IS学園、一年一組のドアの前に男子が一人。
目の焦点が上手く合わずに立ち呆けている。
いや、呆けてはいない。彼はこれからどのように自分の印象をいかに「良く」伝えるか考えており、思考の渦に巻かれている。
(何を喋ろう?名前と・・・出身と趣味でも言おうか。あれ?俺の趣味って何だ?・・・読書かな?でも趣味で読書が許されるのは中学生までだ。それに人よりちょっと多く読むぐらいだし・・・だったら言わん方がいいな。あと名前と・・・て二回言ってどうする。)
渦に巻かれているというよりも、ただ単にテンパっているだけだ。
「それでは入ってきてください。」
ドア越しの女性の声が聞こた。
「あ、はい。」
すでに彼の頭の中は、白いペンキに塗りたくられた。
一年一組 教室内
「・・・・・・ということなので忘れないように。」
一年一組副担任 山田真耶は朝のSHRに伝えるべき連絡事項を伝え終え、隅で腕を組み立つ担任、織斑千冬を一見し、新たな話を切り出した。
「実はですね。いろいろな事情で入学日がズレてしまった生徒さんが今日から登校してきているんです。これから紹介しますね。」
生徒たち――女子のほとんど(男子生徒は一名しかいないが)――は、「ふーん。そうなんだ。」ぐらいに考え、頭の隅に追いやる。彼女たちにとってそんなことよりも、今は『現状』世界唯一の男性適合者のことに興味の大半を持っていかれている。遅れて入学してきた生徒がなんだというのだ。別に珍しくもなんともないだろう。しかし、彼女らの期待は逆の方向に裏切られる。
すると、生徒たちの中から一本だけ手が上がる。
「山田先生」
「はい?なんですか。織斑君。」
「色々な事情って何なんですか?」
唯一の男子生徒が質問した。
彼は純粋に疑問に思った。転入ならわかるが、遅れて入学してくる人など小学、中学では今までいたことがない。入学式当日に具合が悪いかった、もしくは何かの事故に巻き込まれたぐらいしか理由としては成り立たないと思ったからだ。そういう場合は、入学日に先生から何か言われるはずだろう。「今日○○さんは具合が悪くて出席することができないので、後日登校してきた際には仲良くしてくださいね。」と。
真耶は苦笑いを浮かべながら言う。
「えぇーと・・・会えばすぐわかると思いますよ。」
生徒の何名かは気づいている。入学日よりも座席が一つ多いことを。
「それでは入ってきてください。」
「あ、はい。」
その声は女子にしてはあまりに低すぎる声だ。そう、まるで男のような。
ドアが開き、入ってきた人物はまごうことなき男であった。
誰かが呟く。
「お、おとこ?」
その瞬間、室内全ての眼が入ってきた彼を射貫いた。
普通の人ならば後ずさりしてしまうような威圧感の中、彼は涼しい顔で教卓の前へと歩みを進める。実際は脈拍はいつもの3倍は波打ち、体温を下げようと全身の毛穴からは汗が吹き出ていた。それはもうYシャツの首元から熱気が上昇気流の様に放出し前髪が揺れるくらいに。
「えぇー内海秋彦です。入学式の日にISを動かせることが分かってしまったので、遅れて入学することになりました。よろしくお願いします。」
これ以上にないくらいさしさわりのない自己紹介である。
内海の横に移動しながら織斑教諭はクラス全員に言う。
「内海は見ての通り二人目の男性適合者だ。織斑がそうであった様にISの知識は皆無と言っていい。さらにIS適性を発見したのは四日前であり環境の変化に戸惑うこともあるだろう。困った内海を見たら助けてやれ。いいな。」
内海は彼女の横顔を見た。
(噂どうりのカリスマだな・・・・まぁ大隊指揮官殿には及ばないが。彼は別次元だ。俺でも戦争に行きたくなってしまったもんな。・・・にしても写真で見るよりも美人だなー。)
彼は織斑千冬とは初対面だ。本当ならば教室に来る前に顔合わせをするはずだったのだが、一年一組には件の世界初の男子がいるのでそれに群がる野次馬を散らしに先に行ったのだ。
彼女に対して、男女問わず百人中百人美人というだろう。故に彼が見とれるのも無理はない。
「内海。おまえの席は一番後ろの席だ。」
「え?・・あ、はい。」
気を取り戻し正面を向いた。そこで彼は気が付いた。クラスの大半の目が既に自分を見ていないことに。そして目に入る。目の前に座る彼を。目が合って、微笑まれ、手を振られた。
(あぁ納得)
内海も手を軽く上げ応え、自分の席に着く。
内海の見た目はとても普通だ。すごい普通だ。普通の代名詞だ。髪は黒で長くもなく、短くもなく。黒目に銀縁眼鏡。顔の出来は良くて「中の中」、悪くて「下の上」というところだ。
対して目の前の彼は全てが最高級の素材で出来ている。加えて性格は爽やかな好青年ときている。まさしく石ころとダイヤ。
対比するものができてしまえば否応なしに比べてしまう。人間の性質だ。ならば簡単、自明の理、劣っている者と優れている者、どちらを取る?当然、優れている者 織斑一夏を取る。
内海にとってそれは
(あぁ・・・・やっぱり最高だな。後ろの席は。)
至極、どうでもいいことである。
第三者視点て難しいですね。
内海はお隣に住んでる週一でしか返ってこない隣人さんから。
秋彦は憑物落としさんからいただきました。
・・・・塗り仏長すぎて手を出すのが躊躇われる。
―――大隊指揮官殿
「よろしい。ならば戦争だ。」
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二話
一時間目が終わった。
あの後休み時間はなく、そのまま1時間目に突入してしまった。
せめて水分補給をさせてほしかったなー。全く喋っていないのに喉が渇いて仕方がない。アイアムサースティー。さて、今日のドリンクは気分を落ち着かせる緑茶を持ってきた。「おーいお茶濃い味」。・・・うん・・・・おいしい。
「何飲んでるんだ?」
「ん?」
イケメンが話してきた。・・・まさかそっちから話してくるとは思わなかった。いや俺は話しかけるつもりなんか毛頭ないよ?
「おーいお茶濃い味」
「それうまいよな。あ、俺、織斑一夏っていうんだ。よろしくな!」
・・・笑顔が眩しい。
てか飲み物から自己紹介に持っていくか・・・・コミュ力高いなーおい。
「内海秋彦です。まぁ、よろしく」
作り笑顔で対応させてもらおう。ポーカーフェイスは得意だ。ポーカーフェイスいる状況じゃないけど。
「秋彦って呼んでいいか?」
最初から名前呼びたぁ・・・恐れ入る。まぁ、別にいいけど。
「あぁ、いいよ」
「いやぁーにしても本当に秋彦が来てくれて助かったよ。やっぱり女子だけの空間に男子一人は辛いものがあるよなぁ。」
「はは、そりゃそうだろうな」
それから休み時間いっぱいまで俺がいなかった四日間の出来事を愚痴ってきたが、適当に相槌を打ってやった。全くの違和感なく。
「初日は客寄せパンダの気分だったよ」
「まぁ、仕方ないな」
「一日で13回も千冬姉に叩かれてさぁ」
「それはすごいな」
「ルームメイトの箒は木刀で部屋の扉ぶち抜くし、」
「なにそれ怖い」
織斑一夏か。
正直、好きにはなれないな。何故かって?
織斑がきっかけで俺の人生の道はずいぶん細くなってしまったからだ。織斑が見つかって全国で男性適合者狩り否、男性への適合検査。そして俺が発掘された。
IS適性が見つかった時の選択肢はIS学園行き、もしくは生体研究所行きのどちらかだ。研究所は火を見るより明らか。投薬→生体実験→解剖→ホルマリン漬け→廃棄。こんなもんだろう。生きる選択肢があるならそちらを選ぶに決まってる。でもIS学園も箱庭状態だ。外に出ればどこぞのマッドに誘拐されてさっきの流れに矯正させられる。あと女性権利者団体に後ろから刺される。こう、ドスッと。つまり男性適合者が次々に湧かないと俺は外に出られない。いや、外出届出せば外に出れるよ?でも自分から死にに行くようなことなんてしないさ。
それに・・・・
せっかく大学に受かったのに。しかも国公立。俺の学習時間一年分を返せ。
・・・うん。俺18歳だよ。二、三週間前まで大学合格したばかりの高校三年だったよ。でも今高校一年やり直し中。つまり全生徒の中で一番年上。
考えてもみろ。合格しました。念願の第一志望校です。でもIS適性あるからそれ蹴ってIS学園に入学しなさい。じゃなきゃモルモットです。
・・・・やってられん。そもそも重要人物保護法みたいのあるから強制的なんだよね。
一時間目の内容だって受験生にしたら余裕のよっちゃんだ。ISのことだけじゃなくて一般科目として普通の高校生の授業やるんだよね。テスト一番取れてしまうぞ。ちなみにこのことを自己紹介で言わなかったのは、そこまで頭が回らなかったからだ。たぶん俺が言わなかったから山田先生も織斑先生も言う必要はないと判断したのかもしれない。明日にはバレるだろうけど。
てな理由で織斑のことは好きになれない。織斑が悪くないことはわっかているけどさ。俺の運がなかっただけだ。それでもやっぱやるせない。プラスの感情にもならないけど、マイナスの感情にもならない。まぁ、織斑の性格的にマイナスにはならんだろう。
休み時間になる度に織斑が来た。自分のことをマシンガントーク一歩手前の速度で喋り、授業が近くなると去っていく。そして俺に向けられるのは負の感情がこもった視線。
(あいつがいるせいで織斑君と話せないじゃない。)
(何の変哲もない男のあんたが千冬様の弟と話してるんじゃないわよ。)
おい、廊下にいる二人、聞こえてるぞ。あれか、所謂信者という奴か。まさか初日から目をつけられるとは。予想はしていたがずいぶん早いな。そりゃイケメンと地味面が一緒にいたら「え?なんでお前そこにいるの?」ってなるよな。イケメンの友達は大抵イケメンの法則。ただし例外はある。
さて、ここでの身の振り方はどうするかな。
放課後
ISの授業がただの暗記科目だった件について。
使用用途に「枕としても使えます。※肩が凝る可能性が御座います。」とか「鈍器としてもお使いになられます。※個人差により殺傷力は異なります。」とか書いてそうな教科書流し見たけど、基礎理論の証明とか、ISのエネルギー計算とか以外は覚えてしまえば終わりというものだ。まぁ興味のない科目なんて暗記科目になってしまうよな。
今日は疲れた。主に精神的に。織斑の言ってた通り、女子の空間に男子は辛い。さーて信者に絡まれる前に帰るか。織斑もポニーテールに連れてかれたし。教員室で山田先生から部屋の鍵もらってくかな。
「本当にごめんなさい!!」
「いや、いいですよ。別にそれくらい。てか先生悪くないですよ。それ。」
山田先生が俺の前で頭を下げてる。
一体何が起こったのか説明しよう。
織斑のIS適性が見つかった時、情報規制が間に合わなく家にマスコミやら科学者やら軍人やら某国大使が来たそうだ。その後の処理は相当手こずったようで、二の鉄は踏まないと俺の情報は今日の九時まで秘匿されていたとか。あまりに隠し続けるとバレた時に各国からのバッシングは必至である。ならば入学させてから明るみに出し、各国からIS学園への不干渉権を盾にしてしまえばいいと。正直そんなうまくいくのか甚だ疑問だが。
俺のことは朝のニュースの最中に臨時で流れた。これでIS学園にいる二人目には誰も手が出せないだろうとゆうことだ。確かに誰も手が出せなかった。だが別の問題が発生した。俺の情報が開示されたということは、顔写真と名前と年齢が晒されたわけでして。こんなどこの馬の骨とも知らん、年上の、見るからに魅力のない奴が、部屋は違うとはいえ同じ建物で自分の娘と暮らすのだ。生徒たちの親から電話のコールが殺到した。やれ何か間違いが起きたらどうしてくれる。やれそんな男がISを動かせるわけがない。やれ家の娘がそんな男と同じ学び舎に行くなど耐えられない。etc,etc
織斑の時はそんな電話がなかったという。そりゃそうだ。齢15,6年で持つ家事スキル、ご婦人も落とせそうな甘いスマイル、そして元IS最強織斑千冬の弟。今のご時世これ以上の優良物件があるだろうか。いや、ない。むしろ私の娘と同じ部屋にしてくれと電話があったほどだ。
つまり、俺には帰る家がないということだ。
予想は
していなかった。
読んでいただきありがとうございます。
主観の方が書きやすいな
――――ISのことだけじゃなくて一般科目として普通の高校生の授業やる
自己解釈:普通はやるだろうなーと思って
――――イケメンの友達は大抵イケメンの法則。ただし例外はある。
経験談
――――ISの授業がただの暗記科目だった件について
自己解釈:最初は座学でしたよね?つまりそういうこと。
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三話
結局、俺の住処は六畳一間のユニットバス付プレハブ小屋になった。
あの後業者さんを呼んでもらったんだけど、女子寮からずいぶん離れた所に建てられたぞ。
トイレまで歩いて三分もかかるような場所にだ。織斑先生曰くギリギリのラインらしい。
これじゃあ校舎に住んだ方がマシだろう。
織斑先生と山田先生がものすごい申し訳なさそうな顔してた。だから先生たち悪くないからね?
でも朝弱い俺にとって教室まで15分の道のりは辛いものがあった。
「二日目から遅刻とかシャレにならないな~。」
誰もいない朝の廊下を歩きながら呟く。
別に遅刻したわけじゃない。遅刻になりそうなのだ。残り十数秒で朝の鐘が鳴る。
だが走らない。だが焦らない。間に合う保証はどこにもないけど。まぁ、何とかなるだろう。
教室に入ると全員席に座り隣の人とお喋りなどしていたが、俺が席に着くまでにヒソヒソとするお喋りになっていた。
皆さん、全部聞こえてますよ。
「内海、遅いぞ。五秒前だ。」
「まだ五秒もあったんですね。てっきりあと1、2秒かと思いました。」
五秒もあれば十分。
席に座ると同時に鐘が鳴る。
織斑がこっちをちらちら見てた。鬱陶しいぞ。
休み時間になり、すぐに織斑が来た。
「秋彦・・・さんて、年上だったんっ・・・ですね。教えてくれてもよかったのに。」
「別にいいかなぁーと思って。すぐわかることだし。・・・敬語、言いにくそうだな」
「はは、昨日あんなに話したのにいきなり敬語になるのはちょっと・・・」
織斑が苦笑いになる。
おまえが一人で一方通行で話してただろう。
「その・・・敬語じゃなくてもいいか?」
「あぁ、別にいいよ」
「そっか!よかった!!」
だから笑顔がまぶしいって。ほら、女子が騒いでるよ。ついでに嫉妬の視線を向けるな。この笑顔を間近で見たいのか?見して下さいって言えば織斑なら見してくれそうだけどな。
ペットボトルをカバンから取り出し、コーラを飲みながら考える。
学園生活を満足に、十分に、十全に過ごすにはどうすればいいか。ここでいう満足十分十全とは、俺に誰も危害を加えないことだ。
その環境を作るには、極力、敵、味方を作らないこと。敵は言わずもがな。では味方は何故か?味方を作ることは間接的に敵を作ることになる。例えば、織斑を味方にしたら先ほどの視線の持ち主や、織斑信者どもが敵にあたる。
・・・・すでに敵ができてるよ。どうしてくれんだよ織斑。初っ端から難易度上げやがって。俺はお前の味方になった覚えはないぞ。どうにかして織斑を引きはがさないと。一体どうやって・・・まぁそれは後から考えよう。織斑は極端な例だけど、誰にでも好かれる奴なんていないわけでして・・・つまり中立を保ちましょうということ。それなりの付き合いはさせてもらうよ。
あとは外部からの介入対策なんだけど・・・・どうしたものか。
バンッ!!
「あなた!!聞いていますの!!」
「ん?あぁ・・・ごめん、考え事してた。」
ぱつきんのネエチャン否、金髪の白人さんが俺の机を叩いていた。
いつの間にか話しかけられていたようだ。
「まったく、わたくしの話の最中に考え事をするなんて・・・考えられませんわ。まさか年上だからという理由でいい気になってるんですの?」
「考え事の最中に君が話しかけてきたんだけどなー。」
「あら。「いい気になっている」というのは訂正しないんですわね。」
「まぁ、少なからずそういう気持ちは持ってるからな。あながち間違いじゃないさ。ところで・・・・君だれ?」
「やっぱ秋彦もしらなかたっか。」
「あ、あなたもですの?!これだから世間知らずの男は困りますわ。」
金髪が額に手を当てて大げさに首を横に振る。
織斑以上にめんどくさそうなのが来たな。
「もしかして有名人だった?政治には疎いんだ。許してくれ。」
「秋彦、政治は全く関係ないぞ。」
「いいですわ!!教えて差し上げます!!わたくしはイギリスの代表候補生にしてこのIS学園に主席で合格したセシリア・オルコットですわ!!」
ドーンと効果音が付きそうな勢いで指をさしてきた。
「フーン。主席ってことはやっぱ試験があったんだな。」
そりゃそうか。ISを使うこと以外は他の高校と何ら変わりはないならな。
「あれ?秋彦は受けてないのか?」
「時間がなかったからな。正直、主席がどれくらいすごいのかわからん。東大の主席とかならわかりやすいんだけど・・・」
「そう。でしたら唯一教官を倒したわたくしの凄さがわからないのは仕方ありませんわね。」
フフンッと言いながら歳にしては豊満な胸を張る。もうちょっと下から見たいな。うん・・・実に惜しい。『教官を倒した』ってことはISを使った試験か?
「俺も倒したぞ、教官」
「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないか?」
「つまり・・・わたくしだけではないと?そんな」
キーンコーンカーンコーン
オルコットさんの言葉遮るようにチャイムが鳴る。チャイム、なかなかいい仕事をする。
「またあとできますわ!!」
「大歓迎」
「しねぇよ、っと俺も座らないとな。」
おう、お前は二度と来んな。
今日の放課後はなにをしようか。学園内でも探索しようかなー。
「はい!織斑君がいいと思います!!」
「はいはい!!私も!」
「お、俺!?」
いや、待て、早まるな。無暗に出歩かない方がいいな。どうせオルコットさんみたいな人が絡んでくる。・・・気軽に外も出歩けない。世知辛い世の中だ。
「他にいないのか?いないなら織斑で決定だ。」
「待ってください!納得がいきませんわ!!」
んーーーならどうする。・・・・ひきこもるか?あの何もない六畳一間の空間に?・・・ないな。却下。
「そのようなことは認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに一年間そのような屈辱を味わえといいますの!?」
「実力から言えばクラス唯一の代表候補性のわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
あの部屋は寝るためだけにあるようなものだからな。時間ギリギリまで学校にいたい。そっちの方が便利だ。主にトイレとか、トイレとか。
「そもそも文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い屈辱で―」
「イギリスだって世界一飯のまずい国で何年覇者だよ?」
「な…わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先にしてきたのはそっちだろ。」
となると、時間の潰せる人目のつかない所といえば図書館だろう。これ定番。
「決闘ですわ!」
「ああ。四の五の言うより手っ取り早い」
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら早速ハンデのお願いかしら?」
そういえばISの練習ってしていいのだろうか?やっぱ予約とかいるのかなー。とりあえず保留。
「いやあ…俺がどのくらいつけたらいいのかって」
「織斑君、それ本気で言ってるのー?」
「男が女より強かったって言うのは昔の話だよ?」
「今女と男が戦争したら三日で男が負けるんだよー。」
「・・・じゃあ、ハンデはいい」
放課後は図書館で時間を潰して飯食って帰って寝る。よし、これでいこう。
「ついでに、そこで我関せずに徹しているあなたも自分の立場をわからせてあげますわ。」
「・・・・・・・ん?何か言った?」
頬杖をついている顔を少しだけオルコットさんに向ける。
「ですから!あなたのその態度を改めてさしあげると言っているのです!!」
何をそんなに怒っているんだ。織斑とオルコットさんだけが立っていることを考えると・・・またやらかしたのか。いや俺が無視してしまったせいか。
「えぇーーめんどくさいな。」
「このセシリア・オルコット自らあなたを矯正してさしあげるのに何て言い草。」
・・・ん?セシリア・オルコット自ら?ってことはISを使うのか?つまり模擬戦か。話聞いてなかったからわからん。ISは操縦してみたい。メカに乗るのは漢の浪漫だ。
「だが断る」
うん。言ってみたかっただけです。
「なぜですか!?」
だって代表決めで模擬戦とか絶対目立つだろ。
「俺は君と”試合”をする義務も権利もない。いや、権利は一応あるのかな?ともかく、別にやらなくてもいいなら俺はやらない方を選ぶ。」
なによりもめんどくさい。そんなこと言えない絶対に言えない。
あぁ、でも次に言われることが予想できててしまう。
「そう・・・そこまでおっしゃるなら・・・・わたくしはあなたをクラス代表に推薦いたしますわ!!」
「なっ、なんだってー!!(棒)」
織斑の昼食の誘いを粗雑に蹴り、外のベンチでカツサンドをほおばる。
織斑とオルコットさんの二人と模擬戦をすることなったのだけれど。
イギリス代表候補生セシリア・オルコット。IS搭乗時間300時間以上。専用機:第三世代型『BLUE TEARS』ブルーティアーズ。タイプ:中距離射撃型。主兵装:六七口径特殊レーザーライフル『STAR LIGHT MK.Ⅲ』 近接兵装:近接ショートブレード 『インターセプター』特殊兵装:自立機動兵器『ブルーティアーズ』。
世界初IS男性適合者 織斑一夏。IS搭乗時間30分未満。搭乗機:不明。戦型:不明、しかし幼少期に剣道場に通っていたため近接の可能性大。実力は未知数、ただしIS世界最強織斑千冬の弟のため化ける可能性大。
○oogle先生が教えてくれた情報をまとめてみた。ここに俺の情報を入れるなら、
世界二番目IS男性適合者 内海 秋彦。IS搭乗時間・・・8秒!!搭乗機:なし。戦型:オールマイティ・オールレンジ。
起動した瞬間に連れてかれたから10秒も乗ってない。戦型の欄はゲームでもこんな感じだったからだ。オルコットさんには勝てない。『だろう』ではない。断定である。織斑は・・・わからない。でもおそらく負けるだろう。理由はまた後日。
練習期間は1週間。織斑だけに勝てる見込みは5~15%ってところ。手を抜くつもりは毛頭ないさ。誰が何と言おうと俺のやり方で試合う。つまらない意地だけども、これだけは捨てられない。
よし、放課後の訓練機使用許可はとった。図書館で時間を潰す予定だったけど、まぁいいさ。
カツサンドの包装を丸めて隅のゴミ箱に投げる。これが入ったら誰かにIS操縦を教えてもらおう。うん、それがいい。
丸められたビニールはパリパリと音を立てながら放物線をなぞる。
さて、願いましては
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四話
「はぁはぁはぁ・・・・・ん。はぁ」
IS格納庫内、灰色の無機質な壁にもたれ座り、汗の溜まりを作り続けながら荒げた息を整える男がいる。
まぁ、俺なんだけどね!
今日はオルコットさんに宣戦布告という名の一方的蹂躙予告をされた日から3日目。
あの日から放課後はひたすらISの訓練をしている。といっても他の人も訓練機の予約入れているから、何時間もぶっ通しでやっているわけじゃない。
それでも入学式からまだ一週間。一年生はISに触れることを躊躇っているからなのか、ISのことを忘れているからなのかはわからないが予約の人数はごくわずか。
二年生は操縦に慣れてきたからなのか、ISにはまっているからなのかわからないがいつも予約枠の4割を占めている。
三年生は本当にISが好きだからなのか、さすがにもう飽きてきたからなのか分からないが予約人数はそれなりだ。
そして空いてた枠全部に内海秋彦の名前を入れた結果が、
「はぁはぁ・・・・マジで・・・死ねる。」
満身創痍の今の俺。
ん?いくら多めに枠取ったからってそんなになるのかって?
ならば、説明しよう。
ISの操縦はイメージインターフェースを介しているため、IS適性が低いと自分のイメージと機体の動きにタイムラグが発生する。
つまり体を動かそうとすると肉体に遅れて機体がついてくるということだ。ウィキに書いてあった。
当然、女でもない俺はIS適性が低いのだろう。ラグが通常より多く出るのも仕方がない。
そこで俺は考えた。
ラグをあるならなくせばいい
自分の肉体、筋肉、腕っ節一つで機体をラグの分動かせば、ラグがきれいになくなりました。
代わりに筋細胞が破壊されます。もう、腕パンパン。
実はIS両腕部だけで2、30キロあるんだぜ、これ。その金属の塊共を3時間も動かせばこうもなるよ。
+αでタイムラグ分相手の行動を予測しないといけない。これは・・・・・・もう知らん。NTでもない俺は未来予知なんて出来ん。
「別にできなくても俺のしたいことはできるし・・・」
俺のISランクってどれくらいなんだろうか?明日織斑先生に聞いてみよう。
そういえば織斑、まだISに乗ったところ見てないけどやる気あんのか?個人的にはオルコットさんに再起不能になるまでメタメタにしてほしい、切実に。
まぁ 俺がこの調子じゃたかが知れてるかな?
「・・・・・・いや、ないな。」
とつぶやき、残り僅かのアクエリアスを飲み干す。
「格納庫、閉めますよー」
どうやら担当の先生が戸締りをしに来たようだ。
「はーい、今出まーす。」
よし、息は整ったな。
先生に軽く会釈し脇を通り、核シェルターのような分厚い扉をくぐる。
ブーー ブーー ブーー
ブザー音とともに扉が閉まり始める。
ふと立ち止まり通路の隅のゴミ箱を見つめる。
「・・・・・」
手元の空のペットボトル一瞬一瞥し、
投げる。
コン カランカランカラン
「今日も入んなかったか。」
*********
試合当日
「織斑。お前のISだが、学園で専用機を用意する。」
「へ?」
三時間目が終わり、することもなくボーっとしていたらそんなことが聞こえてきた。
「せ、専用機!? 一年の、しかも、この時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるって事で……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ。」
専用機か・・・。専用機ってのはあれだろ?隊長専用にチェーンアップされた量産機とは一線を画すパーソナルカラーの持つことの許された機体だろ?いいねぇ。色があるってのは良い。赤い彗星のなんとかとか呼ばれてみたい。カラーリングだけでもいいから自由にさせてくんないかな?俺は断然、赤色だね。
「あの人は関係ない!」
反射的に体が跳ねる。
急に大声を出されたらびっくりするじゃないか。
「びっくりした~。」
突如、皆の冷ややかな視線を浴びる。
あ、つい声に・・・ものすごくとぼけた声が出た気がする。
「あ、ごめん。続けて。」
しばらく沈黙が続く。
・・・・・・あれ?もしかして話の腰を修復不可能なくらいバッキバキに折っちゃた?
誰かなんとかしてー
「ちふ・・織斑先生。」
まさかお前が対処するとはおもわなんだ。
「なんだ。」
「秋彦にはその専用機は用意されないんですか?」
バカ。お前・・・察しろよ。
「・・・ああ、用意されたのは織斑だけだ。」
当然だ。こんな奴に投資する奴なんていないよ。
「それって期待されてないってことだよね。」
「織斑君よりも年上なのになんかダサーい。」
だからそのヒソヒソは全部聞こえてます。
しかしこれではっきりした。政府は俺をデータ採集で使わないほど期待してないということだ。仮にも男性適合者なのにだ。理由としては予算の問題か・・・俺をいない者として扱っているか忘れているか。後者だったら最高だ。
「それじゃあ不公平じゃないですか。秋彦だけ専用機じゃないっていうのは。」
織斑先生は堪えたような表情をしている。
「・・・内海に専用機は用意されない。」
「でも」
「しつこいなぁお前。公平だったらつまらないじゃないか。」
戦いってものは不公平の中、不平等の中でやるものだ。そこに公平なんてない。と、かっこつけてみたり。
「秋「先生、鐘が鳴りそうですよ。」」
織斑の声にかぶせて遮る
織斑先生がアイコンタクトで礼を言ってきた。俺と織斑先生はすでにそんな仲なのだよ。あの目は礼を言ってる、言ってるに違いない、言ってるはず、言ってると思う、言ってるかも、言ってたらいいなぁ。
「・・・そうだな。さて授業を始めるぞ。山田先生、号令。」
「は、はいっ。」
織斑がもの言いたげな顔をしてたが無視無視。
次の休み時間にこっち来やがったら毒舌見舞ってやる。
************
放課後 第三アリーナ ピット内
壁に寄りかかり、スマホでアニメの熱いシーンを見てテンションを上げていると織斑先生が声をかけてきた。
「織斑の機体がまだ届いてない。そこで内海には一番目にオルコットと試合をしてもらう。」
「マジでか・・・いや、わかりました。」
なんか織斑の時間稼ぎの当て馬にされた感じ・・・。いや、そんな意図が先生にはないっていうのはわかってるよ。結果織斑のためになるってのが気に食わん。よし、織斑先生のためってことで。
セッティングされているラファールに向かう途中、誰かに話しかけられた。
「秋彦、頑張れよ!!」
あれ、織斑いたのか。全然気づかんかったな。女なんぞ侍らせやがって。今日一日中その子と一緒だったよな。暇人だな、二人とも。
それと俺に向かって「頑張れ」って言うな。「頑張れ」って言われるとやる気なくす人種だから。
「俺の神経逆撫でするの得意だな。」
ぼやきながらラファールに乗り込む。
「よいしょっと、はぁ~。」
歳より臭い声をだし腰を下ろすと共にため息が漏れる。
「ため息なんぞついてどうした。」
織斑先生がプライベートチャンネルで通信してきた。
「いえ、ちょっと疲れたなーと思って。」
「これから試合をするのに何を言っているんだ。」
「あはは、いやー全く。」
毎時間織斑をあしらうのには疲れたんです。やれお前はそれでいいのか、やれやっぱり不公平だとか。鬱陶しいことこの上なっかた。俺の怒りケージが蓄積されてってカムチャッカファイヤーぐらいになった。どうしてくれんだよ。
当事者の俺は納得してるのにお前が納得してないことを俺に話されてもどうしようもない。自分本位な奴だな。人間だれしも自分が一番だけど、俺以上だと思う。
まだ怒りケージはそのままだからな。
「・・・・すまないな。織斑の時間稼ぎをさせるような真似をさせてしまって。」
流石や・・・織斑先生。俺の心情を理解してくれるなんて。涙もんです。
「全然いいですよ。織斑先生には仮設住宅の件でお世話になりましたから。」
「あれもこちら側の責任なんだがな。しかしそう言ってもらえると助かる。」
「トイレはどうにかして欲しかったんですけどね。トイレまで3分って。あっははは。」
「ははは。」
「いや、わりと本気で。」
「すまない。」
「冗談ですよ。水道を引くわけにもいきませんからね」
「私に向かって冗談を言うか。意外に図太いな。・・・さて、時間だ。行って来い。」
「ヤー」
ゲート・ピット、所謂カタパルトに機体をセット。
「内海君、いつでもいいですよ。」
オペは山田先生か。・・・よし!
「山田先生、ちょっとお願いがあるんですけど」
「は、はい!何でも言ってください!!」
そんなに頼られるのがうれしいか。
「―レ―――から―――へ――ミン――」
「ええぇ!?な、なんでそんなこと・・・」
「モチベーションを上げるためですよ。」
「これで上がるものなんですか?」
「そんなもんです。」
「わ、わかりました。頑張ります!」
機体の発進は"あれ"やるだろ"あれ"。JKJK。
「それでは」
「ト、トレミーからラフォール・リヴァイブへ、射出タイミングを内海秋彦に譲渡します。」
「了解。ラフォール・イヴァイブ。内海秋彦、出る!!」
セリフを言えるのは楽しいね。
なぜ00なのかというと、さっきまでスマホで見てたから。
体に程よいGを受け、室内の人工的な光から熱を感じることのできる自然の光に身を晒していく。
―――――IS両腕部だけで2、30キロある
自己解釈:それくらいあるんじゃないかなぁー
次回、内海秋彦 最初で最後の見せ場(ぇ
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五話
にしてもPHPの導入がクソめんどくさい件について
アリーナ上空にはISが二機。
海の色を思わせる青色のIS-セシリア・オルコットんの搭乗するブルー・ティアーズは機体のぶれもなく空中に悠然と鎮座している。
対するの深緑のIS-内海秋彦の搭乗するラファール・リヴァイブは、飛び方を覚えた鳥の様にふらふらと汚い蛇行を描きながらブルー・ティアーズに近づいていく。
彼の飛行は見る者を心配させるよな危なっかしいものだが、当の本人は、
「夜空を~駆ける~ラブハ~♪燃えるお~もいをの~せて~♪」
熱唱中だ。
試合のプレッシャーなどは微塵も感じさせないとてもいい笑顔だ。
実を言うと秋彦はISが嫌いというわけではない。「飛ぶ」という新感覚は秋彦の肌にあったようで、かといって毎日飛びたいというほどでもない。
まぁ、つまり嫌いでもなく好きでもない。それでも坂道を自転車で下るような爽快感は歌いたくもなる。
「突撃ラブハ~ト♪」
ちょうどセシリアの前で歌い終わり、空中に静止する。
「わたくしとの勝負の前に歌うなんて随分と余裕ですわね。」
セシリアは不機嫌な顔を隠そうともしない。
「その余裕をすぐになくして差し上げます。そのバカにしたような態度も一緒にですわ。」
十代半ばとはいえやはり貴族生まれ。その高らかな宣言はとても様になっていた。
「別にバカにしているわけじゃないよ。そう、ただ風を感じながら飛んでると歌いたくなったんだ。ただそれだけだよ。オルコットさんを侮辱しようと思ったわけじゃないんだ。わかってくれ。しかし俺のせいで気分を害したのなら謝罪するのもやぶさかではない。謝ろう。」
テンションが上がってるからなのかやや饒舌にセリフがかってしゃべる。
「その上からものをいう態度が気に食わないのですわ!わたくしは貴族、あなたは庶民!わたくしは女性、あなたは男性!あなたに必要なのは跪いて許しを請うことですわ!!」
秋彦はそこに食いつく。
「その"貴族"っていうのがいまいち分からないんだ。日本にはイギリスみたく貴族制がなくてな、身分が曖昧なんだ、多分。上流下流はあるけど、相手どちらかなんてわからないのでして。」
秋彦は眉をさげてこちらも困っているんだ、というような顔する。
「ところで俺はこう見えてもイギリスという国には興味があってだな。"貴族"というものもぜひ知りたいんだ。」
腕を広げて聞いてくれと言わんばかりに話しかける。
「"貴族"ってものを文章でしか知らないから俺はこんな態度をとってしまうのかもしれない。実は"貴族である"ってのは庶民の俺が思いもよらない素晴らしいことだったなら、俺は恥ずかしくてたまらないんだ。」
胸に手も平を当て同情を誘う。
「"貴族"てのを知ったら俺の考えも変わるかもしれない。跪いて額に土をつけて許しを請うかもしれない。・・・だから教えてくれないか?その、貴族の素晴らしさって奴を。オルコット"様"?」
「そのことは後で」
「まさか庶民の俺からのお願いを無下になんかしないよな。貴族なんだから。観覧席のみんなも聞きたいんじゃないかな?」
胸の前で手のひらを合わせる。
いかにも何か企んでいるような媚びへつらい方。勿論、秋彦は企んでる。彼女の気をそらすためだ。どこぞのカリブの海賊のような話術で相手を誘い込む。
だが相手は両親が事故で亡くなってから一人で家名を守ってきたセシリア・オルコット、このような手には引っかかるはずが――
「そこまでおしゃるならいいでしょう。英国貴族のなんたるかを教えてさしあげますわ。」
――あった。試合中なのにである。それもかなりノリノリのご様子。
試合後に教えるという逃げ道を封じられたセシリアは、どうせならモニターで見ている織斑一夏にも聞かせてやろうじゃないかと考えた。
秋彦の作戦どうり、セシリアは熱を持って語り始めた。
「そもそも貴族―この場合ヨーロッパ貴族を指しますが―の歴史は古代ギリシャ、古代ローマまでさかのぼりますわ。その時代の貴族は」
「ふむふむ」
シールドピアースはピットでコール済み。
「爵位は大きく分けて公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵がありますわ。そのほかに準男爵、騎士爵がありこの二つは」
「へー」
少しずつセシリアに接近。
「ノーブレス・オブリージュとは我々貴族の誇りに賭けて全うしなくてはならない義務であり」
「・・・・」
目だけを標的に合わせ外さないよう集中し
構えて・・・・撃つ!!
「ですから貴族というのは、素晴「目前IS、射撃形態へ移」きゃあ!!」
シールドピアースの一弾目が命中する。不意打ちと言うほかない完璧な不意打ちだ。
ラッキー、当たった。あと二発くらいは当たってほしいなぁ。
秋彦は息つく暇を与えないよう次弾を装填、発射。
「あ、あなた!!何を、ぐぅっ!?」
二弾目、命中。
「そう、何発も、当たり、ませんわ!!」
シールドピアースはISの中でも高い威力を持つ武装だ。素人の射撃だと一目で分かるがセシリアは慎重に弾を避けていく。
三弾目、四弾目、五弾目、六弾目 かすりもせず。
秋彦はすぐさま弾切れのシールドピアースをパージする。
「あなたから話を振っておきながら何なのですか!?」
「話に熱中してたからね。不意打ち、させてもらいました。」
秋彦は悪びれもなく、当然のごとく応える。
「それに試合も始まってたし・・・試合には集中しないとだめだぞ、オルコットさん。」
「男のくせに・・・貴族を・・・わたくしをコケにするなんて!恥を知りなさい!!」
「それくらい知ってるさ。耳に心と書いて”恥”読むんだよ。そんなことより次、行こうか。」
秋彦はにっこり笑みを見せある物を取り出す。
「・・・・それは何なのですの?」
「見ての通りだよ。」
秋彦は筒状の物を抱えてる。それも大量に。
「ファイヤー」
筒を抱きかかえるように屈み
「インザ」
全身ののばねを利用して
「ホーーール!!」
上空にばらまく。
長年追い続けた夢が叶ったように。
幾年焦がれた恋が成就したように。
積年苦しんだ恨みが晴らせたように。
両手を上げ天を仰ぐ。
「っ!?」
自分の頭上にグレネードを放り投げるという、自殺行為な奇行を前にしたセシリアの行動は早かった。秋彦から距離をとり油断なくライフルを構える。先の不意打ちの怒りに任せて撃ちまくりたいのはやまやまだが、わざわざ自滅してくれるのだ。不意打ちをして、いざ向かい合えばグレネードで自爆。これほど滑稽なものはない。
このまま爆発に巻き込まれて落ちてしまえ。あの数のグレネードだ。一瞬でエネルギーが底をつくだろう。逃げようとすれば牽制射撃で動きを封じればいい。不意打ちをされたとはいえ自分の勝ちは揺るぎない。
彼と目が合い先ほどと変わらず不敵な笑みを浮かべていた。
ドンッ
「え?・・・・」
唸るような音と共に広がるは黒い煙と白銀の紙吹雪。
くっ!?まさかただのグレネードではなくチャフスモークだったとは・・・・予想していなかった。しかもアリーナを覆うほどの量。チャフのせいでレーダーの類は機能しない。ハイパーセンサーもスモークで意味をなさない。肉眼だけだ。だがそれは相手も同じ。所詮素人の使う手。悪あがきに過ぎない。煙が晴れたら叩きのめして醜態をさらしてやる。
「とか考えてんだろうなぁー」
うん、わかるよ。俺だって自分より明らかに弱い相手の持ち札なんて考えないよ。だって自分の方が強いからね。
だからその慢心を突いてみた。
これが、まぁ怖いくらいにうまくいったね。
「強いは弱い、弱いは強いってね。」
奴さん、動かないね。スラスター音が聞こえない。
「さてさて・・・ここからが難しいところ。」
秋彦はバスケットボールよりも一回り大きい、赤道に窪みの出来た金属の玉を領域から取り出す。
それを
「点ではなく面での攻撃って隊長が言ってた。」
頭上にやさしくほうり上げる。
キュイイィィィィィィン
突如、回転を始め、窪みから黒い塊を吐き出す。
爆弾だ。
広範囲殲滅用投下型爆弾。あらかじめ設定した範囲に爆弾をばらまく兵器。
「なんですの!?今の音!?」
セシリアが音の方向に銃口を向ける。
ィィィィ・・・ィィィン
何かが・・・回転する音?
回転・・・ドリル?・・・ドリルで突撃してくるつもりなんですの!?
回転音が止む。
セシリアは靄の先を用心深く見つめ突撃に備える。
だが
ドガンッ
衝撃は真上から来た。音の割に、軽く頭をはたかれたような小さい衝撃だ。
生身の人間が当たれば即死の爆弾も、ISにとってはその程度の物。
「う、上!?」
セシリアは真上に射撃をしつつ高度を下げ移動するが、
「きゃぁ!!また上から!?」
またしても被弾。
爆弾は秋彦を中心に傘状に投下されてる。被弾したからといって場所を変えると別の爆弾に当たる。加えてセシリアは秋彦がグレネード投げた時に壁際まで後退したため、外から内に向かっての移動。つまり一番爆弾に当たる方法で移動していた。
勿論、秋彦はそんな方法があるなんて知りもしないし考えもつかなかった。偶然である。
結局セシリアは4回も被弾してしまった。減ったエネルギーは極少である。
「このわたくしが1度ならず4度も当たるなんて・・・」
焦燥した顔で呟く。
ボボボボボンッ
「今度は何ですの!?」
残りの爆弾が落ちる音にセシリアが過敏に反応する。
同時に煙が晴れる。
「タイミングいいねぇ。演出にはもってこいだ。」
セシリアは声が聞こえた方に振り向く。
やっとあの男を叩きのめせる!速く撃たせて頂戴!!
そこにはISから降り、腰を掛けている秋彦がいた。腕を組んでポーズをとってるように見えなくもない。
「・・・・あなた・・なぜISから降りているんですの?」
「ん~?こうしとけばオルコットさんは攻撃できないから」
「なっ!?」
セシリアにとってこれはたまったもんじゃない。溜まった鬱憤を晴らす相手が生身では殺してしまうじゃないか。
「まだ勝負はついてませんわよ!!」
「うん。じゃぁ付けよう。」
「え?」
「もしもし?山田先生聞こえてます?」
「あなた、何して・・」
どこから取り出したのかインカムで山田先生に通信をとる。
『え!?あ、はい!聞こえてます!大丈夫です!はい!!』
「本当に大丈夫ですか?」
『大丈夫です!で、どうしたんですか?まだ試合中ですよ?ISからも降りてますし・・・』
「えーとですね。」
『はい』
「降参します。」
―――――――突撃ラブハート
俺の歌を聴けーーー!!!
―――――――英国貴族
セシリアってここまで貴族に対してプライド持ってたっけ?
―――――――どこぞのカリブの海賊
”キャプテン”だ。
―――――――強いは弱い、弱いは強い
マンイーターが言ってたけど他の作品でも言ってた気がする
―――――――点ではなく面での攻撃
やっつけちまおうぜ。
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六話
アリーナには静まり返る観客。電光掲示板には「WIN セシリア・オルコット」の表示。
「お待ちなさい!!」
アリーナを去ろうとする秋彦の背中に言葉を投げかける。
「ん?」
「降参なんて・・・そんなこと認めませんわ!!」
「どうして?この試合は俺の負け、オルコットさんの勝ち、それでいいじゃないか。」
「よくありません!!あんな卑怯な戦い方をした挙句、降参なんて・・」
セシリアにとってこのまま終わるわけにわいかない。内に溜まったストレスをどう発散すればいい。次の試合の一夏で発散するという手もあるが、ここは秋彦じゃなくては意味がない。
「俺からしたらこの試合は勝ち目なんてないからな。撤退戦、退却戦に等しいんだ。」
「撤退戦・・・」
「撤退戦、退却戦で重要なのは後退しながらいかに相手に深手を負わすのか。まあ、逃げに徹するという手もあるけど。俺は出来の悪い頭をフルに使って考えた。勝ち戦なんだけども被害甚大。そういうの。」
身振り手振りを交え語っていく。
「それで考えたのが今の俺とオルコットさんのエネルギー残量の差。俺がほぼ無傷でオルコットさんが70%。これだけ見たらまるで俺が勝ったみたいに見えるだろ?試合には負けて勝負には勝ったって奴だな。」
「っ!?フェアにやっていたら勝負でもわたくしが勝っていました!!」
「だったら俺にとっちゃフェアにやる意味はないな。先も言った通り、俺の勝利条件がそれなんだ。ここまでうまく運ぶとは思わなかったけど。先生と隊長のおかげかな。・・・さて、試合だって終わたんだ.いい加減諦めてくれよ。それじゃ、次の試合で織斑のことボロボロにしてっやってくれ。応援してる。」
最後はまくしたてるように話を切り上げアリーナを去る。
「このっ・・・覚えていなさい!!」
秋彦はその言葉を受け流し
「あ、でもファンネルは見たかったかな」
*****************************
ピットに戻ってきた俺は早々にエネルギーの補充と装備を整える。
はぁ~~~疲れた。帰ってシャワー浴びて寝たい。帰っていい?ねぇ帰っていい?
「なんだ!?あの戦いは!!」
ポニテの女の子が怒鳴ってきた。意識が朦朧としてるからこもって聞こえる。ところでポニーテ―ルとホーステールの違いって何なの?わからん。
「え!?ダメ!?」
「ダメに決まってるだろ!!」
あ、これメンドクサイやつだ絶対そうだ。
「え?なぜ?」
「男なら正々堂々と戦え!!あんな戦い方して恥ずかしくないのか?」
「俺ももうちょっと、その・・・良い戦い方があったと思うぞ。」
織斑も便乗してきた。ダメだ。、もう冷めた目でしか見れない。
「あー、今思えばそーだなー。うわー恥ずかしくなってきたーちょっと向こうで反省してくるから話しかけないでね。」
「え?あ!ちょ」
まさか頑張ったことを咎められるとは思わなかった。俺は君の思い描いてる男性像とは違うんだよ。本当に気分が悪い。本当に。
隅の方に座り体を休め、2Lポカリをがぶがぶと飲む。
「痛ッ」
汗の雫が目に入る。改めて自分の体を見る。機体に体を押し付けすぎてできた痣、水を浴びたかのように湿った髪。
「汗だくで気持ち悪い・・・」
タオル用意しといてよかった。向こうからISの射出音が聞こえたからやっと出たのか。・・・やばい眠くなってきた。
相変わらずの凛々しさで織斑先生が話しかけてきた。
「試合、ご苦労だった。内海」
「はい、ご苦労様です。」
「お前があんな戦い方をするとはな。」
「先生も正々堂々とかいうんですか?」
口を尖らせムッとした顔になる。
「出来ればそうして欲しかったが、それよりもあんな戦い方をしてよかったのかということだ。あれではお前に対する風当たりがさらに強くなるぞ。」
「そうなんですよねー。何であんな作戦考えたんだろう。計画性なさすぎだろ。一時のテンションに任せると身を亡ぼすって銀さん言ってたのに。」
一週間前まで敵味方作らないとかそれなりの付き合いはさせてもらうとかほざいてたのに、キャラぶれすぎだろ、俺。オルコットさんに嫌われちゃったかな。でも最初から嫌われてたような。
「でも・・・大丈夫ですよ。なんとか・・なりますから。そう・・なんとか・・・ZZZZzzzz」
*********************
・・み・・お・・い。・・みくん・き・・さい。内海君起きてください!!
「・・ッピラフ!!」
内海秋彦起きました眠いですはい。
「え、何でピラフ」
「あれ、山田先生おはようございます。」
「おはようございます。じゃなくて!!」
お、山田先生のノリツッコミ。これは貴重だ。
「織斑君との試合が始まるので準備してください!」
あーそんなのあったな。気が乗らんな。眠いから。
「了解です。あーもしかして俺待ちですか?」
「はい。織斑君はもう出てますよ。」
気が早いねー。もうちょっとのんびりさせてくれよ。
「んーーーー」
伸びをして体の倦怠感を吹き飛ばす。
やりたいようにやろう。それが一番体にいい。うん。
じゃ、即効で終わらせよう。何故かって?眠いから。
流れるようにISに乗りピットから射出。あっという間に織斑と向かい合う。観客席からはブーイング。
やっぱホバリングってムズイ。
「お!やっと来たか。千冬姉が言ってたけど寝てたのか?」
「ああ、結構疲れてたし」
先生そういうこと言わなくていいから。
「それ織斑の専用機?」
「おう、白式ってんだ。」
「百式!?」
「いや”ビャクシキ”」
なんだ、つまんねー。名前を百式に変えて山吹色に塗り替えてこい。
ところで
「織斑、オルコットさんとの試合どうだった?」
まぁ、イケメンだろうと世界一の弟だろうと素人だからそりゃもうボコボコに
「いやーもうちょっとで勝てそうだったんだけどな。惜しいところまでいったよ」
・・・・ウソだろ。いやオルコットさんが手を抜きすぎたってことも
「セシリアの奴、秋彦の試合の後だからものすごく怒っててな。あれは正直怖かった。」
・・・・・
「織斑、お前ISランクどれくらい?」
「えっと確かBランクだったはずだ。」
・・・神様は残酷とはよく言ったもんだ。残酷なのは天使だけ十分。
ちなみにおれのランクは E だ。最低ランクだ。おちこぼれだ。何でIS動かせんの?ってレベルだ。織斑先生も二度見するほどの低さ。
だが、あえて言おう。
「それがどうした。」
「なんか言ったか?それよりもそろそろ始めようぜ。秋彦と戦うの結構楽しみにしてたんだ。」
「それがどうした!!」
「うわぁ!?」
「くらいやがれ!超必殺!!飛鳥文化、じゃなかった、神風アタァァァック!!」
ただの突進である。
「うおぉぉぉぉ!?」
秋彦の奇行に咄嗟に雪片を振り下ろす。
ギンッ
零落白夜というスキル付与の斬撃が秋彦にヒットしシールドエネルギーをごっそり持っていくが一撃必殺とまではいかない。
「ん?あれ?・・まぁいいや。」
そのまま白式に取り付く。
「うお!?神風アタックてただの組み付きじゃねぇか!!」
「グレネ~ド、カモン!!」
白式とラファールの間に大量のグレネードをコール。
「え、あ」
「スマブラのドンキーで道連れする奴って最悪だよねー。まあ、俺だけど。」
ズガァァァァァン
ドンッ ドンッ
爆発の中からISが二機墜落する。
「し、死ぬかと思った・・・。」
まさか秋彦が自爆するなんて。いくら一夏で物申したいことがある。
「あれはないだろ!!秋・・」
秋彦の墜落した方を見ると
「アハハハ八ハハハッハハ!グレネードってこんな面白いのか!!なんか爆発に目覚めそう!!あぶねぇよ!!俺の思想があぶねぇよ!!アッハハハハハッハハ!爆発は芸術ってか!!逆だよ!芸術は爆発だよ!!ハハハッハハ!!!岡本太郎さんすいませぇぇぇん、ついでにデイダラも!!アッハハハハハ、ハ、グッ、ゴホッゲホッゲホッ、変な所入っちゃったこれ。アハハハアハハ!!」
ブチ壊れていた。
「え?秋彦?本当に秋彦か??」
爆発の衝撃で頭がおかしくなったんじゃないかと疑うほどの狂いっぷりに一夏は我目を疑う。
「ハハハッハ?あれ?織斑?なんだ生きてたのか。あわよくば爆殺してやろうと思ったのに。ってエネルギー少なかった俺が生きてんだから当たり前か。アハハハ!!」
一夏は目の前の出来事が全く理解できない。一夏にとって秋彦は年上なのに気取った所があまりなく、自分の話をよく聞いてくれる友人だった。食事に誘い断られたこともあるが、やっぱりまだ年下の中での食事は抵抗があるのかとも思った。それがこんな・・・
『いつまでそこにいる。試合はとっくに終わっているぞ!さっさと戻て来い!!』
千冬のアナウンスが流れる。
電光掲示板には「WIN 織斑 一夏」。秋彦のエネルギーは底をついている。
「さてと、帰って寝よ。」
秋彦はそのままアリーナを後にしてしまう。残るは幽霊でも見たような顔をした一夏のみ。
**********************
ピット内
「もう絶対にあんなことしたらダメですからね!!」
絶賛山田先生の説教中
「わかりました。絶対にしませんから。ね?」
「絶対ですよ?自爆なんてお互いに怪我する可能性だってあるんですから。しかも一度にあんな大量のグレネードを」
あんな大自爆したらいくらISを身に着けていたとしても怪我の一つや二つできてもおかしくないとのこと。
「もうしませんね?約束ですよ?」
「はい、約束です。じゃあ俺疲れたんでお先に失礼します。」
ピットを出るとき、生徒ととの秘密の約束・・・きゃ、そんな、ダメ。って聞こえたけど山田先生て妄想家なのか。メモメモ。
狂った件について聞かれなかったのは通信を全部切っていたため。だからあの狂人内海秋彦を知ってるのは織斑だけだ。・・・いや、オルコットさんの時以上にテンション上がりすぎて、思ったこと全部口に出しただけなんだけどね。
着替えてから飯を食い、家(仮)に帰る。食堂や帰路でいろんな生徒とすれ違ったけど、試合前よりも突き刺さる視線の鋭さが増していた。舌打ちとかもされた。
そりゃそうか。国籍は違うとはいえ女性代表ともいえるオルコットさんと、皆のアイドル織斑をここまでこけにしたんだから。
さてここで目標を修正しよう。て言っても下方修正だけどね。平穏に学園で生きるという目標が頓挫したことにより新たな目標を立てよう。
正直、大多数の悪感情を消すなんてことは無理。さらに今日の試合みたいに自分を抑えられそうにない。楽しめることは精一杯楽しむ主義だから。
つまり悪感情をこれ以上持たれないようにして学園生活を楽しむ。・・・難しい。まさしく出るとこは出て引くとこは引くといった具合だ。
まあ・・・・なるようになるかな。
家(仮)の前で立ち止まる。
・・・・・・
「仕事はえーな、おい。」
俺の家(仮)の壁には落書きがされていた。
"卑怯者"とか"男のくせに調子に乗るな"とか"タヒね"とか。15個くらい。
「オルコットさんの試合が終わったのが30分前だから、まさしく仕事HAEEEEEEだな」
これ書いたのって織斑信者じゃなくて女尊男卑主義者だな。織斑好きが織斑の試合を見逃すわけないし。織斑信者なら"織斑君に近づくな"とか書いてそう。
「って明らかに女の子の字で"男の面汚し"って書いてるし。それ男卑の考え持ってる人が言うべき言葉じゃないと思う。」
ピキーン。閃いた。一度家に入り、ある物を取って再度外へ。
「よーし。赤ペン先生、採点しちゃうぞー。」
キュポンとペンのキャップをとる。
「"これはあなたが言う言葉ではありません。-10点"。"漢字が違います。正しくは漢です。-8点"。"漢字で書きましょう。バカではなく馬鹿。-5点"。"間違った字は塗りつぶさずに消しゴム、もしくは修正液で消しましょう。今回は初めてなので減点はしませんが、次回から気を付けましょう。"」
減点式である。
「ふむ38点か。まだまだだな。最後に全体の評価でも書いてやるか。」
自分の家に落書きというシュールな光景がある。
"全体的に言葉がありきたりです。もっと心をえぐる言葉を書きましょう。文字の形も女の子ぽくかわいく見えてしまうので臨場感あふれる文字を使いましょう。漢字の小さなミス目立ちます。注意してください。最後に「タヒね」という言葉ですが、次回も使う場合は自信を持って上の棒を書いてみましょう。次回は60点を超えましょう。"
「よし!!ばっちり!!」
ちなみに俺はMではない。Mではない。
シャワーも浴び、布団も敷き寝転がる。
「はぁ~~~この一時のために生きてるようなもんだ。気持ちいいー」
洗い立ての肌が布団の生地に擦れる感覚を味わう。
今日は濃い一日にだった。
初めてのISの試合オルコット戦と織斑戦。急降下する俺に対する感情。そして山田先生は妄想家という新事実。
一番驚いたのは織斑のISランクの高さだ。Bランクってそこらの女子より高いよな。何?ランクって女子力に比例すんの?家事全般できるからISランク高いとか?今の時代主夫が多いからそんなことないか。本当は女って方が信憑性がある。
そもそもなんで俺と織斑がISを動かせるのか・・・・考察してみよう。
ISが「男」と「女」を区別していると仮定する。男と女の違いは、ついてるか、ついてないか。体の形、性染色体の組合せ。でも俺たちは動かせる。俺たちの"何か"が女性に限りなく近い。もしくは仮定そのものが間違っている。
┏俺たちの"何か"が女性の"何か"に限りなく近い
男と女を区別している━でも俺たちは動かせる━┫
┗そもそもISは男と女を区別していない
・・・なんかしっくりこない。
次にISが「動かせる人」と「動かせない人」で区別してると仮定するとうまくいく。「動かせる」カテゴリに女と織斑、俺を入れればいいだけだ。ただそれだと・・・誰かが意図的に織斑と俺をそのカテゴリに入れたことになる。全てのISの設定を変更したことになる。そんなことできる人。
そういえばIS開発者は織斑先生の知り合いだったはず。開発者ならその辺をいじくれる。織斑だけならまだわかる。でもなぜ俺も?開発者の気まぐれか。何か不手際でもあったのか。・・・俺と織斑の"何か"が同じ。
うわーそれは本当勘弁してほしい。下手したら遺伝子レベルで同じかもしれない。だったら舌噛んで死んでやる。
これ以上考えるのはやめよう。どんどん嫌な方向に進んでしまう。
そういえば織斑の斬撃を食らった時、なんか違和感があった。なんだろう?
・・・・わかんね。別にいいか。寝よ寝よ。
明日はオルコットさんに謝ろう。
―――――――飛鳥文化アタック
私は摂政だぞ。
―――――――芸術は爆発だ。
by岡本太郎
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七話
早朝、秋彦は難しい顔をして教室へ歩みを進めていた。
一点を見つめてると思えば首をひねり、空を見上げたかと思えば眉を顰めたり。
秋彦は昨日の模擬戦でセシリアに対して、罪悪感に似た何とも言えない感情を抱いてしまった。
それが不意打ちに対してなのか、逃げるように降参したことに対してなのか自身でもわからない。
ただ謝らなければならないという思いがあるのは確かだ。
しかし先の通り何に対して謝ればいいのか。
秋彦はこの手の感情が大嫌いだ。自分の行動によって人が傷つき、そして"嫌われないか"という考えが付きまとう。その後友好的な態度をとられても"本当は嫌ってるんじゃ・・・"と考え、嫌われるようなことをした自分を嫌悪。そして無限ループ。
名前も知らない他人ならまだしも、セシリアは本音をぶつけるため好感が持ててしまう。
さっさと謝ってこの感情を払拭しないと精神衛生上悪い。ちょっとだけ。
あーでもない、こうでもないと謝る理由を見つけられないまま教室の扉の前へ。
教室に入れば多くの視線と罵声。入学してからの一週間、ようやくなりを潜めてきたのに今度は質も量も増えていた。
「うわ、卑怯者が来たよ。」
「よく顔見せれるよね。何考えてんだか。」
「あんなのと同じクラスとかホント恥ずかしいわ。」
一夏がまだ来ていないことをいいことに言いたい放題の生徒。
今、内海はそんなものは気にしていない。
教室を見渡し、彼女―セシリア―を見つける。堂々とした眼差しを持ちこちらに向かっている。
お互いの視線が絡み合うがどちらも目を逸らさない。
そして教室の後ろ側―最もスペースのある場所で対峙する。これから喧嘩でも始めそうな雰囲気に周りは静まり返る。
先に口を開いたのは秋彦、だが、
「オルコッ「内海さん」はい。」
出ばなをくじくかのように秋彦の言葉を遮る。
「一つだけ、あなたに言いたいことがあります。」
「・・・どうぞ。」
恐る恐る先を促す。
十中八九、昨日のことに対してなんだろうが。どんな罵倒が出てくるやら。
「私はあなたが嫌いです。」
「うん?」
予想のななめ上の罵倒だ。
「軽薄な態度が嫌いです。悟ったような物腰が嫌いです。コロコロと変わる口調が嫌いです・・・昨日、あのような屈辱を与えたあなたが大嫌いですわ!!」
「・・・そう。・・・なんで俺に直接言うんだ?」
「・・・・?。あなたに言わずに誰に言うんですか?こんなこと。」
「・・・・・・」
もっともな意見だ。だが嫌いな人間に嫌いと言える人は極わずか。
実際、秋彦に直接突っかかってきたのは今の所セシリアだけだ。そう考えるとセシリアはやはり感情をぶつける人のようだ。
「でも、それ。言う必要ある?」
「ありますわ。私に嫌われてることを自覚してもらわないと・・・。話しかけられると耳障りでしてよ。」
あなたは嫌われてるから話しかけるなと。もっと言えば関わるなと。随分な言いようである。
しかし、秋彦はそんな言葉を聞いても存外にすがすがしい表情だ。
前述の通り、本音を吐露してくれた方が秋彦にとっては気分がいい。
しかしそんな良い?気分に水を差す輩がいる。
「ははは。言われてやんの。」
「やめなよ。泣いちゃうわよ。」
「むしろ自殺しちゃわない?それはそれで面白いけど。」
そんな言葉がどこからともなく聞こえる。
お前らなぁ
せっかく、色々と波風立たせないように気を使ってるのに・・・・・
「・・・・」
誰が?俺が。
誰に?そこで毒吐いてるやつらに。
「あーあ・・・・・めんどくせぇ」
「何かおっしゃいましたか?」
突如、目が半開きになり一切のやる気が霧散した秋彦の異変にセシリアが気づく。
「んにゃ・・・別にー」
そういえばオルコットさんに言うことあったんだ。
「話しかけるなとか言われといて悪いんだけど、俺も一言、言いたいことがあるんだけどいいかな?」
「・・・・構いませんわ。」
「昨日の試合の件について」
「ごめん。」
「は?」
「ああ、勘違いしないでくれよ。許して欲しいわけじゃないんだ。俺が謝りたいから謝っただけだから。」
ツンデレテンプレセリフそのままだ。
「そんなこと別に聞いてませんわよ。ただあなたも謝罪くらいはできるんですのね。」
「ははは、ひどい言われようだ。」
秋彦は自虐的に笑う。
「それにしても嫌いな人に直接--それも公衆の面前で大嫌い宣言をするとは驚いたよ。流石はオルコットさん。伊達にイギリス代表候補生やってないな。そこらへんの”有象無象”の生徒とは言うことが違うね。」
「「「何ですって?」」」
”有象無象”と強調して言ったところ、わざとだろう。
次いで非難の一斉掃射。一気にクラスが騒がしくなる。
「あれ?言い過ぎた?みんな沸点低いなー。これが俗に言うヒステリー?」
ニヤニヤと笑い面白全分で煽る。
”みんな”とは言ってもクラスの2/3程度。
「あなた一体何がしたいんですの?」
あきれた顔で秋彦に問いかける。
「わかんね。意趣返し?それよりも今の彼女ら。どう思う?」
次々と汚い言葉で罵る人間が10人強。
「・・・・醜いですわね」
秋彦にだけ聞こえるようにつぶやく。
「やはりオルコットさん。わかってらしゃる。親しみを込めてセシリーと呼ぼう。」
「おやめなさい。そんなことよりもこの騒音、早く止めてくださいます?」
ちなみに話しかけるなと言っておいて25行で話しかけたのはセシリア。
「I got it.」
そう、かっこつけると大きな声で言った。
「汚い言葉ばかり話す女性のことをー」
「君はどう思うかなー」
「ねぇ。織斑君?」
教室の最前の-全ての生徒を飛び越えた先に投げかけた。
秋彦以外の生徒が風切音が聞こえそうな速さで後ろを振り返る。
がそこには誰もいない。誰かが安堵のため息を漏らすのが聞こえた。
「よかったな。愛しの織斑君には本性を知られずにすんだぞ。」
視線を戻せばいつの間にか席に座った秋彦が、冷たい瞳で椅子を揺らしていた。
「誰もいないじゃない!」
一番野次を飛ばしていた生徒が言った。
「嘘だからな。気を付けろ、俺は嘘つきだぞ。」
「それでしたらパラドックスが発生してしまいますわよ。」
オルコットさんが言及する。
「そう。嘘つきのパラドックスだ。俺が嘘つきなら「俺は嘘つきだ」という発現自体が嘘であり、本当は嘘つきではない。嘘つきではないなら「俺は嘘つきだ」と言った発言は正しく、本当は俺は嘘つきである?ここで矛盾が生じる。だがこれは嘘つきの発言は全て嘘だと仮定した場合の話である。嘘つきが真実を50%、嘘を50%の確率で言うのだとしたら真実と嘘、両方を内包するわけだ。ここで皆大好き、猫箱理論が出てくるんだけども、そもそも猫箱理論ていうのは・・・」
わけのわからないことを説明しだす。
「そんなことはどうでもいいのよ!!」
「俺はあれが好きだね。京極堂が干菓子食べてるのに「これは仏舎利だよ」ていうあのシーンがわかりやすい。」
「だからっ!」
ガラッ
「なんだ?怒鳴り声が聞こえたけどなんかあったのか?」
「お、織斑君。おはよ~」
おはようと挨拶が飛び交う。
そんな光景を秋彦はわかりやすいと思い眺める。
事態はとりあえず収束した。
「ねぇ~ねぇ~、ウツミン。」
「・・・ぅん!?俺か?えーと・・・」
「布仏本音だよ~。内海だからウツミンって呼んでいい~?」
「布仏・・・袈裟?...え?あー別に構わないよ。ところで何か用かな?」
「あんなこと言って大丈夫~?これから過ごしにくくならない~?」
「元々過ごしやすい環境でもなかったし。心配してくれるのかい?本音さん」
「えへへ~。」
小恥ずかしいのか、幼い子供の用に照れる。
秋彦の胸には何か暖かい感情で満たされていく。
秋彦はいつぶりかになる言葉と、最上の笑顔で純度100%の感謝を本音に示した。
「ありがとう。」
本音は綺麗だと思った。秋彦は一夏のように特別、顔の作りが良いわけではない。それでも本音が今まで見た中では最上級の笑顔の一つだろう。いつも笑っている本音はここぞという時に最高の笑顔を作ることのできる彼を少しだけ、うらやましく思った。
「えへへ~。どいたしまして~。」
「ほら、鐘が鳴りそうだよ。」
「ほんとだ~。それじゃあまたね~。」
本音はダボダボの袖を振り、秋彦は手首だけを振る。
――――ちょっと本音!?何してるの!?
――――え?ウツミンとお喋りしてんだよ~。
――――変な事されなかった!?卑猥な事言われなかった!?ぐへへ~お嬢ちゃん良い体してんじゃねぇか~とか言われたんでしょ!?
――――ええ~。ウツミンはいい人だよ~
本音さん、ええ子や。IS学園生徒の最後の良心だ。本音さんのためなら俺・・・死ねる!!おい、ちょろいとか言ったな。いいぞ、もっと言ってくれ。
それにしても
秋彦は窓から青い、青い空を見上げ呆ける。
俺のキャラぶれぶれ。
放課後、秋彦は学園内を探索していた。入学から漸く暇が出来た彼は娯楽を探すために100%オレンジジュース片手に歩き回る。探索といっても散歩しながら、部屋を覗き込んだりぐるっと部屋を一周したりして感じを掴む程度だ。
教員室、資料室、図書室、購買、食堂の裏方、保健室、体育館、倉庫、アリーナ。余すところ無く散策する。
そして今は整備室前。
「お邪魔しまーす。」
許可なく、容赦なく入室する。今まで入室に許可など取ったことはない。
「よくわからん機材しか置いてないな。」
いくつかのブースを見て行き、部屋で唯一明かりのついたブースの前にたどり着く。そこにはISの前でキーボードを打つ少女が一人いた。
「こうしてみるとISって結構でかいな。」
思ったことを口にしてみる。その声が聞こえたのか少女が振り返る。
「誰?」
「誰でしょう?」
「男・・・おりむ」
「はぁ~~~」
突如、盛大にため息をつき座り込む。
「心外だ。あんな他者を一切顧みないような奴と間違えるな。首吊って死ぬぞ。」
秋彦は心底不満な様子で目じりを下げる。
「え?あの・・・ごめんなさい。」
そこまで思うものなんだろうか。
「ところで何してるの?プログラミング?」
「・・・そんなところ。」
今の作業を説明しようと思ったが、自分は一応は代表候補生。必要があるのかはわからないが、隠せるなら隠しといたほうがいいだろう。
「ふーん。」
ズズッとストローでジュースを飲む。
「俺も一時期挑戦したな。挫折したけど。if文とwhile文を分ける意味がわからん。」
「それは基礎の基礎。」
「・・・手伝おうか?」
「え!?」
少女は豆鉄砲を食らったような顔をする。
「ねじの開け閉め位できるかなーと思って。」
「今の作業でねじは使わない。」
「ミリねじとインチねじの違いって何?」
「・・・・・」
「冗談だよ。」
少女はふと疑問に思った。
「なんで?」
「うん?」
「初対面の人にそんなことできるの?」
少女―更識簪―は出会ってから五分も経ってない人に手伝いを申し出る事なんて、とてもじゃないができない。
「んー君って俺のこと嫌ってない数少ない希少人物みたいだから、ここで誠意を見せておこうと下心がここにあるからね。きっと君の中で俺の株はうなぎのぼりに違いない。だろ?」
「それはない。」
ガクッと項垂れる。
随分と忙しい人だ。
「まぁいいや。知り合いくらいに留めてくれれば重畳だ。」
「それくらいなら・・・・」
秋彦は納得したように、うん!と頷き、立ち上がる。
「でも声はかけないでね。」
「え?」
「下手したら君もハブられるかもしれないからね。」
頭でその言葉を噛み砕き、なるほどと思う
「それじゃあ、縁があったら。」
足早に整備室を出ていく。
出来るだけ、他の人に見られないように秋彦なりの配慮だろう。
簪は彼に対して違和感を感じた。彼の嫌われ振りは四組にも届いている。事あるごとに織斑一夏と比べられ、罵倒されいじめられる。まだ一週間ほどの短い時間だが、多少塞ぎ込んでも仕方がないと思う。だが簪から見て彼はそんな陰りを少しも感じさせなかった。隠しているのか、何とも思ってないのか。
そして少しの好感。
――――心外だ。あんな他者を一切顧みないような奴と間違えるな。首吊って死ぬぞ。
あの言葉は織斑一夏を嫌ってる事を意味する。敵の敵は味方のような感覚だ。その感情には共感できる彼女はいくら嫌われているとわ言っても、彼を悪い人とは思えなかった。
「あれが二人目の男性適合者、内海秋彦。」
よっしゃあぁぁぁぁっぁ!!最後は射撃場だぁぁぁぁ!!俺のソードカトラス捌きを見せてやるぜぇぇぇぇ!!
何?学内に持ち主がいるだって?何を馬鹿な・・・・。
ところで、あの子名前なんだろう?
「なんだ。てっきり全く動かせないものだと思ってたよ。」
「まぁEランクの女性など今まで見たことがないですからな。」
「データ上は?」
「稼働率7.8パーセント。これはひどいわね。」
「使い物にはならないかね?」
「これならそこらの女性を攫って来たほうがマシです。」
「つまり戦力的には価値がないと。」
「政治的価値も極わずか、サンプルデータの価値しかない。つまらないなー。」
「彼の周りの環境から引き込むことは容易いが、得るものが少なすぎますな。」
「それは現時点では、だ。」
「確かに一人目が死んだりしたら、二人目だけだからねー。」
「準備はしておくべきかと・・・」
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「では二人目がISに搭乗した際のデータは引き続き取得してくれ。」
「では本題の一人目の織斑一夏について・・・」
――――猫箱理論
あれって元々は「見てみないとわからない」ていう哲学的観点じゃなくて「生きてる状態と死んでる状態が重なってる」っていう量子力学的観点みたい。・・・合ってる?
――――嘘つきのパラドックス
迷宮兄弟を思い出す。
――――これは仏舎利だよ。
京極夏彦 姑獲鳥の夏より
――――ソードカトラス
トゥーハンド。中の人ネタ
無駄に書いてる気がするから次からスリムに行こう。
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