異世界ぶらり。 (記角麒麟)
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俺、転生(転性)したっぽい。
目が覚めた。
柔らかい風が頬に当たり、ザラザラとした、そして少ししょっぱい砂の味が口いっぱいに広がる。
どこだ……ここは?
口の中の砂を唾液と一緒に吐き出そうとするが、口の中が乾いていてそれほど唾が出ることはなかった。
不意に、足に水がかかる。
先程から聞こえる音から推測するに、おそらく俺は波打ち際にいる。
視線をさまよわせれば難破した船の残骸が見えることから、どうやら嵐にでもあって流されてきたようだ。
……そんな記憶は一切ないのだが。
記憶を遡ってみる。
俺は今年になって高校に進学したばかりの、どこにでもいる普通の男子生徒だった。
クラスではあまり馴染めていたとは言えないが、成績は上の下と少し優秀な程度の学力を持っていた。
彼女はいない。
できた事すらない。
小学生の頃は、親父の友達が開いているという空手道場に通っていた。
才能がないのか、帯の色は白いまま辞めてしまった。
次に柔道をやってみたが、こっちは空手より才能があった。
だがやはりすぐにやめてしまった。
だって、痛いのとかむさいのとか本当に勘弁だったし。
中学に上がると、ラノベの影響で少し武術というものに興味を示し始めた。
だが小学生の頃のことがあって、なかなか親に言って習い始めるのもバツが悪く、暇を見つけて外で自己鍛錬をした。
自己鍛錬、と言っても、師匠のいない訓練動画だよりのものだったが。
それでも、だいたい力はついた。
術理は完璧に把握したし、たまにやっていた不良狩りもなかなか様になった。
喧嘩はかなり強くなった。
それでもラノベは好きなだけ読んでいたが。
おかげで変な豆知識がいっぱいついた。
そんな俺は高校生になってしばらくのことだ。
北海道に修学旅行に行くことになったのだが、どうやらそこから先の記憶が曖昧だ。
飛行機に搭乗して、離陸したところまでは覚えている。
雲海がすごくきれいで、一面真っ青な天空と、まるで神様の世界のような雲の絨毯の景色が、すごく神秘的だったんだ。
……でも、そこから記憶が全くない。
俺はとりあえず立ち上がると、背後に合った海へと歩いていった。
考えても仕方がない。
まずは水の確保をしないといけない。
あと火の確保。
幸い、やり方はわかっている。
海岸沿いにヤシの木があった。
あれを使って、摩擦で火をおこす。
もしくは船の中からなにか見つけて使う。
幸い、鍋などの入れ物はそこら辺に転がっているのが見えた。
海水で洗えば問題はないだろう。
俺はそう決めると、ひとまず体についた砂を払い落とそうと海に入ることにした。
……そこで、俺は絶句することになる。
それはなぜかって?
そりゃ、もちろん。水面に映っていたのが、俺の記憶の中にある自分じゃなかったからだ。
「……マジかよ」
ポツリと出した声は嗄れていた。
が、確実に俺の声ではなく、記憶にあるそれよりもずっと高音だった。
俺は、それを確認すると、急いで着ていた服を脱いだ。
するとそこには、見覚えのない膨らみが2つ。
まさかまさかまさか……!?
頭に血が登る。
動悸が早くなって、耳元で鼓動が強く聞こえる。
「……ごくり」
飲み込んだ生唾がザラザラして気持ち悪い。
が、俺は構わずに履いていたズボンを下ろした。
それはもう、恐る恐る。
「マジかよ……」
するとそこには、今までともに連れ添ってきた息子の代わりに、無毛地帯の広がる、初めて見る女の子の象徴が鎮座ましましていた。
どうやら俺は、どういうわけか知らないが女の子になってしまっていたようだった。
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俺、底なしっぽい。
砂だらけの体を、とりあえず海水で洗うことにした。
海水で洗うとベタベタするだろうと思うが、しかしすでに海水と砂で服も体も汚れてしまっているので今更ではある。
俺は浜辺に誰もいないことを確認すると、脱ぎかけのズボン(下着をつけていなかったことから、これは多分水着だと思う)を脱ぎ捨てて全裸になる。
真っ白な肌が日の光に照らされて、体に付着した砂が海水と反射してキラキラと輝く。
……今気づいたけど、この砂は少しガラス質のようだ。
加工できればガラス瓶でも作れるかもしれない。
まあ、そのためにはコンロも必要で、かつ高温にしないといけないのだからそれなりの耐熱性を持つ容器も必要だろう。
他にもいろいろ必要な機材はあるけど。
……よし、ガラス瓶を作るのは保留にしておこう。
とりあえず今は水と火を探すことが先決だ。
初めて人類が使った火は、自然に燃えてできた火、つまり野火を使っていたというが、あそこの難破船を探せば何か見つかるだろう。
例えばライターとか。
私は海に潜ると、体についた砂を流し始めた。
体を洗い終えた私は、体が乾くのを待って、水を使わずに来ていた服の砂を払い落として着直した。
息子がいないので少し変な感じはするが、気にしたところでどうともならない。
緊急事態なのだ、どうにもできないことは諦めて、できることからしていかなければ命に関わる。
そう、これはテストと同じだ。
わからない所は飛ばして、できるところから始めていく。
それが終わると、今度は難破船を探索することにした。
……どうして難破船を調べるのかって?
そりゃ、食料や食器類、調理器具があればこの先楽に過ごせるだろう?
ここから見た感じ、目の前の森はかなり深そうだし、ここを突き抜けて人の住む場所へ出ようてしてもそれなりの日数がかかる。
だから、それを生き抜くためのツールがまずは必要なのだ。
ちなみに、食料はあるならば缶詰が一番いい。
缶詰は非常に長く持つからな。
幸い、中が腐っているかどうかの見分け方は知っている。
使えないやつは放置して、使えるものだけ持ってくればそれでいい。
ちなみに、なければ持ってくる缶詰は空でもいい。
空の缶が2つあれば、簡単なコンロを作ることができる。
いちいち泥を火で固めてコンロを作る手間が省けるからな。
閑話休題。
俺は波打ち際の湿った砂浜を歩きながら、難破船へと向かった。
嬉しいことに、難破船はほとんど形が崩れていなかった。
座礁して木っ端微塵になっていなかったことは僥倖だと言えるだろう。
船の大きさは、ざっと100から120人程が乗るような少し小さめの遊覧船程度。
材質は金属と木。
作りは粗雑で、あまり現代の技術で作られたような雰囲気はしない。
それに、少し苔も生えている。
それなりに時間が経っているのだろう。
私が漂流した時期よりもずいぶん前に座礁したことが推測できる。
この様子では、食料はあまり期待しないほうがいいかもしれない。
おそらく、人もいないだろう。
いつの日か救助が来て、全員助かったのか。
それとも船だけが残っているということはらまた別の事情があるのか。
……考えるだけ無駄か。
俺はそう考えをまとめると、船底に空いた穴から中に入った。
○● ○●
中は暗かった。
暗いというか、ほとんど何も見えない。
座礁して壊れてできた穴から、かろうじて日光が入り込んでいるが、それ以外はサッパリだ。
湿った空気が、俺の頬を撫でた。
うん。
本格的なお化け屋敷みたいな怖さがあるな。
それに、ホコリがあまり立っていないことから、最近ここに何かが入ったということは無いみたいだ。
この船は無人かもしれない。
――カラン。
しばらく壁伝いに歩くと、足元に何かがぶつかって音を立てた。
「ひっ!?」
思わず小さな悲鳴が上がり、無人の船底に俺の声が反響した。
嗄れているが、かわいらしい女の子の悲鳴が、俺の鼓膜を震わせる。
……やっぱり、俺は女の子になってしまったんだな。
認めざるを得まい。
俺は内心ため息をつくと、足にぶつかった何かを拾い上げた。
それは懐中電灯だった。
スイッチを押してみると、まだ灯りが点く。
どうやら電池は生きているらしい。
「ラッキー!」
これで夜も少しは安全だろう。
電池がまだ生きていたことに感謝した俺は、スイッチを切って上に続く階段を登った。
○● ○●
調理場を見つけた。
電気は点かないので、代わりに持ってきた懐中電灯を使う。
うん、いろいろ使えそうなものが揃ってるな。
鍋とか食器とかは使える。
錆びて入るが、使えないほどではない。
うーん、お皿は割れてるから使い物にならないな。
割れたガラスが散乱している。
おそらくグラスの破片や、食器棚に使われていたものだろう。
うん、これがあれば火をおこす材料になるな。
持っていこう。
他は……プラスチック製の食器はないみたいだ。
木製のものは朽ちてしまっている。
使えるのは鉄製のものだけか。
俺は使える物を一通り揃えると、使えそうな大きめの寸胴鍋に放り込んで一度船を出ることにした。
船から出た俺は、砂浜に転がっている鍋などを回収して、満潮でも海に沈まない場所へ移動することにした。
その途中で、ヤシの木から樹皮を持っていくことを忘れない。
ヤシの木の樹皮は繊維質なため、火をおこすときに使えるのだ。
ついでに水分補給用のヤシの実も1つ持っていくことにした。
○● ○●
それから俺は森の中を歩くことにした。
履いていたサンダルはすでにペラペラだが、森の中を歩く上では不便しなかった。
むしろ助かった。
しばらく歩いて傾斜に出る。
大量の器具を担いでの山道は、水分不足気味な現在の俺には難しいだろう。
とりあえず今はここまでにして、持ってきたヤシの実で水分補給をして休むことにした。
しばらく休憩した後、再び森を歩き始める。
森というよりもう山道だが。
方向感覚を見失わないように、樹木の枝葉の茂り具合を参考にして内陸に向かう東へと突き進む。
自然そのままの樹木は、その茂り具合で方角を調べることができる。
理科の授業で、山で遭難した場合は切り株を見て、そこに写る年輪を参考にすればいいと習ったと思うが、それは間違いである。
そもそも、自然の中にそれほどわかりやすいような滑らかな切り株などなく、あるとすれば朽ちて折れた大樹であり、その場合株はとてもギザギザで年輪なんか見えやしないのだ。
ならばどうすればいいか。
簡単だ、葉の茂り具合を確かめればいい。
樹木は日光をたくさん浴びるために、朝日の登る東に向かって多く葉を茂らせる。
つまり気を見上げて、多く茂っている方が東であるとみわけることができるのだ。
他にも、山道を登っているのか下っているのかを見分けるのにも、木の状態を観察するのは大きな助けになる。
閑話休題。
しばらく進むと、川に出た。
幅が広く、流れはあまり急ではない。
河原には手頃なサイズの石が集まっている。
よし、今日はここで野宿だな。
俺はそう決めると、荷物を置いて川の水を掬って口の中の砂を洗い流した。
口内の砂の感触が洗い流されてサッパリする。
もう一度掬って、今度は喉に流し込む。
喉の乾きが癒えるまで、飲む。飲む。飲む。
「は〜、生き返る〜ぅ!」
そのまま今度は顔を洗い、汗を流す。
ヤシの実でベタついた手も洗い流し、ついでに海水でベタつく髪や肌もここで洗うことにした。
水で濡れて体温が奪われる?
いや、今はまだ日が照っている。
日光の熱で十分乾く。
次に、持ってきたものを川の水で洗う。
汚れたままじゃ使えないしな。
「さて……。
水は確保できたわけだし、今度は日の準備だな」
ここは水辺だ。
夜になるときっと寒くなるはず。
日が沈むまでしばらく時間がある。
今から焚火の準備をするとしよう。
というわけで、戦利品の確認をする。
まず大鍋が1つ。
大きめの寸胴鍋が1つに、一回り小さい寸胴鍋が1つ。
ボウルが大小含めて4つ。
ザルは穴が空いているものが1つ、使える状態のものが1つ。
食器類のナイフ、フォーク、スプーンが10数本。
調理器具の包丁が5本。
割れたグラスが4つ。
こんな体で良くもこれだけのものを持ち運べたと思うが、どうなってるんだろうな。
ちなみに、今の俺の体は10才程の幼い体である。
10才にしては胸が大きいので、実際はもう少し歳はあるのだろう。
だが、筋力はそれ程あるようには見えない。
体力は……まだ息が1つも上がっていないし、まだまだ大丈夫っぽい。
……底なしなのか、俺?
まあ、細かいことは気にせず、やるべきことをまず始めるとしよう。
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俺、野生児っぽい。
さて、日が暮れる前にしなければならないことが2つある。
1つは焚き火の用意。
そして2つ目はキャンプの作成である。
焚き火は獣避けになるので、早急に作らねばならないだろう。
2つ目のキャンプづくりは少し手間がかかる。
必要なのはとりあえず寝床の準備くらいだ。
他のものはいつでもできる。だが、焚き火が無ければほとんど何もできないだろう。
故に焚き火の用意は素早く行わなければならない。
……さて。
では、どのように火を作るのか。
答えは至って簡単である。
まず、火種の餌となる燃えやすい枯葉などを集めてくる。
濡れて水分を含んだものはだめだ、火が弱まる原因になるし、なにより水分を含んだ枝を火にくべると、枝の中の水分が蒸発して水蒸気爆発が起こり、飛び火の原因になるのだ。
焚き火の近くで寝返りを打って飛び火にあたった日には、大惨事確定の深刻な未来が待っているだろう。
というわけで、森の中で枯れ葉を拾ってくる。
ヤシの木があるということは、この地域は亜熱帯だ。
亜熱帯はケッペンの気候区分によれば温暖湿潤気候、もしくは熱帯モンスーン気候に分類される。
ヤシの木があるということは温暖湿潤気候、つまり空気が湿っているため、乾いた枯れ葉を見つけるのは難しいだろう。
何せ、森の中は大樹の葉で日陰ができている。
空気が湿っているおかげで地面は比較的しっとりしていたし、地に落ちた枯れ葉を見つけるのは至難だろう。
……まあ、こういうときの裏技として、乾かすというまあ至極当たり前な方法があるのだが。
……そういえば。
話は脱線するが、ヤシの木があるということで気候がどのあたりかわかったように、ここが地球の何処かであるなら、だいたい南緯何度、もしくは北緯何度という予測が立てられる。
ここが地球の何処か、と言ったのは、つまりこんな摩訶不思議な展開で(主に俺の性転換、のみならず肉体の改造)、本当にここが現世生きていた地球なのかちょっと疑わしくなってきたからだ。
……まあ、のみならずラノベを読んでいた俺の脳みそが、異世界転生を夢見て期待しているというのも、要因の1つではあるが。
それはさておき。
ここが地球の何処かであるなら、おそらく北回帰線、もしくは南回帰線付近20度から30度の地域であると推測できる。
この緯度の地域は、大陸の東岸においてはモンスーンの影響を受けるため非常に湿潤となり、熱帯モンスーン気候や温暖湿潤気候など熱帯や温帯に属する気候となる。
対して、西岸においてはモンスーンの影響を受けないため、亜熱帯高気圧の影響下でほとんど雨が降らず、乾燥帯となる。
このことから、この地域は少なくとも乾燥帯ではないので大陸の東側――つまり、東南アジア付近か、もしくはミクロネシアあたりのどこかだろうと推理できる。
植物はいろんなことを教えてくれるのだ。
道に迷ったときには植物を観察しろとはこのことである。
……え?
そんな話聞かない?
まあいいじゃないか。
○● ○●
俺は先ほど森から拾ってきた枯れ葉や枯れ枝を、河原の石で作った簡易的なコンロに敷き詰め始めた。
この敷き詰め方には1つコツがある。
それは、枝を円錐形に並べて立てることだ。
火は振動数が高いために軽く、上に上にと登る性質を持つ。
このように円錐形に枝を配置することによって、この性質を利用して火の威力を強めてあげることができる……らしいのだ。
中学生の頃、林間学校で先生に教えてもらった。
あれは確か、飯盒炊爨のときだったか。
「懐かしいな……」
ポツリ、と口から言葉が溢れる。
思い出すとカレーが食べたくなってきた。
そういえばまだ食料を調達していない。
お腹も少し減ってきたし、火の準備ができたら燃料調達とキャンプ用の素材集めついでに食料も調達しないといけないなぁ。
「……飯、何にするか」
こういうときは、近くに川があるということで川魚を調達するのがいいだろう。
銛突きはしたことがないが、やり方はテレビを見て知識としては知っている。
多分なんとかなるだろう。
……魚か。
そういえば近くに海があった。
海水を蒸留して沸騰させて、塩でも採るか?
……いや、夕飯の時間には間に合わなさそうだ。
なにより、日が暮れる前にすべてを終わらせなければならない。
塩はまた今度調達するとしよう。
あー、でもそうなると内陸に向かって歩くわけだから、なるべく早くに海水がほしいところだなぁ。
……容器か何かあればいいんだが。
まあ、まだ難破船の物色が済んでいないんだし、ここを離れるのはそれからにして、それまでになんとか塩をゲットすればいいだろう。
運が良ければ、地面を掘れば岩塩が採れるかもしれないし。
俺はうんと頷くと、今度は割れたグラスを持って川に向かった。
……え?
何をするのかって?
今から火をおこすんだよ。
……火をおこすのになぜ水を汲む必要があるのか?
なぜだと思う?
……何かに引火したときに火を消すため?
違う違う、この水を使って火をつけるんだよ。
理科の実験で小学生のときにやらなかったか?
こう、虫眼鏡を使って太陽光を収束させて、黒い紙を燃やしたりする実験。
そう、今からやるのはそれなんだ。
凸レンズが太陽光を収束して、火をおこすことだ。
これが原因で火災になることもあるが、この場合は収斂火災という。
やり方を説明しよう。
まず、割れたグラスの中に水を淹れる。
次に、手頃な石の上にここに登ってくる前に採取したヤシの木の皮を、事前に割いて繊維質なふわふわの木屑にしたものを設置する。
そして、グラスの位置を調節して日光を収束させ、木屑に収斂させる。
あとはそのまま放置だ。
しばらくすると煙が出るので、グラスの水滴が火種に落ちないよう注意しながら、その火種を先程作った簡易コンロにくべる。
くべながら、火が消えないように手で風を送り、息を吹きかけて火種を成長させるのだ。
「おし、一発でついた」
慣れていないと何回も試すことになりそうだなと思っていたが、どうやら杞憂だったみたいだ。
問題なく火は成長し、コンロの中で燃料を食べて揺らめいている。
夏場だということもあり、近くにいると結構暑い。
「よし、これで水と火の確保ができた。
あとはキャンプの設営と食料だな」
飯の用意は……どうしよう。
今から獲りに行くか?
それともキャンプの準備してからか……。
「んー、とりあえず腹減ってきたし、魚でも獲りに行くか」
銛がないから、手掴みで捕ることになるけど。
The 野生児幼女誕生だな。
俺は、我ながら少しも笑えない冗談であることに微妙な笑みを浮かべると、川に向かって歩を進めることにした。
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俺、異世界に来たっぽい。
魚を食って腹も膨れたことだし、次はさっそくキャンプを作ることにしよう。
俺は食べ終わった魚を串刺しにしていた枝を火にくべると、さてと立ち上がった。
枝についた魚油が焚き火で蒸発して、パチリと音を立てる。
キャンプ。
つまりは拠点のことだ。
拠点に必要なもののうち、火と水、それから鍋などの道具は揃っているので、あとは寝床が必要となる。
野宿のときに1番注意しなければならないのが、地面に直に寝てはいけないということだ。
ああ、それと木に凭れて寝るのも良くない。
それはなぜか。
地面や樹木に接した状態で寝ると、体温を奪われ低体温症になる危険が増えるからだ。
焚き火があれば火の熱でどうにかなるので今回はあまり心配しなくてもいいが、しかしイレギュラーもある。
そのイレギュラーとは何か。
この地域はヤシの木があることからも推理できるように、温暖湿潤気候だ。
つまり定期的に雨が降る。
俺の言うイレギュラーとはつまり、夜に雨が降った場合だ。
そうなると火を作ろうにも焚き火が濡れていて火がつけられない。
おまけに曇っていれば収斂発火も難しいだろう。
つまり何が言いたいかというと――屋根が必要なんだ。
○● ○●
手頃な太さと長さを持つ木の枝を森の中から引きずってくる。
あと蔓性植物の蔓。
頑丈なのを数本引っ張ってくる。
あとは大きな葉が数枚。
できれば表面がツルツルしているバナナの葉がいいだろう。
「運良く見つかってよかった」
これから作るのは、原始的なログハウスだ。
時間はかかるが……そうだな。
今太陽は中点を少し過ぎたくらいの位置にある。
だいたい現在の時刻は14時くらいだろうから……完成はうまく行けば16時までにはいきそうだな。
つまり下手をすれば日が暮れるので、早く始めよう。
作り方は至って簡単だ。
まず1番長い木を支柱とするために真ん中にぶっ刺す。
そしてその周囲に小屋の広さを決める四つ角に、ほぼ均等な長さの木をぶっ刺す。
四つ角の木同士をまた別の木で渡して、今度は蔓で結んで固定する。
支柱と、今度は結んで固定した木の間にまた木を引っ掛けて蔓で固定して……ある程度屋根の形を作る。
大体の家の形ができれば、次はバナナの葉を加工する。
屋根の形に合わせて、バナナの葉を扇状に並べて穴を開け、蔓紐を通して結びつけるのだ。
大きさは角錐の側面積を測る方法を流用して計算した。
だいたいでいいので、そこまで細かく計算しなくていい。
今回はめんどくさいので目算にした。
さて、バナナの葉の加工が終われば、今度はそれを屋根の上に被せて蔓紐を端でくくる。
このとき、小屋の骨組みとくくり合わせること。
ただ被せただけでは、強風が出たときに吹き飛ばされるから要注意だ。
「よし、とりあえず壁はないけど寝床は完成だな」
俺はパッパと手を払うと、遠くから自分で立てた小屋の出来栄えに目を輝かせた。
壁はまたおいおい作るとして、とりあえず寝床は半ば完成だ。
あとは中の焚き火が煙を散らしてバナナの葉の中にいる虫をあぶり出してくれれば完璧だ。
あ、早速一匹落ちてきた。
「清潔には欠けるが、まあ仕方ないだろう」
俺は小屋の外の河原に腰を下ろすと、空を仰いだ。
この低身長のおかげか、小屋を立てるのに少し苦労した。
ほんの些細な苦労だったが、それでも精神的に疲れた。
おまけにここは暑い。
何度熱中症になりそうだと思ったか。
……あー、汗で蒸れて気持ち悪い。
そこの川で体洗うか。
ても汚れたしな。
俺はガバリと上体を起こすと、川に向かって這っていった。
○● ○●
水着を脱いで裸になる。
相変わらず肉体は幼いが、しかし巨乳というわけではないが胸だけはそこそこある。
「……」
少し揉んでみる。
掌に収まるサイズより少し大きめのそれは、吸い付くような手触りと、押せば跳ね返す弾力を持っていた。
擬音で表すなら、フニフニが適当だろうか?
「って、何やってんだ俺は」
しかし哀しいかな、それが男の性というものだ。
そう言っておきながら俺は、自分の胸を揉むことをやめようとはしない。
「んっ……///」
あ、やべ。
気持ちよすぎて止まらない。
胸だけじゃなくて、股の方にまで自ずと手が伸びてしまう。
……ここからは、少し刺激が強すぎるのでカットさせてもらおう。
○● ○●
「ふぅ……///」
ヤバい。
外でやるオ○ニーの破壊力、まじヤバイ。
めちゃくちゃ気持ちよかった……。
おかげで何回もイッてしまって、気がつけば日が暮れ始めていた。
危ない危ない。
俺は指に付着した液体を川の水で洗い流し、全身を洗った。
ヤりすぎたせいか、すこし足元が覚束ない。
股間が少しヒクヒクしてる。
それはさておき。
俺は火に燃料をくべると、水浴びの最中に獲った魚を石のまな板の上に置いた。
昼も夜も同じ串焼きというのも味気がないので、今度は別の料理にする。
といっても、焼くだけのことに変わりはないが。
まず、魚を〆る。
鱗をとって、腹を裂き、ワタを抜く。
ワタを抜くときのコツだが、腹膜を破らないようにすると中にワタが残らずスルッと抜けるのでおすすめだ。
これは、獣を解体するときも同じだ。
で、鍋に水を組んできて、焚き火コンロにセット。
その間に魚を三枚におろして……お湯が沸騰したらそこに魚を入れる。
完成、めちゃくちゃテキトーに作った魚のしゃぶしゃぶ。
生で食うとアニサキスなどの寄生虫の心配があるのでちゃんと火を通して食べること。
これさえ守れば問題はない。
もしアニサキスにかかったらどうなるか……。
ものすごい腹痛ではすまないだろうな。
私は苦笑いを浮かべると、出来上がった魚をフォークで突き刺して口に運んだ。
……ああ、せめて米がほしい。
できるなら醤油も。
「はぁ……」
無いものは仕方ない、今度は別の食料も見つけられればいいんだが。
見つけられるとすれば……バナナ、ココナッツは見つけたし、あとは希望が持てるのはパイナップルか。
でもそんなの主食には出来ないしなぁ。
タロイモはどうだろう?
この気候なら森の中で見つかるだろうし、明日探してみるのもいいかもしれない。
俺はそう思いを馳せると、燃料の枯れ枝を継ぎ足した。
○● ○●
夕食を終えた頃には、日が暮れて夜の帳が降りていた。
思っていたよりも冷える。
パチパチと音を立てて燃える焚き火の風上に陣取りながら、俺は空を見上げた。
空はいっぱいの星が輝き、俺のいる地上を月明かりとともに照らしている。
空気が澄んでいるのか、とても星空がきれいだ。
だが、そんなことよりももっと気になることがあった。
「ん……?」
思わず、眉を顰める。
空気が澄んでいるのは、満天の星でわかる。
だが、そうじゃない。
俺は今、ここが地球上のどの地域でもないことを証明する、とんでもないモノを視界に映していた。
「月が……2つ?」
そうだ。
月が2つあるのだ。
大きな蒼い満月に重なるようにして、2回り小さな紫色の月が浮いているのである。
天文学に詳しい方ではないが、少なくとも紫色の月は見たことがない。
少なくとも、俺の知る太陽系の衛星のどれにも当てはまらない。
……これは、もしかすると本当に異世界に来てしまっていたのかもしれない。
「待てよ……?
となると、食べた魚ももしかして、元の世界の魚と違ってよくわからない毒とかついていたりする可能性も……?」
途端、ぎゅるる、とお腹が悲鳴を上げ始めた気がした。
うう……ちょっとトイレ行ってこよぅ。
あ、トイレ無いんだった。
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