遠坂凛は光の戦士である (ホリイ)
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プロローグ ~漁師~

 『残るサーヴァントの枠は2つ。急ぐことだ、凛』

 

 厭味ったらしい言葉を投げかけ、彼女の後見人である神父は電話を切った。

 彼の言うことは痛いほど理解できた。

 今日中になんとしても自分のサーヴァントを召喚しなければならない。

 私、遠坂凛が聖杯戦争に参加するためには、それは絶対に必要なことだ。

 

 聖杯戦争。

 

 それは万能の願望機である『聖杯』を巡り、七人の魔術師と七騎のサーヴァントが命をかけて争う大魔術儀式である。

 

 そして遠坂家はこの冬木のセカンドオーナーとして今まで四度行われたその戦争に常に関わってきた。

 右手の甲に浮かぶ令呪にかけて、それに背を向けることは許されない。

 今夜にも、召喚の儀式を行う必要があるだろう。

 

 「それは、わかってる。わかってるのだけど!」

 

 彼女は煩悶していた。

 古風な壁時計をキッとにらめつける。

 時刻はまもなく午後10時、まもなく、まもなく…。

 

 固 定 の時間なのである。

 

 

 説明しよう!

 

 固定とは、国産MMORPGの筆頭格、ファイナルファンタジー14において、高難易度コンテンツ、もしくは超高難易度コンテンツに挑むために組む長期パーティーのことである。

 

 一期一会を基本とするこのゲームにおいて、例外的に外部ツールなどを利用して連絡を取り合い、決まった曜日時間に集合し、コンテンツ攻略を目指すのだ。

 

 そして凛は、週6日、一日5時間というガチ攻略勢『kaleid ruby』のリーダーなのである。

 

 現在『絶アルテマウエポン破壊作戦』攻略まであと一歩、残りHP2%まできている。

 残念ながらすでにワールドファーストは達成されているが、今日クリアすればトップ5には入れる。

 前回の『絶バハムート討滅戦』のように、世界11位という屈辱を味わうことはないのだ。

 

 「でも午前2時までにクリアできるかは怪しい…!」

 

 だが習性のなせる技か、凛はなめらかな動きでワンタイムパスワードを入力している。

 

 彼女は覚悟した。

 

 「速攻でクリアして!速攻でサーヴァントを召喚する!これしか道はないわ!」

 

 

 [2]<Emiya Shirou>やっったあああああ!

 [3]<Prisma iriya>やったわね!Ruby!

 

 やった…!やった…!

 

 凛は涙を流していた。

 全身を歓喜が包んでいる。

 パーティーの全員が喜んでくれている。

 だがその中でも盾役(タンク)を担う双璧たるEmiyaとPrismaとは長い付き合いだ。

 

 Emiyaはリアルの知り合いと名前が似てる気がするけど今の時代に本名でプレイするリテラシーの低い人物がいるはずがない。

 PrismaはいはゆるEn、外国人だがお父さんが日本人らしく日本語にとても堪能だ。

 JpOnlyはもったいない、と自分に気づかせてくれた人だ。

 

 この歓喜にずっと包まれていたい。

 今夜はパーティーメンバーとずっとチャットして過ごそう。

 

 凛はそう考えた。

 

 [2]<Emiya Shirou>あ、Rubyさん。そういえば時間大丈夫ですか?2時から用事あるんですよね?

 

 え

 

 あ

 

 ま、まずいわ!

 

 [1]<Kaleid Ruby>ごめんなさい!落ちますね!

 

 凛は神速のタイピングを披露すると、直ちにゲームをシャットダウンした。

 時計を見つめる、すでに時間は2時を回り、3時に至ろうとしている。

 

 凛は悩んだ。

 

 「これからサーヴァントを召喚すると万全の召喚に至らない。かといって明日に回せば、その間に他のサーヴァントに攻められたとき身を護る方法がない。」

 

 なんでこんなことになってしまったの!

 

 もちろんそれは完全無欠に自業自得である。

 しかし、固定のリーダーとして、イエロー(最高位)の吟遊詩人として、固定をすっぽかすことはできなかった。

 

 幸いにして固定が終わり次第召喚の儀式を始められるよう、すべての準備は整っている。

 魔法陣の中心には特定の英霊に関わる遺物ではないものの、強大な魔力をたたえた宝石が鎮座している。

 十字の紋様をもつその宝石は、一人エオカフェで手に入れた吟遊詩人のコースターの上で凛を急かすような輝きを放っている。

 

 「いいわ、やりましょう…!」

 

 凛は決意した。

 その五大を統べる魔術回路を一斉に起動させる。

 

 宝石を砕いて描いた魔法陣。

 本来は地下の工房に設置すべきものを、彼女は時間を惜しんでパソコンのあるこの居間に描いていた。

 

 だが…問題ない。

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。」

 

 

 「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 魔法陣から光が溢れる。

 

 それはあまりに強い光だ。

 魔法陣の中に何かが現れる。

 しかし、その光を放つ本体はどんどんかすんでいく、おそらくそれはその強すぎる光で自らをも消そうとしているのだ。

 しかし…。

 

 掴んだ。

 

 凛にはその確信があった。

 いや、ここまできて逃してたまるものか。

 イメージするのは竿。

 

 まずは忍耐(ペーシェンス)

 そしてとっさに獲物の性質を見極める。

 

 「小手先の技ではいなされる、この大物は、ただ圧倒的な力にて制す(ストロングフッキング)べきもの!」

 

 彼女は剛力無双の竿捌きにより獲物をフッキングした。

 

 「あ、あれ?」

 

 だがその力は強すぎたのだ。

 彼女の強大な魔力で引きずり出されたそれは天井を打ち破り空へと飛んでいく…!

 

 そして落ちてきたのだった。

 

 

 凛は床に座り込んでいた。

 まさかこんなことになるとは思わなかった。

 周囲はすでに瓦礫の山である。

 

 そしてその瓦礫の上に…、呆れたような顔をした小人(・・)が座り込んでいる。

 その姿はとても、とっても見慣れたものだった。

 

 「なんとも呆れた召喚だな、だが一応確認しておこう。様式美は、挨拶とはとても大事なものだ」

 

 羽のついた帽子を傾け、不思議な形をした竪琴を抱いたその少年は問いかけた。

 

 「君が私のマスターか?」

 

 

 

 

 



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第一話 ~槍兵~

 冬木市の新都と呼ばれる地域、そこにそびえ立つビルの屋上に彼女はいた。

 

 「どうだった?冬木の街は。異世界からきた貴方には中々新鮮だったんじゃないの?」

 

 それはまるで独り言のようだ。

 実際独り言としか思えない、そこには彼女しかいないのだから。

 だが不思議な応えが返ってくる。

 

 『ああ、そうだな。私の知るどんな街とも違う。これを見れただけでも召喚に応じた甲斐はあったというものだ。』

 

 直接心に届くその声は、音としての声ではないのだけれど、とても澄んでいてそれだけで惹きつけられる。

 それはおそらく彼が、吟遊詩人(バード)のサーヴァントであることと無関係ではないだろう。

 

 だが、そんなクラスは、今までの聖杯戦争では存在しなかったはずなのだ。

 凛はため息とともに彼と初めて会ったときのことを思い出していた。

 

 

 「ええそうよ…。私が貴方のマスター、遠坂凛よ。好きに呼んでもらって構わないわ」

 

 その声を受け、瓦礫に腰掛けた少年は手元の竪琴を低い音でかき鳴らしながら応えた。

 

 「なるほど、いい名じゃないか。それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」

 

 それは客観的に見てとても際どいセリフだった。

 そんな答えを受ければ、只人ならば何か思わざるを得なかっただろう。

 しかし凛はただ沈鬱な表情でその子供の姿をしたサーヴァントを見つめていた。

 

 「それで、あなたのクラスと真名は何かしら?いえ、わかってるんだけど、確認でね」

 

 凛はそのサーヴァントの真名、隠されるべき秘奥を、わかっている、と語った。

 だがそれはそのサーヴァントにとって不思議ではなかったようだ。

 

 「はは、私を求めて召喚したんだろうから当然か。では応えよう。私のクラスと真名は…。」

 

 彼は一息吸うと、それがとても尊いもののように語りだした。

 

 「吟遊詩人(バード)のサーヴァント、カレイ…」

 「ストップ!!!」

 

 凛は突然大声を上げると、自ら望んだ真名の開示を中断させた。

 そして、彼女の意図がわからず目を白黒させるバードの前で、令呪の刻印された右手を掲げてみせた。

 

 「令呪を持って命ず…!」

 「り、凛?何をやっている?」

 

 刻印の三画の一が消え、膨大な魔力がバードの体に叩き込まれる…!

 

 「二度とその真名を口に出すことを禁ずる!」

 

 令は成された。

 バードのサーヴァントはその命令に逆らうことはできない。

 おそらくこの聖杯戦争が終わるまでの間、彼の口からその真名が開示されることはないだろう。

 

 しかしこれは、まったくもって無意味(・・・)である。

 

 「な、何を考えてるんだ君は!?令呪の重要性はわかっているだろう!私は自ら真名を明らかにするような英霊ではないぞ!?」

 

 「だって…!」

 

 その言葉を受けた遠坂凛はまるで駄々をこねるように応えた。

 そう、普段の彼女のを知る人物が見たら驚愕のあまり顎を外しただろう、彼女は瞳に涙すらたたえていたのである。

 

 「だって恥ずかしいのよ!」

 「はぁ!?」

 

 バードは理解できないというように驚愕した。

 

 「だって5年前よ!?私は中学生だったのよ!少しぐらい痛い名前を付けちゃっても仕方ないでしょう!?」

 「な、何を言ってるのかわからない…。」

 

 凛は地団駄を踏んでいた。

 

 「でもリアルでキャラ名で呼ばれるなんて絶対無理!だからボイチャもオフ会もアウトできたのよ!」

 「は、はあ…。」

 

 どうやらバードは理解するのを諦めたらしい、それは正しい判断だ。

 今は彼女に吐き出させるしかない。

 彼はとりあえず瓦礫から降りると、サーヴァントとしての初仕事として、自らのマスターなだめにかかった。

 

 

 凛はサーヴァントのための冬木市案内の〆として、自らの通う穂群原学園に向かっていた。

 既に日は暮れ始めている。

 

 彼女はバードが異世界に衝撃を受けてないか心配になり、一つの問を放つ。

 

 「それで、バード。自分の状況は理解できたかしら?」

 

 それへの応えはとても冷静なものだった。

 

 『ああ、いくつか理解不能な点はあるが。つまり私は、無限に存在する平行世界の座から、君が描いた物語の主人公と合致するという条件に従って召喚されたのだな』

 「まあちょっと違うけど、大体そういうことね。吟遊詩人らしい理解の仕方だと思うわ。」

 

 そう、自分がこの世界においては、架空の存在だということは、バードにとってはいささかも不都合ではないらしい。

 そして彼はひねくれた思念を凛に送った。

 

 『だが残念ながら君は吟遊詩人には向かないようだ、主人公の名前すら他人に話せないようでは…。』

 

 凛はそれにガンドの一撃で応えた。

 もちろんそれは無意味なもので、からかうような気配は続いている。

 

 だがそれは、学園が視界に入ると一瞬で消え去り。

 そこには『戦い続けるもの』の気配が濃厚に湧き出したのだ。

 

 「ど、どうしたの?バード」

 「わからないか?目を凝らせ、マスター」

 

 そして彼女は気づいた。

 学園が、得体の知れない気配に包まれていることに。

 

 

 

 「わかるか?マスター」

 「ええ。これは、魔力を吸収するタイプのものね。それも、最悪の」

 

 彼女たちは校舎の屋上にいた。

 そしてそこには、余人には見えないだろう魔法陣が刻まれていたのである。

 それからは、濃密な死の香りが漂っていた。

 

 「ならばさっさと潰すに限る。」

 「残念ながらすぐにはできないわね。おそらくこれはサーヴァントのもの、相応の準備が必要よ。」

 

 そこで凛は自分の背後に実体化したバードを振り返って言った。

 相変わらず彼の手には竪琴があった。

 だが今それを爪弾くことは控えているようだ。

 

 「でも貴方にならすぐにでも消せるんじゃないの?浄化の力を持つ、白魔法なら…。」

 

 バードがその言葉に応えようとした瞬間。

 予想外の、いや予想通りに声がかけられたのだ。

 

 「消しちまうのか、それ。もったいねえな」

 

 凛はハッとしたように声のした方を振り返る。

 自分の前にはいつの間に移動したのか、バードが立ちふさがっている。

 

 そして、屋上の給水タンクの上に、青いボディスーツを身にまとい、赤い槍を持った男が忽然と現れていたのだった。

 

 

 「ランサーのサーヴァントか?わかりやすくていいな。」

 「応さ、そのとおりよ。だがてめえは、よくわからんな。」

 

 槍兵(ランサー)の男はだが楽しげだ、正体不明の敵を相手に何も臆するところはないようだ。

 凛はその様子を見てすぐ察した。

 

 『あ、こいつPvP狂だな。』

 

 それは仲間と力を合わせて強大な敵と戦うよりも、同じプレイヤー同士で技を競い合うことをこの上なく好むタイプだ。

 凛ももちろん嗜みとして乗騎(マウント)ぐらいは取ったが、彼女はどちらかというとPvEを好んでいた。

 

 「構わないわ、バード。クラスぐらい教えてあげなさい」

 「ん?いいのか、マスター?」

 

 凛のサーヴァントは本来の七騎から外れたエクストラクラスと呼ばれるものである。

 それを隠したならば、相手はこちらの手の内を読めない。

 大きな利点となるはずだった。

 だが、凛はその必要は無いと判断した。

 

 「貴方の力はよくわかっているわ。クラスを開示したところで、貴方の本質に迫ることなど不可能よ。」

 「ならばクラスのみ名乗ろう、私は今回エクストラクラス吟遊詩人(バード)として現界したサーヴァント、名は名乗るのを禁じられている。」

 

 ランサーは片眉を上げて反応した。

 おそらく、期待はずれかとでも考えているのだろう。

 

 「おいおい詩人(バルド)だと!?歴史だか法律だかと面倒なことを担当するドルイドのことじゃねえか。かー、こいつはつまんねえのに当たっちまったかなあ」

 

 バルド?それはケルト人社会における吟遊詩人の呼び名だ。

 となればこの男はケルトの英霊だろうか。

 そしてあの朱槍、ではこの男は…。

 

 凛はそこで思考を中断した。

 自分のサーヴァントが武器を構えたからだ。

 それは、白く輝く宝石で飾られた双剣だった。

 

 「さてマスター、どうもこの男は乗り気じゃないといいつつも交戦を望んでいるようだ。私も慣らし運転をしたいと思っていた。始めてしまってもいいかな?」

 「そうね、でもここは狭いわ。ランサー!下に移動するわよ、構わないわよね?」

 

 ランサーは嬉しそうに応えた。

 ギラギラとした目を凛に向ける。

 

 「まさか俺が戦いを呼びかけられるとはな。だが、もちろんだ。嬢ちゃん中々根性座ってるじゃねえか。」

 

 彼はどうやらサーヴァントはともかく凛のことが気に入ったようだ。

 一足先に屋上から校庭に飛び降りる。

 彼は凛たち主従が騙すなどとは考えてもいないようだ。

 

 「私達もいくわよ。あれ、でもバード。貴方の体格で私を抱えられる?」

 「安心したまえマスター、これに乗るといい」

  

 そういえって彼は凛の前にプロペラが複数ついた小さな船を出現させた。

 いわゆるドローンに似ている。

 その船には彼女が両足で立つギリギリのスペースしかない。

 

 「ぐ、グローリア号?よりによって…。」

 「安心したまえマスター、乗れば思ったように動いてくれる。」

 

 バードからからかう気配が伝わってくる。

 なんてやつだ、これではむしろ道化(クラウン)ではないか。

 

 バードは戸惑う彼女を置いて、既に地上に降り立った。

 

 

 

 そして、人外の戦いが、彼女の聖杯戦争が始まる。

 

 

 

  



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第二話 ~ナイト~

 彼は見た。

 

 楽士のような服を着た少年と、青いボディスーツを身にまとった青年の死闘を。

 

 彼は逃げた

 

 青年に追われ、校舎の中を必死に駆けずり回り。

 

 彼は死んだ。

 

 朱槍に胸を貫かれ。

 

 彼は蘇った。

 

 理由も知らず。

 

 彼は戦った。

 

 土蔵のなか、未熟な魔術を懸命に操り。

 

 そして、彼は喚んだのだ。

 

 ───最優のサーヴァントを。

 

 

 「問おう。貴方が私のマスターか」

 

 美しい、本当に美しい瞳をした金髪の少女が自分に問いかけてくる。

 その腰には慈悲の聖剣が煌めき、頭には王冠のような髪飾り、そしてその身は青と白の勇壮なる鎧に包まれている。

 

 「き、君は一体?」

 

 質問に質問で返してしまった。

 彼は、衛宮士郎は律儀にそう考えると、彼女の先程の問にどう答えるべきか悩んだ。

 だが答えは出ない。

 

 マスター?一体何の話だ。

 

 だが相対する彼女もまた律儀だった。

 彼の質問に応えようとする。

 

 「私はセイ…いや、違う?霊基が、能力が変わっている。さすがにイレギュラーを重ねすぎたか…。」

 

 そう呟くと、彼女は再び士郎に向かって話しかけた。

 

 「私はエクストラクラス、パラディン(ナイト)として現界したサーヴァントだ。」

 

 そしてしばし悩んだ後、再び話し出す。 

 

 「だが私のことはセイバーと呼んでほしい。この戦いを勝ち抜くために、それが最善手だ。」

 

 

 「この屋敷よ!」

 

 助けた少年を槍兵(ランサー)のサーヴァントが再び襲うと考えた凛は、その少年の家に向かっていた。

 

 なぜ知っていたか?

 

 大した理由はない、彼女が偶然にも職員室で生徒の名簿を目にし、なんとなく、以前場所を確認していただけ、である。

 

 そして屋敷の中に踏み込んだ彼女は驚愕した。

 

 カラカラカラ

 

 「マスター、警報の結界だ!ここは魔術師の住処だぞ!?」

 「そんな!」

 

 だが凛にはその事実を冷静に考える時間はなかった。

 眼の前に、ランサーではない一騎のサーヴァントが現れたのである。

 

 その姿は、   

 

 とてもよく知っているものだった。

 

 再び出現させた双剣で、サーヴァントを迎え撃つバード。

 しかし互角に撃ち合っているように見えるが、彼の方がやや不利だ。

 

 相手サーヴァントが硬すぎるのである。

 

 耐久は少なく見積もってもA以上。

 時々その防御力を増加させていることからA+にも達しているはずだ。

 そしておそらく宝具だろう、その左手に持つ輝ける盾があまりにも強力すぎる。

 攻撃力も防御力に比して圧倒的に劣るというわけではない。

 

 『マスター、仕切り直しの指示を。この距離では勝負にならん!マスター!?』

 

 凛は、

 

 それどころではなかった。

 

 

 『あのサーヴァントはどうみてもEmiya Shirouさんのナイト?で、ここは衛宮士郎くんの家…』

 

 彼女の目はぐるぐるしていた。

 

 『まさか二人は本当に同一人物?私は衛宮くんと毎晩毎晩おしゃべりしてたの…!?』

 

 その敵マスターの様子を見たセイバーは一か八かの賭けに出た。

 

 無敵(インビンシブル)

 

 そのシンプルな名を与えられた、規格外(EX)のスキルを発動させたのである。

 彼女はバードの攻撃を無視し、一気に凛にせまる。

 その賭けは、成功するかに見えた。

 

 「待て!セイバー!」

 

 彼女のマスターの一言(令呪)がなければ。

 

 

 結局凛と士郎は同盟を結ぶことになった。

 

 凛にとって、もちろん士郎にとっても、お互い命をかけて相争うなどとてもできないことである。

 その結果は必然だった。

 

 今は教会からの帰り道である。

 凛は自宅まで送るという男らしい士郎の申し出を受けていた。

 そして今、士郎の横を顔を真赤にして歩いているのである。

 

 これは、本来の遠坂凛としてはとてもありえないことであった。

 

 なぜこんなことを!?

 

 説明しよう!

 

 遠坂凛は機械に強い!

 その結果、パソコンもスマホも使い放題である。

 そして彼女は様々な創作物に触れる機会を得、ドハマリし、マニアックな二次創作、さらには薄い本を始めとするアダルティな分野にも手を出していた。

 

 よって!彼女はやや偏った 恋 愛 脳 を手に入れたのである!

 

 そして自分の衛宮士郎への感情を

 

 『これってもしや恋!?』

 

 などというテンプレートな結論に至らせていた。

 間違っているわけではないのがタチが悪い。

 

 さらにそれだけではないのだ。

 

 今彼女はリアバレをするかどうか悩んでいるのである!

 リアバレとは?

 

 説明しよう!

 

 MMORPGというのはいささかリアルで表明しずらい趣味である。

 だが相手が同じゲームをやっているのなら話は別だ。

 その相手とは強い繋がりができ、同じ趣味について語り合える貴重な友人となるだろう。

 

 彼女は今!

 

 『実は私、Kaleid Rubyなんだけど、衛宮くんってEmiya shirouよね?』

 

 と言いたいのである。

 

 そうすれば恋しい衛宮士郎と、強い繋がりを得ることができるだろう!

 そして、実は学園内に複数いる、彼女(・・)を含めた強敵たちとの間に大きなアドバンテージを得ることができるのである。

 

 だが、もし万が一違ったら!?

 

 彼女は悶死するしかない。

 

 今彼女は秘密を表明したいができないというドキドキに包まれているのである。

 それは彼への想いと融合され、もはやキュンキュンの位置に達していた。

 

 彼らの後ろでは、状況を察したバードがアホらしい顔で歩いている。

 その隣では黄色い雨合羽に身を包んだセイバーがすました顔で歩を進めているが、彼女はもちろん理解してない。

 

 士郎?気づくわけ無いだろバカか?

 

 そんな時であった。

 彼女が現れたのは。

 

 

 それはちょうど墓地に差し掛かった時であった。

 彼らの前に忽然と、一人の白い少女が現れたのだ。

 

 「!?」

 

 咄嗟にサーヴァントたちが前に立ち、警戒態勢に入る。

 凛と士郎も驚いて目を見開いた。

 

 そして、白い少女は口を開いたのである。

 

 「泥…」

 

 少女の目は大きく見開かれていた。

 

 「泥棒猫…!」

 「は、はあ?」

 

 凛には相手が何を言ってるか理解できなかった。

 だが次の言葉は完全に理解することができた。

 

 「リン!このイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが貴女の息の根を止めてあげましょう!」

 

 凛は息を呑んで驚いた。

 この小さな少女がアインツベルンのマスター!?

 だが、それ以上の驚きが彼女を支配する。

 

 「ま、待ってくれ!き、君がイリヤ義姉さんなのか!?」

 

 士郎だった。

 士郎もまた、全身全霊で驚いていた。

 だがこの声は間違いない。

 skypeに、毎日のようにコールしてきた相手の声だった。

 

 「…!そう、その通りよシロウ。そんな気はしてたわ、あなたがマスターになるんじゃないかって…。」

 「はあ!?なんでアインツベルのマスターが衛宮くんのお姉さんなの!?」

 「いや、それはつまり彼女は俺の義父の実娘で…。」

 「おい、マスター達落ち着け…。」

 

 さすがに場の混乱に対し、冷静なバードが声をかけた。

 だがさらに混沌を呼ぶ一声がかけられる。

 

 「そんな、あなたがあのイリヤなのですか…?キリツグの娘の?」

 

 それはセイバーだった。

 セイバーもまた驚愕していたのだ。

 

 「ええそうよ、セイバー。まさかまた会うことになるなんてね。」

 「せ、セイバー?義姉さんを知ってるのか?」

 「何でサーヴァントが他のマスターのことを知ってるの!?」

 

 場はもはや混沌だった。

 それぞれが自分の喋りたいことを喋っているが、状況を一から説明しようとするものはいない。

 一人を除いて。

 

 ~♪

 

 「え?」

 

 それは竪琴の音だった。

 皆の視線がバードに集まる。

 美しい音だった、それはそうだろう。

 彼はいつも手にしていた輝ける竪琴を爪弾いている。

 宝具であることは間違いない、それは究極(アルテマ)の名を与えられたものだった。

 

 だが…。

 

 「リン…、あなたのサーヴァント。すっごい『下手』なんだけど?」

 

 だが旋律はひどいものだった。

 どう聞いても楽器の初心者だ。

 音程は外れ、一体何の曲なのかもわからない。

 

 「だって…、私楽器演奏やってないし…。」

 「遠坂、それが何の関係が…。」

 

 十分に自分に注目が集まったと感じたバードは皆に向けてそのよく通る声で提案した。

 

 「どうかな?近くに私のマスターの家がある、そこでゆっくり話さないか?」

 

 皆は頷いた。

 確かに状況を理解したかった。

 

 「そちらさんのサーヴァントもそれでいいかな?」

 

 バードがイリヤの背後に向けて声をかける。

 すると念話で応えが返ってきた。

 

 『構わない。イリヤスフィールは私が守る。』

 

 それは念話であるにもかかわらず、重く、深い声だった。

 声だけで、紛れもない大英雄が、イリヤを守っているのだと皆が理解するほどであった。

 そして場所は移る。

 

 聖杯戦争史上、最強の同盟が生まれようとしていた。

 



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第三話 ~騎兵~

 話は一ヶ月前に遡る

 

 「では手術を始める、本当に全身麻酔でなくていいのか?」

 「ええ。貴方だけでは、私の心臓に住み着く蟲を取り除けないから…。」

 

 そこは間桐の屋敷の最も広いフロアだった。

 そこは完全に除菌され、手術室と化していた。

 様々な機械が並べられている、恐ろしく金がかかっていることがわかる。

 

 「魔術か。門外漢だが、全くの無知ではない。君が信じるかは知らんが、私は宇宙人(フォーリナー)を手術したこともあってね。」

 

 医師と思しき男は不思議な面相をしていた。

 顔面に斜めに傷が走り、その顔の半分は黒色なのである。

 

 「信じますよ、世界最高のお医者さま」

 

 彼女は、間桐桜は言う。

 男は満足げに頷くと、彼の傍らに控える女の子に言った。

 

 「メス」

 

 

 「なるほど。レントゲンには写らなかったが、確かに蟲が君の心臓にからみついている。そして私には触れることができないようだ、鉗子はすり抜ける。」

 

 それは恐ろしい光景だった。

 むき出しになり脈打つ心臓、そこに醜い蟲が重なって存在しているのである。

 医療関係者がそれを見たならば自分の正気を疑う光景だ。

 だがその医師は冷静だった、故にこの医師でなければならなかったのだ。

 

 「バイパスはつなぎ終わっている。人工心臓を起動するぞ。」

 「お…ねがい…します。」

 

 人工心臓。

 それを聞くと、まるで心臓の代替として胸に埋め込むものを想像する人間もいるかもしれない。

 しかし現実の医療機関で使われるものは大型の機械である。

 心臓手術する際、血管をそこに繋ぎ、命を保つのだ。

 

 「完了だ、今君本来の心臓が止まっても、何の問題もない」

 「ふふ…だそうですよおじい様?聞こえて…ますか…?」

 

 何ということか!少女は除菌手袋に覆われた自分の右手を心臓に向かって伸ばしたのだ。

 そして、その指で蟲をつまみとった。

 

 「さようなら、おじい様。くだらない、200年でしたわね…。」

 

 彼女のたおやかな指が、最後の蟲を砕いた。

 

 

 「それで?リン、一体さっきから何をやっているんだね?」

 

 吟遊詩人(バード)はうんざりした口調で自らのマスターである遠坂凛に話しかけた。

 凛は大荷物を抱え、さっきから自宅の玄関の前でウロウロしていたのだ。

 凛は腕組みするとまるで教師のようにバードに話しかけた。

 

 「つまり同盟についてよ!」

 「ん?あの二人と同盟を結んだんだろう?二人共強力なサーヴァントのマスターだし、いい取引だったんじゃないのか?」

 

 だが凛はまなじりを釣り上げて指摘した。

 

 「違うわよ!衛宮くんとは同盟を結んだけど、イリヤとは結んでません。それは大事なとこよ!」

 「それ意味あるのかねえ。衛宮ってのはイリヤスフィールと同盟を結んだんだろう?どっちにしろ協力することになると思うが。」

 

 だがそれは凛にとってとても大事なことなのである。

 

 『義姉だなんて!いやらしい!そ、それに衛宮くんは子供が好きなHENTAIなんかじゃないわ!』

 

 それはとてつもない偏見だったが、真実はついていた。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは強大な敵となる。

 同盟などもっての外だ。

 

 「それでだ、そこでウロウロしてるのと何の関係があるんだ?」

 「つ、つまりこれは。」

 

 凛は顔を赤らめ、恥ずかしそうに答えた。

 

 「つまり、同盟を組んだから衛宮くんの家に泊まろうと思ってるんだけど…。」

 「ほほう、それは有効な戦略だな。戦力は一箇所に集めるべきだ。」

 

 しかし彼女は頭を抱えた。

 

 「衛宮くん、私が衛宮くんのこと好きだから家に泊まりたいんだって思わないかしら…?」

 「……。」

 

 今度はバードが頭を抱えた。

 

 

 「それで、なぜ貴方がここにいるのかしら?イリヤ」

 

 凛が冷たい目で士郎のあぐらの中に座り込んだイリヤに話しかける。

 イリヤはとても幸せそうな様子で答えた。

 ここは衛宮宅の居間である。

 

 「決まってるでしょう?リン。同盟を組んだからよ、戦力は一つに集めるべきだわ。」

 「ぬぬう。」

 

 なぜか二人の同盟者は相性が悪いようだ。

 士郎は悩んだ。

 一人は義姉、一人は同級生であり、聖杯戦争について教えてくれた恩人。

 二人共大事(・・)な存在である。

 

 なんとか仲良くしてほしい。

 

 士郎は二人に話しかけた。

 

 「それよりこれからのことについて話さないか?俺たちは結局どうすればいいんだ?」

 

 士郎の隣では、凛から借りた私服に着替えたセイバーがうんうんと頷いている。

 なお美味しそうにご飯をかきこんでいる。

 

 最初に答えたのはイリヤだった。

 

 「サーヴァントが3体もいたんじゃ誰も攻めてこないでしょうね、見つけてこちらから攻め込むのが良策よ。まあ、私とバーサーカーだけでも倒せない相手なんていないけどね!」 

 

 イリヤは自信満々に言った。

 確かに彼女のサーヴァントから感じる圧力はそれを戯言とはさせない。

 だがイリヤの言葉を否定したのもそのサーヴァントだった。

 

 『イリヤスフィール、敵を甘く見るのはよくない。これは聖杯戦争、どのような敵がいるのかわからない。』

 

 イリヤと士郎の背後で霊体化した彼女のバーサーカーが意見する。

 どうやら彼はかなりの巨体らしく、まだ士郎たちの前で実体化したことがないのである。

 

 そして狂戦士(バーサーカー)のクラスにあると説明されたが、とても理性的であった。

 その意見にはセイバーも一目置くほどである。

 

 「うーん、バーサーカーがそういうなら従うわ。じゃあみんなで一気に攻め込むってことね。」

 「それでいいと思うわ。今の所一番怪しいのは柳洞寺ね、あそこは冬木のパワースポットの一つだし、私のダウジングにも反応した。」

 

 彼女は大粒の宝石を示した。

 チェーンがつながっている。

 

 「遠坂の宝石魔術ね。ならそこに、おそらく魔術師(キャスター)のサーヴァントが陣地を築いているということかしら」

 

 凛は頷いた。

 士郎は二人の話についていけず、置いてきぼりになっている。

 

 「おそらくね、ここは聖杯戦争の慣例に従って、夜になったら攻め込むとしましょう」

 

 方向性は決まった。

 あとは夜に向けて英気を養うだけである。

 凛は士郎に晩御飯を作って上げたいと考え出した、そんな時である。

 

 屋敷の屋根で物見を務めていた彼女のサーヴァントが念話を飛ばしてきたのだ。

 

 『リン!何か近づいてくるぞ!』

 『ん?また使い魔か何か?』

 

 バードは慌てた様子で答えた。

 

 『違う!おそらくサーヴァントだ!急いで皆を外に出させるんだ!』

 

 はあ!?

 

 凛は慌てた。

 サーヴァントが3体もいる場所に攻めてくるものなどいるはずがない!

 

 だが彼は、それでも、そうだからこそ、現れたのである。

 

 

 真っ昼間だというのに、その戦車は、稲光を轟かせ現れた。

 

 ああ見ろ。

 

 その豪壮な肉体を、自信に満ち溢れた顔を、重厚なるマントを。

 

 「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においては騎兵(ライダー)のクラスを得て現界した!」

 

 その声はまさに雷鳴のような轟きをもって響いた。

 吟遊詩人(バード)は英雄譚の主人公が現れたと内心喜んだ。

 バーサーカーは血がたぎるの感じ、それを必死に抑えていた。

 そしてナイト(パラディン)

 

 驚愕していた。

 

 「ライダー!?なぜ貴方がここに!」

 「むむう、そこにいるのはセイバーではないか?はて此度は第五次聖杯戦争と聞いたが」

 

 その質問には戦車の後部に乗る、長髪の男性が答えた。

 

 「ライダー、君と同じだ。おそらくこのセイバーも、聖杯を求め聖杯戦争に再び参戦したのだろう」

 

 すべてを見透かすような目をした男だった。

 おそらくは魔術師、もちろん只者であるはずがない。

 なぜならば

 

 「もう一人サーヴァント!?なるほど、ライダー。貴方はキャスターのサーヴァントと同盟を組んだというわけですね。」

 

 だがライダーは一言でそれを否定した。

 

 「違うぞ、いやあ柳洞寺といったか?行ってみたのだが断られてなあ、中々強力な魔術で追いかけ回されたぞ。」

 「馬鹿な?では彼は?」

 

 すると長髪の男がセイバーに答えた。

 

 「その質問には私が応えよう、私はロード・エルメロイⅡ世。時計塔の魔術師だ、ライダーのマスターとして参戦した。」

 

 凛はその言葉を聞いて驚愕した。

 

 「時計塔の魔術師?それもロードですって!?」

 

 時計塔においてロードとは偉大な名だ。

 彼らは十二存在する学部のトップを任される人々なのだ、実質上時計塔の首脳である。

 

 「まあ、ロードといっても肩書だけだがな。私がサーヴァントに見えるのは、ライダーの宝具のせいだろう。私はライダーの臣下となることを望み、ライダーはそれを認めた。あとはセイバーに聞き給え。」

 

 この中で唯一ライダーの宝具を知るセイバーは納得した。

 

 「さて、セイバーは予想がついてるだろうが、ここに来たのはライダーが言いたいことがあるからだ。どうか聞くだけ聞いてやってくれ。」

 

 彼は内心呆れ返っているようだった。

 その言葉と様子を見てセイバーは何が起きるのかを察知した。

 

 「わはは!ものは試しだわからんぞう?マスターよ。つまりだ!」

 

 それでもライダーはその口上を短く済ませることにしたらしい。

 

 「我が軍門に下り、聖杯を譲るつもりはないか!?」

 

 

 交渉は決裂に終わった。

 当たり前である。

 ライダーに対峙する二騎は戦いの構えをとっている。

 バーサーカーはまだ実体化していない。

 どこか、別の方向に注視しているようだ。

 

 「バーサーカー?どこを見ている?」

 

 セイバーがいぶかしげに問いかける。

 するとそれに応えたのは意外にもライダーだった。

 

 「おお、お主も気づいたか。いやいやまったく覗き見の好きな王がいるようだなあ。英雄王ではなく覗き王に変えたほうがいいのではないか?」

 

 その言葉に

 

 世界が恐怖した。

 

 

 現れるのだ。

 

 

 最強の英雄王が。

 

 

 士郎は思った。

 

 『俺の家消えたかも…。』

 

 

 

 



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第四話 ~弓兵(第四次)~

 「我に一度破れた雑種が!よくぞ吠えたものよ!」

 

 いかなる宝具の力か、その黄金の男は宙に浮いていた。

 説明の必要などない。

 

 彼は王である。

 

 絶対なる支配者である。

 

 その足元に跪かぬものは、恐るべき罰を与えられるだろう。

 

 「弓兵(アーチャー)ギルガメッシュ!?貴方まで!?」

 

 セイバーは驚愕した。

 何という聖杯戦争だろう、恐るべし強者たちが、引き続いて現れるとは。

 

 その時、彼女の隣でいままで姿を現さなかったバーサーカーが実体化した。

 すさまじい巨体である。

 天を衝くとはまさしく彼のことだ、ほとんど裸身を晒すが、その白い(・・)肌は恐るべき筋肉で覆われ、間違いなく鋼より硬いに違いない。

 

 「セイバー、君は守りの力に優れる。マスター達を連れて一旦安全な場所まで下がるのだ。」

 

 彼は冷静な声でそう言った。

 そんな彼に吟遊詩人(バード)が疑問の声を投げかける。

 

 「私はどうする?」

 「バード、君は援護に優れるのだろう?その力を奮ってくれ。」

 

 英雄王ギルガメッシュは、自らの前で落ち着いて戦術を話し合うサーヴァントたちにいたく機嫌を損ねた。

 炎のような眼差しで彼らを睨めつける。

 

 「ほう雑種どもが、我と戦うつもりか?いや、そこなるもの。貴様からは我の最も嫌いな気配を感じるぞ。よかろう、お前から滅してやろう。」

 

 戦いの情勢は定まった。

 騎兵(ライダー)と彼のマスターは見の体勢に入ったようだ。

 戦車の上から面白そうに眺めている。

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 「旅神の舞曲(メヌエット)!」

 

 バードが竪琴をかき鳴らした。

 三拍子からなる舞踏曲が生み出される。

 それはなぜかいつぞやのような音外れではない。

 まさしく魂を震わせる名曲であった。

 

 「ほう。見事…まるでミューズの竪琴の如し!力が湧き出るのを感じる。よし、いくぞ!」

 

 バーサーカーは大地を蹴ると輝く大斧を振りかざし、一瞬でギルガメッシュの目前に達した。

 

 しかし。

 

 「たわけが!」

 

 ギルガメッシュの背後から複数の盾が出現すると、彼を守るように動いたのだ。

 バーサーカーの斧は轟音を立ててその何枚かを切断するも、ついに受け止められた。

 

 バーサーカーは宙に浮き、その体を晒している。

 

 しかし、そこにバードの一撃、いや、連撃が叩き込まれた。

 

 「レイン・オブ・デス!」

 

 彼の竪琴が突然変形したのだ。

 そして輝ける弓となり、そこから天に向け一矢を放った。

 すると無数の矢が中空に生まれ、まるで豪雨の如く降り注いだ。

 恐るべきことにバーサーカーを巻き込んでいる。

 

 この連撃によって、彼ら二人は地上に叩き落とされた。

 

 バーサーカーは咄嗟に間合いを取る。

 ギルガメッシュは怒髪天を衝いた。

 

 「小僧!貴様も我を怒らせたようだな!」

 

 ギルガメッシュの背後に複数の武器が出現した。

 

 「おい、あれは全部宝具か?ギルガメッシュというのはとんでもない英霊のようだな。」

 「そのようだ。バード、自力でかわせるか?」

 

 バードはため息をついた。

 

 「ああ、何とかしよう。」

 

 そして真の死の雨が彼ら二人に降り注いだ。

 バーサーカーはその巨体から想像もできない素早さで宝具の雨をかわしていく、かわせないものはその大斧で砕き、あるいは叩き落としていった。

 

 そして、バードは。

 そのすべての攻撃を、紙一重でかわしていた。

 まるで射線が見えるようだ、否、見えているのである。

 

 そこにいれば死ぬという死のライン(AOE)が彼には見えるのだ。

 この世界では、おそらく未来視と言われただろう。

 これが彼の最高の宝具の一端である。

 

 ギルガメッシュが一旦攻撃を中断する。

 バーサーカーとバードは合流した。

 あの恐るべき攻撃を受けて二人共傷一つついていない。

 彼ら二人も、偉大なる英霊であるということがわかる。

 

 ギルガメッシュは考えを改めた。

 

 「よかろう。どうやら貴様らは、我を楽しませることができる雑種のようだな。」

 

 バーサーカーはこれはまずいと気づいた。

 ギルガメッシュは本気を出すかもしれない。

 ならばこちらも本気で返さざるを得ず、そうすれば背後で自分達を見ているライダーのみが得をするだろう。

 

 それに。

 

 『バード、おそらくマスターたちは安全圏に退いた。撤退するぞ』

 『そうだな。ライダー陣営に得をさせることはないか』

 『それにだ。』

 

 『マスターたちの憩いの場が無くなってしまうだろう?』

 

 バードはそれに笑顔で応えた。

 

 『まったくだ、いいこと言うじゃないか。』

 

 

 アインツベルンの森に近い場所で彼らは合流した。

 

 「お、衛宮。難しい顔をしてるじゃないか。安心しろ多分家は壊れてないぞ」

 

 バードが軽口を叩く。

 だが事態は急変していたのだ。

 

 「魔術師(キャスター)の使い魔が手紙を持ってきたのよ。藤村先生を預かったって…。」

 

 

 場所をアインツベルンの城に移し、彼らは今後について話し合った。

 

 『ふむ、要求は柳洞寺に来ること。サーヴァントは二騎まで同行を許す、か…。』

 

 バーサーカーはここでもその巨体ゆえ、実体化を解いていた。

 沈思黙考しているようだ。

 

 「藤ねえを見捨てることは絶対にできない!二人に迷惑はかけられない。俺一人で行くよ。」

 

 士郎は強い口調で断言した。

 しかしそれは凛が却下する。

 

 「私達は利害を一致させなければならないのよ、同盟を結ぶとはそういうこと。もちろん藤村先生を救うためには協力するわ。」

 

 凛の隣ではバードが頷いていた。

 バーサーカーもそれは否定しない。

 なぜなら彼らが真の英霊だからだ。

 そしてイリヤが口を開いた。

 

 「ねえリン。一般人を人質に取るなんてとんでもないルール破りよ。監督官に介入は依頼できないの?」

 「一応私もダメ元で監督官に電話してみたんだけど、あいつ藤村先生のことを一般人じゃないって言うのよ。」

 

 イリヤは眉を顰めた。

 

 「どういうこと?その藤ねえって人は魔術師なの?」

 「そんな筈はないわ!冬木のセカンドオーナーとして私が保証する。」

 

 しかしイリヤがうさんくさそうに応える。

 

 「でもリンはシロウが魔術師だってことに気づいてなかったんでしょう…?」

 「それはそうだけど!間違いないわ!」

 

 士郎が二人の間に入った。

 

 「いや、藤ねえが魔術師ってことはないと思う。もしそうだとしたら、隠せるような人じゃないよ。」

 「ん、そうね。納得できるわ。」

 「ならなんで監督官はそんなことを言ったの?」

 

 悩む彼らにバードが割って入った。

 

 「まあそれは置いておこう、今考えるのは。どう行動するかだ。期限は今夜なんだろう?」

 『同意する。その女性を救うつもりならば、私達は二手に別れることになる。その人選を決めるべきだろう。』

 

 凛がバーサーカーに問いただした。

 

 「どういうこと?」

 『つまりだ、二騎のサーヴァントが柳洞寺に向かったとして、残る一騎はここに残ることになる。』

 「つまりあの金ピカに襲われる可能性があるってことか。」

 

 バーサーカーの言葉をバードが継いだ。

 それはありうる未来だった。

 バードは苛立ったように言う。

 

 「キャスターもそれを狙ってるんだろうな。そして二騎までならなんとかする自信があるんだろう。なめた話だ。」

 

 『できればここに残るのは私とイリヤにさせてもらいたい。ここはイリヤの陣地だ、戦うに当たって一番有利なのは私達だからな。』

 

 もぐもぐ

 

 

 柳洞寺のふもとで、凛と士郎は話し合っていた。

 

 「正面からは私たちが行く、それでいいわね?」

 「ああ、本当にいいのか?遠坂」

 

 セイバーが口を開いた。

 

 「バードの語った理屈。正面にはおそらくトラップがある、ならば最も人質に近づけるだろう裏からは、シロウが行くべき。その理屈は理解できました。」

 

 それはバードの提案だった。

 

 「ああ、その人質を一番助けたい人間が助けに行くべきだ。逆の理屈もあるだろうがね、私はそっちの方がいいと思う。」

 

 そして凛とバードは石段に足をかけた。

 

 

 気づいていた。

 その山門に、待ち構える者がいるということは。

 彼は、着物を身に着けていた。

 

 そして、肩を露出(・・・・)させ、長い刀を持っていた。

 

 「キャスターじゃねえな、何者だ?」

 

 その美丈夫はバードの呼びかけに静かに応えた。

 

 「───セイバーのサーヴァント、佐々木小次郎」 

 

 



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第五話 ~剣士~

 「数が合わないな。君は、8体目のサーヴァントか?」

 

 吟遊詩人(バード)剣士(セイバー)と名乗った侍風の男に詰問する。

 後ろでは凛が、しかし納得していた。

 

 『やっぱり、衛宮くんのサーヴァントはセイバーじゃなかったのね…。』

 

 バードの問に佐々木小次郎と名乗った男は落ち着いた風で応えた。

 

 「知らんな。私は呼ばれたから来ただけだ。だが、特殊な召喚であったことは間違いない。あとはあの魔女に聞き給え。」

 

 どうやら嘘をついてる様子はない。

 彼が偽物のサーヴァントということもなさそうだ。

 バードは確信していた、彼は真の侍である。

 

 「リン、宝具を開帳したい。この男と戦うには、今の霊基では相性が悪い。」

 「ええ、そう言うと思っていたわ。『侍』ね?」

 

 バードは好戦的な笑みで頷いた。

 

 そして、彼の異常な宝具の一つがついに衆目に晒されたのだ。

 

 「霊 基 変 更(ジョブチェンジ)!」

 

 バードの姿が光りに包まれる。

 そして、そこにいたのは…、もはやバードではなかった。

 

 「名乗ろうか、私は(サムライ)のサーヴァント。真名については令呪で禁じられている。」

 

 そこにいたのは陣笠をかぶり、赤い着流しに身を包んだ一人の侍だった。

 そしてその手には、白い宝石で飾られた刀を握っている。

 まるで美術品のようだが、その切れ味は、間違いなく絶品である。

 

 「ほう、刀で私に挑むと?」

 

 小次郎もさすがに驚いたようだ。

 

 「剣豪ムソウサイ最後の弟子として、英霊の域に至った侍よ、お相手つかまつる。」

 

 

 凛は二人の戦いに巻き込まれないように距離を取った。

 

 いざ

 

 小次郎は構えない、いや彼に構えはないのだ、彼は無形の域に達している。

 

 尋常に

 

 そしてサムライは、居合の構えを取っていた。

 

 勝負!

 

 「明鏡止水…彼岸花!」

 

 初手はサムライだった。

 尋常ならざる居合斬りが小次郎の体に届く。

 それはかすり傷だが、彼の体を蝕み続けるだろう、そういう業なのである。

 

 「これは恐るべき魔剣だな、ならば私も返礼しよう。」

 

 そう言うと、小次郎は己の気配を突然抑え始めた。

 いや、違う。

 本当に消えた!?

 

 「!?」

 

 サムライは咄嗟に身を反らした。

 彼のいた場所をすさまじい剣風が過ぎ去る。

 いや、彼は完全にかわし切ることができなかった。

 彼の腕から、一筋の血が垂れる。

 

 かすっただけにも関わらず、その出血は多かった。

 

 「ふむ、そなたもしや竜の属性を身に帯びるか?」

 「何だと。」

 

 その通りだ。

 サムライは、竜の力を宿す『蒼の竜騎士』でもある。

 

 「実は私は夢幻の彼方にて、竜を相手にしたことがあってな。飛竜、悪竜あまりに多く切った。故に竜殺しの称号をいただいたのだ。」

 

 何ですって!

 

 それは凛たちの主従にとってあまりに不利な情報だった。

 そして、さらに驚くべきことに、小次郎の体に届いたはずの呪いが消えているのである。

 

 「彼岸花を消したか…!」

 「ああ。透化した際、呪いも私を見失ったのだろう。」

 

 状況はサムライにとってあまりに不利と思われた。

 だが、彼は笑みを消すことができない。

 

 これだ、これをこそ私は望んでいた。

 蹂躙できるような相手では、確かめることができない!

 

 「行くぞ佐々木小次郎、あと五合の後、君を葬ろう。」

 「面白い、では五合撃ち合ってなお、そなたが生きていたなら、私も必殺の魔剣を披露しよう。」

 

 

 彼ら二人の侍はついに五合を撃ち合わせた。

 

 「見事…!」

 「美事」

 

 二人共無傷ではない。

 その五合は一撃一撃がお互いに必殺を期したものだった。

 にも関わらず生きている、彼らはお互いの技に感服していた。

 

 そしてありていに言って、わくわくしていた。

 

 「では見せよう、我が奥義を。」

 「応えよう、我が魔剣にて…!」

 

 「必殺剣…」

 

 サムライは居合の構えを取った。

 彼の足元に、不可解な紋様が浮かぶ。

 それはまるで魔法陣のようだった。

 

 「魔剣…」

 

 ここに至って、小次郎は初めて構えを取った。

 

 

 「乱れ雪月花!」

 

 「燕返し!」

 

 

 

 時空が歪んだ。

 

 

 彼らの剣はいかなる偶然か、全く同じ属性をもつものだった。

 

 すなわち、『多重次元屈折現象』。

 

 完全に同時に、三つの異なる太刀筋を放つ。

 それは第二魔法の域に達した神域の絶技。

 

 そう、それが衝突したのだ。

 

 まさしく、時空が歪んだのである。

 

 彼ら二人は見た、無限の狭間で、お互いの人生を。

 

 サムライはつぶやいた。

 

 「ただ燕を切りたかっただけ…か。」

 

 小次郎は返した。

 

 「そのとおり。そしてお主は、光の戦士か…。英雄となり、その強すぎる光ゆえ永遠の責め苦を負うとは…。」

 

 サムライは刀を構えた。

 今度は居合ではない。

 

 「私には二の太刀がある。君はどうする?」

 「ふ、知っているとも。私は、ただ一の太刀を繰り返すのみ。」

 

 彼らの戦いを見ていた、凛は宣言した。

 

 「サムライ!宝具の開帳を許します。」

 

 「小次郎!いやその名を被せられた無名の剣豪よ!これがわが最大の技!」

 「魅せてみよ!私も全力にて応えよう!」

 

 世界が震える。

 全てのサーヴァントと魔術師が、いやそれ以外のこの世の全てが。

 気づいたのだ、神が、いや世界が定めた限界が破られようとしていることに。

 

 「限界突破(リミットブレイク)生者必滅(しょうじゃひつめつ)

 

 「魔剣・燕返し!」

 

 

 サムライはゆっくりと刀を納めた。

 小次郎、いや無名の姿は残っていない。

 

 消滅したのだ。

 この恐るべき聖杯戦争において、最初の脱落者はセイバーだった。

 

 凛は呆れた口調で呟いた。

 

 「参ったわね、宝具を全開にしてやっと一騎なんて。それに私の魔力はもう空っぽよ」

 「すまない、リン。だが帰るわけにはいかないのだろう?」

 

 凛は強く頷いた。

 

 「衛宮くんが戦っているはず。人質がいて、魔術師(キャスター)の工房に一騎で攻める。

 分が悪いわ。急いで助けないと。」

 

 主従は頷きあうと、石段を駆け上った。

 

 

 「着いた!衛宮くんは!?」

 

 柳洞寺の境内に入ると、すぐさま凛は周囲を見回した。

 すると寺の本堂の前に一騎のサーヴァントが待ち受けている。

 

 それは偽りと判明したセイバーだった。

 

 「セイバー?衛宮くんはどうしたの」

 「待てリン、様子がおかしい」

 

 近付こうとする凛をサムライが押し止める。

 それは正しい判断だった。

 

 セイバーが、その盾を放り投げたのだ。

 それは殺意をもって凛にせまる。

 

 「!?ぬう」

 

 それはギリギリでサムライが弾いた。

 盾はセイバーの元に返っていく。

 

 「セイバー!?なんで!」

 「リン!」

 

 セイバーは苦しそうに話しだした。

 

 「ギリギリで押し留めています、早く私を倒すのです!そしてシロウを…!」

 

 凛が、セイバーの言葉を必死で理解しようとしたとき、上空から、一騎のサーヴァントが舞い降りた。

 

 「あら、令呪で命じたのに大したものね。」

 

 黒と紫の衣を身にまとった女性だった。

 しかしその顔はフードで隠され見ることができない。

 

 「魔術師(キャスター)のサーヴァント?セイバーに何をしたの?」

 

 すると、セイバーが苦しそうに話しだした。

 彼女はその強大な対魔力によって、令呪にあらがっているのだ。

 

 「彼女の短剣に気をつけてください、契約を、打ち消す力があります!」

 

 凛は理解した。

 おそらくこの魔女は士郎とセイバーの契約を打ち消したのだ。

 そして自らをセイバーのマスターとしたに違いない。

 

 そしてキャスターは残酷な笑みを見せた。

 

 「いけない子」

 

 そして何らかの魔術を行使したのだ。

 すると、本堂の中からすさまじい叫び声が聞こえてきた。

 

 「ぐあああああああああ!!」

 

 その声は、よく、知っているものだった。

 

 「キャスター!?シロウに何をした!」

 「だって、貴女があまりに悪い子なんですもの。貴女の大事な元マスターの腕を、一本いただいたわ。」

 

 その声を聞いて凛は意識が白熱するのを感じた。

 

 「なんですって!?」

 

 魔女は何でもなさげに頷いた。

 

 「ぐちゃっと砕いてあげたのよ。次はどこをもらおうかしら?足?それとも、下顎なんてどうかしら。きっと素晴らしい顔になるわね。」

 

 それを聞いたセイバーは覚悟したようだった。

 

 「いきます、リン、バード。貴方たちの全てをかけて、私を、そしてこの魔女を倒してください。」 

 

 サムライは刀を構えた。

 

 「やるしかないぞ、マスター。」

 「そのようね、なんとしてでも衛宮くんを助けるわ。」

 

 身構える二人に、慈悲の聖剣を構えたセイバーが、突撃する!




 次回 

 第六話 ~弓兵(第五次)~


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第六話 ~弓兵(第五次)~

 


 「士郎!士郎!士郎!!!」

 

 藤村大河にとって状況は全く理解できないものだった。

 今、自分の腕の中で大事な教え子が、否、それだけではない。

 とても、大事な存在が、左腕を失くし、大量に出血してもがき苦しんでいる。

 

 始まりはよく覚えてない。

 最後の記憶は学園の廊下だ。

 同僚の葛木先生とすれ違ったところだ。

 

 気がつけば、この木造の建物の中にいて、目の前に衛宮士郎が倒れていた。

 自分たちはまるでファンタジー小説にでてくるような魔法陣に囲まれ、そこから出ることができないのである。

 

 すると、突然士郎の腕が破裂したのだ。

 もはや、彼女には普段の明るさのかけらも残っていない。

 

 今心の中にあるのはどうやって士郎を救えばいいのかだ。

 そして彼女は気づいてしまった。

 

 自分には どうやっても 士郎を救えない。

 

 彼女はただ叫んだ。

 

 「誰か!誰かお願い。士郎を助けて!」

 

 

 聖杯戦争にはいくつかのルールがある。

 呼ばれる英霊の数が七騎というのもその一つだが、そのルールは実は絶対のものではない。

 

 平行世界の聖杯戦争においては、合計十四騎。

 七騎対七騎というものもあった。

 

 そして、そのルールの一つに、三騎士、つまりセイバー、ランサー、アーチャーのクラスは必ず現れるというものがある。

 

 エクストラクラスが出現した場合、それ意外の四騎から減ることになるのだ。

 だが今、冬木には既に七騎が揃い、未だアーチャーのクラスは出現していなかった。

 ギルガメッシュは前回の聖杯戦争から現界し続けているため、数には入らない。

 

 聖杯に、意思というものがあったならばそれはわずかに悩んだのだ。

 どちらのルールを優先させるべきか。

 

 尋常の聖杯ならば、どちらに転んだかはわからない。

 しかし、此度の大聖杯は、泥に満ちていた。

 有り余る魔力を持っていたのだ。

 

 よって、大聖杯は八騎目のサーヴァントの召喚を決めた。

 マスターとして、令呪を与えるべきは、稀有なる魔術師、間桐桜。

 始まりの御三家の一つの魔術を継いだ、彼女が選ばれるのは当然だったろう。

 

 しかし

 

 桜に令呪を与えようとして

 

 大聖杯は

 

 

 ころんだのだ。

 

 

 ころんだとしかいいようがない、大聖杯は何もないところでのめくった。

 よって、令呪は異なる存在に浮かび上がった。

 

 その名は藤村大河。

 

 規格外(EX)の幸運を持つ世界に愛された女性である。

 

 そして、物語は、さらなる混迷の中に突入する。

 

 

 「な、なにこれ?」

 

 大河は何が起きたか、理解できないでいた。

 自分たちを縛っている魔法陣が突然光りだしたのだ。

 

 その魔法陣の溝には、士郎の血が、偶然にも流れ込んでいた。

 

 触媒はエミヤシロウの血。

 

 召喚するは、藤村大河。

 

 ならば呼ばれるにふさわしき英霊は、ただ一騎。

 

 それは孤高なる錬鉄の英霊のみ。

 

 だがやはり、マスターに適性がなさすぎたのだ。

 このままでは、弓兵(アーチャー)は一瞬現界し、単独行動のスキルすら使えず、出来損ないのサーヴァントとして直ちに消滅することになったろう。

 

 だがここには、それをひっくり返す最後の手段があった。

 それは、衛宮士郎の肉体である。

 

 アーチャーは出現するとともに衛宮士郎に融合した。

 

 それを、平行世界のとある魔術組織が見たならば、こう呼んだだろう。

 

 

 デミ・サーヴァントと

 

 

 

 大河は最初から最後まで何が起きたのかわからなかった。

 だが魔法陣から放たれた光が消えた時、自分の前には衛宮士郎が敢然と立ち上がっていたのである。

 消えたはずの左腕も戻っていた。

 

 そして彼は背中越しにこう言ったのである。

 

 「大丈夫だ、藤ねえ。あとは任せろ。」

 

 大河は、安心と共に意識を手放した。

 

 

 サムライは追い詰められていた。

 

 まずサーヴァントの数において一対二である。

 だがそれはいい、不利な戦いなど何度も繰り返した。

 

 だが、タクティカルポイント(TP)が足りない。

 侍とはTPについては、もっとも燃費が悪いジョブである。

 スキルスピードを極めた熟練者がその技を操れば、仲間の支援がない限り、ただ攻撃しているだけでTP切れとなる。

 

 此度の聖杯戦争についてはそれはマスターから補給されるものだった。

 だが、そのマスターが魔力切れで息を切らせている。

 

 彼女を責めることなどできない。

 今も宝石魔術を用い、必死にキャスターの魔術を防いでいる。

 

 どうする?最奥の宝具を、『超える力』を使うか?

 だが使えない、自分はこの力と決別するために聖杯戦争に参加したのである。

 そのような矛盾を許せば、おそらく自分は直ちに消滅するだろう。

 

 ならば歯を食いしばれ!サムライ!

 もはや死中に活を求めるのみである。

 

 その時だった。

 

 

  I am the bone of my sword.

 

 

 一節の、詠唱が聞こえたのは。

 

 『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 突然凛の前に美しい七枚の花弁を持つ花が出現した。

 それは彼女に迫っていたキャスターの魔術を弾き返す。

 

 「な、何ですって!?」

 

 冷静だったキャスターの顔にほころびが見られた。

 これは彼女にとっても予想外のことだったのだ。

 

 『万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)

 

 そしてそのキャスターの体が靄のようなものに包まれた。

 するとキャスターの姿が消失する!

 いや、完全に消滅したのだ!

 

 残った三人には何が起こったのかまったくわからない。

 

 その時、セイバーは自分が後ろから抱きしめられているのに気づいた。

 

 「セイバー、ごめん。心配かけたな。」

 

 それは士郎だった。

 

 セイバーは突然のことに慌てた。

 士郎の声は今までにない親愛さが溢れていたのだ。

 

 まるで、愛を囁かれているよう

 

 柄にもなく、そう思ってしまうほどに。

 そして、その衝撃に動きを止めたセイバーを、士郎の刃が穿った。

 

 『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

 それはキャスターが操った宝具と全く同じものだった。

 

 なぜそれをシロウが?彼は本当にシロウなのか?

 

 そんな疑問が生まれたが、その宝具の力は本物だった。

 彼女を縛る令呪は直ちに解かれ、マスターとサーヴァントの契約も消滅した。

 

 士郎はセイバーの正面に回ると、彼女を抱きしめて話しかけた。

 

 「俺のサーヴァントに、なってくれるな?」

 「は、はい!」

 

 まるでプロポーズを受けているようだ…。

 そうセイバーは思った。

 

 もちろん凛も思った。

 

 「ちょ!ちょっと衛宮くん!何やってるのーー!」

 

 その声を聞くと士郎はセイバーから体を離し、彼に似合わない皮肉げな笑みを浮かべると、凛に話しかけた。

 

 「すまない、魔力切れだ。キャスターを閉じ込めた宝具の効果も切れる。あとは任せた。」

 

 そう言って、彼は地面に倒れた。

 本当に魔力切れのようだ。

 

 「何が何やらさっぱりですが、リン、バード。下がってください。」

 「いいのか…?」

 

 尋ねるサムライにセイバーは元気いっぱいで応えた。

 

 「はい!なぜかわかりませんが今の私は最高のコンディションです!」

 

 

 キャスター、魔女メディアにとっては何が起きたのかまったくわからなかった。

 

 突然靄に包まれたかと思った直後、自分が広大な迷宮の只中にいるのに気づいたのだ。

 彼女の魔術師としての力を最大にしても、底の見えぬものだった。

 

 彼女にも似たような魔術は使える、しかしこの規模となると、間違いなくこれは宝具だ。

 必死に脱出しようと様々な魔術を試すがどうにもならない。

 この迷宮が伝説に謳われるミノス王の迷宮だとは気づくことができた。

 

 ならば敵はあのミノタウロスか?

 

 そう考えた時、突然その大迷宮が消滅したのだ。

 そして目前には、ナイト(パラディン)のサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴンが聖剣と聖盾を構え、立ちふさがっていた。

 

 

 「スピリッツ・ウィズ・イン!」

 

 神速の突きが、キャスターの防御を突破する。

 キャスターは既に深手を負っていた。

 必死に距離を取ろうとするキャスターを、セイバーは逃さない。

 

 「サークル・オブ・ドゥーム!」

 

 スピリッツウィズインからのサークル・オブ・ドゥーム。

 GCDの間にその二連撃を挟むのは開幕の定石だ。

 

 キャスターの低い耐久は、その二連撃を受けただけで現界を怪しくしていた。

 

 もちろんセイバーは容赦などしない。

 レクイエスカットからのホーリスピリッツの連打、キャスターは魔術によって滅びようとしている。

 

 「せめて、マスターだけでも!」

 

 キャスターは準備していた転移の大魔術を行使して、自らの愛しいマスターを逃がそうとする。

 そこで気づいた。

 

 「ラインが…ない…?マスターは…どこなの?」

 

 それは本来すぐ気づくことのはずだった。

 だが彼女はそれに気づくのを拒否していたのだ。

 マスターが、■んだなんて…。

 

 「マスター?宗一郎様!!」

 

 セイバーはそれに気づき、哀れみすら感じた。

 

 「マスターへの忠義は本物だったか…。ならばせめて、私の最高の技で滅するがいい。」

 

 

 「ロイヤル・アソリティ(王権)

 

 

 セイバーは体を一回転させると輝ける慈悲の剣(コルタナ・アルテマ)にて、キャスターの体を横薙ぎにした。

 ついに光りに包まれて、キャスターは消滅する。

 

 これにて、二騎目のサーヴァントが、冬木の地から消滅した。

 聖杯戦争はいまだ、序盤の終わりに差し掛かったところである。

 

 するといつの間に立ち上がったのか、本堂から士郎が大河を背負って現れた。

 

 「藤村先生!大丈夫だったのね。」

 

 喜ぶ凛だったが、彼のそばに一人の男が倒れ伏しているのを見て衝撃を受ける。

 

 「うそ…?葛木先生?」

 「ああ、先生がキャスターのマスターだったんだ。」

 

 凛は信じられない目で士郎を見た。

 葛木を殺したのは士郎なのだろうか?

 

 だが彼にそんなことができるはずがない。

 しかしその疑問は次の士郎の言葉で消えてしまった。

 

 「それで俺さ、どうも藤ねえのサーヴァントになったみたいなんだ。」

 

 『は?はああああああああ!?』

 

 凛とセイバーの声が唱和した。

 

 だが凛の心は安らぐ暇など無い。

 強大な魔力の波動を感じたのだ。

 

 それはたったさっき感じたのと同じもの。

 サーヴァントの消滅の波動。

 場所はアインツベルンの城。

 

 そしてその波動の大きさから、消えたのは、間違いなく、

 

 

 偉大なる大英雄。

 

 




次回

第七話 ~狂戦士~


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第七話 ~狂戦士~

 アインツベルンの城は

 

 破壊し尽くされていた。

 

 すべてはバーサーカーとギルガメッシュの激突の結果である。

 

 この極致に至った大英雄同士の戦いにおいて、陣地などというのはなんの足しにもならなかった。

 それはもはやただの風景である。

 

 「認めよう、雑種。貴様は強い。」

 「最古の英雄王にそう言われるとは感激だ。」

 

 バーサーカーは軽口で返す。

 だがその体は既に傷だらけであった。

 天下に二つと無き聖剣魔剣を受けきったのだ。

 その消耗は激しい。

 

 だがそれはギルガメッシュが攻めきれぬということでもあった。

 

 「なれば、我が友の名を持つ宝具を使わせてもらおう。」

 

 ギルガメッシュは背後の王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から鎖を引き出した。

 

 それを見た瞬間、バーサーカーはまずいと気づいた。

 己はギリシャ神話の主神の血を引く身である。

 その鎖からは、神を地に引きずり降ろそうという強力な気配が漂っていた。

 あれで縛られれば致命となりうる。

 

 なればどうするか?

 

 攻めるのみである。

 

 「オンスロート!」

 

 バーサーカーは一瞬でギルガメッシュとの距離を詰めると、必殺を期して己の最大の一撃を放つ。

 

 「おのれ!」

 「受けろ!フェルグリーブ(打ち倒し 引き裂く)!」

 

 斧を闘気が包み、まるでチェーンソーのように回転する。

 その一撃は英雄王の黄金の鎧を引き裂き、彼に大きな傷を与えた。

 

 だが、それでも偉大なる英雄王を止めるには足りなかった。

 

 「天の鎖(エルキドゥ)!」

 

 強靭な鎖が解き放たれ、バーサーカーの体に絡みつく。

 それはまさしく彼にとって最悪のシチュエーションだった。

 もちろんバーサーカーはそれに任せるままではない、全力を振り絞り、鎖を引きちぎろうとする。

 

 「させぬわ!」

 

 ギルガメッシュはそうはさせまいと、友と頼む鎖にさらなる魔力を注ぐ。

 

 その天秤はギルガメッシュに傾いた。

 なぜならバーサーカーは、『狂化』していない。

 その筋力は強大なるも補正はなく、そして神性は低下していなかった。

 

 だが、彼のマスターの声が響く。

 

 「バーサーカー!いえ!戦士(ウォーリアー)!あなたの奥義を見せなさい!」

 

 イリヤスフィールだった。

 そしてその声を受け、ウォーリアーの目に光が灯る。

 いや、本当に灯ったのだ、赤い、紅い光が。

 

 「原初の解放(インナーリリース)!」

 

 それはウォーリアーの奥義、その効果は内なる獣性を解放するもの。

 攻撃力の増加など様々な効果があるが、その一つにこういうものがある。

 

 『バインドの解除』

 

 この状態に陥ったウォーリアーは、何者にも縛られることはない。

 

 

 大きな音を立てて、『天の鎖(エルキドゥ)』が砕け散る。

 

 

 「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

 紅い闘気に包まれたウォーリアーが一直線にギルガメッシュに向かう。

 ギルガメッシュは異形の剣を王の財宝から取り出し、構えようとするが、遅い。

 勝敗は決したかに見えた。

 

 だが。

 

 「止まれ、ウォーリアー」

 

 

 イリヤの首に、黒鍵と呼ばれる礼装が、突きつけられていた。

 その礼装を持つのはカソックに身を包んだ神父、その名を言峰綺礼という。

 

 「貴方は、聖杯戦争の監督官!?何のつもりなの?」

 「君たちに話していなかったことがあったな。」

 

 彼はその手の甲の令呪をかかげた。

 二画消費され、残りは一画となっている。

 

 「実は私も聖杯戦争の参加者でね。」

 「ひどい冗談、最悪のルール破りね。」

 

 ウォーリアーからは紅い闘気は消えていた。

 その効果は長くは持たないのだ。

 

 「英雄王、今のうちだ。ウォーリアーにトドメを刺したまえ。」

 

 言峰はギルガメッシュに促す。

 しかし彼は、不機嫌そうな顔で応じた。

 

 「コトミネ、貴様…。」

 

 そして応じたのは彼だけではなかった。

 

 ウォーリアーが、その力を奮ったのだ。

 

 「シェイクオフ」

 

 ウォーリアーの体を蒼色をしたイバラが絡みつく。

 いや、ウォーリアーだけではない。

 イリヤの体をもイバラが包んでいた。

 

 その瞬間、言峰の黒鍵がイリヤの体を貫く!

 いや貫けない!

 

 「これは!?」

 

 シェイクオフ、それは仲間全体を、防護の膜で包むというアビリティ。

 その防御力は、使用者の体力に比例する。

 

 いかな代行者といえども、ウォーリアーの張ったそれは、人間に突き破れるものではない!

 

 「トマホーク」

 

 ウォーリアーの手から斧が飛んだ。

 それは言峰の体に突き刺さり、その生命を狩る。

 

 言峰綺礼は倒れ伏した。

 

 「ふん、手間をかけたな。ウォーリアー。」

 

 ギルガメッシュの言葉にウォーリアーは応える。

 

 「構わん。マスターを守るのはサーヴァントの役目だ。」

 

 そして、両雄は再び刃を交える。

 

 

 ギルガメッシュは不可思議な形状をした剣を構える。

 その剣からは強大な圧力が放たれていた。

 

 「行くぞ、雑種、いやウォーリアー。この一撃にて貴様を滅ぼそう。」

 「来るがいい、英雄王。その一撃、見事防いで見せよう。」

 

 ギルガメッシュの持つ剣が回転を始める。

 その剣の名は、乖離剣エア。

 かつて天と地を割ったという対界宝具である。

 

 そして、それに対するウォーリアー、いやギリシャ神話最大の英雄ヘラクレスの宝具は…。

 

 

 

 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

 

 

 

 「限界突破(リミットブレイク)原初の大地(地獄)

 

 

 時空を引き裂く一撃がウォーリアーに向かう。

 しかし、ウォーリアーが地面に斧を突き刺すと大地がせり上がったのだ。

 

 それは一言で言うならば地獄である。

 

 ギルガメッシュの最高宝具よりも古き神秘。

 この世に一切の生命が無かった、いや生命の存在が許されなかった時代の、原初の大地。

 

 ウォーリアーはそれを現出させた。

 

 

 それは原典を超えたものである。

 本来のウォーリアーの宝具の名は『原初の大地(ランドウォーカー)

 大地を揺り起こし、それで身を護る結界宝具。

 

 だがそれが原初宝具とも呼ぶべきものに変わったのは、ウォーリアーが、まさしくエアに抗うにふさわしい者だったからに他ならない。

 

 二つの究極の宝具はぶつかり合い、そして一切の魔力を吸い込み消えたのだった。

 

 

 ウォーリアーは右腕と左足を失っていた。

 目も良く見えない。

 

 だが、自分のマスターを守りきったことだけはわかっていた。

 

 「見事だった、ウォーリアー。」

 

 それはギルガメッシュだった、体中から血を流しつつも、その四肢に欠損はない。

 

 ギルガメッシュの勝利だった。

 なぜなのか、それは宝具の相性だった。

 ウォーリアーの宝具は天地が分かれる前の世界を現出されるものであり、そしてギルガメッシュの宝具はまさしくそれを分かつものだったのである。

 

 決着はついた。

 

 「貴様の力に免じ、そのマスターの命は奪わないでおいてやろう。」

 「…感謝する。」

 

 ギルガメッシュは王の財宝から一本の剣を取り出した。

 そして、ウォーリアーにトドメを刺そうとする、しかしその時気づいた。

 

 

 自分の胸から、赤黒い、何かが生えている。

 

 

 彼は背後を見た。

 

 そこには、禍々しい存在が、その槍を、ギルガメッシュに、突き刺していた。

 

 彼の名は、狂戦士(バーサーカー)クーフーリン。

 

 時空の彼方において、狂王と呼ばれる存在である。

 

 ギルガメッシュは言葉を発することもできず消滅した。

 

 その瞬間イリヤは気づいた。

 サーヴァント三体分の魔力が自分に流れ込んでくるのを。

 

 「聖杯、貰い受ける。」

 

 イリヤは狂王の恐るべき姿を前に、何もできなかった。




次回
第八話 ~暗黒騎士~


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第八話 ~暗黒騎士~

 


 あれから丸一日がすぎた。

 

 アインツベルンの城において、二騎のサーヴァントが消滅したことはわかっていた。

 そしてそこからはイリヤの姿が消えていたのだ。

 

 彼女は未だ見つかっていない。

 

 遠坂凛ももちろん手を尽くして探している。

 衛宮士郎はやめろと凛が言っても聞かず、セイバーを連れて冬木の街を駆けずり回っていた。

 だが、さすがに彼も、日が落ちると共に衛宮の屋敷に帰ってきた。

 

 そして今、凛は

 

 クラクラしている。

 

 衛宮士郎が

 彼女の想い人が

 

 押してくるのである!

 

 先程話しかけられた際など、彼はいきなり手を恋人繋ぎしてきたのだ!

 彼女の頭は熱に浮かされている。

 そして恐ろしいことに、彼は今この屋敷にいる女性、セイバーと藤村大河にも似たようなことをやっているのである。

 

 なぜか!?

 

 説明しよう!

 

 衛宮士郎は鈍感系主人公である!

 エミヤシロウはドンファンである!

 

 かの英霊の限りなく近似の存在の名台詞にこんなものがある。

 

 『可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは』

 

 彼と融合し、何の遠慮も無く記憶と力を譲り渡された士郎は、もはや士郎であって士郎ではない。

 彼は、平気で『ぶらっくすいまー』を履ける漢なのだ。

 

 「気が狂いそう!どうすればいいの!?バード」

 「自由にしたらいいんじゃないかなあ」

 

 彼女のサーヴァントは役に立たなかった。

 

 その時である。

 訪問を告げる、チャイムが鳴り響いたのは。

 

 

 その男は、

 

 ワイハーだった。

 

 麦わら帽子を頭にかぶり

 派手なフレームのサングラスを着け

 アロハシャツに身を包み

 胸にはレイと呼ばれる花輪

 半ズボンにビーチサンダル

 腕にはウクレレを抱いていた。

 

 「我は征服王!イスカンダルである!アロハ!」

 

 凛は何と言っていいかわからなかった。

 最初に発言したのは士郎である。

 

 「ライダー、行ってきたのか?ハワイに…。」

 「応よ、我が戦車でも中々時間がかかったな。だが、ハワイの名所。見事征服してきたぞ。」

 

 凛は信じられないものを見る目でライダーを見た。

 

 「悪い冗談…。聖杯戦争中に冬木を離れたの?」

 「うむ、俺のマスターのやっているスマホゲーを見たら急に行きたくなってな。まったくせっかくのハワイだというに、奴めはずっと不景気な顔をしておったわ」

 

 そういうライダーのそばには、そのマスターの姿はなかった。

 

 「ライダー、貴方のマスターはどこに…?」

 

 セイバーがそう質問すると、ライダーは今気がついたように辺りを見回した。

 

 「ガッハッハ!どうやら忘れてきたようだ。」

 

 凛は思った。

 自分がこの男のマスターでなくてよかったと。

 

 

 その後、ライダーは自らの宝具によってマスターを召喚した。

 その瞬間、彼は日本に密入国しようとする船の中にいたという。

 

 「…ふむ。ではどうかな?情報交換するというのは。君たちからは私達が、冬木にいなかった間の情勢。私達は聖杯について握っている情報を話そう。」

 

 凛たちは、その提案を受けた。

 ライダーのマスター、ロードエルメロイⅡ世は、凛の説明を聞くと黙考し、話しだした。

 

 「状況からして、おそらくランサーが漁夫の利を得たのだろうな。そしてアインツベルンのマスターだが、おそらく大聖杯の元にいるのではないか?」

 「大聖杯?」

 

 それに応えたのは、凛にとって意外にも、士郎だった。

 

 「それならきっと、柳洞寺の地下にある。」

 

 

 凛たち一行は洞窟の中を進んでいた。

 柳洞寺の円蔵山、その内部に存在する大空洞。

 その名を龍洞という。

 

 「こんな場所があったなんてね、衛宮くんはなぜ知ってるの?」

 

 凛は不思議そうに尋ねる。

 士郎はそれに対し、言葉を濁してごまかした。

 

 

 「この先に士郎のお義姉さんが、切嗣さんの娘さんがいるかもしれないのね?」

 

 彼ら一行には大河もいた。

 彼女はもはや令呪をもつ聖杯戦争のマスターとなってしまった。

 

 一人で置くわけにはいかなかったのだ。

 

 「よくわかんないけど、絶対に助けるわよ!」

 

 そして何の妨害もなく

 

 彼らは絶望の地平にたどり着いた。

 

 

 一目でわかった。

 

 あれは聖杯である。

 

 そして、その有り様を狂わせている。

 

 「来たか。久しぶりだな、バードのマスター。」

 

 そこにいたのは一騎のサーヴァント。

 いや、サーヴァントなのか?

 その異形はもはや人とは思えぬほど。

 まず尻尾が生えているのだ。

 

 凛は応えた。

 

 「ええ。久しぶりね、クーフーリン。バーサーカーになったのかしら?」

 「はは!俺が真にバーサーカーになればこんなものじゃ済まんさ。」

 

 そしてそこに意外にも冷静な声がかけられる。

 士郎だった。

 

 「クーフーリン、義姉さんは、イリヤはここにいるのか?」

 「イリヤ?それは、この小聖杯のことか?」

 

 クーフーリンが指を鳴らす。

 すると、彼のルーンによって隠されていた姿が現れた。

 

 それは天の衣に身を包んだ、イリヤだった。

 

 

 「もう死んじまったが、コトミネの野郎の話だと、サーヴァントは、死ぬとその魔力がこの小聖杯に注がれるらしい。」

 

 イリヤには意識が無いようだ、その瞳をつむったままである。

 

 「それで、この小聖杯には既に六体分のサーヴァントの魔力で満ちている。ギルガメッシュの魔力がでかすぎたせいだろうな。」

 

 クーフーリンは続けた。

 

 「あと一騎滅ぼせば、聖杯は起動する。さてどいつにするか、よりどりみどりだな。」

 

 彼は舌なめずりしていた。

 だが、それをセイバーが否定する。

 

 「狩られるのは貴方です、クーフーリン!」

 「なるほど、三体一は少々面倒だな。」

 

 彼は酷薄な笑みを浮かべた。

 

 「だが俺はコトミネの思いつきで何日か前、この大聖杯にダイブさせられてな。どうもこの大聖杯の中の何かに気に入られたようだ。」

 

 クーフーリンは左手を掲げた。

 

 「だからこうやって、力を貸してくれる。」

 

 すると大聖杯から、三つの黒い靄が湧き出したのだ!

 その靄の一つが、セイバーの前に来ると、黒色のまま、一つの形に変わる。

 

 それは、シャドウサーヴァントと呼ばれる存在。

 

 セイバーは悲鳴をあげた。

 

 「ランスロット卿…!。また私の前に立つのか!」

 

 彼女を守るだろう士郎もそれはできなかった。

 彼の前には、双剣を構えた影が立ちふさがったのだ。

 

 「お前か…!」

 

 士郎もまた、双剣をその手に出現させる。

 そして、バードの前には。

 

 「バード?彼と戦えるの…?」

 

 長身の騎士が立ちふさがっていた。

 

 

 先日のことだ。

 

 凛は夢をみた。

 戦いの夢だ。

 

 凛はそれを識っているはずだった。

 だが、それでも、その夢は凛の心を粉々に砕きかけていた。

 

 神と相対するとはそういうことだ。

 

 バードとは、光の戦士とは、神殺しである。

 

 彼の世界において、神と相対し得るものは限られていた。

 なぜなら、神とは人を統べるものである。

 只人が、神と相対したならば、彼らはその威光に屈服し、信者(テンパード)となってしまうのである。

 

 神と戦うには『超える力』が必要だ。

 

 彼はすでに両手の指では数え切れぬ神を滅した。

 だが、戦いは終わらない。

 

 同じ神を、再び喚ぶものがいる。

 新たな神を、喚ぶものがいる。

 古に封印された神を、解放するものがいる。

 

 神は滅しなければならない。

 神は大地の魔力を吸い上げ、その地を人の住めぬ死の大地と化すからだ。

 

 彼に脱落は許されない。

 その『超える力』ゆえに。

 

 それは規格外(EX)の中の規格外(EX)

 何度でも、戦いをやり直せる力。

 

 彼は完全なる不死である。

 そして最近気がついた。

 この力を得てから、年老いていない。

 

 戦いは知恵ある生き物が全て滅びるその時まで、永遠に終わらない。

 もしくは、自分がすり減り、完全に摩耗するまで。

 

 だがそんな地獄の中で、彼を唯一救ってくれるものがあるとするならば。

 

 それは友である。

 

 

 「戦えるさ。」

 

 バードは朗々と宣言した。

 そしてその力を使う。

 

 「霊基変更(ジョブチェンジ)

 

 光に包まれた後そこには、シャドウサーヴァントと見紛う漆黒の鎧に身を包んだ騎士がいた。

 

 その騎士の名は暗黒騎士(ダークナイト)

 ただ弱き者を守るためにその剣を振るう彼らの理念を、世界は愛とよんだ。

 

 「お前を倒す、だがこれは憎しみの剣ではない。これは愛の剣なり。」

 

 ダークナイトは、優美なる大剣を掲げ、影の騎士に挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回

第九話 ~白魔道士~


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第九話 ~白魔道士~

 シャドウサーヴァントは滅んだ。

 所詮彼らは理性無き、できそこないのサーヴァント。

 宝具を持つ、真の英霊たちの敵ではない。

 

 だが、クーフーリンは全く弱気を見せなかった。

 

 「まあ当然か、だがなあ。まさか、これで終わりと思わんよな?」

 

 「愚かな、同じことを繰り返すつもりか?」

 

 セイバーがその剣をクーフーリンに向ける。

 

 「ああ、そうだ。だがな!さっきの千倍ならどうだ!?」

 

 

 セイバーはクーフーリンと斬り合っていた。

 彼の望む一対一の状況が生まれてしまっているのである。

 援護したいが、そんな余裕のあるものなどいようはずがない。

 それぞれのマスターを守るので精一杯なのだ。

 

 なぜならシャドウサーヴァントが

 

 無限に

 

 湧き出てきたからである。

 

 いくら倒しても途切れることがない。

 否、もはや明らかに増えるほうが早い。

 

 彼らはジリ貧だった。

 

 「どうする?どうすればいいの!?」

 

 凛は必死に考えた。

 しかし案が浮かばない。

 ダークナイトに令呪を使い、瞬間的に霊基変更(ジョブチェンジ)させて宝具を撃たせるか?

 いや、それは焼け石に水だろう。

 

 今彼が撃てる最大範囲の宝具はその名を「メテオ(隕石)

 天から星を堕とす、A+のランクを持つ対軍宝具である。

 

 だが、もはやその程度では終わらないのは明らかだ。

 大聖杯から溢れ出る影のサーヴァント達は、おそらく千を超えてくる。

 令呪を用いて宝具を連発することも考えたが、だめだった時はどうしようもなくなる。

 

 ならばあの大聖杯を破壊するか?

 それは最も愚かな行為だ。

 その時の被害は、おそらく冬木市だけで留まるまい。

 

 その時だ。

 

 王の勝鬨が響いたのは。

 

 

 「遠征は終わらぬ……我が胸に彼方への野心ある限り! 勝鬨を上げよ!!『王の軍勢(アイアニオン・ヘタイロイ)』!!」

 

 世界が変わった。

 

 かの征服王の世界に塗り替えられたのだ。

 今や広大な砂漠の中、二つの軍勢が対峙している。

 

 方や輝ける征服王の近衛師団。

 方やクーフーリンの率いる影の軍勢。

 

 彼らは凛の目前で

 

 激突した。

 

 「手向けと受け取れ…!」

 

 最初の一手はクーフーリンだった。

 朱黒く色を変えたその槍に魔力をため、中空に飛び上がる。

 

 「まずいわ!あれは対軍宝具よ!」

 

 双方の軍勢には宝具を使えないという制限がある。

 その一撃が解き放たれればライダーの軍勢は大きな被害を受けるだろう。

 

 それを止めたのはセイバーだった。

 

 「受け止めます!限界突破(リミットブレイク)!」

 

 「抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

 「ラストバスティオン(終わりにて寄り添う地)!」

 

 槍が分裂した。

 さらに分裂した。

 限り無く分裂したのだ。

 

 そして、セイバーに襲いかかる!

 

 

 だが彼女の前に、巨大なる、城壁が出現した。

 

 

 それは終末の要塞。

 絶滅に瀕した人類の、最後の拠り所。

 ウォーリアーの宝具が最古であったならば、パラディンの宝具は、最後のそれである。

 

 それは、セイバーに傷一つつけることなく、クーフーリンの宝具を防ぎきった。

 

 だが彼はまだ止まらない!

 

 「噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)!」

 

 その身が、禍々しき海獣の鎧に包まれた。

 それは、彼の怒りの結晶。

 彼がその怒りのまま征服王の軍勢に飛び込めば、おそらく勝敗は決するだろう。

 

 「仕留める!リン、令呪をくれ!」

 

 ダークナイトの宝具はセイバーと同じ、結界宝具である。

 ならば戦闘中にも関わらず、彼の霊基を変更させねばならない。

 令呪ならば、それを可能とするだろう。

 

 だが、その時彼女は悩んだのだ。

 

 

 マスターとサーヴァントには、夢という繋がりができる。

 凛は、自らのサーヴァントの真なる半生を識った。

 

 ゆえにその望みも。

 

 彼は、絶望しているのだ。

 無限に続く戦いに。

 

 彼は、戦いを好むものではないのである。

 

 彼は、漁師である。

 彼は、料理人である。

 彼は、革細工職人である。

 

 彼は、ギャザクラ勢である。

 

 よって彼は、疲れていたのだ。

 彼の聖杯にかける望みは超える力との決別。

 

 彼は友を見捨てられない。

 願いを叶え、戦いの中に飛び込み、そしていつか必ず命を失うだろう。

 

 凛は思った。

 

 それでいいのか?

 

 

 「令呪をもって命ず!ダークナイト!その霊基を変えなさい!」

 

 「霊基変更(ジョブチェンジ)!」

 

 彼の姿が変わった。

 蒼き鎧が彼を包んでいる。

 彼を称える名は『蒼の竜騎士』

 

 竜の力を身に宿し、一人で一国に値すると言われた天空の騎士。

 その宝具の名は『蒼天のドラゴンダイブ(ドラゴンソング)

 

 竜の力を全開放するその宝具は、その恐るべき威力にも関わらず、対人宝具なのである。

 それはクーフーリンの命脈を穿つだろう。

 そして彼は聖杯を手に入れる。

 

 だがそれでいいはずがない!

 

 「重ねて令呪をもって命ず!」

 「リン!?何を…」

 

 「気づきなさい!カレイドルビー!貴方には、無限の仲間がいるということに!」

 

 それは因果の逆転。

 彼女は賭けたのだ。

 

 『限界突破(リミットブレイク)』は一人では撃てない(・・・・・・・・)

 

 ならば彼の周りには

 

 仲間たちがいるはずだと!

 

 

 宝具を放とうとしたドラグーンは果たして気づいた。

 

 ナイトがいる。

 モンクがいる。

 召喚士がいる。

 機工士がいる。

 そして占星術師がいる。

 

 七人の仲間が自分を支えている。

 彼らは全身全霊で叫んでいた。

 

 仲間が『限界突破(リミットブレイク)』を撃つときの、礼儀なのだ、それは。

 

 そして、カレイドルビーは叫んだ。

 

 『蒼天のドラゴンダイブ(ドラゴンソング)

 

 

 『全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 士郎は、己の肉体から、その鞘を解き放つと、ピクリとも動かないイリヤに向かって、その力を使った。

 

 だが、なにも変わらない。

 イリヤは目を開けてくれない。

 

 「シロウ、それではだめなのです。」

 

 沈痛な表情をしたセイバーが士郎に話しかける。

 

 「その鞘は、いかなる害からも守ってくれる。いかなる傷も癒やしてくれます。しかし、イリヤは傷ついてなどいない。彼女は、聖杯となってしまった。彼女からは、もはや生命の鼓動を感じない。」

 

 その言葉を聞いても士郎は諦めることができなかった。

 自らの固有結界に存在するあらゆる宝具を考慮して彼女の復活を期する。

 だが、無い。

 

 彼女を、救えない。

 

 その時、士郎の肩を叩くものがあった。

 彼は、白い衣に身を包んでいた。

 

 まるで、聖人のようだ…。

 

 士郎はそう思った。

 

 「あれを試すのね?ルビー。でも…。」

 

 カレイドルビーは思った。

 確かに足りないだろう、『限界突破(リミットブレイク)』でも。

 

 だが、彼の世界で古くから語り継がれる言葉があった。

 誰もその言葉を口にすることはない、しかし、誰もが知っている言葉。

 

 自分という存在と、その言葉を捧げよう。

 

 

 世界が変わる。

 

 

 その場にいた誰もがカレイドルビーを注目した。

 

 彼はその杖を掲げ、そして祝詞をつぶやいた。

 

 『最終幻想(ファイナルファンタジー)生命の鼓動(パルス・オブ・ライフ)

 

 彼の地において、魔法と魔術の区別はない。

 だが、彼の今の行いは、奇跡と呼ばれただだろう。

 

 そして、イリヤは、目を開いたのだ。

 

 

 「いくのね?ルビー」

 「ああ、そうだリン。」

 

 彼の霊基が解けていく。

 まもなくこの地から消えるだろう。

 

 凛は思った。

 彼は聖杯の力を使ったのだろうか?

 

 「応えは得た。」

 「え?」

 

 カレイドルビーは、心からの笑顔を凛に見せた。

 

 「大丈夫だ、リン。私は、これから頑張っていける。私は一人ではないのだから。」

 

 そして彼は帰って行った、神々に愛されし地、エオルゼアへ。

 

 

 「それでどうであったか?ランサー。バーサーカーの真似事は?」

 

 ライダーは、地面に大の字になって寝転がるクーフーリンに話しかけた。

 ランサーは不機嫌そうに応える。

 

 「は、足りねえよ。」

 「だろうな、お主はようするに戦い足りなくてここにきたのだろう。」

 

 ランサーは立ち上がった。

 

 「さって、どうすっかなあ。」

 

 彼は負けたのだ。

 いくら戦闘狂とはいえ、今更ここにいるサーヴァントに挑むようなことはしない。

 それは戦士の行いではない。

 

 「ならば我が軍門に降らぬか?戦いならばいくらでも用意するぞ。」

 

 そこでランサーは初めてまともにライダーを見た。

 ライダーは更に語る。

 

 「余は受肉して、世界征服に再び挑むつもりだ。その道のりは険しいだろう。余についてくればいくらでも戦いの場はあるだろうな。」

 

 ランサーは思った。

 面白い。

 

 「いいだろう、だが下らぬと感じたら俺はいつでも去るからな。」

 

 

 「えっとね、聖杯の力は使えます。使えるんだけど…。」

 

 イリヤは言葉を濁した。

 

 「むう、いまさら受肉できんなど困るぞ。」

 「そうですよ!私は、その、シロウとごにょごにょ。」

 

 サーヴァントたちが意識を取り戻したイリヤに詰め寄る。

 

 「じゃあね!あれをなんとかしてちょうだい!」

 

 イリヤは背後を指さした。

 そこには汚されし大聖杯がある。

 

 その時、大聖杯から何かが生まれはじめた。

 サーヴァントたちは咄嗟に戦いの姿勢をとる。

 

 生まれいづるものの名は『アンリ・マユ(この世全ての悪)』。

 それはか弱きサーヴァントではない。

 その霊基は、神の位に届くもの。

 

 ゆえにその名は『蛮神アンリ・マユ』

 

 最後の戦いが、始まろうとしていた。

  




次回

最終話 ~遠坂凛は光の戦士である~


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最終話 ~遠坂凛は光の戦士である~

 遠坂凛は他のサーヴァントたちに話しかけた。

 

 「あれを倒します、いいわね?」

 

 「はい、あの歪んだ神を、許すわけにはいきません。」

 

 Altria Pendragonがパーティーに参加しました。

 

 「ああ。あんな化物を、放置するわけにはいかない、遠坂。」

 

 Emiya shirouがパーティーに参加しました。

 

 「もちろんだとも、余の戦車が。暴れたがっておるわ!」

 

 Iskandarがパーティーに参加しました。

 

 「面白そうだ。やってやろうじゃねえか!」

 

 Cú Chulainnがパーティーに参加しました。

 

 Light Party

 

 だが、遠坂は感じた。

 恐るべき神の威容を。

 このメンツで倒しきれるか!?

 

 その時だった。

 奇跡が熾されたのは。

 

 「イリヤは私が守ろう」

 

 Herculesがパーティーに参加しました。

 

 「神とはな!よかろう。雑種どもを駆逐するのは、あとにしてやろうではないか。」

 

 Gilgameshがパーティーに参加しました。

 

 「宗一郎様を殺さなかったことに免じて、手助けしてあげましょう。」

 

 Kuzuki Mediaがパーティーに参加しました。

 

 「次は神か。刀の振るいがいが、あるというものよ。」

 

 Sasaki Kojiroがパーティーに参加しました。

 

 Full Party

 

 突入準備が整いました!

 

 

 「ちょーっと凛さん?何傍観者のふりしてるんですか?」

 

 凛は突然初めて聞く声に話しかけられて驚愕した、辺りを見回す、すると。

 

 一本の杖が宙に浮かんでいたのだ。

 いや杖ではない、それはステッキ?

 それは、日曜朝の子供向けアニメに出てくるような、カラフルな色合いをしたステッキだった。

 

 「は、はあ?私がサーヴァントの戦いに加われるわけがないでしょう?」

 

 すると、そのステッキは呆れたように肩をすくめた。

 

 「なーにを言ってるんですか。だって貴女はカレイドルビーじゃないですか?」

 「え?」

 「さあ、私を手に取りなさい。そしてカレイドルビーに変身するんです!」

 

 この杖は、私に力を授けてくれるというのだろうか?

 凛は、吟遊詩人(バード)の衣装を身にまとった自分をイメージしつつ、そのステッキを手にとった。

 

 すると

 

 「なななななななによ!この格好は!」

 

 Kareid Rubyがパーティーに参加しました。

 

 Fate Party

 

   FUYUKI

 THE RYU DOU

アンリ・マユ討滅戦

 

 

   START

 

 

 この戦いに、敗北はありえない。

 理由は様々あれど、核となるは唯一つ。

 

 『遠坂凛は光の戦士である』

 

 

 間桐桜は恋する先輩の家を訪れた。

 

 「先輩、ごめんなさい。何日かこれなくて、ごにょごにょが出ないか、ずっと待ってたので…。」

 

 そして驚愕する。

 

 その空気の悪さに。

 

 4人の女性が、衛宮士郎を囲んで睨み合っている。

 本人は、全く気づかぬ素振りだ。

 

 しかし彼女に、後退はない。

 

 完




無料石10連で水着BB出ました。


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