを無理矢理進化させたのだ

「ふん、今更強くなっても遅いね」

《レモンエナジー‼︎》

エネルギーの充填が完了したソニックアローから必殺の一矢が放たれ、セイリュウインベスの体を貫くーはずだった

キィン‼︎

「何?」

パインアイアンで傷ついていたセイリュウインベスの表皮が、鎧武よりも高スペックなゲネシスライダーの一撃を弾いた

あまりにあり得ない事態に凌馬ですら絶句する

《ガロロロロロロロロ‼︎》

射撃に逆上したのかセイリュウインベスは鎧武からデュークに狙いを変えて襲いかかる

辛うじて攻撃をいなすデュークだが、明らかに押されている

「くっ……まさかこんな進化をするとは、どこまでもヘルヘイムは底が知れないな……‼︎」

「ハァっ‼︎」

《ミックス‼︎ジンバーレモン‼︎ハハーッ‼︎》

隙を見てジンバーレモンに鎧を換装した鎧武がソニックアローで渾身の一撃をセイリュウインベスに叩き込む、がこれも乾いた音と共に弾かれてしまい、デュークもろともに吹き飛ばされる

「ッ……!こいつなんて硬さだ……‼︎」

「キミはバカか?キミのその形態はゲネシスライダーと互角だ。私の攻撃がほとんど効いてない相手に何故それを出す?」

「うるっせーな‼︎じゃあ科学者らしくなんか考えろよ‼︎」

「策ならキミが持っているじゃないか。前に貴虎とドンパチやった時、使っていた非正規のロックシード。あれならまだ可能性があるだろう?」

凌馬が言っているのはカチドキロックシードのことだろう

以前、ある意外な人物が絋汰にプレゼントした「運命をぶっ壊す力」たしかにカチドキならゲネシスと対等以上に戦える分まだ攻撃が通用する可能性はあるが……

「……ヤダね、なんかお前の目の前で使ったらジロジロ分析されそうだ…」

「手厳しい……まさか日頃の行いがこんな裏目にでるなんてね」

とひとしきりの議論が終わるやいなやセイリュウインベスの追撃が鎧武とデュークを襲う

「くっそ……‼︎このままやらせるかよ……ここは友奈の世界、別世界にまで迷惑はかけねぇ‼︎」

気合い一喝、鎧武はソニックアローを構え直す

その時、淡い桃色の風が鎧武の脇を駆け抜ける

「勇者、パーーーーーンチ‼︎」

ズガァァン‼︎

「………いったぁ……」

《ガロロロロロロロロ‼︎》

ドガッ‼︎

「きゃあっ‼︎」

セイリュウインベスに吹き飛ばされて鎧武の目前に転がってきたのは勇者の姿に変身した友奈だった

「友奈‼︎ なんて無茶してんだ……‼︎」

「いたた……ごめんね、絋汰さん。みんなの避難が終わったから手伝いに来たんだけど……」

助け起こした友奈は笑顔でそう答える

「……ダメだ」

「……えっ?」

「このインベスは俺の不始末で、俺の世界の厄介ごとで……そんなことのために、違う世界で戦う君たちを無駄な危険に晒したくないんだ」

「………」

いつになく真面目な口調で話す鎧武の言葉に友奈は口をつぐむ

「だから大丈夫だ、友奈。こいつは俺が、ぜってー倒す‼︎」

鎧武は意を決して新たなロックシードー凌馬が提示した可能性であるカチドキロックシードを構える

その瞬間

「勇者部五箇条ォーーー‼︎ ひとぉーーーーつ‼︎」

「おわっ⁉︎なんだ?」

「悩んだら、相談‼︎」

そう元気よく叫んだ友奈は、逃げるどころか立ち上がって鎧武の横に並び立つ

「友奈、お前……‼︎」

「絋汰さんの言いたいこと、よく解る。私たちも、もし別世界に飛ばされて、バーテックスがそっちでも現れたら私たちだけでなんとかしようと思うと思う」

「あぁ、だから……」

「でも私は、今ここに絋汰さんたちの手があるなら、掴みたい‼︎ 普通なら伸ばしても届かないけど、今はこうして手を取り合える‼︎」

あっけらかんと言ってのけた友奈はロックシードを握る鎧武の手を優しく掴む

「絋汰さん、ここに来た時バーテックスを倒してくれたんだよね?」

「……あぁ、アレは成り行きというか、体が勝手にというか…」

「私も同じ。きっと私が勇者でも、勇者でなくても、私はこうして絋汰さんの手を取ったと思う」

絋汰が「けじめ」という言い訳に隠していた甘い本心をなんともないことのように言ってみせる。友奈の笑顔には不思議と力を感じた

「だから私は勇者として、勇者部として……ううん、結城友奈として‼︎ 絋汰さんたちを全力で手伝うよ‼︎」

気合い十分に友奈がセイリュウインベスに対して構えをとる

「……ハハッ、敵わないな……勇者様、いや結城友奈様には…」

「そう言われたら、なんか恥ずかしいな……」

「ありがとな、じゃあこっちも全力で、助太刀頼ませてもらうぜ‼︎」

鎧武が、絋汰が拳を友奈に突き出す

「うん‼︎任された‼︎」

コツンと友奈が拳を返す

「うし‼︎こっからは、俺たちのステージだ‼︎行くぞ友奈‼︎」

「うん‼︎勇者部、ファイトーーーー‼︎」

それぞれの掛け声とともに気合いを入れ直した2人はセイリュウインベスに突撃、各々の一撃を同時に叩き込む……が

「かってぇ……腕が痺れた……」

「いったたた……拳が割れちゃいそう……」

まぁ無論気合いで通るほど相手もやわではない。セイリュウインベスは涼しい顔をして2人を受け流して行く

「くそ……友奈が加わっても動じないなんて、こいつどんだけ強くなってやがるんだ……?」

「ごめん、絋汰さん……」

「気にすんな、俺たち2人でも苦戦してたんだ」

「ーだったら、更に5人追加でどうよ‼︎」

ガギン‼︎ゴィン‼︎ギィン‼︎

たじろぐ鎧武と友奈の背後から追いついて来た風、夏凛、園子がセイリュウインベスに攻撃を叩き込み押し返す

「風先輩、夏凛ちゃん、園っち‼︎」

「かったいわね、こんのォ‼︎」

「自分から勇者部五箇条叫んどいてあたしたちに頼らないとか、全く友奈らしいというかなんというか……ッ‼︎」

「私たちも絋汰さんたちを助けたいって思ってるのは一緒だよ〜ゆーゆ〜」

三人がかりの押さえつけさえ振り切らんとするセイリュウインベスに更に後方から射撃が撃ち込まれ、その体にツタのようなものが巻きつく

「私も……最初は怖かったけど……絋汰さんたちも戦ってるから、私も頑張る‼︎」

「……疑ってしまってごめんなさい、あの時の借りはここで返します‼︎」

「樹ちゃん……東郷……ありがとな‼︎」

「ちょっと絋汰さん⁉︎礼とか呑気に言ってるくらいなら早くなんとかこいつ倒す方法考えて‼︎私たち4人で押さえつけきれないってコイツバーテックスよりタフじゃない……‼︎」

勇者の力が生半ではないのはあのバーテックスとかいう巨大な怪物を粉砕したことからもよく解るが、セイリュウインベスはそんな勇者4人分の全力をあろうことか既に振り切らんとしている

「あぁ、すまん‼︎ 今行く‼︎」

《カチドキ‼︎ オォー‼︎》

鎧武が手にしたロックシードを解錠するとその頭上に今までのものと比べてもかなり大きいオレンジ型の鎧が召喚される

(ようやくあのアームズの分析ができそうだ…)

《ソイヤッ‼︎》

《カチドキアームズ‼︎ いざ出陣‼︎エイ、エイ、オー‼︎》

ベルトに装着されたロックシードが解放されると同時に重量級の鎧が鎧武へと被さりカチドキアームズへの変身が完了する

背中に二本の旗を背負ったその姿はまさに将軍といった趣きである

「風、夏凛、園っち、下がれ‼︎」

鎧武の号令に従い、三人がインベスの前から下がり、樹の拘束も一旦解かれるとすかさず鎧武は大砲ー火縄大橙DJ銃を腰だめに構え、セイリュウインベスを撃ち抜く

ズドォン‼︎

《ガロッ⁉︎》

まさに大砲そのものな轟音と共に放たれた弾丸はセイリュウインベスに直撃、爆発し、今まで身じろぎすらしなかったセイリュウインベスにを大きく仰け反らせた。確実にダメージが入っている

「やった‼︎」

「すごい力……正に切り札って感じね‼︎」

友奈と風が歓喜の声を上げる中、鎧武は冷や汗をかいていた

(カチドキでもあんなダメージだけかよ……‼︎)

カチドキアームズの武器、火縄大橙DJ銃は元々進化インベスすらも一撃で爆砕する威力がある。そんなDJ銃ですら仰け反る程度、今のセイリュウインベスは規格外に進化しているのが嫌でもわかる

「でも効いたなら、あとはやるだけだ‼︎」

DJ銃を無双セイバーと合体させて鎧武が突撃する。その重い一撃はたしかにセイリュウインベスを押し返す

「よーし‼︎私も‼︎」

「待ちたまえ、結城友奈」

鎧武に加勢しようとする友奈をデュークが制止する

「キミが今行ってもあのインベスには恐らく有効打は与えられまい。下手をすれば葛葉絋汰の足手まといだ」

「あう……そうだけど……」

「そこでキミにこれを進呈しよう」

とデュークが友奈に差し出したのは、イチゴの形をしたロックシードだった

「これって、絋汰さんたちが使ってる……」

「私たちと似ている特別な力を持つキミたちなら、理論上はアーマーの召喚が可能なはずだ。これでならあのインベスにも有効だろう」

「‼︎ありがとう、凌馬さん‼︎」

元気いっぱいに深々と頭を下げてデュークに礼を言うがはやいか、友奈が鎧武の援護に向かう

(ふふ、クロステストといこうじゃないか。勇者システムとやら、たっぷりとデータをとらせてもらうよ?)

その後ろで邪悪な笑みと眼差しを向けるデューク、戦極凌馬に気づかないままに

 

 

ヘルヘイムの森・深部

『待たせたね、ディエヴオ』

クラックからゆっくりと歩み出てきたのは鎧武やデューク、友奈たちを観察していたオッドアイの女性

『ジェイ、目当てのものは得られたのか?』

『あぁ、人間の発明も捨てたものじゃないね。戦極ドライバー、ゲネシスドライバー、ロックシード、どれも面白い』

ディエヴオの問いにジェイと呼ばれた女性はくっくっと笑みをこぼしながら答える

『まぁ、どれも僕には単純すぎたがね……先にキミたちに必要なロックシードの方を仕上げよう』

『助かる。これでまた、救済へ一歩近づいた』

ディエヴオはどこか満足気に背後を見上げる

ディエヴオの視線の先には、ヘルヘイム植物に覆われてもがく巨体ーバーテックスの姿があった

『利用させてもらおう、そちらの神の遣いよ』




はいちょっと遅れてやっと5話です
やっとクロスオーバーらしくなってきましたw

個人的推しの鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子(小)のわすゆ組と凰蓮、城乃内のシャルモン組が出せてテンション爆上がり中ですw

ディエヴオに協力してる謎の女性、ジェイやら囚われのバーテックスやら、凌馬やら気になる展開がいよいよ始まりましたよ……
次回もお楽しみに!


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第6話 勇者、変身⁉︎

鬱蒼と茂る緑。視界全てが緑に染められているといっとも過言ではない深い森。溢れ出る生命の実感が逆に生物感を薄れさせる森の中。悠然と、そしてどこかイラついているように闊歩する影が一つ

『フォンシャフェエジュジョ……デョブリョフォンミャミ‼︎』

地球では全く聞き覚えない言葉を並び立て影は苛立たしげに手にした長剣を振り回す

赤い甲冑を纏った騎士のような存在は明らかな殺意と怒りに目を輝かせながらのしのしと森を闊歩していく

『エブリョロデュンファン…オファシェデュン ルシュファウ フェシンブリョ ジャアシュ』

忌々し気に手にしたオレンジ色の端切れのようなものを握りしめ、騎士のような存在が長剣を振るう

振るった軌跡に赤い雫がこぼれたことを今更確認した騎士は左手の端切れで刀身に流れる血液を拭い、その匂いを嗅ぐ

『……アグランイジョ……シャファフェアエ……‼︎』

もう用は無いとばかりに端切れを地面に捨て踏みにじる

『フェションデョフォエ‼︎ ジェエデョエデョブリョジョジェ‼︎』

赤い騎士ーオーバーロードインベス・フェムシンムの戦士、デェムシュは苛立たしげな行進を再開した

 

 

「くそっ、こいつ……しぶといヤツだな……‼︎」

セイリュウインベスに大剣モードのDJ銃を叩きつけ吹き飛ばす鎧武

確実にダメージは溜まっているが、まだセイリュウインベスに倒れる気配はない

「絋汰さーーーん‼︎」

「友奈‼︎ ……そのロックシードは?」

「凌馬さんから借りたの‼︎ これでなら私も絋汰さんを手伝えるって」

友奈が誇らしげにイチゴロックシードを構える

「えっと……これをこうして……?」

《イチゴ‼︎》

絋汰たちより少しぎこちない手つきでイチゴロックシードが解錠されると友奈の頭上にイチゴ型の鎧が現れる。心なしか鎧武たちのものよりも小ぶりだ

「わっ、えっ、本当に出てきた⁉︎」

「マジか……すごいな、友奈‼︎」

「こ、絋汰さん、これどうすれば……⁉︎」

「最初はちょっとビビるけど、大丈夫思ったよりこわくねぇよ」

と話してる間にもイチゴの鎧が友奈に降りてくる

「あわわ、為せば大抵……なんとかなるッ‼︎」

《ソイヤッ!》

《イチゴアームズ‼︎シュシュっと、スパーク‼︎》

イチゴ型の鎧が友奈の頭にかぶさると同時に鎧が弾け友奈の勇者服に合わせて形が変わりながら友奈への武装が完成する

鎧武やデュークのものと比べると小振りな忍者のようなアームズが勇者服の上に装着されて友奈の『変身』が完了した

「ふわぁ……!ほんとに鎧になってる‼︎ あとなんだろこれ…?」

不思議そうに自分の身体を眺めながら友奈は自分の両手に小さなクナイが握られていることに気づく

「そいつは投げて使うんだ。こう、シュシュっと‼︎」

「こう?シュシュっと‼︎」

鎧武の身振りを真似た友奈がぎこちないながらセイリュウインベスにイチゴクナイを投げつけると小爆発が起こり、セイリュウインベスが吹き飛ばされる

「わぁ…‼︎これならやれそう‼︎」

「うし、一緒にやるぞ友奈‼︎」

「うん、行こう絋汰さん‼︎」

頷きあった2人がセイリュウインベスに向き直り、突撃する

「セェリャッ‼︎」

鎧武の大剣がセイリュウインベスを二度三度捉えてその体に確実にダメージを与えていく

「よいしょっと‼︎」

怯んだインベスに向けて友奈の側転からの蹴りが命中、勢いそのままにパンチを浴びせて吹き飛ばすと更にイチゴクナイを投げ撒いて更なるダメージを与える

《ガロ……ガロロロ……‼︎》

明らかに消耗しきったセイリュウインベスがよろめきながらも立ち上がるがもう遅い

「フルーツジュースにしてやるぜ‼︎」

《ロック、オン‼︎》

《イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン……》

大砲に戻したDJ銃にカチドキロックシードをセット、エネルギーを溜めながらDJ銃を腰だめに構える

「私も‼︎とうっ‼︎」

友奈は高くジャンプするとイチゴ状のエネルギー球を展開する

「名付けて、勇者イチゴキーーーーーック‼︎」

《イチゴスパーキング‼︎》

気合一発、エネルギー球ごとセイリュウインベスに蹴り込む

「ハー……セイハーッ‼︎」

《……オク、チョウ、無量大数‼︎》

《カチドキ、チャージ‼︎》

友奈が離脱すると同時にエネルギー球の爆発に閉じ込められたセイリュウインベスにDJ銃のエネルギーの凝縮された砲撃が直撃する

流石の防御力を持つインベスもこれは耐え切れずそのまま爆発四散する。後には何も残らなかった

「いよっしゃー‼︎」

「やったぁーー‼︎」

2人の勝どきが重なり響きわたる。そんな2人に見守っていた勇者の仲間たちが駆け寄る

「やったじゃない、絋汰‼︎ というかそんな強いのあるなら最初から使いなさいよ‼︎」

「かっこよかったです……‼︎ 大砲とか、すごく‼︎」

「そうか?そうだよな‼︎カッコいいだろ、これ♪」

「友奈あんた……かわいい勇者服になったわね…女子力ビンビン感じるわ‼︎」

「ゆーゆかっこよかったよ〜♪」

「あぁ、イチゴな友奈ちゃんも……ンンッ、お疲れ様、友奈ちゃん」

「ありがとう東郷さん♪」

さっきまでの緊迫した雰囲気は何処へやら、7人はすっかり談笑モードである

(実験は概ね成功、か……上々だな)

その様を側から眺めるデュークは満足気にくっくっと笑いを漏らす

(さて、後は神樹様だな……これは次の樹海化を気長に待つとしよう……それにしても……)

デュークが移した視線の先には路地があった。セイリュウインベスに投げつけられたヘルヘイムの果実の飛んできた先と見られる場所だ

(………我々以外に、何やら作為的な雰囲気を感じるね……警戒する必要があるようだ……)

うどん屋前の通りにはしばらく絋汰と勇者部のメンバーの楽しそうな喧騒が響いた

 

 

「うんまい‼︎」

「おいしい……‼︎こんな味はじめてです……(もぐもぐ)」

「はむはむ……おいしい〜ほっぺた落ちちゃいそうだよ〜♪」

閉店後のシャルモンの店内に元気な声が響いている

中では変身を解いた鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子の3人がなんとも幸せそうな顔でパンとスープ、簡単なおかずを頬張っている

「あり合わせでごめんな、ちょうど買い出し途中だったから食材の蓄えが少なくて…」

「いえ、とんでもないです……むしろこんなおいしいものを恵んでもらえてありがたい限りです……‼︎」

「うんうん、腹ペコで死にそうだったんで助かりました‼︎」

「もふぁもごむぐふぁい!」

「園っち、食べてからしゃべりなさい…」

「それなら良かった。ったく、森から出てからいきなり倒れた時はびっくりしたよ」

あの後ロックビークルにまたがってヘルヘイムから沢芽市に帰還した5人だが鷲尾須美達が空腹でそのままへたり込んでしまい、凰蓮が快くシャルモンに招待する形になっていたのである

「ウィ‼︎ 余った材料でアップルパイも作ったわよ〜」

厨房から出てきたのはノースリーブから筋肉溢れる腕を露わに特徴的な帽子を被った巨漢。アーマードライダーブラーボから変身を解いた凰蓮・ピエール・アルフォンゾ、その人である

「こ、これは……(ジュルリ)」

「すっごいうまそうな香り……‼︎」

「ふわぁ…とろけちゃいそうだよ〜♪」

三人の反応は無理もない。凰蓮がパティシエを務めるこのシャルモンは沢芽市でも超がつく人気店。加えて従軍してまでフランスでパティシエを極めてきた彼の腕前は数々の賞が証明している

本来なら鷲尾須美達のような子供たちだけでは到底手の出るような値段ではないが…

「お腹を空かせた子供たちを放っておくなんてできないわ♪ 遠慮なんてノンノン、子供が困ってたら助けるのがワテクシたち大人の務めなんだからきにしないの♪」

と須美達の頭を撫でる凰蓮。筋骨隆々ながらも優しく温かい手だった

「本当に……本当にありがとうございます……!」

「どういたしまして♪ その笑顔、十分パティシエ冥利に尽きるわ♪」

「しっかし……まだ信じられねぇな……勇者とか、バーテックスってやつとか」

城乃内がポツリと漏らす。三人の食事ついでに色々と話を聞いたのだがどれも荒唐無稽な話だった

なんでも三人は神樹様に選ばれた勇者という存在らしく、世界を壊そうとしているバーテックスという化けものと戦っていたらしい

ヘルヘイムの森に迷い込む直前もヤギみたいなのと戦い終えた直後だったらしい

にわかには信じがたい内容だが、城乃内たちもヘルヘイムやらアーマードライダー、インベスを知っている以上疑いきることもできず、目の前で勇者服とやらから制服に一瞬で変わったのを見せられると嫌でも信じざるを得なかった

「アタシらからしたら城乃内さんたちのアーマードライダーっていうのも正直よくわかんない……」

「ドングリが落っこちてきたのすごかったね〜」

「あれは俺もびっくりしたよ最初は…お互いさまだな、びっくりなとこは」

城乃内が苦笑を返す

「とにかく、貴女たちしばらくはここにいてもいいわ。帰ろうにもすぐには帰れそうにないみたいだし……」

「はい……私達が入った穴はすぐに閉じてしまいましたし…」

「とりあえずしばらくは情報収集だな……しばらく過ごすことになりそうだし明日は俺がこの街を案内するよ」

「そうね、頼んだわよボウヤ♪」

「何から何まで……すみません…」

すまなそうな顔をする須美に凰蓮が小さくわけたアップルパイを差し出す

「謝らなくていいわよ。子供は大人に目一杯甘えなさい?貴女たちだとそうもいかないのかもしれないけど、だからこそここではワテクシたちを思いっきり頼りなさい♪」

「………ありがとうございます、凰蓮さん、城乃内さん」

少々緊張気味だった須美の顔がようやくほころぶ

その笑顔に凰蓮もまた笑顔で返すのであった

 

 

「ここが友奈たちが通う中学校か〜」

「うんそうだよ。ようこそ絋汰さん♪」

セイリュウインベスを撃破した絋汰と勇者部の一行は絋汰が現在抱えるある問題解決の為に友奈たちの通う讃州中学校付近に来ていた

セイリュウインベスが暴れた後の処理はどこからか現れた平安時代のような衣装をきた仮面の集団が迅速に終わらせてしまった

戦極凌馬は友奈からイチゴロックシードを回収すると

「私は少々気になることと、調べたいことがある。すまないが別行動をさせてもらうよ。あぁ、帰る方法が見つかったらちゃんと共有するから安心したまえ」

とそそくさとどこかへ行ってしまった

「ここをまっすぐ行ったら寄宿舎です」

「一応ひなたに聞かなきゃだけど、いくらか部屋は余ってるはずだから多分大丈夫よ」

そう、この世界に迷い込んだ絋汰には今寝泊まりできる場所が無い。幸いこの世界と絋汰の世界で通貨は変わらないようなのだが、現在の手持ちでは心もとない。そこで東郷が讃州中学近くの寄宿舎を紹介してくれたのだ

「悪いな、みんな。こんなにしてもらっちゃって…」

「今更何水臭いこと言ってんのよ。困った時はお互い様、もちつもたれつって言うじゃない」

「困った人を助けるのも、勇者部ですから」

「本当ありがとな。代わり、といっちゃなんだが俺にも手伝えることがあったら手伝うぜ」

「ふ〜ん、ならビシバシこき使ってあげるわ」

「お、お手柔らかに頼むぜ……?」

一行が談笑していると件の寄宿舎が見えてきた

入り口近くにはロングヘアの女の子が1人立っていたのだが、何やら様子がおかしい

「あれ?ひなたちゃん?どうしたの?」

「皆さん……大変なことになりました……」

ひなたと呼ばれた女の子は切迫した表情でゆっくりと告げる

「若葉ちゃんたちが怪我をして……球子さん、杏さん、須美ちゃん、銀ちゃん、園子ちゃんが行方不明になってしまってるんです……」

「え……」

一同の表情が固まる

今別行動している勇者部の仲間がいることはうどん屋で絋汰も聞いていたが、おそらくひなたが告げたその名前がその仲間たちだったのだろう

「若葉さんや須美ちゃんが⁉︎」

「嘘、なんで……」

「詳しいことは若葉ちゃんが……助けてくれた男の人と一緒に羽波病院にいるらしく、私もこれから向かうところで…」

「私たちもいくよ、ひなたちゃん」

「ありがとうございます、皆さん…」

ひなたに先導される形で一行は病院へと向かうことになった

 

 

「杏、大丈夫か?」

「う、うん、まだなんとか」

薄暗い森の中少し弱々しい声が響く

声の主はオレンジ色の特徴的な服をきたどこか猫のような雰囲気の少女と白っぽい服を着たおっとりとした雰囲気の少女

2人とも息を切らして少し消耗しているように見える。見るとあちこちに生傷もあるようだ

「タマっち先輩こそ……その腕……」

杏という少女が指した腕には袖ごと引き裂かれたかのような大きな傷ができていた。流れ出している血の量は決して少なくない

「こんくらいならタマにはかすり傷だ!」

からからと笑って見せているがどこかその笑顔にも翳りが見える。タマもおそらく杏以上に疲弊しているのだ

「はぁ……しばらくこの岩の陰で休んだらまたあの穴を探さなきゃだな……あれを通れたら多分帰れる」

「うん、もう少し、頑張ろう」

2人が岩に寄りかかり少し息を整えようとしたその時

ズガァアアアアアン‼︎

「ぅあっ⁉︎」

「きゃあっ⁉︎」

2人が寄りかかっていた巨岩の上半分が轟音と共に爆ぜた

粉々になった岩の小片が吹き飛ばされた2人に降り注ぐ

「杏‼︎」

小片に混じった大きな破片をタマが手にした盾で弾く

「っぐ‼︎」

「タマっち先輩‼︎」

腕の傷に響いたのか傷口をかばいながらタマがうずくまる

『ダシャショ………』

砕け散った岩の残骸の上に人影が現れる。それはタマと杏にはわからない、だが確かに意味をなすような言葉でがなり始める

『メジュシュイジョダン……シャデュオンブリョフォンミャ…‼︎』

言葉の意味は伝わらない代わりにその視線に吐き気がするほどの殺意を乗せて赤い異形の戦士ーデェムシュは剣をタマと杏に向けた




はい、またキャラが増えた第6話ですw
どっちの作品も結構キャラいるよなぁ……大好き
今回クロスオーバーらしい勇者+アームズも出せてかなり満足ですw

自分がこのクロスオーバーしたくなったの、実は鷲尾須美たち3人と凰蓮、城乃内のシャルモン組を絡ませてみたかったのが始まりでここで叶ってきてます、ようやくw

あとデェムシュが出てきましたというか完全にやらかしてますな彼……実は企画段階だとここの立ち位置はシドにやってもらうつもりだったんですが、転移先がヘルヘイムならこっちの方が…ってことでデェムシュに…(彼のセリフは日本語→オーバーロード語翻訳サイトで翻訳しながら書いたのでオーバーロード語→日本語サイト使ったら翻訳できたりしますw)

後書き長くなりましたが、見ての通り次回からのわゆ組も登場、わすゆ組の沢芽市生活やらもえがいていきますので、お楽しみに!


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第7話 暴虐の遭遇

ひなた一行が羽波病院の病室で見たのは痛々しい傷を負った乃木若葉、高嶋友奈、郡千景の3人だった。3人とも至るところに包帯が巻かれ、高嶋と千景の2人はまだ眠っている。若葉は目を覚ましておりひなたたちにあっけらかんと挨拶を返しひなたに泣きつかれていた

ひなたが落ち着いてようやく事態の共有が始まった

「えっと、早速ですまないが……そちらは一体…」

「あぁ、はじめましてだよな。俺は葛葉絋汰。色々あって今友奈たちに世話になってる」

「そうか、こちらこそはじめまして。私は乃木若葉。結城友奈たちとは実は生きた時代が違うのだが、訳あってこの時代で共に行動している」

「そうか、よろしく……って生きた時代が違う?」

「あぁ、それは私から説明します。自己紹介が遅くなりました、上里ひなたと申します」

と先程と比べて落ち着いたひなたが説明を代わる

簡単にひなたが説明してくれた内容を一言で説明すると

造反神とかいう神様がいてそれに対抗するために神樹様が各時代から勇者を集めて今に至る

「え、神様と戦ってんの⁉︎友奈たち⁉︎」

「まぁそういうことになりますね、簡単に説明すると…」

「あはは……今更ながらすごいことになってるよね…」

東郷と友奈に交じり絋汰も苦笑する

「落ち着いたところで本題に入りましょう。若葉ちゃん、一体何が起こったんですか?」

「あぁ、わかった。あの時私たちは樹海でバーテックスを撃破していつも通りに撤退を待つだけだったのだが……」

 

 

若葉と友奈一行合流から数時間ほど前

「今回はちょっと大変だったね〜」

「あぁ、まさか斬る度に増えるとはな……」

今回現れたバーテックスは牡羊座に区分されているアリエスバーテックス。今まで戦ってきた中ではかなり脆かったが斬ったり壊すとどんどん増えていくという珍妙な特性を持っていた

「あんなに増えて……流石に七人ミサキでもかき集めるのが大変だったわ……」

最終的にかなりの数になったバーテックスだが、七人ミサキの力で分身した千景がなんとかかき集めて若葉、高嶋の切り札で一網打尽にする形でなんとか撃破に成功した

「お疲れさまだな千景〜今日の活躍、タマから太鼓判押してやろう♪」

「…ま、ありがたくもらっておくわ」

「なんだ今の間⁉︎」

と5人で談笑をしていると、杏が何かに気づく

「……あれ、なんでしょうか……?」

杏の指差す先には穴が開いていた。正しくは空間にぽっかりと穴が開いているような、そんな感じの穴がそこにはあった

「穴……?」

「なんだろう、これ……」

「なんだ?タマにも見せてくれ〜」

穴の前に5人が集まり観察し始める。見ると中には森らしき光景が広がっていた

「……これって、まさか結界が綻んでるんじゃ…」

「……もしそうならまずいな……先程のバーテックスが逃げている…ということはないと思うが……」

「でももし逃げ出していたら、危険ですよね……」

しばらく思案を巡らしていく5人

「……考えても平行線か……樹海の異常には違いない、調査しに行こう」

「待ってました‼︎ まぁサクっと見てきてサクっと帰ろうぜ‼︎」

と言うが早いか球子が真っ先に穴に飛び込む

「あ、タマっち先輩ちょっと待って〜」

「先に行きすぎると危ないぞ!」

「私たちも行きましょう、高嶋さん」

「うん、行こうか郡ちゃん!」

残る4人も球子に続く形で穴へと入っていく

5人が降り立った場所はどうやら森の中のようだった。妙なのが開けた場所で空も見えているのに辺りが薄暗いのだ。太陽らしきものも出ているのにこの光量は奇妙だ

「……何やら奇妙な場所だな……ただの森……ではないようだが……」

「それに、妙に静かね……鳥の鳴き声もほとんどしないなんて」

若葉と千景は警戒を強めて辺りを見回す。高嶋も注意深く歩みを進めていく

「な、なんだアレ‼︎」

一番乗りしてぐいぐい先行していた球子の悲鳴にも似た叫びが響く

「どうした、球子‼︎」

若葉、千景、高嶋の三人が悲鳴の方に駆けつける

そこでは呆然とした球子とへたり込んだ杏が何かを見つめていた

「何があったの?」

「あ、あれ……」

杏が震える手で指差す先にあったのは都市ーだったものの全景だった

「なんだ……コレは……」

若葉たちが生きた時代はあちこちがバーテックスの襲撃で荒らされていた。そこに生きた命も食い尽くされていた。見飽きるほどに彼女たちはその光景を見てきた

そんな若葉でも眼前の都市だったものには恐怖を感じざるを得なかった

その都市は全体が森のものと同じ奇妙な植物に覆われていた

若葉たちが見たこともない高い建物が乱立する都市は既にそれ自体が森のような景観に変わり果てていた

破壊の後はない、何かに誰かが貪られた後もない。だが、それでもそこに尋常な生き物がいる気配がしないことは何故か確かにわかってしまった

「これは……」

「何が……何があったら街がこんなことになるんだ……⁉︎ バーテックスじゃこんなこと……‼︎」

若葉以外の4人も混乱しきってうまく言葉が紡げない

彼女たちが見たものは、よくはわからないが、たしかに何かの営みが、命があったはずのものがあっさりと滅びた跡だったのだ、無理もないことだろう

「帰ろう……」

「若葉……」

「……ここは私たちが生きている世界じゃない……どこか別の……滅んだ世界だ……」

若葉の重々しい言葉に4人はしばらく逡巡するが、頷きを返す

「……そうね…退きましょう」

「……だな」

5人は重い足取りを入ってきた穴のある開けた場所に向ける。幸い広場にはすぐに辿り着けた……が

「……あれ?」

高嶋が驚きの声を上げる

穴がなくなっている

彼女らが入ってきた穴が綺麗さっぱり消えているのだ

「⁉︎そんなバカな……‼︎」

「場所間違えちまったんじゃないのか、若葉⁉︎」

「いや……目印がある……ここで間違いない……」

若葉は球子を追う前に穴近くの木に傷をつけておいた。その傷付きの木が確かにそこにはあった

「じ、じゃあ……帰れないってことですか……?」

杏が震える声で呟く。若葉は沈痛な面持ちで項垂れる

「なっ……なんだよそれ‼︎」

「お、落ち着いてタマっち先輩」

「高嶋さんの言う通りよ。焦ってもことは進まないわ」

あまりのことに杏が膝から崩れ、球子が狼狽した声を上げる。なだめる高嶋と千景の顔にも焦りが見てとれた

「……別の出口を探そう」

若葉が重々しく口を開く

「確証なんてない……だが、消えたということは出現と消滅を繰り返しているんだろう。なら、別に出口がまだあるはずだ……」

「………それしか、無いよな、確かに……」

球子がパンパンっと頬を張る

「いよっし、そうと決まればちゃっちゃと探してこんな薄気味悪い場所からさっさと帰るぞ‼︎ このタマにかかればきっと楽勝だ‼︎」

威勢のいい球子の宣言に陰鬱だった場の空気が和らぐ

異変はその時起こった

「待って……これって、足音……?」

高嶋が耳を澄まし始める。他の4人も耳を澄ましてみると、確かにザッザッと地面を踏み分けるような音が森の奥から聴こえてきた

「まさか……私たち以外に誰かいるのか……⁉︎」

「よっしゃ!それなら道でも聞けるかもだな!タマに任せたまえ!」

言うが早いか足音の方に球子が駆けていく

「おい待て、球子!先行は危険だ‼︎」

若葉の制止も間に合わず球子の姿が森に消える

「ぐぇっ⁉︎」

若葉の言葉に返ってきたのは球子の苦しげな呻きだった

「球子っ⁉︎」

事態の急転に驚きながらも4人は森に向かって戦闘態勢をとる

足音の正体と球子は待つこともなく姿を現した

森から現れたのは騎士のような派手な赤い鎧をまとったような人ならざる異形と、その異形の左手に首を絞め上げられた球子だった

 

「ぐっ……うっ……‼︎」

絞め上げられた球子が苦しげにもがく。異形は球子にはもう目もくれず、若葉たち4人を睥睨する

『………オジョポリャデェエデョブリョショ……』

赤い異形は解読不明な、しかし確かに言葉と思える声を漏らす

(なんだ……コイツは……⁉︎)

若葉の手にした刀が震える

様々な修羅場、鉄火場を経験した若葉たちだからこそわかった。わかってしまった

この異形はとてつもなく強いことが

『デュンエグルンムジャシャグルンベリャフォデョブリョフォンミファンフォ……ミョオエエ』

しばらく品定めをするように若葉たちを睨め付けた異形は手にした剣を左手の手甲で荒く研ぎ澄ますと、若葉たちに改めて刃を向ける

『デュシュンフェデェフフォガ……‼︎』

「何……言ってんのか……ワカンねぇんだよッ‼︎」

左手で絞めあげていた球子の蹴りが異形の顔らしき部分に直撃する

不意打ちだったのか異形の手が離れ球子が地面に着地する

『………ンン……』

「けほっ……ヘヘッ、どうだ!タマの蹴りにビビったかー」

『シャバリャデュ』

ドガッ‼︎

ブンッという風切り音と同時に球子が宙を舞い、若葉たちの背後にあった木に叩きつけられる。若葉の頬には血の雫が滴った

「かはっ……⁉︎」

「球子‼︎」

「タマっち先輩‼︎」

杏が球子に駆け寄る。意識はまだあるが球子の右の二の腕が勇者服の袖ごと斬り裂かれており、球子が激痛に顔を歪めている

あの異形は小柄とはいえ、片手で斬り薙いだだけで球子をここまで吹き飛ばしたのだ

『シャバリャデュ……シャバリャデュ ダン デョブリョフォンミャミ‼︎』

異形は隠す気もなく殺意を噴きださせると苛立たしげに手にした長剣を振り回しながらこちらに駆けてきた

『アァア‼︎』

「させるか‼︎」

真っ先に負傷した球子をかばって若葉が大上段からの斬撃を刀で受け止める

「ぐっ……うぅ……っ⁉︎」

ミシミシと若葉の腕の骨と筋肉が軋む

(重すぎる……っ‼︎ 桁違いに強い…‼︎)

「高嶋さん‼︎」

「わかった‼︎」

動きの止まった異形の左右から高嶋と千景の二人が挟み撃ちに攻撃をはじめる

『シャデュオンショデェエ‼︎』

異形が叫ぶと手にした剣の柄が緑に輝く。同時に千景に地面や木々から蔦が伸びその腕をしばりあげ勢いよく地面に叩きつける

「なっ……かっ……⁉︎」

「千景⁉︎」

(コイツ……地の利も得ているのか⁉︎)

千景が沈黙したことを確認すると高嶋の蹴りを片手で掴み放り投げる

「しまっ……⁉︎」

『ァアアア‼︎』

空中で無防備になった高嶋に向けて異形が手のひらから火球を放ち追撃。避けきれず高嶋が爆発に巻き込まれる

「きゃあああ⁉︎」

「このっ‼︎そこだ‼︎」

ギャリィイイイイン‼︎

気合い一閃高嶋と千景に注意が逸れた異形に若葉の居合が炸裂する

『………ダビリゥションフォンウデェジョ?』

「何……⁉︎」

若葉の顔に明白な絶望が浮かぶ。若葉の居合はバーテックスにも傷をつけるだけの威力はある。それをこの異形は身じろぎもせず、傷一つなく耐えてみせた

(格が……違いすぎる……)

『ジュミョボリャムフォ デェフィ、デョブリョ』

呆然とする若葉に異形が長剣を振りかぶる

その時だった

「ハァっ‼︎」

ガギィン‼︎

『グゥオ⁉︎』

若葉の背後、恐らく森の中から出てきたであろう何ものかが目の前の赤い異形を吹き飛ばす

「ようやく見つけたぞ、オーバーロード……」

異形を吹き飛ばしたのはまたしても若葉から見れば異形であった

だがオーバーロードと呼ばれた方と比べると各所の鎧などからより騎士のように見える

特に上半身の黄色い鎧は両肩の三日月状の肩鎧がある果物のように見える

「………バナナ?」

「バロンだ‼︎」

バナナのような鎧を着た騎士は若葉の呟きを訂正すると若葉の方を一瞥する

「ここに子供が紛れ込んでいるとはな……見たところ一応は戦えるようだが……」

バロンと名乗った騎士は手にした槍をオーバーロードに向け構える

「コイツは俺の獲物だ。邪魔はするなよ」




満を持してようやく彼が参戦しましたな。仮面ライダーバロン、ようやく合流ですw

今回ののわゆ一行のデェムシュとの遭遇、実は構想段階だともうちょい違う展開で、森に行ってしまうのが球子、杏だけで若葉、高嶋、千景の三人がインベスを追って樹海の結界に来たバロンに遭遇するって感じでした。森で二人を襲うのもデェムシュではなくオーバーロードの関係者と間違えたシド/仮面ライダーシグルドの予定でした

今回ののわゆ一行の森との関わりは少しわすゆ一行に対比させてます。というかシャルモン組に拾われた三人がかなり幸運だったと解る対比になってたり…というかのわゆの5人が最悪すぎる遭遇でもあるんですが……

次回はのわゆ組&バロンvsデェムシュ戦後編、願わくば迷ってる球子、杏、沢芽市のわすゆ組の日常も……お楽しみに‼︎


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第8話 別離と日常

『オショエデョブリョ………‼︎』

苛立たしげな様子で赤い異形ーオーバーロードインベスが立ち上がる

アーマードライダーバロン、駒紋戒斗はこの異形を探していた。戦極凌馬曰く、黄金の果実のことを知り得るこの力ある種族を

戒斗はその果実に興味があった。何者をも超える力を与える禁断の果実。それを手にすることに

「今度こそ吐いてもらうぞ、貴様らが知り得る洗いざらいを」

『ラデュオンシュイ‼︎』

ガィン‼︎

オーバーロードの長剣が凄まじいスピードでバロンに叩きつけられる。すんでで手にしたバナスピアーが長剣を受け止める。力の勢いそのままに長剣をいなし、よろけたオーバーロードに一撃、また一撃、おまけで強烈な突きを浴びせる

『グゥッ⁉︎……ォオ‼︎』

ギィン‼︎

オーバーロードが怯む、がその怯みすらねじ伏せる勢いでいなされた長剣が返されバロンを弾き飛ばす

「ガッ⁉︎」

不意を突かれ地に伏せるバロン。オーバーロードは怒涛の連撃を受けたにもかかわらず既に回復しこちらに憤怒の視線を送って来ている

「この程度、どうともないか……そう来なくてはな‼︎」

《マンゴー‼︎》

《カモン‼︎マンゴーアームズ‼︎》

《FIGHT of HAMMER‼︎》

ドライバーのロックシードを換装、ハンマーでの力強い打撃が可能なマンゴーアームズを身にまとう

「一気に行くぞ」

《カモン‼︎マンゴーオーレ‼︎》

手にしたハンマー、マンゴパニッシャーにエネルギーを迸らせ、オーバーロードへ振り下ろす

『ンン‼︎』

が、渾身の一撃をオーバーロードは長剣の腹で軽々と受け止め、バロンごと押し返す

「ぐっ⁉︎」

「はぁあああああ‼︎」

とバロンの脇を何かが駆け抜ける。それはガラ空きになったオーバーロードの脇腹に鋭い一線を叩き込む

『グゥッ⁉︎』

不意の一撃にオーバーロードがたじろぐ

「お前は……」

攻撃を加えたのは先程までオーバーロードと交戦していたらしき珍妙な服装の少女だった

「コイツなら……効いたか?」

少女が皮肉じみた笑みを浮かべる

『シャデュオンショデェエ‼︎』

ドガッ‼︎

「かはっ⁉︎」

しかしオーバーロードにはさしたるダメージにならなかったようで少女はオーバーロードに蹴り上げられ、バロンの側に転がされる

「かっ……くそっ……」

「邪魔だ、下がっていろ」

立ち上がったバロンが辛辣に言い放つ

「なっ……黙ってみていろって言うのか⁉︎」

「そうだと言っている。貴様らが何かは知らんが、ヤツに傷一つどころか眼中にも入れてもらえないような弱者はでしゃばるな」

唇を噛みしめる少女を歯牙にもかけずバロンは再びオーバーロードに相対する

「貴様の力はこんなものか?」

『デョブリョシャンジャシェション……‼︎』

 

若葉は怒りに満ちた目でバロンと名乗った騎士を睨んでいた

だが同時に彼の発言が全くの嘘でない故の不甲斐なさも感じていた

(たしかに……私たちは……私は弱い……‼︎ 仲間すら、まともに守れていない……ッ‼︎)

バロンは再び異形と衝突する。少々押されているが、バロンは異形と確かに渡り合っている

(くそっ……‼︎ 私に力があれば……‼︎)

と若葉が悔しさに地面を殴りつける。そこには何か硬い感触があった

とっさに掴み上げたそれはバロンが使っていたバナナの描かれた錠前であった

「これは……」

先程、バロンは別の錠前から新たな鎧と武器を取り出した。アレがこの錠前の力なら、この錠前からもー

(確証はない……だが……)

腕の傷を押さえ苦しそうな表情をする球子、それを案ずる杏、火球の直撃でボロボロになりながらも立ち上がり気を失ってるらしい千景の前に立ちはだかる高嶋

若葉の目にはボロボロになりながらもまだ立ち上がる仲間が映った

(これだけやられるだけやられて……引き下がれるか……‼︎)

その目に確かな怒りと闘志を燃やした若葉は錠前を構え、解錠する

《バナナ‼︎》

「……何?」

交戦中のバロンと異形が若葉の変化に一瞬目を奪われる

「まだ、負けていない……‼︎」

《バナナアームズ‼︎》

《KNIGHT of SPEAR‼︎》

若葉の頭上に召喚されたバナナ型の鎧が若葉に被さると同時に彼女の勇者服の上からバロンが身につけていたものに似た鎧が装着される

その手にはバロンと同じ槍が握られている

「若葉……⁉︎」

「案ずるな、アイツに一発与えてやるだけだ」

異形に押しのけられたバロンに若葉が並び立つ

「付け焼き刃の力を手に入れて……戦える気にでもなったか?」

「付け焼き刃上等だ。これだけやられたツケを返すだけならそれで十分だ」

「………フン、くれぐれも俺の邪魔はするなよ?」

「そちらこそ、私の邪魔は許さないぞ?」

若葉、バロンが各々の得物を異形に向け、駆ける

「ハァッ‼︎」

「ィヤァッ‼︎」

二人の裂帛の一撃が異形を捉える。渾身の一撃に異形が仰け反る。その隙を逃さずバロンがハンマーを何度も叩きつける。連撃に苛立った異形はバロンに斬撃を叩き込み吹き飛ばす。異形がバロンに向き直ると同時に背後に回った若葉の連撃が異形を捉え仰け反らせる

『グッ……オォア……‼︎』

「私など眼中に無かったか?舐められたものだ‼︎」

《バナナオーレ‼︎》

裂帛の気合いとともにエネルギーを纏わせた鋭い突きが異形を貫く

『グゥオァアアアアアア⁉︎』

「ふん……借りは返したぞ……バケモノ……‼︎」

『ぉ、オオオオオオオ‼︎』

確かなダメージを与えたかに思えたその瞬間、異形は脇腹に突き立った槍を掴むと力任せに若葉ごと振り回し投げ飛ばした

「くぁっ……⁉︎」

「なっ、くっ⁉︎」

投げ飛ばされた若葉はバロンにぶつかり、巻き込んで更に後方に転がる。転がった先にはいつのまに開いたのか若葉たちが入り込んだものと同じ穴が

「しまった……⁉︎」

若葉はバロンを巻き込んでそのまま穴に落ちていく。穴の先が若葉たちの知る町であることに気づいた高嶋は素早く千景を担ぎながら穴に入る

「タマっち先輩も、早く‼︎」

「おう……行くぞ、杏‼︎」

高嶋の呼びかけに球子と杏が穴に向けて駆け出す

あともう少し……と球子と杏が穴に指を伸ばした瞬間

「ガハッ⁉︎」

穴から見えていた二人が突然横方向へ吹き飛ぶ代わって穴から見えたのは、あの赤い異形

「タマっち先輩‼︎杏ちゃん‼︎」

高嶋の悲痛な呼びかけ虚しく、異形が穴に手をかざすと即座に穴が閉じ、消え失せてしまった

「球子ォ‼︎杏ぅ‼︎」

若葉の叫びは虚空に消えてしまった。そこで若葉と高嶋は気を失ってしまった

 

「面倒なことになった……」

覆い被さった少女をどかし、立ち上がったバロンは周囲を見渡す

今立っているのはどうやら砂浜らしい。磯の匂いが鼻をくすぐる

見渡すと高い建物が見つからず、ユグドラシルタワーもないことにはすぐに気づいた

「沢芽市ではないのか……?」

変身を解除した戒斗は大きく嘆息し、足元を眺める

先程ヘルヘイムから一緒くたに飛ばされてきた三人の少女が倒れていた。どういう訳か、あの珍妙な服が普通の服に戻っている

「………俺も傷の手当てがいるな……」

見ると戒斗もところどころに血が滲んでいた

「病院はどうせ探す必要があるな」

 

 

「で、今に至っている訳だ。私も先程気がついたばかりだ」

「戒斗……あいつもこっちにいるのか……」

「戒斗?……もしや、絋汰殿は彼の知り合いか?」

「ああ、まぁな。あとその森とか、バケモノについても少し知ってる」

「それは本当か⁉︎ 詳しく聞かせてくれ‼︎」

若葉の願いに応えて絋汰は知っている限りを洗いざらい話した

自分が異世界の存在で、森でインベスという怪物を追っているうちにこちらに来たということ

あの森はヘルヘイムの森と呼ばれていて絋汰の世界を侵食していること

ヘルヘイムには知能の高いヘルヘイムを操る種族、オーバーロードがいることとその一人が若葉たちを襲った赤いバケモノであること

若葉は時折驚いた顔をしながらもその話を真摯に聞いていた

「成る程……荒唐無稽にしか聞こえないが、あれだけ色々とこの目で見ている以上、信じるしかないな……」

「侵食する森……私たちの世界のバーテックスも厄介ですが、そちらの世界も重大な危機に瀕しているのですね……」

「あぁ……だからオーバーロードをなんとか説得しようとしてるのが現状だな。まぁ中々うまくいかないんだがな……」

と絋汰が溜息をつく

「…こちらと森をつなぐ穴……もしかして、銀たちも……」

「それはありえるな、たしかに……若葉たちみたいにあいつらに襲われてなけりゃいいんだが……」

「銀たちも行方不明なのか…? この問題は随分と大きなものなようだな……」

陰鬱になりかけた病室の空気を察したか、ひなたが話題を転換する

「悩んでも今すぐ解決はできません…ともかく、現在の事情は把握しました。絋汰さんがしばらく滞在する手配はお任せ下さい」

「あぁ、助かるよ。しばらくは帰れそうになさそうだからな……」

絋汰が安堵のため息を漏らす

「戒斗のやつはそういえばどこに行ったんだ?」

「……そういえばどこかに行ってしまったな……」

「あいつ相変わらずだな……」

「絋汰殿も苦労しているんだな……とにかく来てくれてありがとう。私たちはこの通り大丈夫だからそちらは絋汰殿たちの問題についての方や本来のお役目を頼む」

「うん、任せて若葉さん‼︎」

「こっちのことは元祖勇者部に任せてくださいよ‼︎」

友奈と風が腕まくりをしてみせる。その様子に思わず若葉も吹き出して笑った

 

 

沢芽市 西のステージ

『ハロー沢芽シティー♪ 怪物が出てきたりと不安な日が続くが、考えてたって気分は晴れないぜー?』

近くの高いビルのモニターに映る男性が軽快なトークを流し始める

須美たちの前には端に大きなスピーカーが置かれた舞台のような開けた広場。広場の前には須美たち以外にも大勢の人が集まっていた。皆青だったり黒だったり赤だったり様々な色の服を着ている

『そんな陰鬱な空気をぶっ壊してくれるのは〜?』

「「「ビートライダーズ‼︎」」」

モニターの男性の呼びかけに人々が答えると同時にスピーカーから軽快な音楽が大音量で流れ出す。音楽と共にステージに現れたのはスポーティな青い服、どこか威厳のある黒と赤の服、黒いどこか不良じみた服と派手な服を着た数名の青年。青い服の一団には女性も混じっている

『オーケィ‼︎声援はバッチリ、ステージは最高潮にあったまってるぜガーイズ‼︎ 今日のステージはチーム鎧武、チームバロン、チームレイドワイルドの混合チームだー‼︎』

ステージ前の観客から割れんばかりの声援が起こると同時にステージ上のチームたちがダンスを始める

「すっげー……」

銀が感嘆の声を漏らす。須美も声こそあげないもののあまりの迫力に固まっていた

バレェや日本舞踊みたいな完成された感じじゃない、でもすごく情熱的で、引き込まれる、そんな不思議な魅力があった

「キャーーーーーー‼︎バロンかっこいーーーー‼︎」

園子は既にノリノリの様子でバロン、黒と赤の服のチームに黄色い声援を送っている

須美も思わず体がリズムを刻んでいるのを感じた。なんだかとても楽しかったのだ

 

『名残惜しいが、今日のステージはこれで終了だ〜忘れ物に気をつけて帰るんだぜ?エブリワン‼︎』

あっという間にステージは終わり、観客も各々の帰路についたり近場のチームグッズ売り場に向かったりしていた

「すごかったです……」

「だな!なんかこう、バーンッて感じだったな!」

「バロンってチームの人すっごいカッコよかったですよ〜♪」

三人ともこういったダンスを見たのは初めてでとても楽しかった。心が躍るというのはこういう感じなんだろう

「中々いいもんだろ?ああいうのも」

「はい、とてもワクワクしました」

「城乃内さんもああいうのやってたりしてたりしたんですか?」

「まぁな。最近はパティシエ修行の方が大変だがな」

「じょーさんもカッコいいダンス踊りそうだもんね〜」

「今はちょっと勘が鈍ってそうだな……」

「よう、城乃内!」

「私たちのステージ、見に来てくれてありがと」

城乃内に声をかけて来たのはチームバロンのコスチュームを着た青年とチーム鎧武のものと思しきコスチュームを着ている女性だった。どうやら城乃内の知り合いらしい

「ああ、こいつらの沢芽市案内のついでにな」

「ふぁあ〜‼︎チームバロンの人だ〜‼︎わっしー、ミノさん生バロンだよ〜‼︎」

城乃内の言葉を半ば遮りながら園子がバロンの青年に目を光らせてがぶりよる。いたくチームバロンが気に入ったようだ

「お、おう。見ない子達だな……」

「親戚の子とその友達でな。沢芽市観光したいらしくてしばらく預かってるんだ」

「へぇ〜そうなんだ。私、高司 舞。チーム鎧武でダンスやってるの、よろしく♪」

「俺はチームバロンのリーダー、ザックだ。よろしくな!」

舞が須美と銀の手を優しく握り、ザックは園子の頭を撫でながら自己紹介する

「初めまして、鷲尾 須美と申します。しばらくこの街にご厄介になります」

「三ノ輪 銀って言います!ザックさん、舞さん、よろしくお願いします!」

「乃木園子で〜す♪ ザックさん、まいまいさんよろしく〜♪」

「よろしくな、三人とも。園子の方はバロンが気に入ってんなら、明日もステージやるから見に来てくれよな♪」

「ふわぁ〜♪いきますいきます〜!」

「じゃあ私たちは練習があるからまたね、今度はドルーパーズででもお話ししましょ?」

「はい、喜んで」

去っていく舞とザックの姿が見えなくなるまで須美達は手を振って見送り、城乃内に促されてシャルモンへと帰路を歩く

(バーテックスはここには出てこないの……? なんだか、とても平和……)

一人須美だけはあまりにも平和な日常に少しだけ不安があった。今までバーテックスと戦い、傷ついての繰り返しだった自分たちがこんな平和にすごしていいのかと

「須美ー‼︎置いてっちゃうぞ〜‼︎」

「あ、ごめん銀!いまいくわ」

(でも……こんな日常なら、しばらくは続いて欲しいかもしれない)

 

 

ヘルヘイムの森・深部

『完成したよ、ディエヴオ。あとはこれを彼らとリンクさせれば完成だ』

ジェイがディエヴオに手渡したのは黒いカラーリングのロックシード

絋汰たちが使っているものと異なりフルーツではなく星座のマークが彫られている

『ご苦労だ、ジェイ。これでようやく計画が次に進められる』

『順調だね。今もあの世界はヘルヘイムといい具合に混ざって来ている』

『ああ…あとはより強く肥沃な苗床を用意するだけだな』

ディエヴオが振り返るとそこには白く巨大な影が存在していた

『……その前にまずは、試運転といこうか』

《ピスキス!》

 




はい、激動しちゃった第8話。デェムシュさん強い強い……

前にも書きましたが、のわゆ組のこの状況はわすゆ組との対比だったり。というかヘルヘイムで無事だったわすゆ組がすげぇ幸運な出来事だったっていう…

ラストには久々にオリジナルキャラたちが出てきましたが、これからどうなるやら……お楽しみに〜です(´∀`*)


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Tips1 (小解説)

話が若干落ち着いたので時間軸やら曖昧だった部分やオリジナル要素を解説します

感想などで質問いただいたぶんも必要ならこういう形で今後もちょこちょこ解説しますのでよろしくお願いします


・時間軸について

鎧武側はビートライダーズが完全和解して、凰蓮がヘルヘイムの真相に知っている、かつ凌馬らが貴虎を突き落としてない辺りですね

まだ出てはきてませんが貴虎もいる時間軸です。感想でもいただきましたが本編中盤辺りで沢芽市はまだまだ平和な時です

単純に凰蓮や貴虎、凌馬出したかったというのと、鎧武ワールド側の無用な争いはあまり挟みたくなかったってのがこの時間軸の主な理由ですかねw

ゆゆゆは花結いのきらめきののわゆ組が合流した辺りです。結城友奈世代はアニメの勇者の章前くらいと考えていただければ。描写こそ無いですが、東郷さんは車椅子無し、みんな満開の危険性とかは知っているって感じですね。ゆゆゆい時空なんで勇者たちはみんな全力戦闘が可能です

満開は出したい気持ちと出したく無い気持ち半々なんでまだ未定ですね……w

 

・バーテックス、及びインベスについて

バーテックスは勇者以外の力は無効のはずですが、鎧武側のロックシードのエネルギーやら、ヘルヘイムを操れるあの男の微調整的なので強引ながらもアーマードライダーの攻撃が通用するようになってます。ただしギリギリ戦えるレベルなので戦極ライダーたちなら御魂(バーテックスのコア的なやつ)露出くらいは可能、ゲネシスライダーでギリギリ中型のバーテックス一体くらいの殲滅が可能になります。第2話辺りで絋汰がジェミニならとか言っていたのはあれが中型っていうのが一番ですね。あれがヴァルゴならせいぜい一部の装甲破壊が限度くらいになってた感じです

インベスやオーバーロードに関しては勇者のパワーなら対抗可能にしています。こちらも世界を蝕む外敵ということで神樹様が微調整してくれてるんだな、ということで……w

バーテックスの汚染とは仕組みが違うってことでインベスやオーバーロードが神樹へ接触するのは(ギリ)大丈夫にしてます。まぁジェミニサイズ(約3m)くらいでも見落としかけるのにあんなんわらわら来たら防げませんからね……

 

・オリジナル要素解説

 

・オウリュウインベス(セイリュウインベス進化体)

5・6話で鎧武と勇者部一行が大苦戦した進化体インベス

劇中ではセイリュウセイリュウ呼ばれてますが、もうあれ別物にしか思えないのでw

外見の変化としては青銅色だったのが黒い表皮に金の装飾がついた感じになっている以外はセイリュウインベスと大きな違いは無し。普通果実を食べて巨大化するところを敢えて硬質化にエネルギーを割くことでカチドキにすら耐性アリなヤバイやつになってしまった感じです

硬質化してはいるが、パワーは進化相応の上昇をしただけなのでせいぜい力が少し強い進化インベス止まりなので実は硬い以外はそんな強くなかったり

 

・ディエヴオ

本作オリジナルのオーバーロードインベス第1号ですね

見た目的にはデェムシュ的な西洋風味、体色は黒色って感じですかね。声は私個人の妄想では上川隆也さん的なハスキーボイスを想像していますw

まだあまり話には関わってきてませんが、レデュエたちとは仲悪かったり、何やら計画を進めてたりなんだか不穏な匂いはプンプンしています

ちなみに彼ないしは彼女の名前はデェムシュたち同様にオーバーロード語→日本語翻訳で意味がある単語になったりします

 

・ジェイ

セイリュウインベスを進化させたり、ディエヴオと何やら悪巧みしてたりしている謎の女性

金髪だったり赤と青のオッドアイだったりとなんだか鎧武本編に似たやつが数名いたようないなかったような……

彼女も謎が多いですがロックシードらしきものを開発したりする辺り凌馬もビックリな天才の可能性はありますね

 

・結城友奈 イチゴアームズ

第6話にて凌馬の貸し出したイチゴロックシードでアームズを召喚して多重変身した結城友奈の姿

勇者服がアンダーウェアに相当するパーツの代わりに運用可能かもという仮説から凌馬が試して大成功したパターン。クロステストなんてカッコつけてますが要は体のいい人体実験。凌馬お前……‼︎

結果としてアームズの追加で能力が向上、アームズウェポンのイチゴクナイも使用可能に。劇中では現在出番がなかったが無双セイバーも召喚可能

必殺技はイチゴ型のエネルギーを蹴り込む「勇者イチゴキック」

 

・乃木若葉 バナナアームズ

第8話にてバロンが落としたバナナロックシードでアームズを召喚して多重変身した乃木若葉の姿

乃木若葉の機転で変身したパターン。とっさの事態とはいえバナナ装着して問題なく戦える辺りさすがは風雲児か

アームズによる能力向上も相まってデェムシュを限定的ながら圧倒する辺り元の戦闘センスもかなり光っている

必殺技はバロンと同じスピアビクトリー。デェムシュの脇腹にぶっ刺さるくらいは威力がある



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第9話 蠢く影

「くそっ………‼︎もう追いついてきやがった……‼︎」

隠れ場所だった岩を破壊し、強襲してきた異形に杏をかばいながら球子が相対する

「タマっち先輩‼︎無茶だよ、その怪我じゃ……」

「無茶でもいい‼︎杏だけでも逃げろ‼︎」

「嫌、そんなの嫌だ‼︎」

杏も球子に並んでボウガンを構える

「私だって……タマっち先輩を……‼︎」

『ゴショミョデェエ‼︎』

異形が長剣を振り上げる

「杏‼︎」

球子が盾を構えて杏の前に立ち塞がり、長剣から放たれる衝撃波を受け止める

「くっ……そぉっ……‼︎」

たった一発の斬撃を受け止めただけにも関わらず腕がビリビリと痺れ、傷口に腕が千切れそうなほどの激痛が走る。だが、これならギリギリ防ぎきれる

『フゥン‼︎』

ゴギィン‼︎

そう判断した球子の顔が再び剣を振り抜いた異形の姿に絶望に塗り替えられた瞬間、鈍い音と共に球子と後ろにいた杏が水平に吹き飛ばされる

二撃目は衝撃波ではなく、直接の斬撃だった

ズガァン‼︎

「かっ………⁉︎」

ボギンッ

再びの鈍い音と共に杏もろとも球子が太い木の幹に叩きつけられる。今の鈍い音は恐らく盾を構えた左手が脱臼した音、他にも骨が折れたかもしれない

「杏……大丈夫か……?」

ボロボロになりながらも背後の杏を心配し、声をかける球子

返事は返ってこない

「………杏……?」

なんとか振り返った球子が見たのは頭と口から血を流しながら虚ろな目で虚空を見つめる杏だった

「杏……?杏ッ‼︎」

よく見ると息は弱々しいがまだしている。叩きつけられた時に頭をうったのだろう。まだ他にも怪我をしているかもしれない

ザッザッザッ……

背後から異形が近づく足音が近づく

それでも球子は振り向けない。今杏から目を離したら杏が死んでしまうかもしれない。それだけは嫌だ、絶対ダメだ、ぐるぐると球子の思考がひたすら空転する。その間にも杏の呼吸が浅くなっているような気がする

その時だった

『グッ……⁉︎オッ……⁉︎』

異形の苦悶の声が響く。杏の肩を抱きながらなんとか振り返った球子が見たものは

灰色に光る小さな3つの球体のようなものに攻撃され、翻弄されていた

しばらく異形を攻撃してこれを吹き飛ばした球体は球子たちから見て左手側に戻っていく

『…………』

そこにいたのはまたしても球子たちが見慣れない異形だった。だがこちらは先程の異形と比べてどこか機械的な灰色の体をしていた

どこか先程若葉がともに戦っていたバロンと名乗っていたヤツに似ていた

『シェデョミョ……‼︎ フォフェミャファファン‼︎』

更なる怒りをたぎらせた異形は灰色の異形に声を荒げる

灰色の異形はふふっと微笑むような仕草をしてみせると悠々と口を開く

『シェフンショフォエファファンフィ…デェムシュ。ジュシュフンシュ アバリャショ ファンフィ。 フフッ……』

ノイズがかかっているが灰色の異形が発した言葉は間違いなく赤い異形が話していたものと同種の言語だった

『シェデョミョ……ジェイ ショ⁉︎ シェデョミョ……‼︎』

どこか驚きが混じった怒声で赤い異形が応える

『シャンミエデョジュ……グランシュミャ、ジェショボリャカ ジフェエビリェジョ』

灰色の異形が赤い異形に手を向けると周囲を回っていた灰色の球体が再び赤い異形に襲いかかり翻弄していく

『グッ………ォオオン‼︎』

分が悪いと判断したのか地面を思いっきり殴りつけた赤い異形は長剣で球体を吹き飛ばし森の奥へと姿を消す

一瞬の出来事であった

つまらなそうに灰色の異形は首を傾げ、右手を開いたり閉じたりすると踵を返してこちらも森の奥へと歩みを進めていく

「おい、おい待ってくれ‼︎杏が、杏が死にそうなんだ‼︎ 助けてくれよ‼︎」

我に返った球子が灰色の異形に叫ぶが異形は気にも留めず去って行った

「そん……な……‼︎」

「タマっち………せ、んぱい……」

杏が弱々しい声をあげ少しだけ手を持ち上げる

「ど……こ……?」

「ここだ‼︎ここにいるぞ杏‼︎だから死ぬな‼︎しっかりしろ‼︎」

球子が杏の手を強く握る。だが球子の意識も朦朧としてきた。よりにもよって今先程までの無理がたたってきたのだ

「杏……‼︎死ぬな……‼︎死なないで……‼︎」

薄れていく意識の中、幻聴のように声が響く

「主任‼︎ ………主任‼︎ ……に、……が2名‼︎ ……て……ます‼︎」

「何?………大丈夫か‼︎……しろ‼︎」

「ぁ……う……」

突如揺さぶられて朦朧としながら球子の口から声が漏れる

「まだ……がある、………を…べ‼︎」

意識が途切れる数秒前、球子が最後に見たのは

赤い奇妙なベルトをした白い人影だった

 

 

讃州中学校そばの寄宿舎・裏庭

「うっし、こんなもんかな?」

絋汰は額の汗を拭いながら自分がやった仕事の出来栄えを眺める。材木たちは綺麗に切り揃えられている

以前に工事現場などでバイトしていた経験がまさかこんなところで活きてくるとは思いもよらなかった

「お、お疲れさまです、絋汰さん……」

「お、ありがとう樹ちゃん」

樹が差し入れてくれたお茶で喉を潤しながら近くのベンチに腰掛ける

あの激動の一日から4日。相変わらず帰る方法は見つからず、凌馬やこちらに来ているはずの戒斗とも連絡がつかない絋汰は勇者部臨時部員として彼女らの手伝いをしていた

若葉、高嶋、千景はすぐに退院し、高嶋や千景とも改めて挨拶はしたがああいった別れかたをしたせいか3人の表情は曇っていた

球子、杏、銀、須美、小学生の園子は未だに行方不明が続いている

探そうにもクラックがあれから発生していない以上ヘルヘイムに行く手段はロックビークルしかないが、こちらも機能しなかったから正直絋汰としても勇者部の面々にしても八方塞がりである

「すみません、色々手伝ってもらっちゃって…」

「大丈夫、腕っぷしはそれなりに自信があるから。それに何にもしてない方が落ち着かないからな」

「絋汰さん、向こうでは何をされていたんですか……?」

「俺?フリーターだよ、まだ。ダンスチーム卒業してからは仕事探しばっかりだ……色んな経験はできたけどな」

絋汰が苦笑すると樹もはにかみながらも笑みを返す

風の自慢の妹(ソースは風自身)というこの樹も勇者として戦うという。この世界での戦闘でバーテックスやインベスをロープのような武器で拘束していたのが彼女らしい。東郷と同じ後方支援型なんだろう

この4日で随分距離が縮まったが、絋汰になれるのには勇者部の中で一番時間がかかったのを見るに引っ込み思案な子なんだろう

「樹ー‼︎絋汰ー‼︎調子はどう?もう終わったかしら?」

学校の方からやって来たのは勝気そうなツインテールの少女、三好 夏凛だ

本人いわく完成型勇者らしく勇者としてあることに責任と誇りを持っていることがうかがえる

言葉の端々にトゲはあるが、彼女なりに勇者部の面々を大事に思っているだろうこともうかがえる

「ああ、今持っていくよ」

「冗談半分にああ言った手前、ほんとにこき使ってるみたいでなんか申し訳なくなってくるわね……」

「いいっていいって、こういう力仕事は男の俺の方が得意だしさ。ていうか、いつもはこういう仕事誰がやってるんだ?」

「友奈と風よ」

「成る程な……」

なんか得心がいってしまった

「うし、それじゃ行こうか‼︎」

「はい…!」

材木を抱えた絋汰と樹が夏凛と一緒に校舎側に向かっていった

 

勇者部部室

「持ってきたよ〜」

「絋汰さんありがとう!」

勇者部では現在お芝居の準備が鋭意進行中であった

なんでも幼稚園とかで発表しているらしい

「助かりました絋汰さん。これで大道具もバッチリね」

「いや〜逞しい男手があると助かるわね〜ホント」

「いや、風と友奈ならいつもこれくらいしてるでしょ…」

部室では衣装作りやら小道具作りが進んでいた。若葉たちも今日は手伝いに加わっている

発表は来週と迫ってきているから大忙しだ

というのも発表に参加するはずだった球子、杏、銀が行方不明になってしまったばかりに劇の内容も大幅に変更せざるを得なかったのだ

「友奈と東郷は練習中か?」

「ああ、別の空き教室で練習中らしい」

「あの二人なら練習しなくても息ピッタリな気はするけどね」

劇は友奈と東郷の二人劇になっている。役者二人も急な変更ながらしっかりやっているあたり勇者部の面々のたくましさが伺える

「しっかし……ふつうに部活やってる私らが言うのも何だけど、ここまで何もないと不気味ね……」

「たしかに妙ね……そのクラックやらインベスやらはともかく、バーテックスたちまで出てこないなんて異常よね……」

この4日間、不思議なことに異変はたしかに起こっているというのにこちらは不気味なほど平和だった

クラックの出現も、インベス、バーテックスの出現もない

バーテックスの出現は元々不定期ではあるらしいがそれでも不気味だと若葉や東郷も漏らしていた

「たしかに不気味だが、何事もないならそれでいいんだがな…」

「クラックとやらは球子さんたちの捜索のためにも開いてほしいところなのだけどね」

とその瞬間

ピロロロロロン、ピロロロロロン‼︎

風たちの持っていた携帯が鳴り響く。以前皆から聞いていた樹海化の合図だ

「言ってるうちにおいでなすったわね‼︎」

「ようやくか…‼︎」

「若葉たちはいいわ。まだ病み上がりなんだから後方支援してなさい」

「でも……」

「心配すんな、俺もいく。クラックが開いたら俺が入って調べてくるさ。俺の方が向こうには詳しいからな」

心配そうな高嶋に絋汰が微笑む。同じく心配そうに見ていた若葉と千景もそれに頷きを返す

「頼む、もし手がかりがあれば調べておいて欲しい」

「私からも頼むわ、絋汰さん」

「おう!」

こうして絋汰は勇者部の6人と共に樹海化に再び飲み込まれた

 

 

樹海化が終わった先でこちらに向かってきていたのは長い尻尾のようなものを持ったバーテックスと地面をまるで水中のように泳いできているバーテックスの二体だった

「蠍座と魚座……2体同時とはね」

勇者服に変身した風が大剣を構え直して二体を見据える

「どっちも中々厄介なのよね……嫌な組み合わせだわ」

同じく勇者服に変身した夏凛がため息を漏らす

「厄介なのか?あいつら?」

オレンジアームズに変身した鎧武が夏凛に伺う

「片方は鋭い毒針、もう片方は地中から引きずり出さなきゃダメ、どっちもどっちでめんどくさいやつよ」

「魚座はわたしがなんとか引き上げれば……」

「……魚座なら俺がなんとかできるかもしれない」

鎧武がはたと手をあげる

「いやいや、絋汰のアーマードライダーがいくら強くてもあのサイズをただ引き上げるのは……」

「大丈夫だ。こっちはでかくなれるからな!」

と鎧武が取り出したのはスイカロックシード

《スイカ‼︎》

解錠と共に今までの鎧とは比べものにならない巨大さのスイカ型の鎧が鎧武の頭上に出現する

「「デッカ⁉︎」」

「お、大きい……‼︎」

「あ、ちょっと下がってな、危ないから」

と驚く3人を下がらせた鎧武はスイカロックシードの力を解放して装着する

《スイカアームズ‼︎》

《大玉!ビッグバン‼︎》

巨大な鎧が鎧武を潰さんと落下し鎧武に被さると巨大な鎧が変形し巨人武者の如き姿をあらわす

「「すごっ⁉︎」」

「これならアイツでも引っ張り出せそうだ」

「よ、よーし、なら身軽な夏凛は蠍座の方引きつけといて。魚座を絋汰と私らでサクッと倒して向かうから無茶は禁物よ‼︎」

「わかってるわよ!」

風の指示のもと別れて2体のバーテックスそれぞれに向かう

鎧武が向かうのは絶賛地面遊泳中の魚座、ピスキスバーテックスだ

「水泳の時間は、終わりだぁ‼︎」

一瞬出てきたピスキスの一部を掴みスイカアームズ鎧武が強引に持ち上げる。もがきながらもその巨体が露わになる。魚というよりかは白さも相まってなんだかイカのように見える

「よーし、持ち上げたぜ‼︎」

「樹、よろしく‼︎」

「うん‼︎」

樹が手をかざすと腕の輪っかから蔦のようなものが飛び出し、スイカアームズごとピスキスをぐるぐる巻きに固定する

「でぇりゃ‼︎」

ゴインっ‼︎

身動きを封じられたピスキスの身体を風の大剣が一気に削ぎ落とす。ピスキスは一層暴れだすがスイカアームズと樹の拘束は簡単には引き剥がせない

「おとなしく、しろっ‼︎」

だが風の攻撃は確実に聴いており、ピスキスの中から心臓部らしい逆三角錐の結晶が覗く

「うし、あと少し‼︎」

「行って、お姉ちゃん!」

樹と風が勝利を確信したその時、

《キィ、キィッ‼︎》

何者かが空から樹に襲いかかる

「きゃあっ⁉︎」

すんでのところで避けた樹が見たのは以前鎧武と友奈が撃破したインベスという怪物によくにたコウモリ人間のような異形だった

「インベス⁉︎ なんでまた……クラックが開いたのか?」

コウモリインベスは更に執拗に樹に攻撃を仕掛けていく。樹はなんとか対応しているが、そのせいか拘束が緩み始める

「なんちゅうタイミングでお邪魔虫が出てきてんのよ……⁉︎」

風が唇を噛みしめる。樹に加勢したいが、下手をするとピスキスの拘束が解けてしまう今はピスキスを先に倒すべきだが

「……ッ‼︎わたし、だって……‼︎」

しばらく防戦一方だった樹だが、もう片方の腕の輪っかを構えコウモリインベスに向き直る

《ギィィッ‼︎》

「……ひぃっ⁉︎」

迫ってきたコウモリインベスに樹は確かな恐怖を感じた

樹たちはバーテックスと今まで何度も戦ってきた。一度怖気づいたが、仲間や姉のために奮起しその恐怖も振り切ってバーテックスと戦ってきた

だが、バーテックスよりも遥かに小さなインベスにはバーテックスにはない表情があった

鳴き声、目線、それら全てがこちらを殺そうと、食い散らかそうと向けられているのが伝わった。バーテックスにはない、剥き出しの殺意

不覚にも樹はそれに恐怖を感じ、へたり込んでしまった

「樹?樹ッ‼︎」

「樹ちゃん‼︎」

風と鎧武の呼びかけに我に返った樹が見たのは

空から目前に迫って来ていたコウモリインベス

「ーあ」

コウモリインベスの鋭い爪が振るわれる、そんな瞬間

コウモリインベスが真横に吹っ飛んだ

「しばらくこの街を探索していたが、どうやらまた厄介ごとに巻き込まれたようだな」

不遜な物言いと共に現れたのは黒と赤のコートを纏った青年。どうやら彼がコウモリインベスを蹴り飛ばしたらしい

「戒斗、お前‼︎」

「葛葉か、貴様もこちらに来ていたのか」

青年ー戒斗はスイカアームズを睨みつける

「ちょっと手を貸せ‼︎こっちのこと調べてるなら俺と風たちで教えてやるから‼︎」

「断る……と言いたいが、その交換条件なら飲んでやろう」

不遜に言い放った戒斗が懐を探るが、何かに気づいたように顔をしかめる

「……あの時あいつに預けたままか……仕方あるまい」

《マンゴー‼︎》

《マンゴーアームズ‼︎》

《FIGHT of HUNMER‼︎》

渋々といった様子でマンゴーロックシードを取り出した戒斗がアーマードライダーバロンに変身、コウモリインベスに手にしたマンゴパニッシャーを向ける

「ー来い」

《キキッ、キィッ‼︎》

 

 

「東郷さん、園ちゃん‼︎」

「うん!」

「えぇ、皆と合流しましょう」

別教室で役の練習をやっていた友奈と東郷、園子も樹海化に際し、勇者部の仲間に合流しようと遠目に確認したスコーピオンを目印に向かっていた

そんな3人の目の前にクラックが開く

「⁉︎あれって絋汰さんが言ってた……」

「クラック……」

東郷はクラックを注意深く睨む

(若葉さんたちのことを考えると、銀たちもあの奥にいるかもしれない……)

とクラックに飛び込もうとも考えたが

(私達まで消えたら余計に混乱になるわね……ここは無視するしかなさそう)

そこは踏みとどまり再びスコーピオンに向けて歩を進めていく

「東郷さん、危ない‼︎」

パァン‼︎

聞き慣れた炸裂音と共に友奈が東郷に覆いかぶさる形で東郷を突き飛ばす

あの音は間違いなく銃声だ

「ゆーゆ、東郷さん、大丈夫⁉︎」

園子が二人の前で銃声の方をにらみながら戦闘態勢をとる

銃声は間違いなくクラックの方から響いてきた

クラックの中から歩み出てきたのはインベスに似た姿の異形。赤い甲殻に翼のような意匠があるどこか猛禽のような雰囲気を感じる

手には銃口から煙をあげる長銃が握られている

『………メデュジエシュ。ディンバリャ バエムジャ』

異形は悩ましそうに首を傾げながら意味不明な言葉を紡ぐ

「あれって、インベス……?」

「新手……でも言葉を喋って……」

喋る異形と聞いて東郷の脳裏には若葉たちを襲った異形がよぎる。だが体色こそ同じだがこちらの武器は長剣ではない

『ジョーシンジュジャ………ン、こちらの言葉でよかったか』

驚くべきことに異形が改めて話し出した言葉は間違いなく日本語だった。その流暢な日本語で異形が3人に銃を向けながら機械的に告げる

『ターゲット、確認。ゲームスタート』




前回から間が空きまして申し訳ない……いよいよみんな大好き主任もチラッとですがやっと出せましたw

今回は日常パートが若干メインでしたが、日常って書くの難しい…

今回も灰色の何かやら赤い鳥っぽいオーバーロードやら出てきて混ざり度合いがヒートアップしちゃってきました、書いてる自分でもなんかワクワクしてますw

若干更新ペースが落ちるかもですが、次回もお楽しみにです


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第10話 激突‼︎ 勇者vsオーバーロード

「こいつ、何なの?」

スコーピオンの毒針をいなしながら夏凛が首をかしげる

毒針の動きは非常に緩慢で夏凛が持つ細身の剣でも弾きやすい

そう、弾きやすくなってるのだ

以前戦ったスコーピオンはかなり的確に毒針攻撃を繰り出してきてかなり苦戦した覚えがある。だのにこのスコーピオンはやたら動きが緩慢で何やら覇気というか生気を感じないのだ。しかし、急所への攻撃や風たちへの合流は的確にかつ迅速に妨害してくる

まるで夏凛をここに留めるためだけのようだ

(バーテックスにそんな知能が……?騙し討ちとかもしてくるから無いとは言い切れないけど……)

不思議に思いながらもスコーピオンの攻撃をいなし続ける夏凛

その視界の外から何かが高速で飛来し夏凛の頭を捉えて吹き飛ばした

「……ッ‼︎ 何なの⁉︎」

吹き飛ばされた先で頭を押さえながらも夏凛が立ち上がる

『油断大敵』

夏凛の傍で厳かに呟いたのは小さな鎧武者

勇者の防衛機構、精霊の義輝だ

『カカッ、今のを防ぐとはたまげたなぁ……別世界のチビザルもおもしれぇじゃねぇか』

夏凛から戻っていくなにかをキャッチしたのは緑色をしたゴツゴツした外見の異形。どこかシルエットは絋汰と戦ったあのインベスとかいうやつに似ている

だがインベスと明確に違ったのは相手がはっきりと日本語を喋ったことと、その手に小振りながら重そうな斧を二挺握っているということだ

「……チビザルとは言ってくれるわね……‼︎」

『チビザルはチビザルだろ?サルをサルと呼んでなにが悪い』

かなり嫌味ったらしい挑発に流石の夏凛も頭にきた

「そこまで言うならそのチビザルに負ける味でも堪能してみたらどう⁉︎」

『カッカッ、おもしれぇ……このジュブリョシェン様の一番の相手だ、光栄に思えよチビザル』

片方の斧を向けながらジュブリョシェンと名乗った異形が嗤う

そしてどこからか取り出したのは絋汰たちが使ってるのとよく似た黒い錠前。フルーツではなくて蠍座のマークが描かれている

『コイツのテストもあるしな。ほら、お前も本気出していいぜ?』

と言うや否や夏凛にスコーピオンの毒針が襲いかかった

すんでのところで双剣で受け止めるが、今度の攻撃は間違いなく全力だった

「なっ……⁉︎何で急に……⁉︎」

(まさか……さっきの錠前……あれでアイツが操ってるの……‼︎)

怒り以上に冷静になった夏凛がジュブリョシェンを睨みつける

『簡単には死んでくれるなよ?つまんねぇからな‼︎』

 

各々の武器を構えて赤い異形に相対する友奈たち

ただ3人とも冷や汗をかいていた

(ビリビリくる感じ……ただものじゃない……‼︎)

否応なしに伝わってくる不気味なまでのプレッシャー。ギリギリ立って受け止めてはいるが、油断すれば飲まれそうだ

『……アンド、テストスタート』

先に動いたのは赤い異形。懐から二つ黒い錠前を取り出し、解錠する

《キャンサー‼︎》

《サジタリアス‼︎》

解錠と共に出現したのは鎧武のような鎧ではなく二つの巨大なクラック。その中から出現したのは

「新手のバーテックス⁉︎」

「そんな⁉︎」

一方は6枚の反射板を持つ蟹座のキャンサーバーテックス、もう一方は巨大な口の中に針のような『矢』を番えた射手座のサジタリアスバーテックス。どちらもかつて友奈達が撃退したバーテックスだ

出現が確認されていたのが遠方で風たちが相手をしている2体。こちらの2体は間違いなくあの異形の解錠と共に出現していた

赤い異形はキャンサーバーテックスの頭らしき部分の上に飛び乗る

「バーテックスを、操ってるの……⁉︎」

園子も仰天した表情を見せるが、東郷は既に異形への警戒に移っていた。役職が近いからこそ解る。あの位置どり、そして長銃という武器

予想通り異形は長銃の狙いをこちらに定める。狙撃体勢だ

「友奈ちゃん‼︎園っち‼︎」

東郷の呼びかけに友奈と園子が素早く反応して飛び退く。数秒前まで友奈達がいた地面が軽く吹き飛ぶ。あの長銃には見た目以上の威力があることが証明された

『ミステイク、0ポイント』

「そういうことならっ‼︎」

言うが早いか友奈が高く跳躍し拳を固める。狙いは狙撃手かつ司令塔の赤い異形

空中の友奈めがけて今まで黙認していたサジタリアスが狙いを定め、矢を引き絞るーが、園子の槍撃がその射線を大きくずらす

「こっちは任せて‼︎わっしーとゆーゆは‼︎」

「分かったわ。頼んだわよ園っち‼︎」

分担に成功した今、異形は次弾装填の為にガラ空きだ

「はぁああああああああ‼︎」

ゴインっ‼︎

しかし友奈の渾身の一撃はキャンサーの反射板一枚に阻まれた

「くっ‼︎」

攻撃の反動を使って反射板から飛び退く友奈を素早く移動した反射板の後ろから異形が狙う

「友奈ちゃん‼︎」

パァン‼︎

異形が放った弾丸が友奈の肩口を掠める。精霊の守りで傷こそないが、かなりの衝撃に空中で体勢を崩した友奈が地面に墜落する

「ッ‼︎このッ‼︎」

反撃とばかりに東郷が二挺拳銃を乱射する、がこれも素早く展開された反射板に阻まれる

反射板の向こうでは悠々と空薬莢を排出し、次弾を装填する異形の姿が垣間見える

『ヒット、10ポイント』

異形は続いて東郷に狙いを定める

やはり操られているとしか思えないほどの強力な連携に東郷は唇を噛み締めた

 

「ハァッ‼︎」

ガギンっ‼︎ゴインっ‼︎

《ギッ⁉︎キキッ⁉︎》

重厚なマンゴパニッシャーの連撃がコウモリインベスを捉える。防戦一方どころでなくコウモリインベスが消耗していく

「どうした?それで終わりか?」

《ギ……キィッ……ッ……ギキッ?》

とコウモリインベスが目を向けたのがなんとかピスキスを拘束しながらもまだへたり込んだままだった樹

強すぎるバロンより先に抵抗しなかった樹に狙いを定めたらしいコウモリインベスが素早く樹に飛びつく

《キキィッ‼︎》

「‼︎きゃあっ⁉︎」

「どこを見ている‼︎」

ズガンッ‼︎

《ギョギィッ⁉︎》

ガラ空きになったコウモリインベスの背中に投擲されたマンゴパニッシャーがクリーンヒットし、再びコウモリインベスが地面を転がる

「弱者らしいやり方だな」

悠々とマンゴパニッシャーを回収したバロンはコウモリインベスを再び睨みつける。そのまま樹の方にも一瞥をくれ

「貴様も貴様だ。戦う力も、覚悟もない弱者ならどけ。邪魔なだけだ」

「なっ、あんたうちの妹になんてこと言うのよ⁉︎」

「戒斗お前⁉︎流石に言い過ぎだろ⁉︎」

いきなりの不遜な言い回しに鎧武と風が猛抗議する

「事実だろう。貴様も姉ならば妹の一人守ってみせるのが当然だろう?力の無い弱者をこのような場に巻き込んで、自分のことは棚に上げる気か?」

「……ッ‼︎」

風の表情が怒りから一転、複雑な表情に変わる。樹も俯いたままだ

余程バロンの発言が効いたのか鎧武が痺れを切らして

「おい、戒斗お前……」

「あぁ、そうよ……樹は、私が巻き込んだも同然で、それに負い目だって感じてたわ……」

鎧武の言葉を遮り風が静かに口を開く

「でも、でもね、その子は、樹は、一回は夢まで失いかけたのに、勇者部に入ってよかったって笑ってくれた‼︎ 戦えなかったあたしを守ってくれた‼︎ そんな樹が弱いわけがあるかッ‼︎」

風の今まで見せたことの無いような感情が溢れ出る叫びを聞いた樹が顔を上げる

「……わたしも、最初はすごく怖かった……でも、それよりもずっと、お姉ちゃんやみんなとの日常がなくなる方が怖くて、だから、みんなといたい、守りたいって思えた‼︎ お姉ちゃんに巻き込まれたからじゃない、わたしの意思で‼︎」

その顔はまだ怯えが残っていながらも決意と覚悟が滲み出ていた

「そこのツンツンマンゴー‼︎」

「バロンだ‼︎」

「あたしら姉妹の女子力の高さ、その目にしっかり焼き付けなさい‼︎」

勇ましい宣言と共に風が樹に微笑みかける

「行くわよ、樹‼︎」

それに力強く頷いて返す樹

「うん、お姉ちゃん‼︎」

 

「「満開‼︎」」

 

瞬間二人の姿が眩い光に包まれ、それに合わせ地面から光の根が二人に伸びていく

「な、なんだ⁉︎」

光が晴れた中にいたのは様変わりした犬吠埼姉妹だった

風はその手に大剣、どころか斬艦刀とも言えるような巨大剣を

樹はその背に後光にも見える天輪を

更に二人の勇者服も大きく変化し、巫女服のような神々しさと満開した花のような華やかさを兼ね備えているような豪奢なものになっている

「すげぇ……きれいだなって、おおっと⁉︎」

変身に際して樹の拘束が解けたピスケスが暴れ出し、スイカアームズ鎧武がよろめく

「絋汰‼︎そいつ上にぶん投げて‼︎」

「お、おう‼︎で、りゃあああああああああ‼︎」

力任せにピスケスを空中に放り投げる

瞬間移動と見紛うスピードで風がピスケスの上方へ位置どる

「あんたみたいな魚、刺身にしてやるッ‼︎」

風の巨大剣が横に一閃されピスケスが抵抗なく両断される

「もういっちぉおおおおおおおおおお‼︎」

返す刀で縦にも一閃。十字にぶった切られたピスケスは核も破損したのかそのまま爆散し、空へと帰っていく

「見たか‼︎あたしの女子力‼︎」

「すっげぇ……」

驚くスイカアームズ鎧武の傍をコウモリインベスが高速で飛び去る。その後方には見えないほど研ぎ澄まされた細いワイヤーが追い縋っていた。ワイヤーは樹の背負う天輪から伸びている

「逃がさない……‼︎」

《ギ、ギギッ⁉︎》

ワイヤーがインベスの足を捉えるとその体を一瞬のうちにぐるぐるに拘束し、身動きを封じる

「さっきの、お返し……ッ‼︎」

コウモリインベスに向けた手のひらをギュッと握りしめる樹

同時にワイヤーが急速に締まり、コウモリインベスの体が軋み始める

《ギギギギギッ⁉︎》

抵抗虚しくコウモリインベスが細切れにされる

「……容赦ないな……」

普段の樹からは見られない苛烈さを垣間見たバロンが思わず唸る

バーテックスとは違い有機的なインベスだったこともありさすがの樹も顔を引きつらせているが…

「よ、よーし樹、絋汰、それから……そこのマンゴー‼︎」

「バロンだ‼︎いい加減覚えろ‼︎」

「このまま夏凛と合流して終わらせるわよ‼︎」

「おう‼︎」

 

『カッカッカ‼︎いいねいいね‼︎チビザルにしては中々楽しませてくれるじゃねぇか?』

ガギンッ‼︎ギィンッ‼︎

手斧を振り回しながらジュブリョシェンが夏凛に迫る。双剣で受け流してはいるが実際紙一重だ。押し切れそうになるたびに絶妙な連携でスコーピオンが攻撃してきてこちらは攻めるに攻めれない

「チビザルチビザルうっさいわね……‼︎私には三好 夏凛って名前があるのよ‼︎」

『ミヨシ カリン……成る程な、覚えたぜカリン。俺はつえぇヤツは覚えとく主義だからな』

肩で息をしながらもジュブリョシェンとスコーピオンの双方を警戒する。だが整息している夏凛に対して2体は攻撃しようともしない

(あくまで真正面から叩きたいってわけ……⁉︎)

「上等じゃない……なら私も、出し惜しみ無しよ‼︎」

『お?』

 

「満開‼︎」

 

瞬間、夏凛の姿が眩い光に包まれ、大地から光の根が伸びる

警戒したのかスコーピオンが毒針を伸ばすが、光が晴れるより早く何かが光から飛び出し、スコーピオンと交錯する

一瞬動きを止めたスコーピオンが瞬時にバラバラに分解される

「まずは、一体‼︎」

光から飛び出したの雄々しく変化した夏凛

背に負う後光のような天輪に剣を携えた4本の巨大な腕を装備し、その姿はまるで阿修羅のようだ

勇者服も神々しく豪奢に変化している

『たまげたなこりゃ……カリン、てめぇまだそんな力隠してたわけか。楽しませてくれるねぇ』

軽口を叩きながら拍手を送るジュブリョシェンに夏凛の剣が向けられる

「へらず口が叩けるのはここまでよ。徹底的にぶっ潰す‼︎」

 

 

友奈たちと赤い異形、バーテックスとの戦いはほぼ一方的だった

友奈たちの防戦一方だ

キャンサーの反射板が東郷の銃撃や友奈の接近を弾き、体勢を崩したところに異形からの正確な狙撃、園子が相手をしているサジタリアスも園子の攻撃を的確に交わしては矢の雨を降らせて波状攻撃を仕掛けてくる

3人とも荒い息を繰り返すほどに消耗していた

『つまらない……弱い……』

ふぅとつまらなそうに異形がため息を漏らす

(このまま防戦一方が続けば、勝ち目はない……‼︎)

東郷が唇を噛み締め決意を固める

『ゲーム、セット』

異形がなまら手を上げ二体のバーテックスに命令

キャンサーの反射板が3人を包囲するほど展開され、合わせてサジタリアスから無数の矢が反射板に向けて発射される

矢は反射板を跳ねまわりながら3人雨のように降り注いだ

相当な弾数の矢が降り注いだ為に盛大に土煙が上がる

『スリーキル、300ポイント』

「残念、0ポイントだよ〜」

異形のセリフにのんびりとした返事が重なる

瞬間、サジタリアスが6本の巨大槍に串刺しにされる

「油断大敵、強者故の奢りが貴方の敗因よ」

土煙を割いて6筋の群青の光線がサジタリアスに殺到。たちまち体を粉砕し、露出した核ー御魂をも粉砕する

光線に割かれ晴れた土煙から現れたのは要塞ーそう形容すべき巨影が2つ

神々しい勇者服の園子を乗せたサジタリアスを貫いた巨大槍をオールのように展開した舟

そして同じく荘厳な勇者服の東郷を乗せた6門の巨大砲を備えた空中艇

二人の満開が背中合わせに並んでいた

「我、総攻撃を開始す‼︎」

「いっけー‼︎」

二人の号令に合わせ、巨大槍と光線が唸る。だがキャンサーの反射板はそれすらも弾き防ぎきる

だが、これはブラフ

「はぁああああああああああ‼︎」

咄嗟に見上げた先に巨大な影を視認した異形はキャンサーの反射板全てを直列に配置し、防御体勢をとる

が、巨大な拳がその反射板を一気に破壊する

『なにっ⁉︎』

終始無表情だった異形の表情が目に見えて歪む

「これなら、届くッ‼︎」

異形に迫るは巨大な腕を一対背負う満開状態の友奈

反対の巨大拳を握りしめ、振りかぶる

異形は間一髪キャンサーの頭部から跳躍し離脱

取り残されたキャンサーは哀れ友奈の巨大拳の直撃をくらい、粉砕される

「逃げたっ⁉︎」

「逃がさない‼︎」

6門の大砲が異形をロックオン、間髪入れずに光線が放たれる

迫り来る光線を眺めた異形は

静かに微笑んだ

『ーミッション、コンプリート』

そう呟いた異形の目前で光線が何かに弾かれる

「えっ……?」

あまりの出来事に東郷が固まる

東郷の砲撃は大型のバーテックスすら瞬殺する破壊力を有している

それが何にかはわからないが、あっさりと弾かれたのだ

『ご苦労だった、ラシャ。後は私が引き継ごう』

不意に荘厳な声が響く

体勢を整え着地したラシャと呼ばれた異形の前にゆっくりと歩み出てきたのはラシャと雰囲気の似た黒い異形。シルエットとしてはローブかコートを纏っているようにも見える

黒い異形は片手を上げると飛来してきた3つの円形刃ーチャクラムを掴む。おそらく先ほど光線を弾いたのがそれなのだろう

『サンクス、リーダー』

片手でヒラヒラと挨拶したラシャは開いたクラックの中に消える

『さて、はじめまして勇者の諸君。私はディエヴオ』

ディエヴオと名乗った異形は慇懃に礼をする

『此度は挨拶として、そして諸用の消化に来させてもらった。よろしく頼むよ』




はい、ついに二桁いけました‼︎ ご愛読頂いてる皆様には感謝です‼︎

今回は満開連発で勇者側がかなり派手な立ち回りになって書いてる身としても楽しい回になりました。注釈として勇者シリーズをご存知の方は満開についてはあまりいい印象がなかったりしますが、この作品では全力で戦えるゆゆゆい世界ということで満開も難なく使えることにしています。散華とかないんでご安心を…

ジュブリョシェン、ラシャと更なるオーバーロード、そして彼らが扱うバーテックスを召喚、使役できる黒いロックシードと中々にキナ臭さが増してきました…
次回はついにディエヴオと直接対決‼︎ 沢芽市側のあれこれも描いていきたいな、とも考えてます
お楽しみに‼︎


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第11話 黒きメシアと星の楽園

友奈一行とディエヴオが会敵する数分前

『手負いながらも、いい戦い方だ。さすがこの世界の戦士といったところか』

黒い異形が静かに呟く

周囲には若葉、高嶋、千景が倒れていた

黒い異形は突如後方待機していた若葉たち3人の前に突如クラックから出現した。クラックに球子たちの消息を見出していた3人には願ったり叶ったりであったが、黒い異形は若葉たちを攻撃。反撃に転じる間もなく圧倒されてしまった

(こいつ……あの赤い奴と比べて尚強い……‼︎)

その戦闘スタイルは実に奇妙だった。チャクラムを使った牽制を交えた柔道にも似た格闘術で的確にこちらの動きを捉え返してきたのだ

『さて、所用を済ませようか』

おもむろに黒い異形が若葉の髪を掴み顔を引き上げ頭を掴む

「ぐっ……⁉︎何を………ッ⁉︎がああああああああああああ⁉︎」

異形の謎の行動と共に若葉が苦悶の声をあげ体をえび反らせる

「若葉ッ⁉︎」

「若葉ちゃん⁉︎」

倒れていた高嶋と千景が立ち上がろうとするが、傷が開いたのか直立も難しそうだ

「かっ……はっ………」

『ふむ、やはりこの子で正解であったな』

何か得心した様子のディエヴオは若葉を地面に寝かせるとクラックを開く

『感謝しよう、勇者諸君。これで私の悲願達成がまた近づいた』

慇懃に礼をしたディエヴオはクラックへと姿を消した

 

 

そして現在

「ディエヴオ……それが貴方の名前ですか?」

『いかにも』

東郷の問いにディエヴオが頷く

会話が成立しているということは、間違いなくこちらの言葉を理解しているらしい。ラシャは会話があまりに一方的であったが、こちらとはまだ会話の余地がありそうだ

「所用、と言いましたね。ここ最近の異変が貴方のせいなら、一体何が目的ですか?」

『ふむ、前者には答えかねるが……私の目的ならば簡潔に答えよう』

淡々とディエヴオが口を開く

『私の目的は救済……世界と、そこに生けるものの救済だ』

「………救済?」

あまりにも意外な言葉に東郷が唖然とする

『その通り。今はまだ話すべき時ではないが、大まかな目的はそんなものだ』

とディエヴオが腰から何かを取り出す

手に握られていたのは鈍い金色の錠前。レリーフはリンゴに見える

『その為には諸君が必要だ。悪く思うな』

ディエヴオが錠前を握ると、錠前が輝きを発し、次の瞬間には彼の周りに何体もの黒い異形が出現した。絋汰と戦っていたインベスというあの怪物によく似ている

「やはり、敵……‼︎」

言うが早いから東郷の空中艇の艦砲が唸り黒い異形たちを殲滅していく。砲撃の雨をかいくぐって何匹か東郷へと牙を向けるが、

「させない‼︎」

その前に立ち塞がった友奈が巨拳で吹き飛ばす

『成る程、この程度なら造作もないか』

「あなたの相手は、私が‼︎」

静観していたディエヴオに園子の巨大槍が飛来する

一瞥もくれずに槍を避けたディエヴオは手にしたチャクラムを連続で投擲。それを巨大槍を壁のように展開し対応する

『乃木園子、成る程…あの少女の子孫というのが貴様か』

「⁉︎なんで私の名前を……⁉︎」

『さてな』

再び錠前を握ると今度は巨大なゴリラのような赤い炎を纏った異形が姿をあらわす

《ギョアアアアアアアアアアアア‼︎》

ガツッ‼︎

「わっ、わわわっ⁉︎」

巨大異形は園子が乗る舟を引っ掴むと強引に揺さぶり始める

「あっちいけ〜‼︎」

異形に巨大槍が立て続けに突き刺さり、巨体がよろめく

《ぉ……ア……‼︎》

ゴシャアッ‼︎

しかし異形は最後の力を振り絞り舟ごと園子を地面に叩きつけた

派手な音と共に舟が破砕されるが、園子は間一髪脱出し再びディエヴオと相対する

「強いね〜あなた。でも私も強いよ?」

『承知しているとも』

構えをとる園子に余裕を崩さずにディエヴオが応える

再び投擲されたディエヴオのチャクラムを合図に2人の激突が始まった

 

 

樹海結界の中心・神樹付近

「全く、何日も待たせてくれたじゃないか。だが、この結界さえ生成されたならこちらのものだ」

神樹の正面の虚空から聞き慣れた愉快げな声が響く

虚空が一瞬歪むと目に映える黄色の装甲が現れる

アーマードライダー・デューク。戦極 凌馬の変身するアーマードライダーだ

「色々調べて驚いたよ。まさかこの世界には《本物の神様》が存在していたとはね……流石の私も驚いたよ」

ここ数日行方をくらましていた凌馬は大胆にも大赦の本部を探り出し、デュークの光学迷彩機能を利用して本部に保管されていた勇者やこの世界の情報を得ていたのだ

元々興味があった神樹という存在が神と等しい存在ということ、この世界に恵みという形で多大なエネルギーを供給している存在ということを知った彼は神樹を調べ上げる為に樹海化を待ち望んでいたのだ

「この神樹はバイオプラントとしても高い価値がある。培養すれば兵器転用も簡単にできる。フフフ、正に夢の植物というわけだ…」

『やはりお目が高いね、人間側の科学者も……』

愉快そうに策謀を巡らせていたデュークに自分の呟きとは別の音が混ざる

その方角には1人の女性が神樹の根に腰掛けていた

どこか古風な、神話的な不思議な服をまとった赤と青のオッドアイの女性。長い金髪をポニーテールに結い上げている

「……君はなんだ?」

『なんだとはご挨拶だね。僕は人間だよ?』

「下手な冗談はよしたまえ。樹海結界が展開されている中ただの人間は活動不能だ。となれば私の世界から来た人間だろうが、私の世界の人間にしても君の服装は奇妙だ。なによりも……」

デュークがソニックアローを構えながら女性を更に睨みつける

「初対面の私を科学者と断定するというのは、少なくとも私の知るただの人間には不可能だ」

ビュッ‼︎

ためらいもなく放たれたソニックアローの矢が女性をかすめる。矢をひらりとかわし、デュークに相対した女性は首をすくめる

『科学者という割には乱暴だな』

「イレギュラーは可能な限り排除する。科学者として当然だろう?」

デュークの尊大な言い回しに女性がくっくっと笑いを漏らす

『素晴らしい考えだ。なら、これも排除できるかな?』

そう言いながら女性が取り出したものにデュークが明らかに狼狽する

「バカな……⁉︎ 何故それを持っている⁉︎」

女性の手にあったのは、オレンジ色のエナジーロックシードと黒いゲネシスドライバーに酷似したメカニックだった

女性はメカニックを腰に装着し、エナジーロックシードを構える

『同胞の協力でようやく調整が済んだんだ。開発した君にも見て欲しかったんだよ』

《スターフルーツエナジー‼︎》

解錠と共に女性の頭上にスターフルーツ型の鎧が召喚される

《ロックオン》

『こうだったかな?変身』

《ソーダァ……》

女性の頭上の鎧が展開され、被さる

《スターフルーツエナジーアームズ‼︎》

荘厳なパイプオルガンのような音色と共にアーマードライダーへの変身が完了する

黒いアンダーウェアに腰、肩から伸びる漆黒のマント。それに被さるオレンジ色の豪奢な鎧が輪郭を更に重厚なものに仕上げている

『名前は……そうだな。僕たちが今から作り上げるものにちなんで、エデン、とでも名乗っておこうか』

エデンと名乗ったアーマードライダーはそう不敵に笑うと、アームズウェポンらしい星型の装飾が先端に飾られた錫杖を取り出し地面に突き立てる

「……どういう手管かは知らないが、私の技術の盗用とは、大それたマネをしてくれるな」

『それはすまない。僕がディエヴオたちと並ぶためにはこのやり方が一番最適解だったのさ』

「いいさ、私のシステムの優秀さの証明材料になってくれれば許そう」

剣呑な響きの宣言と同時にデュークのソニックアローから矢が放たれる。ほぼ同時にエデンの錫杖の星型の装飾が5つに分離し、彼女の周囲に展開、それぞれが小さな星型の形状に変化すると、エデンの正面にそのうち一つが踊り出し、シールドを展開してソニックアローを防ぐ

「成る程、そういうアームズウェポンか‼︎」

《レモンエナジースカッシュ‼︎》

エネルギー充填と共にデュークの姿が一瞬ブレる。次の瞬間には6人のデュークがエデンを取り囲んでいた

「悪いね、私の方が一枚上手だ」

6人のデュークがそう笑いながらソニックアローをつがえる

『成る程、でもごめんね。それでも僕の方が上だ』

号令をかけるようにエデンが左手を払うと、周囲の星がエデンの頭上に集合し、全方位にレーザーを放つ

「何っ⁉︎ぐっ⁉︎」

レーザーによって5人のデュークが消え、最後の1人が吹き飛ぶ

『立体映像か……面白いけど、拍子抜けだな……』

倒れたデュークの周囲を星が取り囲み、更にレーザーによる追撃が開始される

「くっ‼︎この‼︎」

『もう少し楽しめるかと思ってたけど、残念だ』

エデンがドライバーのコンプレッサーに手をかけ、素早く2回押し込み、エナジーを抽出する

《スターフルーツエナジースパーキング‼︎》

デュークからエデンの元に戻って来た星が彼女の目前でサークルを描き、その中心にエデンが錫杖を構えると同時に錫杖と星からオレンジ色のレーザーが同時発射され収束、太い一条の雷光と化してデュークに命中する

「がっ……⁉︎ぐあっ⁉︎」

さすがの次世代型アーマードライダーでも耐えきれなかったのか吹き飛ばされたデュークの変身が解除される

『僕の勝ちかな?これは』

「……ふざけたマネをしてくれるな……ッ‼︎ 私のよりも優秀なシステムなぞ……⁉︎」

ゆっくりと歩み寄るエデンに怨嗟を込めた視線を送る凌馬

しかし歩み寄ってきたエデンはトドメを刺すわけでなく、倒れた凌馬に手を差し出した

「……なんのつもりだ……⁉︎」

『何、こちらが僕の真の目的だよ。戦極 凌馬』

変身を解いた女性が優しく凌馬に微笑みを向ける

『僕の名はジェイ。君を、いや、君の頭脳をスカウトに来たのさ』

 

 

ガギン‼︎ガッ‼︎ギィン‼︎

『おいおい‼︎おもしれぇじゃねぇかえぇ⁉︎ まさかサルの中にここまで楽しめる奴がいたとはなぁ‼︎』

ジュブリョシェンの双斧が振るわれ、それに夏凛の大太刀が鈍い金属音と共に衝突する先ほどとは違いスコーピオンの妨害が無い今、ジュブリョシェンが夏凛に押されてる……

かに見えたが

(なんなのよ……ッ‼︎ コイツ……ッ⁉︎)

実際には夏凛の方が押されていた。満開により強化された今の状態ですら、波状攻撃を仕掛けてジュブリョシェンを間合いから遠ざけることが手一杯なのだ。大太刀4本に対して相手は斧2挺

ギンッ‼︎ガインッ‼︎

だのに相手は愉快そうに笑いながら多重の斬撃を悉く正確にいなしている。乱雑に振り回されているようでこちらの攻撃を的確に判断し、捉え続けている

「強い………ッ‼︎」

あまりのことに夏凛も思わず声が漏れる。冷や汗が頰を伝う

完成形勇者の夏凛が押される相手だ。強くなって来たといってもコイツが友奈たちと戦ったらと思うと……

「ゾッとしないわ、ねッ‼︎」

ギャリィンッ‼︎

『うおっとぉ⁉︎』

気合い一閃、夏凛の斬撃がジュブリョシェンを大きく吹き飛ばす

「ハァッ……ハァッ……‼︎」

手にした刀の片方を杖代わりに項垂れ、乱れた呼吸を整える

『おいおいカリン、よそ見できるたぁ……余裕じゃねぇか?』

そんな夏凛の耳に不吉な声と擦過音が響く

しまった‼︎と夏凛が正面を向くのと、ジュブリョシェンが投擲した斧が目前で義輝のバリアに直撃するのはほぼ同時だった

ズガァン‼︎

激しい衝撃音と共に夏凛が遠く吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる

「カッ……⁉︎」

バリアの防御で夏凛は無事だったが、それでもボロボロだ。ダメージが大きかったのか、満開が解除され勇者服が元に戻る

『……あン?まさかもう終わりか?まさかだよなァ?』

ジュブリョシェンの胴間声が徐々に近づいてくる。刀を杖に立ち上がるが、思うように力が入らない。これだけ消耗しているのにジュブリョシェンの足音は軽く、鼻歌のようなものまで口ずさんでいる

(バケモノすぎる……コイツッ……‼︎)

『さぁ、カリン……第2ラウンドを始めようぜェ?』

声が頭上で響く

斧が振り上がる音。襲い来る衝撃に備え夏凛が目を瞑る

だが衝撃は来ない

『な、んだ⁉︎こりゃ⁉︎』

なんとか顔を上げ、ジュブリョシェンを見ると細かいワイヤーがその体を拘束していた

「夏凛さんは……やらせません……‼︎」

「樹ッ‼︎」

ジュブリョシェンを拘束していたのはピスキスを撃破して合流して来た樹のワイヤーであった

開いた両の手に力を込めワイヤーを締め上げていく。が……

『しゃらくせぇ‼︎』

ジェミニバーテックスすらバラバラにできた樹のワイヤーをジュブリョシェンが力任せに引きちぎる

「ーあっ⁉︎」

ワイヤーが千切れたことでバランスを崩した樹を見逃さず、ジュブリョシェンが再び斧を投擲する

樹の顔めがけて飛来して来た斧を寸前で巨大な壁が弾き返す

「ーうちのかわいい妹と、頼れる後輩に何してくれてんのよ⁉︎トカゲ野郎‼︎」

否、樹の前に出現したそれは風が携えていた斬艦刀であった

『おいおい、そんなデカブツありかよ……』

「よそ見をしているとは余裕だな」

頭をかいて呆けていたジュブリョシェンに頭上から赤い影が迫り重い一撃がジュブリョシェンの肩口に叩き込まれる

『がぶっ⁉︎お、お前は⁉︎デェムシュが騒いでた赤いサルか……⁉︎』

「ほう、お前はアイツよりは賢いようだな」

「戒斗‼︎」

更に風の斬艦刀の後ろからオレンジの鎧を纏った鎧武が飛び出し、バロンが押さえていたジュブリョシェンをすれ違いざまに切りつける

『おぉっ⁉︎』

「見つけたぜ、オーバーロード‼︎」

連続攻撃に怯んだジュブリョシェンの周囲を風、樹、回復した夏凛が取り囲む

頰をかくような仕草をしたジュブリョシェンは首をすくめると

『やれやれ、多勢に無勢だな流石に。大将からの頼まれごとは満了したし、今日はしまいだな』

と背後にクラックを作り出す

『じゃあな、カリン、他のサルども。また遊ぼうぜ〜』

「⁉︎待て‼︎」

「逃すか‼︎」

クラックへと姿を素早く消すジュブリョシェンに鎧武とバロンが手を伸ばすが、すんでのところでクラックが消失する

「クソっ‼︎」

鎧武が悔しげに腕を振るう。対してバロンは静かに拳を握りしめていた

「なんだったの……アイツ……」

「あぁ、あれが前に言ってたオーバーロードって奴なんだが…」

「確か、絋汰が探してるやつだったわよね?こっちに出てくるなんて……」

「俺も予想外だ……こんなとこにアイツらが出てくるなんて…」

ドガーン‼︎

過ぎ去った嵐に呆けていた一同を突然の爆音が一気に現実に引き戻す

「なんだなんだ?なんなのさ⁉︎」

「……まさか、友奈さん達が……⁉︎」

「‼︎急ごう‼︎」

 

 

ジュブリョシェン撃退より少し前

「うぁっ………⁉︎」

吹き飛ばされ満開を解除された園子が地面を転がる

「園ちゃん‼︎」

「園っち⁉︎」

《ギュイイイイイイイイイイイイイ‼︎‼︎》

救援に向かおうとする友奈と東郷に黒いインベス達が再び立ち塞がる

「どけええええええ‼︎」

友奈が巨拳を振り回し、東郷が艦砲でなぐ

だが消え去った後からまるで影のように再びインベス達が湧き出し、立ち塞がる

「キリがない……‼︎」

倒れている園子にディエヴオが近づくとその頭を静かに鷲掴みにする

「ヒッ、ァアアアアァアアアア‼︎」

「園っち‼︎」

園子の悲鳴に東郷の中の何かが切れた

「園っちに…触るなァアアアア‼︎」

艦砲がより強力な光線を放ちインベスを薙ぎ払いながらディエヴオに殺到する

ドガーン‼︎

着弾地点から派手な爆煙が上がる。冷静さを欠いた東郷は目標の消滅を確認しなかった

『最後は君だな、東郷美森』

「ーえ?」

そのせいで瞬時に背後を取っていたディエヴオに気づかなかった

ディエヴオの手が東郷の頭を鷲掴む

「⁉︎ふっ、ぁ、ぐあああああああああああ‼︎」

東郷が悲鳴をあげ、ディエヴオの手を振りほどかんと暴れる

(何……これっ……)

一瞬薄れかける意識を引き戻しディエヴオを睨む

(頭の中……記憶を……ぐちゃぐちゃに混ぜられてる⁉︎……違……覗かれてる……⁉︎)

今度は意識を引き戻すことかなわずだらりと東郷が脱力し、満開が解除される

「東郷さんと、園っちを、よくもぉおおおおお‼︎」

巨拳を振りかざし、怒りに満ちた眼差しの友奈がディエヴオに迫る

《スターフルーツエナジースカッシュ‼︎》

その友奈の背にオレンジ色の5条の光線が直撃する

「うわあああああああああああ‼︎」

不安定な体勢だった友奈はかなりの距離を吹き飛ばされ、満開も解除される

『待たせたかな?ディエヴオ』

『いや、こちらも今終わらせたところだ』

現れたのはアーマードライダー・エデン。先の光線も恐らく彼女のものだろう

『ピースはここに揃った。長居は無用だ』

ディエヴオが見つめる先からは鎧武達がこちらに駆けてきていた

『帰って支度を始めよう、ジェイ』

クラックを開き、エデンと共にその中に姿を消しながらディエヴオが振り返り、神樹を見つめる

『救済の時は近い』




間が空いてしまいすみません……お待たせしました‼︎

いよいよオリジナルのアーマードライダーも登場‼︎
スターフルーツそういえばなかったな…と思いながら作りましたw

中々不穏な感じが増してきましたが、次回から数話は恐らく沢芽市サイドの話がメインになってくる予定です‼︎
お楽しみに‼︎


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第12話 それぞれの今

リアル色々多忙でほんっとうにお待たせしてしまってすみません…



ディエヴオの撤退後、気絶した友奈、東郷、園子を助けた風たちと若葉を介抱した千景と高嶋が合流し、同時に樹海化は解除された

大事を取って4人は病院に連れて行かれたが、検査の結果問題はなくすぐに帰ることができた

 

「しかし、奇妙なことになったわね…」

風が頭を抱えて大きなため息を漏らす。勇者部部室にて対価の情報交換に来た戒斗も交えて先程の激戦の反省会が開かれていた

「あぁ……オーバーロードがまさかこんなとこにまで現れるとは、っていうかまさかバーテックスを引き連れるなんて…」

絋汰は神妙な面持ちで呟く。直接は目撃してはいないがラシャと呼ばれたオーバーロードとジュブリョシェンと名乗ったオーバーロードがそれぞれロックシードを使ってバーテックスを呼び出し、操作していたのを東郷たちと夏凛から聞いている

ここで二人が嘘をつく理由がない以上、オーバーロード側がなんらかの方法でバーテックスを使役していることは明白だった

「あのジュブリョシェン、ってやつ…かなり強敵だったわ。オーバーロードって連中はみんなああなら、かなりマズイ状況よね」

「こちらで戦ったディエヴオというオーバーロードもかなり強敵だったわ。下手をすると、バーテックスより厄介かもしれない…」

実際に戦った二人が渋面を作る。切り札とも言える満開を使って負けたのだ、心理的なショックも大きいのだろう

「やつらが強いのは知っている。俺が奴らを求めるのもそれが理由だからな」

部室入り口で話を聞いていた戒斗が口を開く

「何をしているか、何を企んでるかなど細かいことは知らんが、立ち塞がるならそのバーテックスとやらもまとめて叩き潰すまでだ」

「そんな、簡単に……」

戒斗の意見に眉をひそめる東郷

滅茶苦茶な意見にも思えるが、絋汰や戒斗は知っているとはいえ精々そういった存在がいるという認識程度。もう少し詳しい可能性がある凌馬は現在行方不明が続いている

乱暴な結論ではあるが、戒斗の提案が現状最適解に近いのは確かだった

「あのバナナに賛成するのもなんだけど、現状じゃそれ以外にどうしようもないわよね…」

風がやれやれと肩を竦める

「とりあえず、相手の出方を今は伺うってことで‼︎ あのオーバーロードってのが出てきたら、絋汰とバナナに任せるわ」

「おう、任せとけ!」

「バロンだ。言われずとも、アレは俺が倒す」

風がひとまずの対策会を締め切り、部室が少し騒がしくなる中、東郷は一人考えていた

(あのディエヴオと名乗っていたオーバーロード、その最後の攻撃…)

未だ少し重い頭をさする

(まるで頭の中を引っ掻き回すような……いや、覗き見られるような…)

 

 

ヘルヘイムの森 フェムシンムの遺跡

既に滅びた文明の瓦礫にはヘルヘイムの植物が生い茂り、白亜の色合いを緑に塗り潰さんとしている

その中、ポツンと存在する玉座にまるで石像のような白亜の体が静かに腰掛けていた。眠っているかの如く静かなその佇まいだが、どこか重い威圧感も感じられる

『………何用だ?蛇』

白亜の異形ーオーバーロードの王ロシュオが身じろぎもせずに正面に視線を移す

「おいおい、しらばっくれる気か?王よ」

そこに現れたのは金色の蛇。一瞬光に包まれたそれはゆったりとした民族衣装のような服を纏った男に姿を変える

ターバンとマフラーから垣間見えたその顔は、沢芽市でビートライダーズの紹介をしていた男、DJサガラであった

『なんのことだ?』

「……まさか…本当に何も知らないのか?」

『デェムシュの粗相なら捨ておけ。ヤツの傲慢はやがてヤツ自身の身を滅ぼす。レデュエもまた然りだ』

ロシュオの返答が意外だったのか、サガラがあからさまに顔をしかめる

「そんなことじゃ無い。俺が問いただしたかったのは、黄金の果実の乱用についてだ」

『……なんだと?』

ロシュオの声色が変わる

「黄金の果実を今自由にできるのはロシュオ、お前だけだ。お前に心当たりがないこと自体が俺からしてみれば驚きなんだがな…」

『それについては私から話そう』

サガラをロシュオと挟む形でサガラの背後に二人の人影が現れる

ディエヴオとジェイの二人だ

『ディエヴオ……ジェイ……』

「お前たちから?どういうことだ?」

ディエヴオたちの方を振り向きながらサガラがロシュオの側に歩み寄る

『蛇、貴様が探しているのはこれだろう』

ディエヴオが取り出したのは燻んだ金色の輝きを放つリンゴ型のロックシード

「そいつは、まさか……⁉︎」

『ディエヴオ‼︎貴様……‼︎』

サガラとロシュオが動揺と怒りを露わにする

『貴様、あの邪悪を忘れたわけではあるまい……また過ちを繰り返す気か⁉︎』

『断じて否だ、ロシュオ。むしろその逆……過ちを二度と起こさないがためにこれが必要なのだ』

ディエヴオがロックシードに力を込める。同時にその周囲に黒いインベスが何体も出現する

それに反応し立ち上がったロシュオに合わせてロシュオの周囲にも大量にインベスが出現する

超常の力を扱うモノ同士、一触即発である

「驚いたな……失敗したゴールデンロックシードとは違う…劣化とはいえ、間違いなく黄金の果実を再現してやがる」

『クククッ、ボクが作ったんだから当然だろう? 一目見れば、再現なんて難しいことじゃない』

驚くサガラを見たジェイがさも愉快そうに嗤う

『多少の無軌道は見逃すが、こればかりは許しておけん‼︎』

左手に金色に輝くリンゴに似た果実を出現させたロシュオが右手からディエヴオに衝撃波を放つ。が、ディエヴオはそれを右手で一閃し搔き消す

『なんだと⁉︎』

必殺として放った一撃を霧散させられ驚愕するロシュオ

『我々の救済は既に最終段階へ足をかけた。我らが王である貴殿にも、最早止めることは叶わんよ』

『………‼︎』

ディエヴオの涼しい応答にロシュオが拳を握りしめ、諦めたかのように玉座に力なく座る

『座して待つといい、枯れ木の王、知恵の蛇。我々の作る楽園は、貴殿らにも等しく開かれている』

出現させた黒いインベスたちを消したディエヴオはジェイを連れてロシュオらのもとから立ち去る

その背を感情の読めない目で蛇は見つめていた

 

 

「っはっはっはっはっ……‼︎」

腕の深い傷を押さえながら球子は走る

杏が危ない。急がなければ

頭の中をそんな思考だけがぐるぐると巡る

集中できない思考のために少しぬかるんだような森の地面に何度も足を取られかける

「っはっはっは……⁉︎杏‼︎」

霞みそうな視界に緑から浮く白色が見えた。間違いない、杏だ。白色は杏の勇者服の色だ

「杏‼︎もう大丈夫だ‼︎タマがき……たぞ……」

ようやくたどり着いた。だが、そこにいた杏はいつもの杏じゃなかった

その勇者服は真っ赤だったからだ

「……あ、あんず……?」

胸から腰にかけて、ぱっくりと開かれた杏からゴボゴボと赤い紅い液体が溢れている。虚ろな目をした杏はピクリとも動いてくれない

「……冗談はやめろよ、何寝てんだよ杏……?こんな汚して……」

球子の口から力無い呟きが溢れる

杏を汚す液体を塞ごうと、杏を何度も閉じようとする、閉まらない、止まらない、それでも閉じる、しまらない

「いやだ……杏、いくな、逝かないでくれ杏‼︎あんーゴボッ」

パニックになり泣き喚く球子に黒い影が重なり、背中から衝撃が貫通する

「………ぁ?」

球子の胸からは、ベッタリと赤い液体に濡れた長い何かが生えていた

いうことを聞かない首をなんとか動かし、背後を振り返る

そこに立っていたのは……若葉たちを一蹴し、球子たちを追い回したあの紅い異形

 

『死ね』

 

「うわぁあああああああああ‼︎」

バネのように跳ね起きる球子。放心状態で自分の胸をまさぐり、穴が開いてないことは理解する

「……っぐ‼︎」

同時に全身の鈍い痛みが思考を現実に引き戻す

触れた胸に着せられていたのは恐らく病院着。寝ているこの場所は簡素なベッド。包帯がぐるぐる巻かれた右手から輸血パックらしいものから伸びたチューブが刺さっている。左手に至ってはギプスで肩から固定させられて動かせない

「ここは……」

どうやら病院の個室らしいことは把握できた

だがどうやって?球子と杏はあの変な森で紅い異形に追い回されて気絶したはず。誰がここに運んできたのか

「目が覚めたか。大事なさそうでなによりだ」

困惑する球子に凛とした声がかけられる

声の方向に目を向けると背の高めのスーツの男が個室の入り口に立っていた

「……あんたは……?」

「私は呉島 貴虎。あの森で倒れていた君たちを保護したものだ。ここは私が勤めている会社の附属病院だ」

いまいちはっきりしないまま聞き流していた球子だったが、急に顔色が変わる

「タマたち……そうだ、杏、杏は⁉︎」

「君といた子なら安心するといい。頭を強く打ったのと、肋骨を少々骨折した以外に大事はない。幸い峠は越えたと医師も言っていたからな。今は別室でまだ眠っている」

「そうか……よかった……」

貴虎の説明に胸を撫で下ろす球子

「こんな中で悪いが、君たちがあの森で遭遇したもの、起こったこと、見たもの、覚えている限りで構わないから教えてはくれまいか」

優しそうな雰囲気から変わって貴虎が事務的に聞いてくる

「……あぁ、わかった」

球子は二つ返事で頷いた

 

球子は順を追って貴虎にあの時の状況を話していった

貴虎は所々メモを取りながら真剣に球子の話を聞いていく

あらかた話終わったあと、貴虎がおもむろに口を開く

「森での出来事は把握できた。だが、その……勇者、バーテックス、とはなんだ?」

「……は?」

貴虎の質問に首をかしげる球子

勇者もバーテックスも知らない人がいることが不思議なくらいは周知のことのはずである。そもそもバーテックスへのトラウマの後遺症が未だ問題になることもあるほどだ

それなのに貴虎は勇者やバーテックスを知らない、というのだ

「何って……バーテックスは世界の、人類の敵で、タマたち勇者はそいつらを倒す存在だ。知らないはずないだろう?」

「……すまない、やはり初耳だ。記憶が混乱しているんじゃないのか?」

「じゃあ証拠を見せてやるよ‼︎」

怪訝そうな貴虎に業を煮やした球子がベッドの上で勇者服だけをまとってみせる。突然の変化に貴虎も目を丸くする

「驚いた……成る程、勇者、バーテックスという存在はたしかにいるのだな……」

「あったりまえだ‼︎むしろなんで知らないんだよ……」

しばらく球子を眺めていた貴虎だったが、意を決したように球子に告げる

「落ち着いて聞いてくれ。私は冗談でもなんでもなく、君たちの言う存在を知らなかった」

「……そう……なのか?」

「あぁ、君の口ぶりからすれば誰でもどちらかは知っているだろうそれらを、私は知らなかった」

話しながら何故かカーテンの閉められた窓側に歩いて行き、カーテンに手をかける

「球子、もう一つ私から問わせてくれ。この景色に覚えはあるか?」

シャッとカーテンが開けられる

その先には球子の知らない風景が広がっていた

「な………なんだよ、これ……」

大樹のような独特な形状の巨大な塔

それよりも小さいが見たことのないくらい大きい建物たち

そこにあった景色は球子がよく知る四国の景色ではなかった。いや、四国どころか滅んだ各地でもあんな巨大な塔は見たことがない

動揺する球子の後ろで貴虎が口を開く

「まだ仮説に過ぎないが……球子、君たちはこの世界と違う世界から来た可能性がある」

 

 

沢芽市 ケーキ屋シャルモンの空き部屋(現在は鷲尾須美たちに貸し出し中)

この場所に来てから3日。店の簡単な手伝いなどをしながら須美たちはなんだかんだで沢芽市を満喫していた

凰蓮も仕事では厳しいが、普段は三人に優しく接してくれて三人としても居心地がよかった

「はぁ……今日も疲れたなぁ〜」

部屋に敷かれた布団に銀が伸びをしながら寝転ぶ

今日は城乃内と一緒に買い出しの手伝いに行ったのだが、銀の体質のようなものでいく先々で困ってる人を手伝って大層疲れたらしい

「こんなところで働いたりなんて初めてだから、私もなれないわ」

「色んな人に会えて楽しいんだけどねぇ〜♪」

須美と園子も並んで布団に横になる

こういった手伝いに加えて休み時間は勇者としての鍛錬も欠かさずやっているから疲れるのはたしかに当然ではある

「バーテックスがいないって、こんなに平和なのね……」

須美がふと呟く

三人は言われてこそないがここが自分たちの世界でないことには気づいていたのだ

「そうだな……わたしらがお役目頑張れば、こんな世界になるってことかな?」

「そうだね〜多分こんな感じだろうねぇ〜」

二人ものんびりと肩の力を抜き切った様子で呟く

そんな中須美は一人考えていた

(平和なのはいいけど、早く向こうに戻らないとバーテックスが……)

横でじゃれ合う二人を眺めながらふとあることが思われる

(でも……いつか死ぬかもしれない、そんなお役目に、また二人と帰る……)

(それが、最良の選択なのかしら……)

ふと差し込んだ影のような考えを振り払い、須美はそっと目を閉じた

 

翌日 シャルモン近くの公園

「銀‼︎もう少し速度を園子に合わせて‼︎」

「おう‼︎」

勇者服に着替えた三人は日課の陣形の練習に励んでいた

的や見てくれる先生もいないが、型だけでもと練習をしている

「ふぅ……今日はこんな感じかしらね」

「ん〜……なんか張り合いがないなぁ……」

銀がつまらなそうに返す

たしかに、ぶつける相手や評価をしてくれるだれかがいない現状、どうも鍛錬にも身が入りづらく思われてくる

「誰かバーテックスくらい強い相手とかいるといいんだけどね〜」

「だなぁ……あー‼︎なんか誰か相手いないのかー⁉︎」

「そんな辻斬りみたいな……」

銀の叫びに須美が苦笑を返す

ーその時だった

「チャレンジャーなら‼︎ここに‼︎いるわよ‼︎」

野太い乙女チックな声がどこからか響いて来たのは

「は?」

「へ?」

「ほえ?」

首を傾げる三人の頭上に大きな影がおどり出る

「トゥッ‼︎」

シュタッ‼︎

三人の前に着地したのはトゲトゲした緑の鎧の巨漢ー凰蓮が変身したアーマードライダー・ブラーボである

「凰蓮さん⁉︎」

「ウィ‼︎ 話は全部聞かせてもらったわ‼︎」

ドリノコを両手に携えながらブラーボが三人に向き直る

「いつも泥んこで帰ってくるの、ずっと不思議だったけど…成る程、あなた達も強くなりたかったって感じなのね」

「あ、えっと……これはその……」

「ノンノン‼︎細かいことは詮索しないわ‼︎ あなた達が本気っていうのはきちんとワテクシに伝わったわ‼︎ 見てればよくわかるからね‼︎」

ブラーボが改めてドリノコを三人に向ける

「ボウヤを鍛え直した凰蓮式スパルタ訓練、特別にやってあげるわ」

と今までの話し方から少し凄みが増した様子でブラーボが構える

「ワテクシを倒すつもりでかかってらっしゃい」

しばらく呆然としていた三人だったが、ブラーボの気迫を感じ、頷く

「ありがとうございます、凰蓮さん。お相手よろしくお願いします‼︎」

「ウィ‼︎ きなさいな‼︎」

須美のあいさつが早いか、銀が先陣を切りブラーボのドリノコに斧を叩きつけた

 

 

目覚めてから半日。球子はどうもフワフワしていた

いきなり別世界と言われて実感が湧くはずがない

「もうわけわかんねぇ………体もまだいてぇし……」

片腕が塞がってる上、勝手がわからない別世界であるため何をしようかも思いつかない

「杏が起きてくれたらなぁ……」

落ち着いてきて真っ先に浮かんだのは杏の顔だった。貴虎曰く大事はないらしいが、それでもやはり心配だった

そんな風に考えながら天井を見上げていると一旦退室していた貴虎が戻ってきた

「度々すまない。君と共にいた子が今意識を取り戻したらしい」

「ほんとか⁉︎」

 

いきなりの朗報に気持ちははやるが体がやはり言うことを聞いてくれないので貴虎に支えてもらう形で杏の個室に向かう

ちょうど球子の隣の部屋だったようですぐに着いた

「杏‼︎」

声に反応したのか、ベッドから半身を起こしていた杏がこちらを向く

球子と比べて目に見えた包帯やら治療痕は少ない。頭に巻いてある包帯くらいだ

「心配したんだぞ杏‼︎ とにかくなんともなくてよかった……‼︎」

と歩み寄る球子だが、ある違和感に気づく

ベッドの上の杏は布団を引き上げ半分顔を隠しながらどこかおどおどしたようにこちらを見ていた

まるで球子に怯えているかのように

「杏……?」

再び球子が呼びかける

おずおずと杏が口を開く

「あの……す、すみません……」

 

「あなたは、誰、ですか……?」

 




生存報告
前書きにも書きましたが色々あって続編投稿が遅れてしまってすみませんでした……リアルも多忙だったのですが、12話での展開に脳内会議で待ったが入り、色々推敲してたら遅くなってしまいました…

さて、いよいよロシュオやサガラにまで宣戦布告したディエヴオたち
沢芽市の方も色々動きがあって盛り上がってきました‼︎

続きも現在推敲が長引いているので間が開くかもですが、次回もお楽しみに‼︎


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