衛宮ぐだ子(本名にあらず) (ぐだ男よりもぐだ子がすきだぁ!)
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召喚

色々頭の中にネタがあるけど上手くまとまるか不安です。



 素に銀と鉄。礎に石と契約の大公———

 祖には我が大師×××××———

 

 

 

 聖杯により簡略化された英霊召喚の術式に独自のアレンジを幾重にも重ねた魔法陣が光りだす。男は己が悲願が達成されるであろうことを夢想しながら、魔法陣の中央に置かれた二つの触媒が入った箱を見て、口角を吊り上がる。

 これだけの用意をしたのだ。むしろ狙った英霊が来ないはずがない。詠唱の途中にも関わらず、彼の心は確信に満ち溢れていた。

 

 

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ———

 

 

 降霊科随一の神童?

 アーチボルト家の当主?

 全てくだらない。結局、奴は前回の戦いで無様に死したではないか。

 故に誰が評価されるべきかを知らしめるべく、男は戦いに馳せ参じると決めたのだ。こと降霊術において自分の横に出るものなどいなかったのだと宣言するために。

 

 

 我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ———

 

 

 光が一層神々しさを増したかと思えば、その場の空気が確かに震え出す。男の執念は、()()()()()()()()()召喚を成しえたのだ!

 埃が舞う中を、がしゃり、がしゃりと音を立て歩み寄る存在がいる。その英霊は周囲をゆっくりと眺めた後で、視線を男に向ける。

 

 

「まさか聖杯を求めるための使い魔として強制的に呼び出されるとは……失礼。驚くよりもまず先に挨拶を済ませておくべきだろう。

 ———サーヴァント・セイバー。召喚に応じ参上した」

 

 騎士の静謐な佇まい。

 反して騎士を呼び出した男は高らかに笑っていた。味方であるセイバー以外に誰もいないこの場所で、さながらそれは己の勝利を宣言するようだった。

 

「…時に魔術師よ。私の足元にある箱の中身は、貴様が掘り起こしたと見ていいのだろうか?」

 

 箱の中には二つの触媒が入っている。男はその問答に頷いた。とある海辺の国に祀られていた()()を掘り起こしたのは間違い無く自分であると。

 

「———そうか」

 

 かしゃり、と騎士は腰に掛けた剣を鞘から抜く。その眼光は、今まさに目の前の自分を斬り殺さんとする者の目だった。

 魔術師はすぐさま令呪を使い、服従を命じる。しかし、

 

「悪いが()()()私に、呪いの類は通用しない」

 

 次の瞬間、男の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一昨日、セイバーのサーヴァントが召喚されたことを確認した。もう枠は一つだ。早く召喚を済ませるのだな』

 

 今朝方、留守電に入れられていた忌み嫌う神父のお告げに少女は苛立ちを募らせていた。神父自身に対する苛立ちだけでなく、主にはその内容に。

 彼女———遠坂凛が最も優秀なクラスと睨んでいたセイバークラスが召喚された。触媒が手に入らなかった凛はギリギリまで待っていたのだが、それはどうやら裏目に出たらしい。

 

「はぁ……まぁいいか」

 

 聖杯戦争はサーヴァントの質が勝敗を喫する最重要のファクターだが、マスターの質だって重要だ。その点で言えば奢りではなく、実力に裏打ちされた自信がある。

 

「見てなさいよ!私からセイバーを横取りしたこの恨み、きっちり十倍にして返してやるんだから!」

 

 誰とも知れぬマスターに理不尽な恨み言を言い放ち、ずかずかと魔術工房へと足運ぶ。残る三大騎士のクラスの一つ、アーチャーを呼び出すために。

 

 

 ———そして、その二日後、一人の少女の運命が流転し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 




タグからネタバレを防ぐべきなのか、最初から思いつく限り全部つけるべきなのかよくわかりません。


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出会い

機種変してレアルタのデータ消えてしまってちょっぴり残念…
またインストールしてUBWとHFに三千円払わにゃいかんのだろうか…


(殺された!殺された!殺された!!絶対に殺された!!!)

 

 だけど生きている。しかし、『お前は一度殺されたのだ』と血だらけの制服と胸に残る痛みが告げているようだ。

 意識がしっかりと戻る頃には、ぐだ子こと衛宮立香は自分の足が自宅に向かっていることがわかった。息絶え絶えのまま昔のながらの風情溢れる衛宮邸に到着する。

 

 

『見られたからには殺すだけだ』

 

 

 あの槍使いはそう言っていた。必ず殺しにくる。休む暇はない。

 

(武器だ……倒すまでとは行かずとも、撤退させるくらいのやつ……)

 

 見慣れた居間をキョロキョロと見渡してみるが、それらしきものは………『恋のラブリーレンジャーランド。いいから来てくれ、自衛会』。

 

(藤ねえが持ってきた青年団の団員募集ポスター……あれの初回限定版は豪華鉄板仕様……いやいやいや、槍相手には無理だって!)

 

 血が不足していてバカな考えが頭に浮かんだのだろう。だが直ぐにその考えはダメだと首を振る。

 他に何かないのか、ぐだ子は周囲を見渡すがやはり何もない。

 

(こうなったら土倉に……)

 

「っ!」

 

 考えに耽っていると、何か渇いた音が家に響いた。衛宮邸の結界が侵入者に反応したのだ。

 

(わたしの命がこんな一枚のポスターにかかっているなんて……)

 

 不覚。そう言わんばかりに荒々しく初回限定版だけを抜き取る。

 

「———同調(トレース)開始(オン)

 

 施行するのは強化魔術。心を落ち着かせ、丸めたポスターの強度を高める。

 

(当面の間はこれが生命線。早いところ土倉に駆け込むのがベスト!)

 

 とにかく心許ないポスターを早く捨てたい。その一心で居間を出ようとした時に、頭上から悪寒が走る。

 ほぼ反射的に姿勢を倒し、体を空中に放った。ぐだ子が元いた場所には、青い装束の槍使いが落下する。

 

「…余計な手間を見えていれば痛かろうと……」

 

「出たな!この人殺し!」

 

 目尻に涙を浮かべながら立ち上がる。敵は何か言いかけていたようだが、ぐだ子にとって重要なのは虚勢でもなんでもいい、ただ恐怖を紛らわせ、体の動きを鈍らせないための勢いだ。

 そしてそのままポスターを持ち直し、構えるは正眼。

 

「…どうとでも言え。事実を言われたって否定はしねぇ」

 

 ぐだ子には興味がない、そう言わんばかりの気怠い態度だ。

 先に動いたのは槍使い。闘うには決して広くない居間を朱色の槍が走る。ぐだ子はその動きに合わせてポスターを当て、軽く身を屈めながら軌道をそらす。

 

「——!……ほう、武術に覚えありってか?」

 

 槍が払われ、敵の体が開いた瞬間を狙い、ぐだ子は踏み込む。鉄板仕様に強化魔術、さらに藤ねえ譲りの剣術。これらを合わせて敵の脳天に一撃を加えればタダでは済むまい。

 

(取った———!)

 

 だん!と踏み込む音が響き、次いでポスターが何かに当たった音と感触。しかし、それに違和感を覚えたのはその直後だ。

 

「んだよこれは、紙切れじゃねぇのか?」

 

 槍使いは左腕でガードし、何事もなかったかのようにポスターに関心を寄せている。ぐだ子はすぐに後じさり、再びポスターを構え直す。すると、見据え直した敵の表情には先ほどとは違って色があった。格下相手に少しは遊んでやろう、そんな色が。

 

「はっ。変わった芸風にその負けん気、嫌いじゃねぇよ。———そら、次だ」

 

 敵は軽く槍振るっているようだが、受け止めたぐだ子にとってはあまりに重い一撃だ。さらに一回、二回、三回、息をつく余裕もなく、何度も何度も繰り返す。

 

「もう一回!」

 

 繰り返す度に良くなっていくぐだ子の剣筋。それに答えるかのように、槍使いは更に強く槍を突き出した。丸めたポスターのちょうど真ん中あたりでその刺突を防いだぐだ子の体が後ろへと流される。背後の襖に衝突し、退路が開けた!

 

(土倉に行くなら今しかない!)

 

 敵に背を向け逃亡。先ほどの一撃で曲がってしまったポスターを捨てて、ぐだ子は全力で爆走した。

 

「おいおい、戦士が背ェ向けちゃダメだろ」

 

 縁側に差し掛かったところで追いつかれる。だがそれをも御構い無しにガラス戸を体当たりで突き破り、ぐだ子は土倉に入り、門を閉じた。

 

「———同調(トレース)開始(オン)!」

 

 扉に魔力を込め、籠城。今のぐだ子にとっての最適解。あとは土倉にある鉄パイプを強化して構えるくらいはしておけばいいだろう。

 

「っつ……(いった)ぁ…」

 

 だが鉄パイプを拾う前に左手の甲に痛みがあるのがわかった。あまりの痛みに扉に寄りかかるように屈んでしまう。そして———

 

 

 

立香、僕はね——————

 

 

 走馬灯だろうか?死を覚悟したつもりはない。だけど、ぐだ子の昔の記憶が頭を過ぎった。父と月を見上げた夜のこと。炎の中で見た———

 

「———よう、少しは休めたかい?」

 

「なっ!?」

 

(嘘、なんで…)

 

 扉は破られていないのに、あの槍使いはぐだ子の背後を取っている。

 

「万策尽きた、そう見ていいのか?」

 

「……」

 

 籠城で時間稼ぎ。それをした時点で敗北を認めているようなものだ。

 

「…なんで……わたしを殺そうとするの?わたしが魔術を知らない一般人じゃないことくらいわかったはずだよね?」

 

 魔術師は基本的に日陰者。一般人の目を忍び、仮に目撃者がいようものならそれ相応の措置をとる。その結果で人を殺す者もいれば、ただ記憶を消すだけの者、とにかくそこら辺は個々人の裁量によるだろう。

 

「確かに、嬢ちゃんは魔術を知っているし、現に使っちゃいるがな、その様子から察するに、オレたちがやっている事の本質を理解してるってワケでもねぇんだろ?」

 

「……」

 

「まぁいいさ。少しは楽しませてくれた礼に教えてやるよ。薄々勘付いているだろうが、オレは魔術師じゃねぇし、そして人間でもない。聖杯を巡り相争うために召喚された使い魔(サーヴァント)だ」

 

「…聖杯?サーヴァント?」

 

「ま、聖杯と呼ばれちゃいるが、実際のところはオレにもよくわからんシロモノだ。とにかくなんでも願いを叶えてくれる願望機をそう呼んでるんだ。んで、聖杯を手に入れるべく、七人の魔術師たちがお互いのサーヴァントを殺し合わせる魔術戦。それをオレたちは聖杯戦争と読んでるワケだ」

 

「なによそれ、夢のために殺し合わせるって……あなたはそれでいいの?」

 

「いいもなにも、他の奴がそうかは知らんが、オレはそれを目的に呼ばれてやってんだぜ?まさか主人(マスター)たる魔術師より強いはずのサーヴァントが、無条件でそいつらに従ってるわけがない。サーヴァントにはサーヴァントの叶えたい願いがある。たとえその命を賭してもな。つっても、英霊たるオレたちはすでに死んだ身だがな」

 

「……」

 

 何故だろう?ぐだ子の胸中には確かな憤りがあった。

 

「それで……あなた達は関係ない人まで自分のお願いのために殺すの?…今日の、今のわたしみたいに」

 

「……まあ、そういうこったな」

 

(…ああ、なんとなく、よくわからないけど、わかった気がする)

 

 

 

立香、僕はね——————

 

 

 昔の言葉が蘇る。それと同じくして朱色の閃光が自分の胸を貫かんと煌めいた。

 

衛宮立香(わたし)は多分———)

 

 左手の痛みが増していく。だがそんなことはどうでもいい。そんなことよりも、この憤りの正体は———

 

「あなた達みたいなのが許せないんだと思う……!」

 

 呟きの後、ぐだ子は勢いよく背後の土倉の扉を叩く。

 

同調(トレース)開始(オン)!!!」

 

 施行するは強化魔術。そしてありったけの魔力を込める。ただそれだけ、ただそれだけで土倉の扉が軋みを上げ始める!

 

「———っ!」

 

 大きな音を立て扉が砕かれた。砂塵が舞い、朱色の閃光はその輝きを鈍らせる。

 

「悪足掻きを———……っ!?」

 

 槍使いはぐだ子が外に逃げると思ったのだろう。しかし、ぐだ子は低い姿勢で槍使いの脇をかすめると、床に置いてあった鉄パイプを拾い上げる。そして、振り向きざまにそれを薙ぎながら叫ぶ。

 

同調(トレース)開始(オン)!!!」

 

 鉄パイプだけではない。自分の体をも強化魔術で魔力を回し、槍使いを殴った。ぐだ子の予想外の動きに驚愕しつつも、槍使いは対応する。先ほどの薙ぎは槍に阻まれ、甲高い音が耳を劈いた。だが、体勢が悪かったのか、ぐだ子の攻撃の勢いを殺しきれず、槍使いは後ろへ押され、土倉の外に出る。

 

「いいじゃねぇか!そのまっすぐな眼!出会い方が違けりゃ惚れそうだぜ、嬢ちゃん!」

 

 砂埃の中から出てきたぐだ子を見て、高揚した槍使いは叫ぶ。

 

「如何なる覚悟を決めたのかは知らんが、恐れは消え、生に固執し、ただ目の前の敵に殺気を向けている。いいねぇ、思わず殺気(それ)に当てられて本気出しちまいそうだ」

 

 槍使いの構えが変わる。先ほどまでの余裕を捨て、腰を低くし両手で槍を握る。

 

「だがよ、あんなデケェ音たてられちまったら遊びは終いだ。関係ないヤツ巻き込みたくないってんなら、ここで大人しく死ぬってのが一番だと思うぜ」

 

 槍使いが駆け出した。その獣のような動きは、校庭で見せたそれと似ている。ぐだ子にはその動きがはっきりと見えていた。だが、たとえ強化していようと反応し切るだけの身体能力がぐだ子にはない。

 

(それでも、わたしは死んではいけない。この命は二度も助けられたんだから……)

 

 生きて何かを成すべきだ。その何かはわからないけれど……。

 ただ直感的に鉄パイプを正眼に構え、流れに身を任せる。下手に避けようとすれば殺される。それだけはわかっていたから。

 

(———来い!!)

 

 しかし、ぐだ子が構え直した時、獣の如き槍使いと彼女の間に一つの影が現れる。

 

 

「そう、幕引きだ。だが、死ぬのはそちらの乙女ではない」

 

 

「「———っ!?」」

 

 その声が先だったのか、それとも朱色の槍と闖入者の剣が火花と金属音を散らしたのが先だったのかは判別がつかない。だが、その声は確かにぐだ子と槍使いの耳に届いた。

 

「腹立たしいことこの上ないな。まさかこの戦いには、純真なる乙女に仇なす悪漢しか湧かないのか?」

 紫を基調とした甲冑に静謐な佇まい。呆気にとられていたぐだ子には、自分を助けてくれた男はとても高尚な存在なのではないかと思うほどに静かに見えた。

 

「何者だ、なんて聞くまでもなさそうだ。これまた真っ当で堅物そうな英霊様だな。行方知れずだったセイバーさんよぉ…!」

 

「そちらも聞くまでもなさそうだ。力なき者を殺そうとする下衆が。それほどまでに願望に執着する貴様はもはや英雄と呼ぶには相応しくない」

 

「ハッ、時として理不尽な命令に従うのも英雄だと思うがね」

 

「否、英雄とは理不尽に立ち向かい、弱きを助け、強きを挫く者」

 

 刹那の間に火花が散った。それも一つではなく、複数だ。

 双方とも人間離れした動きだが、その質はまるで違った。騎士のそれは獣の如き槍兵とは真反対、理性の宿る剣捌き。

 自身の置かれた状況を忘れ、ぐだ子はただそれに見惚れていた。

 攻守は目まぐるしく入れ替わる。理性と本能のぶつかり合い。そして互いに攻勢に出た一撃が一際 大きな燐光を放ち、二人の戦士は後退る。

 大きく開いた距離。どちらの間合いでもなく、ただ静かに睨み合う。一瞬だが長い静寂が流れ、口火を切ったのは槍使いの方だ。

 

「止めにしないか?テメェを殺すには時間が足りん。流石に目撃者を増やしたくない」

 

「なら己が主人の元に帰るがいい」

 

「わからねぇヤロウだな。オレはテメェの後ろの小娘を殺しに来たんだ。それともオレが帰れば、代わりにテメェがソイツを殺してくれんのかよ」

 

「わかっていないのは貴様だ。私は殺されかかった無辜の命を救いに来たのだ」

 

 槍使いは剣士の態度に大きな舌打ちをし、さらに構えを変える。右手に握られた朱色の槍が不気味な雰囲気を纏い始める。

 その雰囲気、その構え。すべてぐだ子には見覚えがあった。槍使いがあの校庭で彼女の視線に気づく直前に見せたものだ。

 

「いいぜ、だったらそこの小娘の前にテメェが死にな」

 

「悪いが、私は現界を続けてやるべきことがある。ここは貴様の引き際だぞ、槍兵…」

 

 緊張が最高潮に達するその瞬間、槍が纏う邪気が放たれる!

 

「“刺し穿つ(ゲイ)———」

 

 その邪気、そして槍兵の殺気の全てが剣士に注がれる。だが、剣士はただ悠然と構えを崩さず敵を見据えていた。

「——————死棘の槍(ボルグ)”!」

 

 まさしく必殺。まさしく必中。闇を駆け抜けるその閃光は、まるで剣士の死を運命付ける呪いそのものなのではないか、とぐだ子には思えた。

 

「…なんだと!?」

 

 ———その剣士が、胸に突き付けられた槍の穂先を握るまでは。

 

「言ったはずだ。アイルランドの光の御子(クー・フーリン)、ここは貴様の引き際だと」

 

「チッ!」

 

 振り下ろされた剣。それを紙一重で躱し切る槍使い。またも二人の戦士は距離を取る。

 

「驚いた。今のは確実に取ったと思ったのだが……貴様ほど動きが異常な者と闘うのは初めてかも知れん」

 

「そりゃあ、コッチのセリフだよ。やっぱり聞いておくが、テメェ一体何者だ?」

 

「故あって主人を失ったサーヴァントだ。悪いが人の身に余る神秘を浴びて昇天した経緯がある故、貴様の魔槍の呪いが効くことはない」

 

「……正体わかった相手には名乗る主義か?その王道っぷりはこの戦いには不向きだろうな」

 

 そう言い残すと槍使い———クー・フーリンは踵を返す。

 

「…帰るのか?」

 

「あぁ、その娘について言えば、どうやらオレの仕事じゃなくなったらしい」

 

 クー・フーリンが何もない虚空に……否、頭上から飛んでくる矢に向かって魔槍を払った。その矢が飛んできた方向——つまりは、衛宮邸の塀の上には赤い装束を纏った弓兵が弓を構えていた。

 

「よぉ、また会ったな、アーチャー。悪りぃが後のことはオメェんとこの嬢ちゃんに任せるわ」

 

 クー・フーリンの姿が一瞬にして透明になると、ぐだ子は緊張感が途切れ、その場にへたりと座り込む。

 

「すまない、これは君の戦いだっただろうか?歴然とした実力差故に、手を出してしまった」

 

 剣を鞘に仕舞った騎士が手を差し伸べ、ぐだ子はそれに応じて手を握り立ち上がる。

 

「ううん、助けてくれてありがとう。あ……えっと、衛宮立香って言います。なんでか知らないけどみんなわたしを『ぐだ子』って呼ぶけど…」

 

「言っただろう。私が勝手に我が騎士道に従い君を助けただけだ。君が謝辞を述べる必要はない。

 名乗って頂いた以上は私も真名を明かそう。我が名はギャラハッド。円卓最強の騎士、サー・ランスロットを父に持つ者だ」

 

 




*ぐだ子の基本ステータスは士郎のものとは異なります。
ギャラハッドはオリジナル要素が満載。一話で言及した通り本来ありえない召喚です。
ちなみに昔読了したサトクリフさんのアーサー王伝説とネットで調べた知識を参考にしてます。


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銀髪の少女

およそ一年ぶりの投稿です。



 青みがかかり始めた白んだ空を見上げ、ゆっくりと目を閉じ、冷えた空気を深く吸う。

 右の指先で矢を弓の弦にあてがい、後ろに引く。

 弦が張りつめ、弓伝いに軋む感触を感じながら、ぐだ子は閉じていた瞳を開いた。動体視力は言わずもがな、遠近の調節も、その赤銅の瞳が得意とするところ。ぐだ子は狙うべき的の中心をこの場の誰よりも鮮明に見据えることが出来た。

 

(…いける────!)

 

 確信とともに、矢を摘んでいた指先を開いた。

 

 ()()()()()ぐだ子にとっての単純作業、日常動作と言っても差し支えないかもしれない。張りつめられた緊張は、弓の弦の弛緩に伴い途絶えていく。それは先ほどの確信が揺らぐ瞬間だ。

 放たれた矢は緩やかな放物線を描きながら減衰していき、矢道に着地。

 外れた。そのことを認識すると、いつもの如く大きなため息が出ていた。直後に背後から控えめな拍手の音が聞こえてきた。

 

「す…凄いです先輩。矢を離す直前まで命中するって思いました」

 

 いつも朝になると家事を手伝いに来てくれる後輩──間桐桜は硬い笑顔でぐだ子を賞賛している…というよりは気を使ってくれている。いつものことだ。そのなんとも言えない拍手に対して、ぐだ子は微妙な微笑みを浮かべながら射場から下がる。

 

「射るまでの所作だけは一級品なのよね、ぐだ子は」

 

  「もったいない」そう言いたげな美綴綾子の表情にも苦笑で応える。

 

「わたしに期待してないで練習すればいいのに…」

 

「そうは言ってもさ、あんたの集中がここ一番って時はどうにも人目を惹くのよね。一人だけ修行僧みたいな雰囲気出し始めてさ」

 

「わかります、その感じ。先輩は集中している時だけは雰囲気違いますし」

 

 この話題…と言うよりはこのことに関する二人の反応は、ぐだ子にとって苦手なものだった。誇るべきことでもない。フォローされるべきことでも、されたいことでもないからだ。

 

「はっ、まぁたそうやって下手くそ女のことおだてちゃってさあ。正直言って見ていて痛々しいって言うか、目障りなんだよね。そう言うの」

 

 二人の後ろからの男の声。それが桜の兄、間桐慎二であることは三人ともそちらを向く前からわかっていた。

 

「なに、人のいいところを褒めてなんか問題あるわけ?」

 

 ぐだ子を侮辱する旨の言葉を吐いた慎二に刺々しい言葉を投げかける美綴。だが、慎二は悪びれることもなく、ただ鼻で笑うだけだ。

 

「問題大ありだよ。才能ない奴がいるだけで僕の士気に関わるからね。いつまでたっても的を射れない下手くそなんて、早いとこ退部させちまえばいいのにさ」

 

「兄さん、そんな言い方は…」

 

「いいよ桜、綾子もさ。そいつの言ってることは事実だし」

 

 またもぐだ子は困ったように微笑する。そんなぐだ子を見て、慎二は不快そうに顔を歪めながら、

 

「お前ってさ、自分のことになると途端に張り合いがなくなるよな。そういう()()()()なところが嫌いなんだよ、衛宮」

 

 そう言い残し、射場に歩んでいく。

 

「すみません、先輩。…兄さん、あんな言い方してるけど先輩のことは友達だと思っているはずなので……その、あんまり気になさらないで下さいね」

 

「そうそう、あんなヤツの話を間に受けて退部なんてしたらぶん殴るからね。どうせ慎二は昨日のこと気にしてんのよ」

 

 昨日のこと、おそらく慎二が女子を集め、新入生の男子がなかなか命中させられないことを笑い者にしていたのをぐだ子が止めに入ったことだろう。

 

「別に、わたしは気にしてないし、退部もしないよ。慎二には悪いけどね」

 

 的を射ることに繋がらない所作を褒められるのは嫌いだ。だが、慎二の辛辣さは、むしろぐだ子にとって心地よいものだった。

 

(中途半端…か)

 

 彼らしく、とても的を射たいい表現だとぐだ子は内心で自嘲した。

 これがぐだ子が死に、生き返る夜の二日前。彼女にとっての何気ない日常の一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮立香。通称ぐだ子(由来は不明)。八方美人を絵に描いた遠坂凛とは美綴綾子を介して知り合った浅からぬ中である。今でこそ友人と括っているが、ぐだ子の身体に染み付いた薄い魔力に気付いてからはかなり警戒してた。ここ冬木の土地の管理者である遠坂家に断りもなく住み着いた魔術師が堂々と自分に近づくならば、それ相応の狙いがあるからに違いない。

 だが付き合いが長くなるにつれてその警戒は薄らいで行った。ぐだ子を監視しているうちに彼女が打算で人付き合いできる性格ではないことと、彼女の魔術の用途がわかったからだ。なんてことはない、一斉にご臨終を始めた学校の備品を隙あらば直して回っているだけの魔術使い。ただのお人好しの女の子だった。おそらく ぐだ子も凛の正体に勘付いた上で気を許しているのだろう。

 だからこそ、二人の間では魔術に関する一切の話題は暗黙のうちにタブーとなっていた。────だが、それも今日までだ。

 

 

 

「───今一度問おう、衛宮立香。聖杯戦争に参加するか否か」

 

 

 

 低く重々しい神父の問い掛けが、夜の教会に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の外。左手の甲に刻まれた聖痕 令呪を眺め、ぐだ子は神父の問い掛けと自らの答えを反芻した。考え抜いたなんて言えない。短い時間の中で、思考よりも感情を優先しただけだ。あの真紅の穂先を突きつけられた時の激情を。頭を過ぎった過去を。

 

「本当に後悔しないのね?」

 

 となりの赤いコートに身を包む美少女、遠坂凛の言葉にぐだ子は頷いた。

 

「今日はありがとね、凛。わたし一人じゃ収拾つかないっていうか、どうしたらいいかわかんなかった」

 

「いいのよ。フェアじゃないのが嫌いなことくらいアナタなら知ってるでしょ?」

 

 フェアじゃない、というのは ぐだ子の聖杯戦争への理解だけではなく令呪の画数についてもだろう。何故かぐだ子に分配された令呪は二画のみだったのを凛が言峰綺礼に交渉して融通を効かせてくれたのだ。

 

「話はつけてきたのか?」

 

 突如、闇の中を若い男の声が木霊した。何もなかった空間に二人の男の姿が型どられた。紫の甲冑のセイバー、赤い外套のアーチャー。先ほどの声は後者のモノだ。アーチャーの目はやけに刺々しく ぐだ子を射抜いていた。もはやぐだ子の出した決断など見透かしている。その上で彼女の意思を心底快く思っていないのだろう。 直後にアーチャーの右手に短刀が出現し、およそ常人では反応できない速度で ぐだ子の喉元に突きつけられる。その挙動の一切をぐだ子は捉えられたが、やはり動くことはままならない。

 アーチャーのその行動を制限できたであろうセイバーは目を瞑ったまま沈黙を保ち、凛は咎めるような視線をアーチャーに向ける。相対するぐだ子は自分よりも長身のアーチャーと視線を刺し交わす。

 

「忌々しい目つきだ。今夜は運良く生き残れただけの分際で、この先を戦い抜こうなどと論外甚だしい」

 

 否定はしない。事実ぐだ子は死にかけた。

 

「実力のない君が他を犠牲にして立ち続けたところで何もなし得ない。悪い事は言わない、今すぐ令呪を破棄しろ」

 

 針のような鋭い眼光だ。しかし、思いのほか ぐだ子は落ち着いた。

 

「別に、令呪がなくたって構わない。なくても わたしは戦うつもりだよ。・・・今はそう思ってる。わたしが相応しいから聖杯はわたしを選んだ、あのいけ好かない神父はそう言ってた。きっとわたしが戦いを望んだんだよ」

 

 (きっさき)は依然として首元にあるが、一歩前へ。皮膚を突き破る寸前の微かな痛みがあった。

 

 

「────あなたは敵だから、わたしを殺す権利がある。だけど、わたしは必ず生き残る」

 

 

 そうでなくてはならない。自信から来る言葉ではなく、自身が()()()()()使命感からくる言葉。はたから見れば愚公。策などまるでないが必ずや実力差を覆してやるという確固たる意志が ぐだ子を動かそうとしている。

 

「そこまでにしなさい、アーチャー」

 

 凛の非難を受け、(きっさき)が離れる。否、消えたという方が正しいだろう。アーチャーの剣は手品のように消えたのだから。

 

「そう怒るなマスター。これは私なりの優しさだ」

 

 降参、と言わんばかりにアーチャーは両手を挙げる。

 

「今夜はもう闘わない。ぐだ子を送り届けたら明日に備えましょう」

 

「フッ・・・それが出来たら理想的だがね」

 

 アーチャーの言葉の直後、がしゃん!と教会の門が乱暴に閉じられる!

 

「立香、私の後ろに」

 

 沈黙を保っていたセイバーは剣を構えて教会の正門から伸びる坂の下を見据えていた。アーチャーも同様に、いつの間にか凛の前に立ち臨戦体勢に入っていた。

 

 

「なーんだ、やっぱり貴女も参戦するのね。でもそうでなくっちゃ。せっかく日本に来たんだし」

 

 

 小鳥がさえずるような綺麗でか細い声だったが、その声ははっきりと耳に入ってきた。

 

 

「こんばんわ、お姉ちゃん」

 

 

 そこには闇に映える銀髪の少女と、化物と見紛う巨躯の戦士が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 




FGOのデータ消してしまって久しいのですが今ってギャラハッドって既出キャラですか?
もしそうならこの小説のやつは別物と思ってもらえるとありがたいです。


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