アヤカシ探偵物語 (イサシ)
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第一話 探偵登場

 こんにちは!イサシと申します!好きな作家は森博嗣、京極夏彦、西尾維新、と、まあ、その系統の方々が大好きです。そのため、探偵が某本屋の亭主だったり、某アロハシャツのオッさんだったりに似ていると思いますがご了承ください。彼はあくまで導き手であり、主人公は彼の周りにいる連中ですから、その辺はご勘弁です。
 ご意見、ご感想だけでなく、漫画やアニメ等の世間話でも何でもいいので、何かコメント頂ければありがたいです。
 では、お楽しみください!


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 『困ってる人間が目の前にいるんだ、助けない理由がないだろう?』

 

 夏休み、死の縁に立った俺を助けた男はどこか照れ臭そうにそう言った。その言葉はありきたりで小学校のころから、言われ続け、聞き飽きたものだった。だが、不思議と彼が話すと、それはとても新鮮で、素晴らしいものだと、思ってしまった。それは彼がその言葉を体現しているところを目の当たりにしたからだろうか。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だが、どちらにせよ、俺はその言葉に心を打たれ、それまでダラダラと過ごしてきた17年間で、初めて目標というものを見つけることができた。この男のようになりたい。いや、なりたいではなく、なる。そう決意した17年目の夏だった。

 

 

 1

 

 

 10月初旬。文化祭という一大行事の一つを目前に控えた神代高校はまるで音符が弾んでいるのが目に見えるような、祭り独特な雰囲気を校舎に漂わせていた。神代高校では希望した生徒がそれぞれ出し物や店を出すことになっており、自由度も高く、毎年、隣町に住んでいる人も来校するくらいの賑わいを見せていた。

 だが、当然、その生徒たちの案をまとめて、文化祭としての形を創るのも生徒側がやらねばならず、その役目を担うのは生徒会と運悪く各クラスから二人選ばれた文化祭実行委員会だった。

 

「何で、俺がやらなくちゃいけないんだ・・・」

 

 神代学園西校舎5階、階段を上がり、左折。その突き当たりにある教室で、俺は目の前にある膨大な紙の束に圧倒されていた。どう考えても一人で処理できる量ではない。どうして引き受けてしまったんだと途方にくれていると紙の山の向こう側からぶっきらぼうな女の子の声が聞こえる。

 

「くじで負けたんだから仕方ないでしょ」

 

 彼女は礼儀正しく背筋を正して、本を読んでおり、赤いフレームのメガネにうなじが見えるか見えないかくらいの紙の長さ、それに加えて彼女の知的なイメージが合わさり、とても様になっていた。

 

「そうは言ってもこれはあんまりだろ!あいつら、俺ら文芸部が文化祭で文集しか出さないことをいいことにどんどん仕事押し付けてくんだぞ!?」

 

 勢いよく椅子から立ち上がり叫ぶ。だが、女子生徒はどこ吹く風といった感じで眠たそうに欠伸をする。

 

「本当のことじゃないの。もう、文集の編纂は終わったんだし。もうやることないから丁度いいんじゃない?」

 

「空は文化祭実行委員会じゃないから言えるんだよ!お前も一回、会議に出てみろ、コミュ力の無い俺らがいったら、最期、奴隷のように働かされるぞ」

 

「大地と一緒にしないで。私はちゃんとコミュ力あるから」

 

「嘘つけ。コミュ力ある奴が文化祭直前の放課後にこんなしみったれた教室で読書に勤しんでいるわけないだろ」

 

 俺がそう言うと、空はギロリとこちらを睨む。

 

「な、なんだよ?」その迫力に驚き、たじろいでいると、少女はハァ、とため息をついて、足元に置いてある学生カバンから筆箱を取り出すと、貸して、とぶっきらぼうに言う。

 

「何を?」

 

「だから、書類、貸して、手伝うから!」

 

 意図をつかめないでいると、空が声を荒げる。

 

「え?手伝ってくれるのか!?」

 

「だから、そう言ってるじゃない!さっさと終わらせて、ご飯食べにいくわよ、あんたのおごりで」

 

  そう言うと、彼女は彼の前にある紙の束からとって、せっせと書類に目を通し始める。

 

(いきなり、どうしたんだ・・・・・?)

 

 女心は秋の空とも言うし、きっとお腹が空いているのだろう。俺はそう考えて、彼女と同じく目の前の業務に取り掛かった。

 

 

 

 

「そういえば、探偵の噂知ってる?」

 

 紙の束との死闘を終え、二人は現在、駅前のカフェに足を運んでいた。もう7時過ぎだというのに、店内に客は彼らしかおらず、店の評判を察することができた。

 

「探偵?」思わず、ドキリとして、口に運んでいたスプーンを止める。その探偵に心当たりがあったからだ。

 

「そう、探偵。困っている人に突然、電話がかかってきて、解決法を教えてくれるんだって」

 

空は頼んだパスタをフォークでクルクルと巻き取り、口に運ぶ。それで自分がスプーンを止めていたことに気づいた。

 

「見返りとかはないのか?」

 

「ないらしいよ。あくまでもボランティアっていうのがその探偵のスタンスなんだってさ。胡散臭いよね」

 

 それを聞いて少し安心した。あの人物が金を要求しないなんていうことはありえないからだ。

 

「全くだよな。そんな電話がかかってきたら、俺だったたら無視するけどな」

 

「そんなこと言って、大地だったらあっさり、信じ込んじゃいそうだけどね」

 

 空がいたずらっぽく軽く笑う。普段が無愛想なだけに、たまに見せる笑顔に思わずドキリ、としてしまう。小さい頃から一緒にいるがここ最近はその頻度が増えた気がする。

 

「でも、なんでそんなことしてんだろうな。そんな金ももらわないで、探偵稼業なんて、生活成り立たないだろ」

 

「お金が目的ではないってことじゃない?お金持ちの気まぐれってやつかも」

 

「世の中、酔狂な奴もいるからな。そういう人がいても不思議じゃない、か」

 

「そうだよ、うちの部活だけでも、変わった子があれだけいるんだから、レンとか乾とか」

 

「いや、あいつらは特別だと思うぞ」

 

 シャーロキアンが過ぎて、架空の格闘技であるバリツの道場を開いたり、家が大好き過ぎて、出席日数ギリギリのお馬鹿がそう何人もいるとは思えない。我が文芸部は総勢20人の生徒で構成されており、その内の15人が幽霊部員という有様だった。残りの5人は自分と空、今さっき話題となったレンと乾(学校に顔を出した日には部活に来るのでカウント)それともう一人、海原という3年の先輩だ。その5人だって、文芸部の活動をしているとは言い難く、部室はその5人の私有地と化していた。

 

「まあ、なんにせよ、その探偵は助けてくれるんだろ?危害を加えているわけではないのならいいんじゃないのか?」タダだし。ボランティアに勤しんでいるというなら、是非続けて欲しいものである。

 

「それもそうね。この話はやめましょうか」

 

 空はそう言うと、店員を呼びつけ、コーヒーのお代わりをもらう。やってきた店員は白髪混じりの髪をオールバックにした40くらいの壮年の男性だった。

 

 彼が空のカップにコーヒーを注いでいる間、ふと、窓の外を見ると、道路の向こう側に街灯に照らされた神代高校の制服を着た女子高生がトボトボと歩いているのが見えた。髪は短く、左手にシューズ入れをぶら下げていることから恐らく部活帰りだろう。顔立ちはどこか幼く、まだ中学生でも通りそうだった。

 

 それだけだったら特に気に留めることはなかっただろう。だが、目を離すことができなかった。その少女からではない。彼女のすぐ背後。そこから目を離すことができなかった。

 

(あれは・・・・・・)

 

 急いで、席から立ち上がり、店から出る。驚いた空が非難の声をあげるが、ゴメン、と謝り、女子高生の後を追う。すぐに追いつけるかと思ったが道路の向こう側に渡ろうとしたがタイミング悪く、信号が変わる。

 

(くそっ・・・早く変われよ・・・)

 

 飛び交う車の間から見える女子高生の姿を必死に目で追う。「それ」は彼女の背後にのしかかるようにしがみついていた。だが、彼女の横を通り過ぎる人たちはそれを気にする様子を見せない。

 

 普通、見えないのだ。「それ」は。俺が「それ」を見ることができるのは、今年の夏休みにあの男に助けられたからだ。その副作用として、幸か不幸か俺は「それ」を見ることができるようになってしまったのだ。

 

 信号が変わった。向こう側の道路へ急いで渡り、後を追う。反対側から帰宅中のサラリーマンと何度もぶつかりそうになるが、謝りながら、何とか前へと進んで行く。

 

 女子高生に追いつくまで後10メートルというところで、彼女は薄暗い路地裏へと入っていた。

 

(そこはまずいだろ・・・!)

 

 この街は比較的治安のいい方だが、どの街にも言えるように危険区域というものがある。彼女が入った路地裏は地元の不良やチンピラの溜まり場として有名で女子高生がそんなところに行こうものならどうなるかは想像に難くない。

 

 警察をいつでも呼べるようにスマホを取り出し、路地裏に入る。こんな脅しが効くような連中ではないことは百も承知だが、ないよりはマシだろう。

 

 路地裏は街灯もなく、月明かりがぼんやりと行く道を照らしているだけで、心をざわつかせる。戻りたいという不安を無理やり押さえつけて早足に彼女の後を追う。座り込んだホームレスや薬中の視線を無視して通り過ぎる。

 

 心臓の音がうるさい。

 

 早くこの場所から離れたい。

 

 だけどそれはできない。

 

 あんなものを見てしまった以上、無視することなんてできない。

 

 あの娘が誰かなんていうのはどうでもいいことだった。

 

 だって、夏休み俺を助けてくれたあの男は見ず知らずの自分を命がけで救ってくれたのだから。あの時、自分もああいう人間になりたいと思った。知らない誰かのために必死になれる人間になりたいと思ってしまった。

 

 それが間違いだということはわかっている。

 

 そんなものは偽善であることは百も承知だ。

 

 でも、それでも、自分はそういう人間になりたかった。

 

 それくらい今年の夏休みは熱く鮮烈に心に刻みこまれていた。

 

 街灯の明かりが見える。不良やチンピラの溜まり場である広場が見えてきた。

 

 スマホを持つ手に自然と力が入り、一歩、一歩進むたびに足が重たくなる。

 

  重い足を無理やり上げ、進む。狭い路地が終わり、眼前に広場が広がる。

 

 そこに女子高生はいなかった。影も形も。最初からいなかったようだ。

 

 歩みを進める。スマホを取り出し、119番に連絡する。

 

 そこに女子高生はいなかった。そう、女子高生は、

 

 代わりにそこにいたのは予想ではその女子高生を取り囲んでいるはずの奴らだった。彼らは皆、一様に地べたに這いつくばりのたうち回っている。

 

 うめき声が聞こえる。

 

 ゆっくりと足元を見る。

 

 男が俺の足をつかんで、助けてくれ、と怯えた声を絞り出していた。

 

「大丈夫ですか?今、救急車を呼びます。もう少し、待っていてください」

 

 落ち着かせるようにできるだけ優しく声をかけ、彼を仰向けにさせ、容態を見る。素人の自分でも命に関わるかどうかくらいはわかると思ったからだ。どこか怪我をしていないか、見渡す。だが、服も破れておらず、怪我もしている様子はない。

 

 だが、彼の首筋に何か縄で閉められた後のようなものがあるのに気づく。

 

「少し、脱がしますね」

 

 彼に許可を取り、シャツのボタンを外していく。やがて、彼の上半身が見えると、思わず、後ずさる。

 

「何だこれ?」

 

 それは黒い蛇だった。太さは15センチ。長さは2メートル以上はある。そんな大蛇と呼べるようなものがが今まさに彼の体を締め付けていた。

 

「なんだ?どうしたんだよ?おい!」

 

 そんな俺の様子を見たのか男は不安気にこちらを見る。

 

(見えてないのか?)

 

 今の様子だと、男には蛇の姿が見えていないようだった。それはつまり....

 

(アイツらか)

 

 こうなると自分では手に負える状況ではない。専門家の力が必要だろう。救急車がやってきて次第、あいつの所へ行くべきだ。そう考え、足元の男の介抱に戻ろうとする。

 

 だが、ふと背中越しから見られている感覚を覚える。それも大量のその視線は人間のものではないということは感覚的にわかった。

 

 ゆっくりと、本当にゆっくりと、背後を振り向く。

 

 見ていた。蛇が。

 

 何匹も。

 

 何匹も。

 

 何匹も、()()()を見ていた。

 

 彼らは獲物を見つけたとばかりに、彼らは舌をちらつかせ、爛々と目を輝かせる。

 

「ヒッ!!??」

 

 叫びだしたくなるのを何とかして抑える。刺激するのはマズイ。恐怖を押さえつけ、ゆっくりと後ずさる。倒れている彼らはとりあえず命に別状はないと判断する。やろうと思えばいつでもやれる状況であったにも関わらず、彼らは縛られるだけですんでいた。それはつまりこれをした人物は彼らを殺す意思はなかったということだ。だが、乱入者である俺は別だ。恐らく、この蛇たちは俺を殺すなという指示を受けていない。つまり、彼らは野生の蛇そのものということだ。

 

(マズイ、このままじゃ!!)

 

 身体中から嫌な汗が噴き上がり、身体の指先に至るまで震えが止まらない。自分は今まさに餌として認識されていることを自覚する。周囲を見渡し、何とか逃げる方法を探る。だが、周囲に使えそうなものはなく、徐々に死の重圧がのしかかっていくのを感じる。このまま何もしなくても、死ぬだろう。ならば、一か八か背後に向かって全力で走るしか....

 

 そんなことを思っていた時、突然、陽気なメロディが路地裏の広場に鳴り響く。確か最近流行りのアイドルの応援ソングだったはずだ。普段なら元気を与えてくれるはずの歌が今は死を悼む歌にしか聞こえなかった。

 

 (最悪だ!)

 

 地べたに這いつくばる男のポケットを鬼の形相で睨み付ける。だが、そんな余裕はすぐに消え去った。この空間に存在する全ての蛇がこちらに今まさに飛びかかろうとしていたからだ。

 

(死んだな・・・・・・・)

 

 人間はまさに死ぬ瞬間、それまで生きてきた人生がフラッシュバックされるというが、嘘ではなかったらしい。自分がまだ赤ん坊だった頃の母の記憶、小学校の時の幼馴染の姿、中学生の時に振られた事、高校で文芸部に入った時の事、今年の夏休み、その他多くの記憶が脳裏に叩き込まれる。17年間の軌跡を見たが、順風満帆とはいかずとも、それでも、楽しく、満足な人生だったのではないかと思う。ゆっくりと目を閉じて、眼前に迫る死を受け入れる。

 

 だが.....、

 

「随分と物分かりがいいじゃないか、岩戸くん?」

 

 男の声が聞こえる。低く、どこまでも低く、聞いた者を従わせるためにあるような独特な声質。それでいて、妙に聞いていたくなるような話し方。

 

「君は本当に憑いてるねぇ、狙ってやっているのかな?」

 

「そんなわけあるか、偶然だよ」

 

 思わず、笑みがこぼれる。今年の夏休み。決して忘れることのできないこれまでの17年間を吹き飛ばすような出来事。それに最も関わった人間が目の前にいる。ゆっくりと目を開ける。先ほどまで死の象徴だった蛇たちは皆一様に地べたに磔にされたように動かなくなっていた。代わりとしてこの空間を仕切る男が一人。時代錯誤の黒い着物に下駄。180センチくらいの長身に男にしては少し長い黒髪とひどく悪い目つき、それに合わせてマフィアのボスがすっていそうな葉巻と相手を震え上がらせるような風貌。だが、その物腰はひどく柔らかく、話すものを落ち着かせた。

 

「ハハッ!まあ、いいや、そういうことにしといてあげるよ。とりあえず後のことは公僕に任せて場所を移そうか?ここじゃいろいろ面倒だ」男は、葉巻をふかせ、ニヒルな口調でそう言った。

 

 この男の名は神島。探偵だ。

 




読んでくださりありがとうございます!感想お待ちしてます!


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第二話 忠告

宜しくお願いします!


 

 

 「それにしても、君のその体質も難儀なものだな」

 

 神島が茶を啜りながら、茶化した風に言う。あの後、救急車が来る前に立ち去ろうという神島の提案に従い、現在、彼の家にお邪魔していた。彼の家はまるで大名でも住んでいるのかと思うほど、大きく、かつ、綺麗に

清掃されていて、荘厳かつ清廉な雰囲気を纏わせ、和風な家の少ないこの街において、名物と化していた。

 

「大きなお世話だ。でも、仕方なかったんだよ」

 

「わかっているよ、君が見えるくらいしか取り柄がないのに首を突っ込むお人好しだというのはね」

 

「うぐっ」痛いところを突かれて、声を詰まらせる。事実だけに何も言い返せないのが悔しい。

 

「まあ、だが、自分の身を顧みず、その女子高生を助けようとした勇気には賞賛を送ろう。技術はやっているうちに身につくものだが、心はどうにかなる問題ではないからね」

 

 神島が珍しく褒める。どういう風の吹きまわしだろうか。

 

「そりゃ、どうも」普段、滅多に褒められないから、どうしたらいいかわからず、ぶっきらぼう返事してしまう。

 

「照れるなよ、気持ち悪い」

 

「う、うるさいな!慣れてないんだよ、褒められるの」

 

「この褒めて伸ばすが良しとされる時代においてかい?」

 

「スパルタだったんだよ、うちの家は」

 

「君の家が子供に矯正ギブスを強制する家庭だったとは驚きだ」

 

「巨人の星を目指した覚えはねぇよ!」我が家は巨人どころか野球すら誰も見ない。

 

「巨人の星は世代を超えて受け継がれるべき漫画だと思うけどね。花形が大リーグボール1号を骨折しながら、スタンドに叩き込んだときは感動したものだよ」

 

「それはそうだけど!確かに花形は元祖ライバルとして歴史に残ると思うけど!でも今は巨人の星の素晴らしさを語っている場合じゃないだろ!」

 

 大量の大蛇を使役していたと思われる女子高生。それに噂の探偵。この街で一体なにが起きているのだろうか。疑問を口に出そうとする。だが、それは口に出かかったところで遮られた。

 

「君は首を突っ込むな」

 

 神島の雰囲気が急に変わる。先ほどまで、気さくに話していたのに、一転して先ほど、路地裏で身に纏わせていた威圧的な雰囲気がこちらにのしかかる。

 

「どういうことだよ?」

 

「そのままの意味さ。今回は僕がたまたま近くを通りかかったから良かっただけで、本来、君は今日、間違いなく死んでいた。わかるだろう?君は関わるべきじゃない。今度こそ死ぬよ?」

 

「でも!?」

 

 あの数の不良やチンピラをものの数分で片付けた人間がこの街、いや、自分たちが通う学校にいるのだ。そんな状況を放っておけるわけがなかった。

 

「いいかい?君は学生で僕は専門家だ。君はあくまで見ることしかできないんだ。それだけであれだけの惨事を起こした人間に太刀打ちできると思うかい?後のことは僕に任せて君は学生生活に戻りなさい」

 

 神島はまるで教師のようにこちらを理路整然に言い聞かせようとする。彼の口調はこちらの頭に直接響いているかのようで、納得してしまいそうになる。頭ではそんなことはわかっていた。だが、納得はできない。このまま何もできないから、何もしないなんて、絶対に嫌だった。

 

「俺にできることは何かないか?」往生際悪く、神島にすがるように聞く。だが、彼はそんな俺をバッサリと切り捨てる。

 

「ないよ。この件に関して君ができることは何もない。だから、君はまず自分のすべきことをしなさい」

 

「すべきこと?」

 

「ああ、心配していたぜ?空ちゃん。君の様子がおかしいと慌てて電話かけてきたんだよ。感謝しなさい。彼女は君の命の恩人だ」

 

「そうだったのか・・・」妙にタイミングよく登場したものだから、おかしいとは思っていたが、俺が店を出た後、空がすぐに神島に連絡してくれたからだったのか・・・・・

 

「感謝しないとな」

 

「そうだよ、彼女、僕に借金してまで君を探してくれって言ったんだぜ?いい娘じゃないか。大事にしなよ」

 

「わかっているよ、そんなこと。・・・・・というか、やっぱり、金とったのか?」

 

「そりゃ、そうだろ。商売なんだから、当たり前さ。君の借金も膨らんでいく一方だから、早く返さないと大変なことになるよ」

 

 神島が冗談めかして言う。だが、彼のその風貌からそういう風に言われるととても笑う気分にはなれなかった。夏休みに俺は神島に助けられた。だが、その報酬として、学生ではとても支払えない報酬を彼から請求された。それ以来、彼は何かにつけて、俺をいいように使うようになった。

 

「ま、彼女の借金は君に比べたら微々たるものだからね、彼女ならバイトでもしてすぐに返してくれるだろ。問題は君さ、いい加減にしないと、臓器の一つは覚悟してもらうよ?」

 

 まずい。さっきのは冗談ではなく本気だったらしい。いつまでたっても返す目処の立たない俺にいい加減、業を煮やしているようだ。顔は笑っているようで目が全く笑っていない・・・ここはどうにか話題を変えなければ・・・・

 

「あ!?そうだ、あの噂知っているか?困っている人の電話に探偵がかけてきて解決法を教えてくれるってやつなんだけど?」

 

「なんだい、それ?」

 

知らない様子の彼にその噂について知っていることを話す。

 

「・・・・・」

 

一通り話し終えると、神島は懐から葉巻ケースを取り出し、一本の葉巻を手に取り火をつけ、ふかし始める。表情はいつにも増して険しく、好意的に受けとってはいなのいのは明白だった。

 

「一応、聞くけどお前じゃないよな?」

 

押し黙っている神島にたまらず聞く。

 

「当たり前じゃないか。ボランティアで人助けなんてまっぴらごめんだよ。僕はね、そういうあやふやな関係が嫌いなんだ。僕が知識でもって、人を助けその代価として、お金をもらう。等価交換だよ、僕が愛するのは。どこぞの小さな錬金術師様も言っていただろう?」

 

「わかってるよ。身をもって」

 

 今、現在絶賛負債中の自分には痛い言葉だった。

 

「それにだよ、君は疑問に思わなかったのかい?」

 

「何を?」

 

「どうして、その探偵は困っている人がわかるんだい?どう考えても普通ではないだろ」

 

「確かに....」

 

 噂だからと深く考えていなかったが、冷静に考えるとおかしな話だった。困っている人間がわかり、なおかつ、その人にピンポイントでアドバイスできる人間が普通であるはずがなかった。

 

「じゃあ、これも奴らがらみってことか」

 

「その噂がデマじゃなければね。奴らが直接やっているのか、それとも、使役されているのかまではわからないが、絡んでいるのは間違いない」

 

 神島はそう断言した。こいつが間違いないというときは大体において現実のものと考えてよいということはこれまでの経験からわかっていた。

 

「そいつは何が目的なんだ?」

 

「そこまではわからないさ。でも、まあ、どうせろくなことじゃないよ。なんせ、ただより高いものなんてないからね」

 

神島は葉巻をふかして、得意げに言う。今風でいうならドヤ顔というのだろうか。少し腹が立つ。

 

「ま、今日のところは帰りなさい。そちらの方も調べておいてあげるさ」そうして神島は立ち上がると、玄関を指差す。さっさと帰れということらしい。

 

「わかったよ。じゃあ、なんかあったら教えてくれよ。どうせ、金は俺持ちなんだろ?」

 

「ああ、わかっているじゃないか。言う手間が省けて助かるよ」

 

「じゃあ、頼むぜ」

 

 彼からはこの件には関わるなと言われた。俺もそうするつもりだった。だが、翌日。その約束は図らずも破られることになる。 

 




読んでいただきありがとうございます!


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第三話 逃げ出せるはずもなく

宜しくお願いします!


 

 

「え?辞退ですか?この直前に?」

 

 次の日、登校し、玄関で靴を履き替えていると、担任かつ我らが顧問の設楽先生に呼び止められ、指導室に連れて行かれる。何事かと不安におもっていると、どうやら文化祭で店を出す団体が中止を申し出てきたということだった。

 

「ああ、全く困ったものだよ。しかもその団体がバスケ部ときたもんだ」

 

「バスケ部って、女子ですか?」

 

「ああ、全く、どうしたもんかね」設楽先生は困ったように髪をかく。そんな仕草でも綺麗に見えてしまうの

だから美人は得だ。

 

 うちの学校の女子バスケ部は全国でも有数の強豪校で、文化祭でもバスケ部の出す出し物目当てにやってくる人がたくさんおり、うちの文化祭の目玉の一つでもあった。

 

「何かあったんですか?」

 

「いや、わからん。昨日、キャプテンの田島から突然、電話がかかってきてな。理由も言わず、辞退すると言ってきたんだ。」

 

「そうなんですか」何があったのだろうか。この直前に辞退するなんて、正直言って普通ではない。しかも他の学生ならともかく、女子バスケ部だ。彼女らも自分の立場はよくわかっているはずだ。

 

「まあ、とりあえず今日話してみるが、あの調子だと何も話してはくれないだろうな」

 

「それでなんで俺にそれを報告するんですか?確かに俺は文化祭実行委員会ですけど、何の役職も付いてないですよ」

 

 そういうのを報告するなら委員長か生徒会長辺りに連絡すべきだろう。

 

「まあ、そうなんだが、ちょっと今立て込んでてな。あいつらも他のことで手一杯なんだ」

 

「そりゃ、大変ですね」

 

「ああ、大変なんだよ」

 

「それじゃ、頑張ってください」

 

 嫌な予感がして、さっさとお暇しようと、立ち上がりドアに向かう。

 

「まあ、待ちたまえ、岩戸。まだ、朝礼には時間がある」

 

 だが、後ろから肩を捕まれ、再び無理やり座らせられる。いや、男一人を力任せに座らせるってどんな力だよ・・・

 

「ハァ、何をしろって言うんですか?」

 

 設楽先生に頼まれた用事を断り切れたことがないので、あきらめて話を聞くことにした。

 

「ふむ。なんだ妙に素直じゃないか」

 

「どうせ、断ってもやらせるでしょうが」

 

「ハハハッ!!よく、わかっているじゃないか。なに、簡単なことさ。私がいきなり話を聞くと、構えられてしまうからな。田島にはお前からまず軽く話を聞いてきてくれないか?」

 

「いや、どこが簡単なんですか!滅茶苦茶難題ですよ!そもそも俺、田島さんと話したことないんですけど・・・」

 

 学校のスターである田島さんと自分では月とスッポンだと言われても何も言い返すことができない自信がある。

 

「ならチャンスじゃないか、いやぁ、教え子に青春のチャンスを設けてあげるとは良い教師だなぁ、私って」

 

「はは、そうですね」めんどくさい状態の先生に適当に相槌を打ち、話を戻す。

 

「でも、なんでそれを俺に頼むんですか?もっと適任がいるでしょうに」

 

「いや、だって暇だろ?」

 

「・・・・・・」

 

 いや、暇ですけど。もう、文化祭まで学校以外何の用事もないですけれど。でもだからって、先生がそんな気軽に生徒に仕事押し付けるなよ・・・

 

「まあ、それは冗談として、お前、こういうの得意だろ?調査みたいなやつ。私はどうもこういうのは苦手でな。うだうだ言われると殴ってしまうかもしれん」

 

「・・・よく教師になれましたね。でも、買ってくれるのはありがたいですけれど、俺だって、別に得意な訳で

は・・・」

 

「またまた、聞いたぞ?江戸川から。浮気調査、猫探しなんでもござれらしいじゃないか」

 

「いや、それ真っ赤な嘘ですからね!何で一介の高校生の俺がそんなことしなくちゃいけないんですか!?」

 

 確かに、神島への借金を返すためにここ二ヶ月程、いろいろ手伝ったが、それは最終的にはヤツらに行き着くものばかりだった。

 

「なんだそうなのか、だが、仮にそうだとしても、私はお前に頼むつもりだったよ」

 

 先生は少女のようににこやかに微笑み、こちらを見る。その笑顔は男ならば、心臓を掴まれる事間違い無しと思えるくらいには魅力的だった。

 

「な、何で、ですか?」ドギマギしたせいで声が震えているのが自分でわかる。先生はそんな俺の動揺を知ってか知らずか余裕を持った笑みを浮かべ、机に二つ並べられていたペットボトルのうちの一つをこちらに放り投げ、机に残ったもう一つの方を飲み始める。

 

「まあ、あれだ。言葉にすると難しいがお前は何か違う気がするんだよ」

 

 一息、入れたところで先生が話を再開する。

 

「違う?」一瞬、見えることがばれたのかと、ドキリとする。だが、それはないと直ぐに思い直す。それを知っているのは自分と神島だけだし、神島がそんな不用心に俺の性質を言いふらすはずがないと思ったからだ。

 

「ああ、何というか、お前は時折、別のものが見えているような感じがするんだよ」

 

「は、ははっ、な、何を言っているんですか。べ、別に何も見えやしないですよ・・・」

 

(ばれてるじゃないか!!!)

 

 どこでだ?どこで漏れた?疑問は膨らみ、背中に汗が伝う。

 

「いや、本当になんとなくなんだが・・・、ん?どうした?」

 

「い、いや、何でもないです」

 

 動揺が表情に出ていたのか目ざとく指摘され慌てて取り繕う(つもり)。

 

(怖!先生、怖!これが女の勘というやつか!)

 

「そうか、ならいいんだが、ってもうこんな時間か。悪いな、付き合わせてしまって」

 

 時計を見ると時間はすでに朝礼の5分前の8時20分を指していた。

 

「あ、いえ、いいですよ、それは。じゃあ、俺は失礼しますね。アディオス!」

 

「お前は何人だ」

 

 これ幸いとばかりに逃げ出す俺に突っ込みをいれる先生の言葉を背中越しに聞き、指導室から出る。

 

(ふぅ、危なかった)

 

 それにしても、勘というものは恐ろしいものだ。ほぼこちらの秘密を当ててしまうとは・・・これからは先生の目の前で妙な行動をしないようにしないとな。そう思って、自分の教室に行こうとすると、ふと、思い出した。

 

「・・・あ、頼み、断るの、忘れてた」

 

 

 というわけで、昼休み。俺は田島さんに会うべく、隣の2−3の前にいた。

 

「どうしたもんか・・・・」

 

 たたでさえ、学校のスターに話しかけるだけでも、難易度が高いというのに、それに文化祭辞退の事情を聞くという触れづらい事情まで重なっている。下手に触れて、怒らせようなものなら、これからの学生生活、気まずいものになるのは明白だった。

 

「ここで突っ立っていても仕方ないか」

 

 そう思い、勇気を持って教室へと入る。クラスにはクラスの色がある。2−3はどちらかというと開放的な部類で他所のクラスの生徒もおり、俺が入っていっても特に変な目で見られることはなかった。

 

(田島さんは・・・と)

 

 教室を見回すと、奥の方に探し人を見つける。癖っ毛の茶髪、優しげなな印象を与える目下、そして、夏服の上に羽織った、クリーム色のカーディガンが彼女の印象を明るく見せていた。彼女は友達と弁当を食べて、話に興じており、あの空間に入るのは憚られた。

 

「あの、田島さんだよね?」立ち往生しているわけにもいかず、勇気を持って彼女に話しかける。

 

「え、うん、そうだけど。えっと、確か岩戸くんだっけ?」

 

「え、俺のこと知ってるの?」

 

「そりゃ、学年同じだしね」いや、その理屈だとクラスの半分の名前も思い出せない自分はなんなんだろうか。

 

「そ、そうか。それで、今、ちょっと、大丈夫かな?設楽先生から伝言があるんだけど」

 

 設楽先生の名前を出した瞬間、彼女の表情が一瞬険しいものへと変わる。だが、すぐに取り繕うと、彼女は友達へごめんね、と言い、椅子から立ち上がる。バスケ部だからか彼女の身長はかなり高く、175センチある自分と同じくらいの身長はあった。

 

「ここじゃなんだし、屋上にでも行こうか?」

 

 口調自体は疑問系だが、そこには有無も言わせぬ迫力があった。彼女はそのまま教室のドアへと向かってしまう。

 

「お、おう」

 

 それを慌てて追いかける情けない俺に教室にいる生徒の視線が突き刺さる。それを気にしていないふりをして、早足に教室を出る。

 

「で、先生からの話って文化祭のだよね?」屋上に着くなり、田島さんは単刀直入に聞いてきた。屋上には曇りとそれに強風ということもあり、田島さんと俺以外誰もいなかった。

 

「何で、岩戸くんが伝言を頼まれているかは知らないけど、理由は部内のことだから言えないって言ったはずだけど」

 

 田島さんは首にぶら下げているペンダントを握りながら、こちらを睨みつける。

 

「それで先生が納得できると思ってんのか?」

 

「ううん、全く」

 

「じゃあ、何で、」

 

 そう言おうとして、言葉を口にするのを止める。

 

「言えるわけないじゃない・・・」彼女は小さく呟き、震えていた。何かを耐えるように。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

 とっさに彼女に駆け寄ろうとすると、彼女は自分が震えているのに気づいたのか、取り繕うかのような先ほどまでの強気な態度はどこへやら、弱々しい笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だよ。そうだよね、それで先生が納得するわけないよね。なんかごめんね、岩戸くんにまで迷惑かけちゃって。先生には私から言っとくよ」

 

(どこが大丈夫なんだよ.....)

 

 彼女が何か隠しているのは明白だった。彼女の様子からしてここで問い詰めれば、理由を言ってくれるかもしれない。だが、そこまでを俺がやる権利があるとは思わなかった。

 

「じゃあ、私、行くね」

 

 田島さんが屋上のドアへと向かう。その時、急に強く風が吹く。そのせいで、油断していた彼女のスカートが捲れあがる。咄嗟に目を逸らそうと努力する。だが、その努力は徒労に終わる。名誉のために言っておくが、決して彼女のスカートの中身に魅了されたわけではない。

 

 目を奪われたのはその下。彼女の太ももの付け根部分。そこに跡があった。何かで縛られたような。記憶が正しければ、昨日、介抱した男と同じ跡だった。

 

(蛇!!)

 

 まさか、田島さんが昨日の女子高生?そう思い、咄嗟に頭によぎったのは昨日の光景だった。十数人もの男が薄がりの街灯の中でのたうちまわる光景。それを作り出した張本人が今、目の前にいるのか!

 

 ゆっくりと視線を上げ、彼女の顔を見る。彼女の表情は下着を見られたことへの羞恥など欠片も存在しなかった。そこには絶対に知られたくない秘密を知られたという絶望と怯えが入り混じった表情があった。目は今にも涙があふれだしそうになっており、見ていられなかった。

 

「田島さん、それって、あっ、おい!」彼女に話しかけようとすると、彼女はそのまま走り出して、屋上を出ていってしまった。

 

 追いかけようとしたところで踏み留まる。刺激した拍子に、昨日のようなことが起きてはどうにもならないからだ。一人、屋上に残され、どんよりとした空を見る。今にも雨が降り出しそうで、これから始まることを決定づけるかのようだった。

 

 

 

幕間

 

 

 どうして、こんな事になってしまったんだろう。ペンンダントの中に入っている写真を見る度に泣きたくなる。

 

 私は彼女を見捨てたんだ。あんなに仲良かったのに、罪悪感から連絡することもできない。

 

 あの時、私がちゃんとしていれば、彼女はああならずに済んだのに。後悔で心が一杯になる。

 

 誰か私を裁いてください。そんな時だ、蛇が私の目の前に現れたのは。

 

痛い、苦しい、苦しい、苦しい、痛い、痛い....

 

 でも、これは私への罰だ。

 

 あの娘を見捨てた私への罰だ。なら、私は受け入れよう。この痛みを、この苦しみを。こんな痛み、彼女の痛みに比べたら大したものじゃない。

 




読んでいただきありがとうございました!


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