Fate/Double Rider (ヨーヨー)
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プロローグ『夜の出来事』

初投稿、初執筆となります。なんとか続けられる様完結目指して頑張ります!


「ギィッ!?」

 

とあるビルの屋上。床に亀裂が発生するほど強く叩き付けられ、奇声を上げたその姿は異様だった。

 

緑色の皮膚、両腕に鋭利な鎌、巨大な複眼…昆虫のカマキリが人間と同じ大きさとなり人間のように四肢を持った姿。

 

 

 

 

まさに「怪人」だ。

 

 

 

カマキリ怪人は組織の命令通り、「切り裂きジャック」という通り魔に姿を変えて町の人間を襲っていた。

 

自分が近づくだけで人間は怯え、泣き、命乞いをしてくる。無力な人間を恐怖に陥れることを怪人は本当に楽しんでいた。それは怪人の素体となった人間の本性か、もしくはカマキリが他の生命を捕食する際にある本能から来るものなのかも知れない。

 

 

しかし、今その本能は恐怖していた。

 

 

カマキリ怪人はゆっくり立ち上がり、先ほど自身を鎖で縛り、床に叩き伏せた存在を睨む。

 

数メートル先で両手・両足を広げ、蜘蛛のように地面を這って様子を伺う相手。その姿だけなら『人間』だった。足や肩を大胆に露出し、紫色の長髪を持つ妖艶な女性。両目を大きな眼帯で覆われているのに、カマキリ怪人は自分を遥かに超えた存在に睨まれたように感じた。

 

 

「・・・・っ!?」

 

 

追いつかれた。

 

目の前の存在に気を取られたカマキリ怪人は、ゆっくりと自分に近づく女以上の『恐怖』へ振り返る。

 

 

 

全身を包む漆黒の体。赤い一対の複眼。腹部に銀色のベルトを身に着けた戦士はカマキリ怪人と対峙する。

 

 

「…もう逃がさんぞ!」

 

戦士がそう叫んだ直後だった。カマキリ怪人はなりふり構わず、漆黒の戦士に向かって駆け出した。

 

戦士は動じる様子もなく、次の行動に移る。

 

 

ベルトの上部で両拳を重ねるとベルトの中央部にある赤い結晶が強く発光する。右腕を前方に突出し、左拳を腰に添えた拳法のような構えから大きく両腕を振るい、右頬の前で握り拳を作るとさらに右拳を力強く握りしめる。そして高く跳躍し、眼下のカマキリ怪人を狙い落下していく。

 

 

「ライダー―――」

 

 

エネルギーを宿した右足を

 

 

「―――キィック!!」

 

迫るカマキリ怪人の胸板に叩き付けた。

 

 

 

「ギ、ギイィィィィッィィィ!?」

 

 

戦士が着地すると同時に、断末魔を上げるカマキリ怪人は燃え上がり、灰へと姿を変えた。

 

 

 

「――お疲れ様でした」

 

カマキリ怪人が消滅したことを確認した女性は戦士へ静かに声をかける。が、戦士は反応せず、自分が倒した怪人の成れの果てを見つめていた。それは感傷なのか。それとも―――

 

 

「一つ。言わせてもらいます」

 

再び声をかけられたことでようやく戦士は女性へ振り返る。

 

「貴方が『私闘』を続けることに私は何の不満もありません。必要であれば本日のように助力を惜しまない」

 

ただし――と女性は続けた。

 

「もう一つの戦いはすでに始まっていることを忘れないでください。貴方はライダーのサーヴァントとして現界した私のマスターなのですから」

 

言いたいことを終えたのか、ライダーは闇に溶け込み、その姿を消した。

 

 

月の光に照らされた戦士は、本来の姿に戻りポツリと呟きながら手の甲に刻まれた模様を見つめた。

 

 

「わかって…いるさ」

 

聖杯戦争。それが彼―――間桐光太郎が参加する戦いの名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想お待ちしております。


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第1話『少年の朝』

今回、主人公はあんまりしゃべりませんね。
では、どうぞ!


間桐慎二は自然と目を覚ました。

 

「…………」

 

枕元に置いてある携帯電話を手に取ると、時刻は午前7時。設定した目覚ましの時間よりも早く起きてしまったらしい。

 

(…たまには起きておくか)

 

また寝過ごして口やかましいアイツに起こされるのも癪だしと、ベットから這い出た。

 

 

 

身支度を整えて食卓に顔を出すと、自分のスペースには朝食がしっかり用意されていた。トースト、ハムエッグ、サラダ…定番のメニューを一瞥した慎二は無言で食べ始める。

 

 

慎二には家族そろって食事をした記憶は殆どない。放任主義の父親、物心ついた頃にはいなかった母親。祖父は…そもそも滅多なことでは姿を現さなかった。幼少の頃は広すぎる食卓で一人きりの食事が当たり前だったが…

 

「あれ?今日は早起きだね慎二君」

「…何、文句でもあるわけ?何時に起きようが僕の勝手だろ」

「文句なんてとんでもない!でも、毎日同じように自分から起きてくれたら本当に文句なしだけどね」

「…フンッ!」

「今日のはどうだい?割と頑張ったほうなんだけど」

「トーストの何処に頑張れる要素があんの?頑張って味が変わるんならそれこそ奇跡だよ」

「こりゃ手厳しい…」

 

自分の悪態を受けても気にする様子のない男に慎二はトーストを飲み込みながら尋ねる。

 

「…光太郎、桜は?」

「桜ちゃん?もう出かけたよ。いつものトコだね」

 

光太郎と呼ばれた男は笑いながら入れたてのコーヒーを慎二に差し出した。

 

「また衛宮のところか。全く、怪我も完治したってのによく続けるよあいつは」

「ハハ、健気でいいじゃないか」

 

コーヒーを受け取った慎二は会話に出てきた二人の人物を思い浮かべる。

 

妹の間桐桜。そして同級生の衛宮士郎。

 

どちらも同じ高校に通い、同じ部活に所属している。しかしあることが切っ掛けで衛宮家に通うようになり、朝と夕方は殆どあちらで過ごしている。最初は先輩に対する御礼みたいなものだったのであろうが、今の目的は聞かなくたって分かってしまう。

 

「見ててイライラするんだよね、ああいうの」

「なんでだい?」

「どっちも見る目ないからさ。あんな報われない通い妻みたいなことさっさと…なんだよ?」

「…いや、さ」

 

笑いを堪えるように口元を抑えている光太郎に首を傾げる慎二。はたして自分の発言に笑われる要素があったのであろうか。

 

「今の慎二君の『どちらも見る目がない』という所がね…妹が友達を好きになってしまった寂しさと、妹の気持ちに気付けない友達への苛立ち…というふうに聞こえちゃってね」

「………ハァ!?」

 

見当違いの解釈をする光太郎に思わず慎二は大声を上げた。

 

「今の聞いてどうしたらそんな考えに至っちゃうわけ!?なんでこの僕があの二人を気にかけなきゃいけないんだよ!!」

「ハハハ、まぁそう怒らないでよ。適当に言ってみただけだしさ」

「適当過ぎるんだよ!」

 

怒鳴りながら食べ終えた食器を乱暴にシンクへ置くと慎二はバックを持って玄関へ向かった。

 

「慎二君」

「今度はなに!?」

 

散々からかわれた(と思っている)慎二は苛立ちながらも光太郎に振り返る。光太郎は先程とは打って変わり真剣な顔で口を開いた。

 

「大学から戻ったら今夜も俺は外に出る。学校が終わったらなるべく早く家に戻るようにしてくれ」

「……言われなくてもわかってる。僕よりも、桜に言ったほうがいいんじゃない?」

「いずれは言うつもりだよ。戦いが本格化する前にね」

「あっそ。…学校いってくる」

「うん、いってらっしゃい」 

(いってらっしゃい、か)

 

 

そんな当たり前の言葉を、当たり前に感じるようになったのは自分に兄妹が出来た頃からだろうか。

 

 

間桐慎二は3人兄妹だが、全員に血の繋がりがない。今から10年ほど前に突如、慎二に兄と妹が出来たのだった。もちろん、天涯孤独の身を案じてなんて簡単な理由ではない。

古くから魔術の名門でありながらその血は衰退し、慎二に至っては魔術回路すら発現しなかった。それを見かねて当主である祖父は桜をその『血統』から、光太郎は『特異性』から養子として迎えられた。

 

二人が兄妹となった理由を知った時は驚きよりも劣等感を向けていた慎二であったが、一人きりだった自分に手を伸ばすお節介な兄と弱気ながらも気にかけてくる妹を、どうしても強く当たることができなかった。それどころか、二人と過ごすうちに自分の心に巣食っていた黒い部分が段々と薄れていくのを感じていた。

 

以来、今では数日に一度だが兄妹で食事を取り、帰宅時には「お帰り」と迎えられることが慎二にとって当たり前となっていた。

その環境で育った影響からだろうか。あの時、お人好しの兄の行動に似ていたあの『バカ』にも声をかけてしまったのは……

 

 

 

「よ、今日は早いんだな慎二」

「…衛宮か」

 

 

今一番顔を見たくない顔を見てしまった慎二はジロリと声をかけて来た人物、衛宮士郎を睨む。

 

「どうした?なんか機嫌わるいみたいだけど」

「……誰のせいだと思ってる」

「え?」

「なんでもない!」

 

足早にその場を離れた慎二の後姿を見て士郎は思わず呟いた。

 

「…なんでさ」

 

 

 

結局は士郎に追いつかれ、共に教室へ入った慎二と士郎の耳に聞こえたのは最近賑わっている噂話だった。

 

「…でさ、新都の塾に通ってる子は見たんだって、噂の『怪人』!」

 

「最近じゃとうとう人を襲ってるって話だぜ?」

 

「ネットにも画像上がってるよな、ぜ~んぶピンボケしてっけど…」

 

耳に入ってくる情報は全て新都に出没するという怪人騒ぎ。曰く空を飛び、壁を走り、人を襲う…

都市伝説染みた話ばかりだが、慎二には笑えない話だった。その噂には、自分の身内がしっかりと関わっている故に。

 

(光太郎の奴、写真に撮られてないだろうな…)

 

不安を抱きながら自分の席に着いた慎二。それとバンっと同時に教室のドアから勢いよく開けられた。最初は担任の藤村かと思ったが

 

「各々方、聞いてくだされ!!」

 

クラスメートの後藤だった。何かとテレビに影響されやすい奴で今では時代劇の口調で話している。その後藤から放たれた報告にクラス内は騒然となった。

 

隣のクラスの女子が新都で重症を負い、入院することとなった。命に別状はないが、全身をロープのようなもので強く縛られ、首には強く絞められた跡が残っているらしい。

後藤は教師たちは緊急会議となり一時間目は自習となったことを伝えるよう言われたようだった。

 

 

「ねぇ、やっぱりあれって…」

 

自習そっちのけで再び開始される噂話。被害者が校内から出てしまったため、歯止めが利かなくなっていた。

 

(ったく、噂を盛り上げるだけなんだから気楽なもんだな)

 

周囲を冷めた目で見ている慎二はノートを取り出し、ただ一人だけ自習を始めようとしたが隣に座る士郎の表情を伺う。その表情は何かを決意したような顔だった。

 

(まさか…ね)

 

いくらお人好しでもそんな行動は起こすまい。

 

そんな考えが今夜にでも破られることになったとはこの時、慎二は思わなかった。

 

 




なんだか慎二が丸くなってしまった・・・・

感想、アドバイスお待ちしております。


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第2話『士郎の危機』

なんだか話が慎二くん視点て動いてますな…


(今日はやけに人通りが少ないな。怪人の噂が影響しいているのか…?)

 

そう考えながら衛宮士郎は夜の新都を歩いていた。

 

 

彼を突き動かした原因は今朝の騒動――隣のクラスの生徒が噂の怪人に襲われた。ただそれだけだった。

 

 

あくまで噂。調べても巷で盛り上がっている怪人など存在せず、通り魔による犯行だったのかも知れない。しかし、噂の信憑性など士郎にはどうでもよかった。

 

要は、被害者が出てしまったのだ。今回は顔も知らない同級生だったが、もし『次』があったとしたら。さらにその次が、自分のよく知る人物であったら…

 

 

衛宮士郎が動く理由は、それで十分だった。

 

 

木刀を入れた竹刀袋を肩にかけ直す。手持ちとしては頼りないがあるだけマシだろうと持ち出したものだ。

 

(もし本当に怪人がいたのなら、『あれ』を試すしかない)

 

自分が唯一出来ることをこの木刀に施せば、倒すことなんて出来なくても、誰かが逃げ出す時間ぐらい稼げるはずだ。

 

(そう、俺が襲われている間なら誰も傷つかない…ッ!?)

 

 

士郎の思考はそこで止まる。気が付けば既に明かりが消え去ったビル街に足を運んでいた。自分を照らしてくれているのは街灯と月明かりだけだ。

 

しかしおかしい。今日は雲一つなく、月も満月だ。だから、路面に『網目状の影』が出来るなんてありえない。

 

ようやく違和感に気付いた士郎はゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

数時間前

 

 

(やっと終わった…)

 

肩を落として慎二は所属する弓道部の更衣室を後にする。

 

今朝の自習以降、クラス内で怪人の噂は放課後どころか部活動中になっても絶えることなく続いていた。話の内容が怪人の出没する場所、現れる法則などまだ良かったが、話題が怪人の容姿となり、『全身が真っ黒な怪人』と部員の口から出た時は慎二は番えた矢をとんでもない方向へ飛ばしてしまった。

その醜態を部長である美綴綾子に『集中力が足りん!』とガミガミ怒られ、遠目から見ていた心配する妹の視線がとても痛かった。

 

余談だがその光景を見てニヤニヤ笑っていた男子の後輩共には後日『制裁』を加えることを固く誓うのであった。

 

 

帰宅した慎二は自室の机に腰を降ろすと、鞄から数冊の分厚い本を取り出す。

 

「さて、と」

 

始めるかと慎二は本のページを捲る。

 

慎二が手にしているのは間桐家の書庫に保管されている魔術に関する書籍だ。これに描かれている文章をノートに写し、学校で借りてきた外国の辞書で照らし合わせ解読する…これが高校に入ってからの日課となっていた。

 

(ここの文章掠れてやがる…ったく、一番重要なとこだろうが!)

 

内心で舌打ちしながら前後の単語から空白部分を推測を始めた。

 

魔術の才能は全くないことを自覚している慎二だったが、知識を求めることは止められなかった。ただの自己満足だろうが、もし、万が一に自の調べた知識が、何等かの手助けとなるのなら…

 

「慎二くーん、開けるよ?」

「開けた後に言わないでくれる!?」

「夕ご飯の準備終わったよ」

「……………」

 

ノック無しに弟の部屋へ侵入し、悪びれる様子もなく要件を伝える兄の姿を見て、集中力が途切れてしまった。

 

「いまいくよ…で、これから出んの?」

「うん。帰りはまた遅くなりそうだから、桜ちゃんが帰ってきたら…ん?」

 

慎二へ言付を告げようとした光太郎の言葉が止まる。

 

「どうしたの?」

「…桜ちゃんが帰ってきたみたいだね」

「はぁ?」

 

なぜ分かったということよりも、桜が帰宅したことの方に慎二は驚いた。今日は士郎の家で藤村たちと遅くまで過ごす日のはずだ。

まだ早すぎる。

 

「あ、兄さんたち。ただいま帰りました」

 

2階へ上がる階段から顔を出した黒髪の少女、桜は微笑みながら兄二人に帰宅したことを伝える。

 

「お帰り桜ちゃん。今日は随分はやいんだね」

「あ、はい…藤村先生は学校に遅くまでお仕事で、先輩は…用事があったみたいで」

 

光太郎の質問に答えた桜だが、先輩 という部分から小声となっていたことから早い帰宅は本人に取っても不本意だったようだ。

 

「…桜」

 

今度は慎二からの質問だった。

 

「はい?」

「今日は、衛宮に会えなかったのか?」

「いえ、先輩のお宅にお邪魔しようとしたら、ちょうど出かける先輩に鉢合わせして…これから出かけるって」

「その時の衛宮の様子は?」

「えっと…私服で…何に使うかわかりませんけど」

 

慎二の中で嫌な予感が膨らむ。

 

「その…竹刀袋を持って」

 

「……っあのバカ!!」

 

全てを聞かずに慎二は部屋から上着を持つと階段を駆け下りながら光太郎へ叫んだ。

 

「光太郎ッ!!早くしろ!!!」

 

どうやら光太郎の用事に同行するらしい。あの様子では止めても無駄だろうと考えた光太郎は静かに呟く。

 

 

「ライダー」

「ここに」

 

光太郎の背後に忽然と姿を現した長身の女性。突然の顕現に桜はビクッと震えた。

 

 

「…あんまり妹を驚かせないでくれよ」

「…以後気を付けましょう」

 

そうか、と苦笑した光太郎はライダーに向き合い、真顔で告げる。

 

「俺たちが戻るまで、桜ちゃんを頼む」

「…承知しました」

 

静かに答えた女性を見る。両目を眼帯で覆っている彼女が今、どのような目をしているのかは伺えない。こうして彼女を置いて私闘を続けている自分に呆れてるのだろうか・・・?

 

(いや、気にするのは後にしよう。今は…)

 

光太郎は不安そうにこちらを見つめる妹の頭をそっと撫でる。

 

「大丈夫。衛宮君のことは心配いらないよ」

「光太郎兄さん…」

 

そっと手を放した光太郎は慎二と同じく階段を駆け下りた。

 

 

ガレージには既にヘルメットを装着していた慎二が立っていた。

 

「遅いんだよ!何トロトロしてんだ!!」

「ごめんごめん、さぁ行こうか」

 

謝罪をしながら光太郎もヘルメットを装着し、バイクに跨る。後部に慎二が搭乗したことを確認するとエンジンに火をつける。準備は万端だ。

 

発進する前に、光太郎はガレージの奥でシートで覆われているバイク2台を見つめる。

 

(もしもの時は…力を借りるぞ)

 

光太郎の心中を察したかのように、片方のバイクが微かに動く。

 

「よし、行こう!!」

 

 




次回は、ついに変身!

感想、アドバイスをお待ちしております!


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第3話『蜘蛛の怪人』

SHTが両方いいとこで止まっているので次週までの生殺しが辛い…

さてようやく3話でございます。


新都へと繋ぐ鉄橋を光太郎が運転するバイクが駆ける。先を走行する車を次々と追い抜き、

白バイにいつ呼び止れてもおかしくない速度を出している。一刻も早く、衛宮士郎を見つけるために…

 

「ッ・・・、・・・、・・・」

 

(ん?慎二君どうしたんだ?)

 

さらにスピードを上げようとした光太郎だったが、背後に乗る義弟の慎二に背中を

叩かれていたことに気付き、前を見ながら声をかける。

 

「どうかしたかい!」

「どうも…こうもな…いぃぃぃ!?」

 

大声で尋ねたが返事も弱々しい。どころかビクビクしていうことにようやく気付いた。

どうやらバイクのスピードが堪えているらしい。

 

「ここで止まるわけにはいかないから、もう少し我慢してくれよ!」

「ちょ…ッ!?」

 

慎二の答えをまたず、光太郎はさらにグリップを回す。新都へは今までの最短記録で到着することができたが、限界を迎えた慎二の回復に暫く時間を有することになってしまった。

 

 

 

 

頭上の存在が何であるのか、士郎は理解できなかった。いや、自分の知っている生物に形状は近いことは確認できる。問題はその体躯。士郎の知る生物は見た事あるもので精々数センチだ。しかし目にしている存在とは数メートル離れているが、恐らく自分より一回り上回っているだろう。

 

 

養父より『魔術』に関しての教えを受け、士郎は少なからず世界の理から外れた側に属しているつもりになっていた。

しかし、自分を見下ろすあの姿にその価値観はあくまで「人間」での場合と思い知らされる。

 

士郎は本日学校で散々その噂を耳にし,この新都まで足を運び探し当て…遭遇した存在の名前を口にする。

 

「蜘蛛の…怪…人」

 

言うと同時だった。ビル間に張った巨大な蜘蛛の巣から飛び降り、士郎の3メートル手前にクモ怪人が着地する。

その姿は人間に近い形をしながら、基となった蜘蛛と同じように黄・黒の模様、いくつもの赤い複眼、左右対称の脚を持っていた。

 

「クッ…!」

 

所持していた竹刀袋から木刀を取り出し、クモ怪人に向けて正眼に構える士郎。同時に成功するかも分からない、魔術を施すために自分の『スイッチ』を入れる。

 

「―――同調、開始」

 

日課として鍛錬を積んでいる対象の構造を把握し、魔力を通し補強することで強度を向上させる『強化』。自身の魔力を木刀に通し、硬度の底上げを試みる。鍛錬ではほとんどが成功しなっかったが…

 

「ッ!?うまく…いった!?」

 

成功したことに士郎自身が驚いた。強化した木刀を強く握る。気が付けば、怪人はゆっくりと士郎に近付いてきた。

正直、手にしている木刀が通用するとは思えない。が、今の士郎には今以上の武器はない。さらに距離を縮める怪人に士郎は仕掛けた。

 

先手必勝。

 

振りかぶった木刀を怪人の肩に目掛けて、全力で叩き付ける―――つもりでいた。

 

 

「なッ!?」

 

木刀を振り上げたまま士郎は固まる。躊躇しているつもりも、目の前の怪人に情けをかけるつもりは毛頭ない。しかし、自分の持つ木刀が固定されているかのように動かせない。戸惑う士郎は自分の得物を見上げると、木刀の先端を何者かに掴まれていた。

 

「そ、んな」

 

自分でも間抜けと思える声を発する。木刀を掴む。いや、摘まんでいるソイツは目の前にいる怪人と全く同じ姿をしていた。

 

(…2体いたのか!?)

 

 

現れた2体目のクモ怪人に動揺した士郎は、自身の目の前まで接近した1体目への警戒を怠ってしまった。

 

「ぐッ!?」

 

襟を掴まれ、吊し上げられた士郎は思わず木刀を手放してしまう。振りほどこうと怪人の腕を掴む。掌に伝わる体毛の嫌な感触など構わず力をいれるがビクともしない。

 

「こ、のぉッ!!」

 

吊るされたままの状態からクモ怪人の頭部目掛けて蹴りを叩き付ける。しかし、帰ってくるのは鈍い音と自身の足に返るダメージだけであった。

その反撃に怒りを覚えたクモ怪人は士郎を放り投げる。受け身を取れない士郎は背中からアスファルトに叩き付けれた。

 

 

「ッ……!?」

 

背中に走る激痛に耐えながら、士郎はクモ怪人たちへ目を向けるが、さらなる絶望を抱くことになった。

 

 

さらに新たなクモ怪人が姿を現したのだ。

 

 

これで合計5体。先頭のクモ怪人は立ち上がろうとする士郎目掛け、口から糸を吐き出す。その糸は士郎の首に巻き付きくと、音を立てて絞めつけはじめた。重症を負った女子生徒も、同じ目にあったのだろう。

 

 

「ガ…ハァッ……」

 

必死に巻き付いた糸を掴むが、先程のダメージもあり力が入らない。

 

 

(こんな所で終わるの…か?爺さんと約束した…『正義の味方』になれないまま…)

 

死んだ養父との約束。それを実践するために士郎は今まで鍛えてきたが目の前の存在に何の効力を成し得なかった。

さらに首を絞める力が強まる。もう目の前にいるクモ怪人たちも霞んで見え、ハッキリとするのは耳に入る音だけだった。

 

自分の首を圧し折ろうとする音。

 

そして段々と大きくなる『なにかが走行する音』

 

 

 

「ギぃッ!?」

 

初めて声を発したクモ怪人も同様に自分たちへ近づく音の方向へ振り向く。一台のバイクが減速することなく、こちらに突っ込んできた。

 

「オオオォォォッ!!」

 

バイクは士郎の首を絞めつけているクモ怪人に狙いを定め、その背中にバイクごと体当たりを仕掛けた。

 

「ギヤァッ!!?」

 

二転三転と転がるクモ怪人。絞めつけていた糸が緩み、せき込みながら士郎は先程のバイクと同じ方向から自分に駆け寄る顔見知りの姿に驚愕した。

 

「し、慎二!?お前こんな所で何やってるんだよ!」

「それはこっちのセリフだよ!バカだと普段から思っていたけど本物のバカだなお前は!」

 

手に持ったナイフで慎重に士郎の首に巻き付いている糸を切り裂きながら、慎二は罵声を浴びせる。

 

「衛宮君!無事かい!?」

「え?光太郎…さん?」

 

さらに士郎にとって以外な人物が近づく。ヘルメットを片手に掴んだ光太郎が自分と慎二を庇うようにクモ怪人たちと対峙したのだ。

 

「……慎二君。衛宮君を連れて遠くへ」

「分かってるよ」

 

躊躇もせずに光太郎に従う慎二は今でも自力では立ち上がれない士郎に肩を貸した。

 

「光太郎さんッ!こいつらは…」

 

危険だと言おうとした士郎だったが、光太郎は振り向かずに手で制する。

 

 

 

心配は無用だと、言わんばかりに

 

 

それと同時に5体のクモ怪人が一斉に光太郎へと襲いかかった。1体目が振り下ろす爪を回避しつつ、靴底を腹部に勢い良く当て距離を取るが近くにいた2体の腕が光太郎に迫る。前方へ転がりながら危機を脱するが、クモ怪人の攻撃は休まらない。

立ち膝を着いた光太郎は背後から近づいたクモ怪人は羽交い絞めにされてしまう。

 

「しまった!」

 

身動きが取れない光太郎目掛け、1体のクモ怪人が頭を突き出して突進してくる。自分たちがやられたように、体当たりで仕返しするつもりなのだ。

 

クモ怪人の頭部が当たる寸前、羽交い絞めしていた別個体は上空へと逃れる。体当たりを受けた光太郎は受けきることが出来ず吹き飛ばされてしまった。

 

「うわあぁぁぁ!?」

 

ビルの外壁に衝突した光太郎。しかしその衝撃はそれだけに留まらず、ビルの外壁に突き抜けて大穴を開けてしまった。

 

 

「ウソだろ…」

 

目の前の光景が信じられない士郎の声は震えていた。外壁に穴が開くほどの衝撃を受けのなら…光太郎は。

 

「衛宮、さっさと歩け!ここから離れるんだよ!」

「なッ――」

 

何を言っているんだこいつは。家族が、兄弟があんな目に合っているというのに。士郎は自身へのダメージを忘れ、慎二の胸倉を掴む。

 

「慎二!?お前自分が何を言ってるのか分かってるのか!!」

「はぁ?衛宮にそんなことを言われなくても十分分かってるよ!」

 

手を振りほどいた慎二は未だフラつく士郎の腕を無理矢理自分の肩に回すと強引に歩き始めた。

 

「離せ慎二!あのままじゃ光太郎さんが…!」

「あいつが言ってただろ!ここから離れろって!それにこのままだと、あの化け物たちは――」

 

慎二が言わんとすることが分かる。光太郎を排除したクモ怪人たちは、士郎たちに狙いを定めた。

 

 

 

「待て」

 

 

外壁の穴から聞こえる低く、腹の底に響くような声。声の主は衣服を汚しながらも身体には傷一つなくその姿を現した。

 

「え…?」

 

士郎は穴から出てきた光太郎を見た。普段からは考えられない気迫を発し、クモ怪人達を睨み付けている。

 

気難しい弟と優しい妹を常に優しい目で見守っている。それが士郎が抱く光太郎の人物像だ。あそこに立っているのは自分の知る間桐光太郎なのか?

いや、それ以前に壁が突き抜けるほどの衝撃を受けて五体満足でいられるなんて、彼は『人間』なのか?

士郎の疑問は、同時に先ほどの慎二の言ったことが、『兄を見捨てる』ことではなく、『自分の役割』を全うしようとしたことと知ることになった。

 

 

 

 

 

警戒を強めるクモ怪人達に対し、光太郎は自分自身を変えるための『スイッチ』を入れる。

 

 

 

 

 

 

左腕を腰に添え、右腕を前に出した構えから両腕を大きく右側へ振るい、右半身に重心を置くと右頬の前で両拳を握る。

 

拳からギリギリと軋む音が響き、その溜めた力を解き放つように右腕を左下へ突出し、素早く腰へ添えると入替えるように左腕を右上へと突き出した。

 

 

「変ッ――――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、右から左へ旋回し―――

 

 

「――――身ッ!!」

 

 

叫びと共に両腕を右上に伸ばした。

 

 

光太郎の腹部が赤く発光すると、銀色のベルトが出現。ベルトの中央から放たれる光は光太郎を包み、彼の姿をバッタ怪人へと変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

ベルトの光はバッタ怪人を強化皮膚「リプラスフォース」で包み、さらに姿を変えていく。

 

 

虫の触覚を思わせる2本のアンテナ、一対の赤い複眼、そして漆黒の身体。

 

「トァッ!!」

 

完全に姿を変えた光太郎は跳躍し、慎二たちとクモ怪人の間に着地する。

 

姿を変えた力の余剰エネルギーが蒸気となって関節部からユラユラと立ち昇る。

 

それを振り払うように、腕を振るうと光太郎は変身した姿の名乗り上げた。

 

 

 

「仮面ライダー…ブラァックッ!!」




士郎のリアクションばっかりでしたな。そして…あの煙は独自解釈でございます。設定があったのなら申し訳ありません。

感想おまちしております。


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第4話『仮面の戦士』

桜とライダーの関係がちょいと原作と異なります。その内容は次回あたりに…
では4話です


光太郎と慎二が士郎を発見した同時刻

 

 

間桐邸

 

 

間桐桜は迷っていた。

 

これから自分が行うことは余計なことかもしれない。

 

しかし、ただ大人しく兄たちの帰りと憧れる先輩の安否を待つだけではどうしても落ち着かなかったのだ。

 

本来ならば、長兄の許可を得なければ許されないかもしれないが、桜は決意を固めた。

 

 

 

 

大丈夫。今からすることは兄を困らせることでは決してない。

 

 

 

 

数回呼吸した後、桜は必要なモノを持ち、標的と相対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーさん、お茶にしませんか?」

「結構です」

 

 

 

 

即答。

 

 

 

 

最近新調したティーセットと、日頃の御礼と部活の顧問から頂いたクッキーの詰め合わせをトレイに乗せ、笑顔で声をかけたのだが、リビングに仁王立ちしている女性の反応は冷たかった。

 

 

 

 

 

 

「………………」

「………………」

 

 

笑顔のまま固まった桜が、徐々に表情を暗くし、目元に涙が溜まっていく姿を見たライダーは…

 

「いえ、やはり頂きましょう」

 

あっさりと折れた。

 

お茶の同席に応じたライダーを見て、パァッと表情を明るくした桜の行動は素早かった。

 

 

「さぁ、座ってください!あ、そちらのソファーの方が座り心地いいですよ?お茶は紅茶でいいですよね、このクッキーと会うのは確か…」

 

こちらに話かけながらテキパキと作業を進める姿にライダーは唖然とした。

 

(表情の豊かな子…ですね)

 

先程自分の姿を見て怯えたのは恐ろしいからではなく、主人(マスター)の言う通り霊体化を突然解いた事に驚いただけなのか…と桜の印象を改めたライダーは大人しく座ることにした。

 

対面する形でお茶を啜る戦闘装束の女性と女子高生。ミスマッチにも程があった。

 

 

直後、外部から聞こえた爆音が耳に入ったライダーは武器を手に取り、窓へと駆け寄る。

 

「ライダーさん?」

「サクラはそこに!」

 

ライダーは窓から外部の様子を伺う。だが、そこには敵の気配はなかった。耳を澄ますと、先ほど聞こえた音が段々と遠ざかっていくことに気付く。

 

「あ、光太郎兄さんに呼ばれたみたいですね!」

 

いつの間にか自分に並んで外を見ていた桜が庭に面しているガレージを指さす。よく見れば、ガレージ前の路面にタイヤが激しく擦られた跡があり、そのすぐ横にはヒラヒラとビニールシートがゆっくり地面に落下している。

 

「…サクラ。先程のは」

「そういえば、ライダーさんはまだ知らなかったんですね」

 

「光太郎兄さんの…私たちの大事なお友達です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面、ライダー・・・?」

 

 

光太郎が姿を変えた直後に名乗った名を口にする士郎。

 

 

聞き覚えがあった。

 

自分が生まれる前、命を懸けて人々を守り続けた仮面の戦士。それが今、士郎の目の前に立っている。

 

 

「行くぞ!トァッ!!」

 

ジャンプした光太郎は先頭に立っていたクモ怪人に着地と同時に右拳を叩き込む。頭部に走る痛みに怯んだ隙に伸ばした右腕を振り払うように放たれた裏拳によって吹き飛とんでいくクモ怪人。

錐揉み状に回転しながら空を舞う同族を見て、クモ怪人は一斉に動き出した。

 

『シャアァァァァァッ!!』

 

クモ怪人が振り上げた腕を光太郎に向かって振り下ろす。だが光太郎は掌底で怪人の腕を押し上げて間を開けずに腹部に肘打ち、さらに一歩下がり怪人の頭部目掛け回し蹴りを繰り出した。

 

「トァッ!!」

「シャァァァッ!?」

 

雄叫びを上げ、地面を転がっていくするクモ怪人。追い打ちを仕掛けようとした光太郎だったが

 

「ムッ!?」

 

光太郎が体勢を整える前にクモ怪人たちが動いた。左右から光太郎の両腕を掴み、身動きを封じられてしまう。

 

「シャァ!!」

 

光太郎の正面にいたクモ怪人が頭部を突き出して突進を始める。変身する前の光太郎に食らわせた体当たりを再び仕掛けようとしたが…

 

「ウオオォォッ!!」

 

光太郎が抑えられた腕を思い切り振り払う。それだけで両腕を抑えていたクモ怪人2体は宙に浮き、突進してきた1体は頭部を光太郎に掴まれ、路面へと押し付ける。舗装されたアスファルトを砕きながらめり込んだクモ怪人は痙攣を起こしていた。

 

「す、ごい…」

 

クモ怪人を圧倒する光太郎の姿を見て、士郎は自分を支える慎二に尋ねた。

 

「慎二…光太郎さんの…あの姿は…魔術なのか?」

「衛宮、お前…」

 

魔術を知っているのか と逆に質問をするのを思い留まった。今余計な詮索をする場合ではないと考えた慎二は曖昧な回答…ではなく、自分が義兄に対して思うことをつい、口滑らせてしまった。

 

「そうだったら、どんなによかったことか…」

「え…?」

 

小声だったのか、どうやら士郎には聞こえていなかったようだ。

 

その間にクモ怪人が新たな動きを見せた。クモ怪人5体は光太郎から一定の距離をとり、同時に口から糸を発射した。

 

「ッ!?しまったッ!」

 

糸は光太郎の両手・両足・首に絡まり、五体をバラバラにしようと引っ張り出した。

 

「光太郎(さん)ッ!」

 

慎二と士郎は同時に声を上げる中、糸にかかる強まっていく。

 

 

 

「こうなったらッ…!バトルホッパーッ!!」

 

 

光太郎の頭部にあるアンテナの先端が点滅すると同時だった。ビルの合間から1台のバイクが飛び出し、クモ怪人達を目前でウィリー走行、ドリフトを繰り返し、錯乱させている。

 

突然の登場も勿論だが、士郎は一番聞くべきことを慎二に尋ねる。

 

「し、慎二…あのバッタみたいなバイク、人が乗って…」

「気にするな」

 

 

士郎の言う通り、バッタと似た緑色のオフロードバイク、『バトルホッパー』は自らの意思を持つメカ生命体。操縦する人間が不在でも自らの判断で行動が可能なのだ。

 

「今だッ!」

 

バトルホッパーの乱入により混乱したクモ怪人の糸が緩んだ隙に光太郎は腕を左右に開き、両拳をベルトの前で重ねた。

 

「キングストーンフラッシュッ!!!」

 

眩い赤い閃光が周囲を照らす。

 

ベルトの中央から放たれた光は光太郎を拘束していた糸を消し去り、さらにクモ怪人達の口を焼いて糸の噴射を封じた。

 

『シャアァアアアァァァァァ!!!』

 

 

 

「バトルホッパーッ!行くぞッ!!」

 

主の言葉を聞き、バトルホッパーは光太郎の前に停車する。光太郎はバトルホッパーに搭乗すると同時にアクセルを全開、苦しんでいるクモ怪人に向かい高速で突っ込んでいく。

 

「ハァァァァァッ!!」

 

前輪を持ち上げ、ウィリー走行のままクモ怪人へ突進!気付いて転がりながら回避したクモ怪人2体を除き、3体は吹き飛ばされ、地上へ落下する前にその身体は燃え上がり、消滅する。

 

バイクを反転させ、再びクモ怪人へ向かう光太郎。途中、バイクの上からジャンプし―――

 

「ライダーッ―――」

 

クモ怪人の顔面に向けて、エネルギーを纏った拳を放つ。

 

「―――パァンチッ!!」

 

拳を受けたクモ怪人は後方に吹き飛びながら断末魔を上げる間もなく爆発する。

 

着地した光太郎は残り1体となったクモ怪人に向けて構える。

 

「…闇夜に紛れ、人々を襲い恐怖に陥れるなど、この俺が絶対に許さんッ!!」

 

両手を左右へ展開し、ベルトの上で両拳を重ねると、ベルトの中央が強く発光する。

 

左手を腰に添え、右腕を前方に突き出した構えから大きく腕を右側に振るう。

 

右頬の前で握り拳を作り、さらに右拳を力強く握りしめると、クモ怪人に向かい高く跳躍する。

 

「ライダーッ―――」

 

エネルギーを纏った右足を、クモ怪人の胸板に叩き付ける。

 

「―――キィックッ!!!」

 

「しゃ、アアアアアアァァァァァ!?」

 

路面を2転、3転と転がり吹き飛ぶクモ怪人。なんとか立ち上がったと同時にその身体は断末魔と共に燃え上がった。

 

 

新都の震撼させていた噂の怪人が、今自分の前で完全に姿を消した。士郎は圧倒的な力で怪人たちを粉砕した光太郎の姿に目を奪われていた。

 

その光太郎は…

 

「………ッ!?」

 

背後にある高層ビルの屋上を見つめる。

 

彼の強化された聴力と目は、自分達を見つめる存在を捉えた。

 

(あれは…?)

 

男だった。灰色の髪と褐色の肌、赤い外套を纏っていた男は観察するようにこちらを見ていたが、次第に憎しみの籠った目で睨んでいることに光太郎は気付く。

 

(俺を…いや、違う)

 

その視線の先にあるのは自分ではなく、義弟に支えられている少年に向けられていた。

 

僅かに目を逸らした間に男は姿を消していた。

 

明らかに人間とは違う雰囲気を抱く男の正体。光太郎は確信を持って、その存在の名前を胸中で呟く。

 

 

 

(サーヴァント…か)

 




戦闘描写、勉強しておきます・・・

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第5話『騎兵の決意』

ドリアンの人に爆笑しながらの朝を迎えました。

では、5話です


バトルホッパーが光太郎の援護に向かった後、桜とライダーは改めてお茶を再開した。

 

「で、光太郎兄さんが砂糖と塩を間違えて慎二兄さんが知らずに飲んだ時は…」

 

日常で起きた事を楽しそうに話す桜にライダーは相槌を打ちながら、この場にいないマスター

の人物像、能力を整理していた。

 

 

 

間桐 光太郎  21歳

 

冬木の隣町にある大学で経済学を専攻

 

趣味:バイクツーリング 一度出かけると中々戻らないため弟に鉄砲玉と例えられる。

 

特技:肉料理 それ以外の料理の成功率は5割を超えない。

 

人当りがよく、周囲からの評判も良いが、一定の距離を保っている。

 

 

 

万能の願望機たる『聖杯』を手にするために7人の魔術師が英霊と契約し、一人になるまで殺しあう『聖杯戦争』に参戦し、ライダークラスのサーヴァントを召喚したマスター。

 

しかし、サーヴァントであるライダーにとっても光太郎という存在は『異質』であった。

 

その姓こそは聖杯戦争というシステムを作り上げた『始まりの御三家』の一つであり、魔術の名門たる『間桐』の名であるが、光太郎は魔術が使えない。知識を持ち合わせていないどころか、魔術師にとってはその証たる魔術回路すらその身体に刻まれていないのだ。

 

しかし光太郎にはそのマスターとしての欠点を補うに余りある力を持っている。

 

その一つが光太郎の体内に宿る『キングストーン』と呼ばれる秘石だ。

 

光太郎自身に魔力を生成する力はないため、キングストーンの力を手の甲に刻まれた『令呪』を通して魔力に変換し、ライダーへ供給し現界させている。本来はサーヴァントへの3度までの絶対命令権に過ぎない痕を変換機のような役割を加えたのは命呪の『基礎を作り上げた本人』によって施されたのだろう。

 

 

そして仮面ライダーBLACKへの変身能力。

 

 

身体能力は変身前の数十倍向上し、腹部にあるベルトからは様々な特殊効果をもたらす光を発することが可能。

特にその光で強化された蹴りは怪人を一撃で葬り去る威力を誇る。

純粋な格闘戦であれば並の魔術師はもちろん、英霊であるライダーすら敵うか分からない。

 

光太郎が変身後に使用するバイクは2台あり、1台は先程光太郎の元へ向かった自我を持つバイク『バトルホッパー』。戦闘以外はガレージにて待機しているが間桐兄妹と言葉は言えずともコミュニケーションを交わしている。

 

そしてもう1台は―――

 

 

 

「あの、ライダーさん?」

「あ、はい」

 

見ると、桜は心配そうにライダーを見つめていた。

 

「…ごめんなさい。私、夢中になってお話が一方的に」

「いえ、私も考えて事をしていただけですから、桜が謝罪する必要はありません」

「あ、だったらこちらこそ邪魔をして…お茶、入れ直してきますね」

 

どこか気まずくなった桜は花の模様が描かれているポットをトレイに乗せ、席を離れた。

 

失敗した、とライダーはとっくに冷めている紅茶を口にする。サーヴァントに過ぎない自分へ厚意を持って接している事にライダーは嬉しく思う反面、複雑だった。

 

日頃、彼女は霊体化して間桐家でマスターである光太郎と慎二、桜の生活を眺めている。

光太郎がからかい、慎二が激昂し、桜がオロオロしながらも仲裁に入る、ありふれた日常。

それはライダーからすれば微笑ましく、彼女が望んでも二度と手にすることが出来ない世界だった。

 

だからだろうか。光太郎の異形な姿を知りながらも家族として接する二人と常に時間を過ごさず、顔も知らない他人を助けるために家を空け、怪人の討伐に向かう事にライダーは納得ができなかった。苛立ちすら覚えていたかもしれない。

 

「お待たせしました!今度は葉を変えてみたんですけど…」

「サクラは」

「はい?」

「サクラは…怖くないのですか?」

 

質問の意図が解らない桜はトレイを持ったまま首を傾げてしまうが、ライダーは構わず

質問を続けた。

 

「私のマスター…貴女の兄は、いつ死ぬか分からない戦いを続けています。いえ、それだけでなく、私というサーヴァントを召喚して聖杯戦争という人間同士の殺し合いも始めようとしている」

 

ライダーは畳み掛けるように聖杯戦争についても尋ねた。

聖杯戦争中はいつ、身内を狙われてもおかしくない状況だ。それでも彼らの傍から離れ、変わらず怪人と戦い続ける光太郎に対して怒りのようなものも感じていたのかも知れない。

 

いつしか彼の戦いを、ライダーは『私闘』と呼んでしまっていた。

 

「…召喚されてからまだ私は彼から聖杯への『望む』願いを聞いていない。もしかしたら『望み』自体を抱かず聖杯戦争へ参加しているかもしれません」

 

だとすれば光太郎は参加するべきではなかった。その力を赤の他人ではなく、家族だけを守るために使うべきなのだ。この話を聞いて、桜が不安に思い、それを聞いた光太郎が家族を優先するようになってくれればとライダーは考えたが…

 

「優しいんですね…ライダーさん」

「?」

 

何故か兄ではなくライダーに対しての反応だった。

 

「私が…ですか?」

「はい!だって、そうして私や慎二兄さん、光太郎兄さんのことを気遣ってくれてるんですから」

 

笑いなが席に着いた桜はカップに入れ直した紅茶を注ぎながら答えた。

 

「私も本当は光太郎兄さんに戦って欲しくありません。聖杯戦争にも…参加して欲しくなかった」

 

でも、と入れ直した紅茶をライダーに差し出した桜。

 

「信じてるんです。どんなことがあっても、光太郎兄さんは絶対にこの家に帰ってきてくれるって。根拠はないんですけど…ね?」

 

 

苦笑しながら話した桜の言葉は本当に根拠のないものだった。しかし、ライダーは思い知ってしまった。

この兄妹の絆は、自分が口出しがなくとも強固なものだった。桜は光太郎を信じているように、同様に慎二も普段口悪くても彼を信頼しているのだろう。

そして光太郎も2人の気持ちに応えるために、怪人たちとの戦いでも生き抜き、戻ってくる。そして桜達に危機が訪れたのなら命を懸けて救うはずだ。

 

ならば…サーヴァントである自分に出来ることは…

 

「ならば…私も微力ながら力になります。貴女達の長兄は…この戦いが終わるまで私が死守し、貴方達の元へ帰すことを誓いましょう」

 

聖杯戦争が終われば、この身は消滅する。ならば、聖杯戦争が終わるまでは勝者とならなくてもマスターと家族だけは自分が守らなければと考えたライダーだったが

 

「何を言ってるんですか!ライダーさんもですよ?」

「は?」

 

桜の言葉に面食らったライダーは思わず間の抜けた声を上げてしまった。

 

「桜はサーヴァントがどのような存在かはご存じでしょう?いずれ私は…」

 

桜の意図が理解できないライダーは自分の近い将来を改めて説明するつもりであったが…

 

「もう!弱気な発言禁止ですよライダーさん!!」

 

プンプンという擬音が似合うように怒っている桜はピシッとライダーを指さす。

 

「確かに聖杯戦争が終わるとライダーさんは帰ってしまうかもしれませんけど…それまでの間はライダーさんだって家族なんですからね?兄さんと一緒に帰ってこなきゃ駄目です!」

 

後頭部に光太郎の必殺技を受けたような気分だった。

桜は、自分を、なんと言ったのか。

 

「サクラ…貴女は、何を言って」

 

自分でも震えているのが分かる。サーヴァントである自分を。かつて、掛け替えのない存在をその手にかけてしまった『化け物』に過ぎない自分を、桜は家族と呼んだ。

 

「何度でも言いますよ。ライダーさんはあの日から私たちの家族なんです。兄さんも言ってましたよね?」

 

 

 

そう言われ思い出した。自分を召喚した光太郎は食事中の慎二と桜の所まで連れ出し、こう言った。

 

『今日から暫くこの家の一員となったサーヴァントのライダーだ。二人とも、仲よくしてくれ!』

 

直後、二人は手にした食器を床に落とし、しばし固まっていた。

今考えてみれば、あの時点で光太郎は能力など抜きにして異質なマスターであった。

 

「これはもうマスターの意思なんですから、逆らえませんよ」

 

ニッコリと笑うサクラに唖然としたライダーだったが、観念したように肩を落とすと…

 

「…どうやら私の負けのようです。わかりました。では、改めて誓いましょう。私はライダーのサーヴァントの名に懸けてこの戦い、マスターと共に貴女達の待つこの家へ必ず戻りましょう」

 

ライダーは桜へ初めて優しい微笑みを見せ、決意を新たにするのであった。

 

 

「そういえばサクラ」

「はい?」

「マスターは私を家族のように接してくれるよう発案したのに、何故私と顔を中々合わさないのでしょう?」

 

無論、最初は光太郎の意図が分からずそっけない態度を取っていた自分にも原因はあるのであろうが、それにしても光太郎は極力ライダーと顔を合わせないようにしていたように思えた。

 

ライダーの質問にキョトンとした桜だったが、次第に笑いがこみ上げてきた。

 

「サクラ…?」

「う、うん…ライダーさん、兄さんはね」

 

笑いを堪える桜の出した答えは健全な男性ならば、仕方のないものだったのかも知れない。

 

「光太郎兄さんって…昔から美人に弱いんです」

「…………………」

 

笑えばいいのか、呆れたらいいのか判別のつかない回答だった。

 

「喜べば…良いのでしょうか」

「そうですね…女性であれば嬉しいことなんですけど。あっ!」

 

声を上げた桜はライダーに提案を持ちかける。

 

「じゃあ、今までライダーさんをモヤモヤさせた仕返しをしちゃいましょう」

「…どのような?」

「簡単なことです!」

 

仕返しについては少し乗り気であるライダーへ桜は満面な笑みで答えた。

 

「兄さんをマスターではなく、名前で呼んでみてください。きっとビックリしますよ?」

 

 

それから1時間後、バイクがガレージへ入庫する音が彼女らの耳に届いた。

 

 

 

 




普段と逆な立場となったライダーさんと桜さんでした。

さて、今後ライダーがこの話を逆手にとって光太郎にイタズラするかは考え中です。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第6話『突然の訪問者』

獣電戦隊、最終回までないと思った全員の名乗りが来週とは…本当に出し惜しみをしないのですねぇ

6話、行きます!


間桐光太郎…仮面ライダーブラックがクモ怪人と戦っている姿を見ていたのは

赤いサーヴァントだけではなかった。

 

 

 

白いローブを纏った3人…暗黒結社ゴルゴムの3神官は囲うように水晶玉に映し出される変身した光太郎の姿を目にする。やがて1名が怒りに震えながら口を開いた。

 

「おのれぃ…ブラックサン!いや、仮面ライダーBLACKめ!!またもや我らゴルゴムの

作戦を邪魔をするか…」

 

神官ダロムは不気味な白い顔をさらに歪ませた。

 

「キングストーンの力を使いこなしている…やはり、あの時に逃がさず抹殺するべきだったか」

 

ブラックの放ったキングストーンフラッシュにより、同胞であるクモ怪人が追い詰められる姿に神官バラオムは悔しさのあまり、その機械のような腕を強く握りしめる。

 

「………あの女、今回は姿を現さなかったようですね」

「あの女?もしや、BLACKに協力していた鎖を持った女のことかビシュム?」

 

顔に入れ墨を入れた女性の神官ビシュムは頷くと目を妖しく光らせ、先ほどとは違う映像へと切り替える。水晶玉に映るのは、両目を眼帯で覆った妖艶な女性。

 

「監視をしていたコウモリ怪人からの情報によると、この女は人間では考えられない運動能力を持ち、倒された怪人とも互角に渡り合っていたようです。我らの情報網を持ってしても、女の素性、どこからやって来たのか不明です」

「むぅ…」

 

ビシュムの報告を聞いたダロムはうねりながらも考える。はたしてそのような人間は存在するのか?いや、何者かにより『光太郎と同じ』ようにされた者なのか?それとも…

 

「…そういえばこの女がBLACKと行動を共にする数日前に教会の者より報告があったな」

「報告…?冬木で何らかの儀式を行うという内容のものだったか」

 

ゴルゴムは太古より人間社会を裏側から操っており、その影響力は本来神と人間以外は認めず、異端を必要悪とする教会―――聖堂教会の一部にまで及んでいた。

 

「女がその儀式と関係があるというのかダロム?」

「まだ分からん。調べる必要があろう…そして」

 

バラオムに答えたダロムは振り向くと、ゴルゴムの神殿の奥にある人一人が入れるであろうカプセルを見る。

 

「これ以上奴が力をつける前に…もう一人の『世紀王』の目覚めを急がなければならん」

 

 

クモ怪人たちを倒した翌日。

 

光太郎は大学内の広場にあるベンチに腰掛け、提出用のレポートをまとめていた。選択したマクロ経済学がいきなり休講となり、開いた時間で仕上げようとしていたが……

 

(どうしてああなった…)

 

集中できず、先ほどから広場でサッカーをしている学生たちの歓声を聞きながら空白のノートにペン先を突いているだけの状態だった。

 

(昨日衛宮君を自宅に送ったあとに帰宅してみたら玄関で桜ちゃんと…ライダーが迎えてくれた。それはまだいい)

 

これまで光太郎が留守の間にライダーへ兄妹の護衛を頼んだことは何度もある。そして家に戻ると役目が終えたと言わんばかりに霊体化し、その姿を消していた。

しかし昨晩はその姿を消さず光太郎と慎二を出迎え、自分たちに労いの言葉をかけてきた。

 

『お疲れ様でした。シンジ。夕食の前にしっかりと手を洗って下さいね』

 

その時、慎二が今まで見たことのない表情で驚いた顔を見て、からかおうとしていたがそれ以上の衝撃が光太郎を襲った。

 

『貴方もですよ〝コウタロウ〝』

 

間桐光太郎の心臓は止まった。

 

無論比喩ではあるが、動かなくなった光太郎を弟と妹による必死な呼びかけと揺さぶりにより目が覚めたのだった。

回復した後もライダーは姿を消さず、桜の要望もありそのまま食事にも同伴(サーヴァントは食事は必要としないが摂取は可能)し、食器の後片付けまで名乗り出た。

 

その際、ライダーはエプロンを着用したのだが、彼女が身に着けている装束の丈も関係し、キワドイ姿に見えたため、正面から見た光太郎は赤面して自室に避難して行った。

 

(あの恰好を見たのはともかく…名前呼ばれたくらいで動揺するなんて、慎二君を見習うべきかな…)

 

この時ばかりは女性に顔の広い弟を羨ましく思った。

 

光太郎は自他共に認めるように女性に弱い。特に相手が美人となると、慣れるまで目を合わすのも難しいくらいだ。その光太郎がサーヴァントといえ、美女と呼んでも過言ではないライダーに名前で呼ばれたとなれば慣れるまで…いや、慣れることすら出来るのか不安になった。

 

(とはいえ…俺が望んだ結果にはなってはいるんだよな)

 

1か月ほど前だったろうか。彼女を召喚した時、光太郎は現れた女性のその美しさに見惚れてしまった。どう声をかければいいのかと考える前に、気が付けば光太郎はライダーを慎二と桜に紹介していた。

 

何故、彼女と弟達が仲よくすることを光太郎が望んでいたのかは本人もはっきりと理解出来ていない。彼女を見た途端、そのように身体が動いていたようだった。

 

(何故だろう…彼女を見た時、一人にしてはいけないと…ッ!?)

 

光太郎の思考は中断された。顔を上げるとサッカーボールが勢いを付けて眼前にまで迫っていたのだ。どうやら先程からサッカーをしていた学生たちが誤って光太郎の方までボールを蹴飛ばしてしまったようだ。

 

その光景を見ていた誰もが光太郎がボールによって顔を強打される未来を予測していたが…

 

「ッ!!」

 

パァンッと音を立て、サッカーボールは光太郎の手のひらによりその動きを止めていた。周りからおお~という驚きの声が上がる中、光太郎は立ち上がると笑いながらボールを持ち主へ放り投げた。

 

「次は気を付けてくれよぉ!」

「すいませ~ん!」

 

ボールを受け取った学生は謝罪すると再び仲間とサッカーを再開する。その様子を光太郎は苦笑しながらベンチに腰かけると先程ボールを打て止めた手のひらを見つめ、安心したかのように溜息をついた。

 

(大丈夫だ…もう、どんな時でも加減は出来きている)

 

自分へ言い聞かせるように心中で呟く光太郎。そのため、隣に座った人物の接近に気が付くことが出来なかった。

 

「よもやあんな玩具ごときに気を使うとは…肝の小さいことだな」

「…あまり周りを騒がせたくないんだ。今日は何の用だい?」

 

光太郎は別の意味で溜息をつくと、隣に座っている男性に目を向ける。

 

「なに、我の庭で徘徊していた毛虫共を駆除したようなのでな。どの様な顔をしているかと見にきたが…思いのほか慣れてきたようだな」

 

ニヤニヤと笑う金髪赤眼の青年は面白い物を観察するかのように光太郎に話しかける。

 

「…嫌でもそうなるさ。あんなことを続けていたらね」

「ククク。自ら望み、始めた戦いを『あんな事』とほざくとはな。やはり貴様は面白い…」

 

光太郎は見透かしたような言い草をするこの男性の笑いが苦手であった。この青年は一度光太郎を殺しかけたにも拘わらず、その後は一度も光太郎に手をかけようとせず、こうして時折接触している。

 

「…俺を殺さないのは何でだ?君がその気になれば何時だって…」

「戯け。何度も同じことを言わす出ない」

 

そういって光太郎が予め買っておいた缶コーヒーを手に取ると勝手に封を開け飲み始める青年。光太郎も特に咎めることはしなかった。

 

「だが、敢えて言うならば…王である我の決定だ。貴様は聖杯戦争で負けることも、あのカビの生えた雑虫どもに殺されることも許さん」

「…………」

 

光太郎には青年の言うことが分からなかった。

 

今から半年前、まだ戦い慣れていない変身した光太郎の目の前に現れた青年は突如、圧倒的な力で光太郎を追い詰めた。

力及ばず膝を着いた光太郎だったが、諦めることなく立ち上がろうとしていた。その姿を見た青年は光太郎と2,3言葉を交わした後、突然笑いだしたのだ。その後、青年は背を向け、光太郎に告げたのだ。

 

『この先、時が来るまで生き残れ』

 

正直、意味が分からなかった。こうして生き延びてはいるが、青年にいつ殺されてもおかしくはない。こうして近づき光太郎の様子を見て、飽きたら去っていく彼の行動は謎だらけだ。

 

「さて、そろそろ約束の時間だ」

「…なにか用事が?」

 

意外だった。彼 いや、『彼のような存在』が誰かと行動を共にすることがあるのかと光太郎は思わず尋ねてしまった。

 

「このあと、近所の童どもと狩りをする約束をしているのでな」

 

と、ズボンのポケットから黄金色で施された携帯ゲーム機を取り出しす姿を見て光太郎はますます彼のことが分からなくなった。

 

「あ、ああ…うん、頑張って」

「それとだ」

 

立ち上がった青年は最初に声をかけた時と同様にニヤリと笑って、光太郎に伝えた。

 

「…そろそろ揃うぞ。七騎全てがな」

「ッ!?」

 

驚愕した光太郎の表情に満足したかのように、青年は去って行った。

 

 

「…始まる…のか」

 

光太郎は手袋で隠してある令呪にそっと触れた。

 




三神官とフライング登場した王様の口調にちょいと自身がありません…

ご意見、ご感想おまちしております!


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予告編

※注意

これはピンとひらめき、ノリで走り書きしたものです。

 

今後、本編で生かすか予告で終わるか、作者自身も解りません。

 

それでもよろしければ、お付き合いくださいませ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予告編

 

 

 

 

 

 

 

―――2人の仮面ライダーの物語が、今交わる―――

 

 

 

 

かつての親友が自分の宿敵となって相対したことに落ち込む光太郎。そんな彼を励ますために、慎二と桜達は遠出する事を提案する。その出かけ先で暴れまわる怪人と遭遇する。

 

「あれは…!」

「光太郎、止めろよ!」

 

 

怪人を見た途端、我を忘れ、怒りのままに怪人へ迫る光太郎の姿は、仮面ライダーではなくバッタ怪人だった。

 

「ウオォォォォッ!!!」

 

普段とは考えられない凶暴な戦闘に、周囲の人間は恐怖する。

 

「兄さん、お願い止めてぇ!!」

「どうしたのいうのですか。コウタロウ…」

 

兄妹やライダーの声も聞こえず、怪人と戦い続ける光太郎。そして光太郎の口から語られた15年前の真実。

 

「あいつは…俺の両親を殺したんだ」

「コウタロウの…?」

 

 

 

 

BLACK編

~悪夢!過去からの刺客~

 

 

 

あの戦いから数か月後。相棒を失った探偵、左翔太郎は求めるようにドーパントを追い、戦い続けていた。

 

「俺は…約束したんだ!フィリップと!!」

「左!!無茶はよせッ!!」

 

仲間の制止を振り切り、翔太郎はガムシャラにその力を振るっていた。

 

「こんなこと…フィリップ君は望んでないよ!!」

 

そんな彼の元に1人の依頼人が現れた。その名は遠野志貫。

 

「一緒に探してもらいたいヤツがいるんです」

 

彼もまた、掛け替えのない存在を失ったのであった。

 

「俺が動く理由は…あのバカ女との約束を守る。それだけですね」

 

 

志貫と行動を共にするに連れ、それが最近風都でを騒がしている吸血鬼事件と繋がっていく。

 

「飲み込んでやるよ…全員まとめてぇ!!!」

『Shadow』

 

 

 

JOKER編

~失意のS/せまる影~

 

 

 

 

過去と今に向かい合う2人のライダーは、やがて大きな『闇』と対峙する。

 

 

 

 

 

『全てを…闇に帰す』

 

 

 

「そんな事、俺たち仮面ライダーが見過ごすと思ってんのか?」

「止めてみせる…絶対に!!」

 

 

『闇』に立ち向かう『黒い切り札』

 

 

「行くぞッ!!」

「ああ!さぁ…お前の罪を数えろ!!」

 

 

特別編

 

仮面ライダー×仮面ライダー

BLACK&JOKER

NOVEL大戦DARKNESS

 

 

 

製作(するか考え)中

 

 

 

解説

 

時系列としては、この小説で中盤以降。ダブルはフィリップの消滅して復活する1年間の間に起きた出来事というところでしょうか。

ちなみにジョーカー編でチラッと出てきている殺人貫はコミック版真月譚月姫のお姫様の城にたどり着く数日前当たりのつもりです。



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第7話『証の聖痕』

今年もあとわずかとなりましたが、宜しくお願いします。

7話、どうぞ


穂群原学園

 

3限と4限の間である短い休み時間に間桐慎二は屋上に呼び出された。

 

「…で、何の用だよ?せめて昼休みに聞くとか思わなかったわけ?」

(ま、予測できてるけど)

 

不機嫌を装い(事実不機嫌ではあるが)慎二は呼び出した相手――衛宮士郎の出方を伺う。

 

「慎二…教えてくれ。昨日の光太郎さんは…」

 

 

大当たり――と投げやりにぼやきながらも、慎二はどうはぐらかすか考え始める。

昨夜…光太郎が仮面ライダーに変身し、噂の元凶たる怪人を退治する場面を士郎は目の当たりにした。負傷した彼を家まで送った際に光太郎は自分の力を他言無用として欲しいと頼んでいるのを慎二は横から見ていたが…

 

「あの姿と…あの力は何なんだ?」

 

言わない代わりに説明が欲しいらしい。士郎は周りに広げるような人間ではないことは知っていたが、やはり彼も人間、自分の常識を逸脱している存在への興味は尽きないのだろうと、慎二は考えた。

 

「…悪いな衛宮。あれはうちの家系で数十年に生まれるか生まれないかの特異体質なんでね。僕どころか本人すら原因はわかっちゃいないよ。無論、何等かの魔術礼装ってものでもない」

 

もちろん嘘だ。幸か不幸か、先日の件で士郎に間桐が魔術の家系であることを知られたが彼はそれほど魔術に関しては詳しい訳ではなく、慎二はそこを逆手に取り光太郎の能力を魔術と同様、外部へ秘匿すべき力と説明し、納得させようとした。

 

「そう…なのか。あの姿は、そういうことなのか…」

「………………」

 

こうもあっさり信じてしまうのも考え物だが、このまま誤魔化そうと畳み掛けようとした慎二だったが

 

「もし、あれが魔術を応用したものだったら、光太郎さんに話を聞いてみたかったからさ」

「なに?」

 

士郎の言葉に眉を寄せる慎二。

 

「俺、魔術っても簡単な『強化』しか使えないんだ。だから、もし光太郎さんが強化を応用してあの力を発揮してたのなら…『あの姿と力をどうやって手に入れたのか光太郎さんに聞きたかったんだ』。そうすれば光太郎さんみたいに俺も誰かを…」

 

言い切る前に、慎二は士郎の胸倉を掴むとそのままフェンスに背中を叩き付けた。

 

「ど、どうしたんだよいきなり!?」

「いいか衛宮…」

 

その声に士郎はゾッとした。

 

普段、兄の光太郎に冗談を言われたり、気に食わないことがあると癇癪を起こして声を上げることは珍しくないが、今の慎二はそれと比べものにならないほど『怒っている』。

そして仮にも弓道部の副主将である賜物なのか、押し付けられている腕は筋トレを欠かしていない士郎でも、腕を振り払うことが出来なかった。

 

「覚えておけよ…僕やお前みたいに無い物ねだりで力を欲しがってる人間もいれば…」

 

「欲しくもない力を持たされてる奴がいることもなぁ…」

 

「え…?」

 

衛宮士郎は間桐光太郎がどうやってあの能力を手に入れたかは全く知らない。知らないのだから、純粋にあの力に憧れることも話を聞いてみたいという要望も当たり前のことだ。『彼の事情』も知らない士郎に対して暴力で打って出る自分が間違っていることも慎二は自覚している。

 

 

しかし、先に身体が動いてしまった。

 

義兄のあの姿とあの力についてを光太郎本人の口から聞こうとした士郎の一言に、どうしても我慢できなかった。

 

「ど、どういうことなんだ慎二…?」

 

混乱しながらも、自分を押さえつける慎二の腕を掴む士郎。その時、慎二の目に士郎の手の甲に浮かんでいる妙な痣が目に入った。

 

 

「ッ!?」

 

その見覚えがあった痣に慎二は目を見開く。まだはっきりとした形には浮かんでいないが、同じような痣を、義兄が腕に宿していたのだから。

 

「…衛宮、まさかお前…」

「慎二…?」

 

相変わらず士郎をフェンスに押し付けたままであるが、慎二の表情が先ほどの怒りから驚きに変わっていることに士郎は戸惑った。その状況に第三者の声が耳に入る。

 

「盛り上がっているところ悪いんだけど、そろそろ授業が始まるわよ?」

 

 

 

慎二と士郎が屋上へと出た同じ頃、間桐桜は兄の教室を訪ねていた。

 

本日は朝練もなく、自宅から学校へ向かった桜だったが、家を出る際に食卓の上に置かれた慎二の弁当箱を発見した。恐らく忘れていったのだろうと桜が持っていき、兄に届けようと現在にいたるのだが、教室に兄の姿が見当たらない。どこにいるのだろうと教室内にいた兄と先輩の知人である柳洞一成に尋ねてみた。

 

「先程衛宮と共に教室を出るのを見たな。なにやら今朝から思いつめた顔をしていたのだが、それと関係があるのだろうか…」

 

不安を抱いた桜は弁当箱を一成に預け、2人が行ったと思われる屋上を目指した。屋上へ通じる階段を上る途中、桜と縁の深い人物に声をかけられる。

 

「あら、珍しいわね。こんな所で会うなんて」

「遠坂先輩!」

「もぉ、周りを見なさい。今なら大丈夫よ」

 

困ったように笑う先輩の言う通り、周りを見渡す桜。授業開始まであと数分となっているためか、二人の会話に聞き入る生徒は誰もいない。

 

「…こうして話すのも久しぶりかしらね」

「そうですね、『姉さん』」

 

嬉しそうに破顔した桜は、同じく優しく笑う遠坂凛―――実の姉にそう答えた。

 

 

 

魔術は一子相伝。しかし遠坂家に生まれた桜は姉にも負けない才能を秘めており、やがて後継者争いになると父親は考えていた。

それを回避するため、同じく魔術の家柄である間桐家の養子とした。二人は古くからの協定により深く関わることを禁じられていた。

だが、こうして誰の目にも止まらない場所では仲睦ましい姉妹としてお互いの近況を報告している。

 

「けど、どうしたの?この先行ったら屋上しかないのだけど…」

「あ、そうでした」

 

桜は簡単にここまで来た過程を凛に説明した。

 

「へぇ…間桐君と衛宮君ね。面白そうだわ」

「面白そうって…え、姉さん!?」

 

話を聞いてニヤリと笑った凛は屋上へ向かい歩き出す。慌てて追いかける桜は何かを企む姉に問いかける。

 

「ど、どうするんですか?」

「もちろん、盗み聞きだけどなに?」

 

さも当然ですと答える姉に思わず溜息をつく桜。そして屋上の扉のドアノブに手をかけようとした時、ガシャンッとフェンスに何かが強く衝突したような音が聞こえた。

 

「…え?」

「…どうやら面白い話じゃなさそうね」

 

先程と打って変わり、真剣な表情となった凛は扉を開け屋上に出ると、桜の義兄が同級生をフェンスに押し付けている姿を目にした。

 

 

「遠坂…なんでここに?」

「…こんな時に」

 

現れた凛の姿を見た士郎と慎二は違う反応を示す。

 

「間桐君?衛宮君と何があったか知らないけど、校内でそういうことは良くないんじゃない?」

「…チッ」

 

最もな事を言われた慎二は乱暴に士郎を放す。解放され、ホッとした士郎に離れている凛に聞こえないように慎二は小声で伝えた。

 

 

「その痣。遠坂には見せるなよ」

「…え?」

 

それだけ言うと慎二はやって来た凛には目もくれず、足早に屋上から出て行った。

 

「どうやら平気そうね。藤村先生には報告する方がいいかしら?」

「あ、いや、怪我とかしてないから大丈夫だ!!」

 

近付いてくる凛に意識を向けた士郎は、取りあえず慎二の言うことに従うように、痣のついた手をズボンのポケットに突っ込む。

 

「聞く話によると、衛宮君が間桐君を誘ったそうじゃない。もしかして、日頃の行いにとうとう我慢できなくなったという所かしら?」

「…確かにいい加減なところはあるかもしれないけど、アイツはアイツなりに芯を通してはいるぞ?」

「へえ、さすがお友達といった所かしら?」

「あ、ああ。そうなんだ…じゃあ、俺も教室に戻るから、じゃあな」

 

 

興味がなさそうに髪をかき分ける凛。どことなく居心地が悪くなった士郎は適当に理由をつけて出入り口に向かった。

 

「…………………」

 

その背中を、凛は目を細めて見つめていた。

 

「……凛」

「わかってるわ。ありえないとは思うけど、可能性は考えるべきで…」

「いや、そうではなく」

 

凛が姿の見えない『誰か』に答えた直後、授業開始のチャイムが響いた。

 

「………………」

「ちなみに君の妹は一分前には教室にたどり着いたぞ」

「先に言いなさあぁぁぁぁぁいッ!!!」

 

この日、遠坂凛は初めて授業を遅刻した。

 

 

 

 

その日の夜

 

 

光太郎は夜の新都を歩き回っていた。いや、厳密には一人ではなく、霊体化したライダーが付いてきていた。

 

「珍しいね。ライダーから俺に着いていくって言うなんて」

『サーヴァントとして当然のことです。迷惑はかけませんのでご安心を』

「そんな。むしろ心強いよ」

 

己のサーヴァントを賞賛すると、光太郎は頭を切り替える。あの金髪の青年が英霊がまもなく七騎全て召喚されること以外にもう一つ

伝えられたことがあった。

 

『港の方で図体のでかい野鳥が飛び回っていてな…童どもと安心して釣りもできん』

 

と、笑いながら言っていた。少しも不安そうに見えなかったが、それでも怪人がいるのであれば放っては置けない。光太郎は言われるがままだなと思いながらも、こうして冬木の港を目指して足を運んでいる。バイクを使いたい所であったが、士郎を救出に向かった際に何台かのパトカーに追われていた全てを振り切ってしまった。同じバイクではまたエンカウントする可能性もあり、本日は徒歩にての調査であった。

 

(しかし、今度は人を襲うわけではなく、ただ飛び回っているだけなのか…)

 

そもそもゴルゴムの作戦はその目的が見えないものが多かった。先日も何故か冬木の魚市場から次々とマグロが消失する事件が相次いだが、まさかと思ったらゴルゴムの仕業であったのだ。

 

「さて、まずはこの辺りから…」

「コウタロウ」

 

港近くの貨物場にやってきた光太郎に実体化したライダーが声をかけた。まだぎこちなくではあったが、なんとか光太郎は反応する。

 

「な、何かなライダー?」

「貴方にまだ聞いていないことがありました。コウタロウ…貴方がこの戦いに参加する理由です」

 

光太郎の表情が硬くなる。まるで等々聞かれてしまったと言わんばかりに苦笑してライダーに向き直る。

 

「やっぱり…気になるか?」

「はい。私はコウタロウのサーヴァントとして、聞く権利があるはずです」

 

きっぱりと言い切るライダー。光太郎が家族を信じて戦いに向かっていることは桜との会話で理解できたが、それでもはっきり

しなかったことがあった。それは聖杯戦争で勝利した時に得る『聖杯への願い』だ。ライダーには、彼が聖杯に託すほどの大望を抱いているとは、どうしても思えず、この質問を光太郎にぶつけた。

 

「…それは」

 

光太郎が答えようとしたその時、彼らの頭上で羽音を立てて近づいてくる存在があった。

 

「ッ!?」

 

ライダーの肩を掴んで地面を転がる光太郎。彼らが今さっきいた場所には生物の爪で削られたかのように抉れていた。その跡を見てゾッとしながらも上を見る光太郎とライダー。

 

「…ライダー。申し訳ないけど、その質問は後で答えるよ」

「…ええ、わかりました」

 

会話を終えた2人は上空で浮遊する3体のタカ怪人を見て身構えた。

 

 

 




ご意見、ご感想お待ちしております!


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第8話『桜の選択』

皆様に大変好評を頂いています我が家の慎二くん。当初は身内である光太郎を散々嘲笑し、蔑み、罵った後に自分を改造人間にする条件として光太郎の情報をゴルゴムに売る―――なんて展開を考えておりました。
どうしてこうなった 

な8話です。


第8話

 

間桐慎二は自室の机上にて頭を抱えていた。気を紛らわす為に日課となった魔導書の意訳をしようにも、どうにも身に入らない。これもあの『お人好しのバカ』に呼び出しを受けたせいだと結論付けたが、それでも頭はすっきりとしない。

 

(やっぱり桜に伝えたのがまずかったか…)

 

遠坂凛が屋上に乱入した後、慎二はその場を離れて出入り口の階段を下りた直後に義妹と遭遇したことを思い出す。

 

 

 

 

 

『桜…』

『慎二兄さん。あの…先輩となにか?』

『……………………』

『兄さん!』

 

憧れの人間が関わっているためか、珍しく強く主張する桜への返答に慎二は考える。もし、士郎の手に見えたものが見間違い無いのであれば…

 

『…衛宮の手に…令呪があった』

『!?』

 

それだけで妹を動揺させるには十分だった。

 

『まだ完全な形じゃない。けど時間の問題だ』

『そ、そんな…どうして先輩が!』

『そんなの僕が知るわけないだろう!!』

『…ッ』

 

後ずさりする妹の姿を見て、自分が怒鳴ってしまったことに遅れて気付いた慎二。友人の無自覚で放たれた虫唾が走る言葉と現れた令呪。そして乱入してきた『遠坂』の現当主。整理しきれない出来事に思わず慎二は八つ当たりをしてしまっていたのだ。

 

『…この事は光太郎に任せる。そしてお前はもう衛宮の家にいくな』

『そんな!?兄さん!』

『万が一に衛宮がマスターになったら、アイツは敵になる。分かっているよな?」

『でも…』

『もう教室に戻れ。いいな』

 

それだけ言うと慎二は歩き出した。途中、後ろを振り返ると桜はゆっくりと階段を下っていた。俯き、前髪に隠れてどんな顔をしているかは分からない。だが、確実に妹を悲しませたのは事実だった。

 

 

「光太郎みたいに…うまくいかないか」

 

あの義兄であれば、青臭いセリフや行動で示し、不安を取り除いてくれる。自分も、彼の言葉があったから腐らずにすんでいるのかもしれない。自分に出来ることなんて…と考えていた時、ドアをノックする音が聞こえた。

 

『…慎二兄さん。いらっしゃいますか?』

「ああ…入れよ」

 

許可を得てドアを開けた桜は、足を組んで椅子に座る慎二の前まで足を運ぶ。

 

「…どうした?夕飯までまだ時間はあるだろ」

 

学校での事もあり、どこか気まずい慎二は視線を逸らして話かけるが、桜の発言に思わず振り向いてしまう。

 

「私…やっぱりこれからも先輩の家に通います!」

「ハァ!?」

 

想定外の言葉だった。まだ兆ししか見えないが、衛宮士郎がマスターになってしまった場合、一番危険が及ぶのは桜のはずだ。なのにこの義妹はこれからも敵陣に踏み込み続けると言った。

 

「お前ッ…状況を理解してるのか!?衛宮は…」

「聖杯戦争に参加するマスターの可能性がある ですよね?でも、だからって必ず先輩を殺さなければならないとは限りません」

 

桜の言っていることは間違いではない。聖杯戦争での勝利条件はマスターの殺害、または相手サーヴァントを倒すことだ。もし後者の場合はマスターに戦意がない場合、戦いが終結するまで教会の保護を受ければ、死亡は間逃れる。

 

「それに、マスターの一人を身近で監視できるんですよ?それにもし先輩に光太郎兄さんがマスターの1人とバレたとしても、私を人質にするような卑劣な人じゃありません!」

 

兄さんも分かっているでしょ?と言わんばかりにフフンと鼻を鳴らす桜。唖然とする慎二だったが、段々と笑いがこみ上げてきた。

 

「は、ははは…ハハハハハハ!」

 

公私混同もここまで来てしまうともう笑うしかなかった。あの兄あるところにこの妹あり。血が繋がっていないのに、ここまで似てしまうのだから。どうしてここまで前向きに考えられるのであろうか。遠坂にいる実姉が同じ状況で同じ言葉を聞いたら、さぞかし愉快な顔をするだろう。

 

「兄さん?」

「ハハハ…ハァ、負けたよ。好きにしろよ。光太郎には僕から言っておく」

 

桜の主張を光太郎へ伝えた時の顔を思い浮かべる。反対してもなんだかんだで結局は折れる未来がまっているだろうが。

 

「しっかし、お前はよほどあのバカが気に入ったみたいだな。」

「それだけじゃありません。これが私の出来ることですから」

 

微笑みながら桜は言葉を続ける。

 

「光太郎兄さんは私達が普通に暮らせるように、私達が見えない所でずっと、今でも戦ってます。私にはそれを手伝うことはできない。だから…せめて光太郎兄さんが戦いに集中できるように、全力で普段通りでいること。そして戦っている光太郎兄さんとライダーさんの帰りを待つこと。それが…私に出来ることですから」

「桜…」

 

泣き虫で、人見知りだった桜がここまで言うようになった。あの男の影響力を改めて思い知ったなと考えた慎二は思わず桜の頭に自分の手を置く。

 

「兄さん…」

 

光太郎であれば優しく撫でるとこであるが、あいにく自分は光太郎ではない。

 

「わ、キャァ」

 

グシャグシャと髪をかき乱してやった。

 

「な、何するんですか!?」

「御礼だよ御礼。おかげでなんだかスッキリしたからな」

「??」

 

涙目で髪を整え始める桜は兄の言うことが理解できなかった。慎二はそんな桜にお構いなしで自分の机上にある魔導書を手に取った。

 

そう、自分は自分だ。光太郎の真似なんかする必要などなかった。普段通りの自分でいればいいし、『自分にできること』で自分の周りをなんとかすればいい。変に兄の真似をしたり、足手まといでいるなんて真っ平御免だ。

 

「桜、今から時間あるか?」

「はい!私もそのつもりでいましたから」

 

そう言うと桜は手に持った『モノ』を慎二に見せる。

 

「よし、じゃあいつも通り地下に行くぞ」

「はい!」

 

慎二は他数冊の魔導書とノートを持つと、桜と共に移動を開始した。

 

 

その頃、光太郎とライダーは苦戦を強いられていた。

 

「グアァ!!」

 

すでに仮面ライダーに変身していた光太郎はコンテナに背中から叩き付けらた。

 

「くっ、ライダーは…」

 

少し離れた場所でライダーは2体のタカ怪人相手に防戦一方であった。攻撃を終えて上昇するタカ怪人に向けて鎖を投擲するが敵に届くことなく落下していった。

 

 

3体のタカ怪人は空から急降下し、攻撃を加えてはこちらの攻撃範囲外まで浮上するヒットアンドウェイによる攻撃を主としていた。夜の貨物場では明かりも少なく、どこから襲ってくるかも定まらない。そして俊敏性のあるライダーに対して波状攻撃をするために彼女へ2体も差し向けているところから、今回は完全に光太郎とライダー2人を狙っていたのであろう。

 

「このままじゃ…うわッ!」

 

身体を無理矢理捩じって回避する光太郎。最初に不意打ちを受けた時と同様、光太郎が避けた後に路面に鋭い爪痕が残った。すれ違った一瞬しか姿を確認できなかったが、タカ怪人はその名の通り背中に大きな翼と両足に加え、両腕にも爪を持っていた。

 

(キングストーンを使ってもすぐに範囲外に逃げられる…このままでは)

 

なんとか反撃の切り口を探す光太郎。だが、その背後に敵の攻撃が迫りつつあった。

 

「コウタロウ、危ないッ!」

「!?」

 

ライダーの一言に真上を向く光太郎。しかし、タカ怪人が向かってくる気配はない。

 

「違いますコウタロウ、後ろです!」

「なッ!?」

 

攻撃が上空ばかりと考えた光太郎だったが、タカ怪人は光太郎の背中目掛けて両足を向け低空飛行の姿勢で突撃してきた。

 

(駄目だ…間に合わな…)

 

振り返るも回避に間に合わないと悟った光太郎だったが、真横から受けた別の衝撃に吹き飛び、タカ怪人の攻撃を受けることはなかった。倒れた光太郎は身体を起こすと、自分に誰かが抱きついていることに気付く。

 

「…ッ!?ライダー!?」

「無事…のようですねコウタロウ」

 

光太郎の無事を確認し安心するライダー。彼女の足には、深々とタカ怪人の爪による傷が残っていた。2体のタカ怪人の攻撃を掻い潜り、光太郎を押し倒す形で庇ったが、その際に足へタカ怪人の攻撃を受けてしまったのだ。

 

「ライダー!俺を庇って…」

「大したことは…ありません」

 

苦悶の表情を浮かべながら答えるライダー。立ち膝で彼女を支える光太郎は自分を呪うかのように声を震わせた。

 

「すまない…俺なんかのために」

「そのようなことは…言わないでください」

 

光太郎の肩を掴んで、何とか立ち上がろうとするライダーだが、想像以上に傷が深く膝を着いてしまう。

 

「私は…貴方のサーヴァントです。貴方の盾となるのは…当たり前のことです」

「ライダー…」

「それに…貴方を傷つけてしまったら、あの二人に申し訳が立ちません」

「あの二人…慎二君と、桜ちゃんか」

 

ゆっくりと頷くライダー。

 

「私は約束したんです。貴方と共に、シンジとサクラの元へ帰るのだと。だから、貴方に傷つかせるわけにはいかない」

「なら、もう約束を破るところだったぞ?」

「え?」

 

光太郎はライダーの両肩を掴んで、眼帯の向こうにある彼女の両目を見て話す。

 

「その約束を守るのなら、ライダーだって傷ついたら駄目だ!俺を守ってくれるのは嬉しい…けど、ライダーが傷付くことは俺が耐えられない」

「コウタロウ…しかし、私は」

「サーヴァント…と言いたいんだろう?なら、俺からの命令だ」

 

命令…という言葉を聞いてで令呪を使われるのかと思ったライダーだったが…

 

「君が俺を守るように…俺にも君を守らせてくれ」

「……………」

 

思わず固まってしまう。それは令呪による強制以上に、ライダーを縛り上げる言葉だった。

 

「前代未聞ですよ…サーヴァントに守らせろという命令なんて」

「そうかい?」

「そうですよ。しかし、命令となら従わなければなりませんね…」

 

ライダーの肩を掴む光太郎の手に、彼女は自分の手を重ねた。

 

「分かりました。私の現代での命、マスターに預けます」

「ああ、任せてくれ!帰ったら、怪我したことは二人で謝ろう」

 

その言葉を聞いたライダーはゆっくりと立ち上がる。まだダメージは残っているはずなのに、まるで力が湧いてくるような気分だった。

そして上空で自分達を狙う敵を睨んだ。

 

「どうします?敵には未だダメージを追っていません」

「俺に考えがある」

 

現状を打破するアイディアをライダーに伝える光太郎。その内容を聞いたライダーは顎に手を当て、しばし悩むような仕草を見せた。

 

「確かにそれならば…しかし、コウタロウが危険な目に」

「俺とライダーなら、大丈夫さ!」

 

光太郎の言葉にライダーは微笑んで同意した。

 

「よし、バトルホッパー!!」

 

光太郎の叫びと共に緑色のオフロードバイク、『バトルホッパー』が倉庫内から飛び出してきた。

 

「さぁ、ついて来い!」

 

バトルホッパーに飛び乗った光太郎は挑発するように飛行するタカ怪人に呼びかける。

 

『キエェェェェェェェェ!!』

 

ライダーが傷を負い、動けないと考えたタカ怪人たちはバイクで貨物置場を走行する光太郎に狙いを定めた。再び低空飛行で光太郎の背後を狙う。

 

(よし、このまま付いて来い!)

 

タカ怪人3体が自分を追ってきていることを確認すると、光太郎はその先にある巨大な鉄塔に向けてアクセルをさらに回す。

スピードを上げたバトルホッパーをジャンプさせると、なんと鉄塔を高速で登り始めた。

 

謎の行動に驚くタカ怪人たちだったが、光太郎を追うように上昇する。やがて鉄塔の先端部分に差し掛かるところで、光太郎はバトルホッパーからさらに天高くジャンプする。上昇するタカ怪人と大きく距離を離すが、次第に落下し始める。

 

光太郎との距離が10メートル弱となり、タカ怪人たちは両腕の爪を向けるが、下から何かが飛んでくる音に目を向ける。

 

見ると真下からライダーが鉄パイプを次々とタカ怪人に向けて投擲していた。資材置き場で見つけたそのパイプを手にとっては休むことなく投げつるライダー。

しかし、向けられた鉄パイプを避け、弾かれてしまう。やがて手元にあった鉄パイプは尽きてしまったが、それでもライダーは

タカ怪人たちの姿を見てニヤリと笑う。

 

ライダーの投げた鉄パイプ避け続けたタカ怪人たちは、『縦一列』に並んでいたのだ。

 

「ウオォォォォ!!!」

 

そしてすでにベルトの力を右手に収束した光太郎がタカ怪人たちに迫っていた。

 

「ライダーッ―――」

 

エネルギーを纏った手刀を

 

「―――チョォップッ!!!」

 

タカ怪人達に向け、振り下ろした。

 

断末魔を上げることなく、タカ怪人3体は縦に両断される。

 

ライダーの背後に着地した光太郎は手刀を払うように横に振るい、ライダーはその長い髪の毛をかき分け、風で靡かせる。

 

背中合わせで立つ2人の上空で、大きな爆発が起こった。

 

 

 

「………………」

「………………」

 

暫く無言だった二人であったが、ゆっくりと向かい合い、どちらかともなく、声をかけようとしたが―――

 

 

「こりゃまた面白いもん見させてもらったぜ」

「教会を尋ねる前に遭遇とは…」

 

 

『ッ!?』

 

声を発せられた方へ同時に振り向く。

 

そこには『青い男』とスーツを纏った短い髪の女性が立っていた。

 

 

 

 

 




さて、時系列が少しばかり狂い始めましたがご容赦を

ご意見、ご感想おまちしております!!


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第9話『殺し合いの開幕』

PCと体調の不良でだいぶ遅れてしまいましたが、ちょいと煮詰まってペースが今以上に遅れてしまうかもしれません…

では、9話です。


光太郎とライダーはゆっくりと歩いてくる二人組を警戒する。それは相手が一歩、また一歩と近づく度に強まった。

 

(この気配…ゴルゴムの怪人ではない。なら…)

 

街灯の明かりでようやく見えた2人の全貌…光太郎は確信を持ちながらも尋ねた。

 

「貴方達は…聖杯戦争に参加するマスターと…サーヴァントですか?」

「おおッ間違えないぜ!」

「…………」

 

恐らくサーヴァントであろう青い髪の男はあっさりと認めたが、マスターであるスーツ姿の女性は口を開かず光太郎達を…いや、光太郎の姿を無言で観察しているようだ。

 

「バゼットよぉ、奴さんがせっかくこっちに声かけてくれてんだから少しは…」

「…貴方なら分かっているでしょう?」

「あ?」

 

スーツ姿の女性…バゼットは隣に立つサーヴァントの軽口を遮ると小声で続ける。

 

「あの二人…どちらも特異な容姿をしていますが、同じサーヴァントであるならば」

「おうよ。美人さんの方…面拝めぇのは残念だが」

「そちらの感想は聞いていません」

「…サーヴァントに違いねぇ」

 

つまらなそうに青い男は同意すると、ライダーへ目を向ける。先程の戦闘で負傷しているようだが、それを補うほどの闘志と敵意をこちらに向けてくる。いつ仕掛けても対応できるようにしているらしい。同じサーヴァントとしては敬意を払いたいくらいであるが、男の興味は別の方へ向いていた。

 

「問題はマスターの方です。さっきの戦いであれ程の力を振るっていながら、魔力を全く使っていない。いえ、今でさえ魔力を感じられません…」

「なら…試してみるのが一番じゃねぇか?」

 

光太郎の分析を続けるバゼットの隣から離れると男は光太郎達に向かい、ゆっくりと足を進める。

 

「何を考えているのですか?」

「あの黒いのが気になるんだろ?だから色々と見せて貰うほうが話が早ぇ」

「…………」

 

バゼットは指に顎を当てながら考える。聖杯戦争は相手のサーヴァントの力と正体を見極めることが勝機に繋がるが、同様に相手マスターの力量を知る必要があった。今、自分のサーヴァントがやろうとしていること。…性格から考えて半分以上は純粋に戦いたいからであろうが、自分の意図することであれば止める理由はなかった。

 

「…任せましょう」

「ハハッ!話が早くて助かるぜ…つー訳だ黒いの!!」

「ッ!?」

 

突然の呼びかけに光太郎は身構える。

 

「相手になってもらうぜ…!」

 

青い男がニヤリと笑い、手を広げると紅い槍が出現した。

 

(槍…ランサーのサーヴァントか)

 

接近するランサーに対し、構えた拳に力を込める光太郎。しかし、両者の間に今まで光太郎の隣にいたライダーが割って入る。

 

「…悪ぃが怪我人をいたぶる趣味はねぇ。引っ込んでな」

「お気遣いは結構です。それに、サーヴァント同士で戦うのが当然なのでは?」

 

目を細めるランサーへライダーは得物である杭を向けながら問いかけた。負傷していると言えど、この場でランサーの相手となるべきサーヴァントは自分であり、従来の聖杯戦争の通り光太郎は相手のマスター同様、後方で自分に指示を送るべきとライダーは考えていた。しかし、光太郎の行動は違った。ライダーの肩に優しく手を置き、それに気づいたライダーが顔を向けると首を横に振る。

 

「…下がってくれライダー」

「コウタロウ…ですが!」

 

光太郎の言葉に納得のいかないライダー。しかし、光太郎は小声でライダーに続けての指示を送った。

 

「…いつでも逃げられる準備をしてくれ」

「…ッ!?」

 

マスターの意図が理解できないライダーを無視し、光太郎は続けて話した。

 

「…さっきの戦いもあって俺達は万全の状態じゃない。幸いにもあちらは傷ついているライダーでなく、俺に狙いを定めている。だから俺がある程度戦ってどうにか隙を作る。その時に撤退しよう」

「ですが…光太郎が戦わなくても、ここを切り抜ける手段もあります」

 

ライダーの持つ『手段』を使えば、ランサー陣営を振り切って撤退することも可能だ。だが、それでも光太郎は首を縦に振らなかった。

 

「確かにね。けど、『あの子』を呼んでしまったらライダーの真名が相手に知られてしまう可能性がある…だから、呼ぶとしたら全力で戦う時だ」

「………」

「そして、俺とランサーの戦いを見ていれば、次に戦う時のヒントになるかもしれない…だから」

 

光太郎の判断は適格である。ライダーの切り札を見せることなく、相手の力量を測った後に撤退すれば次回の戦いに勝機を見出すことも可能だろう。確かに納得する内容だが、ライダーはそれ以外の理由を光太郎が抱いているのではないかと思えた。

 

「…わかりました。お任せします」

「ありがとう…」

 

光太郎はライダーを後に下がらせ、ランサーと向かい合う。ランサーは笑いながら槍を構え、それに合わせるように光太郎も構えた。

 

 

傷ついたライダーに戦わせず、自分が前に出て時間を稼ぐ。そうライダーを納得させた光太郎だったが、彼女に悟られないようにしていた事があった。

 

(覚悟…か)

 

心中で呟いた事を、光太郎は1月ほど前…ライダーを召喚する前にとある人物に問われていた。

 

 

 

1ヶ月前 某ゲームセンター

 

「…覚悟?」

「そうだ。これから呼ばれる英霊共は雑種でありながらその枠を超越した存在ばかりだ」

 

大学の帰りに金髪の青年に遭遇した光太郎は無理矢理ゲームセンターに連行され、格闘ゲームの相手をさせられていた。

 

「でも、聖杯戦争はそのサーヴァントっていう英霊同士での戦いなんだろ?ここでコンボっと!」

「その通り。だが、外れのサーヴァントを引くか、そのサーヴァントに情がわいた場合…チッ、生意気な!」

 

筐体を挟んで会話をしながら、お互いのキャラクターのヒットポイントを削り合っていく光太郎と青年。

 

「その場合…なんなんだ?」

「貴様は間違いなく自分から戦うと言いだすだろう。その時の覚悟のことだ」

 

笑いながらキャラクターを操作する青年の言葉を、レバーとボタンを乱暴に操作しながら考える光太郎。筐体の向こうにいる青年に敗北以来、訓練を続け体内に宿るキングストーンの力をうまく引き出せるようになり、出現するゴルゴムの怪人達とも次々と撃破していった。自惚れるわけではないが、例え英霊が相手でも引けを取らないつもりはある。この目の前の青年が相手でも…

 

「…ああ。場合によっては戦うつもりだ」

 

本来は望まない戦いではあるが、光太郎には戦い抜かなければならない理由もある。だが、その信念は青年の言うことに大きく揺らいでしまう。

 

「その相手がいつもの遺物共ではなく、『人間と同じ姿をした』相手でも、か?」

 

光太郎の手が止まった。

 

「確かに力だけならそこらの雑種よりは上だろうよ。だが、それだけの連中だ。手足をもげば動けず、心の臓を貫けは簡単に…死ぬ」

 

畳み掛ける青年の声に光太郎は操作をすることすら止めてしまった。

 

確かに今まで自分の力を振るい、倒したのは怪人だけだ。中にはかつて人間だった者もいたかもしれない。それでも倒せたのは『人間の姿ではない』からだ。もし自分の力が。変身する前も、軽く掴むだけでサッカーボールを握りつぶしてしまうような力を人間に…弟や妹のような存在にぶつけたら…そんなことは想像すらしていなかった。

 

青年は戦う覚悟ではなく、相手に対して力を振るう覚悟を問いかけていたのだ。

 

 

『K・O!!』

 

 

気が付けば、光太郎のキャラクターのヒットポイントはゼロになっており、青年のキャラクターが画面の中で勝ち名乗りを上げていた。

 

「いずれは結論を出すだろうがな」

 

それだけ言うと、青年は去って行った。

 

光太郎は店員に呼び掛けられるまで、その席から動くことができなっかった。

 

 

 

(情けないな…あれだけライダーに大見得を切って、寸前で迷うなんて)

 

例え戦いの中で散っても、元いた場所に戻るだけ。殺す事にはならないとライダーから聞いていた。それでも、光太郎は怪人以外に力を向けることに結論を出せずにいた。逡巡する光太郎の前に、目の前の男が語りかける。

 

「…お前さん、何にビビッてんだ?」

「ッ!?」

 

構えと解き、槍の柄で肩をトントンと叩くランサーの言葉に光太郎は動揺した。

 

「察するに…さっきの怪物共を片付けた力を俺に向けるのに迷ってるってトコか」

「…なぜ」

 

自分の抱いている事を見抜けたのか。ランサーは呆れたように答えた。

 

「なめんなよ。若造のくだらねぇ悩みなんざ素顔を確かめるまでもなく、お見通しだ」

 

光太郎の苦悩を一蹴したランサーは槍の柄尻をアスファルトにドンッと叩き付けると、大声で叫ぶ。

 

「いいか!戦う相手を気を使うなんざ戦場で無用の長物!それは相手への屈辱以外何物でもないと知れ!!」

 

ランサーの怒声に思わずたじろぐ光太郎。その迫力はゴルゴムの怪人と段違いだった。

 

「それにだ。お前さんがここにいるのはそうまでしなくちゃならない事がある。だからこの聖杯戦争なんつー殺し合いにも参加している。違うのか?」

「あ…」

 

そうだった。

 

光太郎には、この聖杯戦争を勝ち抜かなければならない理由がある。亡き友と家族に誓い、ゴルゴムの野望を阻止すると同じように。

 

 

「…ま、俺には加減なんざ必要ねぇよ。これでも英霊っ呼ばれるくらいに長い間戦ってきたからな」

「……………」

 

あの時から保留していた青年に問いに光太郎はようやく回答を出せた。正直に言えば、力を振るいたくない事は変わらない。だが、自分の信念を貫くため。そして敵でありながら光太郎を導いたサーヴァントに応えるために。

 

「…ありがとう」

「怒鳴った相手に礼なんて、変わってんなお前さんは」

「よく言われます…」

 

仮面の下でクスリと笑った光太郎は再び構える。それは先程のように迷いのない、力強いものだった。

 

「…いいねぇ。バゼットォッ!方針変更だ!!」

 

嬉しそうに笑うランサーは自身のマスターへ呼びかけ、光太郎に向かい再度槍を向ける。

 

「こいつはこの場で倒す。調べんなら死体でも十分だろ?」

「……いいでしょう。不確定要素は摘んでおくに越したことはない」

 

勝手なこと…と言いたそうな顔をするバゼットだったが、反対はしなかった。相手と同じように、後方にいるライダーへ断りを入れようと振り返る光太郎だったが、彼女は言葉にするまでもなく、光太郎の顔を見てゆっくりと頷いた。

 

『御武運を』

 

そう祈っているように光太郎には聞こえた。

 

「さぁ…始めようじゃねぇか」

 

「ああ…勝負だッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




光太郎の言う訓練の中には昭和ライダーでおなじみの落下する岩に向かって技を繰り出して強化を図るものもあったりします。

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第10話『必殺の一撃』

本年最後の投稿となります。

たくさんのご感想、ご意見を頂き誠にありがとうございます。

来年も引き続き読み続けて頂けたら幸いです。

では、10話です!


「ようやく始まるか」

 

金髪の青年は鉄塔の最上部に腰を下ろし、目下で対峙する光太郎とランサーの姿を見ていた。

 

「我との戯れからどれ程成長したか…見せて貰うぞ『黒陽』」

 

 

 

「トアッ!!」

 

先に仕掛けたのは光太郎だ。アスファルトを蹴り、ランサーの顔目がけ拳を放つ。

 

「へッ」

 

ランサーは首を逸らし回避。しかし、光太郎の攻撃は止まらない。

着地した左足を軸足に背中を狙い回し蹴りを繰り出すが、ランサーは振り返ることなく前へ一歩出るだけで光太郎の攻撃を空振りにさせた。

 

「どうしたい、その程度か?」

「まだまだぁッ!!」

 

ようやく振り返ったランサーへ光太郎は次々とパンチとキックを繰り出していくが全てが空を切るだけで終わってしまう。それでも休むことなく、攻めに徹する光太郎。

 

戦いを見守るライダーはただ闇雲に仕掛けるマスターの行動に疑問を抱いた。

 

(…ランサーに攻撃をさせない為に『先の先』を取っている?いえ、コウタロウが考えなしにそのようなことをするとは考えずらい)

 

今まで怪人とは違い、相手は過去に英雄と称えられ、英霊へと祀り上げられた存在。小手先の通じると思うはずがない。だが光太郎は我武者羅に向かい、体力を消費しているのに過ぎないのでは、と考えていたライダーだったが

 

「オオオオォォォッ!!」

(コウタロウ…まさか)

 

 

 

(コイツの攻撃…かするだけでもヤバいが、当たんなきゃいいだけだ。おまけに…)

 

回避を続けるランサーは光太郎の攻撃の『癖』に気付いた。

 

(拳を2,3回繰り出した後に蹴りを打ってくる…そこを突かせてもらうぜ)

 

光太郎の攻撃を避けながらも隙を狙っていたランサー。次の攻撃…3回目の拳をかわし、蹴りを出そうと上げた足を槍で貫く。算段を決めたランサーは光太郎の放つパンチを心中でカウントした。

 

光太郎はランサーに向けて放つのは右ストレートパンチ。

 

(1発…)

 

ランサーが左に移動し、回避すると光太郎は続けて身体を回転させ左拳による裏拳でランサーを狙う。

 

(2発…)

 

顎を引き、これも回避したランサーへアッパーを仕掛ける光太郎。

 

(これで…3発!)

 

槍を握る手に力をこめ、浮いた左足に狙いを定めるが…

 

「ッ!?」

 

ランサーの待っていた光太郎の蹴りは打たれることはなかった。一度浮いたその左足は、光太郎の『4発目の拳』と同時に一歩強く踏み出されたからだ。

 

「トアッ!」

「ック!!」

 

ランサーに迫る光太郎の拳。だがその拳はランサーに届く寸前に狙いが逸れ、不発と終わる。ランサーが槍の柄で光太郎の手首を弾き、軌道を逸らしたのだ。

 

ランサーは後方へ跳躍し距離を取ると、楽しそうに笑いながら光太郎を見る。

 

「一杯食わされたぜ…やるなぁオイ」

「………………」

 

一方、光太郎は無言で再びランサーに向かい構えを取る。光太郎に取っては先程の拳でランサーが一瞬でも怯んだ際に必殺技を撃ち、勝負を決めるつもりでいた。

 

ワザと相手に自分の攻撃がパターン化していると思わせ、不意を突く…通じるかは賭けであったが、見事に失敗してしまった。今まで対峙した怪人達はゴルゴムの幹部がある程度の指令を出さない限り、元となった動物の本能に近い戦法だった。だが、目の前の男は違う。囮の動きとはいえ、光太郎の攻撃を全て避け、不意打ちも反射的に回避している。

 

長い戦いの中で培った戦闘経験。英霊の名は伊達ではないのだ。

 

(もし、先に仕掛けられていたらなんて…考えたくないな)

 

光太郎は金髪の青年が言っていた事を思い出す。人間でありながらその枠を超える力を持つ彼らの攻撃…目の前に立つランサーなら槍を使った一撃必殺を得意とするはずだ。

 

(同じ手はもう通用しない…ならば!!)

 

先にこちらの最大の攻撃を仕掛けようと、ベルトに両拳を重ねようとしたその時

 

「ランサー、一突きで決めて下さい」

 

今まで事の成り行きを無言で見守っていた相手のマスターの指示が出た。

 

「あん?無粋なこと言うなよ。これからって時に」

「これ以上長引いたら人除けを施しても流石に騒ぎとなる…それに、聖杯戦争はまだ始まったばかりです」

 

不満をぶつけるランサーだが、マスターのバゼットは構うことなく状況を伝えた。

 

「…ったく、せっかく盛り上がる所を…悪ぃな。マスターの決定には従わなきゃいけねぇ。だから…」

 

両腕で槍を構えたランサーの雰囲気がガラリと変わる。

 

「これで幕引きだ…」

 

仮面の下で冷や汗を流す光太郎。これからランサーが撃ち出すのはおそらく『宝具』による攻撃。英霊が英霊である証であるその攻撃に対して、光太郎も必殺技をぶつけようと構えをとるが…

 

あれは…アブナイ

 

そう頭に響いた気がした光太郎の行動とランサーの攻撃は同時だった。

 

 

「キングストーン―――」

 

 

 

 

「刺し穿つ―――」

 

 

 

 

「―――フラッシュ!!!」

 

 

 

「―――死棘の槍!!!」

 

 

光太郎の放つ閃光に向け、ランサーはその槍を突き立てた。

 

 

 

 

 

ガシャンッと落下した音の方へ桜は振り向いた。

 

「あ…」

「どうした桜?って、光太郎のカップか」

「はい…兄さんのお気に入りだったのに」

 

食事を終えた慎二と桜はリビングで一息入れている時であった。しっかりと棚に収納されていたはずの光太郎用のカップが床に落下し、無残にも砕けてしまったのだ。

 

(兄さん…ライダーさん)

 

未だ帰らない長兄と協力者の身を案じる桜であった。

 

 

 

 

 

 

互いの行動を終えた光太郎とライダーはその姿勢を保ったまま、微動だにしなかった。

 

光太郎はベルトの上に両拳を重ねたまま。ランサーは未だに槍を突き出した状態だ。

 

「……………………」

「……………………なるほどな」

 

先に沈黙を破ったのはランサーだ。

 

「お前が放った妙な光…あれでゲイボルグの『心臓を貫く結果』を歪めやがったか」

「………………」

「つくづく面白いなぁお前…だが」

「…………っ」

「避けるとまでは…いかなかったみてぇだな」

 

ランサーの槍は光太郎の脇腹を貫き、背中から血に染まった刃が突き抜けていた。

 

「コウタロウッ!?」

 

ライダーの叫びが聞こえた途端、光太郎は震える手で自分を串刺しにしている槍を掴む。

 

「…やめときな。もう終いだよ。俺がこのまま切り上げれば…ッ!?」

 

光太郎の意図が分かったランサーは光太郎の腹部に蹴りを叩き付け、同時に槍を乱暴に引き抜いた。蹴り飛ばされた光太郎は2回、3回と転がるとやがて動きを止めると身動き一つせず、ただ血液が流れ出るだけであった。

 

「…どうしたのですかランサー?あれ程の状態であれば」

「俺もそう思ったんだがよ…あの野郎、あの状態で槍を折ろうとしやがった」

 

笑いながらも汗をかくランサーは寸前の状況を思い出す。震える手で槍を握る。これ自体が囮であり、本命である反対の手で手刀を作り、今にも振り下ろそうとしていたのだ。

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

「そんで、立ち上がるときたもんだ」

 

傷口を抑えながら光太郎は立ち上がっていた。肩で息をし、血液を多量に流しながらもその闘争心は衰えることはなかった。

 

「お前さんはよくやったよ。せめて止めは…」

 

槍に付着した血液を一度払うと、ランサーは止めを刺そうと光太郎に近づこうとしたその時。

 

 

「ブオォォォォォォォォォッ!!」

 

「なッ!?」

 

「ぐ、アァァァァァッ!!!」

 

突如、貨物を突き破って現れた怪人の体当たりを受けた光太郎は吹き飛ばされ、別の貨物に叩き付けられた。

 

「んだよ、さっきのお仲間か!?」

「もう1体いたとは…!」

 

ランサーとバゼットは乱入者…バッファロー怪人を見た。狙いはあくまで光太郎でり、自分達に目もくれず、ひしゃげた貨物に手を置いて立ち上がろうとする目標に再び突進した。

 

「く…」

 

なんとか立ち上がった光太郎だが、先ほどのダメージと出血により、足に力が入らず再び倒れそうとなるが…

 

「しっかりして下さい!コウタロウ!!」

「ら、ライダー…」

 

ライダーに抱き止められ、倒れることはなかったが、ライダー自身も足の負傷で光太郎を支えるのがやっとの状態であった。

 

「てめぇ、いい加減にしやがれッ!!」

「待ちなさいランサー!!」

 

マスターの制止を無視し、光太郎達にせまるバッファロー怪人の背中目掛け、槍を繰り出そうとするランサー。だが、その槍が届く前に『別の何か』がバッファロー怪人の背に突き刺さった。

 

「ブボッ!?」

 

「こいつはッ!?」

 

何かを悟ったランサーは急いで反転し、唖然としているマスターを背負うとその場から全力でジャンプする。

同時にバッファロー怪人は大爆発を起こした。

 

 

「あれは…一体?」

「さあな。けど、あんな芸当ができるなんて限られてると思うがな」

 

 

港から数キロ離れた場所に位置するとあるビルの屋上。そこでは黒い弓を構えた男が遥か先で起きている爆発を見つめていた。

 

「…すまないなマスター。仕留めそこなった」

「何言ってるの?確かに化け物を倒したじゃない」

「いや、近くにいたサーヴァントやそのマスターも纏めて始末しようとしたのだがね…」

 

特に残念がる様子もなく、淡々と状況の説明を隣に立つマスターへ報告する男は手に持った弓を消滅させる。

 

「あの状況で生きてるなんて…その黒いマスターってのも化け物じみてるわね」

 

風で靡く黒髪を整えながら、マスターと呼ばれた少女…遠坂凛はその場を後にしようと歩き出す。

 

「いいのか?もう一度狙えばマスターを確実に仕留められるが」

「いいわ。今回は様子見よ。それに、あの黒いのにはこの町を大分助けてもらったし…セカンドオーナーとして借りを返しておくわ」

「…そうか」

 

やれやれと肩を竦める男は凛の後に続いた。

 

 

「…無傷?あれ程の衝撃がありながら」

バッファロー怪人が爆発後、ようやく視界が晴れた際にライダーは2つの違和感を覚えた。1つは目の前に迫ったあの怪人が爆発したというのに、自分にはなんの余波も受けていない。そしてもう1つは、自分の手の中にいた光太郎の姿がなかった事。

 

その疑問は、周囲を舞う粉塵が消えた後に判明した。

 

「コウ…タロウ…」

 

ライダーが目にしたのは、彼女の前に立ち、両拳をベルトの上で重ねたまま仁王立ちをしている光太郎だった。

 

バッファロー怪人が謎の攻撃を受けて爆発する寸前、光太郎はライダーを自分の背後に移動させると、最後のパワーを振り絞り、キングストーンフラッシュで防護壁を張ったのだ。

 

「私を庇って…コウタロウ!!」

 

複眼から光が消え、元の姿となった光太郎は糸の切れた人形のように力尽きてその場に倒れそうになったが、再びライダーに抱き止められた。

 

「しっかりして下さい、コウタロウ!」

 

ライダーの呼びかけに返事はない。しかし呼吸は荒く、血液も未だに流れていた。

 

「早くここを離れなければ…しかし」

 

ライダーも足の怪我が災いし、光太郎を担いで移動することが出来ない。どうすればいいかと考えていた時、自分たちに向かい、何かが近付く音に気付く。また新手かと武器を構えるが…

 

「!?あなたは…」

 

ライダーの目の前で止まったのは、光太郎の愛機にて家族でもある生体バイク、バトルホッパーであった。何かを訴えるように、仕切りに頭部に当たるカウルを左右に動かしている。

 

「…乗れと、言っているのですか?」

 

肯定するように、エンジンがドルンっと音を立てた。

 

「…お願いします」

 

光太郎を背負ったライダーの搭乗を確認すると、バトルホッパーはランサー陣営が避難した方とは逆の方向へと爆走を始めた。

 

 

 

 

 

「……贋作屋か」

一部始終を見守っていた金髪の青年はその背後で水の波紋のように歪んでいる空間から出ているいくつもの武器を再び収納すると、バッファロー怪人を倒した男のいたビルのある方向を睨んでいた。

 

「まぁいい。サーヴァント相手に臆することなく戦う姿勢。因果律を歪めるほどの力を王石から引き出すか…」

 

光太郎の力を見て、不機嫌であったその表情はやがれ獰猛な笑みへと変わった。

 

「そうだ。そうやって成長を続けろよ。そうでなくては困るからな」

 

誰に聞かせるわけでもなくそう呟いた青年は姿を消した。

 

 

 

 

 




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第11話『彼女の記憶』

若干お遅いですが、新年あけましておめでとうございます!

新年一発目はインターミッションのような内容で、少々短くまとめてあります。

では、今年も宜しくお願いします!


自分は夢を見ている。

 

そう光太郎は断言できた。

 

今、光太郎が見ているのは『彼女』の記憶。

 

かつて神話の時代。その姉妹は生まれ持った美しさ故に主神の娘である女神アテナの嫉妬を買い、誰一人いない孤島へと追いやられた。

 

しかし彼女は2人の姉にいびられ、泣かされながらも愛する家族と幸せに暮らしていた。

 

だからだろう。姉達を守る為に島へ上陸した人間たちを次々と手にかけた。

 

一目見ようとした者も、求婚を求めた者次々と石へと変え、『殺した』

 

 

愛する姉達を守るために。次々と。

 

 

だが、どこかで狂った。

 

 

守るためでなく、殺すために殺し始めた。

 

 

それが楽しくて楽しくて、仕方がなかった。

 

 

彼女は自分でも気づかぬうちに反転してしまった。

 

 

どれ程の人間を殺したかも、自分がどのような姿となったのかも、もう分からなくなっていった。

 

 

そして彼女が最後に飲み込んだのは、守るべき2人だった。

 

 

2人の姉は恐れることもなく、ただ妹の身を案じて消えていった。

 

 

 

それが彼女が彼女であった最後の記憶。

 

 

 

過去の聖杯戦争について義弟に聞いたことがある。残された記録によれば、マスターとサーヴァントの間には何かしらの共通点があるという。それは信念、抱いている野望と千差万別らしい。

 

ならば彼女との共通点とは見た夢の中にあったのだろうか。

 

自分が原因で、愛する者を失くした悲しみと後悔。

 

彼女を召喚し、すぐにでも義弟と義妹に紹介したかったのは、彼女を一目見た瞬間に『かつての自分』を重ねていただけかもしれない。

 

もう、一人ではないと思えたあの暖かい感情を彼女にも知ってもらいたかった…

 

 

目覚めた光太郎がまず目にしたのは見慣れた天井だった。

 

「ようやくお目覚めか」

 

パタンと本を閉じた方へと顔を向ける。いつも通りに不機嫌そうな顔をする義弟がこちらを睨んでいた。

 

「…ライダーは、無事?」

「第一声がそれかよ。まあ、光太郎らしいか…ライダーは問題ないよ。今も情報集めに外に出てる」

 

それを聞いて安心した光太郎は自室のベットに寝かされていることにやっと理解した。上半身をゆっくりと起こすと、脇腹がズキリと痛む。シャツを捲ると、ランサーのサーヴァントに貫通された傷は綺麗に塞がっている。しかし、内部まではそうはいかず、未だ組織再生に力を費やしているだろう。

 

光太郎の体内にあるキングストーンはそう簡単に宿り主を死なせてくれないらしい。

 

「桜に感謝するんだね。ずっと光太郎の傷が塞がるまでずっと魔力を使い続けたんだから」

「桜ちゃんが…?治癒魔術を?」

「あいつはまだそこまで出来ないよ。言った通り、簡易的な魔術で傷口を塞いでただけ」

 

ライダーによって急ぎ間桐邸に担ぎ込まれた光太郎は、自身の治癒能力によりすでに背中の傷は塞がっており、腹部の傷口も半分まで縮小していたが、出血の量はライダーが応急処置を施しても止まることはなく溢れ続けていた。そこで桜が行ったのは、傷口の周りにルーン文字を書いたテープで囲い、そこを魔力を通し小規模ながら『結界』を発生させる方法だった。

これにより血液をせき止め、後は光太郎自身が傷口を塞ぐまで結界の維持を続けていたのだ。

 

「後で礼でも言っておきなよ?」

「そうだね…慎二君も、ありがとう」

「…なんで僕に向けていうんだよ」

 

目を細める慎二に光太郎は笑顔で返答する。

 

「確かに魔力を使って俺に処置してくれたのは桜ちゃんだけど…そうやるように指示したり方法を教えたのは慎二君だろ?」

「…………………知らないね」

 

たっぷりと間を置いて答えた慎二であった。

 

事実、桜に対して指示をしたのは慎二である。

魔術師としての才能を持っているとしても、間桐家の養子となった後に魔術に触れることなく育った桜には知識は全くなく、出来るとしたら、予め用意された式に魔力を流し込む事を感覚的に可能。というのが光太郎の聞いた話だった。

 

先程話に出た光太郎の傷口に結界を張ることができたのも、その時に利用されたルーン文字が魔力を流せば結界という力場を作るという内容だからこそできた事だ。ルーンの文字を書くことができ、そのような事が考え指示できる人物は、常日頃から魔導書を読み耽っている慎二しかいなかった。

 

 

「…そういえば、あれからどのくらい時間がたったかな?」

 

これ以上追及してもまた癇癪を起こすだろうと話題を変えた光太郎は壁に掛けてある時計を見る。正午をさしているが、流石に日にちまでは分からなかった。

 

「光太郎達がボロボロで帰ってきたのは、3日前になるよ。それから随分と事態が動いた」

「…詳しく教えてくれ」

 

3日間。

 

それほどの期間がたったのに自分や周りの人間が無事であるなど奇跡的だと光太郎は思った。そしてその3日間で起きた事をライダー、そして衛宮邸に通っている桜から聞き得た情報を慎二は事細かに光太郎へ伝えた。

 

 

慎二の友人であり、桜の思い人である衛宮士郎が聖杯戦争のマスターとなったこと。

 

その衛宮士郎が魔術の名門アインツベルン家のマスターとサーヴァントに命を狙われていること。

 

成り行き上その場に居合わせた同じく聖杯戦争の参加者である遠坂凛が彼と同盟を組み、衛宮邸に住み着いたこと。

 

 

 

「…最後のは桜ちゃんにとって穏やかな話じゃないね」

「遠坂に危ないから出禁と言われても通い続けてるよ…で?」

「ん?」

「これからどうするのさ?」

 

慎二が尋ねたのは今後の方針だろう。

光太郎の聖杯戦争の初戦は敗北で終わっている。それでも大きく事態が動き出した戦いの中でも光太郎はまだ考えを練れる状態ではある。衛宮士郎のように狙われている訳でもなく、ランサーが再戦を求めて来襲する様子もない。

 

「…暫くは情報収集だね。それに俺もこんな状態だからね」

「ま、そうなるだろうね。それじゃ、僕は戻るよ」

 

光太郎の方針を聞いた慎二は立ち上がり、部屋を後にしようと立ち上がる。

 

「…ありがとうね、慎二君」

「………ん」

 

本日二度目の感謝に慎二は小さく頷いて部屋を出た。

 

「ふぅ…」

 

扉が閉まった途端、光太郎はベットに身を沈めながら慎二の聞いた情報を整理しながら、窓の外を見つめた。

 

(さっき聞いた情報の中にはゴルゴムが出現したという内容はなかった。あいつ等が大人しくしているはずがない。それに…)

 

光太郎は刺された腹部を手で押さえながらあの夜を思い出す

 

(あの時…ランサーとの戦いに出てきた怪人は明らかに俺の隙を狙って攻撃してきた。もしかしてゴルゴムは知っているのか…?この町で聖杯戦争が起きていることを)

 

 

 

ゴルゴムの秘密基地

 

水晶玉に映し出されているのは、バッファロー怪人が後一歩で仮面ライダーに止めをさせる所で爆発した映像が何度も映し出されていた。

 

 

「この破壊力…仮面ライダーを助けたのは間違いなく『英霊』であろう」

「まさか奴が契約している英霊以外に協力者がいたとは…」

「教会から送られた情報だけでは不足ということですか」

 

映像を眺3神官。聖堂教会の協力者から得た冬木で行われる聖杯戦争の情報を得たゴルゴムは、間桐光太郎がマスターとして参加していることを知り、その戦いに乗じて彼の抹殺を狙っていた。

 

「そんなチマチマした方法などで奴が倒せるものか!!」

「…ビルゲニアか」

 

神官達は振り返る先に立っていたのは赤い甲冑を纏った男、剣聖ビルゲニアである。

 

「…貴様に勝機があるのか?先日の戦いで武器であるビルセイバーは仮面ライダーによって破壊されたであろう」

「無策で動く俺と思うなよ…?」

 

ニヤリと笑うビルゲニアの手に握られている剣を見て、バラオムは驚愕する。

 

「そ、それは『サタンサーベル』!?」

「もしや…あの御方に!?」

 

神官達の動揺に満足するように笑うビルゲニアは紅く輝く刀身を持つ魔剣を振るう。

 

「そうだ!『創世王様』より授かったこのサタンサーベルで、俺は仮面ライダーを確実に葬ってやる!!ハァーッハッハッハッハ!!」

 

高笑いをしながら神官達から離れるビルゲニアが向かったのは、ゴルゴムの諜報員が収集した様々な情報や記録されている空間。

そこにはいくつものモニターが設置され映像が流されている。

 

(このサタンサーベルがあれば仮面ライダーごときに遅れは取らん。だが、勝利を確実にするにはビルセイバーに変わる剣がもう一振り必要だ…)

 

手に持ったサタンサーベルを強く握るビルゲニアは、ある戦いを映し出さしているモニターの一つを凝視する。

 

「前回の聖杯戦争とやらから引き続き参加するとは…ご苦労なことだな」

 

それには光太郎と戦ったランサーと互いの武器をぶつけ合う一人の少女の姿があった。

 

「星が鍛えた剣…まさに世紀王であるこの俺が持つに相応しい!!」

 

 




…あまり記憶に残っていない彼をどう動かすか、今年始めの課題ですな。

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第12話『二人の誓い』

どうにも連休となると体調が崩れてしまう…

では、12話です


間桐光太郎は身体がどれ程回復したかを確かめるため、運動時に着用するジャージに着替え、間桐邸の庭へと移動した。

 

「んっ…と」

 

柔軟体操を終えた光太郎はその場からジャンプする。その高さは光太郎の同年代の平均どころか、世界記録を大きく上回っていた。光太郎は滞空中に身体を丸め、前転すると着地地点に『何か』をイメージし、それに目掛け右足を突き出して落下する。

 

「トァッ!」

 

ドスンッと鈍い音を立て光太郎の右足が地面に接触したと同時に周りに土埃が舞う。

 

「ゴホッゴホッ…痛みはないし、傷はもう大丈夫みたいだな」

 

咽ながらランサーに刺された脇腹を叩いてみる。傷は勿論内部も完全に治癒し、変身して戦うことも可能だろう。

 

「次は筋トレ…の前に後片付けか」

 

光太郎は頭をかきながら辺りを見回す。自宅の庭とはいえ地面に大穴を空け、その穴に本来あるはずの土が庭を飛び越えガレージや玄関近くまで飛び散っている惨状であった。

 

「…桜ちゃんに怒られる前にやっておこう」

 

義妹の絶対零度の微笑みを思い浮かべながら、光太郎は箒を探し始める。

 

「手伝いましょうか?」

「ら、ライダー…何時からそこに?」

 

慌てて声の聞こえた方へ振り返ると、箒を持ったライダーがゆっくりとした足取りで近づいていた。

 

「先程コウタロウが豪快に飛び上がる所から…ですね。どうぞ」

「あ、ああ…ありがとう」

 

丁寧に答えるライダーから箒をぎこちなく受け取った光太郎は周囲に散った土の回収を始める。

 

「………?」

 

光太郎の態度に首を傾げるライダーだったが、予備の箒を持ち、マスターと同じ行動に移った。

 

暫くの時間、無言で掃除をする2人であったが、光太郎の心中は穏やかではなかった。

 

(…き、気まずい。あの夢を見てから猶更…)

 

マスターはサーヴァントの過去をレイラインでの繋がりから夢として見ることがある。光太郎はライダーの過去を盗み見してしまったような気まずさがあり、彼女を召喚したばかりの頃のようにどのように接すればいいか迷っていた。

 

(過去、か…)

 

自身の過去を思い浮かべる光太郎は手を止めてしまう。もし、同じようにライダーも自分の過去を夢として見ていたのなら、どう思うのだろう。

 

光太郎と同じく自分と似た境遇と考えるのか。もしくは…あんな事が起きても生き延びて、新しい家族と生きる道を選んだ自分を図々しく思っていないか…

 

さらに、見た過去の中に『聖杯戦争で戦う理由』があり、彼女に知られたら…と嫌な予感だけが延々と駆け巡っている心境であった。

力を合わせてタカ怪人を倒したあの時、ようやくライダーと通じ合えたと思った光太郎は、自分と彼女の共通する事をあんな悲しいことだけにはしたくない。彼女とは、それだけで繋がっていたくないと、光太郎は考えるようになってしまった。

 

「って、何を考えているんだよ俺は」

「なんの話ですか?」

「うおわぁッ!?」

 

二度の呼びかけに、今回は前回を上回る驚きをする光太郎。流石に心配になったライダーは不安げに尋ねる。

 

「コウタロウ、やはりまだ傷が…」

「いや、ないない!ちょっと考え事しててさッ!ライダーが心配するようなことじゃない!本当だよ!?」

「そう…ですか」

 

シドロモドロに答える光太郎だったが、ライダーはどことなく落ち込んでいるように見えた。

 

「あの…ライダーさん?」

 

思わずさん付けで尋ねる光太郎。

 

「…私は、それほど頼りないサーヴァントでしょうか?」

「そんなこと…」

「いえ、コウタロウがランサーと戦った時も、貴方が傷を負うまで私はだまっていることしかできませんでした。しかも、突然の事とはいえ、敵の奇襲から貴方を助けるどころか、貴方に守られてた。私は…」

「ライダー…」

 

彼女が自分の過去を見たのかは今の時点では分からない。しかし、今考えるべきなのはそこではない。今、ライダーを不安にさせてしまっているのは間違いなく今の自分の態度だ。ライダーは、ランサーとの戦いで光太郎が負傷した事を今でも気にしている。

見守っているように言われているに関わらず、だ。どこまでも真面目で、優しい彼女に対して、光太郎はゆっくりと自分の手をライダーの頭に乗せる。

 

「コウタロウ…」

「あの時は、色々とタイミングが悪かったんだよ。誰も予測できないさ」

「ですが…」

「それに、俺もライダーを頼りにしなかった」

「え…?」

 

光太郎の言葉にライダーは視線を上げる。

 

「情けないよな。直前に2人でお互いを守り合おうと言っておきながらあの様だからね」

「いえ、私が攻撃をしっかりと避けていればあのような…」

「だからさ。これで終わりにしよう」

「終わり…?」

「そう。何があっても、自分がしっかりしてなかったからとか、自分の責任…というのはこれで最後!この先の戦いで失敗しても、大きな怪我を負っても、どちらかの責任じゃない。俺達2人の戦いなんだから、責任は半分ずつ」

「……………」

 

ライダーは一度目線を落とすと、ゆっくりと口を開いた。

 

「本当に、我儘なマスターですね」

「自覚はしてるよ」

「それは、さらに性質が悪い」

「手厳しいな」

「ええ。これからは遠慮など、いらないのですからね」

「覚悟しないとな」

「はい、覚悟をお願いします」

 

厳しいことを通達する彼女の口は、あの夜よりも優しく微笑んでいた。

 

「あの、コウタロウ…」

「ん?」

「そろそろ…頭から…手を」

「…っと!すまないッ!いつも桜ちゃんにやってる癖で…」

「あッ…」

 

言われ慌てて手を引く光太郎だったが、ライダーが今度は残念そうに声を漏らす。気になった光太郎は無礼を承知でライダーに尋ねた。

 

「えっと…まだ乗せてた方が…?」

「い、いえ!そうではなく…」

「うん…」

「あの…あのように男性に撫でられるのは…初めて…で」

 

この時の光太郎は知らなかったが、ライダーにとって170cmある身長はコンプレックスの一つであった。姉達にも散々その長身をからかわれ、『殿方を逆に抱きかかえる方』とまで言われ続けられた。その彼女が自分の身長を上回る光太郎から、撫でられるという(ライダーから見たら)女性としての扱いを受けた事に戸惑いと嬉しさの感情が同時に押し寄せてしまったのだ。

 

「………………………」

「………………………」

 

先程とは別の意味で気まずくなった光太郎と、俯いて動こうとしないライダー。特にライダーは長い髪で光太郎の目には入らなかったが耳は赤く染まっている。

 

どれ程の時間がたつのだろう…と考えた時、ガレージの方から光太郎の携帯電話が響く。

 

「あ、ごめんライダー」

 

助かったと思いながらガレージ内にある作業台上で震える携帯電話を操作する光太郎。

 

「慎二君か。まだ昼前までなのに何か」

 

あるのかと言い切る前に光太郎は携帯電話を収納すると、同じ作業台にあったヘルメットを被ると急いでバイクに跨り、エンジンを付ける。

 

「何かあったのですか」

「ああ、二人が危ない!…ライダー、いけるか?」

「無論です」

 

光太郎は頷くと、ガレージから急発進。ライダーもそれに続き、その俊足で光太郎を追った。

 

 

慎二から光太郎の携帯電話に届いたメールには簡単にこう記してあった。

 

 

『学校に ゴルゴム』




いちゃつくというのはこうですか?わかりません


最近戦闘が全くないですが、次回からようやく動いていきます

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第13話『剣聖の強襲』

劇場版キョウリュウVSゴーバスを見てきましたが、まさにブレイブの一言でしなね~
しかし、最後の映画予告に色々と持っていかれました…

ここまできました、13話です!


間桐慎二にとって高校で起きた事態を義兄に報告できたのは不幸中の幸いと言えた。

 

 

その日、光太郎が負傷して以来部活を欠席していた慎二は、以前自分が失態し部長である美綴に説教を受けている際に影で笑っていた無礼な後輩共に備品の整理するよう指示した事を思い出し、その結果を確かめるべく休み時間に道場の倉庫へと足を運んでいた。

無論、自分をバカにしたという私情以外にもしっかりと理由はあり、普段の態度が悪かったことを顧問に焚き付け、気合を入れ直す意味も含まれてる。

しかし、それは失敗だったと慎二は後悔した。

その成果を見る限り、備品類は勿論物置も整理がなされている。慎二の知る限り、あの後輩達にここまで綺麗に仕上がるはずがない。しかもその配置や丁寧さには見覚えがあった。

 

「…あのバカが遅くまで学校にいたのはそういう理由か」

 

備品整理を面倒がった後輩共は、たまたま通りすがったかつての先輩…衛宮士郎に声をかけ、適当な理由を言って彼に押し付けたと慎二は推理する。断る事を知らない士郎は肩代わりをし、備品どころか倉庫の清掃まで行ったのであろう。

作業は下校時刻をとっくに過ぎており、その帰りにサーヴァント同士の戦いに巻き込まれ、今にいたる…

 

(…遠回しに僕の責任みたいじゃないか。クソッ!)

 

イライラしながら弓道場を後にした慎二はサボった後輩共の処遇を考えながら移動する。今度は美綴や藤村の立会いで的場と安土の整理を1ヶ月やせてやろうかなど次々と案を浮かべる慎二だったが、校舎に近づくにつれて妙な違和感を覚えた。

 

静かすぎる。

 

移動教室のためにバタつくはずの廊下やグラウンドの方から生徒の声どころか足音すら聞こえない。

 

「なんだ…?」

 

慎二は校舎に入らず、外から教室の様子を伺うことにした。1階にある1年生の教室の窓の下に移動し、ゆっくりと顔を上げながら室内の様子を見る。傍から見たら変質者だな…とぼやきながら教室内を見回すが誰一人見当たらない。別教室での授業の可能性があったが、さらに隣の教室内を見ると同様にもぬけの空だ。

 

「………っ!」

 

もう他の教室を確かめるまでもない。これは異常だ。慎二は状況を把握するため校舎に入ろうと下駄箱を駆け抜ける。上履きに履き替える余裕などない。

 

(桜…っ!)

 

まず義妹の安否を確かめなければと急ぐ慎二だったが、それは早計だったと思い知ることになった。

 

「なん…だ…?」

 

眠い…校舎に入った途端、慎二は突然の眠気と脱力感に襲われた。壁に寄りかかり、倒れる事は間逃れた慎二は廊下の空気中に漂う香りに気付く。

 

(まさか…こいつが!?)

 

これ以上この香気に吸ってはまずいと悟った慎二は口を手で押さえ、手近の窓を全開にして外の空気を目一杯に吸った。だが、このままでは自分が眠ってしまうのは時間の問題だろうと考える慎二の目に、何かの影が見えた。虚ろな目で見上げると、それは屋上から見下ろす植物に似た『何か』だった。

 

「ハハ…連中、とうとうここまで来るようになったのかよ…」

 

身体から力が抜けていくのが分かる。だが、その前に出来ることをしなければと慎二は携帯電話を取り出す。

 

(まさか身内の問題が学校まで及ぶなんてね…たまんないよ実際)

 

振るえる指でボタンを操作する慎二。携帯電話をいじるのにここまで苦労とは人生初の事態だろう。あまり長文を打てる状態ではないので必要最低限の文だけを打ち込む。あの義兄なら、見て1秒もしないで理解できるはずだ

 

(だから…責任取ってとっとと片付けてくれよ…)

 

義兄へのメールが送信された事を確認できた慎二の意識はそこで途切れた。

 

 

同じ頃、穂群原学園の様子を数キロ離れたビルの屋上からその千里眼で見ていたサーヴァントは隣に立つマスターへ状況を伝える。

 

「どうやら学校内に睡眠作用のある香気を空中に散布。それにより意識を失った生徒職員を一か所へ集めている。場所は…体育館か」

「…本当に、眠ってるだけなの?」

「そのようだ」

 

顎に手を当て、敵の狙いを探ろうと遠坂凛は思考を巡らせる。

 

凛は元々、こちらの忠告を無視して学校に向かった半人前の協力者を連れ戻しに来たのだがその途中、彼女のサーヴァントより学校で異変が起きた事を知った。

 

「…その運んでいる奴って、キャスターの使い魔の骸骨だったりする?」

 

これが柳洞寺を根城にしているサーヴァントであれば、眠らされた人々を魂喰いするという最悪な展開を凛は予測した。だがその不安は彼女の契約するサーヴァントにすぐ否定される。

 

「…それは無いようだ。運んでいたのは同じく香気で眠らされた人間だ。どうやら催眠術の類で操られているようだが、サーヴァントの気配は感じられない」

「そう…」

 

ひとまず安心する凛。眠らされているだけであれば、妹…桜も無事なのであろう。

 

「そして…屋上に犯人が偉そうにふんぞり返っている」

「犯人…?」

「ああ…その隣には数か月前から新都に出没しているという『怪人』らしき異形もいる」

「なんだってそんな奴らが真昼間から学校にいるのよ」

「さぁな。む…どうやら君にとっては頭の痛くなる状況のようだのな」

「…?どうゆうこと」

「そいつらと同じ場所に衛宮士郎がいる」

 

サーヴァントの衝撃的な発言にしばし固まる凛。

 

「…ハアァァァァァッ!?」

「…離れているとはいえ、そう大声を出すとは感心しないぞ凛?」

「あンのバカ士郎!どうしていつも厄介事の中心にいるのよ!!」

 

サーヴァントの忠告を無視し、敵の手に落ちた士郎への怒りを抑えられない凛は地団太を踏む。これならまだ他の人間と一緒に眠っていた方がまだマシだ。

 

「衛宮士郎の事はとうでもいいとして、どうするのだマスター?予想外のトラブルとはいえ、これは聖杯戦争とまるで関係のない事だぞ」

「アンタほんとに士郎の事嫌ってんのね…?確かに聖杯戦争とは関係ないし、まだ全快じゃないアーチャーに何体いるか分からない怪人相手を頼むわけにはいかないわ…でもね」

 

一度言葉を区切った凛は腕組みをしたまま穂群原学園を監視している赤い外套を纏ったサーヴァント…アーチャーの正面に立ち、自分を一回り上回る長身の男の眉間に向かいビシッと指を刺す。

 

「だからと言ってこの町で好き勝手やらせるのとは話は別よ!遠坂家の当主として見過ごすわけにはいかないわ」

 

ニヤリと笑う赤い少女を見てアーチャーは溜息をつく。

 

「…やれやれ。どこまでもお人好しなことだ」

「何よ?マスターの決定に逆らうわけ?」

「残念なことに、サーヴァントとしてはマスターの決定には従わなければならないな」

 

皮肉を言いながらも賛同するアーチャーの回答に満足した凛はこの後の対策に頭を切り替える。敵の戦力、目的がまだ見えていない。どうにか策を練ろうとする凛に監視を続けるアーチャーが提案を持ちかける。

 

「凛。先程言った通りにこれは聖杯戦争と関わりのない件だ。ならば、協力を求めるのも一つの手段だと思うがね」

「協力…ねぇ」

 

アーチャーの進言は有効な手段だ。しかしその現時点で協力が見込める人物は何故か主犯に捕まっており、そのサーヴァントは彼の自宅で魔力温存の為に待機している。

 

(あまり頼りたくないけど…)

 

凛の頭に今回の聖杯戦争の監視役であり、凛の後見人でもある兄弟子の顔を浮かべる。かつて代行者として腕を振るった彼ならばあのような異端の怪物相手ならエキスパートであろうが…

 

(ないわね。ないない)

 

顔が浮かんだ瞬間その案は却下した。あの神父になるべく借りを作りたくない。さてどうするかと頭を捻る凛にアーチャーから新たな報告が告げられた。

 

「どうやら協力が見込めそうな相手が近づいているようだ。それも、『専門家』のな」

「え…?」

 

どうゆうこと?と凛が尋ねようとした時、穂群原学園に向かい、法定速度を無視してバイクを走行させる人物の姿があった。しかもその後には、同じ速度で並走する女性の姿もある。

 

 

 

穂群原学園の屋上で、縄で拘束された衛宮士郎は目の前に立つ赤い甲冑を纏う男…ビルゲニアを睨んでいた。だが男はそんな視線を物ともせず、寧ろ楽しんでいるかのように士郎の姿を見ている。

 

「クックック…いい目をするではないか衛宮士郎。やはり聖杯戦争のマスター共は全員そのような目をするのかな?」

(こいつ…聖杯戦争の事を知っている?けど…)

 

士郎はビルゲニアの背後で佇んでいる異形の姿を見る。

 

体躯は人間に近い。しかし全身から棘の生えており、両腕からはまるで鞭のようにツタが垂れ下がっている。肩から肩から上が無数の薔薇で覆われており、顔に当たる部分が他よりも大きな薔薇となっており、猛禽類を思わせる鋭い目があった。

 

言うならば薔薇怪人。

 

今は感じられないが、この薔薇怪人から発生した香気によって士郎を除く学校にいる人間全員が意識を奪われてしまったのだ。

 

ここで士郎が疑問に思ったのは何故自分だけが意識を奪われずに、屋上まで連れてこられたかという点だ。ビルゲニアは聖杯戦争については知っているようだが、関わっているとは考えずらい。むしろ友人の兄が変身し退治したあの怪人側ではないのだろうか?

もしそうであれば、ますます自分を拘束する理由が分からない士郎の頭に痛みが走る。ビルゲニアが士郎の頭を乱暴に掴み、フェンスに叩きつけた。

以前にも慎二に同じような目に合わされたが、その力は比ではない。しかも前回と違い、フェンスに顔を押し付けられている状況だ。

 

「お前にはやって貰うことがある。なぁに簡単だ。その手にある令呪を俺に寄越せばいい」

「!?」

 

顔を圧迫される痛みよりも衝撃な内容だった。令呪を自分から奪う。即ち、自分と契約するサーヴァントを奪われることと同義である。

 

「お…前、何を言っている…」

「小僧、お前に拒否権などあると思うな。今、お前の目の前に映っている建物は…理解できるな?」

 

押さえつけられている士郎の視線の先にあるのは体育館だ。

 

「あそこには生徒、教員共が全員収容されている。もし俺の言うことを聞かなかった場合は…」

 

その先の言葉を言わなくとも士郎には理解できた。なんとも分かりやすく、恐ろしい手段を使う奴なのだろう。

 

「…こうすれば返事をしやすいか?」

 

フェンスに抑え付けていた士郎を今度はボールのように後方へ放るビルゲニア。まともに受け身を取れないまま士郎は落下し、その痛みに一瞬呼吸が止まってしまう。

 

「か…はぁ」

 

身をよじる士郎が目を開くと、彼の前には人が立っていた。顔を見ると、学校に雇われている用務員だった。しかし目の焦点が合って

おらず、生気の抜けた顔をしている。おそらく他の人間同様に意識を奪われ、催眠術のようなものにかかっているのだろう。

男は士郎の前で膝を着くと、手に持っている何かを広げる。それはノートパソコンだった。

 

「っ!?」

 

何のつもりかと思った士郎はその画面に映し出されていた映像に息を飲む。

 

その映像には体育館内部の映像が映し出されており、眠らされた生徒、教員、学校関係者全員が床に転がっていた。

どうやら体育館から中継されているようであり、体育館全体を映す画面の他に幾つかの部分拡大された画面も見られた。

拡大された画面には間桐桜、藤村大河、柳洞一成…いずれも衛宮士郎と親しい間柄の人間ばかりであった。

 

「これで分かったか小僧?お前に選択する余地などないことに…」

「…る」

「ん?」

「どうして…こんなことができるんだお前はぁッ!!」

 

立ち上がり、ビルゲニアに向かって走り出す士郎だったが、ビルゲニアの手のひらから放たれた放電により、逆に吹き飛ばされてしまう。

 

「フンッ!まだ一人も殺していないだけありがたく思うのだな。だがな、今のような事をすればこの後はわからんぞ…?」

 

ビルゲニアはその手を今度は体育館のある方向へ向けると、先ほどとは色の違う波動が流れて行った。その直後、パソコンに映る

体育館に新たな動きがあった。見ると、倒れている人間が数名立ち上がり、倒れている他の人間の周りを囲い始めた。そして、予めその場に設置されたいくつものポリタンクの蓋を開け、同じように置いてあったライターを注ぎ口に近づけている。ポリタンクの中身はガソリンである。もし、ライターに着火した場合は…

 

「や…やめろォ!!」

 

士郎の悲痛の叫びが屋上に響く。

 

「次に俺に逆らったらどうなるかは言うまでもない。さぁ、大人しく令呪を俺に渡してもらうぞ」

 

倒れている士郎へビルゲニアの足音が近づく。

 

もう…どうすることもできないのか。多くの人たちを苦しめたまま、自分と共に戦うと誓ってくれた少女を敵にされてしまうのか。

 

そんことは…

 

「そんな…ことは…」

 

「絶対に…させ、ない」

 

 

 

「そう思うのは結構だけどいつまでも寝てないでくれる?」

 

 

聞き覚えのある声が聞こえた直後、ビルゲニアの背中に機関銃のように大量のガントが撃ち込まれた。

 

「…何だ?」

 

何もなかったかのように振り返るその先には、屋上の出入り口から人差し指を向けていた遠坂凛の姿があった。

 

「…分かっていたけど、あそこまで利かないとなるとちょっとショックね」

 

けど、と凛は不的に笑う。

 

「注意を向けるには大成功」

 

突然現れた少女の言うことが理解できないビルゲニアだったが、その答えは身をもって知ることになった。

 

「トァッ!!」

「ぬおぉッ!?」

 

掛け声と共に自身に走る衝撃。転がりながら立ち上がると、目の前には宿敵の姿があった。

 

「貴様ッ…間桐光太郎!!」

「剣聖ビルゲニア…!お前の好きなようにはさせん!!」

 

横からビルゲニアを飛び蹴りで吹き飛ばした光太郎は、急ぎ倒れている士郎を介抱し、縄を引き千切った。

 

「大丈夫か?衛宮君」

「こ、光太郎さん!俺よりも…」

「体育館にいるみんななら、心配いらないよ」

「え…?」

 

士郎が一刻もなんとかしなければならない事をすでに光太郎は知っていた。正確には凛から知らされた情報ではあるのだが、この時の士郎にとって、どうして知っていたなどどうでも良かった。光太郎の『心配いらない』の一言ですでに大丈夫と確信できたのだ。

 

「おのれぇ!こうなれば人質は全員皆殺しだ!!」

 

再び波動を体育館に向けるビルゲニア。

 

「さぁ、後悔するがいい!!」

 

口元を歪め、体育館が燃え上がるを待つビルゲニアだったが、いつになっても火が付いた気配がない。

 

「ど、どういうことだ!?」

「残念だったなビルゲニア!人質にされた人たちがお前の催眠術にかかることはない!!」

 

その声に振り返ると、先程まで催眠術にかかっていた用務員の男は凛の手により気を失い、壁に寄り添っている。そして薔薇怪人は

宿敵が契約しているサーヴァントと睨みあっている状態だ。

 

「き、貴様ら…!!どういうことだ!!」

「体育館に、怪人1体でも見張りを置いておくべきだったな!」

 

光太郎の言葉に士郎はハッとする。ここにいるべき遠坂凛のサーヴァントの姿が見えない。思わず凛の方へ顔を向ける士郎。

それに気づいた凛はコクリと頷いた。

 

「まだ弱っているとはいえ、催眠術にかかった人間をまた眠らすくらいなら、ね?」

 

とウインクで答えてくれた。

 

 

あの時、学校へ駆け付けた光太郎とライダーに接触した凛とアーチャーは『今回限り』の休戦を結び、お互いに情報交換をした。

体育館に集められた人々、そしてビルゲニアに囚われた士郎。同時に助けるには侵入と奇襲を同時にしかけるしかないと決まり、

体育館の侵入をアーチャー自ら買って出たのだ。

『今の私は足手まといだろう。ならば、相応しい役割に徹するさ』

そう言って霊体化し、体育館に向かった。

 

後はビルゲニアの性格から、士郎を脅すために何かしらの動きをするはずという光太郎の分析をもとに、その動きを合図に奇襲を仕掛けたという流れである。

 

 

 

「う、ぬぅうぅぅぅぅ!!」

 

拳をワナワナと震わせるビルゲニア。

 

「覚悟しろ、ビルゲニア!!」

 

 

 

 

右腕を前に、左腕を腰に添えた構えから大きく腕を振るうと右半身に重心を置き、右頬の前で両拳を作る。

 

ギリギリと拳を力強く握りしめる音が響き、その力を解放するように右腕を左下へ突出し、素早く腰へ添えると入替えるよう

に左腕を右上へと突き出した。

 

「変ッ―――」

 

突き出した左腕で扇を描くように、右から左へ旋回し―――

 

「―――身ッ!!!」

 

叫びと共に両腕を右上に突き出した。

 

 

光太郎の腹部に力の源となるキングストーンを収めたベルト『エナジーリアクター』が出現。その中央から放たれた閃光により

 

光太郎の姿はバッタ男へと変貌する。

 

だがそれも一瞬。

 

ベルトの光はバッタ怪人を強化皮膚「リプラスフォース」で包み、戦士へと姿を変える。

 

左胸に走るエンブレム、関節より蒸気となって湧き上がる余剰エネルギー。

 

変身を終えた光太郎はビルゲニアに向かい、その姿の名を名乗った。

 

 

「仮面ライダー、ブラァックッ!!!」

 

戦いの火ぶたが、切って落とされた。




そう言えば、以前も変身して終了した回があったような…

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第14話『ゴルゴムの魔剣』

UA、1万突破いたしました。これも皆様の応援のおかげです!こんな駄文にお付き合い下さり、まことにありがとうございます!!

14話、どうぞ!


「ん…」

 

眠りから覚めた間桐桜はゆっくりと目を開く。今自分が体を横にしているのは使い慣れたベットの上でなく、体育館の冷たい床だと気が付くのに少し時間がかかった。

 

「私…なんで…?」

 

確か次の授業の準備をしていたはず…直前の記憶を思い出しながら体を起こすと、周りには生徒、教師たちが意識を失い倒れている。状況が掴めない桜の目に入ったのは、多くの人間が倒れている中でただ1人、こちらに背を向けて立っている男だった。

 

桜はその男の背中を見て、連想した人物の名前を思わず口にした。

 

「せん…ぱい?」

「目が覚めたか。間桐桜」

「…ッ!?」

 

振り返った男の姿を見て桜は身構え、警戒する。何故、あの男を見て、自分は思い人の姿と重ねてしまったのだろうか。桜が戸惑っていることに構わず、男…アーチャーは話を続ける。

 

「…なるほど。他の人間と比べ早く目覚めることが出来たのは、それか」

「…………」

 

アーチャーに指摘された桜は普段、その黒髪で隠されているうなじ辺りを手で押さえる。そこには、五円玉ほどの大きさに切り取られた円状のシールが貼られており、細かな文字が螺旋のように刻まれていた。そこには、シールが貼られた本人の身体の熱量が一定以下となった際に魔力を体全身へ緩やかに巡回させ、負担なく目覚めさせるという術式が組まれている。

これは聖杯戦争中、桜が敵陣営に捕まった事を想定して慎二が準備したものだった。

もし無理矢理意識を奪われてたなら目を覚ます時間を短縮させ、位置情報などを早く兄たちへ知らせる事が出来るように、睡眠以外は身に着けている桜の護身用の道具の一つだ。

 

余談ではあるが、これの説明を聞いた光太郎は目覚まし時計だねと笑いながら言ったため、必死に魔導書を解読して術式を組み立てた慎二の怒りは10日以上治まらなかった。

 

「貴方は…」

「警戒する必要はない。君たちに手出しはせんよ。むしろ、何か起きた時のためにいるようなものだ」

「なら、教えてください。学校で何が…」

 

後を向いたまま答えるアーチャーに桜は自分達の学校に何が起きているのか尋ねた。

 

「君ならば、ある程度見当が付いているはずだ。そして、この事態を止める為に誰が動いているかも…な」

(…兄さんッ!!)

 

アーチャーの遠回しな回答を聞いた桜は立ち上がると、出口に向かって走り出す。アーチャーは微動だにせず、どこかへ向かおうとする桜に向かって声をかけた。

 

「行ってどうするつもりだ?君が彼の元に行ったところで…」

「それでも」

 

立ち止まった桜は振り返りながら、アーチャーに笑顔を向ける。

 

「私は、行きます!私に出来ることをしたいですから」

「…なら、ついでに1階の入口で寝ているもう一人の兄も連れてってくれ。君たちを眠らせた香気も消え失せているだろうしな」

「え?」

「見張る対象が一人でも減ってくれたら、私も楽になる。それだけだ」

 

目を閉じたまま、慎二が倒れている場所を伝えるアーチャーに、桜はペコリと頭を下げる。

 

「…やっぱり、似ていますね。私の知ってる人に」

「誰の事かは知らんが、気のせいだろう。さっさと行け」

「はいっ!」

 

体育館の入口を抜け、走る桜の姿に目を開けたアーチャーはどこか、懐かしむように呟いた。

 

「変わらないな。本当に…」

 

 

 

「慎二を頼むぞ。桜」

 

 

 

屋上

 

 

変身した光太郎の姿を見て、士郎の怪我の具合を見ていた凛は知りつつもやはり納得できない様子であった。

 

「何よあれ…体を変質させる魔術でも人の形を保ったままあそこまで変質させるモノなんて聞いたことも…」

「遠坂…あれはああいうものらしい…ぞ?」

 

ブツブツと分析する凛に士郎は自信なく光太郎の変身を説明する。士郎はこの時、慎二の言った通り光太郎の変身を家系にある突然変異と信じたままであった。

 

「衛宮君!ここは俺とライダーで押さえるから、遠坂さんと一緒にその人を!」

 

先程までビルゲニアの催眠術にかかり、凛に気絶させられた用務員を指さす光太郎。目の前にいる敵にいつまた人質にされてしまうかも分からない状況だ。士郎は立ち上がると、隣にいる凛の腕を引っ張って用務員のもとへ向かう。

 

「行こう、遠坂!」

「ちょ、ちょっと士郎!?」

 

まだ思考中であった凛は突然腕を引かれた事に狼狽する。よほど光太郎の変身が納得できないようだった。光太郎の言葉が聞こえていなかったようなので、士郎は簡単に説明する。

 

「…まぁ、この場合その方がいいわね。それにしても…」

「…何だよ、遠坂」

 

倒れていた用務員を2人で左右から支えると、凛はジト目で士郎を睨んだ。

 

「…べっつにぃ。あの光太郎って人の話は素直に聞くんだなぁって思っただけよ」

「素直にって…遠坂の話だっていつもちゃんと聞いてるじゃないか。魔術とか聖杯戦争とか…」

「そういう意味じゃないわよこのバカ!!」

「…………」

 

凛の怒る原因が理解できないまま、士郎は彼女と共に用務員を連れて屋上を後にする。それをつまらなそうに眺めるビルゲニアは構えを続ける光太郎に向かい合う。

 

「フン。小僧の令呪など後回しだ。貴様を倒した後、ゆっくりといたぶりながら引きはがすとしよう」

「お前の狙いは衛宮君だったのか!」

「正確には小僧のサーヴァント、だがな」

(衛宮君のサーヴァント…たしか、『セイバー』)

 

義妹から、衛宮士郎は自身のサーヴァントをそう呼んでいたという話を思いだす光太郎。しかし、ゴルゴムであるビルゲニアがなぜサーヴァントを必要とするのか、間合いを詰めながら考える。

 

(ビルゲニアの狙いが最初から彼だったとしても、なぜこんな回りくどいことをする。学校の人々を眠させて…ッ!?)

 

光太郎は気付いた。なぜ、狙いを士郎だけにしなかったのか。そして、士郎をわざわざ眠らせている人々が収容されている体育館の見える屋上まで士郎を連れて来たのか。

 

「ビルゲニア!もしや衛宮君を脅すために…!?」

「ほう、よく気付いたな。調べたらどうやらあの小僧は自身よりも他人が傷つく方が耐えられないという変わった人間のようなのでな」

 

ニヤニヤと笑うビルゲニアに、光太郎はより強く握りしめた拳を叩き付けるため、跳躍した。

 

「許さんッ!!ライダー―――」

 

怒りにかられた光太郎は失念していた。今ビルゲニアが手にしているのは盾、ビルテクターのみ。前回での戦いでビルゲニアの主要武器であるビルセイバーは光太郎が叩き折っている。しかし、己の目的の為に手段を択ばないこの狡猾な男が何の準備もなしに、自分の前に立つはずがないと。

 

光太郎との距離が1メートルを切った瞬間、ビルゲニアは右手に刀剣を出現させ、光太郎の胸にその刃で切り付けた。

 

「グアァッ!」

 

ダメージを受けた光太郎はビルゲニアの後方に落下。胸を抑えながら前方に転がり、立ち上がると攻撃された胸に目を向ける。剣に当てられた箇所にはクッキリと跡が残っており、煙が上がっている。

 

「クッ…あの剣は、ビルセイバーではない!?」

「その通りだ!」

 

振り返ったビルゲニアはまるで見せびらかすように、赤い刀身の剣を掲げる。

 

「これこそは創生王様より授かった我らゴルゴムの聖剣、サタンサーベル!!そして、世紀王の証なのだ!!」

「せいき…おう…」

(世紀王…?)

 

バラ怪人と対峙しているライダーは、聞いたことのない言葉…『世紀王』がビルゲニアの口から出た途端、光太郎の動きが止まったように見えた。いや、よく見れば攻撃を受けた胸を抑える光太郎の腕は僅かながら震えている。まるで、怯えるかのように。

 

「くたばるがいい!!」

「コウタロウ、避けてください!!」

 

ライダーの呼びかけに我に返った光太郎。目の前に迫ったサタンサーベルを回避するため、真横に体を転ばした。直後、ガシャンッと音を立て、直前まで光太郎の背後にあった高架水槽を支えるコンクリートの柱が斜めに切り裂かれた。

 

「なんて威力だ!」

「次は貴様がこうなるのだ!死ねぃ!!」

「クッ!?」

 

サタンサーベルを振る上げるビルゲニア。光太郎は避けようと後方へ飛ぶが、サタンサーベルの切っ先から放たれた光線が直撃し、吹き飛ばされ校庭へと落下してしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

「コウタロウッ!?」

 

落下した光太郎を追うために、目の前に立つバラ怪人にかまわずにジャンプするライダーであったが、突如動きが止まってしまう。

 

「なッ!?」

 

バラ怪人がその触手でライダーの足を拘束し、滞空しているライダーを光太郎と同じく、校庭へと振り落した。

 

「アァァァァッ!?」

 

体勢を変えられず、背中から落下するライダー。ダメージを少しでも和らげようと受け身を取ろうとしたが、地面と衝突することはなかった。

 

「え…?」

「大丈夫か、ライダー」

「こ、コウタロウ…無事だったのですか?」

「ああ、なんとか着地できたよ」

 

先に校庭へ放り出された光太郎は落下する直前に、ライダーを抱き止めていた。

 

「あ…その」

「どうした…まさか、どこかに怪我を!?」

「いえ、そうではなく…」

「………?」

 

吃るライダーを心配そうに尋ねる光太郎だったが、ライダーへの異常は顔が少々赤くなっている以外見られない。原因を考える光太郎だったが、遠くから自分達を見る視線に、ようやく合点がいった。

 

昇降口の付近に立つ士郎と凛。恐らく用務員の男性を安全な場所まで運び終えた後、校庭に光太郎が落下した音を聞き、様子を見に来たのだろう。士郎は見てしまったことっを申し訳なさそうに苦笑し、凛は面白そうにニヤリと笑っている。

 

「………あ」

 

光太郎は現在、ライダーを抱きかかえているがその姿は俗に『お姫様抱っこ』と呼ばれる状態だ。

 

「す、すまないライダー!いつまでもこんな…」

「…いえ、大丈夫…です」

 

ライダーを下ろした光太郎は急いで謝罪するが、返事はどこかぎこちない。

 

「…………」

「…………」

((ま、まるでさっきの続き…))

 

間桐家の庭でのやり取りを思い出しながら互いに気まずそうに視線をそらす。しかし、状況は待ってはくれない。

 

「まだ生きていたか…しぶとい奴らめ!!」

「ビルゲニア!!」

 

いつの間にか現れたビルゲニアはバラ怪人を連れ、校庭の中央に立っていた。

 

「…間桐光太郎、知っているか?この地に聖杯がどのように現れるか」

「何?」

 

唐突に聖杯について語りだすビルゲニアに光太郎達は眉を顰める。こちらを惑わそうとする作戦なのか…それとも別の狙いがあるのか。光太郎の疑念に構わず、ビルゲニアは続ける。

 

「この冬木にある地脈…霊脈ともいってもいいか。そこに流れる力『マナ』が一定量に達し、条件満たされれば、聖杯が現れるのだ」

「……………………」

 

なぜ、ビルゲニアが聖杯についての知識を有しているのか。一番にそれを疑問視したのは光太郎ではなく、街のセカンドオーナーである凛であった。あれ程詳しいなど、監督役をしている聖堂教会でなければ知りえない事であったが、凛はこの時、ゴルゴムの影響下がその教会にまで達していたとは知る由もなかった。

 

「その地脈に流れる力は大小ある。ここに流れる力はそれ程でもないが…面白いことが出来る」

 

ビルゲニアは校庭にサタンサーベルを突き立て、柄に手を翳す。ビルゲニアの掌から放電状の力が放たれたと同時に、快晴だった空が急に雲で覆われてしまう。

 

「仮面ライダーに倒された怪人の怨念…地脈のマナ…そして俺の魔術とサタンサーベルの力が揃えば…!」

 

ビルゲニアの放つ力はさらに力を増し、サタンサーベルの刀身は赤く輝き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ蘇るがいい…怪人どもぉッ!!!」

 

 

 

 

ビルゲニアの叫びに答えるように、雲から雷が校庭に打ち付けられ、光太郎とライダーを囲うように地面がひび割れていく。

 

そして地面の内側から次々と這い出してきたのは、30体を超える怪人の姿だった。

 




次回はメシ使いがお留守番中のあの人を呼び出します。

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第15話『復活の怪人軍団』

さぁ、明日はいよいよ獣電戦隊の最終回…待ち遠し過ぎます!
その前に15話、投下致します!


「…さん!慎二兄さん!!」

「ん…」

 

自分の名を呼び、何度も揺さぶられて間桐慎二はようやく目を覚ました。呼んでいる張本人の姿を視界に入れてみれば、見慣れている顔が、見たくもない泣き顔で慎二を見ている。

 

「…よぉ。無事だったみたいだな」

「兄さんっ…よかったですぅ…」

「いちいち泣くなよ…泣き虫桜」

 

昔、こんなふうに言ってからかってたらあのお人好しが笑いながら「めっ」なんて気色悪いこと言ってたっけ…などと過去を思い出しながら体を壁にあずけ、どうにか立ち上がる慎二。

 

「どんな状況か、分かるか?」

「いえ、私もさっき目が覚めたばかりですから…」

「自分の目で確かめるしかない、か」

 

現状を桜に尋ねる慎二は手首を動かして調子を確かめる。まだ本調子とまではいかないが、動くには問題ないだろうと考えた途端、2人のいる廊下を揺るがすほどの激震が走る。

 

「な、何だよいきなり!?」

「校庭の方から…すごい音が聞こえました!」

 

床に放っておいた携帯電話を拾い、時間を確かめる慎二。義兄に怪人が出現した旨をメールで送ってから2時間以上経過している。

メールの着信に気付くのに時間が掛かったとしても、既に学校へは到着しているはずだ。あの心配性が自分たちを探しにこないとなるとそう出来ない状況にいるはず。ましてや先程の衝撃に巻き込まれているようであれば…

 

「桜、どの程度に動ける?」

「え?特におかしな所はないのでいつも通りには」

「…充分だ。付いて来い」

 

説明を受けないまま、桜は校庭とは反対方向へ進んでいく義兄の後に続いて駆けて行った。

 

 

 

「これは…」

「倒したはずの怪人…!」

 

背中合わせで立つ光太郎とライダーは、自分達を囲う怪人達に向かい、構える。ジリジリと迫る怪人達は光太郎がライダーと契約する前…聖杯戦争以前に倒してきた個体が半数以上であった。

 

アンモナイト怪人、

 

マンモス怪人、

 

サイ怪人…

 

他にも倒すだけでもやっとの相手ばかりであった。

 

「これは…光太郎に頼る他ありませんね」

「そうしたいのは山々だけどね…」

 

見たことのない怪人には、どうしても戦った経験のある光太郎頼みになってしまうライダー。光太郎にはどのように戦い、倒してきたかは嫌というほど記憶に焼き付いている。しかし、いかんせん数が多すぎた。クモ怪人のように、同じ個体が複数いる相手ならば動きもパターンも同じであったが、目の前にいる大群は全てが別個体。同時に対処するという手段は厳しい状況だ。

 

「ハハハ…どうだ再生怪人たちの勇姿は?どいつもこいつも、仮面ライダーへの憎しみにあふれているぞ!」

「ビルゲニア…!」

 

バラ怪人の背後から光太郎達の姿を見て高笑いをするビルゲニア。睨む光太郎に向かい、ゆっくりと指を向ける。

 

「者共…かかれぃ!」

『■■■■■■■■ーッ!!!』

 

ビルゲニアの号令と共に、各々の雄叫びを上げて怪人達が襲いかかった。

 

「くっ!トァッ!!」

 

最初に突撃してきたサイ怪人の頭を足場にジャンプし、上空から迫ったツルギバチ怪人を蹴り落とした光太郎。着地と同時に切りかかるカマキリ怪人の鎌、サボテン怪人の腕を前転して回避する。

 

「ハッ!」

 

凄まじいスピードで駆けてくるヒョウ怪人の顔面にカウンターとして蹴りを叩き込んだライダーは次に鎖を振るい、ヤギ怪人の角に巻き付けると全力で引き寄せ、彼女の背後に迫ったクロネコ怪人、ハサミムシ怪人にヤギ怪人に衝突させる。さらに鎖を光太郎に向かって投擲する。

 

「コウタロウ!」

 

ライダーの叫びに振り返ると同時に鎖を掴んだ光太郎は、その腕を上に向かい力一杯に振るう。

 

「ウオォォォォッ!!」

 

光太郎の力により、金属の擦れ合う音を立てながら鎖は重力に逆らいに上空へと上がっていく。その鎖は当然、手に持つライダーをも空へと誘い、それによってライダーはマンモス怪人の突進を回避し、手に持った短剣で飛行していたタカ怪人へ切り付け、ダメージを負わせることが出来た。

 

 

「す、すごい…あれだけの攻撃をかわして反撃。それに…あの二人、息がピッタリだ」

「………………」

 

離れた場所から戦闘を見ていた士郎は、興奮して見入っているが、隣に立つ凛は無言で2人の様子を見るとボソリと呟く。

 

「…まずいわね」

「何がまずいんだよ遠坂。光太郎さん達はなんとか…」

「そう、その『なんとか』なっている状態が一番まずいのよ」

「え…?」

 

士郎には凛の言うことが理解出来なかった。戦っている2人は怪人達の攻撃を華麗に避け、反撃もしている。どこに凛の言うまずい要素があるのか必死に考える士郎だったが、彼の顔を見て察した凛が尽かさず説明を開始した。

 

「士郎に分かりやすく説明するわ。いい?2人の戦い方にはまったくのがなブレい。だから自分のリズムを崩さずに敵の攻撃を予測、回避、反撃。おまけにお互いにフォローし合って、隙がないように見える。例えるなら譜面通りにミスなく楽器を演奏しているようなものよ」

 

けどね、と凛は士郎の眉間に指を向ける。

 

「譜面にある音を一つでも間違えて、演奏する手を止めてしまったらそれはもう曲として成り立たない。つまり、一瞬でも隙が出来るか、動きを止めてしまえば…どうなるか流石に分かるわよね?」

「…っ!?」

 

凛の言いたいことが理解出来た士郎は再び2人へと視線を向ける。先に士郎の言った通り、2人は怪人達の攻撃を何とか凌いでいる。しかし、多勢に無勢であることには変わりないのだ。休む間もなく攻撃をしかけてくる大勢の怪人達に対し、光太郎とライダーの戦い方は紙一重の回避と牽制にすぎない反撃だ。それに体力も体無限ではない。疲労して一度でも手を止めてしまえば、怪人達の攻撃の餌食となるのは明白だった。

 

「光太郎さん…」

 

 

光太郎は内心焦っていた。怪人達の攻撃を回避して反撃に出るのは上手くいっているが、所詮は次の攻撃をかわすまでの繋ぎであり、大きなダメージを与えるに至っていない。援護にバトルホッパーを呼ぼうにも、再生怪人の中にタマムシ怪人が紛れているので以前のように乗っ取られる可能性もあり、敵を倒す必殺の一撃を与えるにしても、光太郎もライダーもその為の『溜め』が出来ない以上、チャンスが生まれるまで動き続けるしか光太郎には策はなかった。

 

正面に立つクモ怪人が口から吐き出した糸をかわすため、跳躍しようとした光太郎とライダーだったが、突然足の自由を奪われる。

 

「何っ!?」

「これは…!」

 

慌てて足元を見ると、緑色のツタが地面を突き破り、光太郎とライダーの足に絡みついていた。さらにクモ怪人の糸で腕までもが縛られてしまった2人はビルゲニアの隣に立ち、伸ばした両腕が地面に潜っているバラ怪人の姿を見る。恐らく腕のツタで地面を掘り進み、奇襲を仕掛けたのであろう。

 

「奴らの動きは封じた!徹底的にいたぶってやれ!」

 

ビルゲニアの命令と同時に光太郎とライダーはサイ怪人、バッファロー怪人の体当たりを受け、吹き飛ばされてしまう。

 

「グワァッ!?」

「クゥッ…」

 

地面を転がる2人への攻撃は止まらない。起き上がれない光太郎とライダーに対し、怪人達は容赦ない攻撃を続けた。殴り、踏みつけ、飛行できる怪人が数十メールまで持ち上げ叩き落とす…聞こえるのは、ダメージを受けるたびに聞こえる光太郎とライダーのくぐもった声のみだった。

 

蹂躙されていく2人の姿に凛は奥歯を噛みしめる。今、眠っている学校関係者達を護衛しているアーチャーを呼び寄せ、2人を救出に向かわせても、万全ではない彼も同じ目に合う可能性もある。こんな時、命呪の魔力を消費して彼を全快させることが出来ればと、自分の手の甲にある、あと一画しかない令呪を恨めしく睨んでしまう。

 

「…………」

 

凛は先程から沈黙している隣に立つ少年を見た。何かを決意したかのように未だ使用されていない令呪の刻まれた拳を強く握りしめている。

 

「待ちなさい士郎」

「止めないでくれ遠坂…これ以上、光太郎さん達があんな目に合うのは、我慢出来ない!!」

 

これから士郎がやろうとすることが手に取るように分かる凛は、怒りを抑えられない彼の言葉に首を横に振る。

 

「…違う。たた、確認したいだけ」

「……………」

「士郎にも分かっている通り、これは聖杯戦争とは関係のない戦いよ。それで令呪を消費するということがどういうことか。理解しているわよね?」

 

無論士郎も分かっている。令呪の消費。この先にある聖杯戦争でのもしもの時の切り札を失う事になってしまうのだ。凛や彼のサーヴァントからは令呪の重要性は耳にタコができる程聞いていた。しかし、自分達を助ける人が目の前で傷つくことを黙って見ることは、少年にはどうしても出来なかった。

 

「…アイツには、後でたっぷりと謝るよ」

「そう…私は手助けしないわよ」

 

一言だけ言うと凛は一歩下がった。頷いた士郎は再び拳を掲げる。それに答えるかのように、手の甲にある令呪の一画が魔力を放った。

 

 

「ようし、仮面ライダーを起こせ!」

 

サタンサーベルを持ったビルゲニアが、ボロボロとなった光太郎の元へ歩み寄る。全身の黒い皮膚はあちこちに傷が入り、口元に当たるクラッシャーからは吐血の後が見られた。未だにクモ怪人の糸で拘束されている光太郎は自力で立ち上がることが出来ず、左右から怪人に肩を掴まれ、無理矢理立たされてる。

 

「ククク…この瞬間を、俺はずっと待っていた」

「………」

 

サタンサーベルの切っ先を光太郎の喉元に当てるビルゲニア。抑えきれないほど歓喜の表情を浮かべ、どの角度から光太郎の首を切り落とそうかと刃の角度を変えている。だが、光太郎もただ捕まっている訳ではない。

 

(奴が剣を振り上げた瞬間に、キングストーンの力を使えば…)

 

近距離からのキングストーンフラッシュ。それが自由を奪われた光太郎に残された最後の手段。今を打破するには怪人達を指揮するビルゲニアを倒すしかない。隣で倒れているライダーも光太郎の手段に感付き、ただ光太郎の出方を待っている状況だ。

 

「哀れなものだな。あのような『汚物』を取り合う人間同士の殺し合いなどに参加しなければこのような目に合わずに済んだものを」

「…?」

 

ビルゲニアの言う『汚物』とは何を指す言葉だったのか光太郎には理解できなかったが、言葉の前後から聖杯戦争と関係するのかと考える光太郎だったが、続いた言葉に衝撃を受けてしまう。

 

「まぁいい。俺には関係のないことだ。さぁ、貴様の首を神官共と眠っている『世紀王候補』にさらしてくれよう!!」

「なっ!?」

 

ビルゲニアの口から出た『世紀王』という言葉に再び驚く光太郎。

 

(まさか…生きてるのか…!?)

「死ねぃッ!!」

「しまったッ!?」

 

動揺した光太郎はキングストーンフラッシュを放つタイミングを逃し、ビルゲニアの振るったサタンサーベルが自分の目の前に迫った事にようやく気が付いた。

 

(く…ここまでなのか!)

 

死を覚悟した光太郎だったが、サタンサーベルの切っ先は光太郎の首に触れる寸前で止まってしまう。否、サタンサーベルは『不可視の剣』に受け止められていたのだ。

 

「き、貴様…!?」

 

突然の乱入者に驚きを隠せないビルゲニア。光太郎を庇うように現れたのは、青いドレスの上に銀色の甲冑を纏った剣士だった。

 

「…君は!?」

「御無事ですか?」

 

振り返ることなく光太郎に返事をした剣士は、両手で握る不可視の剣に力を込め、ビルゲニアのサタンサーベルを振り払った。

 

「ぬぅッ!?」

 

剣士に押されたビルゲニアは後方に下がり、改めて自分の邪魔をした者を睨んだ。

 

「貴様…そうか、貴様が!」

 

剣の切っ先をビルゲニアに向けたまま、剣士は光太郎へと振り返る。それは強い意志を瞳に秘めた金髪の少女だった。

 

「大体の事情はマスターから伺っています。ライダー、そしてライダーのマスターよ」

 

少女はビルゲニアに向けて、より強く風を纏った不可視の剣を構える。

 

「義により助太刀致します!」

 

最良のサーヴァント、セイバーが参戦した。

 

 

 

 

 




倉持さん、おしゃべりが多すぎたためセイバーの乱入を許してしまいました。

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第16話『騎士王の参戦』

烈車戦隊。カーレンジャーに並ぶギャグかと思いきや最後の最後で重い展開・・・?
気になりますな

16話 いっきます!


「あれは、衛宮と遠坂か?」

「え?」

 

準備を終えた間桐慎二と間桐桜は校舎内を探索中、窓から校庭を見下ろすと肩を並べる両名を発見する。さらに校庭の中央では、身動きが取れないまま多くの怪人達に打ちのめされている長兄とサーヴァントの姿があった。その姿を見て窓に張り付く桜の悲痛な叫びが廊下に響く。

 

「兄さん!ライダーさん!」

 

隣に立つ慎二は尽かさず窓を開け、急ぎ先ほど調達したものを使おうとしたが、下で士郎が腕を掲げ、手の甲が輝いている様子が目に留まった。

 

「なんだ…?」

 

その輝きが消失すると共に、士郎と凛の前に銀色の鎧を纏った金髪碧眼の少女が突如現れる。少女は士郎と2、3言葉を交わした後に頷くと、光太郎とライダー達の方へと顔を向けた。そして一度地を蹴っただけで、今にも刃を振り下ろそうとするビルゲニアと怪人に拘束されている光太郎の間に割って入り、ビルゲニアのサタンサーベルを不可視の剣で受け止めたのだ。

 

「せ、セイバーさん!」

 

桜は突如現れた助っ人への驚きながらも、兄が無事でいた事の安堵感から腰を抜かしてしまった。

 

 

「よ、良かったぁ…」

「…あれが衛宮のサーヴァントか」

 

桜と同じく光太郎の無事を内心喜びたい所だが、状況はあまり変わっていないと考えた慎二はすぐに頭を切り替えた。

 

(セイバーにあのまま自意識過剰の指揮官を相手してもらうとして…一匹一匹を確実に倒すには光太郎の技しかない…けど)

 

窓の格子を指で叩きながら現状を打破するための戦略を練る慎二。光太郎とライダーの事だ。助けが入ったとすれば、後は自力で拘束を解くなり立ち上がるなりするだろうが、ダメージを見る限りそう長くは戦えないだろう。

 

(くそぅ!何か、何かないか…)

 

怪人達をどうにかして一度に叩き伏せる方法はないかと頭を捻るが、焦るばかりで何も浮かばない自分に腹が立ってしまった。

 

「もう…心臓が止まるかと思いましたぁ」

「何呑気なこと言ってんだよ!」

「ひぅ!?」

 

考え中に聞こえた桜の一言が癇に障ったのか、怒鳴ってしまう慎二。

 

「光太郎達が不利なのは変わりないないんだぞ!何だよ心臓が止まるなんて…止まる…?」

 

桜の口から出た言葉に何か勘付いたようにを、顎に手を当てて考え始める。

 

「す、すみません!光太郎兄さんが無事だったからつい…」

「いや、いい…それより」

 

もう一度、校庭を見渡した慎二は今も怒らせてしまったとソワソワしている桜に、確かめるように尋ねた。

 

「桜…光太郎の手助けができるとしたら…」

「やります!」

「…早いな」

 

先程の怯えた表情から一変。真顔での即答だった。いや、聞くだけ野暮なことだったかも知れないと、慎二はその場から移動を始める。

 

「慎二兄さん?」

「もう一つ、調達するものが出来た。職員室に行くぞ。それと…」

「はい?」

「さっきは…怒鳴って悪かった」

 

そう小さく言った直後に慎二は走り始めた。兄の珍しい謝罪を耳にして目をパチクリとさせる桜は、微笑んだ後に兄を後を追った。

 

 

セイバーの助けにより危機を逃れた光太郎は、腕の自由を奪っていたクモ怪人の糸を無理矢理引き千切ると同時に、未だに自分を拘束していた怪人を吹き飛ばした。

続くように地面に倒れていたライダーも手に持っていた短刀で縛っていた糸を切り裂き、光太郎の隣に並ぶ。ビルゲニアに切っ先を向けたままのセイバーは、横目で関心するかのように光太郎達に尋ねた。

 

「…どうやら私は余計な手助けをしてしまったようですね」

 

この2人は、その気になれば何時でも自由になって反撃することが出来た。何かの狙いがあり、敢えて敵に好き放題されて好機を待っていたのだろうとセイバーは推測する。

 

「いや、君が来てくれなければ危なかったよ」

 

事実、セイバーの言った通りに狙いがあったのは確かだ。あれだけの怪人相手にするより、怪人達を統率するビルゲニアを攻撃すれば状況は一変すると考えた光太郎はバラ怪人とクモ怪人に捕まった瞬間に思い付き、ライダーへアイコンタクトを送った。気付いてくれたライダーも傷つく結果となってしまったが目的のビルゲニアの方から光太郎の攻撃範囲まで接近したのだ。

 

そこまでは良かった。

 

ビルゲニアの口から出た言葉を聞いた光太郎は、絶好の機会を逃す所かセイバーの救援がなければサタンサーベルによって命を失っていたのだ。

 

(『世紀王候補』…そんな名前で呼ばれるのは…アイツしか)

 

光太郎の脳裏に浮かぶのは、幼少時に兄弟同然に過ごし、自分と同じ運命を背負わらされた『友』の最後の姿。

 

アイツは…あの時に…

 

「コウタロウ」

 

自分の名を呼んだ方へ顔を向ける。いつの間にか自分の背中に回っていたライダーは光太郎へ顔を向けずに手に持った鎖を強く握った。

 

(ああ…そうだよな。ライダー)

 

今は感傷に浸っている場合ではない。静かに檄を飛ばしてくれたライダーに感謝し、再び自分達を囲った怪人達に向かい、構えた。

 

「セイバー…と呼んでいいのかい?」

「ええ…」

「すまないが、ビルゲニアを頼む」

「…承知しました」

 

セイバーがビルゲニアへ斬りかかると同時に、光太郎とライダーは再生怪人達への攻撃を開始した。

 

 

「ハァッ!!」

「フンッ!!」

 

不可視の剣とサタンサーベルで切り結ぶセイバーとビルゲニア。何度も刃同士がぶつかることで両者の間に火花が燻っていた。しかし、見えない剣の軌道を読み、確実に当ててくるビルゲニアの実力にセイバーは正直驚いていた。いや、侮ったと言うべきであろう。この甲冑を纏った男の実力は本物だ。だからこそ解せない。ここまでの力を持ちながら再生怪人を使い、弱った光太郎達に止めを刺さすような手段を高じてまで何を得ようとしたのだろうか。

 

「クックック…やはり、本物か。あの小僧から令呪を奪う手間が省けたというもの」

「…貴様は、何を狙っている?私のマスターから令呪を剥奪し、そうまでして私に何を望む?」

 

間合いを取り、急に笑い出したビルゲニアの狙いを聞き出そうとするセイバー。ビルゲニアの目的は自分にあると先程マスターである士郎から聞いている。もしそうならば、今回の件で多くの関係のない人々…タイガ達が人質に取られ、争い相手ではあるがライダー陣営があそこまで傷ついたのは自分に責任がある。だからこそ聞き出さなければならない。しかし、その答えはセイバーの怒りを買う結果となってしまった。

 

「なんてことはない。俺はただ、お前の持つ剣が欲しいだけだ。その為に令呪を使い、その剣を俺に献上させようと思ったのだが…そうは上手くいかなかったなぁ」

 

セイバーの表情は変わらない。ただ、不可視の剣を握る力がより強くなった。

 

セイバーが『世界』と契約する前…英霊となる前は、彼女の持つ剣を狙う輩は数多く存在した。その度に彼女は挑んできた敵に応え、全てを撃退してきた。だが、目の前の男はどうだ。正面から自分に挑むこともなく、マスターから令呪を使って無理矢理奪おうとしていた。そのために多くの人々を巻き込み傷つけた敵の非道に、そして剣の腕を見ただけで相手を過大評価してしまった自分への怒りにセイバーはビルゲニアへ剣を構える。

 

「貴様…私の身を知りながらこの剣を欲するというのか?」

「ああ、俺ならばその剣に相応しい『王』となってやれる。お前と違ってな」

「…この剣、私より相応しい人物ならば…譲ることも惜しまない。だが、それは決して貴様のような外道ではない!」

「フン!ならば、この場で俺の物にしてくれる!」

 

サタンサーベルを構え、再び斬りかかろうとするビルゲニアの背後で爆発音が響いた。

 

 

 

怪人達と戦いながらセイバーとビルゲニアの接戦に目を向けてしまう光太郎。あの場はセイバーへ頼んだのだが、正直に言えば自身でビルゲニアと戦い、先ほどの事を確かめたかった。しかし、動揺して再び危機に陥ることが目に見えていたため、セイバーに相手を頼んだのだ。

 

(まだまだだな、俺は…)

 

己の精神面が未熟であることを自覚せざるえない。だが、それを深く考えるのは目の前の脅威を払ってからだ。怪人達は相変わらず自分を囲い波状攻撃を仕掛けてくる。今はまだうまく避けられているがダメージが重なって体も重い。少しでも、一瞬でも再生怪人達の動きを止められたら…そう考えながら頭上より迫ったツルギバチ怪人を警戒した光太郎だったが、予想外の展開となった。

 

ツルギバチ怪人の頭部と羽それぞれに矢が刺さり、その瞬間に爆発したのだ。

 

落下したツルギバチ怪人は爆発した頭部を手で押さえながら地面で悶えている。この突然の事態にライダーや再生怪人はもちろん、離れて戦っていたセイバーやビルゲニアもこちらへと注目している。

 

「これは…まさか!?」

 

ツルギバチ怪人を墜落させた矢が飛んできた方へと目を向ける。そこには校庭に設置されていた朝礼台の上から新たな矢を弓で番えた

衛宮士郎と間桐桜の姿があった。彼らだけではなく、ガントを打つ準備をしている遠坂凛。そして間桐慎二は何故か拡声器を手に持ち、ボリュームの調整操作をしているではないか。

 

『あ~、聞こえるかー?そこの無能な甲冑さん?』

 

どこかワザとらしく間延びした声で慎二は拡声器をビルゲニアに向けて声を発した。

 

「慎二君…!?いったい何を!?」

 

義弟の突拍子のない行動に思わず動揺してしまう光太郎。先程メンタル面での反省をしたばかりだったが、こればかりはどうしようもない。地面に落ちている先程の矢を見る。先端は焼き焦げていたが、そこに見たことのある布が巻き付けてあった。

 

その布は魔力を込めた後、触れた瞬間に爆発する術式のルーン文字をエタノールを染み込ませた布に書かれたものだ。慎二が桜のスタンガン代わりだと持ち歩かせていた(過剰防衛ではと光太郎は危惧していた)ものだが、まさかこのような使い方をするとは流石に光太郎も思わなかった。

 

『あいッ変わらず詰めが甘いよねぇ。今日だって人質の見張りに怪人置かなかったし、お喋りでせっかくの機会逃しちゃうし…そんなんだからいつまで立ってもお前たちの『お偉いさん』に近付けないんじゃないのぉ?』

「小僧…!この俺をバカにするのか!!」

 

慎二の挑発に顔を歪ませて叫ぶビルゲニアであったが、彼の挑発は止まることはなかった。

 

『ハッ!その小僧ごときにバカにされるまで失敗を続けてるのはどこの何様なんだろうね!』

 

ビルゲニアを鼻で笑う慎二に隣に立つ士郎達やライダー、セイバーまでもが唖然としてしまう。挑発を受けたビルゲニアは肩を震わせ、サタンサーベルの切っ先を慎二へと向ける。

 

「怪人共ぉ!!仮面ライダーは後回しだ!あの小僧共を皆殺しにするのだぁ!!」

 

血走った目で慎二たちを睨むビルゲニアの命令に、それまで光太郎とライダーへ攻撃をしていた再生怪人達は標的を変更し、慎二たちに向かって駆け出した。

 

 

「おーおー、見事にこっちへ向かってくれてるね」

 

スイッチを切った拡声器で肩をトントンと叩く慎二の隣で、米神に青筋を立てる凛は大声で怒鳴った。

 

「こっちに向かわせてどぉすんのよ!?まさかさっきの弓矢であの大群を全部落とすつもり!?」

「はぁ?そんなんで倒せるわけないだろう。最初に言った通り、あんなのこっちに注意を向けるだけでもうお役御免だよ」

「こ…んのぉ…」

「と、遠坂先輩、落ちつて!深呼吸、深呼吸!!」

 

プルプルと肩を震わす凛の怒りなどどこ吹く風と流す慎二は自分達に接近する怪人達を見る。今も弓を持つ士郎は先程、自分達に合流した慎二達の言葉を思い出す。

 

『これからやることには、お前と桜が精確に射る事が前提になる。…頼めるか?』

『お願いします先輩!慎二兄さんを信じてください!』

『それで…光太郎さん達を助けになるっていうなら、俺はやるよ』

 

無言で見つめ合う事数秒、慎二から弓道部で調達してきた弓と矢を渡され、怪人達への攻撃を桜と開始したのだ。

 

(慎二…お前と桜を、信じるぞ!)

 

桜に諭されてようやく落ち着いた凛の横で慎二は怪人の群れの向こうにいる義兄を見つめた。

 

「さて、後は光太郎が気が付けば詰めだ」

 

 

 

 

突然の出来事に光太郎とライダーは自分達を無視して慎二たちに向かう怪人の背中を見送る結果となってしまった。

 

「慎二君は、一体何を…ッ!?」

 

その時、光太郎の強化された視力が捉えたのは、怪人越しにこちらを見る義弟の姿。慎二は目元を指先でトントンと叩いている。それだけで、光太郎は慎二が何を言いたいのか、何が狙いだったのが理解出来た。

 

「ライダー!俺の拳に!!」

「ハイッ!」

 

全てを言わなくとも頷いたライダーは光太郎が構えたと同時にその場からジャンプした。光太郎は拳を引き、ストレートパンチをその場で打ち出す態勢となり、ライダーが拳に足を乗せた瞬間、ライダーごと正面に拳を突き出した。

 

「行っけえぇぇぇぇぇ!!!」

 

光太郎が拳が突き出されたと同時にライダーも拳を足場にして全力で蹴る。光太郎に打ち出されたライダーは猛スピードで怪人達をすり抜け、士郎達の前で着地した。

 

「みなさん、後は私に任せ、下がってください」

 

そこまで迫った怪人達へ向き直ったライダーは慎二達に下がるよう告げた後、自身の両目を覆っていた眼帯に手を伸ばした。

 

 

ライダーの目が解放された瞬間、彼女の視界に入った怪人達の動きは完全に止まった。飛行する怪人も身動きすることなく鈍い音を立てて落下する。

 

ライダーの目を隠していた宝具『自己封印・暗黒神殿』から解き放たれた石化の魔眼『キュベレイ』は相手が例えサーヴァントであろうと問答無用で石化させる威力を持っている。それが彼女…ゴルゴン三姉妹の末女、メデューサが生まれながら持つ能力であった。

 

しかし、その石化能力にも限界はあった。一つは使用者の魔力を常に消費してしまうこと。傷だらけのライダーが使い続けるには限界もあり、今も汗を流しながら使い続けている。だが、そのライダーの姿をあざ笑うかのように、動かないはずの怪人達が少しずつ、動き始めていた。

 

「こ、これは…!?」

 

見ると遠く離れた場所でビルゲニアがライダーの視界に入らないよう盾、ビルテクターを前に掲げながら、再びサタンサーベルを大地に突き立てている。そのエネルギーは大地を伝わり、怪人達へと力を与えていた。

 

「バカめ、再生怪人どもは俺の魔術と地脈の力によって蘇ったのだ。故に、地に足を着いている限り俺とこの地の加護を受けている!直に魔力切れを起こすそ奴の目など足止めに過ぎんわ!」

 

ビルゲニアの言う通り、強力な魔力による加護や力を受けている状態であれば、彼女の魔力に打ち勝ち、動くことも可能だった。

 

「くっ、私も自由に動ければ…」

 

ライダーの視界に入ってしまったセイバーも動きが鈍っていた。対魔力Aを誇る彼女だったが、石化の能力を全力で打ち出すライダーの能力に打ち勝てずにいた。

 

「ハハハハッ!まずはその英霊から嬲り殺しだ!」

 

勝ち誇るように笑うビルゲニア。だが、それも光太郎の雄叫びにかき消された。

 

「その足止めだけでも十分だ!」

 

 

 

 

 

 

「来い!ロードセクターッ!!」

 

 

 

 

 

光太郎の呼び声に答えるように、赤と白を基調としたオンロードマシンが校庭に出現した。それはバトルホッパーと並ぶ光太郎のもう一人の戦友、スーパーマシン『ロードセクター』であった。

 

「トァッ!!」

 

ロードセクターに飛び乗ったと同時にアクセルを全開。未だその場所から動いていない怪人の群れへとスピードを上げて突っ込んでいく。そのスピードは留まることなく上昇していく。

 

時速100㎞…200㎞…500㎞…そして時速800㎞を突破する。

 

「アタックシールド!!」

 

さらに加速していくロードセクターはマシン上部にアタックシールドを展開。前部がイオンバリヤーで覆われ、巨大な弾丸となったロードセクターは一か所に固まった怪人達へ激突した。

 

スパークリングアタック

 

最高速度を時速960㎞を誇る体当たりとその衝撃波を受けた再生怪人は、バラ怪人を残して大爆発を起こした。そのバラ怪人も他の怪人達の爆発に巻き込まれ校庭を二転、三転と転がっていく。そして、それを逃す光太郎ではない。ロードセクターが止まったと同時にジャンプする。

 

「ライダーァ―――」

 

エネルギーを纏った拳を、バラ怪人の顔目掛けて繰り出した。

 

「―――パァンチッ!!!」

 

吹き飛ばされたバラ怪人はビルゲニアの足元まで転がる。

 

「お、おのれぃ!やれ、バラ怪人!!」

 

ふら付きながらも立ち上がったバラ怪人は光太郎に向け、その両腕を伸ばした。ツルの鞭とかした両腕が光太郎に触れる寸前、その先端はセイバーの剣によって切り裂かれた。

 

「今です!」

 

セイバーへ頷いた光太郎はもがくバラ怪人とビルゲニアに向かい叫んだ。

 

「…無関係である多くの人々を人質にするなど、この俺が絶対に許さん!!」

 

両拳をベルトの上で重ねたと同時に、エナジーリアクターの中心が赤く発光する。右腕を前へ突出し、左手を腰に添えた構えから両腕を右側へ大きく振るい、左手を水平に、右腕を右頬前へと移動する。右拳を力強く握りしめるとその場が跳躍する。

 

「ライダーァ―――」

 

エネルギーを纏った右足を、ビルゲニア達に向けて突き出した。

 

「―――キィック!!!」

 

「チぃッ!!」

 

舌打ちをしたビルゲニアはバラ怪人の背中を蹴り、己を光球へと姿を変えたその場から離脱。光太郎のキックを受けたバラ怪人は吹き飛ばされながら、その身を炎に包まれ消滅した。

 

着地した光太郎は振り返り、学校の屋上に移動したビルゲニアを睨んだ。

 

「仮面ライダー…そして英霊共、この屈辱は忘れんぞ!!」

 

その怒りに燃える目は光太郎から、セイバーへと標的を変える。

 

「そしてセイバーのサーヴァント!必ずやお前よりその剣を奪い去ってくれる!!」

 

捨て台詞を吐き、ビルゲニアは再び光球となると何処かへ姿を消していった。

 

 

戦いを終えた一同はただ、大きく息を吐くのみであった。

 

 




ちょいと詰め込みすぎましたが、学校での騒ぎはこれにてひと段落となります。

セイバーの動きが鈍ってる部分に関しては、ライダーが頑張ってるからということでご勘弁を・・・

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第17話『事後の行動』

まさか飛び跳ねるだけと思ったチューリップホッパーがあんな活躍を見せるなんて…


第17話

 

(何なんだよ一体…)

 

学校での激闘が終わり、校舎を後にした間桐慎二は義兄、義妹、そしてライダーと夕食をとっていた。献立も桜の得意料理となった洋食が中心であり、それは慎二に取ってもはや当たり前となった光景だ。しかし、それは場所が間桐家であり、同席者がいなければである。

 

「あら、この鶏肉のソテー美味しいじゃない!」

「ええ、見事の一言です」

「えへへ…ありがとうございます」

 

しっかりと下味を付けて程よく焼かれた鶏肉を頬張る凛とセイバーの賞賛に満面の笑みを浮かべるエプロン姿の桜を見て、隣に座る慎二は深く溜息をついた。

 

「どうした慎二?箸が進んでないけど、苦手なものでもあったか?」

「……………」

 

慎二の正面に座っている士郎は、ずれた質問をしながら添え物のブロッコリーを口元に運んでいた。慎二は無視してポテトサラダを箸で摘まむが、義兄の余計なフォローに口を開かざるえなかった。

 

「そこは心配いらないよ衛宮君。慎二君は何でも食べれるから!ね?」

「何だよそのうちの子は大丈夫的なフォローは!?それに食べなれてる味に何コメントつければいいんだよ!!」

「ふむ…つまりいつもと変わりなく美味しいとを遠回しに言っているのですね」

「曲解もいい加減にしてもらえない!?」

 

光太郎の隣に座り、慎二の言葉を照れ隠しでならではの発言と解釈している眼鏡をかけた女性・・・ライダーは彼の声など物ともせず、コップに注がれた日本酒を煽っていた。

 

「あらら~。ライダーさんって行ける口?初めての日本酒でそこまでグイっといけるなんてすごいわねぇ」

「お酒は国境を越えます…」

「おおぅ、素敵な一言頂きましたぁぁぁぁ!!こうなったらこの家に眠るとっておきを出しちゃうぞ~!」

「藤姉!それ組から貰った正月に開けるヤツじゃなかったのか!?」

 

弟分の言うなど耳に入れず、秘蔵の品を取りに台所へ駆けていく藤村大河教諭の姿を見て、慎二は再び溜息を付いた。

 

慎二達は現在、自宅ではなく衛宮家の食卓を家主と共に囲っていた。なぜ、士郎達と食事をすることになったのか、それは数時間前に遡る・・・

 

 

 

ビルゲニアが逃げ去った後、戦いを終えた光太郎達は一つに問題に直面していた。学校の後始末をどうするか、ということである。学校の生徒、教師達が集団催眠に合い、校庭は再生怪人達との戦いでボロボロであった。外部の人間に知られる前に、収拾を着けなければならない街の管理者である

遠坂凛は迷いに迷った上である人物へ協力を仰ぐことを決意した。

 

「・・・桜、携帯電話貸して貰える?」

「は、はいっ!」

 

突然の氏名に驚きながら、桜はいそいそとポケットから自身の携帯電話を取り出し、凛に差し出す。が、凛は桜の携帯電話を見た途端、目を丸くして動きを止めてしまう。

 

「・・・遠坂先輩?」

 

いつまでも受け取らずにいる凛を不思議に思った桜は声をかけるが、凛は手を震わせ、まるで未知の物体を目撃したような表情を浮かべていた。何故こうまで彼女が桜の携帯電話にここまで怯えているのか。それは桜の所持する携帯電話が凛の知る二つ折りでボタンを押すタイプではなく、画面に直接触れて操作する最新の機種だからだ。父親譲りの機械オンチである凛にとっては先ほどのゴルゴム以上の脅威である。そんな凛の状態を察した士郎は実姉の挙動に首を傾げている桜の肩を叩いた。

 

「・・・桜、遠坂が言う番号をかけてやってくれ」

「は、はい・・・」

 

士郎の助け舟に余計なことを・・・と言いたげに睨む凛であったが、つかさず霊体化している自身のサーヴァントが耳打ちをする。

 

(凛・・・ここは素直に頼りたまえ。これ以上時間をかければ目撃者が出るぞ)

(わ、分かってるわよ!)

 

紆余曲折の末、番号を押された桜の携帯電話を手にした凛は耳に当てながら、連絡相手が出るのを待つ。コール音が数回鳴った後、ガチャリッと受話器を持ち上げられた音を確認し、凛は覚悟を決めて切り出した。

 

「…綺礼?私よ」

『君は、電話で名乗る時は本名を告げないように教育を受けていたのかね?』

「遠坂凛よ・・・確認取るまでもなく、言峰綺礼よね」

『その通りだ。しかし聖杯戦争が始まって間もなく連絡をよこすとは関心しないな。それとももうサーヴァントを失ったのかな?』

「そうじゃなくて、相談したい事があるのよ!」

『ほぉ・・・』

 

開口一番、電話相手の皮肉に凛は青筋を立て、怒りの声を上げようとしたが何とか飲み込み、電話の相手…聖杯戦争の監視役である

神父、言峰綺礼へ本題を持ちかけた。凛は聖杯戦争中に起きた事件、事故を秘密裏に処理をする聖堂教会の助力を得ようと監視役である綺礼に連絡を取ろうと考えたのだ。

しかし、凛にとって綺礼は兄弟弟子の間柄でありながら犬猿の仲であり、本来ならば最も頼りたくない相手でもあった。

 

『なるほど…しかし、君の言う通り今回起きた出来事はあくまで聖杯戦争とは無関係の戦いだ。その隠蔽に我々が動く訳にはいかんな』

「くっ…確かにそうだけど…」

『しかし、話を聞くとその戦いにサーヴァントが関わってしまったのであろう?ならば無視出来ない事態であることでもある』

「え…?」

 

凛は綺礼の意外な対応に声を上げて驚いた。元々期待していなかった分、あの綺礼が手を貸してくれるということが逆に凛を不審に思いつい問い詰めてしまった。

 

「…やけにこちらの言うことを聞いてくれるわね」

『あくまで監視者としての判断だよ。サーヴァントという規格外の存在が残した痕跡を残すわけにはいかんのでな。それに…』

「?」

『君に貸しを作っておくこともまた一興だと思ってね』

 

電話越しに、真っ黒な笑みを浮かべる神父の姿が易々と浮かんでしまう凛であった。

 

「ちょっと!?本音はそれじゃないでしょうねぇ!?」

『では、これから私は近くで潜んでいる他の監視役に連絡を取らなければならん。君達は一刻もそこを離れるように』

 

怒鳴る凛のことなど構わずに要件だけ伝えて綺礼は通話を終了させる。凛は行先のない怒りで肩を震わせるが、士郎の呼びかけにどうにか

抑え込んだ。

 

「と、ともかくこれで学校のみんなはどうにかなるんだろ遠坂?」

「まぁ…ね。はぁ…まさかこんな形でアイツに借りなんか作るなんて」

「それほど恐ろしい相手なのですか?その神父は」

「ああ…ライダーは直接会ったことはないもんな」

 

凛の様子を見て監視役が気になったライダーの疑問に付け加えた光太郎は、初めて言峰綺礼を顔を合わせた時を思い出す。

 

光太郎は聖杯戦争参加の表明するために、監視役のいる言峰教会を訪ねた際に綺礼と初めて顔を合わせたが、それ以降会おうという気にはなれなかった。掴みどころのない人物ということもあったが、それ以上に自分を見る神父の目が不気味であったのが原因だ。聖杯戦争についての説明中も、獲物を

見つけた蛇に睨まれている心境であり、その重圧に耐えるのが精一杯で話の内容など微塵も覚えていない。説明中も終わり、ようやく帰路へつこうと重い扉を開けた際に言われた彼の一言に、光太郎は心臓を抉り出されたような気持ちになり、無意識に振り返ってしまった。

 

 

『君が聖杯に選ばれた時に『君の心からの望み』が叶うことを祈ろう』

 

 

それを聞いた時、自分がどのような顔をしていたかはわからない。ただ、その顔の唯一の目撃者である言峰綺礼は、見た方が凍りつくような冷たい笑みを浮かべて礼拝堂の奥へと姿を消していった。

 

(彼とは、違った意味で恐ろしい存在だな)

 

自分を観察しているという意味では、あの金髪の青年と一緒ではあるが、根本は全く異なる。青年は光太郎の行動そのものを見て楽しんでいる節があるが、綺礼は光太郎の心のを見透かして最も触れられたくない部分を見出そうとしている・・・苦手という以上に怖いと思える存在だった。

 

 

「まぁ、綺礼はあれでも仕事はきっちりとやるタイプだから任せて大丈夫よ。となれば・・・」

 

携帯電話を桜に返した凛は視線を光太郎へと向ける。

 

「あいつらについて説明をお願いできないかしら?仮面ライダーさん」

「・・・」

 

本来であればゴルゴムとの因縁とは無関係の人間には聞かせるべきではないと断るところではあるが、今回の件はそう言い切れない。敵の狙いは自分ではなく、義弟の友人、そして彼のサーヴァントだった。そしてビルゲニアの言う言葉通りならまた現れる可能性も高いと光太郎は考えた。

 

「・・・わかった」

「おい光太郎っ!」

 

光太郎の返事に食いついたのは慎二だった。彼が言いたいことはわかっている。もしゴルゴムの話をするとなると、当然自分についても説明しなければならない。口が悪く優しいこの義弟のは自分以上に心配してくれる。それだけでも、光太郎は嬉しかった。だから、その心配を削ぐ為に、少しばかり弟の真似をすることにした。

 

「遠坂さん、俺達も奴らに対して持っている情報はそれほど多くない。でも、協力してもらった以上は遠坂さん達の質問に『可能な限り』答えようと思う。それでいいかな?」

「・・・ええ。それで構わないわ。なにも知らないよりは遥かにマシだしね」

 

上手く逃げたなと慎二は光太郎の言葉を聞いて思った。今の言い分であれば核心を突いた質問も知らぬ存じぬで誤魔化せるだろう。まだ腑に落ちない凛に続いて士郎へと顔を向けた。

 

「・・・衛宮くんにも、今回は済まなかったね。令呪を一つ消費させてしまって」

「い、いえ!それを言うなら俺だって以前助けて貰いましたし・・・」

「なんと、以前にもシロウを助けて頂いたのですか?」

 

クモ怪人から救われたことに関して強く反応しのは彼のサーヴァントだった。さらに詳しく聞こうと光太郎には問いかける彼女の姿は戦闘中の銀色の甲冑ではなく、白いブラウスにスカートを着用している。その姿を見て、どこか羨んでいる気配を、光太郎はライダーから感じていた。

彼らのやり取りを遠目から見ている凛は、隣に立つ桜へと尋ねる。

 

「桜、貴方もそのことも知ってるの?」

 

凛の質問に桜は笑顔で頷く。

 

「はい、。あ、でもさっきのお話はちゃんと光太郎兄さんから聞いて下さいね?ずるはダメです!」

「む・・・」

 

見抜かれていた。流石は我が妹・・・と会話に乗じてなにか得られるかと凛は期待していたが読まれていたようだ。

 

(残念ながら、ここぞという時にしくじるのは君だけのようだな?)

(るっさいわね!!)

 

アーチャーのあ茶々入れに目くじらを立てながら、光太郎達を見つめる桜の横顔を眺める凛。桜は、まだ遠坂の家にいたあの頃・・・ひょっとしたらその時以上に笑顔で幸せで暮せているのではないのか。それを考えると、あの光太郎という人物と、認めたくないが慎二には今回以上の借りを作っているのではないだろうかと考えた凛はここで少しは精算するべきだろうと、光太郎達の元へ歩いた。

 

「さて、お喋りはそこまでにして移動をを開始しましょうか。場所は衛宮君の家でいいわよね?」

「ああ、俺は構わないけど」

「なら決まりね。それと・・・光太郎さんと呼ぶべきかしら?」

「なんだい?」

「貴方のサーヴァントを、少し借りてもいいかしら?」

「ライダーを?」

 

凛の要求に、光太郎と指名を受けたライダーは思わず互いに目を合わせた。

 

「そんなに警戒しなくてきわ。これはさっきとは別件。今まで冬木をあいつらから守ってくれたことを、管理者として御礼がしたいだけよ」

 

間違ってはいないが、あくまで建前である理由を述べた凛に、光太郎以上に周りの人間にが動揺した。

 

「と、遠坂が、御礼・・・?」

「シロウ・・・あそこに立つリンは本物でしょうか?」

「あんた等ねぇ・・・」

 

赤い悪魔に睨まれた士郎とセイバーはそれ以上口を開くことは無かった。

 

「いや、俺達はそういったことの為に・・・」

「光太郎兄さん」

「桜ちゃん?」

 

断ろうとした光太郎だったが、桜が実施姉へ尽かさずフォローに入る。

 

「どうか御礼を受けちゃって下さい。じゃないと、遠坂先輩は受け取るまでずっと兄さんにあの手この手で付きまとってしまいますよ?」

(笑顔で言うことじゃないな・・・)

 

内心、逞しくなった義妹の発言に複雑な思いを抱く慎二も、後に続くことにした。

 

「受けとけよ光太郎。そうすれば遠坂も満足するだろうし、これ以上グダグダすることもないだろ?」

「慎二君まで・・・」

 

手間を省くためという義弟の言葉に、光太郎はライダーの顔を伺う。ライダーはしばし悩んだ後に無言で小さく頷いた。

 

「・・・わかった。ありがたく受けるよ」

「なら、善は急げね。ライダーは霊体化して私に付いてきて頂戴。後の皆は、衛宮君の家に行くこと。では解散!」

 

凛の号令の元、光太郎達は学校を離れ衛宮家へ移動を開始した。

 

 

 

 




光太郎、既に愉悦部にロックオンされておりました。
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第18話『敵の狙い』

主人公が重い宿命を背負っている作品は多々ありますが、個人としてはテッカマンブレードが印象強いですね。いや、特に登場させるわけでもないんですが・・・

今回も戦闘無し!18話です


間桐光太郎は新都にあるブティックの前で立ち尽くしていた。霊体化した彼のサーヴァントを連れた遠坂凛が店内の奥に消えて早30分…女性専門店の前で立ち続けることに若干の抵抗を感じている光太郎へ、出入りする女性客の視線が次々と注がれていた。

 

(やっぱり…付いて行くんじゃなかった)

 

身長180cmの男が店の前で突っ立っていれば嫌でも目にしてしまうだろう…と、光太郎は居た堪れない気持ちであったが、本人の思いとは違う意味での注目を浴びてしまっている。高身長で、顔も整っている男性を年頃の女性たちは見逃すはずがなく、中には光太郎へ声をかける事を押し付け合っている女子大生のグループまで出てくるほどだ。しかし、店から出てきた遠坂凛と光太郎と合流

した事で、興味を失った女性達はクモの子を散らすように離れて行った。

 

「お待たせ。いやぁ大変だったわ」

「…随分買い込んだね」

 

ご満悦である凛の両手には店のシンボルマークが描かれた袋が握られている。ここでの買い物が彼女の言う御礼になるのか…?と疑問に思う光太郎の思考は凛の後に店から出てきた彼女の姿を見て停止する。

 

「り、リン…私にこれほど服があっても」

「何言ってんのよ!せっかくいいスタイルしてんだから持て余すなんて勿体ないわよ?」

 

凛と同じように両手に袋を持って店から出てきたのはライダーだ。しかし、その姿は見慣れた戦闘装束ではなく、長袖の黒いセーターにジーンズと人間の服を身にまとっている。さらには両目を覆っていた眼帯を外し、眼鏡を着用。普段では決して見ることのなかったライダーの瞳がはっきりと目にする事が出来ている。

 

「……………」

「コウタロウ…これは、リンが…」

「どぉ?ライダーって手足が長くてピッタリのサイズが中々見つからなかったのよ。で、感想は?」

 

無言で目を丸くしている光太郎へ自分の姿を弁明するライダーだったが、笑顔の凛が割って入る。

 

「か、感想って…?」

「ほらあるでしょ?身近にいる人がいつもと違う恰好になったら、言いたいことが一つや二つ。それとも、何にも浮かばないとか…?」

 

凛に言われたから、という訳ではないが、改めてライダーの姿を見る。彼の視線に勘付いたのか、どこか恥ずかしそうに目を逸らしながら小声で尋ねてきた。

 

「やはり…私の背丈では、せっかくの服も」

「い、いや!別に変だとは決して考えないよ!むしろ…」

「むしろ…なにかしら?」

 

慌てて答えようとする光太郎を愉快に眺める凛は口を手で押さえながら2人のやりとりを楽しんでいる。先程別れた士郎より、『アイツは地の性格がちょっと…』とぼやいていた理由をようやく理解した光太郎だった。このニヤニヤと笑っている小悪魔が義妹である桜の実姉である事実を考えると、個性とは恐ろしいな…と心に思っても口には出せない光太郎は回答を待っているライダーへ顔を向ける。

 

「むしろ…なんでしょう?」

「あ…うん、ライダーが…」

「はい…」

「ライダーが…すごい美人だって事が改めて判った…」

 

公衆の前面であまりにもストレートな言葉であった。

 

何かまずいことを言ってしまったのだろうかと不安に思った光太郎は凛の方を見ると、からかっていたはずの彼女が逆に聞くんじゃ無かったと言いわんばかりに顔を赤くしている。どうやら光太郎の言葉は言った当人意外にもダメージがあったらしい。

 

「…こちらでの用事は済みましたし、セイバーのマスターがいる家へと向かいましょうか」

「あ、あぁ…?」

 

光太郎の感想を聞いたライダーはその場を後にして衛宮邸へと足を向けて歩き始めた。自分にとっては勇気を振り絞った言葉に対してあっさりとしたライダーの態度に少し寂しく思う光太郎だったが…

 

「ら、ライダー!前!!」

「ぶっ!?」

 

光太郎の忠告が間に合わず、歩く速度を落とさずに電柱へ顔を思い切りぶつけてしまうライダー。

 

「だ、大丈夫かライダー…?」

「は、はい…私の額はこれしきのことでは亀裂など走ることすら烏滸がましいので心配は入りません」

「ごめん、絶対大丈夫じゃない」

 

額を抑えて文法と思考が支離滅裂となったライダーはフラフラとした足取りで再び歩き始めた。光太郎の発言は思った以上にライダーに影響を与えたようである。

 

「…遠坂さん。ライダーの眼鏡って度は合ってる?」

「それはワザと言ってるのかしら?」

「いや、純粋な意味での質問さ。眼帯を外した状態のライダーが周囲を石化させないってことは…普通のものじゃないよね?」

「以外と鋭いところがあるようね…お察しの通り、あれは家にあったとっておきの品よ。それに普通の伊達眼鏡と変わらないから、視力がおかしくなるってことはないわ」

 

自分が居候している家主並に鈍感かと思った凛は真面目な顔で切り出した。

 

ライダーは石化の魔眼『キュベレイ』を宝具『自己封印・暗黒神殿』で常に封印している。そうしなければ自分の意思とは関係なく、彼女の視界に入るもの全てを石化してしまうからだ。

 

今ライダーが着用している眼鏡は、魔眼の力を封じることが出来る『魔眼殺し』と呼ばれる魔術品であり、一見は普通の眼鏡に過ぎないが、『自己封印・暗黒神殿』と同じようにライダーの目から発生する魔力を封じることが可能なのだ。過去、凛の父である遠坂時臣が市外に別荘を持とうとした際に出会ったとある設計士から購入したものであったが、遠坂に魔眼を持つ人間が現在も現れないため、持て余しているものだった。

 

「いいのかい?そんなものまでライダーに」

「いいのよ。ちゃんと御礼になっているみたいだしね。さっきの彼女を見る限り」

「ああ…」

 

普段ライダーは霊体化しているか、実体化してもあの戦闘装束の姿でしかない。以前、服装に関してファッション雑誌を持った桜が彼女にどのような服が好みか聞いた時は『自分には、似合いませんから』と興味を示さなかったが、学校でセイバーが甲冑から洋服の姿を見ていた時、どこか憧憬の眼差しで見ていた様子だった。口に出さないだけで、服装には憧れがあったのかもしれない。今回の買い物でライダーが楽しんでいてくれたなら…自分にとっても嬉しいことだ。

 

「ありがとう…こんな素敵な『御礼』を」

「あら、ちゃんと理解してくれてるんなら助かるわ。やっぱどこかの鈍感とは偉い違いね」

「あはは…」

 

なんとなく凛の指している人物像が浮かぶ光太郎は苦笑するしかなかった。

 

「それと最後に…」

「…?」

「今後は服の『中身』も期待していいわよ?」

 

含み笑いを浮かべる凛は手に持っている袋の中身をちらりと光太郎へ向ける。そこには様々な種類と色の下着が詰まっていた。

 

「……ッ!?」

 

顔を真っ赤にして後ずさる光太郎を見て、してやったりと満足顔の凛はライダーを追って行った。

 

「はぁ…衛宮君も苦労するな」

 

士郎と被害者の会を結成するのは近いかもしれない。そんな事を考えながら光太郎も後に続いた。

 

そしてライダーは衛宮家に到着するまでの間に電柱へ37回頭をぶつけたという…

 

 

「あらあら~珍しいお客ねぇ~」

 

衛宮家に到着した光太郎達を出迎えたのは、穂群原学園の英語教師、藤村大河女史であった。

 

「ふ、藤村先生…もうお帰りだったんですか?」

「うん!ほんとは学校のみんなと検査入院ってことだったんだけど、病院追い出されちゃったのだ!」

 

学校で眠らされた生徒教師全員は化学薬品を運んでいたトラックがドライバーの居眠り運転のため校舎へ衝突。その際に発生した薬品のガスによってその場にいた全員が昏倒した…ということになっている。

 

そしてこの教師は、病院へ担ぎ込まれた直後に目覚め、病人食を平らげた後に同じ病院へと搬送された生徒、職員達の様子を見る為に院内を駆けずりまわった結果、早期退院という形で追い出されてしまったらしい…

 

「ハハハ…相変わらずお元気そうですね、藤村先生」

「おぉ!そんな貴方は間桐君と桜ちゃんのお兄さん!弓道部合宿の時の差し入れ、ありがとうございます!」

 

義弟と義妹が所属する部活の顧問という間柄であり、顔見知りである光太郎はあの一件の後でも元気いっぱいである女性へ挨拶をする。

笑顔で返す大河の目に入ったのは高太郎の背後に立つ見知らぬ外国人の女性だ。それに気づいた光太郎は咄嗟に先程彼女と打ち合わせした経歴を紹介することにする。

 

「ああ、彼女はライダー。僕が通っている大学で同じゼミなんです」

「よろしくお願いします」

「ほほ~。家のセイバーちゃんといい、最近は変わった名前の外人さんが多いみたいね~。ともかく上がって上がって!」

 

大河に通され、衛宮家の居間へ移動した光太郎達は、不機嫌な顔で部屋の隅に座っている慎二であった。

 

「慎二君…どうしたの?」

「………」

 

無言の慎二を見て、これは相当機嫌が悪いなと察した光太郎に、台所にいたエプロン姿の桜が小声で説明した。

 

「実は…先程藤村先生に、今日はこちらで夕飯を食べていくように言われたんです」

「先生に?」

「はい…最初は断ったんですけど、その、藤村先生に押されてしまって…」

「やもなく了承した…ということですか」

「そうなんです…ってライダーさん!どうしたんですがその素敵な恰好!?」

「え…いや、これは…」

 

目を輝かせて言い寄る桜にあたふたするライダーを置いておいて、光太郎は家主の姿を探すが、急須と湯呑を人数分取り出した凛が行先を伝える。

 

「そういえば、衛宮君は?」

「…たぶん道場でしょうね。日課でセイバーと稽古してるみたいだから、そのうちこっちに来るわ。それまで寛ぎましょう?」

 

そうだねと、腰を下ろす光太郎達。学校からいままで、碌に休憩も取っていなかったので、これでようやく落ち着くことが出来る。

 

 

そして夕暮れ。間桐兄妹とライダー、衛宮士郎、遠坂凛、セイバー、藤村大河は食卓を囲んだ夕食は大河が騒ぎ、ずれた事を言う光太郎達へ慎二が終始叫ぶという内容で終えた。

大河は一足先に衛宮家を去った。学校は暫く休校という扱いだったが、別の病院に搬送された生徒や同僚の見舞いに行くために早めの帰宅するということだ。教師の鏡だと言った光太郎の意見に四者四様、複雑な顔をしていた理由は敢えて聞かずに本題を始める。

 

「さて、藤村先生が帰った事だし。話をしようか。『奴ら』に関して」

 

一同の視線は光太郎へと向けられた。ゆっくりと息を吐いて、光太郎は話を始める。自分の素性を表に出さないよう、暗黒結社ゴルゴムについて語った。途中で出た質問にも細心の注意を払い、慎二のフォローもあって自然で辻褄の合う内容で進行していった。

 

 

「………以上が俺達がしっているゴルゴムの情報だ」

「世界征服…ねぇ」

「話を聞くだけなら、あんまり実感がわかないけど…」

 

光太郎の話を聞いた凛も士郎も、学校で目にした怪人達の姿に納得さぜるえなかった。現実にゴルゴムは実在し、敵の狙いは自分たちが選んだ者以外を抹殺し、地球を我が物とする事…単純で、分かりやすい程の『悪』であった。

 

「そんで、ゴルゴムの怪人を倒して以来、因縁付けられて狙われることになった…と」

「そういう事。正直、迷惑以外何物でもないんだけどね」

 

疲れたように凛の質問に答えた光太郎。これは、士郎達へ付いた唯一の嘘だ。士郎達へ説明するべきではない。という以上に、光太郎が知って欲しくない事実であったからだ。それを理解しているからこそ、注釈していた慎二も、黙って聞いていた桜も何も言わずに光太郎の説明を見守っていた。

 

「それでは、私の剣を手に入れようとしているのは…」

「恐らく君の正体…というより、セイバーの剣の力を知った上でだろうね…ビルゲニアはゴルゴムの中でも、異常なほど力に固執してる」

「………」

 

セイバーの疑問に答える光太郎の口から出たビルゲニアの名に、士郎は周囲に悟られぬ用に歯噛みする。もしまた現れたのなら、今度は遅れを取らないようにここにいるみんなで対策を練れると思った矢先、凛の一言に思わず顔を上げてしまった。

 

「わかったわ。それじゃ、また奴らが現れたのならそっちに全部任せて大丈夫なのね?」

「ああ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ遠坂!」

 

慌てて立ち上がった士郎は凛と光太郎のあっさりした会話に待ったとかけた。

 

「今の話を聞いてなかったのか?ゴルゴムの連中は俺達人間の敵なんだ!光太郎さん一人で戦うなんて…」

「あんたこそ、話を聞いていたの?この場を設けたのはあくまでセイバーを狙った連中の正体を知る為。それに、今の私達には関係のない戦いよ」

「なっ…!?」

 

座ったまま瞳だけを士郎に向け、凛は話を続ける。

 

「確かに話を聞く限りゴルゴムは人類にとって天敵ね。けど、それを知ったからって私達に何が出来るの?」

「何って…光太郎さんだけじゃなく、俺達も手助けすれば…」

「そこから既におかしいのよ士郎。今、私達は聖杯戦争中ってこと忘れている訳じゃないわよね?」

「……………」

「士郎の事だから光太郎さんとサーヴァントの力が合わされば、なるほどね。今日見たいに追い払う事は出来る。けど、あんたのサーヴァントであるセイバーとライダーはともかく、あのバーサーカーがこちらの希望通りに力を貸してくれると思ってる?」

「それは…」

 

士郎には言い返せなかった。あの白い少女はこちらの都合などお構いなしに巨人へ士郎達を殺すように命令するだろう。

 

「他のサーヴァントなんて…言うまでもないわね。それに聖杯戦争だって何時までも続かない。セイバーやアーチャーだって戦いが終わればこの時代から元の場所へ戻る。そうなったら私達は以前の生活、私とアンタはただの魔術師に戻る。先の分からないゴルゴムとの戦いなんて、無謀にも程があるわ」

「シロウ…厳しいようですが、リンの言う通りです。あれは一介の魔術師が…士郎のようについ最近戦うようになった人間が太刀打ち出来る相手ではありません」

「セイバー…けど、俺は」

 

自身のサーヴァントさえからも告げられる現実。確かに凛やセイバーの言う通り、怪人達に立ち向かう力を半人前の自分では持ち合わせていない。けど、だからと言って光太郎一人に全てを委ねてしまってもいいのか?拳を強く握る自分の肩を、光太郎の手が優しく包んだ。

 

「衛宮君。ゴルゴムとの戦いは、俺自身が始めたことなんだ。だから、俺が決着を付けなければならない」

「光太郎さん…」

「気持ちは嬉しい。けど、衛宮君がすべき事はゴルゴムとの戦いではないだろう?衛宮君は、衛宮君の戦いを続けてくれ」

 

光太郎の言葉に士郎は今度こそ言葉を失い、自分の手の甲にある令呪を見つめることしかできなかった。

 

「…話が終わったんなら僕らは帰るよ。いいな桜」

「は、はい。今準備します」

 

立ち上がって玄関に向かう慎二に促された桜は付けたままであったエプロンを定位置に戻してパタパタ追っていく。

 

「…それじゃあ俺達も行くよ。ライダー」

「はい」

 

光太郎もライダーを連れて玄関に向かった。やがて足音も聞こえなくなり、立ち尽くしていた士郎は急ぎ居間を飛び出して玄関に向かった。

 

「…光太郎さん!」

 

靴を履き、義弟達と肩を並べて外へ向かっていた光太郎は士郎に呼び止められゆっくりと顔を向ける。

 

「どうして…そうまでして戦えるんですか?」

 

あまりにも大きく、邪悪な敵に光太郎は今まで一人で戦っている。それでも戦い続けるが戦い続けられる理由。それを士郎はどうしても知りたかった。

 

光太郎は、笑顔で答える。

 

「守りたくて、失いたくないものがある。それだけさ」

 

そう言って。手を並んでいた義弟と義妹の頭に乗せた光太郎だった。

 

 

 

 

 

「どう思う?アーチャー」

 

凛は光太郎達が去った後、外で見張りをしていた自分のサーヴァントへと意見を求めた。

 

「筋の通った説明だったけど、それならなんで慎二が言うことにいちいち目くじらたてたり、桜がちらちら私たちの様子を見てたか、分からないのよね」

 

あの説明中、事情を最初から知っているはずの2人が光太郎の話を気にするのは気になっていた凛はその場にいなかったアーチャーへ状況を説明する。

 

「さて、私としてはもっと別の部分が気になっていたのだがね」

「気にって…なによ?」

「そもそもだ。間桐の家には間桐桜という立派な才能の持ち主がいるのに関わらず」

 

 

「なぜ、魔術師でもない間桐光太郎が、守る対象である人間を殺さなければならない聖杯戦争に参加しているということにだ」

 




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第19話『夢の中へ』

またもや本編とは関係ない話ですが、解禁となった聖闘士星矢の新作映画予告を見て心が燃え上がりました。フルCGで描かれる世界、大胆にアレンジされた聖衣…公開まで待ちきれません!

いつもより短めの19話、どうぞ!


衛宮家を後にした間桐兄妹とライダーは並んで家路へと付いていた。特に話をせず無言で足を進める4人だが、両脇を歩く光太郎と慎二はそれぞれ笑い、呆れた顔で間にいる女性2名の様子を横目で伺っている。

衛宮家を出た直後から、桜がライダーの服の裾を掴む…というより摘まんだまま離さず歩いているのだ。母親と手を繋いだ幼い子供のように手を放そうとしない桜の意図が分からず、困惑するライダーは隣を歩く光太郎に視線で助けを請うが、光太郎の指示は

 

『家までそのまま!』

 

である。

 

拒むことなど出来る訳がなく、ライダーは小さく溜息を付き、マスターに従うしかなかった。

そして桜の手が離されたのは、間桐家の門を潜った後であった。

 

 

「まったく、桜は…」

「どうかした?」

 

帰宅後、リビングのソファーに腰をかけた慎二は雑誌のページをめくりながら先程桜が取った行動の理由を光太郎に告げた。

 

「・・・真に受け過ぎなんだよ。自分でも分ってるくせに」

「仕方ないさ。自分で納得しているつもりでも、それを改めて本人以外の口から聞いてしまうとさ」

 

補足する光太郎はテーブルに自分と慎二の分のコーヒーを置くと、慎二の向かい席であるソファーに座る。

 

『聖杯戦争が終われば、英霊は現代から消え、元の場所へと帰る』

 

実姉である遠坂凛が衛宮士郎を説き伏せた際にでた言葉が、帰宅中にライダーを手放さなかった原因と慎二は踏んでいる。凛の言ったことは英霊が冬木に召喚された時点で定められ、覆せない宿命であった。

 

「あの時みんな衛宮の馬鹿と遠坂しか見てなかったのが幸いだったよ。分かりやすく動揺しやがって・・・」

「よく見てるねぇ。さすがお兄ちゃん!」

「黙れよ愚兄」

 

コーヒーカップを乗せていた皿を光太郎に向けて投擲するが、すんなりと人差し指と中指に挟まれ止められてしまった。

 

「きっと、嬉しかったんだよ桜ちゃん。実のお姉さんとは家の決まりで学校でしか会えないし、お母さんは・・・ね」

 

光太郎の言わんとしていることは慎二も理解している。大昔の決まり事で本当の家族が目と鼻の先にいるのに関わらず、接触を禁じられた桜にとってライダーは新しく出来た同姓の家族も同然であった。二人でお茶をして以来、ライダーも家の中では霊体化せず、暇な時間を見つけては桜の話相手となり家事も進んで手伝うなど桜を気にかけてくれている。

いずれ来る別れの時を忘れてしまう程、桜にはライダーの存在は大きくなっていたのだろう。

 

「急に心細くなったからついつい甘えちゃったんだろうね」

「本当にいなくなった時はどうすんだよ。泣くだけじゃ済まないんじゃない?」

「その時は、慎二君が雑誌の間に挟んである本を参考に頑張ってくれると助かるよ」

「・・・!?」

 

慎二が隠し持っていた『家族が悲しんだそんな時』というタイトルの文庫本を指さした光太郎は早々と退散した。階段を登る光太郎の耳に入ったのは、壁に向かい雑誌を叩きつけて怒鳴る慎二の声であった。文庫本を投げない辺りが彼らしいなと考えながら自分の部屋へ戻ったのであった。

 

 

 

 

 

その頃、桜の自室では・・・

 

「ごめんなさいライダーさん…今日は我儘ばっかりで」

「気にしないでくださいサクラ」

 

桜とライダーは、それぞれがパジャマに着替えて同じベットで横たわっていた。光太郎と慎二の考えた通り、聖杯戦争中にしか存在できないライダーが目の前からいなくなってしまうという不安。それが今の桜の心を占めていた。帰宅中に何も言わずに自分の服を掴れた時は流石に驚いたライダーだったが、こうして理由を吐露された後、今の桜の要望に笑顔で答えていた。

 

「で、でも本当に内緒ですからね!?ライダーさんと一緒に寝たってバレたら兄さん達は…」

「コウタロウは何も言わないでしょうが…シンジは分かりませんね」

「うぅ…ライダーさんもそう思います?」

 

恐らく長兄は笑って甘えん坊だなと一言で済むだろう。だが、次兄はにやけ顔でからかってくるに違いない。

 

「大丈夫です。朝になったら私は霊体化して桜の部屋から離れますし、普段通りにしていれば誰も気にしません」

「はい…」

 

ライダーのフォローに申し訳なさそうに頭を下げる桜。その様子を見てクスリと笑ったライダーは彼女を視線に入れないよう眼鏡を外し、眼帯で両目を覆った。

 

「あれ?それを付けちゃうんですか?」

「念のため、です。桜を石化する訳にもいきませんし、それに…現界してから初めて眠りにつきますから、眠れる自信が…」

「えぇ!?じゃあ今までライダーさん、ずっと起きてたんですか!?」

 

桜は驚きのあまり身を乗り出してライダーに迫った。サーヴァントは現界に必要な霊核が無事であり、契約するマスターから魔力供給があれば基本的に疲労することはないので睡眠も必要ない。ライダーは召喚されてからは間桐兄妹が眠りについた後も屋敷の警備や情報収集を行ていたのだと言う。

 

「ええ。ですので、睡眠を取るという事自体が可能なのかも…」

「そうなんですか…でも、眠れたらきっと素敵な夢を見れますよ!」

「夢…ですか」

 

もし、見ることが出来るとしたら何時以来の事であろう。神話の時代、姉達と過ごしていた頃はよく夢を見れていた。内容は楽しい時もあれば怖い時もあり、後者であった場合は今の桜と同様に姉と同じ寝床に潜り込んだことをあった(直後に蹴り返されてしまったが)。

 

「夢の中でも、今のようにみんなと過ごせたら幸いですね」

「あれ?光太郎兄さんと二人きりじゃなくっていいんですか?」

「…サクラ、何を言っているんですか?私には理解出来ないません」

 

ライダーは眼帯越しに、既に頭を枕に沈めて寝る準備を整えた桜を見る。平静を装っているつもりであろうが、返答にしばしの間があった事と声がどこかぎこちないことを桜は見逃さなかった。

 

「いいじゃないですか…夢の中…くらい…す…な人…」

 

ライダーの反応に満足した桜は最後まで言い切れず、眠りについた。

 

「はぁ…貴方には敵いませんね」

 

桜の寝顔はとても穏やかなものだ。暫く眺めていると、自分の瞼が重くなってきた事に気付く。本当に眠気が催したようだ。

 

(本当に…夢で…見れるのなら…)

 

マスターの姿を思い浮かべたライダーの意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

現代で初めて眠りに付いたライダーは、彼女の希望通りに光太郎を夢で見ることになる。

 

 

 

 

 

 

それが光太郎の壮絶な過去を垣間見ることと知らずに…




と、いう訳で唐突に過去のお話となります。


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第20話『彼の記憶―改造―』

お気に入り100突破…と思ったら140を超えていた!?今週のUA数も過去最高の数値となっていて嬉しさよりも驚きが勝っております…夢じゃないよね?

自分でもここまで続くと思わなかった20話をどうぞ!


第20話

 

(ここは・・・?)

 

ライダーは気が付けば見知らぬ住宅街の道に立っていた。見渡す限り、そこは自分が生活している冬木では見たことのない土地であった。

 

(私は何故こんなところに・・・いえ、それ以上に今の時間は・・・)

 

上を見上げると太陽が燦々と輝いている。先程まで自分は桜と寝ていたはず。それがなぜいつの間にか見知らぬ土地におり、おまけに寝間着から凛に贈られた服へ着替えて眼鏡…魔眼殺しまで付けているのだろうか。

 

(キャスターの催眠魔術・・・?ありえませんね。それであれば私は柳洞寺まで誘導されるはず。そもそもあのサーヴァントが日中から活動するはずがない)

 

考えを巡らせるが一向に結論に至らない。悩むライダーの思考を停止させたのは、真横に建つ一軒家の扉が勢い良く開けられた音であった。

 

「信彦!早く行かないと遅れちゃうぞ!」

 

サッカーボールを手にした活発な少年が後向きで駆けてくる。門の前で立つライダーの姿に気が付いていないようであり、ライダーは少年と接触しないように移動しようとしたが、後から扉を開けたもう一人の少年の声に耳を疑ってしまう。

 

「待ってよ『光太郎』!まだ時間は・・・」

(こ、コウタロウ!?)

 

自分の良く知る名前を聞いたライダーは思わず動きを止めてしまう。こちらに気付かない少年は門まで走り、少年に怪我をさせまいと受け止めるために構えていたライダーを『すり抜けて』いった。

 

(え・・・?)

 

今起きた現象に驚きを隠せないライダーの体をもう一人の少年がすり抜けていく。道で合流した二人の少年は笑いながら再び駆けていった。

 

(今のは・・・一体?)

 

ライダーは、手近にあった壁に恐る恐る自分の指を近づける。するとライダーの指先は壁に接触することなく、壁の中に沈んでいった。

 

(なるほど・・・今の私は霊体か、もしくはそれに近い状態のようですね)

 

少しずつ自分の置かれた状況を整理していくライダーは次の行動に移った。

 

「あまり褒められる方法ではありませんが・・・少しでも情報を得るためです」

 

自分を納得させるように呟くライダーは目の前に立つ家への侵入を決意した。・・・霊体化して情報収集する際に散々行ったことではあるが、夜間と日中では勝手が違う。普段以上に周りを警戒して動くライダーは門をくぐる前にこの家の表札に目を止める。

 

 

そこには『秋月』と刻まれていた。

 

 

 

秋月家内を捜索して分ったことは2つかあった。

 

新聞の西暦と日付を見て、自分がいるのは12年前であること。

 

先程見たあの少年が自分のマスターと単に同名ではなく同一人物であること。

 

この2点から導かれた結論は。今自分が立っている世界は・・・

 

 

「私は・・・コウタロウの過去を見ている」

 

 

マスターとサーヴァントを繋ぐパスを通して無意識化でお互いの記憶を見る。今ここに立っているライダーは彼女の精神体であり、光太郎の記憶にある世界に紛れ込んでいるのだ。

現実にいるライダーは今も桜と枕を並べて寝ているだろう。

 

リビングにあった家族写真の中で、現在でも面影がある顔で笑っている光太郎を見た。優しそうな両親に挟まれ、一緒に出かけた信彦と呼ばれた少年と肩を組み彼らの間には幼い少女も笑顔で写っている。

 

「不思議ですね。コウタロウにサクラとシンジ以外の家族と笑っている姿を見ると・・・」

 

写真を眺めてどこか寂しさを感じたライダーの周囲がまるで溶け合うように突如歪みだした。

 

「!?」

 

ライダーが驚く間もなく、彼女の立っていた場所が家の中から、寺の前と変化した。

 

(…場所が変わった?光太郎に根強く残っている記憶へ切り替わるということでしょうか?)

 

推測するライダーの背後で、車の止まる音が聞こえた。振り向くと、その車から花束を持った少年の光太郎が下りて、運転席の窓越しに父親らしき人物と言葉を交わしている。

 

「…1人で大丈夫か光太郎?」

「大丈夫!1人でも出来るってことを2人にも見せてあげたいんだ!」

「…わかった。南達によろしくな」

「うん!後でね父さん!!」

 

花束を落とさないよう両手で持った光太郎は墓地の方へと走って行った。その様子を見守る父親へ助手席に座っている母親が優しく声をかけた。

 

「元気に育ちましたね。光太郎は」

「ああ…私達が引き取って、もう5年になるのか」

(引き取って…?)

 

新たな情報を知ったライダーは夫婦の会話に耳を傾ける。このような時、自分の姿が相手に全く悟られないことに感謝しなければ…と考えながら2人へと注目した。

 

「…南さんの事は本当に気の毒に思います。あの子がまだ物心つく前とはいえ、そろって事故に合うなんて…」

「お前には迷惑をかけたな。何の相談なしに光太郎を養子にしてしまって…」

「いえ、あなたの御親友の忘れ形見ですもの。それに私にとっては信彦と杏子と同じく、大事な息子です」

「ん?何の話?」

 

後の席で妹とあやとりをしていた信彦が自分の名前を出したことを不思議に思い、両親に尋ねた。母親は笑いながら息子の疑問に答える。

 

「なんでもないわ。光太郎は2人とこれからもずっと仲良しでいたらいいなってお話してたのよ」

「あったりまえじゃん!光太郎とは兄弟なんだから、当然だよ!な、杏子?」

「うん!杏子も光太郎お兄ちゃん大好きだもん!」

 

息子と娘の宣言に母親は優しく微笑み返した。その時、父親が複雑な表情を浮かべていた理由を、ライダーはまだ理解出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(コウタロウは…)

 

秋月一家の乗った車から離れたライダーは光太郎の姿を探しに墓地を歩き回っていた。程なく見つかった光太郎は、墓前で両手を合わして目を瞑っている。

 

「…コウタロウ」

 

彼の背後に立ち、名前を呼んで見るが、無論振り向く気配はない。光太郎の前にある墓石には「南」という文字が刻まれている。つまり、光太郎はライダーの知る間桐となるまで2度、姓が変わっていることになる。

 

「…お父さん、お母さん。僕は元気だよ」

(……………)

 

ライダーは黙って幼い光太郎が今は亡き生みの親に伝えている姿を見守っている。彼が今、どのような表情をしているのかは、分からない。

 

「2人の事は、正直いって写真でしか知らないけど、父さんは言ってたんだ。2人は僕の事を本当に大事にしてくれてたんだって。だから、僕は2人の分まで頑張って生きなきゃダメなんだって」

 

少年は続けて墓前の前で、両親へと言葉を送り続ける。それは亡き両親を安心させるためか。自分への決意表明なのか。あるは両方かもしれない。

 

「父さんの言う通り、僕は頑張るよ。南光太郎としても、秋月光太郎としても、頑張って生きていく。みんなと一緒に!」

 

笑って伝えた。少年の背中しか見ていなかったライダーにはそう感じとれた。こうして人を安心させるために笑顔で話をする所は、変わっていないのだろう。

 

「…また、来ます」

 

ペコリと頭を下げた光太郎は行きとは逆にゆっくりとした足取りで墓前から離れて行った。

 

「変わらないのですね。子供のころから・・・」

 

小さくなっていく幼いマスターの姿を見て自然と顔が綻ぶのライダー。彼の人を安心させる、穏やかな性格はこの頃から完成していたのだろう。感心するライダーの周囲が、再び切り替わる。

 

春は花見

 

夏は海水浴

 

秋は紅葉狩り

 

冬は雪遊び…

 

 

 

パノラマのように映し出される家族との記憶。その中でも一番多く映っていたのは兄妹…特に信彦との思い出だ。

 

いつも一緒に行動し、時には喧嘩し、すぐ仲直りする…喜びも悲しみも分かち合え、互いに競い、高め合う…まさに親友と呼び合える間柄だ。

 

 

 

 

だからこそライダーは解せなかった。

 

こんなにも光太郎が愛し、愛された秋月家から離れ、間桐家の人間となったのか…

 

ライダーの抱いた疑問に答えるように、次の記憶へと切り替わる。

 

 

 

 

「今度は夕暮れ・・・ですか」

 

場面は固定され、住宅街に西日が差す光景となった。辺りを見渡すライダーが見つけたのは2人の少年。光太郎と信彦だ。学校帰りである2人は談笑しながら帰路に着いている。

 

「そういや僕たちもうすぐ誕生日だね」

「あ~もうそんな時期かぁ」

 

切り出した光太郎の言葉に紐で括っているサッカーボールを蹴りながら答える信彦。

 

「でも不思議だよね。僕と信彦は同じ日に、同じ時間に生まれたなんて・・・」

「ほんと、双子より確率低いもんな…偶然ってのはすごいや」

 

 

「偶然ではない…運命なのだ」

 

 

2人の会話に続いて響いた低く、冷たい声に光太郎と信彦は同時に振り向く。そこにいたのは、白いローブを纏った怪人だった。

 

 

「怪人…!?もう、この時代からいたというのですか!」

 

 

その怪人が白く不気味な手を2人の眼前に翳した途端、糸の切れた人形のように意識を失ってしまった。

 

 

場面は切り替わる。

 

 

そこは不気味という言葉以外が浮かばない場所であった。

 

霧が床を這い、呻き声が絶えず響き渡る…その奥に位置する石段の上に、2人はいた。裸体にされた2人は宙に浮かされ、全身のあちこちに管が繋がれている状態で意識を失っている。

 

「コウタロウッ!?」

 

急いで駆け寄り、解放しようとするがライダーの手はすり抜けてしまう。

 

「くっ…」

 

あくまで光太郎の記憶を映像として見ているに過ぎないライダーには、目の前にいる幼いマスターに触れることすらできなかった。

 

「うぅ…」

「なん…だよこれ」

 

目を覚ました光太郎と信彦は自分たちが置かれている状況をまるで理解できないでいた。体に突き刺さっている管を抜こうと手足を動かそうとするが、まるで言うことを聞かない。

 

「フフフ…そのまま寝ていればいいものを」

 

背筋が冷たくなるような笑い声で現れたのは2人の意識を奪った怪人…ゴルゴムの大神官ダロムであった。その背後にはビシュム、バラオムが控えており、それぞれが両手に赤と緑の宝玉を手にしていた。

 

「喜ぶがいい。これからお前たちは栄光あるゴルゴムの『王』となるために、生まれ変わるのだ…」

「な、なにをいってんだよ!」

「返して!家に帰してよ!!」

 

泣き叫ぶ信彦と光太郎の意思とは関係なく、ダロムはその鋭い指先から照射されるレーザーメスを光太郎の腹部に当てる。

 

「や、やだぁ!!」

「安心しろ。この管が繋がっている限り、痛みはない。痛みは、な…」

「ウワアァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

ダロムの言う通り、光太郎と信彦は痛みを感じることはなかった。痛くないだけで、自分の体が切り裂かれるという感覚はあった。体の内側を直に触れられている感触があった。

 

切開された部分から本来あるべき臓器が取り出され、全く違う遺物が代わりに入れられた。

 

血液を送る心臓にナニカを注射され、鼓動は数十倍速く動かされた。

 

骨に真鍮に似た金属を通され、全身に違和感が走った。

 

聞こえるのは光太郎と信彦の悲痛の叫び。その声すら楽しむように、神官達は笑いながら手を動かし続けた。

 

痛みはない。しかし2人は自分が人の体でなくなっていく様を永延と見せつけられた。ショックで気を失う事も許されなかった。

 

痛みが欲しかった。それはまだ人として生きている証だからだ。10歳にもならない少年達が、抱く気持ちがそれだった。

 

唯一の救いは…同じ目にあっている存在がすぐ隣にいる。そうでなければ光太郎と信彦の精神はとっくに壊れていたかもしれない。

 

 

 

 

「そんな…なぜ、なぜこんな事が…」

 

 

ライダーはこの生き地獄から目を逸らし、耳を防いだ。だが無意味だった。彼女の意思とは関係なく光太郎の泣き叫ぶ顔が、絶望する表情が目に焼き付く。

 

早く、早く終わって欲しい。先程のように、場面が早く切り替わって欲しい。もう、少年たちの苦しむ姿は見たくない…ライダーは祈った。

頼りたくも信じたくもない主神に、初めて祈った。早く終わらせて欲しいと…

 

 

悪魔たちによる所業が終わったのは、光太郎達が拉致されてから3日が過ぎた頃であった。

 

「…………」

「…………」

 

もう抵抗する気力すらない光太郎と信彦は、最初と同様に宙に浮いている状態だった。違いがあるとすれば目が虚ろで、生気がまるで感じられたい表情となってしまっていた。

 

「…キングストーンの拒絶反応もなし…手術は成功ですね」

「ならば…最後の仕上げだ」

 

茫然とする光太郎の額にダロムの手が近づく。

 

「もう、もうやめて―――」

「やめろぉぉぉ!!」

 

ライダーが叫ぶよりも早くダロムの手を止めたのは、光太郎の養父、秋月総一郎であった。

 

「無礼だぞ秋月!神聖なるゴルゴムの神殿に無断で踏み込むなど…」

 

怒鳴るバオラムに怯むことなく、総一郎はダロムの前まで歩み寄る。

 

「何故だ…何故、信彦と光太郎を『改造』した!?猶予はあと10年あったはずだぞ!!」

「キングストーンを幼いうちから体に馴染ませ,成長と共に力を引き出させる…これも創生王様の決定だ」

「しかしッ…!2人の記憶を奪わないことが条件だったはずだ!!」

「ええぃ黙れ秋月!南と同じ様に貴様も処刑されたいのか!?」

 

ダロムの放った言葉に総一郎は凍りついた。恐怖を感じた訳ではない。その言葉を、一番聞かせたくない人物がここにいたからだ。

 

「どういう…こと?」

「光太郎っ…!」

 

虚ろな目で父親に問いかける光太郎。弱々しく、ダロムの言ったことに反応した総一郎へさらに質問を送った。

 

「お父さんと…お母さんは…事故で死んだんじゃ…ないの?殺され…たの?」

 

とっくに枯れ果てたと思った涙が光太郎の頬を伝った。目の前の怪人から明かされた両親の死の真相。それを知りながらも隠していた養父。しかも、自分と信彦がいずれこうなる事を知っていた…光太郎の頭はパンク寸前だった。

 

「ククク…もはやそのようなつまらん事で泣くこともないのだ。さぁ…受け入れるのだ!」

 

再び光太郎に手を伸ばすダロム。もしそうであれば、もう考える必要がないのなら、受け入れよう…全てを諦めた光太郎の目に映る白く不気味な手は再び動きを止める。

 

「やめてくれ!もう…その子から何も奪わないでくれ!!」

 

ダロムの腕にしがみつき、動きを妨害する総一郎は必死に呼びかける。しかし、簡単に振り払はれ、総一郎は壁に叩き付けられた。

 

「ぐあぁっ!」

「父さん!」

 

吹き飛ばされた養父の姿を見た光太郎は思わず叫ぶ。痛みに耐えながらも立ち上がろうとする総一郎を見たダロムは醜い顔をさらに歪ませ、歪な掌を彼に向ける。

 

「よくも邪魔しおって…!ここで処刑してくれるわ!!」

 

ダロムが総一郎を殺そうと手から怪光線を放とうとするよりも早く、ダロムの体を緑色の電撃が襲った。

 

「ぬおぉぉぉぉぉッ!?」

 

電撃を浴びたダロムは膝を着く。思いもしなかった不意打ちに攻撃を受けたダロムだけでなく、バラオム、ビシュム、総一郎までもが驚愕している。同じく目の前で起きたことに目を丸くする光太郎も、その電撃を打ち出した人物の名を口にした。

 

「のぶ…ひこ?」

 

 

「あ、は、ハハハ…」

 

未だに放電する手を見つめ、信彦は笑っていた。自分の出した電撃を見て、ようやく諦めがついたように、涙を流して笑った。

 

「ハハ、ハ…本当に、人間じゃなくなったんだな…」

 

全てを投げ出したような顔をした直後、隣の光太郎に向けて再び電撃を放つ信彦。電撃は光太郎の全身に繋がっていた管を焼き切り、自由となったのを確認した信彦は父に向かって叫んだ。

 

「父さん!今のうちに光太郎を!!」

「信彦!お前は何を…」

 

言っているのかと息子に叫ぶ間もなく、今度は光太郎と総一郎を避けてその空間全てに電撃を放電させる信彦。

 

「は…やく!光太郎と…逃げて!!」

「っ…!すまん!!」

「あっ…」

 

総一郎は床で倒れている光太郎を抱きかかえ、その場から駆け出した。放電を続けるする実の息子に振り向くことなく、離脱していく。

 

「お、おのれ!!」

「いけない!天井が崩れる!!」

 

ようやく立ち上がったダロムは忌々しく逃走した総一郎と光太郎を睨むが危険を知らせるビシュムに従って避難を始めた。ただ一人残された信彦はただ、父親と親友が無事に逃げ出す事を祈り、目を閉じた。

 

(父さん…光太郎…)

 

走り続ける養父に担がれた光太郎は完全に崩れ行く神殿を見て、残された友の名を叫び続けた。もう、届かないその手を必死に伸ばして。

 

「信彦!信彦ォォォッ!!」

 

どこまでも長く、暗い通路の中で親友を呼ぶ自分の声が木霊するだけだった。

 

 

 




今回はだいぶ原作とは違う流れとなりました。
①原作のBLACKでは遺伝子操作光線でちゃちゃっと改造手術は終了してますがここは少々生々しくしてしまいました。
②2人も19歳ではなく9歳で改造されてしまうという滅多にない(あってたまるか!)年齢で人でなくなりました。このまま成長してしまうのは…ゴルゴムの技術がすごいということで(オイ)

ご意見・ご感想お待ちしております!



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第21話『彼の記憶―逆鱗―』

最近届きました仮面ライダーBRACK&RXの最終決戦を立体化されたブツを眺めながら作成しております。恐らく創生王は初立体化。まだまだ中盤のこの作品の最後をどうするか考えながらあの大きな心臓へサタンサーベルを刺したり抜いたりしています。

21話、どうぞ!


間桐光太郎の過去を見るライダーに取って衝撃の連続であった。

 

「光太郎…」

 

養父に背負われ、力なく崩壊した瓦礫を見つめる幼い頃のマスターの名を弱々しく呟くライダー。バーサーカーのマスターである少女のように造られた存在―――ホムンクルスもいるが、光太郎はそんな比ではない。最初からそう造られたホムンクルスと違い、本人の意思と関係なく『作り変えられた』…改造人間だ。

 

ライダーの周りが暗転し、場所は夜の工事現場で固定される。

 

物陰から追手がいないか、肩で息をしながら確認する秋月総一郎は隣で蹲る光太郎の様子を見る。逃げる最中で見つけた毛布で身を包んでいる光太郎と今まで会話はない。

 

(当然ですね…あんな目に合い、両親の事を知れば…)

 

平凡な生活を過ごしていた少年を襲った悪夢。かけるべき言葉が見つからない総一郎はさらに移動する手段を模索する。家へ連絡して妻と娘がの安否の確認を取りたいが、今は光太郎を逃がすことが専決だ。携帯電話を取り出して地図のアプリケーションを起動させようとした時、背後でガギンっと金属音が耳に響いた。

慌てて振り返る総一郎の目に入ったのは、立ち上がった光太郎が設置されていた鉄パイプを手に持っている姿。しかも鉄パイプは先は飴細工をちぎったかのように真ん中で切断されている。

 

「どう・・・なってるの?僕の体」

 

光の宿っていない濁った瞳で光太郎は養父に尋ねた。

 

「さっきから体の中がゴワゴワしてて気持ち悪いし、周りが五月蠅いし、それにこれ、鉄パイプでしょ・・・?なんで、こんなに柔らかいの・・・?」

 

グシャリと、今度は手の中にあった鉄パイプを握りつぶす光太郎。無残な姿となった鉄パイプは渇いた音を立てて床に落下する。改造されてしまった光太郎の肉体は『人間』を失った代わりにそれを凌駕する能力を得たが、彼が抱いたのはそれによる喪失感と自身に宿った力への恐怖だった。

 

「・・・お前が抱く体の違和感は、まだ脳が光太郎の改造された身体組織を認識していないだけだ。直に慣れる」

 

憐むことも、慰めることもせず、総一郎は淡々と説明を開始した。

 

「麻酔が切れて、戻ってきた感覚については、昨日までの状態を思い出すんだ。そうすれば脳から電気信号が送られて『普通の人間』並に五感を下げることが・・・」

「僕は、そんなことが知りたいんじゃないよッ!!」

 

工事現場に響く怒号。

 

「どうして僕がこんな目に合わなきゃならないの!?こんな化け物みたいな力を持たされて・・・信彦だって、どうして、どうしてッ!?」

「落ち着くんだ光太郎!」

 

両手で頭を抑えて自問自答する光太郎の両肩を掴み、気を静めようとした総一郎だったが・・・

 

「離してよっ!!」

 

光太郎に腕を振り払われてしまうが、同時に枝の折れるような音を捉えた。

 

「ぐぅ・・・」

「あっ…」

 

光太郎が腕を振るった際に、総一郎の手首に触れた。それだけで、総一郎の手はあり得ない方へ曲がってしまった。腕を抑えて呻く養父の姿を見て、混乱して熱くなった光太郎の頭は急速に冷めていった。自分が養父に何をやったのか、原因となった自身の手を震えながら、顔を真っ青にして見つめた。

 

「気に…するな」

「父さん…でも」

「いいんだ…こんな痛みなど、お前と信彦に比べたら…」

 

顔に汗を浮かべてながらも総一郎は息子に笑って見せた。

 

「いいか…これから私の言うことをしっかりと聞くんだ」

「・・・・・・・」

 

光太郎は黙って頷いた。それを確認した総一郎は説明を始める。光太郎達を誘拐し、人間の体を奪った悪魔の正体を。

 

 

 

 

 

暗黒結社ゴルゴム。

 

 

人類の有史以前より存在し、人間社会を裏から支配している秘密組織。光太郎と信彦を改造したダロム達三神官を筆頭に、自分達に忠誠心を誓う者以外の人類抹殺を目論む悪魔の集団である。

そのゴルゴムが神として崇められているのが『創世王』と呼ばれる謎の存在であり、ゴルゴムの幹部であるダロム達でさえもその姿を直に目にしていない。

 

創世王は5万年ごとに別の者に継承され、それを決める儀式が2人の『世紀王』による決闘であった。それぞれが持つキングストーンを奪い合い、生き残った者が次の創世王となる。そして今回の世紀王にえらばれたのは9年前の日食に同じ日、同じ時間に生まれた、2人の男児であった。

 

「それが…僕と信彦なの?」

「そうだ…」

 

養父の絵空事のような説明を聞いた光太郎に再び怒りがこみ上げる。馬鹿げている。幼い光太郎でもそう思える話だ。自分と信彦は、そんな狂気じみた連中のに祀り上げられるために人間でなくなり、

さらには2人で殺し合うために自分は人で無くなったなんて。

 

 

「そんな…そんなことの為に僕は…どうして、どうして黙ってたの父さん!?」

「・・・・・・・」

 

総一郎は無言で俯く。いつも自分たちの聞くことに笑顔で応えてくれる養父がここまで無言でいる姿を光太郎は初めて見る。だが、それを気にする余裕は現時点の彼には持てなかった。

 

「父さん!!」

「それは・・・・・・・」

 

光太郎にせかされ、ようやく口を開いた総一郎の言葉が、第三者によって邪魔されてしまった。

 

「ギギギギ・・・!正直に言え秋月総一郎。死ぬのが嫌だったと」

 

突然割り込んだ声に2人のは反応するが、見回しても姿が見えない。しかし、光太郎の聴覚は捉えた。自分たちの頭上から伺っている異形の存在の位置を。

 

「なに、あれ・・・」

「くっ、もう追手が!」

 

上を見上げ、固まる光太郎に続いて同じ場所を見た総一郎は敵の姿に焦りを隠せなかった。足場から垂れている糸にぶら下がり、八つもある足をギチギチと動かしながら見下ろす怪人の姿に、ライダーは見覚えがあった。

 

「あれは・・・クモ怪人?しかし・・・」

 

ライダーの知るクモ怪人は異なり、全身がの色が黒に統一され、人間に近かった顔もなく、ライダーのよく知るクモのように八つの目と鋭い牙を持っていた。

そして元となった動物の本能に近い行動しか取れない怪人が、人間と同じ言葉を話している。相手に対する殺意も、今までライダーの見た怪人と比べ物にならないものだ。

 

「オニグモ怪人・・・お前は」

「ギギ・・・さぁ、質問に答えてやれ。こいつらをゴルゴムに売った時の条件を」

「売った・・・?」

 

着地して詰め寄ってくるオニグモ怪人に動揺する総一郎と、目の前の化け物が放った言葉を復唱する光太郎に、嫌な予感が膨れ上がった。その光太郎の姿を見て察したのか、オニグモ怪人は光太郎に顔を向けた。

 

「子供ながら理解力があるな。流石は世紀王!お前の考えているとおりだよ秋月光太郎、こいつは自分と家族の身の安全を保証する条件でお前たち2人をゴルゴムに献上したのさ!ギギギギ・・・」

 

不愉快な笑い声を上げるオニグモ怪人の放った言葉を聞いた光太郎は、気が付けば膝を着いていた。当たって欲しくなかった最悪の結果に震えだす光太郎にオニグモ怪人は畳み掛けるように口を動かし続けた。

 

「ギギギ・・・あの時は忘れられないな秋月。南を殺したことを教えてやった途端、コロリと態度を変えやがったのはよぉ」

「お父さんと、お母さんを…殺した?」

「そうだ。最初は2人の世紀王をゴルゴムで迎えることを南も秋月も拒みやがった。だから見せしめに南達を事故に見せかけ、殺した…。それを知った直後の秋月の顔と言ったらなぁ」

「そんなの…断れないに決まってるだろ!この化け物!!」

 

震えながらも養父が隠していた事情を知った光太郎は総一郎を攻め立てることなく、オニグモ怪人へその怒りをぶつける。確かに養父は自分をゴルゴムに売る約束をしたかも知れない。

しかし、命欲しさで条件を飲んだなら、自分を引き取るなんて回りくどいすることをするはずがない。きっと養父は守ろうとしたんだ。自分も、信彦も、家族も…そんな優しい人が、手術を終えた自分達を助けになんて来るはずがない。もうこの怪人の言うことに耳を貸さないと決めた光太郎だったが、オニグモ怪人の思いもよらないを声を受けてしまう。

 

 

 

 

 

「何を言っている。全てはお前がこの世に生まれたことが原因だろう?」

「え…?」

 

 

 

 

 

意味が分からない。この化け物は何を言っているのだろう…?今、自分がこのような目にあっているのは…両親が死んだのは自分が悪いといっているのだろうか。混乱する光太郎に饒舌となったオニグモ怪人は止まることなく禍々しい口を動かし続けた。

 

「だってそうだろう?お前が生まれてこなければ、対となる秋月信彦は世紀王に選ばれることはなく、改造手術を受ける事はなかった。何より、親である南達は死ぬと事なく、いずれはゴルゴムの

支配する世界で生きられたのだぞ?ギギギ…」

「光太郎!耳を貸すんじゃあない!!」

 

養父の必死の呼びかけも虚しく、光太郎は歯をガチガチと震わせて頭を両手で抱えていた。

 

「ぼ、くのせいで…ノブひこが…お父さんもお母さんも…みんな…死んで…」

「こう、たろう…」

 

周りだけでなく、自身へも絶望してしまった光太郎。無防備の少年に、オニグモ怪人は奇怪な腕を振り上げる。

 

「ギギギ…命令は連れ帰るだけだったが、それでは面白くない。こんな小僧が本当に世紀王か…直接確かめてくれる!」

 

その小さな体を貫かんと腕を振り遅すオニグモ怪人。光太郎が自分に向けて攻撃をしかけたと気付いたのは、自分に『暖かい液体』がかかった後だった。

 

「……」

 

パシャっと音を立てて自分の顔に付着したそれを手で拭う。真っ赤なそれは、自分の体から出たものではない。未だに光太郎の目の前でそれは流れ続け、彼の眼下で赤い池が出来ていた。

 

「無事か…光太郎」

「とう…さん?」

 

オニグモ怪人の攻撃から自分を庇い、背後から胸を貫かれた養父が、そこにいた。

 

「ギギ、邪魔しやがって…」

 

つまらなそうに総一郎の背中から腕を引き抜くオニグモ怪人。その反動で、さらに多くの血液が総一郎から噴出した。

 

「ごふっ!?」

「父さん!?」

 

血まみれになりながらも倒れる養父を支える光太郎の頬に、総一郎の手が優しく触れる。

 

「聞いてくれ、光太郎…」

 

呼吸すら苦痛となっているはずの総一郎は、光太郎に伝えるべく、途切れ途切れになりながらもしっかりと伝えたい言葉を送る。

 

「お前は…望まれて、生まれたんだ。南も…光太郎を授かって、後悔など…するはずがない。だから、自分を責めないでくれ」

「わかったっ…わかったからもう喋らないでッ!!」

 

段々と冷たくなっていく養父の手のひら。光太郎はその手を…傷つけないようにそっと握った。もう自分の体や過去に拘らない。だから、いなくなって欲しくない。心から懇願する

光太郎の思いをあざ笑うかのように、総一郎の命の灯は次第に小さくなっていく。

 

「生きてくれ…南正人と南友子さん…信彦…そして、私の分も」

「やだよ…やだよ父さん!」

「光太郎…私の、もう一人の…息子」

 

目を閉じた総一郎の手は光太郎の手をすり抜け、力なく地面へと落下した。

 

「……………………」

 

光太郎は養父の体をゆっくりと横にする。もう起きることのない養父を看取った光太郎に耳触りな声が響く。

 

「ギギ、なんだよくたばっちまったのかよ秋月。せっかく絶望させた後に殺すための準備をしてきたのに無駄になっちまったなぁ」

 

そう言って眠る総一郎の横に2つ、落下するものがあった。光太郎に見覚えがあり過ぎるものだった。

 

「…母さん…杏子ちゃん」

 

いつも自分のために暖かい料理を作ってくれた優しい手。いつも自分たちを追いかけて、握ってくれた自分よりちいさな手。

 

大きさの違う手首が、養父の横で転がっている。母の手にある父から送られた指輪が、嫌でもあの幸せだった頃…顔を赤くしながら父との思い出を語る養母の姿を思い出させてる。

 

「ギギギ…母親の怯える顔は最高だったなぁ。ガキなんて最後までお前ともう一人の世紀王の名前ばかり叫んでやがったぜ?」

 

光太郎はオニグモ怪人が愉快に話す養母と義妹の最後に反応せず、動かずにいた。

 

「…つまらんな。なら、とっておきの話をしてやらぁ」

 

再び腕を振り上げながらオニグモ怪人は光太郎に向け、叫びながら光太郎へその腕を向ける。

 

 

 

 

「お前の生みの親…南達を事故に見せかけて殺したのは…俺様よぉ!!」

 

 

 

その言葉が切っ掛けとなったのかは、分からない。オニグモ怪人の手が届く寸前に光太郎から眩い赤い閃光が発せられた。光太郎の体を包む毛布の下でその変化は進んでいた。

子供の体躯でありながら手足が伸び、皮膚は虫に近いものへと変わっていく。頬に手術後のような傷跡が浮かび上がった直後、さらに激しい光が周囲を包んだ。

 

 

そこにいたのは、バッタの怪人だった。

 

 

「あれは…」

 

ライダーには見覚えがあった。現代の光太郎が仮面ライダーへ変身する際に一瞬だけ見せる怪人の姿。それと全く同じ怪人へと、光太郎は変身した。

 

「ギギギギギギギ!なんだその姿はぁ。俺達怪人と変わらないじゃねぇか。それでも世紀王かぁ?」

 

自分の背丈の半分もない怪人に侮蔑の笑いを送るオニグモ怪人はゆっくりと変身後に動かない光太郎へ歩いて行った。

 

「しかしここでお前を殺して中身のキングストーンを奪っちまえば…俺が世紀王になれちまうんじゃねぇか?ギギギギ!」

 

距離が1メートルもない間合いに迫った時、光太郎に動きがあった。怪人となったその腕を真横に振るった。だが、オニグモ怪人は後に飛んでそれを回避した…つもりでいた。

 

「ギギギ…なんだその大振りはぁ?攻撃ってのは…あ?」

 

間の抜けた声を出したオニグモ怪人は光太郎の手に握っているものを見る。

 

 

なぜ、自分の右腕が、あいつの手につかまれているのだろう。

 

 

オニグモ怪人が光太郎によって自身の手が引き千切られたと気付いたのは、肩から体液が噴出した直後であった。

 

 

「ギエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェッ!!」

 

オニグモ怪人の腕を放り投げた光太郎はゆっくりと、ゆっくりとオニグモ怪人に迫っていく。

 

「ギぃッ!?こ、殺してやる!!」

 

口から糸を発射し、動きを止めようとしたオニグモ怪人だったが、糸は光太郎に掴まれた直後、小さな姿から信じられない力で引っ張られた。

 

「ギギィ!?」

 

光太郎の足元に転がったオニグモ怪人は、月夜を背後に自分を見下ろす姿に初めて恐怖を覚えた。

 

「返せ…」

 

 

 

 

お父さんとお母さんを・・・

 

 

 

父さんを・・・・・・

 

 

 

母さんを・・・・・・・・・

 

 

 

杏子ちゃんを・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

信彦をっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「返せええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

そこからオニグモ怪人がどのような最後を迎えたのかは分からない。光太郎の理性が吹き飛び記憶していないのか。光太郎自身が思い出したくないのかは、分からない。

 

 

次にライダーが見た記憶は、同じ工事現場だった。

 

雨が降る中、元の少年の姿となった光太郎の周りには、オニグモ怪人だった残骸が散らばっている。光太郎は目に止めることなく、養父達の元へ向かった。

 

「父さん…母さん…杏子ちゃん…信彦…」

 

絞り出すように家族の名を口にする光太郎は、泣いた。声を上げて、泣き続けた。家族の名を呼んでも、ここには返事が出来る相手は、誰一人いなかった。

 

 

 

 

「光太郎…貴方はこれほどの苦しみを抱きながら、戦っていたのですか…?」

 

さらに小さく見えるマスターの元へ今すぐ走っていきたい。泣き止むまで傍にいてやりたい。敵わない願いを抱きながらライダーは記憶の中にいるマスターを見ることしかできなかった。

 

「マスター…私が、貴方と繋がった理由。それは…」

 

聖遺物なしで光太郎に召喚されたライダーは、呼びだされたのはなぜ自分なのかということをずっと気にしていた。似ても似つかない性格と理念を持つ光太郎の姿に、当初は近づき難い

ことすらあったが、彼の過去を見た事である可能性を見出した。

 

 

『自分の力に巻き込まれ、大切な存在を失った悲しみ』

 

 

神話の時代、暴走した自分の手により掛け替えのない姉2人をその手にかけたライダーはその時の事を未だにハッキリと覚えている。姉達は笑って消えて行ったが、それでもあの時の事は、忘れられない。忘れては、いけない過去だ。

 

もしそれが光太郎との繋がりであったとすれば、悲しき共通点である。

 

 

ライダーが考えいた間に場面は切り替わる。

 

 

あれから光太郎は1人、逃亡生活を続けていた。

 

衣服は廃棄されたものを用い、昼は人気のつかない場所に潜伏し、夜に行動する。それを半年ほど続けていた。その中で捨ててあった新聞や街頭ビジョンで、自分達秋月家は家族そろって行方不明という扱いになっていることを知る。あの後、父達の亡骸は思い出の場所で埋葬したが、それが今になっても表沙汰になっていないのは、ゴルゴムによる情報操作なのだろうと光太郎は考えた。それよりも疑問に思ったのは、オニグモ怪人以来、追手を差し出さないゴルゴムの静けさだった。理由は分からないが、ゴルゴムは今の時点では動かずにいる。

だが、光太郎はゴルゴムが自分を諦めたとは思っていない。これからどうなるか、どうするかを考える前に、ただひたすら遠くへ行くことだけを考えた。

 

 

逃亡を続けて半年が経過した頃。

 

光太郎は冬木と呼ばれる街へたどり着いた。

 

同時に精神は限界を迎えていた。

 

いつ自分に刺客が追いつくかへの恐怖。制御出来ずに怪人の姿へ変わった時に人々に見られた時の視線。そしていくら傷つけても瞬時に治ってしまう身体。

 

食べなければ死ねるかと思い、数週間前から食事を絶っていたが、ただ空腹により体が思うように動かないだけで、死ねなかった。

 

 

 

街の路地裏で仰向けに倒れた光太郎の手元に光るものが映る。ガラスの破片だ。

 

「………………」

 

無意識に破片を手に取った光太郎は両手でしっかりと持つと、自分の腹部に破片を全力で突き立てる。

 

「だめか」

 

突き刺さりはするが、奥にある『あの石』まで届かない。一度破片を引き抜いてもすぐ傷が塞がり、その後に何度が試すとガラスの方が砕け散ってしまった。

 

「はぁ……」

 

カラン…とガラスの破片が落下する音が響く。動けず、死ぬことすらできない。ひょっとしたら、養父が最後に言った『生きてくれ』という言葉に体が反応して自分を

死なせないようにしているのかと考える光太郎の聴覚に誰かの足音が聞こえた。

 

(ゆっくとした音…足以外にも音がする…杖か?)

 

ぼんやりと接近する存在の状態を推測する光太郎の目に映ったのは、奇怪な老人だった。

 

「食事帰りの散歩をしてみれば…面白い物を見つけたわ」

 

 

間桐 臓硯

 

この男の出会いが、光太郎の運命をさらに変えていった。

 

 

 

 

 




ようやく出せました。愉悦部名誉顧問です。


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第22話『彼の記憶―接触―』

UA20000突破!お気に入りも180もの方に登録頂きました!!
皆様、本当にありがとうございます!

しばらくはこの長さで行きたい、22話をどうぞ!


アスファルトで倒れている光太郎は、自分に近づく老人を見た。背は低く、今時珍しい和服を纏っている。深く刻まれている皺だらけの顔に不似合いのギョロリとした目で光太郎を観察している。常人であれば驚き、逃げ出すような容姿であったが、光太郎は臆することなく、老人の視線に堪えている。自分の顔に何かが付いているのであろうか?程度にしか思えないようだ。

 

老人――間桐臓硯は光太郎が自身で付けた傷が直ぐに治癒したことに興味を抱いた。確か聖堂教会の埋葬機関に同じような輩がいた事を思い出しながら、先程光太郎が自分の下腹部を傷つけた瞬間に僅かながらとてつもない力が流れたことを感じ取っていた。

 

「ふむ・・・どうやらあの小僧の中にその『何か』があるようじゃな」

 

500年もの長い時間を生き抜いた臓硯の直感は伊達ではない。力の源を見抜いた臓硯は空いている左腕をゆっくりと上げる。

 

「傷を付けてもすぐに閉じてしまうのなら」

 

臓硯の指先からが次第に割れていき、ボロボロと落ちていくと同時に、その肉片は何匹もの羽虫に姿を変えた。

 

「食い尽くして中身を確認すればよい」

 

ニヤリと笑う臓硯が杖を一度床をつつくと同時に、無数の蟲が光太郎の血肉を食らうべく群がっていった。しかし、臓硯にとって予想外のことが起きる。

 

光太郎に蟲の一匹が鋭い牙を突き立てようとした瞬間、光太郎の腹部が赤く、激しい光を放ったのだ。その閃光を浴びた多くの蟲は燃え上がり、灰がパラパラと光太郎の周りに舞い落ちる。

 

「ぬぅ・・・」

 

あまりの眩しさに手で光を遮る蔵硯は、間逃れた蟲を自分に呼び戻し、密度を高める。段々と光は弱くなり、そこには相変わらず仰向けで倒れている光太郎の姿があった。

 

「……………」

 

先程『食事』を取ったばかりであることもあり、左腕そのものが消える事はなかった蔵硯は警戒しながら少年を見つめる。老人は、自分の蟲を跳ね除けた事に関しては物ともしなかった。

それが目の前にいる者が年端もいかない子供であってもだ。自分に抗うだけの力を持っている…ただそれだけのことだと納得した蔵硯は光太郎の放った力に関して自分の知るあらゆる分野で分析を始めていたが、少年の言葉を聞いた途端にその思考は凍りつく。

 

「おじいさんも…ゴルゴムなの?」

「…なんじゃと?」

 

光太郎は明確に老人が『驚いている』顔をしているのが見えた。明かりがほとんど届かない裏路地においても、光太郎の強化された視力は、相手の表情がはっきりと見分けらている。

 

(あれ…?違ったのかな)

 

ゴルゴムの名を口にして、驚いた老人はすぐに無表情…いや、何か考えているように光太郎には見えた。自分を攻撃してきたのだから、てっきりゴルゴムの手先ではと思ったからだ。それでは、なぜ自分に向けてあんな虫を飛ばしたのだろう…と光太郎が疑問に思っている間に蔵硯は懐から何かを取り出す。見ると携帯電話であった。慣れた手つきでボタンを操作する老人は携帯電話を耳に当て、誰かと会話を始める。

 

「儂じゃ…鶴野よ。今から言う所に車で来い。そしてそこにおる小僧を家に連れ帰れ。よいな」

 

それだけ伝えると相手の返事などお構いなしに携帯を再び収納する。

 

「……」

 

老人は光太郎を一瞥すると裏路地の奥へと消えていった。どうやら自分に興味を抱いた様子だったが、言葉を聞く限り気が済めば始末するのだろうか…それならそれでいいかもしれない。しかし、そう簡単に死ねるのだろうかなどと、年齢にそぐわない、どこか達観してしまった光太郎には自分の命が危ないという危機感が、欠けてしまっていた。

 

もし死ねるならどのようは方法だろうと自分が殺される状況を思い浮かべている間に車のブレーキをかける音が聞こえた。やって来たのはずいぶんと柄の悪い男だった。

 

「こいつかよ…クソ、あの妖怪爺!俺を召使いと勘違いしやがって…」

 

悪態を付ながらも光太郎を持ち上げ、後部座席に放り込んだ男はすぐにエンジンをかけて車を発進させた。

 

(あのお爺さん…そんなに怖いのかな)

 

乱暴に扱われている自分よりも、車を運転する男と老人の力関係が気になる光太郎の思考に、不謹慎と思いながらも、ライダーはその光景を見て笑ってしまった。

 

(そういう所は、相変わらずなんですね)

 

 

間桐家に到着した男…間桐鶴野は動けない光太郎を担ぎ、空き室のベットへ乱暴に放り投げる。掃除が行き届いてないのか、光太郎がベットに接触した途端に埃が辺りに舞い散った。

 

「ちっ…親父もこんな薄汚ないガキを拾うなんて何考えてやがる。おい、この家の中を勝手に出歩くんじゃないぞ!」

 

言うと同時に鶴野は車で移動中に立ち寄ったコンビニで購入した水・パンといった食料を袋ごと光太郎と同じように床に放ると乱暴に扉を閉めていった。

 

「…ベットなんて、久しぶりだな」

 

この半年間、まともな寝床を確保出来なかった光太郎にとっては、埃まみれのベットすらありがたい待遇であった。食事に関しても同様だったが、今は指一本動かせない。それも少し眠れたら回復するだろうか。そう考えながら光太郎は久しぶりに熟睡することが出来た。

 

翌日

 

目を覚ました光太郎は鶴野が用意した食事を摂取するために神経を研ぎ澄ましていた。

 

「そーっと、そーっと……」

 

未だ力加減が上手くいかない光太郎にとって、食品の袋を破る・ペットボトルの蓋を開ける行為すら、砂で作った城を崩さずに移動させる並に困難な作業であった。

 

「あ」

 

おにぎりのビニールを裂こうと摘まむ指に集中するあまり、逆の手で掴んでいたおにぎりそのものを握り潰し、米や海苔、そして梅干しが手のひらにこびりついてしまった。

 

「…ッ!!」

 

手のひらに広がった赤い梅干しを『何か』と連想してしまった光太郎は床で手を拭い、開封に成功していたペットボトルの水を一気に飲み干す。半年以上の時間が経過しても、養父が惨殺された光景が…特に血や赤に近い物を見てしまうとフラッシュバックしてしまっていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

呼吸を整えようとする光太郎の耳が、誰かの足音を捉える。歩き方からして、自分をこの部屋まで運んだ男のようだ。そして推測通り、鶴野がノックなしでドアを開けると蔑む眼差しで光太郎を見下ろし、顎で部屋から出るように指示を送る。

 

「親父が呼んでいる」

 

 

光太郎は言われるままに鶴野の後に付いていき、一室の扉の前に到着した。

 

「親父、連れてきたぞ」

「入れ・・・」

 

今度はノックをして入室の許可を得る鶴野。臓硯の低い声を確認し、ゆっくりと扉を開くと、日中だと言うのに蝋燭一本しか室内を照らす明かりのない部屋の奥に彼はいた。昨夜と違い、臓硯は興味深そうに入室する光太郎を見つめていた。部屋の扉が閉まってから、後ろに立つ鶴野が妙にソワソワしていることに気付いた光太郎はその原因であろう室内のあちこちに潜む存在を強化された視力と聴力で確認する。

 

(こんなにたくさんいたら、落ち着かないよね)

 

家具の上や隙間、物陰をゴソゴソと蠢く『蟲』。昨日のように飛ぶタイプではないようだが、それでも常人にとっては不気味なことには変わりはない。

 

「さて、これから儂のする質問に答えてもらおう。なに、一宿一飯の恩を返すと思えば安いものじゃろう」

「まぁ、確かに・・・」

 

それで納得してしまうのですねと、先程から見えるようで視界に入らない蟲に怯えながらライダーは事の成り行きを見守っている。

 

「昨晩、小僧は儂を見て、ゴルゴムと言ったな。それについて詳しく聞かせてもらおう」

「・・・知ってることは少ないよ」

「かまわん」

 

もしかしたらこの老人はあいつらに関して何かを知っているかもしれない。そう考えた光太郎はあの日、親友と共に拉致された日からの出来事を語り始めた。

 

後ろにいる鶴野は非現実的な話に呆れ顔になっていた。当然だろう。話している光太郎ですら空想話であると言えばまだ納得する内容だ。しかし、目の前で座っている老人は違った。最初こそは笑っていたが、話が進むに連れて険しい表情となり、創世王の名が出だ際には一瞬だったが、目を見開いていた。

 

「・・・儂ですらその名しか知らん奴らが、まさか実在しこの国に潜伏しておったとはな・・・」

 

話が終わり、クックックと笑いながら肩を震わす臓硯は思わぬ提案を光太郎に持ちかけた。

 

「光太郎といったな。貴様の身、この家で預かる」

「じょ、冗談じゃないぞ親父!!」

 

光太郎よりも早く反応した鶴野は強く反対する。

 

「俺は嫌だぞ!このガキが話すことが事実だったとしたら危ないのはこっちじゃないか!?」

 

当然の話だ。いつ自分を狙ってゴルゴムの手先が来るかわからない。しかも光太郎自身が連中と同じく怪人に変わってしまうのだ。鶴野が抱く恐怖も真っ当であったが、彼にとっては臓硯こそが最も恐怖する存在のようだ。

 

「・・・儂の決定に逆らうのか?」

「ぐっ・・・な、ならずっと『蟲蔵』に閉じ込めておくんだろ!?は、ハハハ!!それがいい!化け物同士お似合いじゃないか!!!」

「・・・遠坂の娘と同じく養子とする。戸籍の準備をしろ。今すぐにだ・・・」

 

臓硯が言うと同時にに部屋中にいる蟲が一斉に動き出しす。身がすくんだ鶴野は悲鳴を上げながら部屋を飛び出していった。

 

「・・・あの人、虫が苦手なんですか?」

「まぁの。出来の悪く、吠えることしか能のない息子じゃ」

 

言う割は鶴野の挙動を面白そうに見ていたこの老人も変わった人だというのが光太郎の印象であった。

 

「して、どうする?この家の人間となるのか?」

「・・・・・・・いいんですか?昨日みたいに燃やしてしまうかもしれませんよ?」

 

先程の話を聞いていた様子から、この老人が同情して迎え入れるとは思えない。なら、この老人は…自分を利用するつもりなのだろう。ならこの家に入れた事も、養子に関しても辻褄が合う。理由までは推測出来ないため、昨晩の出来事を持ちかけてみたが、老人の方が上手であった。

 

「儂を殺すのなら少々火力が不足しておるよ。それに、ああなると分かっておればやり方など何十もあるわい」

 

ニヤリと殺し文句を言う笑う老人に観念した光太郎は、条件を受け入れることにした。臓硯の言葉に乗せられた、というより逃亡生活に疲れた方が強い。しばらくして体も精神も万全になったら逃げればいい。そうすれば逃げ出した男や?この老人に迷惑がかかることはないだろう。

 

「…わかりました。よろしくお願いします。『お爺さん』」

「歓迎するぞ。『間桐光太郎』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は同じく養子となるあの子との初対面です。

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第23話『彼の記憶―義妹―』

ライダー大戦 自分の好きなライダーにスポットが当てられると嬉しかった反面、いつもの春映画だなという印象でしなたな…でも概ね満足な映画でした!

ちょいと都合により週末以降、投稿できるかわからない状況となりましたので、昨日続いてもう一本ん!の23話です


間桐光太郎となった少年の生活が始まった。

 

彼を養子として迎え入れた間桐家の主、臓硯は彼に2つの決まり事を約束させた。

 

一つは学校に通うこと。

 

人でなくなり、社会との関わりを絶っていた光太郎に最寄の学校へ転校することとなった。秋月家は世間では行方不明扱いとなっていたので、最初から『間桐光太郎』として各地を転々としていたというおまけ付きである。そこまで偽造された過去を用意できるとは、あの養父に当たる人物もすごいなと光太郎は鶴野に初めて感心した。

 

もう一つは週に一度、間桐家が懇意にしている診療所で体の調査を行うこと。

 

内容はレントゲン、血液検査など変わったものはなく、既に臓硯から事前に医者へ話が通っているらしく、異様な結果がでても、検査は黙々と進んでいった。

 

 

光太郎は何一つ反対せずに条件に従い、ひたすら日々を送り始めていた。

 

 

 

 

そして転校から数か月後、光太郎クラスで孤立していた。

 

当初は転校生ということでクラス大半から興味をもたれていたが、聞かれたことに短い返答しかせず、加えて無表情で答えることにクラスメイトが気まずくなり、距離を置かれてしまった。

そして元より成績が優秀で飲み込みが早い光太郎は瞬く間に学校でトップクラスの成績を収め、教師陣から注目を浴びていたが、それが気に食わない一部の心無い生徒達の苛めに合ってしまう。

どのような目に合っても動じない光太郎に対する行為は段々とエスカレートし、廃棄された木材で叩かれるまでに至った。

しかしここで事件が起きる。木材で体を打たれても表情一つ変えない光太郎に怯え始めた生徒達の一人が光太郎の顔面を狙ってしまった。光太郎の顔に当たった木材は真っ二つに折れ、跳ね返った木材は生徒の肩を掠めて傷を負ってしまう。掠めたところから血が滲み出ていることを確認した光太郎は大丈夫かと声をかけるが、顔を叩かれても傷一つ負っていない姿を見て、生徒達は逃げ出してしまった。

 

間桐は化け物。

 

この噂は一日と持たず広がり、光太郎へ自分から接触を図るのは教師しかいなくなっていた。

 

(痛がる振りしとけば良かったかな)

 

この件で光太郎が考えた反省点はそこだった。

 

養父…秋月総一郎に言われ何度も試している身体能力の低下。改造された光太郎にはかつての肉体はない。無駄に頑丈になってしまった体と常識を無視した怪力。

それを抑えるには改造される前の感覚を思い出すように脳から命令させるというのが総一郎の教えだったが、一向に上手くいかない。おかげで給食のとき、食器を破損させないように眉間に皺を寄せてまで集中している様子を見たクラスメートが怖がり、溝がさらに広まってしまった。

 

「どうすればいいかな?信彦…」

 

返事はないと分かっていながらも思わずいなくなった親友の名を呼びながら夕暮れの道を進み、家路へと着いていた。

 

 

間桐家の門を潜った光太郎の目に入ったのは見慣れない人物達が鶴野と庭で話している光景だった。後姿しかみえないが、恐らく父親と娘なのだろう。

父親は高級感漂うスーツを纏い、鶴野と会話している。隣に立つ黒髪の少女もどこかのお嬢様とも思える可愛らしい洋服を纏い、小さな手で父親の服を掴んでいる。空いている手で持っているのは、リボンだろうか…?

会話が終わると父親らしき人物は娘の背をそっと押し、少女もそれに従って進んでいく。少女が鶴野の隣に移動したことを確認した父親は振り返り、そのまま光太郎のいる門に向かい歩いてくる。

すれ違いざまにペコリと頭を下げた光太郎に対して、父親は柔らかい笑みを返して間桐家を後にした。涙目で自分を見つめる娘を気に留めず。

 

光太郎が彼を遠坂家当主、遠坂時臣と知るのは、もう少し後の事であっ。

 

 

「養子?あの女の子が…」

「そうじゃ。昔からの契約でな。今日から光太郎の妹ということになる」

「あと、慎二君にとってもですよね。海外にいるって言う…」

「いたのぅ。そんなのも」

 

学校帰りに寄っていた診療所から受け取った今週の診断結果を記した一覧を臓硯に届けた光太郎は名前でしか知らない、年齢的に義弟に当たる人物の名をだした。

しかし老眼鏡をかけている臓硯は慎二の名前を耳にしても気にも留めず資料を読み返している。

 

(家族に対して、それは…)

 

不満に思っても口には出せない光太郎は蔵硯の部屋を後にし、食堂に向かった。食卓を見ると人数分の食事がトレイに乗せられて用意されている。

 

「そういえば、お手伝いさんの姿ってほとんど見ないな…」

 

間桐家では使用人を雇っているが、住み込みで働く人間はいない。炊事や洗濯などは住人が外出している間…それも日中に済ましてはすぐこの家を離れているようだ。昔から間桐家に良くない噂が広まっており、そこで働いているとなると世間体に響くらしいのだが報酬が魅力的であるため、辞める人間はいない。

 

「ここで働くのがバレるのは嫌だけどお金は欲しい…大人って大変だな」

 

そんな感想を漏らす光太郎の目に、他と比べ量が少なく、デザートにウサギに見立ててカットされているリンゴの乗ったトレイが目に入る。

 

「あ、今日からあの子の分も用意してくれたんだ…」

 

それでも仕事をきっちりこなしている仕事ぶりに感服した光太郎は、握りつぶさないようにトレイを手にするとある一室に向かった。

 

(部屋に入ったまま出てきてない…当然だよな。親と離れたばかりだし)

 

自分の妹となった少女の部屋に向かう光太郎は、その心境を少なからずとも理解しているつもりだった。すでに親がいなくなっている自分と違い、家族が生きているのに引き離された悲しみは、計り知れないだろう。その証拠に、部屋に近づく度に少女が泣いている声が自分の強化された耳に届いていた。

部屋の前まで来た光太郎はノックしようと手を扉に翳すが、加減を間違えて穴を開けてはまずいと考え、声をかけることにした。

 

「…ちょっといいかな?食事を持ってきたんだけど」

「は、はい!」

 

慌てた幼い声が返ってきた。パタパタと駆け足で移動し、扉を開けた黒髪の少女は涙を拭ったばかりなのだろうか。目元が真っ赤に腫れている。

 

「…これ、今日の食事。食べ終わったら廊下に置いてくれればいいよ」

「は、はい!ごめんなさい…」

「?」

 

なぜこの子は謝るんだろう?と疑問に思った光太郎は視線を合わせるべく少し屈み、理由を少女へと尋ねた。

 

「どうして、謝るの?」

「えっ!?あ、え…だって…」

 

少女は益々混乱しているようだ。光太郎は落ち着かせるべく静かな声を少女に向ける。

 

「あ、あの…お兄さんが…こ、怖い顔してたから…」

「…え?」

 

予想外の答えだった。特に意識していなかったとはいえ、少女に怯えられるほどの顔つきなのだろうか?試しに少女の部屋の入口付近に設置された鏡で自分を見る。

 

(誰だ…コイツ?)

 

確かに自分の顔だ。だが、本当に自分なのだろうかと思えるほど、狼狽えている心と表情が一致していない。まるで自分の顔に似せて作った能面のような顔に見えていた。

自分でも驚くほどだ。これでは目の前の少女が怖がるのは仕方がない。

 

「…ごめん。怒っている訳じゃないんだ」

「え…?」

「なんて言ったらいいかな…僕、ちょっと顔が動かなくなっちゃったんだ。だから、君の事を怒っているんじゃないんだよ?」

「ほぇ…?」

 

ポカンと口を開ける少女の反応に光太郎は無理矢理過ぎたか?と次の言い訳を考えて始めていたが、少女の言葉が逆に光太郎を混乱させてしまった。

 

「魔術で…失敗したんですか?」

「え?魔術…?」

 

聞き覚えのない言葉に思わず反復する光太郎。これでは埒が明かないと考えた光太郎は無理矢理話題を変えることにした。

 

「…そういえばまだ名前を聞いていなかったね。僕は光太郎…君の、お兄さんになるのかな?」

「私、とお…間桐、桜です」

「桜ちゃん…か。よろしくね」

「はい…」

 

元気のない返事が気にはなったが、光太郎はトレイを桜に手渡して部屋を後にした。

 

扉を閉め、自室に戻る光太郎の耳には、彼女の声が確かに届いた。

 

『会いたいよ、お姉ちゃん』と

 

 

 

2人の会話を見ていたライダーは現在での差に驚いていた。今では笑顔で会話する2人が最初はここまでぎこちない会話から始まったとは思いもしなかったからだ。

 

「いえ…だからこそ、今の関係に至っているのかもしれませんね」

 

 

場面は切り替わる。

 

 

光太郎は自室の中央に立ち、日課となった訓練を開始する。目を閉じて集中すると光太郎の腹部から赤い光を放ち、彼は瞬く間にバッタ怪人へと姿を変えた。

当初はコントロールが上手くいかず、自分の意思に反して変わってしまう時期もあったが、人前に出る機会が多くなった今、騒ぎを起こさないために姿を自在に変えられる訓練を繰り返していた。

 

「…変わる時間だけはドンドン早くなってるのにな。力加減は出来ないのに」

 

溜息をついてバッタ怪人のままベットへと腰を下ろす。そのまま机の上にある鏡で今の自分の姿を見て、木材で殴り掛かってきた生徒たちの顔を思い出した。あの、怯えきった多くの顔を。

 

(なんだ…この姿に変わっても変わらなくても、一緒じゃないか)

 

人間の姿と違い、表情が何一つ変えようのない今の顔を片手で覆う。力の加減できず、周りの人間を無駄に怖がらせてしまう。それだけじゃない。さっきの少女…桜に言われるまで自分が笑う事すら出来なくなっている事に気付かなかった。光太郎は今の自分が改めてゴルゴムの連中と同じく『化け物』であると自覚するしかなかった。

 

 

 

「オイこうたろ…ヒぃッ!?」

「…何か、用ですか」

「そ、それより、それ!俺の前では人間でいろって言っただろうが!!」

「あ、すみません」

 

またもノック無しで入室した鶴野は光太郎の姿に怯えながら指示をだす。光太郎が元の姿に戻ったことを確認した鶴野は呼吸を荒くしながら本来の目的を告げた。

 

「桜がどこに行ったか知らないか?部屋にいやしねぇ…」

「桜ちゃんが…?」

「そうだ!もしいなくなったことがバレたら親父に何を言われるか…」

 

桜よりも自分の身を案ずる鶴野など目にくれず、光太郎は時計を見る。時刻は夜の8時を過ぎていた。

 

「お、おい光太郎!!何やっている!?」

 

上着を持った光太郎は鶴野の制止に構わず、全開にした窓から飛び降りて行った。

 

 

(もしかしたら…前の家に帰るつもりなのか?)

 

電柱の上を飛びまわりながら桜の姿を探す光太郎。こういう時は、便利な体であるなと考えながら感覚を研ぎ澄ませる。

 

辺りはもう暗く、街灯しか道を照らすものはない。家までの道のりを知っているとしても、危険すぎる。最近隣町では一家惨殺の事件が相次いでいる事を思い出した光太郎は焦りながら耳に、目に力を集中させた。

 

いた。

 

辺りを見渡しながら道を進む少女。片手には昼間見たようにリボンを握りしめ、恐る恐る歩いている。

 

良かったと安心した光太郎は桜に気付かれないよう近くの電柱からアスファルトへ着地し、声をかけようとするが――

 

「桜ちゃ―――」

「えっ?」

 

振り向いた途端に桜を強い光が照らす。大型トラックが桜に迫っていたのだ。このような時間帯に人が通行していないと思ったのか、速度を緩めずにトラックは走行していた。

動転している桜に動く気配はない。このままでは最悪の事態になると考えた光太郎はすぐに行動を開始した。

 

アスファルトに足がめり込むまで強く踏み込み、地を蹴ると同時に人間からバッタ怪人へと姿を変えた。光太郎はすぐにトラックと桜の間に入ることに成功する。

 

周囲に響く衝突音。

 

トラックに轢かれたと思った桜は、いつまでも痛みがないことが不思議に思い、ゆっくりと目を開ける。最初に目に映ったのはバッタの顔。そのバッタは自分の体を『優しく』抱き上げ、片手でトラックの動きを止めていた。受け止めたというより、手をめり込ませて動きを無理矢理止めている状態だ。

 

 

「…桜ちゃん。大丈夫?」

「は、はい…」

 

聞き覚えのある声に、桜は反射的に返事をした。

 

「運転手は…気を失ってるね。人が来ないうちに離れよう。桜ちゃん、舌をかまないようにね」

 

両手で桜を抱き上げた光太郎は再び電柱を足場にしてその場を後にした。

 

 

 

公園のベンチに座っている桜の隣に座り、自販機で購入したホットココアを手渡した光太郎は、ベンチのパイプ部分を握ってみる。

 

(少し強めに握っているのに形が変わらないし、壊れない…それに『固い』感じがする)

 

まるで改造される前に戻ったかのように…桜を救出したあの土壇場で、力の制御が成功したのだろうかと自己分析する光太郎に桜が声をかけた。

 

「あの…さっきの恰好ですけど」

「ああ。隠すつもりはなかったんだけど。怖かったよね…」

「えっと、怖いの、忘れてました」

「忘れた…?」

「お車が急に来たり、空を飛んだりしてビックリばっかりだったから…怖がるの、忘れてました」

 

状況を見たら確かに怖がる暇がないほどの出来事が立て続けに起こってしまった。しかし、桜の言い方が、どうにも光太郎のツボにハマったらしい。

 

「ぷっ…ハハハ!忘れてた、かそりゃ仕方ないよね」

「わ、笑わないでぇ!」

「ごめんごめん、え…?」

 

桜に言われてふと気づいた。今、自分は『笑えた』。こんなにも、簡単に。

 

 

 

ベンチの傍らに立ちながら2人を見守るライダーは光太郎が抱いていた自身の問題があっさり解決した理由を笑いながら呟いていた。

 

「コウタロウ…家族と自分を失ったショックで一時は心を閉ざしたのでしょう。けど、貴方はそれでも心を失うことはなかった。そして感情が表に出なかったのは、単に貴方が人と触れ合おうとしなかっただけなのですから」

 

何時狙われてもおかしくないと考えた光太郎は自分との接点を持たせないため、周囲に壁を作っていた。その為無意識的に自分の感情を殺し、何が起きても表情を変えずに生活してきたのだろう。

だから部屋で話した時、自分の顔が怖いと桜がはっきり伝えてくれなければ、気付くこともなかった。

滑稽な話だった。迷惑をかけまいと行っていたことが逆に周囲に不信感を振りまいていたのだから。それに光太郎が気付くのは、もう少し先の話だ。

 

 

「そうだ桜ちゃん。どうして家を勝手に出てったの?」

「…最後にもう1回、お母さんとお姉ちゃんを見たくて…」

「…最後に?」

 

頷く桜に光太郎は、自分の考えが検討違いであったと理解した。家の決まりで家族と離れる事となった桜。部屋から聞こえた言葉は本心だろう。しかし、それでも逃げ出す訳では無かった。

この時の光太郎は知らないが、彼女は魔術師の家に生まれた娘としての道を全うしようとしている。幼いながらもその強さに光太郎は心を強く打たれた。

 

「でもね桜ちゃん。勝手に家を出ることは許されることじゃないよ」

「はい…」

「だからさ、今度は僕と一緒にここいらを散歩しようよ」

「…え?」

「散歩中に『偶然』会ったなら、仕方ないよね?」

 

今度は自分から優しく微笑む光太郎につられて、初めて笑顔を見せる桜は光太郎を見上げた。

 

「本当に…本当に一緒に来てくれるの?」

「ああ、約束だよ」

「ありがとう、『お兄ちゃん』!」

(あ…)

 

初めて兄と呼んでくれた桜の姿に、光太郎は違う誰かを重ねてしまった。

 

『光太郎お兄ちゃん!』

 

 

もう会う事が出来ないもう一人の妹に。

 

 

「お兄ちゃん、どこか痛いの?」

「え…どうして?」

 

先程の笑顔と違い、心配そうに自分を見る今の妹の言葉に光太郎は驚く。

 

「だって…お兄ちゃん、泣いてるよ」

「…っ」

 

頬に触れる。すると、自分が大粒の涙を流していることに初めて気付いた。

 

「あ、ハハハ。お、かしいね。どうして…どう…してッ…」

 

限界だった。光太郎は両目を抑えて、声を上げないように静かに泣き始めた。家族を失ったあの日から、ようやく心許せる存在が現れた事への歓喜か、家族の死を再び思い出したのか。

理由は分からない。光太郎は自分の頭を撫でてくれる優しい少女の傍らで、暫く泣き続けた。

 

 

光太郎と桜は手を繋いで家に向かっていた。自分の手を強く握る妹に、光太郎は優しく、握り返した。

 

 

(一緒にいたら巻き込むかもしれない…だったら…今度こそ守んなきゃ。僕は…『俺』は、この子の兄なんだから)

 

新しい家族を守るために決意した光太郎の目は、以前のような絶望に染まったものではなく、ライダーの知る強さを秘めた瞳となっていた。

 




次回はお待ちかね(?)義弟との馴れ初めの内容でお送りします。

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第24話『彼の記憶―家族―』

すいません、うそついちゃいました…シンちゃんの出番は次回持越しです。その変わりにあの報われない方の登場となります。

そんな短めな24話でございます


帰宅した光太郎と桜を待っていたのは、鶴野の罵声であった。自分に恥をかかせる気か、自分が父に何かされたらどうするなど我が身可愛さの八つ当たりであり、光太郎が知っている心配した上でのお説教とは程遠いものであった。

光太郎は自分の後に隠れて怯える桜を早く解放するために一番手っ取り早い方法…バッタ怪人となってこの男を黙らせようとした、以外な人物の乱入があった。

 

「夜に騒がしい…何事じゃ?」

「お、親父!?聞いてくれよ!2人が勝手に外に出てこんな時間に…」

「戻っているなら問題あるまい…光太郎。桜を休ませておけ」

「なっ!?」

 

鶴野は階段の上から見下ろしている蔵硯に桜が…そしてなぜか彼女を探しに言った光太郎までが,さも無断外出したかのように言いつけようとしていたが、呆気なく不問された事に声を荒げてしまう。

 

「…桜ちゃん。もう遅いから、寝ようか」

「は、はい…」

 

養父の混乱に乗じて光太郎は桜の手を引き、階段を上り始める。我に返った鶴野の声が聞こえるが、光太郎は無視して部屋へと直行する。

 

「なんのつもりだよ親父!あいつら、拾われた分際で勝手に…」

「…儂は言ったぞ。戻っておるのなら問題はないと」

「ぐっ…なんなんだよ!らしくない真似しやがって!!」

 

そう言って逃げるように去っていく鶴野など目にくれず、蔵硯は部屋に向かった光太郎と桜を見て口を歪ませていた。

 

一週間後

 

約束通りに光太郎は桜と遠坂家付近を散歩という名目で歩き回り、ついに目的とした人物たちを発見することが出来た。

 

「あの人たち?」

「うん…」

 

そこは街にある静かな公園だった。桜と同じく黒い髪を二つに分けて結んでいる活発そうな少女が砂場で遊んでおり、その姿を優しく見守っている母親らしき人物…桜の姉と母親であった。

桜の要望もあり、光太郎達は2人に気付かれない位置から様子を伺っている。発見してからどれほどの時間が経ったかは分からないが、現在の距離以上近づこうとしない桜に光太郎は問いかけた。

 

「…いいの?『偶然会う』ことも出来るよ?」

「うん…本当は会いたい。でも、約束したから…頑張るって」

 

そう言って昨晩からずっと持ち歩いているリボンをポケットから取り出す桜。本当は泣きながら2人の元へ走って行きたい衝動を抑えながらも耐え忍ぶ少女の姿に、光太郎は静かに尋ねた。

 

「そのリボン、大事なモノ?」

「うん…貰ったの。お守りの代わりに」

「だったら…」

「あっ…」

 

桜の手のひらにあったリボンを取る光太郎。取り上げられたと思った桜は涙目になってしまうが、直後に光太郎が髪を弄り始めた事に驚き思わず目を瞑ってしまう。

 

「ポケットに入れたままじゃなくて、こうして身につけなきゃ」

「…わぁ」

 

義兄が起こした突然の行動の理由を理解した桜。光太郎は桜が肌身離さず持っていたリボンを髪で結び、先日持たされた携帯電話で撮影した画像を見せる。

先程の泣きそうな顔とは一変し、笑顔となった桜は嬉しそうに光太郎へ嬉しそうに伝えた。

 

「ありがとうお兄ちゃん!わたし、ずっと、ずっとこうしてる!!」

 

笑顔の桜を微笑み返しながら頭を撫でる光太郎。それからまた暫く公園で遊ぶ姉の姿を見つめていた桜は、光太郎の手を引き、公園の出口へと向かい始めた。

 

「…もう、いいの?」

「うん、もう…大丈夫」

「また、いつでも付き合うからね」

「うん…」

 

短く答える妹に連れられ、光太郎も後に続く。そして光太郎が一度振り向いて見ると、桜の母親が見知らぬ男性と会話する姿があった。

 

 

 

同日の夜

 

 

絵本を読んだままうたた寝している桜をベットに寝かせ、自室に戻る光太郎。廊下を通過中にの耳に聞き覚えのない声を捉えた。なにやら言い合い…というより2人のうち1人が一方的に声を上げている状況だろうか。

 

(お爺さんの部屋から聞こえるな…お義父さんじゃない)

 

耳を澄まし、聴力を高める光太郎。

 

――桜を助けた時、常人(同学年の平均値)まで力を下げる事に成功した光太郎はその感覚を忘れないように訓練を重ね、人知を超えた力や感覚を任意で調整することが可能となっていた。

 

そして数キロ先で針を落とした音すら捉えるまで発達した聴覚を先程の会話が聞き取れる程度まで高めた光太郎は、会話に耳を傾ける。

 

『…約束しろ蔵硯!俺が聖杯を持ち帰ったら、桜ちゃんを解放すると!!』

『よかろう…じゃが忘れるなよ?あの娘は間桐が魔術師としての血を高めるために用意したものじゃと。そう…貴様が逃げ出さねば養子にする必要すらなかったことをな…』

『…くッ!分かっている!!そしてもう一つ、桜ちゃんより前にも引き取った少年がいるらしいな…その子も一緒に間桐から解放しろ。何を狙って引き取ったかは知らないが、これ以上落ちた魔術の犠牲者を出してたまるか!!』

『カカカ…大きく出たな。明日から地獄を見るぞ?』

『…望む所だ』

 

聞いたことのない単語ばかり行き交う会話の内容がよく分からなかった光太郎であったが、桜が自分同様に間桐家…というよりあの老人にとって利用されるために招かれたことだけは理解出来た。

 

「そんな所、似なくてよかったのに」

 

心中を吐露したと同時に扉が開き、出てきた人物と目が合う。その人物…彼は今日の昼間、桜の母親と接触していた男性だった。

 

「えっと…君が光太郎君?」

「…はい」

 

遠慮しがちに尋ねる男性の質問に答えた光太郎の反応に安心したかのように男性は微笑みながら話を続けた。

 

「初めましてだね。俺の名前は間桐雁夜。君の、叔父さんになるのかな?」

 

と、いうことはいつも罵詈雑言を飛ばす養父の弟に当たるのか…兄弟でここまで態度は違うとは不思議だと考えながら返事をする光太郎は盗み聞きしていたとがバレないように雁夜に話を聞いて見た。

 

「お爺さんと、何か話してたんですか?」

「うん。ちょっとね…」

 

言いずらそうに光太郎へと答えた雁矢はそっと彼の肩に手を置くと、まるで宣言するように口を開く。

 

「光太郎君…少しの間我慢してくれ。そうすれば桜ちゃんと君を…この家から遠ざけることが出来る」

「え…?家、から…?」

 

突然の事に思わず聞き返してしまう光太郎だが、彼の反応など構わずに雁夜は話を続けた。

 

「この家は呪われてる。こんな所に君たちはいるべきじゃない。桜ちゃんや君は、『本当の親』と暮らしていくべきなんだ!」

 

力弁する雁夜だが、光太郎は桜同様に何かの目的があって無理矢理に間桐家に連れてこられていると思い込んでいた。桜が養子となったことで冷静さが欠けていたこともあるが、それ以上に父親である蔵硯が何の目的なしに子供を引き取る事自体が信じられなかったのだろう。その為、光太郎が養子となった経由など、聞く余裕すらなかった。

 

「待っててくれ…必ず助けるよ。桜ちゃんも、君もね」

 

雁夜はそのまま廊下を通り、自室へと向かったが、光太郎は立ち尽くしたまま言われた事を整理していた。

 

(助ける…とてもいい言葉に聞こえる。だけど…)

 

それは泣きながらも、家族に会いたい願望すら押し留めて耐えてこの家にいる彼女が本当に望むことなのだろうか。突然現れたあの人は、ただの自己満足で桜や自分をこの家から出したいだけじゃないのか?

 

…いや、それは自分が勝手に解釈しているに過ぎない。雁夜は誰よりもこの家の事を知っている。だからこそ本来無関係の人間である自分達を遠ざけたいのだろう。

 

そんな建前で雁夜の言葉に不満を募らせた光太郎の本心は…もっと単純なものだった。

 

(離れたく…ないよ)

 

ようやく自分が心を開ける存在が、こんな化け物である自分を兄と呼んでくれる『家族』と離れるのが嫌なだけであった。

 

そして、何よりも光太郎の心に突き刺さった言葉への反論を、光太郎は既にいなくなった雁夜へと問いかけた。

 

 

「『本当の家族』がもういない俺は、どうすればいいんですか…」

 

光太郎の言葉に続くように、彼の耳にポツリと呟かれた声が響く。雁夜と会話する寸前に聴力を人並みに戻したため、虫の息のようにかすかな声で聞こえたものだった。

 

 

 

『馬鹿者めが…』

 

 

相手を見透かしたような、狼狽える様子を楽しむ様子もない、ボソリと呟いた祖父の声であった。

 

 

 

光太郎の抱いた事への返答もなく、蔵硯の言葉の意図が分からぬまま、1年の歳月が流れた。

 

 

 




…やべ、ライダーが出ていない!あくまでライダー視点のはずだったのにぃ…

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第25話『彼の記憶―拒絶―』

過去編、本来なら2,3話で終了の予定がここまで伸びてしまうとは…話が進むにつれて書き足したい内容が増えてしまった…

もう少しで一区切りの25話でございます


間桐光太郎が義理の叔父である雁夜との初対面を終えた後の一年間は、それまで悲惨な記憶しか見ることのなかったライダーにとって喜ばしい時間が進んでいた。

 

桜に心を許した事が切っ掛けとなり、光太郎は以前の明るく素直な性格に戻り始めていた。

学校の教室に到着後、元気よく挨拶する姿に生徒全員が呆気にとられたが、そんな違和感は三日も待たず氷解し、クラスメートと溶け込んで談笑する光太郎の姿がライダーにの目に写っている。

校内に流れた妙な噂も、光太郎を苛めていた生徒たちが流したデマであると認識され、光太郎を避ける同級生はいなくなっていた。

しかし一部ではそうはいかず、光太郎を苛めていた主犯達は彼が近づく度に避けるか逃げ出してしまい、あの時は木材が元々腐っていたので折れやすく、さらに頭に当たった部分は昔手術してチタンが埋まっているから痛くなかったなどの言い訳を伝えられずにいた。

まるで自分の方が加害者のような姿である光太郎の肩を叩いたクラスメート達は『気にするな!』『悪いのはあっちなんでしょ?』『早くサッカーしようぜ!!』と暖かく迎え入れてくれた。

 

「…私の知っている、コウタロウですね」

相手に通じないことも、触れられないと分かっていながらも、ライダーはまだ自分の背を抜いていないマスター隣で膝を付き、その頬に触れる。正確には光太郎の頬にある位置へ手をかざしているに過ぎないが、今のライダーにはそれで充分であった。

 

桜の幼稚園の送り迎えも光太郎の仕事であった。元々面倒見が良い性格が幸いし、空いている時間があれば他の子供も世話をしている姿に他の親や職員から評価され、嫌々保護者会に参加した鶴野がそのことで周囲から賞賛され、居たたまれない気持ちとなっていた。

 

その養父…鶴野との関係は最初よりマシになった程度である。挨拶をすれば返し、光太郎がバッタ怪人になっても怯えなくなっていた。友達との遊びや桜と何処か遠出する際に、小遣いを遠慮がちに頼んだ時は顔を歪ませながらも、「無駄遣いはするな」と言いながら用意する姿がどこか可笑しかった。

 

そして祖父…臓硯は相変わらずだ。夜にしか姿を現さず、散歩だと外へ出て行ってしまう。最近だと碌に自分とも顔を合わそうとせず、決まり事である週に一度の診断結果も直接受け取らず、書斎に置いておくように指示されるだけであった。

 

叔父である雁夜の姿は、あの日以来、見ていない。時折、その叔父と似た声が出入り禁止とされている地下室から聞こえた気がしたが、そこへと続く階段が不気味過ぎて近づくことが出来なかった。

 

 

 

 

そして1年後…

 

 

 

 

 

学年も上がり、小学一年生となった桜と帰宅した光太郎に、養父から珍しく声をかけらえた。

 

「光太郎…慎二のことは知っているな?」

「はい…留学してるんですよね?」

「…来月に、1か月ほど帰国する。ある程度お前達の説明は済んでいるが、深く関わろうとするなよ」

 

それだけ言うと、自室へと戻っていった。

 

「…どういうしたの?お兄ちゃん」

「ん~と、もう一人のお兄ちゃんがちょっとだけ外国から返ってくるみたいだね?」

「ほんと!?慎二お兄ちゃんに会えるの!?」

「うん…」

 

名前でしか知らないもう一人の兄に会えることを純粋に喜んでいる桜であったが、養父の言葉に光太郎はあまりいい予感を抱けなかった。

 

(ある程度の説明…か)

 

どのように伝わっているのか。そればかりが気になっていた。

 

 

「幼いころの慎二ですか…」

 

桜とはぎこちない会話から始まったが、彼とはどのような…と興味を持つライダーだったが、それは予想以上に強烈なものであった。

 

 

ガシャンっと食器を床に叩きつけられた音が間桐家の食卓に響く。呆然とする桜の足元には割れた皿と床に散らばってしまったパンケーキ…あちこちにを焦がしながらも頑張って作られた桜の手作りが無残な姿となってしまった。

段々と涙目になる桜など気にも止めず、パンケーキを床にほ落とした少年…慎二は悪そびれた様子もなく、高圧的な態度で口を開く。

 

「何泣いてるんだよ。そんなもの食べさせようとして、僕を悪者扱いするのかよ!」

「う、うぅ・・・・・・・」

 

とうとう泣き始めてしまった桜に駆け寄って宥める光太郎は、さらに目を鋭くする慎二の視線を受けながら問いかけた。

 

「どうしてこんなことするの?桜ちゃん、慎二君と会えることにを楽しみにして…」

「気安く僕の名前を呼ぶな!本当の家族じゃないくせに!!」

 

光太郎の呼吸が止まる。それは秋月家でも、今いる間桐家でもはっきりと言われたことのない、拒絶の言葉だった。後方にいる鶴野は、黙ってその様子を伺っている。

 

「っ・・・・フン!」

 

光太郎の顔を見て多少応えたのか、慎二は荷物を持って足早にその場を去っていった。自分に抱きついて泣き続ける桜の背中を撫でながら、慎二に言われた言葉を重複する光太郎。

 

「家族じゃ、ない…」

「だから言っただろう。深く関わろうとするなと」

 

よほど慎二に言われた事がショックだったのか。鶴野が隣で膝を付き、慎二が叩きつけた皿を拾い集めている事に気付けなかった。

 

「お前達のことを説明した時点でこうなるとは思ってたがここまでとはな…」

「え…」

 

それはどういう…と光太郎が尋ねるより先に立ち上がり、汚れていない手で桜の頭を一度撫でると、破損した皿の廃棄の為に、食堂を後にした。

 

 

桜を落ち着かせ、自室のベットで横になっていた光太郎は、養父の言った事を考える。

 

(俺達が、慎二君にとって厄介な存在…か。ただ目ざわりなだけっていうことなら解かりやすいんだけど)

 

本来なら、この間桐家の子供は彼しかいないはずだった。それが突然兄妹が…しかも年上が出来たら面白くはない。しかし、この件はそこまで単純な話ではないと光太郎は考える。

それに、1年近くも過ごしながら、この家の事をほとんど知らないのだ。魔術…と言う言葉を時々耳にするくらいで、気に留めることなく生活を続けた自分に呆れつつも、光太郎はベットにから立ち上がった。

 

「何が気に食わないのか分からないなら…聞くしかないよね!」

 

方針を決めた光太郎が扉を開けようとした途端、妙なものを感じた。

 

「…まただ」

 

最近になって、光太郎の頭に響く違和感。それはすぐに収まるが、不快にさせるものではない。何か、必死に自分を探している。そんな気配だった。

 

 

「入るよ慎二君!」

「開けた後に言わないでよ!ていうか勝手に…」

「へぇ…留学していただけあって英語の本が多いね」

「それは英語じゃなくてドイツ語…って勝手に触るな!!」

 

光太郎が手にした本をひったくる慎二は恨んでいると言わんばかりに光太郎を睨みつけた。こんな態度を取るからには、相応の理由があると考えた光太郎は単刀直入に聞くことにした。

 

「慎二君…どうして俺や桜ちゃんをそこまで嫌うの?理由があるなら…」

「理由…だって!?そんなの、お前たちがこの家に…間桐の人間になったことに決まってるだろ!!」

「間桐の…人間?」

 

まるで意味が分からない。そんな光太郎の態度がさらに慎二の怒りを買う事となってしまった。

 

「お前っ…どこまで僕のこと馬鹿にするつもり何だよ!」

「落ち着いて慎二君!俺は本当に…」

「出てけ…出てけよ!!」

 

 

慎二の剣幕に押され、結局なんの収穫のないまま自室に戻る光太郎だったが、その前に何か飲もうとキッチンに移動する。すると、そこで酒を煽っている養父と遭遇した。

 

「…医者に止められてるんじゃ?」

「うるさい。俺の勝手だ」

 

厳しい一言である。以前のように声を上げることは無くなったからいいかと飲み物を諦め、自室に戻ろうとした光太郎の耳に、養父の声が届いた。

 

「今から俺は独り言を言う…何も言うんじゃないぞ」

「はい・・・?」

「何も言うなと言ったはずだ・・・」

「・・・・・・・」

 

意外な人物からの情報提供に光太郎は耳を疑いながらも、その独り言を聞くことにした。

 

 

元々、間桐家はこの冬木に昔からの住んでいるわけでは無かった。とある目的…悲願と言い換えても過言ではない事を果たす為にこの地へ根を下ろした。しかし、代を重ねる事にその血は薄れ、悲願達成に必要な力が、慎二の代になってゼロとなってしまった。昔から自分がどのような家に生まれたか聞かされた慎二はそれを幼いながも誇りに思っており、自分が間桐の悲願を果すといい続けた。しかし、祖父の命令で追い出されるよう言い渡された海外への留学。さらに失った力を高めるためにその道で名門とされた家から養子を向かい入れ、家督を継がせるという情報が耳に届き、彼の夢は崩れ去った。さらに止めとなったのが、当主に見出され、養子となった義兄の存在がさらに慎二を追い詰めたという。それにより益々自分が『必要ない存在と』思い込んだ少年の捌け口は、欲しくもなかった兄妹への恨みしかなかったのだ。

 

 

酒が切れた…

 

そう言って鶴野は去っていき、残るのは立ち尽くす光太郎だけであった。

 

 

 

(どうしたもんかな…)

 

鶴野の独り言を聞いてから一週間後。

 

光太郎は短い休み時間の間、机にうつ伏せて悩んでいた。その後も慎二とは打ち解けることが出来ず、今にいたっている。桜と協力しても結果は変わらず、暴言で泣かされながらも仲良くなりたい…と、自分より年下なのにめげずにいる義妹の姿には天晴れと言う他ない。光太郎も負けじと踏ん張ってはいるが、慎二に言われたことがどうしても頭から離れず、行動が中途半端になってしまっていた。

 

「家族じゃない…か」

「どうしたコータ?給食までまだ2時間あろぞ」

「…空腹で悩んでるんじゃはないんですよこれが」

「男に空腹以外の悩みとなると、あれか!放課後のサッカーゴールの陣取りか!!」

 

悩む光太郎に愉快な声掛けをする短髪の男子に続き、複数の生徒が話しかけてきた。

 

「そんなことで間桐君が悩むわけ無いじゃないでしょ馬鹿馬鹿しい…きっと、転入してきた弟さんのことよね?」

「あ~なんだかこっちまで話が届いてんな~。海外に行ってたってことで頭もいいし、運動もそこそこらしいじゃん」

「でもぉ、それを鼻にかけてるって噂もあるよぉ。それがホントならちょっと生意気!」

 

眼鏡をかけた委員長のような女子に、ボーっとした細目の男子と背伸びして無理やり大人っぽい服を来ている女子が義弟の生活態度の報告を頂いた光太郎は益々顔が上げずらい状況となってしまった。

 

「は~ん、コータも大変だな。お、それで思い出した!妹に聞いたんだが、一昨日くらいにコータの弟が上級生に呼び出されたらしいな」

「え…?」

 

流石に聞き逃せない情報に光太郎は顔を上げた。

 

「それって、誰に」

「…コータにゃ嫌なこと思い出させちまうけど、あいつらだよ」

 

あいつら と言われただけで合点がいった。クラス替えによって誰一人同じく教室にならなかったが、一年前に光太郎を苛めていた生徒たちだ。家での様子を見る限りはまだ暴力を受けた様子はない。もし既に受けているのなら「お前のせいだ!」と突っかかってくるだろう。

 

「どうするの間桐君?先生に相談する?」

「・・・・・・・」

 

悩みどころだった。ここで教師の助力を受ければまだ間に合う。しかし、光太郎の顔を殴るまではばれることなく苛め続けた連中だ。教師の介入後、さらに悪質になりかねない。

ここは一つ…慎二本人は嫌がるだろうが、自分が出て行くしかない。そうすれば、あの生徒たちも逃げ出すだろう。

 

「…俺が何とかしてみるよ。次に慎二君を呼び出したら、その時・・・・・・・」

「こンのバカちんがぁ!!」

 

後頭部を掴まれ、机に額を叩きつけられた光太郎。その光景にクラス全体の空気が凍ってしまった。

 

「痛い…」

 

当然の痛みが光太郎を襲う。このような不意打ちでも痛覚が年相応となってはいることに安心したが、それでも痛いものは痛かった。

 

「ちょ、ちょっと何をやっているのよ!?」

「うわ~いたそ~」

「それ、コーちゃんが自分で言ってたじゃなぁい」

 

光太郎への仕打ちに非難の目を浴びることに構わず、男子は続けた。

 

「いいか間桐光太郎!!去年は分けわかんねぇ噂でお前を一人にしちまったが今は違う!もっと周りを頼りやがれ!!」

 

ポカンとする光太郎は、自分を囲っている生徒たちを見る。男子の極端な行動に呆れながらも、全員が同意見のようだ。

 

「間桐くん。あの時は、同じクラスだったのに何もできなかったけど…今度は、力になりたいわ!」

「そ~そ。なにも一人で悩むこたぁないって」

「何かわかったらぁ、直ぐに知らせるわよ」

 

僕も!私も!と次々と手を挙げる友人の姿に、光太郎は目頭が熱くなるのを感じた。

 

「みんな…ありがとう!」

 

光太郎は、心からの言葉をクラス全員に伝えた。

 

 

 

放課後

 

桜と下校し、家に戻った光太郎の携帯電話にメールが届いていた。内容は慎二が上級生達と新都へ移動する姿を見かけたとの情報だ。

カバンを部屋に放り込み、光太郎は人気のないことを確認した直後、脚力を強化して電柱を足場に移動を開始した。

 

 

「っても、新都っていう情報だけじゃ…」

 

目的地へとついたが、それっきりの情報も今はない。こうなれば足で探すほかないと動いた直後、光太郎は壁のような長身の男とぶつかってしまう。

 

 

 

 

「おぉ、すまんな小僧!!」

「いえ、こちら…こそ…」

 

 

謝罪しようと見上げる光太郎は男の格好に唖然とする。もう肌寒いこの次期にTシャツ一枚であり、その厚い胸板には最近発売されたゲームのタイトルが印刷されている。

女性の足と思えるほど太く、鍛え上げた筋肉質の腕を腰に添え、獅子を連想させられるほど髭を蓄えた男は、人懐っこい笑顔で光太郎に尋ねた。

 

「こうして鉢合わせしたのも何かの縁、。小僧よ、この辺りで上物の酒を置いてある場所を知っていおるか?」

 

ニンマリと笑う男の姿に、ライダーは驚愕した。

 

「まさか…!?いえ、時期的にはいてもおかしくはありませんが…」

 

光太郎がぶつかった男…彼女と同じく、ライダーのクラスで召喚された、この時代の聖杯戦争に参加したサーヴァントであった。

 

 

 




クラスメートはプリズマ☆イリヤを参考にこんな同級生がいたら光太郎は楽しんでいただろうな…という考えから生まれたオリジナルです。

鶴野さんは…一年の間に色々あって多少丸くなっております。


ご意見、ご感想おまちしております!


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第26話『彼の記憶―求心―』

バトライドウォーⅡにまさかの上様が…

短めな26話でございます!


義弟を探すため新都へ向かった間桐光太郎が出会ったのは、当時の聖杯戦争でライダーのクラスとして召喚されたサーヴァントであった。

 

彼らを過去の映像として見ているライダーには偶然とは思えない遭遇にただ、驚くしかない。現代の光太郎から、過去にサーヴァントと接触したという話は聞いていなかった。

恐らく、今でも彼がどの様な存在なのかは光太郎は知らないはずだ。

 

「ん?どうした小僧、余の顔に何かついているのか?」

「あ…いえ、この辺りで酒屋さんだと…」

 

まさか流暢な日本語で話しかけられるとは思わなかった光太郎は、近所では有名な酒屋までの道のりを説明する。その店は多くのアルコール飲料を扱っていることもそうだが、店の一人娘とその友人が店の前で漫才とも思える罵り合いをしている姿が度々目撃されている方が話題となっており、その噂は光太郎の学校にも届いている。クラスメートにも見に行こうなど言い出す人間が出るくらいであった。

 

「合い分かった!その店に余の行う宴に相応しきものが陳列されていると期待しよう!」

「あ、あの!!」

 

説明を聞き終えたサーバントは意気揚々と酒屋への道を進む前に、先程と逆に光太郎からの質問を受ける。

 

「この辺りで、俺と同じくらいの男子の集団を見かけませんでした?あと、その中に一人だけ歳が3つほど離れている子もいるはずなんですけど…」

 

焦るあまりに息巻いて尋ねる光太郎の質問にサーヴァントは困った顔で回答する。答えはノーだった。

 

「そう…ですか。すみません、邪魔してしまって…」

「よいよい。して、今小僧が探している連中は何なのだ?」

「同級生と…身内です」

 

興味半分で聞いているのだろうか。時間が惜しいと考える光太郎は簡単に説明し、義弟捜索の為にその場を離れようとしたが、サーヴァントの言葉に体が強張ってしまう。

 

「身内を探しているには、些か緊張感が足りんな…小僧は見つけることよりも見つけた後の事を心配しておらんか?」

「っ!?」

 

振り返る光太郎。サーヴァントは変わらずに笑っている。だが同じ笑顔でも質が違った。酒屋までの道を冒険するかのような楽しむ破顔ではなく、こちらの警戒心を解くような、優しい微笑みだ。

 

「…どうやら事情がありそうだな。どうだ小僧、余に話してみぃ。」

「でも、これは…」

「民の迷いに耳を傾けるのも王たる者の常だ。ほれ、話すのにちょうど良い場所もあるではないか!!」

 

大声でオープンテラスの喫茶店を指さして進んでいくサーヴァント。流されるままに巻き込まれているはずなのに、光太郎は不思議とそれを不快に思わず、サーヴァントの後に続いた。何故だか、この男性になら、話してもいいとさっきの笑顔を見て、思ってしまった。

 

余談だが、サーヴァントが指定した場所はコーヒーとケーキを売りにしているオープンテラス。何の注文もせず居座るのは気まずいと思った光太郎は先に2人分の飲み物をオーダー。笑顔で先払いの会計をする店員に席の場所を伝え、サーヴァントの待つ席へ向かいながら、風通しの良くなった財布を見てため息をついた。

 

 

 

 

 

「うむ、小さい!!」

 

光太郎の事情を聞き終えた直後に出た言葉がそれだった。

 

自分の体や養子となった経由には触れず、慎二との間に起きたことを搔い摘んで話した光太郎は目を丸くする。初対面である彼から同情や憐みが欲しかったわけではないが、周囲の人間に心配される程悩んだことが一言で片づけられるとは思いもしなかったのだ。

 

「その小さき体に見合う小さき悩みだ。ハッハッハ!!」

(そりゃ貴方に比べたら俺は小さいだろうけど…)

 

これでもクラスでは三番目には背が高い方だとなけなしのプライドを主張しようとしたが、サーヴァントは笑いを止め、真顔で光太郎に向き合う。

 

「小僧、お前の弟とやらが言うように、血筋というものは肉親と証明させることにはこの上ない繋がりであろう。だがな、それでも人は1人なのだ」

「…?」

 

言っている意味が分からない光太郎は首を傾げる。

 

「血が繋がっているとはいえ、肉親同士で完全に分かり合える者などそうはいまい。余の生きた時代など、国によっては世継ぎを争って兄弟同士で殺し合うなどよく耳にしていたわ」

「兄弟…同士で?」

「うむ。比べるのもおかしな話であるが、この時代であっても珍しいことでもあるまい。『にゆうす』とやらに今朝もやっとったな」

「ええ。確か、親を殺した男がそのまま逃亡中とか」

 

話を合わせながら、光太郎は鶴野から言われたことを思い出す。

 

『魔術の家にとっては、血筋こそ全て』

 

慎二との対話に失敗したある日に、鶴野から言われたことだった。さらに一子相伝である魔術の後継者を巡り、争いが起きることすらあることを聞き、光太郎は耳を疑っていた。

 

同じ血を持つ同士でも対立する世界。

 

幼いころから言い聞かされて育った慎二とは自分は争う相手以外の何者でもないかもしれない。さらに血を分けた本当の家族ではない自分とは、もう分かり合えることは出来ないのだろうか…

 

どんどん思考がマイナス面へと沈んでいく光太郎に、再びサーヴァントの声が届く。

 

「だがな小僧。先にも言ったが血筋など所詮、証明させる材料に過ぎん。ならば、より強く、固いもので繋がればよい!」

「強い…もの?」

 

そんなもの実在するのか…?言わなくとも光太郎の質問を理解しているサーヴァントは自信を持って頷くと、声を張って答えた。

 

 

 

 

 

 

「より強く、より濃く人と人を繋ぐもの…『絆』だ!!」

 

 

 

 

サーヴァントの言葉を聞いた光太郎は、先程まであった嫌な重圧感が払われた気がした。サーヴァントの言葉は続く。

 

「絆は血筋も、性別も、年齢も、人種すら垣根を超える!その紡がれた力は個人の限界を超え、不可能も可能とする力なのだ!!!」

 

サーヴァントの力説に耳を奪われたのは、光太郎だけではなく、周りに座ってお茶を飲む客や配膳途中のウエイトレス、通行人すら立ち止まって聞いている。中には手を叩いたり、サーヴァントの言った事を書き留める者すらいた。

 

「絆…」

 

光太郎は言われるまで忘れていた。サーヴァントの言った血筋すら超えるものに、自分はずっと支えられていたことを。

 

 

秋月家の両親と兄妹。

 

 

間桐家で兄妹となった桜。

 

 

そして義弟の情報をいち早く伝えてくれたクラスメート達。

 

 

 

(何だよ…当たり前のことに、何で気付かなかったんだろう)

 

情けないなと言って笑う光太郎に、サーヴァントは初めてあった時のような笑顔を向ける。

 

「どうやら掴んだようだな」

「はい、ありがとうございます!でも、認めてもらうには時間がかかりそうですけど、頑張ってみます」

「うむ、ではこれを最後の導きとしよう。小僧が最初にすべきは認めて貰うより先に、認めてやることだ!」

「認める…?」

「あとは、自分で考えるがよい」

「…はいっ!!」

 

元気よく答えた光太郎のポケットから響く着信音。失礼と言って携帯電話を開くと慎二の情報をくれたクラスメートから再びがメールにて届いていた。塾に行く友人から話に聞いた連中が中心街を抜けていった内容になっている。すると再びメールが届く。どうやら他のクラスメートにも一斉送信していたらしく、同じく目撃情報や応援、報酬は明日の給食のデザートなど内容が次々と送られてきた。

 

「…余が話すまでもなかったかも知れんな」

 

光太郎の嬉しそうな顔を見て、サーヴァントはそう言わずにはいられなかったが、光太郎は首を横に振る。

 

「いえ、貴方の話を聞くまでは、向き合うことすらなかったかもしれません。こんなにも、大切なものに…」

 

畳んだ携帯電話を握りしめて、光太郎は立ち上がった。もう、迷うことなく慎二を探すことが出来るからだ。

 

「…よい目になった。どうだ小僧、問題が解決した後に余の部下となって世界を回らんか?」

「すいません、面白そうですけど…まだ、家族と一緒いたいんです!!」

 

そう言って、光太郎は駆け出していった。

 

段々と小さくなっていく少年の背中を見て、サーヴァントは手つかずだったコーヒーを一気に飲み干す。

 

「部下にならんのが真に惜しいな。あと十年もすれば、実に良い漢になるだろう…」

 

 

「それは、現実となりますよ。この時代のライダー」

 

届かない返事を、ライダーは感謝と共に送った。

 

「ありがとうございます。この時代のコウタロウを導いてくれて…」

 

頭を下げたライダーは、義弟を探しに向かう光太郎を追った。

 

それと入れ替わるように、小柄な少年がサーヴァントの座る席へと駆け寄ってきた。

 

「コラ――ッ!!何暢気にお茶してやがりますかお前は――ッ!?」

「おう坊主、遅かったではないか?」

「何が遅いだよ!?ま勝手にうろつきやがって、僕のサーヴァントならちゃんと―ギャヒンッ!?」

 

目くじらを立てる少年は額をサーヴァントに強くでこピンされ、のたうち回っている。

 

「こちらはまだまだだな…」

 

 

間桐光太郎と第四次聖杯戦争時のライダー…真名、征服王イスカンダル。

 

互いの素性を知らないままの、最初で最後の出会いであった。

 




今回のゲスト、征服王でございました。

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第27話『彼の記憶―義弟―』

休みが全然取れなくて、ライダー大戦の2回目を見ることなく終了してしまう…

どうにかして休みたい思いで作った27話です…


「うん…分かった。ありがとう桜ちゃん!」

 

義妹である桜との通話を終了した間桐光太郎は、携帯電話を畳むと再び走り始める。

 

会社帰りのサラリーマンやこれから遊びに出る若者達など行き交う人々の間をすり抜け、クラスメート達の情報を元に光太郎は新都のある場所へと向かっていた。

 

その走る速さは小学生の範囲を超えないものの、限界ギリギリまで脚力を高めて疾走している。これ以上速くならないように自制しながらも、光太郎はこれまでになく、心躍る気持ちとなっていた。

 

(何だろう…すごく体が軽く感じる!)

 

あの人の話を聞いたからかな…と、先程自分の悩みを聞き、打ち砕いてくれた人物の姿を思い出す。自分は王様だという変な人だったが、光太郎にとっては自分の心を救い、大切な事を気付かせてくれた、まさに王様だ。ゴルゴムは創世王こそ支配者と言っていたけど、あんな連中のボスが世界の王なんて御免だ。あの人が本当に王様なら、喜んで言うことができるけど、などと考えていた光太郎の視線は電機屋のショウウィンドウに展示されているテレビの報道ニュースを捉えた。

 

 

『―――父親を刺殺した青年の目撃情報は自宅近辺ではなく、冬木へと逃亡した可能性があると警察は捜査の範囲を広げています。また、冬木でも子供たちが行方不明となる事件が相次いでおり―――』

 

次に映されたのは消えた子供を心配するあまり泣き崩れながらも記者へ答える母親の姿だった。

 

「事件起き過ぎだよこの町…」

 

今朝のニュースは隣町での事件のはずだった、まさか今自分のいる場所まで広がるとは予想外であった光太郎は、義弟の捜索のため、人通りの少ない道を選択する。

ちょうど電機屋の脇道は人一人通れるスペースしかなく、迷いなく踏み込んだ光太郎は瞬時にバッタ怪人へと姿を変える。

 

廃棄された鏡に映る自分の姿にかつては嫌悪していたが、今は自分の力であると受け入れている。

 

「これで慎二君をすぐに見つけて、家に帰れるなら…」

 

今の家族の元へ帰れるなら、いくらでも使ってやる。

 

そう心に決めた光太郎の脳に、またも不快ではないノイズが響く。先週から続いていた響いては消える謎の感覚。久々に姿を変えた途端、それが一番強くなっていた。

 

「またか…気になるけど、今は…!」

 

その脚力を最大限に活かし、光太郎はビルの屋上へと向かいジャンプする。屋上へ到達した光太郎は眼下に広がる新都のある一定のエリアに視覚と聴覚を集中させる。同級生たちの情報で得た、かつて光太郎を苛めていた一団だ慎二を連れていったと思われる場所。

 

町はずれにあるに廃工場だ。

 

光太郎が冬木にやってきた際には既に十数年放置された状態あり、一時は不良たちの溜り場で有名であった。が、最近だと妙な噂がが流れて誰も寄り付かない場所となっていた。

 

「バッタの怪物、か」

 

曰く、真っ赤な目をした巨大バッタが目にも止まらないスピードで追いかけてくるらしい。もしや桜をトラックから助けたと時に目撃されたのかと思ったが、昨年の事が今更広がるなど考えずらい。それに追いかけっこして誰かを怖がらせる趣味など持ち合わせていないのでただの噂と光太郎は片づけた。

 

そして見つけた。廃工場へと続く道を歩いている小学生の男子達。その中には慎二も混じっていた。

 

「…行くか」

 

光太郎は再び移動を開始した。電柱やビルの壁を足場に、誰一人に気付かれることなく、義弟の元へ向かった。

 

 

ここからは、光太郎がその超人的な視覚と聴覚で捉えた。慎二と上級生の会話である。

 

 

「ここだ、ここ」

「…」

 

男子の指さす先にあるのは、目的地である廃工場だ。立入禁止の看板も虚しく、扉を施錠していた南京錠や鎖は切断され道端の隅で腐蝕している。中を照らす明かりもなく、ただ、暗闇が広がっているだけだ。

 

「ほら、早く行ってこいよ」

「途中で帰ってくんなよ?ビビッてやっぱり無理です~って謝れば別だけど!」

 

一人が高声で言うと男子達は一斉に笑いだした。

 

「…くっだんないなぁ」

「あ?」

 

その馬鹿笑いも、慎二の一言でピタリとやんでしまう。

 

「要するに自分たちで確認するのが怖いんだろ?あんな下らない噂の真相なんて、なんの役に立つんだよ。いいよね、暇人は」

「何だと年下のくせに!!」

 

なんて頭の悪い言い分だろう。自分に掴みかかろうとする上級生が顔を真っ赤にして憤慨している様子に慎二はあきれ果てていたが、リーダー各の男子の行動に狼狽してしまう。

 

「待てって。おい間桐。忘れてないよな」

 

リーダー各がカバンから取り出したのは、一冊の本である。それを見せられた途端、慎二は男子に飛び掛かろうとしたが、呆気なく突き飛ばされてしまう。3学年も上ではどうしても体格と力の差が出てしまっていた。

 

「くっ…」

「ルールは守ろうぜ間桐クン?お前が失くした大事な本は俺達が拾ってやったんだから…」

(嘘つけ…僕の同級生を脅してカバンから取らせたくせに)

 

それが発覚した際に脅された同級生は泣きながら謝ってきたことを思い出す慎二。本当に腐った連中だ。

 

「だからさ、御礼に俺達のお願いを聞いてほしいわけ。噂の巨大バッタをこの目で見たいよなぁ、みんな?」

 

床に尻餅したままの慎二を囲うように、男子達はニヤニヤ笑いながら彼を見下ろしている。

 

「わかったよ…その怪物の写真撮ってきたら、その本は絶対に返せ!!」

「ああ、写真が撮れたらな?」

 

立ち上がった慎二は廃工場の入口へと向かうが、途中で振り返り、リーダー各の男子に睨みながら伝える。

 

「あともう一つ…学校で言った事も取り消せ」

「あーはいはい。早くいけよ、『役立たず』」

「…っ!!」

 

手に持った携帯電話をカメラモードに切り替えながら、慎二は工場の中へと進んだ。

 

 

「なあ…あのチビ本当に入ったぞ?」

「ほ、ほんとにいいいのかな?」

 

若干の後悔を口にする取り巻きの男子の胸倉を掴んだリーダー各の男子は脅すように口を開いた。

 

「お前もなにビビってんだよ。これはアイツへの復讐なんだぞ?アイツのせいで、俺らが学校でどんな目に合ってるか思い出せよ!」

 

光太郎が化け物と周囲に噂を広め、彼を一時期孤立させて以降、クラスメートには煙たがられ、学校で肩身の狭い彼らの行為は光太郎への逆恨み以外何物でもないのだが、それを自覚することすら出来ないのであろう。しかも光太郎自身ではなく、その弟で憂さ晴らしをしているのだから始末に負えない。

 

「と、ともかくさ、あの弟が戻ってきたらどうすんだ?」

 

険悪な雰囲気を拭おうと話題を変える男子に、リーダー各は手を放し、慎二の本を再び取り出した。

 

「そうだな、どの道この本を目の前で破いてやる」

「えげつな…本当に写真とってきたとしても?」

「バーカ。噂にだけに決まってんだろ?撮れなかったら約束を破ったことにすればいいし、なんかの手段を使ってそれらしき物撮っても偽物ってことにすりゃいい」

「へぇ~色々と考えてんだね」

「まぁな。でもまだまだだ。俺を馬鹿にした間桐を苦しめるまで…」

「ふ~ん、でも俺、言われるほど君を気にしてないんだけど…」

「そっちがそうでも…え?」

 

自分と会話している方へと首をゆっくりと向ける男子。そこには偶然だねと言わんばかりに手を振る間桐光太郎が立っていたのだ。

 

「ま、間桐…こ、これは」

 

一気に蘇る過去の記憶。いくら自分が嫌がらせしても、殴っても、動じなかった転校生。挙句に木材で叩いても傷一つ負わず自分に迫ってきた悪夢が彼の脳裏を過る。

 

「そこまで驚かれると逆にショックだな。あ、この本返してもらうね」

 

動揺して持つ手にそれほど力が入っていなかったのか、あっさりと慎二の本を取り返した光太郎は、本が無傷であるか確認する。

 

「な、何しに来たんだよ…」

 

まさかこの場でかつて自分たちがやっていた苛めの仕返しをするつもりなのか…震えながら尋ねる男子は周りを見る。同様に突然現れた光太郎に尻餅をつき、半泣きになっている男子もいる。しかし光太郎の返答は、彼らが予想していた内容とは違うものだった。

 

「ん?弟を迎えに来たんだけど」

「はぁ…?」

 

視線を本に向け、さも当たり前のことのように答える光太郎に一同が呆然とする中、光太郎へ向かってリーダー各は声を上げる。

 

「なん…だよ」

「ん?」

「なんなんだよお前!?そうやって俺らを馬鹿すんのかよ!あの時だって…逃げる俺らをわらってたんだろ!?」

 

激高する男子にどう答えたものか…と頭をかきなが、困ったように答える。

 

「いや、いずれはそっちが飽きるかなってほっといたんだけど、なんかリアクションしといたほうがよかったのかな?」

 

自分を心配してくれているクラスメートに悪いが、これが光太郎の本心だった。痛みなどなかったが、流石に殴られるだけでは気分が悪い。しかし、自分がやり返すとそれだけでは済まないと思った光太郎はただ、相手が飽きるまで待っていたのだ。そして苛めが終わった件も、自分が相手に怪我させちゃったな程度にしか考えていなかったのだろう。

 

彼の言動と表情を見て、彼らはようやく思い知った。自分たちを馬鹿にされていると思い込んでいただけであり、最初から相手にすらされていなかったと。

 

 

がっくりとうなだれる男子たちの姿には首を傾げる光太郎。なにかまずいことでも言ったのであろうかと思った直後であった。

 

 

 

 

「うわぁァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

工場の奥から響く絶叫。紛れもなく慎二のものだ。

 

「なんだよあの声…?まさかホントに!?」

 

「バッタの怪物が!?」

 

顔を見合わせる男子達。まさか目の前にもバッタの怪人がいるとは夢にも思うまいと考えながらも、光太郎は工場の奥へと足を進める。

 

「…君らは帰ってくれる?これから慎二君迎えに行くから」

「き、聞こえなかったのかよ!?この奥に化け物がいるんだぞ!!」

 

後ずさるリーダーに光太郎は笑いながら答える。

 

「ま、家族だからね。迎えにいくのは当然だよ。あとそれから…」

 

笑顔とは一変し、鋭い目で睨み付ける光太郎。その目を見た男子たちは、慎二の絶叫とは比べられない恐怖を知ることとなった。

 

 

 

 

「もし、今度俺の家族に何かしようとするなら…俺はその時、君たちを絶対に許さない!!」

 

 

 

光太郎の怒号を聞いた直後、男子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ帰った。

 

 

「さぁ、いこうかな?」

 

 

その頃、工場の奥へと進んだ慎二は…

 

「と、突然大声上げんじゃねぇよクソガキ」

「ハァ、ハァ…」

 

喉元に血のりの付いた刃物をつきつけられていた。

 

(な、何でこんなことに…)

 

上級生たちに言われて噂の怪物を探していた慎二は、突然肩を掴まれ、目の前にいる男に捕まってしまった。月明かりでしか確認できなかったが、その男は今世間を騒がしている逃亡中の殺人犯だった。どうやらこの工場に潜んでいたところを不幸にも出くわしてしまったらしい。

 

「クソ、クソ、クソ、どいつもこいつも俺の邪魔しやがって…」

 

反対の指の爪をかじりながら悪態をつく犯人。既に爪はひび割れ、血が滴り落ちている。もはや普通の精神状態ではないだろう。

 

(こんな時、魔術を使えたらこんな奴…)

 

せめてもの抵抗として犯人を睨む慎二だったが、それが犯人を逆上させる結果となった。

 

「何だぁその目はぁ!!!お、俺がなにしたってんだぁ!!!」

「…っ!!」

「お、俺はなぁ、親殺してんだぞ!?だ、だからお前みたいなガキなんてすぐだすぐ!!」

 

目の前に迫る刃に震えだす慎二であったが、犯人が次に発した言葉に、その震えがピタリと止ってしまう。

 

「こ、後悔しろよ!?この何の『役にも立たない』くそがぁっ!?」

 

犯人は最後まで言い切ることが出来ず、慎二渾身の体当たりを腹部に受けてしまう。

 

「こ、この…」

「取り消せ…取り消せよ今の言葉!!」

 

立ち上がり、腹部を抑えている犯人に対峙する慎二。その目は恐怖などなく、怒りに満ちて犯人を睨んでいた。上級生にも言われたその言葉に、慎二はどうしても我慢できなかったのだ

 

「こんの…ガキィ!!付け上がってんじゃねぇよぉ!!!」

 

刃物を捨て、床に放置された鉄パイプへと持ち替えた犯人は慎二の頭部めがけ全力で振り下ろす。思わず両手を交差するが、いつまでも落ちてこない。

 

「…?」

 

ゆっくりと目を開けると、そこには慎二と犯人の間に立っている光太郎の姿があった。光太郎は腕の硬度と筋力をバッタ怪人時の位まで高め、鉄パイプを受け止めていた。そしてゆっくりと鉄パイプごと犯人を持ち上げると、慌てる相手に構わず、放り投げる。

 

「グギぃ…」

「慎二君みっけ。ダメだよ、知らない上級生について行ったら

 

いつもの軽い口調にがくりと肩を落とす慎二。しかし、光太郎の背後で犯人が再び立ち上がり、声を上げて襲いかかる姿が目に入った。

 

「うわぁァァァァァァァァァァ!!」

 

振り返り、犯人に対して構えた光太郎は気を失う程度のダメージを与えようとした際に、月明かりで照らされた『血のしみついた服』を見てしまった。

 

 

 

 

ドクンと心臓が高鳴ると共に思い出してしまった 養父の最後の姿。

 

 

 

「うぐっ…」

 

膝を付き、口を押さえる光太郎の様子に慎二は思わず声をかける。

 

「お、おい!もう目の前に…」

「しぃねぇぇぇぇ!!!!」

 

犯人が無防備の光太郎を襲う寸前、工場内にドルンっ!!と、エンジンのかかる音が響く。

 

「なな、なんだぁ!?」

 

手を止めて辺りを見渡す犯人。光太郎は朦朧とする中、自分たちに何かが近づく事に感づく。その方に目を向けると、真っ暗な工場の奥から赤い光が2点あり、それは段々と

大きくなっていった。やがて光の輪郭がはっきりした形となり、それは巨大なバッタ。否、バッタの形をしたバイクのヘッドランプだとわかった。しかし、光太郎や慎二と違い、錯乱状態の犯人には、巨大なバッタの怪物に見えているのかもしれない。

 

「ば、バッタの化け物オォォォッォ!?」

 

犯人がそう思うのは無理もない。何故なら、そのバイクにはだれも乗っておらず、自分に向かって一人で走って来るのだから。

 

「う、わああぁ!!誰かぁぁぁぁ!!!」

 

 

恐れをなした犯人は鉄パイプを投げ捨て、一目散に逃げていった。

 

 

そしてこの犯人は奇声を上げながら街中まで逃げてきた結果、巡回中だった警察により御用となった。

 

 

「バトル、ホッパー…それが君の名前?」

「pipipi!」

 

肯定するように頭を振りながら電子音を鳴らすバッタ型の生体マシン。その名はバトルホッパー。

 

「君だったんだね。ずっと俺の頭に呼びかけていたのは…気づけなくてごめん。助かったよ」

 

緑色のボディーを撫でながら、光太郎は将来愛機となるバイクに感謝とした。そして自分たちを呆然と見ている義弟へと振り返り、手を差し伸べる。

 

「平気だった慎二く…」

「僕はっ…」

 

突然大声を上げた慎二に驚き、光太郎は伸ばした手をピタリと止める。

 

「僕は…役立たずなんかじゃない…学校の連中だって自分でなんとかできたし、さっきのあいつだって怖くなかった…お前が来なくても、平気だったんだ!!」

 

慎二の言葉を最後まで聞いた。普段冷めている態度しか取らない彼が、男子達や逃げ出した犯人の言葉に表だって感情を露にしたのは、やはり家でのことが絡んでいるのだろう。

 

 

役立たず

 

この言葉にどれほど彼は傷付いたのだろう。追い詰められたのだろう。

 

 

だからこそ、光太郎は慎二の『あの人』から教わったことを実践した。

 

 

 

「そうだね…慎二君は、すごいよ」

「え…」

 

余程以外な言葉だったのか、俯いていた慎二は光太郎を見上げた。

 

「これ、前に見せてもらったドイツ語で書かれてるんだよね。試しに見たらもうチンプンカンプンだよ」

 

笑いながら取り返した本を差し出す光太郎。慎二は本と光太郎を交互に見ながら、ゆっくりと手にする。

 

「慎二君の部屋にも似た本が沢山あったし…」

「また入ったのかよ!一体何時!?」

「さっき桜ちゃんにがさ入れお願いしたんだ!」

「仮にも妹である女の子になにさせてんだよ!?」

「そこで、どれだけ慎二君が頑張ってるのか、分かったよ」

「………」

 

あのオープンテラスを出た直後、光太郎は間桐家にいる桜へと連絡。慎二の自室の様子を調べてもらうよう頼んだのであった。

 

部屋にあったのはドイツ語の単語を書き取りのために使いつぶされた数十冊のノート、付箋だらけの和訳辞書など、慎二がどれ程打ち込んで勉強いたか物語っている。

 

「俺には魔術の本ってやつがさっぱりだけど、多くがドイツ語で書かれてるんでしょ?それを理解するためにここまで打ち込んでるんだ。だから、慎二君の努力は紛れもない本物だよ。役立たずなんてことは、何一つない」

 

祖父に見限られても諦め切れなかった魔術の道。それを、魔術に関して何も知らないと言い張る人間には認められた。それでも初めて、認められたのだ。

 

「それに、慎二君の言う通り、あの男に全然怯まなかったしね。弱虫の俺とは大違いだ」

「弱虫…?」

 

それこそ信じられなかった。あの異常者の前に立ち、片手で放り投げられるほどの力を持った男が自分を弱虫と言っていることを疑問に思う慎二に、光太郎は恥ずかしそうに頬を指でかきながら説明する。

 

「昔、とっても嫌なことがあったんだ。それを思い出しすだけで俺、泣いちゃったんだ。それをずっと、桜ちゃんに励ましてもらってたんだよ」

 

だからさと、慎二の頭に手を乗せる光太郎。

 

「慎二君は、あの時も平気だった。慎二君自身がちゃんとそれを証明している。胸を張って言えることだよ」

「………っ」

 

慎二は必死に堪えていた。いきなり現れて、年上だからといって兄になった奴なんかに、絶対に今の自分の顔を見られるわけにはいかなかった。

 

そうだ。これは嬉しさなんかじゃなくて、悔しさから来てるんだ。

 

泣き顔なんて、絶対見せるものか。

 

それが今の慎二に出来る光太郎への対抗だった。

 

 

「素直でないのは、昔からなのですね」

 

ようやく、わずかながらも歩み寄った兄と弟の姿に、ライダーは苦笑したのであった。

 

 




予定ではこの殺人犯、逃げる途中で実はかみ合わないコンビに遭遇し、オブジェとなる最後を予定してましたが、どうにもあの二人が書きづらい…いずれはそのように追加してみたいです。

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第28話『彼の記憶―英雄―』

気が付けばこの話を作り始めて半年が経過…ここまで続くとは自分でもびっくりしてます。

これからもお付き合い下さいませの28話です!


「仮面ライダー?」

 

義弟の口から出た言葉を思わず聞き返した間桐光太郎。そんな義兄を間桐慎二は横目で見上げると呆れたように訂正した。

 

「仮面ライダー『みたいだ』って言ったろ。ちゃんと聞いとけよ」

 

 

廃工場を後にした2人は現在、新都のバスターミナルで自宅近くの停留所を経由するバスを待っていた。

 

当初は光太郎が慎二を探していた時と同じく、電柱やビルの屋上を足場にして帰ろうと提案したが慎二がこれを強く拒否。仕方なしに工場から新都まで徒歩で移動し、バスターミナルのベンチに座っているまでにいたる。

そして光太郎を追って現れた生体マシン バトルホッパーは是非とも自身に乗るように勧めたが、免許を所持していないことは勿論、小学生2人が自律走行するバイクに乗車している所など大問題となる。光太郎はやんわりと断り、間桐家の使われいないガレージに向かってもらうようにバトルホッパーに聞かせると、ショックだったのであろうか。光太郎達を救出した際に颯爽と現れた時と違い、よれよれとゆっくり移動しながら工場の闇に紛れてたのであった…

 

(早く免許を取れるように頑張ろう)

 

当面の目標が出来た光太郎は隣に座る義弟に先程の話題を聞き直すことにした。

 

「慎二君。俺が仮面ライダー見たいってどういうこと?」

「…仮面ライダーは噂ぐらい聞いてるだろ?」

 

聞いたことがあるなんてものじゃない。

 

年齢が慎二よりも下だった頃だろうか。仮面ライダーという名は知らぬものなどいない程、彼らの勇姿は語り草となっていた。

 

人類の自由と平和の為。見返りなど求めず、悪と戦い続ける戦士達。無論、光太郎と信彦も彼らに夢中になり、構って欲しいとせがむ妹をそっちのけで話に没頭したことがあった。

しかし、次第に光太郎はサッカーへの興味が強くなってしまい、仮面ライダーの噂は聞き流すようになってしまった。

 

そのような彼らと自分に、どのような共通点があるのだろうか…

 

 

「…仮面ライダーは元々、敵に捕まって、改造された人間って説があるのは?」

「え?」

「…まぁ、これも噂でしかないけどさ」

 

光太郎が覚えているのは、仮面ライダーは複数いる。そして力を合わせて巨悪に立ち向かうという程度だ。彼らが戦える力を手に入れたその根源…原因とも言えるだろう。それが敵による改造手術によるものである話を、光太郎は初めて知った。

 

人としての体を失った彼らはそれでも『心』は失わず、その強大な力を、人の為に使うと決意を固めた。

 

それが、慎二が光太郎に話した仮面ライダーの始まりとなる話の一つであった。

 

「…確かに、似てるよね。バトルホッパーと走れるようになったら益々近づいたかも!」

 

でもね、と明るく振る舞っていた光太郎がほんの一瞬、悲しそうな目になったのを慎二は見逃さなかった。

 

「俺は、仮面ライダーにはなれないよ」

 

光太郎が小さく呟くと同時に、バスが到着した。

 

 

 

 

(仮面ライダーに…なれない?)

 

ライダーはバスに乗り込むマスター達を見送りながら、彼の発言した意図を探った。

 

「コウタロウ…貴方は、後悔しているのですか?」

 

ライダーは先程の慎二が話した事をきっかけに仮面ライダーの名を借りるものと考えていた。

 

まだライダーの良く知る姿に変われないものの、彼はバッタ怪人の力を自在に扱い始めている。まだ幼い彼にとっては過ぎた能力であるが、光太郎であれば自分ではなく、誰かを守るためにその力を使う光太郎なら間違った道を歩むことはないだろう。

 

その彼が、仮面ライダーを名乗れない理由があるとすれば…改造された直後の出来事が原因とライダーは考えた。

 

自分を助ける為に信彦が自分を顧みずゴルゴムの基地を破壊した時。オニグモ怪人に目の前で養父が殺された時。

 

あの時、自分がもう少し早く力を使えていたら、親友と養父だけでなく、養母と義妹も助けられたかもしれない…

 

光太郎は力を持っていながら家族を救えなかった後悔から、力があっても守れなった自分に彼らと同じ名前を名乗る資格はないと自分へ言い聞かせている。

 

その彼が、仮面ライダーと名乗るようになる切っ掛けが、この後に待ち受けているのであろうか…

 

光太郎の抱く苦悩を思った途端、画面は切り替わる。

 

「ええっ!?明後日にまた外国行っちゃうの!?」

「…食事中に大声出さないでよ」

 

場所は間桐家の食堂。祖父である蔵硯以外が席について夕食を共にしているようだ。慎二は帰国以来、食事は自室でしかとっていなかったのでこれは光太郎と桜にとって進歩といえるだろう。しかし、光太郎の声を聴く限り、まだ一波乱ありそうだ。

 

 

「だって、まだ半月はこっちにいられるんでしょ?どうして…」

 

光太郎の疑問に、隣に座っている桜もコクコクと頷いている。当の慎二は鬱陶しそうに口を開こうとする前に、意外な人物が間に入ってきた。

 

「一日も早くあっちの学校のカリキュラムを終わらせてくるそうだ。そうすれば帰国自体が自由な学校だからな」

「ちょっと父さん!?」

 

息子の抗議など聞きもせず、鶴野は黙々と食事を続けた。そのやりとりにぽかんと口を開けている光太郎と桜に、慎二は頬を赤らめながらも席から立ち上がって説明を始めた。

 

「ああそうだよ!さっさとあっちの授業終わらせてこっち戻んなきゃここにある魔導書が宝の持ち腐れだろ!?光太郎は僕と同じで魔術回路持ってないだけじゃなくて知識ゼロだし、桜は魔力持ってても使い方分からないって言うし、僕以外がどうやってこの家を魔術を解析して使えるようにするんだよ!!」

 

肩で息をしながら熱弁を終えた慎二はゆっくりと着席する。

 

「…僕が使い方調べれば、桜だって使えるだろうし、光太郎も直に目にすれば分かるだろ?間桐を名乗ってるくせに、魔術を知らないなんて恥さらしもいいとこだよ」

 

などと悪態をつく慎二に対して、光太郎と桜は互いに目を合わせると、満面の笑みを浮かべている。罵倒したというのに笑っている2人を見て不気味に思った慎二は光太郎に尋ねる。

 

「…何笑ってるんだよ気持ち悪い」

「だってさ、初めてじゃん。慎二君が俺達の名前呼んでくれたの」

「言いたい事はそこじゃなぁぁぁいっ!!」

 

今度こそ顔を赤くして照れ隠しの叫びを上げる慎二を見て光太郎と桜は大笑いする。その光景を見て鶴野はほんのわずかだが、微笑みを浮かべていた。

 

その光景を扉一枚の向こうで、蔵硯が見ていたは、ライダー以外の人物が気付くことはなかった。

 

 

2日後

 

再び転校の手続きを取った慎二を見送りに、光太郎達は空港に訪れていた。

 

「あの、これ…」

 

出国の準備を終えた慎二におずおずと桜は小さな紙袋を差し出した。受け取って中身を確認すると大きさがバラバラのクッキーが包まれていた。そのうち一つを摘まみ、口に放り込んだ慎二は桜に一瞥する。

 

「…美味しくない」

「はぅ…」

 

間髪入れず下された厳しい評価に涙目になる桜だったか、慎二の続いた言葉に思わず顔を上げる。

 

「帰ってくる時にはもっと腕上げとけよ」

「は…はい!」

 

そう言って機内に持ち込むバックに紙袋にしまう姿を見て、元気よく返事する義妹の頭を撫でる光太郎は、そのまま耳を赤くして顔を背ける義弟が可愛く思えて仕方なかった。

 

「…時間だ。行くぞ」

 

鶴野の言葉に、慎二は分かったと言って乗機口へと向かって行った。

 

「…光太郎、さっき言った通り今日は近くのホテルに泊まってから家に戻れ。俺は3日後には戻る」

「わかりました」

「まかせる…」

 

慎二の付添いで同じ飛行機に乗る鶴野に言われた通り、近くのホテルに向かう光太郎と桜。慎二の出発が土曜日の夕方の便であったため、翌日の日曜日に帰宅できれば学校にはしっかりと登校できる。1年前と比べたら、考えられない養父の心遣いに光太郎は変わるものだなぁと考えながら桜と目的地に向かっていた。

部屋に到着後、窓から見える旅客機を見る。時間からして、今動いているのが慎二と養父が乗っている機なのであろう。

 

「桜ちゃん、あれに乗ってるみたいだよ」

「どれどれ?」

「ほら、あの青い飛行機」

「いってらっしゃ~い」

 

窓からその飛行機に向かって手を振る義妹に釣られて手を振り始めた光太郎。次に会う時は、もう少し近づけたらいいなと思いながら、その日はホテルで過ごした。

 

 

そして帰宅した光太郎と桜を待っていたのは荒らし放題となった自宅であった。

 

「うわぁ…」

「ど、どろぼう…?」

 

震える桜は光太郎の背中に隠れてその惨状を目にしている。ともかく金銭類は無事かを確かめながら光太郎はリビングの整理を始めていた。

桜を自室で休ませた後、使用人に臨時出勤させて部屋の整理を行った光太郎は違和感を覚えた。荒らされていたのは通帳や金庫が収納されている場所ではなく、書物やタンスといった家具がひっくり返されているのがほとんどだったのだ。まるでそこにある秘密の入口などを探して

いるかのように…

 

結局は金目の物は手つかずであり、破損されたのは侵入口と思われる窓一つであったことに安堵する光太郎は、その日の夕方に蔵硯に報告するくらいすべきであろうと部屋を訪ねると、もぬけの空であった。

 

「まだ日が出てるのに、珍しいな」

 

また後日にしよう…と扉を閉めた光太郎に悪寒が走った。別に近くで誰かに見られているような寒気ではなく、大きく、そして暗いものが蠢いているような嫌悪感…それがここではないどこかで胎動している。

 

(いや…知った所で俺にどうにかできるようなものじゃない。こんな、こんな大きな…)

 

 

振るえる手を抑えながら、光太郎は自分の部屋に駆け込んでベットに潜りこんだ。こんな違和感、眠ってしまえば忘れるだろう。忘れられるはずだ…

 

光太郎の覚えた違和感は、確かに翌日に目を覚めた時には拭えていた。その変わり、光太郎だけでなく、冬木に住む人々に恐怖へ陥れる知らせが舞い込んだ。

 

 

 

新都で発生した大災害。

 

 

原因は未だ不明であり、その犠牲者の数は日に日に増えていった。

 

幸いに光太郎や桜の学校の友人に被害者がいなかったものの、災害の影響により街を離れなければならなくなった人々は少なくなかった。

 

 

 

光太郎は、学校が終わると度々、その災害地に足を運ぶようになっていた。特に何かをするわけでもなく、ただ、無残にも焼きただれた街を遠くから眺めるだけだった。

 

 

(あの時の違和感って、これだったのかな)

 

足元に転がる煤まみれとなったクマのぬいぐるみの汚れをそっと払った。本来の持ち主は無事なのか、それとも…

 

(なにか…出来たのかな)

 

あの感覚が体を襲った時、この場に来ていれば何か出来たであろうか?と、すぐに考えるだけに留めた光太郎。

 

(何も出来るはずがない。俺に出来る事なんて、なにも…それに、それ以前に怖がって何もしようとしなかった時点で)

 

自身の無力を嘆きながら、数日前に旅出た義弟との会話を思い出す光太郎。

 

 

「慎二君…やっぱり俺は仮面ライダーになれないよ」

 

 

災害地を後にする光太郎は1人の男とすれ違う。ここに来る度に見かける男性だ。よれよれのスーツとコート。無精ひげを生やしたどこか影のある男性だったが、2人は互いに意識することは、なかった。

 

 

 

 

そして、10年近くの歳月が経過した―――

 

 

春休みとなった間桐家の朝は慌ただしく始まっていた

 

 

「ほらほら慎二君、練習遅刻しちゃうよ!副部長になったんだからもっとしっかりしないと…」

「っさいな光太郎は!わかったよ今いくよ!!それと絶対に差し入れ持ってくんなよ!?」

「え~?」

「え~じゃない!」

「あ、おはようございます兄さん達」

「おはよう桜ちゃん。もう入学の準備は?

「はい!ばっちりです!」

 

それぞれがたくましく成長した間桐兄妹であるが、やりとり事態はなんの変化も見られなかった。

 

その年の春から光太郎は地元の大学3年生。慎二は高校2年生。そして桜は高校1年生となる。

 

 

「それじゃ慎二君、後で部活見学しに行くからよろしくね!」

「お願いします慎二兄さん!」

「桜はともかくなんで光太郎まで来るんだよ!?バトルホッパーとそこらを走ってこいよ!」

 

怒鳴りながら玄関を出る慎二を見送った光太郎は靴を履き、春休み中である桜へ昼食のリクエストを伝えると出かける準備を続けていた。

 

「光太郎兄さん。今日もバイクのコースに?」

「いや、今日は大門先生のとこじゃいよ。いつもの検査」

 

幼い頃から今も続けている身体の調査。この10年ですっかり顔なじみになった医者との会話も光太郎の楽しみになっていた。

 

「それじゃ、昼までには帰るよ」

「はい、いってらっしゃい!」

 

 

これまでの奇怪な出来事がなにも無かったかのように生活を続けた光太郎。

 

そしてこの日の夜。彼の運命は再び大きく動くこととなる。

 




鶴野さん、慎二君の付き添いのためにケリィの来襲を間逃れました。その代わりにがさ入れがされてしまいましたが…

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第29話『彼の記憶―変身―』

UAが3万を突破しました!皆様、ほんとうにありがとうございます!!

それでは、29話です!


「ほれ、今回の診断結果だ」

「ありがとうございます、先生」

 

初老の男性が差し出した封筒を間桐光太郎は笑顔で受け取った。

 

光太郎が尋ねているのは間桐家に引き取られてから週に一度通っている小さな診療所である。年季の入った外見とは裏腹に最新の医療設備が設置されており、光太郎は10年近く検査を受け続けている。

 

この診療所でただ一人で勤務している男性は昔から間桐家のかかりつけ医であり、間桐の家が普通ではないと知ったうえで診断や治療を施してくれる主治医のような存在だ。

光太郎の検査も当主である臓硯の依頼されて始めたこともあり、当初は互いに無言で通していたが10年も経てば雑談の方に多くの時間を費やす関係となっていた。

 

「…前から聞こうと思ったんですけど、先生も魔術を知っているんですか?」

「まぁ、一般人よりは知っている程度さ。父の後を継いで、ここの医者になるまでは微塵も信じていなかったがね」

「何か、きっかけが?」

「私は都内の大学病院に勤めながら個人的な研究をしていたのだがね。行き詰った結果、実家の冬木に戻って余命少ない父と臓硯氏に会ったわけだ」

 

分かるだろう?と言わんばかりに口元を歪める医者の顔を見て、光太郎は納得する。あの祖父のことだ。魔術を証明して見せろと言われたら後悔するような事を仕出かしたに違いない。

 

「質問を返すようだが、臓硯氏はどうしてる?ここのところ全くお見かけしていないが…」

「ええ…俺達もここ数年、顔を見ていないんですよ。気の向くままに旅に出たと思ったらいつの間にか帰ってきてますし、家にいても自室から決して出ようとしないんですよ。

食事は桜ちゃんが作ったものを部屋の前に置いておけば、翌日食器は空になってるし。ただ…」

「ただ…どうした?」

 

やはり医者として容態が気になるのか、医者は食いつくように光太郎の説明に聞いている。

 

「ここ数日、食事には一切手を付けていないんです。本人は外食で済ませたとドア越しに言うんですけど、出かけた様子はありませんし」

 

もし本当に出かけたのならば、真っ先に自分が気付くはずである。強化された五感にたよらなくとも、独特である祖父の『気配』は消しようがないためだ。

 

一人でありながら、多くの存在を内包している。そんな違和感が祖父の発せられているため、光太郎は彼の出入りを見逃すことはありえない。というより、嫌でも感づいてしまうと言うほうが正しい。

 

「…………」

「あの、先生?」

「ん?ああ、すまない。それは心配だな。一度こちらに来てもらうように言っておいてくれ。積もる話もあるからな」

「はぁ…」

 

どこか慌てる様子で立ち上がり、キャビネットのファイルをめくり始めた医者を不思議に思いながらも、光太郎は詮索せず、挨拶をして診療所を後にした。

 

 

 

駐車場に止めたバイクに搭乗し、移動する光太郎の姿を窓から見送る医者は、手元に置いてある電話の子機を耳にあてた。

 

「大門君か?私だ…ああ、『例の』準備を進めてくれ。彼ならば、使いこなせるだろう。…そうだ、後はあの人に任せよう」

 

 

「じゃあ、この後はそのまま衛宮君の家に?」

「はい、帰りは遅くなってしまいますけど…」

「大丈夫!楽しんできなよ。藤村先生にもよろしくね」

「はい、それでは行ってきます!!」

 

帰宅した光太郎は桜と昼食を終えた後、ガレージでバイクの整備をしている途中で声をかけられた。昨年から通っている桜の先輩…慎二にとっては同級生である衛宮士郎の家にお邪魔してくるとの内容だった。

 

慎二と空港で約束して以来、料理を独学で勉強するもののどうも癖のある味付けに仕上がっていたが、衛宮家に足を運ぶようになってからメキメキと腕を上げ、今では間桐家の台所を預かる身となった。しかし、度々師匠の家を訪ねては遅くまで帰宅しないため、慎二は外食、光太郎は簡単なものを自炊する日も週に何度かあり、本日はちょうど不在となってしまう日となっていた。

 

元気よく出かける義妹の姿を見て、光太郎は桜と家族になった日々を鮮明に思い出す。

 

怖がりだった桜がいつの間にかあれ程までに元気に、可憐に、そして恋する少女と成長していた。幼いころは家で騒動が起こると隅で怯えていたが、今となっては花瓶や食器などの家具へ危険を感じると笑顔でフライパンを振りかざすまでになっている。養父の鶴野さえ青ざめるほどだ。

 

先に出かけている慎二も帰国してからもより一層勉学に励むようになり、高校生となった時には、家の書庫に眠る魔道書の解読は勿論だが、桜の協力もあって、簡単な術式を組み立てられるようになっている。自分が魔術師となることはきっぱりと諦め、代わりに素質を持った桜がその術式で組まれた魔術の再現することで満足しているようだ。

 

そして光太郎は普通の大学生活を送っている。特に将来の目標を抱いているわけではないが、今の生活に満足していた。

 

 

 

まるで、自分が人間でないことが嘘だったように。

 

 

 

その日の夜。

 

慎二は女友達とカラオケに、鶴野は地方にある間桐の土地を借りたいと申し出た『あちら側』の人間との商談のため本日は戻らない。

 

「となると、今日は一人か」

 

光太郎は間桐となってから、一人となる時間が少なかった。珍しいくらいである。

 

「…二十歳過ぎて寂しがるなんてなぁ」

 

ポツリと呟いた光太郎の目に留まったのは、本日の診断書だ。後で祖父の部屋に持っていこうと食卓の上に置いたままにしていたらしい。

 

「何やってんだか…」

 

早々に届けて食事にしよう。

 

光太郎は普段通りに臓硯の部屋の前に移動する。光太郎と臓硯の間では2回ノックしても返事がなければ勝手に入室できることが暗黙の了解となっていた。

ゆっくりと開かれる、相変わらず明かりを一切受け付けない空間。この10年で変わったとしたなら祖父が在室している時間が少なくなったことと、

 

以前は部屋全体に蠢いていた気配がある日、綺麗さっぱりと消えたくらいだろうか。

 

「では、いつもの所へ…ん?」

 

祖父の不在時、いつも診断書を机の上に置いていたが、今回は先に置かれていたものがあった。小さなメモ用紙に、臓硯の筆跡でただ一言、書かれていた。

 

 

 

『地下室へ来い』

 

 

 

「なんで地下室なんだろう?」

 

書かれていた指示に従い、光太郎は地下室の入口の前にたどり着いた。そこは鉄扉で閉ざされ、子供一人では決して開けられないような作りとなっている。この家に住むようになった頃、ここには決して入ってはならないと鶴野により言われたことがあった。当主である臓硯が同伴しなければ決して入ることが許されない間桐家の仕来りらしい。

 

「…まぁ、考えても仕方ないか。さっさと会って…」

 

要件を聞こう。と、扉の取っ手を握った途端、光太郎の逆毛立つような寒気を感じた。

 

「…俺は、この扉を開けたことが…ある…」

 

今まで自分は鶴野の言いつけを守ってこの入口に近づかなくなったと思い込んでいた。しかし違った。光太郎は過去に一度だけ、この扉をを開けたことがあった。

 

間桐家に引き取られてから一年経たない頃。養父の言葉より好奇心が勝ってしまい、扉に手を伸ばしてしまったのだ。子供一人では開けられない扉など光太郎にとってはなんの障害にもならず、重々しい鉄扉は筋力を強化した光太郎の手によって少しずつ開かれていったいった。

 

その直後だった。

 

大量に蠢くナニカが這いずる音が響き、それに合わせて『知っている誰か』とよく似た声が絶叫を上げていた。それに紛れて聞こえる、静かな笑い声もあった。

 

耳にした光太郎は、自分の事を思い出す。

 

光太郎はすぐに扉を閉め、自分の部屋に駆け込んだ。

 

思い出しては駄目だ。あんなもは、思い出しては駄目だ。

 

必死に自分へ言い聞かせながらも、脳裏に走る、自分が人間でなくなった日。いくら泣きわめこうが、止まることなく自分の奪った存在への恐怖が浮かび上がってしまった。

以来、光太郎はその扉には近づこうとしていなかった。いや、近づけなかったのだ。

 

「……いつまでも、怖がっていられないよな」

 

取っ手を握っている手の中で汗が滲んでいた。正直、昔のように逃げ出したい衝動に駆られている光太郎だったが、意を決して、ゆっくりと扉を開いた。

 

 

 

「………………」

 

無言で地下への階段を下る光太郎。その作りは思った以上に古く、西洋の城を彷彿させるものだった。家の外見もそうだけど、何か拘りがあったのか…

冷静になった光太郎はそんな事を考えながら到達したのは異様な空間だった。

 

松明だけで照らされたその場所は、底が見えないほど深く、広い。なにかの貯蔵庫だったのかと思ったが、そんな考えはすぐに却下した。強化した目で辺りを見ると、次々と見つかる不審な点。

 

空間の一番下…石煉瓦の床から4~5メートル上の壁に並行して走る線。貯めていた水の水位がそこだったように付いている跡。しかし水ではなく、生物の表面から出た体液が乾いた後のようだった。その生物の正体と言わんばかりに無数の屍骸。水分が完全に抜け、皮のみとなっている幼虫のようなもの。あれはかつて臓硯の部屋に居ついていた蟲と酷似している。

 

「ここは…一体?」

「蟲倉と儂らは呼んでおる」

 

光太郎が振り返るより早く、声をかけた誰かは光太郎を深い暗闇へと突き落とした。

 

「くぅ…」

 

底へと落下した光太郎だったがとっさに体の強度を上げて負傷は免れたが、全身に痛みが走る。一体誰が、と今まで自分の立っていた場所を見ると、そこには自分を呼び出した張本人が見下ろしていた。

 

「お、爺さん?」

 

数年ぶりに姿を現した祖父は変わらず和服姿だった。唯一違った点は、目を除いた顔全体を黒い頭巾で覆っていたことだ。それ故か、光太郎を見るその暗い瞳はさらに迫力が増している。

 

「一体、なんでこんなことを!!」

 

当然の疑問が蟲倉と呼ばれた空間に木霊した。臓硯は光太郎の質問を待っていたかのように、頭巾の下で微笑み、杖で床を突く。その直後、臓硯の背後から飛び出したソレは光太郎の背後に着地し、光太郎の頭を掴み上げると壁へと叩きつけた。

 

「が…ふっ」

 

背中に走る痛みに耐えながら突如自分を襲った者の姿を見た光太郎の目は見開いた。

 

「怪人、なのか…?」

 

それ以外に言い表せない存在だった。背丈は2メートル以上あり、人間のように四肢を持っている。背中から生えている羽を震わせ、大きく開けた口から見える牙は、今にも獲物である光太郎を引きちぎりたいと言わんばかりにガチガチと鳴らしている。

 

目の前に立つ怪人に光太郎は見覚えがあった。あの羽と、肉食獣を思わせるあの口と頭部の形…臓硯の体から出現し、臓硯の部屋で飛び回っていたあの羽虫が巨大化したかのような怪人だった。

 

「カカカ…気になるか光太郎よ」

 

驚く光太郎の姿を楽しむように臓硯は変わらず見下ろしている。

 

「お主の考えてる通り、そいつは刻印虫の一匹よ。じゃが、その姿となるためにちと加えたものがあるがの」

「加えた…もの?」

 

ようやく痛みが引き、立ち上がることのできた光太郎。臓硯の言う通り、何らかの遺伝子操作をして光太郎の知る羽虫をここまで変貌させたのか…目の前の存在の詳細を

探る光太郎は臓硯の次の言葉で戦慄してしまう。

 

「簡単なことよ…お前の血を混ぜて作り上げた作品じゃ」

「なっ…!?」

 

動きを止めた光太郎に蟲の怪人は再び襲い始めた。突進する怪人の体当たりを横に頃ばることでなんとか回避した光太郎は、怪人が振り返る前に自身をバッタ怪人へと姿を変える。

光太郎の成長に合わせ、バッタ怪人の姿もより強靭な体と力を持ち合わすようになっていた。この姿になれば負けなしない。しかし、光太郎の自信は蟲の怪人に脆くも崩れ去った。

 

「こ、こいつ…」

 

光太郎の放った拳や蹴りを一切受け付けず、逆に怪人の攻撃に光太郎の体にダメージが蓄積しつつあった。自分と同じ体格ながら、自分以上に以上に力を振るう相手に次第に追い詰められていた。改造され、怪人となった自分の血液は、このような化け物すら生んでしまうのか…怪人の猛攻に成すすべなく、受け続けていた。

 

膝を付いてダメージを受けた腕を抑えながら、臓硯の言った事を整理する光太郎。あの怪人が自分の血液を合成されて造られたものであれば、一体何時、自分の血液を採取したのか?

寝ている間?

いや、そんなことをすれば、今の自分は嫌でも気づくようになっている。ならばと、次に浮かんだ可能性に、考えた自分自身で青ざめてしまった。

 

「血液…検査」

「カカカ、説明する手間が省けたのぉ」

 

光太郎が週に一度行っていた診断の際に項目の一つであった血液検査。

それも10年以上抜き取られ続けていたのだ。使用する血液に困ることは無いだろう。だが光太郎は血液の出どころより、血液を採取していた人物が頭に浮かぶ。あの医者はそもそも臓硯と繋がりがあった人物だ。だから、臓硯へ血液を提供しても、不自然ではない。

しかし、自分と笑顔で会話するあの日々を、光太郎は嘘と思いたくなかった。そして抉るように、臓硯の言葉は光太郎を攻めて立てて言った。

 

「どのような気分じゃ?勝手に期待し、勝手に裏切られたと考えてしまう、今の心境は?」

 

見透かしているような臓硯の言葉に、光太郎は奮い立たせて、立ち上がる。

 

「こっ…ンのぉぉぉっ!!」

 

接近する怪人へ繰り出した渾身の一撃であるアッパー。握り拳ではなく、手を広げて繰り出したことで怪人の胸板を爪でわずかながらも傷を付けることに成功するが…

 

「う…あ」

 

怪人の傷口から滲み出る血を見て、頭を抑える光太郎。その姿は人間へと戻っていた。これを好機と、怪人は光太郎の首を締め上げ、徐々に力を込めていった。

 

「殺すのはいいが、体にあまり傷を付ける出ないぞ。儂が使うのじゃからな」

「な、にを……!?」

 

怪人の手を掴んで必死に抵抗する光太郎の耳に届いた思いもよらなかった言葉。光太郎を追い詰めると言わんばかりに臓硯は話を続ける。

 

「そもそも貴様を拾ったのも、全てはここまでの為…人間であれば完成したと言っても良い貴様の肉体に儂の『核』たるものを移植する。されば我が大望に一歩近づくのじゃよ」

 

何かの狙いがあって自分を養子にした。それはわかりきっていたつもりでいたが、まさか肉体を奪うとは想定外であった光太郎は呼吸が辛うじて出来ている間に、聞き出す事にした。

 

「お、れの体を何故……必要なん…だ?」

「カカカ…それはお主の方がよく判っておろう。世紀王の器よ」

「ッ!?」

 

まさかここで再びその名を聞くこととなるとは思わなかった光太郎の手は緩んでしまい、怪人の力が一層、強くなってしまった。

 

「いくら傷を付けても回復し、近づく脅威は体内にある王石で全てを葬る。あの時、お主を見つけたときに放たれた光を見て儂は実感した!次期創世王の肉体を我がものとすれば、完全な不老不死となるとな…」

 

人類の夢である不老不死。それを叶えるために、ゴルゴムの事も調べげ、自分を子飼いされてきたのか。

 

「う、ぐは…」

 

さらに強まる怪人の手に光太郎の意識は朦朧とし始める。手はだらりと下がり、後は自分の命が停止するのを待つばかりだった。

 

(でも、これで父さん達の所へ…いけるのかな?)

 

自分を庇い、死んでいった養父の姿を浮かんだと同時に、最後の言葉を思い出した。

 

自分の分まで、生きろと

 

「む?」

 

臓硯は眼下で起こっていることに思わず声を上げた。怪人に首を絞められている光太郎は変わらず人間のままだ。しかし、再度怪人の手を掴むと、少しずつではあるが自身の首を絞める怪人の手を遠ざけているではないか。

 

そして完全に首を解放された光太郎は怪人の胸板を蹴って離脱し、呼吸を荒げながらも着地する。

 

「ハァ、ハァ……俺の、命は…俺だけのものじゃない!生んでくれた両親と、父さんと信彦が繋いでくれた命なんだ!アンタのために、使わせるわけには行かない!!」

「…それ程の恵まれた力を取られるのが嫌になったか?」

「確かに俺は改造人間だ!もう、人じゃない…それでも、この体は俺自身のためではなく、俺の守りたいものの為に力を使う!断じてアンタのように自分のためじゃない!!」

 

臓硯を指差し、自身の意志を宣言した光太郎。だがそれを鼻で笑った臓硯は杖を一度床でつつく。それを合図に怪人は光太郎に襲いかかった。

 

「くっ!?」

 

回避を続ける光太郎に、臓硯は光太郎の言葉を否定するかのように口を開く。

 

「所詮は綺麗事よ。現にお主は過去の出来事に囚われ、そやつを傷つけるだけで戦意を失っておる」

「……っ!?」

 

確かに臓硯の言う通りだ。例え敵対する相手でも傷を負い、血が流れるだけでも養父が殺された場面がフラッシュバックしてしまう。事実を突き付けられた光太郎は攻撃どころか再び防戦一方だ。

 

「所詮は口だけか、片腹痛い…さっさとお主の体を奪い、役立たずの孫達を殺すとしよう」

「何ッ!?」

 

臓硯が飛ばした言葉に、光太郎は硬直する。戦いとは無縁のはずの2人を、何故殺す必要があるのか?

 

「先程も言ったじゃろう。儂の目的は完全な不老不死。それが叶ったならばもう他の間桐の人間など必要ない。魔術回路を持てない出来損ないも、魔力を高めるために用意した胎盤ものぉ」

 

冷酷極まりないその言葉に、光太郎の手が震える。そして次第に、腹部から赤い光が漏れ始めた。

 

口が悪くとも優しい子心を持った義弟。寂しさから立ち直って真っ直ぐ生きる義妹。

 

その2人を、この老人は簡単に殺すと言った。

 

「…ない」

「なんじゃと?」

「させない!そんなことは、俺が絶対にさせない!!」

 

 

 

この老人は言った。自分の言った事は綺麗事だと。そして自分は過去に引きずられて、戦いすらできないと。

 

 

ならば、変わって見せる。変えてみせる。

 

自分を助けてくれた家族の為に。

 

自分を家族と認めてくれた兄妹の為に。

 

 

今の自分が戦えないというのなら、戦える為に、心も、身も、変えてみせる!

 

 

変わるための言葉を、光太郎は唱えた。

 

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 

光太郎の姿は再度バッタ怪人となるが、それも一瞬。腹部に現れた中央に赤い結晶を備えた銀色のベルトから放たれた光が、彼を漆黒の戦士へと姿を変えたのだ。

 

それを見た臓硯はニヤリと笑う

 

 

 

「ようやく完成しおったか」

 

 

 

「!!!!」

 

目の前に現れた戦士を脅威と思った怪人は拳を顔めがけ突き出した。

 

グシャリと

 

鈍い音を立てて光太郎の顔に当たった怪人の拳は、無惨にもひしゃげていた。

 

「ウオォォォォッ!!」

 

光太郎は怪人が痛みに絶叫を上げる間もなく、お返しと言わんばかりに、胸板へ全力を込めた拳を叩きつける。

 

「!?!?」

 

光太郎の拳は怪人の胸を貫き、背中を突き破っていた。ピクピクと痙攣する怪人の胸から腕を引き抜き、返り血を浴びるが微動だにせず、ゆっくりと床へ沈む怪人を見下ろしていた。

 

「間桐臓硯…覚悟!!」

 

次の標的を臓硯と定めた光太郎は自分を見下ろしている臓硯へ向かい跳躍する。バッタ怪人と比べ格段に力上がっていることなど気にも留めず、臓硯へとその拳を振るおうと

したが…

 

「ッ!?」

 

何かに感づいた光太郎は、臓硯に触れることなく背後に着地し、変身を解いた。

 

「何の真似じゃ。今更怖じ気ついたか?」

 

あくまで挑発的な言動を辞めない臓硯に対し、光太郎は振り返りながら聞き返した。

 

「なら説明して下さい。その顔と、その体を」

「やれやれ…気づかれたか。先程の拳で消えるのもやぶさかじゃったが」

 

言いながら頭巾を外した間桐臓硯の顔は…出会った頃よりさらにやつれ、肌には多くの亀裂が走っていた。

 

「これは…一体」

「よかろう。では聞け…」

 

臓硯は小さく息を吐くと、光太郎へ話し始めた。




ご老体の口調ってこんな感じてしょうか・・・?

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第30話『彼の記憶―覚悟―』

今回はかなりの捏造&こじつけとなっております。

不思議なことが起こった、ということで見て頂ければと思します…

では、30話です!


第30話

 

マキリ・ゾォルケン

 

彼が日本で間桐臓硯と名乗る前。

 

聖杯戦争を成立させる前。

 

蟲を使役して不死の体を手に入れるより前。

 

まだ魔術師として大成する前に、彼には一人の友がいた。

 

 

その男はゾォルケンと同じ魔術を学んでいたわけでもなく、それどころかお互いの素性もろくに知らず、名前すら呼び合ったことがなかった。

 

 

それでも、彼はゾォルケンの掛け替えのない友だった。

 

 

 

家督を継ぐ為に朝から晩まで独学で魔術の研究へ没頭していたゾォルケンの前に突然現れた彼はとにかく五月蠅かった。木陰で魔道書を読み耽るゾォルケンの横に座っては他愛のない話を続け、気がすんだら離れていく。

そんなことが何時から始まったのかは、ゾォルケン自身も覚えていない。当初は大半を聞き流していた為、唯一わかったのは、この男の家系が代々考古学者であり、勉強する傍らその辺りの発掘作業を手伝っているということだ。

 

ならば一生穴でも掘っていろ。

 

遂に我慢できなくなったゾォルケンがつい口に出した事に男はようやく反応したなと破顔一笑して前以上に話しかけるようになってしまった。

 

これ以上無視しても収拾が付かないと半ば諦めて相手を始めたゾォルケンだったが、彼が話す内容を聞いてみると思った以上に面白く、ゾォルケンが魔術以外の学問に初めて興味を抱いた程だった。それは常に自分という世界から踏み出そうとしない魔術師であるゾォルケンにとっては外界へ初めて触れる機会だった。

 

魔術を学ぶ傍ら、数日に一度現れるその男と談笑することがいつの間にか楽しみとなっていた。

 

そんなある日。いつものように話しつくした男が踵を返す前に次に会う時は世記の大発見を見せてやると豪語して去っていった。

 

彼の言う発見となれば、何かを発掘したということだろうか。どうせ使い古された壺の部類だろうと特に期待するわけでもなく、ゾォルケンも自分の屋敷へと戻っていった。

 

数日後、彼はいつの間にか待ち合わせ場所となっていた木の下にいた。

 

 

 

 

 

血だらけの腹部を手で押さえ、焦燥して駆け寄ってくるゾォルケンへ笑顔を向けながら、木に背を預けていた。

 

 

 

見れば腹部だけでなくから体中の至る所に傷がある。最初に目にした腹部は…致命傷だ。

 

そんな傷でどうしてこんなところに来たと怒鳴るゾォルケン。必死に治癒の魔術を施すが、未熟な彼には苦しみを引き伸ばすことしかできなかった。

彼がゾォルケンへと返した答えは、本当に彼らしい言葉だった。

 

ここで会う約束だろ?

 

ゾォルケンの目から何かが流れる。風前の灯火である彼には何一つ自分に出来ることはない。だから、せめて彼の言葉に耳を向ける。こんな状態になっても、彼の口は閉じることを知らなかった。

 

彼の見つけたものは今まで見たことのない物質と文字で描かれた石版であった。これが解読できればまた一歩、一つの文明が明らかになると家族、仲間たちと喜びを分かち合った。

ようやく解読の兆しが見え、その報告をゾォルケンへ聞かせようとしたその時、彼らを悪魔が襲った。

 

発見された石版に何が刻まれていたかは結局は不明なまま、彼の家族と仲間を皆殺しにした怪物によって、砕かれてしまった。余程知られたくない情報が載っていたのであろうか。

 

 

人間如きが我らゴルゴムを知ろうなど万死に値する

 

 

 

そう言って白いローブを纏った怪物が立ち去った後、誰かに知らせるべく立ち上がり、たどり着いたのがゾォルゲンのいるこの場所だったのだ。

 

ゾォルケンの手を掴む彼の指は冷たく、もうすぐ目を閉じようとしている。

 

彼が最後に口にしたのは忠告と、願いだった。

 

 

 

ゴルゴムには手を出すな。俺のようになる。

 

自分の夢を叶えてくれ。俺には出来なかったから。

 

そして、彼は眠りについた。

 

 

 

以前にも増して魔術を学ぶ傍ら、最後に彼が口にしたゴルゴムと呼ばれた者の正体を、ゾォルケンは必死に探っていた。家の財源を駆使して多くの歴史専門家を雇い、相手にされないと分かっていながらも魔術協会、聖堂教会にそれぞれ頭を下げて情報を貰えるよう懇願した。

 

結果、両者からには端から相手にされず、唯一得られた情報は、世界の歴史には常にゴルゴムの影が見え隠れしていたという専門家たちの報告だった。

 

 

ゾォルケンはこの時決意した。ゴルゴムという見えない悪によって彼のように命が奪われるなら、この世界から悪を滅してみせる。

 

例え今実現出来なくても、実現出来るまで、生き続ける。

 

彼の願いを、叶える為に。

 

 

 

「それが、始まりじゃ」

 

場所を蟲倉から冬木の街全体が見渡せる丘まで移動した間桐光太郎は、背中を向けたままである臓硯の話を黙って聞いていた。以前よりも痩せ細った臓硯は、出会った頃よりもさらに小さく見える。

 

「しかし、儂は…」

 

 

 

願望器である聖杯を再現させる為に極東の島国へと訪れ、間桐臓硯と名前を変えたゾォルケンは、理想を叶える為の一歩を踏み出せたと勇んでいたが、その過程で彼は歪んでいった。

 

時間の経過が彼の魂を次第に不安定なものにさせ、当初抱いていた友への誓いも、悪を憎む正義も忘却の彼方へと去り、彼に残ったのは人を苦しめることを悦とする歪な心と、他人の命を取り込み、ただ自分だけが生き延びるという欲望。

 

それが現代を生きる間桐臓硯の姿だった。

 

しかし、臓硯はある出来事を境に、外道となった彼らしからぬ行動を無意識に行っていた。

 

 

養子とした遠坂の次女を間桐家の属性である『水』に変えるために体を蟲を使っての『調整』をせず、ごく普通の少女として生活を過ごさせていた。

 

間桐の血を引きながらも魔術回路を持たずに生まれた慎二には、魔術師以外の道を選ばせるため幼いうちに敢えて事実を突き付け、選民意識を持たせないようにした。

 

特に前者の調整は外道となった頃の臓硯の趣向が強く、もし桜が蟲による調整という責め苦を受けていたとしたら桜は蟲なしでは生きられない操り人形となっていただろう。

 

 

なぜ、堕ちた蔵硯が孫たちに手を付けなかったのか。そのような温情をかけるような人間ではないことは蔵硯自身がわかっている。以前鶴野に『らしくない』と言われるまで気付くことすらできなかったのに、だ。

 

蔵硯がこのようになるきっかけとなった『出来事』に光太郎は目を見開いた。

 

 

 

「お主と出会った時…お主を食らおうと蟲を放った際に、無意識に体の内にある王石の光を放ったことを覚えておろう。あの光は蟲どもを葬っただけでなく、儂の魂にまで届いたようじゃ」

「――っ!?」

 

 

 

「まさか…キングストーンにそこまでの力が…」

 

2人の会話をずっと聞いていたライダーは2人の出会いを思い出す。ただ1人で逃亡生活を続けた果てに冬木にたどり着いた光太郎は、倒れている所に蔵硯に発見された。自決しようにもすぐ治癒してしまう光太郎の体内に何かがあると見抜いた蔵硯は、その『何か』を残して食い尽くそうと蟲を彼に向かって放つ。しかし、防衛本能が働いたキングストーンの赤い光は蔵硯の体を構成する蟲を次々を焼き払った。

 

そしてその時、光を浴びたのは蟲だけではなかったのだ。

 

キングストーンの光は、劣化した蔵硯の魂を本来の状態に戻そうと働きかけた。しかし百年単位で歪んだ魂に効果はすぐ発揮されず、蔵硯の人格を無意識に変化させることから始まったようだ。

 

さらに大きな引き金となったのが、光太郎が蔵硯に放った一言だった。

 

『お爺さんも、ゴルゴムなの?』

 

完全に記憶から消えたはずの名前が、心の底で燻るように蔵硯の脳裏で浮かんでは消え始めた。その正体を確認するために、蔵硯は光太郎を養子として迎え、情報を得る為に定期的に身体調査をさせていた。

 

光太郎に続けて桜を養子として迎え入れた頃から、蔵硯は魂の形が是正されるにつれて過去と現在の記憶がせめぎ合い、幻視と幻聴に苦しむようになっていた。

 

今の自分を悪だと否定する過去の自分。

 

過去の自分を愚か者と蔑む今の自分。

 

 

本当の意思はどちらなのか。そんな二重人格のような自分に苦悩する日々が続いていた頃、桜が養子となったと聞きつけた雁夜が帰国する。自分が聖杯戦争を参加させる代わりに子供たちを解放しろと

持ちかけて来た息子を見て、『現在の記憶』が打ち勝った蔵硯はそれから一年、雁夜を修行という名の責め苦を与え続けた。

 

雁夜が体内に刻印虫を宿す強引な修行は、蔵硯は自分に言い聞かせるように苛烈を極める内容となっていた。

 

そうだ。これが今の自分なのだ。過去の記憶など、理想など、今の自分には必要としないものだと。それが、今の間桐蔵硯なのだと。

 

だがその行為は、後に蔵硯をさらに苦しめる結果をもたらした。

 

 

 

第四次聖杯戦争の終結。

 

 

本来欲したものを自らの手で壊し、生きる屍となった雁夜は全てを手にした幻想を見て、蟲倉に落ちた。

 

その哀れな最期を見ていた蔵硯は次第に自分の手が震え、涙を流していることに感ずく。

 

蔵硯の行った雁夜への拷問と言っても過言でもない仕打ちが続いている間も、彼の魂は正しい形に戻りつつあった。あくまで今が本来の自分であると記憶を押し留め、誤魔化していたに過ぎず、彼本来の記憶は消えておらず、心の奥底で目覚めを待っていたのだ。

 

そして魂が完全に以前と同じマキリ・ゾォルケンの形となり、かつての理想をはっきりと思い出したのは、雁夜が完全に姿を消した直後であった。

 

「光太郎よ…儂は、笑っておった」

「……………」

「雁夜が…儂の血を引く者が壊れ、最後に蟲に食い尽くされている間…笑っておったのじゃ」

 

老人の肩がわずかだが、震えていた。さらに小さく見える老人に掛ける言葉が見つからない光太郎はただ、老人の話す事に耳を向けるしかなかった。

 

 

自分の出した犠牲者は雁夜だけではない。自分を延命するために多くの命を散らしたことに蔵硯は自責の念にかられた。数百年に及んだ自分の行いが一度に押し寄せ、亡き友への誓いも、理想も捨ててしまった自分は一体なんのために生きてきたのだろうか…

 

三日三晩泣き続け、悩み続けた蔵硯が戒めとして誓いを立てた。

 

二度と、人間を犠牲にしない。

 

自分の肉体が人1人を取り込まなければ維持できない状態だが、蟲倉に生息する蟲を凝縮して取り込み、維持する方法を考え出した。しかし、蔵硯の体として維持出来る期間は人間と比べて遥かに短く、蟲を取り込み続けても10年は持たない計算であった。

 

それでもいい。

 

自ら生み出した悍ましい『吸収』の魔術は自分で終わりにしよう。人という養分を絶った蔵硯の体は人の形を維持していたが、次第にやせ細り、蟲同士の結合が段々と合わなくなり、体にヒビが走るという形で現れていた。だがこうすれば着実に蟲を始末し、自分の命が絶えれば終わるのだから。

 

「それで朽ちていくことが、儂の末路と考えた。間桐の知識のみなら、慎二の奴めが理解できるしな」

 

かつては間桐家にそんな人間がいた程度にしか認識していなかった慎二の名を口にする蔵硯。その言葉はどこか暖かく、本心から慈しむように、聞こえてしまった。

 

光太郎の心は揺れていた。この老人の言っていることは、本当に真実なのだろうかと。余命が残り少ないために全てを自分に告げているのか。それとも、蟲倉で起きたことのように未だ自分の体を狙っているのか…そして次の老人の言葉に、光太郎はこれまで以上の衝撃を受ける。

 

「じゃが…そうも出来ない事態になっておる…ゴルゴムが活動を再開した」

「まさかっ!?」

 

予想出来なかった訳ではなかった。いや、今まで何も起こさなかったこと自体が奇跡に近い。幼い頃、光太郎と同じく改造された信彦によって大打撃を受けたあの基地も10年もあれば復旧するのに

充分な期間だろう。再び、あの悪魔たちが動き出したとしたら、どれ程の事件が起きるのか…

 

「奴らが…」

「だから…頼む光太郎よ」

 

戦慄する光太郎に対し、蔵硯の起こしたことでさらに光太郎は混乱する。

 

蔵硯は光太郎に対し、土下座をしていた。数百年に渡って生き、魔術の名門である間桐家の当主が、魔術師でもない光太郎に対して地面に頭を擦りつけ懇願していた。

 

「お主の力で、ゴルゴムを葬ってくれ。儂にはもう力も、時間もない。その為に、お主を利用した事も、そのために苦しめたことも重々承知の上じゃが…頼む!」

「…身勝手過ぎますよ!!」

 

対して光太郎は怒りをぶつけた。確かにこの老人にとっても、自分にとってもゴルゴムは憎むべき敵だ。ゴルゴムの出現を察知した蔵硯は対抗策としてに自分を追い詰め、黒い戦士へ変身できるようにしたのだろう。しかし…

 

「その為に慎二君と桜ちゃんを利用したのは俺は許せない!あのまま、俺があの姿になれなかったら、貴方はどうするつもりだったんですか!?」

「…………」

「答えてください!!」

『フフフ…随分面白い話をしているではないか』

「っ!?」

 

突如の乱入者に2人は声が聞こえた方へ同時に顔を向ける。既に夜となり、明かりも眼下で広がる街の街灯以外、月明かりしか相手を照らすものはない。森の奥からゆっくりと姿を現した相手は、昆虫のカミキリムシ思わせる姿だった。鋭い顎を持ち、ギョロリとした目で光太郎と蔵硯を見つめたままゆっくりと近づいてくる。

 

「その声…お前は!?」

『覚えていたか…間桐光太郎。いや、ブラックサンよ』

 

忘れるはずがない。自分と信彦を改造した3人の幹部のうち1人…ダロムがカミキリ怪人を通して話しかけているのだ。

 

『それに随分と懐かしい話を聞いた…まさか私が始末した連中の顔見知りがここにいるとはな』

「なんじゃと…まさか、貴様が…」

 

ワナワナと震えながら立ち上がる蔵硯を見て、カミキリ怪人の向こうに見えるダロムはあざ笑うようにその醜い口を開いた。

 

『そうだ。あの人間どもは愚かにも我らゴルゴムの聖地であった土地を掘り返すだけに飽き足らず、そこに眠る文献まで解読しようとした。人間如きがゴルゴムの情報を得ようなどと許されん!そのためにこの私自ら成敗したのだ』

「それだけ…それだけの為に、貴様はッ!!」

 

怒り心頭の蔵硯は身体に僅か残った蟲を放ち、カミキリ怪人に向けて一斉に向かわせようとしたが…

 

「我が友の仇!今こそ…」

『遅いわぁッ!』

 

地を蹴ったカミキリ怪人は飛び散った蟲の群を躱し、蔵硯の腹部にその腕をズブリと音を立てて突き刺した。

 

「むぅ…!」

「お爺さん!?」

 

蔵硯を突き刺したまま腕を大きく振るうカミキリ怪人。放り出された蔵硯は鈍い音を立てて光太郎の目の前に落下した。

 

 

「くっ…まさか…もう分裂出来ぬほどに力が衰えておろうとは…」

「お爺さん!大丈夫ですが!?」

 

本来、多くの蟲で身体が構成されている蔵硯は自分に直接の攻撃を受けた場合、『核』となる部分さえ無事であり、『養分』を摂取すれば死ぬことはない。しかし、長年にわたり餌を与えていない弱り切った蟲と、弱った『核』だけとなった今では体のダメージがダイレクトに『核』へと伝わってしまっていた。

 

蔵硯の体を起こす光太郎は、蔵硯の体が見た目以上に軽く、さらに腕、足が次々と崩れていることに気付く。

 

「お爺さん…貴方は、こんな身体で」

「カカカ…またその名で呼ばれようとは…儂は、お主を利用してあ奴らと戦わせ、ようとした悪党じゃぞ…?」

 

弱りながらも偽悪的な言葉を続ける蔵硯に、光太郎はかつて自分の手の中で息絶えた養父…秋月総一郎の姿が重なった。生き方も、性格もまるで違うはずなのに。養父と違い、目の前で弱っていくこの男は自分で言った通り多くの人間を犠牲にした悪い人間のはずなのに、光太郎の目には涙が溜まっていた。

 

 

『フンッ!死にぞこないが…』

「なんだとっ…」

『我らゴルゴムに逆らう者はそうなる宿命なのだ!そこの蟲も、その知り合いとやらも、この時代の人間もなぁ!!』

 

ダロムの言葉に光太郎の中で何かが切れた。

 

ゆっくりと蔵硯を寝かせ、立ち上がった光太郎は血がにじみ出るほど拳を強く握る。静かに、冷静を装いながらも、ダロムに尋ねた。

 

「お前たちは…昔からこんなことを繰り返しているのか?」

『何を当たり前の事を言っている。ゴルゴム以外の人間は、死ぬべきなのだからな』

 

ああ、そうか…こいつらは人を、人間をその程度にしか思っていないのか。それこそ『そこにいるから』というだけで。ゴルゴムを調べようとしただけで祖父の友人達を皆殺しにした。

きっとゴルゴムは、これからも犠牲者を出し続ける。明日を懸命に生きようとする事も、理想を持って生きる事など関係なしに、殺すのだろう。自分の家族を殺したように…

 

 

 

 

ふざけるな!!

 

 

 

 

「お前たちに…何の権利があってそんな酷いことをするんだっ!俺は…貴様たちゴルゴムを絶対に許さん!!」

 

 

右半身に重心を置き、両腕を大きく振るうと右頬の前で握り拳を作る。

 

ギリギリと音が聞こえる程込めた力を解放するような勢いで右腕を左下へ突出し、素早く右腰に添える。入替えるように伸ばした左腕を右上へ突き出す

 

 

「変っ―――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、ゆっくりと右から左へと旋回し――

 

「―――身ッ!!」

 

両腕を同時に右上へと突き出した。

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子組織を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

カミキリ怪人を通してその姿を見たダロムは狼狽えながらその名を口にする。

 

 

『な、なんと!?何時の間にその姿へなれるよになったのだ、ブラックサン!?』

「違う!俺は―――」

 

 

ダロムの使った名を否定した光太郎は、かつて義弟との話で登場した、戦士の名を思い出す。

 

自分は『彼ら』のような強さと誇りを持っているとは思えない。

 

しかし、目の前にいる悪魔を、絶対に許せない。そして、二度と自分や蔵硯のように、奪われる悲しみを広げさせない。

 

自分を家族である慎二と桜を――そして今を生きる人々を守るために、その誓いと覚悟を自分に負わせるために、光太郎は『彼ら』の名を借りた。

 

 

「俺は、仮面ライダー…」

 

 

 

「仮面ライダー、ブラックだッ!!」




本来死ぬはずの人物が救われるという話もあるように、たまにはキレイな蔵硯がいてもいいのではないかなと…

ご意見、ご感想おまちしております!


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第31話『彼の記憶―別離―』

最近、仮面ライダースピリッツを読み直して、改めて深いテーマやドラマに感銘しいてみたり…第1部ではストロンガー編が大好きです。

では、31話です!


「トアァ!!」

「…ッツ!?」

 

黒い拳を顔面に受けたカミキリ怪人は体を回しながら吹き飛とんだ。

 

(行ける…!)

 

変身し、仮面ライダーブラックと名乗った間桐光太郎はダロムの操るカミキリ怪人へ次々と攻撃を繰り出した。バッタ怪人の時とは比べ物にならない力に驚きながらも、決着を着けるべく攻め続けていたが…

 

「グッ……なん、だ…?」

 

突如、膝を付く光太郎。先程まであふれるほどに沸き上がった力がいきなり抜けていくような脱力感が全身に走った。

 

『ククク…どうやらまだその姿を使いこなせていないようだな』

 

ボロボロとなっても立ち上がるカミキリ怪人からダロムの笑い声が響く。肩で息をしながらも構えを解かず、接近する怪人を警戒しながら光太郎はこの場を切り抜ける方法を模索していた。

 

(奴の言う通り、この姿での戦いに俺はまだ慣れていない…あの蟲蔵での戦いと合わせて二回目の変身…たった二回の変身と戦いでここまで体力を消耗するとは)

 

両足に力を込めるが、立ち上がれても全力でジャンプできるほどの力は残っていないだろう。あと少し力が残っていたら、『あの技』で倒せる可能性があったかも知れないと考えている間に、カミキリ怪人との距離はどんどん縮まっていく。

 

(俺が全力で攻撃を打ち出せるとしたら、あと一度。それに全てをかけなくては)

 

たったの一回。ダメージを受けつつもまだ余力が見えるカミキリ怪人に対し、どのように最後の一撃を決められるか…悩む光太郎の背後から弱弱しい声が耳に届く。

 

「苦戦しておるようじゃの。光太郎…」

「お爺さん…!?喋っては…」

「いいから聞け。良いか、今から言う名を呼べ。さすれば…」

『何を考えているが知らんが、止めをさせ!!』

 

臓硯の方へと顔を向けたままの光太郎の姿を見たダロムは、カミキリ怪人へ命令する。その声を受けたカミキリ怪人は持ち前の顎で光太郎の首を噛み切ろうと飛び掛かったが、茂みから飛び出た光太郎の助っ人に吹き飛ばされてしまう。

 

『ば、バトルホッパーだと!?創世王様の専用機である貴様が何故ここに!!』

『PIPIPI!!』

 

カミキリ怪人の向こうで動揺するダロムの言葉を聞かず、生体マシン「バトルホッパー」は再びエンジンを鳴らし、怪人へ向かっていった。その様子を見た光太郎はかつて同じように自分と慎二が殺人犯から助けられた事を思い出していた。

 

「バトルホッパー。ありがとう!」

「感謝は後にせい!光太郎よ、この機を逃す出ないぞ…」

「お爺さん…」

 

見れば横になっている臓硯の腰から下は完全に消失している。このまま時間が経てば…

 

光太郎は祖父の痛々しい姿から一度目をそらすが、決意を固めた目で臓硯の顔を見て、頷いた。

 

「わかりました。見ていてください!!」

 

立ち上がった光太郎は臓硯から聞いた勝利を齎す名を呼び叫ぶ。

 

 

 

「来い!ロードセクター!!」

 

 

光太郎の呼び声に応え、バトルホッパーとは別の茂みから猛スピードで姿を現したマシンに光太郎は目を見張る。

 

光太郎の前で停止したそのマシンは月明かりに照らされた白と赤でカラーリングされたオンロードバイク。一目見ただけで従来のバイクを上回る性能を持っていると感じさせる。

 

「これが…ロードセクター」

 

ゆっくりとロードセクターに跨る光太郎。シートに座り、グリップを握った途端、モニターの画面が「sound only」と表示され、聞き覚えのある声が流れ始めた。

 

『どうやらロードセクターは無事、光太郎君の手に渡ったようだな』

「この声は…大門先生!?」

 

自分が通っているバイクレース場で教えを受けているコーチ、大門明の声に驚く光太郎。どうやら音声は録音されたもののようだ。

 

『このマシン…ロードセクターは君の脳波に感応し、どこでも駆けつけられるよう調整してある。脳波のサンプルは、君が通っている診療所の先生から渡された。勝手なことをしてすまない…』

「いえ…助かりましたよ」

『ゴルゴムの研究者であった私の父、大門洋一はこのロードセクターを完成させた直後、ゴルゴムに殺されてしまった。マシンを悪用されることを恐れ、渡すことを拒んだばかりにな…』

「そんな…」

 

ゴルゴムによって家族を奪われた人間がこんなにも近くにいたなんて…グリップを握る手に思わず力が籠る。

 

『ゴルゴムの協力者であったと言えど、あのような最後を迎えるなど、私は納得できなかった。だから光太郎君…君の素性を間桐さんから聞いた時に私は思った。君ならあのマシンを使いこなせる。父の仇を取ってくれると……身勝手なことばかりですまない。どうか、父の無念を…』

「先生…」

 

そこで音声は終了した。

 

厳しくバイクの心得を叩きこんでくれた大門の姿を浮かべる光太郎。自分と共にコースを駆け、バイク談義で笑顔を見せた顔の裏に、自分と同じ悲しみを抱いていた。

自分を利用したなんて言っているが、そんな人がこんな泣きそうな声で言うはずがない。光太郎はバトルホッパーによって攪乱されているカミキリ怪人を睨む。

 

「大門先生…!あなたの気持ち、確かに受け取りました!!」

 

アクセルを回したロードセクターは常識を超えた凄まじいスピードで怪人めがけ突進していく。

 

(なんてスピードだ!これなら…)

 

既に時速200㎞を突破したロードセクターはカミキリ怪人の胴体めがけ突っこんでいく。

 

「ギュエッ!?」

 

カミキリ怪人をフロント部分に乗せたまま、光太郎は森を抜け、今の時間では人一人いない採掘場へと飛び出した。

 

(よし、ここなら…)

 

移動時にモニターに表示されてたロードセクターに備わったシステムも、この広い場所なら使用できる。カミキリ怪人を振り落とし、一定の距離を置くと地につけた足を軸にロードセクターを

反転させる。再びカミキリ怪人と向き合う形となる。

 

「行くぞ!!」

 

さらにスピードを出してカミキリ怪人に向かっていくロードセクターの速度は既に500㎞を突破している。

 

そして600…700…800㎞を超えた時、マシン上部に運転す光太郎を守るように、アタックシールドが展開する。

 

「スパークリングアタックッ!!」

 

イオンシールドで覆われ、巨大な弾丸となったロードセクターはカミキリ怪人を宙高く吹き飛ばす!

 

それだけでは終わらせない。

 

光太郎はスピードを落としたロードセクターから、残された力を振り絞って全力で跳躍。エネルギーを纏った右足を落下するカミキリ怪人に向けて叩きつける。

 

「これが俺の…」

 

都市伝説で聞いた、光太郎の知る『仮面ライダー』と呼ばれた英雄たちの一撃必殺の技。

それまでに多くの悪を葬り、彼らの代名詞とも言える技を、光太郎は咆哮とともに繰り出した。

 

「ライダーキックだぁッ!!」

 

止めを受けたカミキリ怪人は採掘場の壁へと叩き付けられ、ばたりと地に沈んだ。着地した光太郎は油断せず、再び構えながら相手の出方を見る。すると、体を燃やしながらも、カミキリ怪人は立ち上がる。いや、カミキリ怪人自身はとっくにこと切れている。あれはカミキリ怪人を操るダロムの力によるものだろう。

 

『おのれぃブラックサン!いや、仮面ライダーブラックよ!これで終わると思いな…貴様は我らゴルゴムが全力を持って抹殺してくれるわ!!!』

 

ダロムの怨憎の叫びとともに、カミキリ怪人の体は燃え尽きた。

 

「望む所だ!俺は…お前たちゴルゴムを許さない!!」

 

 

 

 

カミキリ怪人を倒した光太郎が臓硯の元に戻ると、体の崩壊はさらに進んでいた。

 

「お爺さん…」

「…どうやら、勝てたようじゃな。これで心残りは一つ消えたわ」

 

臓硯の横で膝を付き、抱き起す光太郎。

 

「お爺さん…あなたは、俺がこの姿になれると知って、あの状況を」

「あの医者を恨むでないぞ。全ては、儂が仕組んだことじゃからな…」

 

臓硯は光太郎の体がバッタ怪人からさらに進化する可能性を医者からの報告で知ることができた。しかし、そのスイッチとなるきっかけがつかめなかった2人は過去に蟲を通して監視していたある状況を思いついた。

 

それまで力をコントロール出来なかった光太郎が、トラックに引かれそうになった桜を助けた時。

 

トラックを止めた手は怪力そのままに、桜を抱き上げた手は人間並だった。

 

彼は近しい人間が危機的状況、もしくは傷つけられた場合に力を発揮する。

 

言いづらそうに報告する医師の姿が目に浮かんだ。

 

「そうじゃ、恨むなら儂だけでいい。これから、お主にもう一つは脅しをかけるのじゃからな」

「…俺に、出来ることなんですか?」

「お主にしか…頼めん」

 

 

 

その内容を聞いたライダーは驚き、思わず手で口を覆う。この老人が光太郎に伝えたことは、想像を絶することだった。

 

「そんな…コウタロウ…貴方は」

 

 

マスターの答えはわかり切っている。しかし、ライダーは聞きたくなかった。

 

(お願いです)

 

 

「わかりました…」

 

 

(もう…これ以上)

 

 

「そのために」

 

 

(自ら、苦しみを背負わないで)

 

 

「俺は、聖杯戦争に参加します」

 

 

「コウ…タロウ」

 

 

変えられない回答を聞いて、ライダーは涙を流す。何故この人はここまでしなければならないのかと。

 

 

 

「ならば、その手を出せ」

「……」

 

頷き、臓硯の前に手をかざす光太郎。震える細い指先が何かを描くように光太郎の手の甲をなぞる。その直後、針で刺されるような痛みと共に、光太郎の黒い手の甲に一瞬紋章のようなあざが浮かび上がり再び消失した。

 

「今お主の手に刻んだものは『令呪』。聖杯戦争に参加するマスターの証であり、サーヴァントを現界させ、率するものじゃ」

「令呪…」

「今の姿では隠れて見えんが、人に戻ればくっきりと刻まれておろう…苦労したぞ?王石の力を魔力へ変換させて放出させる術式を組むのは」

「それは、ご面倒を…お爺さんッ!?」

 

軽口を叩きながらも、先程光太郎の手に触れていた臓硯の右腕が消滅する。

 

「どうやら、時間のようじゃ…光太郎。これが最後の頼みぞ。儂を王石の力で滅してくれ」

「何を言って…!?」

「ただ消えるだけなど儂には許されん。それだけのことを重ねてきたのじゃ」

 

目をつむり、走馬灯のように蘇る自身の所行。ただ消えるのみで消え去る罪ではない。ならば、自分の魂を浄化させた光太郎の持つキングストーンの光で消滅する。それが臓硯の望みだった。

 

「儂の過去を…清算させてくれ。光太郎よ」

「…わかりました」

 

仮面の中でどのような顔をしているかは臓硯にはわからない。しかし、自分を寝かせ、立ち上がった光太郎を見て了承したと判断した。

 

(これで…)

 

「キングストーン…」

 

両拳をベルト「エナジーリアクター」の上で重ねた光太郎の腹部から眩い光が放たれる。

 

(ようやく…)

「フラッシュッ!!」

 

その赤い輝きは穏やかな表情となった臓硯を完全に消滅…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

させなかった。

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうこじゃ光太郎!?」

 

うろたえた臓硯は思わず声を上げる。体の崩壊は止まり、痛みも和らいでいる。元の姿に戻った光太郎は混乱する臓硯を諭すように説明した。

 

「今の光で貴方が消滅する時間を伸ばしました。持って数時間…丁度日の出頃ですかね?」

 

この短期間にキングストーンの力をそこまで操るにいたった事よりも、意図が掴めない臓硯の表情は険しくなる。

 

「何が狙いじゃ…?」

「貴方は言いましたよね。過去を清算すると。けど、その前にやってもらうことがあります」

「なんじゃと…?」

 

自分の願いだがは全て託し、後は消えるだけの自分に一体何させるつもりなのか?その内容に、臓硯は目の前にいる青年の底知らずさに度肝を抜かれた。

 

 

 

「決まってるでしょ。」

 

 

 

 

「ちゃんと家族に挨拶してから消えて下さい」

 

 

 

 

時刻は丑三つ時を差そうとする頃。間桐家で眠っていた慎二と桜は光太郎に叩き起こされた。

 

未成年である2人に過酷な仕打ちであったが、事情を聞いた二人は別々の反応を示した。

桜はパタパタと一階へ下り、慎二は無表情のまま自室へ戻っていった。

 

(さて、後は地方に飛んだ義父さんだけど…)

 

この時間では電話しか手段がないかと考えいると、玄関に近づく足音が耳に聞こえた。

 

 

 

「…どうぞ。時間が無かったので、こんなものしか用意できなくて」

 

桜が申し訳なさそうに食卓に座る臓硯の前に置いたのは小さい土鍋に盛られた卵粥だ。

 

「…頂こう」

「はい…」

 

桜には臓硯と長く接した記憶がないが、この間桐家で普通の生活を過ごせていることに深く感謝していた。実の家族とは引き離され、その裏に光太郎から聞いた事情があったとしても、2人の兄と出会えたことを桜は幸せと感じている。

 

(こうして、桜の前で食事をするのは初めてじゃったか)

 

臓硯は家族揃って食卓にを囲むことをせず、食事はいつも自室で済ませていた。ゾォルゲンとしての魂を取り戻した直後での気まずさもあったが、何よりそこにいてもおかしくない雁夜の命を奪った負い目が会った。

 

だが、盆を両手で抱いたままこちらを不安げに見つめる少女はそれすら知ったうえで手料理を振舞ってくれた。臓硯は崩壊を免れた左手でレンゲを使い、時間をかけて孫お手製の卵粥を食した。

 

やがて空になった土鍋の横にレンゲを置いて、臓硯に向かい頭を下げる。

 

「…美味じゃった。馳走になったの、桜」

「お粗末…さまでした」

 

祖父から聞いた初めての感想に涙目となりながら、桜は食器の片づけを始めた。

 

 

 

「僕からあんたに話すことはない」

 

桜と入れ替わりに現れ、臓硯の対面にどかりと座り踏ん反りかえる慎二。当然の態度だと蔵硯は覚悟していた。魂が歪んでいた時期と言えど、散々自分が魔術師であると信じ込ませ、戻った途端に魔術師になれないと伝え、幼い頃からの目標を壊したのは自分なのだから。だからこそこれから慎二の口から出る怒り全てを受け入れるつもりでいたが、慎二がまずやったことは数冊の本をドンっと食卓に叩き付けページを捲り始めた。

 

「それと、ゴルゴムの因縁ってやつも光太郎とあんただけであって僕には関係ない話だ。けどね…」

 

ペラペラと捲り、ある項目にたどり着くと蔵硯の前に突き出した。そこは、開始当初から記された聖杯戦争についての記録だった。

 

「聖杯戦争は話が別だ。あれは昔から間桐が関わってるんだろう。そこに魔術に関して素人の光太郎を放り込もうなんて考えられない暴挙だよ。だから、あんたの知ってる限りの聖杯戦争に関することを話してもらう。この本に載ってない裏の裏まで全てだ」

 

一度目を逸らした慎二は小さく呟く。

 

「あいつばっかりに…背負わせてたまるか…」

 

そうか…と返した蔵硯はまず聖杯戦争の始まりに至ることから話を始める。慎二も聞き逃さない為にマイクロレコーダーを横に置きながらも、蔵硯の言うことを全て自分のノートに記載をしていた。

 

(儂は…こやつの強さに全く気付けなかったようじゃな)

 

自分の知らない所で成長した姿に、蔵硯は笑いたくて仕方がなかった。しかし、今の慎二が求めているのはそんな孫と祖父の間柄じゃない。慎二は魔術の間桐蔵硯に問いただしているのだ。

いずれ自分の義兄が参加する、魔術師同士の殺し合いの情報を。ならば、最後まで見事演じなければならなるまい。

 

 

それから一時間ほど経過した頃、慎二は時計を見て舌打ちすると、今まで行っていた作業を全て中断させた。

 

「時間かよ…」

 

最後に重要な今の聖杯について伝えようとした直前に、慎二は立ち上がってその場を後にしてしまう。どういうことかと尋ねようとしたが、慎二の言葉に硬直してしまう。

 

「助かった…ちょっと、ほんっの少しだけ…魔術の話が聞けて楽しかったよ。御爺様」

 

それだけ言うと振り向かずに食堂を後にした。

 

「御爺様…か」

 

果たして自分はそう言われるようなことを、あの孫たちにしてやれただろうか。あんなにも、優しく育った孫たちに…

 

「で、最後は俺ということか?」

 

感傷に浸っていた蔵硯の前に現れたのは酒瓶を持った、本日は戻らないはずの鶴野だった。

 

「お主…商談はどうした?」

「思った以上に早く片付いて終電に間に合った…ここじゃなんだからテラスにでも行くぞ」

 

 

鶴野の希望通り、場所を食堂から外のテラスへと移動した鶴野と蔵硯。月はもうすぐ沈み、あと数十分もすれば日も昇るだろう。グラスの注がれた洋酒を蔵硯の前に置くと、特に乾杯などせずに鶴野は飲みだした。つられて蔵硯も飲み始めるが、どちらかと言えば日本酒が好みである蔵硯には形容しがたい味であった。それから暫く無言の時間が続く中、蔵硯が口を開く。

 

「鶴野よ…雁夜は」

「言うな」

 

蔵硯の発現を遮った鶴野は、手に持ったグラスの中身を一気に飲み乾し、蔵硯の目を見ずに続けた。

 

「今更そんな話されたってアイツが生き返るわけじゃねぇ。それに、あいつが望んだことなんだろ。それにアンタが一枚噛んでるってことなら、この後に地獄でアンタ自身が詫びるんだな」

「カカカ…それもそうか…」

 

そんなやり取りがきっかけとなったのか、本当に他愛のない、親と息子のような会話が暫く続いた。

 

そして、ゆっくりと周囲が朝焼けに包まれ始めた時、鶴野は蔵硯に尋ねた。

 

「ここまで長く生きたんだ。もう、思い残すはないんじゃねぇか?」

「そうじゃな…」

 

だんだんと、輪郭が薄れ始めた蔵硯の顔は今までに見たことがない程穏やかになっている。

 

本当に長い時間を生きていた。

 

夢を忘れてしまうぐらいに、時間というのは自分にとって残酷だった。

 

それでも、自分の思いを託した時はこれで終わりだと諦められたが…

 

「なんでじゃろうな…今更になって」

 

 

 

 

「お主らと生きたいと考えてしまうなど」

 

 

 

 

 

ハッと振り向いた鶴野の前から、蔵硯の姿は消えていた。変わりに、蔵硯が腰かけていた椅子の上にはピクリとも動かない、小さな蟲の亡骸があった。それもやがて、日の光を浴びた途端に灰となり、消失した。

 

 

「…言うのが遅すぎなんだよ…クソ親父」

 

 

そのテラスの様子を3人は物陰からずっと見ていた。慎二の肩を借りて泣きじゃくる桜。それにつられてか、天井を見て今にも零れ落ちそうな涙を必死に我慢する慎二。

そして、手の甲に刻まれた令呪を見つめ、改めて蔵硯との約束を果たそうと誓う光太郎。

 

 

長きにわたって生き続けた魔術師 間桐蔵硯の生涯は、最後に自分自身の望みを抱いて、幕を閉じた。

 

 

 

そして、ここからが間桐光太郎の真の戦いが始まった。

 

次々と襲いかかるゴルゴムの怪人。

 

圧倒的な力で光太郎をねじ伏せた黄金の鎧を纏う青年との出会い。

 

自分の存在を確立する為にキングストーンを狙う剣聖の猛襲。

 

 

度重なる戦いの中で、光太郎は地下室に描かれた魔法陣の前に立ち、呪文の詠唱を始めた…

 

 

 

 

 

 

 

ライダーはゆっくりと目を開く。桜を視界に入れないように眼帯を外し、魔眼殺しの眼鏡をかける。

時計を見ると午前2時過ぎ。

隣で穏やかな寝息を立てている桜と寝てから4時間弱が経過したころだろうか。

 

 

(長いようで、とても短い夢でしたね)

 

立ち上がったライダーは部屋のカーテンを開け、夜空を見上げる。これと同じ空の下で、マスターは幾度となく死闘を演じたのだろう。それも、最後に蔵硯との約束のためにあんな

重荷まで背負い…

 

(私のマスター…コウタロウ。貴方は…)

 

と、思考を中断したライダーはあることに気付く。今、この家に光太郎はいない。すぐに霊体化し、間桐家の屋根に上がったライダーは、自分のマスターの居場所をすぐに特定する

ことに成功する。しかし、問題は今光太郎が一緒にいる『存在』だ。

 

「コウタロウ…!!」

 

戦闘装束へと変わったライダーはマスターの元へ駆け付けるべく、その俊足で地を蹴った。

 

 

 

そして、光太郎は…

 

 

「奇遇ってわけではなさそうだね」

「…………」

 

光太郎の言葉に反応を示さず、相手はただ黙って光太郎を見つめるだけだ。

 

 

新都へ続く長い鉄橋の中心に、間桐光太郎と赤い弓兵、アーチャーが対峙していた。




過去編というなの蔵硯編の終了です。

さて、本編戻って早速現れた彼との会合はお話で終わるのか、それとも…?

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第32話『弓兵の挑戦』

週末に投稿できないということで本日投稿!
…ちょいとチョロ過ぎる内容ですのでご勘弁を
そんな32話です


間桐光太郎はゆっくりとした足取りで深山町から新都までの道を進んでいた。

 

ゴルゴムが活動を再開されてから、光太郎は夜中に出歩く日数が多くなっていた。ゴルゴムが夜間のみ活動をしているというわけでは無いが、もし遭遇するのならば、人間が多くない夜の方が光太郎にとっても好都合なのだ。

 

光太郎の行動が悪の野望を砕くものだとしても、戦うその姿は人でないことに変わりない。家族である慎二や桜のように彼を理解してくれる存在も確かにいる。しかし、そんな彼らでさえ危険に巻き込む力を光太郎は有してしまっている。

 

戦いの中で義弟や義妹が命を失うような危機に瀕したのは一度や二度ではない。その度に強くなろうと自分を鍛え始めると、それに合わせるかのように兄妹も『もう足を引っ張らない』と更なる魔術の組み立てや訓練を始めてしまっている。

 

それがもはや実践され、最近でも宿敵であるビルゲニアの作戦を崩すことに大いに献上した。

 

光太郎にとっては正直、複雑な気分であった。

 

人間でなくなった自分に好意を持って接し、力となってくれることは光太郎にとって幸福以外の何物でもない。だが、より激しくなるゴルゴムとの戦い。そして聖杯戦争でも今まで通りに誰一人失わず生き残れる可能性はゼロではない。もし、自分の力が及ばず、命が失われてしまったら…。

 

光太郎が思わず連想してしまった最悪の構図は、彼に育ててくれた家族を次々と失った暗い過去を思い出させる。

 

それと同時に、今の家族が放った言葉も思い出す。

 

 

『巻き込んですまない?何調子に乗ってんだかこの愚兄は…捕まったのはあくまで僕なんだよ!逃げ出す方法なんていくらでもあったし、むしろ僕に気を取られて怪我してんの光太郎のほうだろ!?こっちはなんとか出来るんだから怪我しないような戦い方しとけよ!!』

 

 

『兄さんいつも謝ってばかりじゃないですか!悪いのはゴルゴムの方なんですよ?もう、次に事件のことで謝ったら兄さんのおかず、苦手なものだけにしますからね!』

 

 

 

巻き込んだ際に謝罪しても、いつも逆に光太郎が怒られる結果となっていた。

 

慎二と桜はゴルゴムの事件に巻き込まれた事よりも、兄である光太郎がそれを気に病んでいる方が気に食わないらしい。

なにより、恐ろしいことに巻き込まれても、光太郎に対して変わることなく接していることが嬉しかった。

 

「ハハッどっちが守られてんだか…」

 

このように一人で出歩くと気持ちの浮き沈みがあり、最終的には二人の言葉が立ち直らせている。光太郎にとってはそれだけ大切な存在なのだ。

 

「…いつも同じ結論だけど…頑張らなきゃね」

 

何度目か分からない決意を口にした光太郎が新都へと続く鉄橋にたどり着いた時、見覚えのある気配を感じた。

 

「……」

 

無言で歩き続ける光太郎。一歩、また一歩と進むにつれてその気配、存在は確かなものとなった。

 

やがて鉄橋の中央に移動した光太郎の目の前に、赤い外套を纏った男が現れる。

 

「奇遇ってわけではなさそうだね」

「……………」

 

アーチャーは無言で光太郎を見つめる。今のところ殺気を感じられないため、気さくに声をかけたつもりだったが、効果はないようだ。そしてこのような時にサーヴァントである彼を窘める少女の姿がどこにも見当たらなかった。

 

「リンならば衛宮士郎の家で眠っている。貴様の前に立っているのは私の独断だ」

 

知りたい情報をすんなりと伝えるアーチャーの行動がますます解せない光太郎。学校での共同戦線を顧みてもマスターである遠坂凛に普段から逆らっているようには見えなかった。

 

「俺に、話でもあるのか?」

「察しがよくて助かる。協定の時間はとっくに過ぎているのでね。手厳しいマスターにばれる前に顔を合わせて置きたかったのだ」

 

協定…とアーチャーの口から出た単語を聞いて思い出す。確か自分達ライダー陣営とアーチャー陣営の間で今日一日はお互いに一切手出ししないという約束がビルゲニアと戦う前に結ばれていたが、腕時計を見ると午前二時。とっくに無効となっている時間だ。

 

今思い返しても、アーチャーのマスターである遠坂凛は普段面倒見の良い優しい少女である印象があるが、聖杯戦争に関してはストイックかつドライな部分が見えた。

だからこそ、次に対峙した時は全力で挑んでくるだろう。

 

そんなマスターの方針を無視して敵であるマスターの光太郎に伝えるべき話があるというアーチャー。彼から話された内容は、義弟の知人の名が使われた。

 

 

 

「今後、この聖杯戦争が終わろうと衛宮士郎と関わらないで欲しい。あれに取って、貴様という存在は悪影響だ」

「…理由は?それは前にビルから彼を睨んでことと関係あるのか?」

 

 

自分という存在が悪影響と言われたよりも、弓兵が協力関係にあるマスターの名を出した事に光太郎は表情に出さないものの驚く。利害の一致から協力していると聞いてはいたが、この男が衛宮士郎に抱く敵意は尋常ではない。驚いて見せるより先に質問で返すと、アーチャーはわずかながらピクリと眉を動かす。

 

初めて知ったのは、ゴルゴムのクモ怪人との戦いで士郎が巻き込まれ、慎二と共に助け出した時だった。クモ怪人を殲滅し、お互いの無事を確認していた光太郎かが感じた胸を抉るような殺気。

 

高層ビルから士郎を見下ろす彼の瞳は、もう存在そのものすら認めない。怒りと憎しみに満ちた視線だった。

 

「なに、あの手の小僧は身近に特別な力を持った者がいると無駄に憧れる。さらに真似などされて死なれたら貴様も夢見が悪いだろう」

「…………」

 

目を伏せて、はぐらかすように答えたアーチャーに光太郎は疑問を抱いた。彼の言葉は半分は本当だろうが、半分は嘘だ。アーチャーが士郎の身を案じることは、恐らく無いだろう。

なら、自分が彼に近づくことで、赤い弓兵に何か不都合なことが起きるのだろうか…

 

 

「なるほど。確かに、俺の真似をされたら衛宮君の命は幾つあっても足らない」

「そうであろうな。貴様という『本物』が近くにいてはますます調子に乗る」

「…その『本物』がなんのことを指しているかは知らないけど。君の要望は……」

 

 

 

 

 

「断るよ」

 

 

 

 

 

「何だと……?」

 

目を細め、光太郎の放った言葉に明らかな怒りを見せるアーチャー。

 

「貴様は先程自分で言ったぞ。真似をすれば命はないと。それを…」

「する前に止めればいい。もしそれで止まらなかったら、全力で守るだけだ」

 

ニヤリと笑いながら即答する光太郎に今度こそ目を見開くアーチャー。

 

「衛宮君が何を目指して、俺が近くにいることでどうなるのかは分からない。けど、君が言うように俺が関わったことで衛宮君が悪い方へ向かってしまうなら…それを止めるのも、彼を守るのも、俺の役目だ」

「何故だ…弟の知り合いというだけで」

「理由なんて、それだけで十分だ」

 

アーチャーの動きが止まる。光太郎は畳み掛けるように言葉を放った。

 

 

「いい機会だから教える。命ある限り人類の自由と平和を守る。それが仮面ライダーだ。勿論、衛宮君が目指している夢という『自由』もな」

 

 

アーチャーの表情は見えない。だが、開いた両手に白と黒の夫婦剣が出現する。

 

「…守る、だと?それがどれほど重いことも知らず、その結果がどうなるかも知らずに抜け抜けと…貴様も、正義という言葉に酔い痴れた、奴と同類ということか」

「何のことだかさっぱりだけど…俺は、自分を言葉を曲げるつもりはない」

 

その直後だった。構えたアーチャーが光太郎に向けて飛び出し、二振りの剣を同時に振り下ろした。

 

ガキンという金属音が鉄橋に木霊した。

 

 

「コウタロウ……ッ!?あれは!」

 

 

マスターの不在に気づき、新都まで疾走してきたライダーはようやく光太郎を発見する。鉄橋の中央で何故かアーチャーと一緒にいる。それもお互い後を向いたままだ。

 

 

 

 

互いに無言のまま立ち尽くしている光太郎とアーチャー。見れば光太郎の首筋に細く腫れあがった痕があり、アーチャーが手にした夫婦剣は根本から折れている。

 

「…なぜよけなかった。魔力が不十分とはいえ、常人の首なら簡単に切り落とせたぞ」

「君は怒ってはいたけど殺気はなかった…まさか本当に当てるとは思わなかったけど。イタタ…」

 

魔力で造られたアーチャーの剣は使い手の創造力によって強度が変わる。自分の中で最高の硬度と切れ味を持つならば、そのままの形として再現するように。逆に言えば、剣の形に近づけば十分だと思えば、それは剣の形をしたもので終わってしまう。

光太郎がそこまで見抜いていたわけでは無いが、この男はまだ自分を殺す気にはなっていない。

 

手を広げたと同時に、柄のみとなった夫婦剣を消したアーチャーは振り向かずに光太郎へ尋ねた。

 

「答えろ…貴様は、先程言った通り、守り続けるのか。顔も知らない人間すらも」

「答えは、言ったつもりだけどな」

「例え、救った命に裏切られたとしてもか。何百、何千という命を助けても、返ってくのは人殺しという汚名だったとしても…」

 

さすがに言葉が止まる。未だそのような目に合っていない光太郎には分からないというのが正直な答えだ。しかし、背後にいる男は知りたがっている。

 

光太郎の出す回答を。

 

「…進むよ。見返りが欲しくて決めた事じゃない。それに…その話を聞く限り、救えた命があるのは確かなんだだろう?」

「………」

 

アーチャーは答えない。代わりに、光太郎の言葉が続く。

 

「裏切られたとしても、大勢の人に非難を受けたとしても、その道を決めたのなら、突き通さなきゃいけない。そう決意させる程の事が、あったんだろう?」

 

光太郎に言われ、アーチャーの脳裏に走ったのは遥か過去。摩耗しきった記憶の中でそれだけは忘れずにいようとしていた、自分の始まりの記憶。

 

雨の中、もうすぐ消えようとしていた自分の命を救ってくれた男。こんな男になりたいと、夢をくれた目標の男だった。

 

「だから」

 

光太郎の声を聞き、我に返ったアーチャーは振り向く。自分に傷を負わせた相手だというのに、散々訳の分からない問答を押し付けたというのに、目の前の青年は満面の笑みでこちらを見ていた。

 

 

「俺は戦うんだ。他の人が戦えない分、戦い抜く。悲しむ人が1人でも少なくなるように…それが、俺の『正義』だ」

「……………」

 

再び訪れる沈黙。それを破ったのは、質問を返す度に黙り続ける男の方だった。

 

「フッ笑わせてくれるな。まぁ、口にするだけなら誰にでもできることだな」

「え…?」

 

思わず呆けてしまう光太郎。散々頭を悩ませて答えた事を。今後、起こり得るだろうと思い、自らに言い聞かせるように考えた上で口にした事を赤い男は鼻で笑いやがった。

 

「真面目に答えたつもりなんだけど、その仕打ちはあんまりじゃ…」

「何度も言わせないで貰おう。言うだけタダということだ青二才め」

「青二才って…確かにそっちの方が年上みたいだけど、それこれとは――」

 

もはや先程の重たい空気はどこへやら。反論する光太郎に含み笑いで応じるアーチャーのやり取りは互いに怒声や暴言は使われていないものの、内容を聞く限り『ああ言えばこう言う』という低レベルの争いへと陥っていた。2人の姿は既に到着していたライダーから見れば訳の分からない状況である。

 

「あ、ライダー!聞いてくれよこの赤い人さっきから…」

 

と、気配を察知した光太郎によって巻き込まれてしまうライダー。小学生が口喧嘩する際に不利になったら身近にいる同級生を味方に引き入れるような声のかけ方をするマスターを見て、急いで駆け付けたがバカらしく思え、その長く美しい髪がアスファルトに接触させてしまいそうになるほど、がっくりと項垂れてしまう。

 

そこから事態が動いたのは10分ほど経過した頃であった。

 

「――貴様は知るまい。この世界はゴルゴムだけでない数知れない『悪』がある」

「何度も言わせないでくれ。例え強くて数が多かろうが俺は…」

「なら、証明して見せろ」

 

その場の空気が変わる。アスファルトを這う蟻を数えていたライダーも思わず振り返るほどの闘志がアーチャーから発せられた。一瞬、怯みながらも光太郎は、赤い弓兵の挑発に笑って頷いた。

 

 

 

場所を河川敷に移し、アーチャーと仮面ライダーに変身した光太郎は10メートルほどの距離を置いて対峙している。

 

 

「…これから私は今を持って撃てる最大の攻撃を貴様に仕掛ける。それを貴様が押し切り、私にかすり傷でも負わせたのなら貴様の戯言も容認してやろう」

「随分な自信で…でも、こっちも負けらんないしな」

 

そう言いながら拳を手のひらに叩き付ける光太郎の姿を見るライダー。昼間の戦いでの傷がまだ再生し切れておらず、未だボロボロの状態だ。本調子でなくても、アーチャーは英霊だ。ランサーの時のように、宝具を使った攻撃を繰り出されたなら…不安に駆られるライダーに、光太郎は優しく肩に手を置いた。

 

「…大丈夫。絶対に負けないからさ」

「…そう言いながら、いつも傷だらけになるのはどこの何方ですか?」

「申し訳ありありません」

 

けどね、と言葉を区切った光太郎は黒い弓を出現させた赤いサーヴァントへ視線を移しながら言った。

 

「今回ばかりはいつも違う。どうしても…一撃を届かせなきゃならないんだ。俺の意地にかけても」

 

ここまでムキになる光太郎も珍しい。だからこそライダーは見守る事に徹することにした。

 

「…わかりました。これを機に他のサーヴァントが襲って来ないとも限りません。周囲の警戒は私に任せて、存分にやって下さい」

「そうさせてもらうよ」

 

ライダーが光太郎から一歩離れたその時、アーチャーは一振りの剣を出現させる。直後、刀身がドリルのように捩じれ、一本の『矢』となった。矢を番えたアーチャーは光太郎を睨む。

 

さぁ、お前が見せる番だと。

 

「…なら、お見せしよう」

 

両腕を開き、ベルト『エナジーリアクター』の上で両拳を重ね、ベルトの中央が赤く発光する。その光は光太郎の右足へと宿っていく。

 

(やはり…)

(そうくるか)

 

ライダーとアーチャーは光太郎がこれから繰り出す技を見抜く。

 

光太郎にとって最大の技、ライダーキック。

 

2人の予想は当たっていた。しかし、光太郎はその予想を上回る手段を持って技を放とうとしていた。

 

「もう一回だッ!!」

 

再び両拳をベルトの上で重ねる光太郎。再度放たれた光は左足へと集中していく。

 

 

「底なしか…アイツはッ!?」

「…コウタロウ」

 

矢尻を持つ手に思わず力が籠るアーチャーに対して、光太郎が起こした無茶にライダーは駆け寄り、今すぐにでも止めたい衝動をなんとか抑えて見守り続ける。

 

先の戦いから回復しない状態でぶっつけ本番の技…なんの負担も、身体にかからないはずがない。だから、ライダーは無事だけを願った。

 

 

 

 

「…いくぞ。英霊」

「こい、英雄!!」

 

 

 

光太郎が跳躍すると同時に、弓兵から矢が放たれる。

 

エネルギーと纏った光太郎の両足と魔力の塊となった矢が衝突。拮抗した両者の燻った力が周囲へ衝撃波を放った。

 

 

「グ…ぅ…」

 

無茶なバイタルチャージをした為に想像以上の負担が光太郎の両足を襲う。さらに前方からは本当に本調子ではないのかと言いたくなる程の魔力が籠った衝撃が廻りながら迫っているのだ。

 

だが

 

「俺は、負け…ない!!」

 

徐々に均衡していた力が崩れ、光太郎が押し始めた。

 

「自分の決めた事を…貫くためにも…みんなの為にも…負けられないんだあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

咆哮と共に光太郎も身体を回転させ、『捻り』ながら突き進む両足は魔力を削り、アーチャーを姿を捉える。

 

 

 

勝った!

 

 

 

その油断が光太郎の勝機を完全に逃してしまった。

 

 

 

アーチャーの放った攻撃を破った事に気を抜いた光太郎は自らの技の威力を落としてしまったのかもしれない。

 

もし、その攻撃の威力をアーチャーに当たるまで弱めなければ確実に捉えていたかもしれない。

 

そんな考えを奪ってしまう鉄壁に、光太郎は弾き飛ばされしまった。

 

 

 

「『熾天覆う七つの円環』…別に、攻撃を防がないという決まりは無かったな」

 

 

なんだそれ…と反論の余地もなく、光太郎の意識は闇へと沈んだ。

 

 

 

 

 

「あ~…また負けた…」

「コウタロウ…しかし、コウタロウも全快で挑んだ訳ではないのですし」

「いや、それを抜きにしても今回ばっかりは負けたくなかった…」

 

意識を取り戻し,落ち込む光太郎と必死にフォローするライダーの元にアーチャーが歩み寄る。

 

「勝った割には随分と酷い有様だな、間桐光太郎」

「え?いや、だって俺は…」

 

アーチャーの張った盾により攻撃は届きもしなかった。なのに自分が勝者であることはおかしいと言いたげな光太郎にアーチャーは自分の手の甲を掲げてみせる。見ると、僅かながら傷を負っていた。

 

「条件は『攻撃を押し切り、私にかすり傷でも負わせたなら』だったな。この傷は貴様と私の攻撃がぶつかった際に起きた衝撃で負ったものだ。さらに私の攻撃を退けたのだから…

残念ながら条件は満たされてしまったな」

 

 

アーチャーの言い分にぽかんと口を開けてしまう光太郎とライダー。

 

「認めるよ間桐光太郎。貴様が抱いた決意…不本意ではあるがね」

「なにか納得いかない終わり方だな…」

 

へなへなとその場で尻餅をつく光太郎を鼻で笑うアーチャーは背中を向けて離れていく。すると突然足を止め、振り向くことなく、背中を向けたまま光太郎へと声をかけた。

 

 

「…最後に聞く。貴様が進もうとする道が、もし途中で間違っていると気付いた時は…」

 

貴様はどうする?

 

アーチャーの質問に、光太郎は間を開けることなく答えた。

 

「それなら気にも止めてないよ。もし俺が間違えようとしたなら、ちゃんと止めてくれる人が回りにいるからな」

 

真っ先に思い浮かべるのは、やはり家族だ。

 

天邪鬼な義弟

 

しっかり者の義妹

 

そして、近い未来で別れがまっているとしても共に戦ってくれる女性…

 

自分が間違った道を歩もうとしたら、力で敵わないと分かっていても絶対に怒って止めてくれる。そういった存在がいるからこそ、光太郎は自分の『正義』を持つことが出来るのだ。

 

 

「君にはいるのか?間違いを犯したら怒ってでも止めてくれる人は…」

「…さぁな」

 

再び歩き始めたアーチャーの姿が段々と消えていく。霊体化した弓兵は最後に、やはり不適に笑いながらこう告げた。

 

 

『次は全力を持って相手をする。その時までに強くなっているのだな。仮面ライダー』

 

 

 

 

 

「さて、帰るか…」

「大丈夫ですか?こんな時間ですし、タクシーでも…」

 

歩道に戻った光太郎とライダー。またもや傷だらけとなったマスターを気遣い、視線に入ったタクシーを停めようと手を上げかけるが、その手は光太郎によって掴まれてしまった。

 

「コウタロウ…?」

「歩いて帰らないか…ゆっくり、話をしながら」

「…はい。私も聞きたいことがありますから」

 

笑顔で返事をするライダーであった。

 

「あ…」

「どうかしました?」

「いや、結局、聞きそびれちゃったからさ。まぁ、そのうちでいいか」

「?」

 

アーチャーが衛宮士郎を憎む理由。今回の一件はそこに帰結するはずなのだ。しかし、おかげでさらに決意を固めることが出来た。自分が負けられない戦いをしているということを。

 

 

 

 




ちょいとアーチャーさんをチョロくしてしまったかもしれない…

今回光太郎が放った技はもちろん例の太陽の子の人と、電車ライダー劇場版終盤にあった部分を参考としました。

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第33話『復活の予感』

投稿できないと抜かしながら時間見つけてなんとか作成できてしまいました。

…今後はおいそれと出来ないなど書かないように気を付けます。

さて、お待ちかね。あの方が準備運動を始めました33話です!


間桐光太郎がアーチャーとの戦いを繰り広げていた一方、ゴルゴムの秘密基地では3神官が憂いな表情を浮かべ、人間1人が入れるほどの緑色をしたカプセルを囲んでいた。

そのカプセルから浮かび上がる輪郭は細部が異なるものの、仮面ライダーとなる前に光太郎が姿を変えていたバッタ怪人と酷似している。

 

「…度重なる失敗に、もはや創世王様のお怒りは抑えられん」

「その怒りを鎮めるためにも、我々は命を投げ出さねばならんのか…」

「それも…創世王様の決定です」

 

三神官はそれぞれが胸にかけている結晶へと手を伸ばす。

 

ダロムが持つ『天の石』

 

バラオムが持つ『海の石』

 

ビシュムが持つ『地の石』

 

ゴルゴムの幹部である証であると同時に、命の源である石を3人は戸惑いながらも掴み、カプセルへと向ける。すると3つの石は輝きを放ち、カプセルの上空に現れた機械へ吸い込まれるように組み込まれた。すると機械から発生したエネルギーがカプセルへと放射され始め、カプセル内に浮かぶバッタ怪人に似た者の目が怪しく光を放った。

 

「う…おぉぉぉぉ」

「あぁ…」

 

石を失い、苦しみだした3神官はその場で倒れてしまう。ダロムは石碑に背を預け、懇願するようにエネルギーを受け続けるカプセルを見つめていた。

 

「目覚めよ…もう一人の『世紀王』よ…」

 

その様子を物陰から伺っていた剣聖ビルゲニアは拳をワナワナと震わせていた。

 

「なぜだ…なぜ今更になって奴を目覚めさせようとする。このサタンサーベルを手にしている俺がいるというのに…なぜだ!!」

 

創世王の証であるサタンサーベルを預けられ、仮面ライダーのキングストーンを奪えば世紀王、そしていずれは創生王となり、世界を手にするはずなのに…もはや、『月』のキングストーンを宿す器でしかなかった奴を覚醒させなければならないのか…

もし、このままもう一人の世紀王が目覚めれば厄介な事になる。そう考えたビルゲニアは足早に離れていった。

 

(もはや一刻の猶予もない。あの小娘から聖剣を奪い、仮面ライダーを倒さねば…)

 

 

 

数日後

 

 

 

「…本気ですかコウタロウ」

「ああ、俺の過去を見ていたなら、俺が何のために聖杯戦争へ参加したかも分かっているだろう?」

「はい。ですが…」

「これは、聖杯戦争が始まる前から慎二君と話していたことでもある」

「………」

 

間桐家のリビングで向かい合い、光太郎の淹れたコーヒーを飲みながら今後の方針を話し合う2人。だが、光太郎の持ち出した内容に、どこか不安を抱くライダーは両手で持ったカップを見つめている。冷めかけた黒いコーヒーに映る自分の顔が、いかにも対面している相手を心配させてしまう表情を作ってしまっている。

案の定、その相手である光太郎は無理に明るい顔を作ってライダーへ声をかけた。

 

「元々慎二君からも否定的な意見しか言われてなかったし、俺も絶対に上手くいくとは考えてない。けど、可能性があるなら、諦めたくないんだ」

「コウタロウ…」

 

アーチャーとの激闘を終えた帰り道。光太郎とライダーはお互いの過去を夢で見たことを打ち明けた。

 

 

お姉さんに甘えるライダー、可愛かったね。や、

 

コウタロウは随分とモテたのですね…など

 

 

 

お互いの過去に負った傷に触らぬよう気を使った結果、それぞれ別の意味で触れられたくなかった部分を抉り合いながら2人は聖杯戦争の最大の目標である聖杯についての話となり、現在に至っている。

 

聖杯に託す願いを元より持っていなかったライダーは光太郎が成そうとする事には賛成していた。本心を言えば、聖杯を光太郎の望むものに利用してもらいたかったが、あの時臓硯の言った通りならば、光太郎は決して聖杯を使おうとしない。いや、例えそうでなくてもここにいる間桐光太郎という男は自身の願いがあったとしても自分で叶えようとする性分だ。

 

ならば、マスターである光太郎を全力でサポートをするのがサーヴァントである自分の役割だと意気込んでいたのだが、先の方針を聞いてマスターの正気を疑ってしまった。

戦いの時もそうだが、何故こうも無茶な方へと足を進めてしまうのか。心配するこちらの身にもなってもらいたいと溜息をついて、ライダーはコーヒーを啜った。

 

「ライダー…?」

「いえ、なんでもありませんよ。コーヒー、相変わらず見事な味ですね」

「あ、ああ。どうもそれくらいしか上手くいかなくってさ」

「また、ご馳走して頂けますか?」

「こんなものでよければ、いつでもね」

 

先程の重い空気から一変して笑い合う光太郎とライダー。どうにも後ろ向きになってしまう状況だが、この人とならば大丈夫。何の根拠もなしにそう思えてしまう自分も問題だなと思いつつも、無条件に光太郎を信頼できる自分も悪くないなと、コーヒーの話を続けるマスターの顔を見つめる。そう考えていたことに没頭していたためか、ライダーは自分達以外に室内へ現れた存在に気付けなかった。

 

「…そろそろいい?」

「あ、慎二君に桜ちゃん、お帰りなさい!」

「……っ!?」

 

思わず立ち上がったライダーの目には自分へ冷ややかな視線を送る慎二と口元を押さえながらニッコリと笑顔を向ける桜の姿があった。

 

「シンジ、サクラ…い、何時からそこに…」

「…光太郎のコーヒーを褒めてる辺りから。よく飽きないね、何分もそんなにやけ顔を見続けて」

 

恐る恐る尋ねるライダーへ、慎二はだるそうにショルダーバックをソファーに降ろしながら答えた。

 

「仕方ないですよねライダーさん!『夢中』だったんですものね?」

 

背後からライダーの両肩に手を置いて彼女の顔を覗き込む桜はフォローをしているつもりであろうが、逆にライダーが両手で顔を覆い隠す状況と追い詰めてしまった。

 

「…もしここにいたのが僕達じゃなくて敵だったらどうするって話なんだけど。まぁいいや」

 

ライダーからグサリとなにかが突き刺さる音が聞こえた気がするが、慎二は気にせず光太郎へと顔を向ける。

 

「やっぱりあそこには『人』として潜り込んでるみたいだね。遠回しに聞き出すのに苦労したよ」

「じゃあ…」

「ま、続けて話を聞きに行くよ。ったく、せっかくの休校中なのにお勤めとは生真面目な奴だよホント」

 

頷いた光太郎は桜へと視線を変える。

 

「…姉さんは特に変わった様子はありません。なにか、先輩への魔術指導に問題が発生したようでしたが…先輩はセイバーさんとの鍛錬に一層力をいれてるみたいです。一度様子を見たんですけど…ひどく焦ってるようにも見えました」

 

落ち込むライダーの頭を撫でながらも、衛宮家の状況を報告する桜。彼の焦りというのは、アーチャーの言っていた『悪影響』が原因なのだろうか…そして最後に告げた内容に、光太郎の目が細まる。

 

「先輩のお宅を出る際に私を外まで送り出してくれたのはセイバーさんでした。少し歩いて後を向いたら、セイバーさんがいつの間にか手紙みたいなものを見て凄く、難しい顔をしてました」

「………」

 

顎に指を当てて考える光太郎に、同じ予感を抱いていた慎二が口を開く。

 

「…ビルゲニアか?」

「あぁ。以前あいつは、明らかにセイバーを…彼女の持つ武器を狙っていた。その手紙もセイバーを誘い出すか、奪いに行くといった内容に違いない。けど…」

 

学校での戦いで撤退知る際にセイバーに向かい、必ず彼女が持つ剣を奪って見せると宣言したビルゲニア。

 

自分の目的のためならば手段を選ばないビルゲニアがそのような単純な手段に出ることが思えない。それとも、手段を選んでいられないのだろうか…

 

「しかし、それが単なる果たし状の類であるならば、なぜセイバーは悩んでいたのでしょう」

 

復活したライダーの意見も気になる事であった。彼女を揺さぶりをかける程の手段をビルゲニアは持ち合わせているのか…?

 

「…ともかく、今夜は俺とライダーは衛宮君の家付近を回ろう」

「わかりました」

「慎二君と桜ちゃんは家で待機してくれ。それと慎二君。念の為、俺たちが出発してある程度時間がたったら衛宮君に連絡を取ってくれないか?様子を知りたい」

「夜中に野郎へ電話するなんて、色気のないことだね」

「そう言わないで。桜ちゃんも衛宮君とお話したいところだろうけど――ッ!?」

 

憧れの先輩との夜に電話という機会を逃し、シュンとする桜をなだめようとした光太郎を突然頭痛が襲い、額を押さえて膝を付いてしまった。

 

「コウタロウッ!?」

「兄さん!大丈夫ですか!?」

「おいおいどうしたんだよいきなり!」

 

駆け寄った全員に体を支えられてなんとか立ち上がる光太郎。見れば額から大粒の汗が流れている。

 

「おい、本当に大丈夫なのかよ?」

「…はは。ちょっと昨日遅くまで起きてたからね…夜まで少し休むから慎二君、悪いけど…」

「部屋まで送りゃいいんだろ?ったく、驚かしやがって…」

 

悪態を付きながらも義兄に肩を貸した慎二はゆっくりと光太郎を部屋へと送っていった。

 

その後姿を心配そうに見つめるライダーを励ますように、桜は笑顔で大丈夫と声を張った。

 

「最近夜更かしすることが多かったからそれが祟ったんですよきっと。あれだけ早く寝るように言ってるのに兄さんったら…」

 

義兄の生活態度のダメ出しをする桜。だが。彼女は力いっぱいに、自分のスカートを握りしめている。

笑顔の裏でここまで兄を心配している。きっと自分の不安がライダーにまで伝わらないようにと気を張っているのだろう。そのような気丈に振る舞う桜をライダーはそっと抱きしめる。

 

「ライダーさん…?」

「本当に…いけない人ですね。こんなに優しい妹を心配させてしまうのですから」

「ほんとうに、そうですよ…何で、いつも弱音を言ってくれないんですか…」

(コウタロウ…貴方の身に、なにが…?)

 

これまで戦いで大きな怪我を負っても慎二と桜の前では笑って済ませていた光太郎。昨晩のアーチャーとの戦いが影響したとしてもあれ程弱った姿を見せるなど初めてだった。ライダーは蓄積したダメージとは別の原因が、彼に現れたのではないかと嫌な予感を抱いた…

 

 

自室のベットで横になった光太郎は、先程発生した頭痛と同時に、自分の頭に送られたメッセージを掠れるような声で口にした。

 

 

誰に送られたかも分からない。しかし、その名は光太郎に取って決して忘れられない名前となるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「世紀王…シャドームーン…」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

回復し、目を覚ました光太郎は予定通りに衛宮家周辺へと向かった。

 

 

しかし、事態は既に動いており、新都の高層ビル屋上では、セイバーとビルゲニアが対峙していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




楽しみにしていた方々、お待たせいたしました。

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第34話『月下の王』

ついに現れた極アームズ。やはり最強フォームになり続ける事での弊害が・・・?

気になって仕方がないですね。

場面の切り替わりが多目の34話でございます


日は沈み、外灯が街を照らし始める頃、セイバーはただ1人で、新都のオフィスビルを目指していた。

 

数時間前、家を訪ねていた間桐桜を送り出し、門を潜ろうとした直後、セイバーに向かってナイフが投擲された。後頭部に当たる直前、振り返ると同時に指二本でナイフを受け止め、飛んできた方へと目を向けるが、気配はすでにない。

 

「これは…?」

 

ナイフの柄に紙が結んである事に気づいたセイバーは周囲を警戒しながら紙を解いていく。その紙はビルゲニアが記したセイバー宛の果たし状であった。

 

内容は、セイバーが応じなかった場合に起こす行動と、彼女が動かざる得ない情報が記されていた。

 

「………」

 

せめてマスターである衛宮士郎に伝えるべきかと悩むセイバーであったが、彼は友人の兄であり、ライダーのマスターである間桐光太郎との共同戦以来一層セイバーとの鍛錬に励むようになっていた。セイバーにとっては喜ばしいことではあるのだが、彼の繰り出す攻撃には『焦り』しかなかった。

 

より強くなり、自分の夢へと近づきたい。セイバーとしてもマスターの抱いている理想は共感できるものだ。だが、聖杯戦争という魔術師同士の殺し合いとゴルゴムと戦い続ける間桐光太郎という存在が、彼がどこかで望んでいた状況を造り出し、一秒でも早く強くなり夢を実現させようとしているのではないか…

 

士郎は強くなれる。しかし、今日明日で叶うことではない。さらに誰かのためならば簡単に自らの命を投げ出す彼の性分を以前から危惧していたセイバーはマスターへ伝えず、単身ビルゲニアの元へ向かうことを決めたのであった。

 

 

 

ビルゲニアの指定したオフィスビルへと入り、催眠術にかかった警備員の誘導により屋上まで稼働するエレベーターの中でセイバーは改めて送られた果たし状、セイバーから

見れば脅迫状と変わりない内容にもう一度目を通す。

 

「聖杯…か」

 

ボソリと呟いたと同時に、エレベーターは最上階へと到達した。

 

 

 

一方、間桐家では魔道書を読み耽っていた慎二はふと時計を眺める。

 

「そろそろ衛宮の家に近くに着いた頃か」

 

体調が回復した義兄と彼のサーヴァントは衛宮家…そこに住まうセイバーのサーヴァントを狙ってゴルゴムが動くと予測して見張りに向かっていた。だが、衛宮家には結界が張り巡らせており外見だけでは光太郎の超人的な視覚、聴覚でも把握できないこともある。そこで慎二が士郎に電話をかけて上手く敷地内の情報を聞き出し、光太郎達へ伝える手筈となっていた。

 

(衛宮の奴、なんで今時携帯の一つも持ってないのかね)

 

通じるのは家にある黒電話のみと聞いた時はギャグとしか捉えていなかったが、遊びに尋ねた際に実物を目にした慎二は後日、メーカー別のカタログを士郎へ投げ渡したが、未だに購入した様子は見られない。

 

(まさか、魔術師は近代の機器を嫌ってる所を真似てるわけじゃないよな…?)

 

そんなことを考えなら携帯電話を操作し、コール音が響くこと数回。目的の人物へどうアプローチを取ろうかという悩みはすぐに打ち消されてしまった。

 

「ようえみ―――」

『その声は慎二か!?すまないが、セイバーがどこに行ったか知らないか!?』

「……………」

 

どうやら手遅れだったと声を聞いて判断した慎二は、電話の向こうで焦る士郎に可能な限り知りえることを聞き出すことにした。

 

その日の夕食、珍しくお替わりどころかおかずを残して自室に戻ったセイバーを不思議に思った士郎は、おかずを更に作り足してセイバーの部屋を尋ねたらしい。

だが、その時にはセイバーの姿は部屋になく、他の部屋にも見当たらない。居候中の遠坂凛に聞いても知らないと言う。

 

「おい、遠坂のサーヴァントは何してたんだよ。常に見張ってるはずじゃなかったのか?」

『そうなんだけど、何日か前から遠坂の家の大掃除をさせてるらしいんだ。なんでも遠坂が寝てる間に魔力を勝手に消費したとか…』

「なんだよそれ…」

 

監視が役に立つここぞという時になぜでそんな指示を出すのか…だが気にする時間も惜しいと慎二は2.3言葉を交わした後に電話を切り、直ぐに義兄へと連絡を取った。

 

 

「そうか…ありがとう慎二君!」

「…どうやら私達は後手に回ってしまったようですね」

 

慎二との通話で事態を察したライダーの言葉に頷く光太郎。もはやここにいても意味をなさない。急ぎビルゲニアのいる場所へ向かったセイバーを探しに行こうとしたその時であった。

 

「…っ!?あれは!!」

 

月に映る2つの人影…いや、腕に羽を持った異形が気を失った人を足に吊るしてこちらを見下ろしている。

 

「…ゴルゴムのコウモリ怪人!!」

 

光太郎がコウモリ怪人の存在に気付いた途端、コウモリ怪人は移動を開始する。捕まっている人間…女性のようだが目を覚ます気配がない。

 

「くっ!こんな時に…ライダー!!君はセイバーの方を頼む!俺はあの人を助けに行く!」

「承知しました!!」

 

指示を受けたライダーはその場から離れ、セイバーの捜索に向かった。光太郎は予め乗ってきたロードセクターに搭乗し、走らせると同時に腹部へベルト『エナジーリアクター』を出現させる。

 

アクセルを回し、段々とロードセクターを加速させながら、光太郎は右腕を左下へ突出し、素早く腰へ添えると入れ替わるように左手を右上へと突き出した。

 

「変っ―――」

 

扇を描くように突き出した左腕を右から左へ旋回し…

 

「―――っ身!!!」

 

咆哮と共に両腕を右上へと突き出した。

 

 

さらに加速するロードセクターのハンドルを強く握る光太郎―――仮面ライダーブラックは頭上を飛ぶコウモリ怪人を追い、疾走していった。

 

 

 

 

 

「よく来たと褒めておこうか、可憐な王よ」

「………」

 

ビルの屋上でビルゲニアと対峙するセイバー。ビルゲニアの軽口など耳に通さず、セイバーは本題に入るべく果たし状に記された内容を確認する。

 

「…ビルゲニアよ。この文に書かれていることを今一度確認したい」

「む?」

「まず一つ。私と一対一の決闘。この場には私と貴様しかいない…違いないな?」

「無論だ。気配が読めない貴様ではあるまい」

 

ビルゲニアの言う通り、ビルの屋上にはビルゲニア以外に怪人が息を潜めている様子は見られない。だからと言って目の前にいる悪党を信用知ずに、警戒しながら確認を続ける。

 

「私が応じなかった場合、シロウとリン…そして帰宅中のサクラに怪人を差し向けるという脅迫。私がここに来た時点で取り下げているな」

「ああ。監視させていた怪人は既に小僧の家から離れている。今は別件に当たらせているがな…」

「…?」

 

ニヤリと笑うビルゲニアの言う『別件』が何を指すのか理解できないセイバーだが、マスター達から脅威が離れたと今は信じるしかない。

 

「最後に…呼び出しに応じたら聖杯についての情報を教えるとあった…これも―」

「クハハハハハ…」

 

セイバーにとって、大望を叶える為には絶対に必要とする聖杯。その情報を開示すると果たし状の最後に書かれていたのだが…

 

「ここに誘い出すために、ついでとして書いただけなのだが、まさか信じられていたとはな!随分と真面目な奴だ!ハハハハハ」

「やはり、か…」

 

高笑いするビルゲニア。セイバーとて敵の戯言としか捉えていなかったが、少しでも聖杯に繋がる情報が知ることが出来るのであればと、期待を抱いてしまった。

 

「だが、このまま何も知らずに剣を失うのも憐れ。少しは教えてやろうではないか」

 

サタンサーベルを出現させ、さらに腰に下げていたもう一振りの剣…修復されたビルセイバーを引き抜く。

 

「この地に現れる聖杯には貴様の願いは叶えられん…絶対にな」

「なっ!?どういうことだッ!?」

「ククク、貴様の剣を素直に差し出せば、教えても構わんがな」

「…どうやら、貴様を倒して聞き出すほか無いようだ」

 

あくまで挑発的な態度を崩さないビルゲニアに対してセイバーは静かに告げ、銀色の甲冑と不可視の剣を顕現させた。敵は聖杯について知っている。その情報を得るためにも、戦うしかない。セイバーは両手で剣を構えた。

 

 

 

 

 

間桐邸では慎二がパソコンと睨みあっていた。画面は冬木の街の地図を展開しており、その上で赤い点滅するアイコン…光太郎の現在地を知らせる点が段々と街から遠のいている。

 

(なんだ…?セイバー達も移動してるってのか…)

 

推測する慎二の横で携帯電話から着信音が響く。画面から目を離さず手を取り、画面を見ると義兄と共に外へ出たライダーからであった。

 

光太郎以外との通信手段として昨日から持たせたものだったが、こんなにも早く使いこなすとは…桜の実姉にも見習ってほしいところだった。何かあった場合には光太郎から連絡を受けるはずになっていたが、ライダーからの連絡となると余程の状況ということなのか…通話ボタンを押すと、前振りなしにライダーが簡潔に話を始めた。

 

『慎二ですか?状況を伝えます』

 

ライダーから伝えられた内容を聞いた慎二は光太郎の移動方向を現す画面で地図を拡大する。もしこれがゴルゴムの作戦のうちであるならば…

 

「ライダー、急いで新都へ行け。そっちにセイバーがいる可能性が高い」

『それでは光太郎が追った怪人とは逆方向では…?」

「それがあっちの狙いだ!反対方向にやっかいな光太郎をおびき寄せる…それが狙いだ」

『わかりました』

 

電話は直ぐに切られた。ある程度範囲を絞れば同じサーヴァント同士の気配を感知して見つけられるはずだ。あとは、愚兄が早く怪人を片付けて新都へ向かってもらう事。そして…

 

「…伝えるだけ、伝えておくか」

 

言った後、どのような行動に移るか手に取るように分かる。しかし、伝えずに妙な行動をとられるよりはマシか…と、慎二は発信履歴の画面にある『衛宮士郎』の名を眺めた。

 

 

 

 

 

 

「…追いついた!」

 

ロードセクターでコウモリ怪人を追っていた光太郎はジャンプすれば届く距離まで迫っていた。ロードセクターを自動操縦に切り替えた後、シートを足場にそこから高く跳躍。コウモリ怪人の後頭部に手刀を叩き込んだ。

 

「ギギィっ!?」

 

奇声を上げて吊るしていた女性を離してしまうが、光太郎は落下しながらも女性を抱え、何とか着地する。

 

「…随分遠くまで来てしまったな」

 

辺りを見渡すと冬木から10㎞以上離れた場所にいるようだった。変身を解除して女性を起こそうとした光太郎だったが、身を裂くような殺気が女性から発せられた。

 

「シャァッ!!」

「くっ…!?」

 

気を失っていたはずの女性が突如光太郎の首めがけて、爪を立てた腕を振るってきたのだ。間一髪、女性を手放し回避した光太郎はゆっくりと立ち上がる女性…否、正体を現した怪人の姿を見た。

 

纏っていた衣服だけでなく、皮膚を裂いて姿を現したのはクロネコ怪人。フシュー…と息を吐きながら鋭い爪を光らせ光太郎に迫る。尽かさず構える光太郎は自分の背後に着地したコウモリ怪人が先程の攻撃を返してやると言わんばかりに羽を震わせている。

 

「…まんまと引っかかったってところか」

 

光太郎が自らの失態をぼやくと同時に、2体の怪人が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアァァァッ!!」

「うっ…くぅっ!!」

 

ビルの屋上ではビルゲニアとセイバーの激戦が続いていた。

 

前回での戦いでセイバーの間合いを把握していたビルゲニアはセイバーに反撃する隙を作らぬように次々と攻撃を繰り出す。サタンサーベルとビルセイバーを交互、または同時に振るうことでセイバーは防戦一方となってしまっている。距離を置いた途端にビルゲニアは剣を交差させ、「サタンクロス」なる破壊光線をセイバーに向けて放ってくる。

 

「ハハハハ…どうした?先程から避けてばかりだぞ!その剣は飾りなのか?そうであるならば尚更俺が持つべきであろうな」

「………はぁッ!!」

 

地を蹴って間合いに入ったと同時に不可視の剣を横薙ぎ振るうがサタンサーベルのみで受け止められ、残るビルセイバーがセイバーの喉目掛け、突きを繰り出してくる。無理矢理首を曲げることで回避するが、ビルゲニアは間髪いれず、セイバーの胴体に蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐっ…!!」

 

吹き飛びながらも着地したセイバーは立ち上がろうとしたが剣を杖にして倒れずにいることが精一杯であった。

 

「…どうやら貴様は魔力の補給がままならない…いや、供給すらされていないようだな。このまま消滅を待つのもいいが剣まで消えてしまったら本末転倒。そろそろ貴様から――」

「何故だ?」

「む?」

「なぜ、これほどの力を持ちながら更に力を求める?いや、お前は…」

 

 

 

「何に怯えている?」

 

 

 

セイバーの言葉にビルゲニアの表情が固まった。顔には余裕が見られても先程からの攻撃は早期に決着を付けようと一撃一つ一つに無駄な力が籠っている事をセイバーは感じていた。まるで、鍛錬中のマスターのように、攻撃に焦りが見えた。

 

「俺が、怯えているだと?何故そんなことが言える!?」

「…貴様は、私の剣を奪う為にここまで呼び寄せた。だが、シロウの学校での事を見る限り、貴様は策略を練って挑むのが本来の戦法のはずだ。それがまるで何かに迫られているように事を急ぎ、私と戦っている…私の剣を奪取し、力を持たなければ貴様の中で何かが崩れる…だから」

「黙れぃッ!!」

 

怒号と共にサタンサーベルから飛来した雷撃を不可視の剣で弾くセイバー。やはり、図星を突かれ動揺しているようだ。

 

「黙れ…俺に怯えるものなどない…ありはしない!俺は創世王となり、この世界を手に入れる存在なのだぁ!!」

 

セイバーに駆け寄り、2つの剣で同時に振り下ろすビルゲニア。しかし、サタンサーベルは不可視の剣に止められ、ビルセイバーはセイバーの手によって刀身を握られてしまった。

 

「なんだと…!?」

「それほど動揺するとは…貴様が恐れている相手は余程の存在なのだな」

 

青い瞳に映るビルゲニアは自分自身の姿を見る。そこにいるのは自分自身とは思えぬ程に焦燥しきった顔であった。その背後に、自分を脅かす存在が迫るという幻想が見えてしまうほどに。

 

 

「貴様に…貴様に何が分かる!?」

 

後方に飛んで距離を置いたビルゲニアは叫んだ。

 

「ただ剣を引き抜いた…それだけで王となった貴様に俺の怒りが分かるか!!時期がずれて生まれた…それだけで創世王どころか世紀王にすらなれなかったこの屈辱が!!」

「………………」

「俺は、俺は必ず創世王となるのだ!そして、俺を見下した連中を全て屈服させ、俺という存在を認めさせるのだ…」

「無理だ、ビルゲニアよ」

 

再びセイバーの言葉に興奮していたビルゲニアの動きは止まる。月が雲で覆われているためか、セイバーの表情は良く見えない。

 

「貴様が私から剣を奪い、力を得ようが、王になろうが…貴様の望みが叶うことは…ない」

「何だ…何を言っている!!」

 

先程の聖杯についての問答をこの場で返しているつもりなのか?しかし、セイバーの声にはこちらを貶めるような意図は見えず、まるで自分を窘めるように。言い聞かせるように。そして悲しそうに口を開いた。

 

「例え絶大な力を持とうが、自分以外を否定し続け、誰も受け入れなければ…王に待っているのは…」

 

 

 

 

 

「孤独…だけだ…」

 

 

 

雲が晴れ、ビルゲニアの目に映ったセイバーの顔は、自分への、憐みしかなかった。

 

「だ、黙れ…黙れ黙れ黙れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

剣を頭上で交差させるビルゲニア。再び破壊光線を放つかと構えるセイバーだったが、これまでと様子が違うことに目を細める。見れば交差したサタンサーベルとビルセイバーの刀身の間に小さなエネルギーの球体が生成されている。球体は段々と巨大になり、バスケットボールほどの大きさまで膨らんでいた。

 

「これは…一体」

「ハハハハ!仮面ライダーを倒す為に生み出した最後の手段を貴様にぶつけてやろうというのだ…ありがたく思え!!!」

 

球体の肥大化は留まることをせず、今やビルゲニア本人よりも巨大になっている。そして余程の圧力が周囲を覆ているのか。ビルゲニアが纏っている甲冑にも所々にヒビが走り、足場などいつ崩れ落ちてもおかしくはない。

 

「バカな…それほどの力を放てば…自分すらも…」

「もはや貴様が持つ剣などいらん!この場で、街ごと消滅させてくれるわぁ!!」

「くっ…このままでは…」

 

あれ程のエネルギー量。ビルゲニアの言う通り、ここで放てば自分やビルは勿論、周囲など跡形もなく吹き飛んでしまう。こうなれば上空に飛んで、せめて街への被害だけは避けようと

したセイバーであったが…

 

「セイバー!!大丈夫か!?」

「シロウ!?なぜここに!?」

 

突然の乱入者…衛宮士郎が屋上の扉を開いて現れた事にセイバーは油断してしまった。これを好機にとビルゲニアはセイバーと士郎に向けて巨大な球体を放った。

 

「くらえ!!ダーク・インフェルノオォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーァ!キィック!!」

 

 

エネルギーを纏った右足を叩き付けられたクロネコ怪人は断末魔と共に燃え上がった。

 

「さぁ!残るは…!あれ?」

 

クロネコ怪人の消滅を確認した光太郎が振り返ると、コウモリ怪人は撤退した後であった。深追いしている時間はないと判断した光太郎はロードセクターに搭乗しようとしたが…

 

「なんだ…?」

 

赤い輝きを宿すはずのエナジーリアクターの中心が一瞬、『緑色』の光を放ったのだ。これまでにない現象に、胸騒ぎがした光太郎は急ぎ元来た道にロードセクターを疾走させる。

 

(これは…まさか)

 

 

 

しばし時間は遡る。

 

 

(セイバー…無事でいてくれ!!)

 

慎二からセイバーは新都に向かった可能性が高いと聞いた士郎は凛の声に耳を貸さずに家を飛び出していった。捕まえたタクシーで新都まで移動し、辺りを全力で走りながら自分のサーヴァントの姿を探す士郎は汗を拭いながら妙な気配を感じた。

 

「ここは…?」

 

自分が立つ背後では多くの人間で賑わっている。しかし、目の前の通りから人どころか街灯すら燈っておらず、周りの人間誰一人それを不思議に思っていないのだ。

 

「人避けの…結界か?なら――」

 

何の躊躇もなく結界に踏み込んだ士郎の足に妙な感覚があった。アスファルトで固められている地面が、なぜこんなにも『柔らかい』のか?

 

「これは…砂?」

 

辺り一帯に広がる砂。それも撒かれたものではなく、掘り返されたものだ。一体誰がと見渡す士郎の目に見知った人影があった。

 

「ら、ライダー!!」

「来ないで下さい!!」

 

近付こうとした士郎は一括されその場で立ち止まってしまう。見れば砂だらけのライダーは手に武器を持ち、一歩も動こうとしていない。一体何がと考えた士郎の足元を襲う振動。

直後、地面の砂から2体の怪人が飛び出し、ライダーへ襲いかかったのだ。ライダーは前方に転がって何とか回避するが怪人は再び地中深くへ潜ってしまった。

 

「シロウ…なぜこんな所へ?人避けの結界を張ったはずですが…」

「あれは、ライダーが張ったのか…そうだ!セイバーのこと――」

 

知らないかと聞き出そうとする前に、士郎は振り返る。そのビルの屋上から感じる、大きな力同士の衝突…間違いなく、ここにセイバーがいる。

 

「ライダー。すまないけど」

「言わずとも分かっています。それに、これは元々私の戦いです。気になさらないでください」

「―――すまない!」

 

士郎はライダーに一度頭を下げると、ビルの中へと駆けて行った。それを見送ったライダーは一度溜息を付くと周囲を見渡す。一足先にセイバーを発見したライダーに襲いかかった2体のアリジゴク怪人は自分を口から発射した粘液で地面に落下させた後にアスファルトで張られた地面を一瞬で砂に変えてしまい、攻撃を仕掛けては再び地面に潜る戦法を繰り返していた。

 

一度浮上してくるまで全く気配を見せない怪人達に苦戦するライダーだったが…

 

「準備に時間が掛かってしまいましたね。ですが、おかげでシロウが巻き込まれることはなくなりました」

 

もし発動した後に彼が現れて何かがあった場合、桜に申し訳が立たない。

 

「ですが、これで終わりです―――」

 

 

ライダーが唱えたと同時に彼女を中心に展開された巨大な魔法陣。その影響下の為か、空間一体が『真っ赤』に染まっている。

 

『他者封印・鮮血神殿』

 

魔術師でなければ抵抗すら出来ずに溶かし、術者の養分としてしまう彼女の宝具の一つだ。ライダーはアリジゴク怪人の攻撃を回避しながらこの大結界を展開するための準備をしていたのだ。

 

「…私には光太郎から送られる魔力がある。貴方達などの食す必要などありません。ですが…」

 

足元で何かがもがき、苦しんでいるように砂が振動している。

 

「骨も残さず、消えてもらいます」

 

 

 

 

 

最上階に到着した士郎は急ぎ、屋上の扉を開く。そこには探していた自分のパートナーの姿があった。しかし、セイバーが対峙していた相手から放たれた力の塊の圧力に吹き飛ばされそうになってしまう。そんな自分の様子を見て何かを決意したのか。セイバーはビルゲニアが放った攻撃の前に立ち、剣を握る手に力を籠めた。

 

 

 

 

風が起きた。

 

 

 

それもセイバーが構える剣を中心に強い風が巻き起こり、不可視だった剣が輪郭を現していく。

 

 

 

 

やがて完全にその姿を現した黄金の剣を振りかぶったセイバーはその名を告げる。

 

 

 

「約束された――――」

 

 

ビルゲニアのダーク・インフェルノの力を押し返すほどの光を、その剣は放った。

 

 

「―――勝利の剣!!!」

 

 

 

 

「ば、バカなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

光はダーク・インフェルノだけではなく、放ったビルゲニアをも飲み込んでいった。

 

 

 

 

目を開けた士郎が見たのは静寂に包まれたビルの屋上。そして魔力を使い果たし、ゆっくりと地面へ沈むセイバーだった。

 

「せ、セイバアァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

セイバーの宝具を真正面から受け、ボロボロとなったビルゲニアは裏路地を片足を引きずりながら進んでいた。

 

「俺は…俺は…あんな小娘に負けた…創世王となる俺が…」

 

セイバーに敗れた事が余程の衝撃だったのであろう。ブツブツと呟くビルゲニアの目には生気が宿っていなかった。手にしていたビルセイバーは再び真っ二つに折れしまっている。

そして歩き続ける度に、唯一傷一ついていないサタンサーベルを握る手の力が弱まり、ついにサタンサーベルを手放してしまった。

 

ビルゲニアの手を離れたサタンサーベルが地面に落下する直前にピタリと止まり、一人でに浮遊するとビルゲニアの後方に立つ者の手に握られた。

 

 

 

「創世王の気まぐれとはいえ、授かっていたゴルゴムの聖剣を地に落とそうとするとは…」

 

手をゆっくりとビルゲニアに向けると、緑色をしたエネルギーが指から生成されていく。

 

「万死に値する」

 

エネルギーをビルゲニアにぶつけようとしたが、手を下ろしたと同時にそれは消失した。

 

 

「…まるで魂の抜け殻、だな。あの様な者、殺すにも値しないか」

「なるほど。貴様が片割れということか」

 

突如耳に届いた声に、ゆっくりと振り返る。

 

月で照らされたその姿は変身した光太郎と似ていた。

 

だが、生物的な外見をする光太郎と反し、全身をメカニックなボディで包み、両肘と両足には禍々しい黒い棘を宿している。そして光太郎と同じエナジーリアクターに『月』のキングストーンを持つ彼こそがもう一人の世紀王であった。

 

 

「…貴様は、情報にあった前回の聖杯戦争から生き残ったサーヴァントか」

「口の聞き方に気を付けよ『器』。今貴様が目の前にしているのは同じ地を踏んでやっているとはいえ、この世の王なのだからな」

「ほう…いずれ世界を征服する王である私の前でそう名乗るとはな…」

「…二度とは言わんぞ?」

 

世紀王と対立する金髪の青年は笑いながら自分の背後に幾つもの武器を出現させる。対して世紀王は動じる事なく手にしたサタンサーベルの切っ先をゆっくりと青年へと向ける。

 

暫く張りつめた空気が漂っていたが、それを崩したのは青年だった。武器を収納すると振り返り、その場を離れて行った。

 

「まぁいい。貴様と一戦交えるのまた一興と思ったが、ここで消しても面白くない。それに、貴様の相手はまだ成長の過程にある」

「…逃げるのか?」

「我が見逃してやるのだ、勘違いするなよ?今日は再び『星』を見れたことに免じて見逃してやる。自らの宿命に感謝するのだな。あのように面白い輩と鎬を削るなど、どの時代にもそうはあるまい」

 

そう言って金髪の青年の姿は消えて行った。

 

「宿命…か。ブラックサン、貴様の命は、必ず私がもらうぞ」

 

ガチャン、ガチャンと足音を立てながら月の世紀王―――シャドームーンはその場から離れて行った……

 

 

 

 

 

 

数時間後、山に迷い込み、倒れたビルゲニアを見つめる影があった。

 

「フフフフフフ…良い駒を見つけたわ」

 

 




倉持さん、新技決まらずに敗退いたしました。彼の運命や如何に

次回は半分くらいの長さになるかな~

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第35話『思い出の場所』

UA4万突破しました!お気に入りももう少しで300まで届きそうです!みなさん、本当にありがとうございます!!

余談ですが最近、「ウルトラゼロファイト」を視聴。なんでしょう、このウルトラマンらしからぬ少年漫画もビックリな王道展開と守るために戦い、仲間との絆を重ねていくとてもウルトラマンらしさ兼ね合わせた作品は…

どこかをリスペクトしたいと思いつつも自分流で頑張っていきます35話です。


「だいぶ遅くなっちゃったな…」

 

時刻は午後6時を過ぎようとしている頃。買い物に出かけていた間桐光太郎は腕時計を見ながら急ぎ帰宅しいていた。

 

(鍋か…ライダーは初めて食べるみたいだし、喜ぶといいな)

 

買い物袋の中身を確認して本日の夕食に自分のパートナーがどのような反応を示すか密かに楽しみにしながら、光太郎は間桐家の門を潜る。

 

「あれ?」

 

玄関に明かりが燈っていない。今日は慎二も桜もとっくに帰宅しており、光太郎が買い出しをしている間に食事の準備に取り掛かっているはずだ。不思議に思いながらもドアを開けた途端に光太郎の鼻腔を突く異臭が届いた。

 

 

「………まさか」

 

 

この臭いを光太郎は知っていた。幼い頃に、自分を育ててくれた養父が目の前で死んだ時に、浴びたものと全く同じだった。

 

食材の入ったビニール袋を投げ捨て、光太郎は臭いを辿りリビングへと駆けていく。

 

その先には、いつものと変わらず自分の家族が待ってくれている場所だ。

 

何も起きてはいない。

 

起きていてはいけない。

 

そこに入れば、いつも通りに家族が迎えてくれる――――

 

 

 

 

 

必死に自分が抱いた可能性を否定した光太郎が目にしたのは、血の池に横たわっている義弟と義妹の姿だった。

 

 

 

 

 

月の光のみが照らすリビングを光太郎はよろよろ歩く。近付けば近付くほど、もう動くことのない兄妹の姿がはっきりと見えてくる。

 

仰向けに倒れている慎二は何の抵抗も出来ず、一撃で胸を貫かれていた。

 

隣にいる桜は背中を斜めに大きく切り裂かれていた。

 

 

もはや足に力が入らない光太郎はドサっと音を立てて膝を付いてしまう。

 

「う…そだ。どうして、どうして…」

 

震えながら倒れている慎二の頬に触れるが、手のひらに伝わるのはとっくに死後硬直を迎えた冷たさだけだった。

 

「…っ!?ライダー…ライダーはっ!?」

 

この場にはいなかった自分のパートナーを名を呼びながら周囲を探すが、気配はない。その変わりにとてつもない殺気を内包した存在が光太郎の背後に現れた。ゆっくりと振り返る光太郎の目に映ったのは、自分とよく似た姿をしていた。しかし、そんなことは光太郎に取っては2の次であった。

 

 

 

ソイツの手が、命がこと切れたライダーを首を掴みあげていた。

 

 

力なくだらりと手を下げ、小さい口から一筋の血を垂らしているライダーをゴミを捨てるように放り投げたソイツは金属が重なり合うような足音を立てながら光太郎の前へと移動していく。

 

 

「…ブラックサン。次は貴様がこうなるのだ」

 

「……ウワァァアァァァァァァァアァァァァ!!!」

 

声を上げてソイツに飛びかかり、押し倒した光太郎は馬乗りになるとライダーにそうしたように、ソイツの首を絞めつける。

 

「何故だ、何故こんなことをするんだっ!?」

 

涙を流しながら手に力を込める光太郎に、ソイツは冷たく答えた。

 

「なぜだと?」

 

 

 

 

 

「だって、ずるいじゃないか。俺の家族はみんな死んだのに、光太郎は新しい家族と生きている」

「っ!?」

 

 

 

銀色の仮面と装甲に覆われていたソイツの姿は、いつの間にか幼い頃に離ればなれとなった秋月信彦の姿となっていた。

 

信彦の姿を見た途端に手を離して飛び引く光太郎。気が付けば自分も改造人間となる前の少年に戻っているではないか。全く状況が理解できない光太郎を立ち上がった信彦が見下ろしながら口を開いた。

 

「…だから、死んでくれよ光太郎。みんなも待っているから」

 

その手にサタンサーベルを握る信彦の視線は光太郎の左右へと向けられた。恐る恐るその視線を追う光太郎は、頭を抱えて悲鳴を上げてしまう。

 

 

なぜなら、そこにいたのは秋月家にいた頃の家族が血だらけで、身体のあちこちが欠けている姿で転がっていたのだから。

 

 

「あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ………」

 

「苦しんだまま逝くがいい。ブラックサン」

 

再び目にしてしまった光景に、嗚咽する光太郎に向けて、再び銀色の姿となったソイツは光太郎に向けてサタンサーベルを真っ直ぐ振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ここは?」

 

光太郎がいる場所は間桐家にある自室のベットだった。直前まで眠っていたと考えると、先ほどまで光太郎が体感したことは…

 

「夢…か」

 

安心しきってベットに倒れた光太郎は目を抑えて先程までの夢に現れた存在を思い出す。もう、間違いなく『相手』が現れてしまった。その事実が光太郎の胸を締め付ける。

 

「…もう、戻れないんだ」

 

言い聞かせるようにポツリと呟いた光太郎は再び眠りに落ちて行った。

 

 

 

翌日

 

 

光太郎はリビングのソファーに腰かけている桜を見た。両手で紅茶の入ったカップを持っているが、肩を落としたまま一向に口に付けていないようだ。

 

桜は実姉である凛から昨日に起きた事を聞いた。

 

ビルゲニアを退けたセイバーは自らの宝具を使用した際に膨大な魔力を消費し、現界すら危うい状態となっている。持って、あと数日であると…

 

桜にとってはセイバーは複雑な相手である。聖杯戦争に参加する義兄の敵対するマスターのサーヴァントであり、自分の思い人の一番近くにいる女性。それでも嫌いになれず、寧ろ好感の持てる友人に近い存在だ。

 

このままだとセイバーは消える。

 

事実だけを伝えた姉に何か方法はないのかと尋ねても、凛はただ目を逸らすしかなかった。

 

自分でも言っていることはおかしいとは桜は理解している。義兄の競争相手が戦く必要もなくリタイアになり、衛宮士郎も傷つく必要がなくなる。なのに、どうしてここまで胸が苦しくなり、一番最初に考えた事がセイバーの存在させる手段だったのだろう…

 

「このお人好しが」

「きゃうっ!?」

 

ペチンと桜の頭を叩いた慎二は桜の対面に座る。紅茶を零しそうになった桜は暴挙に出た義兄を涙目で睨むがあまり効果は見られないようだ。

 

「お前が落ち込んでセイバーに魔力が戻るんなら好きなだけ落ち込めよ。本当にそう出来るならな」

「…どうしてそんな意地悪なこと言うんですか?」

「僕は事実を言ってるだけだ。それに…どうにかするのはお前じゃなくて衛宮だろ?」

「え…?」

 

テレビのチャンネルを変えながら知人の名を口にした慎二はキョトンとする桜に、慎二はテレビから目を離さずに続けた。

 

「サーヴァントが消えそうって時にどうするかはマスター次第だろ。そこであの超が付くほどのお人好しのバカは、何もしないで消えるのを眺めてると思ってるのか?」

「そんな事はありません!先輩は…きっとどうにかするために行動してくれるはずです!!」

 

立ち上がり、大声で義兄の質問に答える桜。優しいあの人は悩んでいる。けど、決して諦めずにどうにかするために動くはずだ。力説する桜を一瞥した慎二は軽く溜息を付くと再びチャンネルを変える。

 

「なら、それに期待してるんだね。お前に出来るのは、そこまでだよ」

「兄さん…?」

「…お前に取っては、そういう事が出来る相手なんだろ?衛宮は」

「勿論ですよ…先輩なんですから」

「あっそ…僕にも紅茶入れてくれ」

「…はい!」

 

ようやく笑った桜はキッチンへと向かって行った。入れ替わるようにリビングに入った光太郎は不器用にも程がある義兄の励ましに賛美を送る。

 

「流石だね。俺にはああいうのは出来ないなぁ」

「…衛宮の名前使っただけだ。単純だよほんと…」

 

顔を向けずにうんざりと答える義弟の答えにクスリと笑った光太郎は洋服掛けにあるジャンパーを手に取り、玄関へと向かおうとした。

 

「出かけるのか?」

「ちょっと用事があってね。そうだ!今日は外食にしようよ。俺のおごりで!!」

「…100円寿司意外なら考えてやるよ」

 

ハードルを上げた義弟のリクエストに了解しつつも、光太郎はリビングを後にした。その姿を見送った慎二はニュース番組の見出しを口にした。

 

「連続ガス漏れ事件…か」

 

 

 

 

 

ガレージでバトルホッパーとロードセクターにそれぞれ挨拶を終えた光太郎は日中の移動手段と使っているバイクに搭乗する。すると、バイク後部に誰かが乗ったのような揺れを感じた。

振り向くと、ヘルメットを被った自分のサーヴァントがバイクの後部に座っていた。

 

「ライダー?どうして…」

 

ヘルメットのバイザーを上げて尋ねる光太郎に、ライダーは静かに答える。

 

「…今の貴方を1人に出来ない。と、いう理由では駄目ですか?」

「…ライダーも、見たのか」

「はい…ですから、これから光太郎が向かう場所の見当もついています」

「…わかった」

 

どうやら光太郎が見た悪夢をライダーと共有してしまったらしい。光太郎はこれ以上たずねることなく、ライダーが自分の腰に手を回した事を確認してバイクを発進させた。

 

 

 

 

高速道路を利用してバイクを走らせること数時間。

 

光太郎とライダーが到着したのは、とある山の麓だった。バイクを付近の設備に駐車し、山をロープウェイである程度の高さまで移動すると整備された山道から外れ、茂みの中へと進んで行く。

その道は不思議と何の障害もなく人が通れるようになっており、初めて歩くライダーも途中で道に躓くこともなかった。

 

「コウタロウ…この奥が」

「ああ…思い出の場所、だよ。そして、父さん達が眠っている」

 

光太郎達が目指しているのは、彼がまだ秋月の姓を名乗っている時に家族で訪れていた山の穴場である丘だ。他の誰にも発見された様子もなく、そこから見る景色は四季折々が楽しめる秋月家しか知らない秘密の場所であったのだ。

 

家族を失った光太郎はその丘に簡素ではあるが死んだ養父の遺体と手首だけとなってしまった養母と義妹を埋葬していた。

 

夢で自分を殺した相手…その墓にはいない親友と避けられない戦いが起きる事を家族に話しておきたかった。感傷に浸っているに過ぎないと自覚しながらも光太郎はここに来てしまった。

それが、より自分を苦しめる事と知りつつも…

 

沈んだ気持ちで道を進む光太郎の手を、ライダーは優しく握った。

 

「ライダー…?」

「私のマスターは、随分とさびしがり屋見たいですから…いけませんか?」

「…ありがとう」

 

ライダーに感謝しつつ、光太郎は手を握り返す。そのまま無言で歩き続ける光太郎とライダーは茂みを抜け、目的地である丘へとたどり着く。

 

景色全体が見渡せる位置に子供の頭ほどある石が3つ並んでいる。そこが秋月家の墓石となっている。

 

 

光太郎から事前に話を聞いていたライダーは、その丘には墓石しかないと思っていた。だから、自分達より先に到着していた者がいたとは想定外にも程があった。

 

 

 

 

家族の墓の前に立つ者の姿を見た光太郎に衝撃が走った。まさに、夢で見たそのままの存在が立っていたのだから。

 

 

 

 

「宿命か…」

 

 

今まで墓へと目を向けていたソイツは光太郎達の気配に気づき、ゆっくりと振り返る。

 

 

「あのサーヴァントの言う事も、馬鹿に出来ないという事か…」

 

 

光太郎の変身する姿に反し、全身を機械のような装甲で纏い、腹部に月のキングストーンを宿すエナジーリアクター。

 

 

「そうだろう…ブラックサンよ」

 

 

 

世紀王シャドームーンが,そこにいた。




前回のあとがきで書いた通りに本当に半分ほどになっております。

豆腐メンタルとなりつつある光太郎に現れてしまった世紀王。さて、対決なるか…

ご意見・ご感想おまちしております!


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第36話『世紀王の衝突』

靖子さんによる戦隊追加メンバーはなんであんなにも個性豊かな人々が出てきてしまうのでしょうかw
特命の森の番人や、侍の寿司屋など…

鎧武のミッチ、救いの道はあるのか…

感想とは全く関係のない前哨戦の36話をどうぞ!


「なにやってんだよ光太郎!」

「あ、信彦…」

 

河原で膝を抱えていた秋月光太郎は背後に立っていた少年の名を呼んだ。少年…秋月信彦は笑いながら光太郎の隣に腰を降ろすと、何の前触れもなく光太郎の背中を手のひらで思い切り叩いた。あまりの痛みに仰け反った光太郎は不意打ちを仕掛けた親友に抗議する。

 

「いってぇッ…いきなりなんだよ!?」

「父さんから聞いた。光太郎が養子だって」

「……」

 

信彦の一言で先程までの怒りは一気に冷め、信彦に発見される前ように俯いてしまう。

 

「…僕、信彦とは双子だと思ってた」

「だよなぁ。生まれた日も時間も場所も一緒なんだし。逆に他人なのが怪しいくらいだ」

「うん…他人、なんだよね」

 

幼い子供が知るには残酷な事実だった。

 

父と思っていた人物のアルバムを眺めていた光太郎は新生児である自分と信彦の写真を発見する。それぞれが別々の夫婦に抱かれており、写真の中では光太郎の姓は『南』と書かれていたを不思議に思った光太郎はさらにページを進めた。二組の夫婦と共に様々な場所での写真が収められていたが、突如一組の夫婦の写真がなくなり、以降は光太郎と信彦、そして両親が妹である杏子の誕生を祝っている写真となっていた。

 

写真を持って総一郎に問い質すが、一向に口を開こうとしなかった。それでも食い下がる光太郎にやがて観念した総一郎は落ち着いて聞きなさいと言葉を添えて、ゆっくりと説明した。

 

光太郎は本当の子供ではなく、親友夫妻の子供であると。

 

話を聞き終えた光太郎は写真を手放すと、総一郎の静止に耳を貸さず、家を飛び出してしまった。

 

 

 

「光太郎は悩むといっつもここにくるよな~。前も家の花瓶をつい壊しちゃって母さんに怒られた時だって…」

「…家族じゃない子供が壊したんだから、怒って当然だったんよ…」

「……」

 

だから、もう迷惑をかけることはできない。家にもいられない。だって、本当の子供ではないんだから。

 

秋月の家にはもう戻らないと決めた光太郎の頭部に激しい痛みが走る。突然の衝撃に頭部を押さえながら顔を上げると、隣にいた信彦が額を押さえてのたうち回っていた。どうやら光太郎の頭部に頭突きを繰り出したらしい。

 

「~っ!さっきっから何がしたいんだよ信彦!!」

「うるさい!俺だって痛いんだからお相子だ!!」

 

赤くなった額をさすり、信彦は再び光太郎の隣に座る。

 

「本当の親とか、家族じゃないとか、そんなの俺は知らない!お前は『秋月光太郎』で、俺と杏子の兄弟だ!!」

「だって…僕が家にいても迷惑を…」

「父さんと母さんが一言でも迷惑だなんて言ったか?それにワザとじゃなくても怒られるのは普通なんだよ。俺なんか父さんの大事にしてたゴルフクラブ使って庭で槍投げしてたら拳骨5回くらったぞ!」

「……………」

 

明らかに不意の事故や悪戯の範疇を超えた行動に光太郎は開いた口が塞がらなかった。そして、兄弟の無茶苦茶な例えに思わず笑い出してしまった。

 

「…何がおかしいんだよ。よーするにだ!!」

 

立ち上がった信彦は自分を見上げる光太郎へ、満面の笑みで告げる。

 

「ちゃんと怒ったってことはさ、何の遠慮もいらない家族じゃんか。光太郎が気にする事なんて、なにも無いんだ」

「僕が…家族でも…いいの?」

 

涙目で尋ねる光太郎に、信彦は頭をワシワシと掻きながら目をそらして答える。

 

「最初からそういってんだろ…帰ろうぜ?」

「…うんっ!」

 

 

空が茜色になる頃、光太郎と信彦は歩きながら自宅へと向かっていた。

 

「光太郎。家につく前に約束しようぜ」

「約束?」

「ああ。もう、あんなふうにいじけるのは無し!そんで悩みがあったら俺に話してくれ。光太郎の問題は、俺達兄弟の問題でもあるからな!」

「何だよそれ…じゃあ、僕からも約束。今日の僕みたいに、信彦が大変な時は僕が必ず助ける。どんな時も!」

「へっ!そんな時は一生こないだろうけど…いいぜ」

 

 

 

 

 

 

 

約束だ、光太郎!

 

 

 

 

 

 

「信彦…」

 

間桐光太郎は目前に現れた自分と同じようにように改造手術を受け、変わり果てた姿となった親友の名を口にする。秋月家の墓を背後に立ち尽くすシャドームーンは一歩、また一歩と光太郎達へ近づいていく。

 

戦闘装束となり、身構えるライダーだが、光太郎は変わらずにただ接近するシャドームーンを見つめるだけだった。

 

やがて光太郎達とシャドームーンの距離が3メールを切った頃、シャドームーンは冷たく、低い声で呼ばれた光太郎はビクリとする。

 

 

「寝言は止めて貰おうかブラックサン」

「…っ!?」

「確かに素体となったのは秋月信彦であることは間違いない。だが、今貴様の前にいる私はゴルゴムの世紀王、シャドームーン」

 

 

光太郎達に向けて、ゆっくりとした動作で掌を向ける。

 

「貴様から太陽のキングストーンを奪い、新たな創世王となる男だ」

 

言うと同時に掌から放たれた緑色の雷撃が光太郎とライダーの周りに放たれた。防御を取る光太郎達の周りを走る攻撃により草木が燃え上がり、一瞬で灰と化してしまった。

攻撃が止まったことを確認し、ゆっくりと目を開ける光太郎の目に映るのは、今度は手をゆっくりと下ろしてこちらの出方をまっているかつての親友の姿。

 

理解している。先の攻撃は先制でも不意打ちでもない。ただ、光太郎に発破をかけただけなのだ。その証拠に、電撃は光太郎は勿論、ライダーに掠りもしていない

 

硝煙の中で光太郎は拳を強く握ると、一歩前へ進んだ。

 

「コウタロウ…」

「少し…早まっただけさ」

 

 

光太郎は振り向かずに、自分の後で心配するライダーに小さい声で答える。さらに一歩進み、腹部にエナジーリアクターを出現させた光太郎は自らを変える言葉と共にもう一歩進んでいく。

 

「―――変身」

 

エナジーリアクターから放たれた赤い閃光が光太郎をバッタ怪人へ、そして黒い戦士へと姿を変える。

 

(……貴方は、戦えるのですか)

 

ライダーは不安を抱いていた。今の光太郎の精神状態は、全力で戦えるものではないからだ。

 

光太郎が多くの人々を守る為に戦いを始め、強くなった事は、彼の過去を見たライダーが一番理解している。自分と同じような悲しみを背負わせないという信念も、決して揺るぎない決意だ。

しかし、だからと言って彼は自分に起きた事を全て乗り越えた訳ではない。

過去では相手が追った傷を見ただけで戦意を喪失していた時期もあったが、今ではちゃんと戦えている。『戦えている』ようになっただけで、全てを克服できた事には決してならない。戦意を喪失する原因となった目の前で養父が殺された事も、巻き込まれた養母と義妹が暗殺された事も、光太郎を助ける為に自らを犠牲にした義兄弟の姿も、彼は絶対に忘れることはできない。

 

その証拠に、学校での事件の時は、ビルゲニアの口から「もう一人の世紀王」の名を聞いた時、動揺した光太郎は決定的な隙を作り、セイバーの救援がなければ死んでいたかもしれなかった。

 

(コウタロウ…)

 

 

光太郎とシャドームーンの距離は既にお互いの攻撃がすぐにでも撃ち出せる間合いとなっていた。

 

 

「…………」

「見せて貰うぞ。貴様の力」

「……トァッ!!」

 

先に打ち出したのは光太郎だった。強く握った右拳を、シャドームーンの胸板に叩き付ける。そして一発では終わらない。右拳を引いた直後に今度は左拳を続けて突出し、再度右拳を繰り出す―――

徐々にスピードを上げていく拳の連打。その速さは光太郎の腕が複数に見えてしまう、まさに拳の弾幕だった。しかし、

 

 

 

「ウオォォォォォォォッ…!!

「…これはなんのつもりだ?」

 

 

背筋が凍るような冷たい声に光太郎の拳が止まる。

 

その一撃で怪人に大きなダメージを与える光太郎のパンチ。それを受け続けたシャドームーンはそこから一歩も動いていない。それどころか傷一つ負わせることすら出来なかった。

 

「そん…な」

「まさか貴様がやっていたのは、こういうことなのか?」

 

ダメージを一切与えていないことにショックを受ける光太郎に対し、シャドームーンはゆっくりと手の甲を光太郎の胸板を小突くように『触れた』

 

光太郎はそれだけで吹き飛んだ。

 

身体をくの字に曲げて数メートル後にあった木に背中を叩き付けられた光太郎。衝撃を吸収しきれず、光太郎が根本に落下すると同時に直径2メールはあろう木はメキメキと音を立てて倒れてしまった。

 

「グ…これほどの…力がある、なんて」

 

攻撃を受けた胸を押さえながら立ち上がろうとするが、身体に力が入らず膝を付く光太郎。シャドームーンは見下ろす光太郎の首を片手で掴むと、ゆっくりと持ち上げていく。

 

「が、あぁ…」

「何を驚くことがある?キングストーンを持つ者ならば、あの程度のことなど造作もあるまい。このようにな…」

 

吊るされるように持ち上げられた光太郎の身体に、緑色の電撃が駆ける。先程のように加減された力ではない。目が瞑れてしまう程の閃光を放つ電撃が、全身をズタズタに引き裂くような痛みが光太郎を襲う。

 

「ウワアァァァァァァァァァッ!!」

 

響き渡る光太郎の絶叫。ライダーは震えながらその状況を見ていた。否、見ているしか出来なかった。

 

(なぜ…なぜ動いてくれないんですか!?)

 

その身は神代の時代に多くに人間から畏怖の対象とて見られた力を持った存在。聖杯戦争のサーヴァントとして規格外の力を持って現界した自分が、目の前にいる敵に対して『恐怖』しか抱けなかった。手と足は震え、絶対に敵わないと本能が先程から告げている。

 

(動いてください…このままでは、コウタロウが…)

 

必死に動くよう自分に告げるライダー。その合間に電撃を止めたシャドームーンは身体のあちこちから煙を上げ、ぐったりと項垂れる光太郎を放り投げた。

 

「…貴様の力はその程度なのかブラックサン」

 

仰向けに倒れた光太郎は答えない。先程と変わらず、身体から煙を上げて動くことはなかった。

 

「ならば、このまま貴様の持つキングストーンを頂こう。幕切れは、呆気のないものだな…」

 

倒れたままである光太郎のエナジーリアクターに手を伸ばすシャドームーン。その手が今にもキングストーンが宿るベルトの中心に触れようとしていたが、鎖が突如シャドームーンの腕柄に絡まり、光太郎から引きはがした。鎖の伸びる方向へ目を向けるシャドームーン。その先には震えながらも鎖を両手で引くライダーの姿があった。

 

「部外者がなんのつもりだ…?」

「理由など…貴方が私のマスターに触れようとした…それだけで十分です!」

 

激昂して叫ぶライダー。眼帯を外して、視界にいれることでシャドームーンを石化を目論んだが、一向に硬化する気配はない。キングストーンの加護がシャドームーンを守っているのだろう。

 

「亡霊どころか聖杯の起こした現象如きがこのシャドームーンに触れるなど…」

「なッ!?」

 

鎖で縛られた腕を引き、逆にライダーを引き寄せたシャドームーンは光太郎にしたように、ライダーの首を片手で掴み、吊し上げた。

 

「く…ぅ…」

「苦しいか。ならば解放してやろう。聖杯戦争からも、ブラックサンからもな」

 

残る掌に電撃を収束し、球体のエネルギーを生成したシャドームーン。ライダーの頭部へとゆっくりと近づけると、ライダーの表情が変わった事に気付く。

 

 

 

 

それはシャドームーンがこれからライダーへ繰り出そうとする攻撃への恐怖ではない。シャドームーンの背後で、立ち上がった者の姿への驚きだった。

 

 

 

 

「コウタロウ…」

 

 

 

 

ライダーの言葉と共にシャドームーンの肩を掴んだ光太郎。その際に、掴まれたシャドームーンは自身の肩に『激しい痛み』が走る事に驚愕を隠せなかった。

 

 

「ッ!?」

 

シャドームーンが急ぎ振り返った途端だった。シャドームーンの頬を光太郎は拳を思い切り叩き付けた。

 

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

 

拳を受けたシャドームーンはさらに驚く。拳を受けても自分は倒れずにいた。しかし、自分を殴った相手との距離は5メートル以上の距離がある。疑問を抱いたシャドームーンは自分の足元を見てその理由を理解した。

 

光太郎と自分の間に、抉るようにできた線が2本あった。それは光太郎の攻撃を受けきれず、足を引きずったまま吹き飛んだ結果できた抉ってできた線だ。

 

「大丈夫か、ライダー!?」

「は、はい…この恰好、2回目ですね…」

 

シャドームーンを吹き飛ばした際に落下したライダーを抱き止めた光太郎。学校の屋上から落下したライダーを両腕で抱き止めた時と状況が同じことに苦しみながら軽口を告げるライダーに安心しながら、光太郎は木の根にゆっくりとライダーを寝かせる。

 

「…ここで待っていてくれ」

「…はい」

 

微笑んで返事するライダーに頷いた光太郎は立ち上がり、再びシャドームーンと対峙する。

 

「それが貴様の本当の力かブラックサン」

「信彦…いや、世紀王シャドームーン!これ以上、その身体で俺の大切な人を傷つけることは許さん!!」

「なるほど。この素体を気遣って全力を出せなかったということか…舐められたものだ」

 

静かに怒りを露わにするシャドームーンは握りこぶしを拳を作ると、緑色のオーラが宿っていく。光太郎が受けた緑の電撃とは比べものにならない力を感じられた。

 

「…ならばこちらも!」

 

両腕を広げ、エナジーリアクターの上で両拳を重ねる。ベルトの中心から赤い閃光が放たれた直後、左腕を腰に添え、右腕を突き出した構えから両腕を大きく右側に振るい、右頬の前で両拳を作る。さらに右拳を力を込めて握り、赤いエネルギーが収束していく。

 

 

「ライダーァ―――」

 

「シャドー―――」

 

 

『パァンチッ!!』

 

 

 

 

同じキングストーンの力を宿した拳が、大気を震わせながら衝突した。

 

 

「ハアァァァァァァッ!!」

「オオォォォォォォッ!!」

 

雄叫びを上げ、互いの拳をぶつけ合う光太郎とシャドームーン。力は全くの互角だった。だが…

 

「…っ!?」

(なん、だ?)

 

突然何かに気付いたかのように後を振り向くシャドームーンの姿に疑問に思いながらも光太郎は更に拳に力を込めた。

 

(このまま、押し切る……ッ!?)

「クッ!?しまった…!!」

 

シャドームーンは急いで光太郎の方へ向き直り、同じように拳に力を込めるが既に遅い。光太郎が優勢となり、もう少しで押し切れるその時だった。

 

光太郎の脳裏に走るビジョン。それは自分の記憶ではない。ぶつかり合うキングストーンの力を通じて流れてくるシャドームーンの記憶だった。

 

 

 

そこは思い出したくもない。光太郎を改造人間へと変えた忌まわしいゴルゴムの神殿だった。

 

自分を見下ろす、醜い笑みを浮かべる三神官。彼らに向かい、幼い信彦は覚悟を決めて言い放った。

 

 

 

『それでは、これから貴様に月の世紀王の記憶を植え付けるぞ』

『いいぜ…なってやるよ。世紀王にも、創世王にもな』

 

そして神官の不気味な手が、信彦の視界を覆った。

 

 

 

「こ、これは…」

「隙ありだ!ブラックサンッ!!」

 

 

 

力を緩めてしまった光太郎の拳を押切り、シャドームーンのパンチが光太郎の胸板に激突する。

 

「グアァァァァァッ!!!」

 

攻撃を受けた光太郎は地面を転がり、その姿は元の姿へと戻ってしまった。

 

「コウタロウッ!?」

 

魔力を抑える為に服装を私服へと戻したライダーが駆け寄り、光太郎を抱き起した。再び胸板にダメージを負った光太郎は苦しそうに呼吸している。

 

 

「ブラックサン…なぜ、途中で力を弱めた?」

 

まだ余力を残しているシャドームーンはゆっくりと近づく。気付いたライダーは弱っている光太郎を庇う抱きしめ、敵わないと分かっていても手に短剣を握る。

 

「答えてくれ…信彦。お前は…自ら、シャドームーンになったのか?」

 

ライダーの肩を借りて立ち上がり、弱々しく尋ねる光太郎に、シャドームーンは何の躊躇もなく、答えた。

 

「その通りだ。脳改造前後の記憶は曖昧ではあるが、私は自ら望んで世紀王となった。それ以前に、貴様と家族として過ごしたことも覚えている」

「だったら…!!」

「だが、それがなんだというのだ?」

「あ……」

 

シャドームーンの言葉に、光太郎は凍りつく。

 

もし、記憶を書き換えられたというのなら、何かをきっかけに思い出させる事ができるという希望があった。

 

しかし違った。

 

シャドームーンは、秋月信彦は、光太郎との思い出を持ちながら、人格が書き換えられていた。さらに、それは信彦本人が望んだ結果だった。

 

「過去に家族であったことなど関係ない。創世王の座をかけて殺し合う。それが我々の宿命なのだ」

「待ってくれ…待ってくれ信彦!!」

「今日はここで引いてやろう。だが、次に戦う時はいつでも先程の力を何時でも出せるようにしておくことだ。私も、今以上の力を持って挑んでやる」

「信彦ォッ!!」

 

手を伸ばす光太郎の言葉を聞かず、シャドームーンは振り返ると同時に、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

ライダーに応急処置を受けた光太郎は、彼女と並んで墓の前で手を合わせる。段取りは違ってしまったが、当初の目的は達成したことになる。

 

「…コウタロウ。先程、シャドームーンが言った事は…」

「ああ、間違いじゃない。キングストーンを通して、見えた。信彦は自ら選んだんだ」

 

光太郎は腹を摩りながら、自分の見た信彦の過去を思い出す。

 

「もう…引き返せない。あいつがそう望んでいたのなら、この世界を邪悪に染めるというなら、俺がこの手で止めるしか」

 

例え兄弟のように育っても、この世界を滅ぼすことに加担するのであれば…自分のこの手で…

 

「強がるのは止めてください」

「ライダー。俺は強がってなんか…」

「なら、小鹿のように震えているこの手はなんですか?」

 

ライダーに指摘されて、光太郎は自分が震えて…怯えていることにようやく気が付いた。必死に誤魔化そうと手を覆い隠すが、震えは一向にやまない。

 

「コウタロウ…教えて下さい。貴方の、本当に望むことを」

「…いよ」

 

ライダーは黙って、光太郎の言葉に耳を向ける。

 

「助けたいよ!信彦を!!けど、駄目なんだ…あいつを動かしているのは、世紀王として俺を殺して、この世界を征服することだけだ!!どうすれば、どうすればいいんだ!!どうすれば…信彦を救えるんだ…」

 

泣くように告げられた望み。例え変わり果てた姿でも、かつての家族を、親友を取り戻したい。光太郎の本心を聞いたライダーは墓前で嘆くマスターの振るえる手を優しく包んだ。

 

「ライダー…?」

「まだ諦めないで下さい。マスター」

 

優しく、諭すようにライダーは光太郎の耳元で話を続ける。

 

「確かに、シャドームーンは貴方と戦うことを望んでいる。まるでそれしかないように」

「そうだよ…俺との記憶が、思い出があっても。だから」

「ですが、過去を蔑ろにする輩が、この場所に…家族の墓前に立っていたでしょうか?」

 

ライダーの言葉を聞いてハッとする光太郎。そして立ち上がり、先ほどまで激戦を繰り広げた森林の方へと振り返る。

 

「そんな…まさか…」

 

信じられないような目で倒れ、焼きただれた草木に目を向ける。戦いの傷跡は、ある一定の範囲でしか付けられていない。

 

「そうです。秋月家の思い出の場所を極力戦いに巻き込まないように、貴方を森の奥へと追いやりながら戦っていましたそして、なにより…」

「俺と拳をぶつけ合った時に振り返ったのは…」

 

そして、今度は家族が眠る墓石へと視線を移す。

 

あの時、互いの攻撃をぶつけ合った位置はシャドームーンの背後は墓石のある方向であった。もし、あのまま気にせず戦っていたのならば、衝撃波で墓を傷つける結果となってしまったかもしれない。だから、シャドームーンは振り返って墓石を確認したのだろう。

 

「じゃあ、信彦は…」

「無意識かもしれませんが、彼にはまだ家族として残った思い出が強く残っている。ですから、光太郎が強く彼を説得し続ければ…」

「まだ…間に合う」

 

光太郎の頬に一筋の涙が通る。諦めたつもりだった。しかし、まだ希望がある。そう気付いた時、光太郎は泣きながら、ライダーを抱きしめていた。

 

まさか抱きしめられると思わなかったライダーは顔を赤くして狼狽えながら呼び掛ける。

 

「あ、あの、光太郎…!ご家族の前ですし、ここは…」

「ありがとう、ライダー。希望をくれて…」

「…はい」

 

静かに泣いているマスターの背中に、ライダーはそっと手を回した。

 

 

 

待っていてくれ信彦…

 

 

 

約束は、絶対に守ってみせる。




我が家の世紀王の本気はこんなものではございません。まだサタンサーベル使ってもいないので…というか強くあって欲しいので…

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第37話『魔女の高笑い』

バトライドウォーⅡ
ちょいとずつプレイ中ですが、バロンさんが以外に使いやすくてビックリ!コンボも軽く1000超えちゃうし。
そしてタジャドルさん…貴方の必殺技は…そうじゃない、そうじゃないんだ…

では37話です!


仮面ライダーブラックこと間桐光太郎との戦いを終えた世紀王シャドームーンはゴルゴムの秘密基地へと帰還し、玉座へと座していた。

 

肘掛けに預けていた腕をゆっくりと上げ、光太郎の拳を受けた頬に触れる。

 

(自身以外が傷付かなければ力を発揮しない…相変わらずなことだ)

 

 

腕を下ろしながら宿敵であるブラックサン…光太郎が自分を吹き飛ばす程の一撃を繰り出した経緯を思い出す。自分がどれ程傷つこうが耐え、身近な人が傷ついた時にしか感情を爆発させない。本当に、昔から変わっていない。

 

(それゆえに真の力が出し切れないのが、貴様の弱点だ)

 

だからこそ今のままでは、勝負にもならない。

 

自身の力をコントロール出来ず、100%の力を出せない者に勝っても意味がない。

 

光太郎とは対等の力でぶつかり合い、その上で勝利してキングストーンを奪う。

 

それが世紀王となった彼の願いであり、勝利した時こそ、自分が世界を統べる創世王となる瞬間なのだ。

 

「ブラックサン…貴様には強くなって貰うぞ。我が宿敵として…」

 

相手の成長を願うシャドームーンの脳裏に、自分と同じ事を口にした存在の言葉が過ぎる。

 

 

『貴様の相手はまだ成長の過程にある』

 

 

サタンサーベルを回収した際に遭遇した、本来は存在しないはずのイレギュラー。黄金のサーヴァントが去り際に言い放った言葉だった。

 

「…見透かしたような事を言ってくれるな。あのサーヴァントは…」

 

サーヴァントの意味深な含み笑いを思い出し、不快な気持ちとなるシャドームーンは自分の座する玉座に近づく3つの気配を感知する。

 

「…ダロム達か?」

『ハッ…』

 

シャドームーンの声を聞き、3人は一斉に跪く。彼らの姿は、白いローブで身を包んでいた神官でなく、怪人となっていた。

 

創世王の命令により、三神官は命とも言うべき『地の石』『天の石』『海の石』をシャドームーン復活の為に捧げたことで命を失うはずだったが、神官となる以前の姿を取り戻すことで

より力くなり、より凶悪な姿となって生まれ変わったのだ。

 

三葉虫の大怪人ダロム

 

サーベルタイガーの大怪人バラオム

 

翼竜の大怪人ビシュム

 

リーダーであるダロムはさらに不気味となった顔を上げると、シャドームーンへ報告を上げる。

 

「今回、冬木市で行われている聖杯戦争。そこで再現される聖杯について調べておりましたら、ぜひお耳に入れておきたいことがわかったのです」

「ほう。他の贋作と同じように膨大な魔力が発生する…というだけではなさそうだな」

 

ダロムは己が仕入れた冬木に出現する聖杯について報告する。その特性故に、10年前に起きた事件も含めて、ダロムの報告を聞いたシャドームーンは手に顎を当てフム…と呟く。

 

「…つまり聖杯を利用すればゴルゴムに忠誠を誓う者以外の抹殺が容易く行えるという事か」

「左様にございます!」

「では、それは誰による情報だ?」

「は?」

 

シャドームーンの言葉にダロムは思わず間抜けな声を上げる。一歩下がって膝を付いているバラオムとビシュムもしまったと言わんばかりに顔を合わせる様子を見て、シャドームーンは確信を持ってダロム達が隠しているであろう事実を問い質した。

 

「お前の言う通り聖杯に異常があり、それを生かせる事は事実だろう。だが、聖堂教会や魔術協会にいる隠者共ではそれほどまでの情報は有していまい。その聖杯に『直に触れた者』でしか分からない内容であろう」

「そ、それは…」

「いるのだろう?情報を流した者が。ゴルゴムのメンバーではない『人間』が」

「…ッ!?」

 

挙動不審となる大怪人達。ゴルゴムは忠誠を誓った以外の人間を抹殺せず、接触を行う事は死刑の対象となる鉄の掟があった。その掟を大怪人であるダロム達が破った事はゴルゴムを揺るがす程の、下手をすれば『創生王』の怒りすら買う恐れがあることだったが、シャドームーンは特に咎める様子もなく、命令を下した。

 

「連れてこい。その者を」

 

 

 

 

深山町の住宅街

 

間桐光太郎とライダーは、慎二達との待ち合わせ場所を目指して肩を並べて歩いていた。

 

シャドームーンとの戦いを終えた光太郎とライダーは秋月家が眠る場所から離れた後、冬木に戻り慎二と桜に約束通りに外食をするので商店街のレストランで待ち合わせようと連絡し、家に帰ってバイクを置きにいく時間が惜しいと付近の駐車場にバイクを預けて徒歩で向かっている。

 

「……………………」

「……………………」

 

歩き始めてから2人に会話は全くない。傍から見たら何故2人は無表情で全く同じ速度で歩いているのか不可解な姿ではあるが、お互いに心中は穏やかではなかった。

 

(い、勢いとはいえ抱きしめてしまった…)

(雰囲気に乗ってあのまま5分以上も身を任せてしまうなんて…)

 

((は、恥ずかしい……!!))

 

中学生ですら鼻で笑う理由で気まずくなっていただけであった。この場に義兄妹がいたのなら、義弟は呆れ、義妹は口を押えて微笑んでいるだろう。そんな光景が目に浮かぶ光太郎はクスリと笑うと、隣にいるライダーが不思議に思い、首を傾げながら尋ねる。

 

「どうしたのですか?」

「あ、いや、思い出し笑いさ。もし2人が俺達を見たらどうからかう、なん、て…」

 

やっと会話が出来たと思った矢先に墓穴を掘った光太郎は激しく後悔した。現にライダーは一瞬にして顔を赤くして顔を背けてしまった。どうすればいいと悩む光太郎だが、そんな余裕はなくなってしまった。それはライダーも同様であり、2人はゆっくりと周囲を見渡す。

 

「…囲まれましたね」

「ああ…」

 

光太郎とライダーの周りに他の人間の気配がまるで感じられない。その変わりに現れたのは2人を囲うように現れた大勢の骸骨の兵士だった。

 

「あちらから仕掛けてくるなんて…焦り始めたのか」

「こちらを倒せると踏んだ…のかですね」

 

背中を合わせる2人に、骸骨の兵…竜牙兵は手に持った武器で襲い始める。

 

「トァッ!!」

「ハッ!!」

 

光太郎の拳と足が、ライダーの鎖が迫り来る骸骨を次々と粉砕する。竜牙兵はどこからともなく、次々と出現するが2人の敵ではなかった。しかし、竜牙兵の群に隠れて攻撃を仕かけてきた姿を見て

光太郎は驚き、防御のタイミングを逃してまともに受けてしまう。

 

「グハッ!?」

「コウタロウ!!」

 

竜牙兵を蹴散らしながらも光太郎の名を叫んだライダーは、彼を攻撃した者の姿を見る。それは、他の竜牙兵と同じく骸骨で構成されていた。だが、他の竜牙兵と比べ体躯は一回り大きく、動物に似た特徴を併せ持つ骨格をしていた。特に目立つのは頭頂部にある一対の角だ。そこから連想される本来の姿が、ライダーに嫌な記憶を思い出させる。

 

「あれは…バッファロー怪人?」

「どうやら、そのようだね」

 

立ち上がった光太郎に向かい、骨の怪人は再び突進を開始した。

 

「そう同じ手は通用すると思うなよッ!変、身ッ!!」

 

跳躍すると同時に姿を黒い戦士へと変わった光太郎は突進する骨の怪人が突き出していた角を両腕で掴み、膝蹴りを怪人の頭部へと叩き付け、粉々に吹き飛ぶ。しかし、頭部を失いながらも怪人は膝蹴りを繰り出した状態の光太郎を両腕で拘束し、そのままコンクリートの外壁を目掛けて突進を続けた。しかし、そのまま攻撃を許す光太郎ではない。手も足も塞がっているが、相手と違い頭がある。

 

狙いは身体を拘束している怪人の腕の延長上にある肩。右肩の関節部に目掛けて光太郎は自分の額を思い切り叩き込んだのだ。怪人の右肩が砕けたと同時に光太郎の身体を拘束した右腕が音を立ててアスファルトに落下すると同時に光太郎は強引に脱出し、外壁に衝突した怪人の背中目掛け、左足を軸に回し蹴りを放った。

光太郎の攻撃を受け、骨の怪人は他の竜牙兵と同様に今度こそ粉々に砕けたのであった。

ライダーの方へと目を向けると、鎖を手に持ったまま光太郎の元へと駆けて来た。どうやら骨の怪人と戦っている間に竜牙兵全てを倒したらしい。

 

「こちらも粗方片付けました」

「お疲れ様。しかし、理屈は分からないけど怪人の骨まで操るなんて…侮れない相手だな」

 

 

 

「あら、褒めてくれるなんて嬉しいことを言ってくれるのね」

 

声の聞こえた方へ同時に視線を向ける光太郎とライダー。そこには先ほどと同じ多くの竜牙兵と、バッファロー怪人とは別個体であろう骨の怪人を率いた者が立っていた。黒いローブで身を包んでいるが、声からして女性だろう。だが、彼女が纏う独特の雰囲気が『人間ではない』ことを光太郎とライダーに教えてくれている。

 

間違いなく、サーヴァントだ。

 

「キャスター…か」

「御名答。知ってくれているなんて嬉しいわ。世紀王ブラックサン…でいいのかしら?」

「…その名前で呼ばれるのは好きじゃない」

「あら、これは失礼。貴方の汚らしい黒い姿にぴったりのお名前と思ったのだけど…」

 

ローブで覆っているので表情は読み取れないが、彼女は間違いなく笑っている…嘲笑という方が正しいだろう。自分のマスターを侮辱されているとライダーは鎖を握る手に力が籠るが、光太郎はそれを手で制し、キャスターに向かい声をかけた。

 

「幾つか聞きたいことがある。構わないか?」

「敵が目の前にいるというのに攻撃を仕かけないで質問なんて、ずいぶんと余裕があるのね。愚かだとは思うけど、いいわ。ただし、こちらにも答えられないこともあるわよ?」

「構わないさ。まず一つ…さっきの骸骨はなんだ?俺達が倒した怪人と随分似ているようだけど」

 

キャスターの背後にいる骨の怪人達を見据えながら光太郎は質問した。ゴルゴムの怪人はゴルゴムにしか従わない。それがあのような変わり果てた姿でキャスターに使役されるなど考えられなかった。

だが、光太郎の疑問に彼女はさも当たり前のように答えた。

 

「それにはまず貴方達に御礼を言わなければならないところね。この怪人型の竜牙兵は貴方達が倒した怪人を元に、私が生成したのだから」

「そんなことが…」

「出来るわ。理屈は簡単。貴方が怪人を倒して、怪人が燃焼する時…その命が正に燃え尽きる前に『魂喰い』をさせてもらっていたのよ。その魂の情報を元に作ったというわけ」

「な…ッ!?」

 

これに驚いたのはライダーだった。ライダー自身にも魂喰いするための宝具を所持しているが、それには『領域』が必要となる。ライダーが展開できるのは精々数キロが限度だ。彼女が言う通り、光太郎が倒してきた怪人を魂喰いをしていたなら、彼女はその領域を冬木全土に展開していることになる。それ程の術式が展開できるなんて、伊達にキャスタークラスとして召喚された訳ではないということなのか…

 

「…なるほど。それなら、2つ目の質問の答えになったよ」

「気になるわね。取りあえず聞かせてくれるかしら?」

「ああ。なんで俺達の前に現れたのかと聞こうとした」

「あら、これは戦争なのよ?何時、どこで敵に仕掛けようが不思議はないはずよ?」

「最もな意見だ。けどそれが『キャスター』以外の場合だ。これが『ランサー』や『バーサーカー』…まだ見ていない『アサシン』であったなら何時奇襲を受けてもおかしくない。けど、魔術を主として仕掛けてくるキャスターが前に出てくるなんて、余程の力を持ったか、相手に有効な手段を手に入れた時だけのはずだ」

「………………」

 

光太郎の言葉にニヤニヤと笑いを浮かべていたキャスターの表情が固まる。自分の考えが当たったのだろうかと、光太郎はキャスターの出方を待っていた。光太郎は慎二から相手がキャスターだった場合、想定される事を耳にタコが出来る程に聞かされていた。魔術に対して何の耐性のない光太郎は、キングストーンの加護がなければ簡単に相手の術中にはまると言われまるで反論出来ず、慎二の話を頭に叩き込んでいた。その中でキャスターは前衛よりも後方支援か、自分の工房から一歩も出ないと聞かされていた事を思い出したのだった。

 

「…以前、ビルゲニアが多くの怪人を蘇生させた。あいつらを倒した時にも魂喰いを起こしていたとしたら…それに、最近新都で多発しているガス漏れによって多くの人が意識不明になるまで衰弱事件が相次いでいる。これも合わせたなら」

「彼女が持つ魔力量は…想像を絶しますね」

 

ライダーは無言のまま光太郎の話を聞いているキャスターを見る。もし、光太郎の推測通りならば彼女が堂々と自分達の前に現れたことに頷ける。多くの人間が死ぬギリギリまで,そして学校で光太郎が倒した30体以上の怪人…それ以前も合わせば彼女は聖杯戦争を勝ち抜けても余りある魔力を所持していることになるのだ。

 

 

「フフフ……」

「…?」

「アハハ…アハハハハハハハハ!!」

 

突然、キャスターは腹を押さえて笑い出した。本当に愉快にそうに、笑い出した。その笑い声を聞いていた光太郎は彼女が突然笑い出した事を疑問を抱く以上に、嫌な予感だけが膨れ上がっていくように思えたのだ。

 

ようやく笑い終えたキャスターは目元を擦りながら光太郎達に向かい口を開いた。

 

「フフフ。正解、大正解よ貴方。本当に、どうしてここまで当たってしまっているのかしら?貴方、『未来視』でも持っているの?」

「…なんの、ことだ?」

「言った通りよ。貴方の言う事は『全て』当たっているって」

 

ゆっくりど横へと移動するキャスター。その意図が読めない光太郎とライダーは次の瞬間に凍り付いてしまった。それは光太郎の言っていた『相手に有効な手段』をキャスターが見せたためであった。

 

 

 

 

キャスターの背後にいた怪人型の竜牙兵が2体いた。その手には、寝むらされていた慎二と桜がいたのだ。

 

「慎二くッ――」

 

「サク――」

 

 

2人は意識を失っている慎二と桜のの名を最後まで呼べることなく、敵の不意打ちを受けてしまった。

 

 

光太郎は背中を剣で斬られ、前のめりに倒れてしまった。

 

ライダーは何の気配も感じられないまま、相手の軌道の読めない打撃を受け続け、地に沈んだ。

 

 

光太郎とライダーは、自分達を襲った相手を見上げる形で視界に移す。そこにいたのは、意外過ぎる人物だった。

 

 

 

「ビルゲニア…!?なぜ…」

 

「貴方は…シンジとサクラの学校の…」

 

 

光太郎を切り伏せたのは、セイバーが倒したはずのゴルゴムの剣聖ビルゲニアであった。目の焦点が合っておらず、ずっと何かをブツブツと言い続けている。慎二と桜が通う穂群原学園の教師、葛木総一郎は無言、無表情でライダーを見下ろしている。彼の拳からは魔力を感じる恐らくキャスターによって拳を強化されている。サーヴァントであるライダーにここまでダメージを与えられたのはそれゆえだろう。

 

 

「アハハハハハ…どうかしら?私の準備した、有効な手段は?」

「く…なん、だ…!?」

 

挑発するように笑うキャスターに怒りを向ける光太郎だったが、身体に力が入らないことに気付く。さらに、段々と全身が痺れてきていた。

 

「フフフ。貴方を傷つけた剣には毒が染み込んでいるわ。普通の人間であればその香気を吸っただけで命に係わるけど、貴方にはそれ程通用しなかったようね」

「くっ…」

「あら、そろそろ目が覚めるようね?」

 

 

キャスターの言う通り、意識を失った慎二と桜がうねり声を上げながら目を覚ました。同時に、自分達の置かれている状況に混乱しているようだった。

 

「あれ…私、みんなとお出かけする準備を…っ!?兄さん、ライダーさん!?」

「くっ…!?何なんだよ一体この状況はッ!?」

 

無理もないことだった。目が覚めれば自分達は多くの骸骨に囲まれて拘束され、変身した義兄とそのパートナーは倒れており、さらに死んだと聞いていた敵幹部と学校の教師が並んで義兄達を見下ろしている…説明が欲しいほどだった。

 

 

「安心しなさい。私の言う事を聞いてくれるのなら、貴方の家族は無傷で解放してあげるわ」

「なるほ、どな。それが最初から狙いか…」

 

ここまで仕組まれていたと理解した光太郎の全身に毒が蔓延していく。キングストーンと己の再生能力で抑えられてはいるが、回復には時間を要する。最悪の展開であった。さらにキャスターからの要求に、光太郎以外の全員が驚愕した。

 

 

 

 

「貴方の持つキングストーン…私に譲ってくれないかしら?」

 

 

 

キャスターの狙いは最初から光太郎の持つキングストーンだった。そのために人質をとり、不意打ちをしかけ、もはや頷くしかない状況を作り出した。毒によってさらに苦しむ光太郎の耳に、慎二の声が届く。

 

 

 

「逃げろ光太郎!!バトルホッパーでもロードセクターでも、ここに呼んで早く逃げろ!!!」

「そうです!私達はまだ殺されるはずはずありません!ですから」

「黙りなさい」

 

苦しむ義兄の耳に、キャスターの魔力を受けて悲鳴を上げる義弟と義妹の声が響く。2人は、自分に体制を立て直す為に大声を上げてくれたのだろう。キャスターの狙いは先程言った通りにキングストーンだ。

ならば手にするまで有効である人質を殺せるはずがない…そこまで読んで自分に逃げろと言ってくれたのだ。本当に、敵わない…だが、光太郎は兄妹の言葉を受けず、別の手段に打って出た。

 

 

 

 

「慎二君…桜ちゃん…ごめん。ライダー…2人を頼む」

 

「まさか…コウタロウ!?」

「ま、待てよッ…!?」

「兄さんっ!?」

 

 

振るわせながら腕を上げる光太郎。その黒い手の甲に、ぼんやりとではあるが、光が宿っていた。

 

 

 

 

「令呪を持って命じる…ライダー!」

 

 

 

 

 

「慎二君と桜ちゃんを連れて、全力でこの場を逃げ出せ!!」

 

 

 

 

光太郎の手の甲から光が消えたと同時だった。それまでの痛みが嘘のように無くなったライダーは目にも止まらぬスピードで慎二と桜の元へ移動。2人を拘束する竜牙兵を吹き飛ばすと両手に2人を抱え、倒れているマスターを一瞥する。

 

(コウタロウ…)

 

そして跳躍する。その速さは、ライダー自身の最高速すら超えるものだった。

 

 

 

 

「…まぁ、いいでしょう。本命がわざわざ残ってくれたのだから。けど…」

 

 

令呪を消費した光太郎の腕は再び地に沈んでいた。キャスターは光が浮かんでいた光太郎の手の甲に目掛け、歪な形をし、禍々しい色をした短刀を突き立てる。

 

 

『破戒すべき全ての符』

 

 

あらゆる魔術を初期化させるキャスターの宝具。その刃を引き抜いたと同時に光太郎の変身も合わせるように解除された。光太郎の手の甲には、ナイフで刺された跡以外、何も刻まれていなかった。

 

「これで貴方の聖杯戦争はおしまい。ゆっくり、ゆっくり時間をかけてその石を取り出して上げるわ。アハハハハハハ!!」

 

キャスターの笑いが、夜の街に木霊した。

 

 

 

 

間桐家

 

 

 

 

 

中庭に着地し、慎二と桜を下ろしたと同時に、ライダーは自分に供給される魔力が大幅に削れる感覚に陥った。今、光太郎の前にいるのはキャスター。もし、何らかの手段で令呪を消し去ったのなら…自分はそう時間をかからずに消滅するだろう。

 

「ライダーさん…もしかして」

「サクラ…」

 

弱ったライダーの様子を見て、状況を察した桜は涙目になった彼女に縋りついた。

 

「ごめん、なさい。私が…私のせいで兄さんとライダーさんがぁッ!!」

 

とうとう泣き始めてしまった桜の頭を、ライダーは優しく撫でる。言葉が浮かばない。何を言っても、もう桜を泣き止ますことが出来ない。

 

「……………」

 

その様子を見ていた慎二は黙って玄関を通り、自室へと直行した。

 

部屋に戻り、鍵をかけると、目の前にある本棚へ目を向ける。その本棚に並ぶ魔導書は光太郎と出会って以来、必死に解読し、桜の協力を得て術式を組み上げる事に成功している、今の慎二が実践している成果でもある。その本を、慎二は次々に手に取り、床へ叩き付け始めた。

 

 

「ウワアァァァァァァァァァァ!!」

 

声を上げ、床に広がった本を踏みつけていく。その目には、少しながらも涙が溜まっていた。

 

「光太郎のバカ野郎ッ!!かっこつけて自分だけ残りやがって!!それに、何で…何で何も出来なかったんだよ僕はッ!?こんな、こんなの読めたぐらいで…!!」

 

慎二が声を上げているのは自分への怒りだった。人質にされ何も出来ず、義兄の持つ貴重な令呪も消費させてしまい、さらにライダーの様子を見る限り、残る令呪すら相手に消されてしまった可能性すらある。だというのに、魔術書を読めるくらいでいい気になっていた自分に出来たのは、祖父の残した資料からサーヴァントのクラスの特徴を伝えたのみ。読めるだけで、何の役にも立たなかった。

その怒りが今までの自分が行っていた魔導書の解読へと繋がり、今のように本を投げつける形へとなってしまった。八つ当たりということも慎二は充分に理解している。だが、止められなかった。そんなことしか出来ない自分が、人質となってしまった自分の弱さが許せなかったのだ。

 

 

「こんなもの!!こんなものぉ!!」

 

次々と本を投げ捨てる慎二だったが、突然その行動がピタリと止まる。本棚の中に、見覚えのないものが並んでいたからだ。いや、本の厚さや背表紙には自分が所持していた物と変わらない。しかし、その本はここまで『黒かった』ろうか?

 

「…………」

 

呼吸を整えながらゆっくりとその本を手に取り、捲っていくがそこには何も書かれておらず、無地の本だった。だが、捲っていくうちに一枚のメモ帳が挟んであることに気が付いた慎二はそれを手に取ると、書かれていた内容に目を開いた。

 

 

 

 

「ライダーさん…大丈夫ですか?」

「ええ、今は落ち着いています」

 

リビングでは泣き止んだ桜の横で私服姿となったライダーが並んで座っていた。先程と変わらず、自分へと供給される魔力は弱い。そう、『弱い』だけで、彼女へ送られる魔力は決してゼロではないのだ。状況が掴めないライダーの前に、自室へ上がったはずの慎二が現れた。

 

 

「2人とも。光太郎を助ける作戦を立てるぞ」

 

突然の言葉にポカンと口を開けてしまう。ハッとした桜は立ち上がって、涙目になって慎二に抗議する。

 

「慎二兄さん!ライダーさんには魔力が送られないんですよ!?このままだと…いついなくなっちゃうかもおかしくないんですよ!!」

「サクラ落ち着いて…しかし慎二。もしコウタロウが助けられるのであれば、私はそれも惜しまない。しかし、コウタロウに令呪がないのなら私は…」

「さっきから消える消えるって…光太郎の令呪はまだ消えてない。ここに…ある」

 

そして慎二は2人の前に一冊の本を取り出す。その本を見た途端、ライダーはそこから『流れてくる』ものに気が付いた。

 

「し、シンジ!?これは…」

「ああ。『偽臣の書』だ」

「え?え?」

 

会話について行けない桜に慎二とライダーはゆっくりと説明をした。

 

偽臣の書

 

サーヴァントの指揮権を一時的に譲渡し、マスター以外の人間がサーヴァントへの命令を下せる道具である。そしてそれを生成するには、令呪を一つ、消費する必要があるのだ。

 

「じゃあ…」

「ああ。逆に返せば、光太郎の令呪が一つここにあるってことだ。これがある限り、遠回りだけど光太郎の力がこの本を通してライダーへ送られる」

「じゃあ…ライダーさんはまだいなくならないんですね!」

 

そして、慎二は先程発見したメモ帳を2人に見せる。光太郎の文字で、短く記されたものだった。

 

 

『何かあったらよろしく!  光太郎より』

 

 

その文面を見たライダーと桜は目を合わせると、揃って笑い出してしまった。

 

 

「もう…兄さんったら」

「最初から言ってくれれば、ここまで2人を不安がらせることもなかったというのに…」

「その文句はアイツを助けてからだ。もうファミレスなんかじゃ許せない。絶対にもっと高いとこで奢らせてやる…」

「あ、なら私この前新都に出来た―――」

 

既に助けた後の事を考えている2人の姿に、ライダーは自然と笑みが浮かんだ。本当に頼もしいマスターとその家族だと。そして表情を引き締めると、ライダーはそんなこじゃれたものよりも寿司がいいと自分のリクエストを強調している慎二の前で跪く。

 

「ライダー?」

「シンジ…いえ、マスター。私にコウタロウの救出する命令を」

「お、おい。マスターってなんだよ?」

「貴方はコウタロウから偽臣の書を託された。ならば、私の今のマスターはシンジ、貴方です」

 

慎二はライダーから目を逸らさず、ゆっくりと頷いた。手に持った偽臣の書の表紙を見て、サーヴァントへ命令を下した。

 

 

 

「ライダー!最初で最後の命令だ。光太郎を絶対に助け出す…その為に力を貸してくれ!!」

 

「仰せのままに、マスター」

 

 




間桐家の逆襲の始まりです。

結構な距離があっても偽臣書までキングストーンの力が届くのは…ほら、キングストーンだから。

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第38話『工房の中で』

鎧武 兄さんの安否が気になるところで次回はサッカー回。おのれまた焦らすか販促回…

では短めの38話となります


「――――と言うわけだからキャスターが相手になった場合は下手に攻撃を仕掛けるのは有効じゃない。だから…」

「慎二君、なんでこの本だけは何も書かれて無いんだい?」

「聞けよ人の話をッ!!」

 

聖杯戦争で争うであろう相手への戦略をレクチャーしていた間桐慎二は自分の話を無視して無地の本を手に取る義兄を怒鳴る。悪そびれた様子もなく、義弟へ尋ねる光太郎の姿に溜息をついた慎二は資料を放りだし、桜が用意したお茶を啜る。休憩に丁度いいと踏んだ慎二は面倒そうに光太郎の質問に答えた。

 

「それは偽臣の書…簡単に言えば、誰でもサーヴァントの代理マスターの資格を持てる道具だよ」

「へぇ、便利なものなんだね!どうすればいいのかな…」

 

こいつは本当に理解しているのだろうかとしかめっ面で慎二は本をめくる光太郎に説明を続けた。

 

「…方法は簡単。ただマスターの権限を譲渡するって念じればいいらしい。けど令呪を一つを消費するからくれぐれも…」

「あれ?本と令呪の一つが光って…」

「だから人の話を聞いてよ頼むからあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

その後、正座をさせられた光太郎は聖杯戦争前から散々聞かされた令呪についての説明を書き取りも交えて数時間、慎二の監視下の元で行われたのであった。

 

 

 

 

そんな目にも合いながらも、光太郎は慎二のいない間に自身の令呪を一つを消費させ、偽臣の書を完成させていたのだった。

 

 

 

(慎二君なら…気付くはずだ)

 

義弟達を信じて、あの場を離脱させた光太郎はゆっくりと頭を上げる。

 

光太郎が現在いる場所はキャスターが根城としている柳洞寺内にある倉の一つだ。倉と言っても相当の広さと高さがあり、柳洞寺の歴史に関する資料等を保管されていたのだろうが、今は何一つなく、倉の中央で左右の腕それぞれに天井から繋がった鎖で拘束されている光太郎と、キャスターがいるだけであった。

 

「あら、その状況で笑うとは随分と余裕がありそうね?毒を変えてみようかしら…」

「それは…遠慮願いたいな…」

 

苦笑しながらも光太郎は自分の腕に刺された点滴を見る。針とチューブはよく病院で見かけるものと変わらないが問題は光太郎に打たれている中身だ。毒々しい色をしたその液体はビルゲニアが光太郎の背中を斬り、自由を奪った剣に使われた以上の毒であった。

キングストーンが全身に回っている毒を中和し、死なない状態にあるが、その死なない代わりに毒による痙攣、動悸、身体機能の低下が光太郎を蝕んでいた。もし、キングストーンによる中和に毒が少しでも勝ってしまったら、改造人間と言えど光太郎は生きてはいないだろう。

 

「本当ならすぐにでも殺してキングストーンを取り出したいところだけど、貴方が死んでキングストーンの機能が停止する可能性も考えられる…だから生きたまま取り出す方法が見つかるまでは、大人しくしてもらうわよ」

 

クスクスと笑いながらキャスターは息を荒立てる光太郎を眺める。意識が朦朧としながらも、光太郎はキャスターに尋ねた。自分を浚った本当の狙いを。

 

「なぜ…キングストーンが必要なんだ…?君が持った所で、何の意味がある…」

「持ち主の言う言葉とは思えないわね…考えても見なさい。貴方が体内に宿しているその石…貴方の戦いの中で、どれ程の奇跡を起こしてきたか!」

 

光太郎が聞いたことを愚問であると切り捨てたキャスターは手に水晶玉を出現させると、次々と映像を映し出した。それは全て、光太郎がキングストーンを使用した戦いであった。

 

攻撃力を上げる為の補助効果。敵の放った幻影を消し去り、大爆発に耐える防御壁を生み出す。そして絶対に逃げ切れないはずのランサーの宝具を因果を打ち消し、決められた死を回避する。

 

持ち主の危機に次々と起こした奇跡を…キングストーンの力を見てキャスターは考えた。あの石はただの証ではない。サーヴァントが持つ宝具すら凌ぐ神秘性を持ち、キングストーンがあれば聖杯すら無用の長物であると。

 

「そう…その石さえあれば、私は…」

「もう殺さなくて済む…からか?」

「…ッ!?」

 

光太郎の弱々しい声に反応したキャスターの手から水晶玉が落下――するが、床へ接触する直前に光の粒子となって消えた。恐らくキャスターが魔術で造ったものなのだろう。

 

「…何を言っているのかしら?私が人間を殺す事を躊躇しているとでもいいたいの?」

「ああ…理由は分からない。慎二くんを人質に取られた時は夢中で気付かなかったけど、キャスターの笑い方は、どうも偽悪っぽいというか…似てるんだよ。俺の知っている人に」

「それ以上口を開くようなら、さらに毒を強めるわよ?」

 

ギリっと歯を噛みしめるキャスターに対して、光太郎の態度は変わらない。

 

「…キャスターがどの時代に生きて、どのような事をしていたか、俺は知らない。でも、少なくてもキングストーンを手にしようとする今のお前は、人を手に掛けた事を…極力避けているように見えた。その証拠に冬木の人々を魂喰いしながらも…1人も殺してない」

「…黙りなさい」

「キングストーンを手にすることだって…もう、『魂喰い』をする必要がないからじゃないのか?」

「黙れと言ったはずよッ!!」

 

声を上げたキャスターの手から放たれた魔力の弾丸が光太郎の身体に叩き付けられる。毒により身体の硬度を高められず、常人と変わらなくなった光太郎にそのダメージは大きかった。

 

「がっ…ふ…」

 

繋がれた鎖と共に揺れながらも、光太郎はキャスターへ声をかける事を止めなかった。

 

「ほら…こうして俺を殺しきれない…さっき言っていた『殺さない理由』だって、『殺せない理由』なんじゃないか?」

「――ッ!?貴方はッ!!」

「キャスター」

 

さらに威力の強い魔力弾を放とうとしたキャスターだったが、自身の名を呼ばれたことでピタリとその動きを止める。光太郎も声の聞こえた方へ目を向けると、キャスターの背後に細身の男が音一つ立てることなく立っていた。

 

「そ、総一郎様…」

「そう、いちろう…」

 

聞き覚えのあり過ぎる名を思わず復唱してしまった光太郎はキャスターの背後に現れた男…慎二と桜の通う学校の教員である葛木総一郎を見上げた。油断していたといえ、サーヴァントであるライダー

を拳のみで沈めた男だ。彼がなぜ、キャスターに味方していたか理由は分からない。しかし、キャスターが光太郎の言葉を否定しきれない理由は先程の態度でなんとなくだが、理解出来た。

 

「間桐兄妹の長兄か。以外な人物が世紀王になっていたものだ」

「…葛木先生からその言葉が出ること自体が意外ですよ…」

 

驚く余裕すらなくなっている光太郎にとっては、本当に驚くべき言葉だった。確かに敵からは散々呼ばれている名前ではあったが、光太郎が驚いているのは『世紀王と呼ばれた』ことではなく、『ゴルゴムの世紀王になった』という事を指摘したことだった。

 

「葛木先生…貴方は…何者…ですか?」

 

キャスターから受けた攻撃のダメージと毒により、口を動かくことが難しくなった光太郎は無表情で自分を見る総一郎へ質問するが、武骨の男はまるで報告書を読み上げるように、平然と答えた。

 

「私を暗殺者へと仕上げた組織の元締めがゴルゴムの支援を受けていた。それだけだ」

「――ッ!?」

 

自身を殺人鬼であると言ったことももちろんだが、ゴルゴムの関係者がこんなにも近くにいたとは思えなかった。今度こそ驚いた顔をしている自分を見る総一郎の表情は現れた時と変わらず、ただ無言で光太郎を見据えている。そして気が済んだのか、踵をかえして倉を後にしようとする総一郎をキャスターが呼び止めた。

 

「総一郎様。なぜ、このような場所へ…」

「………………」

 

光太郎に対しての高圧的な態度がまるで嘘だったように、静かに尋ねるキャスターの声を聴いて立ち止まった総一郎は、振り返らず、やはり平然と答えた。

 

「ゴルゴムが『神』と崇めたいた世紀王がどのような者か。それが身体が違えど『人間』であると確認が出来ただけだ」

「総一郎様…?」

 

今度こそ、総一郎は倉の外へと姿を消した。その背中を見つめていたキャスターだったが、何かに感づいたように再び水晶を出現させた。

 

「フフフ…どうやらお客さんが来たようね」

 

水晶に映し出されたのは、柳洞寺の山門へ続く石段であった。その途中、まるで登る者を阻むように立っている男がいた。

 

 

 

 

 

 

陣羽織を身に着け、腰まで届くであろう長い髪を頭頂部で結すんだ美丈夫。侍と呼ぶに相応しい男は刀を手に、石段をゆっくりと登ってくる相手を待っていた。

 

ただの穴埋めのサーヴァントとして召喚された男はこの石段を上がってくる存在を待ちわびていた。聖杯戦争が開始されて手を合わせたのは全力を出し切れない華と例えた剣士の少女のみ。

生前に叶えられなかった戦いを、ここで叶えるため、アサシンのサーヴァント―――佐々木小次郎はようやく視界に現れた相手へと声をかける。

 

 

「ふむ…ここ来て以前のようにただ眺めて帰る…という事はなさそうだな」

 

鞘から刀を抜き、その相手へと向けるアサシン。その相手も、アサシンに合わせるように自身の得物を向けると、楽しそうに口を開いた。

 

 

 

 

「おうよ。監視に飽き飽きしてたところでな…お前さん相手なら、こっちも楽しめそうだぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前の間桐家

 

 

 

 

光太郎の救出の準備を進めていた慎二達だったが、ライダーが家の前でサーヴァントの気配がすると様子を見に行った所、ランサーが片腕を上げて立っていたのだった。

 

 

「…何用ですか?今、私達には貴方に構っている時間がないのですが」

「そう殺気立てるもんじゃねぇよライダー。折角の美人が台無しだぜ?」

 

ケラケラと笑うランサーの様子をライダーの背後から見ていた慎二は、その位置から動かずに突如現れた敵のサーヴァントへと呼びかけた。

 

「アンタがランサーか。わざわざ侵入せずに玄関から入ろうとした理由はなんだ?」

 

慎二の質問に最もな意見だと指で鼻を擦ったランサーの答えに、ライダーと慎二は思わず目を見開いた。

 

「おたくらの黒い兄ちゃんを助けるのに、手を貸してやる。キャスターなんぞに殺させるには惜しいからな」

 

 




またもや過去の捏造をやっちまいました。本編で暗殺教室(文字通り)の詳細ってあったかな…?


ご意見・ご感想、お待ちしております!


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第39話『慎二の作戦』

コンパチヒーローの新作でRX登場!

まさかリアル等身のリボルクラッシュを見ることができるのか…非常に楽しみです!

できれば隠しキャラでもいいからBLACKにも出て欲しな…

それでは39話です!


ランサーが栁洞寺の山門で待ち構えていたアサシンと刃を交える数時間前。

 

間桐邸の前に現れた槍兵の言葉に慎二は目を細めた。今、このサーヴァントは敵に捕らわれた義兄の救出に手を貸すと言った。慎二達から見たら喉から手が出てしまうほどの戦力だ。

 

しかし、『狙い』がわからない。

 

何の理由があって、光太郎の救出に手を貸すのか。彼のマスターの支持なのか。それとも罠なのか…

 

お人好しの義兄と違い、無条件で他人を信用することが出来ない慎二は、まず表情から見極めようとするが、2秒で諦めた。相手は歴戦の戦士であり、英雄と称えられた相手だ。

こちらが見抜くことなど出来るはずがない。その視線に気づいたのか、ランサーはニヤリと笑い、慎二に問いかけた。

 

「そんな悩んでいる時間があるのか、兄さんよ?」

「っ………」

 

悔しいがそれも事実だ。だが敵であるランサーの考えが読めず、さらに敵の手に落ちた光太郎の状態は一刻を争う事態に陥っているのかもしれないという焦りが、さらに慎二の判断を鈍らせている。

 

どうすればいい。

 

拳を強く握りる慎二の耳に、今では自分をマスターと呼ぶサーヴァントの声が届いた。

 

「シンジ。ここはランサーを信じましょう」

「ライダー…?」

「確かに、敵であるランサーをすぐに信用するのは難しいでしょう。ですが、彼は真正面からコウタロウと戦った。戦いにまだ迷いがあったコウタロウを奮い立たせてまで、戦ってくれました。彼のマスターに関しては分かりませんが、彼自身が手を貸してくれるというのなら信じるに値します」

 

ライダーの言葉を聞いて、慎二は改めてランサーを見る。ほらな、と言わんばかりに片目を瞑って笑っている青い男の態度に苛立つ慎二だったが、ここはランサーよりも、ランサーを信じるというライダーの言葉を信じて、助力を受けることにした。

 

「ともかく、これで第一関門は突破できるな…ランサー。あんたに頼みたいことがある」

「お?早速か。言っとくが、内容によっちゃあ断らせてもらうぜ」

「安心しろよ。むしろ、あんたから望むことだからな」

 

以前、光太郎から戦った結果、自分の身体に風穴を開けたサーヴァント…ランサーの特徴と性格は聞いていた。彼ならば、ライダーの報告にあった栁洞寺の山門に立つ『番人』に持って来いだろう。

 

不調だったと言え、あのセイバーと互角の剣で渡り合った相手だ。不満どころか望む所であろうと提案するが…

 

「面白れぇ…アイツとは一度本気で相手してもらおうと思ってたんだわ…」

 

犬歯をむき出しにして、先程とは別物の笑みを浮かべるランサー。予想以上の食いつきと迫力に圧倒された慎二とライダーは目を合わせると頷いた。

 

 

彼が味方であるうちに早く光太郎を助け出そうと。

 

 

そして慎二の支持を受けて準備を進めていた桜も交えて方針を決めた一同は栁洞寺へと移動を開始した。その移動中、慎二はもう一度、ランサーへ協力する理由を聞き出すと、意外な回答だった。

 

 

「あの黒い兄ちゃんとのケリつけるため…と言いてぇとこだがな」

 

 

「ちょいとキャスターに野暮用がな」

 

 

 

 

 

そして現在

 

 

「行くぜェ!!」

 

石段を蹴り、真紅の槍で相手を射抜こうと突撃するランサー。その一撃をアサシンのサーヴァントは動くことなく、長刀で槍の軌道を逸らすことで回避する。

 

「ふっ…」

「余裕ぶっこくにはまだ早いぜ!アサシンさんよぉッ!!」

 

咆哮と共に次々と槍による連撃を放つが、全てが流水のごとくかわされていく。

 

「凄まじき槍捌きだ。触れられると考えただけでも冷や汗が出るぞ」

「そういうときゃもっと焦った顔で言うもんだ、色男!」

 

再びアサシン目掛けて一撃を繰り出そうと槍を後方へ引いた途端、獰猛な笑みを浮かべていたランサーの顔に緊張が走る。直前までの動作がまるでなかったアサシンの斬撃がランサーの首を切り落とそうと迫っていたのだ。僅かに首を逸らすことで回避したランサーだったが、まさに紙一重。刃の切っ先がランサーの首筋を微かに掠っていた。首に手で触れたランサーは、アサシンの繰り出した攻撃で僅かながら血が出ていることに気付く。

 

「すかした顔してずっと人様の首狙ってたとは、喰えない奴だ…流石アサシンって言ったところか?そうやって何人の首を切り落としたんだが…」

「空飛ぶ一匹の燕を仕留めるのに幾年もの歳月を費やした無名の男には、荷が重すぎる賞賛よ。そちらも小手調べなどせず、遠き地で英霊と称えられた力を振るわれたら如何かな?」

「…言ってくれるじゃねぇか」

 

挑発に乗ったランサーの雰囲気が変わる。両手で槍を構え、貫く一点のみ狙いを定める。刹那、地を蹴ったランサーの槍はアサシンの心臓めがけ繰り出された。しかし、次に周囲に響いたのは人の肉を貫くくぐもった音ではなく、金属同士が衝突する音だった。

 

アサシンがランサーの槍を長刀で受け止めていたのだ。

 

「重く、激しき槍突だ。しかし、必ずや心の臓に風穴を開けるという貴様の一撃。この程度の物なのか?」

「御期待に応えたいとこなんだが、こっちにも事情があってな…」

「なに…?」

 

アサシンがランサーの発言に疑問を抱いたと同時だった。

 

人1人を抱えた女性が石段を駆け上がり、ランサーと互いの得物で押し合っている隙に、あっさりと山門を突破されてしまったのだ。

 

「……なるほど。元よりあちらが狙いであったか」

「んだよ随分あっさりしてるじゃねえか?門番だろお前さん?」

「確かに女狐には脅威となる者は何人たりとも近寄らせるなと命じられてはいた。しかしだ。今し方門を潜った者共が脅威とは言い難い…それに脅威となる者は目の前にいるというのに、余所見など愚の骨頂だろう?」

「…ほんと食えねぇわアンタ」

 

ランサーがアサシンを押さえている間のあの一瞬…視線すら向けることすらなく、山門を抜けた彼女の『状態』を読み取った…いや、感じたと言った方が正確だろう。アサシンは侵入に成功した彼女よりも、刃を交えたランサーを一番の脅威であると認識しているのだ。

 

「貴様もこれで心残りもなしにその槍を振るえるだろう?」

「…ハッ!」

 

後方へと飛び、再び距離を取ったランサーは力強く、月下に立つ侍に向けて槍を構えた。

 

「後悔すんじゃねぇぞ…」

 

 

 

 

 

ランサーとアサシンが戦闘を続ける中、栁洞寺へ辿り着くことに成功したライダーは呼吸を整えながら周囲を警戒する

 

(やはり…魔力の供給が弱い…偽臣の書から流れる魔力が弱いのか、それとも魔力を送っているコウタロウの身に何か…?)

 

考えられる可能性を上げながら、ライダーは汗を拭う。その姿に、同行者は気遣って声をかけた。

 

「ライダー…大丈夫なの…うぷっ!!」

「…シンジは自分の心配をして下さい」

 

ライダーの横で膝を付いている慎二は目が隠れるほど深くミッド帽を被り、服装も闇に紛れやすいような寒色で統一されていた。

 

不調とはいえ、人を抱えてた状態でもライダーのスピードは落ちることなく、栁洞寺までの長い石段を人知を超えた速さで登り切ることが出来たのだ。しかし、そのスピードに耐えられたのはライダー

のみであり、抱えられた慎二は移動中に自分を襲った急加速と急停止による重力差に耐えることが出来ず、今に至っている。

 

「ハァ、ハァ、この…くらい…どうってことない…はやく、光太郎を見つけないと…」

 

無理矢理立ち上がった慎二を見て苦笑したライダーは、ハッとして境内の奥からに現れた無数の影に対して、鎖と杭を構えた。

 

 

「侵入しゃ…排じょ…する…しんにゅう者…はい除…」

 

竜牙兵を引き連れたビルゲニアがブツブツと同じ言葉を繰り返し、焦点の合わない目で侵入者であるライダーと慎二に剣を向け、ゆっくりと歩き始めた。

 

「よりにもよっていきなりアイツかよ…それなりに準備はしたけど…」

「シンジ」

 

背中に背負っているバックに手を伸ばした慎二を手で制したライダーは、そのまま自分達から見て右奥に位置する大きな倉を指さした。言われるまでもない。あそこに、光太郎がいる。ライダーには、分かるのだろう。

 

「私が正面から仕掛けるうちに、シンジは走って下さい」

「…いいのかよ。囚われの王子様助ける役目、取っても」

「笑って助けを待つ王子など、願い下げですから」

「ハハッ目に浮かぶ光景だ。どうせそれも、やせ我慢だろうけど」

 

まだ慎二の軽口に付き合えるほどの余裕があるライダーは、さらに一言添えた。

 

「…ええ。私の前ぐらいでは、自力で立って気取って欲しいです」

「気づかない振りして立てる…か。いい女だねほんと」

 

その会話を最後に、ライダーと慎二はそれぞれの役目を果たす為に行動を開始した。慎二は倉目指して全力で走り、ライダーはビルゲニア率いる骸骨の軍団へ向かい、地を蹴った。

 

 

 

「ここに…」

 

倉の前に立った慎二は音を立てずに足を踏み込む。普段は閉ざされ、寺の坊主数人がかりで解放することが出来る両開きの鉄扉が、今は解放されていた。こちらを誘い込むためなのか…相手の術中にあえて乗るというのは気が乗らない慎二であったが、数秒後にはそんな考えも忘れ、倉の奥で拘束されている義兄の名を叫んだ。

 

「光太郎ッ!!」

 

慎二の声に気付いたのか、項垂れていた光太郎はゆっくりと顔を上げる。鎖で両腕を縛られ、禍々しい色の点滴を刺されている義兄は土気色の顔をしながらも、いつも通りに笑っていた。

 

「やぁ…来てくれたんだね」

「喋るなッ!!今そっちに…」

「行けると思う?」

 

後から聞こえた女性の声に慎二はギョッとする。足元を見れば、月明かりで自分1人分しかなかった影が、いつの間にか3つに増えていた。急ぎ振り返った慎二の目の前にいたのは、ローブを纏ったサーヴァントと物言わぬサーヴァントのマスターだった。

 

「アサシンも面倒な事を押し付けてくれたわね…まぁ、一番面倒なサーヴァントの相手をしてくれているのだからお咎めはなしにしようかしら?」

 

冷や汗を流す慎二に、キャスターは魔力を収束させた掌をゆっくりと向けていく。たっぷりと恐怖を味あわせようと、ワザとらしい動きをしていたが、それが仇となることを彼女はまだ知らなかった。

キャスターが疑問を抱いたのは、その直後だった。

 

「…ハハハ」

「あら、お兄さんを目の前にして、もう諦めたの?」

「いや、そこまで余裕を見せて貰うなんて…」

 

未だに汗を流しながら慎二は被っていたミット帽に手を伸ばす。何か仕込んでいるのかと警戒すキャスターだが、既に遅かった。慎二がミット帽に触れた途端、自分の足元から目が瞑れるような眩しい閃光が周囲を照らした。突然の出来事に、キャスターと彼女の背後で様子を見守っていた総一郎も目を晦ましてしまう。

 

「くぅ…せ、閃光弾ッ!?なんて物を…」

「悪いけど、手段を選ばないんだったら、こっちも負けてないんでね!!」

 

今度こそミット帽と、一緒に装着していたサングラスを投げ捨てた慎二はポケットに手を伸ばし、数本のマイクロレコーダーを取り出すと同時に再生ボタンを押してキャスター達の足元へ転がした。

マイクロレコーダーが落下した直後、音量を最大に調整された小型の機械からサイレン音やガラスを刃物で引っ掻いた不快な音が次々と流れていく。

 

「いやぁッ!耳が、耳がぁ!!」

 

目を開くことが出来ず、続いて鼓膜が破れると錯覚してしまう程の大音響に手で耳を抑えて苦しむキャスターをしり目に、慎二は改めて光太郎の元へと駆けていく。

 

敵の視覚と聴覚を潰した間に義兄を拘束するあの鎖と毒をどうにかすれば…助けられる!

 

そう思い、あと少しで義兄へと辿りつく慎二をキャスターの仕掛けた罠が襲った。

 

「うわあぁぁぁぁぁッ!?」

「し、慎二君ッ!?」

 

光太郎まであと1メートルもない距離まで接近した慎二を紫色のオーロラが阻み、さらに慎二が触れた途端に電撃が彼を弾き返してしまった。

 

見れば光太郎を中心に円が描かれ、円の内側には光太郎が見た事のない文字や図形が並び、ゆっくりと回転して力場を作っている。

 

「け、結界か…」

 

痺れが抜け、立ち上がった慎二が目を向けると、光太郎を囲っていた円は消失していた。恐らく、光太郎へ何者かが近づいた時に発動し、視認できる術式なのだろう。だが、仕組みが分かっても、『今のまま』ではどうしようもない。どうすればと立ち上がった慎二は突然寒気を感じる。未だに背後ではキャスターの苦しんでいる声と妨害音がちゃんと聞こえている。

ではなぜ、こんなにも嫌な予感がしてしまうのかと、振り返った慎二の左肩の感覚が、一瞬消える。

 

その直後、脱臼による激痛が慎二を襲った。

 

「う…ああぁアァァァァァぁぁぁぁッ!!」

 

肩を押さえて蹲り、絶叫する慎二を見下ろしている総一郎は、変わらずに無表情でいた。

 

「不意打ちとしては見事と言ったところだが、相手が悪かったな」

 

淡々と話す総一郎の言葉は慎二に届いていない。少しでも肩の痛みを和らげようと、ただひたすら叫んでいることしか出来なかった。

確かに魔術師であるキャスターにとっては、慎二の手段は有効だった。しかし、暗殺者であった葛木総一郎に通用したのは最初の目くらましのみ。ライダーを拳のみで沈めしまうこの男の前では、その場しのぎの陽動など、意味がなかったのだ。

 

そして、キャスターを囲っていたマイクロレコーダーが、突然火に包まれる。落ち着きを取り戻したキャスターが魔術で発火させたのだろう。

 

「よくもやってくれたわね坊や…最初はいじめてあげようかと思ったけど気が変わったわ」

 

キャスターが手に持った杖を慎二へと向ける。杖の先端から放たれたレーザーのような魔力が顔を上げた慎二の頬をかする。床に落下した赤い液体が自分の血液であると理解した慎二は、痛む肩を庇いながら、震えながら、キャスターへと顔を向ける

 

「…次は、外さないわよ」

 

冷酷に笑うキャスターの言葉を聞いた慎二は、再び走りだした。しかしその方向は光太郎の真逆である外への扉へであった。

 

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁッ!!嫌だ、死にたくないぃぃッ!!」

 

 

 

 

恐怖に駆られた慎二は悲鳴を上げて扉を目指した。助けに来たはずの義兄に背を向け、自己の生存のために敗走を始めたのだった。

 

 

「全く、見苦しいわね」

 

慎二の姿を見て呆れながらキャスターは人差し指で何かを弾くような動作をする。その直後、鉄扉が閉まり、慎二の行く手を阻んでしまう。

 

「あ、開けよ!開けぇ!開けてくれぇぇぇぇぇッ!!」

 

残る右腕で扉を叩き続ける慎二。その姿に、怒り心頭だったキャスターは逆に、一瞬でも自分を怯ませた男の本性を見て、上機嫌となった。

 

「アハハハハ!随分と粋がったわりには面白い姿を見せてくれるわね。本当だったらもっと見ていたい所だけど…」

 

キャスターは手にナイフを出現させると、慎二に止めを刺そうと近づく総一郎を制する。自分にやらせて欲しいと目配りをし、了承した総一郎は黙って慎二に向かうキャスターの背中を見つめていた。

 

「よくも総一郎様の前で恥をかかせてくれたわね…御礼に、一瞬で死なせて上げる。お兄さんの前でね」

「ひ、ヒィッ!?」

 

鉄扉を背にして腰を抜かした慎二は怯えきった表情でわめき続けた。

 

「や、やだ!!助けてくれ、助けてくれよ光太郎オォォォォッ!!」

 

顔を庇うように右腕を振り回す慎二。しかし、キャスターは構うことなく、両手でナイフを持つ。

 

「本当に情けないわね。ここまで来て最後に他人頼りなんて。でももう御終いよ。それに、見せつけなきゃね」

 

キャスターは口元を歪めながら、光太郎を見た。

 

(私が殺す事を躊躇っているですって…?そんな迷い、とうの昔に捨て去ったことを証明してあげる。貴方の弟の死でね)

 

とうとう諦めたのか、ダラリと腕を下げて項垂れる慎二の頭へ突き立てる為に、ナイフを振り上げる。

 

 

「さぁ坊や――――――」

 

 

 

 

 

 

 

「…お前は次に――――」

 

 

 

 

 

 

 

『あの世で後悔しなさいッ!!』

 

 

 

 

 

 

「―――と言う」

 

 

 

 

「…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

自分と全く同じ言葉を吐いた事を不気味に思ったキャスターはピタリと動きを止めてしまう。ゆっくりと顔を上げる慎二の表情は、先ほどの怯えきった顔が嘘のように、脱臼の痛みに耐えながらも、悪戯に成功した子供のように、嫌らしく笑っていたのだ。

 

 

 

「御礼を言いたくなるくらいに引っかかってくれてありがとう。『メディアさん』」

「あ、貴方…っ私の真名をッ!?」

 

何故わかったの、とキャスターが聞き出す前に、慎二は転がりながら真横へ移動する。その意図が理解出来なかったキャスターはまたもや慎二に謀られる事となった。

 

慎二の行動と言動に気に取られたキャスターは気が付かなかった。この倉へ近付く『何か』の爆音が段々と大きくなっていくのを。

 

そしてキャスターが目にしたのは――――

 

 

 

鉄扉を突き破った2台のバイク

 

 

バトルホッパーとロードセクターだった。

 

 

 




演技派のシンちゃんでした。

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第40話『最後の令呪』

鎧武の感想
覚悟を決めるというのは、あのような形もあったのですね…さて、主人公は決められるのか…


今回もこじ付けだらけの40話、どうぞ!


ランサーと激戦を続けていたアサシンは、山門以外から境内へ侵入した妙な気配に感じた。

 

(これは…?)

 

栁洞寺には寺の坊主達や関係者が普段使っている裏口がある。しかし、キャスターの人避けの魔術により人の出入りがなくなったはずであるが、その術を破ったものがいたとしたら…

侵入したのは間違いなく魔術を扱える人間だろう。しかし、動きが早すぎる。それに、生物でありながら、そうではない存在がその人間と一緒に動いている。気にはなるが、今はこの場を動き訳にはいかない。

 

「誰の気配を察したかは知らねぇが、まだまだこれからだぜ!」

「…なるほど。全てそちらの思惑のまま、ということか…」

 

 

栁洞寺への侵入は最初から2段仕込みであった。一本取られたと言いたそうにアサシンは溜息を付くが、それでも自分の役割は変わらない。

 

この槍兵のサーヴァントを一歩たりとも通さぬこと。そして、心行くままに、刃を交える…それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いは勝ったも当然。キャスターはそう考えていた。魔力が衰えたライダーのサーヴァントも、表の手下共と戦う間に力尽き、消滅する。そして捉えた間桐光太郎の救出に現れた少年の策も、所詮は小細工を弄したが悪あがきに過ぎなかった。

 

しかし、今彼女の目の前に現れたのは、予想すらしていなかった存在だった。

 

鉄扉を突き破って現れたバトルホッパーとロードセクターの姿に呆気を取られたキャスターの身体が突然引き寄せらる事に遅れて気付いた。

 

「ッ!?そ、総一郎様!!」

 

2台のバイクによって破壊された鉄扉の破片がキャスターに向けて四散した事に築いた総一郎は咄嗟にキャスターの肩を掴み、後方へ飛んだのだが…

 

「クゥッ!!?」

 

破片のいくつかがキャスターの肩へ刺さってしまう。肩を押さえるキャスターを見て、目を細めた総一郎は倉の中心で停車したバイクを見る。突撃した際には気付けなかったが、白いバイクにはドライバーがいた。フルフェイスのヘルメット、黒いライダースジャケットにジーンズを纏っているが、そんな事を気にしていられない。新手の敵が現れたのなら、即刻に対処するのみ。

ドライバーがバイクから降りたと同時に駆け出した総一郎は、背後から一撃を入れようとしたその時だった。

 

「ッ!?」

 

ドライバーが降りた瞬間、バイクは自らの意思を持っているかのように一人でに動き、総一郎へと向きを変えて走り出したのだ。腕を交差して防御の姿勢を取る総一郎だったが、ロードセクターの突撃を受けきれず、そのまま押し出しをされる形でロードセクターと共に倉の外へと消えて行った。

 

「総一郎様ぁッ!?」

 

叫ぶキャスターの耳に激しく電撃が飛び交う音が響く。振り向くと、もう1台のバイク…バトルホッパーが光太郎の周りを覆う結界へ体当たりをしかけていたのだ。その結界は物理的な接触を阻み、触れた者に多大なダメージを与える。先程慎二が近付いただけ吹き飛んでしまうダメージが、バトルホッパーを蝕んでいた。

 

結界の面に真正面から突っ込んではいるがそれ以上進むことが出来ず、後輪のタイヤがスピンを続けるばかりであった。さらにダメージは段々と蓄積していき、複眼を思わせる赤いヘッドライトがひび割れ、ボディーの面は段々と剥がれていく。それでも、バトルホッパーは結界から離れようとせず、体当たりを続けている。

 

「あ…アハハハ!無駄よ!そんな体当たり如きで私の結界が―――」

「桜ァッ!!『12番』を使え!!」

 

バトルホッパーの姿をあざ笑うキャスターの声は、骨折した左肩を庇いながら立ち上がった慎二の叫びにかき消された。その名前を聞いて、キャスターの思い当たる人物は1人しかいない。まさかと思い、先ほどロードセクターから降りたドライバーの方へと急いで顔を向ける。見るとドライバーはヘルメットを脱ぎ捨て、大人しい外見とは裏腹に慎二に負けない大声で返答した。

 

「分かりましたッ!!」

 

迂闊だった。魔力を使えてたとしてもこのような前線に出てくるタイプではないと決めつけていたキャスターに取って、この場に桜が登場することがありえなかった。キャスターの調べた限り、彼女は義兄達やライダーに守られているだけの存在だったはずだ。だからこそ、桜が何を起こそうとするのか見当も付かない。不確定要素である桜の行動を恐れたキャスターは最優先に彼女を止めようと詠唱無しに発動させた魔力弾を放とうとした。

 

 

 

 

それがまた、キャスターの油断となってしまった。

 

 

 

 

いざ魔力弾を放とうとしたキャスターの靴に何かが当たる。何かと視線を落としたキャスターの目に入ったのは、数分前に自分を苦しめた全く同じものだった。

 

 

「だ~れがアレ一つって言ったかなぁ?」

「ひっ…!」

 

してやったりと言いたいばかりの慎二の言葉など耳に届かず、キャスターは再度、閃光弾により視界を封じられてしまった。

 

 

 

 

 

 

背後で激しい光が放たれているが桜は気に止めず、慎二の指示通りの行動を開始する。ライダースジャケットの内ポケットから取り出したのは、巻物のように収納する布製の工具ケースだ。それを広げると、柄尻に番号が書かれた数十本のナイフが収納されており、桜は迷うことなく慎二が言った番号の柄を掴む。

 

そのナイフの先端は赤く染まっており、刃の中心には、記号のような文字が一つ掘られていた。

 

桜はバトルホッパーによって視覚化させた結界の元へ到着すると、魔法陣の中をゆっくりと回転する文字…術式の部分に向けて、手に持ったナイフを突き立てた―――

 

 

 

 

数時間前の間桐邸

 

 

「メディア…恐らくそれがキャスターの真名でしょう」

「…『裏切りの魔女』か」

 

光太郎の救出作戦を立てる中でまず最初に行われたのが敵側の分析だった。ライダーがキャスターの正体を見抜いたのは光太郎を動けなくするほどの毒を用い、強敵であったビルゲニアでさえ従わせるほどの催眠魔術を扱っていた事。そして慎二と桜を人質に動揺を誘った事…奸計を好むやり口から、ライダーと同じくギリシャ神話に名があったメディアが真っ先に浮かび上がったのだ。

 

メディアの名を聞いて彼女の二つ名を口にした慎二は、調べた知識から彼女の情報を絞り込む。確かにキャスターのやり口を思い出してみると納得がいく反面、対応が難しくなる。

 

彼女はそのクラスに相応し過ぎる程の、『魔法使い』ともいえる程の魔術師だ。ならば彼女が根城にしている栁洞寺も彼女の工房と成り果て、囚われた光太郎の周りにも必ず仕掛けが施されている…

 

どうすると悩む慎二の横で、桜が首を傾げて『あるもの』の操作を続けていた。

 

「あ、あれ…?どうして」

「何やってんだよ桜…」

「あ、いえ。上手く魔力が通らなくて…」

「はぁ…見せてみろ」

 

桜が差し出したモノを受け取った慎二は、一瞥しただけで原因を読み取って、返却した。

 

「これ、僕が前に間違えて術式書き込んだ奴だろ?使えなくて当然だ」

「え?そうだったんですか?」

「そうだよ。術式が完璧じゃなきゃ魔力は通らないし、動かなくて当然…」

 

桜へ説明中だった慎二の口がピタリと止まる。

 

「兄さん…?」

 

突然動かなくなった義兄を案じた桜は声をかけるが、返事はない。いったい何がとライダーへ目を向けるが、彼女も首を横に振るしか出来なかった。

 

「ライダー」

「は、はい」

「頼みたいことが、2つある」

 

突然の頼みごとに驚くライダーだったが、真剣そのものである慎二の視線を受けて、ゆっくりと頷く。

 

「私に、出来る事ならば」

 

 

 

 

 

 

そして現在

 

 

 

桜の持ったナイフが結界に触れた途端、ゆっくりと刃が浸透していく。ナイフの先端に附着していた赤い液体はライダーの血液だった。彼女が宝具を出現させる際に自身の血液を用いて魔法陣を生成していたことから、同じ魔法陣へと干渉が可能と考えた慎二はライダーに血液を提供してもらったのだ。

 

しかし、それでは結界を消し去るまでにいたらない。

 

ナイフの刃が全て結界へ浸透した事を確認した桜は、次足元にある魔法陣向けて刃を動かしていく。

 

「う…くぅ」

 

結界に干渉できるのはライダーの血液が付着したナイフの刃のみであり、それ以外の物は全て弾き返されてしまう。もしナイフの刃意外の部分が少しでも触れれば、慎二同様に吹き飛ばされてしまうだろう。

それだけはなく、発動している結界から放たれる魔力の漏電を受けながらの精密な作業。

 

桜は慎二とバトルホッパーが繋げてくれた役目に神経を研ぎ澄ませ、結界に負けじとナイフを握る手に力を込める。

 

そして刃の先端が魔法陣にあと数ミリまで近づいた時、最後の行程へと移行する。

 

 

キャスターの作り出した魔法陣は完璧なものだ。完璧ゆえに、魔法陣を組んでいる術式に異常が発生した場合、直ぐに効果を失う。たとえば、数式に余計な記号が一つ混じってしまったら、それは式として成り立たないように、魔法陣を形成している術式に、余分な文字を加えてしえば…

 

 

 

慎二が立てた計画はこうだった。

 

桜との会話でヒントを得た慎二はライダーに血液の提供と共に、魔法陣に使われる術式の文字の教えを乞うたのだ。自分の専攻が間桐家にある魔導書の解読に使うドイツ語と英語のみで

あり、他の語学に疎かった。ライダーも魔術は専門ではなかったが、それでも彼女は知る限りの術式で使われる文字を伝えて行った。

 

しかしキャスターは古代ギリシャ語だけでなく、ラテン語など他の語句入り混ぜた術式を使った場合も考えられた。そこで慎二はライダーから聞いた語文字を全て暗記。術式の文字と羅列でそこに最も相応しくない文字を術式に加えてしまえば、魔法陣を解除することが出来るはずなのだ。

 

準備した数十本のナイフの刃に古代ギリシャ文字を予め掘り、術式を崩壊させる…成功させるには幾つかの役目が必要だった。

 

 

 

まずは術式を見極める事。これは慎二が最初に光太郎に近づき、結界と接触して吹き飛ばされる直前に浮き出た魔法陣の術式を見抜く事に成功していた。後は準備していた文字の刻まれたナイフを選ぶだけでいい。

 

 

 

次に魔法陣を常に視界化させておく事。外部から触れた時にしか視覚化されない結界では、当然魔法陣も目に移ることができない。そのために、誰かがダメージを顧みず結界へ接触をし続けなければならなかった。痛みを伴う役割を、バトルホッパーが率先してこなしてくれた。

 

 

最後に結界への干渉と術式の消去。刃を結界へと通し、刃に掘られた文字を術式に加える作業は、誰にでも出来る作業ではない。術式は魔術で組まれたのだから、文字も当然、魔力により作り出さなければならない。だが桜ならば、組まれた術式に魔力を通すことが可能である彼女ならば、造作もないことだった。

 

 

 

 

ナイフの先端が魔法陣に触れたと同時に、桜はナイフへ魔力を送り込む。イメージはナイフに刻まれた文字をなぞり、それをナイフで突き立てた術式へ無理矢理押し込んでいく。

 

 

(兄さん…今、助けます!!)

 

心の中で叫んだその刹那。

 

ナイフに掘られた文字がぼんやりと光り、その文字と全く同じ形がナイフの先端に現れ術式に打ち込まれていく。直後、術式は魔法陣の中でノイズのように乱れていき、その効果を失った。

 

 

 

作戦は…成功した。

 

 

結界が消え、急ブレーキを踏んだバトルホッパーは後輪を軸に回転し、光太郎を蝕む毒の点滴を前輪タイヤで吹き飛ばす。壁へと叩き付けられた毒液は床や壁に附着し、煙を上げている。あんなにも恐ろしいものが義兄の身体へ打たれていたと考えて背筋が凍る桜は項垂れている光太郎の隣へと近づいていく。

 

「兄さん!光太郎兄さん!!」

「おい、生きてるなら返事をしろ!!」

 

背後には起き上がった慎二も近づいて、声をかけるが光太郎に返事がない。まさか、間に合わなかったのか…嫌な予感が過ぎる桜と慎二に、怒声が響き渡った。

 

 

「貴方達ぃ…もう生かしておかないわ!!」

 

振り向くと、目を押さえながらこちらに杖を向けるキャスターは、攻撃用の術式を浮かべて狙いを定めている。二度も同じ目に合い、さらには彼女自慢の結界すらけしてしまったのだ。もはや、怒らない理由を探す方が難しい。

 

「消えなさい!!」

 

一直線で慎二と桜へと向かう魔力弾。詠唱なしで発射された魔力の塊に対して、2人は防御すら間に合わなかった。

 

なぜなら、

 

自分達を後方へ下げたバッタの怪人が身代わりに攻撃を防御していたからだ。

 

 

「なッ…!?」

 

キャスターは驚愕する。いくら毒の点滴を止めたとしても、すぐに動けるはずがない。しかし、現実に光太郎…不完全なバッタ怪人となりながらも鎖を裂いて、キャスターの攻撃を防いでいる。考えられるとしたら、彼の体内に宿るキングストーンの力。キャスターの毒への耐性を作り、回復を早めたのだろう。

 

 

「慎二君。桜ちゃん」

「え…?」

「おい…まさか」

 

バッタ怪人となった光太郎は慎二と桜を担ぐと、天井を見上げる。義兄のこれから起こすであろう行動に嫌な予感しか浮かばない慎二と桜は、反対すら出来ないうちに、光太郎と共に倉の天井へと飛んでいったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれは…!」

 

 

もう何体の竜牙平兵を倒したかもわからない。鎖と鉄杭を振るい続けていたライダーは光太郎が拘束されている倉の天井が吹き飛び、そこから聞き覚えのある悲鳴が木霊することに気付く。見ればバッタ怪人が慎二と桜を掴み、夜空を浮遊しているではないか。

 

「コウタロウッ…!!」

 

急ぎ光太郎の着地点へと足を向けるライダーだったが、それを察してか次々と竜牙兵が襲いかかる。しかし

 

「PIPIPI…!!」

 

傷の再生を終えたバトルホッパーが竜牙兵を吹き飛ばし、ライダーの前で停車する。以前のように、自分に乗れと言っているらしい。

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…なんとかなった」

 

無事に着地し、人間の姿となった光太郎は溜息を付いて身体の調子を確かめる。取りあえず、動くことには支障はないらしい。

 

「なった…じゃないよこの愚兄!」

 

怒鳴り声の方に顔を向けると、慎二が肩を押さえながらこちらに抗議しながら詰め寄っている。

 

「なんで予告なしにあんな無茶な飛び方するんだよ!桜なんて心臓押させてずっと深呼吸してるじゃないか!!」

 

確かに視線を落とすと、桜は膝を付いてずっと呼吸を繰り返し、若干涙目になっている。突然のフライトに相当驚いたらしい。

 

「で、でもあの時は他に手段無かったし…」

「別に手段は問題じゃない!何で話さないんだって言ってんだよ!?」

「全くその通りです」

 

光太郎が後へと振り向くと、バトルホッパーから降りたライダーが静かに近づいてくる。心なしか、怒っているようにも見えた。

 

「ライダー!無事だったん…」

 

光太郎の言葉はライダーの平手打ちを受けたことで止まってしまう。その光景に慎二と、落ち着いて通常の呼吸となれた桜、そして平手を受けた光太郎自身も固まってしまう。

 

「なぜ、貴方は重要な事をいつも話してくれないんですか…今回の令呪をシンジに預けている事も、何で事前に説明…してくれなかったんですか…」

 

段々とか細い声となっていくライダーは、視線を下げたまま、額を光太郎の肩へと乗せる。そして、弱々しく彼の胸を手で叩き続けていた。

 

「…ごめん」

 

それしか光太郎には言えなかった。確かに敵の目を欺く為とはいえ、少なくともライダーには伝えるべきだったと、光太郎は猛省する。その結果が、今のようにライダーを悲しませる結果となってしまったのだから。

 

「…光太郎兄さん」

 

再び頬に走る痛み。光太郎に身を預けているライダーへと当たらないようへの配慮なのか、彼女が肩を乗せている反対側の頬を桜が叩いたのであった。

 

「桜…ちゃん?」

「もう、戦うと決めた光太郎兄さんを止める事は出来ないし、その結果だって受け止めます。けど…それでも、私達を庇って傷つくのは…嫌なんです」

 

涙を拭いながら主張する桜の姿は、先ほどまでの凛々しかった姿から、かつての弱々しい印象の少女に戻ったように光太郎には見えてしまった。

 

「順番から言うと、僕が最後か」

「え、順番って…?」

 

光太郎の質問に答えることなく、慎二はバックから偽臣の書を取り出すと、その背表紙で光太郎の脳天をぶっ叩いた。

 

「おおぉぉぉぉぉぉ・・・・・」

 

これには大ダメージを受けた光太郎は優しくライダーを離すと、叩かれた頭を押さえて蹲ってしまう。その姿に満足したのか、慎二は特に何も言わずに偽臣の書を差し出す。

 

「ほら、受け取れ」

「慎二君…でも」

「僕には荷が重いんだよ。僕には、魔導書を読んで、桜が再現してくれる方が性に合ってる。それに、何時までも仮のマスターじゃ不満がでるだろうしさ」

 

そういってこちらに見られないように眼帯の下を拭っているライダーの姿を見る慎二。立ち上がった光太郎もその姿を見て苦笑しながらも、偽臣の書へ手を伸ばした。

 

「ありがとう。慎二君」

 

義弟に感謝して偽臣の書を手にしたその時、不思議なことが起こった。

 

 

偽臣の書を光太郎の手に触れた途端、偽臣の書から細く、糸状の魔力が放出され、その魔力が光太郎の手の甲へと延びて行ったのだ。その糸は何かを形造るように刻まれていき、一瞬にして模様を作り出した。

 

令呪の最後の一画。

 

再び光太郎の手に刻まれたと同時に、役目を終えた偽臣の書は一瞬で燃え上がり、灰となった。

 

「それも…キングストーンの力なのでしょうか?」

「いや。さっきからずっと沈黙しているから違うだろう。これは…」

 

もし、光太郎の持っていた令呪に、今のように何かしらの理由で令呪が別の媒体に移ったとしても、再び持ち主へと戻る性質を「最初から」持っていたとしたならば…

 

(お爺さん…)

 

自分に令呪を託した人物が、真っ先に浮かび上がった。最後となった令呪をそっと反対の手で触れる光太郎は、さらに兵力を増やし、引き連れて現れたキャスターへと向かい合った。

 

「…もはや、お互い言うことはないでしょうね」

「そうだな。もう、決着を付けよう」

 

飛行するキャスターの目下には洗脳されたビルゲニアを筆頭に、竜牙兵の大群が控えていた。

 

 

「みんな…」

 

慎二、桜、そしてライダー。三人の視線が、光太郎へと注がれる。

 

「勝とう。みんなで」

 

頷いた三人はそれぞれの得物を手にする。

 

 

ライダーは両手に鎖を手にする。

 

桜は髪の毛を頭頂部で縛り、動きやすい姿となると折り畳み式の弓を展開して、構える。

 

慎二は脱臼した痛みを和らげる薬草仕込みの痛み止めを注射し、それを放るとバックから小型のボウガンを取り出した。

 

 

 

そして光太郎は――

 

 

 

「行くぞッ!」

 

 

 

 

 

右半身に重心を置き、両腕を大きく振るうと右頬の前で握り拳を作る。

 

ギリギリと音が聞こえる程込めた力を解放するような勢いで右腕を左下へ突出し、素早く右腰に添える。入替えるように伸ばした左腕を右上へ突き出す。

 

 

「変っ―――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、ゆっくりと右半身から左半身へと旋回し――

 

「―――身ッ!!」

 

両腕を同時に右半身へと突き出した。

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子組織を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

 

「仮面ライダー…ブラァックッ!!」

 

 

 

 

名乗りを上げた光太郎は、大群に向かい、力強く構える。

 

 

「いくぞ…キャスターッ!!」

 

 

 




光太郎、折檻されるの回でした。
術式や魔法陣解除の下りは知識に欠ける私の精一杯のこじ付けとなりますのでご容赦を…

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第41話『再戦への渇望』

ウルトラマン超闘士激伝と呼ばれる作品が再始動され、テンションあがりっぱなしでございます!!
ご存知ない方はウルトラマンでドラゴンボールをやっていると思えばイメージしやすいですかな?
特にメフィラスが大好きでしなぁ

それとは関係のない、間桐兄妹が魔改造気味な41話でございます!


変身を終えた間桐光太郎…仮面ライダーBLACKを睨むキャスター。彼女の視線はやがて外壁際で横たわる男の姿へと移った。

 

「総一郎様…」

 

ロードセクターと共に倉から姿を消していた総一郎は、ロードクターのフロントカウルに乗った状態からも反撃を試みるが突然急ブレーキをかけられ、前方へと吹き飛んでしまう。その先にあった外壁に後頭部を強く打った総一郎は、そのまま意識をとだえてしまったのだった。

 

光太郎がライダーと再開している間、キャスターは負傷した腕を押さえながら気絶しているマスターを介抱していた。命に別状はないと分かるとありったけの竜牙兵を召喚し、飛行魔術で光太郎達へと相対した。

 

もう許さない。

 

言わずともキャスターからは怒気に塗れた魔力が溢れていた。

 

 

 

「コウタロウ」

 

短くマスターの名を告げたライダーは光太郎に顔を向けることなく、キャスターを警戒したまま尋ねた。

 

「彼女は…キャスターは私に任せてくれませんか?」

「………………」

 

レイラインが再び強く繋がり、再び全力で戦えるようになったライダーではあるが、光太郎の救出までの間に竜牙兵やビルゲニアの攻撃でボロボロの状態であった。回復してもらいたいところではあるが、眼帯の向こうにある瞳が強く訴えていることを光太郎は感じた。

 

「…わかった。ライダーに任せる」

「ありがとうございます」

「なら俺は…」

 

光太郎は浮遊するキャスターの下、竜牙兵を背後に控えながら血走った目でこちらを睨む因縁の敵の姿を見た。光太郎の背中を切りつけた毒を宿した剣を持つ手は震えている。今にでも斬りかかりたいのを必死に耐えているような状態だ。

 

「…決着をつける」

 

そして戦闘の準備を整えた慎二と桜へ光太郎は目を向ける。

 

肩が外れながらも、敵の魔力を受けてボロボロになりながらも、自分を助けてくれた家族。本当なら、このような戦いの場にはいて欲しくなかった。だが、2人はもう守られるだけではない。戦うことができるのだと、光太郎は思い知ってしまったのだ。

 

「慎二君、桜ちゃん」

「危なくなったら逃げろなんてのは、却下だぞ」

「最後まで、戦えます!」

 

義兄から言われるであろう事に頑として反対の姿勢を取った慎二と桜だったが、帰ってきたのは意外な言葉だった。

 

「ああ。だからその後のことだよ。いつも俺が通ってる診療所へ行こう。夜中でも、文句を言いながら診てくれるいい先生なんだ」

 

黒い手を2人の頭に乗せ、ポンポンと優しく叩く光太郎の発言に、目を合わせる慎二と桜。そして、止めとなる鼓舞が2人に送られた。

 

 

 

 

「存分に暴れて、しっかり治療しよう」

 

 

 

「…頼りにしてるよ。2人とも」

 

 

 

 

待ち望んだ言葉に、慎二と桜は説明のできようのない気持ちが高揚していった。まるで、今の自分達には不可能なんてない、と思えてしまう程に。

 

 

 

 

「いくぞ!!みんなッ!!」

 

 

光太郎の言葉に、全員が駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「カメンらいだー…!!殺ス!!」

「ビルゲニア…!!」

 

ビルゲニアが撃ち出す斬撃を光太郎は躱し、弾いていく。不意打ちとはいえ、光太郎を苦しめた毒を警戒し、直撃を受けないように回避しく。だが、その攻撃には過去に何度も見ていた動きの切れや斬撃の重さが全く見られなかった。

 

 

セイバーとの戦いの後、どのような経緯でキャスターに与したのかは光太郎には分からない。いや、彼の様子、言動からして自意識を奪われ、光太郎の恨みだけが原動力となっているようだ。なら、これは本来のビルゲニアではない。

 

幾度となく戦ったゴルゴムの剣聖。自分の体内に宿るキングストーンを狙い、様々な謀略で光太郎を追い詰め、その中には戦いに関係のない人々を巻き込んだこともあり、怒りを抱いたことは多くある。

だが、今自分へ剣を向けているのは、そのビルゲニアなのだろうか?キャスターに踊らされ、走狗となった彼を倒して、決着が着けられるといえるのか?

 

答えは否。

 

ビルゲニアは、光太郎に取って敵にしか過ぎない。それでも、光太郎は『自分の知る』ビルゲニアとの決着を望んだ。

 

答えを決めた光太郎の頭上に、ビルゲニアの振り下ろした剣が迫っていた。

 

だが、剣の刃を光太郎は両の掌で挟み込こんで受け止めた。白刃取りの状態となっても、ビルゲニアは毒の刃で光太郎を切り裂こうと柄に力を込める。光太郎も負けじと刃を押し返そうとするが、手から煙が立っていることに気付く。どうやら剣の毒は触れるだけでも効果を発揮するうようだ。

 

「聞けッ!ビルゲニアッ!!」

「殺ス!!コロす!!」

 

光太郎の言葉はビルゲニアにはまるで聞こえていない。それでも、光太郎は呼び続けた。

 

「お前は、俺からキングストーンを奪うためなら手段を選ばない卑劣な奴だった…だが、それでも自分こそが創世王となるという気持ちは、誰にも負けなかったはずだッ!!」

「ッ…!?」

 

わずかなが、『創世王』という言葉に反応したビルゲニアに、光太郎の言葉が続く。

 

「このままお前はキャスターの命令通りに俺と戦い、倒してもそれはお前の意思ではない!!お前はそれでいいのか!?」

「おッ…オオオオッ…」

 

剣から力が抜け、後ずさるビルゲニアは額を押さえて苦しんでいる。毒の浸食が終わっても煙を上げている手を強く握りながら、光太郎はビルゲニアに叫んだ。

 

「ビルゲニアッ!!目を覚ませ!お前は…その程度の男だったのかッ!?」

「ぐっ…オオオオオオオオオオッ!!!」

 

ビルゲニアは雄叫びを上げ、握り拳を作ると自身の額に叩き込んだ。

 

メキッ…と金属が砕ける音が響いた後、拳がゆっくりと引かれていく。ビルゲニアの兜に段々と亀裂が広がっていき、やがて真っ二つに割れてしまう。その下には兜に収まっていた長く黒い髪が解放され、額から血を流したビルゲニアは光太郎の知る、野心を秘めた鋭い目つきとなっていた。

 

「ククク…ハァーハッハッハッハッハッハ!!愚かなり仮面ライダーブラック…あのまま俺が俺でない時ならば楽に死ねたものを…自ら生き地獄を選択するとはな」

 

盾『ビルテクター』を出現させたビルゲニアは毒の剣を持って改めて構える。そこには光太郎の知るゴルゴムの剣聖の姿があった。

 

「その地獄に向かうのは…ビルゲニア!お前の方だ!!」

「面白い!!今日こそ決着を付けてくれるわッ!!」

 

 

その状況をキャスターの攻撃を回避しながら覗っていたライダーは、同じく空から見下ろしていたキャスターへと尋ねた。

 

「どうやら貴方の術は破られたようですね」

「そのようね。生きる屍かと思ったら、随分と我が強かったみたい」

 

キャスターが特に驚いたり、悔しがっている様子が見えないことにライダーは意外に思えた。

 

「…まぁ、好きにすればいいわ。どの道…」

 

その後の言葉がライダーの耳に届く前に、空に浮かんだ無数の魔法陣から放たれる攻撃魔法の雨が襲った。ライダーが数秒前にいた玉砂利の地面が次々と焼き焦がれていく。

 

「くっ…!」

「卑怯とは言わせないわよ。私は出せる力を使って、貴方を消して見せるわ」

「ならば、私も全力を出しましょう」

 

ライダーは桜から受け取った布の束…刃に彼女の血が塗られたナイフのケースを取り出す。ケースを展開し、収納されたナイフ全てを取り出した。指と指の間に数本のナイフを挟み、20本を超えるナイフをライダーは無造作に上空へと放り投げたのだ。

 

ナイフは次々と地面へと突き刺さり、キャスターに届いたナイフは1本もなかった。

 

ライダーの行動が理解出来ず、手を止めてしまったが、落下したナイフの刃が次第に赤く発光している事に気付く。次第に赤い光は地面を走って行き、ナイフとナイフを線のように結んでいく。次第に、ライダーを囲うように円の形となっていた。

 

「御礼を言いましょう、キャスター」

 

円の中に文字が刻まれていき、組まれた術式が眩い光を放っていく。

 

「貴方の放った魔力の残滓を利用したおかげで、私が血を流して魔法陣を組む手間が省けました」

 

本来ならば自らの首を切り裂き、飛び散った血液で完成させるものであったが、予め用意された血液の塗られたナイフを起点にし、刃に刻まれた文字に周囲に散らばったキャスターの放った魔力の残滓を取り込む。その結果、ライダーは行程を短縮して魔法陣を創ることができたのだ。

 

「何をするつもりかわからないけど、させないわよッ!!」

 

完成された魔法陣ごとライダーを消し去ろうと魔力弾を放つキャスター。近付いただけで蒸発してしまう熱量を秘めた魔力の束がライダー目掛けて落下していくが、それよりも早く、一筋の光が魔法陣から飛び出した。

落下した魔力弾により、魔法陣は消し飛んだが、キャスターの不安は消えない。魔法陣と一緒に消えたと思ったライダーの魔力が、まだ残っているのだ。どこに行ったかと目下を見渡すが、姿は見えない。その直後、羽根の羽ばたく音が頭上より聞こえたキャスターは急ぎ見上げる。

 

月を背に、翼を持つ白馬…ペガサスに乗り、その名の如く騎乗の兵となったライダーの姿があった。

 

 

「随分派手な登場だな…っと!」

 

器用に片手で矢をボウガンにセットしながら竜牙兵が振り下ろす斧を回避した。その直後の行動は…

 

「さぁて骸骨如きが僕を捕まえられるかなぁ!!」

 

 

全力で逃げていた。

 

 

竜牙兵も獲物を逃がさんとばかりに慎二を追いかけ、当然足の速い個体が先頭を走る形となっている。骨格からして、ゴルゴムの怪人が素体となっているようだ。どの怪人かと気になる所だがそんな余裕はない。

慎二は走りながら背後を向き、先頭を走る竜牙兵のある一点に狙いを定め、ボウガンを発射した。

 

矢は竜牙兵の膝部分の骨と骨の間へ滑り込むように挟まれた。結果、関節に遺物が入り込み上手く曲げることの出来なかった先頭の竜牙兵は蹴躓いてしまう。後続の竜牙兵達も突然倒れた個体を避けたり飛び越えることなど出来ず次々と前の個体に躓いて倒れていく。

 

「じゃあ、止めよろしく」

 

慎二の言葉に反応し、バトルホッパーが彼の頭上を飛び越えて登場する。立ち上がろうとした先頭の竜牙兵を後輪で叩き潰し、そのまま急加速で前進。倒れたままである竜牙兵達を砕いていった。

 

「さて、次はどんな手を使うか…」

 

慎二はボウガンに再び矢を装填した。

 

 

 

「なるほど。あんな方法もあったんですね…」

 

義兄の戦法に関心しながら桜は次々を矢を番え、竜牙兵へと放っていた。

 

桜が今打ち出している矢は、学校の戦いで使われた物と原理こそ同じだが、より細かく術式を書き込まれたことにより、威力は増大している。そして事前に頭部や手を失っても動き続けると光太郎とライダーから聞いていた桜は狙いを胴体に定める事によって、行動不能へと追い込んでいた。

 

しかし、一度矢を放ち、再び狙いを定めるまでタイムラグが発生してしまう。動かない桜と接近する竜牙兵の距離は段々と短くなっていく。

やがて矢を弓の弦へかけようとした時、背後から接近していた怪人型の竜牙兵に弓を持った左腕を掴まれてしまう。

 

「っ!?」

 

振り切ろうと左腕を必死に動かすが、がっちりと掴まれピクリとも動かない。竜牙兵は残る手に持った剣を桜の切り裂くため振り上げたが、それよりも早く桜が動いた。

 

右手に持った矢を手放し、腰まで引いた直後、竜牙兵の頭部目掛け掌底を放ったのだ。桜の手が竜牙兵の頭部に触れた直後、竜牙兵の頭部は燃え上がった。その光景に接近していた竜牙兵も動きを止めてしまう。自分の腕を掴む力が緩んだと踏んだ桜は強引に左手を引き、再度右手を引き、とどめを差すべく頭部を失った竜牙兵の胴体部分へと握り拳を突き出した。桜の拳に押され、後ずさると同時に竜牙兵は燃え上がり、灰となって消滅した。

 

桜は自分の放った炎により焦げてしまったライダースジャケットを脱ぎ捨てる。Tシャツ姿となった桜の両腕に装着されていたのは、肘まで覆われている赤い手甲だった。下生地には火蜥蜴の皮を用い、魔力を火種に炎を発生させ、さらに高温、指向性の炎として放出する術式が掘られた特殊な鉄板を被せることによって造られた桜専用の武具である。

 

これは、魔術師としての力が弱まった間桐家の者が発案した技術であり、設計のみされていたものを慎二が発見。桜が使用できるようにアレンジを加えて、ある日家を訪ねてきた建築設計士と名乗る通りすがりの魔術師から購入した素材を元に作り上げた者だった(曰く、設計士は蔵硯の顔を見に立ち寄ったらしかった)

 

結んだ黒髪を揺らして、桜は再び矢を番えた。

 

「その位置で爆発するか、近づいて消し炭になるか、選んでください…!」

 

 

 

 

キャスターの攻撃を回避しながら桜達の様子を見ていたライダーは無事でいることに安心しつつ、早く決着をつける為に切り札を手に握った。

 

(怪我をしている慎二に何時痛みがぶり帰して集中力が乱れるか分からない。桜も気を張っていますがあのまま魔力を酷使すればいずれ倒れてしまう)

 

ならば竜牙兵の元締めであるキャスターを一刻も倒さなければならない。ライダーは一度ペガサスの頭を優しく撫でると、詫びるように愛馬へ呼びかけた。

 

「ごめんなさい。優しく、大人しい貴方に辛い目に合わせてしまうことに…でも、お願いします。私達に、力を貸してください」

 

ライダーの言ったことを理解したかのように、翼を持った白馬は高い鳴き声を発した。

 

「…ありがとう」

 

自らの子とへと謝礼したライダーは手に出現させた手綱をペガサスへ装着させる。これにより、ペガサスは限界以上の力を発揮できるようになった。

 

「なるほど。それが貴女の切り札ということね」

「はい。次の攻撃で勝負を付けさせてもらいます」

 

手綱を強く握ったライダーはキャスターへと宣言する。これで決着が着くと…

 

「…貴方とは、こんな形で出会っていたなら一度話して見たかったけど」

 

動く右腕で掴んだ杖を横に振るう。キャスターの前で幾層もの防御壁が重なっていく。完全防御の姿勢であった。ライダーの攻撃方法を見抜いているようだ。

 

「同感です。私の共通点は、女性のサーヴァントだけではなかったようですかならね…」

 

キャスターの言葉に同意したライダーは、目下で気を失っている敵のマスターと、敵の盾を手刀で弾き飛ばしている自分のマスターを見た。

 

「…行きますッ!!」

 

手綱を強く振るい、ペガサスを急上昇させたライダーは愛馬をさらに加速させる。やがてその姿は天馬から一つの流星へと変わっていく。

 

 

「騎英の――――」

 

旋回した流星は、幾層の防御壁を張ったキャスター目掛け駆けていく。

 

「――――手綱ッ!!!」

 

 

解放されたライダーの宝具『騎英の手綱』。流星から閃光と化したライダーの突撃は、キャスターの張った防御壁を次々と破壊していく。ガラスが砕けるような音と共に消滅していくが、防御壁を一枚、また一枚と破っていく度にその突撃のスピードは弱まっていった。キャスターまでの距離が近づく度に、さらに防御壁が強くなっているようだ。

すぐに突破できるとはいえ、強引にキャスターによって張られた防御壁を破るのは本来なら容易ではない。そしてその防御壁を破る事に集中していたライダーは、自分達の背後に魔法陣が新たに出現したことに、一瞬とはいえ気が付くのが遅れてしまった。

 

「あの坊やの言う事を真似るのは癪だけど…私も手段を選んでいられないのよ!!」

 

数十を超える魔法陣から放たれた無数の魔力弾。集中砲火を受けた流星は一瞬にして燃え尽きてしまった。

 

 

 

 

「お、終わった…」

 

 

魔法陣を解き,着地したキャスターは出血を続ける肩を押さえながら、眠っているマスターへと目を向ける。まだ魔力には余力が残っているが、戦える力は残っていない。先程の防御壁とライダーへの攻撃でほぼ使い切ってしまった。

 

(まだよ。総一郎様を安全な場所へ運ぶまでは…)

 

総一郎の元へ向かおうとするキャスターは、自分の方へと近づくエンジン音の方へと目を向け、驚愕する。

 

 

ペガサスと共に消滅したと思っていたライダーのサーヴァントが、赤と白のオンロードバイク『ロードセクター』を駆り、キャスターを目指して疾走していたのだ。

 

キャスターの攻撃が当たるあの一瞬、ペガサスがライダーを振るい落とし、主の命を救っていた。そしてペガサスが消滅していく光景を目にしながらも、ライダーは落下地点へ駆け付けたロードセクターに搭乗し、着地したキャスターへと迫っていたのだった。

 

 

「…本来の主ではなく、申し訳ありませんが、貴方にも無茶をお願いします」

 

グリップを握るライダーに応じるように、正面の液晶画面に文字が表示された。

 

 

『No Problem』

 

 

ロードセクターからのメッセージを見て頷いたライダーは、グリップに先程ペガサスに装着させた同じものを巻き付ける。

 

その効果により、ロードセクターはスペック以上の力を発揮。しかし、限界が決まっているマシンであるロードセクターがそれを突破できるのは精々数秒程度。それ以上の時間を超えればエンジンは勿論、ロードセクター自身も

大破してしまう。

 

それでもロードセクターはライダーに答えを出した。

 

主と自分の家族を、守るために。

 

「くっ…」

 

急ぎ防御壁を展開し、接近するロードセクタ―へ魔力を集中砲火するキャスター。所詮はなんの魔術礼装もされていない機械の馬。一発でも当たればその場で破壊できる。キャスターの予想は正しい。だが、それは当たればの

話である。

 

ランクA+の宝具によって最高時速をさらに突破したロードセクターのスピードは、最早誰にも止められなかった。

 

「アタックシールド、展開」

 

時速800kmを超え、ライダーの言葉と共にマシン上部に展開されるアタックシールド。マシン前部にイオンシールドが張られ、その色は搭乗者と宝具による効果なのか、紫色に輝き始めた。

 

やがて最高速度の時速960kmを超え、時速1,000㎞。そして時速1,200㎞へと加速する。

 

地上を走る巨大な弾丸を超え、地上を走る流星となったロードセクターとライダーはキャスターへと突撃する。

 

 

「スパークリング…メテオッ!!」

 

 

キャスターの魔力弾を全て薙ぎ払い、幾層もの魔法陣を破っていく体当たりにキャスターを意を決して杖を前方へと向ける。こうなれば最後の防御壁へたどり着いたと同時にゼロ距離での魔力弾。余波にどれ程の被害が自分に及ぶが分からないが、これしか手段はない。

 

「ありったけの魔力…受け取りなさい!」

 

そして最後の防御壁が破られた瞬間、流星と魔力がぶつかり合った――――

 

 

 

「ライダーさん…」

「おい…洒落になんないぞあの威力」

 

大半の竜牙兵を沈黙させた慎二と桜は合流し、ライダーとキャスターによって起こされた大爆発によって起きた多量の煙を見上げる。あれでは最悪、両者とも消滅している可能性があるが、煙から一つの大きな影がエンジンを唸らせ、慎二達へと近づいて行った。

 

カウルやフロントガラスに亀裂が走っている状態だが、搭乗者のライダー含めて無事に帰還を果たした。かけよる慎二と桜の姿を見て、安堵するライダーは背後を振り返った。

 

煙が晴れ、大きなクレーターの中心ではキャスターが横たわっている。最後に魔力弾を放つだけでなく、余波を受けない為に身体周辺に防御壁を張っていた恩恵なのだろう。顔を覆っていたローブが吹き飛んだだけで済んでおり、長い髪と共に露わになった美しい顔を見ると定期的に呼吸をしている。どうやら、あちらも無事だったらしい。

 

「お互いしぶとく生き残るなんて、本当に共通点が多いですね…」

 

 

 

 

「トァッ!!」

「ヌゥッ!?」

 

光太郎の手刀が毒の剣を真っ二つにへし折った。ビルテクターは手元になく、唯一の武器も破壊されてしまったビルゲニアは忌々しそうに声を上げる。しかし、光太郎も身体の所々に毒の刃を受け、思うように動かない状態だ。毒による耐性があっても、ビルゲニアによる斬撃が深く身体へと刻まれてすぐには回復が出来ない状態であった。

 

「…どうやら、次が互いに最後の一撃となりそうだなぁ…」

「その、ようだな」

 

元より毒を受け続けた状態から戦い始めた光太郎は、身体のあちこちに負担がかかっての戦いだ。仮面ライダーへ変身出来たことさえ自分を称えたくなる程であり、可能ならば回復に専念したいところである。

しかし、目の前にいる敵を倒さねば、それは叶わない。光太郎は勝負に出た。

 

両腕を広げ、ベルト『エナジーリアクター』の上で両拳を重ねる。その行動に呼応して、ベルトの中心から赤い光が放たれる。

 

「行くぞ、仮面ライダーブラックよッ!!」

 

残った毒刃を抜き取り、柄のみとなった剣に力を注ぎこむビルゲニア。ビルゲニアの魔力が宿り、漆黒の刃が形成されていく。これが、ビルゲニアの最後の技。自らの命を刃とする

 

『ダークネスセイバー』だ

 

「ビルゲニアッ!最後の勝負だッ!!」

 

光太郎は空高く跳躍する。

 

「ライダーッ―――」

 

エネルギーを纏った右足を――

 

「―――キィックッ!!」

 

ビルゲニアに向けて突き出した。

 

 

「ヌオオォォオォォッォォォッォォッ!!」

 

ビルゲニアもダークネスセイバーを向かってくる光太郎に向けて、その切っ先から黒い雷を放射する。

 

均衡する赤と黒。

 

力は中間で燻り、一進一退の膠着状態となるが、次第に黒い雷が光太郎を押しのけていく。

 

「俺は、俺はッ!!創世王となる男だあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!!」

 

より威力が上がった黒い雷が、光太郎を上空へと突き飛ばした。

 

「か、勝ったッ!?俺は仮面ライダーに…」

 

光太郎に押し勝った事にビルゲニアは、次に光太郎が起こした動きに、対応が遅れてしまった。それが、ビルゲニアの命運を決める結果となってしまった。

 

浮遊する光太郎は落下しながらも両腕を左右に展開。再びベルトの上で両拳を重ねて、眼下にいるビルゲニアへと、大いなる石の光を放った。

 

 

「キングストーンフラッシュッ!!!」

 

「オアアアアアアァァァァァァァァッ!?」

 

今までキングストーンの力を防御や攻撃補助に使用していた光太郎。この時、ビルゲニアに向けてその力を完全な『攻撃型』として放ったのだ。

 

放たれた閃光を浴びたビルゲニアに衝撃が降りかかり、元よりひび割れていた鎧にさらなる亀裂が入り、手に持ったダークネスセイバーも黒い刀身を失ってしまった。

 

光太郎はこの好機を逃さず、再びビルゲニアへ必殺の蹴りを繰り出した。

 

 

 

「ライダーァッ!!キィック!!!」

 

エネルギーを纏った光太郎の右足がビルゲニアの胸板へと叩き付けられた。

 

 

「ぐ、オオォォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

ライダーキックを受けたビルゲニアは吹き飛び、2転、3転と地面を回っていった。やがてその動きが止まるが、再び起き上がる気配はない。ゆっくりと、油断なく仰向けとなったビルゲニアへ近付く光太郎だが、ビルゲニアの様子がおかしい事に気付く。

ビルゲニアの体が段々と薄れて、今にも消えそうとなっていたのだ。

 

「ビルゲニアッ!?これは一体…」

「フッ…元より消えているはずだった命が今消えようとしているだけだ。不思議なことではあるまい」

「消えるはずだった…?どういうことなんだ?」

「…俺はセイバーの剣を受け、あのまま死ぬはずだった。そこにあの女が現れ、俺の命を繋ぎとめた」

「キャスターが…?」

 

ビルゲニアの放った言葉に衝撃を受けたのは、光太郎の後に続いて近づいてきたライダー達だった。傀儡として利用していたのならまだ納得していたが、まさか助けいたとは思えなかったからだ。

 

「…俺は精神が壊れながらも貴様を打倒し、創世王となる野望を捨てきれなかった。身体がどのようになってもな…その消えゆく俺に女は竜牙兵と同じく仮初の命を与えた。だが竜牙兵の因子が混じり、精神には異常がきたしていたようだがな。

それは俺を同情したのか、命尽きる前に利用したのかは知らん。だが、結果としては…」

 

血を流す口を歪めながら、ビルゲニアはゆっくりと首を光太郎へと向けた。

 

「貴様との決着は、着いた」

「ビルゲニア…」

「だが、忘れるな。決着が着いたのは、今回の戦いだ。俺は生まれ変わり、必ず創生王となって見せる!それまで…」

 

「それまで…貴様が負ける事など許さんぞ…」

 

 

ゴルゴムの剣聖ビルゲニア。

 

創世王となるべく野望を抱いた男は、光太郎へ遥か未来での再戦を望み、消滅した。

 

 

「…悪いが、お前と戦うことはない。ゴルゴムは、この時代で倒して見せるからな…」

 

 

消え去ったビルゲニアに謝罪しながらも、光太郎は打倒ゴルゴムを新たにする。そう、こうしてゴルゴムに踊らされる戦いは、自分達で最後であると…

 

 

 

「おい…キャスターはどこいったんだ?」

 

慎二の言葉にハッとした一同は急ぎ先程のクレーターを見る。慎二の言う通り、キャスターの姿が消えていた。

 

油断した。

 

クレーターに近づき、周辺を見渡すとそれ程距離が離れていたい場所に、キャスターはいた。動かない身体を無理矢理に動かし、地面を這い、泥だらけとなりながらもある場所を目指していた。

 

「そう…いちろう、さま…総一郎、様…」

 

自分達に見せていた挑発的な態度も、怒りもない。ただ自分のマスターの元へ向かおうと、必死に這いずって移動していた。

 

 

「コウタロウ…」

「ああ。後は、任せてくれ」

 

ライダーが頷いた事を確認し、光太郎はキャスターへとゆっくり近づく。

 

 

「ああ…御無事…でしたか」

 

マスターへの元へと辿りついたキャスターは、血だらけとなった手で、総一郎の頬に触れる。彼は生きている。それだけで、キャスターには十分だった。これで、自分は消えても思い残すことは、ないと。

 

そして自分の覆う影の主を見上げる。月明かりを背に見せた姿は、無慈悲の死神にも見えた。視線を合わせるためか、膝を付いた光太郎はキャスターへと手を伸ばす。

 

観念したキャスターは、未だ眠っているマスターの手を握り、目を瞑った。

 

 

 

「キャスター…」

 

 

 

「俺達と手を組まないか?」

 

 




はい、色々と詰め込み過ぎてやり過ぎた41話でした!

ライダーはバトルホッパー乗ったのだから次はロードセクターだろうという単純な思考から乗ってもらいました。
桜に関しては前々から武術の手ほどきを光太郎から習っていたということで…
そして最後は、こうする伏線(のつもり)が何か所かあったりします。ライダーに正気かと言われたり、慎二と話し合ったりと色々と…

言い訳が長くなってしまいましたが、ご意見、ご感想お待ちしております!


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第42話『魔術師の答え』

UA50000突破です!皆様、本当にありがとうございます!!

さてようやく見れましたレジェンタリー版ゴジラ。こちらとしては我らの知っているゴジラであり、モンスター映画なら最後は全滅!というのがセオリーであるアメリカにとっては珍しい最後であったのではないでしょうか?

そんな日記に書くような感想とは無縁の42話です!


「久しいな、セイバーよ」

「なっ…!?」

「ふむ…本日はマスターと同伴か。かつてのように単独というわけではないらしい」

 

セイバーは目の前にいる男の姿に目を丸くして驚いる。彼女の背後にいる衛宮士郎と遠坂凛も同じ状況だ。

 

「小僧も両手に花とは、男冥利に尽きると言ったところか」

 

呆けている士郎達の顔を見て、相変わらず不適な笑みを浮かべていた。

 

「…アサシン。説明して下さい」

 

意を決して、セイバーは一度自分と剣で切り結んだ相手に尋ねる決意を決めた。

 

予測の付かない剣捌きで自分を翻弄し、魔力が上手く供給されていない状態とはいえ、聖剣を使わんとする寸前まで追い詰めた無名の剣士。同じく剣を使う者として、決着を着けたい相手が置かれている状況を、セイバーはどうしても知りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アサシン…なぜ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ貴方がサクラの家の前にいるのですかッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それも箒を持って枯葉集めとはッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに詳しく言えばアサシンが纏っているものは以前にセイバーが見た栁洞寺の山門で着用していた陣羽織ではなく、動きやすさを優先させたのか、紺色の作務衣である。

 

はっきり言って似合い過ぎていた。

 

 

 

「おかしなことはあるまい。俺は変わらず門の前にいる。それがこの間桐家の門においても同じと言うだけのこと」

「いえ、私が聞きたいのはそういう事では―――」

「佐々木さーん、お疲れ様です。そろそろ一息いれて…あ、みなさん、いらっしゃい!」

 

アサシンに問い続けるセイバーの言葉は、トレイに緑茶を乗せて現れた桜の言葉に遮られた。満面の笑顔で間桐家を訪れた一同を迎え入れる桜はいつも通りである。しかし、先ほど桜の口から出た名称は聞き逃せないものだった。

 

「さ、サクラ…なぜアサシンの真名を!?」

「ちょっとまって。真名うんぬんよりもなんでお茶を出すような間柄なの!?」

 

最もな疑問を抱くセイバーと情報処理が追いつかず額を押さえる凛を見た士郎は、ともかくこの場を収めなければと桜に迫る2人に待ったをかけた。

 

「と、ともかくお邪魔しよう遠坂、セイバー。俺達には目的があって今日は来たんだし、説明なら中で聞けるはずだから!な?」

 

士郎の声を聴いてハッと我に返った2人。

 

「そ、そうでしたね。すみませんサクラ…見苦しい所を」

「悪かったわ…ちょっと取り乱してたみたい」

 

セイバーと凛に謝罪される桜は気にも止めず、微笑んだままどうぞと凛たちを玄関まで案内を始めた。ため息を付いた士郎が振り返ってみると、湯呑を手にしたアサシンと目が合う。

アサシンの「苦労しているな」と言いたげな視線に苦笑いで答えた士郎はセイバー達に続いて間桐家の玄関へ向かって行った。

 

 

その先がさらなる混沌の空間となっていることを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

「…つーわけだ。術式を今より単純にして、さらに魔術の循環が互いに邪魔しないように刻んどきゃ…」

「なるほどね。複数の属性を同時に使役出来るってことか。けど単純にした分、解放できる力に制限が…」

「そればっかは使用する奴の魔力しだいだな」

 

テーブルの上に広がるルーン魔術書の内容で熱く談義している慎二とアロハシャツ姿のランサー。

 

 

「この葉が入っている缶でよかったかしら、ライダー」

「いえ、その隣にある赤のラベルが貼ってあるものでお願いいます」

「わかったわ。あら、いい香りがするのね」

 

キッチンでお茶の準備をライダーと共に進めているエプロン姿のキャスター。

 

 

 

 

「貴様ァッ!!我の電気ネズミに傷を負わせて生きていられると思うなッ!!」

「そっちこそさっき俺の星の子を場外に吹っ飛ばしたろ?お相子だ!」

 

リビングの大型TVでスマッシュなゲームで大いに盛り上がっている光太郎と金髪の青年。

 

 

 

その光景を目にした反応はそれぞれだった。

 

 

ランサーに一度殺され、さらに殺されかけた士郎は彼にへはなぜここにいると問い詰め、セイバーは前回の聖杯戦争で因縁のある金髪の青年がこの世に存在していること自体に驚愕した。

凛はこの間桐家になぜサーヴァントがこんなにも揃い、殺し合いどころか打ち解けているのかと眩暈を起こしていた。

 

余りにも騒がしくなったリビングでそれぞれが落ち着きを取り戻して、設けた席つくまで10分以上の時間を有したのであった。その途中、ランサーと金髪の青年は用があると退席し、青年の後姿をセイバーは仇敵を見るような鋭い目つきで睨んでいた。

 

 

 

 

「じゃあ、最初に質問させてもらいたいんだけど…」

 

用意された紅茶を口にした凛は、エプロンを外してこの場にいる、存在だけは知っていたサーヴァントへと目を向ける。白桃のセーターにロングスカートと人間の衣服を纏っているキャスターは凛の視線を見て察し、長い髪の毛をかき分けて自ら説明を始めた。

 

「利害の一致よ。それだけ」

 

 

 

 

数日前

 

 

ライダーとの戦いで傷だらけとなったキャスターは敵のマスターである間桐光太郎…仮面ライダーブラックの言葉に耳を疑った。

 

「手を…組むですって?」

「ああ」

 

相手の警戒心を解くために、光太郎は変身を解除する。その姿はキャスターが捉えた時以上に傷だらけであった。その姿に思わず目を逸らしながらキャスターは息を荒立てながら答えた。

 

「貴方、正気なの?死にかけのサーヴァントに止めを刺さそうとしないなんて…」

「確かに、聖杯戦争ならそれが正しい。けど、俺には別の目的がある。その為に君の力を借りたいんだ」

 

キャスターは信じられなかった。倒れている自分を勧誘する男は、先ほどまで自分の毒により死にかけていたはずだ。だというのにその報復もせず、こうして手を組もうと手を伸ばしている。目的があると言ってはいるが、事前の調査でもお人好しという事は分かっていたが、ここまでとは度が過ぎている。

 

「…私が何をしていたが、分かった上でのこと?私は―――」

「聖杯戦争の為に、多くの人を巻き込んだ、と言いたいんだろう?それでもだ」

 

聖杯戦争では反則とされる行為である魂喰いだけでなく、この時の光太郎は知らないがキャスターは既に人を殺めていた。この男はなぜ、自分に協力を仰ぐのだろう…キャスターは光太郎の本心を見抜こうとするが、分析よりも早く光太郎の言葉が続く。

 

「さっき倉の時にも思ったけど、今のキャスターは目的のために誰かを傷つけ、苦しめていたけど殺すまでに至っていない。理由は、その人なんだろう?」

 

光太郎はキャスターの隣で眠る葛木総一郎を見た。学校では挨拶程度しかしていない相手ではあったが、少なからず自分と同じようにゴルゴムという鎖に縛られていた。彼の口ぶりからして、誰かを殺す為だけに生きてきた男だったが、今は彼女にとってマスター以上の存在となっている。そしてキャスターも、そんなマスターを守るために力を欲し、多くの人々を襲った。だが、それ以上に自分が誰かを傷つけるという事を知られたくなかったのだろう。

倉で光太郎を魔力でいたぶっていた時も、総一郎が現れた途端に攻撃を止めていた。知られたくなかった一面を見られてしまったように萎縮したキャスターの姿を見て、光太郎は確信した。

 

「キャスター。君は偽悪的、というよりそれが自分の役割であるように振る舞っている。それが英霊として召喚される前に起きた事と関係あるかは俺は知らない。けど、そんなキャスターだからこそ安心して頼めるんだ」

 

 

ただ1人であっても、誰かを大切に思える人。

 

 

もし、前回の聖杯戦争で召喚された狂人のキャスターであれば元より交渉の余地はないと慎二から苦言をうけていたが、彼女ならば自分がやろうとしている事に賛同は貰えなくても、理解して貰える。

そう光太郎は直感していた。

 

「…わかっているの?私は『裏切りの魔女』と呼ばれた女よ?」

 

ヨロヨロとキャスターは起き上がる。目は真っ直ぐ光太郎を見つめ、自身で言うことすら悍ましい二つ名を敢えて名乗った。

 

一国の王女として生まれながらも、様々な思惑に翻弄され、『魔女』とすら呼ばれた悲劇の女性。キャスター…メディアは、膝を付いた状態から立ち上がる光太郎の言葉を待つ。

 

彼女は『自分はいつ裏切っても可笑しくない』と言ったのだ。もう総一郎意外の人間を信じることが出来ないキャスターはこう言うしか自分を守る手段がない。かつてのように、裏切られてしまうくらいなら、最初から相手と関わらなければいい。だから決まりきっている答えをキャスターは待っていた。

 

ならば交渉は決裂だと。

 

だが、光太郎の意思は変わらなかった。

 

 

「…なら、いつ裏切って構わない」

「え…?」

「もしキャスターが俺を裏切りたいと思ってしまうなら、俺が信じられるように努力を怠っただけだからね。だから、キャスターは俺達をいつ見限ったって構わないんだ。けど、これだけははっきりと言える」

 

「俺は、君を裏切らない」

「…っ!」

 

光太郎は、再び手をキャスターへと伸ばす。キャスターは気が付けば、その手に向かって自らの手を動かしていた。

 

 

 

「…2つ、これから言うことを守って頂戴」

 

「ああ」

 

「総一郎様の命は、保証して」

 

「慎二君達の先生を、無碍にできないよ」

 

「そう…なら、もう一つ」

 

 

キャスターの細い指先が光太郎の手に近づく。

 

 

「あの人と、可能な限り、一緒にいさせて」

 

「約束する。決して、邪魔はしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というわけでアサシンはここでの門番についてもらっているの」

「待って、そのオチは可笑しいでしょ!?」

 

 

ふぅっと話を終えたキャスターに凛は全力で突っ込んだ。喋りつかれたのか、キャスターはそれ以上は話そうとせず、紅茶を口に運んでいた。凛や士郎が気になっている部分に関しては慎二によって補足がされた。

 

 

あの後、戦闘を続けていたアサシンとランサーは栁洞寺の戦いが集結したと分かった途端同時に刃を収めた。あくまで時間稼ぎであったランサーと門番であるアサシンは城が落ちたとすればそれ以上戦う理由はない。本心を言えば戦い続けたいところではあるが、今回は私闘ではない。その点はサーヴァントの役割を果たしていると言えるだろう。

 

気を失った総一郎はロードセクターの体当たりを受け、打ち身と片腕の骨折というだけ済んでいた。だが暫くは安静が必要ということであり、病院ではなくこの間桐家の空室で療養をとっている。これを提案したのは慎二であり、キャスターに対する保険と考えていたがここで予想外の事が起きる。

キャスターも間桐家に住むと言いだしたのだ。おまけにアサシンを間桐家の門に縛り付けるというありがた迷惑な方法までとってだ。

 

流石に許容できないと光太郎に訴えたが、『2人の邪魔しないって約束しちゃったしなぁ』と笑う兄の足を蹴飛ばした(無論ダメージは返ってきた)慎二はその後大いに荒れたという。

 

これにより間桐家ではライダー含めサーヴァントが3人も滞在する形となったのだ。

 

 

 

「それでは、話にあったランサーの用というのは?」

 

セイバーにとって疑問だったのは、先ほどまでいたランサーが敵であるライダー陣営に味方してまでキャスターに接触を求めた理由だ。マスターの命でもなく単独で行動し、彼が得ようとしたものが気になるセイバーだったが、それはキャスターによって却下された。

 

「本人から口止めされてますからね。それに個人情報は教えられないわ」

 

そう言われてしまえば追及は出来ないと判断したセイバーは黙るしかない。黙りながらお茶菓子に目を光らせるセイバーに誰もが疑問に思ったことを桜が思い出したように尋ねた。

 

 

「そう言えばセイバーさん…もう、大丈夫なんですか?」

「いえ、これと言って不調はありませんが…?」

「違うわよセイバー。桜が知りたがってるのは、数日前までは消えるしか道は無かった貴方が今ここでお茶菓子を頬張っていられるかってこと」

 

凛の回答に他の間桐家は『そう言えば』と手を叩いていた。忘れていたわけではなかったが、彼らも色々とあり過ぎてセイバー達に気を配る余裕がなかったのだろう。

 

 

「ええ、その説明に伴う形になるんだけど、光太郎さん」

「なんだい?衛宮くん」

 

突如自分が指名されたことに驚きながらも、光太郎は士郎の声に答えた。

 

 

「貴方にもこれから話すことを聞いて欲しいんです。恐らく、関係があるはずなんです」

「…わかった」

 

士郎の真剣な目を見て、光太郎も真顔で頷く。それを確認した士郎は凛に目配りして彼女が頷いた、話を始めた。

 

 

 

「…不覚にも俺がバーサーカーのマスターであるイリヤという女の子に誘拐されたんです。それから色々あって、セイバーも戦えるようになりバーサーカーと対峙してたんですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのイリヤが誘拐されたんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャドームーンって名乗る、変身した光太郎さんにそっくりな奴に」




キャス子さん落城です。でも彼女の言うとおりあくまで利害の一致で聖杯戦争が終わるまで、と彼女も理解した上での同盟です。

最後に久々登場して貰った世紀王の目的は…?

そして桜ルート劇場化決定ヤッター!大画面でライダーが活躍する姿が楽しみで仕方ありません!!


ご意見・ご感想おまちしております!


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第43話『囚われの少女』

そういえばFate新シリーズでは葛木先生をシャドームーンでお馴染みのてらそま氏が演じられるようですね。この作品を作っていたためか、なんだが妙な縁を感じてしまいます…

では、43話です。


バーサーカーのマスター…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンにより敵の城へ拉致された衛宮士郎は、駆け付けたセイバーやアーチャー、遠坂凛の協力により城を脱出する。だが、士郎や凛達を脱出させるべく、アーチャーは1人残り、バーサーカーへと戦いを挑むのであった。

 

城から遠く離れた士郎は、凛の持つ最後の令呪がいつの間にか消えた事に気付く。凛へかける言葉が見つからなかった士郎は、自分への敵意を隠そうともしなかった英霊から言われたことを思い出していた。適格に自分を指摘する彼の助言が不思議と忘れられず、全ての言葉が深く心に刻まれていた。

 

凛はパートナーを失った感傷に浸ることなく、自分達に迫る危機への対策を2人へ講じる。城からの脱出に成功はしたが、イリヤとバーサーカーから逃げられた訳ではないのだ。最強のマスターとサーヴァントに対する最後の手段として士郎とセイバーのレイラインを結びつけることで魔力供給を可能とし、反撃に打って出ると決意する。生き延びる為に。

 

明朝。ついにバーサーカーとの決戦が始まった。

 

凛の奇策により、バーサーカーへゼロ距離の宝石魔術を放ち、その頭部を吹き飛ばすことに成功した。しかし、バーサーカーの宝具『十二の試練』が発動。瞬時に蘇生してしまい、窮地に立たされてしまう。

 

 

目の前で苦しむ凛と回復したとはいえ、全力を出せないセイバーを助けられないと苛む士郎の脳裏に赤い弓兵の言葉が蘇る。

 

 

 

――お前は戦う者ではなく、『生み出す者』に過ぎん

 

 

 

 

魔術回路が焼き堕ちると錯覚する程に奔流する魔力が右腕に宿っていく。

 

 

 

 

――忘れるな、イメージするのは常に最強の自分だ

 

 

 

いつも夢に見た『黄金の剣』。いつもは靄が掛かり、輪郭がはっきりとしなかった刀剣が……

 

 

 

 

――お前にとって戦う者は、自身のイメージに他ならない

 

 

 

はっきりとした形で、士郎の手に現れた。

 

 

 

 

『勝利すべき黄金の剣』

 

 

 

セイバーが持つ聖剣の前身であり、王の選定に使われ、既に存在が失われた剣。それが士郎の『投影』により幻想として現れた。その光景にセイバーも、凛も、敵であるイリヤでさえ驚愕を隠せない。

 

士郎はセイバーと共に手にした剣を、バーサーカーの胸へと『約束された黄金の剣』を突き立てた。

 

 

『十二の試練』によりバーサーカーは12の命を持ち合わせていたが、アーチャーと凛により5つの命を消失していた。さらに『約束された黄金の剣』で5つ同時に奪うことに成功したが…

 

 

「ざ、残念だったわねシロウ!投影魔術には驚いたけど、バーサーカーにはまだ2つ命が残っているわ。貴方達を殺すには十分よ!」

「くっ…」

 

その通りだった。剣によりダメージを受けたバーサーカーは立ち上がり、巨大な斧剣をセイバー達に向けている。黄金の剣は既に消滅し、魔力を大幅に失った士郎は膝を付いてしまう。力尽きたマスターを庇うように、セイバーは士郎が令呪一つを消費してまで止められた星の剣を再び顕現させ、バーサーカーと対峙する。

 

「せ、セイバー!駄目だ」

「いえ、シロウだけではなく、リン…そしてアーチャーが繋げてくれたこの好機を逃す訳にはいけません!」

 

あと2回。先程と同じように、2度殺せる一撃を放てばサーヴァントを倒せる。セイバーは力強く剣を構えたその時であった。

 

 

「―――っ!?」

 

 

敵味方関係なく、同じ方向へと目を向けた。この場に現れた圧倒的な存在。隠そうとしない威圧感は弱っていた士郎と凛は呼吸が止まり、イリヤは自分の理解の範疇を超えたモノの接近に怯えている。

サーヴァント2人は敵対関係など忘れ、同時に得物を乱入者へと向けた。

 

ガシャン、ガシャンと金属を打ち付けるような足音と共に現れた姿に、士郎と凛は既視感を覚えた。銀色と身体に手足に生える鋭く黒い棘など異なる部分は多くある。だが、大きな複眼とアンテナ。

見覚えのありすぎる腹部の装飾は彼らの知っている誰かを訪仏させた。

 

「光太郎…さん?」

 

思わず士郎が口にした名が聞こえたのか。銀色の存在…世紀王シャドームーンは士郎へと目を向ける。

 

「…情報通り、ブラックサンとは知己であるようだな」

「ブラックサン…?」

 

シャドームーンの放った聞き覚えのない名に凛は、やはり彼の姿を思い浮かべる。ただ、似ているだけのはずがない。凛が推測している間に、シャドームーンはその姿が消えてしまう。

 

「一体どこへ…?」

 

辺りを見回すセイバーの耳に、少女の悲鳴が届いた。急ぎ声の聞こえた方へと振り返ると、シャドームーンは後方で戦いの行方を見ていたイリヤへと一歩一歩近付いていたのだ。

 

「あ、ああ…」

「…お前か。此度の聖杯は」

「っ!?」

 

シャドームーンの言葉にイリヤは目を見開いた。なぜ、目の前にいる存在は、自分の中にある聖杯を知っているのか。だが、イリヤにはそんな疑問よりも目の前に立つ存在への恐怖が勝っていた。

 

「バーサーカーッ!!」

 

イリヤの叫びに反応し、バーサーカーは咆哮と共にマスターの元まで疾走。振り向こうともしないシャドームーンの背中目がけ、斧剣を全力で振り下ろした。誰もがバーサーカーによりシャドームーンが両断されると確信していた。

 

だが、斧剣はシャドームーンに届くことはなかった。

 

シャドームーンは振り向くことなく、手にした剣…サタンサーベルの切っ先で斧剣を防いでいたのだ。セイバーですら両手で剣を持って受け止めるだけでも精一杯である巨人の一撃を、シャドームーンは微動だにせず受け止めていた。

 

「不意打ちでもその程度なのか…?神話で英雄と称えられたヘラクレスが、聞いて呆れるな」

 

複眼を怪しく緑色に光らせながら、シャドームーンはゆっくりとバーサーカーへ顔を向ける。見る者は命すら止まると思える程の殺気を込めた視線にバーサーカーは気圧されるが、払拭するように振り向き、向き合って対峙するシャドームーンに向けて次々と斧剣の連撃を繰り出した。

 

振るった剣圧だけでアスファルトを削り取る嵐のような乱撃。2人の周辺にある大樹や草が抉れ、吹き飛んでいく。風圧で飛ばされないように腕で顔を庇いながら立ち上がる士郎は目に映っていることが信じられなかった。

 

バーサーカーの攻撃を受けながらも、シャドームーンは一歩も動かず、全ての斬撃をサタンサーベールで弾き、凌いでいたのだ。

 

 

「無駄だ。英霊とはいえ、所詮人間が私に勝つことなど…」

 

サタンサーベールの切っ先ではなく、刀身で受け止めたシャドームーンは腕を天へと振るい上げ――

 

「出来んのだ」

 

巨大な斧剣を空高く吹き飛ばしてしまった。

 

その直後、バーサーカーは斧剣を追うようにその場から跳躍。回転しながら落下する斧剣の柄を両腕で掴むと、真下で自分を見つめるシャドームーンに向かい全力を込めて叩き込んだ。

 

足元が揺らぎ、地面が捲りあがるほどの衝撃。バーサーカーの重量に加え、落下するスピードを合わせた一撃に流石のシャドームーンもただでは済まないはずだ。状況を見守っていたセイバーは

土埃の張れた光景に思わず声を漏らした。

 

「ま、まさか…」

 

 

バーサーカーの全力を込めた一撃は、シャドームーンの受け止められていた。しかもサタンサーベルではなく、緑色のエネルギーを纏った腕で刀身を掴まれた形でだ。

 

「…その名に似合わず器用なことをする。どうやら貴様という存在を侮っていたようだ。私に、この力を使わせたのだからな。いいだろう」

 

斧剣を掴んだ手に力を込める。刀身に亀裂が走り、バーサーカーの斧剣は真っ二つに砕けてしまった。

 

「その身に教えてやる。世紀王の力を」

 

サタンサーベルを振るい、ベルトから放たれた力を両足に宿したシャドームーンはその場から高くジャンプ。エネルギーを纏った両足が、バーサーカーの胸板へと叩き付けた。

 

 

シャドーキック

 

 

光太郎の必殺技であるライダーキックと同等、それ以上の威力を持つ蹴りがバーサーカーを吹き飛ばし、背後にあった大樹を次々と圧し折っていった。やがて地面へと落下したバーサーカーの命はまた一つ削られ、再生を開始している。しかし、シャドーキックを受けた衝撃でバーサーカーは意識を失い、ピクリとも動かなくなっていた。

 

「そ、そんな…バーサーカーっ!バーサーカーァッ!!」

 

必死に自身のサーヴァントの名を叫ぶイリヤはバーサーカーの元へ駆け出すがその途中、シャドームーンが立ちふさがりイリヤの額に手のひらを翳した。それだけでイリヤの意識を奪い、倒れようとした彼女を受け止め、抱きかかえたシャドームーンは士郎達の方を向く。最強のサーヴァントであるバーサーカーをたった一撃で沈めたシャドームーンへ戦慄する士郎達は思わず身構えるが、まるで興味を無くしたように踵を返し、森の奥へと歩いて行った。

 

一度足を止め、士郎達に目を向けたシャドームーンは光太郎へのメッセージを残して、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

「ブラックサンに伝えおけ。聖杯は、我らゴルゴムが有効に使うとな」

 

 

 

 

「………………………」

 

士郎から聞かされたアインツベルンの森で起きた一部始終を無言で聞いていた光太郎は思わず力強く拳を握る。それに気づいた慎二は話題をそらそうと気になっている点を問いただした。

 

「アインツベルンのマスターの事はわかったよ。サーヴァントの方はどうなったんだ?」

「あ、ああ。イリヤの城にいるよ。目を覚まして暴れまわると思ったんだけど、俺達が事情を話したら黙って城へ戻っていったんだ」

「…もしかしたらシャドームーンって銀ピカの攻撃で一時的に狂化が解けただけかも知れないけどね。もしあのまま暴れまわったらと考えただけでもゾッとするわ」

 

士郎の説明に凛は補足するとその時の光景を思い出したのか。身震いしながら紅茶へと手を伸ばしていた。そしてティーカップをゆっくり皿に戻すと、光太郎へと目を向ける。

 

「そして、ここからが本題。光太郎さん。貴方は依然、ゴルゴムにはただ因縁を付けられていたと私達には説明したけど、アレは嘘よね?」

「………………」

 

無言を肯定と受け止めたのか、凛の質問は続いた。

 

「あの銀ピカは光太郎さんと似た姿を持ち、自分達をゴルゴムと呼んだ。さらに『シャドームーン』に対するような名前…『ブラックサン』だったかしら?それを光太郎さんが変身した姿を指しているんなら…」

 

凛は鋭い眼光を光太郎に向けたまま、自分の辿りだした答えを突きつけた。

 

「光太郎さん。貴方はゴルゴムと最初から敵対していたのではなく、深く関わっていた方じゃないかしら?それなら、あの姿に変身出来るのも納得できるんだけど」

「遠坂先輩ッ!!」

 

大声を上げて立ち上がったのは、桜だった。その目は普段の大人しさとは考えられない程の怒りに満ちていた。実姉とはいえ、光太郎が人々を苦しめている悪魔の集団と同列に考えられるのが我慢出来なかったのだろう。実妹に睨まれながらも涼風を受けたように流す凛は冷静に言い返す。

 

「…あくまで私の考えを口にしているだけよ。何も絶対の結論とは思っていないわ」

「それでも、光太郎兄さんとゴルゴムをっ―――」

「桜」

 

一緒にしないで下さいと言いかけた桜を待ったをかけたのは隣に座っていた慎二だった。

 

「話が進まない。座れ」

 

的確であり、冷静な一言だった。しかし、ゴルゴムの被害者である光太郎が誤解されたままでは我慢できない桜は慎二にも物申そうと睨むが、慎二の手を見てハッとする。顔こそ普段通りであるが、拳が震える程強く握りしめている。

以前、光太郎の変身した姿を本人に聞き出そうとした士郎を締め上げた時のように、慎二も凛の言葉に怒り、普段なら絶叫しいているところだ。だが、今は優先するべきことがあると耐えている。冷静になれた桜はゆっくと腰を下ろし、凛に頭を下げた。

 

「すみません先輩。頭に血が上ってしまって…」

「気にしてないわ。誰でも身内を事になれば、ね」

 

心の中では桜にそこまで思われている光太郎が羨ましいと考えながらも、凛は再び光太郎へ目を向ける。桜にここまで言わせておいて、黙っているなど許せないと言わんばかりに睨み、それを理解したのか、光太郎は説明を始めた。

 

「…わかった。話すよ、本当の事を」

「コウタロウ…いいのですか」

「巻き込みたくなかったとはいえ、嘘をついていたのは違いないからね。それに…もう、事態はゴルゴムと俺の問題じゃなくなっている」

 

心配するライダーに微笑みながら答えた光太郎は、説明を始めた。ライダーが夢に見た、自分と家族を失い、手にした悍ましき王の力について。

 

 

 

 

 

話を聞き終えた士郎達の反応は、絶句としか言いようが無い。ゴルゴムの起こした非道、光太郎を襲った悲劇。それでも戦い続ける彼の生き様に、凛は先程自分が抱いた推測は彼の負った傷に追い打ちをかけるようなものだったと理解する。桜が怒るのも当然と言える。どうにか光太郎と桜に謝りたいところだったが、先に光太郎の言葉が続いた。

 

「これは、慎二君と桜ちゃん。無論、キャスター達にも話してある事だけど、衛宮君たちにも説明する。俺が、聖杯戦争に参加する理由を」

 

話を聞いていた限り、光太郎は聖杯に託す願いはない。ならば、彼の戦う理由とは、なんなのか?

 

 

 

 

 

「俺の目的は、聖杯の、いや―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この地にある大聖杯を消滅させることだ」

 

 

 

 




バーサーカーファンの方々、申し訳ありません。

そしてもはや聖杯戦争どころではなくなってまいりました…

ご意見・ご感想お待ちしております!


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第44話『聖杯の正体』

Fate関連のCMが色々と流れ始めましたね。hollowにTV新シリーズ。九月以降も楽しみです。

説明回の44話をどうぞ!


ライダーは夢で見た間桐光太郎の過去にあったある一部分を思い出す。

 

光太郎が初めて自ら『仮面ライダー』と名乗り、怪人を撃破した直後の事だ。

 

 

間桐蔵硯がカミキリ怪人の攻撃を受け、只でさえ危うい状態の身体が維持出来なくなり、崩壊を始めていた時。彼は光太郎が頷くしかない話を持ちかけていた。

 

 

「聖杯、戦争…?」

「名前だけならば、聞いたことがあろう」

 

冬木に降臨する万能の願望機である聖杯。それを奪い合うために7人の魔術師が最後の1人になるまで殺し合う。これが表向きの聖杯戦争の内容とされている。

 

だが、それはあくまで必要な『儀式』の為に外部の魔術師を呼び寄せる事に過ぎなかった。その儀式とは、魔術師の到達点とも言える『根源』へと至るまでの『孔』を穿つ為、英霊を生贄とする事だ。

 

英霊を一度サーヴァントとして召喚し、殺すことで再びその『座』へと戻ろうとする魂を溜めこみ、一気に解放される力を利用して孔を開け、固定させる役目を持つのが『聖杯』であり、そこには無尽蔵の魔力が宿る。それがどんな願いでも叶える事に等しい力を使用者に与える。まさに『願望機』と呼ばれるに相応しい礼装である。

 

しかし、本来純粋無色であるその力は、第三次聖杯戦争でとあるサーヴァントの脱落した際に汚染され、使用者の願いを『破壊』の形でしか叶えない呪いの杯と化してしまう。

 

第四次聖杯戦争の終盤でそれを知ったマスターの1人は、この世界に呪われた聖杯が生み出される前に自身のサーヴァントに令呪を用いて破壊を命令。嘆くサーヴァントの宝具で聖杯の破壊には成功するが、その際にあふれ出てしまった呪いの泥が新都を飲み込んでしまい、大災害を齎す結果となってしまった…

 

あの大災害は聖杯戦争によって起きた。知らされた事実に光太郎は驚くしかなかった。

 

「その、聖杯戦争がまた始まるというんですか…?」

 

蔵硯はゆっくりと頷く。地脈を通るマナが蓄積し、サーヴァントや聖杯降霊に十分な魔力が溜まるまで60年の期間が必要だったが、前回の第四次聖杯戦争は明確な勝者がなく、そして現れた聖杯が使用されずに破壊されてしまった為、過去にない短期間での再開となっている。

 

「なら、止めないと!理由を話せば、マスターとなる人や教会の人たちだって…」

「無駄じゃ。魔術師は自分の目的以外には興味はない。遠坂の当主はともかく、アインツベルンはその力さえ喜んで自らの宿願の糧とするじゃろう。そして教会は…あの者が監視役である限り無理であろう」

「あの者…?」

 

それは誰なのかと考える光太郎に、蔵硯は口を歪めながら自分の目的を告げる。

 

「そして儂も魔術師。もう儂自身では叶わん願いを貴様に叶えて貰うとする…」

「…………………………」

「光太郎よ。聖杯戦争へと参加し、全ての元凶たる大聖杯を消滅させてくれ」

「大、聖杯…」

 

先に述べた聖杯はサーヴァントの魂を留め、根源への孔を固定させる役割を持つに対し、大聖杯はマスターを選定し、サーヴァントという規格外の存在を現界させる聖杯戦争というシステムのマスタープログラムと例えても良い多重刻印式の魔法陣だ。

 

「大聖杯がある限り、この地での聖杯戦争はいつまでも続く。その度に欲望に駆られた魔術師と、戦いにより無関係の人間が次々と命を落とす。もし聖杯戦争を止められるとしたら、此度以外には、なかろう」

 

もし大聖杯そのものを破壊することが成功すれば、冬木では二度と聖杯戦争は繰り広げられることはなくなるだろう。

 

(その大聖杯へ近づくためにも聖杯戦争にマスターとして参加しろということか…だが、俺にそんなことができるのか…?)

 

大災害を起こした聖杯の力を放っておくことは出来ない。だが、魔術に関しての知識を何一つ持たない自分に、奇跡に近い力を持った聖杯を破壊できる程の力を持っているのだろうか…

 

「自信を持て。お主なら出来るはずじゃ」

「お爺さん…」

「…と、励ますだけならいくらでも出来る。正直に言えば、お主に任せることは博打に近い」

「…その状態でも持ち上げて落とすなんて、流石です」

 

徐々に体が崩壊しながらも皮肉を口にする蔵硯に光太郎は溜息を付く。気持ちを切り替え、蔵硯の言った『博打』の具体的な内容を聞き出そうとするが、なんとなく、祖父の言わんとすることが理解できた。

 

「…なるほど。確かに、大博打だ。何せついさっき『使えるようになった』ものですし」

「…すまんな。お主には死んでもらうことになるかもしれん」

 

蔵硯は静かに目を閉じて自分の腹部に触れる光太郎へ詫びた。

 

「…魔術に関して不安を覚えるようであれば、腕の立つキャスターが召喚される事を祈ることじな。運が良ければ、より確実に大聖杯の分析が可能となるじゃろう」

「そうでなければ、協力を頼みますよ。マスターへの説得も考えると骨が折れそうですが」

「方法は、貴様に任せる…」

 

光太郎は頷いた。自分に託された『聖杯戦争の終焉』という願いを実現させるために。

 

「…分かりました。その為に、聖杯戦争に参加します」

「ならば、その手をだせ」

 

 

こうして光太郎は蔵硯により令呪を託されたのだった。

 

 

 

 

「…以上が、聖杯に関して俺達が有している情報全てだ」

 

言葉を閉めた光太郎は、家を訪ねてきた3人の顔を見る。比較的冷静である凛は汗を斯きながらも口を押えて考えている様子だが、士郎とセイバーの聖杯の正体への動揺が隠しきれない。

特に、セイバーは先程から青い顔をしている。

 

「質問は、あるかい?」

「では…」

 

光太郎の言葉に反応したのはセイバーだ。最悪の返答を覚悟しながらも、確認したいことが彼女にはある。

 

「…コウタロウの説明で聖杯がどのような状態にあるかは解りました。ですが、もし、今の聖杯へ願った場合は…」

「説明した通り、願いは『破壊』という結果でしか叶えられない事になっている。例えば、ビルゲニアが創世王となると願ったとしよう」

 

セイバーは自分と剣を交えた敵の姿を思い浮かべる。彼もまた、王という存在に運命を踊ろされた1人だった。

 

「恐らく、聖杯はビルゲニアが創世王となる為に俺のような邪魔な存在。逆らい、敵対する存在。自分を認めない存在。それを全て殺し、ビルゲニアを王とする世界を創る。そこにはもう、誰一人存在しないだろうね」

「それは矛盾している!民がいてこその国のはず!逆らう者を殺し、王しかいない国など、国ではありません!」

「聖杯にその判断はできない。あるのは願った者の望みを歪めた形で実行するという機能だけだ」

「………」

 

光太郎の説明を受けたセイバーは項垂れてしまう。もし、今の聖杯に『自分の望み』を託したのなら…想像するだけで吐き気が催してきた。彼女の様子を見たライダーは隣に座る光太郎へ一端話を区切ることを提案する。

 

「コウタロウ。一度話を区切って。お茶を入れ直してもいいでしょうか?」

「…そうだね。俺も一度部屋に戻るよ」

「…………」

 

立ち上がった光太郎はリビングの外へと向かう。その後ろ姿を見ていた慎二は光太郎が出ていくのを確認すると、キッチンへ向かう桜とライダーへ呼びかけた。

 

「光太郎の分は今入れなくていい。あと30分は戻ってこないから」

「…そうですね。わかりました」

 

慎二の言う事を理解できたのか、桜は光太郎のカップを下げ、落ち込むセイバーをフォローする士郎と凛。その姿を溜め息をついて見ているキャスターのお茶を用意する。

 

「あの…コウタロウが戻らないとはどういうことですが?」

 

桜の隣でお茶を入れる準備を手伝うライダーは桜に尋ねた。

 

「…光太郎兄さんって、戦い以外で怒ることは滅多にないんです」

 

言われてみればゴルゴムに対しては怒りは隠さない光太郎だが、ライダーが間桐の家で過ごし始めてから、怒った姿は見た事がない。

 

「確かにコウタロウが怒るが珍しい。しかし、それと何の関係が…」

 

ライダーの質問に、桜はティーカップに出来立ての紅茶を注ぐ手を止めて答えた。

 

「さっきのお話の時、光太郎兄さんはみんなに気付かれないように怒ったのを隠したんです。でないと…」

 

 

 

そこは、かつて蟲倉と呼ばれていた場所。現在では慎二と桜の訓練場と化しており、あちこちに魔法陣や攻撃魔術の的となったものが焦げ付いて辺りに転がっている。

 

その暗闇の中で、光太郎は顔を押さえながら震えていた。

 

「我慢…出来るようになったのは良いけど、流石に耐える時間が長かった…かな…?」

 

ゆっくりと手を離すと、光太郎の顔に手術後のような傷跡が多く浮かび上がり、赤く光っていた。

 

これは光太郎が改造手術を行った後の名残であり、感情…主に怒りが高ぶってしまうと浮かび上がってしまうのだ。改造された直後、ゴルゴムから逃亡を続けていた光太郎は、秋月家と両親を奪ったゴルゴムへの怒りが収まらず、傷が顔に浮かんでいる状態が続いていた。やがて冬木にたどり着き、間桐家の一員になってから感情高ぶることはなかったが、すでに自分がどのような存在か知る

家族以外に自分の傷跡を見られることを恐れた光太郎は、感情が高まっても傷跡を浮かせないようにする訓練も行っていた。強引に昔を思い出し、浮かびそうになった傷跡を隠す。

繰り返すことで怒りの感情が高ぶっても平常でいられる成功するが、完全ではなく傷跡を見せなかった分、後から傷跡がよりくっきりと浮かぶだけでなく、傷が痛みだしてしまうという結果となってしまった。

 

痛みに耐えながらも光太郎は士郎の話にあった宿敵の行動が許せず、拳を壁に叩き付けた。

 

「信彦…お前は、そこまで落ちてしまったのか…?」

 

シャドームーンが攫ったマスターである少女…イリヤスフィールが体内に宿している聖杯が狙いなのは理解できる。だが、それでも光太郎は聖杯を奪うために本来はゴルゴムと関係のない少女を連れ去った彼の行いが我慢できなかったのだ。

 

「もし、彼女に危害を加えるようならば、俺は…」

 

拳を強く握りしめる光太郎。彼の顔には、痛々しい傷跡がまだはっきりとした形で浮かんいた。

 

 

 

 

そこはゴルゴムの秘密基地内にある一室だった。ゴルゴムに忠誠を誓い、出入りが許された人間が過ごす為に作れた為が一線を画す内装となっている。いうならば高級ホテルの一室のような場所だ。その部屋に設置されているベットにイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは眠っていた。

 

定期的に呼吸をしながら夢を見ている少女の傍らに、世紀王シャドームーンは立っていた。眠る少女の顔にゆっくりと手を伸ばすと、目にかかっている前髪を優しく指で払いのけた。

 

 

「…………何をしているのだ。私は」

 

イリヤから手を放しながら自問するシャドームーンは、眼下で眠っている少女を見る。頭に浮かぶのは、改造される前に家族として過ごしていた別の少女。どうやら重ねて見てしまったようだった。

 

「ん…ここは?」

「目が覚めたか」

「あ、貴方ッ!?」

 

眠りから覚めたイリヤは飛び起きる。自分のサーヴァントであるバーサーカーを倒した存在がここにいるということは少なくても自分の住む城ではない。ベットが飛び降りて距離を置くと全身の魔術回路を解放。魔術で攻撃をしかけようとするが、シャドームーンが指を鳴らすだけでそれは消滅した。

 

「あ…」

「無駄な事をするな。バーサーカーすら叶わなかった私に、お前のような小娘が勝てると思ったか?」

「…………」

 

言い返せないイリヤはシャドームーンを睨むことしか出来なかった。シャドームーンは気にも止めず、踵を返して部屋が出て行こうとする。

 

「この扉を一歩出れば怪人どもの巣窟だ。命が惜しければ、大人しくしているのだな」

「どうかしら?私の持っている聖杯が目当てなら、どの道命はないと思うけど?」

 

唯一の反攻として笑いながらの強がりを見せるイリヤに、シャドームーンは物ともせず答えた。

 

「貴様がゴルゴムに忠誠を誓うというならば、命を失わずに聖杯を取り出すことも可能だ。先の短い命も、永遠にする事もな…」

「え…?」

 

シャドームーンはそれ以上一言も話さず、部屋を後にした。

 

「生き…られる?」

 

決められ、受け入れていた自分の運命を覆る言葉が、イリヤを揺らし始めていた。

 

 




顔の傷跡に関しては21話に触れていたりします。

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第45話『英雄王の遊戯』

またもや声優ネタ
仮面ライダー大戦を見直していると、BLACKに声を当てているのはラジレンジャーでお馴染みの神谷浩史氏。(Fateでも慎二君でお馴染みですね)声を聴いていて、光太郎からキングストーンを引き継いで2代目として活躍する…と考えた3秒後、改造されてないからダメじゃんと即却下したのでありました

今回は短めな上に主役不在。今回の主役はあの人な45話です!



「店主、今日の取れ立てを10匹ほど用意しろ」

「おぅ、王様じゃねぇか!毎度ありぃ!!」

 

商店街の魚屋で顔見知りであろう店員に命令するかの如く注文をする金髪の青年だったが、店員は気にする様子もなく今朝一番に仕入れた新鮮な魚を発泡スチロールに詰めていく。

 

「王様ぁ!そっちばっかじゃなくて偶にはウチの肉も買ってってくれよぉ!」

「いやいや、うちの野菜をね…」

 

注文した魚を待つ青年を発見した途端、次々とかかる勧誘の声。青年は振り向かず、自分を見つけては通り過ぎていく商店街で暮らす人間の声を、不快には思わなかった。

 

(黒陽を連れて回った結果、か)

 

大学帰りの光太郎を発見しては無理矢理連れ回していた時、この商店街を紹介させた際は奇異な目で注目されていたが同行する光太郎を見るや、彼の友人と認識され気さくに声をかけてくる面々に唖然とした。

 

それまで彼が認めた、或いは渡り合った相手以外の者が見る目というのは、彼が持つ凄まじい力の前にひれ伏すか、口には出さないが敵意に満ちた目を向けるかのどちらかだった。人の視線など気にも止めることがなかったが,光太郎が同行しなくとも立ち寄れば笑顔で接し、商品を勧めてくる状況を青年は楽しみ始めていた。青年もまた、高慢な態度と大金を持って商品を買い上げていく姿から商店街では『王様』と呼ばれ始めていたのだった。

 

「所でよぉ、3日に一度は生魚買ってくみてぇだが、王様はペンギンでも飼ってんのかい?」

「似たようなものだ」

 

代金を支払い、魚の入った袋を受け取った青年は適当に答えると、自分に向かい走ってくる小さい影に気付く。

 

「王サマーッ!!」

「ん…?」

 

小学生程の少女だろうか。少女は買い物を終えた青年の前で立ち止まると、息を切らせながら彼を見上げる。何かを伝えようとしているが言葉が上手く浮かばず、涙目になりながら見上げる少女の顔を見て、只ならぬ事と理解した青年は視線を合わせる為に膝を付いて、少女に自分を探していた理由を尋ねた。

 

「慌てるな。何があったのだミミ」

 

ミミと呼ばれた少女はようやく話せるようになると、青年の服を掴んで叫んだ。

 

「王サマ、お願い!クーちゃんを助けて!!」

 

 

 

 

港で起きている異形同士の戦いに、子供たちは息を飲んでいた。いや、正確には子供達の知る存在が突然現れた怪物から一方的に攻められているという方が正しい。

 

 

子供達は親しくなった外国人の友人の待ち合わせをしていた。いつものようにゲームをし、青年から貰った小遣いでお菓子やジュースを準備。そして海にいる『友達』に乗って海を渡るといつものように楽しい時間となるはずだった。

 

だが、その友達を怪物が襲った。

 

友達は必至に抵抗しているが相手は2体。螻蛄とサンショウウオがに似た姿をした怪物はそれぞれ毒液、伸ばした舌で攻め立てるが、友達は回避と防御を繰り返すばかり。歯がゆく思った子供達だが、その行動が自分達が逃げ出すための時間稼ぎと理解したのはしばらくしてからであった。

 

「どうしよう、このままじゃ…」

 

焦る子供の1人が思わず声に出すと、誰かが自分の頭頂部に手を当てていることに気付く。見上げれば、待ちわびていた人物の名を叫んだ。

 

「お、王サマッ!!」

「コウタ。これを持って下がっていろ」

 

青年は魚の入った袋を手渡すと、両腕をズボンのポケットに入れたまま悠々と友達の元へと歩いていく。自分達に接近する存在に気付いたのか、ケラ怪人とサンショウウオ怪人は青年へと振り返る。

怪人達の足元には体中を傷だらけにしたクジラと似た異形が倒れている。見る限り、まだ致命傷には至っていない。クジラ怪人の姿を見た青年は明らかに怒りの感情を見せていた。

 

「…我の庭に土足で入り込んだ挙句、我の民を怯えさせ、蹂躙した罪…呆気なく散るだけで済むと思うなよ」

『ククク…流石は人類最古の王と呼ばれた男か。口だけは達者と見える』

 

ケラ怪人から聞こえた声に青年は足を止める。青年の知っている限り、怪人には自分から人間の言葉を発する者は僅かだ。だが、怪人自身が話しているにしてはその『意思』が怪人自身が感じられなかった。

そうなれば、怪人が話せるもう一つのケースだろう。何者かが怪人を通して声を出している場合だ。

 

「…飼い虫の躾がなっていないな。それとも、我の所有するものと知っての狼藉か?」

『フン…そういえばクジラ怪人が裏切った際には貴様もその場にいたのだったな…さらに言えば、仮面ライダーの周りは常にお前がいた!』

 

 

青年が光太郎と知り合って間もない頃だった。

光太郎に刺客として放たれたクジラ怪人は最初こそ海を汚す人間を許せずにいたが、海辺でゴミを集めている子供達と光太郎達間桐兄妹(慎二は強制連行)を見つける。

彼等の行動を見て果たして人間は滅ぼすべき存在なのか…悩みながらも光太郎の前に出たクジラ怪人と同時に別の怪人…イカ怪人が現れる。変身した光太郎は戦うが、2体同時の攻撃に苦戦を強いられてしまう。光太郎はクジラ怪人に拘束され、止めを刺されるかと思ったその時、イカ怪人が光太郎とクジラ怪人を同時に攻撃したのだ。

 

変身前、子供達と共にゴミ拾いをしていた光太郎に対して、隙だらけの姿を奇襲しなかったクジラ怪人を役立たずと決めつけたビルゲニアが処刑命令を下したのだ。

 

ゴルゴムに情けを持つ者など無用と。

 

ショックを受けるクジラ怪人に容赦なくイカ怪人は攻撃を放つが、光太郎は身を挺してクジラ怪人を庇う。ダメージを負いながらも、自分達の目的の為なら仲間の犠牲も問わないゴルゴムに怒る光太郎の逆襲が始まった。

触手や破壊光線による攻撃に対応しながらもイカ怪人を追い詰めた光太郎。不利と考えたイカ怪人は墨を吐いて怯んだ隙に逃げ出そうとするが、クジラ怪人が発射した白い粘液で封じられてしまう。

尽かさず光太郎の必殺技が炸裂し、イカ怪人を葬ったのだ。

 

そして光太郎の勧めで海へと帰ったクジラ怪人。

 

その一部始終を見ていた青年は光太郎へ更なる興味を抱いていた。

 

世界を裏から操っている強大な敵を全て倒して見せると豪語し、さらには絶対に分かり合えるはずのない怪人と意思の疎通を成し遂げる。

 

運命に抗い続けるこの男がたどる道を見極める。

 

それが彼…現在の英雄王ギルガメッシュが光太郎に接触する理由だった。

 

 

『だが、これから行うのは裏切者の処刑だ。貴様は関係なかろう』

「どうやら理解が足りていないようだ…」

 

ギルガメッシュが一歩前へ出ると同時に、2体の怪人を金属のようなもので思い切り叩かれたような衝撃が襲う。何が起きたのかはギルガメッシュの背後にいる子供達も、2体の怪人も、怪人を通して言葉を送っていた大怪人バラオムも分からない現象が起きていた。

 

さらにギルガメッシュが歩いた歩数の分だけ衝撃が走る。それも打たれた場所が全てバラバラであり、怪人達の背中、腕、腹部と打ちつけており、傍から見れば不格好な踊りを興じているように見えなくもない。怪人の無様な姿に当初は怯えていた子供達も笑い始めてしまった。

 

 

この現象はギルガメッシュの持つ『王の財宝』によるものであり、彼が持つ無数の武具の内、盾やメイス等の打撃に使えるものを選定し、出現場所である空間の歪を怪人の身体から数ミリという密着状態から射出、収納を繰り返し行い、恰も見えない攻撃を仕かけていたのだ。

 

ギルガメッシュが怪人2体の前に立っていた時は、ケラ怪人の翼は折れ、サンショウウオ怪人は大口を開けられないほど頬が腫れ上がっていた。既に膝をついている怪人2体を見下す青年の目はどこまでも冷たかった。

 

「いいか。我の庭たる世界では生殺与奪も全て我の手の中にある。我の許しなく、処刑などと大事を抜かす輩はこの場を持って始末したいところだが…」

 

背後にいる子供達に一度視線を向けるギルガメッシュ。既に2体の怪人から逃げ出していたクジラ怪人の傷の具合を見ている様子で、こちらに目を向けている子供はいない。

 

「貴様たちの血肉が吹き飛ぶ様など小童達が目が穢れるだけだ。どこへでも消えるがいい。二度と此処に醜き姿を現さなければ、な」

 

ギルガメッシュは今度こそ自分の背後に『王の財宝』を展開。無数の剣や槍の先を怪人達へと向けた。

 

『おのれ…撤退だ!大事を控える今、戦力を失うわけにはいかん!!』

 

指示に従うように、ケラ怪人を抱き上げたサンショウウオ怪人は指を押し込み、強引に口を開けると煙幕を吐き出す。晴れた頃には、怪人の姿はどこにも無かった。

 

「フン…」

 

鼻を鳴らして踵を返したギルガメッシュはクジラ怪人を介抱する子供達の元へと歩いて行く。彼をまっていたのは、感謝するのように頭を下げて喉を鳴らすクジラ怪人と、子供達の賞賛であった。

 

「すっげーッ!!あれ王サマがやったの!?」

「歩いてるだけでアイツらボコボコにしたの?どんな仕組み!?」

「理由などない。我が王というだけだ」

 

意味の分からない理由の説明に「オォ~」「かっけ~」という自分を称える声を聴き、自分の購入した魚を少女に与えられているクジラ怪人の頭を撫でながら、ギルガメッシュは怪人が放った言葉を口にするのであった。

 

「大事を控えている、か」

 

 

 

 

ゴルゴム秘密基地

 

 

「ええぃ!生意気な奴め!!」

「落ち着けバラオム。既に聖杯は我らの手にあるのだ」

「だが、肝心の『中身』共が仮面ライダー達と結託してるのだぞ!」

 

怒る大怪人バラオムを落ち着かせようとダロムは自分達が有利であることを伝えるが、バラオムの言う通り、聖杯としての『器』であるイリヤスフィールは現在、シャドームーン自身により軟禁状態にある。しかし、『中身』である英霊達は魂の状態どころが生存し、大半が仮面ライダーの元へと集っている。先程の前回の聖杯戦争の生き残りであるサーヴァントもどちらかと言えば仮面ライダー寄りである状態だ。これではゴルゴムによる『忠誠を誓った者以外の人類抹殺』が叶うことができない。

 

「最悪の場合、聖杯を取り戻す為にこちらへ攻め込んでくる可能性も…」

「むぅ…」

 

情報の提供者から聞いた通りならば、まず英霊を倒さなければならない。だが、先ほど裏切者に差し向けたように、英霊相手に怪人2体でも返り討ちに会うのが落ちだ。シャドームーン直々に出向けばバーサーカーのように倒す事も可能だろうが、世紀王であるシャドームーンにサーヴァントの始末を願うなど、大怪人である彼等のプライドが許さなかった。

 

「手段はある。仮面ライダーに与する英霊共を殺さずとも、聖杯を機能させる手段が」

「そんな手段が!?どのような方法があるのですか!」

 

低い声で告げたダロムの言葉に食いつくビシュムは喜々として聞こうと耳を立てる。

 

 

「聖杯の予備システム…これを作動させれば、さらに7つの魂を呼び出すことが可能とされている」

 

 

 




王様は日が暮れるまで遊び倒しました。ちなみに一番盛り上がったは一度も死なずにどこまで進めるか競った初代マリ〇ランドだったり。

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第46話『光太郎の願い』

UA 60,000突破!本当にありがとうございます!!

それでは、46話です!


間桐光太郎が席を外し、セイバーの気分転換と彼女を引き連れて外を見渡せるテラスへと移動した衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜とライダー。そして客間に残った2人は――

 

「…じゃあ、大聖杯自体の解体は可能なのか?」

「そうね。人間の手によって組まれたものなら解くこともまた人間によって、という所よ」

 

間桐慎二の質問に答えたキャスターは彼の祖父…間桐蔵硯の残した情報を元に作成した資料をパラパラと捲っていく。聖杯戦争というシステムを構造についてもちろんだが、その内容をこと細かに纏めた少年に感心した。術式の読解力、関連していると考え挙げられた他系統の魔術、そして魔力なしにどう対応すればいいかの考案…ここまでの知識を身に付け、情報を得るには並大抵の努力では足りないだろう。

 

「…魔術回路を持たないことが本当に惜しいわね」

「なにそれ?皮肉?」

「好きに捉えればいいわ」

 

キャスターの言葉に目を吊り上げる慎二を余所に、彼女は光太郎が提案した『最悪の状況』に陥った際の対策に難色を示していた。とても正気の沙汰とは思えないからだ。

 

「…君のお兄さんが考えることが、まるで分からないわ。赤の他人の為に戦い、敵に手を伸ばし、挙句の果てがこんな自殺行為なんて…はっきり言って、異常ね」

「その辺は同意する」

「あら、さっきのお嬢さんから言われた時のように、怒ると思ったのだけど?」

 

横目で慎二を見るキャスターはからかうように笑っている。表情には出さなかったが、凛が光太郎をゴルゴムと同一視していた事に、表情に出さなかったものの怒りを抱いていたことに気付いていたらしい。流石は年の功…と言おうとしたが命の危険を察し、テラスに移動した友人たちの姿を見ながらキャスターに答えた。

 

「…他人の為に命を張る。言葉だけなら立派なもんだけど、そんなもの普通の人間の思考なら絶対に出来ない。けど、光太郎にとっては、当然なんだよ」

「当然…?余計分からないわね。何故そうまでして―――」

「『もう、元の身体は戻らないからね』…あいつ、笑いながら言いやがったんだ」

 

キャスターは自分の声を遮って放たれた慎二の、いや、光太郎の言葉に目を丸くする。ますます分からない。先程の話で光太郎が過酷な過去を持っていることは理解できた。だが、それが彼が誰かの為に戦う理由となるのだろうか…

 

「…身内の前で笑いながら自虐しているなんて、随分器の知れたことするのね」

「最後まで聞けよ。当然、僕だって聞いた時はふざけるなって言った。光太郎は―――」

 

その言葉は、今もはっきりと覚えている。義兄の、確かな決意の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――うん、慎二君が怒鳴るのも当然だよ。本当なら、笑いながら言う事じゃないよね。

 

 

 

 

―――だから、そんなふざけた事を言える奴は、俺で最後にしたいんだ。

 

 

 

 

―――ゴルゴムや、人の命を何とも思わない連中なんかの為に奪われて、悲しむのは、『俺達』で終わりにする。

 

 

 

 

―――そのためなら、俺は命を懸けて戦う。

 

 

 

 

―――この力も、誰かを守れるなら、迷いなく全力で使えるからね。

 

 

 

 

―――…ちょっとは、『仮面ライダー』らしくなったかな?

 

 

 

 

 

 

 

「最後の最後で、余計は一言だったけどさ」

 

曇りのない、真っ直ぐな瞳で告げられた義兄の戦う理由。慎二は耳にした時、反論しようにも、言葉が浮かばなかった。

 

「……………」

 

慎二の話を黙って聞いていたキャスターは思った。

 

 

ああ、本当にどこまでも愚かしく、優しすぎる男なのだろう。

 

 

望まずとも手に入れた人知を超えた力を復讐や、自らの為に使わず、あくまで『誰か』の為にしか使わない。

 

 

そして理解する。今まで遠目から見ていた彼の戦いは、常に誰かの為だった。どのような傷を受けようが、痛みを感じようが、自分を捨てて戦える。

 

 

だからこそ疑問に感じる。それを、キャスターは聞かずにいられなかった。

 

 

「…ねぇ、彼は…そんな道を選んで、なぜ平然と笑っていられるの?」

 

自分と同盟を組んでからというものの、彼の笑った顔以外は見た事がない。義弟や義妹、自らのサーヴァントと平穏を楽しむ一般人。聖杯戦争のマスターであり、仮面ライダーに変身することを知らなければ誰しも思う彼の姿だ。

それ故に彼の姿と、彼の意思は反しているとしか、キャスターには思えなかったからだ。彼女の質問に答える慎二の表情は、先ほどより暗い。

 

「愚問だね…平然としていられるわけないだろ?」

 

 

元より光太郎は好戦的な性格ではない。ランサーやアサシンのように、戦いを楽しむことなど、彼には出来なかった。変身するようになった前など、養父が目の前で死んだショックでかすり傷程度にすら見向きも出来なかった男だ。そんな光太郎が、喜んで戦っているはずがない。それでも、光太郎は戦う道を選んだ。そして戦いを終える度に、消滅していく怪人を見つめる仮面の下でどのような表情をしているかは、慎二には安易に想像できた。

 

「だから笑ってんだよ。こっちを心配させないように、戦かわない時は『人』でいられるように…」

「…彼は、幸せなの?」

「……………」

「そんな、無理矢理自分を納得させての戦いが終わった時、幸せになれるの?」

 

思わず聞いてしまったキャスターは自分でも驚く。

 

あくまで利害が一致して彼等の元へ下っただけだ。それに聖杯戦争が終わればこの世界から消え、彼の行く末など分かるはずがない。なのに、なぜ彼の今後が気になってしまうのか?

 

…重ねてしまったのだろうか?

 

神話の時代。利用され、裏切り者の烙印を押された自分と、世紀王の適合体というだけで改造されてしまった光太郎と。平穏に暮らすことなどもはや許されない存在と成り果てたことに…

 

「…そんなこと、僕にだって分かんないよ」

「…そう」

 

期待してしまったのかも知れない。彼の身内であるのなら、慰めでも彼は幸せであるという回答が返ってくると、キャスターは柄にもなく思ってしまった。だが、慎二の言葉は続いていた。

 

「ただ…」

「…?」

「もし、幸せになる権利ってのがあるなら…あいつは人の100倍は幸せになるべきだ。じゃなきゃ、割に合わない」

 

そう言って、キッチンの方へと歩いて行った。どうやら喉が渇いたのか、冷蔵庫から冷たいお茶を取り出している。

 

(…そう考えてもらえる人間が近くにいるだけで、彼は幸せかもしれないわね)

 

キャスターは最愛の人間が使用している部屋の方へと目を向ける。

 

(総一郎様…私のような者にも、あるのでしょうか…?)

 

 

 

 

 

 

間桐家の2階にあるテラス。

 

手すりに手をかけ、俯くセイバーはゆっくりと口を開く。

 

「…キリツグは、正しかったのですね」

「セイバー…」

 

セイバーの呟いた人物の名を聞き、士郎は養父の姿を思い出す。

 

 

衛宮切嗣

 

 

衛宮士郎を養子として引き取り、第四次聖杯戦争ではセイバーのマスターだった魔術師。

 

恒久的平和を求め、聖杯戦争に参加した彼は、目の前に現れた聖杯に対し、セイバーに宝具を持ってして破壊を命じた。切嗣と契約したセイバーに取って、彼が令呪を使ってまでの命令は、裏切りに等しい行為であった。しかし、光太郎達から聞いた聖杯の正体を知った今、その対処も頷けた。

 

「…あの時、聖杯には魔力が満たされ、目の前に現れたアーチャーを倒して、一刻も早く聖杯に手を伸ばそうとしていました」

 

考えるだけでもゾッとする。もし、アーチャー…ギルガメッシュが現れず、切嗣が令呪を使用しなければ、自分は願っていたのかもしれない。最悪、彼女のいた時代ではなく、現代の国でどのような

厄災が起こっていたか、分からない。

手すりを強く握るセイバーに、背後に立つ桜が呼びかけた。

 

「…セイバーさん。貴方が聖杯に願おうとしたのは」

「王の選定のやり直し…です。私が王でいることが、滅びへの道だったのなら―――」

「それは…正しいんでしょうか?」

 

静かに振り返るセイバーは、真っ直ぐ自分を見据えている桜を見た。

 

「しかしサクラ。私には、そうするしか祖国を救う手立てが…」

「ごめんなさい。私の言うことは、セイバーさんの願いを否定してしまうかもしれません。…それは、歴史を変えてしまうということなんですよね」

「…ッ!?」

 

桜の言葉にセイバーは目を見開いた。10年前、自分の抱いた願いを笑い、否定した2人の王。全く同じ事を言われているのだ。セイバーの様子がおかしいと判断した凛は仲裁に入ろうとするが、士郎に止められる。

 

ここは桜に任せてみよう。

 

対峙するように向き合うセイバーと桜を交互に見ながら、渋々と引き下がる凛。

 

「私にもあります。もし過去を変えられたら、今と違った生活があったかも知れないって。そう…何度も」

 

過去に交わした盟約により、遠坂の家を離れることになった桜は、間桐家の養子となるまでの間にそんな約束なくなっちゃえと何度考えたか分からない。大好きな両親と姉と、離れなければならない約束なんて、昔からなければと。

 

「けど、最近思えるようになったんです。変えられないから、『今まで』があるんじゃないかなって」

「『今まで』が…?」

 

復唱したセイバーに桜はコクリと頷いた。

 

「セイバーさんがいた時代で、どのような辛いことがあったかは、私にはわかりません。けど、それだけではなかったでしょう?」

「…勿論、です」

 

敵国を退けた時の兵達と民草の笑顔。信頼を置けた騎士達と過ごした時間。自分から人々が離れていく前に見た夢のような、今となっては掛け替えのない記憶だ。

 

「セイバーさんは、それすらも消してしまいたいんですか?」

「私は…」

 

直ぐに回答は出せなかった。無論、本来なら自分さえ選定の剣を抜かなければ滅びの道を歩むことは無かったと断言が出来たはずだった。しかし、桜の言葉を受け、王としての勤めに全力を尽くしていた際の達成感と安らぎを得た時間を今、脳裏に過ぎってしまった。

 

「…こう言ってくれた人がいました。『過去は変えたり、忘れるものじゃない。背負って乗り越えるものだ』って」

 

以前、自分が思ったことをそれとなく義兄に尋ねた事があった。

 

 

 

 

 

 

―――俺の場合、忘れられないという方が正しいかもしれないけどね。

 

 

 

 

―――だから俺は昔を決して否定しないし、忘れない。辛いことも、楽しいことも全部含めて、今があるから。

 

 

 

 

―――過去があるからこそ、そんな今と、そして未来を守る為に戦えるんだ。

 

 

 

 

―――それに、過去をやり直して桜ちゃんや慎二君との思い出を、無かったことにしたくないしさ。

 

 

 

 

 

笑顔で答えた光太郎が桜に伝えたかったことを、彼女はセイバーへと告げた。

 

 

「私のように、何も背負っていない人間が言う事ではないかも知れません。セイバーさんが、聖杯戦争に参加する理由を否定するかも知れません。けど、聞いて下さい」

「サクラ…」

「セイバーさん。過去を否定しないで下さい。受け入れて…前に進みましょう」

 

桜の言葉を聞いたセイバーに返事はない。だがその直後、振り返ったセイバーは手すりを足場にしてその場から跳躍。民家の屋根を飛び跳ねていき、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

 

「…先輩、ごめんなさい。私…」

「いいんだ桜。今のセイバーには、考える時間も必要だ」

 

頭を下げる桜を宥める士郎の様子を見ながら、凛は溜息を付いた。

 

「あのセイバーに正面からあそこまで言えるなんて…ほんと、立派に育ったもんだわ」

「そうですね…リン、それでは私はセイバーを追います」

「お願いねライダー。そっとしておきたいけど、今では1人にさせておくべきじゃないわ」

 

小声で会話を終えたライダーは霊体化し、セイバーの後を追う。ゴルゴムが聖杯を利用しようというのなら、サーヴァントの単独行動は恰好の的である。飛び出したセイバーには悪いが、彼女が気にしない範囲でライダーが控えていた方がいいだろう。この件は光太郎に後ほど説明すればいい。

 

 

 

しかし、凛の予想を超える事態が起ころうとしていた。

 

 

 

 

テラスの下から唸るバイクのエンジン音。一同が急いで下を見れば、ヘルメットを被った光太郎がバイクを急発進させていたのだ。

 

「光太郎兄さん…どうして?」

「桜っ!光太郎はッ!?」

 

階段を駆け上がってきた慎二が大声で義兄の行方を尋ねる。只ことでない様子に士郎が代わりに答えた。

 

「光太郎さんなら、さっきバイクで外に…」

「何だって…?察したとでもいうのかよ」

「間桐君、話が見えないんだけど、説明してくれる?」

 

凛の疑問に慎二は無言で携帯電話を操作する。液晶パネルにテレビの臨時ニュースを映し出し、士郎達に向けて突き出した。

 

 

『!?』

 

 

それは、新都で怪人の大群が暴れているという内容だった。

 




UCなどで本来は士郎の役目であったセイバーに過去改変の否定を言い伝えるポジションを桜が勤めました。
義兄に影響され、性格は変わりませんがメンタルは強くなっています。

そして、ついに表舞台にゴルゴムが…

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第47話『終わりの始まり』

今更ながら、仮面ライダーBLACKのBlu-RayBoxが発売とは…ぐぬぬ

原作ブラックだとあの衝撃的展開でありました47話でございます!


間桐家を飛び出したセイバーは、無我夢中で移動しているうちに深山商店街の近くにある公園へたどり着き、ベンチへと腰かけていた。

 

空を見上げ、今にも雪を降らそうとする雲を見つめながら桜に言われたことを思い出すセイバーは、白くなった息をゆっくりと吐き出した。

 

(確かに、この時代から見れば私のいた時代は過去だ…しかし…)

 

桜の言ったことは充分にセイバーへ伝わっていた。彼女が救おうとしていたのは、遥か昔の自分の治めていた国。今ある歴史を捻じ曲げるということにしかならないことも、セイバーはわかっていた。

 

(しかしサクラ…私の国が滅びたのは…この時代へと召喚される直前だったんです)

 

それはセイバーが他のサーヴァントと大きく異なる点だった。

 

 

聖杯戦争のサーヴァントとして2度も召喚されたセイバーだが、まだ死んでいないのだ。セイバーが自分の国が焼き堕ちていく光景を目にしていた時、『世界』と契約を結んだのだ。聖杯戦争を勝ち抜き、願いが成就された後に、死を向かえて正真正銘の英霊となると…

 

(私の願いは…叶わない。ビルゲニアの言った通りだ)

 

 

 

 

『この地に現れる聖杯には貴様の願いは叶えられん…絶対にな』

 

 

 

 

セイバーの持つ剣を狙っていたビルゲニアが彼女と決闘をする直前に聞かせた言葉。あの時点でビルゲニアは聖杯の正体に気付いていたかもしれない。だが、それをどうやって…?

思い出したと同時に疑問を抱いた時、彼女から擦り切れるような、どこか情けない音が腹部より響いた。

 

「ッ…………!」

 

急ぎ両手で腹部を覆い、周囲に誰か聞かれていないかと目を左右に向ける。幸いにも彼女の視界には他の人間は映っていない。安心して息をつくセイバーの背後に気配を一切絶った存在が現れる。

 

しかしセイバーが優れているのは直感だけではない。

 

数多くの戦いの中で直感に当たる第六感以外の五感も研ぎ澄まされいる。

 

その目で僅かな動作で敵の動きを見切り、

 

肌を撫でる微かな空気の動きで状況を判断する。

 

そして整った彼女の鼻孔は微かな匂いを嗅ぎ分けることが出来る。それが、最近マスターが購入して以降、お気に入りとなったものであれば目にせずとも、見た目では分からない中身も断定出来るほどに。

 

自分の背後に現れた匂い…もはや香りとも言ってもよいその正体を、セイバーは目を輝かせて振り返りながら叫んだ。

 

「これは…江戸前屋の大判焼きッ!!しかも期間限定の白あんですね!!!」

「正解です。驚き以上に、呆れたものですね。私の気配を察知せず、食物だけを嗅ぎつけるとは」

「………………………………」

 

出来立てで湯気の上がる大判焼きを手にしたライダーがセイバーに向ける視線はどこまでも冷たかった。

 

 

 

 

「状況が状況です。1人で考えたいところを申し訳ありませんが、隣に座らせて貰います」

「…………………………はい」

 

隣に座るライダーに小さく返事をしたセイバーは、彼女から受け取った大判焼きに噛り付いていた。本来ならば笑顔で頬張りたいところだが、先ほどの自分を見たライダーの目を思い出し、余所余所しく

少しずつ、大判焼きの面積を減らしていった。

 

(…落ち込んでいても、食欲には影響はないようですね)

 

ライダーは離れた場所から様子を見ていたかったが、気配を絶って接近しても気付く様子もなかった。もし、自分や真のアサシンと同じように気配を消せるゴルゴムの怪人が現れていたのならば…それを考えたら隣にいた方がまだ安心できる。そう判断したライダーは店頭販売していた大判焼きを購入し、セイバーへと近づいたのだった。

 

(…気付けないほど、響いたということでしょうか?)

 

光太郎が説明した聖杯の正体、そして桜が伝えた言葉…セイバーには悪い意味での衝撃が立て続けに起きてしまった。そして彼女が他のサーヴァントと違いもライダーは理解している。だからこそ聖杯を得る為に、彼女は死後の全てを英霊という座に捧げてしまう。そうまでして手にしたかった力が、滅びしか与えないと知った彼女の絶望は、計り知れない。

 

「…ライダーは」

 

逆に声をかけられたライダーは俯いているセイバーに急いで視線を戻す。既に大判焼きは姿を消していたが、そんなことは些細な事だろう。

 

「ライダーは、既に聖杯の正体を知っていたのですか?」

「…ええ。使ってはならないものという説明は召喚されてから直ぐに。しかし、正体を知ったのは最近です」

 

それも、マスターの記憶の中で聖杯戦争の発端となった人物から直々に聞いていた。淡々と述べるライダーにセイバーは続けて尋ねる。ライダーには予想のついていた質問だった。

 

「…ライダーは、何を望むつもりだったのですか?」

「私には、元より聖杯に託す願いはありません。この聖杯戦争に召喚されたのも、呼び出しに応じた。それだけでしたから」

「ではなぜ、戦えるのですか?聖杯という目的がなく、願望機が存在しないと知った上でも、なぜ…」

「………………」

 

セイバーにしては珍しい、食いつくような問いかけであった。

最初は、ただ聖杯戦争のルールに従うだけだった。マスターの命令通り、他のマスターとサーヴァントを倒して、聖杯を手に入れる。それだけでよかったはずなのに、今ではまるで違う理由で戦っている自分がいた。

 

「…最初はただ、見ているだけでした」

「見ている、だけ?」

 

要領を得ない言葉にセイバーは首を傾げる。

 

「サーヴァント扱いなどせず、家族に紹介された時には流石に動揺しました。それに聖杯戦争があるというのに、他の戦いを優先し、無事を祈っている家族に配慮しない、最低な人とすら思ったことも

あります」

 

それに嫉妬もあった。人でない力と容姿を持っても、家族として迎えてくれている義弟と義妹に懐かれている姿に。そんな恵まれた環境にいながら、2人を心配させるような戦いをすることに。

 

「ですが、共に過ごして、並んで戦っているうちに、自分でも分からないうちに充実している事に気が付きました。先程セイバーには、先程聖杯に託す願いはない、と言いましたが、訂正しましょう」

「訂正…?」

「私は、召喚され、最初こそ願いはありませんでしが、逆に召喚された事によって、願いが生まれてしまいました。決して、聖杯に願ってはいけない、望んではいけない願いを」

「そ、それは…」

「もう、勘付いているかもしれませんね。私は――――」

 

セイバーは自分と同じように空を見上げるライダーの横顔を見た。優しく、どこか儚げな目をしながらも、女性であるセイバーですら思わ見惚れてしまいそうな、美しい微笑みをライダーは浮かべた。

 

 

「―――私は、サーヴァントとして、マスターに抱いてはいけない感情を、持ってしまった」

 

 

もう、これ以上聞くまでもない。ライダーが光太郎と共に戦うのは、そういうことなのだろう。

 

「…ライダー、私は…」

「無理に回答を出すことはありません。今をどうするかは貴女自身が考えて、決める事ですからね」

「しかし―――」

 

 

 

 

2人の会話は、遠方から聞こえた爆発と振動により中断する。思わず震源と思える方へと目を向けると、絶えることなく煙が上がっていた。その直後、ライダーの所持していた携帯電話に間桐慎二から連絡が入った。彼との通話でその原因を知ったライダーとセイバーは急ぎ、新都へ向けて飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ胸騒ぎを、10年前に起こしたことがあった。

 

あの時は気のせいだと思い込み、自分のベットに潜り込んで朝を迎えていた。

 

その翌日。悪い予感は、悪い現実を引き起こすように、最悪なニュースが彼の目に届いていた。

 

冬木の新都を襲った大火災。

 

多くの建造物と人々が火に包まれ、報道される死者、行方不明者の数は延々と増加していった。

 

冬木に今なお深い爪痕を残す事件は、数多くの人々の心に深い傷を負わせている。

 

 

その時と全く同じ胸騒ぎを、間桐光太郎は感じていた。

 

そして理解する。

 

これは、自分の中にある『キングストーン』が起こした『警鐘』であると。

 

10年前は聖杯が破壊されたことによって溢れてしまったモノに対し、持ち主に危害が及ばないように知らせたのだろう。

 

 

そして今。

 

 

同じ感覚を受けた光太郎は迷うことなく、家を飛び出した。バイクを駆り、法定速度など無視して目的の場所へと疾走する。もう、場所は分かっている。

 

 

 

 

 

 

「これは…」

 

バイクを降り、ヘルメットをハンドルに掛けた光太郎が目にしたのは、廃墟と化している新都の中心街だった。

 

その光景は、10年前の災害を彷彿させている。唯一の違いは、周囲を火で包んでいないだけだ。立ち尽くす光太郎の目に、突然の事態に悲鳴を上げ、逃げまとう人々の姿が映っていた。

 

「くっ…!!」

 

拳を握りしめる光太郎は、駆け付けたレスキュー隊が必死に瓦礫の撤去を試みている姿に気付く。女性が大きなビルの柱に身体が挟まれ、身動きが取れない状態となっているようだ。

レスキュー隊員に抱かれている小さい子供は、瓦礫の下敷きになっている女性の子供のようで、母親に駆け寄ろうと必死に手足を動かしている。

 

ジャッキによって瓦礫が少しずつ持ち上がり、女性を移動させいようとしたそんな時、

 

「あ、危ないッ!?」

 

避難中の男性が大声でレスキュー隊員と女性の頭上を指さした。倒壊したビルの柱が崩れ、レスキュー隊員達に向かって落下している。レスキュー隊員が気が付いた時には既に遅く、柱は目の前に迫っていた。

 

もう駄目ならばこの人達だけでもと、女性と子供を庇うように覆いかぶさるが、何時までたっても柱が落下する様子はない。

 

隊員が恐る恐る目を開くと、1人の青年が落下した柱を両腕で受け止めていたのだ。

 

「き、君は…」

「そんなことより、はや、く…その人たちをッ!!」

 

青年の言葉にハッとした隊員は、他の隊員達と目を合わせる。お互いに頷くと急ぎ女性を救出作業を再開した。瓦礫を除去し、女性を移動させたことを確認した青年は柱を誰もいない路面へと放り投げた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

柱を受け止めていた青年…光太郎は無事である母親に抱き着いている子供を見て安吐するが、次々と突き刺さる視線を感じた。先程声を上げた避難中の人々が奇異な目で光太郎を見つめている。

 

中には『化け物…』と、思わず呟いている人もいる。

 

(当然…だよな)

 

 

落下する柱を受け止めるだけでなく、放り投げるなんて人間業ではない。これ以上注目されないうちに、去ろうとする光太郎の耳に、親子の声が響いた。

 

 

 

 

 

「ありがとう、お兄ちゃん!!」

「本当に、助かりました!」

 

 

思わず目を見開いた光太郎はゆっくりと振り向く。レスキュー隊員に支えられながら立ち上がった母親としがみ付いている子供が満面の笑みで光太郎に感謝を述べている。

 

 

「お、俺は…」

 

直ぐに言葉が浮かばない光太郎に、続いて初老のレスキュー隊員が声をかけてきた。

 

「君、俺達も御礼を言いたいところだが、まだ救助を待っている人たちがまだまだいる。手伝ってくれないか?」

「た、隊長ッ!?いいんですかッ!?」

 

若手の隊員が思わず意見するが、救急用の装備をまとめ、移動する準備を進めている別の隊員が割って入る。

 

「この状況だ。『ちょっと力持ち』の一般人に協力を仰いだって文句ないだろう?」

 

『ちょっと力持ち』を強調した隊員は周囲で足を止めている人々の反応を見るかのように見渡しながら立ち上がり、光太郎の肩を叩いた。

 

「…正直、さっきのは驚いたけど、君は自分を顧みずあの親子だけでなく俺達も助けてくれた。…図々しいかもしれないけど、力を貸してくれると助かる」

 

真っ直ぐ光太郎を見る隊員の目は、何の疑いも、恐怖もない、信頼しての眼差しだった。

 

光太郎は迷うことなく、頷いた。

 

 

 

 

光太郎はレスキュー隊員と協力し、崩れた建物に閉じ込められ、身動きのとれなくなった人々の救助に当たっていた。最初こそ光太郎の怪力に恐れの目を向けていたが、一心不乱に人々を助ける為に動き続ける姿を見て、周囲に変化が起き始めた。

 

ビルの扉を塞いでいる瓦礫の除去を、避難していた人々が協力し始めたのだ。

 

先頭を切って瓦礫をどかしているのは、光太郎を見て化け物と口にしてしまった男性だ。さっきはすまないと言いながら必死に瓦礫を運ぶ姿に茫然とする光太郎だったが、隊員に叱咤され、急いで作業を再開した。

 

 

その作業の中で、光太郎はレスキュー隊員の無線に耳を向ける。どうやら、光太郎が手伝っている別現場でも、一般人数名が救助を手伝っているらしい。その特徴を聞くと、どうやら慎二達が駆け付けて、進んで行っているようだった。

 

 

光太郎の顔に、自然と笑みが浮かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救助がある程度の目処が付き、光太郎はレスキュー隊員たちと別れると、廃墟と化した新都の中央へと進んでいく。救助中に周囲に目を配っていた光太郎は、この災害は明らかに自然に起きたことではないと確信していた。

 

不自然に溶けている壁。

 

路面に残っていた妙な液体や爪痕。

 

 

そしてこれが、誰の手によって起こされたことも。

 

 

 

 

 

光太郎は半壊したビルの前で、ピタリと足を止める。もう周囲に人間は誰一人いない。そう…人間は。

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ…現れたな間桐光太郎!」

 

 

 

 

自分の名を呼ぶ異形へとゆっくり身体を向ける。そこに立っていたのは、かつてゴルゴムの大神官と呼ばれた者たちだった。

 

「お前達は…ッ!まさか、ゴルゴムの大神官ッ!?」

「聞くがいい間桐光太郎ッ!我らは大怪人として生まれ変わったのだッ!」

「何ッ!?」

 

白い三葉虫のような大怪人ダロムの言葉に光太郎は思わず身構える。大怪人という名に相応しいように、その身体から他の怪人とは比べものにならない力をヒシヒシと感じられた。

ダロムに続き、サーベルタイガーの大怪人バラオム、翼竜の大怪人ビシュムが光太郎にゴルゴムの目的を宣言した。

 

「そして我らゴルゴムは、世界への侵略を開始するッ!!」

「手始めとして、この冬木に現れる聖杯を使って人類を皆殺しにするの。もはやお前や僕である英霊にもどうするこも出来ないわ!!」

「……ッ!?」

 

 

 

 

ビシュムの言葉で光太郎は確信する。ゴルゴムはライダー達サーヴァントを狙わずとも聖杯を起動させる手段を見つけている。それは、合流して遠目から光太郎と3大怪人の様子を見ていた慎二達やセイバー、ライダーにも同様の衝撃を受けるのだった。

 

「そんな…だって、聖杯には英霊の魂が必要なんだろ!?」

「ええ。最低でも5人分のね。でも、今はアーチャー1人分しかないはずよ。なら…」

 

狼狽える士郎に凛は答えた。もう、間違いない。ゴルゴムは知っているのだ。聖杯を起動させるための『裏技』を。

 

既に勝利を確信しているダロムは光太郎に慈悲を与えてるように告げ始めた。

 

「だが、貴様が持つキングストーンを捧げるというのならば命だけは――――」

 

 

 

 

 

「黙れッ!!!」

 

 

 

 

光太郎の叫びに、大気が震えた。

 

 

光太郎の発する気迫に3大怪人も、状況を見守っていた凛達も思わず一瞬震えあがってしまった。

 

 

 

「…そんなことは絶対にさせない!!例えこの身が砕け散っても、貴様たちの野望は阻止して見せるッ!!」

 

 

「コウタロウ…」

 

 

その言葉は、ライダーに取っては辛い言葉であった。

 

光太郎の決意は、常に誰かの為だった。それはつまり、自分自身の幸福は望まないことに等しい。この先、聖杯戦争が終わり、自分が光太郎の前から消えたとしても、その信念は揺らがない。

 

「ライダー…」

 

隣に立つセイバーがライダーを心配そうに見つめる。公園でライダーが光太郎に抱いている感情を聞いたセイバーの心情を察したのか、ライダーは首を横に振った。

 

「大丈夫ですセイバー」

 

そして、自分のマスターを真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

 

「小癪なッ!!」

 

ビシュムは光太郎に向け、目から怪光線を発射。光太郎は真横に転がりこれを回避するが、態勢を整える隙を与えないようにダロムが廃棄されたトラックを押し、突進してきた。

 

「クッ!?」

 

背後にはビルの外壁があり、このままでは押し潰されると判断した光太郎は咄嗟に飛び上がる。トラックの車上に転がり、なんとか圧死は免れたが、続いてバラオムが光太郎へ飛びかかってきた。

 

「ヌオォォォォッ!」

「グハァッ!!」

 

バラオムは光太郎に飛びかかり、首を締め付け始める。抵抗して腕を振り払おうとする光太郎だが、バラオムは首を絞めたまま光太郎を持ち上げると巨大な広告看板に向け、勢いをつけて光太郎を思い切り

投げつけた。

 

「ウワァッ!?」

 

敵の怪力により投げられた光太郎は看板を突き抜け、受け身の取れないまま瓦礫の中へと叩き付けられてしまった。

 

 

 

 

『例え傷だらけになり、先ほど言った通り命を賭して戦ったとしても』

 

 

 

 

瓦礫を吹き飛ばし、自力で立ち上がった光太郎は右腕を前方に突出し、左手を腰に添えた構えから右半身に重心をおき、両腕を大きく右側へ振るうと右頬の前で力強く握りしめる。

 

 

 

 

 

『間桐光太郎は、決して死のうとはしません』

 

 

 

 

ギリギリと軋む音が響くほど込めた力を解放するように右腕を左下に向けて空を切り素早く右腰に添え、入替えるように伸ばした左腕を右上へと突き出した。

 

 

 

 

『コウタロウが目指すものにたどり着く、その日まで』

 

 

 

 

「変ッ―――」

 

 

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように右から左へと旋回し―――

 

 

 

 

 

『険しいと解っていながらも、自分の決めた道を突き進む。そんなコウタロウを私は―――』

 

 

 

 

「―――身ッ!!!」

 

 

両腕を右上へと突き出した。

 

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

 

 

変身を終えた光太郎は腕を交差し、大きく両腕を広げると勢いを付けて跳躍する。

 

 

「トァッ!!」

 

 

空中で前転し、着地した場所は崩れたビルの屋上。

 

光太郎の身体の関節からは変身時に使用されたキングストーンの余剰エネルギーが蒸気として身体の関節からユラユラと立ち昇っていた。

 

 

「おのれぃッ…!!」

 

ダロムは怨嗟の声と共に光太郎を睨んだ。自分達の支配者の候補である世紀王となりながらその力でゴルゴムに反旗を翻した裏切者は、世紀王ブラックサンではない、敵対した際の

忌々しい名を轟かせた。

 

 

 

「仮面ライダーッ!!ブラァックッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんなコウタロウを、私は愛してしまった』

 




半端にされていたライダーから光太郎への思いをはっきりさせました。ライダー姐さんって、ほんといい女だと思うんですよ。


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第48話『正義の味方』

鎧武もいよいよクライマックス。この戦いも佳境を向かってまっしぐらです。


こじ付けまみれの48話となります

9/15 文章内容を一部修正しました。


間桐光太郎がレスキュー隊と共に人命救助に当たっていた頃

 

光太郎を追うため、ガレージに待機していたバトルホッパーへ慎二、士郎が。ロードセクターへ桜、凛が搭乗し、新都をめざし疾走していた。

 

バトルホッパーの後部に座る士郎は、慎二と自分達の後を追走する桜の姿を見る。

フルフェイスのヘルメットを装着し、ロードセクターのグリップを握っている彼女の姿は、普段の大人しい印象を受ける服ではなく、ジーンズとTシャツ、ライダースジャケットという先頭を見越した姿となっている。先程のセイバーへの発言といい、ニュースを見た途端に自室に駆け込み、数十秒後にはあの姿へとなって『早く行きましょう!』と全員に呼び掛ける迅速な動きといい、士郎が衛宮家で見せる桜との違いに驚くばかりであった。いや、これが本来の桜であり、士郎がただ気付かなかっただけなのだろう。

 

「…過去を受け入れる…か」

「……………」

 

ポツリと呟く士郎の言葉に、慎二は振り向かずに、ただ前を見ている。見なくても、士郎がどのような顔をしているかが理解できるからだ。

 

(…分かりやすい奴だよ、全く)

 

 

桜がセイバーへと伝えた言葉に衝撃を受けたのはセイバーだけではなかった。

 

真っ先に浮かんでしまうのは、自分に迫る炎と、助けを求めて伸ばされる多くの手。それから逃れる為に必死に逃げ出した士郎は、結果的には生き延びることが出来た。だが、『自分だけが助かってしまった』という罪悪感が士郎の心に重く圧し掛かっている。

 

それでも、士郎は生きる事を選んだ。その時に助けられなかった分、多くの人を助けることの出来る『正義の味方』になるために。

 

(そうだ…俺だって受け入れているんだ。だから…セイバーだって)

 

自分へ言い聞かせるように心中で呟いた士郎は煙を上げている新都の方へと顔を向ける。桜の言った通り、前に進まなければ始まらないのだ。

 

 

 

「ところで慎二。お前と桜って、免許持ってたのか?」

「ないよ」

 

あまりにも簡潔な恐ろしい答えに士郎は血の気が一気に下がってしまう。

 

「オイ慎二ッ!?それじゃあ無免許運転じゃないかこれッ!?」

「っるさいな本当に。いいか衛宮、良く聞けよ?」

 

面倒臭そうに振り返る慎二はヘルメットのバイザーを上げ、士郎の耳に届く程度に声を上げて説明した。

 

「バトルホッパーもロードセクターもそれぞれ自分の意思と人工知能を持って、自力で走行している。それは分かるな?」

「お、おう…」

 

本来は驚くべき所ではあるが、納得してしまっている自分は麻痺してきているのか…と士郎は慎二の言葉に耳を向ける。

 

「走行もブレーキも方向転換も全てバイクの方でやってくれている。僕達はそんな自動走行するバイクを操縦せず、只乗っているだけ、運転していることにならない。故に合法だ」

「そんなの見た目で分かるかぁッ――――――!!」

 

我慢しきれず大声を上げる士郎であった。

 

「もし警察に見つかったらどうするんだよッ!?説明しても信じてもらえるわけないだろッ!?」

「今そんな余裕はないだろ。新都の情報収集と交通整理で手一杯のはずだ。いちいち検問なんかしてる場合じゃない」

「そうかもしれないけど―――」

 

慎二の意見に一理ありだが、もし見つかった場合のリスクを考えた士郎の背後から赤い少女の絶叫が耳に響いた。

 

 

 

『そんなの見た目で分からないでしょうがッ――――!!!」

 

 

どうやら凛も同じ疑問を抱き、桜は慎二と全く一緒の回答を出したようだった。

 

普段義兄の行き過ぎた行動に大声でツッコんでいる慎二であるが、周りが周知していないだけで突拍子な行動を起こす所は、慎二も桜も光太郎に似ているのかもしれない…士郎がそんなことを考えているうちに、慎二達を乗せたバトルホッパーとロードセクターは新都へと続く鉄橋を通過していった。

 

 

 

到着した場所は、多くの人が行き交ったビル街だった場所だ。歩道橋は全壊し、ビルなど発破されたように半分以上が形を保っていなかった。救急車や消防車が絶えず行き来し、救急救命士やレスキュー隊員による

救助活動も追いつかない状況であり、多くの人が怪我や瓦礫に挟まれ動けないでいる。

 

「…兄さん」

「分かってる。ったく、光太郎見つける前にやることが出来ちまった」

 

言わずとも義妹の考えていることが理解できた慎二は頭をかきながらショルダーバックの中を漁りながら背後に立つ士郎へ呼びかける。

 

「おい衛宮、お前の大好きな人助けだ。救急セットもあるから…」

 

言うよりも早く、士郎は慎二の取り出した救急セットを手にして駆け出した。小さくなっていく友人の背中を見て、溜息を付ながら慎二は立ち上がる。

 

「桜。やり過ぎないように見張りを頼む」

「兄さんも、無茶しちゃ駄目ですよ?昨日むりやり肩を動かそうとしましたけど、完治するまでは激しい動きは厳禁です!」

「…………………」

「無言で立ち去らないでくださぁいッ!!」

 

桜の言った通り、慎二は栁洞寺の戦いの際に左肩を脱臼していたが、その日のうちに肩を外した張本人、葛木総一郎によって(彼も骨折していたが)整復され、手遅れになる事は免れた。

自分で打った痛み止めが切れる前に包帯で固定していた所にアサシンとの戦いを終えたランサーを発見。彼から回復を促進させるルーンの魔術を聞き出し、術式を書き込んだ包帯を使用。日に三回、桜に魔力を送ってもらう事で肩をゆっくりと回せる程度には回復していた。しかし桜の言った通りに無理をして動かせば悪化してしまうだろう。

 

(今無茶しないでいつするっていうんだよ)

 

義妹の忠告などお構いなしに、瓦礫の撤去を始める慎二であった。

 

 

 

「まっ…てろ。あと、少し…!」

 

瓦礫の隙間に閉じ込められ、泣き叫ぶ子供へ必死に手を伸ばす士郎の脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックする。街を包む炎から、救いを求める人々から逃げ出した拭えない記憶。

 

(あの時は何も出来なかった…でも、今は…ッ!!)

 

もう、誰かが自分の前で苦しむ姿も、死ぬ姿も見たくない。だから助かったあの日から、養父の理想を継いだあの夜から、自分の価値観は変わってしまった。

 

幾度となくセイバーや凛に自分の命を余りにも低く見積もっていると言われている士郎だが、彼には自分の命を差し出してでも貫きたい思いがあった。ズレていようが、歪であろうが自分が進むと決めた道を歩んでいく。

 

(みんなを助けられる…正義の味方にッ!!)

 

10年前、誰にも伸ばすことが出来なかった手を、士郎は今度こそ掴むことが出来た。

 

「もうちょっとだ!!強く握って…よし!!よく頑張ったな!!」

 

瓦礫の隙間からゆっくり、ゆっくりと子供を引き上げ、救出することに成功した士郎。泣きじゃくる子供に抱き着かれ、安心させるように背中を摩っていたその時。

 

「やばっ…」

 

元々傾いていた電柱が士郎と子供に向かって倒れてきたのだ。子供を助け出すことに成功し、緊張の糸が切れていた士郎に咄嗟に動くことは出来なかった。

 

「くそ…っ」

 

結局、1人しか助けられなかったのか…と諦めた士郎の目の前で電柱に見覚えのある矢が突き刺さる。直後、矢が爆発し、その衝撃で電柱の動きが大きく逸れて士郎の真横に倒れた。

 

「先輩ッ!大丈夫ですか!?」

「さ、桜?」

 

士郎は目を見開いて自分の元へ駆けてくる後輩の名を呼んだ。見れば左手には弓を携えており、先ほど電柱の軌道を逸らしたのは彼女なのだと士郎は理解した。

 

「ありがとう桜。助かっ―――痛ッ!?」

 

尻餅状態の士郎の視線に合わせるために屈んだ桜へ感謝した士郎の額に走る小さな痛み。桜からデコピンを受けた士郎は訳が分からないと言わんばかりに呆けた顔をしていたが、そんな先輩の表情を見て満足したのか、笑顔で説明を始めた。

 

「はい、今ので先走ってしまったお仕置きを終わりにします!」

「え…?」

「…先輩。先輩が10年前に新都でどのような目に合ったのか、私には想像が出来ません。それが理由で先輩が必死になって誰かを助けようと頑張っているのもわかります。けど、先輩は、もっと誰かを頼っていいんです」

「頼って…?」

「そうです!先輩が夢を叶えるために、たくさん頑張っている事は知ってます。でも、1人で出来る事は限られているから…先輩が困ったとき、誰かに助けられて、いいんです!」

「…っ!」

 

士郎はハッとする。この災害で1人でも多くの人を助けると考えるばかりで、自分の周りにいてくれる存在を忘れていたのかもしれない。自分だけでなんとかしなければと、思い込んでいたかもしれない。

 

改めて桜へと目を向けると、彼女はにっこりとほほ笑み、自分へ手を差し出した。

 

「お手伝いさせて下さい、先輩。みんなで―――助けましょう!」

 

自分だけでは届かない場所でも、桜や慎二、凛達の力を借りたなら…差し伸べられた手を、士郎は迷いなく掴んだ。

 

(そうか…助けたい時は、助けて貰っても…いいんだな)

 

 

「桜、この子を向こうにいる救急車まで頼む!俺はあっちで怪我している人の所へ行くから…」

「はい!送り終わったらすぐに行きます!!」

「あぁ!頼むぜ桜!!」

 

子供を桜に預けた士郎は再び駆け出していく。しかし先程のような焦った気持ちはない。心強い味方を得た今なら、全ての人を救える。そう自身を持って言えるほど高ぶっていた。

 

 

 

その一部始終を見ていた凛は溜息を付ながら左右で結んでいる髪を解き、首の後ろで束ね始めた。

 

(ほんと、逞しくなったわね。人としても、魔術師としても)

 

実妹の成長に関心しながら、人々の救助へと駆り出した。

 

 

その後、レスキュー隊の増員を確認した慎二達はその場から離れ、セイバーとライダーに合流。そしてゴルゴムの3大怪人と対峙する間桐光太郎を発見した。

 

 

 

 

 

仮面ライダーへ変身した光太郎はダロム達の前に着地し、構えた直後、自分の周りに多くの気配を感じた。

 

「…そうか。この短時間で新都の街を破壊したのは、『こいつら』だったのか」

「フフフ。察しが良いではないか仮面ライダーブラック!!」

 

ダロムが片腕を上げたと同時に、地面や瓦礫の影から次々と現れるゴルゴムの怪人達。その数はかつて穂群原学園でビルゲニアが召喚した亡霊怪人以上―――同じ個体を含めて100をを超えていた。

光太郎を囲うように群がる怪人達に対し、光太郎は慌てる様子もなくダロム達へと尋ねた。

 

「…この怪人達は、俺が倒した怪人達…またも死者を利用したのか?」

「その通りだ。ビルゲニアはサタンサーベルの力を借りなければ呼び出せなかったが、我ら3人が揃えば造作もない!」

「ここの地脈は貴様が戦った学校よりも遥かに強い。あの時と同じと思わないことだな!!」

「けど、貴方だけを苦しめるには芸がないわね。そうだわ!まだ逃げ遅れている人間を襲わせることにしましょう!!」

 

1人で怪人に囲まれた姿を見て気を良くしたダロムとバラオムに続き、ビシュムの放った命令により、光太郎を囲った怪人の数体が輪から飛び立ち、別々の方へと移動を開始した。命令通り、人間を狩る為に。

 

だが、大怪人達は誰1人気が付くことがなかった。普段なら無関係の人々を巻き込むことに強い怒りを抱く光太郎が何も言わず、ただ周囲の怪人を警戒していることに留まっていることに。

 

 

 

ビシュムの命令を聞き、怪人が行動を開始した姿を見た士郎は後を追おうと踏み出すが、自身のサーヴァントへ止められてしまう。

 

「セイバー、どうして止めるんだ!?早くしないと―――」

「いえマスター、追う必要はないからです。追うまでもなく、あの怪人は避難している人々へ向かう事ができないからです」

「え…?」

 

セイバーの言った事を士郎が理解したのは、その直後の事だった。

 

『ギエェェェッ!?』

 

飛行中のタカ怪人やツルギバチ怪人が悲鳴を上げながら落下していき、地をかけていたクロネコ怪人、コブラ怪人は見えない壁に阻まれているかのように、その場から一歩も進めないでいた。

 

「…なるほど。重い腰を上げてくれたってことか」

「そうみたいですね」

 

この現象に関与している存在の正体を知った慎二と桜は上空にいる人物の姿を発見する。

 

彼女は黒いローブを翼のように展開し、上空からゴルゴムと光太郎達をドーム状の結界で覆っていた。

 

「まったく、まだ怪我が回復し切れていないというのに、なんて人使いが荒いのかしら」

 

皮肉を口にしながら、慎二達と同じく自分を見上げている光太郎へと目を向ける。

 

「御膳立てはしたのだから、しっかりと結果を出しなさい」

 

キャスターはより強く魔力を展開。視認が出来るほどの結界を強化した。

 

 

 

 

「キャスター。協力、感謝します」

「行きましょう、ライダー!」

 

ライダーは空で自らの役目を果たしている協力者に礼を言いながら、未だに人々への元へ向かおうとしている怪人達に向けて、セイバーと共に駆けて行った。

 

 

 

 

 

「お、おのれ!!味な真似をしおって…!!こうなれば先に仮面ライダーを片付けるのだ!!!」

 

ダロムの命令で光太郎を囲っていた怪人が一斉に動き出す。ビシュムの命令で数は減ったものの、まだ90以上の怪人が残っている。圧倒的に不利な状況となっても、光太郎は慌てるよう様子を見せずに行動を開始した。

 

左右に広げた両手を銀色のベルト『エナジーリアクター』の上で拳を重ねると同時に、ベルトの中心から赤い光が放たれる。

 

 

「無駄よ!キングストーンフラッシュを放とうが、結局は一方向にしか向けられない!全方位からの攻撃にどう対処できるのかしら!!」

 

光太郎の行動を見たビシュムは勝ち誇ったようにあざ笑うが、彼の行動は止まらない。

 

発光の後、右手を前に突出し、左腕を腰に添えた構えから両腕を大きく右側へ振るい、右頬まで握り拳を作る。さらに右拳を力強く握りしめると、右拳に赤い光が宿っていく。

 

 

「この状況でライダーパンチだと…」

 

あの技を放つ時は決まって1体1の場合のみであり、あのように大勢に囲まれた時には使わない。光太郎の行動を疑問に思ったバラオムは、次の行動と結果にさらに混乱することとなった。

 

 

 

 

「ウオォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

咆哮と共に、光太郎は赤い光を纏った拳を『地面』へと打ちつけたのだ。

 

 

光太郎の打撃によって水面に波紋が広がっていくように地面へ拡散する衝撃。それと同時に多くの怪人の動きがピタリと止まったのだ。動きを止めた怪人達を不思議に思ったのか、まだ動きの取れる怪人達は光太郎への

攻撃を忘れ、周りにいる仲間を見渡している。

 

そして動きを止めた怪人達の変化が始まった。

 

怪人達の体色が灰色へと変わり、段々とひび割れていく。

 

「こ、これは…!?」

 

驚きを隠せないダロムを余所に、地面へ突き立てた拳を抜き、光太郎がゆっくりと立ち上がると同時に、大半の怪人が砂となってその形を失った。

 

 

「な、何が起きたのよ!?」

 

驚いたのはその様子を見ていた凛も一緒であった。あれ程の怪人を一気に無力化しながらも、光太郎には疲労した様子はなく、残った怪人への攻撃を開始している。

 

 

「またぶっつけ本番とは、無茶をするものね」

「キャスターさん、あれって…」

 

結界を張り終えて役目を終え、着地したキャスターへ桜が尋ねる。当然と質問と思ったキャスターは何ら不思議なことではないように答えるが、その内容にこの街のセカンドオーナーはさらに声を上げることになってしまう。

 

「あの怪人達は地脈を使って…というより地脈を動力源に動いていたらしいわね。だから彼はキングストーンで地脈に同期して、力の配給を一方的に遮断しただけよ」

「は、ハアァァァァァァァァァッ!!」

「遠坂うるさいよ」

「遠坂先輩静かにお願いします」

 

もはや悲鳴よりも絶叫に近い凛のリアクションに耳を抑えている間桐兄妹の反応は冷たかった。

 

「と、遠坂?それって、そんにすごい事なのか…?」

「すごい事どころじゃないわよこのスカタンッ!!」

 

と、士郎の胸倉を掴み、ブンブンと揺らしながら質問に答えた。

 

「地脈の力を利用することなんてごく当たり前だけど、それに干渉するなんてとんでもないリスクがあるのよ!変にマナの流れ変えたり、破壊したその日にはバランスが崩れて冬木にどんな厄災が降りかかるかわかったもんじゃないわ!!!」

「わ…わかったから、離してぐれ、ドオザガ…」

「アンタ達もちょっとは驚きなさいよ!!なんでこんな事を平然としでかすのよあのお兄さんはッ!!」

 

 

エチケット袋が必要かも知れない程に揺らされいる士郎を余所に、犬歯をむき出しにしている凛のターゲットはキャスターの言った内容に驚きを見せない慎二と桜である。凛の言う事にお互いに顔を合わせた兄妹はさも当然であるかの

ように答えた。

 

「光太郎だしな」

「光太郎兄さんですし…」

「なんっなのよその説明不要と言いたいばかりな回答!!魔術師としてそれでいいわけ!?」

「少しは静かになさい、はしたない」

 

荒ぶる凛に待ったをかけたのはキャスターだ。

 

「元々ありえない事象を理論を積み重ねて可能としたのが魔術。それを自分の理解の範疇を超えたくらいで取り乱すなんて、管理人としては恥ずべき行為よ」

「む…」

 

まさか神代の魔術師に諭されるとは思いもしなかった凛は落ち着きを取り戻し、士郎を介抱する。当の士郎はといううと間桐兄妹に肩をかり、レスキューセットにあった酔い止めの薬にお世話になる羽目となってしまった。

 

 

凛へは落ち着かせる為に説明した内容だが、それは光太郎が会得しようとしたものの副産物に過ぎない。

 

理論だけは説明したキャスターであったが、まさか実践するつもりでいたとは夢にも思わなかったのだ。

 

(しかし、これで彼に取っては準備が整ったことになる。『最悪の状況』になった時の為に)

 

 

その状況が訪れないことをキャスターは自然と願ってしまった。もし訪れてしまったら、ここにいる兄妹と、彼のサーヴァントを確実に泣かせることになってしまうから。

 

 

 




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第49話『隠者の影』

鎧武とは、アダムとイヴのお話だったのですね…

精神世界での会話は、何かグッとくるものがありました…そして来週ついに最終回!!
ネットで出てきたライダーの名前を聞いて、お嬢様の馬になりたいという13歳の聖闘士を思い出したのは自分だけではないはず!!

では、49話です。


「ほう…」

 

ゴルゴムの神殿奥に位置する玉座に座している世紀王シャドームーンは思わずそんな声を漏らした。

 

シャドームーンの前に映し出されている立体映像…仮面ライダーに変身した間桐光太郎が90体近くの怪人を砂へと返し、残る怪人を一掃すべく動き始めた場面であった。

 

「キングストーンの力をあのように引き出すとはな。ダロム達には荷が重かったのかも知れん」

 

その言葉は力を増した光太郎への警戒ではなく、嗟嘆に近いものであった。

 

 

 

 

シャドームーンの望みは、世紀王ブラックサンと全力でぶつかり合い、勝利して創世王となる事。その為には光太郎にはまだ力不足であると考えたシャドームーンは、秋月家の墓前での戦いにおいても

、勝利を目前にして彼を見逃している。

 

後に創世王が知った際はゴルゴムの秘密基地全体を揺るがす程の怒りを買ってしまったが、怯える大怪人達を余所にシャドームーンは恐れなく物申した。

 

ブラックサンがどれほどの力を身に着けようが、創世王の加護がある自分に敗北などありえないと。

 

シャドームーンの言葉に納得したのか、創世王の意志はその場から消失する。創世王の気配が完全に消えたことに安堵したダロム達は、言うまでもないことを、シャドームーンへと進言する。

 

「シャドームーン様…ご存知の通り、創世王様には時間が…」

「わかっている」

 

世紀王であるブラックサンとシャドームーンが目覚めるということは、同時に創世王の寿命が刻一刻と迫っている事を意味している。そして寿命が尽きる期限は――

 

「太陽の黒点が、消滅するまで…」

 

光太郎とシャドームーンが最初に戦った後に発生した巨大な太陽黒点。まるでその時から秒読みを開始されたかのように、事態は大きく動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

「どうやら私の危惧は抱く必要もなかったようだな」

 

冬木の新都へ100体以上の怪人を差し向けたのは、世界征服の第一歩でもあるが、シャドームーンにはもう一つの狙いがあった。

 

宿敵ブラックサンの出方を見るためだ。

 

怪人1体ずつ戦うという愚かな方法ではなく、地脈という怪人達を生かしている根本を立つという策を講じるまでキングストーンの力を使いこなしている。

さらに振るう力も自分と戦った時と違い一切の迷いがなく、その技で1体、また1体怪人を葬っている。その場にいる大怪人達は、さぞ青い顔をしていることだろう。

 

その証拠にバラオムは待機させていた別部隊の怪人達をブラックサンへと向かわせている。

 

以前はパワー負けしていたサイ怪人の突進にも真正面から受け切り、角と頭部をつかみそのまま持ち上げるという力技を見せた。両腕が塞がっている姿を好機と考えたビシュムはタカ怪人へ低空飛行し、光太郎の両足を自慢の爪で切り裂けと命令。

バランスを崩し、落下するサイ怪人で押し潰そうと考えてたのだろうが、ブラックサンに慌てる様子は一切ない。

 

 

 

予測ではなく、確信していたのだろう。

 

 

自分の背中を守る英霊が現れることを。

 

 

 

抵抗飛空していたタカ怪人の翼はライダークラスのサーヴァントが放った短剣に貫かれ、磔にされてしまった。悶えるタカ怪人が最後に見た光景は、自分に向けて落下するサイ怪人の姿であった。

 

2体の怪人が爆発した直後、サーヴァントはブラックサンと背中を合わせ周囲を見渡す。怪人達もタカ怪人とサイ怪人の最期を見て、安易に飛び掛かろうとしない。睨み合いが長く続くと思われたが、ブラックサンに動き始めていたがあった。

 

その場からジャンプするが、飛んだ距離は精々4,5メートルであり、それも単純に真上である。怪人達おろか、ダロム達にも何が狙いなのか定まらない。ブラックサンが空中で静止したその時、彼の足にサーヴァントの投げた鎖が絡まった。

ブラックサンに注目するばかりで彼女の存在を忘れていた怪人達は、サーヴァントが次に起こす行動へただ驚くしかなかった。

 

鎖をマスターであるブラックサンの足へ縛り付けたサーヴァントは、なんと手に持った鎖を振り回し始めたのだ。そのスピードは華奢な細腕から繰り出しているとは考えられない程速く、遠心力で砂埃が発生している。

サーヴァントを中心とした竜巻は衰えることを知らず、周囲の瓦礫すら持ち上げ始めている。そんな中、吹き飛ばされないように耐えていた怪人達に異変が起こる。

 

鋭い刃で斬られたかのように身体が裂かれ、次々と五体バラバラとなっているのだ。

 

シャドームーンの強化された視力は映像越しでもその原因を捉えた。

 

鎖で足を縛られ、回されているブラックサンは自身のサーヴァントが竜巻を発生させたと同時に、バイタルチャージで自身の手に力を集中。手刀を伸ばすことで身動きの取れない怪人達を回転しながらもライダーチョップを仕掛けていた。

 

鎖の先端にブラックサンという刃を装備し、怪人たちを一方的に切りつけているのだ。

 

このような馬鹿げた攻撃など、誰も予測できない。否、だからこそ仕掛けたのだろう。ブラックサンが先に見せた怪人達と地脈のリンクを断ち切る能力。これに警戒していた怪人達にとって効果は絶大だったのだろう。

 

シャドームーンは即興で攻撃を思いついたことは勿論だが、一言も交わさずに意志の疎通を見せた2人の絆。そちらの方へと感心が寄せられた。

 

 

「あのサーヴァントは、ブラックサンの力を最大限にまで引き出させる。そう…あの時のように」

 

 

シャドームーンへ初めてダメージを与えた時…それは、サーヴァントを守るためだった。秋月信彦であったシャドームーンへの迷いから全力を出せないでいたが、彼女を消そうとした途端に立ち上がり、拳で殴り飛ばしていた。

 

 

「…気は熟したか」

 

 

「お出かけするのですかな?世紀王よ」

 

 

玉座から立ち上がったシャドームーンは自分を呼ぶ声の方へと顔を向ける。その男は、不気味なゴルゴムの基地には似つかないカソックを見に纏い、底の知れない暗い瞳で微笑んでいた。

 

「…あの場へと声を届けるだけだ」

 

宿敵との決着に昂った感情は、そのまま男への殺意と切り替わる。だがこの男はそれをものともせず、寧ろ楽しんでいるようにも見えた。

 

ゴルゴムに冬木の聖杯の情報を提供したこの男に興味が湧き、謁見を許したシャドームーンだが、男の放つ『異様』に警戒心の方が勝ってしまった。今は聖杯を手に入れる為にゴルゴムへの接触を許しているが事が済み次第、処分しなければならない。

 

そうシャドームーンの本能が告げているようだった。

 

「………」

 

無言で足を進め、男とすれ違うシャドームーン。玉座の間から出ようとした途端、男の言葉がシャドームーンの動きを停めてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「もし、間桐光太郎との決着に付けるときにはいつでもお声掛けを。あの男を弱らせる方法なら、『いくつも』知っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の足元が激しい斬撃によって抉られたのはシャドームーンが振り返ったと同時だった。

 

 

 

「勘違いをするな。貴様は聖杯の情報を我々に提供しただけであって、ゴルゴムとなったわけではない。余計な事を言えば命はないと思え」

 

サタンサーベルの切っ先を男の喉元へと突きつけるシャドームーン。 自分に声をかけた時以上の殺意を向け向けいるというのに、男は動揺するどころか微笑みすら浮かべていた。

 

「これは御無礼を。私が容喙するべきではなかったようですな」

「…………………」

 

自分が目を向けるだけで人間どころかサーヴァントすら怯えるというのに、サタンサーベルを向けてもこの男は怖気る様子をまるで見せない。変わらず、口を歪めているだけだ。

 

「…貴様は聖杯に関してこちらの聞きたい事だけに答えればいい。いいな」

「御意に」

 

切っ先を下ろしたシャドームーンへと頭を下げる男を尻目に、シャドームーンは今度こそ玉座の間から離れて行った。

 

 

シャドームーンの背中を見る男は、映像に移っている黒い戦士へと目を向けた。

 

 

 

「弱らせる方法…個人的には試してみたいものだったがな」

 

 

男がシャドームーンに伝えた方法は、相手を不利にさせようとした以外の理由があった。いや、それ以上に男はそうなる場面を望んでいた。男の知る限りの方法で、苦しませ、絶望する姿を見てみたい。

 

狂気としか言いようのない思考を巡らせながら男―――言峰綺礼は映像を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダロムは呆気にとられていた。予測の付くはずのない攻撃で次々と怪人の大半を殲滅させた仇敵は、僅かにも敵に囲まれているというのに―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に手と膝を付いた状態でパートナーであるサーヴァントに背中を摩られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「うごぉっぷ…この姿でも、やっぱり酔う時は酔うんだね…」

「…変身はまだ解除しないで下さいね」

 

冷静なパートナーの意見に光太郎は親指と人差し指で丸を描くジェスチャーをする。どうやら話すのも辛いらしい。その姿に溜息を付く傍ら、ライダーは自分達を囲う怪人達の様子を見る。相手にとっては奇策の連続で、今の自分達の姿も何等かの罠ではないだろうかと警戒している。

 

純粋に光太郎が気分を悪くしているだけではあるのだが、誤解してくれたままの方がありがたい。どうにか光太郎が回復するまでこのままの状態が続いてくれればと考えていたが…

 

 

「馬鹿にしおってぇ…!!行け、サンショウウオ怪人ッ!!」

 

 

痺れを切らしたバラオムの命令を聞き、ギルガメッシュからのダメージが回復したサンショウウオ怪人が光太郎とライダー目掛け、雄叫びを上げて突進する。大きな口を開け、ライダー達へ溶解液を被せようとするが、その動きはピタリと止まってしまう。

 

鎖を手にしたライダーが見たのは、痙攣するサンショウウオ怪人の胸から飛び出した真紅の槍先であった。

 

 

「さっきの連中と同じく、しぶといねぇ。人間で言やぁ心臓貫いてるはずなのにまだ動こうとしやがる」

「ならば、後押しをするとしよう」

 

怪人に隠れて見えないが、聞き覚えのある声が光太郎とライダーの耳に届いた。

 

「んじゃ、任せるわ」

 

軽い声と共に槍が引き抜かれた直後、貫かれた傷口に向けて3つの斬撃が同時にサンショウウオ怪人へと叩き込まれた。斬撃の衝撃が体内へと直接受けてしまったサンショウウオ怪人はその場で燃え上がり、灰と化してしまった。

 

「ふう…助かったよ」

「…拡散した怪人は片付いたようですね」

 

回復し、立ち上がった光太郎とライダーはサンショウウオ怪人を倒した人物へと感謝の言葉を送った。

 

 

 

「ありがとう。ランサー、佐々木さん」

 

 

2人のサーヴァント―――ランサーは槍を肩に担ぐとニヤリと笑い、アサシンこと佐々木小次郎は愛刀を振り払うと不適に微笑んだ。

 

 

 

 

「どうやら、『用』というのは済んだようね」

 

自分のサーヴァントの出現はともかく、ランサーの出現に1人納得したキャスターは浮遊魔術で光太郎達の元へ向かおうとしたが、成り行きを見ていた凛に待ったとかけられた。

 

「待って。桜の家にいた時も不思議に思ったけど、なんでアサシンが新都に来れる訳?彼は栁洞寺の山門から動けないはずじゃ―――」

 

凛の質問より早く、キャスターは紐で繋がれた小瓶を懐から取り出した。その中には小さな木屑、そして小石が入っている

 

一体何を…と考えたが凛は合点がいった。彼女の表情を見て、説明が必要ないと判断したキャスターは光太郎達の元へと飛行した。

 

「まさか…そういうこと?」

「何がだよ、遠坂」

「…アサシンの媒体が栁洞寺の山門ってことは知ってるわよね?」

「あ、ああ。慎二からそう聞いてたけど」

「キャスター…山門の一部分を持ち歩いて、それを中継点としてアサシンの活動範囲を広げてるわ」

 

つまりキャスターは栁洞寺の山門を一部削り取り、携帯しているということだった。バチは当たらないのだろうか。そんな事を考えながら、合流するサーヴァント達へと士郎は視線を移した。

 

 

 

キャスターが光太郎達の元へと着地すると、颯爽と銀の甲冑を纏ったセイバーが現れる。

 

「どうやら私が最後のようですね」

「セイバーも、お疲れ様」

 

光太郎の労いの言葉を受けたセイバーは頷くと、周りに立つ自分と同じ存在を見渡す。

 

「まさか、このような形で貴方達と戦いを共にするとは…思いもしませんでした」

「私も同意見です」

「言っておきますけど、私は利害が一致しているだけのことよ。仲良しごっこをするつもりはないわ」

 

セイバーに賛同するライダーに対し、プイっとソッポを向くキャスターの姿に青いサーヴァントはニヤニヤと笑いながらからかい始めた。

 

「素直じゃないねぇキャスターさんは。俺の依頼を聞く代わりに手を貸すって条件を今すぐ!って慌てて連絡寄越したくせによぉ」

「ほぉ。それは殊勝なことだな。同盟相手にそこまで気を使うとは」

 

ランサーの暴露に興味を抱くアサシンは横目で長い耳をピクピクと動かして取り乱すキャスターを見る。これは面白い話を聞いたと言わんばかりに…

 

 

 

 

その光景は本来、ありえない構図だった。

 

自分の願いを叶える為、自分を召喚した魔術師との利害の一致の為にしか動かないはずの英霊達が、殺し合いをせず一つの場所へと集っている。

 

それも、1人の存在を中心に、この場所へと集った。

 

 

 

光太郎を中心に並ぶサーヴァント達。

 

ライダー

 

セイバー

 

ランサー

 

キャスター

 

アサシン

 

 

理由は違えど、目的は一つである彼等は、聖杯を狙う共通の敵へと相対した。

 

 

 

「ゴルゴムッ!貴様達のような悪魔の集団に、聖杯を使わせるなど俺達が絶対に許さんッ!!」

 

 

 

 

 




ご意見・ご感想お待ちしております!

特に今回は神父の口調に自信が全くありません…


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第50話『つかの間の休息』

鎧武最終回。前回は紘汰と戒斗の物語を終えて、今回はミッチの行き先が決まった所で完結!というふうに見えました。年末でどのように登場するか楽しみです!


50話に到達しました!ではどうぞ!


「今日も冷えるな…」

 

間桐光太郎は思わずそう呟きながら、夜道を歩いていた。

 

 

自宅である間桐家からバイクを使わず、徒歩で移動すること数十分。光太郎は深山町の商店街へと到着した。しかし、まだ夜の7時という時間に関わらず、多くの店がシャッターを下ろしている。

 

以前ならば街灯の下、魚屋や八百屋が店終いをすると入れ替わりに居酒屋や食事処を求めて多くの人間が行き交っていたが、今では商店街を歩いているのは光太郎ただ1人だ。

 

「…随分と寂しくなったな。ここも」

 

新都を襲った2度目の悲劇。

 

その元凶であるゴルゴムの怪人軍団の猛威はネットワーク等の情報媒体で瞬く間に日本…そして世界にで拡散し、一日と待たずに危険と判断した多くの市民は政府の指示を受けるまでもなく街を後にした。ニュースでも連日報道が上げられ、日本から離れる人々も後を絶たない。

 

ゴルゴムは本気で、世界への侵略を開始したのだ。

 

そしてゴルゴムの矛先が日本だけとは限らない。過去に祖父…間桐蔵硯の友人がゴルゴムの痕跡を発見した場所は、祖父の故郷であるロシアだった。ならば世界中にゴルゴムが潜んでいるとしてもおかしくはない。

世界規模での侵略が開始される前に、光太郎にはやらなければならないことがいくつもある。人類抹殺に利用されようとしている聖杯である少女…イリヤスフィールの奪還、大聖杯の破壊。そして―――

 

「…っと、やってるな」

 

光太郎は思考を中断し、商店街で唯一明かりが燈っている店の前で立ち止まる。

 

居酒屋であるその店の看板を見上げた光太郎は、気持ちを切り替えて、よしっと言って手を伸ばす。

 

引き戸を開け、暖簾を潜ると幼いころから変わらない髪型と笑顔で光太郎を出迎える若旦那の姿があった。

 

「ようコータ!ようやく来やがったな」

「ごめんダイ君、遅れちゃった」

 

申し訳なさそうに手を合わせる光太郎にダイ君と呼ばれた額に手拭いを巻いた青年『橿原 大輔』は魚の切り身を盛りつけながら笑いながら答える。

 

「いいから入れよ。生でよかったか?」

「うん、お願い」

「ちょっとコーちゃ~ん!私達には挨拶なしぃ?」

「止めなさい圭織。光太郎君だって都合あるんだから」

「すまんなコータ。こいつ待てずに飲み始めちゃってさ~」

「ハハハッ。面倒はリョウちゃん任せるよ、ミノル君」

 

既に顔を赤くし、自分の髪をクルクルといじりながら光太郎を呼んだ『善養寺 圭織』。

酔った圭織に待ったをかけて説教を始めてしまった『紫苑 良子』。

その光景を光太郎と微笑ましく眺めている細目のが特徴である『東堂 穣』

 

この場にいる全員、光太郎とは小学校から高校まで共に過ごしたかけがえのない親友達だ。卒業後は光太郎と同じく進学した者、家業を継いだ者と進んだ道はそれぞれではあるが、成人を迎えてもこのように集まっている。

 

「ダイ君。ご両親は…?」

「ああ、先に行った。俺も明日の朝にはこいつ等を車に載せてお袋の実家の旅館にいく。そこなら、暫く働けるしな」

「そっか」

「そんなわけで、今夜は酒には付き合えねぇ。すまんな」

「うん…」

 

カウンター越しに手に持ったグラスへ生ビールを注いてくれる大輔の言葉に、光太郎は無意識に小さい返事をしててしまった。

 

 

 

この非常時に集まって宴会となったのは、光太郎が親友達の安否を確認する為に連絡を取り合った際に、全員がそれぞれの理由でまだ冬木に残っていると判明した時のことだ。

大輔の「『こんな時だからこそ飲もうぜ!』と言うエキセントリックな発言の元、実施されたのである。

彼の提案には流石に光太郎も猛反対した。ゴルゴムの侵略が『まだ始まらない』とはいえ、余りにも危険すぎると説得したが、彼には折れると言う言葉が通用しないことを今更思い出した光太郎は、既に諦めて参加を決めていた穣達と同様、溜息を付いていた。

 

しかし、光太郎は大輔の気持ちも分からなくはなかった。もしゴルゴムの侵略が本格的に開始されてしまったら、このようにみんなで集まる機会など二度とないかもしれない。

 

『こんな時だからこそ』

 

光太郎は彼の言葉を

 

『今ならいつも通りに会える』

 

と解釈していた。大輔の言い分は我儘のようで、実は周りを考えた故の発言は多々あった。その誤解を解くために自分や仕切り役の良子がフォローしていることが、常に日常の中にあった。その日常が叶得られないと察した大輔は、強引にみんなを集め、いつも通りの宴会を開いた。そして終わったら責任をもって全員をそれぞれ避難先まで送り届けるつもりなのだろう。

今も鼻歌交じりで注文された枝豆を準備している幼馴染みの行動には毎回驚かされる。考えてみれば、改造された自分を最初に本気で怒り、周りを頼れと言ってくれたのも大輔だった。

頭が上がらないわけだなと考えなが、光太郎はとっくに合わせる泡の消えたビールを口に運んだ。

 

 

「そういや新都に出た怪物だけど、なんでいきなりいなくなったんだろうな~。もしあのまま暴れてたらここも一たまりもなかったはずだし…」

「言われてみれば、そうよねぇ」

「…………」

 

穣の言葉を聞いた光太郎は、昨日に起きたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

サーヴァント達の協力によって、新都を襲った怪人軍団を殲滅させることに成功した光太郎が、大怪人となったダロムと睨み合いを続けていた時だった。

 

突如空を雲が覆い隠し、雷鳴が轟き始める。新手の怪人と思わず身構えるサーヴァント達に対し、光太郎はこの現象を起こしている張本人が誰かを理解し、空に向かって名を叫んだ。

 

 

「小細工は止めて姿を現せ!シャドームーン!!」

 

光太郎の叫びに答えるように、雲からより強い雷が放たれた直後。そこにいたのは優に20メートルを超す巨体となったシャドームーンの姿があった。

 

「なんと面妖な…」

「貫き甲斐ありそうじゃねぇか…」

 

武者震いと共に己の武器を強く握るアサシンとランサーに、キャスターは冷静に告げる。

 

「盛り上がっているところ悪いけれど、あれは幻よ。実態はここにはいないわ」

「では、何の為に…」

「用があると言えば、彼にでしょうね」

 

セイバーの質問に応じながらもキャスターは内心、シャドームーンの持つ力に戦慄していた。シャドームーンの姿を現したここは、自分が今ある魔力を費やして張った強固な結界が展開されている。

それを易々と突破し、妨害されることもなく、強大なイメージを発動させている。

 

戦わずとも、相手を圧倒する存在。世紀王シャドームーンを前にして、キャスターは後ろに下がるどころか、前に出た協力者の姿を見た。

 

「シャドームーン…」

『見事だブラックサンよ。この短い期間にそこまでの力を見につけるとはな』

 

全身に響くような冷たく、低い声。その声と共に姿を初めて見た慎二と桜は、脅威以上に、複雑な気持ちとなっていた。

 

「あいつが、光太郎の…」

「親友で…家族だった人…」

 

自分たちよりも前に幼い光太郎と過ごし、兄弟同然であった人物。自分たちと同じ境遇のはずなのに、なぜ、こうも違ってしまったのだろう…

 

 

『もはや怪人共を差し向けたところで意味がなかろう…貴様は、確実に強くなっている』

「……………」

 

宿敵の賛辞に一切の反応を示さない光太郎。それは、次にシャドームーンが次に発するであろう事を受け入れるためだった。

 

(コウタロウ……)

 

そして、ライダーも同様だった。秋月家の墓前での戦いから、シャドームーンは、今という時を待ちわびていたのだ。あの時、シャドームーンは光太郎に言い放っていた。

 

より、強くなるように。

 

その強さが、シャドームーンによって認められるものであるならば…

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブラックサン。貴様に一対一の決闘を申し込む!!』

 

 

 

 

 

 

シャドームーンの言葉に、光太郎は強く拳を握り絞めた。

 

ついに、来たるべき時が訪れてしまったと。

 

 

『時は3日後、場所は…分かっているな?』

「……ああ」

 

 

光太郎の返事を聞いたシャドームーンの巨体はまるで何もなかったかのように姿を消し、雲も消え去っていた。

 

(信彦…)

 

 

その後の事は、決闘のことで頭が一杯となっていた光太郎はよく覚えていない。ライダーから聞いた話だと、ダロム達は『これで貴様も終わりだ!』と捨て台詞をして去っていったらしい。

ランサーは再び姿を消し、士郎、凛はセイバーと共に衛宮邸へと帰った。

 

キャスターや慎二からは罠の可能性があると忠告を受けたが、それはないと光太郎は断言した。シャドームーンは、心より光太郎との決着を望んでいる。光太郎を破り、創世王となることを野望としている彼が、姑息な手段に出るはずがない。

 

光太郎にとっても、ゴルゴムにとっても、これで全ての決着が付く。3日後に…

 

 

 

 

 

 

「全く、大輔君は昔っから勝手なんだから!!」

「お、おぅ…」

 

良子の叫びに現実に引き戻された光太郎は、飲み干したグラスをドンっと叩き付け、調理場で野菜を刻んでいる大輔を指さす彼女を見る。光太郎が考えている間に、随分と酒を摂取していたらしい。

耳まで赤くなっており、先程とは逆に圭織が仲裁に入っている程だ。

 

「ねぇ分かってる?理解してる?君の無茶に私がどれだけ心配しているか!!中学の文化祭の時なんか…」

「えぇっと、取り敢えず、すまねぇ」

「男が簡単に謝るなぁぁぁ――ッ!!」

 

…えぇ~?と理不尽な怒りを大輔に向けている良子の態度に、光太郎は穣と圭織に小声で尋ねた。

 

「2人って、もしかして」

「そ。何の進展もな~し」

「見てるこっちがもどかしいのよねぇ。ね、ダーリン?」

「ここでくっつくのは止めなさいと言っただろ」

 

口調を忘れて自分の腕に絡みつく圭織を引き剥がす穣。その見慣れた光景に思わず光太郎は笑ってしまった。

 

積極的な圭織とマイペースだがイチャつく場所は選びたい穣は中学から付き合い始めていた一方で、生真面目で素直でない良子は自由奔放な大輔に現在も片思い中であり、大輔に察する気配が全くないのが悲しい所である。

 

彼らと学び舎に通っている間、光太郎に異性と付き合う機会…告白されたことは幾度もあった。自分に好意を抱いてくれることは嬉しかったが、普通の人間ではない自分には、そんな資格はないと全てを断わり、女子の間では難攻不落と噂されたが、本人の耳には届くことは無かった。

幼馴染みが進展する姿(一部後退もしているが)光太郎は、目の前で誰かが幸せでいる姿を目にすればそれでいいと思いながらグラスを仰いだその矢先。

 

 

 

「そーいやコータ。外国人の彼女さんとは上手くいってんのか?」

 

 

 

やっと良子から解放された大輔の思いもしなかった不意打ちに光太郎は口に含んだ酒を全てを吹き出し、むせ返してしまう。

 

「え、何々?コーちゃんに彼女ぉ!?しかも外国人なのぉ!?」

「お~とうとう春を迎えてくれたか~お父さん嬉しいぞ~」

「光太郎君。ゆっくり聞かせてもらおうじゃない!」

 

標的とされた光太郎は呼吸を整え、急ぎ発端となった大輔へと問い詰めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!?ダイ君どこでそんな話を…」

「ああ、八百屋のとっつあんに桜と外国人ですんげー美人さんが買い物に来たって聞いてな。思わず桜に聞いたらしいんだわ。そしたら…」

 

『そうですね~私の義理の姉のような人です』

 

確かに、家族のように接してくれているし、間違ってはいない。間違ってはいないけど……

 

「で、でもそれだと慎二君の相手っていう可能性も…」

「コーちゃん…?」

 

弁明しようとする光太郎の肩を圭織は満面の笑みで答えた。

 

「あの慎二君が、あ の 慎二君がそんな美人さんを釣れるわけないじゃなぁい?」

「……………………」

 

身内の悲しい評価を叩きつけられた光太郎に、止めと言わんばかりの証言が親友の口から放たれてしまった。

 

 

「それに彼女さんに、『お互いを守り会おう』的なことも言ったんだろう?」

「どこでそれを!?」

 

反射的に言い返してしまった光太郎。その言葉はライダーとタカ怪人に襲撃された時に誓った言葉だったはず。それを見られてしまったのだとしたら…自分の正体も…

余程苦悩しているように見えたのか。大輔はその情報元をあっさりと白状した。

 

「コータ。あっちあっち。証人はあのひと」

 

頭を抱えながら、大輔の指さす方へと視線を移す。その先にあるのは光太郎たちの座っているカウンターとは別の座敷席となっている。その中央にある席で、見覚えのあり過ぎる存在が、心の底から楽しそうに、愉悦にまみれた目で焦燥仕切っている光太郎の姿を見て、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

「熱烈な言の葉であったではないか。そこいらにいる雑種であれば、聞いた途端に自らの熱でその身を焼き尽くすであろうよ」

 

 

 

黄金の盃を口に運ぶギルガメッシュの姿を見て、光太郎は床に沈んだ。

 

 

「なぜ…彼がここに…?」

「あ~、酒は自分のがあるから座席だけ使わせろってみんなより前に来てたぜ?気づかなっかのか?」

「うん…」

 

彼のことだ。きっと自分だけが認識でない宝具を使っていたに違いないと、光太郎は結論付ける。

 

「倒れていると悪いんだけどよ~コウタにとってその人は結局どうなんよ」

「どうって…」

「噂とかじゃなくて、光太郎君本人から聞きたいの。その…彼女さんのこと」

 

今更、彼女とはそんな間柄ではないといっても通用しない。ならばどう説明するかと、ライダーの姿を思い浮かべる光太郎。

 

 

聖杯戦争だからといって、自分を守るためと言って、傷つくを見るのが嫌だった。だから、共に戦い、守り会おうといった。

 

 

それから、彼女は笑うようになった。驚いたり、すねたり、いじけたり…彼女の、色んな顔を見れるようになった。

 

 

…終わりが、決まっていると分かっているのに…これからも、たくさんの顔が見たいと、考えてしまった。

 

 

ああ、そうだ。こう考えるのは、そういうことだ。

 

 

こんな事、考えちゃいけないのに…

 

 

 

「…ああ、そうだね」

 

 

どれ程の時間を考えていたか分からない。唾を飲んで眼差しを向ける一同に光太郎は観念したかのように答えた。

 

 

 

「俺にとって、彼女は…そういう存在だ」

 

 

 

全員が固まること10秒。

 

 

一斉に涙を滝のように流し始めた。

 

 

「え、何?何事!?」

 

「お、おめでとう光太郎君…ようやく、ようやく…」

「ちょっと待ってよ!色々と大げさ過ぎない!?」

「あの光太郎がな~立派になって~」

「さっき言ってたお父さんって本気だったの!?まだ生きてるからねうちの義父さんは!!」

「ひっく、うわぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

「俺がそういった感情抱くのが号泣するほどのことなの!?」

「いやなぁ、まさか朴念仁のコータにそこまで言わせる人なんてなぁ…」

「……激しく納得いかない」

 

その後も質問攻めに会い、慌てる光太郎の姿を肴に、ギルガメッシュは酒を味わっていた。

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

「よいしょっと。相変わらず軽いなこいつ」

 

寝静まった良子を車の助手席に乗せた大輔は続いて後部座席で寄り添って寝息をたてている穣と圭織に思わず苦笑する。

 

「荷物、これで全部?」

「おぅ!わりぃなコータも飲んでたってのに」

「気にしなくたっていいよ」

 

日付が変わり、大輔主催の席もお開きとなった。ギルガメッシュもいつの間にか姿を消しており、彼が座っていた座席には場所代として店の全商品注文しても釣りが発生する金額が置かれていた。

 

「ありがたくはあるけど、この先使えるのかねぇ」

 

などと皮肉を言いながら回収する大輔を見て、光太郎は彼を含め、多くの人々が抱いている不安を感じ取った。この先、日本という国が存在していられるかということを。

 

(そうはさせない。絶対に、守り通して見せる!!)

 

静かに決意を固めた光太郎は車にエンジンをかけた大輔の座る運転席の方まで移動する。大輔もウインドぅを下げ、光太郎を見上げる形となった。

 

「…お前もやること終わったら、避難するんだろ?」

「…うん」

 

そう、それが終われば、また騒がしくも、楽しい席を設けることが出来るから、光太郎は冬木に残らなければならない。

 

「…無理すんなよ」

「約束する。また、会おう」

「ああ、そん時には、彼女さんも連れて来いよ!」

 

大輔が差し出した拳に、光太郎は遅れて自分の拳を向けて、軽くぶつけあった。

 

 

それが合図となり、大輔は車を発進させる。彼の運転する車が見えなくなるまで、光太郎は立ち尽くしていた。

 

 

 

完全に車が見えなくなり、間桐邸に向けて歩き始めた光太郎は、自分の隣に着地し、戦闘装束から私服へと早変わりした自分のパートナーの姿を見て目を丸くする。

 

「ご無事ですか!?」

「ライダー…どうして?」

「先程私の前に、ギルガメッシュが現れ、言ったのです」

 

 

 

『貴様のマスターだが、随分と愉快な目に合っていたぞ』

 

 

なるほど。言葉だけ聞けば、光太郎が危険な目に合っているとも感じ取れなくもない。さらに彼女を意識している状態で迎えに差し向けるとは何たる精神攻撃。しかも心配なあまり上目づかいで顔を覗き込んできている。

 

この仕打ち、どうしてくれようとギルガメッシュへの報復を考える光太郎の取った手段は……

 

「あー何だか寒くなってきた!!温める為に走らなきゃ!!!、ライダー、俺は何ともないから大丈夫ッ!!!」

 

ライダーからの逃亡であった。

 

全力で走り出した光太郎に取り残されたライダーは、迫ほどまでの光太郎の顔色を思い出す。

 

 

「寒そうには、見えませんでした。むしろ…真っ赤だったような…」

 

 

やはり容態が良くないのかもしれないと、ライダーは光太郎の追跡を開始した。




今回登場した4名、以前にもチラッと出ていたりします。

いつかはこの5人が送った青春劇も書いてみたいです。

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第51話『逡巡の先』

いよいよ今夜からUBWのスタート!

先行回でも好評なようですので、放送が待ちきれません!

こちらも負けじとクライマックスに近づいてきた51話です!


仮面ライダーブラック…間桐光太郎へと一騎打ちを申し込んだゴルゴムの世紀王シャドームーンは、聖杯を身に宿す少女、イリヤスフィールのいる部屋へと向かっていた。

 

「~~~ッ!?」

 

「む…」

 

扉の向こうから騒がしい。捉えた少女の世話をシャドームーンは自ら生み出した侍女怪人、マーラとカーラに任せていはずと、室内の様子を確認するため扉を開けたシャドームーンの視界を漆黒が覆った。

 

「あ……………」

 

と、呆けた少女の声がシャドームーンの耳に届く。

 

沈黙が数十秒続いた後、自分の視界を隠していたモノが足元に落下した事を確認したシャドームーンは、それがマーラとカーラが用意した衣服であると気付く。顔を上げると、主人に無礼を働いたと怯える侍女2人と、何がおかしいのか、笑いを堪えている少女の姿。

 

自分の反応がそれ程おかしいものだったのか。

 

などと、自分らしくもない考えを巡らせてしまったシャドームーンは白い少女へと目を向ける。もはや最初のように怯える様子もなく、腕を組んでこちらを睨んでいた。

 

「何を騒いでいた?」

「だって、そんなセンスのない服を無理矢理着せようとするんだから!」

 

と、シャドームーンの質問にベットの上で土足で立っているイリヤは、先程まで彼の頭に被さった洋服を指差す。それは黒一色のドレスであり、着衣を強要されたイリヤは断固拒否。全力で放り投げるという結果になったらしい。

 

「…気に入らぬのなら最初から口で言え。黙って無視をするからこやつ等も良しと判断したのだろう」

「そんな事、セラもリズも…」

 

イリヤは自分の世話役であるホムンクルスの2人、セラとリーズレットを思い浮かべる。そして、常に自分の近くにいてくれた存在がこの場にいないことに気付き、イリヤの声は段々と小さくなっていった。

 

ここには自分をイリヤスフィールとして認識する人物は誰もいない。願いを叶える為の器。ゴルゴムにとって彼女の存在意義は、それだけなのだ。その事実が、孤独である処女の暗い感情を一気に加速させていた。

 

「…………」

「お前達」

 

沈黙が続く中、シャドームーンはお互いの手を取り、主に恥をかかせてしまった事に怯えていた侍女たちに指示を送る。

 

「この娘の望む衣服を用意しろ。時間はあまりかけるな」

 

それだけ伝えたシャドームーンは、再び扉を開いて、部屋を後にした。マーラとカーラは顔を見合わせると、主の命令を遂行の為、後を追うように部屋を出ていく。1人取り残されたイリヤは、ただ不思議だった。

自分を利用する為だけに攫った元凶が、なぜ、あのような事を言ったのだろうと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友人達との宴会を終え、ライダーと共に帰宅した間桐光太郎は、ソファにて座ったまま眠っている義弟と義妹の姿を発見する。

 

腕組みをしたまま俯いている慎二と、彼の肩に頭を乗せて寝息を立てている桜。

 

どうやら光太郎の帰りをずっと待っていたらしい。

 

「寝てていいって、言ったんだけどなぁ」

「それでも、出迎えたかったのですよ。貴方の事を」

 

苦笑しながらも光太郎はライダーが用意した毛布を受け取ると、2人を起こさないようにそっと掛ける。穏やかな2人の寝顔を見て、光太郎に自然と笑みが浮かんでいた。

 

「コウタロウ。2人は…」

「うん。絶対に避難しないってさ。はぁ、頑固者に育っちゃったなぁ…」

「こうと決めたら絶対に揺るがさない。まるで、誰かのようですね」

「あ、あはは…一本取られたなぁ…」

 

ライダーの鋭い指摘に光太郎は苦笑いするしかなかった。

 

光太郎達の住む住宅地でも次々と市外への避難が続く中、桜と慎二は家族と共に過ごした家から離れるという選択を選ばなかった。ゴルゴムの狙いは世界の征服であり、ならばどこに逃げようが安全な場所などどこにもない。

だったら、ここで普段通りに過ごす。光太郎は避難の提案を挙げてみたが、2人がどのような反応を示したは、予想通りであった。

 

「…慎二君ならともかく、桜ちゃんにまで怒鳴られるとは思わなかったなぁ」

「光太郎と離れたくないんですよ」

 

ライダーは溜息を付く光太郎の傍らでその光景を思い出す。

 

戦う術を持っていても、怪人と正面から襲われたら生き延びる保証がない戦いに巻き込まれないように2人への説得を光太郎は試みたが、虚しく撃沈。慎二が毒舌まじりの反論を言い終えると続いて桜が涙目になってここにいたいという合わせ技に光太郎が敵うはずがなかった。

 

「…なら、負けられないな」

 

新都での戦いから、もうすぐ2日が経とうとしていた。つまり、光太郎とシャドームーンの一騎打ちまであと1日ということになる。

 

自分を信じて、自分の傍にいてくれることを選んだ2人の為にも、敗北は許されない。

 

 

「…今日はもう休みましょう。あと1日あるとしても、休息は必要です」

「あぁ。そうさせて貰うよ」

 

光太郎はリビングを抜け、自室に向かおうとしたが、自分の服が摘ままれ、引き止められていることに気付き、思わず振り返る。

 

「ライダー…?」

「あ…その…」

 

光太郎の服の袖を摘まんだライダーは、目が合った途端に視線を逸らし、言葉を濁してしまう。引き留めた事はいいものの、その後どうするかを考えていなかったライダーの思考は混乱していた。

それ以前に、何故、休もうとする光太郎を引き留めてしまったのだろうと自問自答し汗を流し始めたライダーの姿に、光太郎は首を傾げる。

 

「ライダー、大丈夫?」

「あ、いえ…引き留めて、申し訳ありません。おやすみなさい」

「うん…おやすみ」

 

光太郎の声を聴いて我に返ったライダーはゆっくりと手を離し、今度こそ自室へ向かう彼を見送るのだった。

 

「………………」

 

今、宿敵との決戦を控えた光太郎を困らせてしまう訳にはいかない。なのに、ライダーは引き留めた光太郎に何を伝えようとし、何に期待してしまったのだろうかと自分の行動に疑問を抱いた彼女を、キャスターは物陰から様子を伺っていた。

 

(神代の存在といっても、初心なものね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴムの秘密基地内にある映像資料室。

 

そこにはゴルゴムが得た様々な記録が残っており、無論、ゴルゴムにとって忌むべき相手である間桐光太郎…仮面ライダーブラックと怪人の戦闘記録も多く収められていた。

 

「…………………」

 

シャドームーンは複数のモニターを同時に稼働させ、光太郎今のまで戦いを目に焼き付けている。光太郎との戦いを明日に控え、可能な限り情報を収集しようとしていた。

 

その記録の中ではランサーやアーチャー、最近ではキャスター陣営との戦いもあった。

 

「こんなの見てて楽しいの?」

「………………………………」

 

突然聞こえた場違いの声にシャドームーンはゆっくりと視線を下に向ける。そこには純白に金色の刺繍が施されたドレスを纏っているイリヤスフィールが多くのモニターをキョロキョロと見渡している姿があった。

 

「なぜここにいる?」

「ねぇ、これってライダーのマスターがカイジンっていう使い魔と戦っている映像しかないの?それにこの部屋って真っ暗で、センスの欠片も感じられないわね」

「無視をするな」

 

質問するシャドームーンに構わずくるくると回り、ドレスのスカートをはためかせながらイリヤは室内の様子を伺う。シャドームーンは部屋の入口付近で、目が合った途端に怯える様子で頭を下げているマーラとカーラの姿を見る。

 

察するに勝手に抜け出したイリヤを掴まれらず、今に至っているらしい。シャドームーンは手を上げ、下がれを指示を送ると、再び深く頭を下げた2人の侍女怪人は音を立てないように部屋から出て行った。

 

再び映像に目を向けるシャドームーンは先程と打って変わり、大人しくなったイリヤが一つのモニターを凝視していることに気付く。

 

そこにはクモ怪人に首を絞められている衛宮士郎が光太郎に救助される場面であった。

 

「…シロウ」

「………お前とは、因縁のある相手のようだな」

「…………そう。そこまで知っているのね」

 

少女の姿からは想像も付かない冷たい声であったが、それに臆するシャドームーンではない。イリヤの体内に聖杯を宿しているという情報を監視役から聞き、ゴルゴムはその背景にあるアインツベルンやその関係者について徹底的に調べ上げた。

 

その中に、18年前にアインツベルンに接触した魔術師と、映像に移った少年の関係も自然に浮彫になった。シャドームーンに取って、ただそれだけのことだった。

そして映像は、クモ怪人を撃破した光太郎が、間桐慎二に支えられている士郎へ歩んでいく所で終了した。

 

「お前がセイバーのマスターである人間にどのような感情を抱いていようが、私には関係ない。用のないのなら、この部屋から出ていけ」

「ふうん。深くは聞こうとしないんだ」

「先程言ったぞ。関係がないと」

「そう、ね」

 

シャドームーンの言われた通りに、踵を返すイリヤは部屋の出口へと向かって行くが、途中で振り返り、シャドームーンへと尋ねる。

 

「ねぇ。アナタはなんでライダーのマスターと戦うの?」

「私が、創世王となるためだ」

「聞き方が悪かったわ。アナタ自身は、ライダーのマスターと戦うことをどう思っているの?」

「…………」

 

イリヤの放った質問に、シャドームーンから先程のような即答はない。

 

シャドームーンには、イリヤのように自分との約束を破った父親の養子に向けたような負の感情を抱いている訳ではない。ただ、自分と創世王の座をかけて戦う。そらが、シャドームーンに課せられた唯一の目的。

 

宿敵であるブラックサンを倒す。

 

逆に言えば、シャドームーンにはそれしかなかった。

 

「…お前に話すようなことではない」

「そう…気に障るようなことだったら、謝るわ」

 

謝罪するとともに、白い少女は今度こそ部屋を後にする。

 

シャドームーンは振り返ることなく、光太郎の戦いを記録した映像を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

決闘を翌日に控えた間桐家

 

「ふぅ…どうだバトルホッパー?ピカピカになっただろう!」

「PiPiPi!」

 

間桐家のガレージ内で、光太郎は愛機であるバトルホッパーとロードセクターの整備を終え、仕上げの磨きにかかっていた。キャスターとの戦いでダメージを負ったロードセクターも、製造者である大門博士の息子である明に予備パーツを送ってもらい、完全な状態へと復活を遂げている。

 

光太郎は嬉しそうに反応するバトルホッパーの様子を見ながら、パイプ椅子に腰を掛けた。

 

「2人には…今まで本当に助けられた。いくら感謝をしてもし切れないくらいに。ありがとう」

 

感謝を述べながらも、光太郎の表情は優れない。立ち上がり、2台の間で膝を付くと優しく、撫でるように機体へと触れた。

 

「…もうすぐ信彦と決着を付ける時がくる。もしかしたら、俺は死ぬかもしれない」

 

主の弱気の発言に、バトルホッパーは激しく機体を揺らす。ロードセクターも同意見のつもりなのか、機体は揺らしていないもののヘッドライトを激しく点滅させている。

 

「怒らないで。別に負けるつもりはないよ。ただ…もしも、そうなってしまったらって、考えてしまうんだ」

 

シャドームーンと初めて戦った時は、自分の攻撃が一切通用せず、ライダーに危機が迫っていなければ力を発揮することすら出来なかった。

 

もし、明日の決闘の際も同様のことが起きれば…

 

「そうやって、いつも本音を言ってくれないからシンジは怒りますし、サクラは不安がるのではないですか?」

 

突然背後から聞こえた声に、光太郎は思わず立ち上がった。いつの間にかガレージにやってきたパートナーであるライダーは腰に手を当て、目を細めて光太郎を見上げている。

 

まずい、怒っている。

 

背中に流れる嫌な汗を感じながら、光太郎は先程の発言の言い訳を必死に考えるが、ライダーはため息交じりにマスターへと物申した。

 

「…コウタロウ。周りを心配させまいと無理に笑うのは構いませんが、もう少し肩の力を抜いては如何でしょうか?」

「ライダー…」

「貴方が抱いている苦悩は、貴方のものです。私が聞いたところで、何一つ解決できるものなどないかも知れない。けど、私は…」

 

一度呼吸を止めたライダーは、光太郎の瞳を真っ直ぐ見て、続けた。

 

「私は知りたいんです。コウタロウがどのように悩んで、どのような答えを出すか。コウタロウがどのように進んでいくか、私は知りたい…」

 

戦いが全て終わり、この時代から消えても、安心できるように。愛する存在が、その道を進んでいけると信じられるように…

 

ライダーの言葉を受けた光太郎は、ただ驚くしかなかった。家族である慎二や桜ですら踏み込もうとしなかった領域に、ライダーは正面から飛び込んできたのだ。

 

「…敵わないなぁ。本当に、敵わない」

 

惚れたが負け、とはこの事だろうかと光太郎は口に出さずに、ライダーへの敗北を認めた。

 

 

 

「…負けるつもりはない。けど、自信がない。こんな簡単な理由だよ」

「確かに。2人には大見得を切った人の言葉とは思えませんね」

「…加減を知らないねライダーは」

 

それから光太郎は、打ち明けるようにライダーへ時間をかけて話を続けた。光太郎と並んで座るライダーは自分で言った通りに光太郎の話す内容に指摘を上げることなく、彼女の思ったことをその場で述べるというだけに留めてる。

 

「でも、その通り。2人には宣言しちゃったんだ。絶対に勝つって。それを守んなきゃ、この家の敷居を跨いで帰れないしね」

「コウタロウ…」

 

苦笑交じりに光太郎の口に出した言葉は、光太郎がこの家に、慎二と桜の元に戻るという確かな誓いに他ならない。だから、ライダーはその約束にもう一つ、条件を加える事を思いついた。

 

「コウタロウ。ならば、私とも約束をして下さい」

「約束…?」

 

立ち上がったライダーは、数歩前へ歩き、立ち止まると光太郎に顔を向けず、言うか言わまいか、逡巡しながらも決意を固めて口を開く。

 

「…名前を」

「名前?」

「戦いが終わり、無事に戻りましたら…私を、名前で呼んで欲しいのです」

 

 

ライダーというのはあくまでサーヴァントのクラス名であり、彼女の本名…真名とは異なる。ライダーは自分自身の名を、光太郎に呼んで欲しかったのだ。あとどれほどの時間が残されているかわからない。まだ、マスターとサーヴァントとして繋がっている間に…

 

「…これは、ますます負けられなくなっちゃったな」

「コウタロウ…」

「わかった。約束する!そのためにも、俺は絶対に、明日の戦いは勝ってくるよ、ライダー」

 

つまり、負けずに自分の前に戻ってこいという新しい約束を口にした光太郎の方へと向き直ったライダーは、彼から自分に向けて右手の小指を突き出していることに気付く。

 

「これは…?」

「指切りって言ってね。約束を絶対に守る…儀式みないなものかな?」

 

何度慎二君や桜ちゃんとやったか覚えていないけどと笑う光太郎に釣られて微笑んだライダーも自分の小指を光太郎の小指と絡めた。

 

 

「約束ですよ…」

「ああ。約束だ!」

 

 

 

 

その後、門を清掃中だったアサシンの報告により、夕食時に桜とキャスターに盛大にいじられてしまうライダーであった。

 

 

 

 

 

そして、決闘の日…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光太郎は手に花を持ち、山道を進んでいた。

 

抜けた先には、秋月家として過ごした頃の思い出の場所であり、家族が眠る場所でもある丘。

 

光太郎は墓前に花を添えようと近づくと、既に3つある墓石の前に花が一輪ずつ置かれている事に気付く。

 

「…先に来てたのか」

 

光太郎は自分の持ってきた花を順番に添えながら、背後に立っている存在へと声をかけた。

 

「考えていた事も同じだったとはな。貴様と秋月信彦は、どこまでも似た存在のようだ」

「それはそうだ。俺と信彦は兄弟で、親友なんだからな…」

 

光太郎は手を合わせながら、背後にたっているシャドームーンの質問に応じる。

 

 

「…では、場所を変えるぞ」

「…ああ」

 

 

 

シャドームーンが手を翳した瞬間、2人は消失し、別の場所へと移動していた。

 

そこは2人が先程までいた丘から見下ろした場所であり、断崖絶壁の麓でもある。すぐそばには海があり、強い波が岩に叩き付けられていた。

 

 

「私の決闘に応じたという事は、覚悟が出来ているということだな?」

「お前の言う決意とは違うかも知れないが、さっきの場所に来た時点で、答えたを出しているようなものだろ?」

「フッ…………」

 

光太郎の出した回答に満足したのか、シャドームーンはその手にサタンサーベルを出現させる。

 

(あれは…!?)

 

思わず身構える光太郎。かつてはビルゲニアが手にしていたゴルゴムの聖剣。その切れ味と力を嫌という程味わった光太郎は警戒していたが、シャドームーンの起こした行動に目を見開いて驚いた。

 

 

 

シャドームーンは真横へとサタンサーベルを投擲し、岩の壁に突き刺したのだ。

 

 

 

「…なんのつもりだ」

「貴様の知っての通り、あのサタンサーベルは創世王が手にする剣だ。この戦いに勝ち、キングストーンを2つ手にした者が持ち主となる。つまり…」

 

「あの剣が次に引き抜かれる時は、どちらかが勝利した時のみ…!」

 

 

両手を広げ、構えるシャドームーンの覇気に押されながらも、光太郎は自分を奮い立たせる為に、決意を口にした。

 

 

 

「…俺は負けない!約束を守る為に、そして―――」

 

 

 

「信彦!!お前を助ける為にッ!!」

 

 

 

右半身に重心を置き、両腕を大きく振るうと右頬の前で握り拳を作る。

 

ギリギリと音が聞こえる程込めた力を解放するような勢いで右腕を左下へ突出し、素早く右腰に添えると入替えるように伸ばした左腕を右上へ突き出す。

 

 

「変っ―――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、ゆっくりと右半身から左半身へと旋回し――

 

「―――身ッ!!」

 

両腕を同時に右半身へと突き出した。

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

 

「仮面ライダー…ブラァックッ!!」

 

 

 

 

 

「戯言をッ!!貴様を倒し、私は創世王となるッ!!!」

「信彦…ッ!!勝負だッ!!」

 

 

2人の世紀王は、同時に駆け出したのであった。

 

 

決着を着ける為に…

 

 




ちょいと流れが原作と異なりますが、次回決闘となります。

ご意見、ご感想おまちしております!


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第52話『真の力』 

UA、70,000突破です!
ハーメルンで執筆を始めて早1年がたちました。ここまでお付き合いしていただき、本当にありがとうございます!
これからもお付き合い頂ければ幸いでございます。

では、52話をどうぞ!


「…俺は負けない!約束を守る為に、そして信彦!!お前を助ける為にッ!!」

 

 

仮面ライダーブラック…間桐光太郎とシャドームーン。

 

 

ついに2人の世紀王による戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

「戯言をッ!!貴様を倒し、私は創世王となるッ!!!」

「信彦…ッ!!勝負だッ!!」

 

同時に駆け出し、飛び上がった両者の拳が空中でぶつかり合う。その衝撃は、2人が戦う寸前までいた秋月家が眠る丘から戦いを見守っている2人のサーヴァントまで届くほどであった。

 

「コウタロウ…」

「念のため、防御壁は張らせて貰うわよ。もし全力でぶつかり合ったなんてことがあったら、こちらが危ないわ」

「…ええ」

 

今ならまだ微風がライダーとキャスターの髪を微かに靡かせる程度にしか影響はない。だが、光太郎とシャドームーンの力はまだ力の半分も出し切っていない。この場に居続けるためには、自分達の身は自分達で守る他ないのだ。

 

 

一方、間桐家では間桐慎二と間桐桜がリビングに設置された水晶玉を食い入るように見つめている。それはキャスターがライダーと共に光太郎の後を追う前に置いて行った遠視に利用するアイテムであり、持ち主のキャスターが操作しなくても望む場所を映し出せる代物であった。

 

「兄さん…」

「………」

 

義兄と宿敵の決闘を見つめる桜に対し、慎二は水晶玉に映し出される戦いが気になりながらも、背後に立つアサシンのサーヴァントを忌まわしく睨んでいた。そんな彼の視線を受けながらも、アサシンは栁洞寺の門番として立っていた時と同じように陣羽織を纏い、2人の背後ですまし顔で立っている。

 

絶対に光太郎の後を追うと決めていた慎二と桜の行動を読んでいた光太郎はキャスターとアサシンに頼み、せめて自分の状況だけは分かる環境を用意。もし飛び出して光太郎の元へ向かいかねない事になれば、アサシンが強引に止める…

光太郎の立てた案に憤慨しながらも大人しくさぜる負えない事に慎二に出来る事は、不満を視線でアサシンへとぶつける事と、映像で義兄の死闘を見ていることしかなかった。

 

 

 

 

 

「トァッ!!」

「ハァッ!!」

 

空中で拳が衝突後、地面へ落下を続けながらも光太郎とシャドームーンの応酬は続いていた。

 

肘打ちと肘打ち。

 

回し蹴りと回し蹴り。

 

掌底と掌底。

 

互いの繰り出す攻撃がぶつかり合うたびに赤と緑の火花が散らばっていた。

 

光太郎は手足に走る赤と黄のラインから蓄積されたキングストーンの力を解放する『パワーストライプス』を使用しての攻撃だったが、シャドームーンの放った技と威力は全くの互角。さらにシャドームーンは光太郎の狙った場所を読んでいるのか、へ全く同じ攻撃を同じ軌道で放ち、これまで一度も互いに攻撃が当たっていない。

 

(このままじゃ、無駄に体力を消耗する…なら、あちらが読めない攻撃でッ!!)

 

埒が明かないと判断した光太郎は、地面までの距離が後5メートルを切った時、身体をのけぞらせ、シャドームーンの頭部目がけ、自分の額を叩きつける……頭突きを放とうとしていた。

そのような手段に出るとは思うまいと考えた光太郎だったが…

 

「!?ッ」

 

シャドームーンも同じく既に上体を後に逸らしており、光太郎の額目掛けて頭突きを放っていた。

 

地面の着地と同時に衝突する2人の頭部。轟音が周辺へと響く中い、頭突きによって頭の中身が揺さぶられ、一瞬光太郎の視界は揺らいでしまう。シャドームーンはその隙を逃さず、光太郎の頭部を鷲掴み、一本背負いをする要領で地面へと叩き付けた。

 

「ガぁッ!?」

 

光太郎の背中に激痛が走る。岩場にめり込み、抜けようにも見動きが取れなくなってしまった。あまりの痛みに声を上げる光太郎の目に映ったのは、再び飛び上がり、自分に向けて落下するシャドームーン。落下するのと合わせたエレボードロップを喰らわそうとするが、シャドームーンの場合はそんなものではすまされない。

彼の肘に装備されている鋭く黒い棘『エルボートリガー』によって串刺しにされてしまうからだ。

 

「こン…のぉッ!!」

 

強引に抜け出した拳を振り上げ、地面に勢いを付けて叩き込む。すると光太郎の真下で燻った衝撃のエネルギーが爆発。捲りあがり、吹き飛んだ石礫がシャドームーンに向けて飛散。シャドームーンの狙いを逸らすと同時に貼り付けの状態から解放された光太郎は横に転がり、身体に大穴を作ることを免れた。

 

「くっ…」

「機転が利くではないか。それでこそだ」

 

土煙が晴れ、シャドームーンの足元にある穴を見てゾッとする。あの場にもう数秒いたのならば…光太郎は頭を振り、今目の前にいる相手との戦いを考える事を優先させる。

 

(身体に蓄積していたキングストーンの力を振るっても互角…なら!)

 

光太郎は両手を左右に広げ、両拳をベルトの上で重ねる。エナジーリアクターから眩い光を放ち、光太郎の右手に宿っていく。

 

(キングストーンから直接取り込んだ力で…!)

 

バイタルチャージによって強化された拳を強く握りしめた光太郎をシャドームーンは怪しげに目を光らせた。

 

「ようやく出したか…」

 

「トァッ!!」

 

光太郎はその場から高く跳躍。佇むシャドームーンに向けて、エネルギーを纏った拳を放った。

 

「ライダーッ――――」

 

「―――パァンチッ!!」

 

叫びと共に放たれた光太郎必殺の技。これまで多くの敵をなぎ倒してきた姿を目にしてきた慎二と桜は、水晶玉の奥でシャドームーンの起こした起こした行動が信じられなかった。

 

 

「そ、そんな…」

「光太郎の、技を…」

 

 

 

 

 

ライダーパンチが当たる寸前にシャドームーンは光太郎の手首を掴み、当たることなく完全に防いでいた。段々と光を失っていく拳を動かそうにも、シャドームーンに掴まれた手首を振り払うことが出来ない。

 

 

「…ッ!?」

「お前のバイタルチャージによって全身をキングストーンの力で強化されるが、攻撃の際はその箇所は一点に絞られる。今回の場合は拳がそれだ」

「グッ…」

 

手首を掴まれたままの光太郎に、シャドームーンは冷たい声のまま言い放った。

 

これまで多くの戦いを重ねたブラックサン…コウタロウの戦闘記録を目にしたシャドームーンは、光太郎が放った技を全て研究。最小限の動きで封じることが可能となっていた。

 

 

 

「本気を出せブラックサン」

 

 

 

 

刹那、光太郎は上へと放り投げられる。

 

 

相手の怪力に驚きながらも再びバイタルチャージし、拳を手刀に変えて落下しながら眼下のシャドームーンへ向けて振り下ろそうとするが、光太郎の身体を緑色の放電に捕縛されてしまった。

先に動いていたシャドームーンが手から発射したシャドービームを鞭のように放ち、光太郎を縛り上げると崖の壁面へと向けて腕を振るう。

 

「ぐ…おぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

壁面にぶつかる前にシャドービームを引き千切った光太郎は壁面を足場にしてつま先がめり込むほど強く踏み込み、再びシャドームーンに向けて弾丸のようなスピードで飛び込んでいく。

今度こそ技をぶつけようと相手に向かいながら両腕を広げる光太郎を見て、シャドームーンは構える。

 

(飽きずに再び技を使うか)

 

そして光太郎がエネルギーを纏った拳をシャドームーン目がけて放ち、先程と同じように防ごうと手を挙げた途端、光太郎の動きが変わった。

 

「むッ!?」

 

シャドームーンが手首を掴もうとした一瞬、光太郎はその場で突然落下中に身体を前転させる。パンチを防ごうとしたシャドームーンの手は空をきり、彼に迫ったのは前転をしたことでより威力を増した光太郎の踵落とし。

シャドームーンは直ぐに両腕を交差させ防御を取るが、落下する重力を乗せての攻撃に耐えられず、光太郎の踵は左肩へと圧し掛かった。

 

「ぬぉッ!?」

 

初めて決定的なダメージを与えることに成功した光太郎はこの隙を逃さない。

 

「トアァッ!!」

 

がら空きとなったシャドームーンの腹部へ光太郎は全体重を乗せた拳を放つ。渾身の一撃によりシャドームーンは踏み止まることができず吹き飛び、壁面へと激突した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…どうだ?」

 

ガラガラと壁面が崩れる音が聞こえ、土埃が舞う中、シャドームーンは何事もなかったかのように姿を現した。

 

 

「フフフ…今までの攻撃が通用しないとわかり、直前に別の技に切り替えるか…やはり、見守られているだけでも違うということか」

「……………」

 

光太郎は答えない。この戦いをライダーが見守っていることは既にシャドームーンは勘付いている。彼はライダーを人質にすることはありえないが、ゴルゴムという組織は別だ。何時、あの大怪人達が姿を現し、ライダーに手を出すかわからない。

その為に、光太郎自身から彼女が近くにいることを思わせることは口にできないでいた。

 

「…それと何の関係がある」

 

ゆっくりと自分に向かい歩んでくるシャドームーンを警戒し構える光太郎に、シャドームーンは同じ言葉を放った。

 

「もう一度言うぞブラックサン。本気を出せ」

「俺は全力で――」

「いつまで誤魔化しているつもりだ。自分と、その周りを」

 

 

シャドームーンの発言にコウタロウの動きが止まる。これには彼だけでなく戦況を見ていたライダーや慎二、桜までもが聞き耳を立てる。

 

「何を言っているんだ…俺は…」

「ならば言わせてもらおう。ブラックサン、お前は既にキングストーンの力を全力で振るうことが可能となっているはずだ。それを怪人一匹程度をやっとの思いで倒している『振り』をして、力を抑えている。大方、力を放出した結果、お前の周りに被害が及ぶと考えているのだろう」

「…………」

「要はお前の『思い込み』なのだ、ブラックサン。怪人共をようやく倒せる。『それが自分の精一杯だ』と貴様は自分を偽り、真の力を振るわないでいるに過ぎない」

 

それは映像記録を見て理解した事だった。光太郎はその性格と力を忌まわしく思っていることから、本来世紀王として持つ力を全力で出し切っていない。創世王の候補として改造され、さらにキングストーンという神秘なる石を体内に宿す者がたとえ人知を超えた存在である怪人やサーヴァントに、苦戦することすらありえないことなのだ。

そして、指摘された思い込み…これにより、光太郎は自分の力を自分で縛ることで、今以上の力を発揮できないようにしていた。

 

シャドームーンに告げられた真実に光太郎は反論する様子を見せない。ならば、それは事実と認めているということだろう。

 

 

「そんな…今までの戦いが本気ですらなかったというの…?」

「………………」

「ライダー…?貴女、知って…?」

 

ライダーはキャスターの質問に黙って頷いた。

 

 

 

 

 

「そうであろう?そうでなければお前と以前戦った時に、私に圧倒されたあの時が『全力』であったのなら、私に一矢報えるなど不可能のはずだ」

「……………」

 

光太郎はシャドームーンの推測した事に、ただ黙っていることしか出来ない。だが、次に出されたもう一つの推測に、沈黙を破りざるえなかった。

 

「そして、これは全力を出してしまった場合だ…キングストーンを通して繋がっているあのサーヴァント…」

「…やめろ」

「もし、ブラックサンが全力を出した時、キングストーンの力を変換された魔力が過剰供給され…」

「やめろ!!」

 

光太郎の制止に構わず、シャドームーンは結論を告げる。

 

 

 

 

「サーヴァントは自身を現界させる以上の魔力に耐えきれず、自己崩壊を起こす」

 

 

 

 

 

「つまりは…消滅だ」

 

 

 

 

 

 

サーヴァントはマスターから供給される魔力以外にも魂喰いによって魔力を高め、蓄えることが可能であるが、それも無限ではない。キングストーンによって高まった膨大な魔力はライダーに数倍の力を授けるに留まらず、限界を超えた魔力を与えてしまう。

 

コップに容量以上の水を注げば溢れしまうように、光太郎が力を発揮した場合は、ライダーという存在を零れ落としてしまう事他ならない。

 

 

 

その衝撃にいつも冷静を装っている慎二は開いた口がふさがらず、桜は震えだしている。

 

 

「光太郎…お前…」

「そんな…兄さんは…そんな、そんな…」

 

2人は、光太郎とライダーがお互いは気付いていないだけでマスターとサーヴァントという関係以上の感情を抱いていることは理解していた。だが、下手をすれば光太郎自身でライダーを消滅しかねないという事実が2人を混乱させてしまった。

 

ただ1人冷静に状況を見ていたアサシンは、残酷過ぎる言葉を放ってしまう。

 

「なるほど。あの者を倒すとなれば、ライダーを見捨てねばならぬ、か」

「アサシンさん!貴方は…」

「事実そうであろうよ。そして、それを考えた末にあの男は戦いに挑んでいる。それは、今更覆せるものではない」

「そうだけどさ!もしそうだとしてもあの光太郎がライダーを…」

 

桜同様にアサシンに噛みついた慎二だったが、今ライダーがキャスターと共にいることにある可能性が浮かんだ。

 

「まさか、光太郎…キャスターをライダーに一緒にいさせてるのは…そういうことなのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

「そう、そういうこと」

「ご理解頂けて、助かります」

「全く、最初から言ってくれないとこちらの心臓が持たないわ」

「すみません。私も光太郎も、最後の手段としたかったんです」

「そうでしょうね…彼のあの反応は、指摘されたというよりも、家にいるあの2人に聞かせてたくなかったという感じだし」

 

 

丘の上でため息を付いたキャスターは、ライダーの周囲に魔法陣を展開。さらにその頭上にもう一つ魔法陣を出現させた。

 

 

(コウタロウ…私に構わず、全力を出してください)

(ライダー…すまない)

(安心して下さい。貴方が約束を守ってくれるまで、私は消えるつもりはありません)

(…ああ。君を、絶対に消させはしない!!)

 

 

 

レイラインでの会話を終えた光太郎は、拳を強く握り、宿敵の前で相対した。その姿にシャドームーンは理解する。もう迷いなく、自分に向けて全力をぶつけてくる宿敵の覚悟を。

 

 

 

 

 

 

「…いくぞ、信彦!!」

 

 

両腕を大きく広げ、両拳をベルトの前で重なると、エナジーリアクターが強く発光する。

 

普段のバイタルチャージならば次に攻撃の態勢となるが、今回は違った。

 

エナジーリアクターから放たれる閃光は止めないまま、光太郎は両腕を眼前で交差させ、ゆっくりと腕を広げていく。

 

「ハアァァアアアアアアアアッ……!!」

 

光太郎のうねると共に周りの大地が震え、足元がひび割れていく。

 

そして、光太郎の強化皮膚『リプラスフォース』の茶色である関節部分が段々と赤く輝き始め、2つの赤い複眼もより強く輝きを放ち始めた。

 

「ハァッ!!!」

 

叫びと共に両腕を左右へ広げた光太郎の赤く輝く関節部から常に蒸気が発し、複眼とエナジーリアクターは真っ赤に光っている。

 

 

 

バイタルチャージのように攻撃を仕かける一瞬ではなく、キングストーンの力を常に全身に漲らせた世紀王本来の戦闘スタイル。

 

 

 

 

ここに、真の世紀王が降臨した。

 

 

 

 

 

一方、ライダーは魔法陣の中で膝を付き、胸を押さえながらもその存在を保っており、魔法陣に向けて手を翳しているキャスターは集中するあまり額から汗が流れている。

 

 

「く…これは、思った以上に…!」

「耐えなさいよ…彼とまだ一緒にいたいならね」

 

 

ライダーの身を滅ぼす程の魔力をキャスターの魔法陣が吸い上げ、過剰魔力を外部へと放出。これによりライダーは魔力を過剰供給されることなく、現界することが出来ていた。

 

 

光太郎がライダーにキャスターを同行させたもう一つの理由。

 

もし、シャドームーンとの戦いで本来の力を解放しなければならない状況となったとき、キャスターの魔術でライダーへ注がれる魔力を一定量以上を排出することであった。

 

 

(時間はあまりかけられない。早急に決着をつけなければ…)

 

 

キングストーンの力を出し切った状態となった光太郎は、丘の上にいる自身のサーヴァントが、まだこの世界に存在していることを確認すると、直ぐにシャドームーンへと向き直り、構えた。

 

 

 

「く…クク…ハアーハッハッハッハ!!そうだ、それでこそだブラックサン!!」

 

 

 

 

高笑いをするシャドームーンの身体にも、光太郎と同様の変化が始まった。シャドームーンの黒い関節部が緑色に輝きだし、シャドーチャージャーと複眼も光太郎と同じように光を放っている。

 

 

 

 

「さぁ、これで対等だ!!」

「…いくぞ!!」

 

そらが開始の合図だったかのように、2人の姿が消えた。

 

 

その代わりに、何かがぶつかり合う轟音が絶えず響き渡っている。水晶玉からしか様子が見えない慎二達にとっては、わけの分からない状況となってしまった。

 

 

「なんだ…?2人はどこに消えたんだよ?」

 

水晶玉を揺する慎二の疑問は、いつの間にか2人と並んで戦いの観賞を始めていたアサシンによって解消される。

 

「2人は移動したわけではなく、見えないのだろう」

「見えない、んですか?」

「左様。力を解放した2人の世紀王は、最早人の視認できぬ世界で戦っているのだろう。目に止まらぬどころか、目に映らぬ世界で、な」

 

 

 

アサシンの言う通り、2人のスピードは既に解放前の数十倍へと変わっている。無論、それ以上にパワーも上がっており、攻撃がぶつかり合うたびに大地が抉れ、一瞬だが海が真っ二つに割れてしまう現象が起こっていた。

 

そして、2人の身体にも同様にダメージが蓄積されている。

 

光太郎の肩を守る円形のプロテクターは吹き飛び、シャドームーンのエルボートリガーは片方が砕けている。

 

 

距離をとり、ようやく視認できる姿となった2人は傷だらけとなりながらも、必殺技の態勢へと入った。

 

 

 

光太郎は右腕を前方に突出し、左手を腰に添えた構えから両腕を大きく右側へ振るう。そして右頬前までで両手を移動させると握り拳を作り、右拳をさらに強く握る。

 

 

 

シャドームーンは両手を広げ、パワーを両足へと集中。

 

 

両者の跳躍は同時だった。

 

 

 

 

「ライダーッ!!」

「シャドーッ!!」

 

 

 

『キィックッ!!!』

 

 

 

 

赤と緑の閃光となった両者の足が激突する。空中でぶつかり合い、押し合う力が中間で燻っている。

 

 

 

「ハアァァァアアアアアアアアッ!!」

 

「オオォォォォォオオオオオオッ!!」

 

 

雄叫びを上げる両者の力はより増していき、輝きを強くしていく。その衝撃で次々と地割れが置き、発生した力場により戦いで出来上がった多量の岩石が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

だが、その均衡する力はあっさりと終了する。

 

 

 

 

 

キングストーン同士の力での誘爆で起きた大爆発という形で。

 

 

 

 

「こ、コウタロウッ!?」

(魔力供給が止まった…ということは…)

 

 

空に広がっている煙幕に叫ぶライダーへの魔力の過剰供給が止まったことを確認したキャスターは魔法陣を解除。ライダーと同じく空に広がってる煙から落下する2人を確認した。

 

 

地面へと落下した光太郎とシャドームーンの姿は既にキングストーンの解放状態ではなくなっている。あの爆発で無事いられたのも寸前まで解放状態でいた恩恵なのだろう。しかし、生きていたというだけで、2人の身体は傷だらけを通り越し、重傷となっていた。

 

 

光太郎の右側の複眼はひび割れ、体中の傷から血液が流れている。

 

シャドームーンは額のアンテナの片方が折れ、機械仕掛けの装甲のあちこちに亀裂が走っている。

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…!!」

「ぬぅ…ぐぅ…!」

 

 

そんな状態となりながらも2人の世紀王は立ち上がり、ふら付きながら距離を詰めていく。もやはキングストーンの力を使っても、本人が耐えることすらできないだろう。

 

「…アァァァッ!!」

「グぉッ!?」

 

光太郎は力任せに拳をシャドームーンの頬へと叩き込む。仰け反るシャドームーンだが倒れずに、光太郎と同様に握った拳を光太郎の額へと放った。

 

「オォォォッ!!」

「グハァッ!?」

 

そして光太郎も倒れようとせず、再度シャドームーンを殴る…互いに一撃を与え、決して倒れようとしない。

 

既に特殊な能力も使えず、必殺の技を繰り出す体力も残っていない。だというのに2人は相手に屈することなく立ち続けている。

 

 

 

絶対に負けられない。

 

 

 

その意地だけが光太郎とシャドームーンの原動力となっていた。

 

 

 

丘から効果し、不安定な足場となった場所で10メートルほど先で戦い続ける光太郎とシャドームーンの姿をキャスターは呆れ顔で見ていた。

 

 

「まったく…最後の最後で醜い争いになっているわね」

「…全くです。ですから…勝たないと…許しません」

 

自分を消す可能性すらあった方法を取っての戦いの決着が、今ではだたの殴り合いなのだ。だが、これで自分を消すという恐れを抱かずマスターは戦く事が出来る。優しすぎるマスターの血なまぐさい姿を見ながらも、ライダーは微笑みながら見守っていた。

 

 

 

 

肩を揺らし、呼吸を荒くする2人の世紀王。だがその視線は逸らすことなく相手だけを捉えていた。

 

その動きも、どちらからともなく、同時に始まった。

 

右腕をゆっくりと掲げ、強く握りしめると僅かにだが輝きを宿し始めた。

 

光太郎の拳には赤い光。

 

シャドームーンの拳には緑の光。

 

2人は最後の一撃を放つべく、身体に残る最後のエネルギーを収束したのだ。

 

 

「ブラック…サンッ…!!」

「信…彦ォッ!!」

 

 

互いの名を呼び合い、十分な間合いとなった直後。決着を着けるべく2人の拳は同時にそれぞれを目掛けて打ち出されようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――茶番はそこまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光太郎の頭にそんな声が響いた。

 

 

そう考えていた光太郎の左胸に、赤い刀剣が深々と突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドームーンは理解が追いつかなかった。

 

 

 

 

 

同時に攻撃をしかけたはずだったのに、当てられたのは自分だけであり、相手の動きは拳を引いた状態で止まっていた。

さらに、投げ捨てたはずのサタンサーベルが相手の左胸を貫いていたのだから。

 

 

 

 

 

 

シャドームーンには全てがスローモーションに見えた。

 

 

自分の拳が宿敵の腹部へとめり込み、サタンサーベルを胸に生やしたまま両手をだらりとさげ、ゆっくり、ゆっくりと倒れていく姿を。

 

 

 

完全に地へと沈んだ直後、宿敵のサーヴァントの悲鳴が響いていた。




やっぱり我慢できず横やりをいれずにいられない創世王様でした。

2人の世紀王のバースト状態は某宇宙世紀の獣がモデルだったり…


ご意見、ご感想ガンガンお待ちしております!


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第53話『黒曜の死』

どうにも普段より長く書いた後は短くなってしまうパターン…

では、53話となります!


仮面ライダーブラックこと間桐光太郎を倒し、次期創世王となる。

 

 

 

ただ勝つだけではない。己の力を最大限に出し切り、同じ条件である宿敵に打ち勝つ。

 

 

ゴルゴムの世紀王シャドームーンにとっては、それが全てであった。

 

 

だからこそ、宿敵との決闘でシャドームーンは初めて自分が充実しているのだと考えた。相手を煽るような言葉を放つという下賤な手段を取ってしまったが、そうしなければ決して全力を出そうとしない。

その甲斐があり、宿敵は体内に宿るキングストーンの力を解放することでこれまでにない力を発揮し、自分とようやく対等となれたのだ。

 

同時に、宿敵には感謝をしなければならい。

 

 

これほど胸躍る戦いなど、終わってしまえば今後決して起こり得ないだろう。

 

 

故に負けられない。その為に、自分は生まれてきたのだから。

 

 

だが、結末はシャドームーンの望んだ形ではなかった。

 

 

 

全ての力を出し切ってなお、倒れようとしない宿敵へ打ち込む最後の一撃。同時に繰り出し、立っていた者が勝者となるはずだった。

 

 

 

 

お互いが攻撃を放とうとした寸前に、飛来した赤い魔剣。

 

 

 

なぜ、自分が決闘を始める前に投げ捨てた創世王の証が勝手に動き、相手の左胸に深く突き刺さったのだ。

 

 

シャドームーンがそう思考を巡らせたのは、魔剣に貫かれて無防備となった相手へ自分の拳を叩き込んだ後であった。

 

 

 

「なん…だ。これは」

 

シャドームーンは自身の目に映る宿敵の姿に思わず後ずさってしまう。胸にサタンサーベルが未だに突き刺さっており、赤い複眼は光を宿していない。そして段々と輝きを失い失い始めるエナジーリアクター。

 

「コウタロウッ!?」

 

シャドームーンの横を抜け、マスターへと駆け寄ったライダーは動かなくなったマスターを肩を揺さぶり、何度も声をかけ続ける。目に涙を溜めながら、何度も。何度も。

 

しかし、彼女へいつものように優しく、安心させるような声は帰ってこなかった。シャドームーンの攻撃を受け倒れた時から変わらずに、沈黙し続ける、生気を宿さない光太郎を見て、ライダーは認めてしまった。

 

 

 

彼は、死んだのだと。

 

 

 

「…うそ…つき」

 

光太郎の頭部を胸に抱き、ライダーは嗚咽と共にもう届かない言葉が吐き出された。

 

「シンジとサクラは…どう、するんですか…?御爺様への誓いは…誰が、叶えるんですか…?私との…やく、そくは…」

 

返事は、ない。

 

「うわ、あああああああああああああッ!!」

 

 

大声を上げて泣き始めてしまうライダー。神代の存在とは考えらない弱々しい姿を見ても、シャドームーンもまた変わらず、目の前の現実を受け入れられないままでいた。

 

 

しかし、その場に居合わせてただ1人、動きを見せる者がいた。

 

キャスターは立ち尽くすシャドームーンに向けて全力で魔力弾を撃ち込もうと力を収束を開始する。

 

今背中を見せているゴルゴムの世紀王は光太郎同様に力を使い切り、自分の魔力を防ぎ、避ける余力すら残っていないはずだ。ここで倒せば、敵の統制が完全に崩れるという考えたが、それ以上に彼女の中では別の感情が高ぶっていた。

 

それは彼女自身が決して認めようとしないことだろうが、キャスターは敵の組織を倒すという以上に、自分を仲間として引き入れた物好きをあのような姿へとしたことに怒りを抑えきれなかったのだ。

 

 

そして圧縮された高魔力を解放しようとしたその時、彼女の身体に異変が起きる。

 

「あぐっ!?」

 

突如、キャスターは地面に貼り付けにされてしまう。まるで巨大な石に押しつぶされているかのような感覚。自分に何が起きたか理解出来ないキャスターの耳に、どこからともなく何者かの声が響く。

 

 

『――亡霊如きがでしゃばるでない』

 

地の底から響くような声に、シャドームーンが反応する。握った拳を震わせ、悍ましい声の主の名を叫んだ。

 

 

 

 

「なぜだッ…!なぜブラックサンにサタンサーベルを放ったのだッ!!答えろ、創世王ッ!?」

 

 

ゴルゴムの支配者であり、間桐光太郎と秋月信彦に過酷な運命を背負わせた全ての元凶。創世王はまるで当然かの如く返答した。

 

 

 

『――私は貴様の望みを尊重していたに過ぎない。ブラックサンと全力で戦う…それは先程、叶えられた』

「そうだ!そして私は…」

『――だが、次の創世王である貴様が万が一に敗れる訳にはいかぬ。故に手を貸してやったのだ』

「な、に…?」

 

それは、全てをかけて戦ったシャドームーンの誇りを踏みにじるに等しい言葉であった。

 

『――それに、抹殺するべき下等な人間どもに味方するブラックサンなど、最初から創世王…しいては世紀王すら相応しくなかったのだ。さあ、シャドームーンよ』

 

光太郎の胸に刺さったサタンサーベルが光となって消滅したと同時に、シャドームーンの前に現れる。

 

『――サタンサーベルでブラックサンの持つキングストーンを抉り出し、今こそ創世王となるのだッ!』

 

シャドームーンは震える手でサタンサーベルの柄を掴み、倒れている光太郎の方へと顔を向ける。宿敵は先程と変わらず、泣き崩れているサーヴァントに抱かれたまま動こうとしない。キングストーンの輝きも、変わらずに弱々しいままだ。

 

「…っ」

 

光太郎との激戦で力を使い果たしたシャドームーンではあるが、剣をふり下ろす程度は可能だ。自分の最大の目的、創世王となるにはそれだけで十分事足りる。

 

身体を揺らしながらも一歩、また一歩足を進めながら光太郎へと迫るシャドームーン。

 

そして倒れている宿敵の元へとたどり着き、太陽のキングストーンを宿すベルト目掛けて剣を振り上げたシャドームーンの脳裏に、白い少女の言葉が過ぎった。

 

 

 

 

『アナタ自身は、ライダーのマスターと戦うことをどう思っているの?』

 

 

 

 

「う、おぉぉぉおおおおッ!!」

 

世紀王の咆哮と共に振り下ろされたサタンサーベル。だが、その切っ先は目標から大きく逸れ、光太郎の真横の真横へと突きつけられる。

 

だが、それだけで留まらず、切っ先によって作られた亀裂は段々とがり、ついに地割れを引き起こしてしまう。

 

 

「なっ!?」

 

倒れたままのキャスターが見たのは、発生した地割れに飲み込まれていく光太郎とライダー。立ち上がり、転移魔術で地割れの中へと消えた2人を救いに行こうにも身体が全く動かない。

 

(う、動いて!このままじゃ、彼も、ライダーも…!)

 

懸命に自分を縛る力を振り切ろうと身体を動かし、魔術を試していたが、一向に解ける気配はない。彼女は見せつけられていた。この数日間しか付き合いのない、お人好しの協力者とそのサーヴァントがもう、手の届かない場所へと消えていく光景を。

 

 

「ライダー…!光太郎ォッ!!」

 

2人の名を叫んだキャスターの意識は、そのまま沈んでいった。

 

 

 

『――なぜだ』

「はぁ…はぁ…はぁ…」

『――なぜ、キングストーンを奪わなかったのだ』

 

創世王の問いかけに答えないまま、シャドームーンは去っていった。

 

 

荒れ果てた決戦の地には、創世王の力により気を失ったキャスターが一人、倒れているのみであった。

 

 

 

ゴルゴムの秘密基地

 

 

「み、見たか…」

 

 

震えながら世紀王同士による戦いの結果を自分の背後に並んで見ていた大怪人2人へと問いかける大怪人ダロム。それに頷いたバオラムとビシュムも同様に興奮して、自分達に取って最大の敵が地の底へと落ちていく姿を巨大モニターへと映し出していた。

 

「つ、ついに憎き仮面ライダーブラックがシャドームーン様の手により最期を迎えた!」

「これで我々の世界征服が確実となったのね!」

 

歓喜に奮えるだダロムは自分達と同じく戦いを見ていた怪人達へと呼びかけた。

 

「聞くがいい!!ついに裏切者である仮面ライダーブラックは死んだ!!もはや我らゴルゴムの障害となるべき者は誰もいない!!」

 

ダロムの演説を聞き、怪人達は鼓舞を受けたように雄叫びを上げる。

 

「世界中のゴルゴム達よ!今こそ世界を我らゴルゴムのものとせよッ!!」

 

 

 

 

「うるさいわね…」

 

大怪人達の放つ声に不満を募らせるイリヤスフィールは、またもや部屋を抜け出して秘密基地の中を出歩いていた。今頃、マーラとカーラは青い顔をして自分を探し回っているのだろう。

その姿を想像して悪戯が成功したかのように笑いながら歩いていくと、先の十字路で誰かが誰かが倒れたような音が聞こえた。不思議に思ったイリヤは小走りで音の聞こえたほうへと向かうと、そこには傷だらけのシャドームーンが壁に背を付けて座り込んでいるシャドームーンであった。

 

「ど、どうしたのッ!?傷だらけじゃないッ!?」

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…グゥ!!」

「ど、どうすれば…」

 

抑えていた戦いのダメージによる痛みが全身に走り、苦しむシャドームーンの姿を見て、慌てふためくイリヤだったが、は意を決して彼の隣に座る。

 

(通用するか、わからないけど…ううん、考えている場合じゃない!)

 

イリヤは苦しむシャドームーンの耳元でブツブツと詠唱を始めた。それは催眠術であり、対象者の神経を麻痺させ、眠りへと誘うものだった。暫くすると術は成功し、シャドームーンの全身の痛みを和らげ、あれ程苦しそうに息を上げていたが今では定期的に呼吸をしている。

 

「ふぅ…」

 

以前はシャドームーンが指を鳴らしただけで自分のの攻撃魔術が無効化されてしまったが、彼の身体に効果が表れるか確証はなかった。術が成功したことに安吐したイリヤだが、あくまで痛みを押さえただけであって回復には至っていないため、急ぎ治療をさせるように撒いた2人の侍女怪人を探すために立ち上がる。

 

「今、2人を連れてくるから待ってなさい!」

 

長いスカートをはためかせながら駆けていくイリヤの姿が通路の奥へと消えた後、意識を失ったはずのシャドームーンの口から、まるで願うかのように言葉がこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれしきのことで…死ぬなど許さんぞ…ブラックサン…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

金髪の青年、ギルガメッシュはここ数日太陽が顔を見せず、濃い雨雲で囲まれたままの空を見上げながら浜辺を歩いていた。

 

 

「………………」

 

 

無言で歩き続ける事数十分。海岸の岩場を進んでいくうちに、大きな洞窟へとたどり着いたギルガメッシュは、入口で待っていたと言わんばかりに声を上げるクジラ怪人の頭を撫でる。

それが済むと、クジラ怪人は洞窟の奥へと足を進め、ギルガメッシュも続いていく。洞窟の内部はクジラ怪人が住処として利用している為か歩きやすく、もし子供達が走り回ったとしても転ぶことはないだろう。

 

だが、それも既に叶わない光景だ。ここに来る前に赴いた子供達との遊び場である商店街や港には誰一人姿を見せず、完全なゴーストタウンと化していた。

 

ギルガメッシュに対して友好的に話しかけた大人たちも、慕って後姿を追いかけていた子供達も、ゴルゴムの脅威から逃れる為にこの地を後にしている。

 

もう、あの笑顔を見ることなど、できないかもしれない…

 

などとセンチメンタルな自分らしくない考えに浸っている間に、大きな空洞へとたどり着いた。

 

「なるほど…このような辺境の地で、今なお湧出ているとはな…」

 

呟きながら、壁面から流れ、空洞の中央へと集まっていくどこまでも澄んだ輝きを持つ水に手を当てる。

 

そして足を進めていくうちに、ギルガメッシュは空洞の中央にある突起物の前に移動する。それはまるで岩で出来たベット…もしかしたら棺のようにも見えてしまうのかもしれない。

その突起の横で敷かれた毛布で横になっている女性に目を向けた後、突起上部の窪みに注がれた水に浸かり、横になっている存在に問いかけた。

 

 

「貴様にあの空を照らすことが出来るか?黒曜よ」

 

 

傷だらけの光太郎の腹部に宿るキングストーンが、鈍い光を放っていた。




光太郎が倒れ、テンションが上がりまくっているあまり傷だらけの支配者の迎えを忘れて大騒ぎ。それがこの作品でのゴルゴムクオリティ…

ご意見、ご感想お待ちしております!


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第54話『戦士達の言葉』

活動報告にも書いてあった通り、PC故障により遅れてしまいましたが解消したためようやく投稿!

スーパーヒーロージェネレーション、どのステージにもRX出場させてたりしてます。ああ、なんだか彼が活躍する文章も考え始めてしまっている…



それとは関係なしに、54話です!


「う…」

 

キャスターはゆっくりと目を開ける。

 

そこは、間桐家に住みついて以来寝床として使用している部屋だと理解するのに、意識がはっきりとしていない為かしばらくの時間を要した。

 

「気が付いたか」

 

自分の慕う人間がすぐそばにいたことに感付くことにも。

 

「そ、総一郎様ッ!?起きて大丈夫なのですかっ!?」

「ああ」

「ね、寝たままで失礼しました…!」

 

即答する総一郎は腕に包帯を巻いているが普段と変わりない姿であった。こうして自分の部屋まで移動して自分の様子を見に来ているところから、順調に回復ている様子に安心しながら、マスターの前で寝たままではいられないと急いで上体を起こし、手櫛で髪を整えるキャスター。一度深く息を吐き、ようやく落ち着きを取り戻した彼女は、どうしても確認しなければならないことがあった。

 

「…総一郎様、あの2人は…?」

 

目覚める寸前に見た協力者達が地割れへと落下する光景が目に焼き付いてしまったキャスターは、自分が倒れた後の事をマスターへと尋ねる。デジタル時計の日付を見ると、間桐光太郎とシャドームーンの決闘から3日も経過している。

 

「…あの場には、倒れていたお前しかいなかった」

「そう、ですか…」

 

やはり、あの2人は…と事実を改めて受け止めたキャスターはもう一つ気がかりな点をマスターへと尋ねる。

 

「こう…ライダーのマスターの兄妹は、どうしていますか?」

「……………」

 

総一郎の前で他の男性を呼び捨てで口にすることに抵抗があったのか、急ぎ訂正したキャスターの質問に総一郎は特に気にする様子もなく答えた。

 

「…アサシンによると、間桐光太郎が世紀王に倒された時点で間桐桜は気を失い、地割れに飲み込まれた光景を見た間桐慎二は暫くの時間、水晶玉の前から動けなかったようだ」

「………………」

 

当然の反応だろう。血の繋がりが無いとは言え、あれ程慕っていた人物の死に際を見てしまったのなら…というのが普通の反応だ。だが、続いて総一郎から聞かされた情報にキャスターは自分の耳を疑った。

 

「そして数時間後に2人は決闘の場に向かい、間桐光太郎の捜索を始めている」

「…は?」

 

自分でも信じられないほどに間の抜けた声を上げたキャスターの反応を気にせず、総一郎は慎二と桜の行動の経緯を説明した。

 

義兄が敗北し、サーヴァントと共に地の底へと消えた事に大きなショックを受けた慎二と桜。

気を失った桜の横で意気消沈していた信二にアサシンは声をかけることなく様子を見ていたが、肩を落としていた慎二が急に立ち上がり、自分の部屋へと駆け込む。

 

やがて慎二が戻ってくるタイミングで目を覚ました桜も義兄の最後を思い出し、しばし俯くと何かを決意したかのように立ち上がって慎二同様に自室に向かっていった。

 

約10分後、柳洞寺や新都へと向かった際に着用したジーンズとライダースジャケット。手には戦闘用の手甲まで着装した桜は黒い髪をポニーテールにまとめ上げ、自分同様に準備を進めていた慎二を頷き合い、玄関へと向かっていく。

 

自分の役目である『戦いの最中は家から出さない』という条件が既に無効となっているため2人を止めようともしないアサシンであったが、2人に尋ねた。どう足掻いても絶望的な状況でも動く理由を。

 

振り返った2人の目は、とても身内が命を落とし、悲しみに暮れる者とは思えない瞳だった。

 

 

『…約束を反故して惨敗した愚兄に文句を言いに行く』

 

『もう外食だけじゃ全然足りませんッ!!』

 

と、同時に足を踏み出したのであった…

 

 

『よもや、あれを見た後でも、生きていると信じて疑わんとはな…』

 

既にエンジンを温めて玄関の前で待機していたバトルホッパーとロードセクターに搭乗する2人の姿に、アサシンは思わず呟く。

 

『果報者だな。あの者は…』

 

 

 

「以上がアサシンから聞いた話だ」

「前向き過ぎですね…しかし」

 

いくら生きていると信じていても、地割れの底へと落下した光太郎とライダーをあの2人が見つけることなどできるのであろうか?

なんの手がかりなしに探し回るだけでは徒労に終わるだけだろう。顎に手を当てて思いつめているキャスターはふと自分が出発する前にこの家に置いていったモノの存在を思い出す。

 

「総一郎様、居間に私の水晶玉は置いてありますでしょうか?」

 

そう、光太郎とシャドームーンの決闘に付いていけない代わりに、遠く離れたこの間桐家で様子が見れるようにと通視の機能だけを残した水晶玉には他に様々な用途に使用できる。その地に残った記憶を読み取り、映像として映し出す事や魔力の残滓を辿り、サーヴァントを見つけ出すことも可能なのだ。

 

「それならば…」

「小僧が持って行ってしまったよ」

 

総一郎の代わりに答えたのは盆に人数分のお茶を乗せて入室したアサシン…佐々木小次郎であった。

 

「…どういうことかしら。説明なさい」

 

先ほどと打って変わり不機嫌となったキャスターは作務衣をまとっている自分のサーヴァントへと尋ねる。ノックもせず部屋へ入ったのか、総一郎と二人だけの時間を邪魔したのか理由は定かではないが、我関せずとアサシンは給仕を終えて自分のお茶を啜りつつ頬を若干膨らませている、かつては自身で『裏切りの魔女』などと名乗った主へと微笑みながら答えた。

 

「やはり長兄を探すことに難航しているようでな。少しでも役に立つものとお主の水晶玉を持って歩いていたところ、娘が手にした途端に見えたのだと」

「まさか…」

 

 

 

やはり闇雲に探し回るだけでは見つからないと考えた慎二は家に保管されていた道具を手当たり次第持ち歩き、荒れ果てた決戦の跡地で持ち物をブルーシートの上で展開していた時であった。

 

よほど慌ててバックに放り込んでいたのか、居間にあった水晶玉まで持ってきてしまった事にようやく気付いたのであった。これは自分には使えないと他の道具と並べて置こうとした途端、もしかしたらと思い、先に周囲を探し回っていた桜へと手渡し、こう考えるように伝えた。

 

ライダーは、どこにいるのか。

 

義兄の真剣な眼差しに、桜は疑うことなく水晶玉を手に取り意識を集中させる。すると、桜の願いに応じるように水晶玉が僅かながら紫色の光を放ったのだ。

 

 

 

 

「…恐ろしい才能ね。いくら多機能を宿してあるものであっても念じるだけで魔力探知を発動させるなんて。それで?」

「その日は一端打ち切り、今朝方早くに出て行った。どうやら海へと出て流されていった様子らしい」

 

飲み干した湯呑を手でいじりながら補足するアサシンの言葉を聞きながら、光太郎とライダーが生きていた場合の状況を整理する。あの地割れの底がすでに海であり、落下する距離がそれ程でもなかった場合は生存している確率は十分ある。

沖の方へと流されたのなら絶望的だが、桜の探査魔術に反応したというのなら…

 

「少なくても、そう遠くない場所にいることは間違いなさそうね」

「お墨付きということなら、連絡してやるといい」

 

再び湯呑を盆に乗せて退室しようとしたアサシンは、ベット横にあるテーブル上に電話の子機を静かに置く。なんのつもりと目を細めるキャスターにアサシンは答えずに部屋を後にしたのであった。

 

「…………………」

「私にかまわず、連絡すればいい」

「総一郎様…」

 

子機を手に取り、逡巡するサーヴァントにマスターは表情を変えることなく続けて言葉をかける。

 

「お前のしたいことを望むようにやるがいい。もし私の力が必要となるのならば、好きに使えばいい」

 

出会った時と変わらない、自分の味方でいてくれるという言葉に目を見開いたキャスターの顔は自然と優しい微笑みとなっていた。

 

「それでは、総一郎様」

「なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その…このデンワを動かすにはどのような詠唱が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ…はいっ!ありがとうございます、キャスターさんッ!!」

 

キャスターとの通話を終えた桜は慎二の元へと走っていく。その様子を見て自分達の予想は正しかったと判断した慎二は頷くとバトルホッパーへと呼びかける。

 

「喜べよ…あの駄兄をタイヤで平手打ちする日が近くなったぞ」

「Pipipipi!」

 

ゴルゴムの支配が進んでいるとはいえ、まだ多くの車両が行き交うサービスエリアの中であることから普段と比べ電子音を小さくしながらも慎二の言う恐ろしいお仕置きに同意するバトルホッパーの姿に、桜は思わず吹き出してしまった。

 

「兄さん、キャスターさんからも太鼓判を貰えました!このままいきますと…」

 

ポケットから折りたたんだ地図を取り出した桜は赤いマジックで丸をつけた地点から様々な方向に付けられた矢印線を指さす。

 

それは光太郎とライダーが行方不明となった地点を起点とし、ライダーの魔力残滓に反応する水晶玉を持って考えられる方向へ全てに向かった記録であった。水晶玉から放たれる光が弱くなった場所はバツ印。強くなった場所は丸を付けて2人の行く先を絞っていった結果、冬木に近い海岸までに場所を特定できたのである。

 

「考えられるのは、ここか…よし、すぐ出発だ」

「はいっ!」

 

元気よく返事をする桜と共に、慎二はヘルメットを装着する。

 

その様子を、はるか上空から怪人に見張られているとも知らずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか、生きているというのか、仮面ライダーは…」

「しかし、創世王様のお力添えもあり、シャドームーン様によって確実に止めを刺されたはず…」

 

コウモリ怪人から送られた映像に大怪人であるダロムとバラオムは動揺を隠せない。シャドームーンも現在治療中で目を覚ます様子もない。もし、宿敵である仮面ライダーが生きているとなると…

 

「ならば話は簡単よ、今度こそ私達の手で葬り去ればいいわ!」

 

背後から現れた大怪人ビシュムの言葉にダロムとバラオムは顔をしかめる。余程の自身があるのか、ビシュムは2人の間を抜けて扉の奥へと向かっていこうとするが、ダロムに呼び止められる。

 

「…ビシュムよ。貴様、よからぬ事を考えてはおるまいな…」

「何をふざけた事を。次期創世王となるシャドームーン様にキングストーンを献上しようとするのは、ゴルゴムである私の使命よ?」

 

ニヤリと笑うビシュムは2人を背にし、通路を歩きながら自分の背後に現れた怪人へと指令を出す。

 

「わかっているわね、女王アリ怪人?」

「はい、クジラ怪人を追っていたトビウオ怪人からの情報も合わせますと、あの人間達の向かう先に必ずや…」

「フフフ…どうやら、風は私に向いているようね」

 

怪人でありながら女性のボディラインを持つ女王アリ怪人。他の怪人と比べ理性があり、ビシュムと会話をしながら通路を歩いていく。

 

「クジラ怪人ならともかく、情報にあったあの英霊がいるとなると…」

「バラオムの言っていた、人間の最初の王となる者ね。でも心配はいらないわ」

 

立ち止まったビシュムの手のひらの上の空間が、まるで捻じれるように湾曲した。

 

「人間共の魔術が、いかに子供騙しであるか思い知らせてあげる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「コ、ウタロウ…」

「目を覚まして最初の言葉がマスターの名とは、大した忠義よな…貴様も」

「…っ!?」

 

思わず飛び起きたライダーは声の主の方へと顔を向ける。見れば岩に腰かけた金髪の英霊がこちらに顔を向けることなく携帯ゲーム機を操作していた。

 

「ギルガメッシュ…どうして、貴方が」

「我はここに貴様達がいると聞いてな…ただ、それだけだ」

「私…『達』?」

 

ここはどこかの洞窟の中なのだろうか。不思議と暗くなく、明かりが上からでなく、下から放たれている事に気付いたライダーは自分の寝かされていた毛布付近の地面に所々穴が開き、そこから光が放射されていると理解する。

 

さらに詳しく調べようと毛布の外へ出ようとした時―――

 

「動くなよ」

 

心臓を射抜くような冷たい一言に固まってしまった。

 

振り向くとゲーム機片手に立ち上がったギルガメッシュが真顔でライダーへと近づき、やがてギルガメッシュが腰を下ろしているライダーを見下ろす状態となると、視線をライダーの背後にある大きな岩の突起に移しながら口を開く。

 

「今さっきまで貴様が意識を失っていたそこが、貴様の存在を保っていられる唯一の領域。少しでも租奴から離れれば、間違いなく消滅する」

 

ゾクリとする忠告に思わず唾を飲み込んだライダーは、ギルガメッシュの送る視線が気になり、その突起を見ようと立ち上がる。

 

そこにいたのは、彼女にとって、かけがえのない存在だった。

 

「コウタロウ…!」

 

突起した岩のベットに寝かされていいる傷だらけのマスター。だが、宿敵との戦いの際に負ったダメージと比べ、幾分か回復しているようにも見える。

 

ひび割れた複眼は小さな亀裂となっており、吹き飛んだ肩のプロテクターも完全な形で再生していた。

 

「この男は、本当に愚かだ」

 

厳しい言葉の中に、どこか暖かさを感じたライダーは自分の隣で光太郎を見下ろすギルガメッシュの顔を見る。何時かのように光太郎と共にゲームを興じていたような、穏やか目。

 

「本来ならば自身の傷を修復に回さなければならない王石の力を、ほぼ貴様の現界させるための力に使っている。本当に、面白い奴よ」

 

言われてみれば、光太郎がシャドームーンによって倒された段階で、自分は消滅するはずだったと考えたライダーは、自身に通る魔力に変換されたキングストーンの力をはっきりと感じた。

自分が死ぬかもしれない瀬戸際だというのに、そんなことを考える余裕すらなかったはずなのに…

 

「…ギルガメッシュ、私達をここまで運んだのは、貴方なのですか?」

「戯け、王は直接民に手を差し出すことなどない。すべては、そこにいる者がやったことだ」

 

ギルガメッシュが視線を投げた先に現れたのは、両手に魚や果物といった食料を持って現れたクジラ怪人であった。今までのゴルゴム怪人と比べどこか愛嬌のある姿と鳴き声にライダーも警戒することなく、自分に近づいて食料を手渡したクジラ怪人に微笑んでお礼を言った。

 

「では、ここも貴方の住処だったのですね…ありがとう」

 

頭を撫でられ、嬉しそうにうねるクジラ怪人の姿を見たライダーは、光太郎の寝かされている岩の下から澄んだ水が注がれていることに気付く。

 

「これは…」

「クジラの一族に伝わる命のエキス…エリクサーと同等の効果を持つと言った方が分かりやすいか?」

「エリクサーと言えば…」

 

世界中に伝承されている万能薬の通称。その効果はどのような病や怪我も瞬く間に治し、生命すら与えると言われている。ギルガメッシュが言った通りに、光太郎が浸っている液体…命のエキスに同様の効果があるのなら…

 

「コウタロウは、生き返る…」

 

ライダーが思わず光明を口にした途端、ギルガメッシュは目を細くして離れていく。

 

「…クジラ。ここを離れるなよ」

 

クジラ怪人の頷きを確認したギルガメッシュは、光太郎の手を優しく握るライダーの姿を一瞥すると、クジラ怪人の歩いていた逆の方向へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここです!」

「洞窟の奥、か」

 

強く輝く水晶玉の反応を見て、ライダーはここにいると確信した桜と慎二が洞窟の中へと進もうとした時だ。突然洞窟の奥から幾本もの鎖が飛び出し、2人の真横をすり抜けていった。もし自分に当たったのなら貫通では済まないと考えながら、

鎖の行き先を振り返る。

 

まさに予感通りの末路を迎えた存在が、断末魔を上げて燃え上がっていたのであった。

 

「か、怪人…?」

「どうして、ここに?」

「愚か者が。つけられおって…」

「あ、あんたッ…!?」

 

2人は声の聞こえた方へと振り返る。洞窟の中から先ほど飛ばした鎖を引き戻し、腕に巻きつけたギルガメッシュが悠々と歩みながら現れた。

 

「つけられたって…まさか」

 

嫌な予感がした桜は今だに燃え続ける怪人の遺体の向こうで立っている2体の異形…大怪人ビシュムと女王アリ怪人の姿を確認した。焦燥する慎二と桜の様子をビシュムは愉快なのかクスクスと笑っている。

 

「フフフ…道案内、ご苦労だったわね。これで労することなく、キングストーンを回収できるわ!」

 

敵の目的に一役買ってしまった慎二はギリッ…歯を噛みしめる。光太郎とライダーを探すことに集中するあまりにゴルゴムの存在を疎かにしていたことが、このような結果を生んでしまうなんて…隣にいる桜も同様の事を考えているようであり、手に持った水晶玉を思わず強く握っている。

ライダーの反応が強く出ているということは、マスターである光太郎もここにいるのは間違いない。

 

しかし、移動ができない。動けない状態にあるとすれば敵の言う通り、格好の的になってしまう。

 

どうにか敵を退けようと手持ちの武器を取り出した信二と桜の間を抜け、金髪の英霊が前へと立った。

 

「ギルガメッシュ…さん?」

「貴様等は下がっていろ…的になりたくなければな」

 

ゾクリと、彼の放たれた殺気に身震いした慎二と桜は言われた通りにギルガメッシュの後方へと移動する。彼は、明らかに怒りを向けている。だが、自分達に向けられている殺意すら楽しんでいるようにビシュムは軽口を放った。

 

「あら、貴方がお相手してくれるというのかしら、大昔の王様?」

「今すぐこの地から去れば見逃そうと思ったが、止めた」

 

指を鳴らすと同時にギルガメッシュの背後の空間が歪み始める。彼の宝具『王の財宝』が展開されようとしていた。全ての宝具の原典を呼び出し、射出することで一方的に敵を蹂躙する。

 

ギルガメッシュの普段の戦法だ。

 

だが、今彼の背後の空間は普段水に浮かぶ波紋のように歪み、その中心から武器が現れるのだがその空間の歪みは螺旋のように絡まり、武器が出てくる様子は見られない。

 

「………………」

 

「アハハハハハハ!どうかしら、私の時空遮断魔術は?」

 

見れば、ビシュムは両手を前方に出し、ギルガメッシュに向けている。どうやらビシュムがギルガメッシュの周りの空間を歪ませることで『王の財宝』を展開させないようにしているらしい。

 

「さぁ、女王アリ怪人、出番よ!」

「お任せください、いでよ!我が僕たち!!」

 

女王アリ怪人が手に持った錫杖を掲げた途端、女王アリ怪人の背後からワラワラと同じ姿をしたアリ怪人が大量に出現した。数はドンドン増えていき、20…30…50…100を超えた時点で、慎二は数えるのを止めてしまった。

 

「どうかしら、貴方が手にしているのはその貧弱な鎖だけ。裸の王様に何ができるのかしら?」

 

嘲笑するビシュムは、震えだしているギルガメッシュの姿を見て、あまりに不利な状況に恐怖したのだと考えた。当然だろう。人間と比べ高位の存在であったとしても、結局は宝具に頼らなければ怪人一匹にすら叶わない愚かな存在だ。

特にこの英霊は自身ではほとんど動かず、背後から武器を射出されるしか能のない英霊だ。

 

唯一の戦法を封じられたのだから震えて泣きわめくものと、ビシュムは考えていた。

 

だが、彼が震えていたのは恐怖からではない、別のものに耐えるためであった。

 

 

 

 

「…く、クククククッ」

 

 

 

 

 

「ハァーーーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

 

 

ギルガメッシュは笑っていた。腹が捩れんとばかりに、片手で腹部を抑えながら、爆笑していたのだ。

 

どうやら壊れてしまったのだと判断した女王アリ怪人は1体のアリ怪人に命令し、ギルガメッシュに向かって走っていく。手に持った斧で切り裂こうと彼の前で振りかぶり

 

 

「…グギィッ!?」

 

笑い終わったギルガメッシュに額を掴まれ、悲鳴を上げ始めていた。余りの痛みに、斧を取りこぼして手を振りほどこうとギルガメッシュの手に触れようとした途端…

 

 

「雑虫如きが我に触れるな」

 

ギルガメッシュが拳を引いたと同時に彼の手にあった鎖が突如生物のように一人でに動き、彼の拳を包むように高速で回り始めた。それはまるで拳にドリルを装着したかのような形となり、ギルガメッシュは全力でアリ怪人の腹部へと叩き込んだ。

 

「…………ッ!!!」

 

悲鳴を上げることすらなかった。悲鳴を上げる為の器官も、内臓も、骨も、ギルガメッシュの拳と共に体内へと侵入した鎖が体中から四方八方へと飛んでいき、肉片を散らしてしまったのだから。

 

その光景に背後にいた慎二と桜は勿論、敵であるビシュム達すら絶句していた。

 

 

「…ずいぶんと愉快な事を抜かしたな…財宝がなければ、我は何もできないと…」

 

再び鎖が腕の中へと戻ったことを確認したギルガメッシュは鼻を鳴らして先ほどとは逆に動きを見せないゴルゴム達へと言い放った。

 

 

 

「財宝を所有しているから王なのではない。我が王であるが故に、世界中の財宝が我の元へと集ったのだ。だが、どうやら貴様等に理解ができぬようだから今回は我自身の力を見せてやるとしよう」

 

ゆっくり、ゆっくりと歩んでいくその姿に何体ものアリ怪人が後ずさってしまっている。

 

 

 

「貴様等虫ケラごとき、我と盟友だけで十分だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外で、戦闘…」

 

ギルガメッシュがこの場からいなくなって数十分が経とうとしている。察するにゴルゴムが光太郎がここにいると知り、大群で押し寄せてきたのだろう。万が一に敵が侵入した場合、存在を保っているだけのライダーに戦闘能力はなく、クジラ怪人も多勢に無勢では敵わない。

 

「コウタロウ…」

 

ライダーには、祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…暗い。ここは、どこまでも、暗い場所だ。

 

 

 

間桐光太郎は、そんな場所で浮遊している気分だった。何も見えず、聞こえず、そして、彼が帰るべき場所からどんどん遠ざかっていく感覚。

 

 

しかし、自分の近くで何かが起きている事はわかる。これは、自分が起き上がって何とかしなければならないことなのだ。

 

 

だというのに、体が言うことをきいてくれないのだ。

 

 

どうして、どうして動いてくれないんだ。

 

 

動こうと必死に考える度に、意識がさらに深い闇の底へと沈んてしまう…

 

 

もう、駄目なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――諦めるんじゃないッ!』

 

 

 

 

そんな、叱咤するような言葉が、はっきりと耳に届いた。

 

 

それだけじゃない。光太郎の前に、声を放った存在の姿がはっきりと浮かんだのだ。

 

 

「あ、貴方は…」

 

『間桐光太郎…お前は、このような最期を迎えることなど、あってはならない!!』

 

 

その姿は初めて見る。見るはずなのに、昔から知っていたような不思議な既視感があった。

 

 

赤いマフラーを靡かせ、銀色のブーツと手袋を装着し、変身した光太郎と同じく一対の触覚と巨大な複眼を持つ、伝説の戦士。

 

 

『最初の男』と呼ぶべき存在が、光太郎の前に立っているのだ。

 

 

 

『お前にはまだ、やるべきことが残っている。それもやり遂げもせず、終わらせてしまうのか?』

 

「俺は…」

 

 

 

 

 

『そいつの言う通りだぜッ!!』

 

「ッ!?」

 

 

思わず振り返ったそこは、どこかの外国だろうか。見覚えのない土地で、大量のゴルゴム怪人に向かい、立ち向かっている戦士の姿が映し出されていた。

 

その姿こそ『最初の男』と酷似しているが、ブーツと手袋が赤く、体に走るラインは一本。そしてマスクが黒に染まっていた。

 

 

『最初の男』が技を洗練した戦士ならば、この『2番目の男』は力によって多くの人類の敵と戦ってきたのだ。今も、自慢の拳で次々を怪人をなぎ倒しながらも、光太郎に声をかけている。

 

 

『お前はそんな薄暗いとこでチンタラしてる暇なんかないッ!!とっとと起きやがれぇッ!!』

 

 

その言葉を聞き、必死に体を動かそうとするが、未だにピクリとも反応しない。

 

 

 

「わかっています…けど、体が動かないし、キングストーンも――――」

『何を腑抜けた事を言っているッ!!』

 

 

そこは、また違う国で起きている戦いだった。

 

赤い仮面と白いマフラーを持ち、力と技を引き継いだ『3番目の男』は数多くの怪人に囲まれながらも、怯むことなく立ち向かった。

 

 

『お前が今まで戦ってこれたのは、改造された身体だったからか?それとも、その大層な石コロを宿しているからか?』

 

 

「―――違う。俺が戦ってこれたのは、そんな事じゃない」

 

 

『そう、だからこそ君はゴルゴムの望み通りの存在にはならなかったはずだ』

 

 

そこでは、右腕を様々な兵器に換装しながら戦う『4番目の男』が、多くの兵士と共にゴルゴムによって洗脳された人間達を鎮めるために動いていた。

 

 

『人として、決して失ってはならないもの…それがあるから、君は君でいられたんだ』

 

 

「俺が、俺で…」

 

 

『だからこそ、君は戦えた。誰かの意思をついで、『人』としての心を持ったまま、な』

 

 

場所は深海。そのような環境の中でも自在に動き、ゴルゴムの怪人を1体、また1体を「X」の字に刻んで葬っていく『5番目の男』。

 

 

『誰かの意思を継いでいる限り決して死なない。お前も、託した人の心も』

 

 

「託された思い…そうだ、俺は生きるんだ。両親と、義父さんの分もっ…!」

 

 

 

『…それだけじゃないッ!!』

 

 

自身の技により、真っ二つとなった怪人の返り血を浴びても『6番目の男』は拭うことなく、野生動物のように咆哮し、新たな敵へと向かっていく。

 

 

『お前はたくさんの友達、守らなければいけない!!それだけの力、ある!!』

 

 

「…はい、言ってしまいましたから。親友たちに、絶対また会おうって」

 

 

 

『なら、ますますそんなとこにいる場合じゃぁないよなぁッ!!』

 

 

深夜の空に雷鳴が響き渡り、一帯を照らしていた。『7番目の男』によって放たれた雷撃により、怪人が次々と焼き焦げていく。

 

 

『その約束した連中のためにも、きっちり敵さんに落とし前つけなきゃ、守れるもんも守れないぜッ!!』

 

 

「守る、もの…」

 

 

『そして、戦っているのは、君だけじゃない』

 

 

はるか上空から人間を襲っていた怪人達を次々と叩き落としていく『8番目の男』。応援に駆け付けた怪人の群れに、迷いなく飛行してく。

 

 

『俺達も、君の周りでも、自分なりの戦いを続けている人たちがいるはずだ』

 

 

「俺の周り…慎二くん、桜ちゃん、そして、ライダー…」

 

 

 

『俺達にも何度も絶望的な戦いがあった。それでも、諦めることはしなかった』

 

 

火炎、冷気、電気…多種多様な戦法に加え、華麗な拳法で怪人を地へ鎮めていく『9番目の男』は独特な構えを取り、敵との間合いを詰めていく。

 

 

『君の拳には、それだけの思いが守れる力を宿しているんだ』

 

「拳と、思い…」

 

 

 

『その力の根源は、改造された肉体からでも、特別な石から湧き出るものじゃない』

 

 

大爆発を背後に、右腕にナイフを逆手に持ち、左手に手裏剣を持った『10番目の男』がヘリから降下してくる特殊部隊と共に敵陣へと突入していく。

 

 

『いつでも俺達を動かしている『魂』がある限り、何度でも蘇ることが出来るんだッ!!』

 

 

「魂…」

 

その言葉に、光太郎は震えたと同時に、手を強く握りしめ、失ったと思っていた感覚が鋭さを増して戻っていることに気付く。そして、今まで自分に声をかけた10人の『先輩』が並び立ち、光太郎の前に立っている。

 

 

 

 

『もう、大丈夫のようだな』

 

「はい、ありがとうございます」

 

光太郎の返事に頷く戦士達。

 

彼らもまた、光太郎と同じく戦ってくれている。

 

自分と同じ境遇に会いながらも、自分と同じ志の元、同じ道を歩んでいる…光太郎にとって、これほど喜ばしいことは無かった。

 

だが、感動している場合ではない。彼らが戦っている間にも、ゴルゴムが聖杯に今にも手を伸ばそうとしているのだ。

 

もう、こんなところにいる場合ではないのだ。

 

 

そして光太郎は駆けていく。その背後から聞こえた先輩たちの最期の激励を耳にしながら。

 

 

『駆けろ――』

 

 

『この星のため―――』

 

 

『愛する者のため―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立ち上がれッ!!仮面ライダーBLACKッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変が始まったのは直後であった。

 

「こ、これは…」

 

先ほどまで弱まっていた自分に供給される魔力が力強いものへと変わっていたことに気付いたライダーは光太郎の変化に目を見開く。左胸のマークから光が漏れ、残っていた傷も次々と塞がっていく。

 

そしてエナジーリアクターの弱弱しい光も眩い輝きへと変わっていく。

 

ピクリと動かした指に次第に力が籠り、上体をゆっくりと上げていく。

 

目覚めて最初に目に入ったかけがえのない女性に対して、彼は普段通りに声をかけた。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ライダー」

 

 

 

 

「遅すぎ、ですよ。コウタロウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ某所

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

「お疲れ様です…如何でしたか?」

「ああ、成功した。俺達の言葉は、確かに彼に届いた。これも、君の協力があってこだ、感謝する」

 

 

様々な機械が組み込まれたヘルメットを外した青年は、今まで自分の横にいてくれた礼と共に少女へ頭を下げる。

 

「やめて下さい。私の計算でも、この作戦成功率は失敗する方が勝っていました…私こそ、貴方の立てた案を否定していたことを謝罪させて下さい」

 

ヘルメットに接続された疑似神経とも呼べるエーテライトを手首のリングに収納した少女は、椅子の背後にある機械の固まりに目を向ける。

 

「しかし今改めて考えてみても無茶な作戦です。貴方の思考を私のエーテライトでこの機械に直結し、ハッキングした軍事衛星を介してあの少年の脳へダイレクトに呼びかけるなど…」

「俺達と違い、彼とは直接脳波での会話ができないからね…」

 

と、苦笑する青年の耳に共に戦っている仲間の声が響いた。

 

『先輩、聞こえますか』

「ああ、どうした?」

『こっちは前線基地の一つを潰すことに成功しました。けど、別働隊がそちらへ向かっているようです。どうやら、日本にいる彼へ通信する作戦が傍受されたかもしれませんね』

「そうか…ならばこちらで向かい打つ。一也は、他の方面へ向かってくれ!」

『わかりました!」

 

通信を終えた青年は扉を開ける。どうやら通信している間に、敵は到着していたようだ。

 

「数は多いな…だが、些細な問題だ」

「それは、貴方にとって取るに足らない相手だから、ですか?」

 

隣に立ち、拳銃に弾丸を装填する少女に対して青年は笑いながら答える。

 

「いや。俺達と同じ道を歩んでしまった若者が、前を見て立ち上がったんだ。先輩として、恰好の悪い所を見せるわけにはいかないと思って、ね」

「…理解できませんね。日本人とは、みなそのような思考なのでしょうか?」

「さてな。不思議に思うなら、一度行ってみるといい。平和な世界となった後に」

「考えておきましょう」

(タタリの出現する可能性もありますし、候補には入れておきましょう)

 

 

青年は一歩前に歩き、ゆっくりと息を吸いながら両の掌を合わせ、水平に延ばす。そして右腕、左腕という順番に左右に展開。

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 

気合と共に叫んだと同時に、青年の腹部にベルトが出現。

 

そして『正』から『動』へと切り替えるように左腕を腰に添え、右腕を左上へと延ばす。

 

 

 

「ライダァーッ…」

 

 

扇を描くように、右腕を左から右へ旋回し…

 

 

 

「変身ッ!!!」

 

 

素早く右腕を腰に添えると同時に、左腕を右上へと突き出した。

 

 

 

ベルトの中央にあったカバーが展開され、隠されていた風車が七色の光を放ちながら回っていく。

 

 

 

 

風が起きた。

 

 

 

 

 

周りの木々をしならせ、砂塵を起こし、怪人達が思わず吹き飛びそうになる風が止んだその先に、姿を変えた彼は立っていた。

 

 

 

 

「行くぞッ!シオンッ!!」

 

「了解です、タケシ。いえ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カメンライダーッ!!」

 

 

 




と、いうわけで感想欄にありました意見を参考に先輩ライダーをゲスト出演回となりました。

次回も通常通り投稿できたらいいなぁ…

ご意見・ご感想ガンガンお待ちしております!!


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第55話『半神の出会い』

UA80,000突破です!皆様、誠にありがとうございます!そんな私へのご褒美かのように(オイ)ロストヒーローズ2にBLACKが参戦!しかもボイスあり!!これは買うっきゃない!!!

日記にでも書いとけばいい報告はおいといて、55話でございます!


人類最古の英雄 ギルガメッシュ。

 

 

彼が間桐光太郎に対して初めてに抱いたものは、殺意だった。

 

 

その原因となったのは、彼がただ一人の友と認めた人物と冒険に明け暮れていた時、とある伝説を耳にした事に遡る。

 

 

 

太陽と月の力を持った石を持つ2人の王が殺し合い、2つの石を手に入れたどちらかの王がこの星の支配者となる…

 

 

 

 

そんな与太話、信じられるわけないと一蹴したギルガメッシュであったが、新たに別の土地に渡る度に細かな違いがあるが同じ伝承が残っている事を知り、遂にはその伝説が事実であった事を記した壁画を発見するに至った。

 

相対する黒と銀の戦士が天に浮かぶ2つの石を取り合う姿を現した巨大な壁画を見上げながら、ギルガメッシュは事実を認めざるをえなかった。自分の生まれる遥か以前に、強力な力を持った『王』が存在していたことに…

 

そして興味が湧いた。この世界での唯一無二の王であると自負していたギルガメッシュ以前に君臨していた力を持った王に対して。その力を間近で見てみたいと。

 

 

その機会は、彼が聖杯戦争のサーヴァントとして召喚された後に訪れた。

 

 

第四次聖杯戦争終結から10年が経過し、これまでにない短期間で再び聖杯が現れる兆しが見え始めた頃、この世界で受肉を果たしたギルガメッシュは夜道を歩いていた。

彼のマスターからは度々苦言されている行動だがそんな事は知ったことではない。

10年前の自分が何を血迷ったのか若返りの薬を飲んだばかりに大人しく身を潜めており、この姿になるまで相当の年月を費やして今に至る。ならば、醜悪なこの世界を見て回り、楽しむなど今しかない。彼の日課となりつつあった夜の散歩で、気まぐれで足を運んだ先に、彼はいた。

 

 

「ウオォォォォォォォッ!!」

 

そんな声が耳に入り、ギルガメッシュは聞こえた方へと目を向けた。場所は雑木林の奥。雑種同士の争いかと思えたが、何かが違う。思わず足を動かして進んでいくギルガメッシュの目に入ったのは、月明かりの下で行われている異形同士の殺し合いだった。

 

漆黒の戦士と狼を思わせる怪人。

 

 

戦いは戦士の方が優位にある状況ではあるが、ギルガメッシュの抱いた分析は―――

 

(なんと…無様な)

 

戦士の力は怪人を圧倒している。だが、怪人の首を掴み、何度も拳を打ち付けるなど攻撃は全て力任せに相手を追い詰めるものであり、ギルガメッシュの知る『戦い』とはほど遠いものであった。

野生動物の縄張り争いの方がまだまだ見れたものと踵を返そうとしたギルガメッシュであったが、戦士の腹部で輝く石を見た途端に固まってしまう。

 

「あれは…」

 

 

 

 

 

「ライダーッ!!キィックッ!!!」

 

 

石のエネルギーを纏った右足を狼怪人へと叩きつけられた怪人は断末魔を上げて燃え上がる。その光景を見ながら戦士はようやく終わった戦いに緊張の糸が切れ、肩で息をしながら膝をついた。

 

「ハァ…ハァ…まだ、慣れない…な」

 

その言葉は、戦いに対してなのか。それとも、自分の手で他の命を絶つことを意味しているのか。ギルガメッシュにとってはどうでも良かった。

 

これから死ぬ者の言葉など、覚えている必要などないのだから。

 

「…ッ!?」

 

初撃を躱せたのは偶然と言っていい。戦士の感覚は人間のそれを凌駕している故に、危険察知も鋭くなっているのだろう。戦士が前転し、背後で発生した爆発に吹き飛ばされた様にギルガメッシュは舌打ちする。あのように弱り切った者を一撃で仕留められなかったとは、自分も焼きが回ったものだと、続いての宝具を展開する。

ギルガメッシュの背後に次々と現れる刀剣や槍の姿を見て驚く戦士だったが、その仮面の奥にある表情すら、ギルガメッシュにとっては疎ましかった。

 

「ガっ!?グッ!?」

 

なぜ自分が攻撃されているか理解できないまま、戦士の身体はギルガメッシュの放つ武器に屠られていく。対応のしようがない攻撃に戦士はなす術もなく、追い詰められていた。ギルガメッシュは1秒でも早く戦士の息の根を止めるべく、宝具の斉射を続けていく。

 

 

 

 

(認めん…このような雑種が、あのような醜態を晒す者が、王の石を持つなどッ…!)

 

 

それに気付いたのは、戦士の腹部に赤く輝く石を目にした時であった。一目見れば伝わるその神秘なる力に、ギルガメッシュは黒い戦士こそが自分を圧倒させた伝説の王と同じ存在だと確信する。

じ存在だと確信する。

 

故に許せなかった。

 

世界を揺るがす程の力を持ち、『王』とされる者が獣ごときに苦戦を強いられる醜い姿など、『王』などではない。

 

他の者をねじ伏せ、頂点として君臨する。それが王たる者の姿。だと言うのにあの戦士には力はあっても王としての品位も誇りも見受けられない

 

だから殺す。故に殺す。

 

 

力を持つだけの、名ばかりの王など存在する価値もない。

 

 

しかし、戦士は倒れようとしなかった。魔剣に足を裂かれ塞がらない傷を受けても、呪いの槍に腕を貫かれて動かなくなっても、倒れようとはしなかった。

 

「…………………」

「ハァ…ハァ…グっ…アぁッ!!」

 

自身の脇腹に突き刺さった剣を強引に引き抜き、投げ捨てた戦士の姿は先ほどにもまして傷だらけとなっている。だというのに、倒れることを知らなかった。

 

 

(…生き汚いこの上ない。死ねば楽になれるものを)

 

止めを刺そうと一振りの剣を握り、戦士へと歩んでいくギルガメッシュ。戦士はこれから自分を殺そうとする相手が近づいていても、未だに攻撃をしかけようとしなかった。

 

(…………………)

 

戦士には戦うつもりはない。

 

そう気付いたのは、戦士の首筋に剣先を突き立てた時だった。

 

呼吸に乱れがあってもそれは傷の痛みに耐えるためであり、死に直面しての恐怖からではない。この戦士は、ここまでのダメージを受けながらも死のうとすら考えていないようだった。赤い複眼の奥にある強い意志を見たギルガメッシュは自分でも気づかないうちに、戦士へと問いかけていた。

 

「答えよ」

 

初めて言葉を放った事に戦士は驚きつつも、ゆっくりと頷く。

 

「これほどの仕打ちにあっても、なぜ歯向かわんのだ?」

「…戦う、理由がない」

 

狂っているのかと一瞬考えた。自分が死ぬか生きるかの瀬戸際だというのに、この男は敵ではないのだから戦わないといっているのだ。

 

 

「なぜ、そこまで傷を負い、惨めな姿をさらしても死なんのだ」

「誓った…ばかりなんだ」

 

掠れた声で、戦士は答える。

 

「俺は…託された願いを、叶えなければならない。それに…生きるって約束を、破るわけには、いかない…ガフッ!?」

 

口元に当たる部分から吐き出される多量の赤黒い液体。それでも、戦士は倒れなかった。

 

ギルガメッシュは、10年前に敵対した剣のサーヴァントの姿を連想する。自ら治める国に身命を捧げると断言した儚き少女。あの娘と同類かと考えながらも続けて問いかけた。

 

「ならば何故、王として力を振るわん。先ほど貴様が下した者は、貴様等の僕ではなかったのか?」

 

これもかつて見た壁画に記されたものだ。相対する2人の王の足元に、数多くの異形がひれ伏せている。彼らが人間とは別に、巨大な群れであると証明する記録だったのだろう。先ほどの戦いを見る限り、王自ら処刑しているというよりも、敵対していたに近い。

 

「俺は…王なんかじゃ、ない。あいつらは…敵、だ」

「………………………」

 

無意識に、ギルガメッシュは手にした剣を下ろしていた。彼の言い分が、理解出来なかったからだ。

 

王としての証である石と力を持ちながら、自分が従える者に命を狙われる…何より、自分が『王』でないという自覚をも持ち合わせていたのだから。

 

「…では、なぜ王の力を捨てぬ」

 

戦士が王としての証を捨てれば、これ以上戦うことも、傷つくことすらない。王と名乗らぬ者が力を持ち続けているなど、意味をなさない。それとも、力を手放したくないなどと下賤な理由が帰ってくると思ったギルガメッシュだったが…

 

「…ああ。確かに、こんな力は本当ならいらない。けど…」

 

 

「これは、みんなを守れる力になる。だから、徹底的に『利用』してやりたいんだ。俺見たいな奴を生み出したことを後悔させるくらいに、ね…」

 

 

戦士の放った回答に、ギルガメッシュは目を見開く程に驚く。

 

 

なんと傲慢で、下らない使い道を選んでいるのだろう。

 

ますます、王の器ではないと結論付けたギルガメッシュは、盛大に笑っていた。

 

 

「ハハハ…ハァーッハッハッハッハ!!よもや、そのような理由であの力を手にしていようなど抜かすのか、貴様はっ!」

 

ようやく笑い終えたギルガメッシュは、再び背後の空間を歪めていく。先ほどと同じ攻撃が始まると身構えた戦士であったが、現れたモノに拍子抜けしてしまう。

 

「こ、小瓶…?」

 

現れた小瓶を手に取ったギルガメッシュは蓋を開けると何の前振りもなく、瓶の中身を光太郎へとぶちまけた。突然の不意打ちに濡れてしまった顔を拭う戦士は、次第に自分の負った傷や毒による痛みが和らいていくことに気付く。恐らく治療薬の一種だったのだろう。

 

「これは…」

「気が変わった。貴様はこれから先、時が来るまで生き残れ。その時まで、死ぬことなど許さん」

 

 

戦士は、振り返ることなく去っていく金髪の青年がいなくなるまで茫然とすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

これがギルガメッシュと間桐光太郎との初めての出会いだった。

 

 

以来、聖杯戦争開幕までの間に暇を見ては光太郎へ接触し、戦いを遠巻きから観察するなどの奇妙な関係が続いて行ったのだ。

 

当初は顔を見せるたびにまた攻撃されると思い警戒を強める光太郎だったが、段々と慣れていき最近では「またかよ」と疲れた表情を表にだしていたが、ギルガメッシュにとっては関係のない話である。

 

そしてその接触は自分にとっては『監視』でもあった。

 

王石の力をいつか当初とは大きく離れた理由で力を振るう可能性もある。もし、最初に言った誓いとは別の理由で力を振るおうとしたのらば、ギルガメッシュは躊躇なく光太郎を殺すつもりだった。

だが、その決意を変えることなく愚直なまでに自分の信念を貫いて戦い続ける光太郎の姿にギルガメッシュは微笑みながら見ている自分に気付く。

 

このような姿、親友が見たら笑うだろうかとらしくない考えを浮かびながらも、ギルガメッシュは光太郎や自分に懐いた子供達と共に過ごす時間を楽しむようになっていた。

 

だが、その時間はあっけなく終わりを告げることになる。

 

自らの意思で片割れであるもう一人の王との決戦に臨んだ光太郎の戦いを、ギルガメッシュはライダーやキャスターとは別の場所から見守っていた時だ。

 

ギルガメッシュが光太郎へ告げた『時』…2人の王による決戦。どちらに軍配が上がろうと、ギルガメッシュは光太郎の命運であると受け入れ、それまでの功績を認めるつもりでいた。

 

だが、2人の全てをかけた戦いに余計な介入が入り、望まぬ決着が付いた後。ギルガメッシュは決戦の地から遠く離れた位置から放たれる巨大な力を感知した。

 

「そうか…此度の決闘があるということは…それ以前の者が…」

 

光太郎への不意打ちをした存在を知ったギルガメッシュは、ふつふつと怒りが込み上げ、光太郎とシャドームーンの戦いを汚した存在を口にする。

 

 

「…カビの生えた紛い物の王めが…ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大怪人ビシュムは決して自らの放っている時空遮断魔術を解除しないよう、意識を働かせながらも目の前で起こっている虐殺を目にしていた。自分の考えがあまりにも愚かであったと後悔しながら。

 

 

「どうしたのだ…?まだまだ控えているのであろう?」

 

また1体のアリ怪人を解体したギルガメッシュは返り血を拭いながら多くの屍を踏みつけて言い放つ。

 

戦いを初めて既に50体以上のアリ怪人を倒しているギルガメッシュだが、体力を削ることなく、手にした鎖の攻撃を変えながら対応していた。

 

地中を進む者には地表から串刺しにし、複数で飛び掛かってくる者には自分の周りを螺旋状に高速回転で防御。怯んだ隙を自らの手足で攻撃をしかける。さらに同じ攻撃を2度と見せることもなく、司令塔である女王アリ怪人も指示の使用もなかった。

 

まさに攻防一体。

 

ギルガメッシュの宣言通り、彼は盟友の名を持つ鎖だけでこの戦いを終わらせるつもりであったが…

 

「どうした…あれ程の大見得の張ったのだから少しでも我を楽しめる術がまだあるのだろう?」

 

あからさまな挑発をするギルガメッシュの歪んだ口元にビシュムは苛立ちを見せるが、隣に立つ女王アリ怪人はそっと耳をした途端に、余裕を取り戻したかのように口元を歪めた。

 

 

「ええそうね。では、とっておきの手段をお見せするわッ!」

 

ビシュムが声を上げた途端、ギルガメッシュの背後から響く悲鳴。振り返ると、彼の背後で戦いを見ていた慎二と桜がアリ怪人によって羽交い絞めにあっていた。

 

「っく…離せよッ!このムシ野郎ッ!!」

「手が…届かない…っ!」

 

必死に体を揺さぶる慎二と手甲に炎を宿しても相手に触れなければ効果が出せない桜。必死に抵抗する2人の姿を横目で見ているギルガメッシュは無表情のまま、ビシュムへと向き直った。

 

「なるほど。雑虫らしいことだ」

「さぁ、鎖を下げなさい。さもないと、あの人間達の命はないわよ!!」

 

ギルガメッシュの皮肉に反応することなく、ビシュムは彼に対して脅しをかける。

 

睨み合うこと数秒。

 

彼の周りで生物のようにうねりを上げて活動していた鎖の動きがピタリと止まり、ギルガメッシュの手首に巻かれている。その姿を見た慎二と桜は唇を噛みしめるしかなかった。

 

 

だが

 

 

「アハハハハッ!物分りがいいじゃない、では次に―――」

「何を勘違いしている?」

「―――私にひれふして…は?」

 

ギルガメッシュの言うことが理解できないビシュムは彼の表情を見る。人質がいるというのに、彼の表情は挑発的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「我が手を下げたのは、貴様等の要求を飲んだのではない」

 

 

 

 

 

 

「もう、我が手を出す必要がないからだ」

 

 

 

 

 

 

 

ギルガメッシュが言い切った直後、彼の背後から2体のアリ怪人が吹き飛んでいき、落下すると同時に炎上してしまったのだ。

 

「な…ッ!?」

 

現れたその姿に、ビシュムは戦慄する。自分達にとって恐れていた事態が起きてしまったことに、言葉を失ってしまう。

 

 

「ありがとう2人とも…そして、ごめんよ。心配かけて」

 

 

黒い戦士は、アリ怪人から解放されて尻餅を付いている義弟と義妹の頭を優しく撫でながら、変わりない優しい声で感謝と謝罪を述べた。

 

 

 

「本当だよ、この、バカ兄…」

 

「兄さん…光太郎、兄さん…っ!!」

 

悪態をつきながらも笑っている慎二と既に泣き始めている桜をライダーに任せた光太郎は立ち上がり、こちらを見ているギルガメッシュの方へと足を進めていく。

 

 

 

「王である我を前線に立たせて遅れて登場とは、覚悟出来ての狼藉だろうな?」

「ああ、後は、いつも見たいに後ろで踏ん反り返ってくれるだけでいい」

「フンッ…!」

 

 

光太郎とは逆に、今度はギルガメッシュがライダーや信二達の方へと歩いていく。

 

やがて2人がすれ違う寸前に…

 

 

 

「さっさと片付けろ、光太郎」

「任せてくれよ、ギル」

 

 

 

互いの掌を打ち合った。

 

まるで選手交代と言わんばかりに。

 




光太郎の本質を家族以外で誰よりも早く見抜いていたというお話。

ギルの鎖には様々な攻撃ができるはずだと思います。某青○聖○士のように…

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第56話『逆襲の時』

先週、今週分のFateをまとめて視聴し、ライダー姐さんの美しさとエロさに大興奮しておりました。

そして、本当にこの世界では慎二君の性格が違い過ぎるなと再確認しましたね…

それでは、56話です!


不覚…

 

アリ怪人に義妹の桜と共に背後を取られ、人質となってしまった間桐慎二は黄金のサーヴァントへ脅迫する大怪人ビシュムを睨む。

 

ギルガメッシュの想定外である戦闘能力に恐れたビシュムの取った行動…過去に自分や桜が幾度もゴルゴムと義兄の戦いの中で起きたことであったが、義兄の足手まといにならないために自力で潜り抜けてきた。

 

だから、今回だって自分の力でどうにかしてみせる。慎二は隣で同じように捕まっている桜も諦めずに脱出する寸断を考えている姿を見て、今自分にできる事を考え始めた。

 

(全く…どこぞのお人よしのせいで『諦め』って言葉が浮かばなくなってきたよ)

 

義兄の行動に毒され過ぎたなと思いながら笑っている自分に気付く。見れば桜も、慎二の方へと顔を向け、頷きながら微笑んでいた。考えていたことは、一緒のようだ。

 

なら、早々に脱出しなければならない。いつも自宅に突然押しかけてくるサーヴァントに何時までも頼るわけにはいかないと考えた矢先、慎二と桜は自分達を羽交い絞めにしていたアリ怪人の手が急に離され、固い岩場に尻餅をついてしまう。

 

痛みに顔を顰めながら自分達を拘束していた怪人を見上げると、見覚えのある黒い手によって背後から後頭部を掴まれ、持ち上げられているアリ怪人が必死に振りほどこうとする姿があった。

 

逆光でもはっきりとわかる黒い身体、赤く光る複眼…

 

黒い戦士は両手で掴んでいたアリ怪人2体の頭部を手放した直後、尽かさず背中に掌底を叩き込む。それだけで2体のアリ怪人は風に運ばれる枯葉のように吹き飛ばされ、手にした鎖を下げたギルガメッシュを背後を抜けて落下した直後、炎上する。

 

 

 

 

「ありがとう2人とも…そして、ごめんよ。心配かけて」

 

 

 

アリ怪人達があっさりと倒された光景に唖然とする慎二と桜の頭に、そっと手が置かれる。見た目のゴツさから考えられない暖かさは、10年前から変わりない優しさがあった。

 

この手の持ち主は、世界中探しって、たった1人しかいない。

 

自分達との約束を破って姿を晦ませていた名前を、2人は呼んだ。

 

「本当だよ、この、バカ兄…」

 

「兄さん…光太郎、兄さん…っ!!」

 

こちらは必至になって探していたというのに、いつも通りに声をかけてくる義兄の姿に憎まれ口の一つでもぶつけてやろうかと口を開きかけた慎二だったが、隣で泣きじゃくる桜を見てそんな気が失せてしまう。

 

「ライダー、2人を頼む」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

光太郎の後に現れたサーヴァントの姿にさらに桜の鳴き声が大きくなってしまう。そんな桜を安心させるために優しく抱擁するライダーに後を託し、光太郎はギルガメッシュの元へと向かう。

 

慎二達には聞こえない程度に言葉を交わした2人はすれ違いざまに手を打ち合い、光太郎はゴルゴムへ、ギルガメッシュは洞窟の入り口付近にある手頃な岩に腰をかけて携帯ゲームを起動させていた。

 

 

 

 

 

「び、ビシュム様…仮面ライダーが、生きて…」

「そんな事は分かっているわッ!!」

 

呼びかけてきた女王アリ怪人に思わず怒声を放った大怪人ビシュムは光太郎が2体のアリ怪人を瞬く間に倒した力に、恐怖を抱いた。

 

アリ怪人の身体の固さはカニ怪人以上であり、黄金のサーヴァントですら鎖の補助がなければ攻撃が通るはずもないはず。だというのに、光太郎はキングストーンによるバイタルチャージも、パワーストライプスによる力の解放もなく打倒している。今、光太郎から放たれている底知れない力にビシュムはギルガメッシュに仕掛けていた魔術を解除、広げていた両手を光太郎に向けて攻撃を開始する。

 

両手から放たれる攻撃魔術だけでなく、両目から怪光線も同時に放射。ビシュムの一斉攻撃は外れることなく全てが光太郎の身体へとヒットし、余波による土煙が覆っていく。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…これなら」

 

ありったけの攻撃をしかけたビシュムの目に映ったのは、土煙の中からゆっくりと自分達に向かい足を進める光太郎の姿。身体には傷一つ負うことなく、ゆっくり、ゆっくりと自分達へと向かってきている。

 

後ずさるビシュムの前に立った女王アリ怪人は手にした錫杖を光太郎にむけ、まだ自分の背後に控えていた50近くのアリ怪人達に指令を下した。

 

「所詮は一人だ!一斉にかかれぇッ!!」

 

女王の命令に咆哮を上げて駆け出していくアリ怪人の大群。あれだけの怪人が同時に攻撃されては、さすがの仮面ライダーもただでは済まないと踏んだ女王アリ怪人であったが、攻撃の対象である光太郎は全く動じることなく、右腕を水平に伸ばすという行動に首を傾げる。

 

数秒後、その行動がどのような結果を招くのかを、嫌というほど知ることとなった。

 

 

 

 

 

光太郎の背後にいる慎二と桜も、光太郎が腕を上げるだけであり、戦いで攻撃を繰り出す際の構えを取らないことに疑問を抱いていた。それに、あのままではアリ怪人達の格好の餌食となってしまう。いくら復活したとはいえ、あのままでは…

 

「つまらぬ先入観で物事を決めつけるなよ。特に、あの男にはな…」

 

慎二の思考を読んでいたのか。ギルガメッシュは声をかけてくるが、その余裕の表情とは裏腹に十字キーを必死に入力している姿はどこか決まらない。

 

そんなことは言われなくてもわかっている。こちとら10年近くも弟をやっている身でありながらも、現在進行形で義兄の行動を読むなんて出来もしないのだからな、と言いたいところだが今は兄がこれからやろうとする事の方が気になる。

 

隣にいる桜も手を胸の前で強く握って光太郎を背中を見ている。

 

期待、しているのかもしれない。光太郎がこれから何を起こしてくれるのかを…

 

 

 

地響きを立てながら自分に迫るアリ怪人達に対して、光太郎は自分が信じられないほど冷静である事に気付く。自分に流れるキングストーンの力、身体を治してくれた命のエキスの流動、自分を支えてくれている掛け替えのない人々の存在。そして世界中で戦っている先輩達が教えてくれた自分を動かす『魂』

 

それが全てが、光太郎の中にある。

 

だから、自分には不可能なんてない。

 

仮面の下で目を見開いた光太郎は右手を拳から手刀へと変えて、真横に振るう。

 

 

 

光太郎が右腕を振るった直後、前進していたアリ怪人達の動きがピタリと止まる。しばしの沈黙が周囲を包み、光太郎が振るった腕を下げた直後、アリ怪人達は一斉に倒れ、次々と燃え上がっていく。

 

何が起きたか理解の追いつかないビシュムはまだ燃え始めていないアリ怪人を見て驚愕する。アリ怪人の胸板には横一線に窪みが走っている。

 

そう、光太郎が振るった手刀によって発生した真空波がアリ怪人達に叩きつけられ、絶滅させることに成功したのだ。

 

 

「こ、こんなことが…」

 

そんな言葉しか浮かばないビシュムに、死神の視線が突き刺さる。アリ怪人達を火種とした炎を飛び越え、着地した光太郎は怒りを込めてビシュムの名を叫んだ。

 

 

「大怪人ビシュムッ!!己の目的の為に慎二君と桜ちゃんの命を脅かしたこと、俺は断じて許さんッ!!」

 

「ヒィっ!?」

 

「おのれ仮面ライダーッ!!下僕達の仇だッ!!」

 

怯えるビシュムの前に立ち、錫杖を構えて光太郎へかけていく女王アリ怪人は光太郎が攻撃態勢へと移る姿を見る。

 

 

両拳をベルトの上で重ねたと同時に、エナジーリアクターの中心が赤く発光する。右腕を前へ突出し、左手を腰に添えた構えから両腕を右側へ大きく振るい、左手を水平に、右腕を右頬前へと移動する。右拳を力強く握りしめるとその場が跳躍する。

 

 

 

(ライダーパンチ…!)

 

光太郎がこれから打ち出す攻撃を推測する女王アリ怪人。多くの怪人を葬った攻撃ではあるが、自分は数多くいたアリ怪人を束ねていた存在。身体の硬質さならば他のアリ怪人の数十倍を誇っている。

 

万が一にもあの拳が自分の身体を貫くなど、あり得ない。

 

その油断が、女王アリ怪人の最期を早める結果となってしまった。

 

 

「ライダーァ―――」

 

 

跳躍した光太郎は、エネルギーを纏った右拳を、女王アリ怪人の腹部へと叩き込む。

 

 

「―――パァンチッ!!」

 

 

「ぎ、アあぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

絶叫を上げる女王アリ怪人は錫杖を取りこぼし、震える手でライダーパンチを受けた腹部を抑えながら見ると亀裂と共に光太郎の拳の後がくっきりと残っていた。

 

「そ、そんな馬鹿な…この、私の身体にぃ…」

 

受け入れられない現実に茫然とする女王アリ怪人に、光太郎の攻撃は続く。

 

 

「ライダーァ―――」

 

 

エネルギーを纏った右脚を、女王アリ怪人の胸部へと炸裂する。

 

 

 

「―――キィックッ!!!」

 

 

 

止めを受けた女王アリ怪人は2回、3回と海岸を転がり、体を揺らしながらも立ち上がる。

 

「び、ビシュム様アァァァァッ!!」

 

主の名を断末魔の叫びに、女王アリ怪人の身体は炎に包まれた。

 

 

女王アリ怪人の消滅を確認した光太郎はビシュムがいつの間にか姿を消していたことに気付く。見渡してみると、遥か上空で自分を見下ろしているビシュムが、顔を歪ませて捨て台詞を吐いて去って行った。

 

「仮面ライダー…覚えていなさい!生き返った事を後悔させて上げるわッ!!」

 

 

「ふう…」

 

人間の姿となった光太郎は自分に駆け寄ってくる足音の方へ顔を向けた途端、自分に抱き着いた義妹が胸に顔を埋めて、再び泣き始めてしまったことに困惑する。

 

「さ、桜ちゃん…?」

「本当に、本当に光太郎兄さんなん、ですよね…?幽霊じゃ…ないんですよね?」

「…うん。俺は、ちゃんとここにいるよ」

「…っはい…光太郎兄さん…」

 

桜の頭を優しく撫でる光太郎に続いて慎二とライダーが近寄り、ギルガメッシュに至っては態勢を変えずにゲームを続けていた。

 

「…聞きたいことは山ほどあるけど、説明してくれるんだろうね」

「うん、飽きるほどね」

「そうかよ…」

 

眉間に皺を寄せて訪ねては見たが、やはり普段通りの切り替えしに一気に肩の力が抜けてしまった慎二。では、続いての人に落ちは任せようと自分の後で控えていた義兄のパートナーの見るが、光太郎に目もくれず、明後日の方向へと目を向ける。

照れて視線を逸らしているのか?と思ったが、様子がおかしい。酷く焦っているように、手を強く握っている。

 

それはライダーだけではなく、ギルガメッシュも同様だった。

 

ライダーのように焦燥している事はないものの、ゲームから視線を逸らし、ライダーと同じ方へと顔を向けている。

 

2人が共通している事。それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴムの秘密基地。

 

イリヤスフィールは円柱のカプセルの中で横になっているシャドームーンへ、返事はないと分かっていながらも声をかけた。

 

「ねぇ。知ってる?ライダーのマスター、生きてるって。それで貴方の部下が血眼になって探し回ってるんですって」

 

シャドームーンに返答はない。それでも、構わずにイリヤは話し続けていた。

 

扉の向こうではカーラとマーラが控えており、相も変わらず世話役を買って出ている。彼女達もここならばイリヤが好き勝手に出歩かないと理解した上で入室を許しているのだろう。

 

シャドームーンの治療が開始されてから数日、イリヤは欠かさずに顔を出し、食事と睡眠を除くほとんどの時間を眠っているシャドームーンと共に過ごしていた。心を許している訳ではない。ただ、彼の生き様と、自分の問いかけた質問の回答が

どうしても気になっているのだ。

 

「…ねぇ、貴方は…っ!?」

 

その苦しみは突然だった。

 

「か…は」

 

かつて、自分の母親に自分の見た悪夢を打ち明けたことがあった。

 

自分の中に、大きな塊が7つも入ってくる夢を見た。その恐怖に、母親へ泣きついた記憶がはっきりと思い出す。その『塊』とは、聖杯を完成させるための『モノ』にまず間違いない。

ならば、なぜこのタイミングなのか。

 

自分のサーヴァントは敗れはしたものの、まだ生きており、他のサーヴァント達も自分が拉致されてから本来の聖杯戦争と逸脱した今の状況で殺し合いを再開するとは考えられない。

 

思考しながらも、イリヤの中で一つ、また一つと『塊』が現れることに感覚が鈍っていく。

 

視界がぼやけた先に、ある人物がイリヤを見下ろしているが、既にイリヤにはその声すら届いていない。

 

 

「どうかな、自分が自分で無くなっていく感覚というものは?」

 

 

 

言峰綺礼が、口元を歪め、本当に楽しそうに笑っていた。

 

 




愉悦部起動、ただし一人…

ご意見、ご感想おまちしております!


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第57話『黒幕の声』

説明回…という以上に自分がTM作品に関して勉強不足だと改めて自覚する内容…

ではこじつけの57話です


「コトミネ…キレイ…」

 

低下した聴覚、視覚を『強化』の魔術で補ったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは倒れた自分を見下ろす聖職者の名を口にする。

 

なぜ、聖杯戦争の監督者であるこの男がここにいるのか…

 

「…最もな疑問だろう。人間である私が、なぜこの場にいるのか」

「…っ」

 

余程顔に出ていたのだろうか。綺礼はイリヤの考えを口にし、さらにその疑問にも応じ始めた。

 

「理由は簡単だ。ゴルゴムに聖杯の情報を教えたのは私だからだ」

「な、んですって…?」

「そちらとしても一番理解しやすい構図だろう?君がこの秘密基地に連れ去られたのは原因は、私の密告によるものだと」

 

両手を後で組んだ綺礼は室内を歩き始めた。密室の中で異様に響く彼の靴音を耳にしながらも、イリヤは唇を噛みしめて今にも失いそうな意識を保ちながら綺礼を睨む。そんなイリヤの表情を見て、込み上げてくる感情を抑えながら、聖職者は説明続ける。

 

 

 

 

第五次聖杯戦争最期のマスター、衛宮士郎へ聖杯戦争に関しての説明を終えた直後の事だった。

 

教会付近で異様な気配を感じ取った綺礼は、聖堂教会から派遣された監査役がゴルゴムのコウモリ怪人と接触している姿を発見。コウモリ怪人が去った直後に監視役を拘束、拷問にかけて全てを吐かせたのであった。

拷問の末に息をしなくなった監査役から聞き出した話を整理し、綺礼が得られた情報を再確認する。

 

 

接触していた怪人はゴルゴムという組織に属している。

 

 

ライダーのマスターである間桐光太郎はゴルゴムと敵対している。

 

 

ゴルゴムは聖杯に関する情報を集めている。

 

 

噂では聞いていた怪人騒ぎにまさか間桐の人間が関わっていたとは思いもしなかった綺礼だったが、聖杯戦争に参加の表明に来訪した彼が魔術師でもないのに妙に『血』の匂いを放っていることに納得し、得られた情報をどう生かすか考え始める。

この時、彼の中でゴルゴムを介入させずに聖杯戦争を進めるという考えは微塵も浮かんではいなかった。

 

 

やがて機会は巡り、定期報告に姿を見せたコウモリ怪人に接触し、自ら聖杯に関しての情報を開示した綺礼はゴルゴムの秘密基地へと赴いたのだ。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ…彼が、私の城に現れたのは…」

「無論、私が君の中にある聖杯がある事を伝えたからだ」

 

床に頭を擦らせながらも、イリヤはカプセルで眠り続ける世紀王へと視線を移しながら抱いた疑問を綺礼は歩みを止めずに答える。

 

綺礼のあっさりとした言い分に若干のイラつきを抱きながらももイリヤは納得した。前回の聖杯戦争の生き残りであり、監査役でもある彼ならば聖杯の器をアインツベルンであるイリヤが内包していることを周知しているのは当然と言える。

 

シャドームーンの口ぶりからして、ゴルゴムがアインツベルンの情報を徹底的に調べ上げられたのも、綺礼からの情報を糸口に行えたに違いない。

 

「…秘匿すべきことを更々と話すなんて、マナーがなってないわね…」

「その点に関しては全く持って同意する。もしこれが聖堂教会も勿論だが魔術教会に知られた日には、明日を生きてはいないだろう」

 

笑いながらも自虐する神父には、口で言う程の危機感がまるで感じられない。イリヤには、この男は今ある状況すら楽しんでいるように思えてしまった。

 

「さて、前置きが長くなってしまったが、今君が陥っている状況に関してだが…それは君が一番理解しているはずだね」

「…私の中に、英霊の魂が…」

 

イリヤの回答に綺礼は笑いながら頷く。

 

今回の聖杯戦争の『小聖杯』として造られたイリヤは脱落したサーヴァントの魂を取り込むにつれて、徐々に人間としての機能を失っていく運命にあったが、イリヤには解せなかった。

 

聖杯である自分が第3者であるゴルゴムに誘拐されるなど前代未聞の事態であり、生き残っているマスターやサーヴァントは争っている場合ではないはず。だというのに同時に幾つもの魂がイリヤの中へと流れ込んでくるということは、全世界が危機に瀕している状況で戦いを続けているのであろうか…?

 

そんなイリヤの抱いた予測とは全く別の結論が、神父の口から放たれた。

 

 

「君の中には間違いなくサーヴァントの魂が捧らえている。しかし、君の知るサーヴァントのものではない」

「なに…それ…?」

 

イリヤには綺礼の言う事が理解できなかった。いや、認めようとしなかった。言峰綺礼とゴルゴムの取った行動を。

 

 

 

 

 

「聖杯の予備システム…こう言えば納得するだろう?」

「…っ!?」

 

 

最も知りたくなかった事実にイリヤは目を見開き、身体の不調を忘れて叫ぶように綺礼に問いかけた。

 

 

「ありえないわッ!?そもそも予備システムが働くには…」

「サーヴァント全ての意思が統一されてしまった場合…か?」

 

 

大聖杯は7騎のサーヴァントが一つの勢力として統一され、サーヴァント同士の殺し合いがなされない場合に備えて、新たに7騎のサーヴァントを追加で召喚させる為のシステムが組み込まれていた。だが、代償として冬木にある地脈の力を枯渇させるリスクがあり、そうなってしまえば人間の住む土地として『死』を迎えることと同意義であるのだ。

 

「君は知らぬだろうが…いや、サーヴァント達にも自覚しているかどうかすら危ういだろう。自分達の意思がある一つの事で統一されていることが」

「どういう…ことよ?」

「なに、何時いかなる時代であっても、思考を持つ者の意識を一つにさせることなど、いとも簡単に行えるものだ。今回の事も、『あの者』が動いたことでようやく成しえたものだからな」

 

綺礼の遠回しの説明にイリヤは思考を巡らせる。この男が言う通りに聖杯の予備システムが稼働したのなら、サーヴァント全てが徒党を組むが、同じ考えに至らなければならない。

だが、ライダーのマスターである間桐光太郎や衛宮士郎、遠坂凛達が手を組むのは分かるが、単独行動を行っているランサー、そしてまだ生存しているバーサーカーが意思を通わせるなど考えられない。頭を捻るイリヤの頭に、綺礼の話した『意識を一つにさせる簡単は方法』を思いついた。

 

「まさか…貴方、その為に私を…」

「その通り。だからこそ、わざわざバーサーカーを倒し、君を拉致したという結果を知らしめる為にそこで眠る世紀王に進言したのだからね」

 

カプセルの前に到達した綺礼は動く気配のないシャドームーンを見下ろしながら口元を歪める。

 

「そう…『聖杯を強奪したゴルゴムに敵意を向ける』至極簡単で、明確に意思を統一できる理由だ」

 

以前より敵対していた光太郎と彼のサーヴァントであるライダーは聖杯戦争以前よりゴルゴムとの戦いで、敵対する意思はすでにあった。

 

新都でのゴルゴムの宣戦布告でセイバー、ランサー、キャスター、アサシンは聖杯の力を利用するという言葉を聞き、光太郎達と共闘、ゴルゴムを敵として認識した。

 

そしてアインツベルンの城での戦いでバーサーカーは打倒されたものの、自分のマスターを誘拐したシャドームーンを…ゴルゴムを敵意以外抱くはずがない。

 

さらに加えれば、イリヤと綺礼が顔を合わせる数十分前にイレギュラーであるサーヴァント、ギルガメッシュもゴルゴムに対して完全な敵対行動を起こしていた。

 

 

まさか気分屋の『あの者』…ギルガメッシュまでが行動に移すとは予想してなかった綺礼であったが、これでこの冬木で生存が認識されている『7騎』のサーヴァントが同じ意思の基、行動を移すことになる。だからこそ、大聖杯に追加のサーヴァントを召喚させる事が可能となったのだ。

 

 

「それじゃあ…新しいサーヴァントを…けど、マスターや聖遺物は…」

「そこまでの準備はさすがに…と言いたいところだが、ゴルゴムという想像以上に大きい組織のようでな。私も驚いた。聖遺物どころか、マスターまで準備が出来ていたのだがらな」

 

綺礼の立てた案を聞いたダロムは二日という短期間で聖遺物を。そして第五次聖杯戦争の存在を知り、参加しそこなった魔術師を誘拐。洗脳することで強引にマスターへ仕立てあげる事に成功する。

 

 

「じゃ、じゃあ…新しく召喚したサーヴァント同士で戦いを…」

「いや、そのような時間は惜しいのでね…召喚した直後、マスター達に令呪で命令させている」

 

 

 

 

「自害しろとね」

 

 

 

 

 

綺礼は新たなサーヴァントの召喚に立ち会っていない。それ故に、どのようなサーヴァントが召喚され、どのような最期だったかは綺礼は知らないし、興味もなかった。

 

 

「ああ、ちなみにマスターに関してはそのまま怪人用の素体となることになっているようだ。魔術師をベースに造る機会は、それほど多くはないようそうでね。私としても用済みなので、処理する手間が省けたわけだ」

 

余計な情報まで話してくる神父にイリヤは戦慄した。この男をここまで動く理由は、一体なんなのだろう。自ら属する組織にすら反してまで、人類の敵に与してまで何を成し遂げようとしているのだろう。イリヤの考えは、さらに増えた英霊の魂によって

より薄らいでいく

 

 

「あ…ぐ」

「ふむ…自我の強さか、対魔力が強いのか、抵抗がまだ続いているようだが時間の問題だろう。時期に、聖杯は現れる」

 

呼吸すらままならないイリヤは、自分が抱き上げられていることすら気付けない。だが、このまま意識が途切れる前にどうしても確認しなければならないことがあった。

 

 

「あなたは…聖杯で…何を、するつもり…なの?」

「………………………」

 

先程まで饒舌であった綺礼は押し黙る。しばし時間がたち、イリヤの質問へと答えたのは、彼女の意思が完全に途切れた時であった。

 

 

 

 

「特にどうするという訳ではない。ただ、その誕生を祝福する…それだけだ」

 

 

綺礼は踵を返し、イリヤを連れて部屋を後にする。意識を失ったイリヤはぶつぶつと寝言を呟いているようだったが、綺礼にとっては、既にどうでもいいものだった。

 

 

 

「シロウ…シャドー…ムーン」

 

 

 

 

 

イリヤの放った言葉に反応したかは定かではない。だが、ほんの一瞬、眠り続けているシャドームーンのキングストーンが、僅からながら光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯が…生まれた?」

「はい…」

 

戦いを終えた光太郎へライダーが伝えた内容に、光太郎は遅かったかと自分の掌を拳で打つ。だが、ここで後悔していても始まらない。一刻も早く、冬木に戻らなければいけないとバトルホッパーとロードセクターのいる場所に向かおうとするが…

 

「ライダー…」

「……………………」

 

振り返った光太郎の目に映ったのは、シャドームーンとの決闘以前と同様、自分の袖を掴んでいるライダーの姿だった。それに前回と違い、俯いているためか表情も見えない。

 

「慎二君、桜ちゃん。悪いけど…」

「ああ、先にいってるよ」

「待ってますね、兄さん」

 

光太郎が最後まで言われるまでなく、慎二と桜は義兄とパートナーを残して、海岸付近の駐車スペースに置いてきたため不機嫌になっているだろう2台の元へと駆けていった。

 

 

既に周囲に人気がいなくなったことを確認した光太郎は、微笑みながら尋ねた。今にも泣くのを我慢している自らのサーヴァントに。

 

「…今日は、いつになく泣き虫だね?」

「そんなこと…ありません。ただ、色々と突然過ぎただけです」

 

未だに顔を上げないまま答えるライダー。胸を貫かれ、確実に死んだと思っていた光太郎が生き返り、喜ぶのもつかの間。ついに恐れていた事態…聖杯が発動してしまった。聖杯を宿したイリヤがゴルゴムの手に落ちた時からある程度予想を

立てていた事態ではあった。

だが、そうなった場合に彼が起こそうとする事にライダーは最後まで反対していた。キャスターの見立てでも成功率は低く、例え成功しても光太郎が生きて帰る可能性はゼロでしかないと断言している。

 

それでも、光太郎は止まらないのはライダーは分かっている。分かっているはずなのに、こうして彼を引き留めて、少しでも共有できる時間を伸ばそうとしていた。

 

「…いろいろと、約束を破ってきてごめん。決闘だって絶対に勝つって言ったのにこの様だしね」

「…いいんです。貴方が生きているだけで、私は―――」

 

ようやく顔を上げようとしたライダーの頭を、光太郎は優しく触れる。彼の手から伝わる温もりに、段々と落ち着きを取り戻したライダーはゆっくりと掴んでいた袖を手放した。

 

「すみません。また、迷惑を…」

「そんなことないよ。それに、いつも迷惑をかけているのは、こっちなんだからさ」

 

光太郎も手を離し、互いの視線をしばし交わした後、どちらかともなく身体を重ね、抱擁する。

 

「迷惑だったら、いくらでもーかけてください。もう…なれてしまいました」

「そう言われると…逆にかけずらくなるな…。けど、心配だけにするように、頑張るよ」

 

 

「君には心配させても、悲しませることは、絶対にしない」

 

 

それは、この先絶対に死なないと遠回しな宣言でもあった。

 

 

「だから…行かせてくれ。いや、一緒に、来てくれ」

「今更…断ると思っているんですか?」

 

 

身体を離した両者の顔は、赤らめながらも満面の笑みを浮かべている。

 

伝えたいことは、まだある。しかし、今はそれよりも先に成すべきことを優先させなければならない時だ。全てが終わったその時に…

 

 

「行こう、ライダーッ!!」

「はいッ!」

 

 

 

 

 

 

 

一方、冬木に出現した聖杯の気配に感づいたギルガメッシュは光太郎達と別行動を取り、クジラ怪人の案内でゴルゴムの秘密基地へと乗り込んでいた。

 

「…もぬけの殻、か」

 

案内人であるクジラ怪人が慌てるほど、ゴルゴムの基地内は変わり果てていた。否、変わったのではなく、本来あったはずの基地そのものが2人のいる場所に存在していなかったのだ

 

クジラ怪人の知る秘密通路を通り、一定の場所からまるごとなくなったかのように削られた床と壁。その光景を見たギルガメッシュはある結論へとたどり着いた。

 

「基地ごと別の場所へ転移…ならば、場所も決まっているな」

 

『王の財宝』を展開したギルガメッシュはそこから1台のサイドカー付きのバイクを召喚。自らハンドルを握り、クジラ怪人がサイドカーに搭乗することを確認すると、消え失せようとする自ら所有する宝物庫の奥にあるものを見つめる。

 

「そろそろ使い時かもしれんな」

 

エンジンに火を付けた英雄王は通った通路を逆走。ゴルゴムが転移した場所…冬木市の柳洞寺を目指した。

 

 




英雄王のバイクコレクションには、光太郎もテンションを上げて拝見していたり…

ご意見、ご感想おまちしております!


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第58話『相棒の帰還』

hollowをちょっとずつプレイ中。OPなんか毎日見てしまってますねぇ。日常を楽しく生きているサーヴァントの方々を見るのはとても嬉しい。
ライダーさんとかライダー姐さんとか、あとライダー様とか…

…ゴホン、では58話です


「最悪だわ…」

 

工房で冬木市の地下を通る地脈の状態を分析していた遠坂凜は作業を中断し、急ぎ外で待たせている協力者達の元へ駆け出していく。

 

(冬木の地脈に流れるマナがほぼ消えかかってる…ああもうっ!まさか、本当にやるだなんて…ッ!!)

 

自分の認識が甘かったかもしれないと、凜は後悔を後回しにして今は行動することを優先させる。

 

 

聖杯戦争が60年という周期が必要なのは、冬木市の地脈に流れる魔力を時間をかけて大聖杯が収集、溜め込むでサーヴァントを現界させるという奇跡を起こすまでに至たる。それも地脈に影響がないように少量の魔力を吸い上げていくことが大前提だ。

 

しかし、凛が見たのは影響なしどころか、地脈のマナそのものが消失しかねないという状態にあった。

 

もしこのまま地脈のマナが枯渇してしまえば、冬木市は魔術師にとって何の価値もない荒地に等しい扱いとなる。だが、凜にとってはそんなものは二の次だ。

 

地脈は、その土地そのものの生命力でもある。それが無くなると自然と荒れ果て、人が生きていく土地として『死ぬ』ことと同意義であり、何の力も持たない人間土地に立った際、本能的に『ああ、ここでは駄目だ』と思ってしまう。

 

人間の住む町としての『死』

 

 

そんなもの、管理者として、『遠坂の人間』として凜は認めない。

 

(ゴルゴム…例え、敵わくたって…!)

 

自分の使い魔で間桐光太郎が敵の首領格と戦い、どのような目にあったかは知っている。あの光景を見た彼の義妹であり、自分の実妹である桜がどれ程悲しんでいるかも計り知れない…

 

 

待ちわびていた自分の聖杯戦争を穢し、妹の幸せを砕いたゴルゴムには、大きな貸しが出来たのだ。凛は自分の持つ全てを持ってしてゴルゴムに立ち向かう覚悟を決めた。申し訳ないが、あの二人には巻き込まれて貰おう。

謝るのなら、死んだ後でもできるだろうし…と後ろ向きな考えをまとめた所で凜は扉を乱暴に開けて…

 

 

 

「2人ともッ!!状況は――――」

 

 

 

 

 

「あ、遠坂さん、久しぶり!」

 

 

 

 

 

満面の笑顔で挨拶する光太郎の姿を見て盛大にコケたのであった。

 

 

 

 

「…おい、顔面からいったぞあれ」

「と、遠坂先輩!大丈夫ですか!?」

 

 

学園のアイドルである凜の顔面ダイブという2つの意味で痛い場面に声を上げる慎二と、純粋に心配してかけよる桜。

 

 

遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ。

 

 

もはや遠坂の姓を持つ者にしか伝えられていない伝承である。

 

 

 

 

「しかし驚きです。あの状況から生還できるとは…」

「ええ…同じ事は、二度と出来ないでしょうし、したくもありません」

 

ゆっくりと泥だらけの顔を上げた凜の目に映ったのは同じサーヴァント故か、ライダーの無事を喜んでいるセイバーと…

 

 

「そうですか…世界中で、仮面ライダーが」

「ああ。だから、俺も負けられないんだ」

 

なにやら聞き覚えのない名前で盛り上がっている士郎と死んだと思っていた間桐家の長男。

 

状況が全く理解できない凜は目元をヒクヒクと動かしながら、自分の顔の泥をせっせと拭き落してくれている妹に身をゆだねていた。

 

 

 

 

 

「…あの男が、そんなことを」

「あからさまに嫌な顔をしないのセイバー。けど、そんな大物の英雄だったなんてね…ん?」

 

九死に一生を得た光太郎の説明に一応の納得した凛達は、門の前で一台のワゴン車が停車し、その中から迷彩服を纏った人間が飛び出して光太郎達を囲っていく。おまけに重火器を向けて、だ。

 

「…おい光太郎。いつから指名手配扱いになったんだよ」

「身に覚えがないけどなぁ。って、俺限定なの?」

「何を悠長なこと言ってるんだよ!?慎二も光太郎さんも!!」

 

突然の展開に追いつかず、マイペースな2人に大声を出すにいられない士郎は自分達に武器を向ける乱入者を見る。ゴルゴムが闊歩する冬木市で自衛隊が駆けつけているなんてニュースは聞いていない。

いや、逃げ遅れた人を救助するために隠密に行動しているという可能性もあるが…怪しすぎる。暗視ゴールグルに防護マスク。顔を完全に覆い隠している上に動きが機械的だ。

 

 

 

「彼等からは殺気どころか生気すら感じられません」

 

ライダーの一言で全員が手段は別だが、同じ行動に打って出た。

 

 

光太郎は拳で顔面を捉え

 

 

ライダーは鎖を放ち

 

 

慎二は改造したスタンガンを顎に当て

 

 

桜は炎を灯した手甲で胸板へ掌底を叩き込み

 

 

凛は数十発のガンドを発射し

 

 

セイバーは不可視の剣で薙ぎ払い

 

 

そして士郎は手に『二振りの刀剣』を出現させて切りつけた。

 

 

 

 

「…怪人になる前の素体、だね」

「素体…ってことは、元は人間ってこと?」

 

慎二の疑問に光太郎は無言で頷いた。

 

「怪人に比べたら大した力はない。けど、自ら考えることは出来ないから、命令はしやすいんだろう」

 

過去にゴルゴムに自身を改造され、養父である総一郎に連れられて脱走した際に多くのカプセルが陳列している倉庫を通りかかったことを思い出す。身体を動かくことに必要最低限な部分だけを残し、後は処分されてしまった人のなれの果て。

 

それが数百、数千という数がならんでいたのだ。その時に光太郎は、ああ、自分だけじゃなかったんだ…と考えるしかできなかった。

 

ヘルメットをはぎ取った男達の顔は頭蓋骨と筋肉を除き機械で補われており、ゴルゴムの言われるままに動くように改造されていたのだろう。顔から下は…桜のいる手前、確認したくもなかった。

 

 

「…士郎」

「何だ、遠坂?」

「………………………」

 

セイバー、ライダーの2人と動かなくなった素体を運んでいた士郎に凜は目を鋭くしながら尋ねた。その目は敵意というより、何かが気に食わないといった類だが、士郎には検討が付かない。

自分の顔を睨み続ける凜の出方を待つしかない士郎は背中に嫌な汗を流しながら大人しくしていると、凜の口が開いた。

 

「…さっきの剣、あれは?」

「え?あ、あれは―――」

 

イメージした武器を投影魔術で生み出す術を身に着けた士郎だったが、この土壇場で生み出したものは夫婦剣。それも凜が契約していたサーヴァントが愛用していたものだった。

士郎自身も、なぜあの武器を投影したのかはっきりと分からない。ただ、他の刀剣を投影するよりも手に馴染み、生み出しやすかった。なぜ、この武器なのだろうと疑問を抱くことすら、凜に言われるまで気付かなかった程だ。

 

「…正直、俺にもわからない。分からないけど…俺が今一番イメージしやすい得物が、あの剣だったんだ」

「…そう」

 

短く答えた凜は振り返って桜の元へ向かった。一体なんだったんだと一人悩む士郎の後頭部を慎二は軽く叩く。

 

「…慎二?」

「さっきの、遠坂の前じゃ使うなよ?」

「なんでさ?いざ戦いの時には」

「そう言う意味じゃないよ。じゃあ言い方を変える。遠坂の前じゃ『見せるな』」

「…あ」

 

慎二の言い方に合点がいった士郎は思わず言いどもる。

 

今回の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントで唯一、脱落してしまったのは凜が契約したアーチャーだった。イリヤとバーサーカーから自分達を守る為に自ら足止めをし、士郎に的確な指示を送ったサーヴァント。

なぜか気に食わなかったが、彼の言葉がなければあの場を切り抜けることは出来なかっただろう。

 

そして凜との関係もマスターとサーヴァントという関係以上に、深い絆があったことを士郎にも見て取れた。だというのに最後に言葉を交わしたのはマスターである凜ではなく、協力関係にあったとはいえ、敵である士郎だったのだ。

その士郎が、弓兵でありながら接近戦を得意とする彼が愛用していた剣を士郎が生み出してしまうのは、凛の目にはどのように映っていたのか…

 

「わかった。すまない慎二」

「ふんっ…」

 

友人の屈託のない感謝に鼻を鳴らして慎二は空を見た。光太郎とシャドームーンの戦いから一度も日の光が差し込もうとしない淀んだ雲で覆われた空を。

 

 

 

 

 

 

「それでは、総一郎様」

「ああ」

 

体調を戻したキャスターはローブを纏い、総一郎と共に間桐家の玄関を出る。総一郎の姿は学校で見せる背広ではなく、身体を動かしやすい恰好となっており手には鉄板仕込みの皮手袋を着用。彼本来の力が発揮できる姿となっている。

同行を反対したいキャスターだったが、『キャスターが戦うのならば、自分も』という言葉に折れ、こうして共に目的の場所へと向かうこととなったのだ。

 

 

「これはこれは。水入らずで外出するところか?」

「ふざけていないで、貴方も付いてきなさいアサシン」

 

門に背を預けて肩を並べて歩くキャスターと総一郎を茶化すアサシンであったが、2人が門を抜けた後にキャスターに言われるがまま2人の後を追うように歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、行くとするか」

「……………………」

「動けるようになったんなら方向性だけは決めてくれや。ま、ここでイジけてるってんなら止めはしねぇけどよ」

 

冬木市に程なく離れた土地にある無人の洋館。ランサーはその一室でソファーに腰を掛けて俯いている人物へと声をかけたが返事はない。

 

「今のアンタとアイツを会わせるっつーのは確かに酷かもしんねぇ。だが、受けた借りは返さないようなアンタじゃ―――」

「―――心の整理は付きました」

 

ランサーの言葉を待たずに立ち上がったその人物は、身体が一部欠けていた。だというのにそのようなハンデを微塵も思わせない強い意思を瞳に宿し、その目を見たランサーはニヤリと笑う。

 

「ようやくらしくなったじゃねぇか」

「行きますよランサー。私の令呪を取り戻し、この異常事態を終わらせます」

 

 

 

 

 

「…………………………………」

 

修理を終えた巨大な斧剣を持った巨人は、無言のまま歩き始める。主の異変に気づきながらも得物の修理に時間をかけたことで彼のフラストレーションは溜まる一方であった。そして、ようやくその縛りから解放された英雄は自分達を見送る使用人2人の声を耳にしながら敵地へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺の麓にある石段を登り、境内へと到着した光太郎達は周囲を見渡す。キャスターの張った結界はとっくに解除され、容易く侵入できるようにはなっているが雰囲気はそれ以上に禍々しくなっている。

 

「来れるのなら、来てみろと言いたげだな」

 

光太郎は拳を強く握って、柳洞寺を抜けたさらにその奥にあると言われている大空洞の方へと目を向けた。

 

「…行こう、みんな」

 

光太郎の言葉に、全員が頷く。

 

誘拐されたイリヤスフィール、大聖杯、ゴルゴム…そして光太郎には分かる。この先に、自分達の運命を歪めた敵の王がいるということも…

 

全ての決着は、ここでつける。

 

 

光太郎に続いて全員が歩き始める中、ただ一人凜が足を止める。

 

「遠坂先輩?」

 

気付いた桜の声を聞いて、全員が同じく立ち止まり、凜の姿を見た。風で前髪が揺らされているためか表情が見えない。桜がもう一度声をかけようと口を開くより早く、凜は苦笑しながらも顔を上げた。

 

「悪いけど、先に行って貰える?ちょっと調べておきたい事があるのよ」

「調べるって、何を」

「ここってキャスターが根城にしていた場所なんでしょ?だから、何かこの後に役立つようなものが残されていそうじゃない?」

「……………………」

 

説明する凜の笑顔がどこか引っかかる士郎は彼女としばし見つめ合う。そして一度目を閉じると振り返り、大空洞に向けて歩き始めた。

 

「行こう、みんな。遠坂なら大丈夫だ」

「シロウ…よろしいのでしょうか?」

「…ああ」

 

彼女がここに残る理由を見抜いているセイバーに士郎は背を向けたまま短く答える。先行して進む士郎に続き、セイバー、光太郎達も続いていく中、桜は一度振えった。不安そうに実姉を見つめる妹に心配する必要はないと手を振る姿を見て、

桜は小さく呟く。

 

 

「無理はしないで下さい」

 

 

光太郎達に追いつこうと小走りする桜の姿を見送った凜は一度大きく息を吸うと魔力を消そうともとも放たれているを気配を隠しきれていない存在に大声を上げた。

 

 

 

「さっさと出てきなさいよこのエセ神父ッ!!文句が山ほどあるんだからッ!!」

 

凛の絶叫にも似た呼び出しに応じ、言峰綺礼は植え込みの陰から姿を現した。

 

「気付いていたとはな。中々勘が鋭くなっているではないか凜?」

「やめて貰える?アンタに褒められたってこれっぽっちも嬉しかないわよ」

「私としても褒められたと思われるのは困るな。こうして敵対しているからには、皮肉として受け取ってもらわねば」

 

お互い顔を合わせた途端に繰り広げられる舌戦。普段の挨拶代りでもある言葉の応酬だが、凜は聞き逃してはならない言葉を、確かに聞いてしまった。

 

「…貴方は、言峰綺礼は私達の敵なのね」

「残念だが、そう言わざる得ない」

「そう、だったら、全てに合点が行くわ。ゴルゴムがイリヤを連れ去ったことも、地脈のマナを消費して、サーヴァントを追加で召喚したことも…」

 

左手に魔力を集中しながらも右手に幾つもの宝石を手に、凜は綺礼を見て構える。接近戦では絶対に勝ち目はない。ならば、どうにか距離を保ちながら戦う他ない。凜は綺礼の強さを嫌と言う程理解している。自分の繰り出す拳法など足元に及ばないし、戦闘経験だって数十倍だ。

 

それでも、凜には引けなかった。

 

もっと早く気づき、疑うべきだったのだ。彼の入れ知恵がなければ、本来の聖杯戦争にゴルゴムが今以上に干渉することも無かったはずなのだ。

 

 

それ以上に、いくら毛嫌いしている相手とはいえ、人類の敵に与する姿を見たくなかったのかもしれない。だから、彼を誰にも手を出させない。弟弟子として、冬木の管理者として、凜は人類に敵対した道を選んだ神父と打ち合う覚悟を決める。

 

 

 

「覚悟しなさいよ…言峰綺礼ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり、か」

 

洞窟近辺の森林を切り開き、強引に戦いの場を作り出していたゴルゴムの自然への配慮の無さに呆れながらも怪人の群れを見る。先ほど自分達を襲った怪人の素体も含め、数は…数えたくもない。見たことも無い怪人もいれば、一度命を落とした再生怪人。だが、今までと違い、どこかがおかしい。

 

身体の所々に黒い泥のようなものが付着し、見たことのある怪人は依然よりも肉体がどこか膨張し、凶暴性が増しているようにも見える。

 

そしてなにより、苦しんでいるようだった。

 

「あれは一体…?」

「わかりません。けど、奥に進むには」

 

戦闘装束となったセイバーとライダーに続き、慎二と桜も互いの武器を構えた。

 

 

「押し通るしかないな…!」

 

 

一歩前に出た光太郎は右半身に重心を置き、両腕を大きく振るうと右頬の前で握り拳を作る。

 

ギリギリと音が聞こえる程込めた力を解放するような勢いで右腕を左下へ突出し、素早く右腰に添えると入替えるように伸ばした左腕を右上へ突き出す。

 

 

「変っ―――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、ゆっくりと右半身から左半身へと旋回し――

 

「―――身ッ!!」

 

両腕を同時に右半身へと突き出した。

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

 

「仮面ライダー…ブラァックッ!!」

 

 

 

変身を遂げた光太郎…仮面ライダーBLACKは怪人達へと駆けていく。仲間達と共に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ぐ……」

 

「頑張った方でないかな、凜?」

 

悠然と立っている綺礼は傷だらけとなり、自分の手に喉を掴まれて苦しそうに悶えている凜を見る。

 

宝石魔術やガンド、自分の全てを持って挑んだ凜であったが、過去の話とはいえ代行者まで上り詰めた男の前では通用しなかった。近距離でガントを放とうにも腕の骨を砕かれ、強化を施そうにも呼吸がまともに出来ない状況では詠唱にも集中できない。

それでも、凜は綺礼に敵意を向けることだけはやめなかった。その眼光は戦いを始めた以上に鋭く、強くなっている。

 

「さすがは遠坂の名を継ぐ者だ。このまま死なせてしまうのは先代の父君に申し訳ない」

「どの、口が…言ってるの、よ…かはッ!?」

 

喉を締める手に力が強まる。意識が朦朧とする凜に向けて綺礼は懐から取り出した黒鍵の切っ先を彼女の腹部へと突き立てた。

 

 

(ああ、こんなにもあっさりと終わっちゃうんだな…)

 

自分なりに全力は出したつもりではあったけど、結局は駄目だった。名ばかりの管理者である自分を卑下しながら凜は自分がこれから死んでしまうことを多くの人に詫びる。

 

妹の桜に、生んでくれた両親。協力者であった士郎とそのサーヴァントであるセイバー。桜を実の兄妹のように大切にしてくれた間桐の家。そして…共に戦うと誓ってくれた自分のパートナーへ。

 

凛はゆっくりと目を閉じた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君らしくもない。何時からそう簡単に諦めるようになってしまったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豪雨の如く自分の周囲に刀剣が降り注いだことで思わず凜の首を持つ手を緩めてしまった綺礼は、その隙を逃さず凜を抱きかかえて距離を取った存在に目を見開く。

 

 

『彼』は、消滅し聖杯を機能させる一部となったはずではなかったのか?

 

 

それ以上に驚いているのは、彼に抱きかかえられている凜だろう。もう、二度と会うことのないと思った存在に放った言葉は、なんとも間抜けな一言だった。

 

 

「お化け…?」

「笑えない冗談だな。そうなるとサーヴァント全員が亡霊にカテゴライズされる」

 

 

この切り返し、この言い分。間違うはずがない。凜は涙ぐみながら自分を助け出したサーヴァントの名を呼んだ。

 

 

「アーチャー…!」

「随分とボロボロとなったなマスター」

 

凛をゆっくりと下ろしたアーチャーは自らの外套を裂き、折られた腕に当て木とで固定するという応急処置を施す。手慣れた処置を受けながら、凜は聞かずにはいられない疑問を

アーチャーへぶつける。

 

「ねぇアーチャー。どうして無事だったの?あなたの時、バーサーカーとの戦いで…」

 

消えたはずではなかったのか。その証拠に凜の手に残っていた令呪は完全に消え失せたはずなのだから。処置を終えたアーチャーは立ち上がりながら答える。

 

 

 

「確かに、私はバーサーカーに死ぬ寸前まで追い詰められた。だが…」

 

 

 

 

 

 

 

アインツベルンの城から凛達を逃す為に1人バーサーカーに立ち向かったアーチャー。彼が作り出した数多の刀剣を使いながらバーサーカーの命を一つ、また一つと奪うことに成功していたが、彼の繰り出す嵐のような斬撃にダメージは蓄積し、ついに脚が自分の意思では動かないまでに至ってしまった。

 

「ぬぅ…!」

 

「驚いたわ…どこの英霊かは知らないけど、バーサーカーを4度も殺すなんて誇れることだわ。でも、これでお終いね」

 

マスターである少女の声が冷たく響く。イリヤの号令を待たずに巨人は無慈悲にも最後の一撃を下そうと斧剣を両手で構え、アーチャーを捉える。

 

(これまでか…すまないな遠坂。後は――――)

 

アーチャーが消滅を受け入れようとした寸前、彼の周りで次々と爆発が起きた。

 

「こ、これはなんッ――――!?」

 

アーチャーの声は彼を拘束し、城の外へと連れ出した幾本もの鎖によって遮られてしまう。

 

バーサーカーが身を挺して守られたことで爆発に巻き込まれずに済んだイリヤは姿を消したアーチャーの姿を探すが見当たらない。

 

(リンが令呪を使って強制送還した…?いえ、それだったら魔力を使った痕跡があるはず)

 

悩むイリヤだったが、あのダメージではそう遠くまで行けないし、後からでも止めはさせる。アーチャーを標的から除外したイリヤはバーサーカーを連れて士郎達を追い始めたのであった。

 

 

 

 

 

「何者だ、貴様!?」

 

地面を引きづられながら移動していた鎖の動きが止まったのは、ある男がアーチャーの視線が捉えた時だった。鎖は自動的に解除され、男の周りを蛇のように唸らせながら動いている。上半身を起こしたアーチャーは男が異様な雰囲気に警戒を解かないまま質問を続けた。

 

「何が目的で私をあの場から連れ出したのだ?」

 

男は無言のまま膝を付き、アーチャーと視線と合わせると、何の前触れもなく手に握った短刀をアーチャーの胸に突き立てた。

 

「き、様―――!?」

 

不意打ちには勿論だが、胸を付かれたことでアーチャーというサーヴァントを形作っている魔力の供給が完全に止まったことに驚愕した。これは、とある『宝具』の原型による効果だと知るのは後になってからである。

 

「本来なら貴様のような存在は真っ先に消し去りたいところだが、まだ使い道がある。それまでの間、この世界から『消えて』貰うぞ」

 

続けて彼の背後から現れたのは人1人が収まりそうな棺。その蓋が開くと同時に鎖が再びアーチャーを拘束し、乱暴に棺へと投げ込まれてしまった。蓋はゆっくりと閉じていくが、アーチャーには蓋を押し返す体力すら残されていなかった。

 

棺の扉越しに、見下ろしている男の声が響いてくる。

 

「その棺の中では『時』が止まり、眠った者の傷を癒す効果がある。利用価値があると言えど、我の気まぐれに感謝するのだな」

 

その言葉を聞いたのを最後に、アーチャーの意識は途絶えたのであった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、そのナイフを刺されたことで私との契約が切れたってこと?」

「そうなる。あれは、キャスターの『破戒すべき全ての符』の原型だったのだろう」

 

あの金髪には後でたっぷりと話を聞かなければならないと思いながら、凜はアーチャーの見る。本当に、生きてくれていた。契約が切れているのに関わらず、自分をマスターと呼んでくれることに凛は満たされた気分になってくる。まるで失った力が戻ってくるように。そして立ち上がろうと考えた矢先にアーチャーの待ったが入った。

 

「言っておくが、今の君の状態は気分が高揚しているだけであって怪我人ということを忘れるな。その場から一歩も歩くことも許さん」

「なっ!?なんでそんなことが分かるのよ!?レイラインすらつながっていないってのに!!」

「当然だ。私を誰のサーヴァントだと思っているんだ、君は?」

「っ…!?」

 

反則的な言葉だった。そんな事を言われたら、頬を朱色に染めた凜は動くことなどできない。

 

「さて、私のマスターをここまでの手傷を負わせたんだ」

 

 

アーチャーは距離を取り、未だにこちらを警戒している綺礼を見ると、ニヤリと笑いながら相対した。

 

 

「それ相応の報復は覚悟してもらうぞ?言峰綺礼」

 

 

 




と、言うわけで生きておりました。

弓「全てはギルガメッシュという奴のせいなんだ…」
士郎「何だって!?それは本当かい!?」

彼の狙いははてさて…ってまずい、なんだかライダーより目立ち始めてしまった…


ご意見、ご感想お待ちしております!


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第59話『求道の果てに』

UA90,000突破です!
みなさん本当にありがとうございます!!

やばい、今回BLACK要素がほぼ皆無…

そんな短めの59話です


自身が『善』であるか『悪』であるかという二択と問われた時、言峰綺礼は迷いなく『悪』であると選ぶだろう。

 

万人が美しいと思えるものよりも醜いものを至福とし、他人の苦しみを悦とする破綻者。

 

それが言峰綺礼という人間だ。

 

彼自身、神に仕える者としてそのような自分の本性に苦しみ、生きていることが許されるのかと自問自答を繰り返していたが第四次聖杯戦争の最中に迷いを捨て、外道と理解しつつも自分を肯定した後に魔術の師を裏切り、聖杯を宿したホムンクルスを殺害するなど暗躍を続けていた。

 

だが、迷っていた綺礼が認め、得られた回答は「自身の本質」のみであり、生まれついての悪である自分が世界に存在することが正しいのかという答えを得れないままであった。

 

歪な自分を認め、愛した女性が最後に言った通りの人間であるかを、綺礼は確かめなければならない。

 

 

そのための聖杯の完成。

 

 

聖杯から溢れる『モノ』で世界を満たし、言峰綺礼という人間が生きているということへの解答を得る。

 

綺礼はその為に人類を滅しようとする自分以上の『悪』すら利用していた。

 

此度の聖杯戦争では完全なイレギュラーともいえるマスター…間桐光太郎を潰す為に。彼が行動を起こす度に戦いは頓挫し、サーヴァント同士が協力するという状況にすら陥ってしまった。だからこそ、同じ力を持った存在をぶつけ、強引にも聖杯を出現させる手段を選んだのだ。

 

言峰綺礼は止まらない。

 

求めていた答えを得るまでは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺の境内で相対する言峰綺礼と弓兵。

 

見守っている凛は自分を庇うように立つサーヴァントの状態に気付き、思わず声を上げかけた。先ほどは消滅していたと思っていたアーチャーが現れたことに動揺していたが冷静となった今、アーチャーを現界させている魔力量が極端に少なくなっていると凛は見抜いてしまう。

 

バーサーカーとの戦いで傷を負ったアーチャーはギルガメッシュの宝具である棺の効果により傷を癒すことが出来た。

だが、『破戒すべき全ての符』の原型により凛との契約が切れた状態のまま棺のもう一つの機能である『時』を止めてしまっていた為、魔力供給がされないままこの場に立っている。いくら単独行動スキルが他のサーヴァントより高くても、一刻も早く魔力を補給するか、マスターと契約しなければアーチャーにまっているのは消滅。

 

そのような状態ではいくら相手が人間であっても苦戦、もしくは…嫌な結果しか見えてこない凛は急ぎ再契約をしなければとかんがえるが綺礼が自ら不利となる行動を見逃すはずない。

彼をサポートできないかと思案する凛に、サーヴァントは普段と変わりない自信に満ちた声を聞かせた。

 

「無用な心配だよ凛」

 

顔をこちらに向けなくても、凛にはわかる。笑みを絶やさず、油断なく相手の様子を伺っていることを。

 

「………一撃で、決着をつける」

「訂正した方がいい」

 

両手に黒鍵を持った綺礼はアーチャーの宣言を否定しながら一歩近づいていく。

 

「あと一回しか攻撃出来ない、とな」

 

凛同様にアーチャーの魔力量を分析していた綺礼は、彼が得意とする攻撃…魔力により武器を創りだすことが出来るのは1度きりと予測する。凛を助け出すために囮として打ち出した無数の刀剣を打ち出したことで、現界するだけなら充分にあった魔力を削ってしまっていた。

綺礼の指摘に歯噛みする凛。彼の得意とする相手への揺さぶりにアーチャーを動揺させようという魂胆なのだろう。だが

 

「ああ、その通りだよ言峰綺礼。今の私には宝具の展開も、アーチャーとして弓で矢を打つことすら出来ない。刀身の短い短剣を一振りを創りだすことが精一杯だろう」

「…っ!?」

「ちょっとアーチャーッ!?」

 

動揺するどころか、相手の言い分をあっさりと認め、さらには自分の手の内すら綺礼に晒してしまった。これには黙っていられない凛はアーチャーに物申そうと隣に移動し、顔を見上げるとやはり不敵な笑みを絶やしていない。だが、凛が視線に映った途端に、ワザとらしく溜息を付いた。

 

「…凛、大人しくしているように伝えたはずだが?」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!?そんな弱ってる状態であの綺礼に1回の攻撃で勝つなんて―――」

「勝つさ」

 

アーチャーは断言した。風前の灯であろうともその身は世界と契約した守護者。英霊として昇華した存在だ。彼に守るべき者がいる限り、敗北するなどありえない。彼の激しすぎる生涯の一片を夢で見た凛だから理解できる。その言葉は何よりも心強く、彼自身を縛る言葉だった。

 

「…負けるんじゃないわよ」

「当然だ」

 

会話を打ち切り、魔力を右手に集中させながらアーチャーは歩き始める。それに合わせて綺礼も前へと進み、両者の距離は徐々に縮まっていく。

 

 

 

先手は綺礼だった。

 

 

投擲された黒鍵は全て人体の急所を狙っていた。だがアーチャーはそれを避けるどころか真正面から駆け出していく。眼前に迫った黒鍵を拳で打ち払っていくが、肩や太腿に突き刺さってしまう。それでもアーチャーは止まらない。突き刺った黒鍵を引き抜き、第二波である剣を撃ち落とし、最後となった黒鍵に向けて同じ軌道へと投げ付ける。

 

相殺され、弾け飛んだ黒鍵の甲高い音が響く中、綺礼とアーチャーの距離はゼロとなった。

 

 

アーチャーの右手に宿った魔力が高まり、形となる前に潰す。

 

綺礼は身体に残った予備の令呪を魔力に変換。強く握った拳を硬化し、打ち出す速度を加速させることでサーヴァントが武器を完成させる前に胸を貫通するべく、轟音と共に突き出した。

 

 

 

 

 

アーチャーの赤い衣服から拳が生えた。

 

 

 

思わず動く右手で口を閉ざした凛だったが、綺礼が貫いたのはアーチャーが脱ぎ捨てた赤い戦闘衣。纏っていたアーチャーは綺礼の頭上を飛び越え、彼の背後に頭から落下しながらも自分の宣言通に短剣を創りだすと同時に、綺礼の背中へ突き刺した。

 

「がっ…」

 

心臓部へ突き刺さった短剣は、綺礼が倒れたと同時に消滅する。だが、凛の瞳に映った短剣を柄は、彼女がよく知っているものと全く同じ形状であった。

 

「あれって…」

 

 

 

 

「これで…終わりか」

「ああ。貴様の命は、ここで終わる」

「そう、か」

 

結局、解答を得られないまま死ぬのか。もしくは、これが答えだったのかも知れない。意識を失いかけている綺礼に、自分を見下ろしているサーヴァントの声が耳に響く。

 

「貴様は、そもそも方法が間違っていたのだよ」

「な…に…」

 

何故、初対面とも言える英霊が自分が胸に抱いき続けていた事を知っているような言葉を吐くのか。

 

「なにが…間違っていた…というのだ」

「自らの存在を自分以外に証明させる。そんなもの、本当の答えとは言わん。そして―――」

 

「誰かを犠牲にしてまで求める貴様のやり方を、俺は認めない。どの時代であろうとも」

 

見上げたその顔は、綺礼が今回の聖杯戦争に参加している者と重なった。それと同時に、彼の正体も。

 

「なるほど…どう足掻いても、私の結末は、決まって…いたのだ…な…」

 

そして言峰綺礼の命は、完全に潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

「…どう、アーチャー?」

「ああ。再契約は完了した。君の魔力を確かに感じる」

 

 

綺礼との決着後、凛は急ぎアーチャーの元へと駆けより、彼と再び契約を結ぶことに成功する。上手くいったことに安心して大きく息を吐いた後、倒れ伏せている兄弟子の姿へと目を向ける。そして大空洞のある場所へと進んでいった。

 

「行くわよアーチャー。桜達と合流して、聖杯を…イリヤを取り戻すわ」

「了解した」

 

再び赤い外套を纏ったサーヴァントは、マスターの少女に続いて歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

凛達が立ち去った後、黄金の光と共に姿を現したギルガメッシュは倒れている綺礼の元へと歩み寄った。

 

「…………求めていたものは見つからず逝ったか。綺礼」

 

返事はない。無論、ギルガメッシュも彼がこの場で立ち上がり、あの不遜な声を聴かせるなどと期待していない。10年来の付き合いとなる男が死んだ。彼にとっては、それだけだった。以前の、彼ならば。

 

 

ギルガメッシュが手を翳すと、一本の杖が現れた。それを綺礼の亡骸に向けたと同時に、激しい炎が綺礼のみを包む。紅蓮色に燃える自らのマスターに、ギルガメッシュは言葉を送った。

 

 

「さらばだ言峰綺礼。貴様の生き様、周囲から悪と言われようと、このギルガメッシュは認めよう。貴様は、追い求めていたのだけなのだからな」

 

 

そこには、もう灰すら残っていない。

 

ギルガメッシュは杖を収納し凛達の辿った道を見ると、再び黄金の光で自らを包む。

 

下ろしていた金髪は逆立ち、纏っていたライダースーツの上から金色の甲冑が姿を現した。

 

「……………」

 

戦闘態勢に入った英雄王は無言で歩み出す。

 

 

彼がその先に何を求め、何の為に向かうのか。それは、彼自身にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

「………………………」

「どうしたの?手、止まってるわよ」

「いえ、なんでも」

 

同僚に指摘を受けた少女は怪我人へ包帯を巻く作業を再開した。

 

世界征服を開始したゴルゴムを「異端を超えた異端」として殲滅に向かったが敗北し、自分のいる教会を駆け込み寺のように占拠した実働部隊を見て呆れながら少女は治療を続けていた。

 

「はぁ…どうせなら片腕もがれたりだけじゃなくて全身に穴が空いてたりすれば良かったのに」

 

治療を受けている人間がゾクリとする言葉を放ちながら、白髪の少女は治療に没頭した。

 

 

 

 




アーチャーVS神父って中々見かけなかったということで…
そして神父にはHFっぽくしていたり。
今回まったく出番のなかった光太郎の活躍は次回!

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第60話『英霊達の結集』

フルスロットル見てまいりました。感想ここでは書ききれないぐらい良かったです!
そして最後にもちろん春映画予告。あの車にけっこうドキドキしていたり…


気が付けば60話。ここまでこれたんだなぁ…


「ライダーッ!!パァンチッ!!!」

 

エネルギーを纏った光太郎の拳を受けたコウモリ怪人が断末魔の叫びと共に燃え上がる。敵が完全に焼失したのを確認した光太郎は、自分を囲む新手の怪人達へと構えながら、仲間達へと意識を向けた。

 

(…以前と比べてパワーが上がっているけど攻撃が単調になっているから戦いやすい…だが)

 

 

武装した怪人素体達へセイバーは不可視の剣を次々と浴びせていく。怪人と比べ、利用された人間のなれの果てという情報を耳にしてしまったセイバーは彼らへの同情から肩、足など戦う力を奪うように加減しての攻撃だったが、次第にその一撃に力を集中させねばならない相手と思考を切り替えた。

 

それは再生怪人相手に戦っているライダーも同様に振るう鎖と鉄杭に全力を込めて放っていた。セイバーとは逆に敵と認識した相手には非情に徹しているライダーは最初から加減抜きに怪人達と武器を振るっている際に不審な点を見つけていく。

 

(前に戦った時に見せていた固有の能力を全く使っていない…?それに接近した相手にただ闇雲に手足を振るっているだけ…ですが、それ以上に)

 

光太郎と同様に分析したライダーは怪人達の行動に疑問を抱きつつ、怪人と素体の共通点に焦りを感じていた。

 

しぶとい。

 

幾度となく再生怪人と戦ってきた光太郎とライダーだったが、自分達の攻撃を受けた怪人は確実にダメージを与え、個体によっては一撃で粉砕できていた。しかし、今戦っている怪人達はダメージを受けて怯みはするものの、何事もなかったかのように立ち上がっている。怪人素体も同様であり、腕や頭を失っても標的が間近にいる限り相手に迫り、先ほど光太郎がコウモリ怪人に対して必殺技を放ってようやく相手を消滅させることがやっとであり、通常の攻撃では完全に倒しきれないのだ。

 

その上に敵は洞窟の入り口から次々と出現し、光太郎やサーヴァントであるライダー、セイバーならともかく、援護で後方から狙撃している慎二と桜。そして素体相手に干将と莫耶で切り結んでいる士郎にも疲労が見え始めている。

 

 

(やはり、あの『泥』なのか?)

 

今までの怪人との大きな違いが、全ての怪人、素体が真っ黒な液体を浴びている事だった。

 

思えば戦いを始めてから肉弾戦を主とする光太郎はその泥の部分を無意識的に避けて攻撃をしかけていた。得物を使用しているライダーも相手への牽制で蹴りを叩き込んだ際も決まって泥を浴びていない部分に対して放っている。

 

「ライダー…これはまさか」

「ええ。恐らくは…」

 

「フハハハハハ…どうだ我がゴルゴム軍団と聖杯の力は!!」

 

 

 

 

 

「あの怪人は…!」

「ちっ…!重役出勤とは随分余裕かましてくれるじゃんか」

 

岩場の上から援護射撃を行っていた桜と慎二は洞窟の入り口から悠々とした足取りで姿を現した大怪人ダロム達の姿を確認した。見れば復活した光太郎に怯えていたビシュムも何事もなかったかのようにダロムの背後に立っている。

慎二が手にしている武器…キャスター監修の魔力が詰まった弾丸を打ち出せるスナイパーライフルの標準を大げさに手を広げて口を開くダロムへと向ける。

 

「聖杯の力…ではやはりッ!!」

「そうだ…ここにいる怪人共は『聖杯の中身』を浴びている。その役目を全うする為にな…」

「なんて…ことをっ…!!」

 

ダロムの放った言葉に光太郎は怒りを隠せない。

 

怪人達が浴びた聖杯の中身…本来は無色透明の魔力であるはずだったが、今では殺人や破壊でしか願望を叶えるしか機能のない『呪い』に他ならない。それを浴びてしまった怪人呪いの影響で自意識はすでにない。怪人達に残されているのは、『目の前にあるモノを殺し、破壊する』という本能。どのような状態になろうとも、近くにいれば破壊行動を行わなければならないという呪い。怪人たちは、聖杯の呪いを感染させる為に動いているに過ぎなかった。

 

 

「貴様達…自分の仲間をなんだと思っているんだッ!!」

「言われるまでもないッ!!だが、ゴルゴムが世界を征服する為には、もう手段は選ばんのだッ!!」

 

光太郎に反論するバオラムは拳を震わせながら叫ぶ。自分の同胞があのような姿になったのも、全ては憎き仮面ライダーが目の前で生きていた為。クジラ怪人の裏切りなどなく死んでいれば呪いに蝕まれ、生き地獄を味わうことなどなかったはず。

 

「だからこそ、今ここで同胞達を次々と葬った元凶である仮面ライダーを抹殺するのだ!!」

 

バラオムの号令で囲んでいた怪人達が一斉に光太郎へと飛び掛かる。そうはさせまいと光太郎の援護に向かおうとするライダーとセイバーだったが、自分達を囲む怪人達に道を阻まれ身動きがまるで取れない。その身から滴る呪いの泥を光太郎へも浴びせようとする怪人達だったが、轟音と共に降り注ぐ無数の刃に貫かれ、次々と燃え上がり、呪いと共に消滅していった。

 

「こ、これは…」

 

光太郎だけでなく、自分やライダーの周りにいた怪人をも一掃した数多の宝具による射撃。こんな戦法を得意とするサーヴァントなど、セイバーはただ一人しか知らない。

 

「ギルガメッシュ…」

「そこの雑獣は、随分と愉快な事をほざいたな…」

 

黄金のサーヴァントは自分の背後に未だ打ち尽くすことなど出来ない無数の宝具を携えながら、その圧倒的な力に息を飲むセイバーの横を通り過ぎ、怪人達へ命令を下したバラオムを見る。

 

「民を駒として消費するなど支配者として当然の権利だ。そこの娘のように、いちいち散っていく事を気に掛ける方がどうかしている」

「…っ!ギルガメッシュッ!?貴様は、こんな時にまで…っ!」

「だが」

 

かつて自分の王道を否定し、笑ったギルガメッシュに10年前と同様に侮辱されたと考えたセイバーは思わず声を上げるが、光太郎の隣で立ち止まった彼の言葉に息を飲んむ。

 

「散らせていった者を自らの業として背負わず、それどころか己の敵へと擦り付けるなど恥を知れッ!!痴れ者がッ!!」

「ぬぅ…!」

 

王は、全てを背負う存在。

 

この世界全ての生物の命運を背負える覚悟があってこその王と自負するギルガメッシュに取って、バラオムの言った発言は許せなかったのだろう。

 

そして、ギルガメッシュとはまた違う否定の言葉が、怪人達の胸を貫く赤い衝撃と共に放たれた。

 

 

「別にそこの金髪に同意する訳じゃねぇが…互いに納得した上で命がけの戦いしたんだろうが。黒い兄ちゃんばっか恨むのは、筋違いだぜ?」

 

心臓が破壊され、次々と地へ伏していく怪人を背に、真紅の槍で肩をトントンと叩く青い槍兵―――ランサーの獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほう、中々分かっているではないか犬」

「殺されてぇか大将?」

「やめて下さいランサーッ!!」

 

この状況の中で睨み合いを始めるサーヴァント達の姿に唖然とする士郎の耳に、怒号と共にグシャリとトマトを素手で握りつぶしたような生々しい音が聞こえた。ゆっくり振り返ってみると、隻腕の女性が怪人素体の顔へと文字通り自分の拳をめり込ませている光景であった。

 

片腕の通っていないスーツの袖をバッサリと肩の当たりで切り取り、そこから赤い染みまみれの包帯を晒しながらランサーのマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツは硬化のルーンを施した皮手袋を着用し、鉄よりも硬くなった拳で次々と怪人素体を殴り飛ばしていく。

 

「もうサーヴァントを打ち倒してく聖杯戦争はここにはありません!一刻も早くゴルゴムの侵攻を止めるためにも、共闘すべきだ!!」

「あーはいはい、俺も状況くらい理解してるっての!」

 

真のマスターが出会った直後のように生真面目な指示を送る姿に微笑みを浮かべながらランサーは槍を振るっていく。

 

協力を申し出たかつての知人…言峰綺礼の騙し討ちにより片腕と令呪を奪われ、洋館に幽閉されていたバゼットであったが、ランサーに発見され仮死状態にされていた所を救助されていた。

しかし、心許した相手に裏切られ、幼い頃より憧れていた英霊を奪われた状況にバゼットは意気消沈。腕と共に消えてしまった封印指定執行者としての自信を取り戻すまでに時間がかかってしまっていた。

だが、時間がかかっただけだった。

 

ランサーには自覚はないだろうが、傷心したバゼットには彼が傍にいたというだけでも充分に効果があったのだ。心身ともに傷ついた彼女に下手な励ましは不要。彼女に必要だったのは、隣で自分を待ってくれていたサーヴァントがいたという事実。

 

本来後ろ向きな性格である彼女にとってはどんな言葉よりも支えとなったのであろう。

 

 

今彼女が振るっている拳の切れも重さも、普段とは段違いに研ぎ澄まされ、さらに威力が増しているようにも思えた。だが、やはり攻撃出来る範囲が限られており、左半身にどうしても意識を向けてしまっていたが、その問題は直ぐに解決された。

 

「……………………」

 

彼女と同じく拳を武器とする寡黙の男が、いつの間にかバゼットの隣に立ち、予測不可能な軌道で打ち出される拳を怪人達へ打ち込んでいたのだ。突然の登場に驚くバゼットであったが、今は自己紹介する余裕すらない。いや、行動そのものが自分を助けてくれる理由なのだろう。バゼットと葛木総一郎は、互いの背中を任せながら、剛と柔の拳を打ち込んでいった。

 

「葛木…ということは」

 

慎二が空を見上げると、予測通りにキャスターのサーヴァントがローブを翼のように広げ、攻撃魔術を地上に向けて放射を始めていた。魔力の束を浴びた怪人達から悲鳴が上がっていく。しかし、ダメージを与えても倒すまでには至らない。

その止めを打つべく、対照的とも言える2人のサーヴァントが現れた。

 

「さぁ、共に駆けようではないか。この戦場を」

「■■■■■■■■ーッ!!」

 

静かに唱えると同時に抜刀したアサシンに続き、咆哮を上げて斧剣を振り上げたバーサーカー。怯む怪人を全く異なる刃で切り伏せていく。

 

まるで流れるように怪人を斬り倒すアサシンの刀に対し、斧剣に触れただけで怪人を引き千切ぎっていくバーサーカーの斧剣。

 

流水と激流。

 

全く違う剣技により、波に飲まれたるように怪人達は潰えていく。

 

「…こっちも負けてられないな」

「はいっ!」

「そこに、私も混ぜて貰える?」

 

圧倒的な力を見せるマスターとサーヴァント達の姿にたじろく所か対抗心を燃やし始めた慎二と桜の背後に、右腕でガンドを放ちながら駆け寄る遠坂凛が現れる。ボロボロとなり、左腕を固定されている姿に動揺する桜を宥めながらも、凛はサーヴァントと肩を並べて必死に戦っている協力者へ目を向けた。

 

 

 

「すごい…」

 

かつて自分が願った形がここに実現している。

 

ゴルゴムという巨大な悪に対して力を合わせ、立ち向かっている仮面ライダーとサーヴァント達。その姿に心奪われてしまった士郎はだた、感動するしかなかった。そんな彼の背中から響く金属音。急ぎ振り返ると怪人素体が振るった武器を、自分と同じ夫婦剣で受け止め、切り伏せた男の背中があった。

 

「たわけ、戦いの場で余所見をするな!だから貴様はいつまで立っても半人前以下なんだ」

「あ、んた―――」

「説明は後だ。貴様は凛達と合流し、後方に回れ。今の貴様に出来ることは、それだけだ」

「…………………」

 

士郎は自分を助けたサーヴァントの顔を見るまでもなく、駆け出していく。それ以上、言葉を交わさなくてもわかっている。なぜだが、わかってしまう自分が、不思議で仕方がなかった士郎。だが、彼の言うことも最もだ。戦力が増えてもこちらが不利なことには変わりはない。だから、自分に出来ることを全うして見せる。士郎ははやり、振り返らずに走っていった。

 

 

 

 

「本当に、ありえない光景だね」

「はい…」

 

 

戦場を駆け回っていた光太郎とサーヴァント達は、いつの間にか囲まれている状況となっている。しかし、それは相手が自分達を警戒し、距離を一方的に置かれているに過ぎない。数えることすら嫌になる敵の数も半数に減り、何よりこちらを殺すことしか頭にない連中が恐怖するほど、こちらの力が増強しているのだ。

 

 

「みんな、聞いてくれ」

 

光太郎の言葉に、サーヴァント達は微動だにせず、耳だけを傾ける。

 

「俺は、みんなに謝らなくてはいけない。俺がなんとかすべき戦いに、関係のないみんなを巻き込んでしまったことを」

 

それは、謝罪。

 

聖杯の存在をゴルゴムに知られた結果、本来の聖杯戦争は事実上中断され、聖杯である少女も誘拐されてしまった。ゴルゴムにそのような暴挙を許し、彼らが行うべきだった本来の戦いを奪ってしまった事への謝罪だった。

 

「あぁ?何言ってんだよ黒い兄ちゃん」

「痛てっ」

 

いつの間にか自分の隣に移動したランサーに頭頂部を槍の柄で叩かれた光太郎。

 

「戦いなんてもんはいつだって理不尽だ。こっちの都合なんていちいち考えてくれねぇよ。だがよ、ここにいるのはそういった理不尽を乗り越えた存在だってことを、忘れてねぇか?」

 

ニヤリと口元を歪めるランサーにセイバーが続いた。

 

「その通りです。この場で戦っているのは、貴方に巻き込まれたからではなく、自分の意思で始めたからです。故に、コウタロウが謝罪する必要はありません」

「しかし…」

「しつこいわね貴方も。必要がないといっているのですから、言うべき言葉が他にあるのでしょう?」

 

溜息と共に光太郎の言葉を遮ったキャスターは呆れた顔をこちらに向けてくる。その隣にいるアサシンはそんなマスターの言葉が面白いのか、クックと笑っている。

 

「だが、貴様が原因で始まった戦いであることは事実だ。なら、わかっているな。どのようにして決着をつけるのか」

「ああ、分かってるよ」

「フッ…」

 

相変わらず皮肉を口にするアーチャーに対して頷く光太郎を見て、ギルガメッシュは静かに笑う。

 

「コウタロウ。貴方は本当に、すごい人ですね」

「違うよライダー。俺は、恵まれているだけだ」

 

次々と光太郎を認めていく他のサーヴァントの姿に、ライダーは自分のマスターを笑顔で見上げる。その眼帯の下にある瞳も、きっと優しい目をしているのだろうと光太郎は思う。

 

そして、光太郎はサーヴァント達の前に立ち、手をゆっくりと差し出した。

 

最初は意図の読めなかった英霊達だったが、彼の性格を考えてるとすぐに理解が出来た。

 

「この状況だというのに。本当に、貴方は…」

 

呆れながらも、ライダーは微笑んだまま、自身の手を光太郎の手の上に重ねる。

 

「……………………」

 

以外にも続いて手を置いたのはバーサーカーであった。その巨大な手に光太郎とライダーの手が見えなくなり、それがどこか可笑しく、小さな笑いがサーヴァント達の間で生まれていた。

 

「ったく、こんなのらしくねぇってのに」

「その点は、同意するわ」

「いいではないですか。例え、今この時だけでも」

「仕方あるまい…」

「フッ悪くはなかろう」

「…今日は気まぐれだ。特別に乗ってやろうではないか」

 

ランサー、キャスター、セイバー、アーチャー、アサシン、ギルガメッシュ…彼らも順番に手を重ねてく。

 

今の状況は、サーヴァントである彼らにも、マスターである士郎や凛達にとっても不思議な光景だった。聖杯を奪い合うためだけに、殺し合うために現世へと現れたサーヴァント達が『殺し合う』というサーヴァントの本能にすらかられず、こうして手を合わせている。

 

そしてその中心にいるのは、間桐光太郎というイレギュラーのマスター。

 

ゆっくりとサーヴァント全員の顔を見渡した青年頷くと腕を解き、洞窟の入り口で彼らを警戒するダロム達に言い放つ。

 

「ゴルゴムッ!!最後の勝負だ…覚悟しろ!!」

 

光太郎の言葉と共に、立ち並んだサーヴァントが同時に構える。

 

 

8騎のサーヴァントの意思が、本当の意味で統一された瞬間だった。

 

 




ランサー兄貴のキャスターへの野暮用は、バゼットさん探索のための依頼ってことでした。書ききれてねぇ…

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第61話『呪いの力』

BLACK当時ってサブタイトルで結構内容のネタバレが存在していましたよね。特に終盤だと○○の最期や○○死すやら

この小説もサブタイトル付けていたのならそうなっていたのかな…と考えている今日この頃。

では、61話です!


異変は突然起こった。

 

「っ!?」

 

バゼットと対峙していた怪人素体が武器を取りこぼし、頭を押さえて苦しみだす。油断なく構え続けるバゼットの目に映ったのは、怪人素体から黒い霧が立ち上り、身体に付着していた黒い泥が段々と薄れていく現象だった。

 

「これは…」

 

バゼットの前にいた怪人素体だけではない。総一郎が拳を放とうとした他の素体や怪人も同じ状態となっている。そして霧の上昇が止まり、黒い泥が完全に消えた怪人は…

 

「ギエエエェェエエエエエェェェェェッ!?」

 

鼓膜が破れるような奇声を上げた直後、ボロボロと身体が崩れていった。怪人達は泥を被った時点で意思だけでなく命も奪われており、呪いがその身体から離れると同時に活動は停止する。

 

 

次々と戦場に響く断末魔と地へと形を保てなくなり地へと落ちる怪人だったモノ。様々な任務を請け負っていたバゼットすら目を背けたくなる、正に地獄と例えられる光景。怪人達の最期の叫びが収まった時、その場に立っていたのはバゼットと総一郎のみ。

 

怪人だったモノは風に飛ばされ、宙を舞い続けていた。

 

 

 

 

 

 

「何が起きているんだ…?」

 

バゼット達と戦っていた怪人達と同様に聖杯の泥が霧となって怪人が消滅していく中、霧となった聖杯の呪いが大怪人ダロムの真上で収束し、形成されたドス黒い雲となったことを警戒する間桐光太郎は、警戒心からダロムに向かい叫けんだ。

 

「ダロムッ!何をするつもりなんだッ!?」

「もう貴様を倒す方法はこれしかない…!」

 

決意を固めたダロムは雲に向かって両腕を翳すと同時に、再生怪人達の身体にこびり付いていた黒い泥がダロムに降り注ぐ。僅かに触れれば気が狂う呪われた力を身体に受けるダロムの取った行動に光太郎以上に隣で立つバラオムとビシュムが動揺した。

 

「だ、ダロムッ!?なんと言うことを…!?」

「そんな事をすれば貴方は…」

 

「ヌオォォォォォォォォォォッ!!!」

 

仲間の忠告を余所に、自身を覆う黒い泥を、そして泥の集合体でもある黒い雲すら引き寄せて、飲み込んでしまう。

 

泥と雲を完全に取り込んだダロムの身体に変化が起き始めた。

 

人間の形を保っていた顔がひび割れ、剥がれ落ちるとその下から甲殻類と思わせる眼球と顎が飛び出し、背中が節足動物のように巨大な尾と数本の足が現れる。

 

かつて融合した三葉虫の特徴が強く表れた姿へと変貌したダロムの姿に、光太郎は身構える。ダロムから放たれる力は、先程自分達が戦っていた怪人や素体達の力を…命を凝縮した姿だ。1体1体の力は大したことは無くても、いくら傷付こうが他の命を殺し、呪おうとする執念の力は油断できない。

 

「フハハハハハ…凄まじい力ではないかダロム!!」

 

ダロムが自らの強化に成功した事に安堵したバラオムは称賛を送りながら身体を光太郎達へと向ける。

 

「さぁ、その力で今度こそ仮面ライダー共を―――」

 

 

ズブリと、貫く音がバラオムの背後から聞こえた。

 

言葉を止めたバラオムはゆっくりと振り返り、目に暗い輝きを宿した仲間の名を震えながら唱えた。

 

「ダロ、ム…なぜだ…」

 

 

光太郎は、仮面の下で目を見開いて驚くしかなかった。ダロムが禍々しい腕を仲間であるバラオムの背中に突き刺していたのだから。

 

 

「き、キさまモ受け入レるのダ…コの素晴らシい『力』ヲ…」

「あ、ガアァァァァァァァァァァアアアアアァアアッ!!」

 

バラオムの背中を貫いた手を経由し、ダロムの体内に蓄積された呪いがジュルジュルと嫌な音を立てて流れていく。その不快感とバラオムの絶叫に恐怖したビシュムは逃げ出そうとするが、背を向けた途端にダロムの触覚に身体を拘束され、バラオム同様に呪いを流し込もうとダロムの身体から新たに発生した幾本もの節足が眼前に迫っていた。

 

「い、嫌…イヤアァァァァァァァァッ!?」

 

悲鳴を上げるビシュムへ伸びた節足は口、鼻腔、耳へと侵入し、黒い泥を流していく。

 

 

正に阿鼻叫喚と化した大怪人達の姿に桜は思わず目を逸らし、震えながら凜の肩に抱き着いた。妹の肩に手を置いて安心させようとするが、凛自身もダロム達が起こした行動を目にして正気を保っていられるのが精一杯だった。

それは士郎と、自分よりもゴルゴムとの戦いで耐性の出来ている慎二も同様であり、苦しみながらさらなる異形へと姿を変えていく敵の姿を眩暈を起こしながらも負けじと立ち続けている。

 

 

「負けず嫌いよね、男ってのは…」

 

 

 

 

バラオムとビシュムが完全に姿を変えたのは間もなくだった。

 

鋭い牙を光らせる四足歩行の猛獣となったバラオム。

 

巨大な翼を広げて翼竜となったビシュム。

 

ダロムと同じく基となった生物の特徴が現れた姿となった大怪人達は並び立つと同時に口を開き、エネルギーを溜め込んでいく。

 

「みんなっ!!散るんだっ!!」

 

光太郎の言葉でサーヴァント達がバラバラに移動した直後、3大怪人の攻撃が轟音を上げて放射される。3色の力が大地に激突、抉りながら大きな爆発を起こした。爆風に吹き飛ばれそうになりながらも岩場や樹木を掴んで免れた慎二達。

 

「くそ…どうなったんだ?」

 

爆発が収まり、砂埃が晴れたその先ではすでに光太郎達の戦いが開始されていた。

 

 

分散された光太郎達は大怪人達と個別に戦闘を繰り広げている。

 

 

 

大地を駆けるバラオムと衝突するランサー、アサシン、バーサーカー。

 

 

 

上空から怪光線を放射し、回避を続けるライダー、セイバー、キャスター。

 

 

 

その剛腕で押しつぶそうと腕を振るうダロムの攻撃を避けながら間合いを取るアーチャーと光太郎…達を離れた位置から戦いを眺めているギルガメッシュ。

 

 

 

 

必死に攻撃を避けている2人の戦いを腕を組んで観察する金髪のサーヴァントへ標準を合わせる慎二と桜を士郎と凜が必死になって止めていたのは全くの余談である。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ…随分とすばしっこいじゃねぇかよ!!」

 

真紅の槍で突き刺そうとする直前に目にも止まらぬスピードで回避を続け、こちらの死角から爪と牙で攻撃をしかけるバラオムにランサーは苛立ちながら回避を続ける。だが完全な回避ができずに先ほどから身体のあちらこちらに

傷を受けてしまう。

アサシンやバーサーカーも同様に攻撃を振るうと同時に肩や足に傷を負い、段々とダメージが重なっていく。

 

「さァどうダ!オれの攻撃は?少シずツ切り刻ンでくれルわっ!!」

「ふむ…獣にしては理性的で姑息なことをほざく。だが、一撃で我らを仕留めなかった事を後悔することとなろう」

 

陣羽織を所々赤黒くそめながらもアサシンは笑いを絶やさず、長刀を構える。

 

目を閉じ、感覚を研ぎ澄ますアサシンの頬に傷が走る。相手は完全に自分達を…サーヴァントを見下しての攻撃だ。ジワジワと獲物を追い詰めているつもりだろうが、彼らはただの人間ではない。

それを思い知らせるために、アサシンは待つ。相手が自分の射程距離へと迫る瞬間を。

 

(…………捉えたっ!!)

 

アサシン唯一無二の奥義『秘剣・燕返し』

 

多重次元屈折現象により3つの異なる斬撃を同時に打ち出し、相手に回避を許さない技である。だが―――

 

 

「なっ…」

 

刀を振り下ろしたと同時に、アサシンの背中から鮮血が舞う。刀を杖替わりにして膝を付くことなく踏みとどまったアサシンの耳に、あざ笑う獣の声が響く。

 

 

「ハハハははハ…人間ニしてハ中々の攻撃ダ…先程ヨりスピードを上げなケれば危なかッたゾ!!」

「野郎…さらに加速したってのか?」

 

アサシンの背後に回って辺りの気配を探るランサーは焦り始めた。聖杯の泥を飲み込んだことで高速移動を得意としていたバラオムのスピードはもはや神速まで上り詰めている。俊敏性を誇る自分とアサシンすら手玉に取られるこの状況をどう対処するべきか…

ランサーの槍であるならば確実に敵の心臓をつらぬけるだろうが、構えたと同時に攻撃を受けてしまう。運がよく心臓を貫いてもおそらく足止めになるに過ぎないだろう。

 

心臓を穿いたとしても、あの黒い泥が変わりにバラオムの身体を動かし、自分達を殺すまで動き続ける。だからこそ確実に倒す方法を考えなければと槍を強く握るランサーの前を過った寡黙の巨人の行動に、思わず声を上げた。

 

「お、おいバーサーカーッ!?なんの真似だそりゃ!?」

 

ランサーが叫んだのも無理もない。バーサーカーは斧剣を大地に突き立て、仁王立ちとなっているのだから。あれではバラオム相手に狙ってくださいと言っているようなものだ。

 

「何のつモりか知ラんが、望み通リ切り刻ンでくれルわァッ!!」

 

吠えるバラオムの宣言通り、拘束移動する攻撃でバーサーカーの全身に爪痕が刻まれていく。同時二カ所、三カ所と一度に受ける攻撃の傷も増えていく中、バーサーカーは微動だにせず攻撃に耐え続けていた。

 

 

 

「何のつもりなのよ、バーサーカー」

 

一度戦いを経験した凜は彼らしからぬ行動に目を細めてる。彼のクラス特有の『凶化』により理性なく突っ込んでいくと思われたが、バーサーカーは攻撃を受け続けても逆上せず、立ち続けている。

 

「たぶん…何かを狙っているんだ」

「何かって…そうなる前にまた命を消費しちゃうじゃない」

 

士郎の推測に凜はバーサーカーの所持する宝具を思い出す。『十二の試練』は士郎達との戦いとシャドームーンの襲撃により残り一つまで減らされ、回復していたとしても片手で数えられるほどだろう。

 

「ああ…でも、バーサーカーが…真名通りの英雄なら、化け物相手に考えなしに突っ立っているとは思えない」

「先輩。バーサーカーさんの真名って…」

 

桜の質問に士郎は頷いて答えた。

 

「ヘラクレス…怪物じみた相手での戦いだったら、光太郎さんにだって負けてないさ」

 

 

 

 

「…………………………」

 

鉛色の体が赤く染まっている。全く動かない巨人は生きているのか、死んでいるのかすら分からない。ランサーは未だに爪で刻まれ続けるバーサーカーの目が一度目が合った時から、槍へと込めた魔力を解かないまま待ち続ける。

無言の彼から受けたただ一つの勝機を、ひたすら待ち続けいた。

 

 

 

どれ程の傷を受けても何の反応も示さないバーサーカーに、バラオムは苛立ち始めている。獲物の分際で泣くことも、命乞いすらしない。ならばとっとと始末し、残るサーヴァントと、マスターである人間達を殺し、最後に憎き宿敵との決着を付けてくれる…

バラオムはバーサーカーの正面からさらに加速し、力を纏った爪先をその分厚い胸板目がけて突き出した。

 

「止メだァッ!!」

 

獣の咆哮と共にバーサーカーの胸を突き刺さった攻撃。バラオムの手は体内へと深く潜りこみ、確実にバーサーカーを始末したと実感した。これが、バラオム最大の油断となったと知らずに。

 

「…っ!!」

「ヌぉっ!?キ、貴様…ッ!?」

 

一度その命を削ったバーサーカーは宝具により一瞬で蘇生し、両腕でバラオムを拘束した。腕を抜こうにも筋肉を引き締められ一向に動かない。必死に抜け出そうとするバラオムはこちらに向けて駆け出す槍兵の存在に思わず振り返った。

 

「ようやく恰好の的になってくれたなぁ!!」

「ま、まサか…!?こレが狙いデぇ…!?」

「ご名答ッ!!」

 

相手が動き続けてしまうなら、止めてしまえばいい。バーサーカーの考えを察したランサーは、彼がバラオムの動きを止める瞬間を待ち続けていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「『刺し穿つ死棘の槍』…!その心臓、貰ったァッ!!」

 

 

 

 

 

 

ランサーの真紅の槍に魔力が宿る。一度放ては相手の心臓を貫く必殺の一撃。放たれた紅い閃光はランサーの宣言通り、バラオムの背中を貫通して心臓を破壊した。

 

 

「ゴハァ…こ、こレしきのことデ…ハ…」

 

バラオムごとバーサーカーの心臓まで貫いたランサーは一気に槍を引き抜き、バラオムの次の行動を警戒して再び構えた。

 

「ダが…愚かニも仲間ごト殺スはな…これで動けルのは貴様ダけ…」

 

心臓を破壊され、ダラリを腕を下げたバーサーカーから脱出したバラオムは胸から聖杯の泥と混じりあった血液が流れ続けることに構わずランサーに迫る。体内にある聖杯の泥が心臓の代わりに働くまで時間を要するが、それがすめば目の前の男を確実に殺せる。

そう考えていた故に、自分を覆う影の主への対抗もできなかった。

 

バラオムが気が付いた時、その身を100回に渡り斧剣による攻撃を受けた後であった。

 

 

本来彼が持つもう一つの宝具『射殺す百頭』

 

 

一度の攻撃に重なる程の剣撃に見えるほどの連撃を打ち出すのが本来の技であったが、バーサーカークラスである今の彼には使うことは出来ない。だが、それに限りなく近い程のスピードで打ち出すことは可能であった。

 

全身をナマス切りとなったバラオムはなぜ、自分がこれ程までのダメージを受けていたかも理解できないまま、その耳に自分の攻撃で動けなくなったサーヴァントの存在に気付く。

 

 

 

「あれほどの技を見せれてしまうとは、つくづく自分の剣技が芸と思えてしまうな…」

 

 

 

「だが、そのような芸とて、貴様には止めはさせよう」

 

 

 

陣羽織をはためかせた侍の繰り出した三つの斬撃により、バラオムの身体は3つに分断される。

 

 

バラオムは最後まで、自分がどのような最期を迎えたのかは、理解できないままであった。

 




3大怪人、クリーチャーとなるの巻でした。

さて、次回で今年最後の更新となりますかね…


気軽に感想等を書いて頂ければと思います。

ではまた次回!


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第62話『妖花の思惑』

色々と予想外のことが重なり、ようやく投稿…年末年始ってそんな感じですね。
それにしても春のSH大戦GP…BLACKだけでなくギャレン、ゼロノスと自分の好きなライダーばっかりが御本人出演とかなんでこんなにも嬉しいニュースが飛び交うのでしょうか?

では本年最後の62話となります!
皆様よいお年を!!


「許ナない…許さナい許さなイゆルさないユるさナいユるさナいゆるサないゆるサナイゆルサないユルサナいユルサナイ…!!」

 

翼竜の姿となり、空を飛行している大怪人ビシュムは怨嗟の声と共に攻撃を繰り出していた。

 

その大きな翼から突風を。目から怪光線を。口から破壊光線を。

眼下の地表で立つ自分達へと途絶えることなく放射を続けるビシュムの荒れ狂う姿に、防御結界を張って攻撃を防ぐキャスターはため息交じりで見つめていた。

 

「見苦しいものね。恨む理由くらい言って貰わないと反論もできないというのに…」

「どうやらあの泥によって彼女の理性は失われつつあるようです」

「2人とも何を呑気なことを言っているのです!このまま防戦一方では…っ!」

 

キャスターの防御壁は自身だけでなくライダーとセイバーを含めて3人を覆う形で展開されている。ビシュムの総攻撃を受けても亀裂が一つも走らない結界の頑丈さには感心するものの、キャスターの魔力には限りがある。短期決戦を仕掛けねばと考えるセイバーは落ち着き過ぎている2人に声を荒げてしまうが、そこにライダーが諭すように声をかけた。

 

「セイバー。急ぐ気持ちもわかりますが、あの攻撃を掻い潜って反撃するのは至難の業。ここで対処を誤るわけにはいきません」

「確かにそうです…しかしっ!!」

 

ライダーの意見に肯定しつつも、セイバーはキャスターを見る。この結界を張り続けている彼女にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。表情に出てしまっていたのか、キャスターは苦笑しながら上を見上げた。

 

「杞憂よセイバー。この程度の攻撃で私の結界は綻び一つ生じない。だから貴方はいつでも切り込める準備をしていなさい」

「ですが…」

 

不可視の剣を強く握るセイバー。キャスターこの攻撃だっていつまでも続かない。一瞬でも攻撃が弱まればキャスターの転移魔術を用いで死角に回りこんで一撃を加えることだっで出来る。今のセイバーには、その機会を待つことしかできない。待つことしか出来ないことが、どうしても歯がゆかった。

 

「そんな顔をしないで頂戴。私だって、あんなのにいつまでも時間をかけるつもりはありません。だから、貴女は貴女の役目を果たすために今は――」

 

キャスターの言葉が途切れると同時に圧迫感がライダーを襲う。両足で自身を支えられず、地に伏せてしまったライダーはは、段々と地面へとめり込んでしまう。

 

「た、てないっ…!?」

「大丈夫ですがライダー!?」

 

立ち上がろうとも身動き一つ出来ないライダー。苦悶の表情を浮かべる彼女の周りのみ、放射されている波動に気付いたキャスターはその正体に勘付く。

 

「これは、重力操作…!?まさかッ!?」

 

結界を抜けての指向性重力操作。ビシュムは攻撃を続けながらもライダーのみに狙いを定めて重力波を放っていたのだ。理性を失っていてもその能力は変わらず、否、それ以上に力を使いこなし始めていた。

 

(これが、聖杯による能力だというの…?)

 

結界の強度を強めても、重力波は弱まる様子はない。魔術に集中するキャスターの頭に、突然耳触りな笑い声が響く。

 

(あはハははハハハは…貴女たチが…貴女タちガ悪イのよ!私をこンな姿ニなッたのモ、あノお方の傍ニいれナくなっタのも…)

(これは、あいつの思考…私達の脳に、直接話かけている)

 

ビシュムは自身の言葉をキャスターに、倒れているライダーと介抱しているセイバーへと送りつけていた。

 

 

長い時間をかけてゴルゴムの大神官へと登りつめたビシュムは、新たな創世王となるべく生まれる世紀王が現れるのを長い時間待ちわびていた。

 

自分が仕えるべき世界の王。

 

王の傍らに自分を置き、王と同じ存在となるために、ビシュムは光太郎を…もう一人の世紀王を倒すことに躍起となっていた。だが、悉く失敗。死んだはずの光太郎からキングストーンを抜き出し、献上するという赤子の手を捻るようなことすら、しくじってしまった。

 

もし、成功していたならば自分は創世王となったシャドームーンと共に覇道を歩んでいた。この世界を自由に動かせた。

 

だが今の姿はどうだ。暴走したダロムにより醜悪な姿へと変えられ、強力な力を得ても怪人以下の存在になろうとしている。

 

それもこれも全てはゴルゴムを裏切り、約束されていた未来を踏みにじった間桐光太郎が原因。

 

このまま自我が消え失せる前に、この手で光太郎を苦しめなければ気が済まない。その為に、光太郎の大切なものは壊さなければならない。後悔させなければならない。

 

ゴルゴムという組織に逆らったことを。

 

 

 

 

「笑わせて…くれますね」

 

(…っ!?)

 

重力波を受け、地面に沈んでいるライダーの手の周りに大きく亀裂が走る。ひび割れるほどに重力が強くなったのかと考えたセイバーとキャスターだったが、それはライダーが立ち上がろうと手に力を込めた事で発生した亀裂だった。

 

「貴女は…全てを光太郎のせいにして、八つ当たりをしているだけ。それに…貴女には、シャドームーンは決して振り向かない」

(何ヲ…解っタようナ事をォッ!!)

「グっ!?」

 

より強まった重力波を受けたライダーは再び地面へと沈む。それでもなお立ち上がろうと身体に力を込める姿にビシュムの怒りは頂点に達した。

 

(私ハあの方ノ為に、全テを捧げてキたのヨ!!それヲ邪魔した仮面ライダだーは絶対に許さナい!!)

「なら…なぜあの時逃げ出したのですか?そして、先ほども?」

(…ッ!?)

 

ライダーの言葉にビシュムが動揺した揺らぎはキャスターとセイバーにもはっきりと感じられた。さらに心を乱すように、ライダーは少しずつ身体を上げながらもの言葉を繋ぐ。

 

「結局、貴女が欲しがっていたのはシャドームーンが手にしようとしたこの世界の支配者という肩書だけ…彼の気持ちも、痛みも、何も分かろうともしていない」

 

身体を震わせながら両足で立ち上がるライダー。彼女の身体に掛かる重力は優に数十倍にも達している。それでも、彼女は立ち上がった。

 

「全てを捧げている…ならば、蘇った光太郎に命を捨ててでも挑めたはず。ダロムの姿を見ても、覚悟を持って挑めたはず。聞こえの良い言葉だけで見繕い、自分を正当化しているだけ。…ビシュム。貴女は―――」

 

鉛で縛られたように重くなった手を震わせながら持ち上げ、両目を覆う眼帯へと手を伸ばしたライダーは一気に引きはがし、両目が解放されたと同時に自身の持つ魔力を一気に解放する。

 

 

 

「貴女が守ろうとしているのは自分だけです。シャドームーンでも、怪人でも、支配者の創世王でもない。貴女は、自分可愛さに強者の威を着飾ろうとした小者にすぎません」

 

「アアァァァァァアアアァァッァアアアアアアアアッ!!!」

 

魔力を解放したことで重力波を打ち破ったライダーの魔眼が咆哮を上げるビシュムに叩きつけれる。しかしビシュムも聖杯の泥で強化されているためか石化できず、動きを一瞬止めたに過ぎなかった。

 

むしろ重力波を取りやめ、攻撃へと力を集中したのか、先ほどより激しくなる一方であった。しかし、それでもキャスターの結界は揺らぐことすらなかった。

 

(…ッ!?)

「まったく、あんな言葉を聞いたのなら、私だって一言言いたくなってくるじゃない」

 

自分の攻撃が通用しない余りに手を止めてしまったビシュムの姿を見てクスリと口元を歪めるキャスターの魔力量が段々と上昇していくことに気付いたセイバーは思わず尋ねる。

 

「キャスター…貴女のその魔力量、どこから?」

「ああ、そう言えばセイバーには教えていなかったわね」

 

キャスターの放つ魔力は留まる事を知らず、大きく上昇していく。それに比例してキャスター自身から溢れる魔力が視認できるほど強力なものとなっていた。

 

柳洞寺を根城としていた時ですらこれ程力強い魔力を持ちえなかったキャスターはどこでこれ程の魔力を引きずり出しているのか?

 

その出所はマスターである宗一郎からでも、冬木に住む人間の魂でもなかった。

 

 

「以前にライダーに過剰供給されて排出した彼の膨大な魔力…それを保存していたのよ」

 

 

ニコリと笑って答えたキャスターにセイバーは唖然とした。

 

ここまでの移動中にライダーから一通りの話を聞いていたが、まさか光太郎のキングストーンから放たれた膨大な魔力をただ排出していただけでなく、自身の魔力に変換していたとは…末恐ろしい女性だ。

 

「どれほどの…魔力量なのでしょう?」

「そうねぇ…貴女がエクスカリバーを4度連続使用してもまだお釣りがでるわ」

 

キャスターの魔力量を心配する必要すらなかったと理解したセイバーは大きくため息をつくと、立ち上がったライダーと共に上昇していくビシュムを睨む。どうやらライダーの言葉を受けた後に雲の上へと逃げているらしい。

 

「視線に映らなくなった所を急降下しての不意打ち…と言った所でしょうか?」

「本当に小者ね…なら、猶更教えてあげないといけないわね」

 

杖を掲げたキャスターは、紫色の魔法陣を出現させる。

 

「自分以外の為に振るう力が、どれ程強いかを」

 

 

 

 

 

雲の中まで移動したビシュムはそのまま反転。嘴の周りを覆い、ライダー達に癒えることのない傷を負わす為に落下していく。地表からの反撃にも備え、身体の周りにはバリアーを張ることも忘れない。

 

「オホホホホホホ…私ヲ侮辱したこトを、後悔――――!?」

 

ビシュムが視界に捉えたのは、不可視の剣を構えたセイバーのみ。姿を消したキャスターとライダーは気にかかるが、今は愚かにも自分に向けて剣を構えている亡霊1人。すぐに仕留め、残る2人をすぐに見つけ出せばいい。

 

「しネえェェェェエエエエェェェェェェェェッ!!」

 

 

 

セイバーを貫くため、よりスピードを上げて落下するビシュム。所詮は接近戦しか能のないサーヴァント。魔力と落下する力を乗せた自分の攻撃には敵うまい。ビシュムは自身の勝利を確信し、続いてはライダーとキャスター、どちらを血祭りに上げようかなど

考えていたが、それは早計であると思い知ることとなる。

 

もし、下で待ち構えていたセイバーが剣の真の姿を現し、対城宝具を放とうとしていたのならビシュムも後退していただろう。だが、セイバーにもそれ以外にあったのだ。距離を取った相手に放つ戦法が。

 

 

 

「『風王鉄槌』ッ!!」

 

 

剣先から放たれた暴風の渦。剣に纏わせいた風を解放し、竜巻を発生させて打ち出す『風王結界』を応用させた技。それに加えキャスターの魔力補助も加わり、威力は第四次聖杯戦争時の数十倍。その威力にセイバー自身も驚いていたが、一番に驚いているのは

暴風に浚われ、吹き飛ばされているビシュムだろう。

 

 

「こ、こんナことガあぁぁぁぁッ!?」

 

ビシュムへの攻撃は止まらない。『風王鉄槌』によって自分の意思に反し再び上昇していくビシュムを上で待ち構えていたのは、転移魔術でさらに上空で待機し、幾つもの魔法陣を出現させていたキャスターであった。

 

「言っておきますけど、加減なんて出来ないわよッ!!」

 

魔法陣から次々と解放される魔力弾。ビシュムに向かっていくその途中で全ての魔力弾が合流。巨大な魔力の束となり、ビシュムへと叩きつけられた。

 

 

地上からは竜巻。上空からは魔力によって板挟みとなったビシュムは二重の圧力に苦しみながらも信じられなかった。なぜ、自分がここまで追い詰められているのか。

 

 

「ナぜ…なゼ貴女たチのようナ人間どこロか亡霊でモない輩にィ私がっ…!」

 

 

「貴女には分からないでしょう…!いえ、かつては私も貴女と同じだったかもしれません」

 

 

自分の過去を改変するという理由で聖杯を求め戦いに参加したセイバー。自身の望みを叶える為に動いていたという点では、ビシュムと共通しているかもしれない。だが、セイバーとビシュムは決定的な違いがあった。

 

 

「貴女のように、自分以外を救おうとしない輩には一生理解できないことよっ!!」

 

放つ魔力を強めるキャスターがセイバーに続いた。自分はセイバーのように高潔な思想を持って聖杯戦争に参加したわけではない。そういった意味ではセイバーより自分の方がビシュムに近いだろう。しかし、自分以上に大切な存在が生まれた。

この世界に存在していられる限り、傍にいたいというマスターが。

 

キャスターはもし、ビシュムがシャドームーンを心より慕っていたというのなら躊躇していたのかもしれない。だが、ライダーの指摘に図星を突かれて動揺した姿を見てはっきりと決めていた。

ビシュムには一片の情けは無用だと。

 

 

「さぁ、今ですッ!!」

「さっきの借り、返してあげなさいッ!!」

 

「ナぁッ!!!」

 

 

セイバーとキャスターの声に応えるように現れたのは、天馬に騎乗し、宝具を起動させていたライダーの姿。ビシュムは自分に迫るライダーの姿に唯一自由のとなった嘴を解放し、破壊光線を放ったが…

 

 

「…貴女に思い知らせてあげます」

 

 

魔力がライダーとペガサスを包み、ビシュムの破壊光線を拡散して弾き飛ばす。

 

 

「他の誰かを守る為に戦う。その思いがどれほどの力を与えてくれるかを…あの人のように!!」

 

 

強く手綱を握ったライダーとペガサスが流星と化してビシュムに迫る。その中で、白色となった星に『赤い力』が混じっている事にビシュムは目を見開いた。

 

 

「ナっ…!?何故貴女なドがッ…きングスとーンの力をォ…!?」

 

 

「…コウタロウ、私に力をッ!!」

 

「『騎英の手綱』ッ!!!」

 

 

ライダーの咆哮と共に赤色の彗星となった光はビシュムを蒸発させた。

 

 

ビシュムは最後の瞬間まで認めることが出来なかった。マスターと共に同じ道を歩み続けたライダーが、自分の求めた力を掴んでいたことを。

 




一緒に歩んでいたか、太鼓持ちでしかなかったかの違いでした。

お気軽に感想を書いて頂ければ幸いです。ではまた来年!!


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第63話『勝利への算段』

明けましておめでとうございます!

おせちは伊達巻があればそれでいい私ですが、最近になって数の子に目覚めてしまったり…

では新年一発目の63話となります


「間桐光太郎ッ!!何とかならんのかッ!?」

「いきなりなんだッ!?」

 

ダロムの放った怪光線を夫婦剣で弾きながら、アーチャーが光太郎へ非難の声を浴びせる。同じくダロムの怪光線を必死に回避しながらも返事をする光太郎に赤い弓兵は目を吊り上げて叫ぶ。

 

「決まっている―――」

 

 

 

「後ろで私達を楽しそうに傍観している最古の王とやらをだッ!!!」

「あ~…」

 

 

こればかりは光太郎もすぐに言葉が浮かばなかった。

 

事実、アーチャーの言う通りギルガメッシュはダロムと戦っている光太郎達から離れ、安全圏から眺めている。サーヴァント同士で一致団結した直後にこのような行動を目の当りにすれば、さぞご立腹となろう。

 

光太郎に取っては見慣れた行動であったが普段と異なる点があった。ギルガメッシュが戦いを傍観に徹している際は決まって不敵に笑っているのだ。戦いを面白がっているのか、予測の付かない行動を期待しているのか判断出来ない笑みであるのだが、今回は口元を歪めるどころか喜怒哀楽どの表情も浮かべず無表情でいる。

眼を凝らし、ダロムを含め自分達の行動一つ一つを吟味しているかのように…

 

離れて戦いを見ている慎二と桜も気付いたのか、先程までギルガメッシュへと標準を合わせていた武器をあっさりと下げて様子を伺っている。その背後で何やら士郎と凜が『ようやく止めてくれた…』と言わんばかりに肩で息をしているが、光太郎は意識を切り替えてアーチャーへと声を放つ。

 

「け、けどさっきの見たアーチャーならわかるだろう?ギルにとっては相性が悪すぎる…!」

「チッ…」

 

光太郎のフォローに舌打ちするアーチャーは自身に迫った光線を再び弾き返す。

 

アーチャーが反論できない理由は、戦力を分断された直後のことであった。

 

 

 

 

変貌した3大怪人の攻撃を回避したアーチャーは着地と同時に矢を番え、土埃でまだこちらを視認していないダロムへと狙いを定めていた。

 

未だこちらに気付かないダロムの攻撃を封じるために口を標的にして矢を一射。そして合間を開けず二射、三射を眼に向かって打ち放つ。

 

その射撃間隔は一秒にも満たない。

 

回避不可能の矢を受けたダロムは攻撃手段を一つ失うと同時に視力が奪われる、はずだった。

 

 

「何ッ!?」

 

アーチャーの回避が間に合ったのは、己のクラス故の超人的な視力が持っていたからであろう。そうでなければ、自分自身の放った矢が倍以上の速度で返された事に気付くこともなく串刺しにされていたのだから。

 

「念動力…!」

 

獣の如く雄叫びを上げるダロムの能力を口にする光太郎は地を蹴り、アーチャーの方へと意識を向けているダロムの胴体へと拳を打ち付けるべく力を込めた。充分な間合いへと接近し、いざ繰り出そうとした時、拳がピクリとも動かなくなってしまう。

 

「くっ…!?」

 

グルリと不気味に首を回したダロムはカシャカシャと顎を震わせ、声を放った。

 

「無駄ダ…以前ノ私でハないのダ…」

 

完全に甲殻類の鋏と化した腕を振り下ろすが、光太郎は強引に身体を捩じってこれを回避。念動力によって動きが止められていたのは拳だけであった為か難を逃れたが不利にあることは変わりない。

まるで壁に磔されたかのように拳を空気中で固定されてしまった光太郎へ次々とダロムの腕が襲う。避ける度に耳へと響く空気を切る音へ神経を研ぎ澄ましながらも光太郎は反撃の機会を待つ。

確かに不利な状況だが、ダロムは過信からかゼロ距離の怪光線を放ったり、光太郎の全身を念動力で止めるという手段を取っていない。

 

積年の恨みを晴らす為に光太郎を自分の手で一方的に蹂躙する。

 

理性が消えかけても光太郎への憎しみだけは消えず…いや、聖杯の呪いによってより増大している可能性もあった。

 

ダロムに付きいる隙があるとするならば、恨むべき対象にしか目に映っていない瞬間。

 

それをアーチャーは見逃さなかった。

 

 

 

「ヌぅ…!?」

 

光太郎に向けて腕を振り上げた途端、自身に幾本もの短剣が回転して迫る事に勘付いたダロムは念動力により全ての剣を静止させる。ダロムを囲ったのは十振り以上の白と黒。アーチャーが生み出した夫婦剣であった。

 

「おレれ…奴は何処ニ…」

 

静止している剣達を隠れ蓑に接近していると考え、周囲を見渡すダロムだったが眼球のみを上空へと向けることで敵を捉えることが出来た。

 

アーチャーはダロムの真上から両手に持った夫婦剣を同時に振り下ろす。しかもダロムに放ったものと異なり、刀身の長さは倍以上、刃は竜の鱗を思わせるように尖り、鋭利なものへと変貌している。

 

自分を囲う囮への念動力を解除し、肉迫するアーチャーへと向けようとした。だが、ダロムが解いてしまったのは剣だけではなかった。

 

 

「トァッ!!」

「グぉッ!?」

 

拳が自由となった光太郎の回し蹴りがダロムの背中にめり込む。衝撃により仰け反るダロムの肩に一対の刃が触れた瞬間、鉄を削るような甲高い音を立てて斬り裂いた。

 

「…っ!?」

 

その驚きは攻撃を当てたアーチャーのものだった。

 

肩から斜めに斬られた傷口から黒いタール状の液体が浮き上がり、一瞬でアーチャーの斬撃によるダメージを塞いでしまう。

 

「フハははははハハハハ…」

 

ダロムが高笑いする間に離脱し、距離を取った光太郎とアーチャーは改めて切り裂かれた箇所を見る。液体…恐らくダロムが取り込んだ聖杯の泥により治癒されてしまっている。バラオムやビシュムと比べ、体内にある聖杯の泥の密度が圧倒的に高いだろう。

 

 

「斬られた直後に再生とは…恐れ入ったな」

「加えて下手に接近すれば念動力で囚われて、離れても…」

 

「さァ…こチらの番だァッ!!」

 

ダロムが大きく口を開いたと同時に、背中に生えた節足が一斉に光太郎とアーチャーの方へと向けられる。互いに声を掛け合う間もなくその場から急ぎ移動した2人へ怪光線が放たれた。口からだけでなく、節足の先端からもレーザー光線を発射され、2人が先ほどまで立っていた場所は大きく窪み、溶けた土が熱を帯びて煙を上げている。

 

「素晴らシい…素晴ラしイ力だ…こノ力さエあれば仮面ラいダーなド…」

 

高揚感に浸るダロムは再び逃げ惑う2人に対して光線技を斉射を始めたのだった。

 

 

 

 

 

(あの戦い方を見れば、そりゃギルも大人しくなってしまうよな…)

 

回避しながらも相変わらず腕組みをしている黄金のサーヴァントへと目を向ける光太郎。

 

ギルガメッシュの基本戦法は数多の宝具を『王の財宝』を展開し、相手に反撃や回避を許さない一斉射出にある。だがダロムは強化された念動力により先に仕掛けたアーチャーの矢を全て受け止め、倍以上のスピードで投げ返している。

その光景を見ていたギルガメッシュは一度展開しかけた宝具を収納。光太郎やダロム達から離れ、戦いを眺め始めたのであった。

 

もしギルガメッシュが宝具をダロムに向けて射出していたのであれば全てが念動力によって止められ、ギルガメッシュに向けて反射されてしまうが、そうなれば再び彼の宝物庫へと戻るだけであり、彼が自らの攻撃で傷を負うことはまずない。

しかし、それではギルガメッシュの攻撃はダロムに決して当たることはない。

 

それに怪光線の雨を掻い潜り、念動力をさけて何度か攻撃を仕掛けてもダメージを泥によって回復されてしまっている。ギルガメッシュが宝具の射出口をダロムの眼前にして攻撃したとしても、直ぐに再生されてしまっては意味がない。

 

 

そんな可能性も踏まえて、ギルガメッシュは自分では敵わないとダロムとの戦いには参加しないつもりなのでは…

 

この時までは、誰もがそう考えていた。

 

 

 

 

「ふハハは…どウしたのダ…避ケるだけになっテいるぞ?」

「くっ…」

 

怪光線を照射し続けるダロムの余裕に光太郎は反論する余地もなく、ただ避けるために身体を動かし続けるしかなかった。そんなおり、ダロムの身体から黒い霧が発生していることに気付いた光太郎とアーチャーは思わず上を見上げる。そこにはダロムを奇怪な姿へと変貌させた雲…聖杯の呪いが徐々に広がりつつあったのだ。

 

「ダロム…貴様まさかっ!?」

「ソの通りダ…こノ呪いを拡散さセ、冬木に残ル人間どもニ死を与えテくれル…!」

「そうはさせ…ぐわぁっ!?」

 

ダロムを起点とし、次々と拡大していく黒い雲。止める為にかけよる光太郎へ念動力によって飛ばされた石礫が次々と投擲される。アーチャーも同様に次々と飛んでくる石を剣で弾き落すしか出来ずにいた。

 

 

 

距離を置いて戦いを見守っていた慎二達もダロムの発生させた黒い雲を警戒する中、桜は戦いを傍観しているギルガメッシュに目を向けた時、あるものに気付いた。

 

「あれ…?」

 

不思議に思い、声を上げた義妹の反応が気になった慎二はその視線の先にある人物を見る。相変わらず必死にダロムの光線技を避けている光太郎達の動きを見ているだけの英雄王に僅かながら動きがあった。気にしなければ気にも留めない、些細な動きだ。

 

「…そういうことか」

「はい…」

「そこ、2人で納得してないで説明しなさいっ!」

「俺からも頼む」

 

最初こそ動かない英雄王に対して文句どころか攻撃をしかけようとした慎二と桜が彼の仕草を見て納得した姿に待ったをかけた凜と士郎は説明を求める。一度互いの視線を合わせた間桐兄妹は、質問者2人の視力が常人より上であることを前提として

回答を始めた。

 

「アイツが組んでる腕…よく見りゃ動きがあるのわかるか?」

「動きって…人差し指動かしてるみたいだけど」

 

慎二の指摘に凜はギルガメッシュが組んだ腕に沈みがちではあるが、確かに人差し指を定期的に動かし、二の腕を覆う黄金の甲冑を突いているようにも見える。

 

「あれがどうかしたのか?」

「はい、ギルガメッシュさんの癖見たいなものなんです…」

 

 

桜は士郎へ説明を始める。

 

以前、毎度の如く間桐邸にアポ無しで乗り込んできたギルガメッシュに一泡吹かせようと慎二が巷で流行り出している戦略テレビゲームで勝負を挑んだ時のことだ。

勝負事を挑まれたなら受け入れてこその王であると承諾したギルガメッシュに慎二はほくそ笑む。慎二はそのゲームデータに予め細工を施し、ギルガメッシュが圧倒的に不利な状況を作り出していたのだ。

遅れて帰ってきた光太郎やお茶を準備していた桜の見守る中、慎二が圧倒的に有利にゲームが展開されていく。思い知ったか言わんばかりにと横目でギルガメッシュの方へと向けると、彼は怒りも笑いもせず、画面と説明書を交互に睨んでいた。

いくらでも待ってやるよとニヤニヤする慎二を余所に、ギルガメッシュはゆっくりと腕を組み、人差し指でトントンをリズムを付けて二の腕を突き始めた。

それから数分後、ピタリと指を止めたギルガメッシュの表情は打って変わり獰猛な笑みへと変わる。そしてゲームが再開され、結果はギルガメッシュの逆転勝利で幕を閉じたのであった。

 

 

「つまり、あれはギルガメッシュさんのシンキングポーズ…見たいなものなんです」

「じゃあ、あいつは戦いを放棄したんじゃなくて…」

 

士郎の質問にコクリと頷いた桜は、再び視線を義兄達へと戻す。

 

「あの人も…簡単に諦めるような人ではありません。だって、光太郎兄さんのお友達なんですから」

 

 

桜の発言に応えたかのように、ギルガメッシュの指がピタリと止まる。同時に、見る者が慄くような笑みを浮かべて…

 

 

 

 

 

「くっ…せめてあの雲の拡散だけは防がないと…!!」

 

怪光線を躱し、岩石を砕きながらもダロムの元へ進んで行く光太郎の耳元に、風音が響く。それは段々と強まっていき、辺りを見ると自分やアーチャー、ダロムを囲うように発生した竜巻が発生。光太郎達は竜巻に閉じ込められる結果となるが、これは自然現象でないことは明白だ。

ならば犯人は…

 

「ずいぶんと苦戦しているようではないか」

「ずいぶんと遅い到着で…」

 

光太郎の元へと悠々と歩いてくるギルガメッシュの手には巨大で古風な団扇が握られている。この常識外れな動きをする風はこの団扇…宝具で発生させたものなのだろう。その恩恵か、黒い雲は拡散することなく、未だ上空を漂っている。

 

「ここまで動いたというのなら、算段があってのことなのであろうな?英雄王」

「あるからこそ貴様等の方へ態々足を運んでやったのだ」

 

合流したアーチャーの皮肉にも動じず、ギルガメッシュは当然のように答える。突然の竜巻の出現にダロムが驚いている間に指示を終えたギルガメッシュに、光太郎は迷うことなく首を縦に振った。

 

「正気か間桐光太郎…貴様、そんな無謀な策に乗るつもりか?」

「今は、それしかない」

 

アーチャーの意見に即答する光太郎に迷いはない。アーチャー自身も理解していたつもりだったが、この男は一度決めたとなると、揺るがすことは難しい。

 

「…どうなっても知らんぞ」

「そっちも、『準備』を頼むよ!!」

 

相手の反応も待たずに光太郎はダロムに向かい、全力で駆けていく。ダロムも標的の方から姿を現したことに狂喜し、再び攻撃を開始する。ダロムの感情に同期しているかのように、黒い霧は勢いを増して発生させたまま…

 

 

「予想以上に食いついたか…所詮獣の類か」

「一つ答えろ、英雄王…」

 

ダロムの姿を嘲笑するギルガメッシュに、アーチャーは声を鋭くして尋ねる。答えなければ自分は指示を受けた通りに動かない。そう目が訴えているように…

 

「…………詰まらぬことならば容赦せんぞ」

「なぜ、そこまで奴のやり方に合わせる?貴様が動いたのなら、1人で十分と思えるが…?」

「…………………………」

 

自分を睨むように見つめるアーチャーを横目で眺め、その視線を徐々に、光太郎へと移していく。怪光線を浴びて身を焦がし、飛来する岩を拳で砕きながらも前へ進んでいく光太郎の後姿を見みながら、弓兵の質問に答えた。

 

「これは、元々奴1人が背負うべき戦いだった」

「……………………」

 

それは知っている。ゴルゴムという巨大な組織を裏切り、ただ1人で挑んだ男。それが、間桐光太郎…仮面ライダーの戦いだった。

しかし、ギルガメッシュは興味本位で彼に近づき、接する度に理解をするようになってしまった。彼は背負って戦っている。自分だけではなく、他人の命を、願いを。頼まれたわけでもなく、自身の意思で戦いを始めたのだ。

 

自分のような存在を、もう生み出さない為に…なんと単純で、愚かな理由なのだろう。だが、彼は徹底し、その道を貫いてきた。それを証拠に彼の周りにいる人々に笑顔が絶えることなく、彼の守った平和と知らずに興じている。

彼の揺るぎない意思によって影響されたのは同じ人間だけでなく、理解し合えるはずのない怪人やサーヴァントにも至った。

 

ならば、最後まで信念を貫く姿を見届けなければならない。その結果が彼自身の自滅なのか。成し遂げるのか。それに最後まで付き合うのが王である自分の務めなのだ。

そして無意識ではあるが、自分も影響を受けていると、ギルガメッシュ本人はまだ気づいていない。

 

 

「ようするに、腐れ縁が出来たから最後まで付き合うということか」

「貴様如きの感性ではそのような捉え方しかできまい」

「…まさか、私を匿ったのもそれに利用する為か?」

「…手駒は多いことに越したことはあるまいよ」

「まぁいい。そう言うことにしておこう」

 

ギルガメッシュの回答に満足したのか、アーチャーは一歩前に出ると意識を集中させる。自身の力を最大限に発揮する為の『スイッチ』を入れるために。

 

 

 

 

 

 

 

『―――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword. )

 

 

 

 

 

「ぐぅ…!?」

「フハは…良イ様だ…ッ!」

 

ギルガメッシュの指示を受けた光太郎はただ、ダロムへと戦いを挑んでいた。ダロムから発生している霧には一切気にかけず、奴を自分に釘付けにさせろ、と。光太郎はギルガメッシュの言葉を信じ、ひたすらに動き回り、攻撃を受け続けた。

 

だが接近するにつれて攻撃は受けやすくなり、何度敵の光線を浴びたかも覚えていない。そして遂に膝が地を付き、ダロムがこちらを見下ろす形となってしまう。

 

「さぁ、今度こソ止めヲ…ムッ!?」

「…これは…!?」

 

異変に気付いたのは同時だった。周囲の空気が変わっていく。激しい風が巻き起こっているのは変わりないが、それだけでなく『空間』そのものが入れ替わっていくような違和感…

ダロムは原因であり、離れた地点で動きを見せる存在に気が付いてしまった。

 

「おのレッ!!一体何ヲ…ッ!!」

「お前の相手はこっちだッ!!」

 

念動力で岩石を飛ばそうと振り上げた腕を掴まれたダロムは振りほどこうとするが、光太郎は一向に離さない。

 

 

 

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

 

 

 

「離セ、離さンかッ!?」

「なら、得意の念動力でどうにかしたらどうだ!!」

 

挑発する光太郎の言葉に怒りを隠そうともしないダロムは、怒りで顎を振動させながら光太郎に力を放った。

 

 

 

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades. )

 

 

 

 

「ならバ、望ミ通り貴様かラ息の根を止メてくれるワッ!!」

(…かかった!!)

 

 

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death.)  ただの一度も理解されない(Nor known to Life. )

 

 

 

 

ダロムの念動力にかけられ、身体の自由を奪われた光太郎。自分の目の前で両手を広げた状態で浮遊する宿敵に向かい、口を大きく解放した。

 

「最後ダ…仮面ライだーブラっク!!」

 

 

 

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons. )

 

 

 

 

「それは…どうかなッ!!」

 

ダロムの口に力が籠められると同時に、光太郎自身も全パワーをベルトに集中させる。

 

 

 

 

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything. )

 

 

 

 

 

「キ、貴様ァッ!!」

光太郎の狙いに勘付いたダロムだったが、もう遅い。自身の口から怪光線が放たれたと同時に、光太郎のエナジーリアクターから眩い輝きが放たれた。

 

 

 

 

 

「キングストーンフラッシュッ!!!」

 

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪光線を反射され、焼きただれたダロムは直ぐに再生し、立ち上がるが周囲の光景を見て絶句する。

 

 

雲った空には巨大な歯車が出現し、自分の立つ大地は終わりの見えない荒野とかし、無限に存在するとも言える刀剣が墓標のように突き刺さっている

 

 

 

今自分は、どこにいるのだ。

 

 

 

「固有結界…と、言っても貴様には理解できまい」

 

思わず振り返った先には、気を失った光太郎を肩に抱いているアーチャーと、獲物を前に舌なめずりをした猛禽類のような鋭い目となっているギルガメッシュ。

 

 

「この空間は現実世界と一時的とはいえ切り離されている。もはや、貴様がいくら泥を拡散しようが町に広がることはない」

 

 

アーチャー自身の心象風景を具現化した固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)

今ここにいるのは、術を発動したアーチャー、気を失った光太郎、発動を提案したギルガメッシュとダロムの4人のみ。

長い時間をかけて組んでいた腕を解放したギルガメッシュは、見たことも無い世界に恐怖する怪物へと迫る。

 

 

 

「さぁ、続けようではないか。雑獣」

 

 

「せめて散り様で我を興じさせろよ」

 

 

 




というわけで次回に続く、です。

ダロムさんは他二人と違い怪人数100体分の泥を取り込んでいるので結構しぶといです。


お気軽に感想などお書き頂ければ幸いです。

本年もよろしくおねがいします!


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第64話『無限の剣撃』

SH大戦恒例の前売り券のオマケ。BLACKが大きく映っているということはそれなりに期待してよろしいのだろうか?
ただ、予告映像みるとすこしだけ嫌な予感が…

では、64話です!


地平線の彼方まで剣が大地に突き刺さった世界…

 

アーチャーの固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)』に立ち尽くす大怪人ダロムは初めて見る光景に驚いたが、次第に敵の犯した失策に顎を震わせ、剣だらけの空間に高笑いを木霊させた。

 

「フハはははははハハハ…なンと愚かナ連中ダッ!!」

 

気を失った光太郎をゆっくりと寝かせるアーチャーとギルガメッシュは表情を変えず、身体からさらに勢いを増して黒い霧を拡散させるダロムの言葉を待つ。

 

「確か二今のまマでは聖杯の呪イを広メて人間共ヲ殺すことハ出来ン。だが、こノ空間にいル貴様等ハどうなルと思ウ?」

 

ダロムの言う通り、聖杯の呪いである黒い霧を冬木市まで拡散させないことには成功した。しかし、固有結界の中では今もなお霧は広がり続け、空に浮かんでいる巨大な歯車を覆うまでに至っている。

現実世界と切り離され、限られた空間である故に広がりが早まったのだろう。

 

「このまマ『呪いの雨』となれバ同じク聖杯によっテ現界してイる貴様達もただでハすまんはズ。そして、この空間デ余すこトなく突き刺さっていル剣を私ノ力で操作すれば…」

 

なによりもダロムが勝ち誇る理由がそこにあった。

 

無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)』内の刀剣を自身の念動力で操作し、アーチャー達に向かって放ってしまえば自分の勝利は確実なもの。呪いの拡散を防ぐ為に取った行動が命取りな行動であるとダロムは嘲笑うが、ギルガメッシュは構うことなく背後にある宝物庫から一つの武器を取り出した。

 

鎖に繋がれた刺付の鉄球…所要、モーニングスターの原型となった武器であろう。

 

 

「貴様の笑い声は虫唾が走る。まずはその醜悪な口を潰すとしよう」

 

直後、有無を言わさずに回転をしながらダロムを目指し投擲される鉄球。その軌道は宣言したように真っ直ぐダロムの顔を目がけて飛来していく。だが、ダロムはギルガメッシュの行動を心中で蔑みながら迫る鉄球を眺めていた。

 

(愚かナ。自分の攻撃デ死ヌがいイ)

 

ダロムはより強力となった念動力で対象の動きを封じるだけなく、自分に迫った脅威に対して倍の速度で反射させることも可能となっていた。アーチャーすら最初の攻撃以来避けていた攻撃方法を今一度自分へと放っている。

 

余裕を見せつけながら万策尽きて攻撃をしかけたあの英霊を愚かに思いながらも、ダロムは自らの鉄球により自滅する黄金のサーヴァントが散りゆく様を見届けようとした。

 

 

 

 

鉄球が自身の顔にめり込み、痛みが遅れてやってくるまでは、そんな事しか考えられなかった。

 

 

 

 

「ギぃッ…アアアァッァアアアアアアアアッ!?」

 

 

顔を押さえて絶叫するダロムの足元に血液が付着した鉄球が落下する。

 

ダロムは何が起きたのかまるで分らなかった。

 

なぜ自分の念動力が発動しなかったのか?間違いなく、間違いなくあの鉄球を持ち主の方へと飛んでいくように念じたはずなのに。

痛みと混乱で頭の中で整理の出来ないダロムは、泥の恩恵で潰された顎が再生するのを待つ。徐々に痛みが和らいでいく最中、足元に転がっていた鉄球の元へ、攻撃を仕掛けた本人が移動していた事をようやく察したダロムは急ぎ顔を上げる。

 

「本来なら貫通させるつもりだったがな…無駄に頑丈となっているようなだな」

 

冷たく言い放つギルガメッシュは鉄球を蹴り上げ、今度はダロムの腹部へと叩きつけた。

 

「ッ…!?」

「クックック…どうした?先ほどのように盛大に泣かぬのか?」

 

くの字になって後退するダロムを今度はギルガメッシュが嘲笑う。

 

痛みが引いていくのを待ちながら、ダロムは必至に目の前の男の動きを封じようと念じる。周辺に突き刺さっている剣で男を串刺しにするために念じる。

 

 

念じる。念じる。念じる。念じる―――

 

 

(な、なゼだ…!?)

 

念動力が全く働かない。ブルブルと腕を振るわせるダロムの状態を察していたのか、ギルガメッシュはニヤリと笑いながら蹲る怪人を見下しながら口を開いた。

 

「得意の力を『封じられた』気分はどうだ?自分の思い通りに物体を操れないのはどのような心境だ?なぁ…雑虫よ」

「封ジられたダと…?」

 

聞き逃せない言葉を聞いたダロムは立ち上がる。変わらず笑い続けるギルガメッシュだけでなく、彼nの隣へ移動していたアーチャーへの警戒を含め、傷の修復を急がせた。

 

「私ノ能力を封じルなど、そんナ動きは一度モ…」

「しっかりと浴びていたではないのかな?それに、そのような事を出来る存在は我々より貴様達の方が詳しいはずだがね」

 

ダロムの疑問に、視線を後方で眠る光太郎へと向けながらアーチャーは答える。

 

(ま、まサか…!?)

 

思い当たる節は一つしかない。

 

固有結界が発動する寸前。ダロムの怪光線を反射する為に光太郎が放ったキングストーンフラッシュ。

 

その光が技を反射するだけでなく、ダロムの念動力を封じる作用が含まれていたのなら…

 

 

「あり得ン…アり得ん!!二ツの効果を同時に現すなド、仮面ライだーの力が今ノ私に通じルなど…!!」

 

自分は強くなっているはずだ。怪人達の命を吸った聖杯の泥を被り、その力は依然の数十倍にも膨れ上がっているはずだ。

 

「ならば、貴様と互角に渡りあっていた光太郎の力はどう説明がつく?」

「なんだト…?」

 

ダロムにはアーチャーの言っている意味が分からない。自分の力は聖杯の力で仮面ライダーを上回っている。だと言うのに彼の力が通用するなどあり得ないこと。そう固く信じるダロムへアーチャーの言葉が続く。

 

「確かに貴様は力を増幅し、以前の間桐光太郎ならば太刀打ちできなかっただろう。だが、あくまで『以前』であればの話だ」

「どうイう…意味だ…?」

「分からんか…どうやら、貴様達は間桐光太郎がただ甦ったとしか聞いていないようだな」

 

溜息を漏らすアーチャーの発言を聞いてダロムは仮説を立てる。

 

確かにダロムはキングストーンを回収する任務に失敗したビシュムから光太郎が復活したという情報しか聞いていない。だが、その報告をするビシュムの姿が何かに怯えきっているような姿であったことを思いだした。

仮面ライダーが生き返ったのは驚くべきことではあるが、彼女程の怪人が震え上がらせるような事態とまずない。ならば、彼女を恐怖させたことは…

 

 

より強力な力を手にした仮面ライダーの姿を見たためだと。

 

 

基地にいたダロムとバラオムは、命のエキスにより光太郎の力がより強化された事は、しることはなかったのだ。

 

 

その結論はダロムは、自分がなんと愚かな考えに至っていたのかを思い知る。声も出せないダロムの姿を愉快と言わんばかりに眺めるギルガメッシュの言葉は止まらなかった。

 

「貴様は光太郎が攻撃を避け、受け止められた時に疑うべきだった。何故、自分の攻撃や動きについてこられるのか。何故、攻撃を受けても死なずに傷を負うだけで済んでいる、とな。相手も同様に力を身に着けいると分かっていればそれなりの攻撃が出来るはずだが…」

 

しかし、ダロムはそうとも考えず、ひたすら光太郎達に向かって力を放っているだけだった。憎き敵が攻撃を避ける姿をただ愉しみ、追い詰めることしか考えていなかった。

 

「貴様は能力を警戒して回避に徹していた間桐光太郎を『上回った』と思い込み、奴をいたぶることしか考えていなかったようだな」

「貴様の高笑い…良い見世物であったぞ…」

 

呆れながら口を歪ませるアーチャーと破顔するのをを必死に耐えているギルガメッシュの侮蔑に、ダロムはもう叫び、我武者羅に両手を振るうことしか出来なかった。

 

「お…オオアァァァァァアァアアアッ!!」

 

身体から吹き出す霧も呼応して強くなり、空に広がる雲はもはや呪いの雨が降る寸前だ。

 

 

「頃合いか…始めるぞ贋作屋」

「よかろう。抜かるなよ、英雄王?」

「誰にものを言っている」

「フッ…」

 

ニヒルに笑った直後、アーチャーは大地に突き刺さっている剣を引き抜き、ダロムへと駆けだす。その背後に続くようにギルガメッシュを背後に宝物庫を展開。次々と宝具を射出していく。

 

 

「ハアァァァァァッ!!」

「ヌッ!!」

 

ダロムは両手を交差し、肉迫するアーチャーの剣を防御する。甲殻類のように身体を硬質なものへと変わっても、同じ場所へ何度も受ければいずれ傷ができてしまう。しかし、剣によって裂かれた箇所は直ぐに治癒していくがアーチャーの攻撃は止まらない。例え折れたとしてもまた身近にある剣を引き抜き、同じような連撃を加えてくる。接近したアーチャーへ節足による攻撃を加えようにも、アーチャーへの攻撃を阻むように飛来するギルガメッシュの宝具によるダメージ回復の為、手出しが出来ない。

 

アーチャーの接近戦とギルガメッシュによる宝具射出。

 

反撃できず、逃れることを許すことのない剣による連撃。

 

偽物を生み出すアーチャーと本物を所持するギルガメッシュによる宝具の連携攻撃。

 

 

言うならば『無限の剣獄(アンリミテッド・ブレード・ヘブン)

 

終わりのない攻撃を続けながら、ギルガメッシュとアーチャーは敵が見せるであろう動きを待っていた。

 

 

 

 

「無駄だ…いくら私に傷を負わそうが…グぁッ!?」

 

 

ダメージを受けても即再生していたダロムにはっきりとした『痛覚』を感じ、攻撃を受けた腕を見る。傷口がすぐに塞がらず、今まですぐに修復していた聖杯の泥が浮き出ずにいたのだ。

 

「な、なんだ…なぜ再生しないのだ!?」

「どうやら、ようやく切れてくれたようだな」

 

再生が始まらないことに動揺を隠せないダロムに、剣を下ろしたアーチャーは狙い通りに事が運んでいたことに安堵を見せた。

 

ようやく、という言葉に食いついたダロムは痛みも忘れ、自分の身に何が起こったのかを敵に問いただした。

 

「貴様ら…私に一体何をしたのだッ!!」

「簡単だよ。貴様の中にある聖杯の力が切れるまで、ダメージを負わせいたに過ぎない。時間はかかったがね」

 

やれやれと言わんばかりに肩をすくめるアーチャー。彼の言葉をダロムはどうしても信じられなかった。

 

「なんだ、と…?そんな馬鹿なことがありえるわけが…」

「自分でも分からんか?口調が以前の戻っているぞ?」

「…ッ!?」

 

閉口するダロムに遠距離から宝具の射出を続けていたギルガメッシュが背後に宝を待機させたまま悠々と歩み寄る。

 

「貴様の治癒能力…それは確かに聖杯による力だ。だが、それはあくまで聖杯の泥が消費されることによって塞がれていたに過ぎん。泥が貴様の中から失われれば、当然治癒は止まるわけだ」

「当然だな。バーサーカーと同じく、何かを消費していなければ瞬時の再生などまずありえん。貴様の観察通りというわけだな」

 

 

ギルガメッシュはアーチャーがダロムへ最初に負わせたダメージと、それ以降に光太郎によってしかけた攻撃によって起きたダメージの再生速度が僅かながら落ちていることに気付き、これは聖杯の泥が消費されることによっての能力と推理する。

ならば、次々に傷を負わせて泥を消費させればいい。ダメージの再生が追いつけなく程に。

 

「だ、だが!!私の中には怪人達数百体相応の泥が…っ!!」

「この固有結界が展開される以前から、貴様は得意げに広げていただろう?あれを」

 

上を指さすギルガメッシュに言われるがまま空を見たダロムは声にならない声を上げるしかない。空を漂う漆黒の雲。それはダロム自身が身体から放った聖杯の泥他ないのだから。

 

「滑稽よな。自らを追い詰めていたのだからな…それなりに楽しめたぞ、貴様の愚行は」

「き、貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

焦るダロムは両手を上げ、空に広がった泥の雲を再び自分へと収束させる。どうやら封じた念動力はある程度回復してしまったようだ。

 

「ふはははは…これでまた形勢逆転だッ!今度こそ、今度こそ貴様達を一瞬にして…ッ!?」

 

聖杯の泥を再び体内に取り込み、力を得たダロムだが身体が全く意のままに動かない。むしろ重くなり、さらには激痛まで走るようになってしまった。

 

 

「ガぁッ!!な、なんなのだコレは…!?」

「当然の結果だ。今の貴様には、ただの呪いとなったのだからな」

 

身体に少しずつ亀裂が走るダロムにはギルガメッシュの言葉が段々と遠くなっていくように聞こえていた。そんな事は知ったことではないように、ギルガメッシュは理由を述べた。

 

 

「最初こそは光太郎を『殺す』という目的に聖杯は応えたのであろう。しかし、今の貴様は『死なない為に』再び力を取り込んだ。このような結果は、当然だ」

 

聖杯の泥が求めているのは、その先にある「殺す」という結果のみ。宿敵である仮面ライダー抹殺の為に力を欲したダロムに反応した聖杯の泥は『死』という結果を出す為にダロム達を強化させた。しかし、今ダロムが再び泥を取り込んだのは光太郎を殺す為ではなく、ダロム自身がこの場を切り抜けるため…『生きる』為に願った。泥の性質とは真逆の願いを抱いたダロムは、拒絶反応によって体組織の崩壊が始まってしまったのだ。

 

 

 

「き、貴様は…こうなることを見越して今まで…」

 

ギルガメッシュの口元が歪む。それが答えだった。

 

泥をまき散らし、再生し続けるダロムを固有結界に念動力を封じたうえで閉じ込め、体内の呪いを消費させる。その上で再び呪いを取り込ませて追い詰める…

 

ダロムはギルガメッシュの掌の上で何の疑いもなく転がり続けていたのだ。

 

 

「上手くいきすぎて、必死だったぞ。腹を抱えて笑うのを耐えるのがな…」

「う…ガあぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

その挑発がダロムの最期の足掻きへの引き金となった。

 

ダロムは背中の節足を触手のように伸ばし、ギルガメッシュとアーチャーの手足を縛りあげた。

 

 

「こうなれば、貴様等だけでも道連れにぃ…!!」

 

身体に残った呪いを節足を伝って2人のサーヴァントへと流し込む。これ程の量ではあればただでは済まないはずと踏んだダロムは焦る様子のないギルガメッシュとアーチャーが不気味であった。

ギルガメッシュはともかく、アーチャーに至っては他のサーヴァント同様に泥へ触れることを極端に避けて戦っていたはずだ。

 

「つくづく哀れだな、貴様は」

「な…に…」

 

余りにも、静かな声。もはや間近で拘束しているギルガメッシュの輪郭がはっきりしないほど視力が低下しているダロムだったが、遠く離れていた場所で、黒い何かが立ち上がり、自分に向けて駆けてくることだけは理解できた。

 

 

 

 

 

「その力があるうちに我達に構わず、仇のみに執着していればよかったものを…」

 

 

 

駆けながら力を右足へと収束させた者は強く地を蹴る。

 

 

 

「目先の者に囚われすぎた…それが貴様の敗因だ」

 

 

 

ギルガメッシュは下向きに射出した刀剣によって自身とアーチャーを拘束していた節足を切り落とされたダロムから急ぎ離れた。

 

 

 

 

 

ダロムは空中で静止している宿敵に向けて、最後の武器となった額の触手を真っ直ぐ光太郎の腹部に向けて伸ばしていく。

 

最後の抵抗だろうと、あの敵には一矢報いなければならない。

 

スピードを付けて伸びていく触手にさらに深く貫くために回転を加えた。いくら防御しようが、これではただでは済まない。

 

 

 

 

 

直後、そう考えたダロムを含め、ギルガメッシュやアーチャーにすら予想出来ない事が起きた。

 

 

 

 

 

光太郎の赤い複眼が一瞬、紫色に怪しく輝いた。

 

 

 

 

 

その途端に、光太郎の視界に入った触手の動きがピタリと止まり、ダロム自身も動かなくなってしまう。

 

 

 

念動力で身体の動きを封じられたものではない。まるで、石にされたかのようにダロムは固まってしまったのだ。

 

 

指一本すら動く言のできない状態のダロムへ力強い咆哮と共に必殺の蹴りが叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーッ!!キィックッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

轟音と共に目の前の怪しげな空間が消滅したのは、バラオムやビシュムがサーヴァント達との戦いで散った後であった。今まで姿を消していたダロムが地を転がりながら現れ、恐らく攻撃を放った義兄が着地した姿に決着がついたのだと落ち着いて息を吐く慎二と桜の視線の先は、ヨロヨロと立ち上がる敵へと向けられる。

 

 

「お、おのれ…仮面ライダーBLACK…ッ!!」

「……………」

「これで勝ったと思うな…創世王様は、既に…聖杯を…オォォォォォッ!?」

 

 

 

 

 

断末魔の叫びと共に、大怪人ダロムは燃え上がり、消滅した。

 

勝利に喜ぶことなく、深く息を吐く光太郎の姿に、遅れて現れたギルガメッシュは微笑むが、アーチャーは怪訝な目で見つめていた。

 

 




相性悪い2人が組んだらそれこそとんでもない攻撃が出来のでは…ということでアーチャー2人組でのお話。
どちらかと言うとギルの言葉責めが目立ってた気がするけどどうしてこうなった。

感想などお気軽に書いて頂ければ幸いです。


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第65話『仲間達の創る道』

解禁となりましたSH大戦GPの予告。一瞬とはいえてつを氏のポーズに胸が熱くなりました。そして話題の3号とゼロノスが共闘しているように思えるところがありましたが、存在を抹消された者と忘れられていく者で通じ合うものあった、のだろうか…

そして今更ですがUA100,000突破、お気に入り500突破となりました!皆様、ありがとうございました!!

では65話となります!


洞窟の遥か奥…怪しげな光を発する空間で浮遊する存在は、自分を神と拝める者達が次々に散っていく様を眺め続けていた。

 

1体、また1体と命が消えていき、最後の1体は死ぬ間際に自分の名を叫んで消えていった。燃え尽きた部下の姿を見て思えたことは……

 

 

 

『―――聖杯を浴びても、所詮はあの程度か』

 

 

 

短く、そう呟くだけだった。

 

 

『―――私の最期も近い。さぁ、貴様はどう答える?ブラックサン……』

 

 

次に眺めたものは、深い沼に浮かび上がる、どこまでも黒い呪いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3大怪人達との死闘を終えた間桐光太郎とサーヴァント達は戦いを見守っていたマスターと合流し、それぞれの無事を確かめ合っていた。

 

 

「だーかーらぁッ!こんなのカスリ傷だって言ってんだろッ!!そっちの腕の方が遥かに重症なんだからさっさと見せろッ!!」

「何を言っているんですッ!!見た限りあの怪物の爪にも聖杯の呪いがあったかも分からいません。ですから貴方の治療を優先させるべきですランサーッ!!」

「心配しなくてもこっちは自分の魔術で何とかなる!ったく、再契約した後から前より口やかましくなっているぞお前は!!」

「なんと言われようが構いませんっ!それにランサーが使う魔術も結局は私から供給される魔力を基にするのですからそれでは二度手間です。さぁ、早く傷口を見せなさい」

「いやなんでそうなんだよッ!?その理屈だったら供給源であるお前が先だろうがッ!!」

「いいえ貴方だッ!!」

「お前だッ!!」

「貴方ッ!!!」

「お前ッ!!!」

 

 

お互いに気を使っての主張であろうが、ランサーとバゼットの姿を傍から見ていた間桐慎二には何とも言えない感情が渦巻いていた。

 

(なんだろう。今すぐにでも別世界に行って永遠と繰り返してほしいとすら願っている自分がいる…)

 

だが、バゼット女史がそこまでランサーを優先させている気持ちも分からなくもない。言峰綺礼の謀略によって自身の左とランサーを奪われ、彼が死んだ事でようやくランサーだけは取り戻すことができたのだ。

もし義兄が同じ立場であったのなら…彼女以上にライダーを心配するだろう。あまり見せつけられるのも勘弁して欲しいが、気が済むまでやって欲しいと目の前で腰を下ろしている巨人の治療を再開した。

 

「……………………………」

「悪いけど、傷口を塞ぐだけしか出来ないからな」

「……………………………」

「あの、痛かったら言って下さいね…」

「……………………………」

「桜、こっち終わったから頼む」

「はい、先輩!」

 

慎二は桜、士郎と協力し、マスター不在のバーサーカーの治療に当たっており、バーサーカーも特に抵抗もなく大人しく慎二達に身を任せて大人しく座っている。

バーサーカー自身だけでは回復する術を持っておらず、宝具である『十二の試練』も先ほどの戦いで消費し、彼の持つ命はあと一つとなってしまった。もし、この後の戦いで致命傷を負ってしまったら…

 

 

「桜」

「あ、はいッ!?」

「…今は余計な事考えるな」

「はい…」

 

慎二の言葉で我に返った桜はバーサーカーの傷口に手を翳し、詠唱を始める。桜の掌が淡く光り、照らされたバーサーカーの傷口が時間をかけて少しずつ閉じていく。

キャスターに師事されたことで治療魔術を身につけた桜が傷の数が最多であるバーサーカーの傷を治療、慎二と士郎は傷口周りの止血や消毒と役割を分担。キャスターが行えば1秒で終わる作業であろうが、彼女にとってはそれよりも重要なことがあった。

 

 

「如何でしょうか、宗一郎様?」

「ああ」

「もし、痛みがあるようでしたらいつでも言って下さいませ。直にでも治して見せます!」

「そうしよう」

 

2人だけの空間を見て、桜は治療を続けながらも思わず頬を緩めてしまう。それほど多くの傷を負っていない宗一郎へ既に治療魔術を施している。しかも巻く必要すらない包帯に悪戦苦闘するキャスターの姿はビシュムとの戦いで見せたサーヴァントではなく、不器用ながらも愛する人の為に苦手なものへと挑む、1人の女性だ。

しかし包帯はしっかりと巻かれず、宗一郎が腕を上げてみると弛んでしまうという残念な結果であったが、宗一郎が助かったの一言で、キャスターはこれまでに見せたことのない笑顔を浮かべたのであった。

 

「…随分と笑みを浮かべることが多くなった事だ。以前のような常に妊計を企てていた根狐とは思えんな」

「あ、佐々木さん。もう少し待って下さいね?」

「構わんよ。そこの御仁と比べたら、私の傷など子犬に噛まれた程度だ」

 

軽口を叩くアサシンだったが、桜からして見れば十分に重症を負っているとも言える。特にバラオムの爪で刻まれた背中の傷は今見ても痛々しい。しかし痛がる素振りを全く見せないその姿に士郎は感服する。やせ我慢しているという可能性も捨てきれないが、それでも普段見せる不敵な笑みを絶やさない男は視線に気付いたのか、士郎へと質問を投げかけた。

 

「それで?マスターとしてはあちらで起こっている光景をどう対処する?」

「えっと…」

 

バーサーカーの治療で忘れようとした案件を思い出してしまった士郎は、視線を泳がせながら今も自分達より距離を離した場所で繰り広げられている戦いへと目を向けた。

 

「…先ほどから言っているように、私は傷一つおっていないのです!」

「だが、事実貴様がその柔肌が汚れていないとも限らんだろう。この我自ら確かめてやろうと言うのだから遠慮をするでない」

「何度言えば気が済むのですか英雄王…王らしい姿を見せたと思ったらすぐこれですか…」

「む?後半は良く聞こえなかったが我への褒め言葉か?それならば遠慮なく発するがよい!我が妻となる存在ならば当然の権利であるぞ」

「…っ!何も言っていませんッ!!」

 

そこでは金髪2人が向かい合って両手で手を握り合っている光景…言葉だけ聞けばロマンスがあるように思えるかそんなものは欠片もなく、両手を広げて迫るギルガメッシュに対抗してセイバーが今以上の接近を許さない為に手で押し合っている…

 

第四次聖杯戦争時には殺し合っていた間柄のはずだが…なんとも言えないセイバーの現マスター衛宮四郎。繰り広げられている姿を見ていると止めるのも面倒な言葉の応酬に、最初こそ止めに入ろうとしていた士郎だが、別に殺し合いでないからいいかとバーサーカーの治療を再開する。むしろ関わりたくないという方が正しいのかも知れなかった。

 

 

「全く呑気な連中ね。これから敵の大ボスを叩きに行くってのに。ねぇアーチャー?…アーチャー…?」

 

桜の補助もあり、綺礼によって負傷した腕もある程度動くまで回復した凜はパートナーに同意を求めたが、当のアーチャーは顎に手を当て、光太郎とライダーの方へと目を向けている。

 

「ちょっと、何無視してんのよ?あの2人が何?」

「いや、なんでもない」

「だったらなんでそんな怪しんでますって顔しているの?まさか前見たいに…?」

「ハァ…相変わらず説明しなければ気がすまんらしいな君は…」

 

溜息を付くと共にアーチャーはキャスターの方へと移動を始めた。自分のサーヴァントの行動に首を傾げながらも凜はアーチャーを追いかける。

 

 

 

 

 

「…なんの用かしら?」

 

明らかに不機嫌であると顔に出すキャスターに構わず、アーチャーは本題を口にした。

 

「確認したいことがある。キャスター、間桐光太郎の腹部にある石について、どこまで解っている?」

 

アーチャーがどうしても確認しなければならなかった事…それはダロムへ必殺技をぶつける寸前に光太郎が起こした現象についてであった。

 

光太郎の複眼が一瞬であったとはいえ、紫色に輝いた時…ダロムは動きが封じられ、光太郎の攻撃から逃れることが出来なかった旨を説明する。

 

「もしあれが間桐光太郎のサーヴァントであるライダーの能力によるものだとしたら…」

「そんなッ!?あの人の力は確かに出鱈目ではあるけど、サーヴァントの能力を使えるなんて―――」

「…考えられなくは、ないわ」

 

アーチャーの推測を否定しようと声を上げる凜の言葉は肯定するキャスターによって遮られる。

 

「こちらの戦いの時も、ライダーが彼が攻撃を打つ際に現れる赤い光を使った…とても偶然とは思えないわ」

「それは…」

 

凛もそれは目撃していた。あの時、ライダーが宝具を発動させてビシュムへと突撃を仕掛けた際に赤い光を放ち、破壊力を上昇させたことによって倒すことに成功している。

マスターとサーヴァントが念話で通じ合え、感覚を共有することはあっても能力を使用できるなどありえない。だが現実に間桐光太郎はライダーの石化の能力を、ライダーは間桐光太郎の攻撃力上昇させる効果をそれぞれ使用していた。

 

単なる偶然ではなく、間桐光太郎の待つキングストーンが原因なのかと推測したアーチャーは、一度は手にしようと彼を誘拐までしたキャスターに意見を求めたのであった。

 

「…彼が、魔力を生成する能力は持たず、代わりにキングストーンの力を魔力に変換してライダーを現界させている。ここまでは分かっているわよね?」

 

自分の言ったことに頷くアーチャーと凜を確認すると予測に過ぎず、荒唐無稽な説明を始めた。

 

「先の説明で補足すると、正しくはキングストーンのエネルギーを彼の手に刻まれた令呪という変換器を通して魔力に変換して、ライダーへ供給されている。けど、今ライダーへ流れている力が変換された魔力ではなく純粋にキングストーンのエネルギーだったとすれば…ライダーが彼の力の一端を使えた事は説明できる。そして、原因には心当たりがあるわ」

 

間桐光太郎とシャドームーンによる1対1の決闘の中で、光太郎はキングストーンの力を全て解き放ち、計り知れない力にライダーが耐えきれない程の魔力が注がれた時だ。キャスターによって余剰の魔力を吸いだれたことで消滅を免れたいたが、その際に変換された魔力だけでなく、キングストーンの力が流れる『経路』が出来てしまったとしたら…

 

「彼は既に令呪の変換なしでキングストーンの力だけでライダーを現界させることも出来る。それだけでなくマスターからサーヴァントへの一方的な『供給』ではなく力の『共有』だって不可能じゃないわ」

「能力の…『共有』か」

 

ならば一瞬とはいえ、ダロムを石化させた事も納得できる。聞けば聞く程出鱈目ではあるのだが…と受け入れる以外にないアーチャーと凜は話題にあった2人の方へと顔を向けた。

 

 

 

 

 

「いよいよですね」

「ああ。残るは創世王…だけって、考えたい」

「コウタロウ…」

 

光太郎に取って気がかりなのはこの場に未だ姿を現さない宿敵の存在だった。

 

キャスターから聞いた限り、シャドームーンは一度死んだ自分からキングストーンを奪う最大の好機をあえて逃し、創世王の言葉に逆らって光太郎達を逃した様子だった。決闘に横槍を入れられたことでの反発だったかもしれないが、それでも光太郎はシャドームーンが…自分の知る信彦がどんな経由があったにしろ助けてくれたのだと信じたかった。

 

「…コウタロウ。ですが、また彼が立ちふさがるようだったら…」

「戦うよ…ますます諦められなくなった。信彦を助けることをね」

 

ライダーはもし、再びシャドームーンと対峙した時に迷いが生じるのではないかと不安に思っていたが杞憂であったと知る。自分達を救ったというで揺らいだと思えた光太郎の決意はさらに強いものとなっていた。

可能であれば戦いたくはない。しかし、そうしなければ通じ合えないのであれば全力でぶつかり合った上で助けて見せる。それが、光太郎の決意だった。

 

「相変わらず、前向きなのですね」

「ああ、ライダーのおかげでね」

「え…?私、ですか?」

 

よほど予想外の言葉だったのか。ぽかんと口を開けるライダーに仮面の下でクスリと笑いながら光太郎はパートナーの肩へ優しく手を置く。

 

「俺が初めてシャドームーンと戦った後…敵として倒すしかないって言った時。ライダーは諦めては駄目だって、言ってくれたんだよ」

「あ…」

「あの言葉が、俺に決意させてくれたんだ。どんなに望みが小さくても、俺はシャドームーンを…信彦を助けて見せるって…」

「いえ、私は…」

「だから、俺は戦える。心配しなくても大丈夫だよ、ライダー」

 

肩に置かれた手から伝わる暖かを確かに感じながら、ライダーは自分の手を続けて重ねながらも意地の悪い笑みを作る。

 

「…貴方を心配するなという方が無理です」

「ひどいな…」

「日頃の行いですよ」

 

いい雰囲気になると思いきや普段のライダーに言い負かされる光太郎の図に、バーサーカーとアサシンの応急処置を終えた慎二と桜の2人は落胆を隠すことなくワザとらしく溜息をつく。

 

 

「ったく、こんな時までいつものオチ作っちゃって…」

「…ライダーさんを『義姉さん』とまだ呼べませんね…」

「ちょ、桜ッ!?」

 

自らのアイデンティティを危惧させる発言をした実妹に思わず物申そうとした凜は何かに気付き、周囲を見渡す。彼女だけではない。この場にあった平穏な空気など吹き飛ばし、全員が

手に得物を握り、警戒している。

 

「…とっとと出てきたらどうだ?隠れてたってその殺気はけせていないぞ…ゴルゴムッ!!」

 

光太郎の叫びに反応し、森の茂み、洞窟の奥、崖の上から次々とゴルゴムの怪人が姿を現した。聖杯の泥は浴びていないようだが、数だけならば先ほどの比ではない。

 

「どこに潜んでいたんだよ、こいつら…」

「…恐らく日本に潜伏していた怪人達がここに集まったんだろう」

 

士郎の疑問にすんなりと答えた光太郎は内心、想像以上に群がった怪人達に圧倒されていた。

 

「どうだ仮面ライダー…これだけの数、相手に出来るか!!」

「お前は…」

「我が名はトゲウオ怪人!!さぁ、サーヴァント共々滅びるがいいッ!!」

 

怪人軍団の司令塔であるトゲウオ怪人の命令が開戦の狼煙となり、一斉に光太郎達へと元へと駆けていく。構えを取る一同の背を飛び越え、白い粘液が次々と最前線を駆けていた怪人達に降り注ぎ、その動きを止めてしまう。後に続いていた怪人が次々と追突し、ついには怪人の大半が蹴躓くこととなってしまった。

 

 

 

「あの攻撃は…まさかッ!?」

 

 

 

振り返る光太郎達が見たものは、その頭部から唯一の攻撃とも言える粘液攻撃を続けているクジラ怪人の群れであった。大きさも全てが異なっており、バーサーカーのような巨体もいれば、自分達の知るクジラ怪人の腰の高さまでしか背のない幼体までいる。

 

その中心にいるのは、かつて光太郎が救い、ギルガメッシュと決戦前に分かれた個体が懸命に手を振っていた。

 

「うそ…怪人が、私達を助けたの?」

 

信じられない光景に凜は目を見開いて驚くしかなかった。自分達を援護しただけでなく、そのうち1体がギルガメッシュに近づくと、嬉しそうに声を上げているのだから。ギルガメッシュも肩を竦めながらも黄金の甲冑で覆われた手でクジラ怪人の手を

撫でている。

 

「…来るなと言ったのになんとも律儀な奴よ…だが、大義であった。おかげで『道』を創る算段が付いた」

 

手を離したギルガメッシュが宝物庫から取り出したものは、唯一彼の担い手となっている剣だった。乖離剣はまるで不機嫌であるかのようにガタガタと不規則に回転をしている。

 

「ヘソを曲げるな『エア』よ。確かにあのような雑草共などお前には取るに足らないが…それでも、お前にしか出来んことなのだ」

 

ギルガメッシュのかけた言葉に従ったのか、剣の回転は一度緩やかになると段々とその速度を上げ、剣先で小さな渦が発生した。

 

「威力は最小に止めてやろう…この我が作る道。無碍にしたら許さんぞ」

「…ああ!」

 

ギルガメッシュの意図を汲んだ光太郎は続いてライダーへと視線を向ける。ライダーも既に理解していたようであり無言で頷くとマスターと共に周りを見渡す。

 

「…先に行ってろ。絶対に追いつく」

「光太郎兄さんも、ライダーさんも気を付けて…」

 

慎二と桜も、ギルガメッシュが起こそうとした事に勘付き、露払いを買って出ている。2人だけでなく、セイバーや士郎達も同様であった。

 

「…待っていてください。こんな奴ら、すぐに倒して見せます!」

「ま、着く頃には決着が付けといてくれたら嬉しいんだけど」

 

士郎と凜に力強く頷いた光太郎はライダーと並び立ち、自分達と共に敵地の中心へと飛び込む仲間の名を轟かせる。

 

 

 

 

「バトルホッパーッ!!ロードセクターッ!!」

 

 

 

光太郎の言葉に応じ、立ち上がろうとした怪人達を踏み倒し、2台のバイクが光太郎とライダーの前へと現れる。光太郎がロードセクターに、ライダーがバトルホッパーへと搭乗した事を確認し、ギルガメッシュはエアの剣先を前方へと向ける。

 

 

「さぁ、行くがいい!!天地乖離す開闢の星(エヌマエリシュ)の創る道をッ!!」

 

エアから放たれた力は、文字通り大地を削りながら進んでいく。その先にあるものは圧倒的な力に飲み込まれ、消滅していく。

 

「な、なんだこれはああぁぁぁぁぁっぁぁぁッ!?」

 

怪人軍団の最後尾…洞窟の入り口の前で戦況を見ていたトビウオ怪人が目にしたのは次々と仲間をすり潰しながら迫る力の塊。その正体を確かめる間もなく、トビウオ怪人の命も同様に原型を止めることなく飛散していった。

 

 

「行くぞッ!ライダーッ!!」

「はいッ!!」

 

アクセルを全開にした2台はギルガメッシュが作った洞窟までの『一本道』を爆走する。背後で始まった戦いに振り返ることなく進んでいく。

 

彼らが勝利し、自分達の元へと現れることを信じて、真っ直ぐ進む。

 

 

 

最後の決戦は、近い。

 

 




クジラ怪人、全員集合でありました。
敵怪人は500体ほどいると考えてくれればよろしいかと…

お気軽に感想を書いて頂ければ幸いです。


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第66話『悪魔の降臨』

そろそろタグに「捏造あり」とつけようかしら…?
では、66話となります!


シートとハンドルから伝わる振動が、自分達の進んでいる道がいかに悪路であるかを思い知らされる。オンロードバイクとして設計されているロードセクターならなおの事だろう。

だが、操縦する間桐光太郎にとってはそんな状態など些細なことだ。

 

この先に辿りつくために、仲間達が切り開いてくれた道を全力で進んでいく。

 

待ち伏せしていた怪人共などに裂いている時間など、ありはしない。

 

 

 

「どけえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

 

光太郎の叫びに反応したかのように展開されたイオンシールド。本来であればスパークリングアタックの使用時のみ現れるのだが、主の意思へ応えるようにプログラムを強制起動。さらには強化されたキングストーンの力が相乗効果をもたらし、赤いオーラに包まれて爆走するロードセクターに突き飛ばされた怪人達は次々と塵とかしていく。

 

 

 

先行する光太郎に遅れまいと加速するバトルホッパーの意地を操縦席上で微笑みながらも、ライダーはグリップを強く握る。

 

(この先に聖杯が…そして、光太郎の運命を歪ませたゴルゴムの支配者がいる)

 

そこで全ての決着がつく。光太郎の長い戦いも、自分のサーヴァントとしての役目も。

 

視線の先にある黒い背中を見つめるライダーは自分をただの使い魔ではなく、対等の相手として見てくれたマスター…光太郎と初めて顔を合わせた時を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「聖杯の声に応じ、ライダーのサーヴァントとして参上しました。貴方が、私を召喚されたマスターでしょうか?」

「…………………………………………」

「……?」

 

自分のマスターであろう男性に声にかけたても茫然と立ち尽くしている姿を不思議と思ったライダーは手の甲を見る。令呪が刻まれており、彼から自分へと魔力の供給されていることから間違いなく自分のマスターであることは確認できる。

しかし、マスターはずっと自分を見つめている。もしや自分に可笑しな点でもあるのだろうかと身体を見回すが特に汚れている箇所など見当たらないし、姉から貰った衣服にも綻び一つない。

 

ならば、マスターが本来召喚したかった別のサーヴァントだったのだろうかと考えている最中、突如マスターはライダーの手を取って移動を開始した。

 

「これから家族を紹介するよ」

「えっ…?」

 

召喚の失敗に狼狽えていたと思っていたマスターは笑顔を向けて自分を地下から地上へと連れ出していく。重たい扉を開き、清潔を保たれている洋風の造りとなっている通路を抜け、食卓らしき空間に出るとマスターの肉親らしき少年と少女が食事を取っており、彼らが反応するよりも早く、こう告げたのだ。

 

 

 

「今日から暫くこの家の一員となったサーヴァントのライダーだ。二人とも、仲よくしてくれ!」

 

 

 

空気が凍った、としか言いようがなかった。少年と少女は状況を理解できず、マスターはしたり顔で頷き、そのマスターの意味不明な行動にライダーは混乱するしかなかった。

 

 

「…光太郎」

「な、何かな慎二君?」

 

手にした箸を皿に置いた少年の低い声にマスターはビクリと身体を震わせながら聞き返す。ユラリと立ち上がる少年は明らかに不機嫌…というよりも明らかに怒っている様子だ。

 

「…何召喚してんの?あれほど準備が整ってから言ったのにさぁ」

「あ…えっと」

「取りあえず、座って話を聞かせてもらおうかな?」

「慎二君、これには深い訳があって…」

「座ってから話せよ」

「つまりはね、偶然が重なった結果―――」

「座れ」

「はい」

 

歳が下であろう少年の迫力に負けたマスターは姿勢を正し、床へと正座。その姿には威厳の欠片もなかった。

 

 

話を整理すると。

 

かつて蟲蔵と呼ばれた地下に設けられた空間。間桐光太郎はそこで亡き祖父、蔵硯の残した資料を基に義弟と英霊を召喚に必要な魔法陣を作成。後は聖遺物を入手するだけという段階であったがここで事故が発生する。

 

光太郎は暗記した召喚用の詠唱が正確であっただろうか…と、不安にかられて地下の蟲蔵に置き忘れた詠唱の書かれたノートを取りに向かった。桜から夕食がもうじき出来上がると声を聞かされたので手早く済まそうと地下への階段を駆け下り、目当てのノートを手に取った光太郎は念のため、ということでその場で詠唱の発声練習を始めてしまう。その結果…

 

「え?」

 

突然光太郎の手の甲に刻まれた令呪が熱くなったと思った直後に魔法陣から放たれた眩い閃光。その光が晴れた場所には美しき女性の姿があった。

 

 

 

「………………」

 

ライダーは思わず額を抑えた。

 

マスター…光太郎と呼ばれた青年は偶然というより、彼自身の不手際で自分を召喚したことになる。あれ程勝手に…などガミガミと少年に説教を受けている光太郎はマスターとして大丈夫なのであろうかと不安しか浮かばないライダーの隣に、何時の間にか少女が移動していた。

 

「あ、あの…光太郎兄さんと一緒に戦ってくれる方…ですよね?」

 

恐る恐る尋ねる少女にライダーは頷く。

 

「兄を、よろしくお願いしますッ!!」

 

説教をしている慎二と受けている光太郎が思わず振り返ってしまう程の大声を上げた少女は、ライダーが顔を上げてくださいと言うまで、頭を下げ続けていた。

 

 

 

 

これが最初だった。

お世辞にも良い出会いとは言えなかったが、ここから間桐家と自分の生活が始まったとライダーは思う。そして情けないという印象でしかなかった光太郎という人物と一緒に戦っていくうちに理解し、愛した。

そして、彼との時間も、もうじき終わりを告げる。

 

世紀王を倒し、自分をサーヴァントとして現界させている大聖杯を破壊して、聖杯戦争を終結させる。

 

光太郎はその為に、これまで戦い続けてきた。ライダーに出来ることは、光太郎と最後まで一緒に戦い続けること。そして最後は…

 

「PiPiPiPi…!!」

「バトルホッパー…?ええ、そうですね」

 

最後の事など、全てが終わった後に考えればいい。諭してくれた光太郎を自分以上に支えてきたバトルホッパーの声に応え、前を見る。その先にある、決着の場へとたどり着く為に。

 

やがて、2人は洞窟を抜けて大空洞『龍洞』へと到着した。

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

ロードセクターとバトルホッパーを真横に向け、急ブレーキをかける光太郎とライダーの視線の先にあるもの…龍洞の中央に位置する崖の上に聳え立つ物体を発見する。

 

螺旋を描くように隆起しているそれは、浮かぶ黒い月のような球体を求めて必死に伸ばしている手にも見えた。その黒い球体から途絶えることなく黒い泥を崖の内側へと注ぎ続けている。

その球体の下には意識を失い、黒い球体の状態を保つためだけに生まれた少女の姿があった。

 

「あれが…バーサーカーのマスターである少女?」

「ええ、間違いありません」

 

ライダー達とは別に召喚されたサーヴァントの魂を注がれ、聖杯として機能したイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。今の彼女は人でも、ホムンクルスでもなく、黒い泥を生み続けるためだけに組み込まれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、あれが聖杯と…あの崖の下にあるのが…」

「大聖杯…」

 

ついに見つけた。祖父から受け継いだ意思を、大聖杯を消滅させるという願い叶える時がやっときたのだ。無言で視線を合わせる光太郎とライダーは再度自分の乗る仲間へ呼びかける。

 

「ロードセクター、頼む!」

「あの崖までお願いします、バトルホッパー!」

 

2人の言葉に応えた2台のバイクは急発進。2輪のタイヤで大地を削りながら猛スピードで聖杯となったイリヤ、そして大聖杯へと接近していく。

 

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

「まずは、イリヤスフィールを聖杯から引き剥がすッ!!」

 

グリップから両手を離した光太郎は左右に両腕を展開する。キングストーンフラッシュを放射し、イリヤを聖杯から解放するために構えを取るが…

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

(なんだ…?)

 

先程から耳に入ってくる異様な音。次第に音は大きくなり、それに合わせて光太郎の中で拭えない不安が生じ、段々と大きくなっていく。

 

(いや、それよりも今は―――)

 

頭を振るい、接近していく聖杯へと意識を向ける。あの白い少女を助け出すことが先決だ。光太郎は力をエナジーリアクターへと集中させる。

 

 

 

「キングストーン―――」

 

 

『―――手を出すでない』

 

 

両手をベルトの上で重ねようとしたその瞬間、光太郎とライダーの頭に響く声。謎の声に気を取られた直後、光太郎達へと落雷が降り注ぐ。

 

 

「グアアァァァァァッ!?」

「アァァァッ!?」

 

突然の出来事に光太郎とライダーは振り落とされ、地面へと落下、地面を転がっていく。

 

「PiPiPi…!?」

 

搭乗者の異変に気付いたバトルホッパーとロードセクターは急ぎUターンし、主達の元へと向かおうとするが、上空から降ってきた光の網に囚われ、動きを封じられてしまう。

 

「ば、バトルホッパーッ!?ロードセクターも…!」

 

身体の痺れに耐えながらも立ち上がった光太郎は未だ痙攣しているライダーへと駆け寄る。

 

「ライダーッ!大丈夫か!?」

「は、はい、なんとか…しかし、今の攻撃は…?」

 

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

「光太郎…この音は一体…?」

「ライダーにも聞こえるか…」

 

もはや幻聴ではないだろう。それに、光太郎がキングストーンの力を放とうとした時、はっきりと声が聞こえた。そう、シャドームーンとの決闘した、あの時と全く同じ声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姿を現せ…創世王ッ!!」

 

 

 

 

光太郎の怒声が龍洞の中で木霊する。しばしの沈黙の後に、聖杯の上で空間に歪が生じた。ギルガメッシュが宝具を取り出す際に浮かぶ波紋などではなく、文字通りに空間を裂いて、それは現れた。

 

 

 

「…ッ!?」

 

 

ライダーには、理解の追いつかない存在だった。

 

 

異空間から現れたそれには多くの管が生えており、小さな穴から蒸気が噴出していた。岩のような表面の隙間から見える赤い光と共にが自分と光太郎の耳に届いた音を定期的に発生させ、その度に光を明暗させている。

その音が「鼓動」…人間の臓器で波打つように発生するものと同じものだとしたら、姿を現したその正体は…

 

 

「心臓…だというのですか?」

「ああ…そして、あれが創世王の正体だ!!」

 

光太郎の言葉にライダーは息を飲む。

 

そう、創世王の姿は人間でいう『心臓』と酷似している。だがその大きさは常人の数倍以上あり、そこから感じられる力は明らかに自分達サーヴァントを凌駕している。それでも、隣に立つ光太郎は臆することなく現れた敵の首領を睨み続けていた。

 

 

『―――よくぞここまで辿りついた。見事であったぞブラックサン』

「……………」

 

頭の中に響く声…創世王は光太郎を称賛しているようだが、当の光太郎本人は返事すらせず、相手の出方を待っている。

 

 

『私の助力があったとはいえ、シャドームーンの攻撃から生還し、我らが施した改造以上の力を手にするとは…お前こそ、私の後に創世王となるに相応しい』

「なんだと…?」

 

自分の命を奪い、キングストーンを奪うようにゴルゴムの神官へと命令した者の言動とは思えない言葉に、光太郎は眉を潜める。ライダーも同様であり、キャスターによれば光太郎が一度死んだ際にシャドームーンへ彼を殺し、キングストーンを奪うように強要したはずだ。

手のひらを返したように光太郎を後継者として迎え入れようとする創世王の言葉は続く。

 

『まもなく私の命は尽きるであろう。その前に、この星の支配者を決めなければならん。さぁブラックサンよ…この先で眠るシャドームーンからキングストーンを奪い、聖杯の泥で世界を覆うがいい…そして、この世界をゴルゴムの楽園とするのだ!』

「断るッ!!信彦を殺すことも、世界を滅ぼすことも俺は望んでいないッ!!」

 

創世王の誘いを拒んだ光太郎は強く拳を握る。光太郎は親友の信彦を救い、守りたいと思う多くの人々の為に今まで戦ってきた。

 

創世王の意思と光太郎の意思は完全に相反しているのだ。

 

『何故だ…貴様は創世王となれば、地球の支配者となれるというのに…』

「この地球に、支配者なんて必要ない!もし必要があるとすれば、貴様という悪を憎む正義の心と、人と人が思い合える絆だッ!!」

 

かつて、自分に絆の大切さを思い出させてくれた大柄の男を思い出す。自分は王だと名乗る変わった男ではあるが、人を導く器量は正に王と呼ぶに相応しい人物だった。光太郎の過去を見たライダーは自分と同じライダーのサーヴァントの姿を連想し、彼の言葉はしっかりと光太郎の中で生きているのだと確信し、光太郎の隣に立つ。

 

「ライダー…」

「では、見せて上げましょう。絆の力を」

「ああッ!!」

 

頷いた光太郎はライダーと共に創世王へと拳を向ける。その直後、光太郎とライダーへ向けて再び落雷が迫る。

 

「くっ…!」

「はぁッ!」

 

真横に飛んで回避した2人は沈黙を続けていた創世王の鼓動がさらに強まっていることに気付く。

 

『愚か者め…ならば、その身体とキングストーンは私が使うとしよう』

「なんですって…!?」

 

聞き捨てならない言葉を聞いたライダーは離れてしまった光太郎を見るが、特に驚いた様子はない。まるで、以前から知っていたかのように…

 

「なるほどな…お前の『意思』は、そうやって何度も創世王として続いていたのか」

『…気付いていたか』

「このキングストーンとも長い付き合いになるからな。でも、はっきりとしたのはついさっきだ」

 

それはフラッシュバックしたように、鮮明に映し出された光景。キングストーンが持つ過去の記憶だった。

 

 

 

かつての光太郎と信彦のように交流を持っていた2人の青年が世紀王へと変えられ、命を奪い合う戦いを繰り広げた。苛烈を極めた戦いの果て、遂に1人の世紀王がキングストーンを2つ手に取った時であった。

 

突然苦しみだした世紀王の意思は先代の創世王によって浸食されてしまう。その苦しみの中、脳改造によって失っていた記憶を取り戻した世紀王は、自らの手で親友を殺したという絶望の中で意識が消滅。立っていたのは新たな肉体を手にし、狂喜の笑いを上げる創世王だった。

 

 

 

「そして今度は俺と信彦…どちらかの肉体を奪うつもりだったんだ」

「なんと…下劣な」

 

創世王の所業にはライダーでさえも怒りを隠せない。だが、自分以上に怒りを上げるはずの光太郎は先ほどから様子は変わらない。むしろ、冷静になってすらいるようだ。人間としての自分を、親友を、家族を奪った相手が想像以上の悪であるというのに。

 

「コウタロウ…」

「…怒ってるさ。でも、それ以上に奴を倒さなければならないって気持ちの方が、強い」

 

このまま創世王の意のままになれば、第2、第3の世紀王が生まれる事となる。自分のような存在を生まれるなんて、もうたくさんだ。

 

 

 

「だからこそ、俺はお前と戦うッ!!ゴルゴムの支配者、創世王ッ!!自らの為に多くの人々を利用し、苦しめたことを俺は絶対に許さんッ!!!」

 

創世王を指差した光太郎の宣言は私怨でも、家族の敵討ちでもなかった。これ以上、ゴルゴムと創世王の暴挙を許さない仮面ライダーとしての決意であった。

 

 

『…ならば、相手をしてやろう』

 

創世王の身体から赤い光が一度強く発光する。

 

「イヤアアアァァァァァァァッ!!」

「い、イリヤスフィールッ!?」

 

聖杯となったイリヤを介して浮き出た黒い泥…聖杯の呪いは軟体生物の触手のように伸びていき、創世王を包んでいった。

 

「…何が起きているんだ?」

 

空を見つめる光太郎とライダーが見つめる中、遂に創世王が完全に泥に覆われると、変化が始まる。

 

 

黒い球体から四肢が生え、段々と人の形へと近づきながら、降下を始めた。

 

 

ついには完全な人の形となったその姿に、光太郎とライダーは硬直する。

 

 

足首と膝にはシャドームーン以上に大きく、さらに鋭利となった刺。表面の泥が剥がれれ落ちた身体は血よりもさらに紅く、返り血で染まったような色だった。

 

 

その全長はバーサーカーよりも巨体であり、3メートル近くはあるだろう。

 

 

全体を見れば、紅くなったシャドームーンという印象だ。しかし複眼はさらに鋭く、邪悪な目つきとなっている。

 

 

そして腹部には、穴が2つ空いている。これから手にする2つの石を入れる為であるかのように…

 

 

 

 

『さぁ、始めようではないか。私を退屈させるなよ…?』

 

 

 

かつての姿を取り戻した創世王は、光太郎とライダーに迫った。




創世王はその位が継がれていくのではなく、意思そのものが続いていたのではないだろうか…という妄想。

お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです。


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第67話『絶望の襲来』

ロストヒーローズ2体験版プレイ中
ブラックのライダーパンチで火を噴かせてます。

では、67話


「他愛のない…」

 

 

ギルガメッシュが腰布を払ったと同時に、最後の怪人が息絶えた。

 

 

 

間桐光太郎とライダーが洞窟の奥へと進んだ後、サーヴァントとそのマスター達へと襲い掛かったゴルゴムの怪人軍団。ギルガメッシュの放った宝具により司令塔であるトゲウオ怪人や多くの同胞を失っても勢力は衰えることを知らず、その牙を敵へと伸ばした。

しかし、聖杯の泥による力の底上げもなく、新都への侵攻時に同種の個体とは嫌と言う程戦いを経験し、その特徴や弱点を把握したサーヴァント達に怪人達は敵うはずがなかった。

 

 

「…打ち止め…でしょうか?」

「たぶんね」

「…安心していい。周囲には怪人らしきものはいない」

 

 

肩で息をし、背中を合わせて周りを警戒する桜と凛はアーチャーによる索敵の結果を聞き、ゆっくりと息を吐くと構えた手と武器を下ろす。

サーヴァント達による奮闘もあるが、よくあの押し寄せる怪人達を退けられたものだと自分を称えたくなった凛ではあったが、それは彼らの協力があってこそだろうと、騒がしくなった方へと視線を向ける。

 

「だから、離れろってんだろッ!!」

「懐かれたなぁ、慎二」

「笑ってないでどかすの手伝えよ衛宮ッ!?」

 

見れば幼体のクジラ怪人の数匹が慎二の身体に頭を擦りつけている。当の本人は照れているのか必死に追い払おうとしているが一向に離れる気配は見せず、その微笑ましい光景を見ていた士郎は戦いの疲労を忘れかけていた。

 

「まったく、緊張感がないんですから」

「そう言うな。小僧たちは我々と違い今を生きる者。ならば命拾いしたこの時を興じるのは致し方あるまい」

 

それぐらい許してやれと言いながら愛刀を鞘に納めるアサシンのすまし顔が気に食わなかったのか、プイと顔を背けるキャスターの顔はすぐれない。確かにこの場で味方が増援のクジラ怪人達を含めて誰一人欠けることなく勝利した。

だが、その為に彼女が行った他のサーヴァント、マスター達に施した魔術による補助…武具の強化や傷の治療を全て担っていた結果、蓄えていた光太郎の放った魔力を想像以上に消費してしまったのだ。

 

(彼が消耗しきった状態で実行に移そうとした際に返そうとしていたけど…今の量では…)

 

想定以上に魔力を失ってしまった自分の読みの甘さを痛感するキャスターは自分の頭部にほのかな温かみを感じた。見上げると表情一つ変えないマスターが手を自分の頭に乗せている。ただ、無言で。

 

「……………」

「宗一郎様…」

「すまんな。このような時、かけるべき言葉が浮かばん」

 

それでも、暗い顔をして不安そうな自分を励まそうとしてくれている不器用なマスターの気持ちに感謝しながらキャスターは思考を切り替える。そう、魔力量が減少したとしても、他に彼を手助けする手段はあるはず。

そんなことで考えを放棄するなど自分らしくないと気を持ち直したキャスターは改めて宗一郎の顔を見上げた。

 

「ありがとうございます。宗一郎様」

「…ああ」

 

サーヴァントとマスターという関係に留まらない者は、義兄だけではないのかと、キャスターと宗一郎のやり取りを眺めていた桜は洞窟の奥へと先行した2人の無事を祈ろうとしたその時。

 

 

「…ッ!?」

 

小岩に腰かけていたバーサーカーが突然立ち上がり、洞窟の奥を睨みつけた。犬歯をむき出しにして、怒りを隠そうとしない野獣の如くうねる姿に、ランサーは彼のマスターである少女がさらに危機的状況に陥ったのだと悟る。

 

「どうやら休んでる暇はなさそうだな」

「そのようですね」

 

ランサーに同意して拳を強く握るバゼットも自分はいつでも行けると言わんばかりに他のマスターへと目を向けた。

 

準備を整えた士郎と凜も頷き、2人のサーヴァントも問題ないと目配りする。そして準備を整えた一同は光太郎とライダーの後を追い、洞窟の奥へと駆けていく。

 

「…む?」

 

最後尾となったギルガメッシュは自分を引き留めるクジラ怪人へと顔を向けると、一族を引き連れていた個体は掌を差し出していた。その手の中には、紐で繋がれた小石程の水晶があった。

 

「…これを受け取れというのか?」

 

ギルガメッシュの喉を鳴らしながら頭を動かすクジラ怪人。目を細めながら紐を掴み、持ち上げたギルガメッシュは視線に水晶を掲げて見つめること数秒。その水晶が自分の良く知るものの結合されたものと気付く。

 

「よかろう。奴に渡しておく」

 

背後の空間に水晶を収めたギルガメッシュはクジラ怪人達を背にして洞窟の奥へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

気が付けば、汗を流している。

 

手に持った鎖を強く握りすぎて痛みを感じる。

 

自分を立たせている両足が、震えている。

 

紅い敵が一歩、また一歩と自分達へ接近する度に膨らむ恐怖心を必死に耐えながらライダーは隣に立つ光太郎と共に構えていた。眼帯は既に外し、石化を試みたが一瞬たりとも固まる様子もない。

キングストーンを身に着けなくとも、その絶大なる力によってライダーの魔眼がねじ伏せられているのだろうか…

 

『―――動かぬか』

「っ!?」

 

動きを止めた創世王の言葉を聞き、光太郎達に緊張が走る。

 

『ならば、こちらから仕掛けよう』

「ぐっ…がああああぁぁぁぁぁッ!?」

 

創世王が先攻を宣言した同時に、光太郎は腹部の激痛に苦悶の声を上げた。光太郎がその痛みが、自分のすぐ傍まで接近した創世王の拳が腹部にめり込んで起きたのだと理解出来たのは、十数メートル後にある壁へと叩きつけられ、めり込んだ後であった。

腹部の痛みに耐えながらも壁から自力で剥がれた光太郎は自分を見続ける創世王を睨む。

 

(速い…なんてものじゃない。俺の前に移動したことさえ気付かなかった…クッ!?)

「コウタロウッ!?このっ…!」

 

膝を着いてしまった光太郎の姿に逆上したライダーは渾身の力を込めて鎖を振るう。鎖の先端にある鉄杭は外れることなく、創世王の側頭部へと向けて飛んでいたが…

 

「なッ!?」

 

鉄杭は創世王の頭部をすり抜け、地面へと突き刺さる。立っていた創世王の姿が段々と薄れていき完全に姿を消した直後、あの場に立っていた創世王は残像であり、本体はライダーの背後まで移動していたのだと悟った。自身を覆う黒い影へと振り返りながら残る鉄杭を突き立てようするがそれよりも早く創世王の手がライダーの背中へと触れる。

 

冷たい嫌な感触がライダーの背に広がる前に、圧縮されたエネルギーが爆発。ゼロ距離で放たれた攻撃にライダーは悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされてしまう。

 

「ライダーッ!?危ないッ!!」

 

地面へと叩きつけられる前に光太郎が滑り込み、落下するライダーを抱きとめた。ライダーの背中は大きな火傷が残り、その手は痛みを我慢するかのように震えている。

 

「ライダー…」

「私は…大丈夫、です」

 

気丈にも笑って見せるライダーの姿に、光太郎は拳を強く握りしめて決心する。

 

「ライダー…少し、我慢していてくれ」

 

光太郎は背中を地に着けないように、ゆっくりと横向けに寝かせて創世王と対峙。これまで何も手を出そうとしないのは、余裕からであろうか。だが、光太郎は気にしている場合ではない。一刻も早く創世王を倒す為に全ての力を解放した。

 

「ハアァッ!!」

 

両拳をベルトの上で重ね、エナジーリアクターの輝きで全身を包む。交差した腕をゆっくりと左右に展開すると光太郎の関節部分が赤い光を放ち、複眼はさらに力強い輝きを放った。

 

使用すれば、過剰な力の供給によってライダーを消しかねない大きな力。世紀王の力を全開にした光太郎は地面を力強く蹴り、創世王へと接近戦を仕掛けた。

 

『シャドームーンとの戦いで見せた力か…だが、私に通用するかな?』

「やって見なければ…分からないッ!!」

 

そして2人は、その姿を消した。

 

 

 

 

「なんだ、これ…」

 

衛宮士郎が口から漏れた言葉に全員が同意せざる得ない状況だった。

 

洞窟の奥である大空洞へと出た士郎達が目にしたのは空洞の中央に聳える大聖杯。小聖杯と一体となり、黒い呪いに磔となったイリヤスフィール。

そして風を切る音と同時に次々と地面や壁が破裂する現象であった。

 

「ら、ライダーさんッ!?」

「あれは…くっ!せめて私が到着するまで待てなかったのっ!?」

 

全員が謎の爆発に気を取られている中、過剰の魔力供給に苦しむライダーの姿を発見した桜とキャスターはすぐに駆け寄り、キャスターは過剰魔力の排出を、桜は背中の治療を開始した。

 

「サクラ…キャスター…ご無事でしたか…」

「喋らないで!今急いで…え?」

 

急ぎ魔法陣を展開し、魔力の抽出を始めたキャスターだったが、ある違和感に気付く。ライダーから溢れる魔力が以前ほど強く感じられないのだ。

光太郎とシャドームーンの決戦時にライダーへ注がれた魔力を100とするなら、今回は40未満…それでもサーヴァントであるライダーへと流れる魔力としてはキャパを大幅に超えた力ではあるのだが…

 

(もしかして…ライダーへ流れる力すら必要だというの?)

 

魔力の抽出とは別に並行して展開した防護壁で数メートル先で起こった地面の爆発から自分や桜、ライダーを守りながらもキャスターは自分の考えをまとめる。

 

今、この空洞内で起きている爆発の原因は間違いなく光太郎と彼が敵対している存在…創世王によるものだろう。

 

シャドームーンとの戦いの時のように、もはや英霊ですら視認できないスピードで移動し、攻撃を打ち合っている結果、空洞内で次々と不可思議な現象が起きているに違いない。

 

(本来ライダーへ流れていく力すら使って戦っている。けど、そうまでして倒せない相手ならば…!)

 

キャスターの予感は、当たって欲しくない方へと的中してしまった。

 

 

 

 

(くっ…この姿でも見失わないのが精一杯だなんて…!!)

 

胸中で舌打ちをしながら、光太郎は創世王の後を追っていた。

 

世紀王としての力を解放した光太郎の能力は以前の数倍。加えて一度死の淵から甦った際に命のエキスの力により能力が向上しているはずなのに、創世王に攻撃がかすりもしない。

 

光太郎の攻撃が外れる度に地面や壁に大穴が空き、焦りがより強くなっていく。さらにはライダーへの負担も大きい今の姿では長時間戦えない。時間が経つに連れて自分を追い込んでしまう光太郎に決定的な隙を与えてしまったのは、一番の気がかりであったライダーの容態が安定したと確認が出来た時であった。

 

(キャスターッ!?そうか、彼女がライダーを…)

 

『余所見をするとは、随分と余裕だな、ブラックサンよ』

 

「―――ッ!?」

 

防御しようにも既に遅く、光太郎は創世王の踵落としを受け、地面へと叩きつけられてしまった。

 

 

 

 

 

「ちぃ…どうやらまともに攻撃を受けてしまったようだ…」

「嘘でしょ…?あの人が、全く敵わないなんて…」

 

アーチャーがはっきりと視認できたのは、創世王の攻撃が光太郎の胸へとめり込んだ瞬間。上空で静止した状態の光太郎に対し、創世王は更に力を込めて足を振り落とすことで落下する力を強めた。結果、地面へと衝突した余波で土埃が舞い、振動で凛達の足場は大きく揺れ動いた。

 

さらに目を凝らすアーチャーの視線の先…発生したクレーターの中央で光太郎は肩を庇いながらも立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

「くっ…せめて、攻撃が当たれば…」

『ならば、試してみるがいい』

 

光太郎は声の方へと顔を向ける。あれ程動き回っても息一つ乱した様子のない創世王との距離は約5メートル。充分に攻撃が放てる間合いだ。

 

『貴様の攻撃、あえて受けてやろう。そして、いかに自分が無力な存在か思い知るがいい』

「…っ!!」

 

明らかな挑発。だが、光太郎は創世王へと攻撃を放てる千載一遇の好機を逃すわけには行かなかった。

 

立ち上がった光太郎は両手を左右に広げ、両拳をベルトの上で拳を重ねた。直後、エナジーリアクターの中央で光るキングストーンがより強く発光させる。

 

右腕を前方に突出し、左腕を腰に添えた構えから両手を大きく右半身側へと振るう。左腕を水平に、右腕を右頬の前へと移動し、右拳を強く握りしめる。

 

右拳に赤い輝きを灯し、高く跳躍。

 

「ライダーッ―――」

 

創世王の胸板へと

 

「―――パァンチッ!!!」

 

必殺の拳を叩き込んだ。

 

 

 

間違いなく、光太郎の攻撃は創世王へと届いた。それだけだった。

 

「光太郎の…攻撃が…」

 

今まで怪人を倒せなくとも大きなダメージを与えられていた。あのシャドームーンも直撃を裂ける為に仕掛けた技を止めるという手段を持っていた。それは、少なからずとも受ければダメージを負うゆえの行動だったのだろう。

だが、慎二が見たのは光太郎の拳をその身に受けて、微動だにしない敵の姿だった。

 

 

『なんだったのだ?今のは…』

 

 

光太郎の拳から完全に光が消え失せ、茫然とする光太郎の頭部を掴んで持ち上げた創世王は、残る手を光太郎の胸部へと翳す。掌から放たれた光が爆発し、光太郎は放物線を描きながら吹き飛ばされてしまった。

音を立てて落下した光太郎の関節部から赤い光が消え失せ、ピクリとも動かない。

 

『やはり、キングストーンの持ちべき者は私しかいないようだな。その身体有効に…』

 

光太郎へと迫る創世王の言葉を止めたのは、乱発される無数の矢と、刀剣だった。

 

矢へと姿を変えた特殊な剣も、触れただけで消えない傷痕を残す魔剣の類をいくら身体に受けようが傷一つ負わないが、触れるという感覚が不快と考えた創世王を強力なバリアが展開される。

アーチャーが放つ宝具は何一つ、届くことは無かった。

 

「防御壁の類か。だが、全身を包んでいるわけではあるまい」

 

アーチャーの言葉に続くように、既に創世王の背後、左右へと迫っていたサーヴァント達はそれぞれの得物で仕留めようと降りかかっていた。

 

「くたばってもらうぜッ!」

「覚悟ッ!」

「■■■■■■―ッ!!!」

 

右側からランサー、左側からアサシン、背後からバーサーカーが創世王に向けてその刃を振り下ろすが、サーヴァント達は突如血をまき散らしながら地に伏せてしまう。

 

「な…んだってんだ…!?」

 

身体のあちこちが創世王の肘にある刺によって切り刻まれたのだと感ずいたのは、マスター達がこちらに駆け寄ろうとした時だった。まさか自分の目でも追えない攻撃とは恐れ入ったと一歩も動いた様子のない

創世王を見上げたランサーはニヤリと笑う。

 

「これで済むと思ったかい?」

 

果たして創世王の耳に届いていたかは不明だ。だが、ランサーの言った通り、彼らの攻撃はこれで終わりではない。

 

 

 

突如、創世王の真上で展開された魔法陣の中から出現したセイバーとアーチャー。キャスターの転移魔術によって飛ばされた2人は宝具である剣を今にも振り下ろそうとしていた。

 

セイバーは黄金の剣を。

 

アーチャーは魔術で創りだした最高峰の贋作を。

 

上を見上げる様子もない創世王への完璧な奇襲だった。だが、それは見上げるまでもなかったのだとセイバーとアーチャーは思い知ることとなる。

 

「なっ…!?」

「化け物め…ッ!!」

 

2人の振り下ろした剣は、創世王によって止められてしまった。指先で。指一本で、伝説の聖剣と、限りなく本物に近づけた剣を受け止められてしまっていた。

 

指先で弾かれて、両手を上へと大きく逸らしてしまったセイバーとアーチャーの胸に、創世王の拳がめり込む。肺に向けて放たれた拳圧で2人は吐血しながら、地面を滑っていく。

 

「セイバーッ!?」

「アーチャーッ!?しっかりして!!」

 

起き上がろうとする様子もない自らのサーヴァントへと駆け寄り、抱き起こそうとする士郎と凜が目にしたのは、その惨状に目を見開く。セイバーの魔力で編まれている甲冑はひび割れ、アーチャーの胸元は血で染まっている。

まだ息はあり、現界していられるのが奇跡に近い。

 

 

『英霊…人間よりも優れた存在と言われていたが、所詮はこの程度か』

 

掌の上で力を球状に凝縮し、ゆっくりと士郎や凛達へと向ける創世王。恐らく、放たれたら跡形もなく吹き飛ばすような威力なのだろう。2人のサーヴァントを抱いたまま動かない士郎と凜に向けて創世王が力を放とうとしたまさにその時であった。

 

『む…』

 

創世王の手足がどこからともなく出現した鎖によって拘束され、手に宿った力も消失してしまった。動こうにも鎖は更に拘束を強め、創世王の自由を完全に奪っていく。

 

「その鎖が効果しているということは、貴様のような輩にも少なからず神性が宿っているということか。嘆かわしい…」

 

その手に乖離剣を持った英雄王が悠々と現れる。身動きが取れない創世王へ接近しながら、敵の力に伏してしまった他の英霊を1人1人一瞥し、やがて一カ所へその視線を固定した。その先にいるのは、クレーターからで自力で這い上がろうとする黒い戦士。

 

『まだ一匹残っていたか。だが、この私の動きを封じるとは少しは骨があるようだ…この鎖を解けば、この無礼を許すぞ?』

「戯けたを抜かすな。そして、我に命令できるのは…我だけだッ!!」

 

明らかに見下した言い方に怒りを隠そうとしないギルガメッシュは手に持ったエアを掲げる。主の感情に呼応したかのように宝具はその回転を速め、魔力による暴風を巻き起こした。

 

「この世界に我以外の王は不要だ。特に、貴様のように王を名乗る不遜な輩はなぁッ!!」

 

創世王へと迫る世界を二つに分けたとされる対界宝具。その剣先が創世王の腹部へと届くと思われたが、攻撃はあと数センチとなった距離でピタリと止まり、エアの回転も緩み、やがて完全に止まってしまった。

 

「き、様…ッガフッ!?」

『せめて、指全てを鎖で縛るべきであったな』

 

赤黒い液体を吐き出しながらギルガメッシュは創世王の右腕を見る。指先全てから赤い光が灯っており、そこから放たれた怪光線が自分の胸を貫いたのだろうと、遅れて崩れていく黄金の甲冑を見つめていた。

鍛え抜かれたギルガメッシュの胸板に空いた5つの穴。ご丁寧に全てが急所を外されていることが、さらにギルガメッシュの怒りを買う結果となってしまった。

だが、ギルガメッシュに抗う術は無かった。背後に宝具を展開するよりも、手に持ったエアに再び魔力を宿すよりも、創世王が力を放つ方が早かった。

ギルガメッシュがその攻撃を避けられたのは、創世王を拘束していた『天の鎖』が主の身を案じ、自ら動いたからだろう。

 

鎖はギルガメッシュの胴体に巻き付くと一気にその場を離脱。創世王の攻撃を回避して地面にギルガメッシュを着地させ、倒れそうであった彼を慎二と桜に託すと光と共に消え失せた。同時に、創世王を再び自由となってしまう結果となってしまった。

 

 

 

 

「なんてこと…こうなったらっ!!」

 

あの聖杯から溢れる呪い…だが魔力には代わりない。あの魔力全てを創世王へと注ぎ込み、自己崩壊を起こさせる。危険な賭けではあるが、他に手段が見つからなかったキャスターは魔法陣を展開しようと手を翳すが…

 

「あぅッ!?」

 

地に引かれるように倒れしまったキャスター。だが、この感覚は最初ではない。光太郎が一度死に、放心状態であったシャドームーンに向けて攻撃魔術を放とうとした際にも創世王によって身体の自由を奪われてしまっていた。だが、今回は動きを封じるだけではなかった

 

「魔力が…吸収されていく」

 

キャスターを囲うように展開された黒い魔法陣。その効果によって吸われていく魔力の行先は、創世王。そして魔法陣に囚われていたのはキャスターだけではなかった。動くことが出来ないサーヴァント全員が囚われ、苦悶の表情を浮かべている。

このままではいずれ存在を保てなくなり、消滅を待つだけとなってしまうがそれぞれのマスターが必死に呼びかけ、解除しようと魔術を試みている。

だが、解除は不可能であるとキャスターは悟っていた。前回はもう自分を捉える必要がないと創世王が術式を解いたからこそ助かったのだ。

しかも術の効力は前回の比ではない。もう、キャスターには自分を呼び続けるマスターの声すらも届いていなかった。

 

 

 

 

『そのまま私の贄となるがいい。では、その身体を頂くとしよう。ブラックサン』

 

 

サーヴァント達から魔力を吸収しながら、創世王は当初の目的を果たすため、未だに立ち上がれていない光太郎の元へと歩いていく。

 

「くそ…このままでは…みんながっ…!!」

 

自分は立たなければならない。自分に迫る敵を倒さなければならない。なのに、なぜ立ち上がれないのだろう。なぜ、力を込めているはずの手が震えているのだろう。

 

…恐れているのだろうか?世紀王の力を使っても追いつけず、全力の攻撃が通用しなかった存在を。

 

 

敵わないと、諦めてしまっているのだろうか。

 

 

光太郎が自問する間にも、創世王は着実に光太郎との距離を縮めていく。あと5歩という距離ませ迫った時、光太郎と創世王の間に入る影があった。その気配を感じた光太郎が見たものは、両手を広げ、自分を庇うように立っているライダーの姿。

 

「ら、ライダーッ!?」

『…なるほど。私の術から脱出したのは、それか』

「………………………」

 

感心するように創世王は自分の前に立ち、無言で睨むサーヴァントの瞳を見つめた。ライダーの瞳に僅かながら赤い光が灯っており、その正体を創世王は嫌と言うほど知っている。

 

『まさか、キングストーンの力をサーヴァント如きが引き出すとはな…』

 

他のサーヴァントと同じく創世王の結界に閉じ込められていたライダーだったが、光太郎へと迫る創世王の姿を目にした途端に再び共有したキングストーンの力を使用。光太郎のキングストーンフラッシュと同じ要領で結界を打消し、光太郎の前へと現れたのであった。

しかしその反動も大きく、ライダーの肉体に大きな負担をかけていた。手足はガクガクと震え、立つことさえもままならない。それでも、彼女は立ち上がった。光太郎を守る為に。

 

『…世紀王でもない、亡霊にしか過ぎぬ貴様がキングストーンを使うとは興味深い。だが同時に消さなければならん』

 

創世王はゆっくりと右手を振り上げ、手刀をライダーの頭頂部目がけて振り下ろした。

 

 

『私以外に、この力を使うなど許されん』

 

 

黒く、禍々しい力を纏った手刀がライダーへと迫る。

 

ライダーの名を叫び、立ち上がった光太郎だが彼女の手を引いても、もう間に合わない。

 

 

 

 

 

光太郎が諦めかけた その時であった。

 

 

 

 

『むぅッ!?』

 

創世王は自らに迫る脅威に手を止めて、一歩後ろへと下がる。刹那、創世王とライダーの間に緑の雷が走った。

 

その雷は地面を駆けながら7つに分散。サーヴァント達を封じていた結界に接触した途端、砕ける音と共に黒い魔法陣を打ち消したのだ。

 

 

「コウタロウ…今のは」

「ああ…間違いない」

 

フラフラとするライダーを背後から支えた光太郎は、彼女と共に雷が発生した方へと目を向ける。自分達が入って来た穴とは別の入り口から、金属を打ち付けるような足音を立てて姿を現したのは、もう一人の世紀王。

 

 

銀色と黒の金属で覆われた身体にはまだ僅かながら亀裂が残っている。しかし、彼から放たれる闘気は、以前と比べものにもならない。

 

 

創世王はなぜ、自分に向けてこのような真似をするのか、今になって現れた世紀王へと問いただす。

 

『なんの真似だ?』

 

「決まっている」

 

光太郎とライダーの近くまで移動し、立ち止まった彼は、再び掌を放電させながら、創世王へと向ける。

 

 

「私とブラックサンの勝負を邪魔した報いを受けてもらうためだ」

 

 

月の世紀王、シャドームーンの復活であった。

 

 




というわけで、戦線復帰の影月さんです。

お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです!


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第68話『不滅の絆』 

さて、予定を守れず今の時間となってしまいました。

では68話をどうぞ!


ついに姿を現したゴルゴムの支配者『創世王』。これに立ち向かう間桐光太郎とライダーであったが、聖杯の力によりかつての姿となった創世王の圧倒的な

力により、駆けつけたサーヴァントと共に絶対絶命の危機に瀕してしまう。

 

そして、光太郎を庇うライダーに向けて創世王が腕を振り下ろそうとしたその時、世紀王シャドームーンが現したのであった。

 

「彼が……何故…?」

 

士郎の肩を借りて立ち上がったセイバーはかつて自分達の前に現れ、バーサーカーを瞬く間にねじ伏せた存在を見つめる。

 

何故、敵である彼がこの場に現れ、自分達を助けたのだろうか。

 

同じ組織に属する創世王と…支配者と敵対しているのだろうか。

 

 

 

しかし、セイバーは自分以上に今の状況に混乱しているであろうマスターの方へと目を向けた。

 

 

 

 

「信彦…」

 

自分の声が震えている事に間桐光太郎は気付くことなく目の前に現れ、背を向けているシャドームーンへと声をかける。シャドームーンは自身が放った攻撃から逃れた創世王を睨んだまま、光太郎の呼びかけに答えない。

光太郎はフラフラとした足取りで歩んでいき、振り向かせようとシャドームーンの肩へと手を伸ばそうとした。

 

微かな希望が、芽生えていた。もしかしたら、かつての親友に戻ってくれてたのかと。

 

 

「信彦ッ―――グッ!?」

 

 

光太郎の手が届く前に、その動きが止められてしまう。

 

シャドームーンは後へ振り向くことなく、接近した光太郎の胸板へ裏拳を叩きつけたのだ。胸を押さえて後退する光太郎を先ほどとは逆に支えるライダーはマスターへ暴挙を働いたシャドームーンを睨む。魔眼が通用しないことを恨めしく思うライダーと光太郎に、ようやくシャドームーンは声を発した。

 

「私がここに来たのは先ほど言った通り、余計な手出しをした創世王へ報いを受けさせるために過ぎん。妙な憶測を浮かべないことだな」

「信、彦…」

 

落胆する光太郎の姿を見ることなく、シャドームーンは―――

 

「…無様だな」

 

冷たく、そう言い放った。

 

「どうやら私と同等の力を発揮したのは、まぐれだったようだ。貴様のような腑抜けを一度とは認めた私が愚かだったよ」

「貴方はッ…!」

 

光太郎への暴言を止めようとしないシャドームーン。ライダーはただでさえ傷だらけの光太郎へ追い打ちを止めようとするがそれよりも早くシャドームーンの言葉が続く。

 

「そうであろう?今の貴様は創世王の力に恐怖し、身動きすら出来ずサーヴァントに庇われる始末…そのような輩など、この場で戦う資格すらない。キングストーンを奴に奪われぬよう、隅で震えているがいい」

 

シャドームーンの声が、光太郎へと突き刺さる。打たれた胸を押さえたまま俯く光太郎の姿を見て、悲しげ表情を浮かべるライダーはシャドームーンへと顔を向けると一変させる。

 

これ以上光太郎の身体だけでなく心まで傷ついてしまうのは、どうしても我慢できなかった。。

 

「シャドームーン…それ以上私のマスターを侮辱することは許しません!」

 

手にした鉄杭の先をシャドームーンの背中に向けるライダーの怒声が響く。かつてのように返り討ちに合うかもしれない。シャドームーンの身体から放たれる殺気だけで身動きが取れないかもしれない。それでもライダーは引き下がることは出来なかった。

しかし、シャドームーンはライダーの心情など露知らず、相変わらず背を向けたまライダーへ返答する。

 

「笑わせてくれるな…負け犬に対してこれ以上相応しい称賛などあるまい。勝利を諦めた者にはな」

 

光太郎の手が、ピクリと動く。

 

「どのような言葉や決意を並べようが、敵を倒し、勝利して証明させねば意味がない。今までそうしてきたようにな」

 

相変わらず、胸の痛みは引かない。だが、不思議と曇っていた部分が薄れていく。そんな不思議な気持ちとなった。

 

「確かに創世王は貴様達を凌駕する力と能力を持ち合わせているだろう。だが、何故そのような『下らん理由』で諦める必要がある?」

 

そう、例え相手が自分よりも圧倒的に力が勝っていたとしても、自分は諦めなかったはずだ。

 

ギルガメッシュに宝具の連射を受けた時も、ビルゲニアに剣で攻められた時も、自分の戦いを徹底的に分析したシャドームーンとの決闘の時も、諦めることだけはしなかったはずだ。

 

「自分より強力だろうが勝てない理由にはならん。決して屈することなく立ち上がり、勝利を収めてきた。少なくとも、私と戦っていた世紀王は、そうしていたはずだ」

 

誰もが、言葉を失う。鉄杭をシャドームーンに向けたまま目を広げているライダーも、魔力の半数以上を失い立つことがやっとのサーヴァント達も、サーヴァントを支えるマスター達や慎二、桜も…シャドームーンの言葉に耳を疑った。

だが、彼の性格を考えれば納得も出来た。自分と唯一渡り合える相手である光太郎が自分以外に倒されることを認めない。シャドームーンから見ればまさに今の状況は決して許されないことなのだろう。

 

もしかしたら、これはシャドームーンなりに立ち上がらせるために発破をかけているのかもしれない。そう考えた慎二は効果は抜群だったと、シャドームーンへと歩んでいく義兄の姿を見て思っていた。

 

「…………………」

「コウタロウ…?」

 

無言で自分の横を通り過ぎるマスターにライダーは思わず呟く。先ほどまでの弱った姿ではない。ライダーが普段見かける、こちらを安心させる力を放つ光太郎がそこにいた。

 

シャドームーンの背後に立った光太郎は今度こそシャドームーンの肩に手を置く。その行動に呆れながらも、シャドームーンは触れられた肩の方へと顔を向ける。

 

「…何のつも―――」

 

シャドームーンの言葉は鈍い音と共に止まった。

 

 

 

光太郎がシャドームーンの頬を思い切りブン殴ったからだ。

 

 

 

さすがに光太郎の行動が読めなかったのか、シャドームーンの言葉を聞き入っていた一同は唖然とし、ただ1人ギルガメッシュは笑いを堪えている。

 

殴られ、仰け反った上体をゆっくりと戻すシャドームーンの隣に移動した光太郎の声は、どこか晴れ晴れとしていた。

 

「助かったよシャドームーン。おかげで勝てる気になった」

「…今のが謝礼のつもりか?」

 

明らかに怒気を孕ませているシャドームーンの低い声に臆することなく、家族である慎二や桜達に話すような陽気な雰囲気で切り返す。

 

「よく言うだろ?一回は一回って」

「戯言を…私が納得すると思っているのか?」

「じゃあ、こうしよう」

 

視線を創世王へと向けた光太郎。その眼差しは恐怖を欠片も感じさせない。いつもシャドームーンやゴルゴムの怪人へ挑む時に見る、決意に満ちている目だ。

 

 

 

 

 

「さっさと創世王を倒して、今度こそ決着を付けよう」

 

 

 

 

もはやあんな奴は前座に過ぎない。

 

光太郎の発言にライダーは驚きつつも、何とも光太郎らしいと笑いを浮かべた。先ほどまでのダメージなどなかったと言わんばかりに生き生きとするマスターを今の状態にしたのは、経緯はどうあれシャドームーンがこの場にいてこそ。

正直、悔しくて仕方がなかった。

 

「…いいだろう。だが、忘れるな。奴に借りがあるのは私も同じなのだ」

「なら、やることは一つだな」

 

2人の世紀王は同時にその視線を禍々しい気を放ち続けるゴルゴムの支配者へと向ける。光太郎の言葉が聞こえたのか、今の今まで存在を無視していたからから、どうもご立腹であるらしい。

 

「異論は?」

「ない」

 

短く答えるシャドームーン。その単調な答えを聞き、仮面の下でクスリと笑いながら意識を創世王へと向けた。

 

 

 

「この場限りで合わせてやる。足手まといとなるな」

「それはこっちの台詞だよ」

 

 

お互いに確認した直後、光太郎は右腕を、シャドームーンは左腕を上げ、顔を合わせることなく手の甲で打ち合い、構えを取った。

 

「あ…」

 

2人の仕草に見覚えのあったライダーは短く声を漏らす。

 

かつて夢で光太郎の過去を垣間見た時にあった、光太郎と信彦がサッカークラブでの試合などで、絶対に負けられない時に行う2人だけの秘密の合図。無意識に行ったかもしれない。だが、それは光太郎とシャドームーンの気持ちが、間違いなく一つに重なった瞬間でもあった。

 

 

並び立つ2人の世紀王。信念は違えど、目的は一つとなった光太郎とシャドームーンに対し、創世王はそれでも怯むことなくゆっくりと接近を開始した。

 

 

『覚悟は出来たようだな…世紀王ども』

「待たせたな…と言っても、まだ決定打は見つからないけど」

 

後半を世紀王に聞こえない程度に声を小さくする光太郎はシャドームーンは掌に力を溜めていくことに気付く。

 

「残念だけど、キングストーンの力は創世王に通用しない。さっきだって…」

「ああ。充分に理解している。貴様の戦いを見る限りな」

「え…?ってことは俺達の戦い見てたのか!?」

 

創世王が接近中のため振り向けず、構えたままその場で光太郎は問いかける。シャドームーンはいつからか分からないが、光太郎達の戦いを傍観していたらしい。

 

「相手の力量が分からぬうちに挑む程私は愚かではない」

「…さいですか」

 

もう一発なぐってやりたいという衝動に駆られるが、それ以上にシャドームーンがキングストーンの力を使っている理由が気になった光太郎は質問を続ける。

 

「なら、どうして…」

「貴様はキングストーンの力を攻撃ばかりに使っていたのか?」

 

シャドームーンの回答に光太郎は今までの戦いの中で自分が使ったキングストーンの力を整理した。

 

怪人相手への決め技として使用したバイタルチャージなどの攻撃補助。

 

破壊光線や爆発から身を守る為の防御壁。

 

そして…

 

「…ッ!!」

 

光太郎が理解したと踏んだシャドームーンは手に溜めた力をさらに強め、先手を促す。

 

「行け。一番手は譲ってやる」

「ああッ…!」

 

頷いた光太郎は跳躍しながら両腕を左右に展開し、ベルトの上で両拳を重ねる。ベルトの中心が強く発光し、その輝きが右拳へと宿っていく。

光太郎が空から落下すると同時に高速移動するつもりでいた創世王だったが、足元がから火花が散ったことに気付くと思わず視線を地面を向ける。足元に緑色の電気が走り、それだけでなく亀裂が次々と発生していく。

シャドームーンが放ったシャドービームが地面を伝い、創世王の足元を揺らす事で高速移動するための『最初の踏込み』を妨害したのだ。

 

『だが、貴様等の攻撃は私には通用しない。身を持って知るがいい』

 

再び自分へ攻撃させ、無力であることを教えてやる。

 

だが、あえて攻撃を受けることは創世王にとって完全なる失敗であった。

 

「ハァァァァァァァァァァッ!!」

『ッ!?』

 

叫びと共に打ち出された光太郎の拳が創世王の右肩を捉える。赤い光を宿した拳が当たった瞬間、創世王にそれまでになかった感覚が肩に走った。

 

『痛み…だと?』

 

感じるはずのない痛みを感じた創世王に混乱している暇は無かった。攻撃を終えた光太郎が重力に引かれ、落下した直後、光太郎を隠れ蓑に接近していたシャドームーンの回し蹴りが創世王の側頭部を狙い繰り出されていたのだから。

 

「オォォォォォッ!!」

『ヌゥッ!?』

 

思わず腕を上げて防御する創世王に伸し掛かる緑色の光を宿したシャドームーンの蹴り。頭部を守ることは成功したが、掲げた腕に痺れが残る。痛みと共に。

 

『何故だ…貴様達、何をしたのだッ!?』

 

理解の追いつかない出来事に初めて激高する創世王の姿に立ち並んだ光太郎とシャドームーンは再びキングストーンの力を手足に宿しながら、応える。

 

「簡単さ。キングストーンの力を使って、削ってるだけだよ。お前の身体を構成している『魔力』をなッ!!」

 

 

聖杯の魔力によってかつての肉体となった創世王。その力と硬度はサーヴァント達を一撃で倒し、世紀王の力を全開にした光太郎の一撃すら耐えるほどだった。だが、それはかつての肉体を魔力で『再現』しているに過ぎなかった。

それに勘付いた光太郎とシャドームーンはキングストーンによる能力を使用した。

 

特殊能力の打消し。

 

幻術や魔術、結界に作用させ、力そのものを消滅させるキングストーンの能力の一つ。創世王が聖杯による魔力で構成されているのならば、その魔力を打ち消してしまえばいい。

まずはその理論が正しいか攻撃を当ててみなければ証明できなかったが、創世王の自尊心があったからこそ成功することが出来た。ある意味危険な賭けでもあったのだが、これで2人は創世王に対して、有効な手段を見つけたことになる。

 

『貴様等…許さん、許さんぞオォォォォォッ!!』

 

初めてダメージを受け、黒いオーラを纏った創世王は咆哮を上げて光太郎とシャドームーンへと迫った。

光太郎は怒り狂う創世王の姿を見て、逆に冷静となり心を落ち着かせていく。

 

「…さぁ、行こうシャドームーン」

「言われるまでもない」

 

関節部と複眼からそれぞれ赤と緑の光を放ちながら、2人の世紀王は同時に駆け出していく。

 

2人のキングストーンはこれまでにない輝きを放っていた。




素直に相手を助けるんじゃシャドームーンじゃないやい!てなことで下げて上げる方法をとりました。

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第69話『愚者の真意』

さらなる捏造設定にご注意ください。

では、69話です。


宿敵シャドームーンと共にゴルゴムの支配者創世王と対峙した間桐光太郎は、シャドームーンの助言によりついに敵へダメージを負わせることに成功する。

 

逆上し、雄叫びを上げて迫る創世王に対し、光太郎とシャドームーンは世紀王としての力を解放。同時に駆け出したのであった。

 

 

 

(何故だ…?)

 

これまでも、そしてこれから先も繰り返していくはずの儀式が、狂った。

 

5万年ごとに見つけ出す新たな『肉体共』が反旗を翻すなど、これまであり得なかった。

 

何処で間違っていたのか。

 

シャドームーンの言う通り、決闘を邪魔したからか。

 

10年前、脳改造をする前にブラックサンを逃がしてしまったからか。

 

そもそも、2人を世紀王として選んだこと自体が原因なのか。

 

自問する創世王に2人の世紀王の攻撃が次々と降り注いだ。

 

「トアッ!!」

「ハァッ!!」

 

『ヌォッ!?』

 

強く握りしめた光太郎とシャドームーンの拳が創世王の腹部へとめり込む。腹部から響く衝撃と痛みに身体の動きを止めた創世王に対し、2人の攻撃は止まらない。

背中を丸める創世王に再度拳を打ち込む為に腕を引くシャドームーンの肩に左手を乗せたまま光太郎は体を宙に浮かせる。左腕を軸にした光太郎の蹴りとシャドームーンの拳がそれぞれ腹部と肩へ鈍い音をたてて当たるのは同時だった。

 

『…ッ!?』

 

咄嗟に声を上げるのを耐えた創世王の視線から2人の姿が消える。いや、正面を見る創世王の真下へ移動した2人は身体を屈め、次なる攻撃の準備を終えていた。創世王がそれに気付いたが既に遅く、飛び上がった2人のアッパーが創世王の顎を捉えた。

 

『が…あっ…』

 

上体を仰け反らせる創世王。手ごたえのある攻撃を決めた2人であったが、着地を待たずに両足を屈め、創世王の胸板へキックを叩き込む。

 

「これで―――」

「どうだぁッ!!」

 

炸裂する世紀王2人のダブルキック。アッパーにより体勢が崩れかけていた状態へ更なる追い打ちにより、ついに創世王は背中から地面へと倒れることとなった。

 

 

 

 

「や、やったッ!!ライダーさん、兄さん達が創世王を倒しちゃいました!!」

「ええ。このまま行けば…」

「はい、兄さん達は勝って…あれ?」

 

光太郎とシャドームーンの優勢に喜ぶ桜は隣に移動してきたライダーの手を取り、ブンブンと上下に振り、彼女の目を見ながら興奮して状況を伝える。ライダーも微笑みながら同意して、視線を再びマスターへと向けるが、桜は違和感に気付く。桜の漏らした声に反応したライダーは再び目を少女へと戻すとジッとこちらを見つめる。

 

「さ、桜…私の顔に、何か…?」

「ライダーさん…眼帯外してるのに、どうして…?」

「え…?あッ!?」

 

桜に指摘され、慌てて手で目を覆うライダーだったが、桜だけでなく、自分の視界に入った他のサーヴァントやマスター達が石化する様子がない。そして、桜が疑問に思っているのはその点だけではなかった。

 

「それに、ライダーさん苦しくないですか?光太郎兄さんが赤く光ってるのに」

「そう言えば…」

 

光太郎から送られてくる膨大な魔力による苦しみが感じられない。キャスターの助けにより魔力を排出し続けなければ消滅しかねないはずだったが、その兆候がまるで見られない。その会話が耳に入ったキャスターは自分を抱きかかえている宗一郎に頼み、ライダーの元へと移動する。

宗一郎にゆっくりと地面に下ろされたキャスターはライダーと鼻同士が接触する距離まで接近した。

 

「…ちょっと見せて見なさい」

「キャスター…近いのですが」

「我慢なさい。私だって宗一郎様以外の方の顔を凝視なんてしたくありません」

 

両手でライダーの頬に手を添えてジッと彼女の両目を見つめること10秒。ライダーの瞳が淡く赤い光に覆われている状態にあることを見て、キャスターはある推測を立てた。

 

「…なるほど。貴方の両目から彼と同じ力が常に放出されている状態にあるようね。本来貴女を苦しめる過剰な魔力も眼を覆う光へと変わっていると同時に、その光が貴女の魔眼を遮るレンズのような役割を果たしてる…」

 

キャスターやあの英霊王すら敵わなかった魔力を吸引する魔法陣を自力で破る程の力を秘めたライダーの両目に宿る赤い光…これは光太郎のキングストーンフラッシュと同等の力を常に放っているような状態にあり、それはライダーの存在を消しかねなかった過剰魔力によって生成されていた。

さらに瞳を覆うは光はライダーの眼から常に発していた石化を魔眼殺し無しでも封じる役目もはたしていたのだ。

 

「ますます反則染みてきたわね、貴女も…」

「恐縮です…」

「あ、あははは…」

 

溜息を付くキャスターにもはや謝るしかないライダーの気まずい表情を見て、桜は笑うしかなかった。

 

ライダー達は再び戦いに視線を戻すと、立ち上がろうとする創世王を、2人の世紀王は油断なく構えている所であった。このまま押し切れると考えたライダー達は、創世王の眼が禍々しい光を放ち始めていたことに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

戦いに魅了されていた衛宮士郎はただ、そう呟くしかなかった。自分達を絶望へ追いやった創世王を光太郎とシャドームーンが押していき、ついには大きなダメージを負わせるまでにいたった。士郎の中でこのまま倒せるという期待が膨らむが、それは少女の悲鳴によって打ち消されてしまう。

 

 

 

 

「キャアアアアァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

空洞に木霊する少女の悲鳴。その発生源は聖杯の一部となったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンのものであった。

 

「イリヤッ!?」

 

思わず見上げた士郎が目にしたのは、大聖杯のある崖の中で満ちた黒い呪いが触手のように伸びてイリヤの背中へ深いな音を立てて浸透し、腹部から再び姿を現した呪いが創世王が負傷した箇所へ巻きついていくという異様な光景だった。

 

やがて創世王の傷が完全に回復したと同時にイリヤの身体を伝って流れていた呪いが途切れると、再びグッタリと項垂れてしまう。

 

 

「創世王…貴様ッ!!」

『理解できているようだな。そうだ、私に傷を付ければあの小娘を通して魔力を吸引して回復する。その度に苦しむことになるだろうがな』

 

シャドームーンへ感情なく答えた創世王は再び立ち上がり、もう自分へは手出しはしないと判断した上で2人の世紀王へと前進する、 。

 

 

 

「…………ッ!?」

「やめよ。今飛び出しても返り討ちだ」

 

奥歯を噛み、自分の前に立って制止させたアサシンを睨むバーサーカー。彼の言う通り、光太郎とシャドームーンによってダメージを受けた状態ならまだしも、創世王は完全に回復している。そうなれば先ほどの二の舞となるだろう。

バーサーカーである彼にそのような言葉で止められるとは思えなかったアサシンではあるが、予想に反しバーサーカーは立ち上がったはいいが留まっている。

しかしその表情は怒りに満ちており、自身の不甲斐なさを呪うかのように斧剣を地面へと叩きつけている。

 

(本能が察しているか。彼奴が如何に強大であり、外道であるか)

 

冷静を装いつつも、アサシンとて相手の取った最悪の手打ちに黒い感情が沸々と湧き上がっていく。自分のように隠そうとせず、ありのまま感情を爆発させるランサーを羨ましく思える程に。

 

「あの野郎ッ…!だったら回復なんざさせないように一瞬で―――」

「いけないランサーッ!今の状態で宝具を作動させる前にまた…!」

「くっ…!」

 

頭に血が登っていたランサーは前に出て自分を止めるマスターの言葉に一瞬で自分達を切り伏せた光景が脳裏を過る。自分が今飛び出した所で聖杯に更なる力を注ぐだけに過ぎない。充分に理解しているランサーではあったが、それでも納得はできなかった。

自分達の戦いを奪うだけでなく、聖杯と成り果てた少女を人質にするような悪党を見過ごすことを。それを前にして、何もできない自分が許せなかった。

 

 

『さぁ、どうするのだ?世紀王共よ』

 

回答が分かり切っている質問をする創世王に対し、構えたままの光太郎とシャドームーンであったが、光太郎は身体から世紀王の力である輝きを消し、ゆっくりと構えを解いてしまった。

シャドームーンもしばし逡巡するも、苦しんでいた少女を一度見上げた後に光太郎に続く。

 

『よい決断だ』

 

創世王の膝に胸板へと叩きつけられ、仰向けに倒れた光太郎。それだけでは飽き足らず、足の裏で胸板を踏みつける創世王に対し、思わず手に力を集中させるシャドームーンであったがイリヤの姿が脳裏に浮かぶ。僅かな間だが、こちらが冷たくあしらっても付いてくる少女の笑顔が彼の行動を鈍らせた。

 

(…ブラックサンのことを笑えんな)

 

自嘲するシャドームーンに対して創世王は五指を向け、指先から怪光線を次々を発射する。ギルガメッシュの甲冑を易々と貫い威力を誇る光線は次第にシャドームーンの装甲に亀裂を走らせ、ついには地面へ両膝を着いてしまう。自分の名を叫ぶ宿敵の声が聞こえるが、このような時にまで他人を優先する性格に呆れながら地面へと伏してしまった。

 

「信彦ぉッ!!」

 

必死に手を伸ばす先で動かなくなってしまった友の名を叫ぶ光太郎へ踏みつける足へ力を込める創世王は自分の勝利に余韻しながらも声を発した。

 

『これ以上私の肉体となりうる者を傷つけることもなかろう。だが、仮初の身体とはいえ私に傷を負わせた罪は重い。しばしの間は苦しんでもらうぞ、ブラックサン』

「がぁッ!?」

 

メキメキと軋む音と共に強まる創世王の力に光太郎はなす術もなく、ただ痛みに伴って声を出すことしか出来なかった。

 

 

 

 

「どうすれば…どうすればいいのよッ!?」

「…………………」

 

自分に出来ることは何もなく、立ち向かったとしても時間稼ぎにすらならないと分かっている上で叫ぶ凛に、普段ならば小言を言うアーチャーすら何も言うことが出来なかった。聖杯を目の前にしてサーヴァントとマスター達に出来ることは、光太郎の苦しめる創世王の姿を見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

ただ1人を除いて。

 

 

 

 

(おかしい…)

 

慎二は先ほど創世王がイリヤを経由して魔力を呼び寄せていたことがどうしても納得のしきれないことであった。

 

(なんで目の前にあんな大量な魔力があるにも関わらず、ダロム達みたいに直接取り込もうとしないんだ…?それに、さっきもサーヴァントの動きを止めるだけじゃなく魔力を吸収していたなんて…)

 

創世王の行動を考察し続ける慎二は今の創世王の姿と本物の化け物と成り果てた3大怪人達を比較し、幾つもの可能性を組み立てていく。そしてある一つの可能性に結びつくが、確かめるためにはもう一度イリヤの身体を呪いが通過する状況を見直す必要がある。

 

「くそ、ただでさえ胸糞悪くなる事なのに…」

 

慎二だって1人の少女が苦しむ姿など見たくはない。それに今、創世王に再びダメージを与えられる唯一の存在は動くことすらできないのだ。

 

「ちくしょう、あの時にまで時間が遡れさえすれば…」

「なにか、できるというのか?」

 

頭を掻き毟る慎二にギルガメッシュは胸を押さえながら促した。逆立った頭髪は創世王の攻撃を受けた際に降りてしまい、普段着と変わらない髪型となっている。

 

「…ああ、もし僕の考えが正しかったら、創世王に魔力の供給を止められる」

 

はっきりと物申した慎二の目を見たギルガメッシュは尽かさず背後の空間を歪ませ、出現した宝物庫から古風な手鏡を手渡す。それは慎二が口走ったことを可能とする宝具であった。

 

「…手にした者の望む過去を移し出す珍品だ。汚した際には…わかっているな?」

 

傷だらけになってもその見る者を凍えさせる獰猛な笑みを浮かべるギルガメッシュに慎二は臆することなく頷くと、鏡に向かって念じる。どうか、自分の考えが間違いでないことを祈って。

映し出されたのは白い少女の苦悶する姿。彼女の背中へと浸食する黒い呪い。そして腹部から延びる…

 

「…やっぱりッ!!」

 

だがまだ確信には至らない。映像を止めたまま、慎二はマスターに支えられ目を逸らしていたキャスターの元へと全力で走る。突然呼びかけてきた慎二に驚きつつも、彼の手短な説明を聞いたキャスターは鏡を奪い取ると、食い入るように見つめる。

キャスターは目を見開くとすぐに慎二へと顔を向け、ゆっくりと頷いた。

慎二は推測が確証されたことで、付近でこちらの話を聞いていたライダーへと顔を向ける。光太郎へと伝えられるのは、彼女しかない。

 

 

 

 

 

 

「グ…がぁ…!」

『まだだ…もっと苦しむがいい…』

 

全身が段々と地面へめり込んでいく光太郎は追い詰められながらも今の状況を打破する方法を思案し続けていた。創世王へのダメージを与える方法は掴んだ。だが、これ以上聖杯の少女を傷つけず、どう戦えばいい…考え続ける中、光太郎の頭に、パートナーである女性の声が響いた。

 

(コウタロウ、聞こえますか!?)

(ら、ライダーか?)

 

首を横へと向けるとこちらをまっすぐ見つめるライダーが頷く姿が目に入った。

 

(コウタロウ、どのような方法でも構いません。彼女を…イリヤスフィールを聖杯から解放して下さい!そうすれば、創世王へ魔力が供給されることはありません!)

(何だってッ!?)

(シンジが、見抜いてくれました)

 

そもそも聖杯の呪いを力として供給することにイリヤを通す必要がないほどこの場所では黒い泥は満ち溢れていた。それでも彼女を通して力を吸いだしていたのは彼女が小聖杯故の行動と思い込んでいたが、全く別の理由があった。

慎二がギルガメッシュから受け取った鏡でイリヤの身体を呪われた力が通過する状況を知りたかったのは、身体を通過する前と後。

目を凝らしていなければ見抜けなかったが、イリヤの背中に到達した時点では漆黒だった呪いは彼女の腹部から出現する際に所々が薄く、透明になっている部分を発見する。さらにキャスターの見立てでこれは魔力から『呪い』が限りなく削り取られ、純粋な魔力に限りなく近いものとなっている。

つまり、創世王はイリヤというフィルターを通して泥から呪いを避け、魔力のみを吸収していたのだ。

理由は定かではないが、創世王はダロム達のように直接黒い呪いを自らの力として取り込むことを極端に避けている。だからこそ、イリヤを聖杯から解放すれば…

 

「そういう…ことか」

『どうした…諦めがついたか?』

「いいや、お前が…あの子を利用した本当の理由と、お前が恐れていることがさ」

『な…に…?』

 

光太郎の言った事に創世王の余裕に陰りが刺す。光太郎は自分の胸を圧し続ける創世王の足を両手で押し上げながらも、創世王が余裕を取り戻す前に畳み掛ける。

 

 

「創世王…お前は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「死を、恐れているな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

それまで以上の力が光太郎へと伸し掛かる。光太郎は負けじと両手に力を込めるが、やはり力では敵わない。そして創世王の行動自体が、自分の言った事へ馬鹿正直に反応している証拠となった。

 

「…そうだ。5万年ごとに世紀王同士で戦わせ、新たな肉体を見つけ出すことも―――」

 

『黙れ…』

 

「ゴルゴムなんて組織を作って、俺や信彦、過去の世紀王達の身体を改造する技術を向上させたことも―――」

 

『黙れ……』

 

「その為に、ダロム達を選ばれたゴルゴムの民なんて吹き込んで利用し続けたのもの―――」

 

『黙れ………』

 

「お前がサーヴァント達から魔力を吸い上げ、自分の密度を高めたのも―――」

 

『黙れ…!』

 

「聖杯の魔力に直接触れようとしなかったもの…お前が恐れていたからだ!!」

 

 

 

 

「己が死ぬかもしれないという、恐怖心からッ!!」

 

 

 

『黙れえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 

 

 

 

ついに咆哮を上げる創世王の足を押しのけ、横に転がって脱出した光太郎は急ぎ立ち上がり、構えを取る。

 

『貴様に、貴様等に何が分かるというのだッ!?』

 

初めてダメージを与えた時とは違う。創世王が内に秘め、ゴルゴムのメンバーにさえ打ち明けなかった本心の吐露であった。

 

『世界を自由に動かす力を手にしながらも、迫りくる死の恐ろしさが…貴様などに分かるものかぁッ!!!』

「ああ、わかりたくもない」

 

創世王の主張をバッサリと切り捨てた光太郎は、慎二達の助けでたどり着いた回答を認めた敵の首領に対し、それまでにない怒りを覚えた。

 

「確かに死ぬことは恐ろしい。けど、だからこそ人々は毎日を懸命になって生きている。後悔しない為に。愛する人と共に過ごす為に。そして、後の世代へ託す為に…なのに、死の恐ろしさを分かっているというのに貴様は自らの延命の為に、多くの人々を『死』へ追いやった!!」

 

光太郎の生みの親、育ててくれてた秋月家の人々、祖父とその親友達…そして数えきれないゴルゴムの犠牲者。その全てが、創世王の『死にたくない』という恐怖の為に散らされていった。

 

「まったく…聞いていれば随分と滑稽な話だ」

 

ゆっくりと身体を起こすシャドームーン。姿はボロボロとなったが、弱っているなど微塵も感じさせない迫力を放っていた。

 

「私は…私達は貴様の弱さを補うために散々利用されたということか…ならば、ここで全てを清算しなければならん」

「シャドームーン。行けるのか?」

「愚問だな。貴様こそ、ここでくたばるなど許さんぞ」

「ああ」

「そして…」

 

シャドームーンは救う手だてが見つかった少女へと目を向ける。なぜこうも彼女を救う方へと思考が動いているかは自分でも分からないが、彼にはイリヤに確かめなければならないことが残っている。

 

(確かめなければならない…貴様の意思を)

 

 

 

 

 

『どうやら貴様達とは、どうしても相容れないようだな』

「そんなもの、最初から分かりきっているはずだ」

 

先程とは逆に沈んだ声となった創世王の雰囲気を不気味に思い、警戒しながらも切り返す光太郎達に向け、創世王が動いた。

 

手を突出し、掌から赤い電撃を放出。シャドームーンの得意とするシャドービームと同等の技だが、その狙いは光太郎でも、シャドームーンでもなかった。

 

 

「…っ!?」

 

その先にいたのは、自分達の戦いを遠くから見守っていた少女、間桐桜であった。

 

自分に狙いが定められていたことに気付くが既に遅い。あと数センチで赤い雷が到達する瞬間、彼女を押しのけたライダーが身代わりに拘束され、宙へと浮かされてしまう。

 

「ぐ、うぅ…」

「ら、ライダーッ!?」

 

 

苦しむライダーの姿に思わず叫ぶ光太郎に向かい、創世王は冷徹に言い放った。

 

 

『人間の娘であれば、このまますり潰すところだったが趣向を変えるとしよう』

「貴様…何をするつもりだッ!?」

『どうやら亡霊共はあの呪いに触れるだけで反転し、さらに凶暴化してしまうらしいな…』

 

創世王は空中でライダーを固定したまま、崖の上で溜まっている黒い泥へと顔を向ける。それだけで、光太郎は創世王が起こそうとする行動が理解できてしまった。

 

「創世王…貴様、まさかッ!?」

『死の恐怖…貴様にも味わってもらおうではないか』

 

直後、創世王は腕を振るい、ライダーを黒い沼へと向かい投げ出した。

 

「ウアァァァァァァッ!?」

 

「ライダあぁあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

黒い沼へと落下するライダーの姿を見た途端に光太郎は赤い光を纏い、地を蹴って跳躍する。

 

懸命に手を伸ばし、受け身が取れずに頭から落下するライダーを抱きとめる事に成功するが、光太郎自身も落下していき、既に黒い呪いの塊は目の前に迫っていた。

 

(ああ…確かに、この方法なら俺も味わうことになるな)

 

ライダーを泥へと放り込もうとすれば、必ず光太郎も動きを見せる。完全に、光太郎の動きを読んでのことだったのだろう。

 

(ライダー…ごめん)

 

光太郎は投げ出された直後、既に気を失ったライダーに謝罪し、彼女の頭部を庇うように抱きしめながら、黒い泥へと沈んでいった。




恐怖心 俺の心に 恐怖心

てなダディ(ブレイド)の五七五が一時期ツボにハマっておりました。

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第70話『この世全ての悪』

ついに70話…ほんとよく続いたなぁ

では、どうぞ!!


「ここは…?」

 

間桐光太郎は住宅の一室であるリビングの中央で立ち尽くしていた。カーテンが敷かれていない窓から日の光が差し込んでいるというのに、何故か部屋全体が薄暗い。

だが、室内の不自然な明暗よりも、光太郎は自分がなぜ部屋の中にいるのかと疑問を抱く。

 

「俺はライダーと一緒に聖杯の泥に…そうだ、ライダーはッ!?」

 

周囲を見渡すがライダーの姿はない。もしや別の部屋にいるのではとドアノブに手をかけようとした光太郎だったが、伸ばした手をピタリと止める。そしてゆっくりと振り返った先…3人程が掛けえられるソファーの上で胡坐をかいている影があった。

 

(いつから…いたんだ?)

 

こちらを背向けている影…としか言いようのない、なんとか人の形を保っている黒い靄のかかった存在は振り返った光太郎を気にした様子もなく、何かに没頭していた。光太郎は気配が察知されないように近づき、影が夢中になっているものを視界に捉える。

 

(アルバム…?)

 

写真を一枚一枚吟味して捲っていく影は手を止めることなく突然声を発した。

 

「こっそり覗き見とはいい趣味してるじゃねーか。ま、別に見られて俺が恥ずかしいわけじゃないからいいけどよ」

「ッ!?」

 

不気味な風貌とは裏腹に陽気な声を出す影に思わず身を引いた光太郎は構えを取る。光太郎の行動に肩を竦ませ、立ち上がる影の姿から靄が晴れ、輪郭が人間のものとなった。

 

「はぁ…。ちょっくら脅かしたくらいでそこまでビビるこたぁないだろ。正義の味方やってんだからドンと構えるもんだろ?なぁ――」

 

「仮面ライダーさんよ」

 

振り返ったその顔を見て、光太郎は一瞬呼吸を忘れてしまう。影…否、少年は褐色の肌の上に無数の刺青があり、それは図形にも、文字にも、魔物の姿にも見えた。しかし、光太郎の思考を停止させたのはその点ではなく、男の顔であった。

 

 

 

 

「衛宮…君?」

 

 

 

男の顔は髪と瞳の色に違いがあれど、義弟の親友 衛宮士郎と瓜二つだった。なぜ、目の前の少年が士郎と同じ顔を持っているのかと疑問を抱く光太郎の反応がとても愉快だったのだろうか、男は笑いながら光太郎へ話しかける。

 

 

「似てると思って当然だ。あんたと話をしやすいようにちょいと殻を借りてることだしな」

「借りている…?

「他にも、ちょうど手頃だったのがたまたまアイツだったって理由もあるけどよ」

「その、理由は…?」

「至極簡単!俺が大嫌いなタイプだからだよ!」

「………………」

 

ケケケと笑う少年の説明に理解が追いつかない光太郎は先に会話の中にあった不可解な発言を整理していく。この少年は自分に用があり、その為に今の姿になったと言っている。なぜ衛宮士郎と同じ顔を持つ必要があったのかはこの際置いておく。まずは男の話を聞いた後、一刻もライダーを見つけ出さなければならない。

 

「んだよ~ちょいとはリアクションとれよなぁ。そんなに自分のサーヴァントが大事かい?」

「ッ!?」

「わかりやすいねぇ。素直な反応は嫌いじゃない。ほれ、さっさと介抱してやんなよ」

 

少年が指差した場所…光太郎の足元には赤い光に包まれ、意識を失っているライダーの姿があった。

 

「ライダーッ!?」

 

横になっているライダーの上体を持ち上げ、ライダーに呼びかけ続けるが目を覚ます様子はない。しかし、定期的に呼吸をしていることから眠っているだけで異常はないだろう。安堵する光太郎は次にライダーが自分のすぐ傍に出現した事へと思考を切り替えた。先ほどの少年もそうであったように、

少年が指を向ける寸前まで、ライダーは間違いなくこの場には存在していなかった。

ならば、この少年は空間を自在に操る能力を持っているのか…?推測する光太郎に少年はニヤニヤと笑いながら指摘する。

 

「その考えは間違っちゃいないな。いや、惜しいってとこか?」

「…俺の考えが、読めるのか?」

「そんな大層なもんじゃねぇよ。目の前でさっき見たいに色々見せれば、そう考えちまうもんだろ?だから、惜しいだ」

 

もしくは光太郎にそう考えさせるために力を振るった…とも取れる。掴みどころのない少年にこのまま翻弄されてはまずいと警戒を強める光太郎はさらに揺さぶられる発言を耳にすることになった。

 

 

「それにしたって、あんたはその石に感謝しなくちゃいけないねぇ。本来だったらそこのお姉さん、触れただけで純黒に染まってるところだぜ?」

「なっ!?…そうか。君が、そうなのか」

「あん?なに、もうわかっちゃったの?ヒント出しすぎたかな~」

 

つまんねーと唇を尖らせる少年は両手を頭の後ろで組み、ふて腐れる仕草を見せた。まるで人間の感情…いや、意思そのものがあるような少年の行動が、光太郎にとって驚くべきことであった。本来であれば純粋な力に過ぎない『それ』に、意思は宿らない。

だが、祖父が教えてくれた情報を知り得ていなければ信二や話を共有していたキャスターですら認めようとしなかったはずだ。

 

「俺とライダーは、別の場所に転移した訳ではない…だから、ここは―――」

「…もう隠す必要ないし、俺から言わせておくれよ」

 

ワザとらしく少年が両手を広げたと同時に周囲が歪む。リビングに設置されたテーブルやソファー、カップが収納された食器棚、少年が手にしていたアルバムが溶け、全てが黒い泥へと変わり果てる。

そう、光太郎の予想通り、ライダーと共に落下してその奥…『底』へと辿りついてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ聖杯へ!歓迎するぜ、正義の味方(仮面ライダー)!!」

 

 

 

 

 

 

 

少年の声に呼応し、呪いと化した泥が光太郎とライダーを囲った。

 

どの方向へ目を向けても、あるのは黒い泥。どこまでも闇が続く空間の中で光を放っているのは光太郎のベルトの中央にある結晶とライダーを包む赤い光のみ。だが、視界が自分達以外が闇一色だというのに目の前にいる少年の姿ははっきりと見える。光太郎が声をかけることを待っているのか、両手を広げたまま立っている少年の手が段々と震え始めている。

 

「あの家は、俺の記憶を元にして君が作り出したのか?」

「ありゃ、随分冷たい反応。ま、悪気はないよ。いきなり周りが黒い泥地獄ってのも酷だと考えて思い入れのある場所を再現したんだけど…気に障ったかい?」

「いや…懐かしい気分になれた」

 

すぐに手を下ろした少年に首を横に振る光太郎。少年は合えて言葉にしなかったが、あれは光太郎がかつて過ごした秋月家のものだった。無論、少年が捲っていたアルバムにも覚えはある。幼い光太郎や信彦、杏子が無邪気に笑う姿を養父が撮影した写真が収められていたものだ。

もう二度と見る事が敵わなかった記憶の彼方にあった景色と写真。

あの空間は光太郎の中で色あせることなく刻まれているという確かな証だったのだ。

 

「…優しいねぇ。俺としては『よくも思い出を穢したなぁ!!』てな感じで責められるとばかり思っていたけど。ま、あんたの性格からしてそうなるか」

「正体を明かす為にあんな演出をしたのなら、確かに怒るところだね。大切な場所だったんだから」

「うげ、藪蛇」

 

口がすべったかと自分の額を軽く叩く少年だが悪びれた様子はかけらもない。思い入れのある記憶を今自分達の周りにある黒い泥へと変貌させられれば当然だろう。冷静でいられたのは、光太郎が少年の発言で自分達がいる場所にある程度予測が出来ていたからだ。そして、少年の正体も。

 

「…話がそれたね。それで、何故俺の目の前に現れたんだ?」

「そりゃ、今回の聖杯戦争で最初に辿りついたマスターとサーヴァントだからさ。色々あって最初に召喚されたサーヴァントの魂を取り込んでいないけど、こうやって形にはなっちまったし。外ではっちゃけてる自称王様と愉快な仲間達は漏れた聖杯からちょびっとの魔力を利用はしていたが触れたわけじゃない。つまだ。この聖杯戦争で聖杯を手にしたのは、あんたらってことになる。なんたって、聖杯である俺が認めてるんだからな」

「本当に、意思を持っていたんだな」

 

本来ならば無色透明の魔力の塊である聖杯に意思はない。しかし、こうして光太郎と意思の疎通が可能となっているのは、過去の聖杯戦争でその機能が狂ってしまった為だった。

 

 

 

過去の聖杯戦争で、聖杯を確実に手にするためにある陣営によって召喚されたそのサーヴァントは本来現れる7つのクラスに属さないイレギュラーのサーヴァントだった。

しかし、予想に反してサーヴァントはすぐに敗北し、聖杯に魂を取り込まれてしまう。だが、そのサーヴァント…英霊へ『望まれた呪い』を聖杯が『願望』として機能してしまったため、聖杯は殺す事でしか叶うことが出来ない欠落を孕む結果となってしまった。

 

 

この世全ての悪であれ。

 

 

そう望まれ、呪われた人間のなれの果てである悪を肯定する反英霊。

 

 

それこそが聖杯に取り込まれたアヴェンジャーのサーヴァント『この世全ての悪(アンリマユ)』そして光太郎へ接触した少年の正体であった。

 

 

 

「んで、本題だ。社交辞令として聞いとくけど、あんたは聖杯に託す願いは持ち合わせてんのか?」

「ない」

「即答かよおい。でも、俺とアンタの相性考えたらまずありえないだろうしなぁ」

 

頬を指でかきながら笑うアンリマユは今の聖杯が孕む殺す事でしか願いを叶えない機能と光太郎は対極であることは理解している。そもそも、光太郎は聖杯戦争を無くす為に戦い続けてきた。だから、彼が起こす行動も手に取るように予想ができたのだ。

 

光太郎はライダーを起こさないようにゆっくりと寝かせると立ち上がり、目の前に広がる黒い泥に向けて両腕を左右に展開し、両拳をベルトの上で重ねる。同時に照射された赤い光が黒い泥を照らし、呪いを浄化していく。しかし、浄化されて無色となった魔力は再び呪いへと汚染されてしまう。

 

「く…っ!」

「無駄だぜ。あんたが千人いようがこの呪いは消せない。それどころか表じゃどんどん溢れていってる。あんたのやってることは海に砂糖瓶一本持って挑むようなもんだ」

 

構えを解いた光太郎は息を荒立てながら聳え立つ呪いを見上げる。それでも諦めず再びキングストーンフラッシュの体勢へと移ろうとするが、アンリマユの言葉に動きを止めてしまう。

 

「止めとけよ。そうやってあんたはどうにか聖杯そのものを浄化して、その上で大聖杯をぶっ壊すのがそもそもの目的で、最後にあの自称王様をも倒そうとしてる訳だ。けどよ、万が一に上手くいったとしても―――」

 

 

 

 

 

 

 

「あんたにこの先待っているのは、終わりのない戦いだぜ?」

 

 

 

 

 

凍りつく、とはまさにこの事だろうか。アンリマユは、広げた両腕を静かに下げて振り向く光太郎の表情――仮面で覆われて見れないが、理解が出来ないと言っているように強張っていることが分かった。そりゃそうだろうとアンリマユですら考える。全ての事柄には始まりがあり、終わりもある。それは聖杯戦争ですら同様だ。

しかし、彼―――間桐光太郎をはじめ、仮面ライダーと名乗る戦士には、終わりはない。

 

「論より証拠ってな。見た方が早いだろ」

「―ッ!?これは…」

 

光太郎の脳裏に浮かぶ様々な映像。場所も時代もバラバラであり、共通しているのは戦いの場面であるということのみ。

 

「大聖杯ってのはどうも時間軸が並行しててな。それもあってか過去、現在、そして未来から英霊なんてものを呼び出すことが可能になってる。あんたが今見てるのは過去に起こり、そしてこれから起こり得る一つの結果だ」

 

 

それは戦いの歴史。

 

 

光太郎が一度命を失い、戦いを放棄しかけた時に激励を送ってくれた戦士達の姿だった。

 

 

光太郎と同じように人としての身体を失い、大切な人々を無くしながらも彼らは戦い続けた。

 

 

時には孤独に。

 

 

時には力を合わせて。

 

 

同じ境遇の戦士達は巨悪と命を懸けて挑み続けていた。

 

やがて時代は進み、光太郎がゴルゴムと戦い続ける場面へと切り替わる。改めて戦い続ける光景を見た光太郎にとっては、全ての戦いがまるで昨日の出来事のようだった。だが、それももはや歴史の一つにしか過ぎなかったのだと、光太郎は思い知ることとなった。

 

 

「彼らは…!?」

 

 

光太郎が知っているのは、自分よりも先に仮面ライダーとなり、今も世界中でゴルゴム達と戦い続けている10人の先輩達のみ。それ以前の歴史の中で仮面ライダーと名乗る者は存在していない。ならば考えられるのは一つ…光太郎が今見ている戦士達は、これから先に生まれ、戦う宿命を背負った戦士達なのだろう。

 

 

 

人々を殺すためだけに襲う怪人を止める為、笑顔を守る為に甦った同じ古代の戦士。

 

自分達の主と対を成す存在の因子を持つ人間を狩る者に立ち上がった進化を続ける闘士。

 

己の欲望を叶えるための殺し合いを止める為に戦いへと飛び込んだ龍の騎士…

 

 

その後も一つの戦いが終わる度に、新たな悪と、仮面ライダーが生まれ続けていた。

 

 

闘う理由も、時代もバラバラである彼らの戦いと意思は、間違いなく仮面ライダーだった。戦いの場も地上、空、そして宇宙へと広がり続けている。

 

 

その中には、自分も含め全ての仮面ライダーが集い、結束した敵へと立ち向かう場面も見られた。だが、そこに自分が立っているということはアンリマユが言った通りに例えゴルゴムを、創世王を倒したとしても、光太郎は戦いは終わることなく続いていくことを示しているようだった。

 

 

そして、最後に見た光景。

 

 

 

 

 

光太郎が今とは違う姿となり、2つの世界をかけての戦いに苦渋の選択を迫られながらも敵の首領を打倒す場面であった。

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけだ。未来なんて曖昧なもんだから全てが今見た通りとは行かねぇけどよ。確実なのは、あんたはこの先も戦い続けるってことだ…」

「………………………」

 

光太郎は何も言わなかった。ただ映像で見たこの先の未来で起こり得る事を目の当たりにし、放心状態となっている。無理もない。人生を狂わされ、死ぬような戦いを続けてようやく戦いの終結が見え始めた頃に残酷な未来を見せられたのだからと、アンリマユは光太郎の足元を見る。

 

キングストーンの加護すら弱まった今の光太郎の状態に気付いたのか、聖杯の泥が触手のように伸び、光太郎へ迫り始めた。

 

アンリマユは光太郎が飲まれていく様を見ないために振り返える。

 

正直、やりすぎてしまったかもしれない。誰かのためだけに力を使い続けた光太郎に対し、反感を持っていた。それは他人ばかりを助け自分を助けようとしないという、どうしても自分が好きになれない部分であり、少しは自らを顧みることを考えさせる為だったが、効果有り過ぎたようであり、無防備となってしまっている。

 

(あれじゃあ今外に戻しても戦いにならない。さて、どうしたもんか)

 

いっそのこと聖杯の泥を創世王に被せるかと思案を始めるアンリマユは自分の足元に影が出来ていることに気付く。

 

おかしい。

 

ここは聖杯の底の底。影が出来る程の光など届かないはずだ。

 

ならば、原因は一つしかない。

 

 

 

「おい…オイオイオイオイオイオイオイ!!」

 

聖杯の呪いから身を守るためだけなどには留まらい輝きに、光太郎へと向き直ったアンリマユはあまりの眩しさに手を目の前で翳しながらも驚愕する。光太郎に伸びていた呪いは全て浄化されていたが、次第に周囲の呪いへと溶け込んでしまう。

だが、光太郎は全く構うことなく再び両拳をベルトの上で重ねる。

 

「頼むぞ…キングストーンッ!!」

 

光太郎の叫びに呼応したかのように、エナジーリアクターからさらに強烈な光が放たれた。

 

「だから無駄だって…ハァッ!?」

 

あり得ないことがアンリマユの目の前で起きてしまった。

 

光太郎の足元から段々と黒から白へと染め上っていく。否、呪いが浄化され、聖杯本来の無色である魔力と変わり始めているのだ。その変化は徐々に早くなり、アンリマユの足元にすら及んでいた。

 

「一体どうやって…あの赤い石を照らしたところでここまで早く…いや、まさかアイツ…!」

 

周囲の変化に同様したアンリマユは改めて光太郎の姿を見た。そこには当たって欲しくもない予想通りの行動を取っている愚かな世紀王の姿だった。

 

 

「おまえ…聖杯の魔力を取り込んでやがるなッ!?」

 

見れば光太郎のベルトの中央から2色の魔力が渦を描いているように吸収、排出されていた。吸収されているのは黒い呪い。排出されているのは無色となった魔力。無尽蔵とも呼べる黒い泥に対し、浄化された魔力はまだ1割にも満たない。それでも、光太郎は

さらにベルトへ力を集中させた。

 

「ウオォォォォォォォッ!!」

「自殺行為だぜ…お前、あの聖杯の嬢ちゃんと同じ目に…いや、そんな生易しいもんじゃない。あんた、何千年分も溜め込まれた『悪意』を取り込むつもりかよッ!?」

 

 

光太郎の取った手段は創世王が行った方法に近い。イリヤというフィルターを使い、黒い泥から極力呪いを削って純粋な魔力のみを取り込んでいたのであった。だが、この方法ではアンリマユの言った通りに魔力は浄化されても、残った悪意…呪いは光太郎の中に残ってしまう。現に光太郎は体内に宿った呪いに精神が蝕まれ始めていた。

 

「が…あぁッ!?」

「やめろッ!!それ以上やったら死んじまうぞッ!?」

「最初から…いや、最後の手段で、こうするつもりだったんだ。でも、これは予想以上…に…ッ!!」

 

 

 

 

 

それはアンリマユも見た光景だった。

 

光太郎がキャスターと手を組んで間もない頃。

 

光太郎はキャスターに頼み込み、ある特訓を始めていた。

 

 

「く…うぅ…」

「まだよ…まだ最後まで出し尽くしてないわ」

「うぐ…が…ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

「はいお終い。…どうだったかしら?毒入りの魔力を一度取り込んで、魔力のみを排出する気分は?」

「…柳洞寺に受けた毒より辛いよ」

「そうでしょうね。あの時以上の毒を使っているのですから」

「うわぁ…」

 

せめて最初に言って欲しいと言う前に、光太郎は変身を解除して腰を下ろした。汗だくとなった顔をタオルで拭きながら、光太郎はキャスターの掌で踊っている魔力の塊を見る。それはキャスターによって一度毒が練りこまれた魔力であり、一度光太郎がベルトから取り込んで毒素を抜いて排出したものだった。

取り込む前は毒々しい紫色だったが、今は紫陽花のように澄んだ色になっている。

 

「改めて言うけど、正気を疑うわね。坊やから渡された情報を見たけど、あの呪いは人1人でどうにかできるようなものじゃないわよ」

「俺もお爺さんからそう聞いている。俺にどうにかできるかどうかも、博打に近いってさ」

「その人も相当ね…」

 

同意しながら笑う光太郎がキャスターへ協力を仰いだ理由の一つ。呪われた聖杯を浄化する為の方法をキャスターへ意見を求め、方法を確実にするためであった。

 

「けど、貴方はここ数日でキングストーンのコントロールを確実なものにしているわ。おかげで余計な使い方まで覚えてしまったし」

「あれはあれで使い所はあるさ。またゴルゴムが地脈を悪用するかもしれないしね」

 

立ち上がりながら柔軟体操を始める光太郎にキャスターは怪訝な目を向ける。まだやるつもりなのね、と。

 

「…現段階で分かっていることを伝えるわ」

「えっと、成功させた場合とか?」

「どの道、貴方は死ぬわよ」

 

冷たく言い放たれた言葉に、光太郎は表情を変えずにキャスターの話を黙って聞いていた。

 

今光太郎が行っている特訓はあくまで肉体へ「毒」という形で負担をかけ、身体をなれさせる方法だ。しかし、実際の聖杯の呪いは肉体には勿論だが、「精神」へ浸食する呪いだ。今の方法を繰り返したって身体は無事で済んだとしても精神が死んでは意味がない。

 

キャスターも今の聖杯がどのような状態にあるか知った時は調べた事を後悔するほど嫌悪感を覚えたほどだった。だというのに目の前のお人良しはもし発動した場合は壊すでなく、浄化してから対応するというのだから始末に負えない。

 

「…そうか。わかった、続けようキャスター」

「貴方の耳は飾りなの?」

「確かにキャスターの耳なら遠くまで聞こえ…すいません杖を下ろしてください」

「どうにも貴方は死ぬ事に対して疎いというか…家族だっているんでしょう?」」

 

こんな事を言うなどらしくないと考えながらも話題に出したキャスターへ帰ってきた光太郎の返答は…

 

「ああ。だから死ねない。そのためにも生き残る確率を少しでも上げて起きたいんだ。今以上に心配をかけたくないからね」

「…そう。捨て鉢というわけじゃなさそうね。いいわ。毒のはさっきの10倍は練りこむわ」

「…お手柔らかに」

 

折れることを知らない青年を背に、キャスターは再び魔力と毒の調合を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからってなんで今そんな手段を取んだよ。先の話を聞いてやけになったのか?」

 

静かに聞くアンリマユに対し、呪いの浄化を続ける光太郎は手を緩めることなく、彼の方へと顔を向けた。

 

「確かに…驚いたよ。俺の後にも、あんなにも仮面ライダーが生まれて、戦う道を選ぶなんて。とても、悲しかった」

「あ…?」

 

どうにも噛みあわない。あの男は、自分が終わらない戦いが待っていると知って絶望したのではなかったのか?それに、なぜこの先に生まれる連中を心配する必要があるのか。

 

「見たんだ…彼らは俺と同じ…いや、俺以上の苦しみを背負って、迷って、それでも戦う道を選んだんだ」

 

その中には光太郎と同じく大切な人を失い、悲しみに明け暮れる暇もなく立ち上がった戦士もいた。それが、仮面ライダーの宿命であるかのように。

 

「けど、それでも…こんな事は考えるのは思い上がりかもしれない。けど…」

 

静かな光太郎の独白に、アンリマユは知らぬ間に聞き入っていた。

 

 

 

「これから先、それこそ顔も知らない誰かの為に立ち上がってくれる…守る為に戦ってくれる彼等の通る道を俺の…俺達の戦いが…鎹となるのが役目なのだとしたら…」

 

 

「こんなにも、誇れることはないッ!!」

 

 

 

光太郎の起こしている呪いの吸引と浄化はますます強まっていく。既に半分以上の呪いが黒から白へと色を変えている。もはや、聖杯としては不完全だとしても本来の機能は取り戻しているだろう。

 

「だからって何であんたがここまでする必要があるんだよッ!?今の状態ならあんたの手で聖杯を破壊が…」

「それじゃあ駄目だッ!!聖杯を、完全な状態になってから破壊しないと、意味がないッ!!」

「何だそれ…意味わかんねぇぞッ!?」

「じゃないと、君を聖杯から救えないッ!!」

「なッ!?」

 

アンリマユは言葉を失った。こいつは何といったのだ?呪いと化した自分を救う?馬鹿馬鹿しい。この身はすでに「そういったもの」なのだ。今だって殻を被っているから意思はあるが、本来虚無の存在である自分に救いなど、意味がない。だというのに、この男は自分を救うと言った。

 

「君は、聖杯の一部となってしまったんだろうッ?なら、今のまま破壊したとしてもまた聖杯に囚われるかも分からない…だから、完全に浄化する必要があるんだッ!!」

「だからって、何でアンタが呪いを背負う必要がる?アンタの言葉じゃねぇがここにある悪意は…顔も知れない、とっくに死んじまった奴のだってあるってのにッ!!」

 

「…俺の知り合いが言ってたんだ。『王は全てを背負うもの』だって…言われるのは好きじゃないけど、俺も『王』と呼ばれる1人なんだッ!!だから、人の悪意だって、それが死んだ人間のものだって、背負い、乗り越えてみせるッ!!」

 

なんて屁理屈…それで、それで死んでしまったらどうするつもりなのか。本人は気が付いていないのか、身体の至るところから血が飛び散っている。精神的に呪いに耐えられても、肉体が悲鳴を上げているのだろう。

 

「それに、約束したんだ」

 

赤い光に包まれ、意識を失っている掛け替えのない存在に目を向け、仮面の下で微笑みながら光太郎は未だ混乱しているアンリマユを見据え、浄化を止めることなく叫んだ。

 

 

 

 

 

「彼女との約束を守る為に、慎二君や桜ちゃん…大切な人を…今を生きる命を守る為に俺は戦う道を選んだッ!!その為に、俺は死ぬわけには行かないッ!!」

 

 

 

 

 

「だから、こんな呪いなんかに、負けるわけには行かないんだああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

そして世界は、白一色へと染まった。

 

 

 

 

 

「く…あ…」

 

悪意を取り込みながらも打ち勝った光太郎は両手をダラリを下げ、前のめりに倒れそうな所を彼のパートナーに抱きとめられた。

 

「お疲れ様でした。コウタロウ」

「ライダー…なんとか、なったよ」

「はい…お見事でした」

 

マスターの功績に涙目になりながら、ライダーは優しく光太郎を称賛する。そんな2人に、手がはち切れんばかりに拍手を送る存在は段々と気薄となっていた。

 

「あー、どうやら俺はあんたって人物を誤解してたみたいだわ。てっきりこれと一緒で誰かのために命を投げ出す死にたがりかと思ったけど違った」

 

と、自分自身を指さすアンリマユの顔は、光太郎の知る少年よりもより子供らしい笑みを浮かべていた。

 

「あんたは命を懸けて戦うが、それ以上に守り続ける為に生きようとする意思が強い。ったく、紛らわしいぜほんと」

 

悪態を付く少年の輪郭は段々と失っていく。まるで先ほどとは逆の現象だった。

 

「アンリマユ…」

「変な同情はいらないぜ。聖杯に戻ろうと元の場所に還ろうと、俺にはさっきまでの記憶は残らない。もともとあってないようなもんだしね、俺は。だから…さっさと元の場所に戻れよ、仮面ライダーさん」

 

存在を失っていく少年に、光太郎は何の言葉も浮かばず、黙ってうなずくことしか出来なかった。

 

「けど、とりあえず礼は言っておくよ。とんでもねぇもんが見れたのもそうだけど、形だけでも俺を助けようとしたのは、あんたが初めてだったしな」

 

もはや、影しか見えない。それでも光太郎とライダーは彼が伝えようとする言葉を聞き漏らさないように黙り続けていた。

 

「それと、ここで見た過去と未来については、表に出たら忘れてるだろうぜ。さっき言ったが時間軸が並行しているのは、この場限りなんだ。それに、未来が分かってちゃ面白くないだろうしな」

 

振り返った少年…影は一歩、また一歩と足を前に進めて、光太郎達から離れていく。

 

 

 

 

「これは最後になるけどよ…あんたはもうちょいと、我が儘言ってもいいと思うぜ。弟さんも言ってたが、そうじゃなきゃ割にあわねぇよ」

 

 

 

振り返ることも、別れの言葉もなく、少年の姿は消えた。

 

 

 

「コウタロウ…」

「ああ、帰ろう。ライダー」

 

 

 

「決着を、着ける」

 

 




アンリ君は自分なりの解釈となっております。

さて、本作ですが残り3~4話で一区切りを付けたい予定となっておりますので、最後までお付き合いしていただければと思います。

感想などお気軽にお書きください。

では次回!


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第71話『創世王最後の日』

ライダーロボ…かぁ。お願いだからJさんをこれ以上…

おそらく今まで最長記録となる今回のお話。

では、どうぞ!


(ブラックサン…)

 

創世王の攻撃を避け続けるシャドームーンは宿敵とそのサーヴァントが黒い泥の中へ消えた光景が未だ目に焼き付いていた。

 

光太郎が助けようとしたのは、人間ではない。聖杯が儀式の為に形作った仮初の存在だ。聖杯戦争に参加するマスターとしての光太郎の行動は常軌を逸脱している。

 

だが、シャドームーンは光太郎がライダーを助ける為に呪いの塊である聖杯へ彼女と共に落下した事を呆れても、愚かとは思えなかった。

 

光太郎に取ってライダーのサーヴァントは人間と同じ…もしくはそれ以上の感情を向けていることは当初から分かっている。そのサーヴァントも口にしているか不明だがマスターに叶わぬ思いを抱いているのだろう。

ライダーが光太郎に取って守るべき者であるならは、光太郎は迷うことなく、考えるよりも早く身体が動いてしまうに決まっている。

 

(私には分かっていた。創世王があのサーヴァントを聖杯の泥へと投げ込んだ時から、ブラックサンの行動が)

 

それは同じ存在…世紀王だからか。それとも、キングストーンを持つ者同士だから理解できたのか。

 

否。

 

改造される前から光太郎の行動など彼にとっては深く考えるまでもなく理解し、予想も出来た。それは間桐光太郎とシャドームーンの肉体となった人間は、強い繋がりがあったからだ。

 

シャドームーンにとってそれが何であるかは分からない。だがこれだけは言える。

 

 

自分の知る世紀王ブラックサンは、あのような事でくたばる奴ではない。

 

 

 

「ならば、私は私の目的を果たす」

 

創世王は聖杯へ落ちたブラックサンではなく、自分の肉体を狙うだろう。その為致命傷となる攻撃はしてこないはず。その証拠に創世王が放っているのはシャドームーンも得意とする電撃…こちらの動きを止めるためのものだ。

 

「そんなもので私が捕まると思っているのか…!」

 

シャドームーンは掌に緑の雷を収束させ、槍のような形状へと変化する。シャドームーンが未だ見せてなかった技を警戒し、創世王が攻撃を中断したその刹那、シャドームーンはその場で強く地面を蹴り、創世王の真上を30メートル以上飛び上がった。

 

「オォッ!!」

 

シャドームーンによって投擲された雷の槍は落下を始めたと同時に拡散。無数の刃となった雷が創世王へと降り注ぐ。

 

『おのれ、小細工を…!』

 

だが、攻撃は創世王へ当たることは無かった。雷の散弾は創世王の足元に突き刺さるだけで、身体のどの部分も狙って放たれたものではない。この時、創世王はシャドームーンが聖杯の少女を苦しめない為に自分へ直接の攻撃が出来ないと推測した。再び自分のに傷を負わせれば少女を苦しめるという過程を通して治癒をする。ブラックサン同様、この世紀王にも人間としての甘さが残っている故かもしれない。

少女がゴルゴムの基地内で唯一心を許した存在がシャドームーンであったように、シャドームーンも少女を気に掛ける節が見られた。

 

器同士の傷のなめ合いと嘲笑した創世王はこれを好機とし、飛び上がっていたシャドームーンが着地する瞬間を狙うため、創世王は指先に力を収束させる。

 

身を持って教えなければなるまい。

 

他人を…ましてや聖杯の部品に過ぎない人形などに情をかけるなど、ゴルゴムの世紀王失格であるのだと。

 

シャドームーンが着地するまで2メートルを切った直後、創世王の指から放たれた怪光線は真っ直ぐに飛んで行き、標的を捉える…はずだった。

 

『なに…!?』

 

怪光線が接触する寸前、シャドームーンは真横から疾風の如く現れた緑色の陰に浚われて攻撃が当たることを免れた。攻撃を躱され、急ぎシャドームーンを助けた存在へと目を向けた創世王は動けぬはずであるマシンの名を口にする。

 

『バトルホッパーだと…』

 

創世王の攻撃が当たる直前にシャドームーンを乗せ、救出したバトルホッパーは巨大な複眼を思わせるライトを強く光らせると搭乗者のシャドームーンの操縦なしにドリフトし、創世王に向けて爆走を開始した。

 

「私に操縦されるまでもないということか。面白い、貴様がブラックサンと培った走り、見せてみろ!」

『PiPiPi…!』

 

グリップを握るシャドームーンへ言われるまでもないと物申すように電子音を響かせたバトルホッパーはさらに加速。正面から突進するバトルホッパーに向けて五指を向ける創世王だったが不意に自分の膝裏へ衝撃が走り、上体のバランスが大きく崩れてしまったことに気付く。何事かと急ぎ振り向いた先にあったのは、自分の足を押し続けているもう一台のバイクの姿があった。

 

『これはブラックサンが乗っていた…まさか先ほどの攻撃はッ!?』

 

シャドームーンが創世王に向けて打ち出した雷の散弾は創世王への攻撃でも目くらましでもなく、バトルホッパーとロードセクターを拘束していた光の網を打ち抜き、自由の身とするためだったのだ。

 

「今更気付いても遅い!」

 

シャドームーンの声を合図と取ったロードセクターは急後進。創世王とある程度の距離を離れた様子を見計らったシャドームーンはバトルホッパーのグリップを手放し、両手を創世王へと向け再びシャドービームを連射する。狙うはやはり創世王ではなくその足元へと打ち出すシャドームーンの意図が読めず防御に徹する創世王の視界を段々と土煙が覆っていく。

またもや目晦ましかと周囲を見渡す創世王の耳に唸るエンジン音を捉える。場所は自分の左方向。こちらへ不意打ちを仕掛けようとしているようだが、そう何度も手に掛かる程愚かではない。

左肘にある黒い刺…シャドームーンのエレボートリガーよりも鋭いそれを延長し、まるで死神の鎌を思わせる形状へと変えた創世王はこちらに向かってくるシャドームーンの首を切り落とす為に腕を引き、待ち構える。

 

『首など後から生やせばよい。死ぬがいいッ!!』

 

風を切る音と共に放たれた創世王の鎌により、バトルホッパーを駆って突進したシャドームーンの首は宙を舞う。頭部を失ったシャドームーンを乗せたまま創世王の横を駆け抜けていったバトルホッパーに遅れること数秒後、ポトリと足元へ落ちた世紀王の首を見た創世王。確実にシャドームーンを始末したはずだというのに、不安は一向に拭えない。

 

『…ッ!?』

 

その予感は的中した。

 

創世王が見つめていたシャドームーンの首が急に歪み始め、砂の山の塊へと変わってしまった。顔を上げれば、未だ晴れない砂埃の奥で停止しているバトルホッパーが乗せていたのは人の形をし、首の部分だけが欠けた砂人形であり、それは役目を終えたかのように崩れ去った。

 

『今のはキングストーンを使った幻術…!ならば奴は―――」

 

創世王がようやくシャドームーンの仕掛けたデコイの正体を見抜いたと同時だった。巨大な鎌を生やした創世王の腕は、鮮血を散らしながら重力に引かれて落下した。

 

いつの間にか背後に立ち、ゴルゴムの聖剣サタンサーベルを振り下ろしたシャドームーンの手によって。

 

『ヌ…オォォォォォォォォォォッ!?』

「片腕を失えば流石に吠えるか…」

 

サタンサーベルの刃に付着した血液を振るい落としたながら、腕の断面を右手で押さえながら蹲る創世王を見下ろすシャドームーンは冷たく言い放った。

 

『き…様!まさか、全てはサタンサーベルを手にする為に…!』

「その通りだ。貴様の前で呼び出した場合、奪われる恐れがあったのでな…」

 

シャドームーンと光太郎が死闘を繰り広げ、互いに最後の一撃を打ち合おうとした寸前、創世王はシャドームーンが手放したはずのサタンサーベルを遠隔操作し、光太郎の胸を串刺しにした。もし創世王の前でサタンサーベルを呼び寄せた場合、主導権を奪われ今以上に戦力を増してしまう恐れがあった。そこでシャドームーンはバトルホッパーや幻術を使い創世王へ注意を引き寄せている間にサタンサーベルを召喚。創世王にサタンサーベルを奪われることなく奇襲に成功したのだ。

 

「そして今は小娘を介して魔力を補給出来るような精神状態ではあるまい」

『こ、これはッ!?』

 

創世王の足元に緑色の魔法陣が現れた直後、地面へ縫い付けられたように動きを封じられた上に光の網が覆いかぶさった。

 

サーヴァント達の動きを封じた魔法陣に加え、バトルホッパーとロードセクターを閉じ込めた魔術の2つを合成した二重の結界に創世王は苦悶の声を上げる。

 

『私が使った術を…見ただけで…しかも同時にだと…?』

「貴様に使用でき、私に仕えぬはずがない」

 

 

創世王の驚愕に構うことなく踵を返したシャドームーンは聖杯の一部と化したイリヤの姿を見上げる。聖杯に囚われ、意識を失っている少女に向けて、シャドームーンは人差し指をゆっくりと向けた。指先に緑色の光が灯ると、その光は細い線となりイリヤの額が照らされる。

シャドームーンとイリヤを結ぶ細い光を不思議に思い士郎は隣でサーヴァントを支える凛へと尋ねた。

 

「遠坂。あれって…?」

「正直私にも…けど、この状況で無意味なことではないはずよ」

 

士郎は再び目をシャドームーンと自分と因縁浅からぬ少女へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その空間では、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは無数の鎖で拘束されていた。

 

まるで自分は聖杯という運命に縛られていると現しているような状態に、乾いた笑いが浮かぶ。

 

しかし、特段矛盾の生じる話でもない。聖杯を完成させ、幻となった第三魔法を再現する。それがアインツベルンの悲願であり、その為に彼女は生み出されたのだから。

 

だからこそ母親と同じく聖杯として生まれ、死んでいく運命を受け入れるはずだった。あの言葉を聞くまでは。

 

 

 

『貴様がゴルゴムに忠誠を誓うというならば、命を失わずに聖杯を取り出すことも可能だ。先の短い命も、永遠にする事もな…』

 

 

 

揺らいでしまった。

 

聖杯の為に無理な調整をされ、短い寿命とされた自分が生き長らえることが出来るという甘い言葉に。

 

(なんて、愚かなのかしら)

 

期待した報いだったのかもしれない。

 

本聖杯戦争から逸脱し、追加で召喚された名も知らない英霊の魂達を得て完成した聖杯。本来の機能も遂げられず、呪いを生み出す井戸と化し、死ぬまでゴルゴムに利用されるのが相応しいのだろう。

 

今回もそんな末路を受け入れようとした時、自分を揺るがす存在が現れてしまった。

 

「…何しに来たのよ」

 

彼が動けるようになったことを喜ぶべきなのに、裏腹の言葉が出てきてしまう。これ以上惑わしてほしくない。やっと役目に従事するべき時に現れた世紀王はイリヤの都合などに構うことなく、また一方的に告げた。

 

「私はただ、確認に足を運んだに過ぎん。お前に以前聞いた質問の答えをな」

「…っ」

 

イリヤは目を背ける。今できることは彼が聞こえる言葉に耳を貸さないだけだ。だと言うのに、口が勝手に開いてしまう。

 

「…お断り。今だって貴方やシロウ達を殺そうとしてるアイツに忠誠が誓える訳ないでしょ?あんな奴に従うなんてゴメンよ」

「………………」

「それにこれが私が選んだ道なの。聖杯を生み出し、そして死んでいく。そう教わってきたんだから…」

「ならば、私が眠っている時に話した内容は偽りだったのか?」

「…っ!?」

 

今ある現実を受け止める為に。自身を説得させる為に開いた言葉が止まってしまう。シャドームーンの言った言葉は、彼がまだ光太郎との戦いの傷が癒えず、再生カプセルで眠っている横でイリヤが一方的に話したことであった。

 

 

ゴルゴムの基地で居場所のない彼女が唯一落ち着ける場所。何度も通っているうちにイリヤは母親と父親に聞かされた世界についてシャドームーンへ語っていた。聖杯戦争以前は城の敷地内から出た事のないイリヤにとっては、父とから聞かされた世界の景色は御伽話以上に憧れであり、いずれ母親と共に見に行こうと約束をした。

しかし、約束は果たされることは無かった。それどころか、父親は自分を裏切り、母親を見殺しにしたという失望が彼女を襲う。真実はアインツベルンの当主によって歪められた内容となっているのだが、幼いイリヤにはそれが全てだった。

彼女はその怒りを父親の義理の息子である衛宮士郎へとぶつけることで晴らそうとしていたが、それでもイリヤの中であの楽しかった日々は忘れらなかった。

 

その思いと、母親が自分と一緒に見たいと言った世界を回ってみたいと思わず口から漏らした事を不意に思い出したイリヤは、ゆっくりとシャドームーンへと見上げる。自分の話を聞いて…覚えていてくれたのかと。

 

 

 

「今となってはゴルゴムのことなどどうでもいい。私が知りたいのはどのような形になっても生き延びたいのかということだ」

 

イリヤを縛っている鎖に亀裂が入る。

 

「貴様の言っているのはただの諦めに過ぎん。自分に降りかかっている聖杯の呪いを抵抗なく浴び、逃れようともしないだけだ」

「あ…あ…」

「…それでも分からんのなら内容を変えて問うぞ。貴様は生きたいのか」

 

 

 

 

 

「答えろ、イリヤスフィール」

 

 

 

 

初めて名前を呼ばれたイリヤの目から涙が溢れる。どうして彼は、今聞きたい言葉ばかりを言ってくれるのだろう。聖杯ではなく、イリヤという存在として扱ってくれるのだろう。利用する為にさらったくせに。

戯言だと、自分の話したことなど無視すれば良かったのに。

そんな疑問よりも、イリヤの口から飛び出たのは、彼の問いに対する本音という回答だった。

 

「生き…たい。生きたいよぉッ!」

 

「生きて切嗣の言った世界を…お母様が見たかった世界を見たい…シロウ達と遊びたい…」

 

「貴方と…まだ話したいことがたくさんあるのッ!だから…私は、生きたいッ!!」

 

イリヤの涙と共に溢れ出る言葉に反応して、彼女を縛る運命というなの鎖が一本一本千切れいく。だが、シャドームーンはそんな時間など待つまでもなく、腕を振るった。

 

彼女を拘束した鎖は、シャドームーンの手によって全てが一瞬で砕け散った。

 

 

 

 

 

 

「言うのが遅いのだ。馬鹿者め」

 

光を止め、腕を下ろしたシャドームーンの複眼と関節が緑色の光が宿る。世紀王の力を発動したシャドームーンはそのエネルギーを腹部のキングストーンへ全てを集中させる。

 

「シャドーフラッシュッ!!」

 

ベルトから放たれる眩い閃光。

 

 

「兄さん…あれって」

「ああ。光太郎とは違うけど、やっぱり似てるな」

 

桜と慎二はその光を眺めて、義兄の放つ光とは別の何かを感じた。

 

光太郎が放つものが暖かい日の光とするのならば、シャドームーンのものは闇夜の中で道を照らしてくれる優しい月の輝き。その光に照らされ、道に迷っていた少女は聖杯の呪いが剥がれていく。ゆっくりと降下する少女へシャドームーンは跳躍。

少女を抱き止めると慎二と桜の前へと着地した。

 

近くにいたキャスターや宗一郎は警戒するが、桜は臆することなく近づき、自分のライダースジャケットを一糸纏わぬ少女を包む。穏やかな寝息を立てている少女に微笑みながら慎二と共にイリヤをシャドームーンから受け取り、ゆっくりと地面へ寝かせた。

 

「…ありがとうございました」

「なぜ礼を言う」

「なんとなくです。やっぱり、貴方は兄さんの――きゃッ!?」

 

急に桜を突き飛ばすシャドームーン。倒れそうな義妹を支えた慎二は何のつもりだと怒鳴るつもりだった。

 

シャドームーンの腹部に黒い刺が生えてきた光景を見るまでは。

 

「ぐっ…もう、抜け出したのか…」

『…あんなもの足止めに過ぎん。しかし愚かなことだ。そのような人形にかまわず私に止めをさせばよかったのだ』

「全く持って、同意見だ…!」

 

結界から抜け出した創世王は切断された腕にあった刺を掴み、力を込めたことでシャドームーンを背後からの不意打ちを仕掛けていた。背中に突き刺さり、腹部へと飛び出た刺によりシャドームーンのベルト『シャドーチャージャー』が破損し、

火花が散っている。

シャドームーンの力の源であると同時に命と言える月のキングストーンを制御・維持する部分が破損したシャドームーンは戦いのダメージも相まって、段々と力を失っていく。

それでもシャドームーンは震える手で刺を掴み、手にしていたサタンサーベルで切断。振り向くと同時にサタンサーベルから光線を発射するが難なく躱されてしまった。

 

「ぐっ…思ったよりも傷が深かったか…」

 

さらに激しくバチバチと音を立てるベルトへ手を当てるシャドームーンに、桜は涙目になりながら訴える。

 

「どうして…どうして私なんかを!」

「勘違いするな…貴様達にもしものことがあれば、ブラックサンは感情に飲まれ、真の力が発揮できん。この後にある決着で、余計な事を考えさせるわけにはいかん…!」

「でも、それならアンタだって同じじゃないのか!?今の状態で…」

 

シャドームーンへ近づこうとする桜を引き留め、同じく大声を上げる慎二。あの傷は間違いなく致命傷。光太郎だって同じ傷を負えば生きられるかどうかも分からない程だ。

 

「いらぬ気遣いだ…このような傷、私に、は…」

 

サタンサーベルを杖代わりにしようにも力が入らず、ついに倒れてしまうシャドームーン。それでも、サタンサーベルは決して離そうとはしなかった。

 

『その闘志だけは認めてやろう。だが、死ぬ前にその身体を…ぐぉッ!?』

 

倒れたシャドームーンの身体を奪おうと一歩踏み出した創世王は立ち止まり、残る右手で頭を押さえながら苦しみ始めた。光太郎とシャドームーンの攻撃によるダメージが遅れて襲ったのかと思案するが、ここに来るまで情報を共有していたバゼットはある事を思い出す。

 

 

 

「寿命…あの怪物の命が、尽きようとしているのか?」

「そういや、その為に黒い兄ちゃんとあの銀色の身体を狙ってたんだっけか?」

 

マスターの言葉を捕捉したランサーは槍を支えに立ち上がる。今のままでは宝具を発動は難しい。仮に使ったとしても相手の心臓に届く前に消滅しかねないのだ。

 

「くっそ…相手が動けねぇ好機だってのによ…!」

 

 

『おのれ…ならば今すぐ…むッ!?』

 

自身の寿命と連動しているかのように現れた太陽の巨大黒点が間もなく消滅しようとする中、急ぎシャドームーンの肉体を奪おうとする創世王だったが、溢れ続けていた聖杯の呪いがピタリと止まっていることに気付く。

 

「聖杯から妖気が消えた…まさか」

 

アサシンの予感が的中したかのように黒い泥であった聖杯から触れただけで死へと誘う呪いが消失していく。黒い泥はやがて眩い白色へと姿を変え、聖杯は真の姿を現した。

 

そして純粋な魔力の池となった大聖杯の中央が渦巻き、湧き上がると同時に黒と紫の陰が飛び出したのであった。

 

帰還を待ちわびていた信二と桜は、その名を呼ばずにはいられなかった。

 

 

「光太郎ッ!!」

 

「ライダーさんッ!!」

 

聖杯から帰還した光太郎は家族に向かいゆっくりと頷いた後、倒れてしまったシャドームーンへと視線を向ける。

 

「信彦…」

「光太郎…今は」

「ああ…わかっている!」

 

今すべきことは創世王を倒す事。聖杯の悪意全てをその身に受けた光太郎のダメージは未だに深い。ならばこそ急ぎ決着をつけようとするが、創世王は再び光太郎を嘲笑した。

 

『フハハハ…まさか聖杯を浄化して現れるとは…見事と言っておこう。しかし、同時に愚かなことをしたものだ』

 

切断された腕を聖杯へと向ける創世王。それに反応するかのように聖杯から白い触手が伸び、創世王へとゆっくり接近する。

 

「ちょっと、あのままじゃ…!」

「ああ。再び創世王の傷が癒えてしまう。しかし、なぜ落ち着いていられる?」

 

再び魔力により力を補給…それどころか聖杯の魔力を全て吸い取り、光太郎達なしでかつての力を取り戻しかねない状況だと言うのに、光太郎とライダーに焦りを微塵も見せない姿にアーチャーは疑問に思った。もしや、どうなるか知っているのか?

 

 

「無駄だ。創世王」

『ふ…貴様の言葉など聞き…ヌオォォォォッ!?』

 

光太郎の忠告を無視し、聖杯の魔力に触れた創世王の傷口が焼け焦げる。煙を上げる傷口を抑える創世王には何故だという言葉しか浮かばない。そしてその回答は光太郎から告げられた。

 

「創世王…お前が聖杯の魔力を呪いなしに吸収できたのはあの少女という窓口があってからこそだった。そして今は聖杯は呪いもなくなり、完全な機能を取り戻している。そう、『聖杯が認めた者』しか使用できないという機能も含めてな」

「なるほど…そうなればいくら無色の力と言えど、聖杯を掴んだ者以外には毒にしかならない。だから創世王は触れる事すらできなかった」

 

光太郎の言葉を聞き、キャスター顎に手を当て納得したかのように頷く。これで創世王は聖杯の魔力を取り込むことは出来ず、治癒することも出来なくなった。

 

 

『…………………………』

 

押し黙る創世王。

 

聖杯からも拒絶され、着実に命が尽きる時間が迫っている。手段のなくなった敵の首領へ最後の攻撃をしかけようと構えた。その時だった。

 

 

 

 

 

『いらぬ』

 

 

 

 

創世王の一言と同時に大地が大きく揺れ始めた。無論、自然現象による自身などではない。立つことすら儘ならない中、倒れそうなライダーを支える光太郎は立ち上がり、天井を見上げる創世王の叫びを聞いた。

 

『ここで私が死ぬというのならば、この世界など…この惑星など、もういらぬッ!!私と共に滅びるがいいッ!!』

「創世王ッ!?お前、まさか…」

『このまま私はメルトダウンを起こし、地球の核へと落下する…悔やむがいいブラックサン。貴様は、地球を滅ぼす片棒を担ぐのだッ!!』

 

この場にいる全員が敵の宣言に驚きを隠せなかった。創世王を追い詰めていた結果、最後になって地球を破壊する行動へ走ってしまった。

 

 

「そんな事はさせんッ!!」

 

創世王の足元が段々と赤く変色していく。地面へ溶かし、地球の中心に到達する前に倒さなければならない。光太郎は迷う間もなくその場から跳躍し、最大の技を創世王に放った。

 

「ライダーッ!キィック!!」

『無駄だッ!!』

「く…があぁッ!?」

 

光太郎のライダーキックが届く寸前、創世王が発生させた強力なバリアに弾き飛ばされてしまう。地面を転がる光太郎へ駆け寄るライダーは己の目からキングストーンフラッシュと同等の力をぶつけるが、まるで効果はない。

 

「そんな…キングストーンの力も通用しないなんて」

「あれだと…ロードセクターのスパークリングアタックでも効果はない…か」

 

仮にロードセクターでの体当たりを試みても破壊されてしまう可能性が高い。地震による振動で周囲には大きく亀裂が走り、既に天井から瓦礫が降り注ぎ始めている。いつこの空洞も崩壊してもおかしくはない。

 

『さぁ後悔するがいい者共…この創世王に逆らった事をなぁッ!!』

 

あまりにも身勝手な行動。だが、あのバリアを敗れる手段が何一つ浮かばない一同はただ創世王が地球を滅ぼす光景を見ているしかない自分の無力を呪っている中、光太郎は創世王の言葉にある『もの』が浮かんだ。

 

(そうだ…俺も創世王の候補だというのなら…呼べるはずだ!)

 

自分の命を幾度となく脅かしたその名を、光太郎は絶叫するかのように轟かせた。

 

 

「サタンサーベルッ!!」

 

 

光太郎から数十メートル先。自分の手の中でカタカタと揺れるサタンサーベルに気が付いたシャドームーンはゆっくりとその手を解放する。自由の身となり、飛んでいくゴルゴムの聖剣を眺める後、再び意識は遠のいて行った。

 

 

「あれはッ!?」

 

慎二達から見れば嫌悪感しか抱けない、一度義兄の命を奪った剣。専らシャドームーンが使用していた剣が、同じく世紀王である光太郎の元へと飛来していく。今、創世王の強力なバリアを敗れるとしたら、創世王の腕を切り落としたあの剣しかない。

 

光太郎はその手に取ろうと腕を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掴もうとした寸前に、粉々に砕け散ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言っただろう…貴様達を後悔させるのだと』

 

 

創世王は手をサタンサーベルの破片が散らばった場所へと向けている。つまり、創世王はかつての愛刀を自ら破壊したのだ。そして破壊したということは、サタンサーベルであのバリアを破壊する可能性があった事になるが、今となってそのような分析は無意味であった。

 

 

最後の希望すら創世王に打ち砕かれ、手段はもはやない。

 

 

だというのに、光太郎は立ち上がった。

 

 

「く…さっきのライダーキックで力の大半を使ってしまったか」

「しっかりしてください。コウタロウ」

 

ふらついてしまうが、隣に立つサーヴァントに支えれる。その顔には不安はない。むしろ、地球がいつ滅びるかも分からない時だというのに、優しく微笑んでいる。

 

「いつも無理しているコウタロウは何処にいったのですか?」

「ハハ…いつもと言っていることが逆、だな」

 

こんな顔されては、こちらも弱音なんかを吐いていられない。光太郎は再び自身の力で立ち、創世王に向かい構えた。

 

「いくぞ…創世王ッ!!」

 

 

 

「光太郎さん…」

 

倒れても何度も立ち上がる姿を見つめている士郎の横で、今まで肩を貸していたサーヴァントも彼の影響を受けたのか、微笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「どうやら、諦めていないのは彼らだけではないようです」

 

そうして目を横に向ければ、間桐兄妹が何か有効な手段はないのかと手持ちの道具であれこれと言い合っている姿を見て、士郎はゆっくりと目を閉じる。光太郎はかつて自分に言った。

 

守り、失いたくないものがあるから戦えるのだと。そして、自分に出来る戦いをしろと。

 

光太郎とライダー、慎二と桜も懸命に今自分に出来る事を実践している。もう、大切なものを失わない為に。

 

ならば、自分もできることを、すべきことをする時。今やらずに、いつやれというのだ。

 

決意と共に目を開いた士郎は己の力全てを右手に集中させた。

 

 

 

「――投影開始(トレース・オン)!!」

 

バチバチと掌の中で弾ける魔力。まるで体内の血液が沸騰するような熱さ。神経が焼き切れるような痛み。発狂してもおかしくない痛みが士郎の中で駆け巡るが、それでも衛宮士郎は形創ることをやめようとしなかった。

 

「アアアアアアアアァァァァァッ!!」

 

震える右手を左手で固定し、今輪郭を現し始めた『剣』を幻想として生み出す為に、衛宮士郎は止まるわけにはいかない。

 

「いけない士郎ッ!それを生み出すのは…神代の宝具を投影しようとするに等しい…もし完成したとしても士郎は…」

 

それに、今は彼は自身で傷を癒すことは出来ない。戦いの前に、彼と自分を繋いでいた彼女がかつて所持していた『鞘』を取り出してしまっている。腕から千切れるような痛みに耐えながらも投影を続ける士郎の視界が傾く。

 

いくら精神力で術を続けようが、身体が言うことを聞いてくれなかったのだろう。だが、いつまでも身体は倒れることは無かった。誰かが士郎の身体を支えたようだったが、誰かと視線を向けたと同時に飛んできたのは聞きなれた友人の怒鳴り声だった。

 

「ボサッとしてないで投影を続けてろよッ!また輪郭が歪んできただろっ!!!」

「慎二…」

 

慎二の背中にのしかかるような状態となった士郎は自分を倒させまいと支える友人の名を呟きながら、再び投影に意識を集中させた。

 

「悔しいけど、今の僕には光太郎を助ける手段は浮かばない。だから…今衛宮がやっていることがあいつの…『兄さん』の助けになるんなら、いくらでも支えてやるッ!!」

 

慎二の言葉に熱を受けたように、士郎が作り出そうとする幻想に力が宿っていく。さらに魔力が削られ、痛みが増していくはずなのに今以上に痛覚が広がっていない。むしろ、痛みがどんどん和らいていく感覚に、士郎は自分の背中に手を当てて傷を癒し、

同時に魔力を送ってくれている名を呼んだ。

 

「桜…お前も」

「だい、じょうぶです!こんなもの、兄さんと比べたら…」

 

強気に笑って見せる後輩の助けを借りたことで、より形をはっきりさせていくものを見ながら、桜は言葉を続ける。

 

「こうして、私の知らないところで先輩はボロボロになっていたかもしれません。本当なら、やめて欲しいくらいです。でも、先輩は止まるわけには、いかないんですよね?」

「…ああ」

「なら、一緒に無理させて下さい!先輩は、1人じゃないんですから」

「…………」

 

不思議と、力が湧き上がってくる気分だった。そう、今は燃え盛る火の海でただ1人逃げ出した自分ではない。家族と、仲間がいる。大切な人々を守る為に、正義の味方となると誓ったのだ。だから、こんなところで諦めるわけにも、死ぬわけにもいかないのだ。

 

 

 

「どうやら、貴様は違う道を行きそうだな」

「え…?」

 

「全く、無茶するんじゃないの」

「姉さん…?」

 

集中する余り気が使なったのか。見ればアーチャーが自分と同じく投影しているものに右手を添えており、凛は桜の流す魔力のコントロールを行っている。

 

「いい?私が桜の流す魔力を誘導するから、貴方はだた魔力を全力で士郎に流していくことだけを考えなさい」

「は、はい!」

 

先程よりも早く、膨大な魔力が士郎へと流れていく。和らいでいた痛みが、完全になくなっていくかのように。それ以上に、士郎は不思議だった。自分の創り出そうとする幻想に他の者が手を加えたというのに、乱れるどころか完成に迫っている。

この英霊は、本当に何者なのと考えるが、そんな疑問を許さないアーチャーの撃が飛ぶ。

 

「たわけ!集中力を乱すな!!今、貴様がすべきことは何だ!!」

「…ッ!?お前に言われなくたって、解ってる!!」

 

交る士郎とアーチャーの魔力が生み出した幻想はついにその姿を現し始めた。だが、まだ足りない。

 

「いいか!直に触れていなくてもその力がどれ程強いかを自分で決めろ!だだしそれに限界があると考えるな、私達が作り出そうとしているのは、そういうものなのだ!!」

「アアアアアアアッ!!」

「そうだ…『俺達』に出来るのはただそれだけだ。考え、生み出す。イメージすることは、常に最強の自分のみ!!」

 

魔力を注ぎ込むだけではなしえない。それが持っている強さ。自分達の創造を遥かに超えるものをイメージしてこそ完成する。

 

士郎とアーチャーの幻想が、今形となった。

 

 

『――投影完了(トレース・オン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはぁッ…!」

 

こうして地面を転がるのは何度目だろうか。キングストーンフラッシュを放っても揺らぎもしない創世王のバリアに挑み続ける光太郎は、やはりまたも立ち上がった。

 

『いい加減諦めるがいい。もう結果は変わらん』

「そうはいかないな…」

 

だが、流石に立つのがやっととなってきた光太郎は再度攻撃を仕掛ける為に創世王との距離を測る。敵は10メートル以上先におり、バトルホッパーと共に囮になってくれたライダーも弾き飛ばされ、自分の背後にいる。彼女達が攻撃されない為にも今以上後ろに下がる訳にはいかない。

しかし、時間は止まってはくれない。創世王の足首までが地面へと沈み、そのペースはどんどん早まっていく。どうすればいいと迷う光太郎の耳に、かつて自分の正義と意地をかけて戦ったサーヴァントの声が届いた。

 

 

 

 

「間桐光太郎ッ!!」

 

 

振り向いたと同時に自分の目の前に迫ったそれを光太郎は本能的に掴み、思わずその名を呟いた。

 

 

 

「サタンサーベル…!」

『馬鹿な…あり得ん!!』

 

創世王ですら驚くしかない。確かにサタンサーベルは先ほど創世王自身によって粉々になったはずだ。もう、この世に存在しない。それに、サタンサーベルを掴んだ途端に力が伝わってくる。まるで、みんなのお思いを込めて作られたように。

 

「これは…」

 

サタンサーベルが飛んできたその先では、ぐったりとしながもこちらへ微笑みかけている士郎や凛、慎二と桜の姿があった。そしてこちらに弓を向けたまま相変わらず不敵な笑みを浮かべたアーチャーは、静かに前へと倒れた。

 

サタンサーベルを創り出す為に士郎と共に魔力を注ぎ、さらに光太郎へと届けるために弓を引いたことで力を使い果たしたアーチャーの役目は終わったように倒れてしまう。勝利を確信したような笑みを浮かべて。

 

「さぁ見せて見ろ。仮面ライダー…」

 

 

 

 

まるで自身の手の先にあるような一体感。そして失った力が戻ってくるような気持ちとなった光太郎に反応するように、キングストーンに輝きが宿っていく。

 

「受けて見ろ…創世王ッ!!」

 

大きく腕を振るい、手にしたサタンサーベルを創世王へ向けて投擲。赤い光を宿したサタンサーベルは真っ直ぐ創世王に向けて飛んでく。

 

『ならば、再び破壊してくれるわッ!!』

 

手を翳し、サタンサーベルに自壊するように命令するが、受け付けない。何度やってもその結果は変わらず、サタンサーベルと創世王の距離は縮まっていく。

 

『な、なんなのだあの剣はッ!?』

 

創世王へと迫るサタンサーベルはかつて創世王が手にしていた剣ではない。士郎が、そして彼を支えた慎二や桜達が光太郎の為だけに生み出した新たな剣なのだ。

 

だからだろうか。創世王には、サタンサーベルの形状が全く別の形に見えてしまったのは。

 

 

 

 

金色で染まった柄が黒へと変わり、蛇を思わせる刺の生えた金色の鍔が洗練された銀色の円形となり、その中央では赤い風車が光を放ちながら回転している。

 

そして血のような紅い刀身が蒼白に輝く光の刃となっていた。

 

まるで、太陽の輝きを宿しているかのように。

 

だが、やはりその剣はサタンサーベルだった。

 

そう創世王が理解した時には、サタンサーベルはバリアを破壊し、胸へ深々と突き刺さっていたのだから。

 

 

 

『ぐ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

絶叫を上げると同時にバリアも消失し、メルトダウンも停止した。

 

サタンサーベルはその役目を終えたかのように消え失せ、残ったのは創世王の胸にくっきりと残った傷痕だけであった。

 

 

この時を、逃すわけには行かない。

 

 

 

「今だああああぁぁぁッ!!!」

 

 

光太郎はもがき苦しむ創世王に向かい走り始める。その背後には、いつも間にか自分を追いかけるように走り迫る巨人が刃を横なぎに振るってきた。

 

「■■■■■■■■――ッ!!」

 

咆哮する巨人―――バーサーカーの行動を読んでいたかのように光太郎は飛び上がり、自分の背中に迫っていたバーサーカーの斧剣に着地。同時にバーサーカーは右足を軸にして回転。両手で斧剣の柄を掴み、斧剣に乗った光太郎を打ち出すように全力で真横に振るった。

 

そのタイミングに合わせて光太郎も斧剣を蹴り、弾丸のようなスピードで創世王へと接近する。

 

 

 

 

 

「ライッダアアアアアアアアアアァぁぁぁぁッ!!」

 

 

光太郎は右拳を、創世王の傷に向けて突き出した。

 

 

 

「パアァァァァァァァァァァァンチッ!!!」

 

 

 

キングストーンの力も籠めない。ただ力任せの拳。

 

だが、今の創世王の胸板へと叩き込まれた攻撃はそれだでも効果は絶大だった。

 

 

 

『ガハァッ!?お…のれぃ!!』

 

 

それでも創世王は倒れない。右腕を振るい光太郎を突き飛ばすと口のマスク部分を解放し、破壊光線を発射する。こちらに目を向けられず、回避不能とされた攻撃だったが、光太郎の前に展開された魔法陣…防護壁によって阻まれてしまう。

 

遥か後方。マスターに支えられたキャスターが発動させた魔術はそれだけではなかった。

 

吹き飛ばされながらも次の攻撃の為に体勢を整える光太郎の落下地点に展開される二つの魔法陣。そこから飛び出したランサーとアサシンはこちらを見て笑いながら互いの武器を交差。光太郎が仕掛ける攻撃の為に、足場を作ったのだ。

 

頷いた光太郎が交差した箇所に両足を付けたと同時に、残る魔力を腕の筋力に回した2人のサーヴァントは全力で光太郎を打ち上げた。

 

「さぁ―――」

「行ってきやがれぇッ!!」

 

 

自分の跳躍する高さを遥か凌駕する領域まで上る光太郎。だが、それを許す創世王ではない。こちらに攻撃を繰り出すまでに仕留めようとその腕を光太郎へと向けようとするが、幾層の鎖が絡まり、腕を振るうことは出来なかった。鎖が伸びる先で鎖を両腕で引くギルガメッシュはニヤリと笑いながら言った。

 

「今度は腕どころか指全てを封じているだろう?」

 

そして動けない自分に地上で迫るもう一つの存在。

 

黄金の剣を構え、風を纏いながら接近する騎士王の姿。

 

「ハアァァァァァッ!!」

 

『オノレ…』

 

口から次に散弾型の攻撃をセイバーへと向けて放つが、セイバーは止まらない。腕が傷つこうが、頭部に触れ、解けてしまったブロンドの髪が風に靡こうか構うことなく創世王へと肉迫する。そして自身を守ってくれていた銀色の甲冑を魔力へと戻し、それ全てを剣の刃へ注ぎこんだ。

 

約束された(エクス)―――」

 

大きく振りかぶった剣を創世王の胸板目がけ、振り下ろす。

 

「―――勝利の剣(カリバー)!!!」

 

 

『ぬがぁッ!!』

 

ガキンッと金属のぶつかり合う音と共に弾かれるセイバーだったが、並行して走るバトルホッパーとロードセクターの上にしがみついたことで落下することは免れた。

 

 

創世王の胸板には小さく亀裂が走る。だが、それだけでも充分だった。

 

 

『ぐぅ…ならば貴様から―――』

 

鎖ごとギルガメッシュを引き寄せて始末しようとする創世王だったがその動きが止まる。緑色の雷が創世王の首を縛りつけていた。ギルガメッシュとは反対に位置する場所へ立っていたシャドームーンの放ったシャドービームによって。

 

 

左右から鎖と雷によって引かれ、動きが取れない創世王に向けて攻撃を放つ絶好の機会。その役目は、もう彼…否、彼と彼女しかいない。

 

 

 

「さぁ、決めよ光太郎ッ!!」

「………」

 

遥か上空を漂う存在へと叫ぶギルガメッシュに続き、シャドームーンも顔を上げた。

 

 

 

光太郎は自分よりも先に愛馬に跨って浮遊していたライダーと合流する。

 

もはや語る言葉は互いにない。

 

今やるべきとはただ一つ。

 

 

 

 

「行こう。ライダー」

「はい」

 

ペガサスから飛び降り、光太郎と並ぶライダー。

 

2人の意図を汲んだかのようにペガサスは背後へと移動し、後ろ足を力いっぱいに引く。

 

それに合わせて、体を下へ向けながら光太郎とライダーはペガサス後足の蹄へとつま先を乗せる。同時に、ペガサスは思い切り2人を地表へと向け蹴り下した。

 

創世王のいる場所へと急降下する光太郎とライダーは同時に前転、そして背中合わせとなり光太郎は右足を、ライダーは左足を突き出した。

 

 

 

 

「この一撃に、全てを懸けるッ!!」

 

 

光太郎が叫ぶと同時に複眼と関節部が真っ赤に染まる。その直後、赤い光が全て光太郎の右足へと収束する。

 

 

同時にライダーの左足にも魔力が集っていき、紫色に輝き始めた。

 

 

『させるかぁッ!!』

 

再び破壊光線を口から発射する創世王だが、光線は迫りくる光に全て弾かれてしまう。

 

 

創世王へと迫る赤と紫の光はより強くなり、2重螺旋を描く星となった2人は、これまでに多くの敵を葬り、最初で最後になるであろう攻撃を創世王へと叩き込む。

 

 

 

 

 

 

「ライッダアアアアアアアアアアァぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

「ダブルぅッ!!!」

 

 

 

 

『キイイイイイィィィィィィィィィックッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故だ…』

 

 

 

そう口から零す創世王の背後には、変身を解いた傷だらけの光太郎と、ライダーが着地していた。

 

 

 

 

『何故、だ…』

 

 

 

同じ言葉しか話せない創世王の胸には大穴が空いている。そして次第に炎を上げながらボロボロと崩れていく。

 

 

『な…だ…』

 

 

 

もう言葉すらまともに離せずに崩壊する光太郎はゆっくりと振り返り、塵と化していく敵を見つめた。

 

この敵が今まで仕出かしたことは決して許されることではない。同情の余地も、駆ける言葉すら浮かばない。

 

だが、最後ぐらいは看取るべきだと光太郎は思った。

 

永遠の孤独の中で、誰にも心開くことが出来ず、頼る事すら許されなかった。

 

甘い感傷に過ぎないと言われるかも知れない。

 

それでも、その最期を誰かが知っていなければいけない。

 

そう考えた頃には、ゴルゴムを総べていた存在は、完全に消滅していたのだった。

 

 

 

 

 

 

「終わったの…ですね」

「ああ…けど」

 

まだ、仕上げが残っている。あの大聖杯を破壊するまでは、まだ終われない。そう一歩へ出た光太郎の前に立った存在は、先程よりも激しく火花をベルトから散らせている。だが苦しむ様子もなく、悠然と光太郎へ告げるのであった。

 

 

 

 

「ブラックサン…『俺』と戦え」




2つに分ければよかったかな…

次回は2人の最期の戦いです。

お気軽の感想を書いて頂ければ幸いです!


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第72話『約束のために』

後半は批判覚悟となっております。

それでは、72話です!


崩落が続く空洞の中、満身創痍のシャドームーンはベルトの損傷がさらに悪化している状態にも関わらず、聖杯を背後にし、宿敵へ言い放つ。

 

「ブラックサン…俺と戦え」

「……………………」

 

間桐光太郎は無言のまま宿敵へ視線を逸らさないまま、自分の背後に集った仲間達へと告げる。その言葉に、慎二の肩を借りている衛宮士郎は驚きを隠せず大声を上げずにいられなかった。

 

「みんな…先に戻ってくれ。俺はシャドームーンと決着を付ける」

「何を言ってるんですか光太郎さんッ!!」

 

光太郎を除き、全員の視線が士郎へと注がれる。士郎を支えている慎二など、突然響く大声に顔を顰めながらも、次に友人が言うであろう言葉が余りにも予測通りであった為か、止める事すら面倒に思えてしまっていた。

 

「もう創世王はいないのに、あんた達を縛るものは何もないのに、何で闘う必要があるんですかっ!?」

 

あまりにも、正しすぎる疑問。

 

士郎の言う通り、創世王が消滅した今、ゴルゴムという組織は壊滅したも当然だ。世界中にいるゴルゴム怪人への指揮系統は完全に崩れ、光太郎と志を同じくする戦士達が殲滅に当たってくれているだろう。

 

ならば光太郎とシャドームーンが戦う理由はない。

 

だというのに、なぜ2人が…親友同士が戦わなければならないのか。

 

光太郎の過去を知った士郎にはどうしても納得が出来なかった。

 

幼き日の自分達の話をあんなにも楽しく、悲しげに話していた姿を見てしまっては…

 

 

「ありがとう。衛宮君」

 

やはり光太郎は振り返ることなく、いつもの調子で告げた。

 

「君の言う通りだ。もう、俺とシャドームーンの間では戦わなければならない理由も、その元凶もいなくなった」

「だったら、なんでッ!?」

「もし、今から始める戦いに理由があるとするなら…」

 

 

 

 

 

「ただの…約束だよ」

 

 

 

ただ、空洞が崩れ続ける音だけが響いた。

 

「…行くぞ、衛宮」

「お、おい慎二ッ!?」

 

慎二に引きずられる形で士郎は光太郎達から離れていく。抵抗しようにも立つことがやっとである士郎が敵うこともできず、必死に自分の身体を引っ張る友人へと呼びかけるが、答える様子はまるでない。

 

「慎二ッ!お前はいいのかよッ!?」

「…黙って歩けよ。怪我人の分際で」

「離せッ!こんな意味のない戦いなんて――」

「先輩ッ!!」

「…桜?」

 

力の入らない手で慎二を押しのけようとした士郎と強引に出口へ歩き続ける慎二に大声で仲裁に入った桜は士郎の手を取り、懇願するように俯いた。

 

「…お願いします。光太郎兄さんを、止めないでください」

「お前は…いいのか?」

「…よく、ありません」

 

段々と小さくなっていく桜の声は、震えていた。それだけではない。見れば、彼女の足元には一つ、また一つと雫が落ちている。

 

「でも、約束してしまったんです。約束は…守らなきゃ、行けないんです」

「桜の言う通りです」

「ライダーまで…」

 

光太郎に背を向けたライダーも、慎二同様に出口へ向かい歩き始める。共に支え合ったサーヴァントが隣からいなくなっても、光太郎は宿敵しか見ていない。

 

「コウタロウ…ご武運を」

「ああ…」

「……………」

 

短く答えたマスターへもう一つ伝えたいことがあったが、ライダーはその言葉を飲み込む。今、彼には他の懸念を与えてはいけない。だから、自分の事など二の次であると言い聞かせ、ライダーはそれ以上マスターの方へと振り向かずに出口へと向かった。

 

「シロウ。我々も続きましょう」

「セイバー…」

「2人の間には、私達が立ち入れないものがある。ライダーや、サクラ達すらも立ち入れない程の…」

「………………」

 

セイバーの観察眼は間違っていないだろう。今ですら宿敵から視線を逸らさず『外野』である自分達がこの場を去るのを待ち続けているのだから。それが今の家族である慎二や桜であっても…

 

 

「…行くぞ」

「わかった…」

 

慎二に頷いた士郎は一度だけ背後を振り返る。変わらず、光太郎は宿敵と向き合っているだけだった。

 

 

 

 

 

ライダーや慎二達に続き、他のマスターやサーヴァント、そして主人の意思を尊重し自動走行するバトルホッパーとロードセクターは次々と空洞を後にする。ただ1人、その場で足を止めていた人物は背後の空間を歪ませ、取り出したものを光太郎に向けて放り投げる。

振り向かないまま自分に向けて飛んでくるものを掴み、手を広げた光太郎は、それが紐に繋がれた小さな水晶だと気付く。光太郎へ水晶が手に渡ったことを確認したギルガメッシュは踵を返し、ライダー達と同じく出口へと向かいながら水晶の詳細を語った。

 

「それはクジラ共が認めた相手にしか渡さぬという命の水の結晶体。持ち主を加護すると言われているそうだ」

「そうか。クジラ怪人達が…」

「この世に一つしかないものを貸してやったのだ。詰まらぬ結果を出すのではないぞ」

 

そう言って、黄金の光と共に姿を消したギルガメッシュに向かい、光太郎は微笑みながら水晶に繋がった紐を解き、自身の首の後ろで結び直した。胸元で輝く水晶を一度指で撫でると、光太郎は改めて宿敵へと視線を向ける。

 

「待たせたなシャドームーン」

「…別れは済んだようだな」

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルトが出現。ベルトの中央から赤い光が宿り続けたと同時に、光太郎は両手を右頬の前まで移動し、両拳を強く握りしめる。

 

 

「違う…みんなは俺とお前との約束を優先させてくれたに過ぎない」

 

 

ギリギリと音が響くほど強く握る力を解放するように、右腕を左下へと突き出す。

 

 

「だから、俺はみんなの元へ絶対に戻る」

 

 

素早く右腕を引き戻し、腰に添えると同時に左腕を右上へと突き出す。

 

 

「そして、今度はみんなと交わした約束を守るんだ…」

 

 

扇を描くように突き出した左腕を右から左へと旋回し…

 

 

「その為にも、俺は負けない」

 

 

両腕を右上へと突き出した。

 

光太郎を包む赤く眩い光は細胞組織を変換し、彼をバッタ怪人へと姿を変えた。だがその変化も一瞬。キングストーンの光は光太郎をさらに強い光と共に強化皮膚『リプラスフォース』で全身を包む。

 

余剰エネルギーとして関節部から噴き出した蒸気の中…変身を遂げ、姿を現した黒い戦士、仮面ライダーBLACKの姿もシャドームーンと同様に傷だらけの姿であった。

 

しかし、互いにそのような事で手を抜くことは決してしない。

 

これが最後の戦いになると、理解している故に…

 

 

「ブラックサン…勝負だッ!!」

 

「望むところだッ!!」

 

 

 

 

 

外にたどり着いた慎二達を出迎えたのは、待機していたクジラ怪人の一族と、大雨であった。

 

打ちつけられる雨粒が傷口へ沁みわたるが、誰もが構うことなく洞窟の奥を見つめている。あの闇の奥…崩壊を続ける空洞で戦いを始めた光太郎とシャドームーンの勝敗の行方。もう、その結果しか関心が行き届いていないのだろう。

そう察したクジラ怪人達は調達してきた廃棄された傘やベニヤ板等をマスターとサーヴァント達の頭上に掲げ、今以上に雨水に晒されないように行動を始めた。

 

「ん…ありがとね」

「本当に、律儀な者達だ」

「…ねぇ、アーチャー。貴方は…」

 

手ごろな岩へ背を預ける凛はお礼を言われ頭を上下させて喜ぶ幼態のクジラ怪人に微笑みながら赤い外套のサーヴァントへ尋ねようとした。あの時、士郎が投影によりサタンサーベルを生み出そうとした際に、自分と同じく補助に回っていた。だが、補助が出来ること自体が有り得ないことなのだ。

 

投影魔術は自分自身の心を映し出して創造する術。別人2人が同じ剣をイメージし、共同で投影したとしても術者の抱く心象の微かな違いが生まれ、形とならず崩壊してしまう。その為、投影魔術に別人の補助が入ることで成功することなど限りなくゼロに等しい。だというのに、アーチャーと士郎は投影を成功させた。桜の魔力を制御することで精一杯であった凛にそれを気にする余裕など無かったため、今になって聞き出そうとした。

 

貴方は、何者なの? と…

 

 

「いえ、なんでもないわ」

 

大体の察しは付いている。あの分からず屋の半人前に、まるで過去に見てきたかのように的確な指示を与え、自分以外が知るはずのない短剣を生み出した自分のサーヴァント…

 

ならば、彼から言う出すまで待とう。そして、そんなの見抜いていたと偉そうに言うつもりである。自分ばかりが驚いてばかりだと、なんだか癪だ。

 

「その時間が、残されていたらの話だがね」

「…やっぱり、そう思う?」

 

自分の考えを見透かしているアーチャーへ驚くことなく、尋ねたのは光太郎が勝利した場合の事。

 

光太郎が聖杯戦争へ参加した本来の理由。冬木の街で起こる聖杯戦争を終わらせる為に、大聖杯を破壊する。それはつまり、聖杯によって存在するサーヴァントを消滅させる事と同意意義だ。

今回の聖杯戦争で一番最初に聖杯へと触れた者…事実上勝者となった光太郎が聖杯の破壊を望むのならば、触れることすら出来なかった凛達に反対などできるはずがない。

 

凛やアーチャーと同様に、光太郎の目的を聞いていた他のマスターやサーヴァントも意見する者はいない。

 

しかし、後悔しているサーヴァントが1人いたようだ。

 

 

 

「ライダーさん…」

「サクラ…」

 

クジラ怪人の雨除けを遠慮し、ただ一人雨に当たり続けているライダーに背後から声をかける桜。以前光太郎に助けられた個体のクジラ怪人から渡された傘を持って、義兄のパートナーの隣へと移動した。気配で彼女が隣にいることはわかっていても、その目は洞窟の奥しか向けていない。

 

「本当に…駄目ですね。私は…」

「…………………」

 

ライダーの独白に、桜は黙って聴き続けた。

 

「もう最後かもしれなかったのに…光太郎に伝えるべき事を…言えませんでした」

 

濡れた顔に彼女の涙が混じっていたと気づいても、桜は口を開かない。

 

「お礼も…別れも…私との約束を破った文句も…本当に、言いたいことがたくさんあったのに…」

 

桜の隣で泣いているのは、神話へ登場する人々を脅かす存在などではなく、愛する人と別れを惜しむ一人の女性。

 

マスターである光太郎に余計なことを考えてほしくないというサーヴァントとしての役目が本心に勝ってしまい、本来伝えたい思いに蓋をしてしまった。そんな後悔に浸るライダーの頬をハンカチで桜は優しく拭う。

 

「ライダーさん。一つ…訂正してもいいですか?」

「…………はい」

「ライダーさんの言う…破った約束は多分シャドームーンさんとの最初の戦いの前に、したことなんですか?」

 

無言で頷くライダー。あの時は必ず勝ち、自分との取り交わした約束を守ると光太郎は宣言。しかし、光太郎は一度命を失ってしまう結果となってしまったのだった。

 

「なら、その約束はまだ経過途中ですよ」

「え…?」

 

桜の言う事に思わず目を向けたライダーは、微笑みながら自身の言ったことを否定する少女へと問いかける。

 

「し、しかし光太郎だって…」

「破ったって認めますよね。光太郎兄さんなら。でも、ずっとあの戦いを見ていた私と慎二兄さんから見たらあれは無効です。あんな乱入があったら仕切り直しして当り前ですよ」

 

確かに決着が付く寸前、創世王の横槍によって光太郎は絶命する結果となってしまった。結果から見ればシャドームーンの勝利となるが、桜達はそう思っていない。だからこそ最初は気持ちを沈んではいたが、すぐに光太郎を捜索するために動き出したのだろう。

 

「ライダーさん。だから、今でも光太郎兄さんとライダーさんの約束は目下継続中です!」

「しかし、それでも光太郎が勝っても…」

 

自分はこの世界に存在していない。もう、会う事が出来ないからこそ別れる前に約束をした。それでもと、桜は続けた。

 

「光太郎兄さんなら、守ってくれると思いません?」

 

全く否定できないのが、悔しかった。伊達に彼の妹を10年以上続けている事はあった。

 

「…やはり、敵いませんね」

 

どうして、彼らは人の気持ちをこうも簡単に塗り替えてしまうのだろう。今の天候のように曇った心に、一条の光明を受けたライダーは再び洞窟へと目を向ける。なら、もう一度待とう。彼が、約束を守ってくれることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアァァァァァッ!!」

 

「オオオオォォォォォッ!!」

 

 

瓦礫が降り注ぐ中、光太郎とシャドームーンの拳が交わる。

 

以前の決闘と同じく、全く同じ軌道を描いて打ち出された攻撃がぶつかり、衝撃が体を走る。だが、万全の状態ならばともかく両者とも創世王との戦いで大きなダメージを受けいるためにその衝撃がさらに悪化を進行させる結果となった。

 

「ぐっ…ァアアアアァァァッ!!」

「ヌオォォォッ!!」

 

それでも、引くことだけはしなかった。

 

もはや自分が拳をしっかりと握っているかも認識出来ずに腕を振るっている。

 

蹴りを繰り出し、当たったという判断も相手が受けた時に漏らす声でしか分からない。

 

光太郎のひび割れた皮膚から動く度に血液が舞い、シャドームーンのベルトからは火花だけでなく、煙が絶えることなく噴き出している。

 

互いに必殺技を打ち出す余力がなく、残る攻撃手段は自身の体のみ出あった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

光太郎は距離を置いたシャドームーンの腹部へと視線を落とす。緑色の輝きが徐々に失われつつあるキングストーンを見て、思った。

 

(あと…どれ程持ってくれるんだ…?)

 

 

キングストーンを維持するベルトが損傷したその時から、シャドームーンに命が無いということは分かっていた。まだ動いていなければ基地にある設備でどうにか出来た可能性はあったが、創世王を足止めする為に攻撃を繰り出した致命的となってしまった。もはや、自分のキングストーンの光を当ててもどうすることもできない。

 

もう、彼を救うことが出来ないのなら、せめて彼が望む戦いを受ける。

 

 

しかし、光太郎は攻撃を打ち出す度にかつての記憶が蘇ってしまった。

 

 

 

 

『光太郎―ッ!!』

 

 

 

 

『テストどうだった?俺、まーた父さんに怒られそうだよ』

 

 

 

 

 

『次の試合、絶対に勝とうぜ!』

 

 

 

 

(頼む…もう、出てこないでくれ)

 

 

押し留めても、次々に呼び起されてしまう彼との思い出。

 

 

ようやく決心したのに。引かないと、決めたのに。

 

 

心が揺さぶられる中、光太郎にとって最大の好機が訪れた。

 

「ぐッ!?」

「っ!?」

 

天井から降り続けた瓦礫の一つがシャドームーンの背中へと落下し、体のバランスを大きく崩したのだ。光太郎の動きは本能的に握った拳を打ち出す。狙うは、腹部のベルトにあるキングストーン。微かな衝撃を与えるだけで機能は停止し、シャドームーンの命は終わる。それで終わるはずだった。

 

「くっ…」

 

光太郎の拳はベルトまであと数センチと距離が迫ったところで止めてしまう。脳裏に浮かぶ親友の無邪気な笑顔。それを打ち砕くことが、光太郎には出来なかった。だが、その行為は相手にとって怒りを買う以外の何物でもなかった。

 

「何の…つもりだ貴様アァァァァァァッ!!」

「ガアアァァァァァァッ!?」

 

光太郎の体に緑色の電撃が襲う。もう打つことが出来ないはずの力が光太郎の全身に駆け巡り、仰向けにゆっくりと大地に沈んでいく。

 

「ブラックサンッ!!なぜ止めを刺さなかったッ!?俺の…俺達の戦いを侮辱するつもりかッ!!」

 

シャドームーンの怒号を聞きながら、光太郎はゆっくりと立ち上がる。先程の鬼気迫る迫力などなく、ぼそりとか細い声を発しながら。

 

「…いよ」

「………………」

「出来ないよ…『僕』に、信彦を殺すなんて…」

 

 

フラフラと体を揺らす光太郎の頬をシャドームーンは全力で殴りつける。その一撃を放つことすら、命を削る行為だというのに、シャドームーンは続けて殴り続けた。

 

「出来ない…でき、ないよ」

「貴様はどこまで…ぐっ!?」

 

殴られながらも、拒否を続ける光太郎へさらに力を込めた拳を叩きこもうとしたシャドームーンだったが、ベルトの一部が小規模な爆発を起こしたと同時に膝を付いてしまう。

 

「の、信彦ッ!?」

「触れるなッ!!」

 

手を貸そうとする光太郎に対し、シャドームーンは右腕のエレボートリガーを向ける。これ以上近づくなと、言わんばかりに。

 

「ブラックサン…失望したぞ。この期に及んで情に流され、止めを刺さないなどと…」

「無理だ…親友を、家族を殺すことなんて、僕には…」

 

彼の目に映るシャドームーンは、完全に秋月信彦であった。

 

幼き日を共に過ごし、共に競い合った兄弟であり、親友。共に人間でない者へと変えられたとしても、こうして目の前で生きている。その親友を自分の手で殺めるなど、出来るはずがない。

一度は決意した覚悟が脆くも崩れた光太郎の心を現しているかのように、キングストーンの輝きも失われつつあった。

 

胸にぽっかりと穴があいたように全てを諦めかけて、膝を付く光太郎に、宿敵の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「ならば、なぜ貴様は『仮面ライダー』を名乗っているッ!!」

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?」

「貴様は、今まで何の為に戦い続けてきた…何のために、貴様の言うおぞましい力を振るってきたッ!?」

 

 

 

望んでもいなかった人知を超えた力。そんな恐ろしい力でも誰かを助ける為ならばと、光太郎は戦ってこれた。

 

 

「ここで貴様が全てを投げ出すというのならば、これまでの戦いも、貴様を信じこの場を去った者共を裏切ることになる…そんな事を認めるというのかッ!!仮面ライダーというのはッ!?」

 

 

…違う。『仮面ライダー』はそんな軽い名前ではない。自分のような存在を生まないように、覚悟を持って借りた名前なのだ。そんな自己満足の為に、信じてくれた仲間達の思いを無駄になんて、出来るはずがない。

 

 

 

「…違うというならば、証明して見せろッ!!俺と言う『悪』を倒して、その名に相応しい存在かを、俺に見せてみろッ!!」

 

 

振るえる手が止まっているのが分かる。

 

腹部のキングストーンが、輝きを取り戻しているのが分かる。

 

立ち上がり、宿敵と向き合って構えていると、はっきりと分かる。

 

 

「…来るがいい、仮面ライダーBLACK!」

 

 

 

 

…信彦

 

 

 

 

 

「ウワアアァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

光太郎の複眼から一筋の涙が流れた直後。

 

関節部と複眼だけではない。全身が赤い輝きに包まれたと同時に残る力を全て振り絞り、大地を強く蹴って跳躍する。

 

 

「そうだ…それでこそだブラックサン」

 

シャドームーンも全身を緑色の輝きで覆い、跳躍すると先に上がった光太郎に向けて両足を突き出して上昇していく。

 

 

対する光太郎も右足を突き出し、自分に迫るシャドームーンに向けて落下を始めた。

 

 

 

 

 

 

(ありがとう信彦)

 

 

(俺が仮面ライダーであることを思い出させてくれて)

 

 

(だから、俺はもう迷わない)

 

 

(この力で、これからも多くの人を助けていきたい)

 

 

(だから、許してくれ)

 

 

(こんなことでしか、お前の気持ちに答えられない事を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

「シャドオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キイィィィィィィィィィィィィィック!!!!』

 

 

 

 

 

 

2色の光が、空洞内で交わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…ん」

「イリヤッ!?目が覚めたのかッ!?」

 

 

少女が最初に目に入ったのは、心配そうに顔を覗き込んでくる因縁深い少年だった。

 

ゆっくりと体を起すイリヤは木陰で横にされており、見渡してみると士郎だけでなくバーサーカーや見覚えのないクジラの大群によって囲まれている。寝起きの直後では刺激の強すぎる光景であったが、それよりもイリヤには気掛かりな事があった。

 

「シャドームーンは…どこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ…ブラックサン」

「信彦…」

 

 

宿敵を称賛するシャドームーンは倒れたまま、自分の横で膝をつき、手を取る光太郎へと目を向ける。もはや首から下は動かず、キングストーンを宿したベルトも黒く燃え尽きている。最後に使った力によって完全なオーバーヒートを起こした結果だろう。

体が原型を留めていること自体が、不思議なほどだ。

 

「負けたというのに、妙に気分がいい。決着がつくというのは、こういうものか」

「すまない信彦。俺に、もっと力があったら…」

「何を勘違いしている。貴様が倒したのはゴルゴムの世紀王シャドームーン。貴様の親友である秋月信彦ではない」

「しかしっ…!?」

 

それ以上の言葉が出てこなかった。いつ途切れてもおかしくない親友のそばに居てやりたい。だが、そんなことすら光太郎には許されなかった。

 

「こ、これはッ!?」

 

振動が強まり、天井からより多くの落石が始まってしまった。光太郎とシャドームーンの最後の技がぶつかり合った衝撃が、空洞全体に伝わってしまったのだろう。

 

「…行け。貴様の務めを、果たせ」

 

シャドームーンの視線は、光太郎の背後に聳える大聖杯へと向けられた。このまま空洞が崩壊すれば、大聖杯は埋もれてしまい破壊が困難となってしまう。そうなれば、聞きつけた他の魔術師達に奪われかねない。

 

「駄目だ!せめて安全な場所に…」

「どこまでも、甘い男だ。構わずいけ。約束が、あるのだろう?」

 

そう聞いた途端に光太郎の頭に浮かんだのは、自分へ待っていると言ってくれたサーヴァントの姿。

 

『約束ですよ…』

 

そう、今回だけは、絶対に破るわけにはいかないのだ。

 

「すまない。信彦…」

「最初からそう言っている。そして…貴様には伝えなければならない事があった」

 

周りに次々と落石が続く中、シャドームーンの告げた事に光太郎は信じられなかったのか、思わず聞き返してしまった。

 

「本当、なのか?」

「それは生きて確かめるがいい」

「…分かった」

 

光太郎は立ち上がる。重石のように動かなくなった足を強引に前へ出しながらも、前へと進んだ。一歩、また一歩大聖杯へと足を進めいく。彼の小さくなっていく背中を見て、シャドームーンはボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらばだ…光太郎」

 

 

 

 

 

 

 

その声が光太郎に届き、思わず振り返ったと同時だった。

 

 

巨大な落石が光太郎とシャドームーンの間を遮り、もう後戻りも出来なくなってしまった。

 

「信…彦…」

 

前を向いた光太郎は歩みを再開する。それが自分の決意であり、彼の…信彦の望みだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴムの幹部が言っていた。自分達が世紀王であり、創世王となる為に殺しあう運命にある、と。

 

運命…自分と信彦は、そんな言葉に決められてしまうような存在だったのだろうか。

 

これまでの世紀王達も、その運命を逆らわず、受け入れていたのだろうか。

 

 

 

「なんだったんだろうな…信彦」

 

その因縁は全て途絶えた。創世王の死と、光太郎と信彦の決着によって。これで、この先に歪んだ運命を背負わされることはないだろう。しかし、光太郎はどうしても考えてしまう。

 

どうして、自分達だったのだろうと。

 

もし、一日でも光太郎達が生まれる時間がずれていたら、生まれた日に日食など起きなければ、ゴルゴムなど存在しなければ…

 

崖に手を掛け、登りながら『IF』を考え続ける光太郎は、自分の手が血だらけの肌色へと変わっていることに気づく。段々と変身した姿が保てなくなっているのだろう。

 

「すまない…もう少し、だけ」

 

体に鞭打ってきた結果だろうか。それでも、光太郎は進むことはやめない。あと少しで、全てが終わるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが…大聖杯」

 

崖を登り切った光太郎はベルトを残し、完全に人間の姿へと戻っていた。ベルトの中央にある光も、蝋燭よりも頼りない。そんな僅かな光でも、眼下にある大聖杯を破壊するには必要な火種だった。

 

黒い泥だった時とは違い、透き通る湖のような魔力の底に描かれた巨大な魔法陣。あれこそがサーヴァントを現界させ、聖杯戦争を起こしてきた多重刻印式魔法陣。あれを破壊する為に、今溢れている無尽蔵の魔力を誘爆剤として利用し、

キングストーンの力で着火させる。

 

まだ変身した状態であれば現在位置からキングストーンフラッシュを照射する事でよかったが、今のままでは届くことすらできない。

 

「やっぱり、方法はこれしかない、か。」

 

覚悟を決めて光太郎は崖の縁まで移動する。火が付けられない位置にあるならば、火を近づければいい。

 

光太郎は魔力の海に飛び込み、触れたと同時に魔力を爆発させる計画だ。無論、ゼロ距離で魔力の爆発を受ける光太郎はただでは済まない。

 

「…行きますよ。御爺さん」

 

祖父の願いを成就させるため、光太郎は魔力の渦へその身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

(どうして、みんなの顔ばかり浮かぶんだろう)

 

 

まるで走馬灯だ。これは、みんなにもう会えないという嫌がらせなのだろうかと、眼下に迫る魔力に向けて光太郎は両手を広げた。

 

 

(全く、信彦にも背中押されてライダーとの約束を絶対守んなきゃって、決めたのに)

 

このままではまた約束を破ってしまうなと、苦笑しながら両拳をベルトの上で重ねる。

 

 

(ごめんライダー。最後の最後まで、約束を守れそうにないよ…)

 

 

僅かながら光を灯したキングストーン。そして魔力と光太郎の距離が後わずかと迫った時、光太郎はあるサーヴァントの言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

『これは最後になるけどよ…あんたはもうちょいと、我が儘言ってもいいと思うぜ。弟さんも言ってたが、そうじゃなきゃ割にあわねぇよ』

 

 

 

 

 

義弟の友人である士郎の顔を借りて、似ても似つかない笑いを浮かべたサーヴァントの言葉。

 

 

 

(あぁ…そうだな)

 

 

本当に我儘が許されるとするなら、と思い浮かんだ事は、祖父の残した最後の望みと同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなと…これからも一緒に、生きてみたかったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ったく、こんなギリギリのタイミングになって言いやがって。

 

 

 

聞き覚えのある声に、光太郎は思わず目を見開いた。

 

 

 

「え…?」

 

 

―――ま、ようやく言った言葉だ。良しとしとくぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな言葉と共に、光太郎が魔力に触れた途端、キングストーンと光太郎が胸に下げていた小さな結晶が同時に輝きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…私?」

 

「ようやく起きたかなマスター」

 

「アーチャー…もう少し寝かせてよ」

 

「この状況で二度寝とは、余程の大物だな君は。さっさと起きて現状を確認したまえ、マスター」

 

「現状…って、えっ!?」

 

飛び起きた凛は自分へと声を掛けてきたアーチャーへと目を向ける。その姿は見間違うことなく、自分と契約したサーヴァントだ。しかしおかしい。自分のサーヴァントは洞窟の奥から放たれた光と共にその存在が完全に消滅したはず。

なのに、なぜ現界してるのか。

 

「遠坂、やっと起きたか」

「目を覚ましたのは、貴方で最後ですよリン」

 

「士郎…?それに、セイバーまで!?」

 

理解の追いつかない凛は周囲を見渡す。そこには変わらずに現界しているサーヴァント達の姿があった。

 

キャスターとバゼットは喜びのあまりに宗一郎とランサーに涙を流しながら抱きついている。宗一郎は兎も角、ランサーはその怪力によって苦しんで言うようだった。

 

バーサーカーは頬ずりしてくるイリヤになすがままにされ、その光景をアサシンは微笑ましく眺めている。

 

「どうして…さっきの光は恐らく光太郎さんが大聖杯を破壊した際に洩れた光…だったら大聖杯で形作ってるサーヴァントが存在出来るはずが…」

「確かに、サーヴァントならば存在出来ないであろうよ」

 

思案中の凛へと声をかけたのは、既に人間の衣服を纏っているギルガメッシュだ。クジラ怪人の頭をなでながら、凛へ今起きている事への説明を始める。

 

 

「確かに我達は大聖杯の消滅と共に英霊の座へと帰った。だが、その記憶と力の一部が再度この地へと降り、命を得てこの場に立っていた」

「それって…」

「貴様達に分かりやすく例えるなら…『輪廻転生』といったところか」

「んなっ…」

 

大きく口を開けた凛の表情が余程愉快だったのだろうか。クックと笑うギルガメッシュは質問攻めに合う前にさっさと結論を付けた。

 

「要因はいくつかある。大聖杯が破壊される寸前に光太郎がしでかしたのであろうよ。キングストーン、命の水の結晶体、そして大聖杯に溢れていた膨大な魔力。新たな命を作り出すには造作もないものばかりではないか」

 

そして踵を返したギルガメッシュはその場を後にする。呆然とするマスターにため息をついたアーチャーは再起動させる為に頭頂部を抑えた。

 

「そういうことだ。成り行きとはいえ、またこの地に来てしまったわけだ。またしばらく頼むぞ、凛」

「って、あんたは気にならないのッ!?どうして自分はまた呼ばれたのかって…」

「多分、すごく簡単な理由だと思いますよ?」

「桜…」

 

アーチャーへ食ってかかる凛を宥める桜は空を見つめる。雨はいつの間にか止んでおり、あれほど重く伸しかかるような黒い雲がだんだんと薄れ始めていた。

 

「ただ、光太郎兄さんが、願っただけなんです。みんなと居たいって」

「光太郎さんが…?」

 

桜の言ったことに思わず聞き返した士郎に、そうだなと慎二が続いた。

 

「ようやく我儘を言いやがったんだよ。こんな大それたことを起こすなんて思いもしなかったけどね」

 

雲の隙間から見えた日差し。光太郎の敗北してから隠れていた太陽が、ようやく顔を見せたのであった。

 

 

「すごい奴だよ、ほんとに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

顔に、温かい何かが当たった。

 

一度だけでなく、一定の間隔で落ちてくるそれが、顔に落ちてくる涙だとわかったのは、目を開いた時だ。

 

どうやら自分はしぶとく生き残っていたらしく、動けない状態を彼女に発見されたようである。

 

段々と戻ってきた感覚によって、自分の後頭部に心地よい温かさを感じたのは、膝枕をされているからとようやく理解する。

 

目を開けたことで彼女の表情は不安から一気に安堵したものへと変わる。それでも、涙は止まらなかった。

 

どうにか止めようと振るえる手を必死に伸ばし、涙を拭うと彼女が手を重ねてくる。

 

彼女の温もりを感じて、間違いなく目の前にいてくれたのだと確認が出来た。

 

なら、今こそ約束を果たそう。

 

だいぶ遠回りをしてきたけど、ようやく、果たせるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…名前を』

 

 

 

 

 

『戦いが終わり、無事に戻りましたら…私を、名前で呼んで欲しいのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御帰りなさい…光太郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま…メドゥーサ」

 

 




次回、最終話です。

お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです!


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最終話『それぞれの選ぶ道』

大聖杯を破壊し、サーヴァント達が新たな命を得るという形で冬木の聖杯戦争は終結。

 

 

そんな中、光太郎とライダーの帰還を仲間達が喜ぶ姿を木陰から傍観している者達がいた。

 

 

 

「ハッハッハッ…まさかこのような形で聖杯戦争どころか、聖杯そのものが消滅する世界があるとはな」

 

豪快に笑う老人は本当に愉快だと言わんばかりに泣きじゃくる義妹の頭を撫でている光太郎の姿を吟味していると、その背後からため息交じりに手にしたカメラのシャッターを切る青年が口を挟んだ。

 

「だから言っただろう?この世界をアイツが守ってるというのなら、俺が通りすがる必要はないと」

「ふむ。しかし、彼は君の知っている『彼』ではないのだろう?」

「ああ…けど、例え世界が異なろうが、アイツがアイツである事には変わりない。それに…」

 

ファインダー越しに映る傷だらけの光太郎はとても晴れやかに笑っている。今さらお節介を焼く必要もないだろう。その理由は、彼に回りにある。

 

(この世界ではあんなにも多くの仲間がいる。アイツが負けられな理由なんて、それだけだろうな)

 

マゼンタ色の2眼レフカメラのシャッターを再び切る青年の口元は自然と綻んでいる様子を見た老人は変わらずニヤニヤと笑っている。それに気が付いたのか、表情を一変させた青年は一気に不機嫌となる。

 

「なんだよ爺さん。俺の顔に何かついてんのか?」

「いやいや、君の笑顔を道中初めて見たのでな。今のうちにしっかりと見ておこうとしただけだ」

「悪趣味なんだよ…」

「では、これ以上機嫌が悪くならないように次の世界へ行くとしようか」

「おい、まだ俺をひっぱり続けるのか?」

「なに、旅は道連れというだろう?次の世界でも聖杯戦争は起きているが、少し特殊でね。裁定者(ルーラー)だけでは心もとないのだ」

「…ったく、俺は便利屋じゃないんだけどな」

 

老人の強引な手引きに呆れながらも青年は後に続く。どういった経由で青年と老人が行動を共にしているのか、この世界で知る者はいなかった。

 

老人が手に持った杖の装飾である宝石が強く光ると同時に、老人は世界から姿を消した。続けて青年が進む先に灰色のオーロラが出現。オーロラを潜る前に一度だけ振り向く。

 

 

「じゃあな南…いや、ここでは間桐光太郎か。この世界は任せたぜ、仮面ライダーBLACK」

 

 

片腕を上げて届くはずのない言葉を送って、青年はオーロラの中へと消えていった。

 

 

『宝石翁』キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグと『世界の破壊者』門矢士。

 

誰にも悟れることなく、こことは違う世界へと向かったのであった…

 

 

 

 

 

 

 

2人の旅人とはまた違う木陰で、その者は深くため息をついていた。

 

「ったく、確かにアイツの望みは『みんなで』ではあったけど、まさか会ったばかりの俺も含まれているとはねぇ」

 

低い声とは裏腹に陽気な喋り方をする彼もまた、光太郎の姿を見る。彼は大聖杯から放たれた光を浴びて立ち上がった後、外にいた士郎達が気を失っている間に空洞を脱出して現在いる樹木の裏へと移動していた。

 

「しっかし、いくら昔過ぎて身体がないからってこうなるか普通?ま、やったのは俺なんだけど」

 

そういって自分の身体となってしまった銀色の胸板を拳で何度か叩いてみると、彼の頭に苦情が舞い込んだ。

 

「わぁーってるって。今はすんごくデリケートな状態なんだろ?でもわざわざ遠くの秘密基地へ修理に行かなくても、今出てってみんなと一緒に埋もれた施設掘り返すの手伝って貰えばいいじゃん?」

 

その木陰には彼一人しか立っていない。だと言うのに、まるで他にもう一人そこにいるかのように会話は続いていく。

 

「あ、ひょっとしてアイツとお別れした手前下手に顔を見せられないとか?かぁー、以外に照れ屋なこと。いーじゃんむしろ会ってやんなよ。泣いて喜ぶぜきっと…あっそ、会う気はなしと。なら、俺がとやかく言ってもしょうがねぇや。でもよ、せめて『あの娘』くらいにゃ声かけといたらどうだ?」

 

そう言って『もう一人』の彼に見せるように、緑色の複眼は白い少女へと視線を移す。聖杯という宿命から解放された少女もまた、満面の笑みでお人よしの少年とじゃれついている。その姿を見ただけで、もう一人の彼はこの場を後にするように、今身体を動かしている意思へと伝えた。

 

「必要ない、ね。あいあいさー。んじゃ、とっとと離れますかね。実は言うと、俺もカッコつけて消えといて実は生き返っちゃいましたーって言うの、正直はずいし…」

 

そして金属を打ち付けるような音を立てる足音が次第に人間と同じそれへと変わっていく。

 

銀色の装甲が消え、1人の青年へと姿を変える。その顔は昔の面影を残しながら成長した光太郎の家族であり、親友のものであった。そして振り返ることなく、その場から離れていく。

 

「んじゃ、縁があったら合いましょうや。英霊(お仲間)の皆さんに、仮面ライダーさんよ」

 

 

他のサーヴァント達と同様に、光太郎の願いによって新たな命を得た彼らは、どういう理由かは不明だが1つの身体を2人の魂が共有する形となってしまった。だが今のところはお互いに不満はないらしく、成り行きということで行動を共にすることに決めていた。互いの任意によって身体の主導権を交代するという2重人格のような状態となった彼らは、どのような道を歩んでいくのだろうか。

そしてしばし歩いた後に、一度だけ人格が入れ替わる。

本来の身体の持ち主である彼の言葉は、余りにも簡単なものだった。

 

 

「達者でな、光太郎…イリヤスフィール…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒結社ゴルゴムが壊滅したという情報は瞬く間に日本に、そして世界中に広がった。絶望の淵にいた人々にとって、希望を取り戻した瞬間である。

 

 

海外に避難していた多くの日本人は次々と帰国し、侵略による被害の復興作業は各国の支援もあり円滑に開始されていく中、ゴルゴムの支配を終わらせ名を知られることのない功績者達は、それぞれの道を歩み始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2ヵ月後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮邸の前に停車している黒いリムジンの背後に2台のバイクが止まっており、うち1台のエンジンの調子を確認した少女は、門の前で名残惜しそうな目で自身を見る家主の前へと立った。

 

 

「それでは、短い間ですがお世話になりました」

「ああ。そっちも、元気でいてくれよ」

「セイバーさん、また会いましょうね」

 

士郎と桜の言葉に頷いたセイバーの姿は衛宮邸で見せた洋服ではなく、つま先まで黒で統一されたダークスーツを纏っている。髪型も後頭部で縛るという簡単まものであるが、その姿は男装の麗人といっても過言ではない。

 

「…イリヤの事、よろしく頼む」

「ええ。貴方の父君の忘れ形見なのですから」

 

士郎の願いを聞き入れたセイバーは、イリヤ本人から聞かされたことを今でも忘れられない。

 

彼女こそかつて騎士の名において守りぬくと誓った女性、アイリスフィールと前マスターである衛宮切嗣の娘であると知った時、彼女は今までの無礼をお許し下さいと頭を下げ続けてたのだ。イリヤも少し困らせるつもりで言ったことであったが、母親を守れなかった事がセイバーの中では唯一の心残りであったと知り、逆に謝罪を続けてしまったのだ。

 

お互いに謝り続ける中、セイバーはある決意をする。

 

世界を回ってみたいというイリヤと同行し、彼女の母親の願いを共に叶える。守り抜くという果たせなかった誓いを、今度こそ果たして見せると。

 

「セイバーッ!そろそろ出発するわよッ!!」

 

リムジンの後部座席の窓から身を乗り出したイリヤが元気いっぱいに呼びかけた。これから見て回るであろう世界に、期待を隠しきれていないのかもしれない。

 

 

サーヴァント達に新たな命を宿したあの眩い光の恩恵は、白い少女にも及んでいた。戦いが終わった後、時間をかけて検査を行った結果、イリヤの身体は意思を持った聖杯ではなく限りなく人間に近いホムンクルスとなったと判明する。

 

凛や光太郎が世話になっている医者の見立てではテロメアを始めとした身体機能が外見通りの年齢となっており、これから先、止まってしまった第二次性徴が再開されるであろうという見込みだ。

 

これにはイリヤも大はしゃぎし、士郎に5年後を楽しみにしていなさいと告げていた。

 

しかし、士郎をからかう以前にイリヤは世界を回りながらどうしてもやらなければならない目的を抱いているのである。

 

 

(待ってなさいよシャドームーン…絶対見つけて、文句を言ってやるんだから!)

 

 

あの時、イリヤだけが木陰からこちらの様子を伺っていた行方不明のはずである世紀王の後姿を目撃し、急ぎ後を追いかけるものの既に姿はなく、足跡すら残っていなかった。

 

シャドームーンが生きているという喜び以上に自分に何の一言もなく姿を消した事に憤慨したイリヤは世界を回りつつシャドームーンを見つけ出し、自分が飽きるまで罵ってやると決意を固める。そして心身共に疲れ果てた姿を光太郎に見せてやろうと画策しているため、シャドームーンが生存していると付人であるセラとリーズレットにしか打ち明けていなかった。

 

そんな中、生まれの家であるアインツベルン家からは早く戻るように言われているが知ったことではない。どうせ自分の身体について調べようという腹だろう。

 

あちらが強行手段に出たとしてもこちらには護衛のセイバーとバーサーカーがいるからと、イリヤは別れの挨拶を続けているセイバーと、既にバイクに跨っているバーサーカーの姿を見る。

 

新生して以来、相変わらず無口を通しているバーサーカーであったが、イリヤが主催した終戦パーティーで多量のアルコールを摂取した後に信じられないほど饒舌になり、慎二とランサーをグルグルと振り回した姿は出席者全員の記憶に残る出来事であった。さらにその時の事をはっきりと覚えていた様子であり、羞恥心からより無口となってしまったが…

 

バーサーカーの姿もセイバー同様に特注のダークスーツを着用し、遊ばせていた獅子の鬣を思わせる頭髪も使用人たちに丁寧に梳かされ、オールバックとなっている。気心知れている士郎達以外であれば、お近づきしたくない御仁と化してしまった。

 

 

「では、さっさと出発しようではないか」

「…なぜ、貴方に指図されなければならないのでしょうか。そして触れないでください」

 

突然姿を現し、セイバーの肩に手をかけるギルガメッシュは普段と変わらないライダースーツである。セイバーに手の甲を抓られても照れるな照れるなと言って離そうとしない光景に、士郎も段々と慣れ始めてしまった。

 

ギルガメッシュも途中まではセイバー達と同行すると言い出した時はいつもの気まぐれかと誰もが考えていたが、光太郎との会話を聞いていた桜は違った。

 

 

 

 

 

数日前の間桐邸の庭で、光太郎はギルガメッシュの突然の要望によりキャッチボールを開始。いつもなら新作のテレビゲームを持参して現れていたが、その日は珍しく手ぶらで現れ間桐家に保管されてたボールとミットを勝手に掘り返したのであった。

 

暫しの間、ボールを受け止める音だけが庭に響く時間が続き、桜が2人の休憩用にお茶を持ってきた時、光太郎が思わず聞き返した声が耳に届いたのであった。

 

「言峰綺礼の娘に、合いに行く?」

「そうだ。以前に奴から聞いていてな。生きているか死んでいるかも不明だが」

「でも、なんで?」

「あの破綻者の娘だぞ?どのような面をしているか我直々に謁見してやろうというのだからありがたい話だろう」

「…君らしい理由だよホント」

 

そしてまたボールがミットの中へ納まる音だけが響く時間が続くと、再びギルガメッシュが口を開く。

 

「ついでに、父親の最期ぐらい教えておいてもいいだろう」

「…そっか」

 

恐らく、それが本来の目的。

 

ギルガメッシュと言峰綺礼は前回の聖杯戦争からの付き合いだと聞いている。2人の間に絆のようなものがあったかどうかは定かではないが、ギルガメッシュの行動が答えになっているのではないかと、光太郎と桜には思えた。

 

人類の敵であるゴルゴムに加担した言峰綺礼を許す人は決していない。それでもギルガメッシュは彼をただの求道者として、迷う1人の人間として認めていた。それは光太郎達には理解の及ばないギルガメッシュ本人しか分からない基準で彼と付き合っていたからだろう。

 

そんな人物に娘がいるというなら見てみたい。ただ、それだけのことだとギルガメッシュは言い切るだろうが、彼が言峰の生涯を娘である人物に知っておいて欲しいという彼が言う気紛れという名の優しさなのだと、光太郎は考えている。決して、本人は認めないだろうが…

 

 

 

 

 

 

「…桜よ」

「はい」

「貴様の兄に伝えておけ。我のいない間に腕を上げておけとな」

 

不敵に笑いながら自身の宝物庫から出現させたバイクに搭乗する姿を見て士郎は不覚にもカッコいいと思い、あの光太郎と堂々と勝負を挑むのであろうかとセイバーは少しだけ感心する。

しかしその内容は光太郎と対戦中のゲームであるとただ1人理解してい桜は笑顔を崩さない。

彼女は空気を読める人物である。

 

「では、私もそろそろ。シロウ…」

 

セイバーは優しく微笑みながら、士郎へ手を差し出しだ。何を意図したか理解した士郎は笑い返してセイバーの手を取り、握手を躱す。

 

「離れていても、貴方は私のマスターです。もし私の力が必要となる時があるのならば、再び貴方の剣になりましょう」

「ありがとう。けど、そうならないように俺も強くなるよ。俺なりに『正義の味方』を目指して」

 

貴方らしいですと手を離したセイバーは続いて桜へも握手を求めた。桜は迷うことなく手を握ると、セイバーは桜に顔を近づけ、すぐ傍で自分達を見ている士郎に聞こえないようにそっと桜に耳打ちをする。

 

 

「負けませんよ」

「…っ!?」

 

何のことであるか、聞き返すまでもない。宣戦布告された桜は最初こそ驚くものの、一度目を伏せると自信たっぷりに胸を張り、言い返してやった。

 

「望むところです!」

 

 

 

 

やがてイリヤを乗せた黒塗りの車両が発進し、続くようにバイクを駆った3人の英霊が追走していく。士郎と桜は戦友達が見えなくなるまで、その場で手を振り続けていた。

 

 

「いっちゃいましたね」

「ああ…」

 

門の前に並ぶ2人はしばし無言のまま立ち尽くす。つもりであったがそうは問屋は下ろさない人物が現れてしまった。

 

「何を黄昏とるが若人がああぁぁぁぁぁぁッ!!」

「うぉッ!?」

「きゃッ!?」

 

背後から2人へと飛びついた藤村大河は今度はわしわしと頭を撫でるた後、クルクルと回りながら衛宮邸の門を潜っていく。

 

ゴルゴムの侵略が続く中、実家である藤村組のお兄さん達と共に逃げ遅れた民間人への炊き出しや励ましを必死になって勤しんでいた大河だったが、平和になった直後にいつもの自由奔放な虎へと様変わり。余りにも早すぎる変わりように溜息を付く士郎に対し、大河はピタリと動きを止めると2人へと指を差した。

 

「全く、いくらセイバーちゃん達がいなくなったからって落ち込み過ぎよ?出会いがあったんだから当然別れだってある。だから、別れて悲しむ以上に出会って、一緒にてくれてありがとうって気持ちを大きく持ちなさい。そうすれば、自然と笑えてくるんだから!」

「……………………」

 

本当に、極たまにまともな発言をするのだからこの人物には敵わない。士郎に取って日常の象徴とも言うべき姉貴分にはあのままでいて貰いたい。

 

「あ~お腹すいた。桜ちゃーん、士郎がこっそり買った大福食べましょー!あ、お茶も入れてねー」

 

腹を空かしたトラとなった大河は靴を乱暴に脱ぎ捨てると居間へ駆けていくのであった。

 

「はぁ…藤ねぇは本当に」

「フフフ…」

「どうした、桜?」

「いえ。ただ、いつも通りに戻ったなって」

「ああ。そうだな…」

 

桜に同意した士郎は、空を見上げる。

 

絶望に染まった空がこんなにも透き通る空となったのは、間違いなく自分達が…いや、あの人が勝ち取った平和なんだ。この平穏を守っていけるような…そんな正義の味方に、自分もなりたい。

と、考えていたことが余程顔に出ていたのだろうか。士郎の考えを見透かした桜は士郎の頬を軽く叩いた。触れた、の方が正しいかも知れない。

 

「無茶だけはしないで下さいよ?そんな人、私は光太郎兄さんだけでたくさんなんです」

「…耳が痛いな」

 

苦笑いする少年へ満面の笑みを向ける少女は士郎の背中を押して、玄関へと連れて行く。これ以上トラを放っておくとヘソを曲げてしまうだろう。だから2人で急いでお茶を入れる準備に取り掛からなければならないのだ。

 

(でも、先輩…)

 

 

(もし、本当にそんな無茶をしなければならない時は、私を頼ってくださいね)

 

それをはっきりと口に出せるように、自分も強くなる。その気になれば、不可能なんてない。

 

そう兄が、教えてくれたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………」

 

間桐慎二は自室の机で頬杖をつき、自分宛てに届いたエアメールへ目を落としていた。発送元はイギリス…しかもロンドンであるのだが、ご丁寧に全て日本語で記されている。

 

内容は簡単に言えば勧誘、である。

 

しかも魔術協会総本部である時計塔の名物講師から直々の便りであり、慎二へ留学の案内という内容であった。

 

この1年で様々な魔術に関しての触れる機会が増えた慎二であったが、魔力を持つことのない彼に魔術教会の人間から誘いがあるなど異例中の異例であることは理解している。

なぜ魔力回路のまの字すら持っていない慎二へこのような便りが届いたのか不思議ではあったが、その内容を見てああ、と呟いて理解した。

 

慎二は光太郎と桜を助ける為に様々な魔道書を読み漁り、術式の組み立てだけでなく利用した武具を作りあげ、慎二自身が実践した訳ではないが神代の魔術師であるキャスターの結界を破る方法を思いつくなど、ただ魔術を知っているだけの人間の域を超えてしまった。

 

慎二に便りを出した人物は魔術師に取って最低限の常識である『血筋こそが全て』という縛りに囚われない変わり者らしい。そのため魔術師以上に魔術の知識を有し、様々な術式と道具を組み上げた慎二へ興味が湧いたようだった。

 

だが、自分へこのような連絡を寄越すという以前に自分の情報があの魔術協会へ筒抜けという事に疑問が浮かぶ。いや、だいたいの予想はついているのだが。

 

(完璧に漏れてんじゃん。監視役意味ねぇー…)

 

溜息混じりに聖堂教会のザル隠蔽を追及したくなる慎二であったが、その中心人物はあの悪評高い神父である。覗き見していた魔術協会を敢えて無視していた可能性だって捨てきれない。しかも犬猿の関係に当たる教会と協会だ。

聖堂教会の不祥事を魔術協会は鼻で笑ったことからまた関係が拗れてしまう原因を自分に押し付けるなど死んでもなお人を困らせるとは始末に負えない。

 

魔術師でないにも関わらず魔術という神秘を研究する慎二の存在は双方から危険視されているはずだが、この2ヵ月間に接触がこの手紙一通であるというのは、やはり義兄が関係しているからだろう。

 

聖杯という神秘を破壊したということで目の仇にしているという反面、自分達では敵わなかったゴルゴムを壊滅させ、人類を窮地から救った『英雄』の身内を狙うなど、多方面から白い目で見られることは避けたいはずだ。

 

そんな中、手紙を送った人物は純粋に慎二の実力を買っての行動だった。必ず今以上に慎二の特性を伸ばして見せると豪語すると記載されていたが、慎二の回答は…

 

 

「確か、こうして…」

 

封筒に入っていた状態とは違う折れ目を入れていく慎二は手紙を紙飛行機へと変えてしまう。そして窓を全開し、白地に黒い文字が羅列されているという不格好な紙飛行機を風に乗せるように、飛ばした。

 

(僕は、ゴールのない研究なんかに一生を費やしたくないね)

 

魔術師の到達点とされる根源。そこにたどり着くまで魔術師は何代もの世代を重ねているという。

 

ただ一度きりの人生に一つの事に囚われるなど、慎二には無理な話であった。

 

「さぁて、今日は何を読もうかね…」

 

大きく背伸びをした慎二は間桐家に眠る魔道書を手に取る。恐らく、読み切るには一生を懸けても足りやしない量だ。

 

同じく一生をかけるなら、迷うことなく祖父の残した本を慎二は選ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ~…」

「凛。口を動かすよりも手を動かして貰えないか?」

「分かってるわよ!はぁ…」

 

遠坂凜の溜息は止まらない。これならばイリヤ達を見送りに行った方が気は紛れたのかもしれない…

 

戦いが終わった後、枯渇しかけていた冬木の地脈は回復に向かっていた。大聖杯へ注がれた魔力はサーヴァント達に命を与えても余る程膨大な量を抱えていた為、凜はキャスターの力を借りて魔力を地脈へ返還させるという方法を思いついた。これで地脈は安定するのだと安心しきっていたが、そうは問屋が下ろさなかった。

 

ゴルゴムの潜伏を許し、再生怪人の復活のため地脈を好き放題使われた事にこの街の管理者として監督不行届と扱われ、さらには後見人である言峰綺礼へ繋がっているとの疑いから聖堂教会のお偉いさん達による監査が執り行われることになってしまったのだ。

 

何を今更偉そうに…と考える凜であったが、今回の件は彼等に出来たことはただ怪我人の手当だけであり、ご自慢の代行者達も埋葬機関を除いて世界中へ颯爽と現れた『謎の戦士』という異能に助けられてしまったのだから立つ瀬すらない。

聖堂教会に取っては今回の監査は体裁を取り繕う為、苦し紛れに断行しているのであろう。

 

「そして、気持ち良くさっさとお帰り頂くためにも掃除はしなければならんのだが…」

 

黒いシャツとズボンにエプロン姿となっているアーチャーは暖炉の雑巾がけの手を止めている凜に向かいワザとらしく言葉を強めてみたが通用した様子はない。逆に溜息を付きたくなるアーチャーだが、凛の悩みの種はこれから来る輩のご機嫌取りなどではなかった。

そんなもの、いつもの口八丁で丸め込む自信はあるし、いざとなれば自分は英雄の知り合いだと言ってしまえばいい。使えるものは実妹の義兄すら使うのだ。

 

凛を悩ませたのはアーチャーの正体…元サーヴァントであるという事が知られてしまった場合のことであった。魔術協会であれば嬉々として標本にしたがるであろうし、これから来るであろう聖堂教会に至っては異端は抹殺対象…ましてや前例のない命を得たサーヴァントであるアーチャーがもし狙われてしまったのなら…

 

凛を悩みを見抜いたのか、アーチャーは凜の背後に立ち、手を頭に乗せた。

 

「…君が思い悩む必要はない。もしここにいることで君にも迷惑が蒙るというのなら、私は姿を消すだけだ」

「そんなことっ…!」

 

こうして変に自己犠牲をするところは今とまるで変わっていない。

 

聖杯が未来から呼び寄せた衛宮士郎の一つの結果である英霊『エミヤ』。それがアーチャーの真名であった。

 

衛宮士郎に的確な助言を与えられたのも、彼に合わせて投影を行っても成功するのは当たり前の話だ。かつての『自分』に合わせるだけだったのだから。

 

 

多くの命を助ける為に『世界』と契約した彼の人生は、ただ傷つくことしかなかった。人殺しという汚名を被り、摩耗し続けるだけの彼の姿は、余りにも悲し過ぎる。しかし、成り行きとはいえこうして新たに道を選べるのだから、これ以上誰かの為に命を懸ける必要なんてない。

彼の人生の一端を夢としてみた凜は、彼が…アーチャーが再び同じ道を歩むのではないかと不安になってしまったのだった。

 

「なるほどな。しかし、無用な心配だ。以前程の力を有していない私に前のような戦いはできない」

「え…?」

 

以外にもあっさりと自分の不安(口にしていないが)否定したアーチャーの発言に呆気にとられ、思わず振り返ってしまう。そこにあったのは散々見てきた皮肉な微笑みではなく、彼の面影を確かに残す、優しく笑うアーチャーの姿。

 

 

「だが、君ぐらいなら守り抜く自信はあるつもりだ」

 

 

そして耳元で囁くアーチャーの言葉を理解するまでに時間を要した凜は耳まで真っ赤に染まると顔を押しのけて乱雑に壁を雑巾で拭き始める。

 

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと掃除やりなさい!明日には連中踏ん反りながらやってくるんだらね!!」

「やれやれ…」

 

肩を竦めたアーチャーは凜の指示通りに清掃を再開した。

 

機嫌を直す為に、後で腕によりを懸けて紅茶を入れなけばなと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…こんなところかしら」

「ご苦労様です。メディアさん」

 

柳洞寺の門で掃き掃除をひと段落したキャスターは階段の方へと振り返る。愛するマスターの弟分であり、教え子の柳洞一成が労いの言葉をかけてくるのだが、その視線は今し方キャスターの掃除した門へと向けられている。

 

「…まずまずと言ったところでしょうな」

「そ、そう…」

 

眼鏡を指で押し上げる彼の眼光に思わずたじろいてしまうキャスター。一成は宗一郎を慕っている分、彼の婚約関係となっているキャスターの挙動一つ一つに目を光らせていた。宗一郎に相応しい女性であるを試しているかのように…

 

「ではこれにて…また夕食時に」

「ええ。ああ、それと…」

 

なんですかなと振り返る一成に躊躇いならも帰ってきた人へむける挨拶を向けた。

 

「お、お帰りなさい…」

 

段々と小さくなってしまったが、相手に確かに届いた。その証拠に、先ほどとは打って変わり、表情を柔らかくした一成はしっかりと返事をしてくれる。

 

「はい。ただいま戻りました」

「…………」

 

小さく頭を下げたは一成は自室へと向かっていく。その後姿を見てホッと胸を撫で下ろしたキャスターは階段から見下ろすと、風が彼女の長い髪を微かに揺らした。

こうして挨拶一つに戸惑ったり、返事をされて嬉しくなってしまうなど以前では考えられなかった…

今彼女が手にしたのは、かつて渇望した愛する人との平穏な暮らし。それが夢ではないのかと、今でも疑ってしまう。

 

だが、間違いなく現実なのだ。

 

その証拠に、キャスターは階段を上がってくる人物へ一成に向けた以上に心を籠めて、言葉を贈るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、飛び道具持ってるなんて聞いてねぇぞ?」

「今更言っても仕方がありません。合図を送ったら正面突破でいきます」

「…少しは作戦練ったらどうだい?」

 

岩陰に隠れ、銃弾の嵐から身を隠しているランサーは皮手袋をはめ直すバゼットの直情思考に溜息を付きながら手に紅い槍を出現させる。

 

命を得たサーヴァント達は以前のように宝具を使用できるが、その力は聖杯戦争時の半分を下回っている。人の身に落ちたのだがら仕方がないと受け入れてはいるが、あの金ピカのみが関係なく宝物庫を持ち続けているというのが唯一不満であるのだが…

 

軽く槍を振るったランサーは拳同士をぶつけて義腕の調子を確かめているバゼットへと視線を移す。間桐家経由で知り合った人形師から買った腕はバゼットの身体に完全に馴染んでおり、その威力は語る事すら怖いほどだ。

 

「にしても、囮のつもりがこっちが本命だったとはねぇ…電気の兄さん、怒りの余りに雷落としかねねぇな…」

「…そんな被害を出さない為にも早く決着を付けなければなりません」

 

同時に深くため息を付いた両名は、ひと月ほど前から身を置いた組織で知り合った人物の顔を思い浮かべた。

 

聖杯戦争後、元サーヴァントであるランサーと行動することを選んだバゼットは魔術協会との関係を切ってしまい、自分達へコンタクトを取った組織で行動をとる方針を取っていた。その組織を一言で言い表すのならば、『正義の味方』だろう。

彼等の目的は悪の殲滅と世界平和と随分とシンプルな行動指針であり、その作戦の中では今回のような荒事など日常茶飯事である。しかも、その敵はゴルゴムのように人の常識を逸脱した兵器や怪人であるという。

暴れられるならば構わないというランサーの承認を得たバゼットは組織への参加を決めたが、自分達と行動を共にする特殊部隊は随分と荒々しい連中であり、その中で出会った青年は自分達の知人と同じく『変身』出来ると知った時は2人して驚愕した。

そして、自分たちが光太郎の知り合いと判明した時、彼に関する様々な質問を投げかけてきた。まるで自分の身内を心配するかのように。

 

「…だってのに、黒い兄ちゃんの話をする度に嬉しいのか悲しいのかわかんねぇ面すんだもんなぁ」

「私達には理解の出来ない事なのでしょうね」

 

それは彼自身が抱えているものが原因なのかも知れない。と、考えた所で銃撃はさらに勢いを増してしまった。どうやら増援が現れたらしい。

 

「しゃーねぇ…さっさと終わらせて連中と飲み比べだッ!!」

「全く、貴方という人は…!」

 

そんな会話を繰り広げながら、銃弾の雨へとランサーとバゼットは駆け出して行った。

 

今回の仕事は再生怪人を生み出すプラントの破壊任務。

 

2人にとっては、当たり前となりつつある新たな戦いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ~い、佐々木ぃ!そろそろ飯にすっぞぉ!!」

 

燦々と輝く太陽の下で土を鍬で耕していた青年は帽子を脱ぎ、額の汗を拭うと自分を読んだ老人の方へと顔を向けた。

 

「すぐに行く」

 

土まみれの作業着を纏ったアサシンは返事をすると老人達の元へと歩いていく。

 

戦いの後、アサシンはある農村へと身を置き、農業に勤しむ日を送っていた。戸籍に関しては凜からキャスター経由で買い取り、老人に呼ばれた通り佐々木小次郎という名を名乗るがこの村ではまるで歓迎されるかのように受け入れられる。

その理由を知った後、アサシンはなるほど…と苦笑するしかなかった。

 

「しっかし佐々木も気の毒になぁ。ゴルゴムの連中のせいで家が全焼しちまうとは…」

「そんで行きついたのが先祖が住んでたっつうこの村だってんだから、わかんねぇもんだ」

「でもお蔭で助かったわぁ。唯でさえ若い連中は手伝わねぇですぐ都会に行っちまうしなぁ」

 

農業を職としているのは多くが老人であり、村で暮らす若者は手伝いすらしないというのが現状らしい。弁当であるおにぎりを一つ取りながら老人達の話を聞くアサシンは老人達はつい最近住み始めたばかりだというのに、積極的に農業を手伝う姿勢も相まってえらく気に入りられてしまったのだ。

今し方老人達の会話にあった内容は勿論偽りではあるのだが、先祖…というのはあながち間違いではない。かつて農民であり、土いじりをしながら剣技を磨いたアサシンは何かに導かれるようにこの土地へとたどり着いた。もしかしたら、ここが自分の生まれ育った場所かも知れないと。

ならば、この地で住まうのも悪くはあるまいと考えていると、自分に湯呑が差し出されているとようやく気が付いた。

 

「ど、どうぞ…」

「…ああ。これはかたじけない」

 

同じく作業着を着た若い女性から湯呑を受け取ったアサシンは味わい深い緑茶を啜る。その様子を不安そうに見つめる女性を見て、アサシンは安心させるようにお茶の味を伝えた。

 

「安心するがいい。見事な味だ」

 

アサシンの感想を聞いてパァっと表情を明るくした女性は続いてアサシンに落ち着かない様子で小声で尋ねる。

 

「あ、あの…佐々木さんはこちらに引っ越してまだ間もないですよね…」

「ああ。まだまだ不慣れな部分があり、皆には迷惑をかけているだろう」

「そんなことありませんっ!じゃ、なくてですね、その…」

 

つい大声を出してしまった事を恥じたのか、再び小声となってしまった女性は手をモジモジさせながら勇気を振り絞り、この村を自分が案内すると伝えようとしたその時だった。

 

「あーッ!!またムサシがコジローに声かけてるーっ!!」

「早く戦えよー!!」

「ライバルなんだろーッ!?」

 

「そん名前で呼ぶなって何度言えば分かるんかお前らあぁぁぁぁーッ!!!」

 

アサシンの前では借りてきた猫のように大人しかっただけあったのか。女性は学校帰りの少年少女達に向かって全力で走っていく。自分達に迫る脅威を悟った子供らも笑いながら逃走を始めている。

そんな光景をクックと笑うアサシンは自分が歓迎された理由をつい思い出してしまった。

 

(宮本…むさし、か。出来過ぎているな、本当に)

 

漢字ではなく平仮名であるためどうにか固いイメージを逃れているというのが彼女…むさしからの愚痴であった。この名を付けた今は亡き祖父に相当の恨み節を見せる彼女には悪いが、アサシンはそれ程悪い名だとは思っていない。

それが彼女にとって嬉しいような悲しいような複雑な気分を持たせてしまっているようだが…

 

佐々木小次郎と宮本むさし…成程、名勝負を繰り広げた侍達と同じ名を持つ者がそろうなど、こんなにも愉快なことは無いだろう。

 

だからこそだろう。こうして自分を笑いながら受け入れてくれたこの村を、守りたいと思えてしまうのは。

 

(どうやら、影響を受けたのは私も一緒だったようだな)

 

今の自分が生きる世界を守り抜いた男の顔を浮かべながら、アサシンは再びお茶を口にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランッとドアが開くと同時に店内に響く音を聞いて、カウンターの奥で雑誌に夢中になっていた少女は立ち上がると入店した女性へといらっしゃい、と笑顔で声をかける。同じく笑顔で会釈する女性はカウンター席に座るとメニューに目を通し、お勧めとされている品を指さした。

 

「このスペシャルコーヒーをお願いします」

「ありがとうございます!ちょっと待ってて下さいね~」

 

明るい表情で注文を受けた少女はコーヒーミルで豆を挽き始める。その姿を女性が見守る中、少女は気にする様子もなく作業へ没頭していた。

 

やがて完成したコーヒーを差し出され、女性はカップを口元に持ち上げると香ばしい香りを楽しみながらゆっくりと啜る。染み渡るとても優しい味だ。

 

「似ていますね…」

「え?」

「いえ、独り言ですよ。とても美味しいです」

「えへへ~コーヒーだけは自信ありますからね!」

 

と、右手の指で鼻を擦る少女は誇らしげに胸を張る。その時、女性は少女の右手首へと目を向ける。少女の白い肌には不似合いであるギザギザとした古い傷が手首を一回りしていた。その視線に気が付いたのか、特に気にする様子もなくその傷を掲げて見せる。

 

「あ、これですか?覚えてないんですけど、物心つくまでに大事故に巻き込まれて付いた傷みたいなんですよね~」

「大事故…ですか?」

「はい。しかも不思議なことに母も…この店の店長なんですけど、同じ傷を持ってるんです」

「あったらしい…ということは、その時の記憶は…」

 

女性の質問にう~んと腕を組んだ少女は目を瞑った数秒後、ニコリと笑う。

 

「それがな~んにも覚えてないんですよね。私は物心つく前でしたし、母も全然。その事故で父と兄は死んでしまったらしんですけど」

 

と、一瞬だけ悲しげな表情を浮かべるが、あくまで一瞬だった。すぐに笑顔を浮かべると少女は両手を広げて店内を見渡す。

 

「でも、もう昔のことです!今はお母さんと一緒にこのお店を開いて、ここに来る人達に美味しいコーヒーを入れる…それが私の今ですから!」

 

明るく笑う彼女の表情は、女性の知る『彼』を連想させる。面れて笑ってしまった女性はその後、少女と取り留めのない会話を続けた。

 

時計を見てそろそろ…と離席した女性は会計を済ませると、少女に微笑みかけながら尋ねる。

 

「そう言えば、お名前を聞いていませんでしたね。私は、メデューサと申します」

「へぇ、珍しいお名前ですね。今日はありがとうございました、メデューサさん。私は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子。秋月杏子といいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子の名を聞いたメデューサ…ライダーは喫茶店キャピトラを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダーはキャピトラから100メートル程離れた位置で待っていた光太郎と合流する。彼女か店員である杏子の様子を聞くと、ありがとうと一言呟いてバイクを駐車してあるスペースへ移動を開始した。

ライダーも光太郎に続いて歩き始め、彼の表情を伺う。普段と変わらないように努めているようだが、笑うのを必死に我慢しているように見える。余程、嬉しかったのだろう。

 

杏子と母親は生きている。

 

そうシャドームーンから聞かされたのは、光太郎が大聖杯を破壊へと向かう直前の時だった。

 

過去に養父である秋月総一郎がオニグモ怪人に殺害された時、光太郎の目の前に放り出された2つの右手首。見覚えのあった手首を見て光太郎は2人は見せしめの為にゴルゴムによって殺されたと考えていたが、真実は違った。

確かに杏子と母親はゴルゴムによって右手を切断されてしまったが、直ぐに応急処置を受け、仮死状態のまま生かされていたのだ。

 

そしてゴルゴムは2人の手を再生手術によって五体満足にするという条件で信彦へ世紀王としての記憶を受け入れろと取引を持ちかけた。総一郎の手引きによって脱走した光太郎を逃してしまった手前、後がない大神官達が持ち出した条件はもはや

脅迫に近かった。

囚われのままであった信彦には他の選択などある訳もなく、条件を受け入れるしかなかった。自分が自分でなくなる変わりに、母親と妹が生き延びる事を信じて。

 

結果、2人は右腕を再生して生き延びることが出来た。しかし、ゴルゴムによって精神操作され襲われる以前の記憶を完全に失ってしまったのだ。ゴルゴムにとっては既に用済みで殺されてもおかしくはなかったが、もし目を覚ましたシャドームーンによって不況を買ってしまうのではという

恐れから生かしていたのだという。

 

光太郎に取ってゴルゴムの都合などどうでもよかったが、死んだと思っていた2人が生存していたことは何よりも嬉しかった。

 

そう、生きているという事実だけで。

 

 

 

「…会わなくて、良かったのですか?」

「記憶の操作だって、絶対じゃない。俺と会った事で襲われた事がフラッシュバックする可能性だってある」

 

だから、会ってはならない。杏子にも、母親にも…

 

ようやくゴルゴムの呪縛から解放された2人に今更怖い思いをさせるなど、光太郎には出来なかった。

 

「だから、いいんだ」

 

ライダーは無言で光太郎の手を握る。突然の行動に驚く光太郎へライダーは光太郎の顔を見上げると、決意に満ちた瞳で彼の目を見つめる。もう、視界に捉えた者を石に変えてしまう呪いが消え去った美しい瞳で。

 

 

「私は、貴方の傍にずっといます。決して、離れませんから…光太郎を1人などにはしません」

「…ありがとう」

 

光太郎は笑いながら、ライダーの手を優しく握り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「大学を卒業したら、義父さんの手伝いをしようと思うんだ」

「間桐が保有する土地の管理…でしたか?」

 

間桐家は祖父が残した土地…霊地を魔術師に貸し出すことで収入を得ているのだが、その規模は日本だけでなく、世界に幾つも保有していたという事実が最近発見された遺言書で明らかになったのだ。

流石に手が回らないと鶴野は海外の管理者に委託を依頼しているのが現状である。そこで光太郎は卒業までに父から聞いた必要な知識を学び、資格を取って海外にある土の管理をしながらその国を回ろうという目的を立てた。

 

「シンジとサクラが寂しがりますね」

「ハハ、でも中心は日本だからそう頻繁に離れる訳じゃないよ」

「…続けるのですか?戦いを」

「……………」

 

ライダーの問いかけに、一度口を閉ざした光太郎は空いている手を腹部へと当てる。

 

あの戦い以来、キングストーンは何の反応も示さなくなっている。大聖杯を破壊した際に全ての力を使い果たしたのではないかとキャスターから推測されているが、光太郎は力を蓄えるまで眠っているだけではないかと考えた。

 

時がくれば、キングストーンが再び力を取り戻す。

つまり、また仮面ライダーへの変身が可能となるのだ。

ランサーから時折届く連絡によれば、世界にはゴルゴムの残党やそれ以外の悪が人々を苦しめていると言う。もし、自分に戦える力が戻ったのならば、迷いなく力を振るう。その為に、『彼ら』と同じ名を名乗っているのだから。

 

「ああ。俺にこの力がある限りね」

「本当に貴方らしい。その変わり―――」

「分かってるよ。その時は、また一緒に戦ってくれるか?」

「無論ですよ」

 

聞くまでもなかったな、と光太郎が笑っている間にバイクの駐車スペースへ到着。光太郎はライダーの手を離すと素早くバイクにエンジンをかけ、ライダーへヘルメットを手渡すと提案を持ちかけた。

 

「メデューサ、少し遠出してもいいかな?」

「構いませんが、どちらに」

「…信彦と戦った時、父さんには挨拶したよね」

「はい。光太郎達の、思いでの場所ですよね」

「うん。だから、今回はお父さんとお母さんのところに行こうと思う。今まで行けなかった事も含めて報告したいし、メデューサの事も紹介したいんだ」

「そういうことでしたら、是非」

 

ライダーは光太郎の過去を夢で見た時に、幼い光太郎が1人で訪れた南家の墓を思い出す。光太郎の生みの親である南夫妻が眠る場所。恐らく、光太郎が1人となった時以来訪れていない場所なのだろう。

 

バイクへ搭乗した光太郎の後ろへと座ったライダーは両腕を光太郎の腹部に回し、しっかりと掴まる。

 

「じゃあ、行こう」

「はい」

 

ライダーの返事を聞いた光太郎はバイクをゆっくりと発進させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴムとの長く、辛い死闘と多くの犠牲者を生んだ冬木の聖杯戦争は終焉を迎えた。

 

 

 

その中で間桐光太郎は一度全てを失った。大切な家族と、人間としての肉体すらも。

 

 

 

それでも、光太郎は立ち止まることをせず、前へと進み続けた。

 

 

 

運命に抗い続け、出会った多くの仲間と愛する人の為に、光太郎はこれからも戦い続けるだろう。

 

 

 

自分の力が、今を生きる人々に望まれる限り。

 

 

 

彼は、人類の自由と平和を守る『仮面ライダー』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーBLACK × Fate/stay night 

 

 

Fate/Double Rider

 

 

 

~完~

 




というわけで、完結でございます。

まさか、終わるまで続くとは、作った本人がびっくりです…実はビルゲニアが学校を襲った辺りで『本当の戦いはこれからだ!end』にしようかと考えていたのですが、話を作るのが段々と楽しくなり、皆様からの感想が嬉しくなり、そして今日という日まで続けることが出来ました。
ただただ、感謝の言葉しか浮かびません。

当初はこちらでよく見られる転生者がRXの力を持ってFate世界へ→サーヴァント達を次々とリボルクラッシュ→勝利!!というプロットを組み立てたのですが
『やばい。超つまんねぇ!!』
という事で現在の形に落ち着きました。
それにBLACKに負けないくらいにFateキャラにも愛着があるため、どちらも活躍させたいという気持ちも強かったからかもしれません。

そして他作品同士のカップリング…光太郎とライダーの組み合わせに関しても受けれて頂く声も多く貰えたのも非常に励みとなり、続けられたひとつの理由です。さらに言えば恋愛描写が微妙なものばかりで申し訳ありませんでした…

最初は余りにもコアすぎる組み合わせで見てくれる人がいるのか…という不安もありましたが多くの人にお気に入り登録して頂き、嬉しい日々が続きました。近年では多くの媒体でBLACKが注目され、他様でもBLACK作品が見れるようになり、励みとなりました。


さて、BlACKの話を終えたのだから次は…とご期待頂いている方がいらっしゃるかもしれないのですが、現在のところは保留、という状態です。散々伏線振りまいといてなんじゃそりゃと思われる方もいらっしゃると思いますが、申し訳ありません。
と、いうのも仮に続編を作るとなると原作ではご存じの通り、もはや『あいつ一人でいいんじゃないかな』という状態に陥り、サーヴァント達に活躍する場面が少なってしまうのが主な原因です。せっかくのクロスオーバーなので、Fateキャラ達にもしっかりとした活躍する方法が思いつくまではアイディアを練る期間が続きそうです。と、言っても私は気まぐれですので来週公開される映画を見てテンションが上がり、すぐにでも製作に取り掛かってしまうかもしれません(笑)

しばらくは未だに残る誤字脱字の修正、文章的におかしい部分の手直しと番外編の投稿をする予定です。

近日中に作成する予定の番外編のテーマは
『慎二と桜の兄妹喧嘩』
『小次郎と野菜泥棒』
となっています。あくまでテーマであってタイトルではなりませんので、これは重要です。

さて、長くなってしまったのでここまでとさせて頂きます。

本当に、ありがとうございました!!


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番外編①

GP、タイトル通り3号が中心となったお話でしたね。負けじとBLACKも目立ってくれて嬉しかったのですが、わがままを言えば昨年のXや555並みにガッツリ絡んで欲しかったところ…

では、番外編をお送りいたします!




日が沈み月が街を照らす頃、義妹に伝えていた帰宅時間をとうに過ぎて家の前へとたどり着いた間桐光太郎は深くため息を着きながらヘルメットのバイザーを上げる。

 

「参ったな…」

 

バイクを押してガレージに移動しながら、現在光太郎が抱えている事情の説明を頭の中で組み上げていく。説明というより、言い訳かなどと思いながらも本日の出来事を振り返った。

 

大学の帰りに金髪の青年に捕獲され、連れて行かれた先はいつものゲームセンター。しかし目当ては肝心のゲームではなく、入り口前に設置されているガチャガチャであった。

商品は最近流行っているアニメのキャラクターがチェスの駒となっているものであり、数百分の一の確立でレアな駒が紛れているらしい。

後に分かったことだが、青年は懐かれている子供達にせがまれて買い漁っているようだ。つまり、子供たちの『人数分』のレア駒を揃えるまで回し続けるつもりのようであり、光太郎は両替とダブったカプセルを持ち歩く係に任命されてしまう。

無論、その店で品切れとなった場合は次への店へ移動し、無くなれば次へと無限と思われるループが続いていき、日が傾き続けた頃にようやく目的とした数に達成し、解放されたのであった。

 

問題はその後である。

 

金髪の青年から褒美として伝えられたゴルゴムによる地殻破壊の実験が新都の外れにある研究施設で行われているとの情報を聞いた光太郎はもっと早く教えてくれと言い捨て、急ぎ向かった。

 

結果としてはゴルゴムのハサミムシ怪人を倒し、実験を潰す事に成功したのだが、変身前に遭遇した怪人の不意打ちにより光太郎の背中が切り裂かれてしまう。

背中の傷は変身時のエネルギーによって回復したが、衣服はそうはいかない。下に着ていたTシャツは血液が付着しているので処分すると諦めていたがは問題はジャケット。

 

光太郎のお気に入りであった茶色の革ジャンは無残にも避けてしまい、首回りを温めてくれた襟のボアもTシャツ同様に血がしみ込んでしまった。もはや使い物にはならないだろう。

 

(貯金削ってまで買ったのになぁ…)

 

トボトボと玄関を潜る光太郎はこの後に待ち受けているであろう弟妹へどう謝罪と報告をすれば良いかと頭を捻る。しかし、そんな悩みなど吹き飛んでしまうような事態が起きていた。

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

 

 

 

(え~…何この状況?)

 

 

口には出さず、正直な感想を心の中で呟く光太郎が見たのは、リビングで慎二と桜が互いに背を向け、無言で腕を組んでいる姿であった。

 

慎二の眉間には普段の3割ほど深く皺が寄せてあり、桜はプゥっと頬を膨らませている。共通しているのは、2人とも機嫌は宜しくないということだろう。

 

(ら、ライダー…)

(ハイ)

 

この空間を支配している重たい空気に耐えられない光太郎は思わず自分のサーヴァントへ念話を求めた。霊体化しているので姿こそ見せないが光太郎の呼びかけに応じたライダーは光太郎が求めている情報を問われる前に報告する。

 

(私が偵察から戻ったのはマスターより2分程前…その時既に貴方の弟と妹はあの立ち位置でした)

(あ、ありがとう…)

(では、引き続き外の警備に当たります)

 

事務的に会話を終了させたライダーの存在はその場から消える。本人の言った通りに家の外で見張りに向かったのであろう。

 

(打ち解けるにはまだ時間がかかるかな…?いや、直視出来ない俺も俺だけど)

 

召喚以来、まともに口を聞けていない自分のサーヴァントへどう接するべきかと同時に、自分の美女への苦手意識もどうにかしなければ…と課題が次々に増えていくが今すべきことを優先的にやっていこうと光太郎は行動に移る。まずは自分が帰ったことを報告せねばならない。

 

「た、ただいま2人とも!」

「あ、お帰りなさい!」

「…おう」

 

遅くなりながらも自分が帰宅したことを伝えると桜と慎二は普段通りに挨拶してくることに安堵した光太郎。どうやら気にし過ぎたなと軽い気持ちで一体何があったのかと聞いた直後…

 

「光太郎は知らなくていい」

「兄さんは気にしないで下さい」

 

言い方が違うだけで同じ返答を光太郎へ伝えた2人は一度目が合う『フンッ!』と鼻を鳴らしてすぐに視線を逸らしてしまう。

 

喧嘩は珍しくない…というより、泣き虫だった桜が慎二と喧嘩が出来るまで精神的に成長したことが喜ばしいし、慎二も自分を押さえ、癇癪で暴力を走るようなことが無くなったことに関心するところではあるはずなのだが、今回は相当根深いようである。

 

普段の喧嘩ならば互いに考えている不安を光太郎にぶつけ、どうにか間を取る意見に落ち着かせる事が多かったが、仲裁役の光太郎が蚊帳の外となってはまとめることすらできない。

 

今回の喧嘩の原因を聞き出そうとする光太郎だったが頑なに2人が話そうとせず、どうにかきっかけと掴もうと夕食時に本日自分の身に起きた出来事を話して場の空気を和ませようとした。

 

 

「…………………………………」

「…………………………………」

(思った以上に沈黙が痛い…)

 

四角のテーブルの席位置は桜と慎二が向かい合う形で座り、間が光太郎の席となっている。いつもは桜お手製の洋食で舌鼓を打ちながら談話を弾ませているはずなのに、今日は食器の音しか響かない。だが、負けてなるものかと光太郎は話を切りだず。一秒でも早く、この状態を脱する為に。

 

「じ、実は今日さ―――」

 

大学の講義が終わった後の経緯を話していく光太郎。金髪の青年に捕まり連れ回される所まではいつもの事であると認識されてしまっているのでまるで反応は無かったが、ゴルゴムの怪人と戦ったと話した途端に立ち上がり、身を乗り出して光太郎へと詰め寄った。

 

「大丈夫なんだろうなッ!?」

「怪我とか、していませんよねッ!?」

 

無言で食事を進めていた2人の態度が急変したことに驚いた光太郎はむせ返し、呼吸を整えから大丈夫だと心配する慎二と桜へ伝える。義兄がこうして無事に自分達と食事をしているということなら本人の言う通りなのだろうと安心した2人はゆっくりと着席した。

 

「全く…驚かせんないでよ」

「本当ですよ…」

 

同じく長兄の心配したと態度で表してしまった慎二と桜はハッと目を合わせると再び不機嫌な顔となって食事を再開したのであった。

 

(こりゃ…今日は無理だな)

 

後は時間が解決してくれるのを待つしかない。それに頭を冷やせば明日にでもいつも通りに戻っているかもしれないと光太郎は考えたが、あくまで希望的観測であったと思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 

(今日で5日目…)

 

本日は土曜日。光太郎は休みであるが高校生である2人は午前中の授業後には昼を挟んで弓道部での練習がある。原因を突き止めようと会話を試みた光太郎だったがことごとく空振りが続いてしまい、どうすればいいかと自室で頭を抱えている時、自分の携帯電話が振動していることに気付く。

誰であろうと手にした携帯電話のディスプレイを見ると、以外な人物なが表示されている。

 

「もしもし、美綴さん?」

 

2人を関わりの深い人物、弓道部のエースである美綴綾子からの連絡であった。

 

『どーも、お久しぶりです!前に練習試合の応援に来ていただいて以来でしょうか?』

「いや、こちらこそいつも2人がお世話になって…」

 

挨拶を躱す綾子と光太郎は彼女の言う練習試合や大会で見学した時に顔見知りとなって、電話番号を交換していた。もしあの2人の事で相談するかも知れないとのことだったが、タイミングが良く光太郎が相談したい状況となっていた。年下に泣きつくというのは情けないだろうが最早手段は選んでいられない。

彼女の要件を聞き次第、話すとしようと考えをまとめた光太郎であったが…

 

「どうしたんだい?俺に直接電話なんて珍しいけど」

『ああ、そうでしたね。実は部活中に慎二と桜が妙にピリピリしていて、私と衛宮以外が怯えてしまったんですよ…』

(ああ、やっぱり…)

『その空気に耐えられなかった藤村先生が荒療治として2人に備品買いに行くように指示出したんですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『けど、近くの店に行ったのにもう2時間立つのに戻ってなくて…実は帰ってたりします?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜のせいだ…」

「兄さんのせいです…」

 

無表情で責任を擦り付け合う2人は現在新都の外れにある廃工場の一室に隔離されてしまっていた。

 

弓道部顧問の藤村教諭に従い、備品の買い出しに向かった2人を突然数人の男達が追ってきたのだ。男達の目は虚ろで、ブツブツと聞き取れない言葉を繰り返す姿を見て、2人はゴルゴムの刺客と確信する。

おそらく自分達を利用し兄を呼び出そうとしているのだろうが、この場面では逃げるが勝ちである。

幸い地の利はこちらにあるので裏道や狭い道を使いながら1人、また1人と脱落させていったのだが、最後の分かれ道の時であった。

 

「右へ行けば森に入れる!」

「左へ行けば人の多い道に出れます!」

 

と、自分の行く方が逃げ切れる確率が上がると言い合い立ち止まって口論が開始されてしまい、御用となってしまう。

 

 

 

 

掴まってからもやはり無言であるため、慎二は思わず自分達が捕まった場所の内部を眺めるそこはかつて小学校で慎二が上級生に脅されて連れてこられた懐かしき場所ではあるのだが、思い出させてくれるような状況ではない。2人は誘拐した犯人によって手錠をかけられてしまっている。

しかも1つの手錠で慎二の左腕と桜の右腕へかけられてしまっており、身動きが出来たとしても今の2人では呼吸を合わせて脱出など出来るはずがない。

そう考えた主犯は地面へ腰を下ろしている2人を見下ろしなが不気味な笑みを浮かべていた。

 

「クックック…良い様だな貴様等」

 

マントを翻して現れた甲冑を纏った男…ゴルゴムの剣聖ビルゲニアは現在2人が不仲であるという情報を聞き入れ、催眠術をかけた人間を使い拉致を計画したのだ。常人ならば怯えるような迫力で現れたはずだったのだが、

 

 

 

 

「大物ぶってないでさっさと光太郎に負けてこいよ。どうせ今回もウッカリで先走って負けるんだろうし」

「そして可能なら帰らせて下さい。まだ買い物の途中なんです」

 

冷たく言い放つ2人の発言を聞き、額に青筋が走ったビルゲニアは腰に下げていたビルセイバーを抜き、地面へと突き立てたる。それによって亀裂が走ったのは突き立てた部分だけではなく、慎二と桜の足元にも及んでいた。

 

「貴様等…自分の立場というのが分かっていないようだな…」

「分かった上で言ってるんだよ。人質ってのは無事でいることに意味がある。もし僕たちに何か怪我でも負わせた場合はどうなるかは、一番わかってるんじゃん?」

「ぐぬぅ…」

 

脅したつもりが逆に脅されてしまったビルゲニアは余裕を完全になくし、生意気にも自分へ意見する人間をなぶり殺しにしたい衝動をなんとか抑えるとビルセイバーを引き抜き、踵を返す。

 

「フン、貴様など仮面ライダーをここまで誘導させるための餌に過ぎん!特等席で貴様等の兄が死ぬ様を見ているがいい…」

 

ビルゲニアの勝ち誇っている表情を見た慎二と桜は目を合わせる。どうやら今回の作戦はここでしか出来ない事のようだと察した2人は頷くと慎二は背中を向けて歩を進めているビルゲニアに声を放つ。

 

「今回は随分と余裕みたいだね。ない知恵使って光太郎へのドッキリでも思いついたの?」

「ククク…冥土の土産に聞かせてやろう。貴様等の兄は、変身するまでもなく、俺によって処刑されるのだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここか」

 

光太郎は2人の隔離されているであろう廃工場の奥へと進んでいく。

 

綾子からの情報を聞いた直後、バトルホッパーと共に家を飛び出した光太郎はライダーに協力を仰ぎ、2人の捜索を開始。GPSを元にスムーズに後を追う事ができたのだが、敢えて場所を知らせ、誘導された可能性も高い。

そしてこのような見え透いた手を使う相手などゴルゴムの剣聖以外にいない。

 

(いや、奴のことなど後回しだ)

 

まずは慎二と桜の無事を確認しなければならない。冷静にならなければと言い聞かせながらも道を隔てていた扉を蹴り破ったその奥には、窓から差す光の元に立つビルゲニアの姿があった。

 

「よく来たな。間桐光太郎ッ!!」

「ビルゲニア…」

 

もはや隠す必要のない怒気を放つ光太郎の顔には改造手術の痕がくっきりと浮き出している。その姿を滑稽だと言わんばかりに嫌らしく笑うビルゲニアは指を鳴らすとその途端に床に設置されていたコードで繋がれた機械4基が独りでに浮き、光太郎を囲い始めた。

 

「これは…」

 

見れば機械の先端にはアンテナが付けられており、何かを照射するための兵器と推測する光太郎へビルゲニアが誇り気に説明を開始する。

 

「その機械は変身妨害光線発射装置!貴様の持つキングストーンの力を封じ、仮面ライダーどころかバッタの姿にすらなれんのだ!」

「…っ!」

 

今回、単純な人質で自分を呼び起こしたのは変身を封じる兵器を用意したことでの自信があった為か。しかし、発射される前に変身…せめてバッタ怪人の姿になれさえすれば回避は可能となると力を解放しようとした光太郎へビルゲニアは見せつけるように小型の機械を掲げる。そこには、髑髏のマークが入ったスイッチが組み込まれていた。

 

「おっと動くなくなよ…もし動けば、貴様のかわいい弟と妹は死ぬことになるぞ?」

「貴様…っ!!」

「そうだ…貴様が少しでも妙な仕草をすれば、小僧と娘が監禁されている部屋に毒ガスが放たれる…」

 

クククと笑うビルゲニアの脅迫に最悪のイメージを浮かべてしまう光太郎は拳を強く握りながらも、敵の卑怯な手段に従う他なかった。光太郎が怒りに震えながらも自分の掌にある姿を目にし悦に浸るビルゲニアはゆっくりと手を上げる。今度こそ、今度こそ仮面ライダーを倒し、キングストーンを手に入れる。そうすれば創世王へとまた一歩近づけると踏んだ剣聖は叫びと共に手を振り下げた。

 

「発射ぁッ!!」

 

ビルゲニアの号令と共にスイッチが入る機械。その先端にあるアンテナから光太郎へと照射され、仮面ライダーとしての力を失ってしまう。

 

 

 

 

 

だが、身構える光太郎は自分の身に何も変化がないことを疑問に思い、見渡してみると機械から光線を発射される様子がいつまでもなく、命令を下したビルゲニアも表情を焦りへと一変させ、どうなっているのだと叫んでいる始末だ。

 

機械の方も上下に動いたり、スイッチを何度もいじられたりと、まるで透明の生物が調子を確かめているような光景だったが、光太郎は気にする余裕はない。なぜならば、騒ぎの原因となった人物達の登場に目を見開いてしまったからだ。

 

「だから言ったじゃん、詰めが甘いってさ」

「な、何故貴様等が…ッ!!」

 

光太郎が蹴破った入り口に立つ慎二と桜の姿があった。敵味方問わずに混乱する中2人が無事でいたことに安心しつつも、この場に現れたということは敵の手を封じたのは…

 

「もしかしたらって思って鎌をかけて見たら、思った以上に話してくれて助かったよ。その変な機械が電気が必要だってね」

「それを聞いた私と慎二兄さんで、光線を発射する電源を切らせてもらいました」

 

2人はビルゲニアから光太郎の変身を封じる機械を用意したと聞き、部屋を脱出した直後に機械のケーブルを伝い未だ生きていた工場の電源のブレイカーを落とし、秘密兵器の無力化させることに成功していた。

 

「馬鹿な…貴様達は部屋に閉じ込めていた筈だッ!錠までしかけたというのにそれをどうして…」

「だから何度も言わせんなって。詰めが甘いんだよ」

「見張りをつけなかったのが失敗でしたね」

 

ビルゲニアの問いに慎二は片方の靴を脱いで手に取ると、靴の踵部分を指でコツコツとつつく。

 

 

 

 

ビルゲニアが自信たっぷりに自分の企てた内容を語り、慎二達の部屋を去った後。足音が完全に途絶えた慎二と桜は周囲に気を張り巡らせながら行動を開始した。

 

「…行った見たいです」

「それじゃ、動くとするか」

 

慎二は唯一自由となっている右腕で靴の踵部分をスライドさせる。そこにはもしもの時に控えて小型の工具が仕込まれていた。先端を入れ替えられる小型の精密ドライバーを手にした慎二は手錠の穴に差し込み、何度か内部を押し込むことで解除を成功。同様に桜の手錠を解除するともう一つの関門である施錠された扉を前にする。

今度は桜が靴を手に取ると、同じく踵の部分を取り外し、長さ5センチ前後の長方形を繋げていく。最後に取り付けた部分のケースを外すと、カッターナイフのような刃物が取り付けられた武器が完成。

それは魔力を込めることで刃に宿る温度が自在に調整できる慎二作成の道具であった。

 

魔力を込め、金属を簡単に切断出来るような状態まで熱を高めた所で扉の隙間から錠の切断。脱出に成功した後に2人は兵器に必要とされている電気設備を探しに回っていたということだ。

 

「き、貴様達、仲違いをしていたのではなかったのかっ!?」

「こんな時にも喧嘩続けてるほど、バカじゃないよ」

「私たちを甘くみないほうがいいですよ?」

 

喧嘩中であれば協力することもないと踏んでいたビルゲニアだったが、2人に返されてしまった回答に空いた口が塞がらず、プルプルと怒りに震え始めてしまう。

 

 

「は、ハハハ…」

 

乾いた笑いがもれてしまう光太郎。本当に頼もし過ぎる義弟と義妹だ。自分の表情に気が付いたのか、慎二はドヤ顔で鼻を鳴らし、桜は笑顔で手を振っている。そして敵は、好き放題にやらかした人質相手に何もしない相手ではなかった。

 

「おのれぃ…あの2人を始末しろッ!!カメレオン怪人ッ!!」

 

怒りの余りにブルブルと唇を震わせるビルゲニアの命令が工場内に響くと、浮いていた機械の内1台が床へ落下。その場に現れたゴルゴムのカメレオン怪人は涎まみれの下を揺らしながら慎二と桜へ迫るが、その寸前にどこからともなく現れた鎖によって弾き止されてしまう。

 

「ゲギャッ!?」

 

ゴロゴロと床を転がるカメレオン怪人を吹き飛ばした存在…霊体化を解いたライダーが2人の前に姿を現した。

 

「ライダーッ!2人を頼むッ!!」

 

光太郎の言葉に無言で頷いたライダーは慎二と桜の背中を押し、工場を後にする。逃がさまいと残るカメレオン怪人も姿を現し、ライダー達の後を追いかけようとするが、入り口の前に立った光太郎が道を阻む。

 

「お前達…覚悟しろッ!!!」

 

 

一歩前に出た光太郎は右半身に重心を置き、両腕を大きく振るうと右頬の前で握り拳を作る。

 

ギリギリと音が聞こえる程込めた力を解放するような勢いで右腕を左下へ突出し、素早く右腰に添えると入替えるように伸ばした左腕を右上へ突き出す。

 

 

「変っ―――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、ゆっくりと右半身から左半身へと旋回し――

 

「―――身ッ!!」

 

両腕を同時に右半身へと突き出した。

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

 

「仮面ライダー…ブラァックッ!!」

 

変身を遂げた光太郎…仮面ライダーBLACKは変身の余剰エネルギーによって発生した蒸気を振り払い、カメレオン怪人を率いるビルゲニアに向けて指を差す。

 

 

「ビルゲニア…自分の目的の為に慎二君と桜ちゃんを巻き込んだことを俺は決して許さんッ!!」

「ほざけッ!!者共、透明化して攻撃しろッ!!」

 

周囲の風景へと溶け込んでいく前にカメレオン怪人を叩こうと飛びかかる光太郎だったが一歩遅く、怪人達の姿を見失ってしまった。

 

「しまった…グァッ!?」

 

背中、足へと次々に打ち付けられていく見えない攻撃に翻弄されながらも光太郎は複眼を輝かせ、マルチアイを発動。カメレオン怪人達の位置を把握しようとするが…

 

「させんぞッ!ビルセイバー・ダークストームッ!!」

「く、これは…」

 

盾であるビルテクターの前にビルセイバーを翳すことで発生する突風により視界を封じられてしまった光太郎の手足が異なる方向へと強引に引かれいく。手や足に絡まった嫌な感触から、カメレオン怪人達が舌で自分の手足を縛っているのだと考えた光太郎はこの場を凌ぐ手段を思いついた。

 

「さぁ、そのまま仮面ライダーを五体バラバラにしてしまうのだッ!!」

 

ビルゲニアの命令によって拘束が強まる痛みに構うことなく、光太郎は腕を左右に展開する。

 

(俺の手足を押さえているということはどこかに身を隠していないで、数メートル先にいる…ならば、充分に『射程内』にいるはずだ!!)

 

そして両拳をベルトの上で重ね、キングストーンの力を解放、周囲に眩い光を放っていく。

 

「キングストーンフラッシュッ!!」

 

余りの眩しさに目を抑えるカメレオン怪人達の保護色が完全に剥がれていく。

 

「いまだッ!!」

 

自分の身体を拘束していた舌を振りほどき、それを全て両手で掴むと自分を軸にして全力で振り回し始めた。

 

「ウオォォォォォォォッ!!」

 

『ギシャーーッ!?』

 

悲鳴を上げるカメレオン怪人を先程まで手にしていた機械の上へと叩きつけると、小規模ながら爆発が起きる。爆破によるダメージでふら付くカメレオン怪人達に向けて跳躍した光太郎は落下しながらもキングストーンの力を込めた拳を次々と叩きつける。

 

 

 

「ライダァー、パァンチッ!!」

 

エネルギーを纏った拳に殴り飛ばされた4体のカメレオン怪人は断末魔の叫びを上げ、次々と燃え上がっていく。その様子を構えを解きながら眺めていた光太郎は背後に迫る存在の方へと振り返った。

 

「死ねぇッ!!」

 

ビルセイバーを横薙ぎに振るうビルゲニア。狙いは光太郎の力の源となっているキングストーンを宿すベルトだ。怪人に気を取られ、隙を伺っていたビルゲニアにとっては完璧な奇襲だった。だがそれは、あくまでビルゲニアの存在が意識の外にいた場合だ。

 

「なっ…」

 

ビルゲニアの刃は光太郎の腹部に届くことはなかった。

 

ビルセイバーの刃は光太郎の左肘と左膝に挟まれるという形で受け止められしまった。

 

「…お前の隠そうともしない殺気に、俺が気付けないとでも思ったかッ!!」

 

それにビルゲニアに向けている怒りは収まった訳ではない。カメレオン怪人と戦いながらも、光太郎の意識は常にビルゲニアに向けていたのだ。光太郎は右腕でビルセイバーの刃を掴み、不意打ちを防いだ左腕と足を離すと左手で手刀を作り、赤い刀身を目がけ全力で振り下ろした。

 

手刀が振り下ろされたと同時に床へ高い音を立てて落下するビルセイバーの刀身。ありえるはずのない結果に狼狽えるビルゲニアはだた、愛刀が砕かれたという現実を受け入れられないでいた。

 

「ば、バカな…ビルセイバーが、我が愛刀が…」

 

そしてその好機を逃さない光太郎ではない。

 

両腕を左右に展開し、ベルトの上で重ねた直後、ベルトの中央で赤い閃光が放たれる。

 

右腕を前方へ伸ばし、左腕を腰に添えた構えから両腕を大きく右側へ振るうと左手を水平に、右拳を頬の前へと移動する。さらに右拳を力強く握りしめると地面を強く蹴り、跳躍。

 

 

 

「ライダー―――」

 

 

エネルギーを纏った右足をビルゲニアに向けて落下し、

 

 

「―――キィックッ!!」

 

 

ビルゲニアの胸板へと叩きつけた。

 

 

「ぬぅ…グオォォッ!!」

「何ッ!?」

 

光太郎の必殺技をその身に受けても2、3歩後退するだけで留まり、胸筋を張ることで光太郎を押し返してしまう。

 

押し負けた光太郎は着地しながらも構えと解かず、怒りに震える剣聖を警戒。だが、ビルゲニアは身体を光の球体へと変えると、捨て台詞を残して姿を消すのであった。

 

 

「覚えていろ仮面ライダーBLACKッ!!次こそは貴様の首を取って見せるッ!!!」

 

 

ビルゲニアの気配が完全に消えた事を確認した光太郎は工場を後にしようと一度背後を振り返る。目に入ったのは、今回その猛威を振るうことなく破壊されてしまった自分の変身を封じる機械。あそこまで壊れてしまえば、再び使用されることは無いだろうとその場を後にする。

 

 

 

 

しかし、その残骸がゴルゴム以外の者に回収されてしまうとは、この時の光太郎は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、喧嘩の原因って…」

 

ライダーと共に帰宅した慎二と桜へ、光太郎は今回2人が揉めていた原因を今回は真っ向から聞き出した。2人はもう意地をはらず、観念したようにその理由を説明する。

 

「その…すごく恥ずかしい話なんですけど」

「…光太郎へのプレゼントで揉めてた」

 

 

 

事は光太郎がハサミムシ怪人を撃退して帰宅する1時間程前に遡る。

 

 

 

桜が通販のカタログを持ってリビングでテレビを眺めていた慎二へと尋ねたことから始まった。

 

「慎二兄さん、光太郎兄さんへの誕生日プレゼントなんですけど」

「あ~、そういえばそんな日があったね」

「もう、兄さんったら」

 

苦笑いしながらカタログのページを捲る桜は冬物のジャケットの特集部分で手を止める。

 

「あ、これなんていいんじゃないですか?」

「ふ~ん。悪くないんじゃない?」

 

桜が指差したのはシンプルながらも丈夫を売りにしている一押しの商品であり、慎二と桜の小遣いを足せば何とか届く金額だ。慎二への同意も得られたことだし、後決めなければならないのは、衣服であれば最も大事な点…ジャケットの『色』

様々な色がそろっているが、その中で光太郎に似合うとしたら…

 

「黒だな」

「白ですね」

「はっ?」

「えっ?」

 

 

互いに信じられないという目で向き合い、ここから話がこじれ始めてしまった。

 

 

「…アイツには黒でいいんだよ。普段ちゃらんぽらんなんだから服装くらいダーク系で決めておかないと彼女の1人も出来やしないだろ」

「光太郎兄さんの人として明るいイメージに合わせてると、白になるんです。どうしてわざわざ暗いイメージにしなければならないんですか?」

「何言ってんの?そんな白なんかにしたら絶対あいつ汚して帰って来るぞ?それだったら汚れても目立たない黒でいい」

「光太郎兄さんだってそこまで子供じゃないからしっかり自分で洗濯します。もし慎二兄さんの言う通りだったら光太郎兄さんがだらしのない人と言いたいんですか?」

「そうじゃない。光太郎は普段戦ってばっかなんだから少しでも手間省ける方が良いって言ってんだよ!」

「確かに光太郎兄さんはいつも頑張って戦ってくれてます。でも、だからこそ戦いを普段忘れられる為にも明るい色がいいと思ったんです!」

 

 

2人の主張は段々と熱くなっていき、自分達の意見を曲げないまま目を合わせなくなったと言う…

 

 

 

要は、光太郎を思い合っての喧嘩であった。

 

 

 

「………………なんか、ごめん」

「…なんで謝るんだよ」

「私達こそ、ごめんなさい」

 

 

遠からずとも自分が原因と知った光太郎は謝罪するが、2人の様子を見る限り意見をどちらかに合わせるつもりは未だないらしい。

 

2人の自分を思う気持ちは嬉しいが、これ以上この問題で慎二と桜が争って欲しくないと考える。それにはどうすればいいかと悩む光太郎の背後から今までの会話を聞いていた人物から一言、意見が聞かされた。

 

 

 

 

「ならば、間をとっては如何でしょうか?」

 

 

 

 

声のした方へと3人が振り返ると同時に意見を述べた存在は再度霊体化して、去って行ってしまう。

 

 

「間…か」

「間…ですか」

 

再び服のカタログへと目を向ける慎二と桜。

 

ライダーの言葉は、正に鶴の一声となったのだった。

 

 

 

 

数週間後。

 

 

「慎二君。今日も外を回って来るよ」

「はいはい…噂の通り魔か?」

「うん、『切り裂きジャック』だったかな。やり方からしてゴルゴムの仕業に違いない。じゃ、行ってきます!」

 

そして光太郎は手放した茶色の革ジャンに代わり、愛用となった『グレイ色』のジャケットを羽織ると外で待たせているサーヴァントの元へと向かう。

 

「…来年には、2色準備するかね」

 

と、一度だけ例のカタログへ目を向けると再び魔道書を読み始める慎二であった。

 

 

 

「じゃあ、ライダー。すまないけど頼む」

「マスターの命令とあらば」

「そして、ありがとう」

「なんのことでしょうか?」

「いや、なんでもない。さぁ、行こう!」

 

そしてバイクに搭乗した光太郎は夜の新都へと疾走する。

 

 

 

光太郎がサーヴァントであるライダーと共に迎える『聖杯戦争』が幕を上げるまで、あと数日―――

 

 

 




時系列には1話の前といったところでしょうか。その為ライダー姐さんは全くデレておらず、光太郎にイライラしていた時期です。
戦闘場面が雑だったのが反省点…

お気軽にご感想など書いて頂ければ幸いです!


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番外編②

今回はちょいと混乱してしまうかもしれませんが、説明は後書きにいたします。

では、試験的な番外編2本目をどうぞ。


雷雲轟く空の中を節足を思わせる機関を常に動かしながら移動するクライシス要塞。

 

その一室である指令室では、最高司令官であるジャーク将軍は自ら作戦指揮を執ると主張したゲドリアンへと目を目を向ける。

 

「何?策があるというのかゲドリアンよ」

「ハハッ!」

「…申してみよ」

「まずはこいつをご覧ください!」

 

ジャーク将軍に許しを得て頭を上げた牙隊長ゲドリアンは大げさに手を振るうと指令室の扉を通り、1体の怪人が姿を現した。

 

『シャアァァァァァァッ!!』

 

雄叫びを上げて登場した怪人は額から触覚を生やし、昆虫のような強靭な顎をガシャガシャと震わせている。腕は節足のように長く丸太のような太さと筋力を持ち、如何にも怪力の持ち主であると伺える。

 

しかし、怪魔界では見たことも無い生物である事を疑問に思うジャーク将軍へゲドリアンは怪人の紹介を始める。

 

 

「こいつの名前はジムカデムカ…地球に生息するムカデという生物の細胞を怪魔界の生物に取り込んで作り上げた怪魔異生獣でございます」

「ほう…」

 

ゲドリアンの解説と共にモニターへ映し出されるデータを眺めるジャーク将軍は興味深く眺めているが、同じくデータを目にした他の隊長から苦言が飛び交う。

 

「オイオイ。そのデータを見る限り『ムカデ』っていう虫けらには幾つもの手を持っているんだろう?こいつの場合は2つしか持っていないぜ」

「フン。大方製造の段階でしくじったのであろう」

 

機甲隊長ガテゾーンと海兵隊長ボスガンの発言を主人と自分への侮蔑を汲んだのか、ジムカデムカはその腕を2人に向けたと直後、手首の形状を変え、鋭い刃へと姿を変えると腕を鞭のように伸ばすとガテゾーンとボスガンの首目がけて振り下ろす。

 

『ッ!?』

 

突然の攻撃に目を見張る2人の隊長であったがガテゾーンは頭部を胴体から分離させ回避し、ボスガンは腰から剣を引き抜くと同時に首へと迫った凶刃を凌ぎ切り、耐えることに成功する。

 

「こいつは驚いた…随分器用な事ができるじゃないか」

「そんな事より、躾がなっていないぞゲドリアン!早く腕を下ろさせろ!!」

「ケケケ…こいつは他の奴らよりちょいと血の気が多いのが欠点だから気を付けろよ…」

 

感心するガデゾーンは頭部を浮遊させながら息を荒立てているジムカデムカを眺め、未だ怪人の刃に押され続けているボスガンは生みの親であるゲドリアンへ怒声を浴びせる。ボスガンの姿をニヤニヤと笑うゲドリアンが手を上げると同時にジムカデムカは大人しく引き下がり、主人の背後へと移動した。

 

「それとさっきガテゾーンが言った通りにジムカデムカはムカデが基になっているにも関わらず手は2本しかない。そこで、こいつの出番だ」

 

ゲドリアンの言葉に続くように現れたクライシス帝国の雑兵チャップは大皿を運び始める。その中央に積まれているのは、地球では良く見られる野菜…トマトであった。

 

そのトマトが目の前に置かれた途端にジムカデムカは手に取るとむしゃぶりつき、口から果汁をまき散らしながらも次々と頬張っていく。その汚らしく食す姿を正視できない諜報参謀マリバロンは思わずゲドリアンへと尋ねる。

 

「…こんなことをさせて何の意味があるというの?」

「ヒェヘヘヘ…まぁ見てな。そろそろ始まるぜ…」

 

トマトを平らげ、手の平に残る果汁を舌で舐め繕うジムカデムカに異変が起こる。

 

喉を唸らせるジムカデムカの脇と肩が突然と盛り上がり、ミチミチと音を立てて皮膚に亀裂が走っていく。そして皮膚を突き破って現れたのは新たなの4本の腕。計6本の腕となり、それぞれの拳をワキワキと動かすジムカデムカの姿に驚く幹部達へゲドリアンは空となった皿に飛び散っているトマトの残骸を指でなぞりながらジムカデムカの身に起きた現象を語り始める。

 

「このジムカデムカは地球の食い物である『トマト』ってのを取り込むことで異常な程の細胞分裂を始める。こいつがさっき以上のトマトを食い続ければ、唯でさえ強力な武器である腕がガデゾーンの言った通りに100本以上になるって寸法よ!」

 

不意打ちとはいえ、クライシスの隊長を務める2人を唸らせる武器と俊敏性を持つ腕がさらに増え、強力な怪人へと進化する。あの攻撃を100以上の手によって繰り出されれば、あの『倒すべき敵』に攻撃を与える暇もなく滅する可能性は十分にある。

 

「よかろう。ゲドリアンよ、今回の作戦は貴様に一任する。見事我らの憎き敵を打倒してみせよ!」

「ハハァッ!!」

 

指令を下したジャーク将軍に跪くゲドリアンの口元がニヤリと笑う。今回の作戦指揮を任せられたゲドリアンの得意になっているだろうと考えるボスガンは気に入らない様子であったが、あれ程の力を持った怪人を用意されてしまったのならば口出しは出来きずに拳を強く握るしか出来なかった。

 

「ま、今回は高見の見物とさせてもらうぜ。ところでさっきの赤い実…トマトだったか。あんなもんチャップ共に命令して世界中からかき集めれば話が早いんじゃないか?」

 

頭部を再び身体へ接続したガテゾーンの最もな意見にゲドリアンは立ち上がりながら答えた。

 

「まぁその通りだがな。ジムカデムカをパワーアップさせるにはそこらにあるトマトじゃぁ1000個あったって腕の一本も生えやしねぇ」

 

だがなと言葉を区切ったゲドリアンはモニターに映し出されている青い惑星…地球のある部分を禍々しい指を向ける。

 

 

「地球の日本…しかも限定された場所の土と人間に作られたトマトが必要だ。今回ジムカデムカに食わせた最高に相性のあうトマトもそこで栽培されたものよ」

 

 

 

 

 

 

「その土地を襲い、大量にトマトが手に入れば…腕が千本に増える可能性だってあるぜぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

クライシス帝国が新たな侵略を策謀する一方、間桐光太郎達は…

 

 

 

 

 

 

 

 

「眩い日光の下で労働に励む…それはとてもつもなく辛いことかも知れないけれど、いつかは何事にも代えがたいひと時となる。そう思わないか慎二く―――」

「くたばれこの野郎」

 

腹が立つ程にハツラツとした笑顔の間桐光太郎に対し、無表情で義兄の顔目がけ泥だらけの軍手を放り投げる間桐慎二。泥や水によって湿った状態に加え、軍手の中に少量の泥を仕込むという荒業を光太郎はすんなりと受け止め、中の泥を落としながらポケットに常備していた新品の軍手を慎二へと投げ渡すのであった。

 

「駄目だよ慎二君、道具を粗末に扱っちゃ!」

「あのなぁ…」

 

目元をひくひくと動かす慎二は現在自分が置かれている状況に我慢できず、広大な田畑に大声を木霊させた。

 

「なんでッ!!せっかくの夏休みにッ!!!こんなところでタダ働きしなくちゃ行けないのかってことだよおおぉぉぉぉぉッ!!!!」

「タダじゃないよ。収穫した野菜を一部貰えるって約束だよ」

 

魂の叫びを爆発させた慎二へ光太郎はあっけらかんと労働による報酬を口にするが、慎二にとっては自分がこの場所で労働すること自体が気に食わない様子だ。

 

 

 

事の発端は数日前。

 

夏休みを迎え、翌年に迫った受験に向けて勉強の計画を立てながら高校最後の夏をいかに楽しもうかと考えていた矢先、慎二を含め間桐家の長男たる光太郎は

 

「田舎で野菜を取ろう!」

 

と突拍子のない発言をし、慎二の意思などお構いなく準備を進めてしまう。

自分以外の反対意見を期待した慎二だったが、桜とライダーは対価である野菜が手に入ることで納得してしまい、3対1の多数決によって反対派の慎二は強引に間桐家夏野菜ツアーに連行される結果となったのである。

 

そして現在、光太郎と同じく作業着であるつなぎを着こみ、トウモロコシ畑の収穫と雑草抜きと言う中々ハードな役割へ当てられたのだった。

 

「ほらほら、あと少しで休憩なんだから頑張ろう!!」

「…チッ!!」

 

ワザとらしく舌打ちした慎二は鍔つきの帽子を被り直し、しゃがみ込んで雑草抜きを再開する。文句を言いつつも手を抜かずに作業をするあたり、実は楽しんでいるのではないだろうかと推察する光太郎の背後から今回の依頼主である人物の声が響いた。

 

「そろそろ昼餉だ。中断するがいい」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

光太郎達と同じつなぎであるが新品である2人と比べて使い込まれ、一部伸びきってしまっている箇所を見ればどれだけ農作業へと従事ていたか一目瞭然とわかってしまう。

そのような姿であっても美丈夫であることに変わりのないかつてアサシンのサーヴァントであった佐々木小次郎は帽子をかぶり直すと、早くしろよと言い残し、その場を後にする。

 

「や~、カッコいい人はどんな服でも着こなしてしまうもんなんだね」

「そう言う光太郎は本当の意味で似合ってるよ。泥だらけの格好は」

 

通じない皮肉を述べた慎二は首にかけたタオルで汗を拭いながら佐々木の後ろ姿を眺めている義兄を置いて、休憩場所へと向かっていく。

 

 

 

 

「あ、兄さん達!お疲れ様です!」

 

肌を日光で焼かないようにとの周りからの配慮で長袖のブラウスにもんぺ、そして割烹着を着込んでいる桜は麦わら帽子の片手で押さえながら自分達のいる場所へと歩いてくる光太郎と慎二へと笑顔で手を振っている。

 

 

ライダーも桜と同じ姿であり、その長く艶やか髪を頭頂部で結んでポニーテールとなっている。当初は光太郎達と同じ格好で力仕事を希望していたがお局達の『あんたみたいなめんこい女子はそんなことしたらいかん!」と押されてしまい、結局は桜と同じくきゅうりやトマト等の収穫を手伝いへと繰り出されてたのである。

 

「はぁ…」

「メデューサ姉さん、一緒に作業が出来なくて残念でしたね」

「わ、私はここまで来て光太郎と…」

「あれ?私、光太郎兄さんなんて一言も言っていませんよ?」

「…………………」

 

この少女にはどんどん言い負かされている。というか遊ばれているのではないだろうかと悪寒を感じるライダー達の元へ光太郎と慎二が到着。光太郎は違う作業となっていた為、自分達と分かれたライダー達の作業着姿を知らずにいた。そして開口一番、こんな感想を告げる。

 

 

「へぇ、その恰好の姿も新鮮だな。髪型も似合ってるね!」

「そ、そう言う光太郎も普段と違って…その…逞しく見え、ます…」

「…あ、ありがとう。慎二君にも褒められたけど、メデューサにも言われたら…なんだか、もっと嬉しいや」

 

頬を朱色にしたライダーの口から感想を返された光太郎は照れながら横目を向ける姿を目にし、やけに動悸が激しくなっているなと思いながら視線を落とす。

 

 

なぜか光太郎とライダーの近くにいると体感温度が5℃程上昇したような感覚を味わったと義弟と義妹は後に述べている。

 

 

 

バカップル(慎二談)が通常へと戻った頃にようやく昼食へとありつける一同はブルーシートの上に広げられた弁当である大量のおにぎりや惣采、取れ立ての野菜が用意されていた。

 

「さぁ、たっぷりと召し上がっとくれ!」

 

笑顔で勧める老人の言葉に遠慮することなく、光太郎達は頂ますと手を合わせて食事を開始する。その味は打ち所のない、素晴らしいものだった。桜は隣に座る女性へレシピを聞きだし、懸命にメモまで取っている程だ。これで料理の師にまた一歩と近づけるかなと微笑んでいる光太郎は手にした紙コップへ冷えた麦茶が注がれていることに気付く。

 

「あ、すみません。そろそろなくなりそうだったので」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「あの、伺いたいことが…」

 

光太郎へとお茶を提供してくれた女性は光太郎の隣に膝を下ろすと、視線を別方向に向けながらも小声で尋ねて来た。

 

「あの…みなさんって佐々木さんとお友達…なんですよね」

「ええ。冬木って街に彼がいた時に」

「それで…その…今日いらした女性が2人いるんですけど…佐々木さんとふ、深い仲だったり…」

「え~っと…」

 

なんとなく女性の意図が見えた光太郎は箸で摘まんだキンピラゴボウを眺めながらフムフムと頷く桜とおにぎりで梅干しを引き当ててしまった涙目のライダーを見る。女性の言う佐々木…アサシンはほぼ柳洞寺と間桐家の門番として冬木にいたため女性関係で浮いた話など聞いたことはない。ましてや直接対決は無かったがライダーとは当初殺し合う関係にあったなど言えるはずもなく、適当にごまかす他ないと判断する。

 

「いや、それはありませんね。というか聞いたことないですねハイ」

「で…ですよねですよね…!ヨシッ!!」

 

光太郎の回答に何度も頷いた女性は振り返ると小さくガッツポーズを決める。どうやら、余程あの侍へご執心らしいと推測する光太郎はふと野菜へ全く手をつけていない義弟へ注意をする。

 

「慎二君、せっかくの取れ立てなんだから食べなきゃダメだよ」

「ほっとけ。僕はドレッシングのかかったサラダしか食べる気はしないね」

 

溜息をついてもう一押しするかと口を開けようとした光太郎よりも早く動いた人物がいた。慎二の隣に座っていたアサシンは無言で収穫されたトマトをまるごと一つ、好き嫌いする少年の前へと差し出す。

 

「………………」

「…わかったよ、食えばいいんだろ食えば!」

 

アサシンが手にしていたトマトをむんずと掴み、大きく口を開いてかぶりつく慎二。その味は市販のトマトはさほど変わりはない。変わらないはずなのに、どうしてここまで静かな気持ちとなってしまうのだろう。こんな所に来てしまい、農作業を手伝う羽目になったというイラつきも収まり、心を落ち着かせてくれたトマトを一口、また一口とかじる内に、トマトは慎二の手から消えていた。

 

「…うまかった」

「小僧の口からそのような言葉が出るとはまさに僥倖。食された野菜も喜ぶことであろう」

「…ずいぶんとファンシーな事言うようになったな。野菜と会話でもしてんの?」

 

トマトを食べさせたお返しにからかい半分で尋ねてみた慎二へアサシンは相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、流暢に答えた。

 

 

「無論、こちらに対して声で返すことなどできまい。だが、私達が思いを込めて育てれば、野菜は『食した時』応えてくれる。小僧が味わった、まさにそれでな」

 

 

アサシンの主張に慎二だけでなく光太郎達も唖然とする。まさかここまで野菜栽培に対して深い考えがあるとは…同席している老人達もウンウンと同意を示している。

 

「まぁ、受け売りだがな」

 

そう締めるアサシンはお茶を啜ると食事を再開した。アサシンの…いや、アサシンへ教えた人物の言葉に感服した桜は手を合わせると隣でどれが梅干し入りでないかとおにぎりの列を睨むライダーへ声をかける。

 

「素敵な言葉でしたね!」

「ええ…彼に対してそこまで影響を与えるとは、余程の人物のようです…」

 

確かになとライダーの意見に頷く光太郎の横にいた女性…宮本むさしはお茶の入った薬缶を手に持ったまま俯いてしまっている。良く見れば、彼女の耳が強い日差しとは関係なしに赤く染まっているように見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

その日の収穫が終わり、日が完全に沈んだ夜。光太郎達がお世話になる家の1階では歓迎会と称する酒盛りが行われていた。この村では何かと理由を付けてどんちゃん騒ぎをするのが日常茶飯事のようであり、アサシンも物静かな雰囲気を壊さぬまま、酒を煽っているらしい。

間桐家は収穫の疲れもあって慎二と桜は床に就いており、2人の分も盛り上げるということでライダーが村きっての酒豪達と飲み比べをしている最中だ。結果は…後ほどわかるだろう。

 

騒がしくも楽しい宴会とは余所に、光太郎とアサシンは2階の空室へと移動していた。

 

その部屋はこちらにいる間に慎二の勉強が捗るようにと用意された部屋であり、風通りが良いので日中でも涼しく勉強には最適な場所と言えるだろう。

光太郎はアサシンと向かい合い、彼の用意した地酒を飲み交わしながら、本来の目的を告げる。

 

「すごいな。思った以上に馴染んでいて驚いたよ。これだと…」

「『様子を見るまでもなかった』…か?」

 

口に運んでいた杯をピタリと止める。光太郎の反応を見て口元を歪めるアサシンの顔を見て、参ったと言わんばかりに一度深く息を吐いた。

 

「お見通し…か」

「物好きな事だ。それぞれの道を行くサーヴァント達を気に掛けるなど。下にいる者が妬いてしまうぞ?」

 

誰を指しているかは置いておき、光太郎はアサシンの指摘には反論せず手にした杯を口に運ぶ。

 

アサシンの言う通り、光太郎はかつてサーヴァントであった者達と定期的に連絡を取り合っていた。組織に属するランサーや近所に住むキャスターとは普段から連絡を取り合えるが世界中を旅しているイリヤへ着いて行ったセイバーやバーサーカー、ギルガメッシュとは

あちらからコンタクトしてくれない限り話すことも難しい。

今回、行く先も告げず旅立ったアサシンとこうして会えたのも、キャスターへ必死に頼み込んで遠視魔術をした結果であった。

かつての戦友の安否はもちろんだが、クライシス帝国という新たな悪と戦い続けている光太郎にとって、無事に自分の人生を歩んでいてくれるという結果だけでも知り得たかったのだ。

 

「…お主から見て、この村はどうだ?」

 

窓から見える月明かりを眺めるアサシンは光太郎の顔を見ることなく尋ねている。そんなことは聞かれるまでもない。アサシンの知人であるというだけで自分達という部外者を暖かく迎え入れてくれる優しい人々が住む村だ。

何よりもアサシンが充実した毎日を送っているのだから、光太郎は自身を持って答えることができる。

 

「いいところだよ。笑顔ばかりで、暖かい場所だ」

「左様。ここならば、命を賭して守るに値する」

「…………………」

「いくら田舎と言えど世界で起きている情報くらいなら周知できる。光太郎の戦いもな」

「もし、ここで奴らが現れたら、戦うのか…?」

 

もう、かつての力を持っていなくても。

 

だが、それこそわかりきっている答えだ。

 

アサシンは、佐々木小次郎はこの村の人々の為に戦える。ここに住まう人々とこれからも笑い合う為に。サーヴァントとしての力を半分も発揮できなくても、彼は戦うのであろう。

 

「…いや、余計な質問だったね」

「ふむ、口説く手間が省けたというものだ」

 

だがなとアサシンは言葉を区切ると、闘う覚悟とはまた違う気持ちを吐露する。

 

「戦いの中で散ることへの恐怖はない。しかし、ふと考えたことがある。万が一に戦いのない日々を送る事ができた時…」

 

 

 

 

 

 

「私達は、人としての生涯を終えることができるのか…」

 

 

 

 

 

 

その問いに光太郎が答えを出すのを待たず、アサシンは夜風に当たると言って部屋を後にした。

 

「お主に問うべきことではなかったな。すまぬ」

 

と光太郎に謝罪をして。

 

 

 

光太郎は窓から見える月を眺めながらアサシンの言葉を自身へと向けている。

 

聖杯の魔力と光太郎の願いによって人としての命を得たサーヴァント達だが、人としての寿命を迎えることが出来るとまでは分からない。アサシンは多くの人々と触れ合う内にそのような不安を抱いたのかもしれない。

 

村の人々の為に戦う決意は確かにあるが、同時に『人間』として共に生き、死ねるのかという疑問。

 

幼い頃に改造人間にされた光太郎は現在まで他と人間と同じように成長を遂げているが、寿命まで同じとは限らない。

 

周りが人としての命を全うする中、自分だけが取り残されていく。

 

光太郎は今までに大切な者を失ってきたが、1人では無かった。慎二と桜と出会い、ライダーという掛け替えのない存在と多くの仲間にめぐり会えた。

 

だがこの先自分だけが死ぬことなく、未来永劫生きていくのだとしたら…

 

 

孤独でいることに、耐えられるのであろうか。

 

 

 

「光太郎…?」

「メデューサ…歓迎会は、どうしたの?」

「もうとっくにお開きです。他の皆様も明日は早いからと帰っていきましたよ」

「そっか…」

「ここが例の部屋ですか…確かに、風が心地よいですね」

 

部屋に入ってきたライダーからは酒の香りはするものの酔っている様子はない。飲み比べは彼女の圧勝で終わったのであろう。窓際から月を見上げる彼女の姿を見て、アサシンの言葉がより強く心へと伸し掛かった光太郎は…

 

「こ、光太郎ッ!?」

「…ごめん。ちょっとだけ、このまま…」

「………………」

 

背後から、ライダーを抱きしめていた。

 

突然の行動に驚くライダーだったが、次第に落ち着き自分の肩に回している光太郎の手に、自分の手を重ねた。

 

「少し、だけでですよ?」

「ん…」

 

消え入るように短く答えた光太郎はライダーが苦しまないように、抱きしめる力を強める。

 

(先の事は、分からない。けど、メデューサと一緒にいる今は、確かにあるんだ)

 

自分の手の中にいるという確かな現実と彼女の暖かさが、光太郎の中にある不安を和らげていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、まだ日が昇り切っていない時間帯に宮本むさしは記録用紙を持って畑を回っていた。

 

(もう、佐々木さんったら…)

 

むさしは昨日、客人達がいる前でかつて『自分の教えたこと』を堂々と発言し、した件について問い詰めたがのらりくらりと躱されてしまっていた。しかしその反面、自分が教えた事をしっかりと覚えていてくれているという事に破顔してしまうが、ハッと我に返って首を左右に振る。

 

(いやいや、だめよむさし!ここはしっかりと文句言わないと…あれ?)

 

決意を固めるむさしはトマトの栽培場でコソコソと動いている集団を見かける。遠目で分かりずらいが、今の時間帯に収穫する予定はない。だとすれば…

 

「こらぁ――ッ!!野菜ドロボーッ!!!」

 

 

夜中ではなく、まさか朝方からそんな輩が出没するとは思いもしなかったむさしは近所にも住まう人々にも聞こえるように大声で駆け寄っていく。これだけ騒げば曲者たちも逃げ帰ると踏んでいたが、視界に捉えたその曲者共は自分の常識の範疇を超えた存在と知ることとなった。

 

「え…………?」

 

自分と『彼』が育てたトマトを次々と手にしていく連中は妙なマスクとプロテクターを纏い、意味不明な言葉を口にしている。だが、むさしはそれよりも奥でゆっくりと身体

をこちらへと向ける異形の姿を見て、喉が裂ける程の悲鳴を上げた。

 

 

『イヤアァァァァァァァァァッ!!!!』

 

 

「ッ!?」

 

日課として早朝トレーニングを実施していえた光太郎とライダーは悲鳴の上がった方へと一斉に振り向いた。そして自らトレーニング参加を志願したアサシンは聞き覚えのある声に嫌な予感を膨らませ、木刀を捨てて声が聞こえた方角へと駆けていく。

 

 

 

「へへへへ…こいつはちょうどいい。トマトを栽培した本人に作り方を聞き出しておこうじゃぁねぇか。どうやってあのトマトを作るのか・・・」

「何するのッ!?離してッ!!」

 

背後にジムカデムカを引き連れたゲドリアンは目的のトマトを手に入れただけでなく、その作り手であろう女性を捕まえたことに高揚して飛び跳ね続けていると、このタイミングでもっとも出会いたくない相手の叫びに思わず背筋が震えてしまった。

 

 

 

「そこまでだクライシスッ!!」

「げぇッ!?なぜお前がここにッ!?」

「それはこちらの台詞だッ!!むさしさんを離せッ!!」

「ケヘヘヘ…そうはいかねぇ。こいつには俺の怪魔異生獣ジムカデムカを強化する為に利用させてもらうんだからなッ!!」

「何ッ!?」

 

ゲドリアンは目の前に現れた宿敵達の前で一度は慌てるが、最初の目的を既に達成したことで舞い上がり、むさしを拘束した理由まで語りだしてしまう。

 

「こいつの育てたトマトはジムカデムカの腕をさらに増やす作用を持っている。そのトマトはここの土と作り手の相性によって生まれたはずだ…だからこの女と土を要塞に持ち帰り、ジムカデムカを最強の怪魔異生獣に育てるまで利用するって寸法よッ!!」

「…………………」

 

ゲドリアンの言う事に今一ピンとこない光太郎達だったが、むさしを連れ去ろうとするなば黙っていられない。

 

「…お前達の好きにはさせない!」

「うるさい!やれジムカデムカッ!!」

『シャアァァァァッ!!』

 

ゲドリアンの命令を受けてジムカデムカは口から怪光線を駆け寄ろうとする光太郎達の足元に着弾させる。思わず後退してしまった光太郎達が再び前を向いた時には、ゲドリアン達は勿論、むさしも姿を消していた。

 

「どうしますか、光太郎…」

「…むさしさんを連れていくということなら、転送装置を使うはず。この近くにまだいるはずだ」

「わかりました。シンジ達へ連絡します」

「頼む」

 

ライダーへ指示を送った光太郎は先ほどから一言も口を開かず、むさし達が立っていた場所の奥…取りこぼされ、無残に踏みつぶされたトマトや他の野菜を見つめている。光太郎はゲドリアンの言っていた通りにクライシス要塞に連れて行かれる前に彼女の救出を優先的に考え、アサシンに協力を仰ごうとするが…

 

「…昨日、私がお主の弟に話したことを覚えているか?」

「…作り手の思いに、野菜が応えてくれる…だったか」

 

光太郎の回答に無言で頷くアサシンは、やはりこちらへ顔を向けずに話し続けた。

 

「あのトマトは…私と彼女が協力して育てたものだ」

「そう、だったのか」

「あの物の怪が推測した事…あれはトマトに私から無意識のうちに流した魔力が影響しているかもしれん」

「そんな…」

 

馬鹿なとは言い切れない。魔術に関しては未だ慎二に教えられている身としては、このままアサシンの立てた仮説を聞くことしかできない。

 

「この時代で『作る』ことを何一つ知らない私に彼女は嫌な顔一つせず、懇切丁寧に教えてくれた。その中でも、思いを込めて作る、という言葉は強く私に残った。ただ相手を切る事だけしか考えることが出来なかった私にな」

 

サーヴァントとしての力をほぼ失ったとしても、彼等の体内に宿る魔力は並みの魔術師を遥かに凌駕するほど持ち合わせている。何かを念じるという行為だけで魔力がその手から流れたとしても、不思議ではない。

 

「そして私から流れた魔力を汲んだ野菜によって怪人が強化されてしまう。なんとまぁ、皮肉なものだ。私自らこの村へ脅威を呼び寄せてしまうとは…」

「……………………」

 

昨夜、アサシンはこの村の平穏を脅かす相手には命を懸けて戦うという誓いを話してくれた。しかし、その相手を自分の手で生み出してしまった事実が、彼の抱いている不安をさらに大きくしてしまう。これからも、人よりも長く生きるかも知れない自分が原因でこの先も村にクライシスのような敵を呼び出してしまうのだとしたら…

光太郎は自分の手の平を見つめ、あの夜アサシンの話を聞いた後にライダーを…愛する女性を抱きしめた事を思い出す。確かに自分が生き続けることで先に何があるのかと恐怖を抱くことはある。だが、それはあくまで可能性の話だ。そして、今すべきことは未来に怯える事ではないと決意した光太郎は手を握りしめ、立ち尽くしているアサシンの肩を叩く。

 

「行こう、アサシン」

「光太郎…しかし、私は」

「先のことなんて誰にも分からない…けど、今貴方に出来ることはここで思いふけることじゃない」

「………………」

「行こう。貴方に大切な「今」を教えてくれた人を、助けるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

畑から離れた雑木林の中。チャップ達が予め用意されたドラム缶の中に次々と奪われたトマトが投げ込まれていく様子を見て、ジムカデムカは涎をダラダラと流している。その不気味な姿に怯えるが、それ以上にむさしは自分とアサシンで育てた野菜があのような化け物に食べられしまうのが我慢できなかった。

 

「やめてッ!!それは…佐々木さんが私達の村に来て、初めて育ったトマトなのッ!!なんで、あんた達みたいな人に食べられなきゃならないのよッ!!」

「うるさいッ!お前にはジムカデムカをさらに強くする為にこき使ってやるのだからありがたく思え!!」

「お断りよ!あんた達の為に野菜作りなんて、死んでもごめんだわ!!」

「生意気なぁ…!」

 

むさしの抵抗に苛立ちを隠せないゲドリアンはクライシス帝国への転送準備を進めているチャップに指令をだし、ロープに縛られ自由に動けないむさしを乱暴に掴み上げると、地面へと投げ捨てる。

 

「痛ッ!!」

 

倒れたむさしへ棍棒を持ったチャップ達がジリジリと迫っていく。自分へこれから起こるであろう暴力に対し、身を捩って立ち上がろうとするむさしだったが、力が入らず立ち上がる事すらできない。

 

「少し痛い目に合わせてやる…やれ!チャップども!!」

 

ゲドリアンの号令を受け、武器を振り上げるチャップを見て、むさしは思わず目をつぶる。心の中で、慕っている人の名を叫んで。

 

 

(佐々木さん…!)

 

しかし、いつまでたってもむさしに武器が振り下ろされることは無かった。

 

(え…?)

 

ゆっくりと目を開けたむさしは、これは夢ではないかと錯覚する。自分へと迫った脅威を長刀で薙ぎ払う陣羽織を纏った人物は、見間違うことなく、心で叫んだ人なのだから。

 

「無事のようだな。むさし」

「さ、佐々木…さん?その、恰好は?」

「説明は後ほど。今縄を切る」

 

言うと同時に刀を一閃させると同時に彼女の動きを封じていた縄がハラリと落下し、むさしを自由の身とする。それを確認すると、聖杯戦争時の戦装束となったアサシンはむさしを庇うように刀を構える。

 

「ケっ!!でやがったな元サーヴァント!!」

「遅くなってしまったな。許せ」

「誰も待っちゃいねぇ!!ジムカデムカ、さっさと食らいつくしてしまえぃ!!」

 

待っていましたと言わんばかりにトマトの入ったドラム缶へと手を伸ばすジムカデムカであったが、ドラム缶に触れる寸前に足元がグラつくと当たりを見回すと、急に揺れが強くなり自分だけでなく周りのチャップ達までもが振動に立っていられず次々と転倒していく。

 

「な、なんだぁッ!?」

 

ゲドリアンの叫びへと答えるように、地面を揺らしていた存在は、地表を突き破りその姿を露わにする。

 

赤い重装騎マシン『ライドロン』はチャップ達を跳ね飛ばし、車体前部で展開した顎『グランチャー』でドラム缶を掴むと急後退。アサシンとむさしの元へと移動した。

 

「こ、これって」

「安心するがいい。味方だ」

 

常識を逸脱した車を目にして茫然とするむさしへアサシンがフォローすると同時にライドロンの扉が開かれ、運転席から慎二と桜が姿を現す。

 

「間に合いましたね!」

「ったく、今日は一日勉強のつもりだったのに…」

 

続いて現れた別々の反応を示す2人の客人に、今度こそむさしの思考は追いつけず、もはや夢なら覚めて欲しいという状態だ。

 

「お、お前達どうしてここにッ!!」

「…今朝、光太郎に電話で叩き起こされたんだよ。悲鳴の聞こえた場所を見に行くから、もしもの時の為にコイツに乗り込んでろってな」

「はい、おかげで直ぐにこっちへ来れました」

 

気だるそうにライドロンの車体上部を拳で軽く叩く慎二に笑顔で同意する桜。この場に協力者が集っている…嫌な予感を抱くゲドリアンはさらにこちらへと接近するエンジン音が響く方へと顔を向ける。その先には…

 

「き、来やがったぁッ!!」

 

青いバイク…光機動生命体 アクロバッターを駆って現れた光太郎と後部に同乗しているライダー。急ブレーキをかけ、降りると同時にヘルメットを外した光太郎はゲドリアンを睨む。

その感情は…紛れもなく、怒り。

 

「もう逃がさないぞ、ゲドリアンッ!!」

 

 

 

光太郎は右手を前方に突出し、左手を腰へ添えた構えから両拳を交差させるような動きで空を切ると右拳を脇に置き、左肩から左肘を水平にして左拳を上へ向けた構えをとる。

 

「変ッ身ッ!!」

 

 

叫びと共に左手を腹部へ移動させると同時に右手を天高く輝く太陽を掴むように掲げた。

 

 

右手首の角度を変え、ゆっくりと正面に下ろすと素早く左肩の前まで移動させ、勢いをつけ右側へと振り払うと再び拳を握って脇へと移動させ、左腕を大きく回して拳を立てた構えとなる。

 

 

光太郎の瞳の奥で、光が爆せる。

 

 

体内に宿るキングストーンと太陽の光によって生まれた『ハイブリットエネルギー』が全身を包み、2つの力によって生まれたベルト『サンライザー』が出現。

 

 

サンライザーから放たれる2つの輝きにより、光太郎は光の戦士へと姿を変える。

 

 

「トァッ!!」

 

変身を遂げた光太郎はムジカデムカを飛び越え、着地したと同時に背後に立つ敵へと振り返り。左手をサンライザーに添え、右手を天へと掲げる。

 

そして光太郎の額のランプと胴体のサンバスクから放たれた眩い光にゲドリアンやジムカデムカ、チャップ達も目を手で覆い隠してしまう。

 

輝きが失せたと同時に、光太郎は変身した姿の名を高らかに名乗り上げた。

 

 

 

 

「俺は太陽の子ッ!!」

 

 

「仮面ライダーBLACKッ!!R、Xッ!!!」 

 

 

 

 

強く拳を握りしめた光太郎は視界が回復しても同様が続く敵に向かいを指差す。

 

「クライシスッ!!人々が思いを込めて育てた野菜を奪い、怪人の力に変えようとするなど俺は絶対に許さんッ!!」

「しゃ、しゃらくせぇ!やれ、ジムカデムカッ!!」

 

トマトを奪われた怒りに燃えるジムカデムカはゲドリアンの命令を待つまでもなく光太郎へと掛けていく。自分に向ってくる敵を討つべく光太郎は高く跳躍するが、その姿にゲドリアンはニヤリと笑った。

 

『シャァァァぁァァッ!!」

「何ッ!?」

 

高くジャンプしている光太郎の背中に痛みが走る。ジムカデムカは無防備である光太郎の背後まで腕を伸ばし、手の形状を刃に変えて不意打ちを成功させたのだ。

 

「ぐッ…なんなんだあの腕は…?」

「光太郎ッ!後ろです」

「なッ!?」

 

奇襲により落下してしまった光太郎の姿をみて、アサシンと同じく戦闘装束へと姿を変えたライダーはチャップ達を蹴散らしながら光太郎へさらに凶刃が迫っていることを伝えるが既に遅く、6つの刃が次々と光太郎へと叩きつけられた。

 

「いいぞ、いいぞジムカデムカッ!!そのままRXの手足を潰してしまえッ!!」

 

主の言葉を聞いて伸ばした腕の先端を刃から針状へと変え、防御に徹している光太郎はなんとか回避しようとするが残る2つの刃に翻弄されてしまい、両手両足を貫かれてしまった。

 

「グアァァァァッ!!」

 

「光太郎ッ!!」

「兄さんッ!?」

 

義兄の悲鳴を聞いた慎二と桜だったが、チャップ達の相手にしているため駆けつけることができない。見れば光太郎は両手両足を貫かれただけでなく、まるで凧上げをされているようにジムカデムカによって持ち上げられている。その姿を見て歓喜に溢れるゲドリアンは両手で激しく打ち鳴らしながらジムカデムカの隣まで移動して苦しむ敵の姿を見上げている。

 

「よぉし止めだッ!!首を跳ね飛ばしてしまえッ!!」

 

残る2つの手を刃から鎌のような形状へと変え、光太郎の首を切断するために腕を伸ばしたその時だった。

 

『ッ!?』

 

光太郎の手足を貫いていた感覚がまるでなくなったとジムカデムカが考えた直後、光太郎の身体が液体化し、伸びた腕を伝って急速に接近。液体の体当たりを受け、ジムカデムカの身体が揺らいでしまったその一瞬、再び人の姿となったと同時に両手で握った剣を振り下ろし、怪人の腕を一本切り落とすことに成功する。

 

「し、しまったぁッ!!」

 

RXの厄介で、警戒しなければならない形態。

 

青いボディとなった光太郎は手にした剣を逆手に持ち、両手を広げて現在の姿の名を名乗った。

 

 

 

「俺は怒りの王子ッ!RXッ!!バイオッ、ライダーッ!!!」

 

 

 

自身の肉体を液状化、ゲル化する能力を持つバイオライダーとなった光太郎はジムカデムカの拘束を抜け、大ダメージを与える事に成功するが、ジムカデムカの姿を見て目を見張る。

 

「腕が…再生している!?」

「ケヘヘヘッ!!その通りだッ!!いつもの怪魔異生獣とは大違いなのだッ!!」

 

少しずつではあるが、切り落とした腕から再生を始めている。再び腕が6本となっては不利になると考えた光太郎はバイオブレードを構え、ジムカデムカへと迫るが再度刃へと変わった残る5本の腕による四方から繰り出される変幻自在の攻撃に遮られてしまう。

 

「くっ…!」

「よし、再生が終わったッ!!ジムカデムカッ!!いくら液体になろうが攻撃できなきゃ意味がねぇ。止めずに攻撃を続けるんだ!!」

 

再び完全に6本の手となった嵐のような斬撃に物理ダメージはないものの、これでは反撃すら難しい。そう考える光太郎だったが、先ほどの攻撃と、腕を一本失った時での攻撃が明らかに力の差が出ている気付いた。

 

(もしかして、再生にパワーを回している間は攻撃も弱まってしまうのか?なら…)

 

敵への攻略が思いついた光太郎は再度身体を液状化し、ジムカデムカと間合いを取る。その隣は、ちょうどチャップ達を切り伏せてこちらに合流したアサシンが同じく腕を6本持つ怪人を眺めている。

 

「どうやら苦戦しているようだな」

「ああ。けど、対処する方法は浮かんだ」

「ほう。なら、試すとしよう」

「アサシン…」

「出来るのだろう?私と、光太郎ならば…」

 

光太郎は自分の意図を理解した上で合流したアサシンを見る。彼が浮かべる不敵な笑いには、戦いに赴くまでの迷いは一切感じられない。聖杯戦争の、否、あの時以上に闘志を燃やしている。彼とならば、可能だと確信した光太郎はゆっくりと頷く。

 

「ああ、行こう、アサシンッ!!」

「心得た」

 

 

 

 

 

 

 

 

同調開始ッ!!|(トレース・オン)

 

 

 

 

光太郎が叫んだと同時に、彼の身体に変化が始まる。

 

光太郎の赤い複眼とベルトの中央にある赤い結晶が群青へと染め上り、手にしたバイオブレードの刃が伸び、両刃から日本刀の形状へと変わっていく。

 

アサシンに外見の変化はないものの、光太郎から流れるハイブリットエネルギーをその身に受けて聖杯戦争時とは比べものにならない魔力を身体に宿した。

 

 

両者は寸分狂わず同じ動きを始め、両手に持った刀を水平に構える。

 

そしてアサシンを『佐々木小次郎』と言わしめた神業が2人から打ち出された。

 

 

 

 

 

『秘剣・燕返し』

 

 

 

 

 

時間差などなく、全く同時に繰り出された『6つの斬撃』により、ジムカデムカ最大の武器である6つの腕は全て切り落とされ、怪人は余りの痛みに絶叫を放った。

 

 

『シャギャアァァァァァァァァァァッ』

 

腕1本ならば他の腕で攻撃している間に再生は可能だが、6本全てを失ってはそうはいかない。悶える敵の姿を見て、バイオライダーからRXへと姿を変えた光太郎はこの絶好の機会を逃すはずがなかった。

 

「今だッ!!」

 

 

膝を着き、右手を力強く地面へ打ち付けると、大地を強く蹴って跳躍。

 

 

身体を丸め、空中で後転しながらも前方へ落下していくという離れ業を見せながら突き出した両足にエネルギーを纏わせ、ジムカデムカの頭部めがけ叩きつける。

 

 

「RXッ!!キィックッ!!!」

 

キックを受けたジムカデムカは2転3転と大地を転がり、ふら付きながらも立ち上がろうとする敵に対し、着地した光太郎は右手を上へと突出し、左手を腰に添えた構えと取る。

 

 

 

 

「リボルケインッ!!」

 

 

 

右手を腰に添え、入れ替えるように大きく振るった左手を腰のサンライザーへと翳す。光太郎は広げた左手の中で光から形成された柄を握ると一気に引き抜き、右手へと持ち変える。

 

太陽の光を結晶化した光子剣『リボルケイン』を水平に構えた光太郎は、再び高く跳躍!

 

 

「トァッ!!」

 

掛け声と共にリボルケインをジムカデムカへ向けて急落下し、着地と同時に怪人の胴体へと光の刃を深々と突き刺した。

 

 

『シャギャアアァァァァァッァッ!!!』

「ムゥンッ!!」

 

更に強くリボルケインを押し込み、光エネルギーを流し込んでいく。次第にジムカデムカの背中から体内に溢れているエネルギーが火花となって放出を始めてた。

 

 

十二分にエネルギーを流し終えた光太郎はリボルケインを一気に引き抜き、ジムカデムカから離れていく。

 

 

断末魔の声を上げるジムカデムカに背を向けながらリボルケインを天へと掲げ、大きく振り回して頭上で両腕首を交差させた直後、一文字を切るようにリボルケインを真横へと振るった。

 

 

その直後、倒れたジムカデムカは大爆発の中へ消えるのであった。

 

 

「ちきしょ~!!覚えていやがれッ!!!」

 

 

捨て台詞と共に、残ったチャップ引き連れてゲドリアンは逃げ出していく。光太郎達は敵の後を追うことなく、敵の敗走する姿を見続けいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…だったんですか」

 

戦いの全てを見てしまったむさしへ、アサシンは村にたどり着くまでの事を説明した。自分が、全うな人間でないことも含めて…

 

「…………………」

「受け入れられなくて当然だろう」

「一つだけ、聞いてもいいですか」

「…うむ」

 

むさしは俯いていた顔をゆっくりと上げ、アサシンの顔を見る。

 

「佐々木さんは、これからも私達と一緒にいてくれるんですよね?」

「…………………」

 

てっきり今回の事件で糾弾されるとばかりと考えていたアサシンは呆気にとられ、逆に聞き返してしまった。

 

「…いいのか?むさしが危険な目にあったのは」

「佐々木さんのせいなんかでねぇ!悪いのは…悪いのはあいつらだ!」

 

涙目となったむさしは今度こそアサシンに対しての不満をぶつける。

 

「どうして…そうやって自分の責任見たいに言っちゃうんですか?今回だって、佐々木さんも被害者なんですよ?私達2人で育てた野菜があんな事になるし…佐々木さんは謝る前に、怒るべきなんですよ…」

 

まさか泣かれてしまうとは思いもしなかったアサシンは、ついに泣き出してしまったむさしの頭を優しく撫でることしか出来なかった。

 

その光景を眺めていた光太郎達は踵を返し、村へと戻っていく。

 

 

「よろしいのですか?放っておいて」

「ああ。それよりも、荒らされた畑に関しての説明を考えなきゃね。今行けば、まだ騒ぎが大きくならずに済む」

 

ライダーの質問に答えた光太郎は、これでアサシンが悩みも一つの回答を出すのではないかと考える。

 

未来よりも、今を守る為に戦うという答えを…

 

 

 

 

 

 

 

2日後 

 

事件も野菜泥棒はトマトを持ち切れず、放棄していったという形で収まり、光太郎達は冬木へと帰宅する日となった。

 

 

「今回は世話になったな」

「こちらこそ、こんなにもお土産ありがとう」

 

見送りに来たアサシンとむさしへ手に持った袋一杯に詰まった野菜を見せる光太郎。彼だけではなく、ライダーや桜、慎二も同様に野菜を手にしていた。

 

「また、来てくださいね。その時は冬木での佐々木さんのお話を聞かせて下さい。特に、門番のお話を」

「やれやれ…」

 

慣れとは恐ろしいものだなと隣の女性の懐の深さに溜息を付いたアサシンは戦闘時での不敵な笑みとは違う、穏やかな笑いを浮かべながら光太郎へと決意を伝える。

 

「今回のことで、決めたよ。私は生きよう。その先がどうなろうと、あの村を守る」

「そっか」

「そして、お前が窮地に陥った時は、手を貸させてもらう。今回の、せめてもの礼だ」

「…ありがとう」

 

互いに握手を交わした後、光太郎達は到着したバスへと乗り込み、帰路へとつくのであった

 

 

 

 

 

その先に孤独という結末が待っていようと、今を守る為に戦い続ける。アサシンの誓いを聞き、打倒クライシスをさらに強く決意する光太郎だった。

 

 




…では、言い訳を始めましょう。
この話はもしRX編をそのまま続いていたら25~6話辺りを想定して作ったお話です。敵が単純にクライシスのみだった場合、こんな展開になるかなぁ…という。

そして原作RXを知らない方にとっては??な展開であるかもしれませんので軽い解説を。さらに詳しいことはお手数ですがググっていただければと思います。

・仮面ライダーBLACK RX
 光太郎が後述のクライシス帝国によって変身機能が破壊され、宇宙へ放り出された(!?)後に太陽の光を浴びて生まれた進化形態。BLACKを遥かにしのぐパワーと能力を持ち、今回登場したバイオライダーや未登場のロボライダーへ多段変身も可能。

・クライシス帝国
 異次元から現れた新たな敵。一度は光太郎を仲間として勧誘するが拒否された為宇宙へと放りだず。これが全ての悲劇の始まりと知らずに…


・アビリティ・リンク
 RXが持つ小説オリジナルの力。
 一度大聖杯に触れた後遺症で、光太郎はサーヴァント全員と深層意識でパスが繋がった状態にあり、RXとなったことでライダー同様、その力と能力を任意で共有できるようになった。
スイッチを入れる為の掛け声は士郎を参考にしている。
これによりRXはサーヴァントと同じ技をつかえ、サーヴァントもRXから提供されるエネルギーによって聖杯戦争時以上のパワーを発揮できる。
また、パスで力を繋いでいる間はRXの一部がサーヴァントの特徴となる色が複眼に現れる。
たとえば、キャスターと力を共有する場合、ロボライダーの目が紫へと変わり、ボルテックシューターから協力な魔力弾をキャスターと共に打つことができる。
逆にRXの力をサーヴァントが使うことも可能であり、ギルガメッシュがエアでリボルクラッシュをRXと共に打ち出すなんてORTもびっくりな展開も可能…

てな感じで、話を展開していこうかなと考えたりします。これが生かされるか、はたまたリセットするかは不明ですが・・・

長い後書きとなりましたが、続編に関しては製作決定!とここに宣言いたします。
ちょいとプライベートも関係し、連載は5月以降になるかな~という所です。

それでも待って頂き、読んで頂ければ幸いでございます。

そして、番外編は思いつき次第ちょいちょい載せていく予定。今度は短いのにしよう…リクエストもあれば、作ってしまう…かもしれない(おい)

では、これにて失礼!


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番外編③

今回は戦闘場面いっさいなし!

むしろパラレルワールドと思っていただきたい番外編③です。


「慎二くん、入るよ」

「…何度言っても変わらないよなその事後報告」

「ははは。ごめんよ」

 

このやり取りも長年続いてしまえば、いい加減怒鳴ることも少なくなっている。幼少の頃など罵声と同時に辞書を投げつけたものだったなと視線を再び手にした魔術書へと向けようとする慎二に光太郎は無言でグラスを差し出す。

 

よく見れば光太郎の手にはトレイがあり、その上に自分用のグラスとブランデーが並んでいる。確かその酒は父親秘蔵の一品ではなかっただろうか…

 

「出来れば明後日くらいに一緒に謝ってくれたら嬉しいかな~」

「…はぁ」

 

ワザとらしく溜息をついた慎二は魔術書を閉じ、グラスを取って光太郎に無言で突き出す。言葉にせず、返事を出した義弟の行動に満面の笑みを浮かべた光太郎はブランデーの封を開けてグラスへ注いでいく。

鼻腔を抜けるブランデー特有の芳醇な香りを楽しみながら義兄が自分の分を注ぎ終わるの待つ慎二。こうして義兄と飲むのは、いつ以来だろうか。

 

いや、今日ばかりは普段アルコールをあまり摂取しない光太郎が飲もうとする気持ちは理解できた。先に光太郎からの誘いがなければ、自分から尋ねたのかも知れない。

 

なにせ明日は………

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日、結婚式を迎える桜ちゃんに…」

 

 

 

 

 

 

『乾杯』

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、慎二と光太郎の義妹である間桐桜の結婚式を翌日に控えた夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。じゃあその本は」

「ああ。あいつが攻撃魔術を実践した際に参考にした奴さ。桜の奴、初めて標的の一部を黒焦げにしたのを見て、飛び跳ねて喜んでたよ」

「なるほど。こういう日ってアルバムを引っ張り出したりするものだろうけど、慎二君にとっては、そっちの方が桜ちゃんとの思い出が深く刻まれてるんだね」

「…そう言うことにしといてやるよ」

 

グラスを軽く振り、合わせて揺らめく液体を見つめる慎二と光太郎の会話の内容は、やはり桜との記憶だ。

 

間桐家に来たばかりは人見知りで、泣き虫だった桜。しかし、光太郎や慎二と過ごす内に身も心も強くなり、笑顔の似合う女性へと成長を遂げていった。

 

今考えれば、仮面ライダーである自分と肩を並べて共に戦うまで強くなるとは思いもしなかけどと、光太郎は苦笑を浮かべて机の上に飾られている写真立てを見る。

 

 

ゴルゴムを打ち破った後、命を得たサーヴァント達と共に撮影した写真の中の桜は本当に嬉しそうに笑っている。桜はいつも自分を笑顔にしてくれると義兄2人に言ってくれたが、その自分に笑顔を取り戻してくれたのは、桜であることを光太郎と慎二はは決して忘れない。

 

 

身体を改造され、養父を惨殺された事で心を閉ざしていた光太郎に再び感情を取り戻すきっかけを作った。

 

 

祖父に役立たずの烙印を押され、その原因と思い込んでいた2人に罵声しか浴びせなかった慎二に、義兄すら匙を投げかけた際も凝りもせず話しかけてくれた。

 

 

こうして思い出を肴に酒を飲みあえるのは、彼女がいたからこそだろう。

 

今の自分達を形成してくれた掛け替えのない大切な妹が明日、自分自身の人生を歩み出す。

 

嬉しさよりも、寂しさが強まってしまっているのは、仕方のないことだろう。

 

 

だから明日は笑顔で見送らなければならない。

 

 

今まで、ありがとうという言葉と共に。

 

 

 

「んで、明日の準備は問題ないのか?」

「うん。なんせスポンサーがすごいからね」

「…まぁ、アーチャーが仕切ってるから大丈夫だろう」

 

資金提供はギルガメッシュ、会場準備はアインツベルン。それだけならば不安しかないメンツであるがそこで登場したのがアーチャーである。凛に付いてロンドンに渡っていたが桜が式を挙げると聞きつけ姉と共に帰国。

兎に角金に物を言わせて派手な内容にしようとする金持ち2人に待ったをかけて、予算を踏んだんに使いながらも新郎新婦が望む静かな内容へと変更されていったのだった。

 

やはり、桜は彼にとっても大切な存在だったのだろう。

 

「ま、僕たちは僕たちの役目を全うしとくか」

「賛成」

 

 

その後も兄妹となってからの話が続いていき、気が付けばもうすぐ日付が変わろうとする時刻となっていた。

 

「っと。もうこんな時間か。そろそろお開きだね」

「そうだな…さっさと部屋戻れよ。嫁さん不貞寝してんじゃないの?」

「そうさせてもらうよ。それじゃ、また明日」

「ああ」

 

 

 

返事を聞いた光太郎が部屋を後にする姿を見送った慎二は、残った僅かなブランデーをグラスへと注いでいく。

 

窓を開け、夜空に浮かぶ月に向かいグラスを掲げる。

 

 

 

 

「…おめでとう。桜」

 

 

 

明日、妹に捧げる心からの言葉を口にして。

 




という、桜の結婚前夜という内容でございました。

桜を演じる下屋さんがご結婚されたというめでたいニュースを聞き衝動的に作ってしまったこの話。
しかし桜に一切出番がないという…

あ、桜さんのお相手はご想像にお任せしますね(笑)

ちなみにこの時点で光太郎とメデューサさんとの間に双子の女の子を儲けており、慎二は高校時代の腐れ縁で美綴さんといい感じになっているというところまで妄想しております。


改めて下屋さん。ご結婚おめでとうございます。

劇場版での活躍を楽しみにしております!!


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番外編④

このお話は前回を投稿した直後に作り始めたのですが保存をミスり消去したと思い込んでいたらドッコイ生きてたフォルダの中。にあった文を手直したものです。

前回の後書きに少々リンクする内容と、あくまで慎二君がこの世界の慎二君であるという事を前提で読んで頂けばと思います。


ちょうど合計80話となるこの話。では、どうぞ


綺麗すぎた、かな…


穂群原学園の弓道部には2名の男子生徒が所属している。

 

間桐慎二と衛宮士郎。

 

性格も考えもまるで違う2人ではあるが、学園内では知らぬ者がいない親友同士である。それを聞いたら慎二は決して認めないであろうが、照れ隠しであると周りが判断してしまうため反論を半ばあきらめかけている。

 

2人が所属する弓道部の部長、美綴綾子は慎二と士郎の会話や行動を見るのが楽しみの一つになっていた。

 

それは学園の一部に存在する邪な願望を抱く女生徒と同じく、薔薇を背景に2人が無駄に顔を接近させる光景を望んでいるわけでは決してない。いや絶対。

 

笑いながら呼びかける士郎にぶっきらぼうに答える慎二。時折、士郎の天然な部分に全力で突っ込みをいれる慎二の姿など笑いを堪える方が大変なことではあるが、あくまで一面のひとつ。綾子の関心は2人そろって貪欲にまで互いを高め合っている点だった。

 

もとから要領が良く、呼吸をするかのように技術を習得していく天才肌である慎二と切磋琢磨に練習を重ね、的に当てる事を当然であるかのような結果を出していく士郎。互いの長所や短所を言い当て、それを克服しつつ相手に負けないようにさらに鍛錬していく2人の姿を見て触発される部員も多い。

 

しかし部長としては歓迎するべきではない状況がある。一部、成績が著しくない者や高校から弓道を始めた2人の成長に嫉妬する者があらわれ始めていた。が、それによる衝突などが起きないのは、後輩である桜の影響が強いだろう。

 

慎二の妹であり、これまた士郎の妹分である桜の懐きようといったら尾を振る子犬を見るようであり、嫌な空気を緩和してくれる。

 

ただし、桜も2人に付いて回るオマケなどに収まらない。

 

2人に負けるとも劣らない練習熱心であり、顧問である藤村大河女史すら舌を巻く程に上達が早い。これならば将来弓道部を引っ張ってくれる逸材となるだろう。

 

 

 

 

そんな桜に慕われている2人へ綾子が何よりも関心を寄せる所は、彼等が実践していることはあくまで目標に辿るまでの通過点に過ぎないという所だ。両名に影響を受けたうちの1人として、あれ程の活躍を見せる2人が現状に満足せず、目標とは何かと綾子は尋ねたことがある。

 

衛宮士郎の場合は本人の口から聞くよりも早く、顧問の藤村先生によって暴露されてしまった。

 

 

『正義の味方』

 

 

最初聞いた際は理解するまでに時間をかけてしまったが、その後に士郎自身から本人から聞く限り、それは揺るぎない決意が伺えた。

 

 

衛宮がそう言うのだから、そうなのだろうと細かいことを気にしない綾子は納得した上で、慎二に尋ねたところ…

 

 

 

 

 

 

 

「お前に関係ないだろ」

 

 

 

 

 

 

これである。

 

 

言い方に刺があったかも知れないが慎二との付き合いが長い士郎から見れば照れ隠しらしいのだが、元々は負けず嫌いの綾子にとってはこれが引き金となり、とにかく理由を聞き出そうと躍起になってしまった。

先程は細かいことは気にしないなどと言いつつも、慎二の性格を把握していてもやはり気になるものは気になる。

 

 

慎二が頑なに口にしようとせず、彼をそこまで駆り立てるモノはなんなのか…?

 

 

 

彼女が好奇心に負けてしまった結果、とんでもない事件に遭遇してしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は弓道部も休みであり、外では今にも雪が降らさんと雲が空を覆っていた日の放課後。

 

図書室にて慎二は外国語の辞書を横に積み上げ、数日分の新聞を机に広げて記事に目を通しているとう一見首を傾げてしまう調べものを行っていた。

 

そんな姿を見かけた綾子は慎二とは反対側の椅子へと腰かけるとよっと気さくに手を上げて挨拶するが、慎二は一度顔を上げてるとすぐに新聞へと視線を戻す。

 

『面倒な奴が来た』と言わんばかりな顔をして。

 

「…正直なのは結構だけど、もう少し愛想をもったらどうだい?」

「遠坂を見習えってか?僕には無理な相談だね」

 

これは以外、と綾子は慎二の発言に驚きを隠せなかった。まさか自分や親しい人物以外に彼女の猫かぶりを見抜いていた人物がいたとは…と綾子は慎二の観察眼に感服していたが、遠坂凜の実妹である桜から今日の実姉情報が間桐家に日々報告されているとは今後とも知ることはないだろう。

 

 

「それで、弓道部部長が何用かな?ひょっとして、僕とお茶でも付き合ってくれるのかい?」

「私が相手しなくたって、慎二には声かけてくる子がたくさんいるんじゃないの?」

 

相手の軽口に乗った綾子はわざとらしく尋ねながら周囲を見渡す。見れば図書館の利用者を装って慎二に接近を企んでいる輩…女子生徒が何人かを発見する。彼女達から見たら自分はさぞうっとうしい存在なのだろう。睨んでいる生徒すらいる状態だ。

 

 

「そうだね。僕みたいな出来る男となると女の子達から来てくれるから、困ることはないな」

「…自分で言っちゃうんだ」

 

呆れるを通り越して感心する綾子ではあるが、この慎二という男。彼自身が言った通りに女子からお誘いを受けることは日常茶飯事であり、放課後にどこかでお茶をすることも珍しくはないが、その先には決して進もうとしないのである。

 

以前に士郎から聞いた話によると、その日も名前すらしらない女子から声をかけられ、新都にある喫茶店に入るのだが、必ず1時間もしないうちに話を切り上げて帰宅しているらしい。

それも女生徒を不快にさせるような立ち去り方をしないので、無駄に期待させてしまっているのではと友人の行動を危惧していた。

 

誘いを無碍せず、丁重に去っていくこの手際。もしや彼が目指していることと関係があるのかと思い、遠回しに理由を聞いたことがあったが…

 

 

 

「夕飯前に帰らないと怖いんだよ…」

 

 

と視線を逸らして答えた慎二は若干震えていたようにも思えた。

 

その時、綾子の脳裏にエプロン姿で絶対零度の微笑みを浮かべているかわいい後輩の姿が浮かび上がったが、その幻想を打ち切ったのは慎二の真面目な声であった。

 

「それに、そんな事に割ける時間はない」

 

慎二の視線は最近新都で目撃される怪物騒ぎの記事ばかりであると綾子は気付いたが、それよりも記事を睨み付ける慎二の顔へと目を向けてしまっていた。

 

彼が年相応の遊びより優先することとは、一体なんなのだろうと考えていると一通り新聞を読み終えた慎二は続いて鞄から単語すら読み取ることが難しい本と辞書を照らし合わせる作業を始める。綾子はそんな慎二の姿を眺め続けていた。

 

 

 

そして2時間以上が経過して日はとっくに沈み月が浮かんでいる頃。結局教師に声を掛けられるまでまで図書室で調べものを続けいた慎二に付き合きあい、ようやく帰路へとついた綾子はさっむ~とマフラーを首に巻く。

 

「…おい」

「え?」

「なんで僕たち仲よく下校してるわけ…?」

「かまやしないでしょ?一緒にいたってあれこれ噂が立つわけじゃないんだし」

「そりゃそうか」

「…すぐに肯定されるってのもなんか釈然としないわね」

 

こんな会話が続いていく中、慎二は突然立ち止まると自販機の前に立ち、ホットコーヒーを2本購入。1本を綾子へと投げ渡した。

 

「えっと…どういう心境?」

 

まさかあの慎二にコーヒーが奢られるとは思いもしなかったのか、感謝よりも疑問が口に出てしまった綾子に慎二は目線を合わせず缶コーヒーのプルタブを開く。

 

「…理由は知らないけど部活もないのにこんな時間まで付き合わせたことになったし…文句を言われる前に手を打っただけだよ」

「私が勝手に付き合っただけだってのに…」

 

苦笑しながら慎二に続いてコーヒーに口をつける綾子は、やはりどうしても気になることを問いただすにはいられなかった。

 

「…慎二、どうしてそこまで色々と頑張ろうとするの?」

「……………………」

「衛宮の場合はさ、これ以上ないってぐらいにそういう自分に成りたいって気持ちが強いから納得できた。でも、慎二の場合は…」

 

と、綾子は途中で言葉を止めてしまう。この件に関してはもしかしたら『言えない理由』があったかもと知れないと考えた綾子だったが、慎二はやはりこちらに目を向けないまま、ポツポツと質問へと答えていた。

 

「…同じだよ」

「…え?」

「僕も同じ…なりたい自分になるために、足掻いてるだけだ」

 

足掻いている…まるで自分のやっていることが報われないような言い方をする慎二に綾子が訪ねようと敷いたその時―――

 

 

「伏せろ美綴ッ!!」

「キャアッ!?」

 

突如慎二に押し倒される綾子は思わず声を上げる。突然押し倒されたことに気が動転した綾子は自分に伸し掛かりすぐに立ち上がった慎二を見上げる。口元は笑いながらもひどく焦燥していることからただことではないと推測した綾子は彼の視線の先へと目を向ける。

 

 

 

 

「参ったね…『記事』だと新都付近にしか出ないってのに、この辺にも出没してたのかよ」

 

 

 

 

先程まで自分達の立っていた場所へ立っていたのは、異形の姿。慎二が咄嗟に綾子を押し出さなければ2人してあの鋭い爪と牙の餌食になっていたかも知れない。異形・・・ヤマアラシ怪人は涎を垂らしながらジリジリと慎二と綾子へと迫る。

 

「…ッ!?」

 

声を上げない自分を褒めたくなる綾子だったが、それは隣にいる慎二が冷静である姿を見たからだろうか。怪人の出現した時は目を見開いて驚いていたが、今では真っ直ぐ見据えながら綾子を庇うように前に出ている。

 

「美綴…」

「な、なに…?」

 

自分の名を呼ばれ、返事をした途端に綾子の視界を激しい閃光が包む。

 

「な、なによこれッ!?目が…!?」

「走れッ!!」

「ちょ、ちょっと…ッ!?」

 

思わず目を閉じた綾子は自分の手を掴み、引っ張る慎二の言葉に従い視界がはっきりしない状態で走り始めていた。後で何かのうめき声が聞こえるが、恐らく怪人も同様に目にダメージを追っているのだろう。

 

 

「さすが僕お手製の目晦ましだ。けど、まだ改良の余地ありかな」

「なにとんでもないもの作った事暴露してんのあんたッ!?」

 

光の発生源である慎二は自分だけが瞬時にサングラスを着用し、被害を受けずに綾子を連れて立ち去るに至った。後方にいる怪人を警戒しつつ、懐から携帯電話を取り出て操作し、ある人物へと2,3言で通話を終えると綾子の手を握る力を強めて、未だ視界がはっきりしない綾子を連れて逃避行へと集中する。

 

 

 

 

目を閉じたまま、どれほどの距離を走ったのだろうか。

 

綾子は慎二の誘導通りに右に曲がり、左に曲がり、真っ直ぐと、とにかく走り続けていた。

 

途中、どこに向かっているのかと質問するとあの化け物に捕まりたいのかと言われた綾子の脳裏に染みついたあの異形がはっきりと浮かんでしまい、黙って従う他なかった。

 

しかし、目を閉じた為他の感覚がはっきりしているためか、綾子の耳は自分達の背後から雄叫びを上げながら疾走する存在を捉えていた。

 

このままでは確実に追いつかれてしまう。

 

そう、嫌な予感が込み上げた時だった。

 

 

 

ぼやけながらも目が開けるようになった綾子の視界がとらえたもの。

綾子と慎二が走る先からこちらへと向かってくる1台のバイク。

 

しかし、綾子の知るバイクは形状が大きく異なり、ヘッドライトに当たる部分がまるで大きな目のようにも見えていた。

 

さらに接近するバイクに搭乗する者も、人ではなかった。

 

バイクと同じような大きく赤い複眼を持ち、漆黒のボディを持つドライバーはさらにバイクを加速させると慎二と綾子とすれ違い、彼等を追っていた怪人へとバイクごと体当たりをしかけた。

 

 

鈍い音と共に怪人の悲鳴を聞き、ようやく立ち止まった綾子は急ぎ後へと振り返る。

 

月明かりと街灯の下で、バイクを降りた戦士と立ち上がった怪人の戦いが始まっていた。

 

自分の目の前で起きている光景は、果たして現実なのだろうかと頬を抓ろうとした綾子であったが、自分の名を背後で呼ぶ声を聴き、さらに混乱してしまう。

 

「美綴先輩、ご無事でしたかッ!?」

「ま、間桐!?なんで…!?」

 

そこに現れたのは制服姿の間桐桜であった。片手にはヘルメットがあり、後方には白いオンロードバイクが控えているのだがひょっとして…と考える隙を与えずに慎二は桜へと指示を送る。

慎二へ頷いた桜はボケットから赤い縁の眼鏡を取りだずと自分の目へと着用し、綾子の両目をじっと見つめる。

 

「ごめんなさい、美綴先輩」

「な、なによそ…れ…」

 

突然の行動と謝罪を訪ねようとした綾子は先ほどの眩い光にやられた時とは異なる感覚で視界がぼやけていく。

 

(眠い…なんで、急に…)

 

良く見れば桜の眼鏡の縁には細かな文字が刻まれており、レンズ越しに映る桜の瞳が淡く光っているように見えた。

 

綾子は知ることは無いが、この眼鏡は慎二が作成した道具の一つであり、着用した者が魔力を込めることにより目を合わせた者へ催眠をかけることが出来る『魔眼』のような効果をもたらすことができるのだ。その内容は、1時間前の記憶を曖昧にして眠りへと誘うということに限定されてしまうのだが。

 

術が完了し、ガクリと倒れそうになった綾子を支える慎二はもう彼女の記憶に残らないことを前提に、近くで戦いを見守る桜に耳へ届かないように、聞かれた事への回答を口にした。

 

 

 

 

 

 

「お前が言ってた僕の目標…あいつと並び立つことだよ。いっつも好き勝手行動して、全部自分で片付けようとして、心配ばっかりかけるあの駄兄を横で支えられる」

 

 

「そんな自分に、なりたい」

 

 

 

慎二が本音を吐露し、黒い戦士の蹴りによって怪人が消滅したと同時に綾子の意識は失われるのではあった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

「ようやく起きたか?」

「慎二…?えっと…ここは…」

 

目を開けた綾子は周囲を見渡すと、そこは商店街近くにある小さな公園のベンチに座っていた。確か、自分は慎二と共に下校をして…その後が想い出せなず懸命に記憶を呼び起こそうとするが、そこへ慎二が介入する。

 

「覚えてないか?あんまりにもお前が僕が頑張る姿が気になるってんだから時間をかけて事細かに説明してやってる途中で眠りやがって。起きるまでここにいた僕に感謝するんだね」

 

と、嫌味たっぷりにご解説してくれる同級生のしたり顔を見て殴りたい衝動にかられる綾子であったが、言われて見ればそうだったような気がする…とこんなことで眠ってしまう自分の未熟っぷりに項垂れていると、慎二が立ち上がる。

 

「つーわけだ。同じ話は二度とするつもりはないから、もう聞き出そうとすんなよ」

「ええっと…」

「もういい時間なんだから、とっとと帰れよ。部長さん」

 

片腕を上げた慎二は振り向かずに去ろうとしたが、綾子の言葉に立ち止まってしまう。

 

 

 

 

「ああ、頑張れよ!並んで立てるように!!」

 

 

目を見開いてゆっくりと振り返ると、そこにはベンチから立ち、満面の笑みを浮かべる綾子の姿があった。

 

 

「誰の事かは分からないけど、そこだけははっきりと思い出したよ。安心しな。その為に一生懸命頑張ってるのは私や、衛宮だって知っている。だから―――」

 

 

 

 

「足掻くなんて言葉使わないで、叶えてやるって胸張りなよっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

慎二が立ち去った後、綾子は思わず自分の口を押えながら再びベンチへと腰かける。

 

 

(なんで、あんな励ます言葉を必死になって考えたんだろう)

 

 

自分の目標に至るまで努力を重ねる人間なんて山ほどいる。衛宮だってその1人だ。だけど、何故か慎二を心から応援をしたくなった。

他の誰よりも、自分の目標に近づいて欲しいと。

 

 

 

(間桐慎二、か)

 

 

霞がかった記憶の中で、誇らしくもどこかで諦めているように自分の夢を語った彼の表情が印象に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾子と別れ、1人歩く慎二はマフラーを首元だけでなく耳や口元まで覆うように巻きつける。

 

 

 

(失敗、か。桜が魔力を込めて術を発生させること自体は完璧だった。だから美綴に記憶が残ったのは、術式の書き込みが甘かった僕のミスだ)

 

 

 

そう深く考え込もうとしても、彼女の笑顔が頭から離れない。そして、こんなに冷えているというのに、なんだか顔が熱い。

 

 

(今日は、遠回りして帰ろう)

 

 

こんな顔、先に帰った義兄と義妹には見られるわけには行かない。頭が冷えるまでは夜の散歩に繰り出そうと、慎二は足を前へとすすめるのであった。

 




と、意識するにはまだ至らない2人のお話。

過去の話を振り返りながらUBWの慎二君を見て、タグの性格改変はうちの慎二君の為にあるのだと改めて思いました。

この2人の関係、どう生かすかな…






あ、告知しますが新作のFate/Radiant of Xもよろしくお願いします!

では、次回の番外編にて!!


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次回作予告

冬木の街で起きた2つの戦い

 

 

 

 

『英霊』と呼ばれる使い魔を召喚した魔術師による願望器の争奪戦『第5次聖杯戦争』

 

 

 

地上を怪人の楽園とし、忠誠を誓った以外の人類抹殺を図った『暗黒結社ゴルゴム』との死闘

 

 

 

 

 

それらの戦いに終止符を打ち、課せられた宿命に打ち勝った黒曜の戦士

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーBLACK

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の新たな戦いが、今幕を上げる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一体…?」

 

 

 

 

 

 

世界各地で発生する謎の研究施設爆破事件。その裏に隠された共通点とは…

 

 

 

 

 

 

「みんなどれもがゴルゴム…それだけじゃない。歴代の悪の組織に関わっていた連中だ…」

 

 

 

 

 

 

新たな悪。それは、異次元より現れた侵略者

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーBLACK…彼1人では、太刀打ちできないかも知れん」

 

 

 

 

 

 

 

 

つかの間の平和に浸っていた間桐光太郎達の前に突如現れた影。戦いを挑む光太郎だったが…

 

 

 

 

 

 

「変身…でき、ない…」

 

 

 

 

 

 

 

失ってしまった力。絶対絶命の危機が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この街…どうなっている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、行く宛てもなく旅を続けていた『彼ら』が行きついた街では、ある噂が広まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい。月影さんが、どうかしたのか?」

 

 

「………………」

 

 

「アナタ…なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

殺人貫、真祖の姫、そして世紀王―――

 

 

 

 

 

 

 

 

この出会いが、何を齎すのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達ってさ…光太郎の事、全然分かってないな」

 

 

 

 

慎二は嘲笑する。敵が持つ義兄に対する認識を。

 

 

 

 

「光太郎兄さんが強いのは、変身できるからじゃありません」

 

 

 

 

桜は知っている。義兄の持つ本当の強さを。

 

 

 

 

 

 

「…例え力を失おうとも、光太郎が『仮面ライダー』であることには変わりありません」

 

 

 

 

ライダーは信じる。自分の愛する存在は力を失ったとしても、再び立ち上がることを。

 

 

 

 

 

「…俺を信じてくれる人がいる。俺が戦える理由は、それだけで十分だッ!!」

 

 

 

 

光太郎の意思に、勇気に、天に輝く太陽が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

「太陽よ…俺に力をッ!!」

 

 

 

 

 

 

そして生まれる光の戦士。その名は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は太陽の子ッ!!仮面ライダーBLACK!RX!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーBLACK RX × Fate/stay night & ...

 

 

 

 

 

 

 

Fate/Radiant of X

 

 

 

 

 

 

 

coming soon…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『地球を、我が手に…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てな感じで、以前活動報告に記載した続編にちょいと付け足して本編へと記載しました。

 

内容に関してはまだまだですけれども、方向性は定まってきた…という所です。

 

プライベートの都合もあり、作成に時間が割けない状態ですが、落ち着き次第また以前のようなペースで更新できたらいいなぁ…と思っていたり。

 

もしかしたらプロローグだけなら近日更新できるかもしれませんが、その際は上記のタイトルで連載とさせて頂くこととなりますので、チェックをよろしくお願いします!

 

では、この辺で!



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