真夏に咲いた一輪の恋花 (ソウソウ)
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-1-『運命×運命』

 初めましての方は初めまして。ソウソウです。
 数年前に展開だけ作っておいて放置しておいたこの作品ですが、折角なので投稿しておくことになりました。

 反応が良ければ、続きます。
 


 ◇◇◇

 

 あれは真夏の日だった。

 雲ひとつとない快晴な天気。陽射しが容赦なく照りつけていた真夏日。

 そんな日に私は彼と出逢った。

 

「おーい………!!」

 

 彼が呼んでいる。

 私は彼の声に導かれ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 気まぐれで近所の砂浜へと足を運んだ。

 特に目的なんて大層なものはなく、ほんの気の赴くままに。いつものことだ。

 ここ、アローラの砂浜から見える景色は相変わらず産まれた時から変わらない。水平線に沈みかけの夕陽がより淡麗な絶景を産み出している。

 足元に一つの影が近寄る。

 

「ん?アシマリ?どうしたの?」

 

 アシカのような特徴をもつポケモンの『アシマリ』がそのヒレをペチペチと叩いている。

 そして、ある一点を指差した。

 そこは海岸の北側。岩が多く、足場は悪い。が、人気はなくアシマリが見せたいと思わしき物はどれか分からない。

 アシマリはピシッ、と指差し直した。

 

「あっ………」

 

 そして、ようやく見つけた。

 数メートル岩場から離れた水面。ぷかぷかと『ラプラス』らしきポケモンが浮かんでいたのだ。

 さらによく見てみると―――

 

「………人?」

 

 ラプラスは甲羅がついた首長竜の姿をしている。あのラプラスの甲羅にはライドギア出来る為の装置が付いていた。

 ライドギア、とは簡単に言えばポケモンに乗れるように補助する装置だと思えば良い。

 となると、あのラプラスは野生ではなく何者かによって誘導され、あそこにいるわけであり、当の人物はと言うとラプラスの甲羅の上で釣りをしていた。

 こちらに背を向けているので顔は見えない。が、体格的に男の人。それも若い。

 

「あのラプラス………私のとこの」

 

 アシマリはきっとあれを伝えたかったのだろう。視線を下に向ければ、アシマリもあっちを見ていた。

 ラプラスのライドギア体験をこの近くで出来る場所がある。なんと言ってもそこは自分の家でもあるので、そこにいるラプラス達とは昔からの友達だ。

 向こうの水面にいるラプラスも友達の内の一体。と言うことは、あの人もきっと家へと寄ったはずとなる。

 

「………あれ?午後はお客さん来なかったはずじゃあ………」

 

 午後は両親の代わりに店番してた。が、最近はこの地域一体に賑やかさはなく、観光客もちらほらうろつく程度。

 暇潰しに苦労したのは鮮明に覚えている。お客さんが来れば、はっきり記憶にあるはずだ。

 だけど、彼には覚えがない。

 となると、あくまで予想だが、彼は午前中にラプラスを母親辺りから手続きして借りて、そのままずっと海の上で釣りをしていることになるのではないのだろうか。

 

「アシマリ、あの人がどうしたの?」

 

 あの人はきっと相当の釣り好きだ。そう結論付けた。ちょっとそれに興味があるが今はそれよりも先程のアシマリの行動が優先である。

 アシマリはと言うと、何言ってるの?とばかりに首を傾けた。

 

「あれ?違うの?」

 

 反応を見るに不正解のようだ。

 視線を向こうへ戻す。ラプラスの甲羅には先程見た彼と―――

 

「あっ………ポケモンがいる………あのポケモンは………ブラッキー?」

 

 彼の隣にポケモンが座っていた。

 真っ暗な全身黒に額の三日月模様が特徴のポケモン『ブラッキー』もラプラスの甲羅に乗って寛いでいる様子。

 さっきは彼の膝元に居たせいでちょうど姿が隠れて見えなかったようだ。

 そのブラッキーが動き出した理由は至極単純。彼がその場を立ったからだ。

 

「オォウ!」

 

 アシマリがパチパチと拍手?をしている。

 彼の釣竿に当たりがあり、それ故、立ち上がった。彼は今、海中に潜むポケモンと釣竿を通して格闘中であるのだ。

 アシマリはきっと彼を応援しているのである。

 

「そう!…………あっ………そこ!………」

 

 つい声が出てしまう。

 彼は苦戦している様子。大物だとすれば、一体何のポケモンなのか同じ釣り魂を持つ同士としてみれば興味心をくすぐられる。

 この時点で既に勝負の結末を見届けようと心に決めていた。

 

「オォウ!?」

 

 しばらく彼は竿を左右に動かして相手の体力を減らす持久戦に持ち込もうとしていたが、それでもなかなか戦況は優位に進まない。

 だが、しばらくしたその瞬間にアシマリが悲鳴のような鳴き声を上げた。

 それもそのはず。

 向こうにいる彼は一瞬とは言え油断して、釣竿を掴む力を緩めてしまったのだ。

 そこを突かれてしまい、釣竿を持つ彼は完全に体ごと持っていかれてしまう。

 状況を整理する。

 彼の現在位置はラプラスの甲羅の上であって、だいぶ狭い。数歩周りへと歩けば海へとまっ逆さまにドボン。そこでポケモンと格闘していたわけであり…………。

 

 ―――見事に海へ落ちた。

 

「アシマリ!!!」

 

 指示を承ったアシマリが海へとダイブ。

 地上では動きが遅い方のアシマリだが、水中では高速で移動が出来る。加えて、アシマリの鼻からは浮游効果を持つ人サイズ以上のバルーンを作れる。

 要するに海中の人命救助にはもってこいのポケモンだ。

 

「大丈夫かな………あの人………」

 

 とは言え、海岸から向こうまでは距離がある。彼がもしも泳げないとすれば、間に合うかどうかは分からない。

 

 ―――数分後。

 

 全身びしょ濡れになった彼。そんな彼がラプラスの甲羅にぐったりとなったままアシマリの誘導を元にアシマリの主のいる砂浜へと運ばれていた。

 因みに彼の手持ちのブラッキーは横たわる彼の背中に乗って真っ直ぐ前を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「………どうしよう」

 

 ひとまず、男性を一人で運ぶのは体格的にキツいと判断したのでラプラスに協力してもらい砂浜へと彼を仰向けにして置いてもらった。

 顔色は悪くない。それで次は?

 こういう緊急事態の対処方法は知っているものの、実際に行動に移すのは初めて。

 考えた結果。取り合えず、優しく彼のお腹を押してみようとして―――

 

「ぐへぇ!?」

「あ」

 

 刹那、ブラッキーがのし掛かった。

 続けざまに彼の悲鳴が。

 

「………え?…………ええっ!?」

 

 ―――慌てるしかないだろう。

 この場合の最善の対象は何をすべき。目の前に展開された場合は知らない。

 というか、普通は有り得ない。

 アシマリに助けを求めるも、アシマリ自体も困惑している様子。

 駄目だ、これ。

 

「ラッ!」

 

 ブラッキーは続けて、足踏みを始めた。

 もはや、主の容態は考えていない様子なのか、その行為に一切の容赦がない。

 

「痛い!痛い!」

 

 と、ここで彼が起きた。

 忘れていたが、ようやく彼の顔をはっきりと見ることになる。 

 青みがかかった黒髪。全身濡れているのであれだけど、マオが見たらきっと喜ぶ程度にはイケメンだと思う。

 

「ん………?」

 

 彼は辺りを見回し、状況を確認しているようだ。勿論、彼の視界には自身も入る訳であって………。

 自然と彼と目があった。

 どさっ、と音がなった。

 

「………ご迷惑お掛け致しました」

 

 土下座。あの一瞬で見事な土下座を彼はしていた。ブラッキーも強制的に彼の右手によって頭を地面へ押されている。

 ぐぬぬ、と少しだけ抵抗している感じがなんとも愛らしい。

 ―――この人、結構頭回る人なのかな?と思いながらもこんな公共の場でされてしまうとされた方も羞恥心があるのですぐに止めにかかった。

 

「いやっ………そんなことは………」

「あなたは命の恩人です」

「それほどでも………ない。頭あげて?」

 

 ちょっと照れる。

 

「それよりも、体の方は大丈夫?」

「ん?………大丈夫かな」

 

 彼は上半身をあげて、確認する。

 こちらから見ても、異常はなさそうだ。ひとまず、一安心。

 

「ただ………服がびしょ濡れだ」

「あ………」

 

 そうだ、彼は海に落ちたのだ。

 彼の着ている服の端からは滴が垂れている。と、彼が服を握って絞りだした。

 

「着替えはある?」

「ない」

 

 きっぱり答えた彼。

 その後小さく「今日はキャンプファイアだなぁ………炎出すやついたっけ………」と呟いた。

 

「………あの」

 

 聞き逃す訳がない。彼は今、困っているのだ。助けの手を差し伸べてあげるのがアローラの教え。

 

「うん?」

「ウチに来ますか?」

「それは悪い。ただでさえ既にお世話になってるわけだし」

「でも、服が濡れたままだと風邪引きます」

「そこはあれだ………よくあることだし慣れてるから平気、平気」

 

 彼は頑固に首を縦にふらない。

 事態は一刻を争う。無理矢理にでも彼を家へ連行する必要がある。少なくとも彼にこのままでは居てもらいたくない。

 普段の自分では珍しい行動だと思う。

 同じ釣り好きだから今の彼を放っておけないのだ、きっと。恥ずかしがりやの自分がここまで彼に対して気持ちが駆り立てるのも勝手に感情移入しちゃってるからに違いない。

 ふと視線を逸らすと先程のラプラスがまた視界に入り―――

 

「あのラプラス、どうするの?」

「え?そりゃあ………あいつは朝に店の人に貸してもらったから、返すけど」

「なら、私と一緒にきてくれますね」

「………何で?」

「私のとこのラプラスだから」

「………」

 

 彼は驚いたのか言葉が詰まる。

 

「私の家に来てくれる………よね?」

 

 もう頷くしかない。

 彼の選択肢は知らずの内に皆無であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -2- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ〕

「ところでそのポケモンは?」
「アシマリのこと?」
「オゥ!」(パチパチ)
「………なかなかの元気っぷりだね」
「因みにこんなことも出来るんだよ。アシマリ、バルーン」
「うわぁ。すげぇーな」
「凄いでしょ」 
「あれ?なんか荷物が軽くなったような………俺の釣り竿どこ行った?」
「ラ?」
「おい、釣り竿をどうしようとしてるんですか!?バルーンの中に!?………入っちゃった」
「………どんどん空へと浮いていっちゃう」
「………あの、いつ割れるんですか……」
「オゥ~~」



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-2-『宿泊×紹介』

 ◇◇◇

 

 海の家。

 

「あら!もしかして海にダイブしちゃった?」

 

 案内で辿り着いたのは一軒家。

 彼を連れて店へと正面から踏みいれば、全身びしょ濡れの彼を見て、そう声をかけられた。恥ずかしながら、こう見えて母親だ。

 ラプラス貸し借りの受付をしてもらった時はまさか母親とは思わなかったが、こうして二人を見比べてみると確かに雰囲気とか似ている、と言うのは彼の後日談。

 

「まぁ………はい」

「お母さん、この人、中に入れていい?」

「えぇ!勿論良いわよ!」

 

 やだぁ、イケメン!、と捨て台詞を残して店の奥に入っていた。あまりそういうことはしてほしくない。娘として恥ずかしい。

 ありがたいことに、彼は気にした様子はなく、くしゃみを一つ。相当、彼の体は冷えてしまったようだ。

 

「こっち」

 

 そう言って、店の奥へと入る。

 店と実家は兼用なので一歩踏みいれば、そこは普通の生活感溢れるスペースへと早変わり。

 リビングを素通り。妹達がいる可能性もあったがどうやら二階の部屋にいるみたい。都合が良かったので彼の案内を早めに済まそうとする。

 後ろへ振り向くと、彼は向こうのその場に立ったままであった。

 

「どうしました?」

「いや………ここまでしてもらわなくても俺としては日常というか………」

 

 彼は意外と頑固。

 こうやったらもう強行手段、と彼の元へと早足で戻り彼の腕をがっしり掴む。

 

「へ?」

「行く」

 

 一瞬の抵抗を感じたが、ようやく諦めたのか彼は素直に付いてきてくれた。

 再びリビングを抜けて、彼を風呂場へと連行する。彼本体を風呂場へ続く洗面所へと押し込み、私は扉へ行くと、手を扉へ、一言を彼に添えた。

 

「着替えは置いておくから先にお風呂に入っておいてください」

「………分かった。ありがとう」

 

 すんなりと動く彼。

 扉を閉めながら、次にすべきことを考える。

 まず、着替えの服。父親ので事足りるだろう。そして、妹達に今は絶対に風呂場に近づくなと忠告をしておく。

 ここでようやくあることに気付いた。

 

「あの人の名前………聞いてない」

 

 着替え、取りに行こ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 数十分後。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

 風呂から上がった彼がリビングに姿を見せた。ぽかぽかっと頭から湯気が出ている。

 父親の派手な服装に身を包んだ彼は普段の物と違うのか、何度も服を伸ばしたりと慣れない様子だ。

 

「どうですか?服は大丈夫?」

「ん、特に。サイズもちょっと大きい程度」

「なら、良かったです」

 

 首を彼は横に振る。

 

「洗濯までしてもらって………ほんと助かる」

「ううん、全然です。明日までには乾くみたいだからゆっくりしてってください」

「かたじけない」

 

 そう彼は頭を下げる。

 きっと彼は何時までも弁解の意思を示すだろう。短い付き合いでも分かるぐらいの誠心誠意、その気持ちが伝わってくる。

 

「ご飯の用意も出来てますよ」

「わざわざ俺の分まで………」

「食べない方が―――」

「分かってる。いただくよ」

 

 数々の料理が並ぶテーブルに彼を案内。

 長方形のテーブルに彼は私の隣の席へと腰を下ろした。

 その彼が座るまでの間、彼の前の少女二人の視線が釘付けとなっている。

 

「紹介しますね、左から妹の"ホウ"と"スイ"です」

「よろしく!!お兄さん!!」

「よろしく!!お兄さん!!」

「おぉ………見事な双子っぷりだね。よろしく」

 

 滅多にないお客さんに二人は興奮ぎみ。

 成長したとは言え、無邪気な子供に変わりはない。せめて彼の迷惑にだけはならないで欲しいとせつなに願う。

 ふと、彼の顔がこちらへ向いた。

 

「そう言えば………」

「うん?」

「君の名前を聞いてなかったなと思って」

「私の?」

 

 名前を知らないのはお互い様らしい。

 彼と出逢ってからずっと互いに名乗りはせずに来てしまっていたので当たり前なのだか。

 

「私の名前は"スイレン"と言います」

「スイレン………」

 

 噛み締めるかのように呟かれる。

 むず痒い思いに浸りながらも、今度はこちらから尋ねる。

 

「あなたの名前は何ですか?」

「………"ソウ"。俺の名前はソウだよ」

「ソウさん………ですか」

 

 はっ、と気付く。

 自身も先程の彼と同じ行動をとっていることに。

 彼の名前。"ソウ"。

 海にドボンした瞬間をたまたま目撃して、びしょ濡れのままに行く宛がなく寒そうにさ迷っていた人。

 

「おねーちゃん!!食べよう!!」

「お腹空いたよ!!」

 

 妹達も料理を前に空腹の限界だ。

 これ以上、二人を待たせてしまえば騒がれてしまい、参ったどころじゃない。

 彼も同じ結論に至ったのか―――

 

「まずは………」

「そうですね。先に食べましょうか」

 

 席に座り、両手を合わせた。

 

 ―――いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 夕食後。

 

「お兄さん!!」

 

 妹のホウが座る彼の隣へ駆け寄る。スイはトイレに行って、此処にはいない。

 夕食はついさっき済ました。

 そして、ホウに至っては空の食器をシンクに運ぶように指示したら、いきなりのこれだ。早めに皿を水に浸けて欲しいのだが、子供に言うことを聞かすのは難しい。

 特に今日は彼がいる。

 自然と興味もそちらへ向いてしまうのだろうか。

 

「どうした?」

 

 ここは彼に任せよう。

 大人しく見守りつつ、ここは素直に自分で食器を片付けることにした。

 

「お兄さんはおねーちゃんのボーイフレンド?」

 

 ―――ガチャン!!

 

 危うく、運ぶ皿が割れそうになった。

 急上昇した羞恥心のせいで、頬が熱く染まる感覚に見舞われる。

 すっかり油断していた。妹達に余計な事を言うなと口止めするのを忘れていた。

 

「残念だけど、違うかな~。お姉さんとはさっき出会ったばかりだしね」

「え~」

 

 彼は彼で呑気に返事を返す。

 これでは動揺してしまった自分がなんだか馬鹿らしく思えてきてしまう。

 ホウの質問は続く。

 

「だったら!お兄さんはポケモントレーナー?」

「ホウちゃんから見て、俺は強そうに見える?」

「うん!!とっても!!」

 

 元気よく答えるホウ。

 トイレに行っていたスイも戻ってきた。

 

「正解。俺は正真正銘本物のトレーナーだ」

「わー!!」

「なら、ポケモン持ってるの!?見せてー!!」

「ん~?見せるのは良いけど………」

 

 彼の視線がこちらに。

 ポケモンを室内に出しても構わないかどうかの承諾を求めている。

 

「全然大丈夫ですよ」

「いや、それもあるけど………皿洗い手伝おうか?」

「え?………あっ。妹達の相手をしてもらった方がありがたいですよ?私も作業に集中出来ますし、それに二人とも学校に通ってますので、ソウさんから勉強させてあげてください」

「あー、ならそうする。んで、二人とも学校通ってるの?」

「「うん!!」」

「なら………これは今はいっか」

 

 彼は立ち上がる。

 自分のバッグのポケットを手探り、懐から一つのボールを出した。

 これは普段なら腰のベルトに付けてあるのだが、水の中に落ちてボールを落とさないように予め手持ちボールを移動させ安全を確保する、釣り人の基本的な作法によるものだ。

 

「ほら、出ておいで、"ロウ"」

 

 リビングに出現したのは『ブラッキー』。

 気絶していた彼のお腹を躊躇なく踏みつけたポケモンだ。

 主に呼び出されたロウ(ブラッキー)は欠伸を一つ。床に居座り、眠たそうにしている。

 

「うわぁぁぁ!!」

「本物のブラッキーだ!!」

「もしかして、初めて見る?」

「うん!!」

 

 ギラリと目が光るホウとスイ。

 それに彼のブラッキーが子供の無邪気な好奇心に寒気を感じてしまった。ポケモンはこういうのには敏感だ。

 助けてくださいと訴えるかのような視線。

 彼はにんやりと笑って告げる。

 

「ほら、存分に触ってきてもいいよ」

「ラッ!?」

「「やったぁぁ!!」」

 

 裏切られたと跳び跳ねるロウ。してやったりとにやつく彼。

 どっちもどっちである。

 ホウとスイはペタペタとブラッキーの耳やお腹回りを触り出してはその独特な感触に何回もはしゃいでいた。

 

「本当に良かったんですか?」

「ん?何が?」

 

 皿洗いを終えたので、立ってロウの被害現場を見守る彼の隣へ。

 

「あの………あんなに触られてますけど」

「それは大丈夫。さっきの仕返しだってことはあいつも分かってるだろうから」

「へ?仕返し?」

「俺の腹にのし掛かってきたやつ」

「………」

 

 彼の台詞を証明するかのごとく、ブラッキーは仁王立ちスタイルをしたまま微動だにしていない。

 ………まさかの目まで瞑ってる。

 

「仲が良いんですね」

「あいつとは昔からの付き合いだしね」

「そう言えば、ソウさんはアローラに来たのは昨日って言ってましたよね?」

「うん、昨日」

「ってことはどこの地方から来たんですか?」

「ホウエンだね」

「ホウエン!!」

「ん?」

「あっ………何でも無いです………」

 

 つい大声が。

 ホウエン地方で真っ先に思い付くのはあの伝説のポケモン。

 

「二人とも楽しそうだね」

「はい」

 

 されるがままのブラッキーには申し訳無いが、ホウとスイは初めての生で会うポケモンに興奮が収まらない。

 

「お兄さん!!技が見たい!!」

「どんな技使えるの!?」

 

 触るだけでは懲りたらしい。

 ブラッキーの主人に詰め寄る二人。拷問から解き放たれたロウはぐてっと床に寝そべっている。

 

「此処ではだめ」

「「ええー!!」」

「でも、直ぐに俺のポケモンが技を使ってるシーンは見れると思うよ」

 

 片膝を地面につけた彼はホウとスイに優しく告げる。

 

「………どうして分かるんですか?」

 

 彼は答えなかった。

 この真相が判明するのはいつなのか。今の私に知る手段はないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -3- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ・家に入ってすぐの時〕

「ところでさ………」
「はい?」
「あそこのポケモンは?」
「ニャースのこと?」
「ニャー」
「へぇー、ニャースか。こんな見た目のニャースもいるんだな………」
「アローラの姿で一般的だけど、もしかして見たことないですか?」
「まぁね。アローラ自体に来たのも先日の話」
「そうだったんですね。あっ………無理に触ろうとすると―――」
「うわぁっ!?お前、電気出すんかよ!!」
「"10万ボルト"を使えます」
「………仲良くしような」
「ニャー」


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-3-『合宿×先生』

 これまでの書き方から分かりますが、基本的にスイレン視点で話は続きます。
 そして、この小説にサトシはいない設定であることを頭の片隅に置いといてください。ただ、別に覚えていなくてもそれほど問題はないかと。
 他にも細かい設定などは地の文に程よく散りばめているつもりなので、頑張って探してくださいね。

 では、どうぞ。



 ◇◇◇

 

 ポケモンスクール。

 

「ここも今となっては懐かしい………」

 

 卒業したのあの日の思い出が蘇る。

 恵まれた親友達とわいわい騒いだ教室に、何度も競い合ったグラウンド。今も昔と変わらず静かに建っていた。

 つい、あちこちを眺めてしまう。

 

「あっ!!スイレン!!」

 

 やがて、目的地が見える。

 そこで一人の緑髪を二つ結びにした褐色少女がピョンピョン跳び跳ねていた。

 彼女もスクール時代の同級生の一人。

 

「こっちだよ~!!」

「分かってるから」

「時間もちょうど五分前………うん。スイレン、今も昔と変わらないね」

 

 うんうんと彼女は頷く。

 一体、何処に視線を向けての発言だろうか。普通に失礼である。

 彼女の名前は"マオ"。

 料理上手であり、アローラが過疎地域へ加速する中、実家の店は相変わらず繁盛しているらしい。

 同じ家業する娘同士としては普通に羨ましい。

 

「それにしても、急にククイ博士から連絡が来た時はびっくりしたね」

「うん。夏合宿するから生徒達のサポートをお願いしたいって話だったかな?」

 

 卒業生のマオと私が母校にいる理由もこれ。

 何でも、スクールに通う子供達全員参加の四泊五日の夏合宿が今日から開催される。

 残念ながら生徒数に自信はまったくないアローラのスクール。でも、流石にククイ博士一人では生徒全員ぶんの面倒は見切れないらしい。

 妹を持つ身としてその気持ちは大いに分かる。二人だけでも既に限界なのだ。それが二桁を越えちゃうとなると、考えるだけでも恐くなる。

 

「そうそう!!で、私としては特に気になるのが夏合宿の間だけ居てくれる先生が来てくれるらしいんだって」

「へぇ~………そうなんだ。初めて聞いた」

「カッコいい人かな~?」

 

 ナオが妄想に走ってしまう。

 夏合宿限定の先生。ククイ博士も粋な計らいを頑張って考えているんのだなぁ、と思った。

 どんな人だろう。

 まさか、昨日会った彼とか。夢話にも程があるか。

 思い出した。そう言えば、彼のことだけど。

 今日は一度も会っていない。朝から姿を眩ましている。母親にはちゃんと挨拶を済ましていたらしいが、私に一言も無しに居なくなるとは誠に不謹慎ではなかろうか。

 彼の行動が気に入らないせいか、どうも少しだけ私は不機嫌気味らしい。

 

「―――スイレン?」

「えっ!?何!?」

「もう皆集まってるから行こっか、って言ったんだけど………大丈夫?」

「大丈夫。早く行こ」

 

 ククイ博士からの指定時間ももうすぐ。

 マオと二人一緒に学校のグラウンドへと足を進めた。

 足取りは不思議と軽い。

 これから始まる何かにこの時の私はウキウキしていたんだと思う、きっと。真夏の日差しのせいで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 夏合宿、集合場所。

 

「皆、揃ったかな?」

 

 そう投げ掛けるのはククイ博士。

 体操座りで整列した子供達が元気よく返事を返す。嬉しそうにしている博士。

 "ククイ博士"はアローラ随一のポケモンを専門にした博士資格を持つ人物。技関連を得意分野に持ちつつ、アローラ独特の進化を遂げたポケモンを毎日、謎解明に向けて研究している。

 服装は短パンにアロハシャツ。ぶっちゃけ、博士から想像出来る服装ではない。

 

「こちらも全員揃ったようですね」

 

 そして、少し離れて見守る私達。

 一緒に来たマオ。それと綺麗な白髪の少女に、真っ黒な肌が特徴的な青年がいた。

 前者が"リーリエ"。後者が"カキ"。

 どちらもマオと同じスクール時代の同級生だ。

 

「久しぶりだね、リーリエ」

「はい。マオさんもスイレンさんも元気そうで何よりですね」

 

 リーリエはスクール卒業後、アローラ地方を飛び出してしまった経歴を持つ。ところが、夏合宿を含めた今期間中は帰省しており、偶然にも懐かしい再会へと繋がった。

 大声で会話してしまうと、生徒達の気をそらしてしまう為に小声でのやり取りになっちゃったけど。

 

「カキも。元気にやってる?」

「無論。最近は特に張り合いもなく退屈してたからな。強いトレーナーが来ると聞いて、楽しみだ」

「トレーナーさん………ですか?」

「ククイ博士によると、な。どんなトレーナーかは一切教えてくれなかった。何でも、今の俺達、()()()()()の手助けとなってくれるから楽しみにしておいてくれ、とだけ」

「え?カキ、今、キャプテンって言った?」

「あぁ、言ったぞ」

「そっかぁ~………ククイ博士、そう来るんだ~」

 

 "キャプテン"。

 リリーエを除いた三人が該当する。

 アローラ伝統の試練を各地で管理する役職を指す。重大な立場となるキャプテンは全員が相当の実力者であることが最低条件。

 でも、マオとカキ、それと私は前キャプテンと世代交代したばかりの新米でもあった。ククイ博士はそれを考慮してくれて、カキにそのような伝言を残したのだろうか。

 

「皆さん、博士が私達の事を紹介するみたいですよ」

 

 リリーエの一言で全員が黙る。

 生徒達に夏合宿の概要を説明していたククイ博士が後ろへ体を向けるように指示を出していた。

 一気に集まる視線に緊張が自然と高まってしまう。悪い癖だ。

 

「あそこのお姉さん、お兄さんが皆を引っ張ってくれるリーダーだ。皆、元気よく挨拶しとこうか」

 

 ―――アローラ!!

 

 地元だけの挨拶。

 こちらも手を振り、無難に挨拶を返しておいた。

 合宿のメニューには班行動で行うのもあり、私達は各班の監視兼博士への現状報告担当を任される予定。

 

「そう言えば、マーマネは?」

 

 マオの言う"マーマネ"は私の同級生最後の一人の名前。

 一応この夏合宿には参加予定の手筈になっていたはず。

 何故か、その姿は見えないが。

 

「マーマネは実験が佳境に入ってるから二日目から参加すると変更があったぞ」

「………へぇー」

「マオさん?」

「あっ!!見て!!あの人が先生じゃない!?」

 

 マオの視線はククイ博士の隣に立つ人。

 誰もがその人に何者か疑っている最中に私の目に映るその人は違っていた。

 どうしても、あの人にしか見えないせいで。

 

 ―――ソウさんに。

 

 彼は一歩出ると、自己紹介を始める。

 

「今回、()()()()をさせて貰います、ソウです。皆、短い間だけど、よろしくね」

 

 間違いない。彼本人だ。

 昨日の会話に彼がアローラを訪ねた目的を聞きそびれていたが、まさか夏合宿の特別講師として招待されていたとは。

 驚きに体が固まってしまう。彼はこちらに気付いたのか、手を軽く振ってきた。

 そんなことをしてしまえば―――

 

「あっ、手を振ってきた!!」

「私達の誰かに向けて?………のようですね」

「あんな奴初めて会ったぞ」

「うん、少なくともカキには有り得ない」

「おい。トゲデマル並みのトゲが刺さったぞ、マオ」

「カキさんやマオさんでもないのですか?私でもないですし、だとすれば―――」

「あの………多分、私………」

「スイレン!?あのスイレンが!?」

「マオ?どういう意味?」

「いや………ねぇ~、スイレンに男の人の知り合いが居たなんて………びっくりしたと言うか」

「スイレンさん。あの方とはどういう関係でしょうか?」

 

 リリーエの眩しい視線につい戸惑う。

 正直に伝えるべきだろうか。でも、初対面に近い彼との関係性など具体的に語れない。

 特別な事情があったから家に泊めた、でリリーエを含めた同級生達の同意を得られるだろうかと考えれば、上手くはいかない予感しかしない。

 なら、はぐらかすのが一番。

 

「………よく分からない」

「嘘ぉ!?まさか、スイレンが………!?」

「マオさん?」

「スイレン………あの男を知ってるのか?」

「うん………一応」

「そうか」

 

 カキはそれ以上口にしない。

 この場を凌ぎきれたかどうかは曖昧。マオがまた妄想の世界に突入しているから余計な口を訊かないようにしないと。

 

「ソウにはホウエン地方から特別に来たもらった。俺が言うのも変かもしれんが、相当トレーナーとして強いぞ~」

「止してください、博士」

「本人はずっとこうだけどな。折角だし、皆にはバトルしてる所でも見てもらおうか?」

 

 バトル。ポケモンバトル。

 子供達にとって、それは禁句に近い。

 何故なら、次に起こってしまう現状を見てしまえば分かる。

 

 ―――怒濤に沸き上がった無邪気な喚声。

 

 スクールに通う本質はポケモンが好きの一点。そして、その証明としてポケモンバトルがよく利用されることが多い。

 故に生徒はみな、日々トレーナーとして勉強に実技をこなして、磨きをかけていく。となれば、実力者同士のバトルなど自然と大好物になってしまうのだ。

 

「誰か、ソウとバトルしてみたいやつはいるか~?」

 

 だが、生徒の中で手持ちポケモンを所持する者はごく少数。育てる余裕もあまりない。

 私達のスクール時代は同級生皆が少なからず一体は持っていたが、それはあくまで例外。

 相当な戦闘好きでないと、そもそも彼に挑もうとする気にもならないはずであって―――

 

「俺がやります。やらせてください」

 

 いた。しかも隣に。

 立候補したのはカキだ。ここにいる全員の視線を集めながらも不動だにしない、彼に挑もうとするその姿勢はとても大きく感じられる。

 

「カキか!なるほど!どうだ?ソウ、いきなりな話だがやってもらえるか?」

「構いませんよ」

「オーケー!!それじゃあ全員、場所を変えるぞ!!」

 

 こうして、急遽決まったポケモンバトル。

 カキと彼が勝負する。応援するのは勿論、幼馴染のカキなのだが、彼を応援したい気持ちも芽生えつつある。

 

 ―――と、私は思い出した。

 

『でも、直ぐに俺のポケモンが技を使ってるシーンは見れると思うよ』

 

 昨晩の彼が言っていた、この発言を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 グラウンド。

 

「では!!試合を始める!!ルールは一対一のシングルバトル!!両者、手持ちのポケモンを一体出すように!!」

 

 博士の一言がバトル開始の宣言となる。

 特別講師としての肩書きを背負う彼は観客、生徒達にその威厳を示す絶好の機会でもある。

 一方でカキは単純に強者との対戦が心待ちにしていただけあってヤル気が十分に燃えていた。一瞬、他の理由があるようにも見えたけど本人だけにしか分からない。

 審判を任されたのは安定のククイ博士。

 

「来い!"バクガメス"!!」

 

 カキが選んだのはカキの相棒。

 『バクガメス』と名を持つそのポケモンは巨体に大きな刺々しい甲羅を背負っている。あの甲羅は衝撃で爆発を引き起こす性質を持ち、相手にするとなかなかの厄介ぶりを発揮する。

 バトルではいかにあの甲羅の防御を彼のポケモンがくぐり抜けるかが勝敗の鍵となってくるだろうと予想される。

 対策無しだと結構、苦戦が強いられる。

 

「あのポケモン、初めて見るな………」

「申し訳無いが、博士からは相当強いと伺ってる!!本気でいかせてもらうぞ!!」

「そういうのはホント勘弁してほしいわ………」

 

 しかも彼はバクガメスを初見。

 アローラに来たのが一昨日なので彼はアローラの知識が殆どないので当然ちゃ当然。が、より彼にとって分が悪くなりつつあると感じているのは間違いない。

 

「ソウ!!遠慮無しにやってもらって構わないぞ!!」

「いや、博士………やるからにはちゃんとやりますけど………本当に良いんですか?」

「あぁ。存分に教えてやってくれ!!」

 

 博士の彼への信頼がどうも厚い。

 彼は一息吐くと、腰元のボールを一つ手に取った。手で握れる大きさに膨らんだそれを彼は優しく放り投げる。

 

「出ておいで。"クーちゃん"」

 

 彼が出したポケモンは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -4- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ・バトル前の移動中〕

「ソウ君!!よろしくね!!」
「うん、よろしくな。えっと………」
「マオです!!」
「マオちゃんか。それと………」
「私の名前はリーリエです。よろしくお願いしますね、ソウさん。それとこちらが―――」
「えっと、ごめんね。スイレンちゃんは知ってるから紹介は省いていいよ」
「なんと……ソウさんとスイレンさんはやはり友達なのですか?」
「友達?って言うよりかは昨日―――」
「っ!?それは言っちゃ駄目………っ!!」
「スイレンさん!?」
「―――っぷはぁ!!呼吸が出来ないって!!」
「ご、ごめんなさい………」
「ふふふ。二人とも仲が良いんですね」
「そそ、そんなのじゃない………から!!」









*作者のぼやき
→次回は初バトルです。当初はスイレンとバトルする予定だったんですが、カキへ変更になりました。彼から、どんなポケモンが出てくるかは作者の好みになります。てか、決まってます。

 ………やったね!!



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-4-『敗北×勝利』


 裏ヒロインの登場です。



 ◇◇◇

 

 グラウンド。

 

「出ておいで。"クーちゃん"」

 

 愛嬌のある小人みたいなポケモン。

 それが私の第一印象であった。次に目に映るのは後頭部にある巨大な金属製の大口。

 あざむきポケモン『クチート』。

 最大の特徴はその大顎。油断した相手を一口で捕食する物騒な生態を持つらしい。でも、ちゃんと顔に口はあるので普段はそちらで食べるのが主流。

 彼のクチートには首元に青く光る玉の付いたネックレスがあった。

 

「クチートか………これは面白い展開になるぞ」

 

 冷静に分析するククイ博士。

 クチートは"鋼タイプ"に最近判明した"フェアリータイプ"を備え持つ。つまり、"炎タイプ"のバクガメスとは相性で言えば最悪に近い。

 

「バクガメスは炎タイプ。クチートでは圧倒的不利な状況ですが、本当に大丈夫でしょうか………?」

「ソウ君、バクガメスを知らないみたいだけど炎タイプだってことは流石に分かるよね?」

「だとすれば、あえて不利になるように選んだと言うことに………?」

 

 彼の真意は分からない。

 よっぽどの自信があっての選択か、もしくは単なるバカなのか。

 様々な憶測が過る中、当の本人である彼の様子はというと―――

 

「クチ?」

「おいおい………まだこっちに来るなよ?せめて、バトルが終わってからにしてくれないと………」

「チー」

「待て。次のバトルに出せって言ったのは君だ。ご褒美はそれが終わってからでも―――」

「クチーー!!」

「少しは言うこと聞けぇぇ!!」

 

 クチート(クーちゃん)にじゃれつかれていた。

 容赦ないクチートのタックルに彼は避けるのに必死だ。クチートは大顎を器用にジャンプに使ってる。

 予想外のやり取りにカキとバクガメスも目を点にして、その光景を見守ってしまっていた。

 

「………何してるの、あれ?」

「さ、さぁ………?」

 

 マオの疑問も当たり前。

 彼の手持ちは主人に当たりが何かと強いブラッキーと言い、一癖強いポケモンが勢揃いしてそうな予感が。

 あのクチートはどうやら女の子。彼を大好きでその気持ちが爆発してしまって、あのような行動に出ているようだ。

 

 一旦、場を元に戻す。

 

 どうにかクチートのじゃれつきから逃れた彼はバトル前なのにもう疲労困憊の様子だ。逆にクチートは元気そうにその場を跳ねている。

 もう何が何やら。

 

「すまん………始めようか」

「あ、あぁ………」

 

 本題はここから。

 ククイ博士の合図の元、カキと彼による、バクガメスとクチートのバトルが今、―――

 

「では………試合開始!!」

 

 ―――始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バトル開始。

 

「行くぞ、バクガメス!!」

 

 先手を打つのはカキ。

 バクガメスもまた呼応して、鋭い目付きを見せる。

 

「"火炎放射"!!」

 

 灼熱のビームが発射される。

 ヒットすれば、クチートにとって大ダメージは逃れられない窮地の一手。

 彼はここからどう動くか。確かめようと視線を向ければ―――

 

 ―――クチートは既に其処には居ない。

 

「あれ………?」

「カキ!!後ろ!!」

 

 マオが叫ぶ。

 あの一瞬で距離を詰めたクチートはバクガメスの背後に潜んでいた。

 甲羅を攻撃する仕草は見せず、クチートは跳び跳ねて頭に大顎を渾身の勢いで振り当てる。

 明らかに弱点のみを狙っての攻撃だ。

 

「くっ!?バクガメス、"トラップシェル"だ!!」

「………ん?クーちゃん、下がって」

「チー」

 

 驚くことに、一撃で巨体がふらついた。

 だが、バクガメスは体勢を瞬時に整えると、トレーナーの指示に従い、防御の姿勢へ変更する。

 クチートは後ろへジャンプし、定位置へと帰る。

 びっくりした。

 カキのバクガメスの耐久は島一番だ。

 それを一撃で破ろうとして来たクチートの攻撃力は侮れないぐらいの高さであると想像がつく。

 

「今のは、凄い攻撃です………」

「うん、移動する瞬間が見えなかった」

「クチートの素早さってそんなに早かったかな?」

「それは少し違うぞ、マオ」

「どういうことでしょうか、ククイ博士?」

「さっきのクチートがしたのは"不意打ち"と言う技だろうな。相手が攻撃技を発動する前のみにおいて、邪魔をするように出せる技であり、なおかつバトルにおいては賭けに近い技だ」

「なるほど………相手が攻撃技以外の時に"不意打ち"を使ってしまうと逆にこちらが失敗に終わり、大きな隙を見せてしまうことでも有名な技ですね」

 

 バクガメスが"火炎放射"を選択したので、クチートの"不意打ち"が見事に決まった。そうククイ博士は言いたいらしい。

 カキが必ずしも攻撃してくるとは限らない。なのに、彼は躊躇なくカキは攻撃すると判断したとなる。

 判断力もトレーナーには必要不可欠な能力。

 彼はそれが人一倍備わっているのだろうか。

 

「でも、それだけだとあんなに威力の出る理由にならないよ?」

「バクガメスを少しとはいえ、体勢を崩させる程の威力を持つ"不意打ち"を私は今まで見たことありません」

「そこなんだよな………単純にソウのクチートが強すぎるのか、それとも他に何かのカラクリがあるのか………」

 

 "不意打ち"はリスクが高い。でも、成功すれば先手を取れると言う意味ではスピードの遅いポケモンに重宝される技でもある。

 でも、威力面ではそこそこ。あくまで最後の止めに利用する方法が一般的とされている。

 

「そちらのポケモン、なかなかの固さだね」

「お褒めにくださりありがとうございます。ですが次はこうはいきません」

「分かってるよ。んじゃ、早速次に行こうか。クーちゃん―――」

 

 ―――"(つるぎ)の舞"。

 

「クチー!!」

 

 クチートが踊る。

 剣の幻影がクチートの周りをぐるぐる囲い込みながらも躍り続ける。

 

「カキ、不味くない、これ?」

「はい。攻撃力が二段階強化されますので、油断すると一気に戦闘不能に陥ってしまう可能性もあります」

「………可愛い」

 

 本体の小人が踊る姿は絵になる。

 ただ、剥き出しになった大顎の獰猛さが余計に目立ってもしまう。

 

「"じゃれつく"」

 

 彼が指示を出す。

 クチートは即座に駆け出し、相手へと迫る。

 カキもそれにしっかり対応。バクガメスは自身の甲羅に籠る姿勢を取った。

 フェアリータイプの技"じゃれつく"。

 クチートは見境なくバクガメスの甲羅へじゃれつこうと飛び付いた。勿論、そんなことをすればバクガメスの甲羅が爆発してしまう。

 

「クチッ!?」

「やっぱり爆発するんか………」

「トォォォ!!」

 

 前半は爆発への驚嘆。後半は物騒な呟きをしたご主人への文句だろうか。クチートの叫びが木霊する。

 一度とない絶好の隙を見せたその一瞬を、カキが見逃す筈がなかった。

 

「よし、バクガメス!!"ドラゴンテール"!!」

 

 むっくりと起き上がるバクガメス。

 尻尾をエネルギーのオーラで纏い、その先端をクチートへ向けて、振り下げる。

 

「"アイアンヘッド"で打ち返せ」

「チー!!」

「なっ!?」

 

 "ドラゴンテール"はドラゴンタイプの技。

 フェアリータイプのクチートにはあまり効かない。つまり、クチートに対して威力はあまり出ない。

 彼はそこを付いて、クチートの大顎を使って正面から打ち返す算段に出た。

 

「バグっ!?」

 

 勝ったのはクチート。

 剣の舞で底上げされ、かつ元からあるクチート攻撃力の高さにバクガメスも付いていけていない。

 再び、彼が指示を出す。

 "じゃれつく"。

 前回と違い、お腹を晒すバクガメスに容赦なきクチートのじゃれつくが炸裂した。

 

「バグ~………」

「まだいけるな、バクガメス?」

「バグ!!」

 

 バクガメスが膝をつき、辛そう。

 クチートは全くダメージがない。さらには主人にウィンクをする余裕があるほど。

 

「うわぁ………今のは痛いよ」

「はい、バクガメスも体力が心配ですね」

「クチート、ウィンクしてる………」

「カキー!!ファイトー!!」

 

 まだ希望はある。勝てるはず。

 私を含めた、マオ、リーリエもきっとそんな気持ちからカキを応援する。

 

「仲が良いのは構わんけど、あまり駆け引きの経験が無いのか?すんなり引っ掛かって貰っちゃうと此方もやりがいが無いぞ」

「挑発のつもりか。すぐにその発言を後悔させてやろう!!」

 

 カキはある構えを取る。

 アローラでしか見られないその光景に彼は知らないはず。

 俗に言う"Z技"は選ばれし者のみが修得したトレーナーとポケモンが息を合わせて発動する奥の手。

 

「カキのやつ………すっかり忘れてるな」

「博士?何のことですか?」

「見れば分かるさ。もうすぐ決着がつく」

 

 Z技は逆転の一手となるはず。

 なんなら、劣勢からそのまま勝利へ、一気に形勢が覆ることもざらにあるぐらい。

 それでも、ククイ博士の表情はあまり優れているとは程遠く、むしろカキの判断に同意しかねない態度だ。

 

「これが俺とバクガメスとの絆!!"ダイナミックフルフ―――」

 

 その瞬間だった。

 

「はぁ………ここでそれはだめでしょ」

 

 彼が溜め息を一つ。

 そして―――

 

「クーちゃん、"不意打ち"」

 

 初手で見せた技。

 相手が攻撃する時のみ、強制的に先手を打てる賭けの技"不意打ち"。

 瞬間移動の如く、バクガメスの眼前へ現れたクチートの強烈な一撃がまたしてもバクガメスに入る。

 

「バクガメス!?」

 

 これが決め手となった。

 完全に体力を持っていかれたバクガメスの巨体がごろんと地面へ倒れる。

 バクガメスは目をぐるぐると回していた。

 これは、戦闘不能を意味していた。

 

「勝負あり!!勝者、ソウ!!」

 

 これが彼の実力。

 否、その一部と訂正した方が正しいだろうか。

 カキとバクガメスが全力で襲い掛かろうとあっさりと返す、目に見余る顕著までに浮き出た私達、キャプテンとの実力の差。

 ククイ博士は言っていた。彼がキャプテンとしての私達に何らかの力になってくれると。

 私は、その言葉の意味が今になって少し理解出来るような気がした。

 

「クチー!!」

「こっち来んなー!!」

 

 ………多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -5- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ・ご主人大好きクチート〕

「へぇ~、クーちゃんって言うんだ~」
「近くで見るとより可愛いですね!!」
「クチ~ト!!」
「てか、凄くソウに引っ付くね、この子」
「あの、ソウさんの左腕が食べられてるように見えるのですが」
「なんかなぁ………凄く気に入られたらしくて………ゲットして、暫くしてからはずっとこれ」
「大変じゃないですか?」
「慣れたらそうでも………初めの噛まれたときの痛さに比べたら………」
「「………」」
「………私も触ってみたいかも」
「クチーー!!!!」
「えっ!?何っ!?」
「もしかして、スイレンにだけ敵対心を見せちゃってる?」
「どうして………?」
「あぁ、それな。こいつ、女の子だと人間でも容赦なくライバルと見なしてしまう時があって………きっとクーちゃんから見たスイレンもそれに」
「そんな………」
「あれ?私とリーリエは平気だけど?」
「何故でしょうか?」
「クチー!!」


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-5-『海辺×相談』

 裏ヒロイン(二回目)の登場です。

 ………嘘です♪



 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「竿は全員持ったか~?」

 

 一日目の昼。

 メインイベントは釣り大会。島ならではのイベントだ。

 ククイ博士の元、生徒達に竿が配布。

 

「スイレン、説明頼むぞ!!」

「はい」

 

 今大会の主旨と注意事項を話す。

 優勝はより大きい体格の海ポケモンを釣った人。優勝者には大人組に何でも一つお願い出来る権利が授与される。

 そして、遠くまでは絶対に行かないこと。どうしても行きたいのであれば、大人一人以上に付き添いを絶対に頼むのが条件。また、危ないと感じたらすぐに誰かを呼ぶこと。

 他にも細かい部分は簡潔に噛み砕いて、生徒達に分かりやすいように伝えた。

 

「以上です。それでは、皆さん、より良い釣りライフを楽しみましょうね」

 

 はーい、と一斉に返事が返ってくる。

 ククイ博士が解散と言った途端、あっという間に生徒達はあちらこちらへ駆け出していく。

 待ちきれなかったのかな、と気楽に眺める。

 

「スイレン達も何か問題が起きたら、各自で対処するように頼むぞ」

「はい」

「分かりました」

「了解です!!」

 

 所謂、監視員が今回の仕事。

 海難事故は特に早期発見をしないと大事故に繋がる場合が多い。人の目が多ければ多い程、未然に防げる可能性も増える。

 この場合はポケモンもまた手助けとなる。

 私はアシマリを。マオはアマージョ。リーリエはアローラキュウコン。カキはリザードンを側に控えさせている。準備を万全にしておいて損はない。

 彼はブラッキーを手持ちから出していた。

 本人いわく、あのクチートでは癖が強すぎて、向いていないそうだ。

 

「では、あそこでは無闇に攻撃するべきではなかったと?」

「あぁ。トレーナーの指示には作戦があると考えても良い。何の策も見当たらないのであれば、自分が罠に誘き寄せられていると思っても良いぐらいだ」

「奥が深い………」

 

 男二人は離れて会話中。

 カキの表情が一喜一憂したり、落ち込んだりと変化自在に変わるのが気になる。

 私の視線に気付いたマオがそっと耳打ち。

 

「反省会だって、あれ」

「反省会?」

「みたいですね………正直、私には理解し難い内容ですけど、カキさんに向上の意思があるみたいで安心しました」

「カキ、ボロボロだったもんね」

「マオさん」

「はーい。私、あっちに行くね~」

 

 この場を兎のごとく逃げるマオ。

 一方的な展開で敗北したカキの精神面に不安があったみたいのリーリエだが、二人のなす姿を見て、大丈夫だと判断した様子。

 と言う私もちょっとは心配してた。

 

「では、スイレンさん、私もそろそろ行きますね」

 

 リーリエもこの場を離れていく。

 彼とカキは反省会に夢中で全く視線を周りに向けない。もう監視員は持ち場へ散開しないといけないのに、必然的に取り残された自分が催促をやらざるを得なくなる。

 

「ソウさん、カキ」

「スイレンか。どうした?」

「皆さん、もう行っちゃいましたよ」

「あれ?いつのまに。カキ、続きは今晩にでもやろうか」

「はい!分かりました!リザードン、行くぞ!!」

 

 ようやく動いた。

 カキはリザードンに飛び乗り、空へと。彼は呑気に砂を服から払っている。

 

「んじゃ、どこ行こっと」

「ソウさんに持ち場の指定はありませんが、ちゃんとお仕事はしてくださいね」

「あのラプラスいるかな?」

「………聞いてます?」

 

 この人、釣りしか考えていなかった。

 

「なら、スイレンも一緒に来る?」

「へ?………で、では」

 

 反射的に答えた。

 言葉の意味をゆっくり飲み込んでから、ようやく自分の出した返事に後悔を感じた。

 

「あ、借りれる所あった。行こう、スイレン…………ん?スイレン?」

「大丈夫です!!行きましょう!!」

「お、おう。ロウとアシマリも行くぞ~」

「ラ」

「オゥ!!」

 

 釣り大会、開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 海上。

 

「釣れないな………」

 

 ラプラスの甲羅でのんびりと。

 今、彼と二人きり。

 正確にはラプラスの甲羅上のみの話。

 生徒達の何人かは私達と同じようにラプラスをライドポケモンとして借りているようなので、私達はその子達の様子を確認しておくのが仕事。

 ただ常に気を張り巡らすのも疲れる。

 適度に緩めながら、呑気に釣りを満喫する彼に釣られてしまった。

 結局、私もこうして釣り針を垂らしている。

 

「そう言えば、前の時は何か釣れました?」

「コイキング」

「あれ?コイキングは確かアローラではあまり見かけないはずじゃあ………」

「そうなんだ。俺の運が悪いのか、良いのか。きっと前者だろうな」

 

 自虐に彼は笑う。

 ここで私はある一つの思いを打ち明けてみようと思う。

 ククイ博士からキャプテンとしての成長を促してくれる存在が彼だと説明され、素直に信じてみようと思ったから。

 彼なら何とかしてくれる。そんな気がしたから。

 

「ソウさん」

「ん?」

「今日の夜にお話があります」

「それはあれか?ククイ博士から大まかな事情は聞いてるけどさ」

「多分、それで合ってると思い―――」

 

 次の瞬間だ。

 

「おっ!来た!」

 

 彼の竿の浮きが沈む。

 当たりだ。ようやく待って到来したチャンスに私の話は遮られる。

 

「こんにゃろ!」

 

 今度は冷静に対処する彼。

 また、海へドボンする可能性もあった。アシマリをちゃんと待機させていたぐらいに。

 余計な世話になれば良いが、果たして結果は。

 

「釣れた!!………って、え?」

「え?」

 

 パクりと竿の餌を咥えていたポケモン。

 二つの大きなヒレに顔の先端にある鼻が印象的。尻尾も海の生物、アシカ特有の形を模しており、何より私に見慣れたポケモンでもあった。

 あしかポケモン『アシマリ』。

 はっ、としてつい足元の方を見てしまう。

 ちゃんとアシマリはいた。

 彼も同じ事を思ったのか、私のアシマリを一目見て、釣れたアシマリを見る。

 

「………野生か?こいつ」

「多分………」

 

 宙ぶらりんのアシマリ。

 空中でばたつくが特に意味はない。逃げたいのなら、固く結んだ口を開けさえすれば良いのだから。

 

「お前、アホだな」

「オゥ!?」

「あっ、落ちた………」

 

 馬鹿にされたのは分かるらしい。

 でも、反論しようとして竿と繋がっていた口を離してしまった。

 勿論、空中なので水ポケモンは非力。重力には逆らえない。

 

「オゥ!!オゥ!!」

「凄く怒ってる………」

 

 海面に派手な水飛沫を出したアシマリ。

 そのまま逃げれば良いものを、アシマリは海面からひょっこり顔を出しては彼に向けてガンを飛ばす。

 対して、相手にする気配無しの彼。

 

「オゥ!!」

 

 無視されていると分かるなり、アシマリは狙いを変更するらしい。

 目をつけたのは彼の側にいるブラッキー(ロウ)

 問答無用とばかりに海面からジャンプして"体当たり"を発動していく。

 

「ラ」

「オゥ!?」

 

 ブラッキーの口から黒い玉が噴射。

 技名"シャドーボール"なのだが、手加減しているのか玉自体がとっても小さい。

 が、その威力は野生のアシマリには痛手らしく、吹き飛ばされていった。

 

「何したいんだ、あいつ………」

 

 彼も呆れたようだ。

 一件落着、のように思われたが展開は意外な方へ進む。

 

「オゥ!!」

「戻ってきやがったよ、こいつ」

「オゥ!!」

「何か言いたげな感じですが………」

 

 海面からひょっこりのアシマリが懸命に訴える。

 

「アシマリ?」

 

 私のアシマリが動き出した。

 どうやらあのアシマリの言い分を通訳したいらしい。

 私のアシマリは彼の足元へ行くと腰に付けていたポケモンボールを指差す。

 

「え?捕まえて欲しいってこと?」

「オゥ~!!」

「………ムカつくな、こいつ」

 

 パチパチパチパチ。

 よく分かったな、的なドヤ顔に彼の表情が曇っていく。本人は気付いてるのだろうか。

 自分を弟子として彼に認めて欲しい。そんな感じが漂う。

 

「まぁ………偶然、手持ちの枠は一個空いてる。アローラのポケモンも欲しいと思ってた所やったし………」

「ラ~」

 

 ブラッキーは好きにしろ、とのこと。

 渋々。それはもう仕方なしに空きのモンスターボールを取り出した彼。

 

「ほら」

「オゥ!!」

 

 彼がボールを掴む。

 その腕を伸ばして、アシマリに提示する。

 スイッチ目掛けて、ここ一番の大ジャンプを見せたアシマリがぴったりとボールへタッチ。

 やがて、その体はボールへ吸い込まれる。カチカチと数回鳴らした後、辺りは先程の静けさへと戻った。

 

「………おめでとう?ございます」

 

 アシマリ、無事にゲットしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ゲストハウス。

 

「ん?スイレン?」

 

 彼の部屋を訪ねる。

 扉を開け、訪問者を確認した彼がそう問い掛けてきた。

 

「あの………相談について………」

「昼に言ってた件か。忘れそうになってた。中へどうぞ」

 

 相談があるのは既に彼も承知。

 途中の出来事のインパクトが強すぎて、薄れてしまいがちであったものの、すんなりと彼は部屋へ入れてくれた。

 中ではブラッキーが寛いでいる。

 ブラシが置いてあったので、ブラッシングの最中だったのだろうか。悪いことをしてしまった。

 

「それで?相談って?」

「あっ、うん………」

 

 訪問者の存在にちらりと重たそうに顔を向けたブラッキー。

 私だと判明するなり、興味が失せたのか静かにうつ伏せになった。

 

「ソウさんはアローラにおいて、"キャプテン"という名称はご存知でしょうか?」

「………初めて聞いた」

「簡単に説明しますね。アローラ伝統の一つに"島巡り"があります。島巡りするにあたり、挑戦者に各地にある試練を幾つか行って貰うことになっており、その案内役としてキャプテンが居ます」

「ん」

「キャプテンからは課題が出され、見事にクリアをすれば"ぬしポケモン"とバトルする権利を得ることが出来ます」

「ぬしポケモン?」

「一言で例えるなら………とっても強いポケモンです」

「なーる。ホウエンでも似たような施設はあるから、大体は分かったけど………」

「では、本題に入りますね」

 

 詳細に語れば、島巡りの条件はもっと複雑になるが此処では省略しても問題はない。

 彼に相談したい内容はもっと別にある。

 

「実は………私とカキ、それにマオも。アーカラ島のキャプテンになります」

「………マジか」

「はい。これがキャプテンの証となります」

 

 腰にぶら下げていたそれを彼に。

 彼は興味深そうに眺めていたが、すぐに返してくれた。

 

「ですが、キャプテンに就いたのも最近の話でして………私達には全然分からないことだらけなのです」

「へー。スイレンが新米さんか」

「はい………ソウさんにはどうか私の担当する試練の内容を変更するにあたって、協力して欲しいのです」

「変更?」

「先代の試練方法を現時点では採用していますが………どうやら不評のようで」

「ははは………」

 

 彼は苦笑いを浮かべる。

 

「変えようとは思うのですが、私の力では全くと言って良いほど、別の案が出てきません………そもそもそういう才能自体、私にはないと痛感する羽目に」

「ふむふむ。つまり、俺にスイレンの試練を採点、あらよくば改良して欲しいと」

「その通りです」

「了解した」

「自分で言っておきながら、あれですけど本当に良いのですか?ソウさんには何のメリットも無いのに………」

「そんなのは構わんよ。スイレンが気にする事じゃない。これは内緒だけど、元からククイ博士にスイレン達の力になるように言われてたし、何より俺自身もその試練ってやらに興味があるから」

「………ありがとうございます」

「スイレン!?何で泣くの!?」

「い、いえ!!今まで、誰にも言えなかったのでつい………ホッとしてしまったというか………」

「そっか………大変だったな」

 

 彼が頭をそっと撫でてくれふ。

 一瞬、ビクッとしてしまった。でと、そのまま彼の優しさに甘えてしまい、受け入れる。

 

「はい………」

 

 彼に話をして、良かった。

 実際には何の問題の解決にもなっていないのだけど、不思議とそう思えた。

 心の何処かで安心する自分がいたのだ。

 彼が優しく笑い、私も微笑む。

 それだけで私はもう満足してしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -6- へ続く




 ◇◇◇〔おまけ・クーちゃんの強さの秘訣〕

「ソウ、一つ質問、良いかい?」
「ククイ博士?俺に答えられることなら。何でしょうか?」
「さっきのカキとのバトルで君のクチートに持たせていたのはもしかして………」
「え?何々?」
「マオ、邪魔しちゃダメ」
「二人ともちょうど良い。勉強になるから聞いておいた方が良いぞ」
「ホントに何の話?」
「彼のクチートの攻撃の高さの秘訣………と言ったところかな」
「えっ!?やっぱり何かあるんですか?」
「始めに言うけど、不正とかは全くしてないからな?」
「それは知ってます。ソウさんはそんな人ではないです」
「………ありがと。バトルの時、クーちゃんの首に何かぶら下がってのは見えた?」
「少しだけなら。青い玉のような………」
「それで合ってるよ、スイレン。あれは"命の玉"と言う道具だ。ポケモンが技を使う際、自身の体力を削る代わりに攻撃力を上げる効果がある」
「体力を徐々に削る………つまり攻撃する自体が諸刃の剣ってこと?」
「んや、クーちゃんの場合だと体力はそのまま。攻撃だけ上がる仕様」
「………やっぱり、ズル?」
「だから違う」
「分かったぞ!其処にクチートの性格が関与してるんだね、ソウ」
「流石、博士です。クーちゃんの"力ずく"は追加効果のある技の効果を消す代わりに技の威力を底上げする能力とされている。因みにこれは"命の玉"による効果も該当しちゃう。つまり?」
「道具のデメリットを性格のデメリットで打ち消し合い、両方のメリットだけを上手く利用している………」
「理解が早くて助かるよ、スイレン」
「凄く考えられてるね………」
「これはポケモンバトルの世界ではほんの一部の利用例。もっと酷いコンボも世界には平気である。楽しいよ、こういうのを考えるのは」


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-6-『試練×巨虫』

 本話で、二回目のバトル描写となります。
 私も試練でこいつがいきなり出てきた時は焦りました。てか、負けました。



 ◇◇◇

 

 せせらぎの丘。

 

「此処が?」

 

 彼を現地へ案内した。

 合宿中だと昼や晩では時間に余裕がない。唯一空いている早朝の時間帯を使い、彼の希望を叶えるために試練の地へ向かった。

 ここは"せせらぎの丘"。

 海辺の近い岩場をベースに。滝があちこちに幾つもあり、滝から流れ出た水で大きな湖もある。

 

「はい。ここで試練を行います」

「んー。ジムとは根本的に形式自体が違うのかな」

「ソウさんのジム?が私にはご存知ありませんので何とも言えませんが………どうでしょうか?」

「見ただけだと………何とも、ねー」

 

 現場を査定していく彼。

 一言、的確なアドバイスが直ぐに飛び出してくれる等と、そんな簡単に話が進む訳がないのは承知。

 でも、心の何処かで無念と嘆いてみた。

 

「試練ってやらは前回まではどんな風にしてたんだ?」

「なら、実際にやってみますか?」

「出来るの?」

「はい、すぐにでも」

 

 彼だってポケモントレーナー。

 試練ときたら、クリアしたい。そんな野生の血が騒ぐぐらいは予想できる。

 理解はちょっと微妙だけど。

 

「大まかな試練の流れは昨日説明した通りです」

「了解」

「ですので、まずソウさんにはある課題をクリアして貰います」

 

 彼にある道具を手渡す。

 

「釣り?」

「はい。この区域一体に『ヨワシ』と言うポケモンが棲息してます。課題をクリアする為には、規定以上の大きさを持つヨワシを釣り上げてください。これが条件となります」

「………それだけ?」

「はい」

「次にぬしポケモンとのバトルに突入?」

「はい」

「まじか」

 

 正直、私も呆気ないと感じている。

 先代のキャプテンの試練方法を引き継いだ結果がこれ。初めて知ったときはてっきり冗談だと思った。

 

「先代曰く、ヨワシとの釣りを通じて挑戦者には己の弱い部分を見直して欲しい。そんな思いがあるそうです」

「へぇー………ごめんな。ヨワシってポケモンを知らないから、シンプルに感じた事言うけど良い?」

「………どうぞ」

「先代のやり方だとしてもさ、これが試練って………普通につまんなくね?」

「うっ………!」

 

 グサリ、と何かが突き刺さった。

 彼の意見は歴代の挑戦者からの指摘とぴったり一致していた。試練と脅すだけで実際は単なる釣りをするだけの楽勝案件。

 挙げ句の果てには、アローラの試練ランキングとやらで最下位を不名誉ながらゲットした過去もあったりする。

 問題は明確に判明している。後は具体的な改善策があれば万事解決なのだが。

 

「取り敢えずやってみるか」

「で、では、お願いします」

 

 彼による試練への挑戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 せせらぎの丘。下流。

 

「釣れたね」

 

 五分もせずに彼はクリアしてしまった。

 釣りの間にのんびりと世間話をするだけで課題のヨワシ釣りは特に引っ掛かることなく。

 ピチピチと跳ねるヨワシ。

 慣れた手つきで彼はヨワシを釣り針から外し、ぽいっと湖へ戻す。

 

「では、次に行きますよ」

「OK。折角だし、ロウで行くか」

 

 ここからが本番。

 

「んで?ぬしポケモンは?」

「もう、いますよ」

「え?」

 

 と、彼の背後にある湖で大きな水飛沫が弾けた。

 彼が視線を向ける。

 四本の巨大な昆虫の足。大きな泡に包まれた頭部。その中でギラリと光る眼。

 すいほうポケモン『オニシズクモ』。

 タイプは水と虫だ。

 

「………でっかいな」

 

 彼が見上げる程の巨大な甲殻。

 標準では人と同じサイズのオニシズクモだが、目の前に出現したオニシズクモは標準の倍ぐらいある。

 まさにぬしポケモンに相応しい姿が君臨する。

 

「気を付けてください。あのオニシズクモはぬしオーラで素早さが上がりますよ」

「あー了解、了解」

 

 辺りに木霊する主の鳴き声。

 それに順次したのか。雨がポツリと降ってきた。

 

「んじゃ、行くぞ。"ロウ"」

 

 彼が選んだのはブラッキー。

 舞台は揃った。自然とバトルは幕を下ろす。

 オニシズクモが脚を上げた。

 同時に大量の泡が猛スピードで襲ってくる。

 ―――"バブル光線"。

 彼の指示に従い、ブラッキーは華麗にその場を飛翔して避ける。

 続けざまに放つは真っ黒なオーラ。

 "悪の波動"がオニシズクモへ目掛けるが、当たらない。巨大な体格とは裏腹にオニシズクモは水面を駆け巡る。

 

「雨が問題だな………」

 

 雨足は強くなりつつあった。

 それが彼には少々気掛かりに思える。

 オニシズクモがまた動き出す。今度は不思議な行動を見せ始めた。

 何かを呼んでいる。そう受け取れる敵の行動に彼は迂闊に手を出さなかった。

 トレーナー同士の心理戦とは違う、純粋なポケモン勝負に手間取っているかもしれない。

 

 ―――と、また違うポケモンが出現した。

 

「あれは?」

「あのポケモンは『シズクモ』。オニシズクモの進化前です」

「まさか………共闘しに来た?」

「頑張ってくださいね」

「んな、聞いてない。それは卑怯」

 

 文句は一切受け付けてません。

 相手はぬしポケモンだ。普通のポケモン勝負と考えるなど甚だしい。

 

「ロウ、いけるな」

「ラ」

 

 短い返事。

 彼とブラッキーがバトルの間で行われたやり取りはこれだけだと私は後に知る。

 オニシズクモが再び、ブラッキーへ接近。鋭い脚先がしっかりと獲物を狙う。

 "吸血"。悪タイプのブラッキーには効果抜群。

 

「ラッ!!」

 

 だが、回避は最小限のみの動きのみ。

 ブラッキーは又してもオニシズクモの攻撃を余裕であしらう。追撃を予想してなのか、悔しそうにしつつもオニシズクモは距離を取った。

 が、ターンはまだ終わらない。

 子分のシズクモがこっそり放った"泡"がブラッキーに命中する。

 バトルで初の技の命中にオニシズクモ側へ好転するように思われたが、泡を全身に受けたブラッキーは驚くことに軽く首を振るだけで随分と平気な様子。

 

「"バークアウト"」

 

 刹那、ブラッキーが叫ぶ。

 悪タイプ特有の叫び声が二体目掛けて、解き放たれる。

 シズクモがふらふら目を回す。

 主のオニシズクモ、負けじとまたしても攻撃を仕掛ける。

 

「先に雑魚を片付けるか、"悪の波動"」

 

 が、彼は私の予想外な指示を下した。

 ぬしのオニシズクモを完全に標的から外して、狙いをシズクモに固定したのだ。

 勿論、オニシズクモの"噛み砕く"がブラッキーにヒットする。効果は今一つながらも攻撃力に秀でたオニシズクモの技にブラッキーは一瞬、表情を歪める。

 それでも忠実にブラッキーは"悪の波動"をシズクモへ。命中したシズクモは湖の向こう側へ吹き飛ばされた。

 なすすべなくして、シズクモが戦闘不能。

 

「―――――ッ!!」

「あれれ?怒った?」

 

 味方の撃沈に激昂したオニシズクモ。

 その様子に彼はにんまりとした笑顔を見せた。

 少ない付き合いでも分かる。

 あれは何かを企む顔だと。隣にいる私に伝わって来たのは強者の印である圧倒的な存在感。

 両手を合わせ、祈る。

 

「頑張って………」

「ん?………ロウ、仕上げだ」

 

 そして、彼は相棒に告げる。

 

 威張れ―――と。

 

 "威張る"。相手に自分が上だと見せつける行為を指し、バトルにおいてその行為は相手の頭に血を昇らせる無意味な行為となる。

 ブラッキーがふっ、と嘲笑う。

 はっきりとそれを見てしまうオニシズクモ。一気にボルテージが上昇。怒りに全てが狂いつかれ、攻撃力が向上した己を余所に容赦なく襲い掛かる。

 そして、次に目撃した光景に私は息を飲む。

 怒りに我を忘れたオニシズクモは冷静な判断力を損なっていた。

 つまり、"混乱状態"―――通常通りの行動は可能、一方で体の言うことが聞かないと錯覚した自身を攻撃してしまう場合もある極めて危険な状態異常。

 今回のオニシズクモは何とか攻撃へと移行できたが、ブラッキーにその攻撃は通じない。

 またしても、避けられてしまう。

 大ダメージを狙っての大振りはその見返りとして、隙が大きい。其処を一点に相手につかれてしまえば。

 

 即座に勝負がつくことだって―――

 

「やれ」

 

 ブラッキーがオニシズクモの足元に潜り込み、渾身の体当たりをかます。

 単なる"体当たり"に見えたが、そうではないらしい。

 ブラッキーが触れた部分に不思議な力が作用する反応が一瞬だけ起こる。そして、オニシズクモは背後へと吹き飛ばされた。

 その先には偶然、滝がある。

 滝が流れる横の壁に見事に衝突したオニシズクモはピクピクと脚を痙攣したまま動かない。

 それ以上、オニシズクモが立ち上がる事はなかった。

 

「勝負あり。ソウさんの勝利です」

 

 決着はついた。

 ぬしポケモンとは初バトルながらも長年の経験により、彼が勝利を掴んだ。

 褒め称えようと私はパチパチと拍手をしながら彼の元へと近寄る。

 

「なぁスイレン」

「はい?何でしょうか?」

「あのぬしポケモン、スイレンの手持ちポケモンでしょ」

「………」

 

 尋ねる訳でもなく、彼はそう断言した。

 

「一応聞いておきます。その根拠は?」

「バトル中にぬしポケモンがロウに向けた視線を逸らす瞬間が何回か確認できた。最初は俺を見てるのかと思ってたが………どうやらスイレンを見ていたらしい。それが一つ目」

 

 私は無言で答えない。

 

「二つ目。君が無意識に応援していたからだ。俺ではなく………あのぬしポケモンを、ね。その証拠に最後の決着のつく瞬間まで、君の手は震えていた」

「………流石ですね、ソウさん」

 

 私は素直に降参の意思を示した。

 昨日のカキ戦で判明した彼の実力的にバトルに負けるとは予想していたが、まさかぬしポケモンの持ち主まで見抜かれるとは。

 

「その通りです。あのオニシズクモは私の持つポケモンです。ごめんなさい、騙すような真似をしてしまって」

「んや、責めてる訳じゃない。ただ一つ気になったけど、ぬしポケモンってのは他の場所でも各地のキャプテンの手持ちから選抜されてるのか?」

「いえ。恐らくですが違います。正真正銘、野生のポケモンがその役目を担います。私の場合は適任が見つからずに、オニシズクモに代役をしてもらってますから」

「そっか。そこも考えないとあかんね」

 

 彼は気楽に言葉を返す中、私の心中は複雑であった。

 確かに彼には協力して欲しいと助力を求めた。だが、あくまでぬしポケモンとバトルするまでの過程、課題の用意が本題であり、ぬしポケモンの確保自体はまた別。

 

「あの………流石にそこまでは………ソウさんに迷惑かけるだけなので………」

「スイレン、何を今更。もう乗り掛かった船ってやつ。それに初めて二体同時にバトルしたし、それが結構面白かったからね………そのお礼として、最後まで付き合うよ」

「はい………ありがとうございます」

「さてと。思ったより時間がかかったな。課題の中身作りは明日以降にして、今日はもう宿に戻ろうか」

「分かりました」

 

 忘れずに瀕死のオニシズクモを回収する。

 私と彼はせせらぎの丘を後にした。

 こうして始まった、彼とのアローラ試練の製作作業。

 一体、私の試練はどうなるのか。

 完成したその未来の光景に期待の胸を踊らせつつ、私は彼の隣を歩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -7- へ続く。




 ◇◇◇〔おまけ・ヨワシ釣りでの会話抜粋〕

「ソウさんは今までどんな水ポケモンを釣ったこと有りますか?」
「ん?そうだね。珍しいのだと………黄金のコイキングとか、かな」
「ふふ。昨日から、コイキングばっかり話に出てきますね」
「うるせぇやい。そういうスイレンは?」
「私ですか?そうですね………例えば………カイオーガ、とか?」
「あー、俺もその経験あるわ」
「………えっ!?冗談ですよね!?」
「ん?あっはっは。冗談に決まってるやーん。カイオーガとかとっても重たいし、人間が釣れる限界越えてるよ」
「………ソウさんはバカ野郎です」
「何で!?」





*一応、参考までに。

ぬしポケモン『オニシズクモ』
《技一覧》
・吸血
・ねばねばネット
・噛み砕く
・バブル光線


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-7-『授業×秘密』

 夏の間に完結しようと急ぎの投稿。
 今回は説明&伏線張っていく回です。

*後、評価一つで色が付くぞ………!!(チラチラ)



 ◇◇◇

 

 合宿、二日目。午後の部。

 

「今日はソウによる特別授業があるぞ!」

 

 今日の午後の予定。

 彼による特別授業である。

 午前ではポケモン達との触れ合い。午後は彼が直々にバトルの勝つ秘訣を教えると随分張り切っていた。

 午前中は博士の用意したポケモン達が大いに登場した。ニャビーやモクローみたいな比較的危険性が低いポケモンが選抜された。

 小さい子達を基準にしたのは生徒達が触れやすいようにと配慮した結果だ。そのお陰もあってか、全員が怖がる事無く、色んなポケモンとの触れ合いに乗じ、貴重な経験の糧となったはず。

 私と彼もアシマリをボールから出し、生徒にここを撫でてあげると喜ぶよ等の助言をしつつ、微笑ましく見守っていた。

 

「さて、お昼ご飯は皆食べたかな?」

 

 昼食は定番のカレー。

 おかわり戦争が勃発した、すぐに完食する人が続出あちこちするマオの手料理に舌を打ちつつ、現在はもう午後の部。

 

「俺が今日、皆に覚えて欲しいことは"ポケモンバトル"について、だ。だけど、その前に、そもそもポケモンバトルってのは何の為に行うか誰か知ってるか?」

「はい!!強くなるためです!!」

 

 生徒の一人がそう主張する。

 彼はふむ、と頷くとボールを一つ腰から取り出す。

 

「確かに強くなる………正解の一つだ。ポケモンだけじゃなく、トレーナー自身もバトルをこなせば自然と強くなっていける。でも、今回のテーマとはちょっと違うな~。他に正解が思い付く人は居るかな?」

「ポケモンと仲良くなるため………ですか?」

「おっ、大正解。今回のテーマは"絆"。まず皆に見て欲しいのが、昨日のバトルに出てくれたこのクチートってポケモンなんだけど………出ておいで"クーちゃん"」

「クチー!!」

 

 登場したのは先日のバトルで活躍したクチート。

 彼にその頭部を撫でられ、嬉しそうにその頬を緩ましている。

 

「信じられないかもしれないけど、この子も初めは相当弱かった過去を持ってるんだ。それはもうほんと酷い。全戦全敗は当たり前、たった一度の勝利に半年はかかったぐらいには、ね」

 

 生徒達は彼の演説に没頭する。

 一言一句逃さないその姿勢は普段の授業態度とは比べ物にならない真剣ぶり。

 

「だから俺がまず始めたのはこの子、クーちゃんと仲良くなること。そして、徐々に時間をかけてさえでも、クーちんは何が得意で何が苦手かを知ろうとした。

 バトルはクーちゃんを知る大切な要素の一つ。勿論、トレーナーの指示もあるけど戦う張本人はどういう判断を下し、どう対処するのか、俺はこれを重点的に理解しようとした。

 その集大成が今から見せるこれだ」

 

 今、気付いた。

 クチートの首飾りが青の玉から模様が刻まれた玉へと入れ換えられていた。

 察した私は彼の左手首を見る。やはり、リングがあった。

 

「クーちゃん………()()()()

「チャー!!」

 

 淡い光がクチートの全身を包む。

 いきなり現れたその光景に生徒達からも歓声が漏れた。

 暫くして、光が収まり、その姿が見える。

 まず、体が一回り大きくなった。大顎が二つに増え、ツインテール状へと。下半身と手首部分にピンク模様が入り、袴っぽい服装に拍車がかかっていた。

 

「クッチー!!」

 

 ―――『メガクチート』の爆誕だ。

 

「トレーナーとポケモンが信頼を築き上げた可能性。それがやがてはこんな風にメガ進化となり具現化した。バトルはポケモンを傷つけ合うだけなんて言われることもあるが、実際のところ、バトルの本質はトレーナーとポケモンが絆を再確認するもの………って皆にはずっと覚えて欲しいな」

「はい!質問!!」

「どうぞ、ホウちゃん」

 

 挙手したのは妹のホウだった。

 

「お兄さんはどうして其処までポケモンと仲良くなれるんですか?」

「んー。難しい質問だな………ポケモンを好きだから、かな?………うん、それ以外に浮かんでこないわ。自分がこの子達、ポケモンを愛するとまたポケモンもちゃんとそれに答えてくれる。そういう所があるからこそ、俺もポケモンも正々堂々ぶつかり合える………ってのが俺のポケモンと仲良くなれる真髄かな」

「ありがとうございます!!」

「さて、他に質問はない?無かったら次の説明に移るよ」

 

 彼のポケモン講座はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バトル講座。

 

「さて、次はバトルにおいて重要な"技"についてだ。因みに皆は技にはどんな種類があるか分かるかな?」

「攻撃!!」

「うん、攻撃あってこそバトルが成り立つからね」

「特殊攻撃もあるよ!!」

「そうだね。特殊技が得意なポケモンも勿論この世界には沢山いるね」

「防御とか強くしたりも出来る!!」

「相手の攻撃下げたりするのも?」

「"巻き付く"はスピード遅くするよ!!」

「それらは全部、変化技って類いに入るね。自己強化したり相手の能力を下げたりする技だね」

 

 大まかに区切れば、技は話題に上がった物だけで構成される。

 ここまではまだシンプル。

 

「細かい技の効果とはこの際、置いておくとして………残念ながら、バトルにおいて技は4つまでしか使えないルールがある。ポケモンバトル協会が正式に定めたルールだから、絶対に順守すること。じゃないと、即反則負けになるからね」

 

 ポケモンバトル協会とはポケモンバトルにおいて、ルールを定めた団体を指す。そのルールは全世界共通であり、一つでも破れば即座に反則負けと判断が下される。

 プライベートな対戦で大まかなルール変更は可能だ。

 只し、公式試合では必ず、このポケモンバトル協会のルールが適応される。

 

「4つまでと制約がある以上、自分のポケモンに技を覚えさせるのは4つで良いだろう………なんて考えはあんまりお薦めしない」

「なんでですか?5つ目からはバトルでは使えないですよね?」

「良い質問だ。そうだよ。使えない。でも!例えば、そうだね………自分のポケモンの技が全て相手に知られていたら、その時点でもう此方が不利になってしまう。所が、技を沢山持つとその分、戦略性に幅が広がり、余計に相手も対策をしにくくなる。

 実際にクーちゃんで見せようか。まずは皆が見たことある技から」

 

 彼はクチートに技の発動を指示。

 

 ―――"アイアンヘッド"。

 ―――"じゃれつく"。

 

 二つの技をクチートは披露した。

 メガ進化した影響でとてつもないパワーを秘めているのが、傍目からでも感じ取れる。

 

「この二つは攻撃の主力。相手ポケモンのタイプを考えて、二つ以上のメインウェポンを用意するのは定番だね」

 

 次にまたクチートが動く。

 

 ―――"不意打ち"。

 

「これは使い所が難しい反面、トレーナーの隙を突ける技でもある。でも、最初の内は判断力が必要でなかなか慣れないから無理はしないでおいて欲しいな」

 

 ―――"剣の舞"。

 

「言わずと知れた、攻撃力強化の技。特に、クーちゃんは物理攻撃が得意だからこうやって鬼に金棒って感じでバトルを有利にしていく意図があるよ」

 

 以上がクチートの現在判明しうる技。

 ここからは彼以外、未知となるクチートの異様な世界へと突入。

 彼はクチートは怒濤の技一覧を公開する。

 まずは攻撃技から。

 

 ―――"ストーンエッジ"。

 ―――"雷パンチ"。

 ―――"炎のキバ"。

 

「ストーンエッジは弱点の炎タイプ対策。雷パンチは水ポケモン用に。炎のキバも一緒でクーちゃんと同じ鋼タイプとかに用意してある。あくまで、念の為だけどね」

 

 次はその他の技。

 

 ―――"身代わり"。

 ―――"はたき落とす"。

 ―――"挑発"。

 

「身代わりは防御が苦手なクーちゃんが安心して攻撃に集中できるように。はたき落とすは一応攻撃にも使えるけど、普段は相手の持ち物を警戒した時に使うかな。挑発は確実に次に不意打ちが発動できるように。姑息だろ?

 ………これで技は以上だな。こんな感じで俺の手持ちのポケモンには少なからず4つ以上の技は覚えさせている。全員に必ずしも、俺みたいにそうしろと強制はしないけど、上を行くトレーナーの殆どはこれを当たり前にやってるよ」

 

 多種多様性に含んだ技構成。

 当然、素人にここまで複雑に配慮を巡らせるのは困難である。

 彼が只者では無い証明でもあった。

 

「流石だな………」

「ククイ博士。彼は一体何者なのでしょうか?ポケモンに狙った技を覚えさせるのは至難の技。それをこうもあっさりと………」

「それは僕も同意見かな、カキ。最悪、技構成を見ただけで分かるけど、あのクチート一体だけで全滅させられる可能性だってあるわけだし」

「マーマネ、居たんだ。いつから?」

「ふぇ!?いつになく当たりが強いけど、何かした!?」

 

 "マーマネ"。スクールの同級生。

 また、私達と同じキャプテンでもある。専門は電気タイプ。

 小柄に太った体格は昔から変化なし。

 そんなマーマネがとても慌てるが、純粋にその存在に今の今まで気付かなかっただけてであって、別に私が不機嫌などではない。

 

「ソウはな、ホウエンリーグ………ホウエン地方の最強を決めるトーナメントで自己最高記録ベスト4()を果たし、しかも負けた相手は当時のチャンピオン。運が悪かっただけで決勝まで行ける実力は十分あったと言われていた」

「ベスト4………そりゃ、強いはずだよ!!」

「マオさん、落ち着いてください」

 

 彼の強さはきっと此処だ。

 ポケモンと繋がる信頼が必然と産んだ、得意分野に力を置き、その分野において右に出る者がいないぐらいに育成する彼だけの方法。

 生半可な覚悟で挑んでしまえば、例え相性が有利でも簡単に覆される。

 そんな彼でもリーグでは優勝経験無し。

 私の住む世界がいかにも狭いか、思い知らされている感覚に陥る。

 

「カキ、ちょっと来てくれ!!」

 

 彼がカキを指名した。

 どうやら最後に手本バトルの演習相手として、カキを選んだらしい。リベンジに燃えるカキに嫌な予感しかしないが。

 彼による本日の講座はこれで終わり。

 

 ―――やっぱりというか。

 

 そのバトルは互いのプライドから熱が入り、生徒達の応援がより一層盛り上がる試合になったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「………どこ、行ったんだろう………」

 

 二日目の夜。マオ自慢の晩御飯を満喫し、生徒達は消灯までの自由時間を楽しそうに過ごしている。

 この時間、大人組は特に仕事がない。

 故に自由な過ごし方を各自実行している。

 その中、私は彼の行方を追っていた。試練の相談をしたいのだが、あくまでそれは建前。本音はもう少し彼のことを知りたいと思ったから探している。

 ほんの好奇心。うん、好奇心。

 

「アシマリ、いた?」

「オゥ~」

「ダメ………」

 

 残念ながら、宿に彼は居なかった。

 唯一得られたマーマネから彼が玄関から外に出る姿を見たという証言だけが手掛かり。

 一歩、歩けば自然が覆い尽くすアローラにおいて夜道の光源は月光のみだ。

 

「あ………足跡………」

 

 偶然、発見したのは砂浜に沈むサンダル模様。

 間違いなく、これは彼のものだと感じた。

 導かれるかのように進む私とアシマリ。辿り着いた先は昼間もいた砂浜。

 彼の姿は未だ見えない。暗いだけでなく、まだ彼は実際に遠くに居るようだ。

 

 ―――そして。

 

 岩盤が目立つようになり、自然と彼の足跡は残っていない。だけど、もう既に彼の姿はうっすらと見えていたから平気。

 海へと伸びた崖の先。そこに座る影がきっとそうだ。

 私も海岸線から近づこうと―――

 

「えっ………?」

 

 視線を横へ。夜の海面が広がる。

 月明かりに照らされ、キラキラと輝くその海面上に小さな影が跳び跳ねたのだ。

 あまりにも一瞬の光景。なのに、私は幻想的に儚く綺麗に思ってしまった。

 

「ラ」

「ひゃっ!?び、びっくりした………」

 

 背後から唐突に声が。

 びっくりして思わず悲鳴を出してしまった。

 声をかけて来たのは、彼のブラッキー。真夜中なので、その瞳が綺麗に光っている。

 元々、ブラッキーは月の光と繋がりが深いポケモン。きっと暗闇でも平気に動けるのだろう。

 と、ブラッキーは数歩進み、その尻尾を揺らした。

 

「付いてこい?」

 

 そんな感じがした。

 アシマリを胸に抱え、大人しくブラッキーの後を付いていくことにする。

 再び、海面を眺めるがさっきの出来事がないかのように元の無限に広がる海がそこにあるだけだった。

 

「あっ………ソウさん」

「その声はスイレン?」

「はい、私です」

「オゥ!!」

「おっ、アシマリも一緒か」

 

 突き出た崖に座るのは彼。

 ブラッキーに其処まで案内をしてくれたお礼にその頭を優しく撫でてみる。

 目を瞑り、嬉しそうに擦り付けてくる仕草が可愛い。私もゲットしたい欲がちょっとだけ出てしまった。

 

「こんな所まで来て………どうしたんだ?」

「と、特には………ただソウさんとお話がしたくて………」

「そっか………ここ、座る?綺麗だよ」

「で、では、失礼して………」

 

 彼の隣に腰を下ろす。

 宙に出された両足に恐怖心が芽生えたのはごくわずかで、眼前に広がる夜の水平線に私の心は瞬時に奪われた。

 

「凄く綺麗です………」

「あぁ、アローラは自然豊かでとても過ごしやすい。こういう絶景も近くにあったりしてね。少し滞在しただけでもう俺、気に入っちゃったよ」

「ありがとうございます?」

「何で聞き返してくるんだ?」

「分かりません………この場所は私も初めて知りましたから」

「なら、ここは二人だけの秘密の場所………だな」

「………ですね」

 

 波の安らぎだけが聞こえる。

 昼間は騒がしくいた海辺も夜になるとこうして静けさに気を落ち着かせる場所になる。

 と、腰にペチペチと何かで叩きつかれる。

 

「はいはい、アシマリもね」

 

 アシマリを膝に乗せる。

 普段とは変わらないアローラの海なのに、神秘的と感受性が変わってしまうのは隣にいる彼のせいだろうか。

 ふと気になった事を尋ねる。

 

「ソウさんのアシマリはどうされました?」

「ん?あー、"マリー"ね。あいつ、喧嘩っ早い癖に弱いからボールの中で大人しくさせてあるよ」

「まりー?」

「マリー。スイレンのアシマリと被るから、アダ名を付けてみた」

「私のアシマリとソウさんのアシマリ………お揃いですね」

「だね」

「………」

 

 会話はそれ以上ない。

 でも、彼と一緒に眺める景色に不思議と気まずさは感じなかった。

 

「スイレンは………」

 

 彼がふと言葉を溢す。

 

「はい?」

「人に言えない秘密なんてあったり………いや、やっぱり良いや」

「ソウさん?」

 

 最後まで聞き取れなかった。

 彼は誤魔化すように立ち上がった。軽く服から塵を払うと、私へ顔を向ける。

 

「俺、宿に戻るけど、スイレンはどうする?」

「なら、私も戻ります」

「一緒に行こうか。夜道を女の子一人で歩くのは危険だ」

 

 さっき、何を言おうとしてたんだろう。

 また掘り返すのも彼を困らせるだけに思えて、私の口はゆっくりと閉じていく。

 

「ソウさん………」

「ん?」

「例え、ソウさんに何か言えない秘密があっても、私はソウさんを信じます」

「スイレン?」

「ソウさんはソウさんのままでいてください。ううん、ずっといてください。ソウにはやってもらう事が沢山あります。私の試練のこともそうだし、合宿の間では皆の憧れる先生でもありますから。しかも、ホウやスイも今ではきっと貴方が大好きになっちゃってます。だから、―――」

 

 いきなりベタな台詞を吐く私に驚く彼の表情が月明かりに照らされる。

 きっと彼は何かを抱えている。それだけは根拠は無いけど、何故か感じ取れる。

 なら、彼が私に求めてるのは何か。

 今出来るのは、こうして彼を奮い立たせる言葉をかけてあげるだけ。

 だけど、いずれきっと私は彼に―――

 足と手を大の字に大きく広げて、私は精一杯の思いを託す。

 

「大丈夫。きっと、大丈夫。キャプテンの私が保障します。私の知ってるソウさんはぜぇーーたいに!!大丈夫です!!」

「ふふっ。スイレンこそ大丈夫って言ってばっかだな。急にどうしたんだよ?」

「………」

「ホントにどうした?」

「………なんだか恥ずかしくなりました」

「そっか。帰ろう?」

「うん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -8- へ続く




◇◇◇〔おまけ・クーちゃんまた暴走〕

「クチー!!」
「今はダメやってー!!」
「うわぁ………メガ進化したから、狂暴性増してるよ………」
「大きな口が二つになってますからより器用に追い掛けてますね」
「何で二人ともそんなに冷静なの………?」
「スイレンはどうなの?」
「どうって?」
「クチートに先を越されるけど良いの?」
「………何の話?」
「あれ?もしや………自覚無しとみた」
「マオ?大丈夫?」
「大丈夫!!むしろ、ありがと!!頑張ってね、スイレン!!」
「………?」
「スイレンさん、安心してください。私もマオさんの言いたい事、分かりません!!」
「………女子はほんと怖いよ」
「マーマネ?今、何か言った?」
「何も無いです………はい」



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-8-『魚群×探険』

 ◇◇◇

 

 せせらぎの丘。

 

「お~い、マリー。あんまり離れるなよ~」

 

 合宿三日目の早朝。

 今朝もまた私と彼は試練の内容を練ようと現地を訪ねていた。

 でも、流石にルアーの浮きは浮かぶけど、直ぐに名案は浮かばない。なので私からの提案で今日は湖の生体調査をすることになった。

 

「ソウさん、調子はどうですか?」

「今一つかな………ヨワシばっかだ」

 

 現場を知る。

 これが何かしらのヒントになればと考えた。

 現実は甘くなく、だいぶ時間をかけて釣りをするがヒットするのは二人ともヨワシのみ。

 まさか、ヨワシしか生息してないのかな。あ、でも、少なくともシズクモが昨日いたのは確認していた私。助けに来たあのシズクモは野生のポケモンなのだ。

 退屈しのぎにボールから出された彼のアシマリがヨワシが湖から引き揚がる度に攻撃を繰り出していた謎の行為も、既に飽きているぐらい。

 彼のアシマリはどうやらここ周辺を巡ってみたいらしい。私のアシマリを仲間に引き込もうと説得するが、成果はお察しの通り。

 その時、釣竿がピクリと動く。彼は反射的にその竿を引いた。

 いぇーい。ヨワシだ。

 

「またお前か。ほら、マリー」

「オゥ………」

 

 主人に渡され、仕方無しに。

 そんな風にアシマリはそのヒレを持ち上げた。

 このアシマリ、実はとても弱い。

 同じポケモンの私のアシマリにさえ、絶望的にぼろ負け。釣りの前に判明したまさかのこの事実に彼も苦笑いするだけである。

 唯一、勝てるのはヨワシのみ。

 だからこうやって少しでも経験値の糧になれば、と彼は配慮している。が、当の本人はもっと強い敵とバトルさせろと主張してくる。勝てないだろと彼に論破され、渋々諦めていたけど。

 向上心だけは無駄に一人前。

 

「オゥ!!」

 

 "体当たり"でヨワシを湖へ突き返す。

 無情にも思えるが、見た目の割にダメージは小さいので特に心配はしてない。

 また餌をつけ直し、釣りを再開。

 ふとその最中に私は湖で気になる物を見つけた。

 

「ソウさん………」

「何か釣れたのか?」

「いえ、あそこ見てください」

「あれか?ん?」

 

 発見したのは水面に見える黒い影。

 

「何あれ?」

「ポケモンでしょうか?」

「にしては丸いよな」

「え?………さっきより大きくなってる?」

 

 彼とその正体を言い合ってると段々とその影が大きくなっていく。限界を知らず、遂には人のサイズを大幅に越える大きさに到達した。

 彼の目付きに真剣さが増す。

 

「マリー、戻れ」

「オゥ!?」

「ソウさん?いきなりマリーを戻したりして、どうし―――」

 

 ―――刹那。

 

「スイレン!!」

「きゃっ!?」

 

 彼が私を抱え、受け身覚悟で飛んだ。

 すると先程まで私達がいた場所に半端ない量の水圧が通り抜ける。

 あれは―――"ハイドロポンプ"。

 危険な技を放つ正体はまさについさっきまで話題に上がっていた黒い影であった。

 

「湖にこんなのがいたのか………」

「い、いえ………あれはヨワシです」

「ヨワシ?」

「はい、一定の条件を満たすと大量のヨワシが一ヶ所に集まり、群れを作る習性があると聞いたことが………でも、私もあまり見たことないです」

「マリーがぼこぼこにしたせいかな」

 

 本来のヨワシとは真逆の存在が私と彼を敵意に満ちた狂気の光る目で睨んでくる。

 単体では敵わないから、ヨワシは群れる事で身を守ると知識にある私でさえ実物を目の当たりにしたのは初めて。

 希少なのだ。ヨワシが群れる現象は。

 詳細を解き明かそうと研究者が意気込むのだが、そもそも立ち会えないのと危険性が高いを理由に断念せざるを得ないと噂で聞いたこともあるぐらい。

 危険性が高いのは肌を通じて感じている。

 なんか、ごめんなさい。

 

「なぁスイレン」

「は、はい!」

「これ、使えると思わないか?」

「え?使えるって何に?まさか、試練に………ですか?」

 

 思わぬ発想だった。

 挑戦者は基本的にヨワシを下に見てしまう傾向にある。その裏をつくように、群れた姿でいきなり出現したとなれば―――

 ぬしポケモンに相応しいかもしれない。

 

「こいつをぬしポケモンの候補にするとして、問題は二つ。まずはこの姿になる条件を明確にすること」

「は、はい………!」

「次に―――」

「あ、あの!!ソウさん!!」

「ん?」

「下ろして貰って………良いですか?………照れてしまいます」

「あっ、すまん」

 

 夢中になるのは分かるけども。

 でも彼の胸に抱えられていた私の思考は正直、目の前のヨワシどころではない。

 異性との触れ合い自体、両手で数えられる私に不意をつく彼の抱っこは心に来るものがあった。

 私の心臓はバクバクするし、意識せずに頬は熱くなってしまう。

 彼に悟られるのも嫌で、つい誤魔化すように彼に話を急かす。

 

「それで、もう一つとは?」

「ヨワシのレベルだ。強すぎると試練自体、誰も合格しなくて成り立たないし、その逆もまた然り」

「なるほど………」

「相手もそろそろ動くかな。スイレン、ちょっと離れておいてくれ」

「分かりました。ソウさん、お気を付けて」

「了解」

 

 彼が腰に手をやる。

 ボールから新たに飛び出したのはお得意様のクチート。

 群れた姿のヨワシはきっと強敵。

 でも、私には不思議と相手がどれだけ強かろうが彼が負けるとは思えなかった。

 だって―――

 

「さぁ!ヨワシ!行こうか!」

 

 彼が楽しそうに笑ってるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 合宿三日目。昼の部。

 

「今日は皆に探険に出てもらおう!!」

 

 今日は午前と午後を合わせて行う。

 探険、と盛大に上げつつ、その中身は単なるスタンプラリーだ。

 各スポットに置かれたスタンプを班員と一緒に巡り集めて、最後に宿に戻ればゴールとなる。

 勿論、引率として私達が就く。

 裏準備では、カキがリザードンを飛ばして、事前に打ち合わせで決めた場所にスタンプを配置してくれた。お疲れ様。

 

「それじゃあ………皆、さっき引いた籤に書かれた番号と同じ人同士で集まってくれ!」

「4番はこっちだよ!!」

「3番はここだ」

「2番は私の所ですよ」

「1番は俺のとこだぞ」

「5番は僕が担当するよ~」

 

 私は6番の引率担当だ。

 

「6番の子はこっちだよ~!………恥ずかしい、これ」

 

 若干の照れを隠しつつ。

 無事に同じ番号の生徒達が集まる。全員、もう顔見知りの仲なので班での協力行動も心配なくいけそうだ。

 

「私達の出発は最後。それまではゆっくりしてて、大丈夫だよ」

 

 はーい、と返事する班員達。

 番号順に出発する予定なので、今頃は彼の率いる班が出発してる頃だろう。

 

「あれ?………」

 

 ふと頬に触れた冷たい感覚。

 雨の予兆だろうか。自然と上を見上げれば、そんな気配は微塵も感じさせない程、晴れ晴れとした天気が広がっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 班探険の道中。

 

「次で最後だね」

 

 出発してから既に三時間が経過した。

 紙に押されたスタンプに目をやる。

 可愛らしいポケモン達のスタンプ姿が並び、右下の残り一つ最後の枠が空いていた。

 これまでの過程では班員達にとって大きな試練が待ち構えていた。が、班員達は子供らしく元気よく楽しそうに順調過ぎるペースで乗り越えていった。

 流石にガラガラのダンス対決は今思い返しても謎だったけど。

 

「スイレン先生~」

「うん?どうしたの?」

「雨、降ってきました!!」

「え?あっ、ほんとだ………」

 

 ポツリ、ポツリ。

 気づけば曇天の空が広がっている。天気予報では晴れのみと報じられていたが、単なる通り雨だろうか。

 

「ちょっと急ごうか」

 

 私はそう注意換気をした。

 これぐらいならまだ続行しても問題ないとは思うけど、余裕持っての行動に損はないから。

 班員達を次のポイントへ。

 

「………結構、降ってきた」

「どうするの?スイレン先生~」

「うーん………」

 

 不幸にも、本降りになった来た。

 叩きつけるように降ってくる雨粒にこれ以上の続行は困難と判断せざるを得ない。

 とにもかくにもまずは班員を宿へ無事に戻すことが最優先。

 

「最後のスタンプは一旦諦めて、宿に戻ろうか」

「えー」

「こーら。文句は言わない」

 

 これは通り雨にしては本格的過ぎだ。

 アローラの気候では異常気象レベルの降水量を記録する。

 嫌な予感がした。島がぞわぞわと騒ぐ気配に敏感に私は反応してしまう。

 

「………アシマリ」

「オゥ?」

「皆も聞いておくように。宿に戻るにはこの林道を真っ直ぐ行くだけ。だから、皆は寄り道なんかせずにちゃんと先に戻っておいてね」

「え?先生は?」

「私はちょっと確認したいことがあるから」

 

 アシマリに監督役を引き継がせる。

 そして、私は駆け出した。

 この地域一体は地盤が緩い印象があったようなそんな記憶がふと頭をよぎったのだ。

 キャプテンとして。少しでも島の危険があるのなら黙って見過ごすわけにはいかない。

 

「はぁ………大丈夫そう………かな」

 

 偵察回りに勤しんだ結果、異常無し。

 あの嫌な予感は単なる気のせいだとなって、心が少しホッとした。

 

 ―――その瞬間だった。

 

「え?」

 

 揺れた。()()()()()()

 地震ではない。地面全域が引き摺るように動いている。

 全身が一気に恐怖に包まれた。

 原因はすぐに分かった。"土砂崩れ"だ。

 

「―――くっ!!」

 

 幸いにも、私は山の下部にいた。逃げる時間にある程度の猶予があったのだ。

 発生現場も私の現在位置と被っていたのは少しだけだったようで精一杯の走りだけでどうにか難だけは逃れた。

 走ってきた道を振り返れば、既に道なんて物は失せている。これに巻き込まれそうになっていた自分に思わずゾッとする。

 こんなの、無事どころでは済まされない。

 さて、来たルートを土砂で覆い被さる形で土砂が襲ってきてしまった。帰ろうにも帰れない事態に陥ってしまった自分に気付く。

 連絡手段は無い。手持ちのポケモンもアシマリ以外は生憎、宿の部屋に置いてきてしまった。

 大雨は降り続ける。

 つまり、状況は最悪を辿る一方。

 

「どうしよう………」

 

 目の前の惨状に私はただ嘆くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -9- へ続く



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-9-『遭難×大雨』

 初のスイレン以外の視点が出ます。一瞬ですが。
 また、彼の手持ちから新たなポケモンが新登場。是非、お楽しみに。




 ◇◇◇

 

 とある洞窟。

 

「やった!!ここで取り敢えず………!!」

 

 命の危機を逃れ、安全な場所へ。

 大雨の降る中で目にしたのはぽっかりと崖下に空いた大穴。

 運に恵まれている。

 体が濡れるのを防ぐ為にそこで雨宿りしようと避難した。

 

「っくしゅん………!!」

 

 ―――くしゃみを一つ。

 状況は右肩下がり。完全に体の芯から冷えてしまっている。

 このままでは体調を崩すのも時間の問題。

 私は何をすべきか考える。

 生徒達はきっと大丈夫だ。アシマリも側に付いてあるし、土砂崩れの発生現場とは結構な距離はあったはず。

 解決すべきは自身の安全確保。

 連絡手段も無し。体は冷える一方で、一歩外に出れば大雨に遭う。

 大穴の奥へ進むのはさらに危険。

 下手をすれば、内部崩壊する可能性だってあるのだ。

 この場で待機するのが最善策だろうか。

 大雨が止むのが先か。私が皆と合流出来るのが先か。

 もしくは………。

 

 ―――雨は無惨にも降り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ゴール地点。

 

「オゥ!!」

 

 懸命に鳴くその声に私は気付く。

 

「あっ!!やっと来た!!」

 

 現在、スコールが到来中。

 年に一度あるかないかの記録的スコール。既に例年以上の降水量を叩き出していた。

 そんな最中に生徒達の無事を全員確認できたのは良かった。

 

「班員、全員いるね!?」

「うん!!でも、マオ姉ちゃん!!スイレン姉ちゃんが!!」

「えっ!?スイレン!?どこ行ったの!?」

「途中で僕達に先に行けって………!!」

「もしかして………様子を見に行った!?あのバカ!!」

 

 この子達が最後に出発した班。

 既に他の生徒達は全員点呼を取り、ひとまずゲストハウスへと避難して貰っている。

 唯一、スイレンの無事だけが不明。

 だが、大人組もまた別の対処に追われており、彼女の捜索に人員をかけるのは時間を要する。

 緊急を必要とする事態に陥っていた。友達のピンチに私は焦ってしまう。

 

「マオ、どうした?」

 

 レインコートを着た彼が様子を見に来た。

 

「スイレンだけが帰って来ないよ………どうしよう!?」

「そっか………落ち着け、マオ。此処に来てないのはスイレンだけ?」

「えっ!?………う、うん。生徒達は全員確認したし、博士とカキ、リーリエにマーマネも中にいる。スイレンだけが確認、取れてない………」

「了解した。マオはこの子達を案内してやってくれ」

「それは分かったけど………ソウはどうするつもりなの?」

「探しに行く」

「危ないよ!!博士から危険だから行くなって………!!近くで土砂崩れも発生してるみたいだし………」

「スイレン見つけてすぐ帰ってくるから」

「そんな………!!」

 

 彼は外へ歩き出す。

 あまりにも危険かつ無謀な行為だ。

 大雨で視界が遮られ、風も強い。何より、土砂崩れが起きるのは地盤が弛んでいるせいで二次災害も注意しなければいけない。

 止めないと。

 私が彼の腕を掴もうと伸ばすと。

 

「ごめんな、マオ」

「………ソウ?」

「きっとこんなことになったのも俺のせいだ」

「そんなの!!関係ない!!たまたま今日、スコールに遭遇しただけであってソウのせいじゃ………!!」

「ごめん」

「あっ………」

 

 彼は走り去っていった。

 呆然と見送る私に彼の後ろ姿はあっという間に消えてしまう。

 唯一見えたのは、彼の手に握られた二つのボールだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 とある洞窟。

 

「ふぅ………」

 

 あれからどれくらい経っただろうか。

 着用していた水着もびっしょり濡れてしまい、徐々に全身から体温を奪われていく。

 悪天候にめぼしい変化はない。

 土砂降り。

 誰かが助けに来るなど無謀と分かってしまう今、ただひたすらに耐えるしか残された道はない。

 ………心が折れそうだ。

 

「ソウさん………」

 

 こんな時に浮かんできたのは彼の顔。

 数日前に偶然出逢って、今日まで時間が合えば隣にいた人。

 どんくさい一面を持ちつつ、ポケモン達と真剣に向き合う面もまた。彼と一緒にいるポケモンはどの子も幸せそう。

 私はどうだろう。

 キャプテンに就任した。でも、試練は上手く行かず彼に助けてもらってばかり。長女として威厳が欲しいのに最後は彼に甘えてばっかり。

 なんか………自信なくした。

 考えるの止めよ。

 

 ザァー………ザァー………。

 

 止まない雨。じっと見つめる。

 叩き付ける雨粒の音と洞窟の天井から滴る雨粒がやけに鮮明に聞こえる。

 木々の隙間から見える景色も暗い。

 そもそも景色など雨に遮られて見えない。あそこに見える変な黒い物体もきっと目の錯覚だ。

 

 ―――え?今、動いた?

 

 まだうっすらとだけ確認可能な距離。

 でも確実に謎の正体は動いている。否、私の方へ近づいてきている。

 というか、この大雨の中で普通に居るのだけど。そっちがむしろ大問題。

 空夢と思いたい。

 目をぎゅっとつぶり、ゆっくりと瞼を上げると。

 

「た、助けて………!!」

 

 さっきより接近している。

 お陰様でシルエットがくっきり視認出来るようになった。

 隆々とした両腕。全体的にガッツリ、丸みを帯びた上半身。怖い印象が全面に現れていた。

 でも、尖りがある頬。掌は完全に人間でない。そして、水ポケモン特有の頭部のヒレが目立つ。

 

「ラグ」

「えっ!?()()()()()………!?」

 

 ぬまうおポケモン『ラグラージ』。

 ホウエン御三家の一体、ミズゴロウの最終進化系。水タイプに地面タイプを持ち、水の弱点である電気タイプを無効化してしまった珍しいポケモン。

 そのラグラージは私の手前、洞窟の入り口手前までのっそりと歩いてくる。私の存在をばっちり認識しており、普通なら得体が知れない。

 でも、私は自然と怯えはなかった。

 ラグラージの橙色の目は優しく私を見ていた。敵意よりも安堵の色があった。

 やがて、入り口手前で完全停止。

 恐る恐るそのラグラージに近付き、私は手をそっと伸ばした。

 

「あっ………」

 

 私の手がラグラージのほっぺに触れる。

 そっと撫でてみると、目を瞑ったラグラージの姿がそこに。

 

「でも、なんでここに………?それに私の知ってるラグラージとはちょっと姿が違うような………」

「ラグ!!」

 

 ラグラージが何かを言っている。

 でも、残念ながら、分からないと首を横に振る。

 しゅんとしたラグラージ。

 次の瞬間に私は昔読んでいた図鑑のページのある写真を思い出した。

 

「あっ………まさか、メガ進化?」

「ラグッ!!」

 

 合ってるらしい。

 メガ進化をした『メガラグラージ』は姿にあまり変化はなく全体的に丸くなりマッシブな見た目になるのが特徴的。

 私が大好きな水ポケモンだからこそ、本物は初だけど辿り着けた答えであった。

 でも、同時に芽生えた一つの疑問。

 

「えっ?でも、メガ進化ってことは………」

 

 トレーナーとポケモンの絆の証。

 それがメガ進化であると、彼は言っていた。メガ進化を引き起こせるトレーナーなど私の知る限り一人であって―――

 

「あなた、ソウさんのポケモン?」

「ラグ、ラグ」

 

 頷くラグラージ。

 この子、彼の手持ちポケモンなんだ。

 シンプルに嬉しかった。彼はちゃんと私を探してくれていたのだと知れて。

 何より、独りで待つ私に希望の救いが見えた。

 

「ラグラージ?どうしたの?」

 

 ラグラージが背を向ける。

 数歩、土砂降りの中へ歩くとその巨体を大きく持ち上げた。意図が汲み取れない行動に私は黙って見守る。

 と、次の瞬間―――

 

「ウォォォォオオオオオ!!」

 

 ―――()()()

 

 あまりの声量に耳を塞ぐ。

 けれども、ラグラージの遠吠えは一瞬だけ響き渡るが、すぐに雨音に消されてしまった。

 余計に謎が膨らんだ。

 直接聞いてみようと耳から手を離せば、ラグラージは私の方を見ており。

 

「えっ?駄目?」

 

 手を離すな、らしい。

 反する行動を取ると、悲しい目をする。そのせいで罪悪感に包まれてしまうので、私はラグラージの言う通りに耳を塞いだままにした。

 

 そして―――

 

「きゃっ!?」

 

 いきなり視界が真っ白に。

 間髪なく、次に襲ってきたのは塞いでも尚聞こえてくる腹太鼓のような重低音。私の悲鳴など掻き消される。

 連続した異常事態に脳の整理が全く追い付かない。

 唯一、理解できたのはこれだけ―――

 

 ()()がメガラグラージに直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -10- に続く




*(゚∀゚)キモクナーイ
 メガ進化していたのはメガラグラージの特性"すいすい"を捜索に利用したい意図があった為ですね。


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-10-『救助×伝説』

 新ヒロインの登場です。

 冗談………じゃないです♪

 個人的に書きたかったシーンが書けて、もう勝手に満足しちゃってます。一日に二話投稿も初めてです。



 ◇◇◇

 

 洞窟、入り口。

 

「何が起こったの………?」

 

 落雷が今、目の前で。

 滅多にない経験に私はただ戸惑うのみであった。

 当事者のラグラージ。

 地面タイプなので、怪我はない。むしろピンピンした様子で私の元に戻ってきた。

 そして、地べたに座る。その姿は姫を守る騎士を連想させた。

 もしかして雷を予言。私を危機から守ってくれたのだろうか。凄いぞ、この子。

 大雨は酷くなる一方だ。でも今は独りではないので少し安心する。

 

「―――………スイレン!!」

 

 その時だった。

 

「………ソウさん!!」

 

 雨音の中、微かに聞こえた声。

 すぐに立ち上がった私は洞窟の雨すれすれまで行くと辺りを何度も見渡す。

 ―――居た。

 レインコートに身を包んだ彼が雨と風に打たれながらも懸命に歩いてきていた。

 

「やっと見つけた………!!」

「ソウさん………どうしてここに?」

「分からんよ。体が勝手に」

 

 彼だ。彼がいる。

 

「恐かったです………土砂崩れに巻き込まれそうになって、独りでずっと待って………」

「ごめんな。もう少し俺が早く来たら」

「いえ………私の自業自得ですから」

 

 我慢の限界だった。

 災難に遭い、そこから孤独になった時間は永遠に終わらない悪夢のごとく。私の恐怖心を刺激していった。

 希望の光が差し込み、私は目を覚ました。

 彼のお陰で。

 

「スイレン!?」

「ごめんなさい………しばらくの間だけ」

 

 ぎゅっと彼の体を抱き締める。

 濡れた彼の体は冷たい。でも、ぬくもりは何倍にも暖かい。

 独りに怯えた私。嘘のように不安は消えていた。

 彼は黙って腕を回してくれる。

 

「………帰ろうか。皆、待ってる」

「はい………」

 

 ゆっくりと離れる。

 この瞬間なら永遠の夢に溺れても良い。そんな甘い欲望からも一緒に。

 

「それから"ラーグ"、スイレン見つけてくれてありがとうな。後はゆっくり休んでおいてくれ」

「ラグ」

 

 待機していたラグラージをボールに戻す。

 彼の手持ちポケモンを知ったのはこのラグラージで四体目。

 

「雨、止めそうにないな」

「どうしましょうか………」

「このまま居るのも結局、体壊しそうだし………強行突破だな」

 

 彼が呟く。物騒な感じに思えたけど。

 彼が雨の中へ歩き出そうとした。慌てて、私が制止しようとする。

 その私の頭を彼は優しく撫でた。

 

「大丈夫。後、ちょっとの我慢だから」

「どういう………!?」

 

 そして、彼はこう空へ呼び掛けた。

 

「"ティア"!!」

 

 名前だろうか。

 返事は帰ってこない。当たり前だ。こんな大雨に人の声など通らない。

 ―――筈だった。

 

「えっ!?」

 

 甲高い、透き通る綺麗な音。

 返事の合図はそれだけ。

 でもそれは私の知る限りポケモンの鳴き声のようにも聞こえてしまって。

 まさか、今の彼の呼び掛けだけで反応を示したと言うのだろうか。少なくとも私が見える範囲で確認できる存在はいない。

 そして、彼の前に出現したポケモンに私はまた目を丸くした。

 

「あー引っ付くなー!!お前もか!!」

 

 赤と白の戦闘機みたいな姿。

 つぶらな瞳にすりすりと彼に擦り付ける膨らな頬。

 むげんポケモン『ラティアス』。

 希少性の高い伝説ポケモンに分類され、人生賭けても出会えないとされるポケモン。人の気配や感情に敏感で、誰かの気配を察するとすぐに自らの姿を消すからだ。

 基本的に争いを求めない、遊び好きな性格の持ち主だとククイ博士が過去に教えてくれた。一度だけでも会えたら良いなと願った、可愛いポケモン。

 そのラティアスが彼に無邪気にじゃれついていた。なんだかデジャブを感じた。

 

「さっきまでいた"ラーグ"、ラグラージね。ラーグがスイレンを発見した合図をこの子、"ティア"に送るように事前に指示を出しておいた。ラティアスは耳が良いから仲介役を担当してもらうのに適役。まぁ恐らく、本人の気分次第だから返事代わりに雷かなんかをこいつ、落としたと思うんだけど………」

「うん、びっくりした」

「やっぱり………まぁそれを目印にした俺もあれだけどさ。でも、ティア?俺、捜索する前にちゃんと言ったよね?ラーグの合図が来たらまずは俺の所に来いって」

 

 しゅんとするラティアス。可愛い。

 

「スイレンが無事だったから良かったけどさ。次に約束破ったら、そうだな………お前の大好物、オボンの実、しばらくお預けの刑」

 

 ガーン!、と落ち込むラティアス。

 表情が豊かな女の子だ。無性に頭をポンポンして励ましたくなる。

 

「さぁ帰るぞ」

「えっ?どうやって?」

 

 彼からは一切、説明がない。

 

「勿論、ティアに乗って」

「あっ!?えっ!?待って!?」

 

 彼に体を担がれた。しかもお姫様抱っこ。

 恥ずかし過ぎる展開に小さな抵抗を試みる。でも、彼にあっさり無効化されてしまい私はラティアスの背中に乗せられた。

 彼がラティアスに跨がり、私の背中にぴったりとつく。

 急接近とはまさにこのこと。

 追い討ちの如く、私のお腹に手を回してくる始末だ。

 

「あの………!!ソウさん………!!ち、近い………です!!」

「振り落とされるよりマシと思ってくれ」

「え………一気に不安になりましたけど………」

 

 刹那、体が浮上。

 ふんわり感を堪能する間もなく、一気に私と彼は急上昇した。

 

「きゃあああああ!!!!」

 

 ―――体感速度、ヤバイ。

 

 危機を脱出。聞こえは良さげ。

 でも現実ではそれどころではない。マッハ越えてる疑惑のスピードなのだ。

 彼と私との体の密着と別の意味での命の恐怖が迫る私に一言だけ添えておく。

 

 ………ファイト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ゲストハウス。

 

「スイレーーーン!!!」

 

 ぐへぇ、と潰される体。

 おいおいと泣く声に私は目を覚ました。

 

「あれ………?ここは………?」

「宿。スイレン、途中で気絶しちゃったからここまで俺が運んできた」

 

 最後の記憶はラティアスの背中。

 バッサリと削除されように記憶はそこで途切れていた。

 目覚めれば、宿の玄関。設置された椅子に私は座らされていた。

 

「うわぁぁぁあああんん!!」

「マオ………うるさい………」

 

 友人の泣き顔に若干引き気味。

 ぐいぐい私の服にへばりついてくる。引き剥がそうにもやたら力が強い。

 すぐに諦めた。

 

「スイレン、怪我はない?」

「うん………大丈夫です」

「そっか。今日はもう休んだらいい。後処理は俺とマオとかでやっておくから」

「うん!!スイレンはもう良いよ!!」

「分かったから。マオ、離して?」

 

 片時も離してくれない。

 心配をかけてしまった詫びがあるので無闇に抵抗しずらい。

 

「オゥ!!」

「あ、アシマリ!!」

 

 アシマリが廊下から顔を出す。

 私の声に気付いたアシマリ、一目散に私の胸元へと飛び込んできた。

 ぎゅっと愛しく抱き締める。

 

「ごめんね、心配かけちゃった」

「オゥ~」

 

 アシマリの温もりをずっと。

 扱いの差にマオが頬を膨らましていた。

 

「じゃあ、ソウさん。私………」

「あぁ。博士達には全員無事が確認出来た旨を報告しておくから」

 

 彼が行動に移そうと場を離れる。

 

「ソウさん!!」

 

 足を止めた彼。

 無意識の行動だった。私は渾身誠意のお辞儀を見せた。

 

「ありがとうございました」

「………どういたしまして」

 

 振り返ることなく答えた彼。

 でも、いつにも増して彼の言葉は喜んでいるように思えた。

 

「スイレン?どうしたの?」

「ううん………何にもないよ」

 

 きっと気付いたのは私だけ。

 そう思うと不思議と私の心の中は充実感で満たされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -11- へ続く




 ◇◇◇〔おまけ・クーちゃんvsティア〕

「クチーーー!!」
「ーーーーッ!!」

 ペシペシペシ。

「二人ともどうしたんだ?」
「クッチ~♪」
「~~~~♪」
「仲良いのな、お前ら。あ、忘れ物した。部屋に戻るからもうちょっと待っててくれ」

 ――――コツ………コツ………コツ。

「クチーーー!!」
「ーーーーッ!!」

 ペシペシペシペシペシペシペシ。


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-11-『恋心×忠告』

 ◇◇◇

 

 せせらぎの丘。

 

「ではソウさん、今日はどうしましょうか?」

 

 合宿、四日目。早朝。

 スイレンの試練製作も今回で三回目。

 内容も具体的に固まりつつある。ぬしポケモンの用意も順調だ。

 

「その前にさ、スイレン」

「はい?」

「体の方は大丈夫なのか?」

 

 彼は心配する。

 昨日の非日常から一転して今朝は通常運転。彼が私の身を案じるのも無理はない。

 

「大丈夫です。それよりも私にとってはソウさんと一緒に居られるこの時間の方が大事ですから」

「なら良いけどさ………」

「体調もこの通り!元気一杯です!」

 

 くるりん、と一回転。

 ここまで見せられ、彼も渋々納得した様子。

 

「では、始めましょう!」

 

 彼と相談した結果。

 まずは昨日の大雨による被害がないか、周囲の点検となった。

 それを早速、小耳に挟んだ彼のアシマリ(マリー)が嬉しそうに吠えたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 合宿、四日目。昼の部。

 

「唐突だけどさ、スイレン」

 

 場所は砂浜。

 四日目のスケジュールはバトル大会。

 ククイ博士から生徒一人に一個、ランダムにモンスターボールが配布された。

 初対面となるポケモン達と協力しあい、生徒同士で真剣バトルをしてもらうのだ。

 午前中は各員、ボールの中にいるポケモンとの触れ合い兼作戦会議に当てられた。因みに優勝者には景品もあるそうで張りきる生徒もちらほら。

 私を含めたサポート係の仕事は主にポケモンとトレーナーの関係性を築き上げる助言をしてあげる事。またはポケモンの特性や特徴を活かした戦闘スタイルを持ち主の生徒と一緒に考えてあげる事。

 あちらこちらで生徒の悲鳴が上がった。なんで?

 

 ―――そして、現在に至る。昼過ぎ。

 

 イワンコとニャビーの対決が繰り広げれていた。

 一世一代、アローラスクール生のトーナメント戦が開催されたのだ。

 一回戦を順調にポケモンと息を合わせて突破する者。本番に慌て吹いて、指示すらまともに出せなかった者。

 百人百色までとは行かないが、見応えある試合展開を繰り広げていた。

 

「どうしたの?マオ?」

 

 私やマオは試合を見守る担当。

 審判はククイ博士やカキ、彼が交代で担当していた。リーリエは試合で怪我をしたポケモンの治療担当。

 あ、それと私はピーチパラソルの陰に隠れるように立っている。絶好の海日和で燃えたぎるように暑いのだ。

 マオは水着姿のまま、私の隣に来る。

 それはマオのイメージ色、緑を基調としたビキニスタイル。肌の露出が多い。

 随分と攻めた格好だ。

 私は自然と、本気で自然と女の子特有の膨らんだ胸部に視線が移る。

 立派に出ていた。

 両手を自分の胸に当てて己に問うてみるが返答はない。なんて理不尽な格差だろうか。

 

「快くして聞いてね」

「う、うん………」

 

 顔が近い。

 

「スイレンって………好きな人いるの?」

「………え?」

「ほら、相手が男の子としての話」

「きゅ、急な話………」

 

 動揺が走る。

 この話題は過去にも度々上がったはず。なのに、何故私はここまで心を揺さぶられなければいけない。

 

「その反応………手応えありと見た」

「そんなこと………ない」

 

 ぷいっ、とそっぽを。

 

「カキ?え?まさか、マーマネだったり………はないか!」

「だから、マオ、違うって」

 

 若干失礼な発言があったような。

 

「だとすれば、()()君?」

「なっ………!!」

「固まっちゃった。やっぱりね~。長い付き合いのマオ様を舐めちゃ駄目だよ、スイレン」

 

 咄嗟に確認。聞かれていたらと思うと。

 良かった。彼はあっちで試合の審判をしていた。

 

「合宿中のスイレン、ずっとソウ君にベタベタしてるもん。分かりやす過ぎるよ」

「ベタベタって………」

 

 表現が酷くないだろうか。

 

「勿論、応援するよ。女は度胸が肝心って私のお母さんが口癖のように言ってたし、ファイトあるのみ!!」

「ありがとう、マオ………でも、正直な所、まだ分からない。人を好きになった経験なんて私には無いし………ソウさんを好きかどうかだなんて余計に………」

「そっか………スイレン、残念だけど気付いてる?」

「何が?」

「悩んでる時間そんなに無いんだよ?明日で合宿は終わり。ソウ君は特別講師だから、その後どうなるかは分からない。アローラにもう少し滞在するかもしれないし、直ぐにホウエンに戻ってしまうかもしれない。どちらにせよ、ソウ君との別れは近いってこと」

「あっ………そっか」

 

 合宿も明日で最終日。

 つまり、彼と一緒に過ごせるのも明日で最後。マオの言う通り、タイムリミットはすぐそこまで迫っていたかもしれない。

 

「さっきも言ったけど、全力で応援するから!何か困ったら直ぐに相談して?」

「うん」

「ほら~スイレン~元気出して~。ソウ君、こっちに来てるよ」

「えっ!?」

「う・そ♪」

 

 怒りゲージ、上昇。

 

「マーオー!!」

「えへへ~、ごめんなさ~い」

「許さない………!!」

「あら?マオさんにスイレンさん、どうかしました?」

「あっ、リーリエ!!ちょっと聞いてよ~、スイレンが―――」

「黙る。ね?」

「あの………スイレンさん?」

 

 余計な口出しはさせまいと。

 リーリエの困った表情が視界に入る。ごめんなさい、と心中で誤りつつ、マオを懲らしめにかかる。

 

 そして―――女子会(物理)が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 マーマネの部屋。

 

「来たみたいだね」

 

 宿の部屋を開けると主の声が。

 キャプテン兼幼馴染のマーマネだ。言わずと知れず、実験に没頭する電気バカ。

 そんなマーマネだが、夕食の時に部屋に来るように耳打ちされた。まるで誰かに聞かれるよを避けるかのように。

 回る椅子に座るマーマネ。あんな椅子、本来は部屋に設置されてない筈なのだけど。

 

「それで話って?」

 

 詳細は全く語られてない。

 ただ、私にだけしか話せない内容らしい。

 マオやリーリエ、カキには秘密にしておけとマーマネから出された条件にあったから。

 

「合宿の先生について………だよ」

「ソウさんのこと?」

「うん、その人。スイレン、最近だとその人と特に仲が良いんだって?」

「えっ………た、多分………」

 

 急に問われ、また動揺が走る。

 胸辺りがいきなりチクッと刺された感触が全身を駆け巡った。

 

「あまり良くない傾向だね」

「………どういうこと?」

 

 つい、怒気を含んだ私の声。

 昔から付き合いあるマーマネでも彼を侮辱するのであれば容赦はしない自信だってある。

 でも、その私の返しすらマーマネの予想通りであったのか、長くため息を吐いた。

 

「怒らないで聞いてほしい」

「うん」

「スイレン、君はその人に頼りすぎだ」

「………私が?」

「うん。合宿が始まってからのスイレンはずっと、あの人の近くに居ようとしている。しかも、挙げ句の果てには、試練さえもその人に援助してもらってるって話じゃないか」

「………で、でも!!」

「でもじゃない。僕達はキャプテンだ。伝統ある試練に外部の人間が関与するなんて事態すら、有り得ない」

「外部の人間って………!!ソウさんはそんな人じゃ………!!」

「なら、スイレン。僕から一つ質問」

 

 マーマネの指摘は正論。

 試練は島巡りにおいて、当初から引き継がれる伝統の証の一つ。キャプテンとしての務めは試練を通して、挑戦者を迎えること。

 私はそれを放棄したのも同然の行いをした。外から訪れた彼に甘え、今抱えていた問題を彼に擦り付けてしまった。

 私にはぐっと堪えるだけしか出来ない。

 

「彼についてスイレンは何を知ってるの?」

「ソウさんは………バトルも強くて、頼りになって、優しい人………です」

「ホウエン出身で地元のポケモンリーグでベスト4まで勝ち進んだ経歴も持つ、もあるんだよね?」

「うん」

「でもさ、言い換えれば、スイレンの知ってる彼はアローラに来てからの彼だけってことになるよ。過去に海の向こうで何をしていたのかも、全部本人の口からのみ。しかも断片的」

「マーマネ、流石の私も怒るよ。さっきから何が言いたいの………!!」

 

 推理の如く、証言を並べられる。

 徐々に私の気持ちを踏み躙られる不快感が増していく。本気で鬱陶しい。

 マーマネは一拍置いて、口にした。

 

()()()()()()()()()

「え?」

「何も分からなかったんだ。僕の全総力を使って、調べてみたけど彼の個人情報すら掠りともしなかった。それどころか、ホウエン地方で上位に並ぶトレーナーなら噂の一つや二つはあっても良いのに見事に綺麗さっぱりないと来た」

 

 つまり、身元不明。

 

「………ソウさんが嘘をついている?」

「うーん、それは断定しずらいかな。だって、元々はククイ博士の紹介だよ?嘘の経歴を語って博士に近づこうものならすぐにバレちゃう」

「確かに………」

「因みに僕の結論はこうだ。あの人には僕達ですら言えない重要機密を抱えている可能性があるんじゃないか、と。そして、それを死守する為に知名度の低いアローラに逃げるようにして来たんじゃないかって」

「………」

「ククイ博士も恐らく全部とは言わないけど、ある程度の事情は知ってる筈。だって、おかしい点がいくつかあるんだ。毎年恒例の夏合宿に今年からいきなり先生が派遣されるのもその内の一つ。きっと、彼からしてみれば口実作りには絶好だったんだろうね、先生という立場は」

 

 ―――違う!!ソウさんはそんなこと絶対にしないもん!!

 

 ………言えなかった。

 マーマネが私の目を真っ直ぐ見る。

 黒光りした私の瞳は大きく揺らいでいた。

 私の知る彼と知らない彼の二つに迷いが生じてしまったから。小さい罅から繋がる矛盾に気づいてしまったから。

 合宿中に私が見た彼は本当の彼だろうか。

 それとも全て偽り?否定できない。

 

 ―――悔しさが芽生える。

 

 マーマネが悪い訳でない。マーマネはマーマネなりにアローラを守ろうとしてくれているのは長年の付き合いで分かる。

 原因は私だ。芽生えつつある気持ちに釘を打ち込んでしまった。マーマネの忠告に素直に頷けない自分がいた。

 そして、気付かされる。

 

 ―――私は彼を好き、だと。

 

 だから。だからこそ、とても悔しい。

 何も知らず、ただ彼の隣に居て一緒に思い出を作るだけで満足してしまった自分。

 故に彼は決して疑いをかけるような人ではないと叫びたいのに、いざとなると叫べない己の劣等感に。

 

「だから、スイレン」

 

 悔しい。悔しい。

 

「彼と仲良くするのは………あまり………」

 

 マーマネ、ごめんなさい。

 

「スイレン!?」

 

 部屋を飛び出た。

 背後から聞こえる幼馴染の声を無視して、宛もなく走った。

 兎に角、走り続けた。今は誰とも会いたくなかった。

 玄関を越えて、外に出る。

 心の迷いから逃げたかった。全てを投げ捨てたかった。

 でも、無理なのだ。

 脳裏に浮かぶ私と彼との二人きりの光景に最後は躊躇して、結局、掌で握り締めてしまう。意外と私は優柔不断な女の子だったらしい。

 そして、恋するのがこんなにも辛いだなんて。初恋だから、全然知らなかった。

 彼と居ると、胸がきゅっと締め付けられたのも数知れず。その度に、誤魔化すかのように精一杯の演技で私は頑張り続けたのに。

 全ては幸せを求めてだったから。不思議と彼との時間は心が落ち着いた。

 運命さんはきっといたずら好きなんだ。私の悩んで、苦しむ姿を見て、今頃何処かで嘲笑ってやがるんだ。

 こうなる結末だったのなら。

 初めから操作されたゴールを目指すだけだったのなら。

 だったら、一層―――

 

 恋なんてしなければ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -12- へ続く




*スイレン、山場を越えたと思ったか!
 残念!!君が越えたのはバクーダ山の一つに過ぎないぞ!!わははは!!

 ………さっき、思い付きました。はい。


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-12-『守神×王子』

 後、数話で完結する予定になります。
 台風やべぇー。


 ◇◇◇

 

 岩場。崖の先。

 

「………今日も居るんですね」

 

 満天の夜空。

 かの下に座り、背中を向ける彼。先日と全く同じ場所に。

 彼の後ろに立つ。彼は振り返らない。

 走って、走って。走った結果。

 皮肉にも、涙の要因である彼の元へと辿り着いてしまった。

 

 ―――否、違う。

 

 可能性に悲願を掛けたのだ。

 きっと、彼処に居ると心の何処かで信じた私が自然と、それこそ無意識に求めた結果が成した現実。

 赤く目元は腫れている。涙はもうない。

 不幸中の幸いなのか。光源の少ない岩場では互いの顔をはっきりと目視出来ないのが唯一の救い。

 

「………好きなんでね、此処が」

 

 海を見つめたまま。

 黄昏るように、無の世界へ没頭するかのように。彼はそう応える。

 

「………」

 

 静寂が続いた。

 波の静けさだけが鼓膜を震わせる。夜空の星々がやけに輝いているように見えた。

 

「ソウさん………」

「ん?スイレン、お前………泣きそうな声だけど、大丈夫か?」

「えっ?あ、はい………大丈夫です」

 

 心がズキっと痛い。

 マオの恋のアドバイスとマーマネの忠告が心中をぐるぐると回り続ける。

 私は何を信じれば良いのか。ずっと一緒に居た彼なのか、それとも私の知らないまま存在している彼なのか。

 

「明日で合宿が終わります」

「だな~。あっという間って感じがする」

「それでですね………ソウさんは合宿が終わってからの予定とか………ありますか?」

「ん?明後日以降の予定か………そうだね。折角だし、アローラ諸島を観光巡りするのも有りかな。もしくはホウエンに戻るか」

「やっぱり此処から離れちゃいますか………?」

 

 隠しきれない本音。

 でも、これは只の我が儘だ。彼にも彼の事情ってものがある。知り合って間もない者が踏み躙るような無礼は許されない。

 不安に揺れる私の言葉。

 自然と彼も感じ取ったのだろう。背後へ黙って振り向く。

 

「………ごめんな」

 

 そして。

 視線を下げ、また夜空の海を眺めた彼が告げたのは、謝罪の言葉であった。

 

「そんな………私こそ、ソウさんを困らせるような事を言ってしまって………」

「そんなことはない。俺だってスイレンと仲良くなった今、合宿が終わってからも一緒に居たいと、釣りとかもっとしたかったと思ってるよ」

 

 一言一句。聞き逃すまいと私はした。

 

「でも、俺は此処に、皆と同じ場所に居ては駄目な人間なんだ」

「違います!!私を含めて、皆、ソウさんと一緒に居たいって、思って………」

「本当に?」

「………少なくとも私はソウさんと一緒に居たいと思っています」

 

 脳裏をよぎる光景に。

 恐れのいてしまった私は口を閉じてしまった。断言しきれなかった。

 そして、彼はその事実を当たり前のように受け入れていた。

 

「………大雨の日にね」

「え?」

「あの日、スイレンを探す途中に俺、あるポケモンと出会ったんだ」

「ポケモン………」

「名前は分からないけど、そいつ、島の守り神的なオーラがあったとだけ覚えてる」

「まさか………()()()()()()………?」

 

 とちがみポケモン『カプ・コケコ』。

 外殻とハサミを合わせたような両腕、頭に橙色のトサカの装飾がある。

 そして、このメレメレ島の守り神として奉られる存在。気まぐれで好奇心旺盛な一方、怒りっぽく責任感の強い性格の持ち主。

 上記に加えて、カプ・コケコと会える人物などそうは居ない。一部ではカプ・コケコに認められた者だけの前に出現すると噂されている。

 

「そっか………やっぱりね」

 

 でも、何故カプ・コケコは彼の前に。

 分からない事だらけで整理が追い付かない。

 

「あいつはカプ・コケコだったのかな?会ったのはほんの一瞬だったから微妙だけど。ティアの落とした雷を合図にすぐどっかに飛んで行っちゃった」

「………カプ・コケコは私達、島民の守り神です。何かを伝える為にソウさんの前に現れたのかもしれません」

「うん、そこら辺は分かってるつもり。だって、カプ・コケコと目があった瞬間にあいつの言いたい事、全てを理解してしまったからね。残念ながら」

「どういう………?」

「あいつは俺にこう言いたかったんだ。"この島から出ていけ"―――ってね」

「っ!?」

 

 嘘だ。きっと嘘だ。

 でも、これが事実であれば守り神のカプ・コケコは彼を島の害と判断した証となる。

 どのように害を為すのか。改善に向けて動きたいのに。カプ・コケコ本人のみにしか分からないのが悔しい。

 唇をぎゅっと噛み締める。

 キャプテンであろうと守り神のカプ・コケコに抗えるだけの力はない。出来るのは事の行方を静かに見守るだけ。

 島の長、島キングや島クイーンなら可能性があるかもしれない。そんな希望を微かに持ちつつ、迷惑をかけたくない思いもまた等しく。

 

「多分この解釈で間違いないと思うよ」

 

 彼はそう言う。

 そこに絶望の色はない。あったのは黙って受け入れるだけの覚悟のみ。

 

「流石は守り神。俺も一目見ただけで言われるとは思ってなかった」

「………どうしてですか」

「どうしてとは?」

「ソウさんはそれで良いんですかっ!?」

 

 語尾が荒れてしまう。

 彼の慣れた態度に疑問を抱いた。まるで初めから自分は邪魔者扱いされるかのような、彼の言い分に。

 

()()()()。俺は素直に受け入れるだけ」

「………分からないです」

「なら、スイレン………知りたいか?」

「えっ?」

「俺の隠す秘密の全てを………知りたいか?」

 

 彼がそう尋ねる。

 意図知れず、本人の口から知れるチャンスがまさに今、到来した。

 カプ・コケコが彼を排除する、そして、その事実を彼が容認する理由を。

 昨日、彼が言い止めた台詞の続きを。彼の抱える秘密の全容を。

 

「ただし、絶対に他言禁止。これを知るとなると一つの災害が起こるか否かの運命を知るのと同等だって、先に忠告しとく。

 それでも尚………スイレン、君に俺の全てを知りたいって思いがまだ消えないのであれば、後で俺に付いてきて欲しい」

 

 彼は立ち上がる。

 今、気付いたが彼の手持ちはどの子もボールの外に出ていない。

 ボールを一つ握り締めた。ぽん、と放つそれから出てきたのはブラッキー。

 そして、ゆっくりと彼は私の隣を通り過ぎていく。

 数歩歩いた先で彼の足が止まった。

 

「………今の俺、多分とても浮かれてる。普段なら絶対に喋らないのにスイレン、君なら………って考えてしまう」

「………」

「ここまで言わないのは、君を巻き込みたくない一心の行動。それだけは分かってくれ。俺の抱えるこの秘密は生半可に扱うと取り返しの付かない後悔を背負うことになる。そんなこと、島の女の子には重すぎる責任だってことも分かってる。

 これは甘えだ。スイレンと出逢った日から今日までの間で、心を許してしまった俺の唯一の甘え。

 じゃあ………また」

 

 彼は再び歩きだす。

 

「ロウちゃん………」

 

 ブラッキーは私の足元に。

 きっと私の護衛、彼への案内役として役に就いたのだろう。

 しゃがみこんだ私にブラッキーは頬をそっと寄せてきた。

 

「ふふ………」

 

 ブラッキーが小さく鳴いた。

 どちらを選んでも彼は気にしないから。たっぷり時間をかけて選んでね。

 そう伝えてきた気がした。

 

「ありがとね………でも、私もう決めてるから」

 

 軽く頭を一撫でしてから、私は立ち上がり、足を伸ばす。

 あれ程執拗に忠告するのも彼の優しさ。危ない事に巻き込みたくない思いが形となっただけ。

 

 ―――でも、それは私も同じ。

 

 私は歩き始めた。

 勿論、目指すは彼の待つ場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「………後戻りは出来ないぞ?」

 

 波打ち際に立つ彼が背を向け、言う。

 ブラッキーと共に辿り着いた場所は私と彼が初めて出逢った海岸であった。

 

「はい。覚悟は………あります」

「そっか………あーあー、これがバレたらククイ博士にも怒られるだろうな………」

「ククイ博士も知ってるのですか?」

「いいや。博士は俺が特別な事情があるってだけで詳細は一切知らないはず」

 

 マーマネの推測は的中していた。

 

「スイレン、トレーナーが持ち歩ける手持ちポケモンの限界は?」

「………六体です」

 

 困惑した。常識過ぎる問いに。

 今更、彼は何を私に確かめたいのか。

 

「隣においで」

「はい」

 

 私は砂を踏み締め、彼の隣へ。

 ブラッキーは背後で静かに座った。周りの監視をするようだ。

 

「そう、六体が正解。勿論、俺も頼れる仲間達と一緒に居る」

 

 私の知る限りの彼の手持ちは―――

 ブラッキー。クチート。アシマリ。ラグラージ。ラティアス。

 計、五体。最後のポケモンは未だに目にしたことはない。

 

「でも、俺には更に守るべき存在がいるんだ」

 

 つまり―――()()()の存在。

 

 ポケモンが技を複数持つように。

 プロとなるトレーナーにはポケモンの所持数に制限は掛けられていない。中には育て屋に預けての育成、バトルによって使い分ける等するトレーナーも数知れず。

 あくまで、"六体"はフルバトルにおいてフィールドに出せるポケモンの数を示す。殆どのトレーナーはその誓約があるので、手持ちを普段から六体以下にして行動するのが基本とされる。

 だが、七体以上を手持ちに持つ行為も違法ではなく正式に許可が降りている。実行するかは別として。

 自分の実力に似合った手持ちの編成をするのが勝利への近道となる。

 彼は腰から別のボールを取り出した。

 

「それがこの子」

「マ、マスターボール………!!」

 

 彼の持つボール。

 紫に模様され、耳のような突起があるボールに私は震えた。

 どんなポケモンでも一発でゲットが可能とされる伝説のボール。

 

 "マスターボール"。

 

 そのボールが眼前に。

 

「出ておいで」

 

 刹那―――神秘が生まれた。

 光に包まれ、その子は徐々に姿を見せる。体格は一般の子供よりも小さい。

 頭から伸びた二つの触覚。クリオネの様な姿に薄い淡い色をしている。

 

「嘘………!!」

 

 私はその子を知っていた。

 海を好きであれば、一度は気になったかもしれない。

 海での頂点に立つ存在は誰だろうと。

 疑問に思った私はそれを昔に調べた過去を持つ。

 どうせ、カイオーガでしょと思っていた当時の私。ところが、あのカイオーガではなかったのだ。まさかの答えに度肝を抜かされた、あの記憶は今でも鮮明に思い出せる。

 海のポケモン達のリーダー。海の王子。

 その名は―――

 

「マナ?」

 

 ―――『マナフィ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -13- へ続く。

 

 




*映画を観たのは十年前。よって、覚えてません。
 最後の六体目はいずれ近いうちに登場します。作者独自解釈要素も入るので誰も当てられまいだろうと意気込んでます。


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-13-『天災×役目』

 たったの数日で急にこの小説のお気に入り数や評価数が跳ね上がりましたけど………なんかありました?



 ◇◇◇

 

 海の砂浜。

 

「マナフィ。スイレンなら分かると思うけど………海ポケモンの頂点に立つポケモンと言われてる」

 

 彼は優しくマナフィを抱っこする。

 マナフィに抵抗する様子ない。むしろ、喜ぶぐらいにその腕を伸ばした。

 

「俺みたいな一般人と一緒に居る………今のこの光景ですら未だに本人の俺が信じられないぐらい、本来であればここに居ては駄目なポケモンだ」

 

 幻のポケモン。

 彼はおろか人類がもってしても解明できない生態を多く持つポケモンが大半。

 マナフィもまたどういうポケモンなのか、その殆どは謎に包まれたまま。

 

「でも、ちょっとした事情があってね。俺が暫くの間だけ預かることになった」

「預かる………ですか」

「スイレンは知ってるか?先祖の中に、"水の民"と呼ばれる人達が居たらしいって。なんでもポケモンと心を通わせる特技を持つとか」

「い、いえ………」

 

 とても羨ましい、その特技。

 

「その一族の末裔となる人と俺は昔、旅の途中で奇遇にも会える機会があった。その人は水の民の末裔のみ、つまり今の家族だけで劇団を結成していたようで、あちこち移動してはサーカスショーを開催。それで収入を稼ぐ生活をしていた」

 

 彼はマナフィの頭を撫でる。

 

「向こうの優しさもあったりして、俺も数日間だけ同行させてもらった。リーグ戦が終わった後だったから時間も余裕があったし、何より楽しそうにあの人達は毎日を過ごしていたからその恩恵に預かろうと思ってね」

 

 彼の出会い話は続いた。

 話題に上がった水の民の末裔で結成されたのは"マリーナ一座"。その当時では珍しく大規模なポケモンのサーカスを題材に活動していたそうだ。

 さらにショー自体は水中ポケモンによる演技構成で占められる。同じ水ポケモン使いとして興味がとてもそそられる。

 彼も一度、体験としてラグラージと共に出演したらしい。何それ、とっても観たい。

 

「私も観てみたかったです」

「今は何処で何してるのか、全然分からないからな~。難しい相談になるね」

「はい………でも、それとこの子はどんな関係が?」

「それはこれから。あれは俺が同行して三日目だったかな。その日、ある事件が起きたんだ」

 

 彼が語る事件の顛末は以下。

 日が沈んだ深夜。移動の主役、キャンピングカーに寝泊まりしていた彼は外から聞こえる物音に目を覚ました。

 音の正体を確かめようとした際、偶然にも鉢合わせしたらしい。

 

 ―――襲撃者と。

 

 其処から状況は一変する。

 襲撃者サイドは彼に発見されたのを機に数の暴力でポケモンを利用し、攻撃を仕掛けてきた。彼を含めたマリーナ一座も決死の抵抗を試みる。

 

「奴等が襲ってきた理由は俺には分からない。あの時はホントに焦った。だけど、向こうもポケモントレーナーの俺が居るとは思わなかったらしくて、ある程度返り討ちにしてやるとすぐに撤退していった」

 

 やがて、徐々に全容が判明する。

 ポケモンハンターと呼ばれる密猟者の中でもトップレベルに厄介な癖者が襲撃の件を率いていたとのこと。

 ただ、実際に襲ったのはその手下達。彼の手持ちポケモン達が守護する前に為すすべなく泣く泣く帰るしか道は残されて居なかった。

 

「襲撃された次の日、俺はマリーナ一座の一人"マリア"さんって人に呼ばれた。彼女から話された内容は家族を守ってくれたお礼と俺に個人的なお願いがあったの二つ。お礼されたのはまぁ………あれだけど、特に問題だったのは彼女の頼み事の中身」

「それは何だったんですか?」

 

 マリアは彼にこう言ったらしい。

 

()()()のマナフィを俺の手持ちにして、守って欲しいと言われた」

「色違いですか!?」

「あぁ。マナフィってだけでも結構驚いたのにまさかの色違いだもんな」

「初めて見たので………私には分かりませんが………」

 

 "色違い"はポケモンが誕生する瞬間に特異変質を持って産まれるポケモンを指す。

 ステータスに変化はないが見た目はポケモンの種類によっては大きく変化する。

 それがマナフィにも適応されるとは。

 マナフィってだけでも既に稀少性は計り知れない。そこに色違いの要素が足されるとなると私では想像のつかない何かが起こる。

 

「どうやら襲撃してきた奴等はその情報を知っていたらしい。情報源は未だに分からず。だとすれば、再び襲ってくるとも限らない。それにあたって、マリアはマリーナ一座の代表として俺にマナフィの保護を依頼してきた」

 

 マナフィの希少性の価値は不明。

 ポケモンハンターにとっては絶好の標的とされるはず。しかも、先日に狙ってきたのはポケモン警察でも手を焼くプロ並みのハンターの仕業と分かった。

 マリアは自分達の力だけでは保守しきれないと気付いた。ならトレーナーとして実力もあり協力的な彼に託すしか道がない、と苦渋の決断を迫られたのだろう。

 

「あくまでマリーナ一座はサーカスの一団であって、個人でのバトルの実力はいまいちだって事は自分達でも嫌という程、痛感してる………依頼を聞いたと一緒にそうマリアから言われたよ」

「………辛いですね」

「あぁ。俺を騒動を巻き込まないようにマリアもギリギリまで粘ってくれた。でも、マナフィの安全を確実にするには俺の元にいる方が良いそうだ」

 

 彼に頼む時のマリアは涙を流していた。

 マナフィと離れるからではない。他人の彼に全ての責任を押し付けてしまう自分に嫌気が差したから。

 それでも彼は頼みを引き受けた。

 全ての覚悟を犠牲にしてまで。

 

「それ以降、俺は徹底的に対策を仕込ませてもらった。マナフィを預かったその日に一座から離れたり、知り合いにネットに強い奴が居たから、俺の個人情報は軽く隠蔽してもらったりとか」

「あ………だから、マーマネが………」

「ん?誰かが俺の身元を調べたりしたの?」

「………ごめんなさい」

「責めるつもりはないよ。それが普通だし」

 

 私の謝罪に彼は気にしないで、と言う。

 それでも相手のプライベートを不許可で覗こうとしていた真似は変わらない。

 

「相手の身元が不明だと逆に怖いからね。正直、やり過ぎ感があったことは認める。あんまり効果は無さそうだし、近いうちにまた友人に頼んで戻してもらうか。

 ………話を戻そう。

 マナフィを引き取る際に説明されたけど、このマナフィは特別な能力があるそうだ」

「マーナ?」

「特別な能力。人と話せる能力とか………ですか?」

「マナー!!」

 

 ―――ちがうもん!!

 

「うん?違うって?………え!?今のは!?」

「本人直々にお達しが来たようだね」

 

 脳内に言葉が流れ込む。

 そんな信じがたい現象なのだが、私はまさに今、それを目の当たりにした。

 犯人はこの色違いマナフィ。

 私と彼の会話をこの子はしっかり理解し、そして彼の言葉に返した私の答えにちゃんと不正解と印を押したのだ。

 

「この子………今更だけど、ニックネームを言うの忘れてた。"マナ"って名前」

「あっ、はい。マナちゃん?」

「マナ!!」

 

 元気よくマナフィが腕を上げる。

 

「あれ?普段だとマナはあんまり人にはなつかない性格なんだけどな………スイレンだと平気みたい」

「どうしてでしょうか?」

 

 マナー!とマナフィは私の胸元へ飛び込もうと抱っこする彼から懸命にもがき始めた。

 あまりの可愛さに親近感が湧いた。

 

「で、何を話してた?」

「マナちゃんの特別な能力です」

「あっ、それそれ。マナフィはさっきみたいに人とコミュニケーションが取れるポケモンだけど、マナはさらに海のポケモンをどんなに距離があろうと呼んでしまう能力があるらしい。

 発動条件はマナ自身が身の危険を感じた時。マナは無意識にするから一度でもそれが発動してしまうと………」

 

 ―――なーに?

 

「下手をすれば、あの()()()()()すらも召喚してしまうかもしれない」

「カイオーガ………!!」

 

 伝説のポケモン『カイオーガ』。

 海を創造した伝説として神話に登場する。過去に干ばつに苦しむ人々を救った逸話も存在している。

 大波や大雨で海を広げたとされている。

 つまり、カイオーガがアローラに現れるとメレメレ島なんて一瞬で海に沈む未来が完成してしまう。

 そんな未来なんて絶望の他、言葉が出ない。可愛い姿に秘められた災厄の力。

 

 まさに―――"天災"の子。

 

「それに………まだマナを狙うハンターが警察に確保されという情報がない。何処かで俺を探しているかもしれない。向こうの出方がまったく不明な今、俺には出来る限り場所を転々と変えて過ごすしか方法がない」

「だから………あんなことを………」

 

 同じ場所に留まると、マナフィを狙うハンターは捜索しやすくなる。

 彼は行方をあえてあちこちに眩ます事で難を逃れようとしている。

 

「………もしハンター達と戦闘が起きてしまえば、俺はあの子達を守る余裕はない」

「で、でも!博士やカキにマオだっています!きっと大丈夫ですよ!」

「前回と違って、敵どもは確実にバトルに腕のある人員で構成されているはず。一対一ならまだしも、一対多に慣れてないカキ達では正直キツイ部分が目立つ」

「私だって………一緒に守ります!」

「ありがと。その気持ちだけで十分だよ」

「ソウさん………」

 

 分かってはいた。

 彼にとって今の私の実力では足手まといにしかならない事なんて。

 でも、彼から言葉を濁してるものの、はっきりとその事実に直面してしまえば、心は苦しい。

 

「マナ?」

 

 ―――だいじょーぶ?

 

「………うん」

「おっ、マナ?どうしたんだ?」

「マーナ!」

 

 彼に抱かれたままのマナフィが私の方へ腕を伸ばす。

 心と通い会えるポケモン。

 この子はこの子なりに私を励まそうとしてくれるのだろうか。

 

「あっ………」

 

 私の手はマナフィの手にそっと触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 その日の夜。私は不思議な夢を見た。

 目を開けると、私は海中に浮かんでいたのだ。まるで自分も海の一員となったかのように。

 すぐにこれは夢だと分かった。

 辺りを見渡せば、様々な種類の水ポケモン達が平和に過ごしている。

 

 そして―――見つけてしまった。

 

 海底に聳え立つ神殿。

 あまりの神々しさに心底怯える私。だが、夢だと分かりきってるので冷静に考えて神殿へ近づくことに。

 水中なのに呼吸するのが全然辛くない。

 夢の世界なら何でもあり。

 神殿の内部は幾何学的模様の壁や天井で構成されていた。何故か自然と心が惹かれる。

 それと、位置は海中なのに地上と同じく空気があった。お陰でゆっくり歩くことも出来る。

 眺めながら神殿奥へと踏み入れる。

 鎮座する台座があった。私はもっと近くで見ようと進んで其処で―――

 

 ―――意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -14- へ続く。




*役者は出揃いましたね。名前はまだですけど。
 それとマナフィに、んな力ねぇよと思わないでください。色違いなのでそういう能力も追加されたとでも思っておいてください。


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-14-『不穏×混乱』

 スイレン視点なので、急に話が飛びます。



 ◇◇◇

 

 合宿、最終日。宿の一階廊下。

 

「ふふ~ふふ、ふんふふんふん~」

 

 なんだか普段より目覚めが良い。

 早朝からスキップする程、気分が爽快であった。足取りも軽い、軽い。

 欠伸をしながらアシマリも付いてきた。

 宿の食堂で早めの朝食だ。

 

「………あれ?」

 

 食堂に到着した。

 其処には珍しく大人組全員が集合していたのだ。ただ、彼の姿だけはない。

 その中でもククイ博士が私の存在にいち早く気付いた。

 

「スイレン!!ちょうどいい所に来た。今さっき、呼ぼうとしてたんだ。こっちに来てくれ!!」

「ククイ博士?皆も………どうしたの?」

 

 誰も答えてくれなかった。

 いや、ククイ博士を除いた全員が私と同じ立場であるようだ。

 

「よし、全員揃ったな」

「あの………ソウさんがまだ来てないようですが………」

 

 リーリエが恐る恐る発言をする。

 この時、私は嫌な気配を感じた。言葉にし難い、変な胸騒ぎのようなざわめき。

 ククイ博士は小さく頷く。そして、深刻そうに暗い顔で告げた。

 

「ソウに関してだが………その前にこれだけは言わせてくれ。今日の合宿は中止だ」

「なっ!?どうしてですか!?」

「カキ、落ち着いて。今からククイ博士が説明してくれるんだよ?」

「そ、そうだな………」

「サンキューだ、マーマネ。他の皆も落ち着いて聞いてほしい。

 今朝未明にこの島に不審者の目撃情報が出回った。その真偽を確かめる為にソウが出動しているって訳だ」

「不審者って、え?でも、なんでメレメレ島に?」

「それは俺にも分からん。ただ、まだ確定では無いが一つだけ言えるのは………どうやら、()()()()()()()()の中でも厄介な密猟者の可能性が高いらしい」

「―――っ!?」

「スイレンさん?」

 

 胸騒ぎの原因はきっとこれだ。

 ポケモンハンター。此処まで追ってきたとなると目当ては彼の守るマナフィで間違いない。しつこすぎる。私の嫌いなタイプ。

 そして、今の彼は単独で外に出たとククイ博士はさっき話した。

 誰にも迷惑を掛けたくない。私達を巻き込みたくない一心で、建前では不審者の調査と言いつつ、実際は正々堂々と立ち向かったに違いない。

 

「問題が解決するまで皆には子供達を守っておいて欲しい」

「で、でも博士!!ソウさん一人だと無謀過ぎます!!誰かが応援に―――」

「スイレン?いきなり何の話を―――お前、もしかして、ソウから………」

「―――っ!?」

 

 そうだ。私しか知らないのだ。

 ククイ博士も詳しい事情までは把握していない。私の幼馴染達はもっと無関係な話なので知る由もない。

 いつにも増して胸が苦しい。

 

「無謀?ソウの強さだと大丈夫だと思うけど………」

「それほどヤバイのか?不審者ってのは」

「分かりません。ですが、今はソウさんを信じることだけしか私達には………」

 

 ―――今すぐにでも、()()()()()()

 

「おい!?スイレン!?」

 

 ククイ博士の呼ぶ声を無視して、食堂を飛び出した。

 昨晩に話した内容がたった一夜過ぎたたけで現実になるなんて嘘に違いない。彼の単なる思い込みによる勘違いがオチになるに決まっている。

 でも、心配だった。彼が隣に居ないだけでも。

 きっと私ごときが参戦しても、彼の足手まといになるのは不変の未来。それでも、困り果てて助けを求める人には救いの手を差し伸べるアローラ魂に嘘は付けない。

 何より私の心が彼に会いたいと叫んでいた。

 

「アシマリ!!場所、分かる!?」

 

 呼吸が荒ぶる中、そう呼び掛ける。

 ちゃんと私の動きに付いてきていたアシマリが軽く"オゥ!!"と鳴いた。

 鼻の指す方向は正にいつもの海岸へ向かう道だ。道中にある森を突破さえすれば、砂浜が広がっているはず。

 

 目指すは――"海"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 砂浜へと続く森林の道。

 

「アシマリ、おいで」

 

 アシマリを抱っこして、再び歩き出す。

 この異常事態にアシマリと離れ離れになるのは嫌だった。

 

 それにしても―――周りが静か過ぎる。

 

 いつもなら森ポケモン達の鳴き声が飛び交う雑木林の通り道。騒がしいが彼等の日常のはずだった。

 それが、今は無音に近い。

 木々の間を通り抜ける潮風でざわざわと揺れる葉っぱ。聞こえるのはそれだけ。

 辺りを警戒しつつ私は足を動かした。ぎゅっとアシマリを抱き締める。

 

 そして―――

 

「足音………!!」

 

 ザクザク。落ち葉を踏み締める音。

 彼はアローラに来てからずっとサンダルを着用している。でも、私が耳にしたのは革靴で踏んだような音。

 つまり、確実に私の知らない誰かがいる。

 音の根源は徐々に近付いてきていた。異様な緊張感に包まれる。冷や汗が出てきてしまう。

 

「今………人の足音が聞こえなかったか?」

「んや?気のせいだろ、こんな朝っぱらから。島民でも起きてないぐらいの早さだぞ」

「だな。にしても―――」

 

 残念ですが、居ます。

 獣道から離れた年期のある幹の根元に座り込んだ私。幹を背に隠れ、抱えるアシマリの口を抑えこむ。

 単独ではなく必ず複数で行動する。

 他にも彼から昨晩聞いたポケモンハンターの手下の特徴と何もかもが一致した。

 

「暴れないで………!!」

 

 抵抗するアシマリ。

 物音を少しでも立ててしまうと、居場所が感知されてしまう。それだけは駄目。

 確認できたは男の二人組のみ。

 人気のない早朝を意図しての行動から、あいつらは人に見られては不味い何かをしようとしているのは間違いない。

 目的は事前に聞いていた情報から分かる。

 十中八九、彼の守るマナフィ目当てだろう。

 

「あっ、息が出来ない………ごめんね」

 

 抑えた掌を離した。

 無言のまま、訴える視線を送るアシマリに私はその頭を優しく撫でた。

 二人組の男の会話は段々と遠くなる。

 ここは無難に危険を避けるべきだ。少なくとも彼が何処に居るのか判明するまでは。

 

「よし………」

 

 そろそろ、頃合いだろうか。

 茂みから顔を出した私は慎重に周りを警戒する。視界に人らしき存在は無い。

 ばくばくした心臓を落ち着かせる。

 私はその場をそっと立ち上がり、歩きやすい道へ移動しようと―――

 

「アシマリ?」

 

 アシマリの様子がおかしい。

 視線を一点に固定し、ぺちぺちと私の胸へ叩いて何かを知らせてくる。

 その視線の先を追いかけた。

 

「っ!!」

 

 そして、幹にしがみつくポケモンを発見。

 周りのみに気を取られて、頭上の確認を怠ってしまったせいでここまで接近を許してしまったのか。

 黄と紫で構成された縞模様の虫の脚。赤に染まった甲部、頭に立派な角が伸びていた。

 

 あしながポケモン『アリアドス』。

 

 今、絶対に目があった。

 でも、この森で野生のアリアドスの目撃情報など過去に例がない。つまり、私を凝視するこのアリアドスは―――

 

 ―――()()()ポケモン。

 

 アリアドスがゆっくり口を開けた。

 その一連の仕草に一瞬だけど、殺気を感じた私は懸命に回避行動へ移る。

 糸が私の顔すれすれに通り過ぎる。

 

「くっ!!アシマリ、バブル光線!!」

 

 攻撃を仕掛けられた。つまり、アリアドスは私達を敵と判断した。

 こうなれば、四の五の言ってられない。

 アシマリの勢いよく噴出された泡攻撃がアリアドスに襲い掛かる。

 が、地の利は向こうが上。

 器用に幹をジャンプしたアリアドスは素早い動きで私達の周りを動き続けた。

 タイプの相性は普通。でも、アリアドスは森林がアットホーム。確実に現状のままだと此方が不利になってしまう。

 

「アシマリ、逃げるよ!!」

 

 場所を変える。

 その一心で私はアシマリにもう一度"バブル光線"を打つように指示。

 移動した目の前の泡にアリアドスの動きを止めたその隙を狙った。

 

 ―――筈だった。

 

「な、何!………糸!?」

 

 駆けようとした瞬間。

 足首へ紐のような何かに引っ掛かり転んでしまった。

 それは強固に張られた糸。

 あのアリアドスが素早く動くと同時に獲物を逃さないように罠を張っていた事実に私はようやく気付いた。

 ほどこうにも片足に複雑に絡み付いた糸。

 粘着力もあって、身動きが取れない。

 

「オゥ!!」

「アシマリだけでも良いから逃げて!!」

 

 せめて、アシマリだけは。

 幸運にも捕らわれたのは私の足だけ。アシマリは無事。

 

「逃げて!!早く!!」

「オゥ!!」

 

 私の叫びにアシマリは頑固として頷かない。

 

「なんで………!!」

 

 脳裏を過る、大雨の日。

 あの時もアシマリを先に安全な場所へ行かせた。そのせいで無駄に心配をかけさせてしまった。

 アシマリは今度こそ、私と一緒に逃げようとしているのだ。

 

「アリ」

「っ!?」

「オゥ!!」

 

 無情にもアリアドスが追い付く。

 アシマリが"アクアジェット"で応戦した。突進するアシマリがアリアドスへ見事に直撃。

 少しでも時間を稼ごうとしてくれている。

 

「あとちょっと………!!」

 

 もがく。無心にむがき続けた。

 

「―――外れた!!アシマリ!!」

「オゥ!!」

 

 罠も苦戦しつつ、解除した。

 後はアリアドスの監視が外れる場所まで走りきるのみ―――

 

「逃がすかよ。"黒い眼差し"だ、ゴルバット」

 

 背後から聞こえた男の声。

 背筋が凍り付いた。そして、目の前の巨大な瞳の幻想に体が動かなくなった。

 "黒い眼差し"。

 バトル中、相手ポケモンを交代や逃がさないようにする技。一度受けてしまうと、どちらかが戦闘不能になるまで解除されない。

 

「さっきの、気のせいじゃなかったな」

「そうだろ?アリアドス、良い仕事をした。仕上げに糸で捕まえろ」

 

 アリアドスが糸で私の全身を拘束。

 すぐにアシマリも真っ白ぐるぐる巻きにされてしまった。

 口も封鎖されてしまう。これではろくに助けすらも呼べない。

 私の動きを止めたゴルバットも男の後ろで陣とっている。

 

「さて………」

「てかさ、No.13」

「何だ?」

 

 状況は最善とは真逆。

 地面に横たわる私の姿を見た片方の男が数字で相方を呼んだ。

 組織内では番号順に区別がされてあるのだろうか。単純に考えれば、数が小さい程、階級は上。

 

「青髪にスクール水着姿、間違いない。俺らの探してた奴ってこいつじゃないか?」

「む?………ホントだ。全て、一致するな」

 

 ―――私を狙っていた?

 

 分からない。

 身体的特徴のみの情報を頼りに二人は目標の人物を探していたように見える。勿論、私に心当たりはない。

 太り気味の男、ゴルバットの使い手が私の近くまで接近し、しゃがみこんだ。

 

「おい、お前。名前は?」

 

 私は首を横に振った。

 

「まぁ当たり前の反応だろうな。となれば………」

 

 せめてもの時間稼ぎ。

 腰に付けたボールまでどうにか手繰り寄せる隙さえあれば。

 男はゴルバットを呼んだ。

 

 こうもりポケモン『ゴルバット』。

 

 洞窟内を好むポケモン。アローラでも生息が確認されている。

 得意技は―――

 

「んー!!」

「案外、察しが良い奴なのか?でも残念、大人しく俺の指示に従ってもらうことになるぞ」

 

 ―――"怪しい光"。

 

「ゴルバット………怪しいひか―――」

 

 その瞬間だった。

 

「なっ!?」

 

 ―――閃光が走る。

 

 一筋の槍が気付けば私の視界を横切った。

 槍のような物体はゴルバットの側面へ衝突。そのままゴルバットの体ごと吹き飛ばす。

 驚愕するゴルバットの使い手。

 アリアドス使いの相方も予想外の乱入に慌てる。

 よく見れば、槍ではない。

 あれは………()

 

「誰だ!?」

 

 私から距離を取った男。あちこちに視界を巡らせるも見つからない。

 乱入した正体は木の枝に乗っていた。

 と、次の瞬間に華麗な回転ジャンプ。飛翔したその先は私と男の間に着地。

 私にその小さな背中を向けた救世主が登場した。

 蜥蜴のフォルムさながらに二足歩行。私に向けられた葉っぱのような尻尾がわさわさと揺れる。

 そのポケモンは―――

 

「タジャ!!」

 

 くさへびポケモン『ツタージャ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -15- へ続く。




*次回はオリジナルシステムが入ってくると思います。


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-15-『草者×乱戦』

 日間ランキング9位………嘘だぁ。
 それと誤字報告してくれた方、ありがとうございます。ただ………技名を漢字表記にしてるのは仕様であって、間違いではないってことだけご理解頂ければかと思います。お手数煩わせてしまってすみません。
 それと話が変わります。前回の後書き通り、独自設定が追加されます。後々、響いてくる予定です。

 では、どうぞ。



 ◇◇◇

 

 森林。

 

「………ツタージャ?」

 

 登場と同時に目の前のツタージャは"リーフブレード"で私とアシマリの拘束を解いた。

 この子は私を助けてくれた。

 そして、男達に敵対している。どうやら私の味方という解釈で良いみたい。

 まずはこの子とコミュニケーションを取りたい所。

 が、ツタージャの視線は一切、男達から外すことはない。その姿はまるで小さな戦士。

 ツタージャの肩から伸びる二つの蔓はバトルの基本武器となるようだ。先程からペシペシと地面を叩きつけて威嚇している。

 

「こいつ、誰のポケモンだ?」

「分からん。少なくとも俺達のリストには存在しないポケモンだ」

「だとすれば………もう片方の野郎のポケモンか?」

 

 服に付いたゴミを払い、私は立ち上がる。

 二人の男はツタージャから距離を置いて、作戦会議を始めた。

 途切れ途切れに聞こえる単語。

 それらから推測するに襲撃者の目当ては私以外にいるらしい。

 

「タージャ!!」

「えっ!?どうしたの!?」

 

 次の瞬間―――ツタージャが突撃した。

 先程のは気合い入れただけの雄叫びに過ぎなかったようだ。反応しただけあって、少し恥ずかしい。

 地面を高速で直進。目指すはゴルバット。

 だが、相手は空中に浮かんでいる。近くまで接近しようものなら、その分だけツタージャも隙を見せることに。

 

「くそっ!!こいつ、早いぞ!!」

「良いから応戦しろ!!アリアドス、"ねばねばネット"!!」

 

 横槍が入る。

 ツタージャの進行方向左前にある木の幹に構えていたアリアドスが広範囲に渡り、蜘蛛の巣を広げた。

 あれに捕まってしまうと一時的に動きが拘束されてしまう。

 ちらり、と頭上を確認したツタージャ。

 二本ある蔦の一本を右前の極太の幹へ伸ばした。電光の如く伸びた蔓先はぐるりと幹を数回巻きつく。

 そして、伸びた蔓を懐に仕舞う要領で自身の体を巻き付けた幹へと近付けさせた。

 

 ―――す、凄い………。

 

「避けられた!?」

 

 幹へ着地したツタージャ。

 幹に巻き付けた蔓は既に巻き取ってある。無駄のない一連の動きに私の視線は釘付けだった。

 力強く幹を蹴りつけ、再び突撃。

 ゴルバットが射程内に入るなり、蔓をゴルバットの両翼に巻き付けた。

 こうなればゴルバットも身動きが取れない。逃げようにも肝心の翼がぐるぐる巻きにされてある。

 一方でツタージャは急ブレーキからの背後へ振り向く。地面にギギギ、と跡が残るぐらいに力が込められていた。

 ただ、いきなり止まれば前に進もうとする慣性の法則が作用する。

 ツタージャはそれを賢く利用した。

 蔓へと上手く力を流し、ゴルバットを豪快に投げ飛ばしたのだ。

 その先にはアリアドス。見事に衝突。

 

「ただのツタージャじゃない!?」

「くっ………力が桁違いだ」

 

 俗に言うあの技は―――"蔓のムチ"。

 

 草ポケモンの基本技のはず。

 ただ、あんなに派手な使い道があったのは知らない。

 

「ゴルバット!!"エアスラッシュ"!!」

 

 敵が反撃に出た。

 さっきの攻撃でアリアドスは戦闘不能に追い込まれていた。アシマリの攻撃が響いたようだ。

 "草タイプ"に相性が良い"飛行タイプ"を持つゴルバットはダメージがあまりない様子。

 男の指示に反応したゴルバットは空中に飛翔、翼をはためかせ、沢山の風の刃を生成した。

 

「タジャ!!」

 

 今度は大きく真上にジャンプして回避。

 このツタージャ、素早さが異次元過ぎる。いや、これはバトルに余計な行動を全て省略した努力の成果なのだろうか。

 宙に浮かび上がったツタージャ。

 一見、草タイプでは隙だらけの瞬間なのだろうが、私の目に写るそれが全てを否定する。

 

「なんだよ!?あれ!!」

 

 ツタージャの肩から伸びた蔓。

 どんどんと底無しに伸びてくる。蔓はやがて、ツタージャの目の前の空間に何かを成すように蔓が巻いていかれる。

 不思議な光景だった。時間がスローになったような錯覚さえ覚える。

 

 完成したのは―――()()()()

 

 草緑の拳。

 全長は人間並みにある。それら全てが二本の蔓だけで構成されていた。

 ツタージャは蔓を巧みに使い、拳をゆっくりと引いた。

 

 刹那―――発射。

 

 スピードは相も変わらず電光。

 しかも、その範囲と威力は"蔓のムチ"とは比べ物にならない。

 ゴルバットのトレーナーもその圧巻した光景に指示すらも忘れてしまっていた。

 成すすべなくして、ゴルバットに命中。空中から一気に地表へ押し潰されてしまった。

 

「も、戻れ………ゴルバット」

 

 巨大な拳が霧散した。

 次には、其処で目を回すゴルバットの姿が浮かび上がった。

 一撃。相性の不利を覆す理不尽な一撃。

 瞬時の判断力と行動力。そして、それらを可能にする運動能力。

 並大抵のツタージャでは絶対に不可能な動きをこの子は魅せてしまった。

 

「No.13、まだまだいけるな」

「や、やるのか!?あのツタージャ!!絶対に()()()()()の使い手だぞ!?」

 

 ―――"オリジン技"。

 

 定義は以下の通り。

 ポケモン協会が公式に発表していない技。

 同じ種族のポケモンでも一部の個体にしか発動できない例外的な技を指す言葉。

 オリジン技のどれもが驚異的な威力や効果を秘めており、公式バトルでは使用禁止とされるぐらいに不条理な技でもある。

 でも、不思議な事にオリジン技を習得できるのは最終進化系のポケモン以外らしい。進化せずに己の信念を貫いた象徴として、オリジン技が誕生した説もあるぐらい。

 アリアドスの使い手は相方の動揺にも冷静に答えた。

 

「だからこそだ」

「………はぁ?」

「ここで俺達があいつをやれば、邪魔物の排除となり、結果的にリーダーの計画に貢献することになる。昇格出来る絶好の舞台にまさに俺達は立っているんだ」

「………成る程。一理ある」

「オリジンの使い手とは言え、所詮は進化前のポケモン。よりにもよって、あのツタージャとなれば、油断さえしてない限り―――いける」

「了解」

 

 男二人は新たにボールを投げた。

 前者。ラクダのような体格。背中に付いた火山みたいなコブ。ふんす、と漏れる鼻息は炎の塵と化す。

 ふんかポケモン『バクーダ』。

 

 後者。悪魔を彷彿とさせる先端が三角形状に尖った尻尾。大型犬のような姿。頭には角が二本生え、胸には髑髏の装飾。背中に肋骨状の装飾がある。

 ダークポケモン『ヘルガー』

 

 二匹のポケモンが同時に吠えた。

 最悪。よりにもよって最悪だ。どちらも"炎タイプ"を主体とするポケモン。ツタージャが相手するには不利すぎる。

 バクーダは特にそう。特性"マグマの鎧"は近接を得意とするこのツタージャにはさらに痛手だ。

 触れる度に火傷をする。物理技は推奨しない。

 流石にこれではツタージャも臆するのではないかと考えた私。アシマリによる援護さえあれば、まだ勝機は―――

 

「ツタージャ!!………え!?」

「タジャ!!タージャ!!」

「………うそ」

 

 すっごくヤル気満々だ。

 小さな掌で軽くシャドーして、挑発するぐらいにツタージャは闘志が燃えていた。

 ダメだ。強敵が登場する度にテンションが上がってしまうタイプだ、この子。

 

「へぇ~。あくまでやり合うって訳か………」

「ヘルガー!!"火炎放射"!!」

 

 元ゴルバットの使い手が今回はヘルガーに指示を下す。

 火炎のビームがツタージャ目掛け襲うが、華麗にステップで避けていく。

 

「バクーダも"火炎放射"だ」

 

 さらに加わる火の猛威。

 流石に他人行儀に観戦するだけではいられまい。

 アシマリに指示を出そうと―――その瞬間に、辺り一体に謎の轟音が鳴り響いた。

 

「今のは何だ!?」

「分からん!!こっちからか!!」

 

 音源は男とツタージャが対面する丁度平行線上。

 まるで木々が薙ぎ倒される音。何かが大暴れしているような。

 徐々に聞こえる音量は大きくなり―――

 

「ガァァァァァアアアア!!」

「ラァァァァアアアアア!!」

 

 迫力満点に新たな乱入者が出現した。

 それも二匹。互いに取っ組み合い、どちらも引けを取らない。

 音の原因はこれだ。どちらも周りに一切の容赦がない。目の前の敵のみに集中している。

 片方は大きな熊の姿をしたポケモン。腹部分の黄色いリング模様が目立つ。

 

 とうみんポケモン『リングマ』。

 

 そして、リングマを相手にしているのは―――

 

「ラーグ!?」

 

 会うのは二回目となる『ラグラージ』。

 彼の手持ちの一体。しかも今のラグラージは前と同じ姿―――メガ進化をしている。

 ツタージャと男二人のバトルを邪魔をするように出現したリングマとラグラージ。

 

「これは!!No.11のリングマか!!」

「不味いな………少し、離れるぞ」

 

 殴り合いは終わらない。

 と、ラグラージがリングマの両拳をがっちり掴み込んだ。

 ぐぬぬと力を込める両者。

 が、状況を優位に進めたのはラグラージ。メガ進化した分、パワーもより強力になっている。

 腕をひねりあげ、リングマがダウン。

 そこに、

 

 渾身の―――"冷凍パンチ"、炸裂。

 

 お腹に直撃。悲鳴を上げたリングマ。

 これにより、リングマは戦闘不能へと陥った。

 

「おい………リングマが負けたぞ」

「あのラグラージも奴のポケモンってことになるのか。厄介だな………」

 

 男二人は冷静に分析。

 一方でツタージャはというと。決着が一段落ついて、落ち着いているラグラージの側へと歩み寄っていた。

 

 そして―――

 

「タジャ」

「ラグ?」

「タジャ!!タージャ!!」

「ラー?ラグ!?」

「タジャ」

 

 謎の会話が始まった。

 ポケモン同士の会話は人間には解読不可能。大人しく様子を見守るしかない。

 ………にしても内容が気になる。

 

「ラーグ」

 

 話の区切りはついたみたい。

 ギロリ、と向けたラグラージの視線の先は男二人、それにバクーダとヘルガーがいた。

 ラグラージはまるでここからは俺が相手をしてやるとばかりに待ち構えていた。

 水、地面タイプを保持するラグラージに相手のポケモンとの相性は抜群。つまり、ツタージャとは選手交替の話をしていた、となるのだろうか。

 ただ、ラグラージは連戦となる。そこがちょっぴり不安。彼の手持ちポケモンなので、きっと勝ってくれると信じる。

 

「タージャ!!」

「な、何?」

 

 そして、ツタージャ。

 今の今まで私の存在を意識の片隅にもない動きをしていたツタージャが私の前へと、てくてく移動してきた。可愛い。

 蔓が森のさらなる先へ指差す。

 この子はラグラージと喋る仲。つまり、彼の六体目となる手持ちポケモンで間違いない。私を守ってくれたのも後できちんとお礼を言わないと。

 今すべきはツタージャの言いたい事を感じとる事。うん、何となく伝わってきた。

 

「あっちにソウさんが………?」

 

 ―――パシッ!!

 

「えっ?」

「タジャ!!」

「わ、分かったから!!引っ張らないで~!!」

「オゥ~」

 

 蔓に捕まれた右手。

 私はツタージャに問答無用に誘導されるがままになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -16- へ続く




 ◇◇◇〔オリジン技、解説〕

 "草者の拳"。威力:190 命中:100

 現在、ソウのツタージャのみ使えるオリジン技。
 "蔓のムチ"をひたすらに極め、極め続けたその頂点の座にのみ修得可能すると云われる最強の草の格闘技。
 蔓で形成された巨大な拳が放つその容赦ない一撃は並大抵の防御では通用しない。
(基本的にオリジン技は威力が高め、もしくは付属効果がえげつなくなっております)

*後にこの設定を存分に利用したトレーナーが登場する予定(だいぶ先)なのでしばしお待ちを。


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-16-『交代×窮地』

 お久しぶりです。ちゃんと生きてます。
 ここからどういう展開になるか、書いている自分も楽しみにしてるぐらいなのでまだまだ余裕です。



 ◇◇◇

 

 ???。

 

「ぬ、抜けた………!!」

 

 あの後、森林を突破した。

 さらにツタージャの先導に促されつつ移動していく。

 砂利道が目立ってくる。潮風もより鮮明に。

 

 ―――ここを越えれば………彼が!!

 

 ものの数分。たかが数分。

 何度も通った道がやけに長いように感じた。

 と、次の瞬間。

 

「タジャ」

「えっ!?」

 

 ツタージャが急停止。

 咄嗟に反応した私を褒めて欲しいぐらい、何の前触れもなくそれは起こった。

 その原因はすぐに現れる。

 大量の泡が猛烈な速度で前方から迫ってきていたのだ。

 

 ―――"バブル光線"。

 

 どのポケモンによる仕業かは不明。

 少なくとも、明らかに私達とツタージャに仕向けた攻撃なのは間違いがない。

 新たな敵の登場だろうか。

 ツタージャが両肩から蔓を出し、ペシペシと一個も見逃さない繊細な操作で泡を撃ち落としていく。

 ここまで器用に"蔓のムチ"を操れるなんて。

 

「………ありがとね、ツタージャ」

 

 返答は簡潔に、タジャ。

 再び移動を開始。今度は敵の襲撃を警戒して、走りから歩きへ変更しつつ着実に距離を詰める。

 だが、敵の攻撃は来ない。

 音沙汰も気配すらも感じられない。

 

「あれは………?」

 

 やがて見えた光景に私は目を疑う。

 二体のポケモンが対峙していた。一体は私の知る彼の手持ちポケモンでもある『クチート』。

 しかもメガ進化姿。

 そして、クチートの相手は―――

 

「ジガァ!!」

 

 頭にある大きな星。巨大な対の鋏。

 口周辺に走る青いラインがまた独特な雰囲気を醸し出していた。

 ならずものポケモン『シザリガー』。

 シザリガーの背後には一人の男。

 先程の襲撃者と同じ服装から、男もまた奴等の一員と判断がつく。

 男がクチートを指差し、声を上げる。

 

「"クラブハンマー"!!」

 

 体格に合わない鋏が猛威を振るう。

 クチートもまた応戦。こちらも得意の顎で正面から対峙した。

 苛烈な衝撃が響き渡る。

 だが、ここでシザリガーはもう片方の鋏を攻撃へ使用する。対して、クチートは顎一つのみしかない。

 どうにかクチートは後退して難を逃れる。

 間一髪の回避。メガ進化した恩恵による能力上昇が役立った。

 

「どどどどうすれば………!?」

 

 ―――クチートの援護?

 駄目。あんな高度な近接戦闘にアシマリが入る余地はない。

 観戦するだけしかないのだろうか。

 

「クッチ!?」

 

 追い討ちの如く、シザリガーは攻撃。

 数の暴力にクチートは防戦一方。手数は同じ筈なのにどうして。

 よく見てみれば、クチート自身も既に疲労の色が隠しきれていない。

 きっと、クチートも連戦続きなのだ。

 特にメガ進化は体力の消費も早いと聞く。このままではクチートの防御が破られてしまうのも時間の問題。

 

「よし!!シザリガー!!やれ!!」

 

 次の瞬間。

 渾身の"クラブハンマー"がクチートの顎を大きく弾け飛ばした。

 さらけ出された大きな隙。

 シザリガーの左鋏が大きく横振りされ―――

 

「タージャ!!」

 

 横から現れた蔓が高速で鋏を絡めとった。

 はっと気付く。確認すれば、ツタージャの姿はもう私の側から消失していた。

 器用に鋏の根本を狙い、自身の蔓を巻き付けたツタージャはゴルバット戦で見せたようにまたしても大きく投げ飛ばす。

 男の方へ投げ飛ばした合間にクチートの元へ駆け寄る。

 

「クッチ………」

「タジャ!!」

「チ?」

「タージャ。タジャタジャ」

「チー………」

 

 ポケモン会話が開始。

 内容を理解するのは当に放棄した。大人しく見守る。

 

「タージャ!!」

「えっ!?何!?」

 

 蔓の鞭でバチバチ地面を叩くツタージャ。

 その視線は明らかにこっち。此処まで来いと言いたいのだろうか。

 慌てて小走りで近寄る。到着するなり、ツタージャの謎の説明が始まった。

 

「あっ………交代ってこと?」

「タジャ~」

「良かった………合ってた」

 

 要するに案内はクチートへ託す。ツタージャはシザリガーを相手してから後を追うとのこと。

 確かにタイプの相性、武器の手数を鑑みてもツタージャが有利に戦闘を進められる。

 

「クーちゃん、よろしくね」

「チー!!」

 

 可愛らしい返事が来た。

 でも、物騒な顎も同時に動くから何とも言えない微妙な気持ちに。

 

「ガァ!!」

 

 ―――シザリガー!?いつの間に!?

 

「タージャ!!」

 

 油断していた。

 ツタージャが咄嗟に攻撃を防ぎつつも、私達へ早く行けとばかりに指図する。

 

 ―――ありがとう………!!

 

 ツタージャに感謝を伝えつつ。

 私とアシマリはクチートの誘導に導かれ、先へ進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「ソウさん!!」

 

 一目散に駆け寄る。

 遠くからの声に振り向いた彼。私の存在を認識するなり驚いた表情へ変わる。

 クチートと共に彼の側へ向かおうとした。

 

「クーちゃん!!"アイアンヘッド"!!」

 

 突如、彼から指示が飛ぶ。

 同時に私の目では、またしても敵と思われるポケモンが接近していたのを目撃する。

 クチートが素早く前へ出る。"アイアンヘッド"で応戦。 

 相手は―――

 キバへびポケモン『ハブネーク』。

 自慢の毒も鋼タイプを所持するクチートには無意味。放たれた"ポイズンテール"も難なくクチートは処理する。

 

「くっ!!駄目か………!!」

 

 ハブネークのトレーナーを確認出来た。

 草も入り交じる砂浜に立っていた。彼は波際に居る。

 クチートに指示を早急に出せたのも、向こうからだと私達と男の姿を視認出来るお陰だ。

 

「スイレン!?何故来た!?」

「だ、だって!!ソウさんが心配で………っ!!」

「それは後で謝る!!今はこっちに!!」

「は、はい!!」

 

 クチートがハブネークを牽制。

 安全が確保されているこの間に私は砂浜の上を走った。ずしりと砂に埋まり、何度も転びそうになった。

 ようやく。ようやく会えた。

 無事な彼の姿を見ただけでホッとする安心感に包まれる。

 

「そ、それでソウさん………この状況はどういうことですか!?」

「前に話した通り、俺目当てのハンターが勢揃いで来たんだ。無駄に早朝から」

「そんな………」

 

 彼は雲隠れのようにアローラを訪ねた。マナフィを狙うハンターから遠ざける為に。

 だが、それは無意味と成す。

 ハンター達はこうして目の前にいる。私達を襲っている。無実なポケモンを悪事に平気に利用するなんて到底許されない。

 

「私、手伝います!!」

「スイレン、言ったはずだ。これは俺が個人的に対処すべき問題。アローラの人達には恩があるし、迷惑は掛けられない」

「先に言っておきます、ソウさん」

「は?」

「アローラにそんな言い訳は通じません。困った人には手を差し伸べる。それがアローラ魂です」

 

 無理も承知の反論。言い訳をしているのはむしろ私の方。

 でも、彼を見捨てる方が無理。仕方ない。

 迷いを捨てた私の視線を前に彼は先に折れた。

 

「はぁ………此処まで来ちゃったら、今更関わるなって言う方が野暮か」

「ですね」

「分かった、俺の負け。でも、スイレン、俺の側を片時も離れない事だけは必ず守る事。俺の手が届かないとなれば、君の身が安全である保障が出来ない」

「………ありがとうございます」

 

 渋々、納得を彼に押し付けた。

 こうして私はどうにか彼のサポートという役割を担えた。後は全力で全うするのみ。

 私の胸に抱えたアシマリを彼は一撫で。そして、額の汗を拭った。

 

「途中で俺の手持ちとは会ったか?」

「あっ、はい。ラーグちゃんとクーちゃん、それにツタージャもですけど、ソウさんのポケモンで合ってますか………?」

「そうか。タッちゃんとも会ったのか」

 

 やはり、あのツタージャは彼の手持ち。

 

「ハンター達は人数が多い分、バラバラに動く。となれば、一人では流石に対処しきれない。故にあいつらには各自で判断をして動いてもらっている」

「メガ進化もしてましたけど………」

「ラーグとクーちゃんには最初から本気でやってもらってる。距離が離れすぎるとメガ進化が強制解除されてしまうのが難点だけど………我が儘は言ってられないか」

 

 然り気無い説明。

 でも、本来のメガ進化はトレーナーとポケモンが一人ずつ行う。彼は一人に対して、複数のポケモンと絆を結んでいた。

 私にどれだけ凄いのかは正直、分からない。

 

「さて、スイレン。気付いてるか?」

「はい………何となくですけど」

「囲まれているな」

 

 休む時間は与えてくれないらしい。

 クチートは既にハブネークを戦闘不能にしていたが、私達の方に一時撤退している。警戒体制を維持したまま。

 それもそのはず。ハンターが増えている。

 海を背にした私と彼を包囲するように配置されたハンターは少なくとも七、八人。

 ポケモンの数ともなれば、倍以上の差が出来上がってしまう。

 

「さぁ!仕上げだ、お前ら!」

 

 指揮を一人の男が始まる。

 あの男が一番の階級を所持するらしい。ハンター全員が揃って己のボールを掴んだ。

 

「"ロウ"、ようやく出番だ。頼むぞ」

 

 彼はブラッキーをボールから出現させた。

 戦闘において、ブラッキーは攻撃面においてどうしてもパワー不足が目立つ。耐久戦が得意な種族ゆえ、これまでに活躍シーンはあまりなかった。

 緊張が走る臨戦態勢。彼は私を背に隠した。

 隣に立ちたいと抵抗を見せる。が、彼はそれを許してくれない。

 代わりにハンター達の死角、彼の背中と私との間で左手に持つ一つのボールを持つようにと指示された。

 バレないようにそれを隠す。これは彼のアシマリである"マリー"のボールだ。

 

「我が相棒よ、来い!」

「もう諦めるんだな!」

「我らは無敵なり!」

 

 各々がポケモンを構える。

 まるで銃で狙われたかの如く、窮地に陥る私と彼。

 流石のブラッキーも攻撃全てから防御可能かどうか怪しいライン。

 指揮担当の男が片手を天に向けた。合図の代わり。

 

「―――っ!!」

 

 ゆっくりと振り落とされ―――

 

「待ちなさい」

 

 第三者からの声。

 それに機敏に反応したのは私でも彼でもない。

 

「リーダー!?いらっしゃったのですか!?」

 

 周りの雰囲気が一変した。

 私達を取り囲むハンターの態度が急変したのだ。まるで神が到来したかのようへと。

 

「スイレン………来たぞ」

 

 そして、彼は言う。

 

「奴がこいつらを率いる陰の首謀者。俺達が絶対に負けてはいけない相手」

 

 ゆっくりとした足取り。

 徐々にその姿を見せる。真っ黒な白衣姿に眼鏡を掛けた如何にも勤勉そうな男。

 私は彼から聞いた情報を思い出す。

 

 ―――"イカロス"。

 

 それがあの男の名前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -17- へ続く。




*ボス登場の回。

 ◇◇◇[敵一覧](-16-まで)

・No.1 イカロス
<手持ち>
 不明

・No.2~9
 本文、未登場。もしくは説明なし。

・No.10
<手持ち>
 アリアドス
 バクーダ

・No.11
<手持ち>
 リングマ

・No.13
<手持ち>
 アリアドス
 ヘルガー

・No.14
<手持ち>
 ハブネーク

・No.15
<手持ち>
 シザリガー

・以下、未登場なので略


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-17-『決別×逃走』

 

 ◇◇◇

 

 砂浜。

 

「あぁ、ようやく………ようやくですか」

 

 握り締めた拳を天に上げる。

 その仕草は何処か狂喜に満ちているように思えた。

 

「それはこっちの台詞だ。お前を倒しさえすれば、俺の勝ちとなる」

「成る程。お互い様………という訳ですね」

 

 両者、一歩も引かない睨み合い。

 己の信念、欲望に忠実に従った結果が二人を敵同士へと仕上げあげた。イカロスが地獄の果てまで追い詰めるぐらいにしつこい理由は不明。

 

 ―――こういう関係。私は好きになれない。

 

 アローラでは全員が家族のような関係。そこに敵対する関係など存在しない。私にとってそれが普通なのだ。

 眼鏡をクイッと上げたイカロスは威風たる態度で彼の前まで歩み寄る。

 彼はじっと動かない。私を背中に隠し、イカロスの動向を一時も見逃すまいとしている。

 

「無意味だとは思いますが………」

 

 彼のすぐ目の前に立つイカロス。

 

()()()()()()

 

 ―――何を、とは誰も問わない。

 

 彼もイカロスも絶対に口にはせず、状況を見守る手下も沈黙を守りぬく。

 きっと事前に彼からあの話を聞いていなければ、私はこのやり取りを理解していなかっただろう。

 "マナフィ"。海の王子。

 イカロスが要求する唯一の目的。

 ギロリ、とイカロスの瞳が向けられるが本人である彼はケロリとした風にシンプルに返答を返す。

 

「やだね」

 

 ふっ、と鼻で笑ったイカロス。

 それ以上の追及は意外とせずに、踵を返した。彼は手下のリーダーらしき人物の隣を通る去り際、そっと肩に手を乗せる。

 次にそっとその人の耳元で呟いた。

 

「―――やりなさい」

 

 プツン、と何かが切れる。

 イカロスが去ると同時に手下の引き連れているポケモンが臨戦態勢へ移行。

 溜め込んだ戦闘欲が剥き出しに。

 全方位からポケモンの遠距離攻撃が発射されようとしていた。

 

「逃げるぞ、スイレン」

「えっ!?で、でもどうやって!?」

 

 絶体絶命。

 それを象徴するかの状況に彼は至って冷静に判断を下していた。

 対して、私は半分パニック状態。

 と、彼が空に向かってこう叫んだ。

 

「"ティア"!!」

「え………!?」

 

 あの記憶が一気に甦る。

 あの子が嫌いとか苦手とかではない。ただ、その背中に乗った後のあれがどうも好きになれないだけで。

 彼の呼び声に呼応して、独特な返事が帰ってくる。

 

 ―――ドッシャーーン!!!

 

「あいつ、"竜星群"撃ちやがった」

 

 まさかの衝撃級一言。

 

「うわっ!?なんだ!?隕石か!?」

「上に何かいるぞ!!」

「今すぐその場を離れろ!!只じゃすまされんぞ!!」

 

 容赦なき鉄槌の嵐。

 私と彼がいる中心を基準に、円形状に次々と落下していく隕石の攻撃。ドラゴンタイプ最強の奥義が無双していた。

 辺りを見回す。ハンター側に混乱が生じている様子。この包囲網を突破する絶好のチャンスと言えた。

 

「スイレン!!こっちだ!!」

 

 彼に呼ばれる。

 気づけば、彼は既に着陸していたラティアスの背中に乗っていた。

 私もすぐにラティアスの背中へ。

 乗る時にはよろしくねと声をかける。前回のラティアスと比べ、姿と体の色が微妙に変化しているように見えて、疑問に思いつつも無事に定位置に辿り着けた。

 正直、これから起こる事に関してはどうも苦手。我が儘を言ってる場合ではないけど。

 

「ティア、頼むぞ」

 

 可愛らしい鳴き声と共に。

 天井から押される感覚が来た。急浮上による副作用だ。

 彼の背中にしがみつき、ひたすらじっとしする。

 すぐに圧迫感はさっぱり消え去り、一瞬の浮遊感を味わいながらもどうにか堪える。

 

 最後にここから離脱するだけ―――

 

「きゃっ!?」

 

 ぐらり、とラティアスの体勢が揺れる。

 ちょうど私の力を抜いた瞬間と重なり、私の身体は大きく傾いた。

 

 このままでは―――落ちる。

 

 元に戻す暇もなく、重力に地上へと押されていく。

 精一杯の抵抗とばかりに手を伸ばすも届かない。

 諦めかけた、その時に。

 

「スイレン!!」

 

 彼が懸命に手を伸ばす。

 ゆっくりと、ゆっくりと時間がスローになる。彼の手の先が徐々に私の手へと近づく。

 やがて、両者の手が重なる。

 ぎゅっと私の手を強く握り締めた彼は渾身の力を引き絞り、私を引き付けた。

 気付けば、彼の胸元にすっぽりと収まる私。

 何が何やら、困惑するだけ。

 

「あ、ありがとうございます………」

 

 ぼそっと呟くだけになってしまった。

 何故か安心する空間にすっぽり飲まれた私に抵抗する術は何もない。

 

「ティア、いけるか?」

「ッ!!」

 

 はっ、とする。

 彼がラティアスに無事を確かめた理由。それは先程の大きな揺れにも繋がるかもしれない。

 状況を確認すれば、ラティアスの左翼が明らかに負傷していた。これはポケモンの技によるもの。

 次に地上をそっと覗く。

 ハンターの混乱も随分と落ち着いてるがまだまだ時間はかかりそう。問題は少し離れた場所に立つ一人の人物。

 

 ―――イカロス。

 

 眼鏡越しにギロリと鋭い眼光。

 彼と私の空から脱出に成す術と言った感じの状況にも関わらず、イカロスは焦る仕草すら見せない。

 その傍らにはポケモンが鎮座していた。

 

 どぐうポケモン『ネンドール』。

 

 イカロスの口元が微かに動いた。

 そして、ネンドールがゆっくりと起動。分離した腕が何もない空間に真っ暗闇の球体を精製する。

 あれは―――"シャドーボール"。

 そっか。空高くにいる筈のラティアスが負傷したのもこのネンドールが遠距離狙撃したせいだと理解する。

 

「来る!!ティア、全速力!!」

 

 彼の指示が飛び交う。

 呼応したラティアスは流石の耐久力を見せ、その場を離脱。途中、ピンポイントで飛んできたシャドーボールも華麗に回避。

 

 私と彼は無事に包囲網から逃げ出せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 海辺の洞窟。

 

「ふぅ………ひとまずはこれで」

 

 あれから数分後。

 私と彼はあの場から距離を置き、尚且つ人の気配がない場所を隠れ場として利用することに。

 辺り一体岩盤地帯のその先端、海が洞窟の中まで広がる絶好のポイント。暫くはここで安息を取ることになった。

 

「大丈夫そうですか?」

「体力の消費が心配だけど、今は大丈夫かな」

「ッ~」

「ふふ、くすぐったいよ」

 

 彼に応急手当を受けたラティアス。

 私が側まで近寄るとその頬を私の顔まで近づけて、すりすりしてくる。可愛い。

 メガ進化も解除されたラティアスは前と同じ赤い姿に戻っている。さっきまで私の感じていた違和感はメガ進化による身体の変化によるものだと分かった。

 

「にしてもシャドボ一発でこんなに削られてるとはな………」

 

 ネンドールの"シャドーボール"。

 ラティアスというポケモンは基本的に耐久に優れたポケモン。並み半端な攻撃では逆に返り討ちにされてしまう。

 だが、タイプの相性、メガ進化による体力の激しい消耗、ネンドール自身のレベルの高さ。

 様々な要因が重なった結果、ラティアスは左翼にダメージを負ってしまった。

 

「戦力を分散させるのは不味いかもしれない」

「私も居ます」

「うん。参考までに聞いておくけど、スイレンの手持ちは今どうなってる?」

「えっと………アシマリと………」

 

 腰を探る。

 アシマリのボールだけしかなかった。それと彼から授かったボールが一つ。

 そして、私はふと思い出す。食堂から直接外へ飛び出してきたので肝心の手持ちの殆どは部屋に置きっぱなしであったと。

 

「アシマリだけ………です………」

「俺の渡したボールはある?」

「え?あ、はい。あります」

「なら、良い。そのまま持っておいて」

「分かりました………」

 

 力になると名言しておいて、これだ。

 アシマリだけではどうしても火力不足が目立ってしまう。バトルとなれば、下手に手を出せば逆効果にも。

 考えても無駄、状況は変化しないとは分かっている。でも、無意識に悪い方に考えてしまう。私の悪い癖だ。

 

「では、スイレン。始めよう」

 

 と、彼の様子がおかしい。

 ラティアスの頭を優しく撫でながら、ジト目で行方を見守る。

 

「何をです」

「あれ?一気にスイレンが遠退いたような………単なる作戦会議だよ、作戦会議」

「成る程。てっきりまた変な企みでも考えているのでと思ってました」

「信頼ないな~。まぁ………当たり前っちゃ、当たり前だな。自分で言ってて傷つく」

「それで、ソウさんは何か作戦が浮かんでいるのですか?」

 

 胸元を押さえていた彼は告げる。

 

「奴等の最終目標はマナの強奪、そして海底神殿に連れていき、マナの能力を利用することにある」

「はい」

「つまり、これさえ達成させなければ俺達の完全勝利―――って解釈で間違いはないと俺は踏んでいる」

 

 マナの能力は強大である反面、使い道を誤れば自身にも被害が及ぶデメリットも存在する。

 故に両者とも場面と時は慎重に選ぶ。

 

「さて、ここから具体的な解決策を上げていくぞ。主に俺が思い付いたのは三つ。でも、一つ目はぶっちゃけ無理だから、実質二つだけだ」

「二つ………はい」

「一つ目。俺がマナを連れて、アローラ島から完全に逃走する。つまり、このままスイレン達とはお別れとなる」

 

 そ、それだけは!!

 

「えっ!?だ、だ、だ―――」

 

 彼は静かに私の口に指を添える。

 

「大丈夫。この案は殆どボツだ。ティアがこのままじゃ負担が大きいし、他のメンバーも回収しないといけない。それに………黙って消えちゃうと色んな意味で後が怖いから、な?スイレン、ちゃんと落ち着いて。俺は君の側に居るから」

「は、はい………」

「二つ目に行くぞ。これが最有力候補」

 

 ごくり、と息を飲む。

 

「ひたすら逃げる。以上」

「え?」

「逃げる」

「ちょっと何言ってるか分かりません」

「………ぼちぼち通報もされて、国際警察がアローラに急ピッチで来るはず。そうなれば、奴等も諦めて身を引くだろうし、それまではひたすら逃げる」

 

 正直、拍子抜けでもあった。

 彼の案は凄くシンプルに構成される。ハンターからマナを守るように逃げて、逃げて、逃げて。その一手のみを行使するだけ。

 時間がかかれば、その分、自然と発生する騒ぎは目立つし避けられない。ククイ博士辺りが既に警察に通報していると踏んで、ハンターが退散する時間まで逃走を続けるのだ。

 

「不安な部分は勿論ある。イカロスの残り戦力が未だに不明だったり、俺の今の手持ちがティアとロー、それにクーちゃんだけで………」

「ソウさん?」

 

 唐突に途切れた彼の声。

 私の目には片膝を地面につき、頭に手のひらを添えて、苦悶の表情を浮かべている彼の姿だった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「あぁ………軽い目眩がしただけだ。気にする程でもない」

 

 そう言い、彼は立ち上がる。

 

「スイレンもこの案で異論はないか?」

「えっと………質問があります」

「ん。どうぞ」

「三つ目の案を私は知りたいです」

「そっか………そうなのか」

 

 実行は不可能だとしても。

 聞くだけ聞いて損はないと思っての発言であった。

 彼は少し困ったように考え込む。

 

「あくまでこれは最終の最終手段なのだけど………マナを誰にも手が届かない場所に還すんだ」

「そんな場所が存在するんですか?」

「あるにはある。でも、残念ながら人が辿り着ける場所ではない」

「………」

「海の何処かにあるとされる"海底神殿"。そこにマナ―――マナフィの住み処があると海の末裔から聞いたことがある。探そうにも範囲が広大過ぎだし、万が一見つけたとしても俺には入る資格がない」

「入る資格………とは?」

「海の神様に選ばれし者のみ海底神殿に踏みいる事が許されると伝承にある。その者はいつ現れるか不明だし、そもそも現実にいるかすらも分からない。不確定要素が多すぎる」

 

 海底神殿………そう言えば、夢に出てきた。

 あれがきっとそうなのだとすれば、私に出来る事があるかもしれない。

 

「私………見ました」

「な、何を?」

「マナちゃんと触れたその夜に夢で見たんです。海底神殿のようなものを!」

「嘘だろ?………どんな夢だった?」

「水中、海の暗い底にありました。夢なので私も自由に呼吸できて、初めはびっくりしましたけど近づいて………海底は暗いはずなのに其処だけキラキラ光ってて………中に入れば、とっても広い道が続いていて………奥に進むと何か台座のような物が見えて………私が見えたのはここまででした」

 

 そして、私は彼を見る。

 彼は言葉には出さずとも表情に隠しきれていないぐらい驚いていた。

 

「いや………だからか。スイレンにマナがなつくのも、むしろ本能的に感じていたからだったとすれば………」

「ソウさん?」

「スイレン!!」

「はい!!」

 

 私はびくり、と起立してしまう。

 彼はゆっくりと私の近くまで歩み寄って来る。意図の読めない行動に私の心拍数もばくばくと跳ね上がる。

 

「あ、あの………!!」

 

 そして―――私はハグをされた。

 

「ソ、ソウさん………?」

「此処で会えるとは思っていなかった。運命なんて信じて無かったけど、俺は今その運命に導かれているようだ」

「く、苦しい………ですぅ」

 

 ぎゅっと絞められる。

 私に抵抗する気力はない。むしろもっと堪能していたいと心の悪魔が囁くぐらいに。

 そっと彼は離してくれた。名残惜しいからもっとやれと次は心の天使が呟くが無視を貫く。

 

「あの夢を見るのは選ばれた()。スイレン、君はマナフィに選ばれんだ―――()()()()として………」

「海の巫女?………私が?」

「スイレンだけにしか果たせない役目。マナを海の元へ還す事が出来るかもしれない………」

「どどどどうすれば!?」

 

 重圧が一気に降りてきた。

 役に立てるのは嬉しい。だけど、此処まで大事になるとはだれが予想しただろうか。

 と、つかの間に。

 彼の言葉に段々と張りがなくなりつつある事実にこの時の私は気付いていなかった。

 

 そして―――

 

「ソウさん!?」

 

 ―――彼の意識が急になくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 -18- へ続く。




 ◇◇◇〔ソウの手持ち、現在の様子〕
・ブラッキー(ロウ)
→彼、スイレンと行動を共にしてる。

・ラティアス(ティア)
→彼、スイレンと同行中。逃走の際に悪条件が重なり、怪我を負ってしまう。

・クチート(クーちゃん)
→彼、スイレンと同行中。メガ進化しながらの連戦により疲労の色が目立つ。

・ラグラージ(ラージ)
→森林地域で戦闘中。特に苦戦することなく、優勢な状況にある。

・ツタージャ(タッちゃん)
→海岸付近で変わらず戦闘中。バトルを終えれば、得意のスピードで戦線を離脱する予定。

・アシマリ(マリー)
→………。


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-18-『限界×誘拐』

 夏ですね。暑いです。(お久しぶりです)



 ◇◇◇

 

 洞窟。

 

「ソウさん………!!ソウさん………!!」

 

 何度も呼び掛ける。体を優しく揺らす。

 だが、彼は目を覚まさない。まるでぷっつりと切れた糸のように。

 胸はゆっくりと上下に動く。彼は意識を失っただけ。

 ―――でも、何で急に?

 

「キュゥ………」

 

 ラティアスの鼻先がそっと彼の頬に触れる。心配そうにしているのが伝わる。

 私はその光景を近くでじっと見ていると、ラティアスはこちらに首を差し出してきた。

 メガ進化に必要な素材。メガストーン。

 勿論、ラティアスもアクセサリーとして首もとに装備している。

 まるでメガストーンを見せびらかすようにラティアスは首を伸ばしてくる。

 

「もしかして………」

 

 ラティアス。ラグラージ。クチート。

 私が直接見ただけでも、彼の手持ち三体以上が確実にメガ進化をしたままバトルを同時進行で行っていた。

 よく考えれば、異常現象では無いだろうか。

 メガ進化はトレーナーとポケモンとの絆の象徴。生半可な関係では不可能とされている。世界中でも一握りのトレーナーしか出来ない技術の一つ。

 だがしかし。

 彼はあっさりとメガ進化を実行していた。

 それも三体同時。耳にした話では一体だけでも、メガ進化はトレーナーに途轍もない疲労感を襲わせると言われている。となれば、単純計算だけでもその三倍は彼の身体を常に蝕んでいたのでは無かろうか。

 そして、流石の彼も耐えきれない膨大な量に募ってしまったのではないかとすれば。

 

「………でも、どうしよう」

 

 彼の頭を私の膝に乗せる。そっと優しく髪を撫でる。呼吸は安定している。

 原因は予想がついた。次はその解決策。

 恐らくこのまま休んでさえいれば、いずれは自然と彼は目を覚ますだろう。

 だとすれば、私は何をすれば。大人しく時が解決するのを待つだけなのか。

 

「あ………他の子達………」

 

 不安要素はまだある。

 それは今、この場に居ない彼のポケモン達。戦闘中かもしれないのにメガ進化の強制解除が原因で、窮地に陥った可能性がある。

 現状、安否を確認出来るのは私のアシマリ。それにラティアス(ティア)とブラッキー、クチート。ボールに入ったままのマナフィ、アシマリ(マリー)だけである。

 応援に行きたいのは山々。だけど、彼をこのまま置いてけぼりには出来ない。

 

「オォウ!オォウ!」

「どうしたの?アシマリ」

 

 突然、鳴き声を突き上げるアシマリ。

 何かを伝えようとしている。アシマリのいる洞窟から海へと繋がる岩盤へ視線を向けた。

 すると―――

 

「ネンドール、"シャドーボール"です」

 

 鳴き声は悲鳴へ変わる。

 脳の整理が追い付かないまま、私の目の前にダメージを負ったアシマリが転がってくる。

 

「アシマリ!?大丈夫!?」

「オゥ………」

 

 慌ててアシマリを抱える。

 アシマリから返事があった事実に一安心。少なくとも命に関わる重傷では無い。

 私はアシマリをこんな風にした犯人のいる先、洞窟から海へと広がる空間へ視線を映した。

 

「もう一度です、ネンドール」

 

 ボートに乗った一人の男性。

 今回の主犯でもあるイカロスがネンドールに再び指示を繰り出す。

 主人からの命令にネンドールは忠実に遂行。またしても禍々しい黒い球体が私の方へと向かってくる。

 

「ラッ!!」

 

 と、いきなり爆発。

 そして私の前に仁王立ちして現れたのはブラッキー。さっきのシャドーボールもこの子が相殺してくれたと瞬時に理解する。

 

「ありがとう、ロウ」

 

 返事は尻尾の揺さぶり。常にクールだ。

 しばらくして爆発による砂煙が晴れる。状況はあまり変わらず。

 ブラッキーとネンドールの睨め合いが続く。

 

「さてと………」

 

 イカロスがボートを岸につけ、上陸。

 

「懸命なご判断を。私の要求はただひとつ。そこにひれ伏している彼を置いて、此処から立ち去りなさい」

「………」

「それとも見逃してやるからとっとと失せろ………と言われないと分からない愚か者ですかね」

 

 ギロリ、鋭い眼光が飛ぶ。

 普段の私ならそれに怖じ気づいて何も言えずじまいで終わっていた。

 でも、この状況で動けるのは私だけ。

 ラティアスとアシマリは負傷中。ブラッキーはネンドールを牽制してくれている。

 他の誰かではない。私が彼を助けないと駄目なんだ。

 

「イヤ」

「………なんと?」

「イヤ!貴方にソウさんを渡す訳がない!」

 

 絶対的な拒否。

 私は臆する事無く、イカロスに叩き付けてやった。

 対するイカロス。ここまで明確に反抗されるとは予想外らしく、眼鏡越しに目が見開いていた。

 続いて、口元をひきつらせる。

 

「そうですか。なら遠慮はしません」

 

 私の警戒心が強まる。

 思わず口では豪語したが、端から見れば圧倒的不利な状況にいる。

 

「ネンドール"破壊光線"です」

「っ!!お願い、ロウ!!」

 

 ノーマルタイプ最強技。

 ネンドールが発射の体勢に移行すると同時にブラッキーも座る私の前にジャンプしてくる。

 空気が揺れる程の蓄積された高エネルギー砲がネンドールから解き離れたと同時にブラッキーは私とアシマリを包み込むドーム状のバリアを形成した。

 

 ―――"まもる"。

 

 どんな攻撃からも一度は必ず防ぐ技。

 バリアに破壊光線が直撃するもブラッキーが多少踏ん張るだけで空気の揺れはゆっくりと収まる。

 と、ホッとしたのもつかの間。

 

「今です。"催眠術"」

 

 ―――別のポケモン!!

 

 私の意識が遠退く前に見えた景色。

 イカのような巨大な体型に二本の長い触手。ゲソが髪の毛のようにゆらゆらと揺れている。

 

 ぎゃくてんポケモン『カラマネロ』

 

 催眠が得意。一方で物理技にも定評があり、全体的に天邪鬼な一面も兼ね備える癖の強いポケモンでもあった。

 勿論、アローラでは見掛けないポケモン。故にイカロスの手持ちの一体であると予想がつく。ネンドールの大技を陽動に使い、こっそりとカラマネロを接近させていたに違いない。

 やられた。せめて、彼とマスターボールだけは死守しないと………。

 

「………ソウ………さん………」

 

 伸ばした私の手はやがて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 数分後。

 

「っん………あれ………?」

 

 やけに重い体を起こす。

 起きた場所は意識を失くす直前と何一つ変わらない洞窟の中。特に目立った変化はない。

 いや―――まだ確認すべき事がある。

 

「………っ!!ソウさん!!居ますか!!返事してくださーい!!―――ない」

 

 彼が居ないのだ。

 彼の姿を辺り一体探りに探っても気配すら感じられない。そして、肝心のイカロスの姿もない。

 これはつまり、彼は何処かに………。

 不味い不味い不味い。彼の意識がないまま誘拐されてしまった。私の実力では救出はおろか追跡でさえ困難なのに。

 加えて、イカロスの狙いでもあるマナフィの入ったボールも一緒に敵の手に渡った可能性も浮上してくる。

 一気に募る不安に私の肩が思わず震える。

 ここは一度戻って、ククイ博士達に助けを求めるべきだろうか。でも、猶予が一刻もないこの非常事態。戻るだけでも相当なタイムロスへと繋がる。

 

 ―――ど、どうすれば………!?

 

「ラッ!!」

「あっ、ロウ………無事だったんだ。良かった………」

 

 ブラッキーが吠える。

 私のパニック思考も一瞬で落ち着きを取り戻す事に成功した。

 そうだ。

 まずはポケモン達の無事を確認すべきだ。

 

「アシマリ………は、うん居る。ティアも―――」

「キュゥ!!」

「上手く岩影に隠れてたのかな………うん、賢い。他にいる筈のポケモンは確か………モンスターボールにいるマリーだけ」

 

 どうやらイカロスは彼だけを狙いに絞っただけらしい。彼だけが被害に遭い、他のポケモン達に関してはあまり影響を受けていない。

 ブラッキーの参戦がイカロス側の作戦に大きく邪魔をしたのだろうか。彼を回収した時点で撤退を開始したようにしか思われない。

 

「出ておいで、マリー」

 

 彼から預かったボール。

 その中にいるのは彼がアローラで初めてゲットしたポケモンでもあるアシマリ。

 私とお揃いでもあった。それが何だか無償に嬉しくて、二匹のアシマリが揃って並ぶ時はつい微笑んでしまうことも。

 

「え?」

 

 ―――故に私は目を疑う。

 

 やがて、光が消える。ボールから出現したポケモンの全容が映し出された。

 少なくとも私の知るアシマリではない。

 アシマリにはない頭に二本の触角。本来ある筈のヒレはそこになく、代わりに小さな足があった。

 

「そんな………!?」

 

 ボールから出てきたのは―――

 

「マーナ?」

 

 ―――()()()()であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -19- へ続く。




*スイレンのアシマリ、アニポケではアシレーヌに進化しちゃったってマジですか?
 てっきり進化しないものかと………。


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-19-『決意×深海』


 ポケマス………始めました。
 詳細は後書きにて。



 ◇◇◇

 

 海辺の洞窟。

 

「どうしてマナが………」

 

 本来いる筈のない存在。

 一方でイカロス率いるハンター達の最終目的でもあるマナフィ。私はもうてっきり、イカロスの手に堕ちたものかと思っていた。

 だが、現実は違う。私のアシマリとキャっキャとじゃれあい始めたその姿はまさに本物そのものである。

 余計に思考が混乱する。

 アシマリのボールにマナフィが入っていた。なら、マナフィのいたマスターボールにはアシマリがいるという事に。

 

「ソウさんはマリーのボールを渡してきた。でも、実際に入っていたのはマナ。ソウさん本人はこれを知って………?

 ううん、違う。わざと入れ替えたんだ。ハンターも自然とマナフィはマスターボールにいると思い込んでいるから。

 え?だとしても私に託す必要がある?アシマリにしかいない私にマナを守れる手段なんて………」

 

 ―――おニィは言ってたよ 。

 

「マ、マナ………!?」

 

 そうだ。

 この子、テレパシーが使えるんだった。唐突に話し掛けてくるから、つい驚いてしまう。

 マナの言う「おニィ」はきっと彼を意味する。この子とまともに対面して話すのは今が初体験だけど、不思議とそう断言出来た。

 

 ―――マナにはスイレンと居て欲しいって。

 

「それって………」

 

 マナの言葉が真実であるなら。

 彼は私に故意にマナのボールを委ねてきた事になる。他でもない私とマナを一緒に居させる為に。

 

 ―――じゃあ、行こ!

 

「えっと、何処に?」

 

 マナフィは小さな手を伸ばす。

 私の心は向けて伸びるその手に躊躇いが生じてしまった。

 彼の無事も不明なままなのだ。彼が安全だとこの目で確証が得られるまで、消えない心のざわつきは収まらない。

 

 ―――おうち!

 

「うん。おうち?」

 

 ………お家ってこと?

 

 だとすれば、マナフィの希望は故郷への帰還となる。確かそれは、彼が上げていたマナフィの安全を保障する方法の候補にもあった筈。

 無論、何よりも本人がそれを望むのであれば、叶えさせてあげたい所存。勿論、処理すべき問題は沢山あるが。

 特に優先すべきな問題が―――

 

「でも、マナの住む場所ってどこ?」

 

 この一点に尽きる。

 帰る場所の方角が分からないと適当に、こっちだろうかと選んで進むなんて行為は無駄でしかない。

 

 ―――あっち!

 

 マナフィの指差すそれはまさに()

 ごめんね、それはもう知ってる。でも、海と言えど、世界の内で広大な範囲を占めており、マナフィの住み処はその一部分に過ぎない。

 アローラの島育ちである一般人の私に海の中にあるマナフィの家を探す等、無謀としか思えない。

 一体、何年かかるのだろう。下手をすれば、人生を何周しても達成ならずな可能性だってあるのに。

 

 ―――はやく行くの!!

 

 だが、マナフィは諦めない。

 頑固な姿勢を見せるマナフィは私の左足に飛び付いて来た。可愛い。

 ぶんぶんと頭を振るもんだから、ぺちぺちと二つの触角が私の太股に当たる。

 

「もう………分かったから。行こっか」

 

 昔から、他人の押しに弱い私。

 きっとマオのせいでもあるから、軽く脳内でマオを恨みつつも優しくマナフィを剥がし、抱き抱える。

 またしてもマナフィが水着を引っ張る。

 

 ―――海っ~!海っ~!海っ~!

 

 嬉しそうなマナフィ。

 余程、自分の故郷に戻れるのが嬉しいらしい。

 海へと向けて足を踏み出し―――

 

「………ソウさん」

 

 その足が固まる。

 肝心の問題がまだ未解決。彼の身元の安全の保障がない現状でマナフィの故郷へ移動するのは不安で心中がいっぱいだ。

 せめて。せめて、彼の居場所だけでも知れれば。

 

 ―――おにぃと一緒だね。

 

「へ?」

 

 私にはその意味が理解出来ず。

 マナフィ本人も特にこだわりはないのかそれ以上のテレパシー越しの言葉は伝わってこない。

 と、私のアシマリが急に顔マネを。

 

「アシマリ?急にどうしたの?………えっと。あの怖い人も………海に行くって言いたい?あっ正解。つまり、ソウさんも一緒に………はっ!!」

 

 言い分は理解した。

 まだアシマリとマナフィのボールすり替え作戦が効いていると仮定しての話だが、次にイカロスがやるべき行為はマナフィの海の王子としての力を行使する準備。

 つまり、海底神殿に赴くこと。そこにある祭壇で儀式を行えば、マナフィだけが持つ特殊な力を手に入れられる。

 

 あれ?………何故、私がその事実を知ってるの?

 

 ううん、それに関しては後回し。

 つまり、イカロスは十中八九の可能性で彼と共に海底神殿に姿を現すだろう。先回りすれば、隙を突いて彼を救出出来るかもしれない。

 行くか。行かないか。

 

「うん………行こう」

 

 覚悟を決める。

 海に入るに辺り、邪魔な服は全て脱げ捨てた。水着だけ。いつもの私へと。

 ポケモン達も自然と私の回りに集まる。

 

「目標はソウさんを助ける。その為に私達はこれから、マナの故郷である海底神殿に向かいます。みんな、準備は良い?」

 

 アシマリ。

 私の隣にいる相棒。左ヒレを額に当てて、大きく敬礼した姿勢を貫く。

 ブラッキー。

 彼の信頼する一番のポケモン。普段のクールさも一緒に揺らぎなく私の瞳を見つめてくる。

 ラティアス。

 初対面でちょっぴりトラウマを植え付けられた子。翼の怪我が心配だが、まだまだ平気だと訴えてきている。

 クチート。

 いつの間にか恋敵に認定された。でも、今回は彼の為とあってか私にちゃんと協力してくれるみたい。

 

 そして―――マナ。

 騒動の張本人。とは言え、本人に罪はない。私に成せる事はこの子を故郷に帰る最後まで見届ける事にある。

 

「よし。アシマリ、バルーン」

 

 アシマリ特製の巨大バルーン。

 毎日の特訓の成果もあってか、人一人は余裕で囲える。

 海面に浮かせたバルーンはアシマリの鼻から出ている状態。この状態であれば、多少の外部の衝撃にも即対処が可能だ。

 私はそっと足を差し出す。右足がバルーンにすっぽりと入り、左足、腰、お腹と続く。

 最後に顔を入れるとアシマリが仕上げにバルーンを完全に孤立させる。

 

「ラ」

「クチッ!」

「ッ!!」

 

 他の子達もバルーン作業を終える。

 残ったのはマナだけ。でも、マナ自身が海のポケモン。自分の力で泳ぐだろう。

 実際に、海の中へと意気揚々と飛び込むその姿を私は微笑ましく眺めていた。

 

「マーナ!マーナ!」

 

 と、私のバルーンが急に海中に。

 

「な、何っ!?」

 

 慌てるも、すぐにアシマリが視界に。

 首を横に振り、慌てる必要はないとばかりにヒレである方向を指差す。

 そこには私と同じように海中に引きずり込まれた三つのバルーン。そのどれもが青白く輝く光に包まれていた。

 

 ―――ゴー!

 

 すると、勝手にバルーンが動く。

 私の脳内に届いたマナフィの念話が気になったので、様子を伺うとマナフィの頭にある二つの触角もまた青白く光輝いていた。

 マナフィが深海へとすいすい泳ぐ。その後を追い掛けるかの如く、バルーンも自動追尾を始めた。

 これはどうやらマナフィの技らしい。恐らく、"サイコキネシス"辺りだと思う。

 ぐんぐんと進むバルーン。水中だとは思えない高速っぷり。アシマリが必死に私のバルーンにしがみついていたので、中に入れてあげる。

 

「オゥ………」

 

 ごめんね。私も驚いてるから。

 行き先はマナフィの案内があるので到着に関しては問題は無い。が、正直な所、不安しかない。

 でも、彼が危険な目に遭ってる。そう考えるだけで私は不思議と立ち向かえる勇気が芽生えてくる。

 

「ソウさん………今行きます………!!」

 

 決戦の舞台が―――幕を下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -20- へ続く。




 ◇◇◇[おまけ・居残り組]

「ラグ?」

 取り残されたラグラージ。

「タジャ」

 同じく放置されたツタージャ。

「「………」」

 地面に転がるのは沢山のトレーナー。
 メガ進化が解ける以前に戦闘を完了していたラグラージとお得意の格闘で苦戦する事がなかったツタージャ。
 優秀すぎるせいで手持ち無沙汰となった。
 一応、合流だけはしたが特にこれといった次の指針はない。

「お前らか!仲間をやったのは!!」

 おっと、獲物が来た。

「ひっ!?」

 退屈しのぎには丁度良い。










*作者のぼやき
→新しく配信されたアプリ、略して「ポケマス」やってみました。
 感想を一言………。

「あれ?スイレンはまだ未実装?えっ?アイリスならいる?なら、やるか………メイちゃん、めっちゃ可愛えぇなぁ!」

 アセロラもいるし(歓喜)、のんびりと楽しんでおります。同士の方は是非フレンドに。基本は無言申請でOKですが一言、申請しましたと自分に伝えてくれれば、ほぼ確実に承認すると思いますので。

 フレコ:5065184668386661


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-20-『邂逅×神秘』

 ◇◇◇

 

 海中。

 

「凄い………!!」

 

 滅多に見れない海の神秘。

 私は数多の海ポケモンが繰り広げる幻想的な水の景色に見とれていた。

 中には海上ではお目にかかれない貴重なポケモンもちらほら出現している。あっ、ジーランスだ。

 海の案内人、マナフィによる泡旅行。

 すいすいと海中を進むので、泡の耐久性に不安を感じていたのは一瞬だけ。その後は私が子供の頃からずっと憧れていた海の美しき世界へと没頭していた。

 

 やがて、私達は―――

 

「マナ!」

 

 ―――見えたよ!

 

「あそこが………っ!!」

 

 海底神殿。

 マナフィの住処であり、伝承にも登場する伝説的な場所。そして、私にとっては見覚えのある場所でもあった。

 夢に出現したままの光景。夢の世界の出来事なので、鮮明な記憶は残っていないがうっすらと過る記憶の欠片と目の前の景色が合致するような感覚に陥っている。

 私を運ぶ泡の遊覧船はやがて、神殿の手前辺りで停止した。

 と、次の瞬間に―――

 

「きゃっ!?」

 

 泡が破裂。海中へと追い出される。

 呼吸がままならないと焦る私であったが、特に息が苦しい等の症状はない。寧ろ、普通に空気もある。焦った自分が恥ずかしく思えてきた。

 

「これが………海底神殿………」

 

 一先ず、立ち上がる。目上げる先は巨大な石造建築物。特別な場所、とばかりに醸し出すオーラに軽く足がすくんだ。

 辺りを軽く見渡す。此処が深海に位置するとは言え、普通に澄んだ空気もあって実に快適な空間が広がっている。

 原理は分からない。もしかしたら、マナフィの力の一端かもしれないが今は溺れる心配がないだけ一安心である。

 すると、私の後ろを付いてきていたポケモン達も私と同じ地表に降り立って来た。どの子も現実離れした空間に戸惑いつつも私の近くまで歩み寄ってくれる。

 

「オゥ!」

 

 ―――アシマリ。

 

「ラッ?」

 

 ―――ブラッキー。

 

「クッチー!」

 

 ―――クチート。

 

 この子達が今の私の現戦力。

 来る前はラティアスも居たが翼へのダメージが響いてしまい、無理は強いられない。洞窟に残って安静にしてもらっている。

 

「マナ!」

 

 そして―――マナフィ。

 

 改めて、確認。

 私の成すべき使命はこの色違いマナフィを海へと還す事にある。それを果たすべく、命の保証もままならないまま海の神殿へと赴いた。

 正直、怖い。こんな現実離れした状況に頭の整理など出来る訳がない。今でもこれが全て夢だったと言われたら、あっさり納得してしまう程に参ってしまった自分も何処かにいる。

 でも、目的は成し遂げないとならない。いや、成し遂げてみせる。

 

 他ならぬ、ソウさんの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 海底神殿。最深部。

 

「………何これ」

 

 決意を固めた数分後。

 未知なる土地に踏み入れる覚悟を決めた私に待っていたのは理解に苦しむ現状であった。

 

「マナ?マナマーナ!」

「マナ~、マナ?」

「マナマナ!!」

 

 揺らめく沢山の触角。

 古風の神殿入り口をくぐり抜け、全体の中央に位置する広場らしき場所。

 そこで私が目にしたのは存在自体が不明瞭な伝説のポケモンであるマナフィ達がわいわいガヤガヤと賑やかそうに過ごす空間。

 研究している学者が喉から手を出すレベルではないかと思うぐらいに非現実的な光景に遭遇していた。

 何匹いるのだろう。

 1、2………10………27………。

 うん、無理。数えるのは諦めよ。

 少なくとも数十匹以上を占めたマナフィ達は余所者である私達の来訪に対して、特に嫌がるような反応はしない。

 寧ろ、仲間である彼のマナフィの帰還にいち早く察知したのかぞろぞろと一同に駆け寄って来たのである。一応、神殿内部は地上なのでペタペタ歩きで。

 マナも久しぶりの再会に満面の笑みと声で喜びを表していた。取り残されてしまった私を含むその他勢はただひたすら傍観の姿勢に入る。

 にしても神秘的な空間だ。

 湧き水の如く透き通る水路に辺り全てが囲まれ、その内側ではカラフルな花々が咲き乱れている。

 マナフィ達の容姿も相まって何とも言い難い不可思議な時間が流れている。

 

「マナ!」

 

 マナが足元に来た。

 どうやら、仲間との再会の挨拶は一通り済ましたらしい。こちらに付いてきてとばかりに腕を振る。

 若干、戸惑いつつもマナの背中を追う。

 その道中で私は咲き乱れる花畑の広場を抜けると、石畳で組み立てられた内装という急激な変化に驚く事になる。

 神殿本来の重く苦しい空気を感じつつも、ペタペタ歩くマナはその歩みを止めない。

 

「何処に行くの?」

「マナ!」

「うーん………」

 

 質問の返答はこれだ。

 本人は意気揚々と答えてくれるがマナフィの言語など理解出来ない私に目的地の詳細は未だ謎のままである。

 

 やがて―――ある場所へ。

 

「ここ………夢で見た所だ………」

 

 通路を抜ければ、一気に視界が広がる。

 第一に感じたのは既視感。初めて、よりも懐かしいという感覚が私の心を占めたのだ。

 だが、実際に来たのはこれが初。

 既視感の原因はすぐに分かった。昨晩の夢で見た光景と全く同じ場所だからだ。

 空間の奥に聳え立つ祭壇。

 階段を上がった先にあるそれは私の訪問を待っていたかのように鎮座していた。

 

「マナ!」

 

 マナが指差す。

 その先を目で追うと、祭壇の一番上にある台座が私の視界に入る。詳しくは分からないがどうやら近くまで寄って欲しいらしい。

 ここは素直に従う。

 あまりの神々しさについきょろきょろとあちこちに視線を向けてしまう。端から見ればせわしない様子になりつつもどうにか歩を進める。

 

「マナ!」

「これ?えっ!?これって………!!」

 

 深青色した球体の物体。台座に供える形で置かれていた。

 実物を目にしたのは初めての私だが、過去に資料越しに同じ物を見た記憶があった。知識としてはうろ覚えだが、やけに鮮明に覚えていた。

 

「"マナフィの卵"………!!」

 

 青みがかかった透明に近い殻。その中にある赤く煌めく核のような物。

 他でもない実物を前に私の手が震える。

 貴重な代物だなんて次元ではない。あまりの伝説っぷりに贋作すらも世間に出回るぐらいだ。

 

「マーナ!」

 

 ―――スイレーン!

 

 マナが私を呼ぶ。

 まるでこの子を抱えて欲しいと言いたげなその仕草に私は本当に良いの?と尋ねる視線を送る。

 マナは大きく頷いた。

 優しくそっと包み込むように両腕を回した私は慎重に卵を持ち上げた。

 見た目に反してずっしりとした重さ。生命の存在に何とも言えない想いが生まれる。

 

「あっ………動いたっ!」

 

 こくっ、と少しだけ。

 喜んでいるのか只の気まぐれなのか。真意は分からないが、私は何だって良い。

 

 と、次の瞬間。

 

「うわっ………!?」

 

 ―――グラリ、と。

 

 足元に震動が流れて来た。

 地震、というか巨大な力の衝突の余波みたいな感じだった。一瞬の揺れだったのかすぐに収まる。

 何事かと半分慌て気味のまま、私はそわそわと辺りを見渡すが特に変化した様子はない。

 あるとすれば―――

 

「ラッ!」

 

 ブラッキーの鋭い一声。

 その方角は私でも分かる。あっちは確か、さっきまで沢山のマナフィが集まっていた広場があった筈。

 となれば、必然的に答えは一つ。

 

「戻るよ、皆………!」

 

 

 

 

 

 

 -21- へ続く。




*お久しぶりです。今年初投稿(笑)
 完結するまでは走りきるので、その時までどうかよろしくです。


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-21-『襲撃×抗戦』

 

 ◇◇◇

 

 海底神殿。

 

「はぁっ………!!はぁっ………!!」

 

 走る。ひたすら。

 息が切れ、心臓が酸素の供給を訴える苦しみに耐えつつも私は決してその足を止める事はなかった。

 ブラッキーが先行してくれている。

 別れ道でも迷う仕草は無く、一直線に駆け抜けるその背中はとても逞しい。

 何度か角を曲がったその先。私の耳に徐々にだが、騒音が聞こえてくる。

 そして、石造の通路を抜けると―――

 

「クッチーー!!!!」

 

 広場の中央。

 沢山のマナフィが一ヶ所に集まる。どの子も身体が小さく震えていた。

 丁度私達に背を向けて、マナフィ達を守るように立ち塞がるのはクチート。此処で待機するように伝えていたのが良かった。

 実際、クチートが完全に威嚇している。私の警戒心が上がると同時にその対象もまた目で捉えた。

 

「何だよ、こいつ?というかこんな所で会うとかおかしくねぇか?」

「知らん。どちらにせよ捕まえれば、問題無しだ」

「おぉ~!同意!やるか」

 

 怪しい男二人が神殿入り口に。

 十中八九、ハンターの人間に違いない。となれば、この状況は芳しくない。

 どうやって海底神殿まで来たのか。そもそもマナフィの居場所の特定までされている事実に私は内心、焦りを感じていた。

 さっきの謎の地震もハンター達の移動手段である乗り物が海底神殿を覆う巨泡を強引に突破した影響だとすれば、説明がつく。

 イカロス本人が率いる援軍の到着ももはや時間の問題かもしれない。

 

「アシマリ!!"水の波動"!!」

 

 オゥ!の返事と共に。

 アシマリの水の塊がハンター二人の手前に着弾。同時に人を容易に流せる量の波が前方に広がる。

 

「何だ!?」

「後退だ。敵さんのお出ましだろう」

「ボスの言ってた通りだな!」

 

 折角の不意討ちも的確に対処される。

 

「居た。報告にあった巫女だ」

「およよ~。可愛い子ちゃんじゃ無いですか~?」

「そんな暇は無いぞ」

「いやいや。さっさと在りかだけ聞けば後は自由しょ?」

「………好きにしろ」

 

 嫌気が差す。女子的に無理。

 片方は沈着冷静なタイプで、もう片方はチャラチャラなタイプの男だ。ソウさんの方がよっぽどカッコいい。

 後者のチャラ男が腰に手を当てる。

 その仕草に私も意識を集中させた。危惧していた戦闘が始まるのは吝かなのだがなに不利構ってられない。

 

「来い!!ウォーグル!!」

 

 巨大な紺色の翼が出現。

 ゆうもうポケモン『ウォーグル』は体格が大きく、鋭い嘴と爪を持ち備えている。仲間意識が強く、死も恐れないその姿から空の勇者と呼ばれる事もある。

 こんな場面で対峙するとは。

 タイプはノーマルと飛行。手持ちで相性有利を取れるポケモンは居ない。

 

「アシマリ、任せても良い?」

「オゥ!!」

 

 クチートはマナフィの護衛。

 ブラッキーも相手がウォーグルだとあの技を使用するのは確実であり、苦手そうだと結論付けた結果、アシマリを選択した。

 

「"インファイト"だ!!ウォーグル!」

「来た………っ!!"アクアジェット"で側面に回って!!」

 

 格闘技"インファイト"。

 悪タイプに効果抜群の物理技であり、攻撃が得意なウォーグルなら必須並みに覚えている。

 事前の知識がなければ、一歩遅れていたかもしれないが私は咄嗟に指示を出すことに成功した。

 

「オゥ!!」

 

 正面から激突してきたウォーグル。

 対して、アシマリは噴射した勢いで左側から大きく回転して立ち回る。

 ウォーグルもそれに反応して、軌道を変更する。が、鳥ポケモンの割りに素早さが今一つなウォーグルでは修正が間に合わない。

 

「キュエエエェェェ!!」

「構わずに捕らえろ!」

 

 アシマリが技を命中させる。

 だが、ウォーグルを怯ませる事は叶わず。そのまま技が解除された一瞬を狙われて、立派な爪に捕まってしまう。

 

「"凍える風"!」

 

 焦る必要はない。

 拘束されたアシマリだが、顔は幸運にもウォーグルの身体へ向いたまま。なら、口から放つ技は使用可能。

 威力は低い"凍える風"だが、飛行タイプのウォーグルには二倍のダメージ。さらに素早さも下げる追加効果付き。易々と無視は出来ない筈。

 徐々にだが、ウォーグルの胸元辺りに氷が張り付いてくる。

 

「………っち。地面に叩きつけろ」

 

 事実、相手は手放す指示を出した。

 ウォーグルが只では放さないとスピードも添えてアシマリを落下させてくる。

 

「バルーンで衝撃に備えて!」

 

 鼻から膨らむバルーンで器用に着地をこなし、無事に解放されたアシマリ。

 どうにかバトルとして現段階では成立しているものの、やっぱり体格に差がある分、部が悪い。

 

「苦戦しているようだが」

「うっせぇな、黙って見てろ!!」

「早くしないと俺も参加させてもらうぞ」

 

 男一人が若干キレ気味。

 片方はそんな相方に黙々と告げていく。一人ならまだしも二人同時はキツい。早期決着が好ましいか。

 

「とっととやるぞ、ウォーグル!"ブレイブバード"!!」

 

 ―――と、次の瞬間。

 

「待ちなさい」

 

 ピタリ、と全てが静止。

 音量も小さいのに場を支配したその一言の主は着実に私のいる広場へ足を踏み入れようとしていた。

 

 ―――イカロス。やはり、来たか。

 

 バトルの途中とは思えない空間。

 そして、戸惑う事無く躊躇すら見せずにイカロスはぐいぐいと私の方へ近付いてくる。

 

「久しぶりですね。数時間ぶりですが」

「………一つ聞かせて。どうしてこの場所が分かったの。普通の人には辿り着けない場所なのに」

 

 これだけはどうしても。

 私はマナフィの案内があった。だが、イカロスには私と同じ手段は選べない。他に手段があるとも思っていなかった。

 なのに現実は非情だ。私の目の前には見たくない光景があるのだから。

 

「えぇ、良いでしょう。貴女には恩義があるので」

 

 イカロスがニヤリと笑う。

 

「どうやって此処まで来たのか?という質問でしたね。簡単な話です。貴女が此処に来てしまったからですよ」

「………え?」

「私もここまで上手く進むとは思ってもみませんでしたけど。ほら、背中にあるじゃないですか、発信機」

「―――っ!?」

 

 慌てて背中に手を回す。

 ペタペタと確認するが、それらしき物体は一切無い。ただのハッタリなのか。

 と、私の後ろに回っていたクチートが私の背後で跳び跳ねる気配を見せる。

 

「これのせいで………ううん。私のせい………」

 

 クチートの顎が私の前に。

 咥えられていたのは小さな粒状の物。一見、塵にしか見えないがこれを頼りにイカロス達はここに―――

 

「―――っ!!」

「おっと怖い怖い。そんなに睨まれても手遅れですけど?」

「許さない。ここは貴女たちみたいな人が踏み入れてはいけない場所」

「実際にはもう居ますがね。こんな人数相手にも貴女は立ち塞がるつもりのようですが………」

 

 クチートの顎先から軋んだ音が。盗聴機を砕いたのだ。

 私一人だと思っているのなら大間違い。ここにいるのは私だけではないと知らしめてやろうではないか。

 

「相手はたかが少女一人。なら、大人げない行為をするのは流石の私も少しは遠慮したいところ」

「どういうこと」

 

 何を今更。

 くいっと持ち上げた眼鏡の奥で光る瞳は台詞とはうって変わって敵対心剥き出しだ。

 

「こうしましょう。この場を代表して私と貴方との一騎討ちバトルで決着を。貴方が勝てば、私達は諦めて大人しく撤退をすると約束しますよ」

「………その言葉だけで信じられると思う?」

 

 条件の提示に私はうん、と頷かない。

 イカロスの出したものは一見、私の立場的に有利だ。つまり、向こうにとっては不利となる。

 自ら首を絞めるなど意味のない行為に裏があると考えるのは自然と言えた。

 

「でしょうね。だがしかし、証明する方法もありません。とは言え、詮索しても無駄ですよ、私達にはこれで十分なのですから」

「………どう思う?クーちゃん」

「ッチー」

 

 微妙なライン、とクチート。

 明らかな罠。だけど私に残された選択肢はこれしか無くて。仮に大人数で攻められれば、強引な手段を使わざるを得ない。

 それだけはどうしても避けたかった。

 

「どうしますか?渋るようであるのなら、決裂と言う形になりますが―――」

「受けるよ、その交渉」

「懸命な判断を。では、早速バトルと行きましょうか」

 

 広場の中央で向かい合う。

 私とイカロスの間にはバトルするには十二分なフィールドがある。取り巻き達は全員、素直にイカロスの背後で待機している。

 不気味な程、ボスに忠実な部下達。信頼しているのかそれとも別の作戦があるのか。

 

「ラッ」

 

 ブラッキーが私の左足をペシッと叩く。

 気合いを入れろ、との事らしい。今は目の前のバトルに集中すべきだと。気にしてる余裕などない。

 

「来なさい、ネンドール」

 

 イカロスがポケモンを出す。

 相手は飛行する彼のラティアスを負傷させた程に正確な技を放つネンドール。強敵なのは確実。

 対して、私の手持ちは如何せん寂しい。その証拠に、アシマリしかいない。

 

「構いませんよ」

「………何の話?」

「彼のポケモンを使っても」

 

 勝利への余裕から、なのか。

 随分と舐めた真似をしてくれるな、と若干の怒りを感じつつも此処は黙って応じる。

 彼のポケモン、ブラッキーとクチートもまた私の戦力として足しても良いと。ならば、勝ちへの道筋もまだまだ見える。

 

「なら、お願い。クーちゃん」

「チー!!」

 

 絶対に勝ってみせる―――!!

 



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過去編-ツタージャ(タッちゃん)-1-

 とある日のこと。
 ホウエン地方を旅するソウは現在、広大な森林をさ迷っていた。地図を見ようにも、肝心の現在地が不明なので一切役に立たずじまい。
 宛もなくぶらぶら歩くと、手持ちの子達が森に住むポケモン達の様子から不穏な空気を感じ取り始めた。
 原因を探ろうとソウが導かれ、進む先は森林の奥地。どうやら、森一番の大樹の根元に近付いているようだ。
 しばらくして、辿り着いたその先で―――

 ―――あいつと出会った。













 ◇◇◇

 

 森林地帯。

 

「あれは………」

 

 木々を抜けた先。

 地面が日差しに当たる程に広々と何もない空間が広がる。そして、その奥にはこの森林で一番の高さを誇る大木が堂々たる威風で聳えている。

 ただ、ソウが目に止めたのは大木ではない。

 恐らく、此処は森に住むポケモンの闘技場的な場所なのだろう。実質、今も二匹のポケモンが対峙していた。

 草木の茂みに隠れて、静かに伺う。

 

 片方は―――

 よこしまポケモン『ダーテング』。

 

 滅多に人前に出現しないポケモン。

 樹齢千年を越える大木と共に住む森の神とも名が高い。両手に備えた葉っぱの団扇を駆使し、風を変幻自在に操る。

 とは言え、飛行タイプではない。草タイプだけのポケモンでもある。

 

「ジャー!!」

 

 そして、ダーテングの対戦相手は―――

 くさへびポケモン『ツタージャ』。

 

「あれはツタージャ?えっ、というか、こんな所に居るのは変じゃないか………?」

 

 ソウがまず芽生えたのは疑問。

 キリッとした目付きに流線的なフォルムを備えるポケモン。森に住むポケモンとしては特に違和感はない。

 また、イッシュ地方では御三家の内の一体に属する程の有名ぶりだが、ここが一番の問題。ホウエン地方では棲息が確認されていないのだ。

 つまり、このホウエンの森林に外部からやって来たと推測して間違いはない筈。

 と、次の瞬間に、

 

 ―――二匹の刃が重なった。

 

 バトル開始の幕開けと共にツタージャが先手を取りに出る。"葉っぱカッター"でダーテングに軽い牽制代わりに仕掛けたのだ。

 ダーテングはそれを自慢の団扇で軽く一払い。即座に反撃に打ち出る。

 無数の種の発射―――"種マシンガン"がツタージャに襲い掛かる。

 

「タジャ!?」

 

 己の技が簡単に処理された事実を前に反応が一歩遅れたツタージャ。回避行動に移れたものの、足に幾つか種がヒットしてしまう。

 だが、諦めるものかと"蔓のムチ"を両脇に置いて接近戦に持ち込もうとダッシュで懐へ飛び掛かった。

 だが、ダーテングも既に動いている。

 相手に対して、接近戦は不利だと思っているのかその場で高速回転を始める。やがて、その場に立つのが困難なぐらいの風が吹き荒れた。

 

 ―――"暴風"。

 

 ツタージャ、射程圏内に入る直前で停止。

 身体全身を地面すれすれに平伏した体勢に移行し、ダーテングの技を耐える方向で持ち込む。

 耐えれば、勝機が見えて―――

 

「―――ッ!!!」

 

 一瞬、ふわりと浮いたツタージャ。

 その隙を逃さないとばかりにダーテングは全力の暴風を巻き起こす。

 一度、離れてしまえば結果は目前。あっという間にツタージャの小さな身体は吹き飛ばされてしまう。

 ゴロゴロと地面を転がる。力なく横たわるツタージャの姿がそこにあった。"暴風"はツタージャに効果抜群のダメージ。強力な技の前に成すすべが無かった。

 誰の目からも分かる実力の圧倒的な差。

 だが。

 それでも。

 

「――――タージャ!!」

 

 ()()()()()

 

 その心を支えるのは意地かプライドか将又は別の理由か。他人のソウには計り知れない。

 しかし、これだけは言えた。

 あのツタージャの瞳は絶望など微塵もない。まだまだ燃え尽きる事の無い必死な色をしていた。

 ダーテングも静かに傍観するのみ。

 そよ風が肌に触れる。静寂の中、対峙する両者は互いに構える。

 緑白く照らされた刃がダーテング、ツタージャ共に腰辺りに出現した―――"リーフブレード"で最後の決着がいざ付かんとする。

 

 ………。

 

 動くは同時。

 残像が残るスピードで二匹が交差。

 どちらも緑の刃を振り切ったまま、敵に背を向けた状態で静止。

 数秒の空白が生まれる。

 そして、それを破ったのは―――

 

「タ………ジャ………」

 

 ツタージャの倒れる音だった。

 うつ伏せに倒れたツタージャの目はぐるぐると回り、戦闘不能となっている。

 対して、ダーテングはそんなツタージャを気に掛ける仕草を見せずに何処かへと姿を消してしまった。

 

「どうする?ロウ」

 

 一部始終を眺めたソウは問う。

 彼の足元に陣取っていた相方のブラッキーは小さく鳴いて返事をする。

 軽く手当てぐらいはしといてやろう、と。

 

「だな」

 

 ソウも了承する。

 隠れていた茂みを抜け、自然に出来た闘技場の中央へ歩み寄る。目を覚ます気配のないツタージャを近くで確認する。

 優しく、ソウはツタージャを胸に抱え、再びその場を離れようと歩き出した。

 このツタージャがどういう理由でダーテングに勝負を挑んだのかは分からない。森林のヌシと断定して良い程の風格を持つあのダーテングに挑む等、余程の理由がない限りはしない筈だ。

 

「タ~ジャ~………」

 

 少し、顔色が良くなった。

 楽しい夢の中なのか腑抜けた鳴き声もおまけで付いてくる。

 だがしかし、ソウは思った。

 このツタージャ、やけに身体が軽いな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 一時間後。

 

「………タジャ?」

 

 目を覚ます。

 また敗北したのかと自覚する。そして、軽く辺りを見回して、ツタージャは気づいた。

 あの場所ではない。木々に囲まれ薄暗い光の中、人間が用いる焚き火らしき物。

 一気に警戒心を強める。バトルの後遺症は無いので身体は自在に動く。此処まで連れて来た正体を確認するまでは簡単に油断は出来ない。

 

「おっ、起きたか」

 

 男の声。

 その男は器用に風景に違和感がないように設営されたテントから出てきた。人が立ち入らないこの区域で本物の人間とは久しぶりに遭遇した。

 

「タジャー!!」

「凄く警戒されとるな………無理もないか」

 

 男は近寄ってくる。

 ふんふんと蔓で牽制するツタージャの目の前で男はしゃがみ、そっと口を開いた。

 

「俺の名前はソウ。一応、ホウエンリーグを目指して旅してるトレーナーだが、まぁそこはどうでも良いんだ」

「タジャ」

「勝手で悪かったけどさっきの闘い、見させてもらったよ。完膚なきまでにボロ負けだったな」

「………タジャ」

 

 分かってはいる。

 あのダーテングには勝つどころか技の一つもまともに命中させていない。何回挑もうが結果は同じ。三十回目からは数えるのを止めた。

 だが、勝たなくてはならない。

 勝たないといけない。

 

「そこで、だ。俺が勝てるように指南してやろうかと思うんだがどうだ?」

「タジャ!?タジャタジャ!!」

「理由だって?トレーナー………勝負師の性ってやつかな。特に深い理由はないよ」

「タジャ?」

 

 正直、限界は感じていた。

 どんなに特訓や努力をしても辿る結末は同じ。強力を仰ごうにもタネボーやキノココでは意味がない。

 眠らせれば?とか。吸い取れ!とか。

 うん、役立たず。そんな小癪なやり方は根本的に気に食わない。

 

「よし、交渉成立だな。早速っと行きたいとこだがその前に一つ。お前がそこまであのダーテングに勝ちたい真意を知りたい」

「タジャ」

 

 別に隠すほどではない。

 言葉よりも実物を見せた方が早いと判断したツタージャはどこからともなく一つのモンスターボールを持ってくる。

 

「お前、野生じゃないのか」

 

 驚いた様子のソウ。

 だが、モンスターボールがあるとは言いつつもその表面はとても汚れている。少なくともここ最近で手入れされた形跡はない。

 

「しばらくこれに入ってないのか。となると………捨てられた?」

「タジャ!?タージャ!!」

「違うって?いや、どう見ても………ん?」

 

 そこでツタージャは格闘ポーズ。

 

「ダーテングを倒すまではここで修行して来い………的なニュアンスかな?」

「タージャ、タジャ」

「正解かよ」

 

 その通りである。

 

「………言うべきか。お前をここに置いたそのトレーナー、どう考えてもお前を捨てた線が高いぞ」

「タジャ!?」

 

 そ、そんな………嘘だ!

 

「だって、お前弱いだろ。ダーテングに勝てないのもそのトレーナーは分かってたのにあえて置いていった。これってまるでお前が邪魔物扱いされてるようにしか思えないのだが?」

 

 稲妻以上に轟く衝撃が走った。

 確かにソウの台詞を裏付けるかのような行動はあった。バトル中でトレーナーの指示と動きが噛み合わない事も多々あったし、森林に来る直前になるとそもそもバトルに参戦した回数も極度に減っていた。

 バトルに出ても勝てない。だから、手持ちにいるだけの戦力外なポケモンへと変わり果ててしまったのだろうか。

 それでも勝ちに強く拘るからこそ黙って付いていったが、気付けば自分は手に余る存在としてそのトレーナーに認識されてしまったのかとツタージャはようやく認識する。

 

「………タジャ………」

「自分でも少しは自覚してたみたいだな。心中お察しします、と添えたいとこだが、その点で言えばお前はとても運が良い」

「タジャ?」

「俺と出会った事だ。少なくとも前のトレーナーよりかはツタージャの強さってのを引き出せる自信はあるぞ」

「―――タジャ」

 

 なら、証明してみせてくれ。

 ツタージャはきっぱりとした態度で思いを告げる。自分の魅力を読み取れず、邪魔物扱いして最後にはこの森に放置してみせたあのトレーナーに自らこの手で報復する為にも。

 まずは打倒、ダーテング。

 

「構わんよ。ツタージャ、お前はただ俺を信じて動くだけで良い」

 

 ソウが手を差し伸べる。

 この時、ツタージャに迷いはない。切り替えが早い性格より既に前のトレーナーなど眼中にない。むしろ、ダーテングに勝てる可能性があると告げるこの少年に賭けてみる価値はあるのではないかと考えていた。

 どうせこのままでは勝てない日々が続くだけ。ちょっとでも、勝利を奪い取る未来への道筋があるのならこの目で見てみたい。歩きたい。

 

「タジャ」

 

 ツタージャの蔦がそっと彼の手に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続く。




*本編かと思った人、申し訳ない。この話が浮かんでしまったのでとっとと書き上げてしまおうかと思いまして。
 感想お待ちしております。




『ネタ集紹介&雑な解説』
・「だって、お前弱いだろ。―――」
→あの某五枚揃えたら勝ちのチートカードを海に流しやがった野郎が髪型ヒトデマン主人公に言われた台詞をなぞってみた。


・リーフブレード
→まるで全集中・葉の呼吸・壱の型「深緑一閃」


・ツタージャ
→不器用で真っ直ぐな性格が故に言われた事は何があろうと全うしちゃう騎士的な馬鹿。旧トレーナーはこのツタージャの才能を引き出せず、森林へ置いてけぼりにしてしまう。


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