俺と魔王と弱虫勇者《ヴァルキリー》 (明智ワクナリ)
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第1話『ベランダの勇者様。』

行き当たりバッタリのラブコメ、スタートです!


「さて、どうしたものか………」

 

俺、篝刀夜(かがりとうや)は今窮地に立たされている。たぶん人生最大のアクシデントに遭遇してるんだろうなこれ。

自分で言うのもなんだけど、俺は平凡な高校二年生のつもりだ。一般人と変わらない標準的な日常を送る普通の一七歳、それが俺。一五になる妹と小二からずっと一緒の幼なじみがいるくらいで他には何もない。人生丸ごと平凡に生きれる自信が俺にはある。

しかし、この状況は俺の平凡人生をひっくり返しかねない、まさに窮地だ。

俺はそろそろと視線をベランダの窓に移す。今日は生憎の雨、窓はガタガタドンドンとかなり盛大に暴れてらっしゃる。そんでもって、これこそが俺の窮地なんだ。

 

ドンドンドンドンドンッ!←金ぴかの鎧着た銀髪碧眼の美少女コスプレイヤーが窓を叩いてる音。

 

ホント、どうしたもんだろうこれ。

言っておくけど苛めてるわけじゃない。朝起きてカーテン開けたらベランダで体育座りしてたんだ。何故そんな所で体育座りしてたかは知らないし、逆に俺が聞きたいくらいだよ。まあとにかく一五分くらいずっとこの調子なんだけど、さすがにちょっと可哀想かな。

 

「しょうがないなー」

 

このままにしておくと近所に良からぬ噂が流れそうだから入れるしかないか。ドンドンと窓を叩くコスプレイヤーさんに、開けるから退いてくれとジェスチャーをするも混乱してるらしく見てくれてない。俺は仕方なく窓の鍵を開ける。

 

ガチャ、ガラガラ。

 

「開けてくださ----ってきゃああああギュフゥ!!(ガッシャァン!)」

 

勢い余って転倒、顔面から盛大にスッ転んだ。てか今金属音しなかった?いやしたよね?本物?そんなことより今のでフローリングへこんだよね!?間違いなくへこんだよどうすんの弁償物だよおおお!!?

 

「いたたた………。やっと入れましたぁ」

 

鼻を擦りながら体を起こすコスプレイヤーさん。あーあ、床がへこんじゃってるよ。今月の仕送りは半分消えたな。

 

「あの、大丈夫?」

「ふえっ!?あ、はい!大丈夫です!」

 

金ぴかの鎧をガシャガシャ鳴らしながら両手を振り回す。本物なのかな?ってそれどころじゃない。彼女には聞きたいことがあるんだった。

 

「えーと、とりあえずいいかな」

「は、はい!なんでしょうか」

「君誰?というかどうやってベランダに来たの?」

 

そう、この娘がどこの誰で、そしてベランダにどうやって来たのかが問題なんだ。ちなみに俺の家は二十階建のマンションの八階、上からも下からもベランダに入るのはほぼ無理に等しい。

 

「あ、申し遅れました。私はフィーネリア・ラグス・ハインツヴィードです」

「ず、随分と長い名前だね。俺は篝刀夜。それでうちのベランダに来た理由は?」

「えと跳躍魔法でここに飛んできたんです。えーとべらんだってこれのことですか?」

「そうそれ。へえ跳躍魔法で…………………………は?」

 

一瞬俺の思考が停止する。今この人魔法とかって言わなかった?というかこの人のペースに乗せられて何自己紹介してんだ俺!?と、とにかく聞き直してみよう。

 

「ね、ねえ。俺の耳がおかしくなきゃ今魔法って言わなかったかな?」

「え?言いましたよ。跳躍魔法で飛んだって」

「はは………はははは」

 

そうか、この娘厨二病だったのか。鎧といい剣や盾まで作り込んでるところから察するに、相当なコスプレイヤーに違いない。ってちょっと待てよ。どっちにしろ彼女はどうやって来たんだ?こんな娘が八階まで登ってこられるはずないし、かといって屋上からロープで降りるには距離が長すぎる。それにあの鎧もフローリングをへこますくらい頑丈ってことはそれなりに重いはず。ってことはまさか…………。

 

「あ、あのさ。君は何者なのかな?」

「あ、言い忘れてました」

 

フィーネリアと名乗る彼女は思い出したかのようにポン、と手を叩いて言った。

 

 

「私、勇者なんです」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「すみません。お風呂のみならず衣服までお借りしてしまって」

「気にしなくていいって。まあ妹のだけど」

 

時刻は十一時半、騒ぎもとりあえずは収まった。

あの後、ずぶ濡れになったフィーネを風呂に入れそれとなく彼女の話を聞いていたのだが。

 

「つまり要約すると、好戦的な魔王に果たし状突き付けられたけど、フィーネは戦うのが怖くなって………えと、異空間転移だっけ。それでこっちに来たら今度は警察に追い回され手近なこのマンションに逃げ込んだと。こんな感じでいい?」

「はい!ばっちりです!なるほど、あの鋼鉄の馬車に乗っていたのはけーさつという組織なんですね」

 

心底驚いた様子で頷くフィーネ。てか君より俺の方が驚くよ。警察に追い回される勇者なんて始めて聞いた。ちなみにフィーネと呼ぶことにしたのは彼女の要望だ。どうやらあっちの世界ではそう呼ばれていたらしい。

 

「ま、それは置いとくとして。魔王倒さなくていいわけ?世界が征服されるんじゃないの?」

「ええ、おそらくはそうなると…………。でも魔王さんならきっと大丈夫です!戦争好きですけど平和主義を唱える立派なお方ですから!」

「………物凄く矛盾してるよそれ」

「それにお菓子あげるとすごく喜びます」

「子供かっ!」

 

正直ついていけないよこの話。この三時間、話を聞いて分かったのは彼女が重度の臆病者で、どうしようもないくらい弱虫な勇者だということ。魔王の決闘から逃げ出す勇者なんて聞いたことないし、そもそも何故彼女が勇者に選ばれたのか理由を聞きたいくらいだ。

 

「あ、あの。その………ですから私、今泊まる場所がないんです。だから、えと」

 

俺の前でもじもじとするフィーネ。なんていうか普通に可愛いなこの娘。見た目だってすごく綺麗だし、普通にしてれば特におかしなところはなさそうかな。い、いや。だからって家に泊めるわけにもいかないけど、この娘を外に追い出したら色んな意味で危なそうだ。でもなあ~。

 

チラッ

 

「ジーーーーーーー。(期待の眼差し)」

「…………………」

「ジーーーーーーー。(目を潤ませてる)」

「ぬぐっ…………」

 

く、くそっ!こんな可愛い攻撃が世の中にあるというのか!これは核兵器も驚きの破壊力!!俺の心の防壁が崩れていく!?ダメダメ!こんな娘を泊めたら俺の人生は非日常に染まってしまう!ああ、でもここでYESと答えなきゃ一生後悔するような……………!!

 

「はあ………。わかった。家に泊まっていいよ」

「ほんとですか!!」

「ただし!妙なことしたら即刻家から叩き出すからそのつもりで!」

「はい!ありがとうございますトーヤさん!」

 

パアッと表情が明るくなるフィーネ。結局許可しちゃったけどこれからどうしよう。まあ、常識にズレがあるとはいえ根本的なとこは良識ある娘みたいだし。

 

「あっ、ところでトーヤさん。砥石とかってありませんか?」

「ん?あるけど、急にどうしたの?」

「えと、この聖剣エクスカリバーの刃を研ごうかと」

「はいアウトォ!!」

 

前言撤回、どうやらこの娘に良識なんてものは備わっていないらしい。

 

「え?あの、ダメなんですか?」

「ダメに決まってるでしょ!家庭用砥石で剣の刃は研がないからね普通!!そもそも神聖な物をそんな風に扱っちゃだめじゃないの!?大司教様とかに怒られるよ!?」

「大丈夫です!ばれなければどうという事はありませんから!」

「妙なところで社会の闇に染まってる!?」

 

大きな胸を逸らしてエッヘンとドヤ顔をする弱虫勇者様。今からこんなんじゃ先が思いやられるよ………………。

 

 

こうして俺の日常は変わり始めたんだ。平凡で終わるはずの人生が、ね。

 

 




こんな出会いも悪くないんじゃ………………………?


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