アズールレーン短編集 (キサラギ職員)
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1、奇跡の船(??)

この船なーんだ


「指揮官、ちょっと来るにゃ」

 

 指揮官たる男は黙々と執務に励んでいる最中声をかけられ面をあげた。緑色の長髪をだぶだぶの服に包んだ猫耳の少女が机にしがみつくように立っていた。大人からすれば平均的な大きさの仕事机も、少女からすれば山脈のように巨大な物体らしい。かろうじて上半身を机に乗せているといったところだった。

 

「明石か。どうした?」

「んにゃ。実は昨日建造を指示したにゃ? さっき建造が終わって一人誕生したんだけどにゃ……」

 

 明石にしてはらしくない歯にものの挟まったようなものいいに、指揮官はふむんと喉を鳴らした。

 建造とは新しい船舶少女を“誕生”させることであり、艦隊を強化するためには必須の作業だった。建造は主にメンタルキューブと呼ばれるセイレーンの技術の結晶ともいわれる物資を使用し、一定時間経過後に誕生するのだった。だが稀に建造時間が通常の船舶少女とは異なる時間を示す場合があり、そうした場合は艦隊の整備士であり母港の技術者でもありときには最前線で防空を担うこともある明石が報告に来るのだった。

 すぐに指揮官は立ち上がると帽子をかぶった。

 

「問題が起こったのか? すぐにいく」

「問題と言えば問題だけどにゃ。建造したはいいものの自分の名前がわからないとかいってるんだにゃ。たま~にそういうケースがあると聞いたことはあるけど、本当に起きるなんて明石もびっくりにゃ」

「名前がわからない、だと?」

「そうにゃ。言葉は話せるみたいだから、意思疎通はできるにゃ」

 

 船舶少女にとって、もとい自我があるものにとって名前という要素は重要な意味を持つ。名前とは最大のアイデンティティであり、個人個人を識別する最大の要素だからだ。そもそも完全に解明されているとは言い難い船舶少女なので、名前を思い出せない個体もいるのかもしれないと指揮官は考えた。

 造船所もとい研究所へと指揮官は明石を伴い歩いて行った。

 ほどなくして指揮官は研究所への扉を潜った。突然、生ぬるい布地が顔にかかり視界が完全に塞がれなければ前進できただろうが。

 

「ぷはっ!? なんだこれは! 服か……」

「暑い! 脱ぐ!」

 

 指揮官はどこかに飛んで行った帽子を探すよりも、まず顔にかかった女物の服を剥がすことが先決だった。生ぬるい布をどけてみると、暑い暑いいいながらオレンジ色の分厚い服を脱ぎ捨てて、シャツも脱いで放り投げついには下着まで脱ぎ捨てようとする少女がいた。

 

「ぜ、全裸はまずいぞ! 女の子が簡単に脱いじゃだめだぞ!!」

 

 傍らにいたクリーブランドが素っ頓狂な声をあげて制止しにかかったが、肝心の少女は暑い暑い連呼しながらついに下着を脱ぎ捨てはじめた。

 

「ふふふふ……指揮官さまぁ~? これは赤城への愛の試練ですか~?」

「はぁ……またはじまった」

 

 騒ぎを聞きつけたのだろう、入室してきた赤城がにっこりと般若の表情を作り指揮官の背後に迫ってきていた。その隣では『またか』と言わんばかりん諦めの表情で目頭を揉み解す加賀がいた。

 肝心の少女はすらりとした肢体を大きく伸ばすと、にっこりと笑うのだった。

 

「すずしい」

 

 修羅場と化した研究所で指揮官は思わず叫び声をあげた。

 

「いいから服を着ろよ!!」

 

 

 

 

 

 そして。指揮官を今にも海中に引きずり込みあなたを殺して私も死ぬとでも言わんばかりの負のオーラを纏った赤城を加賀が必死で引きはがして別室に連れて行った後のことである。

 件の少女は、オレンジ色の防寒服を脱ぎ捨てて、若草色のシャツとパンツのみの格好に一枚マントを羽織る格好になっていた。季節は夏である。オレンジ色の防寒具を着込むにはあまりにも酷な気温と湿度だった。

 さらさらとした銀色の髪の毛を腰まで伸ばしていた。くりくりとした青い目はまるで西洋人形のように美しい。女子学生ほどの年齢だろうか、北方連合出身の人種のようでもあったが、艤装を付けていようが外そうが取ることのできない『犬の耳と尻尾』が生えていて、北方連合でありながら重桜のようでもある不思議な容姿をしていた。もっともハムマンのように重桜ではないのにケモノの耳が生えている船舶少女もいるので、例外はあるのかもしれないが。

 

「Здравствуйте!」

「なんだって?」

 

 少女が巻き舌を多用する独特な発音で何かをしゃべった。

 

「簡単だよ。勉強して」

 

 思わず指揮官は少女の口から漏れ出した言葉に首を傾げてしまった。ロイヤルや鉄血の言葉ならわかるが、少女のそれは聞き覚えはあっても、意味が理解できなかった。

 船舶少女には、違う言語を習得しているものも少なくない。例えば響は『戦争』においてロシアに引き渡された経歴からロシア語がわかるし、雪風は中国に引き渡されたことから中国語がわかるし、フェニックスはアルゼンチンに渡ったことでスペイン語がわかるし、ロイヤル生まれの金剛は重桜陣営側でありながらネイティブ並みの(イギリス訛りがあるが)英語が話せる。件の発音は、ロシア語すなわちこちらの世界における北方連合の言葉に近かったが、北方連合の容姿で重桜特有の犬耳を持つ娘を、一同は思いつかないでいた。

 

「名前、思い出せないのか? 例えば昔何やってたとか、それくらいはわかるんじゃないのかな」

 

 艦隊事実上のナンバーツーの兄貴ことクリーブランドが、彼女の薄着にはらはらしながら問いかけた。ちなみにマントをつけていない。少女がまさかのパンツ一枚だったのであわてて自分のを脱いで着せたからだ。

 少女はうーんと唸ると、天井を仰いだ。

 

「戦争はやった。あと……測量? とか。あと、救助とか。寒いところもいった。灯台とか運んだ。魚捕まえる人たちも助けた。あとは……海に出ていくみんな、ずっと見てる。わんわんとぺんぺんすき」

 

 たどたどしい喋り方をしているが大まかはわかった。『戦争』を生き残った船であると考えてもよいだろう。

 指揮官は艦隊の主力であり事実上のエースであるエンタープライズに手招きをして部屋の隅に移動した。

 

「どう思う?」

「どうとは? 本人が思い出せないと言ってる以上仕方がないと思う。無理に思い出させてもいい結果は生まないだろう。ゆっくり思い出せるように皆で対応していくべきだ」

「エンタープライス、お前はあの子に見覚えはないか? まさかユニオンの船とも思えないがな」

「ないな。だが工作船や潜水艦は表に立つこと自体稀だ。計画倒れで終わった船舶少女が建造されることもある。本人の話を聞くと測量船や病院船か、あるいは軍部の徴発を受けた民間商船の可能性がある。私も資料を当たってみる」

「明石!」

「なににゃ」

 

 指揮官はふむんと喉を鳴らすと明石を手招きした。

 明石はとてとてと小走りしてくると、おもむろに指揮官の足に体を擦り付けつつ背後に回る。指揮官は手慣れた動きで喉を触った。ごろごろごろと明石が喉を鳴らしているのを、エンタープライズがどこか羨ましそうな目つきで見ていた。

 

「とりあえずあの子の面倒を頼みたい。工作船か測量船だったらしいからもしかすると仕事ができるかもしれんし」

「えー……明石はとっても忙しいにゃ………」

「今度かつおぶし奢るからさ」

「!! ふ、ふんにゃ。明石は猫じゃないにゃ! 猫じゃないけどかつおぶしは好きにゃ。仕方がないにゃ大船に乗ったつもりでいるといいにゃ!」

「それでいいのか……」

 

 一瞬で懐柔されて耳をぴこぴこさせる明石を見てエンタープライズが複雑そうな顔をしていた。

 

「話には聞いたぞ。重桜寮への道案内、余が勤めようぞ」

 

 扉が開くと、連合艦隊旗艦である長門が姿を現した。

 もっとも、この艦隊においては一介の船でしかない。敵が重桜とて、現在はアズールレーン側の船として戦っていた。そしてかつてとは違い、最前線で指揮を取り自らも大砲を撃つ役割を担っていた。艤装が損傷を受けたために出撃できず、時間をもてあましていたのだ。

 ぴんと立った黒い耳に、あどけない幼さ残る顔立ち。成熟しつつある肢体を持つくだんの少女と比べれば、どこか威厳がない。というと本人が怒るので誰もそうしたことは口にしないのだが。

 とはいっても、彼女は容姿はともかく戦後まで戦い抜いた古強者である。アズールレーンの艦隊では誰もが敬意を払う存在である。

 少女はふーんと身を乗り出すと、おもむろにとことこと歩み寄った。腰を折り、身を屈める。

 

「駆逐艦の子? かわいいね」

 

 無作法な言葉に長門の顔面がヤカンよろしく沸騰した。

 

「くちっ……!? よ、余は聞いて驚け連合艦隊旗艦! ビッグセブンに数えられる弩級戦艦長門であもごっ!?」

 

 どうだと胸を張り声を張り上げる長門だったが、にこにこと笑う少女に正面から抱きしめられて黙るしかなかった。たわわな胸に抱きしめられじたばたしている。

 

「かわいいね。寮、連れてってくれるの? ありがと」

「余は子供ではないのだ! 連合艦むごごご!」

 

 間に明石が割って入った。しっとりとした豊かな胸元で長門が溺死しないで済んだ。

 

「すとーっぷにゃ。じゃ、長門はこの子を寮に連れて行くにゃ。明石は用事があるにゃ」

「………ふむ、任せよ。よし付いてくるがよいぞ。えーっと、えー名前は?」

 

 名前を呼ぼうとした長門は気がついた。名前がわからないのだ。

 

「うー……」

「名前思い出せない。えーっと、ねこちゃんって呼んで」

 

 あからさまに長門の耳を見ながらそういってのけた少女に、長門がぷりぷりと腕を組み頬を膨らませた。

 

「誰が猫か! 余は……」

「そこまでだ二人とも。じゃあねこちゃんは長門に寮に連れて行ってもらうこと。部屋がわかったら明石の工房に行け。働かざるもの食うべからずだ。なんもできなくても雑用くらいはしてもらうぞ」

「はーい」

「指揮官。私は何かやることはある?」

 

 クリーブランドが手を挙げた。

 指揮官はふむと顎に手を置くと、少女が身に着けているマントを見つめた。

 

「服だな……あの防寒具着せてもいいんだが、暑い暑いいってすぐ脱ぐだろ。まともな服の用意が必要だ。クリーブランド、妹たちの古着をいつも繕ってるだろ。余分なやつがあるんじゃないのか?」

「えっ……よく知ってるね。いいよ! 仕方ないなあ」

「ああ、せっせと縫い物してるの何度か見てるからなあ。クリーブランドはえらいよ」

 

 クリーブランドがでへへと頬を押さえて恥ずかしそうに目元を緩める。

 

「えほん、ごほん! 指揮官。惚気話はその辺にして執務に戻って欲しいんだが」

「なんのことだ?」

 

 指揮官が首を傾げるとエンタープライズが目頭を軽く揉み解した。

 

「これがなければいいんだがなあ」

「何の話だ……?」

 

 

 

 

 

 

「めんどくさいにゃー」

 

 明石は大層働き者で、同時に怠けものだった。艦隊の整備や設備備品の運用のエキスパートではあったが、内面は猫そのもので怠けたくて仕方が無かったのだった。商売敵の不知火がいなければもっと怠けられるというが、ことあるごとに毒舌を投げつけてくるあのいけ好かない女には負けたくなかった。

 艦隊ドックに向けて歩いて歩いていた。手には大きい棒アイスを持って。猫は布団で丸くなるなどといわれることもあるが、暑いものは暑いのだ。アイスを食べて何が悪い。ぺろぺろと舐めつつ、目を棒のように細くして、肢体を動かす。

 なんとなく、嫌な気配がした。それは獣じみたシックスセンスに頼るまでもなくにおいがした。

 

「にゃ? 明石は忙しいにゃ……にゃあああああっ!? 犬! 犬がいるにゃ!?」

 

 振り返って明石は仰天した。黒い犬が二頭こちらを見つめてきているではないか。しかも、明石が驚きのあまり踵を返した。

 

「わんわんわん!」

「わんわんっ!!!!」

 

 明石はアイスを口に咥えると元気欲走り始めた。しかし犬相手に逃げるというのは悪手である。犬というのは逃げるものを追いかける習性があるからだ。

 

「うにゃああああ! 明石はご飯じゃないにゃあああ!」

 

 

 

 

 一方そのころ、寮を案内された少女は、長門先導の元でドックに向かっていた。

 

「そろそろ余から手を離してくれぬか……余は子供ではないぞ」

「ん? だっこがいいの?」

「そうじゃない! うぅ……陸奥ぅ………なんだかこの子苦手だよぉ……」

 

 長門が威厳を発揮しようと精一杯背伸びをしてみても、それっぽい口調を使ってみても、ぬかに釘だった。まるで馬耳東風で、通用しない。完全に子ども扱いされていた。まるで迷子のように手を繋がれて案内するはずが迷子の子供を交番に連れて行く最中のような格好になっていた。どうやら誰かを道案内するのは得意らしく、行動に迷いが無い。とはいえ母港の構造までは知らないのでそのつど長門に道を聞いてくるのだが。

 少女は銀色の髪の毛を揺らし、西洋人形のように整った顔立ちで周囲をきょろきょろと見回している。クリーブランドのマントを羽織っているせいか、作業員たちが新しいクリーブランドの姉妹の一人だろうかと首をかしげていた。

 

「あっちね。あっちに行けばドックなのね?」

「……う、うん。そういえばお主の名前を聞いてなかったが………なんと呼べばよいのだ?」

「あーそれ思い出せないんだよね。にゃんにゃんって呼んで……やっぱりわんわんって呼んで」

「わんわん……そ、そのような恥ずかしい呼び名など呼べるはずがなかろうっ。あっ、とと」

「大丈夫?」

「うぅ……」

 

 恥ずかしいと言わんばかりに赤面して手で頬を覆う少女は、長門が躓いたことに素早く対応した。すぐに手を支えて転ばないようにする。

 長門は転びそうになったことで恥ずかしくなったのか俯いていた。

 

「………ありがとう……」

「んーいいよ、もう少しゆっくり歩くね」

 

 長門は、重桜――日本帝国の長門型戦艦ネームシップにして、同型艦は陸奥以外には建造されなかった。姉であるがために、こんな感覚は抱かなかった。

 

(なんだか………一緒にいると、あんしんする………)

 

 手をつないで歩いていると、心がどんどんと満たされていく気がした。

 そう思ったのもつかの間、ドックの方角から犬の鳴き声が響いてくると明石がシャカシャカと腕を振りながら全力疾走で逃げてきた。

 

「にゃあああああっ! 犬は苦手にゃあああっ!」

「おい、基地内で走るな。危ないだろ。おっ、な、なんだこいつらは!?」

 

 疲れきった表情のジャン・バールがコーヒー片手に歩いていた。さぼっていた……わけではなく委託から帰ってきてくたくただったのだ。猛烈な勢いで走ってくる明石を見て、それから背後から犬二匹が迫っているのを見て仰天した。

 

「あとは任せたにゃ!」

「ハッ、これくらいで怯むオレじゃうあああっ!?」

 

 明石がすたこらさっさとジャン・バールに犬を押し付ける。そしてそのままの速度で逃げていった。

 押し付けられたジャン・バールはたまったものではない。犬のダイブを食らってあえなく転倒。それでもコーヒーを落とさず地面においてから対応したのはさすがとしか言いようが無い。顔中を舐められるわかがれるわではたから見ていると襲われているようだった。

 

「オレに甘えるな!! ご主人様のところに行け! 顔を舐めるなと言ってるんだ!」

 

 犬は立派な体躯を持つ樺太犬で、二匹がいっせいに飛び掛れば艤装を展開していないジャン・バールが対抗できるはずもない。あっという間に押し倒されめちゃくちゃにされる。

 

「あ、舐めちゃだめ。あとでご飯あげるから……ね?」

 

 そこへ落ち着き払った様子で少女がやってきた。二匹を見て手を挙げる。すぐに二匹は離れると、少女のもとでお座りをした。

 

「………」

 

 少女は犬を見つめていたが、すぐに大きく目を見開いた。

 

「この犬、もしかしてお主のものなのか?」

「………」

 

 沈黙して喋らない少女に長門が不思議そうに問いかけた。

 少女はややって口を開いて、

 

『空襲警報発令! 空襲警報発令! これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない! レッドアクシズ所属航空機飛来! 繰り返す!』

 

 空襲警報のサイレンが鳴った。数々の防空網と監視を掻い潜って、基地すぐそばまで敵が迫っていることをみなは知らなかった。『戦争』『大戦』で米軍が行った日本本土初の空襲に近い作戦であることも。

 ジャン・バールの行動は早かった。よだれ塗れの顔を手の甲で拭うと、鋭い視線をキッと空に向けた。

 

「う、うかつな! 鉄機を近寄せるなど見張りは何をしていたのだ!」

「おい、長門。すぐ艤装を展開しろ。チッ。弾薬は積んできてないぞ。これじゃいい的だ……はっ、いいだろうかかってくるがいい。武装をオレに向けて全て使い切ってみせろ!」

 

 すぐさま艤装を展開したジャン・バールが長門に言った。委託任務で弾薬をほぼ使い果たしたジャン・バールは補給さえ終わっていなかった。海上に出ても的になるだけであろうが、やるしかなかった。コーヒーを蹴っ飛ばしながら海へと走っていく。

 

「艤装が……くっ、修理にさえ出していなければ! どうすれば……!?」

 

 長門はうろたえていた。身を守るように腕を不安そうに胸の前にやって、周囲を見回している。艤装を展開していない船舶少女など、ただのボートに過ぎない。

 長門の視界が塞がれた。少女がクリーブランドのマントを脱いで、それを長門に渡したのだ。

 

「預かっていて」

「しかし!」

 

 敵機のエンジン音が響きだした。基地のどこかに爆弾が落ちたのか、火柱が上がり、地が揺れる。

 少女が笑うと、次の瞬間空間から艤装が生えた。オレンジ色の塗装をした船体が現れたかと思えば、次の瞬間には黒に近い色になる。クレーンや大型のマストを備えた船体に、各種対空砲を備えていた。その手にはオレンジ色に塗られた大きい斧を携えていた。

 

「今度は私が守るから――――名前、思い出した。私の名前はね」

 

 

 

 

 

 

 戦闘後、謎の少女の活躍もあって基地への大きい被害はなかった。敵はもとより長時間攻撃を続けるつもりはなかったのか、最初の打撃を加えたあとすぐに撤退していった。

 エンタープライズが仕事に追われる指揮官の机に淹れたてのコーヒーを置く。そして窓に歩いていくと、せっせと資材の運搬に携わる少女を見つめた。

 

「指揮官。彼女の名前がわかったぞ。襲撃のあとの忙しい時間ですまないな。最初は貨物船。特務艦。灯台補給船。巡視船。そして、博物館にもなった。戦争を最初から最後まで生き抜いて、ほかのどんな船よりも長生きした。平和になった世の中で、大勢の後輩たちが旅立っていくのを見守り続けた船。それは一隻しかありえない」

 

「決して沈まなかった船。戦争後も国民のために尽くした船。奇跡の船――彼女の名前は、宗谷だ」



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