俺とアタシの居場所《一応 完結 》 ( 紅葉 )
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幼馴染の想い
暇人は多忙人と腐れ縁で結ばれている


皆さん、半分以上の方ははじめましてですよね?
二次創作をちみちみやってます、紅葉です!

今回はリサ姉の小説を書いていこうかと思っております!お付き合いよろしくお願いします!!何かありましたら、Twitter、感想欄などでお知らせ下さい!評価、感想、お気に入り登録してくれると非常に喜ぶのでしてください(切実)

追記:もうひとつ、麻弥ちゃんの小説『女子力って身につけるのは難しい!』も書いています!今回の主人公がちらっと出ているので良かったら見てみてください!

それでは、はじまりはじまり!!


 8月。それは多くの高校生が二極化する時期だ。1部と3年生は地獄へと。残りは肌を小麦色に焼き、満面の笑みをこぼす。

 

 なぜ、二極化するのか?理由は明白。夏休みの課題、つまりは勉強をしなければならないからだ。3年生、特に進学を希望する人にとっては、教員に「この時期は大事だぞ!」と脅され、今まで、部活で甘んじられていた分のツケを払わすかのように強制して机に向かわせられる。1.2年生でも、夏休みの課題が残ってる人はこれと同様になる。一方で、課題が終わり、やらなければならないことが終わっている人間は部活や友達と大騒ぎというわけだ。

 

 だが、この俺、伊月遥都(いづき はると)はどちらにも入らない。課題は全て終わっている。それどころか、苦手な範囲の勉強もある程度自主的にやっていてそれも終わっている始末だ。補講なども、対象者に選ばれていない。では、遊べたり、部活をしたり出来るじゃないか?と言われるが……、生憎、そんな友達と遊ぶことが好きではない。それに、そもそも友達と呼べる人間が4人しかいない。部活は友達の人数を見ればわかるだろうが、何にも入っていない。ここから導き出される結論は………、

 

 

 

 

 

とてつもなく暇、ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第1話:暇人は多忙人と腐れ縁で結ばれている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな暇人な俺、伊月遥都。現在、近所の都立高校へ通う高校二年生。本日、8/26も時間を浪費し続けていた。

 

 起床は午前11:30。その後、すぐにブランチと呼ぶらしいが朝ごはん兼昼ごはんのチョコチップスメロンパンを食べる。これは牛乳と飲むと上手いのだ。

 

 その後、オーバーシルエットの白い服に、黒いチノパンを着て一応、外に出る。家にいると、親がうるさいのだ。目的地は、だいたい、近くの大きな古本屋。マンガの立ち読み目的だ。というわけで出発。そう思い、俺はドアを開けた。

 

 その瞬間、8月のムワッとした空気が俺の肌にまとわりつき、不快感が一気にこみ上げる。気温は39℃、湿度80%、昨日の雨の影響もあり、願わくば本当に外に出たくないものだ。しかし、先程も言ったが、親に怒られるのも面倒なのでパス。結果として外出するしか俺に選択肢はない。

 

 

「よし、いくか……」

 

 

 特になんの意味もないが右足から玄関の前の段差を降りる。そして、いつも通り古本屋がある方、家の前の道路を左へ曲がる。だが、今日はその後のルートが少し違う。その前に少し寄りたいところがあるのだ。

 

 

♩テンテテ、テテン、テテテテン〜♬

 

「いらっしゃいませ〜!こんな時間でもお客さん、きた…

 

 

 ここの店員大丈夫か……?客が店に入って来たってのに愚痴がしっかりと聞こえてるぞ?全く、これだからコンビニのバイトは……。棚の向こうから聞こえてきた、女性のアルバイトらしき人の声。でも、この声って……

 

 

「いらっしゃいませ〜……、って、遥都じゃん!?何してんの!?」

 

「げ……、お前かよ、リサ……」

 

「『げ』ってなにさ!!アタシと会うのそんなに嫌!?」

 

 

 やっぱり。コンビニのバイトをしていたこいつは今井リサ。高校は羽丘女子学園に通っている2年生。関係はというと、世にいう幼馴染というやつだ。小学校が同じ、しかも、6年間同じクラスとくれば当然こうなる。さらに付け加えようか。伊月と今井、出席番号が大体、隣になるのだ。伊藤とかメジャーな苗字があいだに入ってくれたことは6年間でたった一度。それ以外は俺が前でリサが後ろというスタイルが5年分続いたのだ。

 

 中学校はリサは女子校へ、自分は順当に公立へ通っていたから分かれたのだが。それでも、小学校の6年間の関係は伊達ではない。今もこうして腐れ縁が続いているというわけである。高校に入ってから関わりが減ったとはいえ、今も街でたまに会う。あとは、バンドをやっているらしいんだが、そのバンド、実はえげつなく上手いらしい。確か、名前はRoselia。メンバーまでは知らないが、多分リサの事だ。明るい感じの子ばっかりなんだろな……。それは置いといて、俺自身、少し、ドラムに触れたから何となくそういう分野には引かれるものがあるんだろうな。

 

 

「それで、遥都はこんな時間になにしにきたの?」

 

「ん?あぁ…、制汗剤が切れたから買おうと思ってな。とりあえず、いつものCATSBYのボディシートの無香料を……」

 

「無香料!!??ありえないよ!?」

 

「んだよ!いきなりでかい声出すな!」

 

「も〜、遥都は分かってないなぁ!!」

 

 

 昔から世話焼きなリサ、それは今も相変わらずなようで他人のこんなどうでもいいようなことにも口を挟むのはいつもの癖でもうなれた。まぁ、それ故に他人に好かれるんだろうが……。

 

 

「いい?汗の匂いって思ってる以上に臭うんだから、ちゃんと香料がついててごまかせるやつの方がいいの!だ、か、ら、やっぱりこれ!!!女子にも人気高いし、遥都もこれ付けたら彼女出来るかもよ!」

 

 

 よくもまぁ、そんなにペラペラと喋れることで……。リサのこれは聞いていたらキリがない。というわけで、とるべき行動はたった一つだ。

 

 

「店員さーん、お会計お願いしまーす」

 

「あっ!コラ!!ちゃんと、話を聞いてよーーー!!」

 

「だって、お前の話、なげぇんだもん」

 

「人の好意を無に帰すとは、こういうやつのことを言うんだね〜」

 

 

 そう言って、リサは不貞腐れながら、レジカウンターの向こう側へと向かう。店員なんだから、これくらいサクッとして欲しいものだ。俺はようやくかと思いながら、財布を取り出そうとCATSBYのボディシートをレジに置き、ポケットに目を移す。

 

 だが、これが命取りだった。俺は目の前で目がキラッと光ったリサのことを見逃した。

 

 

「あのぉ〜、お客様〜?こちらの商品、賞味期限切れになっておりまして、お売りすることが出来ないんですよ〜」

 

 

 リサの態度が急変した。ウザイ店員へと早変わり。そして、その矛先は俺だ。CATSBYをリサが手に取り、レジの後ろへ持っていく。そして、レジから出てきて代わりの商品を持ってくる。そして、それは当然、さっき、リサがオススメしてきたやつだ。

 

 これはまずい。リサにペースを奪われ、リサの思うがままにことが運んでしまういつものパターンだ。だが、俺も何度も同じミスを繰り返すバカではない。こういう時はしっかりとペースを持っていかれないようにだな。

 

 

「は?」

 

「なので、代わりにこちらの商品をオススメしているんですけど〜」

 

「無視をするな。俺はそれを買うぞ?それに、食べ物でもないのに賞味期限もクソもあるか」

 

「うっ…。で、ですので〜、こちらをですね……、って、あぁーーーー!!もう!!めんどくさい!はい、これ!!」

 

PI!

 

「あっ、おい!!」

 

 

 この店員、客の許可も取らず勝手に商品を買わせやがった……。訴えてやろうか……?しっかし、よくもまぁ、そんなこと出来るなぁ……。呆れて、怒りも出来ない。

 

 ここで、クレーマーとかしてもいいんだが、俺はそこまで性根が腐っているわけじゃない。リサの好意でもあるわけだし、ここは大人しくのっておこう……。幸い、値段もそこまで変わらないしな。

 

 

「わかったよ……。それを買えばいいんだろ?この、悪徳商法が……」

 

「お買い上げありがとうございマ〜ス!!」

 

 

 俺は1000円札を財布から取り出し、リサに渡す。嬉しそうに受け取り、レジに入力していくリサ。はぁ……、とんだ災難だ。

 

 しかし、トラブルというのは何個もが連続して起きるのが世の常。そして、これは俺とリサの間でも適応される。いや、言葉が足りなかった。適応されて、リサによってトラブルが引き起こされた。リサが急に俺におつりを返そうとする手を止めたのだ。

 

 

「ねぇ、遥都。アタシ、今までバイトを頑張ってきたんだ〜。それで、アタシのシフトは12時まで。つまり、あと10分後なわけ。それで、今、外、すごく暑いじゃん?バイトで疲れてる体にはキツいんだよ〜」

 

「…………何が言いたい?」

 

「だぁかぁらぁ、ご褒美というかそういうのが欲しいなぁ、って!!例えば、ほら。そこにある、ハーゲンダッシュとか?」

 

「奢るとでも思ったか?」

 

「ううん。だからね、ここに遥都のお金があるでしょ?」

 

「おい……、お前、まさか……」

 

 

 リサは自分の手のひらを開いて見せる。そこには当然、先程のCATSBYを買ったおつりが握られているわけで……。金額的にはハーゲンダッシュとかいう、やけに高いアイスが2つは買える金額だ。そんな金を握りしめたリサはニマ〜と笑う。

 

 

「こ〜んなに、可愛い美少女がお願いしてるんだよ?それに、奢らないって言うならこれを返さないから」

 

「ぐぅ………。わかったよ……。好きなの買ってこい……」

 

「やった〜!!懐が広い男はモテるゾ!!」

 

 

 こうして、今日は時間だけでなく、お金まで浪費された。スキップしながらアイスコーナーに向かうリサの背中を見ながら、俺はまた大きなため息をついた。

 

 

「あ、そうだ。遥都ってこのあとひま?」

 

 

 突然リサが立ち止まり、俺に訪ねてきた。この時点で嫌な予感がする。

 

 

「まぁ…、暇ではあるが……。リサといると疲れるから、一緒にどっか行くのは御遠慮する」

 

「酷くない!?」

 

「んなら、この前、偶然、ショッピングモールでリサと氷川さんに会った時のこと思い出してみろよ。服を買うと聞いて連れ出されたと思ったら約5時間、歩き回ったんだぞ?」

 

「あ、あれは……」

 

 

 そう、リサの買い物は異常に長い。それ故に付き合うのが非常に面倒なのだ。それは、以前、身をもって体験した。あれ以降、リサの買い物には付き合わないと心に決めている。

 

 

「ほんっっとにお願い!!この近くのアクセサリーショップにカップル限定で割引が効くお店があるの!お願いだから付いてきて〜!!あ、ほら、昼ごはん作ってあげるから!昼ごはんまだ食べてないでしょ!?」

 

「昼ごはんなら、朝ごはんと兼食で55分前に食った」

 

「な、なら、夜ご飯でいいから!ね?」

 

「…………行きます」

 

 

 決して、食べたいからでは無いと言いたいけれど多分無駄だ。あまりのチョロさに自分でも恥ずかしいと思うよ。でも、男子は胃袋を掴まれると弱いのは事実だからな……。あれ?というか、なんで俺の好きな食べ物知ってんだ?ま、いっか。

 

 

「うん!なら、あとちょっと待っててね〜」

 

「へーい」

 

「あ、そうだ。友達、来るけど大丈夫?」

 

「俺が知ってるやつか?」

 

「うう〜ん、多分、知らないんじゃ……」

 

「ふーん。ま、そのときには帰るからいいが……」

 

「アタシのバンドのメンバー!あこに燐子。アタシ達、夏休みの宿題終わってなくて、みんなでやろーよー!って話になってるの!もし、宿題を終わらせてなくて補習になって、Roseliaの練習に行けなくなったとかなったら何言われるかわかんないからね!……それで非常に申し上げにくいんだけど……、遥都、勉強手伝って!!」

 

 

 こうして、今日の午後の予定は立ち読みからリサの買い物の付き合いへと変わった…。そして、夜の予定はと言うとリサとその友達と夕飯を食べるといういかにも精神的に来るものがありそうなイベントが決まってしまった。+α勉強を教えるという……。さてさて、どうなることやら……。

 

 

 

 




「紅葉さん、お久しぶりです」
「いやぁ、女難で登場してくれてありがとね」
「いえいえ、いいんすよ。それより、こんなお盆の時期に書くなんて、暇なんすか?」
「うるせぇ!!ちゃんと、バイトしてるよ!!イベントスタッフとかやってんだよ!!」
「ならいいですけど……、ニートはやめてくださいね?」

はい!ということで第1話でした!!
評価、感想、お気に入り登録待ってます!


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暇人は多忙人を羨ましがらない

お気に入りってこんなにどんどん増えていいものなのか!?
そんな驚きが隠せない紅葉です……。
でも、内心ふへへへへと笑っております。やっぱりどの作者さんもお気に入りが増えたり、感想貰えたり、評価が貰えるとめちゃくちゃ嬉しいんです!

さて、もう、お盆も終わりに近づき普段の日常に戻る方も多いのではないですか?この小説はそんな普段の生活の息抜きにでもしてください!ちなみにこんなに早いペースで投稿が進むのは非常に珍しいです!今はバイトとかも休みなんで暇なんです……。


 

 

「おっまたせ〜!!」

 

 

 コンビニの入口で、待ち時間ように買っていたクーリッチのバニラをしゃぶって待っていた俺はその声に反応し、くわえたままそちらを見る。リサがこちら側に猛突進。見た目はあんなだが、意外と律儀な面もあるようで、人をあまり待たせたがらない。とは言いつつ、買い物となると平気な顔をして待たせるんだがな……。

 

 

「それじゃ行こう!!」

 

 

バシッ!

 

 

「うぃ。」

 

 

 思いっきり俺の背中をぶっ叩くリサ。それに合わせて俺らは蒸し暑い外へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第2話:暇人は多忙人を羨ましがらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンビニを出て、歩くこと10分。俺達はそのカップル限定割引をしているというアクセサリーショップがあるところへやってきた。このビル全体にエアコンが効いているため、外の気温より快適に感じられる。

 

 

「リサ、そのアクセサリーショップ、何階にあるんだ?」

 

「4階だよ〜!けどさ、アタシはまだ昼ごはん食べてないから食べたいかなぁって!」

 

「へいへい」

 

 

 ということで、リサはまずはお昼ご飯らしい。とはいえ、俺は昼ごはんを食べているので別に食べる必要はないわけで……。

 

 

「んなら、俺はその辺の本屋で時間をっ……!!」

 

 

 首元を強く引っ張られる感覚。後から殺意を込められ引っ張られた。いやだ、このお姉さん怖い!!

 

 

「何すんだよ!!」

 

「ちょっと遥都!遥都は女の子1人をほっとくつもり!?」

 

「ほっとくもなにも、別にいいだろ!?」

 

「ダメ!!ほら、遥都も一緒にサイセ入るよ!!」

 

 

 そのまま服の襟を引っ張られ、引きずられる俺。傍から見たらどんな風に見られているのだろうか……?情けなく見られているのは間違いないだろうな。

 

 結果、2人でご入店。お昼のピークとだけあって10分程待ったのだが、案外、早く座れた気がした。さて……、まぁ、先程のアイスの件からも分かるように、こういう時のお決まりといえば……。

 

 

「遥都、奢っt……」

 

「あーーー、お財布に小銭しかないなーーー」

 

 

 わざとらしく、なおかつ、アピールするようにこう言えばいいのだ。これを言うことで普通の女子は何も言えなくなる、はず。

 

 

「さっき、コンビニで野口さんが二、三枚、顔を出しているのが見えたんだけど……?」

 

「………。それでも奢らないからな!!さっきのハーゲンダッシュだけで大打撃だからな!?」

 

 

 この女、目ざといな!?どこまで見てるんだ!?しかし、俺は絶対に奢らないぞ!?

 

 

「あはははっ!ジョーダンだよ、冗談!!だから、そんな目でアタシを見ないでくれる〜?」

 

「………本当だろうな?」

 

「遥都はホントに昔から疑り深いね……。その用心深いのは尊敬するよ。でも、心配しなくても1日に2回も奢ってもらったりはしないって!」

 

「信じることが出来ないのは俺がおかしいのか?」

 

「ぐっ……。流石のアタシでもそこまで言われると傷つくよ?」

 

 

 リサは冗談交じりに笑い、店員にトリノ風ドリアとドリンクバーを頼む。俺も、何も頼まずにそこにいる訳には行かないのでドリンクバーだけたのみ、飲み物を取りに行った。そして、お気に入りの白ブドウのQuuを注ぎ席に戻る。俺の左でリサは紅茶を入れていた。

 

 

「昔から好きだね〜、それ」

 

「ちょ、顔が近い!」

 

 

 そっちを向けば完全に肌が当たるようなところにリサが覗き込んできた。距離感がおかしいのかこいつは!?

 

 

「なになに?照れちゃってるの〜?」

 

「汗臭かっただけだ」

 

「え!?ホントに言ってる!?」

 

 

 慌てて、自分の服の匂いを嗅ぎ出すリサ。ん?あぁ、当然嘘だ。ただ、こうするとリサがすぐに離れてくれると思ってな〜。けど、すぐに本当のことを言うと面白くないからもう少しこのままでいよう。

 

 

「え?え?アタシの鼻がおかしいのかな……?というか、遥都も女の子にそんなこと言ったらダメだよ!?」

 

「リサにしか言わねぇよ」

 

「アタシも女の子なんだけど!?」

 

「おぉ、そういやそうか」

 

「酷くない!?って言うか、どこが臭うんだろ……?」

 

「あぁ、さっきの嘘だから気にすんな」

 

 

 いやぁ、気持ちよかった。普段、やられっぱなしの分、やり返した時が気持ちいいってもんだ。

 

 

「…………遥都?」

 

「なんかよう、か………?か、顔が怖いゾ……?」

 

 

ドボォ……

 

 

 刹那、俺の臀部に痛烈な痛みが走る。リサが膝蹴りを食らわしてのだ。

 

 

「いっつ……!!何すんだよ!?」

 

「っるさい!!!サイテーーー!!」

 

「ご、ごめんって、だから、な!?そのもう1発蹴ろうとしてる脚を下げ…、て…!!」

 

 

 女は本気で怒らすと本当に怖い。結局、その後追加でつま先をヒールの先で突き刺すのを1発。頭への平手2発くらい、ようやく説得に応じてくれて、この昼ごはんも奢るということで方がついた……。滅多なことをするもんじゃないな、うん。

 

 それから、とりあえず、リサのご機嫌を取るようにパフェを注文し、トリノ風ドリアが来たあとに献上する。あれ?俺って、付いてきてやってる立場だったんじゃ……。

 

 

「あのぉ〜、リサさん?そろそろ御機嫌を直して貰えるとですね……」

 

「フン…!!」

 

 

 この女、マジでめんどくせぇ!!と、とはいえ、こんなことを口に出したら間違いなくもっと激怒される。そうなると非常に困るわけでして。ひたすら謝るしか出来ないのだ……。

 

 

「機嫌直せよ〜。自分が悪かったから!」

 

「………やられっぱなしの分、やり返した時が気持ちいいってもんなんでしょ?」

 

 

 そう言ってニヤリと笑った。こいつ、俺がさっき思ったことをそのままリピートしやがった!!

 

 

「昔から、遥都のことを見てんだよ?そんなことを考えてることぐらいお見通し!」

 

「うぜぇ……。この上なく、うぜぇ」

 

 

 リサのやつ、オマケにウインクまで付ける始末だ。いつからだろうか?リサに心を読まれるようになったのは……。いささか、納得いかない。これでも、ポーカーフェイスは上手いつもりだし、上手いとよく言われるんだがな。

 

 

「アタシは遥都が泣きじゃくってた頃から知ってるんだよ?遥都の嘘つく時とか悪い事考えてる時の癖ぐらい分かってるって!そーいやさ、遥都は宿題とか終わってんの?友達から聞いたんだけど、割と多いんでしょ?遥都の学校の宿題」

 

「その前のが聞き捨てならない気がしたが……。まぁいいや。あ〜、なんだっけ?夏の課題だっけ?お盆入る前には終わらせてたよ?」

 

「えぇっ!?」

 

「なにもそんなに驚くことかよ……?」

 

 

 そんなにおかしなことではないはず。俺は計画的に、かつ、効率的にやってきただけだ。誰だってそうしていれば出来るはずだ。それをしないから、休み末になって、友達とも思えないようなやつから俺のところにLINEを送るやつがいるのだ。ほら、噂をすれば携帯が震えて、やつからLINEが来た。

 

『知夏良:宿題見せてください!本当にお願いします!!現状、3割程しか終わっていなくてですね……。非常にヤバい☆』

 

 

 こういう時にとる行動は1つ。無視。これに限る。それであとから、『ごめーん、寝てたー』とか『返すの忘れてたー』とか送っとけば、はい、ノープロブレム。ほら、どっかのねじ曲がった主人公もこんなこと言ってたろ?

 

 

「ちょっ!?無視しちゃうの!?」

 

「いいだろ?別に。そもそも宿題は自分でやるべきもんだろ?」

 

「そりゃ、そうだけどさ〜。ほら、遥都は暇人でしょ?それなら、みんなで宿題をやりながら集まる!とかさ!?それにアタシ以外の女の子とかとも仲良くなれるチャンスじゃん!?」

 

「みんなで集まったら宿題なんか進まないだろ?」

 

 

 たまに先生の中でもみんなで問題を出し合ったりしてみよう!という人がいるが、実際、会話ばかりして、頭に入ってこないケースが多い。だから、俺はそんなことは信じないぞ?一人で黙々とやった方がいいに決まってる。

 

 

「ふ〜ん。でも、そうすると友達と仲良くなれたりさ〜、なんか色々あるじゃん?そしたら、アタシとなんかじゃなくても、こうやって、友達ともサイセにこれたり出来るじゃん?」

 

「別にリサみたいに友達たくさん欲しいとかは思わないし、必要ないよ。それに少しならいる、と思うからな」

 

「………そっか」

 

 

 リサは呆れたからか、苦笑いを浮かべながらも少し口角を上げる。そんな表情をする、リサをみて俺は喋れなくなり、言ってしまったと後悔をする。少し重くなった空気を背負い、やってしまったと思いつつも、謝るのも気恥しい。誤魔化すように、ドリンクを一気に飲み干し、急いで席を立ち、ドリンクバーのところへ小走りで向かった。

 

 

「別に俺は………」

 

 

 決して、友達が悪いものと言っているわけじゃない。けど、俺にはいらない。俺は友達とか、仲間とか信頼とかそういう概念が合わない。それはあの時、痛いほどわかった。自分が良かれと思ってやったとしても、それが他人にとって悪ならそれは悪になる。そして、悪というレッテルを貼られた者の末路はいつも決まっている。俺の()()()のように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「なぁ、紅葉さん、リサってあんな暴力的だっけか?」
「あれはお前だけっぽいぞ?」
「なるほど、俺ならどうなってもいいってか」
「伊月くんにとってご褒美でしょ?」
「紅葉さん……、ドボォって音が鳴る膝蹴りがご褒美なんて言ったらそれこそ末期です」

ちょっとシリアスになりつつある……?まぁ、多少は、ね?いつもの後書き小劇場でお口直しってことで笑笑笑(*^^*)
この、後書き小劇場、実は投稿している時に即興で考えてるのでくそ雑ですけど、お楽しみください。
PS:物語には一切関係ございません

評価してくれた
パスタにしよう さん(☆9)
慶和 さん(☆7)
ありがとうございます!

お気に入り登録者数も40近くいただき嬉しい限りです!これからも頑張りますので、表、感想、お気に入り登録お願い致します!


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暇人には多忙人に言えぬ理由がある

すぐに3話目投稿!!
ん?1日空いた?ま、まぁ、紅葉にしたら早い方なんです!!

というわけで今回は前半少しシリアスですけど、後半にはいつもの感じに戻ります!お楽しみください!!

そして、今回はあのキャラクター達の登場です!えー、実は本来、違うキャラを出す予定だったんですけど、急遽、変更させていただきました。これは紅葉なりの気持ちなので、あんまり気にしないでください!


 

「じゃあさ!アタシが友達の代わりも務めてあげよう!!」

 

「……んん?」

 

 

 ファミレスにて、リサが俺にこういった。一瞬、なんのことを言っているか分からなくなる。それから、必死に急いで頭の中を整理して理解しようと頭をフル回転させる。それによる熱を覚ますためか、あるいは緊張からか俺は何度もドリンクに手を伸ばし、ようやく理解する。

 

 

 

リサが何を言っているのかを

 

 

 

「きゅ、急に何言ってんだよ!?」

 

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、アタシが遥都の友達の代わりも務めてあげよう!って言ってんの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第3話:暇人には多忙人に言えぬ理由がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んな、こと分かってる!何でそんなことまでリサに世話を焼かれにゃならんのだ!?それにさっき、言ったろ!?必要ないって!」

 

「必要ないはずないよ〜?だって、友達がいたらすっごい、面白くなるに決まってるから!!」

 

「だから、それは……!!」

 

 

 "お前には関係ない"慌てて思いとどまる俺。今、俺は何を言おうとしたのか……、少なくともリサに向けて言っていい言葉ではなかった。リサはあのことを知らない。いや、知らせるわけにはいかなかった。それではお節介のリサのことだ。首を突っ込みたがっただろうし、それじゃ、もっと大事になったかもしれないのだから。

 

 

「言いたいこと、他にある?」

 

「……ない。けど、本当に、さっきの件はお断りさせてくれ。自分のことくらい、自分で決めるから……」

 

 

 さっきより、さらに重い空気が立ち込め、会話を閉ざす。それと同時に俺たち2人の視線も下がる。周りの音がよく聞こえ、外からは雨音が聞こえてくる。雨粒を辿るように空を見ると、先程まで、綺麗に晴れていた空は灰色の雲が覆っていた。

 

 

「………」

 

「………」

 

「…………遥都、何か隠してるでしょ?」

 

「っ!!??」

 

 

 沈黙を破ったのはリサだった。そして、皮肉なことにその言葉は俺の触れられたくないところの門をこじ開けようとする言葉になった。俺には少しずつフラストレーションが溜まるが、右手で左手手首を強く握りなんとか堪えようとする。

 

 

「別に隠してることなんか……」

 

「嘘。隠してる。言ったでしょ?アタシは遥都の小さい頃から見てきてるの。当然、嘘をつく時の癖だって知ってる!そうやって左の手首を右手で握り込むんだよ!?遥都は気づいてないかもしれないけど……、アタシにはわかるの!」

 

 

 ピタリと当てるリサに背中がヒヤリとする。冷や汗が流れ、顔には嫌な汗が伝う。堪えろ、なんとか堪えてやり過ごせ……。頭の中で何度も何度も命令を送るが、そうしようとすればするほど、顔はこわばる。

 

 

「あのさ、遥都……。言っちゃった方が、みんなで考えた方が楽になることだってあると思う。だから……」

 

 

 リサの言う通り、言ってしまった方が本当に楽なのだろう。けど、それだったらリサに迷惑をかけてしまう。それじゃダメなんだ。

 

 

「……ありがとう、リサ。リサの言う通り、何か隠していたことは認める。それが、リサが察しているように今回のことに関わりがあることも」

 

「え……」

 

「だけど、こればっかりは言うことが出来ないんだよ……」

 

 

 そうだ。これは誰にも言っちゃダメだ。これを言うと、今度はリサまでも傷つけてしまう。それだけは……

 

 

「…………わかった。()()聞かないでおく!」

 

()()、ね……。ありがとう」

 

「ううん。いいの。こっちも言い難いことを強く聞こうとしてゴメンね?」

 

 

 笑顔でそう返すリサの相変わらずのしつこさ。普通ならイラつくものかもしれないけど、不思議とリサのしつこさにはイラつきが湧かない。

 

 少し、落ち着いたのを感じ、俺は背もたれに背中を付け、息を吐き出す。先程とは違った、静けさが俺の頭の中で流れて心が落ち着くのが分かり、自分の中で何かがリセットされていく。

 

 

「お待たせしました〜、トリノ風ドリアのお客様〜?」

 

 

 店員がリサの料理を持ってきて、リサの顔がパァっと明るくなり、俺自身もホッとする。目を閉じ、胸の鼓動が落ち着いたのを確認した。そして、俺は席を立ち、再びジュースを取りに行った。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「ごちそうさま〜」

 

「うし、なら行くか」

 

 

 調子が完全に治った俺とリサ。リサがシルバーを置き、両手を合わせると俺は携帯と財布をポケットに突っ込んだ。そのまま、席を立ちお金を出し、店を後にした。

 

 

「さて、と……。この後はそのアクセサリーショップに行くんだっけ?」

 

「そうそう!ちなみにね、さっき言ってた晩御飯を一緒に食べる燐子と合流するよ〜!」

 

「聞いてないぞ!?」

 

「言ってないもん」

 

「お前な……」

 

 

 そう言えば忘れてた。こいつ、割と自分勝手なところあったんだったわ……。まぁ、もう慣れたといえば慣れたのだが。

 

 

「さっき、ご飯食べてる時に連絡来たの。それで、新衣装の小物関係を少し見ておきたいんだって!」

 

「衣装……?バンドのか?」

 

「そうそう!」

 

 

 リサに"燐子"と呼ばれる人物。一体、どんな人物なんだろう?リサとバンドを組むくらいだ。とりあえず、リサみたいなハチャメチャしたタイプなのは間違いないだろうけど……。

 

 

「なになに?初めて会う女の子がどんな子が想像してんの?」

 

「ち、ちげぇよ!!」

 

「遥都に手は出させないからね〜?」

 

 

 ニヤニヤしながら俺の顔をのぞき込むリサの顔は非常にムカつく!手を出すとか、俺はそんなに盛ってねぇよ……。

 

 

「それより、とりあえず、お前のアクセサリー買いに行くんだろ?カップル限定割りかなんかの」

 

「あ、そうだった、そうだった!」

 

 

 こいつ、本気で忘れてやがったな?なんのために俺がここまで付き合わされると思ってんだ……?これで忘れられてでもしてみろ?いよいよ、ブチ切れ案件だぞ?

 

 そんな俺の心配はどこ吹く風。リサはRoseliaの新曲だろうか、鼻歌を歌いながら、俺の斜め前を歩いていく。全く、こいつは肝心な所は鋭いのにこういう時は鈍感なのな。そんなことを思いながらエレベーターを使いたどり着いたのは目的のアクセサリーショップ。

 

 

「さー!!ついたーー!!」

 

「そだな」

 

「遥都もなんか買う?」

 

「そだな」

 

「ネックレスとか?」

 

「そだな」

 

「…………怒るよ?」

 

 

 仕方ないだろ?前回の5時間のことを考えたら、こんなテンションになるのも無理はない。だって、5時間だぞ?5時間?しかも、結局、1着しか買ってないという事実。俺は開始30分で靴一つ買って終わったというのに……。

 

 

「心配しなくても今日は買うもの決まってるから!すぐ終わるって〜!!」

 

「信じていいんだな……?」

 

「もっちろん!!」

 

 

 とか言ったのはほんの数分前。早くも長引きそうな予感が止まらない。俺の頭の中で警報がガンガン鳴り響いているのだ。というのもだな……

 

 

「あー!!これもいいなぁーー!!こっちはあの服に合わせて〜……、でも、あれには合わないかな?それなら、こっちもいいけど、値段的になぁ〜!!」

 

 

 この様子が続くこと約1時間。先程まで時計の短針が2を少し回ったくらいなのに、もう3を回ってしまっているのだ。や既に、俺は店の前のベンチに移動しているがリサは気づいてない。それほど熱中しているのだろうが……。まぁ、レジの時だけ隣に行けばいいだろ。

 

 にして、ここには色んな店があるな……。これ、一つ一つが違う店舗らしいんだが。うん、同じにしか見えんな。

 

 

「あ、りんりん!!リサ姉いたよ!!」

 

「あ、あこちゃん、ま、まっ……、て……」

 

 

 リサ姉……?リサの後輩か何かか?1人は明らかに学生服で羽丘中のか?んで、もう1人は私服だが……、見たとこ、高校生ぐらいの大人しい雰囲気だ。そんな2人組が、ベンチで座っている俺の横を通り過ぎていく。

 

 

「リサさーーーーーん!!!!」

 

「あ、あこぉ!?それに燐子まで!?」

 

「リサ姉のインスタにここのサイセの写真があったからここにいるのかなぁ?って!補習が終わったので遊びに来ちゃいました!!」

 

「あ、あこちゃん、そんな、いっぱい言ったら……」

 

 

 そんな、会話を遠目でみながら、リサの友達というのに若干の興味がある俺。たまに聞こえてくるドーンやバァーンといった擬音語が非常に気になる……。それもあり、よくある、見ないふりをしつつ、見続けていると、リサがこちらに向かって、手をクイクイっとした。どうやら、「こっちに来い」と言っているらしい。

 

 

「なんか用か……?」

 

「紹介するにきまってるでしょ!?あこ、燐子、この人は伊月遥都。私の幼馴染なんだー!!」

 

「我は魔界より蘇りし、伝説の魔王!そなたの名、しかと胸に刻んだぞ…」

 

「えっと……」

 

「え?え?えぇ!?なんですか!?その微妙な反応!!」

 

「いや、だって……。しょうがないですよね……?」

 

「あ、あこちゃん……。そんな、いきなり、したら……、こ、困っちゃうんじゃない、かな……?」

 

「そういうことです」

 

 

 なるほど、何となく分かったぞ。この、"燐子"と呼ばれる黒髪の女の子が"あこ"って子のストッパー的な役割を果たしてるんだな。にしても、一体、何年生なんだ?この感じは紛れもなく、厨二病というやつなのだが……。

 

 

「うぅ〜、カッコイイのに〜!!えっと、宇田川あこです!中学三年生です!!Roseliaでドラムやってます!!」

 

 

 ドラム……。へぇ〜、この子がリサのバンドのドラムか。それから、学年は中三か。ハキハキとした喋りでそういったのは、紫の髪をした小柄な女の子。受験とかは内部進学だからいい、そういう感じかな?にしても、ドラムかぁ〜、聞いてみたいもんだ。

 

 あ、ちなみに言っておこう。バンドとかそういうのはしたことない。ネットに上がってる好きな歌のドラムを、親父の電子ドラムを使って真似して叩いていただけだ。だから、細かいことは分からない。というか、

 

 

「し、白金……、燐子…、です。高校2年生……、キーボード、担当で…、す……」

 

 

 えらくボソボソと喋る彼女。これは想像以上に大人しめな子だな……。この子とは、喋れるまでになるに何年かかるかわからんな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん、ちょっと待て………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いま、この2人、リサのバンド、Roseliaのメンバーだって………?この厨二病とコミュ障がぁぁあああああ!?

 

 これが2人との初対面、そして初絡みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




「紅葉さ〜ん!!」
「おー、今井さんか〜。ここでは久しぶりだな〜」
「ですねー!!前作の9話目以来ですし」
「調子はどうです?」
「暑さに負けずに頑張ってますよ!それから、最近、遥都っていう幼馴染と喋る機会が急に増えたんです!!前々からもっと喋りたかったんで、すごく嬉しいんですよ〜!!」
「そりゃ、よかった。あんまり、振り回して、困らせないようにね〜」
「分かってますよ〜!」

ということで第3話!後書きは毎回ですけど、気分で誰と喋るか決めてます!ちなみに前作は1話目の時に説明した麻弥ちゃん小説のことです。

評価してくれた
ゼタ さん(☆10)
フィローネ さん (☆10)
ペルン さん(☆8)
ありがとうございます!!

まだまだ、評価と感想、お気に入り登録待ってますねー!!


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★特別話★多忙人は誕生日の夜も多忙になる

リサ姉誕生日おめでとうございます!!

本当は8:25に投稿しようとしてたんですけど……、寝てました☆
というわけで夜の8:25に投稿!!

いつもみんなに気を使えて、明るくて、それでもやる時はやってくれる真面目さを持ったリサ姉が大好きです!今回の話なんですけど、いつもと全く違い、主人公出ません笑笑笑(*^^*)まぁ、それでもいいよって方はお進み下さい!

そして、日付をよく見てる方にはおわかりだと思いますが……、8/25は作上で書いてる日の前なんです。そのため後書きでは作上で描かなかった会話を少しだけ書いてみました笑笑笑(*^^*)


「みなさん、おはようございます〜!!ほら、りんりんも!!」

 

「おはよう……、ございます……!!」

 

 

 日時は8月24日、夜の11:30。外は静まり返り、月は綺麗な満月で怪しげに夜の街を照らしていた。そんな良い子はおねむの時間に今井家の薄暗いリビングでは、何やら怪しい人影が4つ。そして、赤く点滅するランプと四角い明かり。ビデオテープだろうか?さらに、少し元気な様子が声から伺える人の手には小さなライトがあるように見えた。

 

 

「紗夜さんも友希那さんも、いまぁ〜す!!」

 

「ちょっと!映さないでください!!」

 

「あこ、何をしてるの?」

 

「も〜!紗夜さんも友希那さんも恥ずかしがらないでくださいよ〜!せっかく、みんなで企画したのに〜!!」

 

「主に宇田川さんがやったのでしょう?」

 

「そうよ。いきなり、うちで待機させてなんて、そんなに余裕があるなら、家に帰ってドラムの自主練でもして」

 

 

 何やら不機嫌そうに見える2人は、明らかにカメラを回している人に連れられてきたようだ。が、2人とも本気で嫌がっているようにはどうも見えない。

 

 

「でもぉ〜!!せっかくじゃないですか!?だって、今日はリサ姉の誕生日なんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──特別話:多忙人は誕生日の夜も多忙になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その4人がいる家の隣では……、

 

 

「お久しぶりですね、今井さん」

 

「えぇ、そうね、湊さん!最近、ますます娘さんが可愛くなられて!」

 

「いえいえ、そんなことないですよ〜、まだまだ無愛想な娘です……」

 

 

 ふたつの家の母親達による談義が、目の前に置いてある酒とおつまみと共に行われていた。

 

 では、話を元の場所へ戻そう。玄関には5つの靴しかない一方の家。つまり、そこには怪しげな4人組ともう1人、いることとなる。それこそが、今井リサだ。その今井リサはというと……、

 

 

「Zzz..」

 

 

 2階の自室で爆睡していた。

 

 それもそのはず、時を遡ること数時間前。場所はライブハウスの前のカフェテリアにて。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「いい?明日はライブに向けて早朝から練習をするわ。六時にここ集合よ」

 

 

 アッシュの色をした、ロングヘアの彼女が全員に向けてそう言い放つ。明らかに微妙な顔をする、茶髪の彼女はすぐに『えぇ!?』と反対し、カメラを回していた人物に『嫌だよね!?』とふるが、珍しく、乗り気な相手に対し、絶望を隠せない様子。いつもなら、このカメラを回していた人がこういうことを嫌がってくれるのだろう。だが、今日は違う。

 

 ちなみにこんなのはでまかせ。今のための布石だ。明日は元々普通に練習なのだから

 

 

「で、ですから、みなさん、11時には寝てくださいね!」

 

 

 慣れてないのか済んだ水色の髪を持った彼女は噛みながらもそう全体に言う。だが、察しのいい彼女は違う。何かがおかしいことに薄々というか、確実に気づく。

 

 

「ねぇ、みんなちょっと変だよ……?」

 

「そ、そうかしら?」

 

「紗夜もなんか声が落ち着いてないし……、友希那もなぁんかいつもより無茶苦茶だから」

 

「リサ、失礼ね」

 

「そ、そんなことないですよ!ね?友希那さん、紗夜さん?」

 

 

 慌てて取り繕う紫髪の2つ結び。そんな自分自身が1番違和感あることに気づいていないのは、気のせいではないだろう。それでも、リサは納得はしていないものの、その場では疑問を頭の中に押し込んだ。

 

 そして、そのまま5人は別れ、それぞれの家に帰る……、と見せかけて、茶髪の子以外は宇田川家に集合している。

 

 

「リサ姉のサプライズパーティーをやります!!」

 

「…………あこ、あの時の約束本当に忘れてないでしょうね?来週、明日の練習を潰す分、あこは2倍の練習をするという約束」

 

「そうですよ、いまの新曲、宇田川さんが一番ついてこれていませんから」

 

「もー!!分かってますよ!!それはそれ!これはこれ!だって、今日はリサさんの誕生日なんですよ!?年に一回なんですよ!?お祝いしない手しかないと思わないんですか!?それに、誕生日は深夜に寝起きドッキリって相場が決まってるんです!」

 

「「そ、それは……」」

 

 

 バイトで彼女がいなくなった時の件があってから、流石にこの真面目2人も彼女の存在を強く意識するようになった。そんな彼女の誕生日を流石に無下には出来ないのだ。

 

 

「というわけでですね……。じゃーーーん!!これがプランです!ちなみに、リサ姉のお母さんにも協力してもらって、今日の夜……、明日の夜?にはお家から出て行ってくれるそうです!」

 

 

 そう言って紫髪の彼女は壁に何やら大きな紙を貼り付けたのだった。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「というわけで!第一作戦!!12時ピッタリに寝起きドッキリだいさくせーーーん!!ドンドンパフパフ〜!!」

 

 

 4人は大きなクラッカーを持ち、リサの部屋の前まで来ていた。どうやら、リビングからの移動は上手くいったらしい。そして、相変わらず紫髪はビデオカメラ。新たに付け加えられたのは、アッシュの髪の毛の手に"Happy Birthday Lisa"と書かれたプラカードが持たれていることだ。

 

 

「じゃあ、皆さん!まずは部屋に入ったら面白いものがないかこっそり探してくださいね!」

 

「泥棒になった気分ね……」

 

「本当です……」

 

「いいんですよ!それじゃ、りんりん、宜しく〜!」

 

「そ、それではいきま〜す……。と、扉を開けま〜す」

 

 

 先頭に立っていた黒髪の子が恐る恐る部屋の扉をあける。部屋は窓が空いていて、月明かりでうっすらと視界があるくらいだ。机の上にはよく書き込みがされたTAB譜が置いてあり、机の隣にはベースが。そして、床には彼女らしい、化粧品やら服やらが散乱している。それもそうだろう。ココ最近は、かなりの頻度でハードな練習が続けられてきたのだから。

 

 

「ここでは、恒例の歯ブラシとかがあるんだけど、ないし〜〜……、あ!!飲みかけのペットボトルがある!!」

 

 

 ほかのメンバーも部屋を物色する中、あるジュースが入ったペットボトルを見つけた。

 

 

「友希那さん、友希那さん!」

 

「なにかしら?」

 

「これ、飲んじゃってください!」

 

「リサのじゃない。勝手に飲んだらよくないわ」

 

「ドッキリなんでいいんです!!」

 

「なるほど、ドッキリというものになると合法になるのね。わかったわ。やるわ」

 

「湊さん!?」

 

 

 訳の分からない方法で納得した彼女はグイッと飲み干す。それがどういう行為か分からないのは彼女が無知ゆえかはたまた分かってやってるのか。どういう行為か分かっていた水色の髪の少女は顔を赤くし、止めようとはしたもののあっさり飲まれてしまったようだ。

 

 

「リサの味がするわね……」

 

「み、み、み、湊さん!?今、あなた、か、か、関節、キスを……!!」

 

「紗夜、一体、何をそんなに顔を赤くしているの?」

 

「で、ですから、その……、キ、キスを……」

 

「あら紗夜さ〜ん!これこれ!リサ姉のカバン!!紗夜さんが物色してください!」

 

「なっ!?宇田川さん!あなたはまたそうやって人のものを!!」

 

 

 口では反対しつつも前のを見てしまったためか身体は乗り気の彼女。ズンズンとしっかりした足取りでこちらに近ずきカバンを物色し始めた。

 

 

「これは……、今日、来ていて着替えていた服ですね……。洗濯していないんでしょうか?全く!!それで、これが……、制汗剤シートでしょうか?いつも、練習終わりに今井さんからする香りがしますね。それから、これが……」

 

 

 この人は本当に初めてなのか?バラエティー慣れしているとしか思えない速度でカバンの中をホイホイと出していく。

 

 

「……紗夜さん、本当に初めてですか?」

 

「たまに日菜のをこうして見ているので」

 

「え……?」

 

「何か問題でも?妹の所業をチェックするのは姉の仕事ですから」

 

 

 妹としての姉の恐怖を感じたのか紫髪の少女は水色の髪の少女のシスコンっぷりに少し恐怖を感じる。

 

 

「それじゃあ……、そろそろ今日のメインといきましょー!!時間も11:59!丁度いい時間だし!」

 

「そうね」

 

「そうですね」

 

「それじゃあ、りんりん!!宜しく〜!!」

 

 

 秒針がチクチクと回るのを、黒髪の彼女がジッと見つめ指で全員に向けてカウントダウンをする。指が1つずつ折られて……、

 

 5……、4……、3……、2……、1……、

 

 

 

 

バーーーーーーン!!!

 

 

 

「なっ、なになに!?」

 

「リサ姉、「今井さん、「リサ、「今井さん、お誕生日おめでとうございます」」」」

 

 

 パッと電気をつけ、プラカードを寝起きのリサに見せる。寝起きの寝ぼけた顔で変な声を出しながら体を起こし、動きにくい頭を必死に回して考える。完全に熟睡していたリサからしたらなんの事やらさっぱりだが、何となく祝われていること、そして、今日が誕生日のことを理解したらしい。

 

 

「み、みんな〜!ありがとう〜!!で、でも、寝起きドッキリというのは……」

 

「なぜ?誕生日にはこういうものを行うものだとあこが言っていたのよ?」

 

「え……?あこが……?どういうことかな……?」

 

「そ、それは……、って痛い痛い!頭グリグリしないでーーー!!」

 

 

 ふざけ半分なのか、本気なのかリサはベットから降りてきてあこの頭をグリコで締め上げる。紗夜と友希那は、なぜあこが締められているか、未だに理解していないらしく、首を横に倒す。

 

 

「ま、まだ……、ケーキを……!りんりん、おねが……、い……、」バタッ

 

「う、うん……!」

 

 

 グリコがよほど効いたのかその場で倒れ込むあこは某団長のようなカッコイイ倒れ方でケーキを頼む。そして、頼まれた燐子は1階におりて、冷蔵庫においてあった、不格好でも4人で一生懸命作ったホールケーキを運ぶ。

 

 

「今井さん、お誕生日、おめでとう……、ございます……!!これ、みんなで作ったんで……、その、食べてくれませんか!?」

 

「燐子〜!!それに、みんなも!!ありがとーーー!!」

 

 

 サプライズケーキを取り出され、リサはうるうる来ているのか、少し、掠れ声になりながら、そういった。

 

 、彼女にとって最初で最後であろう、最高の友達がプレゼントしてくれたケーキ。それがまずいはずがなかった。いや、不味かった所もあるだろうが、食べられないはずがなかった。涙を出して喜びながはケーキを頬張る彼女はとても幸せそうな顔をして、みんなにもう一度言った。

 

 

「みんな、ありがとっ!!」




ショッピングモールへ向かい中

「ってことがあってね〜」
「ほぉ〜、そーいや、リサの誕生日は8/25だったな」
「そーなの!すっごいびっくりしちゃった〜!」
「それじゃあ、ほい、誕生日プレゼント」
「……とってつけた感が溢れ出てんだけど?」
「何を言うか。この俺が他人にカルピルとハーゲンダッシュを奢ること自体相当レアだっつーの」
「まぁ、いいけど!でも、遥都もありがとね!」
「ん。ま、まぁ、これも腐れ縁ってやつのアレだな」
「相変わらず、褒められたり感謝されると……、顔がまっかっか〜♪」
「うっさい!!!」
「やーい、やーい」


ということで本編で登場させれなかったぶん、ここで登場してもらいました遥都くんです。次回からは本編に普通に戻りますのでお楽しみに〜!

評価してくれた
黒い絵の具さん (☆10)
ありがとうございます!!

お陰様でお気に入りも100件を超えて凄く嬉しいですよ〜!


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暇人と多忙人はコミュ障と厨二病の前で恥を晒す

少し、遅れましたぁぁああ!!
始まったというのにアホ全開ですな……。気をつけます!!
そーいや、愛美さんがセカオワの脱出ゲームやってたんですよね。実はあの日、富士急にいたんで、もしかしたらすれ違ってたのかも……?そんなことを思いながら過ごすここ毎日です笑笑笑(*^^*)

では、次のお話お楽しみください!


 

 

 

 

「うぅ〜、カッコイイのに〜!!えっと、宇田川あこです!中学三年生です!!Roseliaでドラムやってます!!」

 

「し、白金……、燐子…、です。高校2年生……、キーボード、担当で…、す……」

 

 

 俺の前に突如として現れたのは、リサのバンド、Roseliaのメンバーという2人組。そして、そんなメンバー2人に、私、伊月遥都は大変驚いています。あまりにもイメージとかけ離れているもんですから……。とはいえ、ここで、「本当にメンバーなの?」なんて聞く勇気があるはずもなく。

 

 

「伊月遥都です。よろしくお願い致します」

 

 

 世の中における最小の自己紹介、名前、挨拶の2つのみを行った。それもまぁ、なんとも淡々にだ。そうすれば当然、周りの皆さん、特に初対面のお二人は困るわけで……。

 

 

「えぇっと………」

 

「そ、それだけ……、です…、か?」

 

 

 ポクポクポクと木魚の音が2人の頭の中で流れていたのだろう。これだけ、うるさいショッピングモールでも頭の中から鳴らされれば嫌でも聞こえてくるのだろ。そして、結果、何も出ずに2人はこんな返しをした。まぁ、普通ならこの自己紹介から話を広げていくんだから、もっと情報というものが欲しいんだけどな。それを分かっててもやってる俺って性格悪い?

 

 

パコッ

 

「痛っ…」

 

「ほーら!遥都もちゃんと自己紹介ぐらいしてよ〜!もう、アタシがやるからね?」

 

 

 後ろからリサが長財布を使って、頭を軽く叩く。そして、やれやれと言わんばかりに肩を竦めて、あからさまに首を振った。

 

 

「ごめんね〜、えっと、この人はアタシの小学生の頃からの………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第4話:暇人と多忙人はコミュ障と厨二病の前で恥を晒す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな感じ!あこ、燐子、わかった?」

 

「はーい!!」

 

「だい、たい……、分かりました……」

 

「ん!りょーかい!!」

 

 

 というわけで粗方の説明を今井リサ大先生がして下さったみたいだ。しかし、リサもよくそんなに俺のことを覚えているよな……。人のことをよく見ているというか、なんというか、とにかく、今回はそれで助かった。

 

 そして、今更だが、既にこの2人が来てるということは俺はここにいない方がいいのだろう。勉強を見ろとは言われたが、リサの事だから友達のことを優先しそうだし……。幸い、同じ高校二年生の白金燐子さんもいるしな。それなら、俺はいち早くここから去るべきだろう。

 

 

「おい、リサ。友達待ってんだし、早く買ってきなよ。それ終わったら帰るから」

 

「え?」

 

「……え?」

 

「いや、『え?』じゃなくて……。遥都には勉強教えて貰わないと」

 

「なんでだよ?その白金さんに教えてもらえばいいだろ?賢そうだし」

 

「アタシが燐子に教えてもらうとして、あこは誰が教えるのさ?」

 

 

 やけに上手く俺の真似をして『え?』というリサが異常にムカつくのは置いといて……、チラリと宇田川さんを見ると、「ほぇ?」と言いながら、リサと俺を交互に見てきた。その後、何かを察したのか、胸を張ってドヤ顔をしている。別に褒めたわけじゃないんだけどな?バカにされている、そう気づいて欲しかった。

 

 

「おい、リサ。お前、そんなにアホじゃないだろ?それなら、白金さん、リサの2人が宇田川さんを教えればいいだろ?」

 

「アタシもあこも数学ボロボロなんだもん」

 

「わ、私も……、数学は、あまり、得意ではなくて……」

 

「そーいうこと!燐子に教えてもらうのは世界史と倫理だからね〜!」

 

 

 なるほど、それで俺に来たわけか。ということは、最初から俺に3人の相手をさすつもりだったわけだ。ここで、発表しよう。俺が通っている高校、都内でトップとは言わないまでも公立高校の中では中々上の方にいる進学校として名のの通っているところだ。そして、そこでは学年が300人ちょっといるが、上位2割にはいるぐらい。こんなことを自分で言うのもおかしな話だが、平均よりはできるつもりだ。

 

 とはいえ、"頭いい=教え方が上手い"という訳では無い。そして、俺はこれに顕著に当てはまる。数学にいたってはパッと頭の中に浮かぶタイプなため、アドバイスの仕様がないのだ。

 

 

「教えるかどうかは別にしてよ、とりあえず、買い物だけ済ませてこいよ」

 

「あ、そうだった、そうだった!それじゃ、早く行こ!!」

 

「うぃ」

 

 

 あれだけ悩んでいたのはなんだったのか。どうやら、リサの中で買うものは決まっていたらしくお会計に行くまでは早かった。行くまでに聞いてみると、次に何を買うかを決めていたらしく、流石にそんなに待たせるのは申し訳ないとのこと。反省してくれて、伊月は嬉しい限りですよ……。

 

 だが……、忘れてはならなかった。今回のこのお店、割引条件が『カップル限定』だということを。それはつまり、カップルと証明できなければ行けないわけで……。

 

 

「では、お客様方がカップルである証明をお願い致します!」

 

 

 目が少しイッちゃってる店員に元気よく、そう言われた。ここで慌てる、俺とリサ。当然、そんなものはない。だって、そもそもカップルじゃないんだから。

 

 

「ど、どうするの!?」

 

「知るかよ!?なんか、写真とかないのか!?」

 

「遥都、アタシがツーショット撮ろうとするとすぐ逃げるもん!」

 

「そ、それはそーだけどよ……」

 

 

 これは事実だ。中学校や高校の時、学祭とかでリサが遊びに来た時、基本、リサが来たら逃げていたからな。となると、他に証明できそうなものは……、ないな……。

 

 

「お写真とかがなければ……、彼氏さんが彼女さんに向かって、『〇〇、愛してる』と壁ドン、もしくは、顎クイしながら言ってもらうことになっているんですけど……」

 

「「はぁっ!?」」

 

 

 じょ、冗談じゃない!!ましてや、リサとなんて……!!あいつとならまだしも……、って俺は何を言っているんだ!?そうじゃなくて!!

 

 

「リサ、あきらm「遥都、お願い!!!」……て……」

 

 

 どうやら、譲る気はないらしい。両手を合わせて必死に頼み込んでいらっしゃる。リサは何もしないからいいとして、俺は色々だな……。問題が起こるから嫌なんだよ……。

 

 

「よく考えろ、リサ。俺に言われたってキモイだけだろ?な?今回は諦めようぜ?な?」

 

「嫌!!どうしてもこれ欲しいの!!」

 

「あのなぁ〜……」

 

 

 ダメだ。こうなったリサは大概、手がつけられん。昔から良くも悪くも一途で真面目だからな……。となると、周りにいる宇田川さんと白金さんに止めてもらいたいんだけど……。

 

 

「りんりん!!リサ姉が今から遥都さんに告白されるんだって!!」

 

「あわ…、あわわ…、い、伊月さんと……、今井さんが……!」

 

 

 いかん、完全にショートして使い物にならん。神様はこれを自分で解決しよと申すか!?………アホくさ。いいか、よく考えろ。こうなったリサは俺には止められないし、周りの2人もダメと来たらもう好きにらやらせばいいだろう。それに、別に壁ドンなら身体に触れることは無い。ただ、すこぉしだけ顔が近くなるだけだ。とはいえ、やらずに済むのならやらずに済ませたい。

 

 

「店員さん、それはやらなきゃ行けないんですか?」

 

「はい!」

 

「分かりました。おい、リサ」

 

「ひゃい!!」

 

「なぁにわかりやすく、動揺してんだよ」

 

 

 顔を真っ赤にするリサと、それを見つめる真っ赤な2人組。大丈夫。それ以外に知り合いはいない。1分もかからないんだ。それどころか10秒も。それなら、いっそやってしまった方が……。

 

 って、俺はなんでやろうとしてんだ……?こういうのは俺がやるべきイベントじゃない!!こういうのはモテモテのリア充がやるべきイベントだから。俺はそういう部類に属す人じゃない!!

 

 

「か、壁ドン!!」

 

「か、からの……、告……白……。」

 

 

 とか、思ってたけど……、やる流れになってしまった……。リサも完全にスタンバイOKの状態で自分から壁に寄っていってるじゃねぇか!?両手を胸の前で組んで、theピュアな女の子の感じで待ってやがる。どうする、どうする、どうする!?

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………なぁ、ほんとにやるのか?」

 

「アタシも恥ずかしいんだから早くして!!」

 

「あーー!!もう、わかったよ!!」

 

 

 そこからは早かった。むしろ、早すぎて記憶がない。勢いとは怖いものだ。何をしでかすか分からないのだから。手が動いたと思ったら、何か冷たいものが手のひらと密着し、いい匂いが鼻をかすめた。そして、何かを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサ、愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言ったらしいのだ。

 

 気がつくとそこに広がっていたのは、顔を覆い隠してしゃがみこむリサ。宇田川さんと白金さんが抱きつきあい、店員の顔は何故か輝いている。

 

 

「はーい!カップル限定割引適応させていただきまーす!」

 

 

 そんな声だけが虚しく店内に響いた。

 




「あ、リサ姉!!この人が紅葉さん?」
「そうそう!とりあえず、あこも燐子も挨拶しときな〜!ゴマすってればいい事あるから!!」
「おい、今井さんよ?そんなこと言うな……」
「宇田川あこです!」
「白金……、燐子……です…」
「二人とも宜しくね」

評価、お気に入り登録してくれた方本当にありがとうございます!
お陰様でハーメルンの日間ランキングで31位にランクイン出来ました!ありがとうございます!!


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暇人はコミュ障を見直す

え〜、大変、嬉しいことで、なんとリサ姉の誕生日会を投稿した次の日、日間ランキングがなんと10位まで言っておりました……。恐ろしい勢いでたまるお気に入りに驚きを隠せない紅葉です……。お気に入り数では既に前作を上回っていましてですね……。なんと、反応していいかわからないんですよ……、はい。
あ、勘違いしないでくださいね?嬉しいことはめちゃくちゃ嬉しいんです!




 

 

 

 

 おかしい。色々とおかしい。あれは演技だ。それにリサから望まれたことだ。にも関わらず……。

 

 

「おい、リサ〜、お茶を……」

 

「ふぇっ!?あ、あぁ、いいですよ!冷蔵庫に入っていますから!」

 

 

 明らかによそよそしいのだ。ため息をつきながら周りの2人にも視線を送るのだが、フイっと目をそらされる。俺はそんなに悪いことをしたのだろうか……?そう思いながら、俺は今井家にある、麦茶を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第5話:暇人はコミュ障を見直す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりはあの魔のアクセサリー店からだ。あそこから全てが狂った。あの魔王城のようなアクセサリー店を後にした時、てっきり、間にリサが入って、白金さんと宇田川さんとの仲を取り持ってくれると思ったら、スタスタと俺らの数メートル先を歩いていってしまったのだ。喋りかけても大抵は何かを考えていたからか、オールスルー。

 

 それが今井家まで続いてしまい、そのまま勉強に入ってしまったのだ。すると、俺が宇田川さんを、白金さんがリサを教えるという流れになるのは必然だ。結果、俺の正面に宇田川さん。隣に白金さん。そして、白金さんの前にリサ。という座り方になった。

 

 なのだが、この俺、伊月遥都、初対面の女の子に勉強を教えられるかと言われると、そこまでコミュ力がある訳じゃない。とはいえ、やらなくてはならない。今はリサのことは置いといて、頑張って宇田川さんを教えるか。

 

 

「宇田川さん、とりあえず、やろうか、宿題」

 

「うぅ……。あこ、やりたくないよーー!!」

 

「初対面の女の子にこんなことはいいたかないんだが……、やろうよ。ガキじゃないんだし。それに、バンドメンバーから何言われるかわかんないんだろ?」

 

「さ、さよさんに……!」

 

 

 どうやら、怖いバンドメンバーは"さよ"と言うらしい。見たことがない以上、なんとも言えないが、使い方さえ間違えなければ、効果的に使えそうだ。切り札として、覚えておこう。

 

 

「はい、数学やりますよ〜?」

 

「魔王に、数学など低俗な学問は……」

 

「おい、やるぞ?」

 

 

 いかん、キレちゃう。というか、今、この宇田川あこ、数学を低俗と罵りやがった。全世界の数学学者と今まで革新を与えてきた偉人に謝れ。

 

 そんな無礼者、宇田川あこは流石に観念したのか、渋々、夏休みの宿題を開いた。そこで俺が目の当たりにしたのは、最初の見開き2ページだけやってあるものの残りが25ページほどあるまっさらなワーク。その最初の2ページも赤の文字が止まらない。

 

 

「…………おい、なんだこれは?」

 

「だって、わかんないんだもん!」

 

 

 再び胸を張る宇田川さんとは対照的に頭を落とし愕然とする俺。この人、中三だよな……?ご存知の方はご存知のように、中三の夏休みの宿題といえば一、二年生でやったことも含まれている。言わば、最初の方は全て1年生の問題なのだ。

 

 

「白金さん、一学期はどうやって宇田川さんを赤点回避させたんだ……?」

 

「えっと……、確か、あこちゃんは……、赤点を取ってしまって…、氷川さんに『二度目はないですよ?』と怒られて……」

 

 

 なるほど、わかった。つまり、Roselia内でどうしようもなくなったから、リサのやつが俺に投げてきたのだ。俺はリサの方をジロリと睨む。だが、リサは未だにフイっと顔を逸らしてしまう。まだ、引きずってんのか……?いい加減、機嫌直してくれませんかね……?

 

 

「おーい、リサ。そんなにさっきのことがショックだったのか〜?そんなにショックならやらなきゃ良かったのに……」

 

「ショックだったわけじゃないんだけど……」

 

「なんて言ってるんだよ……」

 

 

 ゴニョゴニョ喋られちゃなんの事かよく分からん。普段はあんだけ、やかましく、なおかつ鬱陶しいというのに、いきなりこんな態度を取られたら、調子が狂うってものだ。

 

 

「とにかくさ〜、俺にこういうことを押し付けるなら押し付けるである程度、現実味がある時間で押し付けてくれませんかね?そもそも押し付けるのも問題なんだが……。その上、この後、リサにも教えろだぁ?俺に一晩中、今井家にいろって言うのかよ?今井家の人間でもないのに」

 

「一晩中!?今井家の人間!?ア、アタシ達にはまだそんなの早いよ!?」

 

 

 何気なく放たれた俺の言葉は何故かリサを触発したらしい。いきなり、机を叩いたと思ったら、椅子がひっくり返る勢いで立ち上がっていらした。宇田川さんも白金さんも、初めてこんなリサを見たのかポカンとするしかなく、手も止まる。ちなみに言うと、こんなリサは俺も初めてだ。俺達3人は口を開け、しばらく固まることしか出来ない。

 

 そして、次に動けたのはそれから数秒の沈黙の後だった。ようやく口を開き、慌ててその場を取り繕う。

 

 

「び、びっくりした〜。そ、そうだよな!早いよな!!」

 

「あ、いや、今のは、違って!!別にアタシが遥都と、とかそういうのじゃなくて!!」

 

「うんうん!分かってるから!!な!?やろうぜ!?」

 

「ほ、ほんとに分かってる!?」

 

 

 ぶっちゃけ、なんも分からん。だが、この空気を何とかしないと俺の心が持ちません!!そのためなんだ、なんかすまんな、リサ。

 

 

「あーーー!!もう!!燐子、ありがとね!あらかた、わかったよ!!アタシ、みんなの夜ご飯作ってくるから!!」

 

「あ、はい……。こ、こちらこそ、ありがとうございます……」

 

「良かったら、燐子も遥都に教えてもらいな!こんな不真面目そうだけど、なぜか頭いいから!」

 

「わ、わかりました……!」

 

 

 あ、リサから逃げた。それに、最後チラッと失礼なこと言ってきやがったな?なぁにが、『不真面目そう』『なぜか頭いい』だ!そんな男に見えるか!?

 

 

「あ、あのぉ〜……」

 

「う、うん?」

 

 

 こ、怖い……。なんだろう、今までリサという、一応女子の対応しかほとんどしてこなかったからか、こういう大人しいタイプの女の子に喋りかけられると驚きの意味でドキッとする。

 

 

「こ、ここの問題、答えはこうやって書いてあるんですけど……。ここの部分がわからないんです……。だから、その…、教えてください」

 

 

 さっき、怖いとか言って悪かった!!なんだこの子!?さっきの厨二病と比べたらなんとも健気でわかりやすい女の子じゃないか!!そうだ、先生って言うのはこういう生徒の対応を第一にすべきなんだよ!!

 

 

「あ、あの〜……、伊月さん……?」

 

「あぁ、ごめんごめん。それで、その問題だっけか?」

 

「そう、なんですけど……」

 

 

 それから、俺は白金さんにそれとなくわかりやすく教えた。宇田川さんやリサと違い、大人しく説明を聞いてくれて、その上、理解も早いので非常に助かる。だから、5分ほどかかるかな?と読んでいたのだが、2分を残し終わらせてくれる程なのだ。

 

 

「で、出来ました…!!」

 

「おー、よかった。他になんかあるのか?」

 

「い、いえ、特には……」

 

「なら、よかった」

 

 

 白金さんはもう一度、俺に向かって深々と頭を下げる。ほら!!こういうとこ!!リサや宇田川さんにはないであろう謙虚さ!!やばい……、この子ホントに天使だわ。

 

 

「な、なにか、変ですか……?」

 

「えっ!?あ、あぁ、白金さんは宇田川さんやリサとは違うなぁ〜って思ってな。別に貶してるわけじゃないんだが……、よく、それで、リサ達のバンドに入ったな、と……」

 

 

 そう言いながら、チラリと泣きかけてる宇田川さんと鼻唄を歌いながら料理をするリサを見やる。うん、どう見ても、あの二人と白金さんは違うタイプだろ。

 

 

「私も、最初は不安ばっかりでした……。で、でも、あこちゃんや今井さんとかが……、その、助けてくれて……。」

 

 

 そういう白金さんの顔はどこか殻を破ったようなスッキリした顔だった。シャーペンを置き、そんな顔で話す彼女は最後には少し笑いはするものの、その表情は至って真面目で嘘をついているようには見えない。なるほど……、"他人の助け"ね……。

 

 

「でも、まだ、慣れない時、とか、テンションに……、ついていけないときも……、ありますけど……」

 

「…………だろうな」

 

 

 ……案外俺の予想も的外れではなかったらしい。言われてみれば、この子、theインドア派って感じだもんな〜。本とかたくさん読んでそう。

 

 

「私は、家でオンラインゲームとか……、そういうのが、趣味……、ですし……」

 

 

 時代は本よりゲームと移り変わっているようだ……。と、なると、都合がいい。何を隠そう、俺もゲームは大好きだ。もちろん、ジャンルは色々あるんだが、俺が好きなのは謎解きのRPG。特に好きだったのはセルダの伝説シリーズ。トワイライトプリンスは大好きだったよ……。

 

 

「どんなのやってるんだ?」

 

「"Neo Fantasy Online"というゲームです……。去年、配信が始まったんですけど、大人気で……。私もあこちゃんもやってるんです……」

 

 

 聞いた事あるな。クラスの何人かがそんな会話をしていたのは記憶に新しい。まぁ、そっちの会話は耳に入ってきた程度の認識だが……。

 

 

「また、暇ならやってみるよ」

 

「あ、ありがとうございます……。そ、それなら、お願いがひとつあるんですけど……」

 

「お願い?なんだそれ?」

 

「えっと……、友達紹介のコードを入力することがあるんですけど……、私のコード、あ、メモしますね、これを入力して、ください……。お互いに、利点があるので良かったら……」

 

 

 そう言うと白金さんはノートの端をビリっと破るとスラスラとIDらしきものをメモしてくれた。ここまでやってくれるんだ、せっかくだし本当にやってみるかね。

 

 

「ありがとうな」

 

「い、いえ、そんな……」

 

 

 少し照れながら顔を逸らす彼女は少し嬉しそうだった。

 

 

「さて、それじゃあ、そろそろお話はやめて勉強でもやるか。なんだっけ?氷川さん?とやらにやってないことが発覚すると、ドヤされるんだろ?」

 

「そ、そうですね……!私はもう、終わってるんですけど……」

 

「そ、それは失礼……。なら、もう少し喋っとくか?」

 

「だ、大丈夫ですっ……。それより、あこちゃんの、手助けをしてあげてください……!あこちゃんは私の初めての、"友達"です、から……」

 

 

 この子も"友達"か……。そんなに特殊なパワーでも持つものなのかね?友達ってのは。

 

 でも、今、白金さんに言われた言葉はいつもなら湧いてくる嫌な気分には不思議とならなかった。




「こ、こんにちは……」
「初めまして、白金さん。これから、宜しくね」
「こちらこそ……、よろしく、お願いします……」
「なにもそんな畏まらなくても……。リサなんか見たろ?あそこまでとは言わないけどフランクな感じでいいんですよ?」
「今井さんみたいには……」
「そーいや、ネトゲ好きらしいですね?NFOのアバタークソイカしてましたよ?」
「そ、そんな……!!わ、私ごときが……!!うぅ……!!」
「あ、白金さん、白金さん!?」

前回の誕生日会どうでしたか?あんな感じの誕生日もリサ姉ならあるかなとか思ったんです!

評価してくれた
クライマーズさん(☆10)
ぴょこさん(☆10)
生なまこさん(☆10)
鳥籠のカナリアさん(☆9)
ぶるぶるさん (☆1)
ありがとうございます!!

まだまだ感想、評価待ってますからねー!


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厨二病は暇人に教えて欲しい

Roseliaファンミのチケット貰ってきました〜!!
あまりいい席ではなかったものの、現地行けるだけでも幸せもんです!!

そーいや、また、日間ランキング乗ってたんですよ〜!!こんなに乗った作品ははじめて……?過去作2作(一作はラ!小説だったんですけど、削除済み……)ではこんなに行ったことがないので、もう、本当嬉しいです!!

では、今回もコメディ系かな……?
どうぞ!!




 

 

 

 

 

 

 白金さんと勉強し始めて、既に40分。時計の短針も大きく動いていた。そんな短針が動くにつれ、俺の中の白金さんに対する、印象がガラリと変わり、随分と親しみやすくなっているのだ。

 

 

「あ、あの、伊月さん、ここは……」

 

「それは、さっき教えた裏ワザ公式使ってもいいんだけど……、記述となると書きにくいからめんどくさいけど、王道の解き方をした方がいいだろうな」

 

「な、なるほど……!!あ、ありがとうございます……!!」

 

「頑張れよ〜」

 

 

 今では向こうから話しかけてきてくれるほどなのだ。かつて、これほど、1日で仲良くなれた女の子がいただろうか!?俺は感動しているぞ!?

 

 と、思っていたのだが……

 

 

「ジーーーーーーーーーーーッ」

 

 

 …………それって口に出して言う音か?そう突っ込みたくなる気持ちを必死に抑える。先程から反対側に座っている、宇田川さんが俺達を見つめてくるのだ。『ここで相手をしては向こうの暇つぶしに協力してやることになる』そう感じて、俺と白金さんはアイコンタクトを取り、相手をしないようにしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第6話:厨二病は暇人に教えてほしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい……、あいつはいつもあんな感じなのか……?」

 

「そ、そうですね……。少し子供っぽいとは思いますけど……。で、でも、それがほっとけなくて……」

 

 

 お互いに聞こえるか聞こえないかの声で白金さんと喋る俺は宇田川さんの子供っぽさに少し呆れていた。リサがキッチンに行ってから既に40分以上、宇田川さんはジッとこっちを見つめては溜息をつきながらテキストを進めるのサイクルを繰り返している。そして、そのタイムスケジュールに少し変化も出てきて、見つめる時間の方が明らかに長くなっているのだ。

 

 でも、相手をしてはダメだ!!こういう手の者は、構ってしまったらもうゲームオーバーなんだから。

 

 

「あーーーーーーーっ!!もう!!りんりんばっかりズルいです!!あこにも教えてくださいよ!!」

 

 

 シビレをきらしたのはどうやら、宇田川さんのようだ。キッチンにいたリサすらも少しビクッとしてこちらを見る程の大きさで、そういった彼女は頬をプクッと膨らまし、いかにも怒ってますよというオーラをたたき出してくる。

 

 そして、この瞬間、察してしまった。いかん、こいつはリサと同じニオイがする、と……。ニオイといっても、香りとか柔軟剤とかそういうことを言ってるんじゃない。雰囲気(オーラ)が、だ。これは嫌な予感が……。

 

 

「そうは言っても、教えたら成長しないだろ?そのままだったら、内部進学試験落ちるぞ?リサと同じ高校行けなくなるぞ?」

 

 

 こいつがどういう人かわからない限り、とりあえずこれで揺すりをかけてみる。ビビる人はこれで充分ビビって、やる気になってくれるのだが……。宇田川さんはどうだ?まぁ、内部入学試験は基本誰でも受かるんだがな……。

 

 

「えぇぇぇぇええええ!!???リサ姉やお姉ちゃんと一緒の高校行けなくなるの!?そ、それはいやぁぁあぁあああ!!!」

 

 

 …………必要以上の効果があった。某ポケットサイズのモンスター同士を戦わせるゲームでいう"こうかはばつぐんだ"というやつだろう。宇田川さんはとんでもない大声を上げてリアクションをしてくれて、その声は、空気をビリビリッっと震えさせ、俺の全身の体毛が逆立つように感じる。

 

 

「な、ならやろうな?」

 

「で、でも、あこ、授業中ねてたから……」

 

「…………」

 

 

 バカなのに授業中勉強していない。1番マズいタイプじゃねぇか。これは俺の持論なのだが……、授業中寝るという権利を得るためにはそれなりの結果を出せるという事実があってからでないとダメだと考えている。にもかかわらず!!この、厨二病は寝ているらしい……。

 

 

「うぅ〜!!遥都さん!!教えてくださいよぉ〜……」

 

「あのなぁ、出来ないんだったら、授業くらい聞いとけよ……?」

 

「わかってますよ!!けど、なんか、授業中って眠くなって……。で、でも、今まではちゃんとテストで赤点回避してきましたし、今回もなんとかなる気がします!!」

 

「なら、教えなくていいな。頑張れよ」

 

「あっ!やっぱり、ムリです!!教えてください!!」

 

 

 えらく、必死だな、おい……。そんなにさよさんとやらに怒られるのが怖いか?

 

 

「はぁ……。わかったよ……。でも、俺が教えるってことは理解してもらうまでやるぞ?」

 

「はっ、はいっ!!」

 

 

 こうして、嫌な予感はしながらも宇田川さんの赤点回避のための指導が始まった……。

 

 のはいいのだが…………。

 

 

「ちっがう!!!それはさっき言ったやつだろ!?同じミスをしない!!」

 

「ふぇぇぇええええ!?ご、ごめんなさいぃぃぃいいいい!!」

 

「そこも!!ほんの3分前にやったやつ!!」

 

「イーーーーヤーーーーーー!!」

 

 

 一向に進まないのである。隣にいた白金さんは不安そうな表情でこっちを見つめては、何か宇田川さんの助けにならないかと模索する。特にない、というのが現実なのだが……。

 

 

「あ、あの、もう少し優しい方があこちゃんは……」

 

「ごめんな、白金さん。優しくしてきた結果がこのザマなら、そーいうわけにいかねぇんだわ」

 

 

 こう返すしかないのだ。白金さんは一度、ちらりと宇田川さんの方を見やり、何かを察したのか、静かに自分の勉強へと戻る。

 

 

「り、りんりん!!助けてーーー!!」

 

「あ、あこちゃんは、やればできる、はず……、だから……。それに、伊月さんの方がわかりやすいと……、思います」

 

 

 親友であろう宇田川さんに、目を背けていう彼女はいかにも痛々しい。宇田川さんのことを考えたのなら、ここで俺と指導係を変えるのだが……、白金さんはその後の宇田川さんのことを考えてくれているらしい。これが、真の友情というものなのか、はたまた、関わりたくないだけなのか……。出来れば前者であってほしいと願うが正直、どうでもいい。それよりもこの人の学力を何とかするのが先決らしいからな。

 

 

「さて、白金さんからも俺に教えてもらえって言われてんぞ?」

 

「うぐっ……!!」

 

「それで、どうするよ?まだ、俺が教えた方がいいのか……?」

 

「りんりんには教えて欲しいけど……、そのりんりんが遥都さんの方がわかりやすいって言うんだから……」

 

「だから……?」

 

「まだ、教えてください〜!!あこ、頑張りますから!!」

 

 

 やる気を入れ直させ、もう一度机に向かわせる俺。何度も言うが決していじめとかそういうたぐいのものをしているのではない。ただの指導だ、指導。

 

 こうして指導し続けること1時間、時計は6時半を指していた。今日はブランチしか食べ物を胃に入れていないこともあり流石に腹が減った。しかも、さっきからずっと、チーズのいい匂いがして……。すると、となりから妙な音が……。

 

 

グゥゥゥウウウウ

 

「…………宇田川さん?」

 

「〜〜〜っ!!??あーーー!!もう!!遥都さん、あこ、お腹すきました〜!!」

 

「だな……。俺も空いてきた……。あとは1人でできそうな感じあるだろ?」

 

「はいっ!」

 

「おっ!?丁度いいや!今、出来たから!!」

 

 

 いつの間にやらキッチンから戻ってきていたリサが顔をひょこっと出して、そう言った。どうやら俺とももう普通に喋れるらしい。

 

 

「なんか手伝うか?」

 

「んじゃ、その取り皿みんなの分運んどいて!」

 

「はいよ〜」

 

 

 白金さんと宇田川さんが勉強の用意を片付ける間、何もやることがない俺はリサの手伝いをすることにした。流石に椅子のところにずっとふんぞり返ってる訳にもいかないしな。食器棚から出された白いお皿を4枚分手に持ち、順に置いていく。

 

 

「おい、リサ。これ、誰がどことかあんのか?」

 

「えっと……、特に考えてなかったけど…………。あ!!じゃあ、アタシが右角でその隣が遥都。遥都の正面に燐子、んでその隣があこでいいんじゃないっ!?」

 

「決まってないなら決まってないままでいい気もしたんだがな……。まぁ、いいや。そうするか」

 

 

 なぜかリサが決めた席にとりあえず、皿を置いていく。とはいっても皿はどれも同じだから変わらないんだがな……。問題は箸だろ。女性物が3膳と男性物が1膳用意されてるところを見るとこれが俺のになるのだろうけど……。なんで、女子の席まで決めたんだろうか?

 

 と、どうでもいいことを考えていたら片付けが終わったのか宇田川さんと燐子が戻ってきた。リサと俺はもう運ぶものはないらしいので、席に座って待っていたのだが、あこが純粋な質問をぶつけてきた。

 

 

「あれ?リサ姉がそこ座るの?」

 

「だ、だめかな……?」

 

「い、いやぁ、別にいいんだけど……」

 

 

 宇田川さんは少し首を傾げながらもリサの正面の席へと回った。白金さんもその後に続き、俺の正面へ座る。

 

 

「それじゃあ……、夏休みの宿題、お疲れ様でした〜!!かんぱーーーい!!」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「ふぅ〜、おなかいっぱい……」

 

「そうですね〜〜。さすが、リサ姉の料理は美味しい!!」

 

 

 みんな、腹が減っていたのか料理はあっという間になくなった。米もリサが初めから多めに炊いといてくれたのかおかわり出来たのでお腹も膨れている。しかも、中々に上手かったらご飯もどんどん進むんだのだ。

 

 

「だな〜。料理の腕だけはいいんだけどな〜」

 

「ちょっと、遥都!それってアタシがそれ以外はダメみたいじゃん!」

 

「性格がなぁ〜」

 

 

 耳の穴を小指でグリグリとかき回し、あくまで聞く気がないオーラを出す俺。だってな……?

 

 

「昼間のこと、思い出してみろよ?普通、ただ制汗剤を買いに来ただけの人に、目的のものと違うものを買わせた上に、バーゲンダッシュを奢らせるとか余程、根性が腐ってないとできねぇぞ?」

 

「ぐぅ……」

 

 

 割とショックだったのか、以外に凹むリサ。少しだけ、本当に少しだけ、悪い事をしたと思ったが、それ以上に性格がひん曲がってる俺はすぐにそんな感情とおさらばして、違うことを考えた。

 

 

「そーいや、宇田川さんと白金さんは帰らなくていいのか?もう、8時半だぞ?9時を回ると流石に親も心配すんだろ?」

 

「わあっ!?ホントだ!!おねーちゃんに怒られちゃう!!」

 

「そ、そうですね……!私も、少し、不味いきがします……」

 

 

 慌てて帰る用意をする2人。あぁ、俺は夜まで親は帰ってこないからいいんだよ。それに塾とか言ってたら10時帰りとか普通だしな。リサの家からは徒歩10分くらいの距離だし、特に問題は無いだろ。

 

 

「そ、それじゃあ!失礼します!!リサ姉、晩御飯美味しかった!!遥都さんもまた遊びましょーね!!」

 

「し、失礼します……!!」

 

「うぃ」

 

「ばいばーーい!!また、明日のバンド練でねーー!」

 

 

 こうして、白金さんと宇田川さんは帰っていった。送っていってもよかったのだが、流石に、ここの片付けをリサ1人にやらすのは申し訳なくなったから2人には悪いが残らせてもらった。

 

 

「さて……、2人も帰ったし、片付けるか……」

 

「…………」

 

「……リサ?」

 

「…………ねぇ、遥都、アタシってさ……」

 

 

 

 




「紅葉さんっ!!」
「げ、元気だね、宇田川さん……」
「闇夜の導きによって導かれし、魔王の眷属よ……。魔王ベリアルの名において命ず……、我が出番を多く……」
「宇田川さんを多用するとまずい点1つ目ーーー!!そんなに厨二表現を知らないから被る。2つ目ーーー!!あなただけ中学生。3つ目ーーー!!恋愛事疎そう。以上!!」
「出してくださいよー!!!」
「頑張るわ……」


お気に入り登録に評価、ありがとうございます!!
猿もんて さん(☆9)
倉崎 さん(☆9)
着々と評価してくれてる人が増えて紅葉はマジで嬉しいです!!らまだしてない方いらっしゃったら……、是非!!


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多忙人は暇人に嫉妬する

……………………遅れたのは分かってます!!
最近、色々忙しくてですね……。今朝もバイトに寝坊しました……。気をつけないといけませんな。。。

今回は文字数かなり少なめですけど……。まぁ、結構大事なお話かな?


 

 

 

「…………ねぇ、遥都、アタシってさ……」

 

 

 2人が玄関を飛び出したあと、無意識にアタシの口が動いてしまった。原因は分からない。けど、この気持ちは……、たぶん、あの時と同じ……。

 

 

「ど、どうかしたのか……?」

 

「う、ううん!なんでもない!!」

 

 

 これは遥都にはバレちゃいけない。あの時も今もそう。忘れたはずだったのに。だって、バレたら遥都を苦しませるだけなんだから……。アタシの気持ちで遥都と仲悪くなりたくないから……。今のこの位置関係が、アタシの精一杯の役割なんだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第7話:多忙人は暇人に嫉妬する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、皿洗いでもするか……」

 

「アタシがやるからいいよ?遥都は座ってなよ!」

 

 

 言いたいことを押し殺し、アタシ達はリビングに戻った。戻ったと同時に遥都はサッと机の方へ向かい、みんなが使っていた皿をまとめあげていく。こういうとこはむかしから変わってない。他人だとまず面倒くさがるはずなのに、『自分もやったのだから』と率先して片付けをやっていく。

 

 

「俺も食ったんだから……」

 

「なら、2人でやろ!?ね?」

 

「わかった、わかった」

 

 

 遥都がお皿や大きな鍋を、アタシがコップや箸を運び、流し台へ持っていく。さっきの押し殺したやつがあるせいか、いつものように言葉が出てこない。ただ、水の音が永遠に流れ、たまにするのは食器がぶつかり合う音だけだ。

 

 

「なぁ、リサ」

 

「え?」

 

 

 普段、余程の用事がないと喋りかけるはずがない遥都がアタシに向かって一言言った。水の音で聞こえなくなってもいいはずなのに、何故かはっきりと聞こえたその声はアタシの脳内へストンと落ちる。

 

 

「お前、なんか隠してたろ?」

 

「な、なんで!?そもそも、隠してないからね!?」

 

「こんな所で意地はるなよ……。リサが言ったんだろ?『アタシは遥都の小さい頃から見てきてるの。』ってよ。お互い家族を除けば、恐らくトップ3には入る付き合いだろ?だから、リサは俺のことよく知ってるし、逆も言えんだろ?」

 

「そ、それは……」

 

 

 たまに見せる、遥都の真面目で真っ直ぐな瞳。洗い物をしながらも、それは伝わってくる。こんな目を見たのはいつぶりだろうか?中学の時のあのころ以来だろうか……?

 

 

「…………そうだね。」

 

「言えねぇことなら、無理にとは言わないけどよ、言えることなら話を聞くくらいできるぞ?」

 

 

 皿を黙々と洗い続けながら遥都はそう言った。やめて。これ以上この距離感を壊さないで……。アタシは遥都と今の関係を……!!壊れた時のことを思うと……!!ヅカヅカと土足で平気な顔して、アタシの心の中に突っ込んでくる遥都にそう叫ぶ。

 

 でも、心の中では打ち明けたい自分もいて……、なんとかして関係をさらに近づけたい自分もいて……、アタシの口はそんな想いが溢れ出るように開いた。

 

 

「遥都はさ、いつもあんな風なの……?」

 

 

 この感情の正体は知っている。昔からいつもアタシが遥都に向ける感情。遥都はいつだってそう、アタシ以外の誰かを見てる気がしてならないから。別にアタシばっかり見てほしいわけじゃない。けど、やっぱり、小さい頃から仲良くしてきた身としてはアタシの方も向いてほしい。

 

 

「あんなって、どんなだ?」

 

「あこや燐子と仲良さそうに喋ってたじゃん?ほかの女の子とかとも?」

 

 

 アタシとショッピングモールで買い物してた時だって、コンビニに来た時だってそう。遥都は今より全然楽しくなさそう、むしろ、面倒くさそうに動いていたのだから。本当はアタシと会うのが……。アタシの中の考えが悪い方へとどんどん傾き、嫌な想像しかできない。

 

 

「どーだろーな。今日はたまたま気分が向いたからだろうし……、人として合う合わないがあるから、なんとも言えないな」

 

「で、でもっ!燐子やあこに勉強教えてる時だって、生き生きしてたって言うか!その……、楽しそうだったじゃん!」

 

 

 一気に想いが爆発してしまう。言ってしまった……。言った直後にそう思うがもう遅い。今まで、すました顔して皿を洗っていた遥都の表情が明らかに変化し、動揺の色が出る。

 

 

「ちょ、おい、急にどうしたんだよ……?俺、なんかしたか!?」

 

 

 流石の遥都も少し焦り、水道を出しっぱなしのまま、手を止め、アタシの正面まで来てくれた。なにか出来ないかとあたふたする遥都。遥都がとりあえず、というか、なぜか、ポケットに入っていたラムネを渡してくる。

 

 

「……落ち着いたか?」

 

「……なにこれ?」

 

「ラムネ」

 

「はぁ、うん……いいや。とりあえず、ありがと」

 

「んなら、いいや」

 

 

 鈍感で謎すぎる遥都に少し呆れながらも、先程までのモヤっとした気はいつの間にか消えていた。そんな単純な自分に大きく、溜息をつきながら、私は自分をリセットしようとする。その最中、すれ違いざまに遥都はアタシの背中を軽くポンっと叩くと、水道を止めに行った。そんな背中が手と同様、昔より遥かに大きく感じられたのは秘密。なんだかんだ言って、昔からどうしようもなくなった時に手を差し伸べてくれる遥都に少し尊敬の念を抱く。

 

 と、感心はしていたのに……

 

 

「それで?なんでそんなにヒステリックになったんだ?」

 

 

 忘れてた……。遥都は昔から飽きれるぐらい空気が読めない……。普通、このタイミングで聞くぅ!?ここはサラッと忘れるところでしょ……!?

 

 

「ほんっっと!デリカシーないね!遥都は!」

 

「お、そんだけ言い返せれば、いつものリサだな。なら、もう、心配ないか」

 

「え……?」

 

「いったろ?『トップ3には入る長い付き合いだから大体のことはわかる』って」

 

 

 洗った皿を拭きながら、遥都はそういった。アタシにはわかった。無表情に見えるあの表情も、微かに笑っていること。それが照れ隠しかあるいはアタシをコケにしてるのかは分からないけど、悪い気はせず、おかげでいつものテンションに戻れる。いつもの場所に戻してくれる。それがアタシにとっては嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

*** ***

 

 

 

「ねぇねぇ、りんりん、今日のリサ姉、なんか大人しくなかった?」

 

「そ、そうだね……」

 

 

 街頭が灯る、夜の住宅街。今井家を出た2人は家に向かって歩いていた。そして、話題はちょうど、リサの話となっていたようだ。

 

 

「あら?燐子にあこ、こんな夜更けに何してるの?」

 

「友希那さん!!??」

 

 

 正面からふと声をかけられる。その声の主は、2人がよく知る人物。アッシュの長い髪を靡かせて、歩いてくるRoseliaの歌姫、湊友希那。

 

 

「友希那さんこそ何してるんですか!?」

 

「私?私はただ、散歩していただけよ?そうしたら、そこで、子猫を見つけて、それを見守っていただけよ。」

 

「「へ、へぇ〜」」

 

 

 淡々という彼女は気づいていないが、もう、Roselia内で定番ネタのひとつとなっている湊友希那の猫好きだ。

 

 

「そういうあなた達は何をしているのよ?」

 

「私たちは、リサ姉の家にいってご飯を食べてたんです!!えっと、リサ姉の友達の、遥都さんに勉強を教えて貰いがてら!」

 

「…………遥都?そ、その人の苗字って……」

 

「"伊月"って言ってましたよ?だよね、りんりん!」

 

「は、はい……。私もそう記憶してます……」

 

「ど、どこでやっていたの!?その食事会!!」

 

 

 明らかに態度が一変する彼女。白金さんの肩を掴み、グッと体を寄せ、さっきと比べはるかに大きな声で問いかけた。それの原因は何かは分からない。けど、明らかになにか触れてはいけないものに触れようとする危うさが彼女に感じられた。

 

 

「今井さんの家ですけど……」

 

「そ、そう……!!ありがとう!!」

 

 

 そう言って、彼女は焦ったように走り出す。そんな、彼女の顔は暗闇のため、2人にはあまり顔はよく見えなかったが、どこか、最初と違うオーラを出していたのはわかったようだ。

 

 

「……ゆきなさんも変だったよね?」

 

「そ、そうだね……」

 

「今日のRoseliaメンバー、なんかみんな変だよ〜?」

 

 

 




「お、遥都くん!」
「紅葉さんじゃないですか〜。」
「こんな夜更けにどうしたの?」
「リサの家にいって晩飯ご馳走なって来たんですよ」
「…………今すぐそこに直れ」

評価してくれた
粗茶絞り さん(☆9)
ありがとうございます!!

まだまだ評価と感想待ってますので!!良かったら〜!


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再発
歌姫は暇人に伝えたい


………気にせず行きましょう。
投稿、遅れたのは申し訳ないです!!昨日投稿しようとしてたら寝落ちしましてですね……、えぇ、はい。
すいませんでしたー!!

それから!お気に入りを200件を裕にに突破しました!!前作を上回る人気ぶりで驚いてます!!これからもよろしくお願いしますっ!!

では、歌姫は暇人に伝えたい、お楽しみください!



 

 

 

 

「それじゃ、皿洗いも終わったし、これで失礼するよ。あんまり遅くなると、リサのお母さんとかにも迷惑だしな」

 

「わかった!なら、まだもし、宿題で微妙なやつあったら電話するね!」

 

「電話かよ……」

 

 

 皿洗いも終わり、他のところの後片付けも粗方片付いたので、俺は今井家を後にした。

 

 今井家の玄関を出て、昔のように右に曲がる。この道が懐かしく感じられるのはなぜだろうか……?しかも、また来たいとまで思ってしまう。こう思うのは、あの頃以来か……?そう思い、俺は空を見上げた。そこには、手の届かない距離にあり、真っ暗な夜の街を照らす、大きな満月が東の空に昇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第8話:歌姫は暇人に伝えたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は走った。彼がいた所へ……。本当に偶然、ただ家から出たかっただけで散歩をしていただけ。そこであった、あこと燐子に言われたのだから、彼がそこにいると……。彼は私に音楽の道を続けさせてくれた、その道を守ってきてくれた。なのに……!!

 

 真夏の生暖かい空気が肌を滑るように過ぎ去っていく。心地の悪さなどは今は感じている場合ではない。とにかく、1秒でも早く、リサの家へ……。

 

 路地を左に曲がり、よくリサと遊んだ公園も通り過ぎ、横断歩道を急いでわたる。普段、走っていない私にとってはとてつもなく長く、大変なはずの、長距離。けど、そんな御託を並べるのは後。

 

 

「っ!!!」

 

 

 見えた。リサの家。そして、当然横にあるのだから私の家も。私は急いで今井家のインターホンを押した。

 

 

〜♪♪

 

『は〜い』

 

「ハァ……、ハァ……、私よ、リサ!!」

 

『ゆ、友希那!?こ、こんな時間にそんなに息切れしてどうしたの!?ちょっ!今、そっち行くから!!』

 

 

 家の中からドタドタと音がして、すぐに玄関の扉があく。私は額に流れる汗を拭いながら、とりあえず、息を整わせる。一度大きく、息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

 

「さっき、燐子とあこに聞いたのだけれど……、ここに遥都が来ていたの?」

 

「っ!!??」

 

「どうなの!?リサ!!」

 

「き、来てたよ……。けど、今さっき、出てっちゃった……」

 

 

 少し怯えながら答えるリサ。私は少し、申し訳ないとは思うものの、引くことは出来なかった。なぜなら、1秒でも早く遥都に謝りたかったから……。あの時のことをまだ、私は……!!

 

 

「ちょっと、友希那!!??こんな夜中に……!それに、遥都は……ってもう!!聞いてよーー!!」

 

 

 リサに遥都が帰ったと聞いた時には、身体が勝手に反応していた。うる覚えではあるが、遥都の家は私も覚えている。確か……、ここをこういって……、ここのカーブミラーを曲がり……、あった!!

 

 

「もう!!友希那〜?人の話は最後まで聞こうね〜?遥都なら、まだいないと思うよ〜?帰る前に薬局いって、目薬買ってくって言ってたし……」

 

「なぜそれを言わないの!?」

 

「言おうとしたら、友希那が走ってっちゃったんでしょ……?」

 

 

 もう一度、彼の家を見やると、家の電気はついておらず、洗濯物も夜風に吹かれている。今は誰もいないのが明らか、それを見て私は少し落ち着きを取り戻す。

 

 

「……どう?少しは落ち着いた?」

 

「えぇ……。悪かったわね」

 

「ううん。大丈夫!……それで、どうする気なの?友希那は」

 

「…………会うわ。遥都に会って話をする」

 

 

 リサはあの時のことを少しだけ知ってる。私も全ては話していない。けど、リサのことだから大概のことは想像で補えるのよ。昔から私の横を歩いてきてくれたから、ずっと見放さないでいてくれたから。

 

 遥都、彼には……、今なら……、あの時、言えなかった言葉を……。"ありがとう"と"ごめんなさい"を……。

 

 

「行くわよ」

 

「リョーかいっ!」

 

 

 再び夜道を走り出す私たち。月光に照らされる路地を走り、薬局がある方へと向かう。公園を抜けて、先程来た道の途中で曲がる。

 

 

「あっ!!」

 

「どうしたのよ?リサ」

 

「あれって、遥都じゃない!?」

 

「え……?」

 

 

 間違いじゃなかった。コンビニの前には紛れもなく、明かりに照らされて遥都が壁にもたれかかっていた。帰り道の途中に後ろにあるコンビニによったのか、薬局の袋とは別に何か袋を持っている。

 

 だが、こちらに気づく様子はない。何か違うことをしているような……。電話か?そう思った私は少し、遥都の表情を伺う。その表情は決して明るいものではなく、むしろ険しいものだった。

 

 どうしたのかしら……?遥都があんな、表情をしているのに話しかけに行っていいものか……?私は頭の中で必死に考えた。だが……、

 

 

「お前は昔からそうだよ……!!お前が出来もしねぇくせに、真面目にやんねぇからだろ!?だから、湊さんがブチ切れたんだよ!」

 

 

 急に遥都がそう叫んだのだ。相手は電話の向こうにいる人。誰かも分からないが、少なくとも遥都はよく思っていないのだろう。あの冷静な遥都でさえもキレているのだから。

 

 だが、それ以上に気になったのは、会話の中で唐突に出てきた私の名前……。一体、どういうこと……?その後、何秒か沈黙があった後、遥都はさらに続けた。

 

 

「別にお前が俺と同じ高校になって、しかも同じクラスで、更には同じ班で……。夏休みの課題の大学調べをお前とやらなきゃいけないって言うのはどうだっていい。それのお前の配分をお前がきちんとやってこなかったのもどうだっていい。それで、更には去年の先輩からコピペしてきたってのもどうだっていい。問題なのは……、お前が、この場で湊さんのことを出して、来たことなんだよ!!あの時、約束したよな……!!??このことは有耶無耶にするって。お前がなんでこんなことを言ったかは知らねぇが、こんな風にノリとかで済まされねぇ話なんだよ!!」

 

 

 さらに熱の篭った声が放たれる。なんのことを言っているのか……、私は薄々気づいてしまった。あの時のことだ……。私がちゃんと話したかった、あの事件のこと……。

 

 

「もし、それで、あいつに本当のことを知られたら……?二度とあいつは戻ってこなくなる。もし、そうなったとしたら……、俺はお前を今度は本気で潰しにいくぞ……?」

 

 

 "本当のこと"……?あの事件は、遥都と何人かが口喧嘩して終わった……、と聞いてはいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………あれ?ならどうして遥都とその後、数名は休んだ?たかが、小学生の口喧嘩でトラブル解決に先生があんなに動いていた?時間も三限分が自習になった?今考えると明らかに不自然な点が……。

 

 

「最後にこれだけは言っとく。もう、これ以上、あのことは口に出すな。お前もあいつに関わるな。それでボロが出たら堪らないからな。もちろん、俺もあいつとはできるだけ関わらねぇ。あぁ、そういう事だ。じゃあな」

 

 

 え……?『俺も関わらねぇ』って……?それって、つまり、私と……?闇夜の中、私は頭の中で考えをひたすら巡らそうとするが、ひとつにまとめることは出来なかった。そんな私は不自然な点に気づいた上でその言葉を聞いてしまった。それは私の決意をへし折るには充分すぎた。

 

 

「友、友希那……?」

 

「…………」

 

 

 遥都がもたれかかっていた壁から背中を離し、歩き出す。10メートルもない所に遥都が歩いているのに声も出ない。それどころか身体が怖がって動こうとしない。

 

 

「ねぇ、友希那ってば!!」

 

「…………るわ」

 

「えっ!?ほら、早く行かないと、遥都帰っちゃうよ!?」

 

「帰るっていってるの!!」

 

「え……?」

 

 

 私は走った。遥都が歩いていく方とは別の方に、目的はない、ただガムシャラに……。せっかくついてきてくれたリサすらも置いて。何も考えたくなかった。私は逃げた。数年ぶりに遥都に正面から話す機会を自ら逃げたのだ。

 

 そこからリサとも話さずに帰宅。私はすぐに自分の部屋に戻りベッドに仰向けになる。いつもと同じ真っ白な天井に何も聞こえない静かな部屋。なのに、それが今日は腹立たしく感じる。

 

 

「…………っ!!」

 

 

 頭の中で遥都の言葉が蘇り、再生される。おかしい……!!そんなことはない……!別に遥都のことを嫌ってはいないし、むしろ男子の中では喋る機会があっただけはあって、話せるとは思っている。いわゆる、遥都は私の中では異質な男子だった。みんながやりたがらない、あの時も私のペアの委員を快くかは知らないけど、やってくれたのも遥都だ。そんな遥都から言われたさっきの一言、それがあまりにも衝撃的過ぎたのだ。

 

 苛立ちか悔しさか、私の中で感情が混ざりぐちゃぐちゃになる。身体を返し、枕に顔をつけた。自然と涙が溢れ、想いも溢れ出る。

 

 

「……たし……、きら……てる……?わた……、なに……した?」

 

 

 誰にも聞こえない、私の叫びは枕の中に消える。誰かに助けを求めたって誰も来てくれないのはもう知っている。だから、私はもう自分だけで……!!けど、今だけは……、遥都と話し、自分の心の鎖をとって欲しかった。

 

 

〜♪♪

 

 

 そんな私の部屋に無機質な音が鳴る。携帯……、メッセージかしら……?

 

 

『ゆ〜きな!ちょっと、話さない?』

 

 

 リサからだった。けど、今はそんな余裕は……!!だが、私の気持ちとは裏腹にまた携帯がなる。

 

 

『は〜い、玄関から入るね〜』

 

 

 何を考えて……!!?もうそう思った時には遅かった。私の部屋の扉が開き、リサが立っていた。

 

 

「ちょっと話そ?」

 

「…………そこ、座ってて。お茶を入れてくるわ」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 薬局の帰り、俺は明日の昼飯用の三平ちゃん焼きそばを買いにコンビニによっていた。薬局で買えばよかったのだが……、完全に忘れていたのだ。

 

 コンビニでお目当ての商品を買い、店を出る。すると携帯に着信がはいる。相手は……、高校でも中学でも同級生だが、そこまで仲良くはないあいつからだ。あぁ、先に言っておくと、前に宿題を見せろと言ってきやがった知夏良とは全く別の人物だ。

 

 内容は夏休みのグループ課題について、それ自体はどうでもよかった。だが、あいつがいつもの冗談で言ったらしい、あのことが癇に障った。少なくとも俺はあのことは冗談でもシャレにならないと思っているから。

 

 俺は大きな苛立ちを抱えながら電話を切った。舌打ちをして、その場を離れる。そんな俺の怒りと呼応するように……

 

 

「……って……て……るの!!」

 

 

 どこからか聞こえるその女の子の叫び声。内容は聞き取れはしなかったが、別に助けに行こうとかそんなどこかヒーローっぽいことはしようとは、気分的にも思わない。でも、聞き覚えがあるような……。まぁ、気のせいか……?

 

 俺はそう思いその場を後にして帰路についた。

 

 

 




「伊月くん、君さ、今更だけど頭いいの?」
「どーなんでしょ?あんまり自分で言うのはアレかとは思うんですけど、都内ではそこそこの進学実績を誇るところですからね……」
「ほぉ〜、大学はどこか考えてる?」
「いえ、今のところ、まだ……。進路ぐらいしか決めてないですね」
「何学部?」
「薬学とか、面白そうじゃないですか?」
「いいね〜」


お気に入り登録と評価してくれた方ありがとうございます!
桜華さん(☆9)、猫鮪さん(☆9)、銀行型駆逐艦一番艦ゆうちょさん(☆9)
ありがとうございます!!
まだまだお待ちしてますよ〜!!


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騒人と暇人は持ちつ持たざれつつ

中々、素晴らしいペースで投稿しておりますね〜。
そう言えばUA、わかりやすく言えば何人の人がアクセスしたか、という値が10000を突破致しまして、今までにないペースで増えていて非常に嬉しいですよ!?

そんなのどうでもいいから早くして、って声が聞こえてきそうなので……、最新話いきまーす!


 

 

 

 

 東の空に大きな太陽が登り始め、空を青紫色に染めていく。リサの家でメシを食べた時から既に5日が経過していた。相変わらず、時間を浪費させる夏休みというもの。ここまで来ると、"学校に行く"という毎日、強制させられながらする何か物事があった方がいい気がしてきた。

 

 

「8/31か……。夏休み最終日……」

 

 

 この日、つまり、夏休み最終日。この日は人によって、天国と地獄が別れる日。そして、その審判がついに下されようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第9話:騒人と暇人は持ちつ持たざれつつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼むっ!!!」

 

「おい、知夏良……。去年、全く同じ光景を見たよな……?」

 

 

 八月末のカンカン照りの太陽が降り注ぐなか、伊月家の玄関では奇妙な光景が繰り広げられていた。玄関先のコンクリートに頭を垂れるものと、扉をほんの数cmほど開け、目だけを出す者。

 

 そして、お察しの通り、頭を垂れるのは数日前、俺にメッセージを送り付けてきたのは知夏良、佐山 知夏良だ。こいつと言うやつはかなりいい加減ということだけ覚えておいてもらえればいい。

 

 

「そ、それは……」

 

「その時、お前、なんて言ったか覚えてるか?」

 

「お、覚えてません!!」

 

「こう言ったんだよ……。『もう来年は絶対忘れないからっ!!お願いしやす!!』えぇ?おい」

 

「…………来年は絶対忘れないから」

 

「〇ね」

 

 

 バタンと扉を閉め、ガチャリと鍵をかける。別にいじめてるわけでもなんでもないんだ。むしろこっちがストーカー被害にあって苦しんでる。そこの所、お間違いなく。

 

 俺はリビングに戻り、カーテンを閉め、窓も閉める。特にやることもないのでソファに寝っ転がり、スマホを開く。外から『入れろ!見せろ!男の友情!!』と三三七拍子的に言ってくるあいつの馬鹿な声が聞こえてくるがこんなのはガン無視だ。イヤホンをつけ俺は自分の世界に……、

 

 

〜♪!!

 

 

 タイミング悪ぃな!!いいか!?俺は今だな……!!はぁ、もういい。とりあえず、誰だよ?…………リサか。画面に表示されたのは、これまた三日前ほど前に電話がかかってきたアイツだ。

 

 

『あっ!もしもし!?今から遥都の家いっていい!?』

 

「はあっ!?」

 

『しゅ、宿題でやり忘れてたやつがあって……』

 

「だからって、なんで俺の家なんだよ!?」

 

『アタシの部屋のエアコンが壊れて、勉強どころじゃない暑さなの!!それで、Roseliaのみんなに聞いたんだけど、みんな予定合わなくて!!』

 

「知らねぇよ!!とにかく、今日、俺は……!!」

 

『じゃ、15分後にねー!!』

 

「ちょ、おいっ!!!」

 

 

 …………切りやがった。やったぞ、あの野郎、やりやがった。このタイミングで……。

 

 

「…………ふ、ざ……、けんなーーーーーー!!!」

 

 

 家の中で1人で叫ぶ俺の声は虚しく響くだけ。あ、いや、それどころじゃなくてだな。よく思い出そう。いま、なぜ、俺はこんな真昼間にカーテンを閉めた?そう、あいつがいるからだ。そして、そんな状況でリサなんてやつが来たりでもしたら……。俺にとって不利益なことしか起こらないのは目に見えてる。

 

 ここで、俺に与えられた選択肢は2つだろう。まぁ、どちらを選んでも嫌なものにはなるんだが。

 

①知夏良を入れて、リサには友達が来てるからと帰ってもらう

 

②知夏良を友達が来るからどこかに追いやり、リサを入れる

 

 この2つだ。家を出て、2人と合わないという手段もあるのだが……、あいにく、今日は俺がネットで注文したあるものが届く。それは親にも秘密で買ったやつなので、今日、受け取れず、後日配送で親にバレるということを避けたいのだ。しかも、結構大きなものでセットに時間もかかるしな。夏休み最終日にやっておきたい。

 

 さて、どちらを選ぶかだが……、もう決めている。①だ。なぜ?リサの方が居座られる可能性が高いからだ。本気で夏休み最終週ぐらいゆっくりしたい。そして、知夏良の方がそれは最適なのだ。だって、知夏良は答えさえ渡せば、写して帰るだけなのだから。

 

 

「おい、知夏良」

 

「えぇっ!?やらせてくれるのか!?」

 

「いいから、早く入れ」

 

「ま、まじか……。あの、遥都が……!!」

 

 

 扉をあけ、いそいそと迎え入れ、リビングに通してやる。「ここに座っていろ」とだけ言い残し、俺は自分の部屋にいき、宿題を取ってきてやる。全てはこの後、休むためなんだ、我慢しろ、俺!そう言い聞かせ、階段を上る。

 

 

ピンポーン

 

 

 そう言い聞かせているうちにリサがくる。よし、このまま居留守を使えばいい。最悪、友達が来ているからといえば……

 

 

「あれ?今井さんっ!?」

 

「あれ〜!?佐山じゃん!?」

 

「何してるの?あー、良かったら入って、入って!」

 

「イェーイ!!ありがとっ!!」

 

 

 …………終わった。あのクソガキ、人の客をサッと対応して、中に入れやがった。1階から聞こえてくるその声に俺は絶望を隠せないでいた。

 

 とはいえ、このまま2階に居たって、二人の滞在を長引かせるだけだ。俺は重い足を引きずりながらも1階に降りた。

 

 

「お、遥都!!持ってきてくれた?」

 

「お邪魔してま〜す!」

 

「…………ほれ」

 

「おぉー!!遥都、サンキュ!!…………なんで、そんなローテンションなんだ?」

 

「お前らのせいだろがぁ!!!」

 

 

 こいつらキライ!!人の家、溜まり場にするんじゃないよ!!

 

 

「……というか、知夏良って、そんなリサと仲良かったか?」

 

「んー、どーなんだろ?少なくともお前よりは仲良くないよ?」

 

「なら、なんでよ?よく覚えてたな?」

 

「そりゃね〜、Roseliaの名前くらい、ギターやってたら聞くし?ここら辺で急速に成長してる5組のガールズバンドの一角。しかもその中でもぶっちぎりの実力を持っているとなれば、ね?」

 

 

 そーいや、こいつ、ギターしてたわ。何気に弾き語りとかをサラッとやるのがムカつく。高一の頃は「音合わせしよーぜ!」とか、うるさかったな……。

 

 にしても、Roseliaはそんなにだったのか……、いつか聞いてみたくもなってくる。とは言っても!!今回のこととは無関係だ!今はとにかくだな、勉強を!!

 

 

「えー!!アタシ達のこと知ってたんだ!!」

 

「そーそー!自分は1回、ライブも見に行ったことあるよ?」

 

「えっ!?いつ!!??」

 

 

 ……このコミュ力お化け達め!!勉強をしろ!宿題を終わらせてくれー!!!俺は今日、ゆっくりしたいんだ!!俺はジロリと2人を睨めつけ、その上で大きく咳払いをする。

 

 

「わぁったよ!!やるよ!!」

 

「次、騒いだら、ぶっ飛ばすからな?」

 

「へいへーい」

 

 

 知夏良はテキトーな返事をして、渋々答えを写し出す。リサはリサでようやく、やってなかったであろう、教科書とかを取り出した。そーいや、リサの宿題ってなんだったんだ……?

 

 

「リサの宿題ってなんのことだったんだ?」

 

「あ、それはね。これだよ、これ!」

 

「なんだそれ?」

 

 

 これは、あれだな、うん。スケッチブックだ。つ・ま・り……、美術か……?

 

 

「身近な人の絵を書いてくる!!」

 

「はぁっ!?」

 

「お母さんとお父さんは今日、仕事だから夜まで帰ってこないし……、友希那もどっかいっちゃったし〜、頼めるの遥都しかいないかなあ〜って!!」

 

 

 ヘラっとした口調でそんなことを言うリサ。なぜだ!?なぜ、俺を書く!?

 

 

「ほ、他にバンドメンバーとかいたろ?」

 

「あこはジッとしてくれなさそうだし〜、燐子はそもそもモデルを嫌いそう!あとは、紗夜なんだけど……、万が一宿題をやってないことがバレたりでもしたら……。ね?」

 

 

 …………また、紗夜さんね。その人はどんな鬼教官なんだよ……?一度会って話をしてみたいものである。そして、今回や前の宇田川さんのことを暴露して……、うん、よいよ、よいよ。

 

 

「というわけで、遥都よろしく〜!」

 

「断ってもやらすだろ?」

 

「モチ!!」

 

「リサもぶっ飛ばしたくなってきたよ……」

 

 

 俺は大人しくリサの言うことを聞くことにした。皮肉なことにこれが、この今井リサを追い出すのに一番いい方法なのだから……。知夏良はほっといても、そのまま丸写しなんてアホな真似はしないだろうし、いいだろう。

 

 そして、俺はリサの正面に座り固まった。そこからは、リサがなんだかんだ言ってはきたものの無の境地に達し、菩薩となった。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「出来た〜!!」

 

 

 あれから30分。知夏良の宿題も写しおわり、あとはリサの絵を待つのみとなった。鉛筆による下書きから始まり、その後、絵の具で色を付けていて、被っているのがベレー帽と言うこともあり、地味に上手そうに見えたのが恨めしい。なぜ、恨めしいかというと……

 

 

「お、今井さん!遥都の絵完成したの!?」

 

「うん!ほら、見る!?」

 

「見せて、見せてー!」

 

「はいっ!ほら、遥都も!」

 

 

 おっふ…………。相変わらず、リサの絵は酷い。首がない。体がやけに小さく、頭がバカでかくみえる。知夏良も察したらしく、左頬が引きつっている。

 

 

「どうかな!?」

 

「え?あ、あぁ!!いいと思うぞ!?な、遥都!!」

 

「俺に振るなよ!!あれだろ?ほら、天才にしか見えない世界って言うか……、ほら!!ピカソとかもそうだから!」

 

「だ、だな!!」

 

 

 果たして、こいつは自分が今書いた絵で俺らが困っていることに気づいているのだろうか……?中々に酷いものだぞ?

 

 絵を描き終わったリサは、ようやく苦しみから解放されたのか、鼻歌を歌いながらうろちょろしだした。これは、このまま居座られる感じか……?

 

 

「あ、じゃあ、自分は用が済んだし帰るわ」

 

「え?お、おう。」

 

 

 こ、これは、一体……?100%帰らないと思ってた、知夏良が帰ると言い出した。何が起きて……

 

 

「ちょっ!?佐山!?何考えてるの!?」

 

「え〜?なにも〜?」

 

 

 白々しい程の棒読みでリサに返す知夏良。こいつら、一体何を考えてやがる?知夏良はいそいそと荷物をまとめて、玄関に向かう。俺は一応、見送りだけでもと、知夏良のあとをついて行く。

 

 

「ア、アタシも帰る!!」

 

「はぁっ!?」

 

 

 またもや、突然のカミングアウト。こ、こんなに願い通り物事が進んでるなんて、おかしくないか……?いいや、この後、なにかある!!そうに決まってる!!リサは知夏良のあとについて、慌てて、外に出ていく。

 

 

「なんだよ!?せっかくの機会なんだから」

 

「無理無理無理!!絶対無理だから〜!!」

 

 

 リサと知夏良が何やら小声で言い争うのが見えるが、特に気にもならないので放置。それよりも今はこいつらを追い出してさえしまえば俺の理想郷は帰ってくるのだから……!!

 

 

「じゃあな〜!!」

 

 

 俺は勢いよく、扉を閉めて1人になる喜びを噛み締める。これぞ、まさしく、俺が求めていた至高の空間。これに勝てるものは無い。ソファにダイブし、ノートパソコンとテレビを繋ぎ、大きな大画面で好きな動画を流す。そして、冷蔵庫から冷えたレモン水、これぞ夏の楽しみ方ってな。

 

 が、理想郷とは理想であるからそこまで天国なものである。そして、そんな理想というものはそう簡単にできるものでは無いから理想と呼ばれるのだ。

 

 

「ただま〜」

 

 

 玄関の扉が空いたと思ったら、何故かやつがそこにいた。そう、佐山知夏良とかいう害虫が。

 

 

 

 

 

 




「こんちわ〜!」
「おー、佐山くん!初めまして〜」
「こちらこそよろです!」
「いやぁ、君みたいな明るい人相手だと書きやすいね〜!」
「でしょっ!?だから、次回からタイトル変えましょっ!?『佐山知夏良とハーレム高校生活!』って!」


お気に入り、評価、感想、ありがとうございます!
まだまだお待ちしてますので是非どうぞ!


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騒人は気遣い、多忙人は釈然としない

皆さん、中々素晴らしいペースで投稿してると思いません!?
そう言えば、Roseliaのファンミももうすぐに迫って来てますよねー!!皆さん、ライブビューイングや現地各々の形で楽しまれたりする方、あるいは何かしらの用事で行けない方、いらっしゃるとは思いますが……、トラブルなく、平和で楽しいファンミになればなぁと思っています!!

さて、世間話もほどほどに……、始めましょうか!

※今回、とあるキャラクターが少し悪者のように写ってしまっていると感じる読者様がいるかも知れません。必ず、よりは戻しますので我慢をお願い致します!





 

 

 

 

 

「ただま〜!」

 

 

 夏休み最終日、事件は起きた。俺の理想郷に害虫が現れ、俺の理想が崩れる音がする。その害虫は一度は去ったものの、復活を遂げて出てきやがった。とある有名な黒光りするあの害虫もよく言われる。『1匹いたら100匹いると思え』と。こいつの場合、『1回きたら100回はいると思え』ってことかよ……。

 

 

「…………何しに来た?」

 

「いやぁ〜、遊び?というか、お話?」

 

「帰れ」

 

 

 俺のそんな願い、届くはずもなく、そいつはズカズカと俺の神域に入り込んできた。

 

 知夏良は玄関に腰掛けた。帰る様子がないと判断した俺は一応、さっき知夏良に出した、お茶を追加して注いで出してやる。

 

 

「んで、なんのようだよ……?」

 

「だ〜か〜ら〜、お話」

 

「なんのだよ……」

 

 

 知夏良は焦らすようにお茶を一口飲むと、一つため息をはく。そして、俺の方に向いてこういった。

 

 

「お前さ、今井さんのこと、どう思ってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第10話:騒人は気遣い、多忙人は釈然としない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前さ、今井さんのこと、どう思ってるの?」

 

 

 急に投げかけられたその一言、俺は理解を出来ずにいた。あぁ、日本語の意味を理解できないとか、聞かれたくないことを聞かれたからとか、そういうのではない。質問の意図を理解出来なかったのだ。

 

 

「…………なんで?」

 

「いや、別に〜?けどさ、二人ともなんかいい感じじゃん?」

 

「…………そうか?」

 

「そーだよ?だから、遥都は今井さんのこと、どう思ってんのかな、と」

 

 

 何故かポンポンとテンポよく進んでいく会話に俺は妙な違和感を覚える。が、今は気にしても仕方の無いことなのだろう、俺は話を進める。

 

 

「別になんか特別な思い……、例えばお前が期待しているような恋愛感情とかがあるわけじゃねぇよ。ただ、古い付き合いってだけだ。ただ……、"あのこと"をリサには知られたくない。万が一、知ってしまえば、リサの事だ、湊さんも関わってるし、普通じゃいられなくなるだろうからな。それだけに、他人よりは気を掛けてるってだけだよ」

 

「…………なるほどね。少なくとも、今は恋愛感情はないって事ね」

 

「ないよ。ってか、"今は"ってなんだよ……。あんな横暴で迷惑ばっかかけてくるやつに恋愛感情を抱くやつ、そうそういねぇよ」

 

「ブフッ……!!横暴で迷惑屋ね〜、アハハハっ!!こりゃ傑作だわ!!…………でもよ、遥都。今井さんってみんなにはあんな態度、取らねぇよ?それに男子からみたら普通に可愛いんだぜ?」

 

 

 大きな笑い声と共に後半は真面目なトーンでそう言う知夏良。なんのことやら……、俺は信じることが出来ずにその場で固まることしか出来ずにいた。そして、知夏良はお茶を飲み干し、『よしっ』といってたちあがった。

 

 

「まぁ、遥都がどんなものを恐れてるのか知らないけど……、もう少し、ちゃんと今井さんを見てあげろよ?」

 

「…………なんで?」

 

「そりゃ、お前…………、まぁ、そのうちわかるか」

 

「なんだそれ!?」

 

「いいんだよ!それじゃあな!!」

 

 

 もう少しちゃんと、か……。ちゃんと見てはいるつもりなんだけどな……。あいつの性格には何度か救われているし、なんだかんだ言いつつも感謝はしている。言葉には出さないけどな。別に全部を知ろうとかそういうことは思わないけど、知夏良の言う通りもう少し見てみてもいいかもしれない。

 

 それにしても、本当に嵐のようなやつだな。夏の夕立のように、一瞬、心をかき乱したと思ったら潤いを残して去っていく。あの時もあいつに助けられてたのかもしれない。俺は少しだけそう思い、アイツに感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ド、ドキドキしたぁ〜…………」

 

 

 

 逃げるように走り、遥都の家からだいぶ離れたところで深呼吸するアタシ、今井リサ。遥都と小学校の頃から仲が良かった知夏良が急に、アタシと遥都のことを二人きりにしようとするんだから……!!嫌ってわけじゃないけど……、その、恥ずかしいっていうか…………。っていうか、知夏良のやつ、確信犯だよね!?あいつ、やってくれたよね……?

 

 

「あら?今井さんじゃありませんか?どうかしたんですか?そんなに焦った様子で」

 

「紗夜!?な、なんでこんな所に……?」

 

 

 び、びっくりした……。まさか、紗夜に会うなんて……。あ、一応、紹介しておくよ?この人は私のバンドのギター担当の氷川紗夜!!すっごく、ストイックで、怖そうだけど、本当はいい子なんだよな〜……。

 

 

「私ですか?私は今から、新学期用に出しておいた、夏服を取りに行く予定なんですが……。今井さんはどうかしたのですか?」

 

「…………そうそう!!私は買いものかな〜!!」

 

「今の間はなんですか……?」

 

 

 し、しまった……。一瞬、ギグっとなって間が出来ちゃった!!しかも、紗夜、鋭く気づいちゃってるし!!

 

 

「なんでもないよ!!なんでも!!」

 

「まさか……、あれほど言っておいた宿題をやってないとかそんなことありませんよね……?」

 

「アハハ〜……、まっさか〜!!今日まであることすら忘れてたなんてことありえないよ〜!!」

 

「へぇ〜、"今日まで"ですか……」

 

 

 終わったーーーー!!!ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!紗夜の目が怖いっ!!アタシ、自分で墓穴掘っちゃったよね……?これ、自分で自分の首を閉めてる気がするんだけど!?

 

 紗夜は冷ややかな笑顔を続けながら、アタシに更に問いかけてきた。

 

 

「ちなみになんの宿題を誰に手伝ってもらったのですか?」

 

「美術の宿題なんですけど……、身近な人の絵を書いてくるっていう……。それを、伊月遥都っていう、男の子に……」

 

「伊月……、遥都……?」

 

「知ってるの!?」

 

「いえ……、少し噂話を聞いたことがあるような、ないような……」

 

 

 紗夜が少し怪訝そうな顔をしながら考え込む。遥都ってまさか、紗夜と知り合いだったりしたの!?いやいや、それは無いよね……?だって、遥都と紗夜は同じ中学じゃないし……、塾とかなら、有り得なくもないけど……。一体どういうこと……?

 

 

「失礼ですが、今井さん。その伊月さんについて聞きたいんですけど、いいですか?」

 

「遥都について??いいけど……」

 

 

 探りを入れるようにアタシに聞きに来る紗夜。しかも、すごく警戒するように、なぜ、そんなに警戒するのか?アタシは何か引っかかりながらも答えた。

 

 

「いきなりで申し訳ないとは思うんですけど、暴力的な子なのですか?」

 

「ぼ、暴力的!?そんなことないよ!?」

 

「すいません……。もうひとついいですか?その人は常識のある、落ち着いた方なんですか?」

 

「常識的かって聞かれたらなんとも言えないけど……。自分のことは自分でやってくるし、しっかりもしてる。今は落ち着いてて冷静なタイプじゃないかな〜」

 

「ならいいのですが……」

 

 

 手を顎に当て少し、考え込む紗夜。何……?アタシのことがそんなに信じられないの……?さすがのアタシでも遥都の悪いことを言われるといい気分ではないのだけど……。その態度ってどうなのかな?紗夜に対する少しの怒りがアタシの中で顕になり始めた。

 

 

「なら、紗夜も実際あってみたら!?」

 

「伊月さんにですか……?」

 

「そうだよ!!だって、紗夜、さっきから遥都のことよく思ってないんでしょ!?」

 

「い、いえ……、そういう訳では……」

 

「いいから行くよ!」

 

「あっ!今井さん!!」

 

 

 紗夜の腕をグイッと引っ張り、アタシは再び遥都の家へ向かった。その時にはもう、溢れかけていた怒りが完全に表にでてきていた。自然と紗夜の腕を握る手にも力がこもる。紗夜が後ろから「待ってください!」と何度も言ってくるけど、知ったことか……。アタシは怒りに任せ、伊月家へと向かった。

 

 そもそもなんで、遥都のことをそんなに疑うの!?遥都と仲良かった訳でもない、喋ったでもない。それどころか会ったことすらないのに!!遥都は間違いなくいい人だ。遥都はあの頃の友希那を助けてくれた唯一の人物なのに……!!あの時のことは改めて、友希那からあの夜聞いた。

 

 何があったのか。友希那自身、細かいことは分かっていなかったから、少しだけだけど……、それでも、それだけでも、遥都が友希那を救ったことは十分に分かる。

 

 それだけに、自分の大好きな友達を助けてくれただけに悔しかった。同じバンドメンバーで親友とも呼べる紗夜に、同じく親友である遥都のことを疑われることが……。

 

 気がつけば、アタシ達は再び伊月家の前に来ていた。インターホンに真っ直ぐに手を伸ばし、ボタンを押した。

 

 

〜♪♪

 

 

『は〜い』

 

「リサです。遥都、ちょっと話したいんだけど……いい?」

 

『…………えらく、真面目な顔だな。いいよ、すぐ行く』

 

 

 いつもなら「いくのがダルい」とか言いながら行くのを渋る遥都。けど、こうやって雰囲気を察しだぞ動きを変えてくれる。そんな遥都の部分はやっぱりすごいと思うし、遥都ならではだと思う。そういう所は尊敬もしてるしね。

 

 

「やっほ」

 

「さっきぶりだな……。ん?そちらの方は?」

 

「初めまして、伊月さん。私は氷川紗夜と申します。今井さんの、そうですね、バンド仲間です。よろしくお願いします」

 

「…………こちらこそよろしくお願いします。ん……?"紗夜"……?あぁ、君があの子らが言ってた……。とりあえず、中入ってください。ここじゃ暑いですから……」

 

 

 少しの間、不機嫌そうな顔をして、間を置いた遥都。だが、そのあとは何食わぬ顔をしていた。アタシ達は遥都の案内で再び、伊月家のリビングへ入った。そのあいだの会話はなく、少しではあるが、険悪な雰囲気が流れていた。

 

 




「………………反省してます」
「何をだよ……?」
「ちょっ、伊月くん?佐山くんをいじめちゃ……」
「紅葉さん、気を使わなくていいですよ?こいつ、前回の後書きでえらく暴れたようで」
「あ、あぁ〜……、確か、タイトルを変更やら、なんやら……」
「おい、知夏良。なんて言うタイトルなんだ?えぇ?」
「『佐山知夏良のハーレム高校生活』…………という…………」
「○ね」


感想、評価ありがとうございます!!前回、感想欄にて誤字報告をして下さった方がいて本当に有難かったです!!

もう直しましたけど、前話中に、佐山知夏良が帰らなければならない所の名前が伊月遥都が帰ったことになっていたました。

お詫び申し上げます。




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謹厳人は暇人を見極める

Roseliaファンミ最高でした!!!!
もう、こう、 なんというか、もう、ね?
昼はLV、夜は現地にいたんですけど、夜の部のあけしゃんへの手紙で、もう……!!『Roseliaの成長速度に自分が追いつかなかった』(少し違っていたらごめんなさい)と聞いた時、あれを笑顔で言ったこと、本当に悔しいんだろうな。それを押し殺してでも笑顔を作るあけしゃんは強い!!そう感じました!!そのあとのあけしゃんのブログの言葉も含めて、あけしゃんへの敬意の念がより一層深まりました。

ちなみに格付けチェックのあいあい、流石ですねwww

あんまりやってると行ってない人への煽りになっちゃうのでさっさと行きましょう!


 

 

 

 

 "伊月遥都"……。私はその名前に聞き覚えがありました……。しかも、それは、マイナス方面での噂話。しかし、あくまで、噂は噂、自らの目で確かめなければなりません。それに、今井さんの友達と言われたのなら尚更。今井さんを危険な目に合わせたくはありませんし、もし、噂話のような人物ならば、直ちに2人を引き離すのが得策というものです。それを見るためにも行かなければ……!!

 

 そして、私達は今井さんを先頭にするように、その伊月遥都さんの家へ行き、中へ通されました。

 

 

「初めまして、伊月さん。私は氷川紗夜と申します。今井さんの、そうですね、バンド仲間です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします。ん……?"紗夜"……?あぁ、君があの子らが言ってた……。とりあえず、中入ってください。ここじゃ暑いですから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第11話:謹厳人は暇人を見極める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特になんの目立った点もなく素直に入れてくれた彼はキッチンにお茶を取りに行った。部屋の中をぐるりと見回す。特に汚いとかそういうことはないようで、掃除もされていて綺麗な家だ。とても、あんなことを起こすような人とは……。

 

 

「じゃ、リサと氷川さんはそっち座ってて。なんか飲み物いります?」

 

「アタシはいいかな〜」

 

「私も特に喉は乾いていないので、大丈夫です」

 

「なら、いっか。それで?リサさんよ、話って何?」

 

 

 一度、キッチンに行こうとした彼は私達の言葉を聞くと足を止め、私達と正対するように座りました。そして、そのまま、今井さんに本題を切り出すように促す。

 

 

「ちょっとね〜、遥都と紗夜に話をしてもらいたいの。アタシは遥都のゲーム借りて適当にやった時間潰しとくから」

 

「「……は?」」

 

「ちょっと、今井さん!?」

 

「なに?」

 

「いくらなんでもそれは……!」

 

「紗夜にアタシの友達のこと、分かってほしいの。なんか、遥都のこと、誤解しているみたいだし」

 

「そ、そういう訳では……」

 

 

 いかにも真剣な目で言う彼女は恐らく大真面目なんだろう。けど、私自身、正直、この人と2人で喋れるかと言われると喋れる気はしません。一体、どうすれば……。

 

 頭の中をグルグルと回すあいだにも今井さんは伊月さんのリビングのゲーム機を慣れた手つきで触り始めました。

 

 

「あー、なんかすいません。アイツ、友達ほっぽり出して……」

 

「いえ、別に気にしていませんよ。それより、せっかくですし、なにか喋りませんか?」

 

「そうしましょうか……」

 

 

 とはいえ……、何か喋ろうと言われてもこういう時は何も出ないものでありますよね……。二人とも黙りこくってしまって、リサがやるゲーム音だけがピコピコと響いて来ます。

 

 流石にこれが続くのも気まずいですよね……。何か、話すネタありませんかね……?そう言えば、先程、伊月さん言ってましたよね?『君があの子達が言ってた』って……。

 

 

「私がここに来た時なんですけど、伊月さん、私に『あの子達が言ってた』と言っていましたけど、誰かに私のことを聞いてたのですか?」

 

「ん?あ〜、宇田川さんと白金さんに聞いたんですよ。同じバンドメンバーなんですよね?以前、宿題を手伝ったことがありまして……、その時に宇田川さんが氷川さんのことを散々に言ってましたからね……」

 

 

 宇、宇田川さん……!!何をしているんですか!?それに、宿題を手伝ってもらったって……!!ゴールデンウィークの時にあれだけ言ったのに……。これは、また、言わないと……!!

 

 

「何かご迷惑をおかけしたみたいで……。すいません……」

 

「いえいえ、気にしてないので……」

 

「失礼ですが、伊月さん、頭の方は……?」

 

「さぁ〜、通ってるのは都立覇聖(はせい)高校。割と有名な進学校にはなってるみたいだけど、全員が全員そういう訳ではないと思いますし……」

 

「覇聖高校!!??」

 

「そーだよ〜。もしかしたら、紗夜よりはるかに賢いかもねー」

 

 

 ゲームに飽きたのか今井さんがいつの間にか後ろにいて、会話に入って来ました。それにしても、覇聖高校って……。覇世高校の進学実績は生徒の六割が有名な国公立大学へ進み、残りの四割も有名な私立や医学部へ行くような超有名校ですよ……?別に、学力だけで人を判断する気はないんですけど、それでも、正直、あんな噂が流れる人とは考えにくいですね。

 

 

「今度はこっちから質問してもいいですか?」

 

「え、あ、あぁ、いいですよ?」

 

「リサって、バンドでもこんな感じなんですか?」

 

「ちょ、アタシの話はやめてよ!?」

 

「リサはゲームやってろって……」

 

「う〜ん、そうですね。表向きはこんな感じですが、真面目で一生懸命な人ですよ?」

 

「ホント恥ずかしいから!!」

 

「それだけじゃありませんけどね、とにかく、素晴らしい人ですよ」

 

「そりゃ良かったです」

 

 

 少し笑顔を見せる伊月さん。その屈託ない笑顔はとても、あんな噂が流れる人とは思えないですね……。思い切って、少し、聞いてみましょうか?でも、彼のことをよく思っている今井さんの前でその話をするのは……。

 

 

「伊月さん、少しいいですか?」

 

「いいですけど……、」

 

「ここだとあれなので、少し2人で話したいのですが……」

 

「分かりました。おーい、リサ、ちょっとまっててくれー。あ、冷蔵庫漁るなよ?」

 

 

 席を立ち、リビングを出て階段のところまで来た、私と伊月さん。伊月さんは扉を閉めたことを確認し、階段の所へ腰掛けました。そして、少しだけ間を置いたあとでした。

 

 

「んで、話って何……?恐らくだけど、初め、俺に向けてた、嫌悪感のことかな?残念ながら、いきなり嫌悪感剥き出しで来るような人に気を使えるほど、俺もお人好しじゃないから……」

 

 

 え……?この人……!?急に雰囲気を変える伊月さん。氷のような目付きでこちらを睨んできて、私の足を釘付けにしました。背中がゾクリとして、冷や汗が流れるのを感じます。この感じ……、本当に噂通りの……。私はポケットの中に携帯があることを確認し、緊急SOSをいつでも出来るようにスリープボタンに指をかけながら答えます。

 

 

「そ、その通りです。あの噂、あれは本当のことなんですか?」

 

「あの噂……?もっと、はっきりいったらどう?」

 

「なら、言わせて貰います。小学六年生の時に噂になった、小学生男子が同じく小学生男子数名を病院送りにしたあの事件のことです。しかも、全員が顔面に大きな傷を負う程の徹底ぶりだったそうで、近くには金属棒も落ちていた。そして、先生が駆けつけた時には、男子が1人だけ立っていて、血走った目で先生を睨みつけたという、当時、とても有名になったものです。犯人の男子の名前は伊月遥都。奇遇にもあなたと同じ名前なんですよ。伊月さん……」

 

 

 雰囲気がガラリと変わった伊月さんに怯えながらも、それを押し殺し、平静を装って私は言った。いや、言ってしまった、と言った方が正しいかもしれない。何か超えてはいけない一線を超えてしまった、そう感じてならない。

 

 

「どうなんですか?」

 

「……………………へぇ、よく知ってたね。それは間違いなく俺。氷川さん、あなたの言ったことも粗方あっているよ」

 

「っ!!??」

 

 

 やはりこの人は!!??こんな人と今井さん、それに宇田川さんや白金さんを付き合わせるわけには……!!少し口角を上げながらそう言い放つ、彼はどこか見えない奥の手があるように見え、それが私にとって何よりの恐怖でした。

 

 

「さ、最後にもう一度確認します……。本当に、あなたがやったんです、か……?」

 

「あぁ。それは間違いないよ?」

 

 

 平然と答える彼に私は怒りすら覚えてしまっていた。なぜ、他人を傷つけることを当たり前だと思っているの!?それを反省していないの!?しかし、あの、伊月さんの氷のような冷徹な目に睨まれてから未だに足が動きません。そんな怒りと恐怖の中、今度は向こうが話をしてきた。

 

 

「逆に今度はこっちから質問させてもらうよ?今の話を聞いて、氷川さんは俺のことをどう思った?」

 

「…………二度と今井さんや私達に近づいて欲しくないな、と……」

 

「…………そうかい。だから、嫌なんだよ……

 

 

 え……?最後の小さく呟いた言葉は……?舌打ちをしてから言ったその言葉はハッキリとは聞こえなかったけれど、確かに伊月さんは言っていた。何か、大事なことを聞き落とした気が……。

 

 伊月さんは腰を上げ、リビングに戻ろうとしました。けど、なぜか、そんな、後ろから見る彼の背中、そこからは何か大きなものを感じました。それが一体なんなのか?少なくとも、決していいものではないのは分かります。なにか、こう、重く暗い、パンドラの箱の様な物を感じます。

 

 

「伊月さん!」

 

「…………なに?」

 

「これだけ、聞かせてください。今井さんは知っているんですか?」

 

「知らないでいてくれたら嬉しいとしか言えないね。少なくとも、俺からは言っていない」

 

 

 少し遠くを見ながらそう答える伊月さんはドアノブに手をかけたところでそう答えました。低く冷たい声は私にあの目線を思い出させて、私は未だに足についた釘を抜けずにその場に固まったまま。

 

 

「そ、それは……、あなたのため、ですか?それとも、今井さんのため、ですか?」

 

「知らないでいてくれたら……、ってことが?」

 

「そうです」

 

「両方だな。リサにはこんな姿見せたくないだろ?俺自身もその話はしたくない。そして、リサ自身も恐らくその話を聞くと…………、まぁ、これは予想の範疇だしやめておくか」

 

 

 両方、ですか……。また微妙な言い方をしましたね。しかし、最後の発言、あれだけは少しだけ暖かさが感じられたような……。気のせいでしょうか?

 

 

「さ、もう話は終わりですよね?あぁ、さっきの話はリサの前ではしないでくださいね?これは本気でお願いします。リサを不幸に陥れたいのなら話は別ですけど……。同じバンドメンバーをそんな風にはしたくないでしょう?」

 

「そ、そうですね……」

 

「なら、話さないことをオススメします。それに、おそらくですけど、氷川さんが心配しているようなことはほぼ確実に起きませんよ。それじゃ、リビングに戻りましょ?」

 

「はい……」

 

 

 完全に雰囲気が元に戻った伊月さん。手に掛けかけていたドアノブをもう一度、倒しリビングへ戻っていきました。もうその背中にはパンドラの箱は感じられず、気がつくと私の釘も取れていました。

 

 

(あの人は一体…………?)

 

 

 私の中で生まれて消えないこの疑問。最後の今井さんのためでもあると言ったことや、最初に話していたあの感じだとどうも悪い人には感じられません。しかし、二人で話していたあの時間を見てしまうと……、私はどちらかを決めきれずにいました。それに、最後に言っていた『私の心配しているようなことは起こらない』って……?あの噂は本当。だけど、そういうことは私達には起こらない。単純に捉えれば成長した、歯止めがきくようになった、とそのようなことなんでしょうけど……。それだけじゃなくて、もっとなにかがあるような……。

 

 ただ一つだけ言えるとしたら……、あの人は噂通りなほど悪い人ではない。やったとしても何かしらの理由があるのだということ。私の中で彼が今井さんの近くにいることへの安心感がありました。

 

 

「どーしたの?紗夜。満足そうな押しちゃって」

 

「いえ、少しつっかえていたものが取れただけです」

 

 

 

 




「お疲れ様でした、明s……、白金さん」
「…………!?は、花束!?ど、どうしたんですか……?」
「いいから、貰っておいて。本当にお疲れ様でした。白金さんにもだけど、白金さんの1番のファンの人にそう伝えておいて」
「…………はい。分かりました!」


明坂聡美さん、本当にありがとうございました!!そして、これからも応援しています!!


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暇人は気づいてしまう

最近、とある作家さんの作品を読んで、バンドリの二次創作で一番感動してしまいまして……、自分の文章力の拙さが嫌になりますね……。とはいえ、そんな駄作でも読んでくれる読者さんがいますので頑張って書きたいと思います!!

あ、前回言おうと思っていたんですけど、お気に入りが、250も突破しました!ありがとうございます!!


 

「あ、二人とも話し終わった?」

 

 

 氷川さんとの話が終わり、リビングに戻る俺達。そこには、ゲームにも飽き、そこら辺の雑誌すら飽き、冷蔵庫の前に立っていたリサがいた。

 

 

「お前、人の話聞いてたか……?冷蔵庫漁るなって言ったよな?」

 

「アハ、アハハ……」

 

 

 溜息をつきながら俺は元々座っていた位置にもどる。氷川さんはと言うと、自分のカバンを握り、帰り支度を始めていた。

 

 

「ねぇ、遥都。紗夜のこと、どう思った?」

 

「なんだよ、いきなり…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第12話:暇人は気づいてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ〜か〜ら〜、紗夜のこと、どう思ったのかを聞いてんの!!」

 

 

 リサの気まぐれか、俺はなぜかいきなりリサに問い詰められていた。しかも内容がかなり答えにくいもの。理由としては、抽象的であるということもあるのだが、何よりも、本人が目の前にいることだ。本人が目の前にいるのにそんなこと言えるか?

 

 

「二人きりで話してしたんでしょ?そしたら、少しはなんか思うところあるでしょ〜!?だって、二人きりで話してきたんだから!」

 

「あのな〜…………」

 

「ちょっと、今井さん!!」

 

 

 顔を赤くして怒る氷川さん。そりゃそうだろう、いきなり俺が嫌な態度を取られたんだからそんなこと聞きたくもないだろうしな。

 

 ちなみに言うと、あの冷たい態度はわざとだ。昔からよくとっていた態度のひとつなんだが、明らかにいつもと違う雰囲気を醸し出すと、相手は動揺してそれ以上踏み入れてはならないって思い込んでくれるのだ。そうすると、俺自身も話さなくて済むし、相手も聞いてこない。まぁ、たまに例外的なのもいるのだが……。

 

 まぁ、そんな理由もありあんな態度をとったわけだが、そんな態度をとった上で『どうだった?』と聞かれてもな……。正直答えにくいこと、この上ないな。

 

 

「もう!!じゃあ、紗夜の後に言ってもらうからね!?ということで、紗夜!遥都と実際に会って喋って、遥都のことどう思った?」

 

「わ、私ですか……?そうですね………。正直、まだ分からないという方が正しいですね。けれど、今井さんがバンドの時と同じくらい、あるいはそれ以上にはしゃいでいる所を見るとそれなりにいい人なのかもしれませんね。」

 

「た、楽しそうって……!!」

 

「えぇ、非常に楽しそうですよ?」

 

 

 淡々と答える彼女は落ち着いていて、どこか吹っ切れたような表情へと変わっていた。さっきの怖い氷川さんはどこへ行ったのやら……。それともなにか考え直してくれたのか?

 

 

「な〜るほど……、なら、遥都は?」

 

「仕方ねぇな……。氷川さんのことだろ?そうだな、とても落ち着いた人だと思った。それでいて、いろんな意味で賢いし、芯がある。しっかりとした人だなと感じたかな」

 

 

 リサや本人の手前、好印象の部分のみを上げてやり過ごそうとする。氷川さんとお互い探り探りといった感じだが、まぁ、こんなものだろう。

 

 

「ふ〜ん、なら良かった!お互い、少しはいい印象持てたみたいだし!」

 

「お、お互い……?どういうことですか?今井さん」

 

「紗夜はね?もし、今日、遥都に会わなかったら、遥都の中で紗夜は鬼教官というレッテルが貼られたまんまだったんだから〜」

 

 

 笑いを堪えながら言うリサに対し、ワナワナと震えている氷川さん。あれ……?これ、リサが爆弾を投げた気がする。

 

 

「ど、どういうことですか?今井さん……」

 

「いや、だからさ?あこがこの間宿題を教えて貰った時ね?紗夜に怒られる〜って連呼してたから、遥都の中で紗夜は完全に怖い人扱いになったってこと」

 

「〜っ!!?」

 

 

 ジロリとこっちを睨む氷川さん……。やば、これは怖い……。というか、俺、悪くなくね!?いや、だって、あんな話聞けばそうなるから!!

 

 

「はぁ……、どうしてそんなに誤解が生じるのでしょうか……」

 

「友希那もそうだもんね〜」

 

 

 え?今、ゆきなって……。ちょっと待て、それって……。けど、リサが言うゆきなってのは……!!いや、ゆきなって名前くらいどこにでもいるだろう。まさか、同一人物なわけが……。

 

 

「伊月さん、どうかしました?表情が一気に曇りましたが……」

 

「ホントだ!遥都、大丈夫?」

 

「い、いや、なんでもない……」

 

「なら、いいんだけど……。それでさ、友希那も紗夜も最初は誤解されやすいからね〜。ホントはいい子なのに!」

 

「やめてください!確かに私も湊さんと初対面の時はそう思いましたけど……!!今は同じバンドメンバーとしてこれ以上ないくらい敬意の念を持ってますよ!?」

 

 

 っ!!!???

 

 湊……、友希那……。決まってしまった……。あいつじゃねぇか……。こういう時、物事は転んで欲しくない方へ転ぶ。そんなことはわかってはいたが……。心臓の鼓動が早くなる。まるで、タイムリミットを数えているように……、バクバクとなる鼓動に俺の身体に嫌な熱が籠る。

 

 

「な、なぁ……、リサ。もう一度確認させてくれ……。Roseliaだったっけ?リサのバンドの最後の一人って……、」

 

「…………そう、友希那。湊友希那だよ」

 

 

 数秒前までとは打って変わった、落ち着いた声でそう答えたリサ。氷川さんさんは何が起きたのか分からないような表情でこちらを見ている。でも、俺の雰囲気が変わったのは感じ取ってくれたらしい。ここは話に入ってはいけない所と察したのか、口を挟まない。

 

 俺も喋ることはしなかった。時を計ったように降り出した夕立の音だけがリビングの中に響く。湊さんか……、あの人、まだ、音楽を続けてくれたんだな……。安堵を憶える一方で、二度と関わってはいけない人間だと思っていた人がかなり近くまで来ていることへの動揺が隠せない。そんな雨音が響く中、リサがようやく口を開いた。

 

 

「遥都はまだ友希那のこと、苦手なの?」

 

 

 過去、もっと詳しく言うとあの事件以来、俺は湊さんとまともに関わっていない。その理由をリサにはこう話した。俺が湊さんと話さないのは湊さんと関わりたくないからだ、と……。これは事実と言えば事実だ。リサはこれを俺が湊さんのことを苦手と取ったのかそういう訪ね方をするようになった。

 

 

「…………まぁな」

 

「でも、友希那は、!!…………ううん、やっぱりなんでもない。……アタシ達、帰るね」

 

 

 リサは何かを言いかけたが、口を噤んでしまう。そして、そのまま帰る用意を始めてしまっていた。俺自身、何か、リサに問いたいわけではない。だが、最後のリサの態度によって何かしらの引っかかりが俺の中で生まれてしまった。湊さんが俺に対して……?

 

 

「あ、そうだ。遥都、今度また日程は連絡するけど……、土日って基本暇だよね?私達のライブ見にこない?別にこっそりでいいから」

 

「え……?Roseliaのライブ?」

 

「そう。遥都も見たいんじゃない?」

 

「そう……、だな……。考えとくよ」

 

 

 返事を少し渋りながらもせっかくのおさそいなんだから、とそう答えてしまった。正直に言うと、あまり気は進まない。別にバンド音楽が嫌いとかリサのことが嫌いとか、そういう訳じゃない。リサが湊さんと同じバンドだと分かってしまった以上、俺自身が湊さんと関わることを避けたいのだ。湊さんと関わりが近いリサとも避けたい所ではあるが……、ある程度の距離感でいい。

 

 

「…………もう。遥都は相変わらずだね〜……」

 

「なんだそれ……」

 

「物事をハッキリと言わないところ、悩んでることを他人に相談しないこと、独りよがりなとこ、相手の期待に答えてくれないところ、まだまだあるけど聞きたい?」

 

「遠慮しとくよ……」

 

 

 笑顔で嫌味ったらしくそういうリサは靴紐を結ぶ。リサが結び終えると、紗夜がスピーディーに靴を履き、カバンから折りたたみ傘を取り出した。そのまま、リサと紗夜は玄関から挨拶だけして出ていった。

 

 ドアを開けたことにより、一瞬だけ大きく聞こえる雨音。少し寂しげに感じたりもするが俺は気にしないようにリビング別に引き返そうとした。そんな俺の脳に急に何かを感じ取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんてことしてくれたの!?』

 

『お前は何を考えていたんだ……』

 

『申し訳ないですけど……、教師側としても……』

 

『お宅の息子さんはなんなのですか!?』

 

 

 クソっ…………。不意に頭の中に流れ込んでくるその声と目に映るその映像。レトロな映画のようにノイズも入ってはいるが、鮮明に覚えている。

 

 この玄関で帰ってきたと同時に親に怒鳴られた。やっと解放されたと思ったら帰ってきた父親にリビングに呼び出され正座をさせられた。そして、最後には粗品を持って病院にいる、あいつらの所へ謝りに行った。あの悪夢のような一日。呆れて涙すら出なかった。ただただ周りを恨んだ。あの日、俺は周りへの優しさというものを捨てる。俺の周りにはそういう人しか集まらないのだから、いくら、心を開いても無駄だ。だから、心を閉ざすと決めたんだ。

 

 そう言えば、あの時もこんな雨だった気がした……。家での俺の居場所を奪ったあの日、学校での俺の居場所を奪ったあの日、中学校での居場所すら奪ったあの日。

 

 

「久しぶりにこれ、思い出したな……」

 

 

 




話としてはひと段落といった所でしょうか!!
最初は30話位で終わらす予定だったこの俺とアタシの居場所、どうやらもう少し長くなりそうな予感……!!ということでお付き合いお願い致します!!

前書きで書いた感動した作品というもの、感想か何かで訪ねてくれた方にはお答えしますので良かったら是非!!

お気に入り登録、評価待っています!是非してみてください!!


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君ヲ想フ
暇人の周りは何かしら起きる


みなさーん、こんばんわー、
台風、えらいことになってますね……。皆さんのお住まいの地域は大丈夫ですか……?ちなみに自分のところはなんの被害もなく……。

※前作のキャラが少しだけ登場していて、少し設定が変わっていますがお見逃しを……!!

では、本編いきます!
今回から新しい章ですね!


 

 

 

 

 新学期の始まり。こういうものはだいたい一学期の桜の散る季節というものが始まりだが、俺の場合はカンカン照りが未だに残る9月からだ。9月とは一般的には秋ではあるが、旧暦では夏。まだまだ半袖で汗が滲み出てくる季節だ。

 

 

「うぃ〜っす!!昨日はありがとうな!?」

 

「知夏良か……。新学期早々元気だな」

 

「遥都のおかげで宿題も終わったし、先生にも怒られずに済むし、もー、サイコー!」

 

 

 朝からハイテンションなこいつは昨日家に来ていた佐山知夏良。そういや、宿題見せたんだったな。

 

 

「いや〜、二学期楽しみだな〜」

 

「なんでよ?」

 

「イベント盛りだくさんだろ!?体育祭からの文化祭!!校外学習に、リア充になれば楽しめるクリスマス!良くね!?」

 

「…………お前じゃ最後のイベントはないだろ?」

 

「酷いこと言うな!?」

 

 

 適当に流しながら二人で歩いて、覇聖高校の校門をくぐった。今日から、また、始まるのか……。あの騒がしい学校生活が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第13話:暇人の周りは何かしら起きる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらずの退屈な始業式。…………小学校の時はよく後ろからリサにちょっかいをかけられたものだ。って、何を思い出してんだよ。

 

 退屈な校長や生活指導の先生の話を聞き流し、その次の服装頭髪検査も難なくスルー。お?知夏良のやつ引っかかってやがる。なるほど、校章のつけ忘れね……。あーあー、他にも茶髪っぽいやつが呼ばれてやがる……。ま、この分、教室戻ってからの自由時間が増えるからいいや。こういう時って、苗字の頭文字がア行で出席番号が小さいのは何となく得した気分になる。

 

 

「いや〜、あっぶね〜」

 

「どうかしたのか?」

 

「いやな、ベルト忘れてたんだけど……、相澤に借りてやり過ごした」

 

「あぁ〜、なるほど」

 

 

 出席番号が頭だからもう必要ない人に借りたのか。なんというか……、頭いいな。そもそも忘れなければいい話なんだが、それはこの際触れないでおこう。

 

 

「ねぇ〜、チカラの声、うるさ〜い」

 

「お、眠り姫じゃん。お目覚め?」

 

「知夏良の声で起こされたんだよ〜?それに、姫じゃないから」

 

 

 ムクリと起き上がって、少し頬を膨らましているこいつは隣の席の七宮詩音。一応、男子だ。色白だし、身長もさほど大きくないから女子に見えるかもしれないけどな……。知夏良とはウマが合わなさそうなのだが、なんだかんだ上手くやっている。基本、授業中寝ている、にも関わらず、成績は平均よりは取れていたと聞く不思議なやつだ。口調もゆったりとしていて、こっちまで眠くなる。

 

 そして、何気にこんなに仲良く喋ってはいるが……、転校生だ。朝のホームルームで先生が言っていた。一応、知夏良と同じく中学が一緒だったから、喋ったことがあるというだけだ。

 

 

「詩音は特に何も言われなかったのか?頭髪服装検査」

 

「ん〜、多分ね〜」

 

「ま……、そうだろうな……」

 

 

 見たところ、こいつは校章とかもきちんと付けているし、髪の毛も付けてるし……。

 

 

「なぁなぁ、今日さ!詩音の歓迎会をこの3人でやろーぜ!!」

 

「はぁ?」

 

 

 急に知夏良が言ってきた、その言葉に俺の午後が驚異に晒された。俺の予定ではこの後は、家に帰り、昨日見る予定だった録画押しておいた番組を見るという崇高なる予定がだな……。

 

 

「おいおい、中学一緒なんだしいいだろ?そういうの……」

 

「かぁー!!やっぱり、遥都は冷めてんな!?いいか!?こういうのは初めが肝心なんだよ!!」

 

「んだよ、それ……。それに、ほら、当の本人は…………」

 

 

 顎でクイっと詩音の方を指す。そこにはこんなに騒々しいにも関わらず、スヤスヤと気持ちよさそうに机に突っ伏す詩音が。

 

 

「な?」

 

「けっ!!面白くねーな!!」

 

「世の中がそんなにお前の思い通りになってたまるかよ。それじゃ、俺も寝るから」

 

 

 そういい、机に突っ伏した俺。近くからは知夏良の呆れる声が聞こえるが知ったことか。俺は寝たい。

 

 そのまま、一二限と続いていた始業式、及び、賞状授与や頭髪服装検査が終わるチャイムがなった。知夏良はほかの誰かに呼ばれたのか、気がつくといなくなっていた。そんな状況になると、教室の窓際の隅、なおかつ、隣が詩音であることも加点され、俺の席は本当に寝心地が良い場所と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ〜……。相変わらず、服装検査で引っかかるんだよね〜!!アタシ、そんなに服装乱してないと思うんだけどな〜?アタシは数少ない、服装検査に引っかかった生徒の波を避けて教室に急ぎ足で戻った。どうせ、今頃、教室では……、

 

 

「あれ?また、今井さんいないの?」

 

「あの子、ギャルだから、引っかかったんじゃないの?」

 

 

 やっぱり……。まぁ、自分からこうなってるわけだから仕方ないとは思うんだけど……。それでもやっぱりいい気はしないというか、なんというか……。

 

 アタシは教室の前で、扉にかけようとしていた手を止めた。けど、こんなこと今更だしな〜!アタシにはアタシの場所がある!!無理やり、前を向かせて気持ちを立て直したアタシは笑顔を作り、教室に戻る。

 

 

「アハハ〜!また、引っかかっちゃった!!」

 

 

 それを聞いて笑顔で迎え入れてくれる友達がいる反面、少しビクリとする人もいる。もう……、いくら気にしないようにしているとはいえ、いい加減にして欲しいかな……。

 

 そんなことをしていると終わりのチャイムがなり、三限目の授業の始まりを告げる。確か、三限目は……、数学か……。アタシは筆箱に教科書、ノートを出して用意を始めた。

 

 

「あれ……?これ、遥都のじゃん。あぁ、昨日、入っちゃったのか!」

 

 

 筆箱の中に入っていた遥都の黒いシャーペン。無駄に高級感があったからよく覚えていたんだよね。って、どうしよう……?何本かは持ってると思うから困ってはないと思うけど……。とりあえず、放課後にでも帰しに行こっかな?今日はバンド練も友希那の調子が悪いらしく休みだしね。一昨日の練習で友希那のミスがあまりに多いからみんなで話して、三日間くらい連続でオフにしたんだよね〜。

 

 アタシはこっそりと、遥都がいる覇聖高校の友達にLINEを送り、終わる時間を聞いた。向こうもいじっていたらしく、返信によると羽丘と同じ6限終わりらしい。ラッキー!!アタシは携帯のスケジュール帳に『16:30 遥都のシャーペン』と書き込むとスマホをポケットへとしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃーなー!!自分は部活行ってくんよ!」

 

「行ってこい、行ってこい」

 

「詩音もじゃーな!」

 

「ばいば〜い」

 

 

 帰りのホームルームも終わりいそいそと部活にいく知夏良とは対照的にゆっくりと帰りの用意をする俺と詩音。詩音も俺と同じで部活に入ってはいない。こいつはマイペースだし、そうだろうけど……。そいうや、夏休みにあったあの子とはあれから上手くいっているのだろうか……?

 

 

「それじゃ〜、僕は帰るから〜」

 

 

 ……聞こうと思った矢先に。ま、こいつはいつだってこういうやつか……。軽くため息をはきながら俺も昇降口に背を向けて歩き出した。

 

 汗水垂らしながら走る、野球部やサッカー部を横目に見ながら、校門をくぐり、家の方へと足を進めた。そして、俺は学習したぞ?コンビニなど寄り道をすると、何かしらのトラブルに出会うということに!!この前のリサだってそうだしな。ということで真っ直ぐ帰ろう。

 

 

「おーーい!!遥都!!」

 

 

 …………空耳だな、うん、空耳。しかも、遥都って名前はそんなに珍しくはないだろう。俺じゃないよ、きっと、たぶん、おそらく……。

 

 

「ねぇってば!!呼んでんでしょ!?」

 

パンッ

 

「いたっ!?」

 

 

 …………おのれ、俺の学習能力。一生恨み続けてやる。呼ばれたと思ったら、背中を叩かれるという仕打ちをうける俺。声色で薄々感じながらも一応、誰かを確認してみる。

 

 

「やっほ!アタシ、アタシ!!」

 

「やっぱりお前か……、リサ……」

 

 

 まぁ、この上なくセオリー通りの展開なわけだが……、どうしてこうもあの日以来、こいつと会う機会が増えたのだろうか??謎が深まるばかりである。

 

 と、そんなことはどうだっていいな。こいつはそもそも何しに来たんだ?Roseliaのバンド練があるはずだろ?知夏良曰く、相当練習をするようなバンドらしいし。

 

 

「はい、これ!昨日、アタシが持って帰っちゃったみたい!ゴメンね〜!」

 

「ん?あ、そう言えばなかった気がするな……」

 

「気づいてなかったの……?」

 

 

 だって、筆箱のチャックすら開けてないんだから……。俺はリサから黒のシャーペンを受け取って、筆箱に放り込んだ。しかし、これだけのために来たのか……?決してここは帰り道の途中にあるとかそういう訳では無いし、むしろ結構大変な距離だ。

 

 

「こんだけの用か?」

 

「うん!ダメ?」

 

「い、いや、別に……」

 

 

 こいつ、マジか……?いやいやこんなの絶対家に帰ってからでもいいじゃねぇか!?アホというか、世話好きにも程があってだな……。まぁ、昔からなんともならないのがこいつの変なところだよな。

 

 しっかし、これからどうしろというのか?まぁ、セオリー通りにいくなら……

 

 

「…………帰るか?」

 

「そ、そうだね!!」

 

 

 これがベストだろうな……。俺たちはそれだけ言うと、リサと俺の家の方へと歩き出した。

 

 しかし、こういう時、いつも話をしてくれるのはリサだ。そして、今更気づいたのだが……、今日はリサのテンションが少し低い。いつもならあちこち見ながら、楽しそうに歩くリサなのだが、今日はずっと俯き気味だ。しかも、こういう時に話を切り出してくれるのがリサである限り、リサが話さない限り二人の間に会話は無くなるわけで……。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 気まずい、非常に気まずい。誰かこういう時の対処法的なのを教えてください。知夏良とかがいると、これ以上なく楽なんだけどな。とはいえ、ないものをねだっていても仕方が無い。何とかしないとな……。

 

 

「…………な、なぁ?コンビニよるか?」

 

「え、う、うん!!」

 

 

 おかしい。さらに気まずくなったし、会話終わっちゃったぞ!?いつも、知夏良はこんな感じでやってたはずなんだが……。

 

 頭を悩ます俺に流石のリサも気づいたかこちらをジト目で睨んできた。

 

 

「…………遥都、無理してる?」

 

「正直言うとかなりな。でも、リサも言えた柄じゃないだろ?」

 

「…………バレてたか〜」

 

 

 笑顔を作るリサを横目に、横断歩道手前で立ち止まる。信号に目をやると赤になったばかりで目の前を車が大きなエンジン音をたてながら通り過ぎる。対照的に二人の足が止まり、また会話がなくなる。

 

 くそ……。こういう時、なんて声かければいいんだよ……。またもや、頭を悩ます俺。髪の毛をぐじゃぐじゃっとしてするが、解決方法が出てくるのでもない。

 

 そんな中、リサが聞こえるか聞こえないかの声でいった。

 

 

「遥都はさ……、噂ってどう思う?」

 

 




「お久しぶりで〜す、紅葉さ〜ん」
「おぉ〜、七宮君か!久しぶりー!」
「そう言えば、履修落ちしたらしいですけど……、大丈夫なんですか〜?」
「あ〜……、うん。まぁ、来年とるよ……」
「誰受けても変わんないじゃないですか〜。だって、どの人の授業だろうと…………」
「「寝ちゃうから!!」」


感想、評価ありがとうございます!
前回は2人も新しい人が感想くれて超ハッピーでした!


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多忙人は暇人と同じ悩みを抱える

新しいバイト、始めました

以上!バイト応援ソング聞いて頑張ります


 

 

 

 

 

 

「遥都はさ……、噂ってどう思う?」

 

 

 唐突にリサの口から放たれたその言葉。それが何をいみしているかは分からない。けど、それでかなり痛い目を見ている俺からしたらかなり嫌なものではあった。しかし、それはリサのせいではない。リサに心配させてはいけない、これは絶対条件だ。

 

 

「ど、どうしたんだよ急に……」

 

「あ、えっと……、やっぱり大丈夫!!ゴメンね!!」

 

 

 ちょうど信号も青に変わり、前へが空いた。リサは逃げるようにそちらにかけていく。全く…………。そうやって、人に弱味を見せようとしないところ、流石だよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第14話:多忙人は暇人と同じ悩みを抱える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信号待ちの間、何を思ったのかアタシは言ってしまった。何を特に意識していた訳では無い。無意識と言えば少し違うだろうが漏れ出てしまったアタシのその言葉にアタシ自身が揺れた。

 

 しまった……!と、思った時には既に時遅し。何かを感じたのか遥都の表情が一転して曇る。慌てて、取り消しの言葉を出すが、遥都には届いたのだろうか?信号が黄色に変わり、焦りを感じるような様相へと変わった。

 

 

「急に走り出すなよ……」

 

「え……、ゴメン……」

 

 

 遥都の言葉で我に返るアタシ。道路を渡ったあたりで立ち止まり、遥都が追いついてくるのを待った。自動販売機に持たれ、大きく息を1つ吐く。そのまま上空を見上げると、立ち並ぶビルに視界を遮られる。

 

 

(あれ……?空ってこんなに狭くて、遠かったっけ……?)

 

 

 雲はなく、一見綺麗な青空。けど、届きそうな時もあった空の広さや雄大さというのはアタシの目には映らなかった。いや、映せなかった。

 

 

ガコン!!

 

「ほれ、リサの好きなやつ。奢りでいいよ」

 

 

 後ろの自販機から大きな音がしたと思い、ビクリとする。何が起きた?と振り返ると、顔の付近にペットボトルを寄せられていた。

 

 

「…………珍しいじゃん。遥都が自ら奢るだなんて」

 

「気分だよ。あんまり、深読みすんな……。行くぞ」

 

 

 一足先に歩き出す遥都。アタシもあとを追うように小走りで追いつき、横に並んだ。右手に力を込めて、ペットボトルを開ける。プシュっと炭酸が抜ける2つの音が妙に心地よく聞こえる。

 

 

「今から言うことは独り言だから」

 

「え?」

 

 

 ジュースを一口のんだ遥都が唐突に言い出す。何を言っているのか、その意図が掴めないアタシはどうしていいか分からず止めることすら出来ないアタシは、遥都の独り言に耳を傾けることしか出来なかった。

 

 

「噂ってのはいい意味でも悪い意味でも大きくなるから。都合のいい部分だけが盛られて伝わってしまう。だけど、聞き手はそれをあたかも真実のように捉えてしまう。しかも、伝わるのは恐ろしく速い。"無勢に多勢"とはよく言ったもんだよ……。伝わるのが早い分、聞いた人も多い。だから、一度出回った噂は絶対に消えやしない。引っ込みはつかなくなり、意見することさえできない。例え、本人がいくら違うと言えど、それは少数派として跳ね除けられるし。それがいい意味だったらいいんだが……、悪い意味だった時は……ん、まぁ、お察しの通りになるんだよな」

 

 

 正面に見える大きな空に少し寂しげな視線を送りながら遥都はいった。その横顔は何かを知っているようで、その何かとやらを聞いてみたいという好奇心もアタシの中でうごめく。だが、その表情からも分かるように、明らかにいいものでは無い。アタシは好奇心に蓋をして遥都の独り言に耳を傾ける。

 

 

「だから、こう思う。もし、リサが悩んでるんだったら、その人達に自分がどういう人間なのか解らせてあげないと噂はエスカレートしてく。だから、その人達の話すのが一番手っ取り早い方法かなって。そうでもしないと止まらないよ……」

 

「独り言って言ってたくせにアドバイスなんかしちゃって!」

 

「っるさい……」

 

 

 胸が何か暖かいものに包み込まれたような感覚。それを感じて楽になる。顔を紅くそめながらそっぽを向く遥都をからかいながらも、アタシは心の中でそっと『ありがとう』と呟いた。

 

 その後、心が軽くなったアタシはいつも通り、遥都に話しかけた。それを遥都が面倒くさがりながらも返してくれる。今、この時間の居心地が本当に好きで……Roseliaのようなアタシが本気になれる場所も好き。だけど、遥都の横はアタシがアタシに戻れる場所、そんな感じが好きだ。

 

 

「でねでね!美術のあの宿題、氷川日菜って友達がいるんだけど、その子に見せたら大爆笑されちゃったんだよ!?ヒドくない!?」

 

「別に酷くはないんじゃないのか……?それより、また、"氷川"って苗字がいるんだな。よくあるとは言えない苗字なのにすごいな」

 

「日菜は紗夜の双子の妹だもん!紗夜とは正反対のタイプだけどね〜」

 

「へぇ〜。あ、氷川さん…、姉の方ね、と言えば、今日はRoselia?だっけか、バンドの練習ないのか?知夏良も言ってたし、氷川さんを見て何となく察したが、毎日のように練習するバンドなんだろ?」

 

「ん〜、あーちょっと色々あってしばらく休みなんだ〜……」

 

「そっか」

 

 

 "色々"そうアタシはぼかしたが、要は友希那のこと。あの夏休みの夜以来、友希那がどうもおかしい。あの後、友希那の家で2人で話して、話を詳しく聞くことは出来たものの、友希那の傷跡に対する意識を強くさせてしまっただけみたいだった。

 

 その日以来、友希那の意識がどこか遠くにあるような時が多かった。言わずもがな、その影響はRoseliaの練習にも現れた。絶対にミスしたことがない所で友希那がキーを外したり、歌詞を間違えたり……。あまりの惨状に友希那に対してはあまり苛立たない紗夜がかなり苛立っていたのだ。アタシやあこ、燐子で話し合ってどうにか休みにはしたものの、友希那と遥都のトラブルがなんとかならない限り、アタシ達は…………。

 

 

「Roseliaって、リサの大切な居場所なんだろ?」

 

「うん…………」

 

 

 いっその事、友希那が遥都のことで悩んでいる、そう打ち明けようかと思う自分がいたが、それを言葉にする言葉は出来なかった。言葉に出来なかった理由は明白。あの夜、遥都は言っていたからだ。『友希那と関わらない』と。誰に言ったのか、勢いで言ったのか本心で言ったのか、それすらも分からないが、あの真面目な表情を見てしまった限り、アタシが軽く口にしていいものではないことはわかる。

 

 

(ホント、どうしたらいいんだろ……?)

 

 

 視線を落とすアタシの目には、遥都とアタシの黒い影が大きく広がっている。まだ4時半。それなのにも関わらず、いつもと比べて暗く見えるのは気のせいだろうか?アタシは視線を落としたまま歩き続ける。だが、いくら歩いてもその答えは出ることがなく、むしろ頭の中がぐちゃぐちゃになるだけ。

 

 

「……サ!…………リサ、おい、リサ!!?」

 

「え!?な、なに?」

 

「何って……、もう家着いたぞ?」

 

「あ、あぁ、ってもうそんなに来てたんだ……」

 

 

 遥都の呼びかけにハッとなって周りを見渡すと、見慣れた道路にカーブミラー、それから隣の湊家。毎日見る景色が飛び込んでくる。そこでようやく理解した。結局、家の前まで来ても考えがまとまらず、そのままにせざるをえなくなる。

 

 家の門を開け、ちょっとした階段を登りアタシは家の扉に手をかけた。そんな時だった。

 

 

「リサ、携帯鳴ってる」

 

「え!?あ、ホントだ!!誰からだろ……?」

 

 

 遥都に言われポケットで震えているスマホを慌てて取り出した。一体、誰だろう……?そんなことを思いながら画面を覗き込む。そこに映っていたのは、『氷川紗夜』という名前。アタシは遥都にゴメンと、顔の前に手を持っていくと。遥都は気にしないからと手を二三度振り、少し離れていってくれた。

 

 

「あ、もしもし?」

 

『今井さんですか?』

 

「そうだけど……、一体どうしたのさ?」

 

『あの、湊さんのことで話したいことがあって……、』

 

「友希那のこと?」

 

『はい。もっと言うとこの前の湊さんの異変についてです。もしかしたら、今井さんなら何か知っているんじゃないかと……。今日、白金さんと会って話をしていたんですけど、やはりわからなくて。それで、もし今井さんが何かしら知っているなら聞きたいなと』

 

「アタシが、か〜……」

 

 

 知っていることは知っている。これを知るのはRoselia内で友希那を除けばアタシ一人。だから、アタシが言い出さなければ、解決は友希那任せになる。それだと、かなりハードルは上がるだろうし、元のRoseliaに戻るのにだって長い時間がいる気がする。かといって、言っていいかと言われると……、遥都や友希那のことがあるからそう簡単には言っていいことではないことなのは火を見るより明らか。

 

 

『知らないのならいいのですが……。湊さんにLINEで聞いてみても、"問題ないわ"の一点張りなので……』

 

 

 知っている。友希那は昔からそうだったから。何かトラブルがあるとそうやって周りには頼ろうとせず、自分だけで留めてしまう。アタシが何か聞いても、返ってくる答えはいつもそれだったから。

 

 

『湊さん、問題ないわけないじゃないですか……』

 

「え……?」

 

『湊さんのことです。もしも、問題ないのにあんな腑抜けたことをしたのなら、私は直ぐにでもRoseliaを脱退します。けれど、そうじゃない。私達も今井さん程ではないですけど、湊さんとは他人よりは長く関わっているつもりです。湊さんが困っていることくらいすぐにわかりますよ。だから、力になりたいんです。こんな所で湊さんに潰れてもらっては困りますからね……。だって、Roseliaは私達の大切な居場所ですから……』

 

 

 同じバンドメンバーとしてなのか、はたまた友達としてなのか、紗夜は少し楽しげな声でそう言った。今まで、友希那のサポート役はアタシしかいないと無意識にも思っていたことが全て崩れ去る。今は紗夜もいるし、あこや燐子もいる。そんな仲間を誇らしげに思う。そして、そこにアタシの居場所があること、これ以上ない幸せなんだと。

 

 

"Roseliaって、リサの大切な居場所なんだろ?"

 

「…………そうだね、Roseliaはアタシ達の大切な居場所だから」

 

 

 何かが吹っ切れた。遥都といい紗夜といい……、本当に頼もしい。それが嬉しくて、また、安心できて……。そして、心が決まる。

 

 

「うん……!!わかった。知ってること全部話すよ!今からでもいい?」

 

『い、今からですか!?』

 

「そ!!そう言えば、アタシ、あのハンバーガーショップのポテト無料券3枚持ってるんだよね〜」

 

『そ、それは、ゆっくり話せそうですね……。ならそこに集まりましょうか』

 

「はい!了解!!それと、紗夜。今、遥都もいるから一緒に連れてくね?すこぉし、紗夜にも知っておいて欲しいから」

 

『???』

 

「じゃーねー!!」

 

 

 気がつけばアタシは階段を飛び降りていた。そして、すぐさま遥都に駆け寄り、『いくよ!』と手を引く。気持ちが通じたのが嬉しくて、何かに導かれるようにしてアタシは走り出す。

 

 

「んで!!俺はやっぱりついてくハメになるんだよな!?」

 

「アハハ!!そーだよ!?」

 

「知ってたよ!!ほかのところはなんにも聞こえないのに『遥都も連れてくから!』その部分だけ何故かよく聞こえたからな!!」

 

 

 隣には遥都もいる。今のアタシはなんだってできる気がした。Roseliaのみんなに加え、遥都もついてきてくれている。こうやってまたなんだかんだいって協力してくれる遥都。本当に感謝しかない。まるで、小学生の時みたい。素直に楽しんで、はしゃいで……、また、あの時みたいになれている気がする!いや、あの頃より……、かも……!!

 

 

「ありがとね!!」

 

「風の音で聞こえないよ!!なんだって!?」

 

「なんにもないよーーー!!」

 




「紅葉さ〜ん!」
「おー、今井さん。そう言えば、富士急来るらしいじゃん」
「はい!今度、Roseliaのみんなで行くんですけどね〜、あの、ナガシマスカっていう、金色の招き猫が超可愛くて!!」
「四大コースターは?」
「友希那が嫌がって、全然乗れなかったんですよ〜……!あ、そうだ!紅葉さん、戦慄迷宮行きません!?」
「…………遠慮しときます」
「あれ、まさか、紅葉さんって……怖i…」


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多忙人は勇気を持って踏み込んだ

富士急行ってきました!
ゆっきーの服装、めちゃくちゃかっこよかった……!!あ、それと、ミッシェルと写真とりましたwwwもふもふで可愛かった!




 

 

 

 

 

 え〜、ただいま、とあるハンバーガーショップに来ているわけなんですが……。私、伊月遥都は大変困っております。なぜか、分からず四方から目線を浴びているんです……。いや、正確には三方向からですけど。

 

 

「それで、伊月さん。あなたは今井さんとお付き合いされているんですか?」

 

「だから違うって……」

 

「ならなんでリサ姉といつも一緒にいるの!?」

 

「いつもってことは無いだろ?今日はこの間の勉強会の時に忘れてきたシャーペンを届けてもらったから一緒にいただけだから」

 

「それなら……、わざわざ今井さんに届けてもらう、必要……、ないんじゃ……」

 

「白金さん……。それはリサに言ってくれ」

 

 

 こうなった原因はおよそ三分前に遡る。というか、そこが全ての始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第15話:多忙人は勇気を持って踏み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、アタシがみんなの分注文してくるから、席で待っててよ!」

 

 

 リサに意味もわからず連れてこられたハンバーガーショップ。先に来ていた氷川さんとも合流、そして、リサが呼んだのか氷川さんが呼んだのか、白金さんや宇田川さんも来ていた。ペコりと頭を下げる白金さんとは対照的に宇田川さんは何やら、恨みを込めたような目でこちらを見てくる。

 

 

「……なんで、紗夜さんに言っちゃうんですか!!」

 

 

 どうやら、この間の勉強会のことらしい。後で白金さんが教えてくれたが、どうやらここに来るまでに二人揃って氷川さんに絞られていたらしい……。それをなんで俺に当たるかは知らない。

 

 

「それじゃ、中に入ろー!!」

 

 

 リサの一言で店内に入る俺達。ちょうど6人席が空いていたのでそこに座ることになった。奥のソファの方に、白金さん、宇田川さん、リサの順で、そして手前の椅子にはなぜか俺と氷川さんが座らされた……。リサのやつ、仕込んだな……。俺が奥に行こうとした瞬間、荷物を置いて席だけとりやがった。

 

 そして、リサが5人分のものを注文して取ってきてくれると言うので俺と白金さん、宇田川さんに氷川さんが残った訳だが……。何を思ったのか、急に宇田川さんがぶっ込んできたのだ。

 

 

「ねぇねぇ、遥都さんって、リサ姉と付き合ってるの?」

 

 

 場の視線が一気に俺に集中していた。左からは氷川さん、正面に白金さん、そして、左前からは宇田川さんの視線が一気に突き刺さる。爆弾発言とはこういうことを言うんだろう。

 

 そして、この発言により、今のような「付き合っているのか」という談義が始まったのだった。

 

 

「それじゃ、リサ姉のことは好きなの?」

 

「別に好きってことはないけど……、き、嫌いでは……、うん、まぁ、そんな感じ」

 

 

 なんだこの羞恥地獄は……!!というか、バンドのことを話すために俺は連れてこられたんじゃないのか!?リサはどこいったリサは!!

 

 

「おっ待たせ〜!!あれ?何話してたの?」

 

「あ、リサ姉!!えっとね、遥都さんがリサ姉のことを……」

 

「あ、あこちゃん!?」

 

 

 こ、この中学生……、今、言おうとしなかったか……?隣の白金さんが慌ててストップをかけたから良かったものの、何を考えているんだ?その後、なにやらごにょごにょと白金さんが耳打ちをして宇田川さんは納得した模様。全く、ビクビクさせないで欲しい……。

 

 

「そう言えば、白金さんは宿題で分からないところ、もう大丈夫でしたか?」

 

「あ、はい……!遥都さんのおかげで何とかなりました……」

 

「それは良かった」

 

「そ、そう言えば、遥都さんって……、覇聖高校でしたよね……?」

 

「そう、だけど……」

 

「あの、七宮さんって……、ご存知ですか?」

 

「七宮……?あぁ、詩音のことか。知ってるけどどうかしました?」

 

「い、いえ……。以前、一度だけあの人のピアノを聞いたことがあったので……、あの人のピアノ、本当に上手なんです……。何かこう、幻想的で、童話のような……」

 

「あいつ自体そういうフワフワしたタイプだしな……」

 

 

 白金さんと意外や意外、詩音のことで話題が見つかり話が進む。白金さんの警戒心も少しは溶けたのか、顔が少し上がっているような気はする。

 

 

「りんりん、遥都さんの知り合いのこと、知ってるの?」

 

「あ、うん……。ピアノのコンクールで……、有名……、だった、から……」

 

「へー!!!」

 

「その人の演奏も聞いてみたいものですね」

 

 

 氷川さんや宇田川さんも話に入ってきてくれて、何とも話しやすい環境となる。それ即ち、俺がいなくても話が進む環境ということだ。普段なら、このまま俺は1人で飲食をして帰りという流れだ。だが……、今回ばっかりはそうもいかない。なぜならこのあとの予定がござるから!

 

 

「とにかく、話するなら早くしたらどうだ?何故かよくわからんが連れてこられている俺の身からすれば、早く帰りたいんだが……」

 

 

 というか、バンド内こんなに仲が良かったのなら、トラブルなんて起きやしないだろ?そんな練習を中止するほどのことが起きたのか?

 

 

「遥都〜、そんなこと言ったら冷めちゃうじゃん?まぁ、いいや!そんな遥都にまずはアタシ達の紹介しようかな!ちゃんとした紹介はまだだったもんね?それにそうしないと、遥都が今思っているであろう疑問も解決できないもんね〜!それに、遥都のことも少し話さないとかな……」

 

 

 リサが俺をなだめながら会話を運ぶ。俺はリサに取ってきてもらったポテトを口に運びながらそれを聞く。それに、"俺が思ってる疑問"って……。よく分かるもんだな。って、待て。俺のことってなんの事だ!?聞きたくないんだけど……。

 

 

「なぁ、リサ……。俺の紹介いるか?」

 

「いるよ!?あーー!わかった!!恥ずかしくて聞きたくないんでしょ!?」

 

「誰だってそうだわ……」

 

「なら、トイレにでも引きこもってて!アタシはオバケになってでもしてやるから!」

 

 

 曲がらねぇ、融通が効かねぇ、面倒くさい……。いかん、今、リサに悪口を言い出したら止まらない。ここは言う通り、どこかに消えさせてもらおう……。許せ、リサ。リサのためだ。

 

 

「あれ?ホントにトイレ行くの!?」

 

「トイレはいかない。水でも貰ってくる」

 

 

 は〜い、ドロン!俺は席を立ち、一階にあるカウンターへと行くこととなる。自分でも思うが自分のことが話題に上がるのが嫌いなんだよな……。俺はスタスタと席を離れ、そのまま階段へ向かった。

 

 話が終わったであろう頃に、俺は水を2つ受け取り、席に戻る。リサの事だ、話は長くなると踏んで初めから長めに時間は稼いだから完璧なはず!

 

 

「お、遥都も戻ってきたね!改めまして……。アタシ達はRoseliaっていうバンドやってるんだ〜!」

 

 

 な?完璧だったろ?と、誰に向かってやってるかも分からないドヤ顔は置いといて……。流石にバンドメンバーの紹介くらい聞こう。

 

 

「アタシはベース、んで隣にいるあこがドラム」

 

「バーン!!」

 

「その横の燐子がキーボード!いわゆる電子ピアノみたいなやつ!」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「それで、遥都の横にいる紗夜がギター!」

 

「よろしく」

 

「それが今いるメンバーかな!それで、ボーカルは…………、湊友希那。今回のRoseliaが休みを取った原因でもあるの」

 

 

 息を飲みながらそれを聞き、頷く。またもや嫌な熱がこもりはするが、以前のように顔には出さないようにしようとする。ここで出しては、リサだけでなくほかの3人までもに、伝わってしまう。それだけはなんとしても避けたかったのだ。

 

 だが、そんな心配はいらなかったらしい。そもそもほかのメンバーも湊さんの名前を出した時には俯き気味になっているのだから。その場の空気はまさに最悪。ズシリと肩にかかる重さがいつもの倍以上はあるのではないか?俺は口を開くことすら出来ず、そのまま下を向いた。

 

 

「紗夜、アタシに聞いたよね。友希那の不調の原因について教えてくれって……。アタシは教えてあげたい。けど、こればっかりはある人の許可がいるの。……ねぇ、遥都?」

 

 

 胸を弾丸で貫かれるような衝撃。リサが落ち着き払って言い放ったその言葉は俺に大きな動揺を生む。ここで俺は初めて理解した。俺がなぜリサに連れてこられたのか、ここになってようやく結びつく。

 

 ほかの3人も先ほどとは違う視線を僕に突き刺す。それは驚きの感情、そして、「なぜ……?」というような、落胆と怒りの感情、そして何より"裏切られた"と言わんばかりの、あの日、俺が親や友達、先生から向けられていたものと俺にはかぶって見えた。

 

 頭にあの怒号と景色が再生される。落胆や怒りはもちろん、恐怖、敵意、嫌悪、あらゆる負の感情が俺に投げつけられた。

 

 そして……、俺は。視線を当てられて、あの事を思い出させられて、平静を装うというのが無理な話だった。俺は髪の毛を両手でぐしゃりと握りしめながら、机に蹲る。されど、リサは続けた。

 

 

「友希那はね……、あの日の夜、あこや燐子がアタシの家に来た日だね。その日の夜に、一方的ではあるけど、遥都、あなたに会っていたの」

 

「っ!!?」

 

 

 頭の痛みに耐えながらも、微かに聞こえるリサの言葉。それは俺にさらなる衝撃を与える。湊さんが、俺と、あの夜……??ガンガンと猛烈な頭痛がする中、俺は頭を振り絞った。あの日、何していたっけ……?リサの家から出た後……、薬局にいって……、

 

 

「遥都は直接は会っていないよ?友希那とアタシが遥都を見つけたの。場所は、コンビニの前。そこで、遥都は何してたか思い出せる?」

 

 

 俺が…………?リサに言われ少しずつ、ピースが組み合わさっていく俺の記憶。それがもう八割方出来上がっている。確かあの時は、薬局で買い忘れた何かを買って……、それから……、

 

 

「電話してたんだよ」

 

「…………え?」

 

「相手まではアタシも友希那も知らないよ?けど、内容は友希那のこと……。違った?」

 

「あ…………」

 

 

 思い出した……。高校の同級生と話していたんだ……。それで、そいつが小学校の時のあの事件に絡んでたやつで……、それで、少し怒ったんだっけ……?

 

 

「思い出したみたいだね。それじゃあ、遥都。遥都はあの時アタシ達に聞こえるような声であることを言ったの。覚えてる?」

 

「…………。」

 

「その様子だと覚えてないよね。それじゃあ、アタシが言う。遥都はね、あの時……、『俺は友希那とはできるだけ関わらねぇ』そう言ったんだよ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「クシュン……!!」
「あれ?詩音くん、風邪?」
「ん〜、気温変化が凄いですからね〜。それか、誰かが噂話を…」
「麻弥ちゃんにでも看病してもらいな!」
「…………そうします///」

感想、評価、お気に入り登録待ってマース!


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暇人は知らなかった

大変長らくお待たせしてしまい本当に申し訳ないです!!
少し色々立て込んでて、なかなか時間が、取れないんですよ……

こんな、物語の方もいい所なのに、何をしてくれてるだ!って言うね……、


あ、そんな間にお気に入りが300を優に超え出ました。ありがとうございます!!


 

 

 

 

「遥都はね、あの時……、『俺は友希那とはできるだけ関わらねぇ』そう言ったんだよ……?」

 

 

 完全に繋がった。あの夜のことを全て思い出した。そうだ、俺はあいつに電話でそう怒鳴った。けど、それでなんで友希那が……??そもそも、あいつ自体、俺と関わらない方がいいと思ってるはずだぞ?だって、俺は当時"暴力的な残虐な男の子"、これが俺に貼られたレッテルなのだから。

 

 一方で、他の3人が少し青ざめた様子に一変する。とても、先程まで仲良さげに会話を楽しんでいた人とは思えない。これは一体……??

 

 

「その時の友希那の気持ち、わかる……?」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第16話:暇人は知らなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その時の友希那の気持ち、わかる……?」

 

 

 俺はリサの質問に答えることが出来なかった。何パターンも考えた。

 『関わらないでくれて嬉しい』は?それは無いだろう。もしそうなら、そもそもトラブル自体起きてないのだから。

 『久しぶりに俺と会って、不快だった』それなら、リサがわざわざ、喋った言葉までリピートする必要はないなずだ。俺と会った事実だけを伝えればいい。

 

 なら、なぜだ……?なぜ、そんなことを聞く?頭を抱えたまま俺は頭を必死に巡らせる。

 

 

「出ないようだし、答えを言うね……。"辛い"んだよ……。」

 

「え…………?」

 

 

 最も予測していなかった答えがリサの口から出てきた。"辛い"…………?な、んで……?俺はあいつのためを思って……。

 

 

「遥都は友希那が遥都のことをどう思ってたか知らないと思うけど……、友希那はね、遥都に対して、"私に音楽を続けさせてくれた大切な人"って程、思ってるの。」

 

 

 どういう……!?なんで!?俺がいたから、あいつは……!!それなのに、どうして俺が感謝をされる!?違う……、これは、何かの間違いだ!!

 

 そんな俺の葛藤を他所にリサは続ける。

 

 

「でも、友希那は口下手だし、プライドも高いから、お礼の一つも言わなかったみたいだけどね……。けど、友希那自身も変わってきてる。あの子はあの夜、ずっと、言えなかった、"ありがとう"を言おうとしてたんだよ?そんな相手に跳ね除けられたら……!!」

 

 

 リサが放つ言葉は少し嗚咽が交じる。俺が顔を上げるとリサの頬には涙があった。それでも、必死に押し殺しながら言うリサに何かを突き動かされる。だが、それでも、俺の口が開くことはなかった。それは、リサの言葉が衝撃的すぎたからか、あるいは話したくなかったからか、それは俺にもわからない。

 

 

「………………友希那のこと、助けてあげて」

 

 

 しばらくあった沈黙。その後に、リサの掠れた小さな声がポツリと聞こえる。それは、紛れもなく、リサが今、最も叶えたいこと、自分の二人の親友(遥都と友希那)を救ってあげたいという願いだった。

 

 

「俺が……、そんな、こと……、したら……」

 

「アタシはあの事、少しだけだけど、後から聞いた!けど、それは全然、遥都のせいじゃない!!むしろ、遥都のおかげで友希那が完全にダメにならずにすんだんだよ!?」

 

 

 あの事、リサは知っていたのか!?なら、尚更!!俺はようやく開いた口をさらに動かす。知られているなら尚更、俺は湊さんと関わるべきじゃないんだよ!!

 

 

「そんなことないから……!」

 

「そんなことある!!遥都がやってくれないと……、いや、遥都じゃないとダメなの!!」

 

「でも……」

 

「『でも』じゃない!!しっかり、"今"を見て!!アタシも友希那も、遥都に嫌な気持ちなんてこれっぽっちも持ってない!」

 

「"今"、を……?」

 

「そうだよ!!言ってるでしょ?当の本人の友希那がそう言ってる!!その親友のアタシもそう言ってる!!アタシと友希那、両方とも、遥都に対して感謝の気持ちしかないの!!!ずっと、ずっと……、言いたかった……!!『遥都がいてくれてよかった!!ありがとう』って言いたかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャン……!!!

 

 

 鉄の枷が冷たい音を立てて崩れる。冷ややかな鉄の感触から温もりへと変わる。それは、人に必要とされる喜び、人に感謝をされる喜び……、俺が永らく忘れていた、いや、自ら捨ててきたものだった。

 

 今度は俺の頬に涙が伝う。それは無意識。感情よりも先にでてきたその涙は止まることを知らない。初めのうちは、一粒、二粒と。だが、気がつくと留めなく流れていた。

 

 

「遥都の涙、久しぶりに見た……!!やっと、遥都の本音が聞ける……!!」

 

 

 リサが涙を拭いながら、笑顔を作りそう言った。俺もいつも通り言い返そうとはしてみるものの、上手くいかない。なぜなら、約5年、その間、流してきたはず涙が一度に溢れてきているのだ。止めろというのが無理な話だった。

 

 あれから何分たっただろうか。外はもう完全に日が沈み、ネオンが煌めき出している。店内も晩御飯として食べに来ていたお客さんはほとんど消えていた。

 

 

「遥都、少しは落ち着いた……?」

 

「リサもな……」

 

 

 ようやく、落ち着きいつもの感じに戻ることが出来た二人。涙を流したせいもあり、目は赤く腫れていた。だが、その表情はどこかスッキリしていて、迷いや重荷、そういったものが消えていた。

 

 

「あの、遥都。アタシからもう1つだけお願いしてもいい?」

 

「ん?」

 

「ここにいるアタシ達に"あの事"について話してあげてほしいの。今回、こういうことが起きたわけだし、友希那と同じバンドにいる限り、無関係じゃないと思うから」

 

「リサはどこまで知ってるんだ……?」

 

「友希那から聞いただけだから本当に一部だけ……。でも、遥都のあの頃の変わり様とか、傷の増え方とか見てたらもっと大きなものだってことぐらいわかるから!真実のことを聞きたいの!…………ずっと、ずっと、遥都の力に、なりたかったんだよ」

 

 

 一瞬、顔が強ばる。リサが知っていたという事実、それなら今までどうして隠してきたのだろうか、そう思う自分もいたが、それ以上にリサに気を使って欲しくなかったのだ。そう思い、俺はリサには無理をしてでも隠そうとしてきた。

 

 だが、リサの想いは違ったらしい。俺は迷惑をかけたくない一心だった。けど、リサはどうやらそうじゃなかった。"俺の力に"それが彼女の願いだったらしい。それがわかった途端、強ばりは消えていた。今の俺の周りにあるのは"温もり"。表情をそのまま凍らせてしまうような冷たさではない。迷いはしたものの、答えはすぐに出た。

 

 

「…………わかった」

 

「ホ、ホント!?」

 

「けど、条件がある……。友希那の前で言わせてくれないか?これでもう、あの件にケリを付けたい」

 

「い、いいの……?むしろ、こっちからお願いしたいくらいなんだけど……」

 

「あぁ」

 

 

 暖かな大きな暖かさに包み込まれ、俺は勇気を得る。長らく体験したことが無かった、この温もり、人に助けられた、助けてあげる、必要とされるこの温もり。そして、それに呼応するかのように、『俺はここにいるぞと』主張するかのように体の中で灯る、小さな灯火。

 

 その暖かな朱色は、下部の白色の蝋を照らしだし、灯り続ける。いくら冷たい空気に晒されようと、大きな風を与えようと、消えることは無かった。

 

 それを見て、今なら確信できる……!一度は消されたものの、今なら灯し続けられる。今度は、リサも隣にいてくれてる……!!あの頃みたいに誰一人として俺の周りに残ってくれない、あの時とは……!!幸い、今まで冷たいところにいたんだ、蝋だけは全くと言っていいほど減っていない。

 

 どれだけだって燃え続けていられる。どこか安心出来る、そんな温もりの中で、俺は力強く、答えた。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「もう、こんな時間なのね……」

 

 

 放課後、閉館の時間まで図書室で本を読んでいた私はチャイムの音に反応し、ようやく時間の進みを確認した。手元にあった本をパタンととじ、元あった場所へと返す。

 

 

「あら……。この本、どんな内容だったかしら……」

 

 

 夕日が誰一人として利用者のいない図書室に差し込む。そんな図書室で私は、読んでいた本を本棚に戻しながらそんなことを思う。今、読んでいたはずなのに、内容すら覚えていなかったのだ。それほどに私は虚ろになっていた。そんな自分に嫌気がさす。それもこれも、全ての始まりはあの日……。

 

 

『俺もあいつとはできるだけ関わらねぇ!!』

 

 

 あの日、誰もいない夜の街に放たれたあの人の言葉が、溜め込まれた私の何かを一瞬で壊していった。私自身も昔は1人で、色々とやっていたから、何か影口を叩かれることは多かったが、気にせず、受け流すことは出来た。

 

 しかし、あの人の場合は違う。私に音楽を続けさせてくれて、尚且つ、今、リサや友希那、あこに燐子、つまりはRoseliaとして居られる礎を作ってくれた人なのだから……。私が大切に想ってきたRoseliaだからこそ、その感情は余計に強く感じられた。

 

"彼にいつかお礼を言いたい。そして、私の答えを見て欲しい"

 

 けれど、それは虚しくも打ち壊された。それ以来、大切に想ってきたRoseliaすらも、なぜにやっているのか分からなくなってしまった。もちろん、FWFに出て私の音楽を認めさせる、という目標もある。だが、もっと根本的な話、その目標を立てるきっかけをくれた人に拒否をされてしまったら…………。

 

 

「どうしていいかわからないじゃない……」

 

 

 図書室の扉を背中越しに締めながら、私はそう呟いた。そのまま誰もいない廊下を一人歩く。自分の足音が反響し、廊下に響く。それが、何者かに後ろから追いかけられているように聞こえる。それが嫌で少し早歩きをしてみるが、当然のごとく、足音は付きまとう。

 

 

「なんなの、かしら……」

 

 

 遂に、嫌気がさして私は立ち止まって、壁にもたれる。そこは音楽室の前、隣の音楽準備室の窓から、少し中を除くと、吹奏楽部の楽器ケースが見えた。その奥には高さが様々な譜面台がホコリをかぶっているように見えた。

 

 

「譜面台、ね……」

 

 

 

 

『あの子いると、やりずらいよね〜』

 

『友希那ちゃん、暑苦しいよ……』

 

『友希那ちゃんができるからみんなできるってことはないんだよ!?』

 

『いい加減にして!!その上から目線ムカつく!!』

 

『いっそ、友希那ちゃんがいない方が私たち上手くいくよ!』

 

 

 

 

 …………ハァ。嫌なことを思い出してしまった。遥都のことといい、今のことといい、今日は嫌なことばかり思い出す。これじゃダメ…………。これ以上、私がRoseliaに迷惑をかける訳にはいかないから。私は振り払うようにその場を後にする。

 

 それから、下を向き、早歩きで廊下を突き進んだ後、階段を降りて、私は昇降口に向かった。下駄箱から靴を手に取り、校内用の上履きをしまう。その後、靴を履くために、手に持っていた靴を下に落とす。

 

 

「あら……?」

 

 

 不意に携帯がなった。落ちた拍子に乱れた靴を整えようとする手の目的地を、ポケットへと変える。画面の表示には、

 

 

『着信:今井リサ』

 

 

 

 

 




「あ、丸山さん、久しぶり〜、ここでバイトしてたんだねー」
「いらっしゃいませ〜……、って、紅葉さん?」
「お久しぶりです」
「そう言えば、この間、Roseliaの皆さんとあと男の人が来てて、すごい剣幕で話してて、声もおっきかったんでビックリしたんですよー」
「…………伊月くんと今井さん、か。お店の迷惑だったって伝えとくよ……」
「い、いえ……、そこまでは……」


評価してくれた
高坂睦月 さん(☆10)
ありがとうございます

お久しぶりの評価、超嬉しいです!!
一言欄なしにしたんで気軽にしてみてくださいね〜


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多忙人は進み、歌姫は惑う

お久しぶりです

近頃、腕や足にあおじが増えて嫌なんです……


 

 

 

 

 

 

『着信:今井リサ』

 

 

 私は震える携帯を、ポケットの中で強くにぎりしめた。プラスチック製の携帯カバーがピシリを音を立てたように聞こえる。

 

 これは私の問題。いくら幼馴染とはいえ、リサを巻き込む訳にはいかない。それに、以前、私自身が紗夜に『Roseliaに私情を持ち込むな』と言ったのだ。リーダーの私がそれを守らないでどうするというのだ。

 

 

「そうよ……。もう、これ以上は迷惑をかけてはダメなのよ……」

 

 

 もう一度、強く握り込み、私は携帯をポケットの底の方へと押し込んだ。そして、迷いを振り払うかのように、学校を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第17話:多忙人は進み、歌姫は惑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『発信:湊友希那』

 

 

 耳に携帯をあてながら5人で走るアタシ達。目的地は、とりあえず、友希那の家の方だ。一応、平日の夜だということもあり、友希那の家に大勢で押しかけるのもアレだとは思ったけど、向かってみた。

 

 だが、それ以上に問題なのは……、

 

 

『お繋ぎ致しましたが、近くにおりません、ピーという音の後に続いてメッセージをお願いします』

 

 

「ダメ!やっぱりでない……!!」

 

「全く……!!湊さんは何を考えているのですか!?」

 

 

 隣で紗夜が、世話をやくお母さんのように怒るのに少し口角が上がってしまっていた。紗夜がこんな言い方をする時は、ほとんどが機嫌のいい時だから。

 

 

「遥都も早くいくよ!!」

 

「行きたいのは山々なんだが、湊さんの居場所分かってんのか!?せめて、目的地が決まってから動こうぜ!無駄な体力使ってる気がしてならないんだけど!?」

 

「居場所くらい、だいたい掴めてるから大丈夫!」

 

 

 そう、友希那の行く場所なんて大方予想がつく。なにせ、アタシは友希那とも幼馴染なのだから。そんな友希那が起こしそうな行動は遥都よりもすぐに分かる。

 

 そして、今日みたいに、何かを1人で考え込む時、友希那はとにかく静かになれる場所を好んで考え込む。そして、そんな場所は公共の図書館、学校の図書館、そして、自分の部屋のどれか。更に、今日は水曜日で公共の図書館は休館日だから……、学校か自分の部屋となるのだが。

 

 

「紗夜、もう6時って回った?」

 

「18:26ですし、回ってますが……、それがどうかしました?」

 

「ううん!なんでもない!!」

 

 

 これで決まり。友希那がいるのは友希那の家一択。なぜなら、学校は19:00に完全下校。そして、図書室の閉館時間は18:00だから、それ即ち、18:00を回ったのなら友希那は静かな場所を求めて家に帰るしかないのだ。多少、寄り道はあっても居心地が悪くてすぐに帰るのが友希那だ。

 

 

「んで、結局、どこに行くんだよ!!?」

 

「友希那の家!!」

 

「了解……!」

 

 

 遥都がグッとスピードを上げた。やはり、男の子、身体の発達の仕方が私達とは違い力強く、逞しい。さっきまで、後ろにいたはずなのに、既に私達の隣を走っていて、更には息切れもしている様子はない。

 

 

「うわっ!遥都さん、速っ!?」

 

「す、すごいです……!!」

 

「これはあこ達も負けてられないよ!!行くよ!りんりん!」

 

「う、うん!!」

 

 

 遥都につられ、スピードを上げる後ろの2人。これも遥都の力、知らない内にアタシや周りにいる人達に不思議な力を与える。友希那の時も、お父さんと学校のことが重なって、完全に落ち込んでいたのに、音楽という道で前を向かせたのは遥都だったのだから……。現に、アタシだって、こうして、行動できる力をくれたのは、遥都だから。

 

 腕時計をチラリと見ると、長針と単身が6と7の間で重なりかけていた。いくら初秋とはいえ、太陽はもう沈みかけていて、もう30分もすると街頭がつきそうな暗さだ。

 

 

「ハァ……、ハァ……、ん、やっと、着いた……!!」

 

 

 目の前には友希那の家。アタシは肩で息をしながら、左腕で汗を拭う。ここまで、全力で走ってきたんだ、汗は今年一かいてるんじゃないかというレベルでかいてるし、髪も女の子としてどうなのかというレベルまでボサボサだ。普段あまり運動をしていないだろう、紗夜や燐子は特に汗が目立っているが、二人とも気にしてはいない。そう、今はそんなことどうだっていい、みんながそう思っていた。

 

 こんなにRoseliaのみんなが、そして、遥都が力強く思えたことがあったかな?そう思いながら、アタシは顔を上げた。だが、そこに映ったのは……、

 

 

「あれ……?友希那がいない……?」

 

 

 いつもは電気がついているはずの友希那の部屋。今は電気どころか、人の気配すら感じられない。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「一体、何をしているのかしら……」

 

 

 周りがどんどんと暗くなっていく中、私は住宅街を歩いていた。目的地はない、ただ、足が赴く方へ歩き続けていた。学校を出て、早1時間。流石に足に疲れがきていた。薄暗くなっていく、路地の中でアタシは電柱にもたれ掛かる。

 

 

「あ……」

 

 

 電柱の上についている街頭が、不思議な音を立てながらパッと着いた。途端に足元のみが明るくなり、余計に周囲が暗く見える。私はまたひとつ、またひとつと順番についていく街頭を目で追っていた。だが、目で追っていくうちに、1つのある街頭に目が止まった。それは、今にも消えてしまいそうで、弱々しい光だった。チカチカと弱々しいながらも、ついては消え、ついては消えを繰り返すその街頭。

 

 それが気になり、私はそこへ向かう。特に意味なんてないのは、先程までと変わらない。強いて言うとしたら、近いながらも、目的地があることくらいだ。歩いて、20秒ほどの距離なのだ、言わずもがな、すぐに着く。

 

 

「もう、変えてあげないと、消えちゃうわね……」

 

 

 そう言った途端だった。その街頭は、一際大きく輝いた。そして、何かが切れるような音を立てながら、ライトが消える。

 

 

「言ったそばから……」

 

 

 再び訪れる、闇の世界。あかりに慣れた目ではただの真っ暗な空間にしか見えなかった。しかし、人間とは便利なもので、その後、徐々に暗闇に目がなれる。そこで、アタシはあることに気づく。

 

 

「あら……?ここの家、どうにも見覚えが……」

 

 

 曲がり角に面する、クリーム色の壁に黒い屋根。ごくごく一般的ではあるが、どこか真新しさを感じるこの家、誰かの家だったかしら?見たことがある気がする。そんな違和感を抱えながら、私はもう一方の道路の方へと回ってみた。

 

 

「っ!?」

 

 

 ガラスのような表札には漢字で『伊月』と書かれていて、その上にはローマ字で『Iduki』とふられている。壁の色よりは薄い、白に近い色をしたタイル。そして、オシャレな黒い檻のようなデザインの小さな門。当時の私には高すぎた位置にあった、カメラがついたインターホン。間違いない、今、私の目の前にあるのは、彼の、伊月遥都の家だ。

 

 心臓の鼓動が一気に速くなる。落ち着いて見えていたはずの、住宅街と路地が急にうねり始めたような感覚を覚える。頭がガンガンと痛み、額には暑さからくるものとは違う汗が滲み出る。刹那、立ちくらみを起こす私の体。崩れ落ちるように地面に片膝をついてしまう。片手で頭を抑えながら、立ち上がりはするものの、頭の痛みが収まらない。

 

 

「なに……、これ……!?」

 

 

 体が拒絶反応を起こしつつも、目を逸らしたら二度と見れなくなると本能が訴えかけてくる。塞ぎたくなる両目を、必死の思いで、開いて、遥都の家の玄関を見る。

 

 私の目に映るのは、楽しげに話す、1人の小学生の男の子に、同じぐらいの女の子2人。1人は後ろで髪の毛を束ね、1人はその束ねた子に手を引かれ、家の中へ入っていく。雪が降り出すと、髪を束ねた子が、残りの2人に不格好だが、一生懸命作ったと分かるようなマフラーを渡し、みんなで色違いのマフラーを付けて楽しんでいた。

 

 もう、言う必要が無いだろう。これは、紛れもなく、私達だ。もっと言うと、あの事件が起きるよりもっと前の小学生のころ。私達3人がいつも一緒にいた時の頃のものだ。

 

 

「あ、ら……?」

 

 

 気がつくと涙が流れていた。頬を湿った感覚が伝い、頭を抑えていた腕に雫が落ち、私はその正体を知った。初めは一雫目、二雫目と、数えられるほどしか落ちてこなかったはずなのに、目の前の情景が鮮明になれば、鮮明になるほど、涙の勢いは強くなる。

 

 だが、そんな色鮮やかな情景は徐々に色が抜けていった。背景は変わらない。だが、そこに移る人の色が明らかに褪せていくのだ。灰色へと変わるその景色は、太陽のような明るかった笑顔の色も奪う。赤や橙が良く似合う笑顔は消え、表情は暗く、雨雲の灰色になる。いつしか、楽しげに遊ぶ3人の姿は、私の目に映らなくなった。私とリサが呼びかけはするものの、勉強道具とはまた別のものを持った遥都が出てきて、そのまま去る遥都。私一人で遥都の家の前を通るものも、インターホンすら押さずに引き返す私。そして、最後に映ったのは、中学の制服を着て、かなり怖い目をした遥都だった。

 

 ゾクリとする背中。左足が一歩、後ずさりをする。そして、次の瞬間、私は走っていた。遥都の家を背に、無我夢中で……。あぁ、私は、また……、()()()()()……。

 

 ダメと分かっていても一度走り出してしまったら、もう止まらない。遥都の家の前から流し続けた涙が、風に流され、真横に流れるのがわかる。そして、その瞬間、悟ってしまった。

 

"私はもう二度と戻ってこれない"、と…………。

 

 悔しくて涙が止まらない。走りながら下唇をギュッと紡ぐ。歌う勇気を、意味を、場所のきっかけをくれた遥都に感謝すら出来ないのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右耳に風の音が響いた。それは、一瞬。されど、明らかにそこだけ強く、なにか誇張するかのように。私は立ち止まり、その地点を振り返る。

 

 

「え………………?」

 

「……っ!?み、湊さん……?」

 

「は、遥都……?」

 

 

 逃げたはずの相手が、自分が暗闇に突き落としてしまった相手が、そこに居た。

 

 

 

 

 




「なぁ、なぁ、紅葉さん」
「あれ?佐山くん?どうかした?」
「最近、自分の出番ってやつがすくなくてですね……」
「あと、1回あるかどうかだけど……」
「え……??」

お気に入り登録、評価ありがとうございます!
評価してくれた
黒き太刀風の二刀流霧夜 さん(☆10)
舞姫 雪 さん(☆10)
蛇にゃん さん(☆10)
未分類 さん(☆9)
ソロモン@ナメクジ さん (☆9)
artisan さん(☆9)
KATSU51 さん(☆8)
山本山田 さん(☆2)
ありがとうございます!

まだまだ待ってますよー!


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暇人と多忙人は暗闇の歌を辿る

お久しぶりです!
もうひとつの小説の麻弥ちゃんの誕生日書いてました!
暇な人は良かったら読んでみてください!!ちなみに詩音くんもちゃんと出てきます!


 

 

 

 

「…………7時を回ったぞ?」

 

 

 チラリと見たスマホの画面によって、周囲が怪しげに照らし出される。もう、完全に真っ暗となった、俺達の街。一軒一軒の家の電気を繋げたら、なにかの模様のように見えるこの時間帯になっても、俺達の目の前の家は電気が1つもつかなかった。

 

 

「……リサ、気持ちは分かるが今日は諦めよう。氷川さんや他の2人も家の人が待っていたりするんだ。俺達の都合だけで迷惑かけるわけにはいかねぇよ」

 

「そう……、だね……」

 

 

 9月1日の19:13。俺達はついに断念した。凹むリサを見ながら、なんと声をかけたらいいのか模索する。昔から、励ますのはリサの方が得意だったから、こういうのは未だになれない。

 

 結局、何も声をかけることが出来ないまま、解散の流れとなった。自分が何も出来ないもどかしさと雰囲気の悪さに苛立ちを覚えながらも、俺はその場を後にした。リサはすぐ目の前にある家へ。宇田川さんと白金さんはそのまま帰り、氷川さんはどこかによっていくそうだ。後から思えば、こういう時、男の俺が女子を送ってくものなんだろうが、生憎そこまでの余裕が俺にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第18話:暇人と多忙人は暗闇の歌を辿る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人、歩く路地は暗く狭い。それぞれの家の塀や門がいつもより高く感じ、圧迫感を感じる。それが嫌で、少しでも早く抜け出したくて、早歩きでその場を通り抜けようとする。

 

 まさにその時だった。

 

 

「え………………?」

 

「……っ!?み、湊さん……?」

 

「は、遥都……?」

 

 

 街灯のみが照らす夜の住宅街を俯きながら、歩く俺の耳に、一陣の風が吹き込んできた。ハッとなり、そちらを振り返る。そして、僕の目に映りこんだのは、永らくこの目で見ようとしなかった、俺の闇だった。

 

 

「ここで、何をして…………」

 

 

 そこまでで、俺の口は止まった。いや、湊さんの表情を見て、止まってしまったという方が正しいかもしれない。涙の後が、街灯によって照らされ、頬の表面にはまだ涙があることが分かる。その表情はとても悲しげで寂しげだったのだ。

 

 この表情を見せられてしまったら、何を言っていいのか、分からなかった。リサや他のRoseliaメンバーの前ではあれだけ、啖呵を切っておきながら、いざあの表情の湊さんを目の前にすると口は開けない。

 

 

「………………あの、ごめんなさい」

 

 

 迷った挙句に、ようやく俺の口から零れたのは"ごめんなさい"という言葉。それが、正しいかどうかは分からない。けど、それしか思いつかなかった。

 

 

「…………がう、のよ……。私が、知りたい、のは……、ちが、う……」

 

 

 グッと唇を噛み締めながら、湊さんは何か言った。俯きながら言っているから、今の表情は分からない。けれど、肩を震わせながら、掠れるような声で。聞き取れはしなかったものの、心から絞り出すよう言ってくれたことは十分に伝わった。

 

 不意に横を車が通り抜ける。車音がヘッドライトが湊さんを明るく照らした。やはり、前髪に隠れて、目元は見えないものの涙のあとはくっきりと見える。リサが着ている制服に、学校のバッグ。

 

 

「……っ!?」

 

 

 車が通ったのはほんの一瞬だった。だが、その中でハッキリと見えてしまった。あれは、確か、俺が……!!湊さんを照らした車のヘッドライト、当然、湊さんの鞄も照らしたのだが、本当に少ししか付けていない、ストラップの中に確かに見えた。数年も前のものだから、汚れてはいたものの、大切にカバンに付けられていた、アレが……!!

 

 その瞬間、俺の中で殻が砕けた音がした。入った亀裂から俺の中の何かが溢れ出した。

 

 

「そ、それって……!!」

 

 

 だが、湊さんは走り出す。ここで、そのままにしたら、また、ふりだしへ戻らないと行けなくなる。それどころか、こうやって機会を作ってくれたリサ達にも……!!直感でそう感じた、俺は、無意識のうちに追いかけ始めていた。

 

 

「待って……、って、あ……」

 

 

 しまった……。大通りに出られてしまい、交差点の信号機で完全に引っかかってしまった。湊さんはギリギリで渡れはしたものの、俺は完全に間に合わない。車がこんなにとおっていなければ、無視をしてでも追いかけるところだが、この量では明らかに不可能だ。

 

 

「こういうのも、どうかとは思うけど……」

 

 

 そう言いつつ、ポケットへ手を伸ばす。いつも手に取っているから、流れるような手つきだった。パスコードを解いて、LINEを開く。その動作をしている間、やけに周りの車やバイクの音が静かに聞こえる。リサのトーク履歴は、集合する前に使ったばかりだから、一番上にある。オマケにここ最近だと、くどいと言うほど見たアイコン。押し間違いなどするはずがなかった。かけ始めてから、わずか4コール。リサはすぐに出た。

 

 

『あ、もしもし……?遥都?』

 

「リサか!?あいつ、いた!!」

 

『ちょ、いきなり大きな声出さないでよ!!』

 

「いいから!湊さん、いた!!」

 

『だから、大きな声を…………、って、え……?今、なんて……?』

 

「湊さんがいたんだよ!!今、あの大通りをリサの家の方に向かったから!信号に引っかかったから見失っちゃったけど……。とにかく、その、えっと……」

 

『うん!!わかった!!今すぐ、みんなを呼び戻す!!』

 

「いや、そうして欲しいわけじゃなくて!!」

 

『いいの!!遥都も信号が変わり次第こっちきて!!ここで話さないと、もうチャンスなんてないんだよ!?そんなの、アタシも遥都も、それから友希那もいやでしょ!?』

 

「…………あぁ!!」

 

 

 リサの言葉にまたもや心を突き動かされながら、俺は覚悟を決める。それを待っていたかのように信号が車を止めて、俺が進む道を開けてくれた。あれだけ入り乱れていたものが一瞬でピタリと止まる。

 

 

「よし…………!」

 

 

 右足に力を込めて、強く地面を蹴りつけた。正面から歩いてくる、サラリーマンや塾帰りのような中学生、ハンバーガーショップにでも行きそうな、高校生をひらりとかわし、向こう岸へと急ぐ。渡り切るとすぐさま、歩行者用信号は点滅し始めていた。その直後には、再び車が入り乱れた。まるで、俺の退路を断つかのように。

 

 

「いこう……!」

 

 

 俺は心の中でそう呟き、再び右足に力を込めた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

『湊さん、いた!』

 

 

 その瞬間、アタシは動き出していた。脱ぎかけていた、制服を着直し、携帯を耳に当てながら階段を駆け下りた。玄関に言き、スニーカーを履いて、暗い路地を突き進む。

 

 

「友希那、どこにいるの!?」

 

 

 遥都からの電話で大通りよりこっちにいることはわかった。しかし、それだからといって、友希那が家に向かっているとは限らない。できるだけ、早く、そっちに向かって、友希那を見つけないと……!!

 

 とにかく、大通りの方へ急ぐアタシ。普段は通らない道を使ってでも、速く着きたかった。だが、こういう時に限って、信号は赤になり、行く手を阻む。別に今は車もいないが……、万が一のことがあるから逸る気持ちを抑えながら、ジッと信号機を見つめる。

 

 

「今井さん!?家に帰ったのでは……?」

 

「さ、紗夜!?」

 

 

 ちょうど、正面。反対側の道路から紗夜が何やら学校のカバンとは別のものを持って、立っていた。それを見て、別れ際に「あるものを買っていく」と言っていたことを思い出した。

 

 

「どうかしたのですか?」

 

「遥都が友希那を見つけたって!紗夜も探しに行くよ!!今、この辺りに居るはずだから!」

 

「伊月さんが、湊さんを!?……し、しかし、こんな時間に私達だけで…………って、止めても無駄ですよね。」

 

「早く行くよ!!」

 

「わ、わかりましたから……!!なら、宇田川さんや白金さんにも連絡しましょう?2人より4人の方が捗るでしょう?」

 

「そ、そうだね!」

 

 

 紗夜に言われて、遥都に電話で知らせるって言っていたことを思い出した。人知れず、紗夜にこそりと感謝しつつも、横断歩道を渡り、周りをぐるりと見渡す。紗夜が隣で携帯を触ってくれているので、2人には連絡が言っているはずだろう。

 

 

「今井さん、伊月さんはどの辺りで湊さんを見たと仰っているんですか……?」

 

「え、えっと……」

 

 

 しまった……。遥都にそれを聞いておくのを忘れてた。もう1回電話してみるのが1番得策だろう。アタシはすぐさま、遥都のLINEを開いた。

 

 

『湊さんは、二丁目のコンビニの前の交差点で見た。そこから、北の方へ走っていった』

 

『それから、落ち着いて出てきてよ?飛び出しとかして事故ったらシャレにならないから』

 

 

 電話のマークの下に2件の新規メッセージが。見事にアタシの行動を先読みされている気がする……。それを見て、少しは落ち着きが取り戻せたアタシは紗夜に友希那の目撃情報があったところを伝える。

 

 

「そうですか。ありがとうございます。白金さんには私から伝えておきますから。私達も手分けして探しましょう」

 

「うん!」

 

「あのコンビニの交差点を北に、ですか……。白金さんに、その通りより向こう側をお願いして、私達はこちら側を別れて探すのがいいですね」

 

「賛成!!それじゃ!!」

 

「あっ!ちょっと、今井さん!?…………はぁ、落ち着いてくださいよ?」

 

 

 紗夜が何かしら言おうとしていたが、アタシは直ぐに探しに向かった。とにかく、1秒でも早く友希那にあって話をしたいから。それに、友希那と遥都を呪縛から解放させてやりたいから……。

 

 普段は通らないような道もすべて虱潰しに見ていく。だが、ここの住宅街は決して狭くなどない。友希那が見つからないまま時間だけが無常にも過ぎていく。『そんなに甘くできているわけがない』アタシの中でそんな声が囁かれる。けれど、あきらめの悪さなら、遥都から、友希那から学んだんだ!

 

 

〜♪、〜♪、〜♫

 

 

 歌が聞こえた気がした。いや、歌というにはあまりにも形がなさすぎる。どちらかというと、律動……、そして、アタシの心を震わす音色。この音……、友希那しかいない!!!一瞬にして確信へと変わる。こんなのを奏でられるのは友希那しかいない!!いつもとは打って変わった、静かで透き通った雪解け水のような音色だったが、アタシにはすぐにわかった。

 

 すぐさま走り出す。耳をすましつつ、周りの雑音をシャットアウトし、歌声だけを手繰り寄せる。音の鳴る方へ、一歩、響く方へ、一歩、震える方へ一歩。アタシはゆっくりと、されど確実に一歩ずつ歩みを進める。そして、遂に…………、

 

 

「いた……!!」

 

 

 公園のベンチに腰掛けながら、夜空を見上げる歌姫をアタシは見つけた。

 




「最近、いい所が全部取られてる気がする……」
「何がよ……?」
「いや、なんか俺のいい所が全部リサに取られてる気がして」
「そもそもいい所なんて、遥都にはないだろ?ま、もちろん、この知夏良様にはあるけどな!!」
「Shut up!!」


評価してくれた、N.N. さん(☆9)ありがとうございます!

まだまだお待ちしております!!


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歌姫の心は動く

皆さん、お久しぶりです!色々大変で書く時間が取れませんでした……!!

それから、改めて言っておきます。この物語のヒロインは今井リサです!!友希那さんと思われがちだけど……


 

 

 

 

 

 

 

 季節は夏。太陽が沈んだとはいえ、まだ、嫌な暑さが残る夜の街に強い風が吹き抜ける。

 

 

『リサ:友希那見つけた!全員、花羽公園に集合!!』

 

 

 凛とした水色を夜風になびかせる少女が、街灯に照らされながらそれを見た。携帯がメッセージを受信し、パッと明るく浮かび上がる。そして、少女はどこか安心したような、嬉しげな表情を見せた。口角が少しだけ上がり、進行方向を変える。そのまま小さく"流石ですね"そう呟き、地面を蹴る足にさらなる力を込めた。

 

 

 

 

『リサ:友希那見つけた!全員、花羽公園に集合!!』

 

 

 夜の黒に染まらない黒い髪が風に吹かれ、ふわりと舞った。同じ仲間の願いがかなわず、悶々とした感情を抱えたまま、掴みかけた、家の門の取っ手。だが、そのメッセージの通知音によって、その手は携帯へと伸びる。そして、その手は再び取っ手に触れることは無かった。次に触れるのは、全て終わってから、そう風が告げていた。

 

 

 

 

 

『リサ:友希那見つけた!全員、花羽公園に集合!!』

 

 

 学習机の椅子の背もたれに持たれながら、上を見上げていた、紫髪の少女。背もたれから後ろに垂れた、2つの特徴的な髪束が、窓から入ってきた、真夏の夜風に揺れる。その手には画面がついていない携帯。その少女は自分の直感を信じて待っていた。あの頼もしい先輩達なら、何とかしてくれると。そして、網戸から吹き込んできた夜風と共に携帯の画面が明るくなった。その瞬間に、髪を跳ねさせ、勢いよく、自室を飛び出した。

 

 

 

 

 

『リサ:友希那見つけた!全員、花羽公園に集合!!』

 

 

 茶色の髪が街灯に明るく照らされ、夜の街によく映えた少年。電柱に片手をついて肩で乱れた息を軽く整える。右手で額の汗を拭い、携帯に映し出されたメッセージを読んだ。そして、小さく笑みを零した。その笑みはアスファルトに零れる汗とともに。

 

 

「やっぱり、こういう時、リサは神さんに愛されてるよな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第19話:歌姫の心は動く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長針は頂点手前、短針は8にかかりかけている。時計台の麓のベンチには二人の少女が肩を並べて座っていた。二人の間に会話が少ないからか、周囲の木や草むらから虫の声が一層、響いている。

 

 

「…………なんのつもり?」

 

「友希那の仲間のつもり、友希那の幼馴染のつもり、そして、友希那の親友のつもり」

 

「そういう事じゃなくて……」

 

 

 ようやく口を開いた、片方の少女は問いかけをするが、どうもはぐらかされてしまう。先程から何度か同じような流れが続いている。最初の方は帰ろうとしてみたものの、手を握られ帰ろうにも帰れないのだ。結果、諦めてこのベンチに座っている訳だが……。

 

 

「…………どうして私にこだわるの?私に固執しなかったら、もっと楽しいことだって出来たはずよ?」

 

 

 静けさに耐えかねたのか、友希那が口を開く。それは、別にふざけてなどいない。自らがずっと思い続けてきたこと。もし、リサが友希那に拘らなかったら、今より遥かに多くの友達、遊び、オシャレが出来た。それは明白な事実なのだ。その証拠に、リサは友達の誘いをRoseliaのために多く断っているし、ネイルも剥がしている。友希那にはどうしてそこまで、尽くされるのかが分からなかった。

 

 問いかけをされた少女は上を向いた。手を口元に持っていき、少し唸りを加えて、間を作り、答えた。

 

 

「それはね、大切な幼馴染だからだよ。友希那も、それから、遥都も……」

 

「え……?」

 

「今言えるのはそれだけっ!」

 

 

 そう言って、リサは友希那の方を向いてニカッと笑った。戸惑いの色を隠せない友希那は、返事が詰まった。何か言いたいことがあるのはある。だが、こんな時に言葉にならない。作曲の時にも、作詞の時にも言葉や音色にできない時はいくらでもあった。だが、このもどかしさは今まで感じてきたどれよりも、根強い。

 

 だが、それはいつまで経っても、言葉にならない。視界に入った時計台の示す時刻はリサとあった時から大きく変わっていて、いかに自分が悩んでいたのかがわかる。そんな、自分への、情けなさ、もどかしさ、それら全てを乗せて、友希那は大きなため息を吐いた。

 

 

「そんなに、大きなため息、吐かないの!幸せが逃げちゃうよ〜?」

 

「……知らないわよ」

 

「もーー!連れないなあ〜!なら、今度はアタシから質問!」

 

「なによ……?」

 

「友希那はRoseliaのことやメンバーや遥都のこと、好き?」

 

「え……?」

 

 

 唐突な質問に戸惑う友希那は思わず聞き返した。確かに友希那自身、Roseliaに迷惑をかけてしまっていることは知っている。それが、遥都が原因であることも。だからと言って、今この質問をされる意味が分からなかったのだ。

 

 

「アタシは好きだな〜!Roseliaはアタシに居場所をくれた。友希那の隣っていうもう二度と失いたくない居場所と同時にアタシ達、5人にしかない空気がある居場所もくれた!それで、遥都は、友希那がRoseliaを作る道を残してくれた!そして、何より……、ん〜、まぁ、これはいいか!」

 

 

 2人を照らす公園の街灯を見上げながら、リサはそう紡いだ。その横顔はどこかいつもりよりもスッキリしているように見える。そして、何か強い意志があるようにも。それから、リサは友希那の方を向き直すと、顔を優しい笑顔へと変化させ、友希那にもう一度聞いた。

 

 

「友希那は遥都やRoselia、そのメンバーのこと、好きだと思う?」

 

「私は…………、多分、好き。」

 

「そっか、良かった!みんなと一緒だね!」

 

「え…………?」

 

 

 入口を指さすリサにつられ、友希那もそちらを向いた。公園内の大きな灯りが、そこにいる4人の姿をくっきりと映し出す。

 

 肩で大きく息をする、私の同じ理想を持つ、私を選んでくれた最高のギタリスト。両手を両膝につき、"やっと着いた!"と夜中にも関わらず、大声を出す、私達のバンドのために努力を惜しまない私を選んでくれた最高のドラマー。手を胸のところに起きつつも、その前に立つ少女の背中を優しく撫でてくれている、私を選んでくれた最高のキーボード。そして、私に音楽の道を示してくれた、幼馴染。

 

 

「みんな……」

 

「友希那さん!」

 

「湊さん!!」

 

「み、湊さん……!」

 

 

 友希那を選んだメンバーが、一斉に友希那の方へ駆け寄る。遅れてはいるものの、遥都も、だ。その行動こそが、Roseliaの各メンバーがRoseliaを、そして、メンバー一人一人を大切に思っている証拠なんだろう。

 

 

「アタシ達も友希那と一緒で、友希那のことが好きだし、大切に思ってる!だから、どんなことでも相談に乗ってあげたいと思うし、力になってあげたい!だから、友希那が今、悩んでること、聞かせて?」

 

 

 幼馴染の言葉が、メンバーからの期待と心配が、Roseliaとしての絆の強さが、友希那の胸へ刺さる。その光は友希那の心中にあった、殻を突き破り、想いを外へと解き放とうとしていた。

 

 

「あ、今の言葉、遥都にもそのまま返してるからね?」

 

「っるっさい……。せっかく、湊さんを励ましてんだから、そっちをやれよ……」

 

 

 昔と変わらず、遥都は面倒くさそうに、リサをあしらう。強いて言うとしたら、昔と比べ、少しあしらいの中に温かさがあることくらいだ。

 

 

「湊さん」

 

「遥、都……?」

 

「そうです。伊月遥都です。あの、すごくいきなりで申し訳ないんだけど、昔のことに、ケリつけませんか?」

 

「え……?」

 

「すいません、俺、オブラートに包むとかそういうの、苦手なもんで……。で、何が言いたいかって言うと、お互い、このままだと気を使って気持ち悪いじゃないですか?だから、ケリ、つけませんか?ってことです」

 

「そ、それは……」

 

「リサに言われるまで、俺は湊さんの気持ちなんか知りませんでした。そんで、少しだけですけど思ったんです。言葉にしないと伝わんないこともあるんじゃないか、って。腹割って話しましょうよ」

 

「…………えぇ、そうしましょう」

 

 

 しゃがむことで友希那の視線に自らの視線を合わせ友希那に喋りかけたのは遥都。頭を気まずそうにかきながら、いつぞやとは比べ物にならないくらい角のない声でそう紡いだ。それに応えるように友希那は首を縦に振る。

 

 遥都はそれを確認すると、腰をあげる。それから、リサの方を見て、よろしくとアイコンタクトを送り、一歩下がった。

 

 

「よしっ!それじゃ……、本題に入ろっか……。今回の友希那のこと、それから、それの原因になってる、遥都のこと、それぐるみでアタシ達3人の過去、全部みんなに話すね」

 

 

 リサの目線ががいつになく真剣なものへと変わり、場の空気がさらに引き締まった。これは事前に決めていたことなのだが、リサが友希那の成長の為にも、Roseliaの成長の為にも、リサと友希那が主体で話すというのだ。遥都はそれを聞いて、リサ達が知らないところ、足りないところをあとから付け足してくれるだけでいい、それがリサからの願いであった。だから、遥都は氷川さんらよりも一足分下がり、聞く体勢をとったのだ。

 

 

「………………と、言いたいところなんだけど」

 

「「「ん??」」」

 

「ここ、虫がスゴすぎ!!ここじゃ、話どころじゃないから、どっか入ろ!!?」

 

 

 真剣な空気はどこへやら。リサが自らそれをぶち壊しに来た。確かに、街灯の下に6人もの人間が群がっていたら、光、熱ともに条件が揃っているため、蚊を中心に、虫たちの格好の的だ。その証拠に、氷川さんは先程から何度も、虫を追い払う仕草を見せていた。

 

 

「誰の家が一番、近かったっけ!?」

 

「ここからですと……、湊さんの家か今井さんの家ですけど……」

 

「いや、違うわ。遥都の家よ」

 

「はぁっ!?」

 

 

 突然の友希那の発言で遥都が明らかに動揺する。それもそうだろう、そもそも、こんな時間に人が来ること自体、珍しいことだ。加えて、5人も、しかも全員異性と来たら、頭の中で処理をするのに時間もかかる。

 

 

「ちょっと待て!俺の家は、確かに近いけども……」

 

「どうして迷うことがあるの?あなたの家、私達の家に行くより10分ぐらい近くなるじゃない」

 

「決まり〜!!なら、遥都の家にしよー!!」

 

「ちょっ……、おい!!湊さんも……、って聞いちゃいねぇ……」

 

 

 渋々ながらも、5人の後につき、走り出す遥都。口では嫌がりつつも、その横顔はどこか嬉しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 




「紅葉さん、いいとこなのに〜……」
「しょうがないでしょ……?こっちもやる事あるんだから……。そういや今井さんは、やることきちんとやってるの?」
「もちろん!!宿題も完璧に出してるよ!」
「じゃあ、なんで、後ろで氷川さんが怖い顔してるの……?」
「え?さ、さよ……?」
「今井さん。また、宿題を忘れたそうですね?日菜が家で言っていましたよ……」
「ひ、日菜のヤツ〜!!」


評価してくれた
伊織庵さん (☆10)
ぶたまん茶屋さん(☆10)
新庄雄太郎さん(☆9)
ありがとうございます!
まだまだ募集してますのでよかったら!!


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"あの"過去
歌姫と暇人に向けて引かれる引き金


まず、ご報告!
総合評価が1000を超えましたー!!1000を超えたのはいつぶりでしょうか……??嬉しい限りです!!ありがとうございます!!

そして、今回からは過去編!!いよいよ、大きくな扉が開きますよ〜!

そーいや、バンドリのRTキャンペーン、当たりました!!




 

 

 

 

「「「お、おじゃましま〜す……」」」

 

「邪魔するなら帰って〜」

 

「はいよ〜…………ってなるかー!!」

 

 

 家の玄関をつけ、どこかの新喜劇のネタを軽くやったら通じてしまった……。と、まぁ、冗談は置いておいて、Roseliaメンバーの無茶ぶりにより、会議場所が俺の家になったのだ。

 

 

「伊月さんは、こんな大きな家に一人暮らしなんですか?」

 

「まさか……。いまは、いないだけ。二人とも仕事でもしてるんじゃないの?親いるって分かってるなら、確認のため電話するよ?」

 

「そうなんですか」

 

 

 会話通り、親は仕事に行ってて、今はいない。母親は高校の教師で、今は高3を受け持ってるから11時ぐらいになるだろうし、父親はどこかに商談をしに行っているから、そもそも今日は帰ってこないはずだ。

 

 改めてそんなことを思っていると、暗い廊下にパッと明かりがつき、誰もいない家の中に光を与えていくのが、妙に寂しく感じた。首を振るい、それをかき消すと、5人をとりあえずリビングまで案内する。食卓となっているテーブルに案内してもよかったのだが、生憎、席が4つしかないので、詰め込んだら5人座れるソファの方へ案内した。その後、冷蔵庫にあった冷えた麦茶をみんなの前に置く。

 

 

「それじゃ……、始めようか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第20話:歌姫と暇人に向けて引かれる引き金

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の一言により、空気がピシリと引き締まる。麦茶を飲んでいた、白金さんも一度グラスを置いて、話を聞く体勢へと切り替えた。リサは皆の様子を見てから、一度、唾を飲み込んで、友希那は少し息を吐いて、こう始めた。

 

 

「これは、Roseliaがあるもう1つの理由。そして、アタシが友希那を、友希那が音楽にこだわるもう1つの理由。」

 

「みんなにも聞いておいて欲しい。私達の音楽を形作っているもう1つの物語を……」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 時は小学校の6年生の10月中旬だった。カエデやイチョウの紅葉が色鮮やかになり始め、校庭が華やかになろうと季節。小学生は運動会が終わって、ひと段落、という訳には行かないのだ。この時期、全国の小学校はある行事に備え、慌ただしさが増す。そう、文化祭。それは、遥都や友希那、リサが通う小学校と例外ではなかった。6限目、遥都達3人が揃うクラスでもそのための授業が行われる。

 

 

「では、みなさん!もうすぐ、皆さんが楽しみにしている文化祭です!そして、今年も行われる、合唱コンクール。6年生の課題曲は『COSMOS』!優勝目指して頑張りましょう!!」

 

 

 教壇に立つ若い女性の先生が皆にそう言った。しかし、学年は既に6年生。生徒の中には面倒くさがるものも少なからずいた。「いやだ」「だるい」そんな言葉があちらこちらで聞こえる中、先生は一瞬、気まずそうな顔を見せるが、すぐに笑顔に戻し話を続ける。

 

 

「COSMOSの二部合唱……、えっと、女子がソプラノパート、男子がアルトパートを歌ってもらうんですけど、皆さんには、それぞれのパートでパートリーダーを作ってもらいたいと思います!お仕事の内容は、練習の時にみんなをまとめてあげたり、CDを取りに来たりと簡単なお仕事です!誰かやってくれる人はいませんか?」

 

 

 一瞬でさらなるざわつきを見せる教室。理由は明らか。皆、パートリーダーをやりたくないのだ。この年頃から見られる、"押し付け合い"というのが、あちらこちらで始まった。そんなこと言っていると遥都もたまたま近くの女子の机へ喋りに来ていたリサから押しつけを食らう。

 

 

「遥都、やんないの〜?」

 

「なんで、俺なんだよ?リサこそやんないのか?」

 

「アタシ!?そんなの柄じゃないよ〜!」

 

 

 少し笑いを混ぜながら断っているリサは今度はリサの後ろの席の人に絡みに行く。遥都は大きなため息をつくと、周りのざわめきに呆れながら、机に突っ伏した。

 

 先生はこの様子を見て、収集がつかないと判断したのか、ある行為に出た。初めに言っておくが、先生自身、悪気があった訳では無い。これは明らかに経験の差というものなのだから仕方が無いといえば仕方が無い事だった。だが、その一言が引き金を引いてしまったのだ。

 

 

「じゃ、じゃあ〜……、友希那ちゃん、どうかな?歌、すごく上手じゃない!」

 

 

 クラス一同、友希那に視線が集まる。クラスの左後ろ、窓際の一番後ろに座っていた友希那は明らかに戸惑いの表情が見えていた。そして、それが、確認出来た刹那……

 

 

「それがいいよ!」

 

「湊さん、滅茶苦茶歌うまいし〜!」

 

 

 断れないような雰囲気がすぐさま作られてしまった。誰しもがやりたくなかった、パートリーダーという役割、それが先生の意見という、絶対的な大義名分を得られた意見。覆すという方が難しい話だった。しかも、当時から活発な女の子ではなかった友希那だ。尚更断りづらかっただろう。

 

 

「やります……」

 

 

 友希那の一言により、ソプラノパートのパートリーダーが決まる。当時、大して仲良いわけでもなかった遥都は、適当にその様子を見守り、このまま、アルトのパートリーダーが決まることを密かに願っていた。

 

 

「じゃあ、もう1人のパートリーダーなんだけど……」

 

 

 先生がそういい、男子全員の視線が下にむく。必死のやりたくないアピールだ。男子全員が理解していた。ここで名前を刺されたら間違いなく、吊し上げにあうと。だが、たった、1人、その理解が遅れた人がいた。そう、遥都だ。パートリーダーにさせられてしまった友希那の方を向いてしまっていたのだ。対応に困っていた先生が、それを見逃すはずがなかった。

 

 

「遥都くん、やってくれない?」

 

 

 しまった、そう思った時には遅かった。クラス全員による、遥都を押し上げる声が飛び交う。既に前例が出てる以上、遥都が逃れられる確率は0に等しい。ならここでグダグダしているのは意味が無い、そう判断した遥都はサラりと答えた。

 

 

「いいよ。俺がアルトパートのパートリーダーやる」

 

 

 こうして、遥都達のクラスのパートリーダー二名が決まった。友希那は俺とその場で目を合わすと、ペコりと頭を下げる。よろしくとでも言いたかったのだろう。遥都もそれに合わせ、頭を下げる。

 

 その日はそれで放課となり、皆が遊ぶ、習い事へと急ぐ中、遥都は友希那に呼び止められていた。

 

 

「遥都」

 

「友希那かぁ。さっきは災難だったな〜!それで、なに?」

 

「特に用というわけじゃないのだけど……、その、パートリーダー、お互い頑張りましょ」

 

 

 少し顔を赤く染めながら、友希那はそう言って、パッと立ち去ってしまった。遥都はポカンとして、しばらく動作を止める。その後、首を捻るが考えがまとまらなかったのか、「ま、いっか」と呟き、再び帰りの用意を始めた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 翌日。早速、1回目の合唱練習が始まった。初日はとりあえず、全体のお手本ということでCDを聞いてから、パートごとに別れてやるということになった。そこで、遥都と友希那が前に立ち、CDプレーヤーを動かして、みんなに聞かせる。

 

 曲が終わると、口々に聞いてみた感想が飛ぶ。そんな中、遥都が時間を決めて、パートに別れてやると皆を仕切る。当時、友達も少なからずいて、嫌われてもいなかった遥都の言うことはすんなりとクラスに受け入れられ、女子はピアノを弾く子もいるから音楽室。男子は視聴覚室に移動して、練習を始めた。

 

 

「それじゃ、やりますか〜」

 

「えぇー!めんどくさーい!やりたくなーい!」

 

「うるせぇぞ、知夏良。なんなら俺はお前のソロでもいいとは思うけど?お前のソロなら優勝間違いなしじゃん?」

 

「え、そ、そうか?」

 

「あ、下から数えた場合に限るけどな?」

 

「こ、このーー!!」

 

 

 男子は遥都と知夏良の馬鹿みたいなやり取りで笑いが起きたり、知夏良の音痴ぶりにゲラゲラと皆が笑ったりと、練習しつつも楽しげな雰囲気で合唱練習を行う。そんな雰囲気であるからか、遥都らの時間はとても短く感じていた。

 

 だが、音楽室はとてもそんな雰囲気とは正反対と言うしかできない酷いものだった。明らかに空気がおかしい。それの理由はすぐに分かる。

 

 

「みんな、しっかり声を出しなさいよ!!」

 

 

 ヒステリックな声が音楽室に響く。声主は、友希那。元々、推薦された理由も『歌が上手いから』だったのだ。そんな友希那の父親はバンド界の超新星と言われるバンドのボーカル。友希那の歌唱力も親譲りで、とても小学生とは思えないものだった。だが、それは裏を返せば、他の生徒と大きな実力差があるという事だ。そして、当然、それは求めるレベルにも、意識にも、大きな差が生まれる。そして、ストイックな彼女がそのレベルを下げ、皆に合わせるということが出来るわけがなかった。

 

 

「もう一度!!もっと、お腹から声を出して!」

 

 

 あまりの怖さに他の生徒は戸惑いと恐怖を隠せない。ざわめきが起き、迷いが生じる。そんな状態では、いい合唱なんて出来るわけはない。むしろ、クオリティは下がる一方だろう。そして、友希那はまたそれに怒る。この上ない負のスパイラル。それがひたすら繰り返され続けていた。

 

 パートにより、明暗がハッキリと別れた合唱練習。それがその先、2週間、良い方向に転ぶことは無かった。良い方向に転ばないだけならまだ良かった。完全に方向を謝り、悪い方向の奈落の底まで転がり落ちたのだ。パート練習のあとの男子と女子の表情にはあまりに差がありすぎていたのだ。徐々に深く大きくなって行く亀裂はもう元には戻せない。

 

 それは、この年ならではかもしれない。学年はもう6年生。誰も馬鹿正直に『湊さん、ダメだよ』なんて言う人はいない。良くも悪くも賢くなっているのだ。裏で本人にバレないように次々と糸を繋げて、1つの共有意識を持とうとする。共有意識を持てる集団を仲間と認識し、集団を作り、敵をジワリジワリと追い詰める。集団の意識というものは怖いもので、それまでなんとも思っていなくても、周りがそう思うとそれが正しく映ってしまうのだ。それ故に、今までは、友希那をなんとも思っていなかった、女子までも敵に回ってしまっていた。やがて出来上がる、クラス規模の大きな団体。そして、そんな団体から放たれるクラスの女子の意志とも言える1つの言葉。

 

 

 

 

 

『湊さん、私達はあなたにはついていけない!あなたがいない方がいい!!』

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまで、残り1週間

 

 




「もみじさん、もみじさん!」
(だれ?この小学生……?)
「アタシはリサだよ〜?」
「昔からそのチャラさは変わらないんね……」
「しつれーー!!おとなのたしなみ、ってやつだよ!!」
「おとな、ねぇ……?」

評価して頂いてありがとうございます!
ユグドラ汁 さん(☆9)
なめりんりん (☆9)
ありがとうございます!

まだまだ感想、お気に入り、評価等お待ちしてますので、余裕がある方はぜひ!


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歌姫は御旗を失う

実に3ヶ月ぶり……、この空きスパンには何があったのか……??
本当に久しぶりの執筆、投稿。お待たせしてしまい、申しわけありません……。(果たして、待ってくれているのか……?)

これからも、ぐっと投稿ペースは落ちますが、よろしくお願いします……。


 

 

 

 

 

 

『湊さん、私達はあなたにはついていけない!あなたがいない方がいい!!』

 

 

 その言葉が、教室の空気を一瞬で冷たく張り詰めたものへと変えた。元々、友希那と険悪だった周りの女子はもちろんのこと、ヘラヘラしていた男子までもがそう言い放った女子の先頭に立つ子を見た。こういう時、タイミングが悪いことに先生という絶対的に中立を保ち、調和をもたらすものはいない。すると、クラスの流れはどうなるか、火を見るより明らかだった。

 

 

「……うだよ。そう!!友希那ちゃん、周りのこと見て無さすぎ!!」

 

「なに、ちょっと歌が上手いからって調子乗ってるの!?」

 

「っていうか、湊さんいない方がいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第21話:歌姫は御旗を失う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "同調"。聞こえはいいが、現実問題、それは遥かに残酷なものだった。日本人独特とも言えるその風習は、時に人に大きな傷を与える。一人を敵意という檻で囲い、孤独という鞭でうち続ける。さらに、それを見世物と見るように、周囲の人間すら、檻となる。

 

 

「吉田さんが言ってるってことはホントじゃね?」

 

「だろーな〜」

 

 

 なんの悪気もないのは分かる。だが、無意識のうちに男子までもが檻となっていくのだ。視線が冷ややかなものとなり、それぞれが好き勝手に言葉を吐いていく。その言葉は刃となって、友希那の心を次々とえぐる。そんな仕打ちに、友希那が、いや、小学校6年生の女の子が、耐えられるはずがなかった。

 

 

ガシャン!!

 

 

「なによ!!!??あなたたちのレベルが低いからでしょ!?私、何か間違ったこと言ってる!?いいえ!そんなわけないわ!!私のお父さんは本物のボーカリストなのよ!それを1番近くで見てきた私のが間違えるなんてありえない!!それなのに……!!」

 

 

 友希那は手に持っていた、CDプレーヤーを地面に投げ捨て、クラスの女子に怒号を浴びせた。地面に落ちたオーディオ器具は明らかに壊れたような大きな音を教室、廊下にまで、響かせ床に倒れる。その音は、教室を再び、沈黙の世界へと変えた。

 だが、その沈黙はすぐに破られる。

 

 

「ど、どうかしたの!?」

 

 

 血相を変えた隣のクラスの担任が飛び込んできた。当然だろう。あれだけ大きな音と声がしたのだから。そして、先生はその場を見てすぐさま行動を取る。

 

 

「ちょ、ちょっと友希那ちゃん!!なにやってるの!?離しなさい!!」

 

 

 これも当然。例え、教育のプロの中のプロが見たとしても同じ行動を取るのは手に取るようにわかる。目の前で胸ぐらを掴まれ今にも泣きそうな子、狂気に満ちた表情をして相手に今にも暴力を振るいそうな子、どちらを助けようとするか、そんなこと分かりきっている。そして、そのあと、無意識でもどちらの味方をしてしまうかも……。

 

 

「湊さん!職員室に来なさい!!他の子は席に座って先生を待ってて!」

 

 

 その先生は友希那の手首をギュッと掴むと嫌がる友希那を無理矢理、教室の外へと連れ出した。一方で胸ぐらを掴まれた女子はというと、先生のもう片方の手で背中をさすられながら連れていってもらっていた。

 

 ザワつく教室。先生に言われた通り、大人しく座り出す子、先ほどの光景が余程怖かったのか泣き出してしまう女子やそれを慰める子。最初から傍観を決め込み座っていた子。それぞれが混乱しつつも、ただ呆然としていた。

 それから数分後、隣のクラスの先生だけが戻ってきて、少しイラついた口調で、席に座れとクラスのメンバーに言い、全員が我に返った。

 

 

「時間かかりそうだな〜。帰りの会」

 

「仕方ないだろ……」

 

 

 前の席の知夏良がこそりと僕に言ってくる。ちょうど遥都も同じことを思っていたのか、呆れるように頭を抱えた。そんな遥都を横目に知夏良は背もたれが正面、つまり遥都の方を向きながら、手に顎をのせ、続けた。

 

 

「しっかし、女子も災難だよな〜。あんな厳しいこと言われても、出きっこないのに……」

 

「それね!!他にもね湊さんはね!?」

 

 

 その様子を見ていた隣のクラスの有力な女子が話へと入ってくる。次から次へと飛び出す、友希那の悪口。まるで、友希那がクラス全員の敵にしようとしているみたいだった。

 

 

「ね?遥都くんもひどいと思うでしょ?」

 

「ん?あ、あぁ、ま、そうなんじゃね?」

 

 

 小6の遥都。いくら、この時は普通の家庭、普通の学校生活を送っていたとはいえ、空気が読めないほど、幼くはなかった。遥都も周囲にいる、当時、仲が良かった友達に"同調"する。そのまま、情報をシャットアウトするように、目線をその子から移した。

 その際、目をある一人に止められる。周りよりも少し派手めな服。周りにもクラスの有力な女子がいる中、その子が不安そうな、そして何かを願うような目で遥都を見ていたのだ。まるで、『アタシじゃなんとか出来ない!遥都、どうにかして!』と言わんばかりに……。

 

 

「あいつ……。人任せやなぁ〜」

 

 

 遥都はポツリとそう呟いた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「おい……、うそ、だろ……!?」

 

「俺もそう信じてぇよ!!」

 

 

 1週間の始まり、上空は雲におおわれ陽射しはなく、少し寒い月曜日の朝の通学路。こっそりと知夏良とシャンプを買うために寄ったコンビニ。そこに置いてあったスポーツ新聞の一面。野球のことが書かれている片隅に不思議と目がいってしまった。内容は……

 

『バンド界の超新星"ARGONAVIS"解散!! 〜理由はFWFの失敗か!?Vo.湊、激怒!?〜』

 

 中身を詳しく見たくて、2人でジャンプも買わずにそれを手に取った。店員には変な目で見られるものの、必死ゆえに気にならなかった。置き勉をしていて、中身が少ない知夏良のランドセルに突っ込み、2人は学校へ走った。学校につくと急いでトイレへ駆け込み、個室へと入って、そのページを開く。

 

 内容はあまりに残酷なものだった。それが遥都達は本当かどうかもわからないが、多くのことが書かれていた。そして当然のごとく、記者による内部事情の予想も乗っている。そこに書かれていたのは……

 

『路線変更を要求していた、プロモーション側に対し、Vo.湊が自らの音楽を主張してしまったためであると予想される』

 

『それでもFWFに挑むも、本物のプロには通用しなかった』

 

 2人は言葉を失った。もちろん、衝撃的過ぎたのもある。だが、それ以上に知夏良はともかくとして遥都によぎったのは友希那の顔。友希那にとって、あまりにタイミングが悪すぎたそのニュース。遥都は歯ぎしりをするしか出来なかった。

 

 二人の間を重い空気がのしかかる。どちらも言葉を発することが出来なかったのだ。だが、だからといって学校が休みになってくれる訳でもない。無情にも始業の5分前のチャイムがなる。

 

 

「……教室、いくか。」

 

「あぁ……」

 

 

 2人は泥沼を歩くかのような足取りで教室へと向かった。

 

 

 

 一方で教室では、空気が嫌な張り詰め方をする。呆然と席に座る、友希那。それの正面に、数人の女子を従えて、昨日、友希那が胸ぐらを掴んだ女子がニヤついた表情で立っていた。

 

 

「ねぇ、なんとか言ったら?えぇ〜っとなんだっけ?"本物のボーカリストの子"の湊さん、だっけ?」

 

「……っ!!」

 

「結局〜、あんたのお父さん、失敗してるんですけど〜?そ・れ・な・の・に〜、あなたは『私が間違ってるわけない!』〜?笑えるね〜!!」

 

 

 そのリーダー格の子を中心に、周りの女子も含めて、クスクスと笑う。ただでさえ劣勢だった友希那。唯一、他の人が逆らえない理由であった、父親の存在による友希那の歌唱力。それをへし折られ、相手側に正義の御旗を立てられると、なんの抵抗もできなかった。小学六年生が受けるにしてはあまりに残酷ないじめ。それは友希那をさらに地獄へ突き落とすのに充分な威力を持っていた。

 

 

ダッ……!!

 

 

 席を立ち上がり、ランドセルも何も持たずに教室外へ走り出した友希那。扉のところでちょうど教室へ入ってくる遥都らとすれ違うものの、そんなこと見えているはずがない。朝の登校時間とだけあって、階段を上がってくる生徒が多い中、猛スピードで駆け下りる、友希那。

 

 

「あっ……」

 

 

 フワリと体が宙に浮く感覚。友希那は足を滑らしたのだ。そのまま、空気中に投げだされる。その数秒後には足が嫌な音を立て、強い痛みが走った。

 

 

「いっ……た……!」

 

 

 痛みを堪え、再び立ち上がろうとする友希那。だが、相当高さがある階段で足を滑らしたのだ。薄々、友希那自身も感じていたが、痛みからして立てるほど軽い怪我ではなかった。

 

 

「……んでよ……!!なんで、なんで!!?」

 

 

 その場から立ち上がることすら出来ない悔しさ。尊敬していた父を侮辱された悔しさ。そして何より、自分の存在意義が失われたような虚無感が友希那を襲う。答えが返ってこない問いかけをひたすらに続け、床を拳で殴る。怒りのままにぶつけ続けたその拳からは深紅の血が滴る。だが、友希那が気にすることはなかった。

 

 やがて、先生がその場に飛んでくる。どうやら、そこを通った下級生が自分の担任の先生に言いに行ったのだろう。保健の先生、担任、それから、生活指導の先生の3人がかりで保健室へと運ばれた。だが、その間も友希那が落ち着くことは無かった。終始、荒れていたという。

 

 遥都達にそのことが伝えられたのはその数十分後。1時間目の時間に入った所でようやく入ってきた担任の先生によって告げられたのだ。ザワつく教室、その反応は様々だった。遥都のように大きな心配を抱える者、知夏良のように心配する友達を心配するもの、あの女子のようにいい気味だとニヤつく者、リサのように本心を隠しつつも周りに合わせる者。

 収まりがつかないという表現がしっくりくるだろう。そんな中、全員が共通して持っていた思いが一つ。

 

 

 

 

 

"崩れた"

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り6日

 




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歌姫の残した燻りは雨をも降らす

端末変更の際、IDとメアドの不明が重なりログインが出来なく投稿ができない状態が続いておりました。ありがたいことに周りの作者さんから教えていただき、なんとかログイン出来るようになりました!
きっかけを作ってくれた感想をくれた方には感謝しています!ありがとうこざいます!

では、かなりのすきまがあきましたが!


 

 

 

 

 それから、多少、時間割変更があったものの授業が始まった。だが、いつも通りとは言い難い空気が流れる。歯車が抜けてクラスという機械が機能してはいるものの、内側では大きな影響が出ている。リサは友達に話しかけられてもどこか上の空だったり、遥都も知夏良が話しかけてもいつもの様に会話が弾むことはなかった。

 

 

「なぁ、遥都。宿題見せてくんね?」

 

「ん?あぁ……」

 

「…………これ、連絡帳だろ?大丈夫か…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第22話:歌姫の残した燻りは雨をも降らす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明らかにリズムが違う遥都に知夏良も流石に混乱を隠せない。しかも、ただ渡すのを間違えただけじゃない。いつもなら、遥都はすんなり知夏良に宿題を見せない。それなのに、渡した上に、その渡すものすら間違える始末なのだ。

 

 

「そんなに、湊さんのこと心配か?」

 

「……心配しないわけないだろ?これでも一応、幼馴染のうちの一人なんだから。それに、友希那のことも心配だが、6限目の特活の時間、新しく決めるだろ?そっちのこともな……」

 

 

 唯一、時間割変更が行われたのは6限目。元々、パート練習とされていたのだが女子のみ、特活とし、パートリーダーを再び決めるということで特活になった。というのも、友希那が階段から落ちた際、頭を強打していて、頭から血が出ていることもあり、大事をとって2、3日の入院が必要となったから学校に来れなくなったのだ。だから、先生が新しいパートリーダーを決めろと言い、そのようなことになった。

 

 

「確かにな……。まぁ、流れ的に吉田さんになるとは思うけど……」

 

「無難にパート練習が出来たり、話せたりする人がいいな……。とりあえず、平穏に終わって欲しい……。まぁ、無理だとは思うけど……」

 

「さぁ〜。どーだろ?でも、遥都が言う通りにならないかもしれないだろ?」

 

 

 遥都は見抜いていた。それが尚更、友希那の孤立化を助長してしまうことを。それ故に、友希那の身体の心配よりも、そちらのことを心配していたのだ。

 

 

「まぁ、そうだよな……」

 

 

 遥都は知夏良に力なくそう返事をした。

 

 そして、いよいよ迎えた6限目。遥都らは心配しつつも、自らの仕事を果たすため、女子を教室に残したまま、男子を連れて、音楽室へと移動した。

 

 

(何事も起きるなよ……)

 

 

 その後、男子はいつも通り練習を行った。強いていつもと違うと言うならば、遥都のテンションと、それに少し気遣う、遥都と仲が良かった知夏良を含む数人がどこか上の空な所だろう。だが、さほど影響がある訳ではないので、男子の練習は何事もなく終わって行った。

 

 そして、いよいよ6時間目終了10分前となり、男子も教室へと戻った。遥都は教室に入ると一番に黒板を見た。そこには当然、新しいパートリーダーの名前が書かれている。

 

 

「吉田さん、か……」

 

「みたいだな。どーした?遥都。友希那ちゃんの方がよかった?」

 

「いや、そういう訳じゃないけど……」

 

 

 少し冗談めかしながら、知夏良が遥都をからかいがてら首に腕を回していた。当の遥都は小さくため息を吐いて、気持ちに蓋をすると、その新しいパートリーダーの吉田さんの元へと、歩み寄る。遥都が歩み寄った彼女の周りには既に多くの取り巻きがいて、まるで悪を退治したように、英雄状態だ。

 

 

「新しい、パートリーダーになったんだよね?よろしく」

 

「あ、遥都くん!よろしく!!」

 

 

 動物的勘なのか、遥都は一瞬で察した。こいつ、猫かぶってる、と。そして、同時に苦手なタイプだとも思った。とはいえ、男子にも人気がある吉田さん、ここで敵対するような態度をとってみれば、いよいよ合唱コンクール所ではなくなる。表情をにこやかに作りかえ、応対をした。

 

 

「律儀だね〜。新しいパートリーダーにご挨拶?しかも、あの吉田さんに好感触ときた」

 

「シャラップッ!礼儀だよ礼儀」

 

「ハイハイ。でも、まぁ、遥都が行けばそうなるか……」

 

「ん?どういうことだ?」

 

 

 適当に吉田さんと話を合わせたあと、遥都は席に戻る途中で、友達にそう言われた。ちょっとだけ、嫉妬心に燃え、不貞腐れながら話すそいつは確か、吉田さんのことが好きな1人だ。

 

 

「遥都は知らないと思うけど……。吉田さんな?遥都のことが好きなんだって……」

 

「…………で?っていうか、まさかそっちとはな」

 

 

 さらなる落ち込みを見せるそいつに、若干の戸惑いと面倒くささを感じながらもそう返す。話の内容自体、遥都は聞いたことはない。だが、それでも驚かなかったのは、以前から遥都に妙に絡みに来るのを見ると、なにかあるのか、恨みの方向で考えていたが、友達に言われ、もしかしたら程度には思っていたから、遥都からしたら完全な想定外なことではなかったのだ。

 

 

「遥都が興味持ってくれないかな!遥都に私のいい噂が伝わらないかな!ってことじゃないかな?」

 

「なるほどね……」

 

「あーーー!羨ましいなぁーー!!」

 

 

 嘘泣き兼行きどころがなくなった怒りの処理か、そいつはそのまま突っ伏し、頭をゴロゴロさせる。小学六年生にもなって情けない、そういうかのように遥都は頭を抱え、その場をあとにした。

 

 席に戻ると、今度は知夏良から、吉田さんと何を喋っていたのかと説明を求められるも、適当にはぐらかす遥都。

 

 

(あ、雨か……)

 

 

 知夏良の相手をしていたら外から聞こえてきた、静かな雨音。それは徐々に大きくなりつつ、校庭の土の色を少しずつ黒く、濃く染めていく。

 

 

「傘、持ってきてたっけな……」

 

 

 遥都は がそう呟くと、6限目の終わりを告げるチャイム、そして、帰りのホームルームの開始を告げるチャイムがなった。

 

 

「はーい、みんな席に着いてね〜」

 

 

 先生の声でざわめきだっていた教室が、静かになり、みんなが席に着く。知夏良も前を向き、先生の話を聞き始めた。

 

 

「〜ということが、今日の連絡です!みんなお家の人にちゃんとプリントを見せてくださいね〜。それじゃ、最後に……、今日、早退しちゃった、湊さんのところに持って行ってくれる人を探したいんだけど……」

 

 

 教室が一層静まりかえった。付け加えるとすれば、いい意味でなく悪い意味で。ほぼ全員が下を向き、自らを当ててくれるなアピールをする。先生も困った様子で、クラス中を見渡した。

 

 

(だれか、行こうとは思わないものかね……)

 

 

「……はぁ、なら、俺、行ってきます。一応、一緒にパートリーダーやってましたから。」

 

 

 理由はそれぞれあっただろうがあまりに出ない現状に遥都が手を挙げ、そう言った。遥都自身はクラス中の視線が彼に集まり、いい気分はしていないものの、先生は人が見つかり、とても安心した顔をしている。

 

 

「それじゃあ、これ、よろしくね!あぁ、それと、今日は先生も行くから一緒に行こうね」

 

「……はい」

 

 

 プリントなどが入った袋を受け取り席に戻る。その途中、遥都に突き刺さるのは視線と言うにはあまりにキツすぎるものだった。特に吉田さんのものは……。遥都は苛立ちを覚えながらも席に座った。

 

 

「遥都、よく行けたな……」

 

「なんだよ、知夏良。誰かが行かないと終わんないだろ?」

 

「いや、そうなんだけどよ……。吉田さんが、誰も、湊さんの味方をすんなって言ってるようなオーラ出すだろ?遥都もこのクラスにいるなら、分かるだろ?あの人に逆らったら居づらくなることぐらい……」

 

 

 何かにヒビが入る音。遥都の耳に聞こえてきたのはそんな音だった。だから、誰も手を挙げなかったのか。だから、全員の視線が冷たかったのか。だから、今こうしてるうちにも吉田さんに睨まれているのか。知夏良に言われたことで結びつく。

 

 

「吉田さん……。そんなことまでやるか、普通……」

 

 

 遥都は吉田さんから視線を逸らしながら大きなため息をつき、ランドセルにプリントを入れた。ランドセルを背負い、窓の方へ外の様子を確認しに行く。外の窓は内側に曇りが見られ、そこを袖を使い吹き、外を見渡す。それでも、灰色の雲が空を包む風景はモヤがかかっているように見えた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 放課のチャイムがなってから既に35分が立っていた。遥都は1人、図書室で本を読んでいた。元々、教室にいたのだが、吉田さんの息がかかった子による視線が不快だったようで、先生から図書室の鍵を特別に貸してもらい、そこに入って時間を潰していたのだ。

 

 

「お待たせ、遥都くん。それじゃあ、行こうか」

 

 

 先生が来てくれて、読んでいた本を遥都は本棚に戻す。そして、座っていた位置の隣に置いておいたランドセルを背負うと先生の元へと向かった。

 

 それから、先生の車に乗せてもらい、友希那がいるという病院に向かった。先生が何やら、カウンターにいる受付の人と話をしていて、しばらくすると遥都の方を向きを向いて手招きをする。おそらく、友希那の病室が分かったのだろう。エレベーターに乗り、3階の314号室、その部屋の前で止まった。

 

 

「失礼します……。友希那ちゃん、大丈夫?」

 

「先生……?それから、遥都……?」

 

 

 俯き気味で喋っているから表情はあまり見えない。しかし、その声で分かってしまった。いつもの凛々しさはどこにもない。弱々しく、声量も少ない。少なくとも、遥都の知る、湊友希那という人物ではなかった。

 

 

「大丈夫……、じゃねぇか……」

 

 

 友希那の頭と脚に巻かれた包帯を見て、かけようとした言葉を途中で止める。元々、強がりで、表情にも出さない友希那だ。それが、今回ここまでやられているということは……。遥都の頭がそう考える。結果として、遥都は何も言うことが出来なくなった。

 

 それから、少しして、先生と友希那が話始めた。今後の話をするらしいが、遥都は自分がいては話しにくいこともあるだろうと感じ、一度、病室を出て、ランドセルの奥底にあった、百円玉2枚と十円玉6枚を持って、1階の待合室にある自動販売機に向かった。そこで、カフェオレとイチゴオレを買った。

 

 

「あら?遥都くん、よね?久しぶり。覚えてる?」

 

 

 トントンと方を叩き、後ろから声をかけてきたのは友希那の母親だった。遥都は戸惑うような顔を見せるものの、ぺこりとお礼をして、挨拶をする。

 

 

「わざわざ、あの子のためにお見舞い来てくれて、ありがとね」

 

「い、いえ……」

 

「相変わらず、遥都君は謙虚ねぇ〜。あ、そうだ。先生も来ていらっしゃるの?」

 

「あ、はい。今、病室で友希那と2人で喋ってると思います」

 

「そっかぁ〜、ありがとう。なら、私たちも行きましょうか。一緒にいこ?」

 

 

 手を引かれるまま、遥都はエレベーターに乗り込む。だが、その顔は下を向いてしまっている。そう、どこか、申し訳がない、そう言うかのように……。

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り6日

 




「紅葉さんいない間に色々ありましたよー」
「っぽいね〜、リサさんたちのライブや新曲とか」
「そーそー!今度ライブやるから見に来てねー!」

今度、富士急でライブがあるみたいですね!!


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暇人は歌姫のために

Roseliaのライブ良かったですね!
個人的にはwasserの方が好きな曲が多かったんですよね!でも、1日目は陽だまりやってくれたのがあったので……!!ううん!よい!
ちなみにREBIRTHの衣装が一番好き!それか軍服かな?
まぁ、というわけでおつかれさまでした。


 

 

 

「こうして、遥都くんと喋るのも何年ぶりかな〜?見ない間に大きくなっちゃって!」

 

「……ありがとうございます」

 

「それに比べて、私は、老けていく一方だからな〜。割に合わない!!」

 

 

 この人は昔からそうだった。基本、友希那とは似ても似つかない、明るい性格で、どうやったら友希那があんなに大人しい性格になるのかは理解に苦しむ。だが、今の遥都らそんな明るい性格について行けるほど、タフではない。俯きながら、生返事を繰り返していた。

 だが、下手に励ましの言葉がない分、遥都には楽だったのかもしれない。自分がミスをした時、遥都のように責任感が強いタイプなら尚更、周りの優しさが逆に辛いのだ。

 それを知ってか知らずか、友希那のお母さんは、1度も励ますことをしなかった。そして、そのまま、病室の前に辿りつく。その瞬間、一瞬立ち止る遥都に、友希那の母親は遥都の頭をポンッと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第23話:暇人は歌姫のために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し声が聞こえていた。別に意識していたわけではない。だが、遥都と友希那の周りにはそれを遮るものがなかったのだ。

 

 

……で、……ことが、……はい

 

……惑を……、しました。もう……ません。

 

 

 友希那の母親と遥都が病室に戻ると間もなくして、先生と友希那の母親の大人の話が始まった。遥都は、母親の希望で友希那のそばにつきそった。

 

 だが、遥都は下を向くことしかできなかった。友希那のためにと思って買ったはずのイチゴオレすらもまだポケットに入ったまま。ただ、廊下で話す二人の会話が途切れ途切れに聞こえるだけだった。

 

 病室には、無機質に時計の秒針の音が響く。その間隔が遥都には妙に遅く感じた。

 

 

「あの、友希那……」

 

「…………なに?」

 

「その……、ごめん……」

 

 

 そんな言葉じゃない。今、友希那にかけるべき言葉はそんなものじゃない。そんなこと分かっていた。だが、いざ、本人を目の前にして言うとなると、上手く言葉が出てこない。

 

 

「どうしてあなたが謝るのよ…?むしろ、私の方があなたに迷惑かけてしまっただけだから……」

 

「そんなことは……」

 

「ありがとう。でも、気は遣わなくていいのよ?私が一番分かってるから」

 

 

 何も言えなくなる自分が辛かった。遥都は歯ぎしりをする。そして、友希那は続ける。

 

 

「男子のパート、すごい出来がよかった。私もきちんとは聞けてないから細かいところは分からないけど、まっすぐで伸びのある歌声。表現力の高さ、そして、ハモる所の息の揃い様は素晴らしかったわ」

 

「え……」

 

「けど、女子のパートはバラバラ……。男子に見合うだけのものを作ろうと何度も何度もやっては見るものの、バラバラなまま。むしろ悪くなる一方。声量は少なくなるし、美しさがまるでなかった。あれじゃ……」

 

 

 徐々に声は小さくなり、途切れてしまった。自身の手の平を見ていた、友希那はとても弱々しく、小さく見えた。

 

 

「みんなにも嫌われて、いない方がいいっていわれた。練習も重ねれば重ねるほど、バラバラで収集がつかなくなっていった。結果として、私はクラスに悪い影響しか残していないもの。そして、何より、私の行動で父さんのことを馬鹿にされてしまった……!!

 

 

…………私、間違っていたの?」

 

 

 掠れた声で言う友希那の目には、涙が浮かんでいた。遥都はそれを聞き、なお一層、自分が不甲斐なく思えた。クラスの雰囲気に"同調"することがそんなに大事だったのか?幼馴染がこんなになってでも、する必要があったのか……?どちらも、否。それなのに、そんな行動をしてしまった。結果として、遥都は友希那が"間違っている"と証明される後押しをしてしまっていたのだ。だからこそ、それが分かっているからこそ、遥都は言えなかった。

 

 

『間違っていない』

 

 

 その一言が。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 間もなくして、廊下から先生と友希那の母が戻ってきた。それから、先生と友希那の母に告げられ、帰りは友希那の母の車で送って貰うこととなった。

 

 窓の外には街灯が等間隔に流れていく。湊さんが運転する車の助手席に座り、揺られていた遥都は、無機質に流れる窓の外の景色を見る。流れてくる音楽も遥都の耳には届かなかった。

 

 

「遥都君、ありがとうね。友希那も多分、喜んでるよ?」

 

 

 湊さんが不意にそう言った。だが、遥都の頭の中はそれを素直に取れるほど、落ち着いてはいない。友希那は青あざが痛々しい腕を片手で掴み、震えを抑えていた姿が一瞬でフラッシュバックした。クラスメイトからの非難、失われた父の尊厳、自分の全てに対する否定。それら全てから追われ、囲まれていたのだ。"もしも、あの時"、そんな言葉が遥都の頭の中でひたすらに繰り返される。そんな酔狂な世界は存在しない、そんなこと、遥都には分かっていた。だが、願わずにはいられない。どんなに関わりが薄れていこうとも、相手が冷たくても、一緒に育った仲なのだ。そんな子が自分が気づかなかったことで、心と体に大きな怪我を負った。何も感じないはずがないのだ。

 

 

ギュ……!

 

 

 何も言わず、脚の上で握る拳に力が入る。もしも、女子と友希那との間の溝にいち早く気づけていれば……。もしも、クラスで亀裂がはっきりとした時、周りに同調せずに仲介役を買って出ていれば……。もしも、今日、コンビニでシャンプを買わずに一直線に教室に向かえていたら……。挙げ始めたらキリがなかった。

 その様子が見えていたのか、湊さん道路沿いにあったコンビニの駐車場に車を止めた。

 

 

「アイス、かってあげよっか?」

 

「え……?」

 

「いいから!今日、お見舞い来てくれたお礼!遥都くんは車で待ってて」

 

 

 それだけ言い残し湊さんは車から降りていった。エンジン音やラジオの音が無くなり、急に静まり返った車内。

 

 

「……くそ」

 

 

 脚の上に行儀よく置かれた手が動き、遥都の頭へと移動する。放課後になってから初めて1人になったのだ、今までの不満が爆発した。

 

 

「……の、頭は……!!この、頭は!!あの時、一体、何を考えてたんだよ!!!いつもいつもいつもそうだ!!肝心な時にこそ、使えない!!!お前はいつも何がしたいんだよ!?なぁ、答えろよ!?」

 

 

 自身の頭を掴み、そう声を押し殺し、叫んでしまっていた。それが己の体を傷つけることだと分かっていても、ぶつけようのない自分自身への怒りを無理やりぶつけていた。そうするしか、遥都には出来なかったのだろう。

 

 

 

 

 

その直後だった。

 

 

 

 

 

 頭の上にある遥都の手ををそっと包み込むと、語りかけるような、女性特有の優しい声がする。

 

 

「……やっぱり。遥都くんは昔から変わんないね」

 

 

 湊さんだった。片手にコンビニの袋。そして、車のドアを開けて、遥都の手に手を重ねた。

 

 

「遥都くんが後悔するのは分かるよ?けどね?それは少々、エゴなんじゃないかな〜?私は遥都くんがパートリーダーでよかったんじゃないかなと思ってるよ?多分、友希那もそうだと思うし、先生もそう思ってるから。友希那ってね、あんまり男の子、というか、人と喋ることが得意じゃないの。だから、私ともあんまり話さないし、私自身、不安なところもあったのよ。でも、遥都くんだったから、いくらか楽だったみたい。友希那、言ってたわ。ここ暫く、会話があったとしても、友達の名前なんて出てこなかったけど、最近は遥都くんの名前がよく聞けるようになった。少しずつではあるけど、身分相応(小6らしい)の顔するようになったなぁ、って。」

 

「……っく、……そ、そんなこと……」

 

 

 咄嗟に顔を隠すように後ろを向く遥都。誤魔化すためか少し声のボリュームも上がる。そんな最中、頭にふわりと暖かみのある感触がしみ渡る。

 

 

「カッコイイじゃん。女の子を笑顔にできる男の子、これ以上ないくらいの英雄(ヒーロー)じゃない?」

 

 

 はにかむようなその眩しい笑顔は、遥都の頭を包み込む優しい温もりは、遥都に光を見せた。抑えてきたものが解き放たれたかのように、涙が溢れ出て、袖口を濡らしていく。普段から、落ち着いていて冷静だった遥都。だが、まだ小学生、まだまだ子供、遥都は湊さんの車の中で、声を上げて泣いた。そんな遥都の頭を湊さんは優しく、撫でた。その温もりは後悔で埋め尽くされた、遥都の心を包む。

 

 

「後悔ってね、誰にでもあると思う。その度に、人はもがいて、くるしんで……、それでも、上手くいかずにまた傷ついて……。そんなもんなんだよ……。だからこそ、辛いことばっかで、1人じゃどうしようも出来なくなる。そんな時こそ……、ほら、こうやって……、」

 

 

 湊さんはコンビニの袋の中からポピコを取り出した。そして、パキッと2つに割った。

 

 

「半分こ!」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

「大丈夫。遥都くんだけじゃないから。必ず、あなたが友希那を心配するように、あなたのことを心配してくれる人もいる。必ず、力になってくれるから」

 

 

 遥都は袖で涙を何度も何度も拭いながら必死に頷いた。

 その後、遥都は泣き疲れたのか、湊さんの車の中で眠っていった。そして、遥都の家に着くころ、湊さんに頬をツンツンとされて、目を覚ます。寝顔を見られたことや、泣いてしまったことの気恥しさから、顔を真っ赤にしながら、一目散に家の玄関へと向かったが、母親に見つかり、お礼も言わず何事かとちょっと怒られていた。

 それから、湊さんと遥都の母親がお礼がてらと、コーヒーを飲みつつ喋っている間、遥都は自分の部屋に逃げ帰った。枕に顔をうずめ、自らがやってしまったミスにじたばたの足をばたつかせる。そんなことをしはじめてから数分、下から遥都を呼ぶ声がした。

 

 

「遥都くーん、それじゃ、私、帰るね?」

 

「こらっ!遥都も挨拶しなさい!!」

 

 

 恥ずかしさでに死にそうな遥都からしたら出たくはない。だが、出なかったら、礼儀には厳しい母親に何をされるか分かったものじゃないから、恐る恐る、階段の所から顔を覗かせる。

 

 

「じゃあね、遥都くん」

 

「さ、さようなら……」

 

「そんなに心配しなくても、今日のことは誰にも言わないから!」

 

「ほ、本当……?」

 

「本当だって!あ、じゃあ、遥都くん。言わない代わりに一つお願い聞いてくれる?」

 

「な、なに……?」

 

「あの子の英雄(ヒーロー)になってあげて?私も頑張るから!」

 

「……はいっ!!」

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り6日




「紅葉さんは富士急行ったことあるんですか?」
「うん。割とねー!絶叫系はある程度行けるし」
「でも、まえ、お化け屋s」
〜ただいま音声が流れにくくなっております〜
「あっ、こら!紅葉さん、アタシのセリフ遮らないでくださいよ!」
「作者権限!」
「前にお化け屋敷系は怖i」
〜ただいま(略)おります〜

評価ありがとうこざいます!
輝キングさん、ちまきさん、ぼるてるさん。ありがとうこざいます!
感想、評価待ってます!


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歌姫の支柱

世の中、お盆シーズン、思えば去年のこの頃も投稿していた気がします。さて、前回の友希那ちゃん母、個人的にはこの物語の中で一番好きなキャラかも知れませんwww

では、どーぞ!



 

 

 

 

 翌日、遥都はいつも通り、知夏良と学校へ登校し、授業を受けていた。だが、今までとちょっと違っていたのは、普通の国語や算数の時間で、遥都がボーッとしていたことだ。先生に当てられてもどこか変だ。

 

 

「それでは……、伊月くん、わかる?」

 

「……」

 

「伊月くん?」

 

「え……?あ、す、すいません。」

 

「お、おい……?遥都く〜ん?その役は、自分の役だと思うんだけど?そこのところ……、」

 

 

 あまりの腑抜けさに知夏良がツッコミを入れる始末。後ろの席に座っていたリサも少し心配そうに「大丈夫〜?」と声をかける。だが、決まって、遥都は「え?あぁ……」とだけ返す。そんな遥都の様子を見て、知夏良とリサは目を合わせて首を捻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第24話:歌姫の支柱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わり、騒がしい休み時間。いつもなら、知夏良を煙たがる遥都の声とそれを笑う周りの声が聞こえてくるのだが、今日は聞こえてこなかった。遥都の机には、なにかのメモ書きのようなものが机いっぱいに書かれていて、それらのワードのほとんどに上からバツ印が殴り書きされている。そう出ないものの、黒く塗りつぶされていたりと、どうやら納得が行くものではなかったらしいのがよく分かる。

 

 

「は、遥都く〜ん?」

 

「知夏良か……。なんだよ?」

 

「い、いや、何してるのかな、と。見てもいいか?」

 

「別にいいよ」

 

 

 知夏良が机の上を覗き込む。元々、知夏良と違い、字が綺麗な遥都だ。いくら殴り書きと言っても、読めない程ではないし、字自体が読みにいくいことはなかった。だが、シャーペンで机の濃い茶色の上に、ましてや、上からバツ印が打ってあるものが含まれるとどうしても、読みにくいものがある。

 

 

「ええっと……、寄せ、がき……?って、もう!!読みにくいな、おい!!んで、結局なんなのこれ?」

 

「友希那のことだよ。頼まれたからねー」

 

 

 その瞬間だった、周りの空気が変わったのだ。グッと周りの女子から放たれる嫌悪感。それは、吉田さんが中心となり、その周辺までも巻き込んでいく。一瞬ではあるが、以前に比べてその圧力は遥かに強力なものになってみえる。

 前にも同じようなことを受けているとはいえ、決して慣れることは無い、この感覚。お世辞にも気持ちのいいものとは言えないだろう。

 遥都はそれらの不快感を押し殺すように、一度目を瞑り気を落ち着かせると、知夏良の方を向きなおした。

 

 

「……はぁ。そーいや、知夏良。なぁ、お前は何がいいと思う?」

 

「プレゼントか?」

 

「いや、プレゼントって言うよりも、こう、なんか、友希那の気持ちを立て直させるというか、自信をつけ直させるというか……」

 

「ん〜、なんだろな〜……。自分は遥都に比べて、あの人のことよく知らないからな。でも、多分、"しんせいてきしちゅー"ってのが崩れたんだろ?なら、それの凄さを証明するのが一番だと思う、かな?」

 

「"しんせいてきしちゅー"……?あぁ、精神的支柱のことね……」

 

「それそれ!!」

 

「確かに……。色々考えては見たものの、それが一番か」

 

「そそっ!だから、友希那ちゃんが頑張ってたし、合唱コンクールで1位をとるとか!そーいうことしたらいいんじゃない?」

 

「なるほどね……」

 

 

 遥都は手の平に乗せていた顎をスっと上げながら、そう答えた。知夏良はそれが少し以外だったのか、驚いたような顔を見せたが、腕を組んでウンウンと首を縦に振り妙に満足気な表情を浮かべていた。

 しかし、一方で遥都は何か引っかかりを覚えていた。

 

 

(あれ……?結局、友希那の支えって、なんなの……?歌とか、そーいうのなのは分かるけど……。)

 

 

 遥都は知夏良が言う、友希那の精神的支柱の本質というものな不確定に思えたのだ。だから、遥都はそれが分かりそうな人物が居ないか、周りをぐるりと見た。さらに言うと、友希那に対して、吉田さんほど嫌悪感を抱いていない人でないとならない。しかも、遥都が喋れるとなると必然的に絞られていた。

 

 

「なぁ、リ……。なんだ、誰かと喋ってるのか」

 

 

 低学年からの付き合いだった今井リサ。彼女が目に入った。彼女ならば、友希那のことをより詳しく知っていそうなきがしたのだ。そして、彼女に声をかけようとしたのだが、残念ながら、リサはお取り込み中のようで、遥都は話しかけるのをはばかった。

 そして、1つ息を吐き、机上に大量に書かれた、自分のメモを消し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 

 そんな2人の様子をある人がずっとチラチラと気にしていたのはリサ。

 

 

「……サ!!ねぇ、リサってば!!聞いてる!?」

 

「えっ!?あ、あぁ~、ゴメン、ゴメン!!それで、なんだっけ?」

 

「だーかーらー!!あの雑誌にも乗ってたけど、リピピの服、超よくなかった!?って話!」

 

「あー!!あれね!!アタシはあれよりもう少し暗めの赤の方が好きかな〜!!」

 

「え〜!!?なるほどね〜!やっぱ、リサはオシャレだね〜、ファッションモデルにすらケチをつけるんだから!」

 

「そ、そんなことないよ!!」

 

「ジョーダンよっ!」

 

「もうっ!!」

 

 

 友達に話しかけられ瞬時に表情を作り直し、会話が終わればまた元の少し寂しげな表情に戻る。その後、一緒に会話していた友達同士で会話が始まるとその表情はより顕著に見えた。

 

 

(アタシもやった方が……)

 

 

「ほら!!リサも行こ!!」

 

 

 何かを考えていたのだが、強く引っ張られる右手に釣られ、一瞬でどこかに押し出されてしまった。そして、彼女は引かれるがままに廊下に連れられていった。

 

 だが、その直後……

 

 

「なぁ……、リ……」

 

 

 誰かに呼ばれた気がしたのだ。気になり、フッと振り向き、周りを見渡しては見るものの、誰か分からない。少し首を傾げながらもリサは手を引く友達の方へと向き直った。

 

 

(誰だったんだろ?まぁ、用があるなら話しかけてくるよね?それに、遥都の方も、また今度の機会にでも……)

 

 

 そんなことを思い、気持ちを違う友達へと切り替える。得意の笑顔を作り、「待ってよ」と楽しげに小走りし始めた。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 結局一人でなにも思いつかない遥都。考え始めた日から既に2日が経過しようとしていた。この2日間、机の上のメモは増えるばかり。書いては決して、書いては消しての繰り返しだった。心做しか、消しゴムも真っ黒に、そして小さくなっている気がした。

 

 そんな遥都はベッドに仰向けになり悶々と頭をひねらせていた。なんだかんだ悩んではみたものの、結局、友希那の精神的支柱の本質が掴めなかったのだ。そうして、今もこうして考えているわけなのだが……。

 

 

「あーーー、ホント、わっかんねぇ……。知夏良の言う通りにしてみるのもありかもしれないけど……、なんか違う気がしないでもないんだよな〜……」

 

 

 ムクリと起き上がり、頭を掻きながらそう言う、少し無愛想な顔。どこからが疲れが垣間見える。少し、腕を伸ばし伸びをして、疲れと一緒に大きく息を吐き出した。

 

 

「とりあえず、コンクールは下手な成績取れないよな……。もし、悪かったら吉田さん達、友希那がいなかったらとか言い出しそうだし」

 

 

 そう言い、ランドセルの方を見やった。それから何かを探すかのように部屋の中をぐるりと見渡し、また息をつく。

 

 

「何が1番いいのやら……」

 

 

 いい加減、出ない答えに呆れながらも遥都はベッドを降りる。重い頭をゆったりと動かし、机に向かいそこに座ってはまた、頭を落とす。机に触れる頬に伝わる、冷ややかな感触を少し心地よく感じながら、ボーッと目線の先にある本棚を見ている。

 

 

「あれ……?あんなのあったっけ?」

 

 

 頭を起こし、本棚に椅子ごと近寄ってみる。そこにあったのは、自分で買った覚えのない何かの雑誌。友達が遊びに来た時に置いていったのだろうか?首をかしげながら、ベットから出てそれを手に取る。

 

 なんだこれ?と思いながらも遥都はパラパラと雑誌のページをめくる。どうやら、音楽誌のようで、一、二年前人気だったアイドルのことやそのインタビュー記事が乗っていた。しかし、興味があるわけでもなく、さらに次へとページを進める。

 

 

「あ……」

 

 

 友希那の父親のバンドのことが書かれていた。先程のアイドルのものと比べたら小さな小さな記事。だが、赤いペンでぐるりと囲ってあり、大きく目立っていた。その右上には『ユキナのお父さん!』という小学生らしい少し乱れた文字と可愛らしいウサギのイラストが描かれている。

 

 

「思い出した。リサと友希那が家に来て自慢してたんだ……」

 

 

 遥都はここで初めて、友希那の父親がバンドをやってことを知り、リサや友希那に流されたこともあってドラムを少し触っていたのはよく覚えてる。その事もあり今も部屋の片隅にはたまに触るドラムのスティック。そして、スネアが置いてある。友希那のお父さんのバンドが4ピースバンドだったこともあり、友希那がボーカル、とギター、リサがベース、遥都がドラムと決めて遊び程度にやっていた。

 

 そんな思い出ある記事を遥都は無意識に読み始めた。そこにあったのは、友希那の父親のバンドの信念を表したような言葉だった。

 

 

『誇りを守ることが一番大切だと思います』

 

 

 はっとする遥都。それと同時に何をすべきか頭の中でハッキリとさせる。そして、小さな声で気合を入れ直す。

 

 

「友希那はお父さんの音楽に誇りを持ってた。けど、今回それが崩れたから、自分の誇りも崩れたんだろう。ってことは逆に言えば、自分の音楽が間違ってなかったら、お父さんの音楽も間違ってないって思えるんじゃ……」

 

 

 暗闇の中、答えの糸を手繰り寄せるように一個一個確かめながら、遥都は思考を巡らせる。そして、その中で道しるべを見つけては、自分のものへと変えていく。

 

 

「そういえば、アイツ、なんか言われたこととかメモしてたよな……?」

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 翌日の6限目。今日のこの時間は合唱練習の時間で、いつも通り、最初は男女で別れて、練習を行う。吉田さんに統率された女子はゾロゾロと音楽室へ向かう準備をする。俺達は、教室で集まり、練習の隊形へと移る。

 

 

「さてと、それじゃ、やるか」

 

 

 遥都のそういう顔はいつもと一味違っていた。声のトーンはいつもと変わらず、落ち着いた声。だが、どこか、覚悟が決まっている、そんな顔をしていた。

 その様子を見た、遥都がコソッと茶化すように声をかける。

 

 

「なになに??気合い入ってんじゃん?」

 

「うるせぇ。別にいいだろ?」

 

 

 実際のところ、少し気合が入っているのも事実だった。昨日の寝る直前に決めたことをすぐにでもと実践するのは当たり前。有言実行の大切さは、昔から学んできているつもりだった。

 そしていよいよ練習開始を迎える。遥都は女子が教室から出る前にスっと教壇に登った。

 

 

「えぇ〜と、まず、最初にちょっといいか?」

 

 

 ざわついていた教室が一斉に静まり返り、こちらに皆の視線が集まる。手には小さなメモ帳が握られており、緊張からかそれを握る手に力が入る。遥都は大きく息を吸い込み、吐き出さ。その後、ぐるりと教室を見渡し、心を落ち着かせた。左手前にはコンポを取りに来る吉田さん。左奥には、相変わらず多くの友達に囲まれたリサ。右の中央にはほかの男子と喋っていた知夏良。その奥にはこの間、机に頭をゴロゴロ押し付けていた男子。大丈夫、ちゃんと見えている。遥都は自分にしか聞こえないほどの小さな声で「よし」と呟く。

 

 

「今回のコンクールのことなんだけど……」

 

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り5日

 

 

 

 




「うわ、昔のアタシってあんな格好してたの!?信じらんない!」
「ホント、昔の格好って当時、あれがかっこいいと思ってたから不思議だよね」
「わかる!私もあんなピンクピンクしてるの……」
「ね。男子でよくあるのは謎の長袖の上に半袖着てる風Tシャツね」

黒澤桜月さん(☆9)ありがとうこざいます!

他の方でまだお済みでない方いたらぜひ!感想も必ず返しますのでよかったら!


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英雄の決意

物語に似合わずハイテンションな前書きだとはいつも思います。だけど、変える気はありません。そして、これからは物語がシリアスになるのでここはハイテンションに行きます。はい、どーぞ!

この前、日間ランキングで16位になってました。凄いですね、嬉しいです!そのおかげでお気に入りも増えてふへへへへですwww
もし、まだ評価やお気に入り登録してない方がいましたらしてくれたら、また日間ランキングにも乗ることができますから、お願いします!


 

 

「合唱コンクールのことなんだけど……」

 

 

 遥都の声でざわついていた教室が静まり返る。集められる視線に少しの晒し者のような恐怖に冷や汗が背中を伝う。メモ帳を握る手に力が入り、少し震えているその拳を遥都は身体の後ろで組むように隠す。そして、少しだけ目を閉じ、胸を小さく叩き、自分に言い聞かせる。

 

 

(大丈夫だ。いけるから。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第25話:英雄の決意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば初めてだったかもしれない。昔からあまり気力を出さず、自分から人前で「こうしたい」「こんな風にしたい」といった要求はしてこなかった。そんな風に街頭で演説する国会議員を見て彼は昔から傍観し、そして同時に疑問に思っていた。同級生が全校生徒の前に立ち行う生徒会立候補者のの立会演説会も同様だ。

 

 

『どうしてあんなにやりたいことを言えるの?迷惑とか考えていないのか?』

 

 

 小学生とは思えない冷静すぎる頭がそうさせなかったのだろう。幼い頃から共働きの家庭で育った彼は、塾やその他の習い事も通わせて貰っていたから、頭は切れるし、回転も早い。だが、親が仕事から帰ってくるのは早くて8時や9時、遅い時は日をまたぐ時さえ多々あった。そんな時間に帰ってくる親は常に疲れから小学生の相手なんてする暇はない。彼は自分のためにも働いてくれていることを理解していなし、親を困らせたくなかった。だから、空気を読み、親の邪魔をしないように、苛立ちを煽らないように、気づけばそのように行動するようになっていた。

 

 周りの空気を読み、波風を立てないようにそれにあった行動をする力。彼が持つそれは既に年齢離れしていた。それ故に、小学生特有の多々ある欲求を口にすることを無意識に抑え込んできたのだ。仕方がないといえば仕方がない。だが、それはあまりに大きな影響を残していた。

 

 そんな彼が今、初めて、何十人といる人を前に己の願望を口に出そうとしていた。

 

 

「最優秀賞、取ろう……。友希那がケガをしたからといって、成績を残せないのは、やっぱりダサいよ。だから、その、取るよ……!」

 

 

 時間にして僅か6秒とコンマ数秒。静かに、されど力強く、彼が放った言葉が教室に広がる。皆は少しポカンとした顔を浮かべる。そして、その顔は少しずつ変わっていく。

 

 

「遥都の言う通りだなっ!!湊さんがいねぇからって、最優秀賞取れませんでしたなんてダサすぎでしょ?俺ら!」

 

 

 知夏良がそう皆に聞こえるように声を上げる。それに呼応するかのように周りの男子が、そのまた周りにいる男子が、どんどんと賛成の声を上げる。女子にもリサが中心となってくれたからかその流れは伝わり、教室全体がいい雰囲気に包まれる。

 

 ホッと胸を撫で下ろす遥都。それを見た、知夏良はすぐさま横に来る。

 

 

「よかったな。上手くいって」

 

「ありがとう。でも、頑張らなきゃ行けないのはこれからだから。これで満足していられないよ」

 

「なんだよ〜!ちっとぐらい、この空気を楽しめよ!……ってか、遥都がさっき珍しく、あんな気合い入ってると思ったのはこういうことか!」

 

「ま、まぁ、そりゃな……」

 

「何気、初めてだよな?!遥都があんなふうに前に立つこと!」

 

「うるせっ!」

 

 

 遥都は照れを隠すように知夏良のこめかみをグリグリと押す。笑いながらイタイイタイという知夏良。遠くから見ていたリサはそれを少し羨ましそうに眺める。

 

 

(さすがだなっ、遥都は……)

 

 

 そして、その後はいつもの様に男女で別れて練習を行った。後からきた先生に「いつもより、声が出てて良かったね!」と褒められ、少し照れる遥都とそれを続く男子達。吉田さんの影響が気がかりだった女子の方も良かったよと先生が教えてくれて、遥都は胸を撫で下ろした。

 

 その後、帰りのHR終了のチャイムがなり、その日の練習は終わった。帰り道、遥都は、ドッと疲れが出たのか、いつもよりゆったりと道を歩いた。隣を歩く知夏良も、今日は遥都に合わせて歩いていた。だが、2人の顔は歩調とは正反対に何かをやり遂げた顔をしていた。

 

 

「そーいやさ、お前が手に持ってたメモ帳なんだったの?」

 

「ん?あぁ、あれはな、友希那から預かったんだよ。女子のことがメインにはなってたけど、言われたこととかをメモっといたんだと。流石だよな〜」

 

「マジか!?すっげーな、湊さん!」

 

「俺もそう思ったよ。んでよ、その最初のページにさ、ほれ」

 

 

 ランドセルをゴソゴソと探り、見つけたメモ帳を知夏良に手渡す遥都。知夏良が最初のページを開くと、そこには友希那の字でこう書いてあった。

 

 

『絶対最優秀賞』

 

 

「これ見て、やる気にならないわけないだろ?」

 

「確かに!」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 だが、数日後、明らかに異変が起きていた。6限目の女子のパート練習が終わったあと、明らかに空気に差があるのだ。吉田さんらを中心に、笑いながら帰ってくる集団がいる一方で、なにやら、どんよりした顔で帰ってくる子がいた。何か言いたげとも言えるその表情をする集団の中にはリサもいた。

 

 そして、最後の全体練習で事件は起きた。この日は音楽専門の先生が見に来てくれる日で、本番に向けたより具体的なアドバイスをしてくれる予定だったのだが、

 

 

「……パートリーダーさんいますか?」

 

 

 不意に聞いてくる音楽の先生に少し戸惑いを覚えながらも、遥都と吉田さんがいそいそと前に歩み出た。

 

 

「は、はい。俺たちですけど……」

 

「一緒に練習してる時間ってどのくらい?」

 

「え……?」

 

 

 突飛な質問に対し、吉田さんと目を見合わせた。手でお互いに指を出し合い、何度くらいか確認する。その指の本数を見て、音楽の先生は少しため息をついた。

 

 

「なるほどね……。そりゃ、そうなるわね……。それじゃあ、みんなに言うから、みんな一度その場に座ってくれる?」

 

 

 先生がそう言うと、遥都らを含めみんながその場に体育座りをした。音楽の先生の指示に、ざわつく教室を担任の先生が注意をし、聞く体勢に入らせようとする。それもそのはずだ。この先生は普段からいつも笑っているような穏やかな先生だったはずだ。だが、今は少し険しい顔に、しかも声がいつもより低く威圧感があるのだから。

 

 

「みんな座ったわね?まずは男子。まぁ、細かいところは色々あるけど、以前授業で言っていた、息を揃えるべきところは揃えれていたし、抑揚もあり良かったと思う。直すところとしてはやはりクレッシェンドがまだ甘いところがあるところと音を切るタイミングがまだ微妙にずれていることかな」

 

 

 男子は皆で揃えて返事をする。安堵の表情を浮かべながらもまだ直すべきところがある所をそれぞれが自覚し、気を引き締める。楽譜にメモを取るものや、実際に小さな声で歌ってみる物など様々だが、良いものにしようという気持ちはよく伝わってきていた。遥都もそれを見て少しホッとし、パートリーダーとして、記録を残しておく。

 

 

「次に女子だけど……、ここまでバラバラな合唱、私、初めてです」

 

 

 そう言い放った。女子は唖然とし、男子までもが先生の方を見た。一拍置いた先生は続ける。

 

 

「半分くらいはやる気がない。もう半分も声は小さいし、全然、表現出来てない。ここまで見てきた女子のパートの中で一番ひどいと思うわ。今までいかに真剣にやってこなかったのかが1発で分かる。更に言うと、男子と意識の差がありすぎてる。だからパートリーダーに聞いたのよ。どれだけ一緒に練習してる、って」

 

 

 あまりの冷たい発言に流石の吉田さんも表情が曇る。吉田さんだけじゃない。リサやそれ以外の人も俯いて、ショックを隠せない。だが、音楽の先生は担任の先生と遥都の方を見て、さらに続けた。

 

 

「先生。それから、パートリーダーさん。これからはずっと一緒に練習するようにお願いします。加えて、仕事を押し付けるようで申し訳ないんだけど、遥都くん、あなたが全体を仕切りなさい。今まで通りでいいわ。お願いしてもいいかしら?」

 

「え、あっ、はい……」

 

「それじゃあ、よろしくね。じゃあ、私は次のクラスに行ってくるわね」

 

 

 突然のことに教室に沈黙が流れた。気まずい空気が教室を包み、誰もが言葉を発するのを躊躇う。遥都がチラリと吉田さんの方を見ると、皆の前で赤っ恥をかかされたせいか怒りに震えている。その奥に見えた女子、吉田さんとは違うグループにいてどんよりしながら帰ってきていた人は、少しホッとしたような表情を浮かべながらも吉田さんの取り巻きを気にしていて、すぐに恐れを抱く表情へと変わってしまった。

 

 曇り空が広がり、15時代とは思えない校庭の明るさしていた。同じような空気がチグハグクラス6限目終了のチャイムがなった。それを聞き、先生は無理に笑顔を作りながら、皆に切り出す。

 

 

「さ、さぁ、チャイムもなったし一度、帰りの会を始めましょうか!!」

 

 

 皆もそれを聞き、ハッとして席に着いた。だが、その席に座る間も笑い声などは一切起こらず、空気が嫌な音を立てた。ミシミシと上からの圧力に今にも平静を保っていた柱が押しつぶされる、そんなような音だ。

 

 その後、流石の先生も感じ取っているのがいつもより多い作り笑顔を振りまきながら、帰りの会を終わらせていく。遥都もそれに違和感を感じながらも、外を眺めながら、気づかない振りをしている。曇り空が広がり、今にも雨が降り出してしまいそうな天気の中、先生の話を聞き流し、気づくと帰りの会が日直の挨拶を持って締められていた。帰りの会が終わり、さっさと帰りの用意を始める遥都。そこに知夏良が話しかけてくる。

 

 

「あのさ、遥都。ちょっとこの子達が話したいことあるってよ」

 

 

 知夏良は親指でそちらを指しながら、そう言った。遥都が覗き込むようにして後ろを見ると、後ろには、数人の女子が申し訳なさそうにこちらを向いて頭を下げていた。思い当たる節がない遥都は疑問を抱きながらも質問をした。

 

 

「あの、どうかしました?」

 

「女子のパート練のこと、話しておこうかと思って……」

 

「あ……。なるほど。あの、吉田さんのこともいくつか聞きたいんだけどいいですか?」

 

「は、はい。ありがとうこざいます!」

 

 

 周りの目線を気にしながら、小さな声でそういう彼女ら。そして、色々なことを教えてくれた。

 

 内容としてはこうだ。最初のうちはまだマシだったが、吉田さんがパートリーダーとなってから真面目に練習する時間が減っていったということ。始めるまでベラベラと仲良い友達と喋り、練習も早めに終わる。その数少なくなった練習すらヘラヘラとして真面目に行わない。最後の全体を見てパートリーダーが何か言うところも、いつも同じように「すごく良かったよ!?」といかにも作り上げたように言っていること。そんなような内容だった。

 

 

「そういうことか……。それを音楽の先生にガッツリ見抜かれ、見せ物のような注意をされたからあんな吉田さん荒れてたのか」

 

「多分、そうだとと思う」

 

「ん。わかった。教えてくれてありがとね。吉田さんとももう一回話してみるよ」

 

 

 そう言って遥都はその場を切り、吉田さんに目を向ける。この時点で遥都の顔は少し険しいものになっていた。あの人はまだ帰っていない。取り巻き数人と音楽の先生の愚痴を聞こえるような声で話している。

 

 

「あの、吉田さん」

 

「あぁ!?って、ああ、遥都くんか!何?」

 

「ちょっと、話があるんだけど、いい?」

 

「え、いいけど……。ちょ、みんなは先帰っててよ!私は遥都くんと喋ってくるから!!ほら、早く!!」

 

 

 少し浮かれながら言葉を発する吉田さんを後ろに、遥都はスっと心を落ち着かせる。昔誰かが言っていた。その人に対し、声を荒らげ対抗してしまえばそれはその人と同レベルに落ちると。落ち着いた頭でもう一度考える。何を言うか、どう言うのか、どんな口調で、表情で。あらゆることを考えた上で遥都は思う。今から、吉田さんの怒りを逆撫でするようなことをするのだ。それでも言わなければならない。

 

 

『友希那の誇りを守るために』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り3日

 

 

 




「やばい、シリアスなのに、こんなテンションでいいのか?」
「ん?あれ?紅葉さん!?そんなインテリぶっちゃってどうしたんですか!?頭でもうちました!?」
「久しぶりにあったのにしつれいだな、麻弥ちゃん……」
「女子力以来ですもんね!いや、ジブンと同じ笑い声が前書きで聞こえてきたので、もしかしてと思ってですね!」
「なるほど!あ、我ながらあの話作者友達の中で人気らしかったのよ。嬉しいよねー」
「そうなんですか!?」

はい、久しぶり麻弥ちゃんの方を読み返したくなり書きたくなりました。自分で作っといてなんですが、オススメですwww

評価、お気に入り、感想、よろしくお願いします!
ぽぽろさん(☆10)、みゃーむら(☆9)ありがとうこざいます


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★特別話2★紅葉と今井と伊月と

リサさん、誕生日おめでとうございます!
前回同様、本編とは全く関係ないので苦手な方は読み飛ばしてもらっても構いませんよ!
本編シリアスばっかでふざけれないのでこういう所でふざけるんですよね。ふざけ満載で今回はお届けします

とりあえず、どうぞ!あ、今回はふざけました。


特別話

 

紅葉「あれ……?リサさん、同じ学年なのに誕生日って2回くるの?」

 

今井「そこはサザエさん方式なの!紅葉さんも分かるでしょ?てか、ここドコ!?」

 

紅葉「えっとね、バーチャル世界かな……?少なくとも、いつもの世界ではないな……」

 

今井「ふーん……、そう言えばさ、アタシ1人?」

 

紅葉「いや、もう1人呼んであるよ。ねぇ、遥都くん?」

 

伊月「ハァ、まぁ、いますけど……。てか、夏休みももう終わるってのになんで呼んだんですか。呼ばれるようなこと思い当たらないんですけど」

 

紅葉「それと、ほらこれ。テレレッテレー。ノートパソコン!」

 

伊月「紅葉さん。こんなの、何に使うんです?」

 

紅葉「いない人にソライプで繋ぐのよ。例えば……、ほら」

 

佐山『やっほーーー!遥都ーーー!!愛してるよーー!!』

 

伊月「すいません、要らないです」

 

今井「まぁまぁ遥都も怒らない怒らない。それで、こんな真っ白な空間で何するんです?」

 

紅葉「あ、そうだ。今からね、質問するから答えてね!」

 

今井・伊月「「は??」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──特別話2nd:作者と今井と伊月と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今井「えっと……、どういうこと……?」

 

紅葉「いやね、後書きのこういうのが好きって言ってくれてる人がいて、せっかくなら1話分使ってやっちゃおうという……」

 

伊月「本当ですか、それ?」

 

紅葉「好きって言ってくれてる人がいるのはホントだよ!?作った理由としては、50:50かな……?」

 

伊月「残りの50は?」

 

紅葉「ぶっちゃけ、この日のこと忘れてたし、ネタが無い。あとふざけたかった」

 

今井「サイテーーーー!!」

 

紅葉「でも、遥都くんもさっき『呼ばれるようなこと思い当たらない』って……」

 

伊月「いや、それは、ちがくって……!」

 

今井「二人とも、残念な頭してるね……」

 

紅葉「まぁ、いいや。とりあえず、時間ももったいないから、進みます」

 

 

 

 

 

***1問目***

 

 

 

 

 

紅葉「それでは、1問目。『リサさんと友希那さんにそんなに好かれるにはどうしたらいいですか?』お、これはPさんからです。だってよ、遥都くん」

 

伊月「だってよ、じゃないですよ。なんで俺なんですか……?」

 

紅葉「いや、だって、ね」

 

今井「な、なんでこっち見るの?///」

 

伊月「リサや友希那とかそういうのを置いといて、単純に女子にはやっぱり優しくするのがいいんじゃないですか?」

 

紅葉「ほぉ〜、そうなの?リサさん」

 

今井「ええっと……、アタシは人のために一生懸命なのがカッコイイなって思ってて……///」

 

紅葉「だそうですよ。よし、友希那さんにも聞いとくか。ソライプ繋いで……、もしも〜し、友希那さん?」

 

湊友『どうかしたの?』

 

紅葉「どんな男の人が好き?」

 

湊友『脈絡が全くないわね。興味無いわ』

 

紅葉「そこをなんとか……」

 

湊友『はぁ……。そうね、強いて言うなら、落ち着いた人ね。五月蝿い人は疲れるし、音楽に集中出来ないから無理よ』

 

紅葉「だそうですよ。Pさん。男子の皆さんはそこを気をつければ、他の子からもモテモテかも!はい次」

 

 

 

 

 

 

***2問目***

 

 

 

 

 

紅葉「続きましては、『遥都くん達で野球のオーダー組んで下さい』わぉ、自分にか。これはTさんかな?」

 

今井「そーじゃん!紅葉さん、野球やってたんでしょ?どこやってたの?ほら、アタシ達も野球球団とコラボすることもあるし?」

 

紅葉「色々してたけど、基本ファースト以外の内野かな」

 

伊月「凄いですね……。んで、俺らはどこだと思います?」

 

紅葉「個人的な意見だけど、リサさんはやっぱり全体を見れて、気を配れる、そういう感じだからキャッチャーじゃない?」

 

今井「へぇー!!以外!あの、色々付けるピッチャーの投げたボールとる人でしょ?」

 

紅葉「そうそう。それで、遥都くんは周りから一歩下がって状況判断をする。基本は保身的な感じから外野のどこかじゃないかな?」

 

伊月「…………そうですか」

 

今井「あ、ちょっと照れた!!」

 

伊月「うるせぇよ」

 

紅葉「他には友希那さんは……、まぁ、安定のライトじゃない……?あの人、基本出来ないでしょ……」

 

今井「ま、まぁ、否定はしないかな……」

 

紅葉「それで、氷川姉がショート、ということで、氷川妹はセカンドで姉妹で二遊間とか良くない?」

 

今井「ピッチャーの後ろ、すごくうるさそうだね……」

 

紅葉「後は知夏良くんか。でも、あんな子が後ろからギャーギャー言ってたら、ピンチの時とか盛り上がりそう。というわけで、センターかな。お、てことは遥都くんがレフトか」

 

伊月「悔しいけど、わからないでもない気がする……」

 

紅葉「じゃあ、最後に、宇田川さんと白金さんか。まぁ、猪突猛進な感じの宇田川さんは基本突っ込めのサードじゃない?紗夜さんが後ろでバックアップしてくれそうだし。それで白金さんがファーストか。これで野手は8人揃ったね」

 

今井「あこは確かにミスして紗夜さんに叱られそうだね……」

 

伊月「でも、こんなバックなマウンド上がりたくないわ」

 

今井「確かに……!!」

 

 

 

 

 

***3問目***

 

 

 

 

 

 

 

紅葉「じゃ、次。『お二人は○○事件簿みたいな黒歴史ありますか?』これもPさん関連だな……。後は教えてくれたOさんかな?」

 

今井「事件簿か〜。んーーー、アタシは、ないことは無いんだけど……、ちょっと……///」

 

紅葉「なら、耳打ちで……」

 

今井「えっとね、ほら小学生の時にさ、プールがすぐあると、水着来ちゃうこととかない……??それで、来てたんだけど、その、アレ、忘れちゃって……//で、でも、まだ低学年だったから下だけですんだんだけど……。で、それから、保健室に行くのも恥ずかしかったんで、そのまま過ごしてたんですけど……、って、アレ?紅葉さん???顔をそっぽ向けてどうしました??ねぇってば!」

 

紅葉「…………ちょっと、タンマ。色々起こ(怒)る人がいるから辞めとこう!!!は、遥都くんは?」

 

伊月「俺はもう、ね?大人の事情的なやつであんまり言えないんだけど……、それ以外だと……、まぁ、小五の時の宿泊キャンプでふざけて飛び出した知夏良を止めるために全裸で風呂から飛び出したら、若い女の先生に全裸のまま説教されたことかな……」

 

紅葉「……何してんの??(あれ……?これ、自分の経験じゃ、、、ヒトのこと言えないからな)」

 

佐山『おい!!俺のせいにするな!!あれは、お前がトイレは外にしかないよ!って言ったからだろ!?』

 

伊月「嘘に決まってただろ……。てか、入る前にも風呂場のトイレに行ってたやつが何言ってんだ??というわけでうるさいから切る。」

 

佐山『あ、こら!おい………………』

 

伊月「あ〜、鬱陶しい……。まぁ、1番大きな黒歴史は今後分かるでしょ……。多分、リサにも。ですよね?紅葉さん?」

 

紅葉「ま、まぁ、その予定。でも、もう、十分恥ずかしいセリフ言ってる気がするけどね?」

 

今井「アハハ、確かに!」

 

 

 

 

 

 

 

***4問目***

 

 

 

 

 

 

 

紅葉「さてさてさ〜て、お次!『2人はお酒を飲んだらどうなりますか?』だと。これはSさんかな?おー、これはいいね、気になる!」

 

今井「ん〜、飲んだことないからな〜!!でも、アタシはなんか楽しそうだし好きだよ?遥都と飲んで遥都がベロンベロンに酔う姿とか見てみたいなー!!」

 

伊月「んな風には……、ならないとは言いきれないな……。でも、リサは酔ったらめっちゃ絡んできそう……」

 

今井「なっ……///そ、そんなことないから!!」

 

伊月「いや絶対そうだろ?『ゆ〜き〜な〜!!もー、イケズ〜!!ねぇねぇ〜、ねぇってば〜!』……みたいな?あとは笑い上戸だろ?まじで想像するだけで面倒くさそうだな……」

 

今井「うわっ!最低!!そんなこと言うなら遥都はめっちゃ愚痴が止まらなさそうじゃん!!女子からモテなさそう!!」

 

伊月「そ、そんなことねぇよ!!」

 

紅葉「…………うん、幸せそうだね。でも、遥都くん優しいから、フラフラしてるリサちゃんを背負うか肩貸すかして家まで送り届けるんでしょ?」

 

伊月「そんなことしませんよ!!」

 

紅葉「でも、ほら?リサちゃんは満更でもない感じだよ?」

 

今井「〜〜っ///」

 

伊月「ぜってぇ、しねぇからなーー!!」

 

 

 

 

 

***5問目***

 

 

 

 

 

紅葉「よし、次。『最近、女の子を男の子と勘違いしちゃってたことがありました。もし、お二人が違う性別ならやってみたいこととかありますか?』これは自分がAさんに思ってたことに近いね……。どうお二人さん」

 

今井「アタシが男子か〜。ん〜、やっぱり、夜遅くまで友達と遊ぶことかなー!女の子だと親が心配してうるさくてさ……。あとは食べても太らなそうだから、スイーツのビュッフェとかでおなかいっぱい食べたいかなー!遥都は?」

 

伊月「俺はなんだろ……?さっきリサも言ってたけど男子な分その辺はルーズだからな……。でも、逆に塾とかの送り迎え、友達の家に遊びに行くときとかは全然やってもらえなかったしな〜。でも、大して不満じゃなかったし……。あ!いいのあった。力仕事とかなんかそういうのを全部男子に任せたい!それで、自分がサボる。うん、これだ」

 

紅葉「性根が腐ってるね……」

 

今井「普段からそういうことをやらない男子が何言ってるの〜??」

 

伊月「そういうのはイケメンがやることであって、俺みたいな生徒Aは黙って与えられた仕事やっときゃいいの」

 

紅葉「それ鏡見ながら言ってみろ……」

 

伊月「俺なんかよりよっぽど、紅葉さんの方がイケてますよ」

 

紅葉「そう言う奴は自分の方が上って内心思ってるんだよ!」

 

今井「なら、紅葉さん、前髪上げてみなよ。あとは、この辺を刈り上げしちゃって……、それで、こんな感じにしちゃえば……」

 

伊月「あれ……?紅葉さんがイケメンじゃん……」

 

紅葉「……いい加減、出番減らすぞ主人公」

 

今井「でしょ?意外と髪型と服装だけで雰囲気なんてホントに変わるからね〜!あと、アタシたちみたいな女の子だと化粧っていうマジックアイテムがあるから!」

 

紅葉「まじであれは怖い……。気をつけなよ?遥都くん……」

 

伊月「ホントですよね……。もう、リサのノーメイクの顔なんて思い出せないですもん」

 

今井「何か言った?」

 

紅葉・伊月「「いえ、何も!」」

 

 

 

 

 

 

***6問目***

 

 

 

 

 

紅葉「これで最後!ん?一人一人にして聞いてって書いてある……。んー、じゃあ、とりあえず、遥都くん、そこにある耳栓してアイマスクしてて」

 

伊月「そんなのありませんよ……?」

 

紅葉「指鳴らしたら出てくる設定。ここはバーチャルなのだから」

 

伊月「なんでもありですか……?って、ホントに出てきたし」

 

紅葉「よし、これで読めるね。じゃあ、質問『遥都くんになにか一言言ってあげてください。PS:告白してもいいんだよ?』だと」

 

今井「な、な、なんなんですかー!?え、ちょっと、どういうことですか?」

 

紅葉「さ、さぁ……?とりあえず、日頃の感謝でも……」

 

今井「アタシ、めっちゃはずかしいだけじゃないですか!?」

 

紅葉「特別編だから、おっけ」

 

今井「紅葉さん、鬼畜!!で、でも、今なら遥都聞こえないし……」

 

紅葉「そうそう言っちゃえ」

 

今井「えっと……、なら、いっつも、だる絡みしたり、奢らせたりしてゴメンね……?でも、面倒くさそうでも相手してくれる遥都、めっちゃ嬉しいよ!!これからもよろしく!!……………………これ、ヤバイですね///」

 

紅葉「顔真っ赤だもんね。」

 

今井「そのニヤつき顔、辞めてください!」

 

紅葉「ハイハイ。はいじゃあ、次は遥都くんへのお手紙読むから、リサさんも指鳴らしてアイマスクと耳栓しといて」

 

今井「分かりましたよぉ〜……」

 

伊月「終わりました〜」

 

紅葉「はい。おっけーだよ。えっとね、遥都くんには『一言言えっていってもつまんないことしかしないと思うから……、壁ドンのやつ、もう1回やってあげてください!あ、アイマスクとかはそのままでも許します』だと……」

 

伊月「誰ですか?そんなの書いたの……」

 

紅葉「さぁ〜ね、後で言うよ」

 

伊月「やりたくないんですけど……。でも、やんないとこのコーナー終わりませんよね?」

 

紅葉「お、理解が早くて助かるよ」

 

伊月「アイマスクしてるし、周囲の目が前と比べると1人しかいませんからね。その1人は前のことを知っていますし……、はいじゃあ、やりまーす『リサ、愛してる』……これでいいですか?」

 

紅葉「まじでスっとやってくれるんだね……」

 

伊月「やんないと終わらないじゃないですか……。でも、アイマスクしてても恥ずかしいもんなんですね……」

 

紅葉「ま、まぁ、そうなんじゃない?あ、リサさん、終わりましたよ?」

 

今井「えっ!?もう!?」

 

紅葉「うん。じゃあ、今井さんが聞けるようになったとこで、伊月くんの質問に答えるか」

 

今井「何聞いたの?」

 

伊月「質問者だよ。さっきのふざけた質問の」

 

紅葉「その人はね、知夏……、Cさんです!やべっ、言っちゃった……」

 

伊月「あの野郎殺す!!」

 

紅葉「PS:動画もお願いします」

 

今井「ま、ま、まさか、あそこに置いてあるビデオカメラって……!!」

 

紅葉「知夏良くんが1000円くれるって言うから……」

 

今井「お金発生してるの!?」

 

佐山『あ、紅葉さん?お疲れっす!よく取れてましたよー!!』

 

紅葉「じゃあ、約束のお金だけ振込よろしく!」

 

伊月「おい、コラ、テメェ……。なにしてんだよ」

 

佐山『や、やべ、鬼が……』

 

伊月「今どこいるかいえ」

 

佐山『そ、それは……、ひ・み・つ☆』

 

伊月「紅葉さん、パソコン壊されたくなかったら、それ貸してください。貸してくれますよね?」

 

紅葉「圧が……。も、もちろんですとも」

 

伊月「ありがとうございます。これでこうして……、なるほど、あいつのパソコンからだな、このアドレスだと。」

 

佐山『で、では〜』

 

伊月「おい、知夏良。今更逃げられると思うなよ。ぶっ○すからな?」

 

紅葉「遥都くん、言葉が怖い……」

 

今井「ねぇ〜、紅葉さんも他人事じゃないからね〜?」

 

伊月「そうですよ。まずは紅葉さんから……」

 

紅葉「手鳴らすのやめて!それに目が笑ってないから!あ、こら、ギャーーーーーーー………………」

 

 

 

 

 

 

『大変お見苦しいため、通信を1次中断しております』

 

 

 

 

 

 

 

伊月「……あ、よし、中継繋がった」

 

今井「やった!それじゃあ、せーの」

 

今井・伊月「「これからも俺とアタシの居場所をよろしくお願いします!!」」

 

紅葉「し……、ま、す……」

 

 

 

 




「おいこら、知夏良。来てやったぞ」
「うわっ!?ホントにきた!」
「アタシ達が来ないとでもおもったの?」
「というわけで、お前をボコリまーす。あ、でも、心配しないでいいぞ。お前にとってはご褒美だろ?女の子に殴られるの」
「自分、Mじゃねぇから!って、女の子……??」
「はいはーい、アタシ女の子」
「…………助けてーーーー!!」

今回登場してもらったアルファベットの文字の方は同じ作家さんであったり、そんな感じの方です!ちなみに今回の企画は伊織庵さんの感想から唐突に書き始めたものです。みなさんも何か要望とかあったら感想でお書きいただければ叶うかも知れませんので良かったら!

お気に入りや評価してくれる方ありがとうございます。まだまだお待ちしてますよ!


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英雄の氷

さて、高校生までの学生はそろそろ夏休みも終わりが近づいてる、というかもう終わってるんですかね?大学生は半分が終わりましたね。
皆さん、課題は終わらせましたか?くれぐれも知夏良くんみたいにならないように!!
(ちなみにある有名な作家さんは知夏良くんが大好きみたいですwww!ジブンはそんなことを言って褒めてくれるその作家さんが大好きですよ)

※活動報告の方に少し思うところがあったので書かせていただきました。かなり真面目な内容ですので、読んでもいいよって方は紅葉のマイページからよろしくお願いします。(作者名をクリックして頂ければ紅葉のマイページへと行けます)


 

 

 

 

「な、なに?遥都くん」

 

「あの、遠回しな探りとかナシで行くけど、真面目に練習やってた?」

 

 

 徐々に人数が減り、数えられるくらいとなった所で遥都はそう行った。人気が少ない教室でそう言われた吉田さんは何を言われてるのか一瞬理解できないそう言われた吉田さんの表情はさらに焦りの色が伺える。しかし、容赦なく遥都は責め立てた。

 

 

「本当にちゃんとみんなのためになることしてた?言ったよね?最優秀賞とるって」

 

 

 吉田さんは黙り込んでしまい、無言の時間が流れる。この場合、沈黙は肯定と取れる。それは目線を合わせないことからも読み取れるし、遥都はその他のところからも簡単に見抜けていた。遥都が元々言おうとしていたこととその返答が一致しすぎていたこともあり、遥都は呆れるような顔を見せる。それから、数十秒後、ようやく吉田さんによって沈黙が破られた。

 

 

「…………あるの?」

 

「え?なんて言った?」

 

「意味があるの?って言ってるの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第26話:英雄の氷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるわけないじゃない!?っていうか考えてもみなさいよ?今まで、音楽の授業すらまともに聞いてないのよ?そもそも私、湊さんと違って音楽も好きじゃないし!だいたい、ただの学校のコンクールよ?楽しければそれでいいじゃない!?適当にやって、みんなで笑顔でやれたら!」

 

 

 嘲笑するような口調で周りを威圧しながら言う吉田さんに、教室に残っていた人の視線が落ちる。それを感じ、この教室から離れようとするものや、足を止めてしまう人、反応は様々だったが、教室の雰囲気がガラリと変わり、何かの線が切れたような感覚があった。その中でも格段に変わったのは、遥都だった。だが、変化の方向は真逆。それは周りと"同調"した萎縮ではなく反旗。明らかに目付きが急変した。瞳孔は開き、鋭く、刃のような目に。

 

 

「……おい、いい加減にしろよ?」

 

「なに?なんか文句あんの?」

 

「文句しかねぇよ。お前、チヤホヤされてるからなんでも許されるとでも思ってんのか?音楽のこと知らなくてもリーダーがきちんとやらないと、下がどうしていいのか分からなくなることがどうしてわかんねぇの?というか、そもそも出来ないからふざけるってダサすぎ。ただの見栄っ張りじゃん。それに、最後を笑顔でって、お前、そんなの出来るわけねぇだろ?現にお前が確実に1人を笑顔にさせてないじゃねーか。それなのに、よくもまぁ、そんなご高説が口にできたもんだ。一回、頭の病院行った方がいいんじゃねぇの?このアバズレクソ女」

 

 

 あまりの口の悪さに教室が凍りつく。放つアイスブルーのオーラに泣き出す吉田さん。それに釣られてか、遥都に対する恐怖からか、見ていただけだったが泣き出す女子さえいた。だが、遥都は喉元をかき切るかの如く続ける。

 

 

「お前、もう来なくていいよ。俺があとやっとく。お前がいたら、上手くなるものも上手くならねぇ。ギャーギャーと不快な音させやがって。マジで、何してたんだよって感じだし。何の役にも立ちゃしねぇ。それどころか足を引っ張るとか……。これなら、友希那の方がよっぽどマシだったかもな。というわけで、もう来なくていいよ。

スクラップ」

 

 

 スクラップ、英語で書くと"scrap"。意味は新聞紙の切り取りなどのこと、そしてもうひとつの意味が、鉄くずなどのゴミ類、使えないものを集めた鉄くず山。遥都は吉田さんに『お前は役不足だ。』と言い放ったと同義であった。その場で意思表示を凍りつかされ、膝をつき、ガクガクと震えながら崩れ落ちる吉田さん。あまりの恐怖からか、声も上手く出ていない。

 

 一方の遥都は何か、今まで見てきた雰囲気ではなかった。明らかに目が冷たい。元々無気力だったから火とかそんなものは見えなかった。だが、決して冷たい訳ではなく、色で言うところの黄色や明るい緑に近い。だが今は、深い蒼に近い。深く濃く氷のような色だった。

 

 差し込む夕日とは対照的に淡い澄んだ蒼色の空気が差し込む教室。そんな歪な空間で遥都は立ち尽くしていた。明らかに異形な雰囲気を放つ遥都はゆっくりとその場を離れる。皆、遥都の行先を開けるように、いや、避けるように道を開ける。あの知夏良まで、恐れの色が出ている。

 

 

「お、おい……。遥都」

 

「……なに?知夏良」

 

「え……」

 

 

 なんとか声を出した知夏良だったが、自身に向けられた氷の刃に知夏良はその場に凍りつく。思考までもが止まり、へたり込むことしか出来ない。

 

 用がないと判断してか、遥都はそのまま教室の外へ出ていってしまう。その瞬間、張り詰めた氷が砕け、教室では知夏良や吉田さんの元へ数人が駆け寄り、大丈夫かと声をかける。

 

 

「ちょ、知良夏、大丈夫〜?」

 

「今井さんか……。男子に嫉妬されるからあんま近づくなよ!主に遥都に!」

 

「そんな、冗談言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

 

 無理な笑顔を作りながら冗談めかしていう知夏良にリサが目を潤ませながら言い、頭を叩く。叩かれたところを「いった……」ボソリと言いながら擦る知夏良は真剣な目付きに戻って、続けた。

 

 

「……あんなの初めてみた。あれ、相当怒ってるよ?多分。遥都は何回かケンカしてキレさせたことはあるけど、普通キレてもあそこまで言わない。ちょっと、自分でも怖い……」

 

 

 それを聞いていたリサを含めクラスの数人が唾を飲む。普段おちゃらけてる知夏良が言った分、それは十分すぎるほどに伝わっていた。一筋の嫌な予感が脳裏を過り、大きな不安に包まれる。まさに遥都が意図的か無意識か、クラスの心臓に放った氷の刃。それが徐々に周囲を凍らせているように見えた。そして、その残った刃が誰しもの目線を曇らせ、俯かせた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 翌日、遥都に話しかけれるものはいなかった。下手をすれば、昨日よりも鋭くなっているかもしれない。目つきは鋭くナイフそのもの。見たものをその場に凍りつかせた。まるで通ってきた所だけ別世界のように見える。ざわめきすらも起こさせないその覇気に周囲の人間はより一層の恐怖を抱いた。

 

 

「ねぇ、リサちゃん。遥都くん、怖い……」

 

「なんとか出来ないの?ほら、知夏良くんとかと協力してさ」

 

「したいのは山々だけど……」

 

 

 朝休み、リサも友達に頼まれはしたものの、正直触れたくなかった。今までの遥都とはまるで別人。今の遥都が醸し出す雰囲気はもう昔の暖かい雰囲気は見る影もない。

 

 

「ち、知良夏はどうなのっ?アタシより仲いいじゃん!」

 

「自分も今井さんとそんなに大差ねぇよ。って言うか出来たら、なんとかしてるっつーの!って、あー!!もう!イライラするー!!」

 

「だよね……」

 

 

 焦り気味で近くにいた知夏良に振るもどうにもならないと跳ね除け、頭を掻きむしる遥都。寝不足なのか知夏良の目の下にはクマが見える。リサも大方予想通りだったのか溜息をつき、そのまま知夏良の前へと腰を下ろした。その数秒後、知夏良は息を大きく吐き、無理矢理落ち着かせると続ける。

 

 

「もう一つ気になるのは、吉田さんだろ」

 

「あ……」

 

「遥都にあんなに言われたのに、顔色ひとつ変えずにここに来てるんだぞ?それどころか自分にはいきいきしてるように見える。普通、あんなこと言われたのが噂になりそうだし、それでへこんでもおかしくないでしょ?それに、ちょっとくらい遥都に恐れたっていいだろ?なのに、あんな様子だし。おかしくない?」

 

「言われてみれば!」

 

 

 リサと知夏良が目を向けた先に見えたのは明らかに空気が違うところ。廊下側後方の吉田さんの周りの席の人だった。男子と女子が数人集まりゲラゲラと笑い声を上げている。その中心にはドヤ顔というような顔をする吉田さんも。

 

 

「なんであんな顔できるんだろ?普通、あんなにキレられたらトラウマもんだろ?」

 

「うん……。少なくともアタシはそうかな。あんな顔されたら、1週間は学校休むかも」

 

「だろ?しかも、遥都のことを少なからず好意を持ってた人だぜ?なら、尚更じゃない?そういうもんんじゃないの?リサ」

 

「な、なんでアタシに聞くのよ!?で、でもそうなんじゃない!?」

 

 

 知夏良とリサの疑問はそのままチャイムの音でかき消されて行った。授業の始まりとともに席に戻るリサや体を起こす知夏良は無言のまま教科書を用意するいつもと変わらないはずの遥都に少しの違和感を覚えながらもノートを開いた。

 

 その後の練習はなんら支障なく行われた。この前の教室にいたメンバーしか知らないことだが、実質、パートリーダーが1人になったため、男女別れて練習することは無くなり、日数も少ないためとにかく通しては改善点を言ってみて、また通しての繰り返しだった。遥都は言ったことや感じたを事をどんどんと手元のノートに取っていく。

 

 

「ここはもっと抑揚つけて。男子は今のボリュームで毎回出せるように。女子はそれに消されないようなボリュームを出して。それから、ここは……」

 

 

 淡々とノートを見ながら指示を出す遥都は吉田さんを辞めさせたことからか、効率を上げ、1人で仕切り、リーダーの貫禄が上がっていっているように見えた。いくら目付きが変わったとはいえ、元々責任感は強いタイプで任されたことはしっかりやるタイプだ。昨日のことがあったとは思わせないような、仕切りだった。その姿にリサや知夏良は一端の安心を覚えたのと同時に、遥都の切り替えの強さに不安を覚える。

 

 

(何かを捨ててきた……?)

 

 

 知夏良そんなことを思ってしまっていた。感情と言ったら大袈裟かもしれないが、正しくそんなものを二人は思っていたのだ。このままでいいのか、それとも遥都を元に戻した方がいいのか、分からないまま時間だけが過ぎていく。気づけば空には数日前よりも分厚い雲がかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り2日




「じゃーん!!かき氷!!」
「紅葉さん、今、昔の俺がちょっとやばい方に言ってるのにテンションが場違いすぎません……?」
「いや、だって、タイトルがさ?」
「そんな意味でつけたんじゃないでしょ?それをあなたがいちばんよく分かってるはず」
「いいじゃんかよー!!あ、ちなみにみぞれが一番好き」

〇わ さん(☆9)、希望光 さん(☆10)、早宵 さん(☆9)
評価ありがとうございます!お陰様で、評価バーの空欄がひとつ埋まりました!マックス埋めれたら嬉しいですね!!
感想もお待ちしてます!


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英雄の友と歌姫の友

前回は大ふざけを決め込んでましたwww
急にこんな真面目な文を書くとなると中々上手くいかないもんですね!そう言えば9月です。学生のみなさん、ちゃんと宿題は出しましょうね!


 

 

 

 一夜明け、学園祭前日となった。この日は前日準備も重なり、多くのクラスが最終段階の用意へと進める。6年生は最高学年とだけあり、やはり、体育館の準備を行わされる。緑のマットをフロアへ敷き、ピアノを男子で移動させる。その後は他学年が作ってくれた花の紙飾りやチェーン状の紙飾りを綺麗に壁に貼り付けていく。その中には遥都の姿も見受けられた。

 

 

「じゃ、じゃあ、遥都くんは、これ!!よろしくね!」

 

 

 季節に似合わず、長丈のジーンズに、薄い七分丈っぽいパーカーを来ている遥都は脚立を使い壁の高い部分へ貼り付けを行っている。脚立の足付近にいる女の子から飾りをもらい、もう一人の女の子からテープをもらい貼り付けるのを協力しながら行うのだ。だが、到底、協力関係には見えなかった。足付近にいる女子の2人は怯えたような声で無理やり作った笑顔で対応し、遥都は返事もせずにこの前の氷の目から変わらないままだった。

 

 その様子を見ていた、リサや知夏良は心配そうな目を向ける。何かしてやりたい心配する気持ちと何をしたらいいのか分からないどうしようもない気持ちが混ざり、行動が起こせない。

 

 

「遥都……」

 

「はぁ……、あの野郎、どうなってんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第27話:英雄の友と歌姫の友

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前日準備も一段落し、後は当日の朝、全校生徒が会場入りするだけとなった。その頃には、日も傾き始め、その日の帰りのホームルーム。先生による応援の言葉が終わる。

 

 

「それじゃ、パートリーダーを代表して、遥都くん。何か一言言ってくれる?」

 

「はい」

 

 

 表情一つ変えずに前に進みでる遥都。その様子に教室に緊張が走る。前の方に座る遥都もその様子を息を飲みながら見守る。

 

 

「一言だけ。とりあえず、誰がなんと言おうと、どんな邪魔をされようと俺は合唱コンクールに出て、最優秀賞を取ります。これは確定事項です。なので、明日、全力で行ってください。以上です」

 

 

 氷の目をクラス全体に届かす遥都。背中に感じる悪寒、緊張感、それらを飲み込み、クラスメイトの大半は息を詰まらせる。その中を裂くように席に戻る遥都は相変わらずの雰囲気だ。

 良くも悪くも引き締まった教室。そして、そのまま、先生の言葉も終わり、放課後となってしまった。顔に不安の色が現れているものが多い中、皆が俯き気味で帰りの用意を始める。その中にはリサの姿もあり、近くにいた知夏良に話しかける。

 

 

「ねぇ〜、知夏良。遥都、やっぱり、大丈b……」

 

「ちょっと、俺、遥都のとこ行ってくる!」

 

「えっ!?ちょっと!ねぇってば!!遥都!?」

 

 

 話しかけられた知夏良は血相を変えて遥都の方へ駆け寄っていった。置いてかれたリサはただ、呆然として、「変なの」と呟く。知夏良は何かを遥都にアピールをしていて、遥都も何かを察したのか知夏良の手を引き、教室外へと出ていってしまった。結局、取り残されたリサはしぶしぶ一人で帰りの用意をし始めた。

 

 

(帰り、どうしようかな……?)

 

 

 それから、5分くらいだろうか、周りの友達に話しかけながらもダラダラと帰りの用意をするリサ。話していた友達も用があるのだろうか、帰ってしまい、珍しく一人になっていた。

 

 

「あれ?まだ帰ってなかったの!?」

 

「知夏良!?遥都と一緒に帰ったんじゃないの!?」

 

「え……、あ、あぁ、遥都は習い事かなんかあるみたいで先どっかいっちゃった!」

 

「へぇ〜、そっかぁ」

 

 

 少し慌てているようにも見えるその落ち着きのない違和感がある受け答えにリサは首を傾げる。だが、そんな疑問はすぐに廊下から聞こえる楽しそうな声にかき消される。リサは背負いかけたランドセルをもう一度背負い直した。

 

 

「リサ、湊さんのお見舞い行かない?」

 

「え?」

 

「だ〜か〜ら〜、湊さんのお見舞い!明日本番だし、最近の遥都の様子でも伝えに行こうよ」

 

 

 少しポカンとするリサに知夏良は「いくよね?」と言わんばかりの目線を送り続ける。この後予定も入っておらず、いつも一緒に帰っていた友達や友希那もいない。大した用事もないリサにとったら断る理由はなかった。むしろ、習い事や友達との遊びによって今まで一度しか行けていないから、行きたいという方が強かった。二つ返事で返すと、知夏良の後ろをついていく。

 

 

「でも、なんで急に?」

 

「ん?あー、ちょっと湊さんに聞きたいことがあって」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

「友希那〜!!」

 

「リサ……」

 

 

 病室に着くとリサは友希那を見つけるなり、飛びつく。大声を出したからか、周りの患者さんや看護師さんからジロリと睨まれるものの、全く気づいていない。代わりに知夏良が謝罪するようにぺこりと頭を下げていた。

 

 

「友希那、大丈夫〜!?」

 

「リサ……」

 

「おいこら、リサ!ここ病院だからな!?俺が睨まれてんだぞ、さっきから!」

 

「アハハ……。ゴメンゴメン!」

 

 

 顔の前に片手を持ってきてウインクしながら謝るリサに知夏良も何も言い返せず、「まぁいいけど」と顔をそらせてしまう。

 

 

「久しぶりね、リサ」

 

「そーだね!ゴメンね〜、アタシ、あんまお見舞い来れなくて」

 

「仕方ないわよ、習い事とか忙しいでしょ?」

 

 

 そう言うと、友希那はリサから目線を逸らしてしまう。以前より一層淡々と返す友希那に流石のリサも困惑していた。いや、淡々とと言うよりは、意識がここにないような、そんなイメージだった。眉を下げ、少し残念そうな表情をするリサ。助けてとアイコンタクトを知夏良の方へ送り、それを見て、知夏良は友希那の方へ歩み寄っていく。

 

 

「湊さーん、怪我の方はもういいの?」

 

「あなた、確か佐山という名前だったわよね。遥都とよく一緒にいる……」

 

「ごめいとー!佐山知夏良です。よく覚えてて貰えてたな……、自分で言うのも変だけど」

 

 

 苦笑いしながら答える知夏良とそれを見て、笑いを堪えているリサ。何がおかしいのか分からない友希那は、少し疑うような目で二人を見ていた。そして、ある程度笑って気が済んだのか、ブツブツとリサへ恨みの言葉を吐く知夏良を他所にリサは友希那に聞く。

 

 

「それで怪我の方はどうなの?」

 

「そうだったわね。車とぶつかったわりにはだいぶ軽い方で助かったね、と言われたわ。もう二、三日で退院出来るかもしれないと言われているわ」

 

「えっ!?ホントっ!?よかったー!!」

 

「だな。とりあえず、大事じゃなくて、よかったよ。」

 

 

 リサまでとは行かないものの、ひと安心したのか、顔が少し緩む知夏良。その後はリサと友希那が何かを喋ってるところを傍から聞いていた。だが、話がひと段落した所で知夏良が切り出す。

 

 

「それでさ、湊さん。ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」

 

「なにかしら?」

 

「遥都って何回かここに来てくれてるの?」

 

「えぇ。よく、というか、ほぼ毎日来てくれるわ。勉強のことや大事な連絡とかを話していくのよ」

 

「そこでさ、何か遥都の様子が変だったこととかない?」

 

「……??言ってる意味が分からないわ」

 

「そ、そっか!ならいいんだけど……」

 

「強いて言うなら……、音楽の話を良くするようになったことかしら?あとは、そうね……。アザが少し増えたことぐらいじゃない?何か、体育でぶつけたとか言っていたけど」

 

「っ!!!あの野郎、やっぱり……!!」

 

 

 明らかに顔色が変わる知夏良に友希那も驚きが隠せない。知夏良の横にいたリサも、声を漏らす。

 

 

「ちょ、知夏良!?どうかしたの?」

 

「え、あー、うん、なんでもない。2人にはあんまり関係ないことだから、気にしないで?」

 

「な、ならいいんだけど……」

 

 

 リサに話しかけられ、知夏良は表情を戻す。そして、知夏良はすぐに次の行動を起こした。

 

 

「ちょっと、自分、用事思い出したから帰るわ!リサはもうちょっとゆっくりしていって!!それじゃ!!」

 

 

 病室のベッドに立てかけてあったランドセルを乱雑に掴むと、走って病室を飛び出した。あまりの様子にポカンとする友希那とリサ。知夏良は病院の廊下を走り、階段を3階から1階まで走り下りる。途中、バランスを崩し、転びそうになるものの、知夏良は前しか見ていなかった。そのままに走り続け、病院を飛び出していった。

 

 

(遥都、あの野郎、勝手に突っ走りやがって……!!)

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 そして、遂に合唱コンクール当日を迎えた。以前から回復しない天気。今日も厚い雲が上空を覆っていた。確か予報ではこの後、天気は崩れるらしく、東の方には更に厚く、灰色の雲が見える。だが、小学校では対照的に飾り付けがされた廊下や各教室、体育館に多くの人が色めきだっている。あちらこちらで華やかな会話や笑顔が見られた。

 

 そんな小学校の校門の前ではいつもより少し派手な髪飾りを付けたリサが後ろから知夏良に話しかけようとしていた。

 

 

「おはよ!知夏良!やっと、当日だね!」

 

「おはよ。って、リサか」

 

「ちょっとぉ〜!?テンション低くない!?っていうか、昨日あの後どこ行っちゃったの?アタシ、もしかしたら戻ってくるのかもって思って待ってたんだけど!?」

 

「それはごめん。でも、ちょっと、行かなきゃいけないとこがあってさ……」

 

「ふ〜ん。てか、ホントどうしたの?昨日からいつものアホな知夏良じゃないじゃん!悪いもんでも食べたの?」

 

「失礼なやつだな!アホで悪かったよ!……でも、ちょっとワケありでさ……」

 

「……そっか。それじゃ、アタシはもう行くね!」

 

 

 何かを察したのか、これ以上触れてこないリサ。そんなリサはそのまま前の方にいる同じクラスの女子の輪へと入っていった。だが、実際、リサの感じた通りだったのだ。周りの色めいた雰囲気とは真逆の真剣な色を放つ知夏良。その後、喋りかけた友達も、何かおかしいと口々に言っており、いつもの明るい、良くも悪くもおちゃらけた雰囲気は微塵も見られなかった。

 

 その数十メートル後ろには遥都がいた。こちらも俯きながら、されど、目つきは以前の氷のようなもののまま歩いている。前髪の隙間から垣間見えるその顔には、どこか危なっかしく、だが、逞しくもみえた。そこには強く固い決意のようなものが伺える。

 

 

「ようやく、今日か……。最後くらい締めないと……」

 

 

 それぞれの抱く想いが交差する中、合唱コンクールの幕は上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまであと0日

 

 

 

 

 

 




「知夏良くん、大丈夫か……?」
「紅葉さんも人のこと言えませんよね……?頭にそんな包帯巻いて……」
「いや、あの二人、怒らせると怖いね」
「ホントですよ。あの人ら、限度ってもんを知らないですもん」
「「怖いわぁ〜」」


というわけで前回の終わりのことですね。割と、想像できるとは思いますがwww
ゴメゴメさん(☆9) ありがとうございます! 感想と合わせてお待ちしてます!


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英雄の誇りの矢と雨音

2週間ほどお休みして申し訳ないです!ちょっと個人的な予定が立て込んでおりまして……、
さて、さて、さて、いよいよ合唱コンクールが終わります。心して……


 

 

 

 

 

 ざわめきと実行委員会によるアナウンスが鳴り響く体育館。秋に入ったとはいえまだ9月。旧暦だとしたら、まだ夏場。熱気と湿気により汗ばむ肌が服と張り付いて妙に気持ちが悪い。暑さから、胸元でパタパタと服であおぐものや手に持っている冊子状のしおりであおぐものがいる。見に来ている保護者は手持ち扇風機や扇子を片手に付近の保護者と談笑したり、子どもを見つけると手を振ったりと中々に騒がしい。

 

 

『静かにしてください』

 

 

 実行委員会の一言によりざわついていた体育館が徐々に静かになっていく。体育館右前方に座る、実行委員会は静かになったことを確認すると、高らかに宣言した。

 

 

『これより、○○年度、□□小学校、学園祭を開催します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第28話:英雄の誇りの矢と雨音

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初の長ったらしい校長の言葉を皮切りに、地元の公立中学の宣伝も兼ねた吹奏楽の演奏が始まった。女子の方では「吹奏楽部、入りたいよねー!」と言う話、男子では「あのフルートの人可愛い」「いや、俺はクラリネットの人派」「いや、お前それはないわ」としょうもない話が行われていた。その後もクラブチームのダンスが行われるなど、会場のボルテージは吹奏楽を起点に徐々に上がっていく。

 

 そして、熱い空気が流れる中、アナウンスにより、遂に合唱コンクールの幕が上げられた。

 

 

『続いては、合唱コンクール部門です。各クラスはプログラムに従って準備をしてください。初めは一年一組の皆さん、よろしくお願いします』

 

 

 その言葉に会場で歓声が上がる。調子に乗った男の子や励まし合う女の子の声、様々な声が様々な所から聞こえてくる。この学校は一年から行い、一学年3クラスなので、学年ごとに最優秀賞を決めている。学年内の順番はくじのより決められているのだが、遥都らのクラスは6年の中でのトップバッターだった。

 

 次々に発表を終え、自分達のクラスの席に戻っていく生徒達。そして、いよいよ、6年生の部となる。

 

 

『続いては6年生の部です。準備をしてください』

 

 

 アナウンスがかかり、皆が立ち上がる。左側から順に決めていたポジションへ歩く。緊張しているのか、どうも表情が硬い子が見られる中、時間だけは我先にと進んでいく。

 

 

「遥都、頑張ろうな」

 

「当たり前だろ、知夏良」

 

「……そう、だよな」

 

 

 男子の列、中央付近。前にいた遥都に知夏良がポンポンと肩を叩き、耳打ちしながら笑顔で伝える。それを鬱陶しそうに返す、遥都。傍から見ればそれだけの光景だが、知夏良にとってはいつもと全然違ったらしい。返事をする時、彼の顔から笑顔が消えていた。

 

 

(遥都はやっぱり……)

 

 

 知夏良は一端の背負い、そのままステージの階段を上がる。覚悟を決めて、前を見ても、視界に入る遥都の背中には、頑丈だがつついてしまえば一瞬で崩れさそりそうな鉄の鎖か、はたまた硝子の鎖か、狷介孤高をより一層際立たせるものが見えてしまう。変わってしまった友達のそんな所は見たくない、無意識な思いが知夏良の目線を下げる。

 

 だが、無常にも時は過ぎていく。止まることは許されず、舞台のひな壇が近づく。前方の遥都はひな壇に足をかけている。

 

 

(やるしかないか……)

 

 

 知夏良の目からも遊びの色が消える。いつも上がっている口角は下がり、口を紡ぐ。全員が並び終わり体育館に凪が訪れ、観客の目が遥都らに集中する。指揮者が手を上げ、伴奏者とアイコンタクトを取り、静かにその手を動かし始めた。そして、静かに前奏が流れ始める。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

『15:40になりました。生徒の皆さんは席に戻って下さい。』

 

 

 採点のために取られていた10分ほどの休憩が終わり、会場にアナウンスがかかる。ざわめきの中、それぞれが席に戻り、遥都も既に戻っていた。その数十秒後に隣の席に座ったのは合唱でも隣にいた知夏良。いつもなら楽しそうに知夏良から話しかけるが今回ばかりはそうも言ってられないようで、しばらく黙り込んでしまう。だが、普段から騒がしい知夏良、沈黙に耐えきれなくなり、遥都に話しかける。

 

 

「もう戻ってたのか、遥都」

 

「……知夏良」

 

「そんな邪険にすんなよ。んで、どーなの?手応えは」

 

「まぁ、悪くはなかった気がするよ」

 

「ぶっちゃけ、最優秀賞取れると思ってる?」

 

「取る以外想像してないから」

 

「へいへい。まぁ、実際……」

 

『まだたっている皆さんは座ってください』

 

「あり、もう始まっちゃうのか。なら、後でいいや」

 

 

 必死に平静を装い話しかけた知夏良は周りのざわめきの冷めに合わせ、知夏良は遥都との会話をやめて、前を見る。そして、完全に静まったことを確認すると司会の子は続けた。

 

 

『只今より、合唱コンクールの結果発表を行います』

 

 

 体育館の静まりの中空気がピンと張り詰めたのを感じた。最優秀賞のクラスは二人、優秀賞のクラスは一人前に出て並ぶことを指示した後、校長先生が登壇され、司会の子も教頭先生へとマイクを渡す。教頭先生が総評を行うと、遂に、一年生から順にゆっくりと読み上げを行う。

 

 遥都は静かに目を閉じ、名前が呼ばれるのを待っていた。左手と右手を合わせ、それぞれの指の隙間に指を交わらせ、肘を座っている膝の上に起き、前かがみの体勢の中、口元に両手を置く。

 

 

『続いて、六年生です』

 

 

 前の方で騒いでいた他学年までもが急に静かになる。そうさせたのはここにある異様な緊張感か、圧力か。いずれにしても、空気をより一層張り詰めさせる。

 

 

『優秀賞は、6年4組』

 

 

 一度、大きな歓声が後ろから上がる。だが、一方で前方と後方からは少し安堵の声も流れてきている。遥都は体勢を変えずに、次を待つ。そう、最優秀賞は未だに発表されていない。そして、体育館が再び落ち着きを取り戻す。

 

 

『続いて、最優秀賞を発表します』

 

 

 顔の前で握り合わせる遥都の手にグッと力が込められる。静かだが、強い想いがそこからは確かに感じられた。その横の知夏良はそんな友達を見て、最優秀賞を強く願う。ソプラノパートの女子のほうではリサが友達と一緒に手を合わせていた。目には見えないものの、リサが大好きな親友のために人一倍、結果を強く望む。

 

 

『6年2組』

 

 

 左右から一斉に歓喜の声が上がる。なんだかんだあったとはいえ、やはり、最優秀賞という結果を貰えたのだ。喜ばないはずがない。遥都も肩の荷が降りたかのように手を解き、背もたれに背中を預ける。その遥都に横から知夏良がハイテンションで話しかけた。

 

 

「やったな!遥都!!」

 

「あぁ、とりあえず一安心。最低限のことは出来たな」

 

「最低限って、お前……。まぁ、いいや!とりあえず、パートリーダー、おつかれ」

 

「ん。俺にとって大事なのはこの後だから……」

 

「え?」

 

 

 グータッチをしようとしていた知夏良だが、遥都が前を向いたままで気づかないため、少し寂しそうな顔をしながらも静かに下ろす。そして、そのご、前に行くようアナウンスで促されると、遥都は席をたち、列をはずれ前に早歩きで行ってしまった。

 

 

「アイツ、嬉しくないのかな……?」

 

 

 ポツリと知夏良の口から零れ落ちた小さな疑問は、歓声や拍手によってかき消される。知夏良も登壇し、賞状が授与されている姿を見て、疑問を忘れてしまっていた。登壇していた遥都は隣にいる表向きは女子のパートリーダーの吉田さんと共に舞台上から礼をすると、表情一つ変えずに戻ってきた。

 

 その後、各教室に戻り、帰りのホームルームになる。嬉しさによる半泣き状態の担任の先生による、約15分にも及ぶ話が行われ、少しクラス内に嫌気が差し込む。だが、いつもなら舌打ちの1つでも出てもいいものだが、今日は皆の機嫌がいいからか、皆も仕方ないというような目で見る。そして、その後、パートリーダーが締めの一言を言うように頼まれる。

 

 

「それじゃあ、ここまで頑張ってくれたパートリーダーの吉田さんと遥都くんに最後、なにか喋ってもらおうかな。まずは吉田さん!大丈夫?」

 

「あ、はい。えっと〜、湊さんのこととか、色々ありましたが、私はみなさんと楽しく練習出来た結果だと思います。これはみなさんと共に頑張った努力の証です!イェーーーーイ!!」

 

 

 クラスの一部を巻き込み大盛り上がりをする吉田さん。普通ならほぼ百点満点のフレーズを言い、先生も褒める言葉を口にして、「お疲れ様!」と言った。だが、隣にいる遥都は違う。そして、先生に言われる前に、強引に教壇の上に立ち吉田さんの方を向く。それはまるで喜びの空気を"同調"せず、一瞬で砕け散らす鋭い矢、そのものだった。

 

 

「なぁ、もう、終わったからいいだろ?その気持ちの悪い仮面外せよ、スクラップ

 

 

 暖かい色をしていた教室が一瞬で凍りつく。空気が砕け散り、広げようとしていた輪は絶たれ、"同調"が途切れる。先生までもがあまりの変化に絶句してその場から動けない。それは、以前、遥都が吉田さんに怒った時のものより比べ物にならないくらい大きく、強く、そして、圧倒的な圧力。誰もがその場、体勢から一ミリたりとも動けない。その圧力の中心に立つのが遥都だった。

 

 

「なぁ、なんか勘違いしてない?もう終わったからいいだろ。キミさ、なんの役にも立ってないし。むしろ足引っ張ってただけ。友希那のこともさ、元はと言えばキミが煽ったわけだろ?煽らなければあんなことにならなかったし、注意されたのが図星で仕方ないからそれ以外のところで怒らせた。違う?それに、後半練習仕切ってたの俺だから。キミがあまりに使えないから。キミさ、友希那に『笑える』とかなんとか言ってたらしいけど、俺から言わせればよっぽどキミの方が滑稽だったよ?」

 

 

 この場にいるもの全ての足を、声を凍りつかせ何者にも口出しをさせない。涙すら流させないその目は完全に別人。深みを増し、もはや真黒に近いようなその視線。以前と比べても段違いのものだった。その目が今度は皆に向けられる。

 

 

「あぁ、それとさ、みんなにも言っときたいんだけど、俺が練習中、なんか言うときに見てたこのノート、友希那が書いてたノートだから。その内容をそのまんま読んでるだけ。注意されたこともメモって、病院で友希那にアドバイス貰ってたりしてたの。俺はそれを伝えてただけだから。確かに友希那にも伝え方とかには問題があったと思う。それでも、結果が最優秀賞だったってことは、あの人は何一つ間違ってない。そういう事だよね?スクラップさん??……って、返事することも出来ないのかよ。ホント、スクラップ。」

 

 

 最後だけ吉田さんの方へ視線を移し睨みつける遥都。睨みつけられた吉田さんは恐怖からか何度も首を縦に動かす。それを確認した遥都は、もう一度みんなの方を向く。そして、こう告げた。

 

 

「このスクラップ同様、友希那のことをバカにしたゴミクズはまだ沢山いるだろ。生ゴミ見てぇなくっせぇ匂いがプンプンするからよぉ。そいつらにも、そいつら以外にも言っとくぞ。友希那がこれから、音楽関連のことをするときがあると思う。だけどよ、友希那は何一つ間違っちゃいない。邪魔、すんじゃねぇよ!

 

 

 吠えた。その咆哮は今まで聞いたこともないような声。リサや遥都、幼い頃から付き合いがあったり、仲良くしてきたり、といったメンバーすらも正直驚きを隠せなかった。遥都はその中を一歩、一歩席へと空気が軋ませながら進む。それは、そこにいる誰もが感じたことも無い圧力だった。

 

 窓にポツリと水滴が映る。そして、その音が途切れることはもう無かった。この時期独特の夕立が一瞬にして外の景色も変えてしまう。雨粒が校庭の木の葉に、地面にあたり大きな音を立て始めた。同時に風がざわめきを誘う。沈黙により、より大きく聞こえるその雨音は恐怖をより一層かき立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──合唱コンクール、終了

 

 




「紅葉さん、何してたんですか?」
「んあ?高校生の遥都くんか」
「あ、はい」
「ちょっと、海外の方へ……」
「わぉ、お疲れ様です……」
「時差ボケと飛行機酔いで頭痛くなってましたwww」

まだ終わりませんからね!?
感想、評価まだまだ待ってます!


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"あの"過去の影
英雄が知る物語への扉


中々執筆時間が取れなくて遅くなってしまいました……
すいません、頑張れるように頑張りますね!

さて、前回ようやく合唱コンクールが終わった状態でございます。話が一段落した所で、今回は過去から今に戻ります


 

 

 

 

 

 みんなの前に置かれた麦茶の氷が綺麗な音を立てる。グラスの周りには結露が生まれ、それにより、机の上に小さな水たまりが出来ており、時間の経過を物語っていた。

 

 

「……と、まぁ、こんな感じのことがあったの」

 

 

 リサが皆を見渡しながらそう言った。脇に座る俺と友希那もそれに続き、皆の方を見る。宇田川さんはうるうると目を潤して、白金さんは少し俯き気味に、氷川さんはその事実を真正面から受け止めるかのようにこちらを真っ直ぐに見ていた。

 

 

「多少、遥都の付け加えがあったとしても、これがアタシや友希那が知ってる事だと思う。だよね?友希那」

 

「えぇ。その通りよ。私が入院していた頃の話はよく知らなかったけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第29話:英雄が知る物語への扉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、遥都さぁ〜〜〜ん!!」

 

「宇田川さん、そんな泣く必要ないでしょ……」

 

「だって、遥都さん!友希那さんのために!!」

 

「成り行きだから」

 

 

 涙を流しながら、こちらに向かって突っ走ってくる宇田川さん。正直、どう対応していいのか分からない。これじゃまるで幼稚園児じゃないか。少し困惑する俺を他所に氷川さんが話を続ける。

 

 

「そうだったのですか……。なんと言えばいいのでしょう、湊さんのためとはいえ、凄いですね」

 

「はい……、私も、凄いと思いました……。鬼気迫るものを感じたというか……」

 

「えぇ、白金さんの言う通りですね」

 

 

 氷川さんが白金さんに同意を示し、目の前にある麦茶を一口飲む。

 

 

「うん……。アタシもあの時あそこにいたけど、遥都のこと、正直怖かったもん……。違う誰か見たいだったから……」

 

「そりゃ悪かったな。怖がらせてたみたいでよ」

 

「あ、いいのいいの!!むしろ、そうしてもらって有難かったから!」

 

 

 慌てて否定するリサが申し訳なさそうにヒラヒラと手を振った。俺はそれを見て少しホッとする。もしも恐怖を与えていたとなれば、申し訳ないのだから。

 

 

「てか、リサも意外と知ってたんだな。知らないように湊さんには言うなって言っといたんだけど……」

 

「実は知夏良を問い詰めたら吐いてくれたの。アタシも色々知っておきたかったしね」

 

「なるほど。この間、あいつから送られてきた謎の『すんません』ってそういう事か……」

 

 

 メッセージアプリで知夏良の画面を開き、苦笑いを浮かべる。柄にもなく謝ってくると思ったら、そういう事だったらしい。その時に理由を聞くと、『のちのち分かるから』とか言ってたしな。俺は『理由わかったわ。今度締めるから。でも、ありがと』と送り、携帯を閉じる。そんなリサと俺の様子を見ていた氷川さんが、フッと口元を綻ばせる。

 

 

「なんとなくですが、わかった気がしました」

 

「ん?紗夜、どーかしたの?」

 

「今井さんが伊月さんのことを好いている理由ですよ。あとは、今井さんが湊さんにベッタリな理由ですかね……」

 

「"好いている"って……!!ちょ、紗夜!何言ってるの!?」

 

「あら?本当の事じゃないんですか?」

 

 

 顔を真っ赤にして、リサが紗夜さんをぽかぽかと殴っている。リサも冗談なんだからそこまでしなくてもいいのにと思いながらも宇田川さんや白金さんの方を見る。

 

 

「あの、ゴメンなさいね。急にこんな

シリアスな話聞かせてしまって」

 

「い、いえ!全然大丈夫です!!」

 

「はい……!わ、私たちも、友希那さんやリサさんのこと、知りたかったですから……」

 

「そう言って貰えると助かるよ。そう言えば、何か今の話で質問とかある?」

 

「んー、じゃあ、3人ともその後はどうだったんですか?」

 

「友希那が戻ってきてからはもう特に何かイジメらしいものはなかった気がするけど……。湊さんはどうです?」

 

「そうね。誰かに嫌がらせをされたりというのはなかったわ」

 

「アタシもそう思ったよ。確かに、ギスギスした感じは残ったけど……。でも、なんだろ?嫌な感じじゃなくて、こう、怖いから避けてるみたいな!あ、ほら、紗夜が風紀委員してて、校門の前をみんなが避けてく見たいな?」

 

「し、しょうがないでしょう!?それが仕事なんですから!!」

 

 

 急に話に入ってきたリサが冗談を言い、逆に顔を赤くしながら否定する紗夜さんに場の空気が少し明るくなる。こういう雰囲気を変えることに関してはリサは本当に長けていると思う。

 

 実際、リサの言う通りだった。あの後、クラスでは女子の行動が見違えるほど大人しくなり、グループが細分化されて行った。吉田さんの取り巻きも減り、2,3人グループができて、クラス外の子とも交流を持つようにな交友関係に変化していったように見えた。

 

 

「っと、もう、結構な時間だな。」

 

 

 緊張がとけ、背もたれに身体を預けていると、壁掛け時計が目に入った。時計はもう9時半を回っていて、体感時間との差に驚いていた。真剣な時や楽しい時ほど時間は早く感じるものだ。

 

 

「本当ね……。どうしましょうか?」

 

「あわわわ!お姉ちゃんに連絡からどこいるんだ!?ってメッセージ来てる!」

 

「わ、私も、お母さんから……」

 

「私は日菜から来てるわね……。母さんからの伝言だとは思うけど」

 

 

 さすがに年頃の女子だ。男子は親にメッセージ一本入れておけば何とかなるものだが、女子となるとやはり身体的や性的な危険も伴うから親は心配になるのだろう。

 

 

「どうします?このままお開きでも時間的に悪くは無いと思いますけど?」

 

 

 白金さんや宇田川さんが家族に急いでメッセージを送ろうとしている中、俺はその言葉を聞いて、足元に置いてあるトレイを手に取ろうとする。だが、リサがその手を止めさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リサには珍しく笑顔が消えていた。リサの言葉に皆が一度、行動を止める。しばらくの沈黙。網戸から流れ込む涼しげな風邪がカーテンを揺らし、肌に触れては流れていく。パタパタと風による音が沈黙の中に流れる。その音が止んだ、直後だった。宇田川さんが口を開く。

 

 

「で、でも、リサ姉、事件の話はもう終わったよ?」

 

「アタシと友希那が知る範囲では、ね?でも、多分違うんじゃないかな?友希那も今回はそこを知りたいんだよね?」

 

「そうね。私がどうしても引っかかってしまう所は、そこのことよ……」

 

「え?ど、どういうことですか……?」

 

「そういうことでしたか……。なるほど、理解しました。確かに私の疑問は消えていませんしね。」

 

 

 宇田川さんと白金さんは頭にハテナマークを浮かべるも、氷川さんは納得したような表情を見せた。あの時、迫ってきた氷川さんなら当たり前と言えば当たり前かもしれない。

 

 

「多分、紗夜の想像してることは合ってるかな?さっき話したのはあくまでも、アタシと友希那が知っていることってこと。」

 

「そう、つまり、私やリサは知らないけど遥都だけが知っている、裏側のことがあるって事よ。今考えるとあの時の終わり方があまりに穏便すぎたのよ。誰かがなにかしかけたとしか思えない。そうよね、遥都?」

 

 

 湊さんの言葉により5人全員の視線が僕に集められた。

 

 

「遥都……。その事について、話してくれないかな……?」

 

 

 落ち着かせるために俺は一息吐く。そして、また麦茶を一口飲んでさらに心を静まらせる。ここまで来て話さないはないだろう。流石の俺でもそこまでバカじゃない。だが、実際話すとなると隠し続けてきたことなだけあってやはり心のどこかでブレーキがかかる。心拍数は上がり、心臓の音がいつもより大きく響く。だから、俺は、

 

 

(大丈夫……)

 

 

 目を閉じて、胸の前で手をおき、トンっと小さく叩く。昔からかもしれない。いつからかは分からないが、こうやってやるとすごく落ち着く。

 

 

「あ、あの時と同じことしてる……」

 

「ん?なんか言ったか?リサ」

 

「ううん!あの、小6の時のさ、みんなの前で、『最優秀賞とろうね』って言ってた時も同じことやってたな、って、」

 

「あ……」

 

 

 なんだ、簡単なことじゃないか。今も昔も変わらない。あの初めての時にこれをやったから緊張している時にこうすると落ち着くんだ。なんにも変わってないじゃないか。小学校の高学年になってからは薄れてはいたものの、リサとも湊さんとも決して仲が悪くなった訳では無い。むしろ、いい方だったはずだ。それは、さらに昔の小学校低学年の時、リサが誘ってくれたあの時から。途端に胸のつかえが取れた気がした。すると、紡いでいた口が自然と綻んだ。

 

 

「それじゃあ、話すよ。ちょっと、不快かもしれないけど、そう思ったら耳塞いどいてね。まずは…………、」

 

 

 




「ヴァーーー、紅葉さん」
「ちょ、なに……?」
「遥都さん、カッコよくて……!!」
「確かに怖いけど、カッコイイよねぇ〜」
「お化け屋敷で人を突き飛ばしてでも自分を守る紅葉さんとは大違いですー!!」
「ちょ、待っ、どっからその話仕入れた!?」


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英雄と薄暮

最近、投稿ペースが落ちてますね……
狭めたいとは思いつつも、普段のやらなきゃいけない事が立て込んでおりまして、、、
もうしばらく落ちるかもしれませんが、お付き合いください!

ではでは〜、


 

 

 

 

 始まりはいつからだったかあまり覚えていない。だが、遥都が友希那へ連絡帳を渡すためにお見舞いに行くようになってからだったのは確かだ。

 

 

「ねぇ、遥都くん」

 

「…………なに?」

 

 

 傾いた日が教室に差し込む。電気が消されていて、外の光のみのいつもより少し薄暗い教室はHR終了のチャイムがなってから既に15分が経過している。周りの子はほとんど居らず、いるのは吉田さんとその取り巻き女子4人と男子3人。

 

遥都は先生に送って貰うため、荷物をまとめ机に突っ伏していた。そこに、吉田さんが取り巻きを連れて話しかけてきたのだ。まだ、遥都に対する悪意はそこまで見えなかった。むしろ、こちら側へ引っ張りこもうとするような、そんなイメージだ。友希那の相手をしないという指示を出し、遥都を自分たち側に引っ張り込むことで友希那の孤立化を狙ったのだろう。

 

 

「今からさ、あの子らと遊ぶんだけど来ない?」

 

「わり、友希那のとこ、先生と行かなきゃ行けないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第30話:英雄と薄暮

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日も変わらなかった。理由をパートリーダーとしての何かといったところしか変わらず、それも遥都は断った。だが、その次の日、流れが変わる。ちょうど、遥都がみんなの前で決意を言葉にする日の後だった。

 

 

「ねぇ、伊月……、だっけ?」

 

 

 あまり関わりのないある男子が声をかけてくる。名前は確か、川瀬。吉田さんの取り巻きの男子のうちの一人だ。遥都はなんのことか思い当たる節がないものの、そちらに体を向けた。すると、その子はここでは話しずらいからと階段の踊り場へと遥都を連れていく。

 

 

「あの、何の用ですか?」

 

「吉田のことさ、邪険にすんなよ」

 

「……なんのことですか?放課後のことなら、用事があるからと言っているじゃないですか?」

 

 

 踊り場に着いた途端向けられる敵意の視線。それを遥都は「あぁ、やはりか……」と呆れの目で受ける。外から見て、あのグループの中心はやはり吉田さん。その人に積極的に話しかけられるのが川瀬にとっては面白くなかったのだろう。

 

 

「惚けるなよ……!あんま、調子のんじゃねぇよ」

 

 

 それだけ言うと、舌打ちをして教室に戻ろうとする。すれ違いざま、彼は遥都の脚をわざとらしく踏みつける。『理解しあえない』遥都は直感でそう感じる。そして、遥都は言った。

 

 

「調子になんて乗ってません。これでもくそ真面目です。だから、邪魔、しないでくれますか?万が一、邪魔するようなら……、」

 

 

 

 最後、振り向いた時にはもう彼はいなかった。軽くため息を着く遥都。疲れか呆れか、いずれにしろ気持ちがいいものではなかった。

 

 その嫌な気分の中、教室へ戻る階段を降り、廊下へ出る。そこであることに気づいた。フッと視界から何かが慌てて消えたのだ。位置はおそらく遥都らの教室。今思えば、これが本当の始まりだったかもしれない。疑問に思いながらも教室へ戻る。だがそこには……、

 

 

「…………下衆が」

 

 

 引き出しの中が御丁寧に床へ散らばされていた。周りの人間も遥都と誰も目を合わせようとしない。"見ていたから"、そんなことは小学六年生にも理解出来た。だがやっている事が悪だとしても、権力者の行為ならば黙認せざるを得ないのだろう。なぜなら、歯向かおうものなら、次は自分の番になるから。舌打ちしながら淡い緑のプラスチック引き出しに教科書やノートを戻していく。チラリと右を見ると、ニヤニヤとする川瀬を含めた男子4人。おそらく、川瀬と遥都が喋った間に残りの3人がやったのだろう。

 

 これだけでは終わらなかった。その放課後は、下駄箱に置いてある靴が違う学年のところに入れてあった。しかも、大量の湿った泥入りで。その次の日は遥都の席で4人で喋られ続け、全く用意もできないようにしてきた。川瀬はこういうことに関しては無駄に頭が回るやつだ。故意的だ、あるいは犯人特定が難しいようなことをする。だから、遥都がここで逆上しても意味はなかった。遥都もそれを分かっているから何も動けなかったのだ。

 

 だが、さらに一日後、大きく事態が動いた。ちょうど、音楽の先生に吉田さんが見せしめのように皆の前で怒られた、そして、遥都が"スクラップ"と言い放ったあの日だ。スクラップと言った時、おそらく、遥都には今までの嫌がらせのストレスもあったのだろう。かなりイライラしていたのは見ていて分かる。それが吉田さんの返答により爆発したのだろう。

 

 それにより恥をかかされた吉田さんが遂に動いたのだ。チャイムがなり、放課後となる。ゾロゾロと帰り始める中、教室の隅が燻りを見せる。

 

 

「ちょっと、吉田。耳貸して、………………で、……………………!」

 

「ウソ!?それマジ!?川瀬、あんたやるわね……!」

 

「だろっ!?」

 

 

 教室の隅から、そんな声が微かに聞こえてきた。そして、そこにいる8人がこちらの方を向いてニヤリと笑っていた。その目は数日前の好意を寄せていた頃の目とはかけ離れていた。敵意、その言葉がピッタリと当てはまっていた。そんな視線から遥都は、視線を下に外す。

 

 

(めんどくさ……)

 

 

 視線を下ろした先に見える、自らの手。冷めた目で遥都はその手を見る。遥都は眺めていた手をギュッと握りしめると、そのまま、席を立つ。廊下へ向かう途中もまわりの視線が突き刺さる。視線だけでなく、ざわめきも。皮肉なもので、視線やざわめきは止まらず、遥都の前へ固められる。だが、遥都は不思議と気にならなかった。吉田さんへの怒りか、それともそれ以外の感情か、いずれにしても遥都の中に大きな感情が渦巻いていたのだ。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「それじゃあ、そんな感じでやってみるよ」

 

「えぇ、それで問題ないと思うわ」

 

「ありがと。それじゃあね」

 

 

 何かを隠すような作り笑顔。友希那にそんな笑顔を向けながら遥都は病院を後にした。パタンと扉が閉まる音を聞くと同時に大きく息を漏らす。

 

 

「さっさと帰らなきゃ……、そんでもって……」

 

 

 疲れを見て見ぬふりをして無理矢理前をむく。目に映るのはほぼ沈んでしまった太陽が怪しげに照らし出す雲。夜の暗さと太陽の明るさが絶妙に混ざり合い、なんとも言えない雰囲気を醸し出す。

 

 その夕方か夜か分からない、世にいう黄昏時という時間帯。遥都はいつもより少し早歩きで家路についていた。視界の脇を流れる路地の街灯が少しずつ灯りだしては、また消えて。そんなことを繰り返しながら、徐々に街灯の大半の明かりが灯りだす。

 

 

「あそこ、電球、切れてんのかな……」

 

 

 何気なく目に入った一つの街灯。その街灯はその辺では、たった一つだけ、明かりを灯せていない。寂しげに行き場をなくした電気だけが小さな音を立てていた。そして、やがて、その音も……、

 

 

 

 

 

 

「い〜づきくん、遊び〜ましょ」

 

 

 

 

 

 

 急に背後の至近距離からなにかの映画で聞き覚えがある声。バッと首を後ろに返すが、最早無駄だった。遥都の目に辛うじて映ったその人影はその脚を遥都の腹に向かって撃つ。

 

 

「ぐっ…………」

 

 

 後ろに2mくらい後ずさりさせられて、反射的にか遥都は殴られた腹を手で覆う。口の中にはあの独特な苦味のある鉄のような味。

 

 

「アハっ!大丈夫〜??そんなに大怪我して!これから、いっぱい遊ぶってのに」

 

「川瀬ぇ、やりすぎ!」

 

「確かにっ!」

 

 

 後ろには数名笑いを堪えながら、やる気もない注意をする。そこには吉田さんの姿もあった。そして、今殴ってきたのは、今日、俺に喋りかけてきた、川瀬とか言うやつだ。

 

 

「てめぇら……」

 

「うわっ!その熱すぎた視線、マジ無理〜!!」

 

「てかさ、俺らや吉田いんのに断って湊さんのとこいくとかマジなんなの?あ、分かった!湊さんのこと、好きなんや!!」

 

「あーーーー!痛いげな姫のとこに助けに行くのは白馬の王子様ってか!!マジキモっ!!ウケるんだけど!!」

 

 

 川瀬や吉田も含め全員が腹を抱えて笑い出す。こちらは当たりどころが悪かったのか、未だに嫌な痛みが腹に残る。グッと歯ぎしりをして、その場になんとか立ち上がれども、まだまともに動きは出来ない。

 

 

「あれ?まだ元気そうじゃん?川瀬、追加オーダー入りましたよ〜!」

 

「お?まじ?俺、空手やってるから中々みんな立ち上がってくんないんだけどな……」

 

「てか、もう顔面にラッシュ決めちゃったらいいじゃん」

 

「バカだなぁ、吉田。顔面いっちゃったら先生や親にバレちゃうじゃん」

 

「あ、なる!川瀬、無駄に頭いい〜」

 

 

 ヘラヘラと笑いながら会話をする2人とそれを見る取り巻き共。その様子は最早、異形だった。『無抵抗なやつでも殴ってもいい、なぜならばムカつくから』そうとも言わんばかりの空気。取り巻きもそれらに"同調"を決め込んでいて、皆、同じ色で光り出す。

 

 

「はい、それじゃあ、1本目〜!スネに〜〜〜、バァン!!」

 

 

 鈍い音が遥都の脚と川瀬の脚からする。激痛が走り膝をつく遥都。だが、その異様な空気がそれで終わらせてくれるはずがなかった。

 

 

「もういっちょう〜!今度は脇腹に〜〜〜、ドォン!!」

 

 

 横に転がる遥都。カハッと小さく声を漏らして、背中に背負っていたランドセルも転がり出す。中身の教科書も道に散らばる。

 

 

「これ以上なんかやると、誰かにバレそうだからな。とりま、こんなもんでいいでしょ。明日からも、まだ湊さんとこ行くようならまた待ち伏せして同じことやるからな」

 

 

 顔の近くにしゃがみ、耳元でそう囁く川瀬。声は低く、遥都にしか聞こえないように。そして、彼はすぐに立ち上がると、後ろの集団を振り返り言った。

 

 

「ほんじゃ、みんな、遥都くんも分かってくれたらしいから帰ろーぜ」

 

「「は〜い」」

 

 

 ゲラゲラと笑いながら歩くその複数の背中。遥都はうっすらと空いた目でそれを見る。憎悪か、敵意か、決して穏やかでは無い目が彼らの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 




「おい、高校生の遥都くんや。大問題だぞ」
「どうしました?紅葉さん」
「いやね、ここに書くネタがそろそろ尽きてきたし、ふざけづらい」
「…………そうですね」
「どうしょ!?」
「知りませんよ!だから、泣きついて鼻水とか擦り付けないでください!」

感想、評価お待ちしてます!!
お気に入り600超えました!この調子で評価者も増えてくれるとありがたいです!


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英雄と友の想い

えーっと、諸事情により、今後投稿を早めます!
とりあえず大事なことなので先に言っておきますね!

そして、ここから、恐らくあのこの株がバカみたいに上がる気がします‪w


 

 

 次の日も変わらない。遥都は友希那の病室に向かう。その様子を見て、ニヤつく川瀬と吉田さん。そしてまた、病院からの帰り道に蹴りを入れられた。

 

 

「懲りないね〜!勉強はできる癖にこういうことは学習出来ないんだね〜!」

 

 

 吐き出される暴言と暴力。それにグッと耐えてはまた立ち上がる。しかし今度は、川瀬一人ではなかった。

 

 

「次、俺ー」

 

「んじゃ、そん次は俺」

 

 

 その取り巻きすらも調子に乗り始めたのだった。"同調"をして、目の前に広がる悪と言わざるを得ない状況だったが、自らが正義のように錯覚したのか。あるいは"同調"をすることによって元締めである川瀬や吉田さんのやっていることを正しいと思ったのだろうか。いずれにしても、その空気の流れが止まることはなく、ただひたすらに曇天の下に鈍い音が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第31話:英雄と友の想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………てめぇ、なんで反抗してこねぇんだよ。面白みにかけるじゃねぇか」

 

 

 あまりに無抵抗な遥都を見て、遂に川瀬が頭をつかみ、こちらに初めて怒りの目を向ける。それは自尊心の保守のためか、あるいは単純な憤りか。

 

 

「別に、好き好んで殴られたり蹴られたりしてるわけじゃねぇから……。そこは勘違いすんじゃねぇよ、カスが……」

 

 

 そう言い、遥都は唾を川瀬の顔面に向かって吐き捨てた。一瞬何が起こったのか分からないような顔をする川瀬。打が、その違和感の源の頬を触り、手につくねっとりとした液体に先の出来事を理解する。

 

 

「クソがよぉお!!」

 

 

 完全に線が切れる川瀬、そのまま膝で溝打ちを喰らわすとそのまま、背中にも手を使い打撃を喰らわし、蹴り飛ばした。コンクリートの壁に体ごと打ち付けられて、全身に痛みが走る。

 

 

「面白くねぇ、帰る!」

 

 

 蹴り飛ばしても癒えぬフラストレーション。それらを当たり散らすかのように彼は近くのガイドポストを蹴る。その様子に周りの取り巻きすらも少し脅えながら、宥めようとしていた。

 

 

「やっと、いったか……。いって……、さすがにまともに喰らいすぎたかな……」

 

 

 遥都は蹴られた所をグッと押さえつけるようにして、痛みを堪える。脇腹には見事なまでのアザが出来ており、スネにも昨日のアザが残る。決して大きくはない体が悲鳴をあげていた。だが、それでも……

 

 

「今は、まだ……」

 

 

 ボロボロの体を何とか立たす。青く腫れ上がった右足を地面へ立て、上体を手を使ってでも上へ、前へ。ボロボロの体、だが、その眼は真っ直ぐにその先を見つめていた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 そして、また日が昇る。学園祭前日のこの日は全校あげての前日準備だ。それらも終わり、帰りのホームルーム。遥都が皆の前で一言言わされているときだった。

 

 最前列の知夏良はあることに違和感を覚える。それは昨日覚えたものよりはるかに強烈なものだった。きっかけは至極単純。七分丈の袖口絡みえた白い包帯だった。

 

 

(あれ……?遥都ってあんな所怪我してたっけな?昨日は半袖きてたはずだけど……?)

 

 

 寒気がするから七分袖に長ズボンだと思っていた。だが、それにしてはおかしい。体育館で行った前日準備、終始袖口で汗を拭っていたし、今、前に立っていて帰る際も額を袖で拭った。いつも一緒にいる遥都のことだ。最初は変だな程度にしか感じていなかったが、ここまで来るといよいよ何か隠しているようにしか見えない。

 

 

「ねぇ〜、知夏良。遥都、やっぱり、大丈b……」

 

「ちょっと、俺、遥都のとこ行ってくる!」

 

「えっ!?ちょっと!ねぇってば!!遥都!?」

 

 

 考えるより先に体が動いていたとはこういうことを言うのだろう。リサの手を振りほどく。知夏良は遥都の元に近寄ると同時に、強引に腕を引っ張って、人気のない踊り場へと連れ出した。

 

 

「んだよ、知夏良!」

 

「何ってお前……。その腕……!」

 

「腕?腕がどうかしたか……?」

 

 

 動物は後ろめたいところや弱い所を無意識に隠す習性がある。目から感情を読まれるのが怖いから、嘘をつく時に目をそらす。瞬きをする。それは、遥都にしたって同じこと。袖口から見えた包帯部分をもう片方の手で隠した。だが、

 

 

「コイツのことだよ!」

 

「っ!!」

 

「…………何があった?」

 

 

 知夏良は強引にその袖を捲り上げて、包帯を顕にさせる。そして、おちゃらけたムードは消え失せた、低い真面目なトーンで、そう言った。その目と声を見て、流石の遥都も舌打ちをして、抵抗をやめる。

 

 

「お前さ、見つけた以上、何やらかしてんのか吐いてもらうぞ。一応ではあるが、お前とは仲良いつもりだ。お前のこと、無視できる気もしないからな」

 

「知夏良……。わかったよ……」

 

 

 そして、事の顛末を知夏良に話した。それを知夏良を黙って聞いている。遥都がプライド高いことも、同情が嫌いなことも知っていたから。

 

 だからこそ、それだけ知っている親友(知夏良)だからこそあとから考えればこの時に全てを話しておくべきだったのかもしれない。この時、遥都は知夏良に対して、事実を偽ったのだ。吉田らとトラブルを起こしていることがバレていることは分かっていた。だが、暴力沙汰になっている所はまだバレていない。それを怪しんでいるのだろうが、遥都はそこを隠したのだ。理由は単純。巻き込みたくなかった。知夏良にまで危害を加えられたくなかった。それ故の嘘だった。

 

 

「って、感じ……。ほら、もういいか?」

 

「まぁ、なんとなくは」

 

「…………なんも聞かねぇんだな」

 

「聞かなくてもいいからな。何をしてようと、身勝手でやってるわけじゃないこと知ってるし。湊さんのためにやってることやお前が正しいと思ってることやってるって、思ってるし」

 

 

 そういう知夏良はいつものおちゃらけた笑顔ではなく、暖かい包み込むような笑顔でこちらを見る。その目が遥都にとってはとても有難かった。

 

 

「お前が1人でなんとかしようとしてる限り、別にこっちから無駄に手を差し伸べようとか上から目線なことはしないよ。でもよ、遥都。一人じゃ抱え込むのはいい、けど、一人しかいないわけじゃねぇからな」

 

 

 そして、更に彼は続けた。

 

 

「いざって時、2人で持てば、ちったぁ、楽になるっしょ。だから、もっかい言っとくぞ。1人しかいないわけじゃねぇからな」

 

 

 そう言って知夏良は教室へ戻る。綻ぶ遥都の口元。そんな表情をした遥都は階段を上る、知夏良の後ろ姿を見ていた。後ろの腰からシャツを出ている、ちょっと抜けたやつ。だけど、ちょっと頼もしく見えるその背中。

 

 

(いつもふざけているだけのやつなのにな……。こういう時だけ……。ズルすぎだろ、全く……)

 

 

 だからこそ、同時に思う。"ゴメン……"と。

 

 

 

 一方の知夏良は急いで教室へ戻っていた。少し駆け足で昇る階段、通り抜ける廊下。そして、教室へ入り、ランドセルを背負う。

 

 

(アイツ、目逸らしたよな……。全く、めんどくせぇ性格してるよなぁ……)

 

 

 事の顛末を話す遥都。彼はその時に遥都の目線を見ていた。知夏良もリサに負けず劣らずの昔からの付き合いだ。何となく遥都のクセや気持ちの表れ方ぐらいは知っている。そこから分かるのはたったひとつ。

 

 

「あのアホ……、まぁた、なんか隠してやがったな……」

 

 

 苦笑いというか呆れというか、知夏良は遥都の無駄に高いプライドに思わず口元がゆるむ。バカにしているわけではない。むしろ、親近感をおぼえているし、知夏良が遥都と仲良くしている理由の一つなのかもしれない。普段はおちゃらけでふざけているようなクラスの中心に居そうなタイプ。だが、彼の本質は根っからの世話焼き人間。遥都がどうすれば動きやすいか、あるいは全力でやるかを考え動く傾向にあった。遥都の高いプライドを焚き付け、物事に対し、努力させ、全力を引き出させる。そんな遥都の姿を知夏良もまた好んでいたのだ。

 

 そんなどうしようもない親友だからこそ知夏良は動く。まず何をしたらいいのかそれを彼なりの頭で必死で考える。あいにく、彼はこういうのはあまり得意ではない。いつもは遥都がこういうことを考えてくれるから、そして、その案を知夏良が動かすというのがいつものパターンだ。だから、彼は、こう考える。

 

 

(アイツならどう動く?いっつも、アイツは……、)

 

 

 遥都の過去の言動を手当り次第に探っていく。どこかにヒントが隠れているのではないか?記憶の引き出しを次々にあけては中身を全てひっくり返す。知夏良らしいと言えばその通りなのだろう。彼も遥都とはまた違った形ではあるが、真っ直ぐなのだ。

 

 

『まずは、人の話とか聞いてみたらいいだろ?自分じゃわかんねぇんだから……』

 

 

 これだ……!知夏良はそう直感する。残念だが、遥都みたいに頭は回らないし細かいところにも気づけない。彼にはそんなこと百も承知。ならば、周りの話を聞きそこから糸口を掴むに限る。では、誰の?彼のことを気にかけてみている人で、且つ、何か聞いても遥都に被害がいかない人。

 

 

「今井さんと湊さん以外いないでしょ……!!」

 

 

 そして、知夏良は教室へついた。都合のいいことにまだリサも帰っていない。ならば、リサを連れて、友希那のところに行くのが一番得策だ。

 

 

「今井さん、湊さんのお見舞い行かない?」

 

「え?」

 

「だ〜か〜ら〜、湊さんのお見舞い!明日本番だし、最近の遥都の様子でも伝えに行こうよ」

 

 

 少しポカンとしたリサ。それでも行ってくれるらしい。内心すごくガッツポーズを決めながら、リサと病院に向かった。

 

 その道中で初めにリサに聞いてみる。

 

 

「なぁなぁ、最近さ遥都に変わった所とかない?」

 

「ん〜、あの先生に怒られた時以来、ちょっと怖くなったよね、でも、それくらいかな……。どうかしたの?」

 

「んや、別に」

 

 

 これはリサに悟られるわけには行かない。遥都が意地張って、一人でやってるんだから、知夏良が勝手にリサに広げていいはずがなかった。

 

 そして、病院につき、友希那にも同様に尋ねてみる。

 

 

「そこでさ、何か遥都の様子が変だったこととかない?」

 

「……??言ってる意味が分からないわ」

 

「そ、そっか!ならいいんだけど……」

 

「強いて言うなら……、音楽の話を良くするようになったことかしら?あとは、そうね……。アザが少し増えたことぐらいじゃない?何か、体育でぶつけたとか言っていたけど」

 

「っ!!!あの野郎、やっぱり……!!」

 

 

 薄々勘づいてはいた。だがそれでも知夏良が血相を変えたのは、その大事に気づけなかった自分自身への苛立ちだ。

 

 遥都は事の顛末を喋る際、最初に触れた包帯についてただコケただけと言っていた。だが、それにしては大袈裟だ。そして、極めつけに今の話だ。知夏良に言ったこととは別の理由。そして嘘だと決定づける理由があった。男女別で体育は行っているから分からなくて当然といえば当然なのだが、今男子は外でソフトボールを、女子が体育館でバレーボールをやっている。だがここ一週間は男子は雨やその影響でグランドがグチャグチャなことにより、教室での保健の授業、つまりは座学をしている。そう、怪我するはずがないのだ。

 

 

「ちょっと、自分、用事思い出したから帰るわ!リサはもうちょっとゆっくりしていって!!それじゃ!!」

 

 

 知夏良は慌てて病室を飛び出し、外へ急ぐ。目的はもちろん、遥都。どこにいるのかわからない以上、手当り次第となるだろう。だが、それでも、知夏良は走り出していた。突き動かすのは友達への想いと自分の不甲斐なさ。そんな大事になっていることにも気づけなかったのかと自分自身を悔いる。

 

 

「クソっ……。そんな大事隠してたこと気づけないなんて、俺はバカかよ……!!」

 

 

 だが、ここはそんな小さな街ではない。見つからないまま、体力だけが使われ、日も落ち、時が過ぎる。そして、6時の鐘が無常にも街中に鳴り響いた。

 

 

 




「ど、どうしたんですか?紅葉さん、急に投稿ペース早めるなんて」
「いや、諸事情って……」
「病院行った方が……」
「〇すよ?遥都くん?」

先日、すごく珍しく、『女子力を身につけるのって難しい!』の方に評価がついてびっくりしています!
こちらの作品でもお待ちしてますので、ぜひ!


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英雄の影

今回、すごくすごく懐かしいキャラが本当に少しだけ登場します。
ある人に言われて唐突に登場させたくなっちゃいました‪w
まぁ、関係はないのでスルーしてもらって大丈夫です!

そして、投稿ペース、有言実行しましたよ!


 

 

「クソっ!アイツ、どこ行ってるんだよ!?」

 

 

 日が落ち始めてから既に30分は経っている。東の空から徐々に暗がりが広がり、対向車線を走る車のライトが時折眩しい。秋とはいえ、まだ9月。額に流れる汗を腕で拭う。

 知夏良は考えうる多くの路地を回り尽くしたが、それでもまだ遥都は見つからない。ここに来るまでに何度か通った遥都の家の前で、電気が一つもついていないことは確認済み。まだ、遥都は外にいるはずなのだ。

 

 

「もうすぐ、7時だもんな……。母ちゃんが帰ってきちゃう」

 

 

 背中に背負うランドセルをチラリと見ながら、知夏良は呟いた。まだ、小学生の知夏良だ。ランドセルを背負ったままならば、学校から一度も家に帰らずに遊んでいたことになる。そんなことをすれば、長々とした説教を食らってしまうのは目に見えていた。

 

 

「あと、10分だけ!ラスト10分だけ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第32話:英雄の影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の10分。もう知夏良に考えうるところは全て回った。ならば、どうするか?遥都ならここは立ち止まり、考える。だが、知夏良はそんなタイプじゃない。

 

 

「遥都なら合ってる答えが分かるんだろうけど、自分じゃわかんないから……、とりあえず、できることを……!」

 

 

 本人は過小評価しているが、これも知夏良も長所だろう。とりあえず、行動出来る強さと行動力。異様なまでの冷静さと大人びた合理的考えの遥都とは対照的なこの性格。それ故に遥都と仲良くなれたのかもしれない。

 

 

「んーーー、コッチ!!」

 

 

 自らが感じた方へ足を走らせ、感じるままに体を動かす。そして、また感じるままに交差点を曲がり、また走る。ただひたすらにそれを繰り返していた。

 

 そして、彼は彼なりのやり方で成し遂げる。

 

 

「見つけたーーーーーっ!!!」

 

 

 約15m程だろうか。反対車線の歩道で信号待ちしている遥都をついに見つける。知夏良は急いで、遥都が渡ろうとしている横断歩道の歩道へ走った。

 

 

「うわっ!んだよ、知夏良か!」

 

「なんだじゃねぇよ!!やっぱり嘘ついてやがったな!なぁあにが、『コケた』だぁ!?『体育で怪我した』だ!?殴られてただけだろ!?」

 

「ぐっ…………。友希那のとこにもいったのかよ……」

 

 

 観念したかのように遥都がため息をついて、その場に座り込む、そんな様子を見ながら、知夏良は泥や砂で汚れている遥都を見つめる。体を張ってきていることはそれを見れば一目瞭然だった。

 

 

「さっきもやられたのか?」

 

「……まぁ、そんな感じ」

 

「ったく。言えば助けに行ったのに」

 

「助けに来ると思ったから言わなかったんだよ。……ゴメンな、学校で嘘言って」

 

「そんなの、別にどうだっていいよ。てか、嘘ついてること、分かってたし」

 

 

 親友の無事な姿をみて、ホッとしたからか、怒る気にもならない。むしろ安心して心はスッキリとしている。

 

 

「とりあえず、遥都も帰ろうぜ」

 

「そのつもりだよ……。明日、本番だしな」

 

 

 そう言うとちょうど信号が変わり、目の前の横断歩道が通れるようになった。開けた道を知夏良は遥都と一緒に歩き出す。周りの大人や車が忙しそうに走る中、遥都を気遣いゆっくりと歩く知夏良が、遥都に不意に尋ねた。

 

 

「そういや遥都、そのケンカ、勝ったの?」

 

「勝ったも負けたもないだろ。ケンカになってねぇんだから」

 

「え?どういうこと?」

 

「ただ、ひたすらにボコられてた」

 

「…………なんで!?」

 

 

 急に浮かんだ質問からあまりに驚愕の事実が飛び込んでくる。遥都は決して弱い訳では無いし、むしろ好戦的な部類だった。それだけに知夏良からしたら不思議で仕方なかった。

 

 

「なんでってお前……。合唱コンクールでもし、大量に怪我してる奴がいたら印象悪いだろ?」

 

 

 あまりのあっけらかんとした答えに知夏良は愕然とする。そして、同時に遥都を改めて凄いと認める。普通自分が殴られている中、そこまで先のことを考えて、怒りを堪えられるものなのだろうか?しかもそれが一度ではないのだ。少なくとも昨日と今日で二度は受けていたのだから。

 

 

「みんなの前で取るって言ったんだから、それくらいやるよ。俺が我慢したり、悪役になりゃいい。それだけで友希那のこと証明してやれるだろ?」

 

 

 それは紛れもない本心だった。今回は夕方のように目を逸らせていない。明らかにこっちを見て、真っ直ぐな声でそういったのだ。

 

 

「カッコつけんな!バァーカ!!」

 

 

 照れくさそうに知夏良が笑顔で遥都の頭を叩く。素直に認めてやりたい、かっこいいセリフを平気な顔をしながら言える友達を誇りに思う反面、どうも照れくさい。

 

 

「いってーな!!何すんだよ!?クソ知夏良!」

 

「バァーカ、バァーカ、バァーカ」

 

「はあっ!?」

 

「って、そんな場合やないぞ!ほら、もう信号変わる、ってか、変わった!」

 

 

 車にクラクションを鳴らされ、慌てて走る二人。走りきって歩道へつくと顔を見合わせて笑う。そんな二人の横を、高校生が走りさる。

 

 

「ねぇ〜、みずくん、お腹すいたー!バーガークイーン行こーよ!」

 

「うるせぇぞ、お前に奢ると9人全員に奢ることになるだろ!てか、もう7時だろ?家に飯もあるのにそんなことしてたらまた海未にしばかれるぞ?」

 

「た、確かに……」

 

 

 それが耳に入った知夏良の顔が急に青ざめる。それは暗がりの中でも遥都に見えるほど分かりやすかった。

 

 

「7時って……」

 

「知夏良、お前、お母さんに……」

 

「急ぐぞ、伊月隊員!!」

 

 

 知夏良の家は連絡なしに七時以降は出歩かない家のルールがあった。それを同時に察知したのだ。だが、これから怒られると分かっていても、少しだけリラックスした顔の二人。隠し事を無くせた遥都と、友のことを気づかえた知夏良。お互いの心のつっかえが取れていた、そんな瞬間だった。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 そして、いよいよ当日となり、緊張からかお互いの会話が少し硬い。それでも、遥都らのクラスは最優秀賞を取った。知夏良は遥都の方を向き、すぐさま声をかける。

 

 

「やったな!遥都!!」

 

「あぁ、とりあえず一安心。最低限のことは出来たな」

 

「最低限って、お前……。まぁ、いいや!とりあえず、パートリーダー、おつかれ」

 

「ん。俺にとって大事なのはこの後だから……」

 

「え?」

 

 

 少しの疑問は遥都の視線の先への興味にかき消された。その視線の先に知夏良も思わず視線を向けてしまう。そこに見えたのは、歓喜の輪。体育館でできたかりそめの喜びの輪。その中心にいる、もう1人のパートリーダー吉田さんや川瀬だった。

 

 

「吉田さん、あの人は……」

 

「わかってるよ、知夏良。調子に乗らせとくのも今日までだから……」

 

「それってどういう……」

 

「この後、見てな。友希那の誇り、取り返すから。言ったろ?大事なのはこの後だって」

 

 

 そう言いながら、吉田さんや川瀬らを見る遥都の目はまたもや氷のような目をしていた。だが、知夏良には確かに見えた。その奥にある小さな炎。暖かみのある小さな小さな炎が。それは、遥都自身の勢いだけでない確固たる意志、それが宿っていた証拠だった。そして、代表者が呼ばれたアナウンスにより遥都は前の方へ出ていった。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 その後の帰りのホームルームで遥都が友希那の誇り、自分自身の信念を言葉の矢に乗せ、放った。"同調"という名の化け物の心臓を貫き、一瞬にして凍りつかせたその矢。知夏良はこの場で先程のセリフの意味をようやく理解出来たと感じた。

 

 

「なぁ、もう、終わったからいいだろ?その気持ちの悪い仮面外せよ、スクラップ」

 

 

 真っ直ぐに弓を引き化け物の心臓に照準を合わせる。弦が軋むような音が聞こえるほど、それは強く引かれた。そして、言葉と同時にその矢が放たれる。

 

 

「なぁ、なんか勘違いしてない?もう終わったからいいだろ。キミさ、なんの役にも立ってないし。むしろ足引っ張ってただけ。友希那のこともさ、元はと言えばキミが煽ったわけだろ?煽らなければあんなことにならなかったし、注意されたのが図星で仕方ないからそれ以外のところで怒らせた。違う?それに、後半練習仕切ってたの俺だから。キミがあまりに使えないから。キミさ、友希那に『笑える』とかなんとか言ってたらしいけど、俺から言わせればよっぽどキミの方が滑稽だったよ?」

 

「あぁ、それとさ、みんなにも言っときたいんだけど、俺が練習中、なんか言うときに見てたこのノート、友希那が書いてたノートだから。その内容をそのまんま読んでるだけ。注意されたこともメモって、病院で友希那にアドバイス貰ってたりしてたの。俺はそれを伝えてただけだから。確かに友希那にも伝え方とかには問題があったと思う。それでも、結果が最優秀賞だったってことは、あの人は何一つ間違ってない。そういう事だよね?スクラップさん??……って、返事することも出来ないのかよ。ホント、スクラップ。」

 

 

 一瞬にして凍らせた化け物を更なる矢で仕留めに行く遥都。吉田さんや川瀬だけではない、今度はクラス全員に弓を引く。

 

 

「このスクラップ同様、友希那のことをバカにしたゴミクズはまだ沢山いるだろ。生ゴミ見てぇなくっせぇ匂いがプンプンするからよぉ。そいつらにも、そいつら以外にも言っとくぞ。友希那がこれから、音楽関連のことをするときがあると思う。だけどよ、友希那は何一つ間違っちゃいない。邪魔、すんじゃねぇよ!」

 

 

 

 




「こんにちは紅葉さん」
「お久しぶりですですね、瑞希くん。元気だった?」
「はい、お陰様で……」
「今は何してるの?」
「ある学校で教員の方をやらせてもらってます。せめてものあいつらへの恩返しですね」
「そりゃ、良かった」


評価してくれた、キズカナさん、ありがとうございました!
まだまだお待ちしております!!


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歌姫がために

いよいよ佳境ですね、
過去編自体はもうすぐで終わりそうです
では、もうしばらくお付き合い下さい!


 

 

 沈黙が流れる教室。それは時が止まったようだった。凍りつく教室、遥都はその中を凛と皆の前に立ち、堂々と席に戻る。そして、遥都が席に座った瞬間に、

 

〜♪〜♬

 

 高らかにチャイムがなる。凍りついた空気が一瞬にして崩れ、クラスの時計の針が動き出す。それと同時に先生が慌てふためくように遥都を呼んだ。

 

 

「伊月くん!ちょっと!!!」

 

 

 教室の外へ呼び出され、そのまま手を掴まれ、連れ去られる。先生は去り際に皆に帰りの許可を出して、皆が遠慮気味にランドセルを背負い始めた。合唱コンクールはこうしてなんとも後味の悪い形で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第33話:歌姫がために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知夏良は職員室に連れ出された遥都を心配で待っていた。だが、既に20分は経過している。やったことを考えたら仕方ないとも思えるが、昨日や一昨日のことを見てはいないが知っている分、なんとももどかしい気分が知夏良を包んでいた。

 

 そんな時だった。教室に残る知夏良に帰ろうとしていた今井さんが声をかけたのだった。

 

 

「知夏良は帰らないの?」

 

「今井さんか。どうかした?」

 

「この後さ、クラスのみんなで友希那に最優秀賞取ったこと、話しに行くらしいけど知夏良も来るよね?みんな帰ったら一旦、公園で集合していくんだけど」

 

「ん〜〜〜、今はいいかな……。自分は遥都を待ってるよ」

 

「そっか……!じゃあ、また今度ね!」

 

 

 少し残念そうな顔をするリサに知夏良は申し訳なさを感じるも、今は親友のことを優先したい。そう思い、ランドセルを背負い、友達の元へいくリサの背中から視線を外した。

 

 その後も、半分くらいの生徒がいる教室で知夏良は外のグラウンドを見つめながら、遥都を待った。教室のざわめきも雨音により少しは薄れ、雨が降り注ぐグラウンドには誰一人おらず、遊具だけが孤独に雨に打たれている。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

「おいこら、起きろ。いつまで寝てんだよ」

 

「んあ?」

 

「『んあ?』じゃなくて……。ほら、さっさと帰るぞ。ったく、待ってなくて良かったのに……」

 

 

 あれから20分経ったのだろうか?知夏良はどうやら教室でそのまま寝てしまったらしい。そうしたら、説教から帰ってきた遥都が知夏良を起こしに来たのだ。

 

 

「けどさ、えらく長い時間怒られたね?」

 

「まぁな〜、まぁ、でも、言いたいこと言えたから良かったよ」

 

「遥都が満足してるなら良かったけどさ」

 

 

 ランドセルを背負い、帰りの用意をする遥都の横で机に腰かけ、知夏良は嬉しそうにそう言った。それを聞き、遥都もフッと口元を緩ませる。これは目の奥の炎感じ取っていた知夏良にしか出来ないことだっただろう。傍から見てもその2人が作り出す小さな正義はとても鮮やかに見える。

 

 

「あ、そういや、聞いたか?この後、クラスのみんなで湊さんのお見舞い行くらしいぜ?誰が発案したか知らないけど……」

 

「リサじゃねぇのか?言い方悪いけど、アイツ以外あんまり、友希那のこと相手にしようとは思わないだろ?」

 

「いや、多分違うと思うぜ」

 

「理由は?」

 

「だって今井さんが自分に言ってきた時、『行くらしい』って言ったからさ。もし、自分が言い出しっぺなら、"らしい"なんて付けないだろ?」

 

「確かに……」

 

 

 この瞬間、遥都の頭に2つの可能性が頭に浮かぶ。一つはクラスのうちの誰かが"同調"の空気を破り、言い出したという可能性。こちらならば友希那にとって良い風となる。だが、もう一つの可能性は……、

 

 

「その"クラスのみんな"って具体的に誰なんだ?」

 

「ん〜、自分は聞いてねぇな。言い出しっぺはさっき言った通り、わかんねぇし」

 

「なら、集合場所と時間は?」

 

「それはえぇっと……、あ、そうだ。あの公園で一旦帰ってから集合って言ってたから、そろそろじゃねぇか?」

 

「ナイス、知夏良」

 

 

 その瞬間、遥都は急いで走り出す。わけも分からず、知夏良はそのあとを追う。廊下を走りながら、急いで昇降口まで階段を駆け下りていく。

 

 

「どうしたってんだよ!?」

 

「ちょっと、嫌な予感がするだけ!」

 

「はぁっ!?嫌な予感!?」

 

「何日か前に吉田さんはあんだけ俺が煽ったら俺に仕返しをしに来た。そんで、その後の今日だ。何かしてくるって考えるのが妥当じゃねぇか!?」

 

「た、確かに……」

 

「それだけじゃねぇよ!今回、このお見舞い企画したの誰か考えてみろよ!なんでそんなイベントを俺らに伝わってないんだ?俺が怒られてたからっていう単純な理由ならいいけど、多分そうじゃねぇだろ?簡単だよ。俺らを疎ましく思ってる奴が今回のことを企画して、俺らに気づかれないように実行しようとしているんだよ!」

 

「あ……!!」

 

 

 遥都が考えていたもう1つの可能性、それは吉田さんらによる"復讐"だった。遥都に暴力をすることではすました顔でやり過ごされる。ならば、アイツの頑張りの根源を無くしてしまおうという考え。つまりは友希那に何らかの嫌がらせをしてしまおうということだ。

 

 

「分かったなら、知夏良も急いで!」

 

「分かったよ!てか、自分より遅いくせに前でんな!」

 

 

 冗談めかしていう知夏良がアクセルをふむかのように一気に加速をして、遥都の前を走る。負けじと遥都もグングンとスピードを上げていく。そして、学校を飛び出し、公園へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 一方で、遥都らが昇降口から飛び出して10分ほどたった頃、待ち合わせ場所となっているはずの公園には、リサが来ていた。

 

 

「ゴメン〜!ちょっと遅れた!」

 

「全然、大丈夫だよ〜!吉田さんたちがまだ来てないし」

 

 

 集合時間は特に決まっていなかったが、帰ってからすぐという約束だったので、既に何人かの女の子がここに来ていた。

 

 

「吉田さん?あの子来るの!?」

 

「リサちゃん、知らなかったの?」

 

「う、うん……。他に誰が来るの?」

 

「えっとね、川瀬くんとか。あの吉田さん達のグループが言い出したらしいよ?」

 

「え?」

 

 

 リサは少し困惑した。リサの目からも吉田さんや川瀬らが友希那に対し、嫌悪感を覚えていたのは分かっていた。それなのに、そんなお見舞いのようなイベントを起こすとは考えにくい。そんな短時間で嫌悪感は払拭できるものなのだろうか?プラスに捉えるなら、心を入れ替えたということなのだが……、

 

 

「とりあえず、もう少しだけ待ってみようよ」

 

「そ、そうだね……」

 

 

 不安な気持ちはそのままにリサはその友達と公園で待ち続けた。

 待ち始めてから10分程だろうか?少しずつ、人は集まるものの、やはり吉田さんらは来ない。

 

 

「ど、どうしよう。もう、時間も時間だし……」

 

「あれ!?まだいる!?」

 

「マジか……。ラッキー!!」

 

「遥都?それに、知夏良!?」

 

 

 息切れをしながら、公園の入口に立つ二人。公園内で待ち合わせをしていた、十人弱の同級生がリサの声に反応して一斉にこちらを見た。

 

 

「リサ、なんでまだみんないるんだ?」

 

「だって、まだ来てないし……」

 

「誰が?」

 

「言い出した吉田さんとか?あと、川瀬くんもかな」

 

 

 リサの答えに遥都と知夏良は目を見合わせて、コクリと頷いた。嫌な予感というものはやはり的中するものだ。では、その予感に対応する、防止する最善策を尽くす、その想いが今の一瞬のアイコンタクトで共有する。

 そして、遥都がコンマ数秒で考え出した、最善策を行動へ移す。

 

 

「吉田さんが体調悪くなって急に来れなくなったらしいよ。だから、吉田さんの仲いい子は後日、まとまって行ったら?だから、今日はみんなで遊んできたら?俺はここに残って遅れてきた人に伝えとくから」

 

 

 フワッとした笑顔。できるだけ悟らせないように自然な表情で、後から何を言われたっていい。それでも今は……。戸惑うみんなの前で、遥都は表の仮面とは裏腹にバクバクと大きく鳴る心臓。それが必死さを表していた。

 

 

「なーんだ、なら、みんな行こうぜ。せっかくならみんなで行きたいしな!」

 

 

 わざとらしく知夏良が大きな声でそう言った。どう行動していいか迷うみんなの雰囲気を変えるためだ。そして、それを行ったのは……、

 

 皆がリサに続いてぞろぞろと公園の外へ向かう。知夏良は靴紐を結び直していたためか、後ろから少し駆け足でみなの背中を追いかける。そして、すれ違いざまに……

 

 

「貸し、一、だからな。全部終わったら今度は嘘なしで全部吐いてもらうからな。……けど、託したぞ。信じてるからな」

 

 耳元で遥都以外の誰にも聞こえないようにそう言った。さっきの大声もこの行動も全ては遥都のため。こいつなら信じられる、そんな思いからだった。

 

 

「ありがとう……」

 

 

 遥都もその想いの重さと有難さを改めて思い知る。こんなにも頼もしい友達がいたのだ。こんなに心強いことはない。

 

 背中の向こうで皆の元へ向かい、また楽しげな会話をする知夏良に大きな感謝を手向ける。

 

 

「よしっ……」

 

 

 皆が見えなくなるのを見届けた後、遥都は小さく気合を入れた。幼馴染の誇りと信念、親友の信頼と期待、それらの重みをもう一度噛み締め、大きく息を吐き出し、心を決める。

 

 

(吉田さんとかが首謀者なら、嫌がらせが目的。それを行うはずだったのに、リサや知夏良に伝わったことでやりにくくなったから咄嗟に計画を変えたのだろう)

 

 

 公園の時計台の時刻をチラリとみた。時刻は3:35。今日来るかどうかも分からない。だが、それでも、友希那に被害をいかせることだけは遥都には許せなかった。だから、遥都はその瞬間、知夏良らが出ていった反対の出口から飛び出した。

 

 

(吉田さんはせっかちなタイプ。一々、時間を置いてとかそんなまどろっこしいことをするタイプじゃない。やるなら今日!!)

 

 

 普段なら絶対渡らないような危険な車間距離でも今日は違った。いち早く、病院に回り込みたかった。クラクションを鳴らされながらも最短距離で遥都は病院へ向かう。

 

 遂に背中を捉えた。場所にして病院と公園のちょうど真ん中あたり、人気のない路地。

 

 

「見つけた……っ!!」

 

「なっ!?伊月ぃ!?」

 

「遥都くんっ!?何しに来たんだよ!?」

 

 

 

 




「知夏良くん、かっこいいことするねー!耳元でボソリなんて……」
「いやぁ、素材がいいですからね!」
「やられた遥都くんもキュンキュンしてるんじゃないの!?」
「そぉなんですよ!!いやぁ、紅葉さんも分かってる!」
「でしょー?というわけで、読者の皆さんにも言ってあげて?」
「分かりました!では……"託してるぞ、信じてるからな"」
「きゃー!かっこいい!」

名無しの大空さん、評価ありがとうございます!
あとバー満タンまでもうすこしですので、皆さんもぜひ!

過去編終了まで……残り2話


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英雄の最後

いよいよ、あの事件が……
大方の予想はつくかもしれませんが……、大きな謎が解けますよ。
そして、私が密かに好きなあのキャラ、全推しです


 

「なんで、お前こんなとこにいるんだよ……?」

 

「別になんでもいいですよね?それより、君らが揃いも揃って、友希那になんかようですか……?」

 

 

 乱れる息を無理にでも整えながら、遥都は虚勢を張る。正面にいるのは、吉田さんや川瀬、計6人。男子が川瀬も含め4人に女子が吉田さんともう1人だ。

 

 

「別にあなたに用って訳でもないわよ」

 

「そりゃそうですよね。友希那に用があるんだから。ほら、その吉田さんが大事そうに持っている紙袋、見せてくださいよ。やましいものが何も無いなら見せれますよね?」

 

「ぐっ……」

 

 

 遥都は一連の態度を見て、自分の嫌な予感が当たったことを確信し、吉田さんらを言葉で追い詰める。トップがゆらげば、組織全体が揺らぐ。これはいかに小さな組織でも変わらない。吉田さんのたじろぎと共に、後ろにいた数名の顔が歪んだ。

 

 

「ほら、別に川瀬みたいにボコボコと殴るとか言ってないんです。早く白状して、見せちゃった方が楽ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第34話:英雄の最後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人気のない路地に嫌な空気が立ちこめる。時折、吹き抜ける風が不気味に服を靡かせ、汗を嫌に冷やしていく。

 

 傍からみれば、一人対六人で圧倒的に吉田さんらが有利なはずだ。だが、その時の空気は完全に遥都が支配しているように見える。

 

 

「……いいぜ、見せてやる。吉田、それ、貸して」

 

 

 その雰囲気を切り裂く、川瀬の声。ハッとするように吉田さんは川瀬に紙袋を託す。川瀬はそれを受け取るとニヤリと笑いながら、こちらへ近づく。

 

 

「ほら、これ、受け取れよ。お前が望んでたもんだろ?」

 

 

 グッと紙袋を持つ手を突き出し、遥都の体ほんの70cm程のところへ持っていく。遥都はそれを受けるしかなかった。

 

 

「ありがっ…………!!」

 

 

 痛烈な痛みが脇腹から全身へ広がる。紙袋は大きく飛ばされ、路肩へ転がる。遥都自身の体も、右側へ大きく崩される。

 流石の遥都も油断している状態ではまともにダメージを受けてしまう。川瀬の蹴りはこんなタイミングで仕掛けてくると踏んでいない遥都にとって、それは致命傷だった。

 

 

「テメェ……!!」

 

「流石にお前も調子乗りすぎだ。おい、お前らもやるよなぁ!?」

 

 

 立ち上がろうとする遥都だったが、右側の肋に異様な程の痛みを感じる。痛みにより、再びよろける遥都。その瞬間を川瀬が見逃すはずがなかった。川瀬が後ろで呆然としている男子を促す。我に返ったように男子は背負っていた荷物を下ろすと、嫌な笑顔を浮かべこちらへ近づいてくる。

 

 

「ほら、スクラップの俺らがお前を本当のスクラップにしてやるよ!」

 

 

 その掛け声と同時に男子4人が一斉に掴みかかった。蹴り、かかと落とし、殴り、肘打ち。あらゆる手段を使って遥都の体に次々にアザを作る。

 

 

「そういや、お前、全然反抗してこなかったよなぁ!?なんだ、お前こそヘタレのゴミ野郎じゃねぇか!!」

 

 

 物理的な暴力に留まらず、罵詈雑言も飛び交う。その内、見て笑うだけだった女子も手に持っていた傘を武器に使い参加し始める。

 

 

「遥都くんさ〜、何したいの?」

 

「それな!吉田の言う通りだよ、全く。なんかしゃしゃり出てきたと思ったらボコられるとか。意味わかんなくね?」

 

「元パートリーダーと2()()()()()()"何も出来ないコンビ"じゃん!」

 

「吉田、上手すぎな!ほら、言ってみろよ、『()()()()()()()()()の伊月で〜す』って!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プツリと遥都の中で何かが切れた。吉田さんが振り下ろした傘を右手で掴み取る。その瞬間、吉田さんを睨みつけた。氷のような目、それを通り越した、形容し難いその威圧感。そして、その威圧感は先程まであった目の奥の炎すらも凍りつかせる。

 

 

2()()()()()()?仮にも俺はいい。俺だけなら我慢すりゃいいだけだ。けど、アイツは違うだろ……?教室で言ったよな?『友希那のアドバイスに従っただけ』って。それが結果として現れた。これが確固たる証拠じゃねぇか!!お前ら言ってたよな。『何が"本物のボーカリストの子"ですかぁ?』ってよ。……そもそもがちげぇんだよ。あいつ自身が本物のボーカリストなんだよ!スクラップ共が友希那のこと、バカにしてんじゃねぇよ!!!

 

 

 次の瞬間、遥都が変わった。掴んでいた傘を奪い取り、川瀬の溝に突き立てる。そのまま、蹴り。もう1人の女子からも傘を奪うと、それをも使い、瞬く間に男子4人を突き飛ばす。

 

 

「ついでだから教えてやる。俺がお前らに反抗しなかったのは合唱コンクール前にそんなトラブルを起こして、悪印象だったり、クラスで話し合いとかをしたくなかっただけだ。それを心配する必要がなくなった今、分かるよな?」

 

 

 突き刺すような目線と共に傘の先端を川瀬に向ける。青ざめる川瀬、吉田。後ろの男子のうちの一人が散らすように逃げようとするが、遥都が許すはずがない。

 

 

「勝手に逃げんなよ……」

 

 

 一瞬のうちに追いつくと、襟を掴んで、地面に押さえつけると、膝裏の筋を思いっきり踏みつけ捻じる。切り裂くような悲鳴とともにその子はその場にばたついた。そして、トドメと言わんばかりに顔面に蹴りを入れる。

 

 

「伊月!やりすぎだぞ!!」

 

「あぁ?お前らが今まで俺にやった事に比べればこれくらい普通じゃねぇか?という訳で、次、川瀬、お前な……」

 

「ヒッ……!!」

 

「だから、逃げんなって……」

 

 

 いくら空手をやっていたとしても、心が折られていた川瀬はもはや並以下だった。傘のU字になっている所を股下から潜らせ、容赦なく引っ張り続ける。泣きわめく川瀬だったが、これも遥都が顔面にもう一方の傘で殴りつけることて黙らせた。

 

 

「おい、残ってる4人、お前らもだからな……」

 

 

 吉田さんを中心に路肩で震え上がる4人を遥都はまた睨みつける。完全に腰が抜けてしまっている残りの男子2人はもう簡単だった。傷口を傘や足で抉り、急所や顔面に次々に蹴りや突きを食らわす。骨は男子4人で何本折れているだろうか?それだけではない。人によっては前歯がおられていた。あるものは足があらぬ方向へ曲がり、あるものは傘の先端を突き刺され、白い服の一部が赤黒く染まっている。

 

 

「さて……、残りは女子のお二人さん。どうして欲しい?」

 

 

 遥都が不敵な笑みを浮かべ遥都は一歩、また一歩と二人に近づく。そこら中がアザや傷だらけなのにも関わらずその目は死んでおらず、爛々と怪しげに輝く。

 

 

「ちょ、ちょっと、もう、私達なにも、しないから……」

 

「ごめんなさい……!だから、もう……!」

 

「謝れば済むとでも思ってるの?……済むわけないじゃん」

 

 

 冷徹な目で二人を見下ろし、そして、遥都は両手に持った傘を振りかざす。

 

 

「バイバイ」

 

 

 冷ややかな笑顔と共に遥都は全力で両手に持った凶器を振り下ろす。下の二人は泣きわめき、必死に謝り続ける。だが、遥都の手が止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りに鈍い音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何してるんだよ?知夏良」

 

「腐ってても、女子だぞ」

 

 

 二人を覆い被さるように自身の腕で傘を止める、知夏良がいた。痛みに顔を歪ませながらも、その目は真っ直ぐに遥都を見る。

 

 

「男が女子に手を上げたらダメだろ?そんなことしたら、アイツらよりクズだと自分は思うぞ」

 

 

 純粋で真っ直ぐな気持ちというのは人を簡単に変える力を持っている。普段から裏表のない知夏良が言うとその力は何倍にもなる。その力は見えずとも確かに存在し、遥都の目を覚まさせた。そして、ハッとするように力が抜け、目の色がスっと消えた。我を忘れ、狂気のままに動いた自分が怖かった。

 

 

「………………」

 

「とにかく、倒れてるやつ何とかして、今日は帰るぞ。もう時間も時間だから」

 

「………………」

 

 

 無言のままその場に立ち尽くす遥都。知夏良はそれを見て、小さなため息をつくと、遥都の頭を軽く叩き、肩を組むように遥都を前へと進ませた。知夏良に引きずられるように遥都は歩く。

 何度も蹴りつけた足は痛みを発し、不自然な歩きをする。頭からは血が垂れて、顔に真っ赤な線を刻む。何ヶ所も腫れ上がった腕、顔。それら全てが遥都が空気から受けたもの。横を歩く知夏良もその姿を見て、何かを声をかけようとするも、かける言葉が見つからず唇を噛み締める。

 

 薄暗いオレンジだった頭上の空、今はもう暗く、夜の近づきを表す。東の空には今にも消えてしまいそうな、一番星。もう、役目を終えたかのように虚ろに光っていた。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると、友人に連れられて傷だらけでもどってきた我が子に親は驚愕し、急いで病院に連れていかれ、整形外科でレントゲンを取った。何があったか詳しく聞かれたが、コケたと誤魔化し続けた。親も嘘をついていると分かっていただろうが、それ以上は聞いてこなかった。

 

 痛みに揺れる頭でその日のやるべきことをやっとの思いで終えると直ぐにベッドに横になった。うつ伏せで枕に顔を埋め、痛む体にグッと力を入れる。何度も何度も頭の中に蘇る、アイツらの嘲笑う顔、その映像が止まることはなかった。その映像が流れる度に、アザがズキズキと痛む。

 

 

「……っ!!!」

 

 

 その日はひたすらにそれの繰り返しだった。痛みに耐え、それが終わればまたあの映像と痛みと戦う。時計の針とは裏腹に全く変わることない映像と痛みが繰り返された。

 

 そして、気づいた頃には、東の空がゆっくりと明るくなっていく。日をまたぎ、翌日の朝がすぐそこに来ていた。ムクリとベッドから起き上がり、クマが目立つ目を擦りながら、洗面所に立つ。鏡に写る遥都の姿は昨日とは全くの別物だった。顔も含めそこらじゅうに貼り付けられたガーゼや絆創膏、赤黒いアザ。それを見てまた苛立ちが込上げる。

 

 

「クソが……っ!!!」

 

 

 その場で壁を殴る。それでも収まることの無いムシャクシャとした気持ち。遥都は玄関へ走り、まだ日も昇っていない外へと飛び出した。ただひたすらに、この苛立ちを、復讐心を何とかしたくて、

 

 

「あぁーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 まだ薄暗い町。その中に遥都の叫び声だけが大きく響いた。

 




「紅葉から真面目な話があるそうです」
「今後、一日に2話投稿なども有り得るかもしれません。話数に注意しながらご覧下さい!」
「続いてはお天気です!ソラシロー??」

とまぁ、ホントのことです!話が繋がらなかったら目次を確認してみてくださいね!
評価してくれた、リメイルさんありがとうございます!!
終盤ですがまだまだ募集中です!


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英雄の犠牲、英雄との別れ

いよいよ過去編ラスト。

そして……もう……、


 

 あれから何時間ぐらいだろうか?日曜日の空は生憎の土砂降り。明け方から歩き回った上に、一睡もしていない遥都にしたら体力的にも少しキツかった。

 

 

「帰るか……」

 

 

 湿り気を帯びたシャツをパタパタとさせ、遥都は痛む足を引きづりつつも家路に着いた。暑さと痛みとそれから後悔の念と、それらが混ざり混ざって視界がぼやけ、真っ黒なアスファルトに吸い込まれそうになりながらも遥都は歩き続きけた。

 

 帰り始めてから20分後ぐらいだろうか。見慣れた家がようやく見え、その扉のドアノブに手をかけた。

 

 

「ただいま……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第35話:英雄の犠牲、英雄との別れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、なんのことか全くと言っていいほど理解ができなかった。玄関には母親が仁王立ちして、上からこちらを睨みつける。その目線は少なくとも良いものではなかった。むしろ、怒り。そういった感情の目線だった。

 

 

「……遥都、あなた、昨日のケガについて説明しなさい」

 

「…………」

 

「説明しなさいっ!!!」

 

 

 黙り込む遥都に対し、母が怒鳴り声を上げる。普段から厳しい母だったが、この日は格別だった。今まで受けてきたどの怒鳴り声よりも怖かった。

 

 

「べ、つに……」

 

「嘘つくなって前から言ってるでしょっ!?」

 

「……っ」

 

 

 目を合わせることも出来ず、遥都は玄関で靴も脱がずに俯いたまま。激昴する母はイライラするかのように黙り込んでる時間、組んだ手の指をしきりに動かす。

 

 だが、それでも、遥都が口を開くことは無かった。見かねて母が話を前に進める。

 

 

「さっき学校から電話がかかってきたわよ。昨日、えらく暴れたらしいわね……。しかも、骨折や病院送りにまでして……、なんてことしてくれたの!?」

 

 

 再び怒号が家の中に響いた。先程よりも遥かに大きな声。二階にいた父もそれを聞いて、様子を見に降りてくる。熱くなっている母親に父親が宥めるように事情を聞く。その間も遥都は俯いて黙り込んでいた。

 

 

「なんとか言いなさいよ!!!どうせ、なんにも考えてなかったんでしょっ!?周りへの迷惑、その後のこと!!どうなの!?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、遥都は母親を睨みつける。まるで、『そうじゃない』『きちんと理由はあったんだ』と言わんばかりに。俯いていたが急に睨みつけられ母親は少したじろぐ。

 

 

「い、言いたいことがあるならはっきり言いなさい!!」

 

 

 母はたじろぎを隠すように必死に言葉をつなぐ。父親はただただ黙ってその様子を見ていた。そんな二人の親の姿を睨みつけるように見る遥都。そのまま、お互いに黙り込む時間が流れる。

 

 だが、その様子を見て、父が動き始めた。

 

 

「お母さん、遥都と一緒に謝りに行くんだろ?用意してきて。その間に俺がこいつと話す」

 

 

 そう言って、遥都の腕をグイッと掴むと、リビングへと連れていった。母親は気を落ち着かせるためか溜息をついて、大きな足尾を立てながら2階へと上がっていった。リビングに連れていかれると、床に正座をして、父親はソファに腰掛ける。前かがみになりながら、遥都の話を聞いた。

 

 

「さて……、お前、なにしでかしたんだ?」

 

「別に……」

 

「別にだったらお母さんあんなに怒んねぇだろうが。着くならもっとマシな嘘つかんかい。それで、本当は?」

 

「…………殴り合いした」

 

「それで?」

 

「相手の男子に怪我させた」

 

「他には?」

 

「…………特に」

 

「……はぁ、よし分かった。他にお前はやっちゃいけないって俺が散々言ってきたことをやろうとしたんだよ。とにかく、他はどうだっていい。俺はお前がそれをやったことだけは許さん。全く、お前は何考えていたんだ……」

 

 

 そう言って呆れたような父親はソファを立った。こちらもイラついているのか、徐々に声が低く威圧的になっていく。遥都はなんのことか、頭が回らなかった。疲れと緊張のせいか考えることが出来なかったのだ。

 

 そして、十数秒後ぐらいには母親が黒基調の服装に着替えてきて、俺を連れていく。学校で先生や校長に怒られ、そのまま相手の男子の家にいき、謝る。それをひたすら繰り返す一日だった。

 

 

『申し訳ないですけど……、教師側としても……』

 

『お宅の息子さんはなんなのですか!?』

 

 

 そんな言葉が節目節目に聞こえてくる。それが聞こえる度に、いや、母や父に怒られていた時からだったかもしれない。その度に遥都の心の中では『ちがう。そうじゃない』と叫ぶ。アイツらが自分の都合のいいところだけ言っているのは何となくわかっていた。自分に正義があると思っていた。だが、それが言葉になることはない。一生、棺の中に閉じ込められて、遥都は自身で鍵をかけた。そして、こう刻み込む。

 

 

『確かなものが無いことが唯一確かなことである』

 

 

 自ら鍵をかけ、心の奥底に沈めたその棺がもう上がってくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 翌週からの学校。噂の広がりというのは予想よりはるかに早い。朝、遥都が教室に入った瞬間にざわつき、そそくさと皆が避け始める。うっすらと聞こえてくる、声はどれも、アイツらを擁護するものばかり。

 

 

「ねぇ、あの子がやったんでしょ?」

 

「そうそう!怖いよね〜」

 

「金属でボコボコにしたらしいよ」

 

 

 噂というのはいい意味でも悪い意味でも大きくなる。聞き手の都合のいい部分だけが盛られて伝わってしまう。だが、聞き手はそれをあたかも真実のように捉えてしまう。しかも、伝わるのは恐ろしく速い。"無勢に多勢"とはよく言ったものだ。伝わるのが早い分、聞いた人も多い。だから、一度出回った噂は絶対に消えやしない。引っ込みはつかなくなり、意見することさえできない。そう思ったのはこの頃だろう。

 

 

「好き勝手言いやがって……。おぃ……、遥都?」

 

「いいから。知夏良も同じ目にあうぞ」

 

 

 近くに来ていた知夏良がクラスに一喝しようとする。だが、遥都は虚ろな目でそれを止めた。

 

 

「で、でも、このままじゃ、お前が……!!」

 

「むしろこれで良かったんだよ。このまま俺は悪者のままでいい」

 

「なんで!?」

 

「そうすることで、友希那の話題がなくなるだろ?毒を以て毒を制す、ならぬ、噂を持って噂を制すってところ」

 

 

 そういう遥都に知夏良は何も言えなかった。もどかしい気持ちの行きどころが無くなり、机の足を蹴る。大きな音が教室に響き渡り、皆が黙りこくった。だが、それも一瞬で数秒後にはまたコソコソと話し始める。

 

 

「クソっ……。ムカつくな……!!」

 

 

 知夏良がそういうと同時に扉が開き、また新たにクラスメイトが入ってくる。そこにはあの時にいた女子二人の姿があった。その二人を見るなり、クラスの女子や男子がその人のところに駆け寄り、見せかけの心配と返しを始める。知夏良はそれを見て、さらにイラつきを見せた。

 

 

「ちょっと行ってくる……」

 

「……知夏良?何する気だよ?」

 

「別に変なことをする気はない。遥都の気持ちも無駄にはしたくないし。けど、アイツらに一言だけ言いたいことがあってな」

 

 

 それだけ言うと、知夏良は怖い顔をしながらその集団に入っていった。少し心配になりつつも、遥都は窓の外に視線を移す。久しぶりの快晴。だが、遥都の目に写る雲ひとつない青空は、むしろ寂しく見えていた。

 

 一方の知夏良は集団の中を中心へと進む。

 

 

「あら?佐山じゃない。昨日はマジあんがとね!マジ助かった!」

 

「そうそう!さんきゅー」

 

 

 吉田さんともう一人が笑顔でそういった。だが、話しかけられても知夏良の表情は一つもかわらない。あの怖い顔のままだ。

 

 

「…………お前ら、遥都の気も知らねぇで」

 

「なに?なんて言ったの?」

 

「ちょっと、話がある」

 

 

 そう言って、無理やりにでも二人を連れ出した。そして、人目につかない特別教室が並ぶ3階へと連れていく。

 

 

「急にどうしたの、佐山?」

 

「お前らがどうしてそんなにヘラヘラ笑ってんだよ!?」

 

 

 急な怒号に2人がビクつく。普段、温厚な知夏良。それなのに、見たこともないような顔で怒鳴ったのだ。

 

 

「で、でも、あの時佐山は私たちを助けたじゃない!!」

 

「助けたわけじゃねぇよ!!遥都が後から後悔しないようにしただけだ!別にお前らのためじゃねぇよ!!」

 

 

 廊下に響き渡る怒鳴り声が空気を震わせる。遥都には勝らずとも劣らない、そんな知夏良の覇気。それをまともに受け、女子の2人はまた腰が抜ける。

 

 

「別に遥都を悪くいうつもりはないけど、あれは確かにやりすぎだ。けど、アイツは無駄に大人だから、大抵の事は流してくれる。それでも今回は流せなかった。お前らが流させなかったんだよ!なのに、変に勘違いしてヘラヘラと……!!昨日、自分が止めてしまった遥都のうでを俺が代わって、振り下ろしてやりたくて仕方ねぇよ!!」

 

 

 震える知夏良の肩。そして、彼は必死に落ち着かせるかのように大きく息を吸い込み、静かに続けた。

 

 

「もう流れちゃった噂に関してはもうどうしようもない。だから、これだけは守れ。遥都がそこまでして守りたかったものだから。

 

"湊さんを、あの人の音楽を、バカにするな。そして、あの人に二度と近づくな。それから、暴力沙汰のことは湊さんに絶対に伝わらないようにしろ"

 

頼むから。アイツが自分を犠牲にしてまでやったんだから」

 

 

 そう言う知夏良の目にはうっすらと涙が見えた。最後の方も少し涙声でしゃべる。そんな知夏良の姿に流石の女子達も首を横には振れなかった。その姿を確認し、知夏良は涙を袖で拭い、階段を降りていった。

 

 教室に戻った知夏良は遥都の席に戻る。周りから避けられ、ポッカリと空いたスペースに座ると、机に突っ伏していた遥都を起こした。

 

 

「わり……。やっぱり我慢できなかった」

 

「そうか……、でも、ありがとうな」

 

「こっちこそ」

 

 

 そうボソリと呟くと知夏良も遥都も黙りこんだ。クラスメイトが登校するにつれ、徐々に騒がしく、明るくなっていく教室。それとは正反対の二人がクラスから妙に浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 いつかある人が言った。

 

 The most I can do for my friend is simply to be his friend.

 

 意味は"友人のために私がしてあげられる一番のこと、それは、ただ友人でいてあげること"。知夏良は遥都のために真っ直ぐに動いた。それが本人を危険に晒そうとも彼は躊躇をしない。それは彼が友達でいたいから。彼にとったら遥都の横にいることが一番楽しいからから、そして、同時に全幅の信頼を彼に置いてるからだろう。

 

 

 いつかある人が言った。

 

 英雄は死することで完成する

 

 かの皇帝ナポレオン・ボナパルトも、欧州全土の統一をあと一歩のところで、この世を去った。同様に、天下統一を目の前にまで迫り、第六天魔王と恐れられた織田信長、フランス革命のヒロイン、ジャンヌ・ダルク、明治維新の立役者、坂本龍馬。そして、キリスト教という後世に大きく名を残した宗教の基礎をつくりあげたイエス・キリスト。

 

 彼らの死と引き換えに後の世にどれほど大きな影響を与えたか。知らぬ人はいないだろう。彼らは己の命をとして戦い、そして散っていった。その散りざまを、想いを目の当たりにし、後に民は心を打たれるのだろう。

 

 それは彼らとて、同じ。遥都の自分の犠牲も考えずに、巨大な空気に立ち向かい、そして、その空気の根源を叩いた。これを英雄と呼ばずしてなんと呼ぶ。だが、それに気づくのはまだ先のことだった。

 

 チャイムがなる数秒前。頭の中にあの言葉が浮かぶ。それに答えると同時にチャイムが鳴り響き、英雄として、あるいは本来の伊月遥都としての、幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの子の英雄になってあげて?』

 

 

 

 

 

 

 

『こんな形だけど、なんとかなれたよ、英雄に』

 

 

 

 

 

 

 

 




流石にそろそろ真面目に話をしようかなと思いまして。
残り9人で赤いバーがMAXまで埋まります!まだしてない方いればお願いします!ホントにお願いします……。

それから、所々の修正をしてます。過去編は今までの話の伏線の回収をしまくってますので並行して呼んでくれると楽しめるかもです!

そして、残り1話です……


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居場所
英雄の居場所


ここまでご愛読ありがとうございます!
最後の方は駆け足となってしまいましたが、ここで最終話となります。最後はどうなるのか?皆さんお楽しみに!!

それではどうぞ!


 夜の街を静かに三日月が照らしている。そんな鋭くも美しい三日月が照らす街の、そのうちの一件、予想以上に壮絶な過去にRoseliaの5人が言葉を失う。

 

 俺にとってもその沈黙は居心地が悪い。かと言って、どうしていいかも分からないから、向こうが頭の整理を待つしかなかった。秒針の音が急かすように、自分達の緊張の糸を引く。周りの空気も張りつめ、今にもバランスが崩れ、崩壊しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第36話:英雄の居場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンとした部屋。時折、家の前を通る車の音がうっすらと聞こえてはすぐに通り去っていく。話が終えてから何分がたっただろうか?アタシは未だに言葉を発せずにいた。アタシはそんなことが起きていたことなんて微塵も知らなかった。もちろん、トラブルになっていたことは知っていた。だが、遥都が裏でも闘っていることを感じすらしなかったのだ。

 

 

(アタシは……)

 

 

 遥都に対する申し訳なさ、そして、何より自分の不甲斐なさを痛感する。仮にも、遥都とは腐れ縁で他人よりは触れ合う時間は長かった。だが、気づけなかった。いや、もしかしたら気づいていたが、無意識にアタシが"同調"したのかもしれない。そう思うと余計に悔しい。

 

 

「アタシ、一体何をして……」

 

「リ、リサ姉……」

 

「今井さん……」

 

 

 自然と頬に伝う涙。とどめなく流れるそれはスカートに静かに落ちる。紗夜がアタシに無言でハンカチを渡してくれるが、アタシは受け取る気にすらなれない。何が『トップ3には入る長い付き合いだから大体のことはわかる』だ。ちっとも分かってないじゃないか?結局、アタシの自己満足。そう感じてならない。

 

 その横で友希那も、表情は変わらないものの、俯いたまま。流石の友希那もなにか思うところがあるのだろう。

 

 うなだれる2人を見ながら、遥都は話をまとめる。

 

 

「そんな感じのことがあって、俺は避けられるようになった。知夏良は構ってくれたけどな。それでも、この当たりの小学校の伊月って名前が暴力で大怪我させたっていう噂が拡がって、クラスが知夏良と離れたら1人だった。どこにも居場所なんてなかった。高校まで来ると少し薄れつつはあるが、やっぱり完全に消えることは無いからな」

 

 

 再び、沈黙。それをなんとかしたいと感じたのか、氷川さんがこちらに問掛ける。

 

 

「金属棒というのは……」

 

「多分、傘のこと、その瞬間だけが誇張され伝わってしまったんじゃないか?」

 

 

 なるほどと言うように氷川さんが頷く。引っかかっていたものが取れたのか、口角が少し上がる。

 

 

「安心して貰えたようで何より」

 

「えぇ、あの時はすいませんでした」

 

「いえいえ、こちらこそ敵意むき出しで……」

 

 

 2人でお互いの顔を見る。初めて、まともに目を合われた気がした。初対面の頃とは打って変わった、冷たい青ではない優しい青。練習への真剣さや意外と仲間思いな所、そして、友希那やリサのことを真剣に考えられるところ、それは仲良くなるはずだと俺の中で勝手に納得する。

 

 

「追加で質問させてください。では、どうしてこんな大事なことを今までお二人に言わなかったのですか?」

 

 

 氷川さんがストレートに聞いてくる。少し背中に悪寒が走ったが今はもう大丈夫。遥都は何故か自信を持ってそう言えた。

 

 

「2つ理由はある。友希那に負い目を感じて欲しくなかったんだと思う。これはあくまで俺が行ったこと。そういう風で終わらしたかった。友希那の足枷になりたくなかった。半分は俺の恨み辛みがあるけどね。そして、もう一つなんだけど、いくら止めても噂は止められない。せっかく湊さんの件の噂が塗り替えられたのに、『俺=暴力』という噂が立ち回る中、湊さんが俺のその噂で何か言われないように、って思ったからだな」

 

 

 氷川さんが少し呆れ顔になりながらも、納得したような顔を見せる。そして顔を湊さんとリサに向けて俺はこう続ける。

 

 

「だから、リサも湊さんもそんな自らの責任みたいな感じにしなくていいよ。だって、俺が隠したんだから、知らないのが当たり前だよ」

 

「で、でもっ!アタシは遥都が頑張ってるのに、何も……、何も出来なかった!!」

 

 

 必死にリサが大声で遥都に対して叫んだ、いきなりの叫び声に宇田川さんや白金さんがビクリと大きく体を震わす。確かにリサが止めることも出来たかもしれない。それ故に彼女はより一層、強い責任を感じているのかもしれない。

 

 

「リサ、人には向き不向きがあるんだよ。リサはこうやって人を脅すようなことより、元気づけたり、前を向かせること。それがあなたの能力だよ」

 

「でも!それだとしても、アタシはなんにも出来てない!ただの役立たずだった!!!」

 

 

 リサは再び大声でそう叫ぶ。涙ぐんだ声が部屋の中に響き渡り、前かがみになってリサは机に乗り出していた。

 

 

「…………してるよ?今日、こうやって話そうとさせてくれたこと、リサの言葉がなかったら俺は一生しなかったと思う。そうしたら、一生こうやって、真剣に本音で話し合う機会なんて来なかった。それこそ、ここに俺の居場所なんてなくなってたよ。感謝しかない。本当にありがとう。だから、役立たずなんて言うな」

 

 

 そう言って俺はリサの頭の上にポンと手を置く。

 

 

 

 

 アタシの頭の上に置かれた手からじんわりと温かさが伝わり、アタシの嫌なものを全て溶かしてくれる。とても、安心するような懐かしい、そんな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっかい、いうよ。本当にありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一言かもしれない。だけど、アタシの心は十分すぎるほどにその一言に救われた。自然に涙が零れ、大きな声でアタシは泣いた。

 

 今まで止まっていた時計が動き出し、アタシと遥都の時間を再び刻み出す。それは今はまだゆっくりかもしれない。だけど、中学や高校に入ってから関わりを持ててなかったぶんをも取り戻す。そんな意志を持ってまわり始めたようだった。

 

 

「湊さんもいい?」

 

「……えぇ、私達のためにやってくれたこと、それだけ聞ければ私もスッキリしたわ。だから、私からも言わせて?ありがとう」

 

「こちらこそ、色々ごめんなさい」

 

 

 湊さんもスッキリとしたようで、穏やかな顔になる。そして、そのまま続けた。

 

 

「謝るようなことなんてないじゃない。…………それと、1ついいかしら?」

 

「なんです?」

 

「もう、昔みたいに距離を置かなくてもいいわ。私にもリサにも」

 

「分かったよ、友希那」

 

「「「あ……」」」

 

 

 氷川さん、白金さん、宇田川さんの3人が同時に声を出した。俺も自然と出た言葉に、自分自身で驚いた。まさか、昔の呼び方に戻るとは……。

 

 

「ふふっ、変な。本当に」

 

「ですね、みな……、友希那」

 

 

 お互いに笑い合い、他の3人も釣られて笑う。リサも泣きやみ、真っ赤に腫れた目を擦りながらも笑っている。俺もそれに釣られて笑い、ようやく場の空気が軽くなった。

 

 

「もー!!!友希那ばっかりずるい!アタシも名前で……、あれ?そういや、なんでアタシは名前なの……??」

 

「…………なんでだろな?」

 

 

 無意識だった。そう言えばなんでリサはあの事件が終わっても名前の呼び方を変えてなかったのだろうか?あんまり関わらないようにするため、距離は取ったはず。なのになぜだったのか……。

 

 と、少し疑問に思いつつも疲れもあり、俺はソファから立ち上がり大きく伸びをした。そのタイミングで堰を切ったようにあの元気な宇田川さんが喋り出す。

 

 

「あーーーっ!!なんかよくわかんなかったけど良かったー!」

 

「あ、あこちゃん、そういうのは、今言わない方が……」

 

「いいんだよ、りんりん!なんかハッピーエンドっぽいし!」

 

「そ、そう言うと壊れちゃうから……」

 

 

 宇田川さんにそれ以外の5人で苦笑いしつつも、空気が和み、少し気が抜ける。俺はもう一度、ソファに座り頭を背もたれにつけた。そんな俺にソファの後ろから目は腫れてるが笑顔という、妙にチグハグな顔をしたリサが俺の顔を覗き込むようにして声をかける。

 

 

「あ、そうだ、遥都。この間、紗夜が家に来た時の会話覚えてる?」

 

「え?なにそれ?」

 

「ライブの話。決まったんだ。日程。今度の水曜日。Circleで!来てくれる??」

 

「…………おう、分かった。必ず。」

 

「うん!友希那もアタシも、それから紗夜もあこも燐子も!みんなで最高に準備して待ってるから!」

 

 

 リサは屈託のない最高の笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「全く……、遥都さんの家で言い出した時は何事かと思いましたよ?」

 

「アハハ……、ゴメンゴメン!でも、付き合ってくれる紗夜、好きだよ?」

 

「もう……。日菜じゃないんですから……。それにうちのリーダーも乗る気満々でしたからね。普段なら絶対にしないのに……」

 

「いいのよ、紗夜。現になんとかなってるじゃない」

 

「湊さん……」

 

「でも、紗夜さん!あこはライブ好きだから大歓迎です!ね?りんりん?」

 

「は、はい……、私も、大歓迎です」

 

「本当に、もう……。私は、技術の向上が図れるならいいんですけど。しかし、よく数日間で何とかしましたね……。Circleのスタッフさんにも無理言ってこのメインスタジオ貸してもらって……。セットリストや照明、演奏まで……。ここまで皆さんが1つになったのって初めてな気がしますよ?」

 

「確かにね!アタシ達、Roseliaも成長出来たってことかな?」

 

「それは今から確かめればいいわ。たった1人の観客ですら、感動させれなかったらどうするの?」

 

「だね!」「ですね……」「はい!!」「頑張ります……」

 

「それじゃあ、行くわよ……。リサ、今日はあなたが主催よ。掛け声よろしく」

 

「OK!任せて……」

 

 

 

 

 

 

 

「Roselia スペシャルライブ"Held" 絶対成功させるぞーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「おぉーーーーーーーっ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 俺はあの後リサから送られてきた通り、4時半にCircleというスタジオまで来た。すると、若い女性のスタッフが来て、スタジオまで通された。

 

 

「ん?」

 

 

 ここで少し疑問に思う。イスが1つしかないのだ。ステージの目の前に置かれたいわゆる特等席というものに当たるだろう。そこに丁寧に席札として"伊月遥都様"と書いてある。どういうことだ?

 とりあえず、席札を持ってきたカバンの中に入れ、座る。すると、スタジオが一気に暗転した。そして、マイクを通して大きな音が響き出した。

 

 

 

 

 

 

『Roselia スペシャルライブ"Held"!!盛り上がっていくよーーーーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 そこからステージのライトが一斉に付き、音が響く。それはなんとも綺麗なものだった。鮮やかなピアノに激しめなドラムと高音を響かせるギター、そして圧倒的な存在感を誇る深紅のベースに青薔薇に相応しいボーカル。全てが俺を魅力していた。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 友希那の合図で全員が頭を下げてスペシャルライブ"Held"は幕を閉じた。大きく肩で息をするように礼をしていた姿を見て、彼女らが全力を出し切っていたのは見てわかった。俺は最初の女のスタッフさんにロビーに連れてこられると、ドリンクをのみ一息をつく。そして、あの瞼の奥について離れないさっきの映像を脳内で流す。それは、俺がやったことは価値があると証明してくれた、そんなようだった。

 

 

「お待たせっ!どうだった?」

 

 

 Roseliaの5人が裏から急いで飛び出してきてくれる。お疲れ様と言い、5人が座れるように荷物を置いていた窓際の席をあけ、リサに座らせる。

 

 

「最高だった。流石だね、5人とも。にしても、驚いたよ、だって観客、俺しかいないんだもん」

 

「うん!これ、遥都への恩返しのためのライブだから!!アタシ達が本当にライブやるとなるともっと多くの人が集まるけど、今回は遥都に見て欲しかったの。アタシや友希那、それからRoseliaがどんなんか、って言うのを!」

 

「そっか……。ありがと!最高だったよ」

 

「でしょ?」

 

「あぁ」

 

 

 そう言うとリサは満足そうな顔をうかべる。そして、その隣にいる友希那にも同じことを言った。

 

 

「友希那もカッコよかった」

 

「ありがとう」

 

「……むぅ、また……。最近、友希那のこと名前で呼ぶようになっちゃって、いや、いいんだけどさ」

 

 

 何が気に入らないのかリサが少し拗ねた。とはいえ、カッコよかったのも事実だ。別に隠すこともないだろう。

 

 

「何をそんなに……」

 

「そうよ、リサ。あなたがそもそも名前で呼ばれるのは遥都がリサのことを好きだからではないの?」

 

「え??」

 

 

 あれ?友希那さん???何か少し嫌な流れを感じる。空気は明るい。だけど、何かこう、風が来る前兆のような、

 

 

「小学校5年の頃から、遥都はなぜかリサのことばっかり私に何回も話してきたじゃない」

 

「えっ!?そうなの!??ちょっと、遥都、どういうこと!?」

 

 

 いかん、過去のことをほじくり返される。た、確かにあの時は……、、、いや、今は……話題をそらす方が……!!

 

 

「アタシ、てっきり小学校の頃から友希那とばっかり喋るから友希那が好きなのかと」

 

「だから、リサ、その時に遥都は私とだいたいリサのこと喋ってたのよ」

 

「そ、そうだったの!??」

 

 

 顔を真っ赤にしてリサは慌てふためく。そこに宇田川さんが悪ノリし始めた。悪気がない分余計に腹立たしいが…

 

 

「あれれ?じゃあ遥都さんはリサさんのこと好きなの?」

 

「い、いやぁ〜……」

 

「嫌いなの?」

 

「そ、そうとは言ってないけど……」

 

「じゃあ好きなの?」

 

「そういう訳でも……」

 

「じゃ、嫌い?」

 

「それない!」

 

「なら、好きじゃん!」

 

 

 恋愛なんて俺は正直よく分からない。だけど、好きなのかもしれないと言うくらいにはドキドキする。

 

 

「す、すき……………」

 

「だって!リサ姉!!」

 

「〜〜〜〜っ!!??」

 

 

 思いもよらない形。更に顔を真っ赤にしてリサは謎にジャップをしたりターンをしたりと、コミカルな動きをし始める。そして、何やら一瞬でどこかに走っていった。

 

 

「…………どうしたの?あいつ」

 

「さぁ、片付けじゃないですか?私たちも行きましょう。私たちがいると邪魔でしょうから?」

 

「邪魔?どういうことですか?紗夜さん」

 

「物陰から隠れて見てればわかるわよ」

 

 

 氷川さんがみなを連れ控え室の方に戻ろうとした。すると、入れ替わるように、先程走っていったリサがいた。そして、彼女は自慢のありったけの笑顔を見せた。

 

 

「アタシね、今回、遥都が教えてくれたこと、すごい勉強になったんだ。でも、それでも、いくら向き不向きがあっても頼ってくれないのは悔しかったし、遥都一人に背負わせるのも違うと思った。だからさ、今度、もしこういうことがあっても"一緒に"頑張ろうよ!もう、一人になんてならせないよ?もし、味方がいなくなっても今度は私も一緒に横に並んで戦ってみせる!『居場所がない』なんて言わせない!アタシと一緒にいてもらうんだから!!」

 

 

 そして、彼女は大きく深呼吸して、次の言葉を…………

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

「ねぇ、キミってさ、なんでみんなと遊ばないの?」

 

「……自分が入れる空気じゃないし。俺の居場所なんてないから。てか、あんただれ?」

 

「ん?アタシ?アタシは今井リサ!んー、でも、アタシはそんなことないと思うけどな。キミは?」

 

「……伊月遥都」

 

「遥都か〜!よろしくね!」

 

「”よろしく”って……」

 

「ほら、早くいこ!?」

 

 

 そう言って彼女はつまらなさそうに外を見ていた少年に右手を伸ばす。ちょうどその時、外の雨が急に止んだ。

 

 雲の隙間から光のスジが煌びやかに差し込む。空いた窓から、不意に風が流れ込み、窓から垂れる雨雫が宝石のように輝き、光のカーテンが揺れて、空には七色の鮮やかな虹がかかり、幻想的な空間を作り出す。

 

 

「…………………………!……………………………………?……………………、…………?」

 

 

彼女が笑顔で何かを言った。その様子は気づけば、少年は彼女の手を取っていた。

 

 

「ゆきな〜!この子も一緒に遊ぶ〜!」

 

「リサ……、誰よ、その子……?」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 ふと、思い出した。あの時も、今も変わってなんかいない。昔から、リサは昔から、他人のために精一杯で自分のことなんかほったらかして、屈託のない笑顔で平気でそういうことを言う、そういうやつだ。だから、俺もあの時、手を取ってしまったのだ。そんな彼女だから、僕は惹かれたのだと思う。

 

 あの時、彼女は言っていた。"一緒に"と。用意をしてもらっているようではダメなのだ。だからこその言葉だったのだろう。たかが一単語、されど一単語。その言葉が入るだけで全く別物の意味を為していた。昔の俺はそれに気づいていたのだろうか?いや、気づいていたと言うよりは感じ取っていたのかもしれない。それにようやく、今、意味を知ることが出来た。そして、俺は今一度言葉の意味を再確認して、少女と同じように手を取り、口に出す。

 

 雲の隙間から光のスジが煌びやかに差し込む。空いた窓から、不意に風が流れ込み、窓から垂れる雨雫が宝石のように輝き、光のカーテンが揺れて、空には七色の鮮やかな虹がかかり、幻想的な空間を作り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アタシが遥都と一緒にいる!そしたら、アタシの横が遥都の居場所でしょ?遥都とアタシで居場所、一緒に作ろ?」」

 

 

 

 

 




はいっ!ということで、『俺とアタシの居場所』完結しました。
この作品は7000弱ということで過去最長話です。
最後から2つ目のアスタリスクより下は初めから決めていた終わり方なんですが、割と気に入っています!

さて、今後なんですがしばらく二次創作はお休みします。というわけで、今度お会い出来るのはいつになるかわかりませんが……、感想等で絡みに来てくだされば喜んで対応しますので、お待ちしてます!

そして、最後も曲げずに評価募集!あとどなたかお願いします!!


それでは、ここまでご愛読頂きありがとうございました!!


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