「マギアレコード」 Pueri et puellae magicis (ゆっくりff)
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神浜に流れし新たなウワサ1

始めまして、ゆっくりffと申します。今回は初めてこのサイトで投稿をさせてもらいます。書きたいものを書いていくスタイルで語彙力等は全然ないと思います。
メインストーリーとサブストーリーを自分のやりたいようにやって
ちまちま進めていければと思います。なるべく長く続けていきたいので
感想や評価などもらえるとうれしいです。

2018/12/8現在
ストーリーが一区切りついたので、読みやすい用に
1話から編集を行っていこうとおもいます




またこれを読むうえでいくつかの注意点がございます。
※この作品はマギアレコードの第7章までと気分でいくつかのイベントの設定を参考に作成しています(この話自体を書こうと思って
設定を集めたのはだいたい2018 5月ごろのことです)本編のネタバレがあるのと、この話を読むうえで知っておいたほうがいい情報があるので、
先に本編を進めることをお勧めします。
これからも使えると思った設定は取り入れていこうと考えていますが、基本的には7章までの設定でやっていくつもりです。
※オリジナルキャラクターが主人公です。そして男性です。神聖な百合環境破壊します。私自身女性は男性と絡んでなんぼ!と考えている人です。
苦手な方は読むのを控えてください。
(とはいえ男なら一度くらいは妄想したはず…な内容だと思っています)
※独特な解釈、設定&、間違った解釈があると思われます。まあそこは2次創作なのでそういうものなのか~と思っていただければと思います…


「はあ…最近は史乃沙の活動ちょっと

減っていやになるわね」

 

 そういいながら水波レナはいつもの登校ルートどこかぼんやりしながら歩いている。

 追っかけているアイドルが最近少しだけ活動を減らし、イベントに当たる機会なくなってきた。

 さらに当たったとしても道中で魔女と遭遇し、開演時間に間に合わない、なんてこともあった。

 

「よっ!レナ辛気臭い顔してるじゃん。

 どうしたの?」

「レナちゃんおはよう」

 

 そういいながら二人の女性が歩いてくる。レナと同じ赤と白の制服を着た同級生であり同じ魔法少女でもある。よくチームも組んでいてレナの友人でもある、十咎ももこと秋野かえでだ。

…恥ずかしいから言ったことはないけど

 

「ああ、おはようかえで、ももこ」

「おはよう!でどうしたの?何か悩み事?」

「別にー…ただ最近ちょっと最近つまらないなーって。

あーあー、何か面白いことでもあればいいんだけどなー」

「面白いこと…面白いこと…」

「かえで、何かあるの?」

 

 とかえでに聞いてみたが、ちょっとかえでの様子がおかしい。

なんというか何かに恐れているような、そんな感じだ。

 

「……なにかあったの?」

「えっ?な、なんでもないよ!」

「…本当に?」

「本当本当!だからか近づけてこないで!レナちゃん怖いから!」

 

 とかえでは私がグイっと近づけた顔を手で押してくる。

 

(なによもう…せっかく人が心配してあげたのに…)

 

 もともと不機嫌だった私はさらに不機嫌になってくる。 

 かえでも不安そうな表情を変えずにいつもみたいに接してくるから私も反応に困り、少しの間お互いに沈黙する。

 

「あ!そういえばこんな噂知ってる?」

 

 沈黙を破ったのはももこだった。まあ、いつものことだ。

 さすが、魔法少女の間でも頼れるお姉さんとして名を

知られているだけのことはある。

 言う気のなさそうなかえでを見て要点をずらしながら長く話せそうな話題を持ってくる。

 

「ウワサ…また、やちよさんがもってきたの?」

 

 と私は少し怪訝そうに聞き返す。

 ただ普通の噂なら、馬鹿話で終わるしそんなに長く話せるような話題ではない。

 しかしこの地…神浜市に住む一部の魔法少女に取っては、取分け重要な案件となっていた。

 普通の「噂」とは違う「ウワサ」。

 やちよとかかわりを持つレナたちはウワサについても

知っているし、危険性もよく知っている。

 ちなみにやちよは神浜市最古参の魔法少女で、ウワサファイルみたいなものを作っていて、神浜市のウワサを集めている。

 レナたちはウワサについてはよくわかないけど、助けられた恩もあるし一応協力しているといった感じだ。

 ウワサとは…まあ、魔女と似た人々を迷わせる悪しき存在…とでも思っていればいいと思う。

 

「ああ、違う違う「ウワサ」じゃなくて「噂」魔法少女にだけはやっている。今大流行の噂だよ」

 

 ももこは手をブンブン振り回して私の疑問を提示する前に否定する

 

「ふーん?噂…ねぇウワサじゃないって確信はどこから来てるの?」

 

「あーいや…私も気になって人に聞いて回っていただけだから、確信っていうのはないんだけど。

 でも人々に一切ウワサされてないし、魔法少女にも特に害があるってわけじゃないから、普通の噂なのかなって」

 

 人々を迷わす存在…とだけあって基本的にウワサの出どころは一般人からだ。

 

「ももこちゃん。それどんな噂なの?」

「お?かえでもやっぱり気になる?じゃあちょっと聞いててね。

 もしかしたらもう知ってるかもだけど…2人は最近魔法少女を助けてくれる謎の存在がいるっているのは知ってる?」

 

私は首をかしげる。かえでを見ても?が浮かんでいる知らないようだった。

 

「例えば穢れがたまって魔女化しかけた人にグリーフシードを売ったり、例えば苦戦している時に突如として

矢が突き刺さったり、なんかトラップがあったりって、とにかく魔法少女を助けてくれる存在なんだよ」

 

魔法少女にいい噂とあってももこの話し方は少しテンションが上がったようなしゃべり方をしている

 

「それだけだったらどこかの魔法少女がやってるのかなってなるんだけど…どうやらその人…男の人らしいんだよ!

 だから魔法少女たちはその謎の男を探すのに夢中なんだって」

「……………」

「……………」

「ん?…どうしたの二人とも」

 

 ももこの噂を耳にしてレナはいつだったかの出来事が頭によぎる

 

「あーーーいやー…ちょっと身に覚えがあって…」

「えーと…実は私も…」

 

どうやらかえでにも何か心あたりがあるみたい。

 

「へえー!ってことは噂じゃなかったんだね」

「でもレナ別に姿見てるわけじゃないから…なんとも言えないけど…」

 

 とレナは数日ほど前に起こったことを思い出す。

 

 

 ☆

 

 

「はあはあはあ…」

 

 レナは器用に槍を使いながら、立ちふさがる使い魔を倒しつつ後退している。

 

「くっ!うっとおしいのよ!」

 

 持っている槍に水の力を付与し、近くにいる使い魔に上から振り下ろす。

 声にならない悲鳴を背に即座に反転、すぐ後ろに迫ってきた使い魔に槍を突き刺し走り出す。

 

(この使い魔…頭よすぎなのよ!なんでレナの逃げる方向ピンポイントで妨害してくるのよ!

 もしかして…あいつがいるから…?)

 

そう思いレナは離れたところで高見の見物を決め込む魔女をにらみつける。

 神浜市でよく見かける魔女ではあるが、今回は使い魔のおまけつき。

 しかもこっちは1人、最近複数で戦うことが多かったためか、変なミスが多発する。

 ソウルジェムにもゆっくりと穢れがたまり、次第に焦りが見え始める。

 使い魔の数は着々と減ってきてはいるが、相手の連携がなかなかに厄介で、魔女に対してはまだ一度も攻撃を

与えていない。

 

「ああ!もうまた邪魔して…」

 

 魔女に一撃加えようと考えていたところを使い魔の遠距離攻撃で邪魔されるが、攻撃を防いで立ち止まり、槍を構えなおす。

 使い魔は私を囲むように、きれいに散開している。

 

(これ以上やってもいたずらに魔力を減らすだけ…なら、多少の攻撃は覚悟して使い魔を倒し切る!)

「…………っ!」

 

 中腰になり、床をすべるように、突撃する

 水の魔法が使える魔法少女が好んでよく使う戦法だ。

 水の力で推進力を得て一直線に突き抜け刺突する。

 敵が一列に並んでいれば一気に倒すことが可能だ。

とはいえ現在は使い魔は散開している倒せたの1体だけ。

 使い魔の横で急停止をして即座に槍を右に払う。

 払った勢いを利用して半回転、いまだに状況が理解できていない使い魔に槍を突き立てる。

 

「痛ッ!」

 

 やっぱり少し無理があったか、対処しきれず後ろから攻撃を受ける。

 このまま攻撃を受けたらあっという間にバランスを崩す。

 でも突っ込んだおかげでこれは好機と使い魔がレナのほうに殺到している。

 しかし全方位をカバーできるような技をレナは持っていない。

 前方に続けざまに槍を突き立てながら、気配と風切り音だけを頼りに、後ろの敵の攻撃を読み取る。

 

(いまっ!)

 

 都合よく後ろの敵から攻撃が来た。

 望んでいた通り、横へ薙ぎ払うような攻撃だ、ここから回避はまず不可能。

 でもこれが狙い。敵の攻撃を受けて大きく吹っ飛び、私は大幅に狭くなった包囲網から逃れられる。

 

(ふふっ都合よく集まったわね…)

 

 なんとなくではあるが、攻撃がくるのはわかっていたので、レナは水を使い勢いを殺して受け身をとり、中腰になる。

 先ほどと同じ突進の構えだ。

 殺到してた使い魔はきれいに並んでる。

 

「はああぁぁぁ!」

 

 渾身の魔力を込めて地面をスライド、使い魔を巻き込みながら反対側に抜ける。

 そして右足を軸にその場で反転、勢いが殺し切れてないため思いっきりバランスを崩すが、無理な姿勢から

再度突撃をくりだす。

 だがそんなことをして無事に着地できるわけがない、

地面に身を投げて思いっきり転がる。

 痛む体を鞭打って起こし槍を構えなおす。

 けがは即座に回復するがそろそろ穢れをとらないとまずそうだ…

 とはいえ思い切った行動が功を奏した。

 使い魔は壊滅のこりは魔女だけとなった。

 

(一度撤退したほうが・・・よかったんだけどね…)

 

 高みの見物を決めていた魔女がいつの間に近くにいたことに今更気が付いた。

 ここまで近づかれては、態勢を立て直すために後退することもできないだろう。

 

「ああ、もう…本当に最悪ね。こんなんじゃイベント間に合いそうもないわね…」

 

荒れた息を整えて、濃厚に感じるようになってしまった、死の気配を振り払うかのように大声をあげる。

 

「ふん…あとはアンタだけよ!覚悟してよね!」

 

 まるでそれにこたえるかのように、魔女は声にならない叫びをあげ、攻撃を開始した。

 その距離からの攻撃なら、よけてカウンターを決められる………だが結果的にその目論見がかなうことはなかった。

 

「きゃっ!?」

 

 突如としてだれかに後ろからのしかかられた。

 力なく乗りかかる感じで振りほどくのは難しそうもないが、それでも致命的な隙となる。

 急いで後ろを見てみると、先ほどの使い魔が肩に乗っているのがわかる。

 

(うそ!倒し切れてなかったの!?)

 

 ちゃんと確認しておけばよかった…と後悔するが後の祭り、体の自由はきかずに、目の前迫ってくる魔女の攻撃はよけれない。

 

(やられるっ!)

 

 レナは目をつむり死を、覚悟した…

 

「………………………………ん?」

 

 覚悟していた衝撃がやってこない。

 おそるおそる目を開けてみると、突如背中に小さな衝撃が走る。

 

「きゃっ!な、なに?」

 

 矢だ、後ろにしがみついてきた使い魔に矢が突き刺さっている。

使い魔はその攻撃がとどめとなったのか、そのまま消滅

してしまった。

 矢もそのままカランと地面の落ちる。

魔法を使用しないタイプの武器だろうか、珍しいけど前例がないわけじゃない。

 そして見てみると魔女のほうにも矢が突き刺さっている。

 ドスッとまた鈍い音を立てて矢が突き刺さる、魔女の攻撃はその矢によって防がれたようだ。

 防がれた…という言い方は正しくない、実際には第2謝を警戒して攻撃を中断したといったところだ。

 攻撃から逃れようと、必死に手を動かすが、それをあざ笑うかのように隙間を正確に狙撃していく。

 その様子をぼーっと見ていた私だったけど、

 

(ッ!何やってるのよ!チャンスじゃない!)

 

 使える魔力凝縮する。

 ここで決めなければどうあがいても私には倒すことはできないだろう。

 インフィニットポセイドン…私が持つ必殺技。

 鏡を敵の周囲に展開。

 それを駆使して四方八方から斬りつけ、魔力を載せた槍を投げつけフィニッシュ…もちろんそんな芸当をすればかなりの魔力を持っていかれる。

 失敗をすればそのまま動けずただやられるのを待つのみとなる。

 現状まさに諸刃の剣と化した技だ。

普段は仲間との連携や予備のグリーフシードをで魔力を賄うわけだが、あいにくどちらも持っていない。

だが、それに見合う戦果を出せる自信があるほどのまさに必殺技にふさわしい威力を持っている。

 

「これで……とどめ!」

 

けだるげな体を懸命に動かし魔女に最後の攻撃を仕掛ける。

 これでレナの手持ちは空…これで倒れてくれなければ…と、いろいろ考えていたが、杞憂だったようだ。

 今攻撃で魔女は消滅代わりにグリーフシードが落ちている。

結界も消滅し、元の裏路地に戻る

 

「・・・・・・」

 

 一刻も早くグリーフシードに手を伸ばしたいところではあるが、レナは周りを見渡す。

 もちろん先ほど矢を射ってくれた人を探すためだ。

 同じ魔法少女だしグリーフシードも狙っているに違いない。

 そこのところも含めていろいろ話をしたかったのだけれど…

 

「おかしいわね…いない?」

 

 周りを見渡しても、誰もいない。

 いやたった今裏路地から抜けていった黒いパーカーを着た男はいた。

 背中には弓と矢筒背負っている。

 判断材料は学校の弓道部で見たことがあるから、って

理由で確信があるわけじゃないのだけれど…男と判断したのも体格と身長を見てだ。

 もしかしたらその人が魔法少女かもしれないけれど…その人以外に年ごろの女の子はおろか人いない。

 

「…?まあ、グリーフシードいらないならいらないでそれでもいいんだけど…」

 

 レナはグリーフシードを持って穢れを払い、急いで大通りを出た。

 あのパーカーの人はいない、たくさんの人込みに紛れて

どこかにいなくなってしまったようだ

 

「あの人…いったい何者…?」

 

 レナの声にこたえてくれる人はいなく、レナもそのことはすっかりと忘れていたのだ

 

 

 

 

「ってことがあったのよ。…今まですっかり忘れていたけれど…」

「レナ…とりあえず無事でよかったよ…」

 

 ももこはふぅ…と安堵の息を吐き出す

 

「本当に…よかったよぉ~」

 

 とかえではレナに駆け寄って思いっきり抱き着く。

 そのまま強く力を込めているせいか、少し痛い。

 

「ちょ、かえで!熱いから離れてよ!」

「………………」

「かえで…?」

「あのね…レナちゃん、ももこちゃん。ちょっと聞いてほしいことがあるの…」

 

 かえでは少し涙声だった。

 少し様子がおかしいな…抱き着いて離れようとしない彼女の顔からは魔法少女の真実の話を聞いたときと、似たような感じがした。

 

 

 

 

 かえでは地面に突っ伏していた。

 こんな真昼間からそんなことをしていたらさすがに声をかけられる…それが普通の場所ならば。

 そうここは魔女の結界の内部、魔法少女がたまたま通りかかるのを祈るしかない。

 しかし、そんな悠長なことを言ってられないのは自分が一番よく分かっている。

 地面に突っ伏しているのはソウルジェムに穢れがたまったからだ。

 

(うう………体が、重たい…)

 

 善戦したが倒し切れなければ意味はない。

 すでに魔法や回復はおろか、体を動かせるような魔力も残っていない。

 

(ここで倒れたら…私…)

 

 ももこからすでに魔女化の話は聞いている。

 大切な友達がいるから何とかそのことからも乗り切って、今こうして活動ができるが、その恐怖が消えたわけではない。

 私は涙を流しながらいろいろと後悔をしたなんであそこでこっちに曲がっちゃんだろう。

なんでレナちゃんたちと合流することをしなかったんだろう。

 グリーフシードの変えくらい用意しておけばよかった、あそこで攻撃をしてなかったら…きりがない、それでも浮かばずにはいられない。

 しかしそんなふうに考えていても意味がない、何とか逃げるようにと頭を回転させるが脳から出る結論はここで死ぬ、不可能、の一点張り。

活路は一つも出てこなかった。

 

「しにたく………ない、よぉ…」

 

 死にたくないか

 

「助けて……だれ、か」

 

 質問の意味になっていない死にたくないか

 

「死にたく、ない………よ……なんでも…………する、から…たす、け…て…」

 

 どんどん意識が遠のいていく中、私は何者かの呼びかけに必死で応じていた。

 いや応じていたというよりかは、半ば無意識に答えていたというほうが正しいだろうか。

 

「ッ!!」

 

 突如私は意識を覚醒させる。バッと頭をあげて、周囲を見渡す。

 

(どうして…?私、いったい…)

 

 眠りから覚めたみたいに前後の記憶が飛んでいてすぐに状況が把握できない。

 

(そう…だ、私魔女と戦って、でも逆に追い詰められちゃって…それから…)

「そ、そうだ!魔女…」

 

 かえでははっと息をのみ急いで周りを確認する。

 あっさりと魔女は発見できた。

しかし魔女は何やら拘束されて身動きが取れない状態のようだ。

 棘のようなものが全身に巻き付いている。

さきほどの猛攻はいったいどこに行ったのやら、よっぽど強い力で締め付けれられているのだろうか、魔女はピクリとも動かない。

 

「い、今のうちに…」

 

 と魔女にとどめを刺そうと思って気が付く魔力が回復している?そばには穢れの溜まったグリーフシードが置いてあり、誰かが助けてくれたのであろうことは容易に想像がつく、でも近くにはいない。

 

「…?」

 

 この棘は間違いなく魔法少女の物のはずだから近くにはいるとは思うのだけれど…しかし、私は途中で考えるのをやめて魔女と向き合った。

 棘がいつまでもつかわからない以上、早期決着をつけるべきだ。

 撤退のことも頭によぎったが、不思議とこの棘が信用出来て、今なら倒せると思えたのだ。

 自分も似たような魔法を使っているからだろうか?

 

「…いきます!」

 

 杖を握り直しかえでは植物を呼び出し魔女に突き立てる。

 結果から言えばさっきの惨敗はどこへ行ったのかというほど圧勝だった。

 まあ、相手は文字通り身動き一つとれないので当たり前といえば当たり前だったのだが。

 

「はぁ…はぁ…はぁ………よ、よかった…」

 

 とりあえしばらくは一人で魔女とは戦わないと心に誓い、かえではあたりを見渡す。

 魔女がいなくなり、人気の少ない住宅地に景色は戻る。

 結界が解けたのだ。近くにいれば会えそうだとおもったのだけれど、残念なことに助けてくれたであろう魔法少女はどこにもいなかった。

 

「お礼くらい…言いたかったな」

 

 そうポロリと口に出しながら、今回の戦いでゲットしたグリーフシードをポケットに収める。

 そこで彼女はようやく自分のポケットに何かが入っているのに気が付いた。

 

「なんだろう…これ?」

 

 丁寧に折りたたまれた紙にはグリーフシードの支払いは再来週の土曜日朝10時新西区公園の北入り口から3つのベンチで…最初は何を書いてあるのは理解出来なかったが、それでもすぐに理解できた。

 私を助けるために使ってくれたグリーフシード、これの代金を要求しているのだ。

 

「あ、え……あ…」

 

 先ほどの感謝の気持ちはどこに行ったのかかえでの心は不安でいっぱいになってしまった。

 軽く呼吸を忘れていたようで、苦しくなってからようやく頭が回り始める。

 

「ど、どうしよう…私、お金なんて全然持ってないのに…」

 

 かえではそんなふうに慌てていたが、そのあと親からの連絡でいくらか冷静になって、とりあえずはいったん家に帰ることにした。

 帰ってしばらくはこの手紙を見て心臓が飛び出るのではないかというほどバクバクなっていた。

 が、誰にも相談できず、紙は机の奥のほうにしまって、見ないようにしていると自然とそのことが頭から離れていった。

 落ち着いたら話そうと思っていたのだけれど、突然の展開過ぎて脳の処理が追い付かなくて、あれも夢だったのかな?と忘れるようになってしまった。

 さっきの面白いことというふうに聞かれて記憶をたどっていくうちに完全に思い出してしまったということだ。

 

 

 

 

「…………あー、あれだ…とりあえず、二人とも無事でよかったよ。

 もう一人で戦うことは極力避けてな」

 

 ももこは私たちを力強く抱きしめてくれた私たちよりも大きな体が、優しく、零れ落ちないように、包み込んでくれる。

 

「………………」

 

かえではさらに、レナとももこにくっ付いて、コクコクとうなずく

 

「ちょっと、ももこもかえでも熱いんだけど…」

 

 それでもまんざらでもないレナの顔を見てももこは満面の笑みを浮かべた。

 さて…と、レナは一度区切り、先ほどの話を追求する。

 

「それで、そのふざけた請求書に再来週の土曜日って書いてあったみたいだけど、いつのなの?」

「えっと…あ、明日」

「すぐじゃない!もう、どうしてもっと早く言わないのよ」

「ごめんなさい…」

「べ、べつに謝ってほしいわけじゃ…」

「ほら、その辺にして、とりあえず放課後にまた集まろうよ。ね?」

「ありがとう…」

「泣かなくていいんだよかえで。アタシ達はチームだからな!」

「そうよ、勝手にグリーフシード渡てきたのにお金要求するなんてありえないわ」

 

 不安にさせないように笑顔を振りまいてくれるももこと、腕を組みながらこちらを心配そうに、そして助けてくれた人を責めるように虚空をにらむレナ。

 二人の親友を頼もしいと思いながら私たちは学校に向けて足を進める。

 二人に話したおかげでだいぶ気持ちは軽くなった、けれども一度は忘れてた不安がよみがえり、今日の授業は

頭に入ってこなかった。

 

 

 

 

「じゃあ、本当にそれでいいの?」

「正式な請求書でもないんだし無視してもいいんじゃない?」

 

 レナとももこはかえでが考えていたことを否定する。 

 ここは新西区にあるカフェ、おいしいコーヒーとケーキが手ごろな値段で食べられておいしいと若い女子に人気のあるスポットだった。

 お店も静かな雰囲気で居心地がよく、座席がきれいに分かれていてほかの人からしゃべってるところが見えにくいうえに、店内に流れているBGMの音量が少し大きいことから、音量に気を付ければ、ほかの人にも聞かれない。

 私たちはよく外で魔法少女のことを相談する時に使っていた。

 

「うん…持ってないものは渡せないし…公園だったら人目もあると思うし…」

「じゃあ、普通に無視でいいんじゃないの?わざわざ足を運ばなくても…」

「で、でも…私のこと助けてくれた命の恩人でもあるから」

「律儀だな…」

 

 ももこはそう言ってため息をつく、みんなはその人が悪いみたいなことを言っているけれど、その人がいなければかえでは死んでいたし、最悪魔女化してみんなを襲っていたのかもしれない。

 こんなふうに代金を求められたのにはびっくりしたけれど、それでも、会ってお礼くらいはしたかった。

 

「まあ、そういうことなら私もついていくよ、1人より2人、2人より3人だ」

「えっ?でも…」

「ここまで話しておいて一人で行くなんて言ったらレナ本気で怒るわよ?」

 

 レナは少し不機嫌そうにかえでをにらむ

 

「レナちゃん…」

「その手紙には一人で来いなんてかかれてないだろ?大丈夫だよ。

 それにもし悪人だったらあたしたちが守れるし、もし善人ならあたしからもお礼は言いたいからさ」

「ももこちゃん…」

「そういうことよ。だからさっさと行ったりしちゃだめだからね」

「…二人ともありがとう…」

「一応、念には念を入れておいたほうがいいかもしれないね」

「ももこ?何かするの?」

「もちろん、この手のことに置いては一番頼れそうだと思う人だよ」

 

 ももこが言うその人というのを私はすぐに理解できた。

 この手の問題というよりかは普通にどんなことでも困ったら相談に乗ってくれそうな人だ。

 前と比べて、交流も多くなり、年上の魔法少女で

近寄りがたい存在ではあったけど、ある事件からかなり丸くなり、今では気軽に頼れる先輩だ。

 

 

 




ピクシブですでに3話分くらい投稿してるので次はすぐに投稿できると思います。


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神浜に流れし新たなウワサ2

プロローグ的なものはここで終わりです。次の話もすぐに投稿できそうです。


~土曜日神浜市新西区公園北入り口~

 

 約束の日の土曜日…場所は新西区公園北入り口。

 集合時間になっても来ないももこに少し不安を覚えながら、雑談をはさんでかえでとレナが待っていた。

 

「ごめん!遅くなっちゃった。」

 

 そういってももこは手を振りながらこちらに走ってきた。

いつもとは違う、ボーイッシュぽくてかわいらしい私服を着ていて、歳に比べて発育のいいその体が引き立ってるように見える。

 

「ももこが遅刻なんて珍し…くもないけど、どうかしたの?」

「ちょっと早く来て、怪しいものがないか回ってたんだよ」

「えっ?もう、そういうのは一緒にやってこそじゃないの?私たち何のために集まったのよ」

「ははは、ごめんごめん…それでかえで、決心はついた?」

「うん…大丈夫だよ」

 

 そういってかえではこちらに顔を向けて笑顔を向ける。

やせ我慢をしているのはまるわかりだった。

「……うんじゃあ安心だな。

アタシたちも一緒にいるからさ…って言っても肝心のその人がまだ来てないみたいだけどね」

 

 最初からご対面ではなく、いったん距離を置いてそのベンチにいる人を、遠くから観察しようというレナの案特に問題はないと考え、こうして3人で入り口からベンチを眺めている。

 すでに指定された時刻となっているが、指定されたベンチにはまだ誰も来ていなかった。

 

「周りにも…人、あんまりいないよね?」

「自分から指定しておいて…本当におかしな人ね、その男って言うのは」

 

 レナは不機嫌な顔になりながらあたりを見渡す。

 老夫婦、親子、ユニフォームを着て走るお兄さん…其れらしき人物は見当たらない。

 私たちはベンチを中心地にしてあたりをうろうろして探していた。

 

「どうする…?もし、相手が同じこと考えてたら…このまま平行線になるんじゃない?」

「かといって、こっちから出るのはなぁ……ん?あれ?」

「ど、どうしたのももこちゃん?」

「いやー…あのベンチ…なんか物置いてない?」

「えっ?」

 

 見てみると確かにおいてある。

 今まで私たちがいた場所からでは背が邪魔して見えなかったのだが、周りを回ってベンチの座の部分が見える場所に来るとそこにいろいろ置いてあるのがわかる。

 

「…もしかして…あれかな?」

「だとしたらずいぶん不用心ね。誰かに取られちゃうかもしれないのに」

「ずっと見てたけどその心配はいらないみたいね」

 

 ベンチの近くの木陰から女性の声が聞こえてくる。

 

「や、やちよさん!」

 

 髪から服まで、青を主体にした色合いで整えられた美しい女性やちよだ。

 やちよに頼んだのは情報だけなので、まさかここまで来るとは思わなかった。

 

「おはよう3人とも」

「ど、どうしてここに…?」

「もちろんアタシが呼んだんだよ。こんな事例今までにないし、頼りになるだろう?」

「た、確かにそうだけど…」

 

 

 と少し緊張しているのか体が強張るレナ。

 かえでのほうもオロオロしている感じだ。

 

「とりあえず1時間くらい見ていたけど誰一人このベンチには近づかなかったわ。

ついでに言うと、私が来た時にはすでにそれが置いてあったわ」

「まじかー…ずいぶんと早いんだな…中身とか見た?」

「いえ、それはあなたたちがするべきことだと、私は思ったからやらなかったわよ」

「やるべきこと…?」

「メモを見ればわかると思うけれど」

「そっか…」

「…ごめんなさいね今日撮影があって向かわなきゃいけない場所があるの。」

「ああ、手間とらせちゃってごめん、ありがとやちよさん」

 

 頑張ってね、とやちよは小さく手を振り公園を後にする。

 やちよももこたちよりずっと長く魔法少女をやっていて、歳も19くらいだったか。

 緊張しっぱなしだった体をほぐすために大きくため息をつく

 

「もう、手伝ってくれてるなら言ってくれてもよかったのに…というか相談だけじゃなかったのね…」

「ごめんごめん、でも頼もしいでしょ?」

「頼もしいけど!…はぁ、せめて心の準備がほしかった…」

「ははは…じゃあ、見てみようか」

「………」

 

 そういってももこはベンチに近づく。

 かえでもそれに合わせてゆっくりと頷き、恐る恐るベンチに近づく。

 ベンチの上には二つほどの両手で抱えられそうな大きさの段ボールと、おそらくそれに合うであろう大き目の台車、そして2枚の紙が置いてあった。

 紙は飛ばされないように石で挟んであってメモ帳くらいの小さい紙だった。

 かえではそれを緊張した面持ちで手に取る、ゆっくりと開いて中を確認してみると…

 

「配達…?」

「えっ?」

「配達…?ってあの配達よね?」

 

レナとももこは同時に聞き返す。

 

「うん…ここに書いてある通りに段ボールの中身を一家1つ届けてほしいって」

「…なんかアルバイトみたいね…ほかに何か書いてないの?」

「えーと…住所と名前が書いてある紙と…地図は別紙って書いてある…」

「じゃあこのなかかなって…2人ともこれ…」

 

 ももこは段ボールの中を開いてみんなに見せる。

 そこに入っているのは子供向けのお菓子と、おもちゃをかわいく梱包したものが、いくつも入っていた。

 段ボール1つに対して入っていないけど、2つもあるならそれなりの量になる。

 40くらいだろうか?

 

「はあ…これを代わりに配達してほしいってこと?」

「あっこれ小学生低学年を対象にしたボランティア清掃のお礼って書いてある。」

 

かえでは読み進めていくうちにこの配達の目的が記されている所を発見した。

 

「へー…そんなのが、まあ私たちじゃ付き合いないからわかんないか…」

「ますます意味わかんないわね…グリーフシードを渡した人はいったいかえでに

何させたいのかしら?」

「でも、こんなことでよかったじゃん。」

「大金よこせとか言われても、渡せないし」

 

 とももこは少しだけ笑いながら言った。

 

「うん…それでこれ、私たちだけで配って大丈夫なのかな…?こう言うのって大人がやるんでしょ?」

「これが高度ないたずらだったら、さすがにびっくりだよ…おもちゃは新品、お菓子の消費期限は当分先…」

 

 と、うんうんと考えていると、ほんの少しだけ、ささやき声が聞こえてくるのがわかる。

 ちょっとささやいてすぐ公園の中に入る感じだが、内容があの段ボールなので、間違いなくこっちのことを見ていっているのだろう。

 10時ともなれば、気の早い子供を遊ばせに家族とかがやってきたり、カップルが待ち合わせるのにちょうどいい時間だ。

 これからも人が増えてくると考えると目立つ前に早く決めたほうがよさそうだ。

 

「ど、どうしようこれ…」

 

 とはいえすぐには決められない。

 オドオドしているかえでをよそにももこはとりあえずここまでの情報から一度はやってみるのもありなのでは?と考えた。

 

「うーん…………よし、とりあえず一軒回ってみよう。

 それでそこの人の反応を見て決める…どう?」

「いいかもだけど………って私また変身使うのは勘弁よ!」

 

 レナは固有能力として変身能力を持っている。

 かなりの高精度で、他人そっくりに化けることができるのだ。

 これまでもいろんな大人になって、さまざまな場面で活躍してきた。

 とはいえ絶対にばれないというわけではない。

 変身しているこっちもいつばれるか、内心ひやひやしているのだ。

 好き好んで やりたいとはとても思わない。

 今回の場合、怪しまれないのはボランティアを仕切った大人に化けるのが一番怪しまれないだろう。

 こう言った訪問に知らない女子高生1人と女子中学生2人が訪問しても怪しまれるだけだ。

 

「大丈夫だよレナちゃん…お手伝いっていえば、怪しまれないと思うし…」

「まあ、あたしたちなら最悪逃げることも可能だからな」

「別に逃げる必要はないと思うんだけど…」

 

 彼女たちはその後、視線を感じながら手早く準備をして、幸いにももこの親戚の家の住所を見つけたことから、とりあえずここからと決め、配達を始めるのであった…

 

 

 ☆

 

 

 土曜日のおおよそ11時くらい、場所は新西区住宅地、用事がある人は大体出かけ終えたところだろうか。

 休日ではあるが、人通りは少ない。

 レナ達は交代しながら台車を押し、段ボールを運んでいる。

 

「それで…ももこの親戚ってどんな人なの?」

 

 レナは台車を押しながらももこの親戚について聞いてみる。

 ももこが知り合いだから向かうという話になってはいるが、それでももし相手が高圧的な態度をとる人間だったら、知り合いであろうと意味が亡くなってしまう。

 

「どんな…って言われても普通の年老いたおばあちゃんが住んでいるだけだよ。あったのも中学生の時だから向こうが覚えているかわからないけど…」

「でも突然訪問して大丈夫かな?」

「普通の訪問ならともかく、今は配達だからなぁ…大丈夫だろ!」

 

 見えてきたよ、とももこが指さすその先には昔ながらの一軒家というべきか、古い家屋が姿を現した。

 かなりの月日がたっているのだろう、外装に少し傷が目立つ。

 瓦屋根に縁側と大きな庭に小さな池、今はもう見ることのほうが難しくなってきた昔の家。

 実はこの神浜市で結構見ることができる。

 かえではインターホンを鳴らして、段ボールの中から包みを1つ取り出す。

 しばらくすると人当たりのよさそうなおばさんが戸を開けて出てきた。

 

「こんにちは…えーとどういった御用かしら?」

「あ…えーと…こ、これを!」

 

 かえでは大した話もせず持っていた包みを頭を下げながらおばさんに渡す。

 当然といえば当然だがおばさんも何のことかわからずに困惑しているようだ。

 

「えーと…きゅ、急にどうしちゃったの?」

「あ…その、これお礼です!お礼!」

「ははは…かえで緊張しすぎだよ」

 

 ももこはかえでの頭に手を置いておばさんに話しかける。

 

「おばさん久しぶり元気にしてた?」

「あらあら~ももこちゃんじゃないまたまた大きくなったわね~もう高校生になったんでしょう?どうどう?彼氏の一人や二人で来たんじゃないの?」

 

 とおばさんはももこを覚えていたようでほかの二人に目もくれずマシンガントークを始めてしまった。

 ももこのほうも、ろくな回答を出せてないで愛想笑いをしているだけだがそれでも満足なのだろうか。

 おばさんの話は止まることはなかった。

 

「お、おばさん!そろそろ本題入ってもいいかな?」

 

 止まらない話をいいタイミングで遮った

 ももこは後ろの二人を紹介しようと、手を引っ張ってきた。

 

 「とりあえずこの二人がレナとかえでって言って、私の友人」

「こ、こんにちはです…」

「こんにちは…」

 

 どっちかと言うと人見知りの激しい二人はおずおずといった様子で静かに挨拶をする。

 おばさんはそれでも満面の笑みを浮かべて

 

「なるほど~レナちゃんにかえでちゃんね!それで本題ってなんのことかしら?」

「はい、これ清掃ボランティア参加のお礼の品なんですけれど…」

 

 ようやく落ち着いてきたかえでは持っていた包みをおばさんに渡す。

 おばさんは一瞬首をかしげてうーんとうなるが、

 

「あ!この前の清掃活動のことね!しょうくーんようやく来たわよ!」

 

おばさんは包みを受け取ってから家に向かって誰かを呼ぶように声を上げる。

しばらくするとドタトダと足音を立てながら一人の男の子が玄関から飛び出してきた。

 

「おばあちゃーんなにー?」

「しょう君この前町をきれいにしてくれたでしょ?その時のお礼でお菓子を貰ったのよ」

「ほんとう!?わーい!」

 

 しょう君と呼ばれた男の子ははそう言いながらおばさんからもらった包みを大事そうに抱えた。

 

「ほらしょうくん。喜ぶのはいいけど先に言うことがあるでしょ?」

「うん!…おねえーさんたちがもってきてくれたの?」

「えっ!?う、うんそうだよ」

 

 少しびっくりして引きつった声を上げたかえでだが、しょうはかえでたちに近づいてその頭を下げた後に満面の笑みを浮かべながら

 

「おねえさん!ありがとう!」

 

 と感謝の言葉を述べた。

 かえでは照れ臭そうに笑いながらどういたしましてと、目線を合わせて微笑んだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 その後の配達はあっさりと終わった。

 1回目の訪問でこの配達が偽物ではないとわかり、かえでたちは包みを民家に届けて回った。

 ボランティアに参加した人たちは皆いい人たちばっかりで、配達の手伝いをしている私たちにお菓子とかジュースをふるまってくれた。

 

「なんか…こういうの久しぶりな気がする。」

 

 しみじみといった感じでかえでは声を漏らす。

 

「こういうの?」

 

 貰ったジュースを飲みながらももこはそのつぶやきに応じる。

 日はすでに落ちかけていてあたりをオレンジ色に染めあげる。

 メモに書いてあった配達後の行動は同じ場所に、台車を返してほしいとのことだ。

 それで支払いは終了…

 

「なんていうのかな?…うまく言葉にできないんだけど、純粋な好意…かな?」

「なんだよ~私のこれは純粋な好意じゃないのかよ~?」

 

口を尖らせたももこが肩に手をまわしながら頭をなで始めた。

セットした髪があっという間に乱れる

 

「これは明らかに違うでしょ~」

「はははごめんごめん…でなんだっけ?」

「もう…純粋な好意だよ。やっぱり魔法少女相手だと、どうしても裏とか考えちゃうでしょ?

 学校でも、なんか居心地悪かったりで、最近根本的なところで人を信じ切れていないのかなって…」

 

「………」

 

 心当たりがあるのかレナは口を慎む。

 最近の1件だとマギウスなんかいい例だろう。自分達を救うために甘い声をかけて、その目的のために一般人に対しての容赦が一切ない。

 あの組織、裏を読めなければその甘い言葉に惑わされて道を踏み外す…とレナ達はもちろんやちよさんたちもかんがえている。

 

「でも、あの人たちは違う。ただそこにあるのは純粋な感謝の気持ちだけ…特に子供とか…可愛かったよね?」

「そうだな~なんていうか癒されたな」

「まあ、否定はしないわ…」

 

 レナが素直じゃないのはいつものこと、2人ともかえでが思っていたことを思ってくれてるみたいだった。

 もちろん、これはただの思い込み。

 こっちが一方的にそう思ってるだけで、実際はそうじゃないのかもしれない。

 それでも、あの笑顔は頭に焼き付いている。

 目を合わせて、全身で喜びを表し、しっかりとお礼も忘れない。

 そんな子供たちを見ていると、こっちも気分がよくなってくる。

 

「セラピーって言うんだっけ?私たちも知らないうちにいろいろためていたのかもしれないね」

「突き止めるつもりがますます謎になっただけね」

「なにが?」

「忘れたとか言わないでしょうね?これ送り付けた人のことよ!」

「あっ」

 

 レナはかえでが受け取っていった請求書なる紙を見せている。

 途中で途中で回るのが楽しくなってすっかり忘れていた。

 そう言われると確かに謎めいてくる。

 金銭は要求しないで、ボランティアの手伝いをさせる。

 回った民家からも情報を聞こうとしたけれど全員心当たりがないという。

 貴重なグリーフシードの代金にしてはずいぶんと安すぎるし、これをさせたところで向こうのメリットは全然ないように思える。

 そんなにこの仕事をしたくないのだろうか?だとすれば引き受けなければいい話だ。

 ボランティアなのだから誰か別の人がやってくれるだろうに。

 そして極めつけに…

 

「……本当にこの人何がしたかったのかえでに請求書送り付けた人…」

「わっかんねーな…でもおいしそうだね」

 

 朝台車が置いてあったベンチには今は小さな袋2つ置いてあった。

 1つはスーパーでよく見るレジ袋にお茶が入っている。

 そしてもう一つはとある団子屋の名前が書いてあった。

 なかには数種類の団子が入っていてどれもこれもおいしそうだ。

 というかこの団子屋、この町で1,2を争うほどの有名店のようだ。

 休日なら人が並ぶくらい混むと言われている。

 一度は食べてみたいなーと思いつつ、朝から並ぶ人たちを見ると並ぶ気力が失せるし、平日の学校帰りにはすでになくなる。

 メモ用紙も添えられてあって開いてみると、お疲れ様、皆で食べてくださいと書いてあった。

 

「このお団子…ゴクリ…」

「って向こうは私たちのこと完全に把握してたみたいだね」

 

ももこはやれやれと頭を抱える

 

「どうして?」

「お茶は3つ、団子は6つ…偶然とは思えないな」

「確かに、くるってわかってたのか、それとも配達のところを見られてたのか…まあ後者よね」

「…これ変なもの入ってないよね?」

「ちょっと…やめてよ。考えないようにして食べようと思ってたのに…」

 

 確かに目的も果たしたし、こんな怪しいものには手を付けずに、さっさと立ち去るのが賢明な判断と言えるだろう。

 それでも、目の前にあるのは前々から食べてみたいと思っていた有名店の団子。

 謎の人物についてはまだ全然わからないけど、少なくとも悪い人ではないと思う。

 眺めていたら徐々に思考は欲に傾く。

 

「じゃあ…あんまり遅くなると夜ごはん食べられなくなっちゃうし、食べちゃおうよ」

「そうね、レナも歩きっぱなしで疲れたし!」

「ははは、じゃあいただきます」

 

 私たちはベンチに座って、団子を広げることにした。

 出来立てを提供する店ではあるが、買ってから時間がたっているためか、生暖かい。

 それでも程よい硬さの団子に甘い味付けの濃厚なしょうゆが口いっぱいに広がる。

 さすがは有名店これはなかなかの絶品だった。

 

「これ、すごいおいしいわね!」

「うん……これなら朝並んで買う理由もうなずけるな」

 

 朝に存在した緊張感はいったい何処へいったのか2人は談笑をしながらあっという間に団子を平らげる。

 かえでも夕日によってその雰囲気を変えたきれいな公園を見て、その優しい風に身を震わせながら団子に舌鼓をうつ。

 最後の最後まで謎ではあったけれど、それでもこんな形で終わってよかった。 

昨日から緊張しっぱなしだった肩がようやく降りて、眠気というわかりやすい形でかえでをおそう。

 眠くならないように、2人の談笑に参加しながら帰路に付く。

 

「結局…きちんとお礼、言えなかったなぁ…」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ふうー…支払いの完了を確認しました。またご利用くださいねっと」

 

 静まり返った夜の公園にパーカーを羽織った男が姿を現す。

 入り口から3番目のベンチに置いてあった、台車に近づき、一緒にたたんでおいてある段ボールを見てつぶやく。

 台車に張り付けてある小さな紙切れに気づき、摘まみ上げる。

 可愛らしい字でありがとうございました。と書いてあった。

 

「別にお礼言われることはなにもしてねーけどな…ギブ&テイクだ」

 

 頭を掻きながら勝手に切れ端に反応して、慣れた手つきで台車をかたずけ始める。

 

「さて…ここにきて1週間くらいか、活動しやすいように噂を広めたがあっという間に広がったな。

 さすがは今ホットな神浜市。魔法少女の多さも1ってか」

 

 2つの台車と空きの段ボールを抱えて、路肩に止まっているサイドカーに放り投げる。

 バイクに寄りかかりポケットから茶色の小さい棒状のものを取り出す。葉巻だ。

 左手でキャップが飛ばないように押さえつけながらフラットカッターで先端を切る。

 ライターでゆっくりと周りをあぶっていき、白くなったところで道具をしまう。

 

「ふぅ……………これは、まだまだ慣れそうにねぇな」

 

訝しげに葉巻を眺めながら、スマホを片手にメモ帳を開く。

 

「この地に魔女が集結していることはほぼ確定。

 そして原因は不明…キュウべえが言ってたことは本当だったのか、まああいつは聞けば答えてくれるからな……そして前に来た時よりも魔法少女に関しては知らない顔をかなり見かけるな…前回はほとんど顔を合せなかったという理由もあるが…」

 

 その他魔法少女勢力や、魔女の活動場所、拠点にするのに最適な場所などをピックアップしていく。

 白い煙を立ち昇らせながらそのフードに隠れた顔を月明かりが怪しく照らす。

 

「魔女、魔法少女の増加で思った以上に複雑に出来上がっているんだな…この神浜市は。

 1週間、探りを入れて正解だったようだな。

 やっぱりに彼女に接触するのが一番よさそうだ」

 

 こちらとしてもむやみやたらと目立つつもりはさらさらない。

 慎重に行動しなければあっという間に飲み込まれるだろう。

 自由に行動してこそのこの商売だというのにそれでは意味がない。

 それに、この町には別の町にない「なにか」がある。

 それを解明していくうえでも顔を売りすぎて便利屋になり下がる事だけは避けるつもりだ。

 それでいて知名度は稼ぐ、そうでなくてはここで自由にすら行動も

できないだろう。

 だから、噂という形で広がるように仕向けた。

 魔法少女という一般とは違う生活で身についた危機管理能力や状況を把握する

能力。それに年相応の好奇心。この2つがうまくマッチしてくれたおかげで、話題になりつつも持ち切りではなくなる。

 おかげで滑り出しは順調といえるだろう。

 

「さて、彼女は元気でやっているだろうか?」

 

 葉巻を片付けながら、さっきから震えっぱなしの電話を取り出す。

 さすがにヘルメットをかぶりながらはできないので、それは置いておいて、エンジンをかけバンクにまたがり出発の準備をする

 

「もしもし?…ああ悪かったよ、出られなくて、少し考え事しててさ。……依頼か?もちろん構わねぇぞ。ここではグリーフシードがたくさん手に入りそうだ。」

 

 続く言葉に彼は声をあげて笑いながら

 

「危険なのは重々承知の上だ。つうか、そんなのいまさらだろ、お得意様?……あーもう!わかったよ。

 素直に受け取っておけばいいんだろ?心配させて悪いな」

 

サイドカーにある荷物を落ちないように固定して、軽くエンジンをふかす。

 

「んじゃ、後日また届けに行く。……お前本当に心配性だな。大丈夫だって、まかせておけよ。……ああじゃあな」

 

 彼は電話を切り、ヘルメットをかぶって誰もいない静かな夜の街にバイクを走らせる。

 信号に差し掛かり青に変わるのを待ちながらうっすら見える月を見る

 

「満月…か」

 

 その大きな左手には彼の雰囲気に合わない大き目の指輪が付いていた。宝石が所々にはめ込まれたそれは、雲の切れ間から注がれる月明かりに照らされ、きれいに輝いて見えていた…




いかがだったでしょうか?
次回から本格的にみかづき荘のメンバーが活躍します!



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ウワサの男1

書き方を少し変更してみました。『』の前に名前を入れるのをやめました。
ピクシブのほうでそのほうがいいと書いてあり、また入れないことで
無駄に文字数を増やさず、それでいて文字数を程よく稼げるので
試しにこの書き方にしました。どちらがいいか意見貰えるとありがたいです。



朝方商店街

 

「待ってよフェリシアちゃーん!」

 

そういいながらおっせぞー!と男勝りな言葉でこっちに背を向けて手を振る

女の子を私二葉さなは追いかける。今日はみかづき荘のみんなで

いろいろ買い物をしようと先週から計画を練っていたのだが、

1日の始まりで重要な朝ごはんを忘れてしまったのだ。

今日に限って作り置きもなく仕方がないので、フェリシアちゃんと一緒に

ご飯を買いに来たということだ。

 

「早くしろよ~!肉冷めちまうだろ!」」

 

朝の商店街でご飯を買うとなると残念ながらコンビニしかない。

いつもいつもやちよさんといろはさんが作っているおいしいご飯を食べてい

るため、少し寂しい感じはあるが、まあそれは忘れた自分たちが悪い。

やちよさんに好きなものを買ってきなさいとそれなりのお金を貰って、

全員分のご飯を買ってきた。これからお出かけだというのに

お肉大好きのフェリシアちゃんは5つもファ〇チキを買っていた。

…なおこれでも少なくしたほうだ。さすがに私が自重しようよと止めた。

季節は秋。夏の熱い時期が終わったとはいえ、

まだまだ蒸し暑さは残っている。私もいまだに半袖だ。

 

「あッ…」

 

フェリシアちゃんを追いかけながら、今日の予定を脳内でシュミレートして

少し、気分が高揚していたせいか、角を曲がった時目の前から

出てくる人に気が付かなかった。私は何とかそれをよける。

しかしその拍子に袋から手を放してしまって、

ぶつかった人の近くまで飛ばされる。

 

「…………」

 

しかし、残念ながら彼はそれを見向きもしない。少し悲しい気持ちになるが

これは仕方のないことだった。これは私がキュウベイに臨んだ願い。

それは自分自身の存在の抹消。

学校でも、家族でも、自分の居場所がなくなり、なんでも叶えられる願い

という安易な道に進んだ結果、それがこれだ。

私は魔法少女以外から存在を認識されることは生涯ない。

もちろん、今の自分にはみかづき荘がある。だから寂しくはないし、

この道を選んでよかったとも思える。

ゆえに、横を通りすぎようとする彼が私に話しかけないのも、

手を貸さないのも当然のことだと言える。

 

「よく避けたな、これ落としたぞ」

 

「…………え?」

 

しかし、彼はそうではなかった。

彼は自分のすぐ近くに落ちてあるご飯の入った袋を持って私に差し出した。

 

「ん?どうした?これあんたのだろ?」

 

「え?は、はい…そうですけど…」

 

「ならなんで渋ってんだ?…ほら」

 

彼はそのまま私に袋を押し付けるように、渡してきた。

 

「じゃあな、人を探しているんだ。連絡もつかないし…どこにいるんだか」

 

そういって彼は気をつけろよ~と手を振りながら、歩き出してしまった。

当然といえば当然だが、私は袋を受け取ったまま茫然としていた。

不審に思ったフェリシアちゃんが戻ってきて、早くいこうぜ~と、

腕をぐいぐい引っ張ってきたが、私の中は朝ごはんよりも、

今日のみんなでの買い物の予定も消え失せ、一時的に彼のことで一杯になった

 

 

 

~みかづき荘リビング~

 

 

 

「さなを認識することのできる男…ねぇ」

 

やちよは口に含んだご飯を飲み込んでから首をかしげる。

コンビニの弁当をつついてみんなで買いそろえた

マグカップに温かいコーヒーを入れて、

少し遅めの朝食をとりながら私はみかづき荘のみんなに相談した。

もちろん相談の内容は今朝の男性の出来事。

認識できないはず私を認識し会話をしてきた謎の男性。

 

「私が現状考えられる可能性は3つ…

1つ、魔女。2つ、ウワサ。3つ、その他。

もちろん目的は不明だから現状男性がなぜさなを認識できるのか?

で絞って考えているわよ」

 

やちよさんは立てた指を1つ1つ折り曲げながら確認するようにゆっくりと話す。

まあ、妥当な考えだといったところだろうか。現状魔法少女に干渉できる

大きな存在魔女とウワサを1つの括りとして考えて残りはまとめる。

魔法少女についてまだ何もわからない以上仕方がない。

 

「でもししょー!私その選択肢にもう一つ加えてもいいと思うよ」

 

朝からチャーハンを頬張る鶴乃は元気よく手を挙げてブンブンと左右に振る。

 

「ほら今巷で話題の魔法少女を助けてくれる謎の男性の話だよ」

 

「…なるほど、確かにそうね。失念していたわ。先日関わったばかりだったのにね」

 

つまりは第4の選択肢に魔法少女の間に流れている噂を組み込む。

3のその他に合わせても問題ないと思うが、

今現状その存在は確かに確認されている。

しかしそれはUMAのようなものだ。そこにいた、活動をしていたという

結果だけが残り、姿を見たものはほとんどいない。

その男性と同一人物でない可能性も考えられるが、本来絶対に話に上がらない

男性が話題になっているのだ。選択肢に入れてもおかしくはない。

 

「私も前からそれなり聞いたことあります。」

 

みかづき荘のリーダーいろはもウワサを調べていく過程でその男の噂について

耳にしてきた、広範囲で調べものをしているおかげで、あちこちで

ささやかれている噂を一まとめにして詳しい情報にすることが可能だ。

 

「活動の時間は不明、どこからともなく現れて、必要な事だけをして

帰っていく…そして必ずと言っていいほど何かしらの見返りを要求する。

黒いパーカーが特徴的で声を聴いた人はあれは男で間違いない…って

言っているみたいです。助ける方法としてやっぱり一番目を引くのは

グリーフシードを渡すって所ですね。」

 

「いろは随分詳しく調べてんなー」

 

「さっすがみかづき荘のリーダーだね!」

 

説明をいったん区切った隙にフェリシラと鶴乃はいろはを持ち上げる

 

「ま、まぐれだよ…それに本命のウワサについては何もわからなかったし。

それで私が聞いただけでもすでに渡したグリーフシードの数はすでに30越え。

その男の人が集めているのか不明だけど多分魔法少女の仲間がいるのかなって

私は思っているの」

 

「それでも、自身の分を確保しなきゃいけないって考えるとかなりの

ハイスペースでグリーフシードを集める必要があるわね。見返りを要求される

とはいえグリーフシードを戦い以外で入手できるのはそれはとても魅力的な事。

需要は計り知れないわ」

 

1人が1か月に消費するグリーフシードの量は精神状態、魔女狩り、

魔法少女同士の争いなどで人それぞれ異なる。強敵と戦えばそれだけ

多く必要になるし、精神が安定していて戦いに一切不参加を決め込めば、

1月に1個で済む。ここ神原市では魔女が多く存在するため、

グリーフシードの入手については困らないが、それだけ事故も起こる。

いくらあっても困らないだろう。そういう意味ではここでの需要も

魔女多しといえど高い。

 

「それでいろは、彼の件はどうするつもりなの?」

 

いろははうーん…と首をかしげる

 

「現状…放置でも大丈夫だと思います。特に何か悪さしているわけでも

ないですし…それにこれはマギウスと戦う上でもいい方面に

進むんじゃないかな~…なんて」

 

「そうね…私も同意見だわ。手口をこの手で見たのだけれど、

まああんまり褒められたやり方ではないとはいえ、害はないんじゃないかしら」

 

「ええ?やちよさんその人に会ったんですか?」

 

「すっげえな、どんな人だったんだ?」

 

みかづき荘のみんなが驚きわいわいと盛り上がっている中で

言葉足らずだったわねと、少々顔を赤らめてやちよが訂正をする。

 

「姿は見ていないけれど、ももこ達が彼からグリーフシードを購入したのよ

その際私も同席して支払い方法を確認したの」

 

「購入したってなら姿見たんじゃねーのかよ?」

 

フェリシラの疑問はもっともと言えるだろう。

ももこからかえでの事は聞いてはいるが、

まあ、むやみに教えて不安をあおる必要もないだろう。何とかみんなが

納得いくように適当にごまかしておいた。

 

「それじゃあこの話はとりあえず終了ね。食器洗いは私がやっといてあげるから

準備してきなさい」

 

「よっしゃ!待ってました!」

 

「あ、ししょー!私は手伝うよ。ここに来るときに準備終わってるからさ!」

 

鶴乃はみかづき荘のチームには入っているけれど、ここには住んでいない。

実家は中華料理店で、ことあるごとに中華料理を差し入れしてくれる。

先ほど話していた少し重い雰囲気はすでに無くなり、楽しそうに会話をしながら

いろは達は階段を上がっていく。

 

「ふう…鶴乃は準備はいいのかしら?終わってるって言っても髪のセットとか

したほうがいいんじゃない?」

 

「大丈夫だよ。ししょーこそ、いいの?モデルさんだし身だしなみには

気を遣わないといけないんじゃないの?」

 

「問題ないわ。フェリシアたちが買い物している間にすでに

終わらせているもの。あとはあそこに置いてあるバッグを持てば準備完了よ」

 

そういって洗い物をしながらちらっとリビングに置いてあるソファーを見る。

鶴乃の赤いをベースにしたバックとやちよの青いバックが置いてある。

 

「さすがだねししょー!」

 

「あなたもそばにいたでしょうに…」

 

軽口をたたきながら鶴乃とやちよは洗い物を進める。とはいっても

ここで家事を主に担当するやちよといろはは優秀だ。昨日の洗い物なんかは

1つも残っていないので、洗うのは今日の朝に出た洗い物のみ。

コンビニで済ませた朝食はおかず等を入れる皿を使っていないため

せいぜい洗うのはマグカップくらいである。

なので2人もいればあっという間に終わる。ほかにやることもないため、

2人はソファーに座ってスマホをいじりながら3人の準備が終わるのを

待っていた。

 

「ねえ師匠…どう思う?」

 

「あの噂の男の話かしら?」

 

「そうだよ。師匠がいろはちゃんに任せっきりなんてありえない。

きっと自分でも細かく調べているんじゃないかなって。」

 

ウワサでもそうだったが彼女は誰よりも早くそして誰よりも詳しく

事件について調べていた。どんなに大変な事件が起きようとも、

率先して調べて事態を解決に導くために最善を尽くしてきた。

魔法少女に干渉できる男性…前代未聞だ。私もそれなりに

長く魔法少女をやってきたが、男性のだの字も見たことない。

やちよさんが動くには十分すぎる。

 

「そうね…実を言うといろは以上にしっかりと調べ上げたわ

でも…せっかくリーダーシップとっているのだからいろはに最後まで

やらせてもいいんじゃないかなって」

 

「ほぇ…じゃあその男性についての危険度はもう把握してるの?」

 

「ええ、私も調べ上げた結果放置でいいんじゃないかしらと考えたわ」

 

そうなんだ…と鶴乃はそれ以上は聞かなくなった。

知っているといっただけで、特に詮索もせず信じてくれる。

それほど信頼してくれるということだろうか…

まあ、それは素直にありがたい。

 

 

 

~神浜市新西区住宅地~

 

人通りの少なくなった夜の住宅地、5人の少女たちは

両手いっぱいに買い物袋を持っている。服、小物、食べ物…

そのどれもが5人で話し合って決めたものだ。

 

「はぁ…ステーキ、うまかったなぁ」

 

「はい、また食べに行きたいですね」

 

思えば本当に久しぶりだった。5人が集まった当初はウワサや

マギウスなどに振り回されるし、それがなくとも

私たちは全員学生だ。全員の予定があっていて揃って仲良く

買い物というのは本当に久しぶりだったのだ。

今日は朝から晩御飯まで楽しく過ごすことができた。

 

「久しぶりに気分転換ができた気がします。」

 

「そうね。マギウスの一件がひと段落付いたとはいえ、まだまだ

ウワサの駆除とかで忙しいものね」

 

お昼の生暖かい風とは違って、秋を感じさせる

涼しい風が優しく全身を撫でて、高揚した気分を程よく覚ましてくれる

その風を感じながら、やちよといろはは、食後で買った紅茶を

楽しむ。先のほうを歩いている3人は買ったものをどうするかとか、

次の買い物のことなどを楽しそうに話している。

 

「いろいろあったけれど、こうしてまた皆で暮らせて本当によかったわ」

 

「やちよさんが過去を乗り越えて頑張ってくれたおかげですよ」

 

いろははこちらを見ながら笑顔を向けてくれる。

彼女は無自覚に優しさを振りまいてくれる。もちろんいい意味でだ。

確かに私は最後の最後で自分で戦うと決めた。仲間を守ると誓った。

けれどそれは些細な事、自分がどうしてトラウマを乗り越えたか、

やちよは知っている。

 

「謙遜はよしなさい、いろは。全部あなたのおかげよ。

フェリシラも、さなも鶴乃も、そして私も、皆あなたが

つないでくれたのよ、その優しさとそして、確固たる意志で」

 

「ええ?そんなことないですよ…」

 

想像していた通りの反応に私は苦笑いをする。彼女はもう少し、

貪欲になってもいいと思う。それほどまでに、いろはの力は強いのだ。

その意志力だけは7年魔法少女をやってきた私でも身に着ける

ことができなかったものだ。神浜のリーダーにふさわしいのは

本当はいろはのほうなのかもしれない。

もちろん…弱音を言うつもりはない。彼女に無くて私に在るものも

ある。

 

「ちょ、ちょっと早いよ~」

 

照れ隠しのためか、先を歩いている彼女たちを呼び止めるいろは

まだまだ子供ね。とやちよは心の中で思いながら、顔を見上げる。

所々に輝く小さな星の間に佇む居待月…すでに

夕日は沈んでいて、空を照らすものは人口光のみ。夜の訪れだ。

 

「ッ!?」

 

月を見上げていたやちよは突如として、体をピクッと揺らす。

そして目を細めながら裏路地のほうをにらみつける。

いろは達を見てみると彼女たちもおおむね似たような反応

を示していた。先ほどの明るい雰囲気は消え去り、

静寂があたりを支配する。

 

「感じましたか?やちよさん」

 

「ええ、この感じ…新種かしら?今まで感じたことのない

魔力のパターンね。しかも数が2つある」

 

やちよの言葉を聞き一同に緊張が走る。つまり今から起こる

戦いが長期戦になることを意味する。魔女を2体相手する

だけでもそれなりに危険だというのに、その2体は

戦い方も、弱点もわからない新種と来た。

 

「やちよさんどうしましょう…」

 

「やることは変わらないわ。フェリシラと私で前衛、鶴乃と

さなが中衛で状況を見て動いてちょうだい。

そしていろは、あなたは後衛よ。敵の動きをよく観察して、

危ないと思ったら遠慮なく指示を飛ばしてくれて構わないわ」

 

いろはがリーダーとはいえ、戦闘経験はまだ浅い、

それに比べてやちよは7年という確かな実数と実績を

兼ね備えている。いまだに戦闘では頼ることが多かった。

 

「はい!頑張ります」

 

グッと拳を握りしめて決意を現しつつ、彼女の体が光に包まれる。

光が収まるとそこには今日着ていた可愛らしい私服姿ではなく、

白とピンクの線が特徴の大きなローブにピンクの可愛らしい

ミニスカートに薄い茶色の少しきつめの服、膝まである

大きな黒いブーツ。そして左手にはピンク色のクロスボウを

彷彿とさせる装置が装着されていた。

これがいろはの魔法少女としての姿だ。

ほかの4人も順々に魔法少女に変身して、

それぞれの得物を手に納める。

 

「よっしゃ!俺に任せろ!」

 

「フェリシアちゃんやちよさんといろはさんの指示聞かないと

だめですよ?」

 

「むー!バカにするなよ。それくらい大丈夫だって。」

 

「あはは、フェリシアは前科もちだからね~」

 

「だ、大丈夫ですよ。フェリシアちゃん最近

ちゃんと指示聞いてますし…」

 

「ほら~!いろはだってだって大丈夫っていってるだろ?」

 

強敵を前にして変わらずに接する彼女たちを見て

苦笑しながらいつの間にか固まっていた体を楽させる。

慢心はまで行くのはよくないが、ある程度は気持ちに余裕を

持たせるべきだろう。

 

(もっとも、彼女たちは自覚はないのでしょうね)

 

信頼できる友がいる。背中を預けられる仲間がいる。

その事実だけで、ずいぶんと気持ちが楽になるものだ。

 

「ほら、そこまでにして。気を引き締めていくわよ」

 

やちよはいまだに、はしゃいでいる彼女たちに声を

かける。目の前には空間がゆがみ、奥には言葉にできない

異常な空間が広がっている。魔女の結界だ。

ここから先は戦場、しかも待ち受けるは強敵。

仲間たちはうなずきあって、結界に足を踏み入れる。

ずっしりと重みのあるその群青色の槍を握り閉めて

何があっても仲間は守るとそう誓って。




ちなみに私にあの名状しがたい魔女を考える力はありませんでした。
なんか似たような生物を例えにして魔女とさせてもらいます。
次回はいよいよ戦闘シーンです。


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ウワサの男2

マジで魔女がどうしようもありませんでした…
戦闘で描写しやすそうなキャラクターを選んでいます。
主人公が男性だよと謳っているくせに、まだ全然出てきませんが
もう少しですので…


~魔女の結界~

 

 

「これは…」

 

「平地が少ないわね、また珍しい魔女を引いたみたいね」

 

いろははあっけとられたように目の前の光景を眺めている。

やちよを平静を装ってはいるが、これから起こる戦い

のことを考えると、この地形はあまりいいとは言えない。

あたり一面には凹凸の激しい突起物が広がっていて、

デコボコしていて岩を連装させる。魔法少女の脚力

ならばこれだけデコボコしていれば登るのは

苦労しないだろう。

 

「すっげーなぁ…これぶっ壊したほうがいいじゃねーのか?」

 

「そうね、その隙があるのなら、それもよかったかも

しれないわね。」

 

頭に?を浮かべるフェリシラを他所に、やちよはあたりを

軽く見渡し、目を細める。

 

(いる…!)

 

姿を見ることができないが、魔女がすぐ近くにいることだけは

分かる。なぜと言われれば勘としか言いようがないのだが、

それでも7年の戦闘経験がさっきからうるさいくらいに

警告をしている。緊張でにじみ出る汗によって槍が滑らない

ように注意を払ってギュッと握りしめる。

やちよの抱いている危機感を感じ取ったのか、ほかの4人は

即座に背中合わせになり360度すべてを見渡せるように

警戒態勢に入る。

 

(どこ…あの影…?それともそっち?)

 

こう、障害物が多いとどこもかしこも怪しく見えてくる。

相手がどんな攻撃を行ってくるかわからない以上、

先制攻撃だけは譲りたくない。足並みをそろえて

ゆっくりと足を動かしていく。

 

「ッ!師匠!上!」

 

この静寂を破ったのは鶴乃の叫び声だった。全員が無警戒

だった上に存在する魔女に真っ先に反応して、手に持っている

扇に炎を宿してぶん投げる。意思を持っているように

周りながら上に佇んでいる魔女に攻撃を仕掛ける。

魔女はその攻撃を触手のようなもので弾き飛ばして

下に飛んで着地する。それなりに重量があるのだろうか、

着地した衝撃で足を取られる。

砂煙があたりを覆って、魔女の姿を覆い隠す。

 

「いろは!下がりなさい!」

 

「フェリシラちゃん!」

 

砂煙で前が見えない状態だが、魔女はお構いなしに攻撃を

仕掛けてきた。狙いは甘いが数が多い6本飛んできた。

そのうちの2本が運悪くこちらに猛スピードで向かってくる。

反応できないフェリシラをさなが守り、

防御性能のないいろはのため、やちよが槍で攻撃をいなす。

 

「重ッ!?」

 

遠目で判断していたため魔女の攻撃力を見誤っていた。

近くで見て初めて分かったが、この魔女体が岩のようなもので

出来ている。なるほど、それなら重いのがわかる。

相手が狙いを定めず行った攻撃だったので今回は何とか

逸らしきることに成功したが次はどうなるか…

隣をちらっと見てみると、さなは割と平気そうな顔をして

その触手を受け止めていた。さすが、盾を使ってるだけ

受け止める力…足腰や腕の力は私より高い。

 

「やちよさん!」

 

少し痺れた手を握ったりして状態を確認する。

大丈夫…すぐに良くなるだろう、それより…

 

「大丈夫よいろは、そんなことより目の前に集中しなさい

もうすぐ…ご対面よ」

 

晴れた煙の先には体調おおよそ6、7Mくらいの大きさで

8本の大きな触手をウネウネとうねらせ、

クラーケンを彷彿とさせるその姿は体中が岩石の

ようなもので覆われていた。その触手が近くの

突起物をまるで見せつけるかのように振り下ろす。

足場や盾にできるかなと考えていたその突起物が

あっさりと壊されて、自分の考えが浅はかだったと

思い知らされる。

 

「いきます!」

 

先制攻撃をとられたが気を取り直して、まずは様子見。

魔力で作られた矢を続けざまに発射する。

 

「深入りはだめよ、まずは相手を見極めて」

 

「ふふーん、まっかせて!」

 

やちよと鶴乃もいろはの射撃に合わせて、

遅れてフェリシラも突撃を開始する。

敵の刺突をよけて槍を一突き。鈍い音

とともに軽く火花が飛び散り攻撃がはじかれる。

 

「硬いわね…」

 

まあ、予想通り。この岩石は防御にも攻撃にも使える

ということだ。しかし、こちらとて対抗手段がないわけ

ではない。

 

「おらあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

遅れて突撃したフェリシラがやちよに攻撃するため

に伸ばしてきた触手をハンマーでたたきつける。

様子見だというのに、大ジャンプからの急降下。

まさに必殺の一撃と言えるような強烈な一撃。

 

「--------------」

 

まるで怒ったような声をあげてフェリシラに複数の

触手を放つ。フェリシラは回避するそぶりを見せず

真っ向から触手に立ち向かう。右、左、右、左…

ハンマーをめちゃくちゃに振り回しながら、

逸らすのではなく力で押し返す。

 

「よっ…ほっ」

 

鶴乃は私同様攻撃が決定打にならないようで

回避に専念している。トレードマークの扇は

敵の弱点を探るかのように器用に宙を舞っていた。

火花を散らしながら燃え上がった扇が敵の四肢を襲う。

しかしやはり決定打にはならない、硬い岩石に阻まれて

大したダメージになっていない。

 

「いろはさん!」

 

「うん!合わせるよ」

 

左手のクロスボウから光の矢が発射され、

さなの持つ盾が両扉のように開いて虚空から錨のようなものが

勢いよく飛び出す。いろは達に伸びていた触手は

錨にぶつかり、止まったところに矢が直撃する。

先ほどは突撃をしていて確認をする暇がなかったが

物理攻撃が利きにくい以上次に思いつく有効手段は

魔法による攻撃、つまりいろはの矢だ。

彼女の矢は100%魔法によって構成されたもの、それゆえに

効果のない敵は存在しない。今現状部位を気にせず有効打

を与えられるため、こちらの切り札と言えるだろう。

しかしもちろん弱点もある。連射が利かないことだ。

撃つたびに2秒ほどのチャージが必要となる。

 

(これなら…倒しきれるかしら?)

 

威力は確かに強いが避けられないわけではない。

いろはが攻撃に集中できるように陣形を整えれば

倒すのにさほど苦労しないだろう。

そう…1体だけならば。

 

「わあああぁぁぁぁぁ!?」

 

「つるッ!」

 

鶴乃と言い終わる前に、弾丸のごとく飛んできた鶴乃の体を

全身で受け止めてしまいやちよと一緒にもつれるように転がる。

 

「うっ…クッ…」

 

意識は…失っていない私は早急に状況を確認する。

自分の体は、大丈夫痛みはするけど怪我はしてない。

 

「鶴乃起きなさい!大丈夫?」

「痛たた…だ、だいじょうぶ…だよ。」

 

ソウルジェムの魔力を使用して鶴乃の傷は即座に回復する。

しかし回復量と比例してソウルジェムには穢れがたまる。

おそらく不意打ちだったのか、攻撃をまともに食らった

鶴乃のソウルジェムは予期せぬ穢れに汚染されていた。

 

「はぁ…はぁ…よし!」

 

ゆっくりと起き上がって、頬を両手でたたいて

意識を覚醒させ、地面に落下していた扇を手元に呼ぶ。

 

「師匠…」

 

「わかっているわ。姿が見えなくて油断していたけれど、

一番最初に言ってたわね。…今回の敵は2体って」

 

ほかの3人は必死でクラーケンを止めてくれている。

チラッと確認してみると、フェリシラが猛攻を

仕掛けることで敵の触手の攻撃の大半を

フェリシラがひきつけ残りをさなが抑えつつ、

いろはは牽制に専念することでフェリシラの

生存率を上げている。時間稼ぎには

有効な戦術といえるだろう。さすがはいろは、

だいぶ戦いにも慣れてきたみたいだ。

これなら大丈夫だろうと私は目の前の敵に集中する。

 

「いつ見ても魔女の見た目になれそうもないわね…」

 

2体目は巨人だった。人体の2倍くらいあるその巨体

は神浜でよく見るうさぎのぬいぐるみとは違い、

細長い体に所どころ線が垂れている。

まるで切れたマリオネットを彷彿とさせる魔女だ。

カタカタと音を立てながら首を360度回転させ

こちらを見ながらけらけら笑っている。

 

「鶴乃…あなたはクラーケンのほうに行きなさい。」

 

私は腰を落として、周囲に水の玉を生成しながら

声だけで鶴乃に命令する。

 

「ちょ!?さすがに1人は危険だよ!」

 

当然といえば当然だが、鶴乃は反論してくる。

仲間思いの彼女がこのような戦術を認めるわけが

なかった。でもここは説得しなければならない。

 

「いい?鶴乃、こっちのパペットはともかく

あのクラーケンは強敵よ。それでも4人もいれば

倒しきれる強さだと、私は思っているわ。」

 

「で、でも3人でも何とかなってるんじゃ…」

 

「ええ、でも攻めに転じてない時点でいつかは崩れるわ

2,3で別れても、どっちも守りで手一杯になる…

それならば1人が1体を足止めしているうちに、

もう片方が仕留めきる。」

 

パペットの強さがわからない以上私が一番重要に

なってくるが、それなりに戦闘力に自信はある。

足止め程度造作もない。

 

「んんん~~~~…分かった、よ。

でも絶対持ちこたえてよ?約束だからね!」

 

彼女はそう言って扇を握りしめて、クラーケンに

突撃していく、力になれなかったという

悔しさからなのか彼女の扇から炎があふれ出る。

 

「ふぅ・・・さて」

 

鶴乃が突撃したのを確認してから私は槍を

構えなおして魔法を発動する。体に巻き付くように

水が渦を巻く。凍てつく視線をパペットに向けると

槍を向けて静かにつぶやく

 

「鶴乃を痛みつけてくれたお礼はきっちり

させてもらうわよ…」

 

突きつけた槍を器用に回転させ、ゆっくりと

魔女に近づく。まるでそれに押されるかのように

パペット型の魔女は後ずさりをするが、それも一瞬

叫び声をあげて、体を振り回しながら、

やちよに遅いかかる。いくら怒っているとはいえ

感情に流されてはならない。

 

「はああっ!」

 

槍を握りしめて、やちよはパペットと一騎打ち

を始める。

 

 

 

~sideいろは~

 

 

 

フェリシラちゃんの猛攻によって8本あった触手のうち

3本を文字通り力任せでむしり取った。

潰したが正しいけど、ちょっと言葉には

表したくないから…

 

「いろはさん、こっちは少し余裕出てきました」

 

「うん、でもまだ油断しちゃダメだよ」

 

さなちゃんの言いたいことはわかる。やちよさんの

援護に回ったほうがいいという提案だろう。

でも私は横目でやちよさんを確認して

まだ行かなくてもいいって判断をした。

 

「やちよさんならまだ大丈夫だよ。それより早く

クラーケンを倒さないとッ!」

 

飛んできた触手をしゃがんで回避する。

少し休んでいたフェリシラがまた猛攻を開始

したので、私はやちよさんの様子を確認する。

パペットの軌道の読めない攻撃にやちよさんは

多少苦戦しつつも、水を使い強引に攻め立てる。

やちよさんはレナちゃんとは違い、水の力を

付与するだけでなく水そのものを使い、

場をかき乱す力を持っている。

 

「や、やちよさん!」

 

やちよさんに直撃するはずだった振り下ろしは

槍を突き刺して軌道をそらしつつ、

大量の流水をぶつけることによって回避しきる。

態勢の崩れたパペットに魔力を込めた重い一撃を

お見舞いする。闇雲に振るった巨大な手が

やちよさんをとらえて、バックステップで

一旦距離をとる。地面をこすりながら速度を落とし、

完全に止まったところで跳躍、水で刃を生成し

一斉に掃射して敵の行動を阻害。

そのまま重量に従い落下、槍はパペットに

深々と突き刺さる。

 

「さすが…」

 

相変わらずやちよさんの行動は私たちの中で

頭1つ抜けて高い。

敵の攻撃現在の攻撃、次の行動を予測し、

未来予知をしているのではないかと、

疑いたくなるほどの把握能力で、

最適な行動をとる。7年という長い年月を

掛けて磨き続けてきた魔法も相まって

凶悪な戦闘能力を誇る。

 

(やちよさんはパペットを抑えきれてるし、

クラーケンの方もあと触手は残り4本…)

 

浮かれるわけではないが、それでも戦況は

有利の方向に向かっているのは確か。

このまま攻めきれれば倒しきることが

出来る。そう楽観視していたのがまだまだ

いろはの未熟なところだろう。

この有利な戦況が絶妙なバランスのおかげ

で成り立っていると、見抜くことが

出来なかった。そう、それ故に少しでも

バランスが崩れれば崩壊するのは

あっという間。フェリシアが

防ぎきれなかった触手をさなが

防御しようといろはの前に立つ。

側に落ちてある消えていない触手の

残骸を見落として…

 

「きゃああ!?」

 

そう、普通魔女の欠損箇所は基本的に

治らないし、こうして残っていることもない。

たまにそういった回復に長けた魔女もいるが、

会うのはまれだ。この魔女が回復に長けた

魔女でないとするなら欠損箇所が残っている

理由はただ一つ攻撃手段としてだ。

さなの近くで膨張して触手ははじけ飛び、

残骸と爆風が彼女を襲う。

 

「さなちゃん!くぅうう!」

 

当然さなが防御しようとしていた触手は

容赦なくいろはを襲う。なんとか

左手のクロスボウを盾にして防ぎ切ったが、

それも長くはもたない。今の一撃で

左手がしびれてしまったのだ。

 

「いろは!」

 

「フェリシア!前前!」

 

鶴乃の警告むなしく、一瞬気を取られた

フェリシアは薙ぎ払いをもろに受け宙を舞う。

いち早く状況を察知した鶴乃が扇を使って

けん制しつつ、フェリシアを救出する。

 

「いろは!いったん下がって!」

 

「は、はい」

 

鶴乃も戦闘経験で言えばやちよには

劣るものの、かなり積んできている。

普段は元気を持て余したお転婆少女

ではあるが、いざ真面目に戦闘をする

となると、状況を瞬時に把握し、

動揺することなく、自分のこなすべき

事をこなす。

 

「二人ともまだ動ける?」

 

「私は大丈夫です。」

 

「す、すみませんもう少し…」

 

いろははクロスボウで防いだので、

ダメージはない。ただ盾の裏から不意打ち

されたさなはまだ痛むのか

体を強張らせている。撤退にすら

支障が出るというのだから相当の

ダメージをもらっているはずだ。

 

「そっか…なら私に任せて」

 

「な、なにいってるんですか?」

 

なにかを決意したかのように、扇を

握りしめて立ち上がる鶴乃。

何をするかなんてそんなの物

分かり切っているが聞かずにはいられない

 

「どう考えても人数不足に力不足、

ここは一度撤退するしかないよ。」

 

「それについては私も否定はしません。

問題は…」

 

「いろはちゃん」

 

鶴乃は肩にポンと手を置いて勇気付ける

ように笑顔を向ける。

 

「多少強くないと殿は務まらないよ。

それにいろはちゃんには傷ついた仲間を

癒すっていう大切な役割があるんだから」

 

言ってることは正しいだが、これは理屈で

説明できるものではない。鶴乃がこっちを

押さえるならパペットを抑えるのは誰か?

そんなもの決まっている

 

『そういうこと、いろは貴方たちだけでも

ここから逃げなさい。できれば援軍を

呼んでもらえるとより助かるわね』

 

届くはずのない声がいろはに届く。

魔法少女が使えるテレパシーだ。

やちよさんはいまパペットを抑えている。

普通の声は届かない。

 

「そんな・・・・・・」

 

鶴乃もすでに攻撃を再開、

負傷したフェリシアとさなを前に、

いろはは茫然としていた。

結果は分かり切っている、生存は絶望的。

そんなもの彼女たちも分かっているはずだ

分かっていて、残った。

死をも覚悟して私たちを逃してくれたのだ。

だれか・・・だれでもいい・・・

 

「誰か・・・たすけて・・・」

 

祈りが届いたのか分からない。

タイミングを見ていたのか分からない。

ただ一つ言えることがあるとすれば

その人のおかげで、いろはは大切な

仲間を失わずに済んだという事だけだ。

攻撃をかわし切れなかった鶴乃を

救ったのは1本の矢だ。鶴乃に攻撃

しようとしていた触手はその1本の矢を

受けたあと何かが裂けるような音とともに

キレイな断面をのこして斬れた。

魔女の上げる悲鳴をよそにいろはは

矢の向きからは放った位置を予想して

振り返る。とある高台にたたずんていたのは

黒いパーカーに大きな矢筒を背負った

少年…そうあの噂男性に

そっくりな男性だった。

 




いよいよ主人公の登場です。
世界観をぶち壊さないように注意しながら
いろは達とかかわらせていきたいと思っています。
感想評価等、していただけると嬉しいです。


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ウワサの男3

描写を細かくしよう、しようとして読みにくくなっているような…
ま、まあこれが楽しいのでやめられないというか自分の妄想が少しでも
皆さんに届けたいと思っているからこうなっちゃんですけどね…


男は弓を構えるのをやめると凸凹斜面を

危なげなく滑り、こちらに向けて

走ってくる。魔女の方も、矢の位置から

敵を予想したのか、1本の触手を

男に向けて、高速でのばしてくる。

 

「あ、危ないです!」

 

思わず叫んでしまったが、男性は自身の

武器である弓をあっさりと手放すかの

ように弓で受け流す。弓は思いっきり

曲がって、もう引くことはおろか

修理すら出来ないだろう。

壊れた弓をそのまま捨てて攻撃後の

隙で動けない触手に向けて

背負っていた矢を突き刺す。

硬い岩で覆われているはずの

その体にあっさりと矢を突き刺したのも

驚きだが、その矢の突き刺さった場所

から徐々に氷ついていくのも驚いた。

この時点であの男が普通の人ではない事

が確定したようなものだ。

触手を防いだ隙に男はこちらに向けて

走ってくる。

 

「おい大丈夫か?」

 

「え?あ、はい…なんとか」

 

何ともなっていないが急に

話しかけられてつい嘘をついてしまった

 

「どう考えてなっているようには

見えないが、まあいいだろう。」

 

嘘はあっさりと見破られた

 

「それよりお前これからどうするつもり

だったんだ?」

 

「え?えっと…治療して…」

 

「治療できるのか?」

 

「は、はひ!」

 

男が少しトーンを上げて話してきたのと

急に割り込まれてびっくりして変な声を

出してしまった。

 

「彼女たちを助けたいんだろ?

なら協力しろ、彼女を助けてやれる」

 

私の答えを聞いてからたっぷり悩んだ後

男はこう答えた

 

「は、はい!」

 

やちよさん達を助けるという事は

魔女を倒すという事。

素性は分からないし、敵かもしれない。

この男の強さも分からない。

怪しさしかないが今はこの人に

賭けるしかない。男は少し驚いたような

素振りを見せてから

 

「よし治療ができ次第戦線に

復帰してくれどっちの魔女と戦うか、

それはお前たちに任せる。

俺はあっちのクラーケンを抑える」

 

そう言い残すと矢筒を無造作に放り投げ

シースベルトから大型のナイフを

取り出す。シンプルなデザインで

若干反りの強い、ガラスのように

磨き上げられたそれは市販でお目に

かかることはないだろう。

あれは間違いなく武器目的で作られた。

いろはは治療の魔法を使いながら、

改めて男を観察する。

 

「------!」

「---」

 

クラーケンの注意を引きながら

鶴乃と何やら口論をしている。

少ししたら鶴乃がしぶしぶといった

顔をして戻ってきた。

 

「どうしたんですか?」

「あはは…体力の限界見抜かれちゃって

治療してから戻ってこいって」

 

少し眺めてて分かったことだけれど

男の身体能力ははっきり言えば最低だ。

いや正確には魔法少女と比べてだけれど

魔法少女でもあんなに遅い脚の人は

いないし、攻撃だって跳躍で回避すれば

いいものをわざわざ受け流しをして

回避する。この身体能力にいろはは

心当たりがあった。そう一般人だ。

魔法少女の超人的な力を見慣れたせいで

忘れていたが、彼の能力は

一般人のそれとなんら変わりない。

あれでは魔女を相手にすることは

出来ない、そう思っていた。

 

「すごい…」

 

彼の戦い方を見ていろはは思わず

口にする足払いを仕掛けてきた触手に

彼は絶妙のタイミングで飛び、

その振るってきた触手に着地する。

そして即座にそこから跳躍、

第2波を高跳びの要領で回避する。

残った最後の触手の攻撃は、

体をひねって回避する。

ちなみに当然といえば当然だが、

落下中に体を攻撃を回避できるほどに

ひねるなど常人には不可能である。

その後も彼は本当にギリギリの

タイミングで回避を続けた。

手持ちのナイフと身体能力だけを

頼っているようだが、本当に回避しよう

のない時だけなぜか超人的なパワーが

出たり、魔法…?のようなものを

使っているように感じた。

 

「いろは?」

 

「フェリシアちゃん!?目覚めた?」

 

治療を続けていたら、フェリシアが

目を覚ました。ソウルジェムも

安定している。穢れもたまっていない

これなら戦線復帰も可能だろう。

 

「よかった…」

 

「よかねーよ…痛ててあいつ、

どうなった?」

 

「あそこで…」

 

フェリシラが顔を魔女に向けると

怪訝そうな顔を浮かべる

 

「誰だよあいつ?」

 

「今朝…話あったでしょ?

多分その人かなって」

 

なんだそれと言わんばかりに、頭に?を

浮かべるフェリシアに少し苦笑しながら

 

「ほら魔法少女を助けてくれるっていう

謎の男性の話だよ」

 

「……ああ!てことはあいつ、

味方なのか?」

 

「う、うん」

 

噂の男性と決まったわけでもなく、

味方だとわかったわけでもないけれど、

それでも悩みの種を増やすよりかは、

味方だと信じるほうがいいといろはは、

判断した。彼がいなかったら鶴乃が

やられていたし、今こうして、話して

いることはないだろう。

 

「フェリシラちゃん動けそう?」

 

「まだ、無理そう…」

 

「私も、状況変わったから少し休憩

したいかも」

 

魔法で強引に治療を行ったがための

後遺症のようなもの、感覚がまだ麻痺

しているのだ。鶴乃は戦線離脱

したばかり、となれば…

 

「私たちであの人を援護しよう」

 

「は、はい!任せてください」

 

いろは胸の前で拳を握りさなは

改めて盾を構えなおす。

手短に作戦会議を終わらせた二人は

クラーケンのほうに攻撃を開始する

やちよよりもあの人のほうが弱い

と判断したためだ。

 

彼の邪魔にならないように慎重に

狙いを定めて掃射を開始する。

残りの3本の触手はすべて彼と

さなが引き受けてくれるため、

私は伸び伸びと射撃を行える。

触手の攻撃動作がこちらに向いたら

彼はその触手へ攻撃を行い妨害する。

こちらの攻撃をやめて彼に攻撃を

行おうとすれば今度はアンカー…

さなの盾から飛び出た物がそれを

阻害する。

 

「緑髪の!後ろだ!」

「!」

 

彼の叫び声に戸惑いながらも反応する

彼の武器は目で見えるもので短剣。

当然ながら射程は無いに等しい。

なので彼の攻撃が届かない所から

攻撃が開始されればいろは以外

防ぐ手立てはない。

いや、正確には彼にもできると思う

のだけれど、まだ私たちは詳しい事

は理解していないだけだと思う。

 

「あ、当たって!」

 

彼の忠告で触手の攻撃に反応できた

さなは、アンカーを勢いよく飛ばして

正面からぶつける。アンカーと触手は

衝撃で、速度を落として明後日の方向

に吹っ飛ぶ。

 

「次がくるぞ!後ろだ!」

 

後ろを向いたことで、さなの背後は

逆になった。その無防備な後ろから

また攻撃を仕掛けてきたようだ。

さなは、自由落下を開始するアンカー

をもとに戻さず、モーニングスターの

ようにアンカーを振り回して、

触手に攻撃を行う。

私はそれに合わせて本体に向けて狙撃

攻撃後の硬直をしている触手が消滅

する。これで残り2本。

 

「くたばれ」

 

さなの攻撃で硬直していた触手へ

彼が手のひらを向けると

業火に包まれる。逃れようと

バタバタ暴れまわるが、それを

あざ笑うかのように追尾する。

力尽きたかのように暴れるのを

やめると、ようやく残り1本と

いろはは安堵をする。

 

「わっ!?」

 

しかし彼は攻撃の手をやめず

流水で作られた刃…やちよさんが

使っていたのと同じような魔法…?

を使い触手をめった刺しにする。

触手はそこでようやく虚空に消える

 

「ぼさっとするな、1度見ただろう」

 

「あ…は、はいすみません…」

 

そうだ、さなは先ほどそれでやられた

 

「しかし、これでラスト…

次で決める。合わせるから全力で

やってくれないか?」

 

「私が合わせなくていいんですか?」

 

気の知れた相手ならともかく、初対面

でのペアだ。前衛の彼より後衛の

自分が彼の動きに合わせて、攻撃を

行うべきだろう。

 

「心配するな、うまくやるさ」

 

しかし、彼は自信満々に告げる。

 

「わかりました、後…私はいろはです

そう、呼んでください」

 

「いろはか…よし、わかったよろしく

頼むぞいろは」

 

名前を名乗ったらそっちも名乗るのが

基本…って思っていたが、

彼は名乗らずそのままナイフを構えて

走り去っていった。仕方なくいろは

は攻撃を開始する。

 

~sideさな~

 

先ほどまではあれほど苦しめられた

クラーケンだが、触手の数が1本

となれば戦況はこちらが優勢となる

現状本体が一度も攻撃を行って

来ないため、あれが最後の攻撃

手段になる。

彼の攻撃も先ほどとは打って

変わって、攻め寄りに転じていた。

 

「ふっ!はっ!」

 

流して、斬りつけ、受け止めて、

斬りつけて、斬りつけて、

流して…彼は1点を軸に動かず、

襲ってくる攻撃のみに対抗している

 

「いきます!」

 

しかし、攻撃をやめて後退したが最後、

私といろはちゃんの攻撃が待っている

私の攻撃はアンカーだけではない。

開いた盾の虚空から今度はギロチン

を思いっきり射出する。

物体の斬れる、鈍い音が結界内部に

響き渡る。

 

「さなちゃん!」

 

「はい!」

 

本体に攻撃が入ったことで触手の

攻撃が鈍くなる。触手の攻撃が

鈍くなればそれだけ彼の攻撃を

防げなくなる…パターンにはまれば

大したことはない。ほどなくして

クラーケンは倒れる。

 

「ふう…終わりました、よね?」

 

開いていた盾を閉じてようやく気を

下ろせた。よかった…なんともなく

終わってよかった。安堵でため息と

一緒に瞳が閉じる。そういえば、

彼は…と意識を向けようとした。

彼女の意識はそこで途絶えた。

 

 

~sideいろは~

 

 

「さなちゃぁん!!!!」

 

ものすごい勢いで視界を横切る

さなちゃんを目で追いかける。

ズドン!と大きな音とともに、

その抑えきれない衝撃が地面を

揺らす。さなちゃんが高台に

激突したのだ。

 

「え、え、えっと…ど、どうすれば

そうだ!や、やちよさん」

 

まずはやちよさんに指示を…と

思った所で、さなちゃんが何に

飛ばされたのかを思い出す。

そうだ…ここには魔女は2体しか

いない。つまり…

 

「ぱ、パペット!」

 

パペットの相手はやちよさんが

していた…つまりパペットがこっち

に攻撃を仕掛けてきたということは

 

「や、やちよさん?どこですか!」

 

一瞬先ほどまで戦ってた場所を

見るが見当たらない

やちよさんか、さなちゃん…

どっちを助けに行けばいいのか?

もちろんそんな究極の選択に

即座に答えが出るわけがない

 

迷っているうちに彼女の視界の端

にこちらに向けて走ってくる、

彼の姿を目撃する。彼はまっすぐ

さなちゃんに向けて走っている。

そして横切る瞬間に、彼の

左薬指についていた指輪が

光を放つ。

 

すると彼の周りに魔方陣が現れ

虚空から鎖が飛び出す。先端部分に

矢じりのような物が付いていて、

それらがまるで意思を持っているかの

ようにさなちゃんに向けて繰り出される

ん…?

 

「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」

 

流れるような動きだったから疑問に

思うまで少し時間がかかっちゃったけど

ここからじゃ確認できないけど、

おそらくさなちゃんは意識を失っている

なので当然さなちゃんはよけられない。

そして、彼の鎖の軌道に魔女はいない。

まさか…彼は私たちが疲弊するのを

待っていたのだろうか…?

どちらにしろ、今の私はあまりの出来事

で脳が追い付かず行動を起こせない。

鎖がさなちゃんに接触する…同時に

その辺りが猛烈な砂ぼこりと強烈な衝撃

に見舞われる。

 

「ぱ、パペット!」

 

さなちゃんを狙っていたのは彼だけでは

ない。パペットも追撃をしようと、

準備を進めていたのだ。

 

「さな……ちゃん!?」

 

砂ぼこりで見えないが、視界の端で

何かが高速で上に上がっていくのを目に

する。それはさなちゃんだった。

彼女の武器である、盾はなく鎖に

繋がれてどんどん上にそして、魔女から

離れていくように吊り上げられていく。

そのまま、彼女に繋がっていた鎖が

離れてさなちゃんが空中に放り出される

 

錐もみ回転しながらさなちゃんは重力に

したがって落下していく。体制を

整えようとしていないところを見るに

彼女はやはり気を失っているようだ。

このままじゃ彼女はそのまま落下、

いくら魔法少女といえど傷を癒すのに

あっという間に魔力を使い切ってしまう

だろう。だが…彼はさなちゃんを

助けようとせずそのままパペットの方に

向かっていった。

投げとくだけ投げといて無視!?

と思ったが、彼のおかげで魔女の攻撃

から守ることができたので強く言えない

今度こそ私が…と足に力を入れた

ところで私はありえない言葉を

耳にする。

 

「お前に任せるぞ!やちよ(・・・)!」

 

そう、彼がやちよさんの名前(初対面の人の名前)

呼んだのだ。しっかりと大きな声で。




ここだけ見ると主人公強く感じますね…
一応そこまで強い設定はないはずなんですけどね。
話を進めていけばわかると思いますので、お楽しみにしてください


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ウワサの男4

いよいよ戦闘シーンはクライマックスです。
私が脳内で想像した戦闘シーンを少しでも皆様に伝わればと思います…
次回からはしばらく説明フェイズニ突入します


「まったく、相変わらず人使いの荒い事」

 

そう呟いて私、七海やちよは自身が

激突したことで積み重なった瓦礫を

盛大に粉砕し、痛む体を動かし続ける。

目標は敵の攻撃から逃がすために

彼によって放り投げられたさなだ。

 

「ダメっ!間に合わない…」

 

パペットからの攻撃で、

体中痛覚でまともに機能していない以上

下手に動いたらそれこそ再起不能になる

かといって、それを恐れて慎重に

動いていてはさなの救出は不可能だ

ではこの場合どうすればいいか?

なに、非常に簡単な話だ。

 

「間に合わないわ!カズキ君!」

 

なにも1人で戦っているわけじゃない。

足りない力は仲間から借りればいいのだ

すると彼は

 

「とっておきだ、成功させてくれよ!」

 

パペットに突風をお見舞いさせて動きを

制限し、何かが砕け散る音とともに、

さなに向けて手のひらを向ける。

しかし別段何か起きるわけでもない。

風も鎖も何も出ない。

ただ、私は知っているこんな土壇場で

彼がミスをするはずがないと

 

「!フフッ随分と思い切ったものを

使ってきたわね」

 

私のはるか先の上空を舞っていた

さながいつの間にか、私のすぐ上空に

いた。まるでテレポートでも

したかのようだった。

 

「さなぁぁぁあああああああああ!」

 

モデルにあるまじき険しい顔と大声

を立てて私は力を振り絞る。

地面を切り上げて、自身の体を下

にするようにしてさな受け止める

受け身も気にせず背中の衝撃は

流水の魔法で力任せに遮断し、

地面をすべるようにさなをキャッチする

 

「はぁ…はぁ…さな?大丈夫?」

 

手早く彼女の状態を確認するが

特に異常らしい異常は見つからない。

目を覚ます気配はしないが呼吸も安定

しているし、心配はないだろう。

 

「よかった…」

 

「やちよさん!」

 

いろはがこちらに向かって走ってくる。

フェリシアと鶴野も無事だったようだ。

…むろん無傷ではない、彼女たちも

ボロボロだった。

 

「さなちゃんは大丈夫ですか?」

 

私はさなの頭をなでながら

 

「平気よ、気絶しているけれど呼吸は

安定しているわ」

 

「よ、よかった~…」

 

生きているとわかり、安堵の息を漏らす

足に力が入らずペタンと座り込む。

強敵ではあったが、とりあえず誰も

欠けていない、援軍のおかげで

一時の休息を得ることもできた。

 

「彼は大丈夫かしら?」

 

「えっ?…はい、何とか持ちこたえて

いるみたいですけれど、決定打が

欠けているみたいで、追い詰められてる

感じがします。」

 

体勢を整えた魔女の動きの読みにくい

奇天烈な攻撃に彼も防戦一方のようだ。

まるで何かに振り回されるかのように

左右に空を切る腕、私も戦ってわかった

事なのだけれど、攻撃を読みにくい上に

攻撃力がかなり高い。錯乱させられて

体勢を崩されたところで高火力の攻撃を

お見舞いする。実に戦いにくい相手だ。

 

「いろは、鶴野、彼を撤退させるわ。

援護をお願いしてもいい?」

 

いろはも同じことを考えていたのだろう

彼女は即座にうなずく。

 

「はい!でも、魔女の足は相当

早いですよ。あの人は逃げ切れる

でしょうか?」

 

「やるのよ!彼の力は私達に必要な物

ここで死んでもらっては困るわ」

 

といった後で少し後悔する。

しまった…ちょっと興奮して、いらない

事も言ってしまった。いろはは聡明

だから、いろいろ考えこむ。

いま必要ない情報を与えて動きに

乱れが出たらよくない。

 

「…分かりました。任せてください!」

 

しかし彼女は察してくれたようだ。

両手をぐっと握り、決意を表してくれる

 

「ふふーん!私にも任せておいて!

…やちよはどうするの?」

 

「当然私も援護するわ、でもまだ

本調子が出ないからあなたたちに

頼ることになるわ。」

 

魔女の攻撃で傷んだ体はまだ完全に

治ったわけじゃない。治りきる前に

行動をしたおかげで、さらに頭が

グラグラもする。

とはいえさなを救出することができた

からその意味では行動を起こして

正解だったということかしら。

 

「それじゃあ行くわよ!

もう少し持ちこたえなさいよ…」

 

 

~sideいろは~

 

「カズキ君!一度下がりなさい!」

 

そう叫び、やちよさんは跳躍をして

彼…やちよさんがカズキさんと

呼んんでいたっけ…?

彼を攻撃しようとしていた腕に

槍を振り下ろす。

それを見た彼は一度ぐるっとあたりを

見渡した後、こちらに向けて走ってくる

 

「いろはちゃん!一緒に行くよ」

 

やちよさんも追撃はせず、即座に反転し

後退をする。それを援護するべく鶴野の

炎をまとった扇が魔女に襲い掛かる。

やちよさん達を攻撃するために、

速度を上げて移動していた魔女は

うっとうしいと言わんばかりに、

闇雲に腕を振り回す。

 

「当たって!」

 

攻撃手段を防いだが、移動手段は

まだ残っている。現に今も手を振り回し

ながら足だけはしっかりとやちよさん

達を追いかけている。狙いを定めて…

矢を放つが

 

(それたっ!?)

 

右…左…左…また左…

目を賢明に動かし、動きを先読みして

何とか攻撃を当てようとするが

本当に自分の意志があって動かしている

のか疑いたくなるほどの足さばきに

翻弄されている。

自分の技術であれを正確に打ち抜くには

技術面に不安が残る。

それにもたもたしているとやちよさん

達に追いついてしまう。

 

「ッ!!」

 

そう判断したいろはの行動は早かった

腰を落として反動を落とす体勢をとり

右腕に装着しているクロスボウに

残っているありったけの魔力を込める

これを撃ったら魔力がからっけつに

なっちゃうけれど、なりふり構って

いられなかった。

それに…こちらに向かって走ってくる

やちよさんとカズキさん…あの2人を

見ているとどうにかなるのかな…なんて

なぜかそんなことを思えてしまう。

 

「ストラーダ…フトゥーロ!」

 

ストラーダ・フトゥーロそれは私の

編み出した必殺技。

私が放った1本の矢は前方に展開した

魔方陣に触れると、その数を増やす。

10…20…30…増えた矢は速度を変えず

絶え間なく魔女を襲い続け

足のあらゆる場所を切り裂きざむ。

耐えきれなくなった魔女は滑り込む

ように、地面に倒れこみ

あたり一面には砂煙が立ち込める。

 

「あっぶねぇ…ナイス判断だ。いろは」

 

こちらに走ってきたカズキさんは

息を整えながら顔についた汚れをぬぐう

 

「いろは…私なんかでよかったのかしら

さなはまだ、意識を失っている

のでしょう?」

 

ストラーダ・フトゥーロは発動に

使用しなければならない魔力量が多い

のに、攻撃に使用する魔力量は

少なくていい。つまり発動した後、

魔力が無駄に残ってしまう。

残った魔力を元に戻すのは不可能

つまり何もしなければその魔力は

消えてなくなるということだ。

それがもったいないと思った私は

その残った魔力を回復に回せるように

頑張って調整してみた。

1人限定ではあるけれど、攻撃と回復

を併用したなかなか使い勝手のいい

必殺技になったと思う。

 

「はい…やちよさんで大丈夫だと

思っています。」

 

今回その回復をやちよさんに使用した

意識を失っている2人に使えば

確かに目を覚まし、戦力になるかも

しれないけれど、なんかそれでは

よくないような気がしたのだ。

本当になんでか分からないけれど…

 

「さて…やちよこれからどうする?」

 

「あなたはどうするつもりなの」

 

「質問を質問で返さないでくれよ…

ただそうだな、あれができそうな

相手だと思う。久しぶりだが

出来そうか?」

 

そう聞かれるとやちよさんは笑みを

浮かべて自信満々に

 

「それは誰に言っているのかしら?」

 

「決まりだな。3、7、2、7でいくぞ」

 

すると彼は懐から小さいケースのような

物を取り出し中から光輝く石…(宝石

だろうか?)を取り出して、左小指に

ついている、指輪にはめ込んだ。

 

「いろは、無理のない範囲で援護

を頼もうと思うのだけれど、一旦様子

を見ててもらっていいかしら?」

 

「え…でも大丈夫ですか」

 

魔女はすでに起き上がっている、

足にいくらかのダメージを与えたとは

いえそれだけで魔女の動きが

止まるわけではない、あの目が回る

ような奇抜な動きはいまだに健在なのだ

 

「心配しないで頂戴。うまくやるわよ」

 

本当に今日のやちよさんは

どうしちゃったのだろうか?

いつもより自信満々でなんというか

なにより嬉しそうだった。

よっぽど彼と会ったのが嬉しいのだろう

なんだか知り合いって感じがするし…

無理しないようにと祈りながら

いろははもしものために備えて

体を休ませる。

 

 

~sideやちよ~

 

「あいつの動きを制するには、あれ以上

の動きをする必要があるわよ」

 

槍を構えて走りながら隣を走るカズキ君

に話しかける。彼は今はシースベルトに

ナイフを収めて、走ることに専念

している。

 

「分かっている。というか今現状頑張る

のはやちよの方だぞ。大丈夫なのか?」

 

「やるだけやってみるわ。」

 

ふっと笑って私は彼を見つめる。

少し見つめ合った後、彼はそれでいいと

苦笑を浮かべて、魔女に意識を集中

させる。

近づく私たちを追い払おうと、魔女は

腕を大きく振りかぶる。両腕で攻撃を

行ってきたら少々面倒くさい事になって

いたけれど、片腕だけの攻撃のようだ。

 

「タイミング合わせるわよ!3…2…1…

今ッ!」

 

やちよが降りおろしを槍で受け止めると

その隙間を縫うように魔女に接近する

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

ナイフを抜き取り、切りつける。

息を止めて、攻撃の届く足に連続攻撃

を行う。

 

「次!」

 

「おうよ!」

 

カズキは凪祓いを180度

回転しながらしゃがんでよけて、

地面をけり上げる。

それを横目で確認しながら私は

攻撃後の硬直中の魔女に刺突する。

休ませる暇は与えない。

回避を捨てて、刺突を繰り返す。

左足、右足、規則的に攻撃を行う。

 

「右からいくぞ!」

 

「ッ!」

 

後退する前に流水を顔にぶち当てる。

そして…目の部分に位置するであろう

場所には、水圧をあげて殺傷力を

高める。入れ替わりで入ってきた彼は

指輪にはめこんだ宝石を光らせて、

クロスするようにナイフを振り下ろし、

振り上げる。虚空を切ったそれは

離れていた魔女の腕を斬りつけた。

当たるはずのない攻撃に、魔女は困惑

したような様子を見せる。

 

バックステップで距離をとりながら、

カズキはさらに火球を複数造りだし、

顔をめがけて放つ。

その結果を見ずに、カズキは距離を

さらに離して、代わりにやちよが懐に

潜り込む。右、左…と、

魔女の攻撃に耐えながら刺突を

繰り返していく。

 

「甘いわね…」

 

妖艶の笑みを浮かべてやちよは規則的な

攻撃を急に不規則に変える。左、左、

上段、右…たまらずに魔女は後退を

始めるが、それを許す人物はここに

いない

 

「…多少の知恵はあるようだが、

付け焼刃の知恵でどうこうできるほど、

俺もやちよも甘いつもりはないぞ」

 

いつの間にか…まあ、私は見ていた

けれど。背後に回った彼は

細い糸のような雷撃を何度も放ち、

魔女の後退を阻害する。

 

「やはり、知性を有しているが、

単純なようだ。波状攻撃でいっきに

決めるぞ!」

 

雷撃をやめて、カズキはシースベルトから

ナイフを取り出し、足を背後から攻撃を

おこなう。

 

「ええ!上半身は私に任せて頂戴」

 

動きが止まった魔女に向かって跳躍

しながら、私は肩部分に槍を突き刺す

当然悶えて落とそうとするが、

振り落とされないように必死に

しがみつく。振り落とそうとする魔女の

動きを読んで私は槍を離して肩に乗る

上下からの攻撃に翻弄されて魔女の行動

はさらに単純化していく。

どちらを攻撃するかを迷い、どちらの

攻撃も中途半端になっている。

 

「これで!!」

 

肩に突き刺した槍を、力任せに

振り上げる。真下に向かって

突き刺さっていた槍を真上に

振り上げれば、当然魔女の腕は

きれいな断面を残して

落下する。顔に槍を突き刺して、

ぶら下がり数回前後に体を動かすと

突き刺した槍を離しながら一回転、

もう片方の肩に着地する。

 

「さて…きゃっ!?」

 

突然に衝撃に受け身をとることが

出来ず私は地面へと放り出させる

しかし衝突する前に私は走ってきた

誰かに抱き留められる。

 

「ぼさっとするな、奴が周りを意識

しだす前に蹴りをつけるぞ」

 

しかめっ面を浮かべてカズキ君は私を

お姫様抱っこをしながら走る。

しかめっ面なのは、高いことろから

落ちた私を直接受け止めたから

だろうか、どうやら私は顔に

吹っ飛ばされたようだ。顔を傾ける

だけで、肩に乗った私に攻撃が

出来たわけだ。

 

「ええ、もう波状攻撃はいいの?」

 

「ああ、やつが混乱している間に

飽和攻撃を仕掛ける。マギアの準備

をしておいてくれよ」

 

マギア…いろはが使っていた、

ストラーダ・フトゥーロみたいな

必殺技のようなものだ。

消費魔力とそれに見合った威力

というだけで、普通の魔法と変わり

ないのだけれど、マギアと名付けて

他の魔法と区別している。

 

「じゃあ、……いくわよ!」

 

そう叫びながら、私はカズキの

から飛び降りて魔女めがけて

突撃する。たどり着く前までに

私はありったけの魔力を込めて

召喚魔法を行う。虚空から無数に

現れるそれは私の背丈を超えるほど

の漆黒のハルバードだった。

このハルバードを串刺しにするという

一般的な魔法少女をイメージするような

可愛らしい技ではなく、ひたすらに威力

を求めた、なんとも私らしい技である。

 

「-----!!!!」

 

魔女は私が込めた膨大の魔力に反応して

腕を振りかぶり、振り下ろす。

一般人はもちろん魔法少女ですら、

一撃でその命を刈り取れるクラスのその

振り下ろし攻撃は私のもとに届く前に

ピタリと止まる。走り続けていた私は

空中で静止した腕を横切り、

貯めていた魔力を爆発させる

 

「アブソリュート・レイン!」

 

懐に潜り込んで私はマギアを発動する

魔女に心臓があるわけではないので

懐に潜り込んだところでどこを攻撃する

かなんて考えていない。魔女の奇妙な

顔を見上げながら私はハルバードを

撃ち放つ。

 

 

 

~sideいろは~

 

 

 

猛威を振るっていた魔女も、さすがに

この攻撃を耐えることはできなかった

みたい。シャランと大きな金属音と

ともに、パペット型の魔女は虚空に

消える。パペットの攻撃を防いでくれた

のは巨大な鎖だ。やちよさんが攻めると

同時に、カズキさんが仕掛けたものだ。

カズキさんはやちよさんが懐に潜った

後はまるで結果を分かっているかの

ように、結果を見ずこちらに向かって

歩いてくる。

 

「怪我の調子はどうだ?」

 

「えっと…安堵して疲れて寝ているだけ

です。心配はないと思います。」

 

魔女の消滅を確認した後、鶴野と

フェリシアは強敵が消えたことによる

安堵で意識を手放してしまった。

まあ、戦闘はすでに終了しているし、

他に魔女の影はないしということで

私も、フェリシアちゃんに膝を

膝を貸している。

 

「そうか、それは何よりだ。一応

全員の穢れの量を確認したほうが

いいかもしれないな。」

 

「はい…あ、やちよさん!大丈夫

ですか?」

 

さすがに疲労を隠せていないが、

やちよさんも大した傷もなくて

ほっとした。

 

「ええ、大丈夫よありがとう…」

 

私に微笑みかけてくれたやちよさんは

隣に立っているカズキさんを見つめる。

腕を組んで探るように互いを見つめあう

やちよさんとカズキさん。

いや、若干やちよさんのほうが腰が

引けているような気がする。

 

「………………………まあ、及第点

といったところだな。」

 

「ふぅ…相変わらず辛口なのね。

カズキ君」

 

それを聞くとやちよさんは今ままでに

見たこともないような顔…なんていえば

いいのだろうか?甘えたそうな顔?

とでもいえばいいのだろうか?

まあ…そんな顔を浮かべてカズキさんに

近づき、それを見たカズキさんも腕組を

やめて、やちよさんに近づく。

そして、二人は近づいたところで

右手を挙げて…

 

パンッ!

 

と乾いた音を響かせる。ハイタッチだ。




ちょっと書き込み過ぎて訳の分からないことになっている気がする…
書き方もそろそろ見直さないといけませんね…
意見要望お待ちしております!


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カズキ1

~裏路地~

 

秋の心地の良い夜風に身をゆだねながら

私たちはブロック塀に背中を預け腰を

下ろしている。手に入れたグリーフシード

を使いまわして、穢れを払い付近を少し

捜索して魔女、使い魔がほかにいないかを

確認。今しがたそれを終えて休憩を初めて

いたところだ。さすがにこのまま家に

帰ろうと思うほど元気は残っていない。

 

「ふう…」

 

スカートに汚れがついてしまうが、正直

今はそれもどうでもいい。今は早く座って

ゆっくりしたかった。眠気も襲ってきたが

さすがにこんな所で寝るわけにもいかない

 

「お疲れ様。コーヒー…飲めるか?」

 

一息ついたところでカズキさんが

人数分缶コーヒーを持って来てくれた。

温かく甘いコーヒーが疲れた体を

癒すような感覚を覚える。

 

「ふぅ…ありがとうございます」

 

「気にすんな」

 

そういってカズキさんも私の隣に座り

缶コーヒーを一息に飲み干す。

 

「ふう~、やっぱ体を動かした後は

甘いもんが欲しくなるな」

 

「あの…さっきの3、7、2、7って

波状攻撃の間隔で合ってますよね?

やちよさんとカズキさんと交互って

感じで」

 

それを聞いたカズキさんは驚いた顔

をして私を見た後、かみしめるように

笑い始めた。

 

「ちょ、ちょっと!どうして

笑うんですか!?」

 

「はははっ……ははは、いやー悪いね

もっと別のことを聞いてくるかと思った

んだが、まさか開口一番の質問が

それだとはね。まあ、お察しの通りだ

少ない秒数が俺、7秒がやちよの秒数だ」

 

そういっていまだに苦笑しているカズキ

さんは教えてくれた。

 

「別のことも聞きたいですけど…

それは後でもいいかなって思って」

 

いろはの目線にはもたれ掛かるように

して目を閉じている3人とそれを

介抱するやちよの姿があった。

 

「私だけ聞いても後でしっかり

伝えられる自信はないですし、

それに多分皆知りたがってるはずです

から先に聞くのはアンフェアかなって」

 

「そうか、ずいぶんと真面目というか

もうちょっと欲望に忠実になっても

いいと思うがな」

 

コンッコンッとリズムカルに缶で地面を

叩いて私の話に耳を傾けるカズキさん

こちらの視線には気が付かず、

夜空で一際目立つ月をぼーっと見ている

そんなカズキさんを改めて眺めてみる

 

黒いパーカーと、ひしゃげた弓に

中身が空っぽの矢筒、先ほどまでは

パーカーは開けていたため、ベルトに

備え付けられていたシースベルトを

見ることができた。刃渡りに大きそうな

ナイフを3本ほど所持していた気がする

まあ、今はチャックは閉めているため

確認はできないけれど…

男性にしては長いに分類するので

あろうか長髪の黒髪、細目が特徴の

若い男性…正直何歳か読めないけれど

やちよさんが君付けで呼んでいたため

やちよさんよりは年下なのかもしれない

下にはジーパンをはいていて、所々白い

く汚れが目立つ。

 

「…何か俺の顔についているか?」

 

じっと眺めているとどうやらカズキさん

に気づかれてしまったようだ。

 

「い、いえ!なんでもありません」

 

「?そうか、じゃあ俺はそろそろ戻る

とするかな」

 

「カズキ君、どうせなら私たちの家に

来ない?この子たちもあなたのことが

気になって今夜は眠れないと思うわ」

 

寝息を立てているフェリシア達をよそに

やちよさんが声をかけてきた。

知らない男性をいきなり家に入れるのは

私からしたら少し怖さもあるけれど、

やちよさんの知り合いみたいだし、

何よりあの家の家主はやちよさん。

さすがにそれに口出しするつもりはない

 

「え?いや、正直ありがたいがいいのか

そこで寝てるやつらに聞かなくて?」

 

「うーん…一緒に住んでいる以上一言

有ってもいいと思うけれど、私の家だし」

 

大丈夫じゃない?とやちよは微笑みながら

首をかしげる。

 

「良くはないと思うが…まあ、いいか」

 

 

~道中sideいろは~

 

 

一旦休憩をはさんで私たち6人は

みかづき荘を目指して歩いている。

今日は皆で買い物をした帰りだったため

戦闘後の疲れた体で、大きな荷物を

持ち運ばなければならなかった。

 

「すみませんカズキさん、荷物たくさん

持ってもらっちゃって…」

 

「なに、気にすんな。少しばかし厄介に

なるわけだからな。」

 

もっとも、こうしてカズキさんが重そう

な荷物を引き受けてくれたため、

そんなに重いとは感じていない。

現在状況を説明してくれるということで

やちよさんたちがフェリシアちゃんたち

と一緒に先を歩いていて、その後方に

私とカズキさんがいる状態。

 

「あの…カズキさんってやちよさんと

長いんですか?」

 

「ん?後でまとめて聞くんじゃなかった

のか?」

 

「あ、……そうですね、すみません」

 

そういうと彼は肩を竦めて

苦笑を浮かべる

 

「もうちょっと欲望に素直になれって

言っただろ?ちょっと意地悪しただけだ」

 

「え?もう…」

 

「はははっ悪かったな。えーとそれで

やちよとは…もう7年になるな」

 

7年といえば…

 

「やちよさんが魔法少女をやってきた

年月と一緒?」

 

「正解、あいつが魔法少女として活動を

始めたときに出会った。それから定期的

に連絡をして、共闘したりしてた。」

 

「でも…私もやちよさんと会ってもう

結構…と言っても1年は立ってない

ですけど長くチーム組んでますけど…」

 

彼女からそういう人物がいるという話は

一度たりとも聞かなかった。

 

「正直に言えば俺は近いうちあいつは

死ぬと思っていた」

 

「え?」

 

そういうとカズキさんは先に歩いている

やちよさんを見つめる。その目は

先ほどまで浮かべていた優しい

目つきから一転。判断しにくい表情

を浮かべていた。黒髪に紛れて

はっきりと見えない横顔には

目を細めて、前を歩くやちよさんに

向けられていた。

 

「あいつの過去は?」

 

「そういわれて、思い当たる節は

いくつかあります…」

 

「そうか、もう話していたんだな。

じゃあわかるだろ?あいつは一度チーム

メンバーを失った。」

 

そう、やちよさんは高校生の頃

組んでいたチームメンバーの内2人を

失ってしまったのだ。その時にこの世界

の魔法少女が背負っている運命と、

人とは違う、魔法少女の仕組みについて

完全に理解してしまったのだ。

 

「その後あいつはおそらくあんたたちと

合うまでの間ずっと1人で戦い続けて

きた。いや、孤独というほうが正しいな。

誰の助けも受け付けないで、文字通り

1人で…この世界はそんな戦い方で

生き残れるほど甘くない。」

 

そういってカズキさんは私にすまんな

と言って葉巻を取り出した。

手早く火をつけると一呼吸おいて

話を続けてくれた

 

「武器の手入れ?誰かと戦闘の練習?

そんなものでもいい。この世界は

1人で生きて行くことはできない。

だからやちよは近い内に死ぬと

思っていた。でも…あいつはいい仲間

に巡り会えたようだな」

 

カズキさんは私を見据える

 

「はい、私がやちよさんの助けに

なれるかなんてわかんないですけど…

それでも、私はやちよさんの支えに

少しでもなればいいなって」

 

「なれたらいいじゃないさ。

もうなってるんだよ。あいつが今も

ああやって生きているのが証拠だ」

 

私は当時のことは話で聞いただけなので

カズキさんとやちよさんの間に何が

あったのかは、分からない。

でも先ほどのカズキさんの目、諦めた

かのような、濁った目。

彼は本当に、やちよさんが死ぬと思って

いたのだろうか。

 

「人1人ができることは少ない。

だから出来ないことをそれぞれ

チームメンバーで補うことで、

魔法少女たちはこの穢れた世界で

理不尽な世の中で、戦い続けることが

できる。」

 

そういう意味ではこのチームは最高の

チームと呼ぶのにふさわしい。と彼は

言ってくれる。

 

「お互いがお互いを補い合い、自身の

役割を完璧に把握している。

そして何より、強敵との闘いで培われた

経験値は精神的、物理的に君たちを

より強固に結びつけてくれる。」

 

「私たちの事…知っているんですか?」

 

まるで見てきたかのようなそのセリフに

私は困惑する。白い煙が夜空を彷徨い

虚空に消える。彼は苦笑しながら

まさか、と笑う

 

「俺があんた達を知ったのは今日が

初めてだ。でもあれだけ見事な戦いを

見ればよく分かる。」

 

「そういうものなんですね…

あ、見えてきました。あれが私たちの

御家みかづき荘です。あ、でも初めて

じゃないんですよね?」

 

「いや、やちよの家に来るのは初めてだ

基本的に彼女とは外で会っていたから

しかし、大きな家だな」

 

私たちだけが済むには少しばかり大きい

この家には今現在5人の魔法少女が

住んでいる。正確には鶴野は実家暮らし

のため、寝泊りしているのは4人だが

毎日のように来ているため、彼女も

ここを第2の家とみているようだ。

 

玄関の前には先を歩いていたやちよさん

達が私たちを待っていた。

 

 

~みかづき荘リビングsideいろは~

 

「たっだいま~!」

 

「こら!鶴野。ソファーにダイブする

前に荷物分けるのを手伝いなさい。

フェリシアも!」

 

「え~魔女相手に疲れた~」

 

鶴野たちが初めにだらけて、あとの

私たちが荷物を分ける。みかづき荘で

よく見る光景。日常というものだ。

 

「今日…これが見られなくなる可能性が

あったんですね。」

 

「うん、でも仕方ないことだよ。

私たちは戦い続けなくちゃいけないから

でも、よかったよ」

 

魔女との闘いは私たちにとって当たり前

だけれど、さすがに今回の戦いは

応えたようだ。皆疲労がたまっている。

それを見かねたカズキさんは

 

「やっぱり日を改めたほうが

いいじゃないか?皆疲れているだろ?」

 

「いーや!大丈夫だ!それより早く

教えろよ!」

 

「そうそう!師匠の昔馴染みなんでしょ

私も早く聞きたい!」

 

「…そんな楽しい話じゃないぞ?」

 

期待に胸をふくらませる鶴野達に若干の

困惑の表情をみせるカズキさん。

まあ、確かに楽しい話ではないと思う

けれど実は正直私も楽しみしている

だって…やちよさんがあれだけ信頼を

寄せている相手なのだから、どういった

人物なのか非常に興味がある。

 

「いろは~!こっち手伝ってちょうだい

多分長くなると思うからコーヒーでも

入れようと思って」

 

「あ、はーい」

 

 

 

 

チームの記念に皆で買いそろえた

マグカップに温かいコーヒーを入れて

配る。カズキさんには前まで使っていた

コップでコーヒーを渡す。

 

「わざわざすまんな」

 

息を吹きかけて適度に冷ましてから

味わうように飲み込む。

 

「うん悪くない。いいコーヒーだな。

…さて、とりあえず、何から話せばいい

んだ?正直こっちとしてはあまり言う

事はないから質問に答える形でいこうと

思う」

 

その言葉に私たち4人はうーんと唸る

これはあれだ。聞きたいことが

たくさんあるのにどれから聞けばいいか

分からないやつだ。

 

「じゃあ…私からいいですか?」

 

そう、おずおずと手を挙げたのは、

意外にもさなだった。引っ込み思案で

こういう時あまり前に出ない子だった

けれど…変われるものだと感心する

 

「その…あなたの正体は何ですか?

魔法少女、だと変ですけれど…

魔法少女なんですか?」

 

「まあ、最初の質問にしちゃ妥当な所

だろうな。俺が答える答えはNOだ」

「ここにいる全員魔法少女のシステムに

ついては周知のことなのだろう?」

 

「ええ、すでにみんなが知っているわ

知っていて、乗り越えている。」

 

「そうか…本当最近の魔法少女は強いな

ひと昔前はこの話を聞いた後の大惨事は

日常だったのに」

「っと、話が脱線した。すまんそれでだ

魔法少女は『いずれ魔女となる少女』と

言う意味でキュウベイが付けた名だ。

俺は少女でもないし、君たちには悪いが

いずれ魔女にもなることはない…と思う

だから俺は魔法少女ではない」

 

ソウルジェム…それは魔法少女の魂

そのもの。命の具現化。魔法少女にとって

肉体は魂で動かす道具に過ぎない。

ソウルジェムさえ無事ならば道具(肉体)がいくら

傷つこうが、壊れようが修復が可能。

しかし、ソウルジェムが壊れれば…?

それは死を意味する。

 

そしてソウルジェムには穢れがたまる。

負の感情に汚染された時、道具(肉体)を動かす時

魔法を使ったとき、その力を使った代償は

魂で支払わなければならない。

そして…穢れがたまりきったとき

そのソウルジェムは開花(魔女化)することとなる。

人々を襲う怪物として願いの代償を

支払うのだ。最もキュウベイ自身の目標

は魔女になった際のエネルギー吸収が

目的で、魔女になった時点で代償は

支払ったということになるけれど…

 

「俺にソウルジェムはないからな。

だから魔法少女ではない。」

 

「そうなんですね…でもならどうして

魔法を使っていたんですか?

魔法…ですよね?」

 

さなの疑問は最もだ。彼は何度も何度も

人知を超えた、魔法少女にとっては常識な

魔法を使っていた。つまり彼には何等かの力

を持っているはずだ。

 

「そうだなまずは…」

 

「なぁ、そんなことより先にお前のこと

なんていえばいいんだ?」

 

カズキが話を切り出す前にフェリシアが

名前を聞く。年上だというのに

なんというか聞き方に遠慮がない。

 

「あれ?名前知らなかったか?でも

いろはは言っていたはずだが…」

 

「えっと、あれ?やちよさん皆さんに

言ってなかったんでしたっけ?」

 

「言ってないわね。いろはがカズキ君の

名前言ってたからカズキ君が教えたのかと

思っていたわ。」

 

 

つまり、やちよはカズキがみんなに

教えたと、カズキはやちよが教えたと

思い込んでいていたようだ。

とはいえやちよがカズキと呼んでいた

のを聞いていた人は知っているはずだ

つまり気絶していたフェリシアと

さなは知らないというわけだ。

まあ、あの乱戦の中でそれを聞き分ける

というのも難しい話だ。鶴野も

覚えているか怪しい。

横目で見てみると下を出して笑っていた。

 

「そうか…じゃあ名乗らせてもらおうか」

 

と彼はコーヒーを一息で飲み干してから

 

「初めまして、だ。俺の名前はカズキ

グリ-フシードの販売、及び魔法少女同士

の争いなどの仲介を行っている。

よろしくな」

 

そういって彼はなんとも芝居がかった

仕草で深々とお辞儀をした

 




いかがだったでしょうか?説明はまだまだ続きます。
矛盾点とかでないように気を付けてはいますけれど
出るときは出てしまうので、そうなってしまったら
指摘とかくれるとありがたいです


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カズキ2

お待たせしました!開示する情報を整理してたら結構時間かかっちゃいました…
8000字くらいは書きたいなと思いつつきりのいい所だとここになっちゃいました。
まあ、ssですしそんなものかなと自分に甘える今日この頃…では本編どうぞ!


~みかつき荘リビングsideいろは~

 

 

「グリーフシードの販売…ですか?」

 

カズキさんの自己紹介で放たれた言葉…

グリーフシードの販売。魔法少女にとって

その需要は計り知れない。いくらあっても

困らないし、入手手段も限られている。

この町でも一時期魔女がほとんどいない

という時期もあったらしい。もしその時

カズキさんがここにいたら…

 

「そうだ、まあ販売と言っても金を貰う

つもりはない。たまに金で買うやつもいる

がまあ基本的には俺の仕事の手伝いを

してもらってる。清掃ボランティアとか」

 

「ど、どうしてそんな事?」

 

すると彼はヘッと小さく笑い、少し

困ったような顔をする。

 

「正直なところこれだっていう明確な

理由はないな。いやあるにはあるが…

まあ、それは後回しにしていまは、

さな…で合ってたか?お前の質問に

戻ろうか」

「魔法少女でなければなぜ魔法が使える

のか?その理由はこれにある」

 

そういってカズキさんは左小指に

ついている指輪を私たちに見せてくれる

形状はなんとなく見覚えがある。

ソウルジェムだ。ソウルジェムは魔法

を使うとき…つまり戦闘を行うときには

卵…イースターエッグが近いかも…

そんな形となり各々別々の部位には

はめ込まれる。やちよさんは胸の下。

フェリシアちゃんは胴についている鎖。

私は胸元のケープの留め具に装着される。

 

しかし戦闘時以外には指輪の形となり

指にはめ込まれる形で保持されている。

カズキさんのその指輪はその収納時の

ソウルジェムになんとなく似ていた。

ただ…

 

「それ?ソウルジェムでしょ?でも

なんか形状おかしくない?」

 

鶴野が挙げた疑問はもっともだ。

指輪状態のソウルジェムは大した装飾も

ない、いたって普通の指輪になるはずだ。

しかし彼のしている指輪には何かを

はめ込めるような装飾が施されていた。

今現状そこに、はめ込まれている場所と

そうじゃない場所がある。

そしてはめ込まれているのは…円形の宝石

ソウルジェムにそっくりだ。

その小さな穴は全部で12個あった

 

「それはこれが指輪の状態じゃない

ソウルジェムだからだ。まあ例外という奴

だな。このソウルジェムは戦闘時もこの形

なんだよ。」

「後…さんざんソウルジェムソウルジェム

って言ってたがこれ、ソウルジェム

じゃないんだ」

 

「ええ!?でも…それ魔力感じるよ?

みんなはどう?」

 

鶴野が全員に聞いてみると全員が頷いた。

私ももちろんそう感じている。確かに他の

人に比べて微弱で反応をキャッチするのが

少し難しいと感じるけれど0ではない。

まあ、これは少しだけおかしい事なのだ

基本的にソウルジェムはこうして変身

を解いて指輪にしているいる間は、ほかの

魔法少女に感知されることはない。

だからこのソウルジェムを今感知できる

のは少しおかしい。もっともカズキさんは

これがソウルジェムじゃないと言っていた

だから不思議に思うことじゃないのかも

しれない。

 

「これを手に入れたのは不可思議な力…

この世界で誰も説明することのできない

力だ。何かわかるか?」

 

「えーと…魔法、は違うんですよね…」

 

「魔女の力とかじゃねーの?」

 

「いやいや!きっとなにかこう…修行で

手に入れた力とか!」

 

などと何かのレクリエーションと勘違い

してしまいそうなテンションで議論を

続ける三人を横目に私は1つの仮設を

思いついた。魔女も、魔法少女も

魔法も聞いたら答えてくれる生物に

心当たりがある。キュウベイだ。

そしてそのキュウベイすらも

答える事の出来ない力…それは

 

「願い…でしょうか?」

 

「おっ。中途半端な質問だったがよく

分かったな。正解だ。あんまり詳しく

言いたくないがとある女の子が魔法少女

になる際に俺に魔女を倒せる力を与えて

ほしいとそう願った。もっとも彼女は

魔法少女になった後すぐに殺された。

俺もその場にいたわけだが、その時の

記憶は正直覚えていない…虚ろでもやが

かかっているようだ。まあ、一般人が

魔女結界内部で正気でいられる

わけではないということだな」

 

彼は少し顔を伏せて話をつづけた。

一瞬見えたその顔にはなにか、怒りの

ような表情が見えた気がした。

 

「俺がはっきりと意識を覚醒させた時

には目の前には死体とそれをもて遊んで

いた魔女がいた。本当…ブチ切れるって

感覚を初めて味わったよ。どうやって

倒したかは無我夢中で覚えてないけれど

魔女結界が消えたときには俺は手に角材

を持っていたよ。」

 

「もしかしてさなちゃんを見えたのも」

 

彼は魔法少女以外には見えないはずの

さなちゃんを見ることができる。

 

「魔法少女と魔女は=で結ばれている

つまりはそういうことだろう。」

 

「なるほど…それはキュウベイの願いに

よって入手したものなんですね?」

 

「ああ、奴に聞いてみたが奴自身も

これが何なのかわからないらしい。

ただ便宜上、これはと指輪(ソウルジェム)

呼んでいる。」

 

彼は指輪を外して机に置いた

白銀に輝くリングにそのリングを

覆うように装飾された円形の器、そして

その器にはめ込まれたとても小さな宝石

部屋の明かりに照らされて輝いて見える

それは、私にはきれいという感想が

なぜか生まれなかった。

 

「……………………」

 

「醜いか?」

 

「え!?いえ!そ、そんなことはない…

ですよ…?」

 

すると彼は笑って私に周りを見るように

促してきた。そっと皆の顔をうかがって

見ると皆もなぜかあんまりいい顔はして

いなかった。

 

「お前の反応は正常だよいろは。

見た目以上にこいつはすげぇドロドロ

してる。後悔、憎悪、憎しみ、悲しみ、

嘆き、期待、依存、妬み、安堵…

こいつにはいろんな人間の大量の

感情を受け継いでいる。だからきれい

なわけがない。複雑で、醜い。」

 

「また話がそれちまったな。こいつの

説明に戻るか。このソウルジェムの

ような物は普通の物に比べて

できる事が少ない」

 

彼の説明をわかりやすくようやくすると

こういうことだ

・魔女の感知範囲が極端に狭い

・魔法少女は一切感知不可

・ただし魔女化の危機が迫るほど穢れが

溜まった魔法少女にのみ絶大な範囲で

感知する。範囲は不明だが少なくとも

この町をカバーできるくらいの大きさ

・このソウルジェムが傷ついても

肉体に影響はなし。

・身体能力の向上はほぼなし

多少疲れにくくなる程度

・穢れの概念がない

・魔法は使いたい放題

・他のソウルジェムと同様に魔力がある

ので、サーチが可能。しかし魔力量は

微弱であるため、会話が可能な距離

くらい近づかないと感じ取ることが

出来ない。

 

「っと…こんなところか」

 

「じゃあカズキさんが使っていたのが…

カズキさんの魔法…ってことですよね?」

 

「でも随分と数多くなかった?私も師匠も

結構長くやってるけど、少なくとも

あんな数の魔法が使えるの見たことないよ

師匠はある?」

 

先ほどまでだんまりを決めてたやちよは

鶴野の問いかけに首を振る。

 

「私も聞いたことないわ。多くても4種類

くらいかしら?私のあれも水を操るという

1つの魔法を応用したものが大半だもの」

 

そこで全員の視線はまたカズキに集まる

カズキはその視線を受けて肩を竦める

 

「願いで手に入れたものだが、これも

そこまで万能じゃない。使える魔法は

1つだけ、捕食魔女(プレデターウィッチ)と呼んでいる」

 

 

捕食魔女…なんとも不気味な名前だ。

キュウベイの魔女の由来の話も

合ってあまりいい感情は浮かばなかった

渋い顔をしていた私達だけれどさなちゃん

はまた勇気を振り絞って質問を続けた

 

「えっとどんな魔法なんですか?

火、氷、風…いっぱい使っていたと

思いますけれど」

 

「そのどれもが否だ。捕食魔女(プレデターウィッチ)の効果は

『対象が習得している魔法及び固有能力の

中から対象者が1つ選択し、その選択

された魔法or固有能力を任意で効果を

増減して習得する』だ」

 

「えーと…つまりどういうことですか?」

 

「まあ、これだけ聞いても分からんか…

例えばやちよが使っている魔法の一つ

召喚魔法。マギアでよく使ってるの

見ているだろう?」

 

漆黒のハルバードを出して相手を切り裂く

やちよさんのマギアでよく使われる

召喚魔法、詳しい効果は正直よく分かって

いなかったりする。

 

「やちよが召喚魔法を俺に渡すと

選んだことにする。やちよの召喚魔法は

あのハルバードをあの大きさで6本出す

と完全にマギアを使う用に特化されている

例えば俺はこの効果をハルバードを小さく

して1本だけ出す効果に効果を弱くしたり

出す本数を10本に増やして強くしたり

することができる。」

 

「つまり…他の魔法少女が使っている

魔法と固有能力を自身が使いやすい用に

カスタマイズしていつでも使用できる

ってそういうことですか?」

 

だとしたらいくら身体能力が一般人

クラスとはいえ、それを塗り替えれるほど

に強力な魔法だ。何せ彼はあの一戦だけで

数種類の魔法を使っていた。つまり

習得した能力はいつでもかつ、いくらでも

使用可能だという事なはず。

身体能力強化の魔法も存在するし、

何より遠距離攻撃から防御、支援文字通り

なんでもできる万能型ということになる。

 

「まあ、そんな都合のいいわけがない。

まず他人の魔法には使用回数が付けられ

ることになる。この使用回数を決めるの

はこの指輪(ソウルジェム)だ。俺は一切関与

することができない。」

 

魔法の効力を強くすればするほど

使用回数は少なくなる。つまりむやみ

やたらと強いものばかリを習得しても

あっという間に回数制限に掛かるという

魔女との対抗手段が少ないカズキさんに

とってそれは致命的となる。

 

「しかもこいつの厄介なところは

回数制限は俺が効力を決めて、

こうして形にしてみたいとわからないと

いう所だ。」

 

そういって彼は指輪にはめ込むであろう

宝石を手でもて遊ぶ。指輪についていた

物ではなく、ポケットから取り出した

物だ。…そんなに粗末な管理で大丈夫

なのだろうか?

 

「もう察したやつもいると思うが、

この宝石1つ1つに魔法が

込められている。ややこしいが

これも宝石(ソウルジェム)と呼んでいる」

 

「これ全部にか!?ってことは全部で

12個の魔法が使えるってことか?」

 

「いや、今現状300くらいはある。

この指輪にはめ込まないと使用は

出来ないから、普段は11といくつか懐に

納めている。」

 

「「「さ、300!?」」」

 

これにはさすがに驚いた。つまり彼は

300人以上の魔法少女から魔法を

受け取ったということになる。

 

「そ、相当の人数からもらったんですね

…もう、全国の魔法少女と知り合いに

なったんじゃないですか?」

 

それを聞いたカズキさんはまだまだだな

とつぶやいて首を振る

 

「よく考えてみろいろは。俺は少なく

とも7年魔女と戦っているんだぞ?

黒字を維持するにはもっと集める必要

がある。今日の戦いでも2つ消費した

いくら何でもちょっと無理があると

思わないか?」

 

確かにこれが使い捨てではないとは言え

300を保持するにはいったいどれだけの

魔法少女から魔法をコピーする必要が

あるだろう。しかしカズキさんには

それができる、何らかの手段を

持っているということだ。

 

「同じ魔法少女から何度も魔法を

貰ったとか…?」

 

「それともそれをなしえるほどの

広すぎる交友関係を持っているんで

しょうか?」

 

鶴野とフェリシアはすでに頭は

パンクしている。私とさなちゃんで

それぞれの考えを出し合うが、

カズキさんの反応は薄い。

彼は小さく笑うと

 

「俺は一度も対象者が魔法少女だけだ

なんて一言も言っていないぞ?」

 

「え?でも確か…」

 

言っていない。彼はやちよさんの話を

例にしただけで、対象者が魔法少女

とは言っていない。では魔法少女以外

になにが対象なのだろう…

と考えるまでもない。

 

「もしかして魔女も対象に入っている

のでしょうか?」

 

「正解だ。より正確に言うならば

元魔法少女の魔女から出てきた

グリーフシードが対象だ。

こっちから魔法を習得するときは

習得できる魔法はランダムになる。

本人はもう死んでいるからな」

 

この世界の魔女は2種類に別れる。

1つはオリジナル。使い魔から成長

して魔女になった物やどこからともなく

現れた魔女など、兎に角元が魔法少女

ではない魔女はそこに区分される。

 

そしてもう1つは元が魔法少女の魔女。

正直に言って私達には全く関係のない

話なのだけれど、を使うときに

それは非常に重要となるらしい。

 

「魔女少女からの供給にグリーフシード

からの供給。そして魔法を節約して

倒せるような魔女を狙ったりで数を

貯めれば、それなりの数を保持できる。

最も喜ばしい事ではないがな」

 

首をかしげる私たちにカズキさんは

魔法を習得できるグリーフシードが

集まるということはそれだけ魔法少女が

犠牲になっているということ。

 

「確かに…そうですね。」

 

「ああ、それにこれでも戦いなれている

魔法がなくともやっていけるさ…

っとさな、魔法の疑問はこんなもので

いいか?」

 

「そうですね…ほかにもいくつか疑問は

残りますけれど、今は大丈夫です」

 

「そうか?…まあ、それでいいなら

別にそれでも構わんが」

 

身振りを交えて話を進めていたのか

それなりに時間が立っているようだ。

やちよさんと私で、コーヒーを追加で

用意して、いったん休憩を挟もうと

提案した。カズキさんは葉巻を

取り出して10分くれと言って

ベランダに出てしまった。

 

 

~キッチン~

 

 

やちよさんとキッチンで一緒に準備を

進めている間、慣れない人との会話に

私はいつの間にかかなり体を

強張らせていたことに気が付く。

知らない人でしかも男性。そして

魔法少女に理解のある人…

普段通りに話せというほうが無理だ

 

「ふぅ…まだ少し話しただけですけど

なんというか、不思議な人でしたね。

つかみどころがないって言うか、

いったいどんな経験を積んで

来たんでしょうか…?」

 

「そう?あれでも結構かわいい所

あるのよ?優しい人だし。

あれでも花とかに目がないのよ。」

 

「ええ!?以外ですね。…っあ!

やちよさんカズキさんの年齢って

分かりますか?やちよさんより下なんで

しょうか…?」

 

「ふふっいろは。彼は今何してる?」

 

えっと…彼は今ベランダにいる。

ベランダに言った理由は…

 

「ああ!!もしかして年上ですか?」

 

そう、彼は今葉巻を吸いに行っている。

未成年の私たちに気を遣ってキッチンの

換気扇じゃなく、外で吸っているのだ。

当然タバコと同じなのだから

葉巻も20歳にならないと吸えない。

 

「やちよさん随分と年下を扱うような

感じだったんで、年下だとずっと

思っていました。」

 

「そうね。最初は私も年下だと思って

いたの。保護欲を駆り立てられるような

可愛らしい男の子だったのよ、

あってしばらくはずっと年下だと

思っていたわ」

 

やちよ作成んはポットのお湯が沸くのを

待つ間、懐かしそうに話をしてくれた。

ただ、突っ込んだ話はしてくれない。

生い立ちとか、どうやって知り合った

とか、やちよさんも意図的にそれを

避けていってるようだ。

理由なんて聞くのは無粋。きっと何か

あるのだろう。いつか聞ける日が

くればいいなと考えながら私は

やちよさんの話に耳を傾ける

 




いかがだったでしょうか?今回はカズキ君の能力についての説明でした。
説明パートは次回で終了を予定しています。次もお楽しみにしてください
コメント評価をしていただけるとモチベショーンにつながるのでぜひ
よろしくお願いします!


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カズキ3

とりあえずこの話で一区切りとなります。
それではどうぞ~


~みかつき荘リビング~

 

「なあ、あいつ何がしたいんだろうな?」

 

彼が葉巻を吸っている間に私たちは準備

を終えてリビングに集まっている。

せっかく飲み物を入れなおしたのに、

カズキさんは手を付けない。まあ、ここに

いないし仕方がない。

フェリシアちゃんは飲み物を一息に

飲み込んで、フェリシアは疑問を

口にし続ける。

 

フェリシアと鶴野は先ほどまで情報を

頭に納めきれずに寝てたりしてたけれど、

やちよさんとさなちゃん達と詳しく説明

してようやく理解してくれた。

 

「だってさ、あいつにとって俺達を

助けることになんもメリットないだろう?

自分の命文字通りすり減らして、

グリーフシード集めて、それを実質無償

で俺達に配って…なにがしたいんだろ」

 

確かによく考えなくともそう思うのは

自然なはずだ。魔女を倒すという行為は

魔法少女ですらも倒すのに困難な時も

ある。それをいくら捕食魔女があれど、

能力面ですべてが劣っている一般人が

戦うのは並大抵のことではできないはず

彼はそれを成し遂げた。相応の人生を

戦いにつぎ込んだはず、プロのスポーツ

選手なんて目じゃない。きっと文字通り

命をすり減らすような訓練をしたはずだ

 

「やちよさん…そこらへん何か聞いてたり

しますか?」

 

「ええ、彼は私たちを助けるために

行動を続けているのよ。」

 

単純明快。予想していた答えだ。けれど

知りたいのはその先。

 

「それは見りゃ分かるよ!理由だよ!

り、ゆ、う!」

 

「そうね……いくつか推測できる事こそ

あるけれど詳しいことは正直私にも」

 

「7年も一緒にいるのに、師匠にも

分からないの?」

 

「ええ、彼から彼のことを聞き出すのは

至難の業よ。私も7年経っても過去の事

はほとんど教えてくれないもの」

 

「別に話すほどの事はない。」

 

話しているとカズキさんが戻ってきた

小さくなった葉巻を捨てて、リビングに

戻ってくる。

 

「教えてくれないのか?」

 

「知る必要もないからな。」

 

「なんだよ!少しくらい教えてくれても

いいじゃないかよ!」

 

「逆に聞くがお前は自分の過去を知らない

誰かに話せと言われてはいそうですかと

素直に話すことは可能か?」

 

そう聞くとフェリシアは顔を伏せて

黙り込む。彼女の両親は魔女によって

殺害された。しかも幼い時に。

…本当は別の理由で死んでしまったのだが

キュウベイに願った願いにより、

そのことを忘れてしまい、代わりに

そういった記憶が植え付けられた。

 

まあ、どちらの記憶だったにせよ、安易に

人に聞かせられるような話ではない。

フェリシアにも話せない過去がある

 

 

「聞かれたくない事の1つや2つは

誰にだって存在する。まして、俺たちは

そういった記憶をよく持っている。

そういった集まりに自然となってしまう。

だから相手が話したくないとわかったら

聞かないほうがいい。相手がしゃべりたい

と感じたら勝手に話す。どうしても

聞きたいというのなら、説得してみろ」

 

「でも話してみなきゃ何もわかんないだろ

よく、そういう秘密は信頼してから…って

いうけど、信頼を得るためにも、

互いに少しははなしたほうがいいだろ?」

 

 

フェリシアちゃんはカズキさんを

にらみつける。フェリシアちゃんは

この中で誰よりも、純粋で素直だ。

疑問が生まれれば知りたがるし、

自分が違うと思えば、遠慮なくその意見を

言う、分からないことは素直にわからない

という。そんな彼女だからこそ、

初対面でもこうやってぐいぐいと

懐に入り込もうと行動できるのだろう。

 

「まあ、そう思うのは勝手だ。

俺はそうは思わない、俺は…」

 

「カズキ君、そこまでにしておいて

くれるかしら?過去を詮索されるのは

相変わらず嫌いみたいね」

 

終わらないと見たやちよさんはカズキさん

に静止を入れる。後から聞いた話だけれど

昔からこんな感じだったみたい。

過去を必要以上に語ろうとせず、

突っ込んでくると突っ放す。

そのくせ、必要とあればこちらの隠したい

事柄に対して容赦なく土足で踏みにじる。

 

「…まあな、すまない少し言い過ぎた。

お前の考えを否定しているわけじゃない。

誤解しないでくれ」

 

「え、ああ…こっちもその、ごめん…」

 

フェリシアを申し訳なさそうに頭を下げる

 

「その代わり、これは答えてくれよ。

そのカズキはなんのためにこんな事

してるんだ?魔女を相手にする危険も、

その…魔法少女を相手にするのも十分

危険だって…俺でも理解できるぞ」

 

先ほどの申し訳なさそうな顔はすでにない

彼女とて、だてに魔法少女をやってきた

わけではない。この存在(魔法少女や魔女)がどれだけ危険で

危ういかを13歳という若さで完璧に

理解してしまっているのだ。

なんとも嘆かわしい事ではあるが、

必要な事なのだろう。

 

「そうだな…さっきも言ったが

立派な目的があってやってるわけじゃない

魔法少女を救いたい。それだけだ」

 

「十分立派だとおもいます。フェリシア

ちゃんも言ってました。それがどれだけ

簡単じゃないか…ただ救いたいって

それで十分じゃないですか。カズキさんは

それをやってのけた。いいひとですよ!」

 

いろはの熱弁に仲間たちも頷き肯定する

しかし、彼は顔を伏せて、意味ありげな

表情をしていた。

 

「いや、俺のやっていることはただの

延命治療に過ぎない。本当に魔法少女を

救いたいのならば、道がなくとも、

その道を探し続けなければならない。

だが…俺はそれをあきらめた、いい人

なわけがない。」

 

「カズキさん…」

 

「そういう意味ではマギウスとやらの

集団のほうがよっぽどいい人なのだろう」

 

「カズキ君!」

「カズキさん!」

 

そのセリフに即座に私たちが否定を現す

 

「そうだろう?彼女たちは棘の道を歩いて

いる。多くの否定意見を聞きながら、

自分の道を進んでいる。世界の理とまで

言われた魔法少女の運命にあらがい

続けている。あきらめた俺なんかより、

魔法少女にとってよっぽどいい人だ」

 

「それでも誰かを犠牲にしてまで私は

助かろうなんて思いません!

そんなのは間違っています!」

 

「どうしてだ?一般人と魔法少女は

相容れる事は確実に不可能だ。

それにタダで何かをなすのは不可能だ

何かしらの対価を支払わなければ

どこかで必ず歯車が狂う。」

 

しかし、いろはは負けじと反論を続ける。

 

「あなたはそう思うかもしれません…

でも私はそうは思いません。全世界の

皆と仲良く…なんてそんなことは

言いません。でも人を殺してまで何かを

なすのは間違っていると思います。

対価は必要かもしれませんけれど、

それでも、超えてはいけない一線って

あると思うんです…」

 

「同感だ」

 

え?と彼女はカズキを見つめる。

今までの会話からしてカズキさんは

マギウスに賛同しているんじゃ…?

 

 

「何を以外そうにしている?俺とて無用な

殺生は好まん。それに俺も奴らのやり方は

気に入らん。聞けば洗脳、詐欺、乗っ取り

ろくでもない奴らだ。まあ…俺も人のこと

を言えた義理ではないがな…

だが、理はかなっているし魔法少女のため

になる。これはゆるぎない事実だ。

それに、奴らは自分のやり方を貫き通して

いる。自分を最後まで貫くということは、

どれだけ大変かお前たちも理解している

だろう?」

 

「それは…」

 

確かにその通りだ。長い目で見れば

彼女たちの行動は私たちの運命を

大きく変えることになるかもしれない。

そして、私たちもぶつかってきた。

さまざまな意見の食い違いを目の当たりに

して、自分を貫き通して、自分の意見で

物事を進める難しさをよく理解している

 

「…もし、納得できないのなら、妨害

し続けろ。マギウスのような非常識の

連中を止めるには叫び続けるしかない

お前たちは間違っている…とな

まあ、それでも向こうはきっと

止まらない。だから戦う必要も出てくる

もっとも…お前たちにもその覚悟がある

みたいだな…」

 

と彼は目を細めて優しいまなざしを向けて

くれる。

 

さて、とカズキさんは腕時計を見る。

つられて私たちも見てみるとすでに時刻は

日付が変わるところまで進んでいた。

帰ってくる時間が遅かったとはいえ、

少し魔法の説明に時間をとっちゃった

みたい…

 

「そうね…時間的にもそろそろいい時間、

今日はここでお開きにしましょう。」

 

「まあ、正直話す事もないしこんなもの

でいいだろう。俺はしばらくこの町にいる

いろいろ調べたいこともあるしな。

やちよ携帯変えただろ?番号を教えてくれ

繋がらなかったんだ。」

 

「あら、ごめんなさいねそういえば

言っていなかったわね」

 

そういってやちよさんはカズキさんに

携帯を渡す。他人に携帯を渡すなんて…

改めてカズキさんへの信頼度が高いことが

うかがえる。

 

「ところであなた寝泊りする場所は

決まっているの?

 

「いや、決まってない。だがお前達の

チームとの連携は俺にとっても有益だ。

この近くのホテルにでもと思っているが」

 

「そう…それなら、ここで寝泊りはどう?

それなら楽でしょう?」

 

「「「ええ!?」」」

 

と4人で驚く。さすがにそれは恥ずかしい

いくらやちよさんの信頼できる人とは言え

正直私達からしたら、今日初めて

知り合ったばかり、助けてはもらえた

けれど、それでもやっぱり不信感が勝る

 

「…俺自身は構わん。むしろ願ったり

かなったりだ。いろいろ楽ができるからな

ただ…」

 

とカズキさんはこっちをみて、肩を

竦める。

 

「今はお前だけの家じゃないんだろ?

ここの住民全員から許可が下りないなら

俺は素直にホテルに行くよ」

 

「どうかしら?…無理を言ってるのは

分かっているつもりだけれど、彼を

信頼してくれないかしら?」

 

そういってやちよさんは深々と頭を下げる

この時のやちよさんは頭にカズキさんとの

同居のメリットをすさまじい速度で

数多く考えていたみたいだけれど、

それは杞憂に終わる。

 

「私はここに住んでるわけじゃないし…

大丈夫だよ~それにカズキ君強そうだし

私もいい訓練になるかな~」

 

「俺も別に構わねーよ!楽しそうだしな」

 

「わ、私もちょっと不安ですけど、

大丈夫です。やちよさんの事信じてます

から…」

 

「そう…ありがとう皆」

 

と彼女たちは私のほうを向く。

まだ最後、私がいいと言っていないからだ

まあ、答えは決まっている。

 

「大丈夫ですよ。やちよさん。私も

カズキさんと同居しても。」

 

それを聞いたやちよさんは深い安堵の

ため息をつく。正直な所私は断る

つもりでいた。元を糺せば彼の情報は

ウワサから来たものだ。もうちょっと

彼について調べ尽くしたかったけれど…

私は、「それ」を見たからやめることに

したのだ。

 

「そうと決まれば、さっそく部屋の準備を

しましょう。いろは、手伝ってくれる?」

 

やちよさんはそう言って立ち上がる。

ここのみかづき荘はやちよさんの

おばあさんが経営していた宿で、

今は私たち以外には住んでいない。

けれども元宿というだけあって部屋の数は

それなりに多い。

 

「はい、任せてください」

 

「俺は置いてきた荷物を持ってくる。

少し用事もあるから、部屋がどこか記して

先に寝ててくれ。」

 

「分かったわカズキ君おやすみ」

 

カズキはそう言って手荷物をもって

部屋を出ていった。

眠そうにしている2人を部屋に連れて、

鶴野には両親に電話をして、泊まって

もらうことにした。

 

 

 

~空き部屋~

 

 

 

ベッドを軽く清掃して、机とかほかの

個所は…まあ、もう夜は遅いし後日で

いいだろう。しまっていた布団を

取り出して整える。

 

「ふぅ…やちよさんこんなもので大丈夫

ですか?」

 

「ええ大丈夫だと思うわ。掃除は後日で

いいでしょう」

 

一息ついたところでやちよさんと一緒に

大きなあくびをする。

 

「ふぁぁ‥‥さすがに疲れました。」

 

「そうね、カズキ君も帰ってこない

みたいだし…私たちも寝ましょうか」

 

お休みと言ってから私たちは自室に戻る

ベッドを目をつむって眠ろうしても、

今日のことが頭をよぎり、なかなか

寝付けない。

 

「カズキさん…か。」

 

変わらな日常に、突如として現れた男性

この出会いが私たちに何を与えるのか?

何を得られるのか?

まだそれはわからない。もしかしたら

失い物もあるのかもしれない。けれど…

この出会いは私たちにとっていいもので

あってほしいとそう思いたい。

そして…

 

「きっとあの人にもいろいろあるんだ…」

 

いつか教えてくれればいいな




いかがだったでしょうか?
これで一区切りとなります。
ここから先は短編と長編を
混ぜながらネタを考え付いたら
その都度投下していく感じ
にします。
評価、感想お待ちしています


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変わった朝の日常

戦闘シーンは極力書かないで日常にしたいな、と思いつつ書いてみると
全然書けませんでした…サブタイトルはもはや深い意味はありません。
(全く思いつきませんでしたぁ…)



~みかづき荘自室sideいろは~

 

 

キンッ!

何やら耳に響き渡る甲高い音を聞きいて私

は目を覚ます。目をこすりながら、備え

つけてある、目覚まし時計で時間を

確認する。

 

「6時半…まだ、眠ってたいなぁ…」

 

いつもなら、大体このくらいの時間に

起きて、やちよさんと一緒に朝食の準備

でもしているのだけれど、昨日は少し寝る

のが遅かったから、しょうがない。

 

「…よし!」

 

顔をパチン!と叩いてやる気を出してから

温かい布団から肌寒い外に出る。

 

「うう…寒いよぉ……」

 

秋ともなれば朝は肌寒い。そろそろ布団

から出るのも、億劫になってくるから

頑張って起きないと…!

 

 

 

~リビング~

 

 

 

やちよさんはしっかり者に見えて、朝は

少しだけ弱い。それでも年長者として、

私たちに朝食を作ってくれます。もちろん

頼りっぱなしはよくないと思って、

こうしてお手伝いに来たわけですが…

 

「ッ!?」

 

リビングにでて窓をぼんやりと見ていると

視界の端に人影が写り、悲鳴を上げそうに

なった。まさか…不審者!?

 

(ふぅ………ってあれ?カズキさん?)

 

息を整えて、状況を確認しようと身構えた

所で、今度は視界端ではなく、リビングの

窓から全体が確認できるくらいの位置まで

移動してきた人影…カズキさんを目撃する

こんな寒い朝なのに、大量の汗を浮かべて

カズキさんに迫り狂うナイフを必死に

避けている…って

 

「ナイフ!?」

 

まさかこんな所で魔女の襲撃でもあった?

と私はソウルジェムに魔力を込めて、衣装

を展開。左手に装着されているクロスボウ

に矢を装填して、窓を開ける。

 

「カズキさん!大丈夫ですか?」

「ふっ!…ん?なんだ、いろはか。」

 

こちらの心配ごとなど、まるで気にしない

ように気の抜けた声で、カズキさんは声

をかけてくれる。それと同時に周囲に

浮かび上がっていたナイフがフサッと、

芝生に落ちて微動だにしなくなった。

 

「あれ?…あれ?」

 

「変身なんかして、何かあったのか?」

 

「い、いえ私はてっきりカズキさんの身

に何かあったんじゃないかって…」

 

それを聞くと、カズキさんは困った笑み

を浮かべて

 

「そうだったのか、すまんな。これは

日課みたいなものだからな。」

 

「日課…ですか?」

 

腕を軽く回して、柔軟をするような行動を

とって、庭に落ちたナイフを拾い上げる

 

「そうだ、俺は魔法少女と違って身体能力

は最低。しかも訓練しないと衰えるときた

ゆえに訓練を欠かすことはできない。」

 

まあ、とチラっとこちらを見て、目を

少し細める。

 

「最低限、ここの住民達には伝えておく

べきだったな。すまない」

 

「いえ…あの、私も訓練ちょっと見てても

いいですか?」

 

思い返すは、昨日の戦闘。彼は一度だって

攻撃をもろに当たったことはなかった。

流して、躱して、魔法を使い防いで。

あの戦闘だけでも、彼の引き出しの数を

知ることができた。おそらく…まだ大量

に残っているはずだ。まあ、魔法だけでも

数百種類が確定してるし…

とはいえ、回数制限の制約により、それ

だけを頼りにするのは不可能なはずだ。

体術、これなら私たちにもマネする

事ができるはず。これからも、戦いが

続いていくなら少しでも引き出し(戦術)は多い

方がいいに決まってる。

…もっとも純粋に彼がどうやってあの

強さを手に入れたのかが気になるだけ

なのだけれど…

 

「別に構わない。見ていて面白いとも

思わないけどな」

 

「面白くは…ないかもしれませんけど、

でも参考になるとは思いますから」

 

「そうか…」

 

そういって、彼は指輪にはめ込まれた

宝石を光らせる。すると手に持っていた

3本のナイフが四方に散り散りになる。

そして腰を落として、意識を集中させる…

 

 

~みかづき荘庭sindeカズキ~

 

 

他人が見てると少し落ち着かないというか

あんまり手の内を見せたくはなかった

けれど、まあいずれはばれることだし、

今は、チームとして行動してる。

あまり隠し事をするのはよくない。

 

「………………………」

 

一度目をつむり、意識を体に集中させる。

この場所は今から戦場に変わり、この体は

骨の髄まで、戦闘のための道具に変わる。

破壊は許されない。変えは効かない。

しかし、妥協は許されない…

 

「…………よし」

 

魔力を指輪に込め、捕食魔女で獲得した

魔法を起動する。するとあたりで浮いて

いたナイフが、まるで得物を見つけた獅子

のように周りをくるくる回りだした。

隙を伺うように、ゆっくりと回り、時に

フェイトをかけて、こちらへの

プレッシャーを途切れさせない。

 

「ッ!」

 

左目の視界ギリギリに移動したナイフが

痺れを切らしたように、こちらに向かって

突撃を開始する。そちらに顔を少し傾けて

機動を確認する。

 

(上…肩か)

 

おおざっぱに攻撃目標地点を予測して行動

に移す。全身をそちらに向けて、回避

しやすいように微調整。その後右側に体

をそらして、ナイフを回避する。

 

(さて、ここからが本番。30秒は

耐え抜きたいところだ…)

 

右足を軸にそのまま約90度回転案の定

左にはナイフが2本すでに迫っていた

 

(下…太もも、中…左腕)

 

秒をかけずに即座に判断左ひざを地に

つけて前にしゃがむ。太ももを狙った

ナイフは微妙に体をそらして躱し、

その切っ先が体の横を通りすぎた瞬間に

そのナイフに肩を当てる。頭上から刺突

してくるナイフを後ろに体を倒して

左手を地面につけバランスを取り、肘で

弾き飛ばす。左腕を狙ったナイフが反転

おそらくわき腹を狙うべく攻撃を開始する

 

(足が地面についていない状態は

まずい…!)

 

勢いよく後転。軌道修正をするナイフ

を躱すべく片手で逆立ち。そのままバネ

のように体を跳ねあげる。

 

(読んでいたぞ!)

 

この無防備な状態を狙わないわけがない。

先ほど肘で打ったナイフが今度は着地を

狙って攻撃をしてくる。

しかし、跳ねあげるときに捻りを

加えていたために、着地前に裏拳で

弾くことが可能。そのまま着地する。

左右の手には動きの阻害がほぼない

軽い籠手がついているため、果物ナイフ

程度の小さいナイフなら刺突を防ぐこと

ができる。

 

(ただ…問題はここからだな…)

 

すでに2本のナイフが左右から攻撃を

開始している。ナイフをはじいたりして

攻撃を防ぐと3秒ほどは行動を停止

させることができる。位置関係からして

2本のナイフを処理した直後、もしくは

処理と同時に先ほど弾いたナイフが

俺に攻撃が届くことになる。

 

(考える暇はない、やるだけやる。

思考を研ぎ澄ませ、秒で答えを、秒で

行動を…)

 

攻撃目標は2本とも腰。ここに来るまで

2秒ほどはあるから、回避行動をした

所で、修正されて終わるだろう。

そう判断した俺は即座に反転。

近くにある塀に向けて走りだす。

それを追うようにナイフも速度を上げるが

壁にたどり付くのは、こちらのほうが早い

壁を背にした後は、十分に引き付けて

跳ねて避けるように、足を曲げて重心を

深く落とす。

 

(いまだ!)

 

しかし、跳ねない。後続が2本の後に

迫ってきているのに、地から離れるなど

愚策だ。飛んだようにフェイントをかけて

地面から足を離して背中から地面に向けて

落下、十分に引き付けたおかげで、ナイフ

は壁に直撃し、甲高い音を立ててあらぬ

方向へ飛んでいく。すぐに受け身をとって

起き上がり、後続のナイフは体を投げ出す

ように前転して回避。その間に態勢を

整えたナイフが刺突ではなく斬りつける

ようにな動きに変わるただ突っ込んで

くるのではなく、体の周りを引っ付く

ように滑空する。

 

(クッ…)

 

刺突と違って、大きな動きでよけると

その隙を狙われる。最小限の動きで体を

左右に振りながら何とか活路を見出そうと

する。たが…

 

(刺突ッ!?)

 

先ほど前転で交わしたナイフが今度は遠く

から刺突を行ってくる。そのせいで行動は

制限された。もはや体を投げ出して、回避

するほかない。

 

(斬りつけ後の隙をついて刺突を…

なんて悠長な事やってられないな)

 

すでにチェック。このままでは首を

とられるのをむざむざ待つことになる。

 

(あがけ!、1秒でも長く!)

 

斬りつけてきたナイフを強引に籠手で

防いで、バックステップで刺突を回避。

しかし、2本目のナイフが腹を斬りつけ

ようと、懐に潜り込んでくる。

2度目のバックステップをしようとした。

 

「うわっ!?」

 

しかし、地面に落ちていた大き目の石

に足をとられてしまい、そのまま転倒

おかげで刺突は回避できたが、仮に受け身

を取ったとしても、視界不良の情報不足で

回避は不可能だろう。それでもあがける

だけあがこうとしたが、いつの間にか背後

に回っていたナイフが首筋に突きつけ

られていた。チェックメイトだ。

 

「はぁ……23秒。まだまだだな。」

 

そう呟くと、ナイフに掛かっていた魔法を

解く。このナイフには自動操作の魔法…

正確には、テレキネシスのような魔法だが

自身が決めたアルゴリズムによって動き

を行わせることができる魔法だ。

訓練用に拵えた魔法で、どんなことが

あろうと寸止めで終わるようになっている

実戦ではほぼ使えないが、まあもともと

このために用意したものなので、

何も問題ない。ナイフにインプットした

動きはいつでも変更可能なので、訓練に

最適ということだ。

 

「お疲れ様です。カズキさん。と言っても

あっという間でしたね…」

 

「おお…そうだな。」

 

体中を捻って状態を確認する。短期間で

あれだけの負担をかけたが、特に異常は

ない。筋肉が張ってもいない。良好だ。

 

「あれはもともと準備運動みたいなものだ

短時間で体に強烈な負担を毎日与え続ける

事で、体を慣れさせる。戦闘ではきれいに

狙った場所に負荷を与えるなんぞ不可能

だからだな。」

 

「じゃあまだ、訓練は続けるんですか?」

 

「いや、昨日の疲れもまだ取れてねぇ。

だから、ここいらで辞めるつもりだ。

まったく、難儀な体だよな。」

 

芝生に腰を下ろして葉巻を吸おうとすると

いろはが少し悲しそうな顔をしている。

少し言い過ぎたか、いや、彼女が深読みを

しているだけかもしれない。

少なくとも俺はそのような意味で言った

つもりはない。隣をポンポンとたたくと、

いろはは少し不思議そうな顔をして隣に

座った。

 

 

「…ああ、悪かったな。俺が言ってる

のは機能の話だ。お前たちは俺と同じ

人間だ。少なくとも俺はそう思っている」

 

そういって頭を撫でる。

 

「あ…あの…」

 

「ん?ああすまない。ついな」

 

いろはは顔を小さく振って否定の言葉を

述べてくれる。

 

「いえ、嫌いでは…ないので…、でも

誰にでもこんなことするんですか?」

 

「まさか、少なくとも俺から見てそういう

事をしても不快に思わないだろうと判断

した人にしかやっていない。俺にはよく

分からないが、少しでも信頼を寄せている

人から頭を撫でられると落ち着くんだと」

 

正直俺にはよくわからないが、今のところ

例外はない。こういうものなのだろうか?

 

「私は…信頼しているって判断したんです

か?」

 

「少なくともあの3人よりは」

 

「え?あの3人…やちよさん以外って事

ですよね?」

 

その質問に俺は頷く。めんどくさい下拵え

を終えてから葉巻を吸い始める。

 

「ああ、あの3人は見繕っている状態だ。

表面上は好意的な態度を見せているが、

少しでも俺が信じられないと判断すれば

躊躇なく切り捨てる。間違いない」

 

そんな事ないですよと不満げな顔をして

いるが、あいつらは自分たちの場所を

守りたいだけ。仕方がないことだ。

 

「あら?いろはも一緒にいたのね。」

 

少ししんみりした雰囲気でぼーっと

していると、スポーツドリンクをもって

やちよが庭に訪れてきた。

 

「やちよさん?」

 

「いろは?あなた、そろそろ時間ないん

じゃないの?他の皆ももう朝ごはん

食べているわよ?」

 

「ああ!?」

 

俺はチラッと腕時計を確認する。確かに

世の学生の登校時間少し前だ。

 

「も、もう…もう少し早く教えてくれても

いいじゃないですか~」

 

「ごめんなさいね。集中してたから…

でもそのうち戻ってくると思っていたわ。

あ、カズキ君これどうぞ。」

 

彼女はそう言ってコップ一杯に特製の

スポーツドリンクを持ってきてくれた。

カランと耳にスッと残る気持ちの良い音

を聞きながら、それを一息に飲み干す。

レモンの香りの効いていて、大変

飲みやすいスポーツドリンクだった。

 

「ああ、悪いな。お前も今日学校だろう?

今日の家事はやっておく。」

 

すると彼女は考え込むようなしぐさをして

 

「そうね。そしたらお願いできるかしら?

さすがに洗濯はあれだから…」

 

「ああ、わかってる。掃除と夕飯作る程度

になると思うが…」

 

「え、えっと…カズキさんこんな時に

言うのもあれなんですけど、ご職業…

なんですか?」

 

いろはには困惑の色が見て取れる。まあ、

当然といえば当然か。各地を転々として

いたことは言ってはいないが、想像する

のに難しくない。となれば、どうやって

生計を立てているのか、不思議に思うのは

至極当然だ。

 

「無職」

 

「え?」

 

「だから、無職だ無職。働いていないんだ

金は色々あって親の遺産を食いつぶしてる

一生かかっても潰しきれないほどの物だ」

 

「ええ…そうだったんですね…」

 

まさかの無職という目をしているいろは

に時間はいいのかと告げると、慌てて

リビングに入って言った。その代わりに

やちよが代わりに隣に座る。多少の御粧し

をしている、彼女と最後に出会ったのが

1年ほど前の18歳。その時は化粧は

モデルの仕事の時くらいしか、していな

かったはずだが、19歳の大学生ともなれば

さすがにそこのところは少しは気に

しなければならないというのだろうか

 

「ふふっ」

 

「なんだ急に…」

 

ごめんなさいとやちよは首を振り、肩に

頭を載せてくる。この町の魔法少女達が

見たらいろいろな意味で驚かれるだろう。

 

「いえ、ただ…またあなたと一緒に戦える

なんて、と思って。しかも一つ屋根の下

こうして毎日を共にできる。」

 

「やちよ…」

 

やちよは肩から頭を離して、首を横に

振る。その顔からは悲しみが感じとれた

 

「分かっているわよ…その気はないん

でしょ…あの時から、ずっと変わって

いないのね。あなたの心も私の心も」

 

「そうだな…何も変わらない。いや互いに

変えるつもりがない。が正しいのかな」

 

ふぅ…と虚空に消える白い煙を眺めながら

俺はゆっくりと立ち上がる。やちよも

そろそろ、登校時間のはずだ。

 

「そうね…じゃあ、カズキ君留守番

よろしくね。冷蔵庫の物好きに使って

いいわよ。あ、補充もお願いね」

 

「すっかり主婦って感じだな。オーライ

任せておけ」

 

全員を見送りした後、俺は庭に戻り、

葉巻を吸いなおしていた。さすがは葉巻

まだ火は残っていた。

 

「心は変わらずとも、変わってしまう物

もある。いつまでも子供でいるのは不可能

ということだな。昔の面影はもうすっかり

無くなっているな。」

 

寂しさも覚えながら、その顔に俺は

頼もしさも覚えていた。そしてそれと

同時に、俺は少しばかりの負の感情を

抱いていたが、なぜなのかは理解する事が

出来なかった。

 

余談ではあるが、俺の料理はここの住民

達の舌を虜にしたようだ。まあ、料理は

に限らず、技術はやっていないと衰える。

それにおいしそうに俺の料理を

頬張っている彼女たちを見て、悪い気は

しなかった。




長編を1つ思いつきました後3~4話ほど短編を書いてから
投下したと思います。


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デート

戦闘シーンがない…!


~教室sideいろは~

 

なんとも癖になるようなリズムのチャイム

が学校内に鳴り響き、今日の授業の終わり

を知らせてくれる。もうすぐ冬休みが

近づくということもあって、教室内は

全体的に浮いている。かくいう私も、

みかづき荘に訪れる初めての冬休み。

行きたいところ、やりたいこといろいろ

妄想して、若干浮かれ気味。

 

「?」

 

ピロリーンと陽気な音とともに、バッグに

しまっていた、スマホが一瞬小さく振動

する。今日は何か予定を入れていたわけ

でもないし、最近はカズキさんが夕飯や

お弁当。買い出しなどをしてくれるため、

この前みたいにスーパーの特売情報が

やちよさんからくるとかも、なくなって

いる。

 

「あれ?さなちゃんからだ」

 

差出人はさなちゃん。近くのケーキ屋に

集合!と書いてあった。多分これ、

フェリシアちゃんが書いたものだと思う。

だって、言葉遣いちょっと荒いし…

 

「あそこのケーキ屋って、何か目新しい物

ってあったっけ?…まあ、たまには

いいよね?」

 

やちよさんからも食べすぎ注意の警告が

出たこともあって、ちょっと後ろめたい

気持ちもできてはいるが、ご無沙汰だった

ケーキにありつけるチャンスとなれば、

食いつかないわけにはいかない。

それに赤信号みんなで渡れば…なんて

言うし、もし仮に怒られるのも1人

じゃないから、少しは気持ちも楽だった。

 

「よし、何食べようかな~♪」

 

先生や友人に挨拶をして、メニューを

思い返しながら、私は目的のケーキ屋に

向かった。

 

 

 

~新西区のとあるケーキ屋~

 

 

目的のケーキ屋はついこの間オープンした

ばかりの小さなケーキ屋だった。前々から

行きたいなと思っていたのだけれど、

小さい店ともあっていつも席は満員で

近隣の女子高生を集めていた。長蛇の列

とまではいかない物の、いつも一定以上の

列を作っているので、気軽に行こうとは

思えない場所だった。運よくやちよさんと

少ない時に言ったときはそれはそれは

とろけるような濃厚なクリームに、それに

合った、果汁たっぷりの甘いイチゴの

ショートケーキを食べることができた。

当然私もこれは1口で好きになれた。

 

「結構並んでるな…」

 

先に来ているフェリシアちゃん達が列に

いるのかな?と軽く探してみるが列には

いない。周辺にもそれらしき人物は

見当たらない。

 

「うーん?今から並ぶってことなのかな?

でもこれ待ってたら夕飯食べられそうも

ないな」

 

ならば、店内かな?と店内が見える位置に

移動すると…

 

「あれ?フェリシアちゃんにさなちゃん?

それに鶴乃さんも!」

 

「おっせぞーいろは!」

 

「いろはちゃーんこっちこっち~」」

 

2人大げさな身振り手振りで私を呼ぶ。

周りの視線を集めかねないので、ささっと

私は3人に合流した。2人はなにやら真剣

な顔をして、店内を隠れるように窓から

覗いている。幸いにもここは軒下と言える

場所で立ち止まって携帯をいじったりする

人もたまにはいるので、ここにたむろ

しているくらいで、変な目では見られない

 

「あ、あの~…やっぱりやめませんか?

やちよさんに悪いですよぉ…」

 

「いーや!これは明らかにするべきだ!」

 

「そうだよ!まだ、数年だけど影も見え

無かった師匠の春だよ?」

 

今冬だけど…と鶴野は最後にボソッと

つぶやく。いまいち3人の話がつかめない

けれどやちよさんに関してということだけ

はわかった。事情の説明を要求したら

見たほうが早い。見て私も判断してくれ

と言われたので、仕方なく店内を見てみる

 

「えーと…やちよさんと……あ!カズキ

さん!」

 

店内にはやちよさんとカズキさんが

ケーキを楽しんでいる姿を確認できた。

やちよさんは普段あまり化粧はしない。

やるのはお仕事の時くらいだったはず。

そしてお洒落も実はあまりしていない。

仕事じゃなければ外出時も結構ラフな格好

で外出しているはず…だけれど今の

やちよさんは道行く男性を虜にするくらい

の魅力的な姿になっていて、同性の私から

みても、その姿に見とれてしまった。

 

「なーなー!あれやっぱりデートだよな?

あんなやちよ見たことねーぞ」

 

「いろはちゃんどう思う?」

 

「………ええ!?あ、すみません。

えーと、まあ、デートなんでしょうかね?

あはははは…」

 

と質問をあいまいに返答するが、いろは

もそんな感じだと思ってはいた。

 

「もしかして3人とも、やちよさん達の

後をつけていたんですか?」

 

「そうだよ。気になるでしょ!?」

 

「まあ、確かに気になりますけど…」

 

「じゃあいろはも今から共犯だな。一緒に

探ろうぜ!」

 

うーん…悪い気もするけれど、罪悪感

よりは好奇心のほうが上回っているので、

私はうなづいてしまった。

 

 

~街中sideいろは~

 

 

しばらく眺めていたら、彼女たちが席を

立ったので、私たちは慌てて人込みに

紛れて様子を確認する。

 

「静かにね?」

 

「分かってるよ」

 

フェリシアちゃんとさなちゃんがお互いに

人差し指を立ててお互いに注意を

呼びかけている。人込みとあって、背の

低い私たちはやちよさんたちの姿が

ちらちらとしか確認できない。

なので背の高い鶴野だよりだ。

 

「つ、鶴乃さん、見失ってないですか?」

 

「大丈夫、だいじょ…………」

 

「ど、どうしました?」

 

鶴野が少し真剣な顔で黙って耳を

済ませているように見える。

 

「ふふ!次の目的地がわかったよ!」

 

「おお、さすが鶴乃だな!で、どこだよ?

次の目的地っていうの」

 

「ふっふーん!次はね、水名区にある

和菓子屋○○だって。知ってる?」

 

「あ、はい私の学校の近くにあります

案内できますよ」

 

水名区はさなが通っている水名女学園が

存在する。さなは、一般人には見えなく

なったため、友達と会話や、先生に質問

などはできないけれど、将来何が起こるか

分からないから、勉強だけはしておいた方

がいいと、今も学校に通っている。

 

 

~和菓子屋sideいろは~

 

 

やちよさんは話しながらゆっくりと歩いて

いたので、私たちは少し先回りして、

和菓子屋に到着できた。しばらくしたら

やちよさん達がやってきて店内に

入っていった。ここは京都などに

ありそうな和菓子屋で、軒下に大き目の

丸いイスがいくつか並んでいる。

 

「こっちの物陰なら、様子を見ながら

声が聞き取れそうですよ」

 

「お、さすがさなちゃん!詳しいね」

 

さなちゃんに案内された物陰に身を

潜めていると、彼女たちの声が聞こえて

きた。…けれど相手から見えにくいと

なると、声も様子も確認しづらいけれど

しょうがない。

 

「うーん…断片的にしか…聞こえてこない

なぁ。ちょっと待ってね…」

 

と鶴乃は耳を澄ませながら、聞こえてきた

会話を私たちに教えてくれる。

 

「少し…では…カズキ…と…思わなかった

ありがとう」

 

「気にすんな……だ。よく…したな」

 

「……ためよ。そのためなら私………

邪魔…すべて…戦える」

 

「…それに……好き……言った…」

 

鶴乃から断片的に伝えられる言葉は

それだけ聞いても訳の分からないもの

だけれど、それでも…

 

「やちよさん…カズキさんに告白した…

って感じなんでしょうか?」

 

「はわわわ…やちよさんすごいですね

でも、ちょっと勇気もらえますね…」

 

さなちゃんの言葉に私たちは首をかしげる

さなちゃんは少し寂しそうな顔をして、

 

「私はもう、誰の目にも留まらないので、

無理ですけれど…魔法少女でもああして、

恋人を作れるんだなって…」

 

「はははっ、そうだね。相手がカズキ君

だからそういう意味ではちょっとずるい

かもだけれど、私達にもいつか、なんて」

 

鶴乃さんもいいものが見れたと、顔が

にやけている。ところで…

 

「こ、ここでやめにしない?やちよさん

に迷惑だよ…」

 

しかし、フェリシアはおもちゃを見つけた

子供みたいに、手放すつもりはないようだ

いやだよ、と尾行を続けるみたいだった

 

「それにまだ、本当に付き合ってるって

分からないんだろ?なら、徹底的に

調べ上げようぜ!」

 

「もう、フェリシアちゃん…」

 

「まあまあ、いいじゃんいろはちゃん~

ここは1つ先輩のデートを見て学ぶって

事で」

 

そういわれると、少し言葉に詰まって

しまう…ちらりとやちよさんたちに視線

を向ける。私は最後尾にいるため、様子

は見れても、言葉は聞こえない。でも…

聞く必要もないのかもしれない。

身振りを合わせながら、私たちには

向けてこともないような笑みを浮かべて、

カズキさんに話を続けるやちよさん。

カズキさんのほうは表情豊かという訳では

ないけれど、悪い感じはしない。

見た感じ聞き手に回っているようで、

和菓子をつつきながら、もぞもぞと口を

動かしている…2人ともとても幸せそうだ

 

(学ぶ…かぁ…)

 

今はまだやったことないけれど…おめかし

をして、長い時間をかけて、着ていく服を

選んで…あんな風にデートをして…

 

「って!!//」

 

仲間たちが驚いたようにこちらを見てくる

が私は顔を手で隠してうずくまりなんでも

ないよと否定するので、精一杯だった。

言えないよ…やちよさんたち見ててそんな

事妄想してたら、カズキさんの隣に私が

いるところを想像したなんて…

 

結局私はフェリシアちゃん達を止める事

はできないかった。と、言ってもここから

特別なことは何もなかった。ただただ

お店を回って、食べて、回って、食べて…

うーん…デートってこういうものなの

だろうか?さっきから甘いものを食べて

回ってるだけのような気がする…

やちよさんは別に甘未が大好物ってほど

ではなかったはずだ。と、思っていたら

次はデパートに行くようだった。時間的

にも日はすでに落ちていて、冷たい秋風

が髪を揺らす。やちよさんたちも多分

そろそろ帰ってくるはず…何せ今日の

夕食当番はやちよさんだったはず

遅くなると連絡は受けているけれど、

造らないとは受けていないので、時間的に

ここで夕食の材料を買って帰るという

デートプランなのだろう。

 

「ふぁ……ねっむ~…」

 

「あはは、なんかあれからずっと同じ

光景見せられたら飽きもするよね…」

 

大きな欠伸を見せておぼつかない足取りで

歩くフェリシアちゃんを誘導するように

鶴乃ちゃんが肩に手を載せる。

 

「あ、やちよさん見失っちゃうよ!」

 

「ほらほら!急いで急いで」

 

「待ってくれよぉ~…」

 

この時間帯にもなれば、部活帰りの学生

からサラリーマンなど、人も多くなって

くる。やちよさん達はデパートに入って

行くが、私達は尾行している関係上後ろ

からついていってるわけなので、人込みが

掛かってしまうと簡単に見失ってしまう。

案の定デパートに入るころには完全に

見失ってしまった。仕方がないので、広い

デパートを手分けして探すことにした。

 

 

 

~デパート内部sideいろは~

 

 

 

「ううん…何処にもいないなぁ、どこに

いったんだろう?」

 

あれから20分くらい経過していた。

さなちゃんは入り口で待っているため、

出たなら連絡が届くはず。でも来ていない

ということはまだ、ここにいるはずだ。

 

「鉢合わせしないように探すのがこんなに

神経使うなんて…つかれちゃった…」

 

3人で探していてもこれだけ広いデパート

で、探しているのだから見つけるのが

とても難しい…まあ、

 

「あっ」

 

見つかる時はあっさりと見つかるもんだ

さっと近くの棚に移動して物陰から観察

してみる。

 

「あ…」

 

そこにはショーケースからブレスレットを

店員さんに取り出してもらい、それを

やちよさんが付けている姿が見て取れた。

やちよさんは頬を緩ませて、はにかむ

ような笑顔を見せている。

 

「………………」

 

もはや確定…と言わざる負えなかった。

彼は間違いなく特別な関係を築いている

いいことじゃないか、それは間違いない。

1人でずっと頑張ってきたやちよさん。

この町の魔法少女を何年もかけてまとめ

あげてきたやちよさん。私たちはずっと

やちよさんを頼ってきた。もちろんやちよ

さんからも頼られる時もあった。でも、

やっぱりまだ心からというか立場状、

どうしてもやちよさんは最年長、ベテラン

という責任が付いて回る。そのやちよさん

がそういった事情なしで、頼れる存在

カズキさん。やちよさんが愛情という

感情を抱くなんて何の不思議もない。

…でも

 

(なんだろう…この気持ち)

 

まるで見たくない物を見てしまったような

物を見てしまったというか、認めたくない

…いやなかったというか、そんな気持ちを

抱いてしまった。

 

「何やってるんだ?」

 

だからだろうか、カズキさんがいつの間に

こっちにやってきた事に気が付かなかった

のは…

 

「あ、あれ?か、かか、カズキさん!?」

 

「い、いろは!?」

 

遠くで店員さんと話をしていたやちよさん

も私に気が付いてしまった。

 

 

 

~デパート近くのベンチsideいろは~

 

 

 

「なるほどね…まったくあなた達は…」

 

とやちよさんは頭を抱えて呻る。あの後

私たちはやちよさんに集められて、事情

の説明を要求された。まあ、隠し通せる

はずもなく、全部ばれてしまった。

 

「まあ、いいじゃねーか、別に見られて

困るものでもない。」

 

「そ、そうなんですか?でも人に見られる

デートって落ち着けるものなんですか?」

 

さなちゃんがカズキさんに尋ねると、

カズキは首をかしげて

 

「デートならそうだろうよ。でもデート

じゃないからな」

 

「「「ええ!?」」」

 

「むしろなんでデートだと思った…ああ

やちよか」

 

やちよさんは顔を赤らめて、ちょっとと

言うが、普段と態度が大違いすぎると言う

と言い返せないのか言葉に詰まっていた。

 

「俺は甘未が好きなんだよ。だからやちよ

にこの町の案内を頼んでたんだ。さすがに

数年も離れてたら、いろいろ変わるもの

だからな」

 

「じゃ、じゃあ最後のブレスレットって

…」

 

「ああ、これか…まあ、ここまできちゃ

しょうがないな」

 

と彼は提げていたバッグから可愛らしい

紙袋を取り出した。手のひらに収まる

くらいの大きさで、触ってみると少し

だけひんやりとしていて、とても固い。

金属品のようだ。

 

「なあ、開けてもいいか?」

 

「ああ、かまわんよ開けてみろ」

 

皆で紙袋を持って困った顔でみんなで

見つめあう。やちよさんをちらっと見ると

頷いたので、恐る恐る開けてみる。

私の中には小さな指輪があった。

シンプルな銀の指輪に控えめなデザインの

お花が付いていて、とっても可愛らしい

 

「わぁ…可愛いです」

 

他の人も各々似たような反応を示している

さなちゃんにはネックレス、フェリシア

ちゃんには髪留め、鶴乃ちゃんには挟む

タイプのイヤリングがそれぞれ入っていた

 

「カズキさんこれは?」

 

「やちよからだ」

 

「やちよさん?」

 

なんでも仲間内でこうやって物をそろえる

のを結構気に入ったみたいだった。

マグカップとコースターを私たちは

お揃いのものを買っている。カズキさんが

新たに仲間に加わったので、何か…と

思っていたみたい。

 

「…自分で言うと結構恥ずかしいわね…」

 

「あはは、でもとっても嬉しいですよ!」

 

「そういってもらえるとこっちもうれしい

わ、大事にしましょうね」

 

私たちは笑いあって買ったものを見せ

あっていたが、私はその輪に入らず

カズキさんに質問をしてみた。

 

「これ、カズキさんが買ってくれたんです

か?」

 

「大半はな、と言ってもそこまで高い物

じゃないからな。」

 

「もう、そういう事言ったら台無しですよ

せっかくなんですから、そういうことは

言っちゃだめです」

 

「ははは、そうだな…悪かったよ」

 

「ちなみにカズキさんは何を買ったん

ですか?まさか、買ってないとかはない

ですよね?」

 

カズキはため息を吐くとポケットから

スマートフォンを取り出した。そこには

前までにはなかったはずの1つの装飾品が

取り付けられてあった。青色の宝石…まあ

あれも多分安いものなのだろうけれど…

 

「カズキさん…これって、自分で買った

んですか…?」

 

「まあ、見たらすぐに分かるよな。

いや、これはあいつが選んだ物だ」

 

そう、カズキさんが見せてくれた装飾品

は見れば見るほどやちよさんの

ソウルジェムにそっくりなのだ。

ソウルジェムは文字通り私たちのすべて…

やちよさんの込められたその思い…想像

するのに難しくない。

 

「…カズキさんは「まあ、まて」

 

私が言葉を重ねようとするとカズキさんは

それに重ねてつぶやいてくる。

 

「あいつも知っている。俺は気持ちに

答える事は出来ない、とな」

 

彼の顔に落ちる影から読み取れる感情を

私は一切読み取ることはできなかった。

でも…それがいい表情でない事くらい

いくら私でも理解できた

 

「カズキさん…?これでいいんですか?」

 

確信はついていないけれど、間違っている

カズキさんは別の何かを望んでいる

そんな気がする…

 

「ああ、いいんだ。それが俺の選んだ、

選び続けてきた…俺の道だ」

 

そういって彼は私を残して、早く帰るぞー

と皆の所に向かう。どうにも腑に落ちない

けれど…彼がそう言ってるのだから…

と私はあきらめた。

むろん抑え込んだだけだけれど。

 




描きにくかったですはい。ただどのような状態なのかと会話登場キャラの心情とかで
シーンは少なかったのに意外と文字数稼げた気がします。ただ難しいのに変わりはありませんね…頑張ります!あ、ピクシブで絵を描き始めたのでよければ見ていただければと思います。そのうちカズキ君も書いていきたいな。


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調整屋と調停者1

さて、この話ともう1話話を書いたら物語を動かす重要なストーリーを1本投稿しようと考えています。八雲みたまは私の好きなキャラの1人なので、これからも活躍していくと思います!


~みかづき荘sideカズキ~

 

「調整屋?」

 

一通りの訓練を終えて、みかづき荘の全員で朝食

をとっている時に、俺は話題に上がったとある人

について聞き返していた。

 

「あれ?カズキさん知らなかったんですね。この

町の魔法少女ならだれでも知っている人物

ですからてっきりもう知ってるのかななんて」

 

今日の朝食当番だったいろはは、準備を

進めながら、話しかけてくる。

 

「名前は知っていたが、ほかに調べたい事は

山ほどあったからな。後回しにしていた…まあ、

とはいえ居を構えたし、そろそろ色々な事に手を

出していこうとは思っていたころだ」

 

「なら、ちょうどいいですね、調整屋さんに

ついて聞きますか?」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

こうして、俺はみかづき荘の皆から調整屋

の話を聞いた。

 

「…まあ、とどのつまりソウルジェムを調整する

ことができる魔法少女が、行っている商売…

という感じか?」

 

「そうですね。端的に言えばそうなるかな…」

 

「調整ね…」

 

今いろは達から聞いた話だけでも、俺は正直その

調整屋…みたまと呼ばれる人物がとんでもない

能力を持っていると把握する事が出来た。

少なくとも他人のソウルジェムをいじる能力

なぞ、聞いたことがない。もしかしたらほかにも

いるかもしれないが…まあ、ポンポンいても困る

他人のソウルジェムをいじる…これがどれだけ

ヤバイ能力なのか、果たしていろは達は把握

しているのだろうか?

いじるなどと言い方を変えてはいるが、

ソウルジェムはその人の命と言ってもいい。

つまり、彼女にソウルジェムをいじってもらう

ということは彼女に文字通りすべてを託す

事になる。

 

「ポテンシャルをその能力に持ってかれて戦う

ことが一切できず、ソウルジェムを調整する

ことで、対価としてグリーフシードを要求する

と…」

 

「そうそう!あいつのおかげで俺たちの魔法とか

身体能力とかかなり強くなってるんだぜ!」

 

「ただ力を強くするだけじゃなくて、魔力の消費

を抑えたりとか…何でしょうかね…なんでも

できます」

 

さなとフェリシアがみたまについて捲し立てる

…ふむ、どうやらそのみたまと言う人物は相当

信頼を得ているようだ。皆の顔を見ればすぐに

わかる。そして、いろはが名案を思いつたと

言わんばかりに、笑顔をカズキさんに向ける。

 

「そうだ、カズキさんそのソウルジェム

見てもらうのはどうですか?」

 

「なんだと?」

 

「ほら、それ確かキュウベイでも正体が

分からないんですよね?でももしかしたら

みたまさんならその正体がわかるかも、それに…

調整ができれば、カズキさんの戦闘能力も底上げ

できるかも…」

 

なるほど…と思った。確かにもう何年か…少なく

とも二桁以上の付き合いになるこの指輪も戦闘に

関係する事には、調べ尽くした。そろそろ、

根本的な事にも手を出すのも悪くないかも

しれない。調べてもわからなければまあ、それは

それでみたまという少女とつながりを持てて、

さらにわかれば万々歳。彼女のことについて

人伝でしか分からない以上一定のリスクはあるが

リスク承知でやってみるのはありだと判断した

 

「そうだな…確かにありかもしれないな

案内を頼めるか?」

 

「はい!任せてください」

 

「じゃあ私たちも一緒に行きましょう。マギウス

の戦いに備えて、調整をしておきましょう。

鶴乃には私から連絡しておくから準備でき次第

行きましょう。」

 

とやちよはそういってささっとご飯を掻きこんで

洗い物をするために食器を運ぶ

 

「なら、俺も少し準備をしておこう。すまんが

やちよ洗い物頼むわ」

 

と言って俺は食器をやちよに渡して部屋に戻ろう

としたがやちよに留められる

 

「あ、カズキ君。調整屋って非戦闘地域って

言われてて、中立区域だから、戦闘は一応やめて

頂戴ね」

 

「ああ、オッケイ」

 

まあ、…保険は必要、見ず知らずの魔法少女に

合うときには必要、当然だ。何せ俺はいつでも

最弱の位置に属する。戦闘ができないと言って、

油断は出来ない。中立区域らしいが、まあそこで

争いを起こさなければいいだけだろう。

 

 

~廃墟前sideカズキ~

 

 

道中で鶴乃と合流した俺たちはとある廃墟の前に

立っている。どうでもいいが、この町はなぜか

廃墟が多い気がする…まったく撤去にも金は

かかるというが、勿体ない。

 

入る前にまとめた彼女に関する情報を整理して

みようと思う。高校2年生で彼女が魔法少女に

なってまだ日は浅いらしい。とある廃墟でその

能力を活かして調整屋という仕事をしている

ようで、この神浜市で戦うには彼女の能力で

ソウルジェムの強化必須だという。それだけ神浜

の魔女は強いと言うことだ。まあそんな事より

俺としては、ソウルジェムをいじるという

とんでもない能力が何の疑いもなく魔法少女の間

で流行っているということが一番気にかかって

いる。これには二つの可能性がある。1つはこの

町は魔法少女の数に反比例して、ソウルジェムの

秘密を知っている人物が少ない可能性だ。これは

はっきり言って非常にまずいことだ。何らかの

拍子で、この町に魔法少女の真実が広まった瞬間

に町中に魔女が溢れかえる可能性も十分にある。

生き残った魔法少女達で果たして魔女を殲滅

できるだろうか?…早めに調べる必要が

ありそうだ。

 

もう1つは彼女、八雲みたまがそれほどまでに

彼女達に信頼されているということだ。こっちの

ほうがありがたいが、もしこっちが理由ならば

どういう人物か早急に調べる必要がある。この町

に長く滞在するなら、中心人物となりえる奴の

ことは把握していないと、厄介ごとに巻き

込まれる可能性もあるし、何よりそれだけの

信頼があるならば、敵に回った瞬間神浜市で

仕事が出来なくなる可能性も出てくる。どんな

人物か調べあげて、良好な関係を築ければなお

いいが…まあそれは話してみてからでいいだろう

 

「まあ、こんなものか…」

 

「ん?どったのカズキ君?」

 

「いや、気にするな鶴乃。こっちの話だ。

それより早く行こうか。」

 

 

~調整屋sideカズキ~

 

 

中は思った以上に綺麗に装飾されていた。

様々な青色をベースに部屋中が彩られていて

ソファーなどの家具も置いてある。

入り口から奥の方の壁に設置された、巨大な

ガラスも目を引く。

 

(廃墟…?ずいぶんと好き勝手にやっている

みたいだな)

 

やちよの八雲の呼ぶ声を聴きながら、俺は部屋

を見て回っていた。随分と居心地がよさそうと

思ったが、それだけだった。奥の部屋に向かう

扉があることから、もし仮に何かあるとしたら

向こうの方だろうか…?

 

「はいは~い…あら皆いらっしゃ~い」

 

奥から、気の抜けたような女性の声が聞こえた

振り返ってみると紺色と白をベースに

スカートに肩に胸にとフリルをひらひらさせた

可愛らしい服装。もはやあることに意味を

感じかねないほど短すぎるスカートから見える

きれいな美脚。それに袖もないので腕を隠すもの

が何もない。全く、恥じらいはないのだろうか?

しかしこの世界は男性が皆無の世界なのだから

もはやなにも言うまい…。まあ、そんな感じの

銀髪の女性が奥の扉を開けて姿を現した。

 

「こんにちはみたま、時間空いているかしら?」

 

「大丈夫よ~。丁度仕事を終えた所なの」

 

みたまはそう言ってこちらに歩み寄ってくる…

そして、俺に気が付いたかのようにこちらを

見つけてあら?と声を出す。そして、少しばかり

険しい顔をする、当たり前か。

 

「えーとやちよ…その人は?」

 

「いきなりごめんなさい。紹介するわ。この人は

カズキ君。最近噂になっている男性の噂はご存知

かしら?」

 

「そうね。話す人増えてるものよく知っているわ

魔法少女を助けてくれる謎の存在。今現状

情報収集求むって声がすごい上がってるけれど…

まさかやちよが連れてくるなんて…」

 

「ふふっ、今は一応私たちのチームよ。今後は

活動区域を広げていくって話だけれど…」

 

とやちよは俺のことをちらっと見る。

まあここらで自己紹介がいいだろう。

 

「初めまして、だ。俺の名前はカズキ。

グリーフシードの販売、および魔法少女同士の

いざこざを仲介してたりする。」

 

「へぇ~私は八雲みたまよ~よろしくね…?

でも仲介…ね。差し当って、調停者って

所かしら?」

 

その瞬間誰かが、息を飲むような音が聞こえた

気がした。誰が息をのんだかは予想が付く。

多分俺の横にいるいろはとやちよ…それと八雲

のものだろう。まあ、当然だろう。いくら

魔法少女、戦闘慣れしているとはいえ、それは

あくまで魔女相手…

 

「……………」

 

流石にこうして、とてつもない殺気を出す人間

と会うことなぞ、ないだろう。

 

「え、え~と…」

 

八雲は殺気を感じてか、急によそよそしい態度

に変わる。

 

「八雲…お前その名前どこかで聞いたか…?」

 

「ちょ、調停者の事…?それは…普通にあなたの

行動彼女たちに聞いて…挨拶をみて、思ったこと

…というか、調停者って言葉…知ってたし…

調停者が似合ってるかな…と」

 

「…………」

 

目が泳いでいる…がどちらかというと助けを

求めるかのように、やちよたちに向いている。

ここから見えるだけでも手足から冷や汗を

流している。足を少し小刻みに動かし、指を

ひっきりなしにこすり合わせている。

嘘をつく…というよりか、困っているような

感じがする。言葉選びも、嘘をつくときのような

考えてしゃべる…という感じではなく、手早く

兎に角思ったことをしゃべる…前後の言葉に

脈略がなく、何かしゃべらなくては、という

考えが感じ取れる………まあ、しろだな

 

「すまない、わからないならいいんだ。

ただ、調停者という呼ばれ方はあまり好き

じゃない。悪いが、別の呼び方で頼む」

 

「え、ええ…じゃあ、やちよに合わせてカズキ君

で、かまわないかしら?」

 

「ああ、それでいい。よろしくな八雲」

 

「みたまでいいわ~みかづき荘のみんなはそう

呼んでるから」

 

「ん?そうか。じゃあよろしくな、みたま」

 

ふむ、殺気で怖気づいてしまったようだが、

即座に元のしゃべり方に戻した。どうやら彼女

はキャラを作っているようだ。まあ、こんな

しゃべり方する奴なんて基本いない。

 

「それで~…カズキ君はどういった御用時かしら

いろはちゃん達も」

 

「えーと私たちはいつものように調整を…

個人個人にまた細かい指定があると思うので…」

 

「ふふっ了解よ~奥の部屋でゆっくりと

話し合いましょう。それであなたは…」

 

「こいつを見てくれ。」

 

と俺は左手にはめていた指輪をみたまに渡す。

彼女はじーっと眺めて何なのかを推測している

が、すぐに結論は出たようだ。

 

「これ…ソウルジェム?」

 

「正確には違う。キュウベイからのお墨付きだ。

詳細は伏せるが、これは願いによって生まれた

物だ。」

 

「願い…なるほど。」

 

「ソウルジェムを調整できるお前なら、これの

正体なんかが、わかるのではないかと踏んで、

依頼をしに来た。調整のほうはしなくてもいい

というか、いまのバランスが崩れるから出来ても

しないでくれ」

 

「私の能力で、これが何なのかを…?でも、

結果が出るとは限らないわよ。それでも…?」

 

「ああ、頼めるか?」

 

「そう…分かったわ~任せて頂戴」

 

そういって彼女は先にいろは達の調整をすませる

と言い、彼女たちを順番に奥の部屋に呼ぶ。

手順を見てみたいと思ったが、まあどうせ、

自分がやるときに見れるはずだし、あまり

ガッツいて、信用を失う必要もない。ならば

大人しく待っているのがいいだろう。

 

 

~調整屋sideカズキ~

 

 

他人の調整を待っている間は、基本的に部屋で

待機、順番を待つことになるらしい。

流石にプライバシーの問題とかで、互いの同意

がなければ、一緒に調整を受けることはしない

らしい。今は鶴乃、やちよ、いろはが調整を

受けてもらっている。さなとフェリシアは

すでに終えてこちらの部屋で、羽を伸ばしている

しかし…

 

「調整というのはずいぶんと早く終わるもの

なのだな。」

 

さなは読んでいた本から目を上げて、肯定する

 

「はい、マギアみたいな大技を調整する時は

それなりに時間がかかるみたいですけど、

身体能力を少しいじったり、よく使う魔法とか

少し調整するくらいでしたら、すぐ終わるみたい

ですよ」

 

「ちなみに調整ってのは何をやるんだ…?」

 

「えーと…基本的にみたまさんがソウルジェムに

触れたり、私たちに触れたりして…行動としては

そんな感じです。でも、それでどうして調整

出来るのかは…すみません、わからないです…」

 

「まあ、そこは魔法だからな。それだけで、説明

が付く。」

 

近くの自販機で買ってきた、温かいコーヒーを

口にしながら、少し肌寒さを覚えて身を

震わせる。さすがに廃墟とだけあって、保温

効果は全くと言っていいほどない。と言うか

マジで寒い。

 

「でも、よくあいつ因果…だっけ?なんか言って

たよな?因果が変化って…あれ何の意味なんだ?

今までずっと聞いてたけど俺、わかんねーよ」

 

「ああ、えっと因果って言うのは…えっと…」

 

フェリシアの質問にさなが答えようとするが、

さなも答えに困っているようだ。

まあ、無理もない。日常に使うような言葉

じゃない。

 

「因果というのは、原因と結果と言う意味だ。

例えばいいことをすればいいことが帰ってくる

善因善果。悪い事をすれば悪いことが帰ってくる

悪因悪果、これならわかるだろう?

そんな感じでその起こった出来事には相応の

原因…理由があるってことだ。」

 

「あー…でもさ、それじゃあ因果が変化って

なんだよ?」

 

彼女の疑問に俺は頭を悩ませるように呻る。

 

「そうだな…彼女がどういった理由でそう言った

かは、彼女にしかわからないが、例えばだ」

 

と俺は指を立てて事柄に見立てる。

 

「ここにフェリシアが魔女にやられるという未来

があるとする。そのフェリシアが魔女に負ける

結果の原因がフェリシアが弱かったらからとする

ここまではいいな?じゃあ次にそういう未来が

あるという前提で話すとして、ここで戦う前に

みたまから調整を受けたらその魔女に勝つ

事が出来たとする。これだけで、お前の

因果は変わったと言えるだろう。お前が魔女に

負けるのがお前が弱いからという原因を変化

させたことで魔女に負けるという、結果も

また変わった…とそういうことだ」

 

「んん…?つまりみたまは、未来がわかるのか?

それってすげーじゃん!因果…?がわかるって

事はそういうことだろ?」

 

大きく息を吹いて、消えていく煙を見ながら

俺は小さく首を振る。みたまからすでに許可を

もらって俺は葉巻を吸っていた。

 

「そればかりはわからん。彼女に直接聞く必要

があるだろうな」

 

と言ったらフェリシアはそのまま興味を

失ったのか、会話を区切る。ただ俺はますます

彼女に対して興味がわいてきた。因果……

この言葉は予想以上にめんどくさい言葉だと

俺は思っている。これは簡単に言えば捉え方

によっていくらでも変えることが出来るからだ。

因果によって変化した未来…がそもそも因果に

よって決められた未来かもしれない…と答えの

ない問だ。この因果という言葉を使う奴は

たいてい頭のおかしくなった奴か、そういう

お年頃か…それ相応の経験をした。という事に

なると俺は考えている。

 

「八雲みたま…か」

 

と、じっと考えていると奥の部屋からの声が

徐々に大きくなってくる。首だけを振り向くと

奥への扉が開いて彼女たちが姿を現した。

 

「うう…」

 

「ほら、よしよし。大丈夫よ。体重が少し増えた

くらいで…」

 

「や、やちよさんにはわかんないんですよぉ~」

 

「あはは…じゃあいろはちゃん。しばらく中華

食べない?」

 

「うっ…普通ではありますけど、なんかクセに

なっちゃて…なのでまた…」

 

と何やら聞いてはいけないような話をしながら

戻ってきた。がっくりと肩を落としているいろは

をやちよがなだめて、申し訳なさそうな鶴乃

 

「だって…確かに最近運動してないかな…って

思ってましたけど…まさかみたまさんに見られる

なんて~」

 

「まあ、しょうがなくないけど、しょうがないわ

みたまの覗き癖は…あ、カズキ君。みたまが

呼んでいるわよ」

 

「………おう、じゃあ行ってくるわ」

 

葉巻を処理してから、少し反動をつけてソファー

から立ち上がる。さて、お手並み拝見とさせて

貰おうか…

 

 

奥の部屋は簡易的なベッドが備え付けられている

程度で、大した装飾はなかった。いや、家具

がないってだけで、一面青の装飾で室内は

彩られていた。みたまはベッドの横で俺の

事を舞っていたみたいで、俺を見つけると

笑顔をこちらに向けてくる。

 

「はい、いらっしゃ~い。改めまして、ようこそ

調整屋へ」

 

「さて…俺はどうすればいいんだ?」

 

「こっちのベッドに横になって頂戴。荷物とか

そっちのカゴにおいてね」

 

言われた通りに俺は荷物をカゴに入れる。

 

「あら…結構物騒なもの持っているのね?」

 

「当然だ。これくらいなければ魔女にすら

勝てん」

 

みたまは腰に巻いていたシースベルトを見て

ボソッとつぶやく。大型ナイフなだけに迫力

もそれなりだろう。

 

「…あ、ごめんなさいね。さ、どうぞ」

 

少し動揺していたみたまははっと我に返り、

ベッドを進めてくる。それに合わせて俺は

ベッドに横になる。簡易ベッドという感じだった

が、寝心地はなかなか悪くない。これなら

長い時間寝てもそこまで苦痛にはならないだろう

 

「そしたら、全身の力を抜いて楽にして

ちょうだい。後は私に任せて」

 

「そうか…とりあえず確認だ。このソウルジェムの

の正体に何かわかるようなことがあれば、それを

調べてもらいたい。調整のほうは、必要ない。」

 

「ええ、しっかりと確認したわ~

…じゃあ始めるわ。もし、眠くなったら

寝ちゃっても大丈夫だからね?」

 

そう言いながら彼女はゆっくりと回りを歩き

始める。やたらと静かに感じるこの廃墟に

この時期にしては強く感じる冷気を感じながら

コツ…コツ…と心地のいい靴が床をたたく音を

効いていると、少し眠気を感じてくる。

いけないな…と感じ眠気を払おうとするが、

 

「………………」

 

左手にそっと重ねられたくすぐったい感覚と

わずかに感じられる彼女の温かさにまあ…

最近は寝不足気味だったし、少しはいいか…と

彼はその眠気を受け入れた。




次回に続きます。調整の正確な描写はおそらくゲームにもなかったと思うので、完全に私の思い付きで構成されています。


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調整屋と調停者2

続きですが、今回は少しばかり短めです。


~調整屋奥の部屋sideカズキ~

 

「ん…?」

 

体を揺らす、小さな手と名前を呼ぶ声に俺は目を

ゆっくりと瞼を開ける。開けた先には調整の魔術

を行うみたまが、優しく笑みを浮かべて話

かけてきた。

 

「ふふっ随分とぐっすり眠っていたみたい。

よっぽど疲れていたのね~」

 

「…ああ、そうみたいだな。久々によく眠れた

気がする」

 

ゆっくりと体を起こし、痛む体を動かしながら

左手の指輪を見つめる。ふむ…別段変わった

様子はない。身体能力も変わってない、試しに

捕食魔女も起動してみる。

 

「変わりなし…っと、一応注文通りにやって

くれたみたいだな」

 

「あら?信じてくれなかったの?お姉さん

寂しいわ~」

 

「信じてはいたぞ?じゃなきゃ寝れるわけない

だろう?」

 

そういうと彼女はそうね~…と表面上は肯定の

声をあげて、少しばかり目を細める

 

「嘘ばっかり…寝ていても、あなたの魔法は

機能を発揮するのね?」

 

「ほう…」

 

俺は素直に関心した。まさかばれていたとは

 

「かわいい猫よね~あれ。あなたの飼い猫?」

 

みたまは棚影からこちらを眺めていた、小さな

猫を指さす。

 

「いや、近くに住むノラネコだ。人間相手には

無理だが、魔女や小さい動物の無意識を少し

操れる。あの猫はたまたま、あそこの陰で一時間

ほど、休んでいただけだよ」

 

「私を凝視しながら…ね。ふふっ」

 

みたまは近寄って手を出すと猫はくるりと

背を向けて、小さな壁穴から外に出てしまった

 

「でも…それだけじゃあ、あの猫は見てる事しか

出来ないんじゃないの?」

 

「ああ、ただみたまはあの時の俺の言葉にかなり

動揺していたみたいだからな。注文以外のことを

するとは考えなかった。だからお前の手口の観察

だけさせてもらった…魔法ってのは、本当に

世界の理すら変えるからな」

 

さて…と彼は立ち上がり、今回の目的を果たそう

とする。が、彼女達に2度説明するのは面倒だ

 

「よし、じゃあ彼女達の所に戻ろうか。結果を

頼むよ」

 

「ええ、任せて頂戴…」

 

 

 

~調整屋~

 

 

「あ、カズキさんおかえりなさい」

 

「随分と遅かったわね。それだけの成果があった

のかしら?」

 

部屋の扉を開けると流石に1時間待たされている

せいか、少し暇そうにしているみかづき荘の住民

達が各々の暇つぶしを止めて、顔を上げる。

 

「さあ?説明が面倒だから、まだ聞いていない」

 

とカズキはみたまを見て言葉を続ける。やちよ

達もそれに倣って、みたまを見つめる。

見つめられた、みたまは少しだけ苦笑いを

したあとに、肩を竦めて

 

「ごめんなさいね。結論から言わせてもらう

けれど、分からないということが分かったわ。

あなたの言う通り、それはソウルジェムであって

ソウルジェムではない。私の魔法で調整は

残念だけれど無理だったわ」

 

「あ、そうなんですね…でも結構長かったです

よね?」

 

時間にして1時間さすがに暇を持て余していた

いろは達には興味深々に聞いてくる

 

「そうなのよね~、正しくは出来るんだけど、

出来ないのよ。魔法自体は発動するのだけれど、

その効果が適用されない…って所かしら」

 

「まあ、それが分かっただけでも収穫だろう。

少なくとも魔法が発動するということは

これはソウルジェムということだろう。

何も分からないよりかは全然ましということだ」

 

「でもさー!1時間もやったんだぜ?何か成果

はないのかよ?」

 

フェリシアは捲し立てるが、みたまは困った

ように笑顔を向けて、ないものはないのよねと

残念そうにフェリシアに返す。

 

「ちぇー…まあ、しかたがないか。なんか期待

したけど、しょうがないかぁ…」

 

「フェリシアあんまりみたまを困らせちゃだめよ

カズキ君もそこまで気にしてないみたいだし…

そうね、気持ちがなんか覚めちゃったみたいだし

気分転換に、何かおいしいものでも食べる?」

 

「お!いいね師匠!もうお腹空いちゃったし、

さっそく行こう♪」

 

そんな感じでみかづき荘の皆は、みたまにお礼

を言って、帰ろうとする。

 

「あ、ちょっと待ってくれ、みたまに話たい事

があるんだ。先に行っててくれないか?」

 

「そう?じゃあ、外で待ってるから?」

 

やちよ達はそういいながら、調整屋を後にする

 

 

~調整屋sideカズキ

 

 

みたまはやちよ達を手を振って見送り、俺は

横目で出ていくのを静かに待った。完全に姿

が見えなくなったところで、みたまが少し息を

吐き出すと、こちらを向いて聞いてくる。

 

「さて…それで私にいったい、何の用かしら~」

 

「……………」

 

「…カズキくッ!?」

 

みたまは流石にポーカーフェイスを維持すること

ができず、少し離れた所からでもわかるくらいに

冷や汗をかいているのがわかる。

 

「悪いなみたま。少しばかり付き合ってもらう」

 

俺は懐から取り出した、とあるもの突きつけ

ながら話を続ける。

 

「それ…拳銃よね?」

 

「ああ、SAA…別名ピースメーカーだ」

 

彼は鼻で笑うと滑稽だろう?とSAAを軽く回す

 

「そう…ね、カズキ君さっき調停者って言葉

すごい嫌ってたものね…」

 

「ああ、ただ武器を調達してくれる奴が俺の

活動を聞いて、役に立つだろうとこいつを

くれたんだ。まったく何の嫌味かと思ったよ。

しかも、役に立つのがまた腹が立つ」

 

さて、と改めて、俺はリングハンマーを落とす。

極限まで軽量化を求めたそれは親指で簡単に

落とすことができる。

 

「俺が聞きたいことはただ1つ。……みたな?」

 

「どういう事…?」

 

「…俺は、魔法の種類やある程度の法則は理解

しているつもりだ。何せ今までに何百種類という

莫大な数を触ってきたからな。みたま、お前の

魔法はあらかじめ対象が決まっているみたいだな

ソウルジェムと言う…調整が働くか、働かないか

すぐに理解できるはずだ。」

 

俺はゆっくりとみたまの周りを回り始める。

威圧の意味合いも込めて、声のトーンを落とし、

足音を立ててゆっくりと…

 

「お前も言っていたよな?発動はできる…ただ、

効果が出てこない…と。」

 

「ええ、そうね…」

 

「1時間…長いよな?」

 

「………」

 

みたまの指先が震えているのがわかる。が彼女

は口は開こうとはしなかった。

 

「ふっ…賢明だな。今ならまだしらを切れる

からな。」

 

さて、どうやって口を割るか。まあとりあえずは

正攻法で行こうと俺は考えたをまとめてみたまに

話始める。

 

「ソウルジェムの調整…だったか。口で言うのは

簡単だが、俺はその魔法、はっきり言って

世界最強の能力だと思っている。ソウルジェムは

その人そのものだ。お前がその気になれば、

身体能力から魔法といった戦いに必要な能力は

もちろん、記憶、心情、神経…その人のありと

あらゆる事を「調整」できるはずだ。」

 

憶測だがな、と俺は付け加える。しかし、

これだけでは俺が銃を向ける理由がないと思った

のか、みたまはまだ納得がいかないような顔を

している。

 

「やちよの会話、覚えているか?」

 

「か、会話?」

 

「いろはが体重の話をしていただろう?みたまに

見られた…と。だが、俺が確認した中であの部屋

に体重計はない。そもそも調整に体重計は必要

ない、だろう?それとみたまの覗き癖…俺の

推測が正しいのならば…見れるんだろう?

大変デリケートで、絶対不可侵領域である…

記憶を。ならば俺は少しばかり保険を掛ける

必要がある。」

 

あたりをゆっくりと回っていた俺は、みたまの

前に止まった。瞬きの数が多く、あたりを

見渡す行為を我慢するかのように、体を

強張らせている。小刻みに足を動かし、

何とか距離を取ろうとしている。しかし、

彼女の口から出たのは、それでも弱みを

見せつけない、強気な言葉だった。

 

「だったら…どうするのかしら?」

 

「別に、話さないというのであればどうするの

つもりもない。」

 

「あ、あら…意外、ね。そんなあっさりと

引き下がっていいのかしら?」

 

「ああ、残念ながら俺には記憶に干渉する

魔法は存在しないからな。」

 

俺がそういうとみたまは、自分の体中を触り

深くため息をつく。

 

「はぁ……」

 

「流石に、この世界に入って半年じゃなぁ…

心理学で俺に勝てるわけないだろう?…それと

お前、安堵しすぎだ。これじゃあ記憶を

抜き取ったのが事実だと認めているもんだぞ」

 

「しかたないじゃないの…こんな経験初めて

ですもの」

 

みたまが認めたので、俺は銃を下ろして

ホルスターにしまう。みたまはその様子をじっと

見つめて、何かを悟ったように笑う。

 

「流石は、やちよが認めた男…って事かしらね~

このキャラを演じるのはまだまだということね

それとも…これが普通なのかしら?」

 

「普通だな。初めてなら仕方がないが…調整屋

という仕事を続けるつもりがあるならば、

こういった魔法少女も存在する。慣れておくこと

をお勧めするよ。」

 

そういって俺はここを後にしようとする。

 

「ちょっとまって頂戴1つだけ、聞かせて

貰えるかしら…?」

 

「ああ、やちよ達が待っている。手短に頼む」

 

ええ、とみたまは深呼吸をしてから今までで

一番の真剣な顔をして、

 

「あなたは…どうして、ここまで戦うことが

出来るの?」

 

「…………」

 

「あなたの記憶は、確かに見た。でもそれは、

あなたのここ数年の壮絶な戦いしか見れなかった

人間、であるあなたがどうして他人のために

そこまでできるか、私には到底理解できない。

五体満足で、正気を保っていられるのは奇跡よ…

そうまでして、あなたのやりたいことって…

「その問いには」」

 

俺はみたまの言葉を遮るようにして、

 

「答える口は持っていない。悪いな」

 

と、調整屋を後にした。

 

 

 

~調整屋sideみたま~

 

 

カズキ君との会話の後、私は作業に戻ることを

せず、ソファーに体を沈めて、大きくため息を

吐く。いい経験…だったかしら?少なくとも

短い魔法少女人生だったけれど、他人と触れ合い

そして、内に秘めた思いを見続けてきた私だった

けれど、あれほどまで内側が深い人間を見たこと

がなかった。

 

「調停者…カズキ君、ね」

 

おそらく調停者という立場の都合上、彼とは長い

付き合いになるんじゃないかなと思っている。

彼は、そのうちに秘められた思いで行動している

先の読めない人。これは、いつも私が魔法少女達

にやっている事。こちらの手の内を探らせず、

逆にこちらは相手の深くに入り込み、相手を

手玉に取る。もちろん、悪い事には使わない

こういう入り方で相手にずかずか入ることが

出来れば、悩んでいる人や、打ちひしがれた人に

とっては、特に立ち直らせるのに有効的に働く。

ミステリアス、何を考えているか分からないは、

それだけで不思議な魅力があるのだ。

…もっとも、私のように普段からそういう事を

やっている人が別の人にやられたときは、

どうしようもない敗北感と、力のなさを実感する

 

「得体のしれない恐怖と、私をしっかりと見て

くれているという安心感…受ける側に回って

初めてわかる事だということね…」

 

私は調整という魔法を利用して割と簡単に人の

深層に入りこむ事ができるけれど、おそらく彼は

違う。経験、観察といった実力のみで行っている

 

「すごいわね…」

 

素直にそう思った。そして同時に、こうも思った

 

「いったい何が彼をそうさせるのかしらね…?」

 

先ほどカズキ君にもした質問。残念ながら返答

を得られることはなかったが、でもそれでも、

問わずにはいられない。これからも私は彼の

実力を目の当たりにする機会が増えてくるだろう

その都度こう思うことは想像に難しくない。

 

「いつか…わかる日は来るのかしらね~…」

 

正直考えても分からないならば、機会を待つ

しかない。そういえば今日はこの後魔法少女の

調整を約束していた。時間的にはまだまだ時間

はある。お昼を食べてからここに戻ってくる

としよう…

 

 

 

 

~??????~

 

 

 

「くふふ~いよいよだね」

 

薄暗い部屋の中で、幼い女の子の声が響き渡る。

その可愛らしい声とは裏腹に、その雰囲気は

異様と呼べるもので、もしここに他の人がいれば

もしかしたら恐怖を感じるかもしれない。

 

「そうだね。準備はあらかた終わったし、

僕たちの計画もようやく本腰に入ったって所、

あとは、不安要素を取り除きつつ、この町の

僕たちに対立する魔法少女を…全員排除する」

 

その声に反応したのは、彼女よりも落ち着きを

感じさせるクールでそれでいて、幼さを感じ

させる優しい声。しかし、こちらも口から出る

言葉はおおよそ年齢にそぐわない物騒な言葉

 

「魔法少女もそうだけど、アリナ的には、

あの男のせいで、チョーベリーバットな感じ

なんですけど…」

 

彼女達よりかは幾分か年上のアリナと名乗った

女性は、不機嫌そうに話に入ってくる。

 

「僕もそれが気になっていたんだ。最近この町

で活動を活発にさせている謎の男性。いまだに

噂にとどまっている人も大勢いるけれど、存在

はほぼ確定。だから僕も調査してみたんだ」

 

「どんなの?」

 

「あんまり期待はしないでくれよ。残念だけれど

彼もなかなかに優秀みたいで、尻尾をつかむ

のができなかったんだ。でも、本気で攻めて

みたら彼はその尻尾を切り離した。おかげで、

彼が何者なのか、分かったんだよ。彼はただの

一般人。魔法が使えるだけのただの一般人だよ」

 

「はぁ!?じゃあアリナ達は今まで一般人に

邪魔されてたってわけ?サイアクなんですけど」

 

その言葉に彼女は首を振る。

 

「直接的な妨害は受けていないよ。そっちは

やちよ達の仕業だと思う。でも、間接的

精神的な意味で、放っておいたら彼はどんどん

魔法少女を引き込んでいくよ。だから早めに

手を打っておかないと、彼を倒すのはまた

難しくなっていく。」

 

「そっちは任せてたけどちゃんと手はあるの?

マギウスの翼へ魔法少女を引き込むのも、その男

をどうにかしないと、いずれ支障が出てくるかも

知れないじゃない」

 

幼き少女は、一般人という下等生物に邪魔を

されていたという事実に若干不機嫌になりながら

も頭を回転させる。

 

「うん任せておいて。まぐれで手に入った情報

だけれど、とっておきの秘策を用意したんだ」

 

そういいながら彼女は、スマホを取り出して

彼女達に見せる。そこには1人の部下からの

メールが書かれていて、それを見た2人は

まるで面白いおもちゃを見つけたかのような、

異様な笑みを浮かべた。

 

「あははは!アリナ的にこれ、チョー最高!」

 

「くふふ♪確かにそうね!これにしましょう」

 

薄暗い闇の中で彼女達の楽し気な笑い声が

響き渡る。その小さな体の内に秘められた狂気

が今、この町神浜を覆うことになる。

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

久しぶり…ですね。

 

できれば会いたくありませんでした…

 

いえ、できればもう一度お会いしたかったです

 

お前にはあの時世話になったな。

 

お前のことも探していた。

 

まあ、それはどうでもいいか、久しぶりだな

 

 

 

 

みふゆ

 

 

 

次回

「マギウスとの会合」

 

 




読んでいただいてありがとうございました。
試しに次回予告を今回入れてみました。
まあ、これを見れば皆さんの方でも妄想
がはかどるかなと思って入れました
(私もよく他の人のssで展開を予想
してみたりしています)
次回は予告にもある通りマギウス達と
本格的にかかわることになります。
また、このままマギアレコード本編
第8章の話に入っていきますが
本編とは結末が変わっていきます、
それでは次回もお楽しみにしてください!

あ、それから、ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします!


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マギウスとの会合1

本編第7章の話…の前日譚のような物です。


~sideカズキ街中~

 

 

「ふむ…なるほど、それは面白い話だな」

 

俺は、買い物の帰りにたまたま面白そうな話を

していた、話好きのおばさんに話を聞いていた

別に特別面白いという訳ではないが、暇つぶし

には丁度いい内容だった。なに、なんて事はない

よくある噂話だった。

 

「噂話にしてはなかなか現実味があるな…

もう少し詳しく教えてくれないか?」

 

と言うふうに聞くとおばさんはもちろんよ!と

話始めようとする。しかし、それに待ったを

かける人物が現れた。

 

「ま、待ってください!カズキさん!」

 

声がした方を振り返ってみると、人々の好奇心

の目にさらされながら、息を切らして走ってくる

いろはの姿があった。ものすごい勢いで走って

きたせいか、全く息が整っていない。

 

「はぁ…はぁ…かずき…さん!いま、誰と

話していましたか?」

 

「誰と…?」

 

正直俺は何を言っているだ?といろはを

にらみつけた。遠くから人込みを割ってここに

きたとはいえ、俺を認識しているなら誰と

喋っている人くらいなら分かるはずだ。

 

「別に変な奴とはしゃべってないぞ、ただの…

ただの……」

 

「ただの…なんですか?」

 

「わか…らない…」

 

冷や汗が背中に垂れるのがわかる。

さっきどころか、数秒前までに話していた人物

が記憶からでてこない。靄がかかったかのように

人物の全体像が浮かんでくるが認識できない。

だが、誰といたなんて、今ここで話していたの

だから直接見て確認すればいいだけ話だ。

俺はそう思っていろはから視線を外すが…

 

「いない…」

 

さっきまでそこにいたはずの誰かはなぜか

そこにはいなかった。

 

「カズキさんもう一度いろいろ思い出してみて

貰ってもいいですか?誰と話してたのか…

なぜここで話を聞いていたのかとか…」

 

「…………」

 

そういわれて、俺は記憶をたどっていく。

 

「…今にして思えば、理由が浮かばない…

なぜか、誰かの話している噂話が気になって、

見知らぬ誰かに話しかけて…」

 

たどっていけばたどっていくほど、さっきなぜ

ここで話を聞こえと思ったのか、分からなく

なってきた。強いて言えばやりたいと

思ったから…

 

「どうなってやがる…」

 

「カズキさんそれが、この町に存在するウワサ

ですよ」

 

「なに?ウワサだと?」

 

この町で調べものをしているうちに、名前を

聞いたことはある。ただ、いくら調べても進展

がなかったので、あきらめていた。

 

「はい、ウワサです。本来だったら、ウワサと

会話をした一般人は、操られてその噂の通りに

行動するんです。そして私たちが指摘しても

残念ながら、聞く耳を持ちません。

そういう意味では、なぜカズキさんは疑問を

持つことが出来たんでしょう…?」」

 

「ウワサ…まあ、それについては俺が普通の

一般人じゃないから、で済むだろうな」

 

まさか、ウワサがここまでとは思わなかった。

一般人である俺は、疑問を持つことができても

干渉をすることはできないらしい。

いまは、いろはが呼び止めてくれたことで俺は

このウワサをおかしいと思えたが、いろはが

いなければ、ウワサの餌食になっていた可能性

は非常に高い。内容を覚えていないため、

どんなことが起こるかは分からないが…

 

「ともかく、ありがとういろは。お前がいて

助かった」

 

「い、いえ…お役に立てたのならなによりです。

それに私は話しかけただけですので…」

 

そんな感じでは俺は今日初めてウワサと呼ばれる

物に相対した。いや、こっちは認識できなかった

のだから、相対はしてないかもしれない。

しかし、ウワサの危険性が分かっただけ

よしとすればいい。

 

 

~?????~

 

 

「ここ…ですね」

 

メールで言われた通りの場所にやってきた私

(あずさ)みふゆは、とある廃墟をの前にやってきていた

嫌に多いこの町の廃墟は姿を見せたくない、私達

マギウスの翼にとって、とても都合がよかった。

 

崩れかけの階段を踏み抜かないように気を付けて

上がっていく。目的の3階にはすでに何人かの

人物が居座っていた。

 

「あ、みふゆさん。お待ちしておりました。」

 

赤紫色をしたポニーテール、薄紫色をベースに

した制服を身にまとったおしとやかという言葉

が大変に会う少女が、ペコリと頭を下げる。

 

「みふゆさん、遅かったですけれど、何か

ありました?」

 

こちらの少女は同じ赤紫色をしたツインテール

黒いミニスカートはサスペンダーで止められて

いて、先ほどの少女とどこか面影がそっくり

だった。それもそのはずこの二人は姉妹

なのだからこちらの少女はおしとやかではなく、

元気のある可憐な少女だ。

苗字がそれぞれの事情で異なっているのだが、

ここでは天音(あまね)姉妹と呼ばれている。

 

「ごめんなさい。少し考え事をしていたら、

遅れてしまいました。…さて、待ち合わせ時間

になっても、これだけということは、今日は

この人数で…ということですか?」

 

「うん、それであってるよ~」

 

「マギウスの翼に話すほどの事ではないからね」

 

とみふゆは姉妹に頭を下げてから、奥の部屋に

いる小さな少女達に話かけた。

彼女たちはマギウスと呼ばれる組織を構成して

いて、メンバーは3名。みふゆの所属している

マギウスの翼は、いわば下部組織といえる。

今日の呼びだしはその中の一人(ひいらぎ)ねむからだった

 

「むふふっ…来てくれてありがとうみふゆ。

待っていたよ」

 

アカデミックドレスをきた三つ編みの小柄な

少女が読んでいた本から視線を外し挨拶してくる

柊ねむは、そのままパタンと本を閉じると

隣にいた少女と立ち上がる。

 

「くふふ~いよいよだよ。マギウスの計画が

ついに始まるんだよ!」

 

隣に座っていたフリフリのドレスを着た小柄な

少女が楽し気に声を上げる。彼女は里見灯花(さとみとうか)

おそらく柊ねむと同い年だと思うが、本当の

所は分からない。

 

「みふゆ~チョー遅いんですケド…。まあ、

いま、アリナのハート、チョー高ぶってるから

特別に許してアゲル」

 

帽子をかぶった深緑色の憲兵のような服装をした

二人と比べてたら高い身長をした、緑髪の少女は

壁にもたれかかりながら、みふゆの登場を

待っていたようだ。彼女はアリナ・グレイ

どこか妖艶な笑みを浮かべていて、

何を考えているのか分からない。

一応上位組織の人間ではあるが、多少の緊張感と

いうか、不快感を感じずにはいられない。

 

「では…要件を聞かせてもらえますか?」

 

「うん…まずは、もう知っていると思うけど、

僕たちの計画は最終段階に入った。いよいよ

解放の時がやってくる。」

 

静かで暗い廃墟に、少し気分の乗ったような

声がみふゆの耳に入ってくる。

 

「でも、まだまだ不安定な要素があるから、

それは排除していきたいし、できうる限り人手

もほしい。でも…最近になってこの町に

やってきた人間によって、この不安定要素は

拡大する一方なんだ」

 

「みふゆはさ~知っているんだヨネ?アリナ達

魔法少女でもないくせに、魔法少女に構ってくる

バッドなヒト…」

 

「……ええ、勧誘するときにも、いくつか

話に上がっていましたね」

 

彼女たちが言っているのは、この町で噂に

なっている、魔法少女を助ける男性…の話だろう

みふゆは自分が冷や汗をかいているのに、今更

気が付いた。ここから先の言葉が、簡単に想像

出来たからだ。彼女たちに気づかれまいと、

目にかかった髪を払う仕草で、汗を拭う

 

「それでね~調べていたら、わたくし達の元に

こんな情報が流れてきたんだ。」

 

と彼女はスマホをこちらに見せてくる。

見たくはない…がここで見なければ話は

進まない意を決してその画面を覗く。

 

「ッ!…これは」

 

「そう、…まさか知り合いだったなんてね。

みふゆ」

 

スマホにはマギウスの翼のメンバーから

送られてきたメールが表示されている。

そこには今噂になっている男性と、みふゆが

昔一緒にいるのを見たことがある。遠目から

見ていただけだけれど、かなり仲がよさそう

だった。と…

 

「そう…ですね。確かにあの人…カズキ君は

私の知り合いです」

 

「くふふ~!良かった良かった。これで問題は

解決できそうだね」

 

「解決…というのは?」

 

「?簡単な話だよ。みふゆ。君なら彼を

呼び寄せるのは簡単だろう?翼を本気で

嗾けてみたら、彼の正体が分かったんだ。

僕たちの力なら、彼を殺すのは容易にできる。

流石に知り合いを手にかけろとは言わないよ。

だから、おびき寄せてくれればあとは僕達が

殺すよ。」

 

「あいつさえ殺しちゃえば、わたくし達の計画

を止められるのはベテランさんだけになるし

それだけだったらどうとでもなるからね~」

 

灯花の言っているベテランさんというのは

やっちゃん…七海やちよのことだ。

しかし、悪い予感は的中してしまった。

この町でのカズキの活躍は聞いている。

たった数週間でその存在を知らしめた。

まだ、あった人間は少ないみたいだけれど、

これからその輪はどんどん大きくなっていく。

絶対に。だからこそ、マギウスが危機感を抱く

のは間違いじゃなかった。

 

「じゃあ、さっそく作戦を立てようか。

おびき寄せるという戦法を使う以上、みふゆが

彼の敵に回っているのは知られる。つまり1度

きりのチャンスってことだね。」

 

「でも、魔女も使えば余裕じゃナイ?」

 

「あ!それいい。結界に閉じ込めれば、自力での

脱出は魔法少女すら困難だからね~くふふっ♪」

 

「……」

 

まずい、とみふゆは顔を少し険しくしていた。

カズキを殺すというのは、確定しているらしい。

多分ここで協力しなくても、また別の手段で

彼を殺すだろう。みふゆは焦りに焦った。

彼には死んでほしくない。でも、ここで代案を

出さないといくらカズキとはいえ、マギウスには

敵わないだろう。数多くの選択肢の中から最適

なものをあげていく…考えをまとめて、

まとめて…しかし、彼女達を納得させるような

妙案は思いつかない。マギウスをそしてカズキを

よく知るみふゆはどう動いても激突する未来しか

浮かぶことはなかった…

 

「まってください」

 

ゆえに…妥協案をとる。

 

「彼を…引き入れるというのはどうでしょう?

彼の手腕はあなたたちも知っているはずです。

彼がマギウスに協力してくれれば、人材集めから

解放まで、ありとあらゆる作業がはかどれるはず

…それに彼はあれでも魔法少女との戦いには

慣れています。罠とわかれば、たとえ腕を失う

事になってでも命を守り切るはずです。」

 

「つまり…僕達の案では、彼を倒しきるのは

難しい、と?」

 

「はい、少なくとも彼は逃げる、この一点だけ

は得意なんです。万が一があります。そして

彼がマギウスに敵対しているのは、おそらく

私達の目的を知らないから…。もし、こちらに

引き込めたら、マギウスにとって有益になる

かもしれません」

 

「はぁ!?一般人入れるとかジョーダンきつい

んですケド!?」

 

「そうよ!わたくし達の崇高なこの組織に

気味の悪い男なんていらないよ」

 

予想はしていたけれど、アリナと灯花は猛反対、

聞く耳を持たないといった感じだ…だけれど

 

「ふむ…そうだね。確かに悪くないかもしれない

かな」

 

しかし、こちらも予想通りねむは、この話に

興味を持ってくれる。

 

「僕も彼の話術には目を見張るものがあると

思っている。詐欺師向けだね。そんな彼が勧誘

をするのならば、間違いなく今より人は多く

入ってくると思う」

 

それでも納得できないとばかりに灯花は、口を

尖らせる。

 

「でもやっぱりわたくしはいやよ!」

 

「大丈夫だよ。彼には表面上しか触らせないし、

手中に収めちゃえば、いつでも殺せる。

使い潰すのにこれほどいい人材はいないさ。

それに…みふゆがこっちにいるのは、いい説得

材料にもなりそうだ。」

 

徐々にではあるが、灯花もアリナも納得は

言っていないが、反対の意見を出さなくなって

くる。結局最後には折れてカズキを仲間にする

ための作戦が立てられた

 

「あ、みふゆ言っておくけれど、この作戦の

都合上僕たちは顔を見せられない。

もし交渉に失敗したら、その場で始末して

そうだね…さっき知り合いに手をかけなくても

いいって、言ったけど…確実性を求めるなら

やっぱりみふゆに殺してもらうのが一番かな」

 

「くふふ~もし、まあ、もしだめでもマギウスの

翼の大部分で包囲しておくから、安心して

説得してね♪」

 

みふゆはここまでが限界ですね…とその作戦に

承諾した。なんてことはない。私が誘い出して

交渉をする。その間に建物をマギウスの翼で包囲

成功したら、そのまま洗脳を行い、失敗したら

その場で殺す…実に簡単な仕事だ。

マギウス達はそのまま若干不満を抱えた顔をして

帰っていった

 

「みふゆさん大丈夫でしょうか?そのカズキと

言う方はお知り合いなのでしょう?」

 

「相手は魔法少女じゃないんでしょ?なら私達

でもやれるよ。みふゆさんがわざわざやる必要

はないよ」

 

天音姉妹の二人がこちらを気遣ってくれる。

しかし彼女達は気が付いているのだろうか?

優しさから出ているその言葉は、自分が代わりに

人殺しをすると言っていることに…

簡単に口にしているその言葉にいったいどれだけ

の重みがあるのかを…

 

「…………」

 

「みふゆさん?」

 

「ああ、いえ何でもありません。大丈夫です。

彼とはただ少し話したことがある程度です。

確かに心苦しくはありますが、解放の為なら

仕方がありません」

 

そう足早にこの場を収めて、心配そうな顔をする

2人を残して廃墟を後にする。解放のための

計画はもうすでに始まっている。ならば行動は

すぐに起こさなくてはならない。気持ちの整理

なんて付ける暇もなく…

 

 

 

~裏路地sideカズキ~

 

 

「さてと…」

 

ここ数日俺は先日得た情報、ウワサに引っかから

ないように、最新の注意を払いながら、マギウス

と呼ばれる組織を追っていた。この町にきた時

から名前を聞いたことはあった。しかし、その

実態はいまだに謎に包まれている。というのも

どうもマギウスと呼ばれる組織は人を引き入れる

のがとてもうまい。そして、引き入れた人間には

情報の隠蔽を徹底している。おかげで、いくら

調べても詳しい情報が出てこない。

 

「最も、手がないわけじゃない」

 

彼女達の組織を追う上で最も追いやすい手段が

ある。それは魔女だ。この町にいる魔女を

転々としているだけで、あたりを引けることが

ある。彼女たちが魔法少女である以上、魔女を

狩るのは必要不可欠のだ。つまり魔女を追って

いる魔法少女を物陰から観察したり、聞き耳を

立てたりしていれば、そういった情報を

入手することができるという訳だ。

ストーカー?正直今更だ。

 

「とはいえ…引いたあたりはただの末端…

こりゃしばらく時間がかかりそうだ」

 

当たり前だが、この町には魔女がたくさんいるし

そして魔法少女も多い。お目当ての魔法少女を

探すために、魔女を回るのは最悪の効率となって

いる。しかし、最悪の効率ではあるが今最も

戦果が期待できるのもまたこの方法なのだ。

不幸中の幸いと言えば、マギウスを見極める方法

として、彼女たちは共通のローブを羽織っている

一度見たことがあるので、見れば容易に判別

ができるだろう。

 

「ん?」

 

と、いろいろ思考していたら結界を発見した。

魔法少女の探知は正直範囲が狭すぎて結界の外

では使い物にならない。

 

「まあ、いなければ狩るだけだ」

 

と俺は指輪にはめられたソウルジェムを確認して

ナイフを取り出して、結界の中に入る。

 

 

 

 

 

「こんなものか…」

 

残念なことに結界の内部に魔法少女の存在は

確認できず、魔女だけ狩った後結界を後にした。

 

「…………」

 

そう、確かに魔法少女と断定できる存在は確認

することはできないかった。それはこちらの

デフォルトで備えられている探知魔法の距離が

極端に狭いからだ。その距離約10Mほど。

どう考えても目視で足りる。

ゆえに視線を感じても断定することができない。

 

「そこにいる奴、出てこい。いるのは分かって

いるぞ。…それとも一般人か…?」

 

と俺は物陰に潜んでいるとにらんでいる場所に

声を上げた。反応があったのはすぐだった。

ガサと小さな音が規則的に聞こえてきて、

その物陰から数名の女性が姿を現した。

大人びた…と言う言葉がよく似合う女性。

体のラインを際立たせるような服装を

身にまとった白髪が特徴。ゆったりと何かを

噛み締めるように、一歩一歩足を進める。

 

「お前…」

 

「待ってください。第一声はワタシから…

そう決めていました」

 

と彼女がつぶやくと、一呼吸おいてから、こちら

をしっかりと見据えて、口を開く。遠くからでも

その瞳がうるんでいるのがわかる。

 

「久しぶり…ですね。できれば会いたく

ありませんでした…いえ、できればもう一度

お会いしたかったです。カズキ君…」

 

見ただけで分かってはいたが、やはり彼女だった

ようだ。1年見た目にさほどの違いはないけれど

内面を変えるには十分すぎる時間だ。

 

「そうだな…お前にはあの時世話になったな。

お前のことも探していた…が、正直やちよの場所

にいないから、もう死んでいたと思っていた」

 

そう、あのやちよが俺と会ってからただの1度も

彼女の話をしていないというのが、何より

おかしいと思っていた。死んでいたと思っていた

のは事実ではあるが、正直それより厄介な状況

であると予想していた。やちよなら、仮に死んで

いたら俺に一言言っていたはずだ

 

「まあ、それはどうでもいいか。久しぶりだな」

 

やちよと同じく7年魔法少女をやっていて、

この神浜をやちよとともに守り続けてきた。

この町屈指の魔法少女にして、やちよの親友

そして、個人的な付き合いも長い魔法少女

 

「みふゆ」

 

梓みふゆその人だ。

そして現在脇に控えた黒いローブの存在が

言っている。彼女はマギウスの一員…

すなわち敵なのだ…と

 




いかがだったでしょうか?次回から本格的にマギウスの翼との会合に入ります。

後一区切りついたらまどかマギカを知っているけどマギアレコードを知らないって人向けにの何か簡単なまとめのようなものを作ろうかなと思っています。自分の作品を見返して
見たら、どれもマギレコの本編を読んでいるのが前提条件みたいな感じで話を進めていた
感じがして…あ、マギアレコードとっても面白いんでよかったらぜひ遊んでくださいね!
(唐突な布教)


ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします!


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マギウスとの会合2

お待たせしました。マギウスの翼の登場です。一応マギアレコード知らない人でも多分マギウスが何やりたいかわかるようにしているつもりですが、詳しい情報はwikiかマギアレコードをやった方が絶対正しいです。それではどうぞ~


~sideカズキ裏路地~

 

「みふゆ、まさかあのお前がやちよと敵対

しているとは思わなかったぞ。あれだけべったり

だったのにな」

 

と俺は肩を竦めて、目の前にいる少女を見据える

すると彼女も、同じように肩を竦めて、

 

「はい、私も正直びっくりしています。でも

仕方がないことだと思っています。これが私達

の運命だったのですから…」

 

「運命だと…?」

 

悲しそうな眼をしたみふゆがうっすらと微笑んで

言葉を続ける。

 

「カズキさんには分からないかもしれません。

私達に課せられた宿命を」

 

その言葉から俺はいくつかの推測を立てる。

誤情報などを危惧して、みかづき荘の連中から、

不用意な事は聞かなかったため、今までマギウス

という連中の言う、解放が何なのか

分からなかった。目的を聞けば返ってくるのは

解放の言葉だけ。これだけでも想像はできるが

確信はできない。ただ、みふゆの性格や言葉

そして…やちよの変貌ぶりが起こったあの事件

の事を考えると…

 

「なるほど、お前の言う宿命は魔女化、の事か

そして解放というのは…その宿命から逃れられる

何らかの方法…だな?」

 

「!?な、なぜカズキさんがその事を?かなえと

メルの死にはあなたは立ち会っていないので

しょう!?」

 

「そうだな立ち会ってはいない。後にやちよと

一悶着あって、その時に聞いた。」

 

解放…なるほど確かに魅力的な話だ。魔女化の

運命を背負っている彼女達にとって、解放が

達成されれば、訪れる死の恐怖から逃れられる

事ができるということになる。

 

「それと、ついでに言わせてもらうと俺は魔女化

については、10年前からすでに知っていた」

 

「し、知っていた…?」

 

みふゆは、目を見開き、肩を震わせている。

そばに控えていた、ローブの少女達も、こちらに

たいして更に敵意を見せ始めた。

 

「ど、どうして黙っていたんですか!私達の事

どうして!知っていたら、もしかしたらどうにか

なったかもしれないじゃないですか!やっちゃん

だってあんなに悲しい思いをしなかったかも

しれないのに!あの二人だって…死ななかった

かもしれない…のに…わ、私…だって…

なんで…どうして…」

 

裏切られたというように、目に涙を浮かべながら

言葉を捲し立てる

 

「…なんて伝えればいいと思う?」

 

「え?」

 

「なんて伝えればいいと思うと聞いたんだ」

 

「そ、それは…」

 

みふゆは顔をそらす。

 

「昔の事だ。俺はそのことを正直に話して周った

事がある。当然と言えば当然だが、誰一人として

信じる人はいなかった。自分が都合のいいように

解釈して、誰しもが自分を人間と変わらないと、

化け物にはならないと…だが、当然彼女たちは

魔女になる。そして…こうやって偉そうに言って

周る俺は、魔女化の危険性が一切ない」

 

みふゆはさらに顔をしかめる。みふゆは

勉強はできないが、頭は回る。理解している

はずだ。

 

「俺が言った所でいいことは何一つない。

だから…まあ、知った人間のケアをする方が、

救う分にはやりやすい。」

 

「そう…ですね…確かにそうかもしれません…

でも…私には…」

 

彼女の言いたいことは分かるが、正直どうしよう

もない事だった

 

「それについては悪かった…が理解してくれ。

俺の体は1つしかないし、世界中に魔法少女は

何千といる。ずっとお前たちを見ているという

訳にはいかない」

 

さて…と俺はこの話を区切るようにわざと大きな

声を上げる。このままだとみふゆはこの話を

永遠と繰り返しそうな感じがしたからだ。

 

「さて、みふゆ…俺にいったい何のようだ?

こんなふうにコソコソ、前みたいに普通に

話しかけてくればいいじゃないか?」

 

「カズキ君…あなたはマギウスという組織を

知っていますか?」

 

ふむ…出方を伺ってみたが、彼女は隠し通す

つもりはないらしい。ならば接触の理由は

おそらく…

 

「ああ、ずっと待っていたぞ。そろそろ

接触してくる頃だと思っていた。」

 

「ッ!?狙っていた…のですか?」

 

「素性の分からない奴を知るすべとして、

1つ有効な手段がある。それは直接対面し、会話

をすることだ。まあ、あたりまえだな。

それに、気が付いてるか分からないが、俺を

観察しているのがバレバレだぞ。ただ、

何をしたいのか分からなかったから

少しだけ餌を撒いてみた。」

 

と俺はみふゆの脇のローブに身を囲った少女達を

見る。餌というのは自身に関する情報だ。

これだけ知っても確証は得られない。だけれど

その俺を知るうえで必要不可欠な情報。

確証を得るためにもどうにか近づいてくるはず…

 

「圧倒的な食いつきだったな。少なくとも一月

くらいはかかると思っていたが…」

 

ぐっと彼女達は、悔しそうに拳を握り閉める。

今にも食い掛りそうな雰囲気ではあるが、みふゆ

が手でそれを制する。

 

「分かりました…カズキ君そこまで分かっている

のでしたらもう、探りはなしです。ですが…

ここで話すのは少し抵抗があります。私に…

ついてきてもらってもいいですか?」

 

「ふむ…それは、お願いなのか?」

 

「…どうしてですか?」

 

俺はあたりを見渡しながら、一か所ずつ指を

指していく。嘘…と小さなつぶやきをローブの

少女から聞こえた気がした。

 

「このあたりは裏路地…見えないところに何人

か仕込んでいるな。俺がここから出られない

ように的確な配置、さすがだな~みふゆ」

 

「やはり…あなたにはかないませんね…」

 

彼女は首を振ると落胆したような、それでいて

どこか嬉しそうな声色で敗北を認める。

 

「まあ、いいだろう。連れていけ。」

 

「?いいのですか?」

 

「ここで魔法の無駄遣いをする必要もないからな

避けられる戦闘は極力避けておきたいんだ。

それに、俺もあんたと話がしたかったからな」

 

「分かりました。こちらです…」

 

と彼女は背を向けて反転。そのまま裏路地の

奥の方に進んでいく。付き添いの少女達も

こちらをチラチラと伺い少し警戒しながら

みふゆの後を追う。

 

「さて…吉が出るか凶がでるか」

 

マギウスへとつながる重大な情報源だ。

なるべく有利に事が運ぶようにしなくては…

と俺は葉巻を取り出し、火をつけてから彼女

達を追いかける葉巻の独特な香りを感じながら

俺は思考を巡らせていた。

 

 

~廃墟sideカズキ~

 

 

みふゆの先導によって連れてこられた場所は、

使い手のいなくなった、小さなビル一角だった。

ジャリジャリと崩れた石材を踏む音を聞きながら

中に入ってみると…中には数十人を超える少女

達が待ち構えていた。先ほどこちらを囲んでいた

人物だろうか?さすがにそれは分からない。

少女たちはそのほとんどが黒いローブを

身にまとい、数名が白いローブを身に着けている

全員がこちらをじっと見据えている。ローブを

深くかぶっているため、定かではないがその瞳

には少なくとも友好的な目には見えない。

 

「ずいぶんな出迎えだな。」

 

「すみません…まだ説明が不十分で、一応

一言添えておいたはずなんですけどね。」

 

丁度みふゆが部屋の中心に、四方八方から少女

達がこちらをにらむ立ち位置に立たされる。

なるほどまずは精神的にからか…

 

「さて、もう知っているようですけれど説明

させてください。私たちは今、解放を目指して

活動を続けています。解放とはあなたの想像

通り、魔女化になる運命から解放される…

それを意味しています。」

 

「想像通りだな。で、その解放とはいったい

どんな方法なんだ?」

 

「…………」

 

みふゆは途端に黙る。

 

「どうした?」

 

「残念ですが、詳しい説明は私にもできません。

それは私達を導いてくれるマギウスがやって

くれるのです。」

 

「マギウス?ここはマギウスじゃないのか?」

 

「いえ、私達はマギウスの翼です。文字通り

マギウス達の翼となって、解放のために

動いている組織です。」

 

なるほどな、そのマギウスとやらは随分と

人望があるようだ。人が何かをやると決めても

プロジェクトを立ち上げても、それを引っ張り

あげるリーダーが存在しなければ人々は

ついてこない。それがいかに魅力的な案だと

しても…だ。そして…

 

「なるほど、そのマギウスとやらは相当に優秀

のようだな。解放のため、解放のため、

そう言ってお前たちを使う。そのくせ解放の

やり方は分からないだと?はっ!笑える。

まるで詐欺の手本を見ているようだ。

いったいどうやって洗脳しているのか見てみたい

ものだな」

 

「なにをっ!」

 

怒りをあらわにした白いローブを羽織った少女

だったが反論を許す気はない。

 

「事実だろう?ならばお前は言えるのか?解放

とは何か?魔法少女とは何か?そもそも魔女化

とは何か?例えばだ…そのマギウスが騙している

…そう考えたことはないか?お前たちが解放の

ためにと奮闘している事がもしかしたら奴の

利益にしかならないかもしれないだろう?」

 

「うっ…」

 

悔しそうに顔をしかめ歯を食いしばる。やはり

どこか盲目的に信用していたのだろうか

 

「待ってくださいカズキ君それについては大丈夫

です。マギウスは私達に開放の一部を見せて

くれました。見ればきっとマギウスを

信用できるかと思います。」

 

そういうと彼女は自身のソウルジェムを取り出す

そのソウルジェムは真っ黒に染まり今にでも

魔女化してもおかしくなかった。

流石に驚いた。すぐにグリーフシードを

渡そうとするがみふゆはそれを制する。

そして光に包まれて、彼女は魔法少女と

しての姿を現す。

 

「正気か?みふゆ…その状態で魔法を使えば…」

 

「ええ、正気です。そして今から見せるのは

解放の一部でしかありません。しかとその目に

焼き付けてください。これがドッペルです!」

 

魔女化は避けられないか…そう思っていた俺の

予想は、あっさりと裏切られる。ソウルジェム

から何かが解放されたかと思うとみふゆの上半身

に変化が起こる。バッ!と広げたみふゆの両腕は

角…手…?のようなものに変化し上に上に

伸び始め、さまざまな模様をしたカーテンの

ようなものが、顔を上半身を覆うようにみふゆの

顔からあふれ出してくる。本来魔法少女として

の姿の時に首元に備えられるはずのソウルジェム

は顔ほどの大きさに巨大化。異形なカーテンの

塊の中央にその存在感を知らしめる。

 

「こ、これは…」

 

驚くのはそれだけではない。彼女の陰から

無数の鳥が出現する。鳥と思ったのはその面影

が似ているからというだけで羽ばたいて

いないし、そもそも生物ではない。まるで

お菓子を連想させるような、色とりどりな鳥が

突撃し近くに落ちていた廃材を粉砕していく。

一応ここにいる人たちのことを考慮してか、

床をぶち抜いたりはしていない。つまりあの攻撃

にはまだまだ、上があるということだ。

マギア…いやそれ以上に強い。

ひとしきり鳥を出し終えたのか、みふゆの体を

覆っていたカーテンは体に戻っていく。両腕が

変化した角のような物も、まるで時間が巻き戻る

ように元に戻っていく。手元にあるソウルジェム

も先ほどの穢れが嘘のように消えてなくなり、

元のきれいな宝石に戻っている。

 

「ふう…いかがでしたでしょうか?カズキ君

これが解放のほんの一部です。彼女達がくれたの

です。この町で私たちは決して魔女化しません」

 

「そう、か…これがお前たちをマギウスに

止めている魅惑の力ドッペル。確かにこれほどの

物を見せられては信頼できるのもわかる。」

 

「理解してもらえてうれしいです。…さて

では本題です。カズキ君私はあなたに協力して

欲しいんです。このマギウスに」

 

「協力だと?俺に仲間になってほしいとそういう

事か?」

 

「はい、私はあなたの力をよく理解しています。

私達のために力を貸していただけないでしょうか

この残酷な運命から、私達を助けてくれませんか

あなたとだったら…私っ!」

               

確かに、今まで幾度となく、俺は彼女達(魔法少女達)の死を

見届けてきた。そして多くの命も救ってきた

しかし、それは自分でもそう表現しているように

ただの延命治療でしかない。根本的な解決には

なにもならないのだ。ここでのこの提案は

魅力的だ。もしかしたら長年できなかった。

事ができるかもしれない。だから俺の答えは

決まっていた。

 

「断る」

 

「えっ…?」

 

「聞こえなかったか?断るといった」

 

何を言われたのか分からない。みふゆは今

そういった顔をしていた。まさか断られるとは

思ってもいなかったのだろうか?

 

「ど、どうしてですか!?助けて…くれないん

ですか?あの時も言ってくれたじゃないですか!

私のやりたい事、協力してくれるって!」

 

その問いかけに首を横に振る。長年一緒に活動を

していたが、彼女は分かっていないようだった。

 

「ああ、そう言った。」

 

「だったらどうして…!?」

 

「決まっている。それがお前の選んだ道ではない

からだ。やりたいことではないからだ」

 

「えっ…?」

 

はぁ…とため息をついてから子供に言い聞かせる

ようにゆっくりと話しかける。

 

「確かにお前は、最初のころはこの道を自分で

選んだのかもしれない。心の底から救われたいと

だから協力したいと、本心で思ったのかも

しれない。だが、今のお前は何かに縛られている

お前のその行動に、すでにお前の気持ちは意思は

そこにない。あるのは成し遂げなければという、

使命感という名の束縛だ。」

 

みふゆは冷や汗をたらしながら、口をパクパク

させている。手を握り閉めながら何か言葉を

探っているようだった。

 

「それに…やはり俺はあいつらのやり方は

気に入らない。間違ってるとは言わないが、

それにしては一般人から魔法少女まで巻き込み

すぎだ。」

 

癇に障ったのだろうか、みふゆは少し怒りの

感情をあらわにした。キッ!とにらみつけて

強い口調で言葉を発する。

 

「カズキ君さすがに私も言いたくなります。

そんな言い方だとあなたが正しいみたいじゃ

ないですか!すべてを知ってるわけじゃないです

けれど、私も知っています。カズキ君だって…

障害となった魔法少女を手にかけてきたじゃ

ないですか…なのに私たちが間違っている

みたいな言い方…」

 

「はぁ…お前はいったい何を言っているんだ?

俺が正しい?そんなわけないだろう?」

 

やり返したかったであろうみふゆはその言葉を

受けて体を固める。

 

「俺は、いや、俺たちはすでに常識から

外れている。どちらが正しいなど関係ない。

どちらも正しくないんだ。決して許される事の

ない非常識だ。ならばなぜそれをやめられないか

それは止めないからだ。その道こそが正しいと

本気で信じて、その道こそが自分の歩む出来道

だと信じてな。だから、俺からしたらお前は

非常識。そして、俺は正しい。」

 

それを聞いたみふゆは困ったようにため息を

吐き、まるで子供のようですね。と洩らす。

 

「自分の道を外れることが大人になるという事

ならば、俺は別に子供のままでも構わない。

俺の人生は俺だけのものだ、誰の指図も受けない

分かったか?俺はやりたくないからあんたには

協力できない。まあ、あんたが本心からそれを

成し遂げたいというのなら考えるが…」

 

「そう…ですか…」

 

そう言ったみふゆはそれっきり黙ってしまった

口だけでも本心だとでもいえば、もしかしたら

騙されるかもしれないというのに

 

「?なぜ言い返してこないんだ?」

 

「ふふっわかっているでしょう?私ごときが、

口先であなたに勝てるはずありません。きっと

全部見透かされてしまいます」

 

彼女はおそらく自分自身の事を理解している。

今のこの現状が、いかなるものかを。

間違いを認識するのは間違いを治すのにまず、

必要な事だが、彼女はそこで終わってしまった。

どうしようもできないではなく、やらなかった。

一歩踏み出す勇気のない人間を一々手を

貸していてはきりがない。たとえそれが、

7年間一緒にいた人間であろうとも…

そして、そうと決まればもはやここにいる理由

も存在しない。マギウスのことなど、突っ込めば

それなりに情報が得られるかもしれないが、

ここはすでに敵の本拠地、しかも周りの魔法少女

からは敵意むき出し。すべてが無駄という訳では

ないがほぼ収穫0。いやドッペルや、解放の事

が分かっただけで、十分な収穫だろうか。

 

背を向けて去ろうとしたところでみふゆが声を

掛けてくる。いや、掛けてくるではなく、呟く

といったほうが正しいだろう。

 

「いったい…いつになったら終わるんでしょうか

この道が正しいと間違いだと、証明されるのは、

いつになるんでしょうか…?」

 

そのまま聞かなかった事にしてもよかったが、

まあ、一応やちよの親友であり、こちらも世話に

なった。だから一言添えてやることにした。

当たり前の事を当たり前のように

 

「非常識に終わりはない。その非常識がなしとげ

られた時はそれが常識になるからな、非常識で

ある以上終わりは永遠に来ない。もし…終わりが

あるとすれば、常識に駆逐される時か、同じ

非常識がぶつかって負けた時くらいだろう」

 

そうして俺は廃墟を後にしようとする。

しかし、それはかなわなかった。何かが走って

来る音と魔法少女が変身する際に聞こえる音が

聞こえたからだ。急いで振り返って

見ようとするが、その視界は大きく揺れる。

目の前には地面が広がり、みふゆのはいている

靴が近くにある。顔を上にあげればスカートの

中でも見えるかもしれないが、その首は自分の

意思では動かすことができない。なぜなら

 

「アサルトパラノイア!」

 

みふゆのマギアにより、全身がズタボロに

切り裂かれて、その首は体と別れを告げる暇も

なく、切断されてしまったからだ。




いかがだったでしょうか?主人公突然の死!
マギアレコード本編では、やちよとみふゆにはそれぞれ好きな人が別にいますが、魔法少女という理由で一歩前に進めずにいます。が、ここでの話はそんな人はいなかった事になっています。そして魔法少女という理由で尻込みする理由もなくなっています。
後サブタイトル会合とかありますけど、そんな事なさそうですね。対面とかにでも
しておけばよかったと思う今日この頃です




※定期
ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします!


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マギウスとの会合3

本当は2で終わらせる予定でしたが、少し長くなると思ったので、
今回と分けました。なので少し少な目です。


~廃墟sideみふゆ~

 

 

彼の首が、地面を転がる。文字通りバラバラに

なった彼の体から赤い液体が、まるで噴水の

ようにあふれ出る。嗅ぎなれない鉄さびの

ような匂いが鼻をくすぐり、自分のやった事を

嫌でも自覚させられる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

やって…しまった。ついに私はこの手を血で

染め上げてしまった。しかもその血は私の

今でも、元の関係に戻りたいと望んでいる

親友やっちゃんの大切なパートナーであり、

親友でもあり、今は同居人であることも

知っている。そして…何より、数年という

長い年月一度だって他の男性に変わることも

なかった思い人でもある。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

もちろんそれはやっちゃんだけではない。

今言った事はほとんど自分にも当てはまる。

それはつまり、私はこの手で思い人を殺した

と言うことになる。

 

「はは…ぁはは…」

 

どうして…こんな事になってしまったので

しょうか。先ほどまで殺意はなかった。

いや、殺したかった、それは間違いではない。

でも…私はどうしてそんな愚かな考えに

行きついてしまったのだろう。

それはくだらない独占欲のせいだ。

 

カズキ君は今みかづき荘を拠点にしている。

つまりやっちゃんと同じ家で暮らしていると言う

事。あの事件(友人の死)より前、カズキ君はあまり人目に

付くのを嫌っていたため、たまたま出会った

やっちゃんとその現場をたまたま目撃していた、

私が外でたまに会う…という関係だった。

深いかかわりもなく一緒に魔女を倒したり、

どこかおいしいケーキのお店で時間をつぶしたり

と、最初は本当にたまに会う友人くらいにしか

思っていなかった。しかし、彼のその妥協を

許さないはっきりとした性格、厳しいことを

言うけれど、なんだかんだ言って優しい行動理念

加えて、魔法少女と言う普通の男性ならまず

気が付けない秘密に深く関わっている。そして、

私達の立場的に普段甘える立場ではないの

だけれど、彼は違う。1年という歳の差を

全然感じさせない頼りになる彼に恋心を抱くのに

そう時間はかからなかった。

 

「あはは…っはは…」

 

そんな彼をどうしてここで?決まってる。

奪われたくなかったからだ。ここを出れば、

彼は間違いなくマギウスに殺される。私が殺害を

失敗したときの後詰を用意していると言っていた

のだから間違いない。ただでさえ魔法少女との

タイマンですら、なるべく避けたいと言っていた

彼に、大多数の魔法少女が束になって襲い

掛かってくるのだ。対処しきれるはずがない。

それに加えて、もしここで彼がいなくなれば、

もう二度と彼は私を見てくれないだろう。

みかづき荘につくのだから、私は敵…そして、

彼は敵に対して情けも容赦もない。それがたとえ

知り合いだったとしても、だ。

こうして、私は精神的に追い詰めらた。

引き留める勇気もなければ、理由もない。

説得もできないし、彼は私への興味を失った。

そして…私は誰にも彼を渡したくない。

だからと言って、取った行動が殺害?私は妙に

冷めた頭の中で、失笑した。

 

バカすぎる。アホすぎる。間抜けすぎる。

そしてダサすぎる。こんなくだらない独占欲の

ために、私は彼を殺したのか。いくら追い詰め

られたからと言って、こんな行動を起こしたのか

彼が見限る訳だ。私は今、本心で行動していない

マギウスの在り方に、翼の存在意義に、疑問を

持っても、もう後には戻れないと、その道を

進む。自分がやりたいと思っていないことを

やり続けて、どこかでおかしくなるのは

当たり前の事じゃないか。もう私は狂っている。

マギウスの事もマギウスの翼の事も、友人の死の

事も、やっちゃんの事も、カズキ君の事も、

いったい何が本心で、何がやりたい事なのか…

私にはもう分からなくなっていた。

 

「あの…みふゆさん」

 

しかし、こんなに悩んでいても、悔やんでいても

現実は容赦なく時間の針を進める。止まる事は

許されない。後悔をする時間もない。彼も

言っていた。非常識が止まれることは…ない

 

「……大丈夫です。皆さんは…」

 

「い、いえそうではなくて…彼を…」

 

「え?」

 

翼の仲間に言われて、私は彼が先ほどまで

倒れていた場所を見る。そこには…誰も

いなかった。

 

「え?」

 

もう一度私は素っ頓狂な声を上げた。

 

「みふゆさんが…その、笑っている間に、

彼の死体がまるで砂のようにサラサラと…」

 

バラバラにした死体はどこにもいない。

つい先ほどまで足元にあった。頭部もどこにも

見当たらない。あれだけ浴びた血を、鉄さびの

ような鼻を刺す臭いも、どこにもなかった。

あれは…不安定な精神が見せた、幻覚だったのだ

 

「……………」

 

いろいろ、思う所はあった。まず間違いなく

カズキ君は私を、私達を出し抜いたのだろう。

悔しさ…よりも今は安心感のほうが強かった。

先ほどあれだけ冷静に考えてたおかげでいくらか

精神を持ち直していた。だから、思い人が

死ななくて…よかったのだ。きっと彼は

マギウスの作った包囲網の外にいるはずだ。

とりあえず彼の危機は一応去ったということに

なる。肩の力が抜けて…私はへたり込んだ。

 

「よか…った…」

 

自分でやったくせに、私の目からは涙を流すのを

我慢することはできなかった。皆に見られまいと

顔を伏せて、声をあげずに泣く。仲間の死で

あれだけ、カズキ君を攻め立てたのに、その

カズキ君を殺そうとした。まさにこの姿は滑稽

だろう。指をさし、笑われても文句は言えない。

 

幸い、ここにいる人達はそういうことを

する人たちはいなかった…しかし、代わりに

私のポケットに入れいている携帯が音を立てて

震えだした。

 

「…今、ですか…」

 

もう少し、涙を拭いていたかった。気持ちの整理

をしたかったが、マギウスが痺れを切らしたの

かもしれない。状況を報告すべく、スマホを

開くと…

 

「えっ!?」

 

ディスプレイに表示された名前を見て、私は

危うくスマホを落としそうになった。その

ディスプレイには、彼、カズキ君の名前が

表示されていたのだ。この状況偶然のはずがない

彼は今のこの状況をすべて理解している。

理解して、私に電話を掛けているのだ。

私は震える手で、通話ボタンを押し、恐る恐る

耳に当てる

 

「お、つながった。よかったよお前まで電話番号

変えていたらどうしようかと思っていた」

 

「か、カズキ君…」

 

「どうだ?反応が消えたみたいだが…」

 

「いったい…どうやって」

 

答えてくれるとは思っていなかった、何せ彼は

手札を見せるのを極端に嫌う。味方にすらも

見せない徹底ぶりをして、敵に情報が漏れない

ようにする。数少ない勝ち筋を潰さないように

すると…しかし、予想に反して彼はあっさりと

種を明かしてくれた。

 

「コピーパペットって勝手に名付けた魔法だ。

他者の姿形を真似るだけのものなんだが、こいつ

のいい所は、行動はこっちが思考するだけで勝手

にやってくれることだ。しかも自動操作可能だ。

その場合はコピー元になった人物の思考に基づく

らしい。つまり、そっちの音を拾えて、かつ

スピーカーのようなものがあれば、その人に

なりすますこともできる。コピー対象が自身なら

なおさらだな。」

 

自分自身をコピーすれば文字通り、自分を2人に

することができるということか、まあ、コピー

先を完璧に擬態するには聞いてる限り

魔法の使用者が操作をしないと完璧な擬態は

出来ないみたい。いったいそれがなんの役に…

と考えたところで私は小さく笑う。

そうだ、現にこうして騙されているではないか。

デコイとして、非常に優秀な働きをしている。

魔法少女と直接対決を控えたい彼にとって、

コピーパペットはかなり有力な力だ。

 

「カズキ君どうして明かしてくれたんですか?

仲間だった時もこうして話してくれること

少なかったと思いましたけど…」

 

「単純な話だ。これでお前は疑心暗鬼に陥る

目の前にいる人は本物なのか?そこにいるのは

味方なのか?とな。」

 

「確かに…そうですね」

 

これで私は安易に情報をしゃべれなくなって

しまった。知らなければよかったとも思うが、

それほどに強力なコピーパペット、それほど

回数制限がないとは考えられない。きっと

それなりの回数が定められているはずだ。

もしこの考えがあっているのなら、あまり

気にする必要はないかな。能力はコピー出来る

かもしれないが、記憶をコピー出来なければ、

対策はいくらでもある。

 

「あなたには…すべてばれてしまいましたね…

いえ、元から気が付いていた、ということ

でしょうか?」

 

「ああ、ただ、確証は得られなかった。みふゆが

やちよから離れる姿を想像できなかったからな。

でも、こうして現実を見せられたらいやでも

実感しちまうな。…そんなに救済がほしいか?」

 

私はゆっくりと目をつむり、思い起こしていく

親友との大切な日々を、好きな人との緊張した

会話の日々を、友人を失って、自暴自棄になった

日々を、あの日助けてくれた小さな存在と、

その道しるべを、そしてその頭に立ち、大きな

輪へと成長させた罪深く、迷い続けた日々を…

 

「はい、やはり私…いえ、私達には救済が必要

です。そのためにも、いくらカズキさんとはいえ

邪魔をするならば…」

 

「そうか、その決意だけは本物のようだな…

分かった何も言うまい。ただ、忘れるなよ。」

 

彼は声のトーンを下げて鋭い声で私に語りかける

その声には後悔はないか?本当にいいんだな?と

最終確認をしているようだと私は感じた

 

「俺は敵に大して容赦しない。明確な敵対を

見せた以上…悪いが次はないぞ?今回みたく、

話し合いだけでは済まさない。だまして悪いが…

と平然と背中を刺すかもしれない」

 

「覚悟の上…です。それにカズキ君が言っていた

ではありませんか。非常識の終わりは、それが

常識になるとき…きっと、達成して見せます」

 

「そうか…分かった。」

 

とカズキ君は電話を切るであろうトーンで話を

締めくくろうとする。それに私は待ったをかけた

例え敵になったとしても…どうしてもこれだけは

言いたかった。何様だと言われようと、感じて

しまったもの、言いたくなったものは仕方ない。

 

「カズキ君あなたが無事で…よかった…です」

 

電話の向こうから、深いため息のようなものが

聞こえる。

 

「それを言うのは少し早い気がするな」

 

「えっ?」

 

「みふゆ、お前…和服で笛持った魔法少女に

心当たりがあるか?おそらく双子の」

 

急にそんなことを言われて、困惑する。なぜ?

彼女たちは確か、今日は予定があると言って

この集まりには参加していなかったはずだ。

作戦の結構日だけは知っているけれど、

それだけで、あのカズキ君を補足しきれるとは

思えない。彼女たちは確かにいろいろな面で優秀

ではあるけれど、カズキ君のような実戦向けの

技術はそこまで高くないはずだ。しかし、問題は

そこではない。彼女たちがカズキ君に接触した

理由なんて、今現状1つしか考えられない。

 

「天音さん!」

 

しかし、残念ながらカズキ君は携帯を切る。

掛ける直しても当然応答せず、天音さん姉妹も

応答しない。心配だったが、位置が分からない

のに、どうにかすることなどできない。

私はただただ、祈ることしか出来なかった。

当然3人の生還を…

 

 

 

~屋上sideカズキ~

 

 

後ろから気配を感じてチラリとそちらを

振り返ってみる。そこに立っていたのは2人の

少女だった。和を彷彿とさせる奇術師のような

衣装を羽織り、揺れる髪から片方がツインテール

もう片方がポニーテールだとわかる。

2人揃って横笛を手に持ち、胸元に赤い宝石…

ソウルジェムが納められている。

雰囲気、顔立ち、魔法少女としての衣装や武器

かなり似ている。多分ではあるが姉妹だろう。

俺は、天音さんというみふゆの声を聴いてから

電話を切る。

 

「さてと…みふゆから聞いた、天音と言う

みたいだな。俺に何か用か?」

 

正直しらじらしいと自分でも思った。この

タイミング、この場所、何をしに来たのかは

明確だ。

 

「お初にお目にかかります。カズキさん私は

天音月夜と申します。」

 

ポニーテールの少女が深々と頭を下げる。

一切の無駄のない、鮮麗されたその動作に

感心する。

 

「こんにちは。ウチは天音月咲よろしくね」

 

今度はツインテールの子が手を振る。まるで

友人としゃべるかのような砕けた口調に

明るい雰囲気、どちらも真逆の性格をしている

気がする…がやはりどこか似ている。

 

「姉妹か?」

 

「はい、そうでございます。私は姉、月咲ちゃん

が妹です。それで…何の用か…でしたよね?」

 

横笛を構えて、彼女たちは先ほどまで向けていた

敵意をより一層強めて、睨みつけてくる。

 

「みふゆさんに代わってあなたを…命を頂戴

します!」

 

「やめておけ、人殺しがどれだけ重荷になるか

本当にわかっているのか?もう二度と戻れなく

なるぞ」

 

「心配は無用だよ。それに今の状況じゃ、ただの

命乞いにしか聞こえないよ~!」

 

「「ね~♪」」

 

姉妹は顔を合わせてまるで人を見下している

かのような話し方をする。

 

「あなたの存在は解放を達成する上でアリナさん

が排除すべしと判断した人…しかし…みふゆさん

は少し辛そうでした。まあ、当然かもしれません

今どう思っているかは存じ上げませんが、旧友

を殺せ、など気持ちが乗らないのも仕方がない

事であります」

 

姉…月夜の言葉に月咲が続く。

 

「みふゆさんにはいっつもお世話になっているし

だったらここは代わりにやってあげないと!」

 

彼女達の言葉を聞き、このよろしくない状況に

少し冷や汗を流す。ここはビルの屋上。ここだけ

でなくこのあたりは今は無人なことを確認済みな

為、暴れても問題はない。しかし、あたりは

ちょっと強打すれば、即座に破壊されそうなほど

脆そうな柵に、障害物の何もない空間、さらには

所々床がめくれていて、足場がかなり悪くなって

いる。相手は魔法少女が2人…状況としては

絶望的だ。だからここは言葉で退けるのが無難

な所なのだが…

 

「まあ、待ちなよ。みふゆは今しがた俺が

生きててよかったと言っていたぜ、殺すのは

あいつの本位じゃないみたいだぞ?それにだ、

俺はお前たちの邪魔をする気はない。」

 

「ふふふ、嘘はよくないよカズキさん…あなた

の今までの行動はちゃーんと全部報告されてる

んだから」

 

「私達の解放のために…」

 

そのゆるぎない信頼の目に俺は説得をあきらめた

こういう手合いは説得するのがまず不可能だ。

何せ、それこそがすべてだと、それ事が唯一だと

本気でそう思っているからだ。

 

戦況は絶望的、しかし、引くことはできない。

己の願いを達成するために、他者を落とす、

罪深き少年少女の戦いが幕を開けた…

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
戦闘シーンは最近書けていなかったんで、次回は気合で
この戦闘を仕上げたいと思います!







※定期
ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします!


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VS天音姉妹

お待たせしました。本当は1つにまとめたかったのですが、
思った以上に内容が濃くなってしまったので、分割です。


~屋上~

突然だが、カズキが捕食魔女で入手した魔法を

大きく分けて3つの種類に分けている。

 

一つ目は汎用魔法。その名の通り汎用性がある

魔法…ではない。基本的に使用回数が50回以上

を超える魔法がここに分類されている。使用回数

が50を超えるということはそれだけ、魔法の質

は下がっている。たとえるならみかづき荘と

初めて共闘したときに使用した、水を操る魔法。

あれは、効果がそれ単体であり、水流で剣を

造ったり、高速移動に使ったのは、あくまで効果

を使ったことによって生まれた結果ということだ

効果を水を操るという、大まかなものに設定する

事で使用数を底上げできる。しかし、当然ながら

メリットだけではない。それは魔法を発動した後

にその魔法を操作する必要があると言うことだ。

操作が必要なだけに、例えば多対一の場合、隙を

見て行わないと一気に崩される可能性もある。

この場合だとあらかじめ効果と威力をそれ用に

備えた魔法のほうがいいということだ。

それから使用回数は確かに多いかもしれないが

もともとの効果が低いため、これで敵を倒すには

この魔法を1回の戦闘で大量に使う必要がある。

汎用魔法だけで戦うとき、魔女相手でも1回で

ソウルジェム1個分の使用回数を使うこともある

一長一短があるが、それ故に汎用。味方がいれば

その真価は大いに発揮することができる。

 

2つ目は中級魔法。これは使用回数が50以下

10以上くらいのものを指す。先ほどの汎用魔法

とは違い、ある程度効果を高めて、使用箇所を

限定する習得方法をとっている。おかげで

ある程度の使用回数を持ちながら、効果は

汎用魔法の比ではないほど強力になっている。

汎用魔法で例を挙げたものでたとえるなら

水流による高速移動を水を操るという過程を

無視して、魔法の発動だけで即座に効果を得る

といったところだろうか。

使用回数は確かに少なくなっているが強力な効果

が定められているため、魔法を操るという、

最大の弱点をきっぱり無くすことが出来る。

カズキが主力にしている魔法だ。

 

3つ目は切り札級。これは使用回数10以下…

いや、数回に位置する魔法がこれに値する。

文字通り切り札級の強さを誇っている魔法。

発動すれば、その戦場をひっくり返すことが

出来る…かもしれない物だ。もちろんそれ以外

にもここに位置する魔法はある。基本的に

世界の法則を根本的に捻じ曲げるものや、

相手に強く干渉する魔法を能力を制限しないで

習得すればここに分類することが多い。

例えば相手を惑わす幻影の魔法や、さなを救出(ウワサの男4)

する際に使ったテレポートの魔法など、戦術

の幅が広がる強力なものばかりだ。

これなくして、彼が…いや一般人があの戦場を

渡り歩くなど不可能だろう。

 

 

さて…ここまでカズキが自分の持っている魔法

の種類訳についての説明なのだが、これだけでも

カズキが魔法少女との闘いにおいて以下に不利か

理解出来るはずだ。何せ、カズキが習得している

この魔法は元は魔法少女のものだ。つまり、

彼女達はカズキが回数制限や、タイミングを

気にして使う切り札級の魔法ですら、魔力が

あればバンバン使用できるということだ。

おまけに彼女たち身体能力は魔法を使わずとも

大幅に向上され、ソウルジェム以外の部位は

よっぽど大胆に破損させないと即座に回復される

対してこちらは、戦いに不可欠な魔法は発動

タイミングを誤ることができない癖に、使用

しなければならない場面が多すぎて、身体能力も

デフォルトでは大きく後れを取り、1回の

かすり傷ですら、痛みなどで、致命傷につながる

可能性があると、もはや勝負にすらならない

ということは明確に見えている。つまり…

 

(圧倒的不利…という事だな。まあ、今更か)

 

こんな修羅場実際何度もくぐりぬけてきた。

しかしだからと言って余裕という訳ではない。

魔法少女との対決はそれ自体を避けるべきと

考えているというか、今までの戦績からも

避けるべきなのだ。つまり戦いに持ち込まれた

時点ですでに負けている。後はどうやって負ける

かを考えることになる。

 

(さて、改めて状況を確認するか、敵は2人

周囲に人の気配はないし、ここは建物の屋上

あらかじめ敵が隠れているという事はないはずだ。

戦場は、約40Mほどの屋上。あたりは衝撃を

与えればすぐに折れそうな脆い柵で覆われて、

隣接する建物はどれも10Mほど離れている…

脱出は厳しいだろうな…そしてこの時間帯での

人通りはなし、もともと人の寄り付かない場所

だから、目撃者の心配はないだろう。

見て分かる敵の情報として、彼女たちの武器の

恐らく笛…音波による攻撃、バフ、デバフ、

それとも殴るため…?)

 

推測に推測を重ねてカズキは懐にしまっている

宝石を取り出す。どの宝石も中級魔法が備え

られている。カズキの指輪には、12個の宝石を

はめることが可能だという事は知っていると思う

が、基本的に魔女に対抗するためのものを

常備している。内訳は8~10汎用魔法1~3が

中級魔法という事になっている。ちなみに12個の

内1つは自身のソウルジェムで確定している。

この普段常備している魔法は、どれもこれも時間

稼ぎに特化したものばかリで、稼いだ時間で相手

の情報を探り、有利な魔法に切り替えて

いきながら戦う。それが彼の戦術スタイルだ。

しかし、そのセオリーを無視して、彼は

いきなり宝石を総入れ替えした。なぜか?

まず、魔女よりも圧倒的に強い魔法少女に

時間稼ぎなど、試みても無駄になることが多い所

そしてそんな彼女達と互角に戦うためには、

見栄を張ってでも戦う相手に適したであろう

魔法を使わなければならないという点にある。

だからカズキは外見で相手の戦闘スタイルを

予測しなければならない。

すべてにおいてスペックで劣っているカズキが

勝ちをとるためには博打を打たないとやって

いけないという事だ。

 

 

(少しおかしいな…)

 

さて、ここまでの一連の行動当然ながら相手も

同じだけの時間行動が許される。それだと言う

のに彼女たちは攻撃する素振りを一切見せない

こちらの様子をうかがっているようで、こちらの

身じろぎ1つに面白いくらいに反応する。

恐らくではあるが、天音姉妹はカズキの能力を

知っているのだろう。しかし、その情報が

不完全の可能性がある。複数の魔法を使える

だけの情報だったら彼女たちの行動も納得が行く

何がくるか分からないから警戒して動くことが

出来ないのだろう。指輪の宝石を切り替えること

で使える魔法を変えているという情報が知られて

いなければかなり有利に働くことができる。

先手もとれるからこの戦いを制する一手を打つ

ことができるだろう。もちろんこの読みにも

弱点がある。それは彼女たちがカウンターに

自信を持っている可能性だ。まあ、その可能性も

視野に入れて行動をすればいいので、やりようは

あるが…

 

結局彼女達はカズキの入れ替えが終わるまで、

沈黙を貫き通していた。いくら対策していても

スペックでねじ伏せられる事なんていくらでも

あるので、ここまで来たらなるようになれ…だ

 

手に少し力を込めて魔法を起動する。身体能力

の強化…文字通りの効果を持った汎用魔法で、

魔法少女の中でも最底辺クラスの身体能力レベル

に自身の力を強化させる魔法。この最底辺クラス

というのが特徴で、この魔法、魔法少女が使用

する意味が皆無な魔法なのだ。もともとカズキが

持っている魔法は魔法少女が持っていたもの…

願いによって形は違えど、やはり準拠は魔法少女

このような意味のない魔法にはかなりの回数が

備えられている。カズキにとってはまさに

必要不可欠な魔法と言える。

 

(向こうが引き気味の今に、一気に畳みかける)

 

さらに魔法を起動、水流を操作して無数の剣を

空中に作る。それを一斉に掃射する。なるべく

天音姉妹たちが同じ方向に逃げるように、右から

左に放つ。それと同時に、腰に備えられたシース

ベルトから、大型のナイフを取り出し、自身も

走り出す。

 

「月夜ちゃん!」

「大丈夫です!」

 

彼女たちは目論見通りに回避せず、左右に

分かれるように回避する。同じ方向によけて

もらうために、月夜のいない個所から余分に

攻撃を仕掛けたというのに、それでもよけた。

ここで右によける意味はまずないため、

一瞬でカズキの意図を読んだという事か?

それとも、戦闘の多対一の基本スタイル、

挟み撃ちを狙ったのだろうか?どちらにしろ、

それなりに戦闘経験があるかもしれない。

仕方がないので、左…月咲に攻撃をしかける事

にした。まずは相手の行動パターンを把握する

 

先ほどの水流の剣を背を向けて射程外に

逃れようと走る月咲の距離を詰めようと、中級

魔法の身体強化を使い、一気に距離を追い詰めて

一刺し…しようとしたところで、攻撃を中断

して、急停止して体を投げ出す。

目で見えた訳ではないが、視界の端に一瞬だが、

名状しがたい、ぐにゃりといえばいいのだろうか

空間の歪みを感じた。もう突進からの急停止、

体に掛かる負担は大きいが、それでもそこから

得られる力で、体を逃がすことに成功した。

地面を想定していた通りの転がり方で転がり

距離をとる。顔を上げると、先ほど攻撃を

受けたであろう場所の地面の一部が破損しており

小さな突起ができていた。更に周囲を確認

してみると、月夜が笛を吹き終えて、月咲の

援護に回るために、近づいていくのがわかる

 

「なるほど…な。音による攻撃か…」

 

見えにくいというか、ほぼ勘に近いが攻撃の

予兆が感じ取れるため、回避が全くできない

訳ではない。一瞬追撃するか変更するか迷うが

月夜が月咲の所に行くにはまだ時間がある。

 

「させるかよ!」

 

体を起こして、魔法を起動。先ほどの攻撃で発生

した、床の残骸が浮かび上がって月夜に攻撃する

対応するために月夜は一度立ち止まる。そこに

更に、顔サイズの複数の氷を生成し、掃射。

その間に月咲との距離を詰める。月咲が態勢を

立て直し、月夜がこちらの攻撃を受け切りながら

笛を吹く。そこで追い風を作る魔法で、若干

こちらの速度を上げつつ、月咲の行動を少々阻害

する。そして速度を上げたことで、月夜の攻撃を

回避、あたりには石つぶてが飛び散る。

月咲も笛に口を当てて、攻撃の体制にはいる。

対策で入れた魔法を起動しようとするが、

空間に歪みが見当たらない。

 

(見損ねたか!?)

 

軽く舌打ちをした後、足を止める。そして前方

斜め右に向かって前転するようにその場から

離れる。これでよけられたか…?と思っていたが

攻撃の爪痕は見当たらない。そして、代わりに

月咲は笛をもってこちらに突撃してきた、

まさか突撃するとは…武器が同じことから、

良くない先入観が生まれてしまったようだ。

即座に魔法で攻撃をする地面を隆起させ、小さい

火球を連射…するが一瞬の誤認が命取りだった

彼女はその身軽さで火球をよけて、隆起した

地面をまるで跳び箱を飛ぶように躱し、

 

「やああぁぁぁぁ!!!」

 

笛を突きつけるように急降下。その身体能力で

一気に距離を詰められて、迎撃魔法を撃つ余裕は

ない。バフをかけて笛で殴るのかと予想して、

魔法で肌を硬化する。そんなカズキに笛の先から

出てくる衝撃波を防ぐ手立てはない。

 

「ぐっ!」

 

カズキは受け身を取り損ねてゴロゴロと地面を

転がり、弱々しい柵に左肩を強打してようやく

止まる。強くではないが頭を打ち、視界が揺れる

が、そんな悠長なことはいってられない。

揺れる視界の中で体の状態を確認する。

左肩以外、は特に異常はない。少し痛む程度だ。

しかし左肩、こちらは痛みに加えて痺れがある

悟られるわけにはいかない、カズキは肩を

抑えずに少し柵に寄りかかってゆっくり

立ち上がろうとする。姉妹たちは、一旦合流を

選んだようで月咲のほうが月夜の元に走って行く

月咲はこちらを見ていない。

 

(四の五の言ってられない。)

 

とカズキは一層目を鋭くさせ、パーカーの下に

隠していたものを取り出す。人を簡単に殺す

事の出来る拳銃だ。その特徴的なリボルバー

はシングルアクションアーミー。西部開拓劇時代

に保安官が使っていたことから、ピースメーカー

という別名がある拳銃だ。当然だがこの拳銃も、

心臓や頭部を貫いても、ソウルジェムがあれば、

死ぬことはない。しかし、回復にはものすごい

時間がかかるし、何よりトラウマによって戦意を

奪うこともできる。もっとも、死人に口なし。

ソウルジェム当たってもいい…いや、むしろ狙う

まである。

 

(当然だ。手加減など、相手より強いやつが

初めてできる行為だ。まだ死ぬわけには

いかない…)

 

ファニングショットを使えなくもないし、

今の現状で使えば効果的だが、左肩は負傷して

いるし、何より全身の痛みがまだ引かない。

こんな状態ではハンマーを落とし損ねる可能性

があるため、右のみで射撃をする。

 

「月咲ちゃん!!」

 

こちらの新たな武器に、月夜のほうが気が付いた

らしいが、間に合わない。鉄の筒から、火が吹き

弾丸が月咲の足に吸い込まれる。

 

「あああ!?」

 

苦痛な悲鳴を上げて、月夜に駆け寄ろうとした

月咲はドサッ!と大きな音を立てて、地面に

倒れ伏す。受け身なんか取っていないだろう。

走ったときの推進力も相まって、派手に転ぶ。

撃たれたことに対して、かなり困惑している

のだろう。月夜は口をパクパクして、こちらを

見る。当然次に狙うのは彼女の方だ。狙いを

定めて引き金を引く。

 

「くっ!」

 

胸を狙ったが、彼女が抱えている笛に当たり、

彼女はそのままバランスを崩して、尻餅をつく

再び、ソウルジェムを狙い胸を狙って放つが

 

「あっ!?」

 

また、抱えていた笛に当たり、今度はその衝撃

に耐えることができず、笛はあらぬ方向に

飛ばされる。

 

「はぁ…はぁ…」

「くっ…」

 

ここで一番いったん膠着状態になる。互いに動き

を目線などで縛り、隙を伺う。その沈黙を破った

のは月夜だった。やはり武器がないとまずいと

思ったのか、飛ばされた笛を回収しに走りだす。

…がフェイントもなくただ走り出そうとするだけ

でカズキを出し抜けるはずもなく、カズキは

トリガーを引く。

 

「動くなっ!」

 

しかし、月夜の動きに合わせられず、その軌道は

其れて、地面に着弾する。牽制程度にはなった

のか、月夜は足を一旦止める。月咲と月夜の位置

はおよそ8Mほど離れている。両方を視野に入れる

のは可能だが、見れるからと言って、注意を

払えるかというのはまた別の問題だ。

 

「月夜ちゃん!」

 

先ほどから、見事な連携をとれているというのに

その実、名前しか呼んでいない。だというのに

まるで示し合わせたような見事な連携だ。よほど

戦い慣れているのだろうか。姉の名前を叫んだ

月咲は、笛を引きながらこちらを走り出す。

 

「っち」

 

舌打ちをして、狙いを月夜から月咲に変更する。

月夜は月夜で視界の端で、走り出しているのを

確認できた。引き金を引くが、狙いが露骨すぎた

のか、最小限の動きで回避する。

 

(そうだ…それでいい)

 

月咲の攻撃は、笛で吹いた後にその笛の先端から

衝撃を発生させるというもの、接近戦では相手の

近くに笛を持っていくだけで、ダメージを

与えられるのだから、かなり有利に持っていける

が、それも接近すればの話。こちらに向かって

くるルートが限られているのならばトラップが

有効だ。もしもの事も考えて、3つほど仕込んで

ある。魔法の発動も、隠せたはずだから、

有効に事が運ぶ…と。ここで迎撃をしないと

怪しまれる可能性があるため、迎撃はやめない。

あと1発で弾切れを起こす為、魔法に切り替えて

迎撃を再開しようとする…がここでなぜか月咲

が魔法少女の身体能力をフルに使って、

バックステップで距離をとる。先ほどまで、

至近距離まで迫っていた月咲は、一気に、十数

メートルの距離まで引き離される。

 

「なっ!?」

 

突然の事というか、相手としては、攻撃の

チャンスを棒に振る行為だったため、驚いた。

もちろん彼女たちの攻撃がそれだけだったとは

微塵も思っていないから、警戒は当然していた。

しかし、なぜこの場で…弱っているこちらを

叩けるチャンスだというのに、そんなことが頭に

よぎっている中、彼女たちは並び互いの顔を

見つめあって、小さくうなずきあうと

 

「「共鳴!!」

 

と揃って叫び、笛を吹いた。何かの攻撃か、

と身構えるがそれは痛みによって遮られる

 

「ぐっ…があああああああああ!!???」

 

綺麗に奏でられているその笛の音は、本来ならば

聞くものに癒しを与える。そんなもののはずなの

だが、この音は聞いているだけで、頭いや、全身

が痛みを訴えてくる。直接体内に響き渡り、

神経を刺激でもしているかのようだった。

思考をしようにも、痛みが邪魔をする。

が、一瞬ほんの一瞬ではあるが無理やり

こじ開けた瞳は、彼女たちの位置をとらえる事が

出来た。正直奇跡に近い。どちらかは分からない

が、片方が演奏をやめたのが見えたのでこのまま

攻撃をするつもりなのだろう。

 

「ああああああ!!ぐっ…くっそがぁあ!」

 

狙いをつける暇などない。一番最初ソウルジェム

を総入れ替えしておいて正解だった。

備えていた中級魔法を発動すると、突如として

天音姉妹のいた位置を中心に爆発が起こる。

数メートル内の任意の位置に小規模な爆発を

行う魔法だ、好きな位置で撃てるメリットを

つけながら回数を増やすため、殺傷能力を低め

に設定してある。が、それでも爆発なので、

妨害行為に使うにはおつりが出るほどの威力は

ある。さっきも言ったが、狙う隙も暇もない。

先ほどの目視で天音姉妹をとらえたと思われる

場所に魔法を連打する。音の痛みをとは別に、

衝撃と、防風がカズキを襲う。一瞬でも気を

緩ませたらそのままビルから投げ飛ばされそう

なので、膝をついて賢明に耐える。

 

「はぁ…はぁ…くそっ!」

 

数回爆発させた所で脳を支配していた、痛みは

スゥーと引いていくように感じた。

まだ痛みが残っている気がするが、これはさっき

まで感じていた強烈な痛みが感じていた感覚が

見せる錯覚だろう。もちろん、こんな事を

している暇などない。痛む頭を動かして周囲を

確認する。

 

「はぁ…はぁ…」

 

ゆっくりしている暇は、無いようだ。この絶望的

状況を打破するために、思考を巡らせる。




いかがでしたでしょうか?攻撃を受けた後の状態をなるべく気を付けて書いたつもりですが…つもりになっていないといいです…一度でも攻撃を受ければそのまま一気に劣勢にそんな
カズキの危うい戦いが少しでも脳裏に浮かんでもらえれば幸いです。





※定期
ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします


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VS天音姉妹2

この作品を見てくださる皆様大変申し訳ありませんでした…
モチベーションという意味でももちろんそうなのですが、オリジナルの小説を作りたくて
ずっと設定を練っていたりしていました。
しかしながら、こうして始めた作品を終わらせずに別の作品を始めるのは
見てくださる皆様に失礼だとおもい、こうして戻ってまいりました。
更新頻度は今までと変わらずになるかもしれませんし、また開く可能性ももちろんありますがアニメも無事好評で終了したみたいで、2期もどうやらやるみたいなのでこうした2次創作で作品を盛り上げていったらいいなと言うふうに考えておりますので、よろしくお願いします


 

~屋上sideカズキ~

 

 月夜のほうは今の爆発で手を滑らせたのか、手にもっていた笛が、転がっていった。

 月咲はサイドステップで一度距離をとり、再度笛を吹いているようだ。

 ただ、なぜか分からないが先ほどの全身を蝕む痛みは襲って来ない。

 共鳴…といったかもしかしたら、2人でやらないと効果が発動しないのかもしれない。

 月夜が笛を落とした今、戦えるのは月咲のみ。ならその仮説を確かめるためにも、ここは月咲を攻撃したほうがいい。

 

「くらえっ!」

 

 先ほども使った爆発の魔法を使う。直接は狙わずに後ろ、右、右、左、となるべく正面を開けるように爆発させる。

 まだ痛みで狙いが定まっていないかのような仕草で相手をだます。

 案の定彼女はこちらの体制が立て直される前に、仕留めに来ようと考えたようだ。

 月咲は吹いた笛を握りしめてこちらに走ってくる

 

「月夜ちゃん!今のうちに!」

 

彼女の声にこたえるように月夜は落ちた武器の回収に向かう。

 

「させるかよっ!」

 

 月夜も同時に相手をすることで、さらに場を狂わせる。

 恐らく月咲の目にはもう俺が何に目を向けているのか分からなくなっているだろう。

 つまり…

 

「っ!?」

 

 そう、先ほど不発に終わったトラップが発動するという事だ。

 仕掛けたものは非常に簡単なもので、踏みつけると、軽い電撃を浴びせるというもの。

 軽いという名は伊達ではなく、せいぜい一瞬行動を縛れるくらいににしかならない。

 

「グッ、あ?ぁぁぁぁ!」

 

 普通に攻撃を仕掛けようとするならば、魔法少女である彼女の身体能力を前に一瞬と言う時間は全く意味をなさないだろう。

 それでも、弾速と言うのならば話は変わる。

 いくら何でもこの速度で繰り出される物体を見切るほどの動体視力は魔法少女になったからと言って変わらない。

 心臓を狙い狙撃したところ運よく、ソウルジェムをかすったようだ。これでかなりの痛みを彼女は味わったはず。

 これで…と考えたところで強烈な衝撃が俺の頭を襲う。

 

「がっ!?」

 

 痛む体をなんとか起こしてせっかく攻撃をしていたのに、その衝撃のせいで、フェンスに再度激突する。

 衝撃を受けた頭はもちろん痛むが、それ以外も痛みすぎて、正直どこがどのくらい負傷しているのか全然分からない。

 遠くでカランと小さな音が聞こえた。

 かすむ目で何とか確認してみるとそこには月夜の使っていた笛が転がっていた。

 なるほど、確かに一般人なら魔法少女の力を使って笛をぶん投げればそれは致命傷になるだろう。

 考えつかなかったわけではないが、正直なところ俺一人で、すべてを賄うのは不可能だ。

 

「月咲ちゃん。大丈夫!?」

「う、うん…ごめんね月夜ちゃん…」

 

 月咲は月夜の手を借りてゆっくりと立ち上がる。投げつけた笛も回収されて、これで完全に勝ち目がなくなった。

 比喩ではなく文字通り、である。

 

「さて…一般人にしてはなかなか善戦したほうですが…ここまでです。大人しく投降していただけるのなら楽に殺してさしあげます」

「いーよ月咲ちゃんこんな奴さっさと殺しちゃおうよ」

 

 ゆっくりとこちらに近づく2人の和服の少女は、完全に自分たちが形勢逆転したとあって、声のトーンを上げて会話をする。

 実際それは正しいし、全身を強打して、ゆがむ視界と痛みで麻痺した脳では彼女達に勝つことはできない。

 …そしてそれは逆に言えば、そうなる前の俺だったら一矢報いることができるという事だ。

 

「うごくなっ!」

 

 彼女達が目的の場所に来たところで大きく声を張り上げる。

 勝ちを確信していた姉妹は腹の底から出てきたその大声に驚き、その足を止める。

 

「…今更、何ができるというのでしょうか?」

「今は、無理だな。だがその前なら…?」

「!?」

 

 その声に月咲が足元をサッと見降ろす。そこにはさっきまでは確実になかったはずの四角の物体が置いてあった。

 ピッピッと、リズムよく赤いランプが点滅し、むき出しのコードや、液体の入った小さいビンがついていて、これが何なのか知識がなくてもわかることができた

 

「つ、月夜ちゃん、これ…」

「ええ、おそらくこれは」

「爆弾だよ」

 

 月夜がそれが何なのかを当てる前に、正解を割り込ませる。

 無事だった時の俺が仕掛けたラストチャンスだ。この流れを制するために、まずは会話のイニシアチブを制する必要がある。

 

「さっきも言ったが、動くなよ。この手元にあるスイッチを押したらここら一帯が吹き飛ぶ。いくら魔法少女と言えどお前たちの位置ならばソウルジェムも消し飛ぶだろうな」

「くっ…」

 

 俺の言葉に彼女たちは遠くから見てもわかるくらいに慌てていた。なるべく動かないようにしながらしかしそれでいて、あたりを見渡し打開策を考えている

 

「でも、いいの?こんなところで爆発したらあんたも巻き添えくらうじゃない。ここそんなに広い場所じゃないでしょ?」

 

 今の状況を再確認した月咲が自信ありげに声を上げる。

 

「確かにその通りだな。だが、お前たちは爆心地の中心俺は離れているうえに、背中には脆いフェンス…あとは分かるな?」

「…なるほど、私達は戦闘不能となり、あなたは落下するだけ…普通の人なら助かる術はありませんが、あなたは違う」

 

 と、月夜は納得したように苦虫をかみつぶしたような顔をしているが実際のところは違う。

 チェックを掛けられているのは天音姉妹の方ではなく俺の方なのだ。

 これは簡単な話で、まずこちらの状態はおおよそ最悪。フェンスから落ちて落下の事はどうにかできるが、落下した後はどうすることもできない。

 そして…魔法少女の脚力をもってこちらがスイッチを押す前に跳躍でもしてしまえば、彼女達も助かる可能性が大いにある。

 だから彼女達がそれに気が付いたらそれで終わり…

 

「……」

 

 だが、彼女たちは沈黙している。こちらを睨みつけながらこちらの行動を待っているようだ。どうやらばれることはなかったらしい。

 さて次は…と考えていると、下の方から人の声が聞こえ始めた。

 ここは魔女の結界内部ではない。戦えば音は丸聞こえだし、遠くから爆発の1つ見えたのかもしれない。

 

「…どうだ?ここはひとつ痛み分けという事で下がってくれないか?お前たちも人にばれることはしたくないだろう?」

「……」

「ここで大人しく下がってくれるなら、その爆弾は爆発させないでおく。そのまま下がって離れろ。ああ、悪いがトラップはそれだけじゃないそのまま回れ右をしてくれよ?」

「クッ…!」

 

 彼女たちはしばらく悩んでいた。だが、口元にもっていった笛を下ろして、緊張からくるであろうため息を吐く

 

「分かりました。どうやら私達の想像以上にあなたは厄介な相手なようです。次の対策を考えると致します」

「ふん!命拾いしたね。」

 

 彼女達もどうやら一般人に見られるのは避けているようだ。一般人もろとも…という過激な考えは持っていなかったようだ。

 そのまま反転して、ビルからビルへと飛び移る。

 それを薄れゆく瞼で見送ったあと、葉巻を取り出し火をつける

 

「…とりあえず、命は無事だな…体のほうは、いつ治るか…また魔法に頼る必要があるな」

 

 今回の戦いは勝利と言っても差支えないだろう。マギウスの事情を把握して、敵の実力も理解できた。

 代償は大きかったが、それを差し引いても十分な戦果だと言えるだろう。

 

「みかづき荘のやつらに、なんていえばいいんだか…」

 

 一緒に住んでいる以上、自分がボロボロになった事を隠すのは不可能だろう。やちよはもちろん最近は他の人も優しい人ばかりだ。きっと心配させる

 

「痛ッ…クソ、回復してる暇はない、か。」

 

 遠くからサイレンの音が聞こえてくる。爆発音を聞いた人が連絡をしたのだろう。

 警察か、消防か遠くてどちらかは分からないが、どっちでも面倒なことになる。

 痛む体を引きずって、廃墟を後にする。

 

 

 

 

~みかづき荘~

 

 あたりにいる人間にこんな血まみれの姿を見せるわけにはいかない。

 魔法も駆使して、他の人間に見つからないように、みかづき荘には普段以上警戒しながら道を選ぶ。

 いつも通っている道を使っているのに、みかづき荘に到着するのに、2倍以上の時間がかかってしまった。

 道路などに血が付着していると流石にDNA検査などでばれてしまうため、これまた事故処理が楽になる魔法を使いそもそも血をなかったことにしてある。

 止血もすでに澄ましてあるが、だからといって失った血液が戻ってくるわけではない。

 

「はぁ…畜生、めが…」

 

 病院に駆けこむ選択肢ももちろんあるが、それは最後の手段となる。

 何故怪我をしたのか?その説明ができないからだ。流石にこの傷の深さはごまかしがきかない

 ゆえに、今彼が頼ることができるのは、魔法少女のみである。

 長い道のりを、引きずるように足を動かして、何とか視界に飛び込んできたみかづき荘。

 正直今まで、居を構える事はある理由からしなかった。

 やちよの誘いに乗ったのも、やちよだったからというのとこの神浜の状況が異常だから、信頼できる味方がほしかったというのがある。

 それでも…やはりこういった状況では、安全な拠点と言うのはたどり着くだけでも安心感が全く違う。

 

「フゥ…」

 

 彼は自分自身でも気が付かないうちに小さく笑うようにため息をつき、みかづき荘の呼び鈴を鳴らす。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「カズキ君!本当に大丈夫なの?」

「問題ない…と言いたいところだが、すまんがしばらくは回復に専念する」

 

 帰ってくると案の定みんなに心配されたが、マギウスに関してはしゃべれらないでおいた。

 確証の得られる情報は何もなかったし、おそらくこれくらいなら彼女達も知っているだろうと思っている

 もし、仮に知らなかったとしても、やちよの敵に彼女の親友がいるという事を知るだけだ。

 

「ほんとに大丈夫かよ!」

「魔女…なんですよね?」

「私達を呼んでくれればよかったのに…」

 

 マギウスと戦ったという事を伏せた代わりに、魔女によってやられたということにしておいた。

 まあ、日常的にという訳ではなが、魔女と戦ってこうなることもあるときはある。

 

「悪かった。ただ魔女の口づけを持った奴が何人かいてな、行けると思ったんだが最後にしくじった」

「ほら!質問攻めしたいのもわかるし、私も文句言い足りないけど、今は回復に専念してもらいましょう。いろは一緒に来てくれる?」

「は、はい!」

 

 さすがに、階段を上がるのにこの体は不安と思ったのかやちよといろはにもたれ掛かるように移動する。

 自分が思っている以上に体が衰弱していたようだ。

 

「カズキさん本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫ではないが、初めてではない。死にはしないから安心してくれ」

 

 納得いかないような顔をしているが、本人がいいといっているからか、おとなしく引いてくれた。

 部屋に運ばれた後、ベッドにもたれかかってぐったりとしている間に、やちよといろはがいろいろと治療の準備を進めてくれたようだ

 

「はい、これ包帯とかもろもろ…いろはの治療とかは使わないのよね?」

「ああ、人体に強引な治療がどうなるかわからないからな。今までが大丈夫でも次がダメかもしれない。自然治癒能力を上げる魔法は使うが、それだけだ」

「カズキさんとりあえず、手伝いますから上は脱ぎましょう…血もついちゃってますから…」

 

 血や砂等で汚れたTシャツに汚れる事も構わずに、やちよといろはは着替えの手伝いをしてくれる。

 包帯も自分で巻こうとしたが、頼れるうちに頼っておきなさいとやちよに取り上げられたので大人しくその治療を受けることにした。

 

「カズキ君…本当に無茶はやめて頂戴…あなたの帰ってきてた姿を見た時、心臓が張り裂けそうに感じたわ」

「大げさな…と言いたいところだが、そうだったな。まだ失ってから1年、慣れるわけないか」

「それだけじゃありませんよ!カズキさん。やちよさんはチーム再形成したばっかりですから。あんまり心配させないでください!」

 

 包帯を巻くのをやちよに任せたいろはは、濡らしたタオルを使って手や顔といった汚れた位置をきれいにふき取りながら力強く言った。

 

「痛ッ…もうちょい優しくやってくれ…」

「あ、すみません……でも、本当に無茶しないでくださいよ。私も…心配しちゃいますから…」

「悪かった。悪かったからもう少し優しくしてくれ」

 

 降参とばかりに、カズキは空いた手をヒラヒラと振る。

 その後は正直疲れも相まって、カズキは無言に、それを察した二人も無言で彼の治療を続ける。

 …多少、誰かさんが安全を身近に感じたいためか、頬を赤らめながら彼の裸体をなでたりしたが、何とか治療は終わった。

 

「慣れることはないな…」

「カズキさん、どうしました?」

「いや、悪い何でもない。助かった」

「いえいえ、皆心配してます。早く治してくださいね」

 

 いろはが部屋を出て、静かになった部屋でカズキは今日の出来事を思い出す。

 いつになっても慣れるわけがない。仲間が敵になる瞬間など、慣れるはずもない。

 けれど、それで情けをかけるつもりはない。それをして勝つことができるほど強くもないし、今はこちらにも新たな仲間がいる。

 いつまでもうじうじしているわけにはいかない。年長者として、一番の年上として、一緒にいる以上彼女達は間違いなくこちらの背を追うことになる

 

「だが…それでも今は…」

 

 今くらいは、こんな運命になったこの世界を呪う事くらいの弱音を見せるのはいいだろう。




次回か次々回でいよいよ第8章。原作では第2回目のマギウスとの全面突撃となります。
ここからオリジナルの展開やキャラが混じってストーリーが進んでいくので、ぜひ楽しみにしていただけると幸いです
※定期
ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします


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強さの意味1

ストーリー見返したら、ちょっとした小ネタを思いついたので、先にこちらを…


~みかづき荘~

うっすらと窓から聞こえてくる小鳥のさえずりと、ドタドタ!と言う大きな足音に落ち着いた雰囲気の女性の大きな声でカズキはゆっくりと目を開ける。

マギウス翼との闘いで追った傷はこの短期間ですでに完治している。自然治癒の魔法はゆっくりと休める環境さえ整えていれば怪我の程度によるが1週間も必要ない。

とはいえ、いつもは早く起きて鍛錬でも…と考えている時間ではあるが、さすがにそれをやれるほど気持ちが乗っているわけではない。

こうして寝坊したのもいい証拠だ。神浜を周りに周って日々疲れがたまるばかり。たまにはこうしてゆっくり休むのも悪くない。

 

「とはいえ…少し寝すぎたか」

 

 軋む体を何とか起こして肩をまわすと、あまり聞きたくない音があちこちから聞こえてくる。

 

「こりゃ、元に戻すのに苦労しそうだ」

 

とカズキは、さして問題もなさそうに気軽に声をあげてベットから跳ね起きる。

下からは、食欲をそそるいい香りが廊下にいながらでもわかる。

 

「そういや、最近はなんも食ってないな」

 

なんかもらおうと、カズキは階段をゆっくりと降り始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あっ!カズキ君!もう大丈夫なの?」

 

下に降りると出迎えてくれたのは、オレンジの髪の活発な少女、鶴乃だ。

自分の家ではないというのに、外で鍛錬をして帰ってくると必ずと言っていいほどこの家に入り浸っている。

いっそここに住んだらどうかとも尋ねてみたが、私には大事な家がある!との事。

いいことではあるが、ならば向こうで過ごすのは普通なのでは……?と、一々突っ込んではきりがない。こういったことが自然にできる友人がいるのだからそれでいいではないか。

 

「そうだな。心配かけてすまなかった。また明日からは鍛錬を再開しようと思う。食事も作るぞ」

「食事はしばらく大丈夫ですよ。変わりは私がやりますから。鍛錬も…ほどほどにしてくださいね?」

 

制服の上から汚れないように可愛らしいピンクのエプロンを着たいろはがキッチンから顔を出し、注意をする。

もっとも彼女も、本当に守ってくれるとは思っていないようで、半ばあきらめたような口調をしているようだった。

彼と過ごした時間は短いけれど、昔話を聞きたいとやちよに聞いたらいろはが思った以上に色々な話が聞けたおかげで彼の性格はなんとなく分かっていた。

 

「おーい!カズキもはやくこいよ!」

「かずきさん、おはようございます」

 

背もたれに手を載せてブンブン!と手を振るフェリシラとペコリと礼儀正しくお辞儀をするさな。彼女達に軽く手をあげ、テーブルに着く。

 

「やちよはいないのか?」

「おう!なんか少し予定があるって、少し前に家をでていったぞ!」

 

足をパタパタさせて、目の前のホカホカの朝食にありつくのを必死で我慢してるようで先ほどからフェリシアは体をうずうずとさせていた。

 

「はいはい!フェリシアちゃん。皆揃ったから食べよう」

「待ってました!はやく食おうぜ!」

 

テーブルに並べられた色とりどりの料理を順々に手を出していきながら、カズキは今後の事を思考する。

 

(さて、マギウスとその配下について接触は成功できたが、正直に言って大した成果は得られなかったな)

 

分かったことは当然あるし、魔法少女との戦闘を行ったのにも関わらず、こうして五体満足で日常を送れるのだからそれだけで大した戦果になるのだが、それはあくまで…

 

(あの状況で考えた大した成果であって、最大の戦果を挙げられたわけではない。だが、同じ轍は踏まない。)

 

さしあたって、他の魔法少女のマギウスの翼への加入を阻止すること。そしてマギウスが成し遂げようとしている解放についての調査これが目下の課題と言った所だろうか。

そのためにも、もう少しだけ交友関係を築いたほうがいいだろう。幸いにしてやちよはかなり顔が利く。昔からここらの頭として活動してきた実績は伊達ではない。

彼女に協力してもらって、グリフシードの販売と言う、新たな生命維持の活路を見出してやれば、マギウスの翼に加入する魔法少女も少しは減るかもしれない。味方になればなおもよし。

 

「フェリシアちゃんは今日予定あるんだっけ?」

「昼はいらねーぞ!食べてくる」

「そうなると…今日は鶴乃ちゃんとやちよさんとカズキさんが家に残ることになるんですね」

「いろはも出かけるのか?」

 

かずきの問いにいろはは、友人と遊ぶ約束をしているようだ。さなも別で用があるようで、いろはの言う通り家には3人で残るようだ。

 

「鶴乃はどうするんだ?いろは達もいないのならここにいる意味もあんまりないんじゃないか?」

 

鶴乃は少し考えた後…

 

「えーとね。カズキ君に少し手伝ってほしいなってことがあって…」

「ほう?別に構わないぞ。さっさと食べちまうか。」

 

済んだ食器を手早く片して、いろは達を見送ってからカズキ達はリビングでコーヒーを手に対面して座っていた。

アツアツのそれを息を吹きかけてからちまちまとそれを口に運び鶴乃は息を吐いてからカズキを見据える

 

「それで俺に手伝ってほしい事があるらしいが…」

「うん!えっとね…私と戦闘訓練をしてください!」

 

そう言って鶴乃はブン!と風切り音が聞こえそうな勢いで頭を下げた

 

「何を言うかと思えば、戦闘訓練か…」

「カズキ君は確かに体のスペックは一般人と大差ないかもしれないけど、その戦い方は私達でも使えるくらいすごいものなんだよ!」

 

手をぐっと力強く説いてくる鶴乃。実際、体のスペックや純粋な殴り合いで実力のすべてを分かったつもりになって、カズキを馬鹿にする人間もかなりいる。

そういう意味では鶴乃は戦いなれしているし、カズキの動きをよく見ている

 

「いきなりだな…それに鶴乃、お前は強いとおもう。変に俺の技を身に着けて今お前の確立している技術を変えるのはよくないと思う。」

「強くなんかないよ!」

「……鶴乃?」

「強くなんか…ないよ…」

 

体を乗り出して、声を荒げた後寂しそうに顔を伏せる。

 

「私…今まで何度も迷惑かけて…大した成果もあげてないのに、最強最強!…って。それに、皆に一杯頼られて…勝手に自分で壊れて…」

「それは鶴乃だけの責任ではない。周りの人間もお前が負荷を背負っていると気が付かなったのが悪い。」

 

鶴乃はそれをブンブンと首を振る。彼女に何があったかカズキは話を聞いたことがないが、どうやらかなり根強い気持ちを持っているようだった。

 

「私ね、ちょっと前にいろいろと限界迎えちゃって…みかづき荘の皆に一杯迷惑を掛けちゃったんだ。起こるべくして起こっちゃったみたいな所あるから、そこは良くはないけどいいんだ。」

 

後からそれとなく皆に聞いた話では鶴乃はその持ち前のムードメーカーでやちよに次ぐチームを引っ張っていく存在だったとか。しかし鶴乃の笑顔の裏に隠された不安や悲しみに、誰も気が付くことはなかった

彼女はそこを突かれてマギウスによってウワサと融合。チームメンバーに牙をむいた。

 

「でも、そこからいろいろあって、皆で協力しようって手を取り合えたからよかっただよ…。だけど、ここ最近皆がメキメキ力をつけて、私すごい置いてけぼりな感じ…」

 

彼女はその事件の後笑顔と言う仮面を取り払った。つらい時はつらいと言い、仲間を頼るという事を覚えたのだ。

 

「皆を守る最強の魔法少女が一点、皆に頼りきりの魔法少女になっちゃった…。」

 

だが、それもいい事ばかりではない。鶴野は鶴乃、その本質を意気込み程度で変えられるわけがないのだ。いままで強さを求め続けてきた鶴乃は、中途半端に頼ることを覚えたせいで自分が弱いという認識をしてしまった。

純粋な力こそが本当の強さ、なんでもかんでも自分が頑張ればいいと言う認識をしていた彼女にとって頼るという行為を通じて、自身のやることが減り、結果としてスランプ状態に陥ってしまったのだ。

 

「なるほどな…」

「だから、カズキ君のその戦い方をぜひ学びたいの!こう見えても結構戦いは得意だから、もっと強くなれると思う!」

 

一種のあこがれ…みたいなものだろう。どんなに強い人…近い人だとやちよにも、弱い部分がある。鶴乃はそれを最近強く認識したはずだ。

そんな中に現れる、すべての事をそつなくこなす強い人。怪我をしたとはいえ…あくまでそれは一般人と言う巨大な荷物を背負っているからであって、仮にカズキが魔法少女クラスの強さを持っていたら…

 

「お前の熱意は分かった。でもすべてを教えるのはやはりだめだ。鶴乃にあった方法だけという条件なら教えられるものは教える。」

「ど、どうして!?」

「さっきも言ったと思うが、鶴乃の強さはすでに完成しているものだ。俺の強さとは相対的な位置にいる。水と油ならばそれで構わない、交わることはないからな。しかし、俺とお前の強さは白いキャンパスと黒い絵の具だ。交わったが最後、それが元の物に戻ることは二度とない。」

「分かんないよ…じゃあ、カズキ君の強さってなに?」

 

やはりまだ納得することはできないのだろう。鶴乃はあきらめずにカズキに問い詰める。

 

「一度見せてみるのがいいんじゃないかしら?」

 

教えたくないカズキと知りたい鶴乃の攻防を繰り広げていると、リビングの入り口にいつの間にか家主が帰ってきていた。

 

「早かったな…でよかったか?」

「ええ、本当にご近所さんに少し話が合っただけだから。おはよう、カズキ君。心配、したんだから」

「心配かけた」

 

やちよの方は本気で心配していたようで思いが込められているが、カズキとしては日常茶飯事とは言わなくともよくあることなので、正直ずっとこの調子では気が滅入る。

カズキは少し目をそらして、やちよに応対していた。

 

「それで一度見せてみるというのは?」

「そのまんまの意味よ。カズキ君の戦いを一度鶴乃に見せてみるの。貴方の戦い方は前々から分かっているし、正直私の戦い方はどっちかと言うとそれよりになっているし…」

「俺からしたらやちよの戦い方は十分鶴乃に似ていると思うがな…」

 

と二人は鶴乃に見せるという案を話さなくても採用しているようで、戦闘の準備に取り掛かる。

 

「ちょ、ちょっと…」

「体を動かす、と言う意味でもやちよとの訓練は良い訓練になる。お前はどうする?鶴乃」

「う~~~わかったよ!私も見せて!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

やちよの準備は魔法少女の姿になる。それだけなので庭に出て鶴乃と一緒にカズキを待っている。

 

「ねえ~~!カズキ君の戦い方と私の戦い方が違うってどういうこと?」

「カズキ君は何も教えてくれなかったのよね?」

「うん」

「じゃあ私からも教えることはできないわ。彼は無駄なことはしない、きっとそれには何か意味があるのよ」

「えー師匠のけち…」

 

つまらなそうに口をとがらせる鶴乃に、苦笑いで答えるやちよどうやってもやはり教えるつもりは無いようだ。

 

「師匠も本当にカズキ君の事信じてるんだね。」

「そうね…彼には本当にお世話になったし、たくさん助けられたから…皆には悪いけれど、正直今一番信頼できる人よ」

 

うっとりしたその目はまさに恋する乙女…とはいいがたい、彼女の瞳にはいろいろな感情が込められている。惚れたから…という理由だけではなさそうだ。

 

「ありがたい話だが、あんまり大っぴらに言わないでもらいたいな。」

 

寝巻のような動きやすい服装から、いつものパーカーにジーパンというどこにでもいそうな青年となっていた。

もっとも、その下には武器と、魔法用の宝石が隠されているが。

 

「ふふっ、ごめんなさい。でもいまさらじゃない?」

「…本当に変わったな。やちよ」

 

さて、とカズキは腰に備えられているナイフを抜き出した。

 

「さて、鶴乃。今からやちよと本気で模擬戦をやろうと思う。やちよはその戦い方を確立させているから問題はないと思うから鶴乃はやちよの戦い方を見てほしい。」

「う、うん…でもカズキ君の戦い方が私と違うのを確認するのに、師匠の戦い方を見ているだけでいいの?」

「見比べるのが一番いいんだが…正直、すべてを理解するのは難しいと思うんだ。だから、何回かやるからそれを見比べてくれ」

 

コクコクとうなずく鶴乃を見て、満足したのか彼はポケットから2つの宝石を取り出し指輪に取り付ける。

 

「このあたりを結界で覆う。入り口からしかこちらの様子を認識できない、音もな。これで大丈夫か?」

「ええ、ここを訪ねるのもいまは魔法少女が多いから大丈夫よ。」

「久しぶりだから、一応確認しておくぞ。この訓練での怪我はなかった事になる。正確には魔法発動時の体の状態を保存して、どんなに怪我をしても元に戻せるってだけだが…」

「えっ!?それ最強の魔法じゃん!」

 

興奮気味に鶴乃が反応するが、これがいつでも使えるのなら、彼はそもそも怪我を負うことがない。当然ながら厳しい制約がある。

 

「これは訓練用に作った魔法だ。怪我を元に戻すためには、あらかじめ定めていた人物からの攻撃で負った傷じゃなければならない。」

「…?つまり、味方の攻撃で負った傷じゃないと治せない…ってこと?」

「正解だ。世界の理から大きく外れた魔法だからな、これくらいの制約をつけても2桁ないほどしかない。」

 

カズキは本当は味方もろとも攻撃して相手を無理やり持っていくという使い方で使おうと思っていたのだが、味方もろとも攻撃出る精神を持った人物は残念ながらカズキの知り合いにいなかったために、現在はこうして訓練に使っている。

 

「魔法少女同士なら、怪我もどうにかなるのだけれど、カズキ君との訓練はカズキ君の安全確保をいかにして訓練するか…っていうのが必要なのよ。でもこのクラスの魔法は、相当入念な準備ね…」

「あの手のスランプには分からせるのが早いからな。やちよ本気でやる、そっちも本気で頼む」

 

訓練とはいえあまり、いい気分はしないが、やちよはハルバードをしっかりと構え、少しばかり腰を落とす。

 

「ええ、鶴乃の為だものね。カズキ君、病み上がりとはいえ私も本気で行かせてもらうわ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先はどうぞ?」

「ならば遠慮なくッ!」

 

やちよは先手を譲ったため、まず動くのはヤナギ。いつもの汎用魔法身体能力の強化を使い、一直線にやちよに飛び込む。

 

「まずは、力比べかしら?」

 

それに対してハルバードの切っ先を向けて、カズキの到着を待つ。しかし、彼が魔法少女に対して純粋な力勝負をするはずがない。やちよ自身もそれは当然理解している。

 

「望みとあらばっ!」

 

武器のぶつかり合う金属音があたりに響きわたる。ナイフの手数を利用して、反撃の隙を与えない。

 

「重ッ!?」

「受け切れると思うなよ!」

 

からくりは、単純でナイフが当たった場所に対して衝撃が走る魔法を仕掛けてある。相手の武器に当てるだけで、腕が痺れるほどの衝撃を与えられる。

 

「でも!」

 

不自然な衝撃はやちよにもすぐに伝わるため、対策は簡単にされてしまう。受け止めるのではなく受け流す。やちよがカズキに教えてもらった技術の一つだ。

的確に急所を狙ってくるナイフをハルバードを回転させる事で、受けて流すのではなく、軌道を作ってあげるように緩やかに流す。こうすることで、衝撃はきれいに流れていき、ハルバードに負荷はかからない。

ナイフという、射程が極端に短く、また切り裂きから刺突に即座に切り替えが可能、さらにフェイントの事も考えると普通の剣などに比べて受け流しには鬼のような難易度だ。

 

「流石だな…よくこの技をここまで上手く扱えるようになったな。」

「教えてもらった時は本当に扱うのに苦労はしたけれど…必要な場面が多くなってきたから」

 

カズキはやちよの成長を感じ、少し口元を吊り上げる。

 

「なら…」

 

上半身を中心に攻撃を仕掛けていたカズキは、連撃の途中…ハルバードでやちよの顔が一瞬隠れる隙に地面すれすれまでしゃがむ。

狙うは足首、飛び込むように切り込みそのままローリングで抜ける。

 

「まだよ!」

カズキという相手だからこそやちよは、視界から消えた相手がどこにいるかでまず下を警戒することができた。回していたハルバードの持ち手を地面に突き立て、刃の部分で体を支えて飛び上がる。

 

「マギア特化とはいえ、この程度の芸当はできるわよ!」

 

空中で両腕を大きく広げると、あたりにハルバードが複数召喚され、間髪入れずにカズキに照射される。

ローリングで抜けた後低姿勢からバックステップでしっかりと距離を取ろうとするが1本回避が間に合いそうにない。

しかし、彼はそれを逆手持ちにかえて、受け流しをする。そのまま受け流したハルバードにナイフを押し付けて左にステップ

 

「受け切れるか!?」

 

空中にいるやちよに向けて、胴体ほどの火球が続けて3発放たれる。

轟音と共に、人影が地面に向かって落下していく直撃したか…と外野の鶴乃はかんがえていたが

 

「はぁ!」

「ちっ!」

 

いつの間にか、すさまじい速度で一気にカズキの懐に潜り込むやちよ。途中で突き立てたハルバードを手に持ちやちよの不利はこれで消えてなくなった。

ナイフを相手に刺突は対応される可能性があるため、水流を利用した最大火力の薙ぎ払いを行う。

 

「ッ!?」

 

しかし、ハルバードは突如として視界に現れた岩に防がれる。カズキとやちよとの間に割って入る岩のためか薄く、そのまま破壊することは可能だった。

 

「やっぱり…」

 

予想通り、壊した先にカズキはいなかった。スタッと地面に着地する音がやちよの後ろの方で聞こえる。

 

「仕切り直しね。」

「そうだな。追ってきてもよかったんだぞ?」

「貴方相手に深追いは禁物よ。いったい何隠してるか分からないもの…」

 

よちよの答えにカズキは首をかしげて、魔法を起動する。いや、正確には起動してあった魔法を解除する。

するとカズキの目の前から何か光の粒子のようなものが空中へと霧散した。

このトラップは相手がこっちにこなければ意味がなく、またこちらが向こうに行こうとするのも阻害している。つまりここで待っていなきゃいけないわけだが、そんなことをすれば何をしたいのか丸わかりだ。

 

「そっちのタネはハルバードによる空中での、足場の作成か」

「ちょっと違うかしら?、ハルバードを地面に照射してそれをつかんで一気に降りたのよ。」

「なるほどな」

「でもあなたも相変わらず多芸よね。」

 

たった数手ではあったが、彼女たちはお互いにいったいどれだけの経験値を稼いできたのか。長年連れ添ってきたパートナーともなれば、1年離れていたとしても昔の事は忘れない。どれだけ経験を積んだか実感は簡単にすることもできた。

 

「ただ、このまま何でもありでやったら、鶴乃に戦い方を見せるという本来の目的を忘れそうだな。」

「そうね。魔法は少し縛りましょう。」

 

お互いに何も縛りをなしでやったら、お互いに熱が上がってきて鶴乃が参考にならないほどに本気になってしまいそうだ。

鶴乃を置いてけぼりにした二人の訓練はようやく本来の軌道修正となった。




ゲーム本編鶴乃ちゃん、持ち直すの早いような気がして…このような話を作ってみました。
次回は鶴乃ちゃん視点で完結の予定です。

※定期
ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
ぜひ、ご意見いただけると幸いです。
よろしくお願いします


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強さの意味2

大変お待たせしました…いろいろあり投稿をしていませんでした…
不定期更新ですがこれからもよろしくお願いします。


 

 正直なところ、よく分からなかった...が今見ている戦闘訓練の感想だろう。

 カズキもやちよもどっちも強い、それは分かりってることだし今更疑うところもない。今回の訓練も相まってその認識はますます強くなっていった。

 

「そこっ!」

「シッ!」

 

 命を刈り取らんと突き出されたハルバードは、意図もたやすく小さき獲物によって軌道をそらされる。

 魔法を制限しようと提案されてから、既に5分ほど。その見応えは未だに衰えることを知らない。

 ただ一つ....変わったことがあるとするならばやちよの攻めが圧倒的に少なくなり、逆にカズキの攻めが圧倒的に多くなったことだろうか?。

 

「よけきってみせろ!」

「くっ…」

 

 一つ一つまるで体の一部かのように自由自在に右手で暴れまわるナイフ。

 急所…急所…急所…(首…心臓…目…)休みを入れることを許さない怒涛の連続攻撃にさすがのやちよも防御に回らざるおえない。

 とはいえ、それを防ぎきっているのはさすがと言うべきではあるが…

 ハルバードを細かく持ち替え回りしながら、あらゆる部分を防御に使う。

 そして…一度ハルバードを思い切りナイフで押してその反動を使って距離を取る。

 

「はーー……」

「とりあえずこんな感じかしら?」

「ああ、上出来だろう。」

 

 息を止めた怒涛の攻撃の反動で大きく息を吐き出し、いったん仕切り直しとなる。

 が、どうやらカズキの中では丁度いいと判断したらしい。

 

「さて、鶴乃今の戦いをみて何か思った事はあるか?」

「え?えーと……ごめん。正直よくわからなかった…」

「まあ、だろうな。次はやちよに主に攻めてもらう。そっちも見てみろ」

「そういえば…師匠のほうが私の戦い方に近いんだっけ…?うんわかったよ!」

 

 水分補給をすまして、すこしあたりを確認してから2人は対面し改めて構えを取る。

 

「ン…?それで戦うのか?」

「ええ。鶴乃に見せるためならこっちの方がいいかなと思って」

 

 先ほどまでと違い、ハルバードを2本持っているやちよ。

 その1本は水をまとい、やちよが手を離すと、あたりでフワフワと浮かび始める。

 普段はあまり使わない技に鶴乃が少し不思議そうにしていると、苦笑しながら

 

「カズキ君みたいにないかをやりながら戦場を戦うのは私には無理よ…」

「そこまで難しくはないだろう?位置取りの把握と味方の行動の予想。これだけでどうにかなる」

「どうにもならないから使ってないのよ…」

 

 やれやれと首を振るやちよは改めてその切っ先をカズキに向ける。

 たいするカズキもナイフのほかにどこからか取り出した籠手を取り出して左手に装着する。

 少しのにらみ合いを得て…先に動いたのはやちよ。

 

「カズキ君ほどの脅威ではないけれど…これでもひそかに練習してるのよっ!」

 

 魔法少女の脚力を利用し、一気にカズキの懐に潜り込み、刺突を行う。

 もちろんその程度を見切れないほどの動体視力はしていないので余裕で対処、さまざまな魔女を屠ってきた隙を見せない刺突の数々は彼のナイフの前に無力であった。

 そして…

 

「っ!?」

 

 両手で扱うハルバードと違い、カズキにはまだ左手が残っている。

 ナイフで止められたそのすきにハルバードを籠手で思い切り弾く。

 これにより大きな隙が生まれてしまい、そこからの追撃で終わる…だが

 

「ちっ…」

 

 追撃の前に、飛来してきたハルバードに対応しなくてはいけなくなった。

 バックステップとバク転で距離を取り、やちよもまた、崩れた体制を整える。

 

「やっぱり…私だけでは無理ね。」

「十分じゃないか?」

「こんなんじゃまだ、あなたの隣には立てないわよ…」

 

 やちよは改めてハルバードを構え、先ほどと全く同じように突っ込む。 

 先ほどと違う点は傍観を決めてた浮いてるハルバードがやちよの突撃に合わせて切り取らんと攻撃を仕掛けてくる点だ。

 しかし、この一本だけで戦況は大いに変わった。

 先ほどまでいいようにあしらわれてきたやちよがたった一本のハルバードのおかげで今度はいいようにあしらえるように変わったのだ。

 一瞬のスキを作り、やちよが追撃…やちよが作った隙をさらに広げるように一撃…まくられた時のケア…そのハルバードが行った仕事の量は計り知れない。

 

「チッ!」

 

 これでカズキが防御力に自信があり、それでごり押しを仕掛けるのならば、また戦況は変わったかもしれないが、彼は人間。

 針の穴に糸を通すのような鮮麗かつ大体な行動を強いられる彼にその突破方法は不可能に近い。

 

「………」

 

 そういえば…と鶴乃は思い出す。

 彼らの戦いをこうしてまじかで見たことはあるだろうか…?

 確かに一緒に戦いは何度かしてきた。それでもそれをじっくりと観察する機会はなかったはずだ。

 

「師匠も…カズキ君も本当にすごい人だったんだ…」

 

 目の前で繰り広げられている、何年分も蓄積されたその技術に鶴乃は本来の目的を忘れ見惚れていた。

 だからこそ…だろうか、彼女はその光景を見てあることに気が付いた。

 

(あれ…?あのハルバード……なんか私に似てる…)

 

 別に色が似ているとかそういったわけではない。

 似ているのはその戦闘での役割だ。

 徹底したサポート…攻撃を中断させるため、攻撃の起点を作るため、あくまでも…やちよの為…仲間のために…これがハルバードの限界。

 ふと、そんなことを考えているとカズキのナイフが手を離れ、やちよが首にハルバードを当てたことで訓練が終了した。

 

「お疲れ様。ちょっと危うかったわね」

「よく言うぜ。目が慣れてからはそっちの独壇場だったじゃないか」

「ふふっ…さて、鶴乃。どうだった?」

「あ、えーとね…」

 

 確かにつかんだと言えばつかんだ。 

 カズキの戦い方とやちよの使ったハルバードの戦い方、確かに言われてみればそれは全くの別物だった。

 カズキの本質は敵を倒すことにある。確かに戦いの中ではいろいろと助けられた部分もあるし、援護魔法だってあるからそれしかできないという訳ではない。

 ただそれは敵を倒したらそれが結果的に援護に繋がったと言うだけだった。

 

「なんとなくだけど…言いたいこと分かった気がする…」

 

 確かにカズキに教えられたとしても、それが鶴乃に合う事はないだろう。

 いや、確かに今までの戦い方を捨てれば合うかもしれない。

 でも強くなりたいとはいえ、いまの役割が一体どれだけ重要なのかは理解しているし、この戦いでみたハルバードからもそれは物語っている。だからカズキは鶴乃に言ったんだろう、戦い方が合わないと。

 

「あはは…まあ、いいんだ。皆を護れるなら別に弱くっても…」

「お前は勘違いをしている」

「ほえ…?」

「お前が弱いと思った理由は活躍できなくなったから…そういったよな?」

「うん…最近他のみかづき荘の人がめきめき力をつけて来て…」

「それもそうだが、変わった物は別にある」

 

 そういって…ヤナギは鶴乃に指をさした。

 

「鶴乃の戦い方が大幅に変わったのが原因だろう。」

「えっ?でも…別に私前とおんなじだよ?」

 

 しかし、その言葉をカズキは首を振って否定する。

 怪訝そうにする鶴乃をよそに、自分の考えを口にする。

 

「自分でも言ってただろう?仲間を護るために力を求め続けたって。そしてお前はその頑張りで神浜最強とまではいかなくとも、仲間に頼られる力を手に入れた。

 ただ…頼られるだけであり、鶴乃を理解する真の仲間は存在しなかった。お前は大人数で戦いながら一人で戦っているかのような錯覚を覚えた…どうだ?」

 

 隣で一緒に戦っていながら、心の奥深くでは信用しきれていなかったのだ…

 つまり、戦いかたはカズキの戦い方に寄ってしまったというわけだ。

 

「そして真の意味で仲間を手に入れたとき、きっと急激に視野が広くなったんだ。

 文字通りお前は仲間のために戦うようになった。

 広い視野をもって仲間の危機を察知して持ち前の行動力でその危機に対処する…言い方を変えれば、今までの戦いをすべて捨てて新たな戦い方を身に着けたんだ」

 

 敵を倒す戦いではなく、味方を援護し守る戦いに移って変わった。

 もともとやちよと言うその手の戦いが得意な人を師匠にしていたし、鶴乃自身の性格も相まって守る戦いはすぐになじんだはずだ。

 

「それが鶴乃のスランプの原因だ。仲間の援護に回れば必然的に前衛に出る頻度は落ちるし、撃退率も大きく下がるだろう。今までは倒して倒して倒しまくる…その戦いを続けてきたのでだから、自分は活躍できてない、弱くなった…そう錯覚するのも納得だ。」

 

 そう…それはいい事ばかりではない。意識下の考えは変わらず無意識化での考えが大きく変わったせいで、鶴乃はその変化に対応しきることができなかったのだ

 

「戦い方が違うって言うのはそういう事だ。さっきの戦いでのハルバードの活躍はどうだった?

俺にろくに攻撃も当てられず、ただ少しちょっかいを出しただけに終わった…

 しかし、そのちょっかいがやちよの生存率を大きく上げる事になった。

 たいして俺の戦い味方の事は一切視野に入れていない。必要な攻撃を必要な場所に…そんな戦いだけだ」

「でも…いろいろ助けてくれたりもしたでしょ?」

「そこまで人間は捨ててない。でも…強さにもいろいろある。お前にはやっぱり…やちよの戦い方がああってるよ」

 

 そう言うと、彼は部屋の中に戻っていこうとする。

 

「すまんが続きがしたければやちよに聞いてくれ、さすがに疲れた

 もう活躍できないと言うアホな事は言わないと思うが…お前のその行動はチームの勝利に大きく左右される。戦闘狂でないならば、それを忘れるなよ」

 

 うむを言わさずにそそくさと家の中に戻って行ったカズキを、鶴乃はぼーっと見つめていた。

 

「師匠…」

「ん?」

「か、カズキ君ってすごいんだね!」

「つ、鶴乃?」

「そこまで深い付き合いじゃないのに…自分でも知らなかった自分っていうのかな?それをここまで当てるなんて…!妙にしっくりくる気がするんだよね~」

 

 キラキラと目を輝かせて、本当の意味で新しい頼りになる人物を見つけた、そんな感じな目をしていた。

 今まで彼が頼られてきたのはやちよの圧倒的な信頼と、そのやちよが信頼してるから…それに過ぎなかったはずだ。

 しかし、今の目にはカズキという存在がやちよ抜きで確立している。そのことに少しもやもやしながらも、ほほえましいまなざしをするやちよだった。

 

 

 

 

 

 




次回予定通り8章を進めていきます!



※定期
ネタを募集しています。
この魔法少女と絡ませてほしいとか
この魔法少女とのこんなシーンが見てみたい
カズキの使う魔法など、
一人で考えるのも楽しいですが、皆様の
発想はおそらく私にはないものですので
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戦いの序曲1

8章が始まりました!
原作とはかなり変わります。ここからこの話オリジナルの展開に繋がります。
お楽しみにしてください!


 ピチョン……ピチョン……

 定期的な水滴恩が響き渡るこの廃墟に一人の人間が足を踏み入れる。

 あたりを引っ切り無しに警戒し、慎重に一歩ずつ入っていく。

 このコンクリートの床でただの一つ足音が出ていないのは、その人物がよほどの手練れ…という訳ではなくもちろん魔法のおかげだ。

 月明かりすら差し込まない夜の暗闇の為、フードを深くかぶっている彼…カズキを視認することは不可能に近いだろう。

 

「さて…次はここだが…」

 

 すでに怪我の治療は終えていて、周りの反対を押し切り彼は即座に行動に移した。

 あそこまで大々的に動いたマギウス達が今まで以上に活動を活発にさせるのは予想がしやすいからだ。

 とはいえ…規模が大きくなってきたマギウスの翼をとらえるのは簡単だが、マギウスをとらえるのがなかなかできない。

 相手もさすがに警戒をしているようで、こうして…

 

「っち…罠か」

 

 あたりが突如として包み込まれる。魔女の結界とはまた違う。

 ダレカラキイタ…?モウキイタ?そんな奇妙な文字が空間をめぐり、先ほどまであった廃墟は一瞬にしてその様子を変える。ウワサと呼ばれる化け物だ。

 残念なことに現状カズキがウワサに対抗できる手段はない。

 そもそも一般人は認識すらできないのだ、彼が認識をしているのは、あの時いろはが教えてくれたからに過ぎない。

 …そして認識できても手は出せない。その場にいるのにわかるのに、干渉することができないのだ。

 つまりのこの状況は逃げることしか出来ない。

 

「さて…逃げ切れるか…」

 

 切り札級の使用も視野に入れて、カズキはこの場から逃げる算段を計算し始めた。

 

 

 ☆

 

 

「ふぁ~…おはようございます」

「あら、いろはおはよう。今日は遅かったわね」

「ごめんなさい、少し夜更かししちゃって…」

 

 朝食はすでにやちよが用意していたようだ。

 相変わらず居候よろしく朝からいる鶴乃を合わせてすでに3人は朝食を取りながら楽しく談笑しているようだ。

 

「あのゲームのアニメすごかったよな!」

「うんうん!すっごく燃えたよね!」

「て、展開がおかしすぎて…私にはよく…」

 

 いつだったか落ち込んでいた鶴乃も最近はこころから元気が戻っているようだ。

 …なんだかカズキへの絡みが異様に増えたのに目をそらしながら…

 

「そういえば…カズキ君まだいないの?」

「私も何度か連絡をしてるのだけれど、つかないわね」

 

 鶴乃の疑問にやちよは寂しそうに首を振る。

 

「まったく!何かやってるなら言って欲しいものだよ!ふんふん!」

「いつもの事とは言え…そうね。あれだけ魔女に痛みつけられたのに…困った人」

「やちよさん今日は作戦会議、でしたよね?」

「ええ、そのために十六夜に会いにいく手はずになっているから準備ができたらメイドカフェに行きましょう」

 

 鶴乃のウワサ化、みかづき荘の面々は知らないがカズキへの襲撃を皮切りにマギウスの活動が活発になってきている。

 被害は魔法少女にとどまらず、一般時にも回っているとあって、魔法少女の界隈では緊張が高まっている。

 

「カズキさんについてはどうするんですか?東で活動してるんでしたっけ?」

 

 さながなげかけた疑問にやちよ達は頭をかしげる。

 彼の行動理念や行動力からかかわりを持っていたとしても、何ら不思議はない。ただ…

 

「少なくとも…十六夜とカズキ君からは何も連絡貰ってないわね。

 カズキ君はともかく十六夜なら、魔法少女に干渉できる男性がいるならちゃんと報告してくれると思うのよね」

「うーん…確かに!でもカズキ君ならあの十六夜ですらも口だけで圧倒しそう…」

「あはは、そうかも……ちょっときになってきちゃった…」

 

 鶴乃の思わずな発言に十六夜とカズキを知る。

 十六夜はこの神浜で東側の魔法少女に慕われているリーダーだ。

 西のやちよ東の十六夜と昔は敵対関係にあったが、魔女の急激な増加とマギウスとの闘いのおかげで最近は冗談を言い合えるようなくらい仲のいい関係になってきた。

 やちよとどっちが強いのかと、2人を知っている人ならだれもが疑問に思う問題だというのは有名だ

 

「じゃあさっそく行こうぜ!」

「カズキさんの事どう説明しましょうか?」

「流れに寄るわね…まあ、私に任せて頂戴」

 

 こうしてみかづき荘の面々は準備を進めて十六夜が働くメイド喫茶へと向かった。

 

 

 ☆

 

 

「待たせたなご主人たち…これがはぁとふるオムライスだ」

「おお!これが!」

「おいしそう!…あ、ケチャップを…」

「ももこちゃん、ちょっときょろきょろしすぎじゃない?」

「ばっ!?そんなこと…ないよ?」

「目…泳いでるわよ?」

 

 途中で合流したももこ、レナ、かえでと十六夜の働くメイドカフェにやってきていた。

 重い話をやりに来たわけではあるが、そこは思春期女子。

 少しはこうして可愛いもので騒ぎたいというものだ。

 

「店長さん何か言ってた?」

「ん?いや、好きに使ってくれて構わないと言っていた。あらかじめ自分が許可を取っておいたのが良かったな」

「そう…悪いわね。十六夜」

「気にするな」

 

 少し笑みを浮かべて十六夜はコクコクとうなずく。

 たとえ許可を取ったとしても、ここが普段営業中の店であることには変わりない。

 年長者として、皆を集めて、作戦会議を始めようとするが…

「あら…こんな時に」

「あれ?やちよさん、電話ですか?」

「ええ。仕事は特になかったはずだし…誰かしッ!?」

 

 と、突然やちよは取り出したスマホを落としそうになってしまった。

 騒いでいた他の子は気が付かなかったが、近くにいたいろはと十六夜は怪訝そうな顔を見せる

 

「や、やちよさん?大丈夫ですか?」

「電話が来るだけでそんなに驚く相手だったのか?」

「…カズキ君からよ」

 

 その言葉に十六夜は首を傾げ、いろははハッと目を見開く。

 

「今まで連絡くれなかったからびっくりしたのよ」

「あはは…確かに唐突ですね。でも、カズキさんらしいです」

「カズキ?環君も知っているってことはみかづき荘共通の知り合いか?」

「はい、今度紹介しますね。」

「名前的に男…だろう?珍しいな」

 

 いろはと十六夜の事情を知っている人から聞いたらかみ合わないこの会話をよそにやちよは素早く電話にでる。

 

「もしもし?カズキ君?どうかしたのかしら?」

「……………」

「カズキ君?」

「……………」

「…?」

 

 通話がつながっているのに声がこない…というのは周りから見ている人でもわかる反応という訳で、2人はも声を聞きたそうに少しだけ近づく。

 そこから大きな爆発音のようなものが聞こえたのは同時だった。大きな音にやちよは思わず顔をしかめ、必死に声をかける

 

「カズキ君!カズキ君!返事をして!」

 

 その大きな声は騒いでいた他の面々にも聞こえたようで、カズキと言う名前を必死で叫ぶやちよにみかづき荘の面々は険しい顔をして近づいた。

 

「あ˝ー……ゴホッ!ゴホッ!…大きい声、出さないでくれ…頭に響く…」

「カズキ君!大丈夫…なのよね?」

「心配すんな…まだ、動ける」

「心配すんなじゃないわよ!…もう、いやなの…お願い、もっと自分大事にして、私を…安心させてよ…」

「…無理だ。気持ちはうれしいが、あきらめてくれ。」

「カズキ君……」

 

 やちよの語り掛けもむなしく、カズキは自分の考えを変えようとはしなかった。

 

「それより…伝えたいことがある。手短に行くぞ」

「まって、まってちょうだい!今作戦会議をしているの。マギウスの対策よ。

聞かせて大丈夫かしら?」

「…まあいい。スピーカーにしてくれ」

 

 カズキから了承を得るとやちよはスマホをスピーカーにして机の上に置いた。

 

「カズキ君からの連絡よ。マギウスについて大事な話があるみたい。」

「えーと、それより1つー」

「ごめんなさい。全部…この通話が終わったら説明するから、お願い、質問は後にして頂戴」

「あー…うん。分かったよ」

 

 ももこの質問は予想できた。カズキとは何者か。気になっている人は多いと思う。

 が、今はカズキの為にも早く予定を済ませてあげたかった。

 

「ありがとう。後でちゃんと説明するわ」

「ああ、頼むよ。やちよさん」

 

 リーダー同士が納得したため、ほかに声は上がるはずもなく、カズキは話し始めた。

 

 

 

 

 




※定期
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