東方葉鬼花 (七色 壊)
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哀れな天邪鬼、悲しき姫君

昔書いた小説を載せてみました。個人的に評価が高い正邪と針妙丸。そして、二次創作ゲームの「瀬笈 葉」を登場させました。


「なんだ? お前は。ここはお前のような人間が来るところではない。即刻立ち去れい!」

 

異変解決に来た博麗の巫女「博麗霊夢」その目の前には天邪鬼「鬼人正」が、威武堂々の構えで立ちふさがっていた。

 

「はいそうですか……って立ち去る訳がないでしょ? 空中にこんなお城を建てて何考えてるのよ。」

 

霊夢は、そう言いながらいつもお祓い棒を正邪へと突き立てる。その本体からは不気味なオーラが溢れ出す。

 

「……ほう、そうかそのお祓い棒。自我を持っているようだな。そいつに導かれてやって来たって訳か。」

 

「何だって?」

 

霊夢はハッとお祓い棒を見るが特に変化はない模様。再び正邪と睨み合う。

 

「困ったもんだ。アレの代償が大きすぎたか。すんなり世の中をひっくり返せないもんだなぁ」

 

その言葉を聞いた霊夢の顔が僅かに引きつる。若干おずおずとした口調で口を開く霊夢。

 

「あんた、もしかして……本当に下克上を企んで……」

 

それを聞き正邪の口がにんまりとつり上がる。

 

「ふっふっふ、如何にも。これからは強者が力を失い、弱者がこの世を統べるのだ。」

 

自慢気に両腕を組み、仁王立ちする正邪。そんな正邪の前で当代博麗の巫女

 

「呆れたわ。そんな誰も得をしないようなことをする妖怪がいるなんて……」

 

霊夢がそんな事を呟いた。

 

「誰も得をしないだと……」

 

正邪も呟いた。先程とは真逆の怒りが滲み出たような声音で……

 

「我ら力弱き者達が如何に虐げられていたか、お前たちには分かるまい! ならば、何もかもひっくり返る逆さ城で口を念願の挫折を味わうがいい。」

 

そう叫ぶと同時に正邪が飛んだ。手には一枚のスペルカードが握られている。

 

「逆転『リバースヒエラルキー』!」

 

正邪が宣言すると同時に正邪を中心に赤い段幕が連なって飛び交い、直ぐ様霊夢の元へとやってくる。

 

「この程度の弾幕で……」

 

「まだ終わらせんぞ!」「ッツ!?」

 

正邪はそう叫ぶと片手を掲げ、親指を立てひっくり返した。

 

「落ちろ……」

 

その瞬間霊夢の立ち位置が一瞬にして間反対のほうへとひっくり返った。

 

「ぉおっとっと……なにこれ? 入れ替わった?!」

 

一瞬の出来事にさすがの霊夢も驚きを隠せないと言った顔で声を上げる。段幕は止めどなく流れてくる。

 

「私の能力はすべてをひっくり返す! その気になれば貴様との力関係だってひっくり返せるのだ。さあ人間よ、諦めてこの城から立ち去るのだ!…………っと?」

 

暫くの間段幕を張り続けているがここに来て正邪は妙な違和感に気ずき、辺りを見渡す。そしてさらに首を傾げる。

巫女が……いない?

 

「なっ!? どこだ! どこにいった!」

 

気づけば辺りには自分以外の影は見えなくなっていた。いつも通りの静かな逆さ城がそこにはあった。

 

「なんだ? 私の攻撃に恐れをなして逃げ帰ったか? まあ、無理のない。さて、静かになったし姫の元へと帰るとするか」

 

が、その直後正邪の真上から凛と澄んだ巫女の声が響いた。

 

「自分から段幕を止めてくれるなんて親切ね。お陰で手間が省けたわ」

 

「なにっ!?」

 

「霊符『夢想封印』」

 

正邪が振り替えるとそこには、七色に光る美しい段幕がこちらに向かって飛び交っていた

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ふう、こんなものね」

 

数分後の現在。霊夢は異変の主犯かもしれないこの天邪鬼を取り押さえることに成功した。縄でぐるぐる巻きにされた正邪は身動きひとつとれずにただもがく。

 

「おのれ巫女め。だが残念だな。異変の主犯は私ではない、私がいなくなっても姫さえいれば……我らは…………!」

 

「おい、天邪鬼。お前の言う姫ってこいつのことか?」

 

と、今度は違うほうから違う声が聞こえてきた。そこにいたのは白黒の魔法使いのような女とその背後、白黒に隠れるように立つ小さな女の子がいた。

 

「ひ……姫…………?」

 

正邪がそっと呟くと、少女は怯えたように白黒にしがみついた。

そして……

 

「こ、来ないで…………」

 

直後少女はしまったといった風に口を閉ざした。

ボソッと少女の口から漏れ出たその言葉に正邪の瞳は黒く濁った。

 

「…………姫……真実を知ってしまったんですね。私があなたを騙していることも……利用しているだけのことも……」

 

「正邪……あの……」

 

正邪は少女の言葉にを遮るように、ふらふらと立ち上がり巫女とは向き合った。

 

「私はまだ諦めないからな、巫女め。覚えていろ」

 

そういって正邪は懐から人形を取り出す

 

「呪いのデコイ人形」

 

正邪が放った人形は霊夢達の目を欺き正邪の存在を見謝らせた。

 

「くっ、逃がすもんか」

 

すかさず霊夢も結界を張って逃がさないように弾幕を展開する

 

「結界『二重弾幕結界』」

 

霊夢を中心に二重の結界が広がっていく。

が、正邪が手に持つものを見て舌を鳴らす。

 

「隙間の折りたたみ傘」

 

妖怪の賢者が持っている傘によくにたアイテムを使い正邪は隙間を作り出した。

 

「じゃあな、博麗の巫女。いつかまた下克上の時を楽しみに待っているがいい」

 

「ッツ、待ちなさい!」

 

霊夢が正邪を取り押さえようとするがすでに正邪は隙間の中に入り込み、今にも逃げ出そうとしている。

正邪は最後に白黒にしがみつく少女「少名針妙丸」を一瞥し素早く隙間に駆け込んだ。霊夢の手は惜しくも隙間があった場所を虚しく通りすぎただけだった。

 

「あぁもう、逃げられた。魔理沙、あんたも見てないで手伝ったらどうだったのよ。」

 

と、ご立腹の霊夢に魔理沙は

 

「まあまあ、そんなに怒んなって。私はこいつのお守りをしてたから動けなかっただけだぜ? しょうがない、しょうがない」

 

「もう!」と頬を膨らます霊夢。そんな彼女は魔理沙の足元にいる小さい少女を一瞥し、魔理沙に説明を求める。

 

「こいつは、さっき通りかかったら襲ってきたから退治しただけだぜ。なんでもさっきの正邪に打ち出の小槌を悪用されているのを知らずにこの異変を起こしたらしい。だから真の黒幕はさっきの正邪ってことだ」

 

「はあ、めんどくさ。とにかく帰りましょう。こんなところにいたら酔いそうだわ。あんたその子どうするの?」

 

「どうしよっかな~」

 

「兎に角帰るわよ」

ふわふわと空を飛び始める霊夢と魔理沙。その魔理沙の背中に飛び乗る針妙丸。

彼女は最後に再び逆さ城を振り返り逃げ出した友人を思い浮かべ呟いた。

 

「ごめんね…………」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

月明かりに照らされ一人森をさ迷う哀れな反逆者。縄を引きちぎり逃げ出そうとするも、体の傷が酷く体をひこずるように歩いている。

 

「ッハァ……ハァ……ハァ、いてぇ。…………姫…………」

 

息を荒く吐き出し、虚ろの瞳で森を歩くもその歩みは儚く…………

ドサッっと言う音ともに倒れそのまま意識は深い闇へと落ちていった。

 

霊夢は今自分の神社でお茶を啜っている。静かな境内に綺麗な草花。美味しいお茶に煎餅と何一つ変わらない博麗神社が今日も続いていた。

 

「ねえねえ、なに飲んでるの? 私にもちょうだ~い」

 

この小さい小娘を除いて

 

「これはお茶。日本人がのむ飲み物よ」

 

霊夢が説明すると少女は、目の前にあった煎餅を徐に手を取りかじった。

 

「…………硬い……」

 

次にお茶を啜り

 

「苦い…………」

 

と顔を歪めた。

 

「なんで、この子はうちにいるのかしら…………」

 

霊夢のぼやきに少女は分かってないような無垢な瞳で霊夢を見つめニコッと笑った。

 

「ハァ……」

 

霊夢はなにげなしに庭を見た。植物が枯れている。それを見て霊夢はバッと立ち上がった小さい少女が不思議そうに見上げている。

 

「植物が…………枯れてる?」




読んでいただいてありがとうございます。
投稿は1週間に一個を目標に頑張っていきます。


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葉っぱと天邪鬼

結構早めの投稿。調子がいいだけ……


目を開けるとそこには見慣れない天井が広がっていた。痛む体を起こし、辺りを見渡す。どうやら今は何処かの家の布団で眠っていたようだ。服を脱ぐと体に包帯が巻かれている。

 

「いったい誰が…………」

 

もう一度辺りを見回してみる。あるのはベッドと小さな机だけのなんとも殺風景な部屋。

と、正邪は机の上に手紙らしきものと、コップにジュースらしきものがおいてあることに気がつき、ベッドから起き上がった。近づくとやはりそれは手紙だった。正邪はその手紙を手に取り中身を取り出した。

 

『起きたらこのジュースを飲んでください。お姉ちゃんに教わった秘伝のジュースです。すぐに帰ってきますので待っていて下さい』

 

手紙にはなんとも真面目そうなきれいな字で書かれていた。正邪は黙って手紙を起き、ジュースを見る。サッと手にもって用心深くそれを観察する。が特に違和感はない。次に臭いを嗅いでみるも甘い香りが漂うだけで不自然さは感じられない。正邪は意を決してそのジュースを口元に運び、飲んだ。

 

「……ゴクッ………………あっ……」

 

それを一口のみ思わず声を漏らした。

 

「……おいしい」

 

あまりの美味しさに一気に飲み干し、暫くの間惚けていた。そのせいで回りへの警戒が疎かになっていた。

彼女が部屋に入ってくるまで気配が感じられなかった。

正邪が気がつくと、扉の前には緑色の服をきた幼顔の少女が立っていた。

 

「「…………あっ……」」

 

二人の声が重なった。正邪はヤバいと言った表情であたふたしている。

そんな正邪とは裏腹に緑の少女は正邪を見るなり顔をパーッっと綻ばせ笑った。

そのときの正邪はこれからの自分の人生にこの少女が深く関わってくるなど思いもしなかった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

突然だが、私は鬼人正邪。基本的に人に嫌がらせをすることが大好きな天邪鬼だ。ましてや誰かに助けられ、世話を焼かれる何てことはもっての他だ。それなのに…………

 

「少し待っていて下さい。もうすぐお料理できるので。」

 

恐らく私を助けてくれたこの緑の少女。先程の部屋で出会い、ちょうどお昼だといって私をこの椅子に座らせた。

 

「今日は大根さんがおいしいって教えてくれたんでおでんを作ろうと思うんですよ。他の具材は人里で買ってきまして、もうすぐできますんで」

 

と言いながら、せっせと大根を切っていく。誰もそんなこと聞いていない。て言うかおでん? 今は夏だぞ、しかも真っ昼間。大丈夫かこの人。

 

「あ、そうだ。待っている間にこのジュースをどうぞ。」

 

と、出されたのは先程のジュース。思わず手が伸びてしまいハッと手を戻した。

そのようすに少女は首を傾げ少し困り顔になって

 

「口に合いませんでしたか?」

 

と、聞いてくるので貰わない訳にもいかず渋々飲んだ。やっぱりおいしかった。

 

「あの、お名前聞いても良いですか?」

 

少女が聞いてくる。

 

「せ、正邪…………」

 

素っ気なく答えた。が、少女は何故か嬉しそうにこちらの手を握り笑ってきた。この笑顔はなぜだか知らないが癒される。天邪鬼の私ですらそう感じてしまう。

私は照れ臭くなって、目を反らした。そして知らした先にはおでんのお鍋がピーピー音を立てているのが目に入った。

 

「あの…………おでん、大変なことになってますよ」

 

そう言うと彼女は、えっ!? と呟き鍋を見て叫んだ。

 

「ああああああああああああああ! しまったああああ!」

 

大急ぎで台所に戻る少女。道中焦りからか色々な物にぶつかり、悲鳴が飛び交う。

その光景に思わず……

 

「…………ふふっ……」

 

ハッと口を覆い、再び台所を見る。どうやら鍋は噴火する前に間に合ったようだ。さて、あのおでん本当に食べるのだろうか? 食べるんだろうな。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「おいしいですか?」

 

真夏の真っ昼間におでんを頬張ると言う謎に挑戦を繰り広げている最中彼女はそればかりか聞いてくる。なんどもおいしいと答えているが止まない。

 

「おいしいよ。特にこの大根がいいね、よく染みておいしい」

 

そう言うと少女はやはりあの笑顔をこちらに向ける。その笑顔は心地よいながらも、少しまぶしい。それでいて何処か悲しくも見える。

 

「そういえば、あなたの名前を聞いていないな。」

 

この緑の少女は私を助けてくれた人……妖怪? まあ、どちらにしろ受けてしまった恩は返さないとむず痒くて生きて行けない。

 

「私ですか? 私は植物の妖怪で『瀬笈 葉』といいます。普段はこの家で近くの植物を見回ったり、里の子供達と遊んだりしてます」

 

『せおい は』変わった名だ。まあ『きじん せいじゃ』も負けていないと思うが……

 

「さっき、大根がおいしいって教えてくれたっていっていたけど、誰に聞いたんだい?」

 

「大根さんに」

 

「だれに……?」

 

「はい、大根さんに聞きました。お庭にいますよ。行きますか?」

 

ん? 話が噛み合わないな。大根さん? 変わった名字だ……庭にいる?

正邪は庭を見回した。が、庭には畑があるだけで人はいない。畑にはニンジンやキャベツ、大根が植えられている。だいこん?

 

「はい、私の能力は『植物の声を聞く程度の能力』なので、大根さんに一番美味しい時を教えてもらったんです。喜んでますよ」

 

「そ、そうか」

 

若干苦笑いを含みながら答えた。この子は頭があれなのか、それとも真実なのか。まぁ、幻想郷も広いしこんな事もあるか。

正邪が、苦笑いを堪えながら確かに美味しい大根を頬張る。

すると、葉は突然ピクッと何かに反応したようにあたりを見回し出した。

 

「ん? どうたんだ?」

 

「あ、私ちょっと出かけるところがあるので少し出掛けます。東のとある神社に行かないといけないので、好きなだけゆっくりしていて下さいね」

 

葉はそういって荷物をまとめ家の扉を出て歩いていった。西の方に……

 

「そっち、違うって」

 

大丈夫かなと思いながらも正邪は能力を展開。葉の進行方向を逆転させ、無理やり東に向かわせた。

葉が飛んでいった空を見つめ、ボーッと目をつむる。

植物がたくさんある。風に舞、木々が踊る。それに会わせるように小鳥が鳴いている。心地よい。こんなところがまだ、ここにあったんだ。

正邪の頬に水が滴った。無意識のうちに涙を流していたことに気付き涙を拭おうと下を向いて、唸った。

 

……植物が、枯れてる?

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

それから暫くの時間が経った。正邪は特にいくところもないので葉の家で休んでいる。気がつくと机の上にさっきのジュースが置いてあった。いつの間に置いたのかと不思議に思ったが、あの子は不思議と甘えたくなるようなそんな気分にさせてくれる。が、嫌な感じはしなかった。暫くだけここにいてもいいかも知れない。

 

「……………………静かだな……」

 

ボソッと呟いてジュースを飲む、既に時刻は夕方に差し掛かっていた。

 

「ん?」

 

サッと部屋のなかを見回していると、小さな机の上に写真立てが置いてあるのが目にはいった。

 

「これは…………葉……かな?」

 

そこには葉が写っていた。と、同時にもう一人見知らぬ人もいた。葉とよくにた出で立ちの少女で、紫色の服を着ている。少しの間正邪はその写真に魅入っていた。

 

「虹霓文花……私のお姉ちゃんだよ」

 

気がつけばまた葉がそこに立っていた。天邪鬼としての警戒心が不思議と彼女には全く働かなかった。

 

「文花? 葉のお姉ちゃんか……今はどこで何してるんだ?」

 

正邪が写真をみながらそう問う。が、葉からの返事は来ない。不思議に思って振り向くと、そこには…………翳りのある瞳で俯く葉の姿があった。

困惑する正邪。本来なら大好物の泣き顔。このときだけは胸の奥が締め付けられるように…………痛かった。

直後……

 

「ああああああ! あんた! こんなところにいたー!」

 

場の雰囲気をぶち壊すような声と共にドアを蹴破って紅白の巫女が入ってきた。

 

「は、博麗霊夢! なんでここに……」

 

「こっちの台詞よ。葉に忘れ物を届けに来たらなんであんたがいるのよ。あっ、これ忘れ物よ」

 

巫女は懐から石の玉を取り出した。

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

陰陽師の紋様が刻まれた不思議な玉。その玉からはこれといって力は感じない。むしろその逆の力を感じる。

 

「んで、あんたがここにいる理由を聞かせて貰おうかしら。そしたらすぐに退治してあげるから」

 

霊夢は身構える。それにならって正邪も腰を落とし臨戦状態に入る。

と、その隣であたふたしていた葉は慌てて止めに入る

 

「まま、待ってください。霊夢さん、正邪さんとはお知り合い何ですか?」

 

「はあ? 知り合いと言うか異変の主犯よ。」

 

異変と聞き、葉が驚きの眼差しで正邪を見つめる。正邪は狼狽えるように後退る。

 

ヤバい、どうしよう。

 

正邪の中で焦りが乱反射し心臓の鼓動が早まる。

正邪は逃げ出そうと、懐に手を入れ……

 

「霊夢さん、待ってください。」

 

るのをやめ、驚きの眼差しで前を見つめる。それは霊夢も同じだった。

 

「霊夢さん、お願いします。彼女を見逃して上げて下さい」

 

葉が正邪の前にたち頭を下げたからだ。

 

「あんた……なにいってんの?」

 

「私には分かるんです。今日まで一緒に暮らして、正邪さんはそんなに悪い人じゃないって、きっと異変を起こしたのだって何か理由があると思うんです」

 

予想外の葉の説得に正邪も霊夢も唖然として呆けている。

てか、今日一日一緒にいただけなのに……

心の中で苦笑いをする正邪。心の中で放心する霊夢。そんな二人に真ん中で葉は真剣な眼差しで霊夢を見つめる。

 

「でも、そいつを倒さないと異変が……」

 

「異変は、今どうこうしないとダメですか? それにほらもう異変の被害は収まってるじゃないですか……」

 

霊夢は困ったように頬を掻く。

 

「だから、お願いします。正邪さんを……」

 

一瞬葉がふらつき、正邪の方に倒れてくる。正邪は倒れる葉をつかみ顔をみて目を剥いた

 

「葉……お前……目が」

 

「せい……じゃ…………さんを……みのが……して…………」

 

直後に葉の瞳が閉じられ、意識がなくなった。

 

「なっ、おいどうしたら葉! おいどうしたんだよ!」

 

焦った正邪は葉を抱き抱えたまま葉の名前を呼んだ

 

「おい巫女、葉はどうしたんだ!」

 

すると霊夢も血相を変え、葉に近寄りこう言った。

 

「今すぐ水と栄養のある腐葉土を持ってきなさい。私は幽香をつれてくるからすぐにベッドに運んで!」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

その日の夜、倒れた葉をベッドに運んだ正邪は霊夢が連れてきた妖怪「風見幽香」の処置を隣で見ていた。

 

「まあ、これで大丈夫でしょう。いつもの発作よ、今は抑えてあるから」

 

そういって幽香は立ち上がる。と、同時に正邪は葉に駆け寄る。

 

「葉は、なんなんだ? 妖怪が病気にかかるなんて聞いたことがないぞ」

 

「その件に関しては後で説明するから、今は静かにしてなさい」

 

霊夢が言う。悔しい思いを噛みしめ渋々部屋から出ていく正邪。

 

「じゃ、私も帰るわ」

 

幽香も、続いて部屋から立ち去ろうとして霊夢の前に立ち耳打ちした。

 

「…………もう………………満月…………だからね」

 

それを聞き霊夢の顔が明らかに沈むのが正邪に目にもはっきり映った。あの巫女をここまで心配させるこの少女は一体…………ここから葉に興味を持ち始めた正邪は葉の看病を兼ねてこの家に居候することとなった。




結構長めのストーリーになったかな?
何はともあれ、葉の異変に気付き始めた正邪。これから彼女がどんな行動に出るのか楽しみです。


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葉っぱの運命に刃向かう反逆者

結構好きな回です。葉っちゃんの命がどんな風になるのか。出来るだけいい方向に向かって欲しいですね。
因みにこの話の時系列は結構不自然なところがありますがそこはご了承ください。一応輝針城終わった後です。(自然癒の異変が解決して、葉っちゃんが、生き残った感じですね)


葉は倒れてから一週間が経った。が、未だに彼女は目を覚まさない。

そんなある日正邪が看病を続けている時、正邪は霊夢に呼び出され神社を訪れた。そこには霊夢の他に白黒の魔法使いがいた。霊夢と同じように深刻そうな顔で俯いている。

 

「それで巫女。葉は一体どうしたんだ、あんたなら詳しい事情を知っているんだろ?」

 

霊夢はコクっと頷いた。

 

「ならば、教えてくれ。どうすれば葉を救える。私になにができる」

 

何時もの正邪らしからぬ真剣な態度。その姿勢に若干の戸惑いを覚えた霊夢はうーんと唸りながら頬を掻く。

 

「ここは手っ取り早く私が説明するぜ」

 

唐突に入ってきた白黒。がそんな事はお構い無しとばかりに話を聞く姿勢を取る正邪。

 

「まず、葉が倒れた理由。それは――――」

 

魔理沙は、正邪に説明した。過去の葉が関わった異変のこと。葉が植物を助けて欲しいと神社にやってきたこと。葉が優香によって作られた存在だったという事、葉のお姉ちゃんのこと。そして、異変の解決の仕方…………

それから暫くの間説明を聞き続けた正邪。魔理沙は一通りの説明を終えふうと一息つく

 

「――――まあ、これが今の葉が置かれている状況だ。そんな葉を幽香と霊夢が押さえつけてる状態だ。なんだけど……」

 

魔理沙がバツが悪そうな顔で霊夢を見る。

 

「そう、もはやそれも限界に近いの。幽香の見立だと次の満月だって……」

 

霊夢が静かにそう言った。

 

「なんだよ……それ」

 

徐に正邪の口からそんな言葉が漏れた。

 

「なんだよそれ! じゃあお前らは自分達のために葉を……あんな健気でバカなお人好しの妖怪かどうかもわからない様なやつに丸投げしたってことじゃないか。今は押さえてるからいい? そう言う問題じゃねえだろ。おい巫女、お前は異変解決が仕事なんだろ? だったらその異変をちゃんと解決して葉を救ってやれよ」

 

「私だってそうしたいわよ。でも、葉を救うことは不可能なのよ! 彼女の体の毒を抜けば体は力を失って消失する。かといって放置したら今度は力に飲まれて葉がなくなっちゃう。もう、私たちに出来ることは延命しかなかったのよ!」

 

「そんなことを知るか! だったらはじめからあいつにそんな使命を与えなかったら良かったんだよ。無理やりそんな事押し付けられて葉が可愛そうじゃ無かったのかよ」

 

正邪の怒気を孕んだ言葉に霊夢の勢いが止んだ。やがて、押し出すように口を開いた。

 

「……葉は無理やり使命を押し付けられたんじゃないわ。彼女は自分の意思でこの仕事を受け持ったのよ。毒と共に散る運命を自ら受け入れたのよ」

 

霊夢の言葉に正邪の勢いが止まる。

 

「もはや、彼女の死は免れない。悔しいけど、これしか方法がないのよ」

 

霊夢のすべてを諦めたような口調。となりの魔理沙もやはり何もい言わず空を見上げている。

 

「み、見損なったぞ巫女。貴様がその程度の人間だったとは思わなかったわ! いいだろう私がなんとかしてやる。お前たちにできなかった事を私は成し遂げ、必ず葉を救ってやる」

 

そう叫び、正邪は走って姿を消した。正邪が居なくなり二人だけになった霊夢と魔理沙はお茶でも飲むかと神社に入った。

 

「針妙丸~、悪いけどお茶淹れてくれる?」

 

霊夢は居候させている針妙丸に声をかけた。が、茶どころか返事すら帰ってこない。

 

「居候先が悪くて逃げ出したか?」

 

魔理沙が茶化すように言った。しかし霊夢は……

 

「いや、道を見失った小鬼に道を示す光になりに行ったのよ」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

結局その日正邪は諦めて家に帰った。家では恐らくまだ葉が寝ている、夕飯のため人里によろうと里を訪れる正邪。

 

「……今日の夕飯……なににしよっかな。葉は何か食べたいものあるだろうか」

 

ぼやくように呟く正邪。はあとため息をつく

 

「葉を救うなんて言っちゃったけど、正直何をすればいいのかわからない」

 

自分が放った軽はずみな言葉に今更ながら後悔が溢れてくる。もともと自分は天邪鬼で、他人を助けることなど今まで一度も考えなかった。他人の嫌がることしかしなかったから、葉を喜ばせるそして、救うために何をすればいいのか本当に浮かんでこなかった。

 ふと、露天に目を向けた。そこは食器屋さんのようでたくさんの種類の食器が並んでいる。正邪はそれを遠巻きに見つめ、ひとつの食器に目を止める。それは自分がよく知っているものによく似ている。もう、逢えない……いや逢うことの許されない彼女の物に……

と、次の瞬間。目の前にあるその食器が僅かに動いた様な気がした。

正邪は不審に思いながら、それに近づく。

 

「………………」

 

ジーっと食器を見つめる。端から見れば幼い少女が食器をひたすらに眺めていると言う異様な光景だが、正邪はそんな回りの視線を無視しひたすらに食器を見つめ、そして……

ひょい……

食器を持ち上げた。

すると、きゃっと悲鳴をあげながら小さい少女がぶら下がった。

 

「……姫」

 

「……あー、正邪。久しぶり」

 

すると、正邪は彼女を机においた。

 

「それでは……」

 

ただ一言。それだけを告げその場を去ろうとする正邪。が、そんな正邪の服を小さい少女は懸命に押さえながら言った。

 

「ま、まって正邪。わたしは――」

 

「すみませんでした。姫。あなたを騙すようなことをして……」

 

正邪の言葉にお互いの言葉が止まる。祭りの祭り囃子が場違いな二人を強調する。

 

「こんなことを言えた質ではないですが、どうか姫は自分の道を歩んでください。暗いドブ道を歩くのは私一人で十分。ですから、この手を離してください。もう、あなたの邪魔はしたくない」

 

辺りの空間がシーンと静かになるように感じた。勿論錯覚だが、小さき少女は一向に手を離そうとせず

 

「やだ」

 

とだけ言った。一瞬正邪の顔が驚いたように目を見開く。

「謝るのは私の方。あのとき魔理沙にあなたが私を騙していると言われたとき、思わずあなたから逃げてしまった。でも、私は知ってたよ。あなたが私を騙して下克上しようとしていることは、知ってて付き合ってたの」

 

「……なんで、逃げなかったのですか」

 

すると彼女は小さく微笑み

 

「だって、あなたすごく寂しそうな目をしていたもの」

 

小さき少女。いや小さき反逆者少名針妙丸は小さい瞳で正邪を見つめる。強くはっきりとしたまっすぐな目で……その瞳に小さい涙の雫が溢れ出す。

 

「でも、私はあのとき逃げてしまった。分かってた筈なのに、いざ他人に言われると怖くなった。あなたのそばにいてあげようって決めた筈なのに……」

 

小さい滴がポタポタとこぼれ落ちる。正邪は彼女を手のひらにすくい顔の前に持ってきた。

 

「わたしは、結局弱かった。力なんかじゃない。心が……なにかを成し遂げるだけの強い思いが無かったのよ……ッー正邪!」

 

正邪から手を離して、着物袖で目元を拭う針妙丸。

 

「うあああぁあぁぁぁあん……ッツ……うあああああ――……」

正邪はそんな彼女を暫くの間見つめ、小さく呟いた。

 

「……姫……ではもう一度私と一緒に成し遂げてみせませんか?」

 

針妙丸が赤い目を正邪に向ける

 

「今度は騙したりなんかしません。下克上なんて大きい事ではありませんが、今私が一番成し遂げたいと思っているものです」

 

「……でも、私は……」

 

「私には、あなたが必要なのです。いつでも私に優しくしてくれるあなたが。小さいながらも頼もしいあなたが……

少名針妙丸が」

 

――――――

西の地、葉の家にて、やはりまだ目を覚まさない葉の隣で二人の元反逆者がいた。

 

「彼女を助けたいの? でも、これは……」

 

「分かっています。でも、私は彼女を助けたいんです。協力してくださいますか、姫?」

 

正邪が針妙丸を見る。針妙丸は葉と正邪を交互に見たあと、再び正邪に向き直り、頭の茶碗をかぶり直し、笑った。

 

「任せておきなさい」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

それから二人は、葉の日記から彼女が日課として行っていた役目を知った。

一つ目は、人里離れたこの家から里までの道にある植物の管理。および世話など。

たまに、里の子供が悪戯で枝を折っていく事があるので注意、と日記には記されている。

二つ目は、家の庭で育てている食用野菜の世話。出来上がった野菜は里の人々に配ったり神社にお供えしているそうだ。夏の今の時期は、茄子や胡瓜が美味しいらしく、庭では毎日野菜たちの大合唱が聞こえるらしい。無論天邪鬼と小人にはそんな声は聞こえない。

三つ目は、お姉ちゃんのお墓まいり。

里から少し離れ、山を登った見晴らしのいい崖に姉の「虹霓文花」のお墓があると言う。

日記から読み取れた彼女の主な役目はこの三つ。

二人は、意識を失ったままの葉が、いつ目覚めてもいいように、二人で手分けして葉の日常を守ろうと思った。

 

「待ってろよ。必ず葉を助けて見せるから」

 

ーーーーーー

そんな、二人の奮闘が始まって約三週間がたった頃突然葉の部屋から物音がした。

ドン、と言うなにかを叩いた音。

泥棒かと思い、二人は各々武器を持ち、葉の部屋の扉を開けた。

するとそこには

 

「あいたたたた」

 

ベッドの掛け布団と共に地面に落ち、痛そうに自分の頭を撫でる葉の姿があった……

 

ーーーーーー

「葉が、目を覚ましたんですって?」

 

いつもの紅白の格好をした巫女が、らしく無く慌てた様子で葉の部屋に飛び込んできた。

その時葉は、ベッドに座り看病中の正邪と針妙丸から、ジュースを手渡されていた。

葉は、霊夢を見るや否や、ババっと素早く立ち上がり

 

「はわわ、れ、霊夢さん。お、お久しぶりでしゅッ……噛んだ……えっと、あの私どうやら結構長いあいだ眠っていたようで、正邪さんと、そのお友達の針妙丸さんに看病していただいていたようで、あっ、正邪さんと針妙丸さん、大変お世話になりました。ご迷惑をおかけしました。霊夢さんにも、ご迷惑をおかけして本当にごめんなさい!」

 

勢いよく頭を下げた。その衝撃で頭の緑の帽子が取れそうになったが、葉は慌ててそれを元の位置に正す。

と、ここまでの一連を見ていた霊夢が、部屋の中を見渡して正邪たちを見た。

 

「あんたたち……」

 

低い声で、二人を見る霊夢。それに気圧され針妙丸が小さく悲鳴をあげる

葉が、はわわと慌てた様子でジタバタしている。正邪は霊夢に警戒して、針妙丸を隠す。

霊夢が、口を開く

 

 

 

 

「ありがとう……」

…………………………………………………………………………………

 

「「「えっ?」」」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

葉と正邪、針妙丸の3人が同時に声をあげた。

数時間後の神社にて

 

「なによあいつら、私がお礼したらいけないっての? 葉までまるでUFOを見たみたな顔でこっちを見るし、針妙丸はなんか笑ってるし、正邪は呆れてるし……ブツブツ」

 

ブツブツ言いながらお酒を飲む霊夢。その隣で、友人であり良きライバルの魔理沙が、同じく酒を注ぎながら笑う。

 

「そりゃなるだろう。なんてったってあの霊夢がお礼言うんだぜ? 私ですらびっくりするわ」

 

そう言って酒を飲む。

 

「でも、本当に嬉しかったのよ。葉を大事にしてくれる奴がいたことが、まぁ、異変の主犯の二人だって言うことはこの際目を瞑るわ。」

 

「それについては、私も同意見だ。私も葉を大事にしてくれる奴がいるのは嬉しいしな」

 

そう言いながら、魔理沙は自分の器に酒を注いで飲む。

そして、徐に器を地面に起き、言った。

 

「んで、霊夢。ここで酒飲んでる理由をそろそろ聞かせて欲しいんだが……」

 

魔理沙が、そういうと霊夢は瞬時に顔を真顔に戻した。酒の瓶を置いて話し出す。

 

「あいつが……鬼人正邪が、言ったのよ……」

 

 

 

「『葉を助ける方法を見つけた』ってね……」

 




生まれてこのかた、恐らく正邪は他人に喜ばれようと何かを頑張った事なんてなかったであろう(個人の意見です)
そんな彼女が、葉を助けるために奮闘する。
そして、ついに見つけた葉を助ける方法とは!


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天邪鬼の、最初で最後の人助け

ちょっと、文章おかしいところあるかも……ご了承下さいませ


葉が意識を取り戻してから、暫くが経ったころ。人気の少ない場所に鬼人正邪と博麗霊夢はいた。

 

「なによ、急に呼びつけて」

 

最初に口を開いたのは霊夢だ。彼女はこんな人気のないところに自分を呼びつけた正邪を訝しげな表情で見返す。

 

「私分かったんだ」

 

不意に正邪が喋った。霊夢が、何をよ、と聞き返す。

 

「私は、今まで人の嫌がることしかやってなかった。まぁ、それは天邪鬼だからってのもあったし、この能力の影響もでかい。全てをひっくり返すこの力は、人を嫌な気分にさせるのにはもってこいの力だからな……」

 

それに対して霊夢は激しく肯定しながら首を縦に振る。

 

「ほんとそれ……あれは面倒かったわ。自分の操作は逆になるし、弾は逆から飛んでくるし、位置はおかしな事になるしで、あれは本当に殺意が湧いたわ」

 

過去の異変を思い出し、怒りを吹き返す霊夢。その様子に正邪は僅かに苦笑する。

 

「でもさ、こんな事を考えれるようになっちゃったら天邪鬼失格かもしれないけど……」

 

正邪の表情が陰る。なにかを思いつめているような

 

「私は、この力を使って葉を、救ういたい……今までとは考え方を変えて、この力を使えば、私はあいつを救える……」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

博麗神社の縁側にて、二人の少女がお酒を交わしながら喋っている。

博麗霊夢と、霧雨魔理沙。霊夢は先程正邪が自分に言ったことを魔理沙にも伝えた。

 

「――という事よ」

 

霊夢が、喋り終えると魔理沙は酒のアテのキノコをつまみながら答える。

 

「ふ〜ん? それで、具体的にはどうやるって?」

 

得体の知れない色のキノコを齧りながら魔理沙が聞く。一方霊夢は、キノコには一切手をつけず酒を飲む。

 

「それが教えてくんないのよね〜。これは私の戦いだって言ってさぁ。『博麗の巫女、貴様は手を出すな!』ですってよ」

 

「ほう、それは随分強気だな。ま、本人がそう言うんだ。私らは手を出さず、遠くから見守ってやろうぜ。どのみちあいつの決断だ。私らが手を出す、そんな野暮なことは私もしたくなかったし……」

 

「魔理沙……」

 

「よし、酒だ。今日はとりあえず飲もうぜ。明日のことは明日考えればいいんだ」

 

二人の頭上には、いつのまにか半分に切れた月が出ていた。たが、霊夢はそれを見てもいい気分にはなれなかった。何故ならそれは、美しい酒のアテではなく、あの心優しい妖怪を死に導く、残酷なカウントダウンだったから……

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「葉〜ちゃん。はい、あ〜ん」

 

「は、恥ずかしいです……はむ……」

 

「はい、よく出来ました。よしよし」

 

「うぅ、恥ずかしいので頭を撫でないでください」

 

時刻は夕方を過ぎ、夕食時に差し掛かる。人里離れた小さな家の中で緑の少女が、小さい少女にご飯を食べさせてもらっている。

小さい少女である針妙丸は、何故か、メイド服を着用し布団の上で寝ている葉に対してやたらとお世話をしていた。彼女は、葉の頭の濡れた布巾を取り替え、そして、夕食であるお粥を食べさせる。

そして、その光景を隣で見ているのは天邪鬼の鬼人正邪。彼女は何やらぎこちない表情でそれを見ていた。

 

「あー、姫? いったい何をされているのですか?」

 

とうとう痺れを切らした正邪が聞いた。すると、針妙丸は本当に楽しそうにはにかみながら正邪の方を振り向く

 

「え? だって病人の看病ってこうやってやるんでしょ?」

 

と、さも当たり前な常識を語るよう答える。

 

「いやいや、しませんよ! 百歩譲ってご飯を食べさせたりするのはしますが、メイド服は着ませんよ!」

 

と、正邪が言うと、針妙丸はまるでこの世の終わりを見たような驚きの表情を浮かべる

 

「うそ! だって、香霖堂で見つけた本にそうやって書いてあったよ! それで、この後はお薬におまじないをかけてから飲ませるって……」

 

そう言いながら、薬(幽香に渡されたもの)を指差しながら答える。

 

「それ、間違った知識を植え付けられてますよ、それに姫1人じゃ本をめくる力がないでしょう? いったい誰にその本を読まされたんですか?」

 

「魔理沙」

 

その瞬間正邪と、そして布団の上の葉までもが、あ、やっぱり、と言った感情に包まれた

 

「はぁ、とにかく姫。その知識は少しおかしいのでもう金輪際やめて下さい。お姫様がやる事ではありませんし……」

 

子供を嗜める……と言うよりは小さなお姫様を嗜める付き人のような雰囲気で正邪が言った。

 

「……ふふっ」

 

すると、突然誰かが笑った。笑ったのは葉だった。まだ少々顔色が優れないところもあるが命に別状はなさそうだ。

 

「ん? 葉、どうした?」

 

正邪が聞く。すると葉は小さな微笑を浮かべて喋る。

 

「お二人……仲良いですね。まるで姉妹みたいです」

 

そう言いながら葉は部屋に飾ってある写真を見た。そこには葉ともう1人紫色の少女が写っていた。

 

「あの写真の人って、葉のお姉ちゃんだよね?」

 

針妙丸が、正邪の裾をくいくいと引っ張る。どうやら連れて言ってと訴えているようだ。

正邪が針妙丸を肩に乗せ、写真の前まで行き、彼女を写真の前に置いた。

 

「うん。もう随分と前にいなくなっちゃいましたけどね……お姉ちゃん、今どこにいるんだろう。私が……消えちゃう前に、もう一度だけ……逢いたいな」

 

「…………」

 

部屋を思い沈黙が包んだ。針妙丸は泣きそうな、正邪は何が神妙な顔つきで葉を見つめる

 

「ハッ⁉︎ お、重い空気にしちゃいました! は、話変えましょう! あ、そうだ確かお二人はわたしが寝ている間ずっと家や、植物の世話をしてくださったんですよね。改めてありがとうございます。植物たちもお礼を言っていますよ」

 

葉は、窓から見える野菜畑を指差してそう言った。自分で作ってしまった空気を払拭しようと頑張って話題を変える。

そして、針妙丸も空気の重さに耐えられなかったのか、雰囲気を変えようと明るい口調で話し出す。

 

「そうだよ。葉〜ちゃん毎日やる事多すぎて大変だった。こんなことを毎日繰り返して葉〜ちゃんは偉いよね」

 

「いえいえ、これが私に出来る数少ない事ですし、今の生活にも満足してますからね」

 

そんな感じの会話を暫く繰り広げ3人はは夕食を終えた。その後、葉は再び寝てしまった。が、それは苦しい眠りではなく、安らかな安堵の眠りであった。

そして、その表情を、正邪は何か意を決したような表情で見つめていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

それから少しだけ日が経った。月はどんどんと満月に近づく。

今の月は三日月……それを見て正邪は忌々しげに舌打ちする。

彼女がいるのは、葉の家から更に西に行った小高い丘。そこには一つの墓石のようなものが置いてある。荒く削られた墓石には、虹霓文花の文字が見て取れる。

正邪は夜中に一人抜け出し、ここを訪れた。葉が大好きだと言うお姉ちゃんに逢いに行くために。

 

「文花さん、初めまして。鬼人正邪です。あなたの妹にお世話になっています」

 

正邪は、微笑を浮かべながら墓石を撫でる。ゴツゴツとした感触が掌を伝う。

 

「文花さん、霊夢さんに聞きましたよ。あなたは自分が異変の黒幕だと言い張ってみんなの気を引いたって。でも、それは葉を守るための自己犠牲だった。あなたは素晴らしい人だ。偶然出会っただけの葉のためにそこまで、自分が消えることも厭わないで大切な人を救えるその心が……いや、そこまで思えるような人に出会えたあなたが羨ましい。葉は、本当にドジで、何かやらせれば必ず何かやらかして帰ってくるような奴で、方向感覚も崩壊してるし、料理させれば必ず火を吹かす。全くもって見ていられないどうしようもない奴ですよ。

……でも、だからこそ守りたくなるんですよね。私の心はあなたのように綺麗じゃないけど、私も少しでもあなたのようになれたらいいな……と……?」

すると、後ろに僅かな気配を感じた。振り返るとそこに経っていたのは、風見幽香だった

 

「わたしにも、どうすることも出来なかったあの子をあんたが助けるって言うの?」

 

立っているだけでも、凄まじい妖気を放つ幽香。が、それに全く気圧されることもなく、まっすぐな瞳で幽香を見つめ返す。

 

「あぁ、あんたや巫女が成し遂げられなかったことを、文花さんが成し遂げたかったことをやってやる。そのために私は今ここにいるんだ」

 

正邪はキッパリと自分の思いを伝える。それを見た幽香は、小さく笑った。

 

「ですってよ?」

 

幽香はそう言った。そんな彼女の目線は正邪の後ろにある。正邪が、振り返るとそこには

 

「こんにちは。正邪さん」

 

紫色の綺麗な女性が立っていた。それは葉の部屋に飾ってあった写真に写っていた少女にそっくりで

 

「ええええええええええ⁉︎」

 

正邪は思わず声をあげた。

 

「な、なんで! 異変の時に死んだんじゃ……まさか幽霊⁉︎」

 

正邪が、慌てふためいたように幽香を見る。すると、幽香が突然吹き出した。

 

「あはは、妖怪がそんな簡単に死ぬわけなじゃない……彼女は一年に一回しか咲かないとある花の妖怪なのよ。あの時は、その時期が去ったから消えただけで別に死んだわけしないわ」

 

相変わらず正邪は、驚きを隠せず口をパクパクしている。

 

「いやだって、葉は完全に死んじゃったみたいな感じで話してたぞ」

 

「それはあの子の、話し方が下手だっただけじゃない? 現に彼女は今ここにいるんだし」

 

「えぇ……ほ、本当に?」

 

正邪が、文花に聞いた。文花は写真に写っていたように綺麗な笑みを浮かべる。

 

「葉が、お世話になってます」

 

「あ、いえこちらこそ」

 

「それで、葉を救うって本当? それは具体的にはどうやるのかな?」

 

突然本題に入ってきた文花。マイペースな人だと正邪は思う。

 

「はい、私の能力。(なんでもひっくり返す程度の能力)を使います。その能力で、私と葉の立場を……ひっくり返したやります」

 

力強くそう言った正邪。その表情は強く硬い意志を物語っている。

そして、その発言に驚いたのは、文花と、そして、同じくそこにいた幽香だった。二人は暫く驚いたように目を見開いていたが、その内、少し攻め立てるような口調で正邪を見た。

 

「そうすると、あなたは毒にやられて死んでしまうけど?」

 

文花が聞いた。

 

「百も承知です」

 

正邪は答える

 

「葉が、今のあなたと同じ天邪鬼の立場になるわよ?」

 

優香が聞いた。

 

「死んじゃうよりはマシです」

 

正邪は答えた

 

「葉が、あなたの死を悲しむわよ」

 

どっちが聞いたのか、その言葉に正邪は一瞬戸惑った。が、直ぐに元に戻る。彼女の頭にはひとりの姫の姿が映っている。

 

「……姫が…………葉と共にいてくれると思います」

 

正邪の真剣な答えに、二人は、諦めたように同時にため息を吐く

 

「意志は固いようね。文花?」

 

「そうね……全くあの子は霊夢さんや魔理沙さん達だけでなく、天邪鬼までも丸め込んでしまうとは……最早それもあの子の能力なんじゃ」

 

文花が苦笑しながら答えた。

そして、正邪は

 

「それが、葉の魅力です……」

 

そう一言答えた。

 

するどく尖った三日月が無情にも少しだけ欠けていく。




一時間足らずで書き上げました。急いでたもので見苦しい文章になっているかもですが、良かったら見てください。


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