幻想物語=八雲紫の物語= (ライドウ)
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第一話 私と師匠の出会い

幻想郷ができて何千回かの夏・・・
とある森の中を白いワンピースを着た少女が歩いていた。


夏・・・私の好きな季節であり、また嫌いな季節である。

 

===============================

 

みょーん、みょんみょんみょんみょーん。

 

夏が極まるこの季節、獣道を涼しい格好で歩く。

いつもの導師服のようなドレスは、私の家のクローゼットでお留守番だ。

幼いころに、とある人間がくれた白のワンピース。それを着て、その人間のお墓へと向かう。

それにしても熱い、これだから夏は嫌いなのである。夜は寝苦しいし、昼ともなればすごく暑い・・・

まあ、あんまり夏の文句は言わないことにして歩く、一瞬能力を使っていこうかとも思ったが

それはそれで、何か違うような気がしたので歩き続ける。

 

しばらく歩いていると、森を抜けた。

 

「やっぱり、この風景は、いつ見てもきれいよね・・・」

 

私、八雲紫(やくもゆかり)は独り言をこぼす。

この場所は、この白のワンピースをくれた人間が好きな場所だ。

本当なら、幻想郷に入らないはずの土地だけど、私の程度の能力で努力(ゴリ押し)して、何とか幻想郷に収めることができた場所だ。

人里、博麗神社、妖怪の山や霧の湖、迷いの竹林など、幻想郷を余すことなく見下ろせる崖。

そこには、わざわざ知り合いに頼んで作ってもらった墓石がおいてある。

その墓石には、うっすらと青く輝く美しい刃を持つ刀が突き刺さってさびてしまっている。

この刀はその人間が使っていた刀で、名前を名刀雨簾(めいとうあめすだれ)と、いう。

その刀は、持ち主であるこの墓に眠る人間が振れば、有象無象を切り裂く唯一無二の刀となっていた。

しかし、その人間が死んでしまってからはこうやって、その人間の墓石に突き刺さり、ただただ錆びてしまっている。

 

「また、今年も来ましたよ?師匠。」

 

そう、子のお墓に眠っているのは、私の師匠である。

幼いころ、たった一人の妖怪だからといってほかの妖怪から追われ、殺されかけた時に助けてくれた人間の師匠だ。

師匠は、本当に強かった。体の脆さは人間のそれだけど、ほかの部分で補い、あの星熊勇義や伊吹萃香にも勝っていた正真正銘の最強だ。

あの風見幽香でさえ、参ったと言わせるほどの彼、そんな彼が私の師匠ということは私という妖怪にとって、とても思い入れの強い思い出だ。

さて、約半年来なかっただけでこの墓石はボロボロに汚れてしまっている。

 

「まずは、お掃除ね。」

 

私の能力を使えば、簡単だけど師匠がそうであったように簡単なことなら能力を使わずに行っている。

炊事洗濯、家事や本の片づけからお風呂の掃除、スキマの中の掃除だって忘れない。

なぜだか、ほかの次元の八雲紫()から、羨ましそうな声が聞こえてきたけど気にしない。

まずは、墓石を磨いてお花を取り換える。線香受けの線香の灰を地面に撒いて、新しい線香を備える。

よし、まだ体が覚えてた。何とか、そこまでは終わり私はお祈りをささげる。

私は、無宗教だけど形だけこうしている。形だけでもご利益があると思う。

 

「師匠、最近、幻想郷はさらに平和になってますよ?」

 

そう、平和になっている。

かつて師匠が求めた、喧嘩や騒動はあるけど、”戦争”がない平和な世界・・・

これも全部、師匠の助言や師匠が教えてくれたことのおかげだ。師匠のおかげで、私はここまでできた。

弱虫で泣き虫だった私を鍛えてくれた師匠に多大な感謝をしつつ、私は昔の思い出に浸る。

 

 

――――数千年前

 

 

「はぁ、はぁ・・・っ!」

 

「畜生!どこに隠れやがった!」

「あのガキ、見付けたらただじゃ置かねぇ!お頭の一物を蹴りやがって、あのクソガキが!」

 

どうして、私だけがこんなことになっているのであろう。

私は、確かにたった一人のスキマ妖怪としてこの世に生まれた。いや、生まれてしまった。

能力は、生まれつき大妖怪以上、私の能力である境界を操る程度の能力も使い方次第ではとても汎用性が効くとてつもない代物だ。

だけど、この二つのせいで、今、とてつもない危険にさらされている。

とある妖怪のごろつきどもに集団で襲われ、挙句の果てそのリーダーに犯されそうになったのだ。

途端に股間のそれを蹴り上げすきを見て逃げ出してきたけど、こうして追手がすぐそばまで来ている。

 

「はぁ、はぁ・・・逃げないと・・・初めては、好きな人がいいし・・・・」

 

これでも、300年を生きた私、まだ生娘なことを言っているが妖怪にとって300年とは人間でいう13歳的な扱いなのでセーフだろう。

だから、私の初めても渡すつもりもなければつかまってやる通りもない、そう思いつつ木の陰にうまいこと隠れつつその場から離れる。

 

「もうすこし・・・もうすこしで・・・」

 

森を抜けた・・・そして、引き返そうと立ち止まる。

 

「ぐへへ・・・よお、急いでどこに行く?お嬢ちゃん(俺の獲物)

 

最悪だ・・・読まれていた。私が、どうやって逃げてどこから出るかを・・・こいつは、化け物か・・・いや、妖怪”ぬらりひょん”か。

そんなことを考え、後ずさるが木の根っこに躓いたようで尻もちをついてしまう。

しまった。これじゃあ、逃げれない・・・

 

「おうおう、大丈夫か?俺がちゃぁんと、体の隅々まで治してやる(体の隅々まで舐めまわしてやる)からなぁ。ぐへへへへっ!!」

 

く、いやだ。気持ち悪い、こんな人が初めてなんていや・・・こんな気持ち悪い爺だなんて・・・

あぁ、私・・・ここで初めてなのかぁ・・・痛くないといいなぁ・・・・・・

 

「おいなんだおm、ぎゃあぁっ!!」

「てんめぇ!ぐあああっ!!」

 

と、後ろのほうからぬらりひょんの手下が二人吹き飛んでくる。

二人とも白目で泡を吹いて気絶しており、誰がやったかは分からないが刀の峰で殴った跡がある。

しかも、次々とぬらりひょんの部下が吹き飛んでおり流石のぬらりひょんも気づいたらしく、仕込み刀を抜く。

 

「貴様!何者だ!この私を知っての狼藉か!」

「うん、わかっててやってるよ。まあ、君みたいな女の子一人に寄ってたかって欲情する変態には言われたくないけどね」

「ぐぎぎ・・なんだときさ」

 

ぬらりひょんは、そこから先のセリフが言えなかった。

切りかかると同時に言おうとしたそのセリフは、首を刎ねられたせいで言えずに体だけがビクンビクンと痙攣して倒れた。

いつの間にか、きれいな青の光を発している刀を抜刀させていたその人間は、首のないぬらりひょんの死体が倒れた後、その刀の血を払って、音を立てないように刀を閉まった。

 

「君、大丈夫?立てる?」

「え、ええ・・・ありがとう。」

 

黒毛で糸目、今まで見てきた男性の中でとても身長が高く、顔だちも少しだけ整っている。

しかも、おとぎ話の主人公みたいに助けてくれたわけだから、私はもう惚れそうである。

 

「ケガは・・・うん、なさそう。じゃあ、ボクはもう≪きゅるるるるぅぅぅぅ・・・≫・・・よかったら何か作ろうか?」

「・・・」コクン

 

私は、心を平常心に保つのがやっとでそう頷くしかなかった。

 

 

======

 

今思えば、それが私と師匠の初めての出会いだ。

あの時作ってくれた雑炊の味は、今でもしっかりと覚えている。

涙のせいで少しだけしょっぱかった煮込んだだけの雑炊。

あの雑炊の味だけは、私でも再現は不可能なのである。

 

 




はい、第一話は終わり!
疲れたから前書きはあまり書かない!
紫さんは、実は生娘説!


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第二話 師匠と出会って数日たった後

今回は、出会ってから数日たったある日のことです。
お話が少し進みますが、急展開かもしれません。



師匠と出会ってから、ほんの数日が流れた。

師匠に無理を言ってついて行っている間は、妖怪たちは手を出してくるものの

師匠がそのたびに倒して(欠伸しながらデコピン)してしまう。

こうしてみると、師匠の強さが改めてよくわかる。

師匠の力を評価するとしたら、武御雷か素戔嗚のどっちかに近いだろう。

どっちなのかと聞いてみたら、笑顔ではぐらかされてしまい聞くことができなかった。

 

「いいかい、強くなるコツなんてない。強さなんて人それぞれ、イメージでどうにかなるんだよ。」

「そうなんですか?」

「ああ、特に妖怪は自分が勝つイメージをしっかりと鮮明に持つことによって強大な妖気を発することができるんだよ。」

「へー」

 

師匠と旅をしていて、つまらないと思った日はない。

師匠と笑いながら歩くだけでも楽しかったし、師匠にはぐれないようにと手をつないで歩いたこともある。

その時は、顔が赤くならないようにするのに精いっぱいで無口になってしまった。

 

「よし、ここで止まろう。明日には町に着くし」

「はい!師匠」

 

私は、スキマを開き、中から野営の準備を取り出す。

慣れた手つきでてきぱきと作り上げ、師匠のために枝を集めに行く

 

「夜を越え境界線を見る♪ 何時かの記憶を手繰り寄せ♪ いつまでも其処にあり続ける♪ 夢に身を委ねて♪」

 

いつの間にか、そう口ずさんていた。

多分、私は師匠と一緒に旅ができてうれしいんだと思う。

あの人は、優しいし私だけをしっかりと見てくれる。しかも、間違っていることはちゃんと叱って教えてくれて、いいことをすれば頭をなでてくれる。

それだけでも、私はうれしいのだ。人間の親子みたいな関係・・・それをずっと望んでいた。

師匠は血はつながってないが、それでもうれしいのだ。

 

「ふふ、師匠。よろこんでくれるかなぁ~♪」

 

いっぱい、乾いた木の枝を集めて野営の場所へと戻る。

これだけ集めたんだから、師匠もきっと褒めてくれるはず。

 

「なあ、あんさん。いいのかい?あんたの最後の願いでそうやってこの国を見て回っているのに」

「・・・ああ、あの子には本当に申し訳ないとは、思っている」

 

師匠と誰かの話し声がして無意識に妖気を隠し木の陰に隠れる。

え、どういう・・・

木の陰からこっそりとみると、師匠と知らない女の人がそこにいた。

女の人はあきれた表情、師匠はいつも通り糸目で表情が読みずらい。

 

「なら、分かっていたなら。なぜついてこさせた、あんたの命は」

「わかっている。わかっているから、言わないでくれ。ああ、確かに僕は今年の夏の終わりに死ぬ。」

 

・・・えっ。

そこからの会話は全く聞こえなかった。

 

=========================

 

side komati

 

目の前にいる男は、かつて世界を騒がせるほどの剣客だった男だ。

しかし、おおよそ半年前に既に死亡しておりやり残したことの清算のためにこうしてこの国を回っている。

十王様たちの許可は、満場一致で承認。私は、いわばこいつのお目付け役ということだ。

だが、その許可も条件付きで、今年の夏中に回る手はずになっている。

 

「だったら、なおさら何故あの子をあんたは」

 

気になっていたことを聞いてみる。

死ぬとわかっていて、彼はあの子と会うまで極力人とは関わらないようにしていた。

しかし、あの子・・・八雲紫と旅をするようになってからは人と関わるようになっていた。

 

「あの子には、この世界の美しさを知ってほしい。

 

 人々の笑みを、妖怪たちの生き様を、植物たちの賢明さを、動物たちの生を・・・

 あの子には、それを学んでもらって、作ってほしいものがあるんだ。」

 

ピクン・・・

と、木の陰に隠れている八雲紫の肩が少しだけ跳ねる。

 

「人と妖怪が共存する楽園を、争う必要がない箱庭を」

「け、そんな幻想。よく夢見るもんだね。」

「おや、ボクの能力を忘れたのかい?。」

「予感を必中させる程度の能力。戦闘にも使えるし、未来予知もできる優れものの能力」

「あの子は、きっとそれを成し遂げる。ボクが鍛え上げた後に、ボクの屍を超えてでもね。」

「あんた、最低だね」

「それしか、あの子にはしてあげられないからね。」

 

悲しそうに顔を伏せる男。

この男がそれをすると、様になってしまっているのが若干ムカついてしまう。

あたしは、肩をすくめて三途の川に帰る準備をした。

 

「おっと、こいつを言い忘れた。」

「?なに?」

「あんた、面倒くさい奴に惚れたね。」

「?」「?!」

 

目の前の唐変木はその言葉に気づいていないようだが、木の陰に隠れている子には効果はあったようだ。

能力を使い、すぐさま三途の川に帰る。

さてと、一応頼まれたとはいえ連絡なしはまずかったか。

そう思いつつ、目の前にいるボーイスタイリッシュなロリ閻魔に苦笑いを向けた。

 

鉄拳制裁とありがたいお説教(獄卒格闘術フルコンボと10時間に及ぶ小言)されたが、あたしは懲りないことを決めている。

 

=====

 

side yukari

 

「人と・・・妖怪が、共存する。争いの必要のない箱庭・・・」

 

暗く、落ち込んでいた私でも聞こえたその言葉。

それが、師匠が期待する私の目標なのか。ああ、そうだ。師匠がそういったのだ。それが私の目標だ。

師匠が今年の夏の終わりに死ぬ?師匠は人間だ。いつ死ぬかもわからない。

だったらどうする、最後まで私は師匠の知る八雲紫()でいる。

師匠に恋心を抱く八雲紫()ではなく、師匠のイメージ通りの八雲紫()になる。

私はそう決意し、木の陰から出る。

 

「師匠!木の枝、集め終わりました!」

「ん、そうか。ありがと・・・」

「?師匠、どうかしました?」

「ううん、なんでもない。気にしないで」

 

嘘だ、気にしている。私から目を逸らそうとしている。

私は、そういいたいがグッとこらえて火を焚く準備をする

師匠は、悲しそうな雰囲気を纏って私を見てくるが、私はそれに気付かないふりをして

食材を切り始めた。そうだ、私は勘づいていても無視しなければならない、それが、師匠が思う八雲紫()だから。

 

あぁ・・・夏が終わらなければいいのに・・・

 

 

雑炊を食べ終わった後、私が火の番をすると言い焚火を見る。

その間師匠は、静かな寝息を立てて安らかに眠っている。

師匠が、死ぬ。師匠がいなくなる。そう考えただけで、私の身は冷たくなってゆく。

考えられない。もはや武神としか思えないほど強い師匠が死ぬかもしれない事実がどうしても受け入れられない。

私は、焚火に水をかけて消化し、眠ろうと目を瞑る。だけど、師匠がいない恐怖をどうしても感じてしまい、震えた。

そうだ、この間だけ、私は師匠に恋心を抱く八雲紫()でいよう。そう思い、師匠の隣に寝転ぶ。

 

「んっ・・・紫ちゃん?」

「師匠・・・怖い夢を見たので、一緒に寝ていいですか?」

「うん、大丈夫。ボクがいるから」

「はいっ・・・」

 

この夏の間だけね・・・師匠は小さくそういった。

私はその言葉を聞こえないふりをして師匠に体を預けるのであった。

師匠の心臓の鼓動の音は聞こえない、死んでいるから聞こえない。

師匠の手が冷たい理由も、肌が白い理由も死んでいるからだ。

でも、師匠は・・・暖かかった。

 

あぁ、死んでほしくない。私を一人にしないでほしい。

 

貴方が死んだら・・・私は、どうすればいいの?

 

貴方についていくことで、ようやく・・・ようやく生きる希望を見つけたのに。

 

いやだ、この夏が終わってほしくない。この夏が永遠に続いてほしい・・・

 

 

嗚呼、神様。どうか彼を・・・師匠を八雲紫()から離さないで

 

 

 




はい、紫さんは初心な依存症の女の子。
と言う性格でこの物語は進んでいきます。
いわゆる、ヤンデレ末期です。病んではないけど依存してます。
あ、あとこれは時代では平安時代あたりです。


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第三話 師匠と私と不老不死と

夏の終わりまで、あと 29日。

上のカウントダウンがこのお話の終了までのお話の日付です。
不要ならば、ご指摘ください。お願いします。



師匠よりちょっと早く起きて、私は師匠の知る八雲紫()に成り代わる。

そうしないと、おそらく私はだめになってしまう。恋心を抱いたままの私では、師匠を苦しめてしまうからだ。

背伸びしてちょっと柔軟体操をして、スキマの中で服を着替える。

着替え終えて、スキマから出ると、ちょうど師匠が目を覚ました。

 

「あー、おはよう。紫ちゃん。」

「はい!おはようございます!師匠!」

 

できるだけ元気に、できるだけ明るく挨拶を返す。

そうでもしなければ、私もおかしくなってしまいそうだから。

師匠は、うーーん。と言いながら背伸びをする。

そして、雨簾を腰脇に差して、荷物を持つ。

 

「じゃあ、行こうか。紫ちゃん」

「はい!師匠!」

「紫ちゃんは、今日も元気だねぇ」

 

カラ元気・・・ですけどね。

その言葉を、言わないようにして師匠の手を握る。

師匠もにこやかに握り返してくれる。師匠の手は、相変わらず体温を感じられない。

でも、それは温かいものだった。

 

 

ゆっくりと街道を歩いていると、目の前で行き倒れている人を発見する。

銀髪で珍しいモンペという和服を着ていて、大の字に倒れている。

ちなみに、そのモンペには大量のお札が張られている。

 

「師匠。」

「助けよっか、紫ちゃん。調理器具をお願い」

「はい、師匠!」

 

私は、スキマを開きその中から調理道具を取り出す。

師匠が火をつけだしたので、私は意識を集中させて音を聞くのに専念する。

木々がざわつく音、風がうなる音、セミが鳴く音に、そーなのかーという声・・・

最後の一つは無視して、ようやく目的の音を見つける。

その場所に能力で瞬間移動し、しっかりとそれを見た。

 

「うん、さすが私。魚がいっぱいいる川を見つけた。」

 

自分で自分をほめながら、スキマから網を取り出す。

師匠が作ってくれた式(紙人形)を使い、網を広げて川に投げる。

ちょうど、魚が密集している場所に網は落ちて魚が大量にとれた。

 

「よし、大量大量。」

 

魚を血抜きして、能力で腐らないように境界を操る。

それを、食材用のスキマを開いて入れて、さっさと師匠の元にもどる。

 

「師匠!ただいま戻りました!」

「うん、おかえり。成果はどうだった?」

 

師匠が私を見てそう聞いてくるので、さっき取れた魚を見せつけるように取り出す。

どや顔で師匠を見ていると、頑張ったね。とだけ言って、頭をなでてくれた。

 

 

境界少女&師匠調理中・・・

 

 

「がつがつ・・・」

「そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ。えっと・・・」

「mgmg、ごっくん。妹紅だ。藤原妹紅。」

「藤原?もしかして、藤原道長の?」

「ああ、一人娘だった妹紅だ。」

 

藤原道長・・・たしか、平安京の有数な貴族で強い権力を持っていたとか

噂では、かぐや姫の騒動の一件ですっかり自暴自棄になってしまってその権力も落ちたとか。

しかも、道長には一人の娘がいて、その娘はかぐや姫と並ぶほどの美人だとか。

こうしてみると、大人っぽい雰囲気を纏っており男の人にも劣らないカッコよさを持っている。

 

「それで、なんであそこで倒れてたんだい?」

「あぁ、それはな。」

 

妹紅さんが言うに、妹紅さんとかぐや姫は一度お忍びで出かけたときに知り合ったらしく、親友の関係らしい。

で、かぐや姫が月に帰っていないことを本人からの手紙で知った妹紅さんはその手紙に書かれた竹林に向かおうとした。

その時に道長さんに、親子の縁を一方的に切られて数日分の食料を渡されて追い出された。

それで、節約しつつ何とかここまで来たものの・・・食べるものがなくなりそのまま倒れてしまったらしい、

しかも、妹紅さんは蓬莱の薬という、完全な不老不死になる薬を飲んでおり死ねないままでいたらしい。

そこに、私と師匠が通りかかり今に至るということらしい。

 

「まったく、ぐーやになんて言ってやろうか」

「仲いいんだね」

「ん?そうか?ま、私とぐーやの仲だからな、甘味でできた絆ってもんは固いんだよ。」

「「へー」」

「おい、その心のこもってない、返事はなんだ?」

 

だって、ねぇ。と私と師匠は顔を合わせて笑う。

この人の雰囲気では、甘いものとか言わなそうな雰囲気で、むしろお酒をかっこよく飲んでるような感じだ。

妹紅さんは、それに気づいたらしく、頭に手を置いて恥ずかしがっていた。

 

 

「さて、あたしはこれで、失礼するよ。あ、そうだ。あんた、少しいいか?」

「え?あ、はい。」

 

私は、師匠を見るが師匠はほら、行った行ったとジェスチャーしているので

おとなしく師匠に従った。

妹紅さんにおとなしくついて行ってあの野営地からかなり離れた後妹紅さんが振り返った。

 

「あんた・・・なんで、死人と一緒に旅をしている?」

「・・・・・・」

 

やっぱり、聞いてきた。

 

「その反応・・・知ってるなら、なおさら何故。」

「私は、師匠が死んでるのなんて知ってます。だから、ついて行ってる。

 師匠がいなくちゃ、私はだめになってしまうし、師匠を望みをかなえたいから、私はあの人と旅をしてるんです。」

 

妹紅さんにそう言いながら妹紅さんの赤い目を見る。

この覚悟は、誰であろうと動かすことはできない。これが、八雲紫(私という存在)の覚悟だ。

師匠が死ぬ。ならば私は、その最後まで隣にいて師匠の知る私として見送る。

恋心を抱く私は、いないほうがいい。たとえ、その恋心がとても大切だと言えども。

 

「はぁ、あの男は相当な曲者だと思ったが・・・お前もお前で、変わってるな。人間に恋する妖怪だなんて」

「この国には、妖怪と人間が愛し合うことなんてよくあることですよ?」

「ま、それもそうか。実際、私もそんなもんだし・・・」

 

と、妹紅さんが踵を返してそのまま森の奥へと入ってゆく。

 

「ま、頑張りなよ。あ、これは人生の先輩としてのアドバイス。」

「??」

「恋ってものは、時に人を豹変させるんだぜ?私の親父がそうであったように。」

「・・・」

「だから、これだけは言っておく、死ぬ前でもいいから素直になってその気持ちを伝えろ。」

「でも・・・それだと」

 

そのまま妹紅さんは、かっこよく手を振りながら歩いて行った。

でも、私は・・・その姿をただ見ているだけしかできなかった。

なんで、私は・・・そこで言い返せなかったのだろう。

 

それでも、私は師匠の知る私でいる・・・と・・・

 

 

 

 




そのころの道長さん

「妹紅に嫌われた妹紅に嫌われた妹紅に嫌われた・・・」
モブ1「道長様、最近暇があればずっとぶつぶつ妹紅様に嫌われたって言ってるな。」
モブ2「心配なら、ついていけばいいのに」
「それだっ!」
モブ1、2「「えぇ?!」」

親バカだった。



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第四話 師匠と私と妖怪の山

夏の終わりまで、あと28日。

逃げて、妖怪の山全力で逃げて!!


今日は、師匠の知り合いに会いに行くために妖怪の山へと向かうらしい。

今は、その妖怪の山に向けてのんびりと歩いている。

こうして歩いているだけでも、師匠と一緒にいると思うと胸の奥がほんのりと温かくなる。

でも、この暖かさは伝えちゃいけない、耐えろ、私。

・・・でも、どうしても・・・伝えたい・・・いや、だめだ。これは、絶対に伝えちゃいけない。

そんな考えが浮かんできたので空を見て気持ちを切り替える。

遠くには、入道雲が浮かんでおり夏の暑苦しさをどうしても感じてしまう。

 

「?どうしたの?紫ちゃん。」

「あ、いえ。カラスがとんでるなぁ。と思って。」

「え、カラス?ぐべらっ!」

 

私の隣にいた師匠が何かに突っ込まれて倒れ伏した。

 

「師匠?!」

「いてて・・・いきなりだなぁ。文ちゃん」

「師匠!会いたかったですよ!」

 

目の前の鴉天狗は、師匠に密着し師匠にべっとりとしがみついている。

あれ?なんだろう・・・イラッとする。

って、師匠?

 

「師匠?この人って」

「あ、紫ちゃん。この子は、僕のもう一人の弟子、鴉天狗の射命丸文(ストーカー記者)

「師匠!?いま、紹介がおかしくなかったですか?!」

「ん?気のせいだよ。」

 

師匠と、射命丸が仲良くしているのを見て、なぜだかイラつく。

だけど、その気持ちは投げ捨てて、私は射命丸さんにあいさつする。

 

「|こんにちは!初めまして、師匠の弟子の八雲紫です!《師匠ってカッコ良くないですか?》」

「|あやややや、それはどうもご丁寧に、姉弟子の射命丸文です。《分かってますねぇ》」

 

この人は、多分私とおんなじだ。

過去に師匠に助けられて、師匠に恋心を抱く女性。でも、この人は知っているのだろうか?

 

「師匠!ちょっと、紫ちゃんをかりますね?」

「ん?いいよ?弟子同士、仲良くね。」

「はーい!」

「え、ちょっ」

 

私は、文さんに手を引かれ師匠から離れた森の中に入った。

数歩進んで、止まり。うつむいた。

 

「紫ちゃん・・いえ、紫さん。師匠、死んでますよね?」

 

勘づいていた、多分。あの抱き着いたときに気づいたのだろう。

いや、むしろ。確認のために抱き着いたのかもしれない

 

「知ってるんですか?」

「・・・ええ、私の情報網は確かなので」

「・・・お答えします。半年前に既に死んでいて、今あそこにいる師匠は、やり残したことの清算のためにいる死人です。」

「・・・・・・」

 

私と、文さんとの間に沈黙が流れる。

文さんからは、涙がポロポロと零れており、そして泣き崩れてしまった。

私は、そんな文さんを抱きしめるしかできず。無力さを感じてしまう。

 

「なんで・・・何で師匠は!うぅ、うわぁぁあんっ!!」

「・・・・・・」

 

この人の想いも本物だからこそこうなる。

好きだから死んでしまって悲しい、好きだからまた会うのがつらい。

私も、本当なら泣いてしまいたい。このまま、年相応の少女のように泣いてしまいたい。

けれど、私は泣かないようにこらえた、私は、師匠が定めてくれた目標を達成するまでは泣かないことを決めたのだ。

 

「紫さんは・・・強いんですね。」

「いえ、私も弱いです・・・強がってるだけですよ。」

「そう、ですよね・・・だって、紫さんも今にも泣きそうですもの」

「・・・はい・・・」

 

本当は、師匠を見るだけでもつらい。

消えてしまうとわかっていても、この恋心は冷めることなく、むしろ熱くなる。

だから、私は強がって師匠の隣に立っている。

 

「ぐすっ・・・お見苦しいところをお見せしましたね・・・姉弟子の面子。丸つぶれですよ・・・」

「面子なんて・・・実際姉弟子がいるなんて、知りませんでしたよ。それに、泣いて当然です。あんな馬鹿師匠」

「そう、ですね。あんな馬鹿師匠のせいですからね。」

 

文さんが泣き止んだので、離すと。文さんは立ち上がってスカートを払った。

そして、小さく私に礼を言った後に二人して作り笑いをして師匠の元に戻る。

 

ズガァァァァァンっ!!

 

「ぎゃぁあぁぁっ!!」「「時雨ぇぇぇぇぇぇっ!!!」」

 

「「・・・あの師匠(クソ天然ジゴロ)が・・・」」

 

私と、文さんはこぶしを握り締めて同時にそう言うのであった。

 

 

 

そのあと、山の四天王の二人に突撃された師匠は気絶してしまい。

そのまま師匠と私は、妖怪の山の文さんの家にお泊りになったのだが・・・

 

「えっ、文さんって天魔なの?」

「ええ、一応。私がこの山の最高責任者です」

 

文さんが、まさかの天魔だった。

さっき会いに行ったのだけど、あの天魔の間にいたあのおじいさんは文さんのお爺さんで代理で座っているらしい。

もちろん、お爺さんがほとんどやっていて文さんはそのお爺さんのお願いで自由奔放に生きているとのこと。

 

「まあ、天魔といっても身分を偽って山を見回る仕事ですしね」

「いや、書類整理や組織運営があるでしょうに・・・」

 

と、嘆いたのは文さんの護衛隊長”犬走椛”さんだ。

文さんに振り回されるいわゆる苦労人で、妖怪の山のトップランキングの猛者らしい。

いや、貴女も白狼天狗の組織運営があるでしょ?

 

「「自由奔放が天狗の売りなので」」

 

なぜだか、ドヤ顔でいわれるとムカつく。

しかし、ここの天狗全体がそうなので反論ができない。

 

「あっはは、それでこそ天狗だね!」

「がっはは、そうだな!」

 

「「師匠に突撃して気絶させた二人が言いますか?」」

 

「「うぅ、申し訳ない。」」

 

そして、この二人は、伊吹萃香(小さな百鬼夜行)星熊勇儀(語られる怪力乱神)だ。

この妖怪の山の四天王の二人で、鬼と言えば、この二人だ。

 

「なあ、萃香。」

「ん?なんだい?勇義」

「少し、席を外してくれないか」

「えぇ?いいけど・・・」

 

勇儀さんが神妙な顔つきで萃香さんを部屋からだす。

おそらく、師匠の件だろう。

 

「なあ、お前たち。あたしは嘘が嫌いだから、嘘をつかずに頷いてほしい。・・・時雨は、死んでいるな。」

「・・・」

「・・・」

 

私と、文さんは同時にうなづいた。

すると、勇儀さんはわかっていたかのように顔を伏せる。

 

「・・・そうか、この嘘つきめ」

 

と、勇儀さんが優しく壊れ物を扱うかのように師匠を小突いた。

その目は、嘘をつかれていたことに対する憤怒の色と悲しみの色が混ざり合っていた。

 

「余命は?」

「いえ、師匠は半年前に死んでいて。ここにいる師匠は、やり残したことの清算のためにいる死人です・・・そして、昇天する日は今年の夏の終わり。」

「・・・・・・そうか」

 

勇儀さんは、悔しそうにこぶしを握る。

おそらく、勇儀さんも同じ感情を私たちと同じく抱いているのであろう。

山の四天王、語られる怪力乱神にまで恋心を抱かせる師匠は、本当にどうしようもない。

 

「このことは、萃香に黙っていてほしい」

「っ!?勇義様?!」

「・・・なぜ?」

「萃香は、こいつを愛している。あたしたちの恋より想いが大きいんだ。」

 

side suika

 

「萃香は、こいつを愛している。あたしたちの恋より想いが大きいんだ。」

 

襖の向こうから、勇儀の言葉が聞こえてくる。

いや、むしろ聞いていた。時雨が死んでしまっていることぐらい気づいていた。

伊達に、山の四天王にいるわけではない。人間の心臓の音を聞き分けることぐらいたやすいことだ。

 

「こいつが、今年の夏の終わりに死ぬなら。あいつは知らないほうがいい、あいつのためにも。」

 

「しって・・・るんだよなぁ」

 

小さく、自分にしか聞こえないように小さく嘆く。

ああ、私の恋は・・・なぜ叶わないのだろう、都に行った初恋の鬼、そのあと知り合った時雨との恋も・・・

総て、なくなってしまう。私が、恋してしばらくたった途端に。

 

「この通りだ!」

 

襖の向こうで、勇儀が土下座するのを感じる。

別に、見たというわけではない感覚でわかるのだ。

私は、鬼としての感覚は、並みの鬼とは桁外れであり見なくとも、服のこすれる音や空気の揺らめきでわかる。聴覚もかなり鋭いともいえる。

でも、紫の心臓の音、文の心臓の音、勇儀の心臓の音と、自分の心臓の音・・・だけど、その音の中に時雨の心臓の音はしない。

この耳を持ってしてもだ。私の能力では、命を再生させることなど不可能。

いや・・・紫の能力ならあるいは・・・

 

私は、立ち上がり襖の隙間から紫をにらみつける。

 

「必ず・・・お前の能力を奪って、時雨を救ってやる。」

 

私は、そう決意し文の屋敷から出る。

私の手下の鬼を、集めるために。

 

今度は・・・離さない、この恋だけは。絶対に。

 

 




はい、萃香ちゃんが紫の能力を知っており、奪おうと立ち上がりました!
しかも師匠は萃香と勇儀の突撃で気絶中!一体どうなる紫ちゃん!


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第五話 酒呑童子の恋の行方

夏の終わりまで、27日。


酒呑童子・・・

一条天皇の時代、京の若者や姫君が次々と神隠しに遭った、安倍晴明に占わせたところ、大江山に住む鬼(酒呑童子)の仕業とわかった。そこで帝は長徳元年(995年)に源頼光と藤原保昌らを征伐に向わせた。頼光らは山伏を装い鬼の居城を訪ね、一夜の宿をとらせてほしいと頼む。酒呑童子らは京の都から源頼光らが自分を成敗しにくるとの情報を得ていたので警戒し様々な詰問をする。なんとか疑いを晴らし酒を酌み交わして話を聞いたところ、大の酒好きなために家来から「酒呑童子」と呼ばれていることや、平野山(比良山)に住んでいたが伝教大師(最澄)が延暦寺を建て以来、そこには居られなくなくなり、嘉祥2年(849年)から大江山に住みついたことなど身の上話を語った。頼光らは鬼に八幡大菩薩から与えられた「神変奇特酒」という毒酒を振る舞い、笈に背負っていた武具で身を固め酒呑童子の寝所を襲い、身体を押さえつけて首をはねた。生首はなお頼光の兜を噛みつきにかかったが、仲間の兜も重ねかぶって難を逃れた。一行は、首級を持ち帰り京に凱旋。首級は帝らが検分したのちに宇治の平等院の宝蔵に納められた
(Wikipedia参照)


結局、鬼二人に突撃された師匠は今日も起きる気配がない。

むしろ、鬼二人に突撃されて無事というのは多分どこの世界を探しても師匠ぐらいしかいないだろう。

そんなことを考えつつ、縁側で真ん丸のお月さまを見る。

 

「となり、いいですか?紫ちゃん。」

「あ、文さん・・・どうぞ」

 

と、文さんがお酒をもって私の隣に座った。

私を誘って月見酒だろうか?

 

「・・・一杯、どうです?」

「・・・もらいます」

 

小さいお猪口をもらい、それをちびちびと飲む。

文さんも同じような飲み方だ。(枡だけど・・・)

 

「・・・ナンパですか?」

「私には、そっちのけはないよ。紫ちゃん・・・」

「ま、そうですよね。」

 

また、私たちの間に沈黙が流れる。

私と文さんは、姉妹弟子とはいえ昨日までは赤の他人だった存在だ。

急に二人にされても、どうすればいいのかがわからない。

 

「紫ちゃんは・・・」

 

文さんが、悲しげに口実を作った。

 

「紫ちゃんは、どうやって。師匠に出会って、なんで、師匠に恋したの?」

「・・・」

 

文さんが、気まずそうにそう聞く。

おそらく、天狗の情報網で知ったであろうそれは、確かに私のトラウマだ。

でも、今の私は昔の私ではない。

 

「私は、気が付いたら。この世界にいたの。」

「・・・自然発生型妖怪」

「その言葉の意味は、よく分からないのだけれど・・・多分、それがあっているかもしれないわ」

 

自然発生型妖怪。

恐れを必要としないタイプの妖怪で、それらの妖怪はすべて強力な力を持つと言われている、よくある話(妖怪たちの都市伝説)だ。

偶然、私はそうして生まれた。

 

「まだ、幼かった私は、いろんなことをした。

 人里に紛れたり、外国へ行ったり、能力を使って神隠しをしたり・・・

 あの頃は・・・まるで」

「社会を知らない・・・子供」

「そう、社会を知らない子供のように・・・・・・だけど、それがいけなかった。」

 

 

「私は、この容姿とこの能力、そしてこの種族のせいで捕まった。」

 

 

「普通に生まれた妖怪・・・えっと」

「伝承発生型妖怪?」

「ええ・・・その妖怪たちの力の源は、捕食。他者の肉を食らい、他者を取り込むことで能力や力を持つことができる。」

「自然発生型と伝承発生型の典型的な違いですね。」

「その伝承発生型の力の源が、捕食と恐れなら。自然発生型の力の源は、なんだと思う?」

「??さあ、私も伝承発生型の生殖種なので、よくわかりませんが・・・」

 

そう、文さんの場合は天狗という種族の伝承発生型“生殖種”だ。つまりは、伝承で生まれた妖怪たちの遺伝子を引き継ぐ妖怪。

だから、この問題は文さんにとってとても受け入れられない事実かもしれない。

けれども、彼女が知りたいと言っているのだから、言うしかないのだろう。

 

 

 

「そこに、八雲紫()がいるかどうかで、私の力は増幅されるの」

 

 

 

「え、それって。それに自然発生型は・・・っ!」

 

流石、勘のいい文さんだ。

 

「そう、それこそが自然発生型妖怪の唯一欠点。」

 

 

「「自然発生型妖怪は、他者に認知されないと消滅する」」

 

 

私と、林から出てきた萃香さんと言葉が重なる。

萃香さんの後ろにはぞろぞろと、萃香さんの手下であろう鬼が集まっている。

 

「そして、逆にこうして人目が多いと、力が増す。と、言いたいのか?」

「いいえ?逆に、認知が多ければ多い程、自然発生型としての存在が薄れ・・・次第に消滅する。」

「えっ、それじゃぁ、自然発生型妖怪が少ない理由って」

「ああ、こいつらは・・・自然発生型は少数に強く、大勢に弱い。そして、妖怪としても伝承発生型になれない出来損ないの妖怪。」

 

その言葉と同時に萃香さんの後ろに控えていた鬼が数名飛び込んでくる。

それを予測していた私はその全員をスキマ送りにした。

 

「お前、あたしの手下をどうするつもりだ?」

「どうもしません、これが終わったら返すつもりです。」

「そうかい・・・そいつは気前がいい・・・・・・だったら、さっさとやるぞ。」

「・・・鬼というのは、一対一で正々堂々と戦うと思っていたのに・・・・・・ええ、いいですわよ。私の本気、見せてあげる。」

 

 

「あやややぁ・・・これは、大変なことにぃっ!」

 

「文さん、お願いがあるの」

「あやっ!?なんです!?紫ちゃん!」

「今すぐ、ここから離れてこのことは、誰にも言わないで。」

「えっ、そ・・・そんな!死ぬかもしれないんですよ!」

「・・・お願い。」

「・・・・・・わかり・・・ました。」

 

文さんが、師匠に突撃したときみたいな速度で消えた。

 

「さて、ここじゃなんだ。場所を変えようじゃないか、八雲紫。」

「ええ・・・伊吹萃香。」

 

 

師匠・・・私、鬼にすら負けませんよ。師匠のためなら、ね。

 

 

side aya

 

 

私は、空を飛び身を丸くする。

なぜ、あの子はあそこまで強がりができるのであろうか。

相手は、鬼・・・しかもあんな数。萃香様の言った通りなら、確実に紫ちゃんは死んでしまう。

 

”自然発生型は他者に認知されないと消滅する”

”逆に認知をされすぎると妖怪としての存在が薄れ、消滅する”

”伝承発生型になれない出来損ないの妖怪”

 

なんと、なんと生きにくい体質なのだろうか。

紫ちゃんが、どれほど分かりやすくつらいのに教えてくれたか・・・

 

紫ちゃんたち自然発生型妖怪は、恐れを必要としない代わりに他者の記憶に存在することによって存在できる。

つまりは、私たち天狗や萃香様達鬼とは違い、ほかの”生物”が生きていれば永久に存在できる、ある種の完成された妖怪だ。

伝承では、月の民が月に行く前に存在した妖怪たちも、自然発生型とほとんど同じだという。

しかし、その妖怪と今の自然発生型はほとんど違う。

昔の妖怪は、一緒くたに”穢れ”として認知されていたから、強く存在出来た。

だが、自然発生型はその”一緒くたに”できないのだ。

それぞれの自然発生型が自然発生型で、系統も種族も全く違うものになってしまう。

だから、自然発生型は認知されすぎると”みんな知ってる。怖い奴じゃない”と思われ、その存在は恐れられなくなる。

語り継がれるのはそういう名前だけであって、容姿は記憶されない。言いくるめれば、他者に一度でもいいから見て記憶してもらわないと消滅するのだ。

いくら、自然発生型と言えども多少の恐れが必要らしい。

そして、萃香様が言った言葉、伝承発生型に慣れない出来損ないの妖怪。

あれは、自然発生型と伝承発生型の恐れの変換力の違いだろう。

恐れとは、すなわちエネルギー。それで、妖怪を機械と置き換える。

私たち、伝承発生型はとても頑丈に作られており、エネルギーがたまればたまるほど強くなれる存在だ。

しかし、自然発生型はいうなれば高性能で低エネルギーな繊細機械だ。低エネルギーなのに、普通の妖怪と同じ、高いエネルギーを送ればむろん壊れる。

つまりは、恐れられすぎると暴発して死ぬ。逆に恐れられなさすぎると力が働かなくなり死ぬ。

 

「なんて・・・なんて残酷なんだ。」

 

私は、無意識にそう嘆くしかなかった。

 

 

 




はい、紫さん。連れていかれました。
一体どうなるのかな・・・

妖怪の分類

伝承発生型
恐れ発生系:恐れから生まれた最初の個体。
生殖系:恐れ発生系から生まれた純粋な妖怪。

自然発生型
正体不明系:自然に生まれて人々から正体不明とされる系統
種族限定系:種族としての存在が一人に限定される系統
突然変異系:自然発生型でも多くの恐れを変換できる系統(純なる最強)
穢れ系:昔の妖怪たち、すでに絶滅している。


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第六話 化け物たちの戦い

夏の終わりまで、26日。

他者の記憶に存在することで、”永遠に”その存在を保てる自然発生型。
ならば、その誰かが鮮明に覚えている状態で、死んだら?


日が、昇る。

この国と山に朝を伝えるためにゆっくりと登り、私と伊吹萃香と倒れ伏す”死んでしまった私(八雲紫)”と鬼たちを照らす。

油断せずに伊吹萃香をにらむが、首を折られてそのまま死ぬ。

 

そして、いつもの存在自体を再生する能力が発動する。

 

「っ!!ぜぇ・・・ぜぇ・・・お前さん、本当の化け物だな・・・」

「それは、お互い様ね。」

 

なぜ、こうなっているのか、時間は数時間前へとさかのぼる。

 

 

=====

 

四時間前

 

鬼の闘技場

 

「ここでなら、どれだけ暴れようと問題はないだろう。」

「ええ、そうですわね。」

 

伊吹萃香に先導されてたどり着いたのは山の頂上にある鬼が立てた闘技場だ。

鬼独自の技術のせいで、絶対破壊不能の程度の能力が付与されているのは気のせいだろう。

鬼たちが、狙っていたかのように私を囲う。

逃げないように囲ったのだろうが・・・私には、この能力があるから簡単に逃げられる。

 

「さて、できれば手荒な真似はしたくない・・・だから、その能力をよこせ」

「・・・私の境界を操る程度の能力を・・・ですか?」

「ああ、話が分かるはずだろ?だから、よこせ」

 

よこせ。と、言った途端に萃香さんが殺気を開放する。

私は、その殺気ごときでは動じないが、一応、動じたふりをしておく。

萃香さんが、にやりと笑うと一歩私に近づいた。

 

「この能力は・・・渡せません」

「ほぉ、私の殺気に立ち向かえるなんて・・・まだ生まれたばかりだと言えど、さすがだな・・・

「わたしだって・・・私だって300年生きた妖怪だ!」

 

私がそう叫ぶと、萃香さんの殺気がさらに膨れ上がる。

どうやら彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。

瞬きした次の瞬間には、視界から萃香さんが消えてしまう。

周りを警戒するけど、見つからなく、私は上から飛び込んできた萃香さんに市毛句を食らわされた。

 

「たかだか、300年生きた小娘が調子に乗るな。いいからさっさとよこせ・・・」

「この・・・能力は・・・・・・絶対に・・・渡せない」

 

言葉がとぎれとぎれでもそういうと、拳が振り下ろされた。

私は、そのすきを逃さずに・・・

 

自分から致死になるようにした。

 

生々しい音が私の体から発生し、萃香さんは目を見開き、周りの鬼たちは恐怖した。

 

「あっ!姉貴!殺すのはまずいですよ!」

「ちっ、ちがっ・・・私・・・私はっ!」

 

どうやら、私を殺した罪悪感で精神を少し壊したようだ。

むしろ、想定内・・・

 

≪さっきまで、私に死ねといっていたのに・・・殺したら、精神崩壊しかける・・・鬼って、嘘つきなんですね」

 

私の特質が発動し、私は生き返る。

ただし、さっきまで生きていた私の死体はしっかりと転がっている。

 

「なっ!おっ、お前・・・なんで・・」

「私は、自然発生型の中でも最も希少価値の高い存在ですよ?」

「まっ・・・まさか」

「ええ、私は他者の記憶に八雲紫()がいるだけで、こうして無限に生き返ることが可能。」

「ばっ、化け物め!」

 

鬼の一隊が、私に殴りかかってきたので、私は隙間を開き、その隙間から妖力で編み出したレーザーを打ち出す。

妖力で作ったと言えど、気絶する程度の威力しかないけどね・・・

その鬼にレーザーが殺到し、全部が命中・・・その鬼は、白目をむいて地面に倒れる。

 

「あっ、兄貴っ!このやろぉっ!!」

「うっ、うおぉぉぉぉっ!!」

 

鬼たちが一人、また一人と襲い掛かってくるので、

ある鬼は、殴って気絶させ。ある鬼は、蹴って吹き飛ばし。ある鬼は、隙間送りにして精神崩壊を起こさせた。

まあ、相手は鬼だから、私も何回も死んだ。

私が、死んでも他者の記憶さえあれば、私は存在できるからまだいい・・・

でも、なぜ萃香さんはあきらめてくれないのであろう。

私が、この能力・・・”境界を操る程度の能力”は、いわば私という存在自体だ。

私が、スキマ妖怪ならば・・・私のこの能力は私の存在ということになる。

本当に面倒くさく、また便利な能力である。

それでも萃香さんは立ち上がり、息を切らしつつも私に敵意を向ける。

 

しばらくして、日が昇る。

この国と山に朝を伝えるためにゆっくりと登り、私と伊吹萃香と倒れ伏す”死んでしまった私(八雲紫)”と鬼たちを照らす。

油断せずに伊吹萃香をにらむが、首を折られてそのまま死ぬ。

 

そして、いつもの存在自体を再生する能力が発動する。

 

「っ!!ぜぇ・・・ぜぇ・・・お前さん、本当の化け物だな・・・」

「それは、お互い様ね。」

 

何度も何度も私を殺す化け物(伊吹萃香)

何度も何度も生き返る化け物()

この状態ではなぜ、戦っているのか私がわからない。

おそらく、萃香さんはもう私の能力を奪うことをあきらめている。

そうでもしなければ何度も何度も私を殺さない。

私とて、こんな戦いは本当はしたくない。でも、戦うしかない

 

「ねえ、ここらでやめにしませんか?」

「いや、私は・・・あきらめないぞ・・・お前の、能力を奪うまでは」

「あきらめてるくせに?」

「あきらめてるくせに、だ。」

 

「私は、あきらめない性分なんでね・・・私の恋のためにも、絶対にあきらめねぇ!」

 

「そう・・・ですか」

 

勇儀さん、あなたの言ったことは確かなようだ。

萃香さんは、たしかに師匠に対する想いが私よりはるかに強い。

この人なら、本当に師匠と幸せに暮らしていけそうなぐらい・・・

だから、貴女は、あれだけ言うのをためらっていたのですね・・・

 

「わかりました・・・時間も惜しいことですし、次の一撃で決めましょう」

「そいつは・・・賛成だな」

 

私は、扇子を閉じて傘を刀のように持ち直す。

師匠との修行で手に入れたこの一撃、どうにか届かせるようにしないと。

萃香さんは、特異な格闘術の構えをし、私を細い目でにらむ・・・

 

しばらく、沈黙が流れ・・・

 

黒い風がなった瞬間、私と萃香さんの姿がぶれる。

 

「三歩必殺っ!」

「時雨流・・・桜花剣雷!」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでなり!
さて、最後の勝負の行方は・・・


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第七話 酒呑童子としての決意、伊吹萃香としての心

夏の終わりまで、25日。

前回のあらすじ

よくある必殺技を放ってCMにはいるやつ。


「三歩必殺っ!」

「時雨流・・・桜花剣雷!」

 

世界がスローになり、萃香さんの動きしか見えなくなる。

一歩・・・二歩・・・

 

「さああぁぁぁぁぁんっ!!」

「っ!」

 

三歩と同時に放たれたそれを紙一重でかわし傘で切り上げる。

それを萃香さんはぎりぎりで回避して、バク転しながら私と距離をとる。

私も、バックステップで向き直す。

そして、紫のゆったりとしたドレスから、動きやすい、服装に変える。

それに合わせて、傘を閉じて布が外れないようにしっかりと固定する。

萃香さんも、腕にしてあった枷を外した。

 

「ここから、本気を出させてもらいます」

「ああ、奇遇だな。私もだっ!」

 

二人同時に飛び出す。

私は、傘で”切りかかり”、萃香さんは固くした腕でそれを捌く

一撃・・・二撃・・・三撃目っ!

 

「時雨流っ!夕立流しっ!」

「なっ!!」

 

師匠に教えてもらった刀のカウンター技で萃香さんに切りかかる。

だけど、萃香さんはそれを霧になることで回避し、また私に殴りかかる。

それを、少しだけ伏せるだけで避けて、また切りかかる。

 

「くそっ!しつこいなっ!お前っ!」

「それは、貴女もです!!」

「へっ!!」

 

萃香さんも、独自の格闘技で殴り掛かる。

それは、どこか師匠と同じ型で予想が少しだけ早くつくが師匠とは別の強さがありよけづらい。

だけど、師匠と同じような感じなのでぎりぎりで回避し、そのまま切りつける。

 

「ぐっ!」

「まずは・・・一撃!」

「まだまだ・・・あたしは、これ程度じゃないぞ!」

 

多分、第三者から見れば私たちは高速で斬りあい、殴りあっているであろう。

それは、師匠の元で修業した自然発生型の私と、師匠に恋し強くなった鬼という種族故の萃香さんだからなせる業だろう。

だから、こんなに戦えている。

 

「お前がっ!時雨を助けれない理由もっ!かなえたい望みもあることはっ!知っている!」

「っ!なら、なぜっ!」

「それと同じぐらいにっ!私は、時雨が好きなんだよ!私の我儘!?上等!私は鬼だ!我儘で何が悪い!」

「ならっ!私は負けられない!師匠の大義を、叶えるために!我儘でっ!師匠の夢を途切れさせないためにもっ!!」

 

「私はっ!」「あたしはっ!」

 

「「負けられないっ!!」」

 

「「ラストワードっ!!」」

 

「深弾幕結界-夢幻泡影-!!」

「百万鬼夜行!!」

 

私と、萃香さんの渾身の弾幕。

お互いの弾幕が、相殺しあい・・・やがて、用法の弾幕が途切れ

私たちはたがいに倒れた。

 

「どーだ、あたしの・・・勝ちだ。」

「いいえ・・・私の・・・勝ちです。」

 

大の字に倒れた私たちは、二人して笑いあう。

こんなに、楽しく戦ったのは、いつ以来だろう。

いや、私としては初めてだ。でも、おそらく萃香さんとしては懐かしいものなのだろう。

私と萃香さんは、何とか立ち上がった。

 

「へへ、こりゃ・・・あたしの負けだな。」

「やっと・・・わかってくれましたか。」

「ああ、よく考えりゃ。あたしが馬鹿だったんだよな。」

 

お互いにまた笑いあい、握手を

 

「「「陰陽結界!」」」

 

「っ?!」「なっ!?」

 

できなかった。

握手しようとしたら、人間がどこからともなく現れ、私と萃香さんを結界で動けなくした。

たぶん、この人間たちは私たちどちらかがつかれて封印か討伐しやすいように近づくまで待っていたのであろう。

なんと汚い・・・もうっ!うごけないっ!

 

「ふはははっ!まんまとこちらの計画通りに動いてくれたな!妖め!」

「おっ、お前はっ源頼光っ!!」

 

萃香さんは、横目で睨みつつ動こうと足掻く

頼光は、ははは!と気持ち悪く笑い刀を引き抜く

まさか、私たちを殺すつもり?!

 

「くそっ!おまえっ!永遠に呪ってやる!」

「はっ、やれるものならばやるがいいっ!酒呑童子、うちとった」

「させねぇよ。」

 

頼光が刀を振りかぶったと同時、何かが飛び込んできて頼光を弾き飛ばした。

だけど、頼光は吹き飛ばされながらも体勢を元に戻し、その影をにらみつけた。

 

「なんだっ!貴様っ!」

「”俺”は、ただのこいつらの保護者だ。」

 

その何かとは目を覚ました師匠。

ああほんと、このクズ天然ジゴロ(師匠)は、こういう時にかっこよくなる。

私と、萃香さんは同時に頬を赤く染め上げへなへなと女の子座りをする。

 

「さてと、俺の知り合いに手を・・・いや、刀を振り上げたことの弁明を聞こうか?」

「ふんっ!妖を斬ろうとして何が悪い!」

「対話の余地なし。・・・寄らば、斬る!」

 

師匠がそう叫んだ途端、人間たちが次々と師匠に襲い掛かった。

だけど、それを師匠は雨簾の峰で気絶させてゆき頼光以外はすべて倒した。

さすが、師匠。でも・・・大丈夫なのだろうか

 

「さあ、どうした。」

「ぐっ、おっ。己えぇぇぇぇっ!!」

 

そう叫びながら頼光は逃げ出した。

そして、刀をしまう師匠も様になってしまっていた。

ああ、この人はなんでこういう時に限ってさらにそういう風に感じてしまうのだろう。

 

「・・・大丈夫か。二人とも。」

「「・・・・・・」」

「ふ、ふたりとも?」

 

「「ぼそっ・・・(ばーか)」」

 

本当にこの人は、どうしようもなく馬鹿でかっこいい。

 

======================

side 萃香

 

あの後、私たち二人とも時雨に怒られてしまい。

二人とも頭にたんこぶを作る結果となった。

紫に倒された鬼たちも続々と復活し、紫にトラウマを抱いてしまっていた。

まあ、仕方ない…とは思うが・・・

 

「で、貴女は。どうするんですか?」

「あきらめるさ。あきらめて、あっちからくることにかけるさ。」

「あきらめてないじゃないですか。」

「あたしは待つことにしたんだよ。」

「そうですか。」

 

そう、私は待つことにしたのだ。

私から、グイグイ行ったって時雨はそれに気づきはしない。

だって時雨は、クソ天然ジゴロで鈍感だ。

だから、あっちから気付くのを待つ・・・多分、叶わないだろうけど。

時雨は、天狗と飲みに行ったのでその間に紫と話し合う。

 

「なあ、紫。」

「なんですか?萃香さん?」

「お前は、時雨の夢をかなえるために。その気持ちを押さえつけるのか?」

「・・・ええ、私は、最後まで師匠の知る私でいる。」

「それでいいのかい?」

「・・・・・・」

 

ああ、こいつは迷っている。

私がそうであったように、紫も紫でとことんまで迷っている。

自分の恋を打ち明けるか、そのまま秘めたままにするか・・・

 

「紫、もし、もしつらくなったらこいつに思いを込めてほしい」

 

私は、そういいながら私の力で作り上げたお札を渡す。

こいつに、紫の妖力が反応すれば私がすぐにでも飛んでいける優れものだ。

紫はそれを、恐る恐る受け取り懐にしまい込んだ。

 

「つらくなったら、いつでも私を頼れ。」

「わかりました・・・萃香さん。ありがとうございます。」

 

こいつは、泣きそうな瞳をしながらも笑って見せた。

多分、今でも悲しいのであろう。時雨は、必ず死ぬそれを一番よく知ってて

そして、その時雨に期待されている。そういうことだから、あんなに泣きそうなのだろうか。

私にはよくわからないが、紫の気持ちはよくわかっていた。

 

「紫、泣きたいときは、泣いていいんだぞ」

「・・・私は、まだ泣きません。泣くときは、死ぬときです」

「・・・そうかい」

 

紫は、とても強いな。

私はそう、つぶやいた。

 

いや、あれは強さなんかじゃない。

紫のあれは、ただの強がり、空元気・・・無理をして元気を出している。

 

 

紫・・・壊れるなよ。

 

 

 




最後の最後で、仲直り。
そして、クソ天然ジゴロの役得である。

クソ天然ジゴロ地獄落ちればいいのに

「ドーモ、サクシャ=サン。エイキデス」

アイエエエ!?エイキ=サン!?エイキ=サンナンデ!?

「イリャアァァァっ!!」

ウオオォォッ!!


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第八話 酒呑童子と星熊童子の見た夢

夏の終わりまで、24日。

今回は萃香、勇儀サイドメイン。
OK?

あと・・・

かんそうください(モチベ)がしんでしまいます。


===============

 

「いやぁ・・・ししょぉ・・・ししょぉっ!!」

 

目の前で、時雨に泣きつく紫がいる。

時雨の体は、何かにズタボロにされた跡がある。

間に合わなかった・・・それに、なんで。

 

「時雨・・・お前は・・・最低のクズ野郎だ・・・」

 

お前は・・・て――――――

 

================

 

「はっ・・・・・・夢・・・か。」

 

私は、布団から飛び起きて頭を少し抱える。

そういえば昨日は、宴会して・・・お開きになって帰ってきて・・・

ああ、二日酔いか・・・ひさびさになったな・・・

 

「紫?いるのか・・・って、昨日旅だったっけな。」

 

そう、紫と時雨は昨日、旅に出て行った。

だから、私の屋敷・・・というか、文の屋敷には私の腰に抱き着く文と

私と、地面に上半身が埋まってそのまま寝ている勇儀しかいない。

どう寝返りをうてば、あんなふうに地面に上半身が埋まるのであろう・・・

 

「勇儀の寝相・・・あいっかわらず、ひどいな。」

 

私は、そんな独り言を言いつつ、能力を使って分身を作る。

分身に水を持ってくるように頼んで、私の腰に抱き着く文を軽くなでる。

 

「えへへ・・・くすぐったいですよぉ~、すいかさまぁ~」

「・・・こいつ、まだ酔ってんのか。」

 

ちなみにいうと、文は酔うと私だけに子供みたいに甘えてくる。

なんで、私だけなのかはわからないが、まあかわいいので良しとしよう。

・・・別に恋愛感情じゃないぞ?妹分としてかわいいだからな?

変なこと、いってきたら私が、殴りに行くからな?

 

「ほい、水」

「ん、ありがと。」

 

分身が水を持ってきたので、それを飲む。

分身は、そそくさと元に戻り、水がほんのり甘く感じた。

 

「あんだと~・・・あたしのさけがのめにゃいってか~?」

 

もう、勇儀は放っておこう。

多分あれは、起こすとぶっ飛ばされるから。

文を起こさないように、離れて、音を立てないように寝室になり果てている居間から離れる。

 

「んっ・・・んんっ」

 

中庭に出て、背伸びをする。

そして、簡単なストレッチをした後、少しだけさっきの夢を思い出す。

夢は簡単に忘れられると言われているが・・・あの夢だけは、脳裏にしっかりとこびりついている。

時雨に泣きつく紫、地面に横たわり赤い花を咲かせる時雨、泣き叫ぶ風見幽香。

 

「嫌な、夢だな。」

 

本当に嫌な夢だ。

なんで、普段はすぐに忘れられるというのに今回はこんなにも覚えているのだろう。

それに、どうもあの夢を思い出すと、身の毛がよだつ。

恐ろしい・・・私は、自然と手に力を込めていた。

 

「できれば、そんなことは起きてほしくないが。」

 

もし起きたら。私はどうすればいいんだろう。

私の能力は回復には役立たない。勇儀の能力や歌仙の能力もまたしかりだ。

それに・・・あの夢には謎の影があった・・・・・・あの姿。どこかで・・・

 

「ふぁ~・・・おはよ~ございます~。すいかさま~」

「お、起きたか文。」

 

居間から、文が眠たそうに出てくる。

服が、乱れてしまい胸元が見えているが、ここに男がいないので多分大丈夫であろう。

ただ、勇儀はいまだ床に刺さったまま寝ている。

もう、見なかったことにしよう。

 

「文、お前は紫と接していて何か感じなかったか?」

「紫ちゃんに?ですか?」

「ああ」

 

私は、気になったので文に聞いてみる。

これでも、文は鬼相手に論破するほどの度胸と相手の隙を見逃さない観察力の持ち主だ。

文も、おそらく気付いているのだろう。

 

「紫ちゃんは、多分、近いうちに壊れちゃいます」

「・・・」

「あの子は、自分の本当の気持ちを抑えて生きている。だから、もし・・・死んだり、消滅したら」

「一気に、精神が崩壊する?」

「ええ・・・それに、あの子が教えてくれたんです。」

 

「紫ちゃんは、誰かに依存しないとダメになっちゃうって。」

 

「・・・・・・」

 

確かに、紫は何かに依存することで自分の生きる道を見つけるタイプだ。

だから今は、時雨に依存することで生きる道を見つけている。

つまりは、あいつは誰かに引っ張られないと生きていけない。

過去のこともあるだろうが・・・それは、自然発生型妖怪にとって致命的なことだ。

 

(紫が・・・まさか、あそこまでの欠陥持ちだったとは・・・)

「萃香様・・・紫ちゃんは」

「心配するな、文。時雨がいるだろうが」

「そうですけど・・・」

 

文が心配そうに顔を伏せる。

文は何気、天魔でありながら自由に生きているが、所詮は妖怪の女の子。

心はほんとは、すごく弱い。だけど、文は頑張って生きている・・・

しかし、紫は・・・

 

(紫・・・お前も、馬鹿だ。)

 

================================

 

side yuugi

 

「萃香様・・・紫ちゃんは」

「心配するな、文。時雨がいるだろうが」

「そうですけど」

 

萃香は、ああいっているが実際、紫は近いうちに壊れる。

それも、最低最悪な壊れ方で・・・

 

(ああ、めんどくせぇな。地底に行く前に用事できちまった。)

 

私は、小さく舌打ちしながら夢で見たあの光景を思い出す。

時雨に泣きつく紫、倒れている時雨、膝から崩れ落ちた萃香、絶望し発狂する文。

同じく、時雨に泣きつく風見幽香に。うっとおしい程に咲き誇る桜の木。

 

(あれは・・・私はよく知っている)

 

風のうわさ程度だが、聞いたことはある。

この国のどこかに、何人を死に誘う桜があると・・・

もし、そうならば・・・私はどうなるのだろう。

私とて、時雨を愛している。だが、時雨は気付いてくれない。

元から私は、奥手な方でグイグイと攻めていかなくてもあいつは私を見ない。

いや、友人としては見てくれるが・・・異性としては見てくれない。

 

(もしそうなら・・・私は、私として暴れてやる。)

 

この国が滅びようが、関係ない。

時雨がいないなら、こんな国に用はない。

 

ああそうだ・・・

 

 

時雨がいないなら。世界を真っ二つにしてやる。

 

 

 

 

 

 




はい、萃香さんは落ち着いたけど、勇儀さんは怖いです。
まあ、勇儀さんの夢に出てきた桜は予想通りだと思います。
けれど、ネタバレになるから感想にして送りつけないで。
お願いします。


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第九話 師匠と私と宵闇との出会い。

夏の終わりまで、23日。

さて、宵闇とはだれなのか!?(いや、分かり切っているだろうけど・・・)
あと、この回でついに正邪が登場・・・するかもね。



暑い、昨日は妖怪の山にいたからなのか、涼しかったが・・・

街道となるとすごく暑い。流石、夏なのか。

私的には、夏は好きだが、この暑さだけは好きになれない。

 

「紫ちゃん」

「はい?なんですか、師匠?」

 

と、師匠に呼ばれたので暑さを我慢して師匠を見る。

すると、師匠は何かを指さしておりなにか倒れている女の子を見つけたかのような顔をしていた。

 

「師匠、なんですか?そのいかにも倒れている女の子を見つけたみたいな顔は」

「いや、見付けた顔じゃなくて・・・本当に見つけた。」

「・・・は?」

 

不思議に思いながら、師匠が指さす方向を見ると

 

「そー・・・・・・なの・・・・・・かー」

「あ・・・暑・・・・・・しぬ。」

 

女性が二人倒れていた。

 

「倒れてますね。」

「倒れてるね。」

 

「やばくないですか?」

「うん、やばいね。」

 

 

 

 

「「急いで、日陰に入れよう!」」

 

 

 

私と師匠は、二人の女性を大急ぎで日陰に運び込んだ。

 

 

「うぅ・・・」

「あ・・・あつ・・・」

 

・・・これは、看病が大変そうだ。

 

 

 

数時間後・・・

 

「うふふ、助かったわ。ありがとう。」

「すまねぇな。手間かけさせて。」

 

と、二人は何とか復活した。

 

「いや、いいですよ。旅は道連れ世は情けだからね。」

「師匠・・・それ、なんか違う。」

 

うん絶対、旅は道連れ世は情けじゃないと思う。でも、あってる?

残念ながら、私はことわざには疎い。だから今度、誰かに聞いてみよう。

そんなことを考えつつ、二人を見・・・

 

「って・・・まっ・・・まさか。」

「??」

「よっ・・・宵闇さま?」

「うげっ・・・まさか、ばれるとは」

 

宵闇様・・・自然発生型妖怪の中でも、数は少なくまた絶大な力を誇る

突然変異系の妖怪。もちろん、私の特性をもってしても倒せない強い。

まず、宵闇さまは私如きが足元に及ばないほどに強い。うん、やばいぐらい。

だから、私は平伏する。なにせ、”あの”宵闇さまだ。

 

 

過去の人妖大戦で、人間の勢力を8割消し飛ばした。あの宵闇さまだからだ。

 

 

「まあまあ、頭を上げて。私、堅苦しいのは苦手だし。」

「いえいえいえいえ、でも。あの宵闇さまですよ!?立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花で、気に入らない妖怪は闇に引き込んで食い殺し、本気を出せば龍神様を殺せると言われているお方なんですよ!?」

「あ・・・それ、ただの尾ひれのついた嘘よ?」

「・・・ふぇ?」

 

え、嘘なの?

私が、変な声を出して宵闇さまを見ていると宵闇さまは目頭を押さえて苦笑いを浮かべていた。

多分、あの様子から尾ひれのついた噂のせいで変なイメージを固められているのであろう。

それを聞いた私は、ほっと安心して頭を上げた。

 

「あはは、お前も運がないな。」

「もぉ、よしてよ。正邪。私とあなたの仲でしょ?それに、あなたの紹介はどうしたの?」

「ん?あぁ、わりぃ。あたしは、鬼人正邪。天「ごほん」ただの小鬼で、龍「げほん」ルーミアの親友さ」

 

なんだか、途中でルーミア様がへんな咳をしていたけど大丈夫だろうか?

まあ、そんなことは、置いておいて。

 

「??」

「私が聞いた噂と、雰囲気全然違うなと思って・・・」

「ああ、こいつは噂とは違ってすごくおっとりしてて虫も殺せない優しい性格なんだよ。」

「えぇ・・・」

 

確かに、優しい雰囲気で攻撃なんてしなさそうだ。

でも、実力は確かなのだろう。師匠に鍛えられた第6感が警鐘を鳴らし続けている。

むしろ、彼女がいるだけで、私はすごく恐怖を覚えている。

 

「あ、でも怒らせないほうがいいぞ。怒ったら凄く怖いから。」

「あ、はい・・・」

「正邪?」

「あ、悪い。」

 

と、正邪さんがそういった途端にルーミア様の殺気が少しだけ跳ね上がる。

それだけで、私も怯えてしまう。怖い・・・

 

「あ、あらあら・・・ごめんなさい。こわかったね~」

「うえ~ん・・・」

 

私が泣き出すと、ルーミア様が抱き着いて頭をなでてくれた。

殺気も引っ込んでおり、私は、自然と落ち着きを取り戻し始める。

 

「・・・で、貴女たちはどうしてあそこに?」

 

と、しばらく空気になっていた師匠がそういった。

すると、二人が顔を合わせて。

 

「私は、少し知り合いに会いに行くためね。正邪とは偶然出会ってね。」

「ああ、あたしは龍「こほん」上司に呼び出されててな。」

「そうなのか?」

「ああ」「ええ」

 

師匠が聞くと、二人がそう頷く。というか、絶対この二人何か隠している。

そう思うけど、私は隠す。これは多分聞いてはいけない類の奴だろう。

だから、私はわざと聞かないことにした。むしろ、聞いたら消されそう。

 

「なあ、もしよかったらなんだ。あたしたちと別れるまで旅してみないか?」

「え?」

「いや、多分途中まではあたしたちの道は同じだろ。なら一緒に行った方がよくないか?」

「そうだが・・・」

「それに、嬢ちゃんは完全にルーミアに懐いているようだが?」

 

と、正邪さんが私を目線で見るように師匠にジェスチャーする。

確かに、今私はルーミア様に抱き着かれておとなしくしている。むしろ、安心するんのであんまり動きたくない。

私も、だめもとで目線で頼んでみる。

 

「・・・まぁ、いいか。またぶっ倒れているのを見かけるよりはマシか。」

 

そういうことで、正邪さんとルーミア様が旅の仲間に加わった。

 

 

 

 

 

 




はい・・・というわけで、この物語最強の二人が加入・・・
一体どうなる!?


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第十話 人と妖怪の希望の名前

夏の終わりまで、22日。

更新遅いなぁ・・・
と、この頃思う。


「ルーミア様、ルーミア様は妖怪と人間が共存できると思う?」

 

正邪さんと師匠が寝付いた後、ルーミア様に聞いてみる。

むしろ、これを聞くためにルーミア様は起きててもらっていた。

私がそういったあと、ルーミア様は怒るというわけでもなく嘲笑うということもない。

 

「私はね、人間と妖怪が”仲良く共存”はできると思う。でもね。」

「?」

 

「それは、妖怪に死ねと言っているようなものよ?」

 

 

「・・・わかってます。」

 

そう、それは本当に妖怪にとって残酷なこと。

でも、師匠が願ったのだ。私はそれを成し遂げならなければならない。

たとえ、妖怪に死ねといっても。私は、それをかなえなくてはいけない。

冷酷だと思われただろうか、とてもひどい子だと思われたのか・・・

 

「紫ちゃん。」

「はい・・・」

「私は、宵闇(妖怪個人)としては納得できない。でも、宵闇(私個人)としてはそれに賛同するわ。」

「え・・・」

「いいじゃない、人間と妖怪が共存する世界。」

 

と、ルーミア様は私のもとに移動し、私を抱きしめる。

すこし、息苦しくなるけど、ほんのりとあったかさが伝わり、自然と涙が流れ始める。

そうだ・・・私は、この人に否定されるのも、いつの間にか嫌ったのだ。

 

「よしよし・・・」

「るーみぁさまぁ・・・」

「それに、それは、あの男の願いじゃない。あなた自身の願いでもあるのよ?」

「わたしの?」

「ええ、確かに貴女はあの人に願われ貴女はそれをかなえようとそれを夢と定めた。その時点でその夢は貴女のものなの。あなただけじゃない、みんなの夢。人間と妖怪の共存を望む、宵闇(私個人)や、その他みんなの」

 

そう・・・なのか。

いや、ルーミア様がそういったから、多分そうなのであろう。多分、みんな望んでいる。

共存を望む人間や妖怪たちはいる。むしろ、必要とされているのであろう。

でも・・・そこに師匠は・・・

 

「私はね、貴女の恋心はかなってほしいと思ってる」

「ふぇ?」

「いい?女の子の初恋は、叶うものじゃないの。叶えるものなの。」

「叶える・・・」

「そう、私も・・・初恋は叶えたもの。」

「ルーミア様も?」

「ええ」

 

私がルーミア様を見ると、ルーミア様は月を見て懐かしむような顔をしている。

それに、どこか悲しい表情で、とても幻想的だった。

 

「幻想・・・幻想・・・幻想・・・郷?、幻想郷・・・」

「?どうしたの?紫ちゃん。」

「私、決めました。人間と妖怪が共存できる世界の名前・・・”幻想郷”」

「幻想郷・・・いい名前じゃない。」

「はい・・・私がそう決めました、私の夢のためにも!」

 

そうだ、幻想郷は私の夢でもあるんだ。

それに、初恋を抑えることなんてそもそもできない。

なら、気づいてもらえるようにすればいい。

私は、安心してルーミア様に抱き着かれまま、そっと目を閉じた。

 

 

side rumia

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

いつの間にか、私の腕の中で紫ちゃんがかわいい寝息をたたて眠り始めた。

その寝顔もまた可愛らしく、私の中の何かをくすぐるようだった。

もし、この子が本当に幻想郷を作るというのなら、私はそれを見てみたい。

私も、昔はそれを夢見て、叶えた。初恋も、夢も、自分の望みも。

でも、あの時は私にはできなかった。けれども、おそらくこの子なら成し遂げられる。

 

「実はね、紫ちゃん。私、大昔の妖怪さんなのよ。虫も殺せないは本当だけどね・・・」

 

そう、私はこの優しさゆえに全部を裏切ったこともある。

今は月にいる彼の為に私はこうして地上に残りあの人がいつ帰ってきてもいいように守り続けている。

でもまあ、少し寂しいから会いたいときもある。でも、あの人がいるのは月。

 

「会いたいなぁ・・・」

「会いに行けばいいじゃねぇか。」

「それは無理よ。」

 

寝たふりをしていた正邪が、私にそういう。

でも、それは無理な話だ。確かに私は月に行けるほどの能力と月人の退魔のちからに対抗できるほどの力を確かに持っている。確かに会いに行けるし、その気になれば彼以外の月人を滅ぼすことも容易だ。

だけど、私はそれを望んでいないし、彼もそれを望まない。だから私は、こうして地球でおとなしくしている。

 

「だから、どれだけ大切な人に出会えないか。大切な人に会えなくなる辛さを私は知っているから。」

「だから、紫に初恋を隠さないように教えたのか?」

「ええ」

 

私がそういうと、正邪があきれたようにため息をつく。

まあ、正邪と私の仲だから、何を考えたのかわかる。

どうせ、この馬鹿は。と考えているはずだ。確かに私は馬鹿だ。自分でも救いようのない程の間抜けだとも思ってる。何を思って、生きているかも。自分がどれほど情けないかも、百も承知。

 

「でも、この子は・・・」

「まだ救いようがあるってかい?」

「ええ、まだ私のように悲しい思いをする必要がない。」

 

私のように、離れ離れになる前に約束はした方がいい。

するとしないとは、後悔の差が違う。

 

 

「紫ちゃん・・・お願いね。あなたも私のようにはならないで。」

 

 

この子には、闇が多くこびりついてしまっている。

私の能力は、闇を司る程度の能力・・・それが、人の闇だろうが妖怪の闇であろうが見ることができる。

だから、この子の闇から見える未来を見てしまった。

 

 

 

 

 

紫ちゃんや萃香、勇儀ちゃんや幽香ちゃんが怒りに身に任せ世界を破壊する未来。

 

 

 

 




こえぇw


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第十一話 恐ろしき守屋の神

夏の終わりまで、21日。

タイトルが意味しているものとは・・・
果たして・・・どこの守屋なのだろうか。


「師匠!」

「うおっと、紫ちゃん。いきなり突っ込んだら危ないよ。」

「えへへ~」

 

私が、ルーミア様の教えで自分の心に素直になると、私の内側が何かふわっとした不思議な感覚で、どこかふわふわとした気持ちになる。

それはとても心地よく、ずっといつまでもこうして師匠に触れていたい。

 

「まったく・・・」

「えへへへ~」

 

師匠も満更でもない顔で、私の頭をなでてくれる。

やっぱり、私は師匠が好きだ。これは変わらない変えられない。

 

 

「・・・なぁ、あたしらはなにをみせられてんだ?」

「あらあらぁ、別にいいじゃない。あなたも昔はそうだったでしょ?」

「・・・頼む、その話はするな。」

 

と、隣で正邪さんがなぜか顔を赤くして顔を隠した。

とても恥ずかしそうにしてたために私は、見なかったことにした。

ルーミア様が、くすくすと笑い、正邪さんの背中をなでていた。

 

「いや、どうしたんですか?急に恥ずかしがって」

「いっ、いや。なんでもねぇ・・・」

 

顔を赤くする正邪さんはどう見ても、恋する乙女だ。

まあ、そんなことは置いといて私は隙間から日傘を取り出す。

この日傘は、ついさっき師匠が傘売りから売ってくれた珍しい傘らしい。

何でも、その傘売りが言うに青い髪の赤と青の瞳を持つ妖怪が作ったらしく、とても人間が持てるようなものでもなく、処分できずに困っていた。

そしたら、師匠がその傘を買って、私にプレゼントしてくれた。

たしかに、今まで使っていた番傘はもうボロボロになってしまっているし・・・

私のこの服装だと、番傘は似合わなかったから、この傘は私によく似合っている。

と、ルーミア様が教えてくれた。

 

「けろけろ。君、かわいいね?けろけろ」

 

その言葉を聞いた途端、私以外全員が構える。

私は、その言葉を聞いただけで震えてしまい、尻もちをつく

いつの間にか、目の前に現れた金髪幼女・・・その存在感は強大で、私が敵う相手ではないとすぐにわかる。

いや、むしろ。この幼女には、私は逆らわないほうがいい。

もし・・・もし逆らったら。”消滅させられる”

 

「ふふ、小さく震えて・・・かわいい」

「ひうっ?!」

 

いつの間にか、私の後ろに現れてその金髪幼女が私に抱き着く。

そして、いやらしい手つきで触りだし始めて、なぜかゾわぞわする感覚が起きる。

くすぐったいようでもどかしい感じ・・・

 

「時雨流・・・時簾」

「おっとっと、あぶないあぶない。」

「・・・」

 

少し怒っている師匠が、雨簾を私に当てないように振って金髪幼女を引きはがした。

その幼女は、簡単にそれを回避し、また私たちを見ている。

そして、けろけろ。と笑うと、私の足元が動き出し、私は捕まってしまった。

そのまま、私は金髪幼女の隣に移動させられて、捕らえられたまま少しだけ宙に浮いた。

 

「けろけろ、こんなかわいい娘。私が、手放すわけがない」

「そいつは、”俺”の弟子だ。おとなしく離せ」

「んー・・・ヤダ。だって、この子可愛いから・・・私が、貰っちゃうもん。」

 

私を捕まえている金髪幼女は、少しだけ考えた後にこやかに断りそういい放った。。

その一言で、師匠とルーミア様の殺気がさらにあふれる、正邪さんは短刀を構えたまま殺気をあふれさせる

二人に少しだけ引いていた。

 

「ならば・・・斬る」

「私、優しい性格だけれども・・・・・・私も怒るわよ?」

「けろけろ・・・我が名は、洩矢諏訪子。諏訪の国を治める神である。汝ら・・・我に挑戦するか?」

「寄らば・・・斬る!」「宵闇の本気・・・見せてあげる」

「けろけろ。ノリが悪いなぁ・・・ふぁっ」

 

金髪幼女が余裕そうにあくびをした途端、師匠が瞬間移動じみた動きで一瞬で近づき金髪幼女の首を刎ねようと

かなり鋭く、素早い斬撃を繰り出す。

しかし、金髪幼女はそれをいとも簡単に回避し、師匠に踵落しを決めていた。

師匠は、気合で耐えたらしく、少しふらつきながらルーミア様のもとに戻った。

そして、ルーミア様は師匠が戻った途端に純粋な妖力の塊を一斉に打ち出し金髪幼女に迫撃しようとする。

しかし、金髪幼女の能力なのが地面から、石でできた壁が突然突き出し、そのルーミア様の攻撃は防がれてしまう

 

「?!」

「けろけろ・・・よそ見?」

「なっ・・・ぐっ?!」

 

一瞬、目を離したすきにルーミア様の脇に金髪幼女が移動していた。

そして、隙を逃さずにルーミア様の脇腹にけりを決めていている。

しかし、ルーミア様も負けじと蹴ったその足をつかみ地面にたたきつけた。

金髪幼女は、地面にたたきつけられそのまま、固まった土のようにバラバラになってしまった。

師匠とルーミア様が、驚いた途端に二人に鉄輪が殺到する。

師匠は、雨簾でたたき切り、ルーミア様は闇で防ぐが地面から白い蛇が現れて二人を拘束してしまう。

 

「師匠!ルーミア様!」

「けろけろ・・・大丈夫だよ。あの二人を動けなくしたら、もう何もしないから、さ。」

「ひゃうっ?!」

 

私が、二人を心配して声をかけると、いつの間にか移動してた金髪幼女が私の耳に息を吹きかける。

その感覚で、ぞくぞくっとして、顔を赤くさせてしまう。

この幼女、セクハラの塊だよ!?師匠!たすけてー!

 

「けろけろ、大丈夫。優しく食べてあげるから。」

「ふえっ?!・・・ひっぐ・・・・・・うえ~ん!」

 

私は、その恐怖に耐えきれなくなり年相応の女の子のように泣き始めてしまう。

流石に、泣くことを想定してなかったのか金髪幼女は慌て始めた。

 

「あわわわわ?!泣かないで!!ごめんごめん!ほら、甘いものあるよ?」

「ふええぇぇぇぇぇんっ!!」

「ほら、大丈夫だから!食べないから、泣かないで!あわわわわ!?」

 

side sigure

 

「うええぇぇぇぇっ!!」

「あわわわわ・・・けろけろ・・・ばぁ!」

 

俺とルーミアさんは縛られたまま目の前の光景に少しだけあきれていた。

精神的にも幼い紫を泣かせた、洩矢諏訪子は一生懸命泣き止ませようと必死になっている。

俺と、ルーミアさんはその光景を苦笑いで見ることしかできず。正邪さんは、ただ眉間にしわを寄せて困っている。

 

「あーもう!襲わないから、泣かないで!」

「ひっぐ・・・ほんと?」

「ほんとだって!ほら、わらって、わらっ」

「ふん」

「ふぎゃっ!?」

 

いつの間にか、後ろに移動していた正邪さんが刀の峰で殴って気絶させた。

正邪さんが、呆れた様子で気絶した幼女を見下ろしている。

そして、紫を拘束している土をバラバラにすると紫は抱き着いて泣き出した。

よほど、あの金髪幼女が恐ろしかったのだろう。すごく、こわかったと泣き叫んでいる。

正邪さんは、怖かったな。といって、金髪幼女を見下ろしている。

 

 

 

 

 




難産・・・
うぅ・・・バタッ


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第十二話 諏訪の国

夏の終わりまで、あと20日。

お久しぶりです。
失踪しかけたライドウさんです。

投稿遅れて本当に申し訳ございません!!

あと、諏訪子ファンの皆様本当に申し訳ございません!


side yukari

 

 

昨日、洩矢諏訪子に襲われた後、諏訪子さんの謝罪を兼ねて諏訪の国にある守屋神社に行くことになった。

師匠とルーミア様は、疑問のジト目をして諏訪子さんをにらみつけたが

諏訪子さんが「なにもしないよ!」といったので、とりあえず二人は信用したらしい。

ちなみに、正邪さんからは洩矢の国にいる間は私から離れるなと注意されました。

さすが、正邪さん・・・私から見て、頼れるお姉さんだ。

 

「ん?どうかしたか?」

「いえ、ただ正邪さん。かっこいいなぁーと思って」

「照れるだろ。よせやい」

 

そういって、まんざらでもない風にそっぽを向いた。

その様子をルーミア様はあらあら、と笑い。諏訪子さんはなぜか舌打ちして黒いオーラを出していた。やっぱり諏訪子さん怖い・・・

 

「はっ、また紫ちゃんの好感度が下がった気がする!」

「黙って歩け、変態幼女」「黙って歩きなさい、変態幼女」≪にっこり≫

「・・・・・・はい。」

 

諏訪子さんは、師匠とルーミア様の殺気と正邪さんがにっこりと微笑みかけた途端、しゅんと小さくなった。

私に、変態行動しなければ近づいてもいいけど近づくと私の下着を下ろそうとするから近づけない。

むしろ近づきたくない。

 

「さてと、おいそこの変態」

「は、はひっ。なんでしょうか?」

「諏訪の国ってのは、ここでいいんだよな?」

「えーと・・・はい。ここですここ。」

 

丘の上の道から見える景色は壮大だった。

それなりに、広い国土に諏訪湖に近い山には守屋神社が堂々と立っている。

それは、私が知っている中では最も広い国。一番笑顔もあふれていてところどころ妖怪も混ざっている。

 

「ようこそ、私の”諏訪の国”へ」

 

この人は・・・少し怖い人だけど・・・

私より先に夢をかなえている人・・・だったの?

 

「こりゃ・・・驚いた。」

「まさか・・・ここまで」

 

正邪さんもルーミア様もたじろぎ、諏訪の国を見ているだけとなっている。

師匠は、なぜか懐かしそうな眼をしており泣きそうである。

諏訪子さんは、我先にと諏訪の国に向かって歩いてゆく。

 

「私はさ、正直神と妖怪との争いなんて、正直どうでもいいんだ。」

 

そう、私たち妖怪と神は争い、潰しあうもの同士だ。

もちろん、神という存在も妖怪という存在も、信仰されるか恐怖されるのどっちかで分別できてしまう。

特別な例で、妖怪が神様になった。という神様もいるが、それは変わり者の”妖怪”だっただけで完全な神様にはなれない。なれるとしたら、せめて神の補佐官とかであろう。

なれるのも、地獄勤めの妖怪限定、天邪鬼なんかは多分なれるだろうが優遇はされないだろう。

万物をひっくり返すほどの能力を持っていれば、話は別であるが・・・

 

「へっくち」

「あれ?風ですか?」

「いーや、多分りゅ・・・上司が噂でもしてんだろ」

 

くしゃみをした正邪さんを私が心配すると、そういった後に心配するなと言い私の頭をなでた。

正邪さんに撫でられると、師匠とは違った温かさを感じるから、これはこれでいいのである。

 

「まあ、だから私はこの諏訪の国を作った。妖怪と人間が本当に仲良く暮らす国を。」

「でも・・・それって妖怪に」

「・・・・・・ああ、本来なら死ねといっているようなものだ。」

 

やっぱり、諏訪子さんもそこはわかっていた・・・

しかし、このやり方では確実に近い将来、この国にいる妖怪たちは”恐怖”が足りなくなり消滅してしまうだろう。

 

「だけど、そこは私の能力がちょちょいのチョイってね。」

「?」

「まあ、私の能力は坤を創造する程度の能力。それに、私はミシャクジ様を操れるからね。」

「?!」

 

ミシャクジ様。

神様の中でももっとも蔑ろにしてはいけない神様、もちろん伊弉諾尊様よりは劣ってしまう。

少しでも蔑ろにしてしまえば、たちまち神罰が下り呪われるという祟り神様でそれを唯一制御できる神がいるとは聞いていたけど・・・まさか、諏訪子様だったとは

 

「私の能力で、この土地に住む妖怪たちに自動的にミシャクジ様への恐れが配当されるようにしてあるんだよ」

「恐れを・・・配当?」

「そう、ミシャクジ様はただでさえ人々に恐れられ、ある意味妖怪化してるから、妖怪化する前に妖怪たちに配当して、妖怪たちは恐れを維持し、生存。ミシャクジ様も祟り神としての存在も守られるというわけ。」

「おー」

「にしし、私のこと見直した?今夜、私のところに眠りに来る?」

「寄らば・・・斬る」「うふふふふ、深淵をのぞいたら深淵もアナタヲ見ているわよ?」≪にっこり≫

「調子に乗りましたすいません」

 

諏訪子さんは、変態発言さえなければいいのに・・・

 

 

その後、諏訪の国にたどり着いた私たちは諏訪の国の住人に壮大に迎え入れられ宴会までされて歓迎された。

諏訪の国の人たちは優しい人たちで、みんながみんなすごく楽しそうに笑っている。

諏訪の国に住む妖怪たちも、人間の手伝いをしながらそれぞれの生活をして、楽しそうに笑っている。

今日は、少しぐらいハメを外そう。そう思い、少しだけお酒を飲んで師匠に突撃した。

 

 

side sigure

 

 

宴会が始まって、おおよそ3時間。

僕と諏訪子様のみが案内された守屋神社の縁側でちびちびと月見酒をしていた。

流石に、諏訪子様は紫ちゃんの前のように変態発言など一つもしておらず。

真面目な雰囲気を纏っており、本物の神様としての一面を見せている。

 

「期限」

「今年の夏まで」

「どこまで」

「この諏訪の国の次は、ブルガリアかな?あの吸血鬼にまた会いたいし」

「あの子とは」

「弟子の関係。恋愛なんてしてないし、する気もない」

「この唐変木」

「その言葉、流行ってるの?監視役の死神さんにも言われたんだけど」

 

短い言葉のやり取りをしてぱっと会話をやめる。

それが、僕と諏訪子様のコミュニケーションの方法だ。

昔は、よく喋っていたけれど今は、こんな関係だ。

 

「まあ・・・あんたほどの馬鹿は見たことないから、仕方ないけどね」

「それより、あの人は元気?」

「逝っちまったよ。」

 

諏訪子様のお猪口を持つ左手の薬指には銀色のリングがはめられている。

あれは、諏訪子様の大切な人からもらった、婚約のあかしらしい。

あの人は、未来から来たとか、よくわからないことを言っていたが、最後の言葉は諏訪子様と出会てとてもよかった。最後に、あいしてるの五文字を伝えて、幸せそうに死んでいったそうだ。

まあ、それでもあの人は僕にとって大切な人でもあるから逝ってしまったとなると少し悲しいかもしれない。

 

「まったく、私も不幸だね・・・旦那には先立たれ、あんたにすら先立たれる。神ってもの面倒なもんだ」

「まあまあ、その分。出会いがあるだけましでしょ?」

「出会いの数だけ、別れがあるんだよ」

 

「人なんて、いつか死んじまうもの。それが、長寿で健康な老人であろうと、生まれたばかりの赤子だろうとね。生き物は例外なく、最後には死が訪れる。神も仏も、所詮は死ぬ。みんな、な」

 

「まあ・・・そうだね。」

 

僕は、お猪口を縁側においてぽつりと浮かぶ月を見上げる。

あの月は、あと何回見れるのであろう。この星空も、あと何回見れるのであろう。

いや分かり切っている。後、19回・・・あと19回も夜を見れば、僕は死ぬ。

実際には、輪廻転生の輪に乗る。といった方が正しいのであろう。

ここにいるのは、魂のような存在・・・実際には、半神半霊といった感じで、半分幽霊のような状態だ。

 

「まあ・・・あんたに先立たれるなら。先立たれるでいいんだけどね、この不幸もの。」

「あはは、何も言い返せない。」

「でも・・・あんた。妹はどうするのさ」

「・・・幽香と佳苗のこと?それは、任せますよ。」

「任せるってあんた・・・はぁ」

 

そういって、ため息をつきお猪口の中の酒を一気に飲み干した

 

「あんまり、お酒に強くないんでしょ?そんなに飲んだら、明日に響くよ?」

「・・・いまは、飲まなきゃ・・・やってられねぇんだよ。」

 

そういって僕を愛おしそうに抱きしめる。

 

「私を、あれだけ幸せにしてくれた旦那を失った途端、今度は息子が死んでやり残したことの清算の旅に出てる。これほど、不幸な女も・・・子に先立たれる悲しい親もいないだろ?だから・・・今だけでいい、今だけでいいからこうさせてくれ。」

「うん・・・”母さん”」

 

抱きしめられた時にほのかに香る母さんのにおいはとても懐かしく、どうしても罪悪感しか感じられない。

そして、思い出すのは幼い頃の記憶・・・・・

 

母さん・・・本当にごめん。

 

 

 

 




こういうことで、すいませんでした諏訪子ファンの皆様!
なソでもしますので許してください!




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第十三話 博麗の一族

夏の終わりまで、あと19日。

博麗は、あの博麗です。はい。



昨日の夕方からいる諏訪の国、そこでは、諏訪子さんを信仰する洩矢派と

”博麗一族”という一族が、神社同士で争っていた(宗教戦争)。

どちらも、八百万の神々とは別の神様らしく、諏訪の国で仲良く喧嘩しているというわけだ。正直に言えば、博麗一族と諏訪子さんは、年に15回宴会で飲みあう仲だという。

で、なぜ私・・・八雲紫が、そんなことを説明したかというと・・・

 

「あはははっ!!諏訪子!あんたまだ飲むのかだぜ?」

「なはははっ!!霊鵡(れいむ)だって、それ何杯目?」

「知らん忘れたぜ!」

「なはは、私も!」

 

こんな風に、諏訪子さんと博麗一族”二代目当主”博麗霊鵡(はくれいれいむ)が、飲み比べをしているからだ。

しかも、霊鵡さんは、妖怪退治の専門家らしい。ただし、私のようなのは討伐範囲外と、本人が言っていた。

本人が言うに、自分が討伐する対象は人を襲った妖怪と知性のない妖怪らしい。

 

「しっかし、今時、あんたみたいな自然発生型妖怪なんて珍しいんだぜ。」

「へ?そうなんですか?」

「ああ」

 

そういいながら、またお酒を飲み干す。

本当にそれ何本目ですか?空になった酒樽がすでに10個転がってるんですけど・・・

 

「なにせ、人と一緒に旅している自然発生型だぜ?普通の自然発生型なら、山奥にさっさと逃げちまうのに」

「私は・・・その、行く当てないので」

「う‶っ・・・すまん、余計なこと聞いたぜ」

「いえ、お気になさらず」

「ねぇねぇ、紫ちゃん!よかったら私と住まない?それで、よるになったら」

「寄らば・・・斬る。」「ウフフフフ?」≪ニッコリ≫

「さーせんっした。」

「あっはっはっ!諏訪子あんたまた女の子に声かけてるのかだぜ!?懲りないねぇっ!!」

「なぬっ!?それを言うなら、霊鵡!あんただって、そっちの気があるでしょうが!?」

「馬鹿言ってんじゃねぇっ!魔梨紗は男だぜ!」

「あんなかわいい子が男なわけない!」

「んだとこのやろぉっ!」

 

と、酔っ払い同士が喧嘩しだしたので、私は私の隣に座っている霊鵡さんの親友兼”正式な恋人”の”霧雨魔梨紗(きりさめまりさ)”サンが顔を赤くして酔いつぶれていた。

ちなみに、魔梨紗さんは女性用の和服を着ているけど、男の人らしい。この世界に、女の子みたいな男の人がいるなんて知らなかった。

魔梨紗さんが、「えへへ・・・霊鵡~」と言っているあたり、二人に私はこう言いたい(もう結婚しちゃえよ)と。

 

「というか!あんたにあの子は似合わないのよ!」

「あ!?あたしがなんで合わないんだぜ!」

「当たり前でしょ!?男勝りでくちぐせが”だぜ”なんだからさ!」

「ふざけんな!口調関係ないだろ!それに魔梨紗は・・・そこがいいって言ってたし・・・」

 

と、顔を赤くして頬を少し書きながら目線を逸らすその姿は、可愛らしいと思える。

そのしぐさをしただけでも、諏訪子さんがぎりぎりと歯軋りを立てて嫉妬していた。

 

「あーもう!あんたらもう結婚しちまえよ!」

「なっ!?けっけけけっ、結婚!?むっ、むりだぜ!!魔梨紗は、まだ10歳で」

「あんたも、12歳でしょうが!!」

「歳の差2歳だぜ!」

「それいったら、あたしは139歳で結婚してたわ!」

「あんたの旦那が特殊なだけだろ!」

「なにをー!?海斗を侮辱すんのかこのクソガキ!」

「あ”あ”!?やんのか、ロリババアっ!!」

 

やはりというべきが口が汚い喧嘩が始まり、二人は今にもとびかかりそうなぐらいににらみ合っている。

多分、仲がいいからこんな喧嘩できるのだろう。だって、諏訪子さんも旦那さんのことを侮辱しても怒らないし、ロリババアと言われても、楽しそうに口角を上げていた。

でも、二人の喧嘩はそう長くは続かなかった。

 

「んんっ・・・うるさい・・・・・・究める閃光。」

「「ぎゃああぁぁっ!!」」

 

魔梨紗さんが寝ぼけながら懐から八卦炉を取り出して、そのまま虹色のレーザーを発射した。

そのレーザーを回避できなかった二人は、黒焦げアフロになって、大の字に倒れていた。

でも、その倒れた顔もどこか楽しそうで二人とも良い笑顔で笑っていた。

 

「さてと、あのバカ二人が静まったところで二人に話すことがあるんだ」

 

と、師匠がこのタイミングでルーミア様と正邪さんに話をする。

私は、魔梨紗さんのほっぺたをつんつんしながら、男の子なのに女の子みたいな柔らかさを楽しんでいた。

でも、こうしてみると、本当に魔梨紗さんは女の子にしか見えない。

 

side sigure

 

「僕はこのままブルガリアあたりに行くんだけど・・・二人ともどうする?」

「ブルガリア?ああ、外国か。あたしは無理だぜ、龍じ≪ごほん≫上司が、およびだからな。四国まで行かなくちゃなんねぇ。」

「私は、行ってもいいかな。私は元々正邪とは親友だけど今回巻き込まれただけだし」

「ちょ、お前。」

「正邪、ちょっと耳を貸しなさい」

 

と、ルーミア様が正邪さんの耳元で何かを伝える。

すると、正邪さんが青ざめてしまい、半ば仕方ないかという感じでため息をついた。

 

「じゃあ、私はついていくわ」

「え、正邪さんはいいの?」

「いいのよ?ね?正邪」

「ああ・・・・・・(あー、また叱られるんだろうなぁ・・・)」

 

と、正邪さんが若干落ち込んでいるが・・・まあ、気にしないほうがいいんだろう。

そう思いつつ、宴会の料理を食べる。

 

「ね、そういえばなんでブルガリアに行くの?」

「ん?・・・ブルガリアに僕の知り合いがいるんだよ。」

「知り合い?ブルガリアに?」

「うん、まあ・・・」

 

元々、一人旅の時はブルガリアに行く予定はなかった。

でも、紫ちゃんと旅するようになってからはブルガリアにいる僕の友人に、紫ちゃんを紹介したくなった。

だから、紫ちゃんを連れて行ってみることにしたのだ・・・

こうして考えると、僕は生きたいのか、このまま死にたいのかよくわからない。

でも、今だけでもいいから生きていたいと持っている。

 

・・・でも、もし死んだら・・・・・・紫ちゃんに会えなくなるのは、寂しいかな。

 

 




はい、終わり!疲れた!
あと、霊鵡は旧作霊夢のお母さんで魔梨紗は、紅魔郷からの魔理沙のお父さんの祖母。
だから実際、この世界の霊夢と魔理沙は従姉妹のような関係である。
二人とも、そのことを何となく気付いている。

あ、霊鵡さんと、魔梨紗さんのプロフィール出します。

博麗霊鵡(はくれいれいむ)
年齢:12歳
性別:女
性格:男勝りで努力の人(いわゆる魔理沙)
口癖:だぜ
程度の能力:森羅万象から浮く程度の能力

旧作霊夢のお母さん的存在。
たぶん、博麗の巫女の強さの中では旧作霊夢を抜く強さ。
それゆえに程度の能力も異常なほどチート。

霧雨魔梨紗(きりさめまりさ)
年齢:10歳
性別:男の娘
性格:若干ツンデレのようで冷めている、才能の塊(いわゆる霊夢)
口癖:お金がない(無駄遣いするから霊鵡が管理している)
程度の能力:虹の魔法を操る程度の能力、魔力を司る程度の能力

霊鵡さんのお嫁さん(お婿さんと読む)。
才能の塊で、努力しなくても果てしなく強い。
程度の能力は、もはや神の能力である。
ただし、面倒くさがりで寝ることが大好き。
お小遣いが出ないため、妖怪退治に霊鵡さんが行ったときはイナゴを食って我慢してる。
料理は普通にできる。

ちなみに、霊鵡は人間ですが、魔梨紗は生まれつきの魔法使いです。


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第十四話 霧立ち昇る都会

夏の終わりまで、18日。

ワープすると・・・
お約束があるのは知っているかな?


霊鵡さんが魔梨紗さんに引きずられて帰った昨日から、私はブルガリアという国に興味が津々だった。

この国ではない、別の国。そこには、どんな妖怪がいるのか、どんなところなのかという妄想をどうしてもしてしまう。

もし、その国で新しい人と出会えたらどんな人なんだろうということも考えてしまう。

 

「さてと、紫ちゃん。お願い」

「はい!師匠!」

 

師匠にお願いされて、師匠が言った大体のところにスキマを開く。

そのスキマに、師匠とルーミア様が入っていったのを確認して、私も入っていった。

 

 

 

スキマから出た場所は、霧が立ち昇る日本とは少し違う雰囲気の国。

少し古めの時計塔や、石畳の街道がものすごく不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「っ!?」「!?」

「?」

 

いきなり、師匠とルーミア様が構える。

そして、私を守るように構えて、あたりを警戒し始める。

まさか・・・敵?

 

カツン・・・カツン・・・カツン・・・カツン・・・

 

人の気配のしない、霧の中。

そんな音が聞こえてくる。足音のようで、聞いたことのない音。

師匠とルーミア様が、それぞれの武器・・・師匠は、雨簾をかまえて、ルーミア様は、暗闇で剣を作り出していた。

私も、その足音を聞いていつでも、弾幕を張れるように妖力を高める。

 

Des agneaux dans le brouillard.(霧の中にいる子羊達よ。)

「くっ!時雨流・・・雷帝っ!」

 

師匠が、雷光並みの速度で抜刀する。

あれは、時雨流の居合抜刀術で師匠の手にかかれば、鋼すら切ってしまうのだが・・・

その、刀は霧を少し斬るだけで、近づいてきているであろう敵には効果がなかった。

でも、私は近づかせないために、二人に当たらないように弾幕を放つ。

できるだけ濃く、そして近寄らせないように複雑に。

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

Dansons avec moi, une danse de la mort(私と、一緒に死の踊りを踊りましょう)

 

 

 

 

 

 

 

 

”それ”は、私の目の前で、嗤っていた。

 

 

 

直感的に殺気を感じ、隙間を開いてレーザーを放つ。

放ったレーザーはひらりとかわされてしまうが、師匠たちにそれで気づいてもらえたようだ。師匠とルーミア様は、即座に迫撃し、師匠は刀を、ルーミア様は暗闇の剣をお互いがお互いの邪魔にならないように振り始めた。

でも、その攻撃も”それ”は、軽々とかわしてどこからか大量のナイフを取り出した。

 

Poupée de meurtre(殺人ドール)

 

”それ”が、自身の周りにナイフをぐるっと大量に投げると、いつの間にかかなりのナイフが方向転換し、飛んでくる。

師匠とルーミア様は、自信を狙っているナイフだけを武器で叩き落して、私はスキマを開いてナイフをスキマの中に入れた。

師匠とルーミア様が、攻撃しようと近づくが・・・”それ”は、近づけさせないようにするためかナイフを大量に投げつけてくる。

地面に落ちたと思ったら、消えていて、地面に刺さっていたかと思ったのに次の瞬間には目の前にあるナイフに師匠とルーミア様は混乱しつつ、冷静に的確にナイフを落としてゆく。

師匠とルーミア様が私のことを守ってくださる間に私は、”それ”をよく観察する。いまは、師匠とルーミア様に頼りきりだけど、いつかは私一人で、戦闘と観察をこなして見せる。

 

”それ”が投げる癖は、まず右手をスナップをかけて6本を投げる。そして、そのすぐ後に左手はスナップをかけずに同じく6本を投げてくる。そして気づいた瞬間には、合計12本が、60本に増えておりどういう手品なのかはわからない。

でも、分かることはいきなり12本が60本になることは、”普通”ではありえない。そう、普通ならだ。あり得るとしたら・・・そういう妖怪なのか、もしくは”程度の能力”なのか・・・

 

「・・・あれ?」

 

周りの建物や明かりをともしている鉄の物体をよく見ると、高いところに刺さっているナイフは回収されずに突き刺さっている。(まず鉄に刺さっているのがおかしいんだけど・・・)

でも、地面に刺さったものや”それ”の身長的にジャンプすれば取れそうなところにはナイフが刺さった跡が、しっかりと残っている。

・・・まさか。

師匠とルーミア様の前にスキマを開き、”それ”が届かないところにそれにつながるスキマを開く。

投げられたナイフが、師匠たちの前のスキマに入ってゆき、高いところで開かれている隙間から吐き出される。

建物の高いところに突き刺さったナイフは、いつまでたっても消えずにずっとそこで突き刺さっている。

”それ”も気づいたのか、ナイフの投げるのを一度やめた、私は多分ずっと開いていたらだめと思いいったん閉じ・・・

酔うと思ったけど、私の目の前で急いでナイフ一つが通るぐらいのスキマを開く、するとそのスキマにナイフが飛び込んでゆき建物の壁に突き刺さった。

 

Tu es un obstacle.(貴女は邪魔ね。)

「なんていっているか、わからないけど・・・とてつもなく嫌な予感がするわね・・・」

Alors, je vais d'abord te tuer.(だから、真っ先に殺してあげる。)

 

途端、大量のナイフが目の前に現れる。

 

「紫ちゃん!」「紫ちゃんっ・・・」

 

師匠と、ルーミア様がそれぞれ私の名前を呼ぶ。

でも・・・師匠、ルーミア様・・・私だって

 

「成長するんですよ!」

 

目の前に小さなスキマをナイフが飛んでくる順番に開いて、ナイフが入った瞬間に閉じて開きっぱなしのスキマを操って吐き出す、そしてすぐに別の小さなスキマを開いてナイフを同じようにする。

それが、超高速で行われるため私はすぐにめまいに襲われる。でも、めまいがなんだ・・・今まで、辛いことなんていっぱいあった。だからめまいごときで!

 

Qu'est-ce qui ... Putain ça?!(くっ、これならどう?!)

 

”それ”は、目の前だけでなく私を囲うようにナイフを投げ始める。

でもそれも、さっきと同じようにしてどんどんとナイフを高いところの壁に突き刺さらせる。

あと・・・何本だ。”それ”が投げるナイフの弾切れを何度も願うように隙間を開く

 

「紫ちゃん・・・負けるな!」

 

「師匠・・・はいっ!!」

 

師匠の掛け声で、私は奮い立つ。

そうだ・・・大好きな師匠の前なんだ・・・かっこ悪いとこ見せられないや!

そう思い、堂々と立って感覚を研ぎ澄ます。

すると、全部がスローになり、ナイフがどこから飛んでくるのかよくわかるようになり始めた。

そのおかげで、さっきの方法では、取りこぼしがあったものの・・・(私に突き刺さることはなかったものの)

それが起きてからは、取りこぼしが極端になくなり始めた。

 

Telle ... ... impossible!(そんな・・・ありえない!) Suis-je vaincu ...?(私が・・・負けるの?)

「これが、私の・・・全力だああぁぁぁっ!!」

 

最後のナイフが吸い込まれた後に、折りたたんだ傘で、”それ”に殴りかかる。

”それ”は、驚きで反応が遅れてしまい、私に大きな隙を見せる。

 

Merde!(くそ!)

「時雨流・・・奥義『水天竜(すいてんりゅう)』!!」

「グアッ・・・Jusqu'ici ...?(ここまで・・・か。) Moi aussi ... il n'y a pas eu de chance ...(私も・・・運がなかった・・・な)

 

そういって、”それ”は倒れた。その直後、私も膝から崩れ落ちる。

流石に、私も脳を酷使しすぎたようで、疲れがどっときて・・・一時的に、頭が働かなくなり始めた。

 

「紫ちゃん!」

「あ・・・ししょぉ・・・・・・わたし・・・がんばりましたよぉ?・・・・・・だから・・・ほめて・・・・・・ほめてくだしゃい・・・」

「うん・・・うんっ!よく、よく頑張ったね。紫ちゃん・・・」

「はいぃ・・・ししょぉ・・・」

 

ああ・・・ししょぉ・・・あったかい・・・なぁ・・・

 

 

side ru-mia

 

目の前で、時雨君が紫ちゃんを抱きしめてすごく甘やかしながら褒めている。

こうしてみれば、もうカップルのようだが、この二人は付き合っていない。大切なことだからもう一度言うと”この二人はまだ付き合っていない”。

紫ちゃんは、幼い子供の用に幼い言葉で、時雨君に甘え。時雨君は、嬉しいようで悲しいような感じで大切に褒めている。

 

(この二人・・・さっさと付き合っちゃえばいいのに・・・さてと)

Êtes-vous toujours en vie?(まだ生きているかしら?)

Ouais, ça fait si mal(ええ、ものすごく痛いけど)

 

驚いた・・・紫ちゃんの”未完成”の水天竜・・・。私は見たことないけれども、それでも未完成とも見えるそれでも、並の人間では死んでしまい威力だ。

妖怪としての身体能力と、未完成といえども”ほぼ完ぺき”なフォームでその威力を発揮させたのだ。

だから、並の人間では真っ二つか、木っ端微塵だろう・・・しかしこの”人間”は耐え抜きこうして倒れているだけで、すんでいる。肋骨さえ折れていないのが本当に不思議である。

 

Es-tu un vrai humain?(貴女って、本当に人間?)

Mais il est Ouais ... Jack Ripper.(ええ、ジャック・ザ・リッパ—だけどね。)

 

なるほど・・・そういうことね。

通りで、彼女があの一撃を耐えられたわけだ。

私は、これでも超古代の妖怪・・・この世界のあちこちに私の眷属が何体もいる。

そして、このイギリス・・・ロンドンにいる眷属が教えてくれたことだが。妖怪を軽々と殺すとある”女ハンター”がいるらしい、このイギリスにいる妖怪の大半が女性に化けているために・・・いつの間にか処女の女性を殺す殺人鬼として言い伝えられ始めたが・・・その眷属の調査によると、彼女はまだ人間らしい。

 

Mystérieux.(不思議。) Dans cette mesure, bien que la rumeur(そこまで噂されているのに) Je ne peux pas nier que cela se transformera en youkai(妖怪に変わらないなんて)

Youkai?(妖怪?) Oh, le nom de monstre en Extrême-Orient ...(ああ、極東のモンスターの名前か・・・)

 

この子、妖怪のこっちでの呼ばれ方も知っている。

と、言うことは・・・この子は、その手の組織の手下ということだ。だから、妖怪のこっちでの呼ばれ方もこっち側での妖怪の呼ばれ方も知っていた。

ということは、今回のことは偶然じゃない?いや、そうだとしたら彼女一人ということがおかしい・・・私たちを完全に潰すとするとならば、この倍の人数を動員させるはずだ。

もしかして・・・

 

 

 

やっぱり、監視員が数名。

でも、監視特化の能力者みたいね・・・まるで、その組織の戦力はこの子しかいないということになる。

いや、おそらくこの子は捨て駒ね。これだけ強かったのに捨て駒なんて・・・ひどいわね。

 

「面倒ね・・・・・・常世『現世喰らい』」

 

私は、私の程度の能力を全力で発動させ、監視員だけを暗闇で喰らいつくした。

ひさびさの人の肉・・・少し、まずいわね。

 

Crépuscule · · ·(宵闇・・・)

Uhufu, avez-vous peur?(うふふ、怖いかしら?)

 

私の本質は・・・闇。

だけど、人の心の闇は操れないだけ・・・

 

 

 

うふふ・・・

 

 

 




4578文字・・・初めて行った・・・
疲れた・・・イギリス語じゃなくて、フランス語だけど許してください。
というより・・・あと18話。あと18話ですよ!

・・・なんだか、長いようで短そう・・・


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第≪幕間≫話 これは、あり得たかもしれない別の幻想物語のルート。

いまだ17日目のネタが浮かばないので、幕間としてすこし休みをいただきました。
てへぺろ。

あ、ちなみに、壮大なネタバレが隠れています。
ネタバレが嫌なら、読まないこと。作者との約束。

いいね!本編のネタバレが嫌だったら絶対に読まないこと!
フリじゃないよ!ガチだよ!読んで後悔しても、僕は責任取らないからね!!










最後の警告だよ!
本当に読むの?笑えるほど壮大なネタバレだよ?












あ、読むのね。了解。
僕は、責任取らないからね?自己責任でお願いします。



 

 

――――数千年前

 

 

「はぁ、はぁ・・・っ!」

 

「畜生!どこに隠れやがった!」

「あのガキ、見付けたらただじゃ置かねぇ!お頭の一物を蹴りやがって、あのクソガキが!」

 

どうして、私だけがこんなことになっているのであろう。

私は、確かにたった一人のスキマ妖怪としてこの世に生まれた。いや、生まれてしまった。

能力は、生まれつき大妖怪以上、私の能力である境界を操る程度の能力も使い方次第ではとても汎用性が効くとてつもない代物だ。

だけど、この二つのせいで、今、とてつもない危険にさらされている。

とある妖怪のごろつきどもに集団で襲われ、挙句の果てそのリーダーに犯されそうになったのだ。

途端に股間のそれを蹴り上げすきを見て逃げ出してきたけど、こうして追手がすぐそばまで来ている。

 

「はぁ、はぁ・・・逃げないと・・・初めては、好きな人がいいし・・・・」

 

これでも、300年を生きた私、まだ生娘なことを言っているが妖怪にとって300年とは人間でいう13歳的な扱いなのでセーフだろう。

だから、私の初めても渡すつもりもなければつかまってやる通りもない、そう思いつつ木の陰にうまいこと隠れつつその場から離れる。

そして、何とか森を抜けるとそこには一人の女性が焚火をしていた。

その女性を見た途端に、私は気を緩めてしまい。女性の目の前で倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・うぅっ・・・」

 

私が目を覚ますと、私に毛布が掛けられており、近くでは女性が木に寄りかかって眠りについていた。

体を起こして周りを見渡すと、私を追っていたぬらりひょんの男とその手下が軒並みボコボコにされて地面に捨てられていた。

多分、あの女性が倒したのだろうか?

 

「目が覚めたか?」

 

と、その女性が”起きていたか”のように目を開ける。

その女性をよく見ると、赤を基調とした白が所々目立つ巫女服でなぜか、脇が丸見えのデザインだった。

でも、その服の下から見える腕は引き締まっており、ぴっちりとしていた。

 

「は、はい」

「びっくりしたぜ?いきなり草むらから飛び出たと思ったら目の前で倒れて」

「うぅ・・・すみません」

「いや、いいんだぜ。気にすんな、それよりなんか食うか?」

「いえ・・・さすがにこれ以上ご迷惑は≪きゅるるるぅぅぅぅ~~≫・・・\\\」

「ぷっ・・・待ってろ、今用意してやる。」

 

それが、私の師匠”博麗霊鵡”との出会いだった。

それからというもの、私は、師匠についてゆき様々なことを教えてもらった。

博麗家に伝わる結界術や独自の戦闘術。私の種族のことや、その他の妖怪のことも事細かに教えてくれたりもして私は、とても勉強になった。

それに、師匠の仕事が終わった後も同行して、正邪さんとルーミア様ともであったし、諏訪の国で私の運命の妖怪も見つけた。

それもこれも、師匠のおかげらしい。師匠は、森羅万象から浮く程度の能力のほかに、他者に幸福を与える体質を持っているらしく、師匠と一緒にいると私にもいいことだらけだった。

私は・・・恋人である”玉藻祐樹(たまもゆうき)”と諏訪の国で、一緒に暮らすことになり。諏訪子様にも歓迎されて完全に諏訪の国になじめた。

 

それから、数年間の間に様々なことが起きた。

私は祐樹と結婚し、師匠は魔梨紗さんという男性と付き合い始めた。

残念ながら諏訪子様の旦那さんである”洩矢海斗(もりやかいと)”さんは、つい2,3か月前に亡くなってしまったけど。

諏訪子様の長男である時雨さんが、洩矢神社の後継ぎとなった。

時雨さんは、諏訪子様の力を多く受け継いでおり、なんとあのミシャクジ様も制御可能なのだという。

半人半神と聞かされた時は、驚いたけど、時雨さんに妹がいる方がもっとびっくりした。

まあ、そんなこともあって、諏訪の国は平和が続いている。

まあ、そのほかに新しいことといえば、私が妊娠しているぐらいかしらね。

 

更に時は流れて、2012年。

 

「ねえねえ、紫様紫様?」

「はいはい、貴女のご先祖様の紫様はここにいますよ?」

「どうして、紫様は祐樹様とであったの?」

「んー、そうね。多分、運命かしらね。」

「そーなのかー」

「そーなのだー」

 

と、ルーミア様の娘であるルーミナちゃんがそういう。

可愛い。と、軒先からどたどたと急いで走る足音二つが聞こえ、襖がパーンと開かれた。

 

「こぉらっ!紫ぃっ!!あんたまた、私らの秘蔵の饅頭食ったな!」

「そうだぜ!あれは、あたしらが楽しみにしていた香霖堂季節限定こしあんたっぷりもちふわ饅頭だったんだぜ!どうして食っちまったんだ!」

「?どうしたも何も、諏訪子が持ってきたからよ?」

「「あんのロリガエルが!」」

 

と、霊夢と魔理沙がどたどたと走り去って諏訪子(今日になるまでの間にいつの間にか様付けしなくなった)の部屋へと走っていった。

そして、その直後にスペルカードが発動する音と、諏訪子の悲鳴が聞こえてきた。私は諏訪子に出されただけだから問題ない。

 

「はぁ・・・また、お母さん。諏訪子様のせいにしたでしょ」

 

と、私にジト目で行ってくるのは私と祐樹の娘である”八雲藍”だ。

髪の毛の色と、体つきは私に似たのかナイスバディ―で、顔だけ見ればイケメンで性格も祐樹に似ている。

 

「あら、出されたのは本当よ?目の前に置かれただけだし」

「それって、諏訪子様が食べようとしたのをさらに盗っただけじゃん」

「私は、目の前に出されたら食べ物なら食べるわよ?」

「ラベルに霊夢と魔理沙のサインがあったはずだけど?」

「ああ、そういえばあったわね。可愛らしい文字で」

「はぁ・・・」

 

まあ、最近は反抗期なのかこんな感じなのだが・・・

可愛いのは可愛い。というか、顔はイケメンなのに女の子なのは何かもったいないような。

別にいいか、たいしたことないし

 

「また変なこと考えてない、紫さん。」

「あら時雨君、何も考えてないわよ。」

 

ついさっき、神無月の宴会から帰ってきた時雨君が炬燵の中に入りながらそういう。

ああ、炬燵って最高・・・冬でもぬくぬくとしていられるし・・・

あ、でも最近知って驚いたのは正邪さんが龍神の右腕だけじゃなくて、地獄の女神の副官とか展開の女神の副官とか、いろいろしていることかな。

そう思いつつ、炬燵の上にあるミカンをむいて、一かけらほおばる。

うん、青森のミカンおいしい。

 

「お母さん、だらしないよ?」

「いいのよ。別に今は参謀としての私じゃないんだから」

「はぁ・・・これだからこの人は・・・」

 

まあ、こんな感じに騒がしいけど・・・面白い毎日を過ごしている。

この日本・・・いや、諏訪の国は世界一平和である。

 




はい、紫が時雨と出会わず偶然依頼の帰りだった霊鵡と出会い。
諏訪子の参謀として日本を天下統一しちゃうお話でした。
ちなみにネタバレはすごく転がっている。うん、いっぱいあるねー。

と、言うわけで警告したのに見て後悔した人。

人の言うことはちゃんと聞くこと。OK?


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第十五話 ロンドンからブルガリアへの旅

夏の終わりまで、17日。

調子がいいので2話投稿。
別に気分だからね?(´・ω・`)


あの後、咲夜さん(これが、あの人の本名らしい。なんか妙に日本人っぽいね)の話によると、咲夜さんがいた退魔の組織の占い師が私たちがここに来ることを占ったらしく。

”境界を操る程度の能力”を持つ私を殺して、能力を奪うつもりだったらしい(なんでも、組織の一人に”殺した相手の野力を奪う程度の能力”を持つ人間がいるらしい)でも、占いでも映らなかったルーミア様のおかげで難を逃れたというわけである。

流石ルーミア様、運命を捻じ曲げるなんてすごすぎる。

 

「あらあら、偶然よ?紫ちゃん」

「それでもです。」

 

と、胸を張って自慢げに言う。

私は、あの状態から何とか回復して、今の状態であるが・・・正直に言うと恥ずかしくて死にそう。

いくら、脳を酷使し続けて回復の為に幼児退行したとはいえ、師匠にあんな甘えて、かっこいい所見せたのに台無しにして、うぅ・・・

まあ、でも・・・師匠に撫でられた時にポカポカしたから・・・まぁ・・・いいかな///

胸を張って自慢げにしていると、ルーミア様がかわいいわね。といって、私の頭を優しくなでてくれた、そのも撫で方も心地よく、まるでお母さんに撫でられているようだった。

でも、ルーミア様は私のお母さんじゃない、似ているのは金髪ということだけだろう。

 

Qu'est-ce qu'on me montre?(私は、何を見せられているの?)

Oh mon Dieu. Parce que cet enfant mignon est tellement(あら、いいじゃない。この子可愛んだから)

 

咲夜さんが、フランス語?で話しかけてくるとルーミア様もフランス語?で返答していた。

私には何を言っているのかわからないけど、とりあえず咲夜さんの表情から呆れている感情が読み取れる。

と、言うより師匠は何をしているんだろう。そう思い、あたりを見渡すと師匠は文字が大量に書かれた紙を拾い上げた。

 

「ねえ、ルーミアさん。これ、読める?」

「ん?どれどれ?」

 

Le plus puissant chasseur de vampire est vaincu.(最強のバンパイアハンター敗れる。)

Situé dans le sud de la Bulgarie(ブルガリア南部にある)Vampires vivant dans un manoir rouge(紅い屋敷に住む吸血鬼達を)Je suis allé pour la défaite,(倒しに行った、)

John Johnny Cloud (homme de 23 ans)(ジョン・ジョニークラウド(23歳 男性))Cependant, il a été découvert sous une forme misérable(が、無残な姿で発見された)

En réponse à cela, la Vampire Assault Society(これを受け、吸血鬼討伐協会は)Nous avons appelé tous les chasseurs de vampires en Europe(ヨーロッパの全吸血鬼ハンターに招集をかけ)

Nous avons annoncé l'élimination urgente(早急に排除することを表明した)。・・・そう書かれているわね。」

「なるほど、ありがとうございます。やることが決まりました、さっそく出発しましょう。」

「ええ。目的地はブルガリア南部の紅い屋敷?」

「はい。」

「師匠!早速行きましょう!」

Oh, attends, prends moi aussi.(あ、待って、私も連れてって。)

 

こうして、私たちはブルガリア南部にある紅い屋敷へと向かうのであった。

咲夜さんが、「船着き場まで案内するわ」とフランス語でいったので、咲夜さんについていくことになった。

咲夜さんが言うに、このロンドンは、数年前から霧に包まれており霧が濃いせいで目の前もろくに見えないらしい。

この霧の原因は、謎らしくこのロンドンにある退魔組織は片っ端から妖怪・・・ヨーロッパでいうモンスターを殺していたらしい。

そんな中、咲夜さんは妖怪を全滅させることの意義を共感できずに、上官に刃向かったことがだめだったらしく、組織から今回私を瀕死で連れ帰られなければ死刑の予定だったらしい。

でも、ルーミア様というイレギュラーが一緒にいたおかげなのか、私は死なず。そして、咲夜さんも死なずに済んだのである。

すると、私とルーミア様のおなかが鳴ってしまい、咲夜さんがふっと笑い近くのお店に入っていった。

しばらくして、咲夜さんが出てきて「フィッシュアンドチップスよ。あの店のはおいしいはずだから食べてみて?」と言われて、食べてみる。

でも、脂っこくて変な味がするので、直接そういうと。咲夜さんは「Eh bien, j'ai encore fait une étrange amélioration en mon absence ...」と苛立ちながら言っていた。

船着き場につくと、咲夜さんが船頭の人と何か話し合っており、しばらくして咲夜さんが金のお金のようなものを渡すと、船頭さんは船に乗るようにジェスチャーしてくれた。

私たちは、おとなしく座り船が出港するのを待った。

 

 

 

数時間後・・・

 

 

ようやくロンドンから出て、フランスにたどり着いたようだ。

咲夜さんが、船頭さんにお礼を言ったら、船頭さんはにこやかに笑い私に不思議な袋をくれた。

咲夜さんが言うに、これはキャンディーというヨーロッパのお菓子らしい。そして、船頭さんは手を振りながらまたロンドンへと帰っていった。

すると、ぴりっとした感覚が肌で感じられあたりを警戒する。

 

「しーぐーれー!!!」

「おうふっ!!」

 

・・・なんだ、また師匠(クソ天然ジゴロ)の関係者か、心配して損した。

って、この幼女。なんだか私たちの言葉を話していたかのような?

 

「む?なんじゃこ奴ら。おぬしの友か?」

「いてて・・・ソウダヨ。」

「うむ!そうか!自己紹介するぞ!わしは、アイリス・スカーレット!スカーレット家13代目当主であり、かの吸血鬼の王”ヴラド・ツェッペリン”の幼馴染で、時雨の婚約【ゾッ】!?」

 

婚約者?こんな私より小さい、ガキが?調子に乗るな、〇すぞ。

良くも私の目の前で、そんなことがいけしゃぁしゃぁと言えるな?たかが、250年生きたガキが調子乗ってんじゃねぇ。

師匠にふさわしいのはこの私だ。

 

「と、言うのは冗談で。」

 

あ、冗談だったんですね?

もー、変な冗談はやめてくださいよ~危うく、ブラックホールにつないである隙間を開きかけたじゃないですか~

 

「時雨とは、150年前に宴会で飲み交わした程度の仲じゃ。それに、わしには彼氏がいるからこんな優男には興味なんぞないわい。」

「やっ、優男・・・」

「むっ、師匠は優男じゃないですよ」

「紫ちゃんっ」

「師匠は、クソ天然ジゴロなだけです!」

「む、確かにそうじゃな」

「フォローになってないどころか、とどめさしてどうするのよ紫ちゃん・・・時雨君が真っ白に燃え尽きたじゃない」

「「てへぺろ☆」」

「かわいいから許す。」

「・・・・・・C'est quoi(なんだこれ。)

 




少し短めながら今回はここまで、日にちの感覚がおかしい?
これも全部、カオスセイバー斎藤が悪いんだ。

説明しようカオスセイバー斎藤とは
作者が集中しているときに限って窓の外でカオスセイバーと呼んでいるおもちゃの刀を振り回している痛い高校生のことである。



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第十六話 闇より深く、恐ろしき者

夏の終わりまで、16日

おのれ、カオスセイバー斎藤め。
無害と思ったら、追いかけてきやがって。
あいつ、いつか、ぶっ飛ばす



「それでの、時雨。頼み事なんじゃが・・・」

「ん?アイリス?何?」

「何か、食べ物恵んでくれ」『きゅるるるぅぅぅぅ~~』

「えぇ・・・」

 

目の前の小さな女の子が、可愛いおなかの音を鳴らして顔を赤くさせる。

私は、不覚にもそれをかわいいと思ってしまい秘密のスキマから、握りたてのおにぎりを取り出す。

なぜ握りたてなのかというと、スキマの内部には状態保存能力がかかっており、温かいままで入れれば取り出すときも握りたてで温かいおにぎりが出てくるのだ。

しかも、温かいものと冷たいものを同時に入れてもスキマ内で不思議な力が働いており、互いに干渉しないのである。

 

「はい!これ!」

「おっ!おにぎりか!ひさしぃのぉ、時雨に作ってもらった時以来じゃ!」

 

それを、アイリスさんは受け取り一口食べると、うまいのぉと可愛らしい笑みでいっていた。

うん、かわいい。しかも、目を離したすきにいつの間にか食べ終わってるし・・・

 

「うむ、ありがとうな!紫!」

「あれ?私名乗りましたっけ?」

「む?ああ、そうか。何心配するな、わしが一方的に知っているだけだからの。」

 

一方的に知っている?どういうことなんだろう?

吸血鬼ということだから、何かの程度の能力だろうけど・・・どんな能力なんだろう。

私がそう考えていると、ルーミア様が頭をかしげていた。

 

「うーん、あなた。どこかで見たことあるような?」

「む?・・・まさか、宵闇か?ほらわしじゃよ。わし。」

「・・・あぁ、なんだ神祖か。久しぶりね・・・ずいぶん小さくなったわね。

「わはは、まあの。」

 

どうやら、この二人は知り合いだったらしい・・・

でもまあ、気にすることでもないか。

 

「ほら、なにをボーとしておるのじゃ、行くぞ!」

「え、あっちょっ」

「アイリス!待って」

「あはは!」

 

私は、アイリスさんに手を引かれて名も知らない港町を走った。

後ろからは、ルーミア様と一言もしゃべらなかった咲夜さん、師匠が追いかけてきており。

ルーミア様は、にこやかな笑みを浮かべて、師匠もいたずらっ子を相手にするかのように笑っている。

私は、やっぱり師匠が死ぬなんて・・・どうしても。思えないのであった。

 

 

side airisu

 

わしは、アイリス。

まあ、宵闇”ルーミア・ブラックムーン”の元相棒的存在じゃった。

しかし、今のわしは力を”9割”亡くした弱い吸血鬼。”神祖”とは呼ばれているものの、かつての能力はすでに残っていない。

・・・じゃが、今持っている全盛期の搾りかすの能力でも、今手を引いては知っておる子の運命は誠に面白いもである。

だから、わしは、こやつを気に入ったのである。

 

「アイリスさん?!ど、どこに行くんですか!?」

「なはは、なに私の住む屋敷じゃよ!」

 

紫が聞いてくるのでそう答える。

わしの名前は、たぶんルーミアが言ってたから覚えたのであろう。

まあ、いいじゃろう。むしろ、名前は覚えさせようとしたもんな。

それにしても、この紫という妖怪・・・面白い運命と性質じゃの。

 

(性質的には、光。じゃが、それは運命の進み方によっては闇にも。常闇にも匹敵するほどの悪意・・・ふふ。なんとも面白のぉ)

 

わしの程度の能力・・・かつては、”運命を自由に操る程度の能力”と”他者の性質を見抜く程度の能力”と呼ばれているそれらでわかるのは、紫がこの世界の行く末を握っている。

そういっても過言ではないほど、複雑で単純。光であり闇である矛盾の運命と性質を兼ねそろえている。本当におかしいの。

光に行けば、人類救済。闇に行けば、世界消滅。まるで、天秤のようじゃの。今は均衡しておるが・・・

そうか・・・16日後・・・そこがこの娘の【ポイント・オブ・ノー・リターン】か。

ふふ、まさか・・・世界の運命がこの娘の恋次第とは、なんとも笑える。

む?

 

「そこにいるのは誰じゃ?」

「え?」

 

わしがそう声をかけると、目の前の路地から不気味なほど真っ黒いオーラが流れ出す。

そのオーラを感じ取ったのか、紫が小さな悲鳴を上げて尻もちをつく、わしは自身の能力で、別次元にあるわしの武器”原初の魔剣 リインカーネーション(輪廻転生)”を取り出す。

この剣は、わしの全盛期の力をほとんど吸い尽くした元凶でもあるが、逆に全盛期の力を払って手に入れられた今を生きるために必要な剣である。

まあ、剣としても伝説の鉱物”アダマンタイン”を紙のように切れる程度なのじゃな。

 

「貴様、何者じゃ?」

「ml;m,ed;ls;lkw@pk2l;,;,:sd;l.,:;jknkdsnf」

「ちっ、言葉は通じぬか。」

「asnfajkenowijfkalalslknfkankjsnduieahbuw」

「一体・・・こやつは何なのじゃ?紫?・・・紫!?」

「いやだいやだいやだいやだ。こないでこないでこないでこないでこないで!あ、あああぁぁああぁぁあぁああぁぁぁぁああぁぁぁっ!!」

「紫!気をしっかりと持て!くっ、一体何なのじゃ!?」

 

わしは、リインカーネーションを構えつつその真っ黒の不定期型の生き物を睨みつける。

この不定期の化け物には、運命もなければ性質も全く感じられない。

恐ろしいのは、それが人の形・・・しかも、どこか時雨を感じられる面持ちをしておるのだ。

 

「なんとも腹立たしい・・・なっ!?」

 

気付いた時には、周りの風景はこの町はこの町でも別の風格になっていた。

まさか、次元を操るとでもいうのか。なんとも厄介な。

 

「こ・・・ろ・・・・・・・」

「む?」

「ころ・・・す。ころ・・・す。」

「ころ・・・す?・・・殺す?」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!ぎゃはははははっ!常闇様のために!お前らを殺す!あはははははっ!!」

「しゃべったじゃと」

 

これは、一体。

いや、考えている暇はない・・・こやつは、確実にわしと震えている紫を殺そうと、確かな殺意を振りまいている。

おかげで、紫は小さく震えている。ししかも、さっきよりも発狂してしまっている。

まさかこやつ、外なる神の末端か?いや、いくら外なる神の末端と言え、それはおかしい。

紫が、外なる神が定めたルールに触ったことなど、”搾りかす”で見た過去でもない。

一体こやつらは・・・

そう考えていると、後ろでドサという音がしてみてみると紫が倒れていた。

気絶しただけのようじゃが・・・少しまずいの・・・

 

「あははははははっ!!!」

「くっ!?」

 

”その不定期なもの”・・・とりあえず、”闇のもの”とでも名付けようか。

闇のものは、わしに切りかかってきた、いつの間にか握っていた剣で。

さらに、触れたものを昇天させる能力を持つリインカーネーションの能力をもろともしていない。

この剣は・・・一体、なんなのだ。リインカーネーションは絶対。それを耐えた?しかも、いくら残り1割の力しかないとはいえ。

並みの吸血鬼のおおよそ5倍の能力を持つわしと、互角に鍔迫り合いをしている。

何たる化け物じゃ。

 

「ギギギ・・・ゴロズゴロズゴロ・・・ズ」

≪あらあら、まさかファントムがここまでくるなんて。≫

「っ!!何者じゃ!」

 

わしが蹴り飛ばした途端、闇のものは動きを止め、どこからともなく声が聞こえ始める。

その声はどこか聞き覚えがある声で、つい最近知った声だ。

すると、闇のものの背後が裂けその場から見覚えのある美女が現れる。

 

「あらあら、しかもこの時代・・・このファントム。一体、どういうつもりなのかしら・・・あら?」

「お前・・・その妖気」

「うふふふ・・・お久しぶりですね。”神祖 アイリス・ノスフェラトゥ・スカーレット嬢”」

 

次の瞬間には、わしはその女を殺した。

わしは、その名で呼ばれること好かん。呼ばれるだけで虫唾が走るのである。

元々、その名はわしのものではく、わしの敬愛する旦那様の名前であった・・・

しかし、その旦那様がしんだら、そのノスフェラトゥという名前がいつの間にかわしにつけられていた。

人の手によって・・・他者の想いによって、わしはノスフェラトゥという名前を強制的に名乗らされるのである。

本当に腹立たしい・・・

 

≪まあ、ひどいですわね。淑女とは思えない残虐性・・・流石はノスフェラトゥと名乗るほどですわね」

「貴様・・・わしを愚弄しているのか?その名は、わしの名ではない。その名で呼ぶのはやめろ!」

「確か、貴女の旦那様?の名前でしたわよね?・・・確か・・・・・・ああ、”クリス・ティア・ノスフェラトゥ”卿でしたっけ?」

「!?なぜ、その名を知っている!」

 

クリス・ティア・ノスフェラトゥ。

わしの一番大切な旦那様、わしを大切にしてくれて誰よりも優しかった吸血鬼。

過去に生きた、わしらと一緒に蓬莱人が地上にいたころで生きていたこあの時からの親友であり、恋人であり大切な人だった。

クリス・ティア・ノスフェラトゥは、残念ながら過去の人妖大戦で、妖怪の裏切りにあい死んでしまった。

その妖怪たちもすでに蓬莱人の手によって滅ぼされている。

 

「あら、私がその名を知っているわけは、私は過去にも未来にも干渉できるから。そう言ったら?」

「それは、外なる神のルールに反することじゃ!」

「うふふ?そうでしたっけ?外なる神・・・ああ、クトゥルフなら私が全滅させましたわよ?」

「な!?」

 

クトゥルフ・・・外なる神の呼び方である。

それを・・・殺した!?

 

「無論、この世界の・・・ではありませんが。私の世界のです。」

「どういう!?」

「まあ・・・貴方とはもう二度と会わないでしょうし・・・名乗らせていただきましょう」

 

「我が名は、常闇”XX X”。」

 

なっ・・・

 




はい、今回最大の敵役常闇”XX X”登場!
出現の仕方といい、やられた後といい本当に謎が多いキャラですね!(棒読み)
いやぁ、おそろしいですねぇ(棒)
一体どこの女の子なんだぁ(棒)

というわけで、アイリスとクリスのステータス紹介!


アイリス・スカーレット
年齢:不明
性別:女
性格:甘えん坊なのじゃロリ、しかし怒るとすごく怖い。
口調:じゃ、のだ
程度の能力:運命を自由に操る程度の能力、他者の性質を見抜く程度の能力

甘えん坊で、可愛いもの好き性格的には普通のロリと一緒で甘いもの大好き。
ただし、厳格で厳しいこともある。それは、身内とか知り合いの前だとない。
厳格なのは、他人や配下がいるときだけ。それ以外は可愛いロリである。
また、二つ名は”神祖”と呼ばれている。

クリス・ティア・ノスフェラトゥ
年齢:不明(故)
性別:男
性格:やさしさの塊で、大切なものに手を出すならすごく怒る。
口調:特になし
程度の能力:生き物と意思疎通ができる程度の能力、蜂を操る程度の能力

優しい男の吸血鬼。
元は、蓬莱人であったが、アイリスと出会いアイリスと結ばれるがために人であることをやめた元人間。アイリスとは両思いで、望んで人外になったタイプ。
能力的にはなんと、ルーミアまでも凌駕する力を持っている。
しかし、吸血鬼になった時に瀕死だったことからその命は長く続かなかった
(まあ吸血鬼しかも神祖のだから、長い間生きていたんだけどね)
某物語の主人公と被っているが、まったく違う。
ちなみにいうと、転生者である。


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第十七話 動き始める運命。

夏の終わりまで、15日

投稿遅れてすいません!
主な原因は、カオスセイバー斎藤のせいです!



「うっ・・・うぅ」

 

目を覚ますと、目の前に入るのは真っ赤な天井。

更には、アイリスさんが私のことを除いていた。

 

「あれ?わたし・・・」

「目が覚めたか・・・よかった。」

 

私は、体を起こそうとするもののアイリスさんがそれを止めて私を寝かしつけた。

アイリスさんが言うに、私は外なる神?系列の化け物を見たせいで私が感じている以上に疲労が溜まっているらしい。

でも、私はそんなに疲れていないのに・・・それに、そんなものも見た覚えはないのに。

私がそういうと、アイリスさんはそれでもじゃ。と言い、そっと布団みたいな物をかけてくれた。すると、この部屋の扉が開き、師匠がアイリスさんと入れ替えで入ってきた。

 

「あ、紫ちゃん。目が覚めたんだね」

「はい、師匠。ご心配させてごめんなさい」

「いや、大丈夫だよ。無事で何より」

「・・・///」

 

師匠に頭をなでられて少しだけ安心する。

私が見たあの黒い生き物は、師匠によく似ていていた。

でも、師匠とは違う明らかな殺意を持った化け物だった。

その殺意だけで、私は恐ろしく感じ気絶してしまった。

いや、むしろ・・・気絶してよかったのかもしれない。

しばらく師匠に撫でられると、途端に師匠が苦しそうな顔をして左胸のところを押さえつけ始めた。そこはちょうど・・・人型の妖怪や人間でいう心臓の部分だ。

 

「っ!!」

「師匠?」

「はは、大丈夫大丈夫。ぐっ」

 

師匠が、苦しそうに顔をゆがめる。

もしかして、師匠の契約期間が迫っている?

いや、むしろもう迫ってきているのであろう。多分、今の師匠の状態はタイムリミットの初期段階。残り二週間と一日だからなのか・・・・・・師匠が・・・死ぬ。

 

「・・・紫ちゃん、ごめん。」

「?何がですか?」

「気付いているんでしょ?僕が、もうすぐ死ぬってことぐらい」

「ええ・・・だいぶ前から知ってます。」

「そっか・・・・・・ごめんね。嘘ついて。」

 

鈍感なこの人でも、それは気付いたのか深々と謝っている。

それだけ、師匠にとって私に隠していたということが苦しかったということなのだろうか。それだけ、私が大切にされているのだろうか。

ドクン・・・

私の心臓の音が鼓動する。

もしや、今なのだろうか・・・いま、告白すべきなのだろうか。

いや・・・私は、告白を・・・

 

『する』

 

『しない』

 

side ru-mia

 

扉の先では、紫ちゃんと時雨君が見つめ合っている。

時雨君は、罪悪感で顔を暗くしているけど、紫ちゃんは顔が赤くなってゆく。

どうやら、紫ちゃんは告白しようかどうか迷っているようだ。

それを、私とアイリスは告白しろと念じながらヤキモキしてみていた。

 

「ねえ、アイリス。本当に、紫ちゃんは告白するんでしょうね?」

「ああ、わしの搾りかすでも告白する未来は見えた。しかも確実に。」

「でも?」

「時雨の答え次第で世界の運命が決まる。」

「受ければ、人類救済。振れば、人類滅亡?」

「ああ、確実にな。」

 

アイリスは、ヤキモキしながらもイラついていた。

アイリスも私も、正直世界がどうなろうがどうでもいいが・・・

紫ちゃんの恋の行方がどうしても気になるのだ。

あの子の初恋がどうなるのか、それがきになるのだ。

 

「しっ、師匠。」

 

どうやら、紫ちゃんは覚悟が決まったらしい。

紫ちゃんが、時雨君に声をかける。

 

「紫ちゃん・・・少しいいかな。」

 

それをなんと、時雨君が遮る。

ああもう!紫ちゃんの勇気を無駄にする気なの!?

流石に私も怒るんだけ

 

「僕は・・・君が好きだ」

 

「「えっ」」「ふぇ?」

 

え、時雨君が・・・告白した?

え、アイリス。こんなのあったの?

ちょっ、アイリス。目を逸らさないでよ。

どうなのよ?

 

「いっ、いや。なかったはずじゃ・・・って、苦しい苦しい。首元を閉めるな」

「どういうこと?紫ちゃんが告白するのが絶対なんじゃないの!?」

「そんなの、搾りかすなんじゃから仕方ないじゃろ」

「うっ、そうだった」

 

私たちが、小声で口論していると時雨君の告白が進む。

 

「僕はさ、君が、師匠とか弟子とかそういうのじゃなくてさ、君自身が好きなんだ。」

「えっ?」

「僕を師匠と慕ってくれる(八雲紫)や、笑顔で笑っている(八雲紫)、僕に甘えてくる(八雲紫)が・・・君自身が好きなんだよ。」

「し、師匠。わっ私はっ」

「あと15日しか、一緒にいられないけど・・・一緒に・・・生きてくれるかい?」

 

時雨君の勇気の言葉。

その言葉は、闇など一つも感じない真っ白で純粋なものだ。

だから、時雨君は真っ白な気持ちでいまは紫ちゃんを見ている。

すると、紫ちゃんが涙をぽろぽろと出し始めた。

 

「ひっぐ・・・ふえぇぇ・・・」

「ゆっ、紫ちゃん!?いっ、嫌だった?」

「いっいえ・・・うれしくてっ・・・ひぐっ」

「紫ちゃん・・・じゃぁ・・・」

「はいっ・・・不束者ですが、よろしくおねがいします!」

 

紫ちゃんが返事を返すと、自然と二人の顔の距離がだんだんと近づいた。

私たちはそこで、離れた。さすがにそれを見ると私たちが恥ずかしくて死ぬので離れる。

アイリスは確信した表情。私は、少しほおを緩ませている。

 

「ねえ、アイリス。」

「なんじゃ?」

「運命はどう?」

「ふっ、安心せい。確定した。搾りかすでもわかるほど鮮明にな」

「それは世界の運命でしょ?あの二人の運命は」

「うむ・・・ふ、それも確定しておる。」

「そう、貴女が言うなら間違いないわね。」

 

なら、私も安心だ。

世界がどうなろうとも私たちにはどうでもいい。

あの子、八雲紫はこれで闇に落ちるということはなくなった。

しかし、アイリスを襲った”常闇”が妨害するかもしれないし、もしかしたら・・・

いや、そのもしかしたらはあり得ないと、思いたい。

 

 

この時の私は、そのもしかしてを甘く見ていたことを公開することをまだ知らなかった

 

 

 

 

 

 




はい、とりあえず駆け足的〆方。
なんだか、変な終わらせ方かもしれませんが許してください。
カオスセイバー斎藤を好きにしていいですから。


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第十八話 紫の恋路は、棘の道

夏の終わりまで、14日

ようやく、ネタが・・・思いついた。orz




昨日、師匠が私に告白してからというもの。

私はドキドキのしっぱなしだった。朝起きてもドキドキ、朝ご飯を食べててもドキドキ。

私は、その思いが今にもはじけ出てしまいそうで、恥ずかしさでいっぱいだった。

 

「えへへ~、ししょー」

「ん?何か用?」

「呼んでみただけですよー」

 

こうしているだけでも幸せである。

たまにすれ違う咲夜さんがお熱いわね。と、いつの間にか喋れるようになっていた私たちの言葉で言ってくれた。

アイリスさんも、ルーミア様も私のことを祝福してくれているし、今はとても幸せな気持ちでもある。

でも、そんな幸せな私でも、不思議なことがあるのだ。

 

≪・・・・・・って・・・≫

「っ」

「どうしたの?紫ちゃん」

「いっ、いえ。なんでも、ないです」

 

そう、さっきの様に誰かの声がどこからともなく、いつの間にか響いて聞こえるのだ。

だけど、その声はとても小声で聞こえなくて、そして、とてもさみしそうな声でもある。

 

(なんなんだろう・・・・・・わからない。)

 

もしかしたら、誰かが私に向けたメッセージなのかもしれないし、私のただの聞き間違いということもあり得る。

だから、私は声のことに関しては、よく聞こえない限りできるだけ無視することを決めているのだ。

でも、無視をすると段々とその声が近づいてくるように感じられるし、どことなく・・・聞いた覚えのある声のようでもある。

 

≪さ・・・・・・って・・・≫

 

また聞こえた・・・でも、無視をすることにする。

そうしないと、私が私でなくなってしまうかのような感じがするから。

それは、確かに私の勘に過ぎないけど・・・もし、真剣に聞いてしまったら・・・

私は、私でなくなってしまうかもしれない・・・

 

 

夜になった・・・それは別にどうでもいいのだが・・・

問題は、私と彼女以外のすべてが止まっていることだ。

 

「・・・・・・何しに?」

≪あら、簡単よ?祝福と、警告ね」

 

私のスキマとよく似たスキマからとある女性が出てくる。

この女性は、先日私たちを襲った化け物の主・・・”暗闇”さん、というらしい。

その暗闇さんが、わざわざ世界を止めてまで、私に話をしに来た。

 

「祝福と・・・警告?」

「ええ、私があなたに伝えられるのは、その程度かしらね?」

 

分からない、この前は殺そうとしたのに

今回はこの通り、何もしてこない、あの化け物は近くにいないようだし・・・

本当に、目的は祝福と警告だけなのだろうか?

 

「まずは、あの人と付き合うことになっておめでとう。」

「・・・それはどうも」

 

私は、警戒心を強化しながら素直にその言葉を受け取る。

それを見た暗闇さんは、ひどいわね。と言いながら、持っている扇子を口元に移動させた。

そのせいで、口元が見えなくなる。

別に口元が見えなくなろうと、表情の読み方や感情の変化などはわかるのでさして問題はないが・・・

 

「そして、これは警告。本来なら、こっちが本題よ?」

「・・・・・・」

「今すぐ、あの人と別れなさい?それは貴女を悲しくさせるだけの悲劇よ?」

「!?」

 

あの人・・・つまりは、師匠のことを刺している。

その師匠と別れろと言われた・・・私の中で、怒りが少しづつ火をともし始める。

悲劇がなんだ・・・私が生まれてきたこと自体が悲劇のようなものだ。

私は、あの人の隣にいられるのならばなんだってする・・・

 

「まぁ、そう殺気立たないでくれるかしら?」

「・・・・・・一体何が目的で、そんなことを?」

「そうねぇ・・・・・・」

 

そういうと、暗闇さんは月を見上げて物悲しそうな顔をする。

その顔は、昨日まで私たちを殺そうとしていた化け物に向ける表情ではなく

本当に悲しそうで・・・今にも泣きだしてしまいそうな、顔だった。

 

「月がきれいね。」

「青くはないですけどね」

「あら酷い、ナンパしたのにフラれたわ。しくしく」

「私、貴女には興味ないので」

 

ナンパしてきたのでそれらしい回答で振る。

私は、本当に師匠にしか興味ないしもし付き合うとしてもこの人だけは本当に泣い。

だけど、この人はそんな私にナンパしてきた、面倒くさい。

 

「警告よ・・・あの人を失いたくなければ、桜のもとに行きなさい。」

 

「・・・えっ?」

 

その言葉の意味を聞きたくて、暗闇さんの方向を見ても。

そこには誰もいない・・・どうやら逃げられてしまったようだ。

更に至っては、世界がまた動いている・・・

 

どういう?

 




今日は調子がいい!


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第十九話 やがて世界は敵となる。

夏の終わりまで、あと13日。

だんだんネタが無くなって・・・・・・

うわ、何をくぁwせdrftgyふじこlp

・・・・・・ワタシハ・・・・・・ナニカサレタヨウダ


Side sigure

 

隣のベットでは、紫ちゃんが可愛い寝息を立てて眠っている。まだあどけさの残る妖怪の子供だが、僕の大切な人だ。

あの日であってから、僕はこの夏だけでいいからこの子と生きたい。自然とそう考えるようになり、つい2日前、僕の方から告白した。

 

「えへへ・・・・・・ししょー・・・・・・」

 

と、紫ちゃんが可愛らしい寝言を言い、幸せそうに眠っている。

そんな、彼女を横目で見つつ、懐からとあるものを取り出す。母さんが、大切な人を見つけたらこれを渡せ。そう言われて渡された指輪だ。宝石なんて大層なものはついていない、銀で作られたシンプルなものだ。

 

(いつか、紫ちゃんにこれを渡す日が来るのかな?)

 

思い上がりかもしれないが、僕はそう考えている。

あの日、紫ちゃんが襲われている時、自然と体が動き、妖怪を投げ飛ばしていた。そして、今にも卑猥なことをしようとした妖怪を倒し、紫ちゃんを見つけた。

そして、なんの縁があってか、一緒に旅をするようになり、今に至るという事だ。

 

(いや、多分)

 

これは渡せない。

夏の終わり、それが僕の最後でありこの旅の終わりだ。

最初は、つまらなかった人生を変えるために旅に出た。

白黒の魔女や、紅白の巫女、かぐや姫やその従者。

様々な人と出会い、別れてきた。

それが今はとても懐かしいものである。

 

『それは全て幻想だ。幻想だったのだ』

 

途端、世界の景色が灰色になる。

そして、俺がベランダを見ると真っ黒い俺がベランダの手すりに座り嘆いていた。

俺は、雨簾を構えるが、その黒い俺は諸共せずに嘆いていた。

 

『ああ、私は恐ろしい。全てを知ってしまったから、私は恐れているのだ。』

「何の話だ。」

『我らは、闇の執行者。神に遣わされた使徒。汝に裁定を言い渡しに来た。』

「?!裁定は既に十王によって」

『地獄の鬼共が決めた事など、我らが神の決定の前では無いに等しい。我らが神、アダムの決定は絶対。東洋の猿どもの決定など、アダムの決定の前では無駄な足掻きだ。』

「自分勝手な神様だ・・・・・・」

 

俺はそう小さく罵倒する。

黒い俺は、相変わらず嘆いておりまるで俺を笑うかのように口を歪ませている。

 

『我らが神は、全ての人類の兄弟。だが、妖魔やあの方以外の神はその対象外。あの方は、人以外の全てを滅ぼし、人間の人間による人間による世界をお創りになる。』

「そのために、キリスト以外の神は全て滅ぼし、妖怪や妖精も全て滅ぼすのか?」

『我らの神のため、それは致し方ない犠牲だ。そして、その引き金は、汝、故に我らが神が裁定し、判決が下った。』

「・・・・・・」

 

俺は、雨簾をいつでも抜刀できるように構える。

もし、こいつが俺を殺しに来たのなら俺は、紫ちゃんを守りながらこいつと戦わねばならない。

こいつがそこまで強いのか、それは嘆いて俺を見てなくとも隙のないその姿を見れば一目瞭然だ。

しかし、

 

引く訳には行かない。

 

『我らの神の裁定は、死刑。今ここで、我らが汝を始末しよう!』

 

そう言って、黒い俺は姿を変え白い羽根を持つ男性に早変わりし襲いかかってくる。

俺は、雨簾を素早く抜刀し、そいつの首をはねようとする。しかし・・・・・・

やつの方が・・・・・・早いっ!

 

『来たれ来たれ、福音よ来たれ!』

「余の眼前で、何をしている?」

 

その言葉が聞こえただけで、俺と羽根男は、ピタリと止まった。

そして、殺気を感じそこを見ると、灰色の世界の中で、紅く赤く緋く、とても紅い殺気を振り撒き、圧倒的なプレッシャーを振りまくアイリスがそこにいた。

 

『くっ!悪魔にこの私が気圧されるとは!?』

「もう一度問おう、余の眼前で、余の親友と、余の友達に、何をしようとした?」

『黙れ!悪魔に言うことなどない!』

 

そう捨て台詞を言ったあと、そいつは消えて世界は元に戻った。

アイリスは戻った瞬間に殺気を抑えてかき消した。

 

「・・・・・・奴らめ、アダムの計画を実行に移し始めたか」

「アダムの・・・・・・計画?」

「妖怪と、あやつ以外の神を全て抹消し人類をひとつにし、アダムとイブによる楽園を創り直す計画・・・・・・じゃ」

 

・・・・・・アイリスは、そう言って部屋から静かに出ていった。

アイリスが言った計画がもし本当と言うのならば・・・・・・

 




・・・・・・なんでこうなった。
ちなみに、アダムの使徒によって時雨が殺害されると
某人造人間のルートまっしぐらです。

・・・・・・どうしてこうなった!?
うわ、何をくぁwせdrftgyふじこlp


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第二十話 アダムの祷り

夏の終わりまで、あと12日

うん、ガチでネタがない。



==============

 

(アダム・・・何がお前をそんなに突き動かす?)

 

わしは、時雨たちの部屋から離れながらそう考える。

元々、アダムはわしの右腕的存在であった。

月人たちにつく神ではなく、生まれたばかりの野良の神であった頃のアダムは、わしをサポートし

それはそれは、わしに忠誠を誓っていた男であった。

しかしある時・・・いや、アダムが一人クリス達率いる大体の全滅を知らせに来た時。

わしは、奴にいつもとは違う雰囲気を感じていた。

いつもの、忠誠から来る視線ではなく、まるで一人の女を見る目でわしを見ていたのだ。

その時は、すでにクリスと結婚しておったし、それは周知の事実ゆえに覆せないものだった。

じゃが、その時のわしはそんな冷静な判断はできなかった。

 

(あの時、アダムの優しさ(策謀)に気付いておれば・・・)

 

私は、アダムに抱かれることはなかった。

 

私の体はクリスだけの体のままであってほしかった。

 

だけど、あの男の優しさに、冷静ではないとはいえ負けてしまい・・・

 

「このような生き恥をさらすとはっ!!」

 

そう叫んで立ち止り近くの壁を殴りつける。

そして、忌々しいアダムの痕跡・・・聖印に手を触れる。

この聖印は、わしがアダムの所有物ということを示す刻印で、抱かれていた時にいつの間にかつけられてしまっていた。

 

「こんな夜更けに、叫び声をあげるなんて。貴女らしくないわね。」

「・・・ルーミア、か」

 

背後から、ルーミアが近づいてくる。

生まれたとき・・・月人の恐怖でわしたちが形作られたときから一緒にいる親友。

あの時、外なる神に呼ばれていたため、クリスが死んだこともわしがアダムに抱かれたことに対して憤怒を示し

アダムを殺してくれた・・・しかし、アダムは・・・

そんな考えをしていると、ルーミアが両頬を優しく潰した。

 

「にゃっ、にゃにをすりゅ!?」

「そんな辛気臭い顔しないの、貴女らしくもない。そんなにクリスを裏切ったのがつらいの?」

 

・・・そう、わしは、裏切ってしまった。

わしの死なない生涯をかけてクリスだけを愛すと決めていたのに・・・だというのに

そんなクリスに嫉妬し、殺してまで私を奪ったアダム・・・・・・許さない。

 

「貴女がつらいのはわかるわ。でも、アダムを許せないのは、私も同じなの」

「そりぇがどぉしぃた」

「私が、耐えてるの。アイリスも耐えて。」

 

・・・そうだった、わしよりつらい思いをしてるのは誰でもないルーミアだった。

ルーミアはその時には子供がいた、妖怪ととある神”八十禍津日神(やそまがつひ)”と結婚し、その神様との子供を無残に殺されてしまっている。

目はえぐられ、舌は斬られ、四肢は引きちぎられ、はらわたは食いちぎられていた。

フェンリルという、アダムが飼っていた狼に食われ、そして誰にも助けを求められぬまま死んでいた。

その日、わしはアダムに抱かれ・・・ルーミアは月人を殲滅したのであった。

 

そう、総ては奴の計画の通りであった。

 

「だから、私たちは」

「いつか、あやつを殺す」

 

「「復讐は、まだ消えてない」」

 

わしとルーミアの声が重なると、重苦しい雰囲気があたりを包む。

そう、コロス。わしたちはアダムを殺すのだ。

 

「わしは、この聖印を消すために」

「私は、あの子の敵討ちの為に」

 

 

 

「ふふ、ふはははっ」

「くす、くすすっ」

 

 

 

 

「ああ、殺すのが楽しみだ」

「ええ、殺すのが楽しみね」

 

 

 

多分、今のわしたちは時雨たちには見せてはいけないだろう。

何となくそう思った私たちであった。

 

翌日 早朝

 

「もう行ってしまうのか?寂しいのぉ?」

「もう少し、ゆっくりとできないの?」

 

昨日ひと悶着あった数時間後には、太陽が昇り、時雨たちは旅支度を整えていた。

わしの後ろには、つい昨日雇ったメイド”十六夜咲夜”がちょっと寂しそな顔でシュンとしていた。これ、お主はイヌか。

時雨が言うに長居をしてしまうと、居心地が良すぎて帰れなくなってしまうらしい。

それに、帰らなくてはいけない事情があるため、わしはおとなしく引き下がった。

それに、紫のこともあるからの・・・引き下がらんとわしは、多分・・・

 

「アイリス様!咲夜さん!また、お会いしましょう!」

「・・・!。ああ、また会おう、紫。今度は、大きくなった姿でな」

「紫、元気でね!風邪ひかないようにね!」

「うん!ばいばい!」

 

相変わらず、紫は元気じゃ。

まだ何も知らない乙女、世界の厳しさを知らない子供、願わくばその純粋さが失われないことを願う。そう願いを込めて見送る。

紫が、紫たちの故郷につながる”スキマ”を開いて、時雨たちがそれに入ってゆく、時雨、ルーミア、そして最後に紫。

 

紫が入ると、スキマは閉じ、そこには何事もなかったかのような静寂さがあった。

 

Ei bine, Sakuya.(さて、咲夜よ)

Care este stăpânul tău?(はっ、何の御用でしょうか。ご主人様)

「|În principal, părăsiți șeful servitoare. Încurajați-mă.《お主にはメイド長を任せる。励めよ》」

După cum spuneți(仰せのままに)

 

さて、わしは百年ほど眠るとするかのぉ・・・

寝ている間に、滅亡なんてしなければよいのだがな・・・

 

 

 




何とかかけた|A`)


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第二十一話 近づく最後 

夏の終わりまで、11日


スキマを抜けると、少しだけ懐かしい景色が目に入る。

私と師匠が出会った雑木林、すでにぬらりひょんたちの死体は無くなっていた。

たぶん、野生動物たちに食べられてしまったのだろうか、あいつらを思い出すことはないだろうから。記憶の片隅にポイっと捨てておく。

血の匂いはしない代わりに、どうやら残りらしい骨の一部が転がっている。

それを見ても、なんとも思わない私は、やっぱり妖怪なのだな。と実感できる。

師匠もここの森を見つめ、思いふけっているようだ。

師匠が思いふけるときは、頭のアホ毛がゆったりと左右に揺れるのでよくわかるのである。

ルーミア様は、あらあらと言って笑っている。

 

「やあ、ルーマニアの旅はどうだったかい?」

 

私はその声を聴いて、その声の方向に素早くむく。

そこには、五日の死神さん・・・小野塚小町さんが、仰向けに寝転んでいた。

ついさっきまでいなかったはずなのだが・・・どうやら能力か何かで移動してきたのであろう。

・・・・・・何がとは言わないけど、大きい・・・

 

「まあ。懐かしい友人に会えたよ」

「そうかいそうかい、そりゃよかった。」

「それを言うために来たんじゃないだろ?」

 

お茶らける小町さんに師匠が少しだけ冷静に言う。

そう、おそらく小町さんは師匠が言っていたアダムの件についてきたのであろう。

小町さんも、気づいていたのかい。と、へらへらしていた顔を真顔へと豹変させた。

 

「まあ、そうだねぇ。あのアダムのやろぅがしゃしゃり出てきて、いまじゃイザナギ様とアダムがにらみ合ってらぁ」

「それ、妖怪は巻き込まれてないわよね?」

「安心しな、妖怪たちは巻き込まれていねぇぜ。宵闇さま」

「よく言うわ、元死神長。」

「何のことだか、あたしには見当もつかねぇや。ま、それで十王様たちの採決で申し訳ないんだけど残りは、”白玉楼”で過ごしてもらうよ?」

 

小町さんが、またへらへらとしだし、ぐにゃぐにゃの鎌を構えて振ると、いつの間にか私たちは、不思議なところに出ていた。

賽の河原のようだけど、その割には、大きな川はないし橋も見当たらない。

ここが、白玉楼なのだろうか。

 

「嬢ちゃん、ここは冥界だぜ?」

「めい・・・かい?」

「そう、冥界。裁定待ちの幽霊たちが最低まで暮らす幽霊の楽園・・・なのかねぇ?」

 

私が周りをきょろきょろとしていると、小町さんがそう教えてくれる。

優しい・・・胸も大きいけど!

そして、小町さんが戦闘で歩き出し、それをルーミア様、師匠、私の順番でついて行く。

 

「この冥界はね、死神たちの花見スポットでもあんだよ。」

「花見?冥界なのに花見があるんですか?」

 

私がそう聞くと、小町さんはああ、あるぞ。と言った。

なんでも、ここ冥界の春は、現界の終冬から初夏の間でその間に死神たちは有休をとりパーッと宴会をするらしい。でも、実際は地獄看守の鬼とか、冥界の幽霊とか、死神たちが好き勝手に集まって楽しむだけらしい。

そう聞いて、妄想してみると、冥界とは思えないような楽しさがありそうである。

 

「ま、あたしは有休ないんだけどね~。」

「え?ないんですか?」

「紫ちゃん、この人は昔大切な偉人の魂の回収の際に寝坊して間違えて悪霊化させて反省しながら仕事してるんだ」

「そうそう、確か名前は・・・」

「わーーっ!!わーーーっ!!!!その話はやめてくれぇ!」

 

小町さんが、大声を出してルーミア様の口をふさぐ。

たぶん、私に知られたくない秘密なのだろう。お姉さんぶりたいのかな?

 

「あたしの失敗談なんて誰が頼んだ!?」

むぐむぐぐ・・・(え、あなたじゃないの?)

「頼んだ覚えないよ!?あたし!?」

むーむぐぐ~(そーなのか~)

「そーなのだー・・・じゃないよ!まったくもう!!」

 

小町さんが、恥ずかしがりながらルーミア様にからかわれる

もしかして、二人には面識があったんだろうか・・・多分あったんだね。

私にはよくわからないけど、二人は楽しそうにしている。

しばらく歩くと、立派な門がみえてくる。

昔の・・・平安あたりにありそうな門構えで、とっても強固そうだった。

その門の前に、緑の服を着た老人が刀を二本帯刀しており目を瞑っていた。

瞑想しているのだろうか、未熟な私でもわかるほど隙が無い。

 

「よ、妖忌の旦那。相変わらずだね」

 

小町さんが声をかけると妖忌・・・多分このお爺さんの名前を呼ぶと。

お爺さんが、目を少し開けて私たちを確認する。小町さん、師匠、ルーミア様、そして私。

そして、何事もないかのように、入れとジェスチャーをして門を開ける。

小町さんは、ありゃりゃ。と小さく言った後黙ってその門を通った。

ルーミア様も通り、私と師匠がゆっくりとその門をくぐったのであった。

 

 

 

 

 

 

 




いよいよ、最後が近づいてきましたね・・・


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第二十二話 姫と桜と花の妖怪

夏の終わりまで、10日。


師匠たちと一緒にあの門をくぐって、またしばらく歩くと、

上級貴族のお屋敷が見えてくる。

広い庭園、立派な屋敷、樹齢何百年を超えていそうな大きな枯れ樹。

私が、そこを見渡していると小町さんが私に近づいてきた。

 

「こういうところに入るのは初めてかい?嬢ちゃん」

「えっ、ええ。まあ」

 

小町さんは、私の隣に立つとあっちを見るように促す。

すると、そこには沢山の桜が植わっており、そこだけ冥界とは違う雰囲気を醸し出していた。

まるでそこだけ、春のように温かさを感じ生命力があふれていそうなのだ。

私は、その光景を見てこれが、師匠が求めている世界に似ているのかもしれないと思う。

 

「こいつは、冥界桜っつてな、この時期になると咲き誇るんだ。ほれ、あそこに・・・・・・ゲッ!?」

 

とある少女がこちらに向けて歩いてくる。

その少女を見ると、小町さんは焦ったように顔を青白くさせ無理があるのに私を陰に隠れた。

こちらに歩いてくる少女を私はよく観察すると、明らかに私以上・・・下手したら諏訪子様よりも強力な力を持つことが分かった。

そして、私の方向に殺気はむけられているが、本当に向けられているのは私に隠れている小町さんのようだ。

 

「小町・・・貴女は、”また”時間より数分遅れてましたね。」

「ちょっ、そりゃないっすよ!大変だったんですよ!?アダムの手下の・・・使徒でしたっけ!?あいつらから逃げつつ、ランダムで来る彼らを探し」

「言い訳無用!私直轄の死神なら、白黒はっきり特定させてから迎えに行きなさい!」

「ヒエーッ!?そんな殺生なー!?というか、知ってますよね!?私、アダムの手下と殺りあえるほどの力は」

「それは貴女がたるんでいるからです!大体ですね・・・」

 

小町さんは、その少女に私の影から引きづり出され、正座させられる。

まるで私が、空気かのように目の前で説教が始まったのであった・・・

 

3時間後・・・

 

「いいですね!これからは、しっかりと、さぼらず、働くこと!」

「へっ、へーい」

「なんですその返事は!?」

「サーイェッサー!!」

「ここは日本ですよ!」

「了解いたしましたぁッ!!」

「はぁ・・・全く。あら・・・」

 

説教をしてた少女が、私に気付いたようだ。

どうやら、本来の目的を忘れていたらしく顔を赤くしていた。

小町さんは、そこをとやかく言う気力は残っていないようでフラフラとどこかへ歩いて行った。

 

「初めまして、わたくし、十王の一角を務めさせていただいております、四季映姫。というものです。」

「こ、これはどうもご丁寧に。私は、境界の妖怪で時雨師匠に同行してます、八雲紫っていいます」

「ええ、存じております。ここまでの長旅、お疲れさまでした。」

「いえ、私は望んでついて行ったので・・・」

 

社交辞令のような挨拶だが、映姫さんを見るとそれは社交辞令というよりかは普通に話しているかのようで

顔は、まじめそのものだけど、目はとても喜んでいた。

この人は、十王の一角ではあるけど、まだ年相応の少女なのだろうか・・・

 

「さて、本題と行きましょう」

 

映姫さんの風格が、その一言で代わり。

十王の一人として申し分ない風格を私に向けてくる。

私には、そのプレッシャーがのしかかるが、正直アイリスさんに比べると、アイリスさんの方が怖いので(私に向けられてなくとも)

正直慣れてしまった。

 

「貴女が、あのひとについていった結果。あの人の目的は、達成され彼はもう未練がないそうです。」

「っ・・・」

 

そう、多分時雨師匠に未練はない。

日本を旅し、旧友のアイリスさんともであり、故郷にも行った。

妖怪の山で、萃香さんたちと会い、旅の途中でルーミア様と正邪さんに会って・・・

師匠はこの夏の間、ずっと笑顔でいた。

それは、私がよくわかっている。多分、私と師匠が過ごした年月なんて他の人と比べるととても短いものだろうけど。

 

「その旅の間、貴女とあの人は、結ばれた。伴侶としてではないですが」

「え・・・えへへ・・・」

「|はぁ、いいなぁ・・・あんなかっこいい人が彼氏だなんて《(でも、貴女にはつらい決断をしてもらわなければならない)》」

「あの~、映姫様・・・大変恐縮なんですが、本音と話題がすり替わってませんか?」

「・・・・・・小町、あとで説教5時間です」

「何でぇ!?」

 

映姫さんの本音が漏れていることを、復活した小町さんが指摘すると、映姫さんは頬を赤らめて小町さんに八つ当たりのようにそう言った。

小町さんは、わかっててやったのだろうか「そりゃないっすよ~」と言いながらも、どこか楽しそうであった。

 

「こほん、貴女にはつらい決断をしてもらわなければなりません」

「わかっています・・・師匠は、これから永遠に私に会えることはない・・・その前に、師匠と別れ師匠との思い出を忘れる。そうですね?」

「・・・・・・ええ。」

 

映姫さんは、少しだけ物悲しそうに目をつむる。

小町さんも、その雰囲気を汲み取ったのかおちゃらけた雰囲気をやめて、黙りこくっていた。

分かり切っていたことだった。

師匠は、これから天国か地獄か・・・私ではわからないけど、どっちかに行ってしまう。

それは、死んでいるから確定であって・・・私が変えることなどできないのである。

それでも師匠とは恋仲でありたい反面、どこかそれをしょうがないことだと理解しあきらめている自分もいる。

あの日・・・師匠に一目惚れしていた時・・・師匠にこの夏しか一緒にいられないことを話された時からずっと考えていたことだ。

でも、私としては、師匠とは離れたくないし、恋仲であることをやめたくない。

 

「私は」

 

side:sigure

 

僕の旅は終わりをつげ、残りの日数はここ白玉楼で過ごすようだ。

本当なら、あのひまわり畑に行きたかったのだが、どうやらアダムがかかわってきたことで変わってしまった。

ひまわり畑には、あの子がいた。そして、紫ちゃんをあの子と合わせて紫ちゃんと友達になってもらうはずだったのだが・・・

どうにも、世界は僕の願いをかなえたいようだ。

 

「どうして、ここにいるんだ?幽香ちゃん。」

「私っ・・・師匠に会いたくて。」

 

緑の髪の毛の内気な女の子、紫ちゃんとは僕の予想だけど同い年の女の子・・・正直に言えば僕の妹だ。名前を風見幽香と言い、とあるひまわり畑を育てている自然発生型の妖怪だ。でも、彼女は人を襲うことはなく、自然を荒らすものだけを威嚇だけで追い返している。そんな彼女は、僕の一番弟子で僕の我流剣術”時雨一刀流”の正式な後継者だ。

 

「でも、冥界は簡単に来れるはずが」

「えっえっと・・・修行してたら、空間を切れるようになって・・・それで」

「・・・なるほど。」

 

前言撤回、多分この子。僕より時雨一刀流を使いこなしてる。

僕でも空間を斬ることなんてできないし・・・(そもそも、彼女は傘でやってのけたみたいだし・・・)

あれ?時雨一刀流って、僕の我流剣術だよね?

 

「そっそれで、なんか、嫌な予感がしたので・・・」

「僕のところに来たの?」

「・・・」コクコク

 

幽香ちゃんが、縦に首を振る。

この子は、自然発生型でも珍しい突然変異型の妖怪・・・いや、正確には妖怪と妖精のハーフだ。

まあだからと言って、ルーミアさんのような強大な力は持っていない、そもそもその力を幽香ちゃんは抑えている。

そしてこの子は、危機感がとても高い妖精の勘が働いたようで、僕に何か起きることを感じ取ったらしい。

それで、僕と紫ちゃんが様々なところを歩いている間。僅かに残った僕の気配を頼りにあちこちを探し回ったらしい。

なんかごめん・・・

 

「あ、あの・・・お願いです。私に、師匠を護らせてください」

「ん・・・いいけど。幽香ちゃんの気のせいだよ。多分ね」

「だと・・・いいんですけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 



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第二十三話 西行寺の娘

夏の終わりまで、9日。


side:yukari

 

あの後、映姫さまに答えを言ったのち師匠と一緒にこの屋敷の主にあいさつをすることになった。

ルーミア様はすでに知っているらしく、私はパスと言っていた。

今日は非番らしい妖忌さんが、先頭を歩き、それに私と時雨師匠、そして幽香ちゃんの順でついて行っている。

 

「それにしても、師匠に妹さんがいたんですね・・・」

「うん・・・私も、驚き。新しい弟子を取るだなんて・・・」

「うっ・・・ま、まあまあ。」

 

私が戻った時には幽香ちゃんは師匠にべったりでヤル気に満ちていた。

でも、私が警戒していると内気な性格ゆえか大人しくなって、とても可愛らしかったので撫でると懐かれたのであった。

 

「ここだ。くれぐれも、粗相のないようにな。」

「「はいっ」」

「特にそこの男、もし幽々子様に手を出してみろ。貴様を慈悲なく斬り捨てる。」

「あーう!?」

 

流石妖忌さん。

私と優華ちゃんの会話から、師匠が天然ジゴロなのに気付いたのだろう。

流石の師匠も言われるとは思っていなかったのか悲鳴らしきものを上げて壊れた人形のように首を縦に振っていた。

あの師匠が冷や汗をかくのだから妖忌さんの妖力は相当なのだろう。

 

「幽々子様、客を連れてまいりました。」

〈お入りなさい〉

「は、失礼いたします。」

 

妖忌さんが丁寧に豪華な襖をあけ私たちに入るようにジェスチャーする。

その襖の奥にいたのは、私と幽香ちゃんとは同い年であろう少女だ。

でも、その霊力は今にも消え入りそうでとても弱っていた。

しかし、相手はこの屋敷の主。失礼のないようにしないと。

幽々子様に失礼のないように気を付けながら座布団に座る。

幽香ちゃんも礼儀をわきまえているようでおとなしく座った。

師匠は、うん。正座。

 

「初めまして、私はこの屋敷の主。西行寺の娘、西行寺幽々子と申します」

「これは、ご丁寧に。私は、この度このお屋敷に泊めていただく旅人、雨月 時雨と申します。それで、この緑が髪の子が妹の風見幽香、金髪の髪の子が弟子の八雲紫です」

 

師匠が私たちを紹介したので私たちは息を合わせてお辞儀をする。

幽々子さんはうふふと、口を扇子で隠しながら笑った

どうやら、師匠の紹介の仕方がおかしかったようでとても可愛らしい笑みを浮かべていた。

 

「うふふ、失礼しました。とても面白い方々のようね。」

(師匠、師匠のせいですからね)

(あーう!?なんで?!)

 

とりあえず師匠のせいにして、私が話を進める。

師匠に残された日数をこの白玉楼で過ごすというもの。

それを聞いた幽々子さんは、真剣な表情で見ているがどことなく怖い雰囲気が立ち込める。

私の言い方が気に食わないのだろうか・・・いや、これはむしろ。

懐にしまっておいた、咲夜さんからもらった銀のナイフを取り出し襖に向けて投げる。

そのナイフは、見事に何かに突き刺さり、襖の向こうで倒れる音がする。

その以上を感じ取った幽香ちゃんと師匠は臨戦態勢に入る。

しばらくうめき声が聞こえたが、妖忌さんらしい人影が刀を抜きそしてその盗み聞ぎしてた存在の命を摘み取る。

 

「・・・気付いていたのに、教えてくださらないんですね」

「いえいえ、試金石でしたの。合格ですわ・・・閻魔様の要請に応じ、あなた達をかくまうとしましょう。」

「・・・感謝です。」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あと、ちょっといいかしら?」

 

あの後解散し、しばらくの自由時間で屋敷を散策していると幽々子さんが私たち・・・私と幽香ちゃんに話しかけてくる。

私と幽香ちゃんは頷くと幽々子さんが恥ずかしそうにもじもじする。

 

「あの、よかったらなんだけどね・・・」

「??なんでしょうか・・・」

「わ、私と、友達に、なってくれないかしら?」

 

多分、幽々子さんはかなりの勇気を振り絞ったのだろう。

いや、実際今も怖いだろう、脚が少し震えてるし奥の方で妖忌さんが心配そうに見守っている。

私と幽香ちゃんは目配せし

 

「「もちろん!!よろしくね!!」」

 

二人で、幽々子ちゃんの手を取ったのであった。

 

 

 

 

 



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第二十四話 アダムの宣戦布告。

夏の終わりまで、8日。


【我々は、世界を変える】

 

【我々は、総てを変える必要がある】

 

【我々は、人を救済する】

 

【この世に、人ならざる者は必要ない。】

 

【故に我々は、この世界すべての人ならざる者に宣戦布告する!!】

 

【すべては、人類の楽園のために!!】

 

「「「「「「「「すべては、人類の楽園のために!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

アダムが、全世界の妖怪に対し宣戦布告し1時間。

もうあちらこちらでは、妖怪と使徒の戦いが始まっているらしい。

しかも、使徒たちは、人類すべてを眠らせるという荒業を使ってまでだ。

だけど、白玉楼にいる私たちは何もできない。

師匠を護るためでもあり、この冥界から許可なく外に出られないからだ。

それに、アダムたちが狙っているのは師匠・・・つまりは時雨師匠その人だ。

師匠を殺されてしまえば私たちの敗北、逆に師匠の期限間師匠を守り通せば妖怪たちの勝利。

だから、言い換えれば私たちがここに来たのは師匠を護るためであり

私たちは師匠を護る最後の砦ということだ。

幸いにもこの霊界の入り口は隠されていて簡単に見つけることはできない。

なにせこの霊界自体が強力な結界に覆われており、半端な天使でもそこにあると思えないほど精密な結界だ。

 

「・・・でも、どうしても不安がぬぐいきれない」

 

私は、扇子をぱっと閉じてその結界を睨む。

そう、今日という日になってからなぜか不安が襲っているのだ。

しかし、睨んでも何かが変わるというわけでもなくただそこには雲に覆われ桜の花びらが舞う空があるだけだ。

でも、私にはわかる。あの結界の外側にはもう使徒と天使たちがわらわらと集まっている。

多分、そこに何かがあるとわかってはいるものの入る手段がない。というものだろう。

 

(いつあの結界が突破されるかわからない・・・師匠と幽々子ちゃんは私が必ず守り切る。)

「まーた難しいこと考えてんのかぁ?紫ぃ?」

「うるさいわね、あなたは大好きなお酒でも・・・って、萃香!?」

 

(この時点で紫と萃香は喧嘩しあったもの同士仲良くなってます)

 

「はっはっはっ!桜を見ながら一杯ってか?花見酒はいいぞ?」

「てか、萃香が来たってことは・・・」

「ああ、勇義もいるぜ?死神たちの宴会に飛び込んでった。」

「・・・はぁ」

 

あの人、酔いが頂点に達すると地面に頭から突き刺さるから心配だ・・・

でもまあ、これでちょっと安心できたかもしれない、何せあの”伊吹童子”に”星熊童子”だ。

何ならルーミア様だっている。

 

「・・・紫、あいつらはどうして時雨を狙う?」

「わからない。でも、師匠を殺すことで何かが解放される。そう私は思う。」

「解放・・・ねぇ。まあ、あいつらの事情が何であれ、時雨を殺させるわけにはいかない」

「誰のために?」

「そりゃ私のため・・・と言いたいところなんだけど。流石に負けてるかぁ」

「ふふ、あの時の師匠、顔赤くってかわいかったなぁー」

「むーっ、今に見てろよ紫!私が時雨を振り向かせるからな!!」

「ふ、させないわよ」

「それに、紫は私の喧嘩友達でもあるんだ。仮にあいつらが入ってきても、死ぬんじゃねぇぞ。」

「・・・ええ、もちろんよ。私も死なないし、師匠もあの子も殺させない。」

 

私は、覚悟を決めて結界を睨んだ。

 

 

side:ru-mia

 

「もうすぐ、ね」

 

私の胸に刻まれている聖印が疼きだし、アイツを迎え入れようと理性が覆っていく。

アイツなんかにひれ伏したくない、アイツなんかに二度と体を触られたくない。

そう自分に言い聞かせ、理性を本能で打ち消す。

 

「ああ、早く殺して。この苦痛から逃れたいわ・・・」

 

結界の外側に確実にいるであろうあいつに向けてどす黒い殺気を飛ばす。

そして闇を操り、アイリスから借りた剣、ダインスレイブを抜き放つ。

私を恥辱し弄び、寝込みを襲ったアイツを私は絶対に許さない。

アイツのせいで、あの人とあの子は死んでしまった。

 

ならば・・・

 

「あの二人が受けた分まで、痛めつける。」

 

あの子に・・・紫ちゃんに見せられない。

私の黒い部分。紫ちゃんには、お月さまに行ったと言ったけれど、あいつに殺された。

あの子も生きていれば今頃は紫ちゃんと同じ年齢のはずだった。

 

ダカラアダム・・・お前だけは。

 

「私が、コロス。」



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第二十五話 嵐の前の静けさ

夏の終わりまで、7日

はい、ラスト一週間に入りました!!
もうすぐ、この物語も完結します。

最後は怒涛のシリアス?だと思いますので
気分を悪くした場合、遠慮なくブロックしてください。
しかし、最終的にはハッピーエンドなのでご安心を!!
(ifルートはどうだか知らないけど・・・)


昨日まで騒いでいた死神たちは、全員真剣な表情で陣地の構築を急ぎ

この霊界に住む幽霊たちも、それぞれがそれぞれ思い思いの場所に逃げ隠れし、

妖忌さんは、2本の刀を静かに手入れし、師匠は瞑想を続け

勇義さんと萃香、そしていつの間にか来ていた文ちゃんはそれぞれ何かをして

私と幽香ちゃんは、手合わせをしている。

私が、相手をじっくりと観察し、隙を見つけてじわじわと戦う長期戦タイプとして

幽香ちゃんは、殺気を探知し避け、隙がなくとも力でねじ伏せる短期決戦タイプだ。

これまで、手合わせしてきた中で34勝33敗。

 

「もらったっ」

 

そして今、34勝34敗に変わった。

私は、素直に開いていたスキマを閉じて再び向かい合う。

今私たちに休んでいる暇はなかった。

私は、短期決戦型である彼女を倒せる力を

幽香ちゃんは、長期決戦型である私でどれだけ力を継続させるか。

 

おそらく、天使と使徒の戦いでは間違いなく超長期戦になる。

私は持久力こそはあるものの、火力がない。

逆に幽香ちゃんは火力こそはあるものの、持久力がない。

それに幽香ちゃんの攻撃は、近距離に特化したもの。

私の攻撃は、遠距離に特化したものと、まるで水と油のようになっている。

 

「今回は、次で終わりにしましょう」

「ええ、そうね。そろそろ疲れたし・・・」

 

私は、傘をグッと握って一斉にスキマを展開する。

そして、その展開したスキマからレーザーと弾幕を展開して簡単にはよけられないように圧力をかける。

それを幽香ちゃんは、簡単に避け極太のレーザーを照射する。

私は、そのレーザーをスキマで吸収し、そのままお返しするが幽香ちゃんはそのレーザーを防いだ。

着弾した時に起こる閃光に身を隠しつつ、私は大量のスキマを開き攻撃するもののどうしても幽香ちゃんにとって

ダメージにならない攻撃でしかなかった。

 

「っ!」(やっぱり、私には火力が足りない!!)

「くっ、はぁ・・・はぁ・・・」

 

私が攻撃力のなさに嘆いていると、幽香ちゃんの息が上がっているのがわかる。

流石に連戦はきついようだ・・・かくいう私もかなり疲れている。

私が全力を出せば、幽香ちゃんも全力を出す。私が左をスキマで撃てば、幽香ちゃんは右を手刀で斬る。

そして今回の戦いは・・・

 

「引き分け・・・ね。」

「ええ、惜しいわね。」

 

私のスキマはしっかりと幽香ちゃんの頭を狙い、幽香ちゃんの右手の手刀は私の首を捉えている。

私はスキマを閉じ、幽香ちゃんは右手を収める。そして、それぞれ白玉楼の縁側に倒れこむ。

34勝34敗1引き分け、どちらかと言えば納得はいかないがこれはこれでいいのかもしれない。

 

「ねえ、紫ちゃん。」

「なにかしら?幽香ちゃん?」

 

幽香ちゃんが私に話しかける。

その目は真っすぐで、とても強い輝きを放っている。

私と幽香ちゃんはしばらく見つめあい、そして笑い出す。

 

「お兄ちゃんのこと。よろしくね」

「もちろん、時雨は私が幸せにする。」

 

私と幽香ちゃんは妖怪としてのポテンシャルを発揮させて即座に体力とカを回復させる。

そしてそれぞれ、妖力を発生させる。

 

「「始めましょうか、私たちの戦いを」」

 

その言葉を言ったと同時に、白玉楼を護っていた結界が

 

 

 

 

崩壊した。

 

 



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第二十六話 悪夢

夏の終わりまで、6日。


幽香ちゃんに斬りかかる天使をレーザーで焼き、

私に弾幕を放つ使徒を幽香ちゃんが傘で切り捨てる。

 

周辺には死神と天使、使徒が入り乱れ乱戦模様。

師匠に敵は群がるが、師匠はそれを軽く斬り捨ててしまう。

次々と、死神も使徒も天使も落ちてゆく・・・勇義さんも萃香も何時間も戦って疲れ果てている。

ルーミア様は、アダムを見た途端に斬りかかっていった。

 

「まだ余裕ある?」

「ええ、全然あるわよ?」

 

私たち二人はまだまだ余裕がある。しかし、死神たちの余裕がない。

そりゃそうだ、相手は私たちの戦力の倍だ。こっちが1としたらあっちは3だ。

死神が一体敵を倒せば、敵は3人の死神を倒す。

このままではこっちのジリ貧。もちろん、負ける。

敵は、強い。技量を物量で消す。戦術ですら歯が立たない物量でだ。

 

「まったく!!なんでこんなに!!多いのかしら!?」

「さあ!?でも!!やるしかないでしょ!!頭ふせて!!」

 

頭を下げた幽香ちゃんの真上をレーザーで撃ち抜く。

そのレーザーで幽香ちゃんを狙っていた使徒を撃ち抜く、

いま幽香ちゃんを動かすわけにはいかない、幽香ちゃんは体力が多くない。

だから、幽香ちゃんは少しでも最小の動きで敵を倒し、休憩を多くとる必要がある。

逆に私は、大立ち回りで敵を引き付け、少しでも多く時間を稼ぐことが目的だ。

 

(幽香ちゃんほど勘は鋭くない。回避運動をしながら射撃しない。雑魚ばかり)

「でも、数が多いっ」

 

今撃ち抜いた使徒を合わせてもう67体は倒した。

しかし、周りを見渡せばそんな数がどうしたと言わんばかりにまだまだ結界の崩壊部分から入ってくる。

無限に湧き出てきて本当に面倒だ。

 

「おっらあっ!!くそ、紫!こいつら何となかなんねぇのか!?」

「戦力差がありすぎる・・・このまま戦っててもジリ貧」

「くっそぉっ!!」

 

萃香が地団太を踏んだ途端、霊界が大きく揺れる。

その地響きを感じた途端、死神も使徒も天使たちも止まって一つの桜を見る。

そこにあるはずものは・・・白玉楼に植わっていた巨大な枯れた桜のはずだ

 

しかし

 

「何で・・・桜が、咲いているの?」

 

とても美しく、儚く咲き誇る巨大な桜・・・しかし、それを見るととてつもない恐怖を感じる。

何故だろう、あの桜を見ると、嫌な予感しかしない・・・

 

「っ・・・時雨師匠!幽々子ちゃん!」

 

そうだ、自分は何を考えてた。

白玉楼には師匠と幽々子ちゃんがいる。あの桜に何かがあったということは二人に何かあったのだろう。

私は、大急ぎで白玉楼に飛んでいく、勇儀さんと萃香、幽香ちゃんも私を見て何かを感づいたのか

私より遅れて白玉楼へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

side:yuugi

 

 

時雨に泣きつく紫と風見幽香、倒れて地面を赤く濡らしている時雨、膝から崩れ落ちた萃香、

うっとおしい程に咲き誇る桜の木。

 

せてもの抵抗で、文を連れてこなかった・・・でも、何も変わらなかった。

 

「っ!!」

 

私は、力を溜め枯れ桜だった桜に殴り掛かる。

あと少しで、私の拳が桜にあたりそうになった時、桜がウネウネと動き出しその桜の根っこが私を振り払った。

やっぱり・・・やっぱりこいつか!

 

「西行妖っ!お前さえなければ!!」

 

振り払われても諦めずに西行妖に殴り掛かる。

しかし、それはすべて防がれたり、逸らされたり・・・

 

「ふふっ・・・あははっ」

 

後ろから声が聞こえる。絶望したかのような笑い方・・・

この声を私はよく知っている。

 

「あはははっ!!あははははははっ!!」

 

 

 

 

八雲紫(壊れてしまった紫)・・・ただそいつだけだった。

 



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第二十七話 鬼人正邪(上)

今回から数話ほど、正邪ちゃんがメインです!


side:seizya

 

「くそっ!!」

 

あたしは、刀で使徒を斬り捨てる。

大急ぎで、冥界へと向かっているが冥界の入り口で足止めを喰らっている。

あたしは元々、戦闘に向いているというわけではない。

むしろ、冥界の中で激戦を繰り広げていた死神たちより弱い。

 

「うへぇっ!?」

 

斬りかかってきた使徒を左手でパリィし。そのまま首を刎ねる。

私は、戦闘のセンスはあるようでこうして戦いでは切り込み隊長に任命されてしまう。

だが、勘違いしないで欲しい私は妖怪になったばかりの知性のない獣より弱い。

実際、ルーミアと一緒に旅してた時は戦闘はルーミアに任せきりだった。

 

「あーもう!あとで、有給とって家でゴロゴロしてやる!!」

 

そのために、使徒や天使の群れに突っ込んでゆく。

足の速さだけならあの天狗にさえ追いつく・・・その足を生かして群れの中を縫うように走る。

途中、使徒を踏み台にしたり、天使の股下をスライディングで抜けたりしながら、敵を斬ってゆく。

だけどこれは、人間から譲り受けた安い刀だ。耐久と持久力特価で本当は鈍らの刀だ。

 

「こんなんだったら、切れ味優先にしてもらえばよかったなぁッ!!」

 

使徒と使徒の間をジャンプしながら走り抜ける。

相手を消滅させる程度の能力を持つ使徒を居合いで切り捨て。

死者を操る程度の能力の天使の心臓を穿ち、厄介な能力を持つ使徒や天使を集中的に攻撃する。

 

「ひぃっ!!怖い怖いっ!!」

 

頭を伏せて、敵の攻撃を回避し、お返しに足を斬り捨ててやる。

すると、周りを取り囲んでいた奴ら全員が再生しようと謎の紅い薬を飲もうとする。

私はそれを好機と見て能力を発動させる。

 

「”リバース(ひっくり返れ)”」

 

「ぐっ・・・ああああああああっ!!!」

「痛い痛い痛い痛い痛い!!」

「かっ、回復薬じゃないのかよ!?うがぁぁぁっ!!」

 

私の程度の能力、何でもひっくり返す程度の能力。

昔は、加減ができなくてとてもではないが使えなかった能力だが、あの方の元で修業し続け何とか局地的に発動できるようになった。

ここまでなるのに、血のにじむような努力もしたし敵わないような神を相手に何度も戦った。

そして私は、この能力のおかげで今の地位・・・”龍神様”の補佐官に収まったのだ。

私が望むのは、弱き者たちが安心して暮らせる楽園。まさに、あの八雲紫が目指している幻想郷そのものだ。

いつか、私自身で作ろうとしたもののあの子の方が立派な理由がある。

なら、私はそれの手助けをするだけ。

 

「そのためにも、狩らせてもらうぞ。強者(弱者)ども!!」

 

その言葉と同時に、走り出す。

邪魔な奴らは斬り捨てて、只々冥界の入口へと急ぐ。

上空では、ルーミアとこの邪魔な奴らの総大将アダムが派手にドンパチをしているからか

冥界の入り口付近はがら空きだ。

 

「ちょっせい!!」

 

私は、飛び蹴りで無理やり冥界の入り口に入り込む。

入り込んで、すぐに命乞いをしている死神にとどめを刺そうとしてた使徒を斬った。

 

「四季映姫・ヤマザナドゥは!?」

「えっ、映姫様は桜吹雪の宴会場だ!だが、そこにも大勢の敵が!!」

「ちぃっ!!ヤルことが多いな!」

 

私は、刀を右手でしっかりと持って桜吹雪の宴会場へと急ぐことにした。

その間に、死神たちを一人でも多く救うために大立ち回りをする。

 

「さあ!強者(弱者)ども!!この私、鬼人正邪に挑もうとする勇気あるやつはいないのか!!」

「こざかしい!小鬼が調子に乗るな!!」

 

ひときわ体の大きい使徒が私に殴り掛かる。

それを、紙一重でかわし、斬りかかる。

 

「フハハハッ!!笑止!!その程度で俺様を切り裂けると思ったか!!」

 

しかし、奴の皮膚は固くなり私の刀は砕けてしまう。どうやら奴の能力は、皮膚を硬化させる能力のようだ。

くそっ、やっぱり切れ味を重視してもらった方がよかったかな?

なら・・・そう思い、懐から針とお札を大量に取り出す。

それを弾幕のように飛ばす、いくら硬い奴だかといってもそれは能力を使った技。

ならば!

 

「”リバース(ひっくり返れ)”」

 

私の能力を発動させたと同時。

両手に持っていた針とお札を大量に投げつける。

それは、奴の体に突き刺さったり張り付いたりして力を吸い取ったりしている。

そのまま奴は絶命する。

 

「どうした、こんなものか!!

 

そう叫べば、死神たちの士気は上がり、使徒や天使たちの士気は逆に下がりはじめた。

私という、強者モドキ・・・まあ、ある意味では強者なのだろうか?

まあ、私が名のある使徒や天使を倒せば死神たちの士気が上がる。

そのおかげで、死神たちが不利だった戦場も段々と優勢になり始めた。

 

けれども、私のよく当たる勘が警鐘を鳴らしている。

 

(あぁ、こりゃぁ。)

 

下手したら、死ぬな。私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十八話 鬼人正邪(中)

白玉楼に近づけば近づくほど、私の勘は警告を強くし。

本能的な恐怖を感じる。なんなら、あそこに近づけば近づくほど天使と使徒、死神たちが棒立ちで固まって動かなくなっている。

 

「くそ、一体何なんだ・・・っ、ここが・・・桜吹雪の宴会場?!」

 

ついに見つけた桜吹雪の宴会場。

しかし、その場所はお世辞にも桜吹雪の宴会場とは言えないぐらい凄惨な風景だった。

天使と使徒、死神たちが大いに争った形跡、その三者の血で濡れた地面や桜の木。

その桜の木に至っても、どす黒く枯れてしまって炭になってしまっている。

いや、おかしい。

 

(なんだ・・・なんなんだ、この恐怖は)

 

そう、恐ろしい。ただ、恐ろしい。

何処からか感じる死の気配。鉄と肉の焼けるにおい。

ああ、これはまさしくあの地獄だ。

 

(龍神様が危惧していたことが・・・本当に)

 

いやな予感がして、その地獄の中を進んだ。

使徒と天使の一部は何かに抉られたかのように体の一部や頭がなくなっていて

とある使徒と天使は、まるで酸素を得られない必死な形相で息絶えており

またある使徒と天使は、焼き尽くされ黒く焦げ。

また別の使徒と天使は、串刺しにされて死んでいた。

 

(なんだ!?これは!?)

 

そして、私の目に飛び込んできた信じられないもの。

あの最強と名高い剣士の妹、”風見幽香”が桜の木にもたれかかり、体中が曲がってはいけない方向に曲がり

かの剛腕の星熊童子として恐れられている、”星熊勇儀”は、両手両足を失い、顔に一文字の傷ができており

あの鬼の中でも知識に優れている”伊吹萃香”がどす黒い結界の中でズタボロにされており

死神たちの中ではトップクラスの強さの”小野塚小町”がボロボロになって必死に主を護り

閻魔の一角である”四季映姫・ヤマザナドゥ”は、左腕を必死にかばいながらにらみ続け

 

”八雲紫は、どす黒い雰囲気を纏いながら狂ったように笑って暴れている”

そして、その傍らには大切そうに雨月時雨が浮かんでおりご丁寧に結界まで張られていた。

 

(っ!?まさか、いや・・・)

 

時雨がピクリとも動かないところを見て間違いなく時雨は死んでいる。

だが、それは私の能力を使えば簡単に生き返る。ただし、それには触れる必要もあるしなおかつ3日という時間が必要だ。

流石に、龍神様の元で修業したとはいえ、そうそう簡単に死者蘇生ができるわけではない、何ならすごく難しい部類だ。

なんて、冷静に分析してる場合じゃなかった・・・

 

「あははははははっ!!」

「ぐっ・・・映姫さま、早く引いてください!」

「ですが・・・小町を置いて逃げるわけには!!」

「いいから早く!死にたいんですか!?」

「っ・・・小町、あとは頼みました」

 

小野塚小町の一喝により、四季映姫・ヤマザナドゥは全速力で逃げて行った。

その代わり小野塚小町は、死神鎌を構えて、”ヤクモユカリ”をにらみつけていた。

私は、懐から封魔針と封魔札を取り出し、”ヤクモユカリ”に向けて投げつける。

しかし、その投げつけた二つは隙間の中に消えてゆき、逆に私の方に飛んできた。

 

「っ!?【二重結界】っ!」

 

当たる寸前で、防御用の結界を展開し、カウンターで飛んできた攻撃を防ぐ。

明らかに高威力でカウンターされた封魔針と封魔札は二重結界に阻まれ、ぽとぽとと地面に落ちた。

しかし・・・不意打ちを突いて投げたはずのこの二つを防ぐとは・・・

頭の後ろにでも目玉がついてるのか?畜生め・・・

 

「あはっ・・・時雨ししょぉ、起きてくださいよぉ。私、時雨ししょぉの為に邪魔な存在、ぜぇんぶ消しちゃいますからぁ」

「いい加減に、目を覚ましてくれないかね!!もう、そいつは死んでる!!」

 

小野塚小町が、攻撃を避けたり防御しながらそう叫ぶが、”ヤクモユカリ”は無視して攻撃を続けている。

そのすきに私は、背後から”ヤクモユカリ”に接近し、睡眠薬をかがせようとする。

しかし、それは気付かれていたのかつかもうとした瞬間に傘でぶっ叩かれる。

 

「いっだぃ!?」

「・・・・・・」

 

”ヤクモユカリ”が冷たい目で私を見ると、即座にけりを入れようとする。

私はそれをぎりぎりで避けて、封魔針を投げつける。しかし、すぐに隙間のまれて消えてしまう。

すぐに脇を抜けて、小野塚小町の隣に落ちる。

その際に背中を打つが、さっきの傘でぶっ叩かれるよりは痛くないので耐える。

 

「いたたっ・・・全く、遠慮なしにぶっ叩きやがって・・・」

「それだけ、近寄って欲しくないんでしょうに」

 

私がそういうと、隣にいる小野塚小町がそう返す。

まあ確かにわかる、何せ大切な人なんだ、守らないとだな。

しかし、その大切な人が死んでるんじゃぁ・・・意味ないけどな。

 

「なあ、私に策がある」

「へぇ、命を捨てろとかなら嫌だぞ。」

 

私を何だと思ってんだ、この死神は。

まあいい、近くによって耳打ちするそれを聞いた途端、小野塚小町も口角を上げた。

そして、鎌を構えて私の前に立つ。

私は、その背をしっかりと目に収めつつ、特注の封魔針を何本も構える。

 

「こうして組むのは、何年振りかねぇ」

「私がまだまだ幼い地獄の餓鬼で、小町が死神の新兵だったころだっけ?」

 

そう、こうして組むのは本当に何年も昔だ。

私は龍神様の補佐官となり、小町は死神隊の総大将に。

二人して出世して。二人して偉くなった。

 

「時間が無くなって、飲むこともなくなって」

「二人して偉くなって、軽口もたたけなくなったけど」

「「いまだ、この戦い方は覚えてるんだから。笑えるよ」わらえるな」

 

小町は能力を使い、一瞬にして”ヤクモユカリ”の真後ろに瞬間移動しその首を断とうと鎌を振る。

私は、真正面から飛び掛かり、封魔針を投げつける。

後ろと前の同時攻撃で、さすがの”ヤクモユカリ”も対応できないようだ。

私か小町を迎撃しようとわたわたとしている。

だけど、さすがの”ヤクモユカリ”だ。隙間を硬化させて小町の攻撃を防ぎ、私の攻撃は傘で防がれる。

 

「ちっ・・・」

「さすがに・・・」

「私の邪魔を、するなぁっ!!」

 

その言葉と同時に私と小町は吹き飛ばされる。

小町は、うまいことに空中で受け身し何とか地面との激突を防ぐ。

私は、吹き飛ばされこそはしたがしっかりとヤクモユカリをロックオンしていた。

 

「もらった!」

 

私たちを吹き飛ばした反動で動けなくなったヤクモユカリに大量の封魔札を投げつける。

反動ゆえに、ヤクモユカリは反撃できず、封魔札は大量にヤクモユカリの体に張り付いた。

そして、封魔札の効果で段々と力が消えてゆくようで嫌がり、ヤクモユカリは札をとろうともがいている。

 

「ふぅ・・・さすが、投げるのだけは相変わらずうまいね、正邪は」

「そういう小町だって、移動するのが早くなったんじゃない?」

「そりゃ、鍛えたからな」

「なるほどね・・・」

 

ヤクモユカリがぱたりと倒れる。

ヤクモユカリに投げつけた札は、特別な大妖怪や呪いそのものが生物になったものなど・・・

つまりは、対怨念特化であり、相手が強い憎悪などの感情を持てば持つほど強力になる代物だ。

もちろん、私がこれを使うということは相手は世界を滅ぼすのも簡単な相手で普段は非常時以外投げつけてはいけない。しかし、今回はその非常時に当てはまるのでヤクモユカリに投げつけたのだ。

 

「で、あんたがここに来たってことは・・・蘇生?」

「・・・ほんとは、ちゃんとした許可が必要だけど。」

「私が許可します」

 

後ろから、あの女の声がする。

 

「映姫さま!?どうして・・・」

「小町、今はそういう状況ではありません。彼女たちと死神たちを治療しましょう。相手はまだ来ます」

「りょ、了解いたしました!」

 

四季映姫・ヤマザナドゥ指示で小町は生き残りの死神をかき集めて救助活動を始めた。

風見幽香や星熊勇儀、伊吹萃香・・・命にかかわるようなダメージの死神たちを最優先で救助し、

比較的軽いものは、四季映姫・ヤマザナドゥが応急処置を施していた。

やがて、回復に特化した能力を持つ死神が増援としてきて、次々と死神たちや幽香たちを治療した。

戦力は3分の一ほど回復し、私も雨月時雨を復活させるために精神集中を始めた。

 

「さて、小町」

「なんだい、正邪」

 

時雨に触れながら、時雨の魂を探し出す。

これは、死者蘇生の中では簡単な方何で私は、その間に小町に話しかける。

 

「これ終わったら、酒。飲みに行くぞ」

「お、いいねぇ。割り勘かい?」

「ああ、あたしと小町。二人でパーッと飲み明かそうぜ」

 

私と小町はそう軽口を言いつつそれぞれのことに集中するのであった。

 



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第二十九話 鬼人正邪(下)

青く、暗く、どこまでも絶景が広がる。

ここは、死にゆく者たちがたどり着く、魂の回廊という場所だ。

もちろん、私はそこに五体満足でいる。そんなことは、普通許されることではない。

体中が溶けてゆく感覚がする。自分が、ちっぽけに思えて死んでしまうように感じる。

だけど、私はそれを振り払い、ただ前を見て歩き始めた。

 

≪どこだっ・・・≫

 

歩く。歩く。美しく残酷で悲しく誰も救われない回廊をただ進んでゆく。

ここで行われるのは、主に穢れた魂の浄化。つまりは、悪人の落ちるべき場所だ。

元が、悪であった私にもそれは適用される。

私の左手が浄化される。歩いているはずなのに左足が浄化される。

まだだ、まだ私は、こんなところでは死ねない。死んではいけない

 

≪見るんだ・・・紫の作る幻想郷を≫

 

妖怪と人間が、お互いを滅ぼさずに済む理想郷を。手を取り合って笑いあう桃源郷を。

そのためには、今のままの”ヤクモユカリ”じゃだめなんだ。優しくて純朴でちょっと疎い”八雲紫”じゃないとダメなんだ。

八雲紫に狂気じみた笑みは似合わない、どこか悲しそうな笑顔は似合わない。

八雲紫に似合うのは幸せそうに笑う笑顔と、相手を心配する泣き顔とかだ。

 

≪だから・・・・・・紫が、自分の夢を作るまで。死んでたまるか!≫

 

意識をしっかりと持ち浄化された部分を再生させる。

だが、すぐに浄化され始める。再生させたとしても結局は、完全消滅までの時間を延ばしただけなのだ。

何分も歩き続けた、何時間も歩き続けた。されど、雨月時雨の・・・いや、洩矢時雨の魂はいつまでたっても見えてこない。

あいつは、確かに何万との人を災害により殺してしまった。いや、殺しざるを得なかった。

あいつは、国を護るために大和の国に大災害を起こした。疫病や飢餓など、許されざることをしでかした。

でも、彼は諏訪の国を護るがために悪党を背負った立派な奴だ。

そんな時雨にも、幸せになる権利はある。誰に殺されたかは分からないが、十中八九大和にいた神々がこれ幸いとばかりに殺したのだろう。

なんと、ふざけた理由なのか、大和にいた神々は自らの私腹を肥やすことしか頭にない。それと比べて時雨はどうだ。民草の為に田畑を耕し、民草の為に病を治し、民草の為に自ら悪役を演じた。この魂の回廊に真に落ちるべき相手は、間違いなく大和の神々なのだ。

 

≪洩矢時雨、お前は間違いなく、正しいことをした。もう贖罪は十分だ!お前は、お前の幸せをつかむんだろ!?≫

「もう・・・いいんです」

 

彼の声がした。間違いない、最初から私の近くに居やがった。

どこか泣いてしまいそうな声を出し、消えかかっている私の目の前に姿を現す。

 

「俺は、許されないことをした。諏訪の国の皆の為に悪役を演じた?違う!俺は、父さんを殺された復讐だけで大和にあんなことをした!!」

 

洩矢時雨の父親、洩矢海斗は大和の遣いによって殺された。

彼がそう捉えるのも納得ができる。しかし、洩矢海斗はただ殺されたのではない、守って殺されたのだ。

その大和の使者が、諏訪の国に赴いたとき、洩矢時雨はまだ3歳だった。それを見た大和の使者が、妖怪と難癖をつけて殺そうとしたのだ。

それを見た、当時諏訪の国の戦士であった洩矢海斗は間に割り込み背中を斬られた。致命傷の一撃を負い、間違いなく死ぬ。

その時、洩矢海斗は大和の使者に向けこう叫んだのであった。

 

【これが、大和の使者か!なんとも醜い蛮族のような国だな!!】

 

激情した大和の使者は洩矢海斗をめった刺しにし、殺害した。

それを見ていた、天照大神はその死者を地獄に放り込み、八坂神奈子を代わりの使者として出した。

その時の洩矢諏訪子は、子供を護ろうと必死になって八坂神奈子を撃退しようとした。八坂神奈子は、反撃をせず洩矢諏訪湖の攻撃を甘んじてすべて受け入れていたという。

落ち着いた、守矢諏訪子に八坂神奈子は提案した。諏訪の国を形を残したまま大和の傘下に入らないか。と。

洩矢諏訪子からしてみれば大切な人を殺した大和の国の元につくなど侮辱行為でしかなかった。

洩矢諏訪子から放たれる罵声を八坂神奈子は、ただ聞き受け。父親を殺され怒り狂っていた洩矢時雨に殴られても八坂神奈子は激昂せずただその罪を受け入れていた。

八坂神奈子の傘下に入るなら、そういう条件で洩矢の国は大和の傘下に入った。

 

しかし、入った後は他の大和の神々からの嫌がらせが頻発していた。

他の神から、干ばつや飢餓、土の病や大洪水、ありとあらゆる災害で洩矢の国は滅亡寸前にまで陥った。

洩矢諏訪子はショックで倒れ、八坂神奈子は大和の国でそれ等を行った神々を弾劾していた。しかし、彼、洩矢時雨は行動を起こした。それらすべての災害を操り、大和の国にすべて返したのだ。

それにより、災害を起こした神々は全滅、八坂神奈子も3か月の静養を必要とし、天照大神はじめ、須佐之男命、月夜見などの最上位の神々も大怪我を負い、大和の民たちも間違いなく多くが死んだ。

洩矢時雨はそれを間違ったことだと理解しておりそれを行った後地獄に自ら出頭していた。

洩矢諏訪子と八坂神奈子は、地獄に赴き必死に洩矢時雨を説得した。しかし、時雨はこれは俺の罪だからの一点張りで甘んじて十王の採決”夏期間中の贖罪の旅”に出たのだ。

 

「本当は、今すぐ地獄で刑期を受けるはずだったんだ!俺は、みんな(洩矢の民)を護るためにみんな(大和の民)を大勢殺した!」

 

洩矢時雨は、ただそう叫ぶ。

子供の我儘のように・・・ただ叫ぶ。

 

「日の本一の剣豪?違う、それは父さんだ!父さんだったんだ!俺は刀なんて見様見真似で何とかなってるだけなんだ!」

≪だが、お前の剣は認められていた。違うのか?≫

「ああ、違うさ!!俺の刀は、ただの父さんの模範だ!真に称えられるのは父さんなんだ!」

≪じゃあ、紫はお前の父親の模範で好きになったのか!?≫

 

私は、怒りをここぞとばかりにぶつける。

洩矢時雨の生き方は、守矢海斗とひどく酷似している。仕方のないことだ。まだ生き方を習っていないうちに父親に先立たれ、自分は大勢を殺したから。

守矢海斗のように、優しく強くどこか天然で憎めない。時雨は、それを真似て生きていた。

だが、八雲紫を好きになったのは、そうではないはずなのだ。洩矢時雨が八雲紫を好きになったのは、間違いなく洩矢時雨の意思だ。

 

≪八雲紫はお前が好きだ!それに、お前は八雲紫が好きだ!違うのか!?≫

「っ・・・それは」

≪お前は、洩矢時雨(父親の模範)の意思で八雲紫(一人ぼっちの少女)を護ろうとしたんじゃないだろ!?雨月時雨(自分自身)の意思で好きになって守ろうとしたんだろ!!≫

 

顔を背ける雨月時雨の胸ぐらをつかみ上げる。

周りからざわつく雰囲気を感じるがそんなことはどうでもいい。

いつまでも亡き父親にすり寄って生きている洩矢時雨に説教をしなくてはいけない。

八雲紫(一人ぼっちの少女)は、こんな甘ったれが好きになっていい相手ではない。運命が違えば、永遠に一人だった彼女を護り通せるわけがない。

八雲紫(一人ぼっちの少女)を護るなら国ひとつを民の為に滅ぼすぐらいの奴でなければ、幸せになどできない。

ルーミアとアイリス(復讐に溺れたもの)のように悲しく辛い思いをさせないためにも、洩矢諏訪子(愛するものを奪われたもの)のようにただ無力感を感じないためにも、藤原妹紅と蓬莱山輝夜(死ねなくなったもの)のようにいつまでも待ち続ける苦しみを味わわないためにも、伊吹萃香(初恋が叶わなかったもの)のように失わないためにも、(下剋上の為にすべてを捨てた)のように血反吐を吐かないようにも。

 

≪だったらせめて、八雲紫(世界の運命)ぐらい救って見せろ!この大罪人が!≫

「っ!!」

 

私の叫びが届いたのか、雨月時雨の存在が濃厚になってゆく。

ああ、やっとだ。

 

≪行けよ、雨月時雨(手のかかるクソガキ)。お前を待ってる奴がいる。≫

「はいっ、ありがとうございました。それと」

 

時雨が、懐からとある布切れを取り出す。

これは・・・

 

「これ、ありがとうございました。貴女に受けた恩、魂に刻んで忘れません。お世話になりました!先生!!」

≪・・・馬鹿。≫

 

私は、一度か二度洩矢の国に立ち寄ってこの雨月時雨に勉強を教えてやったことがあった。

その時は、顔が見えないようにしていたがどうやら風格で分かってしまったらしい。

まったく、どこまであの守矢海斗(天然女タラシ)に似れば気が済むんだろう。

雨月時雨が出口に向かって走ってゆく、その後ろ姿は海斗に似ておりどこか憎めないでいた。

あのバカは、いつもああやって私の前を走っていたずらさせないようにしてた。そんなあいつが憎たらしくて下剋上しようと努力した。

そしたら、龍神様の目に留まってまさかの龍神様の右腕に昇進。

ほんと

 

≪どこまでも、海斗は憎めないなぁ≫

 

私も、大急ぎでこの魂の回廊から抜け出すのであった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ここは」

「よ、目が覚めたかい。正邪」

 

私が目を開けると、見慣れない天井。そして、右隣には小野塚小町がいた。

どうやら無事に戻ってこれたらしい、あと少しで全て溶けてしまいそうだったが。

 

「あれから、どうなった。」

「そうさね・・・あの事件から、もう10年近くたってるよ」

「じゅっ、十年!?」

 

忘れていた、魂の回廊の時間の進みと現実世界の時間の進みは全然違うのだ。

それにしても、こうしてこの世界が続いているということは・・・

 

「あの事件は・・・」

「ああ、アダムはあの後、ルーミアとアイリスによって死んだ。トップが死んだことによって使徒と天使は大混乱。そこを各国の妖怪・モンスターたちが一斉反撃。以降、使徒は全滅天使は天界へと逃げてった。」

「八雲紫は?」

「どうやら、あんたの一撃が聞いたらしくてね。常闇っていう、あの嬢ちゃんに似た妖怪がちょっと封印して元通りさ」

「・・・あいつが」

 

常闇、私と龍神様に交渉という名の脅しを吹っ掛け、世界を救った裏の主役。

結局のところ、正体はお察しの通りだが、まあいいだろう。

 

「そうか・・・」

「ああ、それと。あんたに朗報」

 

小野塚小町が新聞のようなものを突き出す。

私はそれを受け取り、中身をまじまじと見る。

すると、一番目立つ表現でこう書いてあった。

 

「あの子、無事に幻想郷を作り上げたらしいよ?」

【妖怪の賢者”八雲紫”、妖怪と人間が共存できる楽園を設立。名を”幻想郷”】

 

「・・・そうか。」

 

あいつは、10年もしないうちに成長したらしい。

10年前のあの幼さはどこえやら、大人の雰囲気を纏っている。

下手したら、私より大人じゃないか。

 

「あーあ、くやしぃねぇ。」

「ん?嬢ちゃんが美人になったことかい?」

「ちがわい、あの小娘に先を越されたってことだよ」

「あっはっはっまあまあ正邪、あんたにもいつかいい人がくるって。さ、行きつけの居酒屋イクゾー!!」

「おっさんかっ!まあ、今日はやけ酒じゃー!!」

 

私は小町と肩を組み、死神街に繰り出す。

小町の行きつけの居酒屋に行って、安っぽい酒でも自棄飲みしよう。

つまみを食いながらバカ騒ぎしよう。

ああ、楽しみだ。

 

「今日は飲むぞ~!」

「いいねぇ!割り勘だからな!」

「今日のあたしは機嫌がいいんだ!それでいこう!」

「小町、飲みすぎんなよ?」

「そりゃ正邪もだよ!」

 

 



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第三十話 ”西行妖”・”ユグドラシル”

夏の終わりまで、5日。

はい、正邪が時雨の魂を救う少し前まで戻ってきました!
というわけで、鬼人正邪(下)の10年間何があったのか、
これでわかるはずです。

ちなみに、今回だした設定は”がばがば”で”幼稚な発想”ですが、快く受け入れてくれることを切に願います。


ドサッ…

 

精神集中し、雨月時雨に触れた正邪が倒れる。

おそらくは、私たち死神でさえ知らない次元の地獄に赴いたのだろう。

うまくいけば生還、下手を打てば本来は消滅もあり得る危険な行為だ。しかし、今回は龍神様の許可を得ているので消滅はないのだろうか・・・

いや、しかし魂の回廊は龍神様の力も及ばない場所・・・下手すれば

 

「正邪、無事に帰って来いよ」

 

そう思い、私は空を見上げた。

そこには相変わらず、空に向かって伸び続ける西行妖がある。

あの桜の木からは死の気配が大量に流れだしており、弱い天使や使徒はただふらふらと西行妖に近づいていく。

ヤクモユカリが纏っていた黒いオーラと言うのもあの桜の死の気配だ。

 

「それにしても、ひどいねぇ。これじゃあ来年からの宴会は別の場所・・・三途の川かねぇ」

 

頭を片手でポリポリと掻きながらぽつりと弱音を吐きだす。

ここ”桜吹雪の宴会場”はすでに大規模な医療所になっている。

 

「おい、しっかりしろ!!お前はまだ死ねないはずだろ!!」

「いてぇ・・・いてぇよ、母ちゃん!助けてくれぇっ!!」

「馬鹿野郎・・・生きて帰ったら結婚するんだろ?頼むから目を開けろよ・・・」

 

周りにいるのは大怪我や致命傷を負い息も絶え絶えな死神たち。

回復に特化した程度の能力を持つ死神たちが奔走しているが、どうしても間に合わない者たちも出てくる。

むしろ、ここまで耐えたのが不思議なぐらいだ。天使と使徒の軍勢は、こっちの死神たちの軍勢のおおよそ3倍。

全滅せずにいまだ戦闘継続可能、と言うのがなんとも憎たらしくて仕方がない。

 

「貴方はあの方の治療を!貴方はこの方を!その方はもう亡くなりました、次の方へ・・・」

 

そんな中映姫さまが、死神たちの指揮をとる。

おそらく、この中で一番つらいのは映姫さまだろう。今まで映姫さまはこんな生き死になんて関わりなくただ亡者たちを裁けばよかったのだから。

腕を斬られて死んだあいつは映姫さまの部署で一番長く勤めていた奴、あそこにいる首のない死体は映姫さまの作業を手伝った奴、そっちにいるのは映姫さまが疲れたときに変わりに書類をまとめたやつ。

こっちにいるのは、映姫さまの護衛として優秀だった極卒。私の知り合いも、何人も死んでる。行きつけの居酒屋の飲み仲間や宴会仲間、酒の摘まみで気の合った極卒に何かと絡んできた後輩の死神。

私はその知り合いの一人一人の遺体へ近づき、言葉を駆けてゆく。

 

「死んじまったか・・・あんたの酒、楽しみにしてたのに。お前は、次の宴会で一発芸する担当だったろ?」

「いい摘みが入ったから一緒に飲もうって約束したじゃないか。あたしより先に死ぬんじゃないよ、このバカ後輩。」

 

私は死ぬのが嫌で強くなった。もちろん、普通の努力じゃない血反吐を吐いき女としての尊厳を捨ててまで手に入れた強さだ。

だが、この異常な強さでも今回は苦戦させられた。天使や使徒にてこずったわけではない、ヤクモユカリに膝をつかされたのだ。

屈辱的だった、一瞬我を忘れてヤクモユカリを殺そうとした。しかしそうする前に映姫さまを護ることを優先させた。

映姫さまは、閻魔としては確かにトップクラスだ。しかしそれは、身体能力という面だけだ。

 

(よくよく考えたら、映姫さまを護っていなかったら殺してしまっていた)

 

私は昔から感情で動くことが多かった。だから、今回のことは自分でも成長したと思ってるしよくやったとも思っている。

そして、その結果があれ。見事、正邪との作戦は成功し八雲紫の奪還に成功。雨月時雨も復活しようとしている。

しかし、それでもこの戦局は大いに不利であった。いまだこちらの戦力の3倍を誇る敵。敵味方関係なく滅ぼす西行妖。

私でも、おそらく時雨でも介入ができないルーミア・ブラックムーンとアダム・ファースト。

考えながら、壊れた結界を見上げた次の瞬間。すべてが止まった。

 

「っ!?何者だ!?」

≪うふふ、ご安心くださいませ。私は、今あなた方を滅ぼそうとはしてませんわ」

 

目の前にあの八雲紫とよく似た女性が現れる。

しかし、そいつは黒い。いや、黒いなんて話じゃない。まるで底の見えない大穴のようにどす黒い・・・

私は特注の鎌を構えてそいつに意識を集中させる。

 

「そう警戒しないでください、私はこの子にちょっと細工をしに来ただけですから」

「っ!!その子に何をするつもりだ!!」

 

私は能力を使い一瞬にして八雲紫の隣に立ったそいつの後ろに回り込んだ。

そして、鎌を振り下ろすが・・・

 

「っ!?」

「おとなしくしててくださいませんこと?」

 

薄気味悪い裂け目から飛び出してきた鎖に縛られてしまう。

無理やり引きちぎろうとも、能力を使ってもこの鎖が外れることはなくただ私は無様に捕らわれたのであった。

それが八雲紫の胸に手を伸ばしてゆく

 

「やめろ!その子に手を出すな!」

 

私は必死に叫ぶ、今ここで八雲紫ではなくヤクモユカリを起してしまえば、間違いなくここら一帯は血の海と化すだろう。

 

「そんなこと、させてたまるかぁッ!!」

 

私は鎖を無理やりに引きちぎり、鎌を思いっきりそいつに振り下ろす。

途端、そいつはバッと離れ、私から距離を取った。

そして、どこからか扇子を取り出し口元を隠した。

 

「ふふ、さすが。”元”死神総大将ですね。いえ、この場合はイザ」

「違う!私は、小野塚小町だ!!」

「!!」

「そして私は、ただの船頭だ!!」

 

そう叫びながら、そいつの後ろを能力を使い取る。

私が振るえる全力でそいつを斬りつけようとする。けれども、そいつはかわす。

でも、かわされるなら当たるまで振るだけ!!

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「っ!!」

 

そいつは、扇子を閉じて私の鎌に叩きつける。

叩きつけられた衝撃だけで私は、後ろに吹き飛ばされた。

あいつなんて言うバカげた力だ。ちょっと叩かれただけで50mとは吹き飛ばされたぞ。

 

「ずいぶん、力が強いな!」

「くっ・・・おどきなさい」

 

私の周りに大量の闇が現れ私に向かいレーザーを発射した。

それを私は、能力だけで回避しそいつ頭上に移動する。

 

「くっ・・・どこに」

「上だよ!!」

 

落下の力を加えて鎌を思いっきり振り下ろす。

そいつは、またしても扇子だけで防ぐが片膝だけはつかせることに成功した。

でも、高々片膝だ。そいつが、扇子を強く降り私はまた飛ばされるが

今度は鎌をうまく使い姿勢を直し構えなおした。

 

「・・・さすが。小野塚小町。ではわたくしも」

「っ!!」

 

目の前からそいつが消える。

周りをも渡してもどこにもいない。薄気味悪い笑い声だけが聞こえる。

ふと、背後から危険を感じ頭を下げる。すると、さっきまで頭があった位置に真っ黒い槍のようなものが突き出し

確実に私の頭を突き刺そうとしてた。

 

(あっぶ・・・あっ)

 

冷静になり周りを見渡すとさっきの槍と同様の槍が大量に私に向いていた。

これはだめだ、避けられない。

 

「・・・参ったねぇ。私もここまでか」

「いえ、アナタは殺しません」

「・・・なぜだい?」

「それは、私にとってはとっても非効率的でそれほど価値があるからです。」

「そうかい。」

 

私は、おとなしく鎌を下す。

だめだ、こいつにはいまの”私”ではどうしても勝てない。

だけど、本当の”私”なら勝てるだろう。

中途半端だが、確かに強い力を持つこいつはどうしても親近感の沸く小娘であった。

 

「・・・で、あの子をどうするつもりだい?」

「・・・あの子の・・・ヤクモユカリである部分を封印します」

「だが、それは」

「ええ、あの子本来の能力を半分に抑制する。ということです。」

 

そうなれば、あの子は半分だけ死んでいるということだ。

半分死んでいて半分生きている。まるで、半人半霊・・・いやこの場合は、半妖半霊、か。

そんな状態にするということは、彼女は下手すれば永久を生き永久を見ることになる。

 

「そんなことは許されることなのか?」

「私ならば」

 

するとそいつはさっと触れると、苦しそうにしてた紫の顔が少し柔らかなものになった。

どうやら彼女を蝕んでいたヤクモユカリの分が封印されたようだ。

しかし

 

「目的は済んだ・・・さっさと消えろ」

「・・・ふふ、ええそうしますわ。ではまた≫

「・・・二度と会いたくないね。」

 

そう言って、奴は消えていった。

だが、どうしても周りに何かがいるようでソワソワする。いつの間にか周りも動き出しているし・・・

 

「・・・まったく、やりきれないねぇ。」

 

私は、映姫さまに呼ばれたので声のした方向に移動する。

ああ、畜生。

 

「まずい酒でもいいから、飲みたいねぇ。」

 

不気味に咲き乱れる西行妖が、何しでかすか・・・

それのせいで、やけ酒がしたいもんだ・・・

 

=========================

 

映姫さまの頼みで地獄にある巨大な本倉庫に移動する。

映姫さまは、すぐさま数名の配下に世界樹の本を探すように指示。

私はその間に仮眠を取れということであった。

 

「いいんですかい?いつもならしかりつけるのに」

「ええ、今回はあなたの力が必要なんです。小町・・・いえ”********”様」

「・・・参ったねぇ。うまく隠してたと思ってたんだが」

「ふふ、バレバレですよ。小町」

「そりゃ、残念で。ま、休めるなら休ませてもらいますよ、映姫さま」

 

私は、近くの壁に寄りかかり少しだけ意識を手放したのだ。

 

==========================

side:siki eiki・yamazanadu

 

小町から、静かな寝息が聞こえてくる。

普段なら叱りつけなくてはいけないが、今は少しでも彼女を休ませたかった。

 

(小町は死神たちの中では最高戦力。倒れられてしまったらこちらの負けだ)

 

ただでさえ、相手は個でも精鋭に等しい天使と使徒らだ。

小町という個を失えば、数が少ない群である我々はいても簡単に蹂躙されるだろう。

男の死神たちは殺され、女の死神たちは慰め者に・・・私もどうなるのかは検討がつく。

 

(だけど、そうならないように各地の死神たちも頑張ってる)

「だから、私も頑張らないと」

 

数名の死神たちが世界樹について書かれた本を大量に持ってくる。

私は、彼らにも休むように伝えてその本を一つ一つ流し読みだが読むことにする。

流れるように書類を処理してきたらからか、最初のページから最後のページを素早く流してもしっかりと内容が頭に入って来た。しかし、この本たちに書かれている世界樹は宗教的なものばかりだ。

だが、それがどこか引っかかる。

 

(西行妖・・・枯れた桜の木・・・死をもたらす木・・・・・・生命を操る・・・・・・ユグドラシル)

「違う・・・でも、何か関係が?」

 

西行妖は、樹齢300年ぐらいの妖怪桜だ。

ただ美しく咲いていた西行妖は、西行法師の娘、西行寺幽々子が誕生したと同時に能力を変容させ”死を誘う”危険な桜の妖怪となり果てた。

しかし、ユグドラシルは違う。

ユグドラシルは、世界を支える大木。死を誘ったり操ったりなどはするはずがない。

だが、そこで何か妙な引っ掛かりを覚える。喉に魚の小骨が刺さったかのような不快感・・・

でもなぜだが、知っているはずなのに思い出せない。

 

「違う、忘れさせられている?」

 

例えば、今回の首謀者”アダム”もしくはその妻”イブ”によってだろうか。

いや待て・・・では”イブ”は、なぜ姿を見せていないのであろう。最初からいない?いや、まず”アダム”と同じではない?アダムは、何千何万何億というバカげた時代を生きている存在だ。しかし、その”イブ”が仮に”ユグドラシルを目覚めさせる鍵だったら”、”イブ”が”アダム”とは違い神ではなかったら。”

”イブ”がなぜ古今東西の神々の間で一度も顔を見せたことがないのか。

 

もし”イブ”の子孫が西行寺家であったら・・・・・・

 

「っ!!そういうことか、思い出したっ!!」

 

間違いない、西行妖は”変質してしまったユグドラシル”。幼いころそれを封印するために幽霊となった”西行寺幽々子”は”イブの先祖返り。”イブ”が”死を誘う程度の能力”だとしたらそれがすべてつながる。

つまり”アダム”達の目的は、人類の救済などではない

 

「人類の抹消・・・再構築っ・・・」

 

なんと愚かでバカバカしいことだ。

人類を抹消し、再び再構築しようとも、うまくいくはずがない。

そんなことをすれば、”幻の大陸”に眠る古の神々が怒り狂うに決まっている。

 

「つまり、アダムたちの最終目標は”西行妖”の制圧および覚醒。”イブ”である”西行寺幽々子”の確保。」

 

こうしてはいられない。

 

「小町たち!起きなさい!敵の目的が判明しました!支給防衛線を張ります!」

「ふあっ・・・・・と、了解いたしました!おい、お前ら起きな!!」

 

私の号令で死神たちが動き出す。

小町に捕まり元の場所に戻ればあの凄惨な医療拠点だ。

私の目の前にいるのはすっかり回復した”伊吹萃香”と”星熊勇儀”、”風見幽香”達であった。

 

「貴女方も協力願えませんか。」

 

もし、これが失敗してしまえば。

世界は確実に終わってしまう。

 



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第三十一話 ”破滅の前の静けさ”

side:siki eiki・yamazanadu

 

「私たちは今、世界の命運を前に死地に立っています」

 

いま、動けるうえに戦える死神たちを前に私は言葉を発する。

おそらく、彼らはもうすでに戦意を喪失しているのだろう。

当然だ、相手はこちらの倍近くの戦力を有する大軍団。

偵察してきた死神によると、増援が到着し先ほどの10倍の数はいるという。

しかし、こちらの死神の数は間違いなく最初の3分の1まで落ち込んでいる。

仕方のないことだ、相手も命がけで突撃してくるのだから。

 

「命を落として、未来を閉ざされた者たちは・・・あまりにも多い。」

 

私の知り合いの死神たちや極卒たちも・・・皆、命を落とした。

それだけではない、中には幸せを掴もうとした死神たちもいた。

それを見ずに終わってしまったのだ。

 

「死んでいった彼らを・・・このまま犬死になどさせてはなりません!!敵は強大、このまま立ち向かえば生き残った私たちも全員死ぬでしょう。」

 

敵は、ユグドラシル・・・つまりは西行妖と西行寺幽々子を全力で手に入れようとする。

彼らも、所詮はアダムにいいように使われているだけなのだろうが・・・。

しかし、そんな彼らも偽りのアダムの理想に惹かれて全力で攻撃してくる。

 

「ですが、私たちは立ち向かわなければなりません!!このまま見過ごせば、世界は滅びアダムの思惑通りになってしまう!!死んでいった彼らの死は無駄となり我々も悔しさの中で死ぬでしょう!!ですが、世界では抵抗を続ける者たちがいる!!そんな中、我々があきらめていいのでしょうか!!」

 

私の言葉を聞き入れた死神たちは段々と力が入ってゆく。

 

「我々があきらめてしまっては、彼らの努力も無駄となる。それどころか、人類は滅び、この世界そのものがなかったこととなるでしょう!!そんな暴挙を許しますか!?」

 

「いや!ゆるさねぇっ!!」「そうだ!!この世界はあいつなんかの為に滅びていいものじゃねぇっ!!」「くそ野郎”アダム”を許すな!!」

 

「生き残ったあなたたちは、精鋭だ!!先の大戦で生き残った英雄だ!!故郷を・・・世界を護るために立ち上がった英霊だ!!そんなあなた達が負けを味わったままでいいのか!!」

 

「「「「「否!!」」」」」

 

死神たちの声が全員揃う。そして、叫び声をあげそれぞれの覚悟を示す。

 

「ならば、我々は勝たなければなりません!!敵が強大??知ったことじゃない!!我々は戦い!!そして勝つ!!我々は何だ!!」

 

「「「「「「死神だ!!」」」」」」

 

「では、死神とは何だ!!!!」

 

「「「「「「「「死を与える存在だ!!」」」」」」

 

「我々の敵に与えるのは媚び諂う精神か!?」

 

「「「「「「「「否!!それは唯、死である!!」」」」」」」」

 

死神たちが叫び声をあげ、再びの戦意を燃え上がらせる。

彼らが声を合わせると、この冥界が大きく揺れ地響きまで聞こえてくるようだ。

 

「我々の全力を示せ!!防衛線を展開せよ!!」

 

「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」

 

死神たちが大急ぎで移動し始め山間に囲まれた白玉楼を護るように硬く厚く展開する。

唯一の入り口である谷に戦力を集中させ、後方の死神隊には飛んできた使徒や天使たちを落すように指示する。

大急ぎで防衛陣が展開される中、運がいいのか本当の地獄に努める死神隊の本隊が到着した。

私が管理している地獄の死神と極卒たちも中々の精鋭だが、この本隊はそれすら超えてしまう。

これでなら、もうしばらくは耐えきれるだろう・・・敵の総大将がこなければの話だが・・・

 

「映姫さま、第1防衛線展開完了しました!!続く第2第3防御線も順当に展開しつつあります!!」

「よろしい・・・」

 

私は、目の前に広がる光景を見る。

地平線には無数の光がうごめき、本当に使徒や天使が発している光には見えない。

 

「・・・映姫さま」

「小町ですか、休めましたか?」

「・・・ええ、今までの分。しっかりと」

 

そういう小町は気が滅入っているようだ。

戦いが終わったと思ったら、今度は全員が死ぬかもしれない戦いだ。

誰だって、正気なはずがない。

ここにいる防衛陣を作っている死神たちも、私の掛け声でやる気こそ見せているが倒され命尽きることは全員予測済みだろう。

 

「映姫さま、私からお願い事があります」

「却下です。私は逃げません。」

「にげ・・・・・せめて、最後まで言われてくださいよ。」

 

やはり優しい小町は私だけでも逃げるように言ってきた。

小町が危惧することもわかる、もし生きたまま捕まれば辱めを受けることは間違いない。

それにもし捕まらないとしても殺されているでしょう。この山間の谷・・・しかも入り口と言うのは、逃げ場がない。もちろん、防衛に向いてはいるが背水の陣なのだ。

 

「どうしても、ですか?」

「ええ、これ以上言うならあなたのお給料を3ヶ月ほどカットしますよ?」

「ひっ、ちょっ、それは勘弁してくださいっ。」

「・・・ふふ、冗談です」

「笑えないですよ~、映姫さま~・・・」

 

二人で笑いあう。

今はこうしているだけでも気持ちが安らぐ。

私は、つい不安となり小町に抱き着いた。

小町は、不安がってる私を案じてくれたのかそっと抱きしめてくれた。

 

「今だけ、今だけこうさせてください」

「・・・いいですよ、映姫さま」

 

=====================================

 

side:hosiguma yuugi

 

「ああ、どうもイライラする。」

 

あたしは死神たちが作り上げた防衛線・・・その第1防衛線の前に立ってやがて来るであろうあいつらの軍隊をにらみつける。まだヤクモユカリに倒されたのはまだよかった。

八雲紫にはあんな力が秘められているとわかったから、鬼というものはいつだって全力の戦いを望む。

あの時、ヤクモユカリは間違いなく全力であった。

 

「だけど、あれが本能ではなく理性で制御されてたら・・・」

 

間違いなく、私どころか外で暴れているルーミア・ブラックムーンよりも強くなれるだろう。

だが、ヤクモユカリの力はだめだ。あの力は確かに強くなれるが大切な何かを失って初めて使える力だろう。

だから、幸せに包まれている八雲紫には無縁の力だ。

できることなら、もう二度と姿を見せないことを願うばかりだが・・・

 

「そうとも言えないねぇ・・・」

 

もしあれが、何かの拍子でまた暴走したら・・・今度こそ、真の力が解放されて世界は滅びを迎えるだろう。

間違いなく、ヤクモユカリの力はそういう力だ。

それに、もうあれは倒された。なら今は目の前にいる大量の軍に集中しよう。

 

「ざっと数えて10万強。こっちは1万弱・・・大博打にもほどがある。」

「分の悪い賭けは嫌いかい?」

 

隣にあたしの仲間であり親友の萃香が現れる。

どうやら全世界に散らせていた自分を回収したようだ。

 

「いいや、嫌いじゃないね。怪力乱神としての理性が疼くよ」

「へー、なら前哨戦で私とやりあうかい?」

「よせよ、戦う前に消耗する気はないぞ」

 

冗談交じりに萃香が言ってくるが、軽くあしらう。

今は、ちょっとでも力を回復させることが優先であり、消費することは愚者がやることだ。

まあ、あちらさんではそれが行われているらしいのだが・・・

 

「さて、萃香。ひとつ賭け事しないかい?」

「・・・もしかして、どっちが多く敵を倒せるか、とかそういうの?」

「大正解。ルールなし、何でもありの点数戦。負けたら買った奴に最高級の酒をおごる。もちろん、樽ごと」

「ひー、そりゃ、全力でやるしかないねぇ・・・」

「上等、あんたの財布すっからかんにしてやる」

「勇儀が賭け事で私に勝ったことないからって・・・こういうやり方は、まあ鬼らしいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い・・・ここはどこだろう。

 

 

ああ、”――――”・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

助けて。

 

 



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第三十二話 ヤクモ■■

またガバガバな理論がありますが温かい目で見てください


side:???

 

ざっざっ・・・

 

私は薄暗い森の中を歩く。

どことなく私とあの人が出会った森に似ているが、あの森の近くに妖怪の山や紅魔館に似た屋敷などあるはずがなく、ここが現実の世界ではないという個とは一目瞭然だ。

 

ここは、ヤクモユカリと八雲紫をつなぐ泡沫の記憶の一欠けらだ。

じゃあ、ヤクモユカリと八雲紫は何なのかを私が説明しよう。

この私がその点に関しては良く知っている。

 

まず、事の始まりは八雲紫がぬらりひょんに捕まる前に遡る。

もちろん、ぬらりひょんから逃げ出した時が事の始まり・・・世界の命運が始まっていた。

この時から、アダムは八雲紫と西行寺幽々子を観察していた。

アダムがなぜ、八雲紫と西行寺幽々子に執着していたのかは、彼女たちの生まれに関係する。

西行寺幽々子は、イブの子孫。対して八雲紫は、アダムの最初の妻であるリリスの子孫なのだ。

だが、わかっているのは八雲紫がリリスが生んだ一人ということだけだ。西行寺幽々子の方も同様、イブが生んだ子の一人ということはわかるのだが・・・

何処がどうなって彼女たちが生まれたのか、そこがわからない。

西行寺幽々子の方は、人間として生まれ、西行妖を封印した際に、先祖帰りを起こし永久を生きる生霊となり、アダムの確保対象となった。

対して八雲紫は、最初からリリスの先祖がえりを起こしていたわけではなく、またヤクモユカリの力がリリスの力というわけでもない。

だが、リリスの力が覚醒したのが真の八雲紫の力だ。

 

まあ、生まれ云々は置いといて。

実は、ぬらりひょんに捕まる前にもう一体の妖怪に出会っていた。

その妖怪とは、九尾の狐である。もちろん、八雲紫が出会ったのではなく、九尾の狐が一方的に見つけて八雲紫の内側へと隠れたのだ。

それがヤクモユカリの力の源でもあり、八雲紫が不安定化した原因 でもある。

 

「見つけたわよ」

「・・・・・・」

 

しばらく歩けばソイツを見つけた。

美しく神々しく、金色に輝く9つの尻尾。

これがヤクモユカリであり、私の始まりでもある。

 

「さて、どうして」

(この子に入ったのかそれを知りたいのであろう?)

「お話がわかるようで」

 

ソイツはじっと私を見つめ、念話でそう答えた。

言葉を理解しなおかつ伝えることもできる。

間違いなくこの狐は、知性がある。しかも半端な知性ではない。

 

(私が助かるにはこれしか無かった。としか言い様がないな)

「それがこの子を不安定にしてでも?」

(申し訳ないとは思っている。この子にも妖怪生があるのだし、あのぬらりひょん達を呼び寄せたのは私だ。)

 

この狐、腹黒いな・・・

しかも頭も回る・・・なんて厄介な相手なのだろう。

こういうのを相手にするのは本当に苦労する。

 

(あのままだと、主はアダムとか言うやつに連れ去られていただろう、あの時はあのぬらりひょん達に捕まった方が助かるリスクが多かった。)

「だからといって、八雲紫を不安定にするのはどうなの?」

(・・・主が成長するためにはそれしか無かった。)

 

この狐の言っていることも理解している。

雨月時雨に保護されず、アダムに保護されたのが私だったから、そしてその結末がどうなったのかよく知っている。

この狐は、それすら見通しぬらりひょんに八雲紫を捕えさせ、雨月時雨に合わせたのだ。

 

(しかし結果は君の望む通りとなった。違うか?)

「っ・・・違いません。」

 

この狐はどこまで織り込み済みなのだろうか

この子が願う幻想郷までか?それとも、それより先の未来か・・・

 

(それに、君がここに来たということは私も現世へと戻り、八雲紫の式神として活躍せねばならまい)

「ええ、それがいい(そして、貴様をいつか殺す)・・・ふふっ。」

 

ああ、この狐は私の想像以上だ。

私の中には彼女はいない、私が潰したから・・・

でも、彼女と手を組んだ八雲紫はどうだろう。

 

(それまで楽しみにしているといい、常闇)

「ええ、楽しみにさせてもらいますわ。」

 



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第三十三話 絶望的な…

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side:yakumo yukari

 

「うっ・・・うううっ」

 

目を覚ます。何か悪い夢を見ていたような気がするが、気のせいだろう。

起きて早々、私の目に飛び込んだのは茶色くなっている布の天井。

 

「ここ・・・は?」

 

上半身を起こし、周りを見渡してみる。

見渡してみたけど何もわかるはずがない。

 

「よいっ・・・しょっ」

 

仮設ベットから降り、布の外側に出てみる。

周りには野営陣地と思わしきものが大量に張られており、また防壁の上では大量の死神さんたちが何かを迎撃していた。

 

「!!・・・八雲紫さん!!」

「??」

 

私の名前が呼ばれたのでその方向に向く。

そこには、傷だらけでボロボロの閻魔様がいた。

きれいでスタイリッシュな服はボロボロ、被っていた帽子もどこかに行ってしまったようだ。

 

「ここは危険です、早く逃げて・・・ああ、でもどこに逃げればっ」

「おっ、落ち着いてくださいよっ」

 

慌てた様子で、私に近寄り逃げるように言う。

しかし、どこにも逃げ場がないらしく慌てている。

私は、そんな映姫さんをなだめて状況を聞き出す。

 

「すみません、私としたことが・・・状況は依然とよくなりません。何とか目覚めた、星熊勇儀さんと伊吹萃香さん、風見幽香さんたちによって何とかもっている状況です」

 

どうやら確認に行った直後、私は何らかの手段によって暴走し、いろいろあってこの状況になっているらしい。

そして映姫さまは相手・・・アダムたちの目的を私に教えてくれた。

おそらく敵の目的は、ユグドラシル・・・西行妖の制圧と西行寺幽々子の確保。

幽々子ちゃんは現在行方不明。西行妖は現在一時的な暴走を終えてまた元の封印状態でおとなしくしている。

しかし、死神さんたちが築いた防衛線が破られれば間違いなくそれは再び暴走する。

 

「あのっ」

「八雲紫さん、あなたはできるだけ遠くに・・・アダムの力が及ばないような場所へ逃げてください。」

「映姫さんッ!!」

「これぐらいしか方法がないんですよ!!」

「私は、あきらめたくなんてありません!!」

 

そう、師匠と出会う前はあきらめてばかりいた。

食べ物を集められなくて諦めて、平穏がないことを嘆いて諦めて・・・

ついには生きる事すら諦めていた私・・・だけど、だけれども。

私の初めては好きな人がいいという実に私らしい我儘で諦めることをやめて逃げ出した。

その結果が、時雨師匠との出会いだ。それからというもの、私は諦めるということをやめた。

 

「私は、もう逃げたくないんです。逃げて何も得られなかったから、逃げても何もなかったから。」

「何もないなら私は立ち向かう、その先に何があろうとも、絶望だろうが希望だろうが私は進みます。」

「諦めが肝心な時もあるでしょう・・・ですが、私は諦めることを知らない女です!!」

 

「・・・わかりました。貴女の覚悟を、尊重しましょう。」

 

私の覚悟を心を込めて叫ぶと、観念したかのように映姫さまがそういう。

そして、私自身の覚悟にこたえるかのように力があふれてくる。

 

「行きなさい、八雲紫。今の貴女は疑いようのない白です。」

「・・・はいっ!!」

 

映姫さまの後押しを受け私は、その場所から飛び出す。

ふわりと体を浮かさせ、死神さんたちが大急ぎで築いた防壁モドキを飛び越える。

そして目の前に広がるのは大量の使徒と天使の群れ。

その群れに向かい私は・・・

 

「我こそは、八雲紫!!私を倒したければかかってきなさい!!」

 

そう叫んで空いている場所に高速で降り立った。

ああでも・・・師匠がいないと、やっぱり怖いな・・・

怖がりな私を隠すように、叫び声をあげて私に向かってくる使徒と天使に弾幕を放つのであった。

 

=========================================

 

side:Rumia blackmoon

 

何度目か分からない斬りあい・・・それでも奴に私の剣は届かない。

 

「ははは、ずいぶんな挨拶。ご苦労様、私の愛しいルーミア」

「ふざけるなっ・・・貴様にその名前を許した覚えはないっ!!」

「あの時は、あんなに甘い声を聴かせてくれたのにかい?」

「黙れっ!!」

 

ああ、どうしてだろう。安い挑発にどうしても乗ってしまう。

こいつが言葉を発するたびに虫唾が走る。ああ、早く殺してしまいたい。

さっさとこのバカげた復讐を終わらせ、あの人とあの子のお墓参りをしたい。

 

「怒ってる君も愛らしい・・・しかし、おいたが過ぎるよ?ルーミア・”ファースト”」

「黙れって言ってるでしょ!!それに、私は黒月 ルーミア・・・ルーミア・ブラックムーンだ!!」

 

私の好きな人の・・・八十禍津日神の・・・唯一のキズナ。

あの人は、優しくて私を一生懸命愛してくれて・・・とっても人間よりも人間らしかった。

あの人が結婚するときに名乗った”黒月”の苗字は、私の大切なものだ・・・

それすら奪われることは・・・絶対に許されない。

 

「このっ!!」

 

アダムの周辺に闇を発生させその闇から、闇を硬質化させた槍を突き出す。

ひらりと交わされるが、容赦なく追い詰めようと迫撃を繰り返す。

しかしそれはすべてのらりくらりとかわされてしまう。

どうしても、私だけの力じゃ・・・・届かないというの??」

 

「しかし、君がいるなら。アイリスもいると思ったんだけど・・・どこにいるの?」

「さあ、知らないわっ!!それよりも、早く死ねっ!!」

「ひどいなぁ・・・久々に、アイリス・”ファースト”にも会いたかったのに」

「・・・ふざけるなっ!!」

 

怒りの感情とアイリスの怒りの分も合わせて、私が出せる最高速度で斬りかかる。

でも、その攻撃はアダム専用の”始まりの剣”によって防がれてしまう。

そして、へらへらとした笑顔から一転真顔になって

 

「ふざけてるのはお前らだ。」

「っ!!」

「いつまでも居もしない男にすり寄って、何様のつもりだ!!私の妻ならば私だけを愛せ、そして私の子を産め!!」

「あんたみたいなくそ野郎は死ねばいいのよ!!」

 

そう言って、アダムの腹を思いっきり強く蹴り飛ばす。

大したダメージはないようだが、今は少しでもダメージを入れられたことに安堵する。

そして、油断をしないように常にアダムに集中するのであった。

 

「っ・・・蹴ったな、夫であるこの私を!!」

「蹴って何が悪いの?!このクズ男!!あんたなんか腐り落ちて死ねばいいのよ!!」

 

全力の力を振り絞り、アダムに剣を振り下ろす。

アダムが激昂したことでできた一瞬の隙を突いたので、アダムは驚き防御も回避もできなそうだ。

勝った・・・これで私はっ!!

 

「甘い!!」

 

アダムが何かを発動させ、私の体が硬直する。

 

「っ!?はぁっ、はぁっ・・・」

 

そして、反比例するように体の疼きが大きくなり始める。

この男、まさかっ

 

「ふふふ、私が何もしないとでも思ったか?」

「はぁっ、はぁっ・・・」

 

強制的に私の欲を操った・・・畜生、こんな時にっ

 

「ふふふ、心配はない・・・またあの時のように優しく可愛がってやろう」

「っ・・・」

 

こんな奴に触れられるぐらいなら、自殺して

 

≪我こそは、八雲紫!!私を倒したければかかってきなさい!!≫

 

遠くから、あの子の叫び声が聞こえる。

あの子が自分自身を激昂するように、そして死神たちを勇気づけるように

私を・・・正気に戻すように。その掛け声で、私の体の疼きが収まる。

不思議だ、あの子の声を聴いただけで私は興奮を抑えてしまうのだから。

あの子には特別な何かが備わっているのだろう、私はそれに後押しされたんだ。

そうだ、あの子だってあんなに頑張ってるんだ。

あの声の裏側は雨月時雨に会えないから不安で怖くて仕方ないのだろう。

あの子が頑張って戦ってるんだ・・・私だって

 

「なんだ?うるさい羽虫め・・・まあいい、さあるーみ、がっ!?」

 

手を払いのけて全力でアダムのあごにこぶしをめり込ませる。

完全に油断しきっていたアダムはそのアッパーだけで軽く300mは吹き飛ぶ。

アダムの口からは、はっきりと血が流れており有効打につながったようだ。

 

「なぜだっ・・・なぜ自力で己の欲に打ち勝った!?」

「ふふ、それは私だってそこまでして手に入れたい物があるからよ」

「っ・・・馬鹿な!!あのハゲジジイのような真似ができるものか!!」

「うふふ・・・今の私は、とぉぉぉっても気分がいいの。だから、」

 

「惨めたらしく、そして無残で残酷に、食い散らかしてあげる。」

 

その一言を言った途端、一回も崩れたことのないアダムの顔が恐怖に歪んだ。

 

 



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第三十四話 紫と藍

八雲紫が復帰、突撃したのを皮切りに死神たちの士気が跳ね上がる。

踊るように使徒や天使を倒す八雲紫のその姿に勇気づけられ、我先にと敵に突っ込み始めたのである。

そんな八雲紫を見た、星熊勇儀と伊吹萃香、風見幽香は防戦から攻戦へと移行。

包囲網の一点突破により、使徒や天使たちの士気統制は一気に失われバラバラに動き始めてもはや集団戦において死神たちの優勢は明らかだった。

 

そんな中、ルーミア・ブラックムーンとアダム・ファーストの戦いにも決着がつき始めていた。

徐々にルーミアがアダムのペースを乱し、狂わせ、自分のペースに巻き込んだことで完全にルーミアが圧倒しているのである。

更に、ここで来ないと思われていた欧州の吸血鬼連合”アイリス一派”が援軍として到着。

 

完全に天使と使徒たちの軍隊は瓦解した。

しかし、天使と使徒たちも最後のあがきのように八雲紫を集中攻撃し始めたのである。

 

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side:yakumo yukari

 

12体を超えるとても強い天使と使徒に囲まれる。

この12体は、明らかに私が叶わない相手だ。

逃げることも、戦うことも敵わない。もう何百体かは忘れたけど、かなり長く戦って私も消耗している。

 

「はぁ・・・はぁ・・・畜生っ」

 

小さく毒づく、どう見ても私を倒しに来ている。

いや、明らかに殺そうとしている。

 

「手間取らせてくれたな・・・お前たち!一気に畳みかけるぞ!」

 

その言葉を皮切りにそいつらが一斉に飛び掛かる。

ああ、だめだスキマを展開する気力さえ残ってない。

私に手段はもう残されていない。アイリスに渡されたあれも、使用には妖力が必要で、その妖力すら残っていない。ああ・・・私は、ここで終わるの?終わりたくない・・・でもっ・・・

 

「もらった!!」

 

・・・これで、終わり・・・なのね。

 

「らしくないですね。」

 

諦めかけたその時、私と同じ姿の少女が私の目の前に現れる。

その禍々しい力は、どこか知っている。いや、今日、その力をふるったじゃないか。

その力は、紛れもない”ヤクモユカリ()”の力だ。

 

「なっ!?」

「邪魔だ、今私はこの子と話してるんだ。」

 

”ヤクモユカリ”は、飛び掛かっていたそいつら軽く殴る。

すると、そいつらは何かに強く殴られたかのようにどこかに吹き飛んでいったのである。

 

「さて、こうして対面するのは初めてですね」

「・・・貴女は、私なの?」

「いえ、私は九尾であり、あなたではありません。この姿をしているのもまだ私の力が不完全なのです。」

 

彼女がとある記憶を私に流し込んでくる。

あのぬらりひょんに捕まる前、捕まったあと、師匠にあったそのあとすべての記憶を見せてくれた。

 

「貴女には、申し訳ないことをした。そして私は、貴女に返せないほどの恩がある。」

「・・・どうして?」

「・・・私に、名を。貴女様から、私に。」

「名前・・・今じゃないとだめなの?」

「ええ」

 

そんなに急に言われても・・・

 

「・・・そうだ、藍っ・・・八雲 藍なんてどう?」

「八雲・・・藍?」

「そう!紫の近い色!!」

「・・・藍・・・八雲藍・・・私の名前。」

 

そう名前を付けた途端、藍の姿が変わった。

金色でキレイな九つの狐のしっぽ、私とは違う女性らしい姿に変わる。

その姿は、どこか私と似ていて、私とは似てないところも多い。

だけどいえることは、八雲藍は私の力を少しだけ持っている。

 

「不肖、八雲藍。これより、八雲紫に仕えましょう。」

「藍・・・早速だけど」

「ええ、」

 

藍との契約(?)が果たされた途端、さっき藍が吹き飛ばした使徒と天使が戻って来た。

藍を見た途端、警戒するけどこの数なら負けないだろうと油断している。

 

「いまさら数が増えたところで・・・ガキが!!」

 

そいつらがじりじりと私たちに近寄ってくる。

 

「藍、」

「はい、なんですか?紫様」

「勝つわよ」

「そのつもりです。紫様」

 



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第三十五話 暴走と死の象徴

速かった・・・・

 

 

 

 

 

 

私には、何も見えなかった。

 

 

 

 

 

 

一瞬にして目の前を死が通り過ぎ、そして何事もなかったかのように

 

 

 

 

 

 

”藍”を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

目の前には、眩暈を催す木の根っこ。

 

 

 

 

だけれど、それが纏う雰囲気はどこか覚えのあるもの・・・

 

 

 

 

私は、防衛線のそのまた向こうの枝垂れ桜を眺める。

 

 

 

 

 

「貴女なの?幽々子」

 

 

 

 

紅く、黒い桜の根がまるで私を護るように地面から突き出ていた。

 

 

==============================

 

side:ru-mia

 

「くくくく・・・はーはっはっはっはっ!!」

 

再び西行妖が目を覚ました途端、目の前のボロボロのゴミカス・・・アダムは笑い出した。

私とアイリスに”魔剣グラン”と”リィーンカーネーション”を向けられているこの状況で、だ。

 

「何がおかしいのじゃ?」

「これが笑わずにいられる状況?!あはははは!!おかしいね!!」

「ついに気が狂ったか・・・」

 

「君たちの負けだ。」

 

アダムがそう言った途端、私たちの足元から不気味な根っこが飛び出してくる。

私とアイリスはそれをかわし、ふわりと宙に浮かぶ。

 

「あーはっはっはっはっ!!」

 

そしてその根はどういうことなのかアダムを護るようにうねうねとしだす。

アダムは余裕そうに高笑いを続けるが、根はそれを介さないようにただ私たちに敵意を向けているのである。

どういうことだ・・・それに、この根から噴き出す死の匂いは・・・

 

「まさか、西行妖?」

「さいぎょう?・・・なんじゃそれは」

「あれ」

「ああ、納得」

 

おそらく封印が完全に戻った西行妖をアイリスに指さすことで分からせる。

さっきまでは少ししか華を咲かせていなかった桜の妖怪は、今やすべての桜の花を咲かせる凶暴な存在へと姿を変えた。

 

「この感覚、幽々子ちゃんね」

「わかるのか?」

 

そう、このどことなくほんわかな雰囲気、だけどどことなく強い風格を持つそれは幽々子ちゃんのそれだった

あの子は、もしやあの妖怪に取り込まれてしまったのだろうか・・・いや、それはないはず。

いくら死を誘う妖怪と言えど、人を食うはずなどはない。

ということは・・・

 

「何をした、アダム」

「あーはっはっ!!何をした、だって!?そんなのあそこにいた小娘をユグドラシルに捧げたのみ!!!」

「っ!?貴様!!」

「ユグドラシルが目覚めた今!!私は無敵なのだ――!!」

 

護りに集中してた根は私たちを殺そうと伸び始める。

私はそれを、人達で切り伏せアダムに切りかかる。

縦に振ったグランをアダムは左によけグランを左に振るがアダムはそれを屈んで避ける。

 

「っ!?」

 

そして私を弾き飛ばそうと攻撃してきた根をグランで防ぐ。

アイリスは、リィーンカーネーションを魔力媒介にして大量の魔法陣で根を焼き払う・・・

しかし、攻撃すればするほどアダムの高笑いは大きくなり、根の数は増えていく。

 

「いいぞ、いいぞ!!ユグドラシル!!私の邪魔をするものすべてを壊せ!!」

「くぅっ・・・近寄れないっ」

「ルーミア!!これ以上は危険じゃ!!引くぞ!!」

 

アイリスが転移魔法を発動させる。

アダムがいた場所から2キロ離れた場所に転移したようだ・・・

それでも、巨大に変質した西行妖がここからもよく見える。

おどろおどろしく禍々しく、そこら中から誰彼構わず悲鳴が聞こえてくる。

 

「・・・・・・あれが、そうなの?アイリス?」

「ああ、あれが呪いの樹、ユグドラシル・オルタ・・・じゃ」

 

アイリスの夫で、私の親友・・・クリスが最後の最後でユグドラシルについていた呪いを別世界の木として

定着させた姿、クリスが死んだ今、アイリスしか知らなかった最悪で災厄の樹。

全ての命を奪い、すべての命を呪い、すべての命を蝕む、暗黒樹・・・そして、この世界すべての必要悪

 

「あれを、倒すことは?」

「不可能じゃ、できるのは封印までじゃろうな」

 

今は元の半分しか力を出し切れていない、何せまだ紫ちゃんを取り込んでいないからだ。

おそらく、あれは西行寺幽々子と八雲紫の両名を取り込むことで真の力・・・

全ての命を無に帰す力を出すことができるのだろう。

 

「アイリス、私はこの世界なんてどうにだってなっていい」

「うむ」

「だけど私、最近気になる物があるの」

「奇遇じゃな、わしもじゃ」

 

「そのために、あれ。封印しよう」

「・・・そうじゃな」

 

私は、グランを。アイリスはリィーンカーネーションを構え直し西行妖の方へと向かう。

・・・おそらく、あれさえ倒せば」

 

====================

 

side:sigure

 

意識が段々と明らかになる。

目に入る空は曇天に包まれており、そしてとても禍々しい雰囲気を周囲に漂わせている。

体を起こしあげれば、周りには大量にある死骸の山・・・

それも、ただの死体ではない巨大な根に突き刺されて死んでいる。

死神も、使徒も、天使も関係なく・・・

 

「・・・この根は、あの子?」

 

ついこの前、いやおそらく昨日ぐらいだろう。

その時に紫ちゃんと幽香と仲良くなって、俺をあの屋敷に止めてくれた主・・・

西行寺幽々子、そのものの雰囲気を纏っているその根は、今や突き刺した死体から血を吸うようにたたずんでいる。懐に刺してある、形見の刀”雨簾”を軽くその根に向かって振る。

根はそのまま倒れ、死神の遺体が落ちてくる。

恐怖で固まった表情のまま死んでいるその遺体を、そっと目をつぶらせて西行妖のある方向へと向かう。

今自分がすべきことは、すべて理解している。

 

”あれ”を封印しないといけない。

 

 

 



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第三十六話 終わりと始まり

side:sigure

 

伐る、伐る・・・

俺に伸びてくる西行妖の根を伐る。

 

伐りながら進む、

西行妖の麓に行くために。

 

「止まれ!!貴様何者だっ!!」

 

目の前におそらく敵が現れる。

恰好的には天使だろうか・・・そいつが瞬きした瞬間に斬り捨てただ西行妖の元へと向かう。

 

===================

 

しばらく歩いて、ようやく白玉楼の石畳の階段までこれた。

”ソコ”はまるで死その物のように存在し、そこにあるすべてを腐らせ操っていた。

 

「・・・動く屍・・・か。」

 

天使も使徒も死神も関係なく、樹の根に操られている哀れな亡者たち。

 

「「ッらぁっ!!」」

 

だけどそれは、一掃されてしまった。

隣には見覚えのある金色の髪を持つ女性と、特徴的な角を持つ少女がこぶしを突き出していた。

勇儀さんと萃香さんだ・・・どうやら無事らしい。

 

「へっ、死んだと思ったらいい面構えじゃねぇか。時雨」

「勇儀さん・・・いいや、俺はまだまだ甘ちゃんですよ」

「お、わかってるじゃん時雨!」

「萃香さん、それ嫌味?」

「嫌味じゃないさ、わかってるなら十分。ここは私たちに任せていきな」

 

萃香さんと勇儀さんが拳を構えつつ俺にそういう。

・・・ああ、ここは任せることにしよう、俺はやらないといけないことがある。

 

==================

 

side:suika

 

私たちが作った道を時雨は駆け抜ける。

私たちは時雨が少しでも通れるようにと屍たちを相手に大立ち回りをする。

殴る、砕く、潰す・・・やってもやっても増えるばかり。

それでも私たちは、引き受けちまった以上やるしかない。

もしやられたり、逃げたりしたら鬼の恥だ。

 

「勇儀!!」

「なんだ!!」

「終わったら宴会開こう!!」

「いいね!!つまみはどうする!?」

「そんなの、酒で十分さ!!」

「そうさな!!」

 

だから、私たちは死ぬわけにはいかない。

 

==================

 

side:sigure

 

白玉楼の正門にたどり着いた。

そこにはすでにボロボロの妖忌さんが刀を構えて立っていた。

 

「・・・妖忌さん」

「この先は、立ち入り禁止だ。引き返せ」

「それでも、俺はいかなくちゃならないんです」

「すでに貴様の弟子が向かった。それで十分だ」

「・・・・・・」

 

紫ちゃんが?

確かに紫ちゃんの能力なら何とかなるだろう・・・でもそれだけではだめだ。

それだけだと、悲しい結末しかならない。

 

「行かせてください。」

 

妖忌さんの目を見て、そういう。

妖忌さんはそれを受けて、目をつむった。

そして、持っていた二つの刀を地面に突き刺した。

 

「いいだろう。だが、儂は二度と戻らん。貴様の覚悟が本物ならまた戻るじゃろうて」

「・・・はい」

 

そう言って妖忌さんは静かに消えていった。

おそらく、妖忌さんはあの場にいるだけでも限界だったのだ。

・・・だけど、分からない。

なぜ、妖忌さんは俺を止めようとしたのか・・・彼は、わかっていたのだろうか。

 

==================

 

 

==================

 

「ふはははっ!!あははははっ!!」

 

たどり着いた途端、そんな笑い声が聞こえてくる。

そこに居るのは、俺の知らない男・・・そしてその男の隣で縛られている紫ちゃんだった。

 

「まさか・・・まさかこんなところにいるとはな!!」

 

その男はまるでなくしものを見つけたかのように笑い狂う。

紫ちゃんの服はボロボロで顔も恐怖で染まっている。

まるで、初めて会った時のようにおびえている。

 

「待て」

「っ!!」

「あはは・・・ははっ・・・・・・なんだ貴様は」

 

その男に声をかけると、その男はそう返してくる。

俺を見つけた紫ちゃんがまるで逃げてと言わんばかりに暴れて俺に何かを伝えようとしている。

その男はとても不機嫌そうに俺を見る。

 

「貴様、名は?」

「・・・雨月 時雨。」

「ふぅむ、そうか。貴様が予言で殺すべきと分かったあの雨月時雨・・・か。」

 

その男はとても愉快そうに、そしてとてもイライラするように紫ちゃんに触れる。

 

「紫ちゃんから手を離せ!!」

「ほぉ・・・これから、私がやることに気づいたのか?」

「・・・いいから離せ!!」

「滑稽だな・・・だが、これからとても面白いショーが始まるんだ。邪魔しないでもらおう。」

 

その男が、紫ちゃんにどす黒い何かを送り始めた。

その同時に紫ちゃんは苦しむように暴れ始め、目が段々と黒く染まってゆく。

 

「やめろっ!!」

 

俺は雨簾を抜刀しその男に向かい振り下ろす。

しかし、その男は身動きもせずただ俺を見つめた。

その途端、俺は何かに吹き飛ばされる。

 

「っ!?」

「・・・・・・」

 

それは傘を振り切った紫ちゃんだった。

だけど、普段の優しい雰囲気の紫ちゃんではなく、ただ俺に向けて冷たい殺気を放つ紫ちゃんだった。

着ている服も段々と変化し紫色のドレスから段々と淫らで黒く、禍々しい服へと変化してゆく。

 

「ふふふ、ふはははっ!!!どうだ!!愛しい者を奪われた気分は!!」

「貴様っ、紫ちゃんに何をした!!」

 

紫ちゃんの傘が凶暴な剣へと変わり、俺に向ける。

その眼はとても黒くそして赤い・・・まるで深淵そのもののようだった。

 

「何をしたかだと。ふはは・・・ふははははははっ!!それすら気付けぬ愚か者とは笑わせる!!」

「っ!?」

 

その男は紫ちゃんに優しく抱き着く。

紫ちゃんは俺に殺気を向けてただそれを受け入れていた。

 

「簡単なことだ、このものは私に惚れた。それだけのことだ」

「っ!?」

 

それを聞かされただけで、目の前が暗くなる。

うそ・・・だ。だって紫ちゃんは・・・

 

「それが、貴方の能力。よね、アダム。」

 

いつの間にか隣にルーミアさんが現れる。

もちろん、いつものおっとりとした雰囲気ではなく、仇的に向けるように憎悪の様子だった。

アダム、そう呼ばれた男は大笑いしつつ肯定する。

 

「ああそうだ!!これが私の能力!!女を操る程度の能力だ!!」

「・・・」

「それで・・・それで紫ちゃんを・・・」

「ああ、そうだ!!たとえ、最強であろうとも恋人がいようとも夫が居ようとも!!この能力さえ使えば全員私しか愛せなくなる!!」

 

ああ、段々と・・・あいつを殺したくなってきた。

 

「私が全ての神なのだ。よって、すべての女は私に愛されることを望み、私を愛することが決まっている」

「だ・・・」

「あぁ?なんだぁ?聞こえぬなぁ」

「だ・・・ま・・・」

「聞こえぬと言っておろう。」

「黙れ!!」

 

ああ、何が神だ。こいつは神様なんかじゃない。

こいつは自分が第一の変態だ。だったら・・・

 

「コロス。」

「落ち着きなさい、時雨君!!」

 

アダムに高速で接近し、雨簾を殺す勢いで突き出す。

だけど、そこに紫ちゃんが割り込んでくる。

俺は、そのせいでピタッと止まってしまう・・・だめだ、紫ちゃんを攻撃することはできない。

 

「どいてくれ!!」

「・・・・・・」

 

紫ちゃんが、禍々しい剣を俺に振りかざす。

俺はそれを後ろに飛ぶことでかわし、雨簾を構える。

どうにかして、アダムだけを殺したい・・・だけど、紫ちゃんがそれを阻む。

どうすればいい・・・アダムを殺すには・・・

 

「馬鹿!!」

 

考え事をしているとその声と同時に殴られる。

殴った人はルーミアさんだ、でも、どうして・・・

 

「冷静になりなさい、紫ちゃんは操られているだけよ?」

「それで冷静でいる方が、おかしいじゃないですか!?」

「・・・わかってないわね。」

「?」

 

つい、その言葉がわからなくてルーミアさんの顔を見上げる。

そこにあったのは冷遇な瞳ではなく今にも泣きだしそうな顔があった。

 

「紫ちゃんが好きなら、死んでも構わないでしょ?だったら、死ぬ気で受け止めなさい!!」

「っ」

 

そうだ、自分はなぜ殺すことを優先していた。

俺は紫ちゃんを護り、あれを封印して幽々子さんを西行妖から助け出さなければならない。

そうだ、何を血迷っていた。

 

「・・・そうだ。俺はっ」

 

雨簾を納刀し紫ちゃんに一歩、また一歩と近づく。

 

「ふっ、武器も持たずに近寄るとは、気でも狂ったか・・・殺せ!!」

「・・・・・・」

 

操られた紫ちゃんが禍々しい剣を俺に突き刺そうとする。

 

===============

side:ru-mia

 

ザシュッ・・・

時雨君の背中から禍々しい剣が飛び出してくる。

だけど時雨君は、優しく操られている紫ちゃんを抱きしめた。

 

「大丈夫、俺はここにいるよ」

 

時雨君が紫ちゃんにそう声をかけると、紫ちゃんの方がぶるぶると震えだす。

 

「っ!?どうした!?早くその男を黙らせろ!!」

 

アダムが、能力を使い紫ちゃんにそう命令する。

だけど紫ちゃんは剣を手放しそっと時雨君の胸に泣きついた。

 

「ご・・・めん、な・・・・・・さい。」

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

「・・・だから、ゆっくりと休んで。」

 

時雨君が、紫ちゃんに優しくそう声をかける。するりと、紫ちゃんは力なく崩れ落ちた。

黒い破廉恥な服も元に戻り刺さっていた剣も元の傘に戻ってゆく。

 

「なぜだ・・・なぜだ!?」

 

アダムは、それがなぜだかわからず混乱し始める。

 

「簡単なことよ、アダム」

 

私はそんなアダムの真後ろに移動し。

 

「貴方が、バカだっただけよ」

 

グランで、首を斬り落とした。

 

===========================

 

アダムが倒れた今、西行妖も静かになり始める。

しかし、まだこれで終わりではなかった。

時雨が、ゆっくりと雨簾を抜刀する。

 

「・・・どうするの?」

 

そんな時雨にルーミアがそっと声をかける。

ルーミアは眠ってしまっている紫をそっと膝枕しているが心配そうに時雨を見つめている。

 

「終わらせます、この悲劇を」

「・・・のぉ、時雨」

 

いつの間にか、ルーミアの隣にアイリスが現れる。

しかし、アイリスだけではなかった

石畳の階段のところで死者たちと戦っていた勇儀と萃香。

見えないところで奮戦していた幽香と文。

最後まで死神の士気をしていた映姫と小町。

時雨と出会ったほぼすべての人がそこに集まっていた。

 

「・・・それで、サヨナラなのか?」

 

アイリスがそう問いかける。

 

「いいえ、サヨナラじゃないです」

 

時雨は、振り返らずに首を横に振る。

 

「なあ時雨。」

「なんですか?萃香さん」

「・・・帰って来いよ。あたしらは嘘は嫌いなんだ」

 

その言葉に勇儀も黙ってうなづく。

時雨は、うん。と返し萃香と勇儀はそっと白玉楼から去る。

 

「お兄ちゃん・・・」

「・・・ごめんね、幽香」

「ううん。謝らないでよ母さんには私から伝えとく・・・お兄ちゃんはお父さんと同じく好きな人を護り切ったって」

「・・・ありがと」

 

幽香はそれだけを言い残すと、ただ黙って去ってゆく。

ここにいても、何もないからだ。

アダムが倒れた今、使徒と天使たちはもはや反抗の猶予はなくもうすでに撤退を済ませていた。

 

「時雨さん」

 

幽香の次は、四季映姫が声をかける。

 

「貴方は黒です。許されません」

「はい、わかっています」

「・・・だから、早く帰ってきなさい。さもないと、地獄に突き落としますからね」

「あはは・・・はい」

 

映姫はそれだけを言うと背を向ける。

 

「小町、行きますよ」

「はーい」

「・・・今だけは不問にします」

 

小町は特にいうこともなく去っていく映姫についていった。

 

「師匠・・・」

「文ちゃん。ごめんね」

「いいえ、師匠はいっつも無理してましたからね」

「あーう・・・言い返せない。」

「ですが、紫ちゃんだけは幸せにしてあげてください」

「・・・わかった」

「じゃあ、私から言うことはありません!!じゃあ、師匠!またどこかで!!」

 

そう言って文も去ってゆく。

残されたのは、時雨とアイリス、ルーミアと眠っている紫だけだ。

 

「・・・二人に、頼みたいことがあります」

「なんじゃ?」「なに?」

「二人に、紫ちゃんを任せたいと思います。」

「「・・・・・・」」

「もちろん、ずっとなんて言いません。ちゃんと帰ってきますから」

「当然じゃ、帰ってこなかったらぶっ飛ばしてやるからな」

「ふふ、ええ分かったわ・・・。」

「じゃあ・・・行ってきます」

「「いってらっしゃい」」

 

時雨が、ゆっくりと西行妖に向かい雨簾を振り下ろす。

それだけで西行妖から、取り込まれた西行寺幽々子が出てきた。

それをアイリスが急いで受け止めバッと西行妖から離れる。

 

「時雨流・・・秘奥義。【枝垂桜】」

 

時雨が渾身の秘奥義を西行妖に向かい放つ。

それを受けた西行妖は、絶叫を上げてあたりに死を振りまく。

しかし、それはすべて時雨が防ぎゆっくりと西行妖を弱らせてゆく。

 

その様子をアイリスとルーミアは静かに見届けている。

 

やがて、時雨の姿は消えてなくなり。

 

 

枯れ果てて封印された西行妖が残された。

 

 

 

 

 

 

 

その根に。雨簾をつけながら。

 

 

 

 

 



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第三十七話 その後

 

その後、無事に八雲紫は目を覚ました。

 

「んっ・・・んうっ?」

「紫さま!!」

「ら・・・ん?」

「はい、私は此処です!!」

 

目覚めるまで3日。

紫は再びの平穏を取り戻した白玉楼で眠り続けていた。

しかし、目覚めた紫を迎え入れたのはつらい現実だった。

 

「あら~?貴女はどちら様~?」

 

暴走した西行妖に取り込まれた反動で幽々子の記憶はすべてなくなってしまい、救い出されたころには生霊となっていた。

紫は打ちひしがれたが負けずに笑顔を作り

 

「私は、八雲紫。貴女の親友よ。」

 

そう告げた。それだけではなかった。

自分のせいで魂魄妖忌は行方不明となり、さらに至っては膨大な量の妖怪やモンスターが死に、世界中に混乱を巻き起こしていた。

そして、何より紫をどん底に突き落としたのは、西行妖の根に突き刺さった雨簾であった。

 

「師匠・・・うっ・・・うわあぁぁぁぁんっ!!」

 

帰ってこないかもしれない、その考えが紫の頭を過り、紫の心はもろく崩れ去ってしまった。

紫が、それを見てからというもの白玉楼であてがわれた自分の部屋に閉じこもってしまった。紫を任されたルーミアとアイリスは必死にお世話を続けていたのだがそれでも彼女は

立ち直ることはなく、部屋の隅でただ泣き続けていた。

藍は必死に励ますも、自分の非力さに涙を流し少しでも元気になるように彼女の式として動き始めていた。

 

そんな紫を立ち直らせたのは、魂魄妖忌の孫娘、魂魄妖夢であった。

妖忌がいなくなり魂魄家から妖夢が送られてきたのである。

妖夢はそっと正門前に突き刺さっていた楼観剣と白楼剣を抜き取り祖父の形見として大切に扱い始め、いなくなった祖父と同じように幽々子のお世話を始めたのである。

 

最初はぎこちなかった妖夢だが、段々と慣れ始め妖忌には届かないものの幽々子を満足させられるようにはなり始めた。

そんな努力を重ね、ついには幽々子が笑顔になるようになってから紫は少しづづ妖夢の姿を見て、ああ自分はこの子たちの未来を護ったんだな。そう思い始め立ち直り始めた。

 

そして、紫は時雨の夢であった妖怪と人が共存する楽園を作り始めようとした。

師匠が作れないなら私が作る。そうすれば少しでも師匠の為になるから。

それは紫の自己満足でもあったが誰も彼女を止めなかった。

 

まず、紫が始めたことは土地決めだった。

手始めに龍神様の元へ赴き、土下座までして龍神様に土地の一部でも譲ってもらえないか頼み込んだ。龍神様はその意気や良しと言い快くとある土地を彼女に譲ったのである。

そして、次に始めたのはそこに住む住人達を集める事だった。

日ノ本の各地にある村に頭を下げつつ説明し移住しないか説得したものの

どこの村でも門前払い、果てには殴られたこともあった。それでも紫は諦めずに回り続けた。そしてついに、一つの貧しい村の人々がそれを快く引き受けたのであった。

これで、紫が作る”幻想郷”に住む人は決まった。

しかし、妖怪はそうもいかなかった。

唯一、彼女の作る幻想郷に加盟すると名乗ったのは妖怪の山のみ・・・

だが、それ以外の妖怪たちにはすべて拒絶されてしまった。

 

それからもたくさんの問題はあった・・・しかし、紫は誠心誠意に頑張り

やがて認められ、ようやく幻想郷の雛形が出来上がった。

しかし、その時になるとすでに妖怪と人間では差が生まれ始め妖怪たちは段々と姿を消していたのである。

そのために、紫は助けを求めた。かつて一人で抱え込んで失敗した故の成長でもあった。

それに答えた者たちによって、博麗大結界が作り上げられ、幻想郷は完成した。

 

しかし、できてからも問題はあった。

勝手に住みつき、我が物顔で暴れる妖怪や高慢で好き勝手に自然をまさぐる神々・・・

人間は怯え、ただ静かに滅びゆくかと思われたが・・・ここで待ったをかけたのが紫の友人たちだった。

 

それからも、いろいろなことがあり・・・そして・・・

 

===============================

 

「こうして、平和な幻想郷が生まれましたわ。」

 

ここまで、長い昔話を話し終えた紫がそっとお墓を見る。

雨月 時雨と彫られたその墓は、静かに佇むだけだがもの悲しげに存在していた。

そう、幻想郷創設から早一世紀近く。

いまだに雨月時雨は帰ってこずに、紫は一人寂しく幻想郷にて待ち続けていた。

 

「師匠・・・貴方はいつまで私を待たせれば気が済むのでしょうか。」

 

紫はそっと何も入っていない墓に触れそうつぶやく。

何人もの博麗の巫女の代替わりを見てきた、

紅霧異変や春雪異変、様々な異変が起きては13代博麗の巫女・・・博麗 霊夢によって解決された。

何回も季節が廻った。

それでも

 

それでも雨月 時雨はいまだに帰る気配はなかった。

 

「・・・紫。」

 

後ろから、女の子の声がする。

今代の博麗の巫女、霊夢の声だ。

 

「あら、霊夢。三日ぶりね」

「ええ、ここで何をしているのかしら?お墓参り?」

「・・・ええ。」

「・・・・・・訳アリみたいね。今回は見逃すけど、ここは人里に近いんだからね」

「わかっているわ。今度は見つからないようにする」

 

それだけ言うと、霊夢はあっそ。と言ってそそくさと帰って行った。

 

「・・・師匠、今年は今日だけしか来れませんが・・・また来年にでも」

 

 

「その必要は、もうないよ」

 

 

 

 

懐かしい声が聞こえた。

 

 

 

紫は、震えながらも振り返る。

 

 

 

 

「帰って来たから。」

 

「っ!!」

 

紫は、泣きながらもその声の主に抱き着いた。

 

 

「ひっぐ・・・うっぐ・・・遅かったですね。」

「ごめんね、これでも急いで戻って来たんだけど。」

 

紫がそういうと、その主は困ったように頭をかいた。

 

 

 

 

「お帰りなさい!!時雨!!」

「うん、ただいま。」

 

 

 

 

 




幻想物語=八雲紫の物語=これにて完結。


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あとがき

これにて、幻想物語=八雲紫の物語=完結でございます!!

 

途中から行き当たりばったりでめちゃくちゃだったもののハッピーエンドで終わってよかったです・・・

 

まあ、途中から行き当たりばったりで知っちゃかめっちゃかでめちゃくちゃだったので

自分でも書いててあれ?と思いましたが・・・((;'∀'))

 

まあ、これはこれで一つの作品となったので一応は満足しています。

 

 

 

まあ、実際には後悔がありありで飛ばし飛ばしだったため

そのうちリメイク作品を出そうと思います。

 

まだ出してなかった出会いや場所。

様々な冒険とカなんとかかんとかやってみたいとか思ってたり。

 

まあリメイクはその打ち出すとして今はとりあえずの完結とさせていただきます。

 

さて、最後につじつま合わせとまいりましょう。

 

まずなぜこの物語の東方の世界がここまで滅茶苦茶になったかと言うと。

それは東方世界の古代から話が始まります。

 

まず、宇宙が始まってなんかいろいろあって地球誕生。

そして蓬莱人と原初の妖怪たちが生まれます。

まず、この際にオリジナルキャラであるクリス・ティア・ノスフェラトゥがいますね。

このクリスは設定でもあった通りに転生者です。ここから段々と正規ルートを外れています。

クリスの存在によって原初の吸血鬼・・・アイリス・スカーレットは滅びるはずでした。

しかし、クリスの存在によってこのアイリスは滅びず結果によってアダムと言うifが生まれました。何を隠そう、このアダムも転生者なのです。

まあこれには深い事情があるのですが、このアダムはいわゆる悪の転生者ですべてを自分のものにしようとします。しかし最初からではないです。途中から狂ってああなりました。

そこから、正規ルートと同じで蓬莱人たちが穢れを恐れて月へと逃げるため妖怪たちとの戦争・・・第1次妖怪大戦が勃発しました。

まあ、ここは多作品でも同じように結局は蓬莱人は月へと逃れられます。

そのせいでアイリス、ルーミア、アダムを除いた原初の妖怪たちはすべて死にます。

 

そこから長い年月を経て、”藍”となる九尾が誕生します。いわゆる玉藻の御前です。

まあ玉藻の御前は実話の通りとなり瀕死なところをその時にさまよっている紫を見つけて憑依しました。(憑依と言っても内側に入り込むみたいな)

そのせいか、紫の隠されていた潜在能力”ヤクモユカリ”の部分がマイナス化して表面に現れます。

 

はい、ここで一回話をずらしましょう。

太古から何万年たって日ノ本には大和と小さな小国たちがたくさん生まれました。

その中の一つ諏訪の国で一人の男が生まれます。それが時雨の父であり幽香の父ともなった海斗です。こいつはクリスの生まれ変わりです。

クリスは死してなお正規ルートを変更していたのです。

そのおかげなのかは知りませんが、時雨と幽香、そして早苗さんのご先祖様が生まれます。

ちなみにこの諏訪の国では霊夢の先祖である霊鵡さんと魔理沙の先祖である魔梨沙が暮らしています。まあ、独自設定ですね。

 

それでまあ大和が海斗をぶっコロコロして諏訪子が泣いてそれを見た時雨の受け継いだ能力が発動、ミシャクジ様の力を借りつつ大和に疫病などをはやらせます。

所謂大和が滅びる原因を発生させました。このころにはもうゆかりんは捕まってます。

てかそもそも、なんで生前の知り合いができるのかっていうと。

この大和が来る前、海斗が生きていていたころに海斗が至る所に連れて行ったからです。

そして、海斗も中々のイケメンで諏訪子も美少女の母だった目に二人の遺伝子を強く継いだ時雨があっちこっちから惚れられます。

もちろん、出してないキャラもいますが実は神霊廟の大使様とも会ってたり。

 

そして一番の大変革。正邪と小町の立ち位置です。

はい、カミングアウトします。

まず小町。小町は伊邪那美様です。あの死の女神さまです。独自設定です。

伊邪那美だった時、黄泉の国に閉じ込められた後働かずにいたところ暇であったため

試しに死神に変化し、地獄社会に紛れ込みました。

すると、思ったより楽しく乙女的な出会いは捨てて必死に努力して死神総大将まで上り詰めたものの・・・なんと平将門公の魂を回収し忘れで、悪霊化させてしまい降格。

船の船頭を務める羽目になっているが、実はそれはそれで楽しんでいる。っていう。

 

そして正邪。いち地獄の餓鬼であったが虐げられたその一族を見て見返してやろうということで、すべてを捨ててまで努力した結果。実力主義派な龍神様のお眼鏡にあい、まさかの龍神様の補佐官に大出世。本人もいまだにびっくりしつつも必死に頑張っている。

つまりは、すでにレジスタンスは成功しておりそこまでの意欲はない。

しかし、世の中の弱い妖怪や人たちの為に必死に奔走している心優しい子でもあります。

普段は、商人の格好をして日本各地を視察などをして神々が悪行を働いていないかなどの見回りもしている。初めて発見され倒れていたのは唯の熱中症である。

 

で、特訓していた際に小町と正邪は偶然ばったり出会い、努力しあうもの同士仲良くなったのである。

 

そして西行妖です。

これは正直、元々考えていたことなんです。

まあ、ユグドラシル・オルタなんてものは元々オリジナルなんですが・・・

正直に言うと、突発的に西行妖=死を誘う桜=生命に関する樹=ユグドラシル。

っていうぶっ飛んだ考えの結果です。そして幼稚な考えです。

しかし、あの展開にするには一番手っ取り早い方法だった。

実際、最後の最終決戦の時、どうやって時雨を覚醒させてあそこまで持ってくか悩んでました。

そして、過去のネタ帳を開きこれを見てビビッときたので採用しました。

まあ、リメイク版ではもうちょっとマシにしておきたいです。

 

では、あとがきもここまで!

人気なんかまあまあ出るはずもなく、まあマイナーな小説としてひっそりと終わるこの小説ですが、楽しんでいただけましたでしょうか?

楽しんでいただけたのなら幸いですw

 

ではまた、次の作品で。

 

・・・えっ、フランドールと真っ白なスカーレット更新しろって?

 

 

お待ちください!!(パラガス)

 

 

 



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おしらせ


UA 10000突破!

ばんざーい!



 

お久しぶりです。

この度、この小説のUAがまさかの10000突破。

こんなにうれしいことはありません。

 

そして、この嬉しさをばねに・・・

 

 

 

 

なんと!

 

 

 

 

 

 

 

 

ななななんと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想物語=八雲紫の物語=をリメイクしたいと思います!!

 

 

 

 

 

 

・・・え、艦これはどうしたかって?

そんなの同時進行だ!!作業用BGM聞きながらやるから!!

でも、結局艦これの方が主になってくるから多分更新はのろまになると知れない・・・

 

だけどご安心を、読者の皆様の続きを―!というコメントがあってもなくても書きます。

ええ、必ず。比率としては8(汎用重巡):2(これのリメイク)。

 

ですので、必ず、必ず仕上げて見せますので!

応援のほど、よろしくお願いいたします。

 

さて、今度は駆け足じゃなくてゆっくりとまいりましょう。

どれぐらいゆっくりかって?カタツムリぐらいかな。

 

 

そういえば、八雲紫の物語と言えば夏。夏と言えば海ですが・・・

梅雨入り前から始まり、梅雨、初夏、夏、夏の終わりという順で本当は書きたかったのですが・・・正直、このリメイク元は残念ながらまだらになってしまい何が何だが・・・

 

だから今度のリメイクはそこら辺をしっかりとして書きたいと思いますよ!!

ええ!しっかりやらせていただきます!

 

 

・・・まあ、支援絵をいただけないのはわかってましたけど。

まあ、いいんですけどね!美乳な紫さんの白ワンピースで師匠のお墓参りとか!(欲望駄々洩れ)。

ちなみにゆかりんは好きですか、まな板の方のゆかりんもすきです。

ええ、紫に似合うキャラはだいたい好きです。

ですが私の知らないキャラもいるでしょうから教えていただけると感激です。

というか、一から全部見ます。時間があれば。

 

 

さて、こんなに長々と書いてもこの時点ではまだ700文字を超えたに過ぎないので。

まだまだこの小説についての説明をします。

 

 

 

 

 

おそらく、おそらくですが。

 

 

 

この小説を見てる人は、この小説を楽しみにされていない方もいるでしょう。

いや、むしろシリーズとしては終了してますからね、それはそれで構わないです。

確かに文脈も文才も、何もない私にとって第1話の雰囲気が合わずにそのまま読まないってのは理解の範疇です。

ええ、それはまあ理解してますよ?こんなくそ小説ですから。

 

 

ですが、一番悲しいのはキャラが嫌いだからと言う理由で見ない。それです。

キャラそれぞれに魅力と言うものがあって、それがどうしても会わないというのなら仕方ないです。

ですが、ただ嫌い、だとかとある動画の影響で嫌いとかでは私は納得したくありません。

 

それぞれの設定、それぞれの世界観。

その中でそのキャラがどう生きているのか。それを見届けてください。

 

なんてこんなことを書くと叩かれそうですよね!

まあオリキャラは時雨師匠とアダム御一行以外は出す予定はそんなにないです!

 

そして、最後にですがこの小説の世界観はご自由に使ってくれて構わないです。

この作品を高評するのもよし、批評するのもよし、さらに三次創作を作ってもいいですし。世界観をぶっ壊すようなチートオリキャラ乱入は大歓迎です。

 

ではまたリメイク版で会いましょう!!





みょーん。


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